バカと中華小娘とお姉さん (村雪)
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春一番!召喚戦争編
始まり―試験、しかし無意味でした!?


 初めまして、今回が初投稿となる村雪です。

 振り仮名をつけようとしたけどなぜか苦戦して後ろに続ける形になっちゃいましたので、若干違和感を感じてしまうかもしれません。そこら辺を大目に見ていただけると感謝です。
 
 ―では、ごゆっくりお読みください。


             

 

バカと中華小娘とお姉さん

 

 

 

 カリカリ…カリ…カカッ

 

「ふ~・・・」

 

 

 ある一室の教室。わたしを含めたたくさんの高校生男女が、目の前に置かれた問題用紙に必死に取り組んでいる。その眼は他のことを完全に取り入れずに、ただ紙に書かれた文字を繰り返し読んでいます。

 

 

 ここ文月学園では、実力を優先するという画期的な方法を導入しており、現在はその学力を測る試験を受けているところなのです。誰もが上位に入れるように全身全霊をかけて問題に取り組んでいるのを、わたしはチラチラと見ています。

 

 …え?わたしは問題を解かなくていいのか?ですか?

 

ふふん!わたしはなんとすでに全部解き終わったのです!しかも驚くぐらいに回答の手ごたえが『―――ン。』あったんですよ!問題がとっても簡単ですぐに終わって『――リン。』リラックスして周りに目をやれるほどですよ!

 

 いや〰これならBクラス、もしかするとAクラスの目だって『―イリン!』あるんじゃないでしょうか?なんて良い幸先でしょう!あんまり信じてなかったけど神様っているんですね~!思わず夢じゃないかって思

 

 

『起きろ!紅 美鈴(ホン メイリン)!』

 

「ウヒイッ!?」

 

 

 びび、びっくりした〰!!突然の怒声、こんな試験時間と言うのに誰の仕業!?

 

 ちょっぴり涙を浮かべながら犯人へ顔を向け―

 

 

「……はれ?西村先生?」

 

「そうだ。・・・お前は何をしとるんだ…」

 

 

 落ち着きました。頭に氷水をかけられたように冷静になりました。

 

 西村先生。男らしい声に似あって少し肌黒く、スポーツマンと言われれば誰もが信用するであろう筋骨隆々な身体の持ち主で、生徒指導の先生です。とてつもない体力を持ってらっしゃるようで趣味はトライアスロン、そこからちなんでつけられたあだ名が《鉄人》です。

 

 本人は嫌っているようでしたが、わたしはちょっと愛嬌があるなあと思ったのは内緒です。

 しかし…テスト中に私の下に来て、さらに大声で呼ぶとは何かあったのですかね?

 

 

「どうしたんですか?今ってテスト中ですよね?」

 

 

  一応小声で西村先生に尋ねた。周りはテストに取り組んでるので邪魔はしたくないですからね。

 

 でも、そんな私を見て西村先生は、呆れ、達観、怒りが重なった複雑な顔で私を見つめて言いました。はて?

 

 

「・・・紅。周りを見てみろ」

 

「へ?」

 

 

 試験中に良いのかとも思うが、言われたとおりにぐるりと見渡す。当然、試験に取り組んでいる高校生男女が・・・・・・・・・・・・・高校生男女が?

 

 

「・・・・・・ああ、これは夢ですね」

 

「現実を見ろ」

 

「………私たち二人以外、誰もいませんね」

 

「うむ」

 

「…………神隠しが起きたんですかね?」

 

「だから現実を見んか!」

 

 

 でも、神隠しって実際会ったって聞いたことがあるけどなあ…ってそれはともかく!神隠しじゃないのなら、どうして他の男女は誰もいなくなるのですか!説明を欲します!

 

 

「俺も教師をやって何年も経つが、試験後に生徒を起こすのは初めてだぞ」

 

「・・・・・・・」

 

 はい、ご説明ありがとうございます。神隠しが起こったんじゃなくて、私が眠りから起きただけの話ですか。さっきまでの景色は全部夢。どうりで試験がスラスラと解けたんですね~。私、凄く納得してしまいました。

 

 

 

………………………大疑問。私が寝たのは避けられない事実として、問題はきちんと解いているのでしょうか?

 

 

 先生から机の答案用紙へと目をやります。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・先生」

 

「・・・・・・・・・・・・・何だ、紅(ホン)」

 

 

 たっぷり数秒。私は答案を破り捨てそうになるのを抑えながらぺらぺらとめくり、一言。

 

 

 

 

 

 

 

「答案用紙をすり替えるなんて酷いです!」

 

「お前の責任転嫁の方が酷いだろうが!」

 

 

 ごちん!

 

 

「あいやっ!?」

 

 

 

 

―――――私、紅美鈴。二年生のクラス分け試験で、試験を見るまでもなくクラスが決まりました。それはもう見事な白紙(ところどころ濡れていましたが、あれは涙です。涙です…)でした。白っていいイメージがあるんですけどねー…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~いい天気ですね~!まさに新スタートにはぴったりじゃないですか?」

 

 晴れ渡る空。心地よい日光。そして見事な桜並木の道!新しく始まる学校生活が希望にあふれているみたいで、とても興奮しちゃいますね!他の生徒もちらほら明るい顔で登校してきてるので同じ気持ちなのでしょう。少しだけ笑って皆と同じ方向、校門へと足を動かします。

 

 

「はあ・・・・どうしてそんな元気なのよ、美鈴。私の方が気が滅入るって絶対おかしいわよね…」

 

 

 そんな私の横には一人の女の子。溜息をついてこちらを見つめています。

 

 

「あ、こんな素敵な天気を前に暗い雰囲気は似合いませんよ?咲夜さん」

 

「あなたの今の状況にその明るさが合わないのよ!」

 

 

 ありゃ、今はどうやらお冠のようです。

 

 

 十六夜咲夜(いざよい さくや)。一切の穢れを許さない銀色の髪と、見る人に安らぎを与える翡翠(ひすい)色の瞳。そして、十人が十人とも見とれるであろうその容姿が、さらに彼女の存在をひときわ目立たせていて、後光さえ見えてきますね!。

 

 私と同じく文月学園の二年生で、血は繋がっていないが私の誇りの妹です。

 そんな咲夜さんが不機嫌な理由は私も分かっています。・・・あんまり偉そうに言えませんね。完全に私のせいですもの。

 

 

「許してくださいよー咲夜さん!せっかく教えてもらった勉強を無駄にしたのは本当に反省してます!」

 

 

 クラス分け試験の時に寝て過ごすという大失態をした私は、家に帰ってそのことを咲夜さんに話しました。わざわざ言わなくてもいいかなとも思いましたが、勉強を教えてもらった恩もありましたので正直にあったことを話したんです。

 

 

 

・・・もうね、一方的な言葉のマシンガンが火を噴きました。

 

 それは反撃のすきすら与えないすんごい火力でしたよ?多分一時間ぐらい続いたと思うんですけど、最後の『メーリンのバカッ!』を聞いたとき、一瞬視界が真っ暗になりましたねー。あれは百の説教より効きました・・・

 

 とにかく、今の咲夜さんの不機嫌は私のせいです。なんとか許してもらおうと話しかけるも、咲夜さんはツーンと前を向いたまま。あ、ちょっと涙が・・・

 

 

「・・・一緒のクラスになりたかったのに」

 

「へ?咲夜さん何か言いましたか?」

 

「何も言ってないわよ。バカ」

 

 

 決壊。涙が水道水のようにあふれてもう目の前がふにゃふにゃになり始めました。うう・・・!私のせいとは言えど、これはひどすぎますよ~!あのときの私が憎いっ!

 

 自らの失敗を猛省しながら、私たちは校門前にたどり着きます。そこには、鉄人こと西村先生が腕を組んで堂々と立ちすくんでいました。

 

 

「おはよう。紅(ホン)、十六夜」

 

「おはようございます。西村先生」

 

「おはよーございます!鉄拳先生!」

 

「紅。なぜ俺をゲームの名前で呼ぶんだ」

 

「あ、すいません。ついこの前の制裁パンチを思い出しまして」

 

「む、それについてはすまない。だがあれは虚偽の罪を俺になすりつけようとしたお前の責任でもあると思うぞ・・・」

 

「や~、あれこそ寝起きの頭って奴ですね」

 

「・・・美鈴(メイリン)、何やらかしてるのよ・・・」

 

 

 隣の咲夜さんがまたも溜息をつき、呆れた目を私に・・・だ、だって仕方ないじゃないですか!答案用紙にヨダレの跡がついただけで後は何も書いてなかったんですよ!?それも名前すら!誰かが入れ替えたって思いたくなるじゃないですか~!

 

 

「・・・授業中に眠る奴はいたが、試験中に眠った奴はお前が始めてだ。全く・・・とにかく、二人とも。受け取れ」

 

「あ、はい」

 

「はい」

 

 

 そう言って西村先生は箱から2つの封筒を取り出して、私と咲夜さんに差し出してきました。これには所属クラスが書かれた紙が入っていて、今後の1年間をどこで過ごすのかが判明するとても大事な封筒なのです。

 

 全部で6クラスあり、最も上のクラスがAクラス。そこからアルファベット順に下がっていき、一番下のクラスがFクラス。その結果を知るのにワクワクしたり、はらはらしたりしながら開けるのがある種のイベントとなっているのですが・・・全然わくわくしません。私限定でしょうけど。

 

 宛名の部分に《紅 美鈴》と《十六夜 咲夜》と書かれていたので、自分の名前が書かれたものを受け取りました。

 そして、ためらうことなく私は開封。

 

 

 

『紅 美鈴……Fクラス』

 

 

 

「ですよね~」

 

「お前は決して頭が悪くないというのに……良い悪いの次元を超えるとはな」

 

「いやいや、そんなすごくないですよ~」

 

「ああ、すごくないな。俺は決してほめてはいないぞ紅」

 

 

 そりゃそうですよね、私何も書いていませんでしたし。これでF以外のクラスに行けてたらどんだけ同点タイがいたんだという話ですよ。

 

 さあ、既に分かっていたわたしのことはもう十分。私の誇りの妹の結果を知るとしましょう。

 

 

 咲夜さんが持つ紙をひょいと横から見ると―

 

 

 

 

『十六夜 咲夜……Aクラス』

 

 

 

 文句なしの最上位クラスに入ることが出来ていました。

 

 

 

「おお!?さすが咲夜さん!」

 

「ええ。しっかり復習した甲斐があったわ」

 

 少しだけにやついてるあたり、咲夜さんは本当に嬉しかったんでしょう!私も自分のように嬉しくなり、咲夜さんをハグ――

 

 

「いだっ!?」

 

「急に襲ってきてどういうつもり?美鈴(メイリン)がFなのは自業自得なんだから、逆恨みはやめてちょうだい」

 

「嫉妬じゃなくて、愛情ゆえの行動ですよおっ!?」

 

 

・・・は叶わず、額に無慈悲な人差し指の一突き。まだ私は許されていないのですかあ……そろそろ許してくださいよお〰!!

 

 

「…お前たちを見ているとどちらが姉か分からなくなるな」

 

「当然、美鈴が私の姉ですよ。バカで寝坊助の、頼もしい姉です」

 

 しくしく泣く私を横に、咲夜さんと西村先生が何かを言っています。少しだけでもいいから心配してくださいいいいっ!!

 

 

「そうか…そろそろ時間も近づいてきた。早く教室に行くといい」

 

「分かりました。美鈴、そろそろ行きましょう」

 

「はい~…」

 

 私って存在感が薄いのかあ……。自分の価値に不安を覚えながら、私たちは西村先生と別れました。

 

 どうかいい学校生活を送れますよーに!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄い設備ですね。あれってリクライニングシートですか?」

 

「た、多分そうね……でも、ここまでとは・・・」

 

「どこかの一流ホテルのロビーみたいですよ。良かったですね、咲夜さん」

 

「これはちょっとやりすぎな気もするけど…ま、まあ良かったわ」

 

 

 咲夜さんが所属するAクラス。それは私たちの予想を大きく上回っていました。

 まず、教室の広さが凄い。平均的な教室と比べると、だいたい5倍くらいはあるんじゃないでしょうか?壁にはとても高そうな絵がかけられたり、天井は一面がガラス張りで空が丸見えです。あ、スズメの群れが通りました。

 

 そして、極め付きには個人の設備。イスを始め、パソコン、冷蔵庫、小型エアコンと、それは別にクラスに一つで良いのではと思うものが1人1人専用に支給されていたのです。

 

 

 

……正直に言いましょう。やりすぎです!これ絶対にもやしになりますよ!いたせりつくせりすぎて勉強の目的が変わりますよ!?咲夜さんがダメな方向に変わったら私暴れてやりますよ!?

 

 

 咲夜さんも似た感想を抱いたようで、にやつくどころか無理やり笑いを浮かべてます。咲夜さん、立派な証拠です!

 

 

「咲夜さん。しっかり頑張ってくださいね。楽しく、良い思い出を作るようにしましょう!」

 

「もう、子ども扱いして……もちろんそのつもりよ」

 

 

 それでも、咲夜さんが努力して生み出された結果。咲夜さんが楽しければそれで構いません。少し照れてうなずく咲夜さんに私は微笑んで、Fクラスへと向かい始めます。

 

 

「じゃあ咲夜さん!また放課後に会いましょう!」

 

「ええ、また放課後!」

 

 

 さあ、私の通うFクラス。どんなところかは分かりませんが、咲夜さんに言ったように私も良い思い出を作るとしましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ええ~~~・・・・・・・?」

 

 

 さっそく頓挫しました。Fクラス、一番下のクラスとは分かっていたので多少の心構えはしてたんですけど・・・・み、見込みが甘かった!

 

 

 窓ガラスは割れていて、木を用いられた部分は腐りかけていてちょっと異臭を放っていて、私はこう思わずにはいれません。

 

 

「ここは廃屋か何かですか・・・」

 

 

 場所を間違えたと思いたかったのですが、残念ながら腐ってボロボロの看板には〈2―F〉と。嫌な思い出がさっそくできてしまい、わたしは少し外に目をやる。・・・ああ、青い空。白い雲。私に勇気を持って踏み出す力をください。

 

 

「・・・よしっ!もう大丈夫!」

 

 

 勇気をもらった私は扉を見据える。大丈夫!こういうみずぼらしいところには良い人が集まるってのが相場ですよねっ!だから教室の中はきっと明るく楽しいに違いありません!そうと決まれば開けるとしましょう!

 

 私は笑顔を浮かべ、良い思いでとなる教室への扉を開きました。

 

 

 

 

ガラッ!

 

 

 

「早く座れ、このウジ虫野郎」

 

 

「」

 

 

 多分、16年の人生でも指折りの泣き顔になったと思います。私の希望を返してくださいコラ。

 

 

・・・誰でしょうか、この長身の男子は?私と同じくらいですから・・・だいたい180センチぐらいですかね。私も男子を含めてだいぶ背が高い方なんですけど、ひさしぶりな感覚ですね。教卓の前にたっているのは何かの意味があるんですか?

 

 

「いや~、初対面の人をウジ虫とは斬新な挨拶ですねえ?」

 

「ん?…って!?お、お前は紅 美鈴!?」

 

「ええ、希望をあっさりブレイクされた紅 美鈴です」

 

 

 どうやらでくの坊さんは私の方を見ずに言い放ったようで、顔を驚愕させて私を指さしてきました。私は珍獣か何かですか。

 

 

「どうして私はウジむ「おっ!美鈴じゃないか!」え?」

 

 

 突然声を被せられて名前を呼ばれましたので、そちらを見ると・・・

 

 

 

「いや~!クラスに来て早々ウジ虫呼ばわれとはやっぱりお前は面白いんだぜ!」

 

 

「ああ、あなたもFクラスだったんですか?魔理沙(まりさ)」

 

「おうよ!見事にFクラスだぜ!」

 

「威張っていう事ではありませんからね!?」

 

 

 

 ふわふわとした金髪を肩甲骨辺りまで伸ばした女友達、霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)が面白そうに笑いながらこちらへと接近していました。う~ん、男らしい口調は相変わらずですね~。そこは全然良いんですけど、友達のウジ虫呼ばわりについては笑わないで怒ってください。友達ですよねちょっと?

 

 

「え~と・・・岡本だっけ?いい仕事しやがったぜ!」

 

「どこがですか!?」

 

「坂本(さかもと)だ!あとこれは狙ってやったわけじゃねえ!そこはすまん紅(ホン)!」

 

 

 サムズアップサインをする魔理沙に、友達ではなかったかなと思う私はおかしくないですよね?あと、坂本君?私は結構第一印象を大事にしますのであなたへの好感度は地べたをはいましたからね。

 

 

「はあ・・・で、どうして私はウジ虫呼ばわりされたんですか?坂本君」

 

「すまん、人違いだったんだ」

 

「とりあえず言うのは避けられなかったんですね・・・」

 

「さすがFクラスメンバー!人をののしるのもお手の物だな!」

 

「魔理沙もそのクラスの一人でしょうが!・・・は~、どんどん負の思い出が積みあがっていきます・・・」

 

 

 廊下での勇気と希望は割れた窓ガラスをくぐって空へと帰還したんですかね?もう私のメンタルはギリギリですよ!?

 

 

「ところで、なぜ紅(ホン)のような奴がこのクラスにいるんだ?」

 

 

・・・それを聞いてきますか坂本君。

 

 

「え~~~……あ~、ちょ、ちょっと問題が難しくてですね!」

 

 

 嘘は言ってません。試験問題なんだから内容はとても難しかった・・・はずです!多分!

 

 

「そうなのか?美鈴(メイリン)ってバカだったんだな~」

 

「少し辛辣すぎじゃないですか魔理沙ぁっ!?」

 

「うおっ!?お、落ち着け紅(ホン)!」

 

 

 わ、私だって解いてたらもっと上のクラスにいってたんですからね!?別に強がりじゃないですからね!?

 

 坂本君に羽交い絞めされてもたもたする私を見て、魔理沙はさらにおかしそうに笑い出す。ちょっとそこになおりなさい!

 

 

「離してください坂本君!」

 

「ク、クラスの代表として暴力沙汰を黙認できるかバカヤロウ!!」

 

「あああああっ!?ま、またバカって言いましたね!?私の頭はお猿さん以下だってまた言いましたねええええええっ!!」

 

「そこまで言ってねえ!って矛先が俺に変わってるだと!?やべえ!絶対に手を離せねえ!!」

 

「離しなさいいいいいいいいいっ!!」

 

「お、お猿さんって・・・・ぶふっ!美鈴(メイリン)はおこちゃまなんだぜ~!」

 

「むきいいいいいいいいいいいっ!!」

 

「火に油を注ぐな霧雨ぇぇええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しくしくしくしくしく・・・・・・」

 

「い、痛え……な、なぜ俺がこんな目に…」

 

「…ざ、坂本(ざかもど)がウジ虫呼ばわりしだがらだ、ぜ…」

 

「ま、間違いなくお前の口のせいだ霧雨ぇ・・・!」

 

 

 2つの屍と泣き崩れる私。…復讐を果たしてもむなしいものですね。涙が止まりませんよ。

 

 もう、今日だけでいくつの思い出が出来ましたかねえ。まだ朝なのに、良いこと1つ。悪いのが4つぐらい私の脳に刻み込まれましたよ・・・幸先悪いっ!

 

 へこんでても仕方ないので、私は鼻をぐずぐずさせながら立ち上がる。遺体は勝手に地面に還ってください。さて、私の座席はどこですかね・・・・・・・あれ?座席表はどこですか?

 

 うろうろと黒板付近を探してみましたが、どこにも表はありません。誰かが持ってるんですかね?

 

 

「いいかのう?」

 

「?何で・・・・しょう・・・?」

 

 

 途方に暮れている私の背中に古風な話し方の声が1つ。振り返り…………固まりました。

 

 

 そこにいたのは、とても可愛らしい顔をした男子制服の生徒さん。

 

 

……………え?男子ですか?それとも男装女子ですか?

 

 

 

「む?わしの顔に何かついておるか?」

 

 

 顔をじっと見てしまっていたので、生徒さんは首をかしげて聞いてきました。その仕草も様になっていますね…

 

 

「あ、ああすいません。失礼なんですけど…………男子か女子、どちらですか?」

 

「むう、何度目かのうその質問は……わしは男じゃ。木下(きのした) 秀吉(ひでよし)という名前じゃ」

 

 

 どうやら私からだけでなく、他の人からも言われたことがあったみたいです。これは失礼なことを……しかし、顔に加えて肩で揃えられたくせのない髪の毛。私や魔理沙より可愛い気がします。女としてちょっぴり悔しいですね。

 

 

「すいません秀吉君。でも立派な名前ですね!」

 

「おお、嬉しいことを言ってくれるのじゃ」

 

「いや~だって有名ですもの!」

 

「ありがとうなのじゃ」

 

 

 嬉しそうに頬を染める秀吉君。動作はものすごく乙女です。

 秀吉。後世に名前を残す有名人として授かったお名前ですが、なるほど確かに名を残しそうですね・・・・・・彼の場合は容姿の方で。

 

 

「秀吉君は何か用で?」

 

 

 秀吉って思わず下の名前で呼んじゃってますけど、大丈夫ですよね?

 

 

「おおそうじゃ。ここは席が決まっておらんから、好きな場所に座っていいと思うぞい?お主は座席表を探していたのじゃろ?」

 

 

「あら、そうでしたか!わざわざありがとうございます!」

 

 

 どうやら、呼び方は大丈夫みたいですね。そういうことなら好きな場所に座るとしましょう!

 

 

「じゃあここに、っと」

 

 

 一番前の席が空いていたのでそこに正座で腰を降ろしました。・・・はい。イスの上ではありません。綿が飛び出て意味があるのか分からない座布団の上にです。それにふさわしく、机は脚が1つ取れかけているちゃぶ台。落ち着くと言えば落ち着くのですが……惨めに思えてくるのがつらいです。格差社会を改めて痛感しました。

 

 

 教科書をしまえないなあと思っていると、隣の座布団に秀吉君が腰を降ろします。

 

 

「あ、秀吉君はそこの席でしたか?」

 

「そうじゃ。1年間よろしく頼むのじゃ」

 

「これはご丁寧にありがとうございます!紅(ホン) 美鈴(メイリン)です!こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

 ああ!なんて礼儀正しい男子でしょう!木下君の爪の垢をあの2人に飲ませてやりたいです!

 

 

 

 そのまま私たちが話をしていると、再びドアが開かれました。

 

 

 ガラッ!

 

 

「すいません、ちょっと遅れええっ!?な、何やってるの雄二(ゆうじ)…ともう一人!?大丈夫ですかっ!?」

 

「は、早く座りやがれ。このウジ虫・・ぐふっ」

 

「サ…サンキューだぜ、うおお、効くぜ…」

 

「雄二の状態の方がよっぽどウジ虫じゃないか!ほんとになにがあったの!?」

 

「そ、そこの坂本のせいだぜ――」

 

「死ね雄二ィィィィィッ!!」

 

「ぐはあ!?て、てめえ重症の人間の腹を蹴飛ばすとは血も涙もないのか!!」

 

「黙れ!貴様こんないたいけな女子に手をあげるなど・・・・・万死に値するっ!!」

 

「待て!その霧雨って奴はいたいけどころか魔女のような狡猾さを持ってやがる!鵜呑みにするなあきひ―」

 

「あー、坂本に(美鈴が)ウジ虫よばわりされて、つらいんだぜ…」

 

「このウジ虫野郎があああああっ!」

 

「やめろばかやろぐわああああああっ!!!」

 

「・・・・・・」

 

 

 誰でしょう、あの天然そうな男子は?会話を聞いていると坂本君の知り合いみたいですが・・・友達なら普通あんな迷うことなく蹴りを入れませんよね?

 

 

「全く、明久たちは2年生になったというのに変わらんのう・・・」

 

「あれ、秀吉君の知り合いですか?」

 

「うむ。吉井(よしい) 明久(あきひさ)という奴じゃ。バカじゃが根は優しい友達じゃ」

 

「友達の前にバカをつけるのは友達と言えるのでしょうか…?」

 

 

 非常に申し訳ないのですが、それを喜ぶのはマゾだけです。本人には言わないことを願います。

 

 

「え~と、ちょっと通してもらえますか?」

 

「あ、担任が来ましたね」

 

「あれは福原先生じゃな」

 

 

 眼鏡の細い中年の教師、福原先生は吉井君が坂本君にマウントポジションを決めているのを見てそう言ったのですが、絶対に他に言うことがありますよ!?教育者の役割を忘れないで!?

 

 

「では、HRを始めますので皆さん席についてください」

 

 

 駄目だった!PTAの保護者様~!ここに教師の暴行黙認が起こってますよ~~!?

 

 

「は~い、分かりました。これぐらいで勘弁してあげるよ雄二」

 

「うっす。痛て…後で覚悟しやがれ明久」

 

「了解だぜ」

 

 

 魔理沙、坂本君、吉井君も指示に従って自らの席へと戻ります。後半に二人が何か言ってましたが、小声だったので聞こえません。でも何となく、友達に言う事ではないと思いました。

 

 

「えー、おはようございます。・・・・・・・・・二年F組担任の福原(ふくはら) 慎(しん)です。よろしくお願いします」

 

 

 先生。黒板の方を少し向いてからこちらを向いたのには別に深い意味は無いですよね?チョークが一本も無くて名前を書けなかったなんて言わないですよね・・・?一体授業はどうするんですか。

 

 

「皆さん全員にちゃぶ台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し出てください」

 

 

 ほっ。どうやら少しぐらいは改善もしてくれるみたいです。とは言え、どこから要求をすればいいのやら・・・

 

 

 

「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないです」

 

 

 あ、悩んでいる内に誰かが不備を申し出ましたね。確かに綿が無いとお尻が痛くなりますから当然の要求です。生徒の学習意欲を削がないためにもここはきちんと―

 

 

 

「あー、はい。我慢してください」

 

 

 待って、待ってください。不備があったら言えと言ったのは先生ですよね!?

 

 

 

「先生、俺のちゃぶ台の足が折れています」

 

 

 ちゃ、ちゃぶ台は勉強するためのキースペース!これは座布団よりも大事ですよね!?

 

 

「木工用ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください」

 

 

 そこはボンドじゃなくてちゃぶ台を購入してください学園の経営陣の皆さま!!教室がボンドの臭いで満たされますよ!?生徒の調子が悪くなりますよ!?私たちの健康はちゃぶ台以下ですか!!

 

 

 

「せんせー!アタイったら最強よね!?」

 

「はい、最強ですね」

 

 

 関係ないこと言ってる場合ですかこの⑨がああああああああっっっ!!というかそんなことを素直に聞き入れないで先生!!もっと大切なことに耳を傾けてくださいいい!!

 

 

 

「せんせ。窓が割れていて風が寒いんですが」

 

 

 そうです!今は春だからいいですが、冬になったら風邪人(かぜにん)続出ですよ!?今のうちに手を打っておかないといけません!

 

 

「分かりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう」

 

 

 

 

・・・・そうか。私たちは、地獄にいるんですね。全く救いのないこの教室。良い思い出を作る?知りますかこのやろー!

 

 

 

「必要なものがあれば極力自分で調達するようにしてください」

 

 

 あれですね。最初の先生の言葉は本当にそのままだったんですね?言ってもほぼ変わらないじゃないですか。期待させておくぶん、むしろ余計に落胆しましたよ私っ!

 

 

 

「ど、どうしたのじゃ紅?迷子になった子どものような顔になっておるぞ?」

 

「はい、私ちょっぴり泣きそうです」

 

 

 ああ、私の理想の学校生活はどこに行ったのですか?早く出てきてくだしゃいい・・・

 

 

「では、自己紹介を始めましょうか。そうですね…廊下側の人からお願いします」

 

 

 私の願望が先生に届くはずがなく、恒例行事である自己紹介が始まろうとしていました。

 

 

 

……なんかもう予測できます。絶対平凡には終わりませんね!

 

 

 

 

 




 読んでいただきましてありがとうございます。最近東方にはまっております村雪です。 
 あらすじにも書きましたがこの作品の主人公は、作者の心に最もぐっと来た、紅魔館の赤き門番、紅 美鈴さんです!周りの拠り所となったり、あるいは噛ませ犬にもなったりしてふり幅が広い彼女ですが、この作品では前者の要素を取り入れていきたいと思っています!
 後書きを長々と書いても読み手の皆様に負担をかけてしまうので、また次回以降に書かせて頂こうと思います。
 それでは!これからも読んでいただけることを願いながら、後書きを締めさせていただきます!
 投稿速度はまだ不明ですが、それほど間は開けないと思います!


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自己紹介―非凡、より平凡の方が大事ですよね!?

 どうもこんにちは、村雪です。わずかに蓄えがありましたので連日投稿をさせてもらいました。
 多分次からは、一週間前後の間隔で投稿すると思いますので、ご認識お願いします!
 
 一話目の最後にちらりと出たサイキョーなあの子。下の名前はちょっと似合うかなあと思ったものを付けさせてもらいました。色々思う事が出来ると思いますが、そのときは申し訳ないです!
 ―では、ごゆっくりとお読みください。


「では、廊下側の人からお願いします。」

 

 

 福原先生はペースを崩すことなく、クラスメイトとの面識を高める自己紹介を促しました。まあ、確かに大事なことですが・・・なぜそこだけはきちんとするんですか。

 さて、窓側ということで私の順番は近いですね。順番は後ろからか前からか・・・

 

 

「木下(きのした) 秀吉(ひでよし)じゃ。演劇部に所属しておる。」

 

 

 秀吉君がトップバッターのようですね。ほうほう、演劇部をやられてるんですか。ひょっとして、その女性らしさは演劇の産物でしょうか?私もやったら可愛らしくなれる!?

 

 

「あとよく間違われるが、わしは女ではなく男じゃ。」

 

『なにいいいいいいいいいいいっっ!!??』

 

 

 それを聞いた途端、男子達のけたたましい声が一つになって私たちに直撃します。いや、私が言えた義理じゃないですけどどれだけ驚いてるんですか皆さん。

 

 

「し、信じられねえ!あんなに可愛らしい顔をして男だと!?」

 

「てっきり男子の格好をした女子とばかり・・・!」

 

「馬鹿な・・・!じゃあ、おれはどうすれば…」

 

「いやっ、実は女だが訳があって男の振りをしているという可能性も無いわけではない!」

 

『なるほど!わけあり男装(だんそう)っ娘(こ)萌えーーっ!!』

 

「ち、違うぞいっ!?わしは正真正銘の男じゃ!!」

 

 

 慌てて否定する秀吉君。そんな仕草がまたいじらしいため、まわりは秀吉君が男装した女子ということで認識を通してしまいました。い、違和感はそんなに無いですから大丈夫ですよ!・・・あれ、これってフォローじゃないですか?

 

 

「・・・はあ。ともかく、一年間よろしく頼むぞい。」

 

 

 苦労してるのですね、秀吉君・・・

 

 残念そうにしながら秀吉君が座って、後ろの男子へと順が移ります。

 

 

「・・・土屋(つちや) 康太(こうた)。」

 

 

 そう言って、土屋君はすぐに座ってしまいました。ふむふむ、土屋君は口数が少ない大人しい男子のようですね。

 

 …ただ、なぜカメラを手に持っているのかは分からないです。

 

 

「島田(しまだ) 美波(みなみ)です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど読み書きは苦手です。」

 

 

 次は女の子でした。活発的な目に髪の毛を黄色のリボンで結んでいて、とても元気そうな彼女は帰国子女とのこと。それだけでかっこいいなと思いますねー!

 

 

「あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので。趣味は―」

 

 

 何でしょう!?とても素敵なことなんでしょうか!?ピアノですか?フェンシングですか?それとも想像すら出来ないもっと凄いことでしょうか!?

 

 わくわくしながら私は島田さんの言葉を待ちます!

 

 

 

 

「趣味は、吉井明久を殴ることです☆」

 

 

 

・・・・・・・・・だからっ!!だから私の希望をぶち壊さないでくださいいいいいいいっ!!なんでそんなバイオレンスな趣味を満面の笑顔で言えるんですか!!ドイツでは人を脅すときに笑顔をうかべる習慣があるとでも!?そんな作法は故郷へ置いてきてください!

 ああもうっ!真逆の意味で想像すら出来ない凄いことを言いのけちゃいましたよこの子!!

 

 

「・・・あぅ。し、島田さん。」

 

「吉井、今年もよろしくね。」

 

 暴力の的とされた吉井君が、私の後ろの座布団ですごく身を縮こめているのは防衛本能の一種でしょう。今のように普通の挨拶が出来るのに、なぜあんなことを言ったのやら…。ちょっと気に掛けといたほうがいいですね。

 

 

 そして、その後ろの男子二人がごく普通の挨拶を終え(ものすごく安心しました。平凡って大事なんですね…)、

 

 

「では前に戻って、紅(ホン)さん。お願いします。」

 

 

 私の番が来ました。よし!私も前の二人に続いて普通な自己紹介といきましょう!

 

 

 

「初めまして!紅(ホン) 美鈴(メイリン)と言います!好きな呼び方で呼んでもらって構いません!」

 

 

『きたきたきたぁぁぁぁあっ!!!』

 

 

 おおう!?突然のハモリ声!?

 

 

『紅(ホン)さ~ん!』

 

『中華小娘さいこーっ!!』

 

『美鈴(メイリン)さん!』

 

『メイリ~ン!!』

 

『メーリンメーリン!』

 

『中国だぜ~!』

 

『これは…売れるっ・・・!』

 

 

 あ、あはは。とっても元気なメンバーみたいですね。あと魔理沙、あとでチョップしてやります。その呼び方はやめなさい。

 

 

「一年間よろしくお願いしますね!」

 

 

 上出来です!これほど端的かつ必要なことを言えれば問題ないでしょう!さあ、次の人にバトンを―

 

 

 

「あ~~~~~!!!!」

 

 

「へ?」

 

 

 突然な大声。クラスの皆と一緒にそちらを見ると・・・・左のほっぺたを赤くした、水色の髪の毛の女の子が私を指さしていました。あ~~・・・・・・。

 

 

 

「なんですか・・・・チルノ?」

 

 

 

 チルノ・メディスン。去年私と同じクラスだった女子でございます。

 

 私の鳩尾(みぞおち)あたりの背と、とても小柄なため小学生にも見える彼女。ほっぺが赤いのは居眠りしていた痕跡でしょうか?とにかく、なにかと私に絡んでくる私の中の困ったちゃんの一人です。

 

…別に関わってくるのが困ると言ってるわけじゃあないですよ?ただ・・・・・・

 

 

「メーリン!ここであったが…!・・・・・え~と、何年目だっけ?」

 

「百年目ですよ!」

 

「嘘ねっ!あたいはまだ10歳だもの!百年も生きてないわよ!」

 

「ことわざに文句を言われても困りますよ!?ていうか10歳って絶対おかしいでしょう!!せめて1歳前後で数え間違えてください!!」

 

「ふふん!最強のアタイの前には数字なんてちょちょいのちょいよ!」

 

「関係ありません!それはただ単に間違えてるだけでしょうが!!」

 

 

・・・アホなんです。一年間一緒のクラスだったんですけど、古今(ここん)まれに見るアホの子なんです。それでとても行動的なため私はいつもいつも面倒を見ることになっていたのです!あ、ちょっと胃痛が・・・

 

 

「と、とにかくチルノ!今は自己紹介の時間ですからまたあとにしませんか?」

 

 

 これ以上関係のないことに時間は費やしたくありません。なんとかチルノに引き下がってもらおうと私は説得してみました。

 

 

「む!それもそうね!」

 

「わ、分かってくれましたか?じゃあ―」

 

「アタイの名前はチルノ・メディスン!好きなことは遊ぶこと!嫌いなことは勉強よ!」

 

「ちょっとお!?どうしていきなり自己紹介をし始めるんですか!?順番はまだでしょう!?」

 

 

 そして、それは先生がいる前で言うような事じゃありません!ほら福原先生も怒って…変わってませんね!!

 

 

「あと、アタイはバカじゃなくて最強なの!バカって言った奴がバカなんだから!」

 

「じ、自分で何回バカって言ってるのか数えましょうよ・・・」

 

「あ~!今バカって言ったな!?じゃあ言ったメーリンがバカだっ!!」

 

「………も、もうそれでいいですから、頼みますからいったん座ってください。チルノ。後であめ玉あげますから。」

 

「ホントっ!?じゃあ座る!」 

 

 

 即座にチルノは座りました。・・・この子、ほんとに小学生並みの頭ですね。前から使っていたチルノ攻略法ですけど、そのうちさらわれたりしそうでホントに怖いです。保護者はどんな教育をしてるんでしょうか・・・?

 

 

「あ、あの。質問良いですか?」

 

「!あ、なんでしょう!?」

 

 

 チルノの家庭事情を考察していると、男子の一人が挙手をしていましたので、私は慌てて聞く耳を正しました。

 そんな彼の質問は、くしくも二度目のものでありました。

 

 

「紅(ホン)さんは、どうしてFクラスにいるんですか?」

 

「どうしてと言いますと……え~と・・・」

 

 

 私がここにいるのがそんなにあわないのでしょうか?私は咲夜さんほど勉強が出来るわけではないので、ちょっと買い被りすぎだと思うんですけど・・・

『試験が始まってすぐに眠って白紙のまま試験時間が終わっちゃいました!』とは言いたくない。そんなこと言ったら私の生涯の大恥ずかし物語が思い切り広げられて、もう生きていけません。

 

 さて、それならさっき坂本君に言ったことをもう一度言う事にしましょう。

 

 

「試験問題がなかなか難しくて解けなかったんですよ!」

 

「そーなの!?メーリンってバカねっ!」

 

「あんたには言われたくないわチルノオッ!!!!」

 

 

 さっきあなたが言ったこと覚えてますかねええ!?思いっきりバカって証拠でしょうがこのバカ!

 

 

「・・・・・・すまん、紅さん。」

 

「はあ、はあ・・・・気にしないでください。」

 

 

 憐憫の眼差しを向けないでください。もう、ほんとに泣きたくなりますから・・・

 

 

「・・・改めて、一年間お願いします。」

 

 

 ぺこりと弱々しく頭を下げて、今度こそ私は自己紹介を終了しました。ううっ、普通に終わらせたかったのにどうしてこんなに疲れる目にあうんですか~……

 

 

「・・・紅。苦労しておるんじゃな。」

 

「その言葉、傷ついた私の心に優しく染み渡ります…」

 

 

 秀吉君がぽんと肩に手を置いて労わってくれました。ああ、あなたが隣の席でホントに嬉しい・・・地獄に仏とはまさにこのことです!

 

 

「――コホン。えーと、吉井明久です。気軽に『ダーリン』って呼んでくださいっ♪」

 

『ダァァーーリィーーン!!』

 

「わっ!?」 

 

 

 ふ、再び!?全員が大合唱しました!私が前を向いている間に後ろの席らしい吉井君が言ったことが原因ですが、ノリが凄いですねこのクラスは!

 

 

「――し、失礼。忘れてください。」

 

 

 引きつった声で皆に断りをいれる吉井君。それなら言わなければ良いでしょうに・・・

 

 

 あ、そういえば私は言ってませんでした。皆さんも言ったわけですから、私も言うべきところでしょうか?

 

・・・よし。一応言っておきましょうか!

 

 

 

 スッ(吉井君の方を向く私)

 

 

 

「あれ、どうしたの紅(ホン)さん?」

 

 

 少し青い顔の吉井君に、私はすうっと息を吸って、告げます。

 

 

 

 

 

 

「ダーリンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・あ、あれ?無音?

 

 

 

『『『ふぅおおおおおおおおおおおおっっっ!!!??』』』

 

「ひええっ!?」

 

 

 否、それとは対極になるほどの大声が響き渡りました。な、なんでぇ!?

 

 

『な、なんだ今のとろけるような天使の声は!?』

 

『俺にむかってささやいてくださったのか!?』

 

『ばかが!俺に決まってるだろ!』

 

『いや、俺だ!』

 

『おれだ!』

 

『俺だ!』

 

『じゃあ俺が!』

 

『『『『どうぞどうぞ…って言うとでも思ったかあ!!』』』』

 

『もう一度、もう一度お願いします!』

 

『……決定的瞬間を激写する…!!』

 

『だ、ダメだよ紅(ホン)さん!僕たちお互いのことを知らないからまだはや頭が割れるように痛いいいっ!!?』

 

『吉井~!あんた何言ってんのよ~!!』

 

『ホ、紅(ホン)は明久とそういう関係じゃったのか!?』

 

『ダーリン?それって何さ?』

 

『それはなチルノ、とてもうまいお茶のことを言うんだぜ。』

 

『へ~。じゃあ、あのよしーって奴はお茶なの?』

 

『ぶっ・・・!あ、ああ、そ、そうだぜくふぷっ・・・!』

 

『そーなんだ。じゃあ後でちょっと飲んで』

 

『信じるなよ!?考えなくてもわかるだろうが!それは多分ダージリンのことだチルノ・メディスン!!霧雨は適当なことを言うんじゃねえっ!!』

 

『え!?違うのゴリラ!?』

 

『誰がゴリラだ!』

 

『ちぇっ、ばらすなよ坂本~。』

 

『こ、この最強のアタイをだますとは、やるわねまりさ!!』

 

『どこがだ!そんなもん小学生でも違うと分かるわボケ!』

 

『だだ、誰がバカよ!?バカって言った奴がバカだもん!!』

 

『人とお茶の見分けがつかないのになんでバカとボケが同じって分かるんだよ!?』

 

『ちなみにチルノ。ボケっていうのはバカなんかでは言い足りないときに使うひどい言葉なんだぜ。』

 

『ア、アタイはバカじゃないのにいいいいいいいいいっっ!!!』

『別に違いはねえ!ってお、落ち着けチルノ痛ででででで!!お前本気で覚えてろよ霧雨えええええ!!!』

 

 

 

 

「・・・え~と。」

 

 

 何ですか、この混沌とした空間は。これ全部私のせいですか?で、でもたった一言言っただけですよ!?それが罪だというのなら私に発言権は無し!?どんだけ私の言葉は影響力あるんですかあっ!?

 

 だ、誰かこの場に平安を――――!!!

 

 

ガラッ

 

 

 神様は手を差し出してくれたみたいです。教室の扉が開かれて、一人の女の子が入ってきました。

 

 ・・・あれ?あの人って確か・・・

 

 

『え?』

 

「あの、遅れてすみま、せん…って吉井君!?白目になって倒れてどうしたんですかっ!?」

 

 

 クラス皆が首をかしげる中、吉井君の危険な状態を見つけた少女、姫路(ひめじ)瑞希(みずき)さんはトタトタと慌てながら吉井君の元、つまり私の方へと走ってきました。

 

 魔理沙に似てふわふわとしたロングヘアー、そしてそこに付けられた可愛らしいウサギの髪留め。とても優しそうな雰囲気を出す少女で、学園でも有名となっている女の子です。

 

 

「丁度良かった。今自己紹介をしているところなので姫路さんもお願いします。」

 

 

 先生、できたら生徒の危機も気にかけてあげてください。あと、吉井君の心配をする今の姫路さんには聞こえないかと「あっ、はい!分かりました!」届いちゃった!!そして分かっていいの姫路さん!?

 

 

「ひ、姫路瑞希と言います。よろしくお願いしましゅ!」

 

 

 あ、ちょっとかんじゃいましたけどそこが可愛らしく思えました。

 

 

「ちょっと待った!」

 

「は、はい!?」

 

 

 突然の待ったに姫路さんはびくっとした。なんだか小動物みたいです。

 その声の主は魔理沙でした。彼女も不思議そうな顔をして姫路さんを見ています。

 

 

「質問だぜ。どうしてここにいるんだ?姫路ぐらいの奴ならもっと上のクラスにいるはずだぜ?」

 

 

 疑うこともなく姫路さんの学力を買う魔理沙。それに同意してか他の皆さんもうんうんと頷いています。

 というのも、姫路瑞希さんはとても頭がいいのです。学年で一桁の順位に入ったこともあるそうで、才色兼備な女の子だと言えましょう。……咲夜さんもですけどね!!姉バカ違います!!

 

 

「えっと、じ、実は振り分け試験日に高熱を出しちゃいまして・・・」

 

 

 ああ、そういうことですか。

 

 

 この文月学園では試験途中で退席すると0点扱いとされ、必然的にFクラスに行くことになるのです。

 途中で退席して0点。居眠りして全く解かなかったから0点。結果は同じでも聞いた人は同情と爆笑とで反応が違うでしょうね~。

 

 

『そう言えば、俺も熱の問題が出たせいでFクラスに』

 

『ああ、科学だろ?アレは難しかったな。』

 

『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』

 

『黙れ一人っ子』

 

『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』

 

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

『あたい、サイキョーだから問題を解かなくても良かったのよ。』

 

『その結果ここにいるということに気付け。』

 

『私はつい試験の日付を忘れてたんだぜ。』

 

『言い訳のつもりがより大きな穴を掘ってるぞ・・・』

 

 

 ちょっと自虐をしている間にまわりは試験結果への言い訳ムードに。言ったところで変わらないんですから諦めましょう。

 

 

「で、ではよろしくお願いします!」

 

 

 流れについていけなかったのか、姫路さんは吉井君の隣の席へと逃げるように移動して腰を降ろしました。

 

 

「き、緊張しましたあ~・・・」

 

 

 そのまま脱力してちゃぶ台に突っ伏してしまいました。あらら、よっぽど気を張っていたようですね。

 

 

「あのさ、姫―」

 

「姫路さん、お疲れ様でした。と、何か言いましたか吉井君?」

 

「・・・い、いや。なんでもないよ。」

 

 

 なんでもあるって顔なんですけど・・・・まあ本人が言うからいいですかね。

 

 

「あ、えっと…紅 美鈴(ホン メイリン)さんですよね?」

 

「あれ?私のことを知ってるんですか?」

 

 

 どこかで口を交わしたことがありましたっけ?

 

 

「はい。紅さんのことはよく話で聞いていました。」

 

 

 ?私ってそんなに有名でしょうか?心当たりはないんですけども・・・

 

 

「そうでしたか。では改めまして。紅 美鈴(ホン メイリン)です。お好きに呼んでください♪」

 

「分かりました!じゃあ、美鈴(メイリン)さんって呼ばせてもらっていいですか?私も好きに呼んでもらって構いません!」

 

「問題ナシです!では1年間よろしくお願いします、瑞希(みずき)さん!」

 

「はい、よろしくお願いします美鈴さん!」

 

 

 私たちは笑いながら握手をしました。あ~!これは最高の思い出となりましたね~~!

 

 

「紅(ホン)さん、姫路(ひめじ)さん。すみませんが今は自己紹介を聞くようにお願いします。」

 

 

 っと!これはいけない!

 

 

「じゃ、またあとで♪」

 

「はい、またあとで♪」

 

 

 クスリと笑うのを最後に、私たちは自己紹介をする人達の方を向いた。

 

 

「――です。よろしくお願いします。」

 

 

 丁度一人が自己紹介を終えたところでした。次の人からしっかり聞きましょう!私は聞く姿勢を取って、名前だけは最低覚えようと身構えます。さあ、ドンと言ってください!

 

 

「アタイの名前はチルノ・メディスン!好きなことは遊ぶことで嫌いなことは勉強することよ!」

 

 

 聞いた!さっきあなたの自己紹介は聞きましたよチルノォっ!!わざわざ二回しなくてもそんなことは知っています!

 

 

「それで!そこにいるメーリンはアタイの子分なの!」

 

 

 あ、それは知りませんでした。

 

 

「ってちょっと!?いつから私はあなたの子分になったんですか!?」

 

 

 そんな事実は記憶にございません!!百歩譲ってどちらかが子分だとしても絶対にあなたでしょうがチルノ!!

 

 

「ふっ。そんなの、メーリンがアタイに勉強を教えてくれたころからよ!」

 

「ええ!?それって初めて会話した時の事!?あなた私のことずっとそう思ってたの!!?」

 

 

 1年生の夏のときチルノは私の横の席だったんですが、英語の授業で早く終わった人は周りの出来ていない人を教えて待つことになって、チルノに苦戦しながらも説明をしてあげたりしたんです。まさか、それが私への意識を変えようとは・・・!そんな事実知りたくなかったです!

 

 

「ていうか!それだと〝先生〟のイメージがつきますよね!?」 

 

「メーリンは先生じゃなくて生徒よ!そんなことも分からないなんて、メーリンはバカなの?」

 

「だからあなただけには言われたくないわああああっっ!!!」

 

「ちょ!?お、落ち着いて紅(ホン)さんんんん!!」

 

「ぼ、暴力はダメです美鈴(メイリン)さんっ!!」

 

 

 チルノにとびかかろうとするも、左わき腹から瑞希さんが抱き着き、後ろからお腹に吉井君が腕を回したために動けない。二人とも息がぴったりですね!?

 

 

「紅さん、落ち着いてください。」

 

「これも私のせいですか!?」

 

 

 絶対ひいきしてるでしょう!?あのおバカが小さくて弱い者いじめに見えたから止めてるだけでしょ!?もっと中立になってください!!

 

 

「メーリン!高校生にもなって暴れるなんて、メーリンは子どもか!!」

 

「こっ、こ、こ、この子はあぁぁぁぁああ…………っ!!!!!」

 

 

 し、しかし言ってることは間違っていない!なぜっ、アホのくせに、バカのくせに、⑨のくせに!なぜこういうときだけ正論を言えるんですか……!!

 

「・・・・・ふううううううう。すいません。吉井君、瑞希さん。もう離してもらって大丈夫です。」

 

 

 深く息を吐くと、やはり落ち着くものですね。元に戻った私はしがみついている二人に離れるように促しました。

 

 

「ほ、本当に大丈夫ですか…?」

 

「はい。もう落ち着きました。」

 

「そ、そう?突然だったからびっくりしたよ。」

 

「すいませんね。世話を焼かせました。」

 

 

 ホッとした顔に戻って二人は私を解放してくれました。いやはや、私もまだまだ子供でしたね。確かにチルノの言う通りでした。

 

 

「やっと落ち着いたみたいね。」

 

 

 そのチルノは、動じることなく腕を組んで私を見据えていました。ホント、度胸だけは凄いですね・・・

 

 

「ええ。なんとか落ち着きましたよ。おバカ。」

 

「あ、あ、アアタイはバカじゃないもん!!」

 

 

 その姿もわずか5秒間。打って変わって顔を真っ赤にして抗議しだすチルノ。つーん。今までのお返しですよ。

 

 

「め、メーリンのバカ―っ!」

 

 

 ドスンと音をたててチルノが座りました。ふう、やっと終わりましたね~…

 

 

「お、お二人は仲が良いんですね。」

 

「あはは。良くも悪くも喋る仲ですよ。」

 

 

 こっそりと呟く瑞希さんに私は答える。ケンカするほど仲が良いって奴ですかね。

 

 

「やれやれ、やっと私の出番なんだぜ。」

 

 

 そう言って立ち上がったのは魔理沙。頼みますから普通にお願いしますよ?

 

 

「霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)だ。恋に生きる乙女で絶賛アタック中だぜ!」

 

 

『おおおおお!!?』

 

「へ、へ~?」

 

「はわ…す、凄いです。」

 

 

 ニカッと笑いながらの魔理沙の大胆発言に男子は黄色い声をあげ、島田さんや瑞希さんはポッと顔を朱に染めながら魔理沙を見続けています。可愛いですねえ~!

 

 

『そ、それって俺の事か!?』

 

『そういえば、去年に一回話したことがあったけど、まさかそれがフラグに!?』

 

「残念。ここにはいないんだな。」

 

『『ちくしょおおおおおお!!』』

 

 

 淡い期待を砕かれた二人は涙を流して畳を叩きました。あ、畳に穴が…

 

 

「私の決めた人はただ一人だけだぜ。だから、私へのアプローチは勘弁してくれよな!」

 

『なら、そいつを消せば俺の事が好きになる!?』

 

「おおい!物騒なことを言うんじゃないぜ!?」

 

「というか、仮に消しても絶対本気で嫌われますよ!?」

 

 

 努力の向きが逆すぎます!もっと正しい方向に努力してください!

 

 

「う、ウチだって・・・」

 

「わ、私も頑張って・・・」

 

「ん?」

 

 

 二人が何かをつぶやきましたが、聞き取ることは出来ませんでした。

 ・・・それにしても魔理沙。あなたのその物怖(ものお)じしない態度には感服します。叶うかどうかはわかりませんが応援させてもらいます!

 

 

「とにかく、よろしく頼むんだぜ!」

 

 

 そう言って魔理沙は腰を降ろしました。

 ほっ。また変なことを言って時間を取らせるかと思っていましたが、杞憂に終わったみたいですね。これで落ち着いて残りの人自己紹介を聞けます。

 

 

 皆さん、個は出さなくていいですよ!?何事も平穏が大切です!・・・べ、別に振りじゃないですからね~!?

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!『バカと中華小娘とお姉さん』を初の投稿とします村雪です。
 昨日、投稿してから時間をあけてから見たんですけど、多くの方に読んでいただいている上に、お気に入り登録、さらにはお褒めの感想を送ってもらっていましたので面喰いました!
 本当に初めてだったので読んでいただけるかと不安でしたが、読んでいただいたかたには感謝の一言です!
 次回からもバカテスの雰囲気を大事に、面白おかしく読んでいただけるように精進して書きますので、どうかよろしくお願いいたします。
 
 ・・・文章が短くなると思うので、あまり過度な期待はやっぱりご遠慮を!?


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挑戦―無謀、だとしても動かないと変わりませんっ!

 どうも、村雪でございます。
 次回投稿まで1週間前後と書いていましたが、他の方の投稿速度が速くて、なにやら焦りを感じまして1日空けて投稿することにしました。いい加減な事を書いてしまって申し訳ありません!
 ですのでこれからは、この作品の作者は投稿する時間がかなり不規則、と認識していただければ幸いです。
 
 さて、これで3話目の投稿となります。クリスマスイブに投稿する形となってしまいましたが、そこを絡めての話はありませんのでご了承下さい。

 ――では、ごゆっくりとお読みください


 

 

「そういえば姫路さん。体調はもう大丈夫?」

 

 

 魔理沙の後も自己紹介が続き、3分の2が終わったぐらいでしょうか。後ろから吉井君の声が聞こえてきました。どうやら瑞希(みずき)さんの体調の事が気になったみたいです。

 

 

「あっ、はっ、ひゃい!大丈夫でしゅ!」

 

 

 それに対し、瑞希さんは盛大に噛んじゃいながら答えました。瑞希さんの癖なんでしょうか?可愛らしくて加点ですねっ!

 

 

「?なんだかどんどん顔が赤くなってるけど、ホントに大丈夫?」

 

「ホホ、ホントにだいじょぶですっ!これはあの――!」

 

「姫路、明久がブサイクですまんな。」

 

「え!?そういう意味で顔を赤くしてたの!?」

 

 

 坂本君の心ないフォローに、吉井君は思い切りショックを受けたようでしたが、そこは瑞希さん自らが否定をしました。

 

 

「ち、違いますよ!?そ、それに!吉井君は目もパッチリしているし顔のラインも細くて綺麗だし、全然ブサイクなんかじゃないですよ!その、むしろ・・・」

 

 

「かっこいい、ですか?」

 

「メメ!美鈴(メイリン)さん!?」

 

 

 思わず口を挟んでしまいました。瑞希さんは口をパクパクして私を見つめ、目で私にどうして言っちゃうのかと訴えてます。

 ごめんなさいね!でも、私も魔理沙ほどではありませんけど恋の事には興味があるんですよ♪

 

 にしても・・・そうなんですか~!瑞希さんは吉井君のことを……へえ~!

 

 

「なるほど。言われてみれば確かに見てくれは悪くない顔をしているかもしれないな。俺の知人にも明久に興味を持ってる奴がいたような気もするし。」

 

 

 ほう、吉井君はモテる人だったんですね?

 

 

「え?それって「それって誰の事ですかっ!?」」

 

 

 吉井君も気になったようですが、それ以上に瑞希さんのほうが声が大きくてそっちに気を取られました。まあライバルが現れるかもしれないので必死になる気持ちも分かります。

 

 さて、一体誰なんでしょう?

 

 

「確か、久保――」

 

 

 ふむ、久保さんですか。

 

 

「―――利光だったかな。」

 

「それ、間違いなく男の子ですよね?」

 

 

 別の方向にモテるんですね、吉井君・・・

 

 

「まあな。おい明久。声を殺してさめざめと泣くな。」

 

「もう僕、お婿(むこ)に行けない……」

 

 

 ま、まあ、瑞希さんのライバルにはならないことでしょう。そこは友達として安心しました。

 

 

「半分冗談だ。安心しろ。」

 

「え?残り半分は?」

 

「良かったですね。瑞希さん。」

 

「は、はい。安心しました!」

 

「ところで姫路、体は大丈夫なのか?」

 

「はい。もうすっかり平気です。」

 

「それはまた良かったですね!」

 

「はい!」

 

「ねえ3人とも!?そっちは良くても僕の貞操はまだ全然大丈夫じゃないよ!?」

 

 

 大きな声で抗議する吉井君。ええ~、そう言われましても、私にできることは全くないですよー?

 

 

「はいはい。そこの人たち、静かにしてください。」

 

「あ、すいませ―――」

 

 

バキィッ バラバラバラ………

 

 

「・・・ええ~…?」

 

 

 先生が机を叩いて注意をした瞬間、教卓がバラバラに砕け散ってしまいましたよ・・・・どれだけボロボロだったんですか?

 

 

「・・・え~替えを用意してきます。少し待っていてください。」

 

 

 教卓の替えはあるんですね。1つあれば普通は大丈夫なはずなんですけど・・・ここは全く常識が通用しませんね。

 

 

「いや~、もうちょっとしっかりした物にしてほしいですよね?」

 

「あ、あはは・・・」

 

「――じゃなんだから、廊下で。」

 

「別に構わんが。」

 

「?」

 

 

 私と瑞希さんが苦笑いを浮かべあっていると、何故か吉井君と坂本君が立ち上がって教室の外へと出ようとしていました。

 

 

「あれ、2人ともどうしたんですか?」

 

「ああ、何でも明久が話があるってんでな。」

 

「うん、ちょっとね。」

 

「ふうん?そうですか。」

 

 

 特に止める理由もないので、私は何も言わずに見送ります。

・・・ここでしないということは、あまり聞かれたく内容みたいですね。また帰ってきたら聞いてみるとしましょう。

 

 

「話ってなんでしょうか・・・?」

 

 

 瑞希さんは気になるようで、2人が出て行った方を心配そうに見つめています。でも、私たちが気にしても仕方ありません。

 

 

「さあ。分かりませんが、あの2人が帰ってきてから聞いてみましょうよ。果報は寝て待てと言うでしょう?」

 

「・・・それもそうですね。すいません美鈴さん。」

 

「いえいえ。………ん?」

 

 

 ふと、後ろから視線を感じた気がしました。振り向くと………

 

 

「・・・こらこら。何を撮ろうとしているんですか?土屋君。」

 

「……っ!?(パッ!)」

 

 

 土屋君が、私のスカートの中を撮影したかったのか、畳を這ってカメラを構えていました。

 ここまで堂々とした盗撮は初めてです・・・というか、盗撮自体が初めてですね。まさかクラスメイトにされるとは夢にも思っていませんでした。

 

 

「別に私は構いませんが、他の子は嫌かもしれませんのでやってはいけませんよ?」

 

「……消しゴムを落としたから拾おうとしただけ(たらたら)。」

 

「あははっ、別に怒ったりはしませんから嘘なんかつかなくていいですよ?」

 

「……嘘なんか着いていない…っ!(ブンブン)」

 

 

 鼻血を流したり首を思い切り左右に振ったりと、土屋君は意外と態度に感情を出す人だったんですね~?自己紹介の時には全然分かりませんでしたよ!

 

 

「ムッツリーニ。だからわしは止めておけと言ったのじゃ。」

 

 

 溜息をついて、木下君が気になる単語を1つ発しながら土屋君に話しかけました。

 

 んん?ムッツリーニ?

 

 

「それって確か、女の子をすごく撮ってる人の呼び方でしたっけ?」

 

「うむ。こやつがそのムッツリーニじゃ。」

 

「へえ・・・」

 

 

 私の記憶が確かならばムッツリーニというのは、女の子の気付かぬうちに写真を撮ってそれを男子に売りつけ、男子からは畏怖と尊敬、逆に女子からは軽蔑の対象となっている売人の呼称。ちなみに私は、軽蔑とまではいってません。なぜかというと、彼の撮った写真を偶然目にしたことがあったのですが、それはカメラを気にせずに満面の笑みを浮かべた女の子の写真。そんな写真を撮るなら何も行動に移るほどでもないかと考えたからです。   

 とは言え、今のような撮影は黙認できませんがね!

 

 

「あの、美鈴さん。」

 

「はいはい?何でしょう?」

 

 

 おっと、瑞希さんがクイクイと袖を引っ張ってきました。何か質問ですかね?

 

 

 

「む、ムッツリーニって何ですか?」

 

 

 え?

 

 

「何、といいますと?」

 

「えっと、歴史の勉強でムッソリーニは知ってるんですけど・・・・彼と何か関係があるんでしょうか?」

 

「あ、いや。その人とは関係は全くないんですけど・・・まあ、その名前と単語をかけたのがムッツリーニなんですよ。」

 

「ムッソリーニと・・・・え、ええと…な、何をでしょうか?」

 

 

 それを私に言わせますか………でも、これはこれで良いものが見れそうです♪

 

 

「それはですね……ムッツリなんですよ。」

 

 

 さあ!純粋そうな瑞希さんの事です!きっと顔を赤くしてあわあわと微笑ましい様子になるに違いありません!期待しながら私は瑞希さんを見て・・・・・・ん?

 

 

 

「?(きょとん)」

 

 

 きょとんと、ホントにきょとんとした顔で私を見ているだけでした。え、私言い間違えましたかね?

 

 戸惑っている私を見て、なぜか姫路さんは申し訳なさそうにし、その理由を明かしました。

 

 

 

「す、すいません。ムッツリって何でしょうか…?」

 

 

「・・・・・・お、おおお。」

 

 

 瑞希さんメチャクチャ純粋ですねっ!?よもや言葉を知らないと!?なんだか知ってる私がすごく汚れてるみたいじゃないですか!?

 

 

「え、ええ~と。どう言えばいいですかね・・・」

 

 

 予想外な事態です。このままストレートに言うと、純粋な瑞希さんを傷つけるみたいで嫌ですし、かといって遠回しに言おうにもすぐにその内容を思いつけません。ああ!今だけは彼女の純粋さが痛い!!

 

 

「わ、分からなかったらいいですよ?」

 

 

 悩む姿を見てそう言ってくれた姫路さん。それに私の頭はひらめきました。

 

 

 ―言いづらいなら言わなければ良いじゃない!

 

 

 そうです!そうすれば瑞希さんは今のままでいられるし、もしも彼女が気になって調べたとしてもそれは自己責任!誰かによって純粋さを傷付けられたわけではありません!

 

 よし!方法を思いついたのなら言うのです紅美鈴!私は知りませんと瑞希さんに伝えるのよっ!

 

 

 

「すいません。実は私も――」

 

 

「ムッツリってのは、おおっぴらには何も言わないけど裏で色々エッチなことをしたり考えたりする奴のことだぜ。まあ確かに土屋にはぴったりのあだ名かもな。」

 

 

「………ぴきゃあっ!?」

 

「魔理沙あああっっ!!!」

 

「……俺には全く合わないぞ、霧雨…っ!!(ブンブンブンブン!!)」

 

 

 あなたという人は!直球ど真ん中すぎるでしょうがーっ!!見なさい!瑞希さんが変な悲鳴をあげて顔を絵の具の赤色みたいに真っ赤に染めちゃったじゃないですかああ!!でも間違ってはいませんから土屋君の否定は無意味ですねっ!

 

 

「おいおいなんだよ美鈴?私は姫路の知りたいことを教えてあげただけだぜ?」

 

「た、確かにそうですけど、もう少し遠回しをしてから言うべきでしょうが!」

 

「はっ、勘弁してくれだぜ!言う事ははっきり言うのが私、恋に生きる乙女の霧雨魔理沙だぜ!」

 

「関係ない!今は恋が関係ありません!!恋に生きるなら恋の事だけに口を挟んでください!」

 

「土屋。ムッツリでいても良いことないぜ?もっと心をさらけ出すことをオススメするぜ!」

 

「・・・ポリシーは変えない。そして俺はムッツリスケベじゃない…っ!!(ぶんぶん)」

 

「聞きなさいこらああああああああ!!!」

 

 

 

「さて、それでは自己紹介の続きをお願いします。」

 

「ね、ねえ・・・どうして紅さんはげっそりしてて姫路さんは顔を真っ赤にしてるの?」

 

「・・・色々あったんですよ。」

 

 

 しばらくして、福原先生がやはりぼろっちい教卓を手に入ってくると同時に吉井君と坂本君が戻ってきて自己紹介が再開されました。

 そのあと、私と姫路さんはほとんど頭に内容が入ってなかったと思います。だって仕方ないじゃないですか!!きちんとした理由があるんですよう!ごめんなさいのこり3分の1の皆さん!

 

 

 

「・・・では、最後にクラス代表として坂本君。お願いします。」

 

「了解。」

 

 

 そして、最後となった坂本君が代表だからか教卓の前へと歩み寄り、話し始めました。

 

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きに呼んでくれ。」

 

「じゃあ、ゴリラっ!」

 

「でくの坊とかぴったりだぜ!!」

 

「・・・やはり坂本と呼ぶようにしてくれ。」

 

 

 坂本君は額に青筋を立たせてチルノと魔理沙を作り笑いで見ました。あ、結構怒ってますねこれ。

 

 

「とにかく、俺は皆に1つ聞きたい。」

 

 

 ?何でしょう?

 

 その問いを言わずに、坂本君は教室内を歩き出しました。

 

 

 

カビだらけのかなり臭う教室。

 

 

古く汚れて綿もはみ出した座布団。

 

 

薄汚れてボロボロのちゃぶ台。

 

 

 

 皆が坂本君が行く先の設備を無言で見つめました。

 

 

「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが―」

 

 

 坂本君が天上世界だったAクラスを引き合いに出しながら・・・

 

 

 

 

「――不満はないか?」

 

 

 問いかけました。

 

 

 

『大ありじゃあっ!』

 

 

 クラスの皆の魂の叫び。その気持ち、凄く分かります・・・!せっかくの高校生活をこのような場所で過ごすのは誰でも嫌に決まっているじゃないですか!!

 

 

「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている。」

 

『そうだそうだ!』

 

『いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ!改善を要求する!』

 

『さいきょーのあたいがいるのに、こんなのおかしいわ!』

 

 

 口々と不満をさらけ出す皆。でもチルノ、あなたがいるところがFクラスなのは間違っていないと思います。

 

 

「みんなの意見はもっともだ。そこで――」

 

 

 満足する意見を聞けた坂本君がにやりと笑みを浮かべ、

 

 

「代表としての提案だが・・・FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う。」

 

 

 下剋上への火ぶたを切りました。

 

 

 

〝試験召喚戦争〟

 

 

 それは、この文月(ふみづき)学園特有の言葉です。

 ここの学園長さんが科学とオカルト、そして偶然によって完成させた『試験召喚システム』というものを利用して、自分の受けたテストの点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を呼び出して他のクラスと行う戦争、もといバトル。それが〝試験召喚戦争〟なのです。

 この戦争における報酬となるのが、それぞれのクラス設備です。もしも下位のクラスが上位のクラスに勝った場合、その負けたクラスが勝ったクラスに教室をあけ渡し、負けたクラスの教室で過ごすことになるのです。

 つまり、坂本君はAクラスに勝利してAクラスの設備を手に入れようと言ったことになります。

 

 

『勝てるわけがない』

 

『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』

 

『姫路さんや紅さんがいたら何もいらない』

 

『チルノちゃんまじ天使』

 

 

 当然と言いますか、誰もが否定の言葉を繰り出します。多少妙な言葉も聞こえましたがスルーです。

 

 Aクラスは学年でも非常に優れた人たちが集まったクラス。そこに最底辺となるFクラスが挑むのは、いわばアリが象に挑むようなもの。確かに勝てる可能性は無いかもしれません。

 

 

「そんなことはない。必ず勝てる、いや、俺が勝たせてみせる。」

 

 

 しかし、坂本君は自信満々に言い放ちます。

 

 

『何を馬鹿なことを』

 

『できるわけないだろう』

 

『何の根拠があってそんなことを』

 

 

 むう、残念ですが私も同意見です。ただ言葉だけでは意味がありません。それを信じさせるだけの根拠がなければ皆を動かすのは難しいと―

 

 

「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている。」

 

「・・・ほほう?」

 

 

 うう~ん、これは興味がわいてきました。坂本君はどう言うつもりなんでしょう?

 

 

「おい、康太(こうた)。畳に顔をつけて紅(ホン)のスカートを覗いていないで前に来い。」

 

「・・・・・・!!(ブンブン)」

 

「ありゃ、またですか?」

 

 

 後ろを見れば、またも土屋君が私のスカートを覗こうと畳に顔を付けてカメラを構えていました。布きれ一枚に熱心すぎて私もビックリします。

 でもそれなら、下着売り場に行けばいいんじゃないでしょうか?撮り放題間違いなしです!おそらく土屋君の自由もおまわりさんに取られると思いますけどね!

 

 

「土屋(つちや)康太(こうた)。こいつがあの有名な、寡黙なる性職者(ムッツリーニ)だ。」

 

「・・・・・・!!(ブンブン)」

 

『ムッツリーニだと・・・?』

 

『馬鹿な、奴がそうだというのか・・・?』

 

『だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠をいまだに隠そうとしているぞ・・・』

 

『ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ・・・』

 

 

 畳の跡を隠そうとする土屋君。ホントにその異名は伊達じゃありませんね・・・。のぞきまでしてたんですからもうムッツリの域は超えてるんじゃないですかね?

 

 

「姫路のことは説明する必要もないだろう。皆だってその力は良く知っているはずだ。」

 

「えっ?わ、私ですかっ?」

 

「ああ。ウチの主戦力だ。期待している。」

 

 

 なるほど。確かに姫路さんならAクラスにも匹敵する学力です。つまり彼女はこのクラスのキーパーソンと呼んでも過言ではないですね!可愛い上に秀才!なんという優良物件さんなのでしょう!男子から引く手あまたなのも女なのにわかっちゃいますよっ!

 

 

『そうだ。俺達には姫路さんがいるんだった。』

 

『彼女ならAクラスにも引けをとらない。』

 

『ああ、彼女さえいれば何もいらないな。』

 

 

 最後の人、言うのならもっとはっきり言うべきだと思います。

 

 

「霧雨魔理沙(きりさめまりさ)もいる。」

 

「おっ?私を買ってくれてるのか?」

 

 

 魔理沙は少し得意げに自分を指さす。魔理沙の成績は・・・どうでしたっけ?

 

 

「ああ、相手を挑発したり気を引いたりして頑張ってくれそうだからな。」

 

「へっ!そう言われたら頑張るしかないぜ!」

 

 

 ん?それって点数というより魔理沙の性格を買ってますよね?

・・・でも確かに、魔理沙のそういうところは天下一。私は数秒持たないと思います。・・・た、短気だからじゃないですよ!?魔理沙の口のマジックのせいですからっ!

 

 

「加えて、木下秀吉だっている。」

 

『おお・・・!』

 

『そうか、あいつ確か、木下優子の・・・』

 

『演劇部の期待のホープか・・・!』

 

 

 ほほう、秀吉君もですか。彼は演劇以外でも優秀なんですね?

・・・しかし、それだけいるのなら確かに可能性がゼロだとも言えません!

 

 

「それに、紅(ホン)美鈴(メイリン)もいる。」

 

『おおお!!』

 

 

 はえっ?

 

 

「私もですか?坂本君?」

 

「ああ、お前がここにいる理由は知らないが、決して悪くは無い成績だったはずだ。。期待しているぞ。」

 

「い、いやあ照れますね~!」

 

 

 そう言われたら頑張らざるを得ませんね!・・・あ~私ったら単純だ!何だか気分が高揚してきましたよ!?

 

 

「皆さんっ!」

 

 

 あっ!お、思わず声が・・・・・・!

 

 

『?』

 

「なんだぜ?」

 

「なに!?メーリンっ!」

 

「美鈴さん?」

 

「どうしたの美鈴さん?」

 

 

 あ、ああう!皆さんの視線が私に・・・!

 

 ……ええいっ!こうなったならこの変なテンションで、皆さんに檄(げき)を入れさせてもらいましょうかねっ!

 

 

 立ち上がって私は言います!

 

 

 

「私達はFクラスです!Aクラスとは比べ物にならないのも事実ですっ!でも、私たちが勝とうと思わないと勝てないのも事実です!何事もやってみなければ事態が動くことはありません!ですから・・・ここは一つ!皆で力を合わせて頑張ってみませんかーっ!!?」

 

 

 

 

 

『『『・・・いよっしゃああああっっ!!!!』』』

 

 

 おお!?同意と思われる力強い雄叫びがっ!

 

 し、仕方なしにやったんですけど効果覿面(てきめん)です!気迫に関しては学年最強じゃないですかね!?

 

 

「紅の言う通りだっ!当然、この俺も全力を尽くす!」

 

 

 坂本君も感化してくれたのか力強く宣言してくれました!

 

 

『確かにやってくれそうな奴だ!』

 

『坂本って小学生の頃は神童とか呼ばれていたらしいぞ?』

 

『じゃあ、振り分け試験の時は姫路さんと同じで体調不良か何かで受けていなかったってことか?』

 

『つまり、Aクラスに匹敵する学力の奴が3人もいるってことか!?』

 

『『おおおおっ!?』』

 

 

 最初とは一転して、皆が顔を輝かせはじめました!こ、これは凄い!このままモチベーションを上げて行けば、夢の夢が夢にまで縮まるのでは・・・!?

 

 

「それに――」

 

 

 そして、坂本君はさらに士気をあげるために、新たな戦力の名前を呼びます!

 

 

 

「――――吉井明久だっている。」

 

 

 

 

・・・・・・シーン・・・

 

 

 

・・・あ、れ?あれれ?さ、さっきまでの高まりはどこへ?一瞬で消え去りましたよ!?

 

 

「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!?全くそんな必要は無いよね!?」

 

 

 私がそれを思い切り知りたいですよっ!

 ああ!何だか皆さんの雰囲気が水をかけられたように静まり返り始めましたよお!?

 

 

『誰だよ、吉井明久って。』

 

『いや知らん。』

 

「ほら!せっかく紅さんがあげてくれた士気に陰りが見えてるし!僕は雄二達と違って普通の人間なんだから普通の扱いをしてよっ・・・って紅さん!そんな悲しそうな目で僕を見ないで!全部あのゴリラがやったことなんだ!」

 

 

 いや、まあ吉井君が悪くないのは分かるんですけど・・・やっぱり、ねえ?

 ……まあそれより、なぜ吉井君が呼ばれたのかが気になるところです。

 

 

「坂本君。本人はああ言っていますが、どうして名前を呼んだんですか?」

 

「そうか。紅達は知らないようだから教えてやる。こいつは《観察処分者》だ。」

 

 

 坂本君もそこは分かっていたようで、きちんと説明をしてくれました。

 

 

「・・・坂本、それはバカの代名詞って話を聞いたことがあるぜ?」

 

 

 魔理沙が率直に言います。

 ・・・私も聞いたことがありますね。これになる人というのは相当のバ…変わり者だとか。

 

 

「ち、違うよ霧雨さん!ちょっとお茶目な16歳に付けられる愛称で」

 

「そうだ。バカの代名詞だ。」

 

「肯定するんじゃないよバカ雄二!」

 

「へ~っ!よしーってバカなのね!」

 

「君にだけは絶対言われたくないっ!!」

 

 

 チルノに指を指してこれでもかと強く吉井君がつっこんだ。

 おバカにバカ扱いされる気持ち、身に染みて分かります…っ!

 

 

「あのっ、それってどういうものなんですか?」

 

 

 瑞希さんには分からなかったみたいで、手をあげて坂本君に尋ねていました。

 

 

「具体的には教師の雑用係だな。力仕事とかそういった類(たぐい)の雑用を、特例として物に触れるようになった試験召喚獣でこなすといった具合だ。」

 

 

 ・・・・・・あれ?聞いた感じだと、意外とすごくありませんか?私たちが扱う試験召喚獣は、他の召喚獣に触ることは出来ても現実の物に触れることは出来ません。それが出来るという事は、むしろ得をしていませんかね?

 

 

「そうなんですか?それって凄いですね。試験召喚獣って見た目と違って力持ちって聞きましたから、そんなことが出来るなら便利ですよね!」

 

 

 瑞希さんも同意見だったようで、目をキラキラと輝かせて吉井君を見つめています。ちなみに召喚獣の力は軽く成人男性、それどころか人が出せ得る力よりも高いとの話です。そりゃ物に触れなくしますよね。学校が崩壊しかねませんし。

 

 瑞希さんの言葉に、しかし吉井君は手を振って否定をしました。まあ、部外者よりも当事者が言う事の方が正しいに決まってますから、本当に良いものではないのでしょう。

 

 

『おいおい。《観察処分者》ってことは試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいって事だろ?』

 

『だよな。それならおいそれと召喚できない奴が1人いるってことだよな。』

 

 

 そんなやりとりがタイミング良く聞こえました。

 なるほど、召喚獣の感覚が自分に返ってくると・・・それは確かに辛いですね。

 でも、そこを踏まえてなぜ坂本君は吉井君の名前を言ったのでしょう?まだ何か凄いところがあるんですかね?

 

 

「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚(ザコ)だ。」

 

「雄二、そこは僕をフォローする台詞(セリフ)を言うべきだよね?」

 

 

・・・・・・ただバカにしたかっただけみたいです。

 

 

「坂本君、あまり人のことを悪く言うものではありませんよ?それに、誰でもいるだけで意味があるんです。力になれど役立たずなんてことは絶対ありません。」

 

 

 吉井君は先生の雑用をこなしてきた、それはつまり召喚獣の扱いに慣れていると考えられます。これはきっと彼だけの大きなアドバンテージとも言えるでしょう。それを雑魚と言うのは聞き捨てなりません。 

 

 

「紅さんっ・・・!君って奴はなんて良い人なんだ!」

 

「え、ええ!?泣きながら言うほどですか!?」

 

 

 私は一般論を言っただけなのに!普段吉井君はどんな風に褒められているのですか!?・・・さすがに褒められるぐらいありますよね!?

 

 

「ま、それもそうだな。悪かったな明久。」

 

「今さら言われても嬉しくないよ!まあ受け取っとくけどさ!」

 

「あ、そこは受け取るんですね・・・」

 

 

 文句を言いつつも謝罪を受け取るあたり、吉井君は人柄が良いんですね!何となく感動しました!

 

 そして、吉井君に謝った坂本君は、クラスへと視線を巡らせて意思表示します。

 

 

「なんにせよ、俺達の力の証明としてまずはDクラスを征服してみようと思う。」

 

 

 あれ、Dクラスですか?いきなりぶつかりに行くのかと思ってましたよ。何らかの意味があっての行為なんでしょうか?

 

・・・ま!代表が言ったことに従うのがチームメンバーの役割ですよね!

 

 

「了解!」

 

「ほほう、面白そうだぜ。」

 

「へんっ!最強のアタイには簡単ね!」

 

『そうだそうだ!』

 

『Aクラスならともかく、Dクラスなんて目なんかじゃねえ!』

 

『俺たちには4人の女神が着いているんだ!』

 

『やってやろうじゃねえか!!』

 

 

 坂本君の言葉に魔理沙、チルノが声を出し、それに同意する男子達!気合いがだんだん復活してきたみたいです!

 

・・・あれ、4人の女神?瑞希さん、島田さん、魔理沙、チルノ……って私の枠は!?私は一般人扱いですかあっ!?(A.美鈴、瑞希、魔理沙、チルノ。 余談:これを言った男子は、後でポニーテルなあの子に涙目で殴られたそうな・・・合掌。「ウチが美人じゃないことくらい分かってるわよバカ―!!」)

 

 

「皆、この境遇には大いに不満だろう?」

 

『当然だ!』

 

 

 ま、まあいいですよーだ!どうせ私は美人じゃありませんよー!今はこっちの方が大事ですから許してあげますよこの名も知らぬ男子さんがっ!

 

 

「ならば全員筆(ペン)を取れ!出陣の準備だ!」

 

 

 この恨み!試召戦争できっちり八つ当たりさせてもらいますよおおお!!

 

 

『おおーーっ!!』

 

「俺達に必要なのはちゃぶ台ではない!Aクラスのシステムデスクだ!』

 

 

『うおおーーっ!!』

 

「やってやりましょーーっ!!」

 

 

 クラス全員が打倒Aクラスを胸に団結しました!じゃっかん私だけずれちゃった気もしますけどその内収まるでしょうしセーフですよね!?

 

 

「お、おーーっ!」 

 

 

 瑞希さん、小さく遠慮しながら拳を振り上げる姿も可愛いですね~!確かにこの子は女神です!

 1人で勝手に納得する一般人の私。そんな私の耳に届いてきたのは代表坂本君の指令。

 

 

 

 

「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

 

 ……いきなり特攻命令をけしかける彼は、神じゃなくて悪魔と称するのがぴったりですよね。

 悪魔は地獄へ帰りなさい!・・・ってここが地獄のFクラスでしたね!

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!文量が短くなると言っていたのに、あまり変わらず、むしろ多くなって投稿した村雪であります。
 
 自分で書いたことにはきちんと責任をとらなければ、とクリスマスイブに懺悔する作者なのですが、果たして後書きや前書きで、こういう行事に関することで話を盛り上げるべきなのか、関係ないとスルーしてしまうのとどちらが良いのかと、1人うんうんと悩んでました・・・。
 で、悲しきかな、面白い話題がないということで最終的にはスルーする方で決定しました。

  
 次の第4話。また新たな東方キャラを2人、台詞があるかどうかでは3人登場させていただきます!
 キャストの方は決まっていますのでリクエストとかはないですけどお許しください! 
 
 投稿は、おそらく年末までには……と言いつつも、またもあせりにかられて2日3日空けて投稿するかもしれません!本当に不規則になって申し訳ないですが、楽しみに待っていただけたら作者冥利に尽きます!
 それでは!皆さまが満足のいくクリスマスイブを過ごせるように願って、失礼させていただきます。


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宣戦―援護、その後で彼には制裁してやりましょう

 一日空けてとなりました。皆さま、明けましておめでとうございます!村雪でございます!
 皆さまの新年を明るく過ごせることを願いまして、新年最初の投稿とさせていただきます!
 
 前回にもちょっと伝えましたが、今回新たに東方キャラクター2人出場していただきます。少し皆さんの中での性格と食い違うかもしれませんけど、この作品ならではとご容赦くださいませ!

 では、思い思いに過ごされている皆さま。既に働いていらしゃる方々。
 ―ごゆっくりお読みください。


 

「明久にはDクラスへの宣戦布告への使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

 

 坂本君による吉井君への指令。それは特攻指令と言っても差し支えないかもしれません。

 

 というのも、話によると下位クラスの人が上位クラスへと宣戦布告に行った場合、高確率で暴力を振るわれて痛い目に遭うのだとか。まあ、誰かにやってもらわないといけないのは確かになんですけど、絶対に友達にやらせることではありませんね。

 

 

「・・・下位勢力の宣戦布告の使者って、大抵ひどい目に遭うよね?」

 

 

 吉井君も知っていたようで渋い顔をしていました。当然の反応です。

 

 

「大丈夫だ。奴らがお前に危害を加えることはない。だまされたと思って行ってみろ。」

 

 

 なおも坂本君は嘘をついてまで吉井君に行かせようとしています。彼には情が無いのでしょうか?

 

 

「本当に?」

 

「もちろんだ。俺を誰だと思っている。」

 

 

 友を陥れる悪魔です。

 

 

「大丈夫、俺を信じろ。俺は友人をだますような真似をしない。」

 

 

・・・・・・・ふ~~……。

 

 

「分かったよ。それなら使者は僕が「待ってもらえますか吉井君?」へ?どうしたの紅さん?」

 

 

 私が突然割って入ったため、吉井君、坂本君だけではなく皆の視線が私に集まりました。あんまり注目されてると言いづらいんですけどね?でも、ここはきちんと言いましょう。 

 

 

「私が宣戦布告に行っていいですか?坂本君。」

 

「ええっ!?」

 

「なっ!?」

 

 

 2人は、どうしてか分からないと視線を向けてきます。ちょっと、私は変人じゃありません!

 

 

「Dクラスにどんな人がいるのかが気になってましてね。坂本君の言う通りでしたら誰が行っても危険は無いじゃないですか。だから私に行かせてもらえませんか?」

 

「あ、いや、だがな・・・」

 

 

 急にばつの悪そうな顔になる坂本君。まあ知っていますが、やはり彼の言ったことはウソだったのでしょう。でも、私はそこを踏まえてDクラスに行くと言っているのです。もちろん言ったこともウソじゃありませんけどね!どこに誰がいるのかもやっぱり知りたいのです!

 

 

「では、大役を果たしてきますね。」

 

 

 坂本君はOKを出すのをかなりしぶっていましたので、そのまま待たずに私は廊下へ向かいました。

 

 

「待って!じゃあ僕もいくよ!」

 

「え?」

 

 

 すると、さっきまで行きたくなさそうにしていた吉井君がなぜか同行を申し出てきました。え、実は吉井君がマゾだったのですか?

 

 

「雄二の言う通り安全だとしても、万が一ってことがあるでしょ?それなら男の僕も一緒についていった方がいいかなと思うんだ。」

 

 

・・・・やれやれ、私が変わってあげたのに危険な場所に行くとは、吉井君は変わり者ですね。でもそこが面白いですよ!

 

 

「分かりました。では宣戦布告に行くのは、私と吉井君という事で。」

 

「了解。」

 

 

『吉井!お前が行くのなら俺も行くぞ!』

 

『そうだ!お前だけに良い思いはさせねえぞ!』

 

『俺が美鈴さんとふたりになるんだ!』

 

 

「あ~、今回は私と吉井君という事に決まったからまた今度の機会にしてくださいね?」

 

『そ、そんな・・・』

 

 

 あまり大勢で行っても仕方ないのです。落胆する人たちには悪いですが、もう人はいりません。

 

 

「さって、行きましょうか吉井君?」

 

「うん、行こうか。」

 

 そうして私たちは廊下へと出ました。

 

 

 

 

 

『雄二よ、良かったのか?さっきお主が明久に言ったことはウソじゃろう?』

 

『・・・まず無事で帰ってくることは無い。』

 

『ああ。十中八九ボロボロにされるだろうな。』

 

『! ちょっと!それホントなの坂本!?』

 

『ひ、ひどいです坂本君っ!』

 

『心配するな。明久の事だからきっとボロボロになって帰ってくるさ。』

 

『そ、そうですか…ってダメじゃないですか!?』

 

『あんた鬼ねっ!!』

 

『いや~、そうはならないと思うぜ坂本。』

 

『ん?どういうことだ霧雨?』

 

『坂本はもう忘れたのか?吉井は誰とDクラスに行ったんだっけ?』

 

『・・・・・・・・・・あ。』

 

『え、美鈴(メイリン)が吉井と行ったんでしょ?』

 

『その通りだぜ。美鈴の奴、ああ見えて結構強くてな。さっき私と坂本が畳の肥やしになりかけてたぐらいだぜ。』

 

『・・・見事な写真を撮ることが出来た(ポタポタ)。』

 

『おいおい、シャイガールな私のパンツの撮影は勘弁してくれよ?代わりに美鈴のパンツを撮る協力をしてやるからさ!』

 

『・・・交渉成立…っ!!(がしっ!)』

 

『おうっ!(がしっ!)』

 

『き、霧雨さん。それはまずいんじゃないでしょうか?』

 

『な~に!私にかかればあいつに気付かれない内に撮る事ぐらい楽勝だぜ!』

 

『い、いえ、難易度の問題ではなく倫理的な問題の事です!』

 

『・・・・・・頼もしい…(ボタボタ)!』

 

『む、ムッツリーニ!出血量が増しておらんか!?一体何を想像したんじゃ!』

 

『へへっ!あ、それとだぜ。私の事は魔理沙って呼んでくれよ。どうも下の名前で呼ばれる方が好きなんでな!』

 

『あ、はい魔理沙ちゃん!』

 

『だ~ちょっと待った!話がそれまくってるわよ!?魔理沙!なんで吉井が大丈夫って言えるのよ!?』

 

『ん?おお、その話か?なに単純だぜ。美鈴がかばってくれるって話さ。あいつなら男の数人ぐらい楽勝にKOできるぜ!』

 

『へ、へえ。凄いのね、美鈴。』

 

『おう!むしろやばいのは坂本だぜ。あいつはいつも明るいけど、人を傷付けるような嘘が大っ嫌いだからな。』

 

『・・・さ、坂本?ずっと固まってるけど、そうらしいわよ。』

 

『・・・尋常じゃない汗の量。』

 

『か、顔が青を越して真っ白になっておるぞ!?』

 

『し、しっかりしてください坂本君っ!』

 

『・・・・霧雨。俺が本気で土下座して謝ったら、紅(ホン)は許してくれるだろうか。』

 

『んん~~~・・・・・・多分、意識が無くなる直前くらいで許してくれると思うぜ?』

 

『『『『それは完全に最後(ですよ!?)(じゃねえか!)(なのじゃ!)(じゃない!?)』』』』

 

『ま、ご愁傷様だぜ!・・・あ、そうだ土屋。良い話があるんだぜ。』

 

『…?』

 

『あたいったら・・・サイキョー・・・ね・・・・zZzZ』

 

 

 

 

 

 

「ねえ、紅(ホン)さん。」

 

「はい、なんですか?」

 

「紅さんはやっぱり、中国出身なの?」

 

「え?」

 

 

 Dクラスへの道のりを歩いていると、ふいに吉井君がそんなことを尋ねてきました。

 

 

「吉井君はあまり中国人が好きではありませんでしたか?」

 

「!違うよ!た、ただ中国出身の割にはすごく日本語が上手だなあって!ほんとだよ!?」

 

「ああ、そういうことですか。」

 

 

 私の名前は誰から見ても中国の出身だと分かること。なのに日本語を上手く話せているのが気になったという事ですね。意地悪なことを聞いて許しください。

 

 

「いえいえ、実は私、生まれてからすぐにこっち(日本)に来たらしいんですよ。」

 

「え?そうなの?」

 

「はい。」

 

 

 どんな理由があったのかは知りませんが、そのおかげで今があるわけなので思う事は無いんですけどね。

 

 

「ですから、名前は紅(ホン)美鈴(メイリン)なんですけど、ほとんど生粋(きっすい)の日本人なわけなんですよ。」

 

「へ~。だからそんなに日本語が上手なんだね!」

 

「逆に中国語はダメダメですけどね!」

 

 

 はっはっはー!と笑い声をあげている内に、私たちの目の前にはDクラスが見えてきました。

 

 

「おっと。着いたみたいですね。」

 

 

 外見はいたって普通の教室。しかしFクラスと比べると立派に見えるから困ったものです…

 

 

「では入るとしましょうか?」

 

「うん、そうだね。」

 

「快く出迎えてくれるとは思えません。罵(ののし)られる構えはしておきましょう。」

 

「分かった。」 

 

 

 私たちは頷いて、教室の扉に手をかけました。

 

 

 

ガラッ!

 

 

 開けた瞬間、中にいたDクラス全員がこちらを向き、口が開かれ…

 

 

 

『きゃああああああっ!!』

 

『うおおおおおおおっ!?』

 

『『ホ、紅(ホン) 美鈴(メイリン)さんっ!!』』

 

 

 

 

…何故か敵意的なものではなく、好意的な悲鳴をあげられました。

 

 

「わ、わお〰……?」

 

「ほ、紅さん。凄い人気だね…?」

 

 

 そ、そう言われましても!…私、何かしましたっけ?ああっ、皆さんの視線が歯がゆいですっ!

 あんまり長くいると私が調子に乗っちゃいそうですっ!はやく代表を見つけて撤退を

 

 

 

 

「美鈴(メイリン)~っ!」

 

「おごはっ!?」

 

 

 ・・・する前に胸に衝撃が走りました。

 

 う、うまい具合に入ったみたいで呼吸が一瞬止まりかけた・・・・あ、天井はFクラスとあまり変わってないです。

 

 

「だ、大丈夫紅さんっ!?」

 

「かっ、ひゅっ…………だ、だ、だいじょうぶでずよう吉井君~…」

 

 

 コヒュウ、コヒュウと文字通り息絶え絶えな状態でなんとか返事をした私は、今なお感じる胸周囲の異変の原因へと目をやりました。

 

 

 

 

 

「うにゅ~っ!美鈴(メイリン)~~~!!」

 

 

 そこには、嬉しそうな笑顔の女の子が、必死に私の胸に顔をすりつけている姿がありました。

 

 

 

「げほっ……げ、元気そうですね、お空(くう)?」

 

「うんっ!美鈴は元気だった!?」

 

「そ、そうですね。今はちょっと苦しいですがっはっ!」

 

 

 これ、思ったよりも効いてますね。全然咳(せき)が止まりません。

 

 

「だ、大丈夫美鈴!?風邪でも引いたの!?」

 

「ちょ、ちょっど待ってくだっ、ふう―。ふー……。」

 

「どうしたの!?お腹が痛いのっ!?」

 

 

 た、頼みます。しばらくの間ホントに黙ってて!ああもう、それを言うのも今はつらっごほっげほっ!!

 

 

 

 

「お空っ!美鈴さんが苦しそうだからいったん離れて!」

 

 

 !その声は!?

 

 

「わ、わかった!」

 

 

 その声に従って、お空はすぐに私の上からのいてくれました。

 ふ~っ……やっと体を起こせましたよ。

 

 

「ど、どう?紅さん?」

 

「スゥーー……ハァー………はい、もう落ち着きました。」

 

 

 吉井君、背中をさすってくれて感謝です!

 

 

「美鈴、大丈夫…?」

 

「ええ。でも、次からはもうちょっと優しく抱き着いてくださいね?」

 

「うん、分かった!」

 

 

 幼い笑みで、お空は頷いてくれました。

 

 お空とはあだ名のようなもので、彼女の本当の名前は霊烏路(れいうじ) 空(うつほ)。少しボサボサとした髪を、腰のあたりまで伸ばしているのが特徴の人懐っこい子で私の友達です!

 

 

「全く、お空は手加減を覚えなきゃいけないよ?」

 

「うにゅ、うつほはちゃんとしたもん!」

 

「そ、それであれですか…助かりましたよ、お燐(りん)さん。」

 

「いやいや、あたいは当然の事をしただけだよ、美鈴さん。」

 

 

 ニッと笑う彼女の名前は火焔猫(かえんびょう) 燐(りん)。あだ名がお燐です。私と同じ赤い髪を左右2束の三つ編みで決めている彼女も私の友人で、お空の姉のような存在です。彼女の瞳は瞳孔が縦向きになっていて、どことなく猫の雰囲気を漂わせているのが特徴なのです!

 

 

「で、美鈴さんはまた何でここに来たんだい?あと、そこの…」

 

「あ、吉井明久です。」

 

 

 お燐さんの視線に気づいて吉井君が自己紹介しました。

 

 

「火焔猫(かえんびょう) 燐(りん)だよ。……“吉井”っていうと、確かおバカで有名な男子だったっけ?」

 

 

・・・吉井君、君もどうやら有名人みたいですよ?

 

 

「ち、違うよ!僕はちょっとお茶目な男子なだけでバカなんて―」

 

「はい、観察処分者になってる吉井明久君です。」

 

「それだけは言わないで欲しかったよっ!」

 

 

 でも事実は事実!しっかりと自分の事は受け止めてあげましょう!

 

 

「ねえねえ!美鈴とよしひさたちは何しに来たの!?」

 

「あれ、よしひさって僕のこと?なんだか省略されちゃったみたいな言い方だけど、僕の名前は吉井 明久だよ。」

 

「あ、ごめんごめん!よしひさ達は遊びに来たの?」

 

「君はいったい何に謝ったのさ!?」

 

「お空、よしひさじゃなくて吉井だよ。」

 

「え!?そうなのよしー!?」

 

「・・・うん。なぜ僕の言葉は通じず火焔猫さんの言葉は聞いたのかが気になるけど、それであってるよ。」

 

「ゆ、許してあげてください吉井君。」

 

 

 お空はちょっぴりトリ頭なだけなんです。決して悪気があってやっているわけではないんですよ!

 

 

「っと。お燐さん。このクラスの代表は誰でしょうか?」

 

 

 使命を忘れるところでした。このまま雑談するのもいいのですが、1人だけの問題ではないので今はやめておきましょう。

 

 

「ん?代表?それなら」

 

「ひらが~!美鈴が呼んでるよ~っ!」

 

 

 お燐さんが名前を言う前に、お空がクラス中に聞こえる大きな声で呼んでしまいました。

 Dクラスの視線が一点に集まり、焦点となった男子が恥ずかしそうに顔をしかめていました。お、お空に代わって謝らせてくださいい!

 

 

「あ、ああ。霊烏路、そんな大きい声で呼ばなくても聞こえてるよ。」

 

 

 ひらがと呼ばれた男子が私たちの前に近づいてきて、ごほんと一つ咳払い。気持ちを入れ替えようとしたのでしょう。

 

 

「俺がDクラス代表の平賀 源二(げんじ)だ。紅 美鈴さん、一体何の用だろうか?」

 

「突然にすみません。実は―」

 

「あっ、それは僕が言うよ。」

 

「え。」

 

 

 私が言おうとしたときに吉井君が一歩前に出て、それを口にしました。

 

 

「2-Fの吉井明久です。僕たちFクラスは今日の午後、Dクラスに試召戦争をしかけると宣戦しにきました。」

 

 

『『何だとっ!?』』

 

「うにゅ?」

 

「…Fクラス?」

 

 

 途端、空気がピリピリしたものと変わり、お空、お燐さんを除いた皆さんの視線が興味心から敵意の物へと変わりました。

 

 

「お手柔らかにお願いします♡」

 

 

 いらない、その言葉はぜったいいりません!

 

 

『ふざけるな!FクラスごときがこのDクラスに挑むだと!?』

 

『お前らみたいなバカの集まりが勝てるわけないだろ!』

 

『身の程知らずが!ただで帰れると思うなよ!?』

 

『手土産にこいつを叩き潰すぞ!』

 

 

「え!?ちょ、ちょっと待って!?」

 

 

 そして、何人かのDクラスが吉井君に襲い掛かろうとし始めました………が、

 

 

 

「私の目の前で集団暴力とは、良い度胸です。」

 

 

『『『『へっ?』』』』

 

 

ゴキンッ!ガゴッ!ミシッ!どすっ!

 

『ぐえっ!?』『ごぺっ!?』『がはっ!?』『おぶはっ!?』

 

 

 頭、あご、脇、腹。それぞれ別の箇所に拳を叩き込んで抑えました。全く、弱い者いじめをさせるわけにはいきません。

 

 

「吉井君、大丈夫ですか?」

 

「・・・あ、う、うん。ありがとう紅さん。」

 

 

 しりもちをついた吉井君をたたせてほこりをはたきました。その顔は少し青くなっています。全くひどいことをっ!

 

 

「うにゅ~!美鈴はやっぱりすごいなあっ!」

 

 

 吉井君が顔を青くさせているのは別の理由だと気付いていない私に、近くにいたお空は、なぜかそんなずれたことを言い出してきました。いやいや、仮にもあなたのクラスメイトがやられたんですから怒るところですよね?ほら、他の人たちも―

 

 

 

「・・・・・・(がたがた)」

 

 

 私を見て凄く震えている平賀君。

 

 

「全く、何勝手をやってるんだいあんた達。」 

 

 

 ダウンした四人をズルズルと乱雑に移動させるお燐さん。

 

 

『・・・・・・・!!!(きらきらきら)』

 

 

 凄く目を耀かせる女子の皆さん

 

 

『・・・・・・(ボー・・・…)』

 

 

 顔を赤くして私を見る男子さん。

 

 

「美春にはっ、お姉さまという方がいますの…っ!(ガン!ガン!)」

 

 

 なぜか壁に頭を打ち付ける女の子。

 

 

 ・・・・おかしい、1人も仲間をやられて見せる普通の態度の方がいませんよ!?常識が通じないのはFクラスだけではなかったのですか!?まさかこの学校全体!?

 

 

「なんだか、思ったより反感を抱かれてないね・・・?」

 

「あ、ああ~・・・」

 

 

 な、なんだかいたたまれなくなってきました。早く出ることにしましょう!

 

 

「で、では!Dクラスの皆さん、互いに頑張りましょうっ!」

 

「あいたた!?力が強いよ紅さん!」

 

 

 私は吉井君の腕をつかんで、脱兎の如き素早さで教室を出ました。

 

 

・・・・・・とにかく、任務完了です!

 

 

「すいません。大丈夫ですか吉井君?」

 

「いたた・・・うん、大丈夫。紅さんも、さっきは本当にありがとう。命拾いしたよ。」

 

「それはよかったです。・・・さて。」

 

 

 次は悪魔さんを成敗することにしましょう。

 

 

 

 

 

「・・・Fクラスの吉井君と美鈴さんが一緒にいたってことは…………にゃっはは!これは骨が折れそうだい!平賀君!今すぐ作戦を立てようか!」

 

「あ、ああ!」

 

 

 

 

 

 

ガラッ!

 

 

「紅(ホン)、聞いてくれ。今回はたいへブァッ!?」

 

「えええ!?ホ、紅さん!?」

 

「あ~、やっぱりこうなったぜ。」

 

 

 教室に戻ると坂本君が何かを言っていましたが、それは後!私は勢いよく駆け出してサマーソルトキック坂本君に浴びせました。上手く顔には入りましたが少し浅い、80点!次です!

 

 

「ま、待ってくれ紅!まずは謝罪を聞いてかラリアットォォ―ッ!?」

 

 

 くっ、あごが邪魔で入らず・・・30点!次こそはっ!

 

 

「た頼むっ!せめて加減をしぎゃああああああああ!」

 

 

 脚のキレ良し。首のしまり良し。関節の決まり良し!文句なしの満点ですねっ!

 

 

「ススススストップストップ紅さん!卍(まんじ)固めをされてる雄二の顔が真っ青になってるよ!」

 

「そそ、そうじゃ紅!そろそろ雄二を許してやってくれ!」

 

「いいわメーリン!もっとやってやるのよっ!」

 

「ち、チルノちゃん!はやしたててはダメです!」

 

「ちょっと!魔理沙も止めるのに協力しなさいっ!」

 

「ん?美鈴~、逝かない程度に抑えてやれよ~。」

 

「それは加減したとは言わないわよっ!」

 

 

 周りで何かを言い合っていますが、坂本君を解放してほしいみたいです。

 まあ私としては、被害者である吉井君が良いというなら構いません。勝手な独断行動ですからね。

 

 なので、私は手足をはずして坂本君を解放しました。

 

 

「・・・・お、れは生きているの、か・・・?」

 

「生きてるよ雄二!バカみたいに生命力の高い有害人物の雄二がそんな簡単に死ぬわけないじゃないか!」

 

「明久よ、雄二をフォローしておるのか貶(けな)しておるのかどちらなんじゃ…?」

 

 

 まるでゴキブリみたいな言い方ですね。

 

 

「坂本君。今回は初めてという事で手加減をしました。が、次に人を傷つけるウソをついたら、なりふり構わず病院送りにしますからね?」

 

「・・・・!!(こくこくこくこここくこく)」

 

 

 顔を恐怖一色に染めて壊れたおもちゃのように激しく上下しています。うん、きちんと反省してくれたみたいですね!

 

 

「・・・な?美鈴は折檻をするときはめちゃくちゃ無防備だったろ?」

 

「…有益な情報提供に感謝する…!(ドバドバ)」

 

 

 あちらでは魔理沙と土屋君がぼそぼそと話し合っています。土屋君が鼻血を流しているし、またエッチな話でもしているのでしょう。どうして魔理沙と話しているのかは分かりませんけど。

 

 

「吉井君、大丈夫でしたか?」

 

 

 おや、吉井君の元に姫路さんが行きました。どこか心配そうですね。

 

 

「あ、うん。大丈夫だよ。紅さんが助けてくれたしね。」

 

「……む~。」

 

 

 どうやら姫路さんは、吉井君にけがが無いのかを気にしていたみたいです。でも、私の名前を聞くと頬を丸くふくらませてしまいました。ああ!可愛らしいけど怒らないでください~!!

 

 

「はあ…魔理沙の言う通りね。吉井達は無事だったの?」

 

「え、うん。島田さん。むしろDクラスの人が気絶してたよ。」

 

「そっか・・・なら、ウチの無駄になった心配の仇をここでとってもいい?」

 

「ああっ!もうだめ!島田さんの心配は的中してたよ!」

 

「・・・ばーか。冗談よ。」

 

 

 転げまわる吉井君を面白そうに眺める島田さん。・・・あれ?何か違和感を・・・?

 

 

「さ…さて。今からミーティングを行うぞ・・・」

 

 

 顔を青くさせたままの坂本君はよろよろと歩いて廊下へと出て行った。この教室ではしないのでしょうか?

 

 

「おっ、じゃあ私も参加させてもらうぜ。」

 

「…(ぶすぶす)」

 

 

 魔理沙が駆け足で坂本君を追い、そのあとをティッシュで鼻血をふさいだ土屋君が続きました。

 

 

「?何しに行くのみずき。」

 

「あ、今から坂本君のお話があるそうです。チルノちゃんも来ますか?」

 

「行く行くっ!」

 

「はい、じゃあ行きましょうか♪・・・吉井君!痛かったら我慢しないで言ってくださいね!」

 

 

 笑って吉井君にそう言った瑞希さんは、チルノの手を繋いで廊下へと出ました。

 

・・・み、見ない間に随分仲よくなりましたね?でもあれは同級生の友達と言うより、子どもを相手にする対応な気もします…。ま、仲良ければいいですよねっ!

 

 

「むっ…吉井!ウ、ウチ達も行くわよ?」

 

「あ、分かった、って!?し、島田さん!?」

 

「な、何よ!?早く来なさいっ!」

 

「い、行くけどどうして僕の腕を両腕で抱きしめてるの!?」

 

「う、うるさいわね!吉井が逃げないようにするためよっ!」

 

「い、いや僕は逃げる気なんかない―」

 

「ご、ごちゃごちゃ言わずに早く着いてきなさいいっ!」

 

「あいたたたたっ!!?」

 

 

・・・そんなやりとりをしながら、吉井君と島田さんは出て行きました。あ、あれってひょっとして・・・?

 

 

「ふむ。では、わしらも行くかの紅よ?」

 

「あっ。そうですね!」

 

 

 秀吉君に声をかけられたので、私もミーティング場へと出発しました。

 ふむ、ちょっと聞いてみましょうか?

 

 

「秀吉君。」

 

「む?」

 

「島田さんは、吉井君にホの字なんですかね?」

 

「!気付いておったのか?」

 

「はい、あんな姿を見ましたからね~!」

 

 

 やっぱりそうでしたか!吉田さんのあのきつい言い方は照れ隠しみたいなものだったんですね!それを見ただけなら分かりませんでしたけど、吉井君にたまに見せる気配りや接し方ですぐに分かっちゃいましたよ!

 

 

「私、ツンデレというものを初めて見ました!」

 

「確かにあれはそうとしか言わんのう。」

 

 

 だいたい、ツンとデレの割合が7:3ぐらいかな。私としてはもう1割ぐらいはデレをあげてもいいと思いますけどね~?

 

 

「や~、ライバル現る!ですね。」

 

 

 瑞希さん。悪いですが、これはあなたには言えません。同じクラスメイトどうし頑張ってください♪

 

 

 きっと、苦くも大切な思い出になりますから!

 

 

 

 

「ああ。そう言えばムッツリーニと魔理沙のことなんじゃが・・・・・・その、お主の写真を撮っておったぞい?」

 

「?はあ。まあ写真ぐらいなら別に構いませんけど・・・」

 

「・・・・・・下着の写真だそうなのじゃが。」

 

「土屋君魔理沙ああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!
 この年末年始、ちょっとインターネットを使えない環境に行ってたため投稿をすることができませんでした。なので間を空けての投稿となりましたが、それに見合った内容であれば幸いでございます。
 
 今回出ていただいたのは、地獄の支配者さとり様のペット達でございます!果たして
2人の性格をきちんと出せていたのか・・・にわかでる作者には非常に気になるところでございます!
 また次回も面白おかしく読んでいただけるように心がけますので、その時までお待ちいただけたら幸いです!

 それではっ!


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会議―混沌、それでも結束はするようです!

 こんにちは、村雪です。

 他の片のssを見ててたまに思うのですが、文章間の行は1マスぐらい空けた方が読みやすいんですかね?どうも自分のは詰め詰めな感じがしなくも・・・ひとまずいつも通りに投稿させてもらいますね。何か書き方で意見などありましたらお伝えください!
 
 -では、ごゆっくりお読みください


「さて、今からDクラス対抗戦の会議を始める。」

 

 

 それらしい雰囲気を出しながら坂本君(顔が青白いまま)が言いました。

 

 坂本君、吉井君、土屋君、秀吉君、魔理沙、チルノ、瑞希さん、島田さん、そして私の計9人の参加者は晴れた屋上で円状に座って昼からの事を話し始めるのです。土屋君、風は吹いていませんからスカートがめくれるのを待っても無駄です。というか、さっき私の下着を激写したカメラを壊したつもりだったんですけど・・・何個カメラを持ってるんですか?

 

 

「明久、紅(ホン)。宣戦布告はしてきたな?」

 

「うん。今日の午後に開戦予定と言ってきたけど。」

 

「だから今頃バタバタしてると思いますねー。」

 

 

 今からだとあと数時間ってところです。その間にどれだけ作戦を練れるかがカギとなってきますね。

 

 

「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

 

「あ~、それを聞くと小腹がすいてくるぜ~。美鈴なんかくれよ~?」

 

「なぜ私に・・・ほら、これで我慢してください。」

 

 

 ポケットに入れてあるチルノ用あめ玉(オレンジ味)に差し出すと、魔理沙は満足そうにあめ玉を舐めはじめました。

 それを見て、黙っていない存在が一つ。

 

 

「あ~っ!メーリンアタイもアタイも!」

 

「はいはいっと。」

 

 

 再びポケットを探り、ソーダ味のあめをチルノに与えます。ほんとに餌付けみたいですね・・・

 

 

「紅は準備がいいのじゃな。」

 

「二人のお姉さんみたいですねっ。」

 

 

 秀吉が感心の目で、瑞希さんがなんだか嬉しそうな視線をぶつけてきました。あはは、日ごろの習慣がもたらした事ですよ。・・・・・・ん?

 

 

 

「・・・・・・(ジーー)」

 

「・・・。よ、吉井君もよかったら食べますか?」

 

「ええっ!?いいの!?」 

 

 

 いや、そんなに見られては良いも悪いもないですよ!

 

 

「どうぞ。」

 

「わーいっ!久しぶりの固形物だーっ!」

 

「へ?」

 

 

 こけいぶつ・・・固形物?

 

 

「…明久、またなのか。今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」

 

 

 坂本君、私は話が見えないんですが・・・?

 

 

「吉井君はお昼を食べない人なんですか?」

 

「ああ。そういうことですか。」

 

 

 でも2人がおいしそうにあめをなめてるのを見て我慢出来なくなったと。それなら納得です!

 

 

「いや、食べてるよ。」

 

 

 へ?違うんですか?

 吉井君があめ玉をなめながら否定して、坂本君が聞きます。

 

 

「……あれは食べていると言えるのか?」

 

 

 ・・・どれですか?

 

 

「何が言いたいのさ。」

 

 

 

「いや、お前の主食って――塩と水だろう?」

 

 

 ・・・・・・絶句!仙人を目指しているのですか貴方は!?

 

 

「きちんと砂糖だって食べているさ!」

 

「いや、吉井!それだけでなんでお前は生きているんだ!?」

 

 

 魔理沙が信じられないと凄いものを見たような目で吉井君を見ます。確かに、普通なら考えられませんよ!新たな健康法でも編み出そうとしているのですか!?確かにそれならやせますよ!思いっきり不健康な形ででしょうけど!

 

 

「あの、吉井君。水と塩と砂糖って、食べるとは言いませんよ・・・」

 

「舐める、が表現としては正解じゃろうな。」

 

 

 瑞希さんと秀吉君が優しい目になるのもおかしくありません。ううっ、私!目から涙が・・・!!

 

 

「ちょ、ちょっと紅さん!?僕をすごい哀れな子みたいに見て涙を流すのはやめてよ!!」

 

 

 だ、だって・・・どれほど辛い思いをしてきたんでずが~~~っ!!?

 

 

「よしーってやっぱりバカなのね。」

 

「黙れチルノ!全く気にせずバカにされるのはメチャクチャ腹がたつね!?し、仕送りが少ないんだよ!」

 

 

 ぐすんっ。なんて親でしょうか!息子の命が懸っているというのに信じられません!

 

 

「その少ない仕送りを使い込む奴が悪いよな。」

 

「うっ!う、うるさいよ雄二!」

 

 

 あめ玉一つであのはしゃぎ様。固形物がどうこうと言っていましたしずっとその生活をしてきたのでしょう!ああ、なんと悲惨なのでしょう!

 

 

 ここは一つ!私が脱いであげてやりましょう!!

 

 

「吉井君。なんでしたら、明日から私がお昼ご飯を作ってあげましょうか?」

 

「ゑ?」

 

「あっ…」

 

 

 ぱちくりと目を瞬かせて吉井君が喰い付いてきました。その時姫路さんが小さく声を上げましたが、私はあまり気にしませんでした。

 

 

「え、ほ、本当に良いの?」

 

「ええ!少し時間が増えるだけで大した手間はかかりませんしね!」

 

「あ、ありがとうっ!!僕、塩と砂糖以外のものを食べるなんて久しぶりだよ!」

 

「そ、そんなにですか・・・じゃあ、嫌いな物とか好きな物とかありますか?」

 

「そんなこと気にしないよ!女の子の手作りお弁当が食べられるというのが重要なんだ!」

 

「えらい浮かれてるなあ明久。そんなに嬉しかったのか?」

 

「うん!」

 

「あはは、これは期待に応えないといけませんね!」

 

 

 坂本君のからかいにも素直に頷く吉井君の期待は非常に大きそうです!これは手が抜けませんね!?

 

 

「メーリンっ!」

 

「へ?」

 

 

 そう意気込んでいると、突然チルノが呼びました。

 

 

「よしーだけにずるい!あたいにもお弁当を作って!」

 

「え?いや、それは構いませんけど」

 

「もしも作ってくれないなら、よしーのお弁当はアタイのものよっ!」

 

「い、いやだっ!君はどこかのガキ大将かい!?」

 

「バカに食べられるメーリンのお弁当は無いわ!」

 

「その言葉そっくり返してやるよっ!」

 

「何だとーっ!?」

 

 

 立ち上がってバチバチと火花を散らしだす二人。吉井君は生命的なもので必死になるのも分かるのですが、どうしてチルノがこんなに必死になるのでしょう・・・?

 

 まあ、少し手間が増えるだけで作ろうとすれば作れます。でも家にはそこまで食材が無かった気もするので、買い出しに行く必要も出てくるかもしれません。2人はどれくらい食べるかも知っておかないといけませんね。

 

 

「バカは道草でも食べときなさいよっ!」

 

「あんなまずいものと紅さんの弁当なんか比べ物にもならないよ!!」

 

「待て!お前は雑草を食ったことがあるのか明久!?」

 

「チルノこそそこら辺の生き物でも食べればいいんだ!」

 

「ふん!イナゴとかカエルとかとっくに食べ飽きたのよさ!」

 

「ひっ・・・!?あ、あ、あんた普段何てものを食べてるのよチルノ!?」

 

「・・・・・・想像を絶する食生活・・・!」

 

「ん~、でも人間って意外と色々と食べれるんだぜ?私もこの前金欠だったから仕方なくか―」

 

「言わんでいい!何かは知らぬがこれ以上わしの食への目を歪めさせるでないっ!」

 

 

 あれ?いつの間に食の話になったのですか?なぜか顔を青くさせたり口元を抑えたり。お弁当の話はどこへ?

 

 

「あ、あの~・・・」

 

 

 そんな状況の中、おずおずとあげられる手が一つ。

 

 

「わ、私もお弁当を作って持ってきましょうか…?」

 

 

『『え?』』

 

 

 睨みあい勝負はあっさりと幕を下ろしました。

 

 

「あの、み、皆さんの分のお弁当を作ってきますので、美鈴さんのお弁当も含めて、全員で食べたりするのはどうでしょうか・・・?」

 

「ん?俺達もか?」

 

「よいのかのう?」

 

「は、はい。嫌じゃなかったら。」

 

 

 おお、助かりますよ瑞希さん。それなら吉井君もチルノも食べれるでしょうし、何より量を減らすことも出来ます!

 

 

「へえ、じゃあ御馳走になるとするぜ!」

 

「うむ、楽しみじゃのう。」

 

「………(こくこく)」

 

「お手並み拝見させてもらうわね。」

 

「命拾いしたわね、よしー。」

 

「チルノ、僕の優しさに感謝するんだね。」

 

 

 全員問題ないようです。さて、今日の晩は頑張るとしましょう!

 

 

「んじゃ、話もまとまりがついたし、そろそろ試召戦争の話に戻るとしようか。」

 

「あ、すっかり忘れてました。」

 

 

 お弁当のことで頭が満タンでした。

 

 

「雄二。一つ気になっておったのじゃが、どうしてDクラスなんじゃ?段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」

 

「そういえば、確かにそうですね。」

 

「面倒だから一つとばしたとかか?」

 

「馬鹿野郎、ちゃんと理由はある。」

 

 

 魔理沙の予想を坂本君は否定しました。

 

 

「じゃあ、どんな理由です、坂本君?」

 

「色々と理由はあるが、簡単に言うと、戦うまでもない相手だからだ。」

 

 

 ・・・ふむ。考えると確かに・・・

 

 

「え?でも僕らよりはクラスが上だよ?」

 

「振り分け試験の時点では確かに向こうが強かったかもしれないな。けど、実際のところは違う。オマエの周りにいる面子(メンツ)をよく見てみろ。」

 

「えーっと……」

 

 

 吉井君がグルリと私たちの顔を見回し、しばらく考えてから答えました。

 

 

 

 

「美少女4人とバカが3人とムッツリが1人いるね。」

 

「誰が美少女だと!?」

 

「………(ポッ)」

 

「ええっ!?雄二とムッツリーニが美少女に反応するの!?」

 

「おいおい煽(おだ)てたって何も出ねえぜ吉井~!」

 

「反応は正しいけどなぜか納得いかないのはどうしてだろうね!」

 

「ひ、ひどい吉井君!お弁当作ってあげませんよ!?」

 

「違う!紅さんはバカじゃないからお弁当作ってくださいお願いします!」

 

「だだっ、誰がバカよバカ!!」

 

「君だよバカっ!」

 

「むがあああああああっ!!」

 

 

 再び始まるとっくみあい。2人の相性は最悪です!

 

 

「ま、まあまあ落ち着くのじゃチルノに明久よ。」

 

 

 今度からは間に誰かがいる必要があるかもしれませんね・・・これがいわゆる同族嫌悪とやらでしょうか?

 

 

「まあ要するにだ。姫路や紅に問題がない今、正面からやりあってもEクラスには勝てる。Aクラスが目標である以上はEクラスなんかと戦っても意味が無いってことだ。」

 

「ん?ってことはDクラスと戦り合うのには何か意味があるってことか?」

 

「そういうことだ。さっき明久にも言いかけたが、これは打倒Aクラスへの必要なプロセスとなる。」

 

 

・・・『さっき明久にも』?あれ、いつの間にそんなことを………あ、もしかして廊下に出て行ったときでしょうか?

 

 

「あ、あの!」

 

「ん?どうした姫路。」

 

「えっと、その。さっき吉井君にも言いかけた、って……吉井君と坂本君は、前から試召戦争について話し合っていたんですか?」

 

 

 2人の計画の速さに姫路さんも疑問を持ったようです。すると吉井君は目を泳がせ、坂本君は意地の悪い笑みを浮かべました。

 

 

「ああ、それか。それはついさっき、姫路の為にって明久に相談されて―」

 

「それはそうと!」

 

 

 坂本君の声を遮るような吉井君の大きな声でしたが、私に効果はありませんでした。

 ほほ~、『姫路のため』、ですか。これは意外とあれかもしれませんね?

 

 

「Dクラスとの勝負はもうすぐなんだから早く作戦を練ろうよ!」

 

「ま、それもそうだな。」

 

 

 笑うのを抑えながら坂本君は頷きました。

 

 

「俺が作戦を考えておいた。それを説明しよう。」

 

 

 さあ、頭を切り替えないといけませんね。

 

 

 

 

 

 

「――というわけだ。分かったか皆?」

 

「はい。」

 

「問題ナシです。」

 

「オッケー。」

 

「おう。」

 

「わかったのじゃ。」

 

「…了解。」

 

「え、ええっと…」

 

「zzz・・・」

 

「…本能に正直だなチルノ。」

 

「ち、チルノちゃんには後で私が教えてあげますね?」

 

「瑞希さん、すいません……」

 

 

 全員とはいきませんが坂本君の作戦を頭に入れ込み終わり、作戦会議は終わりました。

 う~んっ!背伸びをするとすっきりしますね~!

 

 皆さんも背伸びをしたり、空を見上げたりしてリラックスをし始めた一時(いっとき)。

 

 

 ガチャッ!

 

 

 

 彼女が現れたのは丁度そのときでした。

 

 

 

「あら?美鈴(メイリン)じゃない。」

 

「あれ、咲夜(さくや)さん?」

 

 

 意外そうな顔をしながらこちらに近づいてきたのは私の誇りの妹!十六夜(いざよい)咲夜(さくや)さんでした!きゃ~~!

 

 

「げっ、咲夜かよ。」

 

 

 コラ魔理沙!咲夜さんになんて態度ですか!

 

 

「………!(バシャバシャバシャバシャ)」

 

 

 咲夜さんを見た瞬間カメラで写真を撮り続けている土屋君を見習いなさい!

 

 

「あら……誰かと思えば盗人(ぬすっと)魔理沙じゃない。」

 

「人聞きの悪いことを言うなっ!私は本を盗んでいるんじゃなくて永久に借りているだけだぜ!」

 

「…それを世間一般では盗んだというのではないじゃろうか?」

 

 

 秀吉君は常識人の鏡ですね。そのままの貴方でいてください!

 

 

「あら・・・・・木下さん、ではないわよね?」

 

 

 ?木下君であってますよ?

 

 

「姉上を知っておるのか?」

 

「姉……弟さんがいたのね。私の聞き漏らしかしら?」

 

 

 …あ、そういえばFクラスの戦力で秀吉君の名前が言われたときに、『木下 優子』っ言われてましたっけ?あれは秀吉君の姉の名前だったんですか。どんな人なのでしょう?

 

 

「!ま、待つのじゃ!今わしの事を、お、『弟』と呼んでくれたのか!?」

 

「?ええ、貴方は男子だと思ったのだけれど、違ったかしら?」

 

「・・・!わ、わしを一目で男だと分かってくれたのはお主が初めてじゃ…!」

 

「・・・そうだったの。服装を見てもすぐにわかるはずだと思うのだけど、苦労をしているのね…?」

 

「うう・・・っ!なんと嬉しき言葉じゃー!!」

 

 

 咲夜さん、私男装をした女の子と思っていました。そしてごめんなさい秀吉君。そこまで気にしていたとは思いませんでした!

 

 

「十六夜さん!秀吉は女の子なんだからそんなことを言ったらダメだよ!」

 

「待てい明久!わしは男だと言うとろうが!?」

 

「・・・」

 

 

 ぶっちゃけ吉井君の言う事も分からなくありません!

 

 

「こ、こんにちは!十六夜さん!」

 

 

 吉井君をバカを見るような目で見つめている咲夜さんに、瑞希さんが声をかけました。

 

 

「ええ、こんにちは姫路さん。試験中に倒れたそうだけど、体は大丈夫なの?」

 

「はいっ。もうすっかり大丈夫です!」

 

「そう、なら良かった。」

 

 

 少しだけ微笑む咲夜さん。うう!きちんと気配りも出来て偉いですよ~!

 

 

「・・・十六夜。少し聞きたいことがある。」

 

「何かしら?ええ・・・」

 

「坂本雄二だ。」

 

「・・・・あなたが。失礼、坂本君。何かしら?」

 

 

 あれ、どうして真剣な顔になっているのですか坂本君。

 

 

「姫路が倒れたという試験の時、お前は一緒のクラスだったのか?」

 

「?いいえ。それが何か?」

 

「・・・じゃあ、お前が姫路が倒れたのをなぜ知っている?」

 

「高橋先生から聞いたのよ。とても優秀な姫路さんが私たちのクラスにいないから、変に思って聞いただけだわ。」

 

「そ、そんなっ。十六夜さんの方が立派ですよ。」

 

「・・・・・・じゃあ、姫路がFクラスにいると知っているのはお前だけか?」

 

 

 あっ、もしかして坂本君が気にしているのは……Dクラス戦の作戦のことでしょうか?

 

 

「さあ。私と同じ事を考えた人なら誰でも同じことをするでしょうし、そこまでは知らないわ。」

 

「・・・そうか。すまなかったな十六夜。」

 

 

 唐突に話を区切った坂本君に、咲夜さんは観察するように目を配らせます。

 

 

「聞きたかったことは聞けたの?」

 

「ああ。十六夜はAクラスなんだな?」

 

「そうよ。」

 

「それを聞いたら充分さ。ふあ~~あ…」

 

 

 その言葉通り、坂本君は真剣な表情から気の抜けた表情となって大きなあくびをしました。どうやら坂本君の中で、Dクラスへの作戦に支障は出ないと判断されたみたいです。オンオフが激しいのが彼の特徴ですね。

 

 

「ところで、十六夜さんはどうして屋上に来たの?」

 

 

 話の内容についていけなかった吉井君が、ここぞとばかりに咲夜さんに話しかけました。

 

 

「外の風に当たりに来たのよ。ずっと室内にいると疲れてしまうからね。」

 

「いいのかよ?私たちやDクラスはともかく、他のクラスは授業中だろ?」

 

 

 試召戦争を行うことになったクラスは、戦争に備えて作戦を話し合ったり、点数を増やすための補充試験を行って戦力を増強するなど、準備期間という事でその時間にある授業は免除されるのです。これはあくまでも戦争を行うクラスのみの話で他のクラスは違います。

 

 

「授業の先生があなたたちの行う試召戦争の立会人だから自習になったの。だから問題は無いわ。」

 

 

 さらりとそう言った咲夜さん。試験召喚獣はそれぞれの科目で点数が異なり、望んだ科目で召喚するにはその科目担当の先生がいないと出すことが出来ないのです。だからこの学校では自習が多いのだとか。

 

 

「そ、それも一応問題じゃないの?だって自習って教室で勉強しておくものなんでしょ?」

 

 

 島田さんの疑問ももっともです。大丈夫なのでしょうか?

 

 

「ある程度の自習はしたから、全く言われたことをやってないわけではないわ。人間、縛られてばかりじゃ生きていけないわよ?」

 

 

 ほ、褒めるところか困るところか迷う言葉ですね。でもここは褒めちゃいましょう!偉いですよ咲夜さ~ん!

 

 

「な、なんだか意外だなあ。十六夜さんってもっとこう、規律に厳しい人だと思ってたよ。」

 

「……瀟洒(しょうしゃ)な女傑で有名。」

 

 

 吉井君と土屋君の言葉に何人かが頷く。あ~、確かに咲夜さんはよく、そういう風に思わせる立ち振る舞いをしてますもんね~?でもそればかりが咲夜さんではないのです!ユニークな所や優しいところもひっくるめて咲夜さんなのですよ!

 

 吉井君と土屋君の言ってることは咲夜さんも分かっていたようで、恥ずかしそうに指で頬をかきます。

 

 

「む、昔の癖(くせ)でまだ治しきれていないけど・・・・姉の姿を見てたら、規則正しすぎるだけじゃなくて、柔和な考え方も大事だなって思ったのよ。」

 

 

 へ?私!?いやん咲夜ちゃん照れるじゃないですかー!私が咲夜さんに貢献できるなんて光栄の極みですっ!

 

 

「え?十六夜ってお姉さんがいるの?」

 

「・・・初耳。」

 

 

 と島田さんと土屋君。ええ、いるのです!結構近くに!

 

 

「ええ、いるわ。」

 

「ほお、それはまた凄そうな姉だな。」

 

「そうじゃな。とても気になる人物なのじゃ。」

 

「だよね?十六夜さんのお姉さんってどんな人?」

 

 

 さらに坂本君と秀吉君と吉井君。その言葉からこの場にはいないと思い込んでるのが見え見えです!これは驚いた顔が見られそうですよ!

 

 口を挟んでこないのは、くっくっと笑いをかみ殺した魔理沙に、瑞希さんの膝を枕に眠っているチルノと、そしてニコニコと笑っている瑞希さん。・・・あれ、どうやら瑞希さんは知っていたみたいですね?

 

 じゃあ、その3人を除いた5人のビックリ仰天顔、この目で楽しませてもらうとしましょうか!!

 

 

「・・・どんな人も何も―」

 

 

 五人の会話の的となった咲夜さんが、何を言ってるのかとばかりに腕を水平に人差し指を一本立たせて、一言。

 

 

 

 

「そんな人が、私の姉よ。」

 

「「「「「・・・え?」」」」」

 

 

 指は、寸分違わず私へと向けられました。あははっ、皆さん面白い顔です♪

 

 

「「「「「・・・・・・えええええええええっっ!!?」」」」」

 

「わっ!?な、何なのよさ!?」

 

 

 あ、目を覚ましましたかチルノ。

 

 

「い、いや待て待て!?十六夜は冗談を言う人間だったのか!?」

 

「私はどんな人だと思われてるのよ・・・もちろん冗談を言う事だってあるわ。でも、今は冗談を言っていないわ。」

 

「う、嘘でしょ!?だって顔とか全然似てないじゃない!」

 

「姉妹全てが似た顔になるとは限らないわ。」

 

「…苗字が異なっているが。」

 

「違っていても〝姉妹〟であることは変わりないわ。」

 

「でも!胸の大きさが違うしやっぱりおかだあっ!?」

 

「黙りなさいこの変態が・・・!///」

 

 

 さ、咲夜さん?どうして私の胸を睨むのですか!?涙目だから可愛いですけど!

 

 

「じゃ、じゃが十六夜よ。その髪色はどうなのじゃ?お主は白銀色なのに対して、紅は紅蓮色じゃ。いくらなんでもそれほどの違いは出ぬと思うぞ…?」

 

 

 う~む、紅蓮色とはかっこいいですね!私は普通に〝赤色〟と言っていましたが、今度からはそれを採用してみますかね!

 

 

「それはあれよ。美鈴(メイリン)が髪の毛を赤に染めているからで、実際は銀髪なのよ。」

 

「咲夜さん!?そこは妹である咲夜さんが私に合わせてくれません!?」

 

『い、妹…!!』

 

「え、な、何ですか?」

 

 

 あ、姉として見栄を張りたいじゃないですかー!そ、それは咲夜さんの頼みごとなら断れませんけれど、やっぱり意地張りたいんですっ!!

 

 

「じゃ、じゃあ・・・二人は本当に姉妹なの?」

 

「ええ。〝義理の〟、が前に着くけれど。」

 

 

 ふふっと微笑む咲夜さん。悪戯が成功した時の顔でした。

 

 

「「「「・・・それを先に言(ってよ)(えよ)(うべき!)(わんか)!?」」」」

 

「あら、勘違いをしたのはあなた達じゃなくって?」

 

「誰だってそう思うわ!いきなり義理の姉だと考えるようなぶっとんだ奴がどこにいる!」

 

「・・・確かあの子曰く、『……将来、子どもは38人ほしい。』だそうよ?坂本君。」

 

「!?なななななっ、なんて会話をしてやがる!?聞いていたなら止めろ!」

 

「『…私と雄二のきょ―』」

 

「分かったあっ!!ぶっとんだ考えをする奴はいくらでもいると分かったからその声マネと言葉を即座に止めろおおおおっっ!!」

 

「分かってくれて嬉しいわ。」

 

 

 く、黒い・・・!何を言ってたのかは解りませんが、坂本君の魂を叩く言葉だというのはなんとなくわかりました・・・!

 

 

「・・・雄二、僕に隠し事をしていないかい?友達なんだから包み隠さず言うんだ。」

 

「・・・友を手に掛けたくはない。」

 

「話を聞く気があるならその手に持った上靴とカッターをしまいやがれっ!」

 

 

 なぜカッターなんかもっているんですか土屋君!凶器扱いする気満々じゃないですか!

 

 

「何か凄い恋を語ってたなー!咲夜、誰のものまねだったんだ?」

 

 

 恋に生きらしい魔理沙が反応しました。確かに、子どもが38って、世界最大の大家族になるんじゃないですか?

 

 

「勝手に言うはずがないでしょう。」

 

「けちけちすんなよ~。私と咲夜の仲じゃないか。」

 

「残念ね。私の中では、あなたとの仲より、今日知り合ったあの子とのこれからの関係の方が大切よ。」

 

「私との日々が1日以下の扱いかよ!?」

 

「そ、そんなこと言っちゃダメですよ十六夜さん。友達は大切にです。」

 

「おっ!さすが瑞希だぜ!」

 

 

 優しい瑞希さんの擁護を受けた魔理沙。肩を叩くのは良いですが加減はしてあげなさいよ?

 

 

「大丈夫よ、姫路さん。」

 

 

 照れつつもちょびっと痛そうな顔をしている瑞希さんに、語る咲夜さん。その顔はとても穏やかなものです。

 

 

「―――魔理沙とは友達ではなくて、ただの犬猿の仲だから。」

 

 

・・・言ってることには変わりなかった!

 

 

「おいっ!?言ってることが悪化しちまってるぜ!?」

 

「り、理由もなく人を嫌ってはいけませんよ!」

 

「ふむ。犬と猿は本能的に双方を忌み、嫌い合っていて理由なんてものは無いのかしら。じゃあ、咲夜と魔理沙の仲と言ったほうが適切ね。」

 

「適切も何もそのまんまじゃないか!というかそれだと理由があることになるのか!?」

 

「とてもあるわよ。本は取って返さないし人のおかずは勝手に食べるし人の部屋を勝手にあさるし美鈴の嫌がることをするし美鈴の言う事を聞かないし美鈴を笑うし美鈴をからかうし美鈴の作ったクッキーを勝手に食べるし美鈴の―」

 

「どれだけ引きずってるんだお前は!!」

 

「・・・魔理沙ちゃん・・・」

 

「おおっと、瑞希がものすごく呆れたような顔で私を見てくるのは私を責めているからではないと信じるぜ?」

 

「…それは友達と言われなくても仕方ないです。」

 

「断言されたぜ!?」

 

 

「・・・さ、咲夜さん。もしかしてお、怒ったりしてます・・・?」

 

 

 あまりにも普段と違う咲夜さんに疑問を抱かざるを得ず、こっそりと尋ねました。

 

 

「怒ってなんかいないわ。ただ、少し羨ましかったから意地悪をしたくなっただけよ。」

 

「え、何にですか?」

 

 

 授業が無くなって楽しそうに会話をしていることにですか?でもちゃんと戦争に関するものの話し合いですし、授業が無いという点では咲夜さんも同じだと思いますけど・・・

 

 

「…うんっ、私はそろそろ教室に戻るとするわ。あまり空けすぎるとまずいかもしれないし、気分もすっきりしたしね。」

 

「私の気分は真っ暗になったぜ!?」

 

「こっちもだ十六夜っ!」

 

 

 叫ぶ2人を無視する咲夜さん。声をかけたのは瑞希さんでした。

 

 

「姫路さん。Dクラス戦対抗戦、無理はせずに頑張るのよ?」

 

「はいっ。でも、皆さんのために頑張ります!」

 

「…なら、ほどほどにね。Dクラスへの勝利を祈るわ。」

 

 

 それだけ言って、咲夜さんは屋上を後にしました。

 

 咲夜さんに言われっぱなしだった坂本君と魔理沙は、ひくひくと口角を動かしていま

した。

 

 

「て、敵が応援するとは上等じゃねえか…!きっちりAクラスに勝って吠え面かかせてやる!!」

 

「同意だぜ坂本、ここは一発咲夜の顔を驚きにそめてやるぜっ!」

 

 

 坂本君は魔理沙の言葉に満足そうにうなずき、

 

 

「そのためにもこのDクラス戦!絶対勝つぞお前らっ!」

 

 

『了解!』

 

「が、頑張りますっ。」

 

 

 皆への活をいれました。さあ、初陣は縁起良く行きましょうか!

 

 

 

 

 

「はあ~・・・」

 

「ん?美波、溜息なんかついてどうしたんだぜ?」

 

「あ、ううん。別に嫌な事とかじゃなくて、ちょっと安心しただけ。」

 

「?何にだ?」

 

「・・・・・・ウチや魔理沙以外にも絶壁がいる、ってことよ。」

 

「はっはっは、私にケンカ売ってるなら買うぜこら。」

 

 

 

 

 




 最後のくだりはいりませんでしたかね。こんにちは、村雪です。なんとか1週間前後で投稿していっていますが果たしていつまでもつのやらや・・・周りの皆さんのハイペースには脱帽するのみです。

 次回からDクラス戦突入です!戦闘描写はあまり重視しないと思いますので、バトル描写への期待はせずに待っていただけたらありがたい!
 
 では、また次の投稿の時に!


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傍観―願望、って中々叶わない物だわ…

 どうも、こんにちは。この前成人式を終えました村雪でございます。
 
 今回でDクラス戦に突入したかったんですけど、申し訳ないのですが、提出物や試験の関係であまり手を付けることができずにいます!
 そういうわけで、今回は短めで投稿をさせてもらいます!次回は間違いなくDクラス戦に入れますのでご了承ください!

 ――では、短く、面白みを感じないことでしょうが…ごゆっくりお読みください


 

「はあ…やってしまった。」

 

 

 美鈴(メイリン)たちがいる屋上からだいぶ離れた廊下で私は独りごちる。

 

 

 あんなからかう様な言い方をされて初対面の人が良く思うはずがない。私の人物印象は、とても嫌な感じな女子となってしまっていることでしょうね。……魔理沙の方はまあいいわ。あながち嘘をついていなし、何よりあの子はかなり精神が強いから、この程度の事で傷付いたりはしないもの。明日になったら忘れてるわ。

 

 

・・・・・・私も最初はそんなことを言うつもりは無かったのよ?でも、美鈴と楽しそうに会話してるのを見て・・・う、羨ましくて、つい意地悪をしたくなったのよ。ふんっ、子どもっぽいのは自覚してるわよっ。笑いたければ笑いなさい。

 

 

…でも、それを馬鹿にするのだけはご遠慮願うわ。姉を慕う妹―――正確に言うなら、血の繋がりはないから赤の他人なのかもしれないけれど、私は、紅(ホン) 美鈴を大切なことを教えてくれたかけがえのない姉として認知しているわ―――がおかしいはずがないのだから。・・・もちろん、(あの2人)もかけがえのない存在で、大好きだけれどね。

 

 

…話が変わったわ。そもそも美鈴がFクラスに行くというのが、この私の八つ当たりの原因の遠因よ。

 

 普通の学校では、どの生徒とクラスが一緒になるかは決められない。だから、もしもそっちの学校へ入学していたならば、ここまで無念と思わずにいれたでしょう。

 

 でも、この文月学園では特定の人と別れることなく一緒のクラスになることが出来なくもない。理由は、クラス分けがクラス分け試験というテストの成績順で決められるので、成績が近ければ同じクラスになれるからだ。クラスの均等を取らずに、賢い生徒が一つに集中する方針は斬新の一言に尽きると思えるでしょう。私はそれを知った時、美鈴と一緒のクラスになれれば楽しいだろうなって思ったわ。

 

 

 でも、それには『近い学力』という中々難しい条件が立ちふさがったのよ。

 

 …嫌な言い方になってしまうから声に出しては絶対に言わないけど、私はかなり成績が良い方の部類。だから、悪くてCクラス、無難ならばB、そして調子が良かったらAクラスかなあと調子に乗っちゃってたわ。見事Aクラスに入れたらから言えることだけど、もしもDクラス以下だったら美鈴の胸で泣き暮れてたわねきっと。それはそれで魅力的だけど、美鈴が喜んでくれる方が困り顔より絶対良いわよね。

 

(※ 美鈴のハグをことごとく迎撃し、彼女を泣かせてます。 そんな防衛者の言い分.『あ、あれは……周囲に人の目があるから仕方なくよ。いっつも人のいるところでばっかり抱き着こうとして…誰もいなかったら何もしないわよ!美鈴のばかっ!』)

 

 

 そんな私に対して美鈴(メイリン)は、良いか悪いでは間違いなく悪くない方に分けられるけど、突出して良いというわけではなかったからAクラスに入るのは難しく、良くてC、Bクラス、かと思ったわ。

 それだと美鈴と同じクラスになれるわけなく、結果が分かっているぶん、はずれしかないくじびきをひくみたいでつまらないと思ってしまうでしょ?。

 

 だから、せめてわずかでも当たりの可能性があってほしいと思った私は、なんとかAクラスに入れる可能性だけでも作ってほしいと、美鈴に勉強を教えはじめたのよ。

 

 少しどころかだいぶ不純な動機となって申し訳なかったけど、美鈴の学力が上がるのの何が悪い!と心にちくちくした痛みを感じつつも、行為を正当化しながらいろいろと出来る限り教えてたわね。

 

 最初の頃のほうは予想通りあまりよくなかったけど、試験直前にもなると充分にBクラスに入れるんじゃないかってぐらい頭が良くなってたわ。さすが美鈴、やっぱり姉というものはそうでなくてはね、と誇らしく思ったわ。

 

 

・・・で、試験も受け終わって、美鈴がどれだけ成績を出したかをとっても気にしながら、家に帰ってのち数十分。美鈴の口から出た大馬鹿な大失態に私は愕然、そして大爆発である。BクラスどころかFクラス。・・・どこにそんな今後を左右する重要な時に眠るバカがいるのよ、美鈴の大馬鹿。

 

 

そういうわけで私はAクラス、美鈴はFクラスと対極なクラスに属することになったわけである。このとてもを超えた凄さの教室と優秀なクラスメンバーには文句は無いけど、やはり願望が叶わなかったのは痛かったわ。

 まあとにかく、先生の目も無い間に入るとしましょう。

 

 カラカラ――

 

・・・良かった。周りが一人残らず自習をしてたら気まずいと思っていたけど、Aクラスとは言えやはり高校生。ほとんどの人が雑談をしたり本を読んだりしているわ。もしかすれば、これがAクラス生徒の余裕という奴かもね。

 

・・・・・・それにしても、このドア凄いわね。こんなに流れるように、しかも音をたてないドアなんて存在したの?このちょっとでいいからウチの障子に滑りを与えなさい。

 

 

「あっ、咲夜。どこに行ってたの?」

 

 

 私が音をたてないドアに感動していると、若葉色の髪を短く切り揃えた女子、工藤(くどう)愛子(あいこ)が声をかけてきた。

 

 

「ちょっと風に当たりに行ってたわ。」

 

「へ~!僕も誘ってほしかったな!」

 

「それは悪かったわね、愛子。次からは気をつけるわ。」

 

「うん、よろしく!」

 

 

 にこっと笑う愛子。最近ここに転入したそうだが、とても活発的な性格もあっていろんな女子と仲良くなっている。私もそのうちの1人だ。思春期だからか少し助平な話したり、人をからかったりするなど少しお調子者なところもあるけど、そこも含めて愛子の魅力なのでしょうね。

 

 

「ところで、何か変わったことはあった?」

 

「ううん、特には何も―」

 

 

「ちょっと十六夜(いざよい)!」

 

 

 愛子とは席が近かったので一緒に戻りながら話をしていると、そんな怒声がかかってきた。

 

 

「?何?」

 

 

 その顔は、つい先ほど見たものと瓜二つ。でも、ちょっと弟さんよりも目つきはきついわね。彼が女の子らしくて彼女が男らしい。なんとも矛盾したことだわ。

 

 

「今は自習時間でしょ!?勝手に出て行くなんて何考えてるのよ!」

 

「あ~…。ごめん咲夜。優子(ゆうこ)がちょっとご立腹(りっぷく)って言うのを・・・」

 

「良いわ。一目瞭然だもの。」

 

 

 木下 優子。さっき会った彼に比べると性格、口調とだいぶ強い女子で顕著な差異が見える。見た目がそっくりでもやはりどこかには違いが出るものね。

 

 

「木下さん。ずっと自習をしてるよりも、少しは休憩を挟んだりリラックスした方が効率は上がるわよ?」

 

「知ってるわよそれくらい!私が言いたいのは勝手に外を出歩くなって事よ!」

 

「・・・そう。それは悪かったわ。」

 

 

 心地よい風を浴びることが私にとってのリラックス法なのだけれど、どうやら彼女には伝わらなかったみたい。こういうタイプの人は反論をすればするほど感情的になっていくから、ここは素直に聞いておこうかしらね。

 

 

「全く・・・今度からは気をつけなさいよ!?」

 

「善処するわ。」

 

「・・・ふんっ!!」

 

 

 怒った表情を変えないまま木下さんは席へと戻っていった。ううん、ちょっと外出しすぎたかしら?次からはもう少し短めに切り上げるとしましょう。

 

 

「ご、ごめん咲夜…優子はちょっと口がきついんだけど、優しい子だから嫌わないであげてね・・・?」

 

 

 木下さんまで声が届かなくなる距離になって、愛子は私に口を近づけそう謝罪した。

 愛子の言葉からすると、愛子は木下さんとは面識があったみたいだ。転入したクラスが彼女のクラスだったということかしら。分からないけど、この二人が親友であることは分かり、友達が嫌われないように説得する愛子の気持ちは切実な物だと肌に感じたわ。

 そんな愛子に私は頷きながら答える。

 

 

「…あっちはどう思っているかは知らないけど、私は嫌うつもりはないわ。」

 

 

 ・・・だって、まるで昔の私みたいだったもの。不真面目になれとは思わないけど、まわ

りを見渡せるゆとりを彼女には持ってほしいわ。

 

 

「・・・!ありがとう咲夜っ!」

 

 

 嬉しさの表現か愛子が私に抱き着いてきた。ああもう、視線が集まるからやめてちょうだい。

 

 

「ほら、木下さんが怒る前にさっさと戻るわよ。」

 

「あっ、そうだね!」

 

 

 愛子が離れて動けるようになったので座席へと移動する。席は名簿順で、私は『い』なためかなり前方にある。窓際でもあるからまあ悪くはないわ。

 まったりとした感覚の高級椅子に腰を掛けたところで、前の席の人物、そして隣の人達が振り向いてきた。

 

 

「おかえりなさい。外の風はどうだった?」

 

「緩めだったけど気持ちは晴れたわ。そっちはどう?アリス。」

 

「さすがに全部とは言えないけど三分の一ぐらいは読めたかしら。だからもう少し待ってもらっていい?」

 

 

 そう言って、手に持っている軽めの本を見せてくる。それはウチの所有物の本で、アリスに貸しているところなの。

 

 アリス・マーガトロイド。フランス出身のアリスは数年前から日本にいて、私達の良き友人である。

 

 

「全然構わないわ。はあ、魔理沙にはホントにアリスを見習ってほしいわ・・・」

 

「ま、魔理沙は魔理沙で私も学ぶところはあったんだけどね?」

 

 

 アリスが日本人としての礼儀正しさを持っているというのにどうして日本人の魔理沙がそれを持っていないのかしら・・・

 苦笑しながら魔理沙をフォローしてるけど・・・・ごめんなさい。全く分からないわ。

 魔理沙の良さを探しきれずに頭をひねらせている時、隣の少女から声をかけられた。

 

 

「・・・十六夜とアリスは仲良し。」

 

 

 物静かな雰囲気を漂わせた黒髪の美少女かつ、このクラスの代表である秀才、霧島(きりしま)翔子(しょうこ)だ。

 

 

「ん、まあそれなりに一緒にいたからね。だいたい…三年ぐらいかしら?」

 

「たしかそれぐらいね。」

 

「へ~!じゃあ中学とか一緒だったんだ!」

 

「そうよ愛子。」

 

 

 他にもそういう人はいるんだけど、まあ言う必要はないわね。

 

・・・と、そうだ。

 

 

「代表、少し耳に入れておきたいことがあるわ。」

 

「・・・なに?」

 

「実はさっき屋上でFクラスの一員と会ってたんだけど、その中に姫路さんがいたわ。」

 

「・・・!!」

 

「姫路って・・・姫路瑞希さんのこと!?」

 

「瑞希(みずき)が!?」

 

 

 誰も予想をしていなかったみたいね。まあ、最下位のクラスにトップクラスの女子が入るなんて誰も思わないか。

 

 

「ちょっと!あの娘(こ)は体が弱いのよ!?あんなところにいたら体調を崩してしまうわ!」

 

「あんなところって…アリスはFクラスを見たの?」

 

「え、ええ。どこがどんなクラスかって興味があったから、今日は少しだけ早めに来て全部のクラスを見てきたのよ。あ、あのクラスに瑞希が…!」

 

 

 この上なくアリスが心配そうにして呟く。姫路さんとは仲が良かったし仕方のない反応ね。…もちろん私も心配してるわよ?

 

 

「ぼ、僕はてっきりBクラスにいると思ってたけど、なんでFクラスに?」

 

「試験の時に熱で倒れたそうよ。ここはそういう時に融通が利かないから困ったものだわ。」

 

 

 ・・・美鈴の場合は居眠りだから、どちらにせよ救いがないけれどね。

 

 

「・・・大変な事態…!!」

 

「え、ど、どうしたの代表!?」

 

 

 愛子が声を上げるのと同時に、代表がわなわなと震えながら何かを呟きだした。・・・この人はなんというか・・・ヤんでる、というのかしら?まあ一途なようで、姫路さんを虫と認識しちゃったみたいね。

 

 

「落ち着いて代表。今慌てても状況が変化するわけではないでしょ。」

 

「・・・でも。」

 

「信じてあげるのも愛情の一つよ。ここは信じてあげることにしなさい。」

 

「・・・・・・分かった。」

 

 

 とりあえずは分かってくれたみたい。なんだか放っていたらそこへ行きかねなかったし安心したわ。

 

 

「アリスもよ。今私たちがこうやって自習時間なのは、FクラスがDクラス試召戦争を仕掛けるからよ。それでFクラスが勝てば教室は変わるじゃない。」

 

「う…そ、それもそうね。」

 

 

 美鈴、姫路さんがいるクラス。それは間違いなくEクラスを超える強さがあり、Dクラスならばいい勝負をできるのかもしれないわ。

 

 

「・・・十六夜、止めてくれてありがとう。」

 

「本当に行く気だったのね・・・どういたしまして。」

 

 

 この人には学力より、その予想できない思考の方に脱帽するわ・・・恋する乙女とは凄いものね。

 

 

「・・・さて、どうなるかしら?」

 

 

 Dクラスが勝つかFクラスが勝つか?私は観客として楽しませてもらうわよ。姫路さん、美鈴。

 

 

 

 

「ちょっと!!あんたはいい加減に起きなさい!いつまで寝てんのよ!?」

 

「・・・・・・・・・うっさいわね~、せっかく寝付こうとしてたところなのに、ふざけんじゃないわよ?」

 

「あなたにだけは言われたくない!!いいからさっさと起きなさい!リボンを取るわよ!?」

 

「取ったら夜明けは来ないと思いなさい木下優子。」

 

「やれるもんならやってみなさいよ!?この居眠り常習犯が!」

 

「勝手に人の名前を変えるなっての、この堅物女子が・・・!」

 

「普通に注意してるだけよ!誰が堅物っていうのかしらあ!?」

 

 

「・・・・・・試合前に、観客席で大喧嘩が始まりそうね。」

 

「だ、代表!仲裁をしなきゃ!」

 

「・・・・・・2人とも、そこまで。」

 

「はあ・・・・・・なんであなた達はすぐに揉めるのよ…優子、霊夢(れいむ)。」

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!今回の語り手はこの作品限定設定、紅美鈴の妹 十六夜咲夜さんでした!
 Fクラスのメンバーにはお休みいただきAクラスの人たちに出張ってもらいましたが、少し木下優子さんの性格がきつくなってしまった…かも?もしも優子さんファンの方がおられましたら許してやってください!
 
 また、Aクラスのメンバーとして東方主要キャラクターと言えるだろう2人、《楽園の巫女》博麗霊夢と、《七色の人形使い》アリス・マーガトロイドさんに入ってもらいました!
 霊夢って寝坊助だっけ?とも思いましたがあながちずれていない!と信じ込んで最後に加わってもらいましたが、果たして皆様には受け入れてもらえるのかダメなのか…
 ともかく、今回はDクラス戦開幕までの『繋ぎ』です。文量も短くなってつまらないかもそれませんが、次回から頑張っていきますのでご容赦下さい。

 では、また次回で! 出来るだけ来週も投稿させます・・・・・・た、多分!


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攻防―バカ、じゃなくてあたいは最強なのよさ!

 今回はちょっと語り手(?)を数人に分けてみました!

 あと、戦闘が他の方のssに比べてかなり単純だと思いますけど・・・・・・よ、読みやすいということで堪忍してやってください!バトル系ssを描く人にコツを聞くのが吉か…!?

 そんなこんなで、皆さまの好みの内容になっているかどうか不安ですが・・・読んでいただければ!


 ―――では、ごゆっくりお読みください。

 


 

 

『木下!そっちの豊川の援護についてやってくれ!私はこっちのDクラス連中を相手してやるぜ!』

 

『了解じゃ!』

 

『ああ?一人でDクラスメンバーを相手にするだと!?なめてると痛い目に遭うぞ!』

 

『へっ!そんな言葉を言う奴に限って真っ先にやられるんだぜ!?』

 

『ぬかしやがれっ!試獣召喚(サモン)っ!』

 

『さあて、試獣召喚(サモン)っ!』

 

 

 

「吉井!魔理沙(まりさ)達がDクラスの連中と渡り廊下で交戦状態に入ったわ!」

 

「みたいだね!」

 

「アタイ達も行くわよよしー!」

 

「まだだよチルノ!僕たちはここにいるの!」

 

「え~!」

 

「ほらチルノ、あめ玉よ!」

 

「わ~い!」

 

 

 いよいよ始まったDクラスとの試験召喚戦争!僕たちは今、AクラスからDクラスがいる新校舎と、僕達FクラスとEクラスが根城としている旧校舎を繋ぐ渡り廊下で衝突したところだ!ビビることなくDクラス相手に挑発なんて、霧雨(きりさめ)さんはたくましいなあ。この小さな女の子、チルノもそうかもしれないけれど、こちらは絶対考えナシだよ。ただのアホだね。

 

 

「バカなよしーには言われたくないのよさ!」

 

 

 アホのくせにエスパーだって!?

 

 

「あめ玉で機嫌を良くして全てを忘れる君の方がバカだ!」

 

 

 僕がそんな奴よりバカなはずないじゃないか!たったあめ玉一つで周りを見なくなる奴なんてこのチルノを除いてどこに―

 

 

「ほら、バカなよしーに仕方ないからアタイのあめをあげるわ。」

 

「こら、チルノ!舐めたあめを人にあげたりしたらダメじゃない!」

 

「ありがとうチルノ!じゃあ遠慮なくいただきまぐべっ!!?」

 

「吉井ぃっ!何女の子が舐めたあめをためらいもなく食べようとしてんのよ!!」

 

「な、なんてことをするんだ島田さん!僕は別にチルノがなめたからなんて変態的な考えはしていないよ!ただ、僕は食べ物を食べられるなら変態的な行動も辞さないんだけなんだっ!!」

 

 

 島田さんは知らないかもしれないけど、僕の食生活はそこら辺の野良犬と変わらないレベルなんだ。だから食べれるときには食べる!これが僕の生み出した思考だよ!

 

 

「・・・・・・チルノ。こんな奴にバカなんて言われて辛かったわね・・・でも、絶対吉井の方がバカってウチは信じるわ。」

 

「だよねっ!さすがみなみは分かってるわ!」

 

 

 僕はとても大切なことを言ったはずなのにっ、なぜ僕を見る島田さんの目はゴミクズを見る目なんだ!!そしてチルノ!その腹が立つ笑顔をやめるんだ!

 

 

「ふっ…アタイの方が上手(じょうず)だったわね、よしー。」

 

「違うよ!?読み方間違ってるよねそれ!こんな単純な漢字を読み間違えてドヤ顔するチルノより僕の方がかしこ―!!」

 

「吉井、戯言を言う部分を潰してあげるわ。頭?それとも喉かしら?」

 

 

 どっちも急所だ。選択をさせる意味があるのそれ?

 

 

「ご、ごほん!二人とも今は戦争中なんだよ!?関係ない話をする暇があるのならた秀吉達の援護に入る時を見とかないと!」

  

 

 命のブザーが聞こえたので慌てて話を切り替える。僕たちが秀吉達を援護しなきゃ誰が守るのさ!

 

 

「そうだった!アタイ達の出番ねっ!」

 

「・・・それもそうね。じゃあ、指示はどうするの、部隊長?」

 

 

 そう、僕は今知らない間に任命された中堅部隊の隊長だ。秀吉達先方部隊がどうなるか次第で、僕たちがとるべき行動は変わってくる。それを皆に支持するのが僕の役目だっ!

 

 まずは戦闘の様子をこの耳で入手しよう。え~と?

 

 

 

『ほらよっとお!』

 

『い!?な、何でー!?』

 

『私をなめたのが運の尽きだぜ!努力をすれば報われるって覚えとけ!』

 

『その通りだ!さあ来い!この負け犬が!』

 

『て、鉄人!?嫌だ!補習室は嫌なんだっ!』

 

『黙れ!捕虜(ほりょ)は全員この戦闘が終わるまで補習室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるか分からんが、努力を無下にしたことも含めてたっぷりと指導してやる!』

 

『た、頼む!見逃してくれ!あんな拷問(ごうもん)耐え切れる気がしない!』

 

『拷問?そんなことはせん。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味が勉強、尊敬するのは二宮 金次郎といった理想的な生徒に仕上げてやろう。』

 

『お、鬼だ!誰か助けっ―イヤァァー(バタン、ガチャッ)』

 

『へへ!迷わず成仏してくれよなっ!そんじゃあ次は―』

 

『魔理沙!至急こちらに手を貸してほしいのじゃ!三人やられてしまっとる!』

 

『げっ、まじかよ!?すぐい―』

 

『魔理沙さん、覚悟!試獣召喚(サモン)っ!』

 

『くっ!いいタイミングでせめてきやがるぜ…!木下!なんとか切り抜けろよっ!』

 

『ぬうっ!誰か手が空いておるものは急いで来てくれっ!!』

 

『やあっ!』

 

『う、うおお!?あんま点数補充出来てないってのに…!こ、こっちもヘルプだぜー!』

 

 

 

・・・よし!やるべきことが決まったね!

 

 

「島田さん、中堅部隊全員に通達を!」

 

「了解!先方部隊と入れ替わるのね!?」

 

「総員退避だ!」

 

「この意気地なしがっ!」

 

「ぎゃあ!目が、目があっ!」

 

 

 なんて躊躇(ちゅうちょ)ない突きなんだ!目玉も同じく無くなるところだよ!?

 

 

「いい吉井?ウチらの役割は木下達の前線部隊の援護で、アイツらが戦闘で―」

 

「みなみ!アタイには何を言ってるか分かんない!もっと簡単に!」

 

「そろそろウチらの出番ってこと!」

 

「なるほどね!」

 

 

 チルノ、分かるも何も最後まで聞いてないよね?

 

 

「待ちくたびれたわ!アンタ達!いよいよアタイ達の出番よ!」

 

 

『うおーっ!』

 

 

 待つんだチルノ!僕に代わって指揮を執れなんて言ってないぞ!だいいち!チルノにそんな大役がはたせるわけ―

 

 

「最強のアタイがついてるんだから負けなんてありえない!」

 

『おーっ!』

 

『アタイが負けないってことはアンタ達にも負けは無くなったわ!』

 

『おおおおおおっ!!!』

 

『あとはどれだけ最強に勝てるかよ!アンタ達もかっこいい終わらせ方をしたいでしょ!?』

 

『当然じゃあああああああっっ!!』

 

「なら!アタイも頑張るから、アンタ達もめいっぱい頑張るのよおおおおおおお!」

 

『めいっぱいやっちゃらあああああああああああ!!』

 

「行くのよさあああああああああ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおっっっ!!』

 

 

 とてもやる気に満ちた顔で、チルノを先頭に中堅部隊全員が前線へと突っ込んでいった。・・・・・・あれ、僕の役職って何だっけ?皆をまとめる部隊長じゃなかったかな?なんだか、チルノが思った以上に上手く士気を上げてたような気が・・・

 

 

「吉井、あんたよりチルノの方がしっかりしてるわね。」

 

「ぼぼっ、僕だってチルノのまねをすればあんなこと簡単に出来るよっ!!」

 

「チルノのまねをしているところでチルノに負けてるでしょうが。」

 

「そ、そんなことはないよ!なら見ててよ!?今から僕がチルノ以上に活躍してやるから!」

 

 

 あのチルノに出来て僕に出来ないことはバカをするところだけだ!今からそれを島田さんに教えてあげるよ!

 

 

「ふ~ん?ならやってもらおうじゃない。」

 

「いいとも!じゃあ手始めに秀吉達を助け―」

 

 

「ふい~やばかったぜ~!」

 

「まったくじゃな。チルノには感謝せねば…ん?お主らもおったのか?」

 

「何してんだ?私たちの代わりなら早く行った方がいいんじゃないか?」

 

「・・・・・・だれを手始めに助けるんだっけ?」

 

「・・・ふっ、ここはチルノに花を持たせてあげたんだよ。」

 

「無駄口叩く暇があるならさっさと動くわよ。この役立たずが。」

 

 

 僕の心をなめないでもらおう………とっくにひびが入って崩れかけてるよ!

 

 

 

 

 

 

 

「……(カリカリ)。」

 

「……(カリカリ)。」

 

 

 う~~ん。Dクラス戦が始まってからどのくらい経ちましたかね?

 

 私と瑞希さんは戦争が始まってからずうっと試験を受けています。というのも、試獣召喚戦争で必要となってくるのはテストの点数と技術。特に点数に関しては召喚獣の強さに比例していくので点数が必要不可欠なわけです。にもかかわらず、私や瑞希さんは理由は違えど振り分け試験でワースト一位となる0点をとっちゃったんです!なので召喚獣の強さは全くない状態となっているのですよ・・・

 

 それを強くするために、今私たちは補充試験と言う点数を貯蓄するテストをうけているわけです。魔理沙も0点だったそうなんですけど、ちゃっちゃと済ませて勝負の場へと向かっちゃいました。勝負をしに行きたいのはいいんですけど、負けちゃっても知りませんよ?

 

 

「2人とも。この計画の要はお前たちとなるから、出来るだけ素早く正しく回答してほしい。」

 

「は、はいっ!」

 

「なかなか難題ですけど、まあやってみます!」

 

 

 代表である坂本君の声を聞きながらも私たちは手を止めません。

 

 

“I love him all the more for his sincerity.”

 

 

 えっと、「彼は誠実なのでいっそう私は彼を愛する。」っと。次は・・・作文ですか。「~というよりむしろ…」は…確か咲夜さんに良く出ると言われて教えてもらったような・・・・・・ not so much ~ as… でしたっけ?

 

 

「・・・・・・やはり大したものだな、紅(ホン)。明久とは比べ物にならん。」

 

「あはは、苦手な人は苦手ですから仕方ないですよ。」

 

「いや、あいつの場合、その訳を『私は』としか訳せないと思うぞ。」

 

「・・・あ、愛ぐらいは訳せるでしょ~・・・」

 

 

 小学生の低学年でも分かると思いますよ?

 

 

「と言っても、咲夜さんに比べればまだまだですよ。」

 

 

 なんせ私に勉強を教えてくれた先生なんですからね~。咲夜さんには頭が上がりませんよ!

 

 

「少なくとも、Dクラスとの試召戦争では大きな戦力になるのに違いないさ。」

 

「そうですよ、美鈴(メイリン)さん。今は自信を持っていきましょう。」

 

「・・・そうですね、すいません!」

 

 

 モチベーションを下げてしまうような事を言ってはいけませんね。反省反省!

 

 

「今帰ったぜ!」

 

「帰ってきたのじゃ。」

 

「あ、お疲れさまでした!」

 

 

 そこへ、先見部隊である魔理沙や秀吉君たちが帰ってきました。

 あら・・・いったときより人数が少ないという事は、やられて西村先生の補習室にいっちゃいましたか。なのに急ごしらえのの点数の魔理沙が行かないとは、運が良かったのか、あるいはその点数よりもFクラス男子の点数が低いのか…?出来ることなら前者を願います!

 

 

「おう、どうだった?」

 

「少し攻められてるってところだぜ。やっぱり1人1人の点数は向こうの方が高いな。」

 

「今は明久たちが代わりに交戦しているところなのじゃ。」

 

 

 つまり少し劣勢というわけですか。でも少しだけ攻められてるという事なんですから、役目は十分果たしているでしょう!

 

 

「そうか。ならお前たちは点数の補充を始めてくれ。」

 

「おう。」

 

「了解じゃ。」 

 

 

 指示通りそれぞれが席に戻って補充試験の準備を始めます。0点にならなければ何度でも補充できるのが良いですよね。逆に言えば、相手が何度も復活するという事ですけども。

 

 

「坂本君。私も出ましょうか?」

 

 

 ある程度科目をしぼれば満足した点数です。だからピンチの時はいつでも出発することができますので指示を仰ぎます!

 

 

「いや、まだ待つんだ。あいつらがどのくらいDクラスの戦力を減らせるか、それにDクラスがどう対抗してくるかを見てからでも遅くは無い。」

 

「分かりました。」

 

 

 は~、坂本君は頭が回るんですね?吉井君をおちょくってる時とは別人みたいです。

 

 

「・・・そろそろあいつが逃亡しようとするころか。横田!」

 

「?なんだ代表?」

 

「…よし。これを明久の奴に聞かせてこい。」

 

「おう、分かった。」

 

 

 あれ?坂本君が何かを書いて横田君に渡し、どこかに行かせました。

 

 

「坂本君、何を渡したんですか?」

 

「なに、明久の野郎を励ますための一言を書いたメモだ。」

 

「おお、優しいですね~!何て書いたんです?」

 

「秘密だ。が、あれを見れば奴は必ず必死になるさ……恐怖から逃れるために。」

 

「全然優しくなかった!?」

 

 

 どんな時でも坂本君は坂本君でした・・・

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、最強のアタイとやるのは誰!?」

 

 

 チルノが仁王立ちをしてDクラスの面々を見渡す。これが貫録のある人なら、おじ気ついて引き下がるところだろうね。でも、

 

 

「俺がやってやるよ!」

 

「さっさと補習室送りにしてやれ本堂(ほんどう)!」

 

「雑魚(ざこ)がしゃしゃり出てるだけだぞ!」

 

 

・・・全く効果ないね。僕だって絶対気にせず挑むよ。小柄な女の子の上にバカなんだもん。怖いどころかむしろ可愛いぐらいだよ!チルノだから全く感じないけどね!

 

 

 

「藤田先生!本堂卓也が英語で勝負します!」

 

「はい、承認しました。」

 

「ふふん!ザコって呼べるのも今の内よ!」

 

「試獣召喚(サモン)!」

 

 

 その言葉が、召喚獣を呼び出す合図。本堂君という男子の足元に、幾何学模様が浮かび上がり、そこから小さな生物らしきものが現れてくる。顔は本堂君の顔を可愛らしくアニメ要素にしたデフォルト顔で、体を西洋の甲冑(かっちゅう)で包み、手には両刃の剣が一本。これが召喚獣だ。

 

 

 

『Dクラス 本堂卓也  英語101点』

 

 

 

 そう左側の空間に表示されているのは本堂君の英語の試験点数と、今の召喚獣の強さ。これがゼロになれば戦死者扱いされて、戦闘不能になるってこと。でも、やっぱり上のクラスなだけはある!僕でさえも負けてしまってるよ!

 

 

「じゃあアタイも、試獣召喚(サモン)っ!」

 

 

 なのにチルノは無謀にも召喚獣をだしちゃった!やっぱりバカだ!

 

 

「チルノっ!僕が負けてる相手にチルノが勝てるわけがないよっ!?」

 

「よしー、あんたが負けるのはバカだから仕方ないことよ。」

 

「心配してあげてるのになんて言い草なんだっ!」

 

 

 間違ってない!僕が普通でチルノがバカなのは本当なはずだよねっ!?点数が53点の僕のどこがバカなんだ!

 

 

「でもね、アタイは最強なのよ。」

 

 

 チルノの足元にも幾何学模様が浮かび上がり、だんだんとその姿を現す。

 

 青色のワンピースで、ひらひらした部分だけが白のギザギザ模様となっているとても涼しそうな姿だ。

 

 

「そんなアタイが負けるですって?」

 

 

 そして手には、中央の刃を軸に左右にも刃が取り付けられているトライデントと呼ばれる武器が。

 

・・・ぼ、僕の武器よりは見栄えがいいみたいだね。でもそれはきっと見かけ倒しでしょ?点数が無ければすぐにポッキリいっちゃうナマクラになるってこともあるのさ!それなら僕の見た目が悪くても質の良い(と思う)木刀の方がましなのさ!!

 

 

 じゃあ、ここで一つチルノの点数を見て実力の差を見せてあげるとしようか!僕がバカだと言ったことを後悔するんだねチルノ!

 

 

 さあ、点数は―――

 

 

 

 

 

 

「―――最強をなめるんじゃないのよさ。」

 

 

 

 

 

『Fクラス チルノ・メディスン  英語168点』

 

 

 

『「ば、バカなああああああっっ!!!?」』

 

 

 本堂君達Dクラスと揃って声をあげちゃったよ!!

 

 え、ええええ!?何その点数!?軽く本堂君どころかDクラス平均より上なんじゃないの!?僕が思い切り実力を見せつけられたよ!!バカなチルノがこんなに賢いはずがない!!

 

 

「誰がバカよ!アタイはバカじゃなくて、最強、よっ!」

 

「あ。う、うわっ!」

 

 

 チルノの召喚獣が素早く本堂君の召喚獣へ近づいて、一気に獲物で貫いた。あ、ナマクラでも無かったね。

 

 

 

『Dクラス 本堂卓也       英語   0点

       VS

 Fクラス チルノ・メディスン  英語 168点  』                            

 

 

「く、くそおっ…!」

 

「最強のアタイに挑んだことは褒めてあげるわ。」

 

 

 一瞬で本堂君は戦闘不能になった。それが意味するのは、

 

 

「戦死者は補習ううううっ!!」

 

「いやだああああああああ―!!」

 

 

 もの凄い速度で鉄人が走ってきて、本堂君を軽々と持ち上げて補習室へと連行した。

・・・・死んだあとには地獄。ああ、なんて悲惨な末路なんだろう。

 

 

「さあ、次にアタイとやるのはどいつだああ!!」

 

 

 チルノが見渡すけどすっと目を逸らすDクラスメンバー。まさかの伏兵に、さっきまでの威勢はなくチルノに怯えるばかりだ。そして僕も実力の差を知ってチルノに怯えまくりだ。チ、チルノにバカと呼んだことで同士討ちされないよね?速攻死ぬよ僕!

 

 

「誰もいないなら・・・アタイからいくわよおお!!」

 

「!チルノ隊長に続けええ!!」

 

『おらあああああああ!!!』

 

 

 僕の隊長の座はチルノに剥奪(はくだつ)されたみたいだ。隊長の勇ましさに気を昂(たか)ぶらせて、皆がDクラスの先兵へと突っ込んでいく。

 

 

「ひ、怯むな!やるぞDクラス!!」

 

『はあああああああっっ!!!』

 

 

 Dクラスの隊長らしき人の声で召喚獣を迎撃態勢にして、Dクラスは僕たちを睨みつけ・・・・衝突した。

 

 

『おりゃああああっ!』

 

『いやああああっ!』

 

『さ、さくらーっ!』

 

『次はあんただああ!!』

 

『さ、さくらのかたきいいいっ!』

 

『隊長に負けんじゃね、ぐはあっ!?』

 

『芋沢!あっさり負けてんじゃねえ!』

 

『しょせんFクラスだ!そのチルノ以外は雑魚なはずだから、そこから攻めていけえっ!』

 

『誰が雑魚だあ!?なめてっと痛い目にあげっ!?』

 

『痛い目にあってんじゃねえ沢井いっ!』

 

『絶対ここは通すな!』

 

『倒せ!Fクラスへの道をこじ開けろ!』

 

『ならアタイも倒してみろおっ!』

 

『ぐおおっ!?』

 

『く・・・!チルノとやる奴は倒そうとするな!時間を稼ぐのと点数を削ることだけに専念しろっ!』

 

『『『了解っ!』』』

 

『チルノちゃんを守るぞお前らあああああ!!』

 

『『『っしゃあああああああっ!!』』』

 

 

 

 

「・・・・・・島田さん。一つ提案があるんだ。」

 

「奇遇ね吉井、ウチもあるわ。」

 

 

 皆が覚悟をして戦ってる中、元隊長の僕と副隊長の島田さんは離れた場所で話し合う。

 

 

「「撤退しよう(しましょう)。」」

 

 

 部下に面倒事を押し付けて逃げ去る上官2人。経験を積ませてあげようとする、なんて部下思いの上司なんだろう!

 

 

「僕よりもチルノのほうが強かったからね。だからきっと上手くやってくれるよ。」

 

「そうね。後であめ玉をあげたらきっと許してくれるわ。」

 

「うんうん。僕たちはお呼びじゃなかったんだよ。」

 

 言い訳をしないところも僕らの美点だよね!

(※してます。汚点の間違いでは)

 

 

「吉井。」

 

「あれ、横田君?」

 

「こんなところにどうしたのよ?」

 

 

 こんなところから教室に戻ろうとした僕らの後ろには、教室配備となっているはずの横田君が。

 

 

「坂本代表から伝言だ。」

 

「坂本から?」

 

 

 え、雄二から?ひょっとして何か作戦の事?それだったら隊長のチルノに伝えてほしいなあ・・・絶対聞く余裕なんてないと思うけど。

 

・・・じゃあ仕方ないか。大人である僕が聞くだけ聞いてもいいよね。

 

 

「えーと、雄二はなんて?」

 

 

 

「『逃げた奴は紅の体術をくらわせる』、とのことだ。」

 

 

「いくわよ吉井いいい!!!」

 

「了解いいいいいいいっ!!」

 

 

 やっぱり仲間は見捨てられないZE!僕たちは仲間の待つ戦場へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「――と言う感じで、吉井と島田はがむしゃらに戦地に向かって行った。」

 

「予想を裏切らないなあのバカは・・・」

 

「ち、チルノちゃんに押し付けるなんてひどいです、吉井君、美波ちゃん・・・」

 

「ま、まあ補習は嫌って気持ちは分かりますけどね。」

 

 

 横田君の報告に呆れと悲しみと苦笑が浮かぶのみです。というか二人とも!チルノの世話は頼みますって言ったのに、何逆に世話を焼かせてるんですか!?ちょっと反省しなさーい!!

 

 

「ご苦労横田。お前は配置に戻ってくれ。」

 

「おう。」

 

「…しかしなんじゃ。チルノがそれほど活躍するとは思わんかったのじゃ。」

 

 

 話を聞いていた秀吉君がとっても驚いた表情で分からなくもない事を言いました。

 

 

「そ、そんなこと言ったらダメです木下君っ。チルノちゃんだってきっと・・・・・・・・・・・・ちょ、ちょっとは勉強をしていたんです!…………た、多分。」

 

「姫路。そんなに気を遣わずとも、チルノは勉強はしてなさそうと言ったって誰も責めやしないさ…」

 

「そそっ!?そしょんなことおお思っていませんよっ!?」

 

「・・・優しいですね瑞希さんん~・・・!!」

 

「め、美鈴さん!?どうして泣きながら私の頭を撫で始めたんですか!?」

 

 

 あなたの優しさに感激したからです!いつまでもそれを持ち続けてくださいね~!

 

 

「で、紅はなぜチルノが活躍しているのか知っているのか?」

 

「ぐすっ、ああ。多分ですけど、英語の科目で勝負をしているんじゃないですかね?」

 

「…なるほど、母国語って事か。」

 

「「あっ。」」

 

 

 秀吉君と姫路さんがそろって声をあげました。

 

 チルノは名前からも分かるでしょうけど、日本ではなく海外出身なんです。それがどこかまでは忘れましたが、そこが日常から英語を使用する国だったとは思います。だからチルノは英語の文章など何のことなく読んで内容を捉えることが出来たのでしょう

だから、英語の点数だけは高いのだと思います。…他の科目は良くは無かったですが!

 

 

「なるほどな…だが、これは良い予期せぬ事態だ。先方部隊!今流れは俺たちに傾いている!お前らの補充が終わり次第すぐにチルノ達の援護に向かうんだ!」

 

『了解(なのじゃ)(だぜ)っ!』

 

 

 坂本君はにやりとワイルドな笑顔を浮かべて先方部隊の皆さんに指示し、それに従います。

 

 よしっ!私も頑張って点数を稼ぐとしましょう!頑張るんですよチルノ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

「大越さん。今はあたいらが押されてるのは間違いないかい?」

 

「う、うん。ごめんなさい、お燐(りん)さん…』

 

「いや謝る必要はないよ。みんな立派に戦ってくれてるんだから、文句なんか言えないさね!」

 

「お、お燐さん・・・!」

 

「で、その原因はチルノなわけだね?」

 

「あ、はい!チルノって女子が結構点数があって、それで上手く攻めれなくて・・・」

 

「う~ん、予定通りにゃあいかないかあ。」

 

 

 Dクラスの教室の教卓前で、ガリガリとあたいは頭をかいた。

 

 チルノとは去年一緒のクラスだったんだけど、よもやそんな点数を稼いでいたとは知らなかったね。みくびっていたあたいを許してやっとくれよ?

 

 

「どうする、お燐さん?ここではもっとスムーズに進行する予定だったが…」

 

 

 そう言ってあたいに、代表である平賀君が話しかけてきた。あたいは今彼のサポートをする参謀みたいなもんで、彼と相談しながらDクラスメンバーの動きを指示してるってことさ。皆の事にも関わる大事なことだから、ここはきちんと考えなきゃいけないね!

 

・・・さて、どうするかね。Fクラスへ向かうための渡り廊下でFクラスと衝突して、そのままFクラスに行けたらと思ったけど、意外とてこずっちゃってるのが現状。このまま押し続けてFクラスメンバーの壁をのけれるならいいんだけど、残念ながらチルノのせいでそれは難しいみたいだ。さいきょーさいきょー言っていたけど、案外間違ってなかったんだね?にゃっはは!

 

 まあ、ともかくチルノが原因であたいらの進行が上手くいかないんなら・・・ここはやっぱり戦力を投げ入れるところかね。そんでチルノに退場してもらう。そうしようか。

 

 

「大越さん。チルノの教科はなんだった?」

 

「英語でした。点数は…160点ぐらいだったかな。」

 

 

 なるほど、英語でその位の点数か。でも、少しは点数を減らしているはずだし・・・・・・。

 

 よし、そんなら――

 

 

 

 

「ルーミア!」

 

「?なんなのだー?」

 

 

 のんびりした声でトコトコと歩いてくる平賀君の親衛部隊の1人、ルーミアにあたいは命令する。

 

 

「ちょっと苦戦してるみたいでね。厄介な子が1人いるみたいだから、そいつを叩いとくれよ。」

 

「あれ?ここにいなくていいのか?」

 

「大丈夫だよ。構わないよね平賀君?」

 

「もちろんだ。」

 

「そういうこと。頼んだよルーミア。」

 

「んー、分かったのだー。」

 

「よし、大越さん。ルーミアの案内を任せていいかい?」

 

「了解っ!ルーミアちゃんこっちだよ!」

 

「うーん。」

 

 

 変わらない調子でルーミアが大越さんのあとをついていく。ちょっと危なっかしいけど、まあ大丈夫だね。

 

 

「さて、これでチルノにゃ退いてもらえたね。」

 

「そうなれば後は普通のFクラスの奴ばかりだそうだ。ずいぶんと楽になるな。」

 

 

 平賀君は幾分安堵した表情でそう言う。

 

 んー、まあ楽になったのは確か、なんだけどねえ・・・・・・

 

 

「まだ紅美鈴さんがいるから、完全に息を抜くことは出来ないね。」

 

 

 美鈴さんはFクラス基準で考えると、間違いなく最高の戦力となるはずなんだよ。そんな人をどうして戦線に出さないのか。あたいは気になって仕方ないんだよねえ・・・

 

 

「紅さんは…賢い人なのか?俺はそこら辺の事は知らないんだが。」

 

「少なくともFクラスでは最強なはずだよ。

 

 

 

 ――――お空をぶつけるのは、彼女が出る時って決めてたぐらいだからさ。」

 

 

「!?うつほは美鈴と勝負するの!?」

 

 

 おっと、美鈴さんと戦い合うって聞いて目を輝かせて入ってきたね。でも、今は点数強化も頑張りなよ?

 

 

「多分だけどね。場合によっては変わるかもしれないけれど、しっかり補充するんだよ、お空。」

 

「うんっ!」

 

 

 全く、子どもみたいに純粋な返事だよ・・・思わず頭を撫でちゃうじゃないかい。

 

 

「うにゅ~・・・。」

 

「さ、いつ出番が来るか分からないから準備しな。」

 

「わかった!」

 

 

 はにかんだ顔をしながら、お空は自分の席へと戻った。やれやれ、あたいもちょろいというかなんというか・・・・・・妹みたいに扱っちゃうんだよねえ。

 本人は気付いてるか知んないけど、お空ってなんだか放っておけない雰囲気があるんだよ。短くない付き合いだけど、最初以外はずうっとそうじゃないかねー?はてさて、あたいが心配しなくてすむ日はいつくるのやら?待ち遠しくもあり・・・ちょっぴりさみしいからやっかいだこりゃ。

 

 

「・・・・・・さってと…状況が動くまで、あたいらも補充しとこうかい?」

 

「そうだな。」

 

 

 そんな妹分のお空は奥の手。まだまだ出す時じゃあないのさ。最大の壁となるであろう美鈴さんが出てきたときがその時。向こうの作戦は分からないけれど、ひとまず美鈴さんを引っ張りだしゃああとはあたいらでなんとかなるはず。

 

 

だからルーミア・・・・・・美鈴さんが出てこざるを得ないぐらい、いっちょ流れを変えとくれよ?

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!
 
 やっぱり明久に語ってもらいますと書きやすいですね~。面白おかしく書けたんじゃないかなあ……と心底願います!

 ssを読み終えて下部にいったら評価だどうだとあり、それが非常に気になる作者、村雪でした! 
 
 次回も明久に話してもらうかもしれません!だって面白くなりやすいですもの!ルーミアの語尾はやっぱり『――か~』でいきます!

 それではっ!


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逆転―可憐、に見えて残虐なのだー

 どうも、村雪でございます。
 え~、前回も述べましたように、私村雪めは戦闘描写がかな~り下手でして、かなり簡単になってしまってます!お許しください!
 
 他にも読んでもらってると、思う事が出てきて言いたいことが出てくるかもしれませんが・・・ここは一つ、生暖かい目で見てやってください。

 ――それでは、ごゆっくりお読みださい。
 



「ぎゃああああ!!」

「アタイの敵はいねがー!!」

 

 

 あ、チルノがまた1人倒しちゃったよ。なんだか僕の存在がどんどん薄れていくなあ…

 Dクラスと交戦状態に入ってちょっと経った。その勢いが驚いたことに僕らFクラスにあるみたいで、僕らはガンガン押し進んでる。で、その立役者がさっきからいきいきしているチルノというわけで・・・ぼ、僕だって活躍してるさ!さっきDクラスの男子を1人補習室送りにしてやったんだから!

 

 

「吉井!このままDクラスまでいけるかもね!」

 

 

 さっきまでお姉さまお姉さまと言い続けていた女子を、ぎりぎりで倒した島田さんがそう言ってきた。島田さんにただ手を貸しただけなのに、鉄人に連行される間際に僕を呪い殺すと言われて涙を流したのは秘密。

 

 

「確かに、押しこめるかもねっっとお!!」

 

「あっ、くそ!」

 

 

 よし!これで2人目!チルノなんかに負けられるか!

 

 

「つ、塚本!ここはいったん撤退するべきじゃないか!?」

 

「く、し、しかしそれは・・・!」

 

 

 どうやらDクラスの人も劣勢を感じて撤退を考え出してるみたいだ!よおし!撤退をし出したところをうまく攻めれば、勝利は目の前だ!僕立ちFクラスの大きな一歩だ!

 

 

 

 

「ルーミアちゃん!こっちこっち!」

 

「わー、大越(おおこし)は移動が早いなー。」

 

 

「ん?」

 

 

 Dクラスの方から、2人の女子がこちらへと向かってきた。

 

 

 1人はメガネを掛けた女子で、もう一人はチルノと同じくらいの背、頭に赤いリボンをつけた金髪ショートボブの女の子だ。なんだろう?

 

 

「おお!来てくれたのかルーミア!」

 

 

 その内の1人の金髪の少女 ―ルーミアと言う名前みたいだ― を見た途端に、Dクラスの生徒達が歓声をあげだした。…え?ひょっとして相手の援軍なの?文月学園の女子の制服は着てるけど、僕、てっきり迷子かと思っちゃったよ。

 

 

「お燐(りん)に言われてきたのだー。どの人が厄介な人なんだー?」

 

 

 やけにのんびりとした話し方だなあ。ひょっとして寝ぼけてるのかな?だったらすぐに布団に戻って眠ることをお勧めしよう。

 

 

「あいつだ。あの水色の髪の毛をした奴だ。」

 

「・・・・・・あ、あの子だな。分かったのだー。」

 

 

 む、ルーミアさんの狙いはどうやらチルノみたいだ。彼女はとことこと、また1人補習室へと沈めたチルノに歩いていく。

 

 

「むっ!次はアンタが相手ね!」

 

 

 チルノもルーミアさんに気付いて、獲物を見つけた獰猛な目でルーミアさんをロックオンした。うーん。いくら援軍とは言え、あの点数だったチルノに勝てるとは思えないなあ・・・まあちょっとは点数が減ってるとは思うけど、なんとかなるかな?最強って言ってるから最強に返り討ちにしたりして。

 

 

「おー、多分そうなのだー。」

 

「最強のアタイに挑むとはなかなかやるわね。褒めてあげるわ!」

 

「最強、なのかー?」

 

 

 チルノのさいきょー発言にこてんと首を傾げるルーミアさん。

・・・・・・な、なんかめちゃくちゃ可愛らしく見えるぞ!?ダメだ僕!一目惚れなんかするほど君の女の子への精神の壁はやわじゃないはずだぞ!さあ、僕の偉大なる心壁よ!彼女から放たれる煩悩(ぼんのう)を弾き返すんだ!

 

 

「じゃー私は勝てないのかー…?」

 

「だ、大丈夫だよルーミアちゃん!ルーミアちゃんならきっと勝てるよ!」

 

「わはー。ありがとなのだー。」

 

「がはっ。」

 

 

 僕の精神の壁とやらは豆腐並の脆(もろ)さだったみたいだ。

 な、なんて子なんだろう!?幼く無邪気な満面のニパーッという笑顔に、僕のハートは血をこぼしかけたじゃないか!!その可愛さは小動物なみか!?!

 

 

「吉井、あんた鼻血が出てるわよ?」

 

 

 衝動を体の中に留め切れなかったみたいだ。さては僕を出血多量に追い込む気だな!?効果は抜群(ばつぐん)だよチクショウ!

 

 

「じゃあ、試獣召喚(サモン)なのだー。」

 

 

 僕がほとばしる熱いパトスを抑え込もうとしている内に、ルーミアさんが召喚獣を呼び出した。

 

 白いロングTシャツの上に、黒いワンピース。チルノの召喚獣に少し似ているけれど、チルノに比べてだいぶ大人らしい恰好にも見える。

 

 で、武器は・・・・・・・・・・・・あれ、何も持ってないぞ?なんでだろう?

 どこかに隠してあるのかと思って召喚獣を見続けたんだけど…その疑問は、一瞬にして後回しにする必要が出てきた。

 なぜなら――

 

 

『Dクラス ルーミア・アピュエス 英語197点』

 

 

――――彼女の点数を見てしまったから。

 

 

「な、なんてことだい!」

 

「うそ!?あのルーミアって子、チルノより点数が高いじゃない!?」

 

 

 今チルノがやられたら、せっかくこちらに寄ってくれてる流れが相手に移っちゃうじゃないか!

 

 

「へえ・・・な、なかなかやるわね。褒めてあげるわ。」

 

 

 点数が負けてるのにどうしてチルノはそんな強気になれるのさ!自分の点数を知っているのかい!?最初の時ですら168点だったのに今は―

 

 

『Fクラス チルノ・メディスン 英語 81点』

 

 

 もう半分きってるじゃないか!それでも僕に勝ってるのがむかつくけど、ルーミアさんには遠く及んでないよ!?

 だ、だめだ!このままいけば間違いなくチルノは補習室送りになるよ!ここはチルノをいったん下がらせて補充試験を受けさせてから勝負にも

 

 

「でも、最強のアタイに勝てるわけないわ!こんなところで負けるわけにはいかないのよさああああっ!」

 

「ちょっとは身の危険を感じろおおお!!」

 

 

 しかもそれ思い切り死亡フラグじゃん!!点数的にも、チルノがくたばるのは確定したよ!やはり君は僕よりもバカだっ!!

 死神が宣告に来たとき並に死が絶対となったチルノは、召喚獣をルーミアさんの召喚獣へと走らせてトライデントを突き立てようとする。

 

 

「わー。」

 

「あっ!?」

 

 

 当然、ルーミアさんは召喚獣を少し横に動かして回避した。うん。絶対ここでルーミアさんは攻撃するだろうね。ああ、さようならチルノ。君の事はしばらくの間忘れないよ・・・!

 

 そして、その時はやってくる。

 

 

「じゃあ―――、」

 

 

 ルーミアさんの召喚獣がチルノの召喚獣に肉薄し、自分を鼓舞するためか口を大きく開け、攻撃を―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――いただきますなのだー。」

 

 

 

 

『『『『え。』』』』

 

 

 

 

 がぶっ!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・カミツイタ?

 

 

 

――ブチイッ!

 

 

 

・・・えと、カミツイタのは首元で・・・変な音をたてて一気にクイチギッたね。・・・で、チルノの召喚獣のチギレタ部分から、何やら赤いものが噴き出してまわりを赤にしてそれがきれいというか鮮やかと言うかすごいというかつまり

 

 

 

 

『ぎゃああああああああ!?』

 

『ぐええええええええええ!?』

 

『きゃあああああああああああああああああっ!!!!?』

 

 

 FクラスDクラス男子女子分け隔てなく絶叫した!!

 

 うええええええええ!?ちょ、ちょっとなんて攻撃の仕方なのさあ!?笑顔と全然ミスマッチだよ!?というか教育の場所で見せたらだめなシーンじゃない!?学校はこんなグロテスクな仕様を許しちゃっていいのかなあ!?

 

 

「・・・・・・あ、も、ウチだめ……(カクッ)。」

 

「し、島田さん!」

 

 

 床に倒れそうになった島田さんを抱える!平らな胸が上下してるから、気絶してるだけみたいだ。グロテスクなのがダメという、意外な島田さんの一面を見た瞬間だった。

 

 

『ぐあああ!!そういうのだけはダメだあっ!!』

 

『お、おうえええええ!!』

 

『忘れて私の頭ああああああ!!』

 

『いやああ!もうお家帰るうううう!!』

 

『さ、最強のあたいがあああああ!!』

 

『お、お燐ざああああああん!!』

 

『きゃー!きゃあああああ!!』

 

『ひぐっ、うっ、ひっいやあ・・・!』

 

『・・・これはこれで、乙だな。』

 

 

 戦場は一気に混沌状態になった!なんだかFクラスよりDクラス女子の皆さんの方がダメージを負ってない!?で、分かってた結末より自分の召喚獣の惨殺姿につっこもうよバカチルノ!そして最後の奴!もうそれは人としてまずすぎる性癖が目覚めかけてるよ!?ああもう僕だけでは突っ込みきれない!

 

 

「戦死者は補習ううううう!」

 

「な、なにすんのよ!?さ、最強のアタイにこんなことして良いと思って―」

 

 

 バタン!

 

 

 てつじいいいいいん!?なんでこの惨状をスルーしてチルノだけをかっさらっていってるのさああ!!まずは大事なことを処理していけよ!!

 

 

「わー、きれいなのだー。」

 

 

 お願い!もうこれ以上つっこませないで!ルーミアさんはもうやばいほどやばいってのは分かったからさあ!!もうその笑顔が無邪気なんかじゃなくてイカれた狂い笑いに見えてきたよ!!あと好きな色は赤なんだね!全身真っ赤な召喚獣を見てこれ以上なく笑ってる姿に僕の足はメロメロだ!

 

 

「ォ、うえ・・・よ、よ、よし!Dクラス!今が好機だ!なんとか立ち上がって攻め入るんだ!!」

 

 

 Dクラスの隊長らしい人が青い顔をしながらそんな指示を出してきた!くそう!なんてタフな奴なんだ!

 

 

『お、おおーー・・・!』

 

 

 そしてそれに従う君たちも凄いよ!さすがに女の子はまだ無理みたいだけど!!

ぼ、僕たちも体勢を整えなくちゃ!

 

 

「す、須川君!悪いけどひとまず島田さんを教室に運んであげて!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 島田さんの目は覚める気配はない!ここにいたらやばいから教室で寝といてもらおう!そして僕たちは迎撃準備だ!いつまでもダメージを受けると思ったら大間違いだぞルーミアさん!僕にかかれば君なんて何も怖くない女の子1人だよ!

 

 

「他の皆は急いで迎え撃つじゅ―」

 

「次はあなたでいいかー?」

 

 

 一瞬腰を抜かしかけた。

 

 

「ル、ル、ル、ルーミアさん・・・!」

 

 

 いつの間にか僕の前方には、満面笑顔な悪魔、ルーミアさんがががあががあが・・・!!

 

 

「じゃあ、よろしくなのだー。」

 

 

 ニパっと血まみれの顔で花を咲かせる彼女の召喚獣に、笑顔とは何なんだろうと僕は思わずにはいられなかった。

 

 

「よろしく断りたいねっ!!」

 

 

 バイオハザードの被食者の体験を強制的に味わうことになりそうだ。そんな経験したくなかったよ!助けてメーリィィィン!

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「うおっ、急に立ち上がってどうした紅?」

 

「あ、すいません!何か呼ばれた気がしまして。」

 

「?静かでしたから、多分誰も呼んでないと思いますよ?」

 

「で、ですよねー?ごめんなさい!」

 

 

 もう!私の五感はあてになりませんね!?

 自分の感覚器官に不満を覚えながら、私は再び問題に取り組み始めようとしたのですが、

 

 

 がらがらっ!

 

 

「ん?須川…って、なぜ島田をおぶってるんだ?」

 

「み、美波ちゃん!?どうしたんですか!?」

 

「おいおい、何があったんだ?」

 

 

 なぜか島田さんを背負いながら、須川君が教室へと入ってきました。

 

 

「ああ、実はDクラスの奴でやばい奴が出てきたんだ。」

 

 

 須川君は島田さんを彼女の座布団を枕にして、寝かせた後に説明をしてくれました。

 

 

「やばい奴?誰だ?」

 

「ルーミアって女子だ。」

 

 

 ルーミア…知りませんね?どんな女子なのでしょうか?

 

 

「…この女子(ぴらっ)。」

 

「さすがムッツリーニだな。」

 

「余すところなく女の写真を撮ってやがるぜ。」

 

 

 時間差なく写真を取り出す所が凄いです。どんだけ写真を撮ってるんですか?

 

 ともかく、皆でのぞいた写真には、金髪にリボンをつけた女の子がニコニコと朗らかに笑っていました。良い写真ですね~!技術面も凄いです!

 

 

「かわいい女の子ですね~。」

 

「確かにのう。チルノと同じくらいの身長じゃろうか?」

 

「で、このルーミアがどうしたんだ?」

 

「そいつにチルノがやられてな・・・」

 

「ええ!?じゃあチルノちゃんは・・・」

 

「補習室で頑張ってる、でしょうね。」

 

「まあ、あいつには良い経験だと思うぜ?」

 

 

 負けたのなら仕方ありません。学力は向上しますし、魔理沙の言う通りまあチルノの為にはなりますね。最強だから嫌だ!とか言いそうですけども・・・

 

 

 

 

『チルノ・メディスン!しっかり問題を解かんか!』

 

『いやよ!最強のアタイがいやって言ってるんだからそれはやらなくていいのよさ!』

 

『バカ者!最強だからこそしっかり勉強をするんだろう!』

 

『!!な、なるほど!筋肉マッチョなのに賢いわね!アタイ頑張るわ鉄人!』

 

『・・・・・・貴様が頑張ろうとしているのに免じて、今のは聞き逃してやろう。幸運だったな。』

 

『――ねえ原人っぎゃあ!?な、なに最強のアタイの頭をグーで殴ったのよさ!?』

 

『むしろなぜお前は怒られないと思っているのかが不思議だ!・・・で、何だ?』

 

『ぐうう・・・!この恨み、寝るまで忘れないわ!・・・・・・これ、なんでここに"es"がついてんのよ?"fish"でいいでしょ?』

 

『・・・む、すまん。これはミスプリントだな。すぐに直そう。』

 

『まったく、最強のアタイが気付いたおかげね!やっぱり鉄人は鉄人ね!』

 

『――そうだな。では、気付いてくれたチルノには、さらに問題をプレゼントしよう。鉄人先生からの感謝の気持ちだ。』

 

『ぎゃああああ!?ふ、ふざけんじゃないのよさこのゴリラああ!』

 

『勉強の前に貴様は言葉づかいについてよほど指導してほしいようだな!覚悟しろっ!』

 

『・・・あ、あの。もう少し静かにしてほしいですの2人とも……』

 

 

 

 

 

「じゃが、それでなぜ島田が気絶しておるのか分からんぞ?」

 

 

 秀吉君の言う通りです。チルノがやられたからと言って気絶することは、普通ありえないですよね?なにか発作でも起こったとかでしょうか?

 

 

「ルーミアって奴の召喚獣のせいなんだ。」

 

「召喚獣?」

 

 

 え?ひょっとして吉井君の観察処分者特有の物に触れれる特権を、彼女も持ってて島田さんに攻撃したとかですか?それってまずいんじゃないでしょうか?

 

 

「召喚獣が変なのか?」

 

 

 しかし、須川君の答えは違いました。

 

 

「変っていうか・・・・グロテスクだったんだ。」

 

『グロテスク?』

 

「ああ。その召還獣の攻撃の仕方が、相手の召喚獣に喰い付いて噛み千切るって感じだ。」

 

「ひっ!?」

 

 

 ど、どんな攻撃方法ですかそれ!もはやゾンビじゃないですか!瑞希さんが可愛い悲鳴をあげたのは良しとして!

 

 

「・・・で、チルノがその餌食になって、喰われた首元から血があふー」

 

「いやああっ!!言わないでくださいいいいい!!!」

 

「お、落ち着くんだぜ瑞希!」

 

 

 ああ、瑞希さんはこの手の話がに苦手なんですね。大声をあげて耳をふさいだりしちゃって!姫路さんの女の子スキルには全く敵いません!

 

 

「…普段にない取り乱し様、売れる・・・!(カシャヤシャ)。」

 

 

 そして土屋君のカメラマン根性にもです。人の不幸をネタにしてると、そのうち天罰がくだりますよ~?

 

 

「なるほど、つまりそのルーミアのせいで島田は気絶してDクラスに押され始めた、というわけか。」

 

「ああ。だから俺はこの後また戻るつもりだが・・・」

 

 

 坂本君はあまり変わることなく須川君の話を聞きます。代表として取り乱さず作戦を練るのはさすがですね!そういう私もあんまり変わらずですけれど!女の子スキル低っ!

 

 

「・・・・よし、なら紅(ホン)。ここはお前に出てもらおうか。」

 

「!了解です!」

 

 

 おっ!やっと出撃命令が出ましたね!ずうっと座ってばかりだったので退屈していたところです!きっちり体を動かすことにしましょうか!

 

 

「では、いってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあああああ!!」

 

「くそったりゃああ!」

 

「え、援軍を呼べごはあ!?」

 

「ま、松川ー!」

 

 

 今、僕たちの流れは一切を乗っ取られた。僕たちの士気はさきほどの衝撃場面に根こそぎ奪われて、防戦一方のまま前線を少しずつ下げてしまっている。部隊長として何か策を立てなきゃいけない状況だけど、今の僕にそんな余裕はない。

 

 

 ガチィンッ!!

 

 

「おうわああああ!!?」

 

「わー、すばしっこいなー。」

 

 

 がちんとなる歯に僕は何度目かの冷や汗をかいた。ぁあああっぶなかった!あとちょっとで腕が胴体とおさらばしてたよ!!

 

 

 

『 Dクラス ルーミア・アピュエス 英語160点

           VS

  Fクラス    吉井明久    英語 64点  

                    

 

 

 何度もかみついて攻撃されかけたけど、避けて避けて避けまくったからまだ僕の点数は減っていない。でもルーミアさんの点数は、僕が避けた時に召喚獣の武器である木刀で叩いてちびちびとだけどダメージを与えている。でもやっぱり元々の点数が点数だから・・・す、すっごいピンチな状況ってことさ!

 

 

「すごいなー。どうしてそんなにかわせるのだー?」

 

「い。いろいろとあってねっとお!?」

 

 

 ルーミアさんは不思議そうに首をかしげるが、もはやわずかにさえも可愛いと思えず恐怖を覚えるだけだった。

 

 

「ふっ、ルーミアさん。僕をなめてもらっては困るよ(がくがくがく)。」

 

 

 震えながら言っているから全く決まってないと思う。

 一年生の頃から先生のお手伝いという事で何度も召喚獣を出してたから、扱いに関してはけっこうすごい方だと思う。今ほど観察処分者で良かったと思ったことはないよ。じゃないとすでに僕の召喚獣は食材になってるだろうしね。

 

・・・・・・でもそれより増して、痛さがあるからこれほど観察処分者でいることが最悪だと思ったこともないけどねっ!!

 

 

「そうかー・・・じゃあー」

 

 

 そんなかみ合っていない感想を出している内に、ルーミアさんの召喚獣が少し前かがみになって

 

 

「――もっと早くするのだー」

 

 

 ドンッ!

 

 

「い!?」

 

 

 僕の方にさっきまでよりもっと早く爆走してきた。や、やば―!

 

 

 がりっ!

 

 

「!~~い~~~だだだああ!!僕の肩にえぐれるような痛みがあああ!!」

 

 

 痛い痛い痛いいいいいい!!ぞ、ゾンビに噛まれる人ってこんなに痛い思いをするのかあああ!!!しかもこれでもまだかすったぐらいだよおおお!?

 

 

 

『 Dクラス ルーミア・アピュエス 英語160点  

VS

  Fクラス 吉井明久       英語 41点 』             

 

 かすったから点数の減りは少ないみたいだけど、痛みは変わってないっ!!むしろ点数は減らしてくれていいからダメージを減らして下さい痛い痛いい・・・!

 

 

「・・・あれ?どうして痛がってるのだー?」

 

 

 床に転げまわって痛みを紛らわしている僕を見たルーミアさん。目をパチクリさせて攻撃してくるのを止めてくれた。

 あ、こ、これは見逃してくれるチャンスかも!?

 

 

「ぐ…じ、実はね?僕は観察処分者なんだ!だから召喚獣にダメージがあると僕にも痛いことが起きちゃうんだよ!!」

 

 

 痛い体に耐えながら僕は必死に説明をした!お願い!僕はこれ以上、食べられるなんて絶対にあってはいけない痛みを受けたくないんだ!

 

 

「へー、そうなのかー。」

 

「そうなんだ!」

 

 

 よし!ルーミアさんがこちらを見て動かない!これは気の毒に思ってくれて見逃そうかどうかを考えてくれいるところ…のはず!やっぱりこの子は優しい人なんだよ!

 

 

「それは気の毒だなー。」

 

「そう!気の毒なんだよ!だからー」

 

 

「ちょっと当たって痛そうだったのに、もっと痛くなるのだからなー。」

 

「・・・・・ほえ?」

 

 

 今何て言ったのだろう?もっと痛くなる?何が?誰がだい?

 

 

「じゃあ、最後に言い残すことはあるかー?」

 

「待て待て待って!?ひょっとしてまだ僕に攻撃するつもり!?噛み千切られた苦痛を味わう悲惨で可哀そうな僕を、さらに噛み千切る気なのか君は!?」

 

「それが残す言葉でいいのかー?」

 

「僕の食殺はまぬがれないの!?そんな言葉が遺書替わりなんて絶対ごめんだよっ!」

 

「分かった、きちんと伝えておくのだー。」

 

「誰に!?そんな事を伝えられた人はどんな顔をするだろうね!」

 

 

 そんなに意味のない遺書なんかあってたまるか!・・・っていうか僕ホントに死ぬの!?鉄人の補習地獄じゃなくてほんとのあの世へ行っちゃう!?い、いやああああああ!!

 

 

「わ、分かったルーミア!ここは認めよう!ぼくのま―」

 

「じゃー、サヨナラなのだー。」

 

「ちょ!?待っ、」

 

 

 ドンッ!

 

 

 さっきと同じように、ルーミアさんの召喚獣が大口を開けて疾走してきた。

 

 

「も、もっと生きたかったあああああああーーっ!!!!」

 

 

 ああ、どうやら吉井明久の16歳の生涯は人に食べられて終わりを迎えるみたいだよ・・・・。

 

 

 来るであろう肉体の痛みに頭を抱えてその場にうずくまり――――――――――――――?あ、あれ?痛みが来ない。失敗したのかな?

 

 

 おそるおそる頭をあげてみると……

 

 

「?皆早いのだなー。」

 

 

 またもきょとんとしたルーミアさん。

 

 

『・・・・・・(ガチガチガチ!!)』

 

 

 ピラニアみたいに凶暴な歯を何度も音を鳴らせる彼女の召喚獣。

 

 

・・・・・・そして、その首根っこを掴んだ、緑色のチャイナドレスを着たもう一つの召喚獣。

 

 

「や~、これはなんとも怖い召喚獣ですねー?」

 

 

それを操っているであろう、赤い髪の背の高い女の子、紅美鈴さんがはらはらした様子でルーミアさんの召喚獣を見ていた。

 

 

「・・・ナイスタイミングだよ美鈴さんんんんんんんん!!」

 

 

 僕はだばだば涙を流しながら彼女の足にしがみつく。彼女こそ、現代失われた現人神(あらひとがみ)。明日から僕の食事である砂糖と塩を献上することにしよう。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 

「ひっ!?な、何よ十六夜!外に行ってたあなたがわ、悪いんじゃない!注意されたからってそんな人を殺すような目をしないでよおっ!?」

 

「・・・・・・あ、ごめんなさい。今、ちょっとゴミがまとわりついた感じがしてね。悪気はなかったわ。」

 

「だ、だれがゴミよっ!?そんな言い方はないでしょ!?」

 

「さて・・・ゴミを消すにはほうき…いえ、掃除機なんかで殴ったらいいかしら?二度とそんな愚行をさせないためにもここはきっちり心に恐怖を刻み込んであげる必要が―」

 

「ひいっ!いやあああ!た、助けて愛子、代表おおおお!!」

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 え、美春出ないの?と残念に思う方、すいません!はぶかせてもらいました!
 清水さんは原作通り、明久たちがFクラス先方部隊に突っ込んでっすぐに彼女に発見され、そのまま返り討ちにあって鉄人に拷問、もとい補習を行われています!違うところと言えば明久が美波を見捨てず共闘したところでしょうか。ともかく、美春ファンの方ごめんなさい!

 今更な気もしますが、作品の事で思う事がありましたら気負うことなくコメントしてください!出来る限り返信します!
 
 それではまた次回で! 美鈴さんの活躍にご期待を!・・・・・・と言いつつ、村雪、活躍するところをしっかり書けるのかなあ…


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伏兵―おばか?うにゅ!うつほもやれば出来るよ!

 どうも!村雪でございます!

 前回に登場したルーミアちゃん、その下の名前の『アピュエス』!これはギリシャ語の『アピュエース』と言う言葉からとりました!意味は『純粋な』です!ルーミアちゃんは良くも悪くも純粋!と思いまして付けさせてもらいました!
 


 あと、皆様のご希望に添えないかも!?という不安もかなりありますので、ここで述べさせていただきます!

 ・・・・・・戦闘描写が簡単で、短めです!村雪めの文章力の無さをお許し下さいっ!


 それと、書いてて思うのが・・・・・・召喚獣のバトルが、本人達が戦ってるようなセリフになっちゃってる!?ということです。でも、それはそれで面白い・・・ですよね?村雪は信じます!

 それでは、そこを踏まえてよろしいという方々!

――ごゆっくりお読みください――


「あはは、そ、そんなに泣かなくても・・・・」

 

 

 ていうか吉井君、脚が少しというかけっこう痛いです。離せとは言いませんから少し加減をしてください。 

 

 

 

 さて。中堅部隊である吉井君達の状況があまり良い状況ではないという事で、私は急いで来たわけなのですが、私の足にしがみつく吉井君、ぽやぽやとのんびりな顔をした写真通りの顔のルーミアさん。そして、私の召喚獣が首根っこを掴んでいるガチガチ歯を鳴らすルーミアさんの召喚獣。この状況が全体の状況を表していると見ていいでしょう。

 

 ざっと見渡すと、何やら顔色の悪いFクラスメンバーが受けに徹していて、Dクラスメンバーの方達が攻めているようです。しかも、戦闘に応じている生徒もFクラスよりDクラスの方が多いです。

 学力は無理にしても、量の方では私たちが優勢でないとかなりまずい。せめて気迫をと言いたいのですが、ルーミアさんの召喚獣の惨劇とやらと、チルノの補習室送りににだいぶ気迫が消沈してしまったみたいで、はっきり言うとやばい気がします。

 これは、なんとかやる気をだしてもらわないといけないのですよ!

 

 

「あなたもFクラスなのかー?」

 

「はいそうです。この足にしがみついている、ちょっとおバカな彼とクラスメイトの紅美鈴(ホン メイリン)です。」

 

「ちょっと美鈴さん!僕のどこがバカだってのさ!」

 

 

 足元から吉井君が抗議をしてきますが、説得力は無しですよっ!

 

 

「チルノの世話を任されたのに、放って逃亡しようとした人はおバカで十分です!」

 

「うっ、ち、ちがうんだ美鈴さん!あれは島田さんが提案したからやろうとしただけなんだ!僕はそんな気は無かったんだよ!」

 

「やかましい!人に責任を押し付けるのは大バカの証です!」

 

「そ、そんな・・・美鈴さんは現人神ではないの・・・!?」

 

「いつ神様になるようなことをしましたか私は・・・」

 

 

 やっぱり吉井君はおバカでしたね。

 

・・・・にしても、いつの間にか私の事を、『美鈴(メイリン)』と呼ぶようになっていますね。まあ嫌ではないし、そっちの方が好きですから全然構わないんですけどね!

 

 

「そーなのかー。私はルーミア・アピュエスなのだー。」

 

「そうですか・・・では、悪いですが勝たせてもらいますよ!ルーミアさん!」

 

 

 勝負は先手必勝!ルーミアさんの召喚獣を掴んでいるのとは逆の手に力を込め、一気に殴り込みます!

 

 

「わわっ、やばかったのだー。」

「むっ!やりますね!」 

 

 

 当たる前に首を掴んでいた手に殴りかけられ、離したすきに回避されてしまいました。でも、少しは当たったみたいです!

 

 

 

『 Dクラス ルーミア・アピュエス        160点                      VS

  Fクラス 吉井明久 & 紅美鈴  英語  41点  & 291点 』

 

 

「す、すご…!?」

 

「うげー、こ、これはまずいのだ-・・・」

 

「意外とやりますよ、私はっ!」

 

 

 ふふん!ちょっとだけ自慢しちゃいます!!咲夜さんとの個人授業の効果は大きいですよ!?

 

 

『!や、やばいぞ塚本!あの紅さんの点数!』

 

『は、はあああ!!?何だよあの点数は!』

 

『BクラスかAクラスレベルじゃねえか!?』

 

『だ、誰かルーミアの援護に着いてやれ!』

 

『じゃ、じゃあ私が行きます!』

 

『急いでお燐さん達に知らせてこい!』

 

『りょ、了解!』

 

 

 Dクラスの皆さんからはそんな恐れおののいた声が。よし!これで勢いは無くなったのではないのしょうか!咲夜さん!感謝しますよー!

 

 

『み、見ろ!美鈴さんだ!!』

 

『おお!俺たちを救いに来てくれたの!?』

 

『しかも見ろ!あの点数!』

 

『やべえ!メチャクチャ強えじゃねえか!』

 

『いけるぞこれは!』

 

『メーリンメーリン!』

 

 

 逆にFクラスの男子からは興奮したような声。こちらはモチベーションが上がってくれたみたいです!!さあ、ここから巻き返していきましょう!

 

 

「ルーミアちゃん、私も手伝う!」

 

「わー、助かるのだ大越―。」

 

 

 おっと、Dクラスの1人がルーミアちゃんの援護に来ました。では相手は2人ですかね!きっちり初陣を飾らせてもらいますよ!?

 

 

「吉井君!私が一応2人の相手をしますので、援護をお願いします!」

 

「ええ!?で、でも僕英語の点数はさっきのやりとりでほとんど無いんだけど!」

 

「やればきっと大丈夫です!多分!」

 

「多分なの!?ああもうっ、やればいいんでしょ!」

 

 

 よろしくお願いします!私の負担も軽くなりますからね!

 

 

「試獣召喚!」

 

 

 大越さんも召喚獣を出し始めます。いよいよですね!

 

 

『Dクラス ルーミア・アピュエス & 大越 冬美 英語 160点 & 115点 

            VS

 Fクラス 紅美鈴 & 吉井明久       291点   41点 』

 

 

 大越さんの召喚獣は手に剣を持ったよく見る武装タイプですね!さすがにルーミアさんのような召喚獣みたいな攻撃スタイルは稀有ですか!それだけでほっとしますよっ!

 

 

「美鈴さん!やはり僕には荷が重すぎるよ!」

 

「ええい!男でしたら覚悟を決めなさい!他力本願な人は嫌われますよ!?」

 

「!?じゃあ僕が頑張ったら女の子に好きになってもらえるの!?」

 

「さあ?少なくとも嫌いにはならないのではないかと!」

 

「全身全霊身を賭して君を守るよ!」

 

「援護を超えて大きく出ましたね!?」

 

 

 欲望に忠実すぎても嫌われますよ!?まあやる気になってくれたのはありがたいですがね!

 

 

「じゃー、頼んだのだ大越ー。」

 

「うん!」

 

 

 向こう側は手順を決めたのか、既に召喚獣が武器と体勢を整えていました。さあ!実質2対1ですが、頑張らせてもらいましょうか!

 

 

 

 

 

「――ふ~、やあっと出てきてくれたかい。ルーミアには感謝しなくちゃね。」

 

「ど、どうする、お燐さん?」

 

「どうするも何も・・・ここは決めてた通りに動くだけだよ。だから、そろそろ準備を頼むね?お空。」

 

「うん!分かった!」

 

 

 

 

 

 

「やあっ!」

 

 

 最初に動いたのは大越さん。剣を横払いに、私の召喚獣を斬ろうとしてきました。

 

 

「よ!」

 

 

 が、当然それを受けようとせずに、身をかがめさせて回避。そして、両手を剣に添えているため、がら空きになった大越さんの召喚獣のふところへと足を踏み込み、拳(こぶし)をぶつけ―

 

 

「!っとおっ!?」

 

 

ることは出来ませんでした。大越さんに決めようとした拳、その腕にルーミアさんの召喚獣が大きな口を開けて飛びついて来たのです。くらってはスプラッターな光景が出来てしまいますので、慌てて手をひっこめさせます!

 

 

「おー。」

 

 

 即座に引っ込めたため私の腕は無傷で、ガチンという音がなるだけですみました。危ない危ない……ですが、これはチャンスです!

 

 

「やっぱりあなたからですかねっ!」

 

 

 空振り(…空噛み、なんて言いましたっけ?)に終わったルーミアさんの召喚獣は、背中を向けており非常にスキだらけです!

 

 今度は足に力を込めるよう指示し、かみつき召喚獣の背中を蹴り飛ばそうとします。

 

 

「えいっ!」

 

 

 でも、次は大越さんがそれを許そうとはしませんでした。大越さんの召喚獣が剣を上段に構えて、私の頭に振り下ろしてきます。頭は人体の急所。それは召喚獣でも同じ事でしょうし、くらってはまずい!ここも回避を―

 

 

「僕をわすれないでほしいね!」

 

 

 ガキンッ!

 

 

「!ナイス吉井君っ!」

 

 

 吉井君の召喚獣が木刀で大越さんの剣を受け止めてくれたので、攻撃に対する対応は不要に!その好機を逃さず、私は止めずにルーミアさんの召喚獣を蹴りぬきます!!

 

 

「はあっ!」

 

「わ、わ~。」

 

 

『Dクラス ルーミア・アピュエス  英語89点』

 

 

 よしっ!ルーミアさんの点数がだいぶ下がりました!

 

 

「う~、なら私は~…」

 

 

 でも戦闘不能にするには及ばず、ルーミアさんの召喚獣はこちらに向き直り・・・吉井君へと走りました!私じゃなくてそっちを狙いますか!

 

 

「!ええっ!?僕なの!?そこは攻撃をしてきた美鈴さんを狙うところじゃないかな!?」

 

「敵を減らすためなのだー。」

 

「戦略的にあってるけど、大越さんの武器をギリギリ抑えてる状況の僕には全然納得できないっ!」

 

 

 パカッと大口を開けるルーミアさんの召喚獣。ですが、私の方が点数が高いというのをお忘れなく!

 

 

「失礼!」

 

「う、うわっ!?」

 

 

 走るルーミアさんの召喚獣よりも私の召喚獣の方が足が速く、さきに吉井君の元へと到着できました。そして、つばぜり合いでかなり押されていた吉井君の召喚獣、その身に着けた学ランの襟首(えりくび)を掴み、離れるために一気に跳躍しました。

 

 

「ちょっと離れますよ!」

 

「ぐえっ!め、美鈴さんもすこし優しくっ!」

 

「うわっと!」

 

 

 せりあいが急に終わり、大越さんの召喚獣が少し前のめりになってすきが見えました。が、私の召喚獣の手は届かなかったので、何もせずに吉井君の召喚獣とともに距離を取りました。

 

 

「大丈夫ですか吉井君?」

 

「げほっげほっ!き、気にかけてくれるならもうちょっと別の所を持ってほしかったよ!」

 

「で、でもあそこが一番持ちやすそうだったんですよ!」

 

「なら尻尾があるじゃん!」

 

「そっちの方が酷いことになると思いますが!?」

 

 

 着地した時、絶対に後頭部にたんこぶを作ることになると思いますよ!あるいは背中を強打です!絶対そっちをやっても文句を言ってたでしょ!

 

 

「ルーミアちゃん!大丈夫なの!?」

 

「んー、ちょっとやられたけど大丈夫なのだー。大越は大丈夫なのかー?」

 

「わ、私は全然大丈夫!」

 

 

 ルーミアさんと大越さんの召喚獣も、身を近づけあって再度戦闘態勢に構え直しました。点数も下がったことなので、今度はより慎重に動かしてくるでしょう。さてどうするか…

 

 

「どうする美鈴さん?」

 

「そうですね・・・・・・吉井君、召喚獣の木刀は折れたりしないんですか?」

 

 

 吉井君の獲物の木刀について聞いてみます。

 さっき大越さんの召喚獣と真剣と押し合っていましたけど、全く傷が入った感じはありません。つまり、木刀の強度的には鉄の剣と同じなのでしょうか?

 

 

「うん。とはいっても威力はへなちょこだから全然ダメージを与えられないけどね。」

 

 

 なるほど、威力自体は弱いですが、強度的には鉄剣と同じというわけですね。

 

 

「・・・なら吉井君。さっきみたいに大越さんの攻撃をカバーしていただくのに専念してもらえますか?ルーミアさんの攻撃は私が防ぎます。」

 

「分かった、それぐらいなら僕にも出来るよ。というか、それぐらいしか出来ないけどねっ。」

 

「それで十分私は助かりますから、自虐は不要ですよ!」

 

 

 それだけで私の負担はかなり減ります。どんな小さなことでも役に立てれば大活躍したのと同じというのが私の考えですから!

 

 

「では頼みますよっ!」

 

「了解っ!」

 

 

 次はこちらから仕掛けるとしましょう!

 私は召喚獣を2人の召喚獣へと走らせます!

 

 

「!やあ!」

 

「っと!」

 

 

 大越さんが迎撃をしてくるも、約束通り吉井君が木刀で受け受け止めてくれました。感謝します!

 また大越さんに隙ができたので、その隙に私は腕を後ろへと引きます。

 

 

「やー。」

 

「むっ!」

 

 

 当然、味方の危機にルーミアさんが何もしないわけがありません。

 右後方からルーミアさんの召喚獣が、私の召喚獣へと口を開けてとびかかってきました。点数が下がったとはいえ、その攻撃を受ければ私の召喚獣もただではすまず、最悪補習室に行く可能性もあります。

 

 

「美鈴さん!」 

 

 

 そんな攻撃が私に届くまであと数センチ。吉井君が声をあげると同時に、私は動きます!

 

 

「てえいっ!」

 

 

 大越さんに当てよう・・・と見せた拳。その力の向きを正面ではなく左側、ルーミアさんの召喚獣に変え、彼女の顔の側面に裏拳をくらわせます!

 

 

「!うあー!?」

 

 

『Dクラス ルーミア・アピュエス 英語 0点』

 

 

 ルーミアさんの召喚獣は噛みつき!だから、攻撃をするときには彼女の召喚獣は急所である顔を敵へと近づけなければならない。それが弱点でしたね!

 

 

 

「ルッ、ルーミアちゃん!!」

 

「あー。ごめん、やられちゃったのだー。」

 

 

 よし、まずは1人!残るは大越さんだけです!

 

 

「吉井君!そこをお退(ど)きをっ!」

 

「ちょ、まっ!?」

 

 

 腕を横へと払う形となり、そこに働く遠心力を利用して私の召喚獣は体を一回転します。そして、さらに勢いを込めて一回転し―!

 

 

「はいっさああ!!」

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

 大越さんの召喚獣へと回し蹴りを決めました!吉井君は無事回避しています!上手くいきましたよー!

 

 

『Dクラス 大越 冬美 英語 0点』

 

 

 ルーミアさん、大越さん2人の戦闘不能は確定ですね!私たちの勝利です!

 

 

「ちょっと美鈴さんっ!あと少し遅かったら僕まで巻き添えだったじゃないか!?美鈴さんには予告と言う言葉を知らないのかい!?」

 

「え、わ、私ちゃんと避けてって言いましたよ!?」

 

「ギリギリすぎだよ!僕を亡き者にする気かと思ったんだけどね!」

 

「ひ、ひどい誤解はやめてください!悪くてもちょっぴりかするぐらいだと思ってましたよ!」

 

「観察処分者の僕にはそれで十分地獄だよ!」

 

 

 で、でも現実そんなことにはならなかったからいいじゃないですか!ま、万が一にもそんなことにはなりませんでしたけどね!

 

 

「戦死者は補習うううううう!!」

 

「きゃー!」

 

「わー。西村先生だー。」

 

 

 あ、西村先生が来ました。戦闘が終わって約10秒です。耳と行動が早いっ!

 

 

「に、西村先生!自分で歩きますからお、降ろしてくださいっ!」

 

「馬鹿者!1分1秒と補習をする時間を大切にせねばならんぞ!」

 

「い、1秒で問題は解けませんんんん!!」

 

「わはー。もっと高くできないのかー?」

 

「ええい!つべこべ言うな負け犬共がっ!きっちり補習をしてやるから覚悟しておけ!」

 

「降ろしてと言ってるだけですよおおお!!」

 

「あははー、高いのだー。」

 

 

・・・3人の声はしだいに聞こえなくまりました。しかし、ルーミアさんの願いを聞くあたり、やはり西村先生は厳しいだけではないみたいですね!

 

 

「…重ね重ねありがとう、美鈴さん。あやうく地獄に落ちるところだったよ。」

 

「じ、地獄と言いますか…。」

 

 

 ただ西村先生は教師の役割を果たしているだけなんですがね~…。これも先生の宿命と言う奴ですか。なかなか難儀です!

 

 

「!紅さんがあのプレデターガールをやってくれたぞー!」

 

「しゃあ!これで食われる心配が無くなったぜえ!」

 

「美鈴さんサイコーっ!」

 

「はあ・・・・・・」

 

 

 あ、あの最後の人、その溜息は安堵から来るものだと信じますよ・・・?

 

 

「ルーミアと大越がやられたぞ!」

 

「美鈴さん、はんぱねえ・・・!」

 

「塚本!これ以上の交戦は被害を大きくするだけだぞ!?」

 

「も、もう少し耐えろ!もうすぐ来てくれるそうだ!」

 

 

 む、またも誰かが援軍にやってくるようですね。ならその前に打撃を与えておく必要があります!

 

 

「吉井君、点数も下がっていることですし教科を変えてはどうでしょう?」

 

 

 吉井君がルーミアさんと英語で勝負していた以上、乱入する人も同じ教科で勝負する必要が出てきます。そのため私も英語で召喚獣を出したわけですが、担当の教科の先生がいればその科目で戦うことも出来ます。点数がだいぶ少なくなった吉井君は変えるのが上策でしょう。

 

 

「そうだね。ああ、ルーミアさんから受けた思い出が忘れられないよ…」

 

「人に噛まれる痛みってどんなでしたか?」

 

「忘れた深い傷を開かないで!!」

 

「忘れられないって言ったですよね!?」

 

 

 

 そんなことを言いながらも空いている先生がいないかを探します。どこかにいないか…

 

 

 

 

「!!来たぞおおーっ!!」

 

『うおおおおおーーっっ!!』

 

 

 

 

「!また援軍!?」

 

「・・・のようですね!!」

 

 

 Dクラス達が凄まじいまでの大声で喜びをあらわにしている理由など、それしかありえません!こちらの攻撃には転化できませんでしたか!

 

 

「っへ!援軍がなんだってんだ!」

 

「そうだ!俺らには美鈴さんがいるぜ!」

 

「どんな奴でも美鈴さんの美脚の餌食だ!」

 

「さあ姿を見せな!美鈴さんが相手してやるぜ!」

 

「す、少しは男らしいところをみせましょう皆さん!?」

 

 

 た、確かに私は援軍ですけども!敵全てを受け付けるのが援軍だと思っちゃいませんかー!?

 

 

「大丈夫さ、美鈴さんならきっと勝てるよ。」

 

「吉井君、カッコつけてるつもりでしょうけど単に押し付けてるだけでしょうそれ!それならいっそ黙って指を加えて見ていてください!」

 

「ひどいや!」

 

 

 もう、仲間はあんまりあてにしないほうがいいのですかね!?

 その考えに徹し、私は援軍さんとの戦い方を考えながら、その人物を待ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うにゅ!美鈴~!」

 

 

「・・・へ?お、お空(くう)?」

 

「え、え~と。霊烏路(れいうじ)さん、だっけ?」

 

 

 

 Dクラスの皆さんの視線を浴びつつやってきたのは、なんとぼさぼさ頭のロングヘアーが特徴の友達、霊烏路(れいうじ)空(うつほ)でした。

 

 

・・・・・・え、あれ?お空って援軍で選ばれるほど頭が良かったですっけ?

 

 

 

「美鈴さん。霊烏路さんって点数が高いの?なんだかアホの子っぽいけど…」

 

「あなたが言いますか…でも、私も申し訳なくもそう思ってました。」

 

 

 まあテストの成績を知っていたわけではなく、普段一緒に過ごしていて感じたことですから実はそうなのかもしれません。こんなことになるなら知っておけばよかったですね!

 

 

 

「せんせー!うつほは美鈴に、科学の教科で勝負を挑むよ!」

 

「うん、了解した。」

 

 

 私の前にたどり着いたお空は科学担当の先生にそう告げ、私に勝負をしかけてきました。

 勝負を仕掛けられた相手は、必ずその科目で勝負に応じなければならず、もしもこれに応えなければ敵前逃亡犯として補習室へ連行されてしまうのです。

 つまり、私はお空に科学で勝負を挑まなければならないということになったのです。

 

 

「・・・・・・仕方ありませんね、試獣召喚(サモン)!」

 

「うつほもっ、試獣召喚!」

 

 

 科学は苦手な分野なのでちょっと不安ですが・・・・なるようにはなるでしょう!

私の召喚獣が現れ、少しだけ遅れてお空の召喚獣が出現しました。

 

 白いもふっとしたカッターシャツのような服、ふわりと広い作りの緑色のスカート。

カッターの真ん中には何やら赤い…目?ブローチが着いていて少し変わっているなと思いましたが、一番気になったのは右腕です。

 そこには手があるはずなのに、代わりに六角柱の棒のようなものがついているではないですか。こ、こん棒?それともハンマーでしょうか?

 ・・・少し気になりますが、接近戦には変わりありません!さっきまでのルーミアさん達と同じように戦えばいいですよね!

 

 まずはお空の点数を知って―

 

 

 

 

   

 

『Fクラス 紅美鈴  科学 195点

    VS

 Dクラス 霊烏路 空  科学 413点 』 

           』

 

 

 

「お空ぅぅうぅうううううっっ!!??」

 

『なんじゃあの点数はあああ!!!?』

 

 

 全然なんとかなりそうにないです!ほぼ倍の点数ですよお空ー!?あなたそんなに科学が得意だったんですかあ!?アホの子なんて思っててごめんなさいいっ!!

 

 

「ごめんだけど、くらえ美鈴―!」

 

 

 ガチャリと、お空の召喚獣がその奇怪な右腕を向けてきました。そして、徐々にバチバチと光を出し―って、や、やばい!?

 私は召喚獣を右へと思い切り跳ばせました!

 

 

 

 

 その瞬間!

 

 

ズゴアアアッ!!

 

 

「え、ぎゃああああっ!!」

 

「レ、レーザーだとおおおっ!!?」

 

 

 私のいたところに召喚獣ほどの直径の真っ白な光線が突き抜け、後ろにいた召喚獣2匹を呑み込んでしまいました! レ、レーザー砲ってなんて武器を持ってるんですかお空!!

 

 

『Fクラス 近藤 悟志 0点

 Fクラス 田中 勝  0点』

 

 

 威力もやはり高い!ていうか流れ弾でも点数が無くなるんですか!?これは凶悪すぎるでしょう!?ルーミアさんといい、変わった召喚獣が多いですねDクラス!!

 

 

「ああっ、あっぶないな!?霊烏路さんは僕を丸焦げにする気か!?」

 

 

 隣にいた吉井君も上手く避けたみたいです。召喚獣の感覚を感じる吉井君には、絶対くらいたくない攻撃でしょうから当然ですか!

 

 

「敵なんですからそれも全くおかしくありませんね!」

 

「人食い妖怪の次は灼熱地獄だって!?そこまで悪いことはしてないのに、閻魔大王は僕に恨みがあるのっ!?」

 

「それは閻魔様に言って、わわっ!?」

 

「ぐわああああ!!」

 

 

 再び恐怖の熱線が!もう!こうなったら私も友達だからと容赦できません!あと後ろにいた人はごめんなさい!

 私の召喚獣をお空の召喚獣へと走らせ、一気に距離を詰め始めます。私の召喚獣はかなりの近接戦闘型なので近づかないことには始まりません!そのかわり威力は凄いと思いますよ!?

 

 

「Dクラス五島、科学で勝負します!試獣召喚(サモン)!」

「島岡もです!試獣召喚!」

 

 

 しかしそれを阻止しようとDクラスのメンバーがお空への道を壁として妨げてきました。お空は遠距離、私を含めFクラスメンバーはほとんど近距離タイプ!当然の配慮ですよね!

 

 

「どいてもらいます!」

 

 

 なら壁をぶち抜いていくのみ!私は目の前にいるDクラス生徒へと標的を変えます!

 

 

「そおおれっ!」

 

「ぐわああ!?」

 

 

 召喚獣の腹にとび蹴りをさく裂させると、一発でK.O.できました。壁はあっても質は低いですね!次はあっち

 

 

 ギュオオオッ!!

 

 

「!?ゥオアアったたあああっ!?」

 

 

『Fクラス 紅 美鈴  科学 101点』

 

 

「うにゅ!かわすなんてすごいな美鈴!」

 

「・・・しっかり当たってますよお残念ながら…!」

 

 

 完全に腕を呑み込まれましたよお!焦げてるだけで動きに問題はなさそうですけどね!

 し、しかし、壁に気を取りすぎた…!遠距離はお空の領域ですから攻撃してきて普通なのに、目を離すとはアホですか私は!

 

 

「霊烏路さんと連携を取りながら一人ひとり倒していくぞ!」

『了解!』

 

 

 !完全に連携を組んでますね!お空を周りが守って周りが隙を作ってお空が撃つ!お空が要になるとは全く思いませんでしたっとと!さすがにそうはくらいませんよ!

 

 

「ぎゃああ~!」

 

「地獄はいやだ~!」

 

「す、須川君!雄二にどうすればいいか作戦を聞いてきて!」

 

「りょ、了解!耐えろよお前ら!」

 

 

 本部に作戦を聞きに行ったり逃げ惑ったり丸焼けにされたり!私達、大ピンチです!

 こ、これはだめですかねうえええっ!!?あ危な~いっ!!

 

 

 

 

 

 

「さ、坂本!大変だ!」

 

「ん?今度は何だ?」

 

「もはやお主は連絡役じゃのう、須川よ。」

 

「それはいい!またDクラスから厄介な奴が出てきたんだ!指示を頼むっ!」

 

「なんだ?今度は火でも吹く召喚獣でも出てきたのか?」

 

「惜しいが違う!レーザーだ!」

 

「!なんだそりゃあ!?厄介な召喚獣が多いこったなDクラスは!」

 

「ほほう・・・レーザー?」

 

「で、そいつの教科と点数は!?」

 

「か、科学でほぼ400点!」

 

「な、なんじゃと!!?」

 

「・・・もはやAクラス並みの点数…!」

 

「っち、想像以上に戦力を蓄えてやがる!」

 

「わ、私がいきましょうか!?」

 

「いや、姫路は最後の仕事があるからだめだ!・・・霧雨、点数補充の方はどうだ!?」

 

「悪いが、それに対抗できるほど溜まってないぜ!あと十分以上は欲しい!」

 

「わ、悪いんだがそんなに余裕はないと思う!今すぐにでも動いてくれないと・・・!」

 

「くっ・・・仕方ないぜ、じゃあこの点数で―」

 

「待て。須川!立ち合いの先生は誰だ!?」

 

「え・・・・・・た、確か―――」

 

 

 

 

 

「くしゅん。」

 

「?か、風邪ですか先生?」

「ん、ああ。大丈夫だ。心配をかけてすまないね。」

 

 

 




 さて、中途半端な終わり方になりましたけど、今回はここまでで!

 美鈴を始め、お空はとてつもない点数になってますけど、それを楽しんでいただければ!
 
この先生が誰なのか?そんなことを楽しみにして次回を待っていただければ幸せです!


 それではまた次回っ!!


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決着―結果、はともかく過程がぜんぜん納得いかないよっ!

 こんにちは、村雪でございます!

 かなり短くなってしまったのですが、今回にてDクラス戦は終結です!まだまだ物足りないぞ!と言う方もお許しください!

 さて、無駄に引っ張った前回のあの〝先生〟とは?楽しんでいただければ…!


 ――ごゆっくりお読みください――



 

 

「ほあたあっ!」

 

「ぐっ!霊烏路(れいうじ)さんっ!」

 

「うん!やあっ!」

 

「うわわわっ!!」

 

 

 美鈴(メイリン)さんがまた敵を倒したけど、またも霊烏路さんのレーザービームが炸裂した!

 

 

『Fクラス 紅美鈴  化学 56点 』

 

 

 なんとか避けてるみたいだけど、あの太さのレーザーだとやっぱりかすっちゃうみたいだ。敵の数は確かに減っていってるけど、美鈴さんの点数もだいぶ下がってる!このままだと補習室も時間の問題だ!

 

 

「太田の奴が戦死した!」

 

「じゃあ遠藤君!太田君の代わりを頼むよ!」

 

「田島のやつが三人に囲まれてる!援護をするか!?」

 

「田島君には悪いけど諦めてもらうんだ!こっちもこっちで精一杯なんだよ!」

 

「柴崎の野郎が大暴れしている霊烏路さんの特盛メロンに血まみれだ!どうする!?」

 

「さっさと引導を渡してやれ!何人割(さ)いても構わない!」

 

 

 全く、この深刻な状況にどこを見てるんだよ!あんなでかくてたわわなもの見てる暇があるならDクラスの人たちをあ、ちょっと鼻血出た。今度はすごい揺れだったから、ついハイになっちゃったよ。

 

 召喚獣を動かすのに体を動かす必要は無いんだけど、霊烏路さんってすっごい体を動かすから・・・・・・ねえ?そこに目を向けるのは青少年として全く間違ってない正しい行為だよねっ!(※人として間違ってる時点で、正も悪もあったもんじゃない)

 

 

「あにゃああああ!?」

 

 

 青少年としておかしくない行為を続けようとしたけど、そんな悲鳴にはっとする。今のは美鈴さんの声!もしかしてやられちゃった!?

 

 

 

『Fクラス 紅 美鈴  化学 11点』

 

 

 

「う~ん、やっぱり美鈴は上手だねっ!」

 

「お、お褒めにあずかり光栄ですよー!」

 

 

 ほっ、なんとかやられてはいないみたいだ。でも点数は本当に底を尽きかけている。これ以上戦っていると地獄の補習室はまぬがれられない!

 ど、どう見ても僕達まずいよね!このままだと全滅しちゃう!そうなったら僕たちも、あの鉄人の下で地獄の補習漬けを・・・・・・!そんなの死んでも嫌だあっ!僕と言う存在が僕じゃなくなってしまうよっ!ここはなんとか切り抜けないと―!

 

 

「くたばれ吉井ぃっ!」

 

「わ!誰がくらうもんか!」

 

 

 突然Dクラスの人の召喚獣が刀で切りかかってきたので、身体をしゃがませることで僕の召喚獣に回避させる。そんな攻撃、さっきまで闘っていたルーミアさんの人喰い召喚獣と比べたら全然可愛いよっ!

 

 

「そりゃあ!」

 

 

 その瞬間に、僕の召喚獣の相棒である木刀を相手の召喚獣の膝の裏にぶちかます。皆もよくやる《膝カックン》だ!

 

 

 ガクッ

 

 

「うおっ!?」

 

 

 見事カックンに成功。かなり隙(すき)が出来たので、召喚獣に木刀を両手で振り上げさせて――

 

 

 

「オラァー!」

 

 

 ガヅンッ!

 

 

「あ、ちくしょー!」

 

 

 思いっきり頭に振り下ろす。いくら点数が弱くてもこれは効いたよね!地面と顔がキスしてるもん!

 

 

『Dクラス 中野 健太 国語 16点

       VS

 Fクラス 吉井 明久 国語 79点 』

 

 

 む、確かに点数は減ってるけど、まだくたばってないみたいだ。ここはもう一発。

 

 

「フィニ―ッシュ!!」

 

「容赦ねえな!?」

 

 

 当然!敵にかける情けなどない卑怯も礼儀も存在しない!これが戦場だよ!これで中野君はリタイア確定だね!

 

 

「中野!」

 

「テメエ吉井、よくもやりやがったな!中野の敵はとらせてもらうぞ!先生!」

 

「げ!?ひ、卑怯な!」

 

 中野君に続いて二人のDクラス。ずるいぞ!こっちは1人なのに2人だなんて!君たちには正々堂々と言う言葉を知らないのか!

 

 

「おらくらえっ!」

 

「死なば諸共!中野につきあってやりな!」

 

「うおっと!?そんなの知ったこっちゃないよっ!」

 

 

 卑怯者二人の召喚獣がぶんぶんと武器を振り回してくるから、僕は必死に召喚獣にかわさせ続ける。ど、どうしよう!このままだと僕も時間の問題じゃないかな!?

 

 

 

 

 援軍が来てほしいところだけど、来たところで霊烏路さんの召喚獣の前には意味が無い。象とアリみたいな差があるんだからどうしようもないよね。

 でも、姫路さんなら…って、だめだ。姫路さんには最後に大きな仕事があるからまだ出ちゃダメなんだった!

 

 

 あ、後は雄二の悪知恵ぐらいしか…!須川君に作戦を立ててもらうよう行かせたけれど、まだ戻ってきていない! 急いで須川君!君が聞いた雄二からの作戦がカギを握って――!

 

 

 

 ピンポンパンポーン 《連絡いたします》

 

 

 

『ん?』

 

 

 突然、連絡事項がある時に流れる校内放送が流れ出した。

 

 

 

 こ、この声は須川君?・・・・・・そうかっ!今から雄二の作戦を僕たちに伝えるんだね!なんで放送なのかはわからないけど、それを待っていたんだ!

 

 さあ、この状況をひっくり返す作戦を頼むよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《八雲(やくも) 藍(らん)先生。八雲 藍先生。至急、体育館裏までお越しください。》

 

 

「ん、私か?」

 

 

 

 あ、あれ?作戦じゃないの?・・・・・・あ!そうじゃない!八雲 藍先生って、今そこにいる先生じゃんか!

 

 きりっとした綺麗な顔の女の先生で、学年主任の高橋先生と同じスーツ姿の彼女は化学を受け持つ先生。ここら辺の化学教科で勝負をしている人は皆あの人が立会人になってる!もちろん最強の霊烏路さんも例外じゃない!確か、お姉さんもこの学校で先生をしているとか。って、それは今は関係ないか。

 

 

 つまり須川君は、彼女を呼び出して化学フィールドを消してしまおうって考えなんだ!そうすれば最強の霊烏路さんの化学の点数も関係なくなるし、ピンチな美鈴さんも助かる!なんて良い作戦なんだ!最高だよ!

 

 

 八雲先生もきょとんとしてスピーカーを見上げている!よし、あと一押しだ須川君!あと少し言えば八雲先生はきっと放送を信じて体育館裏に行くはずだっ!それで僕たちのピンチは回避、回避できなくてもマシになるはず!

 

 ここは頼むぞ須川君!キミなら出来るさ!

 

 

 

 

 

 

 

《……吉井 明久君がお話があるそうです。》

 

 

 

 

・・・・・・・・・ん?須川君?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《な・・・な、なんでも、『あなたの娘、橙(チェン)ちゃんと結婚をしたい。お話がしたいので、橙ちゃんと体育館裏でお待ちしています。』とのことです。》

 

 

 

 

 

 

「ちぇええぇえええェえええんっっ!!?」

 

 

 

 

 ヒイイイッ!?なんてことを言うんだ須川君!!分かってるよね?声が震えていたから分かってるよね!?あの八雲 藍先生だよ?

 

 

 自分の給料を愛娘 橙ちゃん(9才)のお洋服やご飯代に全て費やして、自分は1日油揚げ一枚で一か月過ごしたり、愛娘 橙ちゃんに声をかけた男子(落し物を拾ってあげただけ)を一か月間の病院生活を余儀なくさせたり、橙ちゃんが転んだ道を跡形もなく消し飛ばすって言われてるほど橙ちゃんを愛してやまないモンスターペアレント、人呼んで【妖狐の藍】なんだよっ!?

 

 

 そんな人に『娘を下さい』だなんて、橙ちゃんをもらうどころか僕の命がもらわれちゃうよおお!!?

 

 

「すす、すすすまないが私は急用がででっ出来たっ!」

 

「ま、待ってください八雲先生!吉井明久はあそこに―!」

 

 

「おのれ橙をたぶらかす害虫がああああああああっっ!!」

 

「や、八雲先生ーー!」

 

 

 やっぱり効果は抜群すぎた!鉄人も逃げ出しそうな怒気と、この世の怒りが全て集まったと言わんばかりの顔で体育館の方へと跳んで行った!その速度は霊烏路さんのレーザーの百倍か!?

 

 

「うにゅ、あ、あれ?」

 

「あ、フィールドが・・・!」

 

 

 立会人がいなくなったことで、化学の教科で召喚されていた召喚獣達が一斉に消え去った。これはシステム上の理由による中断の為、敵前逃亡にはならない。上手いこといった…けど僕はそれどころじゃない!まさに命が懸ってるんだよ!

 

 

「霊烏路って、他の点数はあまり・・・!」

 

「ぐ・・・やむをえん!Dクラス!霊烏路を守りつつ教室に戻るぞ!!」

 

 

 霊烏路さんが化学で戦えなくなったのがかなり痛いみたいで、Dクラスは全員が撤退をし始めた。こちらでも効果は抜群だった。

 

 で、結局はDクラスの皆が撤退したことで渡り廊下での勝負はひとまず終了した。でも僕の場合は命を懸けたゲームが始まったばかりだ。もう八雲先生に会えないよね?

 

 

 そして、始まったことは他にも。

 

 

「で、でかしました吉井君・・・で、でもさっきのあれは犯罪だと思いますよ!どう考えても小学生はアウトでしょう!?」

 

 

 Dクラスと交戦していた美鈴さんがかなり引いた顔で肩を叩いてくる。

 

 

「吉井ぃ…テメエ小学生に手を出すとは良い度胸じゃねえか・・・!」

 

「人の嫁に手をだすとは、憎んでも憎み切れんなあ・・・・・・!」

 

「だが、堂々と八雲先生に宣言した男気も認めてやらねばな…!」

 

「ならここは…俺たちの熱い拳で祝福してやろうぜええええ!!」

 

『意義なあああしっ!!』

 

 

 袖をまくって拳を鳴らし始めるクラスメイト。八雲先生、殺るべき害虫はこの中にいますよ。

 

 

『ちぇえええぇええええん!どこへ隠した吉井明久あああああ!!』

 

 

 そして、どこからか聞こえてくる八雲先生のすさまじい怒声。僕の味方は誰もいない。

 

 

「・・・・・・すっ。」

 

 

 こんな素敵な状況をくれた人物に、僕は愛(いかり)を叫ばずにはいられなかった。

 

 

「須川ああああああ!!」

 

『うるせええええ!!』

 

「いやあああああ!!」

 

「あっ、て、手加減はしましょうね!?」

 

 

 いくら邪魔されようとこの衝動は止まらないっ!この恨み晴らさでか!

 

 

 結果はオーライだけど、全く納得がいかないと思う僕を誰も責めさせやしない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、ご苦労だったな。」

 

「ええ。まったくですよ。まさかお空の点数があんなに高かったとは…」

 

「…おくう?」

 

「お友達ですか?」

 

「はい。Dクラスの霊烏路 空(うつほ)って女の子で、あだ名が〝お空〟です。化学がとても高かったですよ。」

 

「ああ、そいつがレーザーを撃つ…」

 

「…あの胸が大きい…(ぼたぼた)」

 

「土屋君、なんて覚え方をしているんですか。」

 

 

 確かに服の上からでも分かりましたけど…完全にセクハラです。あの子はそんなこと気にしなさそうですが…

 

 

「でもまあ何とかなりましたよ。ねえ吉井君?」

 

「ウン、ソウダネ。文字通りボロボロになったよ。」

 

「なぜお主の体が本当にボロボロなのじゃ・・・」

 

 

 それはさっきの道を正す(と思う)為の制裁のせいですね。

 

 

 今、私たちがいるのはFクラスの教室。この後に再戦するであろうと分かる今、少しだけの休憩タイムです。

 

 

「なんにしても、よくやった明久、紅。」

 

 

 坂本君の労いの言葉でしたが、吉井君はなにやらジトッとした目を坂本君に向けます。

 

 

「雄二、さては校内放送が聞こえてたね?」

 

「ああ、ばっちりな。」

 

「吉井のロリコン宣言、しかとこの胸に刻んたぜ?」

 

 

 この笑顔、完全に面白がっていますね二人とも。そこは怒ってあげたり悲しんであげてください。

 

 

「よっ、吉井君っ。人を好きになるのは悪くないんですけど、や、やっぱり小学生はダメだと…」

 

 

 さすが瑞希さん。好きな人を正しい道へと導いてあげますね!

 

 

「うん。分かってるよ姫路さん。僕はそんな犯罪者みたいなことは考えないさ。」

 

 

 おお、吉井君が爽やかな笑顔でロリコン疑惑を否定しました。瑞希さんの言葉のおかげですか?

 

 

「そ、そうですよね?良かった…。」

 

「うん、そうなんだ。……ところで雄二、須川君がどこにいるか知らないかい?」

 

「須川?もうすぐ戻ってくるんじゃないか?」

 

「・・・・・・やれる、僕なら殺れる……!」

 

「殺るなっての。」

 

「犯罪者みたいなことをする気満々じゃないですか・・・」

 

 

 バカには瑞希さんのありがたいお言葉は届かなかったみたいです。

 

 

「そんなお前に言っておくことがある。」

 

「雄二、悪いけど後に―」

 

 

「須川にあれを言うよう指示したのは俺だ。」

 

「シャァァァアッ!」

 

「ちょっ、吉井君!?」

 

 

 どっからその包丁を持ってきたんですか!?そしてその膨らんだ靴下はブラックジャック!?どれだけ須川君を亡き者にする気だったんですかー!?

 

 

「あ、八雲先生。」

 

 

 ガダドキャバンッ(ちゃぶ台を蹴散らして吉井君が掃除用具入れにこもった音)

 

 

「・・・身替わりが早いですね。」

 

「おいおい、私のちゃぶ台になんてことしやがるんだぜ。」

 

「まあ今は大目に見てやれ。あとでたっぷり支払わせればいいじゃないか。」

 

「仕方ないな。利子はたっぷりとつけてやるぜ。」

 

 

 何もなしでは許さないんですね…2人に情けは無いのですか。

 

 

「さて、まあ馬鹿の事は放っておいて、そろそろやるか。」

 

「そうじゃな。ちらほらと下校しておる生徒の姿も見え始めたしのう。」

 

「あ、もう時間稼ぎは十分ですか?」

 

「ああ、姫路が頑張ってくれたんでな。」

 

「お、遅くなってすみません!」

 

「いやいや、大切な準備ですから仕方ありませんよ!」

 

 

 作戦の重要人物、瑞希さんが頭を下げますが全く問題ナシです!最終的に勝てればそれでいいのですから!

 

 

「私の方も十分だったぜ!これでそのおくうって奴と勝負できるな!」

 

「へ?魔理沙、そんなに化学の点数良いんですか?」

 

 

 確かにイメージ的には理系ですけど、400点近くもとれるのですかね?

 

 

「見てみればすぐわかるさ。坂本!というわけで早く行こうぜ!」

 

「おっしゃ!お前ら!Dクラス代表の首を獲りに行くぞ!」

 

『おうっ!』

 

 

 ぞろぞろと皆が教室を出るのに続き私も出ます。さあ!あと少し頑張りましょう!

 

 

「あー、明久。八雲先生が来たっていうのは嘘だ。」

 

 

 ・・・あ、すっかり彼の事を忘れてました。私も案外ひどい奴かもしれませんね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がすか、雄二ぃっ!」

 

 

 なんて奴だ!僕が八雲先生と会ってはまずいということを知って、あんな心臓に悪い嘘をつくなんて!雄二には思いやりというものが無いのか!ここは僕が家庭科室からパクってきた包丁とお手製のブラックジャックでこってり教えてあげないといけないみたいだ!

 

 

 誰もいなくなった教室を飛び出てさっきの渡り廊下へと向かう。Dクラスの代表を仕留めるにはDクラスの方へと移動しないといけないから、間違いなく奴はこの先にいる!

 帰ろうとするほかの生徒達の間を通り抜けながら標的を探し出す。くそ、どこにいるんだ・・・?

 

 

「うにゅーっ!」

 

「あらよっとおおっ!!」

 

 

 前の方から、ばちばちと眩しい光と女の子の声が二人分届いてきた。あれは、霧雨さんと・・・霊烏路さんだ!ええ!霧雨さん!?あの400点近い霊烏路さんと勝負をしてるの!?頭は大丈夫なの!?まだ死のうと思うには早すぎないかい!?

 

 

「や、やべええ!巻き添えを食らうからあの二人には近づくなああ!!」

 

「なんであいつらAクラスじゃねえんだあああ!!」

 

 

 その2人から距離を取り出すFクラスとDクラスの生徒達。へ?一方的な虐殺じゃないの?ひょっとして張り合ってるの?

 

 え~と、霧雨さんの点数は・・・?

 

 

 

『Dクラス 霊烏路 空  化学 359点

       VS

 Fクラス 霧雨 魔理沙 化学 380点 』

 

 

 

・・・・・・えええっ!?れ、霊烏路さんより上だってえ!?し、しかも武器もあれ…レーザー撃ってるよね!?ほうきだけど!

 

 まさか霊烏路さんと同じタイプの武器を持つ召喚獣がFクラスにもいたなんて・・・!自分の頭にかけてるメガネを探してるの状態と同じだね!(△せっかくなので、『灯台下暗し』と言いましょう。)

 

 

「やるね!きりさめまりさ!」

 

「私も同感だ!もっと最初から戦り合っときたかったぜ!」

 

「うつほもだよ!!くらええええ!」

 

「打ち負かしてしてやるぜええ!」

 

 

 ま、まぶしいまぶしい!2人とも!熱くなるのはいいんだけれど周りにも気をかけようね!ほら誰かの召喚獣が巻き添えになって死んじゃったよ!?

 

 

「はいやあああ!」

 

「くっそおおおおお!」

 

「Dクラス塚本、討ち取ったりいいい!」

 

 

 はっ!?今の美鈴さんの後に聞こえた声は間違いなく雄二!バカめ!自分から居場所を教えてくれるなんてね!あの世で後悔するがいい!

 

 まずはこの包丁で―

 

 

「援護に来たぞ!もう大丈夫だ!皆、落ち着いて取り囲まれないように周囲を見て動け!」

 

 

!?こ、この声はDクラス代表の平賀君!彼がいるという事は本陣が動いたって事か!

 

 

「いいかい!あたいらの半分はFクラス代表さんを狙って、他のメンバーは囲まれて危ない仲間を助けるんだよっ!化学に自信があるって言う人はお空の援護を優先でっ!」

 

 

『了解!お燐さんっ!』

 

 

 火焔猫(かえんびょう)さんと平賀君の的確な指示のせいで、一気に雄二達本隊が囲まれた!くそお!雄二を殺れないじゃないか!

 

 

「ふふん!代表を獲りたくばまずは私の召喚獣から獲ってもらいましょうか!」

 

 

 おお、美鈴さんかっこいいよ!男なら一度は言ってみたい台詞だね!!

 

・・・て、吉井明久!女の子である美鈴さんが頑張ってるのに男の僕が頑張らなくてどうするのさ!ここは相手の代表をとって男を見せるところじゃないかい!?

 

 

「・・・よし、ここは雄二を後回しにしよう。」

 

 

 雄二の首ならいつでもとれるからね!ここは平賀君を狙うことだけ考えよう。感謝するんだね雄二。

 

 別のクラスの生徒達にまぎれながらDクラス代表を探していると、案外すぐに見つかった!しかも近くには護衛となる近衛(このえ)部隊もほとんどいない!

 

 立会人となる先生も現国の竹内先生と古典の向井先生の2人もいるから勝負をしかけられる!なんて幸運なんだ!やれるぞ僕!

 

 

「向井先生!Fクラス吉井が古典で―」

 

「Dクラス火焔猫 燐(りん)が受けるね!試獣召喚(サモン)だよ!」

 

「なっ!火焔猫さん!?」

 

 

 突然前平賀君の前に現れたのは、宣戦布告の時にあった女子の火焔猫さんだった!どうして!?姿は無かったはずなのに!

 

 

「火焔猫さん!どこから湧いて来たのさ!?」

 

「ひどい言い方だねえ。少し離れてただけなのに…Fクラスの人はどうも不意打ちが多いからね。あたいもちょいと同じことをしただけだよ♪」

 

 

 火焔猫さんがパチンとウインクを決め、僕の心は揺れ動いた!だから!しっかり働くんだ僕の心の壁!(強度:豆腐並)

 

 

「残念だったな、ロリコン犯罪者君?」

 

「待った!アレは僕が言ったんじゃなくて雄二が勝手に言ったんだよ!」

 

「そうかい。じゃあお燐さん。頼んだよ。」

 

「あいよっ。」

 

 

 火焔猫さんが召喚獣を構えだす。緑の長袖のワンピースが赤い髪にとても似合っているけれど、その手に持つ大きな三日月形の鎌(かま)のせいで可愛らしさは一気に台無しだ!

 

 

『Dクラス 火焔猫 燐  古典 150点

         VS

 Fクラス 吉井 明久  古典  78点 』

 

 

 や、やっぱり点数は負けてるよね。さっきまでのルーミアさんや霊烏路さんに比べると低いけど、Dクラス的に考えれば凄い点数だ!僕にとっては強敵だよ!

 

 

「ちくしょう!あと一歩でDクラスを僕の手で落とせるのに!」

 

「何を言うかと思えば、ロリコン。いくら周りに誰もいなくてもお前には無理だろうさ。」

 

 

 事実だけど鼻で笑われるのは何かむかつくね!

 

 

「平賀君。」

 

 

 すると、火焔猫さんが平賀君を脇目に話しかけた。

 あ、あれ、さっきより少し雰囲気が・・・

 

 

 

「悪いんだけど、あまり人を馬鹿にするようなことはあたいの前で言わないでくれるかねえ。あたいはあんまり好きじゃないんだ・・・人を馬鹿にする言葉を聞くのは。」

 

 

「!あ、わ、悪かった。謝るよ。」

 

 

 声の調子も落ちた火焔猫さんの言葉に、平賀君はすぐに頭を下げた。言った僕にではないけど、少しだけ気分が晴れた。

 

 

「・・・ん!いやごめんね平賀君!あたいもいじいじしたこと言っちまったね!」

 

 

 すぐに明るい態度に変わった火焔猫さんはぺこりと頭を下げる。でも平賀君は全然気にしていないようで手を振って留めた。

 

 

「い、いや。俺の方が悪いんだから謝らないでくれお燐さん。」

 

「そう、了解っ。じゃ、あたいはやってくるよ?」

 

「ああ、頼んだ。」

 

「はいな!・・・ん~吉井君。待たせたね。」

 

「あ、ううん。大丈夫だよ。」

 

 

 僕をかばってくれたんだから、むしろ僕がお礼をしたいよ。

 

 

「火焔猫さん。さっきは僕をかばってくれてありがとう。」

 

「ん?・・・・・・にゃっはははは!!そんなの気にしなくていいさ別に!あたいが勝手に言っちまっただけで、別に吉井君をかばおうとしたわけじゃないよ!」

 

 

 

 そう笑って、火焔猫さんは鎌を構える。勝負をする気満々だ。

 

 

「よ~し、んじゃ始めようか?あたいも頑張らなきゃね!」

 

「う~ん、僕としては苦戦しそうだから困ったよ。」

 

「ん~?あたいを買ってくれてるのかい?――そりゃ照れちまうねっ!」

 

 

 鎌をふりあげた召喚獣が迫る。ルーミアさんの召喚獣に比べたらまだゆっくりだね!――ルーミアさんの召喚獣には色々と感謝しなくちゃねならないかもしれない。恐怖の方が勝ってるからあんまりしたくないけども!

 

 

「よいしょ!」

 

「だよねえ!」

 

 

 頭に降ろされる鎌のさきっちょを、横に移動させることでクリアー。その隙に僕の召喚獣に木刀で叩かせようとする。

 

 

「よいさっ!」

 

 

 ガキン!

 

 

 でも、火焔猫さんは鎌をすぐに防御へと移すことでガード僕の攻撃をガードした。くっ、点数は火焔猫さんの方が上だから押し切られそうだ!いったん止め――

 

 

「ほい!」

 

「うおっと!?」

 

 

る前に先に鎌をさげられた!?やば!バランスが前に!

 

 

「―――シャアッ!!」

 

「――――っとおおっ!?」

 

 

 ガギィン!

 

 

 か、か、間一髪!なんとか召喚獣と鎌の間に木刀を挟めたぁ!

 

 

「にゃ、惜しかったねえ…!」

 

「ざ、残念だったね・・・!」

 

 

 そう言ってる割にはイイ笑顔だね!こんな防御すぐに突破してやるって言いたいのかなっうおおお!?か、鎌の先が少しづつ僕の召喚獣の目の前にぃ!?

 

 

「ぬうううう・・・っ!」

 

「う、うぎぎぎ・・・!!」

 

 

 や、やばい!木刀が当たってるのは鎌の真ん中ら辺だから、上のとがった部分ががら空きになってるじゃないか僕のまぬけ!しかもさっきの火焔猫さんみたいに鎌を流せる態勢じゃないしって近い近い近い!あ、あと数ミリで先がやばいやばいやばいやば――!

 

 

 プチ

 

 

「いたたたた!!」

 

「ニェッ!?」

 

 

 は、針がささったみたいな痛みが――!・・・って、もう痛くない?

 

 

「だ、大丈夫かい吉井君!?」

 

 

 見ると、火焔猫さんが慌てた様子で駆け寄ってきた。召喚獣の操作など全くしていないみたいで、彼女の召喚獣は鎌を降ろしていた。

 

 

「な、何か悪いことしちゃったかいあたい!?病気かい!?保健室に行くかい!?」

 

「・・・あ、え、えーと……」

 

 

 どうしよう。ものすっごく悪いことをしている気がする。観察処分者の宿命だから痛みがあるのは当たり前なのに、せっかくのチャンスを捨ててまで心配してくれてる火焔猫さんの優しさを利用したみたいで、罪悪感がはんぱない。

 

 

「だ、大丈夫だよ。ほら、僕って《観察処分者》だから召喚獣の感じる感覚が僕にも伝わるんだ。それのせいだよ。」

 

「あ、なるほどね。いやはやそれはよかったよ。」

 

 

 ほっと胸を撫で下ろす火焔猫さん。アカン。この後の作戦のことを考えるとあまりにも申し訳ない気がしてくる。この人にだけこっそり言おうかな…?

 

 いや、だめだ吉井明久!これは自分の為姫路さん為の勝負!そんな勝手な行為は許されないぞ!ここは心を鬼にするんだ!

 

 

「んじゃ、続きといくかい?」

 

 

 元の位置に戻った火焔猫さんだけど、勝負をすると僕がやられる可能性も出てきた。ここは勝負じゃなくて、会話で時間をつぶすとしよう。

 

 

「でも、火焔猫さんすごいね。召喚獣の操作に慣れてない?」

 

「ん?そうかい?まあやってできない事はないさね!そう言う吉井君も上手じゃないかい?観察処分者のおかげかね?」

 

「うん。そのかわり痛みも多く感じるけどね。」

 

「そりゃご愁傷様だ!同情するよ!」

 

「ありがとう。そんなことを言ってくれるのは君と美鈴さんだけだよ。」

 

「にゃっはは!なんだいなんだい!あたいと勝負しなくていいのかね?長引きすぎるとそっちが不利になるんじゃないのかい?」

 

 

 火焔猫さんはあろうことか、僕たちのことを気にしてそんなことを言い出してきた。む、胸が痛い・・・!

 

 

「・・・ねえ。火焔猫さん…」

 

「何だい?」

 

 

 面白そうに見てくる火焔猫さんに僕の良心がグサグサと刃を突き立てられる。

 

 

―――あ、来た!あと少しだけ・・・・!

 

 

「・・・その。火焔猫さんは僕たちFクラスにもしも負けたら、やっぱり僕たちの事を恨んじゃう?」

 

「へぁ?」

 

 

 なんて質問するんだ僕のばかっ!絶対火焔猫さんに怪しまれるよ!ほらポカンとしてるし!作戦がパーになったらどうするのさ僕のバカヤロウ!

 

 

 ほら今にも火焔猫さんが変に思ってあっちをみ―!

 

 

「・・・ん~。負ける気はさらさらないけど、そうだねえ…」

 

 

 ――なかった。ほっ。ひとまず安心だ。

 

 

「…悔しいとは思うだろーけど、恨むことは無いと思うよ。だって、吉井君達も精一杯努力して勝つんだろうしねえ。」

 

 

・・・・何か違う意味で心が動揺してきたぞ。なんだろうこの全てを話したくなるような燃える衝動は。火焔猫さんの話を聞いてるともの凄く湧き上がってくるんだけど。あれかな?恋かな?

 

 

・・・あ。上手くいったみたいだ。

 

 

「さすがに綺麗ごとになると思うけど、もしかしたらおめでとうって言うかもしれないね!」

 

 

あ、もういいよね。ダメでも絶対言ってたけど。

 

 

 二ヒッと子どもみたいに笑う火焔猫さんのその言葉に、僕はかられる衝動に任せて召喚獣の事など無視して彼女の元へと近づく!

 

 

「へ?な、なにさ吉井く―」

 

「火焔猫 燐さんっ!」

 

「ほ、ほいっ!?」

 

 

 彼女の目の前に立ち、僕は、僕は――!!!

 

 

 

「まじすんませんっしたあああああ!!」

 

 

 土下座しました。何にかって?彼女の優しさを利用したことにだよっ!

 

 

「・・・え、えええ!?いいきなり土下座して謝ってなんだい!?」

 

 

 突然だからうろたえて当然の火焔猫さん。そんな彼女に僕ができるのは理由を言うだけ!

 

 

「卑怯なまねしてまじすみませんんっ!」

 

「・・・は、はあ?卑怯?いったい何のことさ?」

 

「・・・(すっ)」

 

「あん?後ろが何・・・・・・にゃあ?」

 

 

 火焔猫さんが僕の指さす方向を見て、ぽかんとしていたのが可愛かったなどとは土下座中の僕には分からない!

 

 

「・・・・・・吉井君?ありゃあ、どういうことだい?」

 

「・・・見たままの事です。」

 

 

 

 

 

「……姫路瑞希さんがいて、彼女の召喚獣が平賀君の召喚獣をぶった切ったね。」

 

 

「そう言う事です!」

 

「・・・・にゃ、にゃはははは……。美鈴さんだけじゃなくて、あんな子もいたのかい・・・」

 

 

 苦笑いを浮かべる火焔猫さん。その後平賀君が戦死したという報(しら)せが出回るまで、僕はただただ頭を下げ続けた。

 

 

 Dクラスへの勝利。僕が望んだ結果なのに全く嬉しくないよっ!

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!少し、というかかなり短かったかもしれませんが、Dクラス戦は終結です!最後は原作通りの落ちでした!期待していた方はごめんなさい!

 こ、ここで色々と書きたかったんですけど、補足したり言いたいことがありすぎて何も書けない…!!聞きたいこととかあれば、何でも聞いてください!勿論感想だけでも結構です!出来る限り答えていきます!・・・・・で、出来る限り!

 さて、次回は戦後対談などです!また新たなキャラクターを出す予定です!!僅かに期待してお待ちください!

 それではっ!


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会話―終わり、とは言えまだやることがあって多忙です!

 こんにちは!村雪でございます!

 前回も述べましたように、今回、三人の東方キャラクターに出演してもらいます!

 で、間違いなく「なぜこのキャラクター!?」「こういう位置づけかよ!」って思うことになると思いますが、村雪がこうしたかった!っていう理由で納得してやってください!

 かなり思う事がでてくるであろう今回!ひとまずは、満足して頂ければ!

―――ごゆっくりお読みください。


『Dクラス代表の平賀を討ち取ったぞおおおお!』

『うおおお!』

『そ、そんな・・・』

 

 

 誰かのその声にFクラスは歓声を上げ、Dクラスのメンバーは悲痛な声でうなだれます。ふう、なんとか勝利ですね。よくやってくれました瑞希さん!

 

 私は召喚獣の構えを解いて一息。そんな私の後ろにいた坂本君が、労いの言葉をかけました。

 

 

「よくやってくれた紅。おかげでAクラスへの道が開けた。」

「それは良かったです。坂本君の作戦こそ見事でした。」

「よせよせ、照れるじゃないか。」

 

 

 坂本君の作戦は、Dクラスの戦力を私達、つまりおとり役にひきつけて、代表である平賀君の守りを手薄にしたところを姫路さんが不意をついて攻撃する、というものでした。

 

 至ってシンプルな作戦ですが、姫路さんという優等生が最下位のFクラスにいると分からなければ、絶対防ぎようがないという利点があります。おそらく、姫路さんを見ても何か用事があったとしか思えなかったことでしょうね。

 

 姫路さんの学力だけでなく、彼女に対する先入観も大いに利用した坂本君の作戦でした。

 

 

「凄えよ!本当にDクラスに勝てるなんて!」

「これで畳やちゃぶ台ともおさらばだな!」

「坂本サマサマだな!」

「美鈴さんもかっけーぞ!」

「坂本万歳!」

「めーりんめーりん!」

「姫路さん愛しています!」

「魔理沙ちゃん結婚してくれ!」

 

 

 あちこちから褒め称える言葉が湧き上がっています!でも最後の2人は関係ないですよ!?

 

 

「へっ、私を落とそうなんざおとといきやがれだぜ!」

 

 

 おっと、魔理沙の登場です。あっさり振られた生徒のことには気を向けず坂本君に向き合いました。

 

 

「よう、なかなかやるじゃないか代表!」

「ふっ、代表として当然の事をしたまでさ。」

「まっ、そんなに固くなんなよ!ほれ!」

「ん?」

 

 

 魔理沙が左手を坂本君に差し出します。どうやら握手を所望しているようです。

 

 

「ご褒美に、美少女である私と握手してやるぜ!ありがたく思えよ?」

「まったく、お前が美少女なら俺も美少女になっちまうな。」

「おおい!?私は坂本と同レベルって言いたいのか!?」

「美少女は自分で美少女なんて言わないっての。ほらよ。」

「なら、私がそれを打ち破る前例になってやるぜ。おう!」

 

 

 がしっと手を握り合う二人。口はああですが感じている喜びは同じですよね!

 

 

「雄二!」

「ん?明久か。」

 

 

 おっと、吉井君もやってきました。彼も握手でしょうか?

 

 

「僕も雄二と握手を!」

 

 

 そう言って手をさし、ってちょちょっと!!?

 

 

「ぬぉぉっ!」

 

 

 ガシッと吉井君の手首を抑える坂本君。ナ、ナイス反射神経です!

 

 

「雄二・・・…!どうして握手なのに手首を押さえるのかな……!」

「押さえるに・・・決まっているだろうが……!フンッ!」

「ぐあっ!」

 

 カランカラーン

 

…坂本君に手首を捻られて吉井君が落としたのは……包丁でした。ちょっと!これ殺人未遂ですよお!?祝いの間を一気に惨劇に変える気ですか君は!?

 

 

「……」

「……」

 

 

 無言で見つめ合う二人。なぜこうも緊迫した空気を作れるのでしょうか・・・

 

 

「雄二、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね。」

 

 

 それでごまかせるとお思いならば真正のバカですね、吉井明久君。

 

 

「僕、仲間との達成感がこんなにいいものだなんて、今まで知らな関節が折れるように痛いいぃっ!」

 

 

 当然の制裁です。さすがに私は止めやしません。

 

 

「今、何をしようとした。」

「も、もちろん、喜びを分かち合うための握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」

「おーい、誰かペンチを持ってきてくれー。」

「ほいっ。こんなもんでいいか?」

「ふむ、もう少し大きければよかったがな。」

「す、ストップ!僕が悪かった!ていうか雄二!霧雨さんのペンチはすごく大きいのに、どれほどの大きさのペンチを望んでいるのさ!?」

「お前の首を刎(は)ねるほどだ。」

「ほんとにすいませんでした。」

 

 

 はあ、やっと反省したみたいです。見ているこっちがハラハラしましたよ・・・

 

 

「まさか、姫路さんのような人がFクラスだなんて……信じられん。」

「確かにそうだねえ、まんまとやられちまったよ。」

 

 

 Dクラスの代表平賀君とお燐さんが、やられたと顔をしかめたり笑いを浮かべながら坂本君へと歩み寄りました。負けたのに変わらない笑顔なあたり、本当にお燐さんらしいですね!

 

 

「あ、その、さっきはすいません・・・…」

 

 

 姫路さんも近づいて2人に謝ります。でもそれも勝負ですので仕方のない事です。姫路さんが謝罪する必要はないでしょう。

 

 

「いや、謝ることは無い。全てはFクラスを甘く見ていた俺たちが悪いんだ。」

「そういうことさ、姫路さん。ところで、あんたみたいな人がFクラスとは何かあったのかい?」

「あ、その、振り分け試験の時に熱で倒れちゃいまして…」

「ああ、なるほどね。そりゃあFクラスになるわけか。」

 

 

 頷くお燐さん。誰も風邪を引いたなんて思いませんよね。・・・そう考えると、やっぱりちょっとだけ申し訳ない気もします。

 

 

「とにかく、ルールに則(のっと)ってクラスを明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だから、作業は明日で良いか?」

 

 

 確かに既に下校時刻にはなっていますし、今からするとだいぶ遅くなることでしょう。それぐらいなら問題ないですよね?

 

 

「坂本君、それぐらいならいいのではないでしょうか?」

「そうだよ雄二、もちろんいいよね?」

 

 

 吉井君も感じることがあったみたいで坂本君に尋ねました。

 

 ところが、

 

 

「いや、その必要は無い。」

「?なぜですか?」

「Dクラスを奪う気はないからだ。」

 

 

 坂本君は、そんなことを言いました。

 

 

「雄二、それはどういう事?折角普通の設備を手に入れることが出来たのに。」

 

 

 吉井君の意見も最もですが、私はなんとなく坂本君の考えが分かりました。つまり、目的がそこではないということでしょう。

 

 

「忘れたのか?俺たちの目標はあくまでもAクラスのはずだろう?」

 

 

 あくまでも今回の戦いは慣らし。本番はあくまでもAクラスという事で、今回の勝利が余分な恨みを受けないための配慮、あるいは何かの布石になるのかもしれません。

 

 

「でもそれなら、なんで標的をAクラスにしないのさ?おかしいじゃないか。」

「少しは自分で考えろ。そんなんだから、お前は近所の中学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて愛称をつけられるんだ。」

 

 

 坂本君の呆れた声。いやいやさすがにそんなあだ名はつけられないでしょう?親しみが感じられるとは言え同時に悲しさも覚えちゃいますよ。ねえ吉井君?

 

 

「なっ!そんな半端にリアルな嘘をつかないでよ!」

 

 

 ・・・ん?はんぱに?

 

 

「おっとすまない。近所の小学生か。」

 

「……人違いです。」

「・・・吉井君・・・?」

「まさか……本当に言われたことがあるのか……?」

 

 

 あなたは一体小学生に何をしたんですか…?

 

 

「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりは無い。」

 

 

 さすがに不憫に坂本君は思ったみたいです。私はちょっぴりあくびをしました。あくびをです。

 

 

「そりゃあありがたいね。ねえ平賀君?」

「あ、ああ。しかし…それでいいのか?」

「もちろん、条件がある。」

「ん~、やっぱりかい。話がうますぎるものねえ…」

 

 

 さすがに無償では意味が無いですからねえ…がっかりした素振りをお燐さんが見せても、そこは譲ってはまずいですもの。

 

 

「一応話を聞かせてもらおうか。」

「なに、そんなに大したことじゃない。俺が指示をしたら、窓の外にあるアレを動かなくしてもらいたい。それだけだ。」

 

 

 アレ?坂本君が指さすのは……エアコンの室外機ですね。でも、このクラスにエアコンなんてないのでは―

 

 

「Bクラスの室外機か。」

 

 

 Bクラス?どういうことでしょうか?

 

 

「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨(にら)まれる可能性もあると思うが、そう悪い取引じゃないだろう?」

 

 

 戦争を仕掛けられたクラスが負けた場合、そのクラスは三ヶ月間召喚戦争を仕掛けることが出来ず、仕掛けた方のクラスの設備ですごさなければなりません。そのことを考えると、確かに悪い条件ではないですね。

 

…物を壊すという事に異論を唱えたいのですが、ここは口を挟むときではないみたいです。これからのことを考えて黙認することにしましょう。

 

 

「ふむ…別にいいんじゃないかい?」

「ああ。こちらとしては願ってもない提案だが、なぜそんなことを?」

「次のBクラス戦の作戦に必要なんでな。」

 

 

 次はBクラスですか。なかなか段を踏みますが、それだけ手順がいるということなんでしょうね。Aクラスという集団に勝つためには。

 

 

「へえ?あたいらの次はBクラスかい。勝算はあるのかね?」

「当然だ。でなければここでDクラスと設備を入れ替えて終わってるさ。」

「にゃっはは!それもそうだ!」

「では俺たちは、その提案をありがたく呑ませて貰おう。」

「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行っていいぞ。」

 

 

 ふむ、何の意味があるのかが気になりますけど、どうやら会談は終わりのようですね。FクラスにもDクラスにも悪くはない結末でよかったです!やっぱり恨みとかは買いたくないですよね!

 

 

「ああ。ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願っているよ。」

「ははっ。無理するなよ。勝てっこないと思っているだろ?」

「まあそうだが、可能性が0ってわけでもないみたいだからな。とにかく、Fクラスの健闘を祈ってるよ。」

「あたいも応援してるよ!姫路さん、美鈴さん。あんたらの負担も大きいだろうけど、しっかり頑張んなよ!」

「ええ!頑張って見せますとも!」

「あ、はい!ええ、と・・・?」

「火焔猫(かえんびょう) 燐(りん)!火焔猫とかお燐って呼ばれてるからお好きにどうぞ、ってな!」

「では、お燐さん!私、精一杯頑張ります!」

「にゃはは!んじゃ!あたいらはこれでっ!」

「じゃあ。」

 

 

 手を振りながらお燐さんと平賀君は帰っていきました。

 

 

「きりさめまりさ!今日は楽しかったよ!また勝負しよーね!」

「おお!約束だぜ霊烏路(れいうじ)空(うつほ)!」

「うん!ばいばい!」

 

 

 ニコニコと満面の笑顔で手をぶんぶんと振りながらお空は出て行きました。む、胸が無防備すぎますよお空!ここに鼻血を垂れ流してるムッツリがいるのを忘れていませんか!?忘れるの前に知りませんよね!

 

 

「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくり休んでくれ!解散!」

 

 

 坂本君の号令に、私たちはばらばらと解散をして帰宅準備を始めました。島田さんが目を覚まして、代わりに土屋君が血の海にぶっ倒れたのは別に儀式とかじゃありませんよ!

 

 こうして土屋君はほっときまして、Dクラスとの試召戦争は幕を閉じたのでした。さあて、咲夜さんと家に帰りましょうか!

 

 

 

 

「ねえごりらっ!!アタイ達はいつまで勉強するのよぎゃあ!?」

 

「チルノ貴様!西村先生と呼べと言っているだろう!これで両の指の数を超えたぞっ!」

 

「いったいなあ!じゅ、十回なんてちっちゃいわよ!最強のアタイにはも~っとおっきい数がぴったりなのよさ!」

 

「殴られる回数が増えてふさわしいも何もあるか!そこまでして俺をあだ名で呼んで何のメリットがある!」

 

「西村先生ー。でふぉ、ふぁっき勝負が終わったって言ったのふぁー。ぶぁからそろそろ終わりじゃないふぁー?(もぐもぐ)」

 

「ルーミア・・・確かにその通りだが、ここから出るまでは食事をするな!どこからその菓子を出したんだ!」

 

「あ!ルーミアアタイにもちょーだいちょーだい!」

「わかったー。はいどー」

「だから、ここでは食事をとるんじゃないバカ者共がっ!」

「ありゃー。」

「ああ!こ、この筋肉だるま!あたいのお菓子を返しなさい!ただじゃおかないわよ!」

「菓子のことより貴様の身の安全を考えるべきだと、心優しい西村先生が言っておいてやろう!覚悟しろ!」

「そんなので怖がるアタイじゃないだああああっ!?」

「わー。大丈夫かチルノー?」

 

 

「あ、ああもう…あの2人、仲が良すぎだよ~私じゃ止められないよ~・・・」

 

「そ、そうですわね。大越さん、苦労を察しますわ・・・」

 

「すまん、ウチのチルノが、ルーミアさんに悪影響を与えてしまっているみたいだ。」

 

「・・・初対面の野郎のあなたなんかとは話したくありませんが、その通りですわ。なんとかしてくれませんか?Fクラス田中 勝(まさる)。」

 

「それが出来ないからこの状況なんだ。察してくれ、Dクラス清水 美春。大越(おおこし)冬美(ふゆみ)。」

 

「ご、ごめなさい!でも、も、もう少し頑張ってほしいな~・・・なんて?」

 

「結婚してくれ。」

 

「ふぇっ!?」

 

「間違えた。任せてくれ。」

 

「どどど、どう間違えたらプロポーズすることになるのー!?」

 

「この色ボケ野郎っ!覚悟するのです!」

 

『貴様こんなところでナンパなんぞしてんじゃねえええ!!』

 

「うおおっ!?い、いきなり先の出たシャーペンを投げつけるんじゃねえうおああああ!?」

 

「ちょ、み、美春ちゃん!あとFクラスの皆さん!ここでそんな暴れたらダメ―」

 

「貴様ら!ここは補習室だというのに何を遊んでいるのだ!補習の延長がよっぽど欲しいようだな!」

 

「・・・ぐす。私、泣いてもいいよね・・・?」

 

 

 

 

 

 

「や~、終わった後は開放感がさいこーだね~。」

 

「うん!すっごい分かるよお燐!」

 

「悪い、お燐さん。勝つことが出来なかった・・・いたっ。」

 

「な~に責任を1人でかぶろうとしてんだい。それは参謀のあたいのせいでもあるん

だ。平賀君だけが悪いわけじゃないさね。」

 

「だってさ平賀!良かったね!」

 

「・・・・・・ああ。お燐さんは凄いな。大きいというかなんというか・・・」

 

「あん?それを言うならお空じゃないかい?私のは目をひくほどじゃないと思うけどねえ~。」

 

「・・・待ってくれ。何の事を言ってるんだ?」

 

「へ?胸の事。ほらあたいは平ら、お空は見事は丘がー」

 

「ちち違うぞ!?俺はそんなこと言ったわけじゃないからな!?というかもう少し恥じらいを持って言ってくれ!俺の方が恥ずかしいわ!」

 

「にゃはは!そんなの気にしてたらあたいはむなしさで泣いてたさね!ねえお空!」

 

「うにゅ?う、うん!なんかよく分からないけどそうだね!」

 

「本当に器が大きいなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふええ~、疲れましたよお。」

「お疲れ様。でも勝てて何よりじゃない。」

「坂本君の策と瑞希さんのおかげですよ。いやはやさすがは瑞希さんでした!」

「あなたもじゃないの?美鈴(メイリン)。」

「う~ん、だと嬉しいんですが。」

 

 

 一日も終わって、咲夜さんと一緒に家へと帰宅している最中に、さきほどの試召戦争の話をしました。

 

 でも咲夜さんは、私たちの勝利を聞いてもあまり驚きを見せませんでした。どうも私たちの勝利を信じてくれてたみたいです、Fクラスの一員として姉として、とっても嬉しいですよ!

 

 

「でも、どうしてDクラスの設備と入れ替えなかったの?せっかく良くなるというのに…」

「んー、後々のためとか坂本君は言っていましたね。」

 

 

 Bクラスの室外機を壊すことがAクラス勝利にどうつながるのか、さっぱりわかりませんけどね。

 

 

「後々?ということはまたどこかのクラスに勝負を仕掛けるつもりなの?」

「ええ、一応Aクラスを目標という事で…あ。」

「へえ~?Aクラスが?」

 

 しし、しまったああ!咲夜さんはAクラスじゃないですかあああ!?つい世間話をする流れで言ってしまいましたー!

 

 

「私たちに勝負を挑むと?これは面白いわね。」

 

 

 あ、ああ咲夜さんがとても獰猛(どうもう)な笑顔を浮かべてますよおおお!

 

 

「あ、あのあの咲夜さん。この事は私と咲夜さんでの秘密でお願いしますっ!」

「あら、どうしようかしら?一応Aクラスの一員なんだから代表に言う必要はあると思うのだけど。」

 

 

 う~、せ、正論ですっ!で、でももしもそれでAクラスが何か対策をたててしまったら思い切り私のせいになっちゃいます!クラスの皆さんを裏切るようなことはしたくないですよ~!

 

「さ、咲夜しゃ~ん・・・!」

「・・・もう、分かったわ。誰にも言わないからそんなチワワみたいな目で見つめないで。」

「~!さすが咲夜さぶきゃ!?」

「・・・あ、暑苦しいから抱き着かないでちょうだい。」

 

 

 こ、このハグが防がれ続けてどれぐらいですかね?成功していたころがもうあの空の彼方にいきかけてますよ。近くにいたおばあちゃんたちが私の行動にくすくす笑ってます・・・

 

 

「でも、本気なの?いくらあなたと姫路さんがいるからって、さすがに不可能だと思うけど。もちろん手加減なんかしないわよ?」

「さ、さあ。坂本君は自信がありそうでしたけど…」

 

 

 私にも勝ちたいって気持ちはありますけど、咲夜さんが頑張って入ったクラスを乗っ取るというのは、あんまり気が進まないのも事実なんですよねえ…困ったジレンマですよ。

 

 と、そうこうしているうちに我が家に到着です。

 

 

「よいしょ、ただいまー。」

「ただいま。」

 

 

 ガラガラと音をたてて引き戸をあける。は~、家に帰ってくると一日の終わりって実感しますねえ。

 

 

 

ばたばた……

 

 

 

お、この足音は……あの子達ですね♪

 

 

 

 

 

 

 

「めーりん!さくや!おかえり~!」

「お、遅いっ!もっと早く帰ってきなさいよ!」

 

 

 

 

 居間からやってきたのは小さな二人の女の子。まだ春休み中の小学生で、私たちの家族でした。

 

 

 

 

「ただいまフラン!遅くなってごめんねレミィ?」

「べ、別にさみしくなかったもん!お腹がすいたから早く帰ってきてほしいって思っただけなんだから!」

「そっかあ、ごめんねレミィ。」

 

 

 プイッと横に顔を向ける彼女は、レミリア・スカーレット。少し意地っ張りな所もありますがそこがいじらしい女の子!

 

 そんな彼女の鮮やかな水色の髪の頭を撫でながら私は謝ります。ちなみにレミィとは、『レミリア』から私たちが付けさせてもらった愛称です!可愛いですよね!?

 

 

「さくやー、学校はどうだった?」

「ええ、とても楽しかったわ。フラン達も良い子にしてた?」

「うんっ!」

「そう、偉いわよ♪」

「えへへ!」

 

 

 さくやさんと話しているのはそのレミィの妹、フランドール・スカーレット。姉とは変わって、明るい金色の髪をした彼女は満面の笑みで咲夜さんに抱き着いています。

 

 

 わ、私はだめだったのにフランはOKですと!?一体どうしてですか咲夜さん!

 

 

「め、めーりん!お腹すいた!」

「あっ、ごめんごめん!」

 

 

 このことはまたあとで咲夜さんに聞くとしましょう。まずはやることをやる必要がありますね!

 

 

「じゃあ今から作るからちょっと待ってくださいね?」

 

 

 お父さんは単身赴任で家にはおらず、母さんはお仕事のため少し遅めに帰ってくるのがだいたいの流れである我が家では、咲夜さんと私がレミィ達の相手をしたり家事をこなすことになっています。

 

 でも、それを苦だなんて思いません!母さんたちは私たちのために働いているのだし、妹の世話をするのが姉のお仕事なのですから!

 

 

「咲夜さん。私がご飯を準備しますので、お風呂の準備と朝干してった洗濯物を中に入れておいてくれませんか?」

 

 

 今日は天気が良かったから充分乾いてるでしょう。それならカーペットも干しておけばよかったですね。ばたついていたからうっかり忘れてました。

 

 

「わかった。それじゃ行ってくるわ。」

「あっ!フランも手伝うっ!」

「あら、じゃあお願いするわ。行きましょ?」

「うん!」

 

 

 フランの手を引いて咲夜さんは居間を出ました。残っているのは私とレミィだけ。そのレミィはきょろきょろと周りを見ていました。

 

 

「う、う~・・・。」

 

 

 あらら。妹が手伝っているのを見て、自分も何かを手伝いたいんですかね。その健気な気持ち、しっかり伝わりました!

 

 

「レミィ、ちょっと私のお手伝いをしてくれる?」

「・・・!ふ、ふん!仕方ないけど手伝うわ!」

 

 

 嬉しそうな顔を一瞬だけ見せましたが、すぐにいつもの強気な顔に。あまり見せたくないんでしょうけど恥ずかしがることなんかありませんよ♪

 

 私はいじらしいレミィの小さな頭をくしくしと撫でます。ほんと、良い子ですね。

 

 

「レミィ、ありがとうねー?」

「…うん。」

 

 

 下を向いて顔は見えなくなりましたが、きっと照れているんでしょう。少しだけ見えるほっぺたが赤くなっていますもの!

 

 

「さてっ!」

 

 

 でも、レミィやフラン、そして咲夜さんが可愛いのはいつものこと!明日用のお弁当も作ったりとあまり時間もないから、ぱっぱと動いていかないとですね!

 

 私はレミィの手を握って台所に向かいます。まずは冷蔵庫の中身の確認ですね!

 

 

 

 

 

「よっと、ただいまあー。」

 

 

「あ、お帰り母さん。」

 

 

 晩御飯を食べ始めて数十分。私たちが唐揚げやおかずとかを箸に取ってわいわいしているときに、母さんがリビングに入ってきました。

  

 

 骨盤あたりまで伸びた長く、薄色の金の髪。お腹はスラリと、胸は服の上からでも分かるほど豊満な抜群のプロポーション。そして、決して自分の信念を曲げない、という意思が表れているかのように思える激しく熱のある赤の瞳。

 

 そんな特徴の母さんは、年と容貌が全く釣り合っていないと思えます。あっ、当然〝年の割には若い〟の方ですよ?

 

 

「お帰りなさい。」

「お帰りー!」

「お、お帰りっ!」

 

 

 4人それぞれが迎えの言葉をかけます。母さんは力強く笑ってそれに応えます。

 

 

「おう!夕飯の支度とかいつも悪いな、美鈴、咲夜。」

「ううん。気にしないで。母さんだって頑張ってくれてるんだからおあいこよ。」

「そうね。私達もお母さんの助けになりたいもの。」

「・・・ありがとう!、その言葉に甘えさせてもらうよ。」

 

 

 あ、ああ別に頭を下げなくてもいいって!感謝してくれるのは嬉しいけど逆にこっちが悪い気になっちゃうから! 

 

 

「か、母さんはいつも律儀すぎるわよ!頭をあげてってば!」

「おいおい、恩を感じたらきちんと礼をする。これは人の礼儀として当たり前の事さ。ましてや娘なんだから、私にかっこをつけさせてやっとくれよ。」

「こ、これ以上かっこよくなってどうするの!?」

 

 

 ずっと一緒にいるんだから、母さんが男勝りなかっこいいところなんて何度も見て見てきたわよ!?もう!母さんの凛々しさは天井知らずか!

 

 

「代わりに、休みの日は私に任せてくれ。食事から掃除やら遊び相手だって何でも引き受ける!」

「そこはお母さんがしっかり休むところでしょ。」

「そうよ!ご飯とかは頼むかもしれないけど無理はしないでよ!?」

 

 

 なんだか本当に言われたことを全部こなしそうで不安なのよ~!母さんはほんとに行動的なんだから!

 

 

「あっはっはっは!まあ私の時間だから私の自由さ!そこに関しては立ち入りはさせないよ!」

「じゃあ!じゃあフランと遊んでくれるの!?」

「おうとも。疲れ果てるまで遊んであげようじゃないか!」

「あ、わ、私とも・・・ええと、うう~…」

「何でも構わないよレミィ!レミィがしたいことを私が全部かなえてやる!」

「!!と、と、当然よ!しっかり埋め合わせはしてもらうんだから!」

「はっはっは!それはやる気を出さないとな!」

 

 

 ああ…レミィとフランが母さんに頼んじゃった。2人には全く非が無いんだけど、どうかほどほどにしてあげてね…?母さん張り切りすぎちゃうから!

 

「さてと、じゃあすまないが、先に私は風呂に入らせてもらおうかな。」

「あ、じゃあ着替えを出しとこうか?」

「助かるねえ。じゃあ、頼んだよ美鈴。」

 

 

 とすとすと音をたてて母さんは風呂場へ向かいました。さて、母さんの着替えはどれだったか・・・ 

 

 

「ええと…これとこれですかね。」

 

 

 私のではないオレンジ色の下着上下を手に取る。でもこれ、本当に母さんのですかね?レミィとフランのではないでしょうけど、咲夜さんの物ということはあり得ますよね?一応聞いておきましょうか。

 

 

「咲夜さん。」

「ほらフラン、もう少しきれいに食べなさい。…あ、ごめん美鈴。何かしら。」

 

 

 口元を汚したフランをティッシュで拭いてあげる咲夜さんに、手に持ったブラジャーを見せて尋ねました。

「これ、咲夜さんのではないですよね?」

「・・・・・・喧嘩を売ってるのかしらあ?」

「へ!?」

「はぶっ!?さ、さくや痛い!?」

 

 

 な、なぜか咲夜さんが怒り状態に!?でも咲夜さんの拭く力が強まって痛がってるフランはとばっちりだと分かります!

 

 

「あ、あの咲夜さん。私は何をしちゃいました―」

「胸のサイズを考えたら分かるでしょうがあああああ!!」

「ひいいっ!咲夜さんのバストサイズなんて知りませんよおおおおお!」

 

 今日のトップニュース。咲夜さんの胸は小さかったみたいです。咲夜さん!女の魅力は胸なんかじゃありません!だからそんなにさめざめと泣かないで!?

 

 

 

「(ごくっごっごっご・・・)―――っくはあ~っ!やっぱり仕事が終わって風呂上がりのこれはたまんないね~!」

「それはいいんだけど、あまり飲みすぎると体に良くないわよお母さん。」

「なあに。まだ入れ始めたばかりだから大丈夫さ。」

「私の目には空き缶が8つほど見えるんですけど…」

 

 

 8缶ぐらいならまだまだ軽いんでしょうか?お酒は飲んだことないからよくわかりません。

 

 

 母さん、私、咲夜さんの順で脚の短いテーブルに腰を降ろして座って会話をしているところです。レミィとフランは時間も頃合いだったので布団の中です。

 

 

「で、初日の学校はどうだった?」

「よかったわ!なかなかユニークな人達が揃っててこれからが楽しみね。」

 

 

 魔理沙にチルノに瑞希さんに島田さんに吉井君に秀吉君に坂本君に土屋君・・・ってほんとに多いっ!それプラスまだ知らない人もいるだろうから、その濃さは計り知れない!

 

 

「ほー!それは良かったじゃない!で、咲夜は?」

「ええ、私も楽しくやれそうよ。」

「はっはっは!そうかいそうかい!それならいいんだ。」

 

 

 またもぐいっと一杯。ほんとにお酒が好きなんだから。ご飯もバランス良くしっかり食べてほしいなー。

 

 

「・・・ああそうだ。確か文月学園に・・・2人とも、高橋(たかはし)洋子(ようこ)って先生がいなかったか?」

「高橋先生?」

 

 

 確か学年主任の先生だったような…見たことはあると思うんですけど、ちょっと忘れ気味かも・・・

 

 

「高橋先生なら私の担任だけど、どうしたの?」

 

 

 おお、ということはAクラスを持っているという事ですか。ピシッとしたキャリアウーマンみたいな像が浮かび上がりましたよ。

 

 

「丁度いい。ちょっと言伝(ことづて)を頼まれてくれないか。」

 

 

 え、母さんは高橋先生と知りあい?高橋先生は今年赴任してきたそうだけど……ひょっとして同級生とか?

 

 

「?なんて言えばいいの?」

「まあ内容は世間話なんだけどな。」

 

 

 こくりと、今度は控えめに一口。そして笑顔で母さんは、

 

 

 

「―また一緒に飲もう。って星熊(ほしぐま) 勇儀(ゆうぎ)が言ってたって伝えといてくれ。」

「分かったわ。」

 

 咲夜さんに伝えました。

 

 

 

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ……ぐうぅぅぅ……」

「・・・・・・いや、いつものことだけど・・・どれだけ飲んでるのよ、母さん。」

「10何個かの缶に加えて一升瓶数本・・・これって、普通なの?」

「そ、そうなんでしょうか・・・?」

 

(※酒豪のレベルを軽く超えてます。よいこのあなた達はまねをしないでください。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!今回はオリジナル回が多くなりました!


 今回の登場キャラクターは、遂にというかなんというか、紅魔館の吸血鬼姉妹!レミリアスカーレットとフランドールスカーレット!

 そして、村雪の大好きなキャラクターの1人!鬼の四天王の星熊勇義の三人でございます!

 主である2人が妹ポジションということや、全く関係のない勇義姐さんが義理の母親(あ、ちょっとネタばれになるかも…?)になっていることに大いになぜ!?と思われるかもしれませんが、作者の趣味丸出しゆえの結果です!割り切ったってください!

 途中でじゃっかんオリジナルキャラらしい2人が出てきましたが、この二人が主要メンバーに加わるというのは無いと思います1あくまでモブに焦点を当てただけですので!

 それではまた次回!たぶんお弁当会ですよー!


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昼食―温和、な空間が一転して凄絶な現場へ!?

 どうも!村雪でございます!ちょっと早めにできましたので投稿させてもらいます!



--ごゆっくりお読みください。


「おはよーございまーす!」

 

 

 高橋先生の新たな一面を知った翌日。いつも通り咲夜さんと登校して分かれて、Fクラスに着きました。昨日の消費した分の点数をしっかり回復させなくてはですね!

 

 

「お、早いな紅」

 

「坂本君も早いですね?」

 

「テスト前の悪あがきって奴さ」

 

 

 手には英語の教科書が。私もよくしましたね~!きっと効果はありますよ!

 

 

「お、おはようございます…」

 

「はい、瑞希さんもおはよ・・うう?」

 

 

 ん、んん?な、なんだか瑞希さんの顔色が悪いような気がしますよ?

 

 

「み、瑞希さん?何か病気にかかったんですか?」

 

「…え~とですね」

 

「なんでも、変なものを食っちまってやられたみたいだそうだ」

 

「あ、あはは。じ、実はそうなんですぅ~…」

 

「そ、そう…ですか」

 

 

 メ、メチャクチャ泣くのをこらえてるように見えるんですけど…痛みのせいって考えて良いんですよね?なら薬を飲んでおくことをおすすめします!あるいは保健室ですね!我慢したら体に毒ですよ!

 

 

「姫路、無理はするなよ?お前は昨日の戦争で点数は消費をしていないんだから、補充テストを受けなくてもいいしな」

 

「あ、き、きっと大丈夫ですっ」

 

 

 昨日の瑞希さんが召喚獣を受かった場面は最後の不意打ちの時のみ。つまり全く点数は削られていないので、瑞希さんには補充の必要がないということです。

 逆に言えば、消費した人は全員受けないといけないのですけどね。

 

 

「坂本君。Dクラスの設備のことは皆に何も言われなかったのですか??」

 

 

 補習室に行ったりしてまで払った対価が、何も無かったのでは不満も溢れるでしょうけど、そこら辺は大丈夫なのでしょうか?

 

 

「ああ、皆にもきちんと説明をしたからな。問題ない」

 

「なるほど。ちゃんと考えてるんですね」

 

 

 昨日の坂本君の働きを評価したんでしょう。もし本当にAクラスに行けるのなら、Dクラスに用はありませんものね。・・・まあ、保険の意味で変えておくのも一手だったのかもしれませんけども。

 

 

「おはよう、雄二、姫路さんに美鈴さん」

 

「ん?おう、明久か」

 

「あ、おはようございますー!」

 

「おはようございます、吉井君」

 

 

 おっと、おバカだけど憎めない吉井君の登場です。そして、その背後に近づく女の子が1人。

 

 

「吉井」

 

「あ、島田さん。もう大丈夫なの?」

 

 

 ルーミアさんの召喚獣が原因で気を失ったそうな島田さんです。その顔は少し恥ずかしそうでした。

 

 

「う、うん。まあね。ちょっと夢に出て怖かったけど…」

 

「へ?」

 

「あ~、確かにあの攻撃は怖いですよねー」

 

「き、聞いてんじゃないわよ美鈴(メイリン)!」

 

 

 ええ!?言ってきたのは島田さんじゃないですか!?

 

 

「…あ、あのね?吉井」

 

 

 ん?島田さんの照れ隠しに怒った顔から、最初の女の子らしい表情へと移りましたよ?

 

 

「ん?なに?」

 

 

 あっちへうろうろこっちへうろうろ。何度か視線を左右に移した後に、島田さんは吉井君を見て、

 

 

「き、昨日ウチを運ぶように須川に言ってくれて………あ、あ、あり『よお吉井!』魔理沙(まりさ)あぁっ!」

 

 

・・・何かを言おうとする前に、元気な声での乱入者です。島田さんは妨害人、魔理沙に

どなります。

 

 

「うえっ!?いきなりなんだよ美波?」

 

「なんだじゃないわよ!むしろいきなりあんたこそなによ!せ、せっかくきちんと言おうとしたのに……!」

 

「・・・ははあん?昨日の事か?確かに、ずうっと気絶してたもんなー。お礼はきちんというべきだぜ!」

 

「わ、わかってるわよ!それをあんたが―!」

 

「ところで吉井、こんなとこにいていいのか?」

 

「ウ、ウチの話を聞きなさいこらぁっ!」

 

 

 あ、あいかわらずマイペースですね魔理沙。私も何度それに泣きを見たことやらや・・・!

 

 

「え?どういうこと霧雨さん?」

 

「おいおい、わたしの事は魔理沙って呼んでくれって昨日も・・・って、もしかして吉井はいなかったっけか?」

 

「んー。僕は初めて聞いた気がするよ?」

 

「そうか。なら今度からは魔理沙って呼んでくれ」

 

「う、うん。わかったよ魔理沙」

 

「おう!」

 

 

 にかっと魔理沙は笑います。魔理沙は人懐っこい子ですから、できるだけフレンドリーに呼んでほしかったんでしょうねー!何となく私も分かります!

 

 

「それで、魔理沙。さっきのはどういう意味なのさ?」

 

「まんまの意味だぜ。このままここにいていいのかってことだ」

 

「??なにかあったっけ?」

 

 

 吉井君に思い当たることはないみたいです。

 

 

 う~ん、今日の一時間目は・・・あっ!

 

 

 

「だってよ、今日の一時間目は化学―」

 

 

 

バギャドガァッ!

 

 

『!!?』

 

 突然起こった大音。皆が一斉に音源を探し始めます!ま、まさか!?

 

 

 

 

 

「………貴様か…吉井明ヒサァア…!!」

 

 

 地獄の鬼の声とは、これのことかと思いました。

 

 

 

 扉だったものをベギベギと踏み潰しながら、ゆらりゆらりと教室の中へと踏み入る鬼!は、背後に尻尾みたいなオーラががざわざわと逆立っています!?

 

 ギロリと心臓を止めそうな鋭い目で、あまりの剣幕で動けなくなった私たちを睨み回し、私たちの方を見てさらに目を鋭くヒイィッ!?

 

 

「…………あ、あ、あのですねねねっやや、や、や、八雲(やくも)先生。ききっ、昨日の放

送はででたらめでしてってて・・・!!!!」

 

 

九尾の妖狐と化した化学担当の先生、八雲 藍(らん)先生に見られた吉井君はガタガタぶるぶる。そして私達もあわあわあわあわです!あ、あわわ…!

 

 

 

 

「ぼ、僕が橙(チェン)ちゃんと結婚したいというのは真っ赤なウソ」

 

「貴様なんぞに橙をやるかあああああああ!!」

 

「いやあああああああっっ!!」

 

 

 

 

 2人の真剣な鬼ごっこは幕を開けました。ああ、2人とも足が速いからもう見えなくなりましたよ・・・

 

 

「……今日の化学のテストは監督がいないかもしれませんね」

 

「だな」

 

「まあ気楽に受けれるからラッキーだぜ」

 

「そ、それよりも吉井の心配をしなさいあんた達!」

 

「で、ですよね…はうっ。ま、また・・・」

 

 

 お腹をさする瑞希さん。まずは自分の身の事を優先しましょうねー。きっと吉井君は大丈夫ですよ!たぶん!

 

 

 さ!私は化学の復習をやっときましょうかね!これが学生として正しい姿勢なのですよ!

 

 

 

『待て吉井明久あああああっ!!』

 

『そっちが待ってください八雲先生いいぃっ!僕はっ・・・、ほんとにっ!橙ちゃんとっ、結婚する気なんかっ!これっぽっちもないんですよおおお!!』

 

『橙なんか、と…!?きっさまあああ!橙をたぶらかした上に侮辱をするとは何様だああああああ!!』

 

『さ、さらに早くなったあああ!?聞き間違いですよおおおおっ!!』

 

『二度と橙を侮辱出来ぬよう!私がその喉笛掻っ切ってくれるわああああ!』

 

『いやああ助けてえええええええええ!!』

 

 

 

 

 

「・・・死んだ」

 

「ど、どうもお疲れさまでした!」

 

 

 昼休み、陽気になるはずの時間なのに吉井君はぐったりしていました。あの後、鬼ごっこの果てに八雲先生に捕まったみたいです。残念、私の信用はダメみたいでした。

 

 で、その後に補充試験を受けることになったのですから、そりゃー疲れますよね!心身ダブルパンチです。

 

 

「うむ、ご苦労様なのじゃ明久」

 

 

 労う秀吉君、はなぜか髪を後ろでまとめたポニーテール。非常に似合ってますから対応に困りますね!?

 

 

「して、八雲先生は許してくれたのかの?」

 

「うん。捕まってタコ殴りにされた後に、『金輪際、橙ちゃんのことを話したり視界に入れたりしませんので許してください!』って土下座したら、八雲先生も頭を踏みながら許してくれたよ」

 

 

「タコ殴りにされた時点で既に制裁は済んでおらんか…?」

 

「や、八雲先生の愛が凄まじいですね・・・」

 

 

 それはもはや謝罪の意味がないのでは・・・八雲先生が橙ちゃんを結婚させるときは来るのでしょうか?

 

 

「…ぜひ、そこまでして可愛がる橙をこのカメラに収めたい」

 

「やめておきなさい」

 

「間違いなくお主の命が散るぞい」

 

 

 カメラマンの情熱という奴でしょうか。命は大事にしましょう!

 

 

「よし、昼飯食いに行くぞ!今日はラーメンとかつ丼と炒飯(チャーハン)にすっかな」

 

 

 坂本君は立ち上がって食べるものを言ってきますが、絶対一人前の量ではないです。軽く私達姉妹で丁度な気がします。

 

 

「って、ちょいお待ちを坂本君っ!」

 

「おおっ?どうした」

 

 

 それをされちゃいましたら、私の努力が水の泡になっちゃいますよ!

 

 

「ほら、昨日お弁当を作るって言ってたじゃないですか。良かったら皆さんで一緒に食べませんか?」

 

「ええ!?美鈴(メイリン)さん本当に作ってくれたの!?」

 

「有言実行が私の流儀ですからね!で、どうです?」

 

「んじゃ遠慮なくいただくか。なあ明久?」

 

「もちろんだよ!ありがとう美鈴さん!これで僕はもう少し長生きできるよ!」

 

 

 が、餓死を想定する高校生って・・・この飽食の時代に稀すぎる存在ですね。

 

 

「わしもありがたく頂戴するのじゃ」

 

「…馳走になる」

 

「はいどうぞ!」

 

 

 なんだかんだで多めに作っちゃいましたから、まだ何人かは行けると思います!なので―

 

 

「チルノ、魔理沙、瑞希さん、島田さん!よかったら私のお弁当、一緒にどうです?」

 

「おお!くうわよっ!」

 

「あ、じゃあ一緒させてもらおっかな?」

 

「お!遠慮なくいただくぜ!」

 

 

 

 嬉しそうに参加してくる3人!いやー、よろこんでもらえて嬉しいです―――3人?あれ、そう言えば瑞希さんは?

 

 

「瑞希さん、よかったらどうです?」

 

「・・・・え、ええっと・・・」

 

 

 後ろの後ろの席にいる瑞希さんはなぜか視線をきょろきょろさせています。何かを探しているのでしょうか?

 

 

「・・・・そ、それじゃあご一緒させてもらい―」

 

「あ!そーいえばみずきも弁当を作ってくれるんだったっけ?」

 

「っ!!!」

 

 

 あ、そう言えば――って、瑞希さん?チルノの言葉に思い切り肩をビクンとさせてどうしたのでしょう?

 

「・・・・あ、あう、そ、それなんですけど…」

 

「?」

 

 

 なんだかまた瑞希さんの顔色が悪くなってきたような・・・朝の腹痛の再発ですかね?

 

 

「あ、姫路さん。もしかして作ってくるのを忘れたの?」

 

「!そっ、そうなんです!実は今日お弁当を作ってくるのを忘れてしまいまして…」

 

 

 あ~なるほど。うっかり忘れる事なんて誰でもありますから仕方ありませんねー。

 

 

「ん?じゃあこの大きな包みは何だぜ?」

 

「・・・っ!?まま、魔理沙ちゃん!」

 

 

 悲鳴に近い声を上げる瑞希さんが見るのは、瑞希さんのカバンを開けて何やら大きな袋を持つ魔理沙。こらっ!またあなたは人の物を勝手に漁(あさ)って!

 

 

「けっこう重いし、何か食い物のにおいもするしな」

 

 

 悪びれることなく魔理沙は瑞希さんに問いかける。全くもう!魔理沙はその癖をなおすべきです!

 

 

「そ、それは、その・・・」

 

「もしかして紅の弁当があるから量は十分って思ったのか?だが、この人数だから姫路の弁当があっても全然問題ないぞ?」

 

「うんうん、何なら僕が全部食べてもいいよ」

 

「…成長期の男子の食欲は凄まじい」

 

「わ、わしはそこまでじゃが…しっかり出されたものは食べるぞい」

 

 

 う~ん。男子が4人、女子が5人。9人で食べるには確かに量が少ないかもしれないですね。姫路さんのお弁当があっても余裕に入るんじゃないでしょうか?

 

 

「あう、で、でも―!」

 

「みずき!あんたの弁当はあたいがありがたくもらうわ!」

「だな!んじゃあせっかくだし屋上で食おうぜ!」

 

 

 なるほど!それはいい考えですね!

 

 

「あ、ま、待ってくださ」

 

 

「そうだな。じゃあ俺は飲み物でも買ってくるか。昨日の頑張りの礼も含めてな」

 

「でしたら私も付き合いますよ。1人ではきついでしょう?」

 

「あ、美鈴はお弁当を作ってくれたんだからウチが行くわ」

 

「そうですか?ではお願いします!」

 

「オッケー。じゃあ行きましょ、坂本」

 

「ああ、頼んだ」

 

「じゃあ僕たちは先に行ってるよ」

 

「そうじゃな」

 

「きちんと俺達の分もとっておけよ」

 

「大丈夫だってば。あまり遅いとわからないけどね」

 

「安心しなさい!アタイがその間に食べておいてあげるわ!」

 

「一体何が安心の材料になるんだ!?」

 

「だ、大丈夫ですよ坂本君。さすがにそこまで時間はかからないでしょう?」

 

「そのつもりだ。しっかり管理を頼むぞ紅」

 

「了解!」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「ウチの分も残しておいてよー?」

 

 

 

 2人はそこで区切って一階の売店へ向かいました。

 

 

「―では、わしらも行くかの」

 

「だな!よっと、結構重たいぜこいつぁ!」

 

「あー、アタイよだれが出そうだわ!」

 

「出てる!すでに出てて女の子が見せてはいけない顔になってるよチルノ!」

 

「あら、珍しいものを見れて感謝するのねよしー」

 

「そんなもの見て喜べないよ!」

 

「…これはこれで、売れる」

 

「そ、そうなの?僕には全く分からない価値観だなぁ~…」

 

 

 ぞろぞろと出ていく5人。私達も向かわないといけませんね!

 

 

「よいしょ、行きましょうか瑞希さん?」

 

 

 手に大きな包みを持って私は立ち上がります。皆さんが喜んでくれますよーに!

 

 

「………………は、はいぃ」

 

 

 瑞希さん!全員きっと食べてくれるから、そんなダム決壊寸前の顔をする必要はありませんって!

 

 

 

 

 

 

「おー。良い風がふいてやがるぜー」

 

「確かにのう。天気も良くて何よりじゃ」

 

「あたいはお腹すいたわ!早く食べるわよ!」

 

「少しは待つという事を覚えなさい!」

 

「えー、けち!」

 

 

 だ、誰がけちですか!そんなこと言う子にはあげませんよ!?

 

 

「と、とにかく!ビニールシートも持ってきましたからここに座りましょう!」

 

 

 一応どこでも食べられるように持ってきていたのですが正解でしたね。一応屋外ですから服が汚れちゃいますもの!

 

 

「準備がいいな美鈴。よっと」

 

「ふー。気持ちいいねー」

 

「………(こくり)」

 

 

 天気、風、気温!どれをとっても最高の屋外昼食日和ですね!さてあとは2人を待つだけ

 

 

「めーりん!早く開けて開けて!」

 

「そうだな、じらす女は嫌われるぜ?」

 

「そうだよ!早く僕に栄養補給をさせて!」

 

「……(こくこく)」

 

 

「友達思いな人は皆無ですか!」

 

 

 もうっ!、皆がそろって食べようとしてたんですが……!……まあ、結果は一緒ですかね?

 

 

「はいはい、少々お待ちをーっと」

 

 

 右に置いていた袋を取り、しゅるりと結び目をほどきました。そこにはでんと鎮座する三段の重箱が。見た目が豪華で気に入ってるんですよね私!

 

 

「・・・ふふん。例え箱ではったりを効かせてもアタイには無意味よ」

 

「全くだね。残念だけど僕にとって大事なのは外より中だよ。これじゃあ僕の舌はうならないよ」

 

「お前ら、ヨダレを垂らしたり舌を垂らしたりするんならあっち行け。かなり目障りだぜ」

 

「し、辛辣じゃな魔理沙」

 

「当然だろ?なんせ食欲を下げられちゃあ私の食える量が減るんだからな。汚いものにはふたを、だぜ」

 

「………要は自分が多く食べたいだけ」

 

「まあそうだぜ!」

 

「…お主も、明久たちと食という欲望が根幹にある点では変わらんのじゃな」

 

 

 

 ふむ、とりあえず評価は悪くなさそうです!

 

 ではここでいきましょう!

 

 

「はい、とりあえず御開帳(ごかいちょう)ーっ!」

 

 

 パカリとふたを開けました。

 

 

 

「「「「おおっ!」」」」

 

「…!!」

 

 

 ふふん!どうです!ドヤ顔かましちゃいますよ!

 

 

 

「や、やるわねメーリン!褒めてあげるわ!」

 

「な、なんでそんなに尊厳なのかは知りませんけど、一応受け取っときます」

 

「玉子焼きにベーコン巻きに…これはエビチリじゃな?」

 

「ええ、丁度エビがあったんで作ってみました」

 

 

 少し辛めにしてますから舌に合うかは皆さんの好み次第です!

 

 

「……唐揚げ、焼きそば、焼豚。中々のもの」

 

「おにぎりもあるし…うう!こんなにお昼に夢が溢れたのは初めてだっ!!」

 

 

 ついでに涙も溢れる吉井君。ともかく好評のようです!はっはっはー!どうですか!

 

 

「手が込んでるなー。私はお腹が膨れればそれでいいと思う派だぜ」

 

「まあそうですけど見た目は見た目で大事なんですよ。なら魔理沙は食べませんか?」

 

「わー待った待った!もっ、もちろん食べるぜ!」

 

 

 素直で結構です。まあどちらにせよ食べさせてあげていましたけどね!

 

 

 

「じゃ、紙皿と割りばしがあるんでこれで好きな物を取っていって下さ「いただくわっ!」いってチルノォ!?」

 

 

 お、おにぎりならまだしもエビチリを素手で取るってあなた手ぇ洗ってるんでしょうねえ!?

 

 

「チルノ!独り占めしようたってそうはさせないぞ!」

 

「ちょ、吉井君!あんたも何素手でエビチリ食っちゃってるんですか!」

 

 

 さっき床に手をついてまいしたよね!!手を洗ってないままここに来てたでしょう!?エビチリを台無しにする気ですか!

 

 

「私も忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

 

「うぉい!?あなたも一緒に乗るんじゃないですよ魔理沙-っ!?」

 

 

 見た目が子どものチルノと違ってあなたは立派な女子なんですから!節操をわきまえなさいぃ!?

 

 

「………(ひょいパクひょいパクひょいパク)」

 

「土屋君は一気に口に唐揚げを入れすぎです!もっと味わって―じゃなくって!!皆フライングしすぎです!秀吉君と瑞希さんを見習いなさい!ほら、何も手を出そうとしてないでしょう!?」

 

 

「……う、む・・・(スッ)」

 

「……は、はい・・・(スッ)」

 

 

 慌てて手を引っ込める秀吉君、瑞希さんがそこにはいました。ブルータスに裏切られたカエサルもこんな気持ちだったんでしょうか。

 

 

「・・・・あーもう!全員!ちょっと一回止まりなさいっ!」

 

 

 この時点で弁当の五分の一は消え去りました。

 

 

 

 

 

 

「―――はい。どうぞ皆さん召し上がってください」

 

『いただきます』

 

 

 

 紙皿と割りばしを渡して再スタート。皆がどんどんと紙皿の上に獲得品を置いていきます。

 

 

「……明久、それは俺の唐揚げ」

 

「ムッツリーニは唐揚げを食べすぎだよ!僕なんてまだ一つも食べてないのに、少しは控えるべきだ!」

 

「……おにぎりを何個も取っている明久に言われる筋合いはない」

 

 

 

「あむ、んぐっ、おいひー!」

 

「確かにおいしいのう…じゃがチルノ。口元がもの凄いことになっておるからこれで拭くと良い」

 

「あんがとひでよし!あんたはいい嫁になるわ!」

 

「そこは婿(むこ)の間違いじゃろう!?」

 

「アタイの目に狂いは無いわ!」

 

「大いに狂っておるのじゃ!」

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん?どーしたんだ瑞希?玉子焼きを食った途端に遠い目になったぜ?」

 

「……あ、はは。ちょっと、羨ましいなあって思っちゃいまして…」

 

「あん?よく分からんけど、おにぎりでも食って元気出せよ。うまかったぞ?」

 

「多分、もっと羨ましく思っちゃいますっ」

 

「んん?」

 

 

 

 お、おお。凄い勢いでおかずが減っていきますよ!?まだ2人参加していないことを忘れていませんか!?

 

 

「あの、食べてくれるのは嬉しいんですけど、まだ島田さんと坂本君が来ていないのでもう少しペースをですね」

 

 

 

「ムッツリーニ!そのおにぎりを返すんだ!」

 

「……お前こそ俺の唐揚げを返せ、明久・・・!」

 

 

 

「ひでよし!このベーコンはアタイが食べるからこっちのアスパラはあんたが食べるのよ!」

 

「手間をかけてまで別々にして、仕方ない奴じゃなあ…好き嫌いは良くないぞい?」

 

「嫌いじゃないわ!毒があって食べられないからよ!」

 

「事実ではないと分かっておるが、なんというものをわしによこしとるんじゃ!」

 

 

 

「ふ~、美鈴は相変らず料理が上手いからくやしいぜ」

 

「相変わらずって、魔理沙ちゃんは美鈴さんのお弁当を食べたことがあるんですか?」

 

「おお、弁当って言うかまあ近所の付き合いでよく一緒に食ったりしてなー」

 

 

 

「・・・あ、あのお~…」

 

 

 おかず、二分の一消失。大食い選手権でもないのにどうしてそんなに一気に食べていくのでしょう・・・ここにあるだけで全部なんですよ!?坂本君の約束の手前、空(から)の重箱でお出迎えするわけにはいかないのですけどお!?

 

 

 

「ストーップ!ストオオオオオオオップ!!!」

 

 

「ああっ!僕のお弁当があ!」

 

「……違う、俺の食糧」

 

「あ~!?メーリン!アタイのお昼を取り上げて何のつもり!?」

 

「いや、お主らの誰でもなく紅(ホン)の物じゃろうが」

 

「おいおい美鈴~。私はまだ食べたりないぜ?」

 

「ま、魔理沙ちゃん。まずはそのお皿のおかずを食べた方が良いんじゃないでしょうか…」

 

 

 業を煮やした私は重箱を取り上げました!全く、皆さん食べるの早すぎです!そして魔理沙は紙皿に乗っけすぎです!もう紙皿がベコンって折れかけてるし!

 

 

「まだ島田さんと坂本君の分が要るんです!ひとまずここでセーブしてください!」

 

「え~!」

 

「チルノは文句を言わないの!」

 

「…残念」

 

「え、栄養が…」

 

「ひ、悲壮感溢れる顔でこっちを見てもダメです吉井君!」

 

 

 あれだけ食べたんだから栄養は十分採れたでしょうが!

 

 2人が諦めきれずにこちらをじーっと見てくるのを重箱を抱えて私が我慢しているとき、魔理沙が口を開きました。

 

 

「―お、じゃあそろそろ瑞希の弁当もいただくとしようぜ?」

 

「!」

 

「おお、それもそうじゃな」

 

 

 魔理沙が傍(かたわ)らに置いてあった包みを取ります。おお、そういえばそうでした。皆の食べっぷりに圧巻されてすっかり忘れていましたよ。

 

 

「そうだ!その手が、いや、弁当があるんだった!」

 

「まりさ!早く開けるのよっ!」

 

 

 げ、現金ですねえ2人とも。私の弁当からすぐに瑞希さんのお弁当へと目が移りましたよ?どんだけ食い意地がはってるんですか!

 

 

「よっしゃ!じゃあ瑞希、開けさせてもらうぜ?」

 

「あ、で、でもそれはー!」

 

 

 私も中身が気になり、魔理沙の手にある弁当風呂敷に集中していたせいで、瑞希さんの声は聞こえませんでした。

 

 

 そしてほどなく魔理沙がしゅるりと結び目をほどきます。

 

 

 そこには私と似たような重箱がありましたが、肝心なのは中身です。あまり時間を空けずに、その蓋(ふた)を取って全員が気になる中身が露(あら)わになりました。

 

 

「よっ・・・おお、なかなか上手そうじゃんか」

 

「じゃな。唐揚げとおにぎりとベーコン巻なんかはかぶっておるのう」

 

 

 魔理沙や秀吉君の言う通り、私よりも丁寧な作りをした同じ料理がいくつか並んでいてとってもおいしそうに見えます。

 私もそろそろお腹がすいて辛くなってきましたし、瑞希さんの料理をもらってお腹をふくらませるとしましょうか!

 

 

「ではいただきますね!」

 

 箸を持ち、いざいただかん!

 

 

「あのっ!皆さん!」

 

「へ?」

 

 が、瑞希さんの大きな声で、私は玉子焼きのわずか一ミリ手前で箸を止めました。

 

 

「瑞希さん?どうしたんですか?」

 

 

 瑞希さんも大きな声を出すんだなあと少し申し訳ない事を思いながら、何事かを尋ねます。

 

 

「あ、あの……実は、そのお弁当なんですけど」

 

 

「……(スッ)」

 

「いただくわっ!」

 

「あ」

 

 

 またもフライングです。今回は土屋君とチルノの2人です。土屋君は唐揚げ、チルノは私の弁当には無かったエビフライを箸に取りました。土屋君は唐揚げ、チルノはエビが好きなんですねえ…まあ一個ぐらいは先に食べても量的には大丈夫そうですね。

 

 口を開いて固まった瑞希さんを気にせずに、2人は獲得品を口に運び――

 

 

 

「……(パク)」

 

「おいしそうね!あーん!(バクッ)」

 

 

 

 

 

 

 バタン………ガタガタガタガタ

 ドサァッ、ぶるぶるぶるぶる

 

 

 

……思いっきり顔からぶっ倒れて、けいれんし始めました。

 

 

 

・・・・・・・え、え?ど、どうしたんですか2人とも?同時に倒れるなんて、何か打ち合わせでもしてたんですか?

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「お、おい?どうしたんだぜ2人とも」

 

 

 私、秀吉君、吉井君、魔理沙はただ唖然(あぜん)とするだけでした。

 

 

「ふ、2人とも大丈夫ですかあ!?」

 

 

 でも作成者の瑞希さんだけは、もう半泣き状態で2人の背中を交互に見つめています。・・・げ、原因が分かっているのでしょうか?

 

 

「………(ムクリ)」

 

「……ふっ(ノソッ)」

 

 

 あ、2人とも起き上がりました。瑞希さんの声が届いたとかでしょうか?

 2人は少しの間、瑞希さんの方を見つめ、

 

 

 

 

 

 

「………(グッ)」

 

「サイキョーね、瑞希(ぐっ)」

 

 

 親指を立て、再びブルーシートへとお顔からダイブしました。あ~、摩擦とかで痛そうです・・・じゃなくて!

 

 

 2人ともぉ!?今のサムズアップサインはどういう意味ですか!?『おいしすぎて思わず気絶してしまうぞっ』って意味ですか!?確かに気絶してそうですけど、顔色が青の理由が説明できてませんよー!?

 

 

 

「…」

 

「…あ~。なあ、4人とも。こいつら気絶しちまったよな」

 

「…うん」

 

「…うむ」

 

「そ、そうみたいですね・・・」

 

 

 う、うつぶせだと辛いでしょうしひっくり返してあげましょう。よいしょ・・って白目剥いてませんこれ!?

 

 

「………上手いタイミングで、貧血で2人そろって気絶・・・ってのはきついか?」

 

 

 魔理沙がうかがうように皆を見渡しています。

 

 

「……そ、そんなことないさ!逆にいつ起こってもおかしくないぐらいだよー!!」

 

「そ、そうじゃ!どこかの学校でも似たようなことがあったらしいしのう!いやあ、まさか自分の目の前で同じことが起こるとは驚きなのじゃー!」

 

「だよねー!後で雄二達にも話してあげなくちゃねー!」

 

「そ、そうじゃなあ!」

 

 

 魔理沙の予想に全力で乗っかる2人とも。まあ、気持ちは凄く分かりますよ?

 

 

「…あう、うえっ(プルプル)」

 

 

・・・だって、瑞希さんがもう涙をこぼしそうになってるんですもの。あ、あああ泣かないでくださいいい!吉井君達の言う通りきっと偶然が重なっただけで原因があるわけではないですよきっとおおおお!!

 

 

「そ、そうだな!いやあ偶然ってのは凄いなー!2人も揃って気絶するなんて信じられないぜ!」

 

 

 魔理沙も汗をぬぐいながら必死に偶然だと言い張ります!頑張るのよ魔理沙!あなたならきっと空気を換えられます!

 

 

「もしかしたら3人目とかもいたりしてなあ!」

 

 

 ・・・ん?それフラグじゃないですか?

 

 

「おう、待たせたな!へー、こりゃ旨(うま)そうじゃないか。どれどれ?」

 

 

 あ、坂本君が戻ってきました。素手で玉子焼きを掴んで「って坂本君待った―!」

 

 

 

 パク      バタン―――ガシャガシャン、ガタガタガタガタ

 

 

・・・食べた途端、ジュースの缶をぶちまけて倒れました。お見事3人目です。

 

 

「さ、坂本!?ちょっと、どうしたの!?」

 

 

 島田さんも少し遅れながら登場です。2人ともご苦労様です。坂本君に関しては現在進行形で苦労してますけども。

 

 

「・・・・・あ、あはは、え~と・・・」

 

「・・・・う、う、うむ、なんじゃ、その~…」

 

「………ええと、だぜ…なんつうか、まあ」

 

 

 もはや滝の様に汗を流す3人組。私も加えれば4人組です。

 

 

 

・・・・・あ、あ~。うん。もう目を逸らすのは無理ですね!

 

 

 

 

「……瑞希さん。ご説明を願えますか?」

 

「…うう~!ごめんなざいー!!」

 

 

 とうとう涙を流し始める瑞希さん。でもっ、さすがにフォロー出来ませんよこれはー! だって一つのお弁当で3人を討伐しちゃったんですよお!?必殺料理人ですかあなたは!

 

 

 

「・・・え、え~とだな瑞希。もしかして…というか悪い。やっぱりお前の弁当が原因か?」

 

 

 魔理沙が慎重な言い方で尋ねます。あなた、気配りが出来たんですね・・・

 

 

「うう・・・ぐすっ。は、はい…。昨日、皆さんにお弁当を作るって言ったんですけど、私それまであまり料理をしたことが無かったんです。」

「そ、そうでしたか…」

 

 

 じゃあなんで作ったのですか…なんて聞きません。きっと吉井君が喜んで食べてくれるのを望んだんでしょうね。私が吉井君に昼食の提案をしたとき、先を越された、みたいな顔をしていましたのはそういう意味だったんでしょう。

 

 

 作った理由は分かったので私は黙って瑞希さんの言葉を待ちます。

 

 

「・・・お料理の本を読んだり色々とやりながら頑張って、なんとか作れたんです。でも味見をしたら……私、気絶をしちゃいました…」

 

「お…おお、まさにこの現状だな」

 

 

 ・・・りょ、料理を食べて気絶することってあるんですね。そんなのはマンガだけの事かと思っていましたが、認識を変える必要が出てきました。

 

 

「目を覚ましてからはずうっとお腹が痛くて…今も痛いくらいなんです」

 

 

 お腹をさする瑞希さん。もはや食中毒レベルじゃないですか!朝から瑞希さんの顔色が悪いのもそれが原因だったんですね!料理の本を読みながって言いましたけど・・・この作り方はダメ!とかそんな本を読んだんじゃないでしょうね?そんな本あるのか知りませんけど…

 

 

「・・・なのに、意地を張ってしまって・・・その時の料理を詰めて持ってきたんです…ほんとにごめんなさい!」

 

 

 深々と瑞希さんは頭を下げました。い、いや~私たちに謝られましても・・・その謝罪はダウン中の3人にしてやってくださいな!

 

 

「・・・ま、まあまあ。瑞希さんに悪気が無かったから良かったですよ。ねえ皆?」

 

「そ、そうじゃな!失敗は成功の素(もと)とも言うのじゃ!」

 

「む、むしろ失敗した方が可愛らしく見えて僕は良いと思うなあ!」

 

 

 私のフォローに吉井君と秀吉君が続きます。まあ、ドジッ娘は可愛らしく見えるのは確かですけど、そのドジが毒死となると全然萌えずに戦慄してしまいますけどね!

 

 

「え、え~と。なんだかよく分かんないけど、ドンマイ瑞希っ!」

 

 

「そうだぜ!吉井が食うって言ってくれてるんだから、そんなに落ち込むなって!」

 

 

 島田さんと魔理沙が瑞希さんの肩をたたきます。魔理沙に関しては、吉井君に気絶体験をさせる言葉を告げながらですので、全く温かさを感じませんけど。

 

 

「ええ!?まま、魔理沙は何を言っちゃってるのさ!?」

 

 

 吉井君の必死な叫び。まあ犠牲になれと言われて『はいわかりました』なんて言ってたら完全にマゾですもの。吉井君がノーマルだと信じます。

 

 

「だ、ダメですよ!食べたらきっと大変な目にあっちゃいます!」

 

 

 瑞希さんもこれ以上被害者を出したくないのか必死に静止します。

・・・・・・そう言いつつもチラチラと吉井君を見ているのは無意識ですよね?意図的なものならだいぶ悪魔ですよ!?

 

 

「うっ・・・ううう・・・!」

 

 

 ほら吉井君が凄い形相で葛藤し始めちゃったじゃないですかー!瑞希さん恐ろしい子!

 

 

「そうか…」

 

 

 そして狙いまであと一手と考えたのか、魔理沙は仕方なさそうに肩をすくめ、ひとりごとみたいにぼそりとつぶやきました。

 

 

 

 

 

 

「―――ここで食べてあげたら、男としてかっこいいと思ったんだがなー」

 

 

「いただきますっ!」

 

 

「いったあああああ!?」

 

「よよ吉井君んんんんん!!?」

 

 

・・・ああ、顔を青くしながらもひたすらおかずを食べ続ける吉井君は確かにかっこよかったです、よ・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

 

 

・・・・・・や、やりきりましたよこのマゾさん。

 

 

「・・・・お、お、お。おいじがっだよ、姫路(びめじ)ざ…ん(バタッ)」

 

「・・・ふええっ!吉井く~~ん!」

 

 

・・・・やばい、ちょっとホロリときました。気を失った吉井君を、申し訳なさと嬉しさが混ざった涙をポロポロ流す瑞希さんが抱きしめる光景。映画のワンシーンですかこれは!?他の3人も絶句しながら目を離しません!

 

 

「・・・あとで吉井に謝るぜ」

 

「・・・うむ。ついでに讃えてやるのもいいかものう」

 

「おう。きっちり讃えてやる」

 

「全く。吉井はバカって言うか、優しいって言うか悩むわね~」

 

「島田、ここは優しいと言ってやろうぞい」

 

「…まっ、そういうことにしておきましょ」

 

 

 ま、まさか一口食べただけで気絶する料理を重箱まるまる食べるとは・・・!吉井君!君の漢気しかと見届けましたっ!

 

 

「・・・うしっ!じゃあまとまりも着いたことだし、また弁当タイムを味わおうとしようぜ!」

 

「魔理沙よ、この状況で食べる気なのか?」

 

「当然だぜ!4人も食べないんだから大いに配分が増えたことだしな!」

 

「…この中で一番食い意地が張ってるのは、案外お主かもしれんな」

 

「あんたらしいわね魔理沙・・・でも、ウチもお腹すいたしいただこっかな?」

 

「おっ、さすが美波。同じ貧乳どうし、私の気持ちを汲んでくれるぜ」

 

「だだっ!誰が貧乳よ!?」

 

「あん?だって昨日美波がそう言ってたじゃないか。」

 

「い、言ったけど貧乳とは言ってないわよ!た、ただちょっと薄いかなってだけで・・・ウチだって少しは膨らみくらいあるわよっ!」

 

「ん?そうか~?どれどれ…」

 

「ひゃうん!ちょ、ななな何制服の中に手を突っ込んでウチの胸触ってんのよお!?」

 

「・・・いやいや、これはもう貧だろ。私よりもあれじゃないか?ブラつける意味あんのか?」

 

「ララ、Laut(うるさい)!!ウチだってブラジャーをつけるぐらいには胸があるわよバカァッ!」

 

「・・・・・・・わ、わしが男という事を忘れんでくれ。そういう話はもっと別の場所でじゃなあ・・・」

 

「まあ嫌なことも飯を食ったら忘れるさ!美鈴~!つーわけで弁当を渡してくれ!」

 

 

 

 

 あ、魔理沙が呼んでます。吉井君と瑞希さんに気を取られすぎました。

 

 

 

「ああ、弁当ですか?なら私も食べましょうかね。さすがに限界です」

 

 

 結局姫路さんのお弁当は吉井君が食べちゃいましたし、私の昼食は私の弁当と、普段と一緒ですねこりゃ。

 

 

「じゃ、私達でいただきましょうか?」

 

 

 気絶している人と話しかけづらい雰囲気の瑞希さんを除いて4人。丁度いい量ですね。残らずに済みそうです。

 

 

「おう、いたただくぜ」

 

「もう、誰が貧乳よ……じゃ、ウチももらうわ」

 

「わ、わしもじゃあ頂こうかの」

 

 

 再び私の弁当を囲い、食事を続行させました。

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 

 

 その後もわきあいあいとしながら、気絶した4人プラス1人を背後に、お弁当会は終了しました。

 

 ちなみに瑞希さん特性弁当を食べた4人は、教室に戻るまで意識が戻りませんでしたとさ。ああもう!がたいが良いだけに重たいですね坂本君!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―---あ、高橋先生。少しいいですか?』

 

『はい。どうしました十六夜さん』

 

『少し伝言を先生に預かっていまして、いいですか?』

 

『わかりました。なんでしょう?』

 

 

『ええと、「また一緒に呑もう」と、私の母が言っていました』

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・は、は、母?』

 

 

「はい。星熊勇儀と言います」

 

 

 

 

「―-――――え、」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何か悲鳴が聞こえなかったか?(ばくばく)」

 

「聞こえましたね。女性ぽかったですよ。(もぐもぐ)」

 

「・・・今の声、高橋先生に似てなかった?ウチと昨日話した時、あんな声だった気がするけど・・・(むぐむぐ)」

 

「あん?いやいやまっさかー!」

 

「確かに似ておったが、あの冷静そうな先生が悲鳴をあげるとは思えんのじゃ。声の似た別の人ではなかろうか?」

 

「ん~、それもそっか。あ、美鈴、そこのやつとってくれない?」

 

「はいは~い!」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 姫路さんのお料理の威力を本人にも把握してもらう形で出しちゃいましたけど、ここから先の弁当ネタをどうするか・・!またおいおい考えるとします!

 次回、描写だけですけど、わずかに東方キャラクターに出てもらいます!後々出てもらいますが、少なくとも次回は僅か二行程度の出です!あまり期待はしないでくだせえ!

 それではここで!ご感想など気楽にやっちゃってください!


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目標―不安、でもポジティブにいきましょう!

 いつもありがとうございます!村雪でございます。

 
 今回はBクラス戦の前でございます。あまり話が動いたりする回ではありませんが、読んでいただければ!


 ―――それでは、ごゆっくりお読みください


 

 

「み、皆さんごめんなさい!」

 

「な、な~に気にするな姫路。あれぐらいどうってことないさ。」

 

「・・・・・・人間、誰しも失敗する。」

 

「やー。あたい、あんなの初めて食べたわ。」

 

「チルノ!もう少し違う言い方をするべきだよ!とてもおいしかったわ!とかさ!」

 

「・・・・ん~、じゃあ、とっても刺激的だったのよさ。」

 

「チルノ、その言い方もどうかと思いますが・・・」

 

「あ、あはは・・・ありがとうございますチルノちゃん・・・」 

 

「ああ!また姫路さんが泣きそうになり始めたじゃないかこのバカチルノ!」

 

「あにぃ!?じゃーあんたが言ってみなさいよよしー!そんでまたみずきに作ってもらえばいいじゃん!」

 

「いいよやってやるよ!姫路さん!さっきの料理はと・・・と、とてもおいしかっいやああああっ!!」

 

「トラウマのレベル!?お、落ち着きましょう吉井君!チルノにあれだけ言ったのに、今あなたメチャクチャかっこつかないことしてますからね!?姫路さんの涙腺を決壊させたのはあなたですからね!」

 

「ううぅ~・・・も、もっと練習しまずーっ!!」

 

「だ、大丈夫よ瑞希!賢い瑞希ならすぐに上手くなるって!」

 

「み、美波ちゃん…!」

 

「でもま、賢すぎるからとんちんかんな事をする奴もいるんだけどな。」

 

「そ、そんなぁぁ!!」

 

「あんたはいらないこと言うな魔理沙ぁぁ!」

 

 

 

 

 姫路さんデストロイ弁当事件が幕を閉じ、教室に戻ってからようやく4人は意識を取り戻しました。

 

 秀吉君が皆に殺菌効果があるとお茶を提供し、ごくごくとそれを飲んでいたところに、瑞希さんが申し訳なさそうに頭を下げてきたのです。自分のお弁当のせいで4人がダウンしたら、そりゃー気が気でないでしょう。私だったら土下座をして謝り倒しますね。

 

 4人は瑞希さんの謝罪を青い顔色のまま受け取って許してあげ、さらにはフォローをするという気配りを見せました。仲間同士でぶつかりあったり陥れあったりとバカを連発する吉井君達も、女の子には優しいみたいです。

 

 

「ふ~、よもや姫路にそんな弱点があったなんてな。」

 

「まあそう言うてやるでない。本人は一生懸命だったんじゃしの。」

 

「そうよ!きっとそのうち上手になるわ。バカ魔理沙の言ってることはデタラメよ。」

 

「ひどいぜ美波!?」

 

 

 今はなぜか、女の子が女の子にきびしいみたいです。私は巻き込まれないようにそっと一歩後ろに下がりました。

 

 

「いや、別に責めてるわけじゃないんだ。ただ、俺だけ紅の弁当にありつけていないからついな。」

 

「あ~・・・」

 

 

 確かに、今回ババを引いたのは坂本君に違いありません。だって自腹で私たちの飲み物を買った上、何も食べてないんですもの。

 ちなみに、飲み物は彼が気絶している間にしっかり飲ませてもらいました。緑茶が美味しかったですよ~。 

 

 

「そういえば、坂本ったら屋上に出てすぐに倒れたもんね。ウチはいっぱい美鈴のお弁当を食べれたけどね。おいしかったわよ♪」

 

「ぐっ。嫌みかこのやろうっ。」

 

「ごめんごめん、冗談!・・・あ、そう言えば坂本。次の目標だけど。」

 

 

 くすくすと笑いを抑えていた島田さんが、何かを思い出したように坂本君にそう尋ねました。

 

 

「ん?試召戦争のか?」

 

「うん。次の相手はBクラスなの?」

 

 

 あ、それは私も気になっていました。

 

 なんせDクラスの教室設備を交換する対価として、Bクラスのエアコンの室外機を壊すよう指示したのですから、Bクラスに作戦を仕掛けるのは間違いないですよね?何かの意味があるというのはなんとなくわかるんですけど、その〝何か〟は考えても分かりませんでしたよ。

 

「ああ、そうだ。」

 

 

 坂本君は島田さんの言葉にうなずきます。

 

 

「どうしてBクラスなの?目標はAクラスなんでしょう?」

 

「・・・正直に言おう。」

 

 

 坂本君の顔が神妙なものになりました。

 

 

「どんな作戦でも、うちの戦力じゃAクラスには勝てやしない。」

 

「え・・・」

 

 

 ・・・だ、打倒Aクラスを言い出したあなたがそれを言いますか?確かにまあ厳しいと思いますよ。でも、それをやり遂げると言ったのが坂本君じゃ・・・?

 

 

「おいおい坂本~、モチベーションを下げるようなことを言っちゃあいかんぜ。」

 

「そうよさかもと!あんたはやっぱり最強じゃなかったのね!あたいが最強なのよさ!ねっみずき!?」

 

「ち、チルノちゃん。チルノちゃんも坂本君もすごいですから、そんなこと言ったらダメですっ。」

 

 

 坂本君の敗北宣言を聞いていたようで、魔理沙が不満げに、チルノは瑞希さんの手を引っ張りながら声を荒げました。サイキョーなチルノは、やはり最高のクラスと勝負したいみたいです。

 

 

「まあ待ってくれ。きちんと説明する。」

 

 

 坂本君は手をかざしながら静止を求めました。皆もそれに従います。

 

 

「じゃあつまり、ウチらの最終目標はBクラスに変更ってこと?」

 

「いいや、そんなことはない。Aクラスをやる。」

 

「・・・?あの坂本君、言ってることが矛盾してませんか?」

 

 

 あまりにも気になったので坂本君に聞いてしまいました。すると坂本君は首を振って答えます。

 

 

「クラス単位では勝てないってことだ。だから一騎打ちに持ち込むつもりだ。」

 

「・・・ああ、そのためにBクラスを使うってことですよね?どう利用するかは知りませんけど。」

 

「おおむねそういうことだ。」

 

「え、え~と雄二。僕にも分かるように説明して。」

 

「最強のあたいにも分かるように説明するのよさ。」

 

 

 最強なら最強の聴き取り能力を持ちなさい。というか聞いたところで忘れるんじゃないでしょうか・・・?

 

 

「・・・つまりだ。Bクラスに勝てば、俺たちのFクラスでBクラスの連中は過ごすようになるだろ?そこで俺たちは奴らにもちかけるんだ。『クラスを変えてほしくなければAクラスへ攻め込め。』、とな。」

 

「??それって何の意味があるの?」

 

「明久、試召戦争で下位クラスが負けた場合の設備はどうなるか知っているな?」

 

「え?も、もちろん!」

 

「その反応、絶対知らないですね。」

 

 

 それはまわりも気付いたみたいで、瑞希さんが吉井君に耳打ちます。バレバレですけどそこがまた微笑ましいー!

 

 

「設備のランクが落とされるんだよ。」

 

 

 たとえばBクラスならCクラスって感じにですね。あ、じゃあFクラスはGクラスに、とかなるんでしょうか?これより下って・・・全く想像したくないですね!

 

 

「・・・まあいい。じゃあチルノ。上位クラスが負けた場合はどうなる?」

 

「そんなの決まってるわ!あたいが最強ってしょめいされるのよ!」

 

「ち、チルノちゃんっ。それを言うなら〝署名(しょめい)〟じゃなくて〝証明(しょうめい)〟です。」

 

「姫路・・・すまんがそこは問題じゃないぞ。」

 

 

 〝チルノさいきょー声明書〟でも作る気ですか。瑞希さんも坂本君も思わず苦笑いを浮かべちゃってます。

 

 

「相手のクラスと設備が変わるんだ。良く覚えておくんだぞチルノ。」

 

「分かった!」

 

 

 大きな声で返事をするチルノ。やっぱり元気に関してはサイキョーですね。

 

 

「つまり、Bクラスがうちと設備を入れ替えたらFクラスになるが、Aクラスに挑んで負けたら一つ下のCクラス設備になる。だから間違いなくこれに乗ってくる。」

 

「なるほど。んで?」

 

「それをネタにAクラスと交渉するわけだ。『Bクラスとの勝負直後に攻め込むぞ』といった具合にな。」

 

 

 ・・・・・・まあつまり、連戦となるとくたびれるし、そこを突かれたくなければ―ってな感じで一騎打ちに持ち込もうとするのは分かりました・・・・・・・が、

 

 

「しかしですね坂本君。たとえ一騎打ちに持ち込めたとしても、その一騎打ちで勝つことなんか出来るんですか?」

 

 

 当然Aクラスからは一番賢い代表さんが出てくるでしょう。でも、私たちからは誰を出すつもりなのでしょう?

 一番賢い人と言うなら瑞希さんが鉄板でしょうけど、既に瑞希さんがFクラスにいるということは知れ渡っていますし、何らかの対策をとってくると思うんですが…

 

 

「そのへんに関しては策がある。心配するな。」

 

 

 私の懸念事項を聞いても、坂本君はそれでも自信満々です。う~ん、非常にその策とやらが気になります!

 

 

「とにかくBクラスをやるぞ。細かいことはその後に教えてやるさ。」

 

 

「・・・それもそうですね。まずはここで勝たないことには、ですね!」

 

 

 ここを突破しないことには同じ土俵にも上れませんから、きっちり勝ちに行きましょう!

 

 

「で、明久。」

 

「ん?」

 

「今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告をしてこい。」

 

「断る。雄二が行けばいいじゃないか。」

 

 

 またも不毛な内戦が始まりました。一致団結という言葉を知ってますか?

 

 

「やれやれ。それならジャンケンで決めないか。」

 

「ジャンケン?」

 

 

 なるほど。確かにそれが一番無難な決め方ですね。フェアーな上での決定ならば文句も出ないでしょうし。吉井君もそれならば納得したみたいです。

 

 

「OK。乗った。」

 

「よし、負けた方が行く、で良いな?」

 

 

 こくりと頷く吉井君。二人の意見は合意しました。

 

 

「ただのジャンケンでもつまらないし、心理戦ありでいこう。」

 

 

 そこへ坂本君の追加ルールが。あ~、なになにを出すと言って裏をかくかどうかって奴ですか。私も昔やりましたけど、咲夜さんは強かったな~!

 

 

「分かった。それなら、僕はグーを出すよ。」

 

 

 パーかグ―かで惑わすのが吉井君の手のようです。坂本君はどう手を打つのでしょう?

 

 

「そうか、それなら俺は―――お前がグーを出さなかったらブチ殺す。」

 

 

 た、確かにそれはある意味心理的ですけども!?

 

 

「行くぞ、ジャンケン」

 

「え、あ、わぁぁっ!」

 

 

パー (坂本君)  グー (吉井君)

 

 

どうやら坂本君の方が上手でした。心理戦も権力的にも・・・

 

 

「決まりだ。行って来い」

 

「絶対に嫌だ!」

 

「男らしくないなー吉井?決めたことはきちんと守るべきだぜ?」

 

「で、でもこれは僕の意図していた心理戦と全然違ったんだよ!」

 

 

 必死に抵抗する吉井君。まあパニックになってましたもんねー。あれは心理というより身体的な恐怖で縛ってましたよむしろ。

 どうなるか分かってるので、さすがに今回は行かないのでは?

 

 

「ふむ・・・・そういえば、Bクラスの奴は美少年好きが多いと聞いたことがあるな。」

 

 

 坂本君のそんな言葉。いやいや、まさかそんな噂話で吉井君が動かすつもりですか!?絶対無理ですって!

 

 

「そっか。それなら確かに大丈夫だねっ!」

 

 

 ・・・ナルシストだったんですね吉井君。なんだかおバカすぎて坂本君を責める気も起きません。

 

 

「でもお前、不細工だしな……」

 

 

 坂本君、上げたいのか下げたいのかどっちなんですか?

 

 

「失礼な!365度どこから見ても美少年じゃないか!」

 

「よ、吉井君。5度多いですっ。」

 

「実質5度じゃな。」

 

「アホだぜ。」

 

「ほぼ不細工ですね。」

 

「よしーはバカな上にブサイクなのね。」

 

「皆なんか嫌いだあああああっ!」

 

 

 吉井君は涙をこぼしながら廊下へと出て行きました。あの、今からテストがあるんですけど・・・

 

 

「さて、じゃあ俺たちは試験勉強に戻ろうか。」

 

『了解。』

「はい。」

 

 

 吉井君の心配をしない私達。こ、これはきっと吉井君を信用してのことですね!すぐに戻ってきますもの!

 

 

 

 

 

 

 

――で、放課後。ナルシスト吉井君が単身Bクラスに乗り込んだのですが・・・なんと無傷で帰ってきました。

 

 

 

「雄二!あの銀髪の女の子がかばってくれなかったら、僕はぼこぼこにされてたよ!?」

 

「予想通りだ。まあ無傷だからいいじゃないか。」

 

「くきぃー!殺す!殺し切るーっ!」

 

「落ち着け。」

 

「ぐふぁっ!」

 

 

 パンチの一撃で迎える坂本君。外道ですね。

 

 しかし、銀髪の女の子ですか。咲夜さんとは別人みたいですけど、良い人ですねー!私、あってみたいですよ!

 

 さて、吉井君も宣戦をしてきたみたいですし、今日もこれでおしまいですね!一緒に帰る咲夜さんを待たせると悪いので、急いで準備をしないといけませんね!

 

 

 

 

 

 

 

「おい!俺たちの邪魔をしてどういうつもりだ!?」

 

「どうもなにも、1人に集団で暴力をけしかけようとするのが間違ってると思ったからです、根本代表。」

 

「何を言ってる!あんなバカ痛めつけるぐらいなんでも――」

 

「あなたにとってはバカでも、彼の友達にとっては大切な存在です。あなたも親友が殴られたりして言い気分はしないでしょう?・・・そもそも、向こうは何もしていないのに、集団で暴力を振おうとするのがもはや道徳を無視しています。」

 

「ぐ…!」

 

「そこを踏まえたうえで、先ほど1人だけで来た吉井明久君に集団で暴力をふるう理由があるのなら、私が聞きます。慣習だとか下位クラスだからという理由なら、断固として許しません。」

 

「・・・・く、くそっ!本当にお前は目障りだなっ!!――て、な、何だお前らまで!そ、その眼はこの女に向けるところだろうがっ!」

 

「目障りで結構。試召戦争なんかでは場合によりますが、今みたいな理不尽なことをしたときは、問答無用で介入させてもらいますからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い美鈴。」

 

「あ、はい?」

 

 

 1日が終わって開放感あふれながら廊下を歩く私に、後ろから魔理沙が声をかけてきました。

 

 

「なんです?」

 

「お前のちゃぶ台の上に何か置いてあったぜ?忘れ物じゃないか?」

 

「え、忘れ物をしてましたか?」

 

 

 う~ん、もしかして授業のノートでも置いていましたかね?まあ1日ぐらい置いたって大丈夫でしょうけど・・・一応取りに戻っときますか。

 

 

「ありがとう魔理沙。ちょっと取りに行ってきます。」

 

「お~う。」

 

 

 そこで魔理沙とすれ違い、来た道を早足で戻ります。すれ違うクラスメイトに挨拶をしていくうちに、Fクラスが見えてきました。

 

 

「あ、美鈴さんどうしたの?」

 

「・・・むしろあなたがどうしたんですか吉井君?なんで地面を這ってるんです?」

 

 

 なぜか吉井君が匍匐前進(ほふくぜんしん)をしながら廊下を移動していました。ほんとに可笑しな行動をとりますね!

 

 

「うん。一応念のためここまで伏せてたんだよ。」

 

「??そうですか。私はちょっと忘れ物をしたらしいんで取りに戻ったんですよ。」

 

「そうなんだ?じゃあ僕はこれで。よいしょっ…」

 

 

 起き上がってほこりをはたく吉井君。一体何の〝念のため〟だったんですか・・・?

 

 かなり気になりましたが、そのまま吉井君と別れて私はFクラスに戻り、すぐに扉を開けました。やっぱり1日が終われば早く帰りたいですからねー。1分1秒が惜しいですもの!

 

 ガラガラッ!

 

 

「ひゃうっ!?み、美鈴さん!?」

「あれ?瑞希さん。」

 

 

 誰もいないと思ってたんですが、まだ瑞希さんが教室に残っていました。

 

・・・はて、そっちは吉井君の席ですよね。なぜ彼の座布団に座っているのでしょう?

 

 

「ど、ど、どうしたんですかっ?」

 

 

 あ、手を後ろに回しましたね?何かを隠したのが丸分かりですよ?

 

 

「いえ、ちょっと忘れ物を・・・てあちゃ、数学のノートでしたか。」

 

 

 私のちゃぶ台に置いてあったのは、今日の授業で使った数学ノートでした。教科書より自分なりにまとめたノートの方が見やすいんですよねー!

 

 これを忘れては数学の勉強が出来ないところでした。危ない危ない!魔理沙には感謝しないと!

 

 かばんにノートを入れてと…さて、やっぱり聞きたくなりますよね?

 

 

「・・・で、瑞希さんの方は吉井君の机に何か用でも?」

 

「!あ、あのっこ、これはそのっ―」

 

 

 ファッ

 

 

「おっとと。」

 

「・・・あ、ああうあうあう。」

 

 

 あらら。後ろに回した腕をうっかり身振り手振りに使おうとしちゃって、そこからすっぽ抜けて、まるでフリスビーみたいに私の手元にそれが飛んできましたよ。これまたドジッ娘ちゃんみたいなことをしますねえ。

 

 手に取ったフリスビーを返そうと思いながらも、条件反射でつい私はそれを確認しちゃいました。

 

 

 

《あなたのことが好きです》

 

 

 

 そう書かれた可愛らしい便箋(びんせん)。ここでクイズ。これは一体なんでしょう?

 

・・・数秒でわかりますよね~

 

 

「…吉井君にですか?」

 

「………………はい。」

 

 

 瑞希さんは顔を真っ赤にしながら、小さな声で頷きました。全く初々しいですね~!見ているこっちがキュンキュンしますよ!

 

 

「ど、どうしてわかったんですか…?」

 

「そりゃーそんな手紙を持って、異性の席にいたら誰だって分かりますよ。上手くいくといいですねー?」

 

「…吉井君は気持ちに応えてくれるでしょうか…」

 

 

 あ~、期待もあるけど不安が大きいのが告白ですからねえ。どんな言葉を言おうともあまり意味は無いでしょう。ここは無難な言葉だけ言っておきましょうか。

 

 

「さあ。でも、悪い風には思っていなさそうですし期待はしていいと思いますよ?」

 

「・・・えへへ、ありがとうございます。少し自信が持てました。」

 

 

 嬉しそうな顔を浮かべてくれちゃって!役に立てて何よりです!

 

「で、その手紙はどこへ置きます?」

 

「吉井君のちゃぶ台の上です。できればこっそりと入れたかったんですが…」

 

「あ~・・・見事、引き出しとかない赤裸々な座席ですからねー。」

 

 

 そういう点ではちゃぶ台は不便ですね。悪いことも良いこともあるのが道具、ってね!

 

 

「じゃあ、しっかり分かるところに置いておきましょうか。」

 

「は、はい!ええっと…」

 

 

 ポケットからこれまた可愛らしい封筒を出し、丁寧に手紙を入れていきます。

真心を込めて書いた手紙、吉井君に限らず誰でも喜んでくれますよ!

 

 封筒に手紙を入れ終わり、瑞希さんは両手で本を読み上げるように持って、少しだけ力を込めて握ってから吉井君のちゃぶ台の上に置きました。あとは明日を待つだけです!

 

 

「・・・ふわあ~、ど、ドキドキしますね~!」

 

「ふふ、そんなことを言ってたら、OKを貰ったときなんかもう気絶しちゃいますよ?」

 

「も、もしもその時は頑張って耐えます!」

 

「そうですよー!せっかくの記念なんですから!・・・でも、むしろ吉井君の方が嬉しくて気絶しちゃうかもしれませんねー!」

 

「ええー!?そ、そうですか!?」

 

「そうですよー!だあって、こんな可愛い女の子に告白されちゃうんですからっ!」

 

「はわっ!く、くすぐったいですよー美鈴さん!」

 

 

 ふむふむ、瑞希さんはわき腹が弱いんですね!ちなみに私はのどですよ!

 

 

「すいませんね!瑞希さんが可愛いらしいですから、ついちょっかいをかけてしまいました!」

 

「そ、そんな!私なんかより美鈴さんの方がずっと可愛いですよ!」

 

「おや、嬉しいことを言ってくれますね!・・・そんなところも可愛いですよー!」

 

「きゃー!ははっ、あははっ!め、美鈴さ~ん!」

 

 

 そういう気配りをできる女の子は絶対に良いことがあります!吉井君もきっと瑞希さんのそういうところを見てくれていますよ~!

 ―――おおっと、そろそろ瑞希さんが息切れしてしまいます。よいしょっ!

 

 

「あははっ、はっ、はっ、・・・ふうー。も、もう美鈴さんは~!」

 

 

 ポカポカと私を叩く瑞希さんの顔は笑顔なのでセーフ!咲夜さんなら間違いなく脳天チョップが炸裂してましたね!

 

 

「あいたた!許してくださいよ~!」

 

「お腹が痛かったのがもっと痛くなっちゃったじゃないですか~!もう今日はご飯が食べれませんよ!」

 

「あはは!すいませーん!」

 

「笑ってるじゃないですか~!も~!」

 

「瑞希さんもですけどね~!あははははは!」

 

 

 

 いや~、なんかレミィやフランと遊んでる感覚になっちゃいますねー!私もついつい笑いが浮かんでしまいますよー!

 

 

 

 

「ふ~…じゃ、そろそろ帰りましょうか?」

「うふふっ。はい、帰りましょうか!」

 

 

 じゃれあいに一区切りがついた時間は、完全下校時刻まで少しでした。私と瑞希さんはカバンを持って立ち上がります。

 

 

「美鈴さん、ありがとうございます。あんなに笑ったのは久しぶりでしたっ!」

 

 

 眼元の涙をぬぐう瑞希さん。いやいや私も久しぶりに笑いましたよ~!お礼には及びません!

 

 

「それは良かったです。吉井君にもその笑顔をみせてあげましょうね!」

 

「はい!・・・・上手くいくといいなあ。」

 

 

 おっと、瑞希さんは独り言のつもりなんでしょうけど、ばっちり私にも聞こえてます。ここは一つ、言って欲しいであろうことを言わせてもらいましょう!

 

 

「上手くいきますよきっと!」

 

「・・・はいっ!」

 

 

 瑞希さんの満面の笑み、男ならイチコロというレベルの可愛さでした。

 

 

「では行きましょうかー。」

 

「分かりました!」

 

 私たちはFクラスを出て行きました。明日が楽しみですね~!何事も問題が起こりませんよーに!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で、何か言い訳があって?美鈴。」

 

「え・・・え~っとですねえ・・・すみませんでしたああ!」

 

「あ、あの十六夜さん!美鈴さんは私に元気づけてくれてたんです!だから許してあげてください!」

 

「・・・ふむ。とりあえず一発はいいわよね。」

 

「え!?そ、そこは許してあげるところではぶっ!?」

 

「め、美鈴さ~ん!?」

 

 

 ・・・待ち合わせ場所で先に待っていた咲夜さんに手痛いチョップを受けたのは、完全に私が原因の問題でした。み、瑞希さんは悪くないですよ~・・・

 




 お読みいただきありがとうございます!

 まだ本格的には出てきていないのでここでは紹介しませんが、Bクラスに〝彼女〟が登場しました!卑怯な根本君にとっては水と油の関係となりますが、果たしてどうなる事やら。
 〝彼女〟以外にもまた出演してもらう予定ますので、ほどほどに期待してください!


 あと今回の後半、じゃっかん百合っぽい雰囲気になりましたが、あれは女子同士がじゃれて遊んでるだけです!
 
 タグにも『ガールズラブ』と書きましたが、美鈴さんはシスコンなだけです!百合ではありませんよ~!他の人にその役割はいってもらってますっ!


 ・・・・・・本編でないのに、やけに本編と関係あることを書いてしまいましたが、皆さんが次回も楽しみにしていただければ!

それではっ!


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様子-思惑、が色々あるから単純ではないのです

どうも、村雪でございます!

今回からBクラス戦に突入です!なんとか〝彼女〟を活躍させていきたい・・・!でも、ちょっと今回はあまりしないかな…

 あと、思ったよりあっさり話が進んでしまうかも?この事を頭に入れてもらえればありがたいです!

――では、ごゆっくりお読みください。




「それで、高橋先生は『…ま、また連絡しますと伝えてください。』って言ってたわ。お母さん。」

 

「ははははっ!生真面目なところは変わらないねえ。」

 

 

 我が家での夜の恒例行事、母さんと咲夜(さくや)さんの談笑中にその話題が上がりました。咲夜さんはきちんと昨日の約束を守って、高橋先生に伝言を伝えたようです。

 

 でも、咲夜さんはほんとにものまねが得意なんですね~。私は話したことがないんですけど、母さんが面白そうに笑ってるからそっくりってことですよね?うらやましいなあ。体を動かすのは得意なんですけど、そういう特技はありませんよ!

 

 

「お母さんと高橋先生ってどういう関係なの?大学時代の知り合いとかかしら?」

 

「ん~?まあそうだな。でも実質的な知り合いになったのは高校生の時さ。気付けば親友、って感じだよ。」

 

「へえ。」

 

 

 ほ~、高校からの知り合いの人と今なお友好が続いているのは凄い。私も瑞希さん達と、大人になってもそんな風にいれるのでしょうか?

 

 

「悪いね咲夜。でも、洋子(ようこ)は驚いたんじゃないか?なんせ見た目も違う、苗字も違うから、咲夜が私の娘だとは思わないだろうしな。」

 

「ええ。手に持ってた書類を派手にぶちまけて叫んでたわ。あんな高橋先生はめったに見られないと思う。」

 

「はっはっはっは!そりゃー飲むときに困らない良いネタを聞いたよ!ありがとう咲夜(わしわし)!」

 

「・・・うん。どういたしまして」

 

 

 母さんの大きな手で頭を撫でられ、咲夜さんは恥ずかしそうにしてましたが文句は出ませんでした。ふむ、今度からは私もハグではなく、頭なでなで方針にしてみましょうかね。そうすればチョップとかされたりしないのでは?

 

 

「で、美鈴(メイリン)はどうだった?昨日、重箱まで用意してたみたいだけど、評価は良かったかい?」

 

 

 おおっと、母さんが私に話題を投げてきたわ。でも、その答えは簡単!

 

 

「文句なしだったわ!」

 

 

 びしっと親指を立てるのは、姫路さん弁当を食べたチルノ達みたいなごまかしじゃなくて、本心からのサムズアップです!いやいや作って良かったですよ~!

 

 

「ほ~、良かったじゃないか!なあ咲夜・・・ん?どした?」

 

「・・・・・・(むすっ)」

 

 

 は、はれ?またも咲夜さんが学校で待たされた時の顔になりましたよ?

 

 

「さ、咲夜さん?どうしました?」

 

「・・・別に、何でもないわ。」

 

 

 いや、何でもあるって顔じゃないですか。ほら母さんもあきれた笑いを浮かべてますよ?

 

 

「咲夜、意地をはったって私らには丸わかりだってのに。素直にとは言わないから、ちょっとだけでも教えな。」

 

「・・・・・・」

 

 

 咲夜さんはむすーっとした顔のままお黙りになっちゃいましたが、しばらくして観念したみたいです。小さな声が聞こえました。

 

 

「・・・・・・・・・私も食べたかっただけよ。」

 

 

「え・・・でも、咲夜さん?今日の咲夜さんのお弁当にも入れましたよ?」

 

 

 お弁当も私たちが作っていまして、今回は私が作成者。まんべんなく全種類入れましたから、食べ損ねたものはないと思いますけど。

 それとももっと食べたかったってことでしょうか?あまり詰め込むことも出来なくて、1、2個ずつしか入れなかったのがまずかったですかねー。

 

 

「そういう意味じゃなくってっ。」

「は、はいっ?」

 

 

 おお!?か、顔が近いですよ咲夜さん?もう吐息が当たってます!ごほうびですか!?

  そんな私の変態的な考えを知るはずもない咲夜さんは、不満に思ったことを告白しました。

 

 

「わ、私も美鈴とか姫路さんと一緒に食べたかったってことよ。」

 

「あ、あ~。そういうこと・・・」

 

 

 Aクラスでどんなふうにお昼を食べているのかはわかりませんけど、確かに吉井君達と食べた時のようなにぎやかさは、なかなかないでしょうねー。どうせなら楽しく食べたいというのはよく分かります。

 

 ・・・しかしですね咲夜さん。その大きすぎる代償が一つあったんですよ?

 

 

「でもね咲夜さん。今日の私たちのお昼に参加してたら、きっと意識が空に飛んで行ってたと思いますよ?」

 

「お昼ご飯でどうして気絶するのよ!?」

 

「どんな昼食会だそりゃあ・・・」

 

 どんなと言われても、学生同士が騒がしく過ごした昼食タイムとしか言いようがないと思います。〝騒がしく〟の中身が、悲喜こもごもだったけども!

 

 

・・・しかし、瑞希(みずき)さんのあのお弁当は何を材料に作ったんですかね?普通、食べただけで気絶することなんてないと思うんですけど・・・・・・く、薬かなんか盛ったわけじゃあないですよねえ?

 

 

「き、気絶するってのはよく分からないけど、今度は私も誘ってほしいわ。―鈴と―校で―昼な―て、食―たことが無いーに・・・」

 

 

 あ、瑞希さんの弁当の事を考えてたから咲夜さんの小声を聞き逃しました。私の勘が、聞いておけばと反省をうながします。何を言ったんでしょう?

  

 母さんには聞こえていたみたいで、からからと笑い出しました。

 

 

「はっはっは!そういうことだ美鈴!今度は咲夜も誘ってやりなよ!?」

 

「え!?、りょ、了解!」

 

 

 い、痛た!何がそういうことかは分からないけど背中を叩くならもっと加減して母さーん!

 

 

「んっ、じゃあその時は呼んでね、美鈴?」

 

「あ、は、はい…」

 

 

 その時は、咲夜さんの意識がブラックアウトしないことを祈ります・・・

 

 

「話は変わるけど、明日もまた試召戦争を仕掛けるんですって?それもBクラスに。」

 

「あ、ええ、確か昼過ぎからだったと思います。」

 

 

 咲夜さんは耳が早いですね。Bクラスの知り合いから聞いたんでしょうか?

 

 

「Bクラスの代表は、あの卑怯で有名な根本(ねもと) 恭二(きょうじ)よ。気をつけた方がいいわね。」

 

「あ~、たまに聞きますね。」

 

 

 なんでもカンニングの常連だとか、球技大会で相手チームに薬を盛ったとか。後ろの方はオーバーですけど、それほど噂されるようなことをしているということには間違いないでしょう。手段を選ばないかもしれませんし、注意は必要ですね。

 

 

「・・・それにしても咲夜さん。私達Fクラスの肩を持っていいのですか?」

 

 

 このBクラス戦もAクラス戦への布石。微々たる情報ですけど、敵に塩を送るの行為はあまりよくないのでは?

 

 

「別に肩を持ってるわけじゃないわ。だってBクラスの代表が誰って分かっても、勝つ確率が上がるわけじゃないでしょ?だから問題ないわ。」

 

 

「ああ、まあそれもそうですねー。」

 

 

 坂本君の作戦がどう決まっているのかは分かりませんが、代表次第で勝率が上がるなんて博打的(ばくちてき)な策はたてないでしょう。

 咲夜さんの言う通り、何の問題もないことでしたね。

 

 

「それに。」

 

「それに?」

 

 

 咲夜さんは不敵な笑みを浮かべて、付け加えました。

「―――私たちが勝つんだから、どんな事を言っても関係ないもの♪」

 

「お、おお・・・」

 

 

 Aクラス、これは一筋縄ではいかないみたいですが、俄然(がぜん)燃えてきましたよっ!!

 ここは魔理沙や坂本君とは違いますけど、咲夜さんをあっとおどろかせてやりましょう! 

 

 

「ふふ、2人は仲が良くなってくれて、嬉しいこったよ。んくっ」

 

 

 成り行きを見ていた母さんが再びお酒を飲みます。

 

 その顔は、普段の豪快な母さんからはなかなか見れない優しい笑顔だったので、見た私も嬉しくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。めったに見れない母さんの笑顔を見れて、私は晴れ晴れとした気分で登校しました。

 教室に着くといつものメンバーが揃っていて、私たちはちょっとした話で授業が始まるまでを過ごそうとしました。

 

 

 ・・・・・・が、すぐに私は違和感を覚えました。吉井君です。

 

 

 いや。別に吉井君の態度がおかしいとか普段と違うとかではありませんよ?むしろ、その方が今回に限っては良かったのです。

 

 

 ・・・今の吉井君は、《《瑞希さんの手紙を読んだあとにしては》》、普段通りすぎではないですかね?

 

 

 普通は異性―もしかすれば意中の女の子―から告白をされれば、間違いなく喜ぶものです。なのに、吉井君は全くそんな素振りが無く、坂本君にいじられたりチルノにバカ呼ばわりされているだけでした。

 

 ひょっとして誰にも知られたくないから隠しているのかな?とも思いましたが、この二日間で、吉井君は全くと言っていいほどに隠し事が出来ない性格であると分かったため、その可能性もないでしょう。

 

 だから・・・吉井君はもしかすると、瑞希さんの手紙を読んでいないのかと思ったのです。

 

 

「瑞希さん。吉井君から何か言われましたか?」

 

 

 こそっと書き主である瑞希さんに聞いてみるも、残念そうにしながら首を横に振りました。

 

 

「あ…で、でも絶対無視をしたわけではないですって!もう少し待ってみましょう!ね?」

「は、はい…」

 

 

 そう言ったら少し笑ってくれましたが・・・やっぱりちょっと残念がってるみたいです。

吉井君に聞けば分かることですが、さすがにそれは野暮だという話。やめておきましょう。

 

 

 

 

 

 気になることがあっても時間は過ぎ、補充テスト、昼食と特に変化も見られることなく、Bクラスとの試召戦争が目前になりました。仕方ないですけど、今は忘れて勝負に頭を切り替えましょう。

 

 そして勝負前のミーティングが開かれ、教卓前に坂本君が立って皆を見渡しています。

 

 

「さて皆、総合科目テストご苦労だった。午後はBクラスとの試召戦争に突入するが、殺(や)る気は十分か?」

 

『おおーっ!』

 

 

 皆さんの大きな声には、どのクラスにも劣らないやる気で満ちています。この教室に心底不満だという思いが伝わってきますよ!

 

 

「今回の戦闘は敵を教室に押し込むことが重要になる。その為、開戦直後の渡り廊下戦は絶対に負けるわけにはいかない。」

 

『おおーっ!』

 

「そこで、前線部隊は姫路瑞希に指揮を取ってもらう。」

 

『うおおーーっ!!』

 

 

 このクラスの人は何というか…女の子に飢えていますねー。女の子が隊長というだけでさらに士気があがりました!

 

 ちなみに今回の私は、坂本君の近辺で護衛をする近衛(このえ)部隊所属です!しっかり守りますよーっ!

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 昼休み終了のチャイム、それすなわちBクラス戦の開幕の合図です!

 

 

「よし、行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」

 

『サー!イエッサー!』

 

「皆さん頑張ってくださーい!」

 

『まかせろメーリィィィィィィン!!』

 

 

「すごいフレンドリーな返しがっ!?」

 

 

 そのままBクラスへ行く廊下へダッシュする皆さん。確かにやる気は十分でした。

 

 

「み、皆さん待ってくださ~い!!」

 

 

 でもね、勢いは大事ですけど隊長を置いて行っちゃだめですよ?先行く皆に追いつこうと慌てて走り出す隊長さん。威厳はありませんけど可愛らしさは最高ですね!

 

 

「いや~、瑞希さんって、見ていて癒(いや)されますね~」

 

「・・・・・・(ススッ)」

 

「あれ、どうして私から一歩離れるんですか?私変なこと言いました?」

 

「・・・いや、紅(ホン)よ。お前はソッチ系の人間なのか?」

 

「はい?」

 

 

 どうしていきなりそんな・・・ああ、さっきの言葉のせいですか。

 

 

「いえいえ、別に私は同性愛者ではありませんよ?ただ、可愛らしさのない私には可愛い人に憧れちゃうんですよ。」

 

 

 生まれ変わりたい!なんかは思いませんけどやっぱり羨ましいんですよね~。咲夜さんと並ぶ可愛さですからなおの事です!

 

 

「ほ~。だが、なんだかんだで紅は可愛い部類に入るんじゃないか?」

 

「あら、そうですかね?お世辞を言っても太極拳しかあげれませんよ?」

 

「そんな礼ならいっそ何もやるんじゃねえ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と。まずはここを勝たないといけないんだね。」 

 

 

 今回の作戦を忘れないために、僕、吉井明久は声に出しながら走る。雄二に作戦によると、Dクラス戦では押されてた廊下戦を、勝ちにいくというのがBクラス戦での最初の目標だそうだ。

 

 そのために、雄二の護衛は美鈴さんを含めた10人だけにして、僕らは40人のほとんどの戦力を注ぎ込んでいる。そして向こうは文系が多いそうなので、こっちは数学系で攻め込む予定だ。

 姫路さんや魔理沙なんかの強い人もいるので、ここで負けたら僕らに勝ち目はない。だからこそ、ここでの勝負は絶対に負けられない!

 

 

『いたぜ!Bクラスの連中だ!』

 

『高橋先生を連れてるぞ!』

 

『生かして返すなーっ!』

 

『やってやるのよさーっ!』

 

 

 Bクラスへと向かう廊下を僕たちは一気に走り抜けると、向こうからBクラスらしきメンバーがこちらに早足で向かっているのが見えてきた。様子見のようで、人数は十数人しかいない。これは僕らにとってはありがたいねっ!

 

 

「来ましたね。Fクラスの方々。」

 

「あ。」

 

 

 あと数秒で衝突という距離になって、僕は見覚えのある人がBクラスの様子見部隊の先頭に立っているのが分かった。

 

 

 薄い銀色のボブカットに、右頭部に付けた黒いリボン。そして真面目そうな顔付きをしている美少女。

 忘れはしない。昨日、僕が1人でBクラスに行ってボコボコにされようとした時に、僕の前に手を広げて立ちふさがってくれた命の恩人に違いないよね。

 

 

 

「皆さん。無理はせずに、頑張っていきましょう!」

 

 

『りょうかい!魂魄(こんぱく)さん!』

『おっけー!妖夢(ようむ)ちゃん!』

 

 

 Bクラスのメンバーは声をあげて戦闘態勢に入った。

 この勝負が終わったら彼女にお礼をしないといけない。僕がそう考えている内に、両クラスメンバーは戦闘をおっぱじめた。

 

 

「開口一番の勝負を頼むぜ!試獣召喚(サモン)!」

「俺もなめられたもんだなおい!試獣召喚(サモン)!」

 

 

『Bクラス 戸村 大地  化学  174点』

        VS

 Fクラス 霧雨 魔理沙 化学  388点』

 

 

「げっ!?」

「なめたのは果たしてどっちだぜこのやろう!」

 

 

 魔理沙が得意科目の化学で勝負に挑んだ。Dクラス戦でおおいに苦戦した、あの霊烏路(れいうじ)さんに並んだ点数の魔理沙には簡単な敵だろう。

 

 

「そこのアンタ、アタイと英語で勝負よ!試獣召喚(サモン)っ!」

 

「む!やってやろうじゃない!試獣召喚(サモン)!」 

 

 

 また、チルノが近くにいるBクラス女子に勝負をしかける。大変悔しいけど、チルノは英語だけ・・・英語だけっ!は凄いみたいだから、英語担当の藤田先生についてもらっている。これならバカなチルノでも戦力になるだろう。・・・そこっ!お前はどうなんだよってツッ込まないで!後で観察処分者として鍛えられた僕のすばらしい腕前を見せてやるから!

 

 

 

『Bクラス 金田一 裕子      英語 153点

        VS

 

 Fクラス チルノ・メディスン   英語 174点』 

 

 

「ウソっ…!?」

「さあ、最強のアタイのひじきになりなさい!」

「ひ、ひじき!??」

 

 

 そこは〝えじき〟だろバカチルノ!相手の女子が、チルノの点数のこともあわせて凄い混乱し始めたよ!

 

 ・・・っていうか!バカチルノの癖に、前よりちょっとだけど点数が上がってるってどーいうことさっ!僕は48点って前より下がったって言うのに!さてはカンニングだな!?補習室に行った時に鉄人に事前に問題でももらったんだな!?何て卑怯な奴なんだ!

 

(※ただ西村先生による補習が功を成しただけである。その考えに至らず、普通は考えられない方向に考えを進めるところは・・・ダメな方向で〝すごい〟と断言出来よう。) 

 

 

 くそう・・・!でも、唇をかみしめて血が出るほどに悔しいけれど、チルノは大丈夫だろう。むしろ他の所がやばい。さすがBクラスという奴だ。

 

 

 

『Bクラス  野中 長男  総合 1943点

VS

 Fクラス  近藤 吉宗  総合  764点 』

 

 

 

『Bクラス  丸尾 集   物理  159点

        VS

 Fクラス  武藤 啓太  物理   69点 』

 

 

 点数差がひどくてどんどんと劣勢になっている。0点になるとその勝負には参加できなくなってしまうから、それだけは避けたい

 

 

「せやあっ!」

「ぐわあっ!」

「さ、沢井ー!」

 

 

 あ、沢井君がやられた。って早くない!?まだ始まってすぐだよ!?そして誰も援護はしてやらなかったのかな――!

 

 

 

 

 

 

 

 

『Bクラス 魂魄 妖夢   物理  300点

       VS

 Fクラス 沢井 明    物理    0点

        &

      田島 勝    物理   73点

        &

      芋沢 大作   物理   81点 』

 

 

 

 ごめん、相手の点数が高すぎたからだったんだね。

 

 

 

「すみませんが、一切容赦しませんよっ!」

 

「「じょ、上等ォォォ!!」」

 

 

 白いシャツに緑色のベストを着た二刀流の召喚獣に、田島君達の召喚獣がとびかかるけどあっさりひらりと攻撃をかわされ、それぞれの刀で2人の召喚獣を切り捨てた。これで3対1の勝負は、まさかの1人である魂魄さんの勝ちである。

 

 

「戦死者は補習ぅぅ!」

「ちくしょー!!」

「Dクラスの時と同じかよォォ!!」

「俺たちゃ噛ませ犬なんかじゃねえぞおおお!!」

 

 

 補習室の番人、鉄人に連れられて行く3人。はやくも3人が離脱してしまうとは・・・!

あんな点数を取ってるなんて、魂魄 妖夢さん、敵になるとなんて恐ろしい人なんだ!

 

 魂魄さんを含め、Bクラスのメンバーの強さに僕は慄(おのの)いていると、

 

 

「お、遅れ、ました・・・。ごめん、なさい・・・。」

 

 

 後ろから、息を切らした姫路さんがやってきた。どうやら僕らの走りに追いつけなかったみたいだ。

 

 

「!皆さん!姫路瑞希さんが来ました!」

 

 

 魂魄さんが姫路さんを見ながら声を上げる。やっぱり僕たちのクラスの事をきちんと調べてるようで、Bクラスの人が漂わせる雰囲気もよりしまって行くのを感じた。

 

 

「じゃあ、姫路さん。着いてすぐで悪いんだけど・・・」

 

 

 疲れてるみたいだから休ませてあげたいけど、魂魄さん達は思ったより手ごわいから姫路さんにも出てもらうしかない。申し訳ないけれど、僕は彼女に頼んだ。

 

 

「は、はい。行って、きます。」

 

 

 姫路さんは全く嫌そうにせずに、戦場へと足を運んで行った。何ていい子なのだろう。僕は心を癒されずにはいられなかった。

 

 

「長谷川先生。Bクラス岩下律子がFクラス姫路瑞希さんに数学勝負を挑みます。」

 

「あ、先生!菊入 真由美も参加します!」

 

 

 姫路さんに早速勝負が申し込まれた。しかも相手は2人だ。

 

 

「あ、長谷川先生。姫路瑞希です。よろしくお願いします。」

 

 

「私も参加させてもらいます。彼女は手ごわいですからね。」

 

「「!!妖夢ちゃん!」」

 

 

 いや、さらに中々の点数を持っていた魂魄さんも加わってしまって、3対1に!?そ、それは姫路さんでもやばくない!?僕も参加せざるをえないかな!?

 

 

「だ、大丈夫姫路さん?」

 

 

 不安になったので姫路さんに声をかけみるけど、姫路さんに慌てた様子はない。

 

 

「大丈夫です。吉井君。」

 

 

 そう言って、姫路さんはにこっと笑い、 

 

 

「数学は結構解けましたので♪――試獣召喚(サモン)。」

 

  

 召喚獣を呼びよせた。

 

 

『試獣召喚(サモン)!』

 

 

 魂魄さん達3人組も召喚を行い、全員の召喚獣が場に現れた。 

 

 

 

「!まずいですね・・・!」

 

 

 そう言って顔をしかめたのは、魂魄さんだった。

 

 

「え、な、何が?」

 

「どうしたの妖夢ちゃん?」

 

 

 僕も2人と同じように、どうして魂魄さんが困った顔になったのかは分からない。視線は姫路さんの召喚獣みたいだけど、一体何に目をやったんだろうか。

 

 大剣を持ってる以外には、綺麗な腕輪しか見えないけ・・・・・・あれ、腕輪?なにかあったような?

 

 

「かわして2人ともっ!」

 

「え、え!?」

 

「なんで急に――」

 

 

 魂魄さんの召喚獣が横に大きく跳んだ。2人もよく分からないといった感じに、横へ跳び、

 

 

「姫路さんが腕輪を付けていま――!!」

 

「ごめんなさい。これも勝負ですのでっ!」

 

 

 姫路さんの召喚獣の腕輪から光が発せられて、

 

 

 

 キュボッ!

 

 

「きゃあぁぁーっ!」

 

「り、律子ー!?」

 

 

 ・・・光線が発射され、少し跳びが甘かった召喚獣が炎に包まれた。

 

 

 

『Bクラス 岩下 律子  数学   0点

        &   

      菊入真由美  数学 151点

        &

      魂魄 妖夢  数学  300点

       

        VS

 Fクラス 姫路 瑞希  数学  412点 』

 

 

 

 そういえば、何点だったかは忘れたけど、高い点数をとったら特別な能力を持った腕輪が装備になるんだったっけ?すっかり忘れてたけど、それを取るとはさすが姫路さんだ。

 

 

「やあ!」

 

 

 姫路さんの召喚獣がまた仕掛ける。あの二人組だった子の召喚獣へと接近して、頭に大きな大剣を振り下ろす。

 

 

「むうっ!」

 

 

 ガギィン!

 

「!妖夢ちゃん!」

 

 

 でも、あたる寸前で魂魄さんが日本の刀を交差させて、姫路さんの両断を防いだ。

でも、点数は姫路さんの方が上だから、魂魄さんが少しづつ押されていく。

 

「う・・・!菊入さん、早くそこを離れてください!私が引けませんからっ!」

 

「あ、う、うん!」

 

 

 慌てて、菊入さんという女子の召喚獣がそこを離れた。

 それを確認した魂魄さんの召喚獣は、迫りくる斬撃を防いだまま体を左へと動かして、左、右の順で刀を素早く引き下げた。

 

 

「!」

 

 

 支えの無くなった姫路さんの召喚獣は、そのまま床へと身の丈より大きい大剣を叩きつけた。魂魄さん、よくあんなのを防いでたね・・・!僕だったら一刀両断されて地獄の痛みを味わっていたところだよ!

 

 ともかく、姫路さんと魂魄さん達2人の召喚獣は少しの間対面しあう。

 

 

「あ、ありがとう妖夢ちゃん。・・・で、でも、どうする?ちょっと思ったよりも苦しいんじゃない・・・かな…」

 

「・・・」

 

 

 姫路さんの脅威を感じ取ったのか、菊入さんが、わずかに足をさげて言いづらそうにつぶやく。そもそもの戦力が少ない上に、点数でも何人かには負けてしまってるので、ここで闘うのは無謀。いったん下がろうと言う菊入さんの考えは普通に考えて正しい・・・誰だって鉄人の補習なんて受けたくないもんね!!僕ならすぐにトンズラしてたよ!

 

 魂魄さんもそんな菊入さんの意思を汲んでか、他のBクラスの人に伝達する。

 

 

 

「・・・仕方ありません。皆さん、中堅部隊と入れ替わりながら後退してください!戦死だけはしないように!」

 

 

『りょうかい!』

 

 指示通り、魂魄さん達10数名は後退し始めた。これは僕たちにとってもありがたい。姫路さん達が活躍してくれたとは言え、僕らも何人か戦死しちゃったから体制を整えるいいタイミングだ。

 

 

「明久。わしらは教室に戻るぞ。」

 

 すると、秀吉が僕の所へやって来て教室に行くように言われた。

 

「え、なんで?」

 

「なんでも、Bクラスの代表は根本だそうじゃ。」

 

「あ、そうだったね。」

 

 

 僕が宣戦をした瞬間に,クラスのメンバーに僕をぼこぼこにしろと指示した奴だ。あんな奴の下に魂魄さんみたいな子がいるなんて、なんだか複雑だなあ。そのおかげで僕は彼女に助けられたんだけどね。

 

 でもとにかく、勝利すれば何でもいいという考えの根本君がが、どんな作戦を使ってきてもおかしくない。ここは確かに一度戻って、向こうで何も起こっていないか確認をしたほうがいいかもしれないや。

 

 

「じゃあ、僕は姫路さんと島田さんに伝えてくるから、秀吉は魔理沙とバカチルノに伝えてきて。」

 

「バカチルノって・・・お主もバカじゃろうが。」

 

 

 そんな秀吉の言葉は、チルノと僕の事を知らないから言えるんだろう。また今度しっかり僕の凄さとチルノのアホさを教えなくちゃいけないね。

 

そう決めて、僕たちは4人に後の事を任せるのを知らせに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。先発隊、戻りました。」

 

「おかえり。で、どうだった妖夢?」

 

「はい。やっぱりちょっと姫路さんが手強いですね。あれは1対1ではまず勝てないと思います。」

 

「ふうん…やっぱりすごいわねえ。私も彼女ぐらい賢ければよかったんだけどね。全く妬ましいわっ。」

 

 

 

「パ、パルスィさんも十分賢いですよっ?だから妬むことなんかありませんって。」

 

「・・・はあ。あなたと話してると、私がもの凄くみじめに感じるわね・・・」

 

「そ、そんな・・・と、ところで根本君はどこへ?どこにもいない気がしますが・・・」

 

「ああ、あれなら屋上よ。」

 

「は?屋上?」

 

「なんか作戦を実行するとかなんとか抜かしてたな~。妖夢ちゃんはいなかったから知らなくて当然よ。」

 

「あ、真田(さなだ)さん。」

 

「全く。自分だけ勝手に動いておいて、私らには自分の指示に従えだなんて、どこまでも救いがないわねアイツ。」

 

「で、でもそういうことは言ったらやっぱりダメですよ。聞いたら傷付いてしまいますよきっと。」

 

「・・・・・・もうっ!妖夢ちゃんったら!」

 

「わぶ!?ちょ、真田さんくるし」

 

「昨日あのバカにあんなひどい事を言われたのに!なんって優しい女の子かしら!妖夢ちゃん!きっといいお嫁さんになれるわ!私が保証する!」

 

「は、はぁ・・・」

 

「・・・あんたの保証がなんぼの物か知らないけど、私の前でそういうことを言わないでちょうだい。妬ましさが膨れ上がってくるからさぁ・・・ああ妬ましいっ!!」




 お読みいただきあありがとうございます!

 もう分かっていた方が大半だと思いますが、〝彼女〟とは幽人の庭師!『斬れぬものなど、あんまり無い!』などが有名な魂魄 妖夢でした!彼女もまた村雪、好きですね~!

 あと最後の方に1人出てきましたが、こちらもまだ正式に出ていないという事で紹介はまだということに。

 果たしてこうやって東方メンバーに出演してもらってるのですが、ちゃんと原作一巻以降にからませていけるのか・・・最近非常に気になり始めた作者でもあります。

 まあ未来の事より今。皆が明るい気分になれる小説を目指して次回以降も書いていく予定です!

 それではまた次回!


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卑怯―勝利、すればなんでもありなんて実に良くないぜ!

こんにちは、村雪でございます。

 
 今回、ちょっと長めになりましたけど、読んでいただければ!


――自分のペースで、ゆっくり読んでいってください。


「ところで、聞きました?Bクラスの代表は根本君だそうですよ。」

 

 

 皆が外でBクラスと戦っているであろう時、坂本君の親衛隊である私は、教室で坂本君に確認します。

 

 

「ああ、もちろん知っているさ。奴が厄介なこともな。」

 

 

 おお、さすが代表、相手の事も調べ済みです。

 

 

「何を仕掛けてきますかね?あんまり楽観ができない男子ですよー。」

 

「さあな。だが、姑息な手段を使ってくるのは間違いない。」

 

 

 試召戦争はあくまで〝戦争〟なので、どんな手段を使っても問題は無い、というのはおかしくない考えなのかもしれませんが、出来れば険悪な空気になるような行為だけはは避けてほしいものですよ。

 

 

 そんな心配をしていると、

 

 

「坂本、少しいいか?」

 

「ん?どうした田中。」

 

 

 渡り廊下に向かったはずの田中君がやってきました。連絡事項でしょうか?

 

 

 

「それが、Bクラスの奴に、Fクラスの代表とこちらの代表で協定を結びたいと持ちかけられたんだが。」

 

 

「協定を?」

 

「まだ始まったばかりなのにですか?」

 

 

 私は坂本君と顔を見合わせました。・・・もしや、これも何かの企みでしょうか?

 

 

「ああ。で、もしも乗ってくれるのなら、屋上に来てくれという事だ。あと、この際の試獣召喚は一切ナシだそうだ。信用できないのなら教師も連れてきてもいいらしい。」

 

 

 う~ん。見届け人の先生がいる前で約束を破ればそれはルール違反となり、Bクラスは問答無用で負けとなる。それならば、まずだまし討ちという事は絶対ないですね。そこは安心しました。

 

・・・となると、

 

 

「よし、ひとまず話だけは聞くことにしよう。お前たちも着いてきてくれ。」

 

『おうっ!』

 

 

 私以外の親衛隊が快諾(かいだく)して、屋上へと出向く準備を始めました。うん、万が一のことがあっても、この人数ならば大丈夫でしょう。私が行く必要はないでしょう。

 

 

 

「坂本君。私はここで見張りをしてていいですか?」

 

「見張り?」

 

 

「はい。誰もいない間に、誰かが来ないとも言えないですからね。」

 

 

 向こうも、何の警戒もせず坂本君が1人だけでやってくるとは考えないに決まっています。だからそこを逆手に取り、坂本君を警備でごてごてにして、教室の守りを薄くさせる・・・な~んて作戦を思わなくもないんですよねー?

 

 それに、Fクラスのメンバーが作戦を仰(あお)ぎにくる可能性もありますから、いずれにせよ1人は教室に残るのが得策だと思うんです!

 

 坂本君は少しだけ考える素振りを見せましたが、一理あると判断してくれたのか頷いてくれました。

 

 

「分かった。じゃあ教室の事は頼んだぞ?」

 

「あいあいさー!」

 

 

 そして坂本君プラス親衛隊数名は屋上へと出発し、教室の中にはポツンと私1人だけになりました。

 

 いやあ、さすがに教室が広く感じますねー。これで畳が綺麗なら私は十分この教室で満足できるのですが・・・無理な物は無理ですから仕方ありませんね!

 

 

 

 

「……それにしても、瑞希さんの手紙はどうなったのかしら…」

 

 

 誰もいなくなったので、私は自分の両手と座布団を枕に、ごろんと寝転がりながら考えます。今の私の仕事は教室の見張りなので、まあ体勢はなんでも構わないでしょう。

 

・・・吉井君の机に、瑞希さんが手紙を置いたのは間違いない。私もこの目で見ましたしね。

 だから、普通ならば翌日、つまり今日に吉井君が手紙を発見することは確定的だったはず。でも吉井君は、あくまで予想ですけど、まだ手紙をみていない感じがします。

 つまり、今朝には手紙がちゃぶ台の上に無かったということになりますよが・・・どうしてちゃぶ台から無くなったのでしょう?

 

 考えられる理由として…誰かが持ち去ったか、風か何かの外的要因で吹き飛んだ。まあその2つ、でしょうか?

 

 前の方はどうしようもないですけど、後ろなら教室をくまなく探せば見つかりますし、ちょっくらそこら辺を探してみますかね?よいしょっ――

 

 

 

「………ん?」

 

 

 ・・・・・・途中、私は動きを止めて、耳を澄ませました。

 

 …………誰かいますね。前の扉の方に。

 

 

 

「……んー。」

 

 

 Fクラスの誰かならすぐに入ってくるはず。しかもあの影の動きは、人の目を気にしてるような動きです。

 

 そこを踏まえると……

 

 

「私の勘も捨てたものじゃないですね。」

 

 

 私は音を出来るだけたてずに、自らのちゃぶ台の下に体を潜ませます。

 

 

「よい、しょ。さすがにきついな~」

 

 

 ちょ、ちょおっときついけどなんとか収まりました!こんなところでちゃぶ台が活かされるとは思いませんでしたよ!

 

 

 狭いけど、何とか呼吸を落ち着かせ、私は静かにその時を待ちました。

 

 

 

 ガラガラ・・・

 

 

 む、来ましたね。

 

 

「・・・よし、誰もいないぞ。」

 

「皆屋上に行ったみたいだな。上手くいった。」

 

「まさかBクラスの奴が、Fクラスの本拠地にいるなんて誰も思わないだろうな。」

 

 

・・・残念。今、あなたたちの足元で予想しているどころか反撃しようとしている輩がいますよ~?Bクラスの人たち。

 

 

 人数は3人。彼らは何をしにやってきたのでしょう。

 

 

 

「よし、じゃあ手早くぼろぼろにしていくぞ。野崎はちゃぶ台で、坂上と俺は文房具をやるぞ。」

 

「「おう。」」

 

「………」

 

 

 

・・・どうも、思ったよりも面倒なことを狙っているみたいです。

 

 様子を見るつもりでしたけど、ここは早めに動くとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

  私は、全力で3人の足元を払いました。

 

 

 

 ヒュバッ! 

 

 

 

「!?」

「いっで!?」

「ぐえっ!?」

 

 

 3人が尻餅をつき、痛そうにお尻をさすっています。そこに、私はちゃぶ台の下から出ようとしながら声をかけました。

 

 

「――――あんまり悪いことをしてると、痛い目にあいますよぉ?」

 

 

「ひ!?」

 

「な、紅 美鈴(ホン メイリン)さん・・・!」

 

「そ・・・そんなところで見張ってたのか!?」

 

 

 3人が私を見て顔を青くさせました。このままだと様にならないので、急いでちゃぶ台の下から這い出て立ち上がります。・・・うん、開放感たっぷりですねー!

 

 

「よいしょっと。・・・で、あなた達は何の用でこちらにいらしたんですかね?」

 

「あ、え、ええと…」

「…」

 

 

・・・ふむ、答えたくはない、と。 

 

 

「正直に言わないのは構いませんが……このまま補習室に行くのは嫌じゃありませんか?」

 

 

「「「ひいっ!」」」

 

 

 その言葉だけでガタガタと震えだす3人・・・西村先生、あなたはどんな補習を行っているのですか・・・?生徒にトラウマを植え付けていませんか?

 

 

「もしも言わないんであれば、坂本君達が戻ってくるまでここにいてもらいますよ?きっと先生を連れているでしょうし、Bクラスとはいえ多勢に無勢じゃないですか?」

 

 

 少しはてこずりそうですけど、3人ぐらいならいけなくもないでしょう。

 

 

「だ、代表の根本の指示で、Fクラスの点数補給を妨害するからちゃぶ台と筆記用具を使い物にならないようにしろと言われたんだ!」

 

 

 その脅しが効いたのか、1人が慌てて吐いてくれました。

 

 

「……ほ~?人の文房具をねえ・・・?」

 

 

 そんなことをして許されると思ってるんですかね?少なくとも、私に許す気は全くありませんよ。

 根本恭二君、想像よりも私の癇(かん)に障る男子であったようです。

 

 

「・・・で、あなた達は指示でやってるだけだから責任はない、なあんて思ってるんじゃないですよね?え?」

 

 

「あ、い、いや悪いとは思ってます!俺たちだって魂魄(こんぱく)さんのやり方に従いたかったんだ!」

 

「だ、代表が魂魄さんのいない間に、筆記用具の破損をやってこいと根本が指示をしたからで、俺たちはやりたかったわけではないんです!」

 

「す、すいませんでした!」

 

 

 慌てて言うものですからちょっとわかりづらかったですが、〝こんぱくさん〟と言う人が真面目で正々堂々とした人と言うのは伝わりました。

 

 

「……は~」

 

 

 皆さん必死ですけど、口ではなんとでも言えますからねえ・・・

 

……まあ、一応未遂で防げましたし、代表の指示というのは本当でしょうから、ここは勘弁してやりましょうか。

 

 

「・・・分かりました。。このけじめは根本君につけてもらうとしますから、あなた達については不問にしてあげます。」

 

「「「ほ、本当ですかっ!?」」」

 

「ただし。」

 

 

 いくら不問にしたとは言え、またも何かをしないとも限らない。私は極上のエガオで3人に忠告をしました。

 

 

 

「――次、私の頭にカチンとくる作戦に従ったら、ぼこぼこにしますからね…?」

 

 

「「「ひ!は、はい~~~っ!!」」」

 

 

3人は猛ダッシュでFクラスを出て行きました。よし、ひとまずこれで被害は出ずに済みましたね。見張りの役目成功です!

 

 

「全く、それにしてもやっていいことと悪いことがあるでしょうに。」

 

 

 文房具は、一度壊してしまったら、二度と使えなくなる。補充をして何度でも回復させられる召喚獣とは違う事を、根本君は分かっているのでしょうか?

 

 〝物は大切に〟など小学生でも知ってますよ。

 

 

「…そこら辺のことは、Fクラスの設備なんかが一番尊重してますね。」

 

 

 意外なところでFクラス設備の良さが見つかりました。確かに何でも新しければいいってわけじゃないですもんねー。これは一本取られましたよ。

 

 

 さて、物を大切に思うのは隅に置いて、瑞希さんの手紙がどこかに落ちていないかを確認しましょうか。

 

 え~と・・・・・・---

 

 

 

 ガラガラッ

 

 

「!」

 

 

 振り向くと、扉の前には二人の男子が。

 

 またもBクラス!?と思い身構えましたが・・・ホッと一息。それはよく見た顔でした。

 

 

「あれ?美鈴さん1人なの?」

 

「はい、色々とありましてね。吉井君と秀吉君はどうしました?」

 

「うむ、少し気になることがあっての。」

 

 

「美鈴さん。教室で何も起こらなかった?」

 

 

 2人、吉井明久君と木下秀吉君は、教室を見渡しながら聞いてきます。う~ん、問題はなかったですけど、トラブルが起こりはしましたよね?

 

 

「ついさっきBクラスの人たちが入ってきましてね。全員の筆記用具とちゃぶ台をメチャクチャにしようとしていましたよ。」

 

「ええ!?」

 

「だ、大丈夫じゃったのか?」

 

「ええ、一応未遂で終わらせたと思いますので、大丈夫です。」

 

 

 安心してホッと息をもらす2人。まあ見もしない内に、自分の持ち物が壊されて嬉しいはずがありませんから当然の反応ですよね。

 

 

「しかし、根本とは本当に卑怯な奴じゃな。そんなことまでしようとはのう。」

 

「全くだよ!秀吉たちみたいな女の子の持ち物に手を出そうなんて男として失格だ!」

 

「明久、だからわしは男じゃと言うておろう・・・」

 

 

 友達の男子を女子と間違えるのもだいぶ失格じゃないでしょうか?何として、とは言いませんけど。

 

 

 ガラリ!

 

「帰ったぞ紅・・・って、明久に秀吉じゃないか。何を話しているんだ?」

 

 

 さらに、坂本君達が教室へと入ってきました。どうやら話し合いは終わったみたいです。

 

 

「坂本君、協定結びの方はいい塩梅(あんばい)に終わりましたか?」

 

「ああ、一応な。」

 

「?雄二、協定結びってどういうこと?」

 

「後で話す。それより、そっちで何かあったのか?」

 

 

「まあ案の定というか偶然というか、Bクラスの人がこのクラスに入ってきて文房具とかその他もろもろをダメにしようとしました。」

 

「そうか・・・紅の言う通りだったな。良くやってくれた。」

 

「いえ、それが仕事でしたから!」

 

 

 だらけて寝っ転がってたのは秘密です♪

 

 

「で、さっきの協定結びって何なの雄二?」

 

 

 あ、私も気になりますね。一体どんな内容だったんでしょうか?

 

 

「ああ、お前たちのいない間にBクラスから協定を結びたいと申し出があってな。」

 

「協定じゃと?」

 

「で、その内容は?」

 

 

「そんな面倒なことじゃない。四時までに決着がつかなかったら、戦況をそのままにして続きは明日午前九時に持ち込み。その間は試召戦争に関わる一切の行為を禁止する、だ。」

 

 

「・・・それだけですか?」

 

「ああ。」

 

 

・・・変ですね。さっきの根本君の作戦があまりにも卑劣でしたから、こっちの方も不利な条件を持ちかけてくると思ったんですけど……また何か裏があるのでしょうか?

 

 

「それ、雄二は承諾したの?」

 

「そうだ。」

 

「でも、体力勝負に持ち込んだ方がウチとしては有利じゃないの?」

 

「姫路以外は、な。」

 

「あ。」

 

「あ~。確かに、瑞希さんはあんまり体力がなさそうですね。」

 

 

 もちろん、そんなところも個性なんですから責めてなんていませんよ?

 

 

「あいつ等を教室に押し込んだら、今日の戦闘は終わるだろうな。そうすると、作戦の本番は明日になる。」

 

「そうだね。この調子だと本丸は落とせそうにないね。」

 

「この調子って・・・そういえばそちらはどんな状況なんですか?」

 

「うむ。魔理沙や姫路やチルノや島田等が頑張ってくれておるから大丈夫じゃ。」

 

「み、見事に女の子ばっかりですねえ。男の子も頑張ってくださいね?」

 

「め、面目ない…」

 

 

 

『おりゃー!』

 

『ちくしょおお!こんなバカ女にいいいい!』

 

『だ、誰がバカよバカーッ!』

 

『そうだぜ、じゃあバカに負けたお前は大馬鹿だな。』

 

『まりさ!アタイがバカってことが否定されてないのよさ!?』

 

『言葉のあやって奴だぜ!・・・おしっ。あらかた片付いたな。そっちはどうだ田中?』

 

『ああ、こっちもあらかた終わったぞ。』

 

『おうし!じゃあひとまずここはオッケーだな。あとは吉井の方だ。』

 

『あれ?でもさっき、よしーとひでよしが向こうに行ってたのよさ。』

 

『あん?じゃあ今は誰が指揮を執ってるんだぜ?』

 

『え~っと…ああ、確か島田が吉井の補助をしていたような・・・』

 

『た、大変だ田中!霧雨さんっ!』

 

『ん?どうした須川?』

 

『その慌てよう、何かあったのかよ?』

 

『……し、島田が人質に取られた。』

 

 

『・・・・・・・・・はあっ!?』

 

 

 

 

 

 

「後々、姫路や紅なんかの個人の戦闘力の方が大事になる。だから姫路にはあくまで後半戦に力を残しておいてもらう必要がある。」

 

 

「ふむう、このまま押し続けても守りが固くなってくるでしょうし、確かに深追いは危険ですね。」

 

「だから受けたの?姫路さんが万全の態勢で勝負できるように。」

 

「そういうことだ。この協定は俺たちにとってかなり都合がいい。」

 

「…………」

 

 

 あやしすぎます。こちらに都合のいい協定を持ち出すなんて、どんな無能な指揮官でも選ばない選択です。それを卑怯な根本君が持ち出したあたり、間違いなく何か企んでますね。もはや決定事項です。

 

 

「明久、秀吉。そういうわけだから廊下の勝負、なんとしても勝ってこい。で、姫路には教室に戻るよう伝えてくれ。」

 

「わかった。」

 

「うむ、ではいこうかの。何かが起こっておる可能性もあるのじゃ。」

 

「そうだね、急ごうか。」

 

「何かあったら報告してくださいね~。」 

 

 

 

 2人は頷いて渡り廊下へと走っていきました。・・何も起こらないでいてほしいですねと、私はあまり期待せずに願いました。

 

 

 

 

 

 

「ふ~む……」

 

「なんだ?変に悩んでるじゃないか?」

 

「いえね、これが終わってからの事を考えてまして。」

 

「?ってのは?」

 

 

「根本君にどう落とし前をつけてもらおうかということですよ。」

 

「……未遂なのに、紅は何気にしつこいな。」

 

「しつこいとはひどいですねー。世の中にはやってはいけないことがあるという事を、身に教えてあげるだけですよ!」

 

「そのやってはいけないことを、間違いなくお前がやろうとしていることに気付け!」

 

 

「い、今、吉井君達と入れ替わりですけど、戻りました坂本君・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では、くれぐれも注意するんじゃぞ!」

「秀吉もね!」

 

 

 姫路さんと入れ変わって、秀吉とそこで解れて僕たちはそれぞれの持ち場へと移動する。僕の率いる部隊は、島田さんが代わりに指揮を執ってくれているはず、いそいで戻らないと!

 

 しだいに人ごみが見えてきて、僕が近づくのと同時にパタリと目があった。

 

 

「おお吉井。やっと戻って来たか。」

 

「あ、ごめんね魔理沙。」

 

 

 あれ?魔理沙が僕たちの陣営を取り仕切っているの?魔理沙はチルノと一緒の部隊だったと思うんだけどなあ。島田さんはどうしたんだろう?

 

 

「で、戦況は?」

 

「んー、まあやっかいなことが起きてるぜ。」

 

「え?何が起こったの?」

 

 

 Bクラスはまだ本隊を動かしてないはずなのに。戦力では負けることが無いんだけど・・・

 

 

「あー・・・美波の奴が人質に取られたんだぜ。」

 

「なっ!?」

 

 

 今度は人質作戦か!卑怯の定番じゃないか!

 

 

「おかげで相手が二人だけってのに膠着(こうちゃく)状態になってやがる。この際美波には尊(とうと)い犠牲になってもらおうかと思うんだが。吉井はどうだぜ?」

 

「う、う~ん・・・」

 

 

 Bクラス勝利のためには正しい行動なんだろうけれど・・・それだと可哀そうなんだよなあ。できることなら、解放してあげたいのが僕の本音だ。

 

 

「ひとまず、様子を見てもいいかな?」

 

「おう、なら前の方に行こうか。チルノが対応してくれてるぜ。」

 

「それ、絶対人選ミスだと思うよ。」

 

 

 島田さんはもう手遅れかもしれない。チルノが上手く交渉する姿なんて、どこかが豊満な島田さん並に想像できないや。

 

 

 

「みなみを離しなさい!この卑怯者たち!」

 

「ふん!離せと言われて離す卑怯者はいねえよ!」

 

「・・・おお!それもそうね!あんた賢いじゃない!」

 

「納得したらダメだチルノ!島田が非常に困った顔をしてるぞ!」

 

 

 チルノと田中君の声が聞こえてきた。どうやら交渉真っ只中みたいだ。

 

 

「それ以上近づくな!もしも近づけば召喚獣に止めを刺して、この女を補習室送りにしてやるぞ!」

 

「ふん!そんなことをしてみなさい!アタイらがアンタ達も西村ペキン原人の下に送り込んでやるのよさ!」

 

 

『ぶはっ!』

 

 

 FクラスBクラス一同が噴き出す。チルノ、僕はどうやら君を見くびっていたようだ。その正直な心と本質を見抜くまなざしに尊敬しようじゃないか。

 

 

「はっはは・・・!!と、とにかく!そのジャワ原人もどきのもとにこの女が送られたくないのなら、それ以上近づくな!」

 

 

 Bクラスらしき人は、笑いをこらえつつも脅迫し続ける。反鉄人同盟で盟友になれそうなだけに、残念だね。

 

 

「断るわ!そっちがその気なら・・・・・・・・・遠慮なく突っ込んでやるわよ!?」 

 

「ちょ、チルノー!?」

 

「お、お前!奥の手と思わせる言い方だけど、ただ単にこの女を見捨ててるだけじゃねえか!?」

 

「大丈夫よ美波!・・・あんたならきっとあん畜生の試練を乗り越えられるわ!」

 

「に、西村先生のお世話になってるところで全然大丈夫じゃないわよ!?」

 

 

 味方であるはずのチルノが、島田さんを地獄の補習室へと追いやっているこの状況・・・やはりここは僕が出るしかないみたいだね!

 

 

「チルノ!他にも手があるはずだから待つんだ!」

 

「!よしー!」

 

「よ、吉井!」

 

 

 2人が僕の方を向いてくる。さながらデートの待ち合わせで彼氏を見かけた彼女さんの反応だ!僕には縁の無いことだけどね!

 

 

「いいところに来たわよしー!」

 

 

 チルノが待ち焦がれた様子でそう僕に言ってきた!普段バカバカ言ってるチルノも、ようやく僕の凄さが分かったようだね!

 

 

「チルノ!待たせてごめんね!」

 

「大丈夫なのよさ!これで上手くいくわ!」

 

 

 そう言って笑うチルノの笑顔はいっそう輝いて見えやがるよ!

 

 すぐに僕はチルノの横に移動、Bクラスの2人に捕まっている島田さんを見る。彼女も僕の顔を見て顔に華をさかせていた。

 

 

「吉井!アンタなら来てくれると思ってたわ!」

 

 

「それは期待に添えて良かったよ!」

 

 

 まるでスーパーヒーローになった気分だね!よし、ここは期待を裏切らないように島田さんを助けようじゃないか!

 

 まずはBクラスの奴らに、総攻撃されてほふられたくないなら島田さんを解放しろと、紳士な大人の交渉力を駆使して説得してみるとしようか!

 

 

 

「Bクラ「あんた達2人!」・ス・・・」

 

 

 ちょっと、僕の交渉話術をお披露目する前に、声を遮らないでくれるかなチルノ?今は僕の言葉を聞いて驚くところだと僕は思うんだよ。

 

 

 

「これが最後の言葉よ!みなみを解放しなさい!」

 

 

 

 そんな僕の事なんか気にせず、チルノは真剣な顔で声を張り上げる。

 

・・・そうか、チルノも島田さんが心配で必死だったんだよね。だから今もこうやって説得しようとしてるのに、それを止めるなんて僕は・・・。

 

 男としては、黙って見るのが正解だった

 

 

 

「代わりにこのよしーを人質に渡してやるわ!」

 

「待つんだチルノ。」

 

 

 

 女の子が間違っていたら正すのが男の役目だよね。・・・っていうかさあ!?

 

 

「君はバカか!僕を人質に渡したところで、状況は何も変わってないよ!?」

 

「誰がバカよ!甘いわねよしー!そんなんだからあんたはバカなのよっ!」

 

「どうバカなのか説明をしてもらおうじゃないか!」

 

 

 僕を納得できる理由なら乗ってやるよ!でも出来なかったらチルノを人質に差し出してやるっ!

 

 

 

 

 

 

「そんなの簡単よ・・・あんただからなのよさ。よしー」

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 あ、あれ。何?その意味深な言い方は?・・・・・・チルノ、ひょっとして、僕を買ってくれて・・・?

 

 

 

 

「あんたが補習室に落ちよーが、アタイは全然構わないのよ。」

 

 

 女の子をしばきたいと思ったのは生まれて初めてだ。

 

 

 

「納得がいくかー!むしろ僕が補習室に行く可能性が出てきて悪化してるし!」

 

「吉井!?それだとウチがどうでもいいみたいなことになってるわよ!?」

 

 

 失礼!本音がもれました!

 

 

「ほら!理由は言ったんだから、さっさと捕まりに行って終わりなさい!」

 

「もうそれは人質じゃなくてただの生贄(いけにえ)だっ!」

 

「そ、そんな役立たずの奴なんか人質の役にもならねえよ!出直してきやがれ!」

 

「今だけはその言葉をありがたく受け取っとくよこの野郎!」

 

 

 敵にまで受けるこの屈辱!このままで済ませると思うなよ!

 

 

 

「・・・は~、何をしてるんだお前ら。私が変わるぜ。」

 

 

 ずいっと仲間割れする僕らの前に出たのは魔理沙。確かにこのままだと全然状況は動かない・・・というか悪化しちゃうね。もう君だけが頼りだ!

 

 

「あ~、美波。あとで十分に恨み節は聞いてやる。悪いが今は諦めてくれ。」

 

「う~、ま、魔理沙ぁ―・・・」

 

 

 魔理沙の言葉に、島田さんは仕方ないけど納得したくない、と複雑な顔になった。僕も同じ立場だったらなってたね。

 

 

「で、でもまりさ!それはみなみがかわいそうよっ!何か他に方法があるはずなのよさ!」

 

「仕方ないだろ。このままちんたらしてっと、せっかく抑えこんだBクラスの連中が教室から溢れてくるぜ。折角の私らの苦労が無駄骨になるぐらいなら、クラス1人の犠牲の方が絶対マシだろ?」

 

「う…そ、そうかもしれないけど…」

 

 

 そうは言うけれど、魔理沙の顔は普段の陽気さがなくつまらなさそう。やっぱり魔理沙も好き好んでクラスメイトを手に掛けるわけないよね…

 

 

「ま、そういうわけだ。んじゃまたあとでな美波。」

 

「…!」

 

 

 黒い服、帽子に白いエプロンと、絵本に出てくる魔女とそっくりな見た目の魔理沙の召喚獣が、手のほうきの後ろの部分を島田さんとそれを捕まえている二匹の召喚獣に突き付けた。もう砲撃準備は万端だ。

 島田さんも覚悟してか、ギュッと目をつむってその時を待つ。

 

 

「ま、待て、霧雨!」

 

 

 でも、Bクラスの男子は慌ててちょっと待ったコールをかけた。人質は取るわ往生際が悪いで、もうダメ男の歩く標本だね。

 

 

「ああ?なんだよ?」

 

「コ、コイツがどうして俺たちに捕まったと思っている?」

 

「?単独行動したからじゃないか?」

 

「う、ご、ごめん・・・」

 

 

 あちゃ~、勝手に1人で行動した末に捕まっちゃったんなら、もう仕方ないとしか言いようがないや。僕も魔理沙に合わせるとしよう。

 

 

 

「まあそうだが…コイツ、そこの吉井が怪我(けが)をしたって偽情報を流したら、1人で保健室に向かったんだよ。」

 

 

 すると、そんな事を言いだす敵……え、僕のせいなの!?

 

 

「ほほう・・・?美波、少しからかう質問だが、それは怪我をした吉井にとどめを刺しにいくためか?」

 

 

 魔理沙が急ににやにやした笑いを浮かべだした。真っ先に思い浮かぶ理由が僕の暗殺だなんて、僕はどんな奴に思われてるの?恨みを買うようなことは雄二にしかしていないよ!

 

 

「違うわよっ!分かって言ってるんでしょ魔理沙!?」

 

「はっはっは、だからからかうって私は言ったぜ!」

 

 

・・・よかった。もしもそうだと言われてたら、僕はもう保健室で昼寝も出来なくなるところだった。

 

 それにしても、僕が怪我をしたからって、どうしてわざわざ1人だけで仕事をほったらかしてまで、保健室に行こうとしたんだろう?

 

 気になって島田さんを見つめる。気のせいか島田さんの顔が赤く見えなくもない。

 

 

「た、ただ吉井が心配だったから、様子を見に行きたかっただけよ!勝手に動いて悪かったと思うけど、これが悪い事なの!?」

 

 

「え…し、島田さん。それ本当?」

 

「そ、そうよ悪い?」

 

 

 ぷいっと顔を背ける島田さん。 そ、そうなんだ・・・島田さんが僕の心配を・・・

 

 

「へっ。そういうことだ、だからお前ら動くんじゃねえぞ!」

 

 

「う~ん・・・どうする吉井?」

 

 気持ちが変わったのか、魔理沙が悩み顔で僕にどう行動するかを聞いてくる。

 

 

……どうするって?そんなの…そんなの決まってるじゃないか!僕が言う事なんて、ただ一つだよっ!

 

 

 

「魔理沙・・・・・・・・・」

 

「おう。」

 

 

「――――――――GO!」

 

「よっしゃ。」

 

「どうしてよおっ!?」

 

 

 どうして?そんなの決まってるよ!

 

 

「あの島田さんは偽物だ!変装している敵だから遠慮なくやっていいよ!」

 

 

 僕が女の子に優しく看病される、なんて幸せすぎるイベントが起こるわけないじゃないか!なのにそれが起こるという事は、間違いなくそれはトラップ!

 

 残念だったね!僕という人間のモテなさを測り損ねた君たちの負けだぁ!

 

 

「おい待てって!こいつ本当に本物の島田だって!」

 

「黙れ!見破られた作戦にいつまでも固執するなんて見苦しいぞ!」

 

「だから本当に――!」

 

「隙ありだぜ!」

 

 

 

『Bクラス  鈴木五郎   英語W   0点

        VS

 Fクラス  霧雨魔理沙  英語W 102点』

 

 

 

 

 何かをわめく1人に、魔理沙の光線が炸裂、一瞬に召喚獣の上半身が消え去った。そしてそのままもう1人も撃破!

 

 

 

『Bクラス 吉田卓夫  英語W    0点

        VS  

 Fクラス 霧雨魔理沙 英語W  102点』

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁ―・・・・・・!」

 

「たすけてぇ―・・・・・・!」

 

「貴様ら、俺を旧人類の名称で呼ぶとは良い度胸だ!骨の髄まで補習漬けにしてやるっ!」

 

「「お、お助けぇぇぇぇえええええっ!?」」

 

 

 鉄人、もとい西村先生に連行される2人。チルノもわずかに体を震えさせて、西村先生に恐怖している。

 

 

「…あら、地震が止まらないのよさ。」

 

 

 地震じゃなくて自身だね。

 

 さて、残りは――

 

 

「皆、気をつけろ!変装を解いて襲い掛かってくるぞ!」

 

「吉井、ひ、酷いわ!ウチは本当に心配したのっ!」

 

「まだ白々しい演技を続けるか!この大根役者め!」

 

「美波を見捨てた私が言えたもんじゃないが、お前もなかなかひどいな吉井・・・」

 

 

 この島田さんモドキだ!魔理沙!苦笑いをして僕を見るんじゃなくて、このニセ島田さんを見るんだ!

 

 

「僕にそんな素敵なイベントが起こるはずがない!寝込んでいるところを誰かに襲われるのが僕なんだあっ!」

 

 

「…吉井、苦労してるんだな…」

 

「吉井・・・」

 

 

 ちくしょう!そんな目で僕を見ないでっ!敵に同情されるなんて、悔しい以外の何でもないんだ!

 

 

「あ、あのね吉井!ウチはほんとに島田(しまだ)美波(みなみ)なのよ!」

 

 

 なおも言い訳し続ける偽物。ええい、いい加減往生するんだ!

 

 

「諦めろ偽物!もしも本当だと言うんなら何か証拠を」

 

 

「『吉井が瑞(みず)希(き)のパンツを見て鼻血が止まらなくなった』って聞いて心配した、アホの島田美波よっ!」

 

 

「包囲中止!コレ本物の島田さんだ!」

 

 

 こんな単純なウソにだまされる人なんて、海外育ちの彼女しかいない!どうやらまだ日本の冗談の見分けがついていないみたいだ!海外ではそんなことがあったとしても、日本ではないんだよ島田さん!(※海外でもありません)

 

 

「みなみっ。」

 

「美波・・・それは本当にねえぜ。んなウソにだまされるってお前は幼稚園児か。」

 

「しょ、小学生でもきっとあるわよ!それより魔理沙!あんたこそウチを見捨てようとしてひどいじゃない!」

 

 

 だきつくチルノを受け止めつつも魔理沙に抗議をとばす島田さん。そうだ!仲間を切り捨てるなんてやり方間違ってるよ魔理沙っ!

 

 

「それは仕方ないじゃんか。美波がやらかしちまったのが原因だぜ?まあ結果オーライだから許してくれよー。」

 

「む、むー……分かったわ。これでおあいこね。」

 

「さすが美波だぜ!・・・で、だ。」

 

「な、何かな魔理沙?」

 

 

 うん。2人がケンカしなくなったのはいいんだけど、どうして僕の方をにやつきながらみてくるのかな魔理沙?

 

 

「吉井も美波に何か言うべきじゃないか~?」

 

「…え~と。」

 

 

 チルノと島田さんもじっと見てくる。こんなに女の子の視線が集まったのは初めてじゃないかな?

 

 でもひとまず、魔理沙の言う通り、島田さんにきちんと言っておかなくちゃね。

 

 

「島田さん、大丈夫かい?」

 

「へ?うん。大丈夫だけど。」

 

「無事でよかったよ。心配したんだからね。」

 

「ウソつけ。」

 

 

 魔理沙は黙っておこうね!

 

 

「全く、人質を取るなんてBクラスは卑怯なことをしてくれるね。」

 

「・・・そ、そうね?」

 

「そんなことして、人として恥ずかしくないのかな?」

 

「……あんたが言えたことじゃない思うけど。」

 

 

 いかん。な、なんだか島田さんの目がどんどん不機嫌なものに。余計な事を言い過ぎたみたいだ。

 

 ならば、ここは一番伝えておくべきことを早く言っておくとしよう!

 

 

「島田さん。」

 

「何よ。」

 

 

「実はね。僕、島田さんが本物だって最初から気づいてたんだよ?」

 

 

「魔理沙。さすがにブチ切れても、ウチは悪くないわよね?」

 

「ああ。誰もが無罪と言ってくれるぜ。」

 

「よしー、あんたはバカじゃなくてクズだったのよさ。」

 

 

 ここでドキッとしたのは、きっと三人の凍てついた眼差しのせいだろう。

 

 

「誠にすみませんっしたぁぁぁあ!!」

 

 

 素直に謝らなければ死ぬ!僕の第五感(正:第六感)がガンガンとフライパンを叩いてるぜ!明日の朝日を拝むためにも、僕は全力で土下座を始めた。どうかご慈悲をぉおー!

 

 

「やれやれ。やっぱり吉井はアホだぜ。それで、どうするんだ美波?」

 

 

 土下座する僕の頭の上で、魔理沙が失礼極まりないことを呟く。僕がバカだって!?自分が悪いと認めて土下座する姿のどこにバカさがあるってんだい!(A.そこに至るまでの過程)

 

 

「は~・・・吉井。」

 

「は、はっ!」

 

 

 島田大王の判決がっ!?ど、どうか極刑だけは勘弁を!

 

 淡い期待をしながら、僕は下される審判に土下座しながらも身構え、遂に―!

 

 

 

 

 

「ウチの事、次からは〝美波(みなみ)〟って呼びなさい。」

 

「・・・へ?」

 

「んで、ウチはあんたのことを〝アキ〟って呼ばせてもらうわ。」

 

 

 あ、その呼び方をされるのは久しぶりだな・・・っと、それはともかく。

 

 

「え、ええっと。それでいいの?島田さ――」

 

「こら。〝美波〟よ。」

 

「あ。み、美波。」

 

「ん。よろしい。次は無いからね、アキ?」

 

「き、肝に銘じます。」

 嬉しそうに笑う島田さん―じゃなくて、美波。何だか急に呼び方を帰るのは変えるのは恥ずかしいけれど、これで許してくれるなら安いよね?

 僕の呼び方はバカじゃなかったら何でもいいや。・・・そういえばあの人は元気にしてるのかな?久しぶりに連絡を取ってみようか。

 

 

「さーて、とりあえず私らの仕事は終了だ!全員教室に戻ろうぜ!」

 

『おうっ!』

 

「あたいの活躍のおかげねっ!」

 

「まあ否定はしないぜ。ご苦労チルノ!」

 

「えっへん!」

 

 ぞろぞろと皆がFクラスにに戻っていく。やっぱり何人かが補習室に行っちゃったけど目的は達成できた。時間もそろそろ放課後に近いし、明日に持ち越しだね。

 

 このまま作戦通りにいけたらいいなー。そうすればAクラスまであと一歩だ。

 

 

「行きましょ、アキ。」

 

「あ、うん。そうだね美波。」

 

 

 美波の言葉に従って、僕も渡り廊下を後にした。

 

 ・・・それにしても、美波はさっきから嬉しそうだけど、何かいいことがあったのかな?って、そりゃ作戦通りにいけたからに決まってるか。名前の事かと思ったけど、喜ぶことなんて一つもないもんね。

 

 

 

 

 

 

 

「やるじゃないか美波。吉井のあんなバカげた言い訳を、何のお咎めなく許すとはなあ~。」

 

「そ、そりゃまあ腹も立ったけど、もとはと言えばウチが原因だもの。あんまり責めるのも悪いわよ。一応ウチを助けようともしてくれてたしね。しかも名前の事も上手くいったし、ウチは満足よ。」

 

「っか~。美波はすごいぜ。私だったら多分怒って・・・いや、泣くと思うぜ。」

 

「な、泣く!?なんでよ?」

 

「そりゃお前、やっぱりそう言う人に信じてもらえなかったら辛いじゃんか。あれにはなかなか慣れないんだよな~。」

 

「ふ~ん?・・・ところで、魔理沙の〝そういう人〟って誰よ?」

 

「ぶっ!?にゃにゃ、なんで言わなきゃいけないんじゃぜ!?」

 

「・・・・・・え?魔理沙、ウチの思ってた反応と結構違うんだけど。」

 

「そ、しょんなことないぜっ!?私は恋に生きるおんにゃなんだぜ!?じぇんぜん動揺なんかしてないさー!」

 

「じゃあ、その人って誰か教えても大丈夫よね?」

 

「・・・・・・い、いいたくないじぇ!アイツに迷惑が――!」

 

「・・・・・・いつもウチらにあれこれ言うのに、その奥手っぷりは何よこら。」

 

「・・・・・・あ、あ~なんかのどがかわいたなー。お茶が飲みたいなー」

 

「・・・・・・魔理沙、アンタ・・・・・・」

 

「お、おおそーだぜ!今日はお茶をいっぱい持ってきたから後で一緒に飲もうぜ美波っなっ!なんならお菓子も準備」

 

「・・・・・自分のことになると、ウチよりもチキ「そそそんなことないもん!チキンじゃないもん!!」」

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!

 ラストに魔理沙が変貌しましたけど、あれも魔理沙の性格の一つ!恋をすればやっぱり色んな心が生まれるものなのです!多分!


 さて、話しは変わりますが、この小説を書いていてよく思うのが、字数の事です。

 周りの皆さんは一話辺りの字数を少なめにして出しているので、ストーリーが長く続いているのですが、村雪は一話辺りがまあまあ長いので、わずか数話で区切りがついちゃうわけなのです。そうなると、とんとんと話が進んでいっちゃうわけなんですね。

 ・・・・・・何が言いたいかと言いますと、多分、次かその次でBクラス戦が終了します!!あっさりしすぎてすみません!

 村雪個人的には、一話の中身を多くして出したいので、皆さまご了承ください!

 それでは、また次回っ!次回でBクラス戦終わるかもと、心構えをしてもらえれば!

 


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策―デタラメ、を真と信じさせるかどうかが腕なのじゃ

 こんにちは、村雪です!

 この前ちょっと見たら、なんとお気に入りにしてくれた人が、70人を超えていました!
 百、千単位でお気に入り登録されてる作品と比べたら全くかもしれませんが、この数字に作者は大満足です!ありがとうございます!

 これを励みにまた頑張っていきますので、これからも「バカと中華小娘とお姉さん」をよろしくお願いしますね!



 さて、Bクラス戦ですが、あと一回は続きそうです!
 
でも書いてみて、ちょっとDクラスに比べて、面白みにかける内容となってしまいました・・・期待していた人たちには申し訳ありません!

 それでも、優しい目で作品を読んでいただければ・・・! 


――では、ごゆっくりどうぞ。


「ただいまー。」

 

「あ、ご苦労様です。吉井君達。」

 

 

 時間も放課後に突入しそうになった時、渡り廊下に赴いていた魔理沙(まりさ)たちが帰ってきました。

 

 

「首尾の方はどうだ?」

 

「とりあえず教室まで抑え込んだぜ。Bクラスの奴ら、今日はもう動かないみたいだったぜ?」

 

「だろうな。協定通りだ。」

 

「協定?なんだそれ?」

 

「ああ、実はな―」

 

 

 坂本君はもう一度、魔理沙達やあの時教室にいなかった人のために説明をします。今回は姫路さんに配慮してか、体力の面での話は伏せられました。

 

 一通り話が終わると、大半の人はそうなんだって感じで頷くだけでしたが、魔理沙だけはう~んと首をひねりました。

 

 

「……ん~、かなりきなくせえな。私らに有利な条約を提案するなんて、根本の奴、絶対何か企んでやがるだろ?坂本もそう思わないか?」

 

「ああ…だが、こちらにも利があるのは確かだ。やむを得ないだろう。」

 

「まあ、そうなんだけどなあ……う~ん・・・」

 

 

 魔理沙はだいぶ気になるみたいで、顔を難しくしたまま考え込みます。魔理沙は魔理沙で悪知恵を働かすのが趣味ですから、何か通ずるものがあって分かるかもしれませんので、ここはそっと考えといてもらいましょう。

 

 

「でも、魔理沙の言う通りだよ雄二。さっきもBクラスの男子が島田さんを人質に――」

 

 

「こらアキ、〝美波〟(みなみ)よ。」

 

「あ、ごめん美波。え~っと、美波が人質に取られたりもしたんだよ?だから、やっぱり罠じゃないかな?」

 

「・・・・・・その話も気になりますけど、2人の呼び方が変わった事の方が結構気になりますね。」

 

 

 人質になった島田さんを助けたからとかでしょうか?それなら、男を見せましたね吉井君!

 

(× むしろ彼は見捨てようとして、クズの称号も一部からもらいました。)

 

 

「だから言ってるだろ。たとえ罠って分かっていても、それが何かは分からないし、元々が不利なんだ。多少のリスクは呑まないとダメだ。」

 

 

 吉井君の言葉にも、坂本君は意見を変えることなく自分の意見を主張します。

 

 確かに坂本君の言っていることも確かで、私たちの最高戦力である瑞希(みずき)さんが体力は少ないから、休憩を挟まないといけません。それをわざわざ敵が提案してくれてるのですから、それに乗っからない手は無いのかもしれません。

 

 とはいえ、私も同じ事ばっかり考えますけれど、そこには何かを企んでる気がしてやまないのです。

 

 せめて、その〝企み〟が何かが分かればいいのですけど……

 

 

 

 

「………(トントン)」

 

「お、ムッツリーニか。何か変わったことはあったか?」

 

 

 すると坂本君の背後に、いつの間にか、情報係に専念していた土屋君が立っていて、何かを坂本君に耳打ちます。どうやら連絡事項が出来たようです。

 

 

 

「・・・なに、Cクラスが試召戦争の準備を始めているだと?」

 

「・・・・・・(コクッ)。」 

 

 

 坂本君から聞こえた土屋君の連絡事項とは、そのことのようでした。

 

 

「……狙いはAクラスではない。」

 

「てことは…狙いはBクラスですか。」

 

 

 でも今、Bクラスは私たちFクラスと戦っているわけですし、そこに関係のないクラスが参戦することは出来なかったような・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・Cクラスは、俺たちの戦争が終わったら仕掛けると言っていた。」

 

 

「・・・それって、私達のどっちかに仕掛けるって事ですか?」

 

「ちっ。漁夫の利を狙うつもりか。いやらしい連中だな。」

 

 

「あ、ああ…でも、戦略としては一番いいですからねー。」

 

 

 私たちがBクラスに勝とうが根本君達Bクラスが勝とうが、どちらも戦闘で点数を消費しているわけなのですから、万全な状態のCクラスには願ってもない好機、ってことですね。

 

 そうなってしまえば、私たちが勝利をしてもCクラスに横取りをされるだけ。これはまずい状況ですね・・・・・・・

 

 

「雄二、どうするの?」

 

「ならさかもと!アタイらがCクラスの奴らも倒しちゃえばいいのよさ!それで問題は解決でしょ!?」

 

「いや、チルノ。それはそうだが、点数を消費したうえで勝てるほど、奴らも甘くないはずだ。ここは勝てないと見ておく必要もある。」

 

「えー!つまらんわっ!」

 

「ま、まあまあチルノ。ほらあめあげますよー。」

 

「もらうわメーリンっ!」 

 

 

 チルノが不満をぶつけますが、勝負では最悪の事態も考えて動く方が良いと私も思いますので、坂本君の意見に沿うようにチルノを宥めます。あめの力は大きかったので助かりました!

 

 

「んー、そうだなー・・・よし。Cクラスと協定を結ぶか。」

 

 

 チルノを宥めている内に、坂本君は打開策らしきことを言い出しました。

 

 

「Dクラスを使って攻め込ませるぞ、とか言って脅かせば攻め込む気もなくなるだろ。クラスが一つだけ違うだけだから、Cクラスの奴も油断できまい。」

 

「え、でも坂本君。さっきの協定の内容を言ってた時に、『試召戦争に関わる一切の行為を禁止する』って言ってたじゃないですか。それは協定違反になりません?」

 

 

 それをもしもBクラスに知られたら、違反だとかなんとかで厄介なことになるんじゃないでしょうか・・・?

 

 

「大丈夫だろ、あくまでそれは、Bクラスとの協定だ。Bクラスに知られなければ何の問題も無い。」

 

 

「ま、まあそれもそう…ですね。」

 

 

 どこにBクラスの人がいるか分からないから、その点はかなり心配ですけど……Cクラスに責められるのはまずいですし大丈夫ですかね?背に腹は代えられませんから、坂本君の案に乗るとしましょうか。

 

 

「よし、それじゃ早速Cクラスに行くか。まだ放課後になって時間も経ってないから何人かは残ってるだろ。」

 

 

 坂本君が腰をあげます。私達も続いて立ち上がり、Cクラスへ行けるようにしようとし始めます。

 

 

「うん。それじゃいこー」

 

 

 

 

「待つんだぜ。坂本。」

 

 

 準備が終わって、吉井君が声を出そうとしたその時に、さきほどからずうっと考えっぱなしだった魔理沙が腰を降ろしたまま声をあげました。だから、皆の視線が魔理沙に集中します。

 

 

 

「どうした、霧雨?」

 

「・・・・・・土屋。Cクラスの代表のことなんだけど、確か女子の小山(こやま) 友香(ゆうか)、であってるか?」

 

「・・・・・・あっている。小山友香に違いない。」

 

 

 こやまゆうか。え~っと、確かバレー部の方でしたっけ?なんでもバレーが上手で、とっても有望な女子だとか聞いたことがあるような・・・

 

 

 

「・・・・・・なぁるほど~。」

 

「ま、魔理沙?」

 

「ど、どうしたのじゃ魔理沙?」

 

 

 お、おおっと!?魔理沙がもの凄い悪い笑みを浮かべましたよ!?『そんな手を使ってくるとは・・・バカめ!』と言ったらもの凄く似合いそうな顔ですね!思わず秀吉君達もびっくりしてます!

 

 

「坂本。」

 

「お、おう。なんだ?」

 

 

 あくどいながらも、つっかえていたものがとれてすっきりしているようにも見える顔のまま、魔理沙は坂本君に、はっきり言いました。

 

 

 

 

 

「多分だけどな・・・・・・土屋が仕入れてきた噂は、根本が流した罠だと私は睨んだぜ。」

 

 

「・・・・・・詳しく説明をしてくれ。」

 

 

 そんな推測に、坂本君も驚いていた顔を真剣なものへと戻し、他の人はどうして?と頭に疑問符をを浮かべて魔理沙を見つめました。ちなみに私は後者です。

 

 

「おう、と言っても単純な話なんだがな。そんな大したことを言うわけじゃないぜ。」

 

 

 魔理沙は手を左右させつつ、難しい問題が解けたときの満足感溢れる声で、その根拠を答えました。

 

 

 

「Cクラスの小山は、Bクラス代表の根本と付き合ってやがる。」

 

「え、そうなんですか?」

 

「あははっ。魔理沙、嘘なんか言っちゃダメだよ?あんな卑怯で不細工な根本に、彼女なんて出来るわけないじゃないか。」

 

「なら明久。その理屈だと、お前も生涯彼女は出来なくなるんじゃないか?」

 

「なんだと雄二!僕のどこが卑怯なんだ!」

 

「ブサイクというのは否定せんのじゃな・・・」

 

「まあ、顔だけで決まるわけではないのですけどね。人の好みというものは。」

 

 

 吉井君が真っ先に魔理沙の発言を否定しようとしました。笑っているのはいいのですが、その手のボールペンは何に使うつもりですか君は。

 

 

「ウソじゃねえぜ。吉井、私を誰だか忘れたか?」

 

「こ、恋に生きる女だっけ?」

 

「その通りだ。だから私に知らない恋なんてないぜっ!」

 

 

 か、かっこえー!本人達にはいい迷惑ですけど、魔理沙が堂々と言うせいで輝いて見えますよ!?

 

 

「・・・・・・でもアンタ、意外とチキンだったじゃん。」

 

「うううっしゃい!美波は黙ってるんだぜ!バカ!」

 

「ま、魔理沙?」

 

 

 魔理沙が顔を真っ赤にするのは久しぶりに見ましたね。最初に見たのは、確か家で、誰かと遊んでた時だったような・・・・・・って、それはともかく!

 

 

「でも魔理沙。どうしてそれで罠だって思うんです?」

 

「う、けふっ。さ、さっき美鈴が言ってたろ?〝試召戦争に関する行動は禁止〟だってな。Cクラスと同盟を結ぶってのは、明らかに試召戦争に関わることだぜ。だから今頃、Cクラスの中でBクラスの奴らが、私らが来るのを待ち構えてるんじゃないか?そうすれば私らが協定を破ったのを見れるし、すぐに攻撃したり弱みを握ったり出来るしな。彼氏の頼みだったら小山も断らないだろうし、何より勝ってほしいって思って喜んで協力すると思うぜ。」

 

 

「・・・なるほどな…」

 

 

 ふ~む。その2人が付き合っているというのにも驚きましたが、魔理沙の考察力にもびっくりです。普段いたずらをしたりするぶん、悪企みには敏感になったりするものでしょうか?

 

 

「だから坂本。Cクラスと協定を結びに行くのは止めた方がいいぜ。もちろん私の考えすぎって可能性もあるがな。」

 

「・・・その2人が付き合っているのは、間違いないんだな?」

 

「おう。そこは信じてくれて結構だぜ。」

 

「・・・なら、確かにCクラスと交渉するのは得策ではないな。むしろ命取りになる可能性もある。」

 

「確かに、それはそうじゃな。」

 

 

 魔理沙の話を聞く限り、私もその方がいいと思いますねー。もしもあの協定が破られる前提で立てられてるのならば、何を書こうと条件を破った時点で無効となるわけですからね。

 

 これで、あのこちら側に都合が良い条約の引っ掛かりが解けましたよ!魔理沙、お見事です!

 

 

「でもさ雄二。そうなるとCクラスが、僕らが勝ったとしても攻めてくるかもしれないよ?」

 

「あ…そ、その問題がありましたね。」

 

 

 Cクラスの試召戦争準備が私たちの目を引く餌(えさ)にしても、もしも私たちが勝てば、彼氏のかたき討ちとかで間違いなく私たちFクラスにに宣戦をしてくるでしょう。

 

 そうなると、私たちは連戦を強いられることになり、良くて苦戦、だいたいの確率で負けてしまうんじゃないでしょうか。こ、これでは問題は解決にはなりません・・・!

 

 

「心配するな。」

 

 

 しかし、そんな心配を打ち消すかのように坂本君が、野性味たっぷりのワイルドな顔で断言しました。

 

 

「それなら、奴らの意思を分離させればいいだけだ。」

 

「おっ?何か企んでる顔だな?」

 

「ああ。今度はこっちの番だ。明日の朝に実行する。今日はひとまず解散だ。」

 

 

『了解』

『はい』

『わかったわ!』

 

 

 そういうことで、今日は解散となり、協定通り勝負は明日へと持ち越しになりました。

 

 

 

 ・・・帰る前に教室を大ざっぱに探りましたが、姫路さんの手紙入りの封筒は見つかりませんでした。

 

 代わりにいくつかの雑誌が見つかったんですけど・・・・な、なんちゅう本を学校に持ってきてるんですかちょっとぉ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

『…………ねえ、本当にFクラスの奴らが来るんでしょうね?』

 

『あ、ああ間違いない!Fクラスの奴は間違いなく、友香達Cクラスが試召戦争の準備をしているって耳にしているはずなんだ!だ、だからもう少ししたら・・・!』

 

『何度目よそれ!あんたさっきからそればっかじゃない!いい加減なこと言ってると怒るわよ!?』

 

『ひっ!ま、待ってくれ友香!っていうかもう怒って『はあ!?』あ、な、なんでもない!』

 

 

 

 

『はあ…皆さん。もう少し頑張りましょう。代表ももう少しできっと諦めるでしょうから。』

 

『了解。……あ~、何で根本が代表なんだろうなあ・・・魂魄(こんぱく)さん。今からでもいいから代表になってくれ!』

 

『同感だぜ全く。それだけでも俺らのモチベーションが違うんだけどな~…』

 

 

『無理ですって。彼の方が成績が良いのですから当然の配置ですよ。それに、やってることはちょっとひどいですけど、この作戦自体は戦略としてはきちんとしてますから、文句を言ってはダメです。それと、彼も同じクラスメイトなんですから、あまり悪口は言わないであげましょう。工藤君。遠藤君。』

 

 

『くうっ・・・!あんな奴にもフォローするとは・・・・・・!この子は聖女か仏か!?』

 

『くそう!本当に俺らみたいな奴らにはもったいなすぎる女の子だぜ!そんな子とクラスになれて、俺は幸せだっ!』

 

『2人共、そ、そんなオーバーな・・・』

 

『―――そういえば確か妖夢(ようむ)って、一枚だけ試験の答案に名前を書き忘れたから、実質は根本より上だったんじゃないの?』

 

『何!?そうなのか水橋(みずはし)さん!』

 

『ちょ、ちょっと。あんまり言わないでって言ったじゃないですか。パルスィさん。』

 

『悪いわね。でもね・・・・・・試験一つが0点なのに、Bクラスにいるあなたが妬ましいのよ!』

 

『みょ、みょん!?』

 

『おお!?い、いきなり妖夢さんにとびかかってどうした水橋さん!?』

 

『ご、ご乱心ごらんしーん!』

 

『お、落ち着いてパルスィ!パルスィも十分に賢いから妬む必要なんかないって!』

 

 

『・・・・・・私としては、十分あんたも妬ましいけれどね。真田。』

 

『はあ…その妬み癖をなんとかしなさいってのよ。』

 

『あ、ありがとうございます真田(さなだ)さん。』

 

『ナイス羽交い絞めだ真田。』

 

『クラスメイトなんだから当然よ。・・・でも、名前を書き忘れるって、みょんちゃんって意外とうっかりさんなのねー。』

 

『・・・え、と。その〝みょんちゃん〟というのは?』

 

『え?もちろんあだ名よ。妖夢ちゃんはよく「みょん!」って言ってるでしょ?だから〝みょんちゃん〟!』

 

『おお、なんとも愛らしいあだ名だぜ!ナイスネーミングだ真田!』

 

『そ、そんな可愛らしいあだ名、私に似合いませんって。』

 

『そうかしら?昨日も言ったけど、充分みょんちゃんは可愛いと思うわよ?』

 

『・・・みょ、みょーん・・・』

 

『あ、また言ったわ。あーもう可愛いわね!本当に根本の馬鹿と変わってほしいわ!』

 

『・・・・・・・・・・・・確かに、妖夢が可愛らしいのは否定できないわ。私はいつもぶつぶつ文句を言うだけなのに、妖夢ははきはきしてしゃべったり、もじもじしたりして可愛らしくなったりして・・・・・・・・・――しい。ああ妬ましいっ!』

 

『ひえっ!?ぱぱ、パルスィざんぐるじ・・・!』

 

『ちょ!?そ、それはやりすぎよパルスィーーーっ!!』

 

『私だってねえ、一度くらい人に妬まれたいのよぉ・・・・・・っ!』

 

『・・・きゅ、きゅう。』

 

『や、やめなさいパルスィいいい!!』

 

 

『・・・美少女のの3人の戯れを見れただけで、今日頑張ったかいがあったと思うな。遠藤。』

 

『分かるぜ工藤。後で、根本の奴の寝首を掻いてやろうと思いながらわざわざ残ったが、今なら針の先ぐらいなら野郎に感謝してやってもいいな。』

 

 

 

『全然来ないじゃない!あんたふざけんじゃないわよ!!?』

 

『ひい!ま、待ってくれ友香ああ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日言っていた作戦を実行する。」

 

 

 Bクラス戦開幕の翌日。坂本君はそう言いました。

 

 

「作戦?でも、開戦時刻はまだだよ?」

 

 

 協定では再開される時間は午前九時。それまであと数十分ほどあるので確かに性急な気もします。

 

「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ。」

 

「あ、なるほど。それで何をすんの?」

 

「これを秀吉に着てもらう。」

 

 

 そういって坂本君が掲げたのは私達女子の文月学園の制服。黒をベースにしていて私はとても気に入っている一品でした。

 

・・・男子がどうやって手に入れたのかは大いに気になりますが、ここは無視しましょう。作戦の為です。

 

 

「おいおい坂本。そんなこと男子の木下にやらせるなんて、ちょっとひどいぜ?」

 

「いや、わしはまあ構わんのじゃ魔理沙。しかし女装をしてどうするんじゃ?」

 

「そこは男として構うべきじゃないか・・・?」

 

 

 魔理沙の言う通りです。男の子としての最低の矜持(きょうじ)は持つべきでは・・・

 

 

「秀吉には木下優子(ゆうこ)として、Aクラスの使者を装(よそお)ってもらう。」

 

「ま、またふっとんだ作戦ですね―・・・」

 

 

 前に知ったことですが、秀吉君には双子の姉がいるそうで、咲夜さんも一瞬勘違いしてしまうほどそっくりのようです。そんな彼女に化けてもらってCクラスに圧力をかけるのが坂本君の作戦・・・なんとも褒めがたい作戦ですね。ちょっぴり私の琴線に触れる作戦・・・ですけど、今回は向こう側も姑息な手を使ったりしてますので、ここはおあいこということにしておきましょう。

 

 

「と、いうわけで秀吉。用意してくれ。」

 

「う、うむ・・・」

 

 

 秀吉君が制服を受けとり、服のボタンをはずし始めます。それを男子達がもの凄く凝視し、土屋君はカメラで思い切り撮りはじめました。

 

・・・なんというか、このままなのは良くない気する私はおかしくないですよね?

 

 

「秀吉君。少しお待ちを。」

 

「んむ?なんじゃ紅(ホン)?」

 

 

 秀吉君もやはり男子なようで、周りの視線に気にした様子はありません。空き教室に移動させるのも気の毒ですし・・・ここはカーテン替わりの物ですかね。

 

 私はプチプチと上着のボタンをはずし、制服を脱ぐとバサアッ!とカーテン替わりとして秀吉君と男子達の間に掲げました。

 

 

『ああっ!!』

 

 

 私は背が高いので、制服もそこそこ大きい方。なので上手い具合に秀吉君を隠すことが出来ました。男子から無念そうな声があがりますが、当然無視です。

 

 

「すいませんね。もう着替えてくださって大丈夫です。」

 

「べ、別に視界を遮(さえぎ)らんでもいいのじゃがのう。」

 

「ままっ、ここは許してやってくださいな。」

 

「むう、分かったのじゃ。」

 

 

 秀吉君のちょっぴり不満そうな顔がまた女の子らしいですので困ります。

 

 しばらくすると秀吉君が着替え終わったようので、私はカーテンを取り外します。

 

 

「よし、着替え終わったぞい。」

 

「…何と言いますか・・・ホントに咲夜さんが凄いと思います。」

 

 

 よく秀吉君を男の子だと見抜けましたね?もう、全然女子制服に違和感がありません。むしろ似合いすぎて私の立場が無くなりかけですよ!?

 

 

「よし、じゃあCクラスに行くぞ。」

 

「うむ。」

 

「あ、僕も行くよ。」

 

「あっ。じゃあせっかくなんで私も行きます。」

 

 

 秀吉君のお姉さんのまねをするということですから、本人にあったことが無い私にはいい機会です。どんな人なのかを聞かせてもらいましょう!

 

 

 

 そして私たち四人はCクラスへと向かい、少し離れたところで立ち止まりました。一緒にいるとばれてしまうので、その配慮という事だそうです。

 

 

「じゃあ、ここからは悪いが一人で頼むぞ、秀吉。出来るだけAクラスに矛先が変わるように仕向けてくれ。」

 

「うむ。じゃが、あまり期待はせんでくれよ?」

 

「秀吉、がんばるんだよ。」

 

「無理せず頑張ってくださいね!」

 

「わかった。では行ってくるのじゃ。」

 

 

 一つ頷いて、秀吉君はCクラスの教室へと向かいました。スカートを揺らしながら歩く姿も可愛らしいですねー。

 

 

「大丈夫かな?秀吉、緊張とかしなかったらいいんだけど・・・」

 

「でも秀吉君って演劇部なんでしょ?だったら人の前に立つのも慣れてるでしょうし、大丈夫じゃないですか?」

 

「まあそうだけど・・・・・・やっぱり女の子だから心配だなあ……」 

 

「いや、ですから男ですって!何で付き合いの短い私が、付き合いの長い吉井君に教えて――」

 

「シッ。秀吉が教室に入るぞ。」

 

 

 坂本君が口に指を当てます。仕方ありません、秀吉君性別問題はあとですね。

 

頭を切り替えて、今は秀吉君のお姉さんがどんな人なのかを知るとしましょうか!はたしてどんな優しい人なのか

 

 

 

ガラガラ

 

 

 

 

『静かになさい、この薄汚い豚ども!』

 

「ぶっ!?」

 

 

 な、何言ってるんですか秀吉くーん!?

 

 

「さすがだな、秀吉。」

 

「うん。さすがだね・・・」

 

「さ、さすがって!これお姉さんのまねなんですか!?全然優しさを感じられませんよ!?」

 

 

 私がビックリ仰天している間にも、向こうでは話が進んでいます。

 

 

『な、何よアンタいきなり!』

 

 

 この高い声の女子が小山さんなのでしょう。そんな彼女に対し、秀吉君は?

 

 

『話しかけないで!豚臭いわ!』

 

 

 自分から乗り込んだのに、なんたる言いぐさしてるんですか!?しかも女の子に豚臭いって・・・・・・!気の弱い人だったら気絶してましたよ!?

 

 

『私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの!あなた達なんて豚小屋で充分よ!』

 

 

『なっ!言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですって!?』

 

 

 なんでそんなに人を豚扱いするんですかぁ!そしてFクラスが豚小屋扱いされてるのはなぜですか小山さんっ!

 

 

『手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回はあなた達にふさわしい教室におくってあげようかと思うの。』

 

 

 どこまでも見下し続けるそのしゃべりかた。もう、秀吉君のお姉さんの演技が怖すぎです。

 

 ・・・というか、まじでお姉さんのまねなんですかそれ?違うかったら、結構怒りますよ私?

 

 

『ちょうど試召戦争の準備もしているみたいだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私たちが薄汚いあなた達を始末してあげるから!』

 

 

 

 そこで会話が途切れ、秀吉君が教室から出てきて、こちらにすっきりした顔で近寄ってきます。

 

 

「ふう、これで良かったかの、う・・・・・・うう?」

 

「メ、美鈴さん?」

 

「ど、どうした紅?」

 

 

 でも、私がぐわしっと彼の両肩を掴むと、その顔が思いっきり引きつった顔へと大変身しました。

 

 

「ひ、で、よ・しく~ん?さっきのあれ、本っ当にお姉さんのまねなんですね~?」

 

 

 

 あまり疑いたくはないのですが、どうしても気になったことを私は確認します。場合によっては、それなりに覚悟しといてくださいよ~?

 

 

「・・・・・・え、え~とじゃなー・・・・・・・・・・・・・・」

 

「はい。」

 

「・・・・・・・・・・・・す、少し姉上の本性を推測した上での言葉じゃ。……です。」 

 

「……つまり、確実ではないと?」

 

「・・・・・・絶対とは言えぬ。」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 

 任務成功とは思えない空気の中、私たち四人は無言になります。

 

 

 

 

 

……ふう。

 

 

 

 

「確実でもないのに、なぁに人様をすごい傷つけることを言っちゃってるんですか君はぁぁぁあ!!」

 

「す、すまんかったのじゃあいたたただだあぁっー!?」

 

「「ぼ、暴力はダメ絶対ぃぃぃ!!」」

 

 

 

 そのあと、私は吉井君と坂本君に止められるまで、秀吉君に雷を落とし続けていました。その時は偶然にも、小山さんがAクラスを攻めるとヒステリック気味に避けんだのと同時だったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・!!」

「・・・・・・!!」

 

「?どうしたのよ2人とも?急に立ち上がって。」

 

「・・・どうも、またあの虫がまとわりついたみたいね。それも2匹も。よっぽど駆除されたいみたいね・・・!」

 

「・・・・・・たぶん、その一人は・・・。協力する。」

 

「あら、ありがとう代表。私達、息が合いそうね。」

 

「・・・・・・うん。仲良くなれそう。十六夜。」

 

 

「・・・はあ。何の話かしらね・・・・・・あ、この服の生地は立派ね…もう少し安ければ・・・」

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!さて、今回は魔理沙、そして秀吉が活躍する場面でした!少し美鈴のキャラクターが普段と違うかもしれませんが、そう感じられた方はお許しください!ちょっとどう書けばいいかを悩みましたのです・・・


 では、次回こそBクラス戦は終結します!だいたいの流れは原作と同字になると思いますので、あまり期待せずにお待ちください!

それではっ!


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意表―感情、が昂ぶれば何でもこなせるんですよねぇ!

どうも、村雪でございます!

 
 とうとうこの作品を評価してくれた方が五人にもなり、!さらに、総合UA数も一万回を超えるいう快挙も達成できました!

 評価して下さった方々、様々な感想を残して下さった人たち。そして、作品を呼んでくださった皆様に感謝の一言を贈らせてもらいます! 本当にありがとー!



 さて、前回も書いたように、今回でBクラス戦は終了です!

 ただし、戦後対談などが残っていますので、まだ少し続きますが、実質的な勝負はこれで終了でございます!



 では、読んで、皆様の気分が少しでも晴れてくれれば!

感謝の気持ちを込めて!


―――ごゆっくりお読みください。


「くらうのよさー!」

 

「ぐわー!!」

 

「そちらのドアを上手く使うんじゃ!決して奴らを外に出すでないぞ!」

 

「了解だぜ!そっちもぬかるなよ美鈴(メイリン)っ!」

 

「分かってますよぉ!よいっしょぉおっ!」

 

「っち!魂魄(こんぱく)さん!Fクラスの奴らが思ったよりねばりやがるぞ!」

 

「1人で攻めてダメなら、誰かと一緒になって攻めてください!とにかく、この教室から出れるようにするんです!」

 

「了解!」

 

「っくううっ!やっぱり手強いですねぇ!」

 

 

 

 秀吉君がCクラスに乗り込んだ後に、私たちは教室に戻り、予定通り9時30分にはBクラスとの戦いが再開されました。

 

 昨日はBクラスの前まで攻め込んでいた所で終了したので、今日もそこから勝負が始まったのですが、そんな私たちの仕事はBクラスの人たちを教室から一歩も出さない事。つまり、Bクラスを籠城させることです!

 

 それで、もともと戦闘部隊に入っていた秀吉君や魔理沙を始め、ここが山場ということで、代表である坂本君の近衛兵だった私も戦場に出張ってきているというわけですよ!

 

 戦況としては、押しては押され返しての繰り返し。なので、ここは一つ大きい戦力がほしいところですっ!

 

 

 

・・・ところが

 

 

 

「魔理沙!瑞希(みずき)さんはどうしたんですか!?」

 

「そ、それが・・・!」

 

 

 

 先ほどから、瑞希さんの様子がおかしいのです。

 

 彼女が指揮を執るはずなのに、なぜかオロオロしてばかりで、全く仕事を果たしていません。なので、秀吉君や魔理沙が代わりに指揮を執って、何とか抑え込めている状況なのですが、このいままいけば人が減って突破される可能性も出てきます!だから早く、瑞希さんには動いてもらいたい・・・!

 

 

「な、なんであんなにおろおろしてるんですか!?」

 

「分からん!さっきからずっとああだぜうおっと!?」

 

 

!やっぱりやばいですね!瑞希さんには早く動いて貰わないと!

 

 

「瑞希さん!しっかりして下さい!」

 

 

「あ、あの…あの…!」

 

「!?」

 

 

 泣きそうな顔!?ってことは何かあったの!?

 

 

「邪魔あああ!!」

 

「い、一瞬かよお!?」

 

 即座に相手の召喚獣に一発叩き込んで、私は瑞希さんの元に近づきます。

 

 

「瑞希さん。どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

 

 そんな私の問いかけに、に瑞希さんはフルフルと首を振りました。

 

 

「な、何でもありませんっ。」

 

「な、何でもってねえ・・・!」

 

 

 その顔で良く言えますね!どう見ても何かあったって顔じゃないですか!

 

 

「あのですね瑞希さん!今はそんな嘘を聞いてる暇は」

 

 

「左側出入り口、押し戻されています!」

 

「古典の戦力が足りない!援軍を頼む!」

 

 

 っち!言ってるそばからですか!瑞希さんが動かないなら、私が―!

 

 

「だあぁっ!」

 

「!吉井君!」

 

 

 突然人ごみから吉井君が出てきて、古典担当の竹中先生の元に詰め寄ります。

 

 

「……ヅラ、ずれてますよ。」

 

「っ!!少々席を外します!」

 

 

 吉井君が何かをささやいた成果か、竹中先生は頭をおさえながら走り去っていきました。ナイスです吉井君!

 

 

「姫路さん、どうかしたの?」

 

「そ、その、なんでもないですっ」

 

 

 私たちに近づいて吉井君も同じような質問をしてきましたが、瑞希さんの答えも同じです。吉井君もその言葉を嘘だと感じたようで、私を見てきます。

 

 

「美鈴さん、どういうこと?」

 

「いえ、それが私も・・・・・・瑞希さん、何があったんですか?口が悪くなってしまいますけど、さっさと言ってください。私たちの作戦にも関わるんです。」

 

 

 今回のキーマンではないにしろ、やはり主戦力なのに違いないんです。そんな人が足をひっぱっては、作戦が上手くいかなくなるんです!

 

 

「ほ、本当になんでもないんです!」

 

「っ!いい加減にしなさい!何か言えない事があったんですか!?そう脅されたんですか!?」

 

 

 よもやと思ったことを私は怒鳴り気味に確認します。いやな事をネタに何も動かないように瑞希さんに言った、って考えてしまうほど、今の瑞希さんはおかしいですもの!

 

 

「!!う、あ、あうあ・・・!」

 

「・・・・・・っち!」

 

 

 図星ですか!ったく本当に腹の立つことばかりしますね根本君!

 

 こんないたいけな女の子の弱みを握って泣かせようなんて、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうですよ!?

 

 

「右側出入り口、教科が現国に変えられました!」

 

 

「おいおい数学の先生はどうしたんだぜ!?」

 

 

「Bクラス内に拉致(らち)された模様!」

 

 

 くそっ!今度は得意科目で攻めてきますか!上手い指揮ですね全くもう!

 

 

「私が行きますっ!」

 

 

 私が行く前に、危機に気付いたのか、瑞希さんがそちらの扉に駆け出そうとしました。

 

 

 

 ………でも

 

 

「あっ・・・・・・」

 

「瑞希さん?」

 

 

 なぜか、どこかを見た途端に固まって、下にうつむいてしまいました。

 

 どうして?瑞希さんの見た方には・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・根本君?」

 

 

 窓際で腕を組みながら、こちらを見下ろすBクラス代表、根本恭二の姿があった。

 

 でも、彼がどうしたのでしょう…?

 

 

 特におかしなところはないと――――― 

 

 

 

 

「…………あ。」

 

 

 

 ――理由が分かった。

 

 

 私の視力はまあまあ良い方です。そのおかげで、遠くにいる咲夜さんも見つけることも出来たし、色々と役に立つこともありました。

 

 

 ・・・なぜそんなことを今思うのかですか?

 

 きっと、その眼が捉えたからでしょう。

 

 

 

 

 

 

 瑞希さんが吉井君のちゃぶ台に置いた可愛らしい封筒を、根本君が持っているのを。

 

 

 

「・・・・・・は~……」

 

 

 なるほどねえ。瑞希さんを手紙を使って無力化する手段があったからこそ、こちらに有利な協定を結ばせたってことですか。ようやく合点がいきましたよ…

 

 

 

「ほんっとに悪巧みがお好きですねえ、Bクラス代表さまは。」

「全くだよ、美鈴さん。」

 

 

・・・同意するという事は、彼も瑞希さんの不調の理由が分かったという事。ならばあの封筒の正体も・・・

 

 

「あ、あの、2人とも・・・?」

 

「姫路さん」

 

「は、はい!」

 

 

 瑞希さんの言葉には耳を貸さずに、吉井君は指示だけを彼女に飛ばしました。

 

 

「具合が悪そうだから、あまり戦線に加わらないように。試召戦争はこれで終わりじゃないんだから、体調管理には気をつけてもらわないと」

 

「……はい。」

 

「ま、そんなに申し訳なさそうにしなくても大丈夫ですよ。私らが引導を渡してきますから。ねえ?吉井君」

 

「うん。・・・じゃ、僕らは行ってくるから」

 

「では。またあとで」

 

「あ……!」

 

 

 瑞希さんが何か言いたげでしたが、私たちはあえて無視して駆け出します。どうやら、私たちの意見は一致したみたいです。

 

 

「面白いことをしてくれるじゃないか、根本君」

 

「全くです。ちょおっとおいたが過ぎましたねえ~・・・・・・」

 

 

 それぞれが笑みを浮かべながらの言葉。私たちは一度視線を合わせてから、それぞれの場所へ向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの野郎、ブチ殺す」

 

「野郎、きっちり地獄を見せてやりましょう」

 

 

 私が向かうは、当然そこでございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告!ただいま左側出口で紅(ホン)美鈴さんに鍋島がやられた!」

 

「連絡!右側出口付近で、霧雨魔理沙(きりさめまりさ)さんが化学科目で勝負を挑んできてる!」

 

「い、今紅さんに挑んだ中村がやられたぞ!」

 

「Fクラス代表の坂本が本隊を連れて、右側出口にいる霧雨さん達と合流!」

 

 

「く、くそっ!しっかり守れお前ら!何をやってるんだ!」

 

 

 

 Bクラス代表、根本 恭二はあせっていた。

 

 

 Fクラス最大の戦力であった姫路瑞希を無力化したにもかかわらず、Fクラスは依然として、Bクラスの生徒を一歩も出させず、それどころか、わずかずつではあるが防衛ラインを縮める有様である。その中でも、霧雨魔理沙、そして紅美鈴が筆頭にそれぞれの扉を攻め込んでいるのだが、紅の方に関しては、ただ点数が高いだけではない。

 

 むしろ、そちらの方がBクラスを脅威に感じさせているのだ。

 

 

 

「ひいいいっ!?た、助けてえええーー!!」

 

「や、やめてくれ!もう負けでいいからっ、その殺気はががががあ・・!」

 

「あ、ああああああ・・・!!」

 

 

 

 ・・・これである。先ほど彼女と目があったのだが、その時はこんなことにはなっていなかった。 だが、吉井と別れたから一気にその身から殺気をあふれ出させ、Bクラスに突入しようとしてきているのだ。

 

 あまりの恐ろしさに、試召戦争を挑む前に敗北を認めるやからも出てくるほど。このあまりの事態に、根本の親衛隊の数人が根本に視線をとがらせた。

 

 

「・・・・・・根本君。あなた、何かしたんじゃないでしょうね?」

 

「な、何だと!それはどういう意味だ!!」

 

 

 すうっと目を細めて睨むのは、先程までクラスに指示を出していた白髪の少女、魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)。

 

 ごまかしは許さないと鋭いまなざしを向けられた根本は、震えながらも声をはりながら怒鳴った。

 

 

「私は詳しく知りませんけれど・・・紅 美鈴さんがあそこまで怒ったところなんか見たことありません。あなたが何か企てたせいではないのですかと聞いているのです」

 

 

「…し、知らねえよ!そんなことはしてない!」

 

 

 そう言いながら、根本は手に持った封筒をさっとポケットに隠した。正直に言えば、ある。この手紙にしろ、未遂とはいえFクラスの設備や文房具を壊そうとしたことにせよ、正当とは思えない手段をとってきたので、どれが誰の地雷になってもおかしくはなかった。

 

 

「どうかしらね。あんた、ずーっと卑怯な手段ばっかり取ってたじゃない。どうせ心では思い当たる節があるんでしょ」

 

「っ!う、うるさい!」

 

 

 内心を当てられドキリとした根本は、叫ぶように声の主、水橋パルスィを黙らせる。

 

 

「余計な恨みなんか買うからこうなるのよ。あなたのその性格、妬ましいどころか思い切り侮蔑するわ」

 

「!こ、このアマぁ・・・!!」

 

 

 黙ることなく、言葉という剣を投げつけるパルスィに、根本は憎悪の眼差しを向ける。それでもパルスィはゆるがない。

 

 

「ったく。そんなにバカにされるのが嫌なら少しは妖夢を見習えばどう?あんたとは違って後味の悪い事なんかきっとしないわ」

 

 

「…う、うぐううっ・・・!!」

 

 

 言い返してやりたかったが、それは事実だろうと根本自身も思ってしまった。

 魂魄妖夢は礼儀をしっかりと身に付けており、その生真面目ぶりからまわりからは多くの信頼を得ていた。

 

 

 そんな彼女と同じクラス、それも自分の配下になったため、クラスのほとんどから不満の声が溢れた。なぜ魂魄さんが代表ではないのか、なぜ妖夢があんな奴に従わなけれなならないのか、と。

 

 

 根本がそんな雰囲気に不満を抱かないわけがなく、自分が代表であると認知させるにはどうすればいいかと考えているとき、FクラスがBクラスに戦争を挑んできたのである。根本はこれを好機と見て、Fクラスに勝って自分の存在が代表としてふさわしいと思わせるように決めたのである。

 

 

 手始めに、使者である明久をボロボロに痛めつけようとしたのだが、そこでさっそくほころびが起こった。

 なんと、魂魄妖夢が吉井の前に立ちふさがり、彼への暴力を止めさせようとしたのだ。

 

 

『1人で来た人にその仕打ちは何ですか!手を降ろして、ひどいことをするのをやめなさいっ!』

 

 

 根本はそんな事を言われ怒りながら怒鳴ったが、ある意味好都合とも思った。妖夢の言葉は自分と、明久を攻撃しようとした生徒に向けてだったので、その言葉をきっかけに、妖夢への反発心が生まれると予想したのだ。

 

 しめたものだと思いつつ、周りを悟られぬように周囲を見たが、再び自分の予想はあてはずれとなった。怒りの表情を浮かべる人はだれ一人といず、ばつの悪い顔をする男子、さらには笑顔を浮かべる女子さえもいたのだ。

 

 

 そして、根本が理解しきれずに硬直している間に、妖夢は明久に詫びを入れ、戸惑うままの明久をFクラスに返したのである。

 

 

 全く納得のいかない根本は妖夢につっかかったが、彼女に静かな声で正論を言われたり、周りから嫌悪の視線を向けられると旗色は悪くなるばかり。根本は逃げるように妖夢との口論を止めたのであった。

 

 

 そして試召戦争開始後、自分の活躍が欲しいと思った根本は、妖夢に知られぬようにこっそりとクラスメイトに指示を出し、自らの方法で勝負に臨んだ結果が現状である。

 

 

「い、今はそんなこと関係ないだろうが!!俺が負けたらお前らだってクラスがFクラスに落ちるんだぞ!しっかり守りやがれ!」

 

 

 自分の生み出した現状なのにあくまで自分は動かずに護衛をなじる根本に、パルスィは軽蔑(けいべつ)の目を向け、妖夢は呆れのため息をついてから左右の扉へと移動した。

 

 

「と、扉の防衛は不可能!突破されます!」

 

 

 そんな誰かの声と同時に、両の扉から一気にFクラスの生徒がなだれ込んだ。

 

 

 ドバァ!!

 

 

「どうもー。Fクラスの紅(ホン) 美鈴(メイリン)です」

「同じく、霧雨 魔理沙だぜ!」

「Fクラス代表、坂本(さかもと) 雄二(ゆうじ)だ」

 

 

 その3人を先頭に、後方にはFクラスの何人かが控えている。人数的にはまだBクラスの方が多い。慌てる必要はない、まだ自分たちの方が有利と、根本は落ち着こうと息を整えた。

 

 

「・・・お、お前らいい加減にしろよなあ?昨日から教室の出入り口に集まりやがって。暑苦しいことこの上ないっての」

 

 

 根本はけん制の言葉を浴びせたが、これに応えたのは意外にも美鈴だった。

 

 

 

「そうでしたかー。それはきっと、Bクラスの代表さんの能力が足りてなかったからでしょうねえ?」

 

「な、なんだとぉ・・・!?」

 

 

 挑発する言葉に根本はあっさりとくい付いて睨むが、美鈴のあまりにも冷たい睨みに一瞬にしてその気力は萎(な)えた。

 

 その様子を見ていた雄二と魔理沙が、可笑しそうに話し合う。

 

 

「おいおい、軟弱なBクラスの代表サマはもうギブアップみたいだぜ?」

 

「まあそう言ってやるな霧雨。あれだってその小さい器を割れるぐらいに開けながら小物じみた事を小物なりにやってたんだ。だから小物なりには良く頑張ったって褒めてやらないといけないじゃないか。」

 

 

「…っ!!ふ、ふざっ、ふざけんじゃねえぞっ!?」

 

 

 根本は、顔を真っ赤にするほどの屈辱(くつじょく)と怒りに、足を雄二達の元へと動かそうとした。

 

 

「根本君、落ち着きなさい!」

 

「っ!!」

 

 

 しかし、その声に足はピタリと止まった。

 

 

「こんな見え見えの挑発行為にのってはいけません。状況的には不利ですが、戦力的にはまだこちらの方が有利なんです。それに反応したらあなたは本当に小物になりますよ?」

 

 

 そう諭してくるのは、代表である自分にもっとも障害となる女子、魂魄 妖夢だった。

 

 

「…っち、それぐらい分かってる!」

 

 

 挑発に乗ったのは事実だったが、認めるのはしゃくなので、高圧的に返事をした根本は雄二達の方に再度向き直る。そこに、先ほどまでの感情をむき出しにした顔はない。

 

 

「はっ、ギブアップなんかするはずないだろう。するとしたらそっちじゃないか?Fクラスさんよお?」

 

 

 ドンッ!

 

 

「ほお。Bクラスは代表はバカだが、優秀なサポート役がいるんだな。これはBクラスに失礼な事をした。」

 

「全くだな。こういうのを宝の持ち腐れっていうんだぜ。」

 

「持ち手の根性が歪んでますものねー。」

 

 

 ドンッ!

 

 

「っ!!水橋!魂魄!そいつらを補習室送りにしてやれ!!他の奴らも援護に回れ!」

 

 

 ドゴッ!

 

 

「言われなくてもそのつもりです。先生、試獣召喚(サモン)です。」

 

「はあ、無茶を言わないでほしいわ・・・試獣召喚(サモン)。あんたら、援護するんならよろしく頼むわね。」

 

 

 根本の言葉に従う形で、それぞれが召喚獣を出し始めて衝突しあった。

 

 

 

 

『Bクラス 魂魄 妖夢   現国   298点 

       VS  

 Fクラス 紅 美鈴    現国   253点 』

 

 

 

 

『Bクラス 水橋 パルスィ  化学    280点

       VS 

 Fクラス 霧雨 魔理沙   化学    292点 』

 

 

 

「よお、どおしたさっきまでの威勢は?あの2人もいなくなっておじけついたか?」

 

 

 自分のクラスメイトが戦っているのを横目に、代表同士が対峙しながら言葉をなげあう。これも一種の戦いだろう。

 

 

「冗談言うな。お前如きにあの2人はいらないさ。」

 

「へっ、じゃあ姫路さんか?でも調子が悪そうだったぜ?」

 

「……的外れだな。お前ら相手じゃあの3人は役不足だって言ってるんだバカが。」

 

「けっ!口だけは達者だな。負け組代表さんよぉ。」

 

「負け組?それがFクラスのことなら、もうすぐお前が負け組代表だな。」

 

 

 召喚獣もその間にぶつかりあう。やはり点数差もあって、優勢なのは根本だ。

 

 

バギッ!

 

 

「……さっきからドンドンと、壁がうるせえな。何かやってるのか?」

 

「さあな。そんな事より自分の身を案じたらどうだ?」

 

「ふんっ、言ってろ。どうせもうすぐ決着だ!」

 

 

 そこで、雄二はピタリと動きを止めた。

 

 

「?何だよ。」

 

 

「いったん引くぞ!」

 

 

「あ?・・・ははっ!今更怖気(おじけ)ついたか!」

 

 

 急に離れていく雄二の姿に根本は高らかに笑うが、しばらく離れてからこちらに振り向いた雄二の顔に、根本は笑いを引っ込めた。

 

 

「……何だその顔は?」

 

 

 一体何に憐れんでいるのだろう。雄二の顔は、なぜか憐(あわれ)みの感情で満たされていた。

 

 

 

「いや……この戦いが終わった後の、お前の処置を考えると、な。」

 

「は?」

 

 

 その疑問に答えることなく、雄二は少し大きい声で、言葉を告げた。

 

 

 

 

 

「あとは任せたぞ、明久」

 

 

 

 

 

 

 

「だぁぁーーっしゃぁーっ!」 

 

 

 

 

 ドゴオッ!!

 

 

 

 瞬間、Bクラスの壁が崩れ落ちた。

 

 

「ンなっ!?」

 

「え、ええええっ!?」

 

「はあっ!?か、壁が・・・!?」

 

 

 根本だけでなく、妖夢、パルスィもあ然としてその光景を見つめ、思った。

 

 ――さっきから壁の方がうるさかったのはまさか、このため――!?

 

 

 

「くたばれ、根本 恭二ぃー!!」 

 

 

 そして、そこから出てきたのは―

 

 

「!よ、吉井 明久君・・・!」

 

 

 昨日、Bクラスに単身で乗り込んできた吉井明久、そして数人のFクラスメンバーだった。

 

 

「遠藤先生!Fクラス島田が―」

 

「Bクラス伊達が受けます!試獣召喚(サモン)!」

 

 

 根本に勝負を挑もうとした美波に、Bクラスの近衛部隊が割り込んで阻止した。

 

他のFクラスにもBクラスの生徒が立ちふさがって、根本の元へは誰も行くことが出来なくなった。

 

 

「は、ははっ!せっかくの奇襲(きしゅう)だったが失敗に終わったぞ!残念だったな!」

 

 

 根本は驚きを隠しながら、せいいっぱいの虚勢で明久たちを笑った。これで、自分に火の粉がかかてくることはない!

 

 

 ――そう慢心してしまった。

 

 

 

 

 そして、それが彼の命取りとなった。

 

 

 

 

 

 

「・・・あ?」

 

 

 

 

 ――Fクラスとの戦闘が激しくなってきてから、Bクラスはの室温がなぜか以上に上がって蒸し暑くなっていた。冷房の故障かとも思ったが、戦争中なので確認する暇もなく、その場は窓を開けてしのぐことになった。

 

 

 

 

―――もしも、そんなところからロープを使ってFクラスの人間が侵入してくる、と予想した人物は、事前に情報を握っていたとしかと言えないだろう。

 

 

 そして、今まさに、その手段を使って教室に入ってきた人物がいるのだ。

 

 

 

 ダンッ!ダンッ!

 

 

 

「……Fクラス、土屋(つちや) 康太(こうた)」

 

「き、キサマ……!」

 

 

 

 現れたのは保健体育の教師と、保健体育においてのみ、絶大な力を発揮するムッツリーニこと土屋康太だった。

 

 

「……Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む。」

 

 

 まわりに自分以外のBクラスはいない。もはや、勝負を回避することは不可能だった。

 

 

「―――-―ち、ちくしょおおおおおお!!」

 

「――試獣召喚(サモン)」

 

 

 

『 Fクラス  土屋 康太  保健体育    441点

         VS  

  Bクラス  根本 恭二  保健体育    203点 』

 

 

 

  そして、一瞬で、根本の召喚獣は切り裂かれ、Bクラス代表の戦死によって、勝負は終結した。

 

 

 

 

「・・・あ。ウチの代表がやられましたね…。」

 

「そうですね。では、これで私達も終了しましょうか。」

 

「ええ、仕方ありません。お見事でした紅さん。」

 

「ありがとうございます魂魄さん。よいしょっ。では、身体を動かしときますかね~。」

 

「え?なぜですか?」

 

「もちろん、けじめをつけてもらうからですよー。」

 

 

 

 

「おっ!上手くやったみたいだな土屋達!」

 

「・・・あ~あ。なにやってんのよ根本の奴。自分で私らに動けって言ったんだから、その間くらいしっかり守りなさいよね。全く・・・」

 

「へへっ、悪いな。私らの勝利だぜ!」

 

「みたいね。は~、やっぱり妖夢の方が良かったんじゃないかしら。」

 

「ん?何がだよ?」

 

「代表よ。妖夢の方が実際では上だと思うしね、たぶん。」

 

「へ~。すごいんだなそいつ。でも、お前もすごいんじゃないのか?なかなか手ごわかったから、はっきり言ってやばかったからな!」

 

「・・・・・・それって哀れみ?なら不要よそんなのは。別に私は、教室がどこだろうと構わないしね。」

 

「ん?哀れみとかじゃなくて本音だったんだがなー。でも、水橋って言ったっけ?負けたのに落ち着いてるところとか凄いぜ。」

 

「・・・・・・」

 

「私だったらきーきー文句を言うところだってのに、水橋は大人だなあ。私も見習いたいぜ!」

 

「・・・・・・私は強がっているだけなのに、それを信じた上に、私なんかを模倣の対象とするなんて。妬ましい。ああ妬ましい・・・!その純粋さと優しさが妬ましいぃぃ・・・・・・!!(ガリガリガリ)」

 

「うお!?ぶつぶつ言いながらつ、爪を急に噛み始めてどうしたんだぜ!?だ、大丈夫か!?」

 

 

「・・・っ!!(バッ)」

 

「うおおっ!?な、なんでいきなりとびかか、ってぐえくるし・・・!」

 

「!?まりさ!あ、あんたアタイの子分に何やってんのよさーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!後半はナレーション形式になってしまいましたが、楽しんでいただけたならば・・・!


 前からも出ていましたが、パルパルパルが有名な、『地殿の下の嫉妬心』!橋姫の水橋パルスィさんの登場です!嫉妬って恐いですね・・・!

 パルスィさんの性格がよく分からなかったもので、自分なりに解釈して話してもらいましたが、どうだったでしょうか?

 
 では、今回はここまでで!感想とか質問があったら気楽に送信してください!

 それではっ!


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終結―人肌、に触れる時も悲喜こもごもありますねー!

 どうも、村雪です!今回でBクラス戦は本当の終了です!妖夢さんやパルスィさんを次回からも活躍させていかねば・・・!

 あと、ちょっと業務的な連絡ですけど、次の作品を出すのがかなり遅くなるかもしれません。色々とばたつくことが出来まして・・・・・・待たせる人には申し訳ないのですが、気を長くしてお待ちくださいませ!



――では、ごゆっくりお読みください


「お~、見事な穴だぜ」

 

「・・・・・・い、いや~。教室に大きな穴が空いてるところなんか、私、初めて見ましたよ。」

 

 

 というか、壁に穴が空いている事事態を始めてみました。召喚獣の力を改めて思い知らされますね!

 

 

「全くじゃな。明久、ずいぶんと思い切った行動に出たのう」

 

「うぅ……。痛いよう、痛いよう……」

 

 

 その実行者、吉井君は手を赤くしながら同じ言葉を繰り返して痛がってます。

 

 吉井君の召喚獣は、実際の物に触れることが出来る『監察処分者』使用。それを利用して、彼は先生をうまくごまかして隣のクラスで召喚獣を出現させ、そこからBクラス側の壁を殴って壊し始めた、のだそうです。もはや論理とか常識があったものじゃありませんね!?

 

 召喚獣の感じた感覚が本人に帰ってくるのも『監察処分者』の特徴だそうですので、あんな壁を壊すぐらいなんですから、痛みは計り知れません。あ、想像しただけで手が痛くなってきました。

 

 

「なんとも……お主らしい作戦じゃったな」

 

「これで、らしいんですか?」

 

 

 普段、吉井君は何かを壊しながら生活しているのでしょうか・・・?

 

 

「も、もっと褒めてもいいと思うよ?」

 

 

 秀吉君の言葉を褒め言葉と受け取ったのか、吉井君はすがるように秀吉君の言葉を待ちます。

 

 

「後のことを何も考えず、自分の立場を追い詰める、男気溢(あふ)れる素晴らしい作戦じゃな」

 

「……遠回しにバカって言ってない?」 

 

 

・・・じゃっかん棘(とげ)がある言い方ですけど、ま、まあ良いですよね!あながち秀吉君の言葉も間違っていませんし!

 

 

「ま、まあまあ吉井君。大変ご苦労様でした」

 

「ああ、その言葉だけで、この後の先生達の暖かいハートフルコミュニケーションを問題なく過ごせるよ!」

 

「そ、そうですかー。そんなご利益は私の言葉にないと思うんですけどねー」

 

 

 教室の壁を壊したことに対して、先生方の厳しい指導が待っている吉井君。その言葉だけで耐え切れるなんて、私の言葉は仏の言葉か何かですか。

 

・・・あ、でも私も、咲夜さん達の労いの言葉を受けたら、神の宣告だって覆せそうですね。納得しました!

 

 

「よしー!あんたもやればできるのね!褒めてあげるわ!」

 

「君に褒められても嬉しくない!むしろ君が何をしたのかを聞きたいよ!」

 

「なにー!?」

 

「いや、チルノは私の命のピンチに手を差し出してくれたぜ。あ~、まだ汗が止まらないなー」

 

 

 そう言って首をさする魔理沙。さっきあっちでばたついていましたけど、何があったのでしょう?

 

 

「吉井 明久君」

 

 

 そんな私たちの下に、1人の美少女がやってきます。

 

 

「あ、ええっと・・・こんぱくさん、で良かったかな?」

 

「魂魄 妖夢です。お好きに呼んでもらって結構です」

 

 

 咲夜さんと似た白銀のボブカット、そして黒いリボンを頭の横につけたその少女は、さきほどまで私と召喚バトルをしていたBクラスメンバー、魂魄 妖夢(こんぱく ようむ)さんでした。

 

 

「じゃあ、魂魄さん。その・・・ごめんね?」

 

「?どうして謝るんですか?」

 

「だって、おとといに助けてもらったでしょ?なのに…」

 

 

・・・あ、そう言えば言ってましたっけ?襲われそうになったところを、女の子に助けてもらったって。それって妖夢さんの事だったんですね!それに、筆記用具を壊そうとしたBクラスの男子も〝魂魄さん〟って言ってました!彼女が凄い真面目だっていうのがよくわかりましたよ!

 さっきまではちょっと頭に血が上ってたんで、気が付けませんでしたけどね!

 

 

 

「いえ、私が勝手にしたことですから、気にされる必要はありませんよ」

 

「そ、そう?じゃあ言葉にお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「ええ。っと、ちょっと手を貸してもらっていいですか?」

 

 

 妖夢さんがそう言って、吉井君の手を見ました。その手はけがをしていてすっごく痛そうです。でもまあ、咲夜さんの冷たい目の方が心にずっと痛いですけどねー!

 

 

「え?でも、今から戦後対談があるから、後じゃダメかな?いくらでも手を貸すよ」

 

 

 あれ、そっちの〝手〟ですか?

 

 

「あ、協力とかじゃなくて、吉井君のその両手を見せてくれませんかという意味です」

 

「え。こ、こう?」

 

 

 慌てて吉井君は手を妖夢さんに見せました。うわあ、さっきはああ思ったものの、やっぱり痛そうですね―・・・

 

 

「ちょっと待ってください・・・はい、染みるかもしれませんけど、我慢してくださいね?」

 

 

 そう言って妖夢さんが手に取ったのは、消毒液とガーゼ。どうやら吉井君の手の殺菌をするようです。

 

 

「あっ…!も、もうアキったらぁー・・・」

 

「まあまあ美波(みなみ)。たぶんアイツにその気は無いから、そうしょげるなって」

 

 

 それに島田さんは思う事があったみたいで、がくりと肩を落として深いため息をつき、魔理沙(まりさ)がその肩を軽く叩きます。

 島田さんもなんと言いますか・・・女の子ですねぇ?

 

 

「あ・・・いたたっ。やっぱり染みるね」

 

「それで菌を消してるんですから仕方ありませんよ・・・―――はい。まあこれで少しは腫れも収まるんじゃないですかね。保健室には行ってくださいよ?あくまで私のは応急程度なんですから」

 

 

 消毒液を垂らしたところを軽めに拭いて、妖夢さんはポケットから出したばんそうこうをペタリと手の甲にはりつけました。非常に手慣れた処置でございます。

 

 

「次は左手を―」

 

 

 右の次は左手と、敵である吉井君の手当てをする妖夢さんの優しさに、私は心を打たれます!この子は将来、絶対良いお嫁さんになれますね!

 

 ほどなくして左手の手当ても終わり、妖夢さんはポケットに道具をしまって・・・てぇ?

 

 

「一応簡単な手当てはしておきましたね………あの、どうして私に土下座してるんですか吉井君」

 

「どうか!この恩知らずの僕の大罪を、魂魄さんのパシリにならせて償わせてくださいー!!」

 

「いりません。君は私に何を課せる気ですか」

 

 

 バッサリと切り捨てる妖夢さん。い、いきなり土下座する吉井君もすごいですけど、全く動じない妖夢さんもなかなか強者ですね!?

 

 

「すまないな魂魄。ウチの明久はマゾのド変態野郎なんだ」

 

「…そうでしたか・・・それなら私は余計なことをしてしまいました―」

 

「信じないで!?拳が傷ついて涙を流す僕を、マゾだなんて思わないで魂魄さんっ!」

 

 

 坂本君のあられもない……あれ、そうでもないですかね?・・・ま、まあ100パーセント真実ではない言葉を信じるところも、妖夢さんの優しさゆえです!天然さんとは関係ありませんよね!

 

 

「さて。では戦後対談を始めますか?」

 

「ああ、それもそうだな。・・・そっちの取り決め役はそこの代表さんじゃなくていいのか?」

 

「いえ、彼にやらせますよ。根本君、そろそろしっかりして下さい。あなたがこのクラスの代表でしょう」

 

「……わかったよ」

 

 

 自分たちの処遇をめぐることなのに、非常に落ち着いている妖夢さんとは違って、根本君は床に沈痛な表情で座り込んでいました。最下位クラスに負けたのが悔しいと、ひしひし伝わってきます。

 

 根本君が話を聞くつもりになったのを確認し、坂本君は言いました。

 

 

「本来なら設備を明け渡してもらって、お前達にFクラスのちゃぶ台と座布団を提供するところだが、特別に免除してやらんでもない」

 

 

 Bクラスへの宣戦前に話していた通りに、和解条件をBクラスにちらつかせます。その言葉にBクラス、特にFクラスからざわめきが生じますが、坂本君がなだめます。

 

 

「落ち着け、皆。前にも言ったが、俺たちの目標はAクラスだ。ここがゴールじゃない」

 

「そうだぜ。皆も少しは可能性があると思えてきただろ?いっちょ行けるとこまで行ってみようぜ!」

 

「霧雨の言う通りだ。ここはあくまで通過点だ。だから、Bクラスが条件を呑めば解放してやろうかと思う」

 

「当然ね!一度決めたもくひょーを達成しないとサイキョーじゃなくなるわ!」

 

 

 坂本君、魔理沙、チルノの言葉に加えて坂本君の功績もあったため、Fクラス一同はすぐに落ち着いてくれました。

 

 

「……条件はなんだ」

 

「条件?それはお前だよ、負け犬さん」

 

 

 根本君の弱い問いかけに、坂本君ははっきりそう言います。

 

「俺、だと?」

 

「ああ、お前には散々好き勝手やってもらったから、そのツケを払ってもらう形だ」

 

 

 悪いことをしたらその罰はうける!それ鉄則ですよね!

 

 

「ここでBクラスに特別チャンスだ。条件は二つ」

 

 

 坂本君が指をピッと立てて、条件を差し出します。よし、私もそろそろ準備をしておきますか。

 

 

「一つ目。Aクラスに行って、試召戦争の準備が出来ていると宣言してこい。ただし、宣戦布告はするな。あくまでも戦争の意思と準備があるとだけ伝えるんだ」

 

「…それが一つ目か?」

 

 

 根本君はたいしたことのない条件を疑っているみたいです。ええ、あなたが何もしなかったらそうなっていたでしょう。

 

・・・でも、あなたは色々とやらかしたんですよ?そんな甘いわけないじゃないですか。

 

 

「ああ。ただしこれを着てもらうのが必須条件だがな」

 

 

 そう言って提供するのは、先ほど秀吉君が着ていた女子の制服。一気にハードルがあがります。

 

 

「ば、馬鹿なことを言うな!この俺がそんなふざけたことを―」

 

「黙りなさい」

 

「ぐふぅ!?み、水橋、キサマ…!」

 

 

 お、おお?Bクラスの女子が根本君の腹に一発。かがみこんでいるから、だいぶ遠慮なくいったみたいです。

 

 

「乗った。Bクラス生徒全員で必ず着させるわ。坂本君」

 

「おい!?」

 

「そ、そうか。分かった」

 

 

 迷いない攻撃、本人の意思に関係ない合意に坂本君も思わず面を食らってました。が、すぐに気を取り直し、次の指令を出します。

 

 

「…で、二つ目なんだが・・・」

 

「……な、何だ?なぜそんなに憐れんだ目で俺を見るんだ」

 

 

 ん~・・・きっと、同じことをされた身として感慨がわいたんでしょうね!

 

 

 

 

「その、だ……。お前には、紅(ホン)の体術の練習に付き合ってもらう」

 

 

「………………え?」

 

 

 

 さあ・・・・・・私の友達の一途な思いを踏みにじったけじめ、きっちりつけてもらいましょうか。

 

 

「じゃあ、ここからは本人に任せるが……根本恭二(きょうじ)、死ぬなよ?」

 

「ちょ、ま、待ってくれ―!」

 

 

「さーって、色々とやってくれましたねえ?根本恭二君?」

 

 

「………(ガタガタガタガタ)」

 

 

 震えながらこちらをゆうっくりと振り向く根本君。おやおや、さきほどされたパンチが効いて動きづらいみたいですね?

 

 だいじょーぶです!これからもっと痛い目にあわせてやりますから!

 

 

「いや~、女の子を悲しませたり、人の物を壊そうとしたり、手段を選ばないそのやり方はめったにお目にかかれませんので、私は立ち合えてラッキーでしたよ」

 

 

 おかげで、見過ごすことなくきっちりと仕置きが出来ますからねえ…?

 

 

「あ、あ……」

 

「私としましては、そんなものを見せてくれた根本君にたあっぷりとお礼をしたいんですよ~・・・!」

 

 

 ここでにっこりスマイル。たぶん悪魔みたいなもの凄く恐ろしい顔じゃないですかね? 

 

 

「では、きっちり受け取ってくださいね?」

 

 

「ひっ・・・!す、すいませ―!」

 

 

 

 

 

「――許すはずねえでしょ、阿呆が」

 

 

 

 ぬるいことを言う彼に、鉄槌を下し始めました。

 

 

 

「ギャアァアァアアアアァァァァァ――――……………………!」

 

 

 

 

 

 

 一分後

 

 

 

 

 

「―――――ふう。ま、これで反省してくれましたかね」

 

「………あ、あ……」 

 

 

 ぼろ布の様になってピクピクと痙攣(けいれん)する根本君を見て、私は怒りを消去しました。確かにけじめはつけさせてもらいましたよ!

 

 

「…少しながら同情を禁じ得ないな。俺の時よりひどくなかったか?」

 

「確かに。でもあんなに怒った美鈴(メイリン)も珍しいから、そんだけのことを根本がしたんじゃないか?自業自得だぜ」

 

「僕、これからは美鈴さんを怒らせないように生きるよ」

 

「そりゃ無理だ明久。お前がいる限りな」

 

「待った!僕の性格がむかつく奴だって言いたいの!?」

 

「いや、きっと存在がじゃないか?」

 

「その通りだ霧雨(きりさめ)」

 

「雄二と魔理沙は僕に恨みがあるのかなあ!?」

 

「「ない(ぜ)。ただ面白いから言っただけだ」」

 

「面白半分で尊い僕の存在をけなすんじゃないよっ!」

 

 

 何やら吉井君達がもめています。土屋君と気が合ったりと、魔理沙は本当に溶け込むのが上手ですねー。そのおかげで吉井君の精神も溶け出してますけども。やりすぎはダメですよ?

 

 ……今の私が言うんじゃねえって言葉でしたかね!

 

 

「じゃあこれで私のせいさ、頼みごとは済みましたんで!」

 

「そこまで言ったんなら、制裁と言ってもいいと思いますが……」

 

 

 あとは根本君が可愛らしくなったら交渉成立ですね!

 妖夢さんが坂本君の下に歩いて、制服を求めました。

 

 

「坂本君。その制服を貸してもらえますか?根本君に着せますので」

 

 

 

『断じて却下!!』

 

 

「みょんっ!?」

 

 

 

 突然のBクラス一同の喊声(かんせい)に、妖夢さんは可愛らしいユニークな悲鳴をあげました。そこからは各自が口々に言い出します。

 

 

『妖夢さんがそんな汚らしいものに触れたらダメだ!』

 

『こんなバカのために妖夢ちゃんが汚れる必要なんかないわ!』

 

『そうだ!全く、魂魄さんは優しすぎる!・・・だがそこがいい!』

 

『そうよ!だからパルスィ!みょんちゃんの代わりにあの汚れ仕事をしてあげて!』

 

『……私は構わなくて妖夢は擁護。そんな配慮が妬ましいわっ!!』

 

 

 き、汚いって・・・それはさすがに言い過ぎでは?心はともかく体は毎日お風呂に入ってるでしょうし清潔ですよきっと!入ってなかったら知りません!

 

 

「……まあ、そういうことよ妖夢。私がこいつに着付けをしてやるわ」

 

「は、はあ…すいません。パルスィさん」

 

 

 よく分からないみたいでしたが、妖夢さんも自分がやらない方がいいのかと感じ、パルスィと呼ばれた先ほど根本君にジャブを入れた女子と入れ替わりました。

 

 

「坂本君。制服を渡してちょうだい」

 

「わかった。よろしく頼んだ」

 

「男子の制服を脱がすなんて想像すらしてなかったわ・・・よいしょっと」

 

 

 何かぼやきながらも手際よくパルスィさんは根本君の制服を脱がせていきました。・・・な、なんだか直視できない構図になってますね!

 

 ちょっとだけ顔が熱く感じている間に、パルスィさんが根本君の制服の脱がしを終えます。

 

 

「あ、その制服なんだけど、僕がもらっていいかな?」

 

 

 吉井君が声をかけたのはそのわずか後でした。

 

 

「?構わないわよ。はい」

 

 

 特に反対することなくパルスィさんが吉井君に制服を譲渡しました。あくまで持ち主は気絶しています。

 

 

「ありがとう。折角(せっかく)だし、可愛く着せてあげてね?」

 

「無理ね。腐ったものをどれだけ飾ろうが腐ったままよ」

 

「…そ、そう。じゃあ後はよろしく」

 

「はいはい。全く、ほんとにこの男には妬ましさのかけらも抱かないわ・・・」

 

 

 あくまで根本君は彼女の代表……ですよね!?もう言われ放題じゃないですか!代表の威厳のいの字もありません!クラスメイトにどう思われていたのか丸わかりですね・・・

 

 

「……(ごそごそ)」

 

「…あ、そういうことですか」

 

 

 制服を受け取った吉井君は、少し離れたところに移動してそのポケットをあさり始めました。何を探しているのか、あの存在を知ってる私にはすぐに分かりました。

 そのために根本君に女子の制服を着させたって事ですかね。

 

 

「……あ、あったあった」

 

 

 そして、瑞希(みずき)さんの手紙の入った封筒を取り出し、吉井君はそのまま自分のポケットに入れました。

 

 ・・・確信は持てませんけど、まだ中身のことは読んでないですよね?一応行ってみましょうか。

 

 

「吉井君。その封筒のことなんですけど」

 

「!?ふ、ふふ、封筒?なんのことか分からないな~?」

 

「・・・は?いや、なんのことって・・・」

 

 

・・・もしかして、私が手紙のことを知らないと思ってるのでしょうか?

 

 

「ああ、中身の事は知っています。瑞希さんのお手紙でしょう?」

 

「あ…め、美鈴さんも知ってたんだね」

 

「はい。吉井君の方こそ知っていたんですね」

 

「あ、うん。この前偶然になんだけどね」

 

 

……ん~、反応はあんまり嬉しそうなものじゃありませんね。でも、吉井君が瑞希さんのことを良く思っているのは間違ってないと思いますし……

 

 

「吉井君。そのお手紙はどうするつもりで?」

 

「姫路さんの鞄(かばん)に返しておくよ。やっぱり人に持たれたら嫌だろうしね。」

 

「そうですか。なら、私も同行していいですか?少々聞きたいこともありますので」

 

 

 中身のことはまだ知っていないはず。そこら辺の話を聞かせてもらいたいですね。かといってここだと人の目もありますし、移動中に聞くのが良案です。

 

 

「分かった。じゃ、行こっか?」

 

 

「了解!」

 

 

 私たちはBクラスから出ました。あとのことは坂本君達に任せましょう。

 

 

 

「あ、この制服はもういらないね。根本君には女子制服で家に帰ってもらおうか?」

 

「アウト!人の制服をゴミ箱に捨てるなんてアウトです吉井君!そして根本君を社会的に殺す気ですか!?」

 

 

 ・・・案外、吉井君は外道なのかもしれないと私はこの瞬間思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Bクラスから出た私と吉井君。目指すは瑞希さんの鞄(かばん)でございます。

 

 

「は~、なんとかBクラスに勝てたね~。もうへとへとだよ」

 

 

「坂本君も色々考えますねー。よもや窓を開けさせるために、Dクラスに室外機を壊させるとは・・・知られたら大目玉でしたよ?」

 

 

 根本君が瑞希さんの手紙を持っているのを確認したあの後、吉井君は坂本君の下に向かったそうですが、その時に坂本君がDクラスに、前に取りつけた約束であるBクラス冷房の室外機を停止させるように頼みました。そうすることでBクラスの室温を上昇させ、窓を開けさせることに成功したのです。

 

 

 そして、そこからが土屋君の役目。彼の得意科目である保健体育の教師は、体育を教えるだけあって非常に運動神経が良く、他の先生には出来ない行動をするのが最大の特徴です。その特徴を最大に活かし、2人は屋上からロープを垂らして開け放たれた窓から侵入、そして不意をついて根本君を倒すというのが今回の作戦なのでした。

 

 

 Dクラス勝利までにはこの流れが考えられていたに違いないので、彼の発想力には脱帽せざるを得ませんね!

 

 

「雄二は後の事を考えずに動くからね。そこについてだけは僕の方が大人だよ!」

 

「…吉井君の中では色々と妥協しての言葉みたいですけど、それでもたぶん妥協し足りませんよ?」

 

「うそ!?」

 

 

 おそらく、オールラウンドで坂本君の方が上手ではないでしょうか。

 

・・・とは言え、まだまだ達観していないところに、吉井君の良さがあると思いますけどね!今回の手紙の件でもそうですし!

 

 

「あ、そう言えば吉井君。あなたはその手紙の内容を知っているんですか?」

 

 

 付き添っている理由をすっかり忘れるところでした。吉井君はさっき手紙の中身を知っていると答えていましたけど・・・その割にはテンションと言うか、喜びを感じないんですよね。

 

 吉井君の性格だから、もしもラブレターを盛らったら狂喜のあまり叫びまくりそうなんですけど・・・。吉井君は本当にラブレターだと分かっているのでしょうか?実は姫路さんの手紙ってだけで詳しく中身を知らないんじゃ―

 

 

 

「え、うん。確かラブレターだったよね?」

 

「……え、ええ。そうです。」

 

・・・・・あ、あっれえー?知っててそのリアクションなんですか?

 

 なんか、こう!思いっきり鼻を高くするのが吉井君じゃないですか!?こんな冷静な吉井君は吉井君じゃありませんよー!?

 

 

「…吉井君はあまり嬉しくないんですか?」

 

 

 まさか吉井君、瑞希さんのことが眼中に無しなのですか?

 

 いや、そりゃ好意を嫌でも押し付けろだなんて言いませんけど、だったら今までの思わせぶりな言葉や行動はだめですよう!私が瑞希さんに無責任な事を言ったことになるじゃないですか!

 

 

「う~ん・・・」 

 

 

 私の質問に一間空けて、吉井君の感想。

 

 

 

 

 

「どっちかというと不幸になれって思うね。」

 

 

「この人最悪だーっ!」

 

 

 ええーーっ!?まさかの好きどころか、憎悪の対象!?あまりのどす黒い発言に私はあ然を通り過ぎて気絶しかねないほど!あ、視界がふらふらします…!

 

 

「よ、吉井君・・・ブラックジョークでもちょっと厳しいですよ?」

 

「?一応本心だよ?」

 

「……」

 

 

 すがるような冗談もばっさり一言。

 

 ああ…瑞希さんごめんなさい。私はとんでもない嘘をついてしまいました。私の思っていた吉井君はどうやらまやかしだったみたいです……

 

 

 

 

 

「だってバカ雄二に姫路さんなんて、姫路さんが可哀そうでしょ?まさに美女と野獣だよ!」

 

 

「……………………………………ん?」

 

 

 

 どうして坂本君の名前が?

 

 その疑問が顔に出てたみたいで、吉井君も不思議そうな顔をして答えてくれました。

 

 

 

「…え?だってあのラブレターって雄二にあげるんでしょ?」

 

 

…………………………あ~、そういうこと。

 

 

「吉井君。やっぱり吉井君はどこまでも吉井君なんですね」

 

「へ?どゆこと?」

 

「そのままの吉井君でいてください」

 

「??」

 

 

 やっぱり吉井君はこうでなくてはねっ!

 

 

「ままっ、その話は終わったということで!ほらFクラスが見えてきましたよ?」

 

「え、美鈴(メイリン)さん、さっきのどういうこと?僕メチャクチャ気になるんだけど」

 

「いえいえ、吉井君が知る必要なんかありませんよ!」

 

「笑顔で冷たいこと言うんだね!?」

 

 

 すいません!でも、やっぱりそういうことは、本人の口から聞くのが一番なんですよ!戯言(ざれごと)だと思って忘れてください!

 

 そうこうしている内に我がFクラスへの到着です!Bクラスにいたせいか、さらにボロく見えますね~。

 

 

「さっ、吉井君。任務を果たすとしましょう!」

 

「ま、まあそうだね」

 

 

 ほっ、とりあえず回避出来ました。あとは吉井君の記憶力に頼るとしましょう!

 

 

「よいしょ・・・よし、これでオッケーだね。」

 

「はい、ご苦労様でした。」

 

 

 吉井君が瑞希さんの鞄(かばん)に彼女の大切な手紙を入れました。これにて任務終了ですね!

 

 

「吉井君!」

 

「ふぇっ!?」

 

「あ。」

 

 不意を突いた呼び声。後ろにはいつの間にか瑞希さんがいました。・・・吉井君、その声がとても可愛らしいと思った私は悪くないと思います!

 

 

「ひ、姫路さん・・・ど、どうかした?」

 

「吉井君……っ!」

 

 

 感極まっているのか、瑞希さんは目に涙をにじませていました。

 

 それは行動にも表れ――

 

 

「ほわぁぁっっと!?」

 

「!おお~!?」

 

 

 吉井君に正面から抱き着いちゃいました。ヒャー大胆ですねー!最近咲夜さんに成功してませんから、ハグが新鮮に感じますよっ!

 

 

「あ、ありがとう、ございます……!わ、私、ずっと、どうしていいか、わかんなくて…!」

 

 あらら…そんなにそんなに一人で抱え込まなくても、私達に相談してくれてもよかったのに。全く水くさいですねー!

 

「と、とにかく落ち着いて。泣かれると僕も困るよ」

 

「は、はい・・・」

 

 

 気を遣(つか)った吉井君の言葉に従い、瑞希さんは吉井君から離れて涙をぬぐいます。

 

・・・吉井君。あからさまにしまったって顔をしないでください。多分瑞希さんと密着していたかったとかでしょ!?もう!紳士的なことを言ってるんですから考えも紳士的にしてください!

 

 

「………も、もう一度――」

 

 

 え、まさか抱き着いてくれとアンコールするつもりですか?なんと、要求することが酷いですけど男らしいですね!わずかに株が上がりました!

 

 

「はい?」

 

 

 姫路さんが首を傾げて聞こうとしています!吉井君、堂々と言うんですか!?スケベな注文ですけど漢を見せるんですね!?

 

 

私の吉井君への株がさらに―!

 

 

「――――もう一度壁を壊したいっ!」

 

 

 下落しました・・・上り値を上回る赤字株です。このチキン野郎がっ!

 

 

「あの、更に壊したら留年させられちゃうと思いますよ……」

 

 

 瑞希さんも気の毒そうな目で見てますし!感動を引っ込められてまでの憐れむ視線はいたたまれないでしょうねえ…

 

 

「…そ、そうだ姫路さん!せっかくだし美鈴(メイリン)さんにもお礼をしてあげたらどうかな!?」

 

「え?」 

 

 

 そこで私に振りますか?別に私はお礼が欲しくてしたわけじゃないですし、今はあなたと話している所でしょう!私なんて蚊帳(かや)の外の存在で良いんです!

 

 

「!?メ、美鈴さん!?いつからそこにいたんですか!?」

 

「……あ、あはは。一応最初っからですよ~・・・?」

 

 

 ・・・訂正。やっぱり、ほんのちょっとでもいいから存在は認識してほしいかな~?なんて。思ったより心にきましたよこれ。

 

 

「え、すすすいません!吉井君のことしか見えなくって・・・!失礼なことをしてしまいました!」

 

「い、いやいや大丈夫ですよ?」

 

 

 これからきちんと認識してくれるのでしたらね!・・・ま、それはともかく!

 

 

「良かったですね瑞希さん。無事手紙が戻ってきて」

 

「はいっ。美鈴さんも本当にありがとうございます!」

 

「いえいえ、私も良かったですよ」

 

 

 友達が嫌な思いをしなくて済みましたから!瑞希さんが元気になってくれて何よりです!

 

 

「……そんじゃ、私はお先に失礼しますか」

 

 

 今頃Bクラスでは根本君が可憐な変身を終えてるところでしょうね。きっちりとこの目でおがんでやるとしましょうか!

 

 

「あ、じゃあ僕たちも―」

 

「おおっと待ちましょう吉井君」

 

「え?どうしたの?」

 

 

 全く、私は言ってるじゃないですか。お先に失礼しますって!

 

 

「お二人はもう少しゆっくりしてからでいいじゃないですか。吉井君は手が痛いでしょうし、瑞希さんだってまだ心の疲れが取れていないでしょう?」

 

 

「あー、確かにね。まだ手が痛むよ・・・」

 

 

 吉井君が手をさすりながら同意しました。

 

 

「吉井君は今回の立役者なんですからゆっくりしていてください。そんなに仕事も無いでしょうしね!」

 

 

 事実、あとは根本君がAクラスに試召戦争を仕掛けると思わせたら終了のはずですから、全員が行く必要もありません。それなら2人でゆっくり時間を過ごす方が非常に有意義だと思います!

 

 

「ん~・・・じゃあお言葉に甘えよっかな?ね、姫路さん。」

 

「あ、は、はい!じゃあお願いします美鈴さん!」

「はいな、任されました!」

 

 

 2人の意見も一致しました!では、邪魔者はすぐに出るとしましょう!

 

 

「それではお2人とも、ごゆっくりどうぞー」

 

 

 私は手をひらひらと振ってFクラスを出ました。さって!根本君のおしゃれ姿を見に……の前に、ちょっと顔とか洗ってきますか。さっきすんごい動きまくってたせいで汗がひどいかもしれませんし、汗臭いって思われるのは断固避けたいですもの!

 

 そういうわけで私は水洗い場を目指しました。面白そゴホン!根本君がしっかり仕事を果たすかどうかを確認しなければいけませんので、急ぎましょう!この目に焼き付けるため、目は入念に洗わなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…行っちゃったね。じゃあ僕たちは待っとこうか。」

 

「あ、そ、そうですね。美鈴さんには後でお礼を言わないといけませんねっ」

 

「だね。……え~と、姫路さんはもう大丈夫?」

 

「はいっ。改めてなんですけど、吉井君、本当にありがとうございます!」

 

「い、いや~。僕はただ壁をぶち壊しただけだって。お礼なら美鈴さんに言ってあげてよ!なんたって、根本君のバカを処刑してくれたんだからね!」

 

「え、笑顔で言うようなことじゃないですよ!?」

 

「でも、あれは凄かったな~。僕もちょっとだけ美鈴さんの技を受けてみたいって思ったぐらいだしねっ!」

 

「……吉井君は、美鈴さんみたいな女の子が好きなんですか?」

 

「え?ん~…きれいだし面倒見もいいから、まあ(友達として)好きかな?」

 

「………そ、そうですか…」

 

「うえっ!?ど、どうして急に涙を滝のように流しだしたの姫路さん!?」

 

「くすんっ……だ、だって・・・勝てる気がしないからですっ!!」

 

「えええ!?いや、さ、さすがにメチャクチャ強い美鈴さんに勝つのは無理じゃないかな!?僕も勝てる気がしないよ!?」

 

「そ、そういう意味じゃありません!女の子としての魅力―――」

 

 

 

ガラッ

 

 

 

「失礼しま……………ごめんなさい。失礼するわ(ガラガラッ)。」

 

「一瞬!?え、どうしたの十六夜(いざよい)さーん!?」

 

「ま、待ってください十六夜さんっ!!多分想像されていることはしてませーんっ!」

 

 

 

 

「…そう、お邪魔ではなかったのね。やらかしたと思ってたから安心したわ」

 

「だ、大丈夫です!十六夜さんは何もしていませんっ!」

 

「十六夜さんみたいな女の子が来るんなら、僕は他のどんなこともかなぐり捨てて時間を取るよ!」

 

「…上手でしょうけど、私に言うのは失敗したわね。姫路さん、私はこの変態をどうこう思っていないから安心して頂戴」

 

「あ、す、すいません!」

 

「ちょっと十六夜さん!僕が変態ってどこが変態なのさ!?ちょっと失礼だよっ!」

 

「ふうん・・・?吉井明久」

 

「なにさ!」

 

「私、実は着痩(や)せするのよ。」

 

「嘘だね。僕の目にはぺったんこにしか見えないだだだだああああっ!!?」

 

「確かに変態ではなかったわ。よかったわね、このド変態が・・・!」

 

「ぎ、ギブギブギブうううっ!!」

 

「い、十六夜さん!吉井君が泣きそうですから許してあげて下さいーっ!」

 

「…はあ。姫路さんに感謝するのね(すっ)」

 

「だ、大丈夫ですか吉井君・・・?」

 

「いったた…な、なんとかね。十六夜さんも美鈴さんみたいに絞め技が出来るんだね・・・?」

 

「たまに教えてもらってるのよ。美鈴に比べればこんなの素人レベルだけれどね」

 

「そ、それでこの威力なんだ…さっきあんなこと言ってたけど、もうくらいたくないや。根本君がほんの少し気の毒になったよ」

 

「根本・・・そう言えばあなた達、Bクラスに勝ったそうじゃない?正直、驚いたわ。瑞希さんのおかげかしら?」

 

「い、いえ違います!吉井君達が頑張ってくれたからです!」

 

「ぼ、僕は違うよ!根本を倒したのはムッツリーニさ!凄いでしょう十六夜さん!」

 

「いや、あなたが威張ることじゃないと思うし、女の敵の名前を出されても・・・。・・・で、Bクラスの次はAクラスってところかしら?」

 

「そうさ!覚悟しときなよ十六夜さん!」

 

「す、すいません!でも、私も頑張ってAクラスの方に勝ちますっ!」

 

「・・・そう、なら私達は、精一杯頑張らせて貰うわ。手加減はしない…けど、頑張ってね姫路さん。敵だけど、言葉だけの応援はさせてもらうわ」

 

「…はいっ!頑張ります!」

 

「あれ、僕は応援してくれないの?」

 

「あなたは無様に地に伏せればいいのよ、吉井明久」

 

「心に刺さる言葉に今すぐひざまつきそうだよっ!!」

 

「あ、あはは…ところで、十六夜さんはどうしてFクラスに来られたんですか?」

 

「ああ。……まああなた達でもいいか。ちょっと聞きたいことがあるの」

 

「聞きたいこと?」

 

「なんでしょうか?」

 

「…今日、Cクラスの小山(こやま)さんが、私達Aクラスに宣戦布告をしてきたんだけど……その時に、木下さんがCクラスを侮辱したって話が出てきたのよ。本人は知らないって言ってるから、ひょっとして弟さんの木下君が言ったんじゃないかと思ったんだけれど……何か知ってるかしら?」

 

「……」

 

「そ、そんな!あの木下君がそんなことをするはずがありません!きっと何かの間違いです!」

 

「そそ、そそうだよ十六夜さん!秀吉が〝薄汚い豚ども〟とか〝豚小屋がお似合いだ〟とか、そんなことを女装しながら言うはずがないよっ!!」

 

「………あなたはド変態の上に大馬鹿なのね。しっかり裏が取れたわ。」

 

「し、しまったあああああっ!!」

 

「ええ!?ど、どういうことですか吉井君!!」

 

「………一応聞いておくわ。木下君がそんなことをしたのは、あなた達が差し向けたとかじゃないでしょうね?」

 

「………テヘッ♡」

 

「…歯ぁ食い縛りなさい。」

 

「ってじょうだんぎゃああああ!?腕が絶対向かない方向にいいいっっ!!!」

 

「や、やめてください十六夜さんー!!」

 

「クラスメイトを陥れた罰、きっちり受け取ってもらうわよ。」

 

「ご、ごめんなさいやああああぁああぁ・・・」

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!

 久しぶりに咲夜さんと明久たちをからませたかったので、最後にちょっと出演してもらいました!どうだったでしょうか!?


 では、最初にも書きましたが、ちょっと次回から書くのが遅くなる可能性があります。楽しみにしてくださる人には申し訳ないですが、気長に、過度な期待はせずにお待ちください!


それではっ!その日まで!


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ご近所――礼儀、は親しくても親しくなくても持ちなさーい!

 どうも、村雪です。一週間ぶりの投稿となって、結局あんまり間を空けませんでした!

 自分のいい加減さがあかんですね・・・!

 今回は以前みたいに、勝負の合間という事で自宅でのお話となります。少しでも和んでいただければ・・・!

――ごゆっくりお読みください


「…で、吉井がずいぶんな態度だったから、きっちりしめておいたわ」

 

「そ、そうですか・・・誰に責任があるかと言えば、ぶっちゃけ秀吉君にあるんですけどねー」

 

「さすがに吉井もその醜くて下卑た心を入れ変えるでしょうね。ったく、あの変態、誰が真っ平らよ…!」

 

「よ、吉井君は何を言ったんですか・・・?」

 

 

 Bクラス戦も終わり、学校から帰る時から今。咲夜さんは一緒に帰る私に何度もなんども吉井君へ恨み節をはきます。咲夜さんがこんなにふてくされるのは珍しいんですけどねー。聞いたらとばっちりを受けそうなのでやめときましょう。

 

 

「咲夜!み、みにくいって、何が見にくいの?」

 

 

 すると、近くにちょこんと座っていたレミィがよくわからないと、顔をしかめながら咲夜さんに聞きました。

 

 

「レミィ、それは、その人の本質がってことよ」

 

「??ほ、本室?」

 

「そう、本質。偉いわレミィ。」

 

「ふ、ふん!分かって当然よっ!……つまり!そのよしいって奴の本の部屋が汚くて、本を読めないってことねっ!?」

 

「………ごめんなさい。小学生には難しかったわね。」

 

「あ、あれ?違うの?」

 

「た、たぶん漢字が違ってるわレミィ。残念!」

 

 

 小学生にはまだ難しい言葉か~。これから頑張って覚えていきましょう!

 

 

「そ、それで、秀吉君のお姉さんは?」

 

「わけが分からないって怒ってたわ。小山さんが濡れ衣を着せて来たって言ってたから、まだ弟さんが動いてるとは知らないんじゃないかしら。」

 

「そうですか・・・」

 

 

 果たしてそれが幸なのか不幸なのやら・・・秀吉君と違って意外と厳しい人なのだそうで、後になればなるほど怖い気もします・・・

 

 

「はあ~、どうすれば人を傷つけずに上手くいきますかねえ?ねーレミィ。」

 

「ウェ!?え、え~と・・・・・・…し、知らないわよバカ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 き、傷のつけ方は会得をしているんですねレミィ・・・!そんないじわるな子になったらダメですよ~っ!

(*彼女自身、雄二、根本等をトラウマになるレベルで物理的に傷つけています。)

 

 

「こらレミィ。美鈴はバカじゃなくて天然なだけなんだからそんなことを言っちゃダメよ?」

 

「て、天然?」

 

「そう、天然。」

 

「咲夜さん。それ褒め言葉ですよね?違ったら私だいぶへこみますよ?」

 

 

 心優しい咲夜さんを私は信用します!

 

 

「……あれ、そういえばフランはどこに?」

 

 

 畳の間には私、咲夜さん、レミィの3人。残るおてんばなフランが見当たりません。トイレでしょうか?

 

 

「あら、そういえば―」

 

「メーリン、さくやっ!」

 

 

 おおっと、噂をすればなんとやら。ふすまをがらがらと開けてフランが入ってきました。なにやら嬉しそうな顔をしてます。

 

 

「どうしたのフラン?」

 

 

 そう聞くと、フランは少し興奮気味に答えました。

 

 

 

 

「今、霊夢から電話があってね!今からそっちに行くってさ!」

 

「へ?霊夢が今から?」

 

「あら、そんな話してたかしら・・・」

 

「ほんとフランッ!?」

 

「うん、おねーさま!」

 

 

 レミィとフランが嬉しそうに笑い合います。

 

 

 霊夢とは私たちのご近所になる女の子で、私たちと同じ文月学園に通っており、しかも咲夜さんによると同じクラスだとか。

 

 そんな女の子が急にやってくるという事に普通は驚くところなのかもしれませんけど、すでに何度もあったことなので全く驚きません。凄いときは何の連絡も無しに訪問してきますからね~。

 

 

「じゃあ、とりあえず片づけを――」

 

 

ピンポーン

 

 

「――する暇がないのもいつも通りですねえ・・・」

 

 

 ちなみに霊夢の家はここから歩いて1分あるかどうか。電話が終わってすぐに来たみたいですが、出来るのなら準備する時間だけでも確保させてほしいところですよ!

 

 

「もう少し都合を聞いてくれると嬉しいんですが・・・」

 

「魚に水なしで生きろと言うようなものよ。」

 

「理のレベルで無理と言いますかっ!?」

 

 

 た、確かにあの子のかたくなさはダイヤモンド並みですけども!もしかすればあの子だって私たちに気を遣って都合を合わせたり…………するところが想像できませんね~

 

 

「…よいしょ。」

 

 

 まあなんにせよ、今既に我が家の前にいるのはまごうことなき事実。ならば現状で迎えるしかありません。

 私は立ち上がってわがままご近所さんを迎えに動きます。

 

 木張りの廊下をぎしぎしと音立てながら歩いて玄関にたどり着き、ガチャリと鍵を外して

 

ガラララッ!

 

 

「お邪魔するわ、美鈴。」

 

「……まあ、今更過ぎることだから言っても無駄でしょうけど、せめて家の人が開けるまでは待ちなさい。霊夢。」

 

 

 我が家たる動作で入ってくる、おっきな赤いリボンをつけた長い黒髪の美少女、博霊(はくれい) 霊夢に私は何度目になるか分からない小言を言ってみました。

 

 

「いいじゃない、そのぶんあんたの労力を減らしてあげたでしょ?」

 

 

 もちろん霊夢はなんのその。逆に感謝しろと言ってくる始末です。

 

 

「これくらいは労力に入りません!」

 

「ほらほら、ムキにならなくてもいいわよ。私が勝手にやったことなんだから。」

 

「な、なぜ私が意地を張ってるみたいな言い方をしますかねえ?」

 

 

 私が意地を張ってて霊夢が気を遣ってくれたみたいじゃないですか。私は意地っ張りな子供じゃありません!世話を焼くお姉さんなはずですよっ!?

 

 

「もう、子どもの頃からの付き合いだからいいじゃない。今更のことじゃん。」

 

「むしろ大人になりつつある今だからこそ口を酸っぱくして言いますっ。霊夢はもう少し遠慮ということを「とりあえず上がるわね。」身に付けろと言ったそばからあなたはーっ!」

 

 

 靴を脱いでちゃっちゃと上がり込んで全くもーっ!レミィやフランの方がちゃんと行儀がいいですよ!?

 

 

「あによ。私が小学生より聞き分けが悪いですって?」

 

「!!い、いえいえそんなことは思ってませんよおっ!?」

 

 

 か、勘がめちゃくちゃ凄いのも霊夢の特徴でした!でもそれなら私の渇望も察してほしいっ!なんと都合のいい勘なんでしょう!

 

 

「私だって高校生並みには気を遣えるわよ。奢ってもらうことなんか一週間に一度にしてるもの。」

 

「週に一回奢ってもらうのを頭に入れてるずる賢さは確かに大人ですね!?」

 

 

 だめな方のですけど。それならやはり純粋な子供のままでいてほしいです・・・

 

 

「勇儀のおばさんは今日も遅いの?」

 

「あ、まあいつも通りだと思いますよ?今は咲夜さんとレミィとフランの3人です。」

 

「ふ~ん。じゃあ、またよろしくって言っといて」

 

「分かりました。」 

 

 

 そう言って霊夢は、私がいた畳の間へと入っていきます。

 

 

「よ、よく来たわね霊夢!今日は何の用かしらっ!?」

 

 

 それに真っ先に反応したのはレミィでした。

 あ~、とっても嬉しいけど恥ずかしいから我慢してます、って顔のレミィもまた可愛いですね~。

 

 そんなレミィを見て、霊夢も笑顔を

 

 

「こんな近くでよくもなにも無いわよ、レミリア。んで、別にあんたに用があるわけでもないし。」

 

 

――見せずに、けだるげな顔で言い捨てるのみ・・・自称高校生並みに気を遣える女子は、本当に自称のようでした。

 

 

「………う、う~っ!!」

 

「れ、レミィ!」

 

 

 ああ!ショックのせいで顔をテーブルに突っ伏せちゃいました!結構強くいきましたけど、鼻とか大丈夫っ!?

 

 

「霊夢、あなたね・・・もう少し柔らかい言い方ってものがあるでしょう。子ども相手にひどすぎるわよ。」

 

「そんなところから心が鍛えられるのよ、多分。そのうち効果が出てくるわ。」

 

「きっとそれはトラウマとしてでしょうね。全く・・・そんな性格だから今日もAクラスで木下さんともめるのよ。」

 

「あれは知らないわ。あっちから突っかかって来たんだからこっちは口で言い返しただけよ。それをやいやいと・・・木下って短気よねー。」

 

「あなたがそれを言う?霊夢。」

 

 

 全くですよ咲夜さん。霊夢って凄い喧嘩っ早いですからねー。私、何度尻拭いをしたことやらや!

 

 

「ところで…今日はどうしたんです?まあ唐突に霊夢が来るなんて、日常茶判事なんですけど。」

 

 

 加えて、来た理由もなんとなく分かってますが、形だけでもきちんと聞いておきませんとね。

 

 そして案の定、 

 

 

「ご飯を食べに来たのよ。」

 

「でしょうねー」

 

 

 霊夢はすぱっと答えます。近所に住む親友同士で、私たちはよく一緒にご飯を食べたりしているのですが、中でも霊夢が結構頻繁に私たちの家にやって来て、一緒にご飯を食べるのです。無論母さんからは許されていますよ!

 

 

「構わないかしら?」

 

「ぜ、全然構わないわ!ねっ!?美鈴、咲夜!」

 

「わ-い!れーむとご飯だーっ!!」

 

 

 妹2人がおおはしゃぎして私を期待の眼差しで見てきます。うっ、わ、私も異論はないんですけども問題があるんですよ・・・!

 

 

「そ、そのですね。食事の量があんまりないんですが・・・」

 

 

 元々ウチは買いだめをしない上、明日に買い出しに行こうとしていたので冷蔵庫の中身は寒い状態です。まあ1人分ぐらいは余分に準備できると思いますけど、少し量が寂しくなる気がしてねえ…

 

 

「じゃあ、今から買い出しにいきましょ。私も払うわ。」

 

 

 霊夢はそう言って、ごそごそとシンプルな赤色のスカートのポケットを探り出しました。ちょっへそが隠れるように上にあげなさい!

 

 

「ほら、大奮発よ。偉いでしょ?」

 

「・・・」

 

 

 そう言って少し胸を張りながら、霊夢はポケットから手を出してきました。その手に握られるのは、日本でごく普通に流通するお金で一番目に価値が高い貨幣、五百円玉。

 

 

・・・・・・これ、ケチとかじゃないんです。むしろこういう時は霊夢・・・・・・気前が良いんです……!これ以上の説明はいりませんよね!?

 

 

「霊夢。確かにこの五百円、きちんと預かりました・・・!」

 

「なんでそんな眼元が潤んでんのよ。」

 

 

 私たち四人がどれだけ幸せなのかを、痛感させられるからです・・・! 

 

 

「んじゃまあ、ひとまず食材よ。それが無かったら私が餓死するわ。」

 

 

 霊夢が言うと、かなりシャレになりません。この子・・・・・・ほんっとうにあれなんです!!あれ!

 

 

「じゃ、じゃあ、私は急いで食料を買ってきます!霊夢はリクエストとかありますか?」

 

「あ~、そんなら私も行くわ。自分で選ぶ方が絶対だし。」

 

「そ、そうですか?じゃあ、咲夜さん達は家で待っていてください。ちょっくら2人でスーパーまで行ってきます!」

 

「「え~っ!?」」

 

「分かったわ。」

 

 

 過半数がブーイング!?

 

 

「私達も行きたい~っ!」

 

「ず、ずるいわよメーリンっ!私も行く!」

 

「え、え~?」

 

 

 必死に着いてくると言い張る2人、ですが、そんな2人の目的は姉である私には丸わかりです。

 

 

「一応言っとくけど、お菓子は買わないわよ?」

 

「「じゃあいいっ!」」

 

「・・・こいつら、私より現金ね・・・」

 

 

 自分に素直だと言ってあげなさい!

 

 

「じゃあ、2人も咲夜さんと待ってるのよ?すぐに戻ってくるからね。」

 

「は~い。」

 

「わ、わかったわよ!」

 

 

 よし、素直でよろしい!

 

 

・・・・・・ああ言いましたけど、ひ、一つ位はお菓子を買ってあげときましょうかね。

 

 

「じゃあお願いします、咲夜さん。」

 

「了解。」

 

 

 末の妹2人を咲夜さんに任せて、私と霊夢は近所のスーパーに向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢、さっき餓死するとか言ってましたけど・・・な、何も数日間食べてないとか言いませんよね?」

 

「はあ?んなわけないでしょ。きちんと食べてるわよ」

 

「あ、ああそうですか!それならいいんで―」

 

「――ヨモギとかオオバコとか、そこらへんに生えてる奴をね。結構いけるわよ」

 

「霊夢うぅぅーーーっ!!」

 

「うわっ!?いきなり泣きながら抱き着くんじゃないわよ!」

 

「きゃいん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと。これとこれとこれね・・・」

 

「・・・あの、霊夢。本当に全部食べれるんでしょうね?」

 

「当然よ。これぐらい、私の空腹を埋めるにはまだ足りないわ。」

 

「に、似たようなこと言って、結局残したって記憶が私にはあるんですがね~」

 

 

 近所のスーパーに私と霊夢は到着して買い物を始めたのですが、すでにカゴの中が満タン。私が持っているわけなんですけど、結構重たいわけなのですこれが。野菜に肉に飲み物に調理済みの一品まで。これはちょっとした宴会でもいけるんじゃないでしょうか?

 あ、このお菓子はレミィが好きでしたね、よいしょ。

 

 

 

 

 

 

「―――む?紅(ホン)ではないか」

 

 

 ん?

 

 

「あれ?秀吉君じゃないですか。」

 

 

 突然の声の主は、Fクラスのクラスメイト、見た目は少女、性別は男の木下秀吉君でした。

 

 何でここに―――とは聞くまではありませんね。手にカゴがあって、商品がいくつか入っていれば買い物としか言えません。意外とご近所だったのでしょうか?

 

 

「ん~・・・・・・・・・?あんた、木下優子って知ってる?」

 

 

 私が納得しているのに対し、霊夢は思いっきり観察するような目で秀吉君を見つめます。どうやら弟がいたことは知らなかったみたいです。

 

 

「うむ。知ってるも何も、ワシの姉上じゃ。」

 

「へ~……ってことは、あんた達双子なの?」

 

「そうなるのう。……う、むう。すまぬが、そんなにじろじろ見られるのは照れるのじゃが・・・」

 

「あ、悪かったわね。見た目がそっくりだったからついね。ちなみに、男、女?」

 

「男じゃっ!」 

 

「や、やっぱり最初はそう思いますよね~」

 

 

 それを見抜いた咲夜さんがやっぱり凄いんですよっ!私の目が節穴なわけじゃありません!

 

 

「ごほん、そういうお主は姉上の知り合いじゃろうか?」

 

「まあ、同じクラスではあるわね。博霊 霊夢っての。あんたは?」

 

「木下 秀吉じゃ。姉上と仲良くしていただけると嬉しいのじゃ。」

 

「…………」

 

「…ん?何じゃ、博霊。」

 

 

 おや、霊夢が目を丸くするなんて久しぶりですね。何に驚いたのでしょう?

 

 

「……あんた、本当にあの木下優子の弟なの?」

 

「?そうじゃが。」

 

「…もうあんたがお姉さんでいいんじゃない? 」

 

「なぜじゃ!?」

 

「あんたの方が礼儀正しいから。」

 

「買ってくれるのは嬉しいのじゃが、そこはせめて兄と言うてくれっ!い、いやしかし姉上も礼儀正しいはずじゃぞい!?」

 

「・・・・・・・・・はあ?あんた、姉だからって目に幕がかかってるんじゃないの?しっかり真実を見なさい。」

 

「お主と姉上に何があったんじゃ!?」

 

 

・・・・・・どうやら、木下優子さんとの性格の差に驚いたみたいです。

 

 そ、そういえば木下さんと揉めたとか言ってましたっけ。霊夢と揉めるなんて、本当に秀吉君の姉はどんな人なんでしょう。もう私の中では、いかつくて恐ろしいイメージが着きつつありますよ。

 

 

「ま、その話はもういいわ。《秀吉》は買い出しなの?」

 

「あ、うむ。今日の夕飯じゃ。紅達はどうしたのじゃ?」

 

「え~とですね。霊夢達と一緒にご夕飯を食べるからその買い出しですよ。おかげでこの通り。」

 

 

 両方のかごをあげて秀吉君に見せると、その量に秀吉君はおお、と声をあげました。あはは、やっぱり多いですよね~。

 

 

「これはまた大量じゃな。大人数で食べるのかの?」

 

「全員で6人です。うち2人はお子様ですので、ちょっと多いですかねー。」

 

 私もそこまで食べるわけでもないし、咲夜さんはそんな私より小食。母さんはいっぱい食べれるでしょうけど、ご飯より酒で腹を膨らませるタイプですしねえ。霊夢が食べられるかどうか次第です。

 

 

「…何よ美鈴。責任もってちゃんと食べるわよ。」

 

「霊夢、私は口より目で話してほしいです。だからこっち向きなさいコラ。」

 

 

 こりゃダメかもしれませんね。口は大きいけど胃袋が小さいのは変わりありませんでした。

 

 

「全く、じゃあ少し量を減らしましょうか。」

 

「ダメよそんなの!私たちが買わなかったら、この料理にささげられた命が無駄になるじゃない!美鈴には血も涙も無いの!?」

 

「別に他の人が買ってくれます。やっぱり多すぎる気もしますので、少し返してきますね。」

 

「いや~っ!全部食べたいのよおおっ!!」

 

「い、いきなりだだをこねないでください!食べ切れなくて残す方が罰当たりでしょうが!」

 

 

 余計な物は買わない!これお買い物の常識ですよ!

 

 

「―――あっ!じゃあ!」

 

 

 なんですか!?買いだめとかはしたくないですからね!

 

 

 

 

 

「秀吉、あんたも食べに来なさい!」

 

「は?わ、わしか?」

 

「…あ~、それなら確かに。」

 

 

 突然の提案ですけど、男子である秀吉君も加われば消費できる量も増えるでしょうし、丁度いいかもしれませんね。

 

 ただ、問題は秀吉君がそんな急な勧誘に乗ってくれるかです。

 

 

「秀吉君。霊夢もこう言ってますし、よろしければどうでしょうか?」

 

「しかし・・・姉上が家で待っておるし、わしだけ行くというわけにも・・・」

 

 

 おおっと、案の定悩んでますね。

 

 

「それだったら木下も呼べばいいじゃない。1人も2人もそんなに変わんないわ。」

 

 

 そんな霊夢の援護射撃。

 

・・・秀吉君は秀吉君なのに、お姉さんは木下って、本当に仲が良くないんですね霊夢。同じクラスメイトなんだから仲良くしましょうよ!坂本君と吉井君みたいな殴り殴られみたいなのでもいいですから!

 

 

「よいのか?ならば問題はないのじゃ。姉上に連絡をしてみるので、少し待ってもらえるかのう?」

 

「あ、どうぞどうぞごゆっくり。」

 

「出来るだけ早くねー。」

 

「そこは待ちなさいっ!」

 

 

 本当にあなたは妥協しませんね!?反抗期が長引いてでもいるのですかっ!

 

 

「で、では……」

 

 

 秀吉君が慌てて携帯のボタンを押しだします。あ、多分押し間違えました。見事な本末転倒をさせた霊夢には呆れの視線をプレゼントしましょう。

 

 

 

 

 

「――あ、もしもし。姉上かの?…ああ、今丁度買い物を済ませようとしておるところじゃ。………うむ。それなんじゃが、実は偶然紅、ああ、Fクラスの友人なんじゃが、そやつと博麗 霊夢に会ってのおっ!!?あ、姉上!いきなり大声を出さんでくれ、え?あ、ああ。偶然じゃ。別に知り合いだったわけじゃないぞい?……………ま、まあ待ってくれ姉上。その博霊が一緒に夕飯をどうか誘ってくれてるのじゃ。姉上もどうか…………いやしかし、それだと姉上の夕食が…………い、いいのか?なら、わしは1人で行くぞい?………いや姉上、そんなことは無いと思う…………わ、分かったのじゃ。では―」

 

ピッ

 

 

「無理だったみたいね。」

 

「……博麗。お主、どんだけ姉上と仲が悪いんじゃ。」

 

「私、秀吉君の言葉だけでお姉さんの感情が分かりましたよ・・・?」

 

 

 というか声がじゃっかん私にも聞こえたぐらいです…夕飯をいらないって、もはや食事より霊夢と会わない方が優先事項になるほどですか。まだ知り合って間もないはずなのに、何がどうあればここまで険悪になれるのでしょう?

 

 しかし、さすがにこれほど嫌われては霊夢も悲しくなるんじゃあ…

 

 

「んじゃ、ちゃっちゃとレジ行って帰りましょ。ちゃんと木下の分も食べるのよ、秀吉。」

 

「う、うむ。頂くとするのじゃ。」

 

 

 無変化。さっとレジに歩き出す霊夢に応えた様子は見当たりませんでした。

嫌悪に対して無感情。なんと恐ろしいクラスメイト同士なことか。一緒にいるAクラスの人たちは、さぞ気まずすぎる空間を過ごしているでしょう。咲夜さん、頑張ってくださいね!

 

 

「…ま、まあ秀吉君。ごちそうになっていってください!」

 

「わ、わかったのじゃ。」

 

 

 そういうことですので、秀吉君だけでも満足してもらうとしましょう!

そして秀吉君!その対価にあなたのお姉さんが来なくて良かったと思う私を許して!

来てたら家が大荒れしてたもしれませんから! 

 

 勝手に心で司法取引をかわしながら、私と秀吉君はレジで買い物を済ませて家へと向かいました。

 

 

 

 

「紅よ。」

 

「はい?」

 

「…………姉上の言で、食事に毒が入っているかもしれないから気を付けろ、ということなのじゃが・・・博麗はそんなことを思わせるような事を普段しておるのか?」

 

「どこのヒットマンですか霊夢はっ!そりゃまあ、だいぶ言葉の毒をはいたりしますけど、そんなことはしませんよ。」

 

「じゃろうな。姉上は心配性じゃからいかんのう。」

 

「秀吉君、心配性で毒が入ってるかどうかを気にしてたら、心配性の人々は餓死します。私も耐え切れませんよ。」

 

「お主、心配性じゃったのか・・・?」

 

「そ、そのUMAを目撃したかのような目の意味を教えてもらいましょうかねえ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「「ただいまー」」

 

「お、お邪魔するのじゃ。」

 

 

 そう!秀吉君みたいな緊張した態度になるのが、人の家に上がる時は正しいんです!霊夢はこの家に良くも悪くも慣れすぎなんですよー!

 

 

「おかえ、りっ・・・・・・・・・ああ、弟さんね。木下さんかと思ったわ。」

 

「何よ今の間は。」

 

「ここがケンカの現場になるのかと思ったからよ。」

 

「私と木下は何だと思われてんのよ。ただちょっと意見が合わなかっただけよ。」

 

「いや、姉上の言い方じゃと、そんな可愛らしい表現では覆えないと思うぞい・・・?」

 

 

 思いっきり嫌い!オーラが電話越しにも伝わってきましたしねー。そんな2人が直接会ったら・・・ううっ!寒気がしてきましたよ!家ががれきの山にならなくてよかったです。

 

 

「で、どうして弟さんがここに?」

 

 

 あ、咲夜さんの疑問もごもっとも。

 

 

「偶然そこで会いましてね。一緒に食べようという事になったんですよ。」

 

「あら、そうなの?」

 

「うむ。すまんのじゃ十六夜。」

 

「気にしなくていいわよ。ほら、さっさとあがりましょ。」

 

「霊夢、あなたは気にしなさい。なぜ我が家のような対応を人様の家でやってんのよ。」

 

「断るわ。」

 

「・・・はあ~。木下さんが怒るのも無理ないわ。」

 

「な、なんとなく姉上と気が合わん理由が分かったのじゃ。姉上も負けん気が強いからのう・・・」

 

「な、なるほど。」 

 

 

 どっちも引かないから行くところまで行くって感じですね。秀吉君と違って、お姉さんは霊夢タイプなのですか・・・遺伝って不思議ですねー?

 

 

「――ま、一応霊夢の言う通りね。上がって弟さん。」

 

「あ、では失礼するのじゃ。」

 

「はい、あがってください!」

 

 

 霊夢が先頭、私が最後尾と誰が住人なのかわからない順番で家へと入ります。

 その先では、レミィとフランが私たちの帰宅を待っていました。

 

 

「おかえりー!……あれ?だあれ?」

 

「おかえりっ!……え…だ、誰?」

 

「ちょっと、あんまりくっつかないで。」

 

 

 秀吉君を見た2人は、フランがきょとんとしつつも興味ありありと秀吉君に近寄り、レミィは霊夢の影に隠れて顔だけ秀吉君に見せるといった、とても対照的な反応で、きょとんとしている秀吉君に向き合いました。

 

 レミィ!私!私の後ろに隠れなさい!そんな怖いお姉さんの後ろに隠れちゃダメっ!

 

 

「・・・あ、え、ええとじゃな、こんにちはなのじゃ。」

 

 

 そんなレミィ達を見た秀吉君は、初対面時には欠かせないあいさつから。フラン!レミィ!しっかり挨拶するのよ!

 

 

「うん!こんにちは!」

 

「……こ、こんにちは。」

 

 

 フラン、元気で偉いわよ!そしてレミィ、顔を埋めるのなら私の服に埋めて!霊夢にばかり近寄っててお姉ちゃんの立場が無くて私さびしいのよー!

 

 

「わしは木下 秀吉という名前じゃ。……お主らも紅達の妹なのかの?」

 

「そうだよ!フランドール・スカーレットっていうの!初めまして、ひでよし!」

 

「フランドール・スカーレット、じゃな。よろしくなのじゃ、フランドール。」

 

「うん!よろしく!」

 

 

 少しかがんだ秀吉君とフランが握手しました!よくできましたフラン!後で好物の『まつたけの里』をあげましょう!

 

 次はレミィの番ですね!

 

 

「う、う~・・・フラ―――ねのレミ―――――レットよ。よろし―」

 

 

 ち、ちっちゃい!声が小っちゃいですよレミィイ!縮こまって小動物みたいに見えるのは可愛いからいいんですけど、声だけはしっかり出してーっ!

 た、多分秀吉君には届いてないのでは…!?

 

 

「すまんのじゃが、もう一度言ってもらえんかな?どうも耳が遠くなっていかんのう。」

 

 

 や、やっぱりでしたか!でもそれを自分の耳が悪いと言う秀吉君、なんて親切なのでしょう!ただ、言葉だけ聞くともう完璧に老人ですね!

 

 

「……レ、レミリア・スカーレット!フランの姉よっ!」

 

 

 おお!良く言えましたレミィ!後で大好物の『ラッコのマーチ』です!

 

 

「うむ、レミリア・スカーレットじゃな。よろしくなのじゃ、レミリア。」

 

「ふん!よ、よろしくっ!」

 

 

 フランに続いてレミィも挨拶が終了!ちょっとレミィがまだ慣れてないみたいですけど、その内近づけますよね!

 

 

 

「―――ひ、秀吉って、女の子なのに男みたいな名前ね?」

 

「わしは男じゃ!!」

 

「ぴいっ!?」

 

「わわっ!?」

 

「こら、痛いわよレミリア、もう少し離れなさいっての。」

 

「んっ、フラン。あまり強くしないで、ちょっと苦しいわ。」

 

 

 ・・・そんなことも、ないかもしれません。

正当な理由。そして2人のびっくり顔を見れたことから、秀吉君は無罪ということにしましょう。運が良かったですね秀吉君!

 

 むしろ私は、とっさの抱き着く対象が私を除いた咲夜さん、霊夢の2人であったことに異議を申し立てなければならないところです。

 神よ!私では2人を安心させることができないと申すしますか!!喜んでもらおうと思って買ったこの『まつたけの里』と『ラッコのマーチ』が目に入らないのですかああああ!! 

 

(A. 自分たちのために買い物を行ってくれた美鈴は、両手に大きな荷物を持っていたため、抱き着いたり、しがみついたりするのは負担をかけてしまうとレミリアとフランが気を遣ったから。 『親の心子知らず』ならぬ、『妹の気配り姉知らず』である)

 

 

 

「ほら、さっさとご飯を作るわよ。手伝いなさい美鈴、咲夜」

 

「は~い・・・」

 

「だから、なんであなたが仕切るのよ・・・」

 

 

 その言葉に微妙な顔をしながら、私たちは料理の準備を始めました。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!

さて、改めましてになりますが、楽園の巫女、博麗 霊夢の登場です!心は豊かですが経済面は・・!ああ、もの凄く不憫に思えてきます・・・

 でもやっぱり、霊夢が裕福って言うのは少し変だなと思いますので、この設定にさせてもらいました!

 次回もこの続きとなりますので、Aクラス戦はその後になります!そこまでお待ちくださいませ!

 それではっ!


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夕飯――困難、でも私心を貫き通したかったのよ!

 どうも、村雪です!

 今回も美鈴さん宅でのお話です!なのでバカテス陣の登場キャラは『木下姉弟』のみです!少しバカテス感を感じないかもしれませんが、楽しんでいただければ!

――では、ごゆっくりお読みください


「メイリン!あれとって!あの鳥の羽根みたいなやつ!」

 

「手羽先ね?はいはいどうぞ」

 

「ありがと!」

 

「うむ、おいしいのう」

 

「あ、それはよかったですよ!」

 

「咲夜、あの赤いの食べてみたいわ!」

 

「え、でもレミィ。ちょっとまだあなたにはきついと思うわよ?」

 

「大丈夫よ!私もう立派なレディーだもん!」

 

「・・・じゃあ、ちょっとだけよ?はい」

 

「ふん!もっとでも大丈夫よ!」

 

「――ああっ!?わ、私が取ってた手羽先、誰が食べたんですか!」

 

「あ、私よ」

 

「『これ誰の?』って聞かれたときみたいにあっさり答えないでください!私の物だったんですよ!?」

 

「いいじゃん。また取ればいいでしょ?」

 

「もう無くなってるからあなたも取ったんでしょうが!」

 

 

 あー、せっかく楽しみのためと置いてたのにぃ~!塩とかまぶしたりしておいしそうだったのに・・・まあ諦めるしかないか。他にも色々ありますし、そっちを堪能するとしましょう。

 

 私、咲夜さん、霊夢、レミィ、フラン、秀吉君の六人での夕飯は静まることなく、ワイワイと各自箸を進めていました。最初の方は遠慮していた秀吉君も、だいぶ慣れたみたいで進んで箸を動かしています。作った側としては嬉しい限りです!

 

 

「すいません秀吉君。そっちの豚キムチをとってくれませんか?」

 

「うむ。ほれ。」

 

「ありがとうございます」

 

 

……ん~!このピリ辛さが良いですね~!私が作ったから私好みになってるんですけどね!

 

「秀吉君もどうです?意外とイケると思いますよ!」

 

「ああ、さっき頂いたところなのじゃ。ちょっと辛かったが美味しかったぞい。」

 

「それは良かった!ちょっと辛めにしすぎたかと思ってたんですよ。」

 

「まあ確かに、あの2人には少しきついかものう。」

 

「きゃ、きゃらいからい!しゃくやお茶お茶!!」

 

「はい。ほらゆっくり飲みなさい、気管に入るわよ?」

 

「おいしー!!」

 

「それが、フランは大丈夫なんですよ~。」

 

「そ、そうじゃったか」

 

 

 レミィは甘いものが大好きなんですけど、フランは意外と辛いものもいけるんですよねー。だからわざとレミィから離れたところに置いてたんですけど、今度作る時はマイルドに出来上がるようにしないといけませんね!

 

 

「辛いものが好きな小学生というのも変わっておるなあ。」

 

「んー?そ~お?」

 

「そういうあんたも、可愛らしい男子ってので変わってるわよ」

 

「や、やかましいのじゃ!」

 

 

 はい、霊夢に一票です。ここまで性別を間違えそうな容姿の方も珍しいですよ。ああ、私もこれぐらい可愛らしければよかったんですけどねえ~

 

 

「ご、ごほん!しかし、ここにある料理は全部お主が作ったのか?」

 

「いえいえまさか。いくつかはスーパーの料理を皿に出して並べてますし、咲夜さんや霊夢にも手伝ってもらいましたよ。今日は量も多かったですしね。」

 

「なるほど、多いのじゃ。」

 

 

 長方形のちゃぶ台には机の面積かつかつの量の皿が載せられていて、それぞれが好きな物を取るバイキング形式です。

 ちなみに、座り方は私の右に秀吉君、左にはフラン。その対面には咲夜さんを中心にレミィと霊夢となっています。

 

 

「この量を女子が5人、しかも内2人が小学生となると食べ切るのは難しそうじゃな。それを食べきるなど、博麗も無茶な事を考えおるな・・・。」

 

 

 今度は秀吉君に一票。これを食べ切るのは相当お腹に入れなくちゃいけないでしょう。霊夢の食い意地にも困ったものですよ!

 

 

「なによ、私だってしっかり食べるわよ。秀吉にもしっかり食べてもらわないといけけないけどね」

 

「ど、努力するのじゃ。」

 

「頼むわよ秀吉ー。最後には男であるあんたに頑張ってもらうんだから」

 

「そう言うときだけ男を強調するでない!」

 

 

 そう言いつつも、霊夢の皿にはどっさり。なんだかんだで霊夢も食べれる方みたいでした。

 

 

 

「メイリン。」

 

「んー?」

 

 お茶を飲みながらでも話は聞けます。ごくごくと飲みながらフランの言葉に耳を傾けました。

 

 

 

 

「秀吉って、霊夢とメイリンのどっちが付き合ってるの?」

 

「んぶっ!?」

 

「はあ?」

 

「ん?」

 

 

 ばしゃあっ

 

 

「あっちぃ!さくやがお味噌汁こぼしたああ!!」 

 

 

 お、お茶が気管に・・・!!

 

 

「ごほっ!ごほっ!……フ、フラン?どうして急にそんなことを?」

 

 

 ほら、2人も固まって・・・あ、そうでもないや。首を傾げてるだけでした。咲夜さんはタイミングがかぶって味噌汁をこぼしちゃったみたいですから聞いてないみたいです。レミィは服に味噌汁がこぼれたことで一杯、私もフランの言ったことで頭一杯です!

 

 私にだけ影響を及ぼした言葉を吐いたフランは、首をかしげながら聞いてきます。

 

 

「え?付き合ってないの?」

 

「え、ええ。付き合ってないわよ?」

 

 

 付き合っていたと思っていたことの方が驚きです。

 

 

「じゃあ、霊夢が付き合ってるの?」

 

「あのね。私はこいつと今日知り合ったのよ?そんなわけないじゃない。」

 

「へ~。そうなの秀吉?」

 

「そうじゃな。わしは紅(ホン)とも博麗とも付き合っておらんのじゃ、フランドールよ。」

 

「ふ~ん。そっかあ。」

 

 

 お、驚きましたよ。まさかそんな事を思われていようとは思っていませんでした!そういう話が好きなお年頃かもしれません。かく言う私はいつでも大好きですけどね!

 

 

「全く、いきなり変なことを……ん?咲夜、あんた早くこぼしたのふいてやんなさいよ。」

 

「さ、さくやも手伝いなさいよお!しみになっちゃうでしょ!」

 

「………あ。ま、待ってて。ええと、タオルと…レミィ、じっとしててね」

 

 ああ~、かなり多めにお洋服にかかっちゃったんですか。でも大丈夫!水で濡らしたタオルで拭けば簡単に―

 

 

「――って咲夜さん!それは台拭き用のタオルです!」

 

「あ」

 

「ひ!?ど、どしてもっと汚すのよお!!ざぐやのバガーっ!!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「あ、あ~…」

 

 

 め、珍しくやらかしましたね咲夜さん~・・・あれ、レミィのお気に入りの服ですよ。私だってお気に入りの物を汚されたら泣きます!だから、レミィが油で汚された服を見てわんわん泣くのも仕方ないですよね~

 

 

「あ~~ん!ざぐやによござれだあああっ!!ぎずものにざれだああああ!!」

 

 

 でもその発言はアウト!子どもが言うとだいぶ誤解が生じますよっ!

 

 

「お。落ち着いてレミィ!洗えば落ちる!だからまだ着れるわ!」

 

 

 このままでは咲夜さんが犯罪者になりそうなので、レミィをなだめましょう!

 

 

「うう~……ほんど?」

 

「本当っ!」

 

 

 嘘ではありません!今どきの洗剤は侮れませんからね!きっとガンコな汚れも落としてくれます!

 

 

「……(ぐしゅぐしゅ)」

 

 

 私の言葉を聞いたレミィは、ぐしゅぐしゅと腕で涙をぬぐいだしました。腕を退けると、目が赤いながらも泣き止んだレミィになっていました。

ほっ、なんとか泣き止んでくれましたか。やっぱり泣き顔は見たくないですね~。笑顔が一番です!まだ笑顔ではないですけど。

 

 

「・・・さくやっ!ちゃんときれいにして責任取りなさいよっ!」

 

「か、必ず!約束するわ!」

 

「絶対だからね!」

 

「はい!」

 

「……じゃ、いい。」

 

 

 咲夜さんの必死な言葉に、レミィもやっと許してくれました。

・・・それにしても、おつゆをこぼしたり汚れた布巾で拭いたりと、立て続けにミスをするなんて咲夜さんにしては珍しい。何か変わったことでもあったんですかね?

 

・・・あ、このスーパーの酢豚おいしっ。酢豚って自分で作るのはなかなか難しいんですよね~。

 

 

「ひでよし、前のお茶を取ってほしいな。」

 

「ほれ。コップを貸してくれるかの?」

 

「わ~、ありがと!」

 

「秀吉、あの豚キムチ取って。」

 

「今手がふさがっておるし、お主の方が近いじゃろう。自分で取るといいのじゃ。」

 

「何よ、あんたロリコンなの?うっわ」

 

「お主がものぐさなだけじゃろうが!ええいそんな目で見るでないっ!ちょっと待っとれ!」

 

「あ、取りますよ?ほら霊夢。」

 

「遅い。次はもっと早くにとってちょうだい。」

 

「ひっぱたきますよ!?」

 

「そん時は全力で叩きのめしてやるわ。」

 

「倍返しどころじゃない!?」

 

 

――とまあ、やいやいと騒ぎながら私たちは食事を進めていきました。

 

 

・・・が、当然限界というものがあるわけでして…

 

 

 

「……も、もう無理です。」

 

 

 目の前にはそこそこの料理の数。私はそこでギブアップしました。うぅ、胃が苦しい・・・

 

「わ、私もちょっと…」

 

「わしも・・・限界じゃ。」

 

「・・・・・・・・・ごめん。やっぱり無理があったかも・・・うぉえ……」

 

 

 い。今更過ぎますよ、このバカ霊夢・・・!

 

 レミィ達小学生組は早々にギブアップ。残った私達高校生組が食べ続けましたけど、もともとの量がやはり多かったとしか言いようがありません。だから、あんなに買わなくていいって言ったのに~!

 

 

「す、すまぬ。力が及ばなかったのじゃ・・・」

 

「し、仕方ないわよこの量なんだから・・・ああ、ウエストが・・・。」

 

「誰が悪いって言えば、4人で一番早く離脱したあなたですよね、霊夢・・・」

 

「う~・・・だって全部食べたかったし・・・」

 

「やかましいです。」

 

 

 全種類食べたはいいですけど、そこで箸を止めた人が何を言おうと無意味です。まったく、次からは腹をわきまえなさい。

 

 

「・・・まあ、無理な物は仕方ありません。残ったのは母さんに食べてもらうとしましょう。」

 

 

 残っていると言っても数人分くらいで、母さんなら食べ切ってくれるかもしれない。それでもダメだったら明日の朝食に出しますか。

 

 

「う~ん・・・」

 

「ぁう~…」

 

 

 横の畳から苦しそうなうめき声。そちらではレミィ(服はお着替え済み. 余談:お気に入りの服は後日、咲夜の努力の甲斐あってきれいになりました。「う~~っ!」) とフランが、仲良く苦しそうに寝ているところです。あの2人も頑張って食べてくれましたからねえ。お菓子は明日にするとしましょう。

 

 

「ふむ…こう並んで見ると、髪の色が違うだけでやはりそっくりじゃな。」

 

「双子のあんたが言うとなんか変に思えるわ・・・」

 

 

 霊夢の意見に咲夜さんもコクリ。あ~、そこまで似てるってことですよね!?早く会って見たいですよ~!!

 

 

「あ、そういえば、秀吉。」

 

「ん?なんじゃ?」

 

 

 フランの頭を秀吉君は撫でます。そよそよと優しい撫で方です。

 

 

「あんた今日、木下に化けてCクラスを煽ったでしょ。あんたに会って分かったわ。」

 

「あいだっ!?」

 

 

 ああ!フランの髪の毛がっ!秀吉君!動揺しすぎです!

 

 

「・・・え、ええとじゃな。それには深いわけがあっての?決して悪戯な気持ちでやったわけではないのじゃ。」

 

「あ~、そこらへんはどうでもいいわ。でも、木下にはさっさと謝っといたほうが良いわよ。あいつ、だいぶ頭にきてたから。」

 

「そうよ木下君。まだあなたが暗躍したことには気づいてないからいいけど気付かれたら大目玉よ?早いうちに謝りなさい。」

 

「・・・う、うむ。わかったのじゃ。」

 

 秀吉君の顔が青色に変化していきます。お姉さんの事をどう思っているのかがよ~くわかる変化です。

 

 

「で、では姉上にも謝らねばならぬし、時間も頃合いじゃからそろそろお暇させてもらおうかのう。」

 

「そ、そうですか。」

 

 

 時計を見れば、確かにお友達には我が家へとお帰り頂く時間帯。丁度一段落も着きましたし、ここら辺りでお開きとしましょうか。

 

 

「じゃあ、霊夢はどうしますか?」

 

「ん~・・・苦しいけど、帰るとするわ。お風呂もしないといけないしねー・・・おえっ」

 

 

 ちょ、畳の上でモドすのだけはやめてくださいよっ!? 味噌汁とは勝手が全然違うんですから!

 

 

「あ~、食べすぎた~…咲夜、お茶ちょうだい。」

 

「私も同じなんだけれど…はい。」

 

「ん……ふあ~。じゃあ失礼するわ。」

 

「はいは~いっと。」

 

 

 霊夢も立ち上がって、玄関へと向かいます。う~、お腹が張って苦しいですけど、見送りはしなくちゃいけませ~ん。私も立って、秀吉君達と一緒に霊夢の後をついていきました。

 

 

「秀吉君。今日は突然の誘いに来てくれてありがとうございました。」

 

 

 そしてお別れの時間です。霊夢と秀吉君が靴を履き終え、準備は万端です。

 

 

「こちらこそ、夕飯をたんとごちそうになって本当に済まないのう。ありがとうなのじゃ。」

 

「いやいや、今日みたいなことはしょっちゅうしてますから気にしないでください」

 

 

その顕著さの一割で良いですから、そこで口元を押さえてる霊夢に分けてやってほしいですよ~

 

 

「ぅおえぇ………」

 

「れ、霊夢!?こんなところでやらないでよ!?やるならトイレに行きなさい!!」 

 

「だ、大丈夫よ。今のはちょっとえずいただけだから」

 

「それを前兆と言うんでしょうが!もう!完全に食べすぎじゃない!」

 

 

「・・・私達より食べた量は少ないはずなんですけどね~」

 

「あやつは案外、少食なのじゃな・・・。」

 

 

 というより、今日までの食生活に問題があるんだと思います。普段はっぱばかり食べてて、急に色々と食べたらそりゃ胃がビックリします。なので、明日からはそんなことにもならないでしょう!……霊夢がまたヨモギとかを食べない限りね!

 

 玄関の外へ出ると、すでに夕日は地平線の彼方。真っ暗になっていました。

 

 

「暗いですね。1人で大丈夫ですか?なんでしたら近くまで付き添いますよ?」

 

「立場的には逆なのじゃが・・・大丈夫じゃ。ここからさほど離れておるわけでもないのでな。」

 

「そうですか?じゃあ、気を付けて帰って下さいね。」

 

「うむ。では紅よ。また明日なのじゃ。」

「はい、また明日!」

 

「あ、十六夜とレミリアとフランドールによろしく言うておいてほしいのじゃ。」

 

「分かりました!伝えておきます!」

 

 

 その言葉を最後に、秀吉君は走って遠ざかっていきました。お姉さんへの謝罪、上手くいくことを遠くから祈ってます!

 

 

「…あ、もう木下君は行ったのね。」

 

「あ、ちょうど今です。霊夢もですか?」

 

「ええ。トイレにも行かなくて…道端でモドしたりしないでしょうね。」

 

「た、多分大丈夫でしょう」 

 

 

 もしも実現したら、私の居眠り試験0点事件をはるかに上回る黒歴史が霊夢に誕生しますね。

 霊夢!乙女としてほんとにだめよそれは!? 乙女失格にならないよう、近くから本気で祈ります!

 

 

「じゃあ咲夜さん、私たちも戻りましょうか。」

 

「片づけをしなくちゃね。ふう、大変だわ。」

 

「2人でやればすぐに終わりますよ!私と咲夜さんが組めば何でもできる!な~んてね!」

 

「速攻で片付けるわよ。」

 

「へ?え、さ、咲夜さん!?急に力が痛たた!?そ、そんなに慌てて戻る必要もありませんよ!?」

 

「今の私なら、瞬く間に全てを終わらせられるわ。」

 

「片づけに取り組む前に私の健康体が終止符を打ちますよおあいたあっ!!?」

 

 宣言通り、咲夜さんは瞬く間に後片付けを終わらせました。額のばんそうこうはその対価として受け取っておくとしましょう。おお痛い~・・・

 

 

 

 

 

 

『た、ただいま帰ったのじゃー・・・・・・ん?姉上ー?・・・・・・・・・おらんのか?姉上、あねう・・・・・・お、おお?姉上。おるなら返事をしてほしかったのじゃ。』

 

『・・・・・・あんた、アタシを見てそんなことを言うなんて、なかなかひどいじゃない』

 

『・・・なぜそんなに昇天しそうな目なのじゃ?・・・・・・腹の虫が鳴いておるが・・・・・・・・・ま、まさか、本当に何も食べておらんのか?』

 

『・・・ええ、私は言ったわよね。あの博麗なんかの施しを受けたご飯なんて、食べるぐらいなら何も食べないってね。・・・・・・私はねぇ、一度言ったことはやり通すようにしてんのよ。それがどんなバカげたことであっても、やり通すのが絶対なのよ』

 

『い、いやいや姉上。何もそんな意固地にならずとも・・・・・・ちょっとぐらい食べてもいいじゃろう。健康のこともあるしのう』

 

 

『ざけんじゃないわよ!?博麗に負けを認めるぐらいなら、健康のことなんかどうだっていいのよ!』

 

『い、いや、別にあれは勝ち負けの話ではなかったはずじゃが』

 

『博麗の奴に負けるなんて・・・・・・!病気になるより体重が倍になるより嫌よっ!デブになる方がよっぽどましよ!』

 

『た、体重を気にする姉上がそこまで言うじゃと・・・!?な、なぜそれほどまでに博麗のことを嫌っておるのじゃ姉上!?何かよほどのことがあったのか!?』

 

『………』

 

『………』

 

『………………よ。』

 

『ん?』

 

『テストの点数が私より高かったからよっ!』

 

『・・・・・・・・・・・・え~・・・・・・・姉上……』

 

『待ちなさい秀吉ぃ!ただ点数が高いからじゃないわっ!だから、そんな哀れな物を見る目で見るのはやめなさい!』

 

『・・・・・・・・・じゃあ、他の理由とはなんなんじゃ?』

 

『……学年で一番、とはさすがに言わないけど、私、これまで頑張って勉強に取り組んできたわ』

 

『ん。まあ、確かにそうじゃな。それはわしが保証するのじゃ』

 

『ん、ありがと。・・・・・・・・・そのおかげで、私は一番上のAクラスに編入することが出来たわ。』

 

『うむ。・・・で?』

 

『……なのに!あのにっくき博麗は!授業中も寝てるわ宿題もさぼるわ変な葉っぱを口にしたりとか!何も勉強せずにやりたい放題だったのに、Aクラスなのよ!?おかしいじゃない!一生懸命頑張ってきた私とぐーたらして勉強のべの字もしなかった博麗が一緒のクラスって!私はウサギみたいにさぼったりしなかったわよ!』

 

『う、むう。それはあれじゃないかの?天才肌と言う奴じゃ。カメでも足が速い特例な存在もおるかもしれぬ。じゃから姉上もそこまで怒らなくても…』

 

『何よ秀吉。あんたは博麗の肩を持つの?』

 

『そ、そういうわけじゃあないが…』

 

『ふんっ、いいわよ。明後日にあるCクラスとの試召戦争で、どっちが活躍するかを楽しみにしていなさい!私が博麗を叩き潰して、努力は報われるって証明してあげるわっ!』

 

『あ、姉上。努力はAクラスに入れた時点で報われておるし、仲間同士でつぶし合ってどうするんじゃ…』

 

『うるさいわね!今日の友は明日の敵と言うでしょう!』

 

『・・・・・・姉上。わしは少し悲しいのじゃ・・・』

 

『だ、だから!その憐みの目はやめなさい!しめるわよ!?』

 

『!い、言う前にしめておるぞい!?ってあ、姉上!こっ、呼吸が…………!』

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!霊夢さんも優子さんも、自分の考えを大事に最後まで行動する!そんなところはそっくりだと分かった今回でした!

 ようやく次回からAクラス戦に突入です!そこまではもう何話か設けるつもりですが、戦闘描写についてはメチャクチャ自信が無いので、さくさくと進んでいくと思います!今のうちに言っておきますねー!

 それでも、皆さんが楽しんでいただける内容を作っていこうと思いますので!


それではっ!


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旧友―仲、が長ければ色々な形になるものだ

 どうも、村雪です!嬉しいことに、皆さまに気に入られて150人!感謝感激のお礼しか言えません・・・・・・ありがとうございます!これからも楽しく読んでいただければっ!

 さて。今回ですけど、そこを読んだら『え~?』って思う人もいるんじゃないかと思いつつ、出させてもらいました。

 これだけだとなんのことか全然分からないと思いますので、ネタバレにならない程度に言わせてもらいますと・・・魔理沙に関わることです!

 案外どうでもいいことでかもしれませんけど、保険名目で前書きさせてもらいました。


――ではごゆっくりお読みください


「さて皆、補充試験ご苦労だった」

 

 

 激戦だったBクラス戦の次の日、すなわち霊夢と秀吉君を交えた夕飯会の次の日からは(あの時残った料理は、スタッフならぬ母さんがおいしくいただきました。よ、よもやあれを食べ切るとは・・・!『ん~、ひさびさに食べたねえ~!』)、Dクラス戦よりたくさんの点数を消費したからその埋め合わせに費やし、終わったころには動いてもないのにへとへとになりました。やっぱり勉強は難しいですねー。

 

 ちなみに、今回も八雲 藍先生が化学の試験の時にやってきました。またも吉井君との熱い逃避行が始まるかと思いましたが、そんなこともありませんでした。さすが大人です!一度水に流したことは絶対に持ち出しません!・・・何回か鞄や靴を踏んづけたりしたのはたまたまですよね!

 

 そしてさらに翌日、すなわち現在。いよいよAクラスと雌雄を決する時がやってきました。坂本君が教壇の前に出て最後のオリエンテーションを始めます。

 

 

「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」

 

 

 と、坂本君は最初にそんなことを言い出しました。わ、私は単純なんですからよしてくださいよ~!ああ照れる照れます照れますよ!

 

 

「ははっ、照れるじゃないか坂本~、そんなことを言ってくれるとは思わなかったぜ!」

 

 

 魔理沙(まりさ)もまんざらではなさそうです。そしてチルノも同じようで、

 

 

「当然よゴリラ!最強のアタイがいるのに負けるなんて、メーリンが許してもあたいが許さないわ!」

 

 

 胸を張って私を引き合いに出しました。

 

 

「なぜそこで私なんですか!?」

 

 

 そこは『天』でしょうが!ああ!皆さんがちょっと白い目で見てくるじゃないですかあ!別に負けるだろうなんて思っていませんよ!?どうなるかなって不安に思ってた程度ですよー!

 

 

「チルノ、俺の事は坂本と呼べ。代わりに紅(ホン)の事を『ニワトリさん』と呼ぶといい」

 

「誰がチキンですかこらあ!」

 

 

 この赤ザルさんがッ!思いっきりシメますよ~!?

 

 

「で、でも雄二がそんなことを言うなんて珍しいね?らしくないよ?」

 

 

 吉井君の言う通りです。こんな風に人をおバカにする人が人を労うはずがありません。

 

 

「ああ。自分でも思う。だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」

 

 

 つまりさっきのも本心ってことじゃないですか!ちょっとこれは私がチキンではないところを見せる必要がありますね!

 

 

「ここまで来た以上、絶対にAクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」

 

 

 あれ、そんな目的でしたっけ?教室が嫌だからっていう理由だったような気がするんですけど…

 

 

『おおーっ!』

 

『そうだーっ!』

 

『勉強だけじゃないんだーっ!』

 

『勉強なんていらないのよさあっ!』

 

 

 いや、勉強はいると思いますチルノ。0と1でもとてつもなく途方な違いがあるとよく聞きますしね。じゃないとおバカが治りませんよ。

 

 

「皆ありがとう。そしてAクラス戦だが、これは一騎打ちで決着をつけたいと考えている」

 

 

 Bクラス戦の前に言っていたことですね。でもそれを知っているのはあの場にいた人たちだけですから、ほとんどの人がざわつきます。

 

 

『どういうことだ?』

 

『誰と誰が一騎打ちをするんだ?』

 

『それで本当に勝てるのか?』

 

「落ち着いてくれ。それを今から説明する」

 

 

 バンバンと机を叩くことで皆が静かになりました。私もそこから先の話は聞いていませんので、しっかり聞いておきましょう。

 

 

「やるのは当然。俺と翔子(しょうこ)だ」

 

 

 ?しょうこ?……え~と、確かAクラスの代表の霧島さんの下の名前でしたっけ?こういうときはクラスのリーダーが出るのが普通ですから、たぶん代表同士がぶつかるのでしょう。

 

 

「え~!?アタイじゃないの~!?」

 

 

 坂本君自身の宣言に、チルノのブーイングの声。その選択肢は絶対ないですね。言っちゃあ悪いですけど100%の確率で負けるでしょうし。勝負する前に結果が見える戦いを誰がしますか!

 

 

「ああ。すまないが、お前には難しいから堪えてくれチルノ」

 

「む~!で、でもだったらゴリラはどうなのよさ!?」

 

「そうだよ雄二。2人ともバカなんだから結果は変わらなぁぁあっ!!?」

 

「誰がバカよっ!」

 

「次は耳だ」

 

 

 吉井君の冷たいお言葉に、坂本君からはカッター。チルノは先のとがった鉛筆をプレゼントしました。2人とも、傷害罪って知ってますか?

 

 

「まあ、確かに翔子は強い。まともにやりあえば勝ち目はないかもしれない」

 

 

 そう言いつつも、坂本君に諦めの様子はありません。相当自信があるのでしょうか!?だったら非常に嬉しいですね~!

 

 

「だが、それはDクラスとBクラスの時もそうだっただろ?まともにやり合えば俺たちに勝ち目は無かった」

 

 

 ふむふむ。確かに、瑞希さんと土屋君という特別な人がいてこその勝利だったと言えるでしょう。

 

 

「今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺たちの勝ちは揺るがない」

 

 

 今回の特別な人が坂本君、と言いたいのでしょうか。坂本君はさらに声を張ります。

 

 

「俺を信じて任せてくれ。過去に神童と呼ばれた力を、今皆に見せてやる!」

 

『おおぉーーーっ!!』

 

 

 皆も坂本君の実績を讃え、坂本君の言葉を信じています。

 う~ん。私は……ひとまず作戦を聞くまでは保留としておきましょう!

 

 

「坂本君。具体的な作戦を説明願えますか?」

 

「ああ。やり方だが……一騎打ちではフィールドを限定するつもりだ」

 

「フィールド?何の教科でやるつもりじゃ?」

 

「日本史だ」

 

「日本史?」

 

「うげっ。ア、アタイが一番嫌いなやつっ!」

 

 

 チルノが嫌そうに顔をしかめます。日本の昔のことですからねえ。日本にやってきたチルノにはそりゃ難しいです。

 

・・・しかし、日本史とはまた無難な選択ですね。あれは覚えた者勝ちな教科ですけど、坂本君は日本史が好きなのでしょうか?

 

 

「ただし、内容は限定する。レベルは小学生程度、方式は百点満点の上限あり、召喚獣勝負ではなく純粋な点数勝負とする」

 

「えらくしぼった条件だな?」

 

 

 魔理沙に同意見です。小学生程度の問題ってことはつまり、これは誰?とかこの建物の名前は?ってとても優しい問題ですよね?それなら霧島さんのことですし満点を取りそうですけど・・・

 

 

「雄二、それだと同点になって、延長戦になると思うよ?そうなったら問題のレベルも上げられちゃうだろうし、ブランクのある雄二には厳しくない?」

 

「同意だぜ」

 

「わしもそう思うぞい」

 

 

 吉井君の不安に魔理沙も秀吉君もうなずきます。しかし、坂本君はそれでも動揺しません。

 

 

「おいおい、俺をなめるなよ?いくらなんでもそこまで運に頼り切ったやり方を作戦などと言うものか」

 

「??それなら、霧島さんの集中を乱す方法を知ってるとか?」

 

「いいや。アイツなら集中なんかしていなくても。小学生レベルのテスト程度なら何の問題も無いだろう」

 

 

 …う~ん。坂本君はじれったく言うのが好きですね。私はせっかちなんですよー!

 

 

「坂本君。そろそろネタを明かしてくださいよ。私のじれったさはもう限界です!」

 

「そうじゃな。紅の言う通りじゃ。一体なぜそんな方法を選んだのかのう?」

 

 

 私たちの言葉に皆がコクコク。坂本君もかぶりをふります。

 

 

「ああ、すまない。前置きが長くなった。……俺がこのやり方を採った理由は一つ。ある問題が出れば、アイツは確実に間違えると知っているからだ」

 

 

 問題?どの問題でしょう?

 

 

「どの問題なんだ?」

 

「その問題は――『大化の改新』」

 

 

 大化の改新?日本史をやっている人なら間違いなく一度は耳にする言葉ですね。チルノも知ってるんじゃないでしょうか?

 

 

「大化の改新?誰が何をしたのか説明しろ、とか?そんなの小学生レベルの問題で出てくるかな?」

 

「いや、そんな掘り下げた問題じゃない。もっと単純な問いだ。」

 

「単純というと―――何年に起きたとか、かのう?」

 

「おっ。ビンゴだ秀吉。お前の言う通り、その年号を問う問題が出たら、俺たちの勝ちだ。」

 

 

 う~ん、それが今回の作戦、というか勝利の要素ということですか・・・

 

 

「坂本、でもそれって本当なのか?あんまし日本史が好きじゃない私でも分かるんだぞ?そんなのを霧島が間違えるとはどうしても思えないぜ。」

 

 

 魔理沙、私の意見を代弁してくれて手間が省けました!ありがとう!

 

 

「霧雨、気持ちはわかる。大化の改新は起こったのは、645年。確かにこんな簡単な問題は、明久ですら間違えない。」

 

 

 こらこら坂本君。そんな言い方しないのですよ。吉井君がバカみたいな言い方じゃないですか!でもまあ吉井君も分かるって言ってますから、坂本君も冗談のつもりで―

 

 

「お願い……僕を見ないで……」

 

「……え~?」

 

 

 私に聞こえてきた後ろの吉井君のそんな消え入るような声。……ほ、本気ですかあなた。坂本君の言葉は的を射ていちゃったのですね!?今まで社会の授業で何を学んできたんですかーっ!?

 

 吉井君の嘆きの声を聞いてない坂本君は気にせず続けます。

 

 

「だが、翔子は間違える。これは確実だ。そうしたら俺たちの勝ち。晴れてこの教室とおさらばって寸法だ。」

 

「ほ~、分かったぜ。」

 

 

 魔理沙も自分なりに納得したようです。…でも、私はちょおっと気になるところがまだ解消されてないんですよねぇ。

 

 

「あ「あの、坂本君。」の…」

 

 

 ありゃ、先に瑞希さんに質問されちゃいましたよ。

 

 

「ん?何だ姫路。」

 

「霧島さんとは……その、仲が良いんですか?」

 

 

 あ~、そういえば霧島さんの事を下の名前とか『アイツ』って呼んでましたもんね。気になるのも当たり前ですよ。幼なじみとかでしょうかね?

 

 

「ああ、あいつとは幼なじみだ。」

 

 

 ああ、やっぱりですか。じゃないと異性の下の名前を呼ぶのって難しいですもんねー。

 

 

・・・・・・ん?そう言えば、咲夜さんもそんなことを言ってましたっけ?内容が曖昧ですけど、え~と確か~・・・

 

 

「総員、狙えぇっ!」

 

「ええっ!?と、突然!?」

 

 

 男子達が突然立ち上がり、自らの上履きを構え始めましたので、びっくりのあまり私は記憶を復活させるのを止めざるを得ません。もの凄い統率力でしたよ皆さん!?

 

 

「なっ!?なぜ明久の号令で皆が急に上履きを構える!?」  

 

「黙れ、男の敵!Aクラスの前にキサマを殺す!」

 

「俺が何をしたと!?」

 

 

 どうやら坂本君と霧島さんの関係が羨ましかったためのクーデターのようです!その波紋はさらに広がります!

 

 

「遺言はそれだけか?……待つんだ須川君。靴下はまだ早い。それは押さえつけた後で口に押し込むものだ。」

 

「了解です隊長。」

 

「なになに?あたいもやるわっ!」

 

「ダメだチルノ!君の靴下は奴にとってご褒美になってしまう!」

 

「靴下に男子も女子もあるかっ!!」

 

「あ、あの。吉井君。吉井君は霧島さんみたいな方も好みなんですか?」

 

「へ?そりゃ、まあ。美人だし。」

 

「………」

 

「おいおい吉井。褒めなきゃいけない相手は他にいるだろ?」

 

「え?ああ、魔理沙も秀吉も元気で可愛いよね……って、なんで姫路さんは僕に上靴を構えて攻撃態勢を取ってるの?それと美波。君が投げようとしている教卓は、そんな使い方をするためにあるんじゃないよ!?」

 

「ふ~ん・・・じゃあ、アキ。ウチはどうかな?ほら、い、色々あるでしょ?優しいとか、か、可愛い…とか?」

 

「ペッタンコとかだね。」

 

「アキのバカーっ!」

 

「いやあああああっ!!?」

 

「お、おおう。教卓を吉井に叩きつけるとは、恐ろしい奴だぜ、美波・・・!!」

 

 

 教卓の下になった吉井君。さすがに発言がひどすぎると思いますので、そのままで頭を冷やしてもらいましょう。畳の温度を味わっていなさい。

 

 

「……は~い!皆さん静かに~!」

 

 

 ともかく、このままでいたら話が全然進みません!むしろ状況が悪化してAクラス戦より前に私達が内部崩壊しかねませんよ!?

 私は出来るだけ大きな声で、手を叩きながら収拾にとりかかりました。

 

 

「ひとまず落ち着きましょう皆さん。その話にしろ制裁にしろ、全てAクラス戦の後に回しましょうよ。」

 

「そうじゃ。それに、良く考えてもみんか。相手はあの霧島翔子じゃぞ?男である雄二に興味があるとは思えんじゃろが。」

 

「え?」

 

 あれ?そうなんですか?でも、なんかそのあたりの話を咲夜さんはしていた気がしますけど・・・・・・ん~?なんでしたっけ?

 

 

 

「そ、それもそうだね。雄二なんか眼中にもないよね!」

 

「タ、タフですね。吉井君?」

 

 

 教卓に押さえつけられてたのにぴんぴんしてますよ。スタントマンから引く手あまたではないでしょうか?

 

 

「とにかく、俺と翔子は幼なじみで、小さなころに間違って嘘を教えていたんだ。そして、アイツは一度覚えたことは忘れない。だから今、学年トップの座にいる。」

 

 

 でも、それが今回の攻略のポイントとなる、ということですか。

 

 

「俺はそれを利用してアイツに勝つ。そうしたら俺たちの机は――」

 

『システムデスクだ!』

 

 

 クラス一同、希望に満ちた顔で断言しました。

 

 

 

・・・が、

 

 

「………う~~~~ん…」 

 

 

 坂元君の作戦内容は分かったんです、けど・・・・・・

 

「?どうしたんですか美鈴さん?」

 

「…いえ、ちょっとね。」

 

 

 ――申し訳ないですけど、私の満足いく内容じゃなかったんですよこれが。言ったら皆の雰囲気を壊したとか、チキンさんと呼ばれそうですから絶対言いませんけどね!

 

 こうなれば、一番情報を得られそうな人に聞くとしまょうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ!!

 

 

「頼もうだぜ!」

 

「道場破りに来たんじゃないよ!?」

 

 

 教室を奪いに来たってところは同じだけどさ! 

 

 魔理沙のそんな道場を破りに来たような言葉に、Aクラスの人たちが一斉に僕たちを見つめてくる。うわ~、相変わらず凄い教室だなあ。これを奪いに来たって言ったら誰だって大噴火だね。

 

 

「―――あら、魔理沙じゃない?それに美鈴(メイリン)達も。」

 

 

 合計6人。代表である雄二に、僕、秀吉、姫路さん、美鈴さん、魔理沙の大所帯を迎えてくれたのは、ちょっと厳しいけれど美人な十六夜 咲夜さんだった。う~ん、おとといの痛みはまだ抜けてないや。

 

 

「おう咲夜!相変わらずすごい教室だな!」

 

「まあね。まだ豪華すぎて落ち着かないわ…」

 

「偉いです咲夜さん!今を当たり前に受け入れずに、常にありがたいと思いながら生活する!そんな心構えを持ってくれて私は感激ですよ~!」

 

「い、いや違うわよ美鈴。そんな大層な事じゃないったら!」

 

 

 美鈴さん、たぶんそれは庶民の宿命ってやつだと思うんだ。僕だってこの教室にいたら一分も落ち着いてられる自身が無いよ。

 

…あれ?じゃあ十六夜さんは僕と同じ庶民派なの?なんてこった!こんな近くに運命の人がいたなんて!

 

 

「こんにちは十六夜さん!」

 

「こんにちは姫路さん。会うのはおとといぶりね。」

 

「はい!」

 

 

 姫路さんは誰が見ようともお姫様。そんな人に僕は、お付き合いして頂くどころか手を繋いでもらうことも出来ないだろうね。許すまじ貴族社会!

 

 

「十六夜、おとといはすまんのう。大変馳走になったのじゃ。」

 

「ええ。レミィ達も喜んでくれてたわ。よかったらまたきてやってくれないかしら?」

 

「わかったのじゃ。その時はよろしくのう。」

 

 

 秀吉も姫路さんに劣らない可愛らしさ!男だけど。そんな大きすぎる壁があるから秀吉にも僕は手が届かない!

 

 魔理沙ももう想う人がいるみたいだし、美波はぺったんこでチルノはバカ。なら僕に残されたのは、この高貴に見えるけれど、実は質素な暮らしをしているかもしれない疑惑が出てきた十六夜咲夜さんしかいないっ!

 

(※前半はともかく、後半は一部理由になっていない・・・)

 

 よし僕!ここから十六夜さんと友好な関係を築いていって、最後に十六夜 明久と名乗れるようにしていくぞ!君ならやればできるさ!

 

 十六夜さんも秀吉との会話も終わったし、やるぞ僕!まずは挨拶だっ!そこで誉め言葉を言うと良さそうだよね!

 

 気合いを入れ直して誉め言葉を考えた僕は、笑顔で十六夜さんに挨拶をした。

 

 

 

 

「こんにちは十六夜さん!今日も(お肌が)つるつるでさっぱりしてるね!」

 

「叩き潰すわよど変態が。」

 

 

 

 何を間違えたのだろうか。

 

 

 

「ちょっと待った十六夜さん!僕にだけ対応が全然違うよ!?」

 

「当然よ。あなたを友達だなんて全く思ってもいないのだから。」

 

「そこを良くしようとしていくための挨拶だったんだけどな!?」

 

 

 う~ん。何でかは知らないけど、どうも十六夜さんは僕の事が苦手みたいだ。何かしたかなあ? (A. 三度目のセクハラまがい発言)

 

 

「ま、まあまあ咲夜さん。きっと吉井君は言い間違えたんですよ。だからもう少し穏便に」

 

 

 さっとフォローしてくれる美鈴さん。お姉さんとして妹の教育がなっていない時は叱るのが当然の役割。

 でも、あんまりしかるのはやめてあげてほしいな。ひょっとしたら僕が何かしたからあんな冷たい態度をとってるのかもしれないし、普段バカなんて挨拶みたいに言われてる僕にはあれぐらい慣れっこだからね。

 

 

「いいのよ美鈴。この男にはそれぐらいの方が嬉しいのよ。ねえ吉井明久?」

 

 

 でも嬉しいとまでは思っていない!

 

 

「え、そ、そうでしたか吉井君?」

 

「全然良くない!僕だってもっと優しくしてほしいよっ!」

 

 

 だから美鈴さん!『あ、あれ?じゃあ今度からは冷たくした方がいいかな?』って顔をしないで!今までの優しさ溢れる君でいて!

 

 

「――ね?もっと厳しくしてほしいって言うぐらいよ?」

 

「真逆で聞き間違えてるよ十六夜さん!僕は優しくしてって言ったの!」

 

「ええ。だから、あなたにとって優しくされてると感じるのは厳しくされるときなんでしょう?ならいいじゃない。喜びなさい変態」

 

「・・・・・・」

 

 

・・・さっきの言葉は取り消そう。彼女には一度きついお灸を据えるべきだね美鈴さん。この子、無茶苦茶お腹が黒いよ!(※自業自得な面もあるのでは・・・?)

 

 

「すまない十六夜。俺の変態クズ野郎な友が粗相を働かせてしまったようだな。」

 

「雄二!僕はそこまでは言われてないよ!」 

 

 

 僕じゃなくて十六夜さんの仲間になった雄二なんて友達じゃないや!

 

 

「そうね、坂本君。二度とこのド変態セクハラクズ野郎を私の視界に入れないでもらいたいわ。」

 

 

 そして十六夜さんは、庶民どころか人間ですらなかったみたいだ。僕、なにかしたかなあ……( A. コンプレックス部分への三回に渡るペッタンコ発言)

 

 

「さ、咲夜さん?なんだか吉井君を嫌ってるみたいですけど、何があったんですか?」

 

「……持つ者には分からない痛み、よ……!!」

 

「どえっ!?どどどうしていきなり涙を流し始めたんですか咲夜さん!?お、おおよしよし!泣かないでね~?」

 

「ところで秀吉。さっきご馳走になったとか言ってたが、何かあったのか?」

 

「ああ、実は紅達に一緒に食事をどうかと誘われての。それで―」

 

 

 なぜか紅さんに慰められてる十六夜さんと話し出す雄二と秀吉。誰一人として深い悲しみに暮れる僕に手を差し伸べない。でも悲しくないからね!十六夜さんも僕と同じ苦しみを味わってるみたいだから構わないもんね!!

 

…女の子の不幸を喜ぶ僕って、男としてどうなのかなあ……?

 

 

 

「瑞希。久しぶり」

 

 

 透き通った女の人のそんな声が、自戒に悩んでいた僕の耳に届いてきた。

 

 

「!あ!お久しぶりですっ!」

 

 

 姫路さんの弾んだ声もすぐに届いてきた。姫路さんの知りあいみたいだけど、誰だろう?綺麗な声だなあ。

 

 目でそっちを見ると、透き通った青い目、綺麗な金髪に赤色のヘアバンドを巻いている美少女に姫路さんが抱き着いていた。 ムッツリーニ!しっかり取るんだよ!それだけスイッチを押してるんだから一枚ぐらいタダでくれるよね!?

 

 

「体は大丈夫?Fクラスって凄い教室だったけど…嫌な事はされてない?」

 

「はい!ちょ、ちょっと教室は古いですけど…皆さんと楽しくやってます!アリスさん!」

 

「そう、なら良かったわ」

 

 

 ふうっと安堵の息をもらした『アリスさん』。姫路さんの心配をしてくれてたみたいだ。ふう。良いものを見せてもらったね。2人の美少女のハグシーンフォトは僕の宝物にさせてもらうよ。

 

 

「アリス。お邪魔するのじゃ」

 

「ええ。最近は演劇もなかったから、久しぶりね秀吉」

 

「うむ。久しぶりなのじゃ」

 

 

 すると、秀吉も姫路さんに代わって口を交わし始めた。知り合いなのかな?

 

 

「秀吉、その人と知り合いなの?」

 

「うむ。アリス・マーガトロイドと言っての。わしと同じ演劇部に所属しておる女子じゃ」

 

「へ~」

 

 

 そうなんだ。そう言われると、確かに演劇部っぽい顔をしてるなあ。

 

 

「よ、よう!ア、アリス!」

 

「ええ、こんにちは魔理沙。」

 

 

 僕がそんなことを思ってると、魔理沙が上ずった声でそのアリスさんに話しかけた。

 

 

「こ、こいつはアリス・マーガトロイドって言ってな!私の近所に住んでて、編み物とか好きでよくマフラーとか編んで、私にプレゼントしてくれる…と、友達なんだぜ!」

 

「……あの、魔理沙?一応あってるけど、誰に紹介してるのよ?」

 

「う、後ろを向いて言ってますよ魔理沙ちゃん。」

 

 

 そっちにいるのはリクライニングシートさんとシステムデスク君だね。でもね魔理沙、彼らには耳も目もないんだよ?

 

 

「魔理沙、何か変だけど大丈夫なの?」

 

「!?ブァ、ブァッキャロウ!!ち、ちーとも問題ねえぜこんくらぁよお!」

 

 

 間違いなく問題あるね。そこまで君は口調が江戸っ子じゃなかったもの。

 ちょっと心配だし、行ってみよう。

 

「魔理沙、大丈夫?顔が真っ赤になってるよ?」

 

「お、おお吉井!適当なことを言ってんじゃねえぜ!私はいつだって雪のような白の肌だ!」

 

「鏡を見るんだ魔理沙。」

 

 

 顔がリンゴみたいな赤さの魔理沙の言う事が適当だっていうのは僕でも分かる。やはり今の魔理沙はどこか変みたいだ。そっとしておいた方がいいのかもしれないね。

 

 

「――こんにちは。あなたが吉井 明久君でいいのかしら?」

 

「おわっ!?」

 

 

 い、いつの間にかアリスさんが僕の背中の後ろに!?

 

 

「あっ、驚かせてごめんなさい。」

 

「あ、ぜ、全然大丈夫だよ!」

 

「そう?ありがとう。で、吉井 明久君かしら?」

 

 

 ぼ、僕の名前を知ってるだって!?ひょ、ひょっとして僕の運命の人だとか!?なんにせよ、僕が吉井明久だってはっきり言わなくちゃ!

 

 

「そ、そうです!僕が吉井明ひしゃです!」

 

 

 って僕のバカァっ!誰だよ吉井明ひしゃって!自分の名前も満足に言えないって僕の口はどんだけポンコツなんだ!

 

 

「…ふふっ、吉井明ひしゃ君、ね。アリス・マーガトロイドよ。よろしく、吉井明ひしゃ君?」

 

 

 い、いやあああ!!そんなにおかしそうに笑って僕を見ないで!!それは間違いなんだああ!

 

 

「あ、あのアリス・マーガトロイドさん、今のはちょっと噛んじゃっただけでね?僕の名前は吉井明久で吉井明ひしゃなんてへんてこな名前じゃないんだっ!」

 

 

 身振り手振りを加えての全力訂正!この熱意に、アリスさんも間違えだって分かってくれるはず――!

 

 

「………ぷっ、ふふふっ!あははははっ!!」

 

 

 さ、さらに笑われたああ!?美少女に笑ってもらえるのは嬉しいけど、自分のことを笑われるのはやっぱり嬉しくない!顔から火が出そう、というか出てるよ!

 

 

「あ、あうう…」

 

 

「ふふっ、あははっ…!ふー、ご、ごめんなさい。ああ、こんなに笑ったのは久しぶりだわ」

 

 

 目にたまった涙をぬぐうアリスさん。ぼ、僕はこんなに恥ずかしいと思ったのは久しぶりだよこんちくしょー!

 

 

「なるほど、瑞希が言った意味が分かったわ。確かにそうね。」

 

 

 え?瑞希さん?

 

 

「姫路さんがどうしたの?」

 

 そう言えばさっきも姫路さんと話してたけど、それと関係あるのかな?今は向こうでニコニコ笑ってこっちを見てるけど……ま、まさかさっきの醜態を姫路さんに見られた!?まさに踏んだり蹴ったりだ!!

 

 

「あ、こっちの話よ。急に笑い出してごめんなさいね、悪気は全くなかったの。出来れば信じてほしいわ。」

 

 

 ん~、アリス・マーガトロイドさんが嫌な人じゃないってのは、秀吉の友達だから分かるんだけど…

 

 

「じゃあさ。その〝こっちの話〟の事を聞かせてほしいかな~…なんて」

 

 

 僕だって恥ずかしいところを見られたんだから、少しくらい図々しく聞いても罰は当たらないよね?

 

 

「…ん~、じゃあちょっとだけ。」

 

 

 おっ。やっぱりアリスさんは良い人なんだ。雄二の奴に見習わせたいよ。

 

 

「え~と・・・そうね」

 

 少し考える素振りを見せたあと、アリスさんが僕の横に近づいてきて、って近い近い!これは僕へのサービス!?

 

 

「――――瑞希と私と咲夜、色々と話をしてる仲なのよ。あなたのこととかね。」

 

「ほえ?」

 

 

 え?ど、どういうこと?もう少し詳しい説明がほしいんだけど!

 

 

「あ、あのアリス・マーガトロイドさん。もう少し話してくれないかな?それだけだと何が何やら―」

 

「これ以上はダメね。知りたいのなら自分で調べること。あと、いちいち長くて面倒でしょうからアリスでいいのよ?」

 

 

 う・・・アリスさんは話してくれなさそうだけど、僕の恥ずかしさはそんなに安くないはず!もう少し話してくれてもお釣りは出ると思うよ!?

 

 

「ア、アリスさん。じゃあ、どんな内容かだけでも教えてくれない?」

 

 

 それだけでも聞いておきたいと思う僕は男子高校生として普通だよね!これを聞かない限り、僕は君に笑われたことを許さないぞアリスさんっ!

 

 

「…さあて?それは私たちの間だけの話という事で、許してちょうだい♪」

 

「許してあげよう。」

 

 

 美少女のウィンクにたかが恥の一つなら、安い買い物さ。

 

 

 その後にまたもアリスさんに大笑いされたけど、ウィンクのツケで許してあげるとしよう。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!


 正式に出演してもらいましたため、改めてご紹介を!

 子どもたちに人形劇を見せたり、その性格からいろんな人のお世話を焼いたりして、村雪の中ではかなり上位に入る世話焼きお姉さん!【七色の魔女】こと、アリス・マーガトロイドさんでした!彼女がこの作品でお世話を焼く今後に、少しだけ期待していてください!

 で、前書きにも書いたように、魔理沙の件ですが・・・彼女、あれなわけなんです!アレ!
 次回かその次辺りにシッカリ書くつもりなんで今はあまり言いませんが、この展開は嫌だった人、ごめんなさい!それでも、割り切って楽しんでいただければ幸いです!

 それではっ!

 


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条件―交渉、成立するには柔和な姿勢が重要ね

 どうも、村雪です!いよいよ四月!新しい環境に皆さまがなじんでいけることを言葉だけながらも祈ります!皆さん頑張ってください!

 さて、今回はAクラスとの交渉の回ですが、あんまりギャグパートはない回となっていますので、面白みは他回よりも少なめです!

 そこら辺を踏まえて読んでいただければ、あんまりがっかりしないと思いますので、心づもりはしといてください!


――では、ごゆっくりお読みください


「――で、Fクラスの人たちが何の用?」

 

「ああ。Aクラス代表に一騎打ちを申し込みに来た」

 

「・・・・・・」

 

 

 坂本君の宣戦布告に、彼女、木下優子さんは訝しげに坂本君を見つめます。初めての対面となりますが、話通りというか予想通りというか・・・・・・本当に秀吉君そっくりですね!でも彼女の方が少し目つきがきつい、かもですね?

 

 

「つまり、召喚戦争はしないということかしら?」

 

「交渉次第だと、そういうことになるな」

 

「でも、どうしてそんな方法で?」

 

「色々とあってな」

 

「ふうん?」

 

 

 その両脇には咲夜さんと、魔理沙と同じく昔からの知り合い、アリスが並んでAクラスの使者として構えます。

 

 ……ついさっきまで和気あいあいと話していたとは思えない代わりぶりですねー。さっきまでアリスや咲夜さん達とおしゃべりしてたんですけど、それの楽しい事楽しい事!ちなみに霊夢は眠たかったらしく、システムデスクに突っ伏して眠っていました。机に見えた水滴はあくびの涙ですよっ!

 

 で、眠った霊夢はそっとしておき、私達で話を盛り上げていたら秀吉君のお姉さんがしびれをきらして止めに入ったというわけです。延々と話しそうな勢いでしたから使者としては助かりました。

 

 …親しい仲の談話を邪魔されたという観点で言わせてもらいますと、思わないこともないではないですけどね!

 

 

「・・・何が狙い?」

 

「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」

 

 

 坂本君の宣言に、木下君のお姉さん…あー、長いですから、木下さんと言わせてもらいましょうか。木下さんがさらにうかがわしい顔になりました。まあ仕方ない事です。一番最下位のクラスが、最上位の挑むと言われて何も思わないはずがありません。今も表情にありありと浮かんでますからねー。『何を無謀なことを…』って感情が。

 

 

「ずいぶん大きく出るじゃない。ウチの代表1人になら勝てるとでも?」

 

「どうだろうな。それはやってみてのお楽しみだ」

 

「楽しみにする必要もないわね。絶対こっちの代表が勝つわ」

 

「そうか。ならこの一騎打ちに乗っても問題はないんじゃないか?」

 

「……」

 

「……」

 

 

 一歩も譲らない交渉。木下さんと坂本君は無言で視線を交わします。

 

 

「坂本君」

 

「ん?」 

 

 

 その沈黙を終わらせたのは咲夜さんでした。

 

 

「せっかくのご提案なんだけど、それに私たちが乗る理由がないと思うわ」

 

「十六夜っ!」

 

 

 口を挟まれたのが気に食わなかったようで、木下さんが怒り気味で咲夜さんを睨みます。ま、まあまあそんなに怒らないであげてください!

 

 

「木下さん、だってそうでしょ?いくら勝負が見えてるからって、わざわざ相手の条件を呑む必要がないわ。普通に試召戦争を挑めばいいじゃない」

 

「う…そ、そうだけど」

 

 

 うっ。やっぱり今は咲夜さんはAクラスの一員ですね。私たちに非協力的です。寂しいですけど立派ですよ咲夜さん!

 

 

「だからそういうわけなんだけど、坂本君。その提案は断らせてもらうわ」

 

「なるほど。賢明だな」

 

 

 咲夜さんの言葉に坂本君は鷹揚(おうよう)に頷きます。ここで話が終了、と咲夜さん達は思ったかもしれませんが、残念。ここからが彼の交渉です。

 

 

「…ところで、Cクラスの連中との試召戦争はどうなった?」

 

「…ああ、あれね (チラ)」

 

「……あ~、じゃ(スッ)」

 

 

 ちらりと秀吉君を一瞥。そっと目を逸らす秀吉君。咲夜さんには全てばれちゃってますから仕方ありませんよね。 

 

 

「…ふんっ。そんなの勝ったに決まってるわよ。何の問題もないわ」

 

 

 やっぱりそうなりますよね。さすがトップクラスです・・・が。あ、あの。木下さん?どうして霊夢の方を見て舌打ちを?寝てますけどあの子は今は何もしてませんでしたよ?

 

 

「その通りね。だから今、Cクラスの人たちはDクラスと同じ設備で授業をしていると思うわ。向こうから仕掛けてきたんだから同情はしないけどね」

 

「…あ~」 

 

 

 違うのですアリス。小山さん達が攻撃してきた理由は私たちにあるのです。だから私は同情どころか、罪悪感でいっぱいなのですよ~・・・!

 

 

「でも、それがどうかしたの?」

 

「その後に、Bクラスとやりあう気はあるか?」

 

「…Bクラスって……おととい来ていた、あの……」

 

「ああ。あれが代表をやっているクラスだ」

 

 

 あのあれと呼ばれる根本君。名前は大事なものなんですからしっかり呼んであげましょうね!

 

 

「?アリス。それって根本 恭二の事よね?彼がどうしたの?」

 

「・・・そういえばあなたはいなかったわね。まあ、変わった格好をしてきたのよ・・・変わった格好を、ね」

 

「?」

 

 

 その時に咲夜さんはFクラスに来てたんですよね。私がトイレで顔を洗ってた時にすれ違ったみたいです。 

 

 ・・・しっかし、皆さん根本君の女子制服姿を見ても、笑うどころか顔を逸らしたり苦い顔をしたりしてましたけど、なんででしょう?私は笑いをこらえてたんですけど・・・

 

 

「幸い、そのBクラスにはまだ宣戦布告をされていないようだが、さてさてどうなることやら」

 

「・・・でも、坂本代表?Bクラスはあなた達Fクラスと勝負をしたわよね?だったら三か月の準備期間を取らない限りは試召戦争を挑めないのでは?」

 

 

 アリスの言葉は、試召戦争の決まりの一つにあたります。

 

 ―負けてしまったのは運が悪かったから―

 ―もう一度挑めば勝てる―

 ―このまま負けっぱなしでいられるか―

 

 そんな考えを、きっと負けた側の人は思うでしょう。その考え通りに再度勝負を挑み、もしも勝ったとしてもまたまた負けたチームが挑んで、それに負けたら……そんな泥沼化を避けるためのルール。負けたクラスは三ヶ月間の準備期間を過ごさない限り、自分たちから勝負を挑むことが出来ないのです。

 

 そんなアリスの疑問にも坂本君は態度を変えません。

 

 

「知ってるだろ?アリス・マーガトロイド。実情はどうあれ、対外的にはあの戦争は『和平交渉にて終結』ってなっているってことを。規約には何の問題もない。……Bクラスだけじゃなくて、Dクラスもな」

 

 

 暗に、もしもこの案を乗らなければ、BクラスとDクラスをけしかけるぞ―と伝える坂本君はだいぶ悪役に見えますね!

 

 

「・・・なるほど。上手いわね」

 

「で、私たちが乗らなかったらその2クラスに攻撃させる、と?」

 

「人聞きの悪いことを言うなよ。ただのお願いじゃないか」

 

「ふん。よく言うわよ・・・」

 

 

 再び探り合いをしだす坂本君と木下さん。み、見ているこっちがハラハラです…!

 

 

「―――向こうは美鈴か、姫路さんが――?」

 

「なら、――じゃなくて何人かで――」

 

 

 ん?咲夜さんとアリスが何やら話を・・・

 

 

「坂本君」

 

「なんだ?」

 

「こっちの条件も呑んでくれるなら、その話に乗ってあげてもいいわ。」

 

 

 え!?い、意外とあっさり!?

 

 

「ただし、それを呑まないのなら交渉は決裂よ」

 

「!?ちょっと!」

 

「・・・聞かせてもらおうか」

 

 

 ど、どんな条件を出すつもりでしょうか・・・? 

 

 

 木下さんをなだめながら咲夜さん達が、その条件を言います。

 

 

「その一騎打ちという事なんだけど・・・代表だけの一騎打ちじゃなくて、それとは別に一騎打ちをしてもらうわ。そうね・・・7人ぐらいかしら?」

 

「で、七回の一騎打ちの内、四回勝った方が勝者、って具合でどう?」

 

 

「・・・・・・・おお?」

 

 

 もしも私の予感が的中してたらの話ですがこ、これはひょっとして……不利どころか、好都合ではないでしょうか?

 

 

「なるほど。こっちから姫路や紅が出てくる可能性を警戒しての、七回勝負か?」

 

「そういうことね。まあ美鈴(メイリン)はそこまで警戒していなけど」

 

「ひどいです咲夜さんっ!」

 

 

 そこはウソでもいいからお姉ちゃんの顔を立てて!

 

 

「安心してくれ。うちからは俺が出る」

 

「たとえそれが事実にしても信じるのは難しいわ、坂本代表?」

 

 

 坂本君の一応ウソじゃあないんですけどねえ。でも信じてもらう保証がありませんし、アリスの慎重さも当然です。

 なので、坂本君としては向こうの提案に乗るしかありませんね!というかむしろ私は乗ってもらいたい!

 

 

「坂本君。ここは呑んだ方がいいのでは?」

 

 

 こそっと坂本君に耳打ち。それへの返事かどうかは不明ですが、坂本君は答えを出します。

 

 

「分かった。それなら、その条件を呑んでもいい」

 

「本当?言ってみるものね」

 

「ただし、勝負する内容はこちらで決めさせてもらう。そのぐらいのハンデはあってもいいはずだ」

 

「え?」

 

 

 坂本君はさらに一手。科目を選択する権利が無かったら、霧島さんに日本史で勝負を挑むこともできないからここも重要な条件です。咲夜さん達の条件も飲んでいますから、こちらもまた条件を出してもクリアーできる可能性はあります。

 

 

「・・・んん。それはちょっと厳しんじゃないかしら。別にFクラスにハンデをあげる理由もないでしょ?」

 

 

・・・アリス。またまたごもっともです。ク、クリアーならず…!?

 

 

「……受けてもいい」

 

「ぅわっ!」

 

「わわっ!?」

 

 

 よ吉井君!びっくりするからいきなり大声を出さないでくださいよっ!

 

 びっくりさせられたことに文句を言おうと振り向くと、そこには黒髪を肩までのばした日本人形のような美少女、Aクラスの代表、霧島 翔子さんがいました。なんとまあ綺麗な・・・!少し咲夜さんの雰囲気に似ていますね!

 

 

「……雄二の提案を受けてもいい」

 

 『雄二』、ですか。坂本君の言う通り、やっぱり2人は幼なじみなんですね。そのおかげか、霧島さんはあっさりと坂本君の追提案を受けました。

 

 

「代表、いいの?こっちがわざわざ応じる必要はないのよ?」

 

「……うん、アリス。その代わりに、条件がある」

 

「条件?何だ?」

 

「……(ジッ)」

 

「・・・あ、あはは・・・?」

 

「え、ええっと・・・?」

 

「?顔に何かついてるか??」

 

 

 霧島さんが私達女子三人の顔をじっくり見だしました。

 

・・・て、敵愾心丸出しな目ですね~。まるで自分の大事な人に手を出す敵を見るような・・・ん?あ、今一瞬、教室で思いだせなかった答えが出かけた気が・・・!

 

 

「……負けた方は何でも一つ言う事を聞く」

 

「……(カチャカチャ)」

 

「ムッツリーニ!まだ撮影の準備は早いよ!というか、負ける気満々じゃないか!」

 

「そう言う吉井は、財布をあさり出して何をやってるんだぜ」

 

 

 その霧島さんの提案に、うちの2人も何やら誤解を。どうせエッチなことを妄想したんでしょこら!土屋君!吉井君!手のカメラと財布をしまいなさい!勝っても負けてもそんなことはありませんから!

 

 

「でも代表、やはりあっち(Fクラス)に科目選択権をやるのはまずいわ」

 

「そ、そうよ代表!こっちに不利になるじゃない!」

 

「……でも」

 

 

 その一方で、咲夜さん、霧島さん、3人が少しもめそうになっていましたが、アリスが3人の間に入って提案します。

 

 

「じゃあ、全部の選択権じゃなく四つだけを決めさせてあげるのならどう?そうすれば私達も3つは選べるし、さほど不平等でもないわ」

 

「・・・なるほど」

 

「まあ、確かにそれなら・・・」

 

「……ありがとう、アリス」

 

「お礼を言われるほどのことじゃないんだけどね。代表。」

 

 

 四つの選択権がFクラスでAクラスが三つ。過半数はこちらなので十分なハンデでしょう。

 

 

「それでどう?坂本代表」

 

「分かった。交渉成立だな」

 

「……勝負はいつ?」

 

「そうだな。十時からでいいか?」

 

「……分かった。雄二」

 

「ん?」

 

 

 そこで霧島さんは、

 

 

「・・・負けないから」

 

 

 熱い目で坂本君を見ながら、力強くそう宣言しました。

 

 

 

 

・・・・・・あ。あ~~っ!!お、思い出しましたっ!!確か霧島さんって・・・!?  

 

 

 

「ふん、抜かしやがれ」

 

 

 坂本君は特に反応することなく端的に答えただけでしたが、今の私にはほとんど頭に入ってきません!

 話し合いは終了しましたが、私には色々とやることが残ってますね!

 

 

「よし。じゃあお前ら、いったん教室に戻るぞ」

 

「そうだね。皆にも報告しなくちゃいけないからね」

 

「しかし坂本、七人って一体誰を出すつもりだ?」

 

「一応決めてはいる。お前もその一人だ、霧雨」

 

「おっ!そいつは頑張らないといけないぜ!・・・も、もしもアイツが出てきたらしっかり―」

 

「?アイツって、誰の事ですか魔理沙ちゃん?」

 

「ウエッ!?あ、や、なんでもないぜ瑞希!」

 

「……なかなか見ない霧雨の慌て顔。売れる・・・っ!!」

 

「や、やめろ土屋っ!絶対売んなよ!?」

 

 

 ぞろぞろと皆は扉へと向かって教室を出ていきますが、私はその場から移動することなくその背中を見届けます。Fクラスの人に聞かれると、面倒な事になりそうですからね!

 

 

「どうしたのよ美鈴?行かないの?」

 

「ええ。ちょっと誤解と疑問を晴らしておきたくてですね。ちょっと残らせてもらいました」

 

「?」

 

「ん?紅、どうしたのじゃ?」

 

 

 最後尾にいた秀吉君が廊下から声をかけてきます。ここは先に行っておいてもらいましょう。じゃないとまた皆さんが入ってきそうですからね!

 

 

「ちょっと私用がありましてね。すみませんが先に行っておいてください」

 

「?分かったのじゃ」

 

 

 少し不思議そうでしたが、秀吉君すぐに行ってくれました。ふう、興味心の塊の魔理沙じゃなくて良かったです~。

 

 

「―-で、どうしたの美鈴?」

 

 

 廊下から足音が聞こえなくなって、アリスが話しかけてきます。でも、アリスの場合は、まずは〝久しぶり〟の挨拶です。

 

 

「アリス、久しぶりですね。挨拶が遅れました!」

 

「ああ、それもそうだったわね。久しぶり美鈴。春休み以来かしら?」

 

「そうですねー。試召戦争でバタバタしてましたから全然会えませんでした!」

 

「咲夜とはずっと会ってるからほんとに変な気分ね」

 

「私も同じクラスになりたかったんですけど、今はこれで良かったとも思いますよ!」

 

 

 瑞希さん達と面白おかしく過ごせてますしね!怪我の功名って奴です!

 

 

「それで、美鈴はどうしたの?」

 

「ああ咲夜さん。霧島さんにちょっと用があるんです」

 

「……私?」

 

「はい!」 

 

 

 きょとんとされるのも仕方ありませんけど理由はきちんとあるのです!一つは彼女が一番知ってそうだという事と、ついさっき分かった誤解を解く二つです!

 

 

「ちょ、ちょっと。今会談が終わったところでしょ?」

 

「いえ、これは別にこの試召戦争がどうこうの話じゃありません。ちょっとした質問ですよ!」

 

「・・・本当でしょうね?」

 

「木下さん。美鈴はこう見えて約束は守る方だから大丈夫よ。」

 

「咲夜、なにげに酷いことを言うわね・・・」

 

「ま、全くです!」

 

 

 私の顔が嘘つきというのですかっ!!全くいつ私がウソを着いたと・・・あ、クラス分け試験で良い点数を採るって言ったのに全然採れてませんでした……またもあれが尾をひいてるのかーっ!あれのせいで咲夜さんからの信用が・・・!

 

 

「え、ええっと、とにかく、私は霧島さんに言いたいことと聞きたいことがあるのですよ」

 

 

 あの失態を取り消す方法も考えないといけませんが、まずはこっちから。誤解は早く解いておくに決まってます!

 

 

「……何?」

 

「では、まずは言いたいことですが………私は別に、坂本君の事を意識していませんよ」

 

「っ!?」

 

 

 お、おおっと!?足元大丈夫ですか!?

 

 

「だ、大丈夫代表!?ちょっとあんた!何やったのよ!」

 

「い、言いたいことを言っただけです!?」

 

 

 そんなに反応するとは思ってなかったんですよ~!

 

 思い出したこと。それは、実は霧島さんが坂本君にホの字だということ。咲夜さんが

言っていたはずなんですけど、もしかしたらあまりのビックリに記憶が飛んでいたのかもしれません。でも今、彼女の様子を見てて思い出したわけです!

 

 学年主席の冷静さというものか、すぐに霧島さんは元の表情に戻りました。

 

 

「……本当?」

 

「あ、はい。ついでに言いますとウチのクラスにいる女子全員、だと思います」

 

 

 瑞希さんと島田さんはもちろん、魔理沙もFクラスにはいないって言ってましたし、チルノに関してはまずない、絶対ないですね!あたいはサイキョーなんだからパートナーなんていらないわ!って幻聴が聞こえてきますもん。

 

 

「……!そう、良かった…」

 

 

 霧島さんは私の言葉に安堵したみたいで、少しですが笑みを浮かべました。ふ~、なんとか誤解は解けましたね~。初対面の人に敵意を向けられるのは悲しいですから、良かったです!別に坂本君が嫌いってわけじゃないんですけど、いかんせん彼はワイルドなんですよねえ。もっとこう、穏やかな男子が私の好みですかね?はてさて誰がいるのやら・・・

 

 

「いないわよ」

 

「私声出してましたか!?」

 

 

 咲夜さんの言葉に、悲しみと衝撃のダブルパンチです!

 

 

「出てないけど、表情で丸わかりなのよ。だてに美鈴の妹をやってないわよ?」

 

 

 普通、顔って感情だけを表しますよね?なのにそんなことが分かるって、どんな表情をしていたんですか私は。

 

 

「で、でもさすがにいないってことはないでしょ~。ほらっ、最悪知ってる人の誰かとか」

 

「その時は破局を願うわ」

 

「残酷です!?」

 

 

 咲夜さんは私に何か恨みがあるんでしょうか……私はしょげながら咲夜さんとの日々を思い出します。う~、そ、そんなにひどいことしたことありましたっけ~…?

 

 

「・・・咲夜、あなた、その言い方はあんまりじゃないの?」

 

「……だ、だって、適当に男の人と付き合ってほしくないもの。自分が好きになった人と交際をやっぱりしてほしいじゃない…」

 

「……まあわかるけど、付き合いだして生まれる恋というのもあるでしょ?だから―」

 

「美鈴が好んでじゃなくて、仕方ないと思いながら男といるのを見たら、私、そいつを屠る自信があるわ」

 

「……すごい愛情もあったものね」

 

 

 ひょっとしてこの前母さんのブラジャーを咲夜さんのと間違えたことでしょうか?はたまた遡って、うっかり間違えて咲夜さんが入浴中なのに入っちゃったこと?あ、もしかしてもっと前の――意外と心当たりがあってさらに悲しくなってきますね!

 

 

「へ~、咲夜にも意外と子どもっぽいところがあったんだ!僕安心したよ!」

 

「愛子、それは褒めてるのよね・・・?」

 

「勿論だよ。だっていっつも澄ましたところしか見ないからさ、なんだか新鮮に見えるもん!」

 

「あなたの反応は新鮮に感じないけどね・・・ほら早く離れなさい」

 

「愛子もハグが好きね…」

 

 

 むっ!?咲夜さんに抱き着く女子を感知!なんて羨ましいことをしているのですか!

 

 

「ちょっとそこのあなた!そこは私の癒しの場所ですよ!」

 

「へっ!?ご、ごめんなさい!?」

 

「あのね・・・いつから癒し場所になったのよ」

 

 

 咲夜さんが私にハグさせてくれた時からです!

 

 

「全く・・・というわけで咲夜さん。ハグさせてくださいだああっ!?」

 

「どういうわけでハグなのよ」

 

 

 そして咲夜さんがそれを防ぎだしたのは、文月学園に入学した時からでした。サヨナラ素晴らしきハグ!そしてコンニチハ痛い迎撃!

 

 

「え、え~と、こんにちは紅 美鈴さん!工藤(くどう) 愛子(あいこ)っていうんだ!」

 

「あ、ああ!初めまして工藤さん。紅 美鈴です!咲夜さんに抱き着いた恨みは忘れません」

 

「ええ!?は、ハグをして恨みを買うなんて初めてだよ!?」

 

 

 元気な女の子ですね~。でも、薄い草色の髪をショートカットにしてるから男子に見えるんですよねえ…最初、咲夜さんに男が抱き着いてるのかと思ってプッツンしそうでした。あはは♪笑えない!

 

 

「愛子、これはあなたが悪いわ」

 

「アリスまで!?ハ、ハグってそんなに悪い行為だったかなあ・・・?」

 

「行為じゃなくてタイミングよ。どこかの過保護なお姉さんがいるときはやめておきなさい。」

 

「お、お姉さん??」

 

 

 アリスーッ!?それって要は私がいない間は抱き着き放題って言ってるようなものじゃないですか!?そこは私の代わりに咲夜さんを守ってあげてくださいよ、この裏切り者ー!

 

 

「代表、大丈夫?」

 

「……うん。ありがとう優子。……紅、聞きたいことって・・・?」

 

「うう、どうすれば咲夜さんを貞操の危機から守れるでしょうか…」

 

「………………それが、聞きたいこと?」

 

「はっ!間違えました!」

 

 

 だから霧島さん、そんな変な物を見る目で私を見ないでください!(※そもそもハグに貞操の危機はあるのだろうか…)

 

 

「ち、違いますよ!?私の聞きたいことは、坂本君の事ですっ!!」

 

「……雄二の?」

 

「はいっ!・・・て今度は険しい目!?」

 

 

 ひいいい!?こ、心の底から震えが!!別に彼をどうこうするじゃありませんよお!?さっきの言葉は届いてましたかー!?

 

 

「……言葉次第では、ちょっとだけ覚悟してもらう。」

 

 

 その顔、絶対ちょっとぐらいでは済ましそうにありませんね!

 

 

「さ、坂本君の学力の事ですよー!」 

 

「……学力?」

 

 

 はあ…やっと無表情に戻ってくれました。まさか無表情で嬉しく思う日が来るとは思いもしませんでしたよ。

 

 

 

 その後、私は聞きたいことを聞けたので、Aクラスの皆に見送られながらFクラスへと戻りました。あ~・・・・・・勝負の行方はどうなりますかね~・・・? 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「代表、なんだか紅に色々と普通にしゃべってたけど、大丈夫なの?このあとの勝負で不利にならない?」

 

「……うん、優子。・・・たぶん」

 

「たぶんってねえ・・・」

 

「大丈夫よ木下さん。だってそんな大したことは聞いていなかったでしょ?気をもむ必要なんかないわ」

 

「十六夜・・・でも、もしかしたらあの紅美鈴が何かを企んでて、それを実行しにきたかもしれないじゃない!一回代表がふらついたのもそれのせいじゃないの!?」

 

「あ。それって美鈴さんと代表が話してた時だよね、優子?」

 

「そうよ愛子。意味は分からなかったけど、きっとあれは代表を揺さぶるための作戦に違いないわ!」

 

「……優子、あれは―」

 

「違うわ。美鈴はそんな小賢しいことはしないもの。だから愛子も木下さんも気になるかもしれないけど、多分杞憂に終わるわよ?」

 

「さ、咲夜がそこまで言うのなら、そんな気もするね?じゃあ大丈夫だよ優子!」

 

「……ふんっ。やけに紅 美鈴の肩を持つじゃない。あんた実は、Fクラスのスパイなんじゃないの?」

 

「ちょ、優子っ!そんな言い方はひどいよっ!」

 

 

「まさか。ただ、姉の性格を良く知ってるだけよ」

 

 

「へ?」

 

「……え?」

 

「……姉?」

 

「……え、あら?」

 

「・・・咲夜、あなた自己紹介の時にも言ってなかったわよ。だからじゃないの?」

 

「アリス。そうだったかしら・・・じゃあまあ、今さらだけど、紅 美鈴は私の姉よ。」

 

 

 

 

「「………えええええええええっ!!?」」

 

「・・・・・・十六夜。四月一日はもう過ぎた。」

 

「・・・この反応、何度目かしら・・・代表、ウソじゃないわよ。全く似たような事を坂本君に聞かれたわ。」

 

「……そう。照れる」

 

「そこでその顔をするあたり、代表って意外と熱いのね・・・」

 

「見てくれだけに騙されてはダメなのよ、アリス」

 

「なんだかしたり顔してるみたいだけど、見てくれが違ったら誰も姉妹とは思わないのが普通だと私は思うわよ」

 

「~~~るっさいわよあんたらぁっ!休み時間ぐらい静かにしなさいっ!」

 

「ひぇっ!?ご、ごめん霊夢!」

 

「いや、休み時間だから騒ぐんでしょう。霊夢」

 

「咲夜の言う通りよ霊夢。それにあなた、授業中もずっと寝てたじゃない・・・」

 

「・・・・・・霊夢。ヨダレが・・・」

 

「博麗ぃ!あんたはどれだけ寝るつもりよ!何回起こしても起きないし!あんたは学校を何だと思ってんの!?」

 

「あ?勉強をするところに決まってるじゃない。私を馬鹿にしてんの?」

 

「その言葉っ!そ・っ・く・り返してやるわよ!くうう・・!な、なんでずっとさぼって寝っぱなしのアンタの方が!Cクラス戦で活躍してんのよ!頑張ったのに!アンタにだけは負けないように頑張ったのにぃ!!」

 

「はあ?知らないわよそんなの。私にちょっかいかけてきたりして、日ごろの行いが悪いせいじゃない?」

 

「・・・・・・あ、あんただけにぃ・・・!あんただけには言われたくないわあああああああっ!!」

 

「あ~うっさいわね。はいはい悪かったわ。木下は私より偉かったわね、わー、木下は私よりも賢くてスゴイワー。ソンケイしちゃうわー・・・はい。これで満足でしょ?」

 

「このアマ、ぶっ殺すわよ!?」

 

「あ?褒めてやってんのに殺すなんて、あの世に召されたいの?ああ?」

 

「決めたっ!!Fクラスとの一騎打ち勝負の前にこのバカと一騎打ちしてやるわっ!私の拳でこいつを始末してやろうじゃない!」

 

「はっ。ついに頭も逝ったのねあんた。上等じゃない。叩き潰してやるわ・・・!」

 

「ちょ、ゆゆ、優子に霊夢!?ブレザーを脱いでカッターの袖をまくらないで!?ほ、本気の喧嘩の準備だよそれぇ!?」

 

「や、やめなさい優子に霊夢!時間に関係なく、それはシャレにならなー!」

 

「!だ、代表そっちを頼むわ!」

 

「・・・・・・う、うん!」

 

「「―――――!!」」

 

 

 

 

 

 カラカラ!

 

 

「こらAクラス!さわいで一体何を」

 

 

『『!!!先生ぃぃぃぃっ!!』』

 

「む!?な、なぜ皆涙ながらに私に詰め寄ってくるんだ!?」

 

『『あ、あの2人を止めてくださいお願いしますっ!!』』

 

「あ、あの2人??一体何のこと―――」

 

 

 

 

「や、やめなさい霊夢!アリス!もっとしっかり掴んで!」

 

「や、やってるわよ咲夜!!」

 

「離しなさい咲夜、アリス!売られたケンカは買うのが私の家訓よ!」

 

「「ウソおっしゃいなさいっ!」」

 

「ゆ、優子落ち着いて!優子は十分賢い!賢いのは僕が保証するからさっ!」

 

「・・・ケンカはダメ・・・!!」

 

「代表、愛子離して!このバカを一発殴らないと気が済まないのよぉ!」

 

「人をバカ呼ばわりすんじゃないわよ、この大バカが!」

 

「殺すっ!」

 

「ああ!?」

 

「お、落ち着いてよ2人共ぉぉっ!!」

 

「「やめなさい2人共ぉぉ!!」」

 

「・・・・・・ダ、ダメ!2人共ダメ・・・!」

 

 

 

「・・・・・・・・・お、お前達2人は、何をやっているんだあああああっ!!」

 

 

 ゴズンッ!×2

 

 

「「ぐえっ!?」」

 

 

 

 

 

「・・・さ、さすが〝先生〟の頭突きだわ、アリス」

 

「え、ええ・・・あの暴れる2人を黙らせるとは、絶対受けたくないわね・・・」

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 霊夢さんと優子さんの仲の悪さがすさまじく露になった最後でした!勿論ギャグパートですよー!

 さて人数の関係上、七回勝負とさせてもらったこの一騎打ち。どんな組み合わせで、誰が勝利するのかを期待して待ってもらえたらもらえたら幸いです!

それではっ!


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動揺―予測、出来ないからどんな反応をしてもおかしくないと思うの・・・

 どうも、村雪です!

 いよいよAクラス戦開幕です!が!、前からも言わせてもらっていますがしつこく言わせてもらいます!

 ・・・村雪、戦闘描写が苦手です!なのであんまり熱い勝負にはなっていません!あっさり勝負がついてますので、ご了承お願いしますよ~!!


そこを踏まえたうえで、今回からのAクラス戦!

――ごゆっくりお読みください


「では、両クラス準備はいいですか?」

 

「ああ」

 

「……問題ない」

 

 

 坂本君、霧島さんの2人が合意します。それにより、いよいよ私達Fクラスの最終目標、Aクラスとの七回連続一騎打ち勝負が始まります! ルールは簡単!七回勝負の内、四回を勝利したクラスの方が勝利です!勝てば天国、負ければ地獄の大一番なのですよ~!

 

 

「分かりました。ではこれよりAクラスとFクラスの勝負を始めます」

 

 立会人は母さんの知り合いのようである高橋先生。とってもキャリアウーマンみたいな女性ですねー!

 

 

「ねえ瑞希!あの冷蔵庫に何が入ってるか見るわよ!」

 

「ダメですよチルノちゃん。他の人の家の冷蔵庫は勝手に開けてはいけません。ちゃんと許可を取ってからあけましょう?」

 

「え~!?」

 

「瑞希さん、もはやチルノのおふくろ様みたいですね・・・」

 

 

 ちなみに勝負場所は綺麗で大きなAクラスを提供していただきました。さっき来なかったチルノはその豪華さに目を耀かせています。チルノが言う冷蔵庫とは、各システムデスクの横に一台ずつ置かれた物のこと。学校が設備として購入してますので、厳密に言えば家じゃなくて〝学校の〟ですけどね、その豪華な冷蔵庫は。・・・こ、こっそり咲夜さんのを持って帰れないでしょうか?あったら我が家の心強い相棒になること間違いナシなのに~!

 

 

「それでは、1人目の方、どうぞ」

 

「じゃあ、私から行かせてもらおうかしら?」

 

 

 立会人である高橋先生が両クラスに1名招集します。先に名乗り出たのはAクラスでした。

 

 

「アリス・マーガトロイドか…」

 

 

 坂本君の言う通り、向こうの一番手はアリス。私の友人です!

 

 

「おっ?じゃ、じゃあここは私がトップバッターを務めさせてもらうぜっ!」

 

 

 対して、こちらからは恋に生きる魔理沙でした。

やけに顔が赤いのは気温のせいですかね?Aクラスのかた!もう少し温度をさげてもらえますか~?

 

 

「よ、ようアリスっ!久しぶりだな!?」

 

「久しぶりって・・・ついさっき会ったばかりじゃない、魔理沙」

 

「そ、そうだったか!?悪い悪い!」

 

「・・・さっきのときもそうだったけど、さっきから顔が赤いわよ?熱でもあるの?」

 

「ね、ねえさ!あるとしたら心の病気って奴だぜ!」

 

 

「ん、ん?」

 

 

 ……なぜでしょう。魔理沙の態度がもの凄く変です。さっきのAクラスの時もそうでしたけど……混乱してる、と言えばいいのでしょうか?とにかく普段の時とは違います。

 

 

「ねえ美鈴さん。魔理沙は何であんなにテンパってるの?」

 

「さ、さあ?」

 

 

 心の病って奴じゃないでしょうか?本人も言ってましたし・・・ん?赤面、心の病?あれ、何か結びつきそうな・・・

 

 私の中で答えが出ない間にも、高橋先生は勝負へと準備を進めていきます。

 

 

「ではお2人とも、科目選択はどうしますか?」

 

「!化学でお願いするぜ!」

 

 

 あ~、魔理沙の化学の点数にはほんとにド肝を抜かされましたね~。まさか魔理沙があんなに化学が得意だったとは・・・!暗黙の内に定着していた魔理沙のおバカ説ががらがらと瓦解しましたよ!

 

 

「雄二、魔理沙が教科を選んじゃったけどいいの?」

 

「構わん。まだ三つあるさ。それに霧雨は他の科目についてはいまいちだったからな」

 

「土屋君の化学バージョンって感じですね」

 

 

 さすがにエッチなところは似てないと信じます!

 

 

「アリス、悪いがここは私が選ばせてもらうぜ?」

 

「いいわよ。まだこの後もあるんだから取っておいた方がいいしね」

 

「お、おうそうか……あ、あとなっ!」

 

「ん?何?」

 

「・・・え~っとな」

 

 

 魔理沙はそこでとめて、恥ずかしさの表れか、自慢の髪に指をくるくる。ちょっと、すっごく可愛く見えるじゃないですか!あなたそんな顔もできたんですね!?普段の魔理沙を知ってるだけに違和感がすごいです!

 

 そんな乙女魔理沙の継続時間は五秒。びしっとアリスを指さし、魔理沙はこんな提案をしました。

 

 

 

 

「・・・これで勝った方は、一つ命令権な!」

 

「え…なんで?」

 

「そ、その方がやっぱり面白いじゃんか!」

 

「…魔理沙が科目を選んでるんだし、それは無茶な注文じゃないかしら?」

 

 

 アリスはあまり乗り気じゃなさそうに顔をしかめています。だって、拒否することもできずに命令されるなんてやっぱり嫌ですものねえ…まだ平等な勝負ならまだしも、魔理沙の得意科目で勝負するんですからなおのこと。わんぱくな魔理沙らしい提案ですけど、これはさすがにアリスも頷けませんよ。

 

 何かアリスにだけプラス条件を加えたら別かも知れませんけど、魔理沙はそういうことは言わないと―

 

 

「あ、も、もしアリスが勝ったら私には二回命令していいから!」

 

「言ったー!?」

 

「わ!?な、何よ美鈴いきなり!?」

 

「あ、す、すいません!」

 

 

 ええええっ!?火の粉のかからないところから火の粉をかぶる人を面白おかしく眺める魔理沙がそんなことを言うですって!?ほ、本当にどうしたんですか魔理沙!こんなの魔理沙じゃありませんよお!?

 

 

「いや、私はあなたに命令をしたいわけじゃないのだけど…」

 

「じゃ、じゃあ本当に嫌だったら断ってもいいってことで!なっ!?なっ!?」

 

 

 …魔理沙、そこまでしてあなたは一体アリスに何をやらせたいんですか…?

 

 

「……はあ~・・・そこまで言うのならいいわ。乗ってあげるわよ」

 

「!?まじかっ!?」

 

 

 魔理沙の気迫・・・というよりしつこさ?にとうとうアリスが折れました。言った本人がそれに驚くのは果たしてどうなのでしょう?

 

 

「ただし、私が勝ってもあなたに命令する回数は一度で、嫌なら断ることも出来るようにすること。それでいいわね?」

 

「あ?そ、それでいいのか?むしろこっちが聞きたいぞ?」

 

「いいのよ。で、どうなの?」

 

「お、OKだぜ!」 

 

 

 どうやら話は上手くまとまったようで、魔理沙は嬉しそうに顔をほころばせました。

淡々と言葉を言うアリスですけど、ちゃんと魔理沙のことを聞いてあげてるんですよねえ。そう言えば世話焼きアリスなんて言われてたこともありましたっけ?本人は嫌がってましたけど、実に的を射たあだ名です!

 

 

「ま、魔理沙はアリスさんに勝ったら何を命令するのかな・・・!?」

 

「……写真の準備が必要・・・!」

 

「あなた達は本当に自分本位ですねえこら!」

 

 

 ちょっとはアリスの他人に気を配る心意気に胸を打たれなさい!絶対そんな思ったようなことを魔理沙は願いません!

 

 

「――では、2人とも。召喚をしてください。」

 

「はい。試獣召喚『サモン』っ」

 

「うっし!試獣召喚(サモン)!」

 

 

 高橋先生の準備が終わり、2人は召喚獣を出しました。

 

 辺りを散らかすであろう真反対の働きを持った高火力のほうき、黒の帽子と白いエプロンをつけた魔理沙の召喚獣。魔女と言えばこれ!っていう格好ですね!

 

 対するアリスの召喚獣。髪が本人よりも長く、ヘアバンドの代わりに霊夢が付けているのに似た赤いリボンを後頭部に付けて、紺色のワンピースのスカート部分には白いエプロン。その手には西洋の等身大のランスが握られていました。

 

 おっと。見た目の方に気をやってしまいましたが、大事なのは点数です!アリスもAクラスに所属しているのですから高得点保持者には違いありません。果たして魔理沙は上回ることが出来ているのか・・・!

 

 

『Aクラス アリス・マーガトロイド  化学 386点

           VS

 Fクラス     霧雨 魔理沙   化学  394点 』

 

 

 

『おおっ!!』

 

『嘘っ!?』 

 

 

 おお!!わずかですが魔理沙が勝ってます!やっぱり科目選択をしたのは大きかったですね!両クラスから喜びと驚きの声があがり、場は徐々にヒートアップしてきます!

 

 

「ま、魔理沙ってそんなにすごかったの!?」

 

「美波!その気持ちが僕にはよく分かるよ!」

 

「さすがはまりさね!サイキョーのアタイをだましただけあるわ!」

 

「でもチルノの気持ちは分からないけどね!そんなの誰だってだませるよチルノ!僕にだって出来るさ!」

 

「なんですって!?ならやってみなさいよっ!?」

 

「良いとも!……チルノ!」

 

「何さ!?」

 

「君の胸はすっごい大きいね!」

 

「……よしー・・・あんたって奴は、目もバカだったのね…」

 

「あ、あれ!?だまされないで本当に哀れそうに僕を見てくる始末だって!?美波なら絶対騙されると思ってたのに!」

 

「確かに騙されてたでしょうねアキィィィイ!!」

 

「いっだだだだだあ!!?僕の手首から小気味いい音がああ!」

 

「ふ、2人とも落ち着いてください!魔理沙ちゃんの応援をしましょう!?」

 

 

 じょ、場外でゴングが鳴りだした!?もう!瑞希さんの言う通り、はしゃいでないで魔理沙の応援をしなさい!

 

 

「おっし、わずかだが霧雨の方が勝ってるな。」

 

「……だが、アリス・マーガトロイドも負けていない。」

 

「うむ。ちょっとしたことでひっくり返る可能性もあるのじゃ。」

 

 

 土屋君達の言う通りです!でも、アリスはくやしそうな顔で点数を眺めます。やはり点数が下だと負けていると感じちゃうのでしょうか?

 

 

「う…すごい点数ね。私もそれなりに自信があったんだけど・・・」

 

 

 アリスの点数が決して悪いわけではありません。アリスの点数でも十分にトップクラスの点数だといっていいでしょう。ただ、魔理沙の化学への情熱がそれを上回ったという話です!

 

 

「それは私も同じだぜ!他に関してはほぼ二ケタだけどな!」

 

「なら、そっちで勝負をかけるべきだったわねっ!」

 

「あいにく、もう変えはきかねえぜっ!」 

 

 

 その言葉を皮切りに、2人は動き出しました。

 

 

「行きなさい!」

 

 

 大きなランスを構え、アリスの召喚獣が魔理沙の召喚獣へと迫りだします!高得点なだけあって動きが早い!

 

 

「よっ!」

 

 

 それに対し魔理沙は、召喚獣にほうき型レーザー砲をアリスに突き付けさせ、一発!

 

 

「マスタースパァァァァクッ!」

 

「技名を付けたんですかっ!?」

 

「かっこいいわね!」

 

 

 あなた厨○病でしたっけ!?でもその名前、確かに似合ってかっこいいです!?

 

 

「……っと!攻撃の仕方もすごいわね!」

 

 

 アリスの召喚獣はそれをわずかに受けつつも、とっさに左へかわしてそのまま魔理沙の召喚獣へと接近します!

 

 

「はあっ!」

 

 

 大きなランスを横に振りかぶり、射程距離に入った魔理沙の召喚獣に薙ぎ払います!

 

 

「よっと!!」

 

 

 慌てて魔理沙の召喚獣はしゃがみそれを回避しました。が、アリスの攻撃はまだ続きます!

 

 

「まだよ!」

 

 

 魔理沙の召喚獣の横を勢いで通り抜ける前に踏みとどまり、右手だけで柄を握り直し、しゃがみこんだ召喚獣の頭めがけてその凶悪な塊を振り下ろしました!

 

 

「げ!?うおおおおっ!?」

 

 

 ガギイインッ!

 

 

 頭にぶつかる寸前に魔理沙はほうきで防御に成功しました。吉井君の木刀もそうですけど、木が鉄に張り合っちゃってます!そんなところも常識通じず、ですね!

 

 

「や、やるじゃねえかアリス…!」

 

「なめてもらっては困るわね…!」

 

「づっ…!な、なめてはねえけどなあ…!ずぉらああっ!」

 

「くうっ!?」

 

 

 ほうきと鉄のヤリ。見た目で判断するとほうきが折れて終了でしたが、ここでは点数が全て!点数で勝っていた魔理沙がランスを押し返しました!

 よし!今のアリスはすきだらけ!行けますよ魔理沙!

 

 

「くらえアリスウウっ!」

 

 

 グゥオアアアアアッ!

 

 

 再びほうきからのレーザーがアリスへ一直線に走ります!!当たるか!?

 

 

「くらうわけっ、ないでしょうが!」

 

 

 バッ!

 

 

 しかしアリスの召喚獣が思い切り右に跳ね、それを回避しました。あちゃー!またすんででかわされました!今のが当たってたら決着だったと思うんですが…勝負の女神は舞い降りなかったみたいです!

 

 

「ふ~…まったく、こっちは近づかないといけないから、攻撃するのに一苦労だわ」

 

「逆に言えば近づかれたらやられ放題だからな。この距離が私のフィールドだぜ!」

 

「…策を練ろうにも、近づかないことには始まらないのも困ったものねえ…。」

 

 

 はあと溜息をアリスはつきながらも召喚獣に構えを取らせる辺り、アリスが勝負を捨てたのではないという事がうかがえます。

 

 近づいて攻撃しなければいけないけれど、それを阻むレーザー攻撃、しかもその発射源は遠く離れた場所のこの状況。敵ですけれど、不憫に思えちゃいます場面です…

 

 その状況を打破し、アリスが勝つには……う~ん。う~~~~ん…!

 

 

「…無謀だけど、やっぱりかわして攻撃を当てていくしかないわねっ!」 

 

 

 ですよね!もうそれしか私も思いつきませんもの!ば、バカって言わせませんよお!?アリスをバカにしたのと同意ですからね!絶対許しませんよー!?

 

 

「おお、さすがアリスだ!そんなところが好きだぜっ!」

 

 

 魔理沙がまたほうきを構えます。当然アリス召喚獣を動かし――

 

 

 

 

「すっ…!?」

 

 

 

 

 ……あれ。アリス?急に召喚獣の動きが鈍くなったのは、魔理沙を挑発して攻撃させるためですか?

 

 

「!もらったあああ!!」

 

 

 あ、来ましたよアリス!見事計画通りじゃないですか!?さあ!それをかわして攻撃へ「あ、きゃっ!」、きゃ?

 

 

 

『Aクラス アリス・マーガトロイド 化学     0点       

          VS

 Fクラス   霧雨 魔理沙     化学  394点 』

 

 

 

 あ。アリスの召喚獣がやられちゃいました

 

……ってえええ!?唐突に終っわちゃいましたよ!?まだまだこれから!って雰囲気を醸し出してたのにこの上なくあっさりおわっちゃいましたよー!?

 

 

「クッ…!や、やってしまったわ…」

 

 変な動きになったのはわざとじゃなくて素だったんですね・・・アリスは本当に悔しそうな顔をしています。

 

 よ、よく分かりませんけどなんだか申し訳なくなっちゃう結末ですね!ととりあえずごめんなさい!

 

 

「よ、よっしゃあああ!わたしの勝利ぃぃぃっ!!」

 

 

 対する魔理沙は勝利の雄叫びをあげ、天井を見上げながら拳をかかげました。しょ、勝利は勝利でしょうけどピンキリのキリに属する勝利ですよこれ!ほら、Fクラスの皆さんも

 

 

『しゃあああああっ!』

 

『霧雨、よくやってくれたあああ!』

 

『魔理沙ちゃんナイスうううっ!!』

 

 

 大喜びありがとうございましたもおおおおっ!!

 

 

「では、まずはFクラスが一勝ですね。」

 

 高橋先生が粛々とノートパソコンに今の結果を打ち込み始めました。やっぱりその様はキャリアウーマンにしか見えませんね。こう言ってはなんですけど、母さんとだいぶ違う気がするのに、どうやって仲良くなったんでしょう?

 

 

「はあ…仕方ないわ。で?魔理沙、何を要求するの?」

 

 

 負けても冷静なアリスが言っているのは命令権、ではなくお願い権のことでしょう。非常に納得のいかない結末でしょうになんと律儀な…

 

 

「……霧雨、できるだけ過激な指令を…(ポタポタ)!」

 

「大丈夫、魔理沙なら僕たちの願いを分かってくれるはず…!」

 

「ま~だ言ってるのですか貴方たちは…」

 

 このおバカ二人はスケベ魂に律儀です。同じ言葉でも全然ニュアンスを変えて言えますから日本語って面白いですよね!

 

 

「お、お、おうっ!……じゃ、じゃあ、アリシュ!」

 

 

 魔理沙もなぜか面白いぐらいに顔を赤くし、瑞希さんに負けず劣らずのかみっぷりをだしてアリスの顔を見つめます。

 

 

「なに?」

 

 

 …そんな赤い顔をするって、魔理沙、あなた告白でもしそうな雰囲気じゃないですか。まさかアリスに告白する気ですか?あはは!まさかそんなことはないですよね~!

 

 

 

 

「――つ、つ、ちゅきあってくれだぜ!」

 

 

 

・・・・・・・・・…はい?

 

 

 

「………………買い物にっ!」

 

「?それぐらいなら全然構わないわ。というより、普段一緒に行ってるんじゃ―」

 

「・・・う、ううるせえ!!ぐすっ!ちゃんと約束は守れよっ!?」

 

「わ、分かってるけど…なんで涙ぐんでるの?要望は通ったんでしょ?」

 

「通ったよ!それはもう言葉通りになっ!アリスのアホ!」

 

「??」

 

 

 ・・・・・・混乱しているアリスから背を向け、魔理沙が私達Fクラスの下へと戻ってきました。

 

 

「よ、よくやった霧雨」

 

「よくやったわまりさ!アタイが褒めてあげる!」

 

「お、お疲れ様なのじゃ」

 

「……おう。きっちり勝ってやったぜ」

 

「……もっと、夢あふれる命令を・・・」

 

「やかましいこのスケベが」

 

「・・・・・・スケベじゃない・・・・・・!(ブンブン!)」

 

「す、凄いです魔理沙ちゃん。アリスさんに勝つなんてっ!」

 

「……はは、勝ってもあんまり嬉しくない結果だけどな~」

 

「…あ、あはは…」

 

「ま、魔理沙?なんでそんな・・・・・・その、絶好の機会を逃がしたって顔をしてんのよ?勝ったでしょ?」

 

「勝ったのは試合で、勝負には負けたってことだぜ」

 

「??え、え~と?」

 

「魔理沙、せっかく勝ったんだから、もっと他のお願いのほうが良かったんじゃないの?アリスさんもそう言ってたしさ。」

 

「やかましい。私だってな…って、アホの吉井に言ってもわからんだろうからいいか」

 

「ひどい切り捨て方だね!?」

 

 

 ハ~…と深いため息をつく魔理沙。

 

……もうこれ、完全に私の予感が当たってますよね?全く想像だにしてませんでしたけど、絶対あれですよね?

 

 

「……あの、魔理沙」

 

「ん~?なんだぜ?」

 

 

 万が一を排すため、この言葉で確認をとるとしてみましょう。

 残念そうに肩を落としている魔理沙に、私は聞きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、百合なんですか?」

 

「n★rッhチxlwgタ♡Ze!?」

 

「そうでしたか」

 

 

 

 どうやら張った惚れたみたいです。高校以前からの友人だったんですけど、まだまだ分からないことだらけなのですね…

 

…と、とにかく!本人は微妙な結果みたいですが、Aクラス戦一騎打ち初戦、見事Fクラス勝利です!

 

 

 

 

 

「――ごめんなさい。負けてしまったわ。」

 

 

 アリスが申し訳なさそうに肩を落としながら戻ってきた。そっちも大事だけれど、むしろ私としては、魔理沙との指示権の方でいっぱいである。魔理沙から聞いていたけれど、本当に気付いてないわねこれは・・・。美鈴といい、なんで私の周りは鈍い人が多いのかしらねえ…

 

 アリスの別のことに呆れている私に代わり、代表と愛子がなぐさめにかかった。

 

 

「……仕方ないこと。だから気にしないで。」

 

「そ、そうだよアリス!まだ始まったばかりだから大丈夫だって!」

 

「ありがとう、代表。愛子。」

 

 

 その言葉にホッとしたアリス、だけどそれを良く思わない人が1人。

 

 

「ちょっとアリス!な、なんであそこでいきなり召喚獣を遅くしたのよ!?あれがなかったらレーザーを受けなかったでしょ!?」

 

「木下さん」

 

 

 木下優子さんである。負けたらFクラスの設備と入れ替わるこの一騎討ち勝負、初戦を落として気にしない人はいないから、その反応も決しておかしくは無いわ。

 

 

「…ええ、全く持ってその通り。本当に返す言葉も無い…」

 

 

アリスもそうとう気にしてるみたいでシュンとしてるだけ。厳しいけれど、これもクラスメイトとしての役割。正しいとも言えないけれど、間違ってもない行為だからね。

 

 

「優子っ。ア、アリスもわざと負けたんじゃないからそんなに怒らなくても…」

 

「アリス!あなたが自分が行くって言ったのよ!?だったら責任を持って勝負に挑みなさ―」

 

「うっさいわねー。一敗しただけでまだ勝負は分からないでしょうが。」

 

 

 愛子の言葉も届かず、さらにアリスを責めようとした木下さんだったけど、木下さんよりもがさつな言葉がそれをやめさせた。

 

「霊夢」

 

 

 相も変わらず、気力のないだるそうな目の霊夢が木下さんの叱咤を咎めた。そんな言い方をされては彼女も黙ってはいない。

 

「は、はああ?い、いきなり口を挟まないでくれるかしらあ?博麗?」

 

「口を挟んでんのはあんたでしょうが木下。別にこれで勝負終了じゃないんだから次から勝てばいいんでしょ?あんたは気にしすぎなのよ。」

 

「あなたは楽観しすぎなのよ!それに私が言ってるのはFクラスとの勝敗を気にしてじゃなくて、アリスの失敗が変だったからよ。どう考えたっておかしかったじゃない!」

 

「そんなの誰だってミスすることぐらいあるわよ。あんたはミスしないって言うの?」

 

「う、そ…それはするけど!でもだからってあのタイミングであんなミスはないでしょうがっ!」

 

「だから、誰だって失敗するって言ってんでしょうが。ちゃんと聞いてんのあんた?耳の働きが鈍ってるんじゃないの?」

 

「は、はあああ~?ああなたこそ普段眠ってばかりで、少し脳の働きが鈍ってるんじゃないかしら?」

 

「あ?」

 

「は?」

 

 

 ………はあ・・・あれだけ痛い目に遭ったというのに、この二人は懲りるという言葉を知らないのかしら…

 

 2人がつかみ合える距離まで接近するにつれて、他の人たちが距離を取り始める始末。今のAクラスなら、団結力に関しては最下位かもしれないし、これなら一騎打ちを受けておいてよかったかもしれないわね…

 

 

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着きなさい!私が悪いんだから、責めるのは私に――」

 

「「アリス(あなた)は引っ込んでなさい!」」

 

「………ご、ごめんなさい」

 

 

 自分が発端にあるのは間違いないので、アリスの肩は小さくなるばかり。変わらないわね、その苦労性は…

 

 

「……で、アリス。どうしてあの時動きが鈍ったの?」

 

 

 木下さんと同じく気になっていたので、こそっと私は聞いてみた。

 

 

「……いきなり好きって言われたら、いくら同性でもドキッとしない?」

 

「一理あるわね」

 

 

 なるほど。私も美鈴に突然言われたら、確かに思考回路が真っ白になるかしら。それなら仕方ないわよね。

 

 

「――ならやってみなさい木下ぁ!失敗しないって言うだけならバカでも出来る!やってもないくせに人を責めんなっての!」

 

「いーわよやってやろうじゃないの!!やって私がバカじゃないって証明してやろーじゃないっ!代表!次は私が出るわ!いいわよね!?」

 

「……わ、分かった」

 

 

 いつの間にか代表に詰め寄り、脅迫まがいの希望を言う木下さん。普段よりも何割か剣幕が凄いせいか、いつもポーカーフェイスの代表が顔を引きつらせている。全く、いくらでも他の頼み方があるでしょうに…

 

 

「なんというか…本当に癖がある人が多いわね、うち(Aクラス)は。」

 

「他人事みたいに言ってるけれど、咲夜。あなたもだいぶ凄いと思うわよ?」

 

「僕もそう思うよ咲夜」

 

「訂正を求めるわ」

 

 

 私は少し家族バカなだけだというのに。全く、アリスと愛子の目は少し鈍っているようだわ。今度私が普通だという事をじっくり説明させてもらいましょう。

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、前々回にもぼかして書きましたが、魔理沙、実は百合っ娘でした!あのハンサムメガネは!?と思った方もいたでしょうが、彼にはまた別のところで教師として出てもらおうかと考えています!あくまで予定ですが!

 今回のような感じで次回からも書いていきます!原作ではかなりぱっぱと進んで、結果だけがほとんどという感じでしたので、それをイメージして頂ければ!


 それではまた次回っ!


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中傷―冗談、ではないなら黙っていられませんねっ!

 
 どうも、村雪です!いよいよ大学も再開して、投稿も少しづつ遅くなっていくと思います!なので、もしも間が空いてしまったら気長に待ってもらえたら幸いです!


 さて、ここで一つ今回の内容について、どうしても謝っておきたい部分があるのです・・・・・・

 実は今回、召喚バトルの描写がごくわずかになって、観客席側の会話の方が多くなってしまっているのです!

 つまり、すっごい「こんだけかよ!?」とか「え~、活躍少なっ」って思いになられることだと思います!これ絶対です!

 やることも出来てしまい、面白みを欠く投稿となってしまい・・・誠に申し訳ないっ!なので、今回は過度な期待をせずに読んでいただければ…!


 ――では、期待は少なめに、ごゆっくりお読みください


「では、次の方は壇上に来てください。」

 

「アタシです!」

 

 

 一回戦も終わり、処理を終えた高橋先生が、二回戦の生徒を呼ぶとすぐ後に声が上がりました。

 

 

「木下 優子さんだね」

 

「秀吉君のお姉さんですねー」

 

 

 双子な彼女達の顔はそっくりですが、木下さんの方がどことなく怒って見えるのは性格の違いなのでしょうか?

 

 

「ならば、わしがいくのじゃ」

 

 

 そんな木下さんの名乗りに手を挙げたのは、弟の秀吉君。どうやら姉弟対決になりそうです!

 

 

「木下、勝算はあんのか?」

 

「うむ、姉上と一緒に過ごしておるから、集中力の散らし方も把握しておるのじゃ」

 

「おお、ならいけそうですね!」

 

 

 もしかすれば二連勝ですね!頑張るんですよ秀吉君!

 

 そのまま秀吉君は壇上へと上がり、2人が揃ったので試合が始まろうと――

 

 

 

「・・・・・・ねえ、秀吉」

 

「ん?なんじゃ姉上」

 

「……Cクラスの小山さんって知ってる?」

 

「…………」

 

 

 ……あ。な、なんだかまずい雰囲気じゃありません?秀吉君が一瞬にして顔を青くし始めましたよ?

 

 

「…え~と、だ、誰じゃったかなあ~?どうも最近忘れっぽくていかんの~~」

 

「そう。ならしっかり思い出してもらわないとね?ちょっとこっち来てくれる?」

 

「あ、いや待ってくれ姉上―!」

 

 

……2人は廊下へ行っちゃいました。

 

こ、これはいけません!咲夜さん達から聞いた情報で出来上がった私の『木下さん』像は、見境なくケンカをしちゃう血気盛んなワイルドレディー!そんな彼女が、自分が陥れられたことを知ったとなると…!秀吉君が血の海に沈むビジョンが!?

 

 

「ちょ、ちょっと私も失礼しますー!」

 

「あ、メ、美鈴(メイリン)さん!?」

 

 

 からりと全く鈍らず滑らかな扉を開けて、私は教室を出ました。そして左右を確認、すぐに2人の姿を見つけます!

 

 

 

「あ、あ、姉上。わしの腕から手を離してほしいのじゃが…」

 

「おだまり。秀吉?アンタなにCクラスでやってくれたのかしら?なんだか私がCクラスの人たちを豚呼ばわりしたことになってるのだけど?」

 

「…あ、う、そのじゃな?色々と事情があってのことでの?じゃ、じゃから許してほしいの~、なんて―」

 

「……はあ」

 

 お、おおっと?木下さんが深い溜息をつきました。もしかして許してあげるのでしょうか?なら心配する必要もありませんし、私が勝手につけた木下さん像を撤回―

 

 

「とりあえず、一回ぼこぼこにしてから話を聞いてあげるわ。」

 

「理不尽じゃ!」

 

―どころか、言い足りなかったかもしれません。無慈悲な修羅少女と呼ぶことにしましょう。

 

 

「ま、まあまあ木下さん、落ち着いてください!」

 

 

 そんな人を止めるのはかなり怖いんですけど、これもクラスの為私の為!秀吉君の不戦敗を防ぐために、私頑張りますっ!

 

 

「ホ、紅(ホン)!」

 

「何よ?今弟の折檻をしようと思ってるから、後にしてくれない?」

 

「い、いえその折檻を止めたいわけでして~…」 

 

 

 うわ~、だいぶご立腹ですよこれ………ひ、ひとまず言ってみるだけ言ってみましょうか。

 

 

「そ、そのCクラスに秀吉君が変装して言った件は、私たちFクラスの為だったんです!ですので、秀吉君だけが悪いってわけじゃないんですよっ!」

 

「……それで?」

 

「えーと、ですから、秀吉君を許してあげてほしいな~というわけです」

 

「無理ね。文句ある?」

 

「ごめんなさい秀吉君」

 

「お主、諦めが早すぎるぞいっ!!」

 

 

 私の意思は木下さんの足元にも及びませんでした…

 

 だって、木下さんからすっごい怒りのオーラが漂ってますもの!こんなの私じゃ太刀打ちできません!変に止めたら絶対矛先が私になりますよね!?だからここは秀吉君、実行犯のあなたが怒りの業火に焼かれるのです!骨はしっかり拾ってあげますから!

 

 

「そう、じゃあいいわよね?秀吉?」

 

「あ、あぁああ……」

 

 

 じわじわと秀吉君の時間が尽きようとしはじめます。あ~、二回戦は私たちの不戦敗ですか…出来れば勝ちたかったところなんですけどね……

 既に秀吉君の事を諦め、勝負の行く末を気にする非常に薄情な私でした。

 

 

 

「だいたい、なんで私がFクラスみたいな低能集団なんかのために泥をかぶらなきゃいけないのよ」

 

 

――――が、そんな私でも、ぼそっとつぶやかれた木下さんの言葉は聞き逃せませんでした。

 

 

「・・・・・・えーと、木下さん、今なんて言いました?」

 

「ッ!?な、何も言ってないわよ」

 

 

しまったと顔をしかめる木下さん。口に出すつもりはなかったということでしょうが…それすなわち本音という事。

 

……う~ん・・・やっぱり知りあいをけなされるのは、良い気分ではないのですよ。

 

 

「木下さん。言っていい事とダメな事があると思いますよ?」

 

 

 おバカなのは否定しませんけど、誰も彼もが一生懸命に頑張って日々を過ごしているのを低能、という言葉で纏められるのはさすがにいやなのです。あんまり違いはないのかもしれませんが、バカと言う言葉に愛嬌があると言うのに対して、低能と言うのはただ侮蔑しているだけ、と私は思えてならないのですよ…

 

 気付けば私は、責めるような言い方で木下さんに注意をしていました。自分でもガラではないと思えます。

 

「・・・そ、そうだけど!でも的外れなことじゃないでしょ!?」

 

 

ここで彼女が謝ってたらそれで終わっていたでしょう。でも、彼女は謝ってくれませんでした。

 

 

「……確かに、的外れなことを言っていないかもしれません。でもね、そのくくりの中にはあなたの弟の秀吉君も入ってるんですよ?ひどくないですか?」

 

「ふんっ、勉強せずに演劇ばっかにうつつをぬかしてるからそうなるのよ。自業自得だわ」

 

「か、返す言葉も無い…」

 

「つ、冷たいですねえ。姉ってものは、妹や弟がいれば何かあるたびに守って、励ましてあげるのが私のポリシーです。・・・・・・咲夜さんは私より立派ですから、あまり口出しできないんですけどね」

 

 

 思考の押し付けかもしれませんけど、家族には優しくするのが家族、って私は思ってます。母さんに与えられたように、私も少しでも同じことをしたいんですよ。

 他の家の事に文句を言うのがおかしいとは痛感していますし、申し訳ないとも思います。

 

……でも、寂しいことはやっぱりやめてほしいのですよ。血のつながりもある姉弟なんですから。血のつながりは無い私達でもこれほど素晴らしくあれるのですから、2人ならもっとうまく行けますよ。

 

 

「……あ~、そういえばあなた、十六夜のお姉さんだってね」

 

 

 すると、急に木下さんの口調が激しいものから落ち着いたものに変わりました。・・・・・・どことなく、気の毒な物を見る目にも見えます。ん?なぜでしょう?

 

 

「あ、はい。そうですよ?」

 

 

 もちろんレミィやフランもそうですけど、咲夜さんの姉でいられることを私は嬉しく思っています!ですから、その気の毒そうな眼は止めていただければ嬉し―

 

 

 

 

 

「大変ね。あんな自分勝手な奴の姉だなんて――」

 

 

「ああん?」

 

 

「っえ…!?」

 

「!?あ、姉上…!」

 

 

――久々に、そんな乱暴な言い方をしてしまいました。

 

…あんな奴?私の目の前で咲夜さんをくさすなんて、良い度胸してやがりますねこら。

 

 

「…木下さん」

 

「な、何よ」

 

 

 これはもう、許容範囲を超えました。しっかり訂正、謝罪をしていただきましょうかね!

 

 

 

「秀吉君の代わりに、私があなたと一騎打ちをさせてもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラッ!

 

 

「あ、戻ってきた」

 

 ちゃんと3人ともだ。秀吉がお姉さんにぼこぼこにされるんじゃないかって不安だったけど、よかったよかった。

 

 

「・・・ん?」

 

「め、美鈴さん・・・?」

 

「・・・メーリン、なんか変ね?」

 

 

 ?魔理沙と姫路さんとチルノはあんまり嬉しくなさそう・・・というか、不思議そうな顔で美鈴さんを見ているぞ?どうしたんだろう?

 

 

「どうしたの3人とも?」

 

「いや・・・何か美鈴の奴・・・怒ってないか?」

 

「へ?」

 

「わ、私もそう思いました・・・」

 

 

 そうだったかな?もう一度確認を―

 

 

「坂本君」

 

「うわわっ!?」

 

 

 い、いつの間にか僕の後ろに移動してたよ!今入って来たばっかりなのにすごい速さだね!

 

 

「どうした、紅?」

 

 

 僕はびっくりしたのに、雄二は全然驚いてない。悔しいけれど代表の貫録ってやつかな?

 

 

「はい。……この木下さんとの勝負、私にさせてもらえませんか?」

 

「え?」

 

「なに?」

 

 

 でも、美鈴さんの唐突なお願いを聞いて、雄二がしかめっ面になった。

 

 

「お前には、また後で出てもらう予定なんだが」

 

「それでもです。私をこの一騎打ちに移動させてください」

 

「……ダメだと言ったら?」

 

「無理やりにでも出て勝負するだけです」

 

 え、ええっと?ど、どうしたんだろう。こんな頑なな美鈴さんは初めて見たよ。姫路さん達の言う通り怒ってるのかもしれないけれど、廊下で何があったのだろう?

 

 

「・・・勝算はあるのか?」

 

「それは後で勝負しようとも先で勝負しようと同じだと思います……が、意地でも勝ちます」

 

「……」 

 

 

 美鈴さんの勝利宣言に、雄二は考える素振りを見せだした。確かに美鈴さんの言う通り、雄二が予定していた人(誰なのかは知らないけど)と勝負をしても絶対勝てる保証はない。でも、今の美鈴さんは迷うことなく『勝つ』って言うぐらいだから、今勝負をしてもらえば絶対勝てるんじゃないかな?

 

 

「……仕方ない、好きにしろ。ただし絶対勝てよ?いいな?」

 

 

 同じ考えになったのか、雄二が条件を付けて折れた。その迫力ある顔で念押しをしてくる雄二にも動じず、美鈴さんは力強く頷いた。

 

 

「お任せを。では行ってきます」

 

 そのまま壇上へと登っていった。

 

 

「ねえ秀吉。廊下で何があったの?」

 

 

 美鈴さんの変化が気になるし、一緒にいた秀吉に聞いてみた。くうっ!ハラハラした様子でステージを見上げる横顔がまぶしい!思わず目を細めてしまったよ!

 

 

「ん?あ、ああ。ちょっと、の。わしも悪いのじゃが、姉上が少々な」

 

「??そうなんだ」

 

 

 何のことか分かんないけど、とりあえず分かったことにしておこう。物わかりが悪くて、あんまりバカって思われたくないからね!(※おそらく誰もが分からないでしょうし、既に思われています)

 

 

「ずいぶん自信があるみたいね。ひょっとしてなめられてるのかしら?」

 

 

 ステージに上った美鈴さんに、木下さんは怒り気味に声をかけた。さっき雄二と話していた内容が聞こえたのかもしれない。

 

 

「いえ。ただ、絶対勝たなきゃいけませんからね。自分に活を入れる意味での発言ですよ」

 

「ふうん…」

 

 

 なめているのではないと言う美鈴さんだけど、自分が負けるって言ってるのに変わりは無いから、木下さんの顔は変わらない。う~ん、秀吉と違ってちょっと迫力があるなあ。秀吉だと怒っても可愛いもの。

 

 

「で、木下さん。私が勝ったら、きちんと守ってくれますね?」

 

「ええ。その時は撤回して謝るわ」

 

「オーケーです」

 

 

 ん?何の話?魔理沙達みたいに罰ゲームを決めてるの?だったら、僕たちにも利がある内容にしいてほしいなあ・・・

 

 

「アキ、あんたやらしい顔になってるけど、何を考えてるのよ?」

 

「はっ!?つい欲望が!」

 

 

 いかんいかん、正気はしっかり保たねば。君は紳士なはずだよ吉井明久。人に悟られるようではまだまだだ。目指せ性職者ムッツリーニだ。

 

 

「Fクラスからは木下秀吉君だったと思うのですが・・・紅美鈴さんに変更したんですね?」

 

「はい。勝手にすみません」

 

「いえ。それでは、教科はどうしますか?」

 

「木下さん、どうしますか?」

 

 

 美鈴さんは、木下さんに教科を選んでもらうみたいだ。僕たちは全部で四回、さっき魔理沙が選択したから後三回は勝負科目を選べる。だから美鈴さんも選んでいいんだけど・・・大丈夫なのかな?

 

 

「・・・じゃあ、国語でいいかしら?」

 

「異論はありません」

 

「では、科目は国語ですね。2人とも、召喚してください」

 

「はい。試獣召喚(サモン)っ!」

 

「試獣召喚(サモン)!」

 

 

 ほぼ同時に、2人の召喚獣が出現してくる。木下さんの召喚獣は、さっきのアリスさんと同じでゲームなんかでよく見る、先が細くてだんだん太くなってる槍だ。体もよろいで守っていてなかなか強そうな格好だ。

 

 

『Aクラス 木下 優子 国語 346点 』

 

 

「あ…や、やっぱり凄い点数ね」

 

 

 美波の言う通りだ。得意科目を選んだからっていうのもあるだろうけど、さすがAクラスなだけある。僕なんかじゃとても太刀打ちできないね。

 

 対する美鈴さんは手には何も持っておらず、代わりにその拳を木下さんに突き付けて構えを取っていた。見ただけでも拳法で闘うってのが分かる状態だ。それをさらに分からせるのが身に纏った緑色のチャイナ服・・・・・・冷静に考えると、僕の好みど真ん中な服装だあれ。あれを誰かが着てくれたら・・・・・・!!

 

 

「よ、吉井君っ。またエ、エ、エッチな顔をしてますよ!」

 

「うそっ!?あいて!?」

 

「アキ!いったいどこを見てそうなったのよ!」

 

 

一応表情を隠したつもりだったんだけど…僕ってそんなに顔に出るのかな?

 

 

「なにやってんだぜ吉井・・・」

 

「……女子の前では自重するべき」

 

「人のパンツを普通に撮ったりしてるムッツリーニに言われても全然納得いかないよ!」

 

「……そんなことはしていない・・・(ブンブン!)」

 

 僕に拳を下した美波たちが少し離れた場所に移動したのと同じタイミングで、魔理沙とムッツリーニが呆れた顔で僕に話しかけてきた。このムッツリには〝自重〟と言う言葉を言っていい権利は認められまい。

 

 

「メ、美鈴さんの召喚獣がチャイナ服だったから、ついぐっときたんだよ。魔理沙とムッツリーニも分かるでしょ!?」

 

 脚を丸出しにした非常にセクシーなチャイナ服。この素晴らしさはデフォルメされた召喚獣でも衰えていない。ムッツリなムッツリーニと恋に生きる魔理沙になら共感してもらえるよね?  (× 恋とチャイナはほとんど関係がありません)

 

 

「いや、しねえよ。そもそも人間が着てないしな」

 

「……明久、現実と偽物の区別はつけるべきだ」

 

「犯罪すれすれのことをしてるムッツリーニにすっごいまっとうな事を言われた!?」

 

「……犯罪ではない。たまたまその場に居合わせただけだ…!」

 

 そんなスケベな幸運をささげる神なんか滅びてしまえ!お腹をすかせる僕に恵みをやるとかもっと大事なことがあるよね!?

 

 

「……まあ、――スが着てたら・・・いや、あいつには洋服の方が―」

 

「へ?何魔理沙?」

 

「あ、いや!?ほ、ほら試合を見ようぜ!もう始まるしな!」」

 

「あ、うん、そうだね」

 

 

 クラス分けの大事な勝負だもんね。しっかり見ておかなきゃいけないや。

魔理沙の言葉にうなずいて、僕はそこで話を区切って壇上の2人を見た。

 

 

「……」

 

「……」

 

 2人とも召喚獣を構えさせている。けど、その視線は別々の方に向いていた。

美鈴さんは木下さんを、その木下さんは美鈴さんの隣、つまり、召喚獣の点数を凝視していた。

 

 そのまま、ポツリと一言。

 

 

 

 

「・・・あ、あなた、本当にFクラスなの?」

 

「はい。色々ありましたが、Fクラスです」

 

 

 美鈴さんは不敵に笑いながら、そう答えた。

 

 

 

『Fクラス 紅 美鈴 国語 380点』

 

 

『ええっ!?』

 

 

 き、木下さんの点数を超えちゃってる!?す、凄すぎるよ美鈴さん! 前の時よりも高くなってない!?

 

 

「すごい点数じゃない!?美鈴ってそんなに賢かったの!?」

 

「あ、姉上より上じゃとは・・・!」

 

「さすがはアタイの子分!褒めてやるのよさ!」

 

「チ、チルノちゃんも美鈴さんを見習って頑張りましょう!きっと出来ますよ!」

 

「みずきっ!なんだかアタイがバカって言ってない!?」

 

「い、いえ言ってません!」

 

 

 姫路さんがそうやってチルノを励ますけど、僕が保証しよう。ぜったい無理だね!僕だって無理だもの!

 

 

「・・・でも良く考えたら、あんなに点数が取れるのなら、クラス分け試験も絶対良いよね?」

 

「・・・・・・確かに」

 

 

 難しくて問題が解かなかったって言ってたけど、そんなことも無い気がするけどなあ?

 

 

「ぐ…で、でも負けるのが私とは決まってないわよ!覚悟しなさい!」

 

「無論私も負ける気はありませんよ!覚悟!」

 

 

 2人の召喚獣はその言葉を火ぶたに動き出した。

 

木下さんの召喚獣が武器のランスで突き、払い、そして殴りかけるなどして攻撃し、美鈴さんの召喚獣はそれらをかわし、時には手でふせいでから殴り、蹴り出す。どっちも負けてない攻防だ。

 

 

「せえいっ!」

 

「やあっ!」

 

 

 そのまま2人の召喚獣はヒートアップ。どんどんと槍と拳を交わしていく。

 

 うわあ~・・・召喚獣の扱いの上手さは僕だけの専売特許だと思ってたのに、この二人も負けてないなぁ・・・僕の半年の修行 (注:お手伝いです) が彼女たちの一週間ちょいで追い越されるなんて、悲しいなあ・・・

 

 

「おい明久、俺たちには決して悪くない状況なのに、なぜ泣きそうな顔になってるんだ?」

 

「とっても凄いから僕は悲しいのさ、雄二」

 

「あん?」

 

 悪友である雄二には分からないだろうね。この僕の苦しみは・・・

 

 

「ところで雄二、君は気にならないの?あんなに美鈴さんって凄かったっけ?」

 

「ああ。確かに十分な点数だな。なんでもAクラス戦に向けて頑張ったそうだ。さっき聞いた」

 

「へ~、偉いなあ」

 

「他人事みたいに言ってるが、お前はしっかりやったんだろうな?」

 

「やだなあ。しっかりしたよ?」

 

 

 一日三十分も教科書を見たよ。これは褒められてもおかしくないんじゃないかな?

 

 

「・・・まあ、お前に進んで勉強をやるとは思えんがな。」

 

「じゃあ聞くなよっ!というかちゃんとしたよ失礼な!」

 

「あら、それは絶対嘘よね?」

 

「「うおおっ!?」」

 

 

 突然の声にびっくりしながら振り返ると、きれいな銀色の髪と薄緑色の目が特徴の十六夜さんが立っていた。な、なんでここに十六夜さんが!?

 

 

「ど、どうしたんだ十六夜。ここは一応Fクラスの陣地だぞ?」

 

「ちょっと姫路さんと会話をね。ね、姫路さん?」

 

「あ、は、はい。」

 

 なるほど、隣後ろには姫路さんがいる。本当に十六夜さんは自由に動くなあ。そこも美鈴さんをまねたのかな?

 

 

「ところで坂本君。今は美鈴が出ているけど、最初は秀吉君に出てもらう予定だったのよね?」

 

「ああ。この試合に出たいと言われたんでな。最初は困ってたが・・・この調子だと問題なさそうだ」

 

 雄二はちらりと勝負を繰り広げている壇上を見る。ちょうど美鈴さんの召喚獣が木下さんの召喚獣の胴を捉えた瞬間だった。

 

 

「あっ!」

 

「すきありいっ!」

 

 

『Aクラス 木下 優子 国語  136点

      VS 

 Fクラス 紅 美鈴  国語  194点 』

          

 

 

 美鈴さんも点数が減っているけれど、それ以上に木下さんの点数の減りの方が大きい。雄二の言う通り、これならいけそうだ。頑張れ美鈴さん!

 

「・・・確かに、ちょっと苦しいみたいね」

 

 

 十六夜さんは残念そうにはあと溜息をついて木下さんを見て、ぽそりと一言。

 

 

「――敵である私が勉強を見たって言ったら、木下さんに亡き者にされそうだわ」

 

 

「・・・え?ひょっとして美鈴さんの今の点数が前の時より良いのって、十六夜さんのおかげなの?」

 

「結果的に言えば、まあそうかもね。教えてって頼まれたからつい、ね」

 

「ほう、だったら十六夜には感謝しないといけないな。十六夜はそれで良かったのか?」

 

「Aクラスとしては大いによくないでしょうけど…・・・姉が頑張るって言ったんだもの。妹としては精一杯応援したいじゃない」 

 

 

 そう言って恥ずかしそうな笑いを浮かべる十六夜さん。う~ん、美鈴さんは愛されてるなあ。僕にも一かけらでもいいからその愛を分けてほしいなー。

 

 

「…何か、言葉に出来ないぐらいの気色悪さをあなたから感じたわ。ちょっと遠くに行ってくれないかしら?」

 

「君の頭には人権って言葉が無いの!?」

 

「お前に人権って言葉が適用されるのか?」

 

「されないわよね?」

 

「いつ僕が人類を止めたってのさ!じゃあ今の僕って何なの!?」

 

「バカだろ?」

 

「変態でしょ」

 

「侮辱の言葉が、いつの間にか新しい生命の学名みたいになっちゃってるよ…」

 

 なんだろう。この2人は僕を見たら何か悪口を言わないといけない病とかにかかってるのだろうか。先生、早く特効薬を作ってください。

 

 

「い、十六夜さんっ、坂本君。そんな言い方はダメですよ」

 

「ひ、姫路さん…!」

 

 彼女だけが心優しく僕を擁護してくれる。ああ、僕の心は凄く救われたよ!小学校からの付き合いだけれどやっぱり君は天使だね!

 

 

「あ、ごめんなさいね姫路さん。ついね」

 

「すまんな姫路。俺もついな」

 

つい、で人を罵倒するって人としてどうなのだろうか。この二人の未来が少し怖くなるよ。

 

 

「姫路さん、かばってくれてありがとう」

 

「あ、いえ。いま―でのことに―――ばこのくらい…」

 

 

 ん?声が小さくて聞き取れなかったな。

 

 

「ところで吉井君。さっきチルノちゃんから聞いたんですけど、あんまりバカバカって言っちゃダメですよ?元気なチルノちゃんも傷ついちゃうかもしれないんです」

 

「う、で、でもね姫路さん。チルノがバカなのはもう免れられない事実で―」

 

「あなたにバカなんて言われるなんて、彼女も気の毒ね」

 

「まったくだ」

 

「そうですよ」

 

「僕がバカなのは否定しないの姫路さん!?」

 

 長年の付き合いよりもバカなチルノとの友情のほうが勝ってしまったみたいだ。友情ってもろいものだなあ…

 

 

『せえええええいっ!』

 

『あっ!?』

 

「あ」

 

 

 その声は、僕を含めた4人からあがった。

 

 美鈴さんの召喚獣が木下さんの召喚獣の顔を捉え、吹き飛ばされた召喚獣はピクピクと動いているけど、起き上がる様子は無い。

 

 

 

『Aクラス 木下優子 国語 0点』

 

 

 点数を見ても、木下さんが負けたのは一目瞭然。僕たちFクラスは見事二連勝を達成した瞬間だった。

 

 

「どうやら、紅が勝ったみたいだな」

 

「・・・そうみたいね。悲しめばいいのやら、喜べばいいのやらや・・・」

 

 そう言ってはあ、と深く息をつく十六夜さん。確かに、顔にいろんな気持ちが浮かんでて凄いことになってる。ちょっと笑いが噴き出したのがばれたら極上の罵倒が襲い掛かってくるので、ここは目を合わせずに下の方にやっておこう。

 

 ・・・うん。これなら特筆することがない胸部があるだけで何も――

 

 

「・・・あなた、人の胸見て笑うなんて、消されたいの?消されたいのよね吉井明久・・・!!」

 

「最悪だな、明久」

 

「ひどいです、吉井君・・・」

 

「・・・え、え~とね」

 

 

 最初の笑顔が消せてなかったみたいだ。今度、ムッツリーニに感情を無くす訓練をつけてもらおう。

 

 ひとまずは、青筋を立てて接近してくる十六夜さんをなんとかしがふっ

 

 

 

 

 

 

「ふう。・・・私の勝ちですね、木下さん」

 

「ぐっ・・・」

 

 悔しそうな顔をするという事は、自分が負けたと認めている証拠。辛くも勝利した私は、木下さんに歩み寄って言います。

 

 

「では、しっかり約束は守ってくださいね」

 

「・・・わ、分かってるわっ!」

 

 

 う~ん。木下さんはやっぱり気が短いのかもしれません。ちょっぴりやけ気味に言い放ち、木下さんは私を睨みます。

 

 ・・・でも、それは一瞬のこと。

 

 

「あ、の…その。……ひ、酷いことを言ってごめんなさい。あの言葉は撤回するわ」

 

「はい。しっかりと耳にさせてもらいました」

 

 

 頭を下げてしっかりと謝罪、あの言葉の撤回をしてくれました。

 

 私が要求したのは、私が勝った時に木下さんに咲夜さん、そしてFクラスの皆さんをけなしたことについて言葉を撤回することと、言ったことに対しての謝罪をしてもらうことです。本当は咲夜さん達本人に言った方が良いとは思うのですが、そんなことをすれば木下さんに嫌な目を向けてしまうようになるかもしれません。なので、勝手ながら私が木下さんの謝罪を受け止め、今回の件は無かったことにしようと思っての提案でした。

 

 誰しも苦手な人や良く思わない人がいて当然。だから木下さんの考えも言わば当たり前のことだと思います。かく言う私もいますからね!根本君とか根本君とか根本君とかです!

 

 

「きちんと謝ってくれてありがとうございます!」

 

 

 約束とは言え、自分に非を認めるのは癪(しゃく)なこと。それを我慢して謝ってくれた木下さんにはお礼を言わなきゃいけませんよね!

 

 

「…へ、変な人ね、あなた。あなたが頭を下げる理由がないじゃない」

 

「それでもです。木下さん、ありがとうございますね」

 

「…ふ、ふんっ!もうこの話は終わりよ!あ~、もう負けちゃったわもう!」

 

「あ、あははすいません・・・」

 

 木下さんが顔を真っ赤にして声をあげ始めます。う~、でも勝負だから許してくださいよお。事情が無かったにせよ負けるわけにはいかなかったんですっ!

 

 

「で、でも次に何かあったら、絶対負けないわよ!覚悟してなさい!」

 

「は、はあ・・・」 

 

 どうも怒りが収まらないのか、やられ役みたいなことを早口で言ってから、木下さんは駆け足で壇上を下りて、自陣であるAクラスの皆さんのいる方へと入って行ってしまいました。

 

 

「ではFクラスの勝利で、2対0ですね。」

 

高橋先生のお言葉を持って、めでたく二連勝。ですけど、私の心はしょんぼりです。

ひ~~ん!私嫌われちゃいましたよ~~っ!! 

 

 

 

 

 

「負けてんじゃない」

 

「……あんたに言われると反吐が出るくらい腹が立つけど・・・負けたわ」

 

「ま、まあまあ。霊夢に優子、そんな仲間割れしちゃだめだよ」

 

「……負けた人を責めるのは良くない」

 

「そうよ霊夢。仲間なんだからもうちょっと穏便に・・・・・・・・・う、うん。負けた人が言うべきことじゃないわよね。今すぐ黙るから、その微妙な目はやめて?」

 

 自分の保身のためにアリスは言ったんじゃないんでしょうけどね。アリスは本当におせっかいで、優しいのだもの。だからこそ、私や霊夢なんかとも友達をやっていけるのでしょうね。

 

 

「博麗にだけは言いたくなかったけど、負けてしまってごめんなさい。それとアリス、酷いこと言って本当にごめん・・・」

 

「ちょっと、最初の一言は余計よ」

 

「いいのよ優子。気にしないでちょうだい」

 

 

 ほら、今も木下さんに優しくしてあげてるわ。私も何度お世話になったことやらや…

 

 

「・・・ありがとう。あーアリスは優しいわ~。どこかのバカリボンとは違うわねえ…」

 

「・・・おいこら、喧嘩売ってるなら高くつくわよ?」

 

 

 そして、霊夢の短気には何度世話を焼かされたのやらや・・・もう少し代表みたいに冷静になれたら、大和撫子って言っても違和感ないと思うのにね。

 

 

「・・・2人とも、そこまで。それより次の事が大事」

 

「・・・分かったわ」

 

「うん、代表」

 

 

 代表の言葉に霊夢がしぶしぶ引き下がって、木下さんも素直に口を止めた。

代表の言う通り、私たちは二敗とだいぶ余裕が無くなってきている。つまり、私たちが勝つにはあと一度しか負けを許されない。さっきまで話していた坂本君達には、まだ姫路さんもいるわけだし、ここからはより真剣に代表を決めなくては、ね。

 

 

「僕が行こうか?」

 

「あ、久保君」

 

 

 名乗りをあげたのは、学年でも五本の指に入る秀才、久保 利光(としみつ)君。確かに彼なら遅れをとることもないでしょうね。いいのではないかしら?

 

 でも、それを止める声が上がった。

 

 

「待って。私が行くわ」

 

「え?霊夢が行くの?」

 

 

 珍しいわね。面倒くさがりな霊夢が自分から動くなんて。

 

 

「ええ。やっぱり賢い奴は後に取っといた方がいいでしょ?」

 

「・・・まあ、確かにそうかもね」

 

「……霊夢がいいのなら、問題は無い」

 

「じゃ、決定ね。んじゃ行ってくるわ」

 

「頑張れ、霊夢!」

 

「しっかり、博麗さん」

 

「シッカリ負けて来なさい、博麗」

 

「木下、首洗って待ってなさい。後でしっかりしばいてやるわ」

 

 

 

 そんな事を言われながら、すたすたと歩いていく霊夢に気負った様子はまるでない。よほど自信があるのか、何も考えてないだけか・・・霊夢だとそっちの可能性が高いから困るわ・・・

 

 

「・・・ま、なんとかなるかしら」

 

 

 なんだかんだで霊夢ったら賢いものね。相手がよほどじゃない限り勝てるでしょう。

 

 

「……ねえ、十六夜」

 

 

 すると突然、木下さんが私に話しかけてきた。ご立腹の時以外に話すのは、ひょっとして初めてじゃないかしら?

 

 

「何かしら、木下さん」

 

「…悪かったわね」

 

「は?」

 

 

 前触れもなくいきなり謝られたのだけど・・・…一体何に対しての謝罪?別に何もされてないと思うのだけど・・・…

 

 

「木下さん、一体何の謝罪なのかしら?」

 

「…知らなくていいわ」

 

 

 謝っておいてその返しはどうなのだろう。これで、謝罪を素直に受け止めていいものなのか・・・…

 

・・・まあ、いいのかしらね?受け取っておくとしましょう。

 

「分かったわ。」

 

「ん・・・あ~あ。にしても紅美鈴があんなに点数が高いとは思わなかったわ。おかげで負けちゃったわよ」

 

「そうね。でもそこまで気にしないでいいんじゃないかしら?まだ勝負は五回あるのだからね」

 

 

 そのうち四回を取ればいいのだからまだまだ勝負は分からない。木下さんが気をもむ必要もないので、私は当たり障りのない言葉をかけてみる。決して、私が裏で美鈴に勉強を教えていたのを隠すためではないわよ?

 

 

「…違うわよ十六夜」

 

「?何が?」

 

 

 この勝負は七人勝負で決定事項よね?何も間違っていないと思うけど・・・…

 

 

「私の敗北は・・・…博麗のバカが勝った時よ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 もう、この二人はクラスを分けた方がいいんじゃないかしら・・・?

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 やっぱり、戦闘をざっくりしすぎて期待に応えられなかったでしょうか…!!

 応えられてたら幸せ!ダメだった方には再度謝らせてください!本当にすいませんでしたーっ!!

 
 さて、次回も勝負になるのですが、今回みたいに進む可能性がだいぶあります!なので、過度な期待はせずにお待ちいただければ…!!

 それではまたっ!・・・戦闘描写について学ぶのを、本気で検討するべきか・・・!?


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失態―注意、が裏目に出てより悪化ですかぁ!?

 どうも!村雪です!まだまだ新学期に慣れません!

 今回も前回からと同様、さっくりと話が進んでいきまーす!なので、バトルにはあんまり期待をしないでくださいね!コメディssを目指してますから~!


――では、ごゆっくりお読みください。


「では、三戦目の代表は前に出てきてください。」

 

「はいはい!アタイが出るっ!」

 

「む、無理ですってチルノ!気を確かにしなさい!」

 

 

 木下さんとの二回戦が終わり、高橋先生の三回戦の選手呼びかけに元気な声で手をあげるチルノ。私は全力で待ったをかけます。これが正気じゃない状態での発言ならまだしも、本気で言ってるのですからなお困るのですよ~!

 

 

「さかもと!アタイが出てもいいよね!?」

 

「ん~…しかしだなチルノ。自信があるのか?」

 

「ふふん!自信しかないのよさ!」

 

「そうか…」

 

 

 それって負ける自信のことじゃないでしょうね!?

 

 でも、私が思ってたより坂本君は反対するような素振りがありません。私たちの二連勝が効いているのでしょうか?

 

 

「よし、ならチルノ。お前の得意科目で勝負を挑め。そして勝ちに行け。いいな?」

 

「がってんだい!」

 

「――い、いいのですか坂本君?」

 

 許可が出て嬉しそうに壇上に登っていくチルノを私は心配しながらも、坂本君に真意を尋ねます。

 

 

「ああ。別に一度くらいは負けても、他の試合で二戦取ればいい」

 

「ふむ、そんなものですか」

 

「それに残るうちの連中で、Aクラスと渡り合える戦力になる奴は、姫路とムッツリーニぐらいだからな」

 

「もの凄く納得しました」

 

 

 誰が出ても結果が同じなら、自発的にやりたがる人をあてがうのは当たり前ですよね。手強いAクラス相手に名乗り出るチルノの怖いもの知らずなところは、純粋に最強

だと思えますよー。

 

「せんせー!アタイは英語で勝負するわ!」

 

「はい、分かりました」

 

 

 チルノが教科を選んだことで、私たちの選択権はあと二つ。でも、最後に選ばないといけないので実質あと一回です。ここからはさらに慎重に行かないといけませんね…!

 

 

「とはいえ教科を決めれたんだから、チルノもそこまで弱いわけではない。少しは期待しても悪くあるまい」

 

「だ、だといいんですがね~」

 

 

 かなり可能性は薄い気はしますが、ひょっとしたら、ひょっとするかもしれません!

しかしそうなると、後は相手のAクラスの代表ですね。その人次第ではなんとかなるかもしれませんが・・・はたして相手は――

 

 

「あ~、あんたが私の相手?」

 

 

「ああ、これで二勝一敗ですね」

 

「たまにお前はチルノにひどいな、紅」

 

 

 いや、否定はできませんけど、今回に関してはチルノの相手を買ってのことです。

 

 うわ~、あ、あなたが相手ですか~・・・霊夢!

 

 

「そうよ!覚悟することね!」

 

「しないっての。さっさと終わらせてもらうわよ」

 

「なんだとーっ!?」

 

 

 霊夢のつっけんどんな言い方にチルノは腹を立てますが、別に挑発をしているわけではありません。あくまで霊夢の普通の話し方なのです。

 

 

「では、召喚を始めてください」

 

「人をなめてると痛い目にあうわよっ!試獣召喚(サモン)ッ!」

 

「かもね……あうのはあんただけども。試獣召喚」

 

 

 現れた霊夢の召喚獣は、なぜか脇の部分だけがない赤と白を交えた巫女服姿。手にはお祓い棒を持っていて、誰から見ても完全に巫女スタイルです。

 

・・・・・・優しさと礼儀正しさが売りの巫女に霊夢がなるって、絶対あってはいけない組合わせですね。巫女さんの歴史が一瞬にして終わっちゃう気がします!

 

 

「んじゃ、さっさと終わらせるわよ」

 

「それもそうね!さっさと終わらせてやるわ!とりゃあああ!!

 

 

 チルノの召喚獣がトライデントを構え、巫女服姿の霊夢の召喚獣へと駆け寄ります。その気迫は本当に凄い!気迫なら余裕に霊夢に勝ってますね!

 

 

「くたばるのよさーっ!」

 

 

 気合いが十分なチルノは、勢いよく武器を突き出し、霊夢の召喚獣のお腹へとその先が突っ込――!

 

 

 

 

 

「はいよー」

 

 

 

 

 ゴキィィィンッ!!

 

 

「げっ!?」

 

 

 ――む前に、霊夢のお祓い棒がチルノの召喚獣の顔面に叩きこまれました。もう木の棒から発せられた音じゃありませんね!恐るべし、木!

 

 

 

 

『Aクラス 博麗 霊夢       英語 311点

         VS

 Fクラス チルノ・メディスン  英語  199点』

 

 

 

 いくら気迫があっても、点数の壁は越えられなかったみたいです。やはり二勝一敗になるわけなのですね~・・・

 

 

「う、うそなのよさああああっ!!?」

 

「事実よ。私の勝ちね」

 

 

 手をついて嘆くチルノにも、霊夢の掛ける言葉はクールなもの。そんな反応にチルノはさらに悔しがります。

 

 

「こんちくしょー!あんたみたいなへんてこな召喚獣に負けるなんて!クーポンのミスだわ!」

 

「誰がへんてこか。というかクーポンて何よ」

 

 

 たぶん『痛恨のミス』ですよね。というかクーポンがあろうがミスってようが、霊夢は力加減をしてくれたとは思えませんけどねー。

 

 

「お、覚えときなさい!この恨みはいつか返してもらうからね!」

 

「あーはいはい。期待せずに気長に待ってるわ」

 

「むぐぐグ…!メ、メーリイイィンっ!」

 

「え?え、ちょ、まったがあっ!?」

 

 

 全く静止を聞かず、チルノは壇上から一気に私の胸へアタック。お空よりはマシでしたけど、苦しいものはやっぱり苦しい・・・!!

 

 

「あ、あいつがアタイをバカにしてくるわ!ひどいわよね!?」

 

「あ、たた…バ、バカにしてるわけじゃないと思いますよ?霊夢はそういう言い方をする性格なだけで、人をバカにするようなことをする子ではないと――」

 

「メ、メーリンもアタイをバカにする気っ!?アタイを信用してくれないなんて…メーリンのバカァッ!みずきー!!」

 

「わ、わわっ。よしよしチルノちゃん、大丈夫ですよ~」

 

「……え~・・・」

 

 

 ・・・・・・・・・あまりにも理不尽すぎて、私涙腺が緩みかけです。むしろ私が胸を貸してほしいわっ!さくやさ~ん!!

 

 

「・・・ま、まあ紅の予想通りだな。・・・予想外のダメージを紅が負うという事以外は」

 

「あうう~・・・私間違ったこと言ってないのにい……」

 

「まあ元気だせ美鈴。そのうちいいことあるって!」

 

 

 魔理沙の慰めも今は心地いいですよう。これが咲夜さんなら天に昇れるんですけどね。今度からチルノの事は、瑞希さんに任せた方がいい気がしてきます~・・・

 

 

「では、今回はAクラスの勝利という事で・・・1対2ですね。それでは、第四試合の代表は前に出てきてください」

 

 

 これで二勝一敗です。まだまだ勝負は分かりません。

 

 

「……(スック)」

 

「お、ムッツリーニしっかりやれよ」

 

 

 土屋君が立ちあがりました。今度は彼が行くみたいです。

 

 

「頑張れよ土屋!負けんじゃねえぜ!」

 

「ファイトです土屋君!」

 

「……心配無用」

 

 

 彼の自信は相当なもののようです。土屋君の保健科目は他をずば抜けて秀でていて、保健体育だけにしぼればAクラスにも負けない点数。Bクラス戦の点数があれば、勝つこと間違いないでしょう!

 

 

「じゃ、僕が行こうかな?」

 

 

 そんな保健体育オンリーの秀才土屋君を相手に出てきたのは、さきほど友達兼咲夜さんハグの強敵になった工藤愛子(くどうあいこ)さん。咲夜さんは渡しません!

 

 

「一年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくねー?」

 

 

 おや、そうだったのですか。その割には皆さんとなじめていますし、全然気づきませんでした。コミュニケーション能力が凄いのですねー。

 

 

「教科は何にしますか?」

 

「……保健体育」

 

 

 最期の教科選択権です。これはとても有意義な使い方と言えるでしょう!

 

 

「う~、アタイはバカじゃないのに~…」

 

「よ、よしよし、チルノちゃんはバカじゃありませんよ~」

 

「いや、ぶっちゃけバカではないと言えんだろ―」

 

「魔理沙!今瑞希があやしてあげてるのに、追い打ちなんかかけちゃダメでしょ!」

 

 

 瑞希さんの胸で慰められてるどこかのおバカとは違います!わ、私だけ除け者にされて悔しくなんてありませんもんっ!

 

 

「土屋君だっけ?ずいぶんと保健体育が得意みたいだね?」

 

 

・・・それを知ってて、その余裕。もしや工藤さんも保健体育が得意なのでしょうか?

 

 

「でも、ボクだって得意なんだよ? ……キミとは違って、実技で、ね♪」

 

 

 そんなことを言い出す工藤さん。こらこら、女の子がそんなことを公共の場で言ったらいけませんよ!

 

 

「愛子さん。あんまりそういうことは大きな声で言っちゃあダメですよ?」

 

「あ、美鈴さん。ごめんごめん!」

 

 

 う~む、ニコニコ笑って謝られても、本当に気を付けようとしてるのか分かりません。頼みますよ~愛子さん?

 

 

「美鈴さんは工藤さんを知ってるの?」

 

「あ、ええ。さっき話して知り合いました。・・・吉井君は顔が赤いですけど、どうしたんです?」

 

「・・・・・この教室はあっついね~。思わずほてってきたよ」

 

「いや、全然そうとは思いませんけど・・・」

 

 

 工藤さんの言葉で何かスケベなこと考えたんでしょ。視線が工藤さんに向いていて丸分かりです。

 

 

「そこの美鈴さんと話しているキミ、吉井くんだっけ?勉強苦手そうだし、保健体育で良かったら僕がおしえてあげようか? もちろん、実技で♪」

 

 

 いや、だからですね―

 

 

「フッ、望むところ――」

 

「結構っ!アキにはまだまだそんなことは早いわよ!」

 

「そ、そうです!いっそのこと永久に必要ありませんっ!」

 

「あ、あなた達が決めることではないのでは!?」

 

「島田に姫路、明久が死ぬほど悲しそうな顔をしているんだが」

 

「・・・僕にも、そんな日が来ると思うんだけどなあ……」

 

 

・・・さて、姫路さん達にも注意したいし、吉井君もフォローしたいですが、まずはこっちですよね?

 

 

「く・ど・う・さぁん?」

 

「ひえっ!?」

 

 

 ニコリ笑いながらもにらみは止めません。これは愛子さんが悪いですよね~?

 

 

「私、言いましたよね~?あんまりそういうことは言うな、って。その結果人が傷ついてしまいましたよ?え~?」

 

「ごごっ、ごごめんなさいっ!」

 

「私に謝られても困りますよ~。しっかり傷ついた人に謝りましょうねー?」

 

「!よ、吉井君ごめんなさい!」

 

「あ、そ、そんな気にしないでよ。僕は大丈夫だからさ」

 

 

 ・・・うん。愛子さんも深く頭を下げてますし、吉井君もいいと言ってますから充分でしょう!

 

「愛子さん。あんまり人をバカにするのはいけませんよ?そりゃ誰だって嫌な物とかありますし、そこをからかうのはいけません」

 

「う…ご、ごめんなさい」

 

 

 まあ、本人も傷つけるつもりで言ったんじゃないんでしょうけどね~

 

 

 

 

「そもそも、吉井君とゅは(噛んだようです。正しくは【吉井君は】、ではないでしょうか?)いずれ(誰かと)そういう経験をすると思いますからねー」

 

 

 

 って、わ、私は何言ってるんですか!そういうことは言ったらダメって自分で思ってたところじゃないですか!つい口がすぎちゃいましたっ!ほら、皆さんも少し引いた顔になって私を見て

 

 

 

 

 

 

『――えええぇぇええええぇええっっ!!!?』

 

 

 

「ひいっ!?」

 

 

 そ、そそそこまで仰天して大声を出されるとは思ってませんでしたよぉ!?

 

 Aクラスにいる全ての生命が窓をぶち破らん限りの絶叫をあげ、その絶叫を聞いて窓の外にいた鳥類がギャアギャアと鳴きながら飛び去りました!よ、よく見ると窓にひびが・・・!?

 

 

 

「メメメメ、美鈴さあん!?それはどういうことですかああっ!!?」

 

「まま待ちなさい美鈴!友人として言わせて!あなた達知り合って間もないでしょう!?な、なのにそんな・・・・・・はは、早すぎます!!もっと互いのことを知り合ってから答えを出すべきよっ!」

 

 

 姫路さんが涙目・・・というかもう滝を生み出しながら私に思いっきりしがみついてきて、アリスが全力で私の元へやって来て、かつて見たことがないほどに顔をゆでたこ状態にしながらよく分からない事を告げてきました。ど、どうしたんですか2人とも!?

 

 

「ア~キ~!?さすがにウチの怒りも限界よおぉっ!?」

 

「ま、まま待ってください美波サマ!ぼ僕だって初耳で何が何だか―!」

 

「――なら、そのバカで役に立たない鼓膜を引き裂いてやろうかしら?そうすればあなたのゲスでふしだらで助平な汚い脳も思い出すんじゃない?ええ?」

 

「待った!君の持つペーパーナイフはそんな猟奇的な目的のために使うものじゃないよ!?ってていうか実行されたら僕の記憶がどうのじゃなくて僕の生命がどうのこうのになるから!」

 

『テメエ吉井ぃぃ・・・!!橙(チェン)ちゃんだけじゃなく、美鈴さんとも仲を進めてやがったとは、覚悟出来てんだろうなあああ!?』

 

『幼い女の子を手籠めにした挙句浮気しやがるとは、キサマの血は何色だぁあっ!』

 

『二人の少女を陥れるこの悪魔を、断じて許すまじっ!』

 

「待った待った待った待ったぁ!?皆お願いだから少しで良いから僕の話を聞いて!いや、もうこの際聞かなくていいから、せめて皆が持ってる木材とか獲物は離して!せ、せめてもの慈悲を――!!」

 

 

「ウチは元から素手よ!」

 

「聞くわけないでしょうがこの下種がぁあ!!」

 

『悪魔が慈悲なんか求めんじゃねええ!』

 

「にぎゃあァああアぁアアぁあアあッ!!」

 

 

 ひ、ひええっ!?今までにないほど咲夜さんが怒って、島田さんたちと吉井君を袋叩きにし始めましたあ!?普段の優しい咲夜さんはどこにー!?

 

 

「……優子。紅は大胆。私も見習いたい」

 

「だ、ダメだって代表!そ、そんなハレンチなこと…!」

 

「へ~、美鈴の奴がねえ。全然知らなかったわ」

 

「博麗!あんたもちょっとは止めなさい!というかなんでそんな冷静なのよ!?」

 

「どうせ遅かれ早かれのことじゃない。慌てる必要が無いわ。・・・それより木下。代表がどっか行こうとしてるけどいいの?」

 

「!だ、代表、どこ行くつもりよーっ!」

 

「優子、離して・・・!私も・・・!」

 

「ま、全く、これほど感情をあらわにする代表ははっ初めて見たよ(かたかたかたかた)」

 

「あんたも目に見えてすごい凄い震えてるけど、何があったのよ久保」

 

 

 向こうでも霧島さん達が何やら慌ただしくなっていて、こちらの波紋が広がっている様子。

 

 

「あ、あわわわ…美鈴さん凄い・・・って土屋君!鼻血で顔が真っ赤になってるけど大丈夫っ!?」

 

「……殺したいほど、明久が妬ましい・・・(ボトボト)!」

 

「むしろ出血多量で殺されそうじゃん!?ほほ、ほらティッシュ!」

 

「……!!近づくな・・・!(ブシャアアア!)」

 

「ひゃあっ!?も、もっと血が出始めた!?」

 

 

 壇上では土屋君が血に染まり、それを必死に愛子さんが止めようとしています。もはや勝負どころじゃありません。

 

 

「??まりさ、なんで皆慌ててんの?」

 

「そ、そうさな……大人の階段を上るって美鈴が言ったからじゃないか?」

 

「?階段に大人も子供もないわよ?それの何がおかしいのよさ」

 

「・・・あ~、チルノはチルノでいてくれて嬉しいぜ」

 

「ほんと!?アタイったら最強ね!」

 

 

 魔理沙、チルノ!あなたたち二人は通常運転でいてくれてホントに感謝します!

 

 

「ホ、紅さん。生徒間でそういったことをするのは、その、よくないのではないかと・・・」

 

「は、はあ・・・?」

 

 

 クールな高橋先生も少し顔を紅潮させる始末。分からない!わ、私の言葉の何が悪かったのか…!?

 

 

「・・・坂本君。私、さっきなんて言ってましたか?」

 

 原因がどうしても分からなかった私は、ずうっと静かなままの坂本君に尋ねてみました。ひょっとすれば第三者の意見を聞くことで答えが出るのでは・・・そう考えての行動です。

 

 

「・・・確か、『そもそも、吉井くん〝とは〟いずれそういう経験をすると思いますからねー』・・・だったと思うぞ。・・・・・・紅?」

 

 

 それは大正解だったようです。おそらく、私の体は目に見えるほど震えていたことでしょう。

 

・・・・・・・・・私はあほですかああああっ!!そんな言い方したら私が、吉井君とそんな関係みたいじゃないですかあ!

 

 そんな関係になったことなんて吉井君を含め誰一人いませんよー!ま、まさか一文字かんじゃっただけでそれほどの誤解が生まれるとは・・・まさに水滴が石を穿つ!って微妙に違うしあんまり上手くねーよっ!

 

 

「み、皆さん私の話を聞いてくださ~~~~~いっ!」

 

 

 悪意が無くても人を傷つける。私は思いっきり学ぶことが出来ました。も、もう自分のやってきたことに顔向けできましぇん・・・

 

 

 

 

 

 

 

「皆さま、ほんとにすみませんでした」

 

 

 私with土下座。悪いことをしたらやっぱりこれですよね。

 

 私の全身全霊を賭した説明と謝罪に、皆さんはなんとか正常な状態に戻ってくれました。

 

 

「よ、良かったです。私、ホッとしました・・・・・・」

 

「そ、そうよねっ。ア、アキがそんなことするわけないわよねっ!」

 

「島田、その明久に率先的に手を出した1人はお前だぞ・・・」

 

「みなみ、なかなかやるわねっ!最強なアタイも思わずぶるぶるしたわ!」

 

「……ほ、本当にごめん。アキ、大丈夫・・・?」

 

「っていうか、生きてんのかこれ…お~い、吉井大丈夫か?」

 

「う、う、ううう、き、気にしないで、ぅうう…ありがとう魔理沙・・・」

 

 

 ただし、吉井君の傷だらけの体はもとに戻りません・・・ま、まじですみませんっしたああ!!

 

 

「い、十六夜!ちょっとあなたやりすぎじゃない!?吉井君が凄いことになってるわよ!?」

 

「だ、だって、美鈴に変態な虫がついたと思ったら・・・!」

 

「・・・はあ~、あなたも本当に家族が好きというかなんというか・・・」

 

 

 吉井君への攻撃を一番過激にした咲夜さんには注意するところなんでしょうけど、今の私にそんな権利などナシ!だからアリスに任せましょう!重ね重ねすいません吉井君―!あとで出来る限り言う事は聞きますよ!

 

 

「ムッツリーニ、もう大丈夫なのかのう?」

 

「……OK」

 

「よし、じゃあ頼むぞ」

 

「・・・了解。」

 

 鼻血を出してダウンした土屋君もようやく興奮が冷めたみたいで、少しふらつきながらも再度壇上へ。しかしあれだけ鼻血を出す人もすごいですよね。どんな想像力を持っているのでしょうか?

 

「ごほん。では2人とも、召喚獣を召喚してください。」

 

 

 いつも通りの表情に戻った高橋先生が咳払いをすることで、ざわついていたクラスが次第に静まり返り、壇上の2人へと目を向け始めました。も、もう穴を掘って埋まりたいぃぃぃいい・・・・・・!!

 

 

「あ、は~い。試獣召喚っと」

 

「……試獣召喚。」

 

 

 2人が合言葉を言い、それぞれの召喚獣が出現します。

 

 土屋君の召喚獣は、忍者の格好をしていて手には二本の小太刀。それに対して愛子さんのは―

 

 

「なんだあの巨大な斧は!?」

 

「しかも腕輪までつけてるぞ!?」

 

 

 Fクラスからそんな驚きの声があがりました。言う通り、愛子さんの召喚獣は、両腕でもどうかと言わんばかりに大きな斧を構えていて、特殊効果を持つ腕輪もつけていました。それを装着しているという事はかなり点数が良いという証拠です!や、やはり言うだけあって保健体育が得意なんですね!

 

 

「じゃ、決めさせてもらうね?」

 

 

 自信に満ちた笑みを浮かべた愛子さん。その召喚獣の腕輪が光り、バチバチと雷光が発生して斧に纏わり始めました。攻撃力がアップしたということ!?つ、土屋君大丈夫ですか!?かなり凄そうですよ!?

 

 

「じゃあね、ムッツリーニ君」

 

 

 愛子さんの召喚獣が土屋君の召喚獣に詰め寄った!は、速い!

 

 

「ムッツリーニ!」

 

 

 吉井君の悲鳴もむなしく、斧が横に振り払われ――

 

 

「……加速」

 

「…………え?」

 

「お、おおっ?」

 

 

――るも、そこに土屋君の召喚獣はおらず、いつの間にか愛子さんの召喚獣の背後に。

 

 

「……加速、終了」

 

 

 その言葉の後、愛子さんの召喚獣は何かに攻撃されたような動作を見せてから、どさりと前に倒れました。

 

 

『Aクラス 工藤愛子   保健体育 446点

          VS

 Fクラス 土谷康太   保健体育 572点 』

 

 

 うわ!す、すっごい高いですよっ!?私、そんな点数取ったことがありません!たぶんそれの半分くらいじゃないでしょうか!?土屋君のエロへの情熱に私はただただ驚愕するばかりです!

 

 

「うおっ。土屋のやつあんなに点数が良かったのか!」

 

「らしいな。Bクラス戦の時は出来がイマイチだったそうだ」

 

「ふ、ふふん!最強なアタイの前には勝てないけどね!」

 

「ほう。ではチルノは何点だったのじゃ?」

 

「71点!」

 

「・・・確かに、遠く及ばないな」

 

「ふ、やっぱり君はバカだねチルノ」

 

「なにい!?じゃあよしーはどうなのよさ!?」

 

「聞いて驚け!僕は83点だっ!」

 

「・・・いや、そんなに変わんないじゃない、ってチ、チルノ!?いきなり床に手を着いてどうしたのよ!?」

 

「ば、バカな・・・この、アタイが、あのよしーに・・・!」

 

「だ、大丈夫ですチルノちゃん!チルノちゃんはバカじゃありません!つ、土屋君の点数を見ても大丈夫だったのに、どうして吉井君の点数にだけ悲しむんですか!?」

 

「だってみずき!あのよしーよ!?あのよしーに負けるなんて・・・最強のアタイには耐えられないわ!」

 

「はっはっはー!ざまーみろだい!あと僕はバカじゃないからその言い方は止めて!僕がバカみたいでしょ!」

 

「いや、あってるぜ」

 

「だな」

 

「じゃな」

 

「3人は黙ろうね!今僕は小さな優越感に浸っている最中なんだから!」

 

「自分で小さいと言ってるあたり、お前は小さいな・・・」

 

 

 隣でもわいわいと騒がしくなっています。まだぼろぼろのはずなのに、体を起こしてまでチルノにはりあう吉井君には呆れと尊敬を抱いてしまいます。

 

 

「そ、そんな・・・・・・!この、ボクが…!」

 

 

 魔理沙たちの動揺は対戦相手の愛子さんにもあるわけで、よほど勝てると思っていたのか、床に膝をついてしまいました。おバカとエリートとはいえ、チルノと愛子さんのショックの度合いは同じなのですね。

 

 

 

「では、これで一対三ですね」

 

「よし、あと一勝ですね…!」

 

 しばらくして、とぼとぼと壇を降りた愛子さんを見てから高橋先生は言います。

彼女の言葉通り、いよいよ王手です!私たちの時代が来るのも遠くないかもしれませんよー!

 

 

「では、次の方は?」

 

「坂本君。ここは決めたいところですよ!」

 

 

 ここで勝てば勝利は確定!我々の切り札を出すときです!

 

 

「だな。――姫路!ここはお前の出番だ!」

 

「あっ、は、はいっ!」

 

 

 不運にもFクラスに入ることになった、学校随一の秀才の1人!姫路瑞希さんの出番です!頑張ってくださいよおーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい!まさか、あんなに凄い点数とは思わなくて・・・!」

 

 

 まあ、こんなにしょぼんとした愛子は初めて見たわ。それだけ負けたのがショックだったのね。

 

 

「仕方ないわ、済んだことよ」

 

「あ、ありがとう咲夜っ!」

 

 

 確かに、あんなに高い点数を持ってるだなんて誰も想像しないわ。土屋康太、大したものね。

 

 

「ちょ、ちょっとどうするの?もう後がないわよ!?」

 

「そうね・・・見て。向こうは瑞希だわ」

 

「うそ!?」

 

 

 アリスの言う通り、ステージの上には姫路さんが。それには皆が動揺してしまってざわつき始める。彼女の学力は学年でもトップファイブには入るほど。誰も彼もがまずいとさわぎだすのも仕方ないこと。

 

 

「だ、代表!どうするの!?」

 

「……久保、どう?」

 

「……はっきり言えば、少し難しいかもしれないな。彼女の学力は本当にすごいそうだからね……」

 

 

 学年主席の久保君がそう言って渋い顔をする。実際、姫路さんと久保君とでは姫路さんの方が成績はよかったと思うから、勝利を保証するには苦しいものがあるかもしれない・・・

 

「そ、そんな・・・!じゃあどうするの!?他に誰がいるってのよ!?」

 

 

 木下さんが少し怒鳴り気味に言いながら皆を見渡すけれど、ほとんどの人がさっと目を逸らしたり、自分では無理だと申し訳なさそうな顔をするばかり。そのことが、Aクラスが敗北するのではないかという不安をより煽ろうとする。

 

 

 でも、

 

 

「―――私が行ってもいいかしら?」

 

 

 そんなしんみりとした雰囲気、私は嫌いよ。

 

 私はそんな暗いムードを追い払うために、気合いを入れて聞いてみた。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!


 次回はようやくというかなんというか、咲夜さんの出番です!とはいえ、やっぱり勝負はシンプルになると思いますが!

 あと二回か三回となると思いますが、次回もAクラス戦、お楽しみに!


 それではまた次回っ!


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根拠―自信、があろうと報われるかどうかは別ですかね~・・・

 

 どうも、村雪です!


 今回なんですけど、都合のいいところまでということで長めになっています。これを嬉しいと取ってくれるか、めんどくさ!って取るのか・・・どちらにせよ読むのですから、出来れば楽しく読んでもらえたら幸いです!

 ではいつも言ってることですが、過度な期待をしないまま!

――ごゆっくりお読みください。


 

 

「わ、私が出ますっ!」

 

「はい、Fクラスからは姫路さんですね」

 

 

 Aクラス勝利への王手をかけた私たち。皆の期待を背負いながら運命の勝負に挑むのは、私たちFクラス一の天才にしてキュートな少女、姫路瑞希さんです!勝利目指して頑張ってくださーい!

 

 

「さあて、瑞希は勝てるかどうか、だぜ。坂本はどう見るんだ?」

 

「それは当然勝ってもらいたいさ。だがそれも相手次第、だな。あんまりプレッシャーをかけるのも悪いし、そこまで強く勝利を取れとは言えないな」

 

 その通りです。まだ向こうには手ごわい人達がいるのですから、絶対勝つという保証はありません。過度な期待は止めた方が姫路さんも気が楽になるかもしれませんし、あんまり大きな声援はやめましょうか。

 

 

「なるほど。それもそうだな」

 

「僕もそう思うけど、女の子に優しくするなんてどうしたのさ?雄二らしくないよ?」

 

「おい、お前の中で俺はどんな奴だと思われてるんだ」

 

「誰彼問わず地獄を見せる鬼」

 

「おっと、ならそれらしいところを見せないと、なっ!」

 

「ごふぉうっ!?・・・・・・な、なんてことをするんだ雄二・・・!一瞬僕の胃が紙みたいにぺらぺらになったぞっ!!」

 

「今のは自業自得だと思うけどな、吉井。まあ渾身のストレートをためらうことなく腹にかます坂本もスゲェけどさ。確かに鬼だぜ」

 

「こ、このタイミングで内輪もめはやめてくださいよー!?」

 

 

 す、少し吉井君の体が浮いてましたよ!本当に渾身の一撃を入れたんですね!もうあなた達の暴力にはついていけませんっ!(※ お仕置きとして体術をかましています。むしろ、あなたが拳の道へと導いているのでは・・・?)

 

 

「はあ…ウチも瑞希みたいに点数が高かったらな・・・ウチったら全然ダメねー」

 

「まあそう自分を責めるでない、島田。人間生きているだけで皆素晴らしいのじゃ」

 

「なんかすごい年寄りじみた言葉だけど、ありがと木下」

 

「そうよみなみ!アンタはみずきで、みずきはアンタなんだからさ!気にすることないわ!」

 

「え…え、ええっと・・・?う、ウチが瑞希・・・?」

 

「島田よ。おそらくチルノは『島田は島田で、姫路は姫路』と言いたいんじゃろう。なんじゃその怪奇現象は。今度脚本で使ってみるといいかものう」

 

「あ、ああ。それは聞いたことがあるわ……ってチルノ!それってウチがバカっていうのは変わってじゃない!?フォローしてるつもりがフォローしてないわよ!」

 

「気にすんなって!アタイはみなみがバカでもずっと友達よっ!」

 

「……木下、ウチはどんな反応をすればいいのかしら。笑えばいいの?怒ればいいの?」

 

「……ノ、ノーコメントじゃ」

 

 

島田さん達も少し離れたところでチルノと会話をしています。姫路さんに配慮してかあんまり勝負のことに触れていません。素晴らしい気配りですよ!(※たまたまです)

 

 

「では、Aクラスからは誰が出ますか?」

 

 

 既にFクラスの代表が出たので、高橋先生はまだ出てこないAクラスにやんわりと代表を急かします。

 

 

 

「はい、私です」

 

「十六夜か…やっぱりそうくるか」

 

 

それに応えて出てきたのは、やはりというかなんというか、私のお勉強の先生、十六夜咲夜さんでした。こ、これは手ごわい・・・!

 

「え、でもおかしくない雄二?霧島さんは最後に出ないといけないから仕方ないけど、それなら学年次席の久保君が普通でるんじゃないの?」

 

 

むむ!吉井君!言いたいことはわかりますけど、咲夜さんを軽く見るのはだめですよ!

 

「知らないのか明久?十六夜は一年のころ、久保よりもずっと成績が良かったらしいぞ?」

 

「え、そうなの!?じゃあなんで学年次席じゃないのさ?」

 

「さあな。調子が出なかったんじゃないか?」

 

「……」

 

 

私は無言で坂本君の言葉を聞き逃します。決して、試験前に勉強を教えてもらってたから、咲夜さん自身の勉強がおろそかになったのでは?なんて考えが浮かんで黙りこくったわけではありません。う~ん、この教室は暑いですね~汗が止まりませんよ~。

 

 

「姫路さん、悪いけれど……勝たせてもらうわよ?」

 

「む!ま、負けませんよっ!」

 

 

手で風を作っているうちに咲夜さんが瑞希さんの前に立ち、そんな勝利宣言をして優雅に笑いました!うきゃ~!咲夜さんすてきー!大好きですよー! 

 

 

「おい美鈴、一応言っとくけど咲夜は敵だぜ?」

 

「ぅえっ!?こ、声出てました!?」

 

「うん。というか手も振ってたよ?」

 

「あ、あちゃ~・・・」

 

 

ど、どおりで周りから視線が集まってるんですか…、無意識とはなんと怖い!

 

 

「だが、よくやった紅。おかげで十六夜の顔は真っ赤で、戦いに集中できない状態になった」

 

「うそぉ!?」

 

 

言われて咲夜さんを見ると、顔を赤くしてぶるぶると身体を震わせながら姫路さんと対峙していました。

ひい!こんな大勢の前で気持ち悪いことを言っちゃったから、大激怒されちゃったんですか!?後で説教タイムは確定ーっ!?(※ 怒ってません・・・大歓喜の渦の中です)

 

 

「……今私は、猛烈に燃えているわ姫路さん。覚悟してちょうだい」

 

 

燃えているのは私への怒りのせいでしょうか・・・、と、ともかく少し顔が赤いものの咲夜さんは普段の調子に戻りました。あわよくば怒りも消えんことを願います。

 

 

「教科はどうしますか?」

 

 

高橋先生の恒例の科目要望が問われます。

 

 

「総合科目でお願いします」

 

 咲夜さんは迷うことなく言います。既に私たちの選択権は最後の一つのみ。だから瑞希さんに拒否権はありません。

 

 

「……」

 

「・・・少しでも動揺してくれたらって思ってたけど、無理みたいね。姫路さん」

 

 

 咲夜さんの言う通り、普段は少し内気気味な瑞希さんが、芯のある目で咲夜さんを見据えています。この普段とは違う様子に、彼女が真剣だとわかります。

 

 

「はい。勝たせてもらいますよ、十六夜さん」

 

「……ふふっ、かなり自信があるみたいね。これは気が抜けないわ」

 

 

同じように勝利宣言をする姫路さんに、咲夜さんは柔らかい微笑みを浮かべて返しました。咲夜さんに戸惑った様子は見られません!さすが咲夜さんですね!

 

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 

そんな笑みもこの言葉まで。2人は合言葉を告げ、自らの学業の結晶を召喚しました。

 

 

 

 

 

 

 

『Aクラス 十六夜 咲夜  総合科目 4671点

           VS

Fクラス 姫路 瑞希   総合科目 4409点 』

 

 

  うわっ!?2人の点数に、私は一瞬息をのみました。な、なんて点数なんですか2人とも!私じゃ全く及びませんよ!?

 

 

『マ、マジかっ!?』

 

『すげえっ!?なにさあの点数!』

 

『あの点数、互いに霧島翔子に匹敵してる…!』

 

『い、十六夜ってこんなにすごかったの…!?』

 

『そうよ。あれでも結構賢いのよあいつ?』

 

 

様々な場所から驚きの声があがるほどの点数、しかし、僅差とは言え高かったのは咲夜さん。そのため瑞希さんは悔しそうな顔をしています。

 

 

「う……や、やっぱりすごい…っ!」

 

「……いえ、でもあなたもすごいわ、姫路さん。前はここまで高くなかったはずなのに…どうして?」

 

 

 前?それって…一年生の時のことでしょうか?

 

 

「……私、このクラスの皆が好きなんです。人のために一生懸命な皆がいる、Fクラスが」

 

「そうなの?」

 

「はい。それに―――十六夜さんやアリスさんに追いつきたかったんです。誰よりも真面目で、優しかったお2人に。だから頑張れたんです」

 

「―― 瑞希さん…」

 

 

・・・ははあ…その言葉から察するに、瑞希さん、咲夜さん、アリスの三人は去年同じクラスメイトだったようですね。

 

瑞希さんが最初会ったときに私の事を知っていたのも、屋上で私が咲夜さんの姉だということを既に知っていたこと、そしてさっきアリスと抱擁を交わしていたのもそれが理由だったんですね。冷静に考えたら分かる事でしたけど、全く考えていませんでした。

 

 

「姫路さん・・・そんなことを思っていたの・・・」

 

「瑞希・・・…」

 

 

呼ばれた二人はそんな風に思われていたとは知らなかったようで、驚いた顔をして瑞希さんを見つめます。

 

 

「――ですので、十六夜さん!点数が低くても勝ちに行きますっ!」

 

 

 そう決意を告げた瑞希さんは、召喚獣に身の丈の二倍はある大剣を構えさせます。ご、ごっついですねー!彼女のイメージに合わないというかなんというか…!

 

 

「……ありがとう姫路さん。そういう風に思えてもらえると、私も美鈴に近づけたって思えるわ」

 

 

そんな嬉しすぎる言葉を言って、咲夜さんも召喚獣に構えさせます。

咲夜さんの召喚獣は、両手にナイフを持ったメイド服姿・・・・・・あ、やばい。咲夜さんが着たら私死にますねこれ。たぶんあまりの衝撃による心臓発作で。

 

 

「じゃあ姫路さん。私はあなたの憧れとして、その期待を裏切らないようあなたに勝たせてもらうわ」

 

「…負けません!」

 

 

 2人の気合いはすでに満タン!心の中だけの声援ですけど、2人とも頑張ってくださいねー!

 

 

「――やああっ!」

 

 

ついに姫路さんの召喚獣が動きはじめます!その巨大な剣を咲夜さんの召喚獣にあてようと、素早く動き始めて―――

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね姫路さん。私の召喚獣

 

 

 

―――――とても、異常なの」

 

 

「え?」

 

 

 

剣が当たる前に、咲夜さんの召喚獣の腕、もっと言えば高得点者特有の青色の腕輪が、淡く輝きました。

 

 

 

 

 

 

ピタッ

 

 

 

その瞬間、咲夜さんが言ったことが何なのかが、分かりました。

 

 

 

『……え?』

 

「え……あ、あれ?」

 

 

・・・・・・え?ど、どうして剣を止めたんですか瑞希さん?隙がありましたよね?皆さんも不思議がってますよ?

 

 

「え…えいっ!えいっ………!え、ど、どうして…!?」

 

 

 でも、私たち以上に瑞希さんの方が驚いて焦って召喚獣を動かそうとしています。が、それでも瑞希さんの召喚獣は動きません。……いや、ひょっとして、『動かない』じゃなくて、『動けない』…?

 

 

 

「――恥をかかせるようなことをして、本当にごめんなさい。………でも、これもまた勝負よっ!」

 

「あっ!」

 

 

 うごか…いえ、動けないであろう姫路さんの召喚獣へと、咲夜さんの召喚獣が素早く駆け、そのナイフを―――!

 

 

 

ザクザクッ!

 

 

「あ、あらら……!」

 

 

胸、そしてこめかみの順に突き刺しました。あの部分は……たぶん、心臓ですよね?

 

 

『Aクラス 十六夜 咲夜  総合科目 1167点 

           VS

 Fクラス 姫路 瑞希   総合科目    0点 』

 

 

 

 

『…や、やったああああっ!!』

 

『…な、なんでえええええええっ!?』

 

 

 その結末を見た途端、教室は歓喜と悲鳴につつまれました。あまりの出来事に、悲喜は違えど戸惑いは同じです。むろん私もびっくり中です!何をしたのですか咲夜さんの召喚獣っ!?

 

 

「では、これで二対三ですね」

 

 

そんな中でも冷静なのが高橋先生です。さすが教師、メンタルが違います。…というより、咲夜さんの召喚獣の事を知っていたのでしょうか?

 

 

「そ、そんな・・・・・・どうして召喚獣が動かなく…」

 

 

 瑞希さんは、何が起こったのか分からないと呆然といています。それはそうでしょう。何も攻撃することが出来ないままあっさりと終わっては納得いくはずがありません。

 

 

「悪いわね姫路さん」

「い、十六夜さん・・・一体何をしたんですか・・?」

 

 

 瑞希さんの質問に、咲夜さんは私たちが知りたい答えを教えてくれました。

 

 

「私の召喚獣…というより、腕輪かしらね。あれ、使ったら相手の召喚獣の・・・・・・たぶん、動きを止めれるのよ」

 

「え…」

 

 

そんなぶったまげたネタに、私たちはぎょっとしました。

 

 と、止めれるって!なんですかその超反則能力はーっ!?お空たちもそうでしたけど、ほんっとに能力の当たり外れが大きいですね!?素手の私はどうなるのですか!こうなったら隠された能力とか期待してやりますよっ!

 

 

「でも止めれるのもだいたい五秒ぐらいだし、召喚獣を止める代わりに、自分の点数の四分の一が無くなっちゃうけどね。代償も大きいのよ」

 

「そ、そうだったんですか…」

 

 

 おお、この前読んだ、漫画に出てくる学ランの主人公よりも長いです。頑張ればあの悪役さんにも匹敵できるんじゃないでしょうか?

 

 

「まあ、そんな卑怯な力を使ってしまったけど……勝たせてもらったわ。姫路さん」

 

「ぅう~…く、悔しいです…!」

 

 

 いくら秀才でも高校生。一方的にあっさり負けるとやっぱり悔しくなるものです。悔しそうな瑞希さんを見て、咲夜さんは苦笑します。

 

 

「う~ん、こっちも猶予が無かったのよ。また今度遊ぶときに言う事を聞くから、それで許してやってちょうだいな」

 

 

へ~、咲夜さんは瑞希さんと遊んだりもしてたんですか。今度、その時は私も誘ってほしいですね~。

 

 

「……じゃあ、今、一つお願いしていいですか?」

 

「?何かしら」

 

 

 おっと、瑞希さんは何をお願いするのでしょう?

 

 

「―――私の事、〝瑞希〟って呼んでもらえませんか?」

 

 

悔しさあふれる顔を引っ込めた瑞希さんは、こんなお願いを出しました。

 

 

「……え?それがお願いなの?」

 

「はい。アリスさんは私の事を〝瑞希〟って呼んでくれてるのに、十六夜さんずうっと苗字で呼んでるじゃないですか。私、ずっと気にしてたんです」

 

「そ、そうだったの?最初に呼んだ呼び方で慣れてたから、そのまま呼ばせてもらってたわ」

 

「それが嫌ってわけじゃないですけど…やっぱり、下の名前の方がいいんです。だから、私の事は下の名前で呼んでください。それがお願いです」

 

 

お~姫路さんらしい可愛らしいお願いですねー!上の名前で呼ばれると、本人はどう思ってるかは分かりませんけど、距離を感じちゃうというのはよく分かります!だから私は出来る限り下で呼んでもらいたいのです!共感してくれる人がいるとなんだか嬉しくなりますよね~!

 

 

「分かったわ。お安い御用よ―――瑞希」

 

 

 咲夜さんは面白そうに笑いながら、さっそく実行に移りました。聞いた瑞希さんは嬉しそうに笑います!

 

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「でも、私だけだと悪いわよね。だから、瑞希も私の事は下の名で呼んでちょうだい」

 

「!分かりました――咲夜さん!改めてよろしくお願いします!」

 

「ええ、こちらこそ。よろしくね瑞希」

 

 

2人は満面の笑みを浮かべて柔らかい握手を交わしました。う!私目頭が熱く…!

 

 

「――じゃ、そろそろ戻りましょうか。皆もだいぶ待ちくたびれてるでしょうし」

 

「あ……そ、そうですね」

 

 

 咲夜さんは優雅に、瑞希さんは少し重い足取りで壇上を降りてきます。

 

 

「す、すみません皆さん。咲夜さんに勝てなくて…」

 

「し、仕方ありませんって!そんなに気にしなくてもいいですよ!」

 

 

さ、咲夜さんの頭の良さはけた違いですから!だから負けたって仕方ありません!

 

「気にするな、姫路。お前が負けても俺たちの勝利が遠くなったわけではないからな」

 

「だそうだぜ瑞希。そんなに気にすんなって、な?」

 

「そうよみずき!アタイも負けたんだから仕方ないわ!」

 

「いや、チルノが負けたことは関係ないでしょ・・・まあ、魔理沙たちの言う通りよ。元気出しましょ?」

 

「・・・はい!ありがとうございます!」

 

 

 ほっ、皆さんも怒らないでくれて安心しました。確かに負けたのは残念ですけど、瑞希さんが今後もっと咲夜さんと仲良くなれるみたいですから、私としては文句なし!

 

今がだめだったなら、次ですよ次ー!

 

 

「次の方、どうぞ」

 

「次は僕が出よう。教科は物理でお願いします」

 

「まあ、そうきますよねえ…」

 

「だな」

 

 

次いで出てきたのは、学年主席の久保利光君。彼も強敵には違いありませんが、私たちからは誰が出るのでしょうか?島田さんか秀吉君ですかね?それでも勝つのは難しいと思うのですが……坂本君には何か策があるのでしょうか?

 

 

「雄二、僕たちは誰を出すの?」

 

「お前の出番だ、明久」

 

「ええっ!?僕!?」

 

「ノ、ノープランですかい!」

 

 

 ダメだこりゃ!坂本君はこの勝負を捨てるつもりみたいです。せっかくのリーチなんですからもっと生かしましょうよ~!とは言えそれが出来る人が思いつきませんけどね!

 少なくとも吉井君は無いと思います!ごめんなさい!

 

 

「おいおい坂本。それなら美波が出た方が出た方が良くないか?」

 

「う~ん・・・でも魔理沙、ウチ、あんまり物理は良くないわよ?そりゃ国語とか古典に比べたらマシだけどさ」

 

「いいじゃないか。それでも吉井よりはマシだぜ!」

 

「ねえ魔理沙、そういうことはもう少しやわらかくだね」

 

「みなみは大バカな吉井よりきっと強いわ!頑張れみなみ!」

 

「チルノに大バカとまで言われちゃったよ!君たちには思いやりと言う言葉を知らないのかい!?」

 

 

 ごめんなさい吉井君。私も2人の言葉に同意です。島田さんって確か数学系は得意でしたもの。点数が高い人が出るのは当然かと・・・

 

 

「おいおい、霧雨にチルノ。こいつをなめてると後悔するぞ?」

 

 しかし、坂本君はそんなことを言いました。

 

 

「あん?どういう意味だぜ」

 

「確かにこいつはバカだ」

 

「雄二は僕をどうしたいの!?」

 

「――だが、それは普段の明久だ」

 

「はあ?」

 

 

 え、つまり特別な明久があるってことですか?まさか~。そんなマンガみたいなこと、上手くあるわけ―

 

 

「明久。もう隠さなくていいだろう?」

 

「――――ふう。やれやれ、僕に本気を出せって事?」

 

「ああ」

 

「・・・え、え?」

 

 

 な、なんでしょうこの雰囲気は。吉井君が少し変わった気が・・・・する、いやしない?

 

 

「なあ美波。吉井って実はすごいのか?」

 

「え?う、ウチは知らないけど・・・」

 

「ハッタリね。よしーがアタイより賢いわけがないもん」

 

「チ、チルノちゃん、そういう言い方はだめですよ」

 

 

女子陣からの厳しい評価。それにも吉井君は動じず自慢げな顔をしたままです。ちょ、ちょっとイラッときますねあれ!

 

 

「明久、おれはお前を信じてる。お前の本気を見せてやれ」

 

「ふっ、任せなよ雄二。そしてそこの君たち5人。あとで惚れたって遅いからね?」

 

「惚れねえよバカ」

 

「惚れませんよ」

 

「何が掘れるのよさ?」

 

「べ、別に惚れたりなんかしないわよっ!」

 

「わ、私は――ほ―てま―・・・」

 

 五分の三に及ぶ否定を耳にしながら、吉井君は戦場へと向かいました。軽い毒舌屋さんにおバカに強がりに恥ずかしがり。今更ながらウチのクラスの女子も個性が高いですねー。私だけが普通とは・・・(※シスコンという見事な称号を与えよう)

 

 

「じゃあ、久保君。悪いけど一瞬で終わらせるよ」

 

「なに?…よ、吉井君。まさか――」

 

 

吉井君の不敵な態度に、久保君は何かを感じ取ったようです。少し目を見開いて吉井君を見ます。え、ほ、本当なんですか?吉井君はそんなに実は強かったのですか!?だとすれば・・・勝利は目前と思っていいのですね!?

 

 

「あれ?気付いた?ご名答だよ久保君。今までの僕は全然本気なんて出しちゃあいない」

 

「それじゃ、君は―!」

 

「うん、君の想像通りだよ。今まで隠してきたけれど、実は僕――」

 

 

お、おおお!そう思うと吉井君が少しかっこよく見えてきます!好感度アップですよ吉井君!さあ、その自信の根拠を私に明かしてやってください!さっきああ言いましたけど、もしかしたら惚れちゃうかもしれませんよー!

 

 

 

 

「――――左利きなんだ」

 

 

 

『Aクラス 久保 利光  国語 403点

        VS

Fクラス 吉井 明久  国語  71点 』 

 

 

 

吉井君に期待した私がバカでした。ぶっ飛ばしますよ君?

 

 

「では、三勝三敗ですね」

 

 

 戻ってきた吉井君を待っていたのはあつ~い歓迎です。

 

 

「このアホが!テストの点数に利き腕なんか関係ないだろが!」

 

「そうよアキ!あんた絶対バカでしょ!」

 

「そうよ!なに負けちゃってるのよさバカよしー!」

 

「負けたチルノが言うなっだだだ!?み、美波に魔理沙っ!フィードバックで痛んでるのに殴ったりけったりするのはやめて痛たたっ!?」

 

「よし島田さん魔理沙、バトンタッチです。私もちょ~っとそのバカ野郎さんを殴りたいのですよ」

 

 人の期待をあげて落とされるとやあっぱりカチンと来るんですよね~?2、3発かましてもいいですよね?

 

 

「やめてよしてそれは本当に許してくださいっ!悪ノリしてすんませんしたああ!!」

 

「メ、美鈴さん!吉井君もこう言ってますし許してあげてください!お願いですうううっ!!」

 

 

私に正面から抱き着いて、吉井君へと歩を進める私を必死に押し返そうとする瑞希さん。

 

う~ん、今更なんですけど瑞希さんはこの阿呆のどこを好きになったんでしょう?この騒動で私は全く吉井君にときめかなくなったんじゃないでしょうか?

 

 

「はあ・・・瑞希さんがそういうなら仕方ありませんね。瑞希さんに感謝するんですよ?この大バカ野郎」

 

「とうとう心優しい美鈴さんにひどい事言われたーっ!」

 

 

 さすがにこれは仕方ないと思います。涙を流しても知ったこっちゃありません!

 

 

「よし、後は俺に任せろ」

 

「ちょっと待った雄二!アンタ僕を全然信頼してなかったでしょう!」

「信頼?何ソレ?食えんの?」

「信頼しても損するだけだったから、それが正解だぜ」

 

 魔理沙に一票。坂本君がだました感じもしますけど、吉井君が悪ノリしたのが原因ですよね。

 

「で、坂本くんが吉井君を推したのは?」

 

「明久にも上には上がいるということを身に染みて分かってもらいたかったのさ」

 

「・・・本音は?」

 

「その方が面白いからだ。残ってる奴で久保に勝てる奴はいないだろうしな」

 

「ほんとにあなたはぶれませんねえ」

 

 

こういうのも友情って言うんでしょうか?かなり独特な友情もあったものです。

 

 

「最後の1人、どうぞ」

 

「さて、行ってくるか」

 

「頑張ってください、としか言えませんね。頑張ってください」

 

「ああ」

 

 

坂本君が上がっていきます。当然Aクラスからは学年主席の霧島翔子さんです。

 

 

「教科はどうしますか?」

 

「教科は日本史、内容は小学生レベルで方式は百点満点の上限ありだ!」

 

 

 

 坂本君の言葉と同時に、Aクラスの人たちがざわつき始めます。

 

 

『上限アリですって?』

 

『しかも小学生レベルって。誰でも百点取れるんじゃないの?』

 

『そう思うわ。注意力と集中力が決め手になりそうね』

 

『アリスとか咲夜が得意そうだね?』

 

『あら、ありがとう』

 

『別に集中力が高いわけではないけどね』

 

『愛子。その言い方だと、あたしが集中力とかが無いみたいに聞こえるんだけど・・・』

 

『あ・・・い、いや、そんなつもりは無いよ優子!?』

 

『工藤は事実を言ったんじゃないの?』

 

『だまりなさい博麗。あんたもその一人よ』

 

『別にいいわよ。私にそんなもんがあると思うの?』

 

『・・・あるわけないわよね』

 

『霊夢、どうしてそんなに誇らしげなのよ・・・』

 

 

・・・・・・何やら内部で揉めたりもしてますけど、ともかく少し慌ててるみたいです。

 

――私としましては、色々と不安要素があるんですけどね。

 

 

「分かりました。そうなると問題を用意しなくてはいけませんね。少しそのまま待っていてください」

 

 

 坂本君の急な注文にもあっさり答える高橋先生は本当に凄いと思います。咲夜さんと同じで勉強熱心なんですねー。

 パソコンを持って出て行く高橋先生を見送ると、何人かが最終選手の坂本君達の下へと近づきます。

 

 

「雄二、後は任せたよ」

 

「ああ。任された」

 

 

 吉井君が坂本君と熱い握手をします。ここだけを見ると友達って感じがしますよね。

 

 

「……(ビッ)」

 

「お前の力にはずいぶん助けられた。感謝している」

 

「……(フッ)」

 

 

Vサインをする土屋君に坂本君が感謝の言葉を告げ、土屋君がうっすらと笑顔を浮かべます。確かに土屋君の働きは大きかったです。ここで坂本君が勝てば、それは見事報われるでしょう。

 

・・・・はたしてそれが上手くいくかどうかはわかりませんけれども! 

 

2人に続いて、次々と同じように応援の言葉を坂本君に贈っていきます。

 

 

「頼むぜ?出来なかったら全部にパーになるんだからな。」

 

「わかってるさ霧雨。任せとけ」

 

「しっかりやんのよさかもと!負けると承知しないんだからね!」

 

「これ、チルノ。もう少し優しく言わんか。・・・まあともかく雄二、頼んだのじゃ」

 

「おう」

 

「じゃ、がんばってね坂本。期待しておくわよ?」

 

「む、無理はしないでくださいね」

 

「ああ。わざわざ悪いな皆」

 

 

 坂本君は嬉しそうに一つ一つの言葉を受け取ります。

 

・・・ほんと、頼みますよ!?その期待に応えてくださいよ!?ぶっちゃけますと、私やばいんじゃないかと思ってるんですからね!

 

 

「………………」

 

「あ、あの代表・・・が、がんばってね?」

 

「ファ・・・ファイト代表っ!そんなにオーラを出さなくても大丈夫だよきっと!」

 

「…………うん」

 

「代表、どうしてそんなに怒ってるのかはなんとなく察するけど、今は勝負に専念して。いい?」

 

「…………十六夜。分かった」

 

「・・・こう見てると、どっちが代表だか分からなくなるわね」

 

「アリス、そこはきちんと代表と言いなさい」

 

 

向こうでは咲夜さんを始め、アリス、木下さん、愛子さんが霧島さんにエールを送っています。それでも霧島さんの機嫌は悪そうでした。

 

 

「では、最後の勝負、日本史を行います。参加者の霧島さんと坂本君は視聴覚室に向かってください」

 

 

戻ってきた高橋先生が二人を呼びます。どうやらここではせずに、別の場所で行うようです。

 

 

「……はい」

 

「じゃ、行ってくるか」

 

 

 2人は教室を出て行き、視聴覚室へと向かいました。あとは彼の勝利を願うのみです。

 

 

「皆さんはここでモニターを見ていてください」

 

 

 壁の大きなディスプレイに映像が映りました。そこには坂本君と霧島さんの姿が。皆さんが見逃さないとじっと目を向けます。

 

 ・・・が、私は見ません。それよりも、ど~っしてもやりたいことがあるんですよ!

 

 

「咲夜さん」

 

「え、なに美鈴?」

 

「え~とですねえ。咲夜さんの席ってどこですか?ちょっと腰を降ろさせてほしいんですよ」

 

「分かった。付いてきて」

 

「は~い」

 

 

私は一度で良かったから、リクライニングシートというものに座ってみたいんですよ。咲夜さんも最高と言ってましたからね!いつも座布団の私にはたまらない一品だと思います!

 

 

「?紅よ、お主は見んのか?」

 

 

 私がスクリーンを見ずに離れようとしていたのに気付いた秀吉君が聞いてきます。ん~、まあ見ないって言うより座りながら見る、って言うのが正しいですかね。

 

 

「ええ。ちょっとリクライニングシートに座りたいと思いましてね。秀吉君もどうです?座りながらでも見れますよ?」

 

「ふむ・・・ではそうしようかのう」

 

 

お、これはラッキー。1人だけ楽して見物するのは気が引けていたので、ありがたいですよ。

 

 

「――ここよ。好きに座ってくれたらいいわ」

 

「ありがとうですよ咲夜さん~!あ、ついでに冷蔵庫の中身も見て良いですか?」

 

「まあいいわよ。でも、あんまり食べ過ぎないでよ?」

 

「ふむ・・・やはり設備がけた違いじゃなあ・・・」

 

 

秀吉君の言う通り、うちとは比べ物になりません。いやはや冷蔵庫とは、夏場には最高ですよ・・・おっと、これはチョコ菓子のパッキー!ちょっと失敬させてもらいましょう!

 

 

「・・・ん~!おいし~!咲夜さん、秀吉君もどうですか?」

 

「ん?しかし、それは十六夜の物じゃし・・・」

 

「気にしなくていいわよ。私も食べるしね」

 

「だそうです。はいどうぞ」

 

「ん、ありがとう」

 

「では、いただくのじゃ」

 

 三人でパキパキ。ん~!この食感がいいんですよね~!

 

 

「…紅」

 

「ん?ふぁんですか (モグモグ)?」

 

「・・・さっきはありがとうなのじゃ」

 

「さっき?」

 

「姉上とのことじゃ」

 

「ああ~、」

 

 

 秀吉君がお姉さんにぼこぼこにされそうだったあれですかね。

 

 

「私も少々思う事があってのことですから、別に気にしないでくださいよ」

 

 

 秀吉君は本当に礼儀正しいですねえ。魔理沙や吉井くんや坂本君に見習ってほしいですよ。

 

 

「それでもじゃ。よければまた今度、お礼をさせてほしいのじゃが」

 

「お礼?」

 

 

 ん?と言いますと?

 

 

 

 

「ご飯など、わしのおごりで食べるのはどうじゃろうかだっ!?」

 

「さ、咲夜さぁん!?」

 

「・・・あ。ご、ごめんなさい。思わず」

 

 

 

 いいいきなり秀吉君にチョップをするってどういうつもりですかああ!そんな事したらダメって咲夜さんなら分かるでしょー!

 

 

「ぬ、ぬう。いきなりじゃからビックリしたぞい、十六夜。何をするのじゃ」

 

「・・・・ええ。全く秀吉君は悪くないわ。でもね…………私の勘が告げてるのよ。あなたこそ何をしやがるんだ、と」

 

「しょ、食事に誘っただけじゃぞい!?」

 

 

 咲夜さん法典では、食事に誘うというのは違反にあたるのでしょうか?それはちょっと横暴かと思うのですが・・・

 

 ともかく、秀吉君が奢ってくれるということです。食費も浮きますから迷うことなく乗っかるとしましょう。

 

 

「ではその時はご馳走になります!私は食べますから、覚悟しといてくださいよ?」

 

「う、うむ。手柔らかに頼むのじゃ」

 

 

 それはその時の私次第ですね!う~ん、夢が膨らみますねえ!

 

 おいしい約束も話が出来たので、私は再びパッキーを手にします。

 

 

「もぐもぐ・・・よし。では、高級感あふれるこのイスに座ってやるとしましょうか」

 

「ん、どうぞ」

 

 

 この時を待っていたのです。やはり聞くと感じるでは全然違うので、自分で体験するのが一番です!

 

 咲夜さんが気を遣って私の方へとイスを向けてくれたので、期待で胸をいっぱいにしながら――着席。

 

 

「・・・・お、おお~。まふっとしてすっごい気持ちい~・・・」

 

「でしょ?」

 

 

 こ、この低反発感!まふっとした柔らかさ!悪魔のささやきを受けてなんかいないのに、どんどんひきこまれそう~・・・一度覚えたら忘れられませんねえ。咲夜さんがあれだけ推してた理由が分かりました。

 

 

「よいしょ。では秀吉君も座っちゃってくださいな。あ、いいですか咲夜さん?」

 

 

 しばし堪能した後、秀吉君にも座ってもらおうとしましたが、よくよく考えると秀吉君は男の子で、ここは咲夜さんの席なので座ってよいかを聞きます。異性に座られるのが嫌いな人とかいますからねー。

 

 

「ええ。どうぞ秀吉君。この椅子に骨抜きにされればいいわ」

 

「・・・何か気になる言い方じゃが、では失礼するのじゃ」

 

 

 咲夜さんの許可をもらって、秀吉君がリクライニングシートに着席します。あ、やっぱりその表情しますよね~。

 

 

「おお・・・すごく気持ちいいのう。これがわしらの物になるかもと考えると、最高じゃな~」

 

「ちょっと待って」

 

「む?」

 

 

 お、おお?さっきまではのんびりしてた咲夜さんが?

 

 

「その話、この勝負だけど、そもそも坂本君はなんであんなに範囲を限定した日本史で勝負を挑んだの?」

 

「それは当然、霧島に勝つためじゃ」

 

「ふうん・・・そうなの美鈴?」

 

「・・・・・・・・・・・・んんん~~、ま、まあ坂本君はそのつもりでした、ね…?」

 

「なによその間は」

 

「なんじゃその間は」

 

 

 2人は息ぴったりですね。

 

 

「え~とですね~……秀吉君。ぶっちゃけていいですか?」

 

「…このタイミングでそれを言われると、嫌な気がしてならないんじゃが」

 

「はい、大当たりです。私はあの勝負、かなりきついんじゃないかな~って思うんです」

 

「…なぜじゃ?いちおう雄二の策には筋が通っておったのじゃが」

 

 

 私の突然の心境に、秀吉君が分からないと首を傾げます。まあ、確かに話自体に間違ったことは無いんですがねえ・・・

 

 

「その話って、代表に勝つための?どういう策なのか聞いても?」

 

「む・・・」

 

「う~ん・・・」 

 

 

 咲夜さんが部外者だったので知らないのも当然です。当の2人もいない事ですし・・・言ってもいいですよね?

 

 

「ざっくり言えば、ある問題が出れば坂本君が勝ち、ってことですよ」

 

「え?・・・テストの点数に関わらず?何よその変則ルールは」

 

 信じられないと咲夜さんが目を丸くします。あ、ちょっと言い方が悪かったですね。今の言い方だとそう聞こえますか。

 

 私がもう一回言い直そうとしますが、その前に秀吉君が言い直してくれます。

 

 

「違うのじゃ十六夜。つまり雄二によると、『大化の改新はいつ起きたのか?』と言う問題で、霧島が間違いなく間違えるということらしい。だからじゃ」

 

「・・・つまり、代表が一問落として、坂本君が全問正解する、と?」

 

「うむ。そうじゃな紅?」

 

「そこですよ」

 

「「え?」」

 

 

 私が一番ひっかかっているのは、そこなんですよ。

 

 

「その作戦は、坂本君が満点を取れての成功でしょう?つまり、坂本君は一問も間違えちゃダメって事じゃないですか」

 

「うむ、そうじゃな」

 

「…坂本君が、満点を取れると思いますか?」

 

「・・・・・・と、とれるのでは、ないじゃろうか・・・」

 

「・・・・その様子だと、自信が無いみたいね」

 

 

 普段の坂本君を思い浮かべたのか、秀吉君は汗を流しながら自信なさ気に答えます。

 

 はい、私もそう思うのですよ。坂本君が作戦を説明した時は少し納得しかけましたけど、よくよく考えてみると坂本君ってそこまで点数が高くありませんでしたからね。Dクラスの時とかBクラス戦で根本君と戦ってる時にちらっと見ましたけど、あんましでしたからね~。

 

 

「じゃ、じゃが今回は小学生レベルの点数じゃし、雄二でもきっととれるはずじゃ!あやつはもともと小学生のころは神童と呼ばれて負ったし――!」

 

「でも、それって過去の話でしょ?今がどうかはわからないじゃないですか」

 

「グ…!ま、まあ…」

 

 

 しかも『聞いた話』だと、坂本君は小学生のころはともかく、中学生のころは・・・・・・それはあまり言わないでほしいって感じでしたし、やめておきましょうか。

 

 

「まあ予想に反して、坂本君が勉強して満点を取る可能性もありますからね!ちょっとは期待していてもいいでしょ!」

 

 自分でこう言ってなんですけど、やっぱり勝ってほしいですからね。無理と思いつつ期待しちゃうのは人の性ですよ。

 

 

「そんな話をされた後では、全く安心出来んのう・・・」

 

「私としては安心できる情報だけどね」

 

「Aクラスの咲夜さんにはそうでしょうね~」

 

 

 苦い顔をする秀吉君に安堵する咲夜さん、私は変わらず笑い続けて統一性はないですけど、取る行動は同じです。

 

 

「はあ…(パク)」

 

「ん…(カプ)」

 

「あはは(ばく)」

 

 

 三人の口からカリッと良い音が立ちました。

 

 結末は神ならぬ、先生だけが知るという事ですね。パッキーみたいに、出来たらおいしい結末を見せてもらいたいですね~、坂本君?

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 やってしまったと思わなくもないのですが、咲夜さんには時を止めて欲しかったので、あんな反則的な能力を持ってもらいました!姫路さんファンには申し訳ない~!

 他のバカテスssを読んでいると、皆さん召喚獣の設定も細かいところまでしていて驚かされてばかりな村雪ですが、あれほどきっちりした設定を組み込むのはほぼ無理です!偉そうに言う事じゃないですけど!

 なので、この作品の召喚獣のバトルはかなり雑な物となっているのですが、それでもいいと読んでいただければ幸いです!

 さて、ようやくと言うか遂にと言うか、次回でAクラス戦、および四月の召喚戦争編は終わると思います!次回も楽しみにしていただければ!

 それではまた次回っ!


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終幕―展開、がどうなろうとその行く先は続きますよ~!

 どうも!村雪です!

 皆さまはゴールデンウィークをどう過ごされたでしょうか?有意義な時間を過ごされていたら嬉しいですね!

 さて、前回も言いましたが、今回で春の召喚戦争編は終了です!またも少し長めになりましたが、少しでも楽しんでいただけたら!


――ごゆっくりお読みください


「吉井君、いよいよですね…!」

 

「そうだね。いよいよだね」

 

「アタイが最強になるのもあと少しね!」

 

「で、でも大丈夫なのかしら・・・?」

 

「なあに、あのリアクションはきっとやってくれるぜ!」

 

「……期待はしていいはず」

 

「そ、それもそうよね!」

 

 

 いよいよ最終戦。クラスの代表である雄二と霧島さんが、スクリーンの向こうで百点満点の小学生レベルの日本史筆記試験を解き始めた。他の皆も固唾を呑んでその行く先を見つめる。ここで勝てば、僕たちの手にAクラスの設備が・・・!

 

 

「でも、問題はその問題が出るかどうかだな」

 

「……確かに」

 

 

魔理沙の言う通り、『大化の改新が起こった年代を答えよ』と言う問題が出なければ、雄二の作戦は失敗に終わり、僕たちは負けてしまう。どうか、その問題が出ていますように――――!!

 

 

 その時、問題が大きなディスプレイに表示されたので、僕たちは必死に鍵となる問題を探す。どうか・・・!!

 

 

 

 

《 次の()に正しい年号を記入しなさい 》

 

 

(   )年 平城京に遷都

 

(   )年 平安京に遷都

 

(   )年 鎌倉幕府設立

 

 

 

 

(   )年 大化の改新

 

 

 

「あ……!」

 

「おおっ!?で、出てやがるぜ!」

 

 

 こ、これはついに・・・!

 

 

「吉井君!」

 

「ア、アキっ!」

 

「うん!これで、僕らのちゃぶ台が!」

 

『システムデスクに!』

 

「アタイったら最強ねっ!」

 

「しゃあああっ!私らの天下だぜええ!」

 

『うぉぉぉっ!!』

 

 

 僕たちFクラスは歓喜の声をあげる。とうとう、僕たちは最上位にいるクラスに勝てたんだっ!やったあああああ!!

 

 

 

 

 

「・・・あ、あれ?美鈴さんと木下君はどこでしょう?」

 

「あれ?そういえば・・・」

 

 

 鍵となる問題があったので僕たちが大騒ぎをし、それをAクラスが何事かと視線を注いでいるのを感じながらも気にせずワイワイとしているときに、そう姫路さんが言って僕も気付いた。そういえばさっきからあの2人を見てないけど、どこにいったんだろう?

 

 教室の中をぐるっと見ても…

 

 

 

 

「それでですね。レミィが私に抱き着いてきて、『遅い!メーリンのバカァッ!』って言うんですよ~。全く、レミィは私を萌え殺す気ですかって話です!(もぐもぐ)」

 

「ほ~。じゃが、まだ小学生じゃから仕方あるまいて(ポリポリ)」

 

「それが、レミィって学校ではとっても大人びてるそうなのよ。噂では『小さな貴婦人』って呼ばれてるって。立派でしょう?(カリカリ)」

 

「なんと。内弁慶という言葉があるが、それの逆かのう?(ごくん)」

 

「ちょっと違う気もしますがね。まあともかく、皆から頼りにされてるみたいですよ~(ごくごく)」

 

「ほお。紅と十六夜みたいじゃな(くぴくぴ)」

 

「あら。おだてられて隙を作るほど、私は甘くないわよ?(こくっこくっ)」

 

「いや、別にそんなつもりはないのじゃが・・・(かりかり)」

 

 

 

・・・・・・なにやら、お茶会みたいなことをしている二人と十六夜さんがいた。

 

 どこかから借りたのか、三つのリクライニングシートに座ってお菓子や紅茶を飲む美少女三人(※1名は男子です)の姿は非常に絵になっている。気付いたムッツリーニがすぐに写真を撮り始めるぐらいだ。

 

 なんか、あの三人が勝負の事を忘れてるように思える僕はおかしくないよね?一応言っておこっかな。

 

 

「秀吉、美鈴さん!やったよ!あの問題が出てたよ!」

 

「あら、そうでしたか」

 

「ふむ。そうじゃったか」

 

「……(パキポキ)」

 

 

・・・あれ、なんか反応が薄くない?もうちょっとこう、嬉しさを前に出してほしいんだけど。

あと十六夜さんはその冷たい目をやめてちょうだい。お茶会を邪魔する気は無かったんです。

 

 

「おい美鈴に木下!やったぜやったぜこんにゃろー!わたし等の勝利だぜっ!あと咲夜はご愁傷様だ!」

 

「や、やりました美鈴さんに秀吉君!・・・あ、さ、咲夜さんごめんなさい!」

 

「大丈夫よ瑞希。魔理沙は後で覚えてなさい」

 

「差別だぜっ!?」

 

 

 僕に続いて姫路さんや魔理沙も興奮気味に三人に話しかける。なのに三人、特に秀吉と美鈴さんは苦笑いをうかべてしまっている。なんで??

 

 

「・・・あ、あの。どうしました2人とも?」

 

「・・・・その、なんじゃ」

 

「…あ~。三人とも」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

「どうしたの?」

 

「・・・・(ピッ)」

 

『?』 

 

 

スッ、と美鈴さんは僕たちの後ろを指さす。僕たちがいるのは教室の前から二番目の窓際の席。正面から三人に話しかけてたから、たぶん、美鈴さんの指さすのは大きなスクリーン。そろそろ先生が採点を終了したところだから、ひょっとして点数が表示されてるのかな?

 じゃあ、雄二の勝ちに言葉が出ないって感じだね?確かに学年主席の人に勝てるなんて信じられないもん。でも安心して!これは現実なんだよ!僕たちが掴み取った栄光の証なんだ!これは・・・・・・・文月学園の歴史に名を残す快挙になるに違いないっ!!

 

 

よくやったよ!ゆ―――

 

 

 

 

 

 

 

《 日本史勝負 限定テスト 100点満点 》

 

 

《Aクラス 霧島翔子     97点》

        VS

 

 

 

 

 

 

 

《Fクラス 坂本雄二     53点》

 

 

 

 

 

 

 

「――――――雄二ぃぃぃっ!!?」

 

「はぁぁぁあああああっっ!!?」

 

「坂本くぅぅぅぅぅん!!?」

 

「ちょ、せめて七割はとりなさああああい!!」

 

 

 

どうやら僕は夢を見ていたようだ。ああ、早くこの悪夢から目が覚めてほしい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何じゃこりゃぁぁあ!?』

 

 

「うっさ。喜んだり悲鳴をあげたりと、Fクラスの奴は変わってるわねー」

 

「何か誤算があったんじゃないかしら?」

 

「僕もそう思うな。問題を見てから喜んだりしてたから、そこら辺じゃないかな?」

 

「よ、よかった。代表が勝って…!」

 

「でも、魔理沙たちには気の毒ね・・・」

 

「仕方ないでしょ。仕掛けてきたのはあっち、それもいろんな条件を汲んでの上よ?文句を言われる理由が無いわ」

 

「そ、そうだけど・・・」

 

「アリスは優しすぎるのよ。もっと適当になるべきだわ」

 

「博麗。真面目なアリスをあんたみたいに堕落させるんじゃないわよ」

 

「ちょっと、私がいつ不真面目になったっていうのよ?」

 

「むしろ、いつから真面目だと思っていたかのほうが気になって仕方ないわ」

 

「……床に沈められたいの?」

 

「あんたに苦汁を呑ませたいとは思っているわ」

 

「ちょっと!だからあなた達はもう少し仲よくしなさいっ!クラスメイトでしょ!?」

 

「「無理よ」」

 

「・・・・・・・・・・・ハ~…」

 

「ア、アリス元気出して!アリスの言ったことは絶対無駄じゃないから、頭を抱えないで!?」

 

「・・・・・・どうして勝ったのにもめたり頭をかかえたりしてるのよ、あなた達」

 

 

 

 

 

「四対三でAクラスの勝利です」

 

 

 はい。締めの言葉ありがとうございます高橋先生。全く間違いがありませんとも。あはは・・・・・・笑えませんねえ~。

 

 

 最後の勝負を行われた視聴覚室。私たちFクラスメンバーは一気になだれ込みました。そこには膝をつく坂本君がいて、霧島さんが歩み寄っています。

 

 

「・・・・・・雄二、私の勝ち」

 

「・・・殺せ」

 

「良い覚悟だ、殺してやる!歯を食い縛れ!」

 

「待つのよさよしー!アタイもこのバカには一発かまさないと気が済まないわっ!」

 

「全くだ!この拳を赤く染めるまで私は納得いかないぜっ!」

 

「吉井君、落ち着いてください!」

 

「落ち着けチルノ!その手にある石を離すんだ!」

 

「やめなさい魔理沙!」

 

 

 殺気立って霧島さんみたいに詰め寄る三人を、姫路さん、田中君、島田さんが必死に止めます。が、吉井君達の気持ちもよく分かります。どっちかが間違っているというわけではないです。強いて言うなら、そこにひざまつく坂本君が悪いでしょうね!

 

 

「美波!今の私は誰にも止められないぜ!だから離せっ!」

 

「離さないっての!まずは坂本の話を聞きなさい!」

 

「そうだ!雄二!53点ってなんだよ!0点なら名前の書き忘れとかも考えられるのに、この点数だと――」

 

「いかにも俺の全力だ」

 

「「この阿呆がぁーっ!」」

 

「魔理沙!アキ、落ち着きなさい!あんたらだったら30点も取れないでしょうが!」

 

「聞き捨てならないぜ美波!私はそこまでアホじゃない!」

 

「それについては否定しない!」

 

「まじかよお前っ!?」

 

「ア、アタイはもっと取れるわ!う、ウソじゃないわよ!?」

 

「分かった!別に疑わないからひとまずその手の石は勘弁してくれ!」

 

 

 チルノ、田中君に抑えられながら2人から離脱しました。あと2人です。

 

 

「吉井君!それなら坂本君を責めちゃダメですっ!」

 

「くっ!なぜ止めるんだ姫路さん!このバカには喉笛を引き裂くという体罰が必要なのに!」

 

「それって体罰じゃなくて処刑です!」

 

「良いぞ吉井!私が全力でフォローを」

 

「魔理沙ちゃん!アリスさんに言いつけますよっ!?」

 

「全力でお前を妨害するぜ!」

 

「ま、魔理沙の裏切者っ!」

 

 

 アリス効果は絶大のようです。これで坂本君に喰い付こうとするのは吉井君1人だけです。が、状況が無理とわかったようで渋々ながら引き下がりました。

 

 

「全く、あれだけ見栄を切ったんですから、いけるんじゃないかな~ってちょっとは思ってたんですよ?」

 

「全くじゃ。紅から予想で聞いていたとはいえ・・・失望してしまうのじゃ」

 

「いっそひと思いに殺してくれ!」

 

 

 吉井君達に変わって、私と秀吉君が坂本君にアタックします。ただしこっちの狙いがメンタル。つめた~い目線はぼこぼこにするよりやはり効果的だったみたいで、坂本君は土下座をしかねない勢いです。

 

 

「・・・・・・でも、危なかった。雄二が所詮小学生の問題だと油断してなければ負けてた」

 

「ですよね~。復習してたらもっと点がとれてるはずですもの。ね~坂本君?」

 

「・・・すんませんでした」

 

 

 全く、せめて前日にでも作戦を言ってくれてたら復習するよう言えたんですけど、今日知ってからでは何もできませんよ!ここに来て、坂本君が致命的なミスをしちゃいましたね!

 

 

「・・・あの時、紅がした質問の理由がなんとなくわかった」

 

「あ、おかげで負けるかもしれないって考えが付きましたんで、ショックがだいぶ少なくなりましたよ。すいませんね霧島さん」

 

 

 もしもその時に聞いてなくて、坂本君が勝利すると疑っていなかったら・・・・・・吉井君達と同じことをしてたかもしれませんね!セーフ!

 

 

「おいおい、美鈴。どういうことだよ?というか、霧島と仲が良かったのか?」

 

 

 おっと。むくれっ面の魔理沙が矛先を私に変えてきました。

 

 

「ええ。さっき宣戦した時にね。その時に色々と話してたんですよ」

 

「ああ、じゃから1人Aクラスに残ったのじゃな?」

 

「はい」

 

「んで、霧島が言ってる質問ってのは?」

 

「坂本君のことですよ」

 

「俺のことだと?」

 

「は、はいそうです」

 

 何だそれと顔をあげて私を見てくる坂本君。こ、これは理由あってのことなんです!だからそんなに睨まないでくださいよ~!

 

 

 

 

『え~とですね。坂本君の学力について聞きたいんですよ』

 

『・・・・・・雄二の学力?』

 

『はい。何でも、霧島さんは坂本君と幼なじみだとか』

 

『…・・・うん。ずっと一緒だった』

 

『そうですか。で、坂本君はそこら辺どうでしたか?』

 

『・・・・・・昔はとっても頭が良かった。でも、そのせいで周りから妬まれたりもしてた』

 

『・・・そうですか。すいません、嫌な事を聞いちゃって』

 

『・・・・・・大丈夫』

 

『で・・・恐縮なんですが、その言い方だと、〝昔は〟良かったみたいなんですが、じゃあ今と中学生のころはどうでしたか?』

 

『・・・・・・中学生のころ、雄二はあんまり素行は良くなかった。勉強のほうでも同じ』

 

『…つまり、今はそれほどよくないと?』

 

『・・・・・・うん』

 

『・・・・・・は~、そうでしたか。霧島さん、話してくれてありがとうございます』

 

『・・・・・・もういいの?』

 

『はい。・・・あんまり期待しない方がいいかもって方向で考えがまとまりましたよ』

 

『・・・・・・??』

 

 

 

 

「――ってな感じの事を話してたんですよ」

 

「待った!そのことをどうして僕たちに言ってくれなかったのさ!?」

 

 

 吉井君の言葉に皆が私に視線を向けます。え~、どうしてって言われましても…

 

 

「言ったところで何も変わんなかったでしょう?というか、私をチキン扱いして耳にも入れなかったと思いますけど」

 

「・・・・・」

 

 

無言になるあたり否定が出来ないのでしょう。ちなみにその原因となった〝私がニワトリさん〟宣言をしたのも坂本君です。

 

 

「ともかく、私たちは負けちゃったんですから、そこは折り合いを付けないといけません。ねえ霧島さん?」

 

「・・・うん。雄二、約束」

 

 

 あ、そういえばそう条件を付けてましたっけ。

 

 

「・・・・・・!(カチャカチャ)」

 

 

 土屋君。そんなに必死にカメラを調整して何を写す気ですか!彼らは霧島さんが魔理沙と同じ百合だと思ってるそうですが、そんなピンク色のことにはなりませんよ!

 

 

「ム、ムッツリーニ!僕に手伝えることはある!?」

 

「・・・・・・そこのケーブルをコンセントに繋げ…!」

 

「了解っ!」

 

「お、お主ら!紅達がどうなってもよいのか!この謀反者!」

 

 

 そして吉井君と秀吉君も乗っちゃってますし!秀吉君は反対しようとしてまだいいんですけど!

 

「分かっている。何でも言え」

 

 

 代表としての意地か、坂本君はすんなりと返事をしました。霧島さんもそれに頷きます。何を言うつもりでしょう?

 

 

「・・・・・・それじゃ―――」

 

 

 すうっと息を吸って、どこか緊張した様子で霧島さんは、

 

 

 

「・・・・・・雄二、私と付き合って」

 

 

 

 そう言いました。

 

 

 

『はい?』

 

 

・・・え、お、おお?おおおお?こ、これは・・・・告白と言う奴ですかっ!?よもやこんな展開になるとは思っていなかったのですよ!

 

 

「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか」

 

「・・・・・・私は諦めない。ずっと、雄二のことが好き」

 

「その話は何度も断っただろ?他の男と付き合う気はないのか?」

 

「・・・・・・私には雄二しかいない。他の人なんて、興味ない」

 

 

 ふおおおお!?な、なんて一途な!「おおおおおお・・・!!」って魔理沙が目を輝かせてますよ!恋に目のない魔理沙らしいです!

 

 

「拒否権は?」

 

「・・・・・・ない。約束だから。今からデートに行く」

 

「ぐあっ!放せ!やっぱこの約束はなかったことに――」

 

 

 

 ぐいっ  つかつかつか

 

 

 有言実行がモットーか、霧島さんは坂本君の首元を掴んで教室を出て行きました。上手くいくことをここから願ってますよー!

 

 

『・・・・・・・・・』

 

「・・・これから、あの2人が激熱のターゲットだぜ」

 

「かもしれませんねえ」

 

 

 ほとんどの人が声を失っている中、私と少し興奮気味の魔理沙だけがそんなことを口にしました。いや~咲夜さんに聞いていましたけど、あそこまで一途だとは思いませんでした!魔理沙の恋に続く衝撃を受けましたよ!

 

 

「さて、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ」

 

 

 ん?この声は――

 

 

「あれ?西村先生じゃないですか?」

 

「どうしたんだぜ先生?」

 

 

 鉄拳が武器の生活指導の教師、西村先生が扉の前に悠然と立っていました。

 

 

「ああ。今から我がFクラスに補習についての説明をしようと思ってな」

 

 

 へ?我がFクラス?

 

 

 

「おめでとう。お前らは戦争に負けたおかげで、福原先生から俺に担当が変わるそうだ。これから一年、死に物狂いで勉強できるぞ」

 

 

『なにぃ!?』

 

「ウソォォォ!!?」

 

 男子達が悲鳴をあげますが、それ以上に大きな声を出したのがチルノでした。チルノは地獄を見たように西村先生を見ます。

 

 

「いいか。確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまで来るとは正直思わなかった。でもな、いくら『学力が全てではない』と言っても、人生を渡っていく上では強力な武器の一つなんだ。全てではないからといって、ないがしろにしていいものではない」

 

 

 おお、すっごい教育者らしい言葉です西村先生!言葉よりまず拳!っていうイメージが消え去りましたよ!

 

 

「ま、待つのよさこのチンパンジー!そんなのアタイが嫌よ!アタイの目が白いうちは絶対に認めないからねっ!」

 

「お前の目は常時白目なのか……それを言うなら〝黒いうち〟だ」

 

 

溜息をつく西村先生ですが、すぐににやりと笑ってチルノを見ます。

 

 

「喜べチルノ。貴様のその好ましくない言動と態度を、この一年かけて俺がみっちりと直してやろう」

 

「そ、そんなのお断りよ!イーーーーーッッだ!」

 

「はっはっは。お前に拒否権はないぞ?残念だったな」

 

 

 そんな西村先生の宣言にもチルノは怯まず、口に指をつっこんで右に引っ張って反抗の意思を見せました。そんなほほえましいチルノの行動に、思わずきゅんと来たのは私だけじゃないはず。西村先生もどこかおかしそうに笑ってますもの!

 

 

「そして、吉井と坂本。お前らも念入りに監視してやる。なにせ、開校以来初の《観察処分者》と《A級戦犯》だからな」

 

「ええっ!?」

 

 

 チルノに続いて吉井君と坂本君にも飛び火しました。監察処分者が良く思われていないのがよ~くわかる発言です。

 

 

「て、鉄人先生!そんなことはチルノだけにしてください!僕はこれほど真面目で優秀なのに、どうしてそんなことを言うんですか!?」

 

「どの口がその虚言を言ってるんだ。あと鉄人と呼ぶな。西村先生と呼べ」

 

「そ、それは今はどうでもいいんです!」

 

 

 吉井君。あなたが言う事ではありませんそれ。

 

 

「とにかく先生!例えどんなに監視されても、僕は何とか監視の目をかいくぐって、今まで通りの楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

 

「どうしてそこで反省をしないんですか・・・」

 

「全くもってその通りだ…」

 

 

 反抗期か何かですか。吉井君はそんなに物わかりが悪い人ではないと思うんですけども…

 

 

「とりあえず、明日から授業とは別に補習の時間を二時間設けてやろう」

 

「うげ。そ、それはなかなか・・・」

 

 

 咲夜さんに勉強を教わって賢くなったのはなりましたけど、勉強を好きになったわけではないのでこれはハードです。なるほど、そこら辺りは吉井君達と共感できるかもです。

 

 

「に、二時間!?この悪魔めっ!絶対に僕は負けないからな!」

 

 

 何かに意気込む吉井君。すると、そこにススッと近寄る一人の影…というか女の子。島田さんです。

 

 

「んじゃ、アキ。補習は明日からみたいだし・・・ど、どっか遊びに行かない?」

 

「へ?今から?」

 

「そっ、そうよ?ダメ?」

 

「おい美波、デートとはやるじゃ―」

 

「ま魔理沙は黙りましょーねー!?」

 

「ぐはぁっ!?」

 

「魔理沙ぁっ!?」

 

 

 み、見事なストレートォ!?魔理沙が腹をかかえてうずくまってしまうほどです!顔を赤くした島田さんに、容赦というものはない!?

 

 

「ほ、ほらアキ!どうせ暇なんでしょうし、早く行くわよ!時間がもったいないわ!」

 

「ぼ、僕だってやることとか色々あるよ!?そ、それに今お金がほとんどないし―」

 

「だ、ダメです!吉井君は私と映画を観に行くんです!」

 

「ええっ!?姫路さんも!?っていうかそんな約束したっけ!?」

 

 

 おおっと!さらなる乱入者が!?姫路さんも加わったことで吉井君は大慌てです!これが世に言う『修羅場』でしょうか!?

 

 

「せ、先生!明日からと言わず、補習は今日からやりましょう!」

 

 

 ちょっと!修羅場で真っ先に逃げるのが男って聞きましたけど、まじにやらないでくださいよ吉井君っ!

 

 

「ん?なぜだ?」

 

「お。お金が無いから…じゃなくて、理由なんていらないと思います!ほら、思い立ったが仏滅です!」

 

「『吉日』だ。・・・うーん、お前にやる気が出たのは嬉しいが―――」

 

 

にやりと悪い笑顔な西村先生が首を振ります。どうやら吉井君の今の現状を見て楽しんでいるみたいです。

 

 

「無理することは無い。今日だけは存分に遊ぶといい」

 

「お、おのれ鉄人!僕が苦境にいると知った上での狼藉だな!こうなったら卒業式には伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待つ!」

 

「斬新な告白だな、オイ」

 

「結果はフラレルこと間違いなしでしょうね」

 

 

 吉井君がボロボロになって大の字に倒れているのを仁王立ちした西村先生が見下ろしている光景がすぐにうかびあがりますよ。

 

ま、それはともかく。

 

 

「吉井君。せっかくなんですし行ってきてはどうです?言うなれば両手に華じゃないですか」

 

「そ、そうだけど美鈴さん!今僕がお金を出したら僕は次まで水で過ごさないと――」

 

「へ?」

 

「ほら!美鈴もそう言ってるんだから、行くわよアキ!」

 

「い、行きましょう吉井君っ!」

 

「ま、待って僕の栄養がぁぁぁぁあーーっ!」

 

「あ、あらま、行っちゃった…」

 

 

・・・あ~、そういえば、吉井君って手持ちがびっくりするくらい少なかったんでしたっけ。これはちょっと、悪いことをしたかも・・・

 

 

「う~痛て…美波の奴、ちょっと言っただけなのによー」

 

「まあ、あれはあなたが悪いと思いますけどね。大丈夫なんですか?」

 

「おう。あれほどの愛を見た私に、この程度の痛みは屁の河童だぜ」

 

「感情の影響がそこまでいくとすごいですね」

 

 

魔理沙の言う通り、すっごい興奮してますもんねあなた。さすが恋に生きる少女です。

 

 

「さて、どうするよ?このままここに居ても仕方ないよな」

 

「ええ。じゃあ、解散しましょうか?」

 

「そーよ!アタイ、このゴリラ先生が苦手だもん!」

 

「誰がゴリラだ」

 

「あいだっ!」

 

 

 チルノ、ここで離れてもこれからは教室でいつもあうんですよ。だからその言い方はやめましょうね?

 

 

「そうするか。全く残念な結果だぜ~」

 

 

残念がってるのは本当でしょうけど、最初よりはずっと落ち着いてます。この立ち直りの良さが魔理沙の特徴と言えるでしょう。 

 

 

「では、皆さん!ここにいても仕方ないですし、教室に戻って、今日は解散としましょう!」

 

 

私は沈んでる皆に声をあげました。

 

 

『は~』

 

『まじか~・・・』

 

『もっと設備が悪くなんのか・・・』

 

『ありえねー・・・』

 

 

当然意気消沈しながら、とぼとぼと視聴覚室から消えていきます。ここは我慢してください。そのうっぷんはまた明日にでも坂本君にぶつけてやりましょう!

 

 

 で、そのまま皆が出て行くのに一分。残ったのは私達主要メンバーに西村先生と高橋先生です。

 

 

「では、明日からよろしくお願いします。西村先生」

 

「お前も要注意人物だからな、紅。授業中寝るんじゃないぞ」

 

「そ、そんな!私は授業中ちょっとしか眠りませんよ!」

 

「寝てる時点で同じだバカ者」

 

「んじゃ西村先生。手柔らかに頼むぜ」

 

「甘くはせんぞ。覚悟しておくんだな」

 

「残念だぜそりゃ。なあ木下?」

 

「え?あ、あ~そう、じゃな」

 

「へんっ!先生の授業なんかアタイには楽勝なのよさ!」

 

「ほほう。ならば、もっと手ごたえのある授業にせねばいかんな」

 

「バ、バカ野郎チルノ!」

 

「…・・・なんという残酷なことを・・・!」

 

「誰がバカよ魔理沙!?バカって言った奴がバカなのよ!」

 

「いやそう意味じゃなくてじゃなチルノ…!と、とにかくお主は黙るのじゃ!」

 

「んむむ~!?」

 

「・・・で、では、これ以上いますともっとトラブルが発生しそうなので失礼しますね!」

 

「ああ。気を付けて帰るように」

 

「了解です!ほら行きますよ皆さんっ!チルノも暴れない!」

 

「む~むむむうむーっ!!」

 

「やかましい静かにしやがれだぜ!んじゃ失礼しました~!」

 

「ぬわあああっ!?お、お主わしの手の平をなめるでないいいい!!」

 

「…・・・三人分まとめて、失礼する」

 

「むむむむむううう~!!」

 

「痛い痛い!コ、コラチルノ!私の髪を引っ張るなぁあああ!!」

 

 

 

 

―――――てな感じで私達五人は視聴覚室を後にしました。うわ~、もうなんか凄い寝ぐせみたいになりましたよここ・・・

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした、西村先生」

 

「ああ、高橋先生。ありがとうございます・・・・全く、吉井達もそうですが、あの五人も非常に個性溢れたものです」

 

「確かに、本当に個性溢れる人たちです。特にあの小さな女の子・・・チルノさんは、凄い元気の良さでしたね?」

 

「ええ。私もあれほど活発的で、はねっかえりな女子は数えるほどしかみたことがありませんよ・・・・非常に前向きな所も含めてね。チルノも吉井に引かない問題児です」

 

「ですが、西村先生としてはそういう生徒の方が好きなのでは?」

 

「犯罪者になってしまいますから、その言い方はやめていただきたい・・・」

 

「ふふっ。分かっていますよ。すいませんでした」

 

「やれやれ・・・」

 

「私も昔そういう親友がいました。自分の道を突き進んで、何を言われても変えようとしない強烈な友人が。当時は大変でしたが、今となってはいい思い出です」

 

「そうですか・・・・ですが青春とはそのような物でしょう。いろいろ経験して今があるのですからね」

 

「ええ。・・・・しかし、紅美鈴さんはどうなんです?彼女は非常に礼儀正しそうですが・・・」

 

「ああ。確かにそうなんですが、奴はクラス分け試験の最中に眠って過ごすという前例のないことをしてしまったり・・・と、この話は以前しましたかね?」

 

「いえ、初耳ですね。それはまた・・・」

 

「私も驚きました。せっかく妹に勉強を教わったそうなのですが・・・」

 

「妹、ですか?」

 

「ええ。あなたのクラスにいる十六夜咲夜のことですよ」

 

「・・・・・・(どしゃどしゃ)」

 

「・・・・高橋先生?書類が落ちましたが」

 

「・・・はっ。そ、そっ。それは本当なのですか?」

 

「?ええ。何かありましたか?」

 

「・・・・なんというものか・・・タイミングと言うのは、面白いものですね」

 

「?はあ」

 

「この前初めて知った、個人的なことなんですが…実は私、十六夜咲夜さんの母親の事を知りまして」

 

「そうでしたか。お知り合いで?」

 

「・・・知り合いです。それも・・・・さっき言った人です」

 

「さっきというと・・・・・・まさか?」

 

「はい。・・・・・私の高校、大学時代で、一番といっても過言ではない程、『自分』を貫き通した悪友です。大学を出て以来あわなかったのですが・・・言われれば、彼女と奔放なところが似てるかもしれませんね。紅さんは」

 

 

 

 

 

 

「ふ~疲れましたねー」

 

「全くだぜー。早く風呂に入りてー」

 

「魔理沙がそんなに疲れてるのは久しぶりに見るわ。今日は嫌な事は忘れて、ゆっくり休むのよ?」

 

「・・・は~、アリスに言われると、何かもっと荷が重くなるぜ・・・」

 

「え、ど、どうして?私、何か間違ったかしら?」

 

「これだもんな~。この亀アリスめ」

 

「し、失礼ね!?そこまで重くないわよっ!」

 

「いや、そっちじゃないでしょ。でも、亀っていうのも納得ね」

 

「確かに亀ね」

 

「霊夢に咲夜もひどいわねっ!?ど、どこが亀っていうのよ!」

 

「「「 鈍いところが (だぜ)(じゃない?)(かしら?) 」」」

 

「・・・・・・メ、美鈴~!」

 

「お、おーよしよし。アリスは可愛い女の子ですから大丈夫ですよー」

 

「うう、私の味方はあなただけよ美鈴・・・!」

 

 

 み、皆は決して悪口を言ってるわけじゃないんですよアリス。だからそういじけないでくださいな。魔理沙の視線が痛いですっ!

 

 

「は~、せっかくのチャンスが潰れちまったぜ・・・。美鈴!今日は一緒に愚痴飯でも食おうぜ!」

 

「ん?愚痴飯ですか?」

 

 

 そんな魔理沙からの提案『愚痴飯』とは、嫌なことがあったりした時に、誰かと一緒に食事をして、その愚痴を聞いてもらいながらご飯を食べるという、私たちが勝手に名づけたものです!その場の雰囲気で付けました!

 

まあはっきり言えば、それは口実なだけでただの食事会ですね!

 

 

「いいですよ。どこでしますか?」

 

「美鈴達の家じゃだめか?」

 

「あ~、出来るなら違うところの方がありがたいですかねー」

 

 

 おとといに霊夢達と食べましたから、あんまりゆとりもありませんしね~。

 

 

「そうかー。んじゃ私の家でどうだぜ?」

 

「お、異論はありませんよ!」

 

 

場所も決まりましたし、これは遠慮なくいただくとしましょうかね!

 

 

「ちょっとちょっと。ただ飯なら、私も遠慮なく食べさせてもらうわ」

 

「相変わらずずぶといな霊夢はー。ま、仕方ないから、心の広い魔理沙さんが許してやるぜ!」

 

「わーありがとー私うれしー」

 

「腹立たしいほど適当だな!」

 

 

 相変らず霊夢らしい言い方ですが、魔理沙も分かってるみたいで苦笑いを浮かべるのみです。

 

 

「んで、ア、アアリスはどうだぜ?」

 

「私?んー、多くなると準備とかも面倒でしょうし、私は遠慮しとく「よしアリスも参加だな!」ってちょちょっと!?」

 

 

 恋に生きる魔理沙を止められるはずもなく、ターゲット、アリスも強制参加です!

 

 

「咲夜はどうすんの?魔理沙がこう言ってるんだし、参加しなさいよ」

 

「いや・・・別にいいんだけどな、霊夢。それは霊夢が言う事じゃないんだぜ?」

 

「そうね…じゃあ、ウチの子2人もいいかしら?きっと喜んでくるわ」

 

「いいわよー。小学生二人くらい余裕よね?」

 

「だからお前が言うことじゃ・・・まあいいけどな!おういいぜ咲夜!フラン達も連れてこいよ!」

 

「ありがとう。ご馳走になるわ」

 

 

私の立派な妹、咲夜さんにレミィとフランも参加決定です!合計7人!これは楽しくなりそうですねえ!

 

 

「よ~し!じゃあいったんここでわかれるか!私は準備しとくから、六時くらいに集合だぜ!しっかり土産を持ってこいよ!」

 

 

ちょうど道はそれぞれの家への岐路に。魔理沙が手を掲げながら先に家へと走りました。

 

「はいは~い。適当に買って持っていくわー」

 

「う~ん、飲み物でいいかしら?」

 

「なら私たちはおかずかしらね。急いで準備しないと」

 

「そうですね!では急ぎましょうか!」

 

 

私たちは少し早足に、霊夢とアリスに手を振ってから別れました。

 

そして数分後、いつもの我が家に到着です!

 

 

「ただいま~!」

 

「ただいま」

 

「おかえり~!」

「お。おかえりっ!」

 

 

 2人の可愛い妹のお出迎え!これだけで私の悩みは吹っ飛びました!

 

 

「2人とも、今日、魔理沙の家で一緒にご飯を食べるんだけど、一緒に来る?」

 

 

 かがんでの咲夜さんの言葉に、2人が顔を見合わせた後、

 

 

「「行く(ー)っ!」」

 

 

笑顔でのっかりました。ううー!さ、咲夜さんだけじゃなくて私にも抱き着いて~!

 

 

 

 

 

 

「よーし!全員集まったな!」 

 

「おらー、さっさと始めなさいよー」

 

「霊夢、もう始まるからまだ手をつけないの」

 

 

 午後六時、私たちが魔理沙の家に向かうとあらかた準備は終わって、いろんな料理が並べられていました。なんでもアリスが早くに来て一緒に手伝ったのだとか。なるほど、魔理沙はそんなところにぐっと来たのかもしれませんね。

 

 

「とりあえず、恒例の開始の音頭は私がやらせてもらうぜ!」

 

「まりさ―!」

 

「し、しっかりやるのよ!」

 

「そうよ魔理沙、しっかりね」

 

 ちびっこ2人と咲夜さんがきゃっきゃと囃(はや)し立てます。2人はもしかしたら緊張しちゃう?と思ってましたけど、楽しんでいるみたいなので一安心です!

 

 では魔理沙!始まりの言葉を一つ頼みますよー!

 

 

「んじゃまあ!――嫌な事は忘れて、良い事はここでぶちまけて笑い話に!皆が楽しめることを祈って!」

 

 

 魔理沙がコップを掲げるので、私たちもならってコップを掲げて――

 

 

 

「乾杯だぜっ!」

 

『乾杯っ!』

 

ガチャンッ!

 

互いに打ち合わせました。さあ、楽しい夕食の始まりです。ひたすら楽しむとしましょうかね~!

 

 

 

 

 




 はい、お読みいただきありがとうございます!

 とうとう原作の一巻を終えることが出来ました!これも読者の皆さんに読んでいただけたおかげだと思っています!ありがとう~!

 
 さて、次回からなのですが、ちょっとどうするかを悩んでいます!と言うのはつまり、そのまま二巻へと進むか、少々話を挟むかです!
 
 このあたりは自分なりに決めますので、次回がどんな形で始まるかはまだわからないので、楽しみに待っていただければ!

 それでは、たくさんの愛読者に感謝の言葉を残して!ありがとうございます!また次回からもよろしくお願います~!


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級友の幸福は怒りの火種!?ラブレター騒動編
暴動―原因、はわ、私のせいじゃないですよね~っ!?


 どうもこんにちは!村雪です!

 さて、春の召喚戦争も終わりまして次はどうするかと考えていたのですが、ここは間に挟んでいくことにしました!学園祭を期待してた人はごめんなさい!

 
 今回は原作の3.5巻にあるラブレター騒動!何話か続くことになりますが、楽しんでもらえたら!

 あと、今回は1人新たに東方キャラクターに出演してもらいました!果たして彼女らしさを出せているか…!


――ごゆっくりお読みください


 

「やや、やばい!急げ私ぃっ!」

 

 

 しぱしぱする目をこすりながら私、紅美鈴(ホン メイリン)は通学路を走ります。う~、やっぱり早起きは難しいです!これでも頑張った方なのに、約束の時間は過ぎてるなんて~~!

 

 現在時刻は午前七時十五分くらい。いつもよりもだいぶ早めの登校のため、周りは静かなものです。そんな中私だけバタバタと走っているものですから、浮いた存在になっていること間違いなしですね。

 

 

・・・え?なんでそんな慌てて登校するのかって?色々とあるのですよ、色々と!

 

 

 

「あれ?美鈴さん?」

 

「ん~?あれ、吉井君じゃないですか」

 

「うん、おはよう」

 

「お、おはよーございますっ!」

 

 少しスピードを落として振り向くと、後ろにはFクラスが誇る最高のおバカさん、吉井明久君がいました。

 

 あれあれ?おかしいですね。吉井君って普段ギリギリに教室に滑り込むのが通常なんですけど、やけに早いですね?今の私が言える義理じゃないですけども。

 

 

「どうしたんですか吉井君?えらい早いですね?」

 

「うん、実は早くに目が覚めてね。家でやることもないから早めに来たんだ」

 

「は~、そうでしたか」

 

「そう言う美鈴さんこそこんな早くに走っててどうしたのさ?」

 

「ま、まあ色々とありましてねー。活動ですよ」

 

「活動?」

 

「はいっ」

 

 

 いやではないんですけど、やっぱり早くに起きるのはつらいんですよね~。これがもう少し遅くにあれば全く異論はないのですが・・・はあ。

 

 

「――おっと、あれは西村先生ですね」

 

「あ、みたいだね」

 

 

 校門には見慣れた後姿が堂々と立っていました。あのシルエットは間違いなく私たちの担任、驚異的な体力を持った西村先生に違いありません。

 

 

「西村先生、おはようございますー!」

 

「先生、おはようございまーす」

 

 

 何も声をかけないのは良くないので、私たちはきちんと挨拶をします。

 

 

「おう、おはよう!部活の朝練か?感心だ――」

 

 

 振り向いた西村先生はとっても爽やかな笑顔で挨拶を返しかけましたが、こちらを見た途端に固まりました。はて?

 

 

「先生?」

 

「―――すまん。間違えた」

 

「え、何をですか?」

 

「吉井、こんな早朝に来て、今度は何を企んでる。そして紅、調子が悪いのなら保健室に行きなさい」

 

「間違えたって、接する態度ですか?」

 

「わ、私が早起きをしたのを異常事態に思われましても!?」

 

 

 ちょっぴり心外ですね!私がいつ寝坊助さんみたいなことをしたでしょうか!(※今まさにしているのではないでしょうか)

 

 

「お前たちにそう言ってしまう俺は悪くないと思うのだが・・・・・・。それはそうと、丁度良かった。《観察処分者》の吉井がいるなら手間が省けるからな」

 

 

 おっと、この言い方をするという事は?

 

 

「げ。ひょっとしてまた力仕事ですか?」

 

「そういうことだ。古くなったサッカーのゴールを撤去してくれ」

 

「おお、それはまた凄いですね・・・」

 

 

 あんな大きいものを運ばせるとは。何も知らない人が見れば虐待にも思われて仕方ないというお願いですが、ここで吉井君の受け持つ係・・・とうか罰則の《観察処分者》というものがあれば違います。

 

この学校、文月学園では『試験召喚システム』というものが導入されておりまして、それを使う事で自分の点数をベースにした召喚獣というものを出して、召喚獣同士がゲームみたいにバトルすることが出来るのです。

この遊びみたいな感覚によって、生徒の勉強のモチベーションをあげるのが学園長さんの目的だとか。

 

 で、この《観察処分者》というものは、先生の立会いの下、実物に触れる召喚獣を扱えるのです。

 この召喚獣という存在は人間とは比較できない腕力の持ち主なので、重たいものを運ばせるのはもってこい。ですが、これが人に向けられると危ないというのはすぐに分かりますよね?だから基本的には、物には触れないのです。

 

 ところが、吉井君の召喚獣は例外に当たって物に触ることが出来るのです。それだけ聞くとだいぶ良さそうですけど、召喚獣の感じた感覚が吉井君自身にも伝わるというおまけつきです。だからお手伝いをしたら彼も疲れちゃうわけなので、あまり嬉しいとは思えません。

 

 

「やれやれ。早起きなんてするもんじゃなかったなぁ・・・」

 

「後悔するのは早起きではなく、観察処分を受けたお前の態度だという事に気付くべきだと思うがな」

 

「しかし、何をしたら観察処分者になるんですかねー?」

 

 

 何でも吉井君が文月(ふみづき)学園開校以来初の処分者だとか。今までに誰もいないってことは相当悪いことをしないとならないってことだと思うんですけど、吉井君は何をしでかしたんでしょうか?犯罪行為とかはダメですよ?

 

 

「はあ、僕はそんなに悪い事なんてしていないのに・・・」

 

「それは嘘だと分かります」

 

「全くだ。どの口でそんなことが言えるんだ」

 

 

 それを本当に言ってるのなら、無自覚って怖いですよね。

 

 

「ほら、いいからグラウンドに来い」

 

「へーいへい」

 

「あ、それじゃ私はここまでで。頑張ってくださいね」

 

「えー、美鈴さんも手伝ってよ!」

 

 

 私を巻き込もうとするのは、自称『悪いことしてない人』がすることですかい、こら。

 

 

「私にそんな腕力は無いですし、一応やることもあるんですよ。だから失礼します!」

 

 

 吉井君達と喋ってて忘れてましたけど、時間がやばい!今は吉井君に構ってる暇はないのですよ!

 すがるような吉井君の視線を無視して、私はダッシュを再開しました。

 

 

「そんな!待って美鈴さーんっ!」

 

「人を巻き込むな吉井!」

 

 

・・・これは見捨ててるんじゃなくてきちんと理由があったんです。私は罪悪感を感じる必要はないですよー。ないですよー・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・んん?」

 

 

 校舎へと入り、私がバタバタと下駄箱で靴を履きかえようとした時、ポツンと可愛らしい便箋を床に見つけました。

 

 

 あれ、こういうのって下駄箱の中に入ってるのが王道じゃないですか?最近では地べたに置くのがはやりなのですかね?

 

 

 

「って、そんなわけないか。落し物って感じでしょうね」

 

 

 この急いでいるときにそんな物と出くわすとは・・・しかし、こんな大切な物を落としてしまうとは、よっぽど慌ててたんでしょうか?

 

 ひとまず、ここに置きっぱなしなのはまずいですし、拾って――

 

 

 

 

 

 《吉井明久さまへ》

 

 

 

 

「・・・お、おお・・・まじですか」

 

 

 私が本人だったら悲鳴をあげてましたね、喜びの方を間違いなく。そして私は、現在進行形で慌ててなければ、黄色い声をあげていましたね。

 

 

「―――よいしょ(がたん)」

 

 

 宛名も分かったので、私は特に考えることなく吉井君の靴箱に投入。よし、これで解決!

 

 

「さー急ぎますか!」

 

 

 

 すぐに上靴に履き替え、私はラストスパートをかけました。目指すは体育館横の部室。どうかそこまで待たせてませんよーにっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃない。寝坊とはあなたらしいわね」

 

 

 

 ダメでした。あ~、こ、これはまずいです・・・!

 

 

「・・・え、え~~と、これでも急いだ、つもりです。はい」

 

「あら、そうだったの?それは悪かったわ。確かに三十分ぐらい待ったぐらいだから、言いすぎたかもね」

 

「・・・・・・すっ、すいませんっ!で、でも集合時間が早すぎるんですよ~!」

 

「何を言ってるのかしらこの眠り魔は。これぐらい誰でも出来て当然よ。まだ寝ぼけてるなら顔を洗ってきなさい、美鈴。何なら私が目を覚ましてあげようかしら?」

 

「ひいっ!!は、反省してましゅのでどうかい、怒りを収めてくださいいいっ!」

 

「怒り?ただ後輩のいけないところを、先輩の私が直そうとしてるだけ。怒ってなんかいないわ」

 

「じゃ、じゃあその手はなんですかー!教育するのにそんな暴力はダメですよね!?」

 

「残念だけど私の教育は、ダメな事をしたらどうなるのかを身体に染み込ませる方法なのよ。一年一緒にいたあなたなら分かってるでしょ?美鈴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そうですけど、ってややめてください幽香先輩ぃぃぃ!!」

 

 

 

 

 

 

「―――では、次からは遅れないように。いいわね美鈴?」

 

「そ、そろそろ慣例ということで許してやってもいいじゃないですかー。あいたた・・・」

 

「却下。あなた、それを許したらもっと遅くなるでしょ。ん?」

 

「そ、そんなことはないですよ!・・・多分、分かりませんけど。自信ありませんけど・・・」

 

「自分で自信が持ててないじゃない」

 

 

 うう!私は朝起きるのが苦手なんだから仕方ないじゃないですか~!

 

 ふうっと息を吐くのは、一つ上にあたる三年生の女子、そして私の所属する部活の部長である、風見幽香(かざみ ゆうか)先輩。

 

 草原のように綺麗な髪の持ち主である幽香先輩は、この学校でもトップを狙えるのではというほどのビューティフルな女性で、学校でも有名にな女子です。いわく『高嶺の花の美女』だとか、『花の女神』だとか『冷酷姫』だとか。

 

 最後のは前の二つと違って恐怖を感じさせる名称ですけど、幽香先輩がそんな冷たいってことはないと思うんですけどねー?・・・ちょっと攻撃的なのは事実ですけども。

 

 

「ほら、早く持ちなさい。時間が足りなくなるわよ」

 

「あ、はいっ!」

 

 

 そんなよくも悪くも有名な幽香先輩が差し出してくるのは、小学校とかでもよく見かける緑色のジョウロ。古くから愛されるデザインです!

 

 

「じゃあ、まずはグラウンドの方の花壇ね。行くわよ」

 

「あいあいさ!」

 

 

 私たちは互いにじょうろを持って外へと向かいます。

 

 今日の部活、すなわち園芸部の活動は花の水やり!さあー気合いをいれていきましょうか!!

 

 

 

 

 

「美鈴、Fクラスでの生活にはもう慣れたかしら?」

 

「もう、幽香先輩は意地悪ですね~。なんだかんだで楽しくやってますよ」

 

「そう、それは結構。その分こっちで頑張ってもらうわ」

 

「どの分ですか!?全然関係ないですよ!?」

 

「あら、部活で頑張ってくれないの?」

 

「そ、そういうわけじゃないですけど!そりゃ部活で頑張りますけども!」

 

「ふふ、ならいいのよ」

 

 

 こ、この先輩は~!普通に言ってくれれば私も普通に言いますのに!なぜこうも変に言いまわすのでしょうか!全くもう!

 

 私は少しいじけながら、少ししなびているパンジーへと水をやります。早く元気になってくださいね~!

 

 

「そう言う幽香先輩はどうなんです?確かAクラスでしたよね?」

 

「だめね。一番上のクラスだからってピリピリしてつまらないものよ」

 

 

 水をじょうろに貯めながら聞いてみますと、幽香先輩は葉っぱから手を離して息をはきました。ちょっと、花を愛でるのはいいんですけど先輩も手伝ってくださいよ! 

 

 

「なんでもかんでも一番だったら良いってものじゃない、ということが分かったわ。変わった事なんか新鮮でいいわねえ・・・」

 

「はあ。そんなものですかね?」

 

「ええ。あなたといて私は満足してるもの」

 

「・・・・・・褒めてるように見せて、私がバカってなんか落としてませんかそれ?あと私はトラブルメーカーじゃありません」

 

 

 まあ確かに私が何かで一番!ってことはないですけど。でもやっぱり見栄を張りたいのが人間です!

 

 

・・・あ、変わった事っていえば。

 

 

「そういえばさっき下駄箱で、ラブレターらしきものを見つけたんですよ」

 

「やっぱりあなたといると退屈しないわね」

 

「ちかっ!?」

 

 

 ま、満面の笑顔の先輩が目の前にっ!そこまでくいつくとは思いませんでした1

 

 

「で、詳しい話を聞かせなさい」

 

「は、はい。え~とですね。そこまで話があるわけじゃないんですけど――」

 

 

 可愛らしい手紙だったということと、それを送り主の靴箱に私が入れたことを話しました。

 

 

「――ふうん。それはなんとも間抜けな差出人ね。うっかりでその愛の告白が何人にもみられるところだったじゃない」

 

「幽香先輩のその顔は、安心した表情って信じますよ?」

 

 

 何もないからつまらないって思ってるんじゃないですよね?誰にでも優しい幽香先輩だと私は信じたい!

 

 

「それにしても、あなたも優しいわね。わざわざ置いてあげなくても自分の懐に入れておけばいいのに」

 

「鬼ですね。先輩」

 

 

 手紙の差出人が悲しくて泣いちゃうと思います。先ほど花にも見せた優しさを人にも与えてやってください。後輩としてちょっとさみしいですよう・・・

 

 

「で、その手紙のもらい人は、あなたの知ってる人なの?」

 

「え?ええ、知ってますけど」

 

「なら、その男子がどうなったかを後で教えなさい」

 

「??何でですか?」

 

 

 吉井君の事も知らないでしょうし、誰宛てなのかも言ってませんよね?

 

 不思議に私が思っていますと、幽香先輩は意味ありげに笑って、こう言いました。

 

 

 

「あなたが関わったら、きっと愉快な展開が待ってるからよ」

 

「だから私はトラブルメーカじゃないですって!」

 

 

 私はまたもむくれながら水を与え始めました。もう!期待通りにはならないからそんなにおかしそうに笑わないでください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーございます!」

 

「おー、おはようだぜ美鈴」

 

「おはよ、美鈴」

 

「おはよーメーリン!やっぱりアタイは最強ね!」

 

「全く訳が分かんないですよ!?」

 

 

 今に始まった事じゃないから慣れましたけどね!

 

 水やりの作業を終えたので、幽香先輩と別れて私は教室に到着。中にはいつものにぎやかなメンバーが集まっていました。

 

 

 最初の元気な挨拶は霧雨 魔理沙。ふわふわした金のロングヘアーな元気はつらつな女友達です。ちなみに百合です。この前発覚したばかりです。(もしもそう言った時の反応:『だだだ誰がユリじゃぜっ!たっただ狙っちぇる奴が女子なだけだもんっ!』)

 

 で、その次の一般的な反応の女の子が島田美波さん。ポニーテールがチャームポイントの勝気な女の子です。あと、怖いものが苦手かも?(もしも尋ねられた時の反応:『べっべ別に怖くないわよ!?あ、あれはちょっと気分が悪くなっただけ!すすすすっごい怖いから気絶したとかじゃないんだからね!?』)

 

 そして、最後のサイキョー発言の主はチルノ・メディスン。水色の髪で、背丈は私のお腹あたりというちっちゃなおバカです。そのまんま、おバカです。(もしも『だ誰がバカよ!?バカって言った奴がバカなんだもん!このバカっ!』バカでないなら割り込むのはやめましょう)

 

 この癖のある女子が(あと一名いませんけど)、このFクラスでの私の女友達です!やっぱり同性の友達っていいですよね~!心が和みます!

 

 

「・・・・・・何やら私の第六感が羞恥を感じ取ったんだぜ」

 

「魔理沙、ウチもよ」

 

「アタイが最強って思われてるような気がするわ。間違いないのよさ」

 

 

 2人の勘は鋭いですね。チルノに関しては勘もアホみたいです。

 

 

「・・・で、あの。瑞希さんはどうしたんですか?」

 

「さ、さあ。ウチもよくわかんない」

 

 

 視線の先には、このクラス随一の秀才である姫路瑞希さんが、ちゃぶ台の前で正座をしてボロボロの天板とにらめっこをしていました。でもその顔は笑いよりも同情を誘うものです。

 

 

「困ってる顔って感じがしますけど・・・何かあったんですかね?」

 

「さあなー。もしかしてあれじゃないか?女の子の――」

 

「アウト魔理沙!ここでそれは思いっきりアウトです!」

 

 

 本っ当に配慮のかけらもないですね!事実だとしても、聞いた途端に瑞希さんが羞恥で死ぬこと間違いナシってことぐらい分かるでしょうが!

 

 

「ねえみなみ。女の子の・・・何さ?」

 

「え、え~~と………お、女の子の秘密よ!秘密!」

 

「おお!なんかかっこいいわね!」

 

「・・・チルノにゃ関係なさそーだなあ」

 

「はたから見ればそうでしょうね…」

 

 

 見た目小学生ですからね。年に関してはもう十分あれですから、あれなはずなんですけど。

 

 

「紅、おはようなのじゃ」

 

「あ、おはよーです秀吉君!」

 

 

 老人みたいな言葉で挨拶をしてきたのは、見た目は少女、中身は男子の木下秀吉君です。このクラスで最も落ち着きのある男子だと言えるでしょう。

 

 

「先ほどお主を体育館の近くで見たが、何かやっておったのか?」

 

「ああ、ちょっと花の水やりをですね」

 

「ほう、そんなことをしておったのか。さすがじゃのう」

 

「?ありがとうございます」

 

 褒められてるのはいいんですけど、さすがってどういう事でしょう?何か木下君の中で私の株が上がってませんか?

 

 

「でも、あれは部活の活動で――」

 

「お前ら、SHRを始めるから席に着くんだ」

 

 

 あ、西村先生の到着です。どうやら話はここまでみたいですね。

 

 西村先生の言葉にそれぞれがばらばらと席に着いていきます。いつの間にか吉井君もその中に混ざっていました。私が入れておいた誰かの手紙を、ちゃんと見ることが出来たんでしょうか?

 

 

 

 

「加藤」

 

「はい」

 

「木下」

 

「はい」

 

「霧雨」

 

「ういっす」

 

「返事ははいだ霧雨」

 

「はいだぜ」

 

「・・・まあいい。木村」

 

「はい」

 

 

 西村先生の出欠確認に皆さんはのんびりと答えていきます。春の余波まだ終わらぬこの季節、眠くなるのも仕方無いというものです。ふあ~あ・・・ああ眠たい・・・

 

 

「黒田」

 

「はい」

 

「近藤」

 

「はい」

 

 

 ん~、もう少し時間もありますし、呼ばれるまでの間だけ目を閉じておきましょうかね・・・・・・・・・ではおやすみぃ~・・・

 

 

「斉藤」

 

「はい」

 

「坂本」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・明久がラブレターを貰ったようだ」

 

 

 

『殺せぇぇっ!』

 

 

「ひゃいいいっ!?」

 

 

 なななに、何が起こったの!?急にのどかな雰囲気が消滅しましたよぉ!?

 

 

「ゆ、雄二!いきなりなんてことを言いだすのさ!」

 

 

 ど、どうやら吉井君と坂本君が関係しているみたいです。全くもう!今度は何をしたんですか2人とも!私の安眠を邪魔するなんてひどいじゃないですか!この眠りを妨げると言う大罪、どう償ってもらいましょ――

 

 

『どういう事だ!?吉井がラブレターなんかをもらうなんて!』

 

 

 友達ですから許してあげましょう。

 

 ラ、ラブレターを入れたのが私で、遠因は私にあると思ったからとかじゃないですからね?だってそれが誰かに見つからなかったら何も問題なかったじゃないですか!ねえ!?

 

 

『それなら俺たちだって貰っていてもおかしくないはずだ!自分の席の近くを探してみろ!』

 

『なになに!?アタイもやるわよ!』

 

『ダメだ!腐りかけのパンと食べかけのパンしか出てこない!』

 

『もっとよく探せ!』

 

『………出てきたっ!未開封のパンだ!』

 

『お前は何を探しているんだ!?』

 

『見て見て!アタイが今朝捕まえたアマガエルよ!可愛いでしょ!?』

 

『ひ、否定はせんが、せめてかごに入れて連れてくるのじゃ!どこから出したんじゃ一体!』

 

『・・・おっ。大越にもらったキーホルダー。こんなとこにあったのか』

 

 

 ざわざわとFクラスが荒れはじめますが、そこはさすが生徒指導の先生です。

 

 

「お前らっ!静かにしろ!」

 

 

『・・・・・・・・・(シーン)』

 

 

 西村先生の注意で皆一斉に口を閉じます。ふ~、あのままいくと一悶着が起きかねませんし、一安心ですね。

 

 

「それでは出欠確認を続けるぞ。島田」

 

「アキのバカ」

 

「園部」

 

「吉井コロス」

 

「田中」

 

「はい」

 

「田村」

 

「吉井コロス」

 

「チルノ」

 

「はーいっ!」

 

「手塚」

 

「吉井コロス」

 

「藤堂」

 

「吉井コロス」

 

「戸沢」

 

「吉井コロス」

 

 

 全く安心できませんでした。『殺す』なんか言ったらダメ!

 

 

「みんな落ち着くんだ!なぜだかほとんどの返事が『吉井君コロス』に変わっているよ!」

 

「吉井、静かにしろ!」

 

「に西村先生!?そっちを注意するんですか!?」

 

「そうですよ先生!このままだとクラスの皆は僕に殴る蹴るの暴行を加えてしまいます!」

 

 

 もはやクラスの大半が殺意を!?先生として、おバカな生徒でも見捨てないであげてください!

 

 

「橋岡」

 

「吉井マジ殺す」

 

「姫路」

 

「は、はいっ」

 

「福田」

 

「吉井ブチ殺す」

 

「紅」

 

「も、黙殺ですか!?生徒二人のお願いを無視ですかーっ!?」

 

 

 西村先生の外道!イメージダウンですよーっ!

 

 

「よし。遅刻欠席は無しだな。今日も一日勉学に励むように。あとチルノ、そのカエルは逃がしてあげるんだ」

 

「えー」

 

「待って先生!そんなちっさいカエルなんかのことより人間の僕を心配して!可愛い生徒を見捨てないで!」

 

 

 出席簿を閉じて出て行こうとする西村先生を、吉井君が必死に呼び止めます。カエルより扱いがひどいって・・・

 

 

「吉井、間違えるな」

 

 

 そんなすがる声に、西村先生は扉にかけたまま振り向きます。ん?間違いとは?

 

 

「お前は不細工だ」

 

「ひどい!?」

 

「不細工とまで言われるとは思わなかったよバカ!」

 

 

 今日の西村先生はドライです!先生としてどうなのそれっ!?

 

 

「授業は真面目に受けるように」

 

「先生待って!せんせーい!」

 

 

 あ、ああ行っちゃいました・・・!これで皆を止める人がいなくなったから、何か起こるのは確実です。

 

 

「やるじゃないか吉井!で、誰からなんだ!?」

 

 

 さっそく来ました。トップバッターは、自称恋に生きる女の魔理沙です。

 

「ま、魔理沙。それが、僕もまだ中身は――」

 

「アキー?ウ、ウチにも教えてくれるかしらー?それは誰からもらったの?」

 

「あ、あの美波さん。顔が近いよ近いよ?」

 

「い、いいのよ今はっ!」

 

 

 続いて島田さん。手を伸ばせば届く距離まで吉井君に詰め寄っています。

 

 

「で!?誰からのラブレターなの!?女の子?そ、それとも男子なの!?」

 

「美波!その選択肢はいらない!というかあってほしくないから言わないで!」

 

「じゃ、じゃあやっぱり女の子からなの・・・!?アキのバカーっ!」

 

「ぐは!?そ、そう言われてもね美っ波っ!僕も何が何だっか!?」

 

「お、落ち着いて島田さん!」

 

 

 せめてもう少し優しくしてあげましょう!吉井君の胸をどんどんと叩くたびに吉井君がうめき声をあげてますから!力の加減を間違えると、せっかくのラブシーンがただの暴力場面にチェンジですよー!

 

 

「あの、吉井君」

 

「ん、ん?なに姫路さん?」

 

 

 まだまだ参加者は途絶えません。次は大人しい瑞希さんです。顔を下にしてもじもじしてるのがまた可愛い!

 

 

「その・・・・・・できれば、ですけど……私にも手紙を見せて欲しいです……」

 

「え…」

 

 そんなキュートな瑞希さんの要求に、吉井君は困ったという顔に。やはりラブレターみたいなものは自分だけで見たいのかもしれません。

 

 ちなみに私は貰った枚数0枚です。く、悔しくないですよーだ!

 

 

「その……ごめん」

 

「でも、でも……!」

 

 

 吉井君が本当に申し訳なさそうに謝りますが、瑞希さんはそれでも食い下がります。大人しい瑞希さんにしては珍しいですね?

 

 でも、自分の意見を通すのは大事ですから、完全に他人事になっちゃいますけど感心ですよ!

 

 

「いくら姫路さんにも、コレばっかりは」

 

「でも、私は吉井君に酷いことをしたくないんです!」

 

 

 脅迫するところは全く感心できないですよ瑞希さんっ!?

 

 

「ちょっと待って!僕に暴力を加えることが前提なの姫路さん!?」

 

「だから吉井君、ど、どうかその手紙を・・・!」

 

『くそお・・・!なんで吉井の奴だけ!』

 

『こんな事態、許されていいのか・・・!いや、断じて否っ!』

 

『・・・・・・嫉妬がいかに怖いか、その身に知らしめてやる・・・!』

 

 

 吉井君がビックリしている間にも瑞希さんは近寄り、他の男子は殺気だって体を慣らし始めたりしています。もはや我慢の爆発は目の前と見て間違いありません!

 

 

「ま、まあまあ皆さん。いったん落ち着きましょう!」

 

 

 少しは私のせいかもしれませんし、ちょっとここは吉井君のフォローに動くとしましょう。

 

 私は立ち上がって皆さんの抑制にかかります。

 

 

「えー、邪魔するなよ美鈴。私はこれからそのラブレターを見せてもらう予定なんだぜ?」

 

『そうだ美鈴さん!いくら美鈴さんだからと言って邪魔はさせないぞ!』

 

『俺たちにもそのらぶれたーとやらの中身を知る権利がある!』

 

「い、いやそんな権利無いと思いますけどね!?」

 

 

 そんな暴君みたいな主義はこの社会で通用しませんっ!もっと優しさを持ってあげてください!

 

 

「確かに紅の言う通りだ。いったん落ち着け皆」

 

「おお、助かりますよ坂本君」

 

 私の手助けをしてくれたのは、このクラスの代表である坂本雄二君。どうやら友達の吉井君を助けてあげるみたいです。代表の言葉というのもあって、皆が静まり返ります。

 

 

「今問題なのは、明久の手紙を見ることじゃない」

 

「そうですよ。まずは吉井君の話を聞いてからですね―」

 

「問題は、明久をどうグロテスクに殺すかだ」

 

「バカですかあなたは!?」

 

 

 やることが悪化してんじゃないですかこのド外道っ!普段吉井君を陥れようとする彼に期待した私がバカでした!

 

 

「前提条件が間違ってんだよチクショウ!」

 

『逃がすなぁっ!追撃隊を組織しろ!』

 

『手紙を奪え!吉井を殺せ!』

 

『サーチ&デス!』

 

「そこはせめてデストロイで!」

 

「だからそんなに殺すって言ったらダメです皆さーん!――て、も、もういなくなった…」

 

 

 こんなに団結したのは、Aクラスに勝とうと試召戦争を繰り広げた時以来じゃないでしょうか。今回に関しては理由がひどすぎますけどね!

 

 荷物全部を抱えた吉井君を追いかける皆さんに、私は頭が痛くなるのを止められませんでした。

 

 

「……………ハ~~・・・ああもう!行きますかっ!」

 

 

 私がまいた種でもありますから、途中で投げ捨てるのはダメですよね!シッカリ収拾はつけないと!

 

 

「じゃあ皆さん。私はちょっくら暴走気味のおバカたちを捕まえてきますから、皆さんはきちんと教室にいてくださいねっ!」

 

 

 私は残った数人にそう言って、出て行った人たちの収拾にかかり始めました。

 

 もう!こんなことになるんなら、おせっかいを焼かなきゃよかったですよーっ!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・教室、がらがらだな。たった3人とは・・・」

 

「魔理沙はともかく、何でチルノも瑞希も行っちゃってんのよ・・・・・・」

 

「島田は行かんのか?てっきり行くものとばかり思っておったのじゃが」

 

「木下。ウチはどんな奴だって思ってるのよ…。そりゃ最初は驚いてアキに掴みかかったけど、よく考えたらウチがどうこうするのも変だしね」

 

「まあそうじゃな」

 

「・・・それにあの感じだと、他の男子からもぼこぼこにされそうだからね。ウチが手を出すまでも無いでしょ」

 

「悪どいのう・・・」

 

「あれだ。自分の手は汚さず、ってやつだな」

 

「それより、田中。ウチはあんたが残ったのがビックリだわ。どうしたの?体調でも悪いの?」

 

「そうじゃな。他の男子は一人残らず明久を追って行ったというのに……何か企んでおるのか?」

 

「お前らこそ俺をどう思っているんだこら。女子と会話できるのは嬉しいが、あまり素直に喜べないぞ」

 

「待つのじゃ田中。わしは男じゃというに」

 

「秀吉、細かいことは気にするな」

 

「全く細かくないぞい!」

 

「・・・・・・・・まあ、理由はあっけどさそりゃあ」

 

「ふ~ん?どんな?」

 

「え?言わなきゃだめなのか?」

 

「どうせなら言いなさいよ。ウチだって言ったじゃない」

 

「いや、そこまで大した内容じゃなかっただろ」

 

「何ですってー!?」

 

「うげっ!?わ、分かった!言う!言うから俺の首を絞めるその手を放してくれっ!」

 

「ふん。最初からそう言えばいいのよ」

 

「わしより野蛮じゃな、島田よ・・・」

 

「全く理不尽だ・・・・・・・・・まあ、不真面目な人は苦手って言ってたからさ。それでだよ」

 

「え?それって誰がよ」

 

「・・・・・・それは勘弁してくれ」

 

「何じゃ?ひょっとして思い人じゃろうか?」

 

「・・・・・・・・違います」

 

「お主、嘘が下手じゃな」

 

「へ~?誰よ誰よ?ウチの知ってる女の子?」

 

「・・・・・・島田の交友関係なんぞ、なんで俺が知ってんだよ」

 

「あっ、それもそっか。じゃあウチがAからFまでクラスを言っていくから、違うって言ってちょうだい」

 

「・・・・・・島田。お主、やけに生き生きしておらんか?」

 

「ん~、かもね。ウチもやっぱり魔理沙みたいに、そういう話は好きだからね。というわけで田中、しっかり頼むわよ?」

 

「待て待て待て!おれに拒否権は無いのか!?んなもんやりたくねえぞ!」

 

「じゃあいくわよー」

 

「・・・・・・あ、ああくそ、やりたきゃやれ!でも俺がそう簡単にバラすと思ってんじゃ「Dクラス」なっちちちっ、・・・・・・ち、違います」

 

 

「・・・ウチ、適当に言ったつもりだったんだけど・・・」

 

「よもやの一発、じゃな・・・」

 

 「・・・・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

「「Dクラスの誰よ(じゃ)?」」

 

「もう本当に勘弁してくれっ!」

 

 

 

「あいたっ」

 

「んー?どうしたのだ大越ー?」

 

「あ、ううん。なんだか廊下がさわがしいなあって思ってね」

 

「そうなのかー?」

 

「うん、そうなんだ」

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さてさて!今回は、『四季のフラワーマスター』の二つ名を持つ最強の妖怪の1人!一見は恐ろしくも、その心は優しさで溢れているであろう、花が大好き、風見幽香さんに出演してもらいました!あの人ほどサドが似合う女性は他にいるのか・・・!

 美鈴さんと幽香さんは花を育てるという点で接点がありましたので、今回園芸部という形でその関係を出させてもらいました。園芸の事が何も分かってないので、次回からは少し知識を入れねば・・・!

 
 そんなわけで、暴動が収まることのない嵐のラブレター回!何話か続くと思いますので、楽しみにしていただければ!感想とかがあったら気楽に送ってください~!

 それではまた次回っ!


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奔走―手段、は問わずに成すことを成し遂げてやるーっ!


どうも!村雪です!最近は暑くなっていますが、皆さんもお体の調子にはお気をつけを!

 さて、思ったよりも書いちゃって、ラブレター回は次回にも続くことになりました!

 楽しんでもらえる展開へとつなげたいところです・・・!!


――ごゆっくりお読みください。


 

 

「ちくしょー!!雄二の奴あとで覚えてろよ!」

 

 

 イケメンボーイな僕こと、吉井明久は廊下を走る。

 

 手には女神から授けられたであろう愛を綴(つづ)った神聖なパピルス。Fクラスの悪魔たちはそれを奪還、さらに受け取った僕への制裁を下しに追っかけてきようとしているのである。まだもらった僕自身も見ていないのに、そうやすやすと渡すわけにいくか!人生最初で最後かもしれない事態なんだからねっ!・・・・・・泣いてないよっ!

 

 

『いたぞ!吉井だ!空き教室に向かったぞ!』

 

『了解!吉井を見逃さないように見張り続けるんだ須川!B部隊は正面から、C部隊は逆側から回って挟み撃ちにするんだぜ!』

 

『応っ!』

 

『あと、手紙を見れたら私らの勝利なんだから、あまり手荒な事はやめてやれよっ!!』

 

『それは却下だ!』

 

『おおい!?隊長の命令を無視してんじゃないぜ!』

 

 

 後ろから聞こえてくるたくさんの声が聞こえてくる。どうやら魔理沙が部隊を編成したようだ・・・・・・制御しきれてないけど。さすがは恋に生きる女の子。どうやらこの手紙は最高の燃料になっちゃったみたいだ。

 

ともかく、僕が逃げるのには変わりな

 

 

「ばあっ!」

 

「うわっ!?」

 

 

 いきなり横から何かが飛び出してきた!不意打ちっ!?

 

 

「・・・・・・って、なんだチルノか」

 

「ちょっとちょっと!な、なんで驚かないのよさ!?ビックリさせようとしてアタイが飛び出したのよ!?もっとびびりなさいよっ!」

 

 

 不満だと顔いっぱいに感情を出してるバカガール、チルノ。ええ、そう言われてもなあ・・・

 

 

「だってチルノじゃん」

 

「どーいう意味なのよさそれっ!」

 

 

 普段はバカバカと失礼な奴だけど、こういう時は和むなあ。なんかアホの子を見てるみたいで。

 

 

 

『見ろ!吉井がチルノと何か話してるぞ!』

 

『野郎!チルノちゃんは俺の嫁だ!』

 

 

「あ、やば!」

 

「ちょ、待つのよさこら!」

 

 

 止めてた足を動かして、僕は慌てて追跡隊から距離を取る。チルノもついてきたけど別にいいか!

 

 

『吉井!観念して手紙をよこせ!』

 

『一人だけ幸せになろうなんて甘いんだよ!』

 

『チルノちゃんといちゃいちゃしてんじゃねえぞごらぁっ!』

 

 

 前方から五人のクラスメイトがこっちに向かってきた。どうやら魔理沙がさっき言ってたB隊かC隊みたいだ。

 

 

「失礼しまーすっ!」

 

 

 このままだと衝突しちゃうから、隣の空き教室へと入る。きちんと挨拶はしたから入ってもいいよね!

 

 

「よしー!ここに入って何すんの?」

 

「チルノ、これをあそこの上にひっかけるんだ!」

 

「ん?よく分からんけど、分かったわ!」

 

 

 チルノもちゃっかり入って来てたから手伝わせる。『馬鹿とササミは使いよう』とはよく言ったものだ。おかげでずいぶんと手間が減ったよ!

 

(正.『馬鹿とはさみは使いよう』です。ササミは食べる用途にしか使えません)

 

 

 よし、あとは奴らが来るのを待つだけだ。

 

 

 

『観念しろよし―――』

 

「チルノ!」

 

「おうなのよさ!」

 

 

 かかった!教室に五人が入ってくるなら、当然一か所にまとまって入ってくるよね?予想通りだ!

 

 チルノと僕は、手に持ったサッカーゴールのネットを同時に引っ張った!

 

 

「うお!?なんだこれ!」

 

「ネットか!端の奴から出ろ!それで吉井を捕まえるんだ!」

 

「ああ――って、このネットぬれてるから体にはりつきやがってなかなか――」

 

 

 天井にひっかけてたネットが落ちて、狙い通りすっぽりと五人がネットの中に入った。慌ててすぐに出ようとしてるけど、それだけで終わるはずがない!

 

 

「チルノは離れて!」

 

「りょーかい!」

 

 

 チルノが離れたのを確認して、僕はムッツリーニから借りていて、そのまま持っていた秘密のアイテムを手にした。

 

 

「!?お、お前まさか――っ!!?」

 

 

 僕が持つものに気付いた1人が顔を引きつらせる。そう、そのまさかだよ!僕と敵対したことを保健室のベッドで後悔するんだね!

 

 

「やややばいっ!全員ネットから離れ――」

 

「さらばクラスメイトよ!来世でバカにならないことをっ!」

 

 

 カチッと秘密道具の電源をONにして、僕は迷うことなく水で濡れたネットへ―――スタンガンを投げつけた。

 

 

『ぎゃああああああっ!!』

 

 

 バチバヂと激しい音と焦げ臭いにおいが立つ中、五人は仲よく感電して床に倒れた。

よし!まずは勝利!でも敵はまだまだいるから油断は禁物だ!

 

 

「やるじゃないよしー!次はどうすんの!?」

 

「ここにいる必要もないから、ひとまずここを出るよ!」

 

「分かった!」

 

 

 なぜかノリノリなチルノを連れて、僕は教室を後にした。この愛を込めた手紙は誰にも意地でも渡さないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわ~。これはまた・・・」

 

 

 何やらは焦げ臭く思った教室に入ってみると、スタンガンがバチバチと水で濡れたネットに触れて、ネットの中にいるクラスの男子五人をばっちり感電させていました。

 

 多分追われてた吉井君の迎撃なんでしょうけど、どうして毎度毎度やることが過激なんですかねえ~・・・・・・こんな惨状を見ても、特に動じなくなった私もだいぶやばいですね。

 

 

「ひとまず、電源を切ってと」

 

 

 スタンガンなんて初めて触りますから、どこにスイッチがあるのか・・・あ、ここですね。

 

 

「そんでこの網をっあっちちぃ!?」

 

 

 ね、ネットを掴むとビリッと来たあ!?で、電源を切ってもまだ電気は流れてるんですかい!

 ああもう、バチッ!はそこまででしたけど、びっくりしたなあ~・・・

 

 

「(ちょん、ちょん)・・・よし。いけますね」

 

 

 あみを取って、五人の調子を確かめます。・・・・・・うん、皆さん気絶してるだけみたいです。このぶんなら保健室に運ぶだけでいいんじゃないですかね?

 

 

「さて・・・・・・5人ですか」

 

 

・・・・・・保健室までどう運びましょう?そもそもベッドが足りるのでしょうか?

 

 

「・・・・・・よし、ひきずって連れて行きますか(ガシッ)」

 

 

 いうなれば、こうなったのも自業自得ですからねー。多少手荒になっても文句は言われないでしょう。私はズルズルとひきずりながら、五人を保健室に運びました。

 

 ぬう、やはりちょっと重いですが・・・・・・一度決めたことはやり通しますよ!いよいしょおおっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「よおアンタ達!元気してた!?」

 

「!って、なんだチルノか。元気も何も、吉井を殺る気は十分だ。お前も吉井の抹殺に来たのか?」

 

「アタイ?アタイはねー・・・・・・あんたらを引きつけにきたのよさ」

 

『は?』

 

「よしー!」

 

「はいよーーっとっ!!」

 

「げ!?」

 

「うおおっ!?」

 

「あははは!残念ねアンタ達っ!ここはアタイの勝ちよ!」

 

「そこは僕じゃないにしても僕たちにしてほしいねっ!」

 

 

 ずしいいん、と大きな音が古書保管室に響き渡り、さっきまでいたクラスメイト達が本棚の下敷きになる。これはなかなか抜けられまい!囮の役ご苦労だったねチルノ!

 

 

「人の恋路を邪魔しようとするからそうなるんだ!さらば!」

 

「じゃあねあんた達!あとこいじって何よしー!?」

 

『おのれ吉井!裏切り者め!』

 

『チルノちゃんマジ天使ー!』

 

『覚えていろ!お前の幸せは必ずぶち殺す!』

 

 

 どうやらMな奴が混ざっていたみたいだ。色々と歪んでいるクラスメイト達だなあ・・・念のためモップを使って出口を封鎖しておこう。嫉妬って人を変えるからね。

 

 

「よしー、こいじってなによ?その手紙と関係あんの?」

 

「うん、そりゃもう思いっきり・・・っていうかチルノは手紙を奪おうとしないの?」

 

 

 さっきから手伝ってもらったりしてるけど、チルノも僕をおっかけて教室を出てきたんだよね?そりゃ助かるんだけど、何か企んでたりするんじゃ――

 

 

「別にいいわよ。アタイは楽しそうだから出て来ただけだもん」

 

「さすがだよチルノ」

 

 

 どうかこのままバカな君でいてほしい――ッ!?嫌な気配!

 

 

「うおっと!」

 

 

 そこを飛び退くと、何本ものボールペンやシャープが突き立った。あと少し遅かったら・・・!

 

 

「あぶなっ!!誰よペンとかシャーペンを投げるバカな奴は!」

 

「・・・・・・・その言葉、チルノと明久にだけは言われたくない」

 

「待った!僕を他に比べようのないほどのバカさが自慢のチルノと同類にしないでよ、ムッツリーニ!」

 

「なんだとー!?アタイこそ、あんたみたいなバカでバカで大バカ野郎な奴と一緒にされちゃあ困るのよさ!」

 

「やるか!?」

 

「上等よっ!」

 

「・・・・・・五十歩百歩」

 

 

 つかみ合う僕らを呆れた目で見るのは、旺盛な性的好奇心で男子に畏怖の念、女子に軽蔑の目を向けられている土屋康太、通称ムッツリーニだ。元僕の友達で、現僕の倒すべき敵だ!ここはチルノは後まわしだ!

 

 

「チルノ!まずはあのムッツリを倒すんだ!」

 

「む・・・!仕方ないわね!最強のアタイが折れてやるわ!」

 

「よし!ムッツリーニ、覚悟をし「次はカッターを投げる」よしまずは話し合いをしようじゃないか」

 

 

 やっぱり友達に暴力だなんていけないよね!

 

 

「へん!そんなの脅しよ!アタイが脅しで屈するなんて」

 

 

 ヒュッ

 

 

「・・・・・・刃は収めてある」

 

「OK。ひとまず下がってやるのよさ」

 

 

 やはり嫉妬とは怖い。生物学上は一応女の子のチルノにも、刃(刃はしまってます)を向けるとは・・・!

 

 

「ムッツリーニ。そっちの要求は?」

 

「・・・・・・グロテスクに処刑されてもらう事」

 

「全く交渉の余地なしかよ!」

 

 

 たくさんの文房具を構えるムッツリーニに迷う素振りはない。仕方ない、ここはチルノを囮にしてこの場を――

 

 

 

 

「や、やーっと見つけましたよあなた達ぃ!」

 

 

「へ?」

 

「あ、メーリン」

 

 

 振り返るとそこには、Fクラス随一の良心、そして『こんなお姉さんが欲しいランキング』で堂々の一位を手に入れた紅 美鈴さんが、息を荒く吐きながらこっちを見ていた。

 ・・ここで囮が2人できたと思う僕の心。生を受けて17年になって、遂に舞い降りたラブレターのことがあるから仕方ないと言いたい。というか言わせてください。

 

 

 

 

 

 

 

「や、やーっと見つけましたよあなた達ぃ!」

 

 

 い、行く先行く先でけが人を続出させてーっ!これ以上は同じクラスメイトとして許せません!・・・・・・というかもう運ぶのが面倒なんですよ!気絶して全体重がかかった男子を何人も何人も・・・私は何かの作業員じゃないんですよー!?

 

 

「・・・・・・紅。邪魔をするな」

 

「わ、私がけが人を出すなと言いたいところですがね!」

 

 

 吉井君とチルノを見据える土屋君の手には溢れんばかりの文房具が。使用目的が違いすぎてメーカーさんが泣いてます!

 

 

「吉井君!ひとまず教室に戻りなさい!」

 

 

 普通に廊下に出てますけど、一応今は授業時間です!今更な気もしますが、他のクラスの授業の邪魔をしたらダメでしょうが!

 

 

「ごめん美鈴さん!でも戻ったら嫉妬に狂った皆が襲い掛かってくるから、固い意志を持って断るっ!」

 

「その皆をノックアウトしてるのはあなたでしょーっ!」

 

 

 何人かはもう分かりませんけど、おかげで何回も保健室に運ぶはめになったんですよ!保健室は既にベッドどころか床一杯の男子なんですからね!何度も行くせいで妙な方向で先生に顔と名前を覚えられちゃいましたよ!

 

 

「というわけで美鈴さん!ここは一つ協力を頼むよ!」

 

「どういうわけですか!するわけないでしょうが!」

 

 

 この労力の対価を払ってほしいぐらいなのに、何で私がトラブルの手伝いなんかを――

 

 

「……隙あり・・・!」

 

「ってうおわっ!?」

 

「へん!そう簡単にくらわないわっ!」

 

 

 ここで土屋君が動きました。吉井君目がけてシャープペンシル、定規、あまつさえカッターさえも投げ始めのです。近くにいたチルノも回避行動に出ます。

・・・・・・ちなみに、私たちがいるのは、幅のあまりない廊下。そして私がいるのは・・・・・・吉井君達の背後。

 

どうなるかわかりますよね?

 

 

「あわわ!?ちょ、土屋君!?全く関係ない私にも文房具が迫ってるんですけどおぉっ!?」

 

 あ、危な!カッターなんか一つあればいいはずでしょうが!なんでそんな三個も四個も出てくるんですかー! 

 

 

「・・・・・・戦争に犠牲は付きもの。尊い犠牲になれ・・・!」

 

「試召戦争ですらないですよ!?」

 

 

しかもその犠牲で得られるものがラブレターの破棄って!不名誉すぎて成仏が絶対できませんよね!わっ!よっと!

 

 

吉井君が避けるため、私の下へ向かってくる文房具を何回か避け続けた時に、唐突に状況が動き始めました。

 

 

「じゃあ美鈴さん!後は任せたっ!」

 

「は!?て、ちょ!?」

 

 

急に吉井君が土屋君から私の方に向きを変えて、は、走ってきた!?

 

 

「じゃああたいも!楽しかったのよさムッツリーニ!」

 

 

 チルノも吉井君に続いてやってきます。そもそも何でチルノは吉井君と一緒に行動してるんですか!?

 

 

「・・・・・・逃がすか・・・!」

 

「って、うわわわ!?」

 

 

2人が私の脇を抜けたことにより、土屋君の文房具攻撃に一番近い的は私に。しかも距離も縮まったせいでさっきよりも威力が高い!私を盾扱いして逃げ去ろうとは、後で覚えてなさいよお!

 

 

「土屋君!ひとまずストップしなさい!吉井君がどうこうじゃなくて、辺り一帯に文房具が散らばってすごいことになってますからっ!」

 

 

 あ、ああ廊下に飾られた絵にペンやカッターが・・・!作者の人ごめんなさ~い!!

 

 

「・・・・・・今は気にしてられない・・・!(ヒュッ!)」

 

「いや、気にしなさ(カッ)・・・ってああもおおお!!」

 

 こ、今度は過去の偉い人が書いたらしい書道作品にぃぃぃ!!

 

 

「こら!いい加減にしなさい!(ギュッ)」

 

「・・・・・・・・・っっ!!?」

 

 

私は全力で土屋君に近寄って、いくつかの文房具を構えたその右手を押さえました。全く、いくらなんでもやりすぎでしょうが!

 

 

「・・・・触るんじゃない・・!!(フルフル)」

 

「?なんか震えてるみたいですけど、今さら後悔してもだめですからね!ちょっと今から私が、邪魔の入らない場所で本気でお説教しますからね!覚悟しておいて――」

 

 

「・・・!?2人きりの密室・・・・・・っっ!!!(ブシャアアアア)」

 

 

 わ、凄い勢いー

 

 

「ってぎゃー!!?な、何でいきなり鼻血噴き出したんですかあああああ!!」

 

 

 血が絵とか書道作品にいい!!さっきよりも悪化したじゃないですかあああ!!

 

 

「・・・・・・俺の負け、か…!(ドクドク)」

 

「別に私、何もしてませんけど!?も、もう!また保健室ですかもお!!」

 

 

 血が止まらない土屋君。このままだとやばそうなので、応急処置にティッシュを鼻にさしこんで、私はまたも保健室へと向かいました。私は別にレスキュー隊じゃないっていうのにぃぃいっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。上手くいったみたいだね」

 

 

 ムッツリーニがいた場所から離れた廊下で僕たちは足を止めた。ムッツリーニが来そうな感じは無いから、美鈴さんは上手くやってくれたみたいだ。後でしっかり彼女にはお礼をしないといけないね。

 

 

「ねーよしー。さっさとその手紙読まないの?」

 

「う~ん、でもここだといつ人が来るか分からないし・・・」

 

 

 まあチルノならバカだから見られても、何も起こらないからいいとしても、やっぱりこういうのは一目の少ないところで見たいんだけどなあ…

 うんうん僕が悩んでいると、以外にもチルノがこんな提案をしてきた。

 

 

「なら、屋上とかでいーんじゃない?あそこなら誰も来ないわ」

 

「おおっ。チルノにしてはまともなアイディアだ!」

 

「〝アタイにしては〟ってどういうことよこら。アタイだからこそ思いついたのよさ」

 

 

 全く何を言ってるんだい。そんな単純な事誰だって思いつくよ。それこそバカなチルノでもね!(なら、その発想が浮かばなかった君は一体何になる) 

 

 

 

「んじゃまあ、屋上に行こうか?」

 

「アタイのおかげね。感謝しなさい」

 

 

 チルノのたわごとをスルーして、僕たちは屋上へと向かい始める。このまま誰とも会わなければいいんだけどなー・・・

 

 

「おっ、見つけたぜ吉井」

 

「・・・だよね~」

 

 

 世の中そう甘くないよね。僕には身に染みて分かってましたとも。

 

 

「よければ、私にもその手紙を見せて欲しいんだぜ?」

 

 

 廊下の向こうでそう言ってニコニコ笑っているのは、元気はつらつ、恋に目のない魔理沙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇー・・・ぜぇ―・・・ど、どうでずかせんせ、げっほ!!」

 

「ええ、輸血もしたから大丈夫よ。しばらくは気絶したままでしょうけどね」

 

「そ、そうですか。お見事な腕です・・・はぁ―・・・疲れた」

 

「よくここまで運んでくれたわね。応急処置もしてくれてたみたいだから、それほど大事にはならずに済んだわ」

 

「そ、それはよかったです・・・」

 

「・・・・・・大丈夫?息も激しいし、顔がだいぶ赤いわよ?」

 

「あ~、た、たぶん、運んでる間に付いたのかもしれません…」

 

「いや、返り血じゃなくて・・・」

 

「じゃ、じゃあそろそろ行きますね。まだバカが残っているものですから」

 

「・・・これ以上増えたら、最悪廊下に寝かせなければいけないわね」

 

「あのバカ野郎さん達にはそれぐらいで十分では・・・まあ、その時はお願いしますよ先生」

 

「分かったわ。けど、あなたもほどほどにしなさいよ。紅美鈴さん?」

 

「大丈夫です。捕まえてちょ~っとボコするだけですから!」

 

「それはそれで大丈夫じゃないわよ。そして、気にしてるのはあなたの事なんだけどね」

 

 

 

 





 お読みいただき、ありがとうございました!

 今回はチルノと明久がともにバカをやっているところを書いてみました。短めでしたが、いかがでしたでしょうか?少しでも笑ったり明るい気分になってもらえたら万々歳です!

 さて、次回でラブレター回も終了となりますが、そのあと、またも学園祭編の前に話を挟ませてもらおうと思います!あらかた流れは決まっていますが、内容につきましてはまたここで記させてもらいますね!

 それでは、また次回っ!


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末路―悲嘆、にくれる人もいれば笑う人もいちゃうのです

 どうも、村雪です!

 実は文の蓄えがちょこちょことたまってきましたので、少し早めの投稿とさせてもらいました!

 さて、今回でラブレター騒動編は終了です!皆様が愉快な気持ちになれる展開であることを願います!


――ごゆっくりお読みください。


 

「吉井、私にもその手紙を見せて欲しいんだぜ」

 

「それは出来ない相談だよ、魔理沙」

 

 

 廊下の向こう側にいる魔理沙が、興味津々って顔で笑いながら僕の方へと歩み寄ってくる。

 

 

「そうか…ところでなんでチルノが隣にいるんだぜ?」

 

 

 僕から右のチルノに、魔理沙は話の矛先を変えた。そりゃ不思議に思うよね。チルノが僕と行動する理由なんてないんだもの。

 

 

「それはねまりさ!このバカなよしーと一緒にいたら、面白いことがたくさんおきるからなのよさ!まりさもどうよ?」

 

 

 チルノは魔理沙の疑問に元気よくそう答えた。僕が神聖なる愛の手紙を守ろうとしているのを面白がるとは、どういう了見だいチルノッ!(※他人事です)

 

 

「なるほどな~。そりゃ確かに面白そうだが、今の私は笑いより愛を取るんだぜ」

 

 

 

 そんなバカチルノの言葉にケラケラ笑う魔理沙だけど、視線は僕のポケットにあるラブレターから全く離れてない。完全にロックオンをしちゃってるね。

 

 よくよく考えると、雄二がこの手紙の事を暴露してから最初に話しかけてきたのは、今となっては敵である男子クラスメイト一同ではなく、この魔理沙だ。そして部隊を編成したりと、それだけこの手紙の中身が気になったんだろうけど、あいにく僕は1人でこの手紙を読みたいのさ!誰にも邪魔はさせないぞ!

 

 

「魔理沙、悪いんだけど僕は屋上に行ってこの手紙を1人で見たいんだ。だからここは諦めてくれないかな?」

 

「残念だが、この魔理沙ちゃんは聞き分けの悪い女の子ってことでずっと美鈴とか咲夜に注意されっぱなしなんだぜ。三つ子の魂百までってな」

 

「美鈴さん達も苦労してるんだなあ・・・」

 

 

 あの暴徒と化した男子達を隊長として仕切ってまでこの手紙を読もうとしてたんだ。諦めてもらうのは最初から無理だったのかもしれないね。

 

 

「ま、運が悪かったと思って諦めてくれ。誰にも言わないってことは約束するぜ」

 

 

 魔理沙があと数メートルの所で立ち止まった。最後のチャンスってことなのかもしれないけど、僕は決して屈さない。

 

 

「魔理沙こそ気の毒だったね。ラブレターをもらったのがこの僕で」

 

「ほほう?そりゃー、私が吉井に負けるってことか?」

 

 

 魔理沙が不敵に笑いを浮かべ、両手を構えた。何が何でもこの手紙を見るつもりみたいだ。ならば、僕も全力で行こうじゃないか。

 

 

「そうだよ魔理沙。こうなったらもう、女の子だろうと手は抜かないよ?」

 

「へっ、そう簡単にはやられないぜ・・・!」

 

「アタイもやるわよ!最後に勝つのはアタイ何だから!」

 

 

 チルノもなぜか参戦する気のようだ。よおし、ついでに僕と君のどちらが賢いのかもこの際証明してあげようじゃないか!二度と君にバカとは言わせないようにしてやるよっ! (腕っぷしと賢さは関係ありません)

 

 

 

――――観客ゼロ、審判ナシ、天使の声明をかけた三竦み勝負が、今はじま

 

 

 

 

「貴様ら、何をしているんだ」

 

 

「「「げっ!?」」」

 

 

 る瞬間、僕たちは揃って身体を震え上がらせた。い、今の突然な野太い声は・・・!

 

 遅れてやってきた観客でも、審判でも手紙を授けた女神でもない・・・!あ、あの声は・・・・・・!!

 

 

「今は授業中だとういうのに、言われて来てみれば・・・まさか遊びほうけてるとはな」

 

 

 一目でわかるほど筋肉質な体。そしてそれを裏切らない実力を持ち、数多の生徒を地獄へと突き落としてきた男・・・!

 

 

「い、いやあのだぜ西村先生。これは何も遊びでやってるわけじゃなくて・・・!」

 

 

 僕たちの担任、鉄人こと、西村先生が僕たちの前に君臨した。魔理沙も思わずたじたじになり、僕は汗がだらだらと止まらない・・・っ!!

 

 

「貴様ら、良い度胸だ。少しばかり話をさせてもらおうか」

 

 

「「「……っ!」」」

 

 

 やばい。声は冷静だけど、だいぶ怒ってらっしゃるよこれ。ひしひしと怒っているのが丸分かりだ!

 

 

「お、おい吉井、この状況、どうするつもりだぜ。戦う気か・・・!?」

 

「・・・いや、それはあまりにも無謀すぎるよ・・・!」

 

 

 魔理沙の耳打ちに僕はそっと首を横に振る。その間にも鉄人はバキバキと拳をならすながら接近している。こうなったら……猶予は無い!即座に行動移るのみっ!

 

 

「・・・・・・ここは逃げるが勝ちだよっ!(ダッ)」

 

「同意だぜっ!(バッ)」

 

「え!?ちょ、ちょっとどこ行くのさーっ!?」 

 

 

 即座に鉄人とは反対方向に走り出す!これは決して逃亡じゃないよ!?戦略的撤退なんだからね!

 

 

「!逃がさんぞ貴様らっ!補習室でたっぷり悔い改めさせてやる!」

 

 

 鉄人も即座に追跡を仕掛けてきた!や、やはり速さが違う!ちくしょう!そんなごつい体なんだからもっと鈍い動作になれってんだよ!

 

 

「ちょっと!どーして逃げんのよさ!ここは一発、あの鉄人をぎゃふんと言わせてやるべきじゃない!?」

 

「ア、アホ!そんなことしたら返り討ちにあうぜ!んなこと言う暇あるなら、足に力を注げ!」

 

「全くだよ!君は補習室で何を学んできたんだバカ!」

 

「誰がバカよこのバカっ!」

 

「誰がバカだよっ!」

 

「やめろバカども!今はそんな余裕ないだろうが!ほらもうそこまで来てるぜ!!」

 

「「だから誰がバカ(だい)(よ)っ!」」

 

「こんな時だけ息を合わせんなっ!」

 

 

 バカはともかく、魔理沙の言う通り鉄人がさっきよりも僕たちに近づいている。全力で走っているというのに追いつかれるとは、奴の体力はどうなっているんだ!!

 

 

「観念しろ3人とも!潔く諦めるんだ!」

 

「だ、誰が説教を受けたいんだよちくしょー!」

 

 

 地獄を見るぐらいならどこまでも抵抗して見せるとも!

 

・・・で、でも階段を3段飛ばしたり無駄なく曲がり角を曲がったりしているというのに、一向に離せるような気がしないとはどこまでなんだよ!新人類か何かなの!?

 

 

「チルノ!ここは君が囮になってよ!君はただ楽しもうとして外に出てきたんだから、罰を受けるのは当然でしょ!?」

 

「嫌なのよさっ!そんなもんバカの吉井がなればいいじゃない!」

 

「こっちだって嫌だよ!じゃあ魔理沙はっ!?」

 

「当然NOだぜ!」

 

「だろうねーっ!」

 

 

 結局誰も囮にならないまま、僕たちは階段を再び駆け上がり、登り切ってすぐに左側の廊下へと走る!その数秒後、鉄人が同じように姿を見せた。やっぱりだめか!

 

 

「ここまで俺から逃げ切るとは・・・!その体力をもっとましなことに活かせ!」

 

「い、活かしてるじゃないですかっ!先生の補習を避けるためにぃっ!」

 

「それを間違った使い方だと言っているんだ!」

 

「・・・なっ、な、なんで、そんなに、声をあげてはしっ、れるんだ2人とも・・・!」

 

「こ、このぐらいっ、さ、さいきょーのアタイに、は・・・!」

 

「だ、大丈夫!?」  

 

 

 やばい!横の魔理沙達がだいぶ息を切らしてて、スピードが落ちてる!このままだと鉄人に追いつかれるよねっ!?

 

 

「女子でこれほど走れたことは、素直に賞賛しよう!チルノ!霧雨!」

 

「へっ、そ、そりゃどーもぉ・・・!」

 

「あ、あたりまっ、えなのよさ・・・!」

 

 確かに、ここまで鉄人から逃げられるというのは女子には難しいこと。これが体育の競技とかなら大健闘レベルだ。

・・・でも、これはスポーツじゃなくて、生死をかけた戦い。いくら健闘しても捕まってしまえば全く意味が無い! 何か、何か打つ手は・・・!

 

 頭を働かせようとしているうちに、各階にある2つある階段のもう一つが見えてきた。

 

 

「か、階段は止めよう!これ以上体力を使ったらやばいから!」

 

「はっ・・はっ・・!!」

 

「はー・・・ぜぇー・・・!」

 

 

 返事をするのもつらいのか、二人とはただ目を合わせてだけになった。けど言葉はきちんと伝わったみたいで、僕たちは階段を通り抜けた。や、やば、僕もそろそろ疲れて―!

 

 

「お前ら!いい加減に諦めるんだ!」

 

「くぅうう・・・!!こんなところで・・・!」

 

 

 

 やはり人間では鉄人にはかなわないのか・・・!

 

 ほとんど息を切らしてない鉄人は、限界に近い僕たちに叫びながら同様に階段の前を走り抜け

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

「ぶぎゃっ!?」

 

「うおおっ!?」

 

 

 

「・・・へっ!?」

 

 

――ようとした時、誰かが階段から飛び出してきた。

 

 

「え、えっ?」

 

「っな・・・なに、よさ・・・!?」

 

 

 なにかくぐもった悲鳴が聞こえた後に、鉄人が驚いた声を出して尻もちをついた。どうやら、飛び出してきた人と衝突したみたいだ。あ、あの鉄人が尻をつくなんて・・・!

 

 魔理沙もビックリした顔で、その光景を生み出し、鉄人と同じように尻もちをついた人の名前をつぶやいた。

 

 

「・・・メ、美鈴・・・!」

 

 

 そう。あれは、さきほどムッツリーニの時も手を貸してくれた美鈴さんの後ろ姿に違いなかった!どうやらまたも助けられてしまったみたいだ!

 

 

「2人とも!今が絶好のチャンスだよ!」

 

「おお・・・!美鈴、この借りは、必ず返すぜ・・・!」

 

「か、感謝、するのよさメーリンっ!」

 

 

 僕たちは、最後の体力をふりしぼってそこから離れた。美鈴さん!君の犠牲は無駄にしないよー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぎゃ!?」

 

「うおおっ!?」

 

 

 い、痛ああぁっ!?なんかすっごい固いものにぶつかりましたよー!?

 

 

 保健室から出て、私は吉井君達を探し回っていると、何やらドタバタした音と大きな声が。なのでそちらへと走り、階段を上がっていましたらどーん!です。壁にでもぶつかったんですか!?

 

 あうう、あ、鼻血が出てきました――

 

 

「紅。大丈夫か?」

 

「・・・・・・あ、西村先生」

 

 

 私の正面に、尻もちの状態から身体を起こした西村先生がいました。

 

・・・・・・あ、あれ?ひょっとしてやばくないですか?一応今は授業中なわけですから・・・

 

 

「すまんな。鼻は大丈夫か?」

 

「あ、ばい。ぢょっど鼻血が出だぐらいでず」

 

 

 ええっと、ポケットティッシュはかばんでしたっけ・・・

 

 

「これを使え」

 

「あ、どうも」

 

 

 差し出されたポケットティッシュを鼻に詰めます。よし、これで一安心。

 

 

「やれやれ。吉井達を追っていたんだが、見逃してしまったな」

 

「あ・・・す、すみません」

 

 

 や、やっぱりこっちにいましたか。よりによって追っていた西村先生の邪魔をしてしまうとは、私のバカ!こ、これは私に矛先が向いてしまうのでは・・・!?

 

 

「・・・普通なら、吉井達と同様にお前を捕まえて、補習室に連れて行くところだ」

 

「う」

 

 

 や、やっぱりそうなります!?

 

がーんとショックを受ける私。ああ、捕まえるつもりでいたのに、その一味を逃がすことに一役買ってしてしまうなんて、私はとんだ間抜け野郎です~・・・!

 

 

 

「―――が、今回は特例だ」

 

「へ?」

 

 

 しかし説教を覚悟した私を待っていたのは、ふうと息をつくそんな西村先生の声。・・・あ、あれ?あんまり怒ってない?

 

 

 

「紅。お前が倒れたあのバカどもを何度も保健室に運んでやったことは、先生に聞いた。・・・・・・俺はお前を見なかった。以上だ」

 

「へっ、えっ?」

 

「さて、吉井達を探さなければな(たっ)」

 

 

 私が口を開く前に、西村先生はさっさと言葉を言ってから走っていきました。

 

……よ、良く分かりませんけど…

 

 

「・・・・・・ひ、ひとまず助かった~・・・!」

 

 

 ああよかった~!みっちり絞られるかと思っていましたよー!

 

 

「ふ~~~・・・ん~。さて、この後はどうしましょうか」

 

 

 私は立ち上がって、お尻についたほこりを払いながら考えます。あのおバカ達を捕まえるか、このまま教室に戻るか。選べるのは一つだけです。

 

 

「・・・・・・よし!」

 

 

 ここは、自分の目的、そして受けた苦労のことを思い出しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

「あ~・・・疲れた」

 

「そりゃ私のセリフだぜ。ふう~…」

 

「ちくしょ―・・・今度は逃げないのよさっ!そしてアタイが勝つ!」

 

「やめとけ。もう結果が丸見えだぜ」

 

 

 僕たちは息を整えながら、屋上に繋がる階段で腰を降ろした。うーん、鉄人の脅威は去ったので開放感が凄いなあ。こんなに生を実感出来るのは久しぶりだよ。

 

 

「よいしょ、じゃあ僕は屋上に行ってくるよ」

 

 

 だいぶ落ち着いたし、僕もいい加減このラブレターの中身が気になってきたしね。

 

 

「お、んじゃ私も行くぜ」

 

「え。ま、まだ諦めてないの?」

 

「当然だぜ。でも、奪って見たりするのはやめたから安心してくれ」

 

 

 そう魔理沙は言って立ち上がるけど、その言い方だと奪わなかったら見るってことになるよね?だからあんまり安心できない僕だった。

 

 

「アタイも行くわよ。その手紙を見ないとアタイが報われないのよさ」

 

「僕についてきたのはチルノだよね?」

 

 

 そんな僕が無理やり連れまわした言い方をされるのは納得がいかない。そしてこの手紙を見ることが確定しているみたいな言い方にも反論したい。

 

 

「・・・まあいっか」

 

 

 チルノが見てもわかんないだろうしね。

 

 僕はそう結論付けて屋上へと足を動かし、階段と外を隔てる扉へとすぐに到着。ガチャリとノブをまわして開け放った。

 

 

 

「やはりここまで来たか、明久」

 

「吉井君、言う事を聞いてください」

 

「!ゆ、雄二に、姫路さん・・・!」

 

 

 するとそこには、この騒動を引き起こしたの雄二と、姫路さんが立っていた。この立ち位置からして、ラスボスなのは間違いなしだ!なら僕は勇者ってところかな!

 

 

「ん?おお、瑞希に坂本じゃないか。全然見ないと思ったらここにいたんだな」

 

「そういう霧雨も色々と動いていたみたいだな」

 

「まあな。なんとか助かったけど、危うく西村先生に捕まりかけたぜ」

 

「ほう。それは凄いじゃないか」

 

「ま、あれは運も良かったんだけどなー」

 

 

 そんな他愛もない会話をしだすラスボスと魔理沙。それはチルノ達も同じ。

 

 

「みずきはここで何してんの?」

 

「あ~、そ、その、吉井君の手紙を、ちょっと見せて欲しいなって思いまして。そしたら、坂本君がここで待つといいって言ってくれたので・・・」

 

「ふ~ん。つまり、よしーが持ってる手紙が欲しいってことね?」

 

「はい、そうですっ」

 

「よし!じゃあアタイがバカよしーからぶんどってきてあげる!」

 

「え、て、手伝ってくれるんですか!?」

 

「当然よ!子分の世話を見るのも親分の役目なのよさ!」

 

「ありがとうチルノちゃんっ!」

 

「ちょ、チルノ!?そして姫路さんは子分と言われて何も言わないの!?」

 

 

 ここに来てのチルノの裏切りである。何か約束をしたうえでの一緒の行動ではなかったけれど、針の先ほどに芽生えたわずかな友情が一瞬にして枯れ果てたじゃないか。やはり、賢い僕とバカなチルノが仲良くなれるはずもなかったみたいだ。

 

 

「よしー!その手紙をよこしなさい!じゃないとアタイの拳がうなるわよ!」

 

「そんな可愛らしい拳がうなったってちっとも恐くなんかあるか!」

 

 

 姫路さんから僕の方に近づき、シュッシュと明らかに素人がやるようなシャドーを始めるチルノ。それがなんか可愛いらしく思ってしまったのは、はなはだ遺憾で僕の大失態だと言えよう。

 

 

「ならチルノ、俺も協力しよう」

 

「君のは怖すぎるんだよ雄二!」

 

「おお、なかなか様になってるぜ」 

 

 

 この男のシャドーはやばい。かなり場数を踏んでいるのが分かるし・・・殺る気がいっぱいつまってやがるよ。

 

 

「ゆ、雄二!どうしてそこまで邪魔をするんだよ!こんなことしても、君にはメリットがないでしょ!?」

 

「違うな明久。お前の不幸を見れることが、俺にとってのメリットだ」

 

「あんたは最低の友達だ!」

 

 

 まだ単純なチルノの方がずっと友達に思えて来たよ!

 

 

「さあ明久、かかってこい。俺は霧雨のように優しくは無いぞ。見られたくないなら俺を倒して阻止しろ」

 

 

 そう言って雄二が上着を脱いで、ネクタイをしゅるりとはずした。くっ、やはり筋肉の付き方もすごい。そこだけは純粋に羨ましく思うよ。

 

 

「姫路、上着を持っていてくれないか」

 

「あ、はい」

 

 

 姫路さんに上着をあずけた。それだけ身体を動かして、僕をぼこぼこにする気なのか・・・!

 

 仕方ない、上等だよ!勇気を出して手紙をくれた女の子の為にも、君に勝ってみせるぞ、雄二っ!

 

 

「魔理沙、上着を持っていてくれない?」

 

「ん?おう」

 

 

 よし、これで条件は同じだ!気合いを入れろ僕!そして奴をこの黄金の拳に沈めてやるんだっ!

 

 

「雄二!いざ尋常に、勝負だっ!」

 

 

 僕は出来る限りの構えを取って、雄二と対決――

 

 

 

「・・・・・・・・・明久。お前、バカだろう」

 

「へ?」

 

 

 急に雄二の顔があきれ気味になった。なんで?まだ何もしてないよね?僕の後ろのほうを見てるけど、何かあるっけ・・・

 

 

 

「・・・ほうほう、・・・・・・ほお~」

 

 

 

 気になって雄二の視線の先を見ると、何やら可愛らしい手紙を熱心に読む魔理沙がいて

 

……………………え?

 

 

 

「!!!!ま、魔理沙ぁぁあ!!?」

 

 

 あ、あああれってひょっとしてラブレターの中身ぃぃ!!? そう言えば上着のポケットの中に入れてたっけぇ!?

 

 

「まっま待った魔理沙「霧雨!その手紙を始末するんだ!」離せ雄二ぃ!」

 

 

 くそっ、雄二に羽交い絞めされて全く動けないっ!なんて馬鹿力なんだこの野郎!

 

 

「!ま、魔理沙ちゃん!ちょ、ちょっとその手紙を見せてくれませんか?」

 

「ん~?ほれ。にしても――き、なかな――るじゃな―か」

 

「・・・あ、あ…やっぱり・・・」

 

「なになに?アタイも見せて!」

 

 

 姫路さんに手紙を渡して、それをチルノも参加して見始めた。魔理沙が何か微笑みながら言ったのに、姫路さんが顔を赤くしている。何を言われたんだろうか。

 

 

「え~、なになに?『よしいあきひささまへ とつぜんですが、よしいくんにつたえたいことが―』」

 

「!!ダ、ダメですうぅぅ!!(ビリビリビリ)」

 

「お、おおっ!?」

 

「あー!まだ読んでないのにー!」

 

「ああああ!?ぼ、僕の記念すべき最初のラブレターがーきれいな紙きれにーっ!」

 

 

 せっかくチルノが読み上げようとしてくれてたのに!何がダメなのか知らないけど姫路さん細かく破るのはやめてぇぇえ!!

 

 悲しくも動きを封じられていた僕に止める手立てはなく、そのままラブレターはきれいな紙くずとなって、全て屋上に散ってしまった。ゥウゥゥ…!!せっかくのラブレターがー!!

 

 

「・・・まさか、姫路がそこまでやるとは思わなかったな」

 

 

 雄二も姫路さんの行動にびっくりして、僕を押さえてた腕を解放した。ああ、せっかくのラブレターが・・・まさか姫路さんにダメにされるとは夢にも思わなかったよ!思わず涙がきらりと僕のほほを流れるよ・・・

 

 

「おー、また細かくやったなあ。よっと・・・」

 

 

 そうやって僕が打ちひしがれていると、魔理沙がしゃがんで元手紙の紙切れを集め始めた。

 

 

「ま、魔理沙・・・ひょっとして、この紙くずを繋ぎ合わせてくれようと・・?」

 

 

 なんて良い子なんだろう。今まで悪戯と恋話が好きな女の子とだけ思っていたけど、考えを改めないといけない

 

 

 

 

「誰かマッチかなんか燃やす物持ってないか?」

 

「任せろ。これでどうだ」

 

「おう、サンキュー(シュボッ)」

 

「おお、良く燃えてるのよさ」

 

 

「ってファイヤー!?ちょ魔理沙、なに完全に消滅を測ろうとしてんだよぉ!?」

 

 

 雄二も満足そうな顔してライターを貸してんじゃないよ!どうせ僕の幸せがつぶれて嬉しいとでも思ってるんだろうけどねー!

 ああそう言ってる間にもどんどん灰にっ!

 

 

「悪いな。この手紙の主の本懐を遂げさせたかったんだぜ」

 

「ちょ水!誰か水を持ってきてえ!」

 

 

 魔理沙がなんか言ってたけどそれどころじゃない!魔理沙なんか今度から外道の称号をくれてやるーっ!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 はい。結局きれいさっぱり燃えつきました。これで読むことはヒャクパー不可能です。

 

 

「ま、魔理沙ちゃん。このことは秘密でお願いします・・・」

 

「おう、安心しろって。――たのがみ――ってのは知られたくないもんなー」

 

「ほう、やっぱりそうだったのか」

 

「!さ、坂本君」

 

「やっぱりってことは、知ってたのか?」

 

「まあな。〝他人の〟手紙を勝手に破るようなことを、姫路がやるとも思えんからな」

 

 

 雄二達が何か気になる話をしている気がするけど、今の僕は手紙を失ったことによるショックの方が大きかった。

 

 

「(ポンッ)よしー、きっといいことあるのよさ」

 

「君が良い事って言って、不安を感じるのはなんでだろうね」

 

 

 なおいっそう不安になってくるよ。ああ、この不幸を元凶の雄二にも振りかけられたらなあ・・・!

 

 

 

 

 

バァンッ!

 

 

 

『ん?』

 

「わわっ?」

 

 

 全てが終わり、僕が手紙のように燃えつきかけながら恨みを募らせていたら、そんな大きな音が響いてきた。

 

 

 

 

「・・・見ぃつけましたよぉぉぉ・・・!!」

 

 

 そちらを見ると・・・・・・赤い修羅がいました。

 

 

「ど・・・どうしましたか?美鈴さん・・・?」

 

 

 親しい姫路さんがびくびくしながら話しかけたのは、彼女の雰囲気が凄いことになっていたからだろう。

 

 ぼさぼさになった赤い長髪、鼻にはティッシュを詰め込んでいて、身体中には赤い何かが飛び散っていて、普段とはだいぶ変わってボロボロに見える美鈴さんが、僕らに凄い目でメンチをきっていたからだ。僕も思わず身をすくませる。

 

 

「・・・ここに来るまでにねえ、私は倒れた男子を保健室に運んだり、保健室に運んだり、保健室に運んだり、運んだり、文房具を投げられたり鼻血を浴びたり出したりしたのですよぉ・・・!」

 

 

 ふるふると口元を歪ませながら、壊れたようにつぶやく美鈴さんに姫路さんがキャッと小さな悲鳴をあげる。はっきり言って、怖い。こんな美鈴さんは見たこと・・・

 

 

「そんな運搬作業をさせてくれた、そもそもの元凶である坂本君にお礼をしたいんですよお・・・!!」

 

 

「・・・・・・!!ま、まあ、まあ待て紅・・・!は、話せばわかる・・・っ!!」

 

 

 ニヤァと、口元が裂けそうなぐらい笑顔を浮かべる美鈴さん。あ、違う。あったよねこんな雰囲気。確かあれは――

 

 

「―――たまった恨みの発散に、付き合えこらぁぁぁあっ!!」

 

「メ、美鈴!?」

 

「美鈴さんっ!?」

 

 

 

 

 Bクラスと戦った後の、根本君にキレてた時の雰囲気だ。

 

 

「ちょ、や、ややめグボアアァッ!?」

 

 

 その考えが浮かんだのと同時に、雄二の顔に美鈴さんの足裏が炸裂した。おお、スカッとする一発だね。

 

 

「おおっ!メーリンも最強だったのよさ!」

 

 

 そんな興奮気味のチルノの感想に、珍しく僕は彼女に同意できた。

さて、じゃあ今から特等席で、ゆーじんである雄二の最期をしっかり見届けてあげるとしよう!

 

 ラブレターを失った悲しみを怨敵への制裁で満たしながら、僕は爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

『――む?今、雄二の叫び声が聞こえたような』

 

『ウチも聞こえたわ。それも続けて…美鈴にとっちめられ始めたみたいね』

 

『あ~。まあ自業自得だな。あいつが言い出したのがそもそものきっかけなんだからよ』

 

『まあそうじゃな。さすがに仕方あるまい』

 

『アキはどうなったのかしら?ラ、ラビュレチャーを見たのかしら?』

 

『さあのう・・・落ち着くのじゃ島田。ろれつが回っておらんぞ』

 

『ま、なるようにはなったんじゃねえのかねー?はあ、俺もあいつらみたいに授業をさぼればよかったかな』

 

『あれ?そんなこと言っていいのー?』

 

『もしもしてしまったら、大越に嫌われるぞい?』

 

『言うな!もう名前も言ったんだから冗談抜きで勘弁しろっ!』

 

『コラ田中!授業中に大声を出すとは何事だ!』

 

『!ま、まった先生!これは俺にとってこの上なく大事なことで――!だ、だから頭突きはやめて――!』

 

『やかましいっ!(ゴズンッ)』

 

『グハァッ!!?』

 

『……ごめん、田中』

 

『・・・すまんのじゃ、田中』

 

『も・・・もう、厄日確定、だ・・・』

 

 

 

 

 

 

「―――ま、そんなこんなでラブレターは灰になったそうです」

 

「・・・ふふふっ、うふふふふっ。そんなことになるとはねえ。ああ、笑いが止まらないわ」

 

「そ、そうですかー」

 

 

 放課後。園芸部の部室にて、今日起こった『ラブレター騒動』のことを約束通り幽香先輩に話しました。

 

 幽香先輩は本当に可笑しそうに、うふふと笑いをこぼしながら話を聞いていたのです

が・・・私には全く笑えなかったんですよこら!メチャクチャ疲れたんですからね!

 

 

「で、その〝坂本君〟は現在保健室、と」

 

「正しくは保健室の廊下ですけどね」

 

「・・・っ!廊下・・・っ!うふふふっ…!」

 

 

 あの後、魔理沙や瑞希さんに必死に止められまして、鼻血を出し、関節技を決められて青い顔をして気絶した坂本君を開放しました。吉井君が残念そうにしてましたけども、そこは無視させていただきました。だって吉井君がラブレターを見られなければ何も起こらなかったんですから!そこまで吉井君のいうことを聞く義理はなかったのです!

 

…で、気絶した坂本君を保健室へと運んだんですけど、中はまだダウン中のFクラスメンバーで満員。なので仕方なく廊下に置いてきたわけです。あ、きちんと許可は取りましたからね?ちょっと先生は苦笑いしてましたけど。

 

 

「ああ、やっぱりあなたがいると楽しいわ、美鈴。これからも頼むわよ?」

 

「ぶ、部活に関しましてはねっ!そっちは全く知りませんよ!?」

 

「大丈夫よ。きっとあなたは、そういう星の下で生まれてきたのだから」

 

「そんな保証入りません!」

 

「さて、じゃあそろそろ行きましょうか。準備をしなさい美鈴」

 

「い、言うだけ言ってもう~・・・」

 

 

 私の回答にひとしきり笑った幽香先輩は、荷物を手に立ち上がりました。それはいくつかのポットが入った段ボール。この苗たちを今から植えに行くのが、園芸部の今日の放課後の部活動です!

 

 

「さ、行きましょう」

 

「はーいっ」

 

 体操服に着替え終わった私たちは外へと向かいました。さあ、自然に触れて今日一日ですさんだ心を癒しに行きましょうか!もう私の心はズタズタですもの!

 

 

 

 

 

「――しっかし、結局あれは誰からの手紙だったんですかねえ?魔理沙が燃やしちゃったみたいですけど、冷静に考えると良くない気もしますよー」

 

「さあ?案外身近な人かもね」

 

「う~ん、ん?そーいえば、どっかで似たような文字を見た気が・・・どこでしたっけ?」

 

「私に聞かれても知らないわ。記憶力を鍛えなさい、美鈴」

 

「ここ、これでもましになりましたよっ!?」

 

「・・・そう。それは悪かった、わ・・・」

 

「そ、そんな辛そうに目をそむけないでください先輩―!こっちが辛いですからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

『失礼します』

 

『あら、西村先生。ご苦労様です』

 

『ええ・・・申し訳ない。うちの生徒が手を煩わました』

 

『かまいませんわ。けがをした生徒の世話をするのが保険医の仕事ですから。それに、ここに運んできてくれたのは紅 美鈴さんです。彼女に礼なら言ってあげてください」

 

『ああ…まあ奴には、違う形で感謝を示したつもりです』

 

『あら、そうでしたか』

 

『ええ。ですがそれはそれで、このバカ共を診てくれたのはあなたです。仕事とはいえ、あなたに感謝しなければなりません』

 

「まあ、西村先生は評判通りまじめな方ですね。でも、あまり気負いすぎたら疲れるでしょうから、ほどほどにされるのも大事ですよ?』

 

『む。そうかもしれませんが、なにぶん性分なものでして…』

 

『そうですか。それなら強く言えませんが、なにかあれば保健室に来られてください。検診から些細な相談まで受け付けますわ』

 

『・・・・・・本当に、あなたは良い保険医ですね。皆さんがこれ以上なく称賛をする理由が分かります・・・・・・八意先生』

 

『照れますね。医学に携わった人間として、やるべきことをしているだけなのですが・・・』

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!


 前回の最後でも気づいた方がいると思いますが、最後に、彼女の名前を出させてもらいました!
 後書きにはちゃんと出たときに書かせてもらうつもりですが、このような話し方、性格でよかったのやら・・・・・・彼女らしさを出せているか、非常に自信がありませんが、ここはではああ!ということで許してやってください!


 さて、次回またも学園祭の前に話を挟ませてもらうのですが、また一人、新しく東方キャラクターに出演してもらうつもりです!

 ちょっとでも期待しながら楽しみにしていただければ、幸いです!

 それではまた次回っ!


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ニューファミリー!純白の内気少女編
来宅―迎合、の時の交流が……後を変える


 どうも、村雪です!まだ一応五月なのにこの暑さ!思わず顔をしかめてしまいますね!

 さて、前回も言いましたように、今回もオリジナル回で、新たに一人東方キャラクターに登場してもらいます!

・・・・・・が、そのことについて。

―――これは誰?全然違うぞ!キャラおかしい!・・・って思う方が結構出るんじゃないかと村雪、かなり思っています!

 彼女のファンの方には非常に申し訳ないのですが、村雪がこうしたかったということで、そこは許してやってください!たぶん、皆さんの思う彼女とはだいぶ違う姿になると思います~・・・・・・


 いつもとは少し雰囲気も違った今回。いろんな不安もありますが、いつも通りこの言葉を告げさせてもらいます。楽しんでもらえる内容になっていることを・・・!!


―――ごゆっくりお読みください


「ん~、こんなものですかね?」

 

「そうね。あ、でもポン酢は切らしてたわね。取ってくれない美鈴?」

 

「は~いよっと。あ、レミィ達のお菓子もついでに買っておきますか?」

 

「ん、そうね。どうせなら買っておいてあげましょうか」

 

「あ、ついでにあの黒麦茶というものも―」

 

「あれは少し割高だからやめておきなさい」

 

「おうっ、残念」

 

 

 あれは体に良いらしいんですけどねー。でもまあ、健康だけが取り柄の私にはいりませんかね!興味心で高いものを買うのはよくなかったです!

 

 

「じゃあレジに行きましょうか」

 

「そうね」

 

 

 私、紅美鈴(ホン メイリン)と銀髪碧眼の可愛い妹、十六夜咲夜さんは、自宅の近所のスーパーで買い出しに来ていました。時刻は夕方、主婦の皆様も夕飯の買い出しに気合を入れて店はにぎわっているなか、私たちはレジに到着してレジを済ませました。

 

 

「あー、良い夕焼け具合ですねー」

 

「確かに。一日が終わるって気持ちになるわね」

 

 

 山の向こうに消えゆく夕日。クラスメイトの土屋君が女の子専門のカメラマンじゃなければ、激写していたことでしょう。

 

 

「今日また色々とありましたからねー、早く風呂に入ってゆっくりしたいもんですよ」

 

 

 Fクラスという魔界クラスでは、出血や暴力は当たり前。朝から遅刻してきた生徒に担任の先生が鉄拳を振り下ろしたり、女子のスカートの中を撮ろうとしたムッツリが鼻血を流したり、学年一バカと言われている二人組がバカをやってそれに鉄拳制裁と、平凡と言う言葉が全く見つからない日々を過ごしております。ちなみに私は普通です。何もしてまぜんからね?ちょっとバカをする人にストップをかけただけです!

 

 

「じゃ、早く戻りましょう」

 

「そうですねー」

 

 

 そんな混沌の魔窟を耐え抜いた私は、自宅でその疲労を癒す予定。私達は荷物を持って、少しだけ早足に家へと戻りました。さあ。この一日の疲れをしっかり家でとるとしましょう!具体的には咲夜さんかレミィ達にハグです!

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー!」

 

「おかえりメーリン咲夜っ!」

 

 

 ごく普通の一軒家。我が家に到着して玄関に入ると、小さな可愛い二人の妹が出迎えに来てくれました。

 

 

「ただいま。レミィ、フラン。何か変わった事があった?」

 

 

 咲夜さんが荷物を置いて、レミィことレミリア・スカーレットとその妹、フランことフランドール・スカーレットに尋ねます。

 

 

「うん、あったよー?」

 

 

 すると、綺麗な金色の髪をこくりと頷かせてフランが言います。

 

 

「え、何かしら?」

 

「うん、それがね」

 

 

 

「お母さんが今日早く帰るそうよ。フランの話が本当ならねっ!」

 

 

 フランが口を開く前に、レミィが蒼髪の頭を精一杯あげてその変わった事を答えました。

 

 

「母さんが?」

 

「むー。嘘じゃないもんっ。お姉さまったら私が言おうとしたのに横取りしないで」

 

「フラン、そんなに怒らないの。でもそれは本当なのね?」

 

「そうだよ咲夜ー」

 

 

 役目を奪われ不満そうにするフランを宥めながら、咲夜さんは確認を取ります。

 

 ふ~む、別に早く帰るのがおかしいという事じゃないんですけど、連絡まで入れてくるのは珍しいですね?何かあったんでしょうか?

 

 

「フラン、母さんは他に何か言ってた?」

 

「え?う~~~ん・・・・・・私が帰るまで食べずに待っててくれ、とか。多く食うからご飯を多めにお願いだって言ってた」

 

「?分かった。ありがとフラン」

 

 

 つまり、お腹がすいて帰ってくるということかな?そういうことなら、きちんと多めに準備をしときましょうか。

 

 

「じゃ、咲夜さん、そういうことらしいですので、早めに準備するから手伝いますよ」

 

「悪いわね。じゃあお願いするわ」

 

 

 今日の夕飯担当は咲夜さんでしたけど私も応援決定です。ちなみに私と咲夜さんでしたら、料理の腕は咲夜さんの方が上手です。

 

 

「レミィ、フラン。よかったら風呂を軽く水で洗って、風呂を沸かしておいてくれないかなー?」

 

「はーい美鈴!」

 

「ちょ、待ちなさいフランッ!私がやるのよー!」

 

 

 どたどたと2人は風呂場へと向かいます。全く、見ていて和みますねー♪

 さて、では私達も準備にかかりましょうか。私はピーラーでニンジンの皮をむきはじめます。

 

 

「でも、どういうことかしら?お母さんが帰るまで待っててくれって・・・?今日って何かあったかしら?」

 

「ん~・・・私たち四人の誕生日でも、母さんたちの誕生日でもないですし・・・」

 

 

 思い当たることがありません。私の記憶力が衰えていないことを願いたいです・・・

 

 

「でもま、母さんがそう言ってるなら言う通りにするだけなんですけどね。ここはご飯で漫喫してもらいましょう」

 

「・・・お母さんが一番好きなのはお酒だけどね」

 

「・・・た、確かに」

 

 

 じゃがいもを水洗いする咲夜さんの言葉の言う通りです。今日の夕飯はシチューのつもりだったんですけど・・・酒にあうものなんですかね?

 

 少し気になりながら、私は皮を剥いたニンジンを扇形に切り始めました。

 

 

 

 

 

 

「それでね。フランが私のチョコレートを勝手に食べたのよ。ひどいでしょ!?」

 

「お姉さまだって私のジュースを勝手に飲んだでしょー!おあいこだよ!」

 

「お姉ちゃんなんだからいいでしょ!」

 

「私だって妹だからいいじゃん!」

 

「うー!」

 

「むー!」

 

「ほらほら、けんかしちゃだめよ?お姉ちゃんも妹もどっちも優しくないとねー」

 

「美鈴、それは私への戒めの言葉でもあるのかしら?」

 

「え、い、戒めって!そりゃまあ優しくしてほしいですけども!」

 

「そう。たまに考えておくわ」

 

「たまにですかっ!?」

 

「「・・・・・・メーリン」」

 

「やめて!?その優しさは何か違うわよ2人とも!」

 

 

 仲直りしたのは結構ですけど、優しさのつもりの同情の目で見られるのが逆に辛いです。この二人もいずれは反抗期になるんですかねー・・・

 

 

「・・・でも、まだかしらお母さん。シチューが冷めるんだけど・・・」

 

 

 咲夜さんが時計を見ながらつぶやきます。 

 私たちの座る長方形のちゃぶ台には、大きなお鍋一杯のシチューとそれをよそうお玉に皿にスプーン、そしてご飯のジャーも持ってきて準備万端です。

 

時間はもうすぐ19時。早いと言うからにはもうそろそろだと思うんですけど・・・

 

 

 

ガチャ

 

 

「ただいまー」

 

『あ』

 

 おっと、タイミング良く聞きなれた声が届いてきました。

 

 

「帰ってきましたね」

 

「おかえりー!」

 

「おかえりなさい!」

 

 私たちの時のように、2人が玄関に駆けていきます。そのうれしそうな顔のこと!ご飯を食べてたら行かないんですけど、今は食べてなかったから行ったんでしょうね!

ふむ、せっかくだし、私達もいきましょうか!

 

 

「よっと、咲夜さんもどうせなら行きませんか?」

 

「そうね。レミィやフランの気持ちが分かるわ」

 

 

 咲夜さんも笑いながら乗ったので、私たちも玄関に向かいました。さて、お帰りと言うのはどのタイミングがいいか

 

 

 

 

ダダダッ  ギュ!

 

 

 

 

「・・・へ?どしたのレミィ」

 

 

 突然、先に行ったレミィが廊下を駆け戻って、私のお腹にしがみついてきました。

 

 

「う~・・・誰、あれ?」

 

「「だれ?」」

 

 

 誰って、母さんなのでは?

 

よく分からず、私はレミィをくっつけながら玄関に向かいました。

 

 

 

 

 

「おう、ただいま美鈴、咲夜」

 

 

 

 長身な私よりも背が高く、透き通るような金のロングヘアーに、黒の長袖セーターと紺色のジーンズを身に付け、女性として見事なメリハリを持った身体。そして熱い情熱が滾る紅い瞳の女性が、大きなカバンを持ちながら笑顔で手をあげます。

 

間違いなく私たちの母――星熊 勇儀 (ほしぐま ゆうぎ)でした。

 

 

「あ、お帰り母さん」

 

 

――玄関に居たのが母さんだけならば、レミィが言ってることが分からないままだったと思います。

 

 

・・・・・・が、私はレミィの言いたいことが分かりました。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・(ギュッ)」

 

 

「ほら、隠れてちゃダメさな。ここは頑張るところだ。なっ?」

 

 

 

 

 レミィが言ったのは、母さんの後ろに立ち、その大きな背中のセーターを握って隠れるようにしながら、こちらを見ている少女のことを言ってたのでしょう。

 

 

 

 

 

 

「突然な話になるが、今日からここに居候させる子だ」

 

 

 

 母さんは私たちを見ながら、そう言いました。

 

 

「へ~!そうなの!?」

 

「ああ、そうだよフラン。仲よくしてあげてくれ」

 

「うんっ!」

 

 

フランがニコニコ笑いながら、背中から見てくる彼女を見ます。

 

 

「今晩は!私の名前はフランドール・スカーレットだよ!あなたは?」

 

 

 全く物怖じせずに、フランは自己紹介を始めました。その積極的さは、この場で一番必要なものだったと言えるでしょう。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん、頑張んな。大丈夫」

 

「・・・・・・・・・・(コク)」

 

 

 母さんの言葉にコクリと頷き、彼女は少しだけ姿を背中側から現しました。

 

 

 

 

 

 

 

 背丈は咲夜さんよりちょっと低そうで、だいたい160㎝ぐらい。

 

 

 

 瞳は母さんと同じ赤色。

 

 

 頭には、霊夢のものに似た大きさの、赤色が入った白生地のリボンが。

 

 

 

 

 

 

―――しかし、それよりも目立っているのが・・・・・・母さんよりも非常に長く、もはやくるぶしにまで届くのではないかという長さの、純白の髪。

 

 

 

 そして白のカッターシャツに、ところどころに札のような柄が入った赤いオーバーオールのズボンを身に着けた少女が、ためらいがちに口を開きました。

 

 

 

 

「・・・・・・―――こう」

 

「?こう?」

 

 

 う、顔を下にむけた状態で声も小さいだったので、彼女の声が聞き取れませんでした。フランも同じようで、責めるような雰囲気無く彼女に尋ねます。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・~~っ!!(ぱっ)」

 

 

 

 フランの問いかけに、彼女は下に向けていた顔をあげ、真っ赤になった顔で私たちを見据えて、

 

 

 

 

 

 

 

「も、も、妹紅っ。ふ、藤原 妹紅だっ」

 

 

 

はっきりと、彼女は自分の名前を紹介してくれました。

 

 

 

「ふじわらのもこう、ね!よろしくもこー!」

 

 

「―――――~~~っ!!」

 

 

 彼女、妹紅さんはさらに顔を赤くして、再び母さんの背中に隠れてしまいました。どうやら、あまり人と口をかわすのは好きではない女子のようですね。

 

 

「偉いな妹紅、よくやった」

 

「・・・・・・」

 

 

 母さんが背中越しに妹紅さんを褒めます。それを聞いた妹紅さんの顔がどうなっているのかは、彼女だけが知ることです。

 

 

「じゃ、ここで立ち話もなんだし上がろうか。皆にも説明するから、先に向こうで待っててくれるかい?」

 

「は~い」

 

「分かったわ」

 

 

 フランと咲夜さんが指示に従って、先に居間へと戻りました。

 

 

「・・・メ、メーリン。戻らないの?」

 

「ぐっ。あ、戻るけど、ちょっと待ってね」

 

 

 私に捕まって、涙目で見上げてくるレミィの愛らしさに少々精神ダメージを受けたのを堪え、レミィと似たように母さんに隠れている妹紅さんへ、私は言います。

 

 

「今晩は妹紅さん。私は紅美鈴といいます。何かあれば何でも私に聞いてくださいね」

 

「・・・・・・」

 

 

 妹紅さんからの返事はありませんでしたが、私は特に気にせずにレミィと居間へと向かいました。

 

 

 いやはや・・・・・・懐かしい感覚を思い出しますねぇ。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「どうだ妹紅?あいつらと会って、ちょっとは気が楽になったんじゃないか?」

 

「・・・でも、まだ勇儀しか・・・喋りたくない・・・」

 

「んー、まあそれもそうだわな。いきなり仲良く話すなんてのは無理だよなあ~」

 

「・・・ご、ごめん」

 

「なに言ってんだ。それは人間としておかしくない事なんだ。妹紅のどこが悪い、ん?」

 

「・・・・・・ひ、人を避けてるところ。いたっ」

 

「バカ言うな。妹紅は避けてるんじゃない。ただちょっと内気で、自分を出すのが苦手なだけだ。さっきフランの言葉にも答えられただろ?だから大丈夫だ」

 

「そ、そう・・・かな?」

 

「そうさ。自信を持て妹紅。妹紅はいくらでも変われる年なんだからな」

 

「・・・・・・」

 

「まあ後でも言うが、ここは私の家で、お前の新しい場所なんだから、遠慮せずに過ごしな。分からないことがあれば、私でも誰でもいいから気楽に聞け。遠慮なんかしたらデコピンだからな」

 

「・・・・・・うん」

 

「あと、あの4人が話しかけてきたら、出来るだけ会話をしてみることな。妹紅が会話をするのが途中で無理になったら、気にせず打ち切ってもいいから。あいつらはそんなことで怒ったりしないからね。わかったか?」

 

「・・・・・・うんっ・・・勇儀、ホントに・・・・・・ありがとっ」

 

「おいおい、まだ礼は早いっての。その言葉は妹紅が大きくなって立派になった時に言いな。その時は、喜んで受け取るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃまあ、さっきも自己紹介したけど、こいつは藤原妹紅だ。仲良くしてやってくれ」

 

「・・・・・・(ペコ)」

 

 

 母さんの横に座った妹紅さんが、ぺこりと頭を下げます。 

 

 玄関から移動して居間に腰を降ろした私たちに、その言葉に反論する理由が全くありません。

 

 

「もちろん!」

 

「はーい!」

 

「・・・・・・う~(こく)」

 

「分かったわ」

 

 

 私たち4人は迷うことなく返事をしました。レミィのはあれです。シャイなだけです!

 

 

「よっしゃ!じゃあ早速妹紅の歓迎会もかねて、晩御飯といくか!」

 

 

 パシンッと自分のふくらはぎを叩いた母さんが、ストップをかけていた夕飯をせかします。たぶん、私たちに食べるのを待たせていたのはこのためだったんでしょう。他人が食べてる最中に入り込むのは、中々勇気が要りますからね~。

 

さっきフランが言ってた『多く食う』っていう母さんの伝言ももしかしたら、1人『多く来る』って言ってて、妹紅さんのを増やしといてくれって言ってたのかもしれませんね。

 

 

「さ、全員持ったか?」

 

 

 そんな気配りをした母さんが、日本酒を注いだ器を持って確認します。

 

 

「持ったわ、お母さん」

 

「オッケーよ母さん!」

 

「………」

 

 

 私と咲夜さん、妹紅さんはウーロン茶を普通のガラスのコップに入れて準備万端。

 

 

「あ、待っておかーさん!お姉さま早く入れて!」

 

「う、うるさいわね!自分で入れなさいよっ!」

 

 

 なぜかフランがレミィに牛乳を入れさせていますが、すぐに完了して、2人は子ども用カップを手に持ちます。

 

 

「終わったわかあさんっ!」

 

「おうっ!んじゃまあ!」

 

「あ…」

 

 

 母さんが妹紅さんを引き寄せ、ってお茶がこぼれてるから母さんっ!

 

 

 

「妹紅が我が家へ来てくれたことに、乾杯っ!」

 

 

『乾杯っ!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・お、お邪魔・・・・する、しま、す・・・」

 

 

 でも、今はそんなこと気にしないでいましょう。母さんと私たちの唱和に、妹紅さんもほんの少しだけ嬉しそうにしてくれてますからねー。

 

 ぞこから、私たちは食事と妹紅さんとの会話を堪能しました。ちなみにシチューの評価は、母さんはうまいと言いながら何杯も食べ、妹紅さんは私たちが話しかけてるのに気付かないほどシチューを熱心に食べていました。大成功ですよ咲夜さんっ!

 

 

 

 

 

「ふ~、ご馳走様。美味かったよ、美鈴、咲夜」

 

「お粗末様。作ったかいがあったわ。ねえ美鈴?」

 

「そうですね~!どうでしたか妹紅さん?」

 

「・・・・・・よ、よかった」

 

「そうですかそうですか!ありがとうございます妹紅さん~」

 

「けぷっ。じゃあ、わ、私が後片付けするわ!」

 

「あ、私もするおねーさまっ!」

 

「1人で充分よフラン!」

 

「じゃあおねーさまが私に代わって!」

 

「いやよ!」

 

「むー!」

 

「こら、やめなさい2人とも。片付けなら私がやるから――」

 

「「私がするのっ!」」

 

「・・・は~。じゃあ、3人でするわよ。フランは冷蔵庫に入れる物を入れて、レミィは食器を台所に運んで。私は食器を洗うから、それでいい?」

 

「む~・・・分かった」

 

「よろしい。レミィもいいわね?」

 

「わ、わかったわよっ」

 

 

 おっと、咲夜さん達が食卓の片づけの割り振りをしてしまったので、私のやることがなくなってしまいました。しかし、テキパキ動く咲夜さんは家政婦みたいですね~。言ったらチョップされると思いますけど。

 

 

「美鈴」

 

「あ、なに?」

 

 

 見ると、母さんは家に入ってきたとき持っていた大きなカバンをまた持っていました。

 

 

「今から私は妹紅の部屋の掃除をするから、美鈴は家の案内をしてやってくれないか?場所が分からないと困ることも出来るだろうしな」

 

「おっけー」

 

 

 丁度仕事を探してたところですしね。喜んで引き受けましょう!

 

 

「・・・あ、い、いいよ、別に。勇儀も、そんな気にしなくても・・・」

 

「まあまあそう言わず。さ、行きましょ妹紅さん」

 

 

 あまり乗り気じゃないらしい妹紅さんだったので、私は妹紅さんの手をにぎ

 

 

 

 

「―――ひっ・・・!(バシィッ)」

 

「あ」

 

 

―――る前に、妹紅さんに手をはたかれました。

 

 

 

 

 

「・・・・・・あ、あ・・・!ご、ごめ、ごめんなさ「す、すみません妹紅さんっ!」い・・・えっ?」

 

 

 妹紅さんが何かを言う前に、私は即座に頭を下げました。

 

 

「ちょ、ちょっと強引にやりすぎました!申し訳ありませんっ!ここは許してやってしてくださいーっ!」

 

「・・・・・・え、ふぇっ?」

 

 

 だ、誰だって強引に動かされようとしたらそりゃー反発しますよね!まだ会って間もない私なんかでしたらなおさらな事でしたあっ!

 

 

「―――はっはっはっは!だとよ妹紅!美鈴はああ言ってるけど、どうするさ?」

 

 

 か、母さん!全然笑い事じゃないからね!?私が初対面にして、妹紅さんに嫌われるのではないかという瀬戸際を笑うとは、母さんは鬼かっ!

 

 

「あ……じゃ、じゃあ、許すっ。うん・・・、許す」

 

 

 ふ~、妹紅さんがこくこく頷いてそう言ってくれました。妹紅さんが優しくて良かったです・・・

 

 

「で、では妹紅さん。私が案内させてもらうので、よかったら案内されてくれませんか?」

 

 これじゃどっちが主導権を握ってるのかわかりませんねー。あはは。

 

 

「・・・・・あ。じゃ、じゃあ―――」

 

 

でも、この言い方は正しかったみたいです。

 

 

「―――――案内、頼む、・・・・・・みます」

 

 

妹紅さんの緊張が少し解けたみたいですから。

 

 

「はい♪任せてください」

 

 

 私は先のこともあったので、妹紅さんにはタッチしないで案内を始めました。

 

 

 

 そこからは、どこに何があるだとか、あれが誰の部屋だとか使うときに注意することなんかを説明していきました。ちなみに私と咲夜さんはそれぞれの部屋を、レミィとフランは2人で一つの部屋を使ってます。

 

 

「――-で。ここが私の部屋です。とは言っても、咲夜さんとかもマンガを取りに自由に入ってますから。妹紅さんも気にせず入ってくださいね?」

 

 

 大きい本棚を二つ使ってますから、なかなかの量になってます。きちんと小遣いから使ってますから問題ありませんよ?

 

 

「・・・・・・」

 

 

 妹紅さんも静かに私の案内と説明を聞いています。ど、どうも不安になりますねー。私はきちんと正解の案内をしているのでしょうか?普段当たり前に過ごす場所を説明するのって、意外と難しいものですねえ。

 

 

「さ、じゃあ次はあっちの方を――」

 

「――――なあ」

 

「あ、はい?」

 

 

 や、やっぱり説明がヘタでしたかね!?

 私の部屋の事でなにか聞きたいことが出来たみたいなので、妹紅さんの言葉を待ちます。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・なんで……その、そんな簡単に、受け入れんの?」

 

「へ?」

 

 

 しかし、質問は私の部屋なんかとは関係のないものでした。

 

 

「なんで、って・・・?」

 

「だ、だって……おかしいだろ。いきなり得体の知れない女が自分の家に来たら・・・…普通は驚く。絶対にっ」

 

「いや、これでも最初は驚きましたよ?」

 

「・・・だ、だとしても、その後は話なんかしないっ。ただ適当に会話して、静かに過ごすだけに決まってる。自分から話しかけようなんて、絶対思わないっ!」

 

「は、はあ・・・」

 

「・・・・・・なのに・・・な、なんであんた達は、こんなに明るく会話をするんだ?・・・も、もしかして、私に何か企んでるんじゃないの?なぁ・・・」

 

 

 妹紅さんはまくしたてるように言葉を続けて、私をキッと睨みました。

 

 

「企むって、なんか悪の親玉って感じがしますねー」

 

「ふざけないで、ちゃ・・・ちゃんと答えろっ」

 

 

 先程まで居間で見た妹紅さんとは違って、かなり敵意をむき出しています。ずっと大人しくて分からなかったのですが、これが彼女の素なのかもしれません。

 

 

「とは言っても、別に私たちは何も企んでませんよ」

 

「・・・じゃあ、なんであんなに、明るく私に接するんだよ」

 

「なんでって、そりゃー・・・」

 

 

 ありきたりな言葉になりますけど・・・

 

 

「これから一緒に過ごすんですから、仲良くしていきたいじゃないですか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・本当ですよ?」

 

 

 う、疑ってますね妹紅さん。ですけどこれは本音です。家が嫌な雰囲気になるのを好む住人はいませんよ。

 

 

 

「・・・・・・分かった」

 

 

 妹紅さんの目がわずかに和らぎました。ほっ、なんとか及第点だったようです。

 

 

「・・・・・・でも、最初の方の答えは?」

 

「えっ。さ、最初?」

 

 

 最初も何も、今ので全部答えたつもりなんですけど・・・?

 

 

「・・・なんで、いきなり居候をするって聞いても、驚かないんだよ」

 

「ああ。そういえば」

 

 

 やれやれ、私の物覚えが悪くて悲しくなりますよ~・・・

 

 

「そんなに深い理由ってわけじゃないんですよ。ただですね――」

 

 

 

 今度の妹紅さんの質問には、私は間違っていないと確信しながら答えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「似たようなことを体験してきたからですよ」

 

 

 

「・・・・・・似たような」

 

「はい。だからこそ、こういう時は明るく話した方が互いに良いと思うんです」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 レミィとフランは初めてですからともかく・・・・・・咲夜さんは一度。私は二回経験したことがありましたからね。やっぱり、慣れってものが生まれてくるものです。

 

 

 

「納得していただけましたか?」

 

 

 答えを返した私は、あまり不快感を与えない(と思います)笑いを浮かべながら、妹紅さんの懸念が無くなったかどうかを聞いてみました。

 

 

「・・・・・・ごめん・・・だけど、私はまだ、勇儀以外とは・・・・あ、あまり・・・話したくない」

 

「・・・そうですか~」

 

 

 それは残念ですけど、初対面ですから仕方ない事ですよね~。

 

・・・でも、その言い方はつまり、母さんのことは話したいと思うほど信頼をしているということ。娘の身としては嬉しい言葉です。

 

 

「・・・・・・でも」

 

「? でも?」

 

「・・・・・・あんたが、悪くない人だっていうのは・・・なんとなくわかった」

 

「・・・ありがとう妹紅さん。それは良かったです」

 

 

 目をあわせないまま、そんな言葉を言ってくれる妹紅さん。まだ会って数時間、あまり距離が近づいたとは思いませんが、決して悪くないスタートにになれたのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「フラン!皿を運ぶのは私の仕事なんだから、横取りしないでよ!」

 

「だって冷蔵庫に入れる物が無くなったもの!いいじゃない別に!お姉さまったらケチっ!」

 

「だ、誰がケチよぉ!?このわがままフラン!」

 

「何よこのおませお姉さま!」

 

「・・・もう!こらっ!!2人ともいい加減にしないと怒るわよ!」

 

「ひゃ!?」

 

「ぴぃ!さ、咲夜が怒ったー!あーんっ!」

 

「え、ちょ、レ、レミィ!?まだ私は怒ってないわ!だから待って――!」

 

「おいおい咲夜。妹を泣かせたらいけないじゃないか?」

 

「!!お、お母さん・・・!待って!わ、私は泣かせる気は無かったのよ!ほ、ほら私は怒ってないから泣かないでレミィ!?」

 

「う~・・・私じゃなくてフランが悪いのに」

 

「そ、そんなことないもん!だいいち、咲夜が(家事をほとんどして仕事をさせてくれない)イジワルをするのが原因じゃん!」

 

「フ、フランッ!?」

 

「・・・咲夜?」

 

「ひ!?ちょ、ま待ってお母さん!フラン!デタラメなんか言ったらダメよ!!?嘘ときちんと言って!」

 

「え~、でも嘘じゃないもん。咲夜のせいで私がおねえさまとケンカしたんだもの。ねーおねえさま?」

 

「ぐすっ、え?・・・えーと、そ、そうなる…かな?」

 

「レミィまで!?」

 

「咲夜・・・ちょっと、来てくれるか?2人でちょっと話そうじゃないか」

 

「いやっ!ま、待ってお母さん!わ、私は嘘なんかついてないわお母さんんんっ!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・お、お見苦しいところをお見せしました」

 

「・・・イジワル・・・・・あいつには・・・・・・近づきたくない・・・」

 

「一気に拒絶!?ちょ、そ、それは勘弁してあげてください妹紅さ~~~ん!?」

 

 

 

 どうやら咲夜さんだけ、最悪のスタートを切ってしまったようです。母さんにも連行されて、妹紅さんには拒絶の対象・・・・・・・!咲夜さん!あとで私の胸で泣いていいですよ!というか泣いてくださいね~!!

 

(※当然彼女は泣きませんでした。が・・・代わりに、そうとうへこんだようです)

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!さてさて、皆さんのオッケーが出たのか・・・!

 今回新たに出演してもらったのは、『もこたん』の愛称で知られている、終わりなき永遠を過ごす少女、藤原妹紅さんです!終わることなくずっと続くというのは幸運なのか、不幸なのか?彼女を見ていると、そんな答えはすぐに出せる気がした村雪でした。

 そんな彼女を、村雪はかなりの人見知りという風に設定としましたが、果たしてどう受け止められるのか・・・!一応、実際の彼女も人見知りな場面があった気がするので、なんとか受け入れられれば幸いです。

 さて、次回もこの続きとさせてもらいます。舞台は文月学園の予定です!

 多分この回では色々と思うことができたと思いますので、質問でも感想でも気楽に送ってくださいね!できうる限り返信しますので!

 それではっ!


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顔合―成功、もあれば失敗しちゃうこともあるのです

 どうも、村雪です!

 今週もちょっと早めに投稿させてもらいました!さて、妹紅さんの登場編は終了です!とはいえ、これからもバシバシ出てもらうので、誤解はなさらずに!

 前回は少し静かな雰囲気でしたが、今回はいつも通り!にぎやかに楽しくしてみたつもりです!どうか、楽しんでいただければ!
 

――ごゆっくりお読みください


「咲夜さん。昨日は母さんに怒られてましたけど、何をしたんですか?」

 

「い、言わないで美鈴(メイリン)。私だって何をしたのか聞きたいくらいよ。はー・・・」

 

 

 学校への登校中、重い溜息を咲夜さんはつきました。ほ、本人の希望通り、母さんに連れられて何をされたのかは聞かないでおきましょう。

 

 

「そう言う美鈴は何をしてたのよ?どこにもいなかったじゃない」

 

 

「私は妹紅さんに家の案内をしてたのですよ。ねえ?」

 

 

「・・・・・あ、ああ…」

 

 

 私たちの後ろを近く遠からずの距離でついてきた妹紅さんが、小さく返事をしました。

 

 

「あら、そうだったの」

 

「そうですよ。それにしても妹紅さんの制服姿、素敵ですね~」

 

「・・・・・・(ぷいっ)」

 

「ああっ、そっぽを向かなくてもー」

 

 

 妹紅さんが今着ているのは私達と同じ、黒のブレザーと赤のスカートの文月学園の制服。とても似合っているので賞賛したんですけど、妹紅さんには恥ずかしかったみたいです。

 

 

 で、その昨日やってきた妹紅さんなのですが・・・なんと、今日から文月学園に編入することになったそうです。それも私達と同じ二年生ですよ!

 

 私も母さんから聞いた時には驚きましたけど、聞けば既に転校の手続きは済ませて、学校の教科書や制服一式も購入しており、どのクラスに入るのかを決めるクラス分け試験も行ったらしいです。妹紅さんの存在を知らなかったので当たり前ですけど、そんなことになってるとは全く気付きませんでした。

 

 でもま、そこら辺の事を聞くのは妹紅さんにとっても嫌かもしれませんし、自粛するとしましょう。

 

 

「ところで、妹紅さんはどのクラスなんですか?」

 

 

 学力が高い順にAクラスからFクラスと、所属しているクラスで学力を測られるこの学校。出来ることなら高いところへ行ってほしいですよ!

 

 

「・・・え・・・・・・た、たぶ『おはよう紅、十六夜、藤原(ふじわらの)』――~~ッ!?(ギュッ)」

 

「わわっ?お、おはようございます西村先生」

 

 

 も、妹紅さんが自分から私の背中にしがみついてきたですってー!?

 

 

「西村先生。おはようございます」

 

「ああ、おはよう。……俺の顔を見た途端に隠れられるのは、少々辛いものを感じるものだな」

 

 

 そのきっかけのようである、生活指導の先生かつ私達Fクラスの担任、西村先生は苦笑しながら妹紅さんに話しかけていました。

 

 

「西村先生は、妹紅さんの事を知ってらっしゃるのですか?」

 

 

 咲夜さんが私も気になったことを代わって聞いてくれます。だって自己紹介もしてないのに、妹紅さんの名前を呼んでるんですよ?そりゃ気になるってものですよ。

 

 

「ああ。今日からここで学ぶことになる転校生だろう?」

 

「はい。あってますが、先生がなぜその事を?」

 

「この時期に生徒が転校してくることは特殊ケースで、先生全員に把握してもらうことだからな。それに、藤原のクラス分け試験を見たのは俺だ」

 

「あー、そうだったんですか」

 

 

・・・ん?私の勘が何かを告げましたよ?しかも経験上、この感覚はダメな方ですね。

 

 

「それで、だ。藤原、お前に渡す物がある」

 

 

 西村先生がスーツの内ポケットから茶封筒を出します。おそらく、自分の所属するクラスが書かれた紙が入ってるあれですね。

 

 

「この中に、お前がこの一年過ごすことになるクラスが書かれてある。開けて見るように」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(パシ)」

 

「妹紅さん、こんな怖い顔で怒って見える先生ですけど、西村先生はそんなに怖い人じゃないですよ?だからそんな警戒しなくても大丈夫ですよー?」

 

「むう。別に怒っているわけではないのだがな・・・」

 

 

 妹紅さんが私の背中から恐る恐る封筒を取るのを見て、西村先生は自分の顔を触り始めます。あはは、そんな事をする西村先生は可愛らしく見え

 

 

「んぎゃ!?な、何でげんこつするんですかーっ!」

 

「俺にとって苦い物を感じたからだ」

 

「い、言いがかりですよー!?」

 

 

 でも実は当たっちゃてます!西村先生は体力だけじゃなくて、勘もすごかった!

 

 

 

「―――妹紅さん?開けないの?」

 

「「ん?」」

 

 

 咲夜さんの声に私と西村先生は、声の方、つまり私の後ろを向きました。妹紅さんが背中にしがみついていますから、私は頭だけを動かします。く、首が痛い・・・!

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 その視界の右端っこで、妹紅さんが手に持った封筒をじーーっと見つめていたのが見えました。

 

「ど、どうしましたか妹紅さん?」

 

 

「・・・・・・開けないと・・・・・・だめなのか?」

 

「へ?」

 

 

 何を妹紅さんは言いだすのでしょう。

 

 

「それはそうよ妹紅さん。だって開けないとクラスが分からないでしょ?」

 

 

 咲夜さんの言葉通りですよ妹紅さん。まさかクラスがどこに行くのかを知ってるわけじゃあるまい

 

 

「………私、どのクラスに行くのか分かる・・・・・・と、思うから・・・」

 

「ええっ?」

 

 

 そんなバカな!?じゃあ、クラスを知る時のあのドキドキ感を味わえないという事じゃないですか!そんなのもったいないですよー! (あなたがそれを言いますか・・・)

 

 

「何を言ってるのよ、そんなわけないわ。ですよね西村先生?」

 

「・・・・・・・・・ああ。そう、だな (スッ)」

 

 

 ん?先生。今の空白と横を向いたのは、ただの気まぐれですよね?

 

 

「妹紅さん。そういう事だから開けましょう。それも一つの行事だもの」

 

「・・・・・・・・・・・・やっぱり、こいつは・・・・・・・・・嫌だ……(びりびり)」

 

「う・・・そ、そんなひどいこと言わないでよ…」

 

 

 嫌そうに妹紅さんは封筒を開けだします。で、でも咲夜さんの言ってることは本当なんですよ?だから咲夜さんを嫌いにならないであげてください~。

 

 

「――藤原。俺はお前のことを知らなかった」

 

『?』

 

 

 突然、そんなことを言って西村先生が罰の悪そうな顔をして妹紅さんを見ます。

 

 

「後から学園長に聞いて・・・・・・藤原が、極度の人見知りだという事を知った」

 

「・・・・・・(ごそごそ)」

 

 

 妹紅さんは西村先生に目を向けないまま、封筒を開封します。西村先生もそれは気にならなかったみたいで、言葉を続けます。

 

 

「だからこそ、今更になるが、そしてそれをお前が言っていたとしても、俺のやることは変わらなかっただろうが・・・それでも、一つ言わせてほしい」

 

 

「・・・・・・(がさっ)」

 

 

 お、紙が出てきました。え~と、妹紅さんのクラスはどこ――

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・済まなかった。が、嫌なことがあるのなら、きちんとその事を言いなさい」

 

 

 

 

 

 

『藤原 妹紅    Fクラス』

 

 

 

「えっ?」

 

「も、妹紅さんっ!?」

 

 

 私と同じクラスですか!?それは良かっ、じゃなくて!

 

 

「な、なんでまたFクラスなんですか!?」

 

 

 Fクラスってよっぽどひどくないとならないと思いますよ!?ひ、ひょっとして、妹紅さんはそこまで頭は・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・だって……その先生が、近くで見てて…………全然集中できなかったし・・」

 

 

「「・・・・・・西村先生」」

 

「・・・生徒の不正行為が無いかを見るのも、教師の仕事だったんだ・・・。すまん、藤原」

 

 

 なるほど、さっきの嫌な予感はこれだったんですね。母さんにしか慣れていないようである妹紅さんが、知らない大人の男の人、それも怖くていかつい顔をした西村先生と二人きりになれば、そりゃー気が気でなかったもしれませんねー。こればっかりは西村先生が原因と認めないといけません。

 

 

「ごほん。とにかく、すまないがこの結果は絶対だ。今日からお前は俺の受け持つFクラスで学んでもらう」

 

「……ええぇ・・・・・・・・・・・・・最悪」

 

「・・・・・・そんなあからさまに怯えた表情で、ひどい事を言わないでくれ・・・」

 

 

 普段は強気な西村先生も、純粋に人に怯えられたらへこむという新事実を私は知りました。吉井君達風に言うなら、鉄人の目にも涙、ですね。

 

 

「ごほんっ。では藤原。色々と準備やら連絡しておくことがあるから、一緒に職員室に来てくれるか?」

 

 

そんな先生の言葉に、妹紅さんは、

 

 

「・・・・・・・・・・・・い、いや、だ、です」

 

「え・・・も、妹紅さん?」

 

 

 咲夜さんが驚きの声をあげます。どうも、妹紅さんの人嫌いは生半可ではないみたいです。よもや先生の指示を断るとは・・・

 

 

「いや、そう言われてもだな・・・」

 

「あ、後で・・・・・・教室でして。職員室は絶対、嫌だ・・・」

 

 

 職員室に何か含むところがあるのか、妹紅さんは『絶対』とまで言って西村先生の言葉はねのけようとします。

 

 

「だがな藤原。お前は新しい転校生ということになるのだから、先に教室で待ってもらうというのは・・・」

 

 

 西村先生が困ったような顔になって、腕を組みます。吉井君達のように問答無用で連れて行かずに、柔らかく説得しようとしているあたりは、西村先生の配慮が伺えますね。お見事です。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、」

 

「・・・へ?な、何ですか妹紅さん?」

 

 

 そんな西村先生の説得に長く口を閉じた妹紅さんは、私を見上げて、

 

 

 

 

「・・・・・・あ、あんたも・・・・・・その・・・一緒に、来てよ」

 

 

 妥協案を出しました。

 

 

「はい?」

 

「なに?」

 

 

「・・・どうでもいいけれど、美鈴と先生の反応、そっくりね」

 

 

 咲夜さん、全くそのとおりかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む?まだ紅が来ておらんのう」

 

 

 僕、吉井明久がFクラスでいつもの皆と話をしていていると、始まりのチャイムがそろそろというところで秀吉が周りを見てそう言いだした。

 あ、そう言われると美鈴さんの姿がないや。どうしたんだろ?

 

 

「ん?そう言えばまだ来てないな、紅のやつ」

 

「ひょ、ひょっとして風邪でもひいたんじゃないの?」

 

「いや、〝美鈴は風邪をひかない〟って言うぜ」

 

「ま、魔理沙ちゃん!その言い方は間違っているし、そんなこと言ったらダメですよ!?」

 

「そうだよ魔理沙。そこは〝雄二とチルノは風邪をひかない〟、だよてあだまがいたくて腕もいだいいい!?」

 

「まったく。明久ダメだぞ?そこは〝明久という大馬鹿野郎は風邪をひかない〟が正解だ。よく覚えとけ大馬鹿野郎」

 

「その通りね、良く言ったのよさ坂本。アタイのどこがバカだってのよ、この大バカよしーが」

 

 

 こ、この2人が僕より賢いだなんて意地でも認めないぞ!たとえもの凄い力の万力や、地味に痛い腕の肉をつねる攻撃を受けても!

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「あ、チャイムが鳴りましたね」

 

「うし、じゃあ座るか」

 

「そ、そうだね。いたた・・・」

 

 

 雄二達から解放されて、僕たちは自分の席にばらばらと座り始めた。痛た、雄二は本当に力が強いなあ。あと、チルノに握られたところが地味にひりひりするよ。

 

 

「皆、席に着くんだ」

 

 

 チャイムが鳴り終わると同時に、担任の鉄人こと西村先生が入ってきた。相変わらずの筋肉の持ち主だ。それで僕は何度ひどい目に遭ったのやら・・・

 

 

「よし、皆席に着いたな。出欠を取る。浅野」

 

「はい」

 

 

 そのまま出欠確認が進んで、最後の1人の名前が呼ばれて確認は終了(なんでか美鈴さんの名前が呼ばれてもすぐに次の名前が呼ばれてたけど、なんでだろ?)。鉄人は出欠帳をパタリと閉じた。

 

 

「よし、皆揃っているようだな。しっかり勉学に励むように」

 

 

 皆って、美鈴さんがいないじゃない。鉄人は何を言ってるんだろう?とうとう脳も筋肉になっちゃったんだろうか?

 

 

 

「さて、俺から一つ連絡事項がある」

 

 

 連絡事項?今まではそんなになかったのに、珍しいなー。何か変わったことでもあったのかな?

 

 

 

 

 

「突然だが、今日からこのクラスに転校生が入ってくる」

 

 

 

ざわ・・・!!

 

 

 鉄人の突然の言葉に、クラスの皆がざわめき始めた。それは僕も同じだ。転校生が来るっていうのは良く聞くけど、自分のクラスに来るっていうのは初めてだ!一体どんな人なんだろう?

 

 

「へ~!せんせー!それってどんな奴なの!?」

 

 

 チルノが元気よく挙手して、僕の知りたかったことを聞いた。今回だけは感謝してあげよう。

 

 

「チルノ。〝奴〟じゃなくて〝人〟と言え。・・・・・・そうだな」

 

 

 僕だけじゃなくて、皆が鉄人の言葉を待つ。大事なのは・・・!

 

 

「・・・・・・俺が詳しく言うのもなんだから、あまり言わないでおこう。だがこれだけは言っておく。その子は、かなり人見知りの激しい女子だ。あまり負担のかけるようなことをするな」

 

 

 

『よっしゃあー!!女子きたきたきたぁぁぁ!!』

 

 

 野郎たちの魂の叫びが響き渡る。やった~!どうやら神様が微笑んでくれたみたいだ~!!ありがとう神様、この男の比率が高いバカクラスに女の子が舞い降りてくるなんて・・・!ああ!人生捨てたもんじゃなしだ!

 

 

「それを、負担をかける行為と言うんだアホ共が・・・」

 

「吉井君・・・」

 

「アキ、あんたその内、女の敵になるわよ…」

 

 

 そんな三人の声は有頂天の僕には聞こえなかった。

 

 

「じゃあ、西村先生。その女子は今廊下にいるのか?どうなんだぜ?」

 

「ああ。廊下で待ってもらっているというのに・・・今の大声で怯えてたらどうするというのだ、全く」

 

 

 はあと頭を押さえる鉄人だけど、僕達はその女の子のことしか気にならない。どうしよう、その子は優しい人なのかな?僕の事を好きになったりしないかな?そんな青年らしい夢が溢れて全然止まらない!

 

 

「・・・では、そろそろ呼ぶとしようか」

 

 

 ガラリと前のドアを開けて、鉄人が廊下へと出た。ああ、ついにこの時が・・・!

 

 

「では、入ってくれ」

 

 

 

 鉄人がもう一度教室に入ると同時に、スッと扉に手がかけられた。

 

 

おお、なんてきれいな手なんだろう・・・!その先に美少女がいると考えると、僕は期待せずにはいられなかった!

 

 

 

 現れる細い腕、でも健康さは全く失われていないから、とっても魅力的だ!嫌でも僕たちは目をくぎ付けになり、皆がワクワクしてその腕を見続ける。

 

 

 

 

・・・・・・そして、遂にその姿が―――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆さんおはようございます!」

 

 

 

『チェエェェェエェエンジッッ!!』

 

 

「ひいっ!だ、大ブーイングですかぁっ!?」

 

 

 

 ショックを受ける綺麗な手の主。それはクラスメイトの紅美鈴さんだった。

 

 ちょっとちょっと!いくら美少女であろうと、この興奮と期待を裏切った罪は大きいよ!?このわくわくと高揚感を返して美鈴さんっ!君にはがっかりだよ!

 

 

「おいおい先生~。まさか美鈴が転校生って言うのか?西村先生にしてはひどい嘘だぜ」

 

 

 魔理沙も非常にがっかりという顔で鉄人と美鈴さんを交互に見る。全くその通りで、転校生が来るなんてウソをついて僕たちをからかおうなんて、あまりにもひどくないかな!?

 

 

 

 

「何を言っている」

 

 

 けど、鉄人はただあきれた風に息をついて、 

 

 

 

「紅の後ろをよく見てみろ」

 

『ん?』

 

 

 そう言ったので、僕たちは美鈴さんの後ろをもう一度見た。ん、んん~?

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・(こそ)」

 

 

 

 美少女がいました。

 

 

 

 ドアの向こうから少しだけ顔をのぞかせているその女子は、顔は半分隠れているけれど、とても整った顔をしているのがすぐに分かるぐらいの美少女だった。

 

 

『おお~っ!!』

 

「・・・・・・っ!(ひゅっ)」

 

 

 皆の驚いた声に、彼女はすぐに頭を引っ込めてしまったんだけど、そんなところにぐっと来た僕は間違ってないはずだよね?心清らかな男子ならやっぱり思うよね!?

 

 

「あ、良かったら私の後ろに隠れてください。それならだいぶ違うでしょう?」

 

 

 美鈴さんがそう言って廊下に顔を出すけど・・・もしかして、2人は知り合いなの?だとしたら、後で美鈴さんに間を持ってもらうことも出来るよね。よし、後で頼むとしよう。

 

 

「・・・・・・(こそ)」

 

 

 僕が彼女と過ごすハッピーな時間を空想してるうちに、彼女は教室に入って、美鈴さんの背中に隠れた。おかげでその姿は見えない。

 

 

「皆さん。彼女はちょっと人見知りをする子ですので、私が前に立たせてもらってますけど許してくださいね~?」

 

 

 美鈴さんはそう言って謝るけど、僕らは全然気にしない。だって女の子がこのクラスに来てくれるだけですごい嬉しいし、やっぱり無理をするのは可哀そうだもんね。

 

 美鈴さんの後ろに隠れたまま、転校生さん達はFクラス特有のボロボロ教卓の前に立った。

 そして、ごほんと美鈴さんはせきばらい、僕たちを見て注意をした。

 

 

「じゃあ、今から自己紹介をしてもらいますので、静かにお願いしますね!」

 

 

 転校生の事でざわざわしていた皆も静かになり、聞く準備が整ったのを確認した美鈴さんが、転校生の方を向く。

 

 

「では、お願いしますね」

 

 

「・・・・・・・・・・・・ん(すっ)」

 

 

 

 その姿を見た瞬間、おおおっ・・・!って声がクラス中からあがり出す。

 

 

 美鈴さんの後ろから半分体を出した転校生さん。その姿を見て僕が最初に思ったのが、白いなー、だった。

 

 

 もちろん顔も可愛くて、このクラスにいる女子(チルノはバカだから除外しよう)の誰にも負けず劣らずなんだけど、なんといってもその髪が凄い。

 

 

 まるで、雪みたいに真っ白で純白の綺麗な髪。

 

 

 それを地面に届きそうなくらいに伸ばしていて、ただすごいと言うか、神秘的っていう言葉が似合ってるんじゃないかな?とにかく、僕たちに与える衝撃はすごかった。

 

 

 

「うわぁ~・・・!」

 

「き、きれい・・・」

 

「おお、スゲェのよさ・・・!」

 

「へ~、すごい髪だな~!」

 

 

 姫路さんや美波にチルノ、それに、普段は人をからかったりする魔理沙も、ただ感動の声や褒める言葉をこぼしたりしている。男子にいたっては、もはや言葉どころか呼吸も忘れそうな勢いで、転校生を見て固まっていた。

 

 

「う・・・・・・・・あ、う・・・・・・・・・・こ、こ、んにちは」

 

 

 視線の的となった彼女は、ちょっとだけ美鈴さんの後ろに体を戻して、挨拶を始めてくれた。

 

 

「・・・藤原妹紅、だ。よ、よろしく」

 

 

 ふじわらのさん、はそこでぺこっと少しだけ頭をさげた。少し短かいけれど、これで自己紹介は終わりみたいだ。

 

 

「そういうことだ。皆、仲良くするのはもちろんだが、あまり藤原に負担をかけないように一緒に過ごすんだぞ」

 

 

 鉄人が念を押すように僕らを見渡す。全く、僕のような紳士が藤原さんのようなレディーに迷惑な行為をするわけないじゃないか。あとで隙間なく質問をするぐらいだよ。

 

 

「では、藤原。そこがお前の席だ。紅、フォローを頼むぞ」

 

「はーい!」

 

「・・・・・・(こく)」

 

「うむ。ではこれでHRを終了する。しっかり勉学に学ぶように」

 

 

 ああ、今日も一日さわがしくなりそうだ。僕の左斜め前に座った藤原さんとその右側の美鈴さんを見て、僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして藤原さん。紳士で有名な近藤です。結婚後もよろしく」

 

「はーいエセ変態紳士は黙りましょーねー」

 

 

 

 やれやれー、やっと昼食の時間ですか。今日はまた一段とお腹がすきましたねー。これはきっと妹紅さんの護衛が原因ですねえ。

 

 

 

「もこうさん。前から好きでした。結婚してください」

 

「前も何も今初めて会ったんでしょーが。出直してじゃなくて諦めなさい」

 

 

 

 朝、西村先生が出て行くと同時に、私の左の席、つまり妹紅さんにクラス中の皆が話しかけようとしたんですが、最初に話しかけたのはFクラス一の秀才、姫路瑞希さんでした。

 

 

『こんにちは、藤原さん。私は姫路瑞希っていいます。お好きに呼んでください!』

 

『・・・・・・・・・・・・よ、よろしく』

 

『あ、でもせっかくですから、私の事は瑞希って呼んでくれませんか?あと、私も妹紅ちゃん、って呼んでいいでしょうか?』

 

『・・・・・・・・別に、いいけど・・・』

 

『ありがとうございますっ。これからよろしくお願いしますね、妹紅ちゃん!』

 

『・・・・・・・・・・・・・・よ、よろしく」

 

 

 姫路さんが明るく話かけていくのを妹紅さんがぽつぽつと答えるだけのやりとりでしたが、きっと妹紅さんも嫌だとは思っていないでしょう。その証拠に、顔を固くしていたのが少し緩みましたもの!

 

 そして一時間目のチャイムがあり、会話は終了されました。

 

 

 

「藤原妹紅さん!俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

 

「まずはお付き合いを前提に交友を深めようとしなさい。上手くいくかは保証しませんが」

 

 

 

 で、一時間目終了後。ポニーテールが特徴の島田美波さんと、私と近所の霧雨魔理沙、そしておバカのチルノ・メディスンが妹紅さんと会話をしました。

 

 

 

『おっす!アタイはチルノ・メディスンよ!今日からもこーはアタイの子分ね!』

 

『あほ。いきなり何を言うんだぜ』

 

『あいた!』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・い、いやだ・・・』

 

『あ、大丈夫よ。この子はそう言うのが好きなだけだから。ねえ魔理沙?』

 

『おう、その通りだぜ』

 

『………あ、そう』

 

『あ、ウチの名前は島田美波よ。で、そっちの女子が霧雨魔理沙、それでこのちっちゃいのがチルノ・メディスンよ』

 

『あ、私の自己紹介を取ったな美波~。ま、そういうわけで、わたしは恋に生きる霧雨魔理沙だぜ。よろしくだぜ妹紅』

 

『・・・・・・よ、よろしく』

 

『ちょ、ちょっと待つのよさ!アタイの背がちっちゃいんじゃないわ!アンタ達がでっかすぎるのよ!』

 

『え?そうでもないわよ。ウチはかなり低い方だけど?』

 

『私もだぜ』

 

『う、うう~・・・はっ!もこー!もこ-はアタイは普通だって言ってくれるわよね!?』

 

『・・・え・・・・・・・・・し、知るかっ』

 

『どうやら妹紅は私らの仲間みたいだぜ、チルノ』

 

『大丈夫。きっと成長期がまだなだけよ、チルノ』

 

『一年前からずっと変わってないのよさーっ!!』

 

『・・・・・・・・・・・ご、ごめん』

 

 

 チルノも涙を流すという事を、この時初めて知りました。

 

 チャイムが鳴って二時間目の担当の福浦先生が来ても、チルノは涙を止めませんでした。そしてそれを気にせず授業をする先生。担任が変わっても変わらないでいてくれて、ほっとしました。

 

 

 

「もこたんまじ最高―っ!」

 

「あ、そのあだ名可愛いですね」

 

 

 

 そして二時間目終了後。妹紅さんに話しかけたのは秀吉君と土屋君です。

 

 

 

『・・・・・・土屋康太。よければ、写真を撮りたい(バシャバシャバシャ)』

 

『・・・え、え・・・・・・!?』

 

『許可の前に撮っておるぞい。やめんかムッツリーニ。藤原が嫌がっておるのじゃ』

 

『……や、やめろ・・・・・・』

 

『・・・・・・分かった』

 

『すまんのう。わしは木下秀吉というのじゃ。よろしく頼むぞい、藤原』

 

『・・・・・・・・あ、あんた・・・・・・女子?』

 

『わ、わしは男じゃーっ!』

 

『ひっ!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん―――!』

 

『あ、え!?ま、待ってくれ藤原!そ、そんなに謝らずとも、わしはそこまで怒っておら――!』

 

『・・・秀吉く~ん?ちょーっと、私についてきてもらえますかねえ?』

 

『ぐあっ!ま、待ってくれ紅!わしもあれほど嫌な思いをさせてしまうとは思わな、い、痛い痛い痛い痛いのじゃーー!』

 

『・・・・・・・・・・・・大丈夫?』

 

『――さいごめんなさいごめん・・・・・・え……さっきの奴は・・?』

 

『・・・・・・珍しく、怒られている。南無・・・』

 

 

 

 次の初めては、秀吉君をしかることでした。私は三時間目担当の先生に頭突きを食らうことで秀吉君を解放しました。ああ、今思い出しても凄い石頭ですよ・・・

 

 

 

 

「藤原。その髪を触らしてくれ」

 

「吹き飛ばされたいんですか変態こら?」

 

「同じく」

 

「よおし。ちょっとあんたら歯をくいしばりなさい」

 

 

 

 

 そして三時間目終了後、痛む頭をさすりながら横を見ると、今度はこのクラス一の問題児、吉井明久君と坂本雄二君が妹紅さんと話そうとしていました。

 

 

『今日は、藤原の妹紅さん!これからよろしくね!』

 

『・・・・・・・・・・・・「の」が一つ、多い・・・・・・』

 

『え、う、うそ!?』

 

『名前を間違えるなんて、お前は最悪だな、バカ久』

 

『そう言ったそばから、悪意に満ちた間違えをわざとする雄二はどうなるんだよ!』

 

『藤原。俺はこのクラスの代表の坂本雄二だ。このバカに変わって深く詫びよう』

 

『・・・・・・・・・ん』

 

『ご、ごめんね藤原さん。僕の名前は吉井明久っていうんだ。聞きたい事があったら遠慮なく聞いて?出来る限り相談に乗るよ』

 

『・・・・・・じゃあ・・・・・・なんで、ミカン箱?・・・机・・・』

 

『『こいつのせいなんだ』』

 

『・・・・・・・・・』

 

『ちょっと!どう考えても雄二のせいじゃないか!?雄二があそこで霧島さんに負けてなければ僕たちが勝ってたじゃん!』

 

『それはお前にも言えるだろうが明久!何が僕は本気を見せてないだ!本気を見せたところでたかが知れてたじゃねえか!』

 

『なにを!雄二が僕に言ったんじゃないか!』

 

『あほが!あんなもん信じるお前がバカなんだよ!』

 

『やるか!?』

 

『上等だ!』

 

『…………け、けんかは・・・・・・よくない・・・』

 

『む、仕方ない。ここは藤原さんの言う通りにしないとね』

 

『そうだな。やれやれ、明久はロリコンのくせに、こういう時には常識を持つからな』

 

『…………ロリコン・・・・・・うわ・・・』

 

『ち、違うよ!だいたいあれも雄二のせいじゃないか!僕は完全に濡れ衣を着せられたんだよ!』

 

『何を言う。お前も嬉しかったんじゃないか?何せ、あの八雲 藍先生の自慢の娘、橙(チェン)だ。会ったことはないが、年齢が同じなら、かなりの美人だと俺は思うぞ?』

 

『・・・あ、なるほど。そう言われるとまんざらでもないね。お付き合いしたくなるかもれないや』

 

『・・・・・・・・・あ・・・え…?』

 

『でも、あんなに可愛がるなんてどんな子なんだろうね?いい子なのかな?』

 

『さあな。そればっかりは八雲先生に聞かないと分からん』

 

『だよねー』

 

『とてもいい子だよ。仕事が終わって家に帰ると、「おかあしゃまお帰り!」と言って出迎えてくれるな』

 

『へー。そうなんだー』

 

『母を愛する娘って感じだな』

 

『………え・・・・・・だ、れ・・・?』

 

『そしてそれだけじゃない。料理を作るときも、「橙も手伝うっ!」と、自分から手伝ってくれて、私の負担を減らそうとまでしてくれるんだ』

 

『へー、偉いなあ』

 

『全く、明久が9才のころは何もしなかっただろうな』

 

『あはは、そうだったかもね~』

 

『同感だな。貴様らのような奴が橙と同じようなことをしているなど、聞くだけで虫唾が走る』

 

『・・・・ひっ………!』

 

『やだなあ。ひどいじゃないですか八雲先生ー』

 

『全くだ。生徒にはもっと愛情を注ぐべきだ、八雲先生』

 

『なに、その必要はあるまい。貴様ら2人には、愛情ではなく憎悪を注ぎ込むので十分だろうからな』

 

『あはは、八雲先生は冗談を言う人だったんですね』

 

『これは新しい発見をしたな、明久』

 

『残念だが、私はあまり冗談が好きではなくてな。橙のからんだことには一度も冗談を言ったことが無い。覚えておくといい』

 

『・・・・・・う、う~・・・・・・!!』

 

『そうでしたかー。あっはっはっは』

 

『それは済まなかった先生。はっはっはっは』

 

『いいさ。今から存分に叩き潰させてもらうからな。クックックッ・・・』

 

『・・・・・・』

 

『・・・・・・』

 

『・・・・・・(パキボキボキ)』

 

 

 

『・・・!!・・・・・た、助けて、勇儀・・・!』

 

 

 

『『――――サラバッ!!』』

 

 

『貴様らそこになおれぇぇぇっ!!』

 

 

 

 

・・・休み時間は終わり、四時間目の担当は八雲 藍先生でしたが、2人の仇敵を討ちに行ったために、自習となりました。

 

 妹紅さんが思い切り震え上がって泣きそうになっているのは、八雲先生のせいではなくあのバカ二人のせいだと私は決めます。だって、咲夜さんやレミィやフランが同じことされたら、私はもっと荒れ狂う自信があるからでございます。家族って大事ですよねー!

 

 

 

 

 

 そして、現在昼休み。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・(ふるふるふる ぎゅ~)」

 

「だ・・・大丈夫、ではないですよねえ~・・・大丈夫ですよ妹紅さんー。私がいますよー」

 

「妹紅さん!俺とデートをして」

 

「やかましい!とっとと諦めてください!」

 

 

 

 さきほどの吉井君達が原因による八雲先生の乱心に、妹紅さんはぶるぶる怯えてず~っと私にひっつく状態になっちゃってます。私としては頼られてるみたいみたいで嬉しいんですけど、喜ぶところじゃありません。

 

 そんな状態なのに、やむことが無く振り続けるバカ男子からのアプローチ。全く、先生に負担はかけるなって言われてるのに、何考えてやがるんですか!そりゃ悪意が無いってのは分かるんですけど、もう少し普通の話をしかけなさいよっ!

 下心丸出しすぎて妹紅さんは何も答えれないから、代わりにさっきから私が答えてるってことにいい加減気づきなさい!

 

 

「だ、大丈夫ですか?美鈴さん、と妹紅ちゃん」

 

 

 そんな私たちを心配して、瑞希さんが遠慮気味に声をかけてくれました。

 

 

「あ、私は全然だいじょぶですよ。でも妹紅さんがちょっとね」

 

「さっきの八雲先生は怖かったもんね・・・大丈夫、妹紅?」

 

「・・・・・・・・・・・・・だ、大丈夫じゃない」

 

 

 島田さんも妹紅に声をかけて、顔をしかめさせたまま妹紅さんは正直に答えます。ど、どうしましょう。これって保健室に連れて行くべきでしょうか。

 

 

「そ、そうよね。ウチが保健室に連れて行ってあげよっか?」

 

「・・・い、いい。これも、訓練になるから・・・・・・嫌だけど……」

 

「妹紅さん・・・」 

 

 妹紅さんはフルと首を横に振ります。ううっ、自分を変えようとするその気持ちに、私の鼻がツンと来ました…! 

 

 

「しっかし、まだ吉井達は戻ってこないなー。もうお陀仏しちまったんじゃないか?」

 

「う~ん。らん先生も最強ね。アタイ、思わず身震いしたわ」

 

 廊下を眺めながら魔理沙達はそんなことを言います。チルノがこうもあっさり人を褒めるとは珍しいことですね?

 

 

「ちょっと魔理沙。縁起の悪いことを言わないの!」

 

「とは言え、今の八雲先生だったらありえそうで怖いですけどね」

 

 

 吉井君達が明日の朝日を拝めることを願いますよ。

 

 

「・・・・・・・メ、」

 

 

 すると、妹紅さんが

 

 

「ん?」

 

 

「・・・・・・・美鈴」

 

 

「!あ、な、なんでしょう?」

 

 

 い、今、初めて名前を呼ばれましたよね?

 

 

 

「・・・・その・・・・・・あ、ありがと」

 

「!あ、い、いえ、いえいえいえ~!」

 

 

 まさか、妹紅さんがお礼を言ってくるとは思いませんでしたよ。男子達を追い払った私に、少しでも心を開いてくれたのでしょうか?良く頑張りました私!

 

 

「さ、今は昼休みですから、ご飯を食べてのんびりしましょう」

 

「・・・・・・ん」

 

 

 この調子で皆と仲良くなってもらえたら嬉しいですねー。母さんもきっとそれを望んでますよね!

 

 

「あ、じゃあウチらもいい?」

 

「そうだぜ美鈴。私らも妹紅との親睦会に混ぜてくれるよな?」

 

「い、良いでしょうか。美鈴さん、妹紅ちゃん・・・?」

 

「アタイもよ!いいわよね!?」

 

 

 そこに加わろうとする四人組。もちろん!と言いたいのですが、ここは妹紅さんの意見を尊重するするべきですよね。

 

 

「妹紅さん、いいですか?」

 

「・・・・・・か、勝手にしたら・・・いい」

 

 

 

 おっと!乗り気ではなさそうにしても、拒絶はしてません!どうやらクラスの女の子と打ち解けるのは遠くないのかもしれませんね♪

 

 

 妹紅さんがクラスで楽しくいられる未来を垣間見て、私たち六人は昼食を堪能し始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(どさっ)では、お願いします。八意(やごころ)先生」

 

「分かりました。・・・・・・けど、一対何をしたのですか、藍先生?この2人、見ただけでもかなりボロボロですが」

 

「あ・・・い、いえ、少し灸を据えようと思いまして・・・」

 

「・・・・・・は~。橙ちゃんのことで、でしょ?」

 

「むぐっ・・・そ、その通りです」

 

「娘を大事に思うのは悪くないけど、過剰にしすぎるのは逆効果だから気を付けなさい。その内、橙ちゃんを傷つけるかもしれないわよ?」

 

「う・・・ぜ……善処します」

 

「全く・・・・・・藍、たまにはその心を紫にも向けてやったらどう?この前も、藍が冷たいー、とか泣き事をこぼしてたわよ」

 

「いえ、姉さんはあれでいいんです。私が言うのも変ですが、姉さんは私を溺愛しすぎです。だから、少し距離を置いた方が姉さんの為です」

 

「・・・その言葉、自分の首を絞めてるって気づいているかしら?あなたが橙ちゃんに冷たくされたらどう?」

 

「トラウマになって臥せる自信があります」

 

「自信を持って言う事じゃないわよ、馬鹿」

 

 

 

「う、ぅう…鬼が追って・・・」

 

「誰か、た、助けてくれ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹紅、学校では大丈夫だったか?」

 

「・・・う、うん・・・色々あったけど…あいつ・・・・・・美鈴が、間を持ってくれたから・・・」

 

「そうかそうか!どうだ?美鈴もいい子だろう?」

 

「・・・・・・うん。・・・でも、やっぱり勇儀が一番・・・安心する。ん・・・」

 

「はっは、そうかい。まあ今日は疲れただろうし、気の済むまで好きに使いな。お疲れさん、妹紅」

 

「・・・・・~~♪、勇儀・・・膝枕、ありがと」

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、どうだったでしょうか?妹紅さんにFクラスのおバカたちと触れ合ってもらい、久しぶりに藍先生に出てもらって、親バカを炸裂してもらいました!そのどれか一つでも笑いが起こってくれれば、作者としては大成功です!ああ、どうなることか・・・!

 では、今回で妹紅さんの登場編は終わったので、次回からはようやく原作、学園祭編に突入をしていきたいと思います!笑いの展開に繋げていきたいです・・・!!


 それではまた次回!気軽に感想とか質問をしてくださいね~!


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静かさなんて許さない!バカ騒ぎの清涼祭編!
準備―楽しい、学園祭なんですからもうちょっと気合を入れましょうよ~!


どうも、村雪です! 

 さてさて、今回からは原作第二巻、学園祭編に入らせていただきます!まだまだどうなっていくかは分かりませんが、読者の皆様の期待に添える内容にしていきたいところです!

――では、ごゆっくりお読みください

  


 

 

「では、今日の運営委員への連絡は以上です」

 

 

「ふぃ~~・・・」

 

 

 広い教室で行われていた話し合いが終わり、私達はばらばらと解散をし始めます。ん~、肩が凝りますね~。

 

 

「美鈴(メイリン)。Fクラスの準備はどう?」

 

 

 そう言ってこちらにやってきたのは、静かな銀色の髪と、見ていると癒されそうなグリーンの目が素敵な女の子です。

 

 

「あ、咲夜さん。Aクラスの準備はどうですか?」

 

「順調よ。あらかた準備も進んでるわ」

 

 

 そう言って私の妹である、十六夜咲夜(いざよい さくや)さんは胸を張りました。

 

 何の準備かと言いますと、この文月学園の新学期最初の行事、『清涼祭』での各クラスの出し物のことです。

 各クラスメンバーが協力して、一つの何かをするということがクラスの結束を高める、ということで毎年行われているイベントですが、私達はその運営委員としてこの教室に集合していたというわけです。

 

 

「それで、美鈴達はどうなの?」

 

「あ~。実は、運営委員もそうですけど部活の方も忙しくて、あんまり分からないんですよ。たぶん進んでるとは思うんですけどねー」

 

「あら、そうなの」

 

「はい」

 

 部活の方はたった二人しかいないから、必然的に絶対参加となりますし、最近は意外と忙しい日々を私は送っているわけです!

 

 

「あ、ところで美鈴」

 

 

 しばらく廊下を歩いていたら、咲夜さんがはっと碧眼の目で私を見てきました。

 

「はい、なんですか?」

 

「試験召喚大会ってあるじゃない?」

 

「あ。ありますねー」

 

 

 この学校独自のシステム、『試験召喚システム』を用いることで生まれた『召喚獣』を社会にアピールするために、召喚獣同士が戦うトーナメント戦の名称ですよね。その勝負に勝ちあがって優勝すれば、何か景品があるんだとか。

 

 

「せっかくだし私と一緒に出てみない?景品には商品券なんかがあるらしいから、絶対損じゃないわ」

 

「おっ!それはいいですねー!」

 

 

 そういうイベントは、聞くよりやっぱり参加してこそ楽しみがあるんですよね!しかも優勝すれば商品券も手に入りますし、まさに一石二鳥です!

 

 

「乗りました咲夜さん!いっちょ優勝目指しましょうか!」

 

「決まりね。じゃあ後で細かい話はしましょ。じゃ」

 

「おっけーです!では!」

 

 

 私は咲夜さんと別れて、自分の教室であるFクラスに戻ります。頭はFクラスのメンバーのことで埋め尽くされ中です!

 

 

「う~ん、きちんと準備はしてますかねー?」

 

 

 咲夜さんにはああ言いましたけど、Fクラスの人が真面目に出し物に取り組もうとしてるところが、全く想像できないんですよね~。代わりに、だらーっとしてくつろいでる姿が簡単に思い浮かびます。

 

 

「・・・とは言え、さすがに出し物ぐらいは決まってますか!」

 

 

 さすがにこの時期だと決まってますよね。私が忙しくして行ってない間も、皆が協力してきちんと準備に取り掛かってくれてるでしょう!

 

 

 そうこう考えているうちに、Fクラスに到着です。このぼろぼろの外見にもだいぶ慣れましたねー!

 

 

ガラガラ

 

 

「皆さ~ん、準備は進んでますかー?」

 

 

 私はぼろぼろのドアを持ち、皆が頑張っているであろう教室への扉を開けます。

 

 

 

 

「・・・・・・ん?んんんんっ?」

 

 

・・・・・・が、私の予想は大きく外れました。

 

 

「あ……メ、美鈴さん。おはようございます」

 

「あ、おはよーございます。・・・おはようじゃなくてこんにちは、の時間帯ですけどね」

 

「そ、そうですねー・・・」

 

 

 あはは・・・と無理な笑顔を作るのは、学年でもトップクラスの学力の持ち主、姫路瑞希(ひめじ みずき)さん。

 

 

「メ、美鈴。委員会の仕事はどう?上手くいってる?」

 

「まあぼちぼちですよ。こちらもぼちぼち進んでますか?」

 

「・・・あ~。ま・・・・・・まあね」

 

 

 明らかに動揺して目を逸らすのは島田美波さん。トレードマークのポニーテールも、どことなくへにょっとしてるのは偶然でしょうか。

 

 

「………お、おかえり」

 

「あ、ただいま妹紅さん。大丈夫でしたか?」

 

「・・・・・・人がほとんどいなくなったから・・・ま、ましだ…」

 

「そうですかー。それは良かったです」

 

 

 言葉通り、本当に普段より気楽そうにして座っているのは、床にふわっと散らばるほど長い純白の髪の持ち主、藤原 妹紅(ふじわらの もこう)さん。すごい人見知りで、私たちの家に一緒に住んでる居候、ではなく家族です!

 

 

「・・・で、秀吉君、そして田中君」

 

「な、な、なんじゃ紅?」

 

「な、何か用か?」

 

 

 そして、男子である田中君と見た目は美少女、性別は男と、神様が間違えたのではと思ってもおかしくない男友達、木下秀吉君の…………現在クラス内にいるたった二人に、私は尋ねます。

 

 

「ほぼ全員の男子と2人の女子が見当たりませんが、どこに行ったのですか?」

 

「・・・あ~、じゃな」

 

「あ~・・・・・・」

 

 

 何かを作るために出かけているならいい、のですが、この秀吉君達の濁し具合や、瑞希さんと島田さんが目を合わせないようにしているところからして・・・…

 

 

「・・・あ、あそこじゃ(スッ)」

 

「・・・ああいうわけだ(すっ)」

 

 

 

 

 秀吉君達がものすごく言いづらそうに、窓を指さしました。ちなみにここは三階です。窓の外には爽やかな空が果てしなく広がっていました。

 

 

「?」 

 

 

 つまり、外を見ろということですよね?2人が指さす窓へと私は歩み寄り、確認をします。

 

 

「ん~?外で何を―――」

 

 

 

 

 

『よっしゃチルノ!ここは一発ぶちかましてやれ!』

 

『任せなさいまりさ!さあよしー!来るのよさ!』

 

『勝負だチルノ!今日こそどっちがバカなのかを赤白つけてやる!』

 

『バカね!そこは赤白じゃなくてモノクロよ!』

 

『意味はあってるが、それを言うなら黒白だ!』

 

『・・・ふ、やっぱりチルノはバカだったみたいだね』

 

『よ、よしーだって間違ってたでしょ!色があってるぶん、アタイの方が最強でよしーの方がバカなのよさ!』

 

『何を!こうなったら意地でも君からストライクを取って、僕の方が上だと証明させてやる!』

 

『上等よ!場外までぶっ飛ばしてやるわ!』

 

『・・・野球とバカさは関係が無い』

 

『いいから早くゲームを進めろ2人共!私も早くバットを振りたいんだぜ!』

 

 

 

 

 

 とっても楽しそうに野球をしているおバカ達がグラウンドにいました。

 

 

 

「…………ほっほぉ~~・・・私はそれなりに色々とがんばって、清涼祭を成功させようと色々とややこしい仕事をしてましたのに、皆さんは楽しく野球ですか~。それも、クラスの出し物を準備せずに……ですかー・・・!!」

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ご、ごめん!」

 

「ああ~…悪い」

 

「す、すまん」

 

「・・・・(ぺこ)」

 

 

 5人から謝罪をもらえました。一応悪いとは思っていたみたいです。まあ多勢に無勢、あれだけの人数をたった五人で止めるというのも酷な話ですかね。

 

 

「いえいえ~。5人はきちんと残ってくれてるので、皆さんは謝る必要はありませんよー?」

 

 

 悪いのは、野球に参加している人達に違いないですよねぇ・・・!?

 

 

「では、あのおバカ達をせんめ・・・連れてくるのですよ」

 

「今絶対殲滅って言いかけたよな!?」

 

「メ、美鈴さんダメですよ!?」

 

 

 田中君、瑞希さんが何か言いましたが、今の私の頭はあのおバカ達の事でいっぱいです!後で聞きましょう!

 

さあ、まずは奴らの場所へと向かうべき!

 

 

 

 

 

 

ガラッ! 

 

 

 

「っ!!?お、おおおお主何をする気じゃっ!!?」

 

「ちょ!?あ、あんたまさか!?ややめなさい死ぬわよっ!?」

 

「・・・あ、危ない・・・!!」

 

「よ、よせ紅さん!それはまじにシャレにならないぞっ!?」

 

「だ、だっだダメです美鈴さんんんんっっ!!?」

 

 

 5人の思い切り慌てる声を華麗に聞き流して、私はあの阿呆達への移動に移りました。

 

 

 

 

「とうっ!」

 

 

 

 う~ん。建物の三階から落ちていくというのは、非常に心地いい風を感じるものですねー。

 

 

 

「「お、落ちたぁぁぁああ!?」」

 

「何考えてんのよぉぉおお!!?」

 

「・・・あ、あう・・・(コテン)」

 

「・・・あ……だ、大丈夫か・・・?」

 

 

 ああ、この浮遊感はいつぶりですかね!とそう考えてる間にも地面はすぐそこ!変に捻らないように足を整えて――!

 

 

ダァンッ!

 

 

「ふぃ~・・・!」

 

 

 やっぱりしびれますねえ!ですがこれしきのことはなんのそのですよ!

 

 少し足の調子を整えた後に、私は目的のアホ集団へ向かって駆け出します!

 

 

 

「――あなた達ぃ!準備もせずに遊び呆けて何やってんですかこらあぁぁあああっっ!!!」

 

『い!?』

 

 大声を出したので少しだけ気が晴れました。さあ、残りのこの煮えたぎる気持ちはあなた達で払わせてもらいますよおおっ!

 

 

 

「全員!本気でしばかれたくなかったらおとなしく折檻を受けなさいっ!!」

 

『どっちにせよ手は出すのかよ!?』

 

 

 私のもやもやがそれだけ溜まっているという事です!さあ!最初は逃げずに向かってくるチルノですかねええええ!!

 

 

 

 

 

 

 

「(ガラッ)  どうだ、清涼祭の準備は――ん?お前たち、他の奴らはどこだ?あと、お前たちも窓に張り付いて何をしている?」

 

「あ、西村先生」

 

「………………(ソソッ)」

 

「藤原。俺が来た途端に距離を置こうとするのはやめてくれ。別に俺は怒っていないんだ・・・・と、姫路はなぜ倒れている」

 

「あー、たぶん、さっき衝撃的な場面に出くわしたからだと思うぞ、西村先生」

 

「なんだそれは?・・・で、最初の質問だが、他の奴らはどこにいるんだ?」

 

「そ、それなのじゃが、外で野球をしに出て行きおって・・・…」

 

「・・・あのバカどもは・・・。教育指導の時間が必要だな!」

 

「・・・せんせ。その必要は無いと思うぞ」

 

「なに?どういう意味だ田中?」

 

「・・・・・・あ、あれ」

 

「?藤原。外に何が―――」

 

 

 

『もおおお!!皆さんなんで逃げるんですかー!』

 

『殴られると分かって誰が逃げねえぇええ!!』

 

『全くだ美鈴!お前に捕まる気は全くないぜっ!』

 

『むう!そっちがその気なら、私も本気でやりますよおお!』

 

『げっ!?さらに早くなるだと!?』

 

『くっ・・・坂本!ここは頼んだぜっ!』

 

『ぐあっ!?キ、キサマ霧雨!このタイミングで俺に足をかけるとは正気か!?』

 

『いたって正気だぜ!坂本・・・私のために、いっちょ逝ってきやがれっ!』

 

『逝くのに一度も何もあるかバカ、ってんぎゃあああああっ!!』

 

 

『チルノーー!!気をしっかり持つんだよー!?』

 

『・・・・・も、もしもアタイが生まれ変わるのなら、よし-みたいなバカじゃなかったら何でもいいのよ、さ・・・』

 

『僕にとって一生消えない傷になる言葉を遺言にするんじゃないっ!!』

 

『いったあ!?あんたには死にゆく女に優しさを持ってないの!?そんなんだからあんたはバカなのよ!』

 

『そんな元気があるバカが死ぬもんかバカ!僕より君の方がバカなのに気付いてないから、チルノはバカなんだ!』

 

『言ったわねぇ!?今日という今日は許さないのよさ!』

 

『いいよかかってこい!そろそろ君と決着を付けてやる!』

 

 

『ま、待て美鈴!なんでお前そんなに怒ってるんだ!?私らは野球をしてただけだぜ!?』

 

『それで十分原因ですよっ!私はあんまり楽しくない事にも一生懸命頑張ってるのに、皆さんは自分の仕事もせずに楽しく遊んでっ!ず、ずるいじゃないですか!!』

 

『それって完全に私情が混ざってるじゃないか!あ待って美鈴、おわああぁっ!?』

 

『う~!私だけ頑張って、これじゃ私、バ、バカみたいじゃないですかああああ!』

 

 

『(カシャカシャ)・・・対価は払ってもらったぞ、紅・・・!(ボタボタボタ ガクッ)』

 

 

 

「・・・・・・」

 

「メ、美鈴が・・・ちょっと怒りに行ってるところですから!」

 

「・・・どうやら、俺が出張るのは紅を止めるためになりそうだな」

 

「あ、あながち間違っていませんのじゃ・・・」

 

「俺、アイツらの誘いに乗らなくて良かった・・・」

 

 

「・・・少しあいつと…距離、置こう……」

 

「う、う~ん・・・…ダ、ダメです美鈴さん~・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、さて。そろそろ春の学園祭、『清涼祭』の出し物を決めなくちゃいけない時期が来たんだが・・・」

 

 

 Fクラスの教室で、壇上の前に立ったぼろぼろの坂本君が話し始めます。わ、私は悪くないです。ちゃんとそれだけの理由があったのですよー!

 

 

「そうよ坂本!アタイ達サッカーしたりバスケットボールしたりして全然話とかしなかったけど、アタイ達は何すんの?」

 

「野球だけじゃなくて、そんなこともしてたんですか・・・」

 

 

 同じくボロボロのちっちゃいおバカ娘、チルノ・メディスンのさらっとした暴露に私はこめかみを引きつらせます。そんな楽し、じゃなくていけないことは休み時間にしなさい!私も行きますから!

 

「チルノ。それなんだが、今から誰かを議事進行並びに実行委員として任命するからそいつと話を付けてくれ」

 

「丸投げなのよさ!?」

 

 

 坂本君はそう言ってぐだ~とした態度になりました。どうも坂本君は学園祭みたいな行事は嫌いみたいです。だからといって、野球をするというのもどうかと思いますよ?

 

 

「で、その実行委員だが……ホ、紅はどうだ?」

 

 

「私ですか?」

 

 

 自業自得なんですから、そんなに私を見てびくびくしないでください。意外と傷つきますよそれ。

 

 まあ、実行委員になって、クラスの皆と頑張ってみるのは楽しそうなんですけど・・・

 

 

「悪いんですけど、運営委員やら試験召喚大会なんかもあるんで、手一杯ですねー」

 

 

 私だってか弱い女子なんですから、これ以上やることを増やしますと過労で倒れちゃいますよ!

 

 

「そうか・・・じゃあ島田はどうだ?」

 

 

 私がダメと分かって、坂本君は島田さんへと矛を変えます。しかし、島田さんも困り顔です。

 

「え、ウチ?でもウチも召喚大会があるから、ちょっと困るかな」

 

 

 あら、島田さんも大会に出るのですか。二人で一組らしいですけど一体誰と出るのでしょう?

 

 

「魔理沙はどう?そういうの得意そうじゃない」

 

「んぉ?でも私も召喚大会に出るぜ?美波の理論で行くと私も忙しいことになるなー」

 

「そ、そう言って、ただやるのが嫌なだけでしょ。ウチのせいみたいに言わないのっ」

 

「正解だぜ。ばれちまったか」

 

 

 島田さんの言葉にケラケラ笑う魔理沙。魔理沙は興味のあることにはすごく熱心ですけど、無いものには人並みのやる気ですからねー。

 

 

「じゃあさ雄二。姫路さんにやってもらったらどう?」

 

 

 すると、静かにしていた吉井君が瑞希さんを推薦しました。

 

 

「え?私ですか?」

 

「うん。姫路さんだったら話し合いが荒れずに進みそうだからね」

 

「そ、そんな。お上手です吉井君っ」

 

「・・・さらっと、私らだと話し合いが荒れて、上手くいかないって言われたよな」

 

「仕方ないわよ魔理沙・・・ウチらと瑞希だったら、どう見ても瑞希の方が丁寧そうだもん・・・」

 

 

 照れる瑞希さんに不満気な魔理沙に残念そうな島田さん、全て一つの言葉が原因です。罪な男ですね、吉井君。

 

 

「姫路には無理だな。多分全員の意見を丁寧に聞いている内にタイムアップになる」

 

「あ、それは言えてますね」

 

 

 瑞希さんは優しい子ですから、誰かの意見を却下したりはせず1人1人の意見を叶えようとするに違いありません。だから、話を纏める役目にはちょっと不向きですねー。こういう時は咲夜さんみたいなピシッとした人が適任かもしれません。

 

 

「す、すいません・・・それに、私も召喚大会に出ますので・・・」

 

「え?そうなの?」

 

「そうよアキ。ウチ一緒に出ることになってるわ」

 

「ほー。じゃあこのクラスからは三組も出るんですか」

 

 

 ギュッと手を握り締める瑞希さん達に、魔理沙に私。これは互いにぶつかり合う可能性がありますねー。

 

 

「んー、じゃあ他に誰か適任が――」

 

「はいはいはいはーいっ!アタイが適任なのよさ!」

 

 

 誰にするかを坂本君が再び考えようとしたところに、元気な大きい声。手をぶんぶんふりながらチルノが立候補しました。いや、チルノ本気ですか?私にはあなたが上手く進行をさせるところが全くイメージできませんよ?

 

 

「おっ。じゃあチルノ、お前に決定だな。後は任せるぞ」

 

 

「任せなさい!」

 

 

 坂本君は誰かがやってくれるのならどうでもいいらしいみたいで、すぐさまチルノに丸投げしました。が、それに不満がありそうなのが1人。

 

 

「え~。雄二、チルノに司会とか無理だと思うよ?もう人が空を飛ぶってぐらい無理じゃないかなあ」

 

 

 チルノがおバカなら彼もおバカ、吉井君が納得いかない顔でチルノと坂本君を見つめまます。

 

 

「ふふん!バカなよしーはアタイがこんな凄い仕事をするのに、しっとしてるのね!」

 

「べっ、別にしてないよ!バカなチルノがちゃんと仕事をできるとは思わない、って思ってただけだい!」

 

「だ、誰がバカよっ!よしーの方がバカに決まってるのよさ!アタイがやることをよしーは出来ないんだから!あっかんべー!」

 

「チ、チルノちゃん。女の子がそんなことしちゃダメですよ~!」

 

 

 チルノが眼元をひっぱって舌を出し、吉井君に反発しました。『チルノマジラブリー』って言葉が周りから聞こえたのは空耳です。多分。

 

 

「で、出来るよ失敬な!チルノなんかより僕の方が上手く仕切れるさ!やーいばーかばーか!」

 

「バ、バカじゃないもん!アタイの方が最強よバカっ!」

 

「2人とも子どもですかっ!」

 

 

 吉井君も負けじと体を使った挑発をし始めます、今度は間違いなく、『吉井うぜえ』って顔と言葉を周りでたくさん確認出来ました。

 

 

「じゃ、じゃあアタイとよしー、どっちが上手く出来るかを勝負なのよさ!アタイが勝つのは目に見えてるけどね!」

 

「いいだろう!後で後悔しない事だね!」

 

 

 

――そんなこんなで、司会進行役には吉井君とチルノに決定しました。もう安心できる要素がありません!

 

 

「じゃあ、あんた達!学園祭での出し物について話し合いを始めるのよさ!」

 

「だいぶ遅いスタートですねぇー・・」

 

 

 多分他のクラスではとうの昔の話です。ひとまずチルノが司会をして、吉井君が黒板に書く役割をするみたいです。

 

 

「アタイらFクラスの出し物だけど、アタイにふさわしいと思うアイディアが浮かんだ奴は手をあげなさい!その中からアタイが決めるわ!」

 

「チルノ!まとめ役とは真逆の事を君はやろうとしているぞっ!」

 

「うっさいよしー!さあ、思い浮かんだ奴は手をあげるのよさ!」

 

「別にチルノに似合わなくてもいいからね!?皆、やりたいことを普通に言っていいからね!」

 

「黒板担当は黙って黒板を見てればいいのよバカ!」

 

「痛い!?いくら女の子の力とはいえ、すねを蹴られるとすごく痛いよチルノっ!」

 

 

「おいおい、司会がもめてどうするんだぜ」

 

「ある意味、いいコンビをしてますねー」

 

「そ、そう?どこがよ美鈴?」

 

 

 見ていて心が少し和むからですよ、島田さん!

 

 

 吉井君の訂正もあってか、クラスの何人かがパラパラと手をあげます。学園祭に全くの無関心というわけではないみたいです。

 

 

「はい、ムッツリーニ!」

 

 

 最初に当てられたのは、そんな名誉なのか不名誉なのか分からないあだ名の持ち主、ムッツリスケベな土屋康太(こうた)君。その鼻に刺さったティッシュがその事実を裏付けます。

 

 

「(スクッ)・・・・・・写真館」

 

「・・・なんか、土屋の言う写真館って、かなり嫌な予感がするわね」

 

「同意です」

 

 

 入場者は男子限定な気がしますよ。

 

 

「なるほど!最強のアタイの写真を撮るって事ね!やるじゃないムッツリーニ!」

 

「チルノ、たぶん違います。そっちの方が健全そうですけども」

 

「・・・不健全な事など、考えていない・・・!」

 

 

 チルノも可愛いですから、決して悪くは無い人入りにはなると思いますけどね。

 

 

「よしー!さっそく黒板に書くのよさ!」

 

「あいよー」

 

 

 チルノの指示に、吉井君は素直に黒板へと土屋君の案を書き

 

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

 

 

「ってちょっと吉井くーーーんっ!?」

 

 

 その店名!思いっきりやらしいイメージしかしないじゃないですかー!

 

 

「へ?なに美鈴さん?」

 

「な、何もカニもありませんよ!その名前はダメだと」

 

「はい横溝!アンタのアイディアは!?」

 

 

 ちょっとチルノ!まだ私が物申してますよ!

 

 

「ああ。メイド喫茶じゃなくて、ちょっと衣装を変えたウエディング喫茶ってのはどうだ?」

 

「ウエディング喫茶?それって何すんの?」

 

「やることは普通の喫茶店だが、ウェイトレスがウエディングドレスを着るって感じだ」

 

「は~、いろいろあるんですねー」

 

 

 ウエディングドレスですかー。私はどっちかといいますと、和服の方に興味がありますかね?でも、咲夜さんとかすっごく似合いそうな気がしますよ。

 

 

「ふ~ん。まあ面白そうね!却下よ!」

 

「その言い方だと〝許可〟じゃね!?」

 

 

 チルノ、似ているけれど意味が真逆の言葉って日本語によくありますから、気を付けましょうね。

 

 

『斬新ではあるな』

 

『憧れる女子も多そうだ』

 

『ちょ、ちょっとウチ着てみたいかな』

 

『わ、私もです』

 

『分かるぜ美波、瑞希。私もぜひアイツに着てもらいたいな』

 

『でも、ウエディングドレスって動きにくくないか?』

 

『調達も大変だぞ?』

 

『それに、男は嫌がらないか?人生の墓場、とか言うくらいだしな』

 

『え?だ、男子ってそんな風に思ってるの?』

 

『じ、人生の墓場・・・ですかぁ……』

 

『・・・知りたくない現実を見たぜ・・・…ま、まあア――はおん―だし大丈夫、大丈夫・・・』

 

『魔理沙、急にぶつぶつ言ってどうしたのよ』

 

 

 大丈夫魔理沙!きっと〝彼女〟もウエディングドレスに興味がありますよ!『このドレス、縫い目もしっかりしてて凄いわ。良い作りね』とか言ってくれますよ!

 

 ともかく、『ウエディング喫茶』というものは、賛否が分かれていますが、出し物候補として充分ありなようです。

 

 

 

「よしー。黒板に今のアイディアを書くのよさ」

 

「あーい。え~っとウエディング喫茶だから・・・」

 

 

 吉井君はぶつぶつと考えながら、再び黒板に記録。

 

 

 

【候補② ウエディング喫茶『人生の墓場』】

 

 

「もっと結婚に夢を持ってくださいよお!」

 

 

よりによってなんて名前ですか!それじゃ店に来た人に、夢も希望も与えられないじゃないでしょうがー!言ったところで改名されないでしょうから、もう口にはしませんけどね!

 

 

「次!え~と、はいまりさっ!」

 

「ああ、ここは一つ、王道のお化け屋敷でどうだ?準備期間が短いからすごいもんは作れないが、人を満足させるレベルのものは作れると思うぜ」

 

「あう…お、お化け屋敷ですか・・・」

 

「ウ、ウチはちょっと嫌かも・・・あ~、ルーミアって子の召喚獣を思い出したわ」

 

 

 続いて魔理沙の提案。お化け屋敷は凝った作りをすることが出来るかがカギなので、良案か悪案なのかは分かりかねますね。

 

 

「お化けやしきね!よしー!」

 

「りょうかーい。え~と、お化け屋敷は女の子が叫ぶから・・・」

 

 

 

【候補③ お化け屋敷『女性が凄いことになる館』】

 

 

「・・・・・・」

 

 

 ど、どことなくエッチな想像をしてしまうのは、私が汚れてるからじゃないですよ!?きっと皆さんもしてますよ!きっと!

 

 

「じゃあ他!あ!はい須川!」

 

 

 次は須川君です。吉井君のネーミングセンスに負けないようなネタをお願いしますよ!

 

 

「俺は中華喫茶を提案する」

 

「ちゅーかきっさ?チャーハンとか作んの?」

 

「いや、あくまで喫茶店だから、ウーロン茶とか簡単な飲茶を出すだけになるよ。最近じゃあヨーロピアン文化が中華料理の淘汰が見られるから、その流れを変えようと一石投じてみたいからな。焼け石に水かもしれないが、水滴が石を穿つとも言う。中華料理は古来からあって、料理文化の中心とも言われていて――」

 

 

「OK.分かったのよさ須川、アタイにはもう十分に伝わったわ。よしー、今のをしっかり書いとくのよっ!」

 

 

 放棄しましたねチルノ。須川君が苦笑したのはあなたのせいですよ!

 

 それにしても、須川君は中華に何か思い入れがあるのでしょうかねー。ちなみに私は普通です。てへっ♪

 

 

「りょ、了解。え~と・・・」

 

 

 吉井君が黒板に書きあげます。当然、普通の名前ではありません。

 

 

【候補④ 中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

 

・・・もはや出し物と一切関係ないですねっ!須川君の言葉から適当に取っただけでしょそれ!いっそ名前を付けない方がましです!

 

 

がらがら

 

 

「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」

 

 

その時、Fクラスの担任、筋肉が凄い西村先生が教室に入ってきました。

 

 

「あ、西村先生。一応候補が四つ黒板にあがったところですよ」

 

「そうか。どれ…」

 

 

 私の言葉に、西村先生がゆっくりと黒板を見ます。

 

 

 

 

【候補① 写真館       『秘密の覗き部屋』】

【候補② ウエディング喫茶    『人生の墓場』】

【候補③ お化け屋敷 『女性が凄いことになる館』】

【候補④ 中華喫茶       『ヨーロピアン』】

 

 

 

 

「・・・・・補習の時間を倍にした方が良いかもしれんな」

 

「こ、黒板に書いた人だけでお願いします!!」

 

 

 あ、あれがおかしいってことぐらいはわかりますから!

 

 

「ち、違うぜ先生!それは吉井が勝手に書いたんだぜ!」

 

「そうです先生!僕達が決めたんじゃありません!」

 

「僕らがバカなわけじゃありません!」

 

 

 皆さんも補習は嫌なので、必死に西村先生の言葉に抗議します。吉井君という生贄を出しながら・・・

 

 

「バカ者!みっともない言い訳をするな!」

 

『!!』 

 

 

 あわっ!?く、クラスメイト1人を売る方法は西村先生も看過できませんでしたか!?

 西村先生の一喝に、私たちは思わず背筋を伸ばし

 

 

 

「先生は、バカな吉井とチルノを選んだこと自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」

 

『ああっ!た、確かに・・・』

 

 

「こら待て鉄人!それが教師の言う言葉なの!?そして皆もそれはそうだって顔をするんじゃないよっ!僕をどんなバカだって思ってるのさ!君らは最低のクズだよ!」

 

「全くなのよさ!アタイはしっかり仕事をこなしてたのに!バカなのはよしーだけにしなさいよっ!!」

 

 

 なるほどと納得して脱力しました。西村先生の発言に2人は猛反発しましたけど、的は射ていると思います。

 

 

「全くお前たちは・・・。少しは真面目にやったらどうだ。稼ぎを出してクラスの設備を向上させようとか、そう言った気持ちすらないのか?」

 

 

『!!』

 

 

 その西村先生の言葉にクラスの全員がはっと息を呑みました。

 

 

「そうか!その手があったか!」

 

「何も試召戦争だけが設備向上のチャンスじゃなかった!」

 

「いい加減この設備にも我慢の限界だ!」

 

 

 教室がざわざわとし始めます。私たちがAクラスに勝負を挑んだのは設備を交換したかったからなので、またもその機会が来ればざわつき出すのも自然の摂理でしょう。

 

とは言え、ちょっとざわめきが大きすぎてチルノの声が行き渡らなくなりましたの、で私は収拾にかかります。

 

 

「はいはーい皆さんいったん静かにー!!そのためにも何をするかを決めないといけませんよーっ!」

 

 

パンパンと手を鳴らして静まるように声をあげます。じゃないと、どんどんまとまりがつかなくなるかもしれませんし、火の立つ前に対処するに限りますよね!

 

 

「メーリンよくやったわ!んじゃあんた達!何をやるかを、今からアタイが決めるわよ!」

 

「待とうチルノ!そこはお願いだから皆の意見を聞かない!?じゃないと話し合いをした意味が無いから!皆の不満が爆発するからさ!」

 

 その甲斐あって、皆さんはそこまでざわつかずに静まり返りました。代わりに司会の2人がざわつき始めましたけども。

 

 

「え~?仕方ないのよさ。じゃあ、今から多数決で決めるわよ!みんな、この四つの中から一つやりたいことに手をあげなさい!それで一番多いやつをやるわよっ!」

 

 

 以外にも、チルノは特に文句を言うことなく吉井君の提案に従って多数決を始めました。

 

 

「最初に、写真館やりたい奴!―――ん!次、ウエディング喫茶をやりたい人!――よし次、お化け屋敷をやりたい人は!?――おし!最後!中華喫茶をやりたい人―!」 

 

 そのまま、チルノの多数決が進んで――

 

 

「―よし!じゃあ中華喫茶に決定ね!最強目指して頑張るわよあんた達!」

 

『おーっ!』

 

 多数決の結果、私たちがすることになったのは――――中華喫茶となりました。チルノの掛け声にみんなが明るく声をあげました。

 

 さあ、決まったことには頑張ってやっていきましょー!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・(ムスッ)」

 

「・・・も、妹紅ちゃん?どうしました?」

 

「……………せ、接客・・・出来る気がしない………写真館が、良かった・・・」

 




 お読みいただきありがとうございます!

 ちょっと召喚大会の部分で、景品を勝手に追加させてもらいました!美鈴さん達を召喚大会に参加させる方法が思いつかなかったので・・・!別に彼女たちが守銭奴なわけではないですよ!?皆さんもきっと参加したいと思うはずです!たぶん!

 さて、清翔祭当日になるまで、もう少し時間がかかると思います。でも、準備期間の部分でも楽しく読んでもらえたら幸いです!

 それではまた次回っ! 


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動機―やる気、は何かがかかってこそ出ます

 どうも、村雪です!

 前回も書いたように、今回も準備回となって、あまり話の動かない回となりますので、あまり期待はせずに読んでもらえたら幸いかもです!

――ごゆっくりお読みください


「よぉし!アタイ達がやるのは中華喫茶よ!」

 

 

 文月学園、新学期最初のイベントである『清涼祭』での出し物。チルノが多数決を取った結果、私たちの出し物は中華喫茶に決定しました。

 

 

「じゃあ、お茶と飲茶は俺が引き受けるよ」

 

 

 そう言って、中華喫茶を提案した須川君が一つ仕事を引き受けました。言いだしただけあって、きちんと技術はあるみたいです。

 

 

「………(スクッ)」

 

 

 続いて土屋君も立ち上がりました。ちょ、ちょっと意外ですね?

 

 

「ムッツリーニ、料理なんて出来るの?」

 

「………紳士のたしなみ」

 

 

 紳士と中華料理って関係ありましたっけ?・・・でもまあ、出来るのなら喜ばしいことですよね!

 

 

「よし!じゃあ次は………………よしー。どうするべきよさ?」

 

「ええ!?そこで僕!?・・・え、え~っとじゃあ・・・え~~っと・・・・・・」

 

 

 急に問いかけられて、吉井君は慌てます。もう、なんと力足らずの委員長ですかっ。

 

 

「じゃあ、料理とかを担当する厨房班と、お客さんの注文を聞いたりするホール班とに分かれるのはどうでしょう?」

 

「あ、なるほど。さすが美鈴さんだ」

 

「じゃあ、今から厨房班とホール班に分かれるわよ!ムッツリーニ達のところが厨房班で、アタイのところにホール班集合よ!アタイは最強だからホール班決定ね!」

 

「最強とどう関係があるんですか!?」

 

 

 チルノの中での最強って、なんなんでしょう・・・?

 

 

「美鈴さんはどっちにされますか?」

 

「瑞希さん。ん~どうしましょうか。私、一応どっちでも大丈夫だと思うんですよ」

 

 

 レシピさえあれば飲茶というものも作れないこともないでしょうし、ここは周りの人が何をするかを見て、少ない方にまわりましょうか。

 

 そう思っていた私の横で、瑞希さんがへにょりと顔をゆがめました。え、ちょ、ちょっと!?私何かまずいこと言っちゃいました!?

 

 

「ううう~、うらやましいです……!」

 

「…・・・あ。そ、そういうつもりで言ったんじゃないですよ!?」

 

 

 う、うっかりしてました。瑞希さんって、凄い特徴的な料理を作るんでしたね!自分は出来ますって言い方はしちゃダメでした!

 

 

「そ、そのうち上手に出来ますよきっと!わ、私もホールになりますから瑞希さんも一緒にしましょう!ねっ?」

 

「・・・わかりましたぁ・・・」

 

 

しょんぼりと瑞希さんが同意してくれました。ど、どうやら厨房がやりたかったみたいですけど今回はご勘弁願いましょう!何が起こるかわかりませんし!

 

 

「でも、僕も2人はホールが良いと思うよ?ホールでお客さんに接した方が、お店としても利益が出ると思うけどなあ」

 

 

 そこに、吉井君の女心をくすぐる言葉が。おかげで瑞希さんの顔が恥ずかしいものへと移行しました。ナイスです吉井君!

 

 

「か、可愛いだなんて・・・。照れます吉井君っ」

 

「・・・アキ?じゃあウチはどっちの方がいいかな?お、教えてくれない?」

 

「え?でも、美波がやりたい方を選んだ方がいいんじゃないかな?」

 

「・・・そういう答えじゃなくってねえ」

 

 

ただし、島田さんへのフォローは下手で、彼女は微妙な顔になります。そこはホール班って力強く言ってあげるのが正解でしょう!吉井君は乙女心を分かっていませんね!

 

 

「んじゃ、私はホールにするか。秀吉はどうするんだぜ?」

 

「ふむ、ではわしは厨房にするかの」

 

「おっ?秀吉って料理が出来んのか?」

 

「あ、いや。そこまではしたことがないが、お茶なんかを作るぐらいならまあなんとかなるじゃろう」

 

「ん~、それならホールになったらどうだぜ?秀吉の顔は並みの女子顔負けの可愛さなんだから、客寄せに効果絶大だと思うがなー」

 

「・・・褒められてるのは分かるのじゃが、どうしても喜べん言葉じゃな」

 

 

はあと溜息をつく秀吉君と、この祭りの準備期間という雰囲気を楽しそうにしている魔理沙。どうやら2人もホールに確定したようです。元気な魔理沙と可愛い秀吉君がいるのは心強いですね!しかしこうなると、Fクラスの女子全員がホールになりそう――

 

 

 

「あ、妹紅(もこう)さんはどうしますか?ホールでしょ―」

 

「厨房だ。絶対」

 

「・・・そ、そですか」

 

 女の子一人、厨房に行くようです。有無を言わせない即答だったので、私は何も言い返せませんでした。そ、そうですよねー。妹紅さん、絶対接客とか嫌そうですもんねー。

 

 

そんなこんなで、私たちはグループを分けてそれぞれのやることを確認しあいました。ふ~、これでようやくスタートラインですよ!

 

 

 

 

 

「では、これでHRを終了する。明日からも頑張るように。解散」

 

『は~い』

 

 

 

西村先生が挨拶を終えて、私たちは放課後に突入しました。今日は部活も無いから、久しぶりに家でゆっくりすごせそうですねー!

 

 

「じゃー妹紅さん、帰りましょうか?」

 

「……わかった」

 

 

 妹紅さんが帰り支度がまだだったみたいなので、私は後ろの座布団に座って、妹紅さんの片づけを待ちます。

 

 

「ふ~、妹紅さんはもうここに慣れましたか?」

 

「………全然。このクラス・・・変な人が多いし…」

 

「あ~、言えますね。私もそこについてはまだ慣れていませんよ」

 

「………あ、あんたもだからな……美鈴」

 

「わ、私もですかぁっ!?」

 

 

 ぬ、濡れ衣です!私はこんなにも普通だというのに!あ!あれですね!?冗談を言ってくれてるんですね!?それだけ私に心を開いてくれたんですね~!!(※ 本心です)

 

 

 

「・・・・・・ん。できた」

 

「あいさ。では行きましょう。咲夜さんが待ってますからね」

 

「……やっぱり、一人で帰りたい…」

 

「そ、そう言わずに!前に本当にそれを連発して、咲夜さんがすっごい泣きそうになってたんですよっ!?」

 

「………えー・・・」

 

 

 咲夜さんの半泣き顔を見れたのはよか、げほん!!咲夜さんの泣き顔なんて見たくないのです!

 

 乗り気じゃなさそうな妹紅さんをなんとか説得して、私たちはカバンを持って立ち上がり、廊下に出ようとしました。

 

 

「紅。お主たちは今日はもう帰るのか?」

 

 

 丁度その時に、秀吉君が私に話しかけてきます。

 

 

「ええ。今日は何もないですからね」

 

「………(こそっ)」

 

「隠れられると悲しいのう、藤原……まあ、無理強いはいかんの」

 

 

 秀吉君も〝変な人〟に入るようで、妹紅さんは私の背中の位置に移動しました。秀吉君もそれに残念そうに笑いながら話し始めます。

 

 

「では、途中まで一緒に帰らぬか?方向は一緒じゃったしな」

 

「いいですよ。咲夜さんとか妹紅さんも一緒になりますけど、いいですか?」

 

「ああ。全然構わんのじゃ」

 

「それは良かった!でも、どうしたんです?秀吉君に帰りを誘われるとは思っていませんでしたよ」

 

「・・・あ、あ~・・・なんじゃ。ほれ、ホールの仕事の事をもっと覚えておきたいしの。2人おれば間違ってたところも直せるのじゃ」

 

「はあ、なるほど」

 

 

 秀吉君は熱心ですねえ。別に私じゃなくても、ホール班の人なら誰でもいいはずですのに。私に頼むとは、私も買われたものです!

 

 

「藤原は厨房班じゃったな。ホールはせんのか?」

 

「絶対いやだ。やるぐらいなら・・・・・・・・・逃げる」

 

「そ、そこまで嫌じゃったか・・・」

 

「…………たぶん…あんたが女って言われた時と同じぐらい、嫌だ・・・」

 

「なるほど。それは絶対なにがなんでも嫌じゃな(こくこくこく)」 

 

「そこまで納得のいく言葉でしたか!?」

 

 

 秀吉君が首を痛めそうなぐらい上下に頷かせます。どうやら、妹紅さんの例えは私にはさっぱりでも秀吉君に大きな共感を与えたようでした。

 

 

「あっ、美鈴!ちょっといい!?」

 

「?」

 

 

 そうやって首を傾げながらも私たちが喋りながら歩いていたら、突然横から声がかかりました。

 

 

「あ、島田さんに吉井君。どうしたんですか?」

 

 

 島田さんと吉井君がそこにはいたので、私は2人に近づきました。秀吉君と妹紅さんも一緒です。

 

 

「あ、僕も美波に呼ばれたんだよ。美波、相談があるって言ってたけどどうしたの?」

 

 

どうやら吉井君も私達と同じようで、今回は島田さんが話があるみたいです。

 

 

「うん。あのね……美鈴を呼んどいてなんだけども。多分アキが言うのが一番だと思うんだけど――坂本を何とか学園祭に引っ張り出せないかな?」

 

「坂本君をですか?」

 

 

 今日のあの様子を見る限り、やる気は全くなかった気がします。ちょっと難しいんじゃないでしょうか?

 

 

「う~ん、雄二は興味のない事にはとことん無関心だから、難しいんじゃないかなぁ・・・?」

 

 

 吉井君も同意見みたいです。私と違って、友人の立場からの発言ですから間違いないでしょう。

 

 

「でも、アキ達って結構仲が良いでしょ?……それも、少し愛が芽生える感じで・・・」

 

「もう僕お婿に行けないっ!」

 

「………同性愛?」

 

「いや、多分冗談ですよ」

 

 

 真剣な顔して言われると本当って思いますよねー。だから、話に関わろうとしなかった妹紅さんもびっくりって顔になっちゃってますよ。

 

 

「そんな恐ろしいことを言うなんてひどいよ美波っ!なんたってそんな話が出てくるのさ!?」

 

「でも、アキが坂本と仲が良いのは事実でしょ?」

 

「誰があんな赤ゴリラと!何千歩も譲っても!愛し合うにしても、雄二よりも僕は秀吉の方が断然いいよっ!」

 

「吉井君、性別についての差異がさっきと変わりありませんよ!?」

 

「あ、明久。お主の気持ちは分かったが、すまぬがそれには応えられんぞい。ほら、歳の差なんかもあるしの」

 

「いや、歳って言っても離れてて一歳ですよ秀吉君!?」

 

 

 一歳の差が壁になるのなら、世界の恋愛は常に巨大な壁がたちふさがることになりますね。

 

 

「………それに、き-な-女--お--のう…」

 

「ん?」

 

 

 最後、何か秀吉君が言ったような・・・?

 

 

 

「・・・じゃあ、アキにも坂本は動かせないの?」

 

「うん。たぶんね」

 

「美鈴、木下、妹紅はどう?坂本を動かせない?」

 

 

 あっ、今度は私達が聞かれましたね。

 

 

「ん~、吉井くんで無理でしたら、私も無理だと思いますねー」

 

「うむ、わしもそうなると思うのじゃ」

 

「・・・絶対無理。まず、話しかけられない・・・」

 

 

 そこからですか妹紅さん!坂本君は見た目が怖いから気持ちが分からないでもないですけどっ!

 

 

「……そっか・・・どうしよう・・・」

 

「何か事情があるんですか?」

 

 

 島田さんが沈んだ表情になって目を伏せたので、気になった私は控えめに尋ねました。こんな島田さんは初めて見ましたよ。よほどの事情があるのでしょうか?

 

 

「……これ、本人には誰にも言わないでほしいって言われてるんだけど、ちょっと事情が事情だから・・・話すわ。一応秘密の話だから、誰にも言っちゃだめよ?」

 

「は、はあ」

 

 

 〝本人〟ってことは、島田さんの問題ではなくて誰かの事情のこと。それも島田さんの真剣な表情から見て、相当大事な事を話すみたいですね。

 

 

「……ん」

 

「う、うん。わかった」

 

「うむ。一体なんじゃ?」

 

 

3人も素直に頷き、島田さんの言葉を待ちます。

 

 

そして、

 

 

 

「―――実は、瑞希なんだけど。」

 

「瑞希さん?」

 

「姫路さんがどうかしたの?」

 

 

 

 

 

「……あの子、転校するかもしれないの」

 

 

 思ったよりも衝撃を与える言葉を告げました。

 

 

「ほぇ?」

 

「・・・・え?そ、それってマジですか?」

 

「うん。瑞希本人から聞いたから、本当よ」

 

「ま、また突然な・・・。いったいどうしてなんですか?」

 

「それが…って、アキ?」

 

「ん?」

 

「む、いかん。明久が処理落ちしかけとるぞ」

 

 

 横を見れば、表情が固まったままふらふらしている吉井君が。死人モドキになるぐらいに衝撃的だったみたいです。

 

 

「アキ!不測の事態にあんたは弱すぎんのよバカ!」

 

「明久!目を覚ますのじゃ!」

 

 

 秀吉君がガクガクと吉井君の肩を揺らし、吉井君ははっと意識を取り戻します。

 

 

「はっ!ど、どういう事さ美波!僕はまだ膝枕もハグもキスもしてもらってな痛い美波!?石がぶつかったみたいに頭が痛いよ!?」

 

「あんたは瑞希に何させようと考えてたのよアキ!今それどころじゃないって言ってるでしょーが!」

 

「ど、どうどう島田さん!先に説明をお願いします!」

 

 

 島田さんを羽交い絞めにします!な、なかなか力ありますねー!?

 

 

「ふ~・・・今のが全部よ。このままだと瑞希が転校しちゃうかもしれないかもしれないの」

 

「このまま…って、転校とはまだ決まってないんですか?」

 

 

 親の転勤とかでしたら避けようがないはずですが、それとは違うのでしょうか?

 

 

「じゃが島田。その姫路の転校の話と、さっきの雄二の件が全くつながっておらんぞ」

 

 

 別に坂本君が姫路さん引っ越しを阻止できるわけじゃありませんし、首を傾げる秀吉君の言う通りです。

 

 

「それがそうでもないのよ。だって、瑞希の転校の理由が『Fクラスの環境』なんだから」

 

「……あー。なるほど」

 

 

 もの凄くすとんときました。

 

 

「ってことは、転校は両親の仕事の都合とかじゃなくて――」

 

「そうね。純粋に設備の問題って事になるわ」

 

「両親からすれば、仕方ない対処ですよねぇ・・・」

 

 

 なにせあんなに心優しい瑞希さんの親となれば、さらに心優しい人柄でしょうし、娘さんの事も大切にしているはずです。

 

 そんな娘が、非が無いのにもかかわらず酷い待遇の教室で授業を受けているとなれば、そりゃ転校も考えたくもなりますよね。私みたいに居眠りしてたなら別ですけど。

 

 

「それに、瑞希って体もあんまり強くないし・・・」

 

「あの教室にいたら、いつ病気になってもおかしくないでしょうねー」

 

「そうだよね。それが一番マズいよね……」

 

 

 教室はボロボロな上に、ガラス窓なんかも割れてしまって隙間風が入っては衛生的に良いとは絶対言えないでしょう。

 

 

「なるほどのう。じゃから喫茶店を成功させて、設備を向上させたいのじゃな」

 

「そのために、試召戦争の時にFクラスの皆を上手く仕切っていた坂本君の力が必要、と。なるほど理解できました」

 

 

 そんな事情があるのでしたら、坂本君にも事情を説明すれば協力してくれるでしょう。本人は絶対認めないでしょうけど、なんだかんだで、坂本君は仲間を大事にしてますしね!

 

 

「なら僕に任せて!きっちり雄二を焚き付けてやるさ!」

 

 

 先ほどとは違い、吉井君の目はやる気に燃えていました。私もそうですが、瑞希さんの事がよほど燃料になったみたいですね!

 

 

「それじゃ、まずは雄二に連絡を取らないとね」

 

「そうですね。ここは頼みますよ吉井君」

 

  

 吉井君が携帯を取り出して電話をかけます。先ほど教室に坂本君はいなかったのですが、時間的にはまだ学校を出ていないはずですので、すぐに集まることが出来るでしょう。

 

 ぷるるるとコール音が響き、吉井君以外の私たちはそこに視線が集まります。

 

 

「あ、もしもし雄二」

 

 

 あ、繋がったみたいです。

 

 

「ちょっと話が―――え?雄二今何してるの?ゆ、雄二!?もしもし!?もしもーし!」

 

 

・・・でも、何かが起きたみたいです。

 

 

「・・・・・・何が起こったのさ・・・?」

 

 

 珍しく妹紅さんが問いかけます。それに吉井君は携帯を見ながら答えました。

 

 

「えっと、『見つかっちまった』とか、『カバンを頼む』とか言ってた」

 

 

「・・・何それ・・・」

 

「・・・アキ、あれだけ見栄を切ったんだから、もうちょっと成果を出しなさいよ」

 

「め、面目ありませんでした」

 

 

 2人の呆れた目に吉井君はそっぽを向いてしまいます。いや、何があったんですか坂本君!逃走中の犯人ですか貴方は!

 

 

「大方、霧島翔子から逃げ回っているのじゃろう。アレはああ見えて異性には滅法弱いからの」

 

「へー。それは意外です」

 

 

 霧島さんとは、二年生で代表を務める秀才で、容貌も見事な女子の事です。なんでも坂本君とは幼なじみで、彼が初恋の人で今も追い続けているのだとか。なんとも魔理沙が好きそうな事情ですね!

 

 

「でも、坂本と連絡を取るのは難しいわね…」

 

「じゃあ、校舎にはいるでしょうし、手分けして探しますか?」

 

 

 もしも今追われているのを必死に逃れようとしているのなら、もう電話にもでないでしょうし、話をするとなると直接坂本君と会う必要がありますね。

 

溜息をつく島田さんにそう言って、私は別の方法で坂本君を見つけるのを提案しました。

 

でも、

 

 

「いや、これはチャンスだ」

 

「え?」

 

 

 珍しく、吉井君が自信ありげにそう私たちに言いました。

 

 

「アキ、どういうこと?」

 

「雄二を喫茶店に引っ張り出すには丁度いい状況なんだよ、うん。ちょっと4人とも協力してくれるかな?」

 

 

「え、ええもちろんですよ!」

 

 何をするかは分かりませんけど、手段があるなら当然手伝いますとも!

 

「それはいいけど……坂本の居場所は分かっているの?」

 

「大丈夫。相手の考えが読めるのは、何も雄二だけじゃない」

 

「ほほう」

 

「何か考えがあるようじゃな」

 

「うん。とりあえず、美鈴さんと藤原さんは僕についてきてほしい。で、秀吉と美波は―――」

 

 

 そこから私たちは、吉井君の作戦を聞きました。

 

 

 

 

 

「……私、まだいいって言ってないのに……。………………そりゃ、断る気も無かったけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………吉井君」

 

「あ、なに美鈴さん?」

 

 

 で、現在私、妹紅さん、吉井君の三人は坂本君を探しに、吉井君の心当たりというものを信じて、そこへ到着したというわけですが・・・

 

 

 

「・・・・・・ここって、女子更衣室ですよ?」

 

 

 吉井君の心当たりというものは全くあてにならなかったみたいです。男子がこんなところに入ってるわけないじゃないですか!何を考えてるんですか全く!

 

 

「うん。きっとここに雄二がいるよ」

 

「・・・・・なんで、そんなに自信あんの・・・?」

 

「その自信はどこから湧いてくるんですか?」

 

 

 妹紅さんも吉井君を白い目で見つめるのも当然。ひょっとして、女子更衣室に入りたいだけじゃないでしょうね?その時は私、グーでいきますからねコラっ!

 

 

「えっとね。雄二は今、霧島さんから逃げるためにどこかに隠れてるでしょ?」

 

「・・・まあ、秀吉君の予想だとそうらしいですね」

 

「だったら、霧島さんに見つからない場所に隠れなきゃいけないじゃんか」

 

「・・・それで、ここ?」

 

「ごめんなさい。説明されても分かりません。それだったら女子が入れなさそうなところに行けばいいじゃないですか!」

 

 

 そんな間違っていないであろう私の言葉にも、吉井君は動じません。さらに説明を加えていきます。

 

 

「いや。きっと雄二はその逆を取ると思うんだ」

 

「ぎゃ、逆?」

 

「そ。普通は男子が入らないような場所に行くってことだよ。霧島さんの裏をかいてね」

 

「・・・は~。賢いと言うか、バカと言うか・・・…」

 

 

普通はそんなこと思いつきませんよ。それを思いつく吉井君も含めて、スゴイ思考回路をしていますね!

 

 

「じゃあ入ろっか」

 

「あ、はい・・って吉井君は入る必要なくないですか!?」

 

「…………最悪……」

 

 

 先に更衣室に入っていく吉井君に私と妹紅さんも着いていきます。も、妹紅さんもこんなに冷たい目をするのですね~。

 

 

「やあ雄二、奇遇だね」

 

「・・・どういう奇遇があれば、女子更衣室で鉢合わせをするか教えてくれ」

 

「う、わー。ほんとにいちゃいましたよ・・・」

 

「……変態……」

 

 

 普段人見知りな女の子がこんなことを言っただけで、事態がひどいと伝わるでしょう。

 

 半信半疑で女子更衣室に入って、私たちが目にしたのは、ロッカーのすみっこの方でその大きな体を小さくしている坂本雄二君でした。

 

 

「違うんだ藤原。これには深いわけがあってだな」

 

「いやいやいや、どれだけ深いわけがあっても、絶対この選択肢は無いでしょ普通!アホですか貴方は!」

 

「まあまあ美鈴さん。雄二がアホなのは今に始まった事じゃないから許してあげてよ」

 

「・・・これ以上なく腹が立つが、今だけは否定できねぇ・・・!」

 

 

 一応やってることのダメさは理解しているみたいで、坂本君は射殺さんばかりの目で吉井君を見るだけにとどまりました。

 

 さて、ここで長話をするのはよくありませんね。早く落ち着ける場所に行きましょう。

 

 

「3人とも、ひとまずここを出ましょうよ。いつ女の子が入って来るか――」

 

 

 

ガチャッ

 

 

「・・・・・分かりませんからぁー」

 

 

 なぜ、こうもタイミングがあうんですかねー。

 

 

「えーっと・・・・・・あら?ここって女子更衣室・・・よね?」

 

「・・・はい。あってますよーアリス」

 

「・・・おかしいわね。私の目におかしなものが写ってるのだけれど」

 

「アリス、あなたの目はおかしくないと思うわ」

 

「そうですねー咲夜さん」

 

 

 きょとんとする金髪美少女、アリス・マーガトロイドと、妹の咲夜さんに私は頷きます。間違っているのはあなたではなく、ここの2人ですからねー。

 

 

「咲夜さん達はどうしたんですか?」

 

「汚れてもいい服に着替えに来たのよ、ねえアリス」

 

「ええ。・・・むしろ、吉井君達が、どうしたのって私は聞きたいかしらね」

 

「・・・・・・えーとですね」

 

 

 アリスの疑問ももっともですけど、むしろ私がそれを聞きたいですよぉ!何ですかこの状況!

 

 

「アリスさん。これは偶然なんだ。別に深い意味はないんだよ?」

 

「ああ。明久の言う通りだ。別にやましい気持ちは無いんだ。アリス・マーガトロイド」

 

「………女子更衣室に入ってるだけで・・・・・犯罪だろ」

 

「全く持ってその通りよ、妹紅さん」

 

「あ、その子があなたが言っていた子かしら」

 

「ええ。藤原妹紅さんよ。……少し……避けられてるけど」

 

「・・・そう。初めまして。アリス・マーガトロイドよ。咲夜や美鈴の友達なんだけど、よろしくね、藤原さん」

 

「………よ、よろしく」

 

 

 あ、そういえば2人は初対面でしたね。これがこんな場所こんな時でなければ、私も全力で喜んでたんですけど・・・・・

 

 

「あ、友達になれて良かったね2人とも」

 

「そうだな。友は大切にしなければダメだぞ」

 

「な、なぜそんな平気なのですかお二人は…」

 

 

 男子2人も普通に話してますけど、あくまでもここは女子更衣室でございます。

 

 

 

 ガチャッ

 

 

「・・・・・・え?」

 

「あら、優子」

 

 

 そんなおかしな状況の中、アリスの言う通り、秀吉君の双子の姉の木下優子(ゆうこ)さんが入ってきました。中を見た彼女はぎょっとした目になります。あ、これやばいですね。

 

 

 

「木下さん、少し話を」

 

「せっ、先生!覗きです!変態がここにいますっ!!」

 

 

 時は遅かったみたいです。でも、これが正しい反応ですので、木下さんは悪くないですよねー。

 

 

「逃げるぞ明久!」

 

「了解っ!」

 

「あ、こら待ちなさいっ!」

 

 

 そこからの2人の行動は早く、更衣室の小窓から外へと出て行きました。まるでコソ泥みたいです。

 

 

「・・・逃げた、あいつら。・・・・・・・私たちを放って・・・」

 

「・・・そ、そうですね」

 

 

 私と妹紅さんも仲間なのですが、性別は全くOKだと判断しての行動だと信じます。

 

 

「・・・ちょっと、紅さん?あなた、あの2人組と同じクラスでしょ?」

 

「・・・は、はい。そうですねー」

 

「・・・・・・!(ぎゅっ)」

 

・・・ふ、2人がいなくなったから、木下さんの怒りの矛先が私へと。妹紅さんも思わず私の後ろに隠れました。木下さんの怒りはもっともなんですけど、これはちょっと物申したくなってもおかしくないですよねぇ!?

 

 

「それなら、しっかり管理をしなさ――むぐうっ!?」

 

「まあまあ木下さん。いったん落ち着いて」

 

「!さ、咲夜さん!」

 

 ついに雷が落ちようとした瞬間、木下さんの口を咲夜さんが手でふさぎました!そ、そんなことして大丈夫なのですか!?

 

 

「美鈴、妹紅さん、早く行きなさい。またもめるわよ」

 

 

 む、むしろ咲夜さんがもめ事を起こしそうな気がしますが・・・!言葉に甘えるとしましょう!

 

 

「行きましょ妹紅さん!では!咲夜さんアリス木下さーんっ!」

 

「…ひ…!・・・じ、自分でいけるから、手・・・!」

 

 

今だけは妹紅さんの言葉を無視して、私たちは出口から走って出て行きました。ひとまず坂本君とは出会えましたし、よしとしましょうか!

 

 

 

 

 

 

「むー!むうう!!」

 

「――アリス、2人はどう?」

 

「・・・ええ、もう見えないわ。大丈夫よ」

 

「分かった。ありがとうアリス」

 

「・・・お礼を言うのは、ここが上手く収まってからにしてほしいわ、ね…」

 

「・・・かもね・・・ん」

 

「ぷはぁっ!・・・はー・・・はー・・・!・・・十六夜ぃ・・・!あんたなんのまねよぉ・・!?」

 

「ごめんなさい木下さん。でも、美鈴と妹紅さんを怒るのは勘弁してあげて頂戴。あの2人は悪くないわ」

 

「あのバカ二人組とこんな場所にいるだけで、十分に黒よっ!っていうかもこうさんって誰よ!あの白いの!?」

 

「ええ、その言い方は少し気になるけどね・・・ともかく、2人は2人でもあの阿呆コンビに怒るなら怒って。その分なら何も私は口を出さないわ」

 

「あ、あんたねえ・・・!むしろ今、私は十六夜に怒りたいところよ・・・!」

 

「優子、咲夜にも事情はあったのよ。だから大目に見て――」

 

「アリスは黙ってなさいっ!」

 

「・・・分かったわ。悪いわね咲夜」

 

「アリス、気にしないでいいわ。私が巻き込んだだけだから」

 

「さあ十六夜・・・!普段あんたには、あのバカの次に多く注意してるけど、今回はもっと怒らせてもらうわよ!覚悟しなさ」

 

 

 ガラッ

 

「ふ~、わざわざ着替えるなんてめんどくさ・・・ん?何やってんのよあんた達」

 

「霊夢」

 

「博麗・・・あんたには関係ないわ。どっかに行ってて」

 

「ああ?なんで着替えるのに外に出なきゃいけないのよ。木下、あんたが外に出りゃいいじゃない。普通に更衣室を利用しようとする人を、アンタの勝手な利用で追い出そうとすんじゃないっての」

 

「わ、私の勝手なですって!?なんで私が悪いみたいになってんのよ!別に私は悪いことしてないわよっ!?」

 

「ふーん・・・まあどっちでもいいけど、もめ事とかすんなっての。あんたはケンカ腰過ぎすぎんのよ木下」

 

「・・・霊夢。あなたが言えたことではないと思うけど…」

 

「ぐっ・・・!あんただけはいつもいつもぉ…!博麗!あんたの目は節穴なのよっ!」

 

「あ?あんた、またケンカ売ってんの?なら遠慮なく買うわよ」

 

「あんたがふっかけてきたんでしょうが!だからこっちのセリフよ!この不良巫女が!」

 

「上等よ。着替える前だけど、一汗かいてやろうじゃない」

 

「ふん!ついでに涙も流させてやるわよっ!」

 

 

 

「・・・霊夢に助けられたわね。本人にその気はないんだろうけど・・・」

 

「いつも思うんだけど・・・なんであの2人はあそこまで仲が悪いのよ・・・咲夜、今度は霊夢を止めて。私は優子を止めるから」

 

「了解・・・でも・・・・霊夢を止められる自信は、あまり沸かないわね」

 

 

 

 

 

「でね、優子と一緒に映画を見に行ったんだけど、とってもおもしろかったんだー」

 

「・・・私も、雄二と映画を見に行った。感動して、雄二が気絶したりもしてた」

 

「か、感動と気絶は結びつかないんじゃないかな?代表、何をしたの?」

 

「・・・スタンガンを少々」

 

「それは少々じゃすまないって!」

 

「・・・浮気防止のため」

 

「だ、代表は一途だなあ。――よし、着いたし早く着替えようか!」

 

「・・・うん」

 

 

 ガラッ

 

 

「アリス!手を放しなさい!」

 

「咲夜、さっさと手を退かせっつってんの!」

 

「お、落ち着きなさい優子!その手のテニスラケットはテニスをするために使うもので、人を殴る道具ではないわっ!」

 

「霊夢もよ!その手の木刀はどっから取ってきたの!本当に不良に見えるからやめなさい!」

 

「この際、不良上等よっ!なめられたまま引き下がれるかっての!」

 

「これはテニスよ!あの不真面目バカの頭(ボール)を叩くんだから何も問題ないわ!」

 

「「ああ!?」」

 

「「だから、落ち着きなさいって言ってんのよ!」」

 

 

「・・・な、な、何やってんのさ4人ともー!?」

 

「・・・・・・初めて、友達に呆れた・・・・・・はあ・・・」

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 明久の作戦で妹紅さんが付き合う理由もなかったのですが、少々付き合ってもらいました!明久と雄二のバカさにためらうことなく毒を吐く妹紅さん。ある意味心を開放した瞬間でした。

 ではまた次回!次で準備期間は終了します!


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援助―感謝、はいいから早く受け取りなさい


 どうも、村雪です!今日もまたずば抜けて蒸し暑いっ!汗っかきな村雪にはたまらないですね・・・皆さんも熱中症には気をてください!

 今日で準備期間は終了で、次回からは学園祭の開幕とさせていただきます!楽しく、盛り上げていきたいですね~!


――ごゆっくりお読みください


「は~・・・あのおバカ2人はどこに行ったんですかね。全然見つからないじゃないですか」

 

 

 咲夜さんのおかげで窮地を逃れた私たちは、校内を歩きながら二人を探すのですが、姿は一向に見えません。はあ、足、それも逃げ足の速さに関しては凄いですねー。その力を別の方向に回してほしいですよ全く!

 

 

「・・・・・・教室、じゃないの?・・・・・・さっきから思ってたんだけど・・・」

 

「はっ!絶対それです妹紅さん!」

 

「…………天然……?」

 

「ち、違いますよ!?」

 

 

 う、うっかりしてました!?秀吉君と島田さんが教室で待ってるのですから、吉井君は当然教室に戻るに決まってるじゃないですか!妹紅さんを無駄に疲れさせてしまった罪悪感がもの凄いです!

 

 

「さ、さっそく教室に戻りましょう。ここだとおっかない先輩がいるかもしれませんしね」

 

 

 見れば、普段何度も来ている園芸部の部室近くの廊下。今日は部活も無いので、あの人も自分のクラスの出し物を準備しているか家に帰っているとは思います。が、妹紅さんには刺激が強すぎること間違いなしの人ですので、念を入れてあまり近づけないようにしましょう。

 

 

「・・・それって・・・あんたがやってる、園芸部の?」

 

「はいそうです。風見幽香(かざみ ゆうか)って言いましてねー、美人で少し怖い女の人なんですよ」

 

「あら、嬉しい事と残念な事を言ってくれるわね」

 

「ひぇ!?」

 

 

 思わず身をすくませる私。どうやら念入れは全く無意味だったみたいです。

 

 

「ゆ、幽香先輩!?今日って部活ないですよね!?」

 

「部活が無かったらここに来ちゃダメだったかしら?ん?」

 

 

 振り向くと、新芽のように爽やかな緑髪の美女が立っていて、私の方を楽しそうに微笑みながら見やっていました。

 彼女こそ、私の所属する部活の部長、風見幽香先輩でございます!さ、さっきの言葉で怒らせてしまったのでしょうか!?今は喜びより恐怖で胸がいっぱいです!

 

 

「い、いえそういう意味じゃないですけど、わ、私ひょっとして間違えてました!?」

 

「・・・ふふ、ちょっと教科書を忘れたみたいだから、取りに来ただけよ。そんな慌てなくてもいいじゃない」

 

「あ、そ、そうですかー」

 

 ほっ、どうやら余計な不安だったみたいです。最悪、保健室で目覚めることも覚悟しましたよ!

 

 

「で、美鈴は何をしていたの?」

 

「あ、清涼祭の準備です。先輩もですか?」

 

「ええ。でも、今はお祭りの前の雰囲気を楽しんでいるところかしらね。一応ある程度は仕上がってきたから、時間も出来たのよ」

 

「は~、早いですねー!私たちは今日何をするか決めたところですよ。」

 

「・・・っ!今日って・・・ふふふふふっ・・・!本当に、あなたと話をするのは退屈しないわね」

 

「・・・そ、それはどーも・・・」 

 

 

 今のように、先輩は楽しいことや話が好きで、私が話をしていたら控えめながらも愉快そうに笑いをこぼしたりします。が、だいたいは当事者の私からしてみれば笑い話じゃありません。ほとんどが私がバタバタしたときです!

 

 

「何をすることになったの?」

 

「中華喫茶です」 

 

「へえ、中華喫茶?ということはチャイナドレスを着るのかしら?」

 

「いえ、その予定はありませんね」

 

「あら残念ね。もしもあなたが着ていたらおもしろ・・・似合いそうなんだけど」

 

「面白そうって言おうとしましたねこら!」

 

 

 別に素敵って言わなくてもいいですけど、せめて似合うぐらいだけは言ってください!

 

 

「しかし、喫茶店ね・・・・・・Fクラスの教室でやるからには、相当手を加えないといけないんじゃないの?」

 

「・・・…そ、そうですね。頭の痛い問題ですよ…」

 

 

 思わぬ幽香先輩の懸念に、私は頭をかきます。

 

 喫茶店の重要なポイントは、料理に加えて店の外装。幽香先輩の言う通り、Fクラスの見た目ではお客さんから好評をいただくのは難しいでしょう。むしろ、『あそこの店は汚い!』とか悪評を広げられる可能性がありますよねー。そこをなんとかカバーするには・・・

 

 

「何か、きれいな布とかあればあればいいんですけどねえ」

 

 

 それをテーブルクロスにするなり壁にはるなりすれば、だいぶ雰囲気が変わるのですが、こればっかりは自分たちで準備するしかありません。学校側が支給してくれるわけありませんしねー。

 こうなったら家を探して、何か持ってきましょうか。

 

 

「では、すみません幽香先輩。私たちはこれで失礼しますね。行きましょう妹紅さん」

 

「・・・ん」

 

 

 教室で坂本君達が大切な話をしてるなら、私達も聞かないといけませんからね。早く戻るとしましょう。

 幽香先輩に別れを告げ、ずっと静かだった妹紅さんと一緒に教室に戻ろ

 

 

「待ちなさい、美鈴」

 

「?はい」

 

 

 うとする前に、先輩から呼び止められました。

 

 

「なんですか幽香先輩?」

 

 

 

 

「少し、人を集めなさい」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ

 

 

「あ、おかえり美鈴、妹紅」

 

「上手くやったようじゃな。先ほど明久が雄二を連れて来たぞい」

 

「あ、わかりました」

 

 

 教室に戻ると、中には島田さんと秀吉君が待っていました。秀吉君の言葉だと、どうやら2人はやはりここ戻ってきたみたいですが、どこにいるのでしょう?

 

・・・でもまあ、2人もいれば大丈夫ですかね!

 

 

「島田さん、秀吉君。ちょっとお手伝いしてほしいことがあるのですが、いいですか?」

 

「ん、いいわよ」

 

「了解じゃ」

 

 

 2人は何も文句を言わず頷いてくれました。その優しさに感謝です!

 

 

「ありがとうございます!では、ちょっとついてきてくれますか?」

 

「「了解」」

 

 

 戻ってすぐに、私と妹紅さんは2人を連れて教室を出ました。向かうは本棟の一教室です。

 

 

「ところで、吉井君と坂本君はどこへ行ったんですか?」

 

 

 カバンは残ってあったし学校にいるのでしょうが、これだけ探してもいなかったのにどこにいるのでしょう?私は暇つぶしをかねて聞いてみました。

 

 

「ああ。あの2人なら学園長室に行ったわよ」

 

 

 あー、確かにそこは見てませんでした

 

 

「って、学園長室!?な、なんでそんなところに行ってるんですか!?」

 

 

 ふ、普通に聞き流しそうでしたけど、全く聞き逃がせられない言葉ですよね!?いったいどういう経緯があってそんなことに!?

 

 

「うむ、さきほど雄二が言っておったのじゃが、姫路の父上殿が転校をさせようとする原因は三つあり、そのうちの一つがFクラスの内装が悪すぎるという事だそうじゃ」

 

「ま、まあそうですね。さっきも言ってましたけど・・・」

 

「じゃから、生徒の健康に害があるので、教室を改善してくれと2人が直訴しに学園長の下へ行ったのじゃ」

 

「・・・な、なるほど」

 

 

 確かに、いくら学力で教室が決まると言えども生徒の健康に影響が出てしまえば、教育者の立場としても改善してくれるかもしれませんね・・・

 

 

「ところで、その学園長さんってどんな人でしたっけ?」

 

「確か、藤堂カオルとかいう女性じゃったかの?召喚獣のプログラムを生み出した人だそうじゃ」

 

「………白髪の、けっこう年のばあさんだった」

 

「ほら、ちょっと口が悪い女の先生よ」

 

「・・あ~、思い出しました思い出しました!」

 

 

 教師として生徒に使っていいのかなって言葉を気にすることなく使ってましたね~。

 

 

・・・そんな人が、素直に私たちの要求を呑んでくれると思えない私は、お、おかしくないですよね?

 

 

「……急には、止まらないでほしいん…だけど…」

 

「あっ、ご、ごめんなさい妹紅さん!」

 

 

 どうやら妹紅さんが私の背中にぶつかっちゃったみたいで、鼻を押さえながら私をジトッと見上げていました。声は冷静ながら、少しだけ目に涙が溜まっているのが…可愛いっ!なんだかレミィを見てるみたいです!

 

 

「で、美鈴。どこにウチらは行ってるの?」

 

「あ、もう着きます!そこですよ!」

 

 

 それなりに歩いたと思うのですが、旧校舎と新校舎は距離がありますねー。雑談も交えて歩いていると思ったよりも時間がかかりました

 

 

「裁縫室?こんなところに何の用じゃ?」

 

 

 秀吉君は首を傾げました。裁縫室は、ミシンなどで縫物をするとき以外はめったに来ない教室で、私も来たのは数えられるほどですね。男子の秀吉君ならさらにその回数は少ないでしょう!

 

「まあまあ、とりあえず入りましょう!失礼しまーす!」

 

「し、失礼しまーす」

 

「失礼するのじゃ」

 

「・・・失礼します」

 

 

 私が先頭になって部屋へと入ると、中はミシンや糸が並べられていて、実にそれらしい雰囲気を醸し出しています。

 

 

 

「来たわね美鈴。待ちくたびれたわよ」

 

 

そんな教室で、幽香先輩は悠然としながら私たちを出迎えてくれました。

 

 

「ま、まあまあ!早く来たんですから勘弁してくださいよー幽香先輩!」

 

「・・・え、ええっと・・・?」

 

「紅。彼女は誰じゃ?」

 

 

 弁明をしようとする私に、幽香先輩と初対面となる秀吉君と島田さんが、後ろから聞いてきます。そ、そうですね。互いに知らないと気まずいでしょうし、ここで互いの紹介をさせてもらいましょうか!

 

 

「こちらですね。私が所属する園芸部の部長をされてます、三年生の風見幽香さんです!」

 

「初めまして。そこの白い髪の子とはさっき会ったけど、風見幽香よ。あなた達の名前を聞いてもいいかしら?」

 

「あ、に、2年の島田美波です。美鈴とは友達です」

 

「木下秀吉じゃ。紅の・・・し、親友で、演劇部をやっていますのじゃ」

 

「・・・・・・ふ、藤原(ふじわらの)妹紅。……居候だ」

 

「島田、木下、藤原、ね。あまり関わることはないでしょうけど、よろしくね」

 

「よ、よろしく」

 

「よろしくなのじゃ」

 

「・・・・・・」

 

「じゃあ、ついてきなさい。こっちにあるから」

 

「あ、了解です」

 

 

 自己紹介を端的に終えた幽香先輩は、さっと身を翻(ひるがえ)して後ろの方へと進んでいきます、

 私も続こうとしたところで、再び耳打ちがありました。

 

 

「ちょっと、美鈴。大丈夫なの?」

 

「ん?何がですか?」

 

「・・・〝風見幽香〟先輩って、凄い怖い三年生って聞いたことがあるわ。話しかけても、冷たくあしらわれたとか・・・」

 

「わしも聞いたことがあるのじゃ。言い寄った男をぐうの音が出んほど罵倒して、涙を流させた、とかのう」

 

「・・・なんとなく、分かる」

 

「あ~。たぶん、虫の居所が悪かったか、誘った人が嫌いな人だったんじゃないですかねー」

 

 

2人の言う通り、幽香先輩は怒ったら確かに怖いですよ?私も寝坊した時には身に染みてその恐ろしさを味わってますからね!

 

 

「でも、普段はいい先輩ですよ?今回のこともそうじゃないですか!」

 

 

 そっけない態度が多い人ですけど、その行動から、私には暖かさがしっかり伝わってますからね~っ!

 

 

「今回って、そういえばここに何しに来たの?」

 

「あ、それですけど」

 

「何をやってるの?早く持っていきなさい」

 

「あ、はい!」

 

「も、持っていく・・・?」

 

 

 いけないいけない、このままだと幽香先輩の雷が落ちてしまいます!

 

私達は急いで、幽香先輩が入っていった準備室へ入ります。

 

 

 

 

「!わっ!綺麗ねーっ!」

 

「おお、これはすごい・・・!」

 

「・・・すげえ、鮮やか・・・」

 

 

 さっきまでの緊張した雰囲気が一転して、3人は驚いた声をあげて目を光らせます。

そこへ、幽香先輩が皆に聞こえるように、告げます。

 

 

「ここの布、全て持って行っていいわ。有効活用なさい」

 

 

 そう言って、近くにあった一つ・・・一辺2メートルほどの、正方形の様々な色の布の1枚を指さしました。

 

 幽香先輩が私たちに運べと言ったものは、色彩豊かな布十数枚のこと。これを机に覆うテーブルクロスなどに使えばいいと、幽香先輩がわざわざ準備をしてくれたのです!ね!優しいでしょう!?

 

 

「すいません幽香先輩。お言葉に甘えまして使わせてもらいますね」

 

「ええ。そのぶん、しっかり部活で働いてもらうわよ?」

 

「あ、あいあいさ!」

 

 

 この恩にはそれぐらいお安い御用です!・・・ちょっと不安も覚えますけどね!

 

 

「――あ、あの、風見先輩」

 

「なにかしら?」

 

「ありがとう、ございます。ウチらのためにこんなに準備してもらって」

 

「すみませんのう、風見先輩。このご恩は忘れませんのじゃ」

 

「・・・どうも」

 

「・・・・・」

 

 

 3人のお礼に風見先輩は少し黙ったあと、ふうと軽い溜息をついて淡々と指示し始めます。

 

 

「せいぜい頑張りなさいな。ほら、礼をするぐらいならさっさと運びなさい。いつまでもここにいるわけにはいかないのよ」

 

『あ、はい!』

 

 

 私たちはすぐに布を手に取りました。あ、肌触りも結構いいですね!これは本当に助かりますよー!

 

 そのまま4人が手分けしてなのですぐに回収を終え、私たちは準備室、裁縫室と出ていきます。

 

 

「ありがとうございます幽香先輩。今度先輩が困ったことがあったら、全力で助太刀しますね!」

 

「悪いけど、私は後輩に助けられるほど弱い先輩ではないわよ?」

 

「・・・そ、それはそうですけど~」

 

 

 鍵をかけながら迷い気なく言う幽香先輩。うん、泣いたりしてる幽香先輩なんて見たことありませんし、想像できません。私はしょっちゅう涙しますのに!

 

 

「・・・まあ、その時はしっかり助けてもらおうかしらね」

 

「え?」

 

「じゃあね。せいぜい頑張りなさい」

 

 

 その前が聞き取れないまま、幽香先輩は言葉少なく背を向けて歩いていきます。とてもあっさりした解散に、私たちは慌てて幽香先輩に感謝の意を告げました

 

 

「あ、はい!ありがとうございました先輩!」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

「感謝するのじゃ」

 

「……あ、ありがとう…ございます」

 

 

 

「(スッ)・・・・・・ふん」

 

 

 幽香先輩は一度後ろを振り向いくだけで、すぐに足を動かして廊下の角へと消えてしまいました。う、う~ん。なんだか準備だけしてもらって、さっさと帰ってもらったみたいで申し訳ないです!この恩は本当に部活で返さないといけませんね!

 

 

「じゃあ、私達も戻りましょうか?」

 

「そうね。この布はやっぱり洗うべきかしら?」

 

「うむ。万が一もあるし、洗ってから使うべきじゃな」

 

「そうよね。じゃあウチら四人で洗う?それとも明日、皆で分ける方がいいかな?」

 

「ここの四人で分けませんか?あまり分担しすぎて誰が持ったかわかんなくなると厄介になりますし」

 

「オッケー。あれ?でもそれだと妹紅と美鈴が一緒になるけど、大丈夫なの?」

 

「あ……ま、まあ大丈夫でしょ!いざとなれば、近所の友達の家で借ります!」

 

「……恥ずかしいから、絶対やめろ・・・!!」

 

「し、新参者(しんざんもの)の妹紅さんにご近所とのことで怒られました!?」

 

「うん。ウチも妹紅が正解だと思う」

 

「わしもそう思うのぞい。ではわしと島田の量を少し増やすとするかの。紅、少し布を渡すのじゃ」

 

「い、いやいやいいですって!そんなの申し訳ないですよ!あ、そうだ!少し遠くにコインランドリーがあります!それを使えば何枚でも――」

 

「「そっちの方が申し訳ない(のじゃっ!)(わよ!)さっさと渡(すのじゃ!)(しなさいっ!)」」

 

「ひぃ!そ、そんな怒られるようなこと言ってません~!!」

 

「……………………………バカだ」

 

「がふぅっ!?」

 

 

 ぼそりと、本当にぼそりとつぶやかれた妹紅さんの強烈な言葉に、私は胸に風穴を開けられたようなショックを受けながら、皆さんと裁縫室を後にしました。

 

 バ、バカとまで言われるとは…!妹紅さんが自分の気持ちに正直になってもらえて、私は嬉しくて涙がとまりません・・・!う・れ・し・く・て!涙が止まりまぜんんんんっ~~!!

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「あら幽香。もういいの?」

 

「ええ、もうあの子に渡したから充分よ。無理を言って悪かったわね」

 

「全く、あなたはいっつもそう言って、悪いとは思ってないでしょ?私には分かってるんだからね?」

 

「なるほど、確かに分かってるみたいじゃない。私のことをよく知るという、部活の顧問の仕事をしっかりしてるようでなによりよ」

 

「え?ちょ、ちょっと!否定してくれないの!?褒められてるみたいだけど全く喜べないわよ!?」

 

「分かってたことなんでしょ?ならいちいち聞かないで。淡い期待なんかしてもむなしいだけよ」

 

「そ、そこまで言うの!?ひどいわ!私はあなた達のためにと思って一肌脱いであげたのに!わざわざ使用許可を取ってあげたのにぃ!」

 

「別に私は関係ないわ・・・美鈴が辛気臭い顔をして困ってたから、仕方なくあなたに頼んだだけよ」

 

「・・・あらあらあらぁ~?相変らず素直じゃないわねぇ。あなたが真剣な顔で私に頼むなんて、ずいぶん久方ぶりだったじゃない。そんなに無関心ぶらなくていいわよー?別に、美鈴ちゃんをどーしても助けたかったからって言っても私は笑わないわ。うふふ」

 

「・・・・・・見当違いな事を言ってる上に笑ってるんじゃないわよ、この腐敗女が」

 

「だっだだだ誰が腐った女よ!?誰から見ても、私はまだまだ魅力あふれるレディーじゃない!」

 

「ふうん。まあそう思ってるんなら、そう思っていればいいんじゃない?で、妹さんみたいにパートナーを見つけなさいよ。まあ、そんなもの好きがいるかは分からないけどね」

 

「キィーッ!い、いっつもそう言って私をバカにして!教師を何だと思っているの幽香!」

 

「私たちに教育を教えてくれる人よ。まあ、目の前の人は違うみたいだけどね。女の悲しさ、年を取るという残酷なものを教えてもらってるわ」

 

「・・・・・う、うう~!わ、私だって、好きで独身やってるんじゃないわよ!!年齢なんて、どうしようもないから仕方ないじゃないいいいいっ!藍!らーんんんんんっ!」

 

 

『!!ぅえっ!?ね、ねえさ・・・紫先生!職員室では静かに――きゃんっ!?』

 

『藍~~!!あなただけは私の味方でいて!わっ、私だって、結婚できるわよね!?できるわよねぇぇぇ!?』

 

『………はあ。大丈夫、姉さんならきっと結婚できますよ』

 

『そ、そう!?そうよねっ!?ありがとう藍!やっぱり藍は優し―』

 

『世界はどこまでも広いんですから。きっとどこかにそんな殿方は存在します』

 

『くないわよっ!?もっと優しく!いつもみたいに優しくしてよ藍~!』

 

『仕事が残っていますので、また今度にしてください。あと、他の先生方の目が痛いので離れてください』

 

『う、ううう~~・・・永琳~!やっぱり藍が冷たいわよぉぉおおおお!』

 

 

 

 

「・・・・・・そういうところがなかったら、素直に感謝の言葉を言えてたかもしれないのだけどね………」

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 
 幽香さんに先輩らしいところを見せてもらいたいと、少し幽香さんに頑張ってもらいました!彼女のあっさりした性格に隠れる優しさ。これをもっとうまく出せれたら・・・!

 そして、最後に出てきた彼女!まだ紹介はしませんが、あんな感じの彼女も村雪は嫌いではありませんので、ああさせてもらいました!

 では次回からは、大盛り上がりな清涼祭の開始!楽しみにしていただければ幸いです!

 それではっ!


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評価-事実、がどうあったとしてもそれをフォローするのが友情だよね!

どうも、村雪です!

 さて、今回から清涼祭となるのですが、ここでさっそく伝えておくことが!



――妹紅さんに一つ、個性を加えさせていただきました!


 んで、これで妹紅さんファンの方が、少し思うところが出来ちゃうかもしれませんが・・・・・許してあげてください!村雪がしたかったんです~!


 でもこれだけじゃあ分からないでしょうから、詳しいことは本編で!

 どうか優しい目で見ていただければっ!

――ごゆっくりお読みください。


 

 

「ねえ!美鈴達の学校でやる学園祭、私達も行っていいの!?」

 

「へ?」

 

「こらフラン。あんまり強くちゃぶ台を叩いたらだめよ」

 

「あっ、ごめんさない」

 

 

 妹紅さんが来てから当たり前になった、六人で食卓を囲っての夕食時。妹の1人、金髪が特徴のフランこと、フランドール・スカーレットが食卓に身を乗り出して、そう尋ねてきました。

 

 

「それは来てもいいけど、ひょっとしてフランは来るつもり?」

 

「うんっ!お姉さまもだよ!ね―お姉さま!」

 

「そ、そうよ!何か悪いのっ!?」

 

「い、いやいや悪いってわけじゃないわレミィ!ただちょっと驚いただけだから!」

 

 

 その姉のレミリア・スカーレット、愛称〝レミィ〟は元気いっぱいのフランとは対照的に、行ってはダメなのかとふにゃりと泣きそうになりながら私を精一杯睨みます。

 

うん、その睨みは逆効果よレミー♡

 

 

「でも、2人とも。文月学園までちゃんと来られる?ちょっと遠いかもしれないわよ?」

 

 

 高校生にはそれほどですが、小学生の2人にはなかなかの距離。ちょっとしんどい道のりもありますし、何より付き添いで一緒に行くことが出来ません。途中で何かあったりしませんかね?

 

 

「だ、大丈夫よっ!もう大人だもん!」

 

「うんうん!それに、友達と行くってこの前約束したんだ!」

 

「・・・ん、そっか!」

 

 

 私の懸念を完全に解決させるにはちょっと弱いですけど、レミィ達は自信満々のようですから、ここは信じましょうか!可愛い子には旅させろ、とも言いますからね!

 

 

「じゃあ、お母さんも清涼祭に来るの?」

 

 

 レミィ達が来ると分かってもしかしたらと思ったのか、ご飯を食べていた咲夜さんは、私たちの母、金髪長髪の美女、星熊勇儀(ほしぐま ゆうぎ)に確認を取りました。

 

 

「ん~。行きたいのは山々なんだが、ちょうど仕事もあってなぁ。もしも時間が空けば、行くってところだな」

 

「・・・え~・・・(ズズ)」

 

 

 咲夜さんの質問に、母さんは酒を呑むのを止めてレミィ達と一緒に行くわけではないことを告げます。妹紅さんは来てほしかったようで、肩を落としながらお茶を口にしました。

 

 

「そう、でもそれは仕方ないわよ。謝らないでお母さん」

 

「咲夜さんの言う通りよ母さん。それはどうしようもないことじゃない」

 

 

 それに本音を言いますと、接客業をしてるところを見られるのって何か抵抗がありますから、悲しさより安堵の方がおっきいです!こそっと拳を握りしめた咲夜さんもたぶん同じ心情ですね!

 

 

「すまないね。まあそんなわけだから、私の分も友達と満喫してきなよ?レミィ、フラン」

 

「うん!」

 

「もちろんよ!美鈴!咲夜!・・・も、妹紅っ!ちゃ、ちゃんと私たちを満足させないとダメだからね!?」

 

 

 おおっと、ここでレミィの可愛らしいご命令です。当然、断るわけがありませんよね2人とも!

 

 

「もちろん!」

 

「任せておきなさい」

 

「・・・・・ま、まあ……努力は、する」

 

 

 期待を裏切らないその言葉!大好きですよ2人とも~!

 

そしてその後も、学園祭の話で盛り上がりながら私たちは夕飯を過ごしました。

 

 

 

 

「――――じゃあ、咲夜さんは出し物は何をやるんですか?」

 

「ん、メイド喫茶よ。それでメイドをやる予定だわ」

 

「メメメメメイドっ!?咲夜さん、メイドをやるんですか!?」

 

「え、ええ。急にどうしたのよ?」

 

「そ、そんな・・・!咲夜さんの素晴らしいメイド姿を、不特定多数の人に見られるって・・・・・・!!いやーっ!咲夜さーんぐぇっ!?」

 

「い、いきなり抱き着いてくるんじゃないわよバカ美鈴ッ!一体何考えてるのよ!?」

 

 

「・・・・・・さっき、私たちが中華喫茶をするって言ったときに、フォークと箸を持って怒ったの……あいつだよな・・・?」

 

「あははっ。そこは似た者姉妹じゃないか。何もないより、こっちの方がずっと温かみを感じないか?妹紅」

 

「……ど、どうだろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーしアンタ達!いよいよこの日が来たのよさ!アタイ達が最強ってことを証明してやるわよー!」

 

『おおーーっし!』

 

 

 

 出し物を決め、準備に取り組んでからは時間はあっという間に過ぎ、いよいよ清涼祭が幕を開けました。

 学校中に活気があふれている中、チルノが音頭を執りFクラス男子達もそれに逆らわずに元気をあふれさせます。かく言う私も大興奮です!うおー!やりますよ~っ!

 

 

「チルノは気合いが入っておるのう。実にあやつらしいのじゃ」

 

「そうだね秀吉。バカは元気が取り柄って言うもんね」

 

「あんたが言うんじゃないわよアキ」

 

「み、美波ちゃん。その言い方も良くないと思います・・・」

 

「むしろ吉井の方が吹っ飛んでると私は思うぜ」

 

「私としましては、五十歩百歩な気がします」

 

 

 どっちもなかなかの大おバカですからね!

 

 でも、こういう時にチルノみたいに元気な子は重宝されますよ。坂本君とは違った形で皆を引き付けるといいますか、チルノの元気さがあってできる芸当です。

 

 本人に言ったら顔を真っ赤にして怒るでしょうけど、おバカっていうのもある種の長所になりますね!

 

 

「でも、僕らもやればできるもんだね。ここがあのFクラスとは思えないや」

 

「確かにだいぶ様になりましたものねぇ。中華!って雰囲気が出てますもの」

 

 

 幽香先輩から借りた布を、いくつか重ねたミカン箱の上にかぶせることで立派なテーブルに見せることもできましたし、装飾なんかもがんばりましたから教室は普段のFクラスからは想像できないくらいに綺麗になっています。だから、充分な出来となってるのではないでしょうか!

 

 

「このテーブルなんて、パッと見は本物と見分けがつかないよ」

 

「あ、それは美波ちゃん達が作ってくれたんです。どこからか綺麗な布を持ってきて、こうテキパキと」

 

「ああ、それなら美鈴(メイリン)のおかげよ。ウチらは風見先輩から預かった布を使っただけだもの」

 

「い、いや~・・・」

 

 

 な、なんだか私が幽香先輩に頼んだみたいになってますけど、最初に言ってくれたのは幽香先輩です。素直に照れられませんね~

 

 

「風見先輩?風見先輩って、あの〝男殺しの女帝〟って呼ばれてる三年生の事か?」

 

「あれ、魔理沙は風見先輩を知ってるの?」

 

 

 島田さん。そこは知っているかどうかのことより、幽香先輩のあだ名の方を気にするところだと思います。私、一瞬その呼称にギョッとしました。どんな呼ばれ方をされてるんですか先輩っ!

 

 

「ん?ああ。なんか言い寄って来た男子をズッタバッタ冷たく切り捨ててるってことで、同性愛なんじゃないかって噂の立つ先輩だぜ」

 

「へー。怖い女の人もいるんだねー」

 

 

 え~?風見先輩がぁ?

 

 

「いやいや、前半はともかく後半はデタラメだと思いますよ魔理沙?」

 

「ん?そうなのか?」

 

「美鈴は何か知ってるの?」

 

「あ、いや、よくは知りませんけど……それだったら、同じ部活の私なんかすでに幽香先輩の餌食にされてると思いますけど」

 

 

 まあ私が守備範囲外なだけって話かもしれませんが、私の見る限り、たぶん先輩も普通の女子で、普通に男子に恋をすると思いますがね~。

 

 

 

「美鈴(メイリン)。そろそろ時間よ」

 

 

「っと。咲夜さん」

 

 

 教室の入り口には、いつの間にか咲夜さんが腕を組みながら立っていました。やばっ、ちょっとゆっくりしすぎましたかね?咲夜さんを待たせてしまうとは、この紅美鈴、一生の不覚です!(※頻繁にしてます)

 

 

 

「すいません。じゃあ私はちょっと行ってきますね!」

 

「え?どこに行かれるんですか?」

 

「ええ、それが、ちょっと召喚大会で最初の試合になりましてねー」

 

「ん?美鈴達も出んのか?」

 

「はい。目指せ商品券です!」

 

 

 その商品券を使って、家族みんなで食事をするのが私の考える使い道です!

 

 

「では行ってきまーす!」

 

「はい、いってらっしゃい!」

 

「ま、頑張るんだぜ!」

 

「頑張るのじゃぞ、紅」

 

「しっかり勝つのよ、美鈴!」

 

「え~と、僕としては勝ってほしいけど~・・・」

 

 

 え?あの、吉井君。その言い方だと負けてほしいってことになりませんか?

 

 

・・・ともかく、それぞれの言葉を受け取りながら、私は咲夜さんの下に近づき――

 

 

 

 

『おおっ!これはこれは十六夜さん。今日も相変わらずビューティフルだな』

 

「そ。一応受け取っとくわ』

 

『よかったら今日、俺と一緒にデートしませんか?』

 

「悪いわね。用事があるから他をあたってちょうだい」

 

『十六夜さん、俺と結婚してくれ』

 

「ん。あなたがもっと立派になったら、考えてもいいかもしれないわね」

 

『!?まじかよ!?』

 

『殺せぇぇぇええ!!』

 

『ぎゃああああ!』

 

 

「あらあら」

 

 

・・・・・・何か、咲夜さんがすっごい男子達を手玉に取ってますよ。男子陣が求婚した野郎さんを制裁してくれたので、私とのお話は不要みたいです。

 

 

「すいません咲夜さん、お待たせしました!」

 

「遅いわよ。じゃあ行きましょう」

 

「了解です!」

 

 

 後ろの方で聞こえる叫びを耳にしながら、私たちは召喚大会の会場へと向かいました。さあ、存分に祭りを楽しみますか~~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってるんだぜ、あいつら?」

 

「さ、さあ。さっき咲夜さん達と何かを話してましたけど・・・」

 

「何やら、デートやら結婚だとか聞こえたのじゃ」

 

「よく分からないけど、あの粛清されてる奴が許されない事をしたのは確かだね」

 

「ちょっとあんた達!せっかく掃除したのに教室が汚れるからやめなさい!」

 

 

 美波が怒りながら騒ぎの下へと歩いていった。全く、十六夜さんにちょっかいをかけるなんて命は惜しくないのかな?僕は何もしていないのに (※思いっきりしてます) 間接を決められたりしばかれたりするぐらい彼女は攻撃的なんだよ?今でもあの恐ろしい技を繰り出す手と、平らながらに柔らかい丘の感覚が思い出せるよ。

 

 

「よ、吉井君。鼻血が出てますよ?」

 

 

 姫路さんからそんな言葉が。もしかしたら僕は今、ムッツリーニ病って病気にかかったのかもしれない。じゃないと青少年な僕がこんなスケベみたいな反応するわけないもの。

 

 

「あ、ごめんごめん。つい興奮しちゃってね」

 

「この状況で何に興奮したんだよ。エロいことでも考えてたのか?」

 

「明久は助平じゃからのう・・・」

 

「よ、吉井君・・・そ、そう言う事はもう少し違う場所でした方が・・・」

 

 

 顔を真っ赤にしつつも健気に助言をする姫路さん。その気遣いは今が痛い!

 

 

「ち、違うよ!き、喫茶店が上手くいくかな~って思っただけさ!」

 

「・・・それでなんで鼻血が出る、って思うけど、まあそういうことにしといてやるか」

 

 

 魔理沙が呆れた風に肩をすくめた後に、教室に目を向け出す。その目はどこか楽しそうなのは気のせいじゃない。

 

 

「まあこんだけ準備したから、外装に関しては十分だと思うなー。それに、客寄せとなる美少女も私を含めて結構いるから、そこら辺に関しては大丈夫だと思うぜ」

 

 

「それもそうだね。あほなチルノはともかく、他の女子は皆可愛いもの」

 

「チ、チルノちゃんも加えてあげないと可哀そうですよ吉井君!」

 

「アホさと容姿は関係ないぞい、明久」

 

 

 姫路さんや美波や秀吉や美鈴さんや魔理沙に藤原さん。どの女の子(※一名男です)も美少女って言っても差し支えない可愛さだから、それに魅せられてお店にやってくる可能性は高い。だから、お客さんの数については大丈夫だ。

 

 後、大事なことは・・・

 

 

「厨房の方は上手くいったかなあ?」

 

 

 料理の味こそ喫茶店の顔。そこが上手くできていないと致命傷になっちゃうけど・・・ムッツリーニ達は上手くやってるのだろうか?

 

 

「・・・心配無用」

 

「おわっ!?」

 

「お、土屋。守備はどうだ?」

 

 

 いつの間にかムッツリーニが僕たちの後ろに立っていた。相変わらず気配を消すのが上手い。その特技で何人の男が喜ぶげふん、女の子が涙を流したのやらや。

 

 

「・・・上出来」

 

 

 そう言って、ムッツリーニは木のお盆を差し出した。上には高そうな陶器のティーセットと美味しそうなゴマ団子が載かっているから、味見しろってことかな?

 

 

「おっと。これは食べてもいいってことか?」

 

「・・・(こくり)」

 

「では、遠慮なく頂こうかの」

 

「頂きます、土屋君」

 

「頂くぜ土屋」

 

 そう言って美少女3人はゴマ団子にてをのばして口にし始めた。

 

 

「あ、うまいなー!」

 

「そ、そうですね!とってもおいしいです~!」

 

「うむ、飲茶(ヤムチャ)も上手いしの~・・・」

 

 

 そんな三人の絶賛の声。少しうっとりしてトリップ状態にも入っているから、どうやら大成功したみたいだ。これは期待できそうだね!

 

 

「それじゃ、僕ももらおっかな―って、あれ?ゴマ団子は?」

 

 

 おかしいな。確か四つあったと思うんだけど。

 

 

「・・・全て、胃袋の中」

 

「おう吉井。お前の分はありがたく頂戴したぜ(もぐもぐ)」

 

「え、ちょっと魔理沙!?僕の分を勝手に頂戴してるんじゃないよ!」

 

 

 なんて食い意地の張った子なんだ!これじゃあ僕は味見することができないじゃない!

 

 

「まあまあそう言うなって。貸しを作ってたらいいことあるって言うじゃないか!」

 

「僕としては、未来の事より今目の前の事が大事なんだけどなあ・・・」

 

 

 仕方ない。ゴマ団子は諦めて飲茶だけもらっとこう。

僕は飲茶に手を伸ばして――

 

 

 

 

「あ、そういや妹紅も厨房だったよな。あいつも作ってるのか?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・そろそろ来る、と思う」

 

 

 

 

 あれ、何かムッツリーニの言葉が、いつもより少し間が長かったような?

 

 

「・・・・・・・・・おい」

 

「! あ、どうしたの藤原さん?」

 

 

 ムッツリーニの言う通り、少ししてから、長くて真っ白な髪がまぶしい藤原さんがやってきた。手にはムッツリーニと同じく木のお盆があって、ゴマ団子が載せられている。

 

 

「・・・・え、と・・・よ、良かったら・・・・・・食うか…?」

 

「え?いいの?」

 

 

「……………ん」

 

 

 視線をさまよわせつつも、おずおずとお盆を差し出す姿がまた血が騒ぐほど可愛い。でもさっきも出したから、今回は鼻血は出ていないみたいだ。

 

 とにかく、せっかくのお誘いだから遠慮なく頂くとしよう!

 

 

「うん、喜んでもらうよ!」

 

「あ。妹紅、ウチも食べていい?」

 

 

 いつの間にか美波が戻ってきて、一緒に藤原さんのゴマ団子を食べようとしていた。どうやら男子の鎮圧に成功したみたいだけど、さっきから静かになったわけだ。

 

 

「・・・・・・・・・ど、どうぞ…」

 

「ん、ありがと!じゃあいただくわね」

 

「じゃ僕も、いただきます」

 

 

 いや~!女の子の手料理を食べるなんて、屋上で美鈴さんのお弁当を食べた時以来だ!これは楽しみだね!

 

 抑えきれない喜びで顔を笑顔にしながら、どんな感想を言おうかなと考えながら、僕たちは妹紅さんが作ったゴマ団子を手でつかんで、一口だけかじった。

 

 

 

・・・ふむふむ、表面はかりかりしてて中はどろどろ。甘すぎず、ちょっと苦い味わいがとっても刺激て

 

 

「がふっ」

 

「ぅぇっ」

 

 

 一瞬、あの世のじいちゃんが見えた気がした。美波もきっと見えたに違いない。

 

 

「・・・う・・・ど、どう?・・・う・・・うまい・・・?」

 

 

 ラッキーにも、藤原さんは目を下に落としてるから、僕達の顔を見ていない。僕と美波は即座にアイコンタクトを取り始める。

 

 

 

『美波、どう?』

 

『ウチの目の前に神様が見えたわ』

 

『僕はあの世のじいちゃんが見えたよ』

 

『やばいわね、それ』

 

『――どうする?』

 

『決まってるでしょ……――絶対悟られるんじゃないわよ』

 

『りょうかい』

 

 

 この時間、僅か数秒。僕たちは方針を決定した。

 

 

「お、おいしかったよ藤原さん」

 

「う、うん。独特な味がしてたわ、妹紅」

 

 

 姫路さんの時は隠しきれなかったけど、やっぱり悲しませるのは嫌だ。ましてや人見知りの激しい妹紅さん。ここでひどいことなんか言ったら、もう二度と口を聞いてくれなくなるかもしれないし・・・藤原さんは一生懸命作ってくれたんだもん。やっぱり喜んでほしいじゃないか。

 

 

「・・・・・・!そ・・・そうかっ。・・・よかった・・・よかった……」

 

 

 その言葉に、妹紅さんはとっても安堵した顔になって、小さい声で呟きながら胸を撫で下ろした。ほっ、嘘をついてやっぱりよかったー。

 

 

 

・・・さて、それは良かったんだけど。同じ厨房の奴に、どうしても聞きたいことが出来たよ。早速聞くことにしよう。

 

 

 

 

 

「ムッツリーニ・・・ひょっとして、藤原さんって・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・少々、料理の腕は・・・」

 

 

 

「だよねー・・・」

 

 

 

 少し離れてこっそりムッツリーニに耳打つと、予想していた答えが返ってきた。うんうん。藤原さんはあんまり自分を出さない人だけれど、料理ではすっごく自分を出してるんだね。僕は嬉しくもあり、ほんのちょっぴりだけ冷たいものを感じたよ。

 

 

「つ、土屋は食べたの?妹紅の・・・・・ゴマ団子を」

 

「・・・・一瞬、女神が浮かび上がった」

 

「そ、そう」

 

「・・・・あの時、カメラがあれば……!」

 

「あ、そこなのムッツリーニ」

 

「あんたはどこまでカメラに命を懸けてんのよ」

 

 

 命よりも女性に重きを持つこの男は、まさに男の中の男と言える。でも、何がムッツリーニをそこまで駆り立てるのだろう?

 

 

「バレてないでしょうね?」

 

「………『天国が見えた』、とだけ言っておいた」

 

「あながち間違ってないね、それ」

 

 

 比喩じゃなくてそのまんまの意味でなのがすごい。本当に申し訳ないんだけど、今後は藤原さんのお料理をお客に出さないようにしなければいけないみたいだ。彼女には飲茶の担当になってもらうのが良い気がする。

 

 

「お、良かったじゃないか妹紅!そんじゃ私もそのうまいゴマ団子もいただこうか!」

 

「わしもいただこうかのう」

 

 

「・・・・・あ、ああっ。………食ってくれっ」

 

 

 僕達3人が耳を傾け合っていると、トリップ状態から戻った秀吉と魔理沙が藤原さんのゴマ団子に手を伸ばそうとしていた。まずい、このままだと2人の命が危ない!

 

 でも、止めるとなると嬉しそうで、珍しく人に物を勧めている藤原さんを悲しませることになるだろうし・・・!くそぉ、いったいどうすれば・・・!!

 

 

 

「うーーっす。今戻ってきたぞ・・・おっ、おいしそうじゃないか。どれどれ?」

 

「あーっ!あんた達!アタイのいぬまにずるいのよさっ!アタイも食べるわよ!」 

 

 

 神様っているんだね。ただし、その神はバカ神だったけども。

 

 

「あ、おい坂本!それ私のだぞ!」

 

「まあまあそう言うなって。借りってのはそのうち金の卵を産むかもしれないんだからな」

 

「ちぇっ、私と同じこと言いやがってー」

 

「ひでよし!この団子はアタイの物よ!アンタにはあげないんだからね!」

 

「おお、分かった分かったのじゃ。じゃからそんな必死に隠さずともよかろうて」

 

 魔理沙が食べようとしていたゴマ団子を雄二が取り、秀吉が食べようとしていた団子をチルノが取った。美少女の秀吉から物を取るなんて蛮行、普通は許さず裁きの鉄槌を下してたところだけど、今は許してあげるよチルノ。

 

 

「んじゃいただくか」

 

「いただきまーす!」

 

 

 そして2人はためらうことなく、藤原印のゴマ団子を口に。

 

 

 

『美波!ムッツリーニ!』

 

『任せなさい!』

 

『……任せろ・・・!』

 

 

 そこからの僕たちの行動は早かった。

 

 

「妹紅!」

 

「?って、ひっ・・・!…何、何だ・・・!?」

 

 

 1秒経過。美波が藤原さんを自分の方へと振り向かせ、そのペッタンコな胸に抱き寄せ、耳もふさいだ。

 

 

「んゴパッ」

 

「んキャパッ」

 

 

 1.2秒後。雄二とチルノの口からありえない音が出て、背中から倒れようとするのを僕とムッツリーニで支えた。軽いなあ。バカだけどやっぱり女の子なんだね。

 

 

「!?さ、坂本ぉ!?」

 

「!?チチ、チルノッ!?」

 

 

 2秒後。魔理沙と秀吉が二人の異変に驚いたけど、そっちはひとまずスルー。

僕達は二人を床に寝かせ、眠っているように見せるために2人の白目にすっと瞼のカーテンを降ろす。これでミッションは成功だ。

 

 

「・・・え、ふ、2人とも?」

 

「あ、2人ともリラックスしすぎて寝ちゃったみたいだねー」

 

「そうみたいね。よかったじゃない妹紅」

 

「・・・・見事な腕前」

 

「あ、え、・・・・・ありが、とう・・・?」

 

 

 藤原さんはよく分からないって感じだけど、ひとまず納得してくれたみたいだ。これで1人の女の子の悲しみは回避できたね。よかったよかった。

 

 

「お、おい。何があったんだぜ?」

 

「ど、どうも既視感を感じるのじゃが・・・」

 

 

 んじゃ次は、こっちの2人に説明を――

 

 

「今アキが言ったでしょ。チルノ達はリラックスしすぎて寝ちゃったのよ」

 

「じゃ、じゃが、どうも今の倒れ方は安らかそうな感じではなかった気がしたのじゃ」

 

「そ、そうだぜ美波。これは何か理由があると」

 

 

「―――次何か言ったら、ウチがあんたらも永遠に眠らせるわよ」

 

「「はい。リラックスしすぎて寝ちゃったんだな(じゃな)」」

 

「分かったならいいのよ」

 

 

 する必要は無いみたいだ。妹紅さんのために必死な美波の姿がとっても大きく見えたのは、気のせいじゃないだろう。

 だって前方の平原は平原でぺったんこなままだったも

 

 

「・・・ウチが必死になってんのに!あんたは何ぬかしてやがんのよこらぁー!(バキィ!)」

 

「ぶべらあっ!?」

 

「・・・声を出して、自業自得」

 

「……こいつ………変態……」

 

 

 顔が真っ赤で涙目の美波が繰り出す右ストレートの痛みと、妹紅さんからの氷のような眼差しによるハートへの痛み。口は災いの元。よく耳にする言葉だけど、これほど身に染みて体験した人は少ないんじゃないだろうか。

 

 僕は消えゆく意識の中、そんなことを考えた。

 

 

 





 お読みいただきありがとうございます!

 
 さて、ではもうわかったことでしょうが、妹紅さん!彼女には……お料理の点で、姫路さんのポジションにたってもらいました!ああまずい!妹紅さんファンにはひんしゅくを買ったかも…!?


 言い訳となると思うのですが、そうさせてもらった理由として。

『東方project』の方の何かで、彼女は過去に、ワイルドな生活をしていた時があった気がするのです。それでその時に食べたりしていたものが、調理なんかせずにただ焼いて食ってという感じだったような・・・・・

 で、そのイメージが印象的だったので、妹紅さんはあまり料理に精通をしておらず、接客が嫌なために厨房へと行ったということにさせてもらいました!・・・せ、精通のレベルを超えたあれかもしれませんけど、そこは大目に見てあげてください~!

 さてさて、皆さんは妹紅さんのそんな手料理を味わった後、どんな対応をするでしょう?村雪だったら、間違いなくウソをつく方に行っちゃうと思います。姫路さん以上に言いづらい雰囲気ですものっ!


 そんな風に新しい妹紅さんの一面を出し、明久の意識をシャットダウンさせて学園祭を開幕させるという、さっそく普通のものとはかけ離れたスタートをやってみたつもりでしたが、いかがでしたでしょうか?皆さんの期待に応えられてたらなぁ~・・・!!


 それではまた次回っ!たぶん召喚大会がメインです!


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一回戦―簡潔、に終わるか苦戦するかは組み合わせしだいね


どうも、村雪です!

 今回は召喚大会がメインとなります!が、いつもどおり、ど真剣バトルは期待しないでくださいね!あくまでこれはギャグSSでございますので!村雪はハラハラするようなストーリーを作れないのでしてよーっ!

 そこを踏まえて、美鈴さんや明久たちの一回戦目の勝負!


――ごゆっくりお読みください。


「では、これより試験召喚大会の一回戦を始めます。二組は準備を始めてください」

 

 

「よし、頑張りましょうか咲夜さん!」

 

「ええ、さくっと決めましょう」

 

 

 召喚大会は校庭の特設ステージにて行われることになってまして、私たちはさっそく1回戦の勝負に挑みます。

 立会の先生は数学担当の木内先生なため、勝負科目は当然数学です。

 

 

「頑張ろうね、律子」

 

「うんっ。優勝して一緒にスイーツを食べ歩きよ、真由美!」

 

 

 そんな私たちの相手は女子二人組。1人は確か、Bクラス戦で戦後対談の時に居たような?微妙にフラグを立てた気もしますが、油断はできない相手ですね!

 

 

「じゃあ4人とも、召喚を始めてください」

 

 

「「試獣召喚(サモン)っ!!」」

 

 

 その言葉と同時に、相手2人の足元からお馴染みの魔方陣が表れて、召喚者がアニメチックにデザインされた、小さく可愛らしい試験召喚獣が姿を現しました。

 

 

 

『Bクラス 岩下 律子   数学  179点 

        & 

 Bクラス 菊入 真由美  数学  163点    』

 

 

 

 2人とも西洋風の鎧と剣で身を固めていて、なかなか強そうな見た目です。この武器を駆使して、先に相手の召喚獣の力である〝試験の点数〟を0にした方が勝者。これが〝試験召喚バトル〟でございます!

 

 

「咲夜さん。試獣召喚!」

 

「ええ。試獣召喚っ」

 

 

 そして、次は私たちが合図を叫び、召喚獣を呼び寄せます。

 

 

 動きやすい緑色のチャイナドレスに、星のマーク正面に入った中華帽をかぶった召喚獣。こちらが私の召喚獣です。武器は己の拳だけ!というと聞こえはいいですが、率直に言うと素手です。いちおう硬度はあるみたいで、ある程度の威力の武器なら防げますが、リーチが短いのがなかなか痛い…!せめてトンファーか何かが欲しいですっ!

 

 

 一方咲夜さんの召喚獣は、青をベースにしたメイド姿。動きやすくするためかエプロンのかかったスカートはふくらはぎ辺りまでと、非っ常にセクシーでございます。これで手に持っている二本の白く輝くの銀のナイフがなければ、威圧感を与えることなく、癒しを与える召喚獣となっていたに違いありません。

 

 

 そんなこんなで、向こうのように鎧だとか剣だとかで、統一性があまりない私たち。一見では、軍配をあちらに上げたくなるでしょう。

 

 

 

 

――が、ここで勝負を作用する大きな要因は、点数でございます!

 

 

 

 

『Aクラス 十六夜 咲夜  数学 324点 

         &

 Fクラス   紅 美鈴  数学 219点 』

 

 

 

「「ウソォ!?」」

 

 

 

 さあ!勝負を始めようじゃありませんかお二方!咲夜さんと、咲夜さんのおかげで胸を張れるようになった私の点数に勝てるでしょうか!?

 

 

「じゃあ咲夜さん!あちらの岩下さんをお願いします!」

 

「了解!」

 

 

 分担を決め、私たちはすぐさま行動を始めます。二対二でも戦えるのですが、連携を取られて万が一、があるかもしれませんのでサシで勝負です!

 

 

「行っきますよぉ!」

 

 

 まずは距離を詰めないといけないので、召喚獣を菊入さんの召喚獣へと走らせます。こういう時に魔理沙やお空の召喚獣みたいな武器があれば、スッごい楽できるんですけどねっ!

 

 

「む!えいっ!」

 

 

 菊入さんの召喚獣もこちらへと駆け寄りながら剣を振ってきます。私の召喚獣とは違って、少々長い剣を持っているからリーチは向こうのが上。注意しなきゃ! 

 

 

「おっと!」

 

 

 ひらりとかわしましたが、菊入さんはそこで諦めずに剣を振り続けました。数撃てば当たる作戦ですね!でも、私は当たらないようにしないと、ねっ!

 

 

「えい!やっ!」

 

 

「わわっと!?」

 

 

 縦、横と剣を振ってくるのを横にずれたりしゃがんだりして回避。私もそうですけど、菊入さんは私よりも召喚獣の操作はあまり慣れていないみたいで、避けるのはそれほど苦労しませんでした。

 

 そして、この差をを利用しない手はありません。そろそろ攻撃に移りましょうか!

 

 

「とりゃあ!」

 

 

「あっ!」

 

 剣を振ってがら空きになった胴に一発、二発と私の召喚獣の商売道具ならぬ勝負道具の拳を叩き込みます。よし、点数がまあまあ減りましたね!このまま決めるとしましょう!

 

 

「ふっ!とっどめぇっ!」

 

 

 二発の打撃を受けてぐらつく菊入さんの召喚獣に、ダメ押しと一発、あごにストレート加え、最後に顔に右ストレートを当てます!そのまま倒れた召喚獣は、時間がたっても立ち上がりませんでした。

 

 

「ああっ!?そ、そんな~っ!」

 

 

 

『Bクラス 菊入真由美  数学   〇点 

        VS

 Fクラス   紅美鈴  数学 219点 』

 

 

 

 よし、私の方はこれで勝利ですね!あとは咲夜さんですが、果たして・・・

 

 

「はっ!」

 

「いやー!?」

 

 

 見れば、咲夜さんの召喚獣が岩下さんの召喚獣を、武器でナイフで切り裂いていました。おお、なんと素早い動きでしょう。さすが高得点保持者、って感じですね!

 

 

「くううっ!悔しいいいぃ!」

 

「ス、スイーツ食べ放題がーっ!」

 

 

 2人が悔しそうに私たちを見てきます。ですが、申し訳ありませんが私達も商品券が欲しいんですよー!だから手加減なんかしてあげませんっ!

 

 

「はい。勝者は十六夜・紅ペアですね。互いによく頑張りました」

 

 

 木内先生が勝者の名前を告げて、労いの言葉をかけます。よーし!めでたく一回戦勝利です!

 

 

「やったわね、美鈴(スッ)」

 

「はい。やりましたね!(スッ)」

 

 

 そしてそのあと、私達は何も言うことなく片手を掲げ、

 

 

 

 

「「お見事一回戦っ」」

 

 

 パチンと手を合わせました。初陣は、見事完勝ですっ!この先もこの調子で行きましょー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、美波もひどいなあ。うっかり口がすべっただけじゃないか」

 

「知るか。しっかし、まさか藤原が姫路と同じ料理技術を持ってるとは思わなかったぜ。あ~、目の前に大鎌を持った翔子が見えた…」

 

「良かったじゃない。美少女が出迎えに来てくれたんじゃないか」

 

「死への出迎えをどう喜べってんだ!?」

 

 

 ぜいたくだなあ。どうせ来るなら美少女が良いに決まってるのに。

 

 藤原さんの特性ゴマ団子を食べた雄二が目を覚まして(チルノも目が覚めてゴマ団子の事を暴露しそうだったけど、僕と美波で必死に留めた)、僕達は召喚大会の会場に到着した。なし崩し的に出場することになったけど、設備の向上のため姫路さんのため!必ず優勝しないとね!

 

 

「来たわね。吉井君、坂本君」

 

「あ、八雲先生」

 

 

 そんな僕たちに声をかけたのは、僕にとっては恐怖の存在である八雲藍先生・・・・じゃなくて、そのお姉さんである八雲紫(ゆかり)先生。ふわりと長めにその金の髪を伸ばして、短めに整えてぴしっとしている藍先生とは違って、とても物腰の柔らかそうな数学の教師だ。

 

 

「次の対戦はあなた達よ。相手はもうお待ちだから、ステージにあがってもらえるかしら?」

 

「うっす」

 

「はい」

 

 

 八雲先生に言われた通り僕たちはステージに上がって、相手のチームと対峙した。

 

ん?あれって・・・

 

 

「げっ!?ル、ルーミアさん!」

 

「んー?あ。確か、Fクラスの人だったかなー?」

 

「そ、そうだよルーミアちゃん!あの吉井君と紅さんに私たちは負けちゃったんだ!」

 

「あ、そうだったのだー」

 

 

 メガネをかけた女子の言葉にうんうんと笑顔でうなずくのは、僕に『食べられる』というとんでもない恐怖を心深くまで刻み込んだ少女、ルーミアさん。

 

 この子だけに関しては、その無邪気な笑顔が邪悪に見えてしまうのは仕方ないこと・・・!うう、忘れかけてた古傷が顔を…!?

 

 

「ほう。あいつが召喚獣を喰らう召喚獣を使う女子か。いい体験をさせてもらったじゃないか明久」

 

「そんなわけないでしょ!僕一瞬痛さで目の前が真っ白になったんだからね!?雄二もくらってみれば分かるよっ!」

 

 

 でもこんなバカでも観察処分者じゃないから痛みは受けないか!くそぉ、雄二が観察処分者だったらいくらでも僕が痛みをくれてやるのに!

 

 

「では二組とも揃いましたから、勝負を始めましょうか」

 

「頑張ろルーミアちゃん!目指せ優勝商品券だよっ!」

 

「おー。勝てば色々食べれて・・・うふふ~。楽しみなのだ~(じゅるり)」

 

 

 よだれをぬぐうルーミアさん。前も思っていたんだけど、ずいぶんと食べることが好きなんだなあ。召喚獣が噛みつき攻撃仕様になってるのも、きっとそこら辺の影響じゃないかな?

 

 

「二組共、召喚をお願いしましょうか」

 

「はい!試獣召喚(サモン)!」

 

「試獣召喚だー」

 

 

 八雲先生の指示に従ってルーミアさん達二人は叫び、2人の足元から召喚獣が出現する。

 

 で、大越さんの召喚獣は、剣に鎧とよく見かける召喚獣の恰好だけど・・・・・ダ・・・ダメだ、あのニコニコ笑った黒いワンピースの召喚獣を見ただけで体全体に鳥肌が立ってきた!戦う前に僕を弱体化させるなんて卑怯だよルーミアさん!

 

 

「明久、俺たちも召喚・・・ってえらく震えてるが、足を引っ張んなよ?試獣召喚」

 

「そ、そこは僕を気遣うところだよ!試獣召喚!」

 

 

 遅れて僕達も召喚獣を出す。僕のは相変らずの改造制服に木刀と、チンピラさが際立つ姿。一方、神童と呼ばれたこともあった雄二の召喚獣は――

 

 

「……あれ?雄二、武器は?」

 

「おー、私と同じだなー」

 

 白色の改造制服を着ただけで、何も持っていないような気がする。ルーミアさんの言ってるように、雄二の召喚獣もゾンビもどきの攻撃をするのかな?それだとだいぶ強そうに見えてくるかも――

 

 

「よく見ろ―――メリケンサックを付けているだろう?」

 

「ざ、雑魚だ!雑魚がいるっ!」

 

「へー、紅と一緒なのかー」

 

 

 美鈴さんは点数があって一発一発が強かったけど、雄二みたいなバカだったら、いくらメリケンサックがついてても絶対にへなちょこな攻撃に違いない!

 まあ点数が高かったら別だけど、バカな雄二にそんな高い点数は取れるはずないし・・・

 

 

「勝負よ!チンピラコンビさん!」

 

「お醤油とお砂糖の味付けチームじゃないかー?」

 

 

 2人がそう言って召喚獣を構えだす。白と黒の学ランを着て、メリケンサックと木刀を着た僕たち二人の召喚獣がそう言われても否定が出来ないや。でも、ルーミアさんに食べ物で例えられるとシャレにならない気がする。

 

 ともかく、ルーミアさんとだけは戦いたくない。ここは雄二に任せるとしよう。あ、でも点数の方はどうかな?僕の方が上だったりしないだろうか?

 

 

 気になったので、僕はここで全員の点数を確認した。

 

 

 

『Dクラス ルーミア・アピュエス  数学    151点

             &

 Dクラス      大越冬美   数学    140点  』  

 

 

 

 

『Fクラス 吉井明久  数学  63点 

 

 Fクラス 坂本雄二  数学 159点     』

 

 

 

「!?ゆ、雄二!なんでそんな点数になってるの!?」

 

 

 Bクラス並の点数じゃないか!そんなの雄二が取れるなんて信じられない!チルノの英語の点数が高いと知った時に次ぐ衝撃だよ!

 

 

「ああ。前回の試召戦争の以来、Aクラスに勝つために本気で勉強をしているからな」

 

「へー。なんでまた勉強を?」

 

 

 雄二が自分から勉強をするなんて、何かあったのかな?

 

 そんな僕の疑問に、雄二は苦々しい顔で答えてくれた。

 

 

 

「……前に、翔子に聞かれたんだ」

 

「?何を?」

 

「………式は、和風と洋風のどちらがいいか、と」

 

「…霧島さんは一途だねー」

 

「『……私は洋風がいい』と言って、翔子はアリス・マーガトロイドにウェディングドレスの制作を頼みやがった・・・それを奴も引き受けて、どんどん既成事実が出来上がっている・・・!」

 

「ごめん雄二。今の話、僕はアリスさんがドレスを作るって話の方が衝撃を受けたよ」

 

 

 アリスさんとは霧島さんと同じAクラスの女子。魔理沙の話だと縫物なんかが趣味らしいけど、まさかドレスまで作れるとはなぁ。友達に作ってもらうとなると霧島さんも嬉しいだろうし、実に素晴らしい計画だね。雄二にとっては困ることみたいだけど。

 

 

「俺はもう負けられない!次で勝たないと、俺の人生は!俺の人生は……」

 

「雄二落ち着いて!きっと幸せな人生が築けるから!」

 

 

 暴れそうになる雄二を羽交い絞めにする。僕だったら霧島さんみたいな美少女にそこまで思われると、嬉しさで爆発しそうなんだけどなあ。それを嫌がるって雄二はやっぱりバカだと思うよ。

 

 

「あはは、変な人たちだなー」

 

「ルーミアちゃん。あんまり見ちゃダメだよ。チンピラがうつっちゃう!」

 

 

 大越さん。チンピラは移るものではないと思うよ?そしてルーミアさん。僕をバカな雄二と一緒にしないで!

 

 

「坂本君の顔色が悪いみたいだけど、大丈夫かしら?」

 

「あ、すいません。ほら、雄二起きて」

 

「婿入りは嫌だ・・・・・・。霧島雄二なんて御免ぼごぁっ!はっ!?」

 

 

 よし、これでオーケー。殴られて雄二は正気になったみたいだ。

 

 

「すいません八雲先生。もう大丈夫です」

 

「そう・・・ちなみに参考までに、私は和服で式を挙げたいわ」

 

「「誰も聞いてねえよっ!」」

 

「だ、だ誰も来ねえよですって!?失礼よ二人とも!私だってこんなに魅力あふれてるでしょ!?」

 

「「ケバさが溢れてるだけだっ!」」

 

「ケバッ…!?」

 

 

 

 

 思わず声を荒げる僕らと、ショックを受けた顔で固まる先生。ちなみに八雲紫先生は独身で、こういう話題に良く食いついてくる。良いお相手が見つかることを願います。

 

 

「う、ぐ・・・・!ま、まあいいわ!ここは大人の対応で黙ってあげるわ。感謝しなさい二人とも!」

 

 

 その対応が大人から離れると思います、八雲先生。僕も隣で呆れたような目をする雄二も、きっと同じことを思ってるんだろう。

 

 

 

「では、始めましょうか。二組とも、頑張りなさいっ!」

 

 

 そう言って八雲先生は僕らから距離を取った。ちょっと色々あったけれど、ようやく勝負の開まりのようだ。

 

 

「ルーミアちゃん!そっちに行って!私はこっちに!」

 

「オッケー」

 

 

 さっそくルーミアさん達2人の召喚獣は、僕らの召喚獣を挟み込むように移動する。

 

 ただ動いているだけでトラウマが効いてガクガクしてきたけど、勝負は始まっているから動揺を見せてはダメだ。ここは挑発してルーミアさんの心を揺さぶろう。

 

 

「ふっ。ルーミアさん。前回も僕と美鈴さんに負けたってのに、また負けに来るとはね」

 

「むー。確かにそうだけど、今回もそう上手くいくとは限らないのだ」

 

 

 ぷうと顔を膨らませるルーミアさん。ほんっとに、あの勝負が無ければどれだけ可愛いと思えただろうか!噛まれる痛みを味わった僕には全く心が動かないっ!

 

 

「それに、今回は紅がいないから私達に有利なのだー」 

 

 

 む?あれあれ?美鈴さんは高く見ているけれど、僕や雄二の事はあまり高く見ていないのかな?

 

 

「やれやれ。俺たちもなめられたものだな、明久」

 

「全くだよ雄二。どうやら彼女たちは、僕たちの強さが分かってないみたいだね」

 

「んー、そうなのかー?」

 

「ル、ルーミアちゃん。油断は禁物だよ!」

 

 

 大越さんは僕たちがただ者じゃないってわかっているみたいだ。ここは一つ、僕達の実力をルーミアさんにも知ってもらおうか!

 

 

「じゃあ、雄二!」

 

「おう、明久!」

 

 

 僕たちの間に言葉は不要。僕達は目を合わせてから頷いて、行動に移る。 

 

 

 

「ルーミアは任せた!」

 

「ルーミアさんは頼んだよ!」 

 

「んー?」

 

「へっ!?わわ、私に2人ぃ!?」

 

 

 僕たちはルーミアさんから離れ、大越さんに接近して対峙した。あれ?

 

 

「って雄二!ルーミアさんを放っておいてどうするのさ!ここは点数の高い雄二が相手するところでしょ!?」

 

「いや、ここは明らかにお前の出番だろうが!俺は前の試召戦争で召喚をしたことが無いんだぞ!?」

 

「僕は前回ルーミアさんの召喚獣に酷い目にあったんだよ!?なのに僕にやらせるなんて、雄二には血も涙もないのかい!?」

 

「そのぶん行動が読めるだろうが!少しくらいは役に立て!」

 

「それはこっちのセリフだよバカ雄二!」

 

「野郎!表に出やがれ!」

 

「上等だバカっ!」

 

 

 僕と雄二は互いに胸元を掴んだ。ルーミアさん達の前にこいつを葬らなきゃいけないみたいだ!

 

 

「あはは、2人は仲が良いんだなー」

 

「そ、そうかなあ?なんだか全然まとまってないみたいだけど・・・」

 

 

 はっ!愉快そうな物と変な物を見る目で見られてる!これじゃ僕らの凄さが見せつけられない!

 

 

「あ~・・・・・・コホン」

 

 

 一つ咳をついて、僕は2人に告げる。

 

 

 

 

「どうだい?僕たちの凄さ、分かったかな?」

 

「ええっ!?い、今のでどうやって!?」

 

「凄く面白いのは分かったのだー」

 

 

 残念。どうやら分かってくれなかったみたいだ。

 

 

「じゃあ仕方ない!実力行使で分からせてあげるよ!雄二!作戦を説明してくれ!」

 

「そこは自分で考えろよ!……まあいい、なら俺の作戦はこうだ」

 

「うん」

 

 

 急なふりにもすぐに答えるとは、さすが腐っても神童だ。僕は雄二の言葉に耳を傾ける。

 

 

「明久があのメガネの女子、大越を引き付けて――」

 

「ふむふむ」

 

「――その間に明久がルーミアを倒すんだ」

 

「せめてルーミアさんだけにして!」

 

 

 それって僕の負担が増えただけじゃん!だったら最初の案で良かったよ!

 

 

「よしわかった!じゃあ明久、お前にルーミアは任せたぞっ!」

 

「なんだか上手く丸め込まれた気もするけど、了解!こうなったらあの時の雪辱戦だ!」

 

 

 僕達はそれぞれの敵の下へ召喚獣を走らせる。僕の狙いは、人間プレデターのルーミアさんだ!

 

 

「おー。あのときのリベンジをするのだー」

 

「悪いけどそれは僕のセリフだよ!覚悟ルーミアさん!」

 

 

 召喚獣に獲物である木刀を構えさせて、ルーミアさんの召喚獣へと突っ込ませる。こうなったら攻撃あるのみだ!

 

 

「そりゃあ!」

 

 

 ルーミアさんの召喚獣に木刀を振り下ろす。当たってくれたら儲け物の攻撃。ルーミアさんは――

 

 

「おー。お返しだー」

 

『……(ガパァッ!)』

 

 

 横にずれて難なく回避。その可愛らしい口を大きく開けてギラリと鈍く光る、刃ならぬ歯を僕の召喚獣に突き立てようとする。

 

 

「っ―――うう!」

 

 

 その鋭い歯に、僕に刻み込まれたトラウマが暴れ出して体が震えそうになる。

 

・・・でも、僕だっていっぱしの男!このままびびってたら男が廃るってもんだい!

 

 

「回避ーっ!」

 

『……(ガチィン!)』

 

 

 迫ってきたルーミアさんの召喚獣を、横に跳んで回避させる。

そこまでは前も出来たことだけど、今日の僕は一味違うぞ!

 

 

 僕は召喚獣に全力の力を込めさせて、横を空ぶったルーミアさんの召喚獣の背中に木刀を叩き込んだ!

 

 

 

「根性、いっぱぁぁあっつ!!」

 

 

 バキッ!

 

 

「!むー!」

 

 

『Fクラス   吉井明久    数学 63点

         VS

Dクラス ルーミア・アピュエス 数学 83点 』

 

 

 

 よし!あの時とは違って、ちゃんと点数を減らせた!

 

 

 

「やったなー!」

 

 

 のけぞりそうになりながらも、ルーミアさんの召喚獣はすぐに僕の召喚獣に向き直って口を開けて迫ってくる。

 

 

「よっ!もういっちょぉ!」

 

 

 バシッ!

 

 

「あうー!」

 

 

 一度回避して攻撃に移れたのが自信になって、僕はなんなく横にずれてかわすことに成功。もう一度木刀をヒットさせた!

 

 

『Fクラス 吉井明久       数学 63点

       VS

 Dクラス ルーミア・アピュエス 数学 38点 』

 

 

 

「な、なんだか前と違う気がするのだー!?」

 

「今回は君に、グロテスクな物を見せられてないからね!」

 

 

 あれを見て思いっきり動揺したけど、冷静なままだったら僕には経験という大きなアドバンテージがある!だから、今回は勝ってみせるぞ!

 

 

「やー!」

 

「何度やっても無駄だよ!」

 

 

 またルーミアさんの召喚獣が襲いかかってくるけど、僕は慌てることなく横にずれ

 

 

 ガシッ!

 

 

「!?げっ!」

 

「捕まえたぞー!」

 

 

 僕の腕を手が掴んだ感覚がってややばい!このままじゃ避けられな――

 

 

「お返しなのだっ!」

 

 

 

ガブゥッ!

 

 

 

「!!!にぎゃああああーっ!!腕に針山が突き刺さったような痛みがァァァあ!!」

 

 

 

『Fクラス  吉井明久      数学 41点

        VS

 Dクラス ルーミア・アピュエス 数学 38点 』

 

 

 

 痛ってええええええっ!点数が僕より下なはずなのに!まともにくらったら痛さはあの時と変わんないいいいいい!

 

 

「形勢逆転で、このまま勝つのだー!」

 

「ぐ、ぐぎぎ・・・!」

 

 

 じ、じわじわと痛みが増してきた・・・!うううう…!このままじゃ、ルーミアさんに僕の点数がゼロになる!

 

 でも、僕達は負けるわけにはいかないんだっ!

 

 

「グッ――っっでえぇぇぇえいい!」

 

 

「!?わ、わー!」

 

 

 噛みつかれた腕を渾身の力で空に掲げると、噛みついていたルーミアさんも一緒に空に浮んだ。今は僕の方が点数が高いから、彼女に抗うすべはない!

 

 いっつ・・・!も、もっと痛みが増したけど、ここは我慢だああああああ!

 

 

「な、何をする気なのだー!?」

 

「き、君を倒すんだよ!今度こそ覚悟するんだ、ルーミアさん!」

 

 

 バタバタするルーミアさんの召喚獣が、出来るだけ上に上がったのを確認して……僕は召喚獣に、一気に腕を振り下ろさせる!

 

 

「かち割れろぉぉぉおっ!!」

 

「!?ひ、ひどいのだーっ!」

 

 

 君が言わないでっ!そう思ったけど口にはせずに、僕は渾身の力で腕、そしてルーミアさんの召喚獣の頭を地面に叩きつけた!

 

 

ゴッチィィン!

 

 

「あうあーっ!?」

 

 

『Fクラス   吉井明久    数学 41点 

        VS

 Dクラス ルーミア・アピュエス 数学 0点  』

 

 

 

 期待通り、ルーミアさんの召喚獣は鈍い音をたてて地面に強かに頭を打ち付けた!起きる気配は全くないし、点数を見ても・・・!

 

 

「――やったあああ!僕の勝利ぃぃぃい!!」

 

「む、むーっ!また負けたのだー!」

 

 

 ルーミアさんの点数がゼロになったぁぁあ!!これで僕の雪辱は晴らせたよー!

 

 

「オラオラオラオラオラオラアッ!!」 

 

「きゃああああ!!」

 

 

 向こうでは雄二の召喚獣がそのメリケンサックでラッシュをかまして、大越さんの召喚獣をぼこぼこにしていた。これでは大越さんの召喚獣も無事には済まない。

 

これでめでたく、僕たち二人の勝利だ!

 

 

「そこまでね。勝者は、吉井君と坂本君のペアーよ」

 

 

 勝敗の軍配が紫先生によってあげられる。よし!見事一回戦勝利だ!

 

 

「ご、ごめんルーミアちゃん負けちゃった!」

 

「んーんー。私も負けたから,おあいこなのだー。……あなたは、なんていう名前だったかなー?」

 

 

 向こうの2人が残念そうに慰め合っていたけど、ルーミアさんが僕にそう尋ねてきた。ま、まさか腹いせに僕を食べる気!?

 

 

「え、え~と・・・よ、吉井明久だよ?」

 

「吉井明久・・・ん、そうなのかー。おめでとうなのだ吉井」

 

「へ?あ、ありがとうルーミアさん」

 

 

 そんなことは全くないようで、ルーミアさんはニコニコ笑って僕の勝利を褒めてくれた。う~ん、やっぱりこの人はいい人なんだね。怖すぎる召喚獣がのせいで僕は怖がっていたけど、これからは気にすることなくルーミアさんと仲良くなれそうな気が――

 

 

 

「でも、今度は吉井の召喚獣をバリバリ食ってやるから、覚悟するのだー」

 

「そんな日が来ないよう、全力で僕は願うよっ!」

 

 

しなかった。その感覚を想像するだけですごい恐ろしくて痛いっ!やっぱりルーミアさんは僕のトラウマだよっ!もう顔を見るのも怖いよ!

 

 

「まずは一勝だな、明久」

 

「あ、そうだね。まずは一勝だね」

 

 

 お、おっとっと。そういえば僕にはまだやることがあったね。ルーミアさんの宣言は二度と来ないと信じて、ひとまず忘れよう。

 

 そして、僕と雄二は向き合って勝利の確認をしあう。

 

 

「そんじゃあ、改めてー」

 

「うん」

 

 

 互いに一致したので、僕らは手を差し出して―――友情を確かめ合った。

 

 

 

「さっきの決着をつけるぞクソ野郎!」

 

「それはこっちのセリフだよバカ野郎!」

 

「ひぇ!?け、喧嘩し始めたよあの2人ー!?」

 

「あはははー。ご飯は残念だけど、おもしろいものが見れたからよかったのだ!」

 

 

 破顔するルーミアさんたちを横目に、僕達は熱い思いを拳に乗せて互いの顔面へと叩き込みあった。

 

 

 

 

『う~ん。アグレッシブな人も、見ていて飽きないわね?意外とアリなのかしら?』

 

『あ、ああのや、八雲先生!?むだ、じゃ、じゃなくて変ななこと言うのを止めて、ま、まずはケンカを止めましょう!なんだかすごい本気で殴り合ってますよあの2人!?』

 

『ちょっ、あなっ、い、いいい今無駄って言ったわね!?おとなしい顔をして、私の心を破壊してもおかしくないことを言ったでしょ!?』

 

『ひぃ!ご、ごめんなさいっ!つつい本音が出ましたっ!』

 

『ぐふっ!?しょ、正直に言えばいいってものじゃないわよバカ・・・!もっと先生を敬いなさいっ!八雲先生はレディーって言うのよ!』

 

『い、今全然関係ないと思いますよ先生!?』

 

『ん~?八雲先生はレディーなのだ』

 

『まあ!あなたは優しいわねぇ~!はいどうぞ、お菓子よ!』

 

『わー、ありがとうなのだ!』

 

『うふふ。じゃあ、もっと言ってちょうだい!『八雲先生は可愛い』とか、『八雲先生はお淑やか』とか『八雲先生はまだまだ若い』とか!言ってくれたらもっとお菓子をあげるわ!』

 

『せ、先生!物で生徒を釣って得るのが自己満足なんてやめてください!見てるこっちの方がつらいですっ!』

 

『うるさいっ!私はそれで心が救われるからいいのっ!さっ、ルーミアさんお願い!言ってくれたらお菓子よ!』

 

『・・・・・ムー・・・・・』

 

『?どうかした、ルーミアさん?』

 

『ル、ルーミアちゃん?』

 

 

『……私、あんまりウソは言いたくないのだ』

 

 

『え?ウソ?』

 

 

『うん。・・・・・さっき先生が言ったこと、言ったらウソになるのだ』

 

 

『・・・・・?!ひぎいっ!?』

 

 

『ちょ、ルルルルーミアちゃん!?八雲先生が変な悲鳴あげて卒倒したよ!?正直に言ったらダメだってさっき言われてたでしょー!』

 

『え~?でも、ウソは言いたくなかったのだー』

 

『さ、最初レディーって言ったよね!?あれはどうなの!?』

 

『え?八雲先生は男なのか!?』

 

『なるほどねっ!ルーミアちゃんは本当に正直で偉いよ!けど、今だけはやめてほしかったな!先生、うつろな目をを止めて返事してください!八雲せんせ~っ!』

 

 

『……あ、あはは・・・ぶ、ぶさいく……うるさい…………オ、オバサ、ン・・・・』

 

『そ、そうだったのか~・・・八雲先生は、男なのか・・・』

 

『違う!女であってるよルーミアちゃんそれ!だ、誰かこの状況を収めるの手伝ってよぉぉ!!田中くうぅぅんっ!』

 

 

 

 

『――はっ!?』

 

『・・・どうした、田中』

 

『あ、ムッツリーニか。いや、彼女―――がいないからさみしいなって思っただけだ。だから俺にカッターとかボールペンで攻撃体制をとるのはよせ!というかこの一単語にどんだけ反応してんだお前らっ!』

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、まずは改めての紹介を!幻想郷という楽園を創り、最強の妖怪の名を冠するスキマ妖怪!境界を操る女賢者、八雲紫さんのご登場です!そんな方にこの扱い。知られたら村雪は即座に時空の狭間ですね!

 そんな紫さんと一緒に、久しぶりにルーミアさん達にも出てもらいました!噛みついて攻撃、というのは子供のころからよくやりましたが、彼女はレベルが違いすぎて、あごの力がどうなっているのかが恐ろしいです。

 召喚大会を書くにあたって、美鈴さんたちだけにするか、明久達も書くかで悩んだのですが、元々を知らないと分かんなくなっちゃいますので、できうる限りは書いていきくことにしました!原作を知らない方はご安心を!

 とはいえ、やっぱりどこかでは原作と同じということで省かせてもらう可能性がありますので、その時は申し訳ない!後書きなんかでざっくり流れは書くのでお許しください。

 では、また次回からも楽しみにしていただければ幸いです。

――それではっ!


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対策―満足、できるのならば手段は問わないでもいいと思うのです!

 どうも、村雪です!

 今回は〝奴ら〟と、もう一人、新たに東方キャラクターに登場してもらいます!とはいえ、正確にはこの人は前からところどころ出てきてもらっていたので、新しい登場ではありませんけどね!
 
 で、扱われ方が先日出てもらった先生に似ているんですけど、どうか許してください!村雪の勝手が働いたのです!

 では、そんなところを踏まえて、今回は召喚大会ナシの文化祭方面のみとなっていますが、

――ごゆっくりお読みください。



「じゃあ咲夜さん、また後で合流しましょう」

 

「ええ、次も勝ちましょう」

 

「勿論です!」

 

 

 召喚大会一回戦を終えた私と咲夜さんは、廊下で別れて自分のクラスへと向かいます。召喚大会出場の為に出し物の仕事を抜けてしまい非常に申し訳ないので、出来るだけ早く戻りませんとね!

 

 私は駆け足で廊下を通りぬ

 

 

 

 

「美鈴ーっ!」

 

「けぴゃんっ!?」

 

 

 あ、前にもありましたねこんなこと。

 

 

「ぎゃふっ!?」

 

 

 突然の横っ腹への衝撃に私の体は横にふっとび、したたかに壁にぶつかりました。あ、あばら骨がぁぁああ!!

 

 

「うにゅ!久しぶりだね美鈴!」

 

「・・・!!ぞ、ぞうでずね。でも、接触の仕方は変わらないみだいで、私は喜びと悲しみが半々でずよ、お空~・・・!」

 

「えへへ!」

 

 

 満面の笑顔の少女は、霊烏路 空(れいうじ うつほ)、あだ名がお空という私の友達でございます。

 今日も相変わらず元気ですね~。おおお、こ、腰から鈍い痛みがぁぁ・・・!

 

 

「あいたた・・・で、何か用でしたか?」

 

「ん~ん!美鈴がいたから突撃しただけだよ!」

 

「よ、喜べばいいのか残念に思えばいいのやらな言葉ですね」

 

 

 慕われてるのは嬉しいですけど、そのたびに私の骨が悲鳴をあげるのを考えると少し考え物です!私も少し反射神経を鍛えといた方が良いですね!

 

 

「あ、そういえばお燐(りん)さんもいるんですか?お空いるところにお燐あり、って言いますしね」

 

「にゃはは!そんなことわざ、あたいは初めて聞いたねえ~?」

 

「あ、ど、どうもお燐さん」

 

「や。美鈴さん。手貸そうかい?」

 

 

 いつの間にか、お空のお姉さん的存在、火焔猫(かえんびょう) 燐さんが近くに立っていて、笑いながら私に手を差し出してくれていました。腰の痛みに震える私には、仏様に見えます・・・!

 

 

「すみませんけど、お願いします!」

 

「あいよ。ほらお空、のいたのいた」

 

「うにゅ」

 

 

 お空にのいてもらってから、私はお燐さんの手を握ります。やっぱり2人は一緒にいるのがしっくりきますね~!いよいしょっと!

 

 

「お2人は出店回りの最中ですか?」

 

「まあね。で、次はFクラスに行こうとしてたところなんだよ」

 

「あらそうでしたか。どうぞどうぞ、大歓迎ですよ~!」

 

 

 売り上げも上がりますし、何より友達に自分のお店に来てもらうのは嬉しいですからね!

 そんなわけでほこりをはたいてから、私はお空とお燐さんと一緒にお話をしながらFクラスへと戻ります。

 

 

「へ~、美鈴さんのとこは中華風の喫茶かい。なかなか良さそうだねえ」

 

「ええ。『ヨーロピアン』って名前でしてね。きっと満足してもらえると思いますよ?」

 

「ん?ヨ、ヨーロピアン?」

 

「へ~!どんな料理が出るんだろうな~!」

 

「いやお空。あたいらは料理の前に、店名に疑問を抱くべきだと思うんだよ」

 

「その言葉、吉井君にしっかり聞いてもらいたかったですよ」

 

 

 さすがお燐さん。常識人ならではのご感想ありがとうございます!始まった今となっては、ですけどね!これを見てFクラスの奴らはバカ!って思われなければいいのですが・・・

 

 

「あ!見えて来たね!」

 

「ええ、ぜひ満喫していってください!」

 

 

 お空の言う通り、だんだんとFクラスが近づいてきました。果たして2人は気に入ってくれるのでしょうか!私は緊張しながら教室にまた一歩近づき――

 

 

 

『おいおい!なんだよこのきったねえぼろ机は!』

 

 

「―――ん?」

 

「うにゅ?」

 

 

 気のせいか、野太い罵声の声が聞こえてきたような?

 

 

『全くだ!もう少し綺麗にならないのかってんだよ!』

 

 

「・・・何やら、わめいてる人がいるみたいだね?」

 

「・・・みたい、ですね」

 

 

 それも我がFクラスから。ひどい事を言ってる声がこちらまで聞こえてきます。

 

 できれば気のせいであってほしかったんですけど~・・・これはお空さん達に入ってもらうのは、いったん待ってもらった方がいいかもしれません。

 

 

「すみません2人とも。ちょっと待っててもらえますか?様子を見てきますので」

 

「了解。んじゃここでアタイらは待っとくよ。いいお空?」

 

「ん、分かった!頑張ってね美鈴!」

 

「りょうかいです」

 

 

 2人から了承を得て、私だけでFクラスへとさらに近づきます。さて、何が起こってるのやらや。純粋に私たちのミスならば謝罪をして、誠意を見せないといけません。でも、さっきの声の感じだと――

 

 

 

『しかも、なんだこのゴマ団子は!メチャクチャまずいじゃねえかよ!』

 

 

・・・あっさりと許してくれる雰囲気じゃなさそうです。う~ん、ゴマ団子は土屋君達が作ってるから味の方は分かんないですけど、結構自信があると言っていたんですがね。失敗作がまざってしまったんでしょうか?

 

 その場合、どうやって謝ればいいのやらや・・・お代は結構とか言えばいいですかね?

 う~~~ん、どう対応すれば正解なのか・・・

 

 

『だいたいこのバカ女は何なんだ!これがウエイトレスの態度かよ!』

 

『ア、アタイはバカじゃないもん!ちゃんとアタイは頑張ってるのよさ!』

 

『ただ元気が良ければいいってもんじゃねえぞ!一回接客の意味を調べてこいバカ!』

 

『・・・!う、うう~、ア、アタイはバカじゃないもん・・・!』

 

『『バカだろうがこのバカ!』』

 

 

「よし、方針決定」

 

 

 そんなひどいことを何度も言う人たちが、普通の人なわけありません。全力で対応をすることにしましょう。

 

 私はガラリと教室の扉を開け、チルノがいる場所へズンズンと歩み寄ります。

 

 

「バカじゃ話にならねえ!ここの責任者を「失礼します」ああっ?誰だおまえ?」

 

「このバカ女の仲間か!?」

 

 

 ふむ。文月学園の制服を着てますから、どうやらウチの生徒みたいです。

 

 坊主の頭とモヒカンみたいな頭の特徴的な男子達、。こう言ったら悪いですが、やはりガラが悪い人ですねー。

 

 

「!メーリ~ンッ!」

 

「ご苦労様ですチルノ。あとは私に任せてください」

 

 

 ひどいことを何度も言われ、涙をためたチルノが抱き着いてきます。よしよし、何がどうあってこうなったのか知りませんけど、頑張りましたねー。後は私に任せてください!

 

 

「お待たせしました。私が代表補佐の紅美鈴と申します。何かご不満がおありでしょうか?」

 

 

 とりあえず礼儀正しさが大事。私は出来るだけ丁寧に、そして柔和に2人にうかがいました。

 

 

「おう!不満に決まってるだろうが!なんだこの汚い箱は!」

 

「そうだ!よくこれで店なんかやってられるな!体を壊したらどうしてくれるんだ!」

 

 

 チルノと同じように2人は声を荒げて文句を言ってきます。ふむ、その点については――

 

 

「ご安心くださいお客様。そちらのテーブルやクロスは消毒、殺菌をしておりますので、お客様の健康には影響を与えないと保証いたします」

 

 

 ウソなどではなくこれは本当です。ミカン箱に関しては消毒用エタノールを付けた布でしっかり掃除しましたし、クロスの布も家に持ち帰って洗濯もしましたから衛生面についてはまず大丈夫です。

 

 ですが2人に納得した様子はありません。変わることなく声を荒げてきました。

 

「そういう問題じゃねえよ!俺たちが言ってるのは――」

 

「どういう問題でしょうか?」

 

「…だから・・・・・・・・・こ、こんな汚い所で喫茶店なんかするなってことだ!気分が悪くなるじゃねえかよ!」

 

「・・・・・・」

 

 

 そんな坊主頭さんの言い分。ふ~ん。汚いところだと気分が悪くなる、ですか。

 

 

「お客様は、潔癖症でしょうか?」

 

「あ?・・・・・だ、だとしたらなんだよ?俺が潔癖症だったらダメなのか!?」

 

「いえ。そういうわけではないのですが――」

 

 

 今の間は考慮の間なのか、かなりウソな気もしますが・・・仮に本当だとして、どう考えても矛盾してますよね?

 

 

「―-―ただ、汚いのが嫌と言われるお客様が、あなた自身が汚いとおっしゃる教室にいるのはなぜだろう、と不思議に思いましてね。失礼を承知で言わせてもらいますが、それならば最初に入らなければよろしかったのではないでしょうか?」

 

「っ!?あ、いや。そ、それは・・・・・・」

 

「お、おい、夏川・・・!」

 

 

 虚を突かれからか、顔を引きつらせる夏川と呼ばれた坊主さんとモヒカンさん。

 

 この2人は文月学園の制服を着ているから、Fクラスの教室の設備が良くないというもことを知らないはずがありません。設備が良くない事を知っておきながら、さらには潔癖症とウソをついてまでこのクラスの設備をけなすあたり・・・私たちFクラスの営業を妨害しようとしているのは間違いないでしょう。

 

 一体どうしてそんなことをするのかは知りませんけど・・・・・・おかげで罪悪感を感じることなく行動が出来ますよ。

 

 

「ともかく、他のお客様の気分を害するような行動はおやめいただければ。ここはお客様にゆったりとくつろいでいただく喫茶店ですので、大声を上げるのはお控え下さいませ」

 

「!な、なにを言ってやがる!原因はお前らの準備の悪さだろうが!何を俺たちが悪いみたいに言ってんだよ!?」

 

「そうだ!責任をなすりつけてんじゃねえ!」

 

 

 2人はそう言って抗議をしてきますが・・・・・・それを決めるのは、私でもなければあなた達でもありません。

 

 

 

『良かった。この机とかはきれいなんだって』

 

『うんうん。それなら気にしなくていいですね~』

 

『つうか、あの2人も言い過ぎなんだよ。別に布が綺麗で気にならなかったってのに』

 

『余計なことを言うなっての、あの坊主とモヒカン野郎。誰だよあれ』

 

『可愛い美鈴さんとチルノちゃんにあんな言い方するなんざ、ろくな奴じゃねえな』

 

『あれは、三年生でも評判が良くない夏川と常村よ。三年の私らが言うのもなんだけど、三年生の汚点よ』

 

『本当ですか先輩?こ、後輩としてそれは嫌ですね・・・』

 

『夏川、常村。反面教師として覚えておこうぜ』

 

『『夏川、常村。三年の汚点・・・・・・』』

 

 

「「う、うぐぐっ・・・!!」」

 

 

 ありがたいことに、ひどい言い方に不快感を示してくれる方が大多数で不満の矛先は私たちFクラスではなくクレーマーの二人組。これは地味ながらも心に来るでしょう。

 

 

「も、もういいっ!出るぞ夏川!」

 

「お、おう!こんな店いてられるかってんだ!」

 

 

 居心地が悪くなった2人は立ち上がって退散しようとし始めます。クレーマーが退散してこれで終了・・・と言っても良かったんですけど・・・・・・

 

 

 今から私は、友達の仇のために悪になってみせましょう。

 

 

「そうですか・・・・・・では、お詫びとしてお2人に受け取って欲しいものがございます」

 

 

 よいしょ、足首をほぐして~・・・

 

 

「あ?お詫び?」

 

「へっ!やっと自分たちの非を認めやがったか!」

 

 

 やたら嬉しそうににやにやしながら坊主頭さんが私に叫びます。あ~。残念ですが、今の私は悪いことをする悪人。

 

 

「で、詫びに何をくれるってんだ?」

 

「はい、それはですねぇ」

 

 

――なので、提供するものも悪いものでございます。

 

 

 

 

「―――中華秘伝の足技でございますー♪」

 

 

「「は?」」

 

 

「せいっ!」

 

 

 私は右足を軸に体を一回転させ、加速した左足を坊主頭さんの顔面に叩き込みました。

 

 

 バギャアッ!

 

 

「げぶるぁっ!?」

 

「!?なな夏川ーっ!?」

 

 

 おお。なかなかうまく入りましたね。坊主頭さんの体がクルクル宙で回り、そのまま重力の方式に従って顔から畳へと落下しました。これはなかなか効いたことでしょう。

 

 さて、身だしなみを整えてと。

 

 

「お待たせしました。次はあなたにも味わってもらいますね。え~と・・・モヒカン様?」

 

「誰がモヒカンだ!俺は常村だっ!・・・というより、な、何をしやがる!?」

 

 

 モヒカンさん改め、常村さんが驚きの声をあげます。

 

 

「何を、と言われますと・・・・・・お詫びでございますが?」

 

 

 正しくはお礼、ですかね?

 

 

「どこに詫びの要素がある!?ただ単に回し蹴りをしただけじゃねえかっ!」

 

「ええ。ですからお詫びとしての足技を披露しているのでございます」

 

「わ、詫びと全然噛みあってねえよ!詫びじゃなくてむしろ罰ゲームだそれはっ!」

 

「いえいえそんなことはありません。これはれっきとしためっさつ…じゃなくてお詫びです」

 

「今滅殺って言ったよな!?罰ゲームも可愛い間違いだったのか!?」

 

 

 おおっと。つい本音が出てしまいましたよ。

 

 

「ふむ。常村様はこのやり方はお気に召さないようですね」

 

「ったり前だ!俺は蹴られて喜ぶマゾじゃねえ!」

 

「では、常村様には安らかに眠りを味わってもらう『安眠法』を提供させてい頂きましょう」

 

「絶対に気絶させる気だろそれ!?」

 

 

 む、なかなか鋭いですね。他人への中傷はしても全く気にしてなかったのに、自分のピンチには敏感です。

 

 

「まあまあ。百聞は一見にしかずです。ぜひ味わってください!・・・・・・消えゆく意識の感覚を」

 

 

 申し訳ないですが、店の売り上げはクラスの設備向上、ひいては瑞希さんの引っ越しにも関わる重要要素。ここは二度と妨害なんかをしてもらわないよう、心に刻んでもらいます……!

 

 

「い、今恐ろしいことをつぶやいたか!?そんなもん味わいたくね、あ、ちょ、やめろぎゃああああああ!!」

 

 

 願わくば彼らの心が入れ替わらんことを。そんな善人ぶった事を考えながら、悪人の私はクレーマー2人を撃退しました。

 

 

 

 

 

 

「まったく、雄二が悪いっていうのに殴り返してきて、酷い奴だよ」

 

「お前が言うか明久。俺は召喚獣を操作したことがないっつってんのに働かせようとしやがって」

 

 

 そりゃそうでしょ。点数が高い人が高い人とやり合うものじゃないか。

 

 召喚獣大会一回戦の後に、相棒と熱く殴り合っていた僕達。しだいに不毛だということで、互いに一発特大の物をさく裂してから切り上げて教室へと戻っていた。う~ん。まだほっぺたが腫れてるよ。まあ雄二もだからおあいこだね。

 

 

「ん?」

 

「?どうしたの雄二」

 

「あそこで立っているのは、Dクラスの女子じゃないか?」

 

「あ。ほんとだ」

 

 

 雄二に言われて前を見れば、Fクラス教室の近くでDクラスの見知った女子2人がおしゃべりをして立っていた。

 

 

「火焔猫さん、霊烏路さん。そんなところで立ってどうしたの?」

 

「え?・・・あ!久しぶり!よしひさ!あと・・・・・え~~と、バ、バカモトだっけ!?」

 

「吉井明久だよ!?」

 

「坂本だっ!ひどい間違えだなおい!?」

 

 

 う~ん、相変わらずだなあ。でも雄二のは本質をとらえてるからある意味正解だね。

 

 

「あ、そっか~!ごめんごめん!」

 

 

 あちゃあと笑う少し天然な彼女は、化学の点数と女性の象徴がずば抜けてすごい少女、霊烏路空(れいうじ うつほ)さん。

 

「おや、吉井君に坂本君じゃないかい。久しぶりだね」

 

 そして至って普通の対応を笑顔でする彼女は、とっても気前の良い少女、火焔猫 燐さん。以前Dクラスと戦ったときに色々な意味でお世話になった二人組だ。

 

 

「うん。久しぶりだね2人とも。ひょっとして僕たちのクラスに来ようとしてくれてたりするのかな?」

 

 一人一人の売り上げが重要な僕らにとっては神様に与えられた加護。そうでなくても店に来てほしいところだ。自分達の店で喜んでもらえたらずっごく嬉しいもの。

 

 

「うん。そのつもりだよ。でも、今はちょっと美鈴さんの首尾を待っていてね」

 

「へ?」

 

「ん?」

 

 

 でも、火焔猫さんはよく分からない事を言って親指でFクラスを指さした。はて?美鈴さんがどうしたんだろ?

 

 

「紅がどうした?」

 

「ああ、それがね――」

 

 

「あ、お空、お燐さん。もうオッケーですよ。来てもらって大丈夫――って、あら吉井君、坂本君。どこに行ってたんです?」

 

 

「あ、美鈴さ・・・・・・ん」

 

 

 噂をすればなんとか、美鈴さんがFクラスから出てきて歩み寄ってきた。

 

 

 

・・・・・・文月学園の制服を着た男子二人を脇に抱えながら。

 

 

 

 え、何があったの!?もしかして姫路さんか藤原さんのお手製リョウリを食べたとか!?

 

 

「ん?その2人なのかい、美鈴さん?」

 

「ええ。なんでも三年生の方だそうですよ」

 

「ふ~ん。そりゃひどいことをするねえ。優しくしろとは言わないけど、もう少し穏便にしてあげてほしいものだよ」

 

「うん!すっごい大声だったもんね!」

 

「すまん三人とも。俺たちにも何があったのか分かるように説明してくれ」

 

 

 雄二が説明を求めて3人の会話をストップさせた。でもさっきまでの話だと僕らじゃなくて美鈴さんの脇の2人が何かをしたみたいだから、そこんところは一安心だね。

 

 

「ああ。実はこの三年のお二人さんが、営業妨害みたいなことをしてくれましてね」

 

「なに?」

 

 

 でも、内容自体はあまり良くない事態だった。

 

 

「ええ!?ホントなの美鈴さん!?」

 

「はい。ゴマ団子がまずい!とか机が汚い!なんかを大声で言われまして」

 

 

 なんって先輩たちだ!この学校では一番大人なのに、僕たちが一生懸命になって作ったお店を陥れるなんて!売り上げが下がって設備を向上できなくなったらどうしてくれるんだ!

 

 

「・・・んで、その2人が気絶してんのは紅の手捌きか?」

 

「まあそうなりますね。・・・少し、やりすぎたかもしれませんけど」

 

「いや、それぐらいがクレーマーにはベストだ。良くやってくれた」

 

 

 不測の事態なのに、雄二は全然慌てず美鈴さんを労った。まるでこうなることを予想してたって感じだけれど、まさかそんなの分からないよね。

 

 

「そう言っていただければ安心ですよ。では、坂本君と吉井君はお空とお燐さんの案内をお願いできますか?」

 

「ん?よし分かった」

 

「美鈴さんはどうするの?」

 

「この二人を保健室に連れて行ってきます。私がやったことですからね」

 

 

 相変らず優しいなあ。僕だったらきっとゴミ箱に頭から突っ込んであげてたところだ。

 

 

「わかったよ。任せて美鈴さん!」

 

「よせ明久。お前が言うと紅が不安になっちまうぞ」

 

「僕の自信は不安材料なの!?」

 

 

 全く失礼な!僕だってやる時はやるんだからね!

 

 

「それでは頼みますねー。よいしょっと・・・」

 

 

 僕たちに火焔猫さん達の案内を頼んだ美鈴さんは、その先輩2人を抱えながら保健室の方に歩いて行った。・・・・・・良く考えると、男子を2人抱える女子って凄いね。

 

 

「さて。じゃあレディーの案内を頼もうかい、おふたりさん?」

 

「うつほ、美味しいものは大好きだから、しっかり食べさせてね!」

 

 

 女の子2人がそう言って僕たちを期待のこもった目で見てくる。美鈴さんからも言われてるし、これは頑張らざるを得ない!

 

 

「了解!じゃあついてきて2人とも。僕達がしっかりエスケープしてみせるよ!」

 

「それは出来れば、緊急事態が起きた時に頼みたいね」

 

「それを言うならエスコートだバカやろう」

 

 

 あれ?じゃあエスケープってなに? (A. 『避難する、させる』という動詞です)

 

 

「??えすけえぷって何?」

 

 

 霊烏路さんも僕と同じだったみたいで首を傾げてる。どうやら難しい単語だったみたいだから僕が間違えるのも仕方ないことだったんだね。 ( そこまで難しくありません)

 

 

「まあせっかく来たんだ。堪能していってくれ」

 

「もともとそのつもりだよ。いや~楽しみだね!」

 

 

 雄二がガラリと扉を開けて2人を招き入れる。よし、僕も頑張ってホールの仕事をしないとね!

 3人に続いて僕もFクラスへと入った。

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそ中華喫茶『ヨーロピアン』へ、と。明久と雄二もおるのか」

 

 

 そんな僕らを出迎えたのは、美少女にしか思えない男子の秀吉。う~ん。ウエイトレスレスの格好が眩しいなあ。

 

 

「おお。こりゃまた可愛らしい子が出迎えてくれるね~」

 

「わ~、可愛いなあ!」

 

「む、むう。あまり嬉しくないお言葉じゃ・・・」

 

 

 可愛いと言われて秀吉が顔をしかめる。きっとそんな仕草なんかが原因だと僕は思う。

 

 

「秀吉。さっきクレーマーがここで文句を吐き捨てていたそうだが、店はどうだ?」

 

「うむ。そのことは後で話させてもらうのじゃ。まずはこの2人を案内せねばな」

 

「そう?じゃあ、2人で頼むよ」

 

「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」

 

 

 そう言って2人を案内する秀吉。お客さんを優先して仕事をしっかりするのはさすがだ。

 

 

「・・・あれ?なんだかテーブルが変わってない?」

 

 

 クレーマーのせいでお店の雰囲気が悪くなっていないかを確認してたら、僕達が召喚大会に行く前とテーブルがいくつか変わっていることに気付いた。ミカン箱にクロスをかけた簡単な机が、かなり立派なテーブルになっている。入れ替えたのかな?

 

 

「ん?確かに入れ替わってるな」

 

「それなんじゃが、先ほど紅に頼まれてのう」

 

 

 あ、秀吉だ。どうやら案内は終わったみたいだ。

 

 

「何を頼まれたんだ?」

 

「『綺麗な机を調達できませんか?』と聞かれてな。演劇部の小道具で使っていた机を準備したのじゃ。いくら穏便にまとまりがついたとはいえ、原因となったものは改善した方がよいのは確かじゃしな」

 

「それもそうだね。さすが美鈴さんだ」

 

 

 それならお客さんも安心していられるし、万一って事態も回避できる。お客さんの足が遠のくって事態も避けられたみたいだ。

 

 

「じゃが、いかんせん数が少なかったので、全部の机を入れ替えることはできんかったのじゃ・・・」

 

「ああ、だからミカン箱の机も残ってるんだね」

 

 

 そりゃあテーブルなんて大道具、二、三個あれば十分だ。それを全部持ってきてくれた秀吉は十分協力してくれたから、申し訳なさそうにする必要はどこにもない。

 

 

「済まないな秀吉。なら後の事は俺たちに任せろ」

 

 

 雄二も同じ気持ちだったみたいで、秀吉の肩を叩いて労った。

 

 

「あと?雄二、後の事って?」

 

「それだが明久。ちょっと手伝え」

 

「あ、了解」

 

 

 僕は悩むことなく即答する。秀吉も頑張ってくれたんだから、僕も頑張らないとね!

 

 それに頷いた雄二は、再び店内を見渡した。

 

 

「あとは・・・・・・お~い霧雨!」

 

「では、ごゆっくりご堪能を~!―――ん?なんだ坂本?」

 

 

 ウエイトレスの仕事をしていた魔理沙が、呼ばれて近づいてくる。ひょっとして、魔理沙にも手伝ってもらうつもりかな? 

 

 

「ちと人手がいるから手伝ってほしいんだが、いいか?」

 

「おお、別に構わないぜ」

 

 

 魔理沙も特に迷うことなくオーケーを出した。う~ん、仕事をほったらかしちゃうことになるけどいいのかな?ま、代表の雄二が言うんだからいいか!

 

 

「助かる。んじゃまあ2人とも、行くとしようか」

 

「おう」

 

「わかったけど、どこに行くのさ?」

 

 

 前を歩く雄二は僕の疑問に、口の端を吊り上げて悪そうに笑って答えた。

 

 

「テーブル調達だ」

 

 

 

 

 

 

 

「吉井君に坂本君に霧雨さん!!そ、そのテーブルを返しなさいっ!」

 

「そ、そんなにテーブルをもってどうするつもりなの!?」

 

 

「2人とも走れ!捕まったら生活指導室行きだぞ!」

 

「鉄人の根城!?そんなの冗談じゃないよ!」

 

「言われなくても、十分走ってるわぁっ!」

 

 

 そして現在。学園の応接室のテーブルをゲットした僕らは、追手の先生から逃亡中でございます。

 

 

「とにかく一旦喫茶店に使っちまえばこっちのモンだ!一般客が使用中のテーブルを回収なんてマネは、いくら教師でも出来ないだろうからな!」

 

 

 なんて悪い奴だ。確かにテーブルは手に入るけど、代わりに僕や魔理沙の積み上げてきた信頼がパァになっちゃうじゃないか!(※悲しきかな。あなたへの教師からの信頼はわずかです)

 

 

「ふ、ふう、ふう・・・!な、なんで三人とも、テーブルを背負ってるのにっ、そんなに走れるのぉ・・げっほげほ!」

 

「や、八雲先生しっかりしてください!まだまだ先生はお若いじゃないですか!」

 

「そ、その言葉はっ、今の私には刃にしかならない、わよぉお・・・!」

 

 

 追手は遠藤先生と八雲紫先生の女教師の2人。八雲先生が息切れしているけど、若い遠藤先生は全然息を切らしていない。遠藤先生は二十代、八雲先生は三十代だそうけど、年齢って残酷だなぁ・・・

 

 

「ちくしょう!?こ、こんなことをするとは全く思ってなかったぜ!自分でオーケーって言っといてなんだけど、納得がいかないっ!」

 

 

 僕と同じように、背中にテーブルを背負った魔理沙がダッシュしながら愚痴る。確かに、魔理沙と一緒に悪い事をするなんて初めてだ。ちょっと新鮮味があって良いんだけど、いったいどういう理由があって雄二は魔理沙を誘ったんだろう?

 

 

「以前はお前に泡を吹かされたからな!俺からのささいなお礼だ!それに、霧雨はそういうことが得意そうだからだ!」

 

「前半に関しては納得がいかんし、後半に関してはなんだそういうことって!いつ私が盗みなんかやったぜ!?」

 

 

 魔理沙、雄二は何も盗むのが得意とは言ってないよ?十六夜さんも前にそんなことを言ってたけど、魔理沙は意外と手癖が悪いんだね。今度から僕も気を付けとこう。

 

 

「し、仕方ないわ。ここは西村先生を――」

 

 

「まずい、鉄人を呼ぶつもりだよ!」

 

 

 携帯を取り出した八雲先生。あのモンスターを呼ばれたら一気に僕たちが不利になる!

 

 

「明久!」

 

「あいよっ!」

 

 

 雄二に呼ばれて僕は足で上靴を片方脱ぎ、雄二へと蹴り上げた。

 

 

「くらえっ!」

 

「あっ!わ、私のシンプルフォンーっ!」

 

 

 雄二がそれをシュートし、上手く八雲先生の手元に命中。大きな文字が書かれていて、お年寄りがターゲットであるとってもわかりやすい携帯が廊下に転がり落ちた。

 

 

「やるじゃないか坂本!」

 

「まあな!それでは御機嫌よう、先生方!」

 

「ああっ。僕の上靴・・・」

 

 

 仕方ない。後で捨てられてなかったら拾いに来よう。あとはこのテーブルを人の目が無いところに置いて、秀吉にその場所を伝えて回収してもらうだけだ。

 

 

「よし、じゃあ次は職員室そばの休憩室を攻め――」

 

 

 

 

「くぉおらああっ!お前たちは何をやっとるかぁぁ!!」

 

 

「「「いっ!!?」」」

 

 

 

 突然の女性の大声に、僕らは揃って身を震え上がらせた。

 

 

 テーブル越しに後ろを振り向くと、ちょこんと可愛らしい置物みたいな帽子をかぶった水髪の女性が、髪をふり乱し、怒りの顔で全力疾走してくるのが見えた。

 

 

「雄二!か、上白沢先生だっ!」

 

「み、見りゃあ分かるちくしょう!」

 

「ま、まじかよ!?」

 

 

 彼女の名前は上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)先生。日本史の先生にして、鉄人を含めて三本の指に入る、体育会系の先生だ。もちろん、体力も鉄人に劣らない。

 

 

「も、もっと早く走れお前ら!捕まったら地獄の頭突きが待ってるぞ!」

 

 

 雄二の言う通り、鉄人が拳で制裁を下すのに対して、上白沢先生は頭を使った頭突きで罰を与える。その威力は折り紙つきで、くらった人の全てが地獄を見るのだとかの噂が流れてる、怒ると恐ろしい先生だ。

 

 

「いやだあ!美人の先生と触れあうことは出来るけど、地獄を見るのはもういやだああ!」

 

 

 ルーミアさんとのゾンビ勝負対決や、八雲藍先生との『橙ちゃんお嫁にください事件』なんかで僕の体は既にボロボロなのに(※とっくに完治してます)、これ以上僕には耐えられない!絶対捕まるもんか!

 

 

「んなもん俺だって同じだ!地獄を見るのは翔子だけで十分だ!」

 

 

 今だけは雄二と凄い親近感を感じるよ!僕らはさらに全力で走りだす!

 

 

「こら!待つんだお前達!大人しく机を返せば何もしないっ!」

 

「勘弁してください上白沢先生!全部終わったらきちんと返しますから!」

 

「私が言ってるのは無断で机を取るなということだ!今すぐそれを返しなさい!」

 

「それはできません!」 

 

 

 理由もなくやってたならすぐに返したいけど、これは非常に重要なことに繋がっているから絶対に返すことは出来ない!、

 

 

「そうか・・・・!なら、吉井、坂本、霧雨!覚悟は出来てるんだろうなあ!」

 

 

 やばい!上白沢先生が本気で怒った!足の速さもさらに上がって、どんどん僕らに追いついてくる!

 

 

「ゼエッ…ゼエッ・・・!」

 

「ま、魔理沙頑張って!」

 

 

 魔理沙の息がだいぶあがってきている。前の鉄人に追われてた時とは違って、自分の大きさぐらいのテーブルを背負ってるから息切れが早くなるのも当然!このままだと、魔理沙が鬼頭突き餌食に・・・!

 

 

 

「・・・し、仕方ねえ・・・!こういうことだけ言いたくなかったが・・・・・・!!」

 

「え、魔理沙!?」

 

 

 急にスピードを落とし、上白沢先生の方を見る魔理沙。ま、まさか投降する気!?そんなっ!君のことを信じてたのに――!

 

 

 

「慧音先生っ!」

 

「なんだ!?」

 

 

 

「――そんな怒ってばっかだから、しわができたり、髪の毛が抜けていくんだぜ!」

 

「「ぶっ!?」」

 

「―――――っ!!?」

 

 

 え、ちょ、な、なんてこと言うんだよ魔理沙!?そんなこと言ったら、橙ちゃんが絡んだ時の藍先生みたいにパワーアップして追って来るんじゃない!?もっと状況が悪化するんじゃないの!?ほら、先生ももっと怒った顔・・・に・・・

 

 

・・・・・・ん?

 

 

 

「違う、これはしわじゃない・・・・・・!これは少し肌が乾燥してるだけ・・・別にしわなんかじゃないぃ・・・・・・!!髪の毛だって、人間だったら抜けるに決まってるじゃないかぁ・・・!!」

 

「か、上白沢先生!?急に崩れ落ちて大丈夫ですか!?」 

 

「・・・分かります先生。あなたの苦しみが、私には痛いほど理解できるわぁぁぁあ・・・!!」

 

「や、八雲先生まで!?あ、あのいったいなにが――」

 

「若い先生には関係ないっ!(わよぉ!)」

 

「ひえぇっ!?な、なんだかすいませんでしたぁ!」

 

 

 そんなことは無かったみたい。しかも、八雲先生も一緒に寄り添うおまけつきで、効果は抜群だ。なんだか哀愁が漂っていて、見る僕も哀しくなってくる光景だなあ・・・

 

 

「よっしゃ!不本意だが、これで足止め出来たぜ!」

 

「ははっ!よくやった霧雨!今のうちにさっさと行くぞ!」

 

「2人にはその内天罰が下ると思うよ!」

 

「私だって断腸の思いで言ったし、何よりもウソじゃないから神様もきっと許してくれるぜ!」

 

「時にはウソをつくのも大事な気もするけどね!」

 

 

 そしてそれは間違いなく今だ!願わくば、魔理沙に罰が下らんことを・・・

 

 そう思いつつも、若くいることに僕は初めてありがたみを感じながら、2人の老いを嘆く女性たちから離れていった。

 

 

 

 

『ん~!おいし~!すごいねみずき!』

 

『あ、ありがとうございますお空ちゃん!』

 

『んにゃ~、これは確かに上手いねえ。驚いたよ!』

 

『あはは。そう言ってもらえると、きっと厨房で頑張ってる皆さんも喜んでくれます!』

 

『それは良かったよ。・・・・・・う~ん、しっかし・・・おっきいねえ~』

 

『??えっと、はい?』

 

『え、そうお燐?おいしいけどおっきさは普通だと思うよ?』

 

『な、何か私の身体についてましたかお燐さん?』

 

『や、こっちのことだけど・・・・・・小さいのは小さいで、あたいは悪くは無いと思うんだけどな~』

 

『『??』』

 

『そう思うっ!ウチもそう思うわ!』

 

『わっ、み、美波ちゃん?』

 

『おおっと?・・・・・・どうやらあんたも、あたいと同じかい?』

 

『うん・・・!この悲しみを分かってくれるのは、同じ境遇な人だけよ!』

 

『いいや、悲しむことなんかないさ。小さくても魅力があるものだよ。恥じることなどきっとないさ』

 

『・・・・・・!!ウチ、そんな言葉初めて言われたっ!』

 

『おうっ。いい握手だね。名前を聞いていいかい?』

 

『島田美波!美波って呼んで!』

 

『あいよ美波。あたいはお燐でも燐とでも好きに呼んでよ、にゃはは!』

 

『うん、お燐っ!ウチの初めての理解者!』

 

 

 

『???小さいのより、おっきい方が良いよねみずき?一杯食べられるもんね?』

 

『は、はい。わ、私もその、食いしん坊ですから、やっぱりお団子は大きい方が嬉しいです、おくうちゃん!』

 

 

『『おだまり2人っ!』』

 

『きゃっ!?』

 

『うにゅっ!?』

 

 




 

 お読みいただきありがとうございます!

 さて、では恒例のご紹介を!
 白沢(はくたく)と人間のハーフにして、歴史を食す人里の寺子屋の先生、上白沢慧音先生です!早くから出演されていたのですが、ようやく紹介が出来ました!

 そんな回に、紫さんと似たような扱いをしてしまって申し訳ない・・・!ですが、あの流れで三人がに逃亡してもらう方法が思いつかなかったんです・・・!この発想力のない村雪を許してください~!

 で、モヒカンさんと坊主頭の二人も出したのですが、彼らはやっぱり悪いことをする典型的な悪!というイメージがありましたので、少々痛い目にあってもらいました!彼らも根本君に続き不憫キャラクターになると思うので、ここで宣言しておきますね!


 で、次回なのですが、新たな東方キャラクター二名、出てもらう予定です!あまり彼女らしさを出せるか自信がないのですが、少しでも楽しみにしてもらえれば!


 それではまた次回っ!


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二回戦―攻撃、のすきを突くのは戦いの基本でございます


 どうも、村雪です!今日も天気が悪いですが、涼しくもあるので悪くはない気がしますね!

 さて、前回も書きましたが新しく東方キャラクターに出てもらいます!が、前回述べた数よりも少々多くなりまして……そこで出すか!と思われるかもしれませんが、いつもの村雪の勝手ということで許してやってください!

 では、今回は主に召喚大会二回戦です!バトル展開は期待せずに!


――ごゆっくりお読みください。




 

 

「よいしょ、ただいま帰りました~」

 

 

 三年のおふたりを保健室に届けて、私はFクラスに戻ります。中には幸いにもお客さんがいて、それなりに賑わっていたので一安心です!これでお客さんがいなくなってたら困りますからね!

 

 

「メーリン遅いわよ!しっかり頑張るのよさ!」

 

「か、勘弁してくださいよ~チルノ!しっかり理由があったんですよう!」

 

 

 可愛らしいフリルの付いたエプロンを装着したチルノが突っかかってきます。いつもと変わらず堂々とした態度で、そこにはさっきまでの泣きそうな面影はありません。うん。良かった良かったですよ!

 

 

「うむ。待っておったぞ紅。丁度お客も多い事じゃし。一働き頼むのじゃ」

 

「あ、了解です」

 

 

 続いて声をかけてくるのは秀吉君。男子なのにウエイトレスの格好をしていることに、どう反応すればいいのでしょう。それが似合っているからなおさら困ります。

 

 

「・・・・・・って、なんか立派な机の数が増えてませんか?」

 

 

 三年コンビさんに中傷された、クロスをかけたミカン箱。清潔なのは間違いないのですが、中傷の全てが全くのデタラメでもなかったので、入れ替えるようにしたのです。

とは言え、私に机みたいな心当たりが無かったので皆さんに聞いてみたところ、秀吉君がいくつか調達してくれたのです。

 

 けど、その数も確か三つぐらい。こんなに多くはありませんでしたよ?

 

 

「あ~、それは、明久たちが調達してくれたのじゃ。どうやって調達したのかは・・・・・・企業秘密じゃ」

 

「・・・そ、そうですか。聞かないようにしますね」

 

  

 もうこの際深入りしません。お店の売り上げの為です!

 

 

 私は裏に戻って制服を脱ぎ、ウエイトレス専用のエプロンを装着します。う~ん、やっぱりこういう可愛い服は似合わない、というか苦手です~・・・!

 

 

「・・・うっし!次の試合まで頑張りましょうかね!」

 

 

 でも、皆が着てるのに自分だけ付けないわけにはいきません。気持ちを切り替えて私は仕事場へ向かいます。

 

 さて、どんな感じでしょうか?

 

 

『チルノ~!こっちむいて~!』

 

『む!最強のアタイに何か用!?』

 

『うん!チルノ、エプロン似合ってるわよ!』

 

『えっへん!アタイッたら最強ね!』

 

『可愛い~~!!』

 

 

『木下~、こっち向いてくれ~!』

 

『ん?何でございましょう?』

 

『ゥオオオ!エプロン姿かわえー!!』

 

『こ、これは無理やり着せられたのじゃ!別に着たくて着たわけではないのじゃー!』

 

 

『はい、お待たせいたしました!こちら本格的飲茶とゴマ団子です』

 

『ありがとうございます。ではいただきましょうか、パルスィさん』

 

『ええ。・・・・・・・・・・・・おいし。食感も良いし、甘さも控えめで良いわね』

 

『そうですね。しかもこの飲茶、本格的とあって香りも味も良いです』

 

『ありがとうございます!』

 

『ああ、私もこれぐらい上手に料理が出来れば・・・妬ましいぃ・・・!』

 

『パルスィさん、お箸が折れますので落ち着きましょう。パルシィさんも別に料理が下手というわけでは・・・』

 

『・・・私も分かります。私も、これぐらい上手にお料理が出来たら・・・!』

 

『あの、姫路さん。あなたの持ってるお盆からみしみしと音が聞こえるのですが・・・』

 

 

『へ~、美波さんは妹さんがいるんだね』

 

『うん。小学五年生のね。お燐はいるの?』

 

『妹はいないけど、妹みたいな子ならここにいるよ、ねえお空?』

 

『うにゅ?うつほはお燐の妹じゃないよ?』

 

『・・・・・・』

 

『・・・・・・そ、そこは、同意してほしかったよ…!』

 

『お、お燐!?しっかりして!?』

 

『??あれ?うつほ何か言っちゃった?』

 

 

 

・・・・・・とりあえず、繁盛してるみたいですね!

 

 

「あの、すいませーん!」

 

「!は~い!!」

 

 

 注文が決まったそうなので、私はすぐにそちらへ向かって伺います。

 

 

 

 

 そしてそんなことを繰り返すこと数十分。召喚大会の時間がやってきましたので、咲夜さんと一緒に私は特設ステージへと向かいます。

 

 

「え~と、相手は誰でしたっけ?」

 

「ええと・・・勝敗が分からないから断言できないけど、たぶんこっちじゃないかしら?」

 

 

 咲夜さんが召喚大会のトーナメント表を取り出して指を立てました。どれどれ?

 

 

 

 

 

『2―Bクラス 優曇華院 鈴仙  2―Cクラス 因幡 てゐ 』

 

 

・・・・・・・・・え、え~っと・・・・・・?

 

 

「ゆ・・・ゆう、ゆうどんかいん、すず、せんさん、ですかね?」

 

「うどんげいん、じゃないかしら。植物の名前でその漢字を見たことがあるわ」

 

「そ、そうですかー」

 

 

 恥ずかしい!で、でも難しすぎるでしょうこの漢字!読めないのが普通ですよ多分!もはや中国の言葉か何かです!

 

 

「ともかくBクラスの人とCクラスの人よ。頑張りましょう」

 

「了解です」

 

 

 会場に到着すると、対戦相手らしき2人が既にフィールドで待ち構えていました。

 

 

 

 

「遅いわよ。もっと早くに来なさい」

 

 

 そのうちの1人、薄い紫のロングヘアーの女子が毅然とした声でそう告げます。

 

 

「あ、すいません!ちょっとゆっくりしてました!」

 

 

 あちゃー、表情からから見てだいぶ待っていたのかもしれません。もう少し早めに来ればよかったですね。

 

 

 

「何言ってるのさ鈴仙(れいせん)。鈴仙が早く行こうって言って聞かないからこうなったんじゃない」

 

 

 そう反省していると、新たに高い女声が。どうやらこのお冠の方が優曇華院さんみたいです。しかしあれは〝すずせん〟じゃなくて、〝れいせん〟って読むんですね。上と下の名前を両方間違えてしまうとは、重ね重ねすみませーん!

 

 

「て、てゐっ!アンタは黙ってなさい!」

 

 鈴仙さんはしかめっ面を崩し、慌てて隣の女子、パートナーであろう因幡 てゐさんを止めます。

 

 

「ウサウサ!でも本当の事だし、それを黙って非の無い相手を攻めるのはお門違いじゃん?」

 

 

 笑いながら優曇華院さんの腰辺りをパシパシ叩く因幡さんは、くせっ毛な髪の少女で、少し冷めた印象がある優曇華院さんとは反対に、明るいイメージがある子です。

 

 でも、何より印象深いのがその背丈。因幡さんの身体はとっても小柄で、優曇華院さんの腰あたりの視線の高さと、かなり小柄な部類のチルノよりも小さいかもしれないほどです。女子の平均はある優曇華院さんと並ぶとその差が一目瞭然ですよ!

 

 

「鈴仙ももう少し柔らかくなったらね~。わたしみたいに可愛い女の子になると思うよ?」

 

「う、うるさいわよ!小さいからって可愛いと思ってんじゃないわよこの幼児体型っ!」

 

「ウ、ウサッ!?だ誰が幼児体型だこの生真面目堅物女!」

 

「もっと背を縮めてやるわよ!?」

 

「今度大勢の前でスカートめくってやるウサよ!?」

 

 

 つかみ合いも、鈴仙さんが思い切り前屈みになることで互いの首元を掴めるという状況。捉えようによっては、鈴仙さんがわざわざ首を掴ませてあげているようにも見える光景です。

 

 

「仲が良いみたいね」

 

「ですねー」

 

 

「どこがよ!」

 

「どこがウサッ!」

 

 

 ほら、息ぴったりです!

 

 

「四人とも、準備はいい?早めにしてもらえるとありがたいんだけど」

 

 

 

「あ、パチュリー先生」

 

 

 今回の勝負科目は英語。審判は薄いパープルの髪を伸ばし、パジャマのようなブカブカした服を着て、気だるげそうにしているのが特徴のパチュリー先生。今日も相変わらずのじっとり目です!

 

 

「すいません!こちらはオッケーです!」

 

「ま、待ってパチュリー先生!今からてゐと話を―」

 

「いいみたいね。じゃあ、全員召喚しなさい」

 

「ちょっと!?」

 

 

 

 さあ、頑張っていきましょうか!

 

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 

『Aクラス 十六夜咲夜 英語 384点

        &

 Fクラス   紅美鈴 英語 261点 』

 

 

 私達は召喚獣を召喚します。あとは向こうのお2人が出すのを待つのみです。

 

 

「し、仕方ないわ。てゐっ!やるわよ!」

 

「はいはーい。話は後回しだね~。試獣召喚っと!」

 

「試獣召喚っ!」

 

 

 少し遅れて、優曇華院さん達の召喚獣も現れます。

 

 

『Bクラス 優曇華院 鈴仙 英語 235点

         &

 Cクラス   因幡 てゐ 英語 194点 』

 

 

 優曇華さんの召喚獣は、白いスカート以外は文月学園の制服そっくりな制服を装備していて、頭には大きく立派なウサ耳が付けられていました。可愛いですねえ~!ウサ耳がある召喚獣を見るのは初めてです!

 

 

「・・・・・・っ!!」

 

 

咲夜さんも思わず顔を赤くして、口に手を当てるぐらいの可愛らしさです!

 

 

「鈴仙のは相変らず耳がおっきいね~。的が増えただけじゃん」

 

「あ、あんたも似たようなものでしょうが!」

 

 

 優曇華院さんの言う通り、因幡さんの召喚獣も頭にウサ耳を生やしており、ぴんとした優曇華院さんのとは違ってへにょりと垂れた耳となっています。装備もピンク色の可愛らしい服で、何かこう、きゅっとくるものがありますね!

 

 

「・・・・・・か、可愛い・・・っ!」

 

 

 咲夜さんが思わずそうこぼしてしまうのも分かります。この二組。まさにベストコンビですね!違ったウサ耳がすっごい絵になります!

 

 

「んじゃ鈴仙、しっかり頼むよ~?」

 

「あんたこそねっ!」

 

「とーぜん!」

 

「!美鈴!」

 

「御意!」

 

 

でも、いくら可愛くても今は敵!因幡さんの召喚獣が、手に持ったシャベルを振り上げて駆け寄ってきます!二開戦、勝負開始ですっ!

 

 

「ほいっ!」

 

 

 む、シャベルの矛先は私ですか!まずは弱いものって感じですかね!

 

 

「なんの!」

 

 

 召喚獣の腕でガード。これぐらいなら難なく防げます!

 

 

「隙ありね」

 

 

 そこにメイド姿の咲夜さんの召喚獣が、ギラリとナイフを輝かせて切りかかりました。

 

 

「おおっと!」

 

 

私への攻撃を中断して、因幡さんは咲夜さんのナイフへとシャベルをまわします。なかなか動作が早いですね!

 

 

 ガキンッ! 

 

 

 鉄と鉄のぶつかり合う音がして、2人はわずかに膠着状態に。優勢は点数の高い咲夜さんです!

 

 

「ふ~。私の召喚獣はか弱いんだから、そんな物騒な物を振り回さないでほしいね~?」

 

「あら。か弱い召喚獣は最初に敵を攻めなんかしないわよ?」

 

「そんなことはないさ。勝利のための犠牲ゴマということもあるじゃない?」

 

「なら、あなたも犠牲になりに来たのかしら?」

 

「さ~?そこはあんた自身で確かめるべきウサよ」

 

 

 ギンッとナイフからシャベルを引き下げ、もう一度咲夜さんの召喚獣へ横から殴りかかります。

 

 

「そうね、あなたを倒せばいいことに変わりはないわ」

 

 

 咲夜さんも難なくガード。因幡さんにまた隙が出来ましたね!次は私の番です!私は召喚獣に拳を握らせ、因幡さんの召喚獣に攻撃態勢を取ります!

 

 

「覚悟因幡さん!」

 

 

 がら空きの背中に接近させ、その鍛え抜かれた手を(鍛え抜かれたのかは分かりませんけど)振りかぶり、私の召喚獣が強烈な突きを繰り出します!

 

 

「――おおっと~。挟まれちゃったなー?」

 

 

 む、この状況にずいぶんと余裕ですね因幡さん!今から避けようとしても、避けるより拳が当たる方が早いですよ!

 

ほら、そう思っている間にもあなたの召喚獣の背中に、私の召喚獣の拳が――!

 

 

 

 

 

 

「――んじゃ鈴仙、頼むよ~?」

 

 

 

 

 

 ズギュン!ズギュンッ!

 

 

 

「へ?」

 

「・・・・・・なっ・・・!」

 

 

 

『Aクラス 十六夜咲夜 英語 271点 

         &

 Fクラス   紅美鈴 英語 183点 』

 

 

 ・・・え?因幡さんが倒れた、という事が起きたなら分かりますけど・・・・・・・・・なぜ、私と咲夜さんの召喚獣が、いきなり横に吹っ飛んだのでしょう?

 

 

 

 

「まったく・・・・・・あんたはいつも調子に乗りすぎなのよ。てゐ」

 

 

 げっ!つい優曇華院さんの事を忘れてました!因幡さんが格好の的だったので、つい意識がこっちばかりに・・・!

 

 

「ひっどい言い方だなー。でも、上手くあてられたでしょ?」

 

「別にあんたが囮にならなくても、外さなかったわよ」

 

 

 そう言って優曇華院さんは召喚獣を操作し、ガチャリと両手に持った黒い獲物――――二丁の銃を私たち二人に向けます。ま、またも飛び道具相手ですかーっ!

 

 

「次は、その脳天に当ててみせるわ」

 

「咲夜さん!」

 

「分かってる!」

 

 

 私たちはすぐさま召喚獣を走らせます!じゃないと恰好の的ですからね!

 

 

 ダンダンッ! 

 

 あぶなっ!点数が減らされた分、動きが遅くなりますね!

 

 

「くっ・・・!さっきので終わらせたかったのに…!!」

 

「失敗を次に活かすんだねー鈴仙。ほら次々頼むよ~!」

 

「わ、分かってるわよ!てゐもしっかりね!」

 

 

 ズドンズドンと優曇華院さんが途絶えることなく二丁の拳銃を撃ち、その間を縫いながら因幡さんがシャベルで攻撃を繰り出す連携攻撃。Dクラスと勝負した時のお空と一緒ですね!

 

 

「っと!咲夜さん、優曇華院さんに近づけますか!?」

 

 

 こういう時は遠距離攻撃をしてくる人を叩くのが手っ取り早い!点数が高い咲夜さんの方が適任でしょう!

 

 

「っ!悪いけど、ちょっと、きびしいわっ!」

 

 

 そう言われて咲夜さんの召喚獣を見ると、優曇華院さんの狙撃を交わしながらも因幡さんのシャベル攻撃を受けたり、反撃したりいる姿がありました。

 

 

「分かりました!」

 

 

 なら、因幡さんがついていない私が動くべきですね!

 

 

「よおし!GO!私の召喚獣!」

 

 

 召喚獣を優曇華院さんのもとへと向かわせ始めます。近距離攻撃しか出来ない私にはまず近づくことが大事ですからね!

 

 

「!(チャッ)」

 

 

 優曇華院さんが当然私の接近に気付き、銃口を私へと定めようとします。が、そう簡単には当たりませんよー!

 

 

 ダァンッ!

 

 

「おっとぉ!」

 

 

 右にはねることで回避!まずは一発目です!

 

 

「チッ!(ガチャッ)」

 

 

 再度拳銃が向けられます!なら今度は左にかわして

 

 

 ダン!ダン!ダン!

 

 

「!?うわわわっ!?」

 

 

 れ、連射可能ですかっ!お空のはもう少し時間差があったんですがね!優曇華院さんの召喚獣への接近を中止して、私は召喚獣に回避行動をとらせ始めます!

 

 

 ドスッ

 

「あいた!」

 

 

『Fクラス 紅美鈴 英語 129点』

 

 

 一発ヒットしちゃいました!でもそこまで点数は減っていないから、威力自体はそれほどのようです!

 ならば、多少は受けても大丈夫ですかね!

 

 

「走れ私の召喚獣-っ!」

 

 

 拳銃で撃たれるのを覚悟しながら、優曇華院さんの召喚獣へと突っ走らせます!

 

 

「なっ!?バ、バカじゃないの!?」

 

 

 優曇華院さんは動揺しながら召喚獣に銃を撃ちます。そのおかげで精度がダダ落ちですね!

 

 

「これも一つの作戦ですよっと!」

 

 

 現にあなたの動揺も誘えていますからね!

 

 とは言え数撃てば当たるもので、何回か弾丸がかすったり当たったりしてしまっています。なんとかかわそうとしているのですが、こういうところで点数の低さが仇になりますね!

 

 

「――そりゃあああ!!」

 

「あ!」

 

 

 ようやく優曇華院さんの下へと到着した私の召喚獣に、全力の突きをかまさせます!

 

 

『Bクラス 優曇華院 鈴仙 英語 115点

        VS

 Fクラス   紅美鈴   英語 89点 』

 

 

 よし、これで点数差が少し埋まりましたね!あと何発かパンチすればKO可能です!

 

 

「くっ…!(ガチャガチャ)」

 

 

 が、少しひるんだ優曇華院さんの召喚獣は、すぐさま拳銃を二丁振り向け

 

 

ドガガガガガガッ!

 

 

「うおわわわわっ!!?」

 

 

 お、思い切りぶっ放してきましたああ!?かんっぜんに私を的に絞りましたねこれ!二丁で連続して撃たれてはさすがにやばいから、いったん離脱ですよっ!

 

 

「も、もう油断しないわ!あなたを先に完全に倒す!」

 

「え、えらく狙われましたねえ!!」

 

 

 これじゃ近づく前に大ダメージを受けること間違いなしです!ここは弾切れがあるかどうか知りませんけど、それを願うしかありませんね!その間は走り続けて・・・!

 

 

 

ドガガガガガ・・・カチッカチッ

 

 

「!」

 

「よしっ!」

 

 

 即座に優曇華さんの召喚獣へと走らせます。このチャンスを逃してなるものですか!

 

 

「ふっ!」

 

「くっ…(ガチャガチャ)!」

 

 

 私が接近するのと同時に彼女の召喚獣も弾込めを始めますが、残念!数秒あればお釣りが出ますよ!

 

 

「そりゃあああ!!」

 

 

 装填を終え銃口が照準される寸前に、全力の拳を召喚獣の顔へと叩き込ませました!

 

 

バキイッ!

 

 

「うそ…!?」

 

 

 今度はいい当たりだったようで、優曇華院さんの召喚獣は後ろに吹っ飛んでくたりと倒れました。よおし!拳が銃に勝った貴重な瞬間ですよ!

 

 

 

「くぅぅ・・・!て、てゐ!こうなったらあんただけで勝ってみせるのよ!」

 

「うん鈴仙。それだけでも無茶な注文だし、それを実行することも今の私にゃ出来ないね~」

 

「え?」

 

 

 優曇華院さんにつられて見れば、咲夜さんの召喚獣にナイフを突きつけられた因幡さんの召喚獣が、シャベルの柄の部分に白い布を付けた、いわゆる白旗を振っていました。召喚獣ってそんなことも出来るんですね~。

 

 

「ちょ、なに降参してんのよ!?まだやれば戦えるでしょ!?」

 

「無茶言わないでよ~。鈴仙が銃で援護してくれて互角だったのに、その鈴仙が撃つのを止めるわ先にやられるわで私にどう勝てって言うのさ。むしろ私が鈴仙に何してんのって聞きたいよ」

 

「むぐっ…」

 

 

 口をつぐむ優曇華院さんに肩をすくめたあと、因幡さんは私たちに伝えました。

 

 

「いや~参った参った!私たちの負けだよ、十六夜さんと紅さん。後は煮るなり焼くなり好きにしてちょうだいよ」

 

「いえ、勝ったことでもう十分ですよ?」

 

「あれ、そう?なんだったら鈴仙のセクシーショットでも見せてあげようかと思ってたんだけど」

 

「結構です!?」

 

「あ、アンタ私に何をさせようとしてたのよ!?」

 

「ウサウサ!じょーだんだって~!」

 

 

 ニシシと笑う因幡さん。なんか、因幡さんは見た目とは合わない性格をお持ちのようです。チルノみたいに見た目相応のおバカなのもどうかと思っていましたが、因幡さんみたいにお腹に何かを抱えた性格も考え物ですね!

 

 

「終わったわね。勝者は十六夜、紅ペアーよ」

 

 パチュリー先生からも勝利宣言を受け、見事二回戦勝利確定です!

 

 

「お疲れ様、美鈴」

 

「はい、咲夜さんもお疲れさまでした!」

 

 

 それぞれ頑張ったパートナーに労いの言葉をかけます。次からも一緒に頼みますよ!

 

 

「あ~、残念だったねー鈴仙」

 

「そう言うあんたはやけに明るそうね、てゐ。・・・・・・・・・お、おつかれさま。付き合ってくれて・・・ありがと」

 

「はいは~い。鈴仙もお疲れ様。この報酬は鈴仙のセクシーショットでいいよ~」

 

「誰がやるかっ!」

 

 

  向こうの2人も冗談を交えながらも労っています。

 

そして、

 

 

 

「・・・むきゅう、疲れた・・・」

 

「「「「重篤のところご苦労様(でした)、パチュリー先生」」」」

 

「ち、ちょっと。誰が重篤っげほっ、ごほっごほごほげふぅっ!?」

 

「!!?パパ、パチュリー先生ー!?」

 

 

 喘息持ちの中、私たちの審判のため外へと出向いてくださったパチュリー先生に、四人そろって感謝の言葉を贈りました。

 

 それを聞いてどう捉えたかのか?近くにいた図書館司書の心愛(ここあ)先生に、顔色を悪くしながら保健室に運ばれたパチュリー先生にしか分かりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー。今から勝負なのに、その前から疲れてるよ」

 

「そのおかげで机が手に入ったんだからそう言うな」

 

「まあそうなんだけど…」

 

 

 そのおかげで僕の評判は下がったし、何人かの女性教師には心に深い傷を負わせた気もする(僕じゃなくて魔理沙が原因だけど)。机の対価は大きかったなあ…

 

 

「ところで雄二。僕らの次の相手は誰なの?」

 

 

 一回戦ではルーミアさんに苦戦したから、二回戦では楽な相手と当たってほしいんだけど。

 

 

「さてな。対戦表を見た限りだと、勝ち上がってきそうなのは・・・・・・お、予想通りだ」

 

 

 雄二の見る先を見ると、既に待ち構えてる対戦相手の姿があった。ん~?

 

 

 

 

「あ、坂本君に吉井君ですか」

 

「あれ?魂魄さんに・・・え~と?」

 

 

 その相手は、Bクラスの勝負の時に色々とお世話になった魂魄妖夢さんと、Bクラス代表の根本君を可愛く着せ替えるときに服を脱がせてくれた女の子だった。

 

 

「水橋 パルスィよ。そういえば言ってなかったわね」

 

「そっかあ。水橋さん。あのときは根本君の服を脱がせてくれてありがとう」

 

「・・・あんまりその話は思い出させないでほしいんだけど」

 

 

 あ、あんまり言っちゃまずかったことみたいで、ジトッとした目で水橋さんは僕を見つめてくる。ここは話を変えよう。

 

 

「魂魄さん達はどうして大会に出場して「食料調達の為です」る、の…」

 

 

 魂魄さんに言い終わる前に答えられた。それももの凄く真剣な顔で。あれ、また僕何かやっちゃった?

 

 

 

「…これ以上、母様の食費が増えてしまったら・・・!」

 

「・・・なにか、苦労してるんだね魂魄さん・・・」

 

 

 今、ものすっごく彼女とシンパシーを感じた気がする。

 

 

「では2人とも。試験召喚大会二回戦を始めてください」 

 

「「あ、はい」」

 

 

 立会人の英語担当の遠藤先生がそう促すので、僕ら四人は召喚獣を呼び出した。

 

 

「「「「試獣召喚!」」」」

 

 

『Bクラス 魂魄妖夢    英語W 334点

       &

 Bクラス 水橋 パルスィ  英語W 241点 』

 

 

『Fクラス 坂本 雄二    英語W 73点

       &

Fクラス 吉井明久    英語W 59点 』

 

 

 どうしよう。もの凄い点数差で勝負前に戦意が喪失しそうだ。

 

 

「ねえ雄二。僕には全く勝てる気がしないんだけど」

 

「心配するな明久。きちんと策はある」

 

 

 だと言うのに雄二には全く動じた様子はない。いったい何をする気だろ?

 

 

「水橋、と言ったな」

 

「ええ。何かしら?」

 

「これを見てもらえるか」

 

「?」

 

 

そう言って雄二は、何かの冊子を取り出した。

 

ん?あの表紙の女の子って・・・・・・魂魄さん?

 

 

「え・・・・そ・・・それって、私ですよね?」

 

 

いきなり自分の写真が載った本を見せられたら誰だって驚くもの。魂魄さんはぱちくりと目を瞬かせて雄二の手の本を見つめている。

 

 

 

「ああ。ムッツリーニが作った魂魄の写真集だ」

 

「みゅっ!?わ、私そんなの知りませんよ!?」

 

 

『私より可愛いものなど、あんまりいない!~魂魄妖夢・夢の写真特集』と、絶対妖夢さんが言わなさそうな言葉が書かれた写真集。ちょっとムッツリーニ!会員の僕もそんなの全く知らなかったよ!?なのに雄二は持ってるなんて、なんてうらやまげふん!うらやましいんだっ!

 

 

「・・・へえー。〝私より可愛いものは〟・・・・・・よかったわねー妖夢。それだけ自信が持てる容姿で良かったわねえぇぇ・・・(ガリガリガリ)」

 

「ひえ!?ち、違いますよパルスィさん!私はそんなこと言ってません!?」

 

 

 水橋さんが凄い勢いで爪を噛み始める。どうやら水橋さんは嫉妬深い性格みたいで、写真集のキャッチフレーズが気に入らなかったみたいだけど、僕としては水橋さんは『あんまりいない』の〝いる方〟に入ると思うけどなあ。女子同士の話だから余計な口出しはしないでおこう。

 

 

「まあそう言うな水橋。これを見れば、あながちキャッチフレーズが間違っていないと思うぞ(ヒュッ)」

 

「・・・・・・(パシッ)」

 

「ちょ、坂本君!?」

 

 

 ちょ、雄二!水橋さんの前に僕にも見せてよっ!僕だって魂魄さんのお宝画像を見たいい!受け取った水橋さんの手からいったん取り戻してきてよ!・・・ああ、水橋さんが読み始めちゃった・・・僕も今から一緒に読みに行こうかな?

 

 

「(パラパラパラ―――)・・・・・・・・・くぁぁああああっ!妖夢ううううっ!!」

 

「ぎゃーっ!?き、気でも触れましたかパルスィさあああん!?」

 

 

 しばらくページをめくっていた水橋さんだったけど、嫉妬を爆発させる何かがあったようで、怪鳥のような叫び声をあげて魂魄さんにとびかかった。つ、次は僕の番僕の読む番だよ!

 

 

「おいこら。どこへ行こうとしている明久」

 

「雄二離して!僕もあのすばらしい写真集をこの目でじっくり確かめたいんだ!」

 

「あほが。そんなことは後にしろ」

 

 

 くっそお!なぜ邪魔をするんだ雄二!さては貴様、自分だけが見れたらそれでいいって考えだな!?図体はでかいくせに、なんて心の小さい奴なんだ!

 

「召喚獣に攻撃させるぞ。準備しろ」

 

「え?」

 

 

 あ、そういえば今って召喚大会の最中だったんだ。魂魄さんの写真集への衝撃ですっかり忘れてたよ。

 

 

「見ろ。今のあの2人は召喚獣の操作なんかまるっきり出来ちゃいない。まさに絶好のチャンスだ」

 

「おお、確かに!」

 

 

 雄二の言う通り、魂魄さんに水橋さんが襲い掛かってるから2人の召喚獣は無防備だ。これなら点数に関係なく勝てる!

 

 

「やるぞ明久!」

 

「了解!」

 

 

 すぐに僕たちは召喚獣を動かし、取っ組み合いになっていて何の動きも見せない召喚獣へと接近――そして即座に、何発も拳と木刀を叩きんだ。

 

 

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁあ!!」」

 

「!きゃっ!」

 

 

 

『Bクラス 魂魄妖夢   英語 0点

       &

 Bクラス 水橋パルスィ 英語 0点 』

 

 

 その結果、2人の点数はあっという間に底を尽きた。悪役の言葉を繰り出しながら、無抵抗の女の子の召喚獣をぼこぼこにするチンピラ装備の召喚獣。誰が見ても僕たちはド外道に思われたに違いない。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・あまり言いたくありませんが・・・・・・勝者、坂本、吉井ペア」

 

 

 先生が非常に複雑そうな顔でそう宣言する。そりゃあ教育者の立ち位置だと、卑怯な僕達よりも真面目な魂魄さんに勝ってほしかったに違いない。僕自身もそう思ってるから間違いない。

 

 

・・・うん、勝負が終わって冷静になってきた僕。やることは分かってるよね?

 

 

「たびたびごめんなさい魂魄さんんんんんっっ!!」

 

 

 僕、魂魄さんに恩があるっていうのに仇で返しすぎだよ!女の子には優しくしなきゃいけないのに、そんなんだから僕に彼女は出来ないんだ僕のバカ!!

 

 

「はあ、はあ・・・・・・ごほん。は、はい。さすがに今回は謝ってほしいですね」

 

 

 息を切らした魂魄さんが髪を整え、僕に怒ったような照れたような顔で当然の事を主張してきた。足元にはうつぶせに倒れた水橋さんがいたので、僕も同じ目にあうんじゃないかと気が気じゃない!

 

 

「ほら雄二も謝って!じゃないと僕の良心が押しつぶされちゃうよっ!」

 

「ああ。すまんな魂魄。これも一種の作戦だったんだから許してやってくれ」

 

「全くもう…とりあえず、これは私がもらいますからねっ」

 

 

 そう言って魂魄さんは、全ての原因である『私より可愛いものなど、あんまりいない!~魂魄妖夢・夢の写真特集』を手に取った。

 

 

「ああ!魂魄さん!その前に僕にも見せて!」

 

「しばきますよ?」

 

「お前は自分に正直だな、明久」

 

 

 くうう!あの耀く写真集を見れないまま没収されるなんて・・・!これじゃ明日から何を希望に生きればいいんだっ!(※数分前に知っただけなのに・・・)

 

 

「坂本君」

 

「ん?」

 

「その『ムッツリーニ』さんに伝えてください」

 

 

 顔を赤くしたまま、

 

 

 

 

 

 

「――この恥辱は絶対忘れねえ、と」

 

「分かった。伝えておこう」

 

 

 口調がだいぶ崩れた妖夢さんが、どんな感情を抱いて荒れていたのかは考えるまでも無かった。

 

君もそろそろ年貢の納め時かもしれないよ、ムッツリーニ。

 

 

 

「……っ!?」

 

「・・・・な、なに?急に振り向いて・・・」

 

「・・・何やら、寒気を感じた」

 

「・・・・・ふうん。・・・あ・・・、こ。この飲茶。も、持って行って、ほしい・・・」

 






 お読みいただきありがとうございます!

 
今回は、その瞳を見れば狂わずにはいられない月のウサギである優曇華院 鈴仙改め、『鈴仙・優曇華院・イナバ』と、可愛らしい容姿には全く似つかわしくない腹黒さを持つ幸運の素兎、『因幡てゐ』の永遠亭のウサギコンビ!

 そして、紅魔館が誇る動かない図書館!『知識と日陰の少女』の二つ名を持つ、パチュリーノーレッジさんとそれをサポートする小悪魔さんに登場してもらいました!小悪魔はほとんど出ていませんけども!

 いやー今回は一気に入れすぎましたねえ。しかも、キャラクターこれで正しいのかも分かりませんし、もしかしたら読んでもらってる皆さには面倒な思いをさせちゃったかもしれません。申し訳ないっ!

 なので、思ったこととか感想なんかがあったら遠慮なく送ってください!おそらく思うことがいっぱいできたことだと思いますので、それを言ってもらえたらできる限り返信しますので。


 それではまた次回っ!


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接触―幸せ、か残念になるかはその人たちの関わり方で決まるそうでしゅ!!

 どうも、村雪です!

 さて、今回は喫茶店側の話となるのですが、一人、初登場となる東方キャラクターに出てもらっています!とはいえ、前にもあったように名前は何度か出ていますので、少し違うかもしれませんが!


 果たして誰が出て来るのか?楽しみにして読んでもらえれば!


――ごゆっくりお読みください。 


 

「ありがとうございましたー!・・・・・・ふう」

 

「ご苦労様じゃ、紅」

 

「あ、秀吉君」

 

 

 お客様が出て行った後に、秀吉君が声をかけてきました。

 

 

「ほれ。ムッツリーニの奢りじゃ」

 

「おお、ごちそうになります!」

 

 

 私は秀吉君の持つグラスを受け取り、ぐいっと喉に流し込みます。・・・ん~!このあっさりした味が良いですね~!お客さんも美味しそうに飲んでくれるわけです!

 

 

「土屋君。素晴らしい出来栄えですよー」

 

「・・・・・・ありがたい言葉(パシャパシャパシャ)」

 

「・・・ここにいるのなら、自分で渡せばええじゃろうに」

 

「たぶん写真が狙いなんでしょうよ。まあ私は良いんですけどね」

 

 

 どうせなら可愛く頼みますよ!変な顔で映されるのは勘弁です!

 

・・・あ。そう言えば、

 

 

「ところで土屋君」

 

 

「・・・・・・何?」

 

「妹紅さんはどうですか?頑張ってくれてますかね?」

 

 

 職場が違って聞く機会もなかったので、気になってたんですよね~。本人がいないうちに聞いておきましょう!

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・飲茶を入れるのに、頑張ってもらってる・・・」

 

 

「そ、そうですか!それは良かったですよ~!」

 

 

 ちょ、ちょっと土屋君が目を逸らして汗を流し始めましたから、ひょっとして何もしていない?って思っちゃいましたけど、ごめんなさい妹紅さん!

 

 

「・・・・・・大丈夫か、確認をしてくる」

 

「あ、はい」

 

 

 土屋君はそう言って厨房へと向かいました。大丈夫かって、何の安全の話でしょう?妹紅さんの体調とか?

 

 

「ご、ごほん。し、しかし藤原もウエイトレスをやってくれると、凄い人気になりそうなんじゃがな」

 

「ん~。それは同意ですけど、妹紅さんは全力で拒否してましたから、無理じゃないでしょうかねえ」

 

 

 嫌な事を無理やりさせるなんてしたくありませんし、やはりここは本人の意思を尊重しなくちゃ、ですよ!

 

 

「・・・・・・しかし、妙じゃな」

 

「え、何がですか?」

 

 

 突然の秀吉君の言葉に私は耳を向けます。秀吉君もそれに頷き、ぐるりと教室を見ながら返答しました。

 

 

「急に、客足が減っておらぬか?」

 

「あ…そう言われれば・・・」

 

 

 店内にはほとんどお客さんの姿が無く、閑古鳥が鳴きそうな雰囲気です。私たちがこうやって普通に会話をしているのもそれの恩恵?なのです。

 

 

「でも、やっぱり喫茶店だとそういうときもありませんか?」

 

 

 ピークもあれば少ないときもある。それが喫茶店の宿命な気もしますがね。

 

 

「うむ。それもそうじゃが、あまりにも前触れが無かったのじゃ。普通なら少しずつお客が減っていくじゃろうに・・・」

 

 

 それでも秀吉君は気にした様子のままです。う~ん、もしも秀吉君の言う通り、これが普通の流れ出ないのだとすれば・・・・・・

 

 

「なにかが起きている、って感じですかね?」

 

「かもしれんな。先ほどもやりたい放題の客もいたしのう」

 

 

 あ~、あの三年生コンビですか。でも、さすがにあの2人が何かをしているわけではないでしょう。あれだけ痛い目にあったら、普通はそんなことをする気は起きないでしょうしねー。

 

 

「少し、様子を見て来るべきでしょうか」

 

「ふむ、それがいいかもしれんな」

 

 

 丁度お客さんもいないし、仕事の人手は十分ですから少しぐらい抜けても大丈夫そうです。

 では、飲茶のグラスを秀吉君に渡してから―

 

 

 

「あら、取り込み中かしら?」

 

 

 おっと、お客さんですね。笑顔笑顔と!

 

 

「はい!いらっしゃいま・・・・・・・・・・・・せ?」

 

 

 するとそこにいたのは、普段部活でお世話になっている女子、風見幽香先輩でした。

 

 ・・・が、私は思わず動きを止めます。

 

 

「・・・・こ、これは風見先輩。お、お世話になっておるのじゃ」

 

 

 秀吉君もびっくりした形相で幽香先輩を見つめていると、先輩は少し顔をしかめます。

 

 

「・・・・・・何かしら?笑いたいのなら笑えばいいじゃない。後悔しても知らないわよ」

 

「い、いえ笑いをこらえてるんじゃなくて・・・」

 

 

 むしろ、色々と引っ込んじゃったんですよ。あなたのその恰好に。

 

 

「ふん。まあいいわ。それより案内を頼むわよ」

 

「あ、りょ、了解です!」

 

 

 あごでしゃくる幽香先輩の言葉に、慌てて教室へと招き入れます。

 中では数人を除いて大半のウエイターが退屈そうにしており、もはや休憩時間の態度です。ちょっと皆さん!くつろぐならせめて準備室でくつろいでくださいよ!

 

 私がそう思っていると、来客に気付いた1人、横溝君がこちらを向きます。

 

 

「あー、いらっしゃい・・・うおおおおっ!?」

 

『ど、どうした横溝・・・・うおおおおおっ!?』

 

 

 

 

『『結婚してください、風見先輩っ!!』』

 

 

 

「ほんっとーにあからさまですね皆さん!」

 

 

 瞬間、もの凄い出来た姿勢で男子ウエイターから私たちは出迎えられます。どうせ美人の幽香先輩が来たからでしょ!?そんなに大勢で出迎えるところなんて初めて見ましたよー!?

 

 

「・・・・・・なにかしら、このバカ達は」

 

『ひいっ!?』

 

 

 で、出た!幽香先輩の凍りつくような目っ!あの目に睨まれたら地獄の鬼も身を震えあがらせるほどの恐怖が体に染みつきますよ!さすがのFクラス男子達も、これには身を震え上がらせます!

 

 

『ああ。すごく、良い…!』

 

 

 約一部の男子を除いてですが。と、鳥肌が立ちましたよちょっと!

 

 

「で、では風見先輩。こちらの席へどうぞなのじゃ」

 

「ええ」

 

 

 そんな中でも秀吉君は冷静に風見先輩をテーブルへと案内し、幽香先輩は腰を降ろしました。

 

 

「全く・・・あなた達のクラスメイトは何を考えてるのかしら。突然、告白どころか求婚をしてくるなんて」

 

「も、申し訳ないのじゃ」

 

「で、ですけど、わずかながらに幽香先輩にも原因はあると思います。」

 

 

 そのような恰好をされてましたら、ウチのクラスの男子に限らず思うことは出来ると思うんですよねえ・・・

 

 

「私に?どうしてかしら」

 

 

 なのに風見先輩は、訝しげに私を見て理解できないって顔をします。なら、そろそろここら辺で、大いに気になっていたことを聞くとしましょうか。

 

 

「幽香先輩・・・」

 

「何」

 

 

 

「・・・・・・その恰好、どうしたんです?」

 

「・・・ふん。似合わないっていうのは自覚してるわよ」

 

 

 

 幽香先輩はつまらなさそうに、指で自分の纏った衣装・・・・・・・・・・・・染み一つない純白のドレスをつまんで見つめます。

 

 いやもうね、そんな格好の美女がいたら求婚したくなるのも仕方ない気がするんですよ、先輩。

 

 

「なぜ先輩はそれほど悲観的なのじゃ・・・」

 

「いえ、むしろ凄すぎて言葉が出てこないんですよ。で、その恰好は?」

 

「クラスの出し物の衣装。いちいち着替えたり脱いだりするのも手間だから着ているのよ」

 

「な、なるほど。演劇ですか?」

 

「いいえ。喫茶店よ。『貴族喫茶』。高貴な態度で接客するのがコンセプトらしいわ」

 

「それって接客業としていいんですか!?」

 

「サービスのつもりが真逆な事をしておるぞい!?」

 

 

 それで喜ぶのは一部のマニアだけです!それでは需要があんまりないのでは・・・!?

 

 

「でも、かなり繁盛してるわよ?」

 

「「・・・あ、そうですか・・・」」

 

 

 この学校には色んな嗜好の人がいるんですねー。それも大多数。

 

 

「さて、じゃあゴマ団子と飲茶を頼むわ。期待してるわよ?」

 

「あ、はい!」

 

 

 おっと、注文が決まったみたいですね!

 

 

「すいませーん!ゴマだ」

 

『厨房っ!特上のゴマ団子と飲茶を持ってこい!』

 

『てめぇ等に出来る限りの最高の一品持ってきやがれ!』

 

「私が言おうとしてたんですけど!?」

 

 

 皆さんどんだけやる気出してるんですか!?幽香先輩だけ特別扱いしちゃダメですよ!そりゃまあ私もサービスしたいですけど!

 

 

「・・・・・・任せろ」

 

「………で、出来たぞ・・・」

 

 

 すると間もなく土屋君と妹紅さんが、それぞれゴマ団子と飲茶を盆に載せてやってきます。

 

 

「ふうん・・・・・・良い香りね」

 

 

 すんとにおいを吸った先輩は端的に感想を言ってから、ゴマ団子を1つ楊枝で刺します。

 

 

「・・・・ん」

 

 

 口に一口含み、幽香先輩は優雅に味を堪能しだします。な、なんだか緊張します・・・!

 

 

「・・・・・・(こく)」

 

 

 そのまま何も言わずに飲茶を。その上品なな振る舞いが、ウエディング姿にまた映えてますね!

 

 

「(こくり)・・・・藤原。と、あなた」

 

 

 飲茶も喉に収め、幽香先輩は軽く目を伏せた後に製作者である妹紅さんと土屋君を指名しました。

 

 

「・・・・・・なにか」

 

「・・・は・・・・はい」

 

 

 少し緊張し始める2人。幽香先輩は特に表情を変えていないから評価がどちらなのかが分かりません。幽香先輩は歯に衣着せない性格ですから、もしもまずかったなら遠慮なく言っちゃうことでしょう。

 ど、どうかマズイとだけは言わないで…!

 

 

 

 

「―――おいしいわ」

 

『!』

 

「ん(パク)」

 

 

 また先輩はゴマ団子を口にします。い、今美味しいって言いましたよね!?

 

 

「良かった・・・」

 

「・・・・ありがたきお言葉(パシャパシャパシャ)」

 

 

 それは聞き間違えじゃないみたいで、幽香先輩の言葉を聞いた人は皆ほっと胸を撫で下ろしていました。土屋君はおまけにカメラのシャッターも降ろします。

 

 

「待ちなさい。そのカメラは何を撮っているのかしら」

 

「・・・・どうか、撮影許可を(パシャパシャパシャ)」

 

「許可を取る前に撮るものではないわ(パシッ バキバキ)」

 

「・・・っ!?むごい事を・・・っ!」

 

 

 やはり先輩は甘くないようで、土屋君のカメラを一気に粉砕しました。て、手で握りつぶすって、カメラってそんなに柔らかかったですっけ?

 

 

『ああっ!ムッツリーニのカメラが木端微塵になったぞ!?』

 

『そんなっ!なら、俺たちは風見先輩の美しすぎるウエディングドレスを、写真で拝むことが出来ないってのか!?』

 

『くそ…世に神はいないってのか!』

 

『大丈夫だ、奴の剣(カメラ)は一つだけじゃないはずだ!』

 

『そうかっ!!』

 

 

「・・・・・・はあ。あなた、変わってるわね」

 

「・・・・・俺はスケベなんかじゃない・・・!(ブンブンブン)」

 

「そんなことは別に言っていないのだけれどね」

 

 

 そんなクラス男子の声に幽香先輩は呆れの息をこぼします。そういえば前も、私がカメラを壊したと言うのにすぐに別のカメラを準備してましたねー。写真撮影に凄い情熱を傾けているのがうかがえますよ。あまり良くない方向にですけどね!

 

 

 

「―――ごちそうさま」

 

 

 そのまま、幽香先輩はゴマ団子と飲茶を食べ終えると、すぐに席を立って会計へと向かいました。

 

 

「あれ、もう帰るんですか先輩?」

 

「クラスの仕事があるのよ。だからあまりゆとりはないわ」

 

 

 

 う~ん。もう少しゆっくり会話をしたかったんですけど、仕事があるんなら仕方ないです。また部活でのこととしましょう。

 

 お金を支払い幽香先輩は廊下へと出たので、私も見送りに廊下に出ます。

 

 

「では先輩!また来てくださいよ~!」

 

「さあね。気が向いたら来るけど、あまり期待しない事ね」

 

 

 もうっ、相変わらずドライな反応です!そこは嘘でも来ると言ってくださいよぉ!

 

 

「じゃあ、がんばるのよ。美鈴」

 

「?あ、何か言いましたか?」

 

「いいえ。じゃあ失礼するわ」

 

 

 幽香先輩はスカートを床に引きずらないように、指でつまみながら去っていきました。その優雅な歩き方にすれ違う男女は皆目をくぎ付けです!まさに貴族ですね!

 

 

「――ってあれ?そういえば、クロスの活用法とか見てましたっけ?」

 

 

 確かそのために来ていた気がするんですが・・・…ま、オッケーだったということでしょう!ダメだったら何か言いますよね普通!

 

 

「よしっ、頑張っていきましょうか!」

 

 

 私は一つ気合いを入れ直し、教室にもど

 

 

 

「あ、メーリン!」

 

「!おっ!」

 

 

 今の声は!すぐに後ろへと振り向きます!

 

 

「あらレミィ、フランっ!良く来たわね~!」

 

「と、当然よ!言ったことは守るのがレディーなんだからっ!」

 

 

 予想通り、そこには可愛い妹、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットのお子様コンビがいました。

 

 さて、しっかり満足させてあげないといけませんね!

 

 

 

 

 

 

 

 

『み、見て、吉井だわ!』

 

『あの人、真面目で優しい魂魄さんを卑怯な手で負かしたんだって…!』

 

『ひどいっ!妖夢ちゃんが可哀そう!』

 

『吉井明久、最低ね…!』

 

『今度から夜道に気を付けなさい・・・!』

 

 

 

「どうしよう。僕、この学校にいる間に彼女が出来るのかな…?」

 

 

 そう思っちゃうほどに女子からの視線が痛い。どうやらさっきの魂魄さんの勝負が知れ渡っているみたいだ。

 

 僕が見てる人の立場だったら、あの真面目で優しい魂魄さんを卑劣な戦法で勝った奴を襲撃する自信があるから、僕に冷たい目線を送ってくる人に文句も言えない。むしろ口だけだからありがたみを感じるぐらいだ。

 

 

「雄二はどうしてそういう作戦ばかり立てるのかな~。おかげで僕の評判は地を這ってるよ」

 

 

 雄二の奴、変に頭が回る分始末に負えないんだよなあ。それだったら、ちょっとバカだけど心が清い僕の方が人として立派だよね?

 (※〝清い〟と言っても、100%そうではないと断言します)

 

 その雄二は今トイレに行ってて、僕1人でFクラスに戻ってるんだけど、こういう時は2人で一緒に戻って視線を分割するのが得策だった気もする・・・でもま、これで雄二も僕と同じ苦しみを味わうか!ならいいや!

 

 僕の心にわずかばかりの満足感があふれるのを感じながら、廊下の曲がり角をまが

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 

「あにゃっ!?」

 

「うわっと」

 

 

 

――ろうとしたら、お腹辺りにあんまり痛くないけど衝撃が走った。なんだなんだ?

 

 

「にぃ~・・・・」

 

 

 下を見るとそこには、小学生ぐらいの茶髪の女の子が尻餅をついていた。この子が走りながら廊下を曲がったみたいだけど、怪我とか大丈夫かな?

 

 

「…あ、ご、ごめんなしゃい!!」

 

「あ、ううん。君こそ大丈夫?」

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

「うん、良かった。立てるかい?」

 

「あ、ありがとうです。よいしょ…」

 

 

 差し出した手を掴んだのを確認して手をゆるく引っ張る。起き上がった女の子はスカートについたほこりをはたいて、頭にかぶった緑のふわふわした帽子をかぶりなおした。

 

 

「ありがとうございます!あと、ご、ごめんなさい!お兄さんは大丈夫ですか!?」

 

 

 おろおろと僕の心配をしてくれる女の子。落ち着くんだ僕。ロリコンは犯罪なんだよ?

 

 

「大丈夫大丈夫!僕って体が丈夫だからね!」

 

 

 鉄人から逃げまわっていたら自然と体力がついて、このぐらいなら全然平気だ。いつの日か、鉄人の拳も平気になれば…!

 

 

「よ、良かったです・・・」

 

 

 女の子はほうと息をついて、僕の無事に安心してくれた。偉い子だなあ。雄二やチルノに見習わせてやりたいよ!奴らならむしろそこで喜ぶからね!

 ま、それは置いといて、

 

 

「でも、廊下は走っちゃダメだよ?今みたいに人とぶつかるかもしれないからね」

 

「う、ご、ごめんなしゃい…」

 

 

 ダメな事はやったらダメだと、年上のお兄さんとしてしっかり教えてあげないとね!偉いぞ僕!

(※普段から全力疾走で廊下を逃亡しているあなたの言葉には、説得力が無さすぎです)

 

 

「お、おかあしゃまを探してたんですけど、どこにいるか分かんなくて・・・…」

 

「あ、そうだったの?」

 

 

 おかあしゃま・・・あ、お母さんのことか。ってことは迷子かな?

 

 

「ねえ、お母さんとはぐれたのはどこら辺?もしかしたらそこにいるかもしれないよ?」

 

「…(ふるふる)」

 

 

 あれ?分からないってことかな?

 

 

「おかあしゃまとは別に来て・・・学校で出会うつもりだったんです。でも、人が多くてわかんなくて…」

 

「あ~、今日はいっぱい人が来てるからな~」

 

 

 一般参加も出来るから、この子みたいに生徒じゃない大人も子供も来ている今日の文月学園。背の低い小学生が大人を探すのは難しいかもしれないよね。

 

 

「じゃあ、僕と一緒にさがそっか?」

 

 

 2人だったら負担も半分に減るし、身長も僕ぐらいだったら特徴を言ってもらえたらすぐに見つけられると僕は思って、女の子に聞いてみた。。

 

 

「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございます!この恩は忘れません!」

 

 

 すると、そんな僕の提案に、彼女はパッと明るい笑顔を咲かせて承諾をしてくれた。

 

 

 

 

「あはは、そんなに気にしなくていいよ」

 

 

 う~ん。言葉づかいやお辞儀といい、本当に礼儀正しい子だなあ。よっぽど親御さんの教育が良いんだね。はぁ、僕の母さんにがつんと言ってやってほしいよ! 

 

 

「じゃあ、お母さんってどんな人か特徴を教えてくれないかな?」

 

 

 いくら手伝うって言っても、その人がどんな人か分からないと探しようもない。だから僕は女の子にお母さんの特徴を尋ねてみた。

 

 

「はい!ええっと、おかあしゃまはとっても美人です!」

 

「ほほう」

 

 

 それは興味深いね。けど、それだけじゃあ分からない。もっと特徴を聞かないといけないや。

 

 

「えっと、他にはないかな?」

 

「ええっと、おかあしゃまはお料理も上手で、いつもおいしいご飯を食べさてくれたり…」

 

「あ~、そうじゃなくってね」

 

 

 ええっと、どう言えばいいかなぁ…

 

 

「あ、そうだ。お母さんの名前は?それが分かれば放送で聞けるよ」

 

 

 ちょっと勝手に聞くのは悪い気がするけど、この場合は仕方ないと思う。早く娘さんと会えた方がお母さん的にも嬉しいだろうしね。

 

 

「あ、はい!ええっとですね…」

 

 

 そこで彼女は少し考え込んだ後に、あ!と思い出した顔になって、

 

 

 

 

 

 

 

「おかあしゃまの名前は、八雲ら―」

 

 

 

 

『ちぇええぇえええぇえんっ!!』

 

 

 

「へ?」 

 

 

 どこかで、というか何回か聞いたことがある女の人の大声が後ろから聞こえてきた。

 

 

 

「貴様、橙に何をしようとしてるぅぅうう!!」

 

 

 振り向くと、黒いスーツの腕が僕へと迫ってき

 

 

「どぅおおぉおいっ!?(スカッ)」

 

 

 あっぶな!?間一髪でしゃがめて回避成功出来たけど!誰だ急に後ろからラリアットをかまそうとしてきた奴はっ!

 

 

 

「あっ!おかあしゃまー!」

 

「ごめんね橙!遅くなって!ああ!可愛い可愛い橙!」

 

「ありがとうおかあしゃま!でも、おかあしゃまもきれいだよーっ!」

 

「ううううっ・・・!!ありがとうねちぇ~~んっ!!」

 

 

 

 

「・・・え~と・・・」

 

 

 なんだこれ。

 

 

 あれ…というか、目の前でさっきまで話してた子に抱き着いてる人って・・・ウチの学校の女教師、八雲藍先生だよね?

 

 

・・・この状況から分かる答えは、ただ一つ。

 

 

「ひょっとして、君が八雲 橙ちゃん?」

 

 

 モンスターペアレント、【妖狐の藍】の異名を持つ八雲藍先生が三度のご飯より大事にしている娘さんが、橙(ちぇん)という名前の小学生。名前だけは知ってるけど、誰も見たことはないからそれが逆に話題の種になった女の子だったんだけど… 

 

 

「ふぇ?はい、私の名前は八雲橙です」

 

「そっか。へ~、君がか~」

 

 

 まさか実際に出会えるとは思わなかったな~。確かに眼元もお母さんの八雲先生にそっくりで、将来は美女になってそうだ

 

 

 ガシッ

 

 

「吉井。なぜ貴様が橙と一緒にいるのかを、事切れる前に説明してもらおうか」

 

「八雲先生。それだと僕に待っているのは、言う前にこの手で首を絞められるか言ってから首を絞められるかの二択なんですが」

 

 

 でも、こういうところはどうかお母さんと違うように育ってね橙ちゃん。

 

 

「おかあしゃま。このお兄さんはおかあしゃまを一緒に探そうとしてくれてたんだよ?」

 

「……なに?本当か橙?」

 

「うん!」

 

「そ、そういうわけなんです先生」

 

 

 あの、そろそろ空気がやばいのですが先生?タップタップタップタップ!

 

 

「…………橙に感謝するんだな(スッ)」

 

「ごほごほ!いや、感謝も何もきちんと正当な理由は言ったんですけどね!」

 

 

 僕が言うだけだったら解放されていなかったんだろうか。ある意味期待を裏切らない橙ちゃんへの溺愛っぷりだ。

 

 

「さあ橙。このお兄さんといると危ないから向こうに行こうねー?」

 

「先生、生徒を少しは信用してあげてください。僕は何もする気ありませんから!」

 

「黙れ。橙と結婚しようとした貴様の言う言葉に何の意味も価値も無い」

 

「まだあの嘘を信じちゃってるの!?」

 

 

 それにしても僕の扱いがむごすぎる!さっきから橙ちゃんに見せてる優しさのかけらでいいから、僕にも与えてあげて欲しいっ!

 

 

「?? 結婚?」

 

 

 僕たちのやりとりを聞いていた橙ちゃんが、結婚の話のところで首を傾げた。そりゃそうだ。そんな話はデタラメなんだから橙ちゃんが知ってるはずもないからね。

 

 

「そうだよ橙。このお兄さんは橙と結婚しようと言った悪い人なんだ」

 

「お願い先生!先生は仕方ないにしてもせめて橙ちゃんには誤解させないで!」

 

 

 小学生にまでロリコンって不名誉の称号を呼ばれたら、僕もう立ち直れない!事実僕は本当にロリコンじゃないんだ~っ!

 

 

「あ、あのね橙ちゃんそれは…」

 

「へ~。そうなんだ~…」

 

 

 橙ちゃんが僕を見上げてきた。ああ、だめだ。これで僕の心にまた深い傷が刻まれ―――

 

 

 

 

 

 

「――て、照れちゃいますっ!」

 

 

 

 

「へ?」

 

「…な…っ!?」

 

 

 え?今この子なんて言ったの?『照れちゃう』?照れちゃうって言ったの?

 

 

「ちぇ、橙みたいな子をお嫁さんにしてくれるなんて…お兄さんはお上手ですね!嬉しいですっ!」

 

「え、あの、橙ちゃん?」

 

 

 待ってほしい。今、僕の想像の直角上(すぎる展開が起こってしまっている気がするんだけど。

 

 

「も、もしもお兄さんが良いんだったら…」

 

 

 もじもじしながら僕を見上げてくる橙ちゃん。やばい、僕の脳がメーデー!メーデー!と警告アラームを響かせ続けている。

 

 このまま続けられたら、僕は死ぬ気がする。社会的にと・・・肉体的に。

 

 

 

「橙ちゃんストッ――!」

 

 

 しかし、そのストップは間に合あなかった

 

 

 

 

 

「ちぇ、橙を、お嫁さんにして欲しいぐらいでしゅ!!」

 

 

 

 ガッッシイッ!!ボギボキボキィッ!!

 

 

 

 終わった。どうやら橙ちゃんの可愛らしい言葉が、最期に送られる言葉になるみたいだ。

 

 

 

 

「・・・あの、八雲先生。無駄だと思うんですけど、いやもう無駄だって分かってるんですけど、一応言わせてください・・・・先生に握られた肩が凄い悲鳴をあげてるんで、緩めてくれませんか?」

 

 

 バキャボキバキボキバキベギイッ!!

 

 

「・・・はい。むしろ強まるとはさすがに想像してない・・・というか、したくなかったです」

 

 

 もう汗が止まらないです。接骨院に行かなきゃいけないんじゃないかな?・・・この後、目が覚めれたなら。

 

 

「…橙?悪いんだけど、このくずお兄さんとやることが出来たから、少し一人で回っておいてくれないかな?」

 

「え、おかあしゃまは来ないの?」

 

「大丈夫。すぐに終わらせるから、すぐに追いつくよ。だから、ね?」

 

「わ、わかった!じゃあ行ってくる!」

 

「うん。ありがとう橙。はい、これで色々まわってきてね」

 

 

 橙ちゃんに手渡したのは光り輝く一万円。いろんなところを楽しむことが十分に出来る額だ。その気前の良さで、僕にも渡し賃をあげてほしい・・・

 

 

「ありがとうおかあしゃま!じゃあ、またねお兄さん!後で一緒にまわりましょう!」

 

「あはは。うん、機会があったらね~」

 

 

 満面の笑顔で僕に手を振る橙ちゃん。死地へ赴くのには十分な土産になったね。僕も汗を流しまくりながら、橙ちゃんに無事な手で手を振りかえした

 

 そして、橙ちゃんは前へと目を向けて、どこかへと走り去って行った。

 

 

 

 

「・・・・…」

 

「・・・・・・・・・(ゴキゴキゴキゴキ)」

 

 

 あまり人通りもない廊下。僕と八雲先生は無言になり、聞こえるのは八雲先生の空いている左手から聞こえてくる、異常なまでの骨の音のみ。

 

 

「………………先生」

 

「遺言か」

 

 

 遺言を聞くというのは、果たして慈悲深い行動と取るか残酷な行動と取るか。この際、深くは考えないでおこう。

 

 

 

 

「――橙ちゃん。良い子ですね」

 

「~~~~っ!!吉井明久ぁぁぁあああっ!!」

 

 

 その時の八雲先生は、溢れんばかりの涙を流していた気がした。

 

 

 





 お読みいただきありがとうございました!


 さあ!親バカ藍さんの式にして、その愛らしさから非常に人気のある八雲 橙ちゃんの登場でした!橙いるところに藍(乱)があり!不運にも明久にはそんな藍先生の餌食となってもらいました。橙ちゃんは全く悪くないのですが、タイミングが・・・!

 そして、幽香先輩は少々衣装を着てもらっての再登場なのですが、幽香さんには白いドレス姿も似合うと思ったので書いてみました!でも、一番いいのはやはり赤チェックの服かなと思いましたね!


 それではまた次回っ!


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純粋―悪意、があるわけではないからこそ大問題なんです!

どうも、村雪です!ついに七月へ入りまして、夏到来!って感じがしますね!

 今回はレミリアやフランがFクラスへと入ってくる回です!さて、どんな風にFクラスのメンバーと関わるのか、はたまた関わらないのか!?


――ごゆっくりお読みください。


「2人とも、良く来たわね~。大丈夫だった?」

 

 

 Fクラス前にて、私のクラスに来てくれたレミィとフランに確認します。見た感じは何も問題はなかったみたいですが、万が一ってことがありますからね!

 

 

「もちろんよ!私が案内したんだから大丈夫に決まってるわっ!」

 

「あらそう!偉いわね~!」

 

 

 それに胸を張って答えたのはお姉ちゃんのレミィ。ふむふむ、ちゃんとお姉ちゃんとして頑張ったのね!よくできましたレミィ!

 

 

「え~?でもお姉さま・・・何回か道が分かんなくなってたでしょ?」

 

「ありゃ、そうなの?」

 

「うーっ!?フ、フラン~~っ!」

 

「あははは!まあまあ、無事で何よりよ2人とも!」

 

 

 フランのちょっぴりからかい気味の暴露に、プチトマトみたいに顔を赤くするレミィ。いつもと変わらず、ほほえましいやりとりをしてくれていて安心安心!

 

 

 

「・・・って、あら。そう言えば2人とも、お友達と来るんじゃなかったっけ?」

 

 

 昨日の晩御飯の時、確かフランがそんなことを言っていたような………いるのは2人だけ、ですよね?

 

 

 

「あ、えへへ。それが葉月と別れちゃったんだ~」

 

「あー、別れ………たらだめじゃないのそれっ!?」

 

 

 ニコニコ笑いながら言うことじゃないよフラン!?せっかくなんだからその、〝はづき〟ちゃんという子と一緒に行動しなさい!

 

 

「まあ大丈夫!その内会えるよきっと!」

 

「……まあフラン達が良いのなら、私も何も言わないけど…いいの、レミィ?」

 

「……だ、だいじょうびゅよ!葉月とは必ずあえる運命よ、たぶん!」

 

「そ、そっか。運命か!じゃあ私は気にしないでおくわね?」

 

 

 学校の中ではぐれた友達と出会える運命。それも自信無さげな言葉つき。こんなに可愛らしい運命って言葉の使い方もなかなかないでしょう。さすがはレミィ!私の心を揺さぶりますね!

 

 

「よしじゃあ2人とも、教室に入ろっか?せっかく来てくれたんだものね!」

 

 

 教室の前で話し続けるというのもなんですし、何より2人は歩いてここまで来たんだから、疲れてる可能性もありますからね!ここは腰を下ろして、ゆっくりさせてあげないとね!

 

 

「もちろんよ!そのために来たんだからっ!」

 

「うん!入る入る!」

 

 

 おっ!嬉しい顔してくれちゃって~~!そんな顔をしてくれるだけで私は大喜びなんだから!

 

 私は笑顔の2人を背中に連れて、Fクラスの教室へと戻ります。

 

 

「おお、紅。風見先輩は帰ったのかの?」

 

「あ、ええ」

 

 

 すると、扉のそばにいた秀吉君が幽香先輩が帰ったのかを尋ねて来ました。他の男子は何やらざわついており、ところどころで幽香先輩の名前が聞こえることから、幽香先輩の話で盛り上がってるとみて間違いないでしょう。

 

 この2人になにかしたら、全力でぶん殴る心づもりでいた方が良いかもしれませんね。

 

 

「その代わりに、新しく2人が来店です」

 

「ん?」

 

「あ、秀吉だ!」

 

「ひ、久しぶりね秀吉っ!」

 

 

 私の後ろからひょっこりと顔を出した2人が秀吉君を見つけ、秀吉君も2人を見ておお、と声をこぼしてつつ、笑顔で2人を迎えます。

 

 

「久しぶりじゃのう、レミリアにフラン。元気にしておったか?」 

 

「うん!秀吉はどう!?」

 

「うむ。わしも体調管理はしっかりしておるから大丈夫じゃ」

 

「レ、レディーのたしなみって奴ね!?」

 

「こ、これっ!別に男でも体調管理はするのじゃ!」

 

「あう~っ!?」

 

 

 わしわしとレミィの頭を撫でる秀吉君に、レミィはそれほど怯える様子はありません。どうやら、少なからず親しみを感じてくれているみたいです!レミィ!お姉ちゃんはとても嬉しいわよ!

 

 

「おおっ。可愛い2人だな」

 

「木下。お前の妹か?」

 

「やあ御嬢さん2人。良かったら俺と付き合わないかい?」

 

「結婚しないか?」

 

 

 そんな秀吉君達三人に迫る黒い影・・・というか、Fクラスの男子達。全くもう!何をやってるのですか!?

 

 

「ちょっとちょっと!犯罪行為すれすれの言葉を吐いてるんじゃないですよ!ビンタしちゃいますよこら!?」

 

「全くじゃ。小学生に妙な事を言うでない。それに、この二人はわしの妹ではないのじゃ」

 

 

 そうです!この二人の姉を務めさせてもらってるのは、私と咲夜さんと妹紅さんですよ!見たらわかるでしょうが!(※間違いなく分かりません)

 

 

「へ~。アンタ達!アタイの名前はチルノ・メディスンよ!アンタ達の名前を!?」

 

 

 男子の魔の手を防いだ次に来たのは、元気いっぱいおバカな女の子。チルノです!チルノの大きな声に、少し二人は驚きつつも答えます。

 

 

「え……レ、レミリア・スカーレット、よ!」

 

「フランドール・スカーレットだよ?」

 

「よし!・・・エ・・・エネミー・バレットにブランドー・エキスパートね!?」

 

「ぜ、全然違うわよっ!」

 

「全然違うよ!?」

 

 

 せめてどちらかの名前だけでも一致させてあげてほしかったです。

 

 ここには敵の弾丸もありませんし、ブランドーのエキスパートもいません。というかなんですかブランドーって。どっかで聞いた名前ですけど、フランはそんなに怖くありません!こんなに可愛いじゃないですかっ!

 

 

「ええい名前がややこしすぎるのよさ!もっと簡単に言いなさい!」

 

「な、名前をこれ以上どう簡単に言えって言うのよぉ!?」

 

「チルノ~。レミィが困ってるからちょっと口を閉じましょうか~?」

 

「んむ~!?」

 

 

 全く、小学生相手に何をやっているのですか。年上なんですから、もっと大人な対応をしなさいっての!

 

 

「おっ?レミリアにフランじゃないか。来てたんだな」 

 

「あ・・・・。・・・2人、き、来たんだ…」

 

「あ、まりさにもこう!エプロン可愛いね~!」

 

「はっはっはー!当然だぜ!」

 

「……ん……ありがと…」

 

「も、もこうっ!な、なんだか元気ないけど、大丈夫?」

 

「………ん。一応、これで……普通なんだ…」

 

「そ、そうなの?本当?大丈夫っ?」

 

「ああ。………でも……ありがとな……心配してくれて」

 

 

 

 同じくウエイトレスだった魔理沙と厨房の妹紅さんもやって来て、2人と会話を膨らませます。妹紅さんはレミィと話して、儚げながらも笑顔を浮かべています!め、珍しいですね!?レミィとそんなに仲が良かったのでしょうか!?

 

 

「…幼女2人…売れる・・・っ!!(カチャ、パシャ)」

 

「ひぃっ!?」

 

「え?」

 

「はい速攻アウトですよこら~(ヒョイ)」

 

「……!?俺の、魂・・・っ!!」 

 

 

 そんな楽しそうなレミィ達の笑顔を奪ったスケベカメラマンの武器を、私は遠慮なく取り上げます。ほ~、カメラは良く分かりませんが、結構良さそうなのですねー。先ほど一台幽香先輩に粉砕されていましたけれど、それも高い奴だったのでしょうか?土屋君の財布事情が少し気になりました。

 

 

「全くもう、それだったら私や魔理沙とか秀吉君の写真をとりなさいな。それって下手しなくてもお縄につきますよ?」

 

「……紅。お主ら女子二名の中に、藤原ではなくわしの名前が入っていた理由を聞かせてもらおうかの?」

 

「え?だって、妹紅さんより秀吉君の方が写真を撮られたりするのに慣れてそうじゃないですか?」

 

 

 妹紅さんは絶対そういうのは嫌いでしょうからね~。私も慣れてるってわけじゃないですけど、レミィ達の代わりなら喜んで撮られますし、魔理沙はそういうのも嫌いじゃなさそうですしね!

 

 

「…そ、そういうことならいいのじゃ」

 

 

 否定しないという事は当たりのようです。さすが演劇部ですね。

 

 

「・・・・・・俺の相棒、返せ・・・!!」

 

「…はあ。じゃ返しますけど、変な物は撮らないでくださいよ?」

 

 

 盗撮をするのもダメですけど、人の物を盗るのもあまり良くありませんからね。私は必死になっていた土屋君の意を汲んで彼にカメラを返しました。

 

 

「(パシャ)・・・・善処する」

 

「言う前に撮りましたよね今?」

 

 

 たぶんレミィ達の方向です。返したのはやっぱり失敗みたいでした。

 

 

「ところでレミリア。お前らがいるってことは、勇儀のおばさんもいんのか?」

 

「ううん。母さんは来てないわよ」

 

「………勇儀は今日、仕事だ…」

 

 

 妹紅さんは母さんをかなり慕っていて、母さんが来ないという事に目に見えるぐらいにしょぼんと肩を落とします。

 ま、まあまあそんなに気を落とさず!母さんも隙をぬって来るかもしれませんから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん~んん~んーんっんんん~………いやはや、やっぱり学祭の雰囲気はいいもんだ。さて、あいつらの教室はどこかねぇ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、お主たち二人で来たのかの?」

 

「ん~ん。友達の葉月も一緒だよ!」

 

「んむ?じゃが、それらしき影がないぞい?」

 

「それが、なんだかその子とはぐれちゃったみたいなんですよ~。ダメよ2人とも、しっかり見てないと」

 

「む、でも葉月が『バカなお兄ちゃん!』って人を探しに行ったのが悪いんだもん」!

 

 

 私はぽんと二人の頭に手を置くと、フランが少し不満げに答えます。ん~、まあそれだと2人だけが悪いってわけじゃないですかね――

 

 

「・・・って、〝バカなお兄ちゃん〟?」

 

 

 はて、その言葉はいつか聞いたことがあるような・・・?

 

 

『お兄さん、すいませんです』

 

『いや、気にするなチビッ子』

 

『チビッ子じゃなく――ですっ』

 

 

 おや、坂本君が召喚大会から戻ってきたいです。廊下から彼の声と、小さな女の子の声が聞こえてきました。

 

 

「雄二が戻ってきたようじゃな」

 

「みたいですね。なんか、女の子を連れてきてるみたいですけども」

 

 

 ひょっとして、私みたいに妹でも連れてきたのでしょうか?

 

 

「あ、葉月の声だ!」

 

「あ、そうなのフラン?」

 

「うんっ!!」

 

 

 そんな私の疑問を、フランが解いてくれました。でも、どうして坂本君とフラン達の友達の葉月ちゃんが一緒なんでしょう?偶然道で出会ったとかですかね?

 

 

『んで、探してるのはどんな奴だ?』

 

 

 そして、ガラリと扉を開けて坂本君が入ってきました。が、〝葉月ちゃん〟の姿は坂本君に隠れてか全く見えません。フラン達と同じく、だいぶ小柄のようです。

 

 

『お、可愛い子だな~。ねえ、五年後にお兄さんと付き合わないかい?』

 

『俺はむしろ、今だからこそ付き合いたいなぁ』

 

 

 そんな声をかけながらクラスの男子達が集まり始めました。最後の奴!それは完全に犯罪ですよ!

 

 

「葉月~どこに行ってたの?勝手にどこか行ったらダメじゃん!」

 

「あっ、フランちゃん!」

 

 

 そんな中に、フランがとことことマイペースに近づいて葉月ちゃんへと話しかけ、ツインテールな女の子、葉月ちゃんがぴょこんと坂本君の後ろから首を出しました。

 

 

「ひどいですフランちゃん!葉月がバカなお兄ちゃんを探してるうちに先に行っちゃうなんて!」

 

「え~、だって葉月の探し方は、一緒にいる私たちが恥ずかしかったもん!」

 

「そんなことないですっ!そのおかげで葉月はこのお兄さんに案内してもらったんです!」

 

「でも、お姉さまだって顔を真っ赤にして『フラン、さ、先に行こっ?』って言ってきたんだよ?」

 

「フフフランッ!!?それを言ったらダメッ!」

 

「ほほう・・・レミィ、後でお姉ちゃんとお話ね~?」

 

「・・・う~~っ!!」

 

 

 よもやレミィが原因とは・・・。もう少し人見知りが無くなってくれたら、私は嬉しいんですがねぇ?

 

 

「あっ!力持ちのお姉さんですっ!」

 

「ん?」

 

 

 フランと言い合っていた葉月ちゃんですが、急に私を指さして、そんなことを言いました。

 

 

「・・・え~と?ひょっとして、私のことかな?」

 

「はいです!」

 

 

 んん?初対面・・・ですよね?

 

 

「葉月ちゃん。お姉さんとどこかで会ったことがあるかな?」

 

「はい!さっき、お姉さんが男の人2人を運んでるのを見ましたです!」

 

「あ、なるほど」

 

 

 三年生コンビを保健室に運んでいるときですか。確かにたくさんの人とすれ違いましたから、葉月ちゃんが私を目撃していてもおかしくないですし、『力持ち』っていう形容詞がつくのも当然なのかもしれません。

 

 ど、どうせならもう少し女の子らしいのが良かったですけど、仕方ありませんね。がっくり。

 

 

「じゃあ、葉月ちゃんはどうしてここに来たの?」

 

 

 レミィやフランと合流できたのは偶然でしょうし、さっきの坂本君の言い方だとFクラスに目的の人物がいるのはまず間違いないでしょう。いったい誰に用が・・・?

 

 

「あ、はい!葉月はお兄ちゃんを探しているんですっ」

 

 

 ふむ、お兄ちゃんですか。一体どの男子なのでしょう?

 

 

「そうか。そのお兄ちゃんの名前は分かるか?」

 

「あぅ・・・わからないです・・・」

 

「え?」

 

 

 名前が分からない・・・てことは、家族ではない?

 

 

「家族の兄じゃないのか?それなら、何か特徴は?」

 

 

 坂本君はそれでも探してあげようとしています。意外と子供好きなのでしょうか?ひょっとしたら坂本君が葉月ちゃんと一緒に行動していたのも、それが理由なのかもしれません。

 

 

「えっと……バカなお兄ちゃんでした!」

 

「た、確かにそれも特徴の一つだけども!?」

 

 

 葉月ちゃんから出されるそんな悲しすぎる特徴。バカなお兄ちゃんさん、苦労されてるんですね。

 

・・・しっかし、いつ聞きましたっけそれ?確かに聞いたことが・・・

 

 

「そうか・・・…」

 

 

 葉月ちゃんの言葉を吟味し、坂本君は該当する人物へと目を向けます。

 

 

「・・・たくさんいるんだが?」

 

 

・・・・・・皆さん、否定をできない私を許してください・・・

 

 

「あ、あの…そうじゃなくて、その・・・・・・」

 

「あ、もしかして他にも特徴があるの葉月ちゃん?」

 

 

 ひょっとすればそっちの特徴で誰か分かるかもしれません。他にどんな特徴がある人なのでしょうか?

 

 

 

 

「その・・・・・・すっごくバカなお兄ちゃんだったんです!」

 

 

 

『吉井だな』

 

「吉井だぜ」

 

「よしーね」

 

「……ひどい、けど否定が出来ない…!」

 

 

 思わず瞳をぬぐう私でした。これが〝お兄ちゃん〟じゃなくて〝お姉ちゃん〟だったら チルノって断言してたんですけども!

 

 

「ん?その明久はどこにいるんだ?」

 

「へ?どこって、坂本君は一緒に召喚大会に行ってたのでは?」

 

「ああ。んで、勝負が終わって先に帰らせたはずだが」

 

「んん?でも2人が行ってからは私、見てませんよ?」

 

 

 他の皆も教室を見渡したり首を振ったり。どこへ吉井君は行ったのでしょうか?

 

 

 

「あれ?葉月じゃないの」

 

「あ、ご苦労様です瑞希さん島田さん。勝負はどうでしたか?」

 

 

 思い当たる行き先を考えていると、葉月ちゃんの名前を呼ぶ女子の声が新たに加わってきました。同じく召喚大会に行っていた島田さん達です。

 

 

「はいっ、勝てましたよ美鈴さん!」

 

 

 ぐっと拳を握る瑞希さん。ああ、癒される仕草ですね~♡その純粋さがうらやましいです!

 

 

「あっ、お姉ちゃん。遊びにきたよっ!」

 

 

 ?お姉ちゃん?葉月?あれ、そう言われるとこの2人・・・…

 

 

「ひょっとして、2人は姉妹ですか?」

 

「うん。ウチの可愛い妹よ?」

 

 

 やっぱりですか。活発的な雰囲気も似ていますし、何より少し勝気な眼もそっくりです。そうでしたか~。島田さんに妹がいたとは知りませんでしたよ!

 

 

「あう。お姉ちゃんも葉月の大好きなお姉ちゃんですっ!」

 

「嬉しいわ~!ありがと葉月っ!」

 

 

 ああ、妹の葉月ちゃんに嬉しそうに抱き着く島田さんが羨ましい・・・!レミィとフランはさせてくれますけど、咲夜さんには全く出来ていません!私も島田さんみたいに、咲夜さんにハグが出来たらな~!

 

 

「あ、あの時の綺麗なお姉ちゃん!ぬいぐるみありがとうでしたっ!」

 

「こんにちは葉月ちゃん。あの子、可愛がってくれてる?」

 

「はいですっ!毎日一緒に寝てますっ!」

 

「良かった~。・・・教えてくれたアリスさんに、またお礼を言わなきゃ・・・!」

 

 

 すると、瑞希さんとも葉月ちゃんは楽しそうにそんな会話をし始めました。

 

??瑞希さんも葉月ちゃんとは知り合いだったんでしょうか?何やら人形とか一緒に寝てるとかアリスとか言ってますけど。何があったんでしょうかね?

 

 

「あのっ、きれいなお姉ちゃん!バカなお兄ちゃんを知りませんかっ?」

 

「えっ?」

 

「え、アキのこと?葉月、なんでアキのことを知ってるの?」

 

「島田さん、今ので吉井君ってよく分かりましたね?」

 

 

 今の言葉で吉井君と分かるあたり、あなたも色んな形で彼の事を思ってるんですね…

 

 そんな吉井君への評価が分かっちゃう島田さんの言葉に、葉月ちゃんは満面の笑顔で答えてくれました。

 

 

 

 

「うん!だって将来バカなお兄ちゃんと結婚することになってるんだよ、お姉ちゃん!」

 

 

 

 へー、ケッコンねえ~~~・・・・・

 

 

 

『って結婚んんんっ!?』

 

 

 ちょっとちょっとちょっと!?ええええ~~っ!?

 

 吉井君、あなたの考えが本っ当に分からなくなってきましたよぉ!?恋人どころか婚約者って!瑞希さんが衝撃のあまりに口をぱくりと開けて真っ白になっちゃいましたけどおお!?

 

 

「ま、待って葉月!?それって冗談よね!?」

 

「そそ、そうです葉月ちゃんっ!それって嘘ですよね!?どうか嘘と言ってくだしゃいいいいっ!!」

 

 

 島田さんが妹を心配する姉の立ち位置で葉月ちゃんに声を荒げ、瑞希さんが恋する乙女の立ち位置で、半べそをかきながら葉月ちゃんに縋りつきます。2人とも、これまでにないほどの必死さです!

 

 

 それに対して葉月ちゃんは、

 

 

「え?う、嘘じゃないです本当ですっ!葉月、ファーストキスもあげましたっ!」

 

「ぶっ!?」

 

 

 さらなる火種をぶっこんできました。

 

 

「ま、まじですか葉月ちゃん!?」

 

「はいです!ちょ、ちょっと恥ずかしかったけれど、ちゃんとしましたですっ!ホ――タに!」

 

「・・・・アキ、しばくっ!」

 

「しくしくしく・・・」

 

「うお!?みずき、大丈夫なの!?ってアタイがいれば大丈夫よねっ!」

 

 

 それに引火され、島田さんは憤怒の表情で好きなはずの吉井君へ攻撃宣言し、瑞希さんが顔を覆って沈み込むのをチルノが自己完結しながらも慰め始めます。普段は暴走するチルノを瑞希さんがなだめているのを見ているだけに、実に新鮮な光景です。

 

 

「やるな吉井!あいつ、意外とモテる奴だったんだな!」

 

「・・・・あいつ・・・小学生に、何やってんの………?」

 

 

 興奮気味の魔理沙に対して、非常にドン引きした態度を見せる妹紅さん。ある意味、妹紅さんの本音を思い切り引き出す役目を買ってくれてありがたいですよ吉井君!!

 

 

「坂本っ!アキの奴はどこにいんのよ!?」

 

 

 怒髪状態の島田さんが、召喚大会で吉井君とペアーである坂本君へと所在を問い詰めます。八雲藍先生に通じる何かを今の島田さんからは感じます!こわっ!

 

 

「い、いやだな島田!さっきも言ったが、俺も別れてからはどこにいるかは―!」

 

 

 

 ガラッ

 

 

 

「ただいまー・・・」

 

 

『!』

 

 

 そんな消えそうな声が、坂本君が『知らない』と言い終わる前に聞こえてきました。

 

 

 その声に真っ先に反応するのは当然、修羅と化した島田さんです。

 

 

 

 

「アキィ!あんたなに人の妹・・・に・・・・え?」

 

 

 噛みつきそうな勢いの島田さんでしたが、なぜか、その勢いはしだいになくなっていきました。

 

 

「?どうしました、島田さ・・・ん、んんんん・・・!?」

 

 

 そちらを見て、私も思わず目を疑いました。

 

 

「・・・よ、吉井。一体どうしたんだぜ?」

 

「あ、明久・・・俺と別れてから、お前は何を体験したんだ?」

 

「よ・・・吉井君・・・?」

 

 

 魔理沙と坂本君、瑞希さんももぎょっとした顔で、戻ってきた彼、吉井君を凝視します。

 

 

 そんな私たちの内に思ったことを、この二人がはっきり言ってくれました。

 

 

 

 

「よしー。あんた、すっげーボロボロなのよさ」

 

「…ぼろぼろ…すぎだろ・・・・・・?」

 

 

 チルノ、妹紅さんの言う通り、吉井君は島田さんにしばかれるまでもなく、顔、体となぜかぼこぼこになっていました。サ、サンドバッグでもここまで殴られたりはしないのではと思うんですけどね!?大丈夫なんですかちょっと!?

 

 

 

「あ~・・・うん。ちょっとしたことがあってね~」

 

 

 ちょっとしたことでそんな状態になってたまりますか!見てるこっちが痛くなってきそうですよ!

 

 

「あ!バカなお兄ちゃ~ん!!」

 

 

 そんな中でも葉月ちゃんはマイペース。吉井君に嬉々としながら駆け寄りました。

 

 

「ん?・・・あっ!あの時のヌイグルミの子かあっ!」

 

 

 腫れた顔に驚いた表情を浮かべながら、吉井君が葉月ちゃんのことをそんな風に呼びました。よく分かりませんけど、どうやらぬいぐるみのことで何かあったみたいです。

 

 

「ヌイグルミの子じゃないです!葉月です!」

 

「そっか、葉月ちゃんか。でも、どうしここにいるの?」

 

「はい!お姉ちゃんに会いに来るときに、バカなお兄ちゃんとも会いに来たんですっ!」

 

「あ、なるほどね。でも、てことはここにお姉ちゃんが?」

 

「ねえアキ。なんであんた、葉月の事を知ってるの?」

 

 

 吉井君の疑問にかぶせて島田さんが尋ねます。吉井君のボロボロ状態を見て、すっかり怒りは消滅しています。

 

 

「あ、うん。前にちょっとね。美波こそ知ってるの?」

 

「知ってるも何も、葉月はウチの妹よ?」

 

「えっ?そうなの?・・・あ、でも眼とか顔とかそっくりだ」

 

「でしょ?」

 

「あと・・・うん!2人はやっぱり姉妹だね!」

 

「オイこらアキ。あんた今どこ見て判断したのよ、ねえ?」

 

「ま、まあまあ島田さん!今吉井君はボロボロですからここは穏便に!」

 

 

 再び発火。き、きっと島田さんのウエストの細さを見てたんですよ!けっして胴体の正面を見ての判断ではないはずです~~!!

 

 

「じゃあ、そこにいる2人もひょっとして美波の妹?」

 

 

 そんな島田さんの怒りの確認もなんのその。吉井君は、成り行きを見守っていたレミィとフランを指さしてそんな的外れたことを言いました。こらこら!一目で私がお姉ちゃんって分かるでしょーに!(※何度でも言いましょう。絶対に分かりません)

 

 

「へ?ううん、違うわよ?葉月の友達・・・よね?」

 

「うん!フランちゃんと、お姉さんのレミリアちゃんだよ!」

 

「へ~。ハロハロー、ウチは葉月のお姉ちゃんの美波っていうの!よろしくね~?」

 

 

 島田さんがしゃがんで、レミィとフランの背丈になって向かい合います。怒っているときとは打って変わってとっても朗らかな笑顔です!

 

 

「よ、よろしくみなみ!あなたのことは葉月から聞いてるわ!」

 

「あ、そうなの?」

 

「うん!お胸は小さいけど、とっても優しいお姉ちゃんってね!」

 

「こはぅっ・・・!!?ははっ、葉月~~っ!?あんたウチのことをどう言ってんのよ~~!?」

 

「にゃ~っ!?」

 

 

 ぐしゃぐしゃと葉月ちゃんの頭を雑に撫でる島田さん。例え妹でも許せないことはあるみたいでした。まあそれはともかく、ここはびしっと言わせてもらいましょうかね!

 

 

「え~とですね皆さん。この二人は私と咲夜さんと妹紅さんの妹ですよ!」

 

 

 言わなくても分かってくれてると思いますけども!ここは念のためです!

 

 

 

「ウソだね」

 

「ウソだな」

 

「ウソね」

 

「ウソなのよさ」

 

「……私、初耳なんだけど・・・」

 

「皆さんひどいです!?」

 

 

 どうやら四人の目はおねむになってるみたいですね。あと、妹紅さんはそこはあわせて!事実と言えば事実なんですから!

 

 

「あっはっはっはっ!もはやそう返されるのがお約束だな美鈴~!」

 

 

 だまらっしゃい魔理沙!きっと一目で分かってもらえる日がきますっ!(※おそらく来ません)

 

 

「いや、四人とも。紅の言っておることは本当じゃぞい。この2人は紅達の妹じゃ。のう?レミリア、フラン」

 

 

 ナイスアシストです秀吉君!やっぱり秀吉君は分かってくれますよね!(一度会って知っているからであり、最初は驚いて、分かっていませんでした)

 

 

「そ、そうよ!」

 

「うん。そうだよ!」

 

 

 あうう!2人とも胸を張ってくれて言ってくれて、お姉ちゃんは嬉しいよ~~!!

 

 

「あっ。美鈴さん、ひょっとして咲夜さんが言っていた二人の妹さんって、この二人のことでしょうか?」

 

「あ、多分そうですよ!」

 

 

 そう言えば瑞希さんと初めておしゃべりした時も、咲夜さんから私の事を聞いて知っていたんですよねー。だったらレミィ達の事も知ってて当然ですか!

 

 

「やっぱりですか~。初めまして、お姉ちゃん、姫路瑞希っていうの。二人の事は咲夜さんに聞いてるよ?」

 

 

 ニコリと安心する笑顔を浮かべる瑞希さん。さすが、チルノのお母さん的な役割を果たしてるだけありますね!

 

 

「・・・(じ~~)」

 

 

 すると、フランはその明るい笑顔に目を奪われたのか、瑞希さんを凝視して目を離しません。分かりますよフラン!瑞希さんってすごい可愛いですものね!咲夜さん達やあなた達にも劣らないのではないでしょうか!

 

 

「初めまして!フランちゃん、かな?よろしくね!」

 

 

 瑞希さんが笑顔のまま、手を差し出してフランと握手をしようとしました。さ、フラン!瑞希さんが握手を求めてるんですからちゃんと握手するのよー!

 

 

「……うん!(スッ)」

 

 

 私と瑞希さんの思いが届いたようで、フランは手を差し出して瑞希さんの手へと持っていきます。よしよし!よくできたねフラン!きちんと礼儀を守ってくれて、私はうれし――

 

 

 

 

 

モニュン

 

 

 

「わ~。大きいお胸だね~!」

 

「・・・は・・・・ふぇっ?」

 

 

『・・・ぶばふっ!?』

 

 

・・・なぜか、フランの手は瑞希さんの手を掴まずに、その先の瑞希さんの、豊かで女性のシンボルとも言える胸に・・・って!

 

 ななっ、なんちゅうことをこんな大勢の前でやってるのよフラーンッ!?

 

 

「ちょ、フ、フランッ!?」

 

「・・・は、はううっ!?お、お、お胸の事は気にしてるからあ、あ、あんまり言わないでほしい、かかかかな~?」

 

 

 あ、ああ申し訳ない瑞希さん!そんなに顔を赤絵の具みたいにさせちゃって!どうか妹を許してやってください~!!

 

 

「あ!じゃあ咲夜と一緒だね!」

 

 

 !?ちょ、そこで咲夜さんって!!?あなた何を言おうと――!?

 

 

「え、さ、咲夜さんですか?」

 

 

 

「うん。咲夜もよく、自分のお胸を見て溜息をついてるよ?」

 

 

 

『………………』

 

「……そ、そ、そうですか~。ア、アハハハハハ・・・・・」

 

「あ、あ、あはは、あはは……」

 

 

 今のを咲夜さんが聞いてたら、間違いなく激昂してましたね。下手すればフランを止めなかった私の命、およびそれを聞いた人の生命がやばいことになるかもしれません。

 

 

「ううぅう、うぐっ、えぐっ・・・!分かる。ウチには分かるわその気持ちが、十六夜ぃ~~・・・!」

 

「お、お姉ちゃん、大丈夫?どこか痛いの?」

 

 

 何を感じたのか、島田さんが両手で顔を覆って号泣し始めます。私の勘が話しかけたらだめだと警鐘を鳴らしてますから、それに従いましょう。

 

 

 

 私のやることは――

 

 

 

 

「フゥゥゥラァァァアンンンンっ!!?」

 

「あだ!?いだいいだい美鈴痛い~~!!」

 

 

 咲夜さんのトップシークレットをばらしたこの妹に、罰を与えることでしょう。今回は加減しないわよ~~!?

 

 

「??皆、何を慌ててんのよさ?胸がどうしたのよ?」

 

「さあ。・・・・どうでもいいことだろ……」

 

「おお。さすがねもこー。あんただけはアタイと同じくはしゃいだりしないで、大人なのよさ」

 

「………私は、初めてお前が大人びて見えたよ………チ、チルノ」

 

「べべっ、別にこ、子どもじゃなくて、レディーだって求めるぜ!お前らがおかしいんだよバカァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『なかなか盛況していますね。西村先生』

 

『そうですな。しかし、それに着け込んで良くない事を起こす者もいますから、気を付けてください、高橋先生』

 

『ああ…そういえば、Fクラスの吉井君、坂本君、霧雨さんが色んなところから机を強奪していったそうですね』

 

『……それにつきましては、本当に申し訳ない・・・。今はお客も来ていたので、あのバカ共に強くも言えず…!』

 

『いえ、西村先生は頑張ってます。そんなに気になさらないでください。私のクラスにも少し、似た子たちはいます』

 

『ほう?それは本当ですか?』

 

『ええ。博麗さんと木下さんという女子なのですが、この二人の仲が凄まじくて…担任としては、皆が仲よくしてほしいものなんですが…』

 

『それはなんと・・・ですが、喧嘩をするのが悪い事ではありませんと思いますな、高橋先生。喧嘩をしてこそ絆が強まるということもある』

 

『そのようなもの、でしょうか?』

 

『私も同感だね。互いが認め合ってるからこそケンカをすることもあるものさ』

 

『ふむ。なるほ………………え?』

 

『ん?』

 

 

『よっ。久しぶりだね、洋子』

 

 

『む?あなたは?』

 

『失礼。この高橋洋子の友人で、ここの学園に娘がいる、ただの保護者さ。ちょっとだけ時間が出来たから、せっかくだから来たんだよ、先生さん』

 

『……………………』

 

『そうでしたか。それは失礼しました…………む?高橋先生?・・・高橋先生?』

 

『ん?おいおい洋子。私を見た途端にだんまりになって大量に汗を流し始めるなんて、友達に対してひどい奴だねえ。もっと嬉しそうに歓迎をしてやるってのが人情だろ?』

 

 

『…………あ』

 

『ん?』

『む?』

 

 

『………あ、あな―は…』

 

 

『『あな?』』

 

 

『・・・あっ、あ、あああなたはなんでそうやって!いつもいっつも!!前触れもなく姿を現すのよおおおおおっ!!』

 

 

『!?・・・た、高橋先生?』

 

『・・・あ~、洋子。あんたまだ、そのヒステリックな性格が治ってないのか?悪くはないんだけど、あんまり怒鳴りすぎるのも良くないと思うがねえ・・・』

 

 

『だっ、誰が原因なのよ!!この破天荒バカァァっ!!』

 

 

 

 




 はい!お読みいただきありがとうございます!

 今回はちびっこトリオが中心となって、ワイワイとにぎやかな話を作ってみました!純粋というのは一つの武器となるのかもしれませんね~。あれが明久とかだったら血が出ていましたね!


 で、最後に出てきた高橋先生。完全にキャラが崩壊させてしまいました!

 でも、皆さんもないでしょうか?新しい環境にて丁寧口調でいたのに、昔の友人が来たので親しげな話し方に戻ることは!

 高橋先生も、彼女(自分では名前を出しておられませんので、あえて『彼女』と呼びます。)とはそれだけ強烈で、深い仲の人物だったために、あのように過去の話し方へとなったわけなのです!鉄人も周りにいた生徒も、さぞかしびっくりしたことでしょうね!

 それではまた次回っ!たぶん次回も喫茶店側の話です!


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取引―買収、行為がここまでひどいものだと思わせることはめったにないと思うなあ…

 どうも、村雪です!

 さて今回なのですが、前にもどこかで言ったと思うのですけど・・・・申し訳ないっ!原作の内容といことで一部、いるであろう間の話をとばさせてもらいました!原作を知らない方、まことにすみませんっ!

 いちおう最後の後書きの方で、かなりざっくりとですがその流れを書かせてもらいましたが、やはりわかりづらさはあると思います・・・。どうか勘弁してやってください~!

 どうか、皆様に不快な思いをさせないような内容であれと願って……


――ごゆっくりお読みください。




「ところで、この客の少なさはどういうことだ?」

 

「メ、美鈴もう言わないから離して痛いったら~~!!」

 

 

 坂本君が教室を見渡してそう尋ねてきました。おおっと、フランにお仕置きをしてたらすっかり忘れてましたね!

 

 

「あ、さっきから急に来る人が少なくなったんですよ」

 

 

「あいだ~・・・!美鈴のバカッ!嫌いになってやるもん!」

 

 

 解放されたフランのそんな絶交宣言。はっはっは!それぐらいでうろはえる私じゃありませぐしゅっ。・・・これはあれです。あくびとはなかぜでずっ!

 

 

「あっ。そう言えば葉月、ここに来る途中でFクラスさんのことを悪く言ってる人を見ました!」

 

 

 その答えは意外にも、われわれ高校生組からではなく、小学生の葉月ちゃんから出てきました。

 

 

「ん?そうなのか?」

 

「はいです!たぶん、力持ちのお姉さんが運んでた2人でしたっ!」

 

「え?ほ、ほんとですかそれ!?」

 

「はい!」

 

 

 さ、さっき秀吉君が心配していた通りというわけですか。全くもう!なんでそこまでして2-Fクラスを下げますかねえ!?何か恨みでもあるのかという話ですっ!

 

 

「え~っと、それってつまり、ルーミアさん達と勝負が終わって戻った時に、美鈴さんがかついでた2人だよね?」

 

「そうなるな。紅。そいつらの名前とかは分かるか?」

 

「え~とですね。確か頭が坊主さんの方が夏川で、モヒカンみたいな髪型の方が常村、だったと思いますよ?」

 

 

2人が呼び合っていたのを聞いただけなので間違っていないとは言えないんですけど、もう髪型で覚えた方が早い気もします。

 

 

「夏川と常村・・・面倒だから、常夏コンビとしておくか」

 

「ぷっ。なかなかうまいじゃないか坂本。座布団一枚だぜ」

 

 

 坂本君、実に覚えやすい呼び方をありがとうです。

 

 さて、さっきので止めてくれると思っていたのですが…どーも先輩方は反省という事を知らないみたいです!ここはもっとびしっとボコッと言ってやらないといけませんね!

 

 

「・・・って、そろそろ召喚大会の時間じゃないですか私」

 

 

 さっき終わったばかりだというのに、時間というものは短いものです。今すぐ常夏コンビさんを探してとっちめるのは無理ですね。

 

 

「すいません皆さん。私また、そろそろ召喚大会の時間ですので、抜けさせてもらいますね?」

 

「あ、うん。じゃあその常夏コンビのことは僕たちに任せて!」

 

「力持ちのお姉さん、どこかに行っちゃうですか?」

 

「はい。ちょ~と別のお仕事がありましてね!」

 

 

 お仕事と言うよりお遊びに近いんですけど、ここはちょっとかっこつけて言いましょう!

 

「そうなんですか!頑張ってくださいです!」

 

「はい!頑張ってきますね~!」

 

 

 まあまあなんて良い子でしょう!感激の証のハグですよ~!!

 

 

「はふぅ・・・。お姉さんは、お姉ちゃんよりお胸が大きいです~…」

 

「・・・美鈴んんっ!ウチをこれ以上辱めるんじゃないわよぉぉぉ!」

 

「えええっ!?わ、私何も言ってませんよ!?」

 

「ゥゥゥ~・・・!ウ、ウチもまだまだ成長するもん…!!」

 

「そうだぜ美波、私らはまだまだ成長期だ・・・っ!!」

 

 

 え~と、ハグをすることって何か罪でしたっけ?理不尽さを感じながら、私は教室を出て行きました。(以前、咲夜さんに抱き着いただけの愛子をしかったあなたが言いますか・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの2人とも!元気を出してくださ」

 

「敵に贈られた塩なんか受けないわよっ!」

 

「そうだそうだ!敵は黙ってろい!」

 

「ひい!?ど、どうして私が敵になってるんですかー!?」

 

「まりさ…みなみ・・・敵と味方が分からなくなるなんて、ついにあんた達もバカになったのね…」

 

「!!?あ、あああんたが言うなチルノー!」

 

「やべえっ!吉井が普段メチャクチャ反論してる気持ちがスゲエ分かった!と言うか!お、お前も私らと同じじゃねえかチルノっ!」

 

「?何がなのよさ?」

 

「な、なにって・・・ここよ!ここっ!」

 

「・・・はん?胸が何よ?」

 

「な、何って・・・お前!胸だぞ!女の魅力の一つでもあるんだぞ!そこがないなんて、私らは涙にぬれるしかないだろ!」

 

「・・・落ち着きなさいあんた達。身長ならわかるけど、たかが胸ぐらいで騒いでたら、本当にバカになるわよ?」

 

「!??お、お前本当にチルノか!?今、これまでにないほど冷静じゃないか!?」

 

「チルノじゃないっ!こんなに大人びて冷静なチルノは、チルノじゃないわよーっつ!」

 

「・・・はあ。落ち着きなさいあんた達。最強のアタイが話ぐらい聞いてあげるのよさ」

 

 

「「も、ものすっごい腹が立つ(な)(わね)っ!?」」

 

 

 

 

「は、はわわわ・・・!チ、チ、チチルノちゃんがすごく頼りに見えます…!!な、何かの前触れでしょうか・・・!?」

 

 

「・・・あんたも・・・意外とひどいな・・・」

 

「はう!?も、妹紅ちゃん!今のは聞かなかったことにしてくださいーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、次の勝負科目は現社(現代社会)でしたっけ?」

 

「ええそうよ。点数に自信は?」

 

「まあまあありますね。と言っても、勝つかどうかは相手しだいなんですけどね」

 

「そう。ともかく行きましょう」

 

「はいよ~」

 

 

 は~、できることなら楽して勝てる相手だと嬉しいんですけどねぇ。

 

 レミィとフランのことは、教室を出るときに妹紅さんや瑞希さん達に任せてきました。一緒に来たがってたんですけど、さすがにそれは無理でしたので妹紅さんや瑞希さんにお願いしてきました。

 

 けど、大丈夫でしょうか?・・・主に魔理沙やチルノ。あの2人がおバカなことをしなければ良いんですけど・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「げっ!?お、お前かよ紅美鈴!?」

 

 

「ん?」

 

 

 そして、ステージに到着し、真っ先に聞こえたのはそんな嫌そうな声。

 

 

 

 

「ああ。根本君ですか」

 

 

 待ち構えていたのは、Bクラス戦の時に色々としでかしてくれたBクラス代表の根本恭二君と、ペアーらしき強気そうな女子人でした。そ、そんな警戒しなくても何もしませんよ~!

 

 

「紅美鈴っ!あんたよくも、人の彼に手を出してくれたわねっ!?」

 

「は、はいっ!?」

 

 

 その要望もむなしく、急に隣の女子にケンカ腰で睨まれました!?か、彼?ってことは・・・

 

 

 

「咲夜さん。ひょっとして彼女が小山さんですか?」

 

「そうよ。なんでも根本恭二の彼氏だそうよ・・・…少し見る目がないようね」

 

 

 さらっとひどいことを言う咲夜さんでした。う~ん、手を出したと言われましても、あれはしっかり理由があってのことですし、そもそもその言い方だと、私が根本君を誘惑したみたいですから勘弁してほしいですねー。鳥肌が立ちます!

 

 

 

「…ところで、手を出したって美鈴・・・あんな男に興味があるの・・・?」

 

「いえ、全くありませんよ?実はかくかくしかじかでして――」

 

「ちょっと!何こそこそ話してんのよ!?さっさと準備しなさい!」

 

 

 何やら誤解をしてしまった咲夜さんに、Bクラス戦の時に彼がしでかしてくれたこと。そしてそれに対して私がけじめをつけさせてもらったことを説明しました。とりあえず小山さんの言葉は右から左です。まずは咲夜さんの極めて失望しましたって顔を止めてもらうのが最優先!

 

 

 そしてしばらくして、説明終了。なんとか咲夜さんは誤解を解いてくれました。

 

 

 

 

「・・・ほー。瑞希の手紙を脅しに・・・?」

 

「は、はい。で、瑞希さんも泣きそうになっていたから私も怒っちゃったんですが…」

 

 

「・・・へえ………根本恭二、くずね」

 

 

 代わりに、根本君に溢れんばかりの怒気を滾らせ始めました。あ、これはやばいですね。どうも逆鱗に触れちゃったかもしれません。

 

 

「美鈴。あなたは何も悪くないわ。・・・…むしろ、人の気持ちを踏み躙る奴にはぬるすぎる罰ね」

 

「さ、さすがにそこまでは厳罰すぎると思いますよ!?」

 

 

 根本君。今からあなたは地獄を見ることになるかもしれません。どうか耐えてください・・・!

 

 

「小山さん」

 

 

 すると、根本君ではなく、彼女の小山さんに咲夜さんは声をかけました。あれ?どうする気でしょう?

 

 

 

「は?何よ?十六夜」

 

 

 

 

「これを見てちょうだい」

 

 

 

 

 そう言って咲夜さんは、何かを懐から――

 

 

 

「って!?」

 

 

「!!!そ、それは・・・っ!?」

 

「??何よそれ?」

 

 

 小山さんは首を傾げるだけでしたが、私と根本君は思い切り戦慄します!

 

 

 

 なぜならそれは、根本君の女装姿が表紙になっている本。タイトルは『生まれ変わった私を見て!』です!

 

 

 ど、どうして咲夜さんがそれを持ってるんですかっ!?確か土屋君、あるいは坂本君が持っているんじゃありませんでしたっけ!?

 

 

「これは私がとある人物から入手したものよ。中には、そこの根本君の晴れ姿が写ってるわ」

 

 

 は、晴れ姿と言うより罰ゲームでのこっ恥ずかしい思い出の間違いだと思います!(それ以上に、決して表に出したくない黒歴史です)

 

 

「っ!!!ま、ま、待った十六夜!何が要求だ!?な、何でも聞くからそれを俺に・・・!」

 

 

 事態がとんでもない方向に動くと思ったのか、根本君が必死に咲夜さんへと懇願します。確かにこれが自分の手元に返ってくれば、自らの女装姿が誰にも知れ渡ることなく自分の手で処理できるのですし、最高の好機です!さあ、咲夜さんの反応は!?

 

 

 

「・・・・・(ニコリ)」

 

 

 その言葉に咲夜さんは笑顔を浮かべて、向かいの2人へ本を差し向け――

 

 

 

「小山さん。もしもこの中身を見たいのなら、負けを宣言してもらえないかしら?あまり点数を消費したくないのよ」

 

 

「い、十六夜っ!?お前は悪魔かぁ!?」

 

 

 どうも今の咲夜さんは、小悪魔ならぬ大悪魔のようです。もはや根本君を社会的に叩き潰す勢いです。泣きそうな声を上げる根本君に、初めて同情を覚えました。

 

 

「・・・・わかった。私たちの負けよ」

 

「交渉成立ね」

 

 

 好奇心が彼氏よりも勝ったようで、小山さんは特に反対することなく咲夜さんの提案に乗りました。な、なんと哀しい展開か・・・!!それがどれほど彼氏さんを辱めるやら・・・!

 

 

 

「まま、待ってくれ優香、十六夜ぃぃぃ!!」

 

 

 その時最後のあがきなのか、根本君が本を渡そうと近づく咲夜さんの手首をつか――

 

 

 

「――って咲夜さんに乱暴働いてんじゃねぇですよぉぉおっ!!」

 

「がぶぅっ!!?」

 

 

 よし、腹に一発ダウン!咲夜さんに乱暴を働く奴に同情するなんて、私はなんてバカだったんでしょう!こういう方にはきつ~い灸が必要です!さあ咲夜さん!やってやりましょう!

 

 

「ありがとう、美鈴。じゃあ、はい小山さん。じっくり見てあげて」

 

 

「・・・・・・・・・(ペラ)」

 

「たっ、頼む優香!それを見ないで、俺に・・・!」

 

 

 さて、あとは2人だけの時間にするべきですよね!邪魔ものさっさと撤退あるのみです!

 

 

「先生。私たちの勝ち、でいいですか?」

 

「…あ、はいッ!勝者、十六夜、紅ペアです!」

 

 

 小山さんの背後から一緒に本を見ていた先生に宣言されたことで、私たちの勝ちは決定されました。

 

 

「勝利ね」

 

「はい。何か勝利の仕方が微妙ですけど、勝利です!」

 

 

 うつぶせになりながら必死に手を伸ばす根本君、写真集をまじまじとめくり続ける小山さんと横から再び興味深そうに写真集を眺める先生を背に、私たちはステージを離れました。

 

 

 

 

『――さようなら。あなたにそういう趣味があったとはね…』

 

『ま、待ってくれ優香!これは事情があったんだーーーーっ!!』

 

 

 後ろから聞こえるそんな声は聞かなかったことにしましょう。

 

 悪事を働けば報いあり。実に的を射た言葉でございますねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、上手く常夏コンビに逃げられたね。おかげですぐに召喚大会の時間だよ」

 

「ああ。だが今はあいつらのことは放っておけ。気にしすぎて勝負に負けても本末転倒だ」

 

「あ、うん。次の相手は誰になるかなあ?」

 

 

 あまり面倒な相手じゃなかったらいいんだけど、相手も二回勝ち上がってきたコンビになるからあまり楽観はできない。気合いを入れて行かなくちゃね。

 

 

 

 

 そして、相手二人とご対面。

 

 

 

 

「遅いわよあんたら。待ちくたびれちゃったじゃない」

 

「いや霊夢。僕達もまだ来てから二分も立ってないよ?」

 

「余計なことは言わないものよ、愛子。私は意外とせっかちなの」

 

「あはは。意外ではないけどね~」

 

 

 

 ・・・果たして、僕達に一ミリでも勝利の可能性はあるのかな?

 

 

 僕たちを待っていたのは、ボーイッシュな髪型が爽やかな女子の工藤さんと、長くて黒い髪と赤色のリボンが目を引く女子の博麗さんだった。2人ともAクラスなわけで、僕達とは天と地ほどの差があるコンビだ。

 

 

「やっほー、吉井君、坂本君。悪いけどボクたちが勝たせてもらうよ?」

 

「そうね。私の生活のためにも、あんたらには絶対に負けてもらうわよ、吉井、坂本」

 

 

 お祭りの雰囲気な工藤さんに対して,博麗さんは目が全く笑ってなくて、ど真剣だ。そこまで必死になるって、博麗さんのお財布事情が気になるところだなあ。(△ 心配してあげるのは良い事ですが、まずは自分の事を振り返りましょう)

 

 

「あはは、ボクにも少しは分け前を残してよ霊夢~?霊夢ったら独り占めしそうだからね!」

 

「・・・・・・・・・愛子・・・私達、友達よね?」

 

「て、えええっ!?本当に独り占めする気だったの!?い、いやそりゃどうしてもって言うならいいけれどさっ!?」

 

 

 博麗さんの底知れぬ欲求にぎょっとする工藤さん。これほどひどい友達の強調もあるまい。博麗さんみたいな美少女じゃなくて雄二みたいなバカが言ってたら、僕だったら全力でグーだったね。

 

 

「ねえ雄二。僕にはどうしてもあのど真剣な博麗さんに勝てる気がしないんだけど」

 

 

 というか勝ったらダメな気がしてきた。もしもそれで博麗さんがガリガリになったら(今もやせてるけど)、僕の良心が張り裂けるかもしれない。僕も似たようなもんだけどね。

 

 

「おいおい明久。お前の大好きな姫路への思いってのはこの程度か?」

 

「な、ななななっ!?い、いきなり何言いだすんだよ雄二っ!?」

 

 

 こ、こいつはなんてことを言いだしてくれるんだっ!博麗さん達に聞こえたらどうしてくれるのさ!?告白される前に知られてフラれたらどうするんだよっ!?

 

 

「事実だろ?じゃあ諦めるのか?」

 

「うぐっ・・・そ、そりゃ諦める気はないけどっ!」

 

 

 そのニヤニヤした顔が腹立たしい!いつか雄二にも味あわせてやるぞっ!

 

 

「で、でも雄二。もしも僕らが勝ったら、博麗さんの生活が・・・」

 

「――やれやれ、お前のそういうところは変わらないな…だが、安心しろ。

 

  お前の協力があれば、両方が上手く収まる可能性がある作戦が実行できる」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ・・・協力してくれるか、明久?」

 

 

 雄二の作戦、って聞いてまっとうな作戦が思い浮かばない僕は悪くないよね?

 

・・・けれど、このまま勝負をしても勝てる気がしないし、百万が一に勝てたとしても、博麗さんに生命の危機が訪れるかもしれない。なんとかしたいけど、僕の頭に解決策はないし・・・ 

 

・・・だったら、雄二の作戦に賭けるとしよう!

 

 

「分かったよ雄二、協力するよ」

 

「よし。――おい、博麗」

 

「ん?何よ」

 

 

 いきなり雄二に話しかけられた博麗さんは、面倒くさげに耳を傾けた。

 

 

「お前はなぜ召喚大会に出ているんだ?」

 

 

 ?雄二は一体何を聞くつもりなんだろう?

 

 

「当然、商品券五千円分のためよ。それ以外にもなんかあったけど、どうだっていいわ。そう、どうだって…!!たとえ負けようとも、たとえ誰がたちふさがろうともそれだけは絶対に商品券だけは手に入れてやるわ・・・っ!もう道端の葉っぱ料理には、満足しすぎてんのよっ!!」

 

 

「・・・・・・・・・・・・…」

 

「霊夢・・・」

 

 

 

 博麗さんの心からの叫びに、僕と工藤さんは思わず目から水を流してしまった。もう哀しくなって目が当てられない!博麗さんのお財布事情って僕と同じだったんだね!?同じ境遇の人に出会えても、全く喜びが込みあがってこないけども!

 

 

「そうか…博麗。お前の勝利したいという気持ちはよく分かった」

 

 

 博麗さんの生活のかかった言葉にも、雄二は特に反応を示さずに答えた。いつも思う事だけど、この男には温かさがないのだろうか?

 

 

「だが、それは俺達も同じで負けるわけにはいかないんだ」

 

 

 僕は姫路さんの体調のために、雄二は恐怖の未来を回避するために(僕としては幸せな未来だと思うけれども)。雄二の言う通りだけど、それだと話は平行線になっちゃうんじゃないかな?

 

 

「あ、そう。だからって勝ちを譲ってあげるほど、私は人が出来てないわよ」

 

 

 やっぱり、博麗さんは気持ちが変わらないままだ。雄二は一体どうするつもりなのかな?

 

 

 

「そこで、提案がある」

 

 

 提案?一体なんだろう?

 

 

「提案?」

 

「何よ提案って?」

 

 

 雄二の言葉に工藤さんはきょとんとし、博麗さんは初めて興味ありげに聞く耳を持ってくれた。

 

 

「ああ。博麗、工藤。お前達の目的は、その商品券を手に入れることだろ?」

 

「そうよ」

 

「ボクは霊夢に誘われたんだけど、まあそーなるかな?」

 

「つまりだ。その商品券が手に入れば大満足。目的は達成できるってわけだ」 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 顔を見合わせる2人。え?なになに?僕にはさっぱり分からないんだけど?

 

 

 

「・・・つまり、あんたらがその商品券と同等の物を準備してくれるってことかしら?」

 

「そういうことだ」

 

 

 へ~、そういうことか。でも商品券って五千円円分なんだよね?そんな大金を準備するなんて、雄二は気前が良いなー。少しかっこよく思えた。

 

 

「一応言っておくけど・・・お金に絡んだ嘘をつかれたら私、キレるわよ?」

 

 

 じろりと見てくる博麗さんの言葉にウソはない。本当に破ってしまったら、明日の朝日は拝めなくなるかもしれないぐらいの迫力だ。

 

 

「安心しろ。しっかり約束は守らせる」

 

 

 雄二は自信満々に言い放った。約束を守らせる、か。雄二のその自信には、僕も素直に褒めの言葉を贈れるよ!

 

 

 

 

・・・・・・・・・って、あれ?・・守らせる?

 

 

 

 

「俺がこいつを見張って、約束を破るようならしっかり取り立ててみせる。…おい明久、急にしがみついてどうした?」

 

 

 この男をかっこいいと思い、お褒めの言葉を贈った僕が大バカだったみたいだ。

 

 

 

「待って雄二!その商品券っていくらだと思ってるのさ!?」

 

「五千円分だろ?」

 

「それを知って平然と告げる君の血は何色だっ!」

 

 

 五千円って!ご飯を64分の1カップメンですごしている僕にとってどれだけの大金と思ってるのかな!?それを払ったら僕は、もはや公共の水道水しか口に入れられないよっ!

 

 

「無理雄二っ!この作戦は実行不可能だよっ!」

 

 

 僕のお宝のゲームコレクションを売り払えばなんとかなるかもしれないけれど、そんな残酷な事、僕には出来ないというかしたくない!

 

 

「落ち着け明久。俺たちは召喚大会で優勝を狙ってるんだろう?」

 

 

 全力で抵抗する僕の肩に、雄二はポンと手を置きながら、言い聞かすようにそう声をかけてきた。

 

 

「そ、それがどうしたのさ!?」

 

 

「なら、商品券を手に入れるのは誰だ?優勝を狙う俺達にも、その可能性があるじゃないか」

 

「・・・あっ・・・」

 

 

 そ、そうだ。僕たちが優勝をすれば、博麗さん欲しがってる商品券を手に入れることになる。それを博麗さんにそっくりそのまま渡せば、僕の懐は痛むことなく約束を果たしたことになる。

 

 手に入った商品券をあげるのは惜しいけれど、目的のためなら全然構わない!

 

 

「そっか!なら大丈夫だね!」

 

「ああ。どうだ博麗、工藤?ここは一つ互いにメリットを与えあわないか?」

 

「・・・・ふ~~ん…」

 

「ボ、ボクは霊夢次第かな?どうする霊夢?」

 

 

 工藤さんが博麗さんに一任してくれたので、あとは博麗さんの判断を待つのみだ!頼むよ博麗さん!後でも先でも同じものが手に入るなら、目先の方に目をやってちょうだい!

 

 

「それが本当なら、確かに私は五千円分の何かは確実に手に入るわね」

 

「れ、霊夢~、ボクの取り分を寄付することは確定事項なのかなあ?」

 

 

 相棒の取り分も自分の勘定に入れちゃう博麗さん。これは、期待してもいいんじゃないかな…!!

 

 

「んー・・・・・・・・・吉井、坂本」

 

 

 あっ、OKサインかな!?

 

 

「ん、なんだ?」

 

 

 

 

「もう一声」

 

「へ?」

 

 

 違ったみたいだ。え、もう一声?

 

 

「博麗さん、どういうこと?」

 

 

「わざと負けるのって、かなり嫌なものよ?ましてや、無理やり愛子を誘ったっていうのに、勝手に負けたら悪いじゃない」

 

「そ、そこは気にするんだね?ボクは気にしてないところなんだけど…」

 

 

 気にするべきは友達への分け前だと思うんだ、博麗さん。

 

 

「なのに、勝ちを譲って負けた報酬が勝った時と同じっていうのはねえ」

 

 

 博麗さんはそう言って顔を左右にふった。…もしかして、博麗さんはとんでもないことを考えられていませんでしょうか?僕の勘がとってもうるさい騒音をたて始めているよ?

 

 

 

「博麗。つまりなんだ?」

 

 

 

 

「簡単よ。――もっとうまみをよこしなさい」

 

 

 雄二の疑問に博麗さんはあっさりと答えた。僕、彼女ほど貪欲にはなれない。

 

 

「分かった。なら五千円の二割増しでどうだ?」

 

 

 って雄二!勝手に決めてるけどそれって僕の負担だよね!?

 

 

「五千の五割・・・はいいか。四割ね。それなら手を打つわ」

 

 

 博麗さん、ちょっと妥協してくれてるみたいだけどさほど負担は変わってないよっ!?

 

 

「分かった。交渉成立だな」

 

 

 ちょ、ゆ、何勝手に交渉成立させてんのさ雄二-っ!?

 

 

「はいよ。先生、私たちの負けだわー」

 

 

 ついには博麗さんが敗北宣言をしちゃった!!僕何も言ってないのに、お金を負担するって言ってないのに!

 

 

「え、よ、よろしいのですか博麗さん、工藤さん?」

 

「大丈夫よ。ねえ愛子?」

 

「ボ、ボクとしてはもう少し楽しみたかったけど、うん。充分楽しめたし、全然オッケーでーすっ!」

 

「わ、分かりました。では、勝者は吉井、坂本ペアーです!」

 

 

 声をあげようとした時には手遅れで、審判の先生が勝者を宣言し、僕達の勝利と僕のの支払いが確実となった。勝ったのに、全くもって喜べない!

 

 

「雄二ぃいっ!今日という今日は許さないぞこの野郎ーっ!」

 

 

 今は勝利よりも支払いの事の方が一大事だ!僕は渾身の右ストレートを雄二の顔面にきめ

 

 

「よっ(パシッ)」

 

 

ゴキン

 

 

「げふ!?」

 

 

 る前にガード、さらには頭にカウンターもくらってしまった。な、なんでそんなに動きが良いのかなあ…!

 

 

「仕方ないだろう。俺もお前も決して負けるわけにはいかない。ある意味、これは一つの試練なんだ。耐えろ明久」

 

「僕だけが試練を受けるの!?せめてそこは雄二も一緒に受けようよっ!」

 

 

 そして僕の負担を減らして!自分だけ助かろうとするなんて卑怯でしょっ!

 

 

「明久・・・俺達、ダチだよな?」

 

「友達を売るような奴は友達じゃないよ!」

 

 

 この男と一緒にいてあげる僕を、誰か褒めてほしいなあ…

 

 

「吉井」

 

「あ、なに博麗さん?」

 

 

 博麗さんはじっとこっちを見て、真剣な顔で一言。

 

 

「ご馳走になるわよ」

 

「…はい」

 

 

 この召喚大会で優勝しなくちゃいけない理由が、また1つ増えてしまったようだ。それも人のためとかじゃなくて、自分の命のためにだよこんちくしょーっ!

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、愛子」

 

「へ?ど、どうしたのさ霊夢?」

 

「勝手に誘ったのに、勝手に負けたでしょ。そのことよ」

 

「き、気にしないでよそんなの!ボクだって召喚大会に出れて楽しかったもん!だから霊夢は、普段みたいにあつかましくいていいよ!」

 

「誰があつかましいっての。・・・・・・大好きな、ねえ」

 

「へ?何か言った霊夢?」

 

「気にしなくていいわ。・・・私、そいつと面識ないし、部外者がどうこう言っても仕方ない事だからね」

 

「??ど、どういうこと?」

 

「で、愛子。吉井の奴が奢ってくれるみたいだから、その時は連絡するわ」

 

「・・・ええーっ!?ボ、ボクも誘ってくれるの!?」

 

「?いらないの?なら私一人で喜んで行ってくるわよ?」

 

「あ、行く行く!れ、霊夢はてっきり一人で行くと思ってたんだよ!」

 

「あのね愛子。いつ私がそんな器の小さい奴みたいなことをしたのよ」

 

「け、結構してたと思うけどな~…でも、なんだかんだで霊夢と遊びに行くのって初めてだね!楽しみにしてるよ!」

 

「ふ~ん。まあ期待してなさい。七千円あれば、かなり良いものが食べられるわよ」

 

「全部食事に使うのっ!?ボ、ボクの思ってたお出かけとは違うなあ…」

 

「あんたは女子高生に夢を見すぎなのよ、愛子」

 

「ボク自身が女子高生なんだけど!?」

 

 

 

 

 




 
 お読みいただきありがとうございます!あ~、今回はちょっと色々とやってしまったかもしれません…!主に話をすっ飛ばしたり、友達を売ったり買収行為で勝利を得たりと…!
 村雪と出演者、ともども胸を張れない回でした!申し訳ありません!


 さて、では明久たちが召喚大会を行う前に何をしていたのか?

 必要なところをこれ以上なくざっくり言えば、『明久たちが2ーFクラスの悪評を広める先輩2人改め、常夏コンビに制裁に行き、うまくいきそうでしたが、常夏コンビが逃亡して逃げ切られたため、やむを得ず諦めて召喚大会に来た!』ってな感じですね。

 無論他にも色々とあるのですが、『常夏コンビがこりもせずに悪事を働かせている!』という認識があったら大丈夫です!

 本編で語らずに、こうやって後書きで説明をするのは良くないのに…今回は誠にごめんなさい!次回からは、そのような分かりにくいことがないようにしていく所存です!


 分からないこととか気になること、感想やただの雑談でも遠慮なく送ってください!遅くなるかもしれませんが、必ず返信しするつもりです!


 ではまた次回っ!今回を上回るような内容にしなければ・・・!


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変貌―見た目、の方が口よりず~~っと興味をひけるんじゃな…

 どうも、村雪です!


 今回は文化祭方面でお話を出していきたいと思います!さて、悪い評判を流されたFクラスはどのように動いていくのか・・・!?

 ちょっでもと楽しみにしてもらえたら幸せです!

 
――ごゆっくりお読みください。


「ただいまー!・・・って、う~ん・・・やはり、お客様が少ないですねえ…」

 

「そうじゃな。何か手を打たねばならんのう」

 

「ぐー・・・すー・・・」

 

「ですね。少なくとも、このおバカたちを眠ったままでいさせるのはよくありませんし」

 

「同意じゃ」

 

 

 教室に戻ると、行く前とあんまり変わらない教室事情。チルノは居眠りして、他の皆も暇そうにしているので、実に良くない流れです。秀吉君の言う通り、すぐにでも策を立てねばいけません!いやな噂を吹っ飛ばすような案で、お客さんを取り戻しましょう!

 

 

「あ、ところでレミィとフランはどこへ?」

 

「あやつらは先程、明久達とAクラスに行ってから戻って来ておらんぞ。十六夜もおるし、Aクラスにいるのではないかの?」

 

「な、なるほど」

 

 

 向こうの方が教室は綺麗ですし、正しい判断です・・・!が、やはり私としては悲しいっ!

 

 

「力持ちのお姉さん!向こうの教室はとってもきれいで、お客さんも一杯来ていましたです!」

 

「はぉう…!?そ、そうですか~・・・!」

 

 

 そんな葉月ちゃんの無邪気な刃。葉月ちゃんに悪気がないのは分かるんですけど、こう、グサッと心に来ますね何か!

 

 ええい!私達もなんとかして、Aクラスみたいにお客さんに来てもらいますよっ!

 

 

「秀吉君、何かアイディアはありませんか?」

 

「ふむ…では、学校を歩き回って宣伝するのはどうじゃ?それならば知らぬものでも知ってここへ来るようになると思うのじゃ」

 

「なるほど!それ採用です!」

 

 

 耳だけじゃなく、目でもその店の事を知ってもらえば興味がわく可能性は高い。それすなわちお店に来てもらえるかもしれないという事です!さすが秀吉君!このFクラスで最も常識を持った男子ですね!

 

 

「じゃがそれじゃと、何か印象に残るようなことを考えねばな」

 

「そうですねぇ・・・…じゃあ、ゴマ団子を試食してもらうのはどうですか?」

 

 

 それだと味を占めて、もう一度ゴマ団子を食べに来るのではないでしょうか? 

 

 

「じゃが、下手をすればその味見で満足して、余計に人が来なくなるかもしれんのじゃ」

 

「ぎゃ、逆効果ですね。駄目だこれは!」

 

 

 即却下です!だとすれば~・・・

 

 

「あっ、じゃあ瑞希さんや島田さんや秀吉君が、可愛い服を着て宣伝するのはどうですかっ!?」

 

「お主はバカじゃったのかっ!?」

 

 

 あれ、良い案だと思ったんですけどダメみたいです。

 

 

「バ、バカってひどいですっ!一応真剣ですよ私っ!?」

 

「な、なおさらじゃ!なぜお主じゃなくてわしの名前が出とるんじゃ!」

 

「だ、だって秀吉君の方が私より可愛いじゃないですか!」

 

 

 うう!だ、男子のくせに~~っ!私だって女の子らしく可愛いなれるのならなりたいってんですよ~っ!

 

 

「バ、バカを言うでないっ!わしよりお主の方がずっとかわ・・・・・・っ!え、ええいとにかくそれをやるならわしじゃのうて紅じゃ!異論は認めんぞい!」

 

「え、え~!?そんな横暴なあ!?」

 

 

 顔を真っ赤にし、息切れなく言ってくる秀吉君の剣幕に私は反論できません。わ、私がやるんですかー・・・?そりゃ売り上げの為なら、頑張らないといけないのは分かりますけど~・・・

 

 

「でも、私は可愛い衣装なんか持ってませんよ?」

 

「・・・それでよく衣装の案を出したのう」

 

 

 え、演劇部の秀吉君が準備してくれるんじゃないかと思ってたんです!だからそんなに呆れた目を向けないでくださいよう!

 

 

 

「……話は聞かせてもらった」

 

「おっと、土屋君?」

 

 

 そこに、いつの間にか厨房の白い服を着た土屋君が。相変わらず静かに接近してきますね~。

 

どうも、今は何か話があるようです。

 

 

「・・・・・・(スッ)」

 

「?これは?」

 

 

 差し出されたのは、緑色の生地の何か。服、のようですが・・・折り畳まれてよく分かりませんね?

 

 

「・・・・・・これを着てほし・・・着て、宣伝を」

 

「・・・普通に着てほしいって言っても別に問題は無いと思いますが…」

 

 

 土屋君の中で、どういったことを隠したがるのか、基準が気になりますよ。

 

 

 まあともかく、やはりこれは服のようです。う~~ん。土屋君が薦める服って、すっごいエッチな感じがしてならないんですけど・・・・・・とりあえず見てみましょうか?

 

 

 

ん~~どりゃどりゃ・・・・・

 

 

 

 

 

「―――って、あ、これって・・・」

 

「わぁ!葉月、初めて見ましたです!」

 

「!?ここ、これを紅が着るじゃとっ!?」

 

「(こくり)・・・ぜひ」

 

 

 土屋君の期待のこもった頷き。ま、まさかこれを出してきますか~・・・!

 

 

 

「力持ちのお姉さん、これを着るんですかっ?」

 

「き、着るのか、紅・・・!?」

 

 

 私に集う三つの視線。

 

 

 

 

・・・・・・・・・はい。実を言いますとこれ。一度でいいから着てみたいと思っていたんですよ。

 

 

――なので、喜んで着させてもらいましょう!

 

 

 

 

 

 

 

「さて、無事三回戦も勝てたことだから、喫茶店の立て直しの事を考えないとな」

 

「僕は全然無事じゃないけどね。お財布のこととか特に」

 

 

 とは言え雄二の言う通り、喫茶店は馬鹿三年コンビによってあまりお客さんが来てない状況。全くとりあえずでは済まない話だけど、ここはとりあえず博麗さんの事は忘れて、喫茶店のことだけを考えるとしよう。

 

 

 う~んどうしたものかな~・・・・・・・・・ん?あれ?

 

 

「ねえ雄二。なんか騒がしくない?」

 

「ん?」

 

 

 Fクラスから、さっきまでは聞こえてなかった賑やかな声が聞こえてくる。ひょっとして、また何か起こってるのかな?

 

 

「・・・本当だな。明久、急ぐぞ!」

 

「分かった!」

 

 

 少し駆け足で僕らは教室へと向かう。どこの誰だか知らないけど、これ以上は好きにさせないぞっ!首洗ってまってやがるんだい!

 

 

 

ガララッ!

 

 

 

 

「はい!ゴマ団子と飲茶を二人前ですね!ありがとーございやすっ!」

 

「ゴマ団子を追加で!少々お待ちください!」

 

「ゴマ団子を三つね!ちょっと待つのよさ!やい厨房!ゴマ団子を全速力で作るのよ!」

 

「・・・・もう少し待て・・・!須川、急げ…!」

 

「ぜ、全力をこれでも尽くしてるぞっ!?」

 

 

「妹紅さん!飲茶を三つ頼むぜ!」

 

「!!……お、お、おうっ・・・!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・へ?」

 

 

 僕の見間違えだろうか。教室の中に、結構な数のお客さんがいるような・・・?

 

 

「な、何が起こってるんだ・・・?」

 

「あ、見間違えではないんだね」

 

 

 雄二もびっくりした顔で教室中を見渡している。どうやら都合のいい夢なんかじゃなく、本当に現実のようだ。

 

 え、えと、僕達のいない間に何が起こったんだろう?誰かに聞いてみないと――

 

 

「あ、ご苦労様ですお二人様」

 

「あ」

 

 

 よく分からないまま教室を見ていた僕らの背後から、美鈴さんらしき声が聞こえてきた。実にナイスタイミングである。

 

 

「ねえ美鈴さん。なんでこんなにお客さん、がぁああああっ!?」

 

 

「うわわっ。吉井君、どうしましたか?」

 

 

 

 

 思わず叫んじゃったのは仕方ない。なぜなら……

 

 

 

「美鈴さん・・・・・・・・・その、姿は・・・?」

 

「あっ、これですか?」

 

 

 美鈴さんはよく聞いてくれたとばかりに、少し興奮気味に

 

 

「チャイナ服です!自分で言うのもなんですが、意外と似合ってませんかっ!?」

 

 

 緑色のチャイナを指さした。きっと僕は、これ以上の天使を僕は拝めないだろう。

 

 

「美鈴さん、これ以上なく最高だよぉぉぉぉおっ!!」

 

「お、おおうそりゃどうも!?」

 

「落ち着け明久」

 

 

 僕、今ほど生きてて嬉しいと思ったことはないよ!さすが美鈴さんは分かってくれてるなあ!

 

 

「僕、今日ほど生きてて良かったって思ったことは無い!その豊かな胸!引き締まったウエスト!そしてスラリと綺麗すぎる美脚っ!ビバチャイナ服!ハレルーヤチャイナドレス~っ!!」

 

「・・・・・・あの、すっごい気に入ってくれたのは分かったんですけど、そこまで言われると、私はひかざるをえないんですけど・・・」

 

「・・・・・・明久、お前はチャイナ服が好きなのか」

 

 

 2人の反応も気にならないほど僕は今、猛烈に燃えているっ!ムッツリーニはこの素晴らしすぎる写真を撮ったのかな~!!撮ったならぜひ僕に見せて欲しいな~~!!

 

 

「戻ったのじゃ」

 

「あ、バカなお兄ちゃんです~っ!」

 

「おっとと。あ、おかえり葉月ちゃんと秀吉いぃぃ!?」

 

 

 さらに僕は衝撃を受ける。

 

 

「?どうしたですか?バカなお兄ちゃん」

 

「・・・・・・言うておくが、服装に関してならば何も聞くでないぞい」

 

 

 そうふてくされ気味の秀吉に忠告されても、僕は聞きたい。・・・…どうして2人もチャイナドレスを着ているのだろう、と。

 

 

「ご苦労さんです秀吉君達。そっちも上手くいったみたいですね!」

 

「はいです力持ちのお姉さん!一杯の人が来てくれるって言ってました!」

 

「そうじゃな・・・・・なぜ、男のわしが着ているという事に誰もツッコまないのかは疑問じゃが・・・」

 

「まあまあとりあえず、イエーイッ!!」

 

「イエーイですっ!」

 

「むう…いえーい、じゃ」

 

 

 パチンとチャイナドレスの美少女三人はハイタッチを交わした。仲が良いなあ。同じ服を着て友情が強まったんだろうか?

 

 

「で、三人とも。その恰好はどうしたんだ?」

 

 

 そんな3人に雄二が問いかける。僕も気になるけど、可愛いからそれでいいと思うけどなー。

 

 

「土屋君が準備してくれたんですよ。いや~、一度着てみたいとは思ってたんですけど、まさか自分で縫ってまで持ってくる人がいるとは思いませんでしたね~!」

 

 

 ムッツリーニ。君には後で極上の聖典(エロ本)を差し上げよう。まさか裁縫も出来るとは、エロの力とはすごいものだ。

 

 

「葉月達の分も、あの静かなお兄さんが作ってくれましたです!」

 

「わしは不本意じゃが・・・そういうことじゃ」

 

「ああ、調達方法は分かった。だがそれを着ている理由が分からんぞ?」

 

「宣伝ですよ。さっきからこれを着ながら学校中で呼びかけをしてたんですけど、これがまた意外と受けましてねー。結構な数の人が来てくれたんですよ!」

 

 

 嬉しそうに語る美鈴さん。なるほど。つまりこの客数は、3人が頑張ってくれたおかげなんだ。美鈴さんや秀吉みたいな子がチャイナ服を着て学校を歩いてたら、嫌でも目について興味を持つこと間違いナシ。そんな人に勧誘をされては、男女問わず誰でも着いていくに違いあるまい。僕なら全てをかなぐり捨てて着いていく自信があるもん。

 

 

「なるほど、それはよくやってくれたな。この入りなら、十分持ち直したと言えるぞ?」

 

「ですよね?きゃ~っ!やりましたよ葉月ちゃん秀吉く~ん!」

 

「わぷ!力持ちのお姉さん、良かったですね~っ!」 

 

「んにゃ!?はははっ、離さにゅか紅-っ!?」

 

 

 紅さんの熱いハグに抱かれる葉月ちゃんと秀吉。僕も!次は僕もお願い美鈴さんっ!

 

 

「後で準備をしてくれた土屋君にも、お礼をしなくちゃいけませんね!」

 

「ぷはっ!わ、わわ、わしとししては、みょんくを言いちゃいところじゃっ!・・・しょ、少々は感謝してもいいかもしれんが……」

 

 

 美鈴さんの腕から逃れた秀吉の顔は、まるでリンゴのように真っ赤になっている。・・・初めて秀吉が男の子なんだなーって思った気がするよ。

 

 

「紅。そのチャイナ服は三着だけか?」

 

「え、さあどうでしょう?土屋君に聞いてみないと分かりませんが……」

 

「?なんで、雄二?」

 

「もしもあるのなら、紅達だけじゃなくて他の奴らにも着てもらう」

 

「あ、なるほどね」

 

 

 もしも姫路さんや美波や魔理沙もチャイナドレスになったら、それはもうさらにお客さんも増えそうだ。こんなにいっぱいの美少女達がチャイナドレスを着るなんて、なかなか見られな――

 

 

「その時はお前も頼むぞ、明久」

 

 

 男が女性用のチャイナを着るのは、絶対に見られない。

 

 

「ちょ、なんで僕もなの!?」

 

「ついでだ。なんだかんだで似合うんじゃないか?」

 

「ついでで僕をホンモノにする気なのっ!?絶対嫌だ!」

 

 

 ただでさえ僕の評判が悪くなってるのに、女装する男子なんてうわさも流れたらもう僕には耐えられないよっ!

 

 

「安心しろ、冗談だ」

 

「あ、だよねー?雄二も人が悪いなあ」

 

「似合っているというのはな」

 

「それって、似合わないのにやらせようとしてるじゃないか!」

 

 

 それだったらまだ何も言わないでくれるほうが良かったよ・・・

 

 

 

 

 

「たっだいま~!ってわ!何これ!?」

 

「い、いっぱいお客さんが来てますっ!」

 

「おいおい、召喚大会の間に何があったんだぜ?」

 

 

 おっ、魔理沙達が戻ってきましたね?まずはお客さんに団子を渡してから、っと!

 

 

「お~いお三方~」

 

「あ、はい美鈴、さ……!?」

 

 

・・・え?何か私についてますか?

 

 

「?どうしたのみず・・・・・・き・・・!!」

 

 

 ?やっぱり何かついてますかね?え~と・・・何も着いてませんね。?

 

 

「お?美鈴どうしたんだよその恰好?」

 

「あ、これはですねー」

 

 

 

「美鈴!アンタって奴は~!」

 

「ずず、ずるいです美鈴さんっ!」

 

 

「は、はいっ!?」

 

 

 突然詰め寄ってくるお二方。わ、私何もしてませんよね!?

 

 

「な、何がですか!?」

 

「何って・・・その恰好よ!なによそれ!」

 

「な、何ってチャイナドレスですけど!?」

 

 

 それで皆さんにも着てもらおうと話しかけたのですよ!?

 

 

「そ、それですよっ!む、胸が大きくてほほほほ、細くてキュッとしてる美鈴さんがチャイナ服を着るなんて、卑怯です!羨ましいですっ!」

 

「そうよ!あ、あんたみたいな奴がそんな・・・エ、エッチ服を着たら!アキが誘惑されちゃうでしょ!」

 

「こ、後半はともかく前半は撤回を求めますよ島田さんっ!?」

 

 

 エ、エッチな服て!?中国の皆さんに(出身地では、あなたもですが・・・)謝罪が必要な言葉を言っちゃいましたけど、私の他にも秀吉君やあなたの妹さんも着てるんですからねー!

 

 

「え…後半はともかく・・・ってよ、吉井君に何をしたんですかぁ!?」

 

「・・・美鈴!ウチはあんたのことを信じてたのにぃぃぃっ!!」

 

「あふっ!?ぬっ、濡れ衣でず2人とも~!」

 

 

 ふ、2人に締め上げられるとさすがに苦しいんですが!?これってちょっと手を出しても正当防衛ですよね!?だ、出しますよ!?出しますからね!?ほんとに出しますからねー!?

 

 

「お、3人とも戻って来たか」

 

「あ、おかえり3人とも」

 

「お、坂本に吉井」

 

 !さ、坂本君に吉井君!いいところに来てくれました!この二人をなんとかしてくださいーっ!

 

 

「あ、アキ!あんたはこっち見ちゃダメよ!」

 

「み、見ちゃダメです吉井君!」

 

「え!?ななに!?何で僕は突然目を覆われたの姫路さんっ!?そんなことされたら美鈴さんのチャイナが見られないんだけど!」

 

「やや、やっぱりこうなるじゃないですかーっ!」

 

「美鈴―っ!あんたやっぱり見せてたのねぇ!?」

 

「お、同じクラスで働いてんですから仕方なくありませんそれ~~!?」

 

 

 おかしい!売り上げに貢献してるはずなのに責められるなんて!私たちは仲間じゃないんですか~!?(※ 恋が絡むと話は別です)

 

 

 

「まあ待て、2人とも。ならお前達もチャイナ服を着たらいいじゃないか」

 

「「え?」」

 

 

 そう言う坂本君の手には三着のチャイナドレス。土屋君が「……万が一の時のために、準備しておいた」と言って提供をしてくれたのですが・・・いったいどんな万が一なのでしょう?見事的中してるから侮れません。

 

 

「え…で、でもそれはちょっと恥ずかしいっていうか・・・」

 

「で、ですよね・・・私もちょっと・・・」

 

 

 羞恥で顔を赤く染めるお2人。ふぃ~、おかげさまでや~っと空気呼吸が出来ますよー

 

 

「まあそう言わずに、協力してくれないか?明久も見たいと言ってるぞ?」

 

「えっ」

 

「そ、そうなんですか吉井君?」

 

 

 2人の目が吉井君に向きます。そこには意外さ、よりもむしろ期待がこもっているような気がしなくもありません。

 

 

「あー、えーと………・・・大好―――愛してるね」

 

「それ、言い換える必要ありますかね?」

 

「お前は本当に、嘘をつけないヤツだな」

 

「確かに分かりやすいヤツだぜ」

 

 

 どおりでさっき、私を見た途端ハイになってたんですね。やれやれ、私じゃなくて姫路さん達にあの高潮を炸裂させればよかったでしょうに。褒める相手を間違えましたねー。

 

 

「そ、そうっ。じゃ、じゃあウチも着るわっ!」

 

「わ、私もですっ!頑張ります!」

 

 

 なんにせよ、不乗りだった二人はそれぞれ赤、青色のチャイナドレスを手に取りました。先ほどとは打って変わってやる気十分です!

 

 

「へ~。瑞希たちのチャイナか~。そりゃまた土屋が喰い付きそうなネタになりそうだな~」

 

 

 魔理沙がにやにやしながら、そんな他人事のようなことを言いました。

 

 

「あの、魔理沙?他人事ではないと思いますよ?」

 

「へ?」

 

「そうだぞ霧雨。お前用の服もあるし、お前にも着てもらいんだが」

 

「え…ええっ!?」

 

 

 その反応、完全に自分は蚊帳の外と思っていましたね~?私達がやるんですから、同じクラスのあなたが例外なわけないじゃないですか!

 

 

「わ、わ悪いけど!私はちょっと遠慮させてもらうぜ!そういうのはやりたいヤツがやるべき―」

 

「まあまあ魔理沙ちゃん。そんなこと言わないでください」

 

「そうよ魔理沙。こういうのは皆一緒にやるものだわ」

 

「げっ!?み、瑞希美波っ!」

 

 

 恥ずかしさを分け合うため、友達も引き入れる瑞希さんと島田さんもだいぶFクラスに馴染んできたと感じますね。

 

 

「んじゃ、ちょっと着替えてくるわ」

 

「行きましょうか、美波ちゃん、魔理沙ちゃん」

 

「い、嫌だっ!放すんだぜ2人とも!私はチャイナなんか、着たくない~~~~っ!」

 

 

 ぴしゃん

 

 

 あわれ魔理沙は2人の友に連れていかれました。ふむ、魔理沙に仕返しをしてやろうとするとき、今度からは同じことをすればいいかもしれません。いい勉強になりました!

 

 

「美鈴さ~ん、私たちの注文お願いしま~す!」

 

「あ、は~い!」 

 

 

さて、三人のことは後にして、仕事仕事!

 

 

 

 

『い、いやだいやだっ!私は絶対着ないからなっ!』

 

『コラ魔理沙!大人しくしなさい!』

 

『そうですよ魔理沙ちゃん!せっかくなんですから皆で着てみましょう!』

 

『断る!お、お前ら2人だけで着ろ!私は嫌だ!』

 

『もう、観念しなさい魔理沙ぁ!てい!』

 

『いやっつってんっ!?きゃ、きゃああああああっ!!』

 

『うわっと。魔理沙、あんたもそんな悲鳴あげるのね』

 

『て、てっきりもっと男の子みたいな声を出すかと思ってました』

 

『う、うるしゃいうるしゃい!服返せよバカァ!』

 

『ん、ほら』

 

『ほらってこれ、チャイナだ!制服返せって言ってんの!』

 

『だ、大丈夫です魔理沙ちゃん!きっと似合いますって!』

 

『私は羞恥心の観点で言ってんだよ瑞希!そんなもんは羞恥心の無い奴らで勝手に着ろっ!』

 

『わ、私だってあります!羞恥心はスッゴイありますっ!』

 

『そ、そうよ!ウチらが恥ずかしがってないと思ってるなら大間違いだからね!』

 

『なら止めろよ!?止めなくても、自分の意志で決めてるんなら私にも自分の意志で決めさせろっ!』

 

『ええいごちゃごちゃうるさいわよ!魔理沙らしくそこはあっさりのりなさいっ!』

 

『魔理沙ちゃん!一緒にがんばりましょう!』

 

『勝手に頑張れ!って近づいてくんなお前ら!や、やだやだやだっ!いやー!助けてアリス~っ!』

 

 

 

『ん?ねえもこうっ!なんだかメイリンが変な格好してるわよ!?』

 

『・・・・あー・・・。・・・罰ゲームだろ。・・・・あんなの着るとか…狂気の沙汰だ・・・』

 

『へー!なんだか動きやすそうね!アタイも着たくなってきたのよさっ!』

 

『・・・・・・頭、大丈夫か・・・?』

 

『ふふん!別にアタイの頭はケガなんかしてないわよもこう!』

 

『・・・・やっぱりコイツ・・・・バカだ・・・・・・』

 

 

 

 

 

 




 お読み読みいただきありがとうございます!


 美鈴さんの本来のお姿、中華服を着てもらうところまでこれました!いや~、やはり美鈴さんは中華服!単調ながらも、その一文をかけて村雪は作者ながら感激です!

 次回は瑞希さんや魔理沙もチャイナとなるのですが、流れに乗っかって、人見知り妹紅さんにも着てもらいたいなあ・・・!おそらく無理でしょうがっ!

 ではまた次回っ!


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新顔―紹介、は出来るだけど派手に!が私のモットーです!

どうも、村雪です!今日も朝から蒸し暑くて嫌になりますね~!皆様も熱中症にはご注意を!

 さて、実は今回。一人だけ新しい東方キャラクターが登場します!前回の最後に書き忘れていたわけですが、申し訳ない!一種のサプライズということでお許しを~!


 では、皆様に気に入ってもらえる内容であれば願いながら―――


――ごゆっくりお読みください。



「ただいま~」

 

「ただいま戻りました~」

 

「……(もじもじ)」

 

 

「あ、おかえりなさい3人共!」

 

 

 おぉおぉ!皆、とっても似合ってるじゃないですか!

 

 

「……最高・・・(パシャパシャパシャ)!!」

 

「いい!すっごく良いよ3人とも!僕は猛烈に感動している!」

 

「う、うっさい黙れ!撮るな見るな!」

 

 

 瑞希さんは赤色のチャイナ、島田さんは青色、魔理沙は黄色のチャイナを着て、誰もが負けず劣らずの可愛さを持っていました!

 

 魔理沙だけは恥ずかしいのかもじもじしているのですけど、それがまたぐっときますね!堂々とした方がかえって目立たないのに、魔理沙は自分に関することでは思った以上にシャイなんですねえ?

 

 

「そ、そう?そりゃ良かったわねアキ~?」

 

「よ、良かったです~・・・」

 

 

 吉井君の感想にご満悦の様で、残りの2人は反対にまんざらでもない笑顔を浮かべています。恋というものは人を大きくするんですね!

 

 

「じゃあ3人とも、早速で悪いんですけどホールに回ってくれますか?」

 

 

 思った以上にお客さんが来てくれたので、実は人手が足りてない現状。閑古鳥が鳴いていたさっきまでとは偉い違いですね~!頑張った私を褒めてやりたいです!

 

 

「オッケー、任せておいて。行くわよ瑞希、魔理沙」

 

「はいっ」

 

「こ、この仕返しはいつかしてやるからな!」

 

 

 魔理沙が悪役じみた言葉を吐きつつも、島田さんの指示通りにお客さんたちの間へと向かいました。ふ~、人でも増えましたし、これで私も少し楽になり・・・

 

 

「君、注文をしてもいいかな?」

 

「あ、は~い!」

 

 

 あはは。そううまく休めませんよね~。すぐに私はお客様のもとへ注文に向かいます。

 

・・・あれ?この人、また来てくれたんですか。

 

 

「本格ウーロン茶と、ゴマ団子を」

 

「はい、本格ウーロン茶とゴマ団子ですね!」

 

 

 私は受けた注文を伝票に書きます。注文をしたのは、この文月学園の教頭先生である竹原先生。眼鏡がきらりと光り、どことなく悪っぽく見えてくるのは私のさじ加減でしょうか?

 

 

「では少々お待ちください!」

 

「ああ、それと聞きたいことがあるんだが、いいかね?」

 

「あ、はい?」

 

 

 厨房へ向かおうとする前に、教頭先生は私を呼びとめました。何用でしょう? 

 

 

「このクラスに吉井明久という生徒がいると聞いたんだが、どの子かな?」

 

「吉井君ですか?吉井君なら・・・あ、あれです。今あそこで接客してる男の子です」

 

「ああ、そうか―――彼が吉井君(笑)か」

 

「あの、教頭先生。人の名前の後に笑いを入れるのはいかがなものかと・・・?」

 

「ああ、すまない。だが、私は教え子である彼の事を吉井君(馬)とは呼べなくてね」

 

「吉井君が職員室でどう呼ばれてるのかが気になる言葉ですね!?」

 

 

 馬って、もはやそこから連想できる言葉が一つだけです。教頭先生にまで知られているなんて、吉井君の知名度には舌を巻かざるを得ません。

 

 

「あと・・・君が紅美鈴さん、かな?」

 

「へ?はいそうですけど」

 

 

 わ、私は教頭先生にまで名前を覚えられるようなことはしてないと思うんですけど!?

 

 

「そうか・・・なかなか召喚大会で頑張っているみたいだね?」

 

「まあそうですね。何とか勝ち進んでいますよ」

 

「なるほど、それは良いことだ」

 

 

 私が召喚大会に出てるのも知っているんですか~。教頭の立場上、行事の進行や参加している生徒も知っておかないといけないものなんでしょうか?

 

 

「で、吉井君に用でしたらお呼びましょうか?」

 

「いや、構わないよ。特に用があったわけではないのでね」

 

「へ?はあ、そうですか?」

 

 

 吉井君のことを聞いてきたから、何か話でもあるのかと思いました。何かの確認でもしたかったんでしょうか?

 

 

「じゃあ、注文を言ってきますね」

 

 

 あとは特に用は無かったみたいで、そのまま教頭先生と話を終えて厨房へと向かいました。え~とウーロン茶とゴマ団子一つずつと~・・・

 

 

「土屋君、妹紅さん。ウーロン茶とゴマ団子をお願いしま~す」

 

 

「・・・ん・・・・」

 

「……少しあんと小麦粉が足りなくなってきてる。取って来てほしい」

 

「は~い、了解です!」

 

 

 土屋君のお願いに、すぐさま材料が置いてある教室へと向かいます。いや~、材料が無くなるという事はそれだけお客さんが来てくれているってこと!嬉しい事態ですねーっ!

 

 

「よいしょ、え~と、小麦粉とあんこは――」

 

 

 空き教室にはFクラスの皆の荷物が置かれていて、材料は教室の隅の方に固めてある袋の中でしょう。え~と、どの袋に入っているか・・・

 

 

 

 

「おい」

 

「ん?」

 

 

 

 突然の声に振り返ると、文月学園の制服とは違う制服を着た男子が三人、私の方をじろりと見ていました。

 

 

??え~と?

 

 

「すいませんが、どちら様でしょう?」

 

 

 初めて見る顔ですし、知り合いとかではないですよね?

 

 

「俺達が誰かなんてどうでもいい。それより、あんたが紅 美鈴か?」

 

「はあ、まあ…」

 

「ひゅーっ、すっげー可愛いじゃん。中国人って皆こんなに可愛いのかよ?」

 

「足とか綺麗で十分可愛いけど、俺としちゃあもう少し背が低い方がいいけどなぁ~」

 

「バーカ。そこがまたそそるんだよ」

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 何やら下卑た笑いを浮かべる三人。・・・・ん~。なんか・・・・・・すっげー気分悪いです。何ですかねこの男子たちは?

 

 

「で、何か?」

 

「ああ。あんたにお願いがあって来たんだよ」

 

「お願いとは?」

 

「召喚大会で勝ち進んでるみたいだけど、負けてくんねえかな」

 

「・・・は?」

 

 

 わけのわからない要求に、私は眉をしかめます。なぜ召喚大会のことに口を出してくるのでしょう?この他校の三人には、全く関係のない行事ですよね?

 

 

「・・・理由は?」

 

「言う必要がねえよ。あんたはただ勝負に負ければいいんだ」

 

「・・・ふ~ん」

 

 

・・・・ずいぶんと、勝手な言い草をされますね?そんな言い方で話を聞いてもらえるとでも思ってるのでしょうか、この男子共は?

 

 

「断れば?」

 

「へへっ、ちょっとばかり、嫌な目にあってもらうぜ」

 

「俺らとしては、それもありだけどなあ?」

 

 

 

「・・・はあ」

 

 

 この3人、非常に教育上良くないことを想定してますね、これ。ここまであれな人は初めて見ましたよ。

 

 

「で、どうするんだ?ちゃんと負けてくれるよな?」

 

「じゃないと、どうなるかな~?」

 

「ひょっとしてつらい目にあうかもな~?」

 

 

 にやにやしながら私の言葉を待つ3人。どーも、私が脅しにびびって素直に要求を受け入れるなんて思ってやがるみたいです。

 

 

 

「んー、そーですねー」

 

 

 こんな奴らににかける言葉、行動は一つです。

 

 

 さて、実行するとしましょうか。いち、に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なめんじゃないわよ。この大馬鹿共が」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「・・・・・・」

 

「…………」

 

「・・・・・・い、いや~。藤原さんと二人きりになるって初めてだね!」

 

「・・・・・・あっそ・・・」

 

「ふ、藤原さんも美鈴さん達みたいにチャイナドレスを着ないの?似合うと思うんだけどな~」

 

「着ない・・・絶対に」

 

「・・・そ、そっか~。残念だな~」

 

「…………」

 

「・・・・・・え、え~~と・・・」

 

 

 

―――気まずい!気まずいよこの雰囲気!僕の力じゃこの間を振り払えないっ!

 

 

 材料を取りに行った美鈴さんが帰ってこないから、様子見を兼ねて代わりに取ってきてとムッツリーニに言われたんだけど、なぜか珍しく藤原さんも一緒に。僕は全然嬉しいんだけど、この空気だけは苦手なんだよ!

 

 な、何か話を!え~と・・・!

 

 

「そ、そういえば藤原さんはどうして一緒に僕についてきたの?」

 

 

 あんまり人と接したがらない藤原さんにしては本当に珍しい。ひょっとして、僕のことは特別扱いしてるとか・・・?

 

 

「・・・・別に、理由なんかない。・・・美鈴が気になっただけだから、そんな顔すんな・・・き、気色悪いし・・・」

 

「だよねー」

 

 

 僕にそんな幸運が舞い降りるなんて思ってなかったよ?本当だからね?悲しくなんて思ってないんだからね?

 

 

「……でも、美鈴さんも幸せ者だなあ」

 

「・・・・・・何?急に・・・」

 

 

 藤原さんは訳が分からないって顔をしてるけど、だってそうじゃない。

 

 

 

「だって、人見知りの藤原さんが僕なんかについてくるぐらい、美鈴さんのことを心配してあげてたんでしょ?」

 

「・・・!?っち、ちがう・・・!別にそんなんじゃない・・・っ!」

 

 

 とたん藤原さんの顔が真っ赤に。真っ白な髪もあってすっごい赤いのが目立っていて、それが照れ隠しなのは丸分かりだった。いや~、十六夜さんもそうだったけど、美鈴さんは愛されてるな~。クラスメイトとして僕もなぜか嬉しくなるよ!

 

 

「ゆ、勇儀の娘だからなだけ・・・!べ、別にそんなんじゃないからな・・・!?」

 

「へ?ゆーぎ?」

 

 

 遊戯の娘?美鈴さんは遊び人ってこと?すごい意外だなぁ。

 

 

「あ、見えた見えた。あそこだね」

 

「・・・・・・・・・まあ・・・嫌いではないけど、さ・・・・・・」

 

 

 美鈴さんの知らない一面に触れた気もするけど、まずは僕らのFクラスの事が第一優先だ。

 

 僕達の前方に見えてきた空き教室まで、あとすこ――

 

 

 

 

『うぎゃああああ!!』

 

 

 

「へ?」

 

「・・・っ!?」

 

 

 しのところで、誰かの叫び声が聞こえた気がする。というか藤原さんもびくってしたから、間違いなくしたよね?

 

 

『や、やめてくげぼぉ!?』

 

『く、栗谷ぁ!?このアマぁぁあ!!』

 

『ふっかけてきたのはあんたらでしょう、がっ!』

 

『ごふっ!?は、腹がぁぁぁああ!!』

 

『福留ぇ!?ち、ちくしょう!こいつ、ただの女じゃねえ――!』

 

『ふん!そりゃー褒め言葉をどうもぉっ!』

 

『がはぁ!?』

 

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 ・・・・何が中で起こってるんだろう。凄く、バイオレンスな光景しか思い浮かばない。

 

 

 

ガララッ!

 

 

「ち、チクショウ!覚えてやがれ!」

 

「て、テメエの面は覚えたからな!!しっかりしろ栗谷!傷は浅いぞ!」

 

「ぜ、全然浅くねぇよぉ・・・!!」

 

 

  空き教室から、見覚えのない男子三人が出てきた。誰もが凄くボロボロで、1人は肩を借りてさえもいる。部外者が入ったらダメだと言うべきところだけど、それよりも彼らの傷の方がひどいので、思わず黙っておいてあげた。優しいね僕。

 

 

「・・・・な、なに・・・あいつら・・・?」

 

「さあ・・・あと藤原さん。どうせ壁によるんなら、僕の背中に隠れて欲しかったかな」

 

「・・・・・・いやだ」

 

 

 藤原さんの中では、僕よりも壁の方が信頼できるみたいだ。(※人見知りなのですから、大目に見てあげましょう)

 

 

「……え~~と、とりあえずはいろっか?」

 

「・・・・・・ん」

 

 

 怪しい男子達もどっかに行ったから、僕らは恐る恐る目的地のドアを開けてみた。

 

 

 

「――ったく、こっちは忙しいというのに・・・(ぶつぶつ)」

 

 

 するとそこには、荷物を整理している美鈴さんの後ろ姿があった。ところどころ髪の毛がぼさぼさになっているのは、ただ運動をしたあとだからと信じたい。

 

 

「・・・美鈴」

 

「!あ、と。妹紅さんと吉井君でしたか。どうしました?」

 

「……それを、あんたが言う・・・?」

 

 

 藤原さんの言う通り、それを言うのは僕らなはずだ。

 

 

「美鈴さんこそどうしたのさ?さっき、変な男子が三人ぐらいぼこぼこになって出て来たけど」

 

「あ~・・・・・・さあ?」

 

「さあ、って言われても!?」

 

 

 首を傾げ、当事者でありながらそう言う美鈴さん。意外と彼女は僕と同類なのかもしれない。

 

 

「い、いや~。それが私もさっぱりでしてね。よく事情は分かってないんですよ」

 

「・・・・・・分からずに暴力振るったのか?・・・・・・最悪・・・」

 

「い、いやいやいや妹紅さん!?ちゃ、ちゃんと理由はありましたからね!?別に好き勝手に手を出したわけじゃありませんからね!?」

 

 

 藤原さんのジトッとした目に、慌てて美鈴さんは弁明をする。まあ、美鈴さんはきちんと常識のある人だからそんなことはしないよね。つまりあの男子達が何かをしでかしたってことだ。いったい教室で何をしたんだろう?

 

 

「美鈴さんは大丈夫だったの?」

 

「あ、はい。きっちり無傷で済ませました!」

 

 

 男子三人を返り討ちにする女子。それはそれで違う不思議が生まれてくるけど、無事で何よりだ。

 

 

「それで、お2人はどうしてここに?」

 

「美鈴さん遅かったみたいだから、ムッツリーニに材料を取ってきてって言われたんだ」

 

「あ、ああ~、申し訳ないです。ちょっとばたつきましたもので、少し散らかりましてね・・・」

 

「……だいぶ、散らってるけど・・・」

 

「・・・え、えへへ・・・」

 

 

 見渡すと乱雑に散らばった皆の荷物。そこは無事ですまなかったんだね・・・

 

 

「・・・あ、あの~~……ひっじょ~に言いづらいんですけど・・・実は、召喚大会の時間が始まりそうでして……」

 

「あ、そうなの?」

 

 

 ということは美鈴さん達も勝ち進んでるんだ。確か十六夜さんと出てるそうだけど。まあ、2人の実力を考えたら当然かー。

 

 

「は、はい。それで・・・・・・の、残りの後片づけを頼んでいいでしょうか~・・・なんて?」

 

 

 ものすごい申し訳なさそうに、美鈴さんがそんなお願いをしてきた。うん、そういうことなら、それぐらいお安い御用だよ!

 

 

「オッケー。じゃあ僕達があとは片付けとくよ!」

 

「ええ・・・?」

 

 

 藤原さんが嫌そうな声を出した気もするけど、美鈴さんを心配してた君ならやってあげるはずだよね!

 

 

「た、助かりますっ!じゃあお願いしますね!このお礼はまたしますーーっ!!」

 

 

 本当に時間が無かったみたいで、美鈴さんは早口でそう言いながら教室を走り去った。お礼なら美鈴さんのチャイナ姿を見れただけで十分なんだけど・・・ここはありがたくもらっておくとしよう。余計なことは言わない方が良いもんね!

 

 

「よし、じゃあ藤原さん。片付けよっか?」

 

「・・・・めんどうだなぁ・・・」

 

 

 藤原さんはそう言ってため息をついたけど、その手にはさっそく誰かのカバンが握られている。僕は顔に色々と出るみたいだけど、藤原さんは行動に出るようだ。

 

 とりあえず、僕も近くのカバンを取って、と。

 

 

「・・・あ、藤原さん。これ藤原さんのかば」

 

 

 ばしっ

 

 

「・・・・・・・・・・・・(じろっ)」

 

「・・・・・・・・・次からは気を付けます」

 

 

 そんなこともなかった。藤原さんも僕と同じで、しっかり顔に思ったことを出していました。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・三人とも、遅い・・・…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すいません咲夜さん、遅くなりましたっ!」

 

「全く、何をやっていたのよ美鈴」

 

 

 待ち合わせ場所で待っていた咲夜さん。ほ、ほんの少し怒っているみたいですけど、なんとか許容出来る範囲なようです!

 

 いや~、妹紅さん達が来てくれなかったらこれだけじゃすみませんでしたね!ありがとう妹紅さん、吉井君!おかげで怒りの咲夜さんを拝まないで済みましたよー!

 

 

「ちょ、ちょっと予定外の事が起きましたので、それで遅れちゃいました!」

 

「予定外?大丈夫だったの?」

 

「え~・・・はい!大丈夫でした!」

 

「ならいいれけど・・・」

 

 

 脅迫された時点で大丈夫ではない気もしますけど、咲夜さんには余計な心配もかけたくないんで黙っておきましょう。

 

 

「ところで、次の対戦相手を見た?」

 

「え?あー、見てませんね」

 

 

 もはやその時その時に相手を知ってぐらい前調べはしていません。こ、これはこれでワクワクとドキドキがあって意外と悪くはありませんからね!?

 

 

「どんな人達でした?」

 

 

 ここまでくれば弱い人が来るはずが無く、なかなかの実力を持った人たちだけ。それは分かっているのですが、誰かを分かっているだけでも何かは違うでしょう。

 

 しかし、私の問いに対して咲夜さんはこう答えました。

 

 

「それは、あなたの方がよく知ってると思うわよ?」

 

「へ?」

 

 

 

 

「来たわね、美鈴に十六夜!」

 

「頑張りましょう!美波ちゃん!」

 

 

「・・・おお、確かにそうかもしれませんね」

 

「でしょ?」

 

 

 四回戦の相手はどうやらクラスメイト。クラス一の賢さを持つ少女、姫路瑞希さんと、頼れる姉御肌を持った島田美波さんが私たちを待ち構えていました。う~ん、これはなんともほわほわした回になりそうです! 

 

 

「いやはや、よもやここに来て友達と戦うことになるとは思いませんでしたよ~、瑞希さんに島田さん」

 

「そ、そうですね。でも、容赦はしませんからっ!」

 

「そうよ美鈴。首洗って待ってるのよ?」

 

「あら、それは私たちのセリフじゃなくって?チャイナドレスペアさん?」

 

「「そ、それは言わないで(ください)っ!!!」」

 

 

 咲夜さんの挑発返しに、2人は顔を真っ赤にして声を荒げました。

 

 咲夜さんの言う通り、2人共チャイナドレスを着たままの登場です。堂々としていたから特に気にしていないと思っていましたけど・・・ふっきれていただけみたいです。あ、私もチャイナですけど、特に気にしてませんよ?だってスカートの丈と変わらないですもん!

 

 

『それでは四人とも、準備はよろしいですか?』

 

 

 審判である先生がマイクを通して私たちに確認を入れてきます。今回からは清涼祭にやってきた一般の方々にも見ることができ、準備された客席は満席になっていて全体が熱気を帯びた雰囲気が漂っています。私も燃えてきますねー!

 

 

「はい、大丈夫です!」

 

「大丈夫です」

 

「オ。オッケーです!」

 

「だ、大丈びゅです!」

 

『分かりました』

 

 

 四人が了承を出して、選手の準備を確認できた先生は一つ頷き、ではと言って――

 

 

 

 

 

『――では、ここからは解説役にバトンタッチをさせてもらいます。では、しゃめ――』

 

 

 

『はいはいどーも!!ここからは私、噂大好き狙った話題は聞き逃さない!で有名な三年Cクラス!新聞部部長の射命丸 文が実況をしていこうと思いま~す!』

 

 

 

 紹介を終える前に、非常に元気な声が会場に響き渡りました。げ、元気な先輩方ですね~。でもごめんなさい。私はその有名な肩書を全然知りませんでした。

 

 

『射命丸さん、相変わらずお元気ですね。思わず会場がどよめきました』

 

『あやや!私の取り柄の一つですからね!たとえ耳障りに思われてけなされようとも、挫けずに声を張り上げて実況をしていきますよ!』

 

『はい。少し同情を誘うような言葉を言いつつ、頑張っていくという意気込みを見せて周りからの好評を得ようとずる賢しい言葉をありがとうございます』

 

『さあ!ではさっそく選手の4人の紹介をしていきましょう!』

 

 

 あ、私たちの紹介とかする流れなんですか?さすがにちょっと緊張しますね~。は、恥ずかしくないように身だしなみを整えて、と!

 

 

『まずは2人ともがチャイナを着ているこちらから!』

 

 

 おおっと、そっちからですか。それだったら気構えなくても良かった

 

 

『1人目は、赤いチャイナを着たナイスバディ―の持ち主!頭脳と美貌を兼ね、聖母のように優しい彼女を前に、落ちぬ男などなし!2―Fクラスの、姫路 瑞希ぃぃぃぃい!!』

 

 

 全力で、過剰でもいいから心積もりをしておきましょう。

 

 

「・・・ひゃ、ひゃっぴぃっ!?」

 

『うぉぉおおおおおおおっ!!』

 

『きゃ~!!可愛いぃぃぃ!!』

 

 

 刺激が強すぎたみたいで、瑞希さんは小鳥の鳴き声もどきをあげ、顔をさらに真っ赤にしました。それが受けたようで、観客席からも声が上がります。

 

 

 

『2人目は、その姫路さんとペアーを組む青のチャイナ!男子よりも女子からのラブを受ける少女、同じく2―Fクラス、島田美波ぃぃぃいい!!』

 

 

「そそそ、そんなことないわよおおおお!!」

 

『きゃあああああ!!』

 

『お姉さまーーー!!』

 

 

 確かに女の子からの声援が多かったです。モテモテですね島田さん!魔理沙なら絶対喜んでますよ!だからそんな泣きそうな顔をしないで!? 

 

 

『対しますは!、瀟洒な女子として男女ともどもから人気を集める2年生!あわよくば!バストが豊かであればもはや言う事なし!2―Aクラス、十六夜咲夜ぁぁあああ!!』

 

『きゃー!咲夜様~~~!!』

 

『うおおっ!十六夜さああああん!!』

 

 

「・・・!?け、消す・・・!消す消す消す……っ!!あいつ絶対あとで消してやる・・・っ!!」

 

「お、おおっ!?ど、どうどう咲夜さん!それはあくまで紙を切るための道具です!?」

 

 

 こ、この先輩はなんって地雷を踏んでくれますかね!?か、完全に咲夜さんのコンプレックス部分を爆撃しました!咲夜さん!お姉ちゃんはペーパーナイフを使って人を殺傷するような妹を見たくありませんからやめて~~っ!

 

 

『そして、最後の1人!』

 

 

 え!?こ、この状況で続けるんですか!?絶対良い予感がしませんけどっ!?

 

 

『前者2人と同じく緑色のチャイナを着た彼女ですが、レベルが違います!モデルのごとし高身長!燃え上がるような赤い三つ編みのロングヘアー!その全てを優しく包み込んでくれそうな豊かな胸!すらりと健康的ながらもどこか艶めかしいむき出しの脚!はたして、彼女ほど中華娘と言う言葉がふさわしい人間がいるでしょうか!?』

 

 

 やめて先輩!恥ずかしさで顔がもう燃え上がりそうになりますから、これ以上こっ恥ずかしい紹介は止めてしゃめいまる先輩ぃぃっ!!

 

 

『最後の四人目は、くしくも相手である姫路島田ペアーと同じクラス!2―Fクラス、中華小娘、紅 美鈴んんんんっ!!』

 

 

『うおおおおおおお!!!』

 

『きゃーーー!』

 

『『メーリンメーリン!』』

 

 

 先輩の見事な紹介に盛り上がる会場ですが、私らはちっとも盛り上がれません!ちくしょう!こんな大勢の前でそんな変な紹介をするなんて、私たちが何をしましたかってんでです!

 

 

『はい、それでは紹介も終わったようなので、4人とも召喚獣の召喚をお願いします』

 

 

 しゃめいまる先輩の声に区切りがついたと判断した先生が、冷静に召喚をせかしてきます。せ、先生は冷静ですけどね!?私たちはとんでもない羞恥心を味わってるところなんですよー!

 

 

・・・と、とはいえ勝負ですから・・・!うぐぐ・・・仕方ありません!なんとか頭を切り替えましょう!

 

 

「さ、咲夜さん!召喚獣を召喚しましょう!」

 

 

「こんな大観衆の前で・・・・!潰す潰す潰す潰す潰す・・・・・!!」

 

「さ、咲夜さん正気に戻ってくださいぃ!?」

 

 

 うつろな目で、さ、咲夜さんが本気でやばい!?悪いと思いながらも、私は全力で肩を掴んでがくがくと揺らします!

 

 

「・・・はっ。私、変になっていたかしら・・・?」

 

 

 お、おお!戻ってくれましたか咲夜さん!

 

 

「よ、良かったです咲夜さん!あのままいってたら咲夜さんが犯罪に手を染めてたかもしれませんでした!」

 

「そう……でも、その気持ちはまだ私の奥に宿っている気がするわ」

 

「け、消してください今すぐ!」

 

 

 じゃないといつ復活するか気じゃありません!妹が犯罪者になるなんて、お姉ちゃん本当に泣くからねっ!

 

 

「み、美波ちゃん。私達も召喚獣を出しましょうか・・・」

 

「そ、そうね…ウチ、初めて会ったけど・・・あの先輩、苦手だわ」

 

「・・・・・・は、はい」

 

 

 瑞希さん達から聞こえてくるそんな声。我々の射命丸先輩へのイメージは、最悪な形で一致した模様でございます。

 

 

「・・・あれ?瑞希、そう言えば科目ってなんだっけ?」

 

「え?美波ちゃん、知らないんですか?」

 

「あ、あは。ちょっと喫茶店が忙しくって、見るのを忘れてわ」

 

「あ、なるほど~。えっとですね、今回の対戦科目は古典でした!」

 

「・・・・・・・・・・・・こ、てん?」

 

 

 さて、では召喚獣を出すとしましょうか!覚悟ですお2人共!今は敵ですので容赦はしませんよ!

 

 

 

『試獣召喚!』

 

 

 

 

『Aクラス 十六夜咲夜 古典 397点 & Fクラス 紅美鈴  古典 244点

                   VS

 

 Fクラス 姫路瑞希  古典 391点 & Fクラス 島田美波 古典   6点 』

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

 見た途端、戦意の代わりに同情がもの凄く湧き上がりました。

 

 

 

「・・・・・み、美波ちゃん?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・心の底からごめん、瑞希」

 

 

 島田さんは、今これ以上なく居心地悪いことでしょう。

 

 そう言えば島田さんって、古典が大の苦手でしたっけ。帰国子女だから仕方ありませんけど、この点数はなかなかお目にかかれないでしょう。丸メガネをかけた少年ぐらいしか勝てないんじゃないでしょうか?

 

 

 ま、それはそれとして、

 

 

「やりましょう咲夜さん!覚悟です瑞希さんっ!」

 

「了解!瑞希、覚悟なさいっ!」

 

「わ、私だけですかっ!?」

 

「ちょ、ちょっと!お願いだから少しはウチも警戒して!?すごいウチ悲しいっ!」

 

 

 まずは強者を倒すため!島田さん、あとでお相手をしますから勘弁してやってください!

 

 

「ま、負けません!行きましょう美波ちゃん!」

 

「オ、オッケイ!やってやるわ!」

 

 

 迫る私たちの召喚獣に腹を括ったようで、2人も召喚獣を走らせてきます!衝突するのも時間の問題、果たして最後に立ち続けているのは・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ごめん瑞希!ほんっっっっとうにゴメンンンンンッッ!!」

 

「そ、そんな美波ちゃん!全然気にしてませんから、あ、頭を地面からあげてください~!?」

 

『あやや!勝者十六夜、紅ペア~~~!!』

 

 

 私達でした。非常に申し訳ない言い方ですけど、やはり一桁だったら2対1と変わんなかったですねっ!

 

 

 そんな島田さんは瑞希さんに土下座をしてまで謝罪をしています。こ、古典は知らなくても土下座は知っていたんですか!(※春の召喚戦争の時、あなたが披露したのを見て学んだようです)

 

 

『お、お姉さまが土下座を・・・はああんっ!!あそこにいるのが美春だったら・・・!!』

 

 

 風に乗って聞こえてきたそんな声は、絶対に葉月ちゃんが言ったのではないですよね?島田さんには他にもユニークな妹さんがいるのでしょうか?

 

 

「う~、ウ、ウチの点数が低いのが悪いんだけど、もう少し加減しなさいよアンタ達!」

 

「それは無理な話だわ、島田さん。私達も勝ちたい理由があるもの」

 

 

 咲夜さんの言う通り、商品券がかかっているから簡単に負けるわけにはいかないのですよ島田さん。大人げない対応かもしれませんけど、財政の為ならいくらでも子供になってやりますよ~!

 

 

「メ、美鈴さん!私たちの分も頑張ってくださいねっ!」

 

「あ、は、はい了解です!」

 

 

 瑞希さん、文句を言わずに私たちの応援を・・・!!なんて優しいのでしょう!そんなところが私は大好きですよー!

 

 

「む・・・瑞希がいいんだったらいいけど・・・十六夜!ウチらに勝ったんだから、その分頑張らないとダメなんだからね!?」

 

「分かった。きっと買ってみせるわ、島田さん」

 

 

 島田さんたちも上手くまとまったみたいです。良かった良かった!これがきっかけで気まずい雰囲気になるんじゃないかと不安だったんですよ~!

 

 

 

『いやはや面白い試合を繰り広げてくれました!皆さん、拍手を贈ってあげましょー!』

 

 

 しゃめいまる先輩がそう言ったことで、場内から拍車が巻き上がります。おお~、こんな風に讃えられるのもイベントの醍醐味ですよね!最初の時は変な紹介をしてくれたから恨んじゃってましたけど、司会の仕事ぶりはお見事ですよ~!

 

 さ、先輩が作ってくれたこの盛り上がりを堪能しながら戻るとしましょうかね!

 

 拍手を浴びつつ、私達は少し照れながら教室へ――

 

 

 

 

『あやや・・・美少女四人のあんな写真やこんな写真を撮れましたよ・・・!!あとはこれを清涼祭特集号に載せれば、大ヒット間違いナシで――!!』

 

 

『ちょっと待ったああああ!!』

 

「あやっ!?」

 

 

 戻る前に、彼女の持つパンドラの箱ならぬあんなデータを抹消しなければいけないみたいです。って、逃げ足早っ!こんちくしょう!絶対逃がしませんからねーーっ!!

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!では、新しく出演してもらった東方キャラクターの紹介を!

 幻想郷随一のブン屋にして、自称『清く正しい射命丸』でおなじみの鴉天狗!射命丸文さんでございました!人の探られたくないところへ遠慮なく踏み込むそのずうず、じゃなくガッツさには何人が涙を流したのか…!暴力とは別方向に、すごい危ない少女ですね!

 そんな文さんにはやはりこちらでも新聞に触れてほしかったので、新聞部の部長ということで出てもらいました。で、どことなく年上のお姉さん!ってイメージを村雪は持っていましたので、二年生ではなくあえて三年生になってもらいました!同級生にせずに、すみません! 

 まだまだ文さんの性格を把握していないのですが、なんとか彼女らしさをこれから出していきたいですね!

 それではまた次回っ!


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気前―快活、にいた方が皆明るくなれると思わないかい?

 どうも、村雪です!今日は比較的涼しくてありがたい!おかげで電気いらずのうちわ一枚で過ごせますよ~っ!

 さて、前回は美鈴さん達の召喚大会で終わったのですが、明久たちの召喚大会はもう少しお待ちを!

 今回は喫茶店がメインとなっていて、彼女たちに出演してもらっています!果たして彼女は、どんな明るく、陽気な雰囲気を生み出すのか・・・!


――ごゆっくりお読みください。


「・・・それで、戻って来るのに時間がかかったと」

 

「そうなんだ。ごめんねムッツリーニ」

 

「・・・それなら仕方ない。気にするな」

 

「ありがとう。じゃあ僕はホールに戻るよ。藤原さんも厨房頑張ってね!」

 

「…一応、分かってる…」

 

「・・・藤原。さっそく紅茶を」

 

「…ん、分かった…」

 

 

 さて、美鈴さんの後始末をしてたから遅くなったけど、藤原さんみたいに頑張るとするか!

 

 

「あっ、バカなお兄ちゃん!どこに行ってたんですか?」

 

 

 戻ってきた僕に声をかけてきたのは葉月ちゃん。ピンクのチャイナドレスがとっても似合っていて、とっても可愛いらしく見える。お客さんの反応も絶対悪くないだろうね!

 

 

「あ、ちょっとね。葉月ちゃんも手伝ってくれてたの?」

 

「はいです!さいきょうのお姉ちゃん達に教えてもらいました!」

 

「そっか、でもね葉月ちゃん。その呼び方はあってないよ?」

 

「え、そうですか?」

 

 

 間違いなくチルノの事だろうけど、やつには『バカなお姉ちゃん』と言うあだ名がぴったりだ。僕が保証しよう。

 

 

 

 

「失礼するよ」

 

「失礼します」

 

 

「!あ、いらっしゃいませ!」

 

 

 やった、またお客さんだ!

 

 

今度は二人の女の人……って、1人は学年主任の高橋先生じゃないか。今日も知的なメガネが似合ってるなぁ。

 

 

・・・でも、もう一人の金髪の長身の女の人は見たことが無い。先生の高橋先生と一緒にいるんだからここの先生だと思うんだけど・・・新しい先生か、それとも先生じゃないのかな?

 

 

「――どうやら繁盛しているようだな。吉井」

 

「あ、鉄人先生」

 

「西村先生と呼べ」

 

 

 そんな二人の後ろに、生徒指導にして僕たちの担任、鉄人もとい西村先生も一緒だ。

 

 教師が3人(もしくは2人?)も一緒に来るなんて・・・見回りにでも来たんだろうか?はっ!まさかテーブルの件っ!?それだけは勘弁願いたいっ!

 

 

「――くっ、あっはっはっは!!鉄人たぁ良いあだ名だね、先生!私もぜひつけてもらいたいもんだよ!」

 

「む。その言葉は嬉しいのですが、正直、あまり私はその呼ばれ方は好きではなくてね…」

 

「っと、それは申し訳ない。気に障ることを言ってしまった」

 

「いえ。あなたに悪意が無いというのは、さっき会ったばかりですがなんとなく分かります。気になさらなくて結構」

 

「それはありがたいね!いや~、先生は人が出来てるねぇ!私はいい年になってもまだまだ出来てない部分だらけだよ!」

 

「勘弁を。どうも、あなたは私を過大評価しすぎですな、全く」

 

「勇儀。西村先生の肩を叩きすぎよ。少しは配慮をしなさいっ」

 

「おっとっと、失敬!」

 

「はあ…あなたのその馴れ馴れしさは、昔から全然変わってないわね」

 

「おいおい、それを言うなら洋子だって注意好きなのは変わってないじゃないか。ん?」

 

「う、うるさい!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 僕は言葉を出せずに先生たち3人の様子を眺めた。

 

 て、鉄人にあれほどフレンドリーに接するなんて、なんて肝っ玉の据わった女性なんだ・・・!しかも、普段はクールな高橋先生のこの慌てよう・・・・誰なんだろうこの人?

 

 

 

 

 

「あ~!こんにちはです!勇儀のおばさん!」

 

 

 僕が興味津々にその金髪美女を見ていると、なんと葉月ちゃんが彼女に声をかけた。

 

 

「ん?おお葉月じゃないか!相変わらず元気そうだね!」

 

「えへへ、はいですっ!」

 

 

 葉月ちゃんの声に応じた彼女は葉月ちゃんの頭を優しくなでた。どうやら二人は顔見知りのようだけど・・・

 

 

「葉月ちゃん、この人と知り合いなの?」

 

「はい!お友達のお母さんです!」

 

 

 へえ、ってことは小学生の子どものお母さんなのか~。その割には若く見えるけど、いくつなんだろう?

 

 

「知ってるの勇儀?」

 

「ああ。娘の友達でよくウチに来ててね……ん?ここは写真のサ-ビスがあるのかい?だったら綺麗にとってもらわなきゃいけないね!頼むよあんた!」

 

「・・・お任せを(バシャバシャバシャ)」

 

「おや。そうだったのですか土屋君?では、私も撮ってもらわないといけませんかね・・・」

 

「いえ、これは違いますお二方。おい土屋、そのカメラをよこせ」

 

「・・・っ!?横暴すぎる・・・!」

 

「勝手に写真を撮る方が勝手だろうが」

 

「・・・断固として断る・・・!」

 

 

 鉄人の脅迫にも屈さず、ムッツリーニが命を懸けてまで写真を撮ろうとする気持ちは僕にも分かる。

 

 

 ところどころはねているけど腰辺りまで伸び、太陽のように光り輝く金髪。

 

 どんなことにもくじけることがないのではと思ってしまう、勝気で明るいビューチフルな顔。

 

 でかい鉄人にも劣らない大きな背。

 

 そして・・・・・・この世の青少年が感動で泣いてしまうこと間違いナシの、抜群なスタイル!!ムッツリーニ!ここは君の命が尽きようともこの女の人を撮り続けて!!データは後で拾ってあげるから、僕に夢を見せてくれ!

 

 

「おばさんたちはお客さんで来たですか?」

 

「ああそうだね。三人だけどいいかい?」

 

「はっ!はい大丈夫です!」

 

 

少々邪念が出てしまったけど(※ダダ漏れの間違いです)、ここは仕事優先をしなくちゃ。

 

 教室にはまだお客さんがいるけれど、ラッキーにも僕達が苦労して手に入れた机が多かったからまだ空きはある。ここに案内をしよう。

 

 

「では、2人とも積もる話もあるでしょうし、ゆっくりされてください。私はこの辺で失礼を」

 

「(ガシッ)まあまあ先生。せっかくここまで来たんだから、付き合っていくのが礼儀だよ?なあ洋子?」

 

「あなたの場合は強引過ぎると思うけど……西村先生。彼女はこうなったら絶対ひきませんので……諦めてください」

 

「・・・ぬぅ・・・・・・やむをえん」

 

「そうこなくちゃね。じゃあ葉月、案内を頼めるかい?」

 

「あ、はいです!じゃあこっちに来てください~!」

 

 

 葉月ちゃんは僕が動く前に、僕の考えていたのと同じテーブルへと三人を案内していった。う~ん、鉄人の肩を掴んで有無を言わせないなんて…あの人は、本当に豪快な人だなー。

 

・・・ん、あれ?鉄人と二人の女性・・・・あれあれ?ひょっとして、鉄人は今・・・・・・二人の美女とデート、してることになってない?

 

 

「畜生!なんてうらやま、いや!うらやましいんだっ!」

 

 

 おのれチンパンジー!娘さんがいるお母さんと仲を深めようとするとは、教師の風上にも置けないヤツ!許すまじ!Fクラス総出で正義の鉄意を下してやるから覚悟しておくんだっ!

 

(※本人達にそのつもりは全くありません。むしろ、熱烈に写真を求めていた君の方が不届きものです)

 

 

「おい明久、えらい遅かったがどこに行ってたんだ?」

 

「雄二・・・・・・僕たちには奴の間違いを正す使命があるんだよっ!」

 

「ああ?頭でも打ったか?」

 

 

 そんな失礼な事を言う雄二だけど、説明をすればわかってくれるはず!

 

 

「雄二!実は鉄人が教師として許されざることを」

 

「・・・良い写真を撮れた」

 

「したなんてどうでもいいから早く見せてムッツリーニ!」

 

「・・・・相当強く打ったんだな、明久・・・」

 

 

 鉄人のことよりも写真の方が大事に決まってるよ!ああ、さすがムッツリーニ!これほど綺麗に撮れているなんて…君と友達で良かったっ!

 

 

「なにしてんのよさアンタ達?」

 

「どうしたんだぜ?なんかさっきから騒がしいなー」

 

「ああ、チルノと霧雨か。明久の奴がどうも頭を強く打ったみたいでな」

 

「ほー。でも、吉井の奴がアホなのはいつもの事じゃないか?」

 

「いや、今はいつにも増してだ」

 

「へー。やっぱりよしーは大バカだったのね」

 

 

 女の子達の失礼な声も今の僕は気にしない。幸運だったねチルノ。

 

 

「帰りましたよ~・・・」

 

「た、ただいま(です)~・・・」

 

 

 あ、姫路さん達が戻ってきた。どうやら召喚大会が終わったみたいだ。

 

 

「おかえりみん……な?」

 

 

 あれ?召喚大会って動き回ったりするイベントだったっけ?

 

 

「どうしたんだ三人とも。やけに疲れていないか?」

 

「髪も少し乱れてるし…美鈴達、どっか走ってたのか?」

 

 

 雄二達の言う通り、三人は息を切らして顔を赤くしているし、ところどころ汚れちゃったりしていた。それでもチャイナの輝きは健在している。

 

 

「あ~・・・。少々、自身の尊厳のために戦っていました」

 

「そんげん?」

 

「はい、そうです」

 

「そうなんです」

 

「そうなのよ」

 

 

「・・・そ、そうなんだ」

 

 

 3人揃って頷かれた。内容が気になるけど、聞かないでって顔をしてるから聞かない事にしよう。

 

 

「おかえりなのじゃ、紅、姫路、島田」

 

「あ、ただいまです秀吉君。皆さんは集まって何をされてるんですか?」

 

「うむ。わしもそれが気になって来たんじゃが・・・一体何をやっておるんじゃ?」

 

 

 そんな秀吉の言葉に、雄二、魔理沙、チルノが僕に目を向け、それにつられて後から来た4人も僕を見つめてきた。え、僕が原因なの?素晴らしい写真を撮ったムッツリーニのせいだと思うけど・・・

 

 

「えーと、そんな大したことじゃないよ?ムッツリーニが撮った写真を見てただけだからさ!」

 

「あ?写真?そんなもんで騒いでたのか?」

 

「ほほう、いったいどんな写真ですか?」

 

「うん。ムッツリーニ、見せてあげてよ」

 

 

 本人を紹介すれば済むけれど、さすがにそれはあの人にとって不愉快だろうから、写真で分かってもらうとしよう。きっと皆が皆、美女と思うこと間違いなしだね!

 

 

「・・・了解」

 

 

 雄二。なんだか呆れた顔をしてるけど、それもこの写真を見るまで!君も騒がずにはいられないよきっと!

 

 

「・・・これ」

 

『どれどれ』

 

 

 さあ!無様に騒ぐが良い雄二!そこを僕は思いっきりからかってあげるよ!

 

 ムッツリーニがデジカメを差し出したので、皆揃ってその写真が写っている画像を、覗きこんだ。

 

 

 

 

「ん?誰じゃ?」

 

「っ!?んんんっ!?」

 

「え…おいおいっ?」

 

「誰だ?」

 

「おお、強そうな人なのよさ!」

 

「わぁ、綺麗な人です・・・!」

 

「あれ……この人って…?」

 

 

 困った。予定していた人以外をからかわなくちゃいけないかもしれないや。

 

 

「?どうした?紅に霧雨」

 

「ちょ、土屋君!これ、いつどこで撮ったんですか!?」

 

 

 え、どうしたの美鈴さん?そこまで喰い付くとは思わなかったよ?皆――って魔理沙以外か――が不思議そうにしてるよ?

 

 それに、いつ、どこでっていうか――

 

 

「・・・さっき、ここで」

 

 

 

 

ダダッ

 

 

 

『ん?』

 

 

 

・・・・・・今、僕達の横を走り抜けた白いものは………藤原さん?

 

 

 どうしたんだろ。お客さんから急ぎで注文でも受けたのかな?でも、そっちは鉄人たちが座ったテーブルだけ。まだ来たばかりで注文はしてないと――

 

 

 

「――――勇儀っ」

 

 

 

『・・・・・・え・・・?』

 

 

 お客さんじゃなく、藤原さん自身に用があったみたいだ。

 

 彼女は珍しく感情溢れた顔をしながら、例の女性へと声をかけたではないか。

 

 

 

「おっ、妹紅!その恰好、似合ってるじゃないか!素敵だよ」

 

 

「・・・あ、ありがとうっ。勇儀、来てたんだ・・・!」

 

「ああ、ちょっと合間にね。いやいや、妹紅が楽しそうにしていてくれてなによりだ」

 

「あ・・・・うんっ・・・!ぇㇸㇸ・・・」

 

 

 

 さっきの葉月ちゃんみたいに、謎の美女は藤原さんの白く透き通るような白髪を優しく撫でだした。

 

 そこに何か魔術でも宿っているのか、藤原さんは人見知りの影が全く見えない、これ以上なく嬉しそうにはにかんだ顔で、さらさらと頭を撫でられ続けている。

 

 

「あ!あの人、写真の人なのよさ!」

 

「ああ。確かにそうだな。・・・それにしても・・・・」

 

「・・・も、妹紅ちゃん・・・・・す、凄い嬉しそうです・・!」

 

「あ、あれほど笑顔の藤原は、初めて見たのじゃ・・・・」

 

 

 大人しく、ポーカーフェイスの藤原さん。そんな彼女の顔が嬉しそうに綻(ほころ)んでいるから、皆ビックリして藤原さん達のテーブルを凝視する。鉄人や高橋先生だけじゃなく、藤原さんも大変身させるなんて・・・!本当にあの人は誰なの!?宇宙人か何かっ!?

 

 え~っと、藤原さんは……あ、「ゆーぎ」って言ってたけど、あの人の名前のことかな?

 

 

「・・・あれ、『ゆうぎ』?」 

 

「?どうした明久」

 

「あ、うん」

 

 

 その言葉、ちょっと前にも聞いたよね?確か……教室に戻る前に藤原さんが・・・

 

 

 

『ゆ、勇儀の娘だからなだけだ・・・!べ、別にそんなんじゃないからな・・・っ!?』

 

 

 

・・・とかなんとか言ってたような気が――――――娘?

 

 

「妹紅、じゃあ美鈴もいるのか?あいつは頑張ってるかい?」

 

「・・・ああ。でも、それなら直接聞く方が・・・・あそこ」

 

「――お!なんだなんだ!素敵な恰好をしてるじゃないか、美鈴!」

 

 

 今度は美鈴さんへと話しかける『ゆうぎ』さん。この人はどれだけ知り合いがここにいるんだろう。もしかして、僕以外の人は全員知ってるとか言わないよね?だったら僕だけ仲間はずれで、ものすごく寂しいなあ・・・

 

 

「・・・・・・!?」

 

「・・・ホ、紅?」

 

 

 そんな顔の広い彼女に話しかけられた美鈴さんは・・・まるで、ありえないなことが起きたような顔で、『ゆうぎ』さんを見て固まった。秀吉はそんな美鈴さんを心配そうに見つめている。

 

 

「おい紅。お前をご指名だぞ」

 

「メ、美鈴さん。お知り合いですか?」

 

 

 雄二、姫路さんも固まった美鈴さんへと話しかける。今のこの状況は美鈴さんが大事なので、皆の視線が美鈴さん一人へ集まり、動き出してくれるのを待った。

 

 

「・・・・な、なな・・・・か・・っ!?」

 

 

 2人の声のおかげか、もしくは頭が働くようになっただけなのか。それは分からないけど、ようやく美鈴さんは石化状態を解き、詰まりながらも―――

 

 

 

 

 

 

「・・・かかっ、母さん!?な、なんでここにいるのよっ!!?」

 

 

 

 大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

『―――母さんんんんんんっ!!?』

 

 

「わわっ!ど、どうしたですかバカなお兄ちゃんたち!?」

 

 

 僕たちも思わず、それ以上の叫び声を上げた。紅さんの家族は皆は顔が似ないのだろうかと不思議に思ったのは、絶対僕だけではないと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――母さんんんんんんっ!!?』

 

「わわっ!?」

 

 

 わ、私の叫びに皆さんが絶叫をあげちゃいます!

 

 でも仕方ないじゃないですか!来ないって言ってた母さんが自分のクラスにお客さんとしているんですよ!?そりゃあびっくりしちゃうものですよ!

 

 

 

「母さんとは・・・・・・お、お主の母君なのか紅!?」

 

「は、はい。私の母親です!」

 

「へー!そ、そうなんですか!!」

 

「・・・気付かなかった」

 

「ああなるほど!分かるよ美鈴さん!確かにそう言われると似て・・・似てないよ!」

 

「ノ、ノリツッコミですか!?」

 

「全然似てないのよさ」

 

「ああ、似てないな」

 

「あ、あってますけども!」

 

 

 何か傷つきますね!もうちょっと包んで言ってくださいよチルノ坂本く~ん!

 

 

「久しぶりだぜ、勇儀のおばちゃん!」

 

「お!魔理沙!相変らず元気そうだね!」

 

「おう!」

 

 

 唯一面識のある魔理沙が母さんと口を交わします。し、仕方ありません。このままじゃグダグダになりますから、皆さんに母さんの紹介をするとしましょう!

 

 

「え、えっとですね。この人は、私の母親の星熊勇儀っていいます!」

 

「初めましてだ。いつも娘が世話になってるね!」

 

 

 母さんがそう言って皆さんに挨拶を、って、あ、頭を撫でないで母さんっ!

 

「そ、そんな!私の方がいつも美鈴さんにお世話になってます!」

 

「そ、そうじゃぞい母君様。わしらの方こそお世話になっておるのじゃ」

 

「ほお、そうなのかい!やるじゃないか美鈴!」

 

「お、おかげさまでね!」

 

 

 母さんの影響をだいぶ受けたもの!全然文句はないんだけどね!

 

 

「さて。じゃあ、注文を頼みたいんだけどいいか?」

 

「あ、う、うんいいわよ?」

 

 

 お客で来たわけだから、それは当然注文するわよね!むしろしなかったら物申してたわよ!

 

 

「私はゴマ団子と本格ウーロン茶を頼むよ。2人はどうする?」

 

 

 母さんはそう言って、2人、すなわち高橋先生と西村先生に尋ねました。高橋先生の事は同級生だって聞いてたから分かるけど、西村先生はどうして一緒にいるのでしょうか・・・?ものすっごく気になります!(※たまたまです)

 

 

「そうね・・・では、私も彼女と一緒でお願いします」

 

「では俺は、飲茶を頼もう」

 

「はい!じゃあ本格ウーロン茶を2つと飲茶を1つ、あとゴマ団子を2つですね!」

 

「……入れてくるっ」

 

「はやっ!?」

 

 

 母さんがいるせいか、妹紅さんが非情にやる気を出しています。いつかは、私達といるときでもそうやって活発的になっていてほしいです!

 

 

「あっ!手伝うです白いお姉さん!」

 

「・・・ゴマ団子、作ってくる」

 

 

 葉月ちゃんと土屋君が、妹紅さんの後に続いて厨房へと向かいました。白いお姉さんとは、葉月ちゃんは独特なあだ名を付けるのが得意ですね。楽しそうですから、ここにいる皆にあだ名をつけてみてほしいです!

 

 

「あ、あの~・・・」

 

「?」

 

 

 その時、比較的静かだった島田さんが、遠慮気味に母さんへと声をかけました。

 

 

「ん?・・・お!葉月のお姉さん!あんたも美鈴と同じクラスだったのか?」

 

「はい!ひ、久しぶりですっ!」

 

「ああ、久しぶり。元気にしてるかい?」

 

「元気です!お、おばさんも元気そうね!」

 

「はっは!まあね!元気なのが私の売りさ!」

 

 

 

「・・・あ、あれ?母さん、島田さんと葉月ちゃんの事を知ってるの?」

 

 

 顔を知った感じで2人は挨拶を始める2人。フランと葉月ちゃん繋がりでしょうか?

 

 

「ああ。前に小学校の授業参観で知り合ったんだ。1人だけ若い子がいて珍しかったら、つい声をかけたんだよ」

 

「急に声をかけられてびっくりしちゃったけど、おかげで緊張がとけたのよ♪」

 

 

 その時の事を思い出したのか島田さんがホッとした顔になります。へ~、島田さんは授業参観に行ってたりもしてたんですか!確かに大人の女性がいっぱいいる中、高校生の女の子がいたらそれは異色の存在でしょうね!それを察して話しかけるなんて、母さんらしいわね!

 

 

「み、美波ちゃん。でもそれだと・・・学校を休んじゃうことになりませんか?」

 

「あ、確かに授業参観って普通、平日にやるもんね?」

 

「あ~・・・ま、まあね。その日だけちょっと休んじゃった」

 

 

 瑞希さんと吉井君の質問に、島田さんは悪戯がばれた顔をして笑いました。

 

 

「でも、親も行けなかったし、葉月が楽しそうにしてるのが分かったから、ウチは後悔してないわっとと!?」

 

 

「いや~あの日も聞いたけど、立派なことをしたねお姉さんよ!勉強よりも大事な事なんだから、気にしなさんな!なあ2人共!」

 

「きょ、教師の立場として答えるのが難しい問いかけね・・・」

 

「全くです。……が、まあ……間違った行為ではない、と言っておきましょう」

 

 

 島田さんの頭を撫でる母さんの同意に、先生の2人は複雑そうな顔をしますが、それほど叱るようなそぶりは見せません。西村先生は許容の言葉さえ告げ、島田さんの行為を認めました。い、意外です!西村先生は厳しいだけじゃなくて、柔軟性もあるのですね!

 

 

「す、すまん、お前ら。ちょっとお客さんが増えて来たから仕事を頼めるか?」

 

「あ、すいません!」

 

 

 ちょ、ちょっとしゃべりすぎましたね!お客さんはまだ一杯いるのですから、田中君が救助要請をしてくるのも当然でした!

 

 

「じゃ、じゃあ私たちは仕事に戻るから、母さんたちはゆっくりしていって!行きましょうか皆さん!」

 

「あ、うん!」

 

「そ、そうね!」

 

「はい!」

 

「おう、そうだな」

 

「ア、アタイまだしゃべってないわよ!?」

 

 

 何を話すつもりだったのかは知りませんけど、またあとにしてねチルノ!

 

 

「分かった。皆、大変だろうけど頑張るんだよ?」

 

『はい!』

 

 

 母さんの暖かい声援に返事をして、私たちは先生たちの机から離れました。さあ、私は注文をうかがいに行くとしましょうか!

 

 

 

 

『いや~、皆が元気に働いているね。見ていて気持ちが良いクラスだ!』

 

『ありがとうございます。奴らが聞くと喜ぶでしょうし、後でしっかり伝えておきますよ。・・・しかし、あなたは本当に、紅と親子なのですな』

 

『ん?突然どうしたんだい先生?』

 

『いえ・・・・紅があれほど砕けた言葉を使うところを、初めて見ましたから。少なからず絆を感じました』

 

『あ…そう言われると、確かにそうですね。紅さんは普段、丁寧な言葉遣いだけでしたから・・・』

 

『あ~、確かにあの子は口が丁寧だからねえ・・・くっくっく・・・!』

 

『?どうしたの?』

 

『いやぁ~・・・ちょっと、昔を思い出してね。ま、それはともかく、先生、と洋子。大丈夫だとは思うけれど、美鈴と咲夜と妹紅の事を、頼んだよ』

 

『あ、ええ。任せて』

 

『もちろんです。・・・が、実は・・・お恥ずかしいことに、藤原はいたく私の事を避けていましてな』

 

『なに?そりゃまたどうして?』

 

『・・・どうも、私の顔が原因のようで…』

 

『ふっ!あっはっは!なるほど、確かに先生は武骨で男らしい顔をしてるから、妹紅は少し恐がるかもしれないねぇ~!』

 

『ちょっと勇儀っ。笑うなんて失礼ふふっ、よ・・・!!』

 

『高橋先生、あなた自身も笑っています。はあ・・・』

 

『…お、お待ちどう…』

 

『お、悪いね妹紅!』

 

『…うんっ。ど、どうぞ…』

 

『では、いただきましょうか』

 

『おう。――――お、甘さが控えめでいいじゃないか。悪くないね!』

 

『…よかった…』

 

『このお茶とも良くあってるけど、妹紅が入れたんだよな?上手いじゃないか、妹紅』

 

『…あ、ありがとっ』

 

『確かに・・・これは美味しいですね』

 

『うむ。上手くいっているようだな、藤原』

 

『……ど、どうも…』

 

『うおっと?いきなり私に隠れてどうした妹紅?』

 

『・・・なるほど。確かに遠慮されてますね、西村先生』

 

『うむむ・・・私は褒めただけなのだが・・・』

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、今回は勇儀さんを中心にした回となったのですが、いかがでしたでしょうか?

 村雪が自分で良いんじゃないかと思ったのは、妹紅さんとの和み合いの部分!や~、あの2人の絡みは書いていて和みます!まだ詳しいことは書いてませんが、血縁はなくとも、愛情で結ばれた彼女たち。他の美鈴さん達もはじめ、これからも星熊一家の家族愛をどんどん書いていきたいところです!

 もう一つ家族愛で、美波さんにもちょっと頑張ってもらいました!前回は不憫なところしか出せなかったので、今回の姉妹参観で少しでも良いところを見せられたら・・・!


 ではまた次回っ!明久たちの召喚大会の出番です!


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一言―秘策、って言えば聞こえはいいけど、大事なのは内容だぜ・・・

どうも。村雪です!暑さのせいで水分の購入費が倍に・・・!懐だけは寒くて困ったものです。

 さて、今回は明久たちの召喚大会がメインです!果たして誰と戦うのやらや!

――ごゆっくりお読みください。


「でも、美鈴さんのお母さんってすごい元気な人なんだね」

 

「私もそう思いました。すごいハキハキしてて、明るい人ですねっ」

 

「んー、確かにそうですね~。母さんが体調を崩したところなんか見たことありませんねえ」

 

 へ~、それは凄いなあ。僕なんか空腹で頻繁に倒れてるから、絶対にまねできないや。

 

 

「・・・ゴマ団子、お待たせ」

 

「あっ、すいません妹紅ちゃん!じゃあ持って行きますね!」

 

「・・・ん。で飲茶二人分、置いとくから」

 

「じゃあこれは私が持って行きますね、よいしょ!」

 

 

 できあがった品を女の子2人が運んでいった。クラスにはたくさんのお客さんがいるからどんどん注文が来て、僕らは嬉しい悲鳴をあげている。さすがはチャイナドレス、中国の文化は侮れない!

 

 

「明久、そろそろ四回戦の時間だ、準備は良いか?」

 

「あ、うん、丁度手が空いたし大丈夫だよ」

 

 

 悪友の雄二の言う通り、時計を見れば僕たちの召喚大会の時間が目前に迫っていた。ゲームをずっとやっている時もそうだけど、何かに打ち込んでたら時間はあっと言う間に過ぎていくなー。

 

 

「お?吉井達も召喚大会か?」

 

「あ、魔理沙」

 

 

 隣を見れば、魔理沙が黄色のチャイナドレスを脱いで学校の制服に着替えていた。ちょっと惜しい気もするけど仕方ない。

 

 

「うん、魔理沙も召喚大会なの?」

 

「まあな。ってことは相手はお前らってことか?」

 

「ああそうだ。霧雨、負ける気構えをしておくんだな」

 

「おっ、言うじゃないか?そう言う坂本も覚悟してるんだぜ?」

 

 

 2人はにやりと笑いながら敗北を予測しあう。この2人は口が良く回るから、召喚獣じゃなくて言葉の応戦になったりしそうで不安だ。それだと僕の入り込むすきがないからね。

 

 

「ふっ、望むところだ。俺は明久のようにバカではないから、甘く見ない事だ」

 

「それは当然私もだ。吉井みたいにアホじゃないから、簡単にはいかないと宣言するぜ」

 

「ねえ2人とも。なんだか僕をバカの基準にしていないかな?」

 

 

 そんな2人も僕に毒を吐くという点では息ぴったり。魔理沙はともかくペアーの雄二が言いだすとはこれいかに、だ。

 

 

「あれ?そう言えば魔理沙のペアーって誰?」

 

 

 周りを見ても魔理沙だけが準備していて、他に準備をしている人はいない。違うクラスの人かな?

 

 

「安心しな吉井。私のペアーは吉井よりも強い奴だぜ!」

 

「ちょっと!さっきからどうして僕が基準なのさ!?それも嫌な方で!!」

 

「望むところだ。足手まといがいる方が燃えるってもんだ!」

 

「僕を足手まといって決めて燃えるんなら、いっそのこと燃えるんじゃないよ!」

 

 

 僕はどうやらチリみたいな扱いとなっているようだ。もー怒った!こうなったら活躍しまくって二人の花を咲かしてみせるぞ!『× 正解は【鼻を明かす】です。』

 

 手始めに、まだ見ぬ魔理沙のペアー!悪いけれど、君には雄二達を打ちのめすための礎となってもらうからね!

 

そう深く心に誓って、僕達は召喚大会の会場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「今回はあなた達が相手ね、吉井君、坂本代表?」

 

 

「おい明久、いきなりひざまついてどうした?」

 

「う、打ちのめされた・・・っ!」

 

 

 僕の決意はクッキーみたいに甘くてもろかったようだ。礎になってもらうどころか、僕が彼女の賢さを輝かせるための礎になっちゃうかもしれない。

 

 

「ま、待たせたなアリス!よっしゃ頑張ろうぜ!」

 

「相変わらず元気ね魔理沙。ええ、頑張りましょう」

 

 

 会場に行くと、魔理沙と同じ、綺麗な金の髪の持ち主にして秀吉と同じ演劇部、そして学年最高クラスのAクラスに所属する女子の、アリス・マーガトロイドさんが僕たちを待っていた。なんでも魔理沙や美鈴さん達とは昔からの親友なんだとか。

 

 

『あやや!どうやら残る対戦メンバーが登場したみたいですね!』

 

『はい、そのようですね射命丸さん』

 

 

 アリスさんが待つ壇上に僕達が登ると、元気な女の子の声と先生の声が響いてきた。そうか、四回戦からは一般参加者も見れるから実況がいるんだったっけ。どおりで見物に来てる人が多いわけだよ。

 

 

『では残る三人の紹介をしていきましょう!ちなみに私の名前は三年生の射命丸 文!良かったら覚えてくださいねお三方!』

 

 

 実況の人なだけあって、彼女は元気な声で自分の名前を紹介してきた。へ~、射命丸先輩か。美少女の名前はぜひとも覚えさせて貰おう。

 

 

『まずは先に終わった演劇部所属、演劇が好きで世話好きなアリス・マーガトロイドさんの相方!恋に生きる女で有名な、2―Fクラス、霧雨 魔理沙~!!』

 

『魔理沙ぁぁあああ!!』

 

『霧雨ええええ!!』

 

「へへっ、なんか照れちまうな~!」

 

 

 実況の言葉に場内がさらに盛り上がって、名前を呼ばれた魔理沙が照れくさそう後頭部を撫でた。

 

 

でも、そこで実況は終わらない。

 

 

『―――そんな霧雨さんですが、恋に生きる女と言いつつ、実はかなりの奥手だそうでして、ざっくり言えば口だけの正真正銘の初心な乙女ですね~』

 

 

「!?ちっちち違うっ!初心じゃない!!私頑張ってるから奥手じゃないし!チ、チキンなんかじゃないもん!」

 

「ちょ、ま、魔理沙落ち着いて!?」

 

 

 射命丸先輩の無慈悲にも取れる言葉に、魔理沙は今までにないほど取り乱して実況の席へと向かおうとするも、アリスさんに抑えられて動けない。もん、って、魔理沙も可愛らしい言葉を使うんだね。

 

 

「ふっ、あの程度で動揺するとは霧雨もまだまだだな。なあ明久?」

 

「全くだよ。やっぱり魔理沙も女の子ってわけだね」

 

「う、うるせえバカ!」

 

 

 僕達は数々の修羅場を切り抜けたから、あの程度じゃあ動揺しない。最近魔理沙と行動することが多いけれど、まだまだ僕達には及ばないようだね。

 

 

『さて、対するは2―Fクラスの2人です!』

 

 

 おっと、次は僕達が標的か。いい機会だから、僕達と魔理沙の格の違いを見せてあげるとしよう。ねえ雄二?

 

 

 

 

 

『1人目は2―Fクラスの代表!なんと2年の学年主席である霧島翔子さんとは幼なじみ兼婚約者!未来は霧島雄二の、坂本雄二ぃぃー!』

 

 

「!!?ぶ、ぶんなぐるぞてめええええええええっっ!!」

 

 

 雄二、君も魔理沙と同じだね。格下げ確定!あと先輩にそんな失礼な事を言ったらダメでしょ!

 

 

『えええええええ~~!?似合わないわよ~~!!』

 

『地獄へ落ちろおおおおおおおっ!!』

 

 

 男子と女子からのアタタカイ言葉を受ける雄二。僕も友人にイワイの言葉を送ろう・・・夜道に気を付けろっ!!

 

 

『そして最後の1人!』

 

 

 おやおや、今度は僕の出番みたいだ。この2人とは違うってところを皆に見せつけてやろうじゃないか!さあばっちこい先輩!僕の忍耐強さを見せてやるよ!

 

 

 

 

『2年生の中ではこれ以上ないまでの有名人!【女装が似合いそうな男子ランキングNo.

1】、【モテそうな男子(同性愛編)ランキングNo.1】、【行動が読めない天然な生徒ランキングNo.1】の三冠をとった歴戦の男子!吉井明久ああああああ!』

 

 

 

『うそ・・・あの人が・・・!?』

 

『ダメよ見たら!天然が移っちゃうわ・・・!』

 

『なるほど、確かに似合いそうだな』

 

『木下秀吉はアンフェアってことで除外されたんだっけ?』

 

『確かに、あれはもはや女子だもんなあ』

 

『良い』

 

『良いな』

 

 

 

 

・・・耐えろ・・・・耐えるんだ僕・・・!!僕ならこの程度の試練、なんてことないだろう・・・!?

 

 恥ずかしい紹介とそれに対する屈辱とおぞましい言葉を身に感じながらも、僕はギリギリと歯を噛み拳を震わして耐え忍ぶ!

 

 そうだよ。ここにいる人は皆、学校で出されている新聞、文月新聞っていう悪魔の文書の情報を鵜呑みしているだけなんだ!だから彼らに罪は無い・・・!あるとすれば、あの新聞を発行した悪魔が悪いに決まって

 

 

 

『ちなみにこのランキングは、我々が発行した文月新聞に載せられたものです!少し過激ですが、パンチが欲しかったので部長の私がGOサインを出しました!まだ何部かありますので、興味のある方は気軽に声をかけてくださ~い!』

 

 

「ぶっとばすぞこのアマァァアアッッ!!」

 

 

 悪魔になら何を言ってもいいに決まってるよね。僕は迷うことなくひどい言葉を先輩へと投げつけた。

 

 

『あやや!気に入ってもらえたようで何よりです!他の皆さんも既に気合いが入っていて、実に盛り上がりそうな勝負となりそうです!』

 

 

 僕の罵倒も笑顔で受けとめる彼女は本当に悪魔じゃないだろうか。ほら、言うでしょ?人の悪意は悪魔の最上の蜜って。

 

 

『それでは選手の皆さん!そろそろ時間ですので召喚獣の召喚をお願いします!』

 

 

 僕としては今、魔理沙達よりもあの先輩へと召喚獣で攻撃を仕掛けたい・・・・!

 

 

「チクショウ・・・!ぜ、絶対この恨みは晴らしてやるぜ・・・!」

 

「くそぉお・・・!あの先輩、どれだけネタを嗅ぎまわってやがるんだ・・・!!まさか、あれもこれも知ってるんじゃ・・・!!」

 

 

 雄二達も召喚大会を放って先輩の方を睨む。魔理沙、その時は僕も協力をさせてもらうよ。そして雄二に関しては、まだネタがあるのなら全て吐き出してもらおう。その後に裁きを下してあげるよ。

 

 

「落ち着いて三人とも。私達は召喚大会に来たはずよ。目的を忘れないで」

 

 

 アリスさんがそう言って宥めてくるけど、それはアリスさんが先輩に何も言われてないから言えることだよ!この屈辱は凄まじいんだからね!

 

 魔理沙も同意見なようで、アリスさんに詰めかかった。

 

 

「で、でもなアリス。お前は何も言われてないから良いけど、私らはこの上ない屈辱の言葉を受けたんだぜ!そう簡単に落ち着けるわけが」

 

「・・・・何を言ってるの。私も言われたわよ」

 

「「へ?」」

 

 

 あれ、言われたの?

 

 

 

「・・・・それも私一人だけだから、延々と、ね・・・・・。先に一人で来た私が悪いんだけど、私一人だけ質問に答えて、それが会場を沸かせてさらに盛り上がって、また質問を聞いてきてまた盛り上がってさらに・・・・・・の繰り返し。分かるかしら。この答えたくなくても、答えなくちゃいけないような雰囲気の中に一人だけいる苦労を・・・・。正直、顔から火が出そうよ?今の私は」

 

 

 

「「・・・ごめん(なさい)」」

 

 

 僕達よりも辱めを受けたんだね、アリスさん・・・なのに表面には出さず・・・・なんて大人なんだ!うるさく騒いでた僕が恥ずかしい!

 

 

「じゃあ、僕達も引き下がろうか魔理沙?」

 

「う・・・し、仕方ないぜ・・・」

 

 

 さて、あとは隣の男だ。

 

 

「ほら雄二。ブツブツ言ってないで目を覚ましなよ」

 

「たとえデタラメでも、翔子は既成事実で嬉々として俺に迫ってくる・・・!!そうなったら、俺は婿入り「おらぁっっ!!」ゲフッ!ハッ!?」

 

 

 上手く治療法が決まったみたいだ。何かむかつくことを言おうとしたから殴ったわけではないんだよ?

 

 

「よし雄二!召喚獣を出すよ!」

 

「あ、ああ分かった・・・?」

 

「よしアリス。気を取り直して、やるぞ!」

 

「ええ、頑張りましょう!」

 

 

 向こうもまとまったみたいで、射命丸先輩への敵意も薄れる。とりあえず僕も、あの新聞のことは心にしまっておこう。

 

 

 

『試獣召喚っ!』

 

 

 僕らは同時に合図をだして、それぞれの召喚獣を出した。

 

 

 

『Aクラス アリス・マーガトロイド 古典 311点

         & 

 Fクラス 霧雨 魔理沙       古典 31点 』

 

 

 

「あら・・・魔理沙は古典は苦手なの?」

 

「うっ・・・ま、まあな。少しばかり自信が無い教科だぜ」

 

 

 おっと、魔理沙の古典の点数が思ったよりも低い。どうやら化学とかは得意みたいだけど、古典に関してはFクラス並なんだね!

 

 

「よし、明久!霧雨の点数は低い!実質一対二だぞ!俺たちの勝ちは貰ったようなものだな!」

 

「そうだね雄二!31点しか取れてない魔理沙の召喚獣なんて怖くないよっ!」

 

「う、うるせえ!」

 

 

 魔理沙が顔を赤くして睨んでくる。でもそれは紛れもない事実。それぐらいの点数、普通の相手なら相手にならないよ!

 

 

 

 

 

 

『Fクラス 坂本 雄二  古典  211点

        &

 Fクラス 吉井 明久  古典    9点  』 

 

 

 

 

・・・・でも、僕とだけならいい勝負になるんじゃないかな。奇遇だね魔理沙。

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・・・・・おい、明久。その点数はなんだ」

 

「・・・・・・・・・混ざりっ気なしに、済まないと思っている」

 

 

 で、でも僕だけってわけじゃないじゃん!魔理沙の点数も僕とそんなに変わってないよ!?

 

 

「へへっ。やっぱり吉井より私の方が賢かったぜ」

 

「異議あり!君のその点数的に、賢いと言うのには無理があるよ魔理沙!」

 

「そうよ魔理沙。言ったら五十歩百歩じゃない・・・」

 

 

 僕もバカ扱いされてるけど、アリスさんの言葉なら僕は甘んじて受けよう!だってそれを言えるほどの点数を彼女は持っているんだもの!

 

 

「雄二、作戦はあるの?」

 

 

 当然ながら、Aクラスのアリスさんが一番点数が高いし、魔理沙の召喚獣はほうきの先からレーザー攻撃と、点数が低くても侮れない。ただ突っ込んで行っても返り討ちにあうかもしれないから、気を付けないと。

 

 

「ああ、ある」

 

「どんな作戦?」

 

「一対一で闘って勝つ。それだけだ」

 

「シンプルで分かりやすい作戦だね」

 

 

 僕が魔理沙と、雄二がアリス戦うって感じだね?僕もそれが良いと思うよ。

 

 

「じゃあ雄二、アリスさんは任せたよ?魔理沙は僕に任せて」

 

「何を言ってるんだ?明久」

 

「へ?」

 

 

 僕、何か間違えたことは言ったかな?

 

 

 

「お前がアリス・マーガトロイドで、俺が霧雨を相手にするんだ」

 

 

 

 なんだ。対戦相手がまちがっていたのか~

 

 

 

「って待て雄二!それは僕に死ねと言いたいの!?」

 

 

 点数差は軽く30倍あるというのに!貴様1人だけ楽なんてさせないぞ!

 

 

「落ち着け明久。お前を困らせると言う目的もないではないが、きちんと理由はある」

 

「僕が困るのは織り込み済みかよっ!・・・で、理由って何さ」

 

「お前は召喚獣の操作に慣れている。だからアリス・マーガトロイドが相手とはいえ、そう簡単にはやられないはずだ」

 

「あ~・・・まあ、多分ね」

 

 

 そう言う雄二の目は真剣だ。ふ、普通に実力を買われるのはなんだか照れるなあ。

 

 

「その間に俺が霧雨を叩く。そうすれば後は2対1だ。実力が拮抗した状態で闘い続けるよりも良いだろ?」

 

「う~ん・・・・そう言われると、そんな気もするね」

 

 

 僕がアリスさんに敵わなくても、雄二が応援に来てくれれば一気に勝負はつく。時間稼ぎぐらいなら僕にも出来るかな・・・?

 

 

「よし分かった。じゃあ僕がアリスさんと戦うよ!」

 

「決まりだな」

 

 

 役割が決まった僕らは、敵である魔理沙達の召喚獣を見る。向こうもやる気は十分で、すでに武器を構えている。

 

 

「おーし、覚悟しろよ吉井、坂本。また一歩優勝へと近づかせてもらうぜ!」

 

「ふっ、残念だが、お前たちに用意されているのは敗退の道だ」

 

「言うわね坂本代表。これは頑張らなくては、ね?」

 

「ふふん、無駄だよアリスさん。力の差ってものを見せてあげるよ!」

 

「・・・吉井君の点数が一番低いのだけれど・・・」

 

 

 点数じゃない!大事なのは召喚獣の扱いだよアリスさん!

 

 

 

「んじゃいくぜっ!先手必勝ぉぉおっ!!」

 

 

 魔理沙のその声が勝負開始の合図となった。召喚獣が持つほうきの先から輝くレーザーが発射され、僕達の召喚獣へと襲い掛かる!

 

 

「明久!」

 

「うんっ!」

 

 

 でも、今まで見てきたレーザーと違って勢いと太さがない。僕らは分かれて回避し、そのまま走らせる。雄二は魔理沙、僕はアリスさんだ!

 

 

「てえいっ!」

 

「!これしきっ!」

 

 

 アリスさんの召喚獣の頭に木刀を振り下ろしたけど、彼女は武器のランスを頭にかざすことでガード。でも、まだまだぁ!

 

 

「あなたが来るとは思わなかったわね、吉井君!」

 

「これも作戦なんで、ねっ!」

 

「!!」

 

 

 上から横に変えて木刀で攻める!とにかく、今の僕は攻撃の手を緩めないことが大切だ!

 

 

「おらおらぁっ!」

 

「うおっ!?私狙いかよ坂本!アリスじゃないのかっ!」

 

「先に手数を減らすのが大事なんでな!覚悟しろ霧雨!」

 

「はっ!そう簡単にはやられねえぜ!おらよっ!」

 

「はっ!無駄無駄無駄ぁ!」

 

 

 点数の高い雄二の召喚獣がぐいぐいと魔理沙に近づく。魔理沙のレーザー攻撃は遠くから攻撃できるけど、逆に近づかれたら何も出来ないはず!ゲームでもだいたいそんな感じだから間違いないよね!

 

 

「なるほど、魔理沙を先に倒すつもりね!」

 

「そういうことさ!その後にアリスさんを倒すよ!」

 

 

 その間にも攻撃の手は緩めない!もう一度脳天に攻撃だ!

 

 

「でも、それを見過ごすと思ってるのかしらねっ!」

 

「うわっと!」

 

 

 アリスさんがブンッとランスを払った。僕の召喚獣では力は叶わず、木刀と一緒に吹き飛ばされる。ま、まずい!アリスさんの召喚獣が雄二達の方に行ってしまうっ!

 

 

「魔理沙、手伝うわ!」

 

「おっ、助かるぜアリス!」

 

「バ、バカ野郎明久っ!しっかり堪えないか!」

 

「わ、分かってるよバカ雄二っ!」

 

 

 そもそも僕の仕事がハードなんだからちょっとは目をつむれっての!

 

 

「おりゃぁああ!!」

 

「!」

 

 

 アリスさんの召喚獣の背後から接近するけど、操作をしている彼女には丸見え。ぐるりと向きを変えた召喚獣がすぐさまランスを構えた。

 

 

「ふっ!」

 

「おおっと!!」

 

 

 そしてアリスさんがランスを振り下ろす。でも、それぐらいならなんのその。右にずれて回避、すぐに木刀で突く!

 

「とうっ!」

 

「あっ」

 

 

『Aクラス アリス・マーガトロイド 古典 291点』

 

 

 よし!やっとほんの少しダメージを与えられた!

 

 

「くっ…やあっ!」

 

「わ、あぶなっ!?」

 

 

 くそう!すぐに攻撃してくるなんて、やるなアリスさん!ならもう一度攻撃を

 

 

 ギュオオオッ!!

 

 

「うおおおおいっ!!?」

 

「!ありがと、魔理沙!」

 

「お安い御用だぜ!」

 

 

 い、今のは魔理沙のレーザーか!危なかったーっ!

 

 

「雄二、君こそちゃんと仕事しろよ!」

 

「分かってる!オオラアッ!」

 

「いよっとお!」

 

 

 魔理沙の召喚獣が雄二のメリケンサックをかわす。この役立たずっ!僕だったら一発でKO出来てたよ!(※おそらく無理でした)

 

 

「ちっ・・・本人に似てすばしっこい召喚獣だな・・・!」

 

「へへっ、そりゃどうもだぜ!坂本の召喚獣は本人に似て動きがとろいな!」

 

「テ、テメエ~・・・!!」

 

「雄二、挑発だからのらないで!」

 

 

 魔理沙のからかい気味の言葉に、雄二は口をひくつかせた笑顔を浮かべる。全く、この男には忍耐力というものが足りてないみたい

 

 

「吉井は逆に本人よりも立派な召喚獣だな!」

 

 

 今すぐにでも、あの口を閉じさせてやりたい・・・!

 

 

「はっ!」

 

「うわ!」

 

 

 アリスさんの攻撃を後ろに跳んでかわす。ここは雄二の召喚獣に近づいて、一度仕切り直そう!

 

 

「ふ~…雄二、魔理沙を倒せそうなの?」

 

「いや…想像以上にすばしっこいから、捉えるのに時間がかかりそうだ」

 

 

 僕の召喚獣が雄二の召喚獣に近づいたのを確認して、雄二に話しかける。魔理沙はどうも逃げに徹してるみたいだから、点数が高い雄二も攻撃を当てるのに苦労をしているようだ。

 

 

「魔理沙。大丈夫?」

 

「ああ、意外と大丈夫だったぜ!アリスは大丈夫か?」

 

「ええ、少し点数が減っただけよ」

 

 

 向こうも僕らと同じように召喚獣が寄り合っている。どうやら仕切り直しに付き合ってくれるみたいだ。

 

 

「雄二、じゃあ僕が魔理沙と勝負しようか?」

 

「そうすると俺が必然的にアリス・マーガトロイドとやりあうことになる。いくら点数が高くても、操作が慣れてないから持ちこたえられないだろうな」

 

「うーん、そっか。じゃあどうする?」

 

 

 でもそれは向こうも同じな気もするんだけど・・・もっともな事を言って厄介なことを免れようとしてたら、後で僕の右腕が唸るよ?

 

 

「・・・あまりこういうのはしたくなかったが・・・・・・よし。明久、お前はもう一度、アリス・マーガトロイドと戦え」

 

「え、また時間稼ぎするの?」

 

 

 時間稼ぎをするのも意外と難しいんだけどなあ。

でも、どうやら雄二の考えは何か違うようだった。

 

 

「いや・・・今回は、アリス・マーガトロイドを先に倒すぞ」

 

「へ?」

 

「おい、霧雨」

 

 

 どういう事かを聞く前に、雄二が魔理沙に声をかけた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 なのに、雄二は魔理沙をじっと見たまま黙っている。なんなんだろう?魔理沙も何事かと雄二を見る。

 

 

「??おい、坂本?」

 

「・・・・・・・・・霧雨」

 

 

 しびれを切らした魔理沙が口を開いたところで、やっと雄二が口を開いた。

 

 

「なんだよ?」

 

 

 

 

「―――お前、女子が好き「うううううるせえええええぇぇっ!!」」

 

 

 魔理沙の大声でよく聞こえなかったけど、何を言ったらこうなるの雄二?

 

 

「それ以上言うなぁぁあああ!!」

 

 

「ちょ、ちょっとどうしたの魔理沙!?」

 

 

 よっぽど気になった言葉なようで、魔理沙は唐突にレーザー、それも何発も発射させてきた!あ、あぶなっ!

 

 

「ゆ、雄二は何がしたかったの!?」

 

「うおっと!明久っ、霧雨を狙え!」

 

「!分かった!」

 

 

 せまるレーザー群をかわしつつ叫ぶ雄二の命令に頷く。そうか、雄二は魔理沙を挑発しかえして、自分が囮になって魔理沙に隙を生み出すつもりだったんだね!なら僕はその犠牲に報いるとしようじゃないか!

 

 

「覚悟魔理沙―っ!!」

 

「ち、違う違う違う!ほっとけほっとけーっ!!」

 

 

 何が違うのか何をほっとけなのか知らないけど、僕はためらうことなく魔理沙のすきだらけの召喚獣に攻撃を――!

 

 

「さ、させないわっ!」

 

 

 ガキン!!

 

 

「!アリスさんっ!」

 

 

 あとちょっとのとこで防がれた!くそう、こうなったらアリスさんの召喚獣を力で押して

 

 

「ハアアアッ!!」

 

「うわわわっとおっ!?」

 

 

 無理だよねーっ!一瞬で形勢が逆転され、てってて手の負担があ~~っ!!

 

 

「ちょ、雄二!めちゃくちゃピンチになったよ!?」

 

 

 よくよく考えたら、魔理沙を無効化してもアリスさんが残ってるじゃん!なのに僕に攻撃をしかけさせるなんて、雄二はバカかっ!ヤ、ヤバイヤバイ!すごい押されてるよーっ!

 

 

 

「よし明久!あとは任せろ!」

 

「へっ!?」

 

 

 そんな汗をかく僕に、雄二がそんなことを言い出した。

 

 

「ふっ!」

 

 

 魔理沙の攻撃を避けた雄二の召喚獣が、急に僕たちの召喚獣へ向かって走り出す。狙いは・・・アリスさん!?

 

 

なるほどそうかっ!魔理沙の攻撃を引き付ける囮を雄二がやってるのかと思ったけど、本当の囮は僕だったんだね!これは一本取られたよ!

 

 

「!?しまっ……!」

 

「覚悟、アリス・マーガトロイドォォ!」

 

 

 やったね!いくらアリスさんの召喚獣といえど、200点台の雄二の攻撃はただでは済まないはず!これで流れはきっと変わる!

 

 

「よし雄二!うまく仕留めるんだよ!」

 

「任せろ!おおおっ!」

 

 

 こぶしを力の限り握った雄二の召喚獣。期待を込められたその拳が、ついにアリスさんの召喚獣を―――!!

 

 

「ラアアアッ!!」

 

 

「あっ!?」

 

 

 

 捉えて、

 

 

 

「げふんっ!?」

 

 

 なぜか僕も捉えちゃった。

 

 

 

「か、身体にダンプカーが突っ込んだかのような激痛がぁああ!?なんで僕も巻き込んだ雄二ぃいーっ!!」

 

 

 そこはうまくアリスさんだけを狙えよ!観察処分者の僕にとって、そこはささいな問題じゃなくて最重要なところなんだよぉおおお!!

 

 

「仕方あるまい!妙に加減をしたら一撃でしとめられないだろうが!」

 

「だからって僕も仕留めることはないじゃないよね!?」

 

 

 確かにアリスさんは倒したみたいだけど、それだったら僕も加わってとどめを刺したっていいじゃない!

 

 

「げっ!?ア、アリス!?」

 

「霧雨、次はお前の番だっ!」

 

「あっ!?」

 

 

 僕の言葉を無視し、雄二はすぐさま正気に戻った魔理沙の召喚獣へと向かわせ、アリスさんと同じように一撃を叩き込んだ。

 

 あれだけ接戦だったのに、あっという間に立っているのは雄二のだけに。チーム戦もへったくれもない結末だ。

 

 

『あややや!これは勝負あったようです!今回の試合、アリスペアー対坂本ペアーの勝者は、坂本ペアー、ではなく坂本雄二君の単独勝利と言うほうが正しいですね!勝者は、未来の霧島雄二!現坂本雄二でした~~!!』

 

 

「頼むからその言い方はやめろぉぉぉ!!」

 

 

 さ、最初は嫌だったけれど、今は雄二の慌てる姿が心地いい・・・!!

 

 雄二にとって最も聞きたくないらしい言葉を言ってくれた悪魔、射命丸先輩に感謝して、僕は腹をおさえてうずくまりながら射命丸先輩達の言葉を聞き続けた。

 

 も、もう、観察処分者ってすっごい不便だね・・・!改めて思い知らされたよっ!

 

 

 

 

 

『わ、悪い!ごめんアリス!私が暴走したばかりに・・・!』

 

『ん、仕方ないわ。何か言われたくないことを言われてたんでしょ?それは坂本代表がうまくやったんだわ。気にすることないわよ』

 

『う・・・あ、ありがとだぜ…』

 

『でも、魔理沙があんなに取り乱すなんて珍しいわね?私を最初に召喚大会に誘った時も慌ててたけど、それと関係があるの?』

 

『あ~~・・・ど、どうかな~?』

 

『あ、そういえば、優勝チームには景品があったわね。それが目当てかしら?』

 

『ゥェッ!?そそっ、それは・・・!!』

 

『なるほど。それなら私もわかるわ。確かに残念よね・・・』

 

『!!?ア、アリス、それって・・・如月ハイランドのプレオープンプレミアムチケットのこと・・・・!?』

 

 

『商品券五千円分というのは大きかったわ・・・五千円あれば、いい生地が買えたんだけどね』

 

『・・・へ?』

 

『はあ・・・最近は代表の未来のウェディングドレスを作ってたから、あんまりお金もなくて是が非でもほしかったわねぇ・・・』

 

『・・・』

 

『他にも色々とあったから、換金して手持ちを増やせていたし。やはり悔いは残るわよね・・・わかるわ魔理沙、あなたの気持ちが』

 

『・・・・・・』

 

『・・・・ん?魔理沙?泣きそなうぐらい悔しかったの?でも、もう負けてしまったから残念だけど諦めるしか――』

 

『アリスのせいだぜこんちくしょおぉぉぉ!!』

 

『え、ええ!?私のせいなの!?あ、あれはどちらかと言えば魔理沙がげん』

 

『うううう~~~~・・・!!アリスのバカァァァァア!!』

 

『ま、魔理沙ーっ!?・・・・・わ、私、何を間違えたかしら・・・』

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!さて、予想していた方もいたかもしれませんが、明久たちの相手は魔女コンビのお二人でした!
 
 いいコンビだったのですが、雄二の策にまんまとはまった魔理沙が原因で敗北しちゃい、アリスに魔理沙が謝って、アリスがそれを気にするなとなだめる。2人らしいんじゃないかなと思って書いてみました!

 まだまだ魔理沙の恋の道は険しいようですが、いつ終点に到着するのか。2人の進展を作者ながら願います!

 それではまた次回っ!


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休憩―一息、ではなくため息をつくのはわしだけじゃろうか・・・

どうも、村雪です!

 今回は文化祭方面となるのですが、少々原作にはない場面となっております。美鈴さんとあと1人が主軸となっているのですが、うまく、明るく良い雰囲気を出せているか…!皆様の目で確認してやってください!

 で、こちらは業務連絡なのですが、そろそろ文の蓄えが無くなってきたので、火曜日と金曜日に投稿していたのですが、金曜日だけに投稿させていただきますね!作品を楽しみにしてくださっている方には申し訳ないのですが、どうかご了承ください!

 後書きでも書きますが、まずはここで連絡をさせていただきまして――


――ごゆっくりお読みください。



「帰ったぞー」

 

「ただいま・・・」

 

「た、ただいまー・・・」

 

「あ、おかえりなさい!・・・・・・て、あの、なんで魔理沙はふてくされた顔をしてて、吉井君は腹を押さえてるんですか?」

 

 

 召喚大会では魔理沙と吉井君たちが戦ったそうなんですけど、魔理沙たちが負けて、吉井君が召喚獣のフィードバックというやつを受けたという感じでしょうか?

 

 

「お、戻ってきたんじゃなお主ら。勝負はどうなったのじゃ?」

 

「俺たちが勝ったさ。なあ明久」

 

「た、正しくは雄二の一人勝ち、な気がするけどね・・・」

 

「??チームなのにお主は負けたのか?」

 

 

 秀吉君の疑問ももっともです。さすがにその発想はありませんでした。結果も普通には終わらせませんねえ。

 

 

「残念でしたね魔理沙。まあそんな顔をしなくても、アリスにならいつでも機会があるじゃないですか」

 

 

 魔理沙はアリスと召喚大会に出たそうで、お目当ては景品の如月グランドパークのチケット。それを利用して距離を縮めたかったのだそうですが、アリスなら魔理沙のお誘いにいつでも乗ってくれますってきっと!

 

 

「いや、これはアリスが相変わらずの鈍感なせいだぜ。はあ~…」

 

「・・・そ、そうですか」

 

 

 魔理沙の不満は、どうもそのアリスに原因があるようです。アリスは意外と鈍感なのですね~。

 

 

「うわ・・・いっぱいお客さんが来てるね」

 

「あ、ええ。なんでも私や瑞希さんが召喚大会に出たのを見てて、2―Fクラスの出し物がどんなものか興味心が出たそうですよ」

 

 

 なんでもチャイナドレスに一目惚れだとか。その言い方だと私たちよりチャイナの方が・・・とも思いましたが、言い間違いですよね!たぶん!だから照れながら喜びましたよ私たち!

 

 

「うむ、そのおかげでわしらも休む暇なしじゃ」

 

「そうですね~、どんなことにもリスクあり、です!」

 

 

 秀吉君の言う通り、その影響がことのほか大きかったようで、お客さんがひっきりなしに、しかも飲茶やゴマ団子の味も良いということで、男子だけじゃなくて女子もたくさん来てくれているのです!

 

 で、私たちチャイナドレスを着たチャイナ組は看板娘ということで、お客さんの間を右往左往しているというわけです!不幸中の幸いという言葉があるので、今回は幸運中の不運、なんて言葉を使っても良いのではないでしょうか?

 

 

「ん?じゃあお前たちはまだ休憩をとってないのか?」

 

「ええ、まあ。私と秀吉君はまだとっていませんね」

 

「うむ。なんだかんだで立て込んでおったからの」

 

「なら、2人は休憩に入ってくれ。ずっと働いてもらうのは悪いからな」

 

 

 おっと、そんなありがたい坂本君の言葉です!待ってましたよ代表っ!

 

 

「いいんですか坂本君?お言葉に甘えますよ?」

 

「ああ、一時間ぐらいでいいか?」

 

「十分です!じゃあ休憩しましょうか秀吉君?」

 

「あ、うむ。そうじゃな」

 

 

 いやはや、さすがに少し疲れてたから助かりましたよ~!ではあとは魔理沙たちに任せて、休憩に入りますか!

 

 私たちは準備部屋に入って一息をつきます。

 

 

「お疲れ様です秀吉君。いや~働きましたね~!」

 

「うむ。紅もお疲れ様じゃ。・・・ところで、お主はどうやって時間を過ごすつもりなのかのう?」

 

「ん?そうですね~、とりあえず咲夜さんAクラスに行ってみるつもりです。興味がありますから!」

 

 

 咲夜さん達の出し物はメイド喫茶!ということはつまり、咲夜さんがメイド姿に・・・!!これを見ずして何が姉っ!絶対に見に行きますよー!

 

 

 

「ふむ、そうか・・・。わしも姉上がおるからAクラスに行ってみようとしておったのじゃが、一緒に良いか?」

 

「ええ、一緒に咲夜さんのメイド服を見に行きましょう!」

 

「はっは。わしが見たら、十六夜に叩かれそうな気がしてならないのう」

 

 

 秀吉君の笑いながらのそんな言葉。大丈夫です!それは私も一緒でしょうから一緒にチョップされましょう!散らば諸共ですよ!

 

 

「ま、まあ、分かったのじゃ。お供させてもらうぞい。お主はこの格好から制服に着替えるのか?」

 

「ああ、チャイナですね」

 

 

 秀吉君が自分の着た赤のチャイナドレスを見ながら尋ねます。う~ん。着替えですか~~・・・

 

 

「私はこのまま行こうかなって思ってます。後で着替えるのも面倒ですもの」

 

 

 着替えるのは手間がかかりますからやめておきましょう。それに、なんだかんだでやっぱりこのチャイナドレスもいいと思っていますからね!

 

 

「むう。それじゃとわしだけ着替えるわけにもいかんのう」

 

「あ、別に合わせてくれなくても大丈夫ですよ?待っておきますから着替えてきては―」

 

「構わぬのじゃ。では時間も限られておることじゃし、行くとせんか?」

 

「そ、そうですか?では行くとしましょうか!」

 

 

 女の子扱いされること間違いなしの格好なんですが・・・本人か良いって言ってるからいいですよね?

 

 秀吉君の言葉に乗って、私たちは部屋を出ます。・・・う~~ん!にぎやかですね~!この雰囲気を味わってこそ祭りなんだって実感しますよ~!

 

 

 そんな風に楽しみつつ歩く私たちに、すれ違う人たちはなぜか会話を弾ませます。

 

 

『おお・・・!アレは、Fクラスの木下と紅さん!?』 

 

『チャ、チャイナドレスだと・・・!?』

 

『おかあしゃまっ。あの2人変わった格好をしてるね!』

 

『ああ、あれはチャイナドレスって言うんだよ橙。素敵だけど、橙の方がず~っと素敵よ?』

 

『うわ~!あの2人、すっごい素敵!!』

 

『す、すごいな~。私じゃとても着れないよ~・・・』

 

『あの背の高い人、紅先輩だよね!』

 

『そうなの!?うわ!思ってたよりもずっとキレイ~!』

 

『でも、あっちの人は誰かしら?』

 

『わかんない。でも、可愛いよね!』

 

『うんうん!きっとお友達よ!』

 

『2人ともレベルが高いよ~。私もあんな風に可愛くなりたいな~・・・』

 

 

 

 

「・・・・わ、わしは男じゃというにぃぃ……!」

 

「ま、まあまあ秀吉君!決して悪口ではありませんから気を落とさずに!」

 

「なまじその評価がわしは嫌なのじゃっ!」

 

「ひぇっ!ごめんなさい!?」

 

 

 で、でも秀吉君がこの格好をしてたら誰だって女の子だって思いますよ!だから私、さっき着替えたらって言ったじゃないですか~~っ!

 

 

 

 

『あー、2-Aクラスではメイド喫茶をやっておりますので、よろしければご来店くださ~い。それなりに味は保証できま~す』

 

 

「あれ?」

 

 

 そんな私の耳に聞こえてきた声。

 

 見るとそちらには、可愛らしいメイド服を着た長い黒髪の女子が、あまり抑揚のない声で客寄せをしていました。

 

 ん~?あの声と髪は・・・

 

 

「む、なんじゃ?」

 

「あ、いえ・・・・・・霊夢、頑張ってますね!」

 

「あん?・・・って、美鈴と・・・秀吉か。あのわがままで短気な木下かと思ったわ」

 

「ひどい言い方しますね霊夢!?」

 

 予想通りそのメイドさんは、昔からの面倒くさがりな親友の霊夢でした。わがままで短気って、あなたが言うと違和感が凄まじいですね!霊夢の短気とかわがままも大したものですよ!?

 

 秀吉君も思うことあってか、霊夢に反論します。

 

 

「あ、姉上はそこまで短気でもわがままでもないはずじゃがのう、博麗よ」

 

「は~・・・相変わらず、あんたは木下を分かってないわね、秀吉」 

 

「れっきとした弟の立場なのじゃが!?」

 

「あいつは私が何もしてない時でさえも口を挟んでくんのよ?しかもいきなりケンカ腰で・・・あいつほど勝手な人間なんていないっての」

 

「そ、そんなことはない・・・・・・はずじゃっ!」

 

「今、ものすごい悩みましたね秀吉君」

 

 

 でも私は自信をもって言えますね。『霊夢にだけは言われたくない!』、と。

 

 ちなみに霊夢の言う木下とは、秀吉君の姉の木下優子さんのことです。この2人、非常に相性が悪いんですよねー。もう犬猿の仲という言葉が可愛らしく思えるほどです!

 

 

 

「にしても、秀吉。なによその恰好?あんたやっぱり女なの?」

 

「ち、違うのじゃ!れっきとした男じゃと言うとろうがっ!」

 

「あんたのその恰好で言われても全く伝わんないわよ。・・・まあ、どっちでもいいか」

 

「全然良くないっ!はっきり男と認識せんかーっ!」

 

「わかったわかった。あんたは男子よ」

 

 

 秀吉君の心の底からの要望――その割に、見た目からは全くその切望さが伝わりませんけどそこはともかく――に、霊夢が面倒そうに手をひらひらして答えます。

 

 

「うむ。それならよいの」

 

「女装が好きな変わった男子ね」

 

「お主わしにケンカを売っとるんじゃな!?」

 

「ひ、秀吉君落ち着いて!きっと男子の秀吉君でも霊夢には簡単に勝てませんから!」

 

 

 このとき、私は初めて秀吉君が額に青筋を立てて怒るのを目撃しました。き木下姉弟は霊夢と争わざるを得ない運命でも背負っているのでしょうか!?

 

 

「あー、ごめん。木下とそっくりだからついあいつと同じ反応をしちゃったわ」

 

「と、とんだとばっちりを受けたのじゃ、全く・・・」

 

「んで?あんた達はどっか行くところなの?」

 

「あ、ええ。ちょうど休憩時時間ですから、霊夢たちの2-Aクラスに行こうとしてます」

 

「へえ、そうなの。んじゃついてきなさい」

 

 

 そう言って霊夢は、Aクラスのある方へと足を動かし始めました。どうも案内をしてくれるみたいですが、客引きはよろしいのでしょうか?

 

 

「霊夢、私たちだけでも大丈夫ですよ?ですから霊夢は、仕事を続けてても……」

 

「いいのよ別に。客寄せしてるんだから、最後の案内までちゃんとするわよ」

 

「え、ほ、本当ですか?」

 

 

 なんと。霊夢がまじめに仕事をしようとしているですって!?あまりやる気を出さない霊夢が進んで動こうとするとは、何か企みが・・・!?

 

 

 

「本当だっての。だってそうしたら、しばらくは合法的に仕事を抜けられるでしょ?」

 

「・・・そうでしょうね~。そんなことだと思いましたよもう!」

 

 

 親切心で動く子じゃありませんからね!霊夢らしいところを見れてホッとがっかりしましたよ!!

 

 

「ほら、行くわよ」

 

「は~い」

 

「・・・案内を断って、あやつの企みを頓挫させてやりたいのじゃ」

 

 

 ぼそっと聞こえた秀吉君の黒い声を聞き流して、私たちは霊夢の後をついていきます。その時に集まった視線もかなりのものでした。三人寄れば群衆の目、なんてどうでしょう!?

 

 そんなこんなで歩き続け、目的地へと到着です。

 

 

「はいよ。一応ようこそ、【メイド喫茶 『ご主人様とお呼び!』】へ」

 

「メイドが目上なんですか!?」

 

「従者の役目を完全に忘れたネーミングじゃな・・・」

 

 

 変な名前を付けた店は私たちだけかと思っていましたが、よもや他にもいて、しかもAクラスとは・・・天才とおバカは紙一重って言葉は、案外嘘ではないのかもしれません。

 

 

「そうよねー。それだったら【メイド喫茶『い~っぱいお金をおとしていって♡』】の方がいいわよね?お金が儲かりそうで」

 

 

「あどけない言葉を使っているぶん、そちらの方が性質が悪いのじゃ!」

 

「それほど悪質な可愛らしいお願いもありませんね!」

 

 

 柄にもなく可愛らしい言い方をしてー!咲夜さん達をそんなお店で働かせるんじゃありませんっ!

 

 

「あっそ、まあいいんだけどね。ほら、入りなさいよご主人様」

 

「それはもはやご主人様が使う言い方じゃな」

 

「な、なんと高圧的なメイドでしょう!店の名前そのままです!」

 

 

 ダメです霊夢そんな言い方!そんな言い方していてはお客さんに避けられちゃいますから、ここは丁寧な言葉を使うのですよー!

 

 

(注.博麗さんは、親しい友人ということで二人には砕けた口調になっているだけで、実はしっかり丁寧な言葉を使い、静かで誠実な態度で接客をしています。その大人びた対応にかなり男女からも人気があり、大活躍をされています。

 

『は、博麗の奴!な、なんなのよあの綺麗な言葉と静かな対応はっ!?さ、さては偽物ね!?そうよ!あのバカがあんな……あ、あんなすごい丁寧な接客ができるわけないもの!ぜ、絶対私は認めないんだからあああっ!!』

 

・・・・・・そんな感想が聞こえたのは、きっと気のせいでしょう )

 

 

 

 

 ともかく、私たちは霊夢に続いてAクラスへと入ります。うわ~、相変わらず広い教室ですねー。しかもお客さんもいっぱい!私たちの教室は普通の広さですから分かるのですが、この広さでお客さんがたくさんとは・・・!さすがはAクラスです!

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様方・・・あら、美鈴に秀吉じゃない。来てくれたの?」

 

 

 するとすぐに、またまた知る声が聞こえてきました。

 

 

「あ、はい。お邪魔しに来ました、アリ…ス?」

 

 

 その主は、親友である金髪碧眼の美少女、アリス・マーガトロイド。

 

 

・・・なのですが、私は彼女を見て、失礼ながら目を丸くしてしまいました。

 

 

「アリス、ですよね・・・?」

 

「?そうよ?どうしたのよ急に」

 

 

 いや、不思議そうに見ますがねアリス。むしろ私の方がその顔をしたい、というかしてるのですよ。

 

 

 

 

「な・・・なんで、執事の恰好をしてるんですか?」

 

 

 黒い燕尾服をピシッときめた格好の女友達がいたら、初見だとびっくりしますよね?

 

 

「これ?ああ、まあ色々あってね。男子と女子の比率を分けるためよ」

 

「へ~、そうなんですか。に、似合ってますよその恰好?」

 

 

 これは嘘じゃありません。今のアリスの姿はとっても中性的で、女の子の私から見ても素敵だなあと思います!どもったのはちょっぴりドキッとしただけです!まずい、魔理沙と同じ世界が開くかも!?

 

 

「ありがとう。でも、あなた達も素敵よ?美鈴は背が高いからすごい似合ってるし……秀吉に関しては、見事な女装よ。相変わらず女の子にしか見えないわ」

 

「ほ、ほっとくのじゃ!お主だって見事な男装じゃろうがっ!」

 

「それこそほっときなさい。この一年でもう慣れたわ」

 

「・・・ア、アリスは普段から男装をしてたんですか」

 

 

 一年って。相当長い期間ですけど、そんなところ見たことがありませんよ?

 

 

「ええ、演劇部でね。最初の劇の時に、騎士役をやったんだけど…」

 

「その騎士が、凛々しさと美しさが揃っておったとかなんとかで、すごい評判になってのう。うちの部活は男子が少ないということもあって、今やアリスは、男役を主体に頑張っておるのじゃ」

 

「ほ~。ちなみにそのとき、秀吉君は?」

 

「・・・お姫様じゃ」

 

「そこはアリス姫で秀吉ナイトでしょうがっ!」

 

 

 たぶんそれが原因で、秀吉君は女の子みたいにとられちゃうようになったんです!でもアリスの騎士姿は一度見てみたいですね!きっと魔理沙が猛烈に感動しますよ!

 

 

「あんた達、いつまで立ち話してんのよ。席にさっさと着きなさい」

 

 

 しかし、案内人の霊夢は特に反応することなく私たちを席に案内します。いや、その言い方は絶対アウト!即刻とめることを提案します!

 

 

 

「って、霊夢、あなたは宣伝係でしょ?持ち場へ戻らないの?」

 

「あー戻る戻る。この2人を案内するから仕方ないでしょ」

 

 

 ちょっと!その言い草は私たちが悪いみたいでしょ霊夢~!お客さんに罪を擦り付けたらダメよ!

 

 

「案内するの?じゃあ霊夢、頼んだわよ?」

 

「分かった。アリスは店に来た男と女を悩殺してきなさい」

 

「ひ、人をふしだらな女みたいに言うなっ!」

 

 

 でも霊夢の言う通り、今のアリスなら男子からも女子からも人気が出る気がします。店員としてこれほど心強いウエイトレス(いや、この場合はウエイターの方がいいでしょうか・・・?)もいませんね!

 

 

「ほら、ここに座んなさい」

 

「あ、はいはいっと」

 

 

 顔を赤くしたアリスが他の場所へと歩いていくのを見ていると、霊夢が先に私たちの席らしいところにいて、私たちを呼びました。

 

 おお、なかなか素敵なテーブルですね、よいしょっと。私たちは席へと座ります。

 

 

「これがメニューよ。一番高いのを選びなさい」

 

「選択肢が一つ!?」

 

「メニューを渡す意味がないのじゃ・・・・・・」

 

「冗談よ。出来るだけ高いのを選びなさい」

 

「そ、それでも一応勧めるんですね・・・」

 

 

 霊夢。売り上げが大事なのはわかりますけど、まずは友情関係を大切にしてください!私は悲しいです!

 

 

「え~と、じゃあ、このふわふわシフォンケーキを一つお願いします」

 

「では、わしもそれで頼むのじゃ」

 

「はいよ。ふわふわシフォンケーキを二つね。ちょっと待ってなさい」

 

 

 さらさらと注文をメモして、霊夢は注文を言いに厨房へと消えました。ふ~、思ったよりもあっさり聞いてくれてほっとしました。一時はすごい出費をする覚悟をしていましたよー。

 

 

「やはりお客が多いのう。さすがはAクラスなのじゃ」

 

「確かにそうですね~。でも、私たちも負けていませんよ!その何割かは私たちがチャイナドレスで頑張った功績ですきっと!」

 

 

 大半は料理の味でしょうけれども!いやいや土屋君達ホールの皆さんはお料理が得意なんですね~!普段の行動からは全然わかりませんでした!あ、でも妹紅さんはさすがって感じますね!だってお料理とか上手そうですもの! 

 

(・・・真実とは、むごいものですね・・・)

 

 

「う、む。お、お主のその姿は・・・その、本当に見事じゃから、間違いなくお主の功績もあるのじゃ」

 

「あらあらまあまあ!お上手ですね秀吉君~、すごい嬉しいです!」

 

「・・・その言い方、絶対お世辞ととったのう・・・」

 

 

 いや~、じゃあ今度からこの姿で過ごしましょうか?な~んてですよ!

 

 

「でも、秀吉君もすごい似合ってますよ!どこから見ても中華娘です!」

 

「お主が人をからかう人間ではないと分かっておるからこそ、その言葉はものすごく嫌なのじゃ!」

 

「ええっ!?じゃ、じゃあ……全然似合ってません、ね?」

 

「・・・・・・・・思っていたよりも、悲しいものが沸き上がるのじゃ・・・」

 

「私がどう言えば満足してくれるのでしょうかっ!?」

 

 

 無茶苦茶ですよ秀吉君!そこは男の尊厳か演劇部の誇りのどちらかを拾って捨ててください!

 

 そうやって秀吉君の矛盾した反応に私が困っていると、霊夢が手にフォークを持って戻ってきました。

 

「はい、先にフォークとか渡しとくわ。料理はもうしばらく待ってなさい」

 

「はい、わかりました」

 

「ふ~、これであんたらの料理が来るまではのんびりできるわ」

 

「そこは分かりたくありませんね!はやく仕事に戻りなさい!」

 

 

 イスが2つだけでよかったです。霊夢なら椅子が余っていたら間違いなく座っていたところでしたね。

 

 

「あ、あの・・・博麗さん」

 

「ん?どうしたのよ佐藤?」

 

「その・・・き、木下さんが怒りそうだから・・・あんまり・・・お、お仕事はさぼらない方が・・・・・・ご、ごめんなさい!」

 

 

 おずおずと声をかけた佐藤さん。実に真面目そうな方で、仕事を口実にさぼろうとする霊夢に勇敢にも注意しました。あなたは謝る必要はありませんよ佐藤さん!どう考えても悪いのは霊夢ですから!

 

 

「あ~、悪いわね。この2人の料理を届けたらすぐ戻るわ」

 

「う、うん。分かった!それなら大丈――」

 

「博麗ぃぃっ!」

 

 

 珍しく、霊夢がなんの反抗なく佐藤さんの言葉にうなずいて(まあそれでもちゃっかり私たちの料理が来るまではいるって宣言したんですが、それはこの際良いとしましょう)、佐藤さんが笑って丸く収まりそうなのでしたが・・・・世界は平穏を許さないみたいでした。

 

 

「あ~?またうっさいのが来たわね。何よ、木下」

 

「う、うっさいのって何よ!あんたがうるさくさせてるんでしょうが!」

 

 

 顔を怒りの赤で染めながら、秀吉君の双子の姉である木下優子は霊夢へとずんずん接近します。もちろん、彼女も霊夢たちと同じメイド服姿なのですが、ご主人様にみせてはまずい剣幕です。弟の秀吉君は思わず頭を押さえます。

 

 

「あ、姉上。落ち着くの」

 

「あんたは今お客さんにお店のことを宣伝をする役割なはずよ!なのにここで油を売って、なに考えてんのよ!?」

 

「あのねー、別にさぼりにここへ来たんじゃないわ。この2人を案内したついでに、料理の部分まで責任をもってやろうとしてんのよ」

 

「なんですって?」

 

 

 霊夢の言葉に少し興奮を冷ます木下さん。私たちの方へと視線がやってきます。

 

 

「・・・ねえ、2人とも。この怠惰女が言ってることは、ほんと?」

 

「誰が怠惰よ。ただ時間を作ってやすらぎの時間を過ごしてるだけよ」

 

 

 霊夢、その行為をやりすぎるとまさに怠惰になるのですよ。

 

まあ、それはともかく・・・一応嘘ではないので、正直に答えましょう。

 

 

「はい。霊夢の言う通り、私たちは霊夢に案内されました。ね、秀吉君?」

 

「そうじゃな、姉上よ。博麗の言う通りじゃ」

 

「う・・・!そ、そもそもあんたはなんでチャイナドレスを着てんのよ・・・!!」

 

 

 お、お姉さん!そこは弟の心配をする顔になってあげて!その怒った顔はよろしくありませんよ!

 

 

「ほら見なさい。分かったんならさっさと仕事に戻んなさいよ」

 

「あ、あああんたが言うな!博麗こそさっさと戻んなさいよ!」

 

 

 2人は止まることなく口を交わし続けます。あの、私たちは一応お客ということを忘れていませんよね?

 

「だから、この2人の料理を渡したら戻るって言ってんでしょが。ほら、さっさと仕事場に戻んなさい。お客があんたの帰りを待ってるわよ」

 

「う、ううう・・・!イヤミ!?それって私に対するイヤミなのっ!?ざけんじゃないわよ!」

 

「・・・は?いや、褒めただけでしょうが。なんでそこでイヤミって言葉が出てくんのよ?」

 

「あ、あくまでしらを切る気・・!?私なんか眼中にないとでも言いたいの!?」

 

「・・・あんた、頭でも打ってバカになったの?意味が全然分かんないわ」

 

「・・・!!う~~、わ、私だって頑張って接客してるのに・・・!!な、なんでこんな薄情自堕落女の方が人気なのよぉぉおおっ!!」

 

「はあ・・・・・・よく分かんないけど、ケンカを売ってるのは分かったわ。買ってやるわ、木下」

 

「じょ、上等よ!あんたに下剋上を挑んでやるわっ!」

 

「ちょ、ちょっと木下さん、博麗さん!?2人してどこに行く気よーっ!?」

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

・・・・・・廊下へと向かうメイド2人。と、それを涙目で追いかける佐藤さん。このクラスのメイドは、どうしてこうもアグレッシブな方が多いのでしょうか・・・

 

 

「お待どうさま」

 

「!!」

 

 

 そんな私たちに届く凛とした声。

 

 

・・・ふむ、どうやら、次は私がアグレッシブになる番のようでございますね!

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回は美鈴さんと秀吉の2人の休憩時間を書いてみました。あまーいひと時!というよりは普段通りのわいわい過ごしている感がありますが、そういうのもいいのではないかと思い、騒がしい雰囲気を目指したのですが、いかがでしょうか?

 それで、最初に書きましたように、少し文の蓄えが無くなってきましたので、来週は金曜日に投稿させていただきます!
 村雪という人間は非常に小心者でして、ある程余裕が無いと不安で仕方なくなる奴でございます。なので、ある程度溜まるまでは金曜日に一回投稿とさせてもらいます!

 ただ、その溜まると思うのがどれくらいか自分でも分からないので、もしかすれば長期間、はたまた再来週には!?なんてこともあるかもしれません。

 とりあえず、来週の火曜日には投稿しない!そう分かってもらえれば結構です!

 それではまた次回っ!

 


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食事―料理、だけじゃなく、そこの店員さんも大事な要素なのでございます!

どうも、村雪です!一週間空いての投稿となりました!

 いや~、一日に一回長文ssを出している方もおられまして村雪は仰天です!村雪もそれぐらい早く出せればいいのですが・・・・

 一応この一週間で文章の蓄えが増えたには増えたのですが、まだ不安がありますので、すみませんがもう少し金曜日だけの投稿とさせてもらいますね!申し訳ない!

 ですが長期休暇に入ったので、それほど時間はかからないと思います!どうか納得してもらえれば…!

 それでは、前回に続き、美鈴さんと秀吉君の休憩時間の回・・・・・・


―――ごゆっくりお読みください。




 

「お待ちどうさま」

 

「・・・・・・!!」

 

 

 私は瞬間的に、全神経をその声の方へと走らせました。来た来た来たぁっ!さあ!眼福の時間ですよ私~~っ!

 

 

 

 

「・・・・な、何よ美鈴。そんな血走った眼で見てきて・・・」

 

 

 

 予想通り、そこには咲夜さんがいました。

 

 両手には私たちの料理らしきものを2つバランスよく持ち、白い前掛けに、スカートが膝辺りまでと非っ常にセクシーな青色のメイド服を着た咲夜さんは、照れか怒りなのか、顔を赤く染めながら私たちのテーブルへと歩み寄りました。

 

 

 

 

・・・・・ふ~。

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ!!ビバ、メイド咲夜さ~~んっ!!」

 

 

「っ!?ちょ!?こ、声が大きいわよ美鈴!」

 

「お、落ち着くのじゃ紅!近くの客や店員がびっくりした顔でこっちを見てるぞいっ!」

 

 

 はっ!?ちょ、ちょっと我を失いかけてた!?

 

 

「お、おおすいません咲夜さん秀吉君。あまりの咲夜さんのメイド服のすばらしさに、叫ばずにはいられませんでした!」

 

 

 咲夜さんの召喚獣も似た格好でしたけど、本人が着るとそのすばらしさは膨れ上がっています!もうこれだけでおなかはいっぱいです!幸せってお腹に溜まるものなのですねー!

 

 

「・・・な、何言ってるのよ・・・もう。全く・・・」

 

「十六夜、顔が真っ赤になって何かを抑えようとしておるのは伝わるのじゃが、手の皿が震えて落ちそうになっておるぞい」

 

「・・・し、失礼。こほん、こちらふわふわシフォンケーキ二人前よ。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 そんな赤顔の咲夜さんは、私たちに料理をおくとすぐに立ち去ろうとするではありませんか!

 

 

「えー、咲夜さんもう行っちゃうんですか~?」

 

「ほ、他にも料理を届ける仕事があるのよっ」

 

「う~、そ、それなら仕方ありませんけど・・・」

 

 

 まじめな咲夜さんらしいです。理由を作ってまで休みを取ろうとする霊夢とは真反対ですね!

 

 

「・・・こ、こんな恥ずかしい顔、見せたくないし・・・」

 

「?咲夜さん、何か言いました?」

 

「!な、何も言ってないわ!ゆっくり食事をどうぞ!召喚大会の時間を間違えないように!バカ!」

 

「バカ・・・ッ!?」 

 

 

 口が悪いメイドは他にもいるみたいでした。しかもそれが妹である咲夜さんなんて・・・!!悲しい!私は悲しいですよ~~~!!

 

 

「しくしくしく・・・咲夜さんが、反抗期になりました・・・」

 

「いや、あれはお主のせいだと思うのじゃが・・・ま、まあ食べようではないか。せっかく来たんじゃからの」

 

「う~・・・はいぃ~~」

 

 

 私は去っていく咲夜さんから目を離して、頼んだ料理をいただくことにしました。

 

 

・・・すっぱい。このシフォンケーキ、涙の味ですっごいすっぱいですよ~~!

 

 

 

 

『ふ、二人ともダメだって!?お、落ち着いて』

 

『佐藤は黙ってなさい!』

 

『ひいっ!』

 

『ちょっとこら木下。関係のない佐藤にまで怒鳴んじゃないわよ。そんなんだからあんたは短気な女って周りから言われんのよ』

 

『だ、誰にも言われてないわよそんなことっ!勝手にねつ造するな!』

 

『ねつ造じゃないわ。私が言ってるもの』

 

『・・!!は、博麗ぃ!!そんなに私を怒らせたいのねーっ!?』

 

『別にどーだっていいわよ。そもそも、先にケンカを吹っかけてきたのはあんたでしょうが』

 

『あ、あれはだから・・・!あんたが私より、その・・・!』

 

『?何。口ごもるなんてあんたらしくないわね』

 

『う・・・だ、だから、あんたが・・・』

 

『私が何よ』

 

『その・・・す、す・・・・すご・・・』

 

『あん?』

 

『・・・すご、いバカだからよ!こ、このバカ博麗っ!』

 

『・・・よっぽど怒らせたいのはあんたみたいね、木下。泣く覚悟はできてんの、ねえ?』

 

『う、うっさい!別の方向でなら、今私は枯れるぐらい泣きたいぐらいよーっ!』

 

『ちょ、ちょっとやめて二人ともぉっ!?――あっ、い、十六夜さん!ちょうどいいところにっ!お願いあの2人をとめ』

 

 

 

『や、やってしまった・・・!可愛いって言ってくれたのにバカだなんて・・・!ああ、私のバカバカバカバカ――』

 

『・・・・も、もお~~~っ!!誰でもいいからこの3人を冷静にしてーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~・・・咲夜さんにバカと言われるのは、これで何度目でしょうか…」

 

「あったんじゃな、言われたことが」

 

「ええ。とはいえまだ3桁には行ってませんよ!だからセーフです!」

 

「・・・どういう根拠でセーフなのかは分からぬが、お主が十六夜に嫌われているのかと思ってしまうわしは、悪くないと思うのじゃ」

 

「し、失敬な!これも一つのスキンシップです!吉井君もバカって言われてますけど、あれだって愛称を込められての言葉じゃないですか!」

 

「いや、明久のあれは・・・混じりっ気なしにバカと言われてるのじゃと思うぞい」

 

「・・・・な、なんとなくそんな気がしてしまう私は、悪くないですよね?」

 

「うむ。そこは仕方ないのじゃ。わし自身そう思っておるからの」

 

「秀吉君ってたまに吉井君に冷たいですね!?」

 

 

 友達をかばおうとせずにズバズバと言い切る秀吉君。友達ってなんなんでしょうね~。

 

ようやくケーキの味が涙のすっぱさから甘さへと変わったので、秀吉君と雑談をしながら私は『ふわふわシフォンケーキ』を堪能し始めます。ふむふむ、名前通りふわふわしていておいしいです!

 

 

「わしも明久に女子扱いをされるからの。お互い様なのじゃ」

 

「ふ~む。でも秀吉君も秀吉君で、可愛らしい恰好をしちゃうのも原因だと思うのですが・・・ちなみに秀吉君は、どんな女の子の恰好をしたことがあるんですか?」

 

「そうじゃのう・・・・ドレス、メイド服、ナース服に和服に巫女に水着とウエイトレスに、今のチャイナドレスだけじゃな」

 

「だけって数じゃない!それは完全に女の子か、女装好きな男の子じゃないと着ない数ですよ秀吉君!?っていうか普通の女の子でも、そんなたくさんの服は着ないんじゃないですか!?」

 

 

 ひょっとして秀吉君もおバカなのですか!?心の中に築いていた常識のある秀吉君がものすごい勢いで上塗りされそうです!

 

 

「だ、誰が女装好きじゃ!きちんとした理由があって女装をしておるのじゃ!」

 

「理由があっても何度もやってたら、はまっているようにしか見えません!」

 

「ははまっておらん!ただ、次はどんな衣装を着ることになるかを気にしておるだけじゃっ!」

 

「はまってる証拠だそれはーっ!?」

 

 

 どうしましょう、まさか、Fクラスでまともなのは瑞希さんと島田さんと私だけだったなんて・・・!!(× あなたの代わりに田中君を加えると、正解です)

 

 

 

「盛り上がってるわね。お水のおかわりはいるかしら?」

 

「あ、お願いしますよアリス」

 

「わしも頼むのじゃ」

 

「ん、かしこまりました」

 

 

 大声をあげましたからのどが渇いちゃいました。私が欲しくなった時に提供をしてくれるとは、さすがアリス。出来る女の子です!今は執事の恰好ですけど!

 

 

「はいどうぞ。なんの話をしていたの?」

 

「ありがとうございます。いえね、秀吉君は可愛いから女装をするのか、女装をしているから可愛いのか?というという議論を繰り広げていたんですよ」

 

「そんな議論はしとらんし、必要ないのじゃ!」

 

「後か先か、ってことね。・・・んん。たぶん秀吉の場合は、可愛いが先じゃないかしら?」

 

「お主もわざわざ律儀に考えて回答せんでよい!」

 

 

 アリス、さすがよく見ていますね!

 

 

「秀吉。こう言ってもあなたは納得しないでしょうけど、褒められたなら素直に受け取った方がいいと思うわよ?私なんて心当たりがないのに、ひどいことを言われたりしたわ・・・」

 

「む、そうなのか?」

 

「な、何か嫌なことがあったんですか?」

 

 

 一変してため息をつくアリス。な、何があったんですかアリス!?嫌なことがあったのなら遠慮なく相談してください!

 

 

「ええ・・・・・・さっき、魔理沙に思い切りバカって言われたの。前にもみんなに鈍感って言われたり・・・私、何かしちゃったのかしら…」

 

「・・・そ、そですか」

 

 

 今の意気込みはなかったことにしましょう。それはたぶんアリス自身で気づくことが大事です。ええ。ええ。

 

 

「ま、まあ魔理沙も理由なくそんなことを言ったりはしませんよ!きっと理由がありますって!」

 

 

 からかったりするのは日常茶飯事ですけど、侮蔑はあんまり魔理沙はしません!何も言わないとはいえ、アリスの不安をなくしたいと思っての助言は別です!

 

 

「・・・そうよね。じゃあ、やっぱり私が何かしたのよね・・・」

 

「そ、そっちに捉えますか!」

 

「アリスの心配性は変わらぬのう・・・」

 

 

 これじゃあまだまだ道は険しいみたいですね、魔理沙。ファイトですよ!

 

 

「ま、まあその話はそこまでにしときましょうアリス。考えすぎても答えは出ませんから!」

 

「・・・うん。それもそうね。じゃ、『ふわふわシフォンケーキ』の味はどうだったかしら?レミリアもフランもおいしそうに食べてくれてたんだけど・・・」

 

 

 ほほう。あの2人も同じものを頼んだのですか!やっぱり私たちは姉妹ですね!(※選べる品が少なかったからです)

 

 

「ええ、とってもおいしいですよ!ふわふわしてて甘さもしっかりありました!」

 

「うむ。わしも良いと思ったのじゃ、アリス」

 

「そう。それはホッとしたわ。知らない人に意見を聞くのははばかられるから、知り合いが来てくれるとありがたいわね」

 

 

 嬉しそうに微笑するアリス。あ、近くでアリスを見ていたお客さんが一斉に顔を赤くしました。ちなみに男子女子両方からの反応です。魔理沙、敵は多いみたいですよ!

 

 

「あ、ところでレミィとフランはどこに行ったんでしょうか?ここに居座ると聞いたんですけど・・・」

 

「ああ。あの2人なら別のお店も見たいってさっき出て行ったわ。だからここにはいないわよ?」

 

「そうですか~。・・・お、お店に迷惑はかけていませんよね?」

 

 

 フランとレミィは仲が良いからケンカも日常茶飯事。もしかして、ここでもケンカをしてたりして・・・?

 

 

「ふふ・・・また仲睦まじくケンカをしてたわよ。見ていて心が和んだわ」

 

「も、申し訳ありませんーっ!」

 

 

 予想通りですかもお~!じゃれあうのはいいんですけど場所を考えなさい2人とも!お姉ちゃんが謝らないといけなくなるでしょうがーっ!

 

 

「大丈夫よ。皆も小動物を見るような感じだったから、特に迷惑には感じなかったわ。・・・むしろ、迷惑だったのはあの2人組だわ」

 

 

 ん?2人組?それってひょっとして・・・

 

 

「もしやそれは、Fクラスで騒いでた3年生かのう?」

 

「坊主頭の人と変わった髪型の頭の男子よ」

 

「間違いありませんね」

 

 

 どうやらあのお二人はAクラスでもいい評判はないみたいです。アリスは気にした顔で、私たちに問います。

 

 

「あの2人、やたらとFクラスの悪口を言ってたんだけど、何かあったの?いやがらせでもされてるの?」

 

「さあ。それが私たちもよくわかっていないんですよ。個人的に恨みでもあるんじゃんないでしょうか?」

 

「そうじゃとしても、まったく迷惑な話じゃな」

 

「まったくもってその通りです。次何かやらかしたら、もう容赦しませんよ!」

 

「お主、あれで加減をしとったんじゃな・・・」

 

 

 三年生で何かと忙しいでしょうに、全く暇な先輩方ですよ。ほかの三年生が聞いたら呆れ返ること間違いなしです!

 

 

「なんにしても用心してね。あまりいい雰囲気の男たちではなかったから」

 

「ええ。アリスの方がずっと素敵な男子に見えますよ!」

 

「あら。ありがとう美鈴」

 

「・・・そこは男として扱われて怒らんのじゃな」

 

「一応褒め言葉なんだから、素直に受け取っておいた方がいいわ。さっきも言ったでしょ?」

 

「・・・そんなものなのじゃろうか・・・?」

 

「そんなものです秀吉君!だから可愛いといわれても気にせずに受け取りましょう!」

 

 

・・・が、秀吉君には通じず、私の可愛い発言は顔を赤くしての怒り声に一蹴。お茶会はそのままお開きとなりました。

 

 

 

 

「全く、わしは男じゃと何度も言っておろうが!」

 

「す、すいません!で、でもそこまで嫌ですか!?」

 

「嫌じゃ!アリスはああ言っておるが、やはり誰だって異性と捉えられては文句が出る!」

 

「異性の恰好をしてる秀吉君にも非があると思いますよ!?」

 

 

 女の子にしか見えないですから、ある意味秀吉君が誘惑しちゃってますもの!

 

 廊下を歩きながらやいやいと騒ぐチャイナドレスの2人。騒がしいだけじゃなく、見た目でも珍しいから嫌でも視線が集まって、ちょっとしたアイドル気分です!

 

 

「い、今は喫茶店のためでこれまでは演劇のためじゃっ!別に可愛いと思われたいわけではないのじゃ!」

 

「そ、それは分かりますけど、一種の才能じゃないですか!私へのあてつけですかこら~っ!」

 

「そ、そこでなぜお主が出てくるのか全く分からんぞい!?」

 

 

 男子である秀吉君の方が可愛いなんて許されざる事実!私はこんなにも可愛くないというのにーっ!!(※女子に聞かれたら、しばかれて妬まれること間違いなしの嘆き節もあったものです・・・)

 

「は~。秀吉君は自分の容姿をもっと自覚するべきです。ねえ土屋君?」

 

「・・・・同感(パシャパシャパシャ)」

 

「!?お、お主はなにを当たり前のように写真を撮って同意しとるんじゃムッツリーニ!いつからいたのじゃっ!」

 

「・・・・さっき。休み時間をもらえたから」

 

 

 そういう土屋君の姿は白い調理服ではなく、普通の学園の制服を着ているので本当のことでしょう。ちなみに彼は、Aクラスを出た時から写真を撮っていました。秀吉君は怒っていたから気づけなかったようですね。

 

 

 

 

「さーいらっしゃいらっしゃい!焼きそばやたこ焼き、焼きトウモロコシはいかがですかー!」

 

『いかがでしょうかー・・・』

 

 

 

「お?あれはBクラスですね?」

 

「む?おお、そのようじゃな」

 

「・・・良い香りがする」

 

 

 声のするBクラスの教室を見ると、店頭販売なのか廊下に出店らしきものがあり、ちょっとした行列ができていました。う~ん、土屋君の言う通り、いい匂いです!食欲がわきますね~!

 

 

「せっかくですから並びませんか?甘いものを食べましたから、辛いものがちょっとほしくなりましてね!」

 

「そうじゃな。わしもこういうものが欲しかったところじゃ」

 

「・・・・(こくり)」

 

 

 二人の同意も得れましたので、私たちは最後列に移動します。おお、さらに香ばしい香りがしてきました!思わずお腹が鳴りそうです!

 

 

 

『たこ焼きを二つで』

 

『たこ焼きを二つで!かしこまりました!』

 

『焼きそばを一つくださーい!』

 

『焼きそば一つ・・・かしこまりました』

 

『妖夢ちゃんをお持ち帰りで!』

 

『私は商品ではありませんので、他の品の注文をお願いしますね!』

 

『パルスィさん!一回妬んでください!』

 

『・・・私がいつも妬んでるみたいに言わないように、お客様・・・!!』

 

『菊入さん!タコとソースをお願いします!』

 

『真田・・・急いで麺をもってきて・・・』

 

 

 そんな2人の女子の声が耳に。どうやら知った人が頑張っているようですね!

 

そんなこんなで待ち続けること数分。私たちの順番が回ってきました。

 

 

 

「いらっしゃいませ!・・・あ、紅さんではないですか。お久しぶりです」

 

「はい!頑張っていますねー魂魄さん、水橋さん!」

 

「そりゃあ頑張らなかったら問題でしょうが。全く・・・」

 

 

 白い髪に白いハチマキを巻き、汗をかきながら笑顔を向けてくれる黒い半そでTシャツの美少女の名前は、魂魄妖夢さん。あまり会話をしたことがありませんが、非常にまじめな性格の女の子です!

 

 そしてもう一人のクールな反応をする、同じく黒いTシャツと赤色のバンダナをかぶったブラウンの髪の女子は、水橋パルスィさん。ちょっと嫉妬しやすい方らしいんですが、大人っぽい雰囲気が漂っている女子でございます。

 他にも何人かがいますが、どうやら彼女たちは裏方のようで、二人の少し後ろで待機していました。

 

 

「何にされますか?」

 

「そうですねー。じゃあ、たこ焼きをお願いできますか?」

 

「分かりました。ちょっと待ってくださいね!」

 

 

 私が注文をすると、魂魄さんは素早い動きで準備を始めます。おお!?は、針みたいなもの(※ピックといいます)の扱い方がプロみたい!?

 

 カチャカチャとたこ焼きの生地を四角に区切り、丸くくぼんだところへと生地を詰め込んでひっくり返すその技術、高校生の手さばきじゃありません!

 

 

「――よいしょ、と。お待たせしました。350円です!」

 

「あ、は、はい!お見事な腕前です!」

 

あ、あまり待ちませんでしたけどね!ひゅんひゅんとたこ焼きをがパックへと移され、あっという間に完了。た、たこ焼きの作り方の修行でもしたことがあるのでしょうか?たこ焼きは作ったことがないので、思わず目をはっちゃいました!

 

 

「ありがとうございました!では、次の方どうぞ!」

 

 

 お金をちょうど払ったのを確認した魂魄さんは、次のお客である秀吉君に注文を伺います。

 

 

「うむ。では焼きそばを一つ頼むのじゃ」

 

「焼きそばですね、かしこまりました!パルスィさん!」

 

「ん・・・少々お待ちを・・・」

 

 

どうやら隣の水橋さんと役割を決めているようで、水橋さんがジャッジャとヘラで焼きそばを準備し始めます。ちょっぴり愛想が少ないですけど、やることはしっかりやっていて、すぐに出来あがりました。う~ん、ソースの香りがすっごい良いです!

 

 

「はい、お待たせ・・・250円よ」

 

「了解じゃ。ほれ」

 

「・・・確かに。ところであなた・・・・・女だったかしら?」

 

「男じゃ!今日はその質問が多すぎるぞい!?」

 

「・・・男のくせにそんな恰好をしても似合うなんて・・・・!!ああ妬ましい・・・とっとと失せなさい・・・!!」

 

「わ、わしだって好きで似合ってるわけじゃないわいっ!」

 

「パ、パルスィさんっ、お客様にそんな言いかたしたらダメですよ!」

 

 

 そんなもめそうな二人に魂魄さんが割って入り、黒いオーラを吹き出す水橋さんに注意をします。以前も吉井君がボコボコにされそうなときに止めに入ったそうですが、魂魄さんは仲裁の仕方もお上手です!

 

 

「・・・ん、悪かったわねお客様。妬みやすい性格だから、許してくれるとありがたいわ」

 

「むう。つ、次は言うでないぞい?」

 

「私としては、二度と可愛らしい恰好をするなと言いたいところね。妬ましくなるわ」

 

 

 はあと息をつく水橋さん。とりあえずいさかいは収まったみたいです。魂魄さんも安堵した様子で息をつきました。

 

 

「ふう・・・では、次のお客様どうぞ!」

 

「・・・・焼きトウモロコシを1つ(パシャパシャ)」

 

「はい、焼きトウモロコシですね!少々お待ちください!」

 

「・・・・(こくり)」

 

 

 私、秀吉君と終わって最後に土屋君の番です。土屋君は写真を撮りながら注文をしたのに、魂魄さんは全く動じずにトウモロコシを準備し始めます。ここまで冷静とは一種の才能ですね!逆に慌てたところなんか見たくなっちゃいますよ~。

 

ごほん!今のはナシとして!

 

 

「土屋君。あまり魂魄さんの邪魔をしちゃだめですよ?」

 

「・・・失礼(スッ)」

 

「いえ、お気になさらず。もう少々お待ちください」

 

「・・・(こくり)」

 

 

 何も嫌な顔をすることなく土屋君に時間を要する魂魄さんホンット出来た方です~!お嫁さんになってくださいー!!

 

 

「・・・全く・・・その心の深さ、あんたが妬ましいわ妖夢っ!」

 

「ええっ!?て、店員として大事なことをしてるだけですよ!?」

 

 

 いえ、そんなことが必要とされる店員は普通いません。多分もう少し強気に言っても大丈夫ではないでしょうか?

 秀吉君も同感のようで、あきれたように土屋君へと声をかけました。

 

 

 

「全く・・・ムッツリーニよ。魂魄の邪魔をせんためにも、もう少し控えるべきじゃとわしもおも――」

 

 

 

 

 

ブォンッ!

 

 

 

 

「・・・・・う、のじゃ・・・?」

 

 

「・・・へ、へ・・?」

 

 

 

 

・・・・・・ん。んんんんん?お酒は飲んでないですけど・・・・・・私は突然、酔っ払ってしまったのでしょうか?

 

 

 

 

「・・・・・・・・(スッ)」

 

「・・・・・・!?」

 

 

 

 先ほどまで、全くケンカ腰など見せなかった真面目な妖夢さんが…どこから出したのか、立派な竹刀を・・・・・・土屋君に向けたではないですか。

 

あれあれ?どこかでアルコールを摂取しましたっけ?

 

 

 

 

「・・・失礼ですが・・・・・今、『ムッツリーニ』とおっしゃいましたか?」

 

「え・・・あ、ああ。確かに言ったのじゃ」

 

 

 突然の事態にも、秀吉君はきちんと答えます。その声には疑問と戸惑いが混ざっていましたが、魂魄さんのただならぬ雰囲気に素直に答えちゃいました。

 

 

「・・・それは、この写真を撮っていたこの男子の方をさして言ったのですか?」

 

「・・・妖夢?」

 

 

 木刀の先で土屋君をさす魂魄さんには、先ほどまで見せてくれた丁寧さが全く見受けられません。水橋さんも、魂魄さんの突然の変化に目を丸くしています。

 

 

「・・・う、む・・・そうじゃが・・・・」

 

「・・・そうですか・・・・・」

 

 

 秀吉君の返答に魂魄さんは、ふぅと、余計な考えを吐き出すように深い息を吐き出し・・・・土屋君をじろりと睨みました。

 

 

「・・・大悪、『ムッツリーニ』よ。覚悟しなさい」

 

「・・・・っ!!なぜ・・・!?」

 

 

 突然の討伐宣告に動揺する土屋君。な、何をしちゃったんですか土屋君!さっきまで明るく優しそうだった魂魄さんが、突然冷たく厳しくに大変身しちゃいましたよ!?

 

 

「・・・なぜですって?分からないとは言わせません」

 

 

 私たちが突然の事態を把握しきれず、土屋君、魂魄さんへと交互に視線をやっていることなど気にせず、魂魄さんは親の仇を見る目で土屋君を見据え・・・どことなく頬を桃色に染めながら――

 

 

 

「・・・・わ、わ・・・!『私より可愛い人などあんまりいない!』と言えば分かるでしょうっ!」

 

 

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

「ん??」

 

「・・・あー」

 

 

 叫びました。

 

・・・・・・意外と、魂魄さんは自讃する女の子だったんですね。びっくり仰天です。

 

 

 

「・・・・!!?なぜ、それを・・・っ!?」

 

「も、問答無用!こ、この恥辱は絶対に晴らすっ!覚悟ぉぉおおおっ!!」

 

 

「!!・・・・・死んで、たまるか・・・っ!!(ダダッ)」

 

 

 土屋君だけには通じることだったのか、俊足の速さで逃亡を始めました。

 

 

「!ま、待ちなさい『ムッツリーニ』ィィィィっ!」

 

 

 魂魄さんも彼を逃がさんと、片手で持っていた焼きトウモロコシを鋭く投げ捨て

 

 

ガンッ 

 

 

「!アッツいたぁぁああああ~~っ!!?」

 

「ホ、紅!?」

 

「あ、大丈夫?」

 

 

 ぎゃーー!!痛いしあっつぅぅぅぅ!!?こ、魂魄さ~ん!?私の顔面にトウモロコシを投げてくるとは何事ですかぁぁぁ!!あなたこそお客さんにやってはいけないことをしてますよー!!

 

 

「ティ、ティッシュかタオルください!タレが顔について熱いぃぃぃ!!」

 

「ティ、ティッシュは持っておらんしタオルも・・・!お、お主は持っておらんか!?」

 

「ああ、ハンカチならあるわ。はいどうぞ」

 

「すまん!紅、ほれ!」

 

「お、おおすみません・・・!って乾いてるからむしろ広がりそうです!?」

 

「ほ、本当じゃ!お主、ハンカチを濡らしておかんか!」

 

「はあ!?ハンカチは乾いてるのが普通でそんな予測できるか!その傲慢さが妬ましいわっ!」

 

「ちょ、ぃ、今の私の状態で仲裁なんかさせないで!目が開けられないんですからー!」

 

 

 2人が衝突しそうになるのをなんとか声で納め、私は水で濡らしてくれたハンカチで顔を拭き終わりました。

 

 

 

 

「あ~・・・・醤油だれのにおいがします」

 

「お、お主もそういうことを気にする性格なんじゃな」

 

「私ってそんながさつな性格してますか普段!?」

 

 

 はなはだ遺憾です!そりゃ咲夜さん達とは違ってそれほど気にはしない方ですけど、さすがに外聞は気にしますからね!?醤油のいい匂いがする女って、恥ずかしくて泣けてくるわっ!

 

 

「あ~・・・、うちの妖夢がごめんなさい。詫びに、このトウモロコシをあげるわ。私のおごりよ」

 

 

 そう言って水橋さんは、鉄板の上に焼かれているトウモロコシを提供してくれました。ここはありがたく頂戴するとしましょう。トウモロコシの熱さはなかなかのものでしたからね! 

 

 

「じゃあ、いただきますね。すいません水橋さん」

 

「あとできっちり妖夢から取り返すから問題ないわ。・・・それにしても、妖夢が仕事を抜け出すとはね・・・初めてあの子に勝てた気がするわぁ~・・・」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

 

 魂魄さんがいなくなったことに水橋さんは全く怒らず、むしろにやりと暗い笑みを浮かべています。思わずぶるっと来るほどの迫力でした。

 

 

「じゃ、じゃあ、ありがとうございました」

 

 

 後ろにもお客さんが並んでいて、これ以上待ってもらうのも悪いため、私たちは屋台から離れました。

 

 

 

 

「ん。ありがとうございました・・・。菊入。妖夢の代わりに入ってちょうだい」

 

「ええっ!?む、無理無理むりだよ!妖夢ちゃんみたいにできないって!真田さんはどう!?」

 

「あたし?別にそりゃいいけど、パルスィのヘルプをしてるからちょっとね。頑張れ真由美!」

 

「そ、そんな~!」

 

「ほら、早くしなさい。お待たせしました。はい、焼きそば二つですね…」

 

「ひ~…い。い、いらっしゃいませしぇ!・・ははい!たこ焼き二つで!えと、えと・・・!!」

 

「・・・真田。やっぱり菊入を手伝ってあげて」

 

「え?いいの?」

 

「いいに決まってるでしょ。この状況で手助けさせないなんて、私は何様よ」

 

「ん~・・・・・・パルスィ様?」

 

「・・・あんたが私を傲慢な女と思っているというのが分かったわ」

 

「だって…事実でしょ?」

 

「・・・・そんなことないわよ」

 

「その間、絶対自覚してるでしょ!」

 

「な、なんでもいいから手伝って真田しゃ~~ん!!」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回は、Bクラスの妖夢さんとパルスィさんに加わってもらいました!偏見かもしれませんが、屋台で焼く人は黒いTシャツに鉢巻やバンダナがかっこいい気がするんですよね。そこで妖夢さん、パルスィさん達に、村雪の希望を叶えてもらいました!

 アリス、咲夜と続き、まだまだ服のことには無知ですが、東方側の方にはこれからもいろんな服を着てもらって作品を盛り上げていきたいですね!

 それではまた来週!何か質問や感想があればえんりょなく連絡ください!


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立腹―根拠、のない悪いことを言われたら誰でも怒りますとも!


 どうも、村雪です!

 今回は召喚大会の方にも入る回となります!で、文章のきりがいいようにしたいので、いつもより半分ぐらいとなっておりますので、ご了承お願いします!

 そして、今回一人、東方キャラクターに正式に出演してもらっています!とはいえ、こちらもかなり短い出演となってしまいましたが・・・またこれからも出演してもらうので大目に見てもらえれば!


――ごゆっくりお読みください。


 

「ふ~。もう一時間とはねえ。もう一時間ぐらい欲しくなりますね!」

 

「それはそれで、また時間が欲しくなると思うがのう。それに、ほかのみんなが頑張っている中で好きに過ごしても嬉しくはないのじゃ」

 

「そりゃそうです!もちろん分かってますとも秀吉君!」

 

 

 ちょっと言ってみただけですから!私だってクラスメイトを差し置いて遊ぶなんてしたくありませんよう!

 

 Aクラスで雑談をし、Bクラスで順番を並んでいたら与えられた時間もほんの少し。なので、私たちは買った食べ物を口にしながら教室へと戻っているのであります。おいしっ!魂魄さん作のたこ焼き、トロトロしていておいしいです~!

 

 

「ふむ。なかなかおいしい焼きそばじゃな。水橋はすごいのう」

 

 

 秀吉君もほこほこした顔で焼きそばを味わっています。むむ!そんなことを言われたら、食べたくなるのが人の性です!

 

 

「あ!じゃあちょっと最後の一口を味見してもいいですか?代わりにたこ焼き一つでどうです?」

 

「む、いいぞい?じゃが箸の代わりが・・・・」

 

 

 頷くも困り顔になる秀吉君。代わりの箸?代わりも何も、今目の前にあるじゃないですか?

 

 

「大丈夫です!その箸がありますよ?」

 

 

「・・・ぇ。わ、わしが使っとる箸か!?」

 

「はい!あれ?ダメでしたか?」

 

 

 なんか思ったよりも秀吉君の反応が大きかったので留まりました。う~ん。じゃあどうやって食べればいいか・・・

 

 

「・・・・お、お主はいいのか?」

 

「?全然いいですよ?」

 

 

 むしろお願いしなくては、私は最悪手で食べることになります。

 

 そんな私の切実な思いが届いたのか、秀吉君は少し間をあけてから焼きそばと箸を差し出してくれました。

 

 

「・・・・ま、まあお主がいいのなら・・・ほ、ほれ」

 

「はいはいどうも!」

 

 

 さてさて、香りはとても良かったし、秀吉君も顔を赤くするほど興奮しているみたいですから、味付けも期待できますね!

 

 

「では最後の一口もらいますね!」

 

「・・・・・・!!」

 

 

 秀吉君に見つめられながら――お箸を未使用であるさきの方にひっくり返して、一口いただきました。

 

 

「あ、おいしいですね!ソースもですけど豚とキャベツがまたいけます!」

 

 

 味が濃すぎるわけでもないのがまたいい!水橋さんも魂魄さんに負けない料理の腕前を持っているみたいですね!」

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・て、あの、秀吉君?きゅ、急に顔をほっとしたような残念なような顔になったのは、私のせいですか?」

 

「!?べべ、別に残念がっておらん!本当じゃっ!」

 

「そ、そうですか?」

 

 

 ど、どうも嘘をついているようにしか見えないんですけど・・・あ、最後の一口を食べたかったんでしょうか?なるほど、それは失礼なことをしてしまいました!

 

 

「じゃあ約束通り、一つたこ焼きをあげますね。それでおあいこということにしてください!」

 

「い、いやじゃから、別にわしは不満があるわけでは――」

 

「はい、あーんしてください」

 

「!じじっ、自分で食べれる!さっさと爪楊枝をよこすのじゃ!」

 

「え~!?そんなー!」

 

 

 爪楊枝をさっと取ってたこ焼きを食べる秀吉君に不満をぶつけます!ここはかの有名な『ハイアーン』をするところでしょう!女の子に恥をかかせるなんてひどいです!

 

 

「・・・う、うむ。おいしいのじゃ。ありがとう紅」

 

「ま、まあおいしかったのなら良かったですよ・・・」

 

 

 とりあえず目的は達成できましたし、あまり文句を言うべきではないですね。返してもらった爪楊枝を余ったたこ焼きにプスリと刺します。

 

 

「はあ~。そりゃ可愛くない私にされたくないのは分かりますけども(パク)」

 

「べ、別にそこまでは言っておら・・・っ!?」

 

「・・・?なんでふか?(もぐもぐ)」

 

 

 今の私はふてくされてるのです。今食べたたこ焼きを含め、もうたこ焼きはあげませんからねっ!

 

 

「・・・・お、おお、お主は・・・本当に無頓着じゃな・・・!!」

 

「あれですね!?秀吉君は完全に私にケンカを売ってるんですねちょっと!?」

 

「う、うるさいわい!ぐちぐち言いたくなる原因は全部お主じゃ!」

 

「な、何も悪いことを私はしてませんよ!?全部秀吉君のウソか誤解です!」

 

「その鈍感さが問題なのじゃあっ!!」

 

「誰が鈍感ですかごらあああ!!」

 

 

 敏感とは言わずとも人並みには五感が冴えわたっています!それをバカにされては黙っていられません!

 

 そして、その地点からFクラス教室まで、私たちはやいやいと言い合いました。全く!こんなに男子と言い合うのは、いつぶりでしたでしょうかね~!?

 

 

 

 

 

 

「よいしょ。ではまた召喚大会に行ってきます!」

 

「あ、はい!頑張ってきてください!」

 

「は~い!皆さんすいません!」

 

「しゃあないぜ!しっかり勝って来いよ!」

 

「頑張ります!」

 

 

 秀吉君とぎゃいぎゃい言いながら教室へと戻り、仕事に戻って数十分。再び召喚大会の時間となったので、私は咲夜さんと合流する場所へと移動します。おや、まだ咲夜さんは来てないです。

 

 

「時間に几帳面な咲夜さんにしては珍しいですね?」

 

「悪いけど、私だってそういうときはあるわ」

 

「おっと、それは失礼しました咲夜さん。メイド服で来なかったんですか?」

 

 

 慌てることなく振り向くと、いつも通り制服姿の咲夜さんが仏頂面で近づいていました。どうやら着替えるのに時間がかかったようです。

 

 

「バカ言うんじゃないわよ。もともと制服だったでしょ?」

 

「そうですけど、さっきの咲夜さんのメイド服姿が可愛かったものですから、また見てみたいな~って」

 

「・・・ど、どうでもいいでしょそんなことは。行くわよ」

 

「はい。どうでもいいことはないですけど、行きましょうか!」

 

 

 また時間ができれば、咲夜さんのメイド姿を見に行くとしましょう!そう決定して、私と咲夜さんは何度目かになる会場への道を歩きます。

 

 

「美鈴」

 

「はい?」

 

「あなたはずっとその恰好だけど・・・は、恥ずかしくないの?」

 

「あー。ええ、そうですね。もう慣れたというのもありますけど、一番はこの格好を私が案外気にいってるというのが大きいですね」

 

 

 珍しいものには目がない、とは少し違いますけど、チャイナ服ってかっこいいし、動きやすいから私には最高の一品となっています。ま、着替えるのが面倒って理由も少しはありますがね!

 

 

「そう・・・わ、私――イド姿―きら―じゃな―けれど…」

 

「?」

 

「な、なんでもないわ。行きましょう」

 

「は、はあ・・・」

 

 

 咲夜さんの質問の意図がつかめないままでしたが、私たちはにぎやかな会場、ステージへと到着しました。

 

 すると、マイクを通して大きな女子の声が。

 

 

 

『お~~っと!!ここでこの勝負の一組目が登場です!チャイナ服にかけては右に出るものはナシ!2―Fクラスの紅美鈴さんと、学年でも一二を争う成績の持ち主、瀟洒(しょうしゃ)な女子!2-Aクラス、十六夜咲夜さんでーーーーすっ!』

 

 

「おお、相変わらず元気いっぱいの先輩ですね」

 

「愛子をもっとタチの悪くしたような先輩だわ・・・」

 

 

 私たちがそれぞれ思ったこと言いながら、相変わらず元気いっぱいの実況者、射命丸先輩を見つめました。咲夜さんにつきましては、先ほどの実況での言葉のせいで冷たい目です。コンプレックス部分を刺激されたので仕方ないのですけど・・・

 

 

「そんな2人の対戦相手は、私と同じ三年生です!果たして二人はどのような勝負を見せてくれるのでしょうか!?」

 

 

 へー、相手は三年生ですか。召喚大会の出場者は大半が二年生なのですが、珍しいですね?

 

 

「咲夜さん、聞きました?相手は三年生だそうですよ」

 

「聞こえてるわ。でも、頑張るとしましょう」

 

「無論です!」

 

 

 私たちより召喚獣の扱いが上手なことでしょうけど、気合いでは負けません!ここはあっと言わせてあげましょう!覚悟ですよ、見知らぬせんぱ――!

 

 

 

 

 

『げっ!?お、お前はっ!?』

 

 

「・・・・・・・・・げ」

 

 

・・・見知らぬどころか、ダブルで見た顔でした。ですがあんまり見たくはないお方なため、私は思わず渋い顔です。

 

 

 

『おっと!ここで対戦相手である3―Aクラスの、夏川勇作と常村俊平の登場です!相変わらずいかつい雰囲気ですね~!』

 

 

 射命丸先輩。その解説は実に的を射ています。

 

私たちの目の前に現れたのは、坊主頭、モヒカンといかつい顔にとても似合った髪型をして、なぜか私たちFクラスのお店の妨害をしてくる、夏川先輩と常村先輩、合わせて常夏コンビ先輩でした。へー、あなた達ってAクラスだったんですか。初めてチルノの英語の点数を見た時と似た衝撃を受けましたよ。

 

 

「て、てめえ!なんでこんなとこにいやがる!?」

 

 

 先に声を荒げながら叫んだのは、モヒカンが目立つ常村先輩。何を思い出したのか、顔が若干青くなっています。

 

 

「なんでって・・・召喚大会の勝負だからですけど・・・」

 

「な、なんだと!?お前はFクラスだろ!?なんでそんなカスの奴が準決勝にまで来てんだよ!?」

 

「む」

 

「・・・なんですって?」

 

 

 今の言い方はカチンときますね!そんな言い方をするのはハゲ・・・じゃなくて坊主頭の夏川先輩、でしたっけ?

 

 

「ん~~、失礼を承知で言いますけど・・・私としては、あなたみたいなチンピラもどきがここにいることの方が驚きですよ!」

 

「「んだとぉっ!?」」

 

 

 はい。私の中でその考えを確立させる言動と態度をありがとうございます。全くAクラスとは思えません、というか思いたくないですよっ!

 

 

「・・・確か、うちのクラスでわめいていた男共ね。お客とはいえ、正直うっとうしかった連中だわ」

 

「咲夜さん。まあ、うちのクラスでもやられましてね。正直好きにはなれない先輩がたですよ」

 

「別にいいでしょう。あんな人が腐った連中、嫌いになってもぬるいぐらいよ。消えてほしいぐらいだわ・・・というか、消えろ。消えなさい」

 

「と、隣の女も小さい声でなんてことを言いやがる!?聞かせないつもりだったのかもしれんが丸聞こえだからな!?」

 

「あら、そうでしたか先輩方。ならさっさと消えてください先輩方。目に・・・じゃなくて、肺にも悪いです先輩方」

 

「先輩先輩言ってるけど、ぜったい敬う気がないだろお前!?というか、俺と夏川を目に悪いものどころか空気に触れるのでさえ害がある何かととってねえか!?」

 

「・・・害がないとでも思われてるのですか?」

 

「し、心外そうに言ってんじゃねえっ!?俺たちの方がずっと心外だわっ!」

 

 

 

 お、おおおっと!?さ、咲夜さんがいつになく毒舌になっています!?よほどAクラスで騒がしくわめかれた恨みがたまっていたのでしょうか!?(理由に気づければ、あなたはきっと大喜びしていたことでしょう・・・)

 

 

 そんなピリピリした空間の中に、新たな声が加わります。

 

 

「四人とも。口論はそこまでで止めておきなさい」

 

 

「あ、永琳先生」

 

 

 そんな間に割って入ってきたのは、八意永琳(やごころ えいりん)先生。咲夜さんと同じ銀の髪を三つ編みで一本にまとめて背中に流し、非常に落ち着いた雰囲気を醸し出している彼女は白衣を羽織った保健医です。

 

 以前はうちのFクラスバカ男子たちがお世話になったのですが、その腕はもちろん、些細な相談でも真摯に聞いてくれたりと、『困ったことがあればえーりん先生!』と言われるほど頼りにされているすごい先生なのです!

 

 

「十六夜さん。あまり人を傷付けるような言葉は言ってはだめよ。夏川君と常村君は、後輩が相手なのだから、もう少し優しく話をしてあげなさい」

 

「・・・はい」

 

「ちっ・・・わかったよ」 

 

「仕方ねえな・・・」

 

 

 永琳先生に言われては何も言えないのか、三人は渋々ながらも口を閉じます。そんな私たちを見て先生は微笑みます。

 

 

「よろしい。では二組とも、科目は保健体育だけれど準備はいいかしら?」

 

「無論です!」

 

「当然です」

 

 

 どの科目もしっかり勉強してきましたから!少なくとも、私の最善を尽くしましたとも!

 

 

「お?やけに自信があるみたいじゃねえか?」

 

 

「へっ、どうせ二年生なんだから大したことじゃねえだろうがな!せいぜい頑張りな!」

 

 

 

「ほほう?」

 

「うざいわね」

 

 

 

 Fクラスである私だけならともかく、最高クラスのAクラスの咲夜さんをバカにするとは、よっぽど私を怒らせたいみたいですね?そもそもあんたらも二年生だったころはあるでしょうに、そんなこともこのバカ先輩たちは忘れたのでしょうか?

 

 ま、なんにせよ・・・・

 

 

 

「咲夜さん。絶対あの2人、負かせますよ」

 

「そうね美鈴。その目標、激しく乗ったわ」

 

 

 咲夜さんの目も暗く光り、私たちは意見を一致させました。

 

 宣言します!この根性のひん曲がった先輩方に、世の中予想通りいかないってことを教えてやろうではないですか!

 

 

「じゃあ、四人とも。召喚をしてもらえるかしら?」

 

「「おう、試獣召喚(サモン)っ!」」

 

 

 そんな私の意気込みなど知った様子もなく、チンピラ常夏コンビは永琳先生の言葉に従って召喚獣を召喚します。

 

 

 

 

『Aクラス 夏川 俊平 保健体育 224点

         &

 Aクラス 常村 勇作 保健体育 254点  』 

 

 

 なるほど、確かに威張るだけあって、まあまあの点数なんじゃないでしょうか?

装備もよくある剣と鎧で、質も良さそうです。

 

 

「どうした?俺たちの点数見て腰が引けたか?」

 

「Fクラスの奴にはなかなかお目にかかれない点数だろうから、仕方ないだろうな!」

 

 

 得意げに挑発してくる常夏コンビ。よっぽど自分たちの点数が凄いと思っているようです。

 

 

「咲夜さん。どうやら私たちは、ずいぶん弱い奴らだと思われてるみたいですよ」

 

「・・・そのようね。自分たちが負ける姿を全く夢にも思ってないわね、あれは」

 

「ああ?当たり前だ!Fクラスの奴に負ける道理がねえよ!」

 

「その通りだ常村!隣にいる奴は知らねえが、お前みたいなやつと組む女だ。大した点数じゃねえだろ?」

 

 

 そう言ってぎゃははと笑うハゲ先輩。まったく、あなた方の言動はなんといいますか・・・小物っぽいんですよね~。そこで黙っているだけでもだいぶ違って見えるでしょうに、自分たちを大きく見せたがってるのが逆に働いてます。

 

・・・ま、私としてはどうでもいいんですがね!ここで一発、反撃をしてやるとしますか!

 

 

「――先輩方」

 

「あ?なんだよ?」

 

 

 私たちを弱いと思い自分達の勝利を信じて疑わない口の悪い先輩方に、私ははっきりと、たずねます。 

 

 

 

 

 

「じゃあ――――、そんなバカな私たちに負けるあなた方は、何になるんでしょうね?」

 

 

「「は?」」

 

 

 さあ、行きましょうか咲夜さん!

 

 

「試獣召喚っ!」

 

「試獣召喚!」

 

 

 

 

 

『Aクラス 十六夜咲夜 保健体育 315点

            &

 Fクラス 紅 美鈴   保健体育 257点 』

 

 

 

 

「「な、なぁっ!?」」

 

 

 

 

 咲夜さんもあなた達と同じくAクラスだってこと。そして私は、その咲夜さんに勉強を教えてもらっていることを身に染みて分かってもらいましょうかっ!

 

 覚悟するんですよ、この常夏三年コンビさん!!

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、ではまずはご紹介を!

 月の姫の従者にして、神の腕を持つ薬師!永遠亭を実質的に取り仕切る女性、八意永琳さんのご登場です!いや~、前から出てもらっていたのですが、ようやく正式に名前を紹介することが出来ました!

 永琳さんがいるだけで、どんなケガでもやってこい!と思ってしまうその絶大な安心感。別の意味で、勇儀の姐さんに並ぶ頼もしさを備えた女性な気がします!まさに『困ったときのえーりん先生!』ですね!


 その永琳先生に審判をしてもらっている今回の召喚大会。美鈴さんの相手は常夏コンビとなっているのですが、展開的にやはり美鈴さんと勝負をしてもらおうと思って、最終的にこの形で決めさせてもらいました!これで、この後の召喚大会の流れもバレてしまったでしょうかね・・・


 さて、中途半端な形で話を切ることになりましたが、次回を楽しみにしてもらえたら幸いです!

 それではまたっ!


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報い―けじめ、はつけなくては、ね・・・?

 どうも、村雪です!

 いやあ申しわけない!活動報告を読んでくださった方は知ってらっしゃるでしょうが、お盆ということで、村雪は少々パソコンの使えない場所に帰省していたのです!

 なので金曜日に投稿できず、帰ってきた今日、日曜日に投稿させてもらいます!今回はすいませんでした!


 では。また短めとなっており、内容もあまり濃い物ではないと思うのですが……


 ――ごゆっくりお読みください。


 

 

「咲夜さんは右のモヒカン先輩を頼みます!私はハゲを倒します!」

 

「分かった!」

 

「だ、誰がハゲだてめぇ!?」

 

 

 因縁の常夏コンビとの勝負が始まり、私の召喚獣を即座にわめくハゲ先輩の召喚獣へと走らせます!

 

 この先輩は色々と口が悪かったですからね!その中にはいろいろと聞き逃せないものもありましたから、私が成敗しないと気がすみませんっ!

 

 

「てぇぇぇええい!」

 

「!な、なめんじゃねえっ!」

 

 

 ですがそこはさすが三年生。すぐに召喚獣に構えさせ、迎撃をさせようとします。剣の狙いは・・・胴辺りですかっ!

 

 

「おらぁ!」

 

「っと!せいっ!」

 

 

 すかさず攻撃をかわし、お返しに右ストレートをねらいましたが、不発に。横にずれて回避されます!

 

 

「ちっ!」

 

「っぶな!?」

 

 

 とと!今度は召喚獣の頭でしたね!そんなところをやられたら点数が勝ってるとはいえ、即終了ですから気を付けない、とね!

 

 

「でぇい!」

 

 

 ドスッ!

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 よし!坊主先輩の今の攻撃は、少し大ぶりで防御へ移る時間が短かったから隙があって、かすった程度ですけど右肩にヒットしました!最初の先制攻撃は私の勝ちです!

 

 

「て、てめえ!」

 

 

 スパッ!

 

 

「あっと!」

 

 

 が、私も突き出した拳をカウンター気味に攻撃され、点数が減りました。とはいえこちらもわずかに当たっただけなので、減少は少ない!

 

 

「お、お前、本当にFクラスか!?なんでそんなに点数が高いんだよっ!」

 

 

 先輩の召喚獣が距離を取ったので、私は逃がさず距離を詰めで打撃を仕掛けながら、先輩の質問に答えます。

 

 

「Fクラスですよ!けど、ちょっとした居眠りのせいでFクラスに落ちただけで、決してバカな奴じゃありません!!」

 

「十分バカなことをしてんじゃねえかっ!?」

 

「う、うるせいです!我慢は身体に良くないんですよー!」

 

「そこは我慢しなけきゃだめなところだろっ!」

 

「え、営業妨害なんかしようとする先輩に常識を語られたくありませんっ!」

 

 

 なな、なんたる屈辱っ!重ね重ね、この先輩だけは絶対許しません!召喚獣の拳の餌食にしてやりますよーっ!

 

 

「おらっ!」

 

 

 ザシュ!

 

 

「むうっ!でえいっ!」

 

 

 ばしっ!

 

 

「!ちっ!」

 

 

 今度は先に剣撃が当てられましたが、負けじと私もわき腹へヒット!さっきよりは与えられたでしょうね!ここでもういっぱ

 

 

 ブォン!

 

 

「っとと!?」

 

 

つは、回避のため叶いませんでした。剣をお腹の位置で横一直線に払われたので、私は慌てて召喚獣を後ろにジャンプさせることで回避に成功しました。

 

 

「くそ。大人しくやられりゃあ可愛げのあるものの、ちょろちょろしやがって!」

 

「ほっといてください!別に可愛くないのは自覚していますからね!」

 

 

 距離が開いてののしってくる先輩に言い返しながら構えを直します。咲夜さんに言ってたら私はプツンしてたと思うので、運が良かったですね!

 

 

 

『3-A 夏川 俊平  保健体育  179点』

 

『2-F  紅 美鈴  保健体育  212点』

 

 

「あの、先輩」

 

「あん?」

 

 

 表示された点数をわき目に、私は少なからず気になっていたことを聞いてみました。

 

 

 

 

「どうして2―Fクラスを目の敵にしてるんですか?何か恨みでも?」

 

 

 ただのクレーマーなら、わざわざ別のクラスで悪口を言ったりはしません。明らかにFクラスに狙い撃ちをしての営業妨害、何か理由があるとみて間違えないでしょう。

 

 

 案の定、少し虚を突かれた顔を先輩はしました。

 

 

「・・・・・あー・・・別に理由なんかねぇよ。お前らFクラスが気に入らなかっただけだ!」

 

「・・・あ、そうですか。素敵な回答をどうも!」

 

 

 今のがウソだというものも分かりますし、素直に答えてくれるとは思っていませんでしたけど、私のやる気を倍増させるには十分な回答です!

 

 

「そのお礼を、今きっちりとさせてもらいますよぉ!!」

 

「けっ、そう簡単にいくと思うなやぁ!!」

 

「てええええいっ!」

 

 

 駆け出す召喚獣に、先ほどと同じように拳を握らせて顔面を狙います!ワンパターンとは言わせませんよっ!

 

 

「ふん!そう何度もくらうか!」

 

 

 先輩は悪態をつきながらも左ストレートを難なくかわし、こちらも同じく剣を振り上げてきました。

 

 ですが、ここからが少し違いますよ!

 

 

「ふっ、と!(ガシッ)」

 

「!? なっ!」

 

 

 放った左の拳をすぐにパーにし、剣を持った左手の手首をガッシリ掴みます!これで攻撃を未然に防ぐと同時に、避けたり逃げたりするのを阻むことができました!

 

 

「くそっ!は、離しやがれ!」

 

「せっかく掴んだチャンスを誰が離しますかいっ!覚悟ぉーっ!」

 

 

 勝利のため優勝のため私情のためっ!私は渾身の右パンチを、掴んだ左腕の下から先輩の胴へとぶちかまします!

 

 

「どっせぇぇええええいっ!!」

 

 

 ドゴォッ!

 

「ぐうっ!?」

 

「さらにダメ押し、もう一丁ぉぉおおっ!」

 

 

 頭を思い切り引き、ふらついたにっくき坊主頭先輩がデフォルメされた、召喚獣の顔面に叩き込みます!

 

 

ゴキィン!

 

 

「っ!!?ウ、ウソだろぉぉ!?」

 

「はあ!?お、おい夏川っ!?」

 

 

 

『3-Aクラス 夏川 俊平 保健体育 0点』

 

 

 

 頭突きを食らった召喚獣がごろごろと後ろに転がり、うつ伏せの状態で止まったころには立ち上がることなく、戦線離脱である0点を示していました。よし!私のノルマは達成です!

 

「さすがね、美鈴っ!」

 

「ありごとうございます!では協力しますよ咲夜さんっ!」

 

「ありがとう。助かるわ、っと!」

 

 

 

 咲夜さんの方は少してこずっているみたいで、モヒカン先輩とナイフで攻防を繰り返していました。一対一で拮抗状態ならば、私が加わればすぐに傾きますね!

 

 

「て、てめえ卑怯だぞ!一対一でやってるんだから手出しするんじゃねえ!」

 

「む!」

 

 

 そんなことを言い出すモヒカン先輩。申し訳ないのですが、私たちFクラスに営業妨害をしてくれた卑怯な人には言われたくありませんねえ!

 

 

「身から出た錆だと思って、諦めてください!」

 

「な、何の話だっ!?」

 

 

 咲夜さんがナイフで抑え込んでいるので、そのすきに間を詰めます!さあ、これで決着です!

 

 

「自分で、考えなさぁぁああいっ!」

 

「げっ・・・!?」

 

 

 バギィィ!!

 

 手がふさがっている召喚獣の顔へと、私の召喚獣に全力でその右を叩き込ませました。

 

 

『3-Aクラス 夏川大作 保健体育 0点 』

 

 

「ちっくしょおおおおっ!」

 

「に、二年生相手に負けるだとぉぉぉお!?」

 

 

「ん、勝負あったわね。勝者は十六夜咲夜さんと、紅美鈴さんよ」

 

 

 本当に信じられないと、大きな慟哭をあげる先輩方を見て、永琳先生が冷静に勝ちの鬨を挙げてくれました。

 

 もちろん、この人も忘れません。

 

 

『あ、あやややっ!?これは驚きました!2年生対3年生という、経験値に大きな差があったこの勝負!しかしそんな経験値など関係ナシと勝負を制し、決勝戦に進んだのは!なんとなんと!二年生コンビの十六夜咲夜と、紅美鈴ンンンンッ~~ッ!』

 

 

 射命丸先輩の興奮した実況に、会場は爆発のように歓声があがります。す、すごっ!思わず耳を塞ぐところでしたよ!

 

 

「ひゃ~、す、すごい声ですね?」

 

「そうね。でも、それだけ興奮してくれてるってことでしょ?嬉しいじゃない」

 

「それもそうですね。ま、ともかく!(スッ)」

 

「ええ(スッ)」

 

 

 周囲から溢れんばかりの歓声と拍手に包まれながら、私たちはにこりと笑って手を掲げ、

 

 

 

「「準決勝勝利、おめでとう(ございます)っ!」」

 

 

 パシンと、力強く手を叩きあいました。さ~!ここまで来たからには、絶対優勝しましょ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、っそ・・・!最悪だ!あんな二年生の女なんかに負けるなんてよ!何やってるんだ常村!?」

 

「ああ!?そもそもお前が最初にFクラスのバカに負けるのが原因だろうが夏川!」

 

 

 召喚大会のステージから少し離れた廊下。三年生の夏川俊平と常村大作は罵りあっていた。

 

 本来、三年生は受験の年ということもあり、学園のPR要素が濃い召喚大会に出る人数は限られる。この2人はその中の一員で、召喚獣の操作の慣れというものがあるため、優勝候補として勝ち進んできた。しかし現実は残酷で、彼らは準決勝にて学年が一つ下の二年生に敗北をしたのだ。

 

 しかし、彼らが荒れているのは、ただ勝負に負けたからではない。ある事情があって、彼らは火になって相方を責めているのだ。

 

 

「う、うるせえ!ふざけんなっ!これで俺たちの推薦パアになったんだぞ!?どうしてくれるんだっ!」

 

「バカが!そりゃあ俺のセリフだ!教頭がせっかく俺たちの進路を約束してくれたってのによ!!」

 

 

・・・そう。この2人は文月学園の教頭である勝原先生に、召喚大会で優勝し、ある行為をすること条件に、志望校である大学に推薦状を出すという裏取引をしていたのだ。 決して許されない行為だが、この2人は迷うことなく承諾し、召喚大会に出場したのだ。

 

 

「くそっ!推薦の約束もなしになって、ぼこぼこにされて、ののしられて、侮蔑されて・・・なんの得もねえよ!何だったんだ今日の苦労はっ!」

 

「それは俺のセリフだ!わざわざ人から非難の目で見られながらもFクラスを罵ってたのに・・・くそっ!これじゃただ嫌われ損じゃねえか!」

 

 

 しかし、負けてしまっては契約は破棄。彼らはただ時間を無駄に費やすに終わってしまい、どこへぶつけることもできない怒りを、互いにぶつけあっていたのだ。周りも意識できずに罵り合う2人。悔しさ、怒り、今は叶わぬ願いへの悔しさを言葉にのせて、声を押さえようと考える余裕もない。

 

 

 

 

 

 

 

「――――ふぅん。そうなの」

 

 

 

――だからこそ彼らは、その存在の接近にも気づかずに大声で荒げ合っていたのだ。

 

 

 

「「――っ!?だ、誰だ・・・・!?」」

 

 

 突然の声に、罵り合っていた二人は血走った眼で、そちらへと目をやった。ついでにこの不満の矛先にもしてやろう。そんなことも考えながら、声の主を見て――――

 

 

 

「「!?・・・・い・・・っ!?」」

 

 

 先ほどまでの勢いはどこへ。2人の体中に鳥肌がたち、頭にのぼった血が一気に下がるのを感じた。

 

 

 

 

「お・・・!お、お前・・・っ!?」

 

「か、か・・・・・か、風見・・・っ!?」

 

 

 

 

「はあ・・・」

 

 

 

 混ざり気のない淡い緑の癖のある髪。あらゆる万物を凍てつかせるような冷え切った眼を向ける美少女。

 

 そして彼らと同じ3-Aクラスであり、『決して彼女を怒らせてはならない』と、誰もが声を揃えて言うほどの、学園トップクラスの美女にして、学年髄一の畏怖の象徴――風見幽香は、心の底からつまらなそうに息をついた。

 

 

 

「・・・あなた達みたいな2人が、召喚大会に出るのは何か理由があるとは思ったけれど・・・・本当に、くだらない理由ね。もともと期待なんかしてなかったけど、やはり期待する価値もなかったわ」

 

「ん、んだとてめえ・・!?」

 

「か、か、風見には関係ないだろうがっ!人の話に聞き耳なんか立てるんじゃねえっ!」

 

「・・・(スッ)」

 

「「う・・・っ」」

 

 

 彼女の思いやりを感じさせぬ言葉に二人は歯を向くが、まったく動じることなく、幽香は二人を見た。そこには怒りも哀れみもない。ただ、どこまでも冷め切っているだけ。2人は思わず口をつぐんだ。

 

 

「私だってあなた達の事情なんかどうだっていいわ。甘い条件につられて、自分の力で何とかしようとせず、挙句の果てには、負けた責任を他人に押し付けあってる醜い二人になんか、誰が話しかけたいというの?

 

・・・いないわよ、善人でない限り、そんな人間は。勘違いしないで。私はやむを得ずに、あなた達のようなクズで情けない二人に話しかけてるのよ。この3-Aの恥さらし共が」

 

 

 気遣いなどなく、ただただ相手を蔑む立ち位置からの言葉とは名ばかりの暴力に、二人は心にぐさぐさと傷が出来ていく感じがした。

 

 

「う・・・そ、そこまで言うかっ!?」

 

「くそ・・・!そ、その、その情けない二人になんの用だってんだよ!?」

 

 

 冷酷と言っても過言ではない幽香の言葉に、2人はすでに彼女へと噛みつく根性も失せて、らしくもなく涙目になりながら大声で幽香に叫んだ。

 

 

 

 

 

「・・・聞いた話だと、あなた達、2-Fクラスの悪口を言いふらしてたみたいね?」

 

 

 そんな2人に彼女は一つ、全く予想していなかったことを確認してきた。

 

 

「あ?・・・そ、それがなんだよ?」

 

「か、風見には全く関係ないことだろ?」

 

 

 彼女と2-Fクラスに接点などない・・・はず。二人はそう思っての反論だった。

 

 

「・・・ええ、そうね。私はあなた達がどこで何をやろうと興味がない。そして2-Fクラスに思い入れがあるわけでもないから、そこを別に妨害をしようが知ったことじゃないわ」

 

 

 

 

 でもね、と。幽香は、先ほどよりもわずかに感情がこもった声で繋ぎながら、二人を見据える。

 

 

「そこに特例があるとなれば、話は別」

 

「あ、ああ?」

 

「な、なんのことだよ?」

 

 

 どういう意味か分からず聞き返すも、彼女は答えない。自分の言葉を告げるだけである。

 

 

 

「・・・・人の良いあの子よ。どうせ、気にしてないとか慌てて言うだろうけど・・・あいにく、私はそんな意見に耳を貸してやるほど、人の良い先輩ではないわ」

 

 

 

「「―――っ!?」」

 

 

 コツと、彼女は一歩足を進める。瞬間二人は、嫌な汗が噴き出るのを止められなかった。

 

 

 

「それに、Fクラスを陥れようとしたということは、私が準備した物も無駄にしようとしたことになる。・・・それだけでも私にとっては、動機は十分よ」

 

 

「「あ………あ…」」

 

 

 2人には、彼女が何を言ってるのかは分からない。しかし、それでも一つ分かったことがある。

 

 

――自分たちは絶対に避けねばならない虎の尾を、踏んでしまったのだ、と――

 

 

「さて・・・と」

 

 

 カツンと、もはや手の届く範囲まで近づいてきた少女に、男である二人は、震えと汗が止まらなかった。対照的に、少女はどこまでも冷静な調子で、自分の手に持っていた物を見る。

 

 

「今日は天気が良かったから持ってきたのだけど・・・ちょうどよかったわ。あまり手を汚したくはないものね」

 

 

 それは、直射日光を避けるために使われる日用品・・・高貴さが感じられる、白桃色の日傘であった。

 

 だが今この時、そんな用途には用いない。日傘は一つの武器として、幽香の手に存在していた。

 

 

「さあ。それじゃあ、私の私用に付き合ってもらうわよ。別に何もしなくていいわ。ただ、そこにいれば十分よ」

 

「ひ、ひい・・・っ!?」

 

「ま、待ってくれ!?何かわからんが謝るっ!謝るから――!?」

 

 

 幽香のこれ以上なく冷えきった声に、二人は恐怖し、謝罪を試みようとするが―――彼女は止まらない。

 

 

 

 

――そして、

 

 

 

 

 

 

「あの子を傷付けたこと――――――ここで償いなさい」

 

 

 

 

 その傘は、猛威を振るい始めた。

 

 

 

 翌日。夏川、常村の2人の姿は、学園では確認できなかったという。

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、やはり戦闘描写は今一つだったような気がしますが、お許しください~!ここは読みやすいと捉え方を変えて頂ければーっ!


 さて、準決勝でリタイアした常夏コンビ。最後には女帝、風見幽香さんに猛威を振るってもらいました。
 暴力的な形でしたが、これも幽香さんらしさの1つと思って書いてみました。『美しい花にはとげがある。』まさに幽香さんにピタリな言葉な気がしますね~。

 そして最後に書きましたように、常夏コンビはこれで今回の出番は終了です!ゆっくり永遠亭で体を治しておいてもらいましょう!

 なので、少し原作とは違う形で書いていくことになると思いますが、楽しみにしてもらえれば幸いです!


――それではまたっ!次回はしっかり金曜日に書きます~!


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犯罪―愚行、をする奴にゃ情け不要ですっ!

 どうも、村雪です!

 今回は召喚大会ナシで、どちらかと言えば喫茶店の方で話を進めていきたいと思います!とはいえ、サブタイトルからも分かるように、ただの喫茶店側の話ではないのですが!

 少々どなたかの性格が変わったかな?と思うところもありますが、そこもは一つ大目に見てもらえれば!あの状況なら、彼女たちがああなっても仕方がないと思うのですよ~!

 では、ここで言っても何のことだという話ですので――

――ごゆっくりお読みください。


「ただいま~!」

 

 

 私は元気よくFクラスの教室へ入ります。ちょっとお客さんがびっくりした目で見ましたけど、ここはご勘弁を!うまく決勝戦に進むことが出来て、少し浮足立っているのですよ~!

 

 

「あ!おかえりです力持ちのお姉さんっ!」

 

「おっ、その感じだと勝ったみたいだな?」

 

「ええ!おかげで決勝戦進出です!」

 

「おお!やるわねメーリン!さすがアタイの子分なのよさ!」

 

「ですから子分になった記憶はありませんよチルノ!?」

 

 

 そんな歓迎を受けながら、私はすぐにホールの仕事の準備を始めます。決勝戦は明日行うということなので、今日の召喚大会は終了。あとはホールの仕事をするのみです!

 

 

「へ~、美鈴さん達は決勝戦に進んだの?」

 

「おお、吉井君と坂本君。ええ、うまく勝つことが出来ましたよ!」

 

 

 準備をしようとする私に、今度は吉井君と坂本君が話しかけてきました。彼らは私とは逆に、どこかへ出かけるような準備をし始めます。

 

 

「吉井君達も今から大会ですか?」

 

「うん。準決勝に行ってくるんだ」

 

「俺たちがいない間、店の方は頼んだぞ?」

 

「分かりました!健闘を祈ってますよ~!」

 

 

 坂本君達はお店のことを私に頼んで、教室を出ていきました。

 

 ふむ、ということはもしこの試合で吉井君達が勝てば、決勝戦は彼らと勝負をすることになるのですね。それはまた面白い試合になりそうで楽しみです!

 

 

「さて、頑張るとしましょうかっ」

 

「メ、美鈴さん!あちらのお客さんをお願いします!」

 

「あ、は~い!」

 

 

 さっそく仕事を与えられたので、私はすぐさま移動して仕事に取り組み始めます。

 

 

 そのあとも、お客さんへ注文の伺い。お茶やゴマ団子の提供。たまに話しかけてくるお客さんとの雑談やチルノのおバカ行動の制御。果ては土屋君の撮影の被写体など(スカートの中を撮ろうとしていた時は、もちろん抵抗しましたよ?)をこなし続けました。

 

 

「悪い美鈴さん。飲茶の葉がなくなったから、ちょっととってきてくれないだろうか」

 

「分かりました。んじゃちょっと行ってきますね!」

 

 

 先ほどのゴマ団子と同じように、空き教室へと向かいます。ホールの私がやることかな?とも思いますけど気にしない気にしない!きっと厨房の皆さんが忙しかったんですよね!

 

 

「え~と、葉っぱはどこに・・・」

 

 

 

 再びお目当てのものを準備室で探す私。荷物はきれいに並べられていて、先ほど私の後始末を頼んだ吉井君と妹紅さんがしっかりやってくれた証拠です!すみませんね2人とも~!また埋め合わせはしますからね~!

 

 

「あ~、あったあった!」

 

 

 これですね!さっきは変な男子に絡まれたりして面倒でしたから、今回はあっさり見つかって助かりました~。まあそう何度も、波乱な展開があってたまりますかってことですね!そんなことはマンガだけで十分です!

 

 

 あとは、あさった荷物を元の場所に戻して、と!

 

 

 

「よっこいしょ――」

 

 

「おいお前。Fクラスの奴だな?」

 

 

「・・・・・」

 

 

 ここはいつから、マンガの世界になったのでしょうか。私は少しうんざりしながら振り返りました。

 

 

「・・・はい。そうですけど、どちらさま?」

 

 

 見ると、またいかつい3人の男子が私の方を見据えていました。はい、間違いなくいい雰囲気ではありませんねこれ。なぜ一日に二度もこんなことが起こるのか・・・

 

 

「ならいい。おい、連れてくぞ」

 

「「おう」」

 

 

「は?」

 

 

 とたん、急に私のもとへ三人が寄ってきました。え、え?連れてく?問答無用ですか?

 

 

「・・・あの。何をされる気ですか?」

 

「黙ってろ。お前は俺たちについてくりゃいいんだよ」

 

「無駄な抵抗なんかするなよ?こっちは三人で、女のお前なんかに勝てるわけないんだからな」

 

「にしても、ラッキーだな。こんな可愛い子を連れていけるなんてよ」

 

 

「・・・・・」

 

 

 またも不快になる言葉を言ってくる三人。どうやら、こちらの質問に答える気はないようです。

 

 

はあ~~。こっちは穏便に聞いているというのに・・・・・

 

 

 

 上等です。もう一回やってやろうじゃないですか。

 

 

「おっ、すげえやわらかい腕だな――(グイッ)」

 

 

 

 そんな戯言を言いながら、1人が私の肩を掴んできます。

 

 

 

 

「――せいいっ!」 

 

 

―――ので、私は遠慮なく、その腕を掴んで背負い投げをかましました。

 

 

 

 

「「!なっ!?」」

 

 

「ぃっ!?げうっ!?」

 

 

 残る二人があっけにとられている内に、私は掴みかかってきた男の背中を叩きつけます!

 

 

 が、それでは終わらせません。同じく遠慮せず、背中の痛みに苦しそうな顔をする男の腹を踏みつけました。 

 

 

「ふんっ!(どすっ!)」

 

「がぶううっ!?おぇぇぇええええっ!」

 

 

 それには参ったようで、彼は腹と背を押さえて苦しそうに転げまわりました。敵には容赦などかけない!一切手加減などしませんよっ!

 

 

「「て、てめええっ!」」

 

 

 残った2人が仲間をやられたことに血相を変えて襲いかかってきました。が、今更文句を言おうが遅い!きっかけはあんたらにあるんですからねえええっ!!

 

 

「大人しくしてやがれ!おおらああっ!!(ブンッ)」

 

「っと!」

 

 

 一人が粋の良い言葉を叫びながら殴りかかってきましたが、しょせん口だけ!ただがむしゃらなパンチをすぐさまかわします!

 

 

「おおおおおおっ!」

 

 

 そしてその回避ざま、全力の拳をあごへとかます!

 

 

「っらあっ!」

 

 

 ガゴンッ!

 

 

「あがっ・・・!?」

 

 

 うまく入ったようで、くらった彼は完全に白目をむきながら背中から倒れこみました。

 

 さて、あと1人!

 

 

「な、なんだてめえ!?何かやってやがるなっ!?」

 

「っ!ええ、少々拳法をねっ!」

 

 

 拳をかわしながら、私は答えなくてもいいことに律義に答えます。結構昔からやっているので、並みのケンカじゃ負けませんよ!

 

 

 

 

「くそっ・・・!なら、他の女のとこに人数をやるんじゃ・・・!

 

「っ!」

 

 

 

 ・・・今の言い方。他にも女子を狙ってる!?

 

 

 

「せぇえいっ!(ドスッ!)」

 

「ぐっ!」

 

 

 即座に腹へと突きをくらわせますが、腹を押さえるだけで彼は倒れません。

 

 

・・・ならかまわん!さっき踏みつけた奴に聞いてやります!

 

 

 私はチャイナドレスで動きやすくなっている足で、左足の方を、まっすぐ天井へと伸ばしました。

 

 

「・・・いっ!?ま、待て!それはやりすぎだ―!?」

 

「うるせぇぇえっ!」

 

 

 そして、彼の頭に空に上げたその足を――振り下ろしました。

 

 

 

 ゴッギイインッ!!

 

 

 

「ガゲブゥッ・・・ッ!?」

 

 

 脳天にかかと落としを受けてはたたじゃいられない。最後の彼は、ぐるりと白い眼を向いて顔から床に倒れていきました。

 

 

「ふう・・・」

 

 

 さて、三人を倒して、とりあえずは身の安全を確保。次は・・・

 

 

「――お~い、ちょっと、あなた」

 

「うぐぅ・・・!い、いでえぇ・・・!」

 

 

 背と腹を痛めつつも、意識がしっかりある男子に声をかけます。しかし、そうとう効いたのか、彼は苦しそうな顔をしてうめくばかり。

 

 

「こら。呼んでるんですから聞きなさい」

 

「ぐえぇっ・・・!?」

 

 

 ぐいと苦しむ男子の首元を掴み、私の方を向かせます。正直、苦しんでいる人に追い打ちをかけるようなことはしたくないんですけど、先ほど聞いた言葉がどうしても気になるので、私は心を鬼にして問い詰めます。

 

 

「今の彼が、他の女子がどうこうと言っていたのですが、どういうことですか?」

 

「ひっ・・・!」

 

 

 さらに絞める力を上げると、彼は先ほどまでの下卑た顔を消し、怯えた表情で吐いてくれました。

 

 

「・・・え、Fクラスの女達をさらってこいって命令されたんだ!だ、だから、Fクラスの女子のところには他の仲間が行って・・・・」

 

「・・・さらってこいですって?」

 

 

 誰が聞こうと、完全に犯罪行為じゃないですか!いったい誰がそんなバカげたことを!?

 

 

「誰に?誰に命令されたの?答えなさいっ!」

 

 

 

「あぐぐげっ・・・!お、お、お前らのとこの教頭だよっ!ほ、ほら、あの眼鏡をかけた・・・!!」 

 

 

「は、はぁあ・・・っ!?」

 

 

 そ、それって、さっきから何回かウチのクラスに来てた・・・!?

 

 

 

「か、竹原(たけはら)教頭先生のことっ!?」

 

「あ、ああ!そんな名前だった!」

 

「な、なんでまた・・・!?」

 

 

 思わず耳を疑いそうです!学園のNo.2とも言える教頭先生が、自分の学園の生徒を誘拐させるなんて・・・!わ、私、とんでもないことを聞いたんじゃないですか!?

 

 

「理由はっ?何か聞かされてはないの!?」

 

「ぐぐぐ・・・知らない!ほ、本当だっ!俺らはただ命令されただけなんだよ!」

 

「む・・・!じゃあ、なんでそんな命令を聞いたんですか!?いくらなんでもやっていいことじゃないってことぐらい分かるでしょう!」

 

「う・・・・う、上手くいったら、俺たちの学校の先公に、成績のことで口を聞いてくれるって言われたんだ。だから…」

 

 

 うっわ、そんなことを言ったんですか教頭!そんな裏取引を引き出して生徒に悪行をさせようとは、もはや最悪のセンセイですね!絶対敬いたくありません!

 

 

「・・・ま、まあ、教頭のことは今いいわ!それより私をどこへ連れて行こうとしてたのかを答えなさい!」

 

 

 何人も誘拐して、バラバラな場所に置いとくとは考えづらいです。たぶん一か所にまとめて監禁をするでしょうから、その場所はおそらく私を連れて行こうとした場所!

 

 

「・・・!い、いや、それはさすがに言うわけには――」

 

「ああん!?さっさと答えろって言ってんですよ!」

 

「ぐえええっ!?・・・こ、ここから五分くらいのとこにある、カラオケボックスのパーティールームだっ!が、ふ・・・!し、しまるからゆるめて――!」

 

「・・・はい。分かりました(スッ)」

 

「げっほ!ごほごほごほ・・・!」

 

 

 よし、よく言ってくれました!それに免じて、もう手は出さないでおきましょう!

 

 

「じゃあ、あなた達はとりあえず、永琳先生のところに連れていきますね」

 

「げほっ・・・え、えいりん??」

 

「はい。保険の先生ですよ。今の話を聞かせてもらったら、さすがにこのまま野放しにするわけにはいきませんので、ちょっと治療がてらそこにいてもらいますね」

 

「・・・・・もう、背中と腹の痛みが取れるならなんだっていい。ぐええ・・・まだ痛ぇえ・・・!」

 

 

 よほど痛いのか、男子はやわらかく軟禁すると言われてるのに、力ない言葉でそう答えるだけでした。

 

 

「そうですか。すぐに話が進んで助かりますよ」

 

 

 ここでまたひと騒動があるかと考えてましたけど、杞憂に済んでよかったです。

 

 

「歩けますか?私はこの2人を運びますから期待はしないでくださいね」

 

「くそ・・・こんな女が相手なら、のるんじゃなかった……」

 

「どんな相手でもイケないことはしないって、強い意志を持ってほしいものですよ」

 

 

 すんだことですから、もう取り消すことはできないのですがね。

 

 

―――さて。この三人を連れて行って、もともとの目的の飲茶の葉っぱを教室に持っていったら、準備ですね!

 

ん?なんのかって?

 

 

 

そりゃあもちろん―――殴り込みの準備ですよ。

 

 

 

 

 

ガラリ

 

 

「・・・・紅、緊急事態」

 

 

 Fクラスに戻ってきた私に土屋君が駆け寄ってきて、今起こっているであろうことを伝えにきました。

 

 

「あ、ええ。瑞希さん達がさらわれたそうですね?」

 

「(コク)・・・・なぜ知ってる?」

 

「私もターゲットだったようですよ。急にさらおうとしてきたので、返り討ちにして吐かせました」

 

「・・・・さすが」

 

 

 そう言いながらも、土屋君は少し呆れ顔です。むう、もう少し無事だったことに安堵してくれたっていいじゃないですか~。

 

 

「・・・それで?」

 

「ええ。どうやら皆さんは学校の近くのカラオケボックスのパーティールームにいるみたいです」

 

「・・・あっている」

 

「ん?なんで土屋君も知ってるんですか?」

 

「・・・(スッ)」

 

「?なんですこれ?」

 

 

 見せてきたのは、何やらよくわからない黒い機械。これは・・・?

 

 

「・・・発信機」

 

「今この時だけは、何も聞かなかったし見なかったことにしましょう」

 

 

 女子がさらわれたときに、どこへ行ったかを知るためにとっさに仕掛けだけだと信じます!

 

 

「・・・反応は、そのカラオケボックスの場所と一致している」

 

「ふむ。ウソではなかったみたいですね。では行くとしますか!」

 

「・・・明久たちは待たないのか?」

 

「それも考えましたけど、まだ時間がかかる可能性もあるからやめました。土屋君はどうですか?」

 

「・・・問題ない。備えはある」

 

「助かります」

 

 

 応援を待ってる間に何かがあったら本末転倒ですからね。さまざまな道具を持った土屋君がいれば十分でしょう!

 

 

「で、さらわれたのは?」

 

「・・・秀吉、姫路、島田と妹、チルノ、霧雨の6人」

 

「1人男子がいますけど、この際スルーですね」

 

 

 それよりも・・・

 

 

「妹紅さんは無事だったのですか?」

 

「・・・・厨房にいたから、手を出せなかったのかも」

 

 

 あー、なるほど。さすがに関係者だけが入れるところには入らなかったんですね。妹紅さんが無事、一つまずそこは安心できました。

 

 

「にしても、ほぼ全員のホール班女子が抜けたのは痛いですね。代わりもいないですし・・・」

 

 

 味でも満足はしてくれるでしょうけど、やはり女子という華やかさを求めて来る人も何人かいるわけです。そんな人たちには今現在の状況では、不満を与えてしまうかもしれませんね・・・

 

 

 しかし、私の懸念に土屋君は、

 

 

 

 

「・・・誰もいないというわけではない。―――藤原が、ホールをやってくれている」

 

 

 そんなことを言いました。

 

 

「へ?・・・も、妹紅さんが?」

 

「・・・(こくり)」

 

 

「・・・・い、いやいやいや!?それはさすがに嘘でしょう!?あれだけ頑なにやりたくないって言ってた妹紅さんがするはずないじゃないですか!・・・って、はっ!?さてはあれか!妹紅さんの恥ずかしい写真を撮ってそれで脅迫したんですね!?最低です!」

 

「・・・そんなことはしていないし、そんな写真もまだ撮っていない・・・!!」

 

「どっちにせよ撮る気じゃないですか、この変態っ!」

 

 

 その時はカメラ破損とまんじ固めを覚悟してもらいますよ!絶対妹紅さんが傷付くでしょうからね!

 

 

「・・・・・いるんなら、手伝ってほしいんだけど・・・」

 

「おわわっ!?も、妹紅さん!?」

 

 

 突然の声にびっくりして振り返ると、顔を赤くしながらも不機嫌さ丸出しの妹紅さんがお盆をもって立っていました。

 

 なぜか恰好は蝶ネクタイに白いカッター、そして青色の長ズボンと男子のホールが着ているウェイター姿ですが、もともとの容姿が綺麗だからか、全く違和感を感じさせません。妹紅さんが正義、なのでしょうか?

 

 

「ほ、本当にホールの仕事をしてるんですね妹紅さん。・・・土屋君に脅されて、とかではないですか?」

 

「・・・紅、俺を何だと思っている・・・!」

 

「女性の不幸をネタにするムッツリスケベです」

 

 

 私の断言に、土屋君は二の句を継げませんでした。

 

 代わりに答えたのは妹紅さんです。

 

 

「・・・そいつに、他の女子がいない間だけでもって言われたんだよ。・・・・ぜ、絶対やりたくなかったけど・・・なんか、緊急事態みたいだから・・・その・・・」

 

「そ、そうなんですか、妹紅さん・・・!」

 

 

 ぽつぽつと消え入るような説明に、私は少なからず驚きと喜びを感じました。あれほどてこを入れてもやりたがらなかったホールを、渋々などの言葉でもぬるい態度ながらも自分の意志で、その理由が店のため、ひいてはクラスの皆のためなんて・・・!!

 

 

「わ、わっ!私はもーれつに感動しましだ妹紅しゃ~~んっ!!」

 

「・・・う、うるさいな。しぶしぶやってるだけなのに・・・」

 

 

 ふてくされた顔をする妹紅さんですけど、私には皆のことを心配しての行為だって分かっていますよー!

 

(※正直な話、妹紅さんの言う通り、しつこい頼みに断れきれなかったというのが6割で、クラスのためにという思いは4割ほどのようです。それを少ないと見るか多いと見るかは・・・お任せします)

 

 

「・・・今からでも、チャイナドレスに・・・」

 

「き、着るかっ・・・!なんでそんなもの着んだよ・・・変態・・・!」

 

「・・・変態じゃない・・・!ただしゃし、店のため・・・!!」

 

「・・・・・やっぱりこいつ、変態だ・・・・!」

 

 

 珍しく声を荒げて土屋君を糾弾する妹紅さん。ですがそこまでチャイナを拒否されると、私も泣きたくなります。チャイナドレス、良いと思うんだけどなぁ・・・!

 

 

「・・・と、とにかくっ・・・あんたも手伝えよ、美鈴」

 

「あー、で、でも今から連れていかれた6人の奪還に行くのですよ。ですから、もうひと踏ん張りしてもらえませんか?」

 

「・・・・・・え~・・・本気・・・・?」

 

「す、すみませんけどお願いしますっ!すぐに戻りますのでお願いしますぅぅ!」

 

「・・・・・はぁぁぁぁ・・・やっぱり、やるんじゃなかった・・・」

 

「あ、ありがとうございます!そしてほんとにごめんなさいぃぃっ!」

 

 

 まるで世界が終わったかのように顔を青くさせる妹紅さん。緊急時とはいえ、人見知りの妹紅さんにこんな役を任せてしまって心がずきずきします!

 

 おのれ誘拐犯め!この落とし前もきっちりつけてもらいますよっ!

 

 

「じゃ、じゃあ妹紅さん。ちょっと行ってきますね!坂本君達が戻ってきたら、このことを話して近くのカラオケボックスにいるって伝えてください!」

 

「・・・・分かった。じゃ、じゃあ・・・まあ・・・・気を付けろよ」

 

「了解です!行きましょう土屋君!」

 

「・・・了解」

 

 

 そこから私たちは駆け足で奴らのアジトへと向かいました。妹紅さん、その間はホールをお願いしますよーっ!

 

 

 

 

 

 

 

『・・・お、おお待たせ、しましたっ。こちらっ、飲茶とゴ、ゴマ団子でしゅ。・・・っ!ごご、ごゆっくり、どうじょ・・・!』

 

 

 

『―――ご、ご苦労さん、藤原さん・・・だ、大丈夫か?』

 

『・・・・もう、死にたい消えたい帰りたい・・・。勇儀ぃぃ・・・』

 

『ちょ、なな、泣かないでくれ!?べ、別にかむぐらい誰でもあるっ!だからそんな気にすることなんか――』

 

『・・・みんなじろじろ見てくるし・・・いちいち人の失敗を見世物にして・・・!!』

 

『そ、それはたぶん、藤原さんがめちゃくちゃ綺麗で、女子が他にいないから見とれているだけだ!!絶対そういうのではないと保証するっ!むしろ誇っていいと思うぞ!』

 

『・・・なんの慰めにもならないよ・・・・・!

 

 

―――――ん・・・?また来たのか・・・?』

 

 

 

 

 

『うんっ!ゴマ団子とっても美味しかったもん!』

 

『ま、まあまあだったけど、せっかくだからまた食べに来たわっ!』

 

『・・・・・・ん。そ、そうか・・・』

 

『あれ?メイリンはいないの、もこう?』

 

『・・・あー、ああ。ちょっと・・・・出かけたな』

 

『そ、そうなの?じゃあ、妹紅は美鈴の代わり?』

 

『・・・・・まあ、そうなる・・・かな』

 

 

『へ~!じゃあ!私たちもやっていい!?』

 

『・・・・?何を?』

 

 

『お店の仕事っ!』

 

『え・・・。・・・・な、なんで?』

 

『一回お店の人をやってみたいのっ!でも、さっきは向こうで咲夜にダメって言われたから・・・お願いもこうっ!』

 

『・・・2人とも・・・やりたいの?』

 

『わ、私はそこまで興味ないわよ!で、でもフ、フランが一緒にやろうって言うんだもん!だから、妹のわがままに付き合ってるだけだからねっ!』

 

『わ、わがままじゃないもん!さっき咲夜がダメって言った時、お姉さまの方ががっかりしてたでしょっ!』

 

『ししっし、してないもん!私そんなにショックなんか受けてないもんっ!』

 

『あ、ケ、ケンカはやめな・・・。

 

 ・・・・・ん・・・・やらせて、いい・・・?』

 

 

『え?そ、それは俺たちにとってもありがたいが・・・いいのか?』

 

『・・・本人がやりたいって言うから・・・・。じゃあ2人とも・・・やってみる・・・?』

 

『ほんとっ!?うわあ~ありがとうもこうっ!(ぎゅっ)』

 

『・・・!!う~、あ、ありがとう妹紅(ギュッ)!』

 

『―――~~っ!?だ、抱き着くのは、やめてくれ・・・・っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!二名様でよろしいでしょうか?」

 

「あ、先に連れが来てますので大丈夫です」

 

「え、あ、そ、そうでしたか?」

 

「はい、すみません。では。・・・土屋君、場所は分かりますか?」

 

「・・・二階から反応がある」

 

「よし、行きましょうか」

 

 

 私たちは学校から近場にあるカラオケ店に入り、発信機の反応のもとへ急ぎます。

 

 まったく、皆の憩いの場を監禁の場所に選ぶとはふざけたものです。友達を救出するためにカラオケ店に入る日が来るなんて、全く想像していませんでしたよ。

 

 

「・・・この部屋だ」

 

「む」

 

 

 しばらく歩いていると、一つの部屋の前で土屋君が声色を変えることなく告げました。私も気を引き締めます。

 

 

「よし、では突撃しましょうか」

 

「・・・まずは、中の様子を知るべき(ごそごそ)」

 

 

 待ったをかけた土屋君は、また見慣れぬ機械を出しました。

 

 

「ん?土屋君、それは?」

 

「・・・盗聴器」

 

「そろそろ私もフォローが出来ませんよ!?」

 

 

 普段、土屋君が何に使うのかがものすごく気になります・・・!ま、まさか私のどこかにも仕掛けられたりして・・・ませんよね!?

 

 

「・・・俺が店員に化けて、仕掛けてくる。これを使え」

 

「は、はい。お願いします」

 

 

 なぜそんなものがあるのか。土屋君はさっき見た店員さんと同じ格好になって、私にな聞き取り用の機械を渡して問題の部屋へと入っていきました。

 

 う、う~ん。非常に頼もしいのですが、敵(しゃしんさつえい)になったらとてつもない脅威です!今後はさらに注意をしないといけませんね!

 

 

「・・・え~と。これはどうやって聞くのでしょう」

 

 

 でも今は味方ですので、その心配は今はやめておきましょう、私は見慣れぬ機械を耳にあてました。ん~~・・・

 

 

 

『・・・失礼します。灰皿をお取替えします』

 

 

 お、土屋君の声ですよね?どうやらうまく仕掛けられたみたいです。

 

 

『おう。・・・にしても、遅いな田川達。連絡もないのか?』

 

『ああ。何もないな・・・あいつらまさか、失敗したんじゃないのか?』

 

『まじかよ?誰だっけあいつらのターゲットは?』

 

『確か・・・赤い髪の奴だ。そういえばそいつには注意しろ、とかあの眼鏡もぬかしてたっけ・・・』

 

『は!?そ、そんなの聞いてねえぞっ!?』

 

 

 次いで聞こえてくる知らぬ男子の声。〝メガネ〟って・・・・絶対竹原教頭のことですよね?なんたってそんなことを命令しますかねえ。生徒として悲しく、そして情けなく思いますよ・・・

 

 

 

『ちょっとあんた達!アタイ退屈なのよさ!だからさっさと解放しなさいよっ!』

 

『うるせえ!せめてそこは怖いからとかぬかせバカ!』

 

『誰がバカよ!ゆうかいなんかするクズに言われたくないのよさ!』

 

『ぐっ!て、てめえ・・・!』

 

 

 おっと、無事元気そうで何よりです、チルノ。でもあんまり刺激する言葉を吐いちゃうのはどうかと・・・

 

 

『お、このピザ美味いな~。瑞希たちは食わないのか?』

 

『・・・・あ、は・・・はい。大丈夫です・・・』

 

『お主・・・この状況でよく食べられるのう・・・アホじゃったのか?』

 

『おいおい木下、失礼だなー?どうせこいつら出してくれないし、こうも言うだろ?慌てても良いことがない、ってな』

 

『・・・お主のメンタルにはあきれ果てるのじゃ・・・』

 

『す・・・少しだけうらやましいです・・・』

 

 

 次いで聞こえてくる三人の声。でもそこには誘拐されているという緊迫感が全く感じられません。

 

 ちょ、自由すぎますよ魔理沙っ!おかしい言い方ですけど、誘拐されたなら誘拐されたらしく大人しくしてなさいっ!というか誘拐犯!もっとしっかり行動を束縛しなさいよ!なんで私がそんな犯人側の指摘をしなくちゃいけないんですかっ!

 

 

『おい!お前は何勝手に食ってんだ!黙って大人しく――』

 

『うっさいわよあんた!葉月が怯えちゃうじゃないっ!』

 

『!お、お前はお前でなんでそんなに堂々と文句を言ってんだっ!誘拐されてるって立場を忘れてないか!?』

 

『だまりなさい!こっちも仕方なく大人しくしてんだから文句を言うなっ!』

 

『お、お姉ちゃんが、怖いです・・・!』

 

『あ、ご、ごめんね葉月?葉月に怒ってるわけじゃないの。あのお兄さんたちに怒ってるのよ?』

 

 

『・・・・もう、なんなんだよこいつら・・・』

 

『なんでこんなに普通なんだよ・・・もっとビビるところだろうが・・・』

 

『ここまで図々しい女は初めてだ・・・』

 

『吉井と坂本はまだ来ねえのか・・・』

 

 

 

 

 

「・・・・これ、私が来る必要なかったかもしれませんね」

 

 

 誘拐された女子に怒鳴られる誘拐犯。この誘拐犯たち、めちゃくちゃ平和主義な気がします。むしろ魔理沙やチルノの方がひどいとさえ思えてきました・・・

 

 

 

「(ガラッ)・・・元気そうだった」

 

「私は思わず、もっと怯えてろなんてひどいことを思ってしまいしたよ・・・」

 

 

 もはや何をしに来たのかが分からなくなりそうです。戻ってきた土屋君もホッとした様子ですが、わずかながらに呆れた雰囲気もあります。

 

 

「相手は何人いましたか?」

 

「・・・4人だ」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

 

 なんにせよ、救出に来たのだからその目的は達成しないとね。ひとまずは隙が出来るまで様子を――――

 

 

『でも、どうする?赤い髪の奴が本当に田川達を返り討ちにしてたら・・・』

 

『・・・・・・あ。そう言えば赤い髪の奴にも、妹みたいなやつが2人いなかったか?』

 

『あー、青い髪と金髪のちっちゃい奴か。それがどうした?』

 

『そいつらを人質にしたら、赤い髪の奴もおびき寄せられるんじゃないか?』

 

『あ、いい考えだなそ――』

 

 

 

 ドガァンッ!

 

 

『『!!?』』

 

「いっ!?」

 

「な、何だてめえっ!?」

 

 

 

 

 前言撤回。タイミングなんか気にせず、今すぐこの四人を叩き潰してやりましょう。

 

 

 

 

「誰だぁあ?―――お望みどおり来てやったんじゃいっ!」

 

 

 

「は、はあ!?」

 

「!?あ!こ、こいつだ!紅美鈴とかいう奴だっ!?」

 

「は!?な、なんで一人でここに・・・!?」

 

「た、田岡達をどうしやがった!?」

 

 

 やいやいと騒ぎだす4人ですが、そんなことは後でいくらでも答えてやります!私の気が済んだらねええ!!

 

 

「そんな友人のことより、今はあんたら自身の心配をしやがれぇぇっ!!」

 

 

「「「「ひっ!?」」」」

 

 

 あの愛らしいレミィ達に危害を加えようとする輩は排除するのみ!私は全身全霊の力を腕に込めて、4人を討ちに走りました。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回は少し原作の流れに添った内容、誘拐部分の話を投稿させてもらいました!とはいえ、原作とは大きく違って、誘拐された女子陣も、誘拐した男子達も、どこかギャグさを感じられる内容とさせてもらいましたが!

 そうさせてもらった理由なんですが、村雪、出来るだけ笑いが起こるような明るく楽しいssを書きたい!!というのを目標に『バカと中華小娘とお姉さん』を書いてきまして、もしもここで原作のように書いちゃったら、その目標から少し離れちゃうことになるのですよね~!

 なので、原作とは違って女子達には厚かましくたくましく、そして男子陣には少し弱気になってもらうことで、誘拐という犯罪イベントを明るいイベントに変えてみようとしてみました!
 少し暴走気味の美鈴さんによる、この後の暴虐を考えるとギャクパートがバイオレンスになりそうですが、そこもある種のギャグパートの一つと撮ってもらえれば!!

 それではまた次回っ! 



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事情―解決、すれば一安心ですね~。

どうも、村雪です!

 前回までで、準決勝戦の一回戦が終わっていたので、準決勝二回戦もあると思われた方がいるかと思いますが……すいませんっ!どうしてもほとんどが原作と同じ流れになってしまいますので、省略させてもらいます!

 一応最初の文で大まかな流れが分かると思うのですが、以前も似たようなことがあったのにすみません!どうかお許しをおお!


 さて、今回で学園祭初日が終わります!おそらく、後の展開が多くの方に予想されていると思いますが、続けて読んでもらえることを願って!


―――ごゆっくりお読みください。

 


「明久ぁぁぁあ!!てめえなんてことをしやがったぁぁっ!」

 

「なにって雄二、ただ霧島さんに雄二の身柄を好きにしていいって言う条件で僕たちに勝利を譲ってもらっただけじゃんか」

 

「どこが〝だけ〟だっ!俺の人生を転落させる一言だろうが!」

 

「なんだよその言い方!雄二だって文句を言ってなかったでしょ!?」

 

「お前に声を封じられて何も言えなかったんだよボケ!あれか!?博麗の時の仕返しのつもりか!?」

 

「その通りだよこの野郎っ!商品券に加えて二千円の散財をしなくちゃいけない僕の痛みを味わえ!」

 

「たかが二千円で俺の人生を破滅って割に合わなさすぎだろうがぁぁぁあっ!」

 

 

 ええい!ああ言えばこう言う!男なら腹をくくるんだよ雄二っ!

 

 

 召喚大会準決勝。決勝戦へと進むための大事な勝負で僕たちが戦うことになったのは、2年Aクラスのトップである霧島翔子さんと、秀吉の双子のお姉さんにあたる木下優子さん。

 

 そんな手ごわい相手と勝負をすることになったんだけど、当然普通に勝負をするのじゃなくて、卑怯な作戦を雄二は企んでいたんだけど、その雄二の策あっけなく失敗。絶体絶命に陥りかけたけれど、そこで僕の冴えわたる頭がひらめいたのさ!

 

 

――雄二をダシにすれば、僕たち勝てるんじゃない?ってね!

 

 

さっそく霧島さんに〝雄二を好きにしていいから、勝たせてもらえないかな?〟って言ってみたら・・・びっくりするぐらい簡単に、霧島さんはOKを出しました。そんな一途なところ、僕は応援するよ霧島さん!

 

 それで取引成立…と思いきや、雄二が大慌てで取引を中止させようとしてきたので頸動脈をついて黙らせることによって、取引が成立。木下さんも少し不満そうだったけど、霧島さんの迫力に根負けて、僕たちは勝利を手にしたのさ!その時の周囲からの冷たい目が痛かったけれど、勝てたんだから気にしない!

 

 

 そして今、僕たちはFクラスに戻りながらさっきまでの会話を繰り広げていた。

 

 

「いいじゃないか別にっ!おかげであと一回勝てば僕たちの勝利なんだからさ!」

 

「俺にとっては本末転倒なんだよバカ野郎!」

 

 

 これだけ言っても雄二は怒鳴ってばかり。全く素直じゃない男だなあ。

 

 

「・・・・まあいい。もう現実は現実で怒鳴っても変わらん。今は喫茶店のことだけを考えてやる」

 

「そうだよ雄二。霧島さんとのことは遅かれ早かれなんだから、今は喫茶店のことだけを考えよう!」

 

「本当に腹が立つなてめえっ!絶対この件については後悔させてやるからなっ!」

 

 

 そうやって雄二がうるさく怒鳴ると同時に、僕達はFラス教室前へと戻ってきた。雄二の言う通り、召喚大会の決勝戦は明日になるから、今は喫茶店で頑張るときに違いない。

 

 女子の皆やムッツリーニ達厨房班のおかげで、中華喫茶『ヨーロピアン』繁盛しているから、僕たちホール班もしっかり頑張らないと申し訳ないものね!

 

 

 がらがらっ 

 

 

 

「・・・・・・い、いらっ、いらっしゃいませ・・・」

 

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

 

 ――そう意気込んでFクラスに入った僕たちを待っていたのは、全く想像していなかった光景だった。

 

 

「・・・あ。あ、あんた達か・・・」

 

「あ、ご、ごめんね?僕と雄二で」

 

 

 謝ることもない気もするんだけど、頑張って挨拶をしたのに、それが僕たちのせいで空振りになっちゃったら謝りたくなるもの。それが彼女だったらなおさらだ。

 

 雄二も同意見みたいで、謝りながらも僕の気になったことを聞いてくれた。

 

 

「おお、すまないな藤原。だが、どうして藤原がウェイターの恰好をしてホールの仕事をやっているんだ?」

 

「・・・・・・ふ、不本意でだよ・・・・・」

 

 

 白髪の少女、シャイな藤原妹紅さんは、しかめっ面で雄二の言葉に答えてから視線を落とした。

 

 黒い蝶ネクタイに白いカッターシャツ。青色の長ズボンをはいて男子の恰好をする藤原さんだけど、全くその可愛さが衰えていない。むしろ、ボーイッシュな恰好が、さらに彼女の魅力をひきたててるんじゃないかな!?

 

 

「・・・メ、美鈴から、伝言・・・」

 

「ん?紅から?」

 

 

 あれ?伝言ってことは、美鈴さんは今ここにいないってこと?そう言えばどこにも――

 

 

「お待たせしました!これがゴマ団子だよっ!」

 

「おお、ありがとうお嬢さん。元気いっぱいで、見ていて明るくなるよ」

 

「えへへ、ありがとー!」

 

 

「こ、こちらご注文のヤ、飲茶よ!受け取りなさい!」

 

「うわあ~!可愛い~っ!!ありがとう、よくできたね!」

 

「う、う~!こっ、子供扱いするなぁ!怒るわよっ!?」

 

『きゃあああ!!お持ち帰りしたい~~♡』

 

 

 いないかわりに、美鈴さん達の妹である青い髪の子と金髪の子が、お客さんの間を行き来していた。誰もが和んだ顔や興奮した顔になって、二人の行動を見守っている。かく言う僕も思わずほっこりしている気がするね。

 

 

「あれは・・・紅の妹たちじゃないか?なんであいつらまでホールをしてるんだ?」

 

「・・・あ、その・・・あ、あいつらがやりたいって言うから・・・・だ、ダメか・・・?」

 

「ああいや、それは全然いいんだがな」

 

 

 さっきも葉月ちゃんがやっていたし、彼女たちがダメだって言うことなんかない。お客さんも喜んでいるし、こっちからお願いしたいぐらいだ。だから安心していいよ妹紅さん!

 

 

「で、紅の伝言ってのはなんなんだ?」

 

 

 

「あ、ああ。・・・さらわれた奴を戻しに・・・カラオケの店に行く・・・って」

 

 

「あ?」

 

「へ?」

 

 

 へ?さらわれた?

 

 

「さ・・・さらわれたって、どういうこと?」

 

「…………そのままの意味、だけど・・・・」

 

「・・・誰がさらわれたんだ?」

 

「・・・私と、美鈴以外の女・・・」

 

「ええ!?ひ、姫路さん達がっ!?」

 

 

 だ、誰がそんなことをっ!?営業妨害もそうだけど、なんでそんなことが起こり続けるの!?

 

 

「明久落ち着け。・・・藤原。そのカラオケ店ってのは、学校近くのコンビニが正面にある店でいいのか?」

 

「・・・そう、だと思う。変態が・・・近いって言ってたし・・・」

 

「ムッツリーニも一緒か・・・しかし、誘拐とはな・・・」

 

 

 僕と違って冷静な雄二が、腕を組んで何かを考えだした。変態と聞いてムッツリーニの名が出てきたのは、ひとえにムッツリーニの変態力の恩恵だと言えよう。

 

 

「よし明久。今から一応加勢に行くか」

 

「!当然だよ!急いでいかなくちゃ!」

 

 

 雄二の言葉に、僕は二もなくうなずく。姫路さん達をさらったやつを絶対ぶん殴ってやるぞ!

 

 

 

「じゃあ藤原、俺たちも行ってくるから頼んだ」

 

「・・・早く、連れ戻ってこいよ・・・・」

 

 

 ぶっきらぼうだけど、皆の身を案じた藤原さんの言葉をしっかり受け止め、僕らはすぐに教室を出た。待っててね姫路さん達!そして首を洗ってやがれよバカ野郎ども達めっ!

 

 

 

「・・・まあ、俺の予想では蛇足に終わりそうだけどな」

 

「?どういうことさ雄二?」

 

 

 雄二が良く分からないことを言ったので尋ねる。だそくって、確か無駄なことをするってことだっけ?何が無駄なことなんだろう?

 

 

「・・・そのままの意味さ」

 

 

 雄二は、思いきりひきつった笑顔になって答えた。

 

 

 

「・・・あの紅に殴りこまれたら、俺の経験上、相手はなす術がないだろうと思ってな」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 否定せずに、思わず納得してしまった僕はひどい男となっちゃうのだろうか。

 

 

 

 

 

 

――でも、そんな考えを持っていたのも現場に到着するまで。神様は僕を見放さなかったようだで・・・・・・

 

 

 

 

 

「「ひぃぃいいいいっ!!」」

 

「も、もももう許してくれぇぇぇえええ!!」

 

「かあちゃあああああんっ!!」

 

 

「おい待てごらぁ!なに逃げてやがる!ああ!?」

 

「ちょ、待て待て待て美鈴!もうこいつら体全体がボロボロで怯えきってやがるからそろそろ許してやれって!!」

 

「いいえ!こんなレミィ達をさらおうなんざ考える奴にはまだまだぬるいです魔理沙っ!だから前から離れなさいっ!」

 

「わ、私たちのことを思ってじゃないのかよ畜生っ!」

 

「さああんたら歯ぁくいしばりなさい!これで一発ずつ殴ってやります!」

 

 

 

「ひいっ!メ、メメ美鈴さん!?い、今手に取ったガラスの灰皿を何に使う気ですかぁ!」

 

「瑞希さん!これは正当な理由があっての行動です!だから問題ありません!だから腰から手を放してくださいっ!」

 

「ど、どう見ても過剰攻撃すぎますっ!お願いしますからどうかやめてあげてくださいぃぃぃ!!」

 

 

 

「お、落ち着くんじゃ紅!今のお主はもはや悪以外の何にも見えぬっ!」

 

「レミィ達の安全を確保できるのなら悪役上等です秀吉君!ですから私の手を放してください!」

 

「そ、そういうわけにもいかんじゃろう!ム、ムッツリーニ!倒れてないでお主も手伝わんかっ!なぜ紅に触っただけで鼻血がそれだけ出るんじゃ!?」

 

「・・・思い出し発作だ・・・!(ドクドク)」

 

「何を思い出したのか、あとではっきり吐かせてやるのじゃ!」

 

 

 

「ふ、ふえええ~~ん!ち、力持ちのお姉ちゃん怖いです~~~っ!!」

 

「は、葉月泣かないで!美鈴は葉月を怒ってるんじゃないから!ね!?」

 

「はづき!そんなにめそめそしてたらアタイみたいな最強にはなれないわよっ!だから泣くんじゃないのよさ!」

 

「葉月をはげましてくれるのはありがとチルノ!でもその言い方は出来たらやめて!ウチは葉月に、普通の子になってほしいのよ!」

 

「なにぃ!?みなみあんた、はづきにアタイみたいになってほしくないっていうの!?」

 

「ごめん!絶対なってほしくないわね!」

 

「な、なんですってーっ!?」

 

 

 

「ええい!三人共!!早く離せってのですよぉぉぉおお!!」

 

「ぜ、絶対離せるかぁぁぁ!!」

「絶対離しませんんんんっ!!」

「離すか大バカ者ぉぉぉおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・雄二。美鈴さんって・・・怖いね」

 

「・・・激しく同意しよう。明久」

 

 

 なぜか誘拐犯らしき男たちが暴行の被害者みたいになっていて、誘拐された姫路さん達が暴行を加えようとする美鈴さんを必死に抑えていた。美鈴さんの手には光り輝く灰皿が握られていて、少し乱暴に叫びながらそれを振りかぶろうとしているその姿は、誘拐犯よりもよっぽどチンピラに見えた。

 

 

・・・とにかく、少し出遅れたようである僕らにできることはただ一つ。

 

 

「雄二、美鈴さんを止めようか?」

 

「だな。今の紅は、誘拐よりもひどいことをしでかしそうだ」

 

 

 ピンチを救ったであろう美鈴さんが、恐ろしい筋金入りのチンピラになってほしくない。僕たちは珍しく意見を合致させて、三人のもとへ手助けに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくもうっ。ひどいですよ皆さん。なにも床に押し付けてまで止めることもなかったじゃないですか!」

 

「俺だって紅があんなに反発しなかったらあそこまでしなかったよ!もう少し手加減ってものをしやがれ!」

 

「ちゃ、ちゃんとしてましたよ!灰皿で一発決めたら、キレイさっぱりけじめをつけようとしてたんですよ!?」

 

「それを世間ではやりすぎだと言うんだ!別に誘拐犯をかばうわけじゃないが、あの4人、図体に合わず本気で泣いてたぞ!?」

 

「まあまあ雄二。でもあいつらは許されないことをしたんだから、それぐらいの罰は当然だと思うよ?」

 

「おっ、分かってくれますね吉井君!そうですよ!あの4人、レミィたちもさらおうって言ってたんですよ?そんなバカ野郎たちに慈悲は無用です!」

 

「未遂の事件であんなに怒っていたのかお前は!?」

 

「ええっ!?ひ、姫路さん達がさらわれから怒ったんじゃないの美鈴さん!?」

 

「い、いえいえそんなことありませんよ!?無論瑞希さん達がさらわれたのも理由に入ってますとも!3割ぐらい!」

 

「「こいつ(この人)、シスコンだーっ!」」

 

「ちっ、ちちちちっちげえしっ!?私シスコンじゃねえーしっ!」

 

 

 へ、変なことを言わないでください!妹に危機が迫ってたら誰だって防ぐに決まってるでしょうが!ただ妹が好き好きでたまらないシスコンとは、似て非なるものです!

 

 

「・・・ん。そろそろ来る時間だな」

 

「ふ~・・・え?誰がですか?」

 

 

 いま私たちがいるのはFクラスの教室。カラオケボックスでの誘拐騒動も終わり(私としてはもう少し怒りたかったんですけど、とりあえず形状は解決しました。)時間はすでに放課後で、いるのは私と坂本君と吉井君の3人だけです。なんでも私に話があるとかで、私は呼び止められたのですが・・・なんでしょう?

 

 そう気になりながら、私が先ほど怒って乾いた喉をお茶で潤していたところで、坂本君がつぶやいたのです。

 

 

「ババアだ」

 

「バ、ババア?」

 

「え?学園長がここに来るの?」

 

「ババアって学園長のことなんですか!?」

 

 

 な、なんて呼び方をされてるんですか!もう少し丁寧な呼び方をしなくちゃいけませんよっ!

 

 

「え、でも、どうして学園長が来られるんですか?」

 

「俺が呼んでおいた。さっき廊下で会った時に『話を聞かせろ』ってな」

 

「話?」

 

「ダメだよ雄二。いやなババアだけど、一応目上の人なんだから用があるなら僕たちが行かないと」

 

 

 吉井君。そこに余計な呼称がなければとてもいい事を言っていましたのに・・・

 

 

 

「用も何も・・・この一連の妨害はあのババァに原因があるはずだからな。事情を説明させないと気が済まん」

 

「や、ですからもう少し呼び方を・・・・・・・・・今なんて言いました?」

 

「だから、あのババァ、学園長が間違いなく今日起きたトラブルの原因だ」

 

「へ!?」

 

「ええぇぇっ!?あ、あのババァ、何か企んでやがったのかっ!」

 

 

 そ、それってつまり、学園長が教頭の竹原を操ってたということですか!?そういえばうやむやになっていましたけど、竹原せんせーの悪事について何も言ってませんでした!学園長もグルなんだったら、他の先生にこのことを告白しないと!

 

 

「やれやれ。わざわざ来てやったのに、ずいぶんとご挨拶だねえ、ガキどもが」

 

「あっ!」

 

「来たか、ババア」

 

「出たな!諸悪の根源め!」

 

 

 ガラガラと扉を開けて入ってきたのは、長い白髪の女性。その風貌に加え、教育者にしては乱雑な話し方から、文月学園の長の藤堂カオルさんに間違いないでしょう。

 

 

「おやおや、アタシが黒幕扱いかい?」

 

「黒幕ではないにしても、俺たちに何かを隠していたのは間違いないはずだ。じゃないとただの出し物で営業妨害が出るとは思えんし、何より、クラスの女子たちがさらわれるなんて事態、どう考えてもおかしい。話は聞かせてくれるんだろうな?」

 

「・・・その前に1つ、確認したいことがあるんだよ」

 

「あ?」

 

 

 坂本君の有無を言わせぬ問い詰めに、学園長は一つ息をはいてから・・・わ、私の方を見てきました?

 

 

「えーと。なんでしょう?」

 

「赤い長髪で、背の高い女子・・・・あんたが紅美鈴で間違いないかい?」

 

「は、はあ。あってますよ?」

 

 

「・・・・・・・感謝するよ。そして、すまなかったね」

 

「え?」

 

 

 そう言って学園長は頭を下げ、ってちょ、ちょっと!?

 

 

「や、やめてくださいよ!?どうして突然頭を下げるんですか!?」

 

「どうしてもこうしても、このガキどもの言う通り、アタシのせいで誘拐なんてことが起きたんだ。それをアンタがうまく納めてくれたそうじゃないか。それにアンタ自身にも手は向けられたそうだし、感謝と謝罪ぐらいするさね」

 

「そ、そんな!私が勝手にやっただけなんですから別にいいですって!その謝罪は他の瑞希さん達にしてあげてください!」

 

 

 学園長なんて偉い人に頭を下げられるなんて、居心地が悪すぎますよ!それだったら普通に言葉だけでよかったのに、意外と学園長は礼儀を重んじる方だったんですね!?

 

 

「やれやれ、謙虚な娘だねえ。あんた達クソボウズ共にも、こんな謙虚さを持たせてやりたいよ」

 

「ふん、余計な世話だ」

 

「なんだとババア!僕はこんなにも謙虚に穏便に話を聞いてやろうとしてるのに、何て言い草だ!」

 

「その態度が謙虚さからかけ離れてるって言ってんだよ、バカジャリが」

 

 

 学園長はそんな悪態をついてから、ようやく頭をあげてくれました。ふ~、思わず緊張してしまいましたよ~。

 

 

「さて。侘びと謝罪をも終わったし、話すとしようかい。あまり話したくないことだが、仕方ないね」

 

 

 そして、学園長さんは話し始めました。

 

 

「アタシの目的は、如月(きさらぎ)ハイランドのペアチケットなんかじゃないのさ」

 

「へ?」

 

 

 すいません。説明の冒頭から話が分かりませんですよ?

 

 

「ペアチケットじゃない!?どういうことですか!?」

 

「アタシにとっちゃあ企業の企みなんかどうでもいいんだよ。アタシの目的は、別の優勝賞品の方さ」

 

 

 ん?優勝賞品って、召喚大会のでしょうか?

 

 

「別のって言うと・・・商品券と、『白金の腕輪』とやらか」

 

「ああ。あの特殊能力がつくとかなんとかってやつ?」

 

「あー。そういえば、そんなのも書いてありましたっけ」

 

 

 優勝賞品一覧の中で見ましたね。なんでも一つは点数を半分こにして召喚獣を二対同時に出せる機能で、もう一つは、立ち合いの先生がいなくても使用者が立会人になって召喚用のフィールドが出せる機能、だそうです。

 

 

 

「その『白金の腕輪』を、あんたらに勝ち取ってほしかったのさ」

 

 

「・・・え~~と、要するに吉井君達は、優勝して賞品を手に入れるよう頼まれたってことでしょうか?」

 

 

「ああ。だいたいそんな感じだ。それと引き換えに教室の補修を許すってな」

 

 

「そ、そうだったのですか~」

 

 

 だったら、もしも吉井君達が準決勝に勝っていて明日勝負になれば、負けた方が良いんでしょうか?困りましたねぇ・・・

 

 

「じゃあ、どうして吉井君達にその腕輪を手に入れてもらいたかったんですか?」

 

「・・・・欠陥があったんだよ」

 

「欠陥、ですか」

 

「恥ずかしい話だが、点数が一定水準を超えると暴走が起きちまうんだよ」

 

 

 学園長が苦々しい顔をしながら説明をしてくれました。一定水準ってことは・・・平均点を超えたらダメ、ってこと?

 

 

「だからアンタ達みたいな『優勝の可能性を持つ低得点者』ってのが一番都合が良かったってわけさ」

 

「・・・そ、そ、そうですか」 

 

「なるほどな。得点の高い奴が使えなかったってわけか」

 

 

 坂本君と私は学園長の言い分に苦笑します。本当に学園長は歯に衣着せない言い方をされますねえ。そんなところが逆に親しみを感じますよ!

 

 

「雄二、僕たちは褒められてるってことでいいのかな?」

 

「いや、お前らはバカだって言われてるんだ」

 

「なんだとババァ!」

 

「それぐらい自分で気づけっ!」

 

「ど、どうどう吉井君。決して侮辱してるわけではありませんよっ!」

 

 

 しかし吉井君とは仲が深まったこと間違いなしです。私に押さえてられている吉井君に目をやることなく、坂本君は学園長を見ます。

 

 

「にしても・・・そうか。そんな学園の醜聞をよしとするヤツなんて、首謀者はうちに生徒を取られた他校の経営者か?」

 

「その通り。一連の手引きは教頭の竹原によるものだよ」

 

「あ!そ、そうですよ学園長!さっき保健室に行ってもらった私を誘拐しようとした男子もそう言ってました!」

 

 

 危うくレミィ達にも魔の手は伸びようとしていたんです!ここはひとつしっかり対応をしてもらわないと黙ってられませんよ!

 

 

「ああ知ってるよ。だからこそ、あんたには感謝してるのさ、紅美鈴」

 

「へ?」

 

 

 そんな慌て気味な私に、学園長は変わることなく雑な言葉で口を開きました。

 

 

「八意先生がその男子共に話を聞いてね。それをもとに竹原の教頭室を調べまわったのさ。疑いを晴らすっていう名目で、隅から隅までね」

 

 

 

 

 

 

『せ、先生方っ!これはプライバシーの侵害だ!だから今すぐ――』

 

『(ガシッ)まあお待ちください、竹原教頭。これは竹原教頭の無実を潔白するための調査です。一つ協力されてください』

 

『う・・・か、上白沢先生・・・っ!』

 

『それとも、我々に見られてはまずいものがあるのですか?先に言ってもらえたら助かるのですが・・・』

 

 

『・・・!!い、いえ。そんなものはありませんよ?ただ、あまりいい気分はしないものでつい―』

 

 

『藍、どう?』

 

『・・・はい、姉さん。文月学園の評判を下げ、その見返りとして自分をその学校の教員として雇ってもらうというメール履歴がありました』

 

『ほう?』

 

『へえ・・・?それはそれは・・・』

 

『・・・な・・・!な、なんでそれが・・・!?』

 

『他にも運営資金にはない出費の内容やら、八意先生の言っていた誘拐事件の、男子に送ったと見られるメールもありますね。これはまた・・・』

 

 

『・・・・・っ!!?』

 

 

『・・・・竹原教頭。どうやらあなたには、どうしようもなく失望させられたみたいだ。己の利益のために、自分は口だけで子供に犯罪行為を促し、何の罪もない子供たちを誘拐するなど・・・私は今すぐ、あなたの脳天をかち割ってやりたいぐらいだな・・・っ』

 

『ヒ、ひい!ヒイイイッ!?』

 

『待ちなさい慧音先生。気持ちは分かりますが抑えて。あなたを思ってくれている生徒たちはきっと、先生がそのようなことをされるのを望んではいません』

 

『・・・すまない、紫先生』

 

『いえ。それだけ生徒を愛されてるのがはっきり伝わりましたし・・・私も、腹の中ではどす黒い感情が煮えたぎっているわ』

 

『同意です姉さん。生徒を守るのが教師の役目。・・・そして何より、子供を守るのが大人の役目というのに・・・あなたは教師失格だ』

 

『・・・う・・・うううう・・・』

 

 

『竹原教頭。あなたは教師としてやってはいけないことをされました。その罪がどれほど重いのか――――今一度、心から考えなさい』

 

 

 

 

 

 

「そこから竹原の悪事についての証拠がごろごろ出てきてね。また何かをすればそれを公にするって言ったら、すっかり大人しくなったよ」

 

「きょ、脅迫ですねもはやっ!?」

 

「いいや違うよ。アタシは穏便に、そのことを交渉に持ちかけただけさね」

 

「穏便だろうと過激にだろうと、弱みを握って交渉をしたら脅迫になると思いますよ!?」

 

 

 キヒヒと悪い笑顔を浮かべる学園長には、全く悪びれた様子はありません。竹原先生がもう悪いことをしなくなったのは良いのですけど、何やら後味が悪い!もうちょっと絵本みたいな展開で終わってほしかったです!

 

 

「ともかく、もう竹原には勝手はさせないよ。そこについては安心しておくれ」

 

「ま、まあそれについては本当に良かったです」

 

「よかったー。これで姫路さん達に危険はないってことだね。ババァ、これからはちゃんと気を付けてよ?」

 

「まったくだ。ババァ、しっかり監視してろよ?」

 

「ふん。あんたらクソボウズに言われなくてもそのつもりさね」

 

 

 口は悪いですけれど、皆さん穏やかな雰囲気で会話をしています。やれやれ、これで一件落着ですね!明日からは気兼ねなく学園祭を楽しめそうですよ!

 

 

「さて、じゃああとは優勝賞品の〝白金の腕輪〟だな」

 

「あ・・・そういえば吉井君達は決勝戦に進んだんですよね?」

 

「うん。美鈴さんが僕たちの相手だよね?」

 

「はい。あの、学園長。そうなったら私たちは・・・・わ、わざと負けた方が良いんでしょうか?」

 

 

『白金の腕輪』の事情を聞くと、吉井君達が勝たなくちゃいけない気がしてきます。あまり負けたくはないのですが、そんな事情があっては・・・

 

 

 

「いや、そんなことはするんじゃないよ。決勝はいろんな人が見てるんだ。そんなことをしちまったら八百長試合で思い切り叩かれちまうさね」

 

「あ、そうですか?」

 

「ああ。もしもあんた達が勝ったら、『白金の腕輪』だけ、そこのバカガキどもに譲ってやってくれるかい?」

 

「分かりました。その時はきちんと吉井君達に譲ります!」

 

 

 よかった~!もしも負けてくれって言われてたら、どうやって咲夜さんを説得すればいいか悩んでましたよー!このことは他言無用なようですし、咲夜さんを納得させるような理由が全く思いつきませんでした!

 

これで気兼ねなく、決勝戦に望むことが出来ますね!

 

 

 

「ええええ!?バ、ババア!そこは美鈴さんに負けろって僕は言ってほしかったよ!?」

 

 

「へ?」

 

 

 突然、吉井君が慌てた様子で学園長に抗議しました。え、あ、あれ?なにかまずかったですか?

 

「あん?別にアタシとしちゃあ、『白金の腕輪』が戻ってくるんならどちらでもいいさね。むしろ、礼儀知らずのあんたらには負けてもらって、この娘に勝ってほしいぐらいだよ」

 

「そんな!?ババァ、僕達を見捨てないで!可愛い生徒じゃないですか!」

 

「バカ言うんじゃないよ。あんた達よりもこの子の方がよっぽどかわいい生徒だ。万が一にも八百長を仕掛けるとしてもこの子を勝たせるさね」

 

「そ、そんな殺生なっ!?」

 

「え、え~と・・・ありがとうございます学園長」

 

 

 よ、よくわかりませんけど、吉井君は八百長を仕組んでも優勝をしたいようです。でも、学園長も手は抜くなと言っていますし、何より五千円の商品券がかかっていますからね!私も負ける気はさらさらないのです!

 

 覚悟しておいてくださいね吉井君、坂本君っ!

 

 

 そう意気込んだところで、Fクラスでの話し合いは終了、清涼祭一日目は幕を降ろしました。

 

 

 

 

 

 

『雄二っ!今日は徹夜で勉強をしよう!明日の決勝戦は絶対勝たなきゃいけないよ!』

 

『お?明久がそんなことを珍しいな。明日が命日なのか?』

 

『負けたらそうなる可能性があるんだよっ!』

 

『んん?何かあったか?』

 

『ほらっ!博麗さんと勝負したときに約束してたじゃん!「負けてくれたら商品券五千円分のものをあげるって!」』

 

『おお、そう言えばそんな約束もしてたな。でも確か、さらに四割ぐらい付け足されてなかったか?』

 

『それはこの際いいよっ!いや、全然良くない大事なことだけど、どっちにせよ優勝しないと五千円も手に入らないじゃん!そうなったら僕は嘘をついたってことで・・・は、博麗さんに亡き者にされるじゃないかぁあっ!!』

 

『あー、なるほどなあ。まあ明久、そうならないようにしっかり頑張るんだぞー』

 

『なに自分は関係ないって顔してるんだよ!君も僕と同じペアなんだからしっかり協力しろよ!?博麗さんにしばかれるのは雄二もだからね!?』

 

『とは言ってもなあ~。請求のあて先は明久ってことで博麗も了承してたし、プレオープンチケットが翔子に渡らなくなったんだから、おれはもう優勝する理由もないんだが?』

 

『こ、この外道っ!鬼!バカ!霧島雄二っ!』

 

『ぶっ!?て、てめえシャレにならんこと言うんじゃねえぇ!?』

 

『・・・・嬉しい。ありがとう、吉井』

 

『うおっ!?いつの間にそこにいたんだ翔子!?』

 

『・・・今。嬉しい言葉が聞こえたから・・・』

 

『翔子、それは理由に全くなっていない。むしろ新しい疑問がわいてきたぞ・・・』

 

『・・・雄二。わざと負ける気?』

 

『ああ。俺はプレオープンチケットがお前に渡らなかったらそれでいいからな。俺の目的は果たした』

 

『僕は全然果たしてないっての!っていうか、そんな言い方はないじゃないか雄二!霧島さんがかわいそうだよ!』

 

『俺だって自分の身が可愛いわボケッ!』

 

『・・・そう。分かった』

 

『・・・ん?やけにあっさり引き下がったな翔子?変なもんでも食ったか?』

 

『だから雄二!女の子にそんなこと言ったらダメだって!』

 

 

 

 

『・・・だって、そうなると・・・・・・十六夜達が勝って、プレオープンチケットを譲ってもらえるから』

 

『・・・・・WHAT?』

 

『え、そうなの霧島さん?』

 

『・・・うん。話をしたら、タダはさすがにもったいないから、安くに売ってくれる、て・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・』

 

『へ~?ただではあげずに売るって、十六夜さんはしっかりしてるな~』

 

『・・・・私も、タダでもらうのは気が引けてたから・・・十六夜は、気配りができる人』

 

『そっか~。さすが十六夜さんだなぁ』

 

『・・・・・雄二。その時は・・・・約束』

 

『だってさ雄二。負けた時は楽しみだね!』

 

 

 

『・・・・ちくしょおおおぉおおおおぉっっ!!明久ぁ!今から死ぬ気で勉強するぞぉぉぉおおお!!』

 

『・・・あ、雄二・・・・・』

 

『あ、どっかに走ってったね。全く、雄二も最初からそうなってたら良かったのに・・・・でも、ありがとう霧島さんっ!おかげで僕が、明日以降も生きていられる可能性が出てきたよ!』

 

『・・・うん。・・・でも・・・・正直に言うと・・・・・・・言わなかった方がよかった、かも・・・・』

 

『そんな悲しいことは正直に僕の前で言わないで!雄二にだったらいくら何を言っても構わないからさ!」

 

「・・・同じくらい、ひどいと思う・・・」

 

「とにかく、女の子との約束のため明日の朝日のため!根性を見せてやるぞ吉井明久ぁああああ!!」

 

 

 

「・・・やっぱり、言わない方が良かったかも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回は色々と話が進んだ回となったので、ややこしかったり間違ったりしてるかもしれませんが、すみませんでした!

 原作では二日目に常夏コンビなんかが出てくるのですが、常夏コンビ、あと竹原教頭にも一日目の間に観念をしてもらいました!悪役方には早々に退場してもらって、ワイワイと騒がしい学園祭の方が面白いと思いましたので!

 いずれにせよ、決勝戦は紅十六夜姉妹ペアーと吉井坂本悪童コンビでございます!この形は最初から望んでいたので、上手くつなげることが出来て一安心ですね!

 何とかこの後も自分でも楽しめるような展開にして、なかなか長かった学園祭編に幕を降ろしていきたいです!

 それではまた次回!何か気になるところとかがあったら、遠慮なく感想に送ってください!

 



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入場―緊張、もありますが、やはり興奮が勝りますかね!

 どうも、村雪です!

 さてさて、ついに学園祭編も最後の山場、召喚大会決勝戦を残すだけとなりました!今回の一回では終わらず、何度かにわたって話が続いていくと思いますが、あのコンビのどちらが勝つのか。戦闘描写には相変わらず自信がありませんが、少しでも楽しんでもらえればっ!

 あとこちらは事務報告でございまして、まだまだ大安心!とはいかないのですが文章が少し溜まってまいりましたので、とりあえず来週の火曜日、9月6日にも投稿をしてみようと思います。

再来週はどうなるかは分かりませんが、とりあえず来週は週2で出させてもらいますね。不規則ですみません!


 それでは、残りも少なくなってきました学園祭編、

――ごゆっくりお読みください。


「おはようございまーす!」

 

「あ、おはようございます美鈴さん、妹紅ちゃん!」

 

「・・・・ん」

 

「おはよー、美鈴に妹紅。今日も頑張っていきましょ?」

 

「はい、頑張りましょう!」

 

「おお美鈴。今日も相変わらず元気だな~。さいきょーのチルノも顔真っ青だぜ」

 

「ふふん!よく分かってるじゃないまりさ!でも、アタイ髪の毛は青だけど顔は青じゃないのよさ?」

 

「いえいえチルノ。それは一つの比喩ですよ」

 

「ひゆ?」

 

 

 色々とバタバタ騒がしかった学園祭一日目の翌日。私はFクラスの教室に入ってそのまま女子の皆さんと会話をしていきますが、特に皆さんの様子に変わりありません。どうやら昨日の誘拐騒動のことはあまり気にしていないみたいですねー。

 

・・・まあ、勝手に騒いだり食べたり誘拐犯に注意したりでやりたい放題やっていた人たちなんですから、それで気にしてた方がおかしいですよねぇ。あの時はこのクラスの女子は肝っ玉がすごいというのがよ~く分かりました。

 

 

「おはようなのじゃ、紅」

 

「あ、おはようございます秀吉君。体調とかは大丈夫ですか?眠れなかったり、朝ごはんが喉を通らなかったりしてませんか?」

 

 

 秀吉君も昨日の誘拐騒動の被害者。男子とはいえ、心労となったのは変わりありません。

 

 

「む。心配してくれるのはありがたいが、大丈夫じゃ。今朝も普段と変わらずに朝を起きて、朝食を取ったのじゃ」

 

「そうですか?ならよかったです!」

 

「・・・男子の立場としては、―しが――しをしんぱ―し―かったのじゃがなぁ・・・」

 

「へ?」

 

 

 しんぱ?心配のことでしょうか?

 

 

「なんでもないのじゃ。それより、お主らは今日、召喚大会の決勝戦があるのじゃな」

 

「あ、はい。吉井君達と勝負ですよ!」

 

 

 決勝戦の時間は午後の一時。そこで私たちのどちらかが負け、どちらかが優勝するわけです!どんな勝敗になろうと、盛り上がること間違いなしの勝負となるでしょうね!

 

 

「て、あれ。その1人の坂本君の姿がありませんね?」

 

 

 吉井君は分かるのですが、坂本君は意外と早く登校していていつも私が教室に入ったらいるのですけれど・・・寝坊でしょうか?

 

 

「・・・・雄二と明久なら、屋上で眠っている」

 

「あ、土屋君。そうなんですか?」

 

「うむ。なんでも昨夜は寝ずに勉強をしておったそうじゃ。それで先ほど頼まれて、十一時まで眠らせてくれとのことじゃ」

 

 

「ほ、ほう。徹夜ですか・・・」

 

 

 どうしましょう。私は昨日疲れたから、八時くらいにはもう眠ってたんですけど・・・

 

 で、でも咲夜さんもいつも通りの時間に眠ってましたし、健康が第一です!咲夜さんに今まで教えてもらった自分を信じるのよ私っ!

 

 

「美鈴はどうなんだ?まあ美鈴のことだし、勉強せずに寝ちゃっただろ?」

 

「そ、っそそんなことありませんよ!私だって遅くまで勉強しましたよう!」

 

 

 さ、さすがは魔理沙。付き合いがあるので私のことをお見通しですか!でもちょっとカッコ悪いから、ここは見栄を張って―

 

 

「・・・・・ウソつけ。・・・あんた昨日、八時くらいに寝てただろ・・・」

 

「ちょっ!もも、妹紅さんそれを言ったらダメです!?」

 

「うはははっ!やっぱり美鈴らしいぜ~!」

 

「た、確かに紅らしいのじゃ」

 

「う、うるさい秀吉君魔理沙ぁ!眠りたいときに寝るのが一番じゃないですかーっ!」

 

 

 ぼそっとつぶやかれた妹紅さんの言葉に、一気に計画は頓挫しました。妹紅さん!人のプライバシーを勝手に言うなんてまったくもう!私に遠慮がなくなってきたみたいで嬉しさ九割その他一割です!

 

 

「ま、まあまあ美鈴さん!でも、私も美鈴さんらしくて安心しました!」

 

「うん。ウチもあんたらしいと思うわよ美鈴?」

 

「それはどうも瑞希さん島田さんっ!私は思わず涙が出そうです!」

 

 

 私らしいって!瑞希さん達に私はどんな女だと思われてるかすっごい気になります!

 

 

「あははは!メーリンったらそんなに早く寝るなんてお子様ねっ!最強のアタイは九時に眠ってるのよさ!」

 

「一時間しか変わってない!どっちもどっちじゃないですか!?」

 

 

 しかも眠る時間が短いのが大人ってわけじゃないし!眠れるときに眠ってあとは頑張るのが大人だと私は思います!(※今日の彼女の睡眠時間は約十一時間。眠りすぎも良くないのでは・・・)

 

 

「あーもう!とにかく皆さん!あと一日ですけど、精一杯頑張っていきましょう!私も午前中は頑張りますから!」

 

「・・・ん」

 

「はい!」

 

「そうね!」

 

「頑張るのよさっ!」

 

「おうっ!」

 

「そうじゃな」

 

「・・・(コク)」

 

 

 ともかく、今日で最後の喫茶店。それぞれが気合いを入れなして、服を着替え、喫茶店の準備を始めました。

 

 

 

 

 

 

 そして。喫茶店が開店し、少なくないお客さんの接客や料理を運んだりしているうちに、あっという間にその時間はやってきます。

 

 

 

「じゃあすいません。そろそろ私は抜けさせてもらいますね!」

 

 

 決勝戦の時間まで残り十五分。少々早いですが、時間にゆとりはあった方が良いので早めに切り上げさせてもらいます。

 

 

「分かりました!あとで私も見に行きますね!」

 

「頑張るのよ美鈴!って言っても、アキにも同じことを言うつもりだけどね!」

 

「あはは!そりゃそうですよね!」

 

 

 どちらも同じクラスメイトがいるんですから、片方だけの応援なんかは出来ません。私は笑いながら島田さん達の応援を受け取ります。

 

 

「おう美鈴!見てて楽しい勝負にしろよな!」

 

「そうよメイリン!つまんない試合なんかするんじゃないわよ!?」

 

「ぜ、善処はしますが期待はしないでくださいねっ!」

 

 

 それってすなわち接戦をしろってことですよね?下手に娯楽性を出して負けるなんて悲惨すぎますから、今のは聞き流す方向でいきましょう!

 

 

「・・・良い写真が撮れるよう、よろしくたの」

 

「咲夜さんの何かを撮ったら、カメラぶっ壊しますからね?」

 

「・・・・冷酷すぎる・・・っ!」

 

 

 当たり前です。咲夜さんに及ぶ魔の手はすべて私が払うつもりですから!!

 

 

「頑張るのじゃぞ、紅。応援してるのじゃ」

 

「・・・が・・・・頑張れば・・・?」

 

「はい!頑張ってきます~!」

 

 

 秀吉君、妹紅さんからのあたたか~い応援の言葉を受けた私は、感謝してその言葉を受け取って教室を出ました。

 

 

「咲夜さん!さっきぶりです!」

 

 

 そして、今回のペアーにして妹である咲夜さんと合流します。

 

 

「ええ。って、またその恰好なのね美鈴?」

 

「あ、はい。特に着替える理由もないので!」

 

 

 それに、私はこの緑のチャイナドレスを意外と気に入ってますからね!学園祭が終わったらめったに着る機会もなくなりますから、せっかくです!

 

 

「そう。・・・私としては、そんなす―き―姿―大勢に――れたくはないのだけど・・・」 

 

「?大勢がどうかしましたか?」

 

「ん、なんでもないわ。ただ、決勝戦は大勢のお客さんが来ると思ってね」

 

「ああ。それはそうでしょうね~」

 

 

 決勝戦ということなので、ただの観客に加えて、召喚獣というものがどんなものかを見に来ている来賓の方々も来ているそうです。これは気合いを入れていかないと、観客の迫力に負けてしまうかもしれませんね!

 

 

 

 

「あ、来たわね美鈴ちゃんと十六夜さん。こっちよ~」

 

「あ、どうもです紫先生!」

 

 

 会場前にたどり着くと、数学担当の教師にして、私が所属する園芸部の顧問である八雲紫先生が手招きをしていました。どうやらあそこで待機するみたいですので、咲夜さんと一緒に先生のもとへ歩み寄ります。

 

 

「2人ともすごいじゃない。まさか準決勝で三年生を打ち破るとは思わなかったわ」

 

「ありがとうございます。八雲先生は案内係ですか?」

 

「そうよ~。会場から入場の掛け声があるまではここで待機してもらうわ」

 

「了解です!じゃあそれまで待ちましょうか咲夜さん!」

 

「そうね。先生、あとどれくらいになりますか?」

 

「ん~。あと十分ってとこかしら。・・・あ、そうだ美鈴ちゃん」

 

「はい?」

 

 

 ちょいちょいと手招きをされたので、耳を近づけました。んん?咲夜さんには聞かせられないことなのでしょうか?

 

 

 

「―――永琳に聞いたわ。昨日は大活躍だったみたいじゃない?」

 

「・・・あ、あ~。いえ、昨日は色々とありましてね?それで少しドタバタと・・・」

 

「ええ知ってるわ。学園長もあなたに感謝してたわよ~?おかげであなたの顧問である私も鼻が高いってものよ!」

 

「そっちですか!それは確かに良いことでしょうけど!」

 

 

 えへんと胸を張る紫先生、とっても紫先生らしいですね~。そういう陽気なところが私は好きですよ!

 

 

「――でも、本当に感謝してるわよ。あなたのおかげで、文月学園は変わることなく続けられるんだからね?」

 

「・・・あははっ、それを聞けただけで満足ですよ!」

 

 

 別に学園のあれこれを知って動いたわけではないのですが、結果的にこうやって感謝を言われれば嬉しいものです!それが私の慕っている先生であればなおさらね!

 

 

「??何を話してるの2人とも?」

 

「あ、いえいえ。ちょっとこちらのことでね」

 

「ごめんなさいね十六夜さん。少し部活のことを話してたのよ~」

 

「はあ、そうでしたか?」

 

 

 咲夜さんには悪いのですが、このことは事のてんまつを知っている人にしか言えない内容ですからね!私と紫先生は笑って答えをにごしました。

 

 

 

 

 

『さてさてご来場の皆さん!長らくお待たせいたしました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行いまーーすっ!では、選手の方は入場してください!』

 

 

 そして十五分ほど、私たちは紫先生を加えて時間を過ごしていたら、昨日と同じ声によるマイク越しの招集が響き渡りました。

 

 

 

 

 

 

「さ、時間よ。2人とも頑張ってきなさい!」

 

「「はいっ!」」

 

 

 元気いっぱいの射命丸先輩のマイク越しの声が届き、紫先生にポンと背中を叩かれた私たちは、大勢でにぎわう会場へと歩を進めました。

 

 

 

 

『おっと!さあやってまいりました!最初の登場となったのは、2―Aクラス所属・十六夜咲夜さんと2―Fクラス所属・紅美鈴さんの2人です!皆様盛大な拍手でお迎えください!』

 

 

『うおぉぉぉ~~!』

 

『きゃ~~っ!!』

 

『咲夜~~~っ!』

 

『頑張れ咲夜さ~~~ん!』

 

『美鈴さ~~ん!!』

 

『メーリンメーリィィィンンッ!』

 

 

 

 

「おお、すごい声ですね。大人気じゃないですか咲夜さん」

 

「それはあなたもだと思うわよ、美鈴?」

 

 

 爆発音のような歓声と共に、パチパチと大きな拍手が会場に響き渡ります。それだけで多くのお客さんが見に来てくれていることが分かります!う~、やはり少しは緊張しますね!

 

 

『さて、この十六夜・紅ペアーですが、AクラスとFクラスという少し変わった組み合わせなコンビなのですが、その実力は確かなもの!なんと決勝戦の前の準決勝にて、我々三年生のチームも破っております!その容姿に加え、まさに才色兼備という言葉がピタリでしょう!』

 

 

 続く射命丸先輩の実況に、さらに場は盛り上がります。いやいや、才色兼備だなんてお上手ですね~!でも確かに咲夜さんにはお似合いの言葉です!よくぞ言ってくれました射命丸先輩!

 

 

「さて、あとは相手を待つだけですね」

 

「相手、ね。・・・正直な話、あの変態が来るとは思っていなかったわ」

 

「へ、変態って!もう少し別の言い方をしてあげないとかわいそうですよ咲夜さん!?」

 

「ふん。あの男にはこの言葉で十分よ」

 

 

 少しだけムスッとした態度をとる咲夜さん。さ、咲夜さんはなぜか吉井君に冷たいんですよね~。確かにまあ、吉井君が変態に属する行為をやっているのは事実なんですけど、その呼び方はいかがなものかと・・・

 

 

 

『あやや!そんな彼女たちの対戦相手の入場です!』

 

 

 

「ん。では、頑張りましょうか咲夜さん」

 

「ええ美鈴。最後の一試合、頑張りましょう」

 

 

 

 そんな言い合いをするのも、彼らが入場するとアナウンスされるまで。

 

 さあ、やる気は十分!良い勝負をしようじゃありませんか!坂本君!そして吉井君っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか。吉井に坂本」

 

「「すいません。間違えました」」

 

 

 召喚大会の会場前まで歩いた僕と雄二。そこで待っていたのは、もはや僕の中では鉄人も凌駕すると思えてしまうほどの女性教師、八雲藍先生だった。

 

 

 僕たちは迷うことなく来た道へともど

 

 

 

「(がしっ)何を戻ろうとしている。こっちだ」

 

「いやあーっ!お願いします八雲先生!雄二はどうなってもいいから僕だけでも助けてぇぇぇえ!!」

 

「俺を囮に逃げようとしてんじゃねえぇええ!明久を差し出すから俺の方を見逃せちくしょおおおっ!」

 

 

 首根っこを押さえられた僕たちはずるずると引きずり運ばれる!くそおおお!!まさか八雲先生が待ち構えているなんて誰が夢に思うんだよぉおお!?悪夢でもここまでひどい現実は予想できなかったに違いないよこんちくしょーっ!

 

 ううう・・・!!どうやら僕たちは、召喚大会決勝戦の前にあの世へとおさらばしてしまうようだ。一度で良かったから、お腹いっぱいにご飯を食べたかったなあああ・・・!

 

 

 

「何をごちゃごちゃ言っている。ほら、ここで待っていろ」

 

「え?」

 

 

 ところが、ことのほかすぐに僕たちは解放された。あれ、橙(チェン)ちゃんのことで怒ってるんじゃないの?

 

 

 僕と雄二は恐る恐る八雲先生を見上げてみた。

 

 

「私はお前たち二人を案内する役を請け負っているだけだ。恐れるのは勝手だが、それならば決勝戦に向けて気合いでも入れておいた方がましだと私は思うがな」

 

 

 腕を組みながら僕たちを見下ろす八雲先生は、少し呆れた様子なだけで怒っている気配はない。

 

 どうやら先生の言う通り、ここにいたのは僕たちの案内をするためだけのようだ。

 

 

「な~んだ!それだったら最初からそう言ってくれればよかったじゃないですか八雲先生!思わずこの世での未練は何かを考えちゃいましたよ!」

 

「そうだ八雲先生。俺もついにダメかと思ったじゃないか」

 

「私が口を開く前に逃げようとしたのはお前たちだ。・・・・それに、貴様に関しては思うことがなくなったわけでは断じてないぞ、吉井明久」

 

 

 あ、違う。昨日のことを全く許してくれてないやこれ。少し目を細める八雲先生の顔には、間違いなく僕への敵意が宿っていらっしゃる。こんな特別扱いは受けたくなかったなあ・・・

 

 

「明久。えらい八雲先生に目の敵にされてるが、何かしたのか?」

 

「あー、うん。ちょっと橙ちゃんのことでね」

 

「・・・だろうな。明久、その名前を今これ以上出すのはよせ。八雲先生が殺気立った目でお前のことを睨んでいるぞ」

 

「え、ほんと?」

 

「・・・おのれ・・・!!あの時あの場に貴様がいなければ・・・っ!」

 

 

 うん。確かに八雲先生がさっきの鬼神のような形相になりかけてる。また命の危機にさらされるのはご免だから、全身全霊で注意しよう。

 

 

「と、ところで美鈴さん達は僕達とは違う場所で待ってるのかな?」

 

 

 話を逸らす目的で、僕は気になっていたことを聞いてみた。準決勝までは皆同じ場所から入場していたし、時間に遅れなければどのタイミングでも入ってよかったのに、この決勝では僕たちはここに来るように指示をされていた。ということは、やっぱり美鈴さんも違う場所で待機してるんだろうか?

 

 

「多分そうだろうな。俺たちに八雲先生が係員みたいな仕事をやってくれるぐらいだから、向こうでも誰かが同じことをやってるんじゃないか?」

 

「・・・向こうの紅や十六夜達にはねえさ・・・紫先生がついている。同じ場所から入場するより、別々に入場する方が良いそうだ」 

 

 

 雄二の予想に、落ち着きを取り戻した八雲先生が付け加えて説明をしてくれた。〝そうだ〟ってことは、さては学園ババァ長の指示だな?確かに僕もそう思うなあ。だってマンガなんかでもそうやって登場した方が盛り上がるもんねー。

 

 

・・・ところで、気になったんだけど・・・

 

 

「あの。八雲先生って、お姉さんのことを〝紫先生〟って呼んでるんですか?」

 

「・・・そうだが、何か問題があるか?」

 

「あ。そ、そうわけじゃないですけど、〝お姉さん〟とかそういう姉妹らしい呼び方じゃないなーって思って」

 

 

 僕にもお姉さんがいて、彼女とはここ数年一度もあっていない。それに加えて両親も海外だから、僕は現在一人暮らしだ。

 それ自体は気にしてない、というか思いっきり気に入ってるんだけど・・・・ごくたまに、ふと寂しくなるんだよね。だから、今の八雲先生の言い方にちょっと寂しさを感じるというか・・・

 

 

「・・・学校ではそう呼ぶようにしている。まあ、姉さんは普通に私のことを名前で呼んでるがな」

 

「でも、それだとなんだか寂しくないですか?なんか距離をとっているというかなんというか・・・」

 

「ふん。貴様にとやかく言われることではないと思うがな」

 

「うっ」

 

 

 先生の言葉はもっともだ。人の家のことに口を挟むのはやっぱりまずかったかな?

 

 

「・・・だが、答えるとすれば、その懸念は無意味だ」

 

「へ?」

 

「呼び方が変わろうと、私が姉さんを慕っていることには変わりない。ただの呼び方の一つで関係が崩れるほど、私たち姉妹は絆が浅くない」

 

 

 そう言って、八雲先生はスーツ越しの女性らしい胸を少し張ってみせた。へ~。紫先生が妹の藍先生のことを大好きだって話は聞いたことがあるけれど、それは八雲藍先生も同じだったみたいだ。

 

 橙ちゃんばかり溺愛してると思ったんだけど、ちゃんとお姉さんのことも大切に思ってて、藍先生は家族を大切にしてるんだね。良かった良かった。

 

 

 

「・・・・なんだその顔は。橙にまた手を出してみろ。今度こそ貴様を消すぞ、吉井明久」

 

「今も前もこれからも一切出しませんよ!?」

 

 

 でも生徒にはものすごく厳しい。家族としてはいいんだけど、先生としてはもう少し精進してもらいたいところだ。

 

 

『さてさてご来場の皆さん!長らくお待たせいたしました!これより試験召喚システムによる召喚大会の決勝戦を行いまーーすっ!では、選手の方は入場してください!』

 

 

「お、いよいよだな」

 

「み、みたいだね」

 

 

 今まで黙っていた雄二が、聞こえてきたアナウンスの声に会場の方へ向く。今の元気な声は射命丸先輩に違いない。学園の生徒が実況をしているとなれば、見に来た人の関心も集まるだろうし、何よりこんな生徒がいるってことをアピールできる。それに抜擢されるなんて、意外と射命丸先輩はすごかったのかー。

 

 

「時間だな。では2人とも、頑張るようにと言葉だけ伝えておく。せいぜい頑張るんだな」

 

「そこは出来れば思いも込めてほしかったです、八雲先生」

 

「ふん。大事なのは私の言葉なんぞより、お前たちの持つ気概だろう。私の言葉などあてにせず、自分の力を信じて戦うんだな(バシッ)」

 

「あいてっ」

 

「うおっ」

 

 

 

 そう言って八雲先生は、僕たちの背中を少し強めに叩いた。いたた、容赦ないなあ。

 

 

「ほら、行ってこい。皆がお前たちをお待ちかねだ」

 

「じゃ、じゃあ行こうか雄二」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 八雲先生からのありがたい激励を受けとった僕たちは、騒ぎ立つ会場へと歩みだした。

 

 

『あやや!そんな彼女たちの対戦相手の入場です!皆さん!盛大な拍手でお迎えくださーーーーいっ!!』

 

 

 元気いっぱいな射命丸先輩の知らせに、元々騒がしかった会場が一段と盛り上がる。思わず、僕も心臓の鼓動が早くなった。

 

 

『背の大きな男子が2―Fクラス所属の坂本雄二君で、もう一人の男子が、同じく2―Fクラス所属、吉井明久君です!なんと彼らはともに学年最下位のFクラスでありながら、この決勝戦まで進んできました!先の紅美鈴さんも2年Fクラスであり、なんと4人中3人が2年Fクラスということになりますっ!これはFクラスの学力を改めなければいけないでしょうね~!』

 

 

 

「射命丸先輩、嬉しいことを言ってくれるね」

 

「だな。おかげでFクラスの印象がぐっと変わってくるな」

 

「うん。姫路さんのお父さんも聞いてくれてたかな?」

 

 

 姫路さんが言うには、この会場のどこかに彼女のお父さんがいるそうで、今の実況を聞いていたら、Fクラスへの目の向け方が変わったに違いない。昨日色々とぶちまけてくれたことはまだ忘れてないけど、今は先輩に心の底から感謝しなくちゃね。

 

 

 

「・・・だが明久。いくらFクラスの評判が上がろうと、俺たちは絶対に勝たなければならないことを忘れるな」

 

「・・・それもそうだね。あの2人に勝たなくちゃ、ね」

 

 

 神妙な顔で忠告をする雄二にうなずき、僕は改めて前方の2人の敵を見据えた。

 

 

 

 

「いや~。まさか吉井君達と決勝戦をすることになるとは、まったく思っていませんでしたよ~。すごかったんですね2人とも!」

 

「ふっ。勝負を決めるのは必ずしも点数ってわけじゃないってことだ、紅」

 

「おお、それは油断できません。気合いを入れないといけませんねっ!」

 

 

 元気な笑いを浮かべながら雄二の理論を否定せずに聞き入れる一人は、雄二に負けないぐらい背が高い女の子、紅美鈴(ホン メイリン)さん。普段はその明るさに安心させられるけど、今、今回だけに限っては、その不安の無さがとても脅威だ。

 

 

「その通りよ美鈴。油断はしたらいけないわ。相手には学年トップクラスのド変態がいるんだから」

 

「十六夜さん、それって雄二のことだよね?」

 

「それを本当に言ってるのなら、あなたには鈍感の称号も・・・・・・って、もう既に持っていたわね、ごめんなさい」

 

「知らないうちにひどい称号を所持してることに、僕はもの申したいっ!謝るならそっちを謝ってよ十六夜さん!?」

 

 

 そして全く僕には心当たりのないひどい呼び方をしてくる二人目は、2年Aクラスの秀才にして、美鈴さんの妹であるという十六夜咲夜(いざよい さくや)さん。今日も綺麗な顔をして僕の心を容赦なくえぐってくるよ。

 

 

「何を言ってるのだか。百歩譲ってド変態を変態にするにしても、そちらについては確たる理由を持って断言できるわよ」

 

 

 あ、百歩譲ってやっと『ド』が取れるんだね。僕、そんな変態みたいなことを言ったことがあるかなあ・・・?(※何度もあります)

 

 でも、それはともかく・・・『確たる理由』?

 

 

「えっ?そ、それってどんな理由なの?」

 

「・・・あなたが気づいていないから、よ。あとは自分で考えなさい」

 

「ええ!?雑っ!確たる理由って言う割には大ざっぱすぎないかな!?」

 

 

 それだったらRPGで酒場に出て来る人の情報の方が、ずっと役に立つと思うよ!?あの人たちはそんな見放すような助言はしないぞ十六夜さん!

 

 

「ふん。知りたいんなら本人に聞きなさい。私が勝手に言うわけにはいかないでしょうが」

 

「え、本人?」

 

 

 本人って、十六夜さんが言い出したんだから十六夜さんが〝本人〟じゃないの?それとも、他にも僕を鈍感と思ってる人がいるのかな?もしそうなら、その人にもビシッと間違いだと言わなければ。

 

 

「・・・まあなんにせよ、今はそのことを考えるんじゃなくて、目先のことを考えるべきだと思うけれど?」

 

「・・・うん、それもそうだね!」

 

 

 冷たいことばかり言う十六夜さんだったけれど、こういう時は正しいことを言ってくれる。そんな生真面目なところは確かに美鈴さんに似ているなあ。

 

 ともかく、僕たちも気合いを入れないとねっ!

 

 

「十六夜さん、美鈴さん!この勝負は絶対僕らがもらうよっ!」

 

「そうだな。この勝負、たとえどんな苦戦になろうとも、俺たちが最後に笑わせてもらうぞ!」

 

「おっ!言いますねえ~!?」

 

「自信満々ね。何か秘策でもあるのかしら?」

 

 

 僕たちの決意溢れる宣言に二人も不敵な笑顔になる。ふっ、秘策だって?

 

 

 

 

「いいや。そんなものはない」

 

 

「へっ?な、ないんですか?」

 

「その通り。僕たちは小細工なしでガチンコ勝負を挑むつもりだよ」

 

「・・・じゃあ、なぜそれほど自信満々な態度なのかしら?」

 

 

 驚いた顔をする美鈴さんと、予想が外れたと少し疑わしげな顔をする十六夜さん。僕たちが何も策を練らずに勝負をしようとすることがよほど信じられないみたいだけど、これは本当のこと。ウソなんかじゃない。

 

 なにせ今は決勝戦でいろんな人の目がある。そんな中で卑怯な手段をとってしまったら、来賓の人から一般客まで、どんな悪評がたつのか分からない。だからこそ僕たちは真剣勝負で二人に戦いを挑む、というか挑まないといけないんだよ。

 

 

・・・・じゃあ、どうしてそんな状況の中、こんなに自信を持って勝負に挑んでいるのか?

 

 

 

それこそ実に、単純明快な答えさ。

 

 

 

 

 

 

「「―――たとえ何がなんでもっ!!明日の朝日のために勝たなきゃいけないからだ(よ)っ!!」」

 

 

 

「は?」

 

「はい?」

 

 

 雄二は霧島さんとの婚約―奴曰く〝地獄の始まり〟を。そして僕は、お金の恨みによって博麗さんに葬られるのを避けるためっ!

 動作の妨げになる一切の恐怖、不安を捨てて自信だけを前に!それぐらいの意気込みで挑まなきゃ、この2人には絶対にかなわない!

 

 

 だから、この勝負だけは!他の全てのことを忘れ去って、2人に勝利することだけに専念すると決めたんだっ!僕達だってまだまだ命が惜しいんだよおっ!

 

 

『さあ!それでは説明も終わりましたことですし、始めるとしましょうか!』

 

 

 射命丸先輩はどうやら僕達が話し込んでいる間に、召喚勝負のルールを知らない人のためにルール説明をしていたみたいだ。昨日の実況からは全く想像ができない、気の利いた実況さんである。

 

 

 ともかく、それが終わったということはいよいよ運命の勝負決勝戦が始まるということだ。ここからは知り合いも何もない。彼女たちはただ僕たちの・・・・最後の強敵だ!

 

 

「さて、では4人共。科目は日本史で、私が立会人を務めさせてもらう」

 

 

 そう言って僕たちの間に立ったのは、日本史担当の上白沢先生。昨日の嘆いている姿は夢だったのかと思えるほど、いつもどおり堂々とした顔で僕たちを見つめる。

 

 

「互いに悔いの残らないよう、全力を出し切るような勝負に発展することを祈る。では、4人共。召喚獣を召喚してくれ」

 

 

 上白沢先生の言葉に僕たちは一気にやる気を高める・・・!さあ、昨日一晩中頑張った僕に、恥をかかせないような結果を出さないとね!

 

 

 

「試獣召喚(サモン)ッ!!雄二っ!僕の召喚獣は木刀だから、十六夜さんは任せて!雄二は素手の美鈴さんを頼むよ!」

 

 

「おうっ!任せやがれ!試獣召喚!!」

 

 

「試獣召喚っ!咲夜さん!最後の試合、勝ちますよっ!」

 

 

「無論よ、この変態だけには負けられないわ・・・!!試獣召喚っ!」

 

 

 

 4人の召喚獣がフィールドに表れることで、観客席はより興奮した声を出し始めた。

 

 

 そして、

 

 

『さあ!それでは始めてもらいましょうかっ!文月学園召喚大会、最後の決勝戦!勝つのは果たしてどちらか!?―――勝負、開始ぃぃいいいい!!』

 

 

 

 射命丸先輩により、召喚大会決勝戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 さあ!絶対に僕らが勝たせてもらうよ!十六夜さん、美鈴さんっ!

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 最初に戦闘描写があーだどーだと言っていましたが、今回は導入場面だけとなっちゃったので今回は関係ありませんでしたね。すいませんでした!

 しかし次回には間違いなく戦闘描写が入りますので、次の回を読むときにはそこを留意しておいてくださいませ!

 さて、字数の関係上、結構中途半端なところで切ってしまったかもしれませんが、前書きにも書いたよう、次は少し早めの投稿となります!なので、不完全燃焼になられた方、そして次回を楽しみにしていただける方々!な戦闘面にあまり過度な期待はせずに、お待ちくださいませ!

 それではまたっ!


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努力―バカ、でもやるときは出来るものだったよ

 どうも、村雪です!言っていました通り今日も投稿させてもらいますね!

 そしてさっそくですが、もはや『どんだけ自信ないんだよあんた!』って思われるでしょうが再び!

――村雪は戦闘描写が苦手ですので、あんまり過度な期待はしないでくださいねっ!前回も言いましたのに、しつこい性格ですみません!


 今回も実に中途半端なところで切れたかもしれないのですが、字数の関係上お許しください!

――ごゆっくりお読みください。



『勝負、開始ぃぃいいい!!』

 

 

「ふっ!行きますよぉっ!」

 

 

 射命丸先輩の声高の開幕宣言と同時に、私は召喚獣を走らせます!狙いは、私と同じく拳が武器である坂本君の召喚獣です!

 

 

「!俺が狙いかっ!」

 

「その通りです、よおっ!」

 

 

 でえい!左ストレートォオ!!

 

 

「っと!そう簡単にくらうかってんだ!おぉらあっ!」

 

 

 右に逸れることで回避した坂本君の召喚獣は、メリケンサックが付いた拳を私の召喚獣の横っ面へと加速させてきました!ずるい!私は何も装備を付けてないのにぃ~!

 

 

「それは私も同じですっ!ふんっ!(パシッ!)」

 

 

 ですが当たらなければそれも意味がなし!迫る拳を、空いた右腕で下側から払いあげます!

 

 

 

「!まだまだぁ!(ブンッ!)」

 

 

 腕を打ち上げられた坂本君は、そのままもう一度突きを放ってきました。が、その間に召喚獣の態勢を直せたので問題ありません!

 

 

「よっ!(バシイッ!)」

 

 

 

「ちっ!?」

 

 

 坂本君の召喚獣の腕を右腕で握らせて、攻撃を押さえます。さあ、隙アリですよ!

 

 私は召喚獣の左腕へと力を込めさせ、坂本君の召喚獣の顔へと殴り掛からせますっ!

 

 

「てええいっ!」

 

「うおおっとっ!?(ガシッ!)」

 

 

「むっ!」

 

 

 しかし、坂本君の召喚獣もギリギリのタイミングで攻撃を受け止めました。お見事坂本君っ!

 

 でも、ここは引きませんよぉっ!

 

 

「むぅううううっ!!」

 

「うおおっ!?ち、力押しかよ!?」

 

 

 寸前でガードをされたので、当たるまではあとわずか!せっかくのチャンスを逃しませんよお!

 

 

「――そぉおおおおいっ!!」

 

 

ドゴッ!

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

 

『2-Fクラス 坂本雄二 日本史 226点 

         VS

 2-Fクラス 紅美鈴  日本史 289点 』

 

 

 

 よし初ヒットです!勢いが消されてたので50点ほどしか減らせていませんが、良しとしましょう!

 

 

「くっ、やってくれるな紅。十六夜がいなければなんとかなるってたかを括ってたんだが、やはりそう上手くはいかないみたいだな」

 

「ふふふん!咲夜さんはすごい賢いですからね!それに日本史は結構好きですから、こんな私もおかげさまで人並みの点数ですよ!」

 

「人並みは十分に超えてると思うがな。全く、Aクラス戦の時はありがたかったが、今ばかりは恨みたくなるぜ」

 

「ひどいですねー。Fクラスの代表なんですから、クラスメイトが努力していることを褒めてくださいよう!」

 

 

 互いに召喚獣の距離を取らせながら軽口を言いあいます。しかし、私の点数をほめてくれるのは嬉しいのですが、そう言う坂本君も十分すごいです。なんせAクラス戦の一騎打ちでは、小学生レベルの百点満点の日本史で半分ぐらいの点数だったのですからね!すごい発達じゃないですか!

 

 

「なんだっていいさ。ともかく、紅が俺の敵という状況には変わりはない。たとえ勝てなくとも、絶対に点数は削ってみせるから覚悟するんだな」

 

 

 

「・・・ん?坂本君??」

 

 

 わ、私の捉え方がおかしいのでしょうか?今の坂本君の言い方に、少し尋ねたいことが・・・

 

 

 

 

 

「もしかして・・・吉井くんが、咲夜さんに勝つと踏んでられますか?」

 

 

 

 いや、決して吉井君を安く見ているわけではないんですよ!?で、でも咲夜さんは私に勉強を教えてくれた、言うなれば先生!間違いなくこの4人の中では最高得点を所持しています!

 

 そんな咲夜さんに・・・そ、その・・・・・・大きく点数が劣っている吉井君が勝つのは、難しいのではないのかと・・・!

 

 

 

「ああ。おれはそう踏んでいる」

 

「ほ、ほう?」

 

 

 しかし、坂本君は私の否定的な考えにかぶせるように、自信ありげに宣言しました。

 

 

 

「―――今のあのバカは、そう一筋縄ではいかないと思うぞ?紅」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・失礼な言い方をして悪いけれど、正直、変態のあなたが1人だけで私と戦おうとするとは思っていなかったわ、吉井明久」

 

「十六夜さん。僕が1人で挑むことについてはそう思って当然のことだと思うんだけど、悪いと思っているのならその変態って呼ぶところだけはやめるべきだと僕は思うんだよ」

 

 

 雄二と美鈴さんがぶつかりあっているのを横目に、僕と敵である十六夜さんは、召喚獣を動かさずに口を動かしていた。

 

 なんだかんだで話したりしばかれたりしめられたりしてるけど、2人だけで話すのは初めてじゃないかな?相変わらずの十六夜さんの毒舌に突っ込みながら、僕はそんなことを思った。

 

 

「ふん。でも事実でしょうが。・・・・気持ちを害す言い方になってしまうのだけれど・・・どうして、私に一人で勝負を挑もうとしたの?」

 

 

 十六夜さんはそう言うけれど、その顔は本当に純粋に不思議そうな顔。決して僕のことをバカと思って言った言葉ではない。その気配りを変態の方に回してくれたらなあ・・・

 

 ま、それはともかく。

 

 

「あー、そんな大した理由じゃないよ?ただ、剣には剣。拳なら拳で勝負をした方が良いと思ってね」

 

 

 雄二の召喚獣はメリケンサックがあるとはいえ、ほとんど素手のようなもの。それなら似たような攻撃をする美鈴さんと、木刀を持つ僕の召喚獣は十六夜さんと勝負をした方がいいんじゃないかと僕達は結論づけたんだ。

 

 

「・・・まあ、木刀も確かに武器ね。鉄ではないから、あまり迫力はないけれど」

 

 

 そう言って十六夜さんは召喚獣に、武器である短いながらも鋭い光を放つ銀のナイフを構えさせた。話はここまで、ということかもしれない。

 

 

「――でも、召喚獣がどんな武器を持っていようと、あなたにだけは絶対負けたくないわ」

 

 

 ううん。かなり敵視されてるなあ。僕にはそんな気は全くないんだけど・・・

 

 

 

『2-Aクラス 十六夜咲夜 日本史 361点』

 

 

 そんな彼女の点数は、やはりAクラスなだけあってかなり高い。美鈴さんが勉強を教えてもらって学力が上がったっていうのもうなずける。

 

 

 

 

「・・・僕、あまり勉強が好きじゃないんだ」

 

「?」

 

 

 だから、姫路さんや十六夜さんみたいな勉強のできる人はすごいと思う。僕なんかじゃ比べ物にならないぐらい頑張って努力し、勉強をしてたりするんだろう。

 

 

「雄二とかムッツリーニとか秀吉、あと魔理沙や一応チルノなんかとバカをして過ごすのはとっても楽しいし、これからも僕は、変わらず皆とバカやって高校生活を過ごすと思うんだよ」

 

「??それがどうしたのかしら?」

 

 

 十六夜さんは何が言いたいのかと、少し首をかしげながら僕に問いかける。うん、前置きなんて僕らしくなかったよね。

 

 

 僕が今言いたいことは・・・・・・

 

 

 

 

「そんな、バカと頻繁に言われちゃって最近本当にバカなのかなって思ったこともある僕だけど―――」

 

 

 

〝大事なのは私の言葉なんぞより、お前たちの持つ気概だろう〟

 

 

 

 ついさっき八雲藍先生が送ってくれた、少し厳しい応援の言葉だけれど――――

 

 

 

 

 

 

 

「―――昨日からこの瞬間に限って、僕は自分に自信を持っていいと思ってる」

 

 

 

 

 この時ほど心強く、頼もしいと思える言葉は絶対ないだろう。

 

 

 

 

 

 

『2―Fクラス 吉井明久 日本史  253点』

 

 

 

「!?・・・・な・・・っ!?」

 

 

 僕の点数に気づいた十六夜さんの顔が驚愕に変わった。それだけこの点数が衝撃だったんだろうけど、僕自身も驚いた。人間、何かがかかってたら信じられない力を発揮するもんだね!

 

 

 

「行くよ十六夜さん!明日の朝日を拝むために!」

 

「!なんのことかは知らないけれど、やれるもんならやってみなさい!この変態がっ!」

 

 

 ひどい言い方だけど、じゃあお言葉に甘えようじゃないか!

 

 

「よしっ!いくんだ召喚獣!」

 

 

 おなじみの木刀を構えさせ、召喚獣を十六夜さんの召喚獣へと急接近、ってうわっ!こんなに早く動くんだ!高得点ってすごい!

 

 

 さあ!まずは横からだっ!

 

 

「でいっ!」

 

「っ!(ガキンッ!)せいっ!」

 

「おっとと!」

 

 

 十六夜さんのナイフは右と左に一本ずつ。木刀を防いだ方とは反対側のナイフで、僕の召喚獣のお腹へ刺しかかってきた。けどすぐさま木刀を迫りくるナイフの軌道上に動かし、なんとか防御に成功する。

 

 まったく、武器が二つってのはうらやましいねっ!僕は一本の上に鉄ですらないってのに!

 

 

「――でえいっ!(ギインッ!)」

 

「!?」

 

 

 その代わり威力自体は低いみたいで、意外と難しくなく木刀ではじき返せた。さあ、次こそ!

 

 

「そぉおおおおいっ!!」

 

 

 はじかれて隙が出来た十六夜さんの召喚獣の胴に、竹刀の横払いをかます!

 

 

 

バシイッ!!

 

 

『2―Aクラス 十六夜咲夜 日本史 274点』

 

 

「・・・!!くっ・・・!?」

 

 

 よしっ、今度は当たった!はじき返されてのけぞった一瞬の間はさすがに防御に回れなかったみたいだね、十六夜さんっ!

 

 

 

「やっ!!(シャッ!)」

 

「うわっと!?」

 

 

 でもさすが普段から冷静な十六夜さん。すぐに体制を整えさせて、右のナイフを振り下ろしてくる。僕は慌てて後ろに下がり、彼女と距離を取った。

 

 

「やってくれるわね・・・悔しいけど、先制攻撃はそっちよ」

 

「うん。これでまた勝負は分からなくなったよ」

 

 

 十六夜さんと僕の間にあるのは、圧倒的な点数差。それさえ無くすことができれば、僕にとって最大の武器、召喚獣の操作の経験が活きて、勝負の流れは僕に傾くと思う。

 

 とにかく、今僕が注意することは点数を減らされないことだ!そうすればあとはなんとかなる!

 

 

「勝負が分からなくなっても、私があなたに負けたくないという気持ちは本物よ」

 

「あいにく、負けられないのは僕もだよ十六夜さん!」

 

 

 約束のためお金のため明日の朝日を拝むため!僕の背中にはそんな重すぎるものがのっかってるんだ!

 

 

「ふん!たとえ勝とうにせよ簡単には勝たせないわ!」

 

 

 そこで言葉を区切って、十六夜さんは召喚獣に僕の召喚獣へと接近させ始めた。さあ来い!返り討ちにしてあげるよっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いや。純粋にマジで驚きました」

 

「だろ?今のあいつはただのバカじゃないってな」

 

 

 近くで咲夜さんと交戦している吉井君の点数に、私は心の底からびっくりしました。あの吉井君が、よもやあんな点数を取れるなんて・・・私は夢でも見ているのでしょうか?

 

 

「やれやれ、明日にでも大雪が降るんじゃないかと俺は不安だな」

 

「今ばかりはその言葉に賛成ですね。大変吉井君には失礼なのですけれど」

 

 

 あれほど高い点数。よっぽどこの決勝戦で勝利を収めたいと思っているのが伝わります。その熱意を普段から出していれば、バカバカ言われることもなくなるでしょうに・・・

 

 

「ところで、そんな高い点数を取ってまで、どうして吉井君は私たちに勝ちたいんですか?坂本君達はもう最初の目的を果たしてるんでしょう?」

 

 

 昨日の放課後の話だと、吉井君達が召喚大会に出たのは、大会で優勝するのを条件にFクラスの改善修正をすると学園長に言われていたからだそうです。

 

 しかしそれは実際、学園長が吉井君に取引を持ち掛けたかったから言っただけで、実際は自分たちが費用を出すなら構わないということ。確かに普通に考えたら、生徒の健康に被害が出ているのに修繕を許さないってのはおかしいですものね~。学園長さんも事情はあったとはいえ、ひどい話ですよ!

 

 

 

「・・・決まってる。俺が婿入りする事態を避けるためだっ!」

 

「へ?」

 

 

 そんな私の疑問の答えは、とんちんかんな言葉で戻ってきました。あー、そう言えばそんなことを最初に言ってましたけど、すいません。何がどうなればそんな不安に駆られるようになるんでしょうか。私にはさっぱりわかりません。

 

 

「俺は自分のために、この勝負に勝たなければならないということだ!うおおおっ!」

 

「って、わわ!」

 

 

 詳しい説明をしてくれるでなく、坂本君は止めていた召喚獣を動かし始めました。ちょ、私は全く構えていませんでしたのに汚いですよっ!?

 

 

「紅!俺の幸せな未来のために、ここで潔くやられてくれ!」

 

「バ、バカ言わないでください!それだったら坂本君こそ、私たちのお財布事情のために漢を見せて婿入りでもしてください!」

 

「それこそバカ言うなだバカ野郎ぉぉおおお!!」

 

 

 メリケンサックの拳をけしかけてくるので、私も素手の拳で迎撃します。ほらっ、隙だらけですよ!

 

 

「ていっ!(ガツッ!)」

 

「う!?」

 

 

『二年Fクラス 坂本雄二 日本史 176点』

 

 

 肘打ちを受け、点数が下がった坂本君の召喚獣がここでよろめきます。よしっ、ここで一気に畳みかけましょう!

 

 

「行きますよ!そろそろお覚悟を、坂本君!」

 

 

 私は召喚獣に隙を作らせないよう、注意を払いながら坂本君の召喚獣へと突き、蹴りなどの攻撃を連発させます!

 

「そらそらそりゃぁぁああっ!」

 

「うおおお!?っと、ぐっ・・・!よ、容赦ないな紅!」

 

「それだけ私も勝ちたいってことですよっ!とうっ!」

 

「それは俺も同じだっ、おおおっ!?」

 

 

 ここでさらに一蹴り、召喚獣のわき腹に命中です!これは効いたのでは!?

 

 

 

『2年―Fクラス 坂本雄二 日本史 92点』

 

 

「っし!あとちょっと!」

 

「そ、そう何度もはくらわねえぞ!次はこっちの番だ!」

 

 

 そこで、反撃と言わんばかりに受けばかりだった坂本君の召喚獣がラッシュへと移ってきました!っと、なかなか早いっ!?

 

 

「お、とと、うわわわっ!?」

 

「オラオラおらおらあぁあああっ!!」

 

 

 あ痛っ!こめかみに一発です!私は痛くないですけど、こういう時って思わず言っちゃいますよね!

 

 

「や、やってくれましたね坂本くん!最後のあがきってやつですか!?」

 

「違うな!火事場のクソ力ってやつさ!おおおお!!」

 

 

 おわわわ!?な、なるほど!この怒涛の攻め!確かに追い詰められてこそ出てきたパワーって感じです!召喚獣にそんな仕組みがあるのか大変疑問ですけどね!

 

 

「上っ等です!ならば返り討ちにしてやりますよーっ!」

 

「地獄か勝利か!俺は勝利するしか道はねえんだぁぁあああ!」

 

 

 互いに譲らぬ意気込みを叫び、全身全霊を注いで召喚獣を操作します。

 

 

「はあああああああっ!!」

 

「おおおおおおおーっ!!」

 

 

 互いの拳が防ぎ、殴りあう真剣勝負。それを見てか、観客は一気に声を大きくします。さあ皆さん!しかと私の勝利をするであろう瞬間を見ていてくださいねっ!

 

 

「せいっ!!」

 

 

 召喚獣のお腹めがけて左の拳を叩きこ――

 

 

 バシッ (坂本君の召喚獣が、私の召喚獣の左手をはたき落とした音)

 

 

「!」

 

「おおおっ!(ゴオッ!)」

 

 

 ことは叶わず、逆に私のもとへと召喚獣の左拳が迫って、やばっ!

 

 

「っとと!?(バシッ!)」

 

 

 ふう!なんとか防げ――

 

 

「ふんっ!(ゴキンッ!)」

 

 

 

 

「ふべっ!?」

 

 

 ず、頭突きが顔にっ!?手を使わずに攻撃をするなんて卑怯ですよー!(卑怯ではないし、蹴りを放ったあなたが言わないでください)

 

 

「おらああっ!!」

 

 

「あだだっ!?」

 

 

 私のいちゃもんが漏れていたのか、頭突きの次は肩へのグーパンチ!さ、さっきのやり返しですっ!というか、ま、まさか二連続で攻撃を受けるとはっ!て、点数の方はっ!?

 

 

 

『2―Fクラス 紅美鈴 日本史 101点』

 

 

 げ!だ、だいぶ減ってますね・・・!これはちと流れが良くない模様っ!

 

 

「ふんっ!」

 

 

 おまけとばかりにもう一発を放つ坂本君。が、これで決めてやりましょうっ!

 

 

「ふっ!(ガシッ)」

 

 

 向かってくる右ストレートを、今度はしっかりと左手で掴ませます!これでもう逃げられませんよ!

 

 

「くっ!?」

 

「坂本君!きっと良い未来を築けますから!」

 

「ああ!?全く慰めにならんぞっ!?」

 

 

 さあ、慰めの言葉も一応言いましたし、情けはかけずにいきますよっ!

 

 

「おおおおっ!」

 

 

 召喚獣の顔面めがけ、あいた右拳を急加速させます!私と坂本君の点数を見る限り、これが決まれば勝負は決まることでしょう!

 

 

 

「っとおっ(バシッ)!そう簡単にはやられんぞっ!」

 

 

 ですが坂本君は、同じように私の拳を握って攻撃を抑えました。坂本君も少し安堵した顔で私を見ます。

 

 

 

――が、それは織り込み済みです!

 

 

 

「よっ!(グオッ!)」

 

 

「!! いっ!?」

 

 

 瞬間、坂本君は顔を驚かせます。ふふん!かわせるものならかわしてみなさいっ!

 

 

「そおぉぉぉぉおおおいっ!!」

 

 

 私は―――互いの両腕の間から天高く振り上げた足の踵(かかと)を、坂本君の召喚獣の頭頂へと振り下ろしました。

 

 

 

ゴッキイイイインン!!

 

 

「げっ!?」

 

 

『2-F 坂本雄二 日本史   0点

      VS

 2―F  紅美鈴  日本史  101点  』

 

 

 

「っ!!ち、ちくしょおぉおおおおおおおお!!」

 

 

「―――っしゃあああ!アイムウィナアアアッ!!」

 

 

 見事脳天直撃です!どんなもんですかこら~!!!火事場のクソ力を上回ってやりましたよーーー!

 

 

『あやや!どうやら紅、坂本選手の勝負は紅美鈴さんが勝者のようです!見事な踵落としでしたね~!』

 

 

「俺の未来がぁぁぁ・・・!婿入り生活の地獄が始まるのかぁぁぁああ・・・っ!!」

 

 

 

「・・・・・え、え~~と・・・」

 

 

 そんな私の喜びも射命丸先輩の明るい声を聴いても、この世の終わりを見たような暗雲わき立つ形相で沈み込む坂本君のおかげで霧散します。そ、そんなに悲しまなくても!すっごい悪いことをした気がしてならないですよ!?

 

 

「ま、まあまあ坂本君。本当に婿入りをすることになったとしても、きっと幸せになれますって!私は応援しますよ!」

 

「もう俺は、首輪につながれるしか道がないのかぁぁあ……!」

 

「扱いがペット!?私の知ってる婿入りとはだいぶ違いますっ!?」

 

 

 それはもはや、愛と言うより憎悪が入り組んでいるのではないでしょうか。さっきはああ言いましたけど、その光景から幸せというものが全く思いつきません。おかげでさらに罪悪感が沸き上がります。

 

 

 

「はっ!ま、まだだ!明久!明久の野郎がまだいるんだっ!」

 

「あっ」

 

 

 すっかり頭から離れてましたけど、これはあくまで二対二なので、相方の吉井君が残っていれば、負けた坂本君にも勝ちの目はあります。

 

 とは言え、きっと咲夜さんも良い勝負を繰り広げていて一筋縄では―――

 

 

 

『あやややっ!?』

 

 

「うわっ!?」

 

 

 突然、動揺の混ざった射命丸先輩の言葉が会場に響き渡ります。何事かと思って見れば、射命丸先輩はある一点―――咲夜さん達の召喚獣がいるところを見ていました。

 

 どうやら向こうも勝負が決まった模様ですね!果たして・・・!?

 

 

 私は皆さんに釣られる形で、もう一つの召喚獣たちの戦場を見ました。

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 次回からの続きでいよいよ決勝戦の開幕となったのですが、勝負今回もかなり変なところで区切っちゃいましてすいません!

 しかも、こ、この後の展開が分かってしまうような終わり方な気も・・・!?話の区切り方が変になって申しわけありませんっ!どうしてもこの後の字数上、区切りたかったのですー!

 で、そんな変な感じで区切ってしまった決勝戦なのですが、おそらく次回で決着がつきます!あっけないかもしれませんが、どうかご了承ください!長引かせるよりもぱっと決める方が気持ちいいかとも思ったのございます!

 それでは、中途半端となりましたがまた次回っ!次は金曜日でございます!


 

 

 


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勝敗―断定、出来ないのが勝負ってもんです。

 どうも、村雪です!


 さて、今週二度目の投稿となるのですが・・・今回、勝負の決着がつきますっ!長期戦を期待してた方々、期待に添えずすみません!

 でも、あまり長く続けても読んでいる皆様もそのうち退屈してしまうのではないかととも思い、あまり長くなく、かつ今までの召喚勝負よりも長いであろうこの回の文量で締めさせてもらおうと思います!

 さあ、最後に勝つのはどちらか!?正直、原作の召喚獣の原理を守っているのか自信がないのですが・・・!


――ごゆっくりお読みください。


「せいっ!(シャッ!)」

 

「おっと!(ひょい)甘いよ十六夜さんっ!(ブンッ!)」

 

「変態のあなたに言われると腹が立つわねっ!(ガンッ!)ふっ!(ヒュォンッ!)」

 

「い、今は変態は関係ないと思うけどねえ!(ガキンッ)ていっ!(ガンッ!)」

 

「(ズザザザッ!)捉え方の問題よ、っと!(ギラッ!)」

 

「うわわっ!?(しゃがみ!)」

 

 

 

 攻撃をかわし、かわされ、防ぎ、防がれ、反撃されて、反撃する。今の僕と十六夜さんは、その6パターンを何度も何度も繰り返していた。

 

 くそぉ・・・!思っていたより、十六夜さんの召喚獣の扱いがうまい!!二本のナイフを隙を作らずタイミングよく振ってくるから、木刀一本の僕は、あんまり攻撃も仕掛けられずに防御の頻度が高くなっていくばかりだよ!

 

 

「ちょこまかと・・・!さすがは観察処分者をやっているだけあるわね!(ヒュン!)」

 

「(ヒラリ!)普段は嬉しくない言葉だけど、今ならありがたく思う言葉だねっ!でいっ!(シュッ!)」

 

 

 もう一本のナイフが牙をむく前に、木刀を召喚獣めがけて突く!どうだっ!?

 

 

「(サッ!)ふんっ、私は皮肉のつもりで言ったのよ!」

 

 

 くっ、ダメか!横にそれてかわされた!十六夜さんこそちょこまかとーっ!

 

 

「せいっ!(ビュオ!)」

 

「っとおっ!」

 

 

 すぐさま僕は後ろへジャンプする。じゃないと十六夜さんのナイフ横払いが当たっちゃうからね!

 

 

「くうぅ・・・!十六夜さん!どうしてそんなに召喚獣の操作がうまいの!?半年間観察処分者で召喚獣を操作してた僕と、そんなに大差ないじゃないか!」

 

「知らないわよそんなの。あなたの操作が下手なだけじゃないの?」

 

「初めて召喚獣の扱いでそんなことを言われたーっ!!」

 

 

 召喚獣の扱いに自信を持っていた僕の誇りが思いっきり汚されたよっ!間違いなく十六夜さんが上手なだけだからねそれ!?謙遜のつもりなのかもしれないけど、僕に対しては高慢もはなはだしいよ十六夜さん!なんか十六夜さんらしくて思わず笑いそうだけども!

 

 

「・・・その顔は何かしら。変態な上にマゾだったの、吉井明久?さすがに引くわね」

 

「本っ当に君はズバズバ言う女の子だねっ!」

 

 

 心を傷付けるって意味では召喚獣のナイフよりもずっと鋭いよ!そこらへんは全然お姉さんの美鈴さんと似ていない!

 

 

「あ~もう。十六夜さんがあっさり負けてくれれば簡単だったんだけどなぁ・・・・」

 

「ふざけた戯言ね。なぜ私がわざわざ、変態のあなたにわざと負けてやらないといけないのかしら?」

 

「うん。その変態という言葉がなければ素直に受け取ってたんだけど、そこまで言われると納得いかないのが僕ってやつなのさ」

 

 

 男、吉井明久。ここで一つ、僕がただの変態じゃないことを十六夜さんにわかってもらおうじゃないか。ここで黙って負けたら男が廃るってもんだっ!

 

 

 

「いけ召喚獣!十六夜さんの召喚獣をぎゃふんと言わせるんだよ!」

 

「ふん!やれるもんならやってみなさい吉井ぃ!」

 

 

 僕はまた十六夜さんの召喚獣の頭へと木刀を振り下ろす!ちょっと危ないけれど、ここは思い切って仕掛けるべしだっ!

 

 

 

「でりゃああっ!(グオオッ!)」

 

「あきらめの悪いっ!!」

 

 

 ガキィンッ!

 

 

 右手のナイフにてガードされる攻撃。だけどそれは予想済みっ!

 

 

「お返しよ!(ギラッ!)」

 

「!」

 

 

 まぶしい危険な輝きを放ったナイフが右から迫りくる! 僕よ!ここからが大事だぞおおっ!

 

 

「でええい!」

 

 

 

 僕は召喚獣に、右手だけを木刀から放させ――――迫りくるナイフを持つ召喚獣の左腕をとらえさせるっ!

 

 

 

がしっ!

 

 

「っ」

 

「っしゃあ!」

 

 

 よし、これで左手を封じることは出来たよ十六夜さんっ!

 

 

「なら、力で押すまで・・・っ!(グググ!)」

 

「!あ、あわわ!?」

 

 

 あだだ・・・!十六夜さんの方がまだ点数は高いから徐々にナイフが近づいてくる・・・!!で、でも、その行動が僕にとってはラッキーだよっ!

 

 

 

 

「・・・ぃよいしょっ!(スッ)」

 

 

 右手を放し、木刀に込めてる力をゆるめて召喚獣一匹分横へずらさせる!これはいつぞや火焔猫さんがした方法なんだけど、マネをさせてもらうよ火焔猫さん!いきなり抑えがなくなったら、いくら十六夜さんでも平気じゃないでしょ!?

 

 

「あ・・・っ!?(フラッ)」

 

 

 狙い通り、力の受け場をなくなった十六夜さんの召喚獣は前へとたたらを踏んだ!さあ、今こそ好機ぃっ!

 

 

 背中を向ける十六夜さんの召喚獣めがけ、木刀を思い切り振り下ろすっ!

 

 

「だりゃーっ!」

 

 

 バキイイッ!!

 

 

「アグッ・・・!?」

 

 

 

 

『2―Aクラス 十六夜咲夜  日本史 125点 』

 

 

 

 よおしっ!十六夜さんの点数がだいぶ減った!!もうひと押しっ!

 

 

「――んのっ、やってくれたわねっ!!(シャッ! シュンッ!)」

 

 

 とは言え、まだまだ戦闘は可能。体勢を立て直した十六夜さんの召喚獣が、2本のナイフを構えて僕の召喚獣に攻め来る!

 

 

 

「っと!(ヒュン!)そう簡単にはっ、くらわっ!(ガキィッ!)ないよ!」

 

 

 危ないけれど、点数相応のナイフ攻撃はさっきまでよりずっとゆっくりだ。僕はせわしなく木刀を動かしながら攻撃を妨げる!

 

 よし、これならいける!あとは十六夜さんが隙を生むまで待って――!

 

 

 

「やっ!(シュンッ!)」

 

 

 

 ドスッ!

 

 

「っつ!!?いっだああぁあああっ!!横っ腹に燃え上がるような鋭い痛みがあぁあああーーーっ!?」

 

 

 観察処分者だから召喚獣の受けた感覚が僕にも思い切り伝わってきたいてええええっ!

 

 

 こ、この激痛は間違いなく――――召喚獣の横腹に刺さったナイフ!ま、まさかここで武器であるナイフを一本投げて来るとは!全く予想してなくて防げなかったよ十六夜さん!

 

 

「隙よっ!(ギラリッ!)」

 

「!!」

 

 

 や、やばもう一つのナイフが――!

 

 

 ガシュッ!

 

 

「!あっ、づ、づぅぅうう・・・・!!」

 

 

『2―Fクラス 吉井明久 日本史 105点 』

 

 

 な、なんとか防げたけど、掴んだのが刃のところだからダメージ判定が・・・!そして手の平もやばいくらい痛いいいいい!!

 

 

 

「っ!惜しいわね・・・!」

 

「それはざ、残念だった、ねっっ!!(ブンッ!)」

 

 

 やられっぱなしでいられない!木刀を振り上げ、思い切り接近してきた十六夜さんへぶちかますっ!

 

 

ガシッ!

 

 

「あっ!?」

 

 

『2―Aクラス 十六夜咲夜 日本史 109点』

 

 

「そ、そっちこそ、残念だったわね・・・・!」

 

 

 でもそれは成功せず、木刀の先を握られて防がれたっ!あ、あと一発!また減った十六夜さんの点数的に、あと一回だけでもちゃんと攻撃できれば、いけるっ!

 

 

「いだだだ・・・・っ!!(グググ・・・!)」

 

「・・・くぅ・・!(グググ・・・!)」

 

 

 でも、互いに握った武器は離さず、状況は膠着状態に。獲物はどちらにも動か――

 

 

ググ・・・ッ!

 

 

「!いっ!?」

 

「点数は、私のが上よ・・・!(グググ・・・ッ!)」

 

 

 い、十六夜さんの言う通り、僕のほうが点数が低いから徐々に木刀は押し返され、ナイフが近づいてくる・・・!やばっ、このままじゃ刃の先が届くのは時間の問題だ。何か手を打たないと・・・!?

 

 

「い、いぢぢ・・・っ!」

 

 

 ナ、ナイフの刃の部分を握ってるから掌が痛いっ!とっさだったから仕方ないけど、きちんと腕を掴んでおけば良かったぁ!

 

 

「ここまでのようね・・・・っ!正直、ここまでやられるとは思っていなかったわよ!くやしいけど、そこは認めないといけないわ・・・!」

 

「な、なんのまだまだだよ・・・!!」

 

 

 なんて言ったけど、ナイフは少しづつ近づいてるし、武器は握られて動かせないから状況は最悪だ!

 

 

『2―Fクラス 吉井明久 日本史 92点 』

 

 

 さらに追い打ちをかけたいのか、刃物が手に当たっているから点数がほんの少しずつ下がってやがるよ!畜生っ!十六夜さんは木刀を握ってるからか全然減っていないというのに!僕の木刀も差別なくナイフみたいにあつか――――!!

 

 

 

 

 

・・・ナイフ・・・・・?

 

 

 

「――――あっ」

 

 

 

――――上手くいくか、そもそもの前条件を達成できるかが分からないけど・・・・・1つ、策が――――!

 

 

 

 やられる前に、ここはいちかばちかだっ!

 

 

「っと!」

 

 

パッ

 

 

 僕は上手くいくことを願いながら、左手の木刀から手を離す!

 

 

 

「!?諦めるつもり!?」

 

 

 突然の行動に驚いた顔をした十六夜さんが疑わしそうに尋ねてくる。

 

 

 ふっ、まさか!これも勝利の可能性へと手を伸ばすためさっ!

 

 

 

「・・・ふー・・・っ!」 

 

 

 僕は一瞬だけ、一応相棒である普通の木刀を見る。十六夜さんに握られた木刀よ、君には悪いけど、今必要なのは君じゃない。

 

 

 

 必要なのは―――こっちの武器だっ!!

 

 

 

 

 

「・・・づ・・・っ!」

 

 

 出来るのか分からないけど・・・腹に刺さったままだった十六夜さんのナイフを握らせ――

 

 

 

 

「ぐっ――ッだあああああぁ!(グイイッ!)」

 

 

 

 

――届いてくる痛みを我慢し、一気にお腹から引き抜く!

 

 

 

 

 

「!!?なっ・・・!?」

 

 

 

 

・・・・・・よ、よしっ!!特に問題なくナイフを動かせてる!他の召喚獣の武器もどうやら使えるみたいだ!助かった!こんな行動を取るとは賢い十六夜さんも想像してなかったみたいで、驚愕の顔であっけにとられている!

 

 

 

 十六夜さん!この勝負・・・勝たせてもらうよっ!

 

 

「おりゃああああああーっ!!(シャッ!)」

 

 

「あく・・・・・・っ!?」

 

 

 ナイフと木刀の刃の部分、両手に二つの武器を握った十六夜さんに防ぐ術はない!

 

 

 

 僕は一切の暇を与えず・・・十六夜さんの召喚獣、その胸へと――白く輝く鋭いナイフを突き立てた。

 

 

 

 

ドシュッ!

 

 

 

 

 

『2―Aクラス 十六夜咲夜 日本史 0点』

 

 

 

 

 

「!!?!?!?・・・う、うそ・・・・っ!?」

 

 

「――――ったあああああーっ!!」

 

 

 

 

 やってやったよこん畜生ぉおおおおーっ!人生でなかなか見られないほど、今の僕は達成感に溢れてるぞおおおお!!

 

 

 

 

『!?!?あ、あやっ、あやややーっ!?な、なんということでしょう!ここでまさかの大判狂わしっ!たっ、ただいま!2―Fクラスの吉井明久君が、2―Aクラス、十六夜咲夜さんに勝利を収めましたーーーっ!!』

 

 

 

『う、うそおおお!?』

 

『いやああああ~~!!』

 

『わあああああああ!!』

 

『うおおおお!すげええええっ!!』

 

 

 射命丸先輩の驚きと興奮混じりの実況に、場内は爆音のような悲鳴と歓声に包まれる。よっぽど僕の勝利が信じられないみたいだけど、僕自身も夢じゃないかと思ってるから気にしない!

 

 

 

「明久・・・!テメエうまいことやりやがったなこの野郎!」

 

「うん!僕も自分で驚いてるところだよ雄二!!」

 

 

 そんな喜びをかみしめている僕に、雄二が珍しく喜んだ顔で声を荒げた。っていうことは・・・

 

 

「じゃあ雄二は、負けちゃった感じ?」

 

「ぐっ・・・あ、ああ…見事にやられちまった・・・・!明久、あとは頼むぞ・・・!」

 

 

 真剣な顔で頼んでくる雄二。大事なものが懸かってるからなんだろうけど、それは僕も同じ。だから返事は一つ!

 

 

「任せな雄二!」

 

 

 十六夜さんに勝利。それも見事な成果だけど、まだ試合は終わっていない!

 

 

 

 

「―――さあ!勝負だよ、美鈴さんっ!」

 

 

 

 僕は最後の敵、十六夜さんのパートナーであり、コンビの雄二を打ち破ったクラスメイト――紅美鈴さんと対峙した。さあ、気合いを入れるんだ僕っ!そして最後の勝負を制してやるんだーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい美鈴・・・!ま、まさかっ、あの変態に遅れを取るとは・・・っ!くやっ、悔しいぃぃぃ・・・!!」

 

「い、いやまあまあ咲夜さん!負けちゃったものは仕方ないですからそう責めずにっ!」

 

 

 吉井君に負けちゃった咲夜さん。悲壮感溢れる顔で頭を下げられては私の方が申し訳なくなりますから!?

 

・・・し、しかし、坂本君との勝負を制して見てみれば・・・咲夜さんが負けるとは・・・・!全く予想だにしていませんでした!吉井君ってそういうところを含めて、全く読めませんね!?

 

 

 

『あややや!ここでよもやの十六夜さんが敗れたことにより、互いにペアーがやられたことになりました!これで残っているのは、2―Fクラス紅美鈴さんと、同じくFクラスの吉井明久君です!さあ、果たして最後に残るのはどちらでしょうかっ!?』

 

 

 4人の中ではクラス、または学力的にも一番だと言っても過言ではない咲夜さんが敗北したことに、大いに会場がざわめきます。気のせいでなければ、射命丸先輩もその空気に当てられて興奮気味な気がします!

 

 

「・・・まあ、私もそうなんですがね!」

 

 

 どんな展開だろうが、お祭りはやはりこうでなければっ!とにかく盛り上がって最後まで上がり続けるのが祭りの鉄則!

 

 

「ごめん、美鈴・・・!あとをお願いするわ・・・!」

 

「お任せを咲夜さん。きっと勝ってみせますとも!」

 

 

 咲夜さんからの言葉も受け、私のやる気は満タンです!さあ!やりましょうか吉井君!

 

 

「いくよ美鈴さん!最後の勝負だっ!」

 

「!上等ですよ!」

 

 

 咲夜さんを負かした吉井君も、気合の入った声で私に勝負の申し出をしてきます。それにさらに盛り上がる会場!おーっし!なんか私もまた気合いが溢れてきましたよ!

 

 

「さあ吉井君、互いに後腐れのない勝負といきましょうかっ!」

 

「ごめん!僕ってやつは負けたら間違いなく不満が残る奴だと思うよ!」

 

「あっははっ!吉井くんが男らしいことを言ってくれると思った私がバカでしたっ!」

 

 

 とは言え・・・あははははっ!吉井君らしくて笑えてきます!通常運転のようで何よりですよっ!

 

 

「おおおおっ!(ダッ!)」

 

 

 ですが、どんな心持ちでいようが今は勝負の真っただ中!私は遠慮なく、吉井君の召喚獣へと自分の召喚獣を突っ込ませます!

 

 

「らあっ!(ゴオッ!)」

 

「うわわっ!?(シャガミッ!)」

 

 

 む、咲夜さんを倒す吉井君には簡単すぎる攻撃でしたか!しゃがんで拳をかわす吉井君の召喚獣は、すぐさま戦闘態勢に入ります!

 

 

「やったな美鈴さん!こうなったらもう容赦しないぞっ!」

 

「はっ!ナメられたものですね!遠慮なくやってみなさいやぁぁああ!!」

 

 

 勝負は始まってるのですから、情けなど無用!見ごたえのある戦いを繰り広げようじゃないですかーっ!!

 

 

「そりゃぁあああっ!(ブオンッ!)」

 

「ふんっ!(サッ!)」

 

 

 ガキンと、私の召喚獣の拳と吉井君の召喚獣の拳が衝突します。拳が武器なので、木刀が当たって点数が減少しないのは助かりますね!

 

 

『2―Fクラス 紅美鈴  日本史 101点』

 

『2―Fクラス 吉井明久 日本史  92点』

 

 

 微妙にですが、私の方が点数は上!・・・とは言え、操作技術の経験値では吉井君の方が圧倒的に勝ってるのであまり意味がありません!これは油断できませんね!

 

 

「よいしょっ!(タンッ)」

 

 

 いったん召喚獣を下がらせ、吉井君の召喚獣が動いてくるのを待ちます。ここは慎重にいくべしですよね!あまり攻めすぎて攻撃されるのはダメですし!

 

 

「む、来ないのならこっちから行くよ!(ドドッ)でえいっ!(ビュンッ!)」

 

 

 しばしの膠着ともいかず、吉井君はすぐさま召喚獣を私の召喚獣へとけしかけてきます!先ほどは縦向きにでしたが、今度はななめ一閃ですかっ!

 

 

「いよっと!(ガギッ!)」

 

 

 無論受けるわけにはいかないので、もう一度拳でガード!

 

 そのまま空いた右手で――!

 

 

「左ストレートォ!(ビュオオッ!!)」

 

「ぅわっ!?」

 

 

 ドスッ!

 

 

 狙うは腹部です!さあどうだっ!?

 

 

 

『2―Fクラス 吉井明久  日本史 80点 』

 

 

「むっ!」

 

 

 どうやら後ろにとんでかわされたみたいですね。ですが点数は減っていますので、当たるは当たりましたよ!点数を減らせればとにかく上出来です!

 

 

 

「この!(ブンッ!)」

 

「っと!(しゃがみ!)」

 

 

 今度は横払いですか!ガードが間に合いませんので、ここはすぐさましゃがみます!

 

 

「――っしょ!右ストレートォッ!(シュッ!)」

 

「っと!そう何回もくらわないよ!(ひらり!)」

 

 

起き上がってからの反撃は当たらず、吉井君は一歩下がって距離を置きました。ふう、さすがにそんなホイホイとは当たりませんか!

 

 

「さすが、召喚獣操作が上手ですね吉井君!」

 

「ふふん、美鈴さん。命が懸かってたら誰でも嫌でもやる気が出るってものだよ!」

 

「ええ!?い、いつこの勝負はそんな殺伐な死合になりましたっけ!?」

 

 

 勝負前にも言ってましたけど、これはあくまでも学園祭の出し物の一環ですよ!?そんな行事を行う学園があってたまりますかっ!

 

 

「美鈴さんには分からないだろうけど、僕の明日はこの勝負に懸かってるんだ!だから、絶対に美鈴さんを打ち負かしてみせるっ!」

 

「!よくわかりませんけど、それならば口じゃなく実際に実現させてみなさい!そう簡単にはいかせませんっ!!」

 

 

 むむ!私だってやるからにはきっちり勝ちたいっ!それほど勝利を断言されちゃうと、意地を張りたくなるのが私という人間ですよーっ!

 

 吉井君の勝利宣言に少しムキになっちゃいながら、私は召喚獣を操作し始めます。まったく、頭に血が上ってるせいで操作が雑になってる気がします!もしもそれが狙いだったら、意外と策士ですね!吉井君!

 

 

 

 

 

 

「!よくわかりませんけど、それならば口じゃなく実際に実現させてみなさい!そう簡単にはいかせませんっ!!」

 

 

 

 あ、やばい。美鈴さんの雰囲気が変わった。僕はもしかしたら、美鈴さんの尻尾か何かを踏んづけたのかもしれない。

 

 

「おおおおおっりゃあ!!(グオオオオッ!!)」

 

「うわっと!?(スッ!)」

 

 

 勢いよく駆けてきた美鈴さんの召喚獣が、右腕を使ったラリアットを狙ってきた!くそっ!なんて技を使ってくれるんだ!昨日その技を繰り広げた八雲藍先生を思い出しちゃったよ!

 

 

「くのっ!でい!」

 

 

 それでも、横を過ぎた美鈴さんの召喚獣は背中を見せて隙だらけだったので、一歩遅れながら僕は、そこへ木刀を振り下ろす!

 

 

バキイッ!!

 

 

「あいたっ!?」

 

 

『2―Fクラス 紅美鈴 日本史 39点』

 

 

!!よおし当たった!しかもかなり点数も減らせたぞっ!この調子だよ僕!

 

 

「うあちゃぁ・・・っ!や、やってくれましたねぇ!」

 

「む!」

 

 

 再び手を構える美鈴さんの召喚獣。攻撃をしてくるみたいだけど、点数が僕より下になったから怖くはないっ!

 

 

「ていっ!(シュッ!)」

 

「よっ!(サッ)」

 

 

 やはり動きはさっきまでよりも遅く、迫ってくる拳も問題なく回避でき―

 

 

 

ガツンッ!(召喚獣の足のすねを蹴られた音)

 

 

「いだだっ!?」

 

 

 あ、足の攻撃だって!?そっちは予想してなかった―――――

 

 

「せいやあああああっ!!」

 

 

 バギャアッ!

 

 

「げふうっ!?」

 

 

 その隙を突かれて顔面にもて、いってえええええっ!!一瞬目の前が真っ白になりかけたああああ!!これ顔面がめり込んだんじゃないのおおおお!?

 

 

 

『2―Fクラス 吉井明久  日本史 40点 』

 

 

 ち、ちくしょう!せっかくかけ離れてたのに、また点数差が埋まっちゃったじゃないか!僕の天下はたった数秒だけかよっ!

 

 

「おおおおりゃあっ!!(ビュオオオ!)」

 

「!?」

 

 

 っていつの間にか拳が目の前に―っ!

 

 

 

「だああっ!?」

 

 

 バシイッ!

 

 

 あ、危ない危ないっ!!当たる寸前でガード成功できてなかったら、今頃顔面強打につきおねんねしてたところだよ!

 

 

「むっ、惜しかったです・・・!」

 

「お、おかげで木刀が向こうに行っちゃったけどね!」

 

 

 とっさの反応だったから、思わず手の木刀をすっとばしてしまった!こ、これって言うなら丸腰状態じゃない!?僕大ピンチっ!?

 

 

「それは災難ですね!ぬうううう~っ!!」

 

「そ、その反応はむしろ喜んでるね!?うわわわっ!?」

 

 

 絶好のチャンスと言わんばかりに攻撃の手を強める美鈴さん。ぼ、木刀までは手が届かないし、取りに行こうにも美鈴さんの召喚獣のせいで動かせないっ!こうなったら、僕も素手で戦うまでだっ!

 

 

「ぐっ、うおおおお~・・・!!」

 

「!むむ・・・っ!!」

 

 

 

『あやや!これはクライマックスが近そうか!?紅さんと吉井君、拳の競り合いを始めました!2人の点数はほぼ同じ!どっちの押しが勝つでしょうか!?』

 

 

 

『頑張って美鈴さ~~ん!!』

 

『頑張れ美鈴せんぱ~いっ!』

 

『メイリンやってやるのよさーっ!』

 

『わ~!!頑張れメイリ~ン!』

 

『メッ、美鈴頑張りなさ~い!』

 

『おら~!どっちも頑張るんだぜー!!』

 

『バカなお兄ちゃん、頑張れ~~っ!』

 

『アキ~!ファイトよーっ!!』

 

『が、頑張ってください吉井君っ!』

 

 

 

 射命丸先輩の実況に、僕たちの名前を叫ぶ観客の皆。中には知っている声の人もいて、美鈴さんだけじゃなく、僕にもエールをくれている!とうとう僕に女の子からのモテ期がきたのかなっ!(※ 純粋に応援しているだけです。)

 

 

「ぬ、ぬぐぐぐ~・・・っ!」

 

「・・・む、むむむむ・・・っ!?」

 

 

 

 と・・・ともかくっ!そんな黄色い(※違いますが)声援には応えたくなるのが男だよねぇええええ!

 

 

「――どおぉおっせいいいいいっ!!」

 

 

 バチインッ!!

 

 

「っ!?あ、わっとぉ!?」

 

 

 よしっ!僕の召喚獣が美鈴さんの召喚獣を押し返した!今度はこっちが隙を突く番だっ!

 

 

「おおりゃあーっ!」

 

「あ、うわわっと!?」

 

 

 バシッ!

 

 

「――あ、あっぶないですね全くっ!」

 

「!でも、攻守逆転だよ美鈴さん!」

 

 

 手のひらに受け止められたけど、さっきとは反対のこの状況。みすみす好機を逃がすわけにはいかない!僕は迷うことなく、掴まれた拳に力を籠める!

 

 

 

「うおおおりゃあああっ!!」

 

「だ、あだだだだ・・・っ!?」

 

 

 少しづつ美鈴さんの手が下がり、僕の拳が彼女へと近づいていく!あ、あと、少しいぃぃ・・・!!

 

 

 けど、

 

 

「・・・くうぅっ!ぐぬぬぬぬ・・・!わ、私にも、意地ってものがありますよぉおお!」

 

「う、あぐぐ・・・っ!」

 

 

 抵抗する美鈴さんの召喚獣の力が強くなって、押し返してきた、いたたた・・・っ!!?僕は負けずに召喚獣の拳の力をこめさせる!こ、ここまで来てま、負けてたまるものかぁあああ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぐぐぐぐ・・・っ!?」

 

 

 わっ、私!吉井君がこれほど手強いとは踏んでいませんでしたっ!最初に手痛い一撃を受けた私の失態とも言えるかもしれないのですが、それでもこんな展開になろうとは・・・っ!やってしまいましたよこんにゃろー!

 

 なんとか吉井君の召喚獣の攻撃を押し返し、わずかばかりの余裕が生まれた私は心の中で愚痴を零します!

 

 

「メ、美鈴さんに事情があるのは良く分かったよ!だから必死になって僕に勝とうとしてることも分かる!」

 

「そ、そうですかっ!」

 

 

 ま、まあそこまで大層な理由ではないんですがね!ただ勝ちたいから勝つ!勝負前に咲夜さんに頼まれたというのもありますが、試合が始まったら自分の感情に従うのみです!

 

 

「でもっ!それは君だけじゃなくて、僕の背中にもでっかいダイナマイトがのっかってるからおあいこだっ!」

 

「いや、だから私はデンジャラスがどうとかは全くありませんよっ!!?」

 

 

 そんなものを背負ってたら、この時だって全くしゃべることなくド真剣に勝負を繰り広げてますよっ!!

 

 

「・・・ぬぐぐぐぐ・・・っ!!」

 

「お、おおおぉ・・とおぉ…っ!?」

 

 

 が、そんな私と違って、吉井君は並々ならぬ覚悟を持ち合わせているようでして――

 

 

 

 

 

「―――だあああっっっしゃあああっっ!!」

 

 

「あっ――」

 

 

 バッギイイインッ!!

 

 

――私の召喚獣の手を押し切った一撃は、そんな吉井君の感情がまるまる込められたように重かった気がします。

 

 

 

 

『2―Fクラス 紅美鈴 日本史 0点 』

 

 

 

 

「・・・あ、あやあやややーっ!?なんとなんとっ!十六夜咲夜さんに続き、決して弱くない紅美鈴さんを制したのは吉井明久君っ!!よって、今年の清涼祭に行われた召喚大会の覇者は!ダークホース、吉井明久君と坂本雄二君ペアーでしたああああ!!皆さん、盛大な拍手で彼らを称えてあげてください~~~~~!」

 

 

 召喚大会決勝戦。吉井君が私の召喚獣を倒しその結末に大興奮した観客の声にかぶせ、射命丸先輩が高々と勝者を宣言することで、その幕は下ろされました。

 

 

 いや~・・・やられてしまいました!ですが、決して悪い勝負ではなかったので、まあ良しということにしておきましょう!賞品はダメでしたが、満足感は手に入りましたしね!

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 というわけで、大一番の召喚大会決勝戦!明久雄二の悪童コンビに勝利をしていただきましたーっ!美鈴さん咲夜さんペアーの勝利を想像していた方、申し訳ありませんでしたっ!

 理由につきましては、非常に適当なのかもしれませんが・・・やはり主人公だからと言って必ず勝つとは限らない!負けを潔く認めるのも主人公!と思いまして、本来の主人公に勝ってもらおうということに決めさせていただきました。

 それに加え、明久たちが負けると一部の女性陣が奴らをあの世へと送りかねる恐れがありましたので、今回は明久たちに勝利をとっていただきました!


 今回はおそらく色々と思うことが出来るのかと思うのですが、村雪がこうしたかったゆえ、どうかお許しください~!


 ですが、感想や気なること、字のマチガイなんかがございましたら気軽に送ってください!遅くなるかもしれませんが、必ず返信させてもらいますゆえ!


 それではまた次回っ!ひょっとしたら続けて火曜日に投稿するかもしれませんが、いずれにせよ、また来週お会いしましょう!!




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終了―後片付け、も色々と騒がしく!


どうも、村雪です!

 サブタイトルを付けるのに悩んでしまい、少し遅い時間の投稿となってすみません!

・・・実は、このサブタイトルを考えるのにいつもかなり時間を取ってるのですが、サブタイトルがないと味気ないですし、どうかお許しください~!


 さて、今回からは召喚大会が終わってからの話です!ちょうどよく区切るため少々長めとなっておりますが、祭りの後の回を楽しんでもらえれば!


 -ごゆっくりお読みください。



 

「す、すいません咲夜さん!見事にやられましたーっ!」

 

「いいえ、私もやられたんだから文句なんて言えないわ。・・・でも、あの変態にやられたのだけが悔やまれるわ・・・心の底から・・・っ!」

 

「・・・あ~。一応、文句はめちゃくちゃ溜まってるんですね、吉井君限定で?」

 

 

 決勝戦を敗退した私たちですが、さほど落ち込むことなく会場を後にしながらしゃべります。吉井君に負けたことに思い切り愚痴る咲夜さんですが、もはや咲夜さんの中では吉井君は仇敵か何かとなっているのかもしれません。ここはそっとしておいてあげましょうか。

 

 

「はあ・・・今回は負けたけど、いつかこのリベンジを果たしてやるわ。じゃ、後でね美鈴」

 

「は、はあ。ではまた後で!」

 

 

 咲夜さんといつもの場所で別れ、私はFクラスへ戻ります。う~ん。前から思うんですけど、咲夜さんはどうしてそんなに吉井君を敵視するんでしょう?吉井君はおバカですけど、そんな嫌われるようなことをする人ではないと思うんですが・・・

 

 ま、2人だけの問題ですから関わらない方がいいですかね?その内2人の仲が良くなることを私は外野の位置から願いましょう!

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

「あっ!おかえりなさいです力持ちのお姉ちゃんっ!」

 

「おかえりメ~リン~っ!」

 

「おおっと、ただいまフラン!葉月ちゃん!」

 

 Fクラス教室に戻ってきた私に抱き着いてきたのは、妹のフランと、その友達で島田さんの妹である葉月ちゃん。どうやら昨日に続いて学園祭を堪能しているみたいで何よりです!しかもお手伝いをしてくれてるのですから感謝の言葉しかありませんよ!

 

 

「メ、美鈴、惜しかったわね!あとちょっとで勝ててたのにっ!」

 

「・・・・・・仕方ない・・・そうときもあるだろ・・・」

 

「も、妹紅は出なかったの?」

 

「・・・ああ。私は、そ、そういうの苦手だから・・・」

 

 

 そして少し後ろでは、レミィと妹紅さんも並んで私を迎えてくれました。いや~、レミィも妹紅さんも、仲が良くって嬉しい限りです!2人は人見知りをする女の子ですが、そこに親近感を抱いてるのかもしれません!いつか私達もその輪に入れてね~!

 

 

「ご苦労様じゃ、紅。いい試合だったのじゃぞい」

 

「まったくだ!見てて楽しい試合だったぜ!なあ瑞希?」

 

「は、はいっ!明久君達もすごかったですけれど、同じくらい美鈴さん達もすごかったです!」

 

「い、いやいや~!ま、負けたのに持ち上げられてはむずかゆいですね~!」

 

 

 秀吉君、瑞希さん、魔理沙と健闘を称える言葉を続けて受けては私も思わず赤面です!たとえそれが慰めであってもなくても、これほど称賛されたら嬉しいものですよ!

 

 

「まったくもう!よしーのバカにやられるなんて、メイリンは最強じゃなかったのよさ!」

 

「ええ!?わ、私は自分が最強だなんて思ったことは一度もありませんよチルノッ!?」

 

 

 対して何やらご立腹のチルノ。何でかは分かりませんけど、ひとまず私は格下げされちゃったようです。チルノの中で、私はどんなポジションにいたことになってるのでしょう?最強ちゃんの子分とかですかね?

 

 

「明久君達はまだ戻ってこないんですか?」

 

「あ、ええ。ちょっとした表彰式とかがあるそうですよ?」

 

 

 そこで優勝賞品の『白金の腕輪』や『商品券五千円分』なんかが贈呈されるんだとか。人の目がたくさんあるので、学園長に腕輪を渡すのは後でになるでしょう。

 

 

 

 

 

『吉井、坂本、やるじゃない。本当に優勝するなんてね』

 

『あ、ありがとう博麗さん!おかげで何とか優勝できたよ!』

 

『ああ。お前たちが条件を呑んでくれたおかげだ。感謝するぞ博麗』

 

『礼なら別に要らないわ。それより・・・約束は守ってくれるのかしら?』

 

『ああ、もちろんだ。明久』

 

『あ、うん。はい博麗さん。これ五千円分の商品券だよ!』

 

『・・・・・・ん。確かに受け取ったわ。毎度アリ』

 

『は~良かったー!もしも負けてたらって思うとぞっとするよ!きっと僕は明日の朝日を拝めなかったね!』

 

『私は何と思われてんのよ。・・・でも、確か四割増しじゃなかったかしら?』

 

『あ・・・。そ、それはまた今度払うっ!や、約束はきっと守るよ!』

 

『・・・嘘じゃないでしょうね?』

 

『う、嘘じゃないって!絶対守るから!』

 

『・・・・・しゃあないわね。あんたを信じるとするわ』

 

『!あ、ありがとう博麗さん!こんな僕を信用してくれるなんて、君はなんていい人なんだろうっ!』

 

『明久。感謝はするべきだろうが、その言い方はマズいんじゃないか・・・?』

 

『・・・やっぱり、耳揃えて持ってこさせるべきかしら』

 

『!!そ、そそそれだけはご勘弁を博麗お代官様ああああああ!!』

 

 

 

 

 

 

「ちょっとーあんた達!喫茶店の方も頼むわよーっ!」

 

「あ、はーいすみませんっ!」

 

 

 島田さんからヘルプを求められたので、私たちは慌てて喫茶店の仕事に戻ります!

 

 するとお客さんも私たちの勝負を見ていたようで、何人かが声をかけてくれました。

 

 

『美鈴さん!すっごいかっこよかったわ!』

 

『いや~、ありがとうございます!』

 

 

 とか

 

 

『紅さん!俺はさっきの勝負に猛烈に感動しているっ!これからも頑張ってくれ!』

 

『あははっ、そんなに感動しなくても~!』

 

 

 だとか

 

 

 

『紅先輩っ!わ、私は・・・っ!動くたびにセクシーに揺れる紅先輩の胸がうらやましいですっ!!』

 

『うそおおおおおおおおっ!!?』

 

 

 そんなこととか。

 

 今度から召喚獣を使うときは、サラシをがちがちに巻いてやるぅううううっ!!

 

 

 

「ただいまー」

 

「帰ったぞー」

 

 

 で、しばらく仕事に取り組んでいますと、召喚大会優勝者である吉井君達が表彰式を終えて戻ってきました。

 

 

「あっ!おかえりなさいバカなおに――」

 

「バカよしぃぃいいいーっ!!」

 

「げぶはぁっ!?」

 

「!?ババッ、バカなお兄ちゃ~~ん!」

 

「ちょ、チ、チルノ!?」

 

 

 そんな吉井君を、チルノはあつ~い飛び蹴りをかまして出迎えました。ああっ、吉井君が壁に激突して赤い何かを出したーっ!?

 

 

「なっ、何するんだチルノっ!普通は笑顔で出迎えられる場面だったよね今の!?なのにキックで迎えるなんて、君はバカかっ!いや、バカだったね!」

 

「誰がバカよ!失礼なこと言うんじゃないのよさバカよしーっ!」

 

「いや、チルノこそかなり失礼なことをしてませんかね!?」

 

 

 そう言いつつも突然の罵り合いについて行けず、私は交互に二人へ目をやるのみ。ゴ、ゴングの鐘が今にもなりそうです!?

 

 

「やいよしーっ!優勝したからっていい気になるんじゃないわよ!あんたがバカなのは変わりないんだからっ!」

 

「なっ!こ、この猛者だらけだった召喚大会を勝ち抜いた僕のどこがバカだって言うんだい!雄二ならともかく!」

 

「おい、なぜそこで俺の名を出す明久」

 

 

 坂本君の当然のツッコミは無視され、2人はじりじり詰め寄ります。距離はだいたい1メートル、まだ拳の圏外です。

 

 

「そういうチルノは召喚大会にも出てないでしょ!なのにバカって言われる筋合いはないよ!」

 

「むっ!あ、あるもん!よしーがバカじゃなかったら世界から誰もバカがいなくなっちゃうのよさ!」

 

「それって良い事じゃないの!?って僕は全世界ナンバーワンのバカ扱いかよっ!ひどくても僕はナンバー2で、目の前にナンバーワンがいるって断固抗議だっ!」

 

「よ、吉井君!その言い方は失礼ですっ!もう少し別の言い方を―」

 

「なんですってぇ!?あんた、メイリンをナメてると後が怖いわよ!?」

 

「って待たんかいチルノ!私がワースト一位っ!?そこはあんたでしょうがチルノーッ!」

 

「メ、美鈴さん!美鈴さんの方がとっても失礼な言い方をしてますよっ!?」

 

 

 わわ、私が最下位ですってええ!?そんなことを言われては、いくら瑞希さんになだめられても、私の怒りは――!!

 

 

 

「メ、美鈴はバカじゃないっ!バカなんかじゃないわよっ!美鈴はいっつも私たちの面倒を見てくれるっ、優しいお、お姉ちゃんなんだからぁっ!!」

 

 

「いやああんっっ!レミィ大好きぃぃいいい!!!」

 

「あぅむ~~っ!!?」

 

 

 愛らしい妹のレミィにそんなことを言われれば、私はいかなる怒りも納めて見せますよぉおお!!ああ、咲夜さんには全く通用しない全力ハグ!それをさせてくれるレミィも好きですよ~!

 

 

「あーっ!フ、フランも!フランも美鈴はとっても優しいお姉さまだって思ってるもんっ!」

 

「きゃ~~!フランも大好き~~っ!!」

 

「わぷっ。えへへ~♪」

 

 

 私、お姉さまなんて初めて呼ばれた~!この喜びをハグで思いっきり示させてもらいますよ~!!むぎゅ~っ!

 

 

 

 

「・・・うすうす思っておったが・・・紅は、しすこん、というやつなのじゃな」

 

「まあな~。それは私らの中では当たり前の常識だぜ」

 

「美鈴さん、本当に妹さんが大好きなんですね~」

 

「みたいねー。妹紅、あんたも行ってきたらどうかしら?」

 

「い、行くわけないだろ・・・関係ないし・・・」

 

「で、でも、昨日美鈴さんは妹紅ちゃんのことを家族って言ってたじゃないですか!だから関係ないなんて言ったらダメですよっ」

 

「・・・ま、まあ、そりゃそうかもしれないけど・・・恥ずかしいし、あれ・・・」

 

「・・・・あ、あははは・・・」

 

「た、確かに、ウチもちょっとあそこまでは・・・」

 

 

 何やら騒がしくなる皆さん。さては皆さんもレミィ達にハグをしたいんですね!?女の子の皆さんならいいのですが、男子の皆さんには絶対させませんよ~っ!

 

 

「とにかくよしーっ!あ、あんたが優勝したからって、アタイを超えて最強になったなんて思わないことね!あんたはいつまでもアタイの下なんだからっ!」

 

「なにおう!?ぼ、僕がチルノの上でチルノが僕の下の間違いだ!僕は一度もチルノよりバカだなんて思ったことはないねっ!」

 

「あにぃ~!?このバカよしーがああっ!」

 

「やるかバカチルノォォオオっ!!」

 

「ちょ!?あ、あんた達!今お客さんがいるのよっ!?」

 

「お、落ち着けバカ共!やるならせめて違う場所でやれっ!」

 

 

 ですがおバカ2人は全く気にしていないようで、島田さん達の慌てた止めも届かず、場外乱闘のゴングを鳴らしました。幸い、お客さんもケンカというより子供のじゃれ合いを見るような目でしたので、お店を出ていくという事態はなかったのが救いです。

 

 

 

「しかし、今のチルノは少し変じゃったのう?一体どうしたのじゃ?」

 

「ん~、変なもんでも食ったんじゃないか?」

 

「・・・・以前、カエルや虫を食べたことがあると言ってたから、ありえる」

 

「ぐぇ・・・っ!そっ、そっ、そんなことするのか・・・あいつ・・・!?」

 

 

 土屋君の言葉に妹紅さんは一気に顔を青白くして、チルノを畏怖の目で見ます。私も聞きましたが、いや~、さすがに虫は私も無理ですね。百歩譲って、カエルなら丸焼きでなんとかギリギリいけるかもしれませんけど!

 

 

「あ・・・。チルノちゃんは、もしかしたら吉井君に嫉妬してるんじゃないでしょうか?」

 

「?嫉妬ですか?」

 

「吉井に嫉妬するところってあるか?」

 

「思いやりもへったくれもない言葉じゃな」

 

 

 もめ合う2人を眺めながら食の限界というものを考えていると、瑞希さんがそんなことを言いました。

 

 

「はい。チルノちゃんって、吉井君とよく張り合ったりしてますよね?それと同じで、吉井君が召喚大会に勝ったのが面白くないというか・・・うらやましいと思ってるんじゃないでしょうか」

 

「あ~。なるほど、それであの行動と言葉ですか」

 

「へ~、チルノにもそんなところがあったんだなー。まだまだ見た目通りお子ちゃまだぜ」

 

「じゃが、実にあ奴らしいのじゃ。普段から明久に張り合っているだけあるのう」

 

「も、もちろん予想ですけどねっ!」

 

 

 でもそれが本当でしたら、なんとも微笑ましいことですねー。最強最強言ってるチルノの中では、どうしても譲れない壁なのかもしれません。まったく、本当に仲が悪いと言うか、負けず嫌いと言うか・・・

 

 

 

「ぶべっ!?バッ、バカよしー!あ、あんたなんかアタイの敵じゃないんだからぁぁああっ!!」

 

「げふうっ!ぼっ、僕だって君なんか敵じゃないよチルノーーっ!」

 

「や、やめなさいチルノ、アキッ!あんたら2人とも、顔に真っ赤な手のマークが出来てるわよ!?」

 

「お、おい待て明久!さすがに女のチルノに手を出すのはまずいぞっ!?」

 

「何言ってんのよさバカもと!一歩も譲れぬ戦いに男も女もないのよさっ!この程度、最強のアタイにはへのカッパよ!」

 

「チルノが言うのか!?っていうか誰がバカもとだっ!!」

 

「よく言ったよチルノ!それでこそ僕のライバルだっ!」

 

「はん!よしーこそ、その気合いだけは認めてやるのよさっ!おりゃあ!」

 

「げぶぅっ!?な、なんのまだまだぁああ!」

 

「ぎゃふんっ!?ア、アタイだってぇえええ!!」

 

 

「・・・ま、あれはあれで一種のコミュニケーションですかね?」

 

「・・・そうにも見える」

 

「意外と仲良しだよなー、あいつら」

 

「そ、そうですねっ」

 

「す、少しばかり過激じゃがのう」

 

「・・・というか・・・バカだろ・・・」

 

 

 ケンカするほど仲が良い。良いと言うにはまだ無理があるかもしれませんが、悪いってことはないのではないでしょうか。

 

 

「さて、じゃあ私たちは仕事に戻りましょうか」

 

「・・・ん」

 

「・・・・了解」

 

「ほ、放っておいていいのかのう・・・?」

 

「別にいいんじゃないか?そのうちスッキリして勝手にやめると思うぜ」

 

「ふ、2人ともボロボロになっちゃいそうですけどね・・・あはは」

 

 

 

 そこら辺りも、2人自身と島田さんに坂本君に任せた方がよいでしょう。私たちはそう結論付けて、厨房、ホールのそれぞれの仕事へと戻りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいまの時刻をもって、清涼祭の一般公開を終了しました。各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』

 

 

 そして祭りもたけなわ。たくさんのお客さんが来たのでそれに対応し、てんてこ舞いになりながらもなんとか全員達成し終えたところで、その放送が流れて私たちは仕事を終えました。

 

 

「ふぃ~~。終わりましたね~!」

 

「うむ。終わったのう」

 

「・・・もう、精神が擦り切れた・・・」

 

「ご苦労さまです妹紅さん!ささっ、これは私のおごりです。ゴマ団子と飲茶で疲れを取ってくださいな!」

 

 

 皆さんが脱力をする中、私は最後に頼んでおいた飲み物と料理を妹紅さんに差し出します。一人だけにあげるのも良くない気がしましたが、人見知りの強い妹紅さんにとっては、すごい疲れた連日だったでしょうからね!その労いと、昨日一人で頑張ってくれたことへの感謝の印です!

 

 

「・・・ありがと。(こく)ん・・・おいし・・・」

 

「それはよかったですよっ!」

 

 

 妹紅さんが穏やかな顔でお茶と団子を口にしてくれて、私も安心です!口に合わないものをあげたなんて嫌ですからね!

 

 

「つ、疲れたーっ!」

 

「まったくよ!よしーほどじゃないけれど、さすがのアタイも疲れたのよさ!」

 

「なにをっ!?そんなことないよっ!チルノこそ僕より疲れてるだろっ!」

 

「そ、そんなことないわよっ!言いがかりなんてするんじゃないのよさバカよしー!」

 

「なんだと!このバカチルノめっ!」

 

 

「こらぁっ!あんた達いい加減にしなさいっての!」

 

「ぎゃんっ!?」

 

「がふぅっ!?」

 

 

 先ほど、両方がボロボロになったところで収まり合ったおバカ2人が再び取っ組み合いを始めそうだったのを、島田さんがげんこつでとどめました。懲りないおバカには実力行使、見事な判断ですよ島田さん!

 

 

「いづづ・・・そ、そう言えば姫路さんのお父さんはどうなったのかな?」

 

「あー、なんでも後夜祭とかも全部終わってから判断されるそうですよ?ねえ島田さん?」

 

「うん。瑞希はそう言ってたわ」

 

 

 瑞希さんが学校を転校されてしまうかの一大事。今回我々が学園祭で必死に頑張ったのも、お父さんの判断を変えてもらうためです!それを知るまでは本当には気を抜けませんね!

 

 

「よし、じゃあ私は服を着替えてくるぜ」

 

「あ、そうね。ウチも着替えるわ」

 

「じゃ、じゃあ私も着替えますねっ」

 

「え、ええええっ!?どうして皆っ!?」

 

 

 瑞希さんの件について心配そうな顔をしていた吉井君でしたが、三人の言葉に、さらにその顔を悲愴めいたものへと変えました。そこからだけでも、吉井君がチャイナドレスにかなりの愛着を持っているのが伺えます。

 

 

「恥ずかしいに決まってるからだろうが!私はもうチャイナ服を着たくないぜっ!」

 

「そ、そんなことを言わないでよ魔理沙!魔理沙のその恰好はとっても似合ってると僕は思うよ!?」

 

「あっ、それは同意です吉井君」

 

「う、うっせえ!お前らに言われても嬉しくもなんともないわっ!私は絶対着替えるからな!」

 

 

「そ、そんな!?じゃあ僕は何を楽しみにすればいいのさ!?」

 

「ああ!?そんなもん目の前にあるだろっ!?」

 

「えっ・・・」

 

 

 魔理沙に言われ、吉井君はぐるりと周りを一瞥。・・・その時、あるお2人が期待のこもった眼でもじもじ彼を見たのは気のせいではないでしょう。

 

 

「そっか・・・そうだったね。魔理沙以外にもチャイナ服を着た可愛い人はいたよね!」

 

「よ、吉井君・・・?」

 

「ア、アキ・・・?」

 

 

 吉井君の言葉に、ある二人は・・・というかお察しのとおり、瑞希さんと島田さんは顔を赤くして吉井君を見つめます。さあ吉井君!もう言うことは分かっていますよね!?しっかりこの場で最善の言葉を言うんですよっ!

 

 

 

 

「――――というわけで美鈴さんっ!君だけはその姿でいてね!」

 

「大間違いですよこの野郎っ!」

 

 

 瞬間、嫉妬と悔しさのこもった眼が私の体へ向けられたのをひしひし感じました。かっ、勘弁してください2人とも~!?

 

 

「・・・アキと美鈴のバカァッ!行くわよ瑞希、魔理沙っ!」

 

「うう~、は、はいいい・・・」

 

「・・・あ~。なんか、すまんぜ、2人とも」

 

 

 あ、ああ・・・!私が何やら裏切り者の雰囲気にっ!私だけ置いてかないで島田さん、瑞希さ~~~んっ!!

 

 

「あれ、美波と姫路さん、どうしたんだろ?何かあったのかな?」

 

「私も恨みますよ、吉井君」

 

「お前はそのうち殴られるぞ、明久」

 

「全くじゃな」

 

「・・・・女の恨みは恐ろしい」

 

「・・・あんた・・・鈍すぎるだろ」

 

「え!?み、みんな揃って僕のせい!?」

 

 

 他に誰がいるっていうのですかっ!吉井君はとことん鈍感ですね全くもうっ!

 

 

「で、お主はどうするのじゃ紅?後を追って一緒に着替えるのか?」

 

「ん~。いえ、せっかくですからこの格好で帰りますよ。土屋君、これはもらってもいいのですか?」

 

「・・・構わない」

 

「そうですか、ありがとうございます!」

 

 

 この喫茶店が終わったら、チャイナドレスなんてめったに着ないでしょうからね~。なのでどうせなら、最後の最後まで着ないともったいないと思っちゃうのが私の性なのです!

 

 

「さすが美鈴さんだ!」

 

「・・・それでこそ、友人・・・!」

 

「・・・・あなた達に喜ばれると、非常に着替えたくなりますね・・・」

 

 

 そこで友情を確認されても私は全く喜べません。ま、そういう反応にはこの二日間でだいぶ慣れたのですが。

 

 

「秀吉君はどうしますか?」

 

 

「ふむ、ではわしは着替えると――」

 

「させるかっ!秀吉もそのままでいてちょうだいっ!」

 

「なっ!?何をするのじゃ明久!」

 

「・・・・!(フルフル)」

 

「ムッツリーニもじゃ!そ、そんなにわしのチャイナドレスを見たいのか!?」

 

「・・・・当然・・・っ!」

 

「姫路さん達がいなくなった今、チャイナドレスを着てるのは二人だけなんだ!どうかっ、僕に夢を見続けさせて!」

 

 

 

「・・・気持ち悪・・・」

 

「あ、あはは。ちょ、ちょっと、ねぇ?」

 

 

 チャイナになんの魔力があるのか。吉井君と土屋君は、着替えようとする秀吉君の足に縋りついて阻止させようとするではありませんか。

 

 はあ。その気概を先ほどあの2人にお見せすれば良かったでしょうに・・・男子の秀吉君に見せてどうするんですかっ!はたから見たら同性愛・・・いや、異性との愛にしか見えません!・・・あれ?それって普通なのでは?

 

 

「おい明久。遊んでないで学園長室に行くぞ」

 

「え。いいけど、今から行くの?」

 

「ああ」

 

 

 その縋り付く様を呆れて見ていた坂本君は、吉井君に声をかけて、優勝賞品の腕輪を手に持ちました。どうやら学園長に頼まれていた物を渡しに行くみたいです。

 

 

 

 

「学園長室じゃと?2人とも学園長に何か用でもあるのか?」

 

「ああ、ちょっとした取引の清算さ。喫茶店が忙しくて行けなかったから、今から行こうと思う」

 

「なるほど。じゃあ学園長によろしく伝えておいて下さいな!」

 

「分かった。んじゃ明久、行くぞ」

 

「了解」

 

「・・・興味がある・・・」

 

「いってらっしゃ~~い!」

 

 

 そう言って坂本君と吉井君は、興味心を持った土屋君の三人で学園長室へと向かいました。これで学園長との約束は果たせて、教室の修繕も許可をもらえるみたいですから一安心です!!勝負には負けましたが結果オーライですね!

 

 

「さて、わしらはどうするかのう?」

 

「のんびり待つとしましょうか。今日も色々と忙しかったことですし、ちょっとの時間でも休みましょうよ」

 

「異議ない・・・本当に疲れたし・・・」

 

「ふむ、ではそうするかのう。改めてお疲れ様なのじゃ、紅、藤原よ」

 

「そうですね~、秀吉君も妹紅さんもお疲れ様です!」

 

「・・・お疲れ・・・」

 

 

 私たち三人は労いの言葉を言い合いながら、近くのお客さん用のテーブルの椅子に座ります。う~ん、お茶が欲しいところですがもうダメですので我慢ですね!あ、ちなみにテーブルなんかの小道具の片づけは明日の予定です。全然片づけをしていないというわけじゃありませんよ?

 

 

「お主らはこの後の打ち上げに行くのじゃろうか?」

 

「ああ、もちろん行くつもりですよ!」

 

 

 席に付いた秀吉君は、放課後に予定されているFクラスの打ち上げ会への出席を聞いてきました。秀吉君!私はそういうのには喜んで出席する女です!だからそんな不安そうな顔をされる必要はありませんよ!皆さんの空気を壊すようなことはしないのです!

 

 

「妹紅さんはどうしますか?」

 

「・・・・・・行きたいとは、思わない・・・」

 

「じゃ、じゃとはわしも薄々思っておったのじゃ。すまぬ藤原・・・」

 

「・・・事実だから、気にしないけど・・・い、行かなきゃ・・・ダメ・・・?」

 

「くふぉっ・・・!?」

 

 

 う、上目遣いっ!妹紅さんの、恐る恐るながらも自分の意見を押そうと、目を逸らさずにその澄んだ目で私たちをきゅっと見つめる妹紅さんに、私は思わず赤い衝動が吹き上がりそうだぁぁあっっ!!

 

 

「あ、い、いや。行きたくないのならば無理強いは出来んのじゃ。気にすることはないぞい!」

 

「・・・な、なら・・・私は、欠席で」

 

 

 参加しなければならない、というつもりで言ったわけではないのでしょうが、秀吉君は慌てて妹紅さんの意をくんであげました。ぅむむむ・・っ!わ、私としては妹紅さんにも来てほしかったのですが、本人が嫌と言うのなら強く誘うこともできません!残念ですが、今回妹紅さんは欠席ということに――

 

 

 

「えーっ!?どういうことよさもこーっ!」

 

「ひっ――!?」

 

「あ」

 

 

 そんなことは知ったものかと、妹紅さんの意思表示に元気な声で割って入ってきたのは、瑞希さん達と着替えに出て行ったチルノでした。

 

 

「もこう!皆が行くって言ってるのにあんただけ行かないとは、良い度胸してるじゃない!!」

 

 

 頬を膨らませたチルノは、教室に入ってどしどしと足を踏み鳴らしながら妹紅さんへと接近し、妹紅さんは何事かとそのチルノをおろおろと見つめました。

 

「ぇ・・・え・・・」

 

 

「いいもこうっ!こういうのはねえ、たとえイヤだろーがメンドーだろーが風邪でぶっ倒れていようが!必ず出るのが筋ってものなのよさ!」

 

「い、いやいやチルノ!?風邪で倒れてるんなら人にうつさないためにも来ないのが礼儀ですよ!?」

 

 

 と、というか、常識を破った存在のおバカチルノがそんなことを言い出すなんて!あなた自身いくつ筋道を通していないこと、勝手に私を子分扱いしたりバカ扱いしてるんですかこらっ!?

 

 

「ぅ・・・そ、そりゃ・・・そうかもしれないけど・・・」

 

「だからもこうも絶対くんのよっ!これは最強のアタイの命令なんだからっ!」

 

「・・・ぅ~・・・」

 

「ちょ、ち、チルノッ!命令はダメですよ!?妹紅さんの意思を尊重しなさい!」

 

 

 全くこの子は!誰もが楽しく過ごせてこそ打ち上げなのです!それを無理強いに誘うなんて、あなたは最強じゃなくてサイアクになりますよ!?

 

 

「でもメイリンッ!イヤなことでもやらなきゃいけないのが世知辛いこの世の中なのよさ!ここは心を鬼にするべきよ!」

 

「脳に何かが降ってきたんですかチルノ!?なんか全然チルノらしくありませんよっ!?」

 

 

 みょ、妙に話に筋が通ってやがりますよちょっと!?何もこんな時にそんな隠しスキルもどきを発動させなくても!妹紅さんがすっごく困った顔になってるじゃないですかーっ!

 

 

 

「・・・わ、分かったよ・・・行きゃいいんだろ・・・」

 

「・・・えっ?い、いいんですか妹紅さん!?」

 

 

 も、妹紅さんがまさかの承諾っ!?予想外ですよこれは!?

 

 

「べ、別に嫌でしたら無理なさらなくていいんですよ!?おバカチルノが言ってるだけで私たちは全然気にしませんから!」

 

「だだっ、誰がバカよバカメーリンっ!」

 

「あふっ!?お尻が痛いですっ!」

 

 

 でも今は気にしない!大事なのは妹紅さん本人の意思を思いやることです!

 

 しかし彼女は、

 

 

 

「・・・う・・・嫌だけど、こいつの言うことも確かだし・・・い、行く。自分の意志で・・・」

 

 

 

 純白の前髪を一房(ひとふさ)摘まみながら、消え入りそうながらも、とっても嬉しい言葉をつぶやいてくれました。

 

 

 

「もっ・・!も、もっ、妹紅さ~~~~んっ!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

 私は思わず、妹紅さんを胸にぎゅ~っと抱きしめます!やったー!これでFクラスの皆さん全員で、この色々とあっても楽しかった学園祭の打ち上げを、心の底から楽しんで行うことが出来ますよ~!!

 

 行きたいと思っていない部分がきっとあるはずなのに、それも乗り越えて自分の意志で行くと言ってくれる健気な妹紅さん!うきゃ~~っ!可愛いすぎて大好きですよ妹紅さ~~んっ!!もっとナデナデさせてーっ!

 

 

「~~~っ!?はっ…はは離せって・・・!あ、あ頭撫でるなききっ、気色悪いからぁ!!」

 

「がぁんっ!き、気色悪っ!?」

 

 

 も、ものすっごいショックです!?かっ、母さんに撫でられてるときはあんなに嬉しそうだったのに!あれほどほにょほにょニコニコはにかんでいたのに、今は比喩じゃなくてホントに顔を少し白くする始末!この天と地の差は何ですかっ!?

 

 

「ぅ~・・・わ。悪いけどまだ、勇儀以外は・・・」

 

「うう~~、と、とても残念ですけど、分かりました。そしてごめんなさい~!」

 

 

 私、紅美鈴はまだまだ母さんの足元に届かず!妹紅さん、私はもっと精進しますから、その時は母さんの時みたいに微笑んでくださいね~!

 

 

「ふむ。藤原は、紅の母君様を深く信頼しておるんじゃのう」

 

「あれね。もこーはラジコンってやつなのよさ」

 

「チルノ。それはおそらくまざこん、と言う奴の間違いではないじゃろうか?」

 

 

「・・・私がいつ、人間やめたんだ・・・」

 

「ま、まあまあ妹紅さん。チルノですからここは大目に!」

 

 

 笑顔はダメでもしかめっ面はOK。間違えて物扱いされてしまった妹紅さんはチルノに満面のかた~い顔をお披露目してくれました。それはそれでグッとくるものがあるので、私は大歓迎ですよっ!

 

 

 

「お持たせ~!」

 

「お、お待たせしました~」

 

「お~す。て、あれ?吉井と坂本と土屋は先に帰ったのか?」

 

 

 おっと、女子三人のお帰りです。チルノほどではありませんが意外と早いですねー。

 

 

「ああ、あの2人でしたら、今学園長室に行ってますよ」

 

「学園長室ですか?」

 

「え?何かあったの?」

 

「何と言うわけじゃありませんが、少し用事があって――」

 

 

 

 出て行ったんですよ。と言おうとする前に、

 

 

 

「「うおおおおおおっっ!!」」

 

『!?』

 

 

 そんな聞きなれた2人の叫びが届いてきました。

 

 

『待たんか貴様らっ!学園祭中に学校の備品のテーブルを盗んだことの話をつけてもらうぞっ!』

 

『断るっ!どうせ話じゃなくて拳でケリを付けるんだろうがあ!!』

 

『そうだよ鉄人先生!そんな野蛮なのは見た目だけにしてくださいっ!』

 

『おのれ!上等だっ!貴様ら今日という今日は徹底的に容赦せんぞおおっ!』

 

『『し、死んでたまるかああああ!!』』

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 そして、Fクラスの前を風のように通り抜ける三つの影。早くてよく分かりませんでしたが、それが何かを把握していない人はここでは皆無でした。

 

 

「・・・学園長室に行ったんじゃなかったっけ?」

 

「・・・そ、そのはずです・・・はい」

 

「に・・・西村先生に追いかけられていたような気がします」

 

「うむ。追いかけられていたのう」

 

「何やってんのよさあいつら。やっぱりよしー達はバカねっ!」

 

「・・・変態は、いなかったな・・・」

 

「あ、そう言えば土屋君が・・・」

 

「・・・・俺は変態じゃない」

 

「・・・っ!?」

 

「おおっ!?ま、またまた突然ですね土屋君」

 

 

忍者を思わせる隠密行動をする土屋君。やってることはすごいのですが、きっとその能力は女の子を泣かせる方向に使われてるのでしょうね~。

 

 

「・・・テーブルを勝手にFクラスに持ち運んだから、そのことで鉄人に・・・」

 

「・・・あ~、なるほど。どうりでやたら綺麗なんですね、このテーブルたちは」

 

「そ、そういうことじゃ」

 

 

 途中から取り入れられた数々の高そうなテーブル。秀吉君はどこから入手したのかを言いませんでしたが・・・

 

 いや~。ようやくそのルートが分かって、私は安堵・・・どころか罪悪感がひしひし伝わってきましたよもおお~っ!!ごめんなさい教師の皆様~~!!

 

 

「いや~吉井達は不運だったな~!実は私も一緒にテーブルの強奪をしてたんだが、無罪放免みたいだぜ!」

 

「はい?魔理沙もですか?」

 

「ええっ!?ま、魔理沙ちゃん達、いつの間にそんなことをしてたんですか!?」

 

 

 私と瑞希さんはびっくりして魔理沙を見ます。瑞希さんは魔理沙だけ、というより吉井君達がテーブル強奪をしていたということに驚いているみたいですが、私にとってはもはや通常運転にさえ思えてきます。『あ、また何かやったんですね』って感じですね。

 

 

「やっぱり日頃の行いってのは大事だな!さすがは私だぜ!」

 

 

 ところが魔理沙のこの厚かましさ。ちょっと自分の胸に手を当てて記憶を掘りあさりなさいっ!

 

 

「いやいや!魔理沙が日頃の行いをどうこう言うのは絶対おかし――!」

 

 

 

 ガラガラッ!

 

 

「いで、す?」

 

「ん?」

 

 

 

 

「ここにいたか、霧雨」

 

 

「!?げっ・・・!?」

 

 

 やっぱり神様というものはきちんと見てるんですね。いけないことをした人は一人も見逃しません。

 

 

 

 

「あ、こ、今日は上白沢(かみしらさわ)先生!」

 

「ああ。こんにちは姫路。皆も今日はご苦労様だったな」

 

「は、はい!慧音(けいね)先生もお疲れ様!」

 

「ああ。とは言え、まだやることが残っているのだがな」

 

 

 そう言って二人に笑いかけるのは、西村先生と同じく文月学園の教師、石頭が少しばかり有名な上白沢慧音先生でした。

 

 魔理沙はそんな慧音先生を見て、汗をどっと吹き出します。

 

 

「な、なな、何の用だ先生っ?あいにく店はもう閉まって・・・!」

 

「いや、お店に用があるわけではないから大丈夫だ。用があるのは、霧雨だ」

 

 

 ポンと優しく魔理沙の肩に置かれ先生の手。ですが、私にはその手が動きを封じる錠のように見えてなりません。ほら、魔理沙もびくっとしましたもの。

 

 

「へ、へ、へ~?私によ、用なんだ~~?」

 

「そう、霧雨にだ」

 

 

 お、おぉぉ・・・!わ、笑い顔が笑い顔じゃありません!先生の後ろにゆらめく何かが見えませんか!?

 

 

「ここで話すのもなんだ、一緒に来てくれるか?」

 

「うっ・・・!わ、悪いけど慧音先生!私は断らせもら―!」

 

「よしありがとう。では皆、霧雨を預からせてもらうぞ」

 

「っておい!?」

 

 

 慧音先生と、すがるような魔理沙の目が私たちに向けられます。ふむ、魔理沙・・・

 

 

「また後で会えることを願っていますよ魔理沙」

 

「どうぞなのじゃ先生」

 

「わ、分かりました上白沢先生!」

 

「ま、魔理沙、また後でね~?」

 

「仕方ないのよさ」

 

「・・・勝手にどうぞ・・・」

 

「・・・骨は拾っておく」

 

 

「お、お前ら全員薄情者だあっ!」

 

 

 だってだって!今の上白沢先生は逆らったら地獄の頭突きが来そうですもん!なのに悪いことを(結果的にFクラスとしては良かったのですが、それはそれです。)しちゃった魔理沙をかばうのは大損じゃないですかー!

 

 

「すまないな皆。さあ、許可も出たことだし、行くぞ霧雨」

 

「私は出してない!だ、だからその許可は無意味だ先生!」

 

「(がしっ)では、失礼する」

 

「うげっ!や、やだあああ~~っ!」

 

 

 

がらっ ピシャンッ!

 

 

 

「・・・吉井君と坂本君と魔理沙は、かなり打ち上げに遅れそうですね-」

 

「あ、あはは。そうかもしれませんね」

 

「しょうがない奴らなのよさ全く!ま、最強のアタイは心も最強だから、大目に見てやろうじゃない!」

 

「・・・だったら、私の行きたくないってのも大目に見ろよ」

 

「えっ、妹紅は行かない気だったの?そりゃウチも来てほしいって思うわよ」

 

「・・・わ、私が行っても仕方ないだろ・・・」

 

「いや、違うと思うぞい藤原。男子はきっと泣いて喜ぶと思うのじゃ」

 

「・・・微塵も、どうでもいい・・・」

 

 

 魔理沙が消えても、私たちは代わることなくこのあとの打ち上げのことで盛り上がりました。三人共!私たちは準備をして待ってますから遅くなっても来てくださいね~!

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 どうも最近、最後にオチを付けられなくてすいません~!出来れば最後まで皆さんには笑って読み終えてほしかったのですが、面白みの欠ける終わり方となってしまいました。それでも、途中までの内容までで一度でも笑い、和んでもらえることを願う村雪です…!

 さて、実に長いこと続けさせてもらった学園祭編ものこりわずかです!一応章の最後まで話を書き終えることが出来ましたが、決して章の最後だからとシリアス、湿っぽい終わり方などせずに!明るく愉快な終わり方でしめさせてもらうつもりであります!

 どうか残る学園祭編も楽しんでもらえたら幸いです~!

 それではまた次回!


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打ち上げ―締め、も明るく楽しくバカ騒ぎしようじゃないですか~っ!

どうも、村雪です!

 さてさて、とうとう学園祭編を終了させていただきます!いやはや、何とか最後まで書き終えることが出来て一安心です~!

 それで、今回なのですが・・・ものすっごく長い文章となっております!普段の一話の倍くらいの長さとなっていて、半分で割って投降した方が良いかな?とも思いましたが、あまり長引かせても良くないと思い、思い切ってつなげて投稿させていただきました!!
 だから目が疲れるかもしれないので、皆さんそれぞれのペースで読んで行ってください!

 それでは、盛り上がり、バカ騒ぎの嵐だった学園祭編の締めの一話!

――ごゆっくりお読みください。


 


「妹紅ちゃん、お疲れさんだ!打ち上げの記念として結婚してくれ!」

 

「諦めなさい」

 

 

 学校ではなく、近所の公園を会場にして開かれた2-Fクラス打ち上げ会。夕焼けを背景に、私たちは今日の学園祭の話で盛り上がります。

 

 

「藤原さん。このお菓子と一緒に俺も一緒にどうだい?」

 

「お菓子だけ代わりに私がもらっておきますね」

 

 

 シートを張って公園での打ち上げというのは少し見栄えは良くないかもしれませんが、安く楽しく過ごせるのならば、それに越したことはないでしょう。

 

 

「藤原さん、どうか俺と付き合ってくれ!」

 

「まずは私を倒してからそんな戯言は言いなさい」

 

 

 それは皆さんも同じようで、ほとんどの人が笑いながら、各個人が持ってきたお菓子やジュースを食べたり飲んだりしてこの時間をにぎやかに過ごしています。

 

 

「藤原、後生だからその綺麗すぎる白い髪をサワサワさせてくれ」

 

「おいこら。地の果てまでぶっ飛ばしますよ?」

 

 

 

・・・とは言え、悲しきかな。どこにも例外というものはやはりございまして・・・・

 

 

 

「もこたんっ!どうかおれに伝説の『はいアーン♡』をやってみてく――」

 

「だああああもうっ!あんたら興奮しすぎですこの変態共っ!!頭冷やしてとっとと離れなさい!」

 

「・・・・う~~・・・だ、だから来たくなかったんだ・・・!!」

 

 

 私にひっついた妹紅さんだけは、男子からの熱烈な言葉に涙目でしかめっ面になっていました。もおおおお!!私もおかげさまで思いっきりしかめ顔ですよこのおバカ男子達っ!妹紅さんに本当に手をしたら全力で叩きのめしますからねぇ!?

 

 

「ちょっと!妹紅が怖がってるでしょうが!あんた達の相手はウチがしてあげるからやめなさいっ!」

 

「げぶっ!?」

 

「き、北村ーっ!?」

 

「な、なんてことをするんだ島田!北村のやつが白目をむいて倒れたぞ!?俺たちはただ、妹紅さんと距離を近めてあわよくば恋愛へ発展させようとしただけで――!」

 

「そのやり方が問題あるって言ってるのよバカっ!!」

 

「ぐはあ!」

 

「の、野崎ーっ!」

 

 

「ああ、助かります島田さん!まったく!妹紅さんが来てくれたのに喜ぶのは分かりますが、もう少し落ち着いて接してあげてください!」

 

 

 皆さんも妹紅さんの性格を知っていたので、この打ち上げに妹紅さんは来ないだろうと踏んでいたそうなのですが、箱を開けて見ればびっくり。来ないと思われてた妹紅さんが来ていたので、男子たちは輝かせんばかりにその顔を感激と喜びの表情に染めました。別に教室でも会えるでしょうに、何がそこまで彼らを喜ばせるのやら・・・

 

 

「藤原!その真っ白な髪を少し切って、お守りとしてどうか俺に恵んで――!」

 

「消えろ変態がぁ!」

 

「ぐぶぅっ!?」

 

 

 とにかく。そんなわけで現在、テンションがダダ上がりのアホ男子たちが次から次へと妹紅さんに会話と言う名のセクハラもどき行為を連発し、私がそれを言葉と拳で諫めているのであります。

 

 

「う~・・・慣れないことなんて、やっぱりするんじゃなかった・・・」

 

「も、妹紅さんそう言わないで!無論嫌なこともありますでしょうけど、良いこともきっとありますからっ!」

 

「・・・さっきから変態共に変態な要求をされてるだけだろうが・・・!どこに良い要素があるんだよ・・・っ!」

 

「・・・え、え~~~と。お、お菓子どうですか妹紅さん?」

 

「ガ、ガキ扱いすんな・・・っ!」

 

 

 そそ、そんなつもりはありませんっ!この場で良いところを作ろうとしただけですよ!

 

・・・そりゃまあ、ちょっとだけ妹紅さんをレミィみたいに思っちゃうことはありますけども!これバレたら絶対に妹紅さんに嫌われますねっ!

 

 

「・・・・藤原の泣き顔・・・金山になる気配がする」

 

「やめよムッツリーニ。藤原がかわいそうじゃし、何より紅が本気で怒るぞい」

 

「・・・・残念」

 

「なになにムッツリーニ?写真を撮るならアタイを撮りなさいよ!最強のアタイならいくらでもポーズをとってやるのよさ!」

 

「・・・っ!?どんな姿勢も・・・・っ!?(ドクドク)」

 

「ま、待つのじゃムッツリーニ!おそらくチルノはそういうつもりで言ったわけではないじゃろうし、何より犯罪臭がものすごいするからよすのじゃっ!」

 

「ふふん!鼻血なんか出しちゃって!さてはアタイの最強さにやられたのね!」

 

「わしにはもうお主の最強の言葉に含まれる意味がわからんっ!そんな魅力のような意味は最強にはないのじゃ!」

 

 

 向こうの方でこちらと同様に盛り上がっているみたいなチルノ、秀吉君、土屋君の3人。声は聞こえなくとも、土屋君を見ればどんな内容か分かってしまうのが呆れたことです。こんな時でも土屋君の頭はピンク色のことしかないのですね!いつぞや言っていた紳士のしの字も見当たりませんよっ!

 

 

「も、妹紅ちゃんっ!皆さんは妹紅ちゃんと仲良くされたいだけで、そんなに悪い人じゃないですよ!・・・す、少し行動が過激ですけど・・・」

 

「・・・わ、私はそこが一番嫌なんだよ…っ!!なんでこのクラスの男子は、こんな変態で図々しいんだ・・・・!」

 

 

 瑞希さんの慰めにも妹紅さんは変わらず、非常にごもっともな疑問を愚痴ります。普通だったらこんなにホイホイと変なことを聞くものではないのですが、学力はFでもその厚かましさは断トツでAクラス!その熱意を他のものに活かせってのですよぉぉ!!

 

 

「ま、まあまあまあ妹紅さん。ではここはひとつ、女の子だけで過ごしましょう!それならきっと楽ですよ!」

 

「そ、そうですね美鈴さん!妹紅ちゃん、良かったらこのジュースをどうぞ!」

 

 

 瑞希さんはそう言って、二つ持ったジュース缶を妹紅さんに差し出しました。どうやらオレンジとブドウ味みたいですが、私だったらオレンジですね!

 

 

「せっかくですから、私たちだけでも乾杯しましょう!妹紅ちゃんはオレンジかブドウのどちらが良いですかですか?」

 

「・・・・・・オ・・・・オレンジ」

 

「分かりました!はいどうぞっ!」

 

「・・・・・・ありがと」

 

 

 お菓子ではのってくれなかった妹紅さんですが、どうやら飲み物は別のようで、瑞希さんからすんなりと缶を受け取ってプシュリと気持ちいい音を立てて開けました。今の音、結構炭酸が強い飲み物みたいですね。私も後で飲んでみたいです。

 

 

「じゃ、乾杯です!お疲れさまでした2人とも!」

 

 

 私は持っている日本茶の缶を掲げ音頭を取ります。ん?お茶が好きなのかですって?それはもう!家族と友達と昼寝の次に大好きですよっ!

 

 

「あっ、か、乾杯です!お疲れ様でした!美鈴さん、妹紅ちゃん!」

 

「・・・お、お、お疲れ・・・・」

 

 

 2人も私に続いて飲み物を掲げます。瑞希さんの屈託のない笑い顔と妹紅さんのふてくされた涙目。ここは天国か何かでしょうか!ああ、心が癒される~~!!

 

 

 

「ごくごく・・・ふー!おいしい~!」

 

 

 一気にお茶を飲みほし、私は喜びの感情と共に感想をこぼします!この日本茶独特の苦みと風味!母さんがお酒を飲み終えた後とかによく飲んでいたので、それを真似てなのですが、すっかり好物になりましたよ~!

 

 

「・・・あふぅ~(ごくごく)」

 

「・・・・・・(こくこくこく)」

 

 

 おっ、2人も見ていて気持ちいい飲み方ですねー!でも大丈夫!飲み物はまだまだたっくさんありますから、いくら飲んでも大丈夫です!

 

 

「なんらか、変わった味のするジュースですね~」

 

「ほほう。では良いか悪いかで言うとどうです?」

 

「んー・・・とっても美味しいれすよ~」

 

「・・・お、おお!それは良かったですね!」

 

 

 

・・・・・・さ、さっきから、瑞希さんのろれつが回っていないような?気のせい・・・・じゃないですよね?

 

 

「あ、あの。瑞希さん、そのジュースを見せてもらっていいですか?」

 

「?いいれすよ~。はいどうろ!」

 

 

 

 そう言って缶を差し出す瑞希さんの顔は、赤く上気していて、目もいつもよりとろんとしています。

 

 

 

・・・これってもしかしなくても・・・そうですよね?

 

 私はほぼ確信しながら、受け取ったジュースのラベルを見ます。

 

 

 

 

「・・・・・は~。誰ですか、お酒を買ってきたのは」

 

 

 見れば『オトナのブドウジュース』と書かれているこの飲み物は、間違いなくお酒に違いありません。ちょっとちょっと!買って来た人!確かにパッケージはジュースに見えますけど、しっかり見れば分かるでしょー!

 

 

「瑞希さん、調子は大丈夫ですか?」

 

「ふえ?はい、大丈夫れすよ~」

 

「今だけは瑞希さんの言葉がまったくあてになりませんね!」

 

 

 度数は5パーセントって書いてあるのですが、それを一杯飲んで出来上がるとは、瑞希さんはめちゃくちゃお酒に弱いんですね~。母さんみたいに強くなくてホッとします!

 

 

 

「・・・すー・・・すー・・・」

 

「で、妹紅さんはお眠りと。おお、なんと可愛い寝顔か~!!」

 

 

 缶を地面において、私に寄りかかりながらすやすや眠る妹紅さん。どうやら妹紅さんのオレンジジュースもお酒だったようですが、て、天使(※咲夜さん達)の寝顔に引けを取らないこの安らかな顔!土屋君っ!今だけは妹紅さんの写真を撮ることを許可します!だから私にその写真を無料で寄越すのですよっ!

 

 

「あれ~?美鈴さんと妹紅ちゃんが二人に見えます~」

 

「あ、いえいえ瑞希さん、私たちは別に分身の術を使ってるわけじゃありませんよ?」

 

 

 強いて言うなら瑞希さんが酔っぱらいの術を使っているのです。や~、瑞希さん結構酔ってますねー。あ、ほらそんなにゆらゆら揺れたら危ないですよ!

 

 

「瑞希さん、お茶でも飲みますか?ちょっとは酔いがさめますよ?」

 

「ふえ?でも、私全然酔ってなんかいませんよー?ちょっと頭がフワフワしてますけれど・・・ひっく」

 

「世間ではそれを酔っていると言うのですよー。今後覚えておきましょうね~?はいどうぞ」

 

「ありがとうございます~。んっ・・・」

 

 

 飲みかけのお茶を渡すと、瑞希さんはお礼を言ってすぐにそれを口にしました。あ、間接キスというものになるかもしれませんけど、同性ですし、状況が状況なのでノーカウントです。

 

 

「・・・はう~・・・でも、良かったです~」

 

「ん?何がです?」

 

 

 お酒を飲めたことなんて言わないですよね?私はそんなことを冗談交じりに予想しながら、瑞希さんの答えを聞きます。

 

 

 

「お父さんが、転校をしなくてもいいって言ってくれらことれすー」

 

「そんな大事なことは素面(しらふ)の時に言ってーっ!?」

 

 

 え~!?そういう結果はもっと真剣な雰囲気の中、緊張しながら聞くべきです!なのに、陽気に酔っぱらいながら前置きなく聞かされるって!何かがっ!私の予想していたものと何かが違うっ!

 

 

「あ~・・・ま、まあ良かったですよ!これで瑞希さんとまた過ごせていけますね!」

 

「はい~!これからもよろしくれすー!」

 

 

 とは言え、瑞希さんが転校しなくて済んだのは本当に良かったです!私たちも学園祭で頑張ったかいがありましたね~!

 

 

「あれ・・・?なんだかホッとしらら、眠くなってきました~」

 

「おっとと。大丈夫、ではないですね。少し眠ってはどうですか?」

 

 

 またふらついて倒れそうだった瑞希さんをなだめ、一度休んではどうかと提案します。酔っぱらった瑞希さんを見るのも楽しそうな気がするのですが、転んだりしてけがをしては大変です。乙女にケガなんていけませんからね!

 

 

「じゃあ・・・お言葉に甘えます~・・・」

 

「ん?って、お、おおっ?」

 

 

 瑞希さん?私の肩には何も安眠することが出来るなんて特典は備わっていませんよ?

 

 

「少しだけ、すいません~・・・・すうー・・・すう・・・」

 

「ん・・・すー・・・」

 

「・・・だ、大人気ですね、私の肩。何かありがたみでもありましたっけ?」

 

 

 両手に華、ならぬ両肩に華ですねこりゃ。妹紅さんに瑞希さん、こんな良い子たちに肩を枕にされるなんて、むしろ私がありがたみを感じます!ここで贅沢を言えば、膝に咲夜さん、あるいはレミィかフランが頭を置いてくれたらもう完璧ですね!

 

 

・・・しかしよくよく考えると、今私たちってすごい大それたことをしてません?高校生が公園でお酒を飲むって、どんだけアウトローなんですか。見つかったら大目玉に間違いありませんね。

 

 

 

「何やらすごいことになっておるのう、紅」

 

「あ、秀吉君」

 

 

 両肩に頭を置かれていて動くこともできず、二人の残したジュースもどきのお酒を飲んでいると(※思い切りアウトです。意外とあなたもやんちゃだったのですね……)、向こうでしゃべっていた秀吉君が1人でやってきました。

 

 

「私は全然いいんですけどね~。秀吉君は楽しんでますか?」

 

「うむ。男子たちが何やらすさまじく興奮してはしゃいでおるが、楽しんでおるのじゃ」

 

「・・・た、楽しければ何よりです!」

 

 

 それって、お酒を飲んでるからではないでしょうね?先ほど妹紅さんにやたらと熱いセクハラもしていましたが、それもお酒の影響な気がしてきましたよ?まったく!未成年だからお酒は買っちゃだめです!ルールは守って楽しみましょう!(※お酒を飲むのもダメです。)

 

 

「ところで、吉井君達はまだ来てないのですか?」

 

 

 学校の机を勝手に持ち出したということで、魔理沙、吉井君、坂本君の三人は学校に残って説教を受けているのですが、時間的にはもう終わってもいいころかと思うのですがね~?

 

 

 

「うむ。もうしばらくしたら来るじゃろ。それまでは飲み物でも飲んで雑談に華を咲かせようではないか」

 

「良いですね!っと、すいません秀吉君。お茶がからですので,代わりの飲み物を取ってもらえますか?」

 

 

 両肩に妹紅さんと瑞希さんがもたれかかっていますので、今の私は立ち上がることもできません。使ってしまって申し訳ないのですが、ここは一つ頼みます!

 

 

「分かったのじゃ。―――これでいいかのう?」

 

「すいません。ありがとうございます!」

 

 

 秀吉君から渡された飲み物。さあ、味はどんな味なのか―――

 

 

 

『大人のグレープフルーツジュース』

 

 

「ってまた酒ですかっ!」

 

「え?さ、酒じゃと?」

 

「ええ!ほら、お酒って書いてる!」

 

「!ほ、本当じゃ!?」

 

 

 なんだかさっきから酒の割合が多くないですか!?ひょっとして全部お酒なんてこと、ってさっきお茶を飲んでたからそれはありませんか!ともかく普通の飲み物をプリーズです!

 

 

「す、すまん!他の飲み物は……………オレンジ酎ハイ、リンゴ酎ハイ、ブドウ酎ハイ、白ブドウ酎ハイ、ハイボール、焼酎、ビール……」

 

「全部アルコールじゃないですか!っていうか後半はジュースと間違えられる要素がない!本当に誰ですか飲み物を買ってきた方は!」

 

 

 絶対に確信犯ですよね!?これほどたくさんのお酒を持ってくるとは、かなりやんちゃな方がFクラスにいたものですね~!!

 

 

「ど、どうする?何も飲まないでおくかのう?」

 

「あ~……いえ。せっかくですから飲みましょう」

 

「!?の、飲むのか?じゃが、いいのかのう?」

 

 

 非常に心配そうな顔をする秀吉君。ええ、その気持ちはよく分かりますよ?誰の目がどこにあるか分かりませんからね~。

 

 でも、です。

 

 

「――周りもだいぶ出来上がっていますし、ここで私たちが飲まなくても、事態は変わりないんじゃないでしょうか」

 

「・・・・・あ~。もはや一蓮托生、というわけじゃな」

 

「はい。おそらく」

 

 

 皆さんを止めることなどもはや不可能な雰囲気。ならば毒を食らわば皿まで!自分も精一杯堪能しといたほうがいいじゃないですか!

 

 

「というわけで、秀吉君!終わりまでの短い時間をじっくり楽しみましょう!」

 

 

 秀吉君に渡された酒を開け、秀吉君に掲げます!

 

―――ここだけの話、私、最近たま~~に、少しだけ!ごくまれに!家で母さんとお酒を飲むことがあります!晩酌の相手と言う奴ですが、内緒ですよ!?シーですよ!?

 

 ともかくそういう機会があって、私は結構酒に強い方らしいです!ですので、理性を失う前まで飲みますよ~!

 

「その終わりが、時間での終わりであることを心から願うのじゃ………よし!わしも男じゃからの!こうなったら腹を括ってやるのじゃ!」

 

 

 おっ!良い覚悟ですね秀吉君!私そういう方は好きですよ!秀吉君も手にリンゴの酎ハイを取り、私と同様に掲げます!

 

 

よし!それじゃあっ!

 

 

「秀吉君!」

 

「うむ。紅よっ」

 

 

 そして満面の笑顔を浮かべながら私たちは、カシャンと缶をぶつけました。

 

 

「二日間お疲れ様でしたっ!」

 

「二日間お疲れ様なのじゃ!」

 

 

 さ~、こうなったらいろんな味を堪能しましょ~!!秀吉君、そのたびに悪いですが飲み物を取ってくるのを頼みましたよ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~疲れたー。鉄人ったらあんな長く怒んなくてもいいじゃないか」

 

「全くだ。いてて、慧音先生も頭突きをすることなかったと思うぜ…」

 

「お前ら、反省の色が全くないな・・・まあ、俺も似たようなもんだが」

 

「そもそも坂本が誘ったのが原因じゃないか。私はむしろ被害者だ」

 

「そうだよ雄二。原因は雄二にあるじゃないか」

 

「そこまで図々しいとかえって清々しいな」

 

 

 図々しいだなんて。僕は本当のことを言っただけなのに。

 

 ようやく鉄人たちから開放された僕と雄二と魔理沙。まだ痛む頭突きや拳を受けた部分を抑えながら、皆が打ち上げを行っている公園へと移動する。結構時間が経ったけれど、まだ続いているかなあ?

 

 

「でも、売り上げは結局どうなったの?結構儲かったんじゃないかな?」

 

「ああ。そのノートは島田が持っているから、この後見せてもらおう」

 

「そっか、美波が持ってるのかー」

 

 

 美波が喫茶店のお金の管理をしていたから、雄二が持ってないのも当然だった。美波は意外と数学が得意だから、そういうのは全部美波が管理をしている。美波って意外と几帳面なんだよねー。びっくりしたよ。

 

 

「お、まだやってるみたいだぜ」 

 

「ん?」

 

「あ、みたいだね」

 

 

 魔理沙の見る先を見ると、公園の中でFクラスらしき高校生集団がわいわいと盛り上がってるのが見える。どうやら僕の心配は無用だったみたいだ。良かった良かった。

 

 

「・・・3人共、遅かった」

 

「ごめんごめん、鉄人の話がちょっと長くてね」

 

「私は慧音先生の説教が長かったんぜ。しわが出来るだろうからやめといた方が良いだろうによ~」

 

 

 魔理沙には全く悪びれた様子はない。魔理沙の言うことが本当だとしたら、身を折ってまで説教をした慧音先生は報われないなあ。でも上白沢先生なら、しわが出来ても美人な気がするけどどうなんだろう?

 

 

「先に始めてくれててよかった。待たせてたらすまない気持ちになっていたところだからな」

 

 

 雄二の言う通り、こういう時は僕たちを待たないでいてくれた方がありがたい。色々とあつかましい人が多いFクラスだけど、そこに感謝をしたのは今が初めてかもしれない。

 

 

「・・・そのことで、少々問題が」

 

「ん?」

 

「え?問題?」

 

 

 でも、そうは見えない気がするよ?ほら皆も楽しそうにしゃべって――

 

 

 

「分かってる!ウチの胸が人より小さいってことぐらい言われなくても分かってるわよっ!でも、それでも夢を見るのが人間じゃない!でしょうチルノ!?」

 

「確かにそうね。・・・でも、夢を見るのとそれが叶うかどうかは別のなのよさ、美波。きちんと現実を見なさい」

 

「うう~・・・っ!いったいウチが何をしたってのよ!こんなぺったんこにされるなんてむごい仕打ちをされるほど、悪いことなんかしてないのにいっ!」

 

「美波、胸なんかで女の価値は決まんないわ。大事なのはどれだけそいつが最強かってことなのよさ!美波も結構最強なんだから、胸を張りなさい!」

 

「う~~!張る胸なんかないけれど、ありがとうチルノ~!」

 

「いいってことよ!最強だから当たり前なのよさ!」

 

 

 

「異常事態が起こってるね」

 

「チルノが聞いたら怒るぞ明久」

 

「あいつ、たまに私らの予想を超えた存在になるよな・・・」

 

 あのバカチルノが人の愚痴を聞いて慰めるなんてことがあるはずないし、美波が自分の胸を自虐した言葉を言うはずがない。予想以上にひどい事態が起こっているみたいだ。

 

 

「・・・これ」

 

「ん?ジュース?」

 

 

 状況が分からない僕たちにムッツリーニが見せてきたのは、どこにでもあるアルミ缶。これがどうしたんだろう?

 

 

「って、それ酒じゃないか土屋」

 

「・・・そう」

 

「え?お酒?なんでここにお酒があるの?」

 

「・・・誰かが、ジュースと間違えたのかと・・・」

 

 

 言われて見れば、確かに果物の絵がかいてあるからジュースにも見えなくない。僕も言われなかったらジュースだと思ってたよ。

 

 

「・・・それが大量に用意されていて・・・全員が飲んだ」

 

「おいおい、どんだけやんちゃなんだぜあいつら!」

 

「教師から説教を受けた僕らが言うのも変だけど、確かにそうだね」

 

 

 未成年だけど気にすることなくお酒を飲もうとは、ある意味さすがFクラスだ。

 

 

「・・・だから、少し収拾がつかない状態――」

 

 

「おっ!来たのねあんた達っ!」

 

 

 そんな元気な声が、ムッツリーニの声を遮って聞こえてきた。

 

 

「おお、チルノ。大丈夫か?俺の目には、お前の顔がだいぶ赤く見えるんだが」

 

「ん?顔が赤い?人間誰でも赤くなる時ぐらいあるのよさ。そんな分かり切ったことを聞くなんて、賢い坂本らしくないわねー?」

 

「チルノオオオっ!!意識をしっかり持つんだぁぁああああ!!」

 

「ゆゆ、雄二を賢いだなんてっ!?ちょっと酔っぱらいすぎだよチルノーーっ!!」

 

「お前ら表に出やがれおらあっ!」

 

 

 さっきの相談といい雄二を賢いだなんて言い、今のチルノはお酒に呑まれ過ぎているっ!!お酒は怖いって聞くことがあるけど・・・!これほどだなんて、僕には想像さえできなかったっ!

 

 

 

「にしても遅かったのよさ。あんた達ずっと怒られてたの?」

 

「あ、う、うんまあね。僕と雄二は鉄人に魔理沙は上白沢先生にだよ」

 

「ふーん。それは災難だったわね。ほら、アタイからの餞別よ」

 

「あ。ありがとう」

 

 

 僕たちに背を向けたチルノはごそごそと何かを手にして、僕たちに向き直って差し出してきた。まさかチルノに餞別を送られる日が来ようとは。

 

 

 

『極きれ スーパービール』

 

 

「って完全にビールじゃんかっ!」

 

 

 誰がどう見てもお酒にしか見えない!これを買った奴は確信犯だ!

 

 

 

「あら、ビールは嫌だった?ならチューハイにしとく?いろんな味があるわよ?」

 

「チルノ。僕が言いたいのはお酒の種類じゃなくてね!」

 

「こ、小柄なチルノが酒を薦めるって、考えると相当やばい気がするぜ…」

 

 

 チルノの背丈は、下手をすれば小学生ぐらい。確かにはたから見ればかなり危ない状況に見えそうだ。というか見た目関係なしに、高校生でもアウトなんだけども。

 

 

「何よ!アタイの贈り物なんかいらないっていうの!?」

 

「い、いや落ち着いてくれチルノ。そんなつもりはないんだが、やはり未成年の飲酒はどうかと――」

 

「この薄情者がーっ!そんな奴にはアタイが天罰を下してやるのよさーっ!」

 

「い、いっででででででぇえっ!?かっ、髪の毛を掴むなチルノオォォオオッ!」

 

 

 そんな見た目小学生のチルノが、雄二の髪の毛をわしづかんで猛抗議を始めた。そんなことをされても雄二は言葉だけの静止を試みていて実力行使に移らない。なんだかんだでやっぱり雄二は、女子にはめっぽう弱いのかもしれないね。

 

 

「じゃあ雄二、ムッツリーニ。チルノは任せたよ」

 

「坂本、土屋。お前らの働きは忘れないぜ」

 

「な!?お、おいお前ら!?」

 

「・・・なぜ、おれまで・・・!?」

 

 

 雄二たちにチルノを受け持ってもらえれば、僕たちへの飛び火は避けられる。ここは面倒見の良さそうな雄二とあんまり酔っていなさそうなムッツリーニに託すとしよう。骨なら後で拾っておくよ!

 

 

「チルノの奴、結構出来上がってんなあ。そんなに酒があんのか?」

 

「さあ?見た感じだとFクラス全員が出来上がってそうだけど・・・」

 

「もう飲み物全部が酒なんじゃないか、それ?」

 

 

 よくもそれだけお酒を買えたもんだ。買った人の気前が良いのは嬉しいけれど、気前を良くする場所を間違えている気がしてならない。お菓子とかに使ってくれるのなら何も問題はないのになあ・・・

 

 

 

 

「おっ!吉井君達じゃないですかーっ!」

 

 

 

 それでも。こういう風に陽気な声の主にとっては、とっても嬉しい贈り物となったというわけだね。

 

 

「お、美鈴。って・・・・・・お前、大丈夫かおい」

 

「ん~??あー、結構酔っ払ってると思いますよ今の私はー!あっはっはっは!!」

 

「だろうな。今の美鈴が酔っ払ってるというのはなんとなくわかるぜ」

 

 

 魔理沙の言う通り、快活な笑いを上げる美鈴さんはいつもよりもかなり明るい気がする。これもお酒の効果というやつなんだろうなあ。

 

 

「それにしてもえらい遅かったですねー!そんなにお話は長引いてたんですか?」

 

「うん。話というより鉄人の場合は拳だったけれどね」

 

「あははははっ!西村先生らしいですね~!それはご苦労様でした!」

 

 

 おかげさまで僕の顔はすごくはれてるよ。それを酔っぱらいながらも労ってくれる美鈴さん、僕は感激の言葉しか浮かばない。

 

 

「おかげさまで、私はその間にだいぶ出来あがっちゃいましたよ!飲み過ぎには注意しなくてはねっ!(プシュッ)」

 

「おい美鈴。そう言いながら酒を開けられても説得力が無さすぎるぞ?」

 

「おおっと、これは失敬!(ゴクゴクゴクッ)」

 

「お前やっぱりけっこう酔っ払ってるだろっ!」

 

 

 ぐびぐびとお酒を飲む美鈴さん。ちょっとちょっと!?そんな飲んで大丈夫!?

 

 

「――――ふは~~~っ!あっ、私だけ飲んでたらダメですよね!2人も一緒じゃなくては!」

 

「いや美鈴さん!僕たちが気にしてるのは飲む人じゃなくて、君の飲む量だよ!?大丈夫なの!?」

 

「ちょっとちょっと失礼ですね吉井君!私だっておバカな吉井君に心配されないように飲むペースは考えていますよう!」

 

「そうは見えないし、今僕が失礼なことを言われた気がしてならないっ!」

 

 

 ダメだ!今の美鈴さんに僕の言葉は届かない!なのに僕のハートにはぐっさりと届くなんて理不尽すぎるよっ!

 

 

「あ、そうそう!妹紅さんも瑞希さんと秀吉君と飲んでたんですけれど、三人共あんまりお酒に強くなかったみたいでして、あちらで休憩をされてるのですよ!2人も行きましょう!(ぐわしっ!)」

 

「いだだだっ!?ま、待て美鈴!そんな力を籠めなくても私は逃げない!むしろその力から抜けたくなって逃げたくなるぜ!?」

 

「ま、待っだ待っだ美鈴ざん!首元掴まれで引っ張られだら、僕はそこに行くんじゃなくてあの世に逝っちゃうっ!?」

 

 

 掴まれなくても自分で移動できるから!って、ぜっ、全然掴んだ手をひっぺがせないだと!?美鈴さんって本当に力が強くない!?僕の男子としての立場が完全に消滅したよ!

 

 

 

 

「あ、ほらあそこです!美波さんも加わってますよ!」

 

「へ?み、美波さん??」

 

 

 確か美鈴さんって、美波のことを島田さんって呼んでなかったっけ?僕達のいない間に呼び方が変わったのかな?

 

 

 

「――瑞希~、ちょっとでいいからあんたの胸をウチに寄越しなさいよ~。ウチも一度でいいから、走ったら胸が痛くなるってのを体験したのいよ~・・・!」

 

「無理ですよ~。それだと私の胸を移植しないといけないから、ちょっと怖いですもの~。でも、私も木下君の演技力、というか魅力がほしいですね~。木下君、出来ることならしますから譲ってください~」

 

「ん~。すまぬが、これはわしにとっては一つの財産じゃから、譲るわけにはいかんのじゃー」

 

「む~、残念です~。私もせくしぃな女の子になってみたかったな~・・・」

 

「わしは島田のそのたくましい性格が欲しいのじゃ。島田よ、どうかその秘訣を教えてくれんかの―・・・」

 

「ちょっと~、ウチが男の子みたいな性格だって言わないでよ~。まあ、ウチが美春とか知らない女の子に愛の方向で好かれるのも、それのせいなんだろうけどね~」

 

「うふふ、美波ちゃんらしいです~」

 

「はっはっは、じゃのう。実に島田らしいのじゃー」

 

「あはははっ。ちょっと笑わないでよ~」

 

 

「・・・すー・・・すー・・・」

 

 

 美波の呼ばれ方を気にしてた僕だったけど、新しく気になることが出来たのですぐさま頭のわきにのいてもらった。ごめんね美波。

 

 

「・・・うわ~。こりゃ、妹紅以外は完全に出来上がってるな」

 

「今なら、姫路さんと変な形で親近感がわきそうだなあ・・・」

 

 

 皆から少し離れた場所で、秀吉と美波、そしてすやすや眠っている藤原さんに膝枕をしてあげている姫路さんの美少女4人(少女は3人です)が見えたのだけど、お酒を片手に酔っぱらった風に話して笑う姿は、なんだかおじさん臭く見えた。

 

 

「3人共―っ!吉井君達が来ましたよ~!」

 

「ふぇ?美鈴さんに・・・あ~!【明久君】と魔理沙ちゃん!私だってもっとセクシィになれますからねっ、明久君!」

 

「おお、魔理沙たちではないか。お主のたくましさと清々しさも分けてほしいのう」

 

「アキ~。女の子ってのは胸だけじゃないんだからね~」

 

 

「あ、う、うん?遅くなったりよく分かんなかったりするけど、とりあえずごめんね?」

 

「なぜ私は合流してすぐに、漢気溢れる女みたいに言われなきゃならんのだぜ」

 

 

 僕も姫路さんに明久君って魅力的すぎる呼ばれ方をされたり、美波にさらりと重みのある言葉を言われたりと、一度目の会話なのにもう意思疎通が出来ないような気がしてきた。新鮮な光景だけれど、淀んだ酒気が充満しているのは間違いないね。

 

 

「明久君達も飲みませんか~?この桃味のジュース、とっても美味しかったです~」

 

「姫路さん。僕にはそれがジュースには見えないよ?僕にはどうしてもお酒にしか見えないよ?」

 

「こっちの梅酒もよかったのじゃ。お主らも飲んでみるかの?」

 

「おい秀吉。お前は酒と認識しながら、何をおいしそうに堪能して未成年な私らに勧めてるんだ。よもやこの魔理沙ちゃんがこんな当たり前のことを、常識ある秀吉に言うことになるとは思わなかったぜ」

 

「ハイボールってのもいけたわよ~、ウチ的にはこの酸っぱいのが好きだったわー。あ、でもビールとかも苦さがあったけど悪くなかったかな?」

 

「お前はおっさんか美波っ!」

 

「っていうかどれだけ飲んだの美波!?だいぶ顔が赤くなってるけど大丈夫!?」

 

 

・・・って、3人の近くに何か結構な数が転がってるけど、ひょっとして飲み終えた空き缶とは言わないよね!?色んな種類の缶がべコリと折られて集められて、全部集めたらちょっとした缶の丘が出来そうだよ!?不安だ!この美少女たち(※一人は男子です)の将来が少し心配になってきたよ!

 

 

「あら~?アキったらウチの心配してくれてるの~?」

 

「ちょ、み、みみ美波っ!?なんだかとっても顔が近いよ!?」

 

 

 横から美波が急接近してきた!?だ、だから女の子からのあつい吐息が…!って酒くさっ!?酒くさい吐息って!せっかくの機会だけどなんだか複雑だよ美波っ!?

 

 

「むー!?美波ちゃんっ!明久君が嫌がってますから駄目ですよ!!」

 

「ひ、姫路さん!」

 

 

 僕の心配をして美波に注意してくれてありがとう!その気遣いは本当にありがたい!

 

 

「ん?あ~、ごめんねアキ。近づかれるのは嫌だった?」

 

「むしろもっとしてほしいと僕は思うっ!!」

 

 

 でも嫌がっているというのは勘違い!僕としては思い切りご褒美ですっ!

 

 

「ん?そお?だってさ瑞希~」

 

「む、む~!じゃあ、私もですっ~!」

 

「え、えええええっ!?」

 

 

 み、美波と反対側から姫路さんも大接近だって!?どど、どうしよう!?これって夢!?僕は今人生で一番最高な夢を見てるんだけど、僕は明日死んじゃうの!?これが僕の死ぬ前の冥土の土産!?

 

(※現実ですし、冥土の土産に『夢』というのは果たして良いのか悪いのか…)

 

 

「おお!モテモテですね吉井君~!さてまあ新しく2人も来たことですし、また乾杯をしましょう!」

 

「そうですねー!明久君、やりましょう!」

 

「アキ、飲み物を持ってるんだからちゃんとするのよ!」

 

「うむ。ぜひしようではないか」

 

「ま、そうだな~。せっかくだし乾杯するのが筋ってものだぜ」

 

 

 魔理沙の言う筋ってものがどうなのかは分かんないけれど、女の子に勧められて断るなんて、男として失格!男吉井明久、喜んで皆の要望に応えようじゃないかっ!というか答えさせて!

 

 

「も、もちろんっ!じゃあ乾杯し――!」

 

 

 

「よしー!あんたなにアタイと乾杯せずに勝手に乾杯するつもりよさーっ!」

 

「よっぷらぁ!?」

 

「はわわ?」

 

「わっとと?」

 

 

 やっぱり世の中は上手くいかないようにできていたんだね。この空気を読まない言葉と攻撃とバカな声!バカチルノに違いないなっ!

 

 

「チルノォ!なんてことをしてくれるんだよーっ!?せっかく僕がいまだかつてない幸せな時間を過ごしていたっていうのに、それを壊すとは君の血は何色だあああ!!」

 

「バカねっ!人の血は赤色に決まってるのよさ~!そんなことも分かんないなんて、よしーはやっぱりよしーね!」

 

「おのれ!僕の名前を『バカ』って意味で使うんじゃないよ!それは全国にいる吉井家の人々に対する挑戦だっ!」

 

「だったらこうね!『よしーはやっぱりよしいなんとかね』、よ!」

 

「それさっきまでと全然変わってないから!っていうか僕の名前を覚えてないの!?僕の名前は吉井明久だって!しっかり覚えておいて!」

 

 

 僕だって仕方なく君の名前を憶えてるってのに!チルノ・メディックだっけ?君だって医療班みたいな名前じゃないか!

 

(正. 『チルノ・メディスン』です。 何が『だって』なのか分かりませんし、そもそも名前を間違えています。なまじそちらの方が知らないよりひどい気がしますが・・・)

 

 

「あきひさ~?何よつまんない名前ね。もっと面白い名前かと思ってたのよさ」

 

「何を!?僕の名前のどこがバカなんだっ!」

 

「いや、バカとまでは言ってないだろ」

 

「素敵な名前だと思います~」

 

「悪い瑞希。私は正直普通だと思うぜ」

 

「こらこら魔理沙。どんな名前でも大事な名前なんですから、そんなことを言ったらダメですよー、ごくごく」

 

 

 普通って言われるのも何か悔しい!1人はお酒を飲みながらだけれど、姫路さんと美鈴さんの言葉だけはすごく心を癒してくれるねっ!

 

 

「まーつまり、『よしーはやっぱりよしいあきひさね』って言えばいいのね。まったく面倒な言い方なのよさ」

 

「そう言えばそういう話の流れだったね!もう好きに言っていいよもう!」

 

 

 代わりに今度からチルノのことをバカチルノって言ってやるからな!せいぜい覚悟しておくんだよっ!(※すでに幾度と使ってます。)

 

 

「よし!じゃあめでたくよしーの呼び方も決まったことだし、乾杯するわよあんた達!」

 

「もともとそのつもりだったのに、邪魔をしたのはチルノでしょっ!」

 

 

 そして乾杯する理由がひどすぎる!チルノなんか向こうでアホ男子たちとわいわいお酒を飲んでればいいんだっ!

 

 

「オッケーですチルノ!では皆さん、不肖私めが音頭をとらせて頂きますよーっ!」

 

「・・・・ぁむ・・・うるさいなぁ・・・」

 

 

 あ、美鈴さんの声で藤原さんが目を覚ました。くしくしと寝ぼけ眼をこすって体を起こす藤原さん。それを見れただけでチルノへの不満が全部消し去った。

 

 

「お!起きましたか妹紅さん!ささっ、妹紅さんもせっかくですから何か飲み物を!」

 

「・・・水がいい・・・」

 

「水ですね!えっと、美波さん!」

 

「はいは~い。妹紅、これでいい?」

 

「・・・・・・ん」

 

 美波がそう言って差し出したのは・・・色は透明だけれどアルコールは濃いであろうお酒。ちょちょ!?美波、酒か水かの判断ぐらいは出来ないとまずいって!ほら、藤原さんがもっと不機嫌な顔に!

 

 

「・・・ありがと」

 

「へ?」

 

「ううん、どういたしまして!」

 

「え?」

 

 

 え?水じゃないでしょそれって・・・あ、あー。なるほど。よく見ると藤原さんの顔も、周りの皆と同じで少し赤い。これだけで理由は十分だね。

 

 

「では妹紅さんにも行き渡ったことですし!改めましてっ!」

 

 

 美鈴さんは特に気づいた様子もなく、手に持った缶を掲げて、笑顔で皆の顔を見渡した。どうやらようやく挨拶のようだ。チルノのせいで回り道をした気分だねまったく。  

 

 

「え~と、では!昨日今日と続いた学園祭!色々とありましたが上手くいけたことにっ!そして何より!瑞希さんが転校せずに文月学園に残ってくれるということに!」

 

「えっ!?ほ、ほんとそれ!?」

 

「まじかよ!?やったな瑞希!」

 

「やかましいわよあんた達っ!今メイリンが乾杯しようとしてんだから黙りなさい!」

 

「いだっ!?」

 

 

 ゆ、優先順位!チルノ、君は先にすませなければいけないことの順位を間違えているぞっ!君は姫路さんが引っ越さずに済んで嬉しくないのかーっ!

 

 

 

 

「この学園祭への取り組みに関する取り組み!皆さんお疲れ様で~~~す!!」

 

 

 

「お疲れさまで~す!!」

 

「お疲れさま~!」

 

「お疲れ様なのじゃ!」

 

「お疲れなのよさ~!」

 

「……お疲れさま」

 

 

 美鈴さん、姫路さん、美波、秀吉、バカチルノ、藤原さんが声を上げてねぎらいの言葉を掛け合った。

 

・・・そうだね。姫路さんの話は後にして、今はこっちの方が大事かな。まったく、チルノめ。君の言葉に従ったわけじゃないからね?僕の意志に従っただけなんだから!

 

 

「じゃあ、魔理沙」

 

「おう、吉井」

 

 

 この場で唯一酔っぱらっていない魔理沙に声をかけて、僕らは同じ言葉を叫んだ。

 

 

 

 

「「お疲れさま(だぜ)っ!!」」

 

 

 さてっ!じゃあ僕もいっちょ男を見せて、皆よりもお酒を挑んでみようかな!っとまずは姫路さんと話だね!

 

 僕はお酒を少しだけ口にしてから、姫路さんと話すために彼女の近くへと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでですね~。吉井君のことを下の名前で呼ぶ人がいっぱいいますから、私も呼んでみたいと思ったんです~。・・・ダメ、でしたでしょうか・・・?」

 

「へ~、そうだったのかー。僕は全然嬉しいから大歓迎だよ~!」

 

「そうですか~?良かったです~!」

 

「うん。どんどんそう呼んでくれていいよ!ごくごく」

 

「わっ。明久君ってば一杯飲むんですね~」

 

「またまた姫路さんったら~。まだこれで一杯目だよ~!」

 

「あははっ、そうでしたね~!足元にいっぱいありますけど、明久君が言うんでしたらそうですよね!」

 

 

「んでよ~・・・アリスの奴ったら、私が召喚大会に出た理由が金のためだとか言うんだぜ?ひどいだろ~?金より大事なものはちゃんとあるってのにさー・・・」

 

「へ~。魔理沙って美春と似た感じなのねー。あの子よりは行動が激しくないから、ウチとしてはほっとするわ~」

 

「魔理沙も色々と苦労してんのねえ。ほら、今日はアタイと飲むのよさ。きっとそのうちいいことあるわよ」

 

「う~ん。不覚にもなんかチルノが頼もしく見えるぜ~」

 

「バカね~。アタイはいつだって最強よ~」

 

 

 

 

 

「ふぃ~。皆さんもだいぶ出来上がっていますねー。よっこいしょ」

 

 

 おっとと、全く人のことを言えませんね。意識ははっきりしてますが、身体を動かすのが億劫です。お水を買って戻ってくるのも一苦労です。お酒とはなかなか曲者ですね~。

 

「うー・・・メ、美鈴・・・、水、ちょうだい・・・」

 

「ああ、はいはいどうぞ妹紅さん」

 

 

 ベンチに寝転がっている妹紅さんの頭を失礼して、私の膝を下に挟んでからペットボトルの水を開けます。どうも気分が悪いみたいなので、飲み口を口元に近づけて飲ませてあげましょうか。

 

 

「んくんくんく・・・っ」

 

 

おお、結構飲みますねー妹紅さん。あっという間に半分ですよ。

 

 

「ぷはっ。・・・ありがと。すごい助かった」

 

「それはよかった。では私も失礼」

 

 

 残った水を残すことなく飲み干します。くぁ~!お酒を飲んだ後の水ってこんなおいしいと思うものなんですねー!

 

 

「ふ~・・・どうです妹紅さん?この打ち上げ、妹紅さんは満喫してますか?」

 

 

 始まって時間がだいぶ経ったので、思い切って聞いてみます。妹紅さんはこの時間中に結構寝ていたのですが、起きている時間の間だけでも満喫されたのか、はたまた不快となったか。いったいどうなのでしょうか・・・?

 

 

「・・・・・・まあ・・・本当に、濃いクラスだとは思った」

 

「くはっ!な、なるほどそれは否定できませんね~」

 

 

 思わず吹き出しちゃいますけど、実に的を射た言葉でございます。Fクラスとはまさに混沌の魔窟でございますからね~。

 

 

「・・・でも・・・・・・嫌な気持ちはない・・・・かも・・・」

 

「ん、それは良かったです」

 

 

 

 

 

「・・・・前の学校じゃ・・・もっとひどかったし・・・」

 

 

「え・・・・・・・・そうですか・・・ご苦労様です、妹紅さん」

 

 

 

・・・・・酔った影響か、さらりと、あっさり聞き済ますべきではないであろう一言をつぶやく妹紅さん。

 

 非常に気になりましたが、本人の状態だと、自分の意志で言ったかがかなりあいまいです。ここは、聞き逃した方がいいでしょう。そこにどんな思いがあるのかなんて、私は全く知らないのですからね。

 

 代わりとは言えないでしょうが、その言葉を聞いて思わず私は、触るもの全てを透き通すかのように柔らかい妹紅さんの白髪を撫でました。

 

 

「・・・ん」

 

 

 おお。怒られるかと思いましたが、そんなこともありませんでした。お酒のせいか、はたまた昔の話をして母さんの手だと勘違いしたか?おそらく前者でしょうが、感謝をしなくてはね。

 

 

「紅よ」

 

「!はい、何ですか秀吉君?」

 

 

 おや?近づいてくる秀吉君の顔は何かを伺うような顔です。

 

 

「ぇ・・・え、と・・・お主もわしのことを秀吉と呼んでおるから・・・美鈴と呼んでいいかのう?」

 

「ん?え、ええそれはどうぞどうぞ!全然大歓迎ですよ~!」

 

 

 え、えらい突然ですけど何も構いませんとも!私は下の名前で呼ばれる方が好きですからね~!

 

 

「そうか。で、では、改めてよろしくなのじゃ・・・、メ、美鈴よ」

 

「はい、こちらこそよろしくです秀吉君!」

 

 

 そんなこともありながら、私はバカ騒ぎをする皆を眺めたり、たまに飲み物を口にしながら時間を費やしました。

 

 

 そして、楽しい時間はいつかは終わるものでして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、美鈴」

 

 

 恐ろしい時間と言うものがやってくる・・・というか、待っていたわけです。

 

 

 

 

「は・・・・はひ。な、なななに?かかっ・・・・か、母さん?」

 

 

 

「スー・・・ス―・・・」

 

 

 近くから聞こえる妹紅さんの寝息。そんな可愛らしい仕草も、目の前に仁王立ちする彼女には全く効き目がありませんでした。

 

 

 

 

 

「――――っこんのバカ娘がぁああああ!何を無理やり妹紅に酒を飲ませて酔い潰させてんだぁああああ!!」

 

「ひいいいいいっ!?ごご、ごめええええんっっ!ででもわざとじゃないわ母さん!!わっ、私も最初は酒だって気づかなかったのおおおお!」

 

 

 鬼神と化した母さんに、全身全霊で謝罪と言い訳を始める私!じゃじゃ、じゃないと私はあの拳骨の餌食に・・・!それだけはいやあああああ~~!

 

 

「そこはすぐに気づけっ!ったく、昔の私みたいなことしやがって・・・!そんなところを真似するんじゃないよバカッ!」

 

「ちょ!?で、でも母さんもやってたんなら同じじゃない!?だったら母さんに怒る権利なんてないでしょ!?」

 

「!だ、黙りなドアホッ!とにかく、いくら故意じゃなかろうが妹に酒を飲ますバカな姉にゃあけじめってもんをつけさせるっ!覚悟しな美鈴んっ!!」

 

「ええええ!?そ、それを言うなら娘(わたし)と一緒にお酒を飲む母さんもでしょ!?私だけ怒られるなんてずるいずる、っていたたたたいたいたいたい~~!!いや~~~~っ!ごめんなさい母さんんんんんんんんっっ!!」

 

 

 

「あわわあぁ・・・!わ、私、お母さんが怒ったところ初めて見た・・・!怖い!お母さん、す、すっごく怖いよ!」

 

「しゃ、しゃくや~!お母さん怖い~~!!」

 

「だ、大丈夫よ2人とも。お母さんは美鈴を怒ってるんであって、2人を怒ってるんじゃないわ!ちょ、ちょっと今回は美鈴が悪いから仕方ないけど・・・2人はお母さんを怒らせたらダメよ?」

 

「あうう・・・う、うん。・・・美鈴、大丈夫なのかなあ・・・?」

 

「!も、もうっ、美鈴に会えないのっ!?ふ、ふぇえっ・・・!!」

 

「そ、それは大丈夫よ!お母さんもそんなにひどいことはしないだろうし・・・美鈴もあれで、タフな性格だからね」

 

「・・・う~~ん…美鈴~・・・水~・・・」

 

 

 

 

――そんなこんなで。学園祭最後の日、私は、久しぶりに母さんから熱~いゲンコツとその他もろもろを頂戴して、涙ながらに過ごすことになりました。

 

 しくしくしくしく・・・別に母さんとお酒を飲むのは楽しいからいいけど、やっぱり私だけ怒られるのは納得いかない!母さんだって同じことやってたみたいなのにずるいわよ~~~~~~っ!!!

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!これにて見事、学園祭編はフィニッシュでございます!

 ヒロインたち皆さんの普段とは違う一面や、秀吉や妹紅さんのと美鈴さんのやりとり、そして美鈴さんと勇儀さんの母子のやりとり場面!他にも色々と書いてみたりして、充実した内容ではないかと思っていたのですが、いかがでしたでしょうか? 
 

 さて、1つの章が終わってしまうとまた次の章に行くことになるのですが、実は最近、やることが出来たり新しく買ってしまったゲームにはまっているなどで、文章作成がものすご~く遅くなってしまっているのです。前者についてはともかく後者については我慢しろよ!と自分でも思うのですが、非常にお恥ずかしい!


 そういうわけでして、次の投稿はある程度話が固まってから投稿をさせていただくことにします!楽しみにしてくださっている方、読んでくださっている方々、本当に申し訳ありません!これもまだいつだとは言えませんが、気長に待ってくださることを願いまして、この報告をさせていただきます!

 それではまた次回までっ!感想や思ったこと、雑談などがございましたら遠慮なく送ってください!投稿はしなくてもハーメルンの方は見ておりますので、遅くなっても必ず返信させてもらいますから~!
  


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水がヤツらを呼んでいる!夏の風物詩水泳編!
衝突―バカ、じゃないわ。これはれっきとした決闘だったのよさ


どうも、村雪です!一週間空けての投稿となりました!


 さて。前回で学園祭編も終わって、原作の時系列で言えばいわゆる『雄二回』となるところなのですが・・・・ど~しても原作とほぼ同じ流れにしか書けなかったので、とばさせてもらいます!原作の流れを期待していた方々、申し訳ありません~!

 というわけで今回からは、そこをとばした回を始めさせていただきます!

 
 色々と忙しくなってきてなかなか文章の量が少ないのですが、間を空けすぎるわけにもいかないので投稿させていただきましたが、果たしてどうなるやら・・・!短いながらも楽しんでもらえればっ!

――ごゆっくりお読みください。





「バカよしー」

 

「何さバカチルノ。よっと」

 

「誰がバカよ、ていっ。アタイはお腹が減ったわ」

 

「わっ。だから雄二が買い物に行ってくれてるんでしょ。もう少し待ちなよ。でいっ」

 

「おっ、危ないわね。最強のアタイを待たせるとは、あんた達もバカなのよさ」

 

「それを言うなら〝悪〟だよね?っていうか、チルノの方がバカだよ。とうっ!」

 

「アタイはバカじゃな、あああああっ!?ア、アタイのキャラクターが画面のお星様にー!?」

 

「よっしゃあ僕の勝ちだチルノーっ!これでバカなのは君だと証明されたね!」

 

「ま、まだよ!まだ終わらんのよさバカよしー!次はアタイが勝ってみせるわよ!」

 

「ふふん!そんなことが出来るのならやってみろってんだい!」

 

「言ったわねぇ!やったろうじゃないのよさー!」

 

「上等だっ!」

 

 

「「うおおおおおおっ!くたばれバカ(チルノー)(よしー)っ!!」」

 

 

 

 

 今僕達は、譲ることのできない聖戦(ゲーム)を繰り広げていた。

 

 

 僕、吉井明久はマンションの一室で一人暮らしをしている。両親の目なんかがないため、色んなゲームやマンガ、あと大人向けの保険の教科書なんかを買ったりしてるんだけど、今はその内のゲームを使って、クラスメイトである大バカ少女、チルノと雌雄を決さんとしていた。

 

どうして僕の部屋にチルノが、と思うかもしれないけれど、そんなに深い理由があるわけではないよ?ただチルノが僕の家にたくさんのお宝(ゲーム)があるって言ったら、

 

 

「アタイをあんたの家に入れなさい!入れなきゃアンタはバカよバカよしー!」

 

 

 と、すでにバカって言われたけど、バカって言われたくないから悪友の雄二が遊びに来るときに一緒に来てもらっただけである。

 

 というわけで、初めてウチに来た女の子がチルノってことになるんだけど、チルノの場合だと、女の子が来たというよりバカをする友達が来たって感じだな~。

 

 

 

 

 

「帰ったぞー」

 

 

 あ。何度目かの熱い勝負が終わったところで、雄二が帰ってきた。

 

 

「よしチルノ、名残惜しいけれどここでいったん休戦しようじゃないか」

 

「む。仕方ないわね。ケリはあとでつけてやるわ」

 

 

 いやー、チルノってば意外とゲーム上手なんだね~。これは雄二に並ぶ好敵手になりそうな予感で、ご飯の後も楽しみだ!

 

 

「さかもと遅いわよ!アタイはお腹ペコペコなのよさ!」

 

「悪い悪いチルノ。だが飯は買ってきたから許してくれ」

 

「雄二、何を買ってきたの?」

 

 

 チルノに謝りながら机に袋を置く雄二に尋ねる。袋はなかなか大きいから、中にはたくさん食品があるに違いない。僕には何を買ってくれたんだろう?

 

 

「ああ、自分の目で確認してくれ。ほら」

 

 

 

・コーラ

・ソーダ

・アイスコーヒー

・カップラーメン

・カップ焼きそば

・冷麺

 

 

 

ふむふむ。飲み物が三つに麺類が三つか。どれにしようかな?

 

 

「じゃあアタイはソーダとコーヒーとれーめんね!」

 

「おれはコーラと焼きそばとラーメンだ」

 

「って待った!雄二にチルノッ!それだと僕の食べ物がなくなるよ!?」

 

 

 僕の食べ物を勝手に2人で分けようったってそうはいかないぞ!僕だってお腹はすいてるんだよ!!

 

 

「いいじゃない別に。割りばしも食べれるし、バカなよしーにはぴったりなのよさ。これが格差社会ってやつね!」

 

「何おうっ!?そんなことを言ったらチルノなんか僕より下の階級じゃないか!」

 

「なにー!?アタイがいつよしーの子分になったってのよ!?」

 

「待て明久。割りばしの部分はつっこまないのか?そしてチルノの中では子分になるのが下になるって意味なのか?」

 

 

 割りばしだって確かに食べられる!でもそれだけじゃあお腹は膨れないし、何より口に刺さって痛い!そしてチルノが親分だなんてこっちからお断りだっ!

 

 

「雄二!チルノ!その飲み物とラーメンをよこすんだっ!」

 

「いやよっ!いーっ!」

 

 

 おのれチルノ!そんなむかつく顔をするとは、こうなったら力ずくにでも奪ってやるよっ!

 

 

「落ち着け明久。お前用にもちゃんと買ってきてある」

 

「へ?な~んだ、それならそう言ってくれればいいのに!」

 

 

 まったくもう。危うく紳士な僕が崩れ落ちるところだったじゃないか。食料があるのならそんな心配もいらな――

 

 

 

「ほれ、こんにゃくゼリーとところてんとダイエットコーラだ」

 

「君たちの食料を僕によこせええっ!」

 

 

 重要なカロリーをオフなんかされて、紳士なんか知ったことか!盗賊になってでもこのバカ2人から貴重な栄養源を奪取してやるよ!

 

 

「いった!?よしぃいい!あんたよっぽどアタイを怒らせたいのねーっ!」

 

「君が怒ったところで怖くなんてないよっ!だからその冷麺を僕にわた」

 

 

 ぶしゃああああ!!

 

 

「さぎゃああああ!?目がっ、目がぁあああああ!!」

 

 

 何か液体がかかって目が痛いぃぃぃぃ!!な、何をしたチルノォォオオオ~~!?

 

 

 

「あはははははっ!どーよ、アタイの力を思い知ったかしら!?」

 

 

 涙と別の液体でにじむ目で必死に見ると、自信にあふれた笑顔のチルノが、ふたの開いたソーダのペットボトルをこっちに構えているのが見えた。

 

 さ、さては炭酸を思い切り振ってソーダを噴出させたんだな!?掃除が大変なのは間違いなしの攻撃を僕の部屋でぶちかますなんて…!絶対に許すまじっ!目には目をだ!

 

 

「いいわね!これに懲りたなら、バカなよしーはバカなよしーらしくアタイに逆らわないこ」

 

 

ブシャアアアアアアッ!

 

 

「と、っびゃああああああ!!?アアアタイの目がぁ~~~っ!!」

 

 

 カロリーオフとは言えコーラはコーラ!チルノへのダメージはばつぐんだ!

 

 

「うぐぐぐ・・・!やややっ、やったわねええええ!!!このばかよしーがぁあああああ!!」

 

「先にやったのはそっちだろバカチルノォォォオオ!!」

 

「おい待てお前ら!食い物は粗末にするんじゃ――!?」

 

 

 雄二の言葉なんか耳に入らないまま、僕たちは譲れない戦いを現実で再開させた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………どうやらここまでのようだね、チルノ」

 

「……そうみたいね。次に戦ったらアタイが勝ってやるのよさ」

 

「お前ら……オレも遠慮なしに巻き込みやがって…」

 

 

 コーラやところてん、はては麺類のおつゆまで使った結果、僕たちの全身はべとべとになってとても外に出られない状況になっていた。あともう少し弾(食品or飲み物)があったら僕が勝ててたんだけど、弾切れだからここは引いてあげるとしよう。感謝するんだね、チルノ。

 

 

 

「たくっ。よくもこんな派手にやったもんだ。おい明久、シャワーを借りるぞ」

 

「うん。別にいいよ。タオルは適当に使ってね」

 

「言われなくてもそうする」

 

「次はアタイね。さっさと出んのよさかもと」

 

「分かった分かった。少し待ってろ」

 

 

 そう言って雄二は風呂場に向かっていく。僕の順番は最後かあ。一応僕の家なんだけど、それまでは我慢しないと……

 

 

 

「―――あ、そうだ。雄二にウチのガスが止められてるって言わないと」

 

『ほわぁぁっーーっ!?』

 

「あんた、そんなことぐらい先に言っときなさいよ。まあアタイも似たようなことがあるけれど」

 

 

 雄二の悲鳴を背景に、チルノが頷きながらそんなことを言った。こんな似たようなことはめったにない気がするけどなあ。

 

 

「(ガチャ!ずかずかずか!)先に言えやこら!これじゃあ風邪をひくわっ!」

 

「でも、先に言ったところでお湯が出ないのには変わりないよ?」

 

「冷水シャワーを浴びずに済んだだろうがっ!ったく…」

 

「急に冷たい水がかかったらびっくりするわよね~。そのたびに水の奴をぶっ倒してやりたくなるのよさ」

 

 

 さすがにそこまでの発想には僕はならない。水がなければ生きていけないというのに、やはりチルノはバカだね。僕が保証しよう。(※その保証にいかほどの価値があるのやら…)

 

 

 

「仕方ねえ。2人とも、外に出ないか?」

 

 

 すると、雄二がそんなことを提案して服を着始めた。ちなみに先ほどまではタオル一枚だったんだけど、雄二もチルノも全く動じない。互いにそれはいいのかな?

 

 

「外?いいけど、何しに行くのよさ?」

 

「あ、もしかして雄二の家に行くの?」

 

「それでもいいが、どうせならシャワーだけじゃなくてプールもあるところに行こうぜ」

 

「プールもあるところ?」

 

「ああ。加えて金がかからないところだ」

 

 

 はて。この近くにそんなところがあったかな?シャワーもあって、プールもあってさらにはお金要らずの無料な施設だなんて……

 

 

「―――あ、あそこか。分かったよ雄二」

 

 

 あそこならその条件を全部満たしている。場所が分かれば何も気にすることはないから、僕は頷いて雄二の案に乗った。あとはチルノだ。

 

 

「むむ。どこかわかんないけど、アタイは全然いいわよさかもと」

 

「分からんのに承諾するのもどうかと思うが……よし、じゃあこれで意見は一致したな」

 

 

 さて、そうと決まれば準備だ。体を拭くタオルと去年使っていた水着を取ってこないとねー。

 

 

「って、雄二とチルノは水着はどうするの?」

 

 

 今日泳ぎに行くなんて約束はしていない。2人とも水着なんて持ってきてないんじゃ…

 

 

「ん?ああ、このズボンは一応水着にもなるから問題ないぞ」

 

「アタイはいつもカバンに水着を用意してるから問題ないのよさ」

 

「2人は夏というものをどこまでもエンジョイする気なんだね」

 

 

 いつでもどこでもプールに行ける準備をしている2人に驚きながら、僕も水着を準備しに移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「………で、何か言い訳があるか?」

 

「この2人が悪いんです」

 

「この2人が悪いんだ」

 

「夜のプールはとっても気持ちよかったのよさ」

 

 

「……………はあ…」

 

「こらっ!せめて少しは悪びれんかチルノッ!(ゴンッ!)」

 

「ギャフンッ!?」

 

「……あなたもいてくれて本当に助かりますよ、上白沢先生」

 

 

 そして約二時間後。僕たちは文月学園のプールサイドにて、生活指導である鉄人こと西村先生と、同じく生活指導で日本史の女の先生、上白沢慧音(かみしらさわ けいね)先生に説教を受けていた。お日様も彼方に沈んだというのに、なんてまじめな2人なのだろう。

 

 まあそれはともかく、

 

 

「なんでさ!そもそも雄二が僕に変なものを買ってきたのが始まりだし、チルノが僕にバカみたいにソーダぶちまけたのが最大の原因でしょ!?」

 

「違うだろ!発端についてはともかく、お前がガス代をちゃんと払ってなかったのが事の根源だろうが!」

 

「そうよ!それにあんたがアタイ達の食べ物を横取りしようとしたのが始まりじゃない!アタイに責任を押し付けんじゃないのよさ!」

 

「その言葉そっくり返してやるよ!この薄情者たちめ!」

 

「なにぃ!?誰がバカ者達ってぇ!?」

 

「こらっ!説教中に暴れるなチルノ!今のはチルノの聞き間違えだ!」

 

 

 うん、チルノを止めてくれてありがとう、上白沢先生。正座をしている今の僕では大いに不利だったからね。

 

 

 

「まったく……なぜお前らは、普通に友人の家で遊ぶということも出来ないんだ…」

 

「鉄人先生。その言葉はあっちのアホ雄二とあっちのバカチルノに言ってくださいよ。僕はごく普通に遊んでたんだから」

 

「テメエ明久!どの口がそんな戯言を言うんだ大バカが!」

 

「そうよこの大バカよしーが!あんたなんかにバカって言われるなら小学生にバカにされる方がマシよっ!」

 

「チルノこの野郎っ!誰が小学生以下の頭脳の持ち主だっ!」

 

「違うわね!あんたなんか幼稚園生と一緒で十分よ!」

 

「よぉしぬかしたなっ!今度こそ君を叩き潰してやる!」

 

「ふん!やってみなさいよこのバカよしーが!」

 

「こら!チルノに吉井!」 

 

 

 やはりこのチルノとは最後までケリをつけなければ!僕としても収まりがつかないぞっ!いくら上白沢先生の言葉でもね!

 

 僕は正座を崩してチルノへと攻撃をしかけ

 

 

「いい加減にせんかバカ共がっ!」

 

 

 ゴツンッ!×2

 

 

「げふっ!?」

 

「きゃぷっ!?」

 

 

 ぐおおおお!!い、一瞬意識を失いかけた!?なんて拳骨をかましてくれるんだよ鉄人っ!

 

 

「いいか!お前らは一度親しくするということを学ぶべきだ!週末にプール掃除をすることを命じるっ!」

 

「「ええええ!?」」

 

 

 なんだよその命令は!僕たちがそんなことをしなきゃいけない義理はないでしょ!?

 

 

「文句を言うな!勝手にプールへ忍び込んだ罰も兼ねているから拒否権はないぞ!」

 

「ぐぅぅ!?」

 

「な、なんて冷たいのよさ・・・!」

 

 

 そう言われたら何も言い返せない!ちくしょう!こんなことならプールに来るんじゃなかったよ!

 

 

 そんなわけで、僕たちの週末はプール掃除ということになった。これは人手を増やさないと、一日が終わっちゃうなぁ・・・

 

 僕はみちづ、げふん。一緒に手伝ってもらう心優しい人を考えながら、鉄人、上白沢先生の説教をこってり受けつづけた。

 

 

 

 

 

 

『ねえ鉄人。だったら坂本も一緒にプール掃除をするべきよね?」

 

『だよね?僕達と一緒にプールに忍び込んだんだからさ』

 

『おおい!?おれを巻き込もうとすんな!そこはお前らだけでやる流れだったろ!?』

 

『ふっ、あんただけが助かると思ったら大間違いなのよさ。ねえよしー?』

 

『その通りだよチルノ。よく言うでしょ?散らば諸共ってね』

 

『分かってるじゃない、よし-』

 

『お前らなんでそういうときだけ息が合うんだボケッ!』

 

 

『誰がバカよこの大バカゴリラっ!』』

『誰がバカだよこの霧島雄二っ!』

 

 

『いい加減おれもブチ切れたぞてめぇらぁぁああああ!!』

 

 

『ええええい!!だからやめんか大バカどもがぁあああああ!!』

 

 

『『『ぎゃあああああああ!?』』』

 

 

 

『・・・西村先生。苦労されるんだな・・・。今度滋養剤でも八意先生に作ってもらって、差し上げようかな・・・」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回はこの回の発端となる出来事を書いて終わらせていただきました。少し中途半端な感じもしますがすみませんっ!

 
 よくよく考えると、明久の自宅に仮にも女子であるチルノを上げるというのも、あんのFクラスの中では大波乱が起きそうな気もしますが、原作そのままにしないためにも誰か女子が必要だったのでこのことに関しての暴動はありませんのでご了承を!話の展開上、ど~してもチルノが都合が良かったのです~!


 さて、次回も投稿するのに間が空くかもしれませんが、気長に次回も待っていただけたら幸いです!


 それではまた次回っ!


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勧誘―参加、するかは周りの意見よりも自分の気持ちを優先さすべしです!


 どうも、村雪です!

 さて、今回はプールに行くメンバーを集める回となります!とは言え基本的な流れは原作と同じで、あんまり変わった動きはない回なのですが・・・

 一つだけ!おそらくほぼ全員の皆様の期待に添えなかった箇所がございます!読んでもらったら分かると思うのですが、先に謝罪をさせていただきます!申し訳ありません!!

 そんな謝罪をしてしまいましたが、それでもやめずに読んでもらえることを願いながら・・・

――ごゆっくりお読みください。


 

 

 

「てなことがあって、おかげで散々な日だったよ……」

 

「いや、私から言わせれば一番の苦労人は西村先生です吉井君」

 

 

 朝のFクラスの教室にて、ちゃぶ台につっぷしたままぼやく吉井君に私、紅美鈴はつっこみます。

 学校がない日でもバカをするなんて、あなたは筋金入りのおバカなのですか。まあそれは、同じようにプールに忍び込んだチルノや坂本君にも言えたことかもしれませんが。

 

 

「というか、シャワーが使えぬから学校のプールに忍び込むというお主らの行動力にはいつも驚かされるのじゃ」

 

「何を言うのよさひでよし。夏は誰が何を言おうとプールじゃない。アタイらはやって当然のことをしただけよ」

 

「チルノよ。普通やらないことじゃから、お主らは怒られたんじゃろうとわしは思うのじゃ」

 

「まったくです。ある種の天才かとも思いますよね秀吉君」

 

 

 反論するおバカ少女チルノにごもっともなことを言うのは、見た目は少女ですが性別は男の木下秀吉君。今日もその女の子らしさが輝いていて、私はうらやま妬ましいですよっ!

 

 

「それで週末はプール掃除だよ…はあ…」

 

「バカ野郎。ため息を付きたいのはおれの方だ」

 

「・・・重労働」

 

「まあ仕方ないですよ、勝手にプールに忍び込んだ吉井君達が悪いんですから」

 

 

 ムッツリーニこと土屋康太君が言うように、文月学園のプールはまあまあの広さがありますので、すぐに終わるということにはいかないでしょう。吉井君が嘆くのも分かりますが、これが罰なのですから文句はダメです!

 

 

 

「まあ褒美というわけではないだろうが、『掃除をするのならプールを自由に使っていい』と鉄人に言われたぞ」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「そうなの雄二?」

 

「まじ!?アタイ急にやる気が出てきたわ!」

 

 

 つまり終わったらプールを貸し切り状態で泳げるってことじゃないですか!しかも当然無料ですし、なんとうらやましい!

 

 

「ああ。だから、秀吉とムッツリーニ、あと紅もプールに来ないか?」

 

「おっ!良いんですか坂本君!」

 

 

 思わぬ坂本君からの勧誘です!むろんここは参加したいですね~!

 

 

「ああ。ただし少しでいいから掃除の手伝いをしてもらうが、いいか?」

 

「ええ。それぐらいならお安い御用ですよ!」

 

「うむ。ならわしもご一緒させてほしいのじゃ」

 

「・・・美少女3人の水着・・・っ!ブラシと洗剤を用意しておけ・・・!」

 

 

 秀吉君、そして土屋君も参加することになりました。土屋君に関しては間違いなくプール以外のことが目的ですね。まだ何も見ていないはずなのに、もう目が血走ってますもの。

 

 

 

「んじゃ、あとは・・・おーい!姫路、島田、霧雨、藤原!」

 

「あ、はい坂本君!」

 

「ん?坂本、呼んだかしら?」

 

「なんだぜ坂本?」

 

「…………なに?」

 

 

 坂本君の良く聞こえる声に、ふわふわロングヘア―で、学年随一の頭脳を持った姫路瑞希さんと、ポニーテールと面倒見の良さが素敵な島田美波さん。

 

そして非常に恋の話に興味ありまくりのやんちゃ少女の霧雨魔理沙と、もはや芸術と思えるほどの床まで届く綺麗な白髪の持ち主の内気少女、藤原妹紅さんの4人が何事かと集まってきました。

 

 

「4人共、今週末は暇か?学校のプールを貸し切りで使えるんだが、良かったらどうだ?」

 

 

「「え・・・?」」

 

「おっ!そりゃーもちろん参加するぜっ!」

 

「いい。……遠慮しとく」

 

 

 あれ?魔理沙と妹紅さんに関してはある程度予想してた返事なんですけど、瑞希さんと島田さんの反応が微妙?

 

 

「あ、ひょっとして何か用事がありましたかお2人は?」

 

「う、ううん。用事はないんだけど・・・ちょっと自信が、ね」

 

「で、ですよね美波ちゃん・・・」

 

「へ?自信??でも二人は可愛いと思いますよ?」

 

 

 この2人が可愛くないというのなら、結構多くの数の女子が涙にぬれることになりますよ?だから大丈夫です!自分の顔に自信を持ってください!

 

 

 

「ありがとう美鈴。……でもウチ…ここだけは可愛いじゃなくて、大人になりたかったわ」

「ごめんなさい美鈴さん。私も……ここだけは可愛いじゃなくて、たくましくなりたかったです…」

 

 

 そうため息をついて2人は……彼女たちの胸、そしてお腹へと手をやりました。

 

・・・あ~。そっちですか。咲夜さんと似た感じでそっちですか!

 

 

「・・・だ、大丈夫ですよっ!2人のその部分は決して悪いことは――」

 

「美鈴が言うなあああっ!」

 

「美鈴さんが言わないでください~っ!」

 

「い、いだだだだだだああ~っ!?ふ、2人とも!私の胸と腹をつかまないでええ!?」

 

 

 な、なぜ私にカタキを見るような目を向けながら襲われるのかっ!?別に私がお2人の成長を奪ったわけじゃありません!自然にこうなったんですよ~!

 

(※ここで声に出していたら、女性陣の仁義なきキャットファイトが繰り広げられていたことでしょう。よく耐えました、美鈴さん。)

 

 

「??雄二、あの2人はどうしたのかな?」

 

「さあな。悩みは人それぞれってことだ」

 

「美波の気持ち、私には身に染みて分かるぜ…!」

 

「ふ~ん。アタイはよく分かんないのよさ。ねえもこー?」

 

「………どうだっていいよ………身体なんか…」

 

「・・・これは、大儲けできる光景・・・!!」

 

「お主はどんな時でも通常運転じゃな、ムッツリーニ」

 

 

「ちょ、そこでこっちを見ながらつっ立ってる皆さん!他人事みたいにしてないで助けてください~!!」

 

 

 薄情な皆さんなんて嫌いですっ!今のこの2人、すっごい真剣ですから私は強く言えないんですよ~!!だから助けて~~~~!

 

 

「はっ!美鈴!あんたもプールに行くの!?」

 

「い、行きますよ!?行きますけどそれが何かアウトでしたか!?」

 

「ひ、卑怯よ美鈴~!あんたは自信を持ってプールにいけるかもしれないけど、ウチなんて・・・!ウチなんてぇ・・・!」

 

「うう・・・最近ご飯を食べ過ぎちゃってますし・・・」

 

「あふぅん!?」

 

 

 うあ~いだだ!やっと解放されましたよっ!もう!ここはびしっと文句の1つを・・・って、なんで次は目の前で打ちひしがれてるんですか!私が被害者なのに、思いっきり加害者みたいになるからやめてちょうだい!?

 

 

「ちょっとあんた達。さっきから何やってんのよさ。プールは行くの?行かないの?」

 

「う・・・い、行くわっ!こうなったら恥かくのも上等よっ!」

 

「そ、そ、そうですねっ!もう普段から恥ずかしいところなんかいつも見せてますから、大丈夫ですよね!」

 

「あの瑞希さん!?その発言は大いに勘違いが生じるかと思いますけど!?」

 

 

 きっとドジをした時の事とかを言ってるんでしょうけど、あまり大きな声で言うのはいかなものかと!?ほら、なんかすっごく誤解している人が!

 

 

「・・・明久・・・!なぜ、おれもそこに呼んでくれなかった・・・っ!!」

 

「え、なになに!?どうしてムッツリーニはそんな無念そうな顔をして僕にボールペンを向けるの!?僕何もしてないよね!?」

 

「確かに、今回ばかりはこのバカは何もしてないだろうな」

 

「うむ。こやつにそのような根性があるとも思えんしのう」

 

「瑞希ってたまに天然になるよなー」

 

「みんなも何言ってるの!?っていうか秀吉!君が一番ひどいことを言ったことに僕は涙と驚きが隠せないっ!!」

 

 

 本当に土屋君はエロに情熱をかけますねー。男子と女子の思考は違うって言いますけど、彼を見てるとそれがよ~く伝わりますね。女の子はそこまでエロに情熱はかけません!多分!

 

 

「ま、2人も来てなによりだぜ!でも、妹紅は来ないのか?」

 

 

「………プールに行くくらいなら……家にいる…」

 

「・・・なんか妥協したみたいな言い方だけど、それって妹紅にとってはかなり至福の時間じゃないかと思うんだぜ」

 

「確かにな」

 

「そんな気がするのじゃ」

 

「……!ほ、ほっとけ…っ!!」

 

 

 ですがそこが妹紅さんらしさです!さみしいですけれど、本音を告げてくれる方が嬉しいのですよ!

 

 

「え~!もこうも来なさいよ~!こんな機会なんてめったにないのよさ!」

 

「こ、今回は絶対嫌だからな………っ!どんだけ言われても絶対やだからな!」

 

「む!この頑固者めー!アタイの言うことが聞けないっての!?」

 

「いつも聞くと思ってんな、バカ…!」

 

「バッ!?だだだだっ、だだ誰がよしーよもこおおおっ!」

 

「ひっ…!?」

 

「待った!!僕の名前がバカの言葉みたいに使われてることと、僕がバカ扱いされてることに断固として抗議するぞチルノッ!」

 

「ど、どうどう吉井君にチルノ!揉めたら話がまとまりませんからやるなら後にしてくださいっ!妹紅さんがもっとおびえますから!」

 

 

 チルノに怒鳴られた妹紅さんが背中にしがみついた状態で、ムキになった二人を落ち着かせに入ります。なんだか最近は『吉井君坂本君の悪童コンビ』よりも『吉井君チルノのおバカコンビ』の方が揉め事を起こしてる気がするのは気のせいですかね!?

 

 

 

「え~と、ではとりあえず、妹紅さん以外が来るってこ――」

 

 

「おいおい吉井。全国の『吉井』の皆さんに謝らないといけないぜ」

 

「あれ、僕が悪いの!?ていうかそれって僕がバカだって暗に認めてない!?」

 

「ま、魔理沙ちゃん!そんなことを言っちゃダメです!あ、明久君は少し天然さんなだけですよ!」

 

「姫路さん。フォローしてくれようとしてくれたのはよ~く分かるんだけど、それでも僕は微妙に傷ついた!」

 

「ふぇっ!?ごご、ごめんなさい明久君っ!」

 

 

「え、えっと、確認いいですか?結局プールに――」

 

 

「でも・・・アキって・・・・賢い?」

 

「そう言われたらうなずけない僕の正直さと学力が憎いっ!」

 

 

 

「あ、あの!ちょっとでいいから私の話を――!」

 

 

「ほら見なさい!やっぱりよしーはバカなのよさ!」

 

「やかましいよチルノッ!じゃあ君は天才だって胸を張って言えるのかよ!?」

 

「当然でしょ!アタイってば最強ねっ!」

 

「認識できてないのがバカなんだよこのアホチルノが!」

 

「だ、誰がアホチルノよぉぉ!!」

 

 

 

 

「・・・・・もおおおおおおうるさーい!あんた達一回黙りなさい!」

 

 

「(ゴッ!)あべし!?」

 

「(ビシッ!)ぴぎゃあ!?」

 

 

 たくもうっ!これじゃあ話をまとめることも出来ないじゃないですか!ちょっとは私の言葉に耳を傾けてください!!

 

 

「ごほんっ!じゃあまとめると、妹紅さん以外が来るってことでしょうか?」

 

「・・・・いや。あと翔子も呼ぶつもりだ」

 

 

「へ?霧島さんですか??」

 

 

 おや、確認したら思わぬ名前が坂本君から出たではありませんか。

 

 翔子とは2年Aクラスの代表である霧島翔子さんのことで、彼女と坂本君は古くからの仲だそうです。

 

 

「ああ。あいつも誘わないと後々後悔するからな・・・」

 

「ほう、後悔ですか」

 

「あれか。霧島の水着を見る機会がもうないってことだな?」

 

「ち、違うわバカッ!別にそういう理由じゃねえ!」

 

 

 と言う坂本君の顔は少し赤色。ウソではないのでしょうが、完全にではないのかもしれませんね~?うふふふ!

 

 

「いいか、考えてみろ。後になってから、翔子に女子とプールに行ったことを知られたらどうなると思う?」

 

「あん?」

 

「どう、って・・・」

 

 

 そりゃー、どうして私も誘ってくれなかったの!って私でしたらなりますかね?

 

 

「ん~。私だったら、私も誘え!ってなる気がするぜ」

 

「甘いな。あいつのことだからおそらく・・・おれは湖の底に捨てられるだろうな」

 

「「まさかの死体遺棄(かよ)っ!?」」

 

「いや雄二、捨てられるのは富士の樹海じゃないかな?」

 

「この際それはどっちでもいいですよね!?」

 

 

 重い!霧島さんの愛が漬物石のようにすっごい重いです!い、一途に思うということはもしかしたら嫌うよりも怖いものかもしれません!?咲夜さん!レミィ、フラン!わ、私はそこまで行ってませんよね!?よね!?

 

(完全に白、ではおそらくないでしょう)

 

 

「まあそういうわけだ。藤原は本当に来ないのか?」

 

「………そのほうが……助かる…」

 

「…なんという悲劇……っ!」

 

「っ…!あっ、あんたみたいな奴がいるから嫌なんだよ……っ!」

 

 

 霧島さんの恐怖が愛情にあるのに対し、こちらのむっつりスケベの土屋君はその計り知れない下心に恐怖を感じられます。あ~、なんかそういう点では、妹紅さんがこのスケベさんの歯牙にかけられないで済むのでほっとします。

 

 

「分かった。じゃあ、藤原以外は来るってことで、土曜日の朝十時に校門前で待ち合わせだ。水着とタオルを忘れるなよ」

 

 

 

「あ。・・・な、なあ坂本」

 

「ん?なんだ霧雨」

 

 

 そんなこんなで坂本君が締めの言葉を告げたところで、魔理沙が頬を少し染めながら尋ねました。

 

 

 

 

 

「え、え~っと……違うクラスの霧島を誘ってるんだから……その…わ、私も…別のクラスの奴、誘っていいか?」

 

 

『・・・・・・』

 

 

・・・・あ~。なるほどなるほど。

 

 

 

 

「いいぞ。アリス・マーガトロイドの都合がつくんなら全く問題ないな」

 

「ですよね!頑張ってアリスさんも呼びましょう魔理沙ちゃん!」

 

「賛成です!アリスもきっと喜びますよ魔理沙!」

 

 

「ちょ!?わわっ、私はアリスなんて一言も言ってにゃい!!勝手にアリスって決めちゅけるんじゃないじぇ!」

 

「でも、あっとるじゃろ?」

 

「・・・十中八九、間違いない」

 

「うん。ウチもそう思うわよ魔理沙?別にウソをつかなくてもいいじゃない」

 

 

 そうですよ。もうほとんどの人が知ってるんですから、そんな必死になって隠そうとしなくてもいいじゃないですか~。

 

 

「・・・う、うるせえうるせえうるしぇえええっ(ダダッ)!!」

 

「あっ、ま、魔理沙ちゃん!?」

 

 

 私達がどことなく生暖かい目で魔理沙を見つめること数秒。真っ赤になった魔理沙は脱兎のごとく扉へと走り、

 

 

「アリスにゃんか呼ばないもん!勝手に決めつけるお前らなんかきら(ガララッ)い(ガンッ!)がふうっ!?」

 

 

「うおっ?」

 

 

 ちょうどタイミング良く入ってこられた西村先生と、思いっきり正面衝突しました。ひゃ~。私も前にありましたけど、西村先生って壁みたいに固いんですよね~。魔理沙は大丈夫なのでしょうか?

 

 

「む、すまん、霧雨。だが教室から出る時は走って出るものではないぞ」

 

「・・・きょ、今日は・・・厄日だぜ・・・」

 

 

「・・・霧雨も色々と苦労するんだな」

 

「今のは絶対に自業自得ですけどね」

 

 

 これはまだまだ時間がかかりそうですね~。鼻血を出して大の字に倒れた魔理沙を見つめながら、私は改めて彼女の恋路の難しさを察しました。

 

 

 

 

 

 

 

「プール?」

 

「ほ~。なかなかいいじゃないか」

 

「………」

 

「「プールッ!?」」

 

 

「はい、プールです。とは言えまずは掃除があるみたいですけどね~」

 

 

 夕飯時にて今日出来た週末の予定のことを話すと、下の2人の妹、レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレット。通称レミィとフランの目の輝かせんことか。そのまぶしさはダイヤモンドにも引けを取っていません。私視点ではっ!

 

 

「行きたい!私もプールに行っていいメイリンッ!?」

 

「わ、私もよっ!い、良いわよね美鈴!?」

 

「ふふ!もちろんいいわ……よ?ん?」

 

「?メイリン??」

 

 

 あれ?良く考えるとこれって連れて行ってもいいのでしょうか?

 

 一応あくまで目的はプール掃除らしいんですけど、このちっちゃく可愛い妹にそんな重労働は難しい――というか出来たとしても絶対やらせたくないです――のに、泳ぎ遊ぶためだけに連れていくというのは、少しいけない気がしなくも……

 

 

 

「・・・う~、ダ、ダメ・・・?」

 

「全然オッケーよレミィ!」

 

 

 そんな懸念など知ったことかっ!レミィの無邪気なおねだりの前には全てがひざまずくのです!

 

 

「わ~い!プールだプールだ~!」

 

「ふ、ふんっ!フランったら子供みたいにはしゃいじゃって!少しは私を見習いなさい!」

 

「レミィ。私の目にはレミィがすごく興奮して手に持った牛乳が落ちそうになってるように見えるわ。お願いだから落とすのだけはやめて頂戴ね?」

 

「う!わ、分かってるわよ!」

 

 

 咲夜さんの言う通り、レミィもはしゃぎたいのを抑えることが隠しきれずに、顔をニコニコさせてハワハワしています。そんな姿に私ははあは、じゃなくてニコニコ。

 

 

「おっ、レミィ達も行くのか!よかったねぇ2人とも?」

 

「うんっ、おかあさん!」

 

「レミィ、姉としてしっかりフランの面倒を見てやるんだよ?」

 

「う、うんっお母さん!」

 

「んっ。いい返事だ。じゃあ、2人のこと頼んだよ美鈴」

 

「もちろん!任せて母さん!」

 

 

 長身長髪金髪の母さん、星熊勇儀の笑顔は今日も元気で溢れています!!今までに何度その笑顔に元気づけられたことやら!

 

 

「ところで、咲夜と妹紅はどうするんだ?2人も行くのかい?」

 

 

「私?そうね……妹紅さんはどうするの?」

 

「………行かない。絶対(もくもく)」

 

「妹紅さん。じっと見つめてとは言わないから、一瞬でも私の方を見て?私はすごく悲しいわ?」

 

 

 母さんの質問に咲夜さんはお茶を飲むのを止め、妹紅さんは咲夜さんからの確認に、目を晩御飯のゴーヤチャンプルに向けたまま答えました。

 

 け、決して妹紅さんが咲夜さんを避けてるとかではないんですよ!?妹紅さんは非常に人見知りだから、まだ咲夜さんに対して緊張が解けていないだけなのでございます!

 

 

 

「ええ!?もこうは来ないのっ!?」

 

「ど、どうして来ないのよ!?」

 

 

 そんな妹紅さんの小さな不参加声明でしたが、可愛いリトルシスターズには丸聞こえ。妹紅さんに慌てて待ったをかけました。

 

 

「……わ、悪いけど………行きたくない、かな」

 

「う~……そ、そんなこと言わずに来なさいよっ!せっかくのプールでしょ!?」

 

「そうだよもこう!皆で泳ごうよ!ビーチボールしようよ!スイカ割りしようよ!」

 

「いや、さすがにスイカ割りはしませんよフラン?」

 

 

 それは海で行うイベントです。まあしようと思えば確かに出来るんですけども、今回はナシの方向でいきましょう。ちなみに私は塩をかける派です。

 

 

「う……で、でも……私はあんまり…」

 

「行こうよもこ~!」

 

「い、一緒に来なさいよ妹紅っ!」

 

 

「~~うう~~……」

 

「こらこらやめときな2人とも。妹紅が困ってるじゃないか」

 

「「!」」

 

「あ・・・」

 

 

 2人からの勧誘に困った顔をしていた妹紅さんでしたが、母さんの助け舟に安堵の表情を浮かべました。母さんは、2人の頭に優しく手をのせながら言います。

 

 

「レミィ、フラン。妹紅と一緒に行きたいと思う気持ちは全然良いんだが、あんまり強要はさせるのはダメだ。な?」

 

「あ、ご、ごめんなさいお母さん」

 

「あぅ……ご、ごめんなさい」

 

「ん。でもその気持ちは大事にするんだよ?妹紅も、この2人気持ちだけでも汲んでやってくれ」

 

「………う、うん。分かった。……ありがとう、勇儀」

 

「ああ(スッ)。まあともかく、妹紅は今回は行かないってことだな?」

 

「……う、うん」

 

「む~、残念~!」

 

「う~……」

 

 頭から手をのけられた二人はやはり妹紅さんの不参加に不満そうでしたが、今度は何も言いません。まだまだ小さい女の子たちですが、とっても聞き分けが良いのです!霊夢やチルノよりもずっと上だと保証しましょう!

 

 

「じゃあ、咲夜は来るよね!?一緒に泳ごう!」

 

 

 妹紅さんがダメとなったので、フランは次の標的、咲夜さんに行くかどうかを尋ねました。レミィも口にはせずとも、咲夜さんに期待の視線をじ~っ向けております。

 

 

「そうね……美鈴。それはAクラスの私も参加してもいいの?」

 

「あ、大丈夫だと思いますよ。霧島さんも参加するみたいですから」

 

 

 それに小学生のレミィ達も来るんですから、そんなことを気にする段階はもう超えちゃってます!それに、瑞希さん達はきっと友人が増えて大歓迎しますでしょうよ!

 

 

「そう。じゃあ私も行こうかしら?」

 

「!」

 

「やった!」

 

 

 おお!どうやら咲夜さんは参加するみたいです!2人だけじゃなく私も思わず笑顔です!こういう風に家族で遊びに行くっていうのは、いくつになっても心躍りますね~!

 

 

「じゃあ来るのは、私と咲夜さん、レミィとフランの四人ですね」

 

「そうなるわ。しっかり水着の準備をしておかないといけないわね」

 

「ですね~。水着を選ぶのが楽しみです!」

 

 

 いや~、週末が楽しみです!一年に数度しかないこの機会!後悔しないぐらい水と戯れてやりますよ~!

 

 

 

「あら?新しい水着を買うの美鈴?」

 

「あ。い、いえ。まあ絶対というわけではないんですけど……」

 

「?」

 

 

 

 実は先ほど、去年使っていた水着をサイズ確認のために着てみたんですけれど…………え、え~と……あ、あんまりこういうのを言うのは恥ずかしいのですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、少しサイズと合わなくなって――」

 

 

「バカッ!美鈴の裏切り者っ!(ダダッ!)」

 

「え、ええ!?ささ咲夜さんーっ!?」

 

 

 な、なにゆえの涙ながらの退室!?まだ食事中ですよーっ!?

 

 

「・・・メーリン、咲夜すっごい気にしてるのに、今のはひどいと思うなあ」

 

「え、え?何かまずかったかな私?」

 

「デ、デリカシーがなさすぎよ美鈴っ!」

 

「レミィまで!?え、で、デリカシーもなにも私の恥ずかしいことを言っただけよ!?」

 

「ん~……その天然さは私譲りなのかねえ?んぐっ」

 

「喜べばいいのか悲しめばいいのかすごい迷うからそういう言い方はやめて母さん!?そしてお酒を飲みながら言うのもやめて!?」

 

 

「…………そこまで気にすることか…………?」

 

「も、妹紅さんは1人だけでわかったような顔しないで私にも教えてください~っ!」

 

 

 

 

 結局、誰も咲夜さんの逃亡の理由を教えてくれず、私は何が理由か分からぬまま咲夜さんに謝りに行きました。

 

 その時、体育座りの状態でまくらに顔をうずめ、涙目を向けてきた咲夜さんに抱き着きたい衝動にかられましたが、それをやったら本気でまずいと第六感が告げましたので、必死に抑えたのはここだけの話です。

 

 

 と、とにかく週末のプール!今日の分も含めて絶対楽しんでやりますよ~!

 

 

 

 

 

 

『――しかし、妹紅はプールが嫌いなのかい?あんなに妹紅が拒絶をしたのは久しぶりに見たよ』

 

『う……だ、だって……か、身体をさらけ出すなんて……恥ずかしいし…!』

 

『なんだか卑猥な言い方だが、まあそうさね。水着はどうしても肌を出さにゃあいけないから、仕方ないことか』

 

『……ゆ、勇儀は気にならないの…?』

 

『あっはっはっは!悲しくも、わたしゃそういうことを気にする年頃じゃなくなった女だからね~。それにもともと気にする性質(たち)じゃなかったし、何より泳ぐのは好きさ。許されるなら私も行ってみたいぐらいだよ!』

 

『………ぃぃなぁ…』

 

『ん?どういうことだい?』

 

『!?あ、な、なんでもない!』

 

『……ひょっとして、水着というより、〝泳ぐ〟のが嫌いなのか、妹紅?』

 

『………………』

 

『ん、当たりみたいだね』

 

『…………………』

 

『ちなみに、どのくらい泳げるんだい?』

 

『…………………うううううううう~……!!』

 

『うおっ!?泣くな妹紅!悪い!言いたくないことを聞いた私が悪かった!』

 

『………泳げなくてごめんなさいぃ…!』

 

『大丈夫だ大丈夫だ!私も子供のころ泳げなかった時ぐらいあるさ!だからそんなに気にするな!な?な?』

 

『……ぐずっ……ありがとう、勇儀。また頑張ってみる…』

 

『おう。ふ~…まあそんだけ嫌なのなら仕方ないねえ。また次から頑張んな。今の時代なら、練習する場所なんかいくらでもあるからさ』

 

『……うん。

 

 

 ………でも……………さ――れと―はし―方がいいかな・・・』

 

『ん?何か言ったかい妹紅?』

 

 

 

『あ、ううん。………ちょ、ちょっとだけでもいいから……喜んでもらえれたら良いなあ…』

 

 





  お読みいただきありがとうございます!

 はい、それでは冒頭謝罪の件について・・・読んでくださった方には意味が分かって残念がられたのではと思うのですが・・・・・今回!妹紅さんはプールには行きませんっ!もこうさんファンの皆様、誠にすみませんんん!!


 そんな残酷なことをした理由なのですが・・・以前も学園祭編あたりで似たようなことを書いた気もするのですが、少しずつ会話数が多くなってきている妹紅さん。少しずつ主要メンバーと距離を近づけつつあるのですが、やはり本質的には極度の人見知りであります。

 二話前には打ち上げにも頑張って行った彼女でも、肌をさらしたりするプールに行くのはまだ難しいのでは?と思いましたし、何より泳ぎが苦手(今回初めて書いたのですが)なので、プールに行くのはかなり嫌になると思うのです!!
 
 そんな彼女にプールに来てもらうには強引に誘うしかないと思うのですが、その選択肢だけはとりたくなかったので、泣く泣く妹紅さんには家でまったりくつろいでもらうようにしました!決して仲間はずれではなく、妹紅さんの性格を考えての決定!なので彼女の水着を期待していた方にはすみませんが、どうか村雪の判断を責めないでください~!!

 と長々と書きましたが、ようやく次回からプール回となります!妹紅さんファンには申し訳ありませんが、他のメンバーの水着なんかを楽しみにして次回も読んでいただければ!

 それではまた次回っ!気軽に感想とか質問とかしてください~!


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集合ー待機、の間も騒がしくなるのはやむを得ず、ね

 どうも、村雪です!

 たどり着くまでに2話挟むことになりましたが、ようやくプールへと突入です!とはいえども今回はタイトル通り待ち合わせの場面となりますが、楽しみを前にはしゃいでいる彼らのにぎやかな雰囲気を楽しんでもらえれば!

――ごゆっくりお読みください。


 

 

「メイリンメイリン!まだ入れないの?」

 

「う~ん。ちょっと早く来ちゃったからもう少し待ってねフラン?」

 

「さ、咲夜っ。私の水着、変じゃない?」

 

「大丈夫よ、レミィ。誰が見てもあなたの可愛さは世界一よ」

 

「そ、そこまで言われると逆に恥ずかしくなるわよっ!」

 

 

 見事なカンカン照りの空の週末当日。私、咲夜さん、レミィ、フランは校門前にて皆さんが来るのを待ちます。少し早めに来ましたので、私たち以外にはまだ誰も来ていません。

 はてさて誰から来るのでしょう?おそらく吉井君とチルノは除外してオーケーなはずですが!

 

 

 

「あ、皆さんおはようございますっ!」

 

「お、瑞希さん!おはようございますー!」

 

 

 と、最初にやって来たのはさすが優等生!学年でもトップクラスの少女、姫路瑞希さんです!今日もその柔らかな微笑みにずっきゅんです!

 

 

「おはよう瑞希。今日は姉妹ともども、お邪魔させてもらわね?」

 

「あっ、咲夜さん達も来てたんですね!びっくりしました!」

 

「お、おはよう!わ、私たちも来させてくれて、あ、ありがとうっございましゅ!」

 

「おはよ~お姉さん!今日はよろしくお願いします!」

 

 

 

 瑞希さんもどっちかと言えば誘われた側なのですが、それを知らない2人の妹は照れ、笑顔の可愛いらしい表情で、礼儀正しく瑞希さんにプールに来れたことのお礼を言いました。レミィ、フラン!ご褒美としてあとでハグしてあげるわ!というかさせて2人ともーっ!

 

 

「あ、ううん!レミリアちゃんもフランドールちゃんもよく来たね~!今日は一緒に楽しもっか!」

 

「うん!」

 

「も、もちろんよっ!」

 

 

 瑞希さんも2人の可愛さに負けない笑顔で挨拶をします。瑞希さんはほわほわしてる性格(もちろん褒め言葉です)ですので、年下の子にも威圧感を全く与えません。初対面ではないと言え、ここまでレミィが元気に年上の人と接することが出来るのも、瑞希さんのその穏やかな性格のおかげでしょう!

 

 

「おお。何やら大所帯じゃのう」

 

「あっ、おはようございます秀吉君!」

 

 

 そして次にやってきたのは、古風なしゃべり方が特徴の木下秀吉君。咲夜さんやレミィ達が来るとは知らせていなかったので、少し驚いた様子で歩み寄ってきました。

 

 

「おはようなのじゃ、美鈴よ。十六夜やレミリア達も来とるんじゃな」

 

「ええ。霧島さんも来るらしいですから、別に大丈夫かなと思いましてね」

 

「うむ。何もわしらだけと決まっておるわけじゃないから構うまい。まだお主らと姫路しか来ておらんのか?」

 

「はい。まだ他には来てないと思いますよ?」

 

「時間も少々早いしのう。あと、やはり藤原は来ておらんのじゃな」

 

「そうなんですよ~。今朝も一応誘ったんですが、なぜか泣きそうなって『う、うるさい!さっさと行けバカッ!』と言われまして……」

 

「ほー……。お主、意外と藤原に嫌われておるのではないのか?」

 

 

「ままっ、まさか!?そんな怖い冗談はやめてくださいよ秀吉君!」

 

 

 私は妹紅さんに嫌われるようなことをしていません!ただ『ちょっとだけでもいいから泳ぎに行きませんか?レミィ達も喜びますよ!』って言っただけですって!

 

(※そう言われて行きたいと思っても、それを上回る『苦手』という大きな壁。その葛藤によって妹紅さんの良心が痛んだということを、美鈴さんは知りません。本人の気づかぬところで罪作りな美鈴さんでありました。)

 

 

「あっ!ひでよしおはよー!」

 

 

 秀吉君と話していると、彼の存在に気付いたフランが瑞希さんのもとから声をかけてきました。レミィもその声に乗って秀吉君に挨拶します。

 

 

「おっ、おはよう秀吉!」

 

「うむ。おはようなのじゃ、フランにレミリアよ。今日一日一緒じゃが、よろしく頼むのじゃ」

 

「うん!秀吉はどんな水着を着るの?やっぱり可愛い水着?」

 

「待つのじゃフラン。なにゆえ最初から可愛い水着などと予想するのじゃ」

 

 

 すみません秀吉君。私も女物の水着を着たあなたを想像してしまいました。責めるのならフランじゃなくて私を攻めてください。

 

 

「え?ち………違うの?」

 

「レミリアよ。そんなにびっくりした顔をされても、わしの方がびっくりなのじゃが…」

 

「こら、レミィ、フラン。秀吉君は男子なんだから、そんな失礼なことを言ったらダメじゃない」

 

「「あうっ」」

 

 

 そんな秀吉君のフォローに回ったのは私、フラン、レミィと違い――というより、もしや唯一と言っても良いかもしれませんが―――、秀吉君を男子として正しく見ている咲夜さん。すごく軽いはたきを2人の頭に施し、秀吉君の女物水着着用の予想を注意しました。

 

 

「ごめんなさいね秀吉君。でも、決して悪口で言ったわけじゃないからどうか許してやってあげてくれないかしら」

 

「う、うむ………お主のように、わしを男と正確に認識してくれる人が増えてほしいと、切実にわしは願うのじゃ」

 

「大丈夫、きっとその内に男子としっかり把握してくれる日が来るわ」

 

「その言葉、ものすごく心にありがたみを与えてくれるのう……」

 

 

 目をとじて咲夜さんの言葉を必死に心に刻んでいるであろう秀吉君。私には全く分かんないであろう苦労をされてきたのがひしひしと伝わってくる姿ですね~。

 

 

「じゃあじゃあ、お姉さんはどんな水着!?」

 

「え?わ、私の?」

 

「うん!」

 

「か、可愛い水着ねきっと!」

 

 

 すると、フランとレミィが秀吉君から瑞希さんに矛を変えて同じ質問を繰り返しました。ふうむ、瑞希さんの水着ですか!それは少し興味がありますね~!

 

 

「あ、あはははは。ありがとうレミリアちゃん!でも、えっと、そ、そんなに可愛い水着じゃないよ?きっと、咲夜さん達や木下君の水着の方が可愛いと私は思うなぁ~…」

 

 

「待たんか姫路!そこでわしの名前が挙げられても困るのじゃが!?」

 

 

 慌てて抗議する秀吉君。ですがそんな瑞希さんの気持ちがすご~く分かっちゃう私でした。秀吉君、その可愛らしさをよこしなさいっ!

 

 

「あら、ありがとう瑞希。でも、たとえどれほど自信が無くってもどこかの変態は喜ぶと思うわよ?」

 

「ふぁっ!?ささ、咲夜しゃん!からかうのはやめてくださいっ!」

 

「からかってるつもりはないわよ?あの変態の変態度を考えるとそう思わない?」

 

「あっ、明久君はそこまでシュケベじゃありませんっ!」

 

「あ、そこは吉井君で通じるんですね」

 

 

『変態』と聞いて吉井君を繋げちゃうあたり、あなたも吉井君を変態と思ってるんですね~。それでも吉井君をかばう瑞希さん、超天使っ!

 

 

「でも、私もお姉さんの水着姿はすてきだと思うな~!ねえお姉さま!」

 

「ま、まあね!咲夜もあなたも、きっと悪くないと思うわ!」

 

「も、もうっ!おだてても何も出ないよ2人とも~!」

 

「まあレミィったら。嬉しいことを言ってくれてありがとう」

 

 

 熱い押しをする二人に瑞希さんは照れてもじもじ。咲夜さんは嬉しそうにレミィの頭をなでなで。その仕草がまた可愛らしい!

 

 

・・・しかし私には褒め言葉を言ってくれないのはなぜレミィ、フラン!?せめて一言ぐらいお姉ちゃんを褒めてーっ!

 

 

 

「ううう……こうなったら直接褒めてと言いに行きましょうか…」

 

「急に何か知らんが、やめておくのじゃ。それをやったらお主、だいぶ気の毒な奴になるぞい」

 

「だったら秀吉君が私を褒めてください!」

 

「誰であろうと言わせた時点でダメじゃからな!?」

 

「こ、この際構いません!どうか私にお褒めの言葉をっ!!」

 

「お主夏の暑さで頭をやられたのかっ!?いつもと性格が違いすぎるじゃろ!」

 

 

 細かいことは気にしないでください!私だってちょっとぐらい優越感に浸りたい時があるんですっ!だからどうかっ!ちっぽけなお褒めの言葉でもいいですから~!!

 

 

「わ、分かった分かったのじゃ!・・・お、お主の水着もさぞ見事で素晴らしいものじゃろうなあ!」

 

「わーい!嬉しいこと言ってくれるじゃないですか秀吉君~!」

 

 

 私の心はすごく満たされました!やっぱりあるのとないのでは全然違います!ありがとう秀吉君~!

 

 

「……はあ……褒めたいと思っておったが、これでは何か違う気がするのじゃ……」

 

「ん?なんですか??」

 

「何でもないのじゃ。

 

 

…む?おお、どうやらうまくいったようじゃな」

 

「?」

 

 

 私がお褒めの言葉を自分の胸に染み渡らせていると、言葉を送ってくれた秀吉君がよく分からないことをつぶやきました。

 

 

「え、なんのことで………あ~、なるほど」

 

 

 秀吉君の見る方向、私の後ろへと同じように目をやって、その意味が分かりました。

 

 

 

 

 

 

「おーす!今日は絶好のプール日和だな!」

 

 

 手をあげながら元気な挨拶をしてくる、くせのある金髪ロングヘアーの友人である霧雨魔理沙。

 

 

 

 

「暑いわね……ああ、もっと日焼け止めを塗っておくべきだったわ…」

 

 

 そしてその隣には、元気な魔理沙と対照的に、夏の暑さと日差しに参った様子の女の子が。

 

 

「おいおいアリスー。せ、せっかくのプールなんだから嫌そうな顔しないでくれよ~?」

 

「ん、ああ、ごめんなさい魔理沙。嫌だなんて思っていないの。今日は誘ってくれてありがとう」

 

「なっ、ななな~~に気にすんなって!わたっ、わたしゅもアリシュが来てくれて嬉しいからさ!」

 

「今日はまた一段とどもってるわね。そんなにプールが楽しみだったのかしら?」

 

「ま、まあな!なんたってみ、み水着なんだからなっ!!こんな大チャンスを逃したら恋に生きる女の子の名折れだじぇっ!」

 

「??よ、よく分からないけど、とにかく楽しませてもらうわね?」

 

「お、おう!私もだぜアリスッ!」

 

 

 

 

「・・・魔理沙は本当に性格のぶれが大きいのう」

 

「まあ、そうなるのは決まって、彼女が絡んだときだけなんですけどね」

 

 

 肩までで綺麗に切り揃えられた、月のように優しいまぶしさを放つ金の髪。そして澄んだ青い瞳の目の持ち主は、アリス・マーガトロイド。西洋人形のように綺麗な少女にして、女の子である魔理沙のハートを撃ち抜いちゃった罪な女の子でございます。

 

 

「おはよう、美鈴、秀吉。今日は誘ってくれてありがとう」

 

「おはようですアリス~!今日は楽しくやりましょうね!」

 

「ええ。掃除も手伝わせてもらうから、どうかお邪魔させてちょうだいね」

 

「ア、アリスが掃除をする必要はないぞ!私がアリスの代わりに掃除をすっからさ!!」

 

 

 聞きまして皆さん?どんな時でも自分が楽ならそれでいい!がモットーの魔理沙が、自分から掃除役を買って出たのですよ。そこだけで、魔理沙がどれだけアリスに情を注いでいるのかが伺えます。

 

 

「ありがとう魔理沙。でも、呼ばれたからにはしっかり自分でしないとね。私だけ遊ぶだけというわけにはいかないわ」

 

「そ、そうかあ?」

 

「ええ。こういうことはしっかりしないとね」

 

 

 そして見てください、この責任感溢れる言葉を。アリスとは昔からの仲なのですが、その律儀な性格は当時から変わっていません。これぞアリスの魅力の内の一つと言っても過言ではないですね!

 

 

・・・まあ、その性格あって損な役割を受け持つことも多々あったのですが、そ、それはまあ置いておきましょうっ!あれのほとんどは霊夢とか魔理沙のせいですから、私は関係ないですもの!

 

 

「あっ、アリスさん、魔理沙ちゃんおはようございます!!」

 

「おっ、おはよう魔理沙、アリスっ!」

 

「アリス!魔理沙~!」

 

 

アリスの長所にして少し損しやすい性格のことを考えていると、今度は瑞希さんを最初に、レミィとフランが2人へと朝のあいさつをしました。そこから話は花を咲かせます。

 

 

「ええ。おはよう、瑞希、フラン、レミリア。今日はよろしくね」

 

「おっすお前ら!っていうかレミリアとフランも来てたんだな~!驚きたぜ!」

 

「な、何よ!メ、美鈴が誘ったから来ただけなんだからね!?勘違いしないで魔理沙!」

 

「はっはっはっ!何と勘違いするかは知らんが、さすがレミリア!ツンデレの鏡だぜ!」

 

「チュ、チュンデレって何よっ!?わっ私はただ誘われて来ただけだもんっ!楽しみになんかしてなかったんだからね!」

 

「レミリア、それをツンデレと言うと思うのだけど……」

 

「でもお姉さま、昨日はすっごく楽しみにしてて、あまり眠れなかったって言ってなかったっけ?」

 

「!?フッ、フフランンンッ!!」

 

「ははっ!そうかそうか!レミリア可愛い奴め~!!」

 

「………う、ううううう~~~~っ!!」

 

「こら魔理沙!だ、大丈夫よレミリア?私も似たようなことがあるわ!だからそんなしゃがんで頭を覆わなくても――!」

 

 

 

 

「………なぜ……っ!こういう時に土屋君はいないのですか…っ!」

 

「お主自分の妹をムッツリーニの写真の被写体にする気か!?ものすごい無念さを感じる顔になっておるぞい!」

 

「そんなわけありますかっ!彼のカメラを奪って、私がうち(家族)用にレミィの可愛い写真を撮りたかっただけです!」

 

「いずれにせよ本人にとってはたまったものではないと思うのじゃが!?」

 

「………眼、福……っ!!」

 

「十六夜は十六夜でなぜ鼻を押さえて天を仰ぐのかが分からんし、分かりたくもないのじゃっ!」

 

 

 あああああこんちくしょ~!今のしゃがんでかぶって状態のスーパーキュートなレミィを写真に収められないとはっ!咲夜さんも思わず鼻を押さえて震えるほどの萌えポーズ、このチャンスを逃したら次はないのにぃ!!カメラを持ってこない私の準備が甘かったっ!!

 

(※意外とレミリアさんはこのポーズを頻繁に見せてます)

 

 

「で、でも、本当にレミリアちゃん、す、すっごく可愛いですねっ!美鈴さん達の気持ちが分かりますっ♡」

 

「さすがです瑞希さん!この気持ちを分かってくれますか!」

 

「さすがね瑞希。それでこそ親友だわ」

 

「姫路もか……まあ、可愛いというのは分かるのじゃが」

 

 

「「レミィに手を出したら許(しませんからね)(さないわよ)」」

 

「出さんわっ!?そんな犯罪者のようなことムッツリーニのように軽々しくせんっ!」

 

 

 まあ秀吉君ですからね~。常識ある彼がそんなことをするはずがありません!って、なんだかフラグっぽいけど関係ないですからね!?

 

 

 

 

「……おれは軽々しく犯罪行為などやっていない…!」

 

「ん?あ、来てたのですか土屋君」

 

「お主ほどいつお縄についてもおかしくない奴はおらんぞい、ムッツリーニ」

 

 

 そんな秀吉君からさらにダメ押しされる彼の名前は、土屋康太君。こよなく写真(女の子の被写体のみ)を撮ることを愛する彼の手には、予想を裏切らずに高価そうなカメラが握られていました。

 

 

「……おれは、全てを犠牲にする覚悟でこの天命をこなしている…!」

 

「別に気持ちの持ち様が大事だとは言ってないぞい!?」

 

「そんな使命を下す堕神なんか滅びてしまえばいいんです!」

 

 

 いつか本物の神様に天命ではなく天罰をが下されますよ、というか場合によっては私が裁きを下してやりますからね!?具体的に言えば咲夜さんや知り合いの恥ずかしい写真を撮ったりとかしたらです!その時はその写真を奪ってけちょんけちょんにします!

 

 

「………!!さっそく、授かった任務が…!」

 

「カメラ破損させますよこら」

 

「たたっきるわよ、土屋君?」

 

「………無慈悲な……っ!」

 

「変態に与える慈悲など私にゃ持ち合わせておりません」

 

「同じくよ」

 

「こやつら、眼が本気じゃな…」

 

 

 さっそくレミィ達のもとへ行こうとする土屋君。そんなスケベな任務と実行者は私と咲夜さんが終わらせてやりましょう。遺言ぐらいなら聞いてあげるのでご安心を。

 

 

「……おれは今日という日に、命を懸けている……!」

 

「かつてこれほどかっこよく見えて格好がつかない言葉を言う人を見たことがありません」

 

 

 そんなことで命を懸けられてもすっごく困ります。というかあなたの場合、写真を撮る前に鼻血を出して倒れるでしょうが。あなたの意外な初心さ、私は身を持って知っていますからね?(ラブレター編参照)

 

 そんな私の言葉にも土屋君は動ずることなく、何やら大きめのスポーツバッグを開けました。んん?なんかいっぱい入っていますが、これは……?

 

 

「……輸血の準備も万全…!」

 

「血液パック!?そ、その発想は全くなかったですね!?」

 

「もはや鼻血を出すのは織り込み済みなのじゃな」

 

「あなたは努力する方向を間違えているわ、絶対」

 

 

 一体どこでそんなものを手に入れたのやら。咲夜さんの言う通り、普通はそんなものを入手するより、鼻血を抑える方が絶対容易だと思うんですがね~。

 

 

「……にしても、こう見ると結構な数になってますね~」

 

 

 妹紅さんは来ていないのですが、これで合計9人。しかもまだ全員は来ていないのでまだ人数は増えるのです。にぎやかになること間違いなしですね!

 

 

「うむ。確かにそれは言えるのう。今だけでも9人じゃしな」

 

「……今のところ、全員が美女……っ!!(ぽたぽた…!)」

 

「現状を認識するだけで鼻血ですか。それがなかったら結構嬉しい言葉だったんですが……」

 

 

 そんな調子で血液パックは保つのでしょうか?備えあっても最後まで足りなければ意味がありません。

 

 

「というか待つのじゃ、一人男子がおるのを忘れとるぞムッツリーニ」

 

「……俺?」

 

「目の前におるじゃろうがっ!!」

 

 

 哀れ秀吉君。血液を失っていく土屋君は目の機能もどんどん失っていってるようでした。

 

 

「……俺には見えない…」

 

「そこまで言うのじゃな!?じゃが、今日という今日はお主にわしがれっきとした男であることを見せてやるのじゃっ!そのためにわざわざトランクス水着を新調してきたんじゃからな!」

 

「……っ!?バカ、な…っ!!」

 

「おお、それを聞く限りだと立派な男物ですねー」

 

「この変態はいったい何を期待していたのかしら…?」

 

 

 地面に突っ伏す土屋君。きっと女の子用の水着を秀吉君が着るところでも想像したんでしょうね~。・・・ですが、上半身何も着ていない秀吉君。それはそれで危ない気がするのは私だけでしょうか?

 

 

 

「おはよー皆!今日は絶好のプール日和だねー!」

 

「おっす!今日は泳ぎまくるわよーっ!」

 

 

「おっ?」

 

「明久にチルノ、おはようなのじゃ」

 

 

これはまた意外ですね?普段お互いをバカバカと言い合ってやまない吉井君とチルノが一緒にやって来るとは。ケンカするほど仲が良いというあれですかね?

 

 

「あ、十六夜さんたちも来てたんだ!今日はとっても良い一日になりそうだね!」

 

「ふん。私はあなたが来たことで嫌な一日になったわ」

 

 

 そんな吉井君へ咲夜さんは手厳しい一言。当然吉井君は大抗議です。

 

 

「ちょ、僕の存在って疫病神か何かと思われてない!?僕はどこにでもいる真面目で普通の高校生だよっ!」

 

「どの口がそんなたわ言を言うのかしら。冗談にしても笑えないわね」

 

「じょ、冗談じゃなくて本気だよ十六夜さん!?この僕の純粋な目を見てっ!?」

 

「……ぷっ。今のは笑っちゃったわ。やるじゃない吉井」

 

「今のはって何にさ!?僕の言葉!?それとも僕の目!?顔にっ!?」

 

「それを聞くの?聞いたら……傷つくと思うわよ?」

 

「その前置きで十分傷付いたよっ!っていうか前から思ってたんだけど、十六夜さんって僕のことが嫌いなの!?僕に対してあまりにも毒舌がひどすぎない!?」

 

「……まさか、私があなたを好きと思ってるとでも思ったの?」

 

「少しはそう思いたかった僕がいたよこんちくしょーーーーっ!!」

 

 

 

 

「十六夜は明久に対して辛辣じゃのう。見事な毒舌っぷりなのじゃ」

 

「……なぜそうなったのか……興味がある」

 

「わ、私も結構気になりますね。ああいう咲夜さんはめったに見ないので…」

 

 

 普段は誰にでも礼儀正しい咲夜さん。なのに吉井君にだけはこのように厳しいのですが、いったい彼の何がそうさせたのか……。こんな形の特別でしたら、丁重にお断りしたいところです。

 

 

「へえ。あんた、よしーのことをよく分かってんじゃない。気に入ったのよさ」

 

 

 すると、強烈な言葉を受けている吉井君と一緒にやってきたチルノがうんうんと嬉しそうに頭を上下させました。咲夜さんと同じ、吉井君と揉める者として何か感じたようです。

 

 

「その言い方はかなり嫌だけれど、この男の扱いはこれでいいと思ってるわね」

 

「なるほど。確かにそれがせーかいね」

 

「どこが正解だバカチルノっ!せ、せめて初対面の人と話すくらいの距離間で話してよ十六夜さんっ!」

 

「あら。あなたと私、知った仲じゃない?」

 

「ここで冷たく意地悪に扱われるような仲を強調されても、全くときめかないからね!?そこで喜ぶような変わった性質は僕にはぜんっぜん備わってないからねっ!!?」

 

 

 な、なんと悲惨な吉井君…!もしもここがゲームの世界でしたら、吉井君の体力は咲夜さんの言葉攻撃によってゼロになっていたことでしょう。

 

 

「ふふん!あんたやっぱりさいこーね!アタイの次くらいに見る目があるわね!」

 

「あら、そうかしら?少し恥ずかしいわね」

 

「待ったチルノッ!そんな言い方したら十六夜さんに失礼だぞ!君なんかが十六夜さんに勝ってる所なんかあるわけないじゃないかっ!」

 

「なにぃ!?さ、最強のアタイに向かって、ちょーしにのるんじゃないわよよしー!」

 

「どっちがだよ!チルノだって調子に乗りすぎだ!しまいには十六夜さんが怒るぞ!」

 

「いや、別に私はそんな気にしてないのだけど――」

 

 

「君が十六夜さんに劣ってない部分なんて!せいぜい十六夜さんと同じくらいの慎み深い胸ぐら(バギャアッ!)ごぶべばぁっ!?」

 

 

「うおっ!?よ、よしー!?」

 

 

 

「ふー・・・ふー・・・っ!ふきとばすわよ、このど変態セクハラクズ野郎が・・・!」

 

「ちょ、さ、咲夜さん咲夜さん!吉井君をきらう理由は分かったから落ち着いて!あっちにレミィ達もいますからっ!」

 

 

 吉井君は、鬼神の如き咲夜さんの一撃ににちりのようにぶっ飛ばされました。や、やばいっ!このオーラ、結構本気の寸前で怒ってらっしゃいますよ咲夜さん!レ、レミィ達が怖がりますからここはどうか!私は追撃を下そうとする咲夜さんを羽交い絞めします!

 

 

「あ、あれ、吉井君っ!?地面に寝転がってどうしたんですかっ!?」

 

「あれ?メーリン、さくやを掴んで何してるの?」

 

 

 くっ!瑞希さんはともかく、このタイミングで来ちゃいますかフラン!いつもなら大歓迎なんですが、今だけはまずい!

 

 

「い、いえいえなんでもないわよフラン!ちょっと向こうでお姉さんたちと話していてね!」

 

「う、うむそうじゃな!フランよ、今は向こうでわしらと話をしようではないか!」

 

「……ここは危険」

 

「??うん!わかった!」

 

 

 その素直な性格、私は大好きですよフランっ!秀吉君達のナイスフォローもあって、フランはレミィ、魔理沙たちのいる場所へと戻ってくれました。ふ~、咲夜さんのこんな姿を見せたら威厳をなくすのと反対に、とてつもない恐怖を刻み込ませちゃうかもしれませんからね!

 

 さて、あとは―

 

 

「さっ、咲夜さん!そんな怒ってどうしたんですか!?な、何か嫌なことでも――」

 

「ええあったわよ!このど変態、今日という今日は許さないわ!この世に生まれてきたことを後悔させてやる・・・!」

 

「きゃっ!ち、チルノちゃん!咲夜さんはどうしてこんなに怒ってるんですか!?明久君が何かしたんですか!?」

 

「ん?ん~。アタイもよく分かんないけど、きっとバカよしーが悪いのは間違いないわ!だってバカよしーなんだから!」

 

「そ、それは理由になってませんチルノちゃん!」

 

「こっ、こ、この子と同じ胸くらいだなんて…!!いくらなんでももう少しあるわよ……さすがにまな板なんかじゃない………っ!!美鈴!この変態を屠るから離してっ!!」

 

「はっ、離さないでください美鈴さん!明久君が本当に死んじゃいますから~!」

 

 

 

――怒れる咲夜さんを宥めるだけですね。さてこういうときはシンプルに―――

 

 

 

 

 

「―――咲夜さんっ!これ以上暴れたら母さんに言いつけますよ!?」

 

 

 

 ピタリ

 

 

「うっ…!?く、くううう…!」

 

 

 咲夜さんはすぐさま動きを止めました。うんうん。母さんの威厳はいつでもどこでも健在ですね~。

 

 

 そこからしばらくして咲夜さんも冷静に戻り、さらに少しして、吉井君も目を覚ましました。結構強いパンチだったと思うのですが、ほんとに頑丈な体をしてますねあなた。

 

 

 

 

「・・・ゴメンナサイ。言葉ダケ謝ラセテモラウワネ」

 

「心がこもってないし言葉だけって言っちゃってるよ!!すでに謝る気もないでしょそれっ!?」

 

「当り前よ。誰があなたみたいなど変態でクズでセクハラ野郎に謝りたいかしら」

 

「え、あれ?なんだか十六夜さん怒ってるみたいだけど、僕が悪いの?僕何もやってないよね?」

 

「………っ!!(プルプル)」

 

「タッ、タイムタイムごめんごめん!!よく分からないけど謝るからその振りかぶった拳を下げてっ!?これ以上は僕の顔がやばい!」

 

「分からな…っ!…っ!!」

 

「さ、咲夜さんこらえてください!たぶん本当に無自覚なんですよ彼っ!」

 

「だからこそ腹が立つのよ…!どうして瑞希はこんな奴を…!」

 

 

 ひ、人というものは人の数だけ考え方も好みも違います!ですからそこで瑞希さんにまで飛び火させたらだめですよっ!

 

 

 

 

「ア、アリスゥ~・・・!さ、咲夜が怖いわよっ!」

 

「大丈夫よレミリア。レミリアに怒ってるわけじゃないし、美鈴が押さえてくれてるわよ」

 

「さくやがあんなに怒ってるのって初めて見たな~。あの人、さくやに何を言ったのかな?」

 

 

 そんな咲夜さんをレミィ達もばっちり目撃し、アリスに抱き着いて震えたり吉井君に興味を持ったりしています。フラン、彼は咲夜さんがもっとも触れてほしくない部分に触れたみたいなのです。だからあなたもそっとしておいてあげてください!これ以上お怒りになられたら、私も抑えられませんからっ!

 

 

「みずき、なんであいつはあんなに怒ってんの?アタイも思わずびっくりしちゃったわ」

 

「え、え~と・・・あ、明久君が少し天然なことをしたんじゃないでしょうか?ア、アハハハ・・・」

 

 

 

 

 

「おはよー瑞希・・・って、何この状況は」

 

「おはよーです綺麗なお姉ちゃんたち!」

 

 

 

 

「あ、み、美波ちゃん達!おはようございますっ!」

 

「おっ!みなみにはづき!おはよーなのよさ!」

 

 

 

 お、おおっと!ここでFクラスの最後の美少女、島田美波さんが来たみたいです。それに、私たちと同じで妹の葉月ちゃんも連れてきたみたいですね!

 

 

「あ、はづきーっ!はづきも来たんだね!」

 

「はいです!お姉ちゃんに誘われて来ました!フランちゃん達も来てたんですね!」

 

「そうだよー!今日は泳いで遊んで遊ぶつもりだから、葉月も一緒に遊ぼうねっ!!」

 

「はいですっ!」

 

「あら。あなたはフランのお友達?葉月ちゃん、っていうのかしら?私はアリス・マーガトロイドっていうの。よろしくね」

 

「あ、はいですっ!よろしくですお姉さん!」

 

 

 葉月ちゃんとは初対面だったようで、アリスがいつも通り優しく自己紹介をします。ああ、あんなに平和な空間に対してこちらはなんとギスギスした空間なのでしょう…さ、咲夜さん!だから暴れないでくださいって!

 

 

 

 

「お、皆揃ってるみたいだな」

 

「………十六夜、どうしたの?」

 

 

「あ、さ、坂本君、と霧島さん!」

 

「だ、代表…!」

 

 

 すると、一緒に来たのか偶然か。島田さん姉妹に続き今度は坂本くん、霧島さんの幼なじみペアーがやってまいりました。霧島さんは咲夜さんのいるAクラスの代表のためか、咲夜さんの声に冷静さが戻りました。

 

 

 

 そしてしばらくして――

 

 

「………ごめん美鈴。迷惑をかけ…ました」

 

「い、いやいやお気になさらず。咲夜さんが元に戻って何よりです」

 

 

 敬語を使ってしまうほどにきまり悪そうな咲夜さんがそこにいました。ちょ、ちょっと大変でしたけれどある意味新鮮でしたから、私としては問題なしです!

 

 

 

「さて、かなり人数が多いわけなんだが、他に来ていない奴はいないか?」

 

 

 職員室に行ってプールのカギをもらってきた坂本君が、参加者が全員いるかどうかを確認します。もしもここにいる人たちで全員ならば、総勢15人。これでもかなりの大人数と言えるでしょう。

 

 

「うん、全員来てるんじゃないかな?ねえ皆?」

 

「ええ、私たちは大丈夫です」

 

「わしもじゃな」

 

「……(こくり)」

 

「わ、私もですっ」

 

「ウチも葉月と2人よ」

 

「私もアリスと2人だぜ」

 

「アタイはアタイだけなのよさ」

 

「あなたが来なければ言うことはなかったわね」

 

「一応僕も開催者の一人みたいなものだけどっ!?」

 

 

 ちゃっかり吉井君への毒も忘れない咲夜さんですが、とりあえず全員がきているみたいで誰も待ったをかけません。坂本君は頷きます。

 

 

「うし、じゃあ着替えるか。女子更衣室のカギは翔子が持ってるからついて行ってくれ。着替えたらプールサイドに集合だ」

 

「分かりました」

 

 

 そこで私たちはいったん別れ、女性陣は女子更衣室に、男子陣、および葉月ちゃんは男子更衣室へ――

 

 

「って、葉月ちゃん?」

 

「こらこら。葉月ちゃんと秀吉は女子更衣室でしょ。霧島さん達についていかなくちゃダメだよ」

 

「えへへ。冗談ですっ」

 

「わしは冗談じゃないのじゃが……?」

 

「あなた、本当にバカなの?」

 

 

 葉月ちゃんとなぜか秀吉君の背中を女子更衣室の方へ押す吉井君に、全力で侮蔑の視線を送る咲夜さん。ですが今回ばかりは仕方ありません。レミィ達に男子と一緒に着替えろと言うのですか吉井君っ!

 

 

「吉井君。秀吉は一応は男子なのだから、私達と一緒に着替えるのは教育上良くないと思うわ」

 

「一応ってなんじゃっ!わしはれっきとした男じゃアリス!」

 

「でもアリスさん。僕たちと一緒に男子更衣室で着替えるのもマズイ気がするよ?」

 

「何を言うのじゃ明久。お主は男子、わしも男子で何も問題はなかろう?」

 

「確かに吉井君の言うことももっともね…」

 

「おぬしはわしをどちらの立場から見ておるんじゃー!」

 

 

 アリスのどっちつかずの言葉に憤慨する秀吉君。そんな彼らに打開案を出したのは瑞希さんでした。

 

 

「あ、あの……でしたら、木下君だけ別の場所で着替えるのはどうですか?」

 

「なるほど。それなら問題ないわね。秀吉はいいかしら?」

 

「ぬ、ぬう…得心は行かぬが、仕方あるまい。分かったのじゃ。水着姿を見せればきっと皆もわしのことを見る目が変わるはずじゃ…!」

 

 

 瑞希さんの案に秀吉君も渋々といった顔ですが、なんとか理解を示してくれたみたいです。う~ん、なんだか疎外してるみたいで申し訳ないんですが、やはりこれが最善の策ですから仕方ありませんよね?すいません秀吉君!

 

 

「よし、じゃあ時間ももったいないことだし、早く着替えに行くとしようぜ」

 

 

『了解』

 

『はい』

 

『おう!』

 

 

 そえぞれの返事をしながら、私たちは更衣室へと移動しました。

 

 

うふふ~!さっくやさん、レミィ、フランの水着~♪同じ女性ながら、とっても楽しみですね~~~!!

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・っ!?!?(ブシャアッ!!)』

 

『ぴいっ!?まま、魔理沙ああ!?』

 

『きゃっ!?ど、どうしたのよ魔理沙急に鼻血なんて噴き出して!?』

 

『わ、わ、・・・私はアリスの綺麗な背中なんか見てない・・・ぜ・・・!がくっ』

 

『まっ、魔理沙~~~!!?』

 

 

 

『・・・・・魔理沙も、別の部屋で着替えさせた方が良かったかもしれませんね』

 

『・・・確かにそうかもね』

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 さて、今回はプール当日回最初ということで待ち合わせの場面を書いてみたのですが、一回でも笑ったりしてもらえたでしょうか?

 最後にちょっとしたアリスと魔理沙のイベントを書いてみましたが、次回からはより(鼻)血が流れる物語を書いて村雪も自分で楽しめるような展開にしていきたいですね!

 それではまた次回っ!ようやく水着のお披露目タイムですよ~~!


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お披露目―興奮、せずにいるなんて男として失格・・・!

 どうも、村雪です!

 いよいよ美鈴さん達をはじめ、多くの美少女たちの水着回となりました!

 とは言えども女性の水着についてほとんど無知に等しい村雪でありますので、正直彼女たちの素晴らしい水着姿を完全に表現できていないと思われます!

 期待していた人の中には期待がハズレてしまう方が出てしまうかもしれませんが、どうか割り切って読んでやってください~!

 では、ご期待に添えているか非常に自信がないわけなのですが・・・

――ごゆっくりお読みください。


「……!!(カチャカチャ)」

 

「ムッツリーニ。鬼気迫る顔で機械の準備をするのはいいんだけど、心の準備の方は大丈夫なの?絶対鼻血を流すんじゃないの?」

 

 

 更衣室で着替えを終えた僕、ムッツリーニ、雄二の男子三人はプールサイドで女子の皆が来るのを待つ。やっぱり男子の方が着替えるのが早くて、写真撮影の機材か何かを動かしてるムッツリーニは彼女たちの登場を待ちわびてるのが丸分かりだ。鼻血を出したらそんな準備も全部無駄になるんだけど…

 

 

「……問題ない。イメージトレーニングを256パターン、256パターンの出血を昨晩確認した」

 

 

「もはや出血多量は免れられないんだね」

 

 

 なんだか血液パックをいっぱい持参して来てるみたいだけど、それでも足りないんじゃないかと思うなあ。女の子の水着姿による出血多量死って、こんなバカみたいな死因で死なれたら悲しむどころか笑わずにはいられないかもしれないよ。

 

 

「……今日の俺は、本気だ…!」

 

「それはたぶん普段からだよね?まあ気持ちは分かるけどさ」

 

 

 なにせ、姫路さんをはじめたくさんの美少女たちを水着姿で拝められるんだもの!ああ、今更ながらドキドキしてきた!僕は今日、もしかすると人生で一番の幸せの時間を過ごすんじゃないだろうか!?

 

 

 

 

「お、一人出てきたな」

 

「「っ!!」」

 

 

 そんな風にしてドキドキしながら待っていた僕たちの耳が、雄二のそんな声を捉えた。

 

 ついにっ!ついに一人目がっ!?僕らはすぐさま女子更衣室の方へと目を走らせる!さあ、いったいどんな水着姿が――!?

 

 

 

 

 

「うおおおおっ!やっぱプールは晴れてる時が一番なのよさーっ!」

 

 

「君はひっこんでろチルノおおおおおおっ!」

 

「うわっ!?な、なによ急にばかよしー!?」

 

 

 元気よく現れたのは僕よりずっとおバカな小さい女の子チルノ。君の水着なんて興味あるかっ!このがっかりをどうやって落とし前付けてれるんだおらぁ!?

 

 

 

「……っ!!スクール…水着…っ!(ダクダク)」

 

「なによムッツリーニ、アタイが最強だからって鼻血なんか出しちゃって。スクール水着がどうかした?」

 

 

 でもムッツリーニには思い切りキタみたいで、鼻血を流しながらカメラを構えていた。

 

 チルノの水着は小学生が着るような紺色のスクール水着で、大変つるつるな胸の部分には、『ちるの・めでぃすん』って子供らしい字で所有者の名前が書かれている。その恰好を見ただけじゃあ誰も君が高校生だと思わず、絶対に小学生としか思わないだろう。

 

 

「チルノ、その恰好は高校生としてどうなの?もっとこう、女子高生!って水着があるでしょ?」

 

「やっ、やかましいのよさバカよしー!アタイだってもっと最強な水着を着たかったわよ!」   

 

「最強な水着ってなんなのさ」

 

 

 まあそれはともかく、あれ?なんかチルノにしては珍しくきまりが悪そうにしてるぞ?一応自分でも年にあってないって自覚はしてるのかな?

 

 

「あ、あんただって何よその恰好!つまんない格好ね!」

 

「な!?しっ、失礼な!わざわざ今日のために新しく準備した特製海パンに向かってつまんないとは何事だ!」

 

「だが確かに、全く特徴がないなお前の海パン」

 

「うるさいよ雄二っ!君だっていたって普通の海パンじゃないか!」

 

「海パンだったらなんでもいいだろ」

 

 

 バカなことを言ってやがるよこのバカ雄二は!僕たちが女の子の水着を見るように、彼女たちもきっと僕たちの水着を見るに決まってるじゃないか!たぶん!だからこそ僕は、見られても恥ずかしくない海パンを少ない財産を奮発して買ったというのに!それを普通だなんて君たちの目は節穴かっ!

 

(詳. 真っ黒なトランクスタイプの海パン。それを普通以外の何で言い表せと言うのでしょうか…)

 

 

「お兄ちゃんたち、お待たせです~っ!」

 

 

 すると、チルノの後ろから元気な声が聞こえてきた。

 

 

「あっ、葉月ちゃん……って!?どどっ、どうしよう雄二!あれってスクール水着だよね!?そんなものを着た女の子と一緒に遊んでも逮捕されないかな!?」

 

「お前は今、チルノの水着を見てなかったのか?」

 

「最強のアタイをムシするよしーに、むしょーに腹が立ったのよさ」

 

「……どちらも……売れる…っ!(ドクドクドク)」

 

 

 は、葉月ちゃんの姿は正真正銘の小学生のスクール水着姿!年と言うものを考えないチルノのスクール水着と違ってどこか危険な香りがしてる気がしてたまらないよっ!ムッツリーニも鼻血の量が増えた気がするから間違いないよね!?(※大いにアウトです) 

 

 

「あっ。さいきょうのお姉ちゃんも葉月と一緒の水着ですっ!」

 

 

 駆け寄ってきた葉月ちゃんはチルノの姿を見て嬉しそうに話しかけた。こう並んで見ると、同じ型の水着ってのもあって2人は同じ年にしか見えないなあ。

 

「ほほほほっ、ほっときなさい葉月!いくら子分の葉月でも、それ以上は許さないわよっ!?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 ん?チルノのったら小学生に声を荒げるなんて、いったいどうしたんだろう?

 

 

「ア、アタイはまだまだ伸びるんだからね!だからいい気になるんじゃないのよ葉月!あんたの親分はアタイなんだからっ!」

 

「??え、えっと、えっと??」

 

 

 葉月ちゃんもチルノの言葉に思わず首をかしげる。チルノがバカなことを言うのはいつものことだけど、今のはいつにも増して訳が分からないぞ?

 

 

「おいおい、小学生に怒鳴るのは良くないぞチルノ?」

 

「!ででくの坊はひっこんでなさいっ!ア、アタイにケンカを売ってるの!?」

 

「あん?なんでそんなことになるんだ?」

 

「ア、アタイだってその内に伸びるんだからっ!!アタイの背はまだ終わってないわバカ本!」

 

「誰がバカ本だ。…というか、背か…」

 

 

 割って入った雄二にも噛みついたチルノの言葉に、雄二はスクール水着の少女たちを見比べて―――

 

 

 

 

 

「一応ぎりぎりだが、ちびっ子よりもチルノの方が背が高いぞ?」

 

「しょしょ小学生とほぼ一緒ってのが問題でしょうがあああ~~っ!(どげしっ!)」

 

「いっでええええええ!?す、すねがあああああっ!!」

 

「だ、大丈夫ですかお兄さん!?でも、葉月はちびっこじゃなくて葉月です!」

 

 

 なるほど、チルノは背丈を気にしてたのか。小学生とほぼ変わらない身長だと思っていたけど、ひょっとすると今チルノが着ているのは本当に小学生の頃から使っている代物なのかもしれないね。小学生から背丈が変わらないというのは……いくらチルノでも少しだけ同情しちゃうなあ。

 

 

「こんちくしょー!葉月!あんたは背が高い方ね!?アタイとほぼ一緒ってことはあんたは結構背が高い方なのね!?」

 

「ふえ!?え、えとえと、でも葉月、皆に比べたら小さい方で――」

 

「うがあああっ!アタイは背は低くないのよさぁああああ!」

 

「ふぇええ!?」

 

「ちょ、チルノ!」

 

 

 小さいと暗に言われたチルノが葉月ちゃんにとびかかった!これは止めないと―!

 

 

「こらチルノ」

 

 

 ゴンッ!

 

 

「ぎゃいん!?」

 

「あ」

 

「あっ!おねえちゃん!」

 

 

 その心配は無用だったみたいで、お姉さんである美波がチョップによってチルノの魔(アホ)の手から葉月ちゃんを守った。

 

 

「なんか知らないけど、あんたは人の妹に何やってんのよ。葉月が何かしたの?」

 

「したわよっ!アタイは全然小さくないわよね!?みなみ!!」

 

「……あ~。なるほどね。大丈夫よチルノ。あんたはちっちゃくても心はでかいわ」

 

「ま、まったくフォローになってないのよさっー!?」

 

 

 美波に真実を突き付けられ、ガーンと音が聞こえそうな反応をしたとチルノはがくりと膝をついて沈み込む。どうもチルノにとって身長のことは、美波にとっての胸の問題と同じくらい深刻な問題なようだ。

 

 

「アキ、なんかウチの変なことを考えてたでしょ?」

 

「気ノセイダヨミナミ」

 

「あんたはウソつくのが下手ね・・・」

 

 

 呆れたように息をつく美波の姿は、スポーツタイプのセパレート。すっとした手足にキュッとしたウエスト、そして中央にある小さなおへそがとても魅力的で、思わず目をやってしまう僕だった。

 

 

「…何よ。ウ、ウチの胸のことだったらしばくわよ?」

 

 

 僕の視線に気づいた美波が、僕を睨みながら胸のあたりを腕で隠した。いや、今回に関しては胸の事じゃないんだけど……

 

 

「あ、いやそうじゃなくて、美波の足とお腹とおへそとかがいいなーって思って」

 

「おへっ…!?ど、どこ見てんのよアキのスケベッ!そんなところ見ても何もないでしょっ!?」

 

 

 ポフンと顔を赤くした美波が、とっさに右手を胸からおへその上にかぶせた。あれ、おへそもあんまり見たら良くなかったっけ?それは悪いことをしちゃったな。

 

 

 

「……!!セクシ…ポーズ…っ!!(ダクダクダク…!)」

 

「ふあっ。お兄さん、鼻血をたくさん出して大丈夫ですか?」

 

「何やってんだムッツリーニ。ほら、出血多量になるから血液パックを使え」

 

「……それは後だ…っ!」

 

「優先順位を間違えすぎだバカ野郎」

 

 

 ムッツリーニが鼻血を流しながら美波にカメラを向けている。

 

……ふむふむ。言われてみると美波は今、左腕は胸を隠し右手のパーはおへそをカバーしていて、まるで僕が愛読している参考書(×大人向けの本です)の女の人がしているポーズにも似ている気がする。

 

 

―――な、なんだか知り合いの子がそんな恰好をすると、すごく萌えるねっ!?

 

 

「ありがとう美波っ!その恰好、僕は猛烈に感動したっ!!心から感動したーっ!」

 

「へっ!?そ、そう?に、似合ってたかな?」

 

「うん!水着を着ながらそのポーズをするところが逆にグッと来た!僕が保証するよっ!」

 

「?き、着ながら??……って、きゃっ!あああああんたウチの裸でも想像してたのっ!!?」

 

 

 げっ!やや、やばいっ!すっごい誤解をした美波が涙目になってさらに身体を縮めちゃった!い、急いで訂正しないとっ!

 

 

「ちちっ、違うよ!僕が思い浮かべてたのは美波の裸じゃなくてエロ本に載ってた人のはだ――」

 

「ア、アアアアアキのエッチィィィイイイ~~っ!!(パアンッ!)」

 

「ブベエッ!?」

 

 

 ビンタの勢いに乗り、僕はプールサイドをゴロゴロと転がった。な、なんてビンタだ…!首がすっ飛んでいくかと思えるこの威力、鉄人にも劣ってないよ美波っ!

 

 

「完全にセクハラだな、あのバカ」

 

「……うらやま……許されざる蛮行…っ!(ドクドクドク)」

 

「どこまでもウソが下手で、欲望に忠実だなムッツリーニ」

 

「お姉ちゃんたち、とっても仲が良いですっ!」

 

「アタイはちっさくない…アタイはでっかくて最強なのよさ~…!」

 

 

 そんな僕たちを見てつぶやく面々。でも最後のに関しては全く関係がない!連続でウソをつくんじゃないよチルノッ!

 

 

「……雄二」

 

「うおっ?翔子か、いつの間に出て(ブスッ)ぐああああっ!目がぁああああ!!」

 

「……あまり、他の子を見ないように」

 

「あ、き、霧島さん」

 

 

 しばかれた痛みを我慢しながら身体を起こしてたら、いつの間にかやってきた霧島翔子さんが華麗に雄二の目つぶしを行っていた。うーん、なんとも流れるような仕草での目つぶしで見てる僕たちは気持ちが良いね!当人にとってはたまったものじゃないと思うけれどもそこは雄二だから構わない!

 

 

「……見事…っ!(パシャパシャパシャ!)」

 

「……そう言われると……照れる」

 

 

 霧島さんの水着は白いビキニに水着用のミニスカート。その芸術と言っても良いぐらいの華麗な姿に、ムッツリーニは鼻血を抑えることなくすごい勢いで霧島さんの水着姿を写真に収め、霧島さんが照れた様子でうつむく。そんな仕草をされてはどんな男も大ダメージだ。ちなみに僕はイチコロレベル。

 

 

「ううう…やっぱり何かが違う…!胸!?やっぱり胸なの!?」

 

「お姉ちゃん、お胸がどうかしたですか?」

 

「ウチはこれからもっとダメ―ジを受けなくちゃいけないの!?こんな苦行ヒドすぎるわよっ!」

 

 

  美波も何かダメージを受けたのか、霧島さんと自分を見比べながらわなわなと戦慄している。う~ん、今日はプールで遊ぶという楽しい時間なのに、なんで美波はあんなに真剣なんだろ?何かを見ているみたいだけど…

 

 

 

 

 

「魔理沙、大丈夫なの?少し休んでたほうがいいんじゃないかしら?」

 

「な、ななな~に、大丈夫だアリス。私は全く問題なしだぜ」

 

「問題なしだったら、そもそも何も起こらないと私は思うけど・・・」

 

 

 足りない頭で考えても分からないので、どうしたのか美波に直接聞こうかなと思っていると、再び女子更衣室から着替えを済ませた少女達が現れた。

 

 

 

 

 

 

「……金髪美少女二人合わせ…っ!!(パシャパシャどくどく)」

 

 

 やってきたのはムッツリーニの言う通り、綺麗な金髪がとても映えている魔理沙とアリスさんだった。ムッツリーニ、カメラにも鼻血がついてるみたいだけど、レンズは大丈夫なのかい?現像したら真っ赤だなんてホラー演出は御免だよ?

 

 

 

「お待たせしてごめんなさい吉井君達。他の皆もそろそろ着替え終わると思うから、もう少し待ってあげてもらえないかしら?」

 

「あ……う、ううん!全然大丈夫だよっ!全然僕たちは気にしてないもん!」

 

 

 い、いけないいけない。今、話しかけてきたアリスさんの水着姿にすごく目を奪われちゃったよ。

 

 

 おしゃれか日焼け防止なのか、白いケープを羽織った下には姫路さんや霊烏路(れいうじ)さんほどじゃないけれど、ふわりと膨らんだバストをおおう蒼いビキニ。そして腰では、足首まで届いて上品さ溢れる同色のパレオがその存在を誇示していた。

 

 僕、これほど優雅で綺麗に水着を着こなす女の子は初めて見た気がするよっ!!感動だっ!

 

(注意. 決して霧島さん達が水着を着こなしていない、と言ってるわけではありません。彼はきちんと彼女たちも高評価していますのであしからず)

 

 

 

「ふわあ~!キレイキレイッ!優しいお姉さんすっごくキレイですっ!」

 

「う、うう~……アリスったらすごいキレイ…!うらやましい~~っ!!」

 

 

 葉月ちゃんと美波もアリスさんの優雅で美しすぎる水着姿に感激したみたいで、葉月ちゃんは目を輝かせてピョンピョンとはね、美波は羨望のまなざしでアリスさんを全身隅から隅まで見つめている。アリスさんはそんな反応に、頬を赤く染めてはにかむ。

 

 

「あ、ありがとう葉月ちゃん、美波さん。ちょ、ちょっと自信がなかったんだけど・・・そう言ってもらえると、すごく嬉しいわっ(ニコリ)」

 

 

「がふっ!(ブバッ!)」

 

「………天使の微笑み…っ!(ブバッ)」

 

 

「って、ええ!?よ、吉井君、土屋君!?どどうして急に鼻血をっ!?」

 

 

 瞬間、僕とムッツリーニはアリスさんと違い、頬だけじゃなく顔半分を赤く染め上げた。

 

 ご、ごめんねアリスさん心配かけちゃって。でも悪いのは君じゃなくて、アリスさんの微笑みという至宝を生み出した神様が悪いんだ。だからこれからも気にせずその宝(えがお)を見せてほしいんだよ。

 

 

「ん、んん?なんだ?何が起こってるんだ?まだ目が見えねえんだが……」

 

「……雄二、そのまま視界を絶ってて。……私が永遠に絶ってあげてもいい」

 

「さ、さらりとなに恐ろしいことを言ってんだ翔子!?」

 

「……友達をいやらしい目で見るのは、許さない」

 

 

 僕達もそこに含まれちゃうのだろうか。静かな剣幕を帯びた霧島さんの声に、全身が寒いものを感じ取った。

 

 

「ほっ、ほっとけほっとけアリス!そんなスケベ共にア、アリスが心配してやる価値はないんだぜっ!」

 

 

 すると、一緒にやってきた魔理沙がアリスさんをかばうように僕たちの間に立って失礼極まりないことを言ってきた。魔理沙も美波と同じ黄色のスポーツタイプのビキニとパンツを着ていて十分可愛らしい姿なんだけど、その言葉は見逃せないぞ!

 

 

「魔理沙!ムッツリーニはともかく、僕はスケベなんかじゃないよ!そんな言いがかりはひどいよ!(ボタボタ)」

 

「……!おれだって、スケベじゃない…!(どくどく)」

 

「は、鼻血ふいてる奴がしらじらしい嘘つくなこの変態コンビめっ!ア、アアアリスを変な目で見るなっ!」 

 

「そ、そんなっ!僕はやらしい目でなんか見てないよっ!?」

 

 

 ほら見て!自分の心に正直で少しだけ濁ってるけど綺麗なまなざしでしょ!?言いがかりはやめてよ魔理沙!(※完全に下心丸出しの眼差しですね)

 

 

「ま、魔理沙。そこまで言わなくても・・・私は気にしてないから、ね?」

 

「ア、アリスはもっと気にしろバカッ!そんなんだからアリスはアリスなんだぜっ!」

 

「そこで私が怒られるのっ!?」

 

 

 そうだそうだ魔理沙っ!アリスさんは親切にも僕たちに見ても良いと言ってるのにそれを怒るとは何事だ!自分勝手にもほどがあるよっ!(あなたがそれを言わないでください)

 

 

「だいたいアリスは――!って・・・あー、まだくらくらするぜ・・・」

 

「ちょ、大丈夫魔理沙?興奮し過ぎよ」

 

「あれ?どうしたの魔理沙?」

 

 

 大きな声を出していた魔理沙が急に頭を押さえてふらついた。ん?それに、よ~く見たら顔色も少し青いような・・・?

 

 

「それがさっき、魔理沙ったら鼻血を出しちゃって…」

 

「鼻血を?」

 

「大丈夫ですか、元気なお姉さん?」

 

「おお、大丈夫だぜ葉月。鼻血はちょっとしか出してないからな」

 

「あー、そうだったわね魔理沙・・・。あんた、アリスのはだ―」

 

「みみみみ見てにゃい見てにゃいっ!!白くてキ、キレイな背中なんて見てない見てない見てないもんっ!」

 

「は~・・・。ほんと、あんたって意外と初心なのね」

 

「う、ううううううるせえバカーっ!」

 

「まっ、魔理沙落ち着いて!また鼻血が出るわよ!」

 

 

 

「…な、なんだかよく分かんないけど、魔理沙がけしからんことをしたってことだけ僕の感が告げてきてるよ」

 

「……おそらく、間違っていない」

 

「霧雨は意外と純粋なところがあるからな。あー、まだ眼がいてえ……」

 

 

 男子顔負けのふてぶてしさを持つ魔理沙も、たまに変になるんだよねー。なんか女の子になるっていうか(もともと女子です)。

 

 とにかく、水着姿に加えて普段とは違う魔理沙を見れて僕は大喜び。元気いっぱいな魔理沙も良いけど、こっちのしおらしい魔理沙も素敵だと思うな。

 

 

 

 

 

 

「あはははは!プールだプールだーっ!」

 

「あ、こらフランッ!プールサイドは走っちゃダメよ!?」

 

「咲夜、咲夜っ!わ、私ちゃんと水着を着れてるかしら?」

 

「大丈夫よレミィ。後でしっかり写真も撮らせてもらうわね」

 

「ええ!?ど、どうしてカメラなんか持ってきてるの!?」

 

 

 

「はっ!?」

 

「…っ!?」

 

「あら、あの四人も着替え終わったみたいね」

 

 

 そんな賑やかな笑い声と慌て声、冷静な声ながら冷静ではなさそうな声と泣き声が僕たちのもとへ届いてきた。アリスさんの言うとおり、彼女たちの水着のお披露目タイムが来たみたいだ。

 

 

「うわ~!フランちゃんの水着可愛いです~!」

 

「えへへ~!葉月の水着も良いと思うよーっ!」

 

「にゃ~!ありがとうですフランちゃん!」

 

 

 キャッキャッと楽しげに葉月ちゃんと褒め合いをするのは、美鈴さんと咲夜さんの妹であるそうなフランドールちゃん。

 

 濃い赤色のビキニタイプの水着上下を着用していて、スクール水着の葉月ちゃんと違ってかなり肌があらわになっている。・・・っていかんぞ僕っ!こんないたいけな小学生の水着姿を見てハイになったら完全にアウトだっ!君ってやつはそんなに変態じゃないでしょ!?

 

 

「………っ!!小学生ビキニ…っ!(ポタポタポタ)」

 

 

 でも隣のムッツリは逮捕は免れられないだろう。臆することなく自分の信念を貫こうとしているところだけは称賛しておいてあげよう。

 

 

「まあ。レミリア、とてもかわいい水着ね。似合ってるわよ?」

 

「……!と、当然よ!しっかり水着を選んだんだからねっ!」

 

 

 アリスさんの褒め言葉に誇らしそうな嬉しそうな顔をするのは、同じく美鈴さん達の妹であるレミリアちゃん。

 

 大胆なビキニ姿のフランドールちゃんとは反対に、水色をベースに色とりどりのお花が描かれているとても可愛らしいワンピース水着で、腰の部分のフリルがとてもフリフリしてて目を釣られてしまう。

 

 

「……フリル付き、子供ワンピース水着…!売れる…っ!(ボタボタ)」

 

「ひいっ!?あ、あの人鼻血流してこっち見てる!」

 

 

 ムッツリーニもフリフリフリルにやられてさらに鼻血を流し、驚いたレミリアちゃんはアリスさんの後ろに隠れた。どうやらレミリアちゃんはシャイな性格なんだねー。藤原さんといい、恥ずかしがり屋な人はどうしてこんなにもグッとくる行動を取ってくれるのやらや。

 

 

「やめなさいあなた達。レミィが怖がってるわ」

 

「あっ、十六夜さん」

 

 

 ムッツリーニの暴走を止めようと(あなたもですが)、アリスさんと僕たちの間に割って入ってきたのは、彼女たちのお姉さんにあたる十六夜さん。

 

 シンプルな白いビキニ姿なのだけど、そこが彼女の綺麗さをさらに引き立てていて、僕は思わず開いた口が閉まらなかった。

 

 

「・・・何かしらその顔は?私の恰好に文句でも?」

 

「も、文句なんてそんな!すっごい綺麗だと思ったんだよ!」

 

 

 アリスさんと同じように腰には短めのパレオが巻かれており、元々大人びた性格の十六夜さんがさらに大人になったような錯覚を覚える。こんな素晴らしい恰好に文句なんて誰が言うものか!……ただ、手に握られてるデジタルカメラはどうしたのかと聞きたいところだね。いったい何を撮るつもりなんだろう?

 

 

「・・・そ。お世辞だと思って受け取っておくわ」

 

「おっ、お世辞じゃないよ!綺麗な銀の髪に整った顔!それにシンプルな水着になだらかな胸がかみ合ってすごくビューチフルだ(バキイ!)よっぷるぁ!?」

 

「やっぱりバカにしてるでしょう、この変態野郎がっ!」

 

 

 僕の褒め言葉に、十六夜さんからのあつ~いパンチ。バカにするつもりはないんだけれど、僕、まずいことを言ったかなあ・・・褒めたつもりだったんだけどなあ・・・(完全に逆効果です。少しは学んでください)

 

 

 

「もう、こらフラン!走っちゃ危ないから走ったらダメよ!」

 

「……っ!?(ブバッ!)」

 

 

 そして、フランちゃんに近づくもう1人。彼女を見た途端、ムッツリーニは言葉なく血の花を咲かせた。

 

 

「ちょ、うわ土屋君っ!?フラン達の水着を見て興奮なんかしないでくださいよっ!痛い目にあわせますよコラ!?」

 

「わぷっ?」

 

「は、はうっ!?」

 

 

 ムッツリーニの下心に、声の主、美鈴さんは目くじらを立てながらフランドールちゃんとレミリアちゃんを抱きしめる。たぶん勘違いしてるんだろうけど、あながち鼻血の理由が間違っていないのも事実。このままだとムッツリーニが二重の意味で危ないから、僕が仲裁に入ってあげるとしよう。

 

 

「まあまあ美鈴さん、どうか勘弁してやってよ。むっつりスケベなムッツリーニなんだからさ(ポタポタ)」

 

「・・・私の目には吉井君も鼻血を流してるように見えますが、それは代わりに自分をシバいてと言ってるのですね?」

 

「どうぞ気の済むまでムッツリーニをしばいてください」

 

「…!?裏切り者…っ!」

 

 

 少女に興奮するムッツリーニが裁かれるのは当然のこと。でも君に目を刺激された僕は無罪だと思うんだよ、美鈴さん。

 

 

「ふわあ~!力持ちのお姉さん、すっごいせくしーですっ!」

 

「あ、いやいや照れますね葉月ちゃん~!葉月ちゃんも素敵ですよ!」

 

 

 目を輝かせながら近づく葉月ちゃんの頭を照れくさそうに撫でる美鈴さん。確かに葉月ちゃんの言うとおり、美鈴さんの水着姿もせくしいの一言に尽きている。

 

 長く綺麗な芸術品のようである美脚は惜しみなくさらけ出され、キュッと引き締まったお腹も隠すことなく丸出し。そして、豊満な胸は結構面積率が小さい緑色のビキニで着飾れて、その間にはくっきりとネクロバレー(王家の谷)がお見えになられ――

 

 

「眼福、だね・・・っ!(ブバッ!)」

 

「ちょ、うわ吉井君っ!?その血の量大丈夫なんですか!?っていうか小学生相手に発情なんかしないでくださいっ!ほんとにしばきますよ!?」

 

 

「しばいてくれてもいいよ美鈴さん!」

 

「ええええっ!?」

 

 

 そうするときっと、美鈴さんが殴る瞬間にその禁断の果実が・・・!これを拝めるのななら命だって惜しくはないさっ!

 

 

「美鈴。この変態はあなたを見て盛ってやがるわ。消していいかしら?」

 

「だ、ダメですよ咲夜さん!?っていうかそれを言うなら咲夜さんで興奮して……ってなに咲夜さんに興奮してるんですかおんどりゃあああああ!!」

 

「あばばばっ!?メ、美鈴さんしてないっ!僕は十六夜さんで興奮してないから安心して僕を開放してタップタップタップゥゥウウッ!!」

 

「ちょ、メ、美鈴落ち着いて!?」

 

「ア、アキが顔を真っ青にしてるかから!やめてあげて美鈴―っ!」

 

 

 この後、美波やアリスさんに頼まれて解放されるまで、僕は美鈴さんによって締め上げられることになった。首を持ち上げられて、下を見れなかったのが無念だっ…がく

 

 

 

 

 

『翔子。なんだかさっきから騒がしいが何が起こ(ブサッ)ぐああああ!?なぜもう一回つぶしをする翔子おおおお!』

 

『……雄二には、見せられないものがあるから……。みんな、すごくきれいで……うらやましい………はあ…』

 

 

 

 

 

 

 

『あっつ~・・・愛子、アイス取ってー。冷凍庫の中にあるからー』

 

『はいは~い。まったく、霊夢ったら自分で動かないんだから。ボクの家じゃなくて霊夢の家だよね?勝手に人の家の冷蔵庫を開けるのは申し訳ないんだけどなあ~』

 

『大丈夫。私が許すから勝手に冷蔵庫の中を開けてくれてもいいわ』

 

『もうっ、そんなにごろごろして身体を動かさなかったら、細い霊夢でもいつかは太っちゃうよ?』

 

『はっ、甘いわね愛子。私はそんな肉が付くような食生活、したくてもできないわよ』

 

『・・・ううう~!霊夢ぅ~!』

 

『ちょっと。涙目で悲しいものを見るような目を向けられても私が困るのだけど』

 

『クスンッ。は、はい。アイスだよ。しっかり心ゆくまで食べてね?』

 

『ん、ありがと。やっぱ暑いときはこれに限るわー』

 

『し、失礼すぎる言い方だけど、そんな状況でアイスはしっかりあるのがボクは不思議だなあ~・・・』

 

『当たり前よ。暑いときにはアイス。この鉄則は何を二の次にしても守ることにしてるわ』

 

『その理論はゼッタイ間違ってるからね霊夢!?そこはアイスよりご飯をきちんとしようよ!』

 

『却下ね。それにしてもホントに暑いわね…タダのプールに入りたいわ-』

 

『タダ限定って言ってるあたりに、霊夢がホントに倹約家なのが伝わってくるなあ…』

 

『愛子~、どこかただでプールに入れる場所ってないの?』

 

『う~ん、た、ただで入れるプールか~……が、学校のプールは勝手に入ったらまずいし、けど他となると…』

 

『なるほど。じゃあ行きましょうか』

 

『へっ?行くってどこに?』

 

『今愛子が言ったでしょ。学校のプールよ』

 

『・・・ええええっ!?か、勝手に入るのはまずいって言ったよね!?ボクちゃんと言ったよね!?』

 

『大丈夫よ。確か愛子って水泳部でしょ?』

 

『え。そ、そうだけど?』

 

『だったら自主練がしたかったとかなんとか理由が出来るでしょ。それだったらダメとも言われず、むしろ練習熱心な生徒だなって思われるわよ。私はその愛子に誘われたってことで大丈夫じゃないかしら?』

 

『ボクのリスクがすっごい大きいっ!しかも誘ったのって霊夢じゃんかぁ!』

 

『そっちは冗談よ。もしも何か言われたら全部私が責任取るわ。それなら良い?』

 

『う…そ、それは悪い気がするから、その時は僕も怒られるよ。あ~、霊夢は本当に肝が据わり過ぎ!』

 

『そんな私に付き合ってくれる愛子は心が広くてすごいと思うわ』

 

『ふえっ!?や、やめてよ霊夢!そんなこと言われると恥ずかしいから!普段そんなことを言わない霊夢だったらなおさらだよ!』

 

『私だって褒める時は褒めるっての。んじゃ、水着の準備をしなくちゃね。愛子は水着を持ってるの?』

 

『あ、ああうん。でも家にあるからいったん取りに帰らないといけないなー』

 

『そう。じゃああとでどっかに待ち合わせましょ。あ~、今から楽しみだわ~』

 

『そうだね!ボクもなんだかんだで楽しみになってきたよ!ところで霊夢はどんな水着を着るの?ひょっとして、とってもセクシーな水着かな~?』

 

『ん?ああ、え~と……あったあった。これよ』

 

『へ~どれど………ぴゃあああああっ!?』

 

『ん?ちょっと、何よその反応。そんなに派手だったかしら?』

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 ちょっと文章が長かったので話を区切らせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?やっぱり少し水着の部分が一味足りなかったかも・・・!

 さてさて、今回も明久が余計な褒め言葉をしたせいで咲夜さんに怒られ、そろそろ『明久学べよっ!』と思った方もいるかもしれませんが、やはり明久は褒めようとするも空回りして、そこににぎやかさを生み出してくれる人物!彼には変わることなく周りの皆さん、および我々を惹きつけてもらいたいですね!

 そして文章最後にて、霊夢さんと工藤愛子さんの参加も決定させてもらいました!意外とあの2人の組み合わせが多くなっているのですが、霊夢がボケて愛子がツッコむ。村雪は結構気に入っちゃったのですが、少しでも共感していただければ嬉しいですね~!

 それではまた次回っ!


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お似合―本意、ではないのじゃ!これは不本意なのじゃー!

 どうも、村雪です!いつも間が空いてしまって申し訳ありません!


 さて、そう言ってようやく出させてもらったのですが、今回もまだプールの中には突入しません!次回から彼女たちには入ってもらう予定でございますが、長々とひっぱってお許しください~!

 代わりに、今度は来週に投稿しようかと考えておりますので、どうかそれで一つ納得を!!

 と、そこら辺の話は後書きの方にさせてもらいますので、まずは本編を楽しんでもらえれば幸いです!

それでは、少し短めとなりましたが…


――ごゆっくりお読みください。




 

「まったく、ダメよ美鈴。今日は皆で楽しくプールで遊ぶのだから荒事はやめましょう」

 

「そうよ美鈴。アリスの言う通りだわ。アキがエッチなのは今更なんだから許してあげなさいよ」

 

「う、すみませんアリス、美波さん…。出来るだけ気をつけます!」

 

「・・・私としてはもっとやってほしかったけれどね」

 

「十六夜は残念がらないの!アキ、大丈夫?」

 

「あ、ありがとう美波、アリスさん!この恩は当分忘れないよ!でも僕はスケベなんかじゃないからね!?そこは間違えないでよ!?」

 

「そうなの、美波さん?」

 

「ウソよアリス」

 

「ええ、ウソですね」

 

「ウソ以外のなんでもないわ。バカじゃないの?」

 

「トリプルで否定されちゃったーっ!?しかも十六夜さんに関しては罵倒の言葉も投げてきたし、僕の味方はどこにもいないのかよ!」

 

 

 ふん!咲夜さんをスケベな目で見る方に味方する気なんか起こりません!むしろ咲夜さんに続いてやりたいぐらいですから、感謝しなさいっ!

 

 

「あー!アタイもう我慢できないのよさ!もう泳いでもいいわよね!?」

 

「私もーっ!ねえねえメイリンもういい!?」

 

「ダメダメ。もう少し待ちましょうフラン!」

 

 

 チルノとフランがまだかまだかとせがんできますが、まだ来ていない人がいるのです!せっかくなのですからみんなが揃うまで待ちましょう!

 

 

「えーと。あとは誰が来てないんだぜ?」

 

「瑞希と秀吉の2人じゃないかしら?後は全員ここにいると思うわ」

 

「だ~!みずき~ひでよしー!早く来るのよさー!」

 

「プールプールーッ!早く泳ぎた~~い!」

 

「お、落ち着いて2人とも!別にプールは逃げたりしませんから!」

 

 

 でも、せっかちな2人は今にもプールに飛び込まんばかり。それだけ楽しみにしてるのがよ~く伝わってきます。み、瑞希さん!秀吉君!アリスの言う通り、あとはあなた達だけですから少しお早めに!この2人を抑えられるのも時間の問題な気がしますから~!

 

 

 

 

 

「みっ、皆さんお待たせしました~っ!」

 

 

 私が結構必死になって2人をなだめていると、実にタイミングよく少し慌てた声が響きました。ま、待ってましたよ瑞希さん~!

 

 

「……っ!?生物兵器…っ!(ブシャアア!)」

 

「ム、ムッツリーニーッ!?きゅ、急にどうしたの!?あっちに何か(ブバッ)現世のアフロディーテーッ!?」

 

「ちょ!ま、またなの2人ともっ!?」

 

「・・・あ~。アリス。もうほっといても良いと思いますよ?」

 

「そ、そういうわけにもいかないでしょ!?」

 

 

 やって来た瑞希さんを見て鼻血と共に散ってゆくムッツリおバカコンビ。だってこの2人、血を流しながらすっごい幸せそうな顔をしてますもん。ここで昇天されても悔いは残らないと思います。

 

 

 まあそんな男子2人は置いといて、瑞希さんです!

 

 

「や~、素敵な水着ですね瑞希さん!」

 

「あ、ありがとうございます美鈴さん!美鈴さん達も素敵ですよ!」

 

「あはは、こちらこそありがとうございます!」

 

 

 私は2人をノックダウンさせた美少女、瑞希さんの水着を見て称賛します。

 

 肌の面積率が多い薄ピンクのビキニに膝辺りまでのパレオ。とっても可愛くセクシーな姿で、男子である吉井君達が騒ぐ理由も分からなくもありません!しかも吉井君にとっては思い人の水着姿ですからね~。そりゃあテンションもあがって鼻血を出すのも人の性でしょう!

 

 

「良い!姫路さん、すっごく似合ってるよ!僕はその姿を見れただけで命を落としても構わないっ!(ダクダクダク)」

 

「よよ、吉井君っ!?ほ、褒めてくれるのはすごく嬉しいんですけれど、本当に出血多量で死んじゃいそうですからはっ、鼻血を止めてくださいっ!」

 

 

 よほど嬉しいのか、鼻血を結構流しながら瑞希さんを褒める吉井君。そして鼻血の量に慌てながらもほおを赤く染める瑞希さん。じゃっかんおかしい気もしますが、やはり褒められたら嬉しいものなんですねー。

 

 

「くうぅううっ~・・・!!ウ、ウチはしょせんぺったんこよ・・・!張れない胸はただの胸よーッ!!」

 

「あっ、諦めるんじゃないぜ美波!き、気持ちは分かるがわ、わわ私たちにはまだ未来というものがあるっ!諦めたらそこで終了なんだぜっ!?」

 

「そっ、そうよね!ウチだってそのうち瑞希みたいな胸になれるわ!きっとなれるわよね魔理沙!?」

 

「……お、お、おう!た、ったたたぶんなれるぜ!」

 

「それ全然なれるって思ってないでしょ魔理沙あっ!」

 

「……あの胸を、私の胸に奪うことが出来たならば…!」

 

 

 しかしこちらの3人は何やら不満があるようで…咲夜さんは発想が怖すぎです!いくら胸の事が気になってるからって友達の財産(からだ)を盗ろうとしないでくださいよ!?そんなことまでして手に入れてもたぶんむなしいだけですから!

 

 

「わ~!やっぱりお姉さんお胸がおっきいね~!触ってもい~い?(ワキワキ)」

 

「ハワッ!!?」

 

「!こ、こらフラン!そんな風にしちゃダメよ!」

 

 

 フランもフランで瑞希さんの豊かな胸に目を輝かせ、手をわきわきしながら瑞希さんに近づきます。い、いったいどこでそんな仕草を覚えたのもうっ!そんなエッチな子にした覚えはお姉ちゃんないわよ!?

 

 

「ご、ごごごめんね!フ、フランちゃん、今はダメだよ~!あ、あとでならいいから、それで許してくれないかな?」

 

「うん、分かった!」

 

 

 そんなセクハラ感丸出しの要望も断ろうとせず、律儀にも触らせてあげようとする瑞希さん。なんと優しい人格でしょう。う、うちの妹がすみませ~ん!

 

 

「み、瑞希!その時にウチも混ぜてもらうわよっ!」

 

「そ、そうだっ!その神秘の塊の秘訣を解明してやるぜ!」

 

「友人として、そのバストの秘訣を教えなさい…!」

 

「ひえっ!?み、皆さん目が怖いですっ!わ、私何かやってしまいましたか!?」

 

「「「その胸の存在が罪っ!」」」

 

「ひいっ!そ、そんな~!?」

 

「どれだけ胸のことを気にしてるんですかっ!!」

 

 

 理不尽な罪状に瑞希さんはおろおろするばかり。お、大きいのは大きいので苦労しますよ!?だからそんなにあこがれる必要なんかないと私は思いますけども・・・

 

(※本人にしか分からない短所、他人にしか分からない長所というものが世にはあるのでございます)

 

 

「え、え~と。とりあえず瑞希さんも来ましたし、あとは秀吉君ですね!」

 

 

 でもそれを言ったら私にも飛び火しそうなので、別の話題を出して話を転換させます。放っておくとどんどん咲夜さん達が暴走しかねませんからね~。火は立たぬうちに消すに限ります!!

 

 

「そうね。あとは秀吉だけだわ」

 

「ひでよし~!早く来ないとアタイが怒るわよー!?」

 

 

 残る1人、秀吉君がやって来るのを私たちは待ちます。う~ん、今のうちに準備運動でもやっておきましょうかねー。そうすればすぐにプールに入れますし、時間の節約です!

 

 私はそう決めて、身体を動かしながらほぐしていきます。よっ、いっちにーさんしー・・・

 

 

 

 

 

「・・・遅いわね。男子は着替えるのが早いと思っていたんだけど・・・・」

 

「あー。そう言われれば確かにそうですね?」

 

「秀吉の奴、いったいどうしたんだぜ?」

 

 

 気付けば準備運動も終わってかれこれ一分。アリスの言う通り、男子は海水パンツ一枚だけなので女子よりも着替えが早いものかと……何かあったのでしょうか?

 

 

「き、きっと水着の準備に時間がかかってるんじゃないかな?とびっきり可愛い水着を着て来るとか・・・!」

 

「待って吉井君。秀吉が中性的なのは事実だけど、さすがに水着くらいは男子用のモノを着るんじゃないかしら」

 

「・・・秀吉はトランクスタイプの水着」

 

「えええ!?そ、そうなのムッツリーニ!?」

 

「そこでどうして悲しそうな顔をするのよ吉井君。ほら、また鼻血が出てきてるわ」

 

 

 まったくです。そんなおバカなことを考える暇があるのなら、鼻血のことを心配するなりティッシュで鼻血をぬぐうお手伝いしてくれているアリスに感謝の気持ちを見せなさい。

 

 

「ん、んじゃ誰か確認しに行ってくれないか?万が一ってこともあるからな」

 

「了解です。じゃあちょっと見てきますね」

 

 

 来るのが遅い秀吉君が心配になったようで、目つぶしをされて目を閉じたままの坂本君が指示を出したので、言われたとおり秀吉君を探しに――

 

 

 

 

「すまぬ。遅くなったのじゃ」

 

 

 

 っと。行く前に、どうやらやってきたみたいです。

 

 

 

 

「あ、待ってましたよ秀吉く、んんっ!?」

 

 

 

 

……が、同時にある種の爆弾も運んできておりまして…

 

 

 

 

「いかんせん校舎からプールが遠くてのう。少し時間がかかった……な、なんじゃ、十六夜、アリス?わしをそんな目で見てどうしたのじゃ?」

 

 

 

「……秀吉君……何かしら?その恰好は?」

 

「秀吉……あのねえ…」

 

 

「あ……に、似合わないかのこの格好は?わ、わし的には自信があったのじゃが……」

 

「「そういう問題じゃないわ」」

 

「??で、では一体なんじゃ?」

 

 

 むしろ似合いすぎるから問題なんですよ秀吉君。

 

 さあ、私たちの反応におろおろする秀吉君に誰か聞いてあげてくださいな!おそらくスケベ二人以外は全員驚いていますからっ!

 

 

 

「ね、ねえ秀吉っ!」

 

 

 

 おお、あなたが聞いてくれるのねレミィ。ささっ、シャイでプリティーなレミィにツッコませるほどの衝撃、びしっと言ってあげてください!

 

 

 

「む?なんじゃレミリア?」

 

 

 

「……ひ、秀吉って、やっぱり女の子なの?」

 

 

「わ、わしはれっきとした男じゃぞい!?以前も言ったじゃろ!?」

 

「ひいっ!じゃ、じゃあなんでそんな恰好をしてるのよっ!?」

 

 

「え、か、恰好?」

 

 

「だ、だって………

 

 

   

   ど、どう見ても女の子の水着じゃないっ!」

 

 

「な、なんじゃとっ!?」

 

「いや、気づいてなかったのかよ」

 

 

 ビシッと指をさすレミィの言う通り、なんと秀吉君は女物のトランクスタイプの水着を着用しているのでございました。いや、本当に気づいてなかったのですか君は!魔理沙が思わず真剣な顔でつっこんだのも仕方ないことです!

 

 

 上はぴっちり張り付いたタンクトップ、下は普通のパンツにショートパンツをかぶせるタイプで、なかなか似合っているのも確かです。

 

 が、男子が女子の水着を着るというのはいかがなものかと思いますよ!?普段から男男と主張する秀吉君ならなおさらです!

 

 

「本当に気付いてなかったの…でも、なかなか似合ってるわよ秀吉?女の子として少しうらやましいわ」

 

「そっ、そうよ木下っ!あんたのその可愛らしさをちょっとはウチにもよこしなさい!」

 

「きっ、木下君はずるいです!私なんて、お、お、お腹がぽてってしてるのにぃ~!」

 

「しっ、知らんぞい!?男のわしにそんなことを言われても困るのじゃが!?」

 

「待って皆。どう見ても違和感がありすぎるでしょう。男子が女子の水着を着るのは、やっぱり似合わないわ」

 

「お主だけは本当に良い奴じゃ十六夜ーっ!」

 

「咲夜さん、その評価も評価でどうかと私は思うんですが…」

 

 

 似合うはすごく似合ってませんかね?一度咲夜さんの目からはどう見えるのか見てみたいものです。

 

 

「秀吉!やっぱり僕たちの気持ちを察してくれてたんだね~!」

 

「……永遠の友情と劣情をその水着に誓う」

 

「ちっ、違うのじゃ!わしは本当に男物の水着をもらったはずなんじゃ!」

 

 

 ところがどっこい完全に女物の水着だったというわけですか。いったいどういう経緯で水着を入手したのでしょう?

 

 

「どうやってその水着を選ぶことになったんです?」 

 

「て、店員に『普通のトランクスタイプが欲しい』と言ったのじゃ!そうしたらこの水着を…」

 

「あ~……なるほど。店員さんは秀吉君を女の子って勘違いしたのでしょうね」

 

「なっ、なに!?」

 

「そうだな~。私がもし店員で知らない秀吉に『トランクスタイプの水着が欲しい』って言われたら、間違いなく秀吉に女物の案内をしてるぜ」

 

「ウ、ウチもそうかも…」

 

「わ、私もです…」

 

「な、なんと…!てっきり、新しい男の水着の種類かと…」

 

 

 ちなみに私もです。もしかすればも~っと可愛らしい水着を薦めてたかもしれませんね~。

 

 

「なら秀吉君、その上を脱げばちゃんとした男子の格好よ?更衣室に置いて来たらどう?」

 

「そ、そうじゃな。十六夜の言う通りじゃ、では少し上を脱いできて」

 

 

『それはアウトーっ!』

 

『それはダメー!』

 

「ぬわっ!?な、なんじゃ揃って!?」

 

 

 私たち多数の必死の説得で、なんとか秀吉君が上を脱ぐことは防げました。だ、だって仕方ないじゃないですか!いくら男の子だってそれはダメな気がしたんですよーっ!

 

 

 

 

「と、とにかく皆揃ったみたいだな」

 

「あ、雄二。目はもう大丈夫なの?」

 

 

 霧島さんに目つぶし攻撃を受けた坂本君が、周りを見渡しながら確認をしました。ちょ、眼がだいぶ赤いですけど大丈夫なんですか?血の涙とか流さないでくださいよ?

 

 

「ああ、なんとかな…。翔子、もう目つぶしはするんじゃないぞ?これ以上されたら泳ぎに行く前に、病院に行くことになりそうだ」

 

「……雄二がいやらしい目を人に向けないなら、何もしない」

 

「いや、今に限っては一度だって向けてないぞ(ブスッ)ってぎゃああああーっ!」

 

「……いつ、どこで向けたことがあるの…っ!」

 

「お、お待ちを霧島さん!?これ以上は坂本君の目が危ないですっ!ここは男子ということでどうか許してあげてください!」

 

「…!……離して紅…!」

 

 

『恋は盲目』と言いますけどこれだと『恋人は盲目』ってなりますから~!追撃を加えようとする霧島さんを必死に抑えます!よ、よもや学年主席の方を羽交い絞めする日が来るとは思いませんでしたよまったく!

 

 

「や~、霧島は一途だなー。見ていて全く損しないぜ!」

 

「そうねー。ちょっと過激だけど、ウチも見習った方が良いのかしら?」

 

「そっ、そうですね!私もあれくらい行動的になれたらなあ…」

 

「はっはっは!瑞希は少し奥手だからなあ。もっと大胆に行くべしだぜ!」

 

「でで、でもでも!これでも頑張ったつもりなんです~!」

 

「うん。ウチも今日の瑞希は大胆だと思うわよ魔理沙?」

 

「いや、まだまだ甘いな。ここはひとつお約束のポロリでもしてみたらどうだ?」

 

「ひゃああっ!?ッむむむ無理ですっ!そそそ、そんな大胆なこと絶対出来ませんっ!」

 

「あんたねえ。瑞希にそんなエッチなことをさせんじゃないわよ。魔理沙だって口だけで、そんなことする勇気無いでしょ?」

 

「な!バ、バカ野郎美波私をナメるなっ!こ、この恋に生きる少女、魔理沙ちゃんなら好きな人にう、上のはははっ、裸ぐらいならいくらでもっ!」

 

「……好きな人の裸の背中を見て鼻血を吹き出す子が言うことじゃないわね、それ」

 

「っみみいみ見てにゃいっ!そんなもん見てないし!適当なこと言うなまな板美波~っ!」

 

「まな…っ!?あ、あああああんたもまな板でしょうがこのチキン魔理沙あああ!!」

 

「チ、ッチチチチチキン言うなあああああっ!!」

 

「わわ!?ふ、2人ともケンカはダメですっ!も、もっと仲良くしましょう!」

 

「ひ、姫路さんの言う通りだよ2人ともっ!!魔理沙が意外とチキンなのも美波の胸が小さいのも今更なことなんだからケンカすることなんかないじゃないか!」

 

 

「ケンカ売ってるのか吉井ぃ!(パアン!)」

「ケンカ売ってるのアキィ!(バチイン!)」

 

「ダブルビンタァッ!?」

 

「よ、吉井くんん!?」

 

 

 向こうは向こうで魔理沙と美波がキャッツファイトを繰り広げ、瑞希さんと一緒に割って入った吉井君が第一犠牲者に。ケンカを止めたかったのか加熱させたかったのか?私には彼を測れません。

 

 

「ふん。吉井、いい気味ね。あの2人は良くやってくれたわ」

 

「咲夜。あなた、そんな性格だったかしら・・・・・・」

 

「アリス。私・・・あの変態だけには優しく接することが出来ないの」

 

「そんな病気みたいな言い方されても理由にはならないと思うんだけど…」

 

「よーし、これで全員そろったわね!もうアタイは我慢しないのよさっ!(ダダッ!)」

 

「ま、待つのじゃチルノ!(ガシッ!)わしが言うのもなんじゃがまだ皆も色々と準備が出来ておらぬから、もう少し我慢なのじゃ!」

 

「な、なに!?ひでよし、あんたはアタイの長年の望みを邪魔しようっていうの!?最強のアタイを相手に良い度胸なのよさ!」

 

「そ、そんなつもりはないぞい!?っていうか長年も何も待った時間は数分じゃろうがっ!」

 

「まさかあんたとやり合う日が来るとはね!かくごするのよさひでよし!」

 

「い、いたたっ!は、腹を突っつくのはやめぬかチルノッ!」

 

 

 

「お姉さま・・・私達、いつプールに入れるのかな?」

 

「き、きっともう少しよフランッ!だから葉月も、も、もう少し待つのよ!」

 

「はいです!皆とってもにぎやかで楽しそうですね~!」

 

 

 

 

 

 

・・・・このメンバーで一番常識を持っているのは、もしかしたらあちらの小学生トリオかもしれませんねー。

 

 

 そんなこんなで、私たちがプールの水に触れるまでにそこから数分かかることになりました。始まる前からバタバタと・・・なぜこうもひと騒ぎ起こらないと物事が進まないのですかっ!前に幽香先輩に言われたことなんか信じませんよ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 今回は前回に出てもらえなかった姫路さんと秀吉を中心にして、プール突入前の最後の回として投稿させてもらいました!

 やはりどうしても東方キャラクターにばかり目が行ってしまいがちですが、原作に登場している女子陣の方々も負けず劣らずの魅力があると思うので、彼女たちにも少しでも目を向けてもらえれば喜ばしいですね!


 さて、プールに入るまでが少々長くなってうんざりされる方もいたかもしれませんが、次回はきちんとプールに入っていただきます!お待たせしました!

 それで、少し今回は短めになったということもありますので、次回は来週の投稿とさせていただきますね!


 少しでも楽しみにしてまってもらえたら作者として感謝感激でございます!

 それではまた次回っ!質問や感想がもしもあれば遠慮なく送ってくださいね~!


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泳力―カナヅチ、なのには理由があるのよ!理由がっ!

 どうも、村雪です!前回言っておりましたように、今回は先週に続けて連続で投稿をさせていただきますね~!


 さて、今回でようやく本当のプール回と突入することになりました!おバカで愉快なキャラクター達が水と戯れる姿に、少しでも心が和んでもらえればいいのですが…!


――ごゆっくりお読みください。

 




 

 

 

「うおおおおおっ!プールがアタイを呼んでるのよさーっ!」

 

「あははは!プールだプールだ~!!」

 

「こ、こらフラン!チルノのマネしてプールにと飛び込んだりしたらダメよ!」

 

「行くぞ明久!あの2人に遅れるな!とうっ!」

 

「もちろん!バカチルノに負けてたまるかあ!そりゃあっ!」

 

「ちょ!年上が教育に良くないことをしないでくださいー!?」

 

「あはは。明久君達、とても楽しそうですね~!」

 

「……雄二も、まだまだ子供」

 

「もう、アキったら子供みたいにはしゃいじゃって。アキらしいわ~」

 

「葉月もフランちゃんみたいに飛び込みたいです~!」

 

「お、おし!じゃあ私たちも飛び込むかアリス!?」

 

「いいえ、悪いけれど私は普通に入らせてもらうわ。ええと、パレオはあっちにかけさせてもらおうかしら…」

 

「さっ、咲夜!私はフランみたいに飛び込まないわ!お姉ちゃんだから、き、きちんとしたところを見せるわよ!」

 

「さすがよレミィ。ご褒美に私がハグしてあげるわ。というよりさせてちょうだい?」

 

「ひっ!?い、今の咲夜は怖いからいや~~っ!ひ、秀吉ぃぃ~!」

 

「おおっ?ま、待つのじゃ十六夜。レミリアは自分からわしの後ろに隠れたのじゃ。じゃからその恨めしい顔はやめてほしいぞい!?」

 

「……あまりないツーショット……当たる…!(ダクダクダク)」

 

 

 

 まったく、飛び込みなんてしたら危ないでしょうに!・・・まあ、私もレミィ達小学生組がいなければジャンプしていたかもしれませんけども!

 

 ともかく、準備運動を各自終えた私たちはそれぞれのタイミングでプールへと入ります。う~ん!少し冷たいですがこの感覚がちょうどいいですね~!やっぱりプールは素晴らしい!

 

 

「あら、ちょうどいい水温ね」

 

「そっ、そうね!ちょうどいい温度だわくちゅんっ!」

 

「あらら、レミィにはちょっと寒かったみたいね」

 

「(カシャッ)おかげで可愛らしい写真が撮れたわ。ふふ♪」

 

「咲夜さん、防水性のカメラなんか持ってたんですね~」

 

 

 咲夜さんの手には皆の写真を撮るためか、土屋君のに似たようなカメラが。しかもあれ、相当良さそうな機種じゃありませんか?思いっきり水にぬれてるのに大丈夫だなんて、すっごいタフですよね?

 

 

「ええ、今日はこれで皆の可愛い写真を撮っていくつもりよ」

 

「土屋君とやってることは同じなのに、人が違うだけでこうも安心出来るものなんですね」

 

「……失礼極まりない」

 

「いや、事実でしょうが土屋君。じゃあその撮った写真を見せてくださいよ」

 

 

 プールサイドから写真を撮っていた土屋君にも聞こえた様で、おなじみのカメラを構えながら私たちの近くにやってきました。プールに入らず撮ってるってことは、彼のカメラは耐水性はないのでしょうか?

 

 

「……企業秘密(ポタポタ)」

 

「あなたのお鼻は本当に正直ですね~・・・」

 

 

 鼻血ばっかり噴いてる土屋君なのですから、耐水性は必須だと思うんです。自分の鼻血でカメラが壊れるなんて、ちょっとした笑い話が出来ます。

 

 

「まあ、私とか普段撮っている方の写真は全然良いんですけど、過激なのとか咲夜さんやレミィ達の写真を撮るのは遠慮してくださいよ?そのカメラが水に沈むことになると思いますから」

 

「……十六夜も撮っている。差別は良くない」

 

「咲夜さんは家族だから良いんです!」

 

「それに私はそんなやましい写真は撮っていないわ」

 

 

 ですよね咲夜さん!困るのはあられもない写真が第三者の手、しかもたくさんの人の手に渡ることなんですよ!間違いなく土屋君はその写真を売るでしょ!私に売るだけならともかゲフン!か、家族のそんな写真を売るなんて絶対許せません!

 

 

「……分かった」

 

「お、分かってくれましたか?」

 

 

 少し肩を落とす土屋君。うんうん、スケベな土屋君もクギをさされたら言うことを聞きますよね!

 

 

「……ならば、バレないように写真を撮れば」

 

「全然聞き入れてねえっ!!」

 

 

 というかそれって悪化してるし!ホントにカメラを水に投げ捨ててやりますよごらああ!!

 

 

「……ならば、どうしろと…!?」

 

「私の方がキレたいところですよ!?写真を撮らなきゃ万事解決じゃないですかっ!」

 

「……おれの存在意義を消す気か…っ!」

 

「女の子のえっちな写真を勝手に撮るのが存在意義なら、もういっそのこと消えてしまいなさい!」

 

「……まあ、可愛い写真を撮りたいというのは分からないでもないけれども…」

 

「ちょ、そこで微妙に同意されたら困りますよ咲夜さん!?」

 

 

 まさかの咲夜さんの裏切り!?まあ…まあ!普通に可愛らしい写真でしたら私もほしいですけれど!悪魔に魂は売りません!

 

 

 

『ぶわっ!や、やったわねはづきぃ!』

 

『あははは~!最強のお姉ちゃんこっちです~!!』

 

『このお!最強のアタイに水をかけたことを後悔させてやるのよさ~!』

 

「…っ!シャッターチャンスの予感…!(シュパッ)」

 

「あ、こ、こらっ!」

 

 

 葉月ちゃんとチルノちゃんの楽しげな声を耳ざとく拾った土屋君は、すぐさまそちらへと駈け出しました。ほ、本当に行動力が凄いですね~。その原動力がエロでなければ私も何も言うことが無かったのに…。

 

 

「メ、美鈴、咲夜、あの人怖いわ!鼻血流してカメラを構えてたもの!」

 

「だっ、大丈夫よレミィ!撮らせないよう私達がきっちりガードして見せるわ!」

 

「その通りよレミィ。あ、ちょっと写真を撮らせてね(パシャ)」

 

「ぴいっ!?」

 

「そう言いながら撮ったら説得力が減りますよ咲夜さん!?」

 

 

 咲夜さん、大丈夫なんですよね!?その中身はレミィにとっていや~な写真とかになってませんよね!?ここは咲夜さんを信じますよ!?

 

 

 

「あ、あの、美鈴さん」

 

「あ、は、はい!なんでしょう瑞希さん?」

 

 

 妹の趣味が少し不安に感じていると、そろそろとゆっくりプールに入った瑞希さんが声をかけてきました。水に浸かったときの反応から見て、水温はちょうど良かった感じです。

 

「美鈴さんは、その、泳ぐのは得意ですか?」

 

「おお、良くぞ聞いてくれました瑞希さん。実はこの紅美鈴、『赤いトビウオ』と呼ばれたことがあるぐらい泳ぐのは得意なのですよっ!」

 

「それって、血まみれのトビウオのことかしら?」

 

「血液の赤じゃなくて私の髪の赤です咲夜さんっ!!」

 

「ぷっ…!そっ、それだと、全く泳げないみたいに聞こえちゃいますね!」

 

「おお泳げますよっ!私は厳しい自然環境の中で負けたトビウオじゃありません!」

 

 

 というか発想が怖すぎです咲夜さん!そしてそれがツボにはまったように笑う瑞希さんも結構怖いっ!?

 

 

「そっ、それでですけれど、実は私、その満身創痍のトビウオなんです」

 

「あら、そうなんですか?」

 

「そういえば前に、あまり泳げないって言ってたかしら?」

 

 

 恥ずかしそうに告げる瑞希さん。ふ~む、瑞希さんには非常に悪いのですが、確かに瑞希さんは泳げる泳げないの二択だと、泳げないのイメージがありますねぇ。

 

 

「へ~、瑞希って泳ぐのが苦手なの?」

 

「ほほう、私としちゃあそっちの方が面白みがあるな~!」

 

「こら魔理沙、人の苦手なことを笑ってはダメよ」

 

 

 そんな瑞希さんの苦手を聞きつけ、美波さん、魔理沙、アリスがちゃぷちゃぷと水をかき分けて寄ってきました。ちなみに魔理沙は結構泳ぐのが得意で、アリスは得意でもなく不得意でもなく、まさに普通といった感じです。美波さんは見ての予想だと得意そうですが、どうでしょう?

 

 

「は、はい。恥ずかしいんですけど、浮くぐらいしかできなくて……」

 

「ぷかぷか浮かぶ瑞希か~。すごい可愛らしいビジョンが浮かんだぜ」

 

「それ、ウチも分かるわ魔理沙」

 

「私もです」

 

「そうね。確かにそう思えるわ」

 

「美鈴が血まみれのトビウオなら、瑞希は一人ラッコってとこかしら」

 

「そ、そんな!か、可愛いラッコだなんて…!」

 

「というか咲夜さん、その言い方は本当に勘弁してください!地味に傷つくきますからっ!」

 

 

 それだと私がもう瀕死状態にしか聞こえないじゃないですか!?ぜんっぜん瑞希さんみたいな可愛らしいイメージがないからそれ!最初に言い出した私が悪いんですけど、それでも私だって可愛らしい方が良いんですよぉ!

 

 

「おし!要は瑞希は泳げるようになりたいってことだな!」

 

「は、はいそうです!」

 

「じゃあ、瑞希が良ければ私が教えてやっても良いぜ!」

 

「え、ほ、本当ですか!?」

 

「だったらウチも手伝うわよ。普段瑞希には勉強でお世話になってるから、そのお礼をしなくちゃね」

 

「あ、ありがとうございます魔理沙ちゃん!美波ちゃん!」

 

 

 笑顔で瑞希さんの水泳の特訓を名乗り出る魔理沙と美波さん。勉強面では瑞希さんに及びませんが(かく言う私もですけれども)、こういう時には立場逆転ですね~!むろん私も参加させていただきますよ!

 

 

「私もよければお手伝いさせていただきますよ瑞希さん!瑞希さんにはいつもお世話になっていますからね!」

 

「メ、美鈴さんもありがとうございます!さ、3人にも教えてもらって、絶対に成果を出さないといけませんっ!」

 

「あはは!まあまあそんな気負わなくても大丈夫ですよ~!」

 

 

 人に教わってもすぐに上達しないことがあっても当然!自分のペースで練習すればいいと私は思いますがね!

 そんな私たちに対して、咲夜さん、アリスは水泳があまり得意ではないので、応援でとどまるみたいです。

 

 

「私たちはあまり得意じゃないから、今回は見学させてもらうわね」

 

「私もだわ。魔理沙、瑞希にちゃんと教えてあげてね」

 

「お、おう!任せとけっ!で、瑞希。浮くぐらいしか出来ないって言ってたけど、本当に泳げないのか?」

 

「は、はい・・・・こういう風に浮くくらいしか…(プカ)」

 

 

 魔理沙の確認に、瑞希さんは水面に浮かんで応えました。ふむふむ、確かに浮くことはきちんと出来ていますね~。

 

 

 瑞希さんの丸くて大きな胸もふよふよと水面に浮かんで

 

 

 

「こはっ…!?」

 

「ひょ、ひょうたん島だと…っ!」

 

「双子島…っ!?」

 

「?どうしたの皆?」

 

 

……いたのが悪かったのか、美波さん、魔理沙、咲夜さんの目つきが一気に変わりました。アリスの言葉にも反応せず、静かに瑞希さんの見事に浮かんだ胸を凝視するのみです。

 

 

「ぷはっ!こ、こういう風に浮くだけならできるんですけど……え、ええと……ど、どうでしたか?」

 

 浮くのをやめた瑞希さんは、3人から思い切り集まる視線を感じながらおそるおそる尋ねました。最初に口を開いたのは魔理沙です。

 

 

「…瑞希、お前が泳げない理由が分かったぜ」

 

「え、本当ですか!?」

 

 

 その言葉にぱっと笑顔を浮かべる瑞希さん。ですが魔理沙の顔は暗いもの。あ、これは絶対ろくな答えじゃないですね。

 

 

 

 

「瑞希が泳げない理由は、そのゴリッパな胸にあるぜ」

 

「……へぇっ!?むむ、胸ですかっ!?」

 

「そうだっ!前にそんなおっきい浮袋を付けてるからいつまでたっても泳げないんだっ!間違いないぜ!」

 

「いや、間違いしかないですよ魔理沙!?」

 

 

 それって完全にひがみじゃありませんか!自分から手伝うと言ったんですからもう少しまともな答えを――!

 

 

「魔理沙の言う通りよ瑞希!ってわけだからはやくその胸を外しなさい!そうすれば早く泳げるわ!」

 

「美波さん、あなたもですかっ!」

 

「わ、私の胸は着脱式じゃありませんよ!?」

 

「だったら移植手術をしましょう瑞希。手術費用は私が出すから、その見事なバストを私に寄越しなさい…!」

 

「ひいっ!?さ、咲夜さん冗談ですよね!?目がすごく怖いですよ!?」

 

「さ、咲夜さん落ち着いてください!そんな胸のことぐらいで必死にならなくても――」

 

 

 

「なにが胸の事ぐらいだっ!?」」

「「何が胸のことぐらいですって!?」」

 

 

「ひい!?わ、私に矛先が変更!?」

 

 

 咲夜さん、魔理沙、美波さんの、胸にコンプレックスを抱く3人は叫んだあと、血の涙が流れても違和感のない形相で自らの胸に手を添えました。

 

 

「くっ……!私が前世に何をしたっていうの・・・!殺傷!?クーデター!?それぐらいひどいことをしたとっ!?」

 

「どんだけ悲観してるんですか咲夜さん!というか仮に前世にそれをして罪が貧乳って!罰が軽すぎじゃありません!?」

 

 

 もはや閻魔様がご乱心を起こして下した判決ですよそれは!まあ咲夜さんがそんな悪いことをするはずないんですけども!

 

 

「ちくしょう!この元気で真面目な私にこんな罰を下すなんて、神様ってやつがいるんならそいつは神の面を被ったアクマだぜ!!」

 

「人のマンガを借りたまま返さなかったり勝手につまみ食いするあなたが言えたことですか魔理沙ぁ!今すぐ神様に謝りなさい!」

 

「憎い!おっきい胸に何の恩を感じないまま生活しているあの子もこの子もウチは憎いわ!」

 

「美波さんは美波さんで友達関係が一気に崩壊しそうなことを言わないでっ!?」

 

 

 こっ、この3人はああ~…!いくらなんでも胸が小さいことを気にしすぎです!胸があっても困ることはあるんですよっ!?

 

 

 

 

「あのですねぇ3人共!胸があるってのも困りものなんですよ!?選べる下着も少ないですし、動き回ると痛いし肩もすっごい凝ったりするんですよ!?」

 

「そっ、そうですよ!だから咲夜さん達も、そ、そんなに胸を欲しがらなくてもいいかと・・・」

 

 

『そういうのを贅沢な悩みって言うんじゃぁああああああっ!!』

 

「あぶっ!あばばばばばばばぁっ!?」

 

「わわぷっ!?み、みじゅをかけないでくだしゃ皆しゃ、ぱわ~っ!?」

 

 

 

 この3人の前ではいかなる反論も油になるみたいです。

 

 いわれのない罪をかぶせられた私と瑞希さんは、しばしの間激しい水しぶきをあびることとなりました。ちょ、息!息が出来がばぼぼ!?

 

 

「あぶぶ、ぶばっ!お、おぼれ~~・・・!!」

 

 

 私は正しいことを言ったというのに、この仕打ちはあんまりすぎますよね!?このままアバブッ!・・・こ、このままやられたままではいませんよおお!!

 

 

 ドプンと、荒ぶる水上とは反対に静かな水面に潜って攻撃をしてくる少女の足元へと接近します!

 

 

 ガシイッ!!

 

 

『ってウオッ!?メ、美鈴か!?』

 

 

 む、この黄色の水着は魔理沙ですね!ならば、最初の餌食はあなたですよおおっ!!

 

 

『う、うわわ!?この!離しやがれだぜメイリ――!』

 

『―――おおりゃあああああっ!!』

 

 

 私は魔理沙を下から思い切りすくい上げ、そのままプールへと頭からダイブさせます!一度頭を冷やしなさ~いっ!!

 

 

バッシャアアアンッ!!

 

 

『あぶぁごぼばあぁっ!?』

 

『!ま魔理沙ぁっ!?』

 

 

 はっはっは~!ざまーみろです!さあ次はあなた達の番ですよ、咲夜さん、美波さんんんん!

 

「お2人も覚悟ですよおおおお!!」

 

「!島田さん撤退よっ!」

 

「了解、十六夜!」

 

 

 む!この25メートルプールから逃げ切れると思わないことです!一種の戯れという事で、今は咲夜さんでも差別しませんよ~!

 

 そういうわけで、私は赤いトビウオとなって残る二人のターゲットを追いました。

 

 

 

 

 

『…ええ、と…私はどちらの味方になればいいのかしら…?』

 

『優しいお姉さん、どうかしましたかですか?』

 

『あ、ううん葉月ちゃん。女子には色々あるんだなと思っただけよ。まあ、かく言う私も女だけれどね』

 

『メイリン達お胸の話をしてたね~。私もおっきくなるかなあ?』

 

『大丈夫よフラン。あなた達はこれからが成長期だもの』

 

『そ、そうよねっ!私はもっともっと成長して、立派なレディーになるわよ!』

 

『ええ。レミリアは可愛いから、きっと綺麗な女性になるわ。将来が楽しみね』

 

『あ、あう…ありがとうアリスっ!』

 

『ん、っと。思ったより力強い抱き着きね、レミリア』

 

『ア、アリスもきっと、もっと胸が大きくなるわ!』

 

『あら、ありがとうレミリア。やっぱり私も小さい方なのかしら?』

 

『う~ん?でも、アリスって結構お胸があると思うんだけどなー。ねえ葉月?』

 

『え?う~ん、確かにお姉ちゃんよりずっと大きいと思うのです!』

 

『だよね!えいっ!』

 

『あっ。こらフラン、あんまり勝手に人の胸を掴んだりしたらダメよ?』

 

『えへへ、ごめんなさい!』

 

『うん。分かってくれたらいいわ、いいこねフラン』

 

『♪じゃあじゃあ!アリスのお胸触らせてね!ていっ!』

 

『ひゃん。もう、言ってからなら触ってもいいってわけではないのに・・・』

 

『こ、こらフラン!アリスが困ってるからやめなさい!』

 

『あの、レミリア?そう言ってくれるのは良いけど、あなたの手もしっかり反対の胸にある気がするのは私だけかしら・・・?あと、あんまり体重をかけられたらちょっと苦しい――』

 

『む~!フランちゃんとレミリアちゃんだけずるいです!私も混ぜてくださいです~!』

 

『ちょ、は、葉月ちゃん待って!?今突進されたらはぶっごぼぼぼぼば――っ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――そういうわけで、アンタも来なさいよ木下』

 

『だ・か・ら!イヤって言ってるでしょ!いきなり来て何がプールに一緒に来いよ!愛子はともかく、何が悲しくてあんたと突然にプールに行かなきゃなんないのよ!?』

 

『相変わらずごちゃごちゃうっさいわねー。叫ぶのは勝手だけどご近所さんのことも考えなさいよ』

 

『うぐ!!あ、ああんたこそアタシのことを考えて行動しなさいよ!いっつもいっつも迷惑かけてるくせに、こういうときだけ常識人ぶるなっ!』

 

『はいはい、分かったからさっさと準備してきなさい。それまでここで待たせてもらうわね』

 

『な、なに勝手に行くことにしてんの、ってこら!人の家に勝手に入って断りなく腰を下ろすな!そもそもなんであんたがアタシの家を知ってるのよ!?』

 

『愛子に聞いたわ』

 

『愛子ぉ!!』

 

『あ、あ、あははは。ごめんね優子?ボクはやめといた方が良いって言ったんだけど、そこは霊夢で止め切れなくって~・・・』

 

『とにかく、わざわざ来てやったんだから一緒に来てやるのが礼儀ってもの。断るんならちゃんと理由を言いなさいよ』

 

『まずは約束をするのが礼儀よ大バカッ!!理由なんていらないわ!あんたと一緒に泳ぎに行くってことだけで十分よ!』

 

『ゆ、優子!それは言い過ぎだよっ!?霊夢だって傷ついちゃ―』

 

『ふ~ん。じゃあ仕方ないわね』

 

『ってない!?むしろ納得しちゃったよ!?』

 

『ちょ、ちょっと!?そ、そこは否定しなさいよ!アタシがすっごい最悪なことを言うきつい女みたいになっちゃうじゃない!?』

 

『優子。それはそれで今更な気がするとボクは思うけど…』

 

 

『泳げない奴を無理やり誘うのは良くないわ。つっても、現地に行かなきゃいつまでたっても克服は出来ないと思うけど――』

 

『って待ちなさい!なんで私がカナヅチ扱いされてるのよっ!?』

 

『あ?だってアンタ、泳げなくて溺れそうになってる恥ずかしい姿を私に見られたくないから来ないんでしょ?』

 

『ものすごい受け取り方をしたね霊夢っ!?』

 

『い、いちいちむかつく言い方を!!なにが恥ずかしい姿よ!?アタシはちゃんと泳げるわバカリボンッ!』

 

『バカリボンって何よ。でもま、その意気込みが大事よ木下。いつかその言葉が現実になる日がきっと来るわ』

 

『勝手に願望の言葉と取んなっ!あのねえ!アタシは水泳がむしろ得意な方よ!?あんたなんかよりもずっと泳げるわよ!』

 

『ふ~ん。あそう・・・』

 

『絶対信じてないでしょアンタ!?ぐうう・・・あああああむかついたっ!!だったら私が泳いで目に物見せてあげるわよっ!それだったらバカなアンタでも理解できるわよね!?』

 

『ん?来んの?』

 

『行くわよ!!なに!?文句あんの!?』

 

『ないわよ。ならさっさと準備しなさい。待つのは嫌いなんだから』

 

『ふん!そこでちょっと待ってなさい!(ドスドス!)』

 

 

『・・・す、凄いね霊夢。あんなに嫌がってた優子を自発的に来るようにするなんて・・・』

 

『まったく、相変わらず短気なやつよねー。私は普通に誘っただけだっていうのに』

 

『あ、あはは・・・普通とは言い難いんじゃないかなあ~?でも霊夢、どうしてそんなに優子を誘おうとしたの?それも代表とかじゃなくて、真っ先に優子を。最初に優子を誘うとき聞いた時からすごく気になってたんだけど・・・』

 

 

 

 

『ん?だって――――

 

  

 ――人数が多い方が、勝手にプールに入ったことがバレた時のリスクが分担できるじゃない。木下だったら別に怒られようが私の良心は痛まないしね』

 

 

『まさかのリスクマネージメントなの!?霊夢って実はすっごく優しいな~って思ったボクの気持ちを返せぇっ!!』

 

『ちょっと愛子!人の家の前で大声出さないでっ!!』

 

『・・・・・・』

 

『だってさ愛子。ちゃんとマナーってやつはわきまえないとダメよ』

 

 

 

『・・・・・・・もおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおお~~~~っ!!2人にだけにはっ!!ゼッタイに文句を言われたくなぁああああああいいいいいいいいいいいいいっっ!!!』

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!ようやく本当にプール回に入ることが出来て、村雪も一安心であります!

 が、プール回にようやく入って最初に入れたのが胸ネタという、村雪の人間性が変な形で定着しそうですね~。・・・いや、もはや今更の話でしょうか?

 まあともかく!ようやく本格的にプール回に入れましたので、これからにぎやかで楽しめる内容を書いていきたいところでございます!

 そして霊夢、愛子に続いて優子も加わる流れにさせていただきましたが、少しでも次回を楽しみにしていただければ幸いです!

 それではまた次回っ! 



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水遊び-危険、な遊びはダメだとちゃんとわかってもらわないとね!

どうも、村雪です!なんだかんだで三週連続で投稿させていただきますね!

 前回は美鈴さん達が中心となった回でしたが、今回は明久たちメインの話でいかせてもらいますね!少し短めで物足りないかもしれませんが、そこは『次回を待っとこう』的な感じで割り切っていただければっ!


――ごゆっくりお読みください。


 

 

「あれ、今、アリスさんが葉月ちゃん達に抱き着かれてプールに沈み込んだよね?」

 

「ああ、結構勢いよく沈んでいったな」

 

 

 なるほど。そりゃあ優雅なアリスさんも必死に水面で足をばたつかせて仕方ない。いったい誰が責められようか?

 

 

「向こうでは美鈴たちが十六夜達を追って泳いでおるし、皆にぎやかじゃのう」

 

「ふふん、あんなにはしゃいじゃって、あいつらもまだまだお子様なのよさ」

 

「そう言うチルノもかなりはしゃいでおるようにわしには見えるぞい?」

 

「ふっ、当然よ!せっかくのプールを楽しまないバカがどこにいるのよさ!」

 

「チルノ。なんか言ってることがムチャクチャだよ?」

 

「まあ気持ちは分かるのじゃ。わしも少しそうじゃしのう」

 

「……もらった……っ!(パシャパシャ)」

 

 

 チルノのアホな発言に賛成する秀吉の顔はとっても朗らか。ムッツリーニはそんなビッグチャンスを逃さない。うん、やっぱり撮るならチルノより秀吉だよね!さすがだよムッツリーニ!(※撮るときはチルノも撮っています)

 

 

「あ、ところで秀吉。秀吉はお姉さんの木下さんを誘わなかったの?」

 

「む?うむ、一応誘ってみたのじゃが、ビーエ、ごほん。書物をじっくり読みたいということで断られたのじゃ」

 

「そっか、残念だな~」

 

 

 一緒に遊ぶ人が少なくなったのはやっぱりさみしいね。決して下心があるわけじゃないんだよ?シンシなボクを侮ってもらっちゃあ困るんだからね?

 

 

「明久。あまり姉上をそういう目で見られると、反応に困るのじゃが・・・」

 

「ってちち違うよ秀吉!僕は君のお姉さんの水着姿を見たかったなんて思ってないよ!?」

 

「やれやれ。そんなことばかり考えていて誰かから愛想を尽かされても知らないぞ明久?」

 

「僕の言葉を聞いてたのかな雄二!?だから僕はこれっぽっちもそんなことに興味は「お、あんなところに水着の美少女が」どこどこどこ!?僕もしかとこの目に収めるぞぉっ!」

 

「興味ありありじゃねえか」

 

「それほど目移りが激しいと、あやつらも苦労するのう・・・」

 

「……ぜいたく極まりなし…っ!!」

 

「はっ!?き、汚いぞ雄二っ!」

 

 

 雄二の見た方向にあるのは侵入防止のフェンスだけ。こっ、これは違うんだ!ただ純粋に誰が来たのかな~って思っただけなんだ!僕の心はいつだって綺麗なんだよっ!

 

 

「へ~。秀吉って姉ちゃんがいたのよさ?」

 

「うむ。というかお主もAクラス戦の時に見ていたと思うぞい?」

 

「あれ?そうだっけ??まあ細かいことは良いのよさ!」

 

「姉の存在を消し去られるのは全然細かくないぞいっ!?」

 

 

 きっとチルノの場合は、バカって言われるかどうかがいちばん大事なんだろうなー。そんなシンプルな考え方をしているあたり、やっぱりチルノはチルノだね。

 

 

「じゃあよしーは、秀吉のねえちゃんの水着を見たかったってことね!さすがはアタイ!バカなよしーの考えなんてすぐに分かったのよさ!」

 

「だ、だから違うって言ってるでしょチルノ!あとそれがあってたとしても威張って言うほどじゃないっ!」

 

 

 バカなチルノと違って僕の頭脳は並みの高校生ぐらいあるのに!そんな僕を測ろうだなんて百光年早いよ!(×『光年』は距離の単位であり、時間の単位ではありません。おバカです)

 

 

「まったく、女の水着ぐらいでよしーは騒がしいわねえ。そんなに女の水着が見たいのなら、アタイがバカな子分のよしーに、親分として仕方なく見せてあげたのに!ほらっ、アタイの最強の水着姿はどうよさ?」

 

「はん!君の水着なんか目の保養にもならないよっ!」

 

「な、なにおうっ!?」

 

 

 チルノのスクール水着姿で癒されるバカなんていてたまるか!それだったら断然秀吉の水着姿の方がずっと癒されるわっ!断言できるよっ!

 

 

「バカ子分のぶんざいで生意気なのよさバカよしー!親分のアタイの恐ろしさを分かってないみたいね!?」

 

「いーや分かってるね!君がただのバカだってことをよーく分かってるね!」

 

「だだ誰がバカよバカよしい!?アタイは最強の女だっていうのに、身の程をわきまえなさい!」

 

「そっちがわきまえろよこのちびチルノッ!」

 

「ちいちちちちちぃ!?チチビじゃないもん!アタイ小学生の迷子と間違われてお巡りさんに声をかけられたことなんてなかったもん!」

 

「そんなことがあったんじゃのう、チルノ」

 

「まあ、その警察官の気持ちは分からんでもないな」

 

 

 きっとそのお巡りさんは善意で行動に移ったんだろうね。だって誰が見ても小学生にしか見えないもんなー。加えて性格もアホだし、百人が百人小学生と捉えるに違いない。

 

 

「いけませんですバカなお兄ちゃんっ!」

 

「わわっと!?」

 

 

 せ、背中に誰かがとびかかってきた!?だれだれ!?

 

 

「って、葉月ちゃん?びっくりしたな~」

 

「さいきょーのお姉ちゃんに意地悪したらダメです!バカなお兄ちゃんでもメッですよ!」

 

「はっ、葉月~!あんたいい子分なのよさっ!!」

 

「あわわっ!?お、重たいですさいきょーのお姉ちゃん!?」

 

 

 背中から降りた葉月ちゃんに涙ながらに抱きつくチルノ。これじゃあどっちが親分なのか分からない、というか間違いなく葉月親分にチルノ子分の図だね。うん、まったく違和感がないから今後もこれで行くことを僕は提案したい。

 

 

「よし!葉月が良い子分なごほーびに、アタイが親分として葉月がしたい遊びに付き合ってあげるわ!」

 

「え?本当ですかっ!?」

 

「任せるのよさ!最強のアタイはウソをついたことがないわ!」

 

 

 その言葉がもうウソだよね。言ったらまた暴れそうだし葉月ちゃんにも怒られそうだから言わないけども。

 

 

 

「じゃあじゃあ!葉月はあっちでお姉さんたちがしている風に遊びたいですっ!」

 

「「ん?あっち?」」

 

 

 そうやって口を挟むことなく成り行きを見ていると、葉月ちゃんが笑顔で指をさしながら答えた。あっち・・・って確か、美鈴さん達が―――

 

 

 

 

『せいやぁあああっ!!』

 

『きゃっ――ごぼぼぼぼっ!?』

 

『!し、島田さん大丈夫!?ちょっと美鈴、あまり乱暴はしたらダメよ!』

 

『やかましいですよ咲夜さん!今度は咲夜さんの番です!今は妹とか関係なしで行きますからね!』

 

『ブハッ!ケホッゲホッ!メ、美鈴~!!あんたよくもやってくれたわねえぇ!?』

 

『む!これは仕返しです!ちゃんと理由があってやっているのでセーフですよ美波さん!』

 

『うっさい!だったらウチだってやられっぱなしじゃないわよっ!』

 

『ふふん!やれるものならやってびびゃふっ!?ゲホ、ゴフッ!まりざー!い今かっこいいこと言おうとしてたのに水ぶっかけないでくだじゃい!』

 

『ふん!知ったことかそんなもん!今だぜ美波っ!』

 

『ナイス魔理沙っ!くらいなさい美鈴んんんっ!』

 

『ゲブウッ!?まさかの物理的ラリア、ごぼばばばばぁっ!?』

 

『しゃあ!よくやった美波!これで借りは返したんだぜっ!』

 

『メ、美鈴!?ちょ、島田さん!ラリアットでのけぞった美鈴のお腹に流れるようなエルボーはやりすぎじゃない!?ああ、美鈴がプールの底にっ!』

 

『やられたら倍返し!ウチは日本に来てそう教わったわ!』

 

『倍返しどころじゃないしそれはそもそもダメな方の理論よっ!?し、しっかりして美鈴~!』

 

 

 

 

 

「ほら!みんなとっても騒いでますから、楽しいこと間違いナシです!」

 

「葉月ちゃん。あれは騒がしいの種類が楽しさとは正反対だね」

 

 

 あれを遊びと考えるとは、葉月ちゃんは肝が据わってるなあ。さすがは美波の妹、将来はおっきくなるぜ!

 

 

「よし分かったわ!じゃあ今から早速始めるわよ!」

 

「って待った待ったチルノ!小学生の葉月ちゃんがしたら危ないんじゃないかな?」

 

 

 全くストップをかけないチルノの代わりに常識溢れる僕が待ったをかける。だってせっかくプールに来たんだから、もっとそれらしい遊びをしてほしいじゃない!?僕はそんな世紀末のように熱いバトルを望んでなんかいないんだっ!

 

 

「あん?なによよしー偉そうに。あんたは葉月が遊びたがってるのを邪魔しようっての?」

 

「あう・・・そ、そうなんですかお兄ちゃん?」

 

「い、いやいやそんなわけじゃないよ葉月ちゃん!?勝手な決めつけをするんじゃないよチルノッ!」

 

 

 葉月ちゃんからの悲しそうな目がすっごいつらいから!そりゃ僕だって葉月ちゃんのしたいことをしてほしいよ!でもそこは殺伐としないキャッキャウフフなものをしてほしい!

 

 

「ほっ、ほら葉月ちゃん!向こうのアリスさん達がやってるようなことはどうかな!?」

 

 

『あははは!くらえアリス~~ッ!!』

 

『キャッ!ふふ!もうフランったら!年下だからって手加減はしないわ!ほら!』

 

『わばっ!やったなアリスー!』

 

『ア、アリス!フラン!私の姿は見えてるわよね!?さっきから2人だけで盛り上がってずるいっ!』

 

『あら、それはごめんなさいレミリア!』

 

『ごめんごめん!お姉さまも仲間外れになんかしないよ~!』

 

『その通りよ!!というわけで、はいっ!』

 

『覚悟だよお姉さまー!』

 

『はぱぷぱっ!?みみっ、水をかけてとは言ってないわよ~!』

 

 

 

 なんて目に嬉しい光景なんだろう。水底から復活して楽しそうにパシャパシャと水をかけあうアリスさんにフランドールちゃんにレミリアちゃん。

 

 そう!僕が見たいのはあのキャッキャウフフなシーンなの!オラオラァ!な色気のないファイトは見たくないんだよっ!!

 

 

 

「う~ん・・・きれいなお姉さんたちがしてることも楽しそうですけど・・・」

 

「ダメね。あれはわくわくしないのよさ。覚えておきなさいよしー。女なら血がたぎる選択をするものなのよ」

 

「少しだけでもいいから僕に夢を見せてくえないかなあっ!?」

 

 

 分かってた!Fクラスにいる女子の皆(姫路さんと秀吉は除くけど)が活発的で少し攻撃的なのはもう頭の中で分かっていたよ!でもそれが女の子の常識とは思わなかったし思いたくもないよバカッ!

 

 

「あっ!じゃあ『水中鬼』ならどうですかバカなお兄ちゃん!」

 

「す、水中鬼?それってどんな遊び?」

 

 

 女の子というものが分からなくなりかけて涙が出そうになっていると、僕の気持ちを分かってくれたのか、葉月ちゃんがまた新しい遊びかなにかを提案してくれた。

 

 鬼って言うから・・・水の中でやる鬼ごっこってことかな?確かにそれなら水上レスリングに比べて安全で楽しそうし、僕も文句なんか――

 

 

「はいです。鬼が他の人を水の中に引きずり込んで、溺れさせたら勝ちですっ!」

 

「すごい笑顔で恐ろしい説明が来たねっ!?」

 

 

 文句大アリだ!!今どきの小学生はそんな物騒な遊びをプールでやっちゃってるのちょっと!?美波ーっ!君の妹が純粋そうに見えて実はブラック疑惑が浮上してきたよ~っ!お姉さんに似るっていうけれど、君はそこまで過激な発想はしてないよね!?じゃないとこれから君と接するときは、震えが止まらなくなりそうなんだけど!?

 

 

「ダ、ダメだよ葉月ちゃん!むしろそれはさっき提案した遊びよりずっとダメだよ!」

 

 

 とにかく、こんな危険極まりない遊びを年上として許すわけにはいかない。僕はさっきよりも全力で葉月ちゃんにストップをかける!

 

 

「え~?バカなお兄ちゃん、さっきからダメって言ってばかりですっ」

 

「よしー、あんたは小学生のお願いも聞けないの?バカな上にちっさいやつねー」

 

「この際バカはともかく、実際に小さい君に小さいって言われるとすっごい腹が立つなおい!」

 

 

 僕が鬼になって君を沈めてやろうかっ!・・・っとと、それだと水中鬼をやることになっちゃうじゃないか。冷静になるんだ僕、チルノのアホな言葉で熱くなっても仕方ない。大事なのは不満げな葉月ちゃんに水中鬼の怖さを知ってもらうことだ。

 

 

 そのためには・・・うん。やっぱり実際目にしてもらうのが一番だね。

 

 

「じゃあ葉月ちゃん。ちょっと水中鬼を別の人にやってもらうね」

 

「ふえ?」

 

「おーい、霧島さーん!」

 

「……なに、吉井?」

 

 

 声をかけられ、静かに泳いでいた霧島さんが僕のもとへと泳いできた。申し訳ないけれどこの鬼の役にぴったりなのは彼女。しっかり葉月ちゃんにその恐ろしさを分かってもらおうではないか!

 

 

 

 

 

「え~とね。実は雄二がさっき、『美波や十六夜さんみたいな平らな胸も大きい胸とは別の良さがあるなー』って言ってたんだ」

 

 

 

「・・・・・・!!(ゴオッ!)バカ雄二・・・っ!!(ザバババババ!)」

 

 

「ん?ってうおぼばばあ!?げほげほ!しょ、翔子ごぼ!?急にどうじごぼぼばあばばぁ!?」

 

「・・・・・・Cカップにだって、良いところがある・・・っ!」

 

「ぶはあっ!な、何の話だおい!?俺が何をしたと、ぼばばばばばあああ!!」

 

 

 

 

 

「――ね?あれが水中鬼なんだよ」

 

 

 予想通り霧島さんはいい仕事をしてくれるなあ。これで葉月ちゃんも水中鬼がどんな怖いものが分かてくれたよね?

 

 

 

「は・・・はわわわ・・・!(ガタガタガタ)」

 

「お、おおおおお・・・!?(ブルブルッ)」

 

 

 あらら、こんなにぶるぶる震えちゃって。しかもチルノもらしくなく震えるなんて、よっぽど怖いものだって分かってくれたんだね。良かった良かっ―――

 

 

 

「―――って、あれ?2人ともどうして僕の方を見て震えあがってるの?」

 

 

 僕と霧島さんがいるところは2人から見て正反対。なのに僕の方を凝視してるのはおかしくない?

 

 

 僕を見たって怖がることなんか何もない

 

 

 

 

「ねえ、ゴミいクズひさ。そんなに私を怒らせたいのかしら?」

 

 

 

 なるほど。視線の先はいつの間にか僕の背後にいた声の主だったのか。それなら大納得だ。

 

 

 

「あはは、嫌だなあ十六夜さん。紳士な僕がそんなことを望むわけないじゃないか~。あと僕の名前は吉井明久であって、そんなひどい名前じゃないよ?」

 

「ふ~ん。私の記憶がおかしくなければ、今日だけでも2回ほど怒りを覚えたのだけれど?それに名前については、私がふさわしいものに改名してやったわ。感謝しなさい」

 

「それはいくら十六夜さんでも難しいなー。あと、怒らせたっていうのはきっと十六夜さんの勘違いだね。だからそろそろ僕の頭をわし掴んだ手を放してほしいなあ。なんだかミシミシ言い始めたよ?」

 

 

 十六夜さんって見た目によらず握力がすごいね。痛さで悲鳴が出そうなんだけれど、これも美鈴さんの教えのたまものなのかな?

 

 

「まあいいわ。とにかく話は聞かせてもらったわよ。確かに水中鬼は危ない遊びだから、ごみクズのあなたの意見にも珍しく同意ね」

 

「だよね~。さすが十六夜さん、分かってくれるね」

 

 

 でも、そう言いながらも頭の痛みが増すのはなんでかな?それになんだか僕の顔と水面が接近しつつあるのは僕の見間違い?

 

 

 

 

「――だからこそ。この遊びがどれだけ危険なのかをより知ってもらいましょう・・・よ・し・い?」

 

 

 ビキビキと青筋をたてた十六夜さんの手の力がさらにアップ。あ、これあかんヤツだ。もう水が顔に触れちゃってますよー。

 

 

「いやいや十六夜さん。葉月ちゃんはしっかり水中鬼が怖いものだって分かってくれたはずだよ。だからこれ以上は必要ないとおも(ドプン)」

 

 

 

 このあと、あの世のじいちゃんと二度目の対面を果たすことになっちゃった。かなり年だったのに元気だったのは驚いたなー。

 

 

 

 

 

『・・・さ、最強のお姉ちゃん。は、葉月はもう水中鬼はしないですっ!』

 

 

『そ、そ、そうね。それが良いと思うのよさ。でもよしーのやつ、身体を張ってまでアタイらに水中鬼がどんなのかを教えるとはねー・・・。・・・バカだけど、根性は少しだけ認めてやるのよさ』

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!

 
 前回は女子ばかり出ていたのでやることなすことに華がありましたが、今回はおバカがいっぱいなため、アホさに溢れた回にしようと思いましたがいかがでしたでしょうか?

 前回から最後にだけ出ている霊夢さん達の出番が今回はなかったわけですが、次回から彼女達にも本参加してもらおうと思います!さらにうるさくなること間違いなしの展開で、皆様に少しでも楽しんでもらえる内容を目指してに頑張らねば…!


 それではまた次回っ!


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参入―喧しい、わね。いったい何に騒いでんのよ

 どうも、村雪です!とうとう年末まであと少しとなりましたが、いくつになってもこの時はわくわくしちゃいますね!

 さて、活動報告にも書いたのですが今週は少し早めに投稿をさせていただきます!おそらく今年最後の投稿となるのではないでしょうか!
 で。そんな大きく意味のある今回なのですが・・・少し、というかけっこう『これどうなの!?』『うわっ、どんびきや!』と思っちゃう場面がある気がします!


 もしかしたら村雪の思いすぎで『ふ~ん』とか『なんや~』程度に思われるのかもしれませんが、いちおう念のために書いておきますね!


 何のことかについては読んでいってもらえれば分かると思いますが、果たして今年最後の投稿、満足していただけるのか・・・!


―――ごゆっくりお読みください。


 

『バッ、バカなお兄ちゃ~~ん!!しっかりしてです~~~!!』

 

『こっ、このバカ、顔がソーダみたいに真っ青なのよさ!ええい仕方ない!アタイが人工呼吸をしてやろうじゃなハゴッ!?』

 

『だっ、だめよチルノッ!そんなうらやま、じゃなくて大事なことはウ、ウチがやってあげるわ!チルノはチルノらしくその辺で適当に泳いでて!』

 

『なんかものすごく子供扱いされたわっ!?』

 

『ぬ、ぬけがけはダメです美波ちゃん!じゃじゃなくて!わわっ、私も人工呼吸を手伝います!というかててて、手伝わせてくださいっ!』

 

『美波、瑞希。レスキューしようって気もあるんだろうが、顔がすっげー場違いなもんになってるぞ?早く吉井を助けてやろうぜ』

 

『そうよ2人とも。もしものことがあっては大変だから早く行動しないといけないわ。決まらないんだったら、私がやって――』

 

『絶対やんなよ!やったら吉井をしばくからなっ!?』

 

『ええええっ!?そこは吉井君じゃなく私をしばくところじゃないの!?』

 

『アリスをしばくヤツなんざ全身全霊で抹殺してやるぜ!!』

 

『気持ちは嬉しいけど報復が物騒すぎるわよ!?』

 

 

『ううむ。明久がどんどん手遅れな状況に近づいていく気がするのじゃが・・・』

 

『・・・・・顔色がさらに悪化』

 

『いかんのじゃ。ムッツリーニ、人工呼吸は出来るじゃろうか?わしはあまりやったことがなくてのう』

 

『・・・できるが、男にはできない』

 

『さらりと変態じみたことを言いおった!?人工呼吸に男も女もあるまいじゃろっ!』

 

『・・・精神的ダメージが大違い』

 

『友情をもっと大事にせんかっ!むう、仕方ない。あまりやったことはないのじゃが、やって出来んことはあるまい――』

 

『・・・・・っ!美少女との接吻、許すまじ・・・!(ギラリッ)』

 

 

『り、利己的にそこまで動くお主は絶対に地獄に落ちるのじゃ!そして!じゃからわしはどこからどう見ても男じゃあああ!』

 

『・・・どこから見ても、女にしか見えない・・・!』

 

 

 

 

 

「こら!!だめですよ咲夜さん!皆が大慌てになってるじゃありませんか!」

 

「う・・・だ、だって、あの変態がまたふざけたことを言ったのよ!原因は向こうにあるわっ!」

 

「それでもやりすぎですっ!吉井君があと一歩で天の使いに招かれるところだったんですよ!?分かってるんですか!?」

 

「ふ、ふんっ!あの男に来るのは天じゃなくて地獄の使いで十分よ!」

 

「反省する気ゼロかこらぁ!(ピシッ)」

 

「いたぁいっ!?」

 

 

 聞き分けの悪い咲夜さんに少し強めにデコピンです!時に厳しく妹をしかるのが姉の役目ですから問題ありません!というか私はいっつもチョップされてるから可愛いぐらいのお仕置きです!

 

 

 さて。なぜこうなってるのかなのですが、吉井君にものすごい怒気を向けていた咲夜さんが、なんと彼をプールに沈めるという恐ろしいことをしでかしたのです!咲夜さんを毎度怒らせる吉井君もそうですが、今回はそれに対する咲夜さんの報復もハンパない!

 

 それを私たちが全力でやめさせ、瑞希さん達にレスキューを頼み、私は咲夜さん正座させ、珍しく鬼となってしかりつけているのでございます!咲夜さんが何を言おうと、今の私のお叱りモードは止められませんよ~!?

 

 

 

「そりゃ咲夜さんにも怒る権利はあるんでしょうけど、あまりにやりすぎたらダメってことぐらい分かるでしょうが!もう少しソフトにですね――」

 

 

「メ、メイリン!そんなに咲夜を怒ったらいやだよぉ!」

 

「そ、そうよ美鈴!あの人が咲夜にひどいことを言ったのが悪いんだものっ!怒るならあ、あの人を怒るべきよっ!」

 

 

「お、おっと!?」

 

「フ、フラン、レミィ・・・ッ!!」

 

 

 

 私と咲夜さんとの間に、レミィ、フランの妹組が割り込んで咲夜さんを擁護しました。

 うっ、この2人にやめてと言われては止めるしか・・・!ってこら咲夜さん!感激の目で二人の背中を見つめないで!そして2人は涙目で私を見上げないで!?それだと私が思いっきり悪役ですから!私は3人のお姉ちゃんなのよっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なんだか大所帯だね?」

 

「んー?あら、咲夜も代表もアリスもいるじゃない。しかもガキんちょ達も・・・水泳大会でもやってんの?」

 

「ちょっと博麗。ガキんちょなんて言い方はないでしょ。子供にくらい優しくしてあげなさいよ」

 

「良いのよ別に。知った顔だし。・・・まあ、一人知らない子がいるけど」

 

「思いっきりだめじゃないバカッ!」

 

 

 

 そんな元気な女子の声が、大ショックを受けている私に聞こえてきました。

 

 

 

「・・・愛子?霊夢に優子も」

 

 

「やっほ~代表。プールを誰か使ってるのは分かってたけど、代表だとは思わなかったよ」

 

 

 プールの入口から入ってきたのは、霧島さんの言うとおりAクラスのメンバー。

 

 爽やかでボーイッシュな髪型の工藤愛子さんと、秀吉君の双子の姉である木下優子さん。そして、可愛らしくておっきな紅白リボンを頭に付けてるのにその気だるげな顔が惜しい友人、博麗霊夢の三人でございました。

 

 

「あっ!れいむも来たんだ~!!」

 

「・・・!きっ、奇遇ね霊夢!まさかあなたが来るとは思っていなかったわ!」

 

 

 フランとレミィは霊夢が来たことに、嬉しそうな嬉し恥ずかしそうな顔をします。中でもレミィはご近所である霊夢をいたく気に入っていて、霊夢に会うたび積極的に声をかけているのです。

 

 

「私もあんたらがいるとは思わなかったわ。っていうか、あんた泳げたのねレミリア」

 

「おっ、泳げるわよ!バカにしないで霊夢!泳ぐのは得意なんだからっ!」

 

「へ~・・・そうなの?へ~・・・・」

 

「ぜっ、全然信じてないでしょ!ねえ!?ホントだから信じてよ~!!」

 

「分かった分かった。レミリアはやればできる子ねー。すごいすごい」

 

「う、うううううう~~!!」

 

 

 しかし、それに対する霊夢の言葉がこれですよ。もー!もうちょっと優しい話し方ってものがあるでしょうに!またレミィがう~う~状態になっちゃったじゃないですか!ごちそうさ、じゃなくて妹を泣かせるのは許しませんよ!!

 

 

 

 

「で、Aクラスの3人がどうしたんだいったい?」

 

「ボク達もプールに泳ぎに来たんだよ。霊夢がすっごいプールに行きたがってね~!」

 

「こんな暑いんだから誰だって入りたいわよ。つーか愛子もノリノリだったじゃない」

 

「あはは。まあこれでも水泳部で泳ぐのが好きだからね~」

 

 

 へ~。工藤さんは水泳部だったのですか。やたらと保健体育の話が好きなのもその影響でしょうか?

 

 

「私は来たくて来たんじゃないけどね。博麗の奴がしつこく誘ってくるから、仕方なくよ」

 

 

 のんびりした雰囲気の工藤さんと霊夢ですが、一人だけむすっと顔をしている女の子が1人、木下さんです。

 

 

「恩着せがましい言い方ね。あんただって来るって決まってからは楽しそうにしてたでしょうが」

 

「しっ、してないわよ!勝手なこと言ってんじゃないわよバカ博麗っ!」

 

「バカとは何よ、この意地っ張り木下ちゃん」

 

「ここ子供みたいな呼び方するな!それ以上言ったらプールに沈めるわよ!?」

 

「その時は水着をひん剝いてやるわ。覚悟してなさい」

 

「ひん・・・っ!?は、博麗ぃ~・・・っ!」

 

 

 

 

・・・はい。お2人は相変わらず絶好調のようですね。ナカガイイのは構わないのですが、間の工藤さんがものすごく居心地悪そうにしていますから手加減してあげてください。

 

 

 

「ま、まあまあ2人とも。せっかくここまで来たんだから楽しもうよ!じゃないとそろそろボクの心が2人のプレッシャーに押しつぶされそうだからさ!」

 

「む。それはそうね」

 

「ご、ごめん愛子。でも悪いのは博麗なのよ!」

 

「あん?私のせいにする気?」

 

「それ以外に誰がいるのよ?」

 

「私の目の前にいる木下優子って女」

 

「うぐ・・・!よ、よくもそんなに堂々と言えるわね・・・っ!」

 

「事実でしょうが」

 

「こ、この女だけはぁ~・・・!!」

 

 

「・・・もおおおおおお!!ボクの必死の仲裁を聞いてよぉ~~!!代表!アリス!咲夜~っ!」

 

 

 あ、工藤さんのハートが限界を超えたようです。涙目になりながら、2人の鬼の間から正座している咲夜さんの胸の中に・・・ってちょおおおおい!?誰の許可を取ってその聖地に踏み入ってるんですかごらぁあああ!!

 

 

「っと。愛子、私は今正座中なんだけど・・・まあ、とにかく頑張ったわね。大したものよ」

 

「う~~!咲夜はやっぱりボクの味方だよ~!!」

 

 

 べ、、別にいいって咲夜さん!?私はっ!?いつもハグしてもらおうとしたら手痛い一撃をもらっちゃう私はどうしてダメなんですかっ!

 

 

「・・・・・・・大丈夫。愛子はすごく頑張った。いけないのはあの2人」

 

「まったくその通りよ。こら!霊夢、優子!愛子がこう言ってるんだからやめなさい!」

 

「それは出来ない相談ねアリス。売られたケンカは絶対に買うのが私の信念よ」

 

「アリスは黙ってなさい!バカにされて黙ってるなんて女が廃るってものよっ!」

 

「お、女の子なんだからそんなかっこいい言葉じゃなくてもっと穏やかな言葉も使いなさい!」

 

 

 アリスの言葉にも全く応える様子がないお2人。きっとこの2人は神様が性別を間違えちゃったに違いありません。こんなに男らしくストロングな女の子がいてたまりますかっ!(※その言葉、思い切りブーメランです)

 

 

「別に仲良くしろとは、私ももうこの際言わないわ!ただコミュニケーションを温和にすませるくらい心がけ――」

 

 

「よーしそんじゃ泳ぎに行きますか~。行くわよ愛子木下ー(スタスタ)」

 

「ふんっ。あんたに命令されなくてもそのつもりよ!(スタスタ)」

 

 

「なさ、い・・・・・・・・もう!もうっ!」

 

「ア、アリス落ち着けって!霊夢がああなのは今に始まったことじゃないぜ!」

 

「アリス・・・相変わらず苦労性ですねえ~」

 

 

 説教を受けたくないがために華麗にスルーした二人に、アリスが珍しく地団太を踏み、魔理沙がそんなアリスをなだめます。こんな扱いを受けてもずうっと注意を続けるのは一つの才能ですね。アリス、あなたは将来立派なカウンセリングになれますよ!

 

 

「ぐすんっ。ごめんね咲夜。え~と、そんなわけだから、ボク達も参加させてもらっていいかな?・・・たぶん、あの2人はダメって言われても聞かないと思うけれど」

 

 

 最後に遠い目になった工藤さん。アリスと同じで苦労されてるみたいです。でも咲夜さんの胸に抱きついたから同情なんかしませんよ~だ!すっごい小さい奴って思われても上等ですぅ~!

 

 

「別に構わないぞ。今さら2人や3人増えようが変わらないし・・・もし止めようものなら、俺の生命がやばそうだ」

 

「・・・あ、あはは。ちょっと否定しきれないかな~」

 

「霊夢は一度決めたらほとんどひきませんからねー・・・」

 

 

 己が道に立ちふさがるものは全力で吹っ飛ばすのが私の親友霊夢です。いかに強そうな坂本君も例外ではないでしょう。

 

 

「じゃ、じゃあ許可ももらえたから、ボクも着替えてくるね!(タタッ)――あ、そうそう」

 

 

 霊夢たちのいる更衣室に駆け出した工藤さんは、途中でこちらに向き直っていたずらな笑顔で一言。

 

 

「もしものぞくのなら、命をかけてバレないようにね♪」

 

「こらこら、またですか工藤さん~」

 

 

 年頃の女の子がそういうことを言ったらダメでしょうに!もっと慎みと奥ゆかしさを持っているのが大和ナデシコです!ほら!私が良い見本ですよ~!

(✖今までの行動を考えると、あなたの場合悪い見本となるのではないでしょうか)

 

 

 とまあ、ちょっとしたウサ晴らしのつもりなのかそんなピンク色の言葉を残して工藤さんは更衣室に入ったのですが、もちろんそれに食いつくのが彼らです。

 

 

「ム、ムッツリーニ!雄二!どうしよう!?工藤さんのあれは誘ってるよね!?僕達をあの聖なる神堂(こういしつ)に来いって言っていると捉えて問題なしだよねっ!?」

 

「……工藤愛子。この程度の誘惑で俺が揺さぶられると思ったか…!(ドクドクドク!)」

 

「めっちゃくちゃ揺さぶられてるじゃないですか」

 

 

 土屋君の場合は〝目は口ほどに物を言う〟じゃなくて〝お鼻は口よりも物を言う〟ですね。っていうかそろそろ出血量が危なそうですから血液パックを使ってください。もう足元が真っ赤じゃないですか!

 

 

「明久。今この状況で俺を巻き込もうとする発言はよせ。翔子の怒気がシャレにならない段階に行って今俺の頭を掴んだ手がさらに強くなって俺の頭がミシミシとイヤな音をってぐあああああああ!!お、俺はまだ何も言ってないぞ翔子ぉおおっ!?」

 

「・・・想像でも、友達のえっちな想像をするのは許さない・・・!!」

 

 

 そして坂本君も霧島さんのアイアンクローによって頭から赤い血が。霧島さん、友達思いなのは本当にいい事なんですが、どうかそれを思い人君にも与えてあげてください。暴力では何も生まないのです。

 

 

「こ、こらアキッ!そそ、そんなエッチなことはウチに・・・じゃじゃじゃなきゅて!そ、そんなエッチなことをやっちゃダメだからね!?もしもやったらしばくからね!?」

 

「そっ、そそそそうですよ明久君!そういうことは、そ、そのっ!されてもいいって人にやらないと犯罪なんですよ!?だから絶対やったらダメですっ!」

 

「いだだだだっ!?ま、待って美波に姫路さん!僕は冗談六割本気が四割で言ったつもりなんだよ!だからグーで横腹を殴ったりパーで背中を叩く必要はないよ!?」

 

「よ、四割ってほとんどじゃないですかっ!」

 

「あ、あんたはどこまでエッチなのよアキ~!」

 

「あいだだっだだだだああ!?ゆ、許されるどころかさらにヒートアップウゥゥウウ!?」

 

「お、落ち着いて2人とも!さっきから少しアウトな欲望が言葉でとび出ていますよ!?」

 

 

 おかげで聞き耳立ててた土屋君が『おのれ明久、うらやましい・・・っ!!』とか言ってさらに出血量が増えたではありませんかぁっ!ああ、血液パックが今日プール終了まで保つとは全然思えません・・・!きょ、今日が土屋君の命日になるのでは・・・?

 

 

 

「霊夢の水着がどんな水着か楽しみだなー!ね~アリス!」

 

「あ。ええ、そうねフラン。私も霊夢の水着は見たことがないから興味がわくわ。どんな水着なのかしら?」

 

「き、きっと霊夢は赤色の水着ねっ!間違いないわ!」

 

 

 そんな血生臭いことには我関せず、アリスとレミィたちは霊夢の水着がどんなものかで騒いでいました。

 

 そういえば、私も霊夢の水着は見たことがありませんねー。レミィの言う通り、トレードマークの大きいリボンと同じ赤系でしょうか?

 

 

「咲夜さんは霊夢の水着ってどんなのか知ってますか?」

 

「いいえ。私も今日初めて霊夢の水着を見るわ」

 

「う~ん。でも霊夢の事ですから、あんまり可愛い水着とかは着ない気がしますね」

 

「確かに。無難にスポーツタイプのビキニじゃないかしら?」

 

「なるほど、確かに似合いそうです」

 

 

 普段気だるげで分かり辛いのですが、霊夢は体力がある方ですから、競泳水着なんかも似合うかもしれませんねぇ。

 

などと思ってるうちに、

 

 

 

『・・・雄二。どんな水着でも興奮したらダメ』

 

『いでで…あのな翔子、俺がそんな明久やムッツリーニみたいに節操なく興奮するわけないだろう。少しは俺を信用しろ』

 

『失礼だな!僕だって水着の一つや二つで喜びはすれど興奮はしないよっ!』

 

 

『いや。それはほとんど同じ意味だぜ吉――』

 

『そ、そうなんですか吉井君?』

 

『だ、だったら別にいいけど・・・』

 

『――井ってうぉい2人とも!?今のは信じるところじゃなくて疑うところじゃないか!?』

 

『……人を節操なしのように……失礼な…!』

 

『いや。お主が節操なしなのは周知の事実じゃ』

 

 

 皆が口々に騒ぎながら更衣室へと目を向けています。霊夢たちの水着が気になって仕方がないみたいですが、いったいどんな水着のお披露目となるのでしょう?楽しみですね~!

 

 

 

 そして、どんな水着か気にしつつも泳いだり遊んだりして待つこと数分。

 

 

 

 

 

 

 

『や、ややっぱりダメだよ霊夢!今からでも別の水着に着替えよう!ねっ!?』

 

『あっ、愛子の言う通りよ!!さっさと別のに着替えなさい!博麗!じゃないと許さないからね!?』

 

『なによさっきから愛子、木下。私はこの水着しか持ってないし、そもそもあんた達に許されなきゃいけない理由がないっての』

 

『そ、そういう問題じゃなくってねぇ!愛子!このバカに着せる代わりの水着持ってないの!?』

 

『ごめん!ボ、ボクも自分の水着しか持ってきてないよ!』

 

『ああもう!じゃあ博麗!アンタは今日泳ぐの中止よ!今すぐ服に着替えなさい!』

 

『はあ?そんな命令お断りよ。私は泳ぎに来たんだから絶対に泳ぐわよ』

 

『だからそれなら水着を、っ!?ダダメよ博麗止まりなさいっ!』

 

『お、お願いだから止まって霊夢っ!もうなんだったらボクが霊夢の水着を買って来るから、せめてそれまでは待って!ねっ?ねっ!?』

 

『ええい左右からしがみつくなわめくな重たいでしょうが!!ふぅんっ!』

 

『『あ、開けちゃダメェェエエエ!!』』

 

 

 ガラガラガラ!(女子更衣室の扉が開いた音)

 

 

 もめまくっている声と同時に、その時はやってきました。

 

 

 

 

 

「うぇっ!?ちょちょ!?」 

 

「ぴゃあ~~!」

 

「「ゲボァアアッ!?(ブシャアアアア!!)」」

 

「……雄二は見たらダメ…っ!(ブスッ!)」

 

「ぎゃああああああああっ!?今のは本気でやばいぞ翔子おぉおおお!!」

 

 

 

 それを目撃した瞬間、私はむせてレミィが悲鳴を上げ、ムッツリとおバカが血の噴水と化して霧島さんが殺人級の目つぶしを坂本君に炸裂させました。

 

 他の人も顔を赤くしたりびっくり仰天したしたりと、誰もが霊夢から目を離そうとしません。霊夢はその一同の反応に眉を動かします。

 

 

 

「ん?何よみんなしてこっち見て。なんか顔についてる?」

 

「い、いいえ博麗さん!何もちゅいてません!何もついていません、けど…!!」

 

「ふうん…姫路、よね?じゃあなんでそんな顔赤くしてんのよ」

 

「う…!そ、そ、それは~…」

 

「そ、そりゃ誰だって赤くするわよっ!ウチだってそうよ!!」

 

「ん?そうなの…えーと……ごめん、誰だっけ?」

 

「島田美波っ!美波って呼んでほしいわ!」

 

「りょーかい、美波。一応だけれど、博麗霊夢よ。適当に呼んでいいわ」

 

「オ、オッケー。よろしく霊夢!」

 

「はいはい、よろしく。で、なんで顔を赤くすんの?」

 

「だ、だから!そ、その~・・・」

 

「なによ。2人そろって煮えたぎらないわね。言いたいことがあるんならはっきり言いなさいよ」

 

 

 赤いままうつむいた2人に、霊夢は不機嫌そうに顔をしかめています。いや霊夢、そんな言い方をされてはっきり言う人は少ないですって。もう少し穏やかに話を進めるということを覚えてください。

 

 とにかく、このままだと霊夢イライラが爆発しかねません。でも瑞希さん達はこの様子だと言わなさそうですし・・・・・ここは勇気を出して、私が2人の言いたいことをはっきり言ってあげるとしましょう。私もものすごくそれについて聞きたいですから。

 

 

「あ、あの・・・霊夢」

 

「あによ美鈴」

 

「……」

 

 

 や、やばい。皆がはっきりしないから結構お怒りですよこの少女。

 

 今すぐにでも何でもないと言いたいところですが、ここでそれをしちゃったら間違いなく怒りの鉄槌が下されそうです。2人が言いたくても言えないというのがすっごく分かりました!だってめちゃくちゃ怖いですもんね~~!!

 

 

「え~っと、そのですねぇ~・・・」

 

「だからなによ。そろそろはっきり言わないとしばくわよ?」

 

「ひいっ!?」

 

 

 ど、どうすべきか考える間もなく拳のタイムリミット!?いいいかん!これはもう言うしか助からない!覚悟を決めるのよ美鈴!!

 

 

 

「え、ええっと・・・・霊夢」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・その・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・さらしと、ふ・・・ふ、ふんどしは?」

 

 

 

「水着よ」

 

 

「・・・は、はは。で、ですよね~」

 

 

 

 胸部を飾りっ気ゼロの白布でガッチリ固め、同じく真っ白でひらひらした前垂れをゆらしつつも、締めるところはぎゅっと締めてある雄々しいふんどしを纏った霊夢は、まったく動じることなく一言で答えました。

 

 

・・・いや、いやいやいやいや!?ここにいる男子よりもずっと男らしいわよ霊夢っ!?

 

 そそりゃあ可愛らしい水着の可能性は低いと思ってたけど、だからと言ってここまで男らしい恰好をするって誰が想像できるかぁっ!!

 

 

「何よ。ふんどしでプールは泳いじゃダメとでも言うんじゃないでしょうね?」

 

「そ、そんなことはないですよ!?ただ、ちょっと、ねえ?」

 

「そ、そうね美鈴。少し、ね?」

 

「だから、ちょっとだ少しだとやかましい!私にわかるようにはっきり言えっての!!」

 

「「うっ」」

 

 

 咲夜さんも同じ調子だったのがまずかったようで、とうとう霊夢が目を三角にして怒鳴りました。じゃ、じゃあ言いますよ!?咲夜さんもこっちを見てうなずいていますから言いますよ!?絶対怒らないでくださいね!?

 

 

 

 

「…だ、だから!その恰好がすっごいエロいんですよ!!」

「…だ、だから!その恰好がすごく破廉恥なのよっ!」

 

 

「はあ?」

 

 

 はい!怒るどころか何を言ってるか理解不明って顔いただきました!これだから無自覚というのは恐ろしい!

 

 

「そっ、そうですよ博麗さん!!布をぐるぐる巻いただけじゃほ、ほ、ほどけちゃうじゃないですかっ!!」

 

「あのねえ、そんな心配されなくてもちゃんとほどけないようしてあるっての。そもそもそれを気にするならあんたたちの水着だってほどける可能性があるじゃない」

 

「うっ。そっ、そ、それはそうですけど…!」

 

「そ、そもそもその恰好が問題なのよ!こっ、これでもウチ頑張ったつもりなのに、霊夢のせいで一気に子供っぽくなっちゃったじゃない!どうしてくれんのよ!?」

 

 

「知らないわよそんなの。もっと別の水着にすればよかったじゃない」

 

「そ、そうだけど~…!」

 

 

 すべての異論をぶった切っていく霊夢に2人はたじたじに。いまだかつてこの少女を圧倒した人を見たことがありませんが、この2人もめでたく仲間入りのようです。ようこそこちら側へっ!

 

 

「し、しかし霊夢がこんな水着だとは想像もしてなかったぜ。いっつもこれなのか霊夢?」

 

「そうだけど。あんたも着てみる魔理沙?」

 

「いや、悪いがそこは遠慮させてもらうぜ。私もきちんと感情のある人間だからな」

 

「なるほど、喜ぶ姿を見せるのが恥ずかしいってことか。魔理沙にも可愛いところがあるじゃない」

 

「こいつ理由を良い方に捻じ曲げやがった!?」

 

「さ、さらしとふんどしかぁ・・・・初めて見たわ。霊夢、少し触ってもいい?」

 

「ん、別にいいけど」

 

「・・・思っていたよりも固いわね。霊夢、少し緩めた方がいいんじゃないかしら?」

 

「アリス。あんたは私に人前で胸をはだけさせろって言うのね?」

 

「えっ!?ち、ちち違うそうじゃないのっ!!ただ胸が窮屈になって体に悪そうだなって思っただけなの!!」

 

「はんっ、無用な心配ねアリス。私の胸は美鈴みたいなバカ乳じゃないから問題ないわ」

 

「バ、バカ乳ってなんですかバカ乳ってぇ!?」

 

 

 いきなり私に毒を吐かないでください!そして一斉に私へと視線を殺到させないで皆!何人か殺気がこもって怖いですからぁ!!

 

 

「さ~て、そんじゃあ泳ぎますか。そのために私は来たのよ!」

 

「あんた…こんだけ周りをひっかきまわしといて、よく平然といられるわね。バカじゃないの?ほんっとうにバカじゃないの!?」

 

「あん?そんなの知らないわよ。勝手に騒ぎだしたのは向こうじゃない」

 

「そ、その理由を作ったのは霊夢でしょもう!ボ、ボクその恰好どころか実物を見たのが初めてだよっ!う~・・・ちょ、直視できないよぉ・・・」

 

 

「愛子……普段からこいつと一緒にいてやってること、心から尊敬するわ」

 

「……うん……ちょっと、自分が本当にすごいなって思えてきたよ」

 

「なにコソコソ話してんのよ。泳ぎに来たんだから話ぐらい後にしろっての」

 

 

「あんたが原因でしょうがバカ博麗~ッ!」

 

「霊夢のせいじゃんかバカ~!」

 

 

 

 

 

「………咲夜さん、Aクラスで苦労されてたんですね~」

 

「……ふっ。もはやいつものことよ」

 

 

 

 目を閉じて笑う咲夜さんが真っ白に見えたのは錯覚でしょうか……

 

 

――――とまあ。もともと騒がしかったプールが、気苦労絶えない様子の少女2人と気苦労の発生源の少女1人が加わったことによって、さらに無法地帯に近づいちゃたのは言うまでもないでしょう。レ、レミィ達にだけは悪影響が届かないようにその身朽ち果てても頑張るんですよ私ーっ!

 

 

 

 

 

『う~ん、あいつのあの水着、なかなかかっこいいのよさ!はづきもフランもそう思うでしょ?』

 

『はいですっ!あのリボンのお姉さん、よくわからない水着だけどすごくかっこ良く見えるです!』

 

『うんうん!フランもそう思うよ!れいむらしいな~って感じだね!秀吉もそう思わない!?』

 

『ま、まあ確かに博麗らしいと言えばらしいのじゃが、正直、全く想像しておらんかったから驚きの一言じゃなフランよ。お主らの驚きのなさにも驚きなのじゃが』

 

『れ、れ、霊夢の水着なんなのよあれ~っ!?ぬ、布を巻いただけじゃない!泳いでたらほどけるに決まってるじゃない!!』

 

『お、落ち着いてレミリア。あれはさらしといって昔からある肌着の一種よ。霊夢もきつく巻いてたから、きっと大丈夫よ』

 

『さ、さらしにふんどし・・・っ!!ぼ、僕は今、日本が生み出した文化というものに猛烈に感動しているっ!(どくどくどく)』

 

『……素晴らしき、大和文化…っ!!(ダバダバダバ)』

 

『ってふ、2人とも!よく分からないけど鼻血がすごいことになってるわ!はい、ティッシュ!少ないけどゴメンなさい!』

 

『あ、ありがとうアリスさん』

 

『う~…ア、アリスは優しすぎるんだぜ!こんなスケベなバカ達は出血多量にさせればいいんだっ!』

 

『で、でも魔理沙。さすがに目の前で放っておくのは悪いじゃない。手助けできるんならしてあげないと…』

 

『だからそれが優しすぎるって言ってるんだよ!もぉ!バカッ!!』

 

『ええ!?ご、ごめん魔理沙!何か気に障った!?』

 

『落ち着きなさい魔理沙。アリスがこうなのは今に始まったことじゃないでしょう』

 

『むっ。そ、そうだけどな咲夜!それでもこの優しさは目に余るだろ!ここはガツンと言わなきゃ治らないぜ!』

 

『確かにそうかもしれないけど、こういうことは本人から治してもらわないと意味がないと思うような気もするわ』

 

『ぅ…それもそうか。よしアリス、今日から優しくするのはやめて冷たくなるんだ。そうすれば解決だぜ』

 

『むしろ問題が増えるわよっ!なんだかさっきからすごく責められてるけど、冷たくなれっていつから優しくすることが罪になったの!?』

 

『私が今決めたんだ!これを守らなかったらアリスなんかき、き嫌いになってやるからなっ!嘘じゃないからな!』

 

『あまりにも理不尽すぎる!?咲夜っ!あなた魔理沙に何を吹き込んだの!場合によっては許さないわよ!?』

 

『何も言ってないわ。ただアリスが鈍感ねって話をしただけよ』

 

『ど、どんか…っ!?どどうしてそんなひどいことを言うのよ!?私がいつ鈍感と思わせることをしたっていうの!?』

 

 

『現在進行形でしてるじゃない』

 

『その言葉がもう鈍感なんだよ鈍感アリスっ!』

 

 

『……ヒック、うわーーん!!美鈴っ、美鈴~~~!!』

 

 

『あっ…お、おのれ美鈴…!アリスにギュ~って抱き締められやがって…!』

 

『アリス…ッ!美鈴に抱き着こうなんてうらやま、破廉恥な…!!』

 

 

 

 

『何やってんのよあいつら。アリスは泣いて2人はすごい顔して唇をかんでるじゃない』

 

『まあ何か事情があるのじゃろう。博麗、ここはそっとしておいたほうがいいかもしれんのじゃ』

 

『ま、かもねえ。…それよりもあんたの恰好の方が気になるわ秀吉。いや、秀子って呼んだ方が正しいの?あんたやっぱり女なの?』

 

『か、勝手に女の名に改名するでないっ!男と言えと今に限っては言わぬが、せめてわしに反論の余地を残さぬか!わしの立つ瀬がないぞいっ!?』

 

『じゃあ聞いてあげるわ秀吉。さっきは気づいてなかったけど、なんであんたは男なのに女子の水着を着ているのかしら。自分はお姉ちゃんより可愛いっていうあてつけ?ん??』

 

『!あ、姉上・・・こ、これには深い事情があってのう?というか姉上は今日来ないと言っておったのでは…!?』

 

『このバカ博麗に無理やり誘われなかったら確かに来なかったわね。もうここまで来たから泳いで楽しもうと思ったけど……話をつけるのが先ね』

 

『でもまあ似合ってんじゃない?木下とそっくりだから女の水着でも違和感がないわよ』

 

『は博麗!姉上を逆撫でする言葉は―っ!』

 

『―――少しは男らしい恰好をしなさいよこのバカ弟ぉおおお!!博麗の方がずっと男らしいじゃない~~~~!!』

 

『ぬぐあぁああああああ~~!!』

 

 

 




 はい、お読みいただきありがとうございます!今年度最後の投稿というのに、思いっきりやっちゃった感がありますね~。

 ようやく霊夢さん達に登場してもらったわけなのですが・・・かんっぜんに村雪がど変態だと思われましたねこれは!!サラシとふんどして!一応女性がつけることはあるそうなのですが、それでもこれは人によっては反発がやばそう!?それとも案外そうでもないのか・・・


 そんな感じで一人でぶつぶつ言っていますが、霊夢さんにその恰好をさせようというのは、プール回で霊夢を出すと決めた時にはすでに確定させていました!どうか変態とののしらないでっ!

 そうした理由ですが、実際の東方での博麗霊夢さんは紅白の巫女姿なのですが、こちらではそれをほとんど表せていないのですね。(召喚獣はまあ置いておいて)

 なので、同じ和装ということで水着をさらしとかにすれば彼女らしさが増すかな?とトチ狂った考えに至って実行させていただきました!なんだか書けば書くほどマイナスになる気もしますがまあいいでしょう!


 そういうわけで、なんとも村雪のアホさがよーく出ちゃった今回ですが、これが今年最後の投稿。しみじみする場面がまったくないのですが、少しでも満足していただければ悔いはナシでございますっ!


 それではまた次回!今年読み続けてくださりありがとうございました!

 少し早目ですが、良いお年を~~っ!!




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競争―速さ、で勝負は決まるものですよね普通!?



 どうも、村雪です!なんだかんだで今年度初の投稿となりますがよろしくお願いしますね!

 さて、前回ようやく霊夢さん達が到着したわけなのですが、ここで一つ重要なことが・・・・。


――プール編は今回にてフィニッシュさせていただきます!


 いきなり!?とか霊夢の活躍が全然ないぞ!?とか思うことでしょうが、申し訳ありません!書いている流れでそういうことになりまして、彼女の出番があまりないままに区切りをつけちゃったのでございます!
 もう少し続くと思っていた方々には恐縮ですが、どうか納得していただければ・・・!


 それでは突然ですが、夏のプール最終回、少しでも満足してもらえることを願いつつ――

――ごゆっくりお読みください。



 

 

「とうっ!いったのよさメイリン!」

 

「はーい!よっ、瑞希さん!」

 

「は、はいっ!ええいっ!(バシンッ)」

 

 

 姫路さんが少しぎこちないながらも、美鈴さんから送られたビーチボールを叩いた。うんうん、なかなか良いアタックだ。姫路さんの持つ2つのビーチボールもすごく弾んでるよ。

 

 

「はっ、甘いんだぜ!美波っ!」

 

「オッケー!霊夢っ!」

 

「任せなさい!ふっとべ美鈴オラァーッ!!」

 

「ええ!?なにゆえ私を名指し、べふぁああっ!?」

 

「きゃっ!?メ、美鈴さぁんっ!?」

 

 

 そんな姫路さんのアタックを凌駕するアタックを炸裂させる博麗さん。あわれ顔に直撃を受けた美鈴さんは、空に赤い橋を掲げた。わ~、赤一色の虹とは珍しいなあ~。

 

 

「だ、大丈夫ですか美鈴さん!鼻血が凄い出てますよ!?」

 

「づ~~…っ!!な、何ずんですが霊夢!一瞬意識が飛びかけましたよぉぉおっ!?」

 

「へえ、やるじゃない美鈴。私の殺人サーブを受けて無事だなんて、さすがね」

 

「誰が無事ですか!鼻が重症ですよ!!ってかレッドカード確定の技をあからさまにかまさないでください!穏やかで優しい私でも黙っていられませんよごらぁ!?」

 

「落ち着きなさい美鈴。これにはちゃんと理由があるのよ」

 

「一応聞いてあげましょう!その理由って何ですか!?」

 

「勝負で絶対勝つ方法は、相手を全員リタイアさせること。だからよ。」

 

「完全に外道の考え方をスパッと言い切りましたよこの子っ!?も~怒った!!その間違った考えを拳で正してやりますよ霊夢ぅ!!」

 

「ほほう。なら私は、完全にあんたをリタイアさせて勝利への道を前進してやろうじゃない。あんたとやるのは久しぶりだけれど、容赦しないわよ!」

 

「じょ、上等ぉおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

「………ねえ雄二。姫路さん達はビーチボールをやるって言ってたよね?」

 

「ああ。そう言ってたな」

 

 

 

 横で一緒に休憩している雄二に確認をとったけど、僕の記憶は間違っていないみたいだ。

 

 

 

「……いつから、ビーチボールはこんなに殺伐とした遊びになったのかな?」

 

「強いて言うなら、博麗が紅の顔面にボールをくらわせた時からだな」

 

「だよねー」

 

 

 博麗さんの言ってる理論は理解できるけど(※出来るのですか)、試合が中断されたら元も子もないよ博麗さん。

 

 そんな思いが伝わるわけもなく、怒った美鈴さんとものすごく横暴な博麗さんがぶつかり合うわけで・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「―――あ、あふうぅぅ……」

 

「メ、美鈴しっかりしなさい!傷は浅いわよ!!」

 

「メイリン大丈夫!?お、お姉さま水を取ってきて!早くっ!」

 

「フ、フランが命令するなぁ!私がお姉ちゃんなのよ!?」

 

「ふっ。やっぱり正義は勝つのよ美鈴」

 

 

 博麗さんが渾身のしたり顔でダウンしている美鈴さんを見下ろしていた。うん、言ってること自体は正しいと思うんだけど、その悪の表情で信ぴょう性がごっそり減ったよ博麗さん。もう少し正義らしい顔をしてその言葉を言ってほしかったなぁ。

 

 

「どっ、どこが正義ですかぁ…!ヒーローさんならもっと優しく対応しなさいよぉ!!」

 

「美鈴さん!あ、あんまり動いちゃダメですよっ!」

 

「霊夢。あなたがどちらかと言えば悪いんだから、少しは謝るとか申し訳ない態度をとるべきだと私は思うんだけど……」

 

「違うわアリス。悪いのは負けた美鈴よ。ほら言うじゃない?『勝てば官軍、負ければ賊軍』って」

 

「…はあああ~…もう、本っ当に負けず嫌いなんだから……」

 

「く、くうううう…!紙一重、だったのにぃぃ~~…!」

 

 

 

「霊夢ってすごいのね~。美鈴に勝っちゃうとは思わなかったわ」

 

「だよね。博麗さんは将来何かのチャンピオンになってる気がするよ」

 

 

 挑戦者をめんどくさそうな顔で瞬殺している博麗さんが簡単に想像できる。サラシとふんどしという格好と言い、なんてかっこいい女の子なんだろうね。

 

 

 まあそれはともかく、君たち、水遊びって知ってるかな?水を使って遊ぶことを水遊びって言うんだけど、君たちのやってるのは水遊びじゃなくてキャッツファイトだ!!水は使ってないしオマケにプール脇でゴングを鳴らしちゃってるし!せめて水を使うなりなんなりでプール感を出せというんだっ!!そんなチャンピオンの風格を僕は求めていないっ!

 

 

 

「へえ~。メイリンに勝つなんて、あいつなかなか強いのよさ!これは最強のアタイとして黙ってられないわねっ!」

 

「待てチルノ!これ以上華やかさから遠ざかることをするのはやめるんだっ!」

 

 

 どうせ博麗さんに瞬殺されるのがオチなんでしょ!それはそれで愉快だけど今は花を見たいんだよバカめっ!

 

 

 

 

 グゥゥルルルルウゥゥ~~~・・・・・

 

 

 

 

『・・・・・・・・・』

 

 

 

 そんな僕の切望を笑うかのように、あんまり可愛いとは思えない腹の虫が登場した。

 

 

「あ、ごめん。今の私だわ。やーお腹すいたわね~。誰か食べ物とか持ってない?」

 

 

 

・・・博麗さんは、ほんっとうに大物だな~。まったく恥ずかしがらずに(逆に聞いてた姫路さんが顔を赤くしてた)、お腹の音が自分だって認めた上で食べるものを要求するなんて。華やかさはゼロだけど、すがすがしさがいっぱいで気持ちいいな。もはや男の子って言った方がしっくりきそうだよ。

 

 

「う~ん。ボクは持ってないなー。代表や優子は何か持ってる?」

 

「……持ってきてない。ごめん」

 

「持ってきてないわよ。というかたとえ持ってても、そのバカにはゼッタイにあげない」

 

 

 霧島さんは首を振って、木下さんはぷいっとそっぽを向いて工藤さんの質問に答えた。木下さんは博麗さんとよくケンカするそうだけど、ここまで徹底してるとは思わなかったなー。せっかく同じクラスメイトなんだから仲良くできると思うんだけど・・・(その言葉、自分にも言い聞かせましょうか)

 

 

 

「う~んそっかー。他の皆はどう?」

 

「あ、ううん。悪いけど僕も持ってきてないや」

 

「すまないが俺もだ」

 

「わしもじゃ」

 

「……(ふるふる)」

 

「す、すみません。まだまだ人にだせる味じゃなくって……」

 

「ウチも持ってないわ。ごめんね霊夢」

 

「私もなんも持ってきてないぜ」

 

「最強のアタイが料理をする必要はないのよさ」

 

「あるわよ」

 

「ごめんなさい霊夢。それだったら何か作ってこればよかったわ・・・」

 

 

 

 う~ん。どうやら他の皆も持ってきてないみたいだ。首を振ったり謝ったりして工藤さんの言葉に反応を――

 

 

 

『……って〝ある〟!?』

 

 

 聞き逃しそうだった大切な言葉を言った人、十六夜さんへと僕らは目を向けた。僕たちの反応に十六夜さんは苦笑しながら付け加える。

 

 

「ええ。と言っても持ってきたのは私じゃなくて美鈴なんだけれどね。美鈴、起きれる?」

 

 

 十六夜さんはまだ倒れている美鈴さんに声をかける。あんまり心配しているように見えないのは、気にしてないのか大丈夫だと信用しているからか。・・・たぶん考えるまでもないよね!

 

 

「う、う~ん・・・は、はい。なんですか咲夜さん?」

 

「良かった。あなた確か食べるものを持ってきてたわよね?霊夢たちに出してもいい?」

 

「・・・あ、ああはいはい!じゃあ取ってきますからちょっと待っててくださいね!よいしょ、いたたた…」

 

「あ、私が取ってくるわ。だから美鈴はゆっくり休んでても―――」

 

「だ、大丈夫です!咲夜さんはここでゆっくり待っていてください!おお、なかなか頭と足が…」

 

「いや、あなたの方が安静にすべき・・・って、もうっ」

 

 気遣いに耳を貸さずふらふら更衣室へと向かう美鈴さんに、十六夜さんは少しだけむくれた顔になって腕を組む。普段は大人びた雰囲気の十六夜さんだけに、ものすっごく可愛く見える。ほら、ムッツリーニも思い切り写真を撮ってるし。

 

 

「美鈴~。早く持ってきなさいよ~。なにか食べられると知った私の胃袋は限界よー」

 

「霊夢、それはさすがに美鈴があんまりじゃないかしら」

 

「あなたは人の姉を雑に働かせ過ぎなのよ。もう少し優しく言いなさい」

 

「ん~?大丈夫よ。私と美鈴の仲ってやつじゃない」

 

「それ以上に、姉(メイリン)と妹(わたし)という関係があるということを忘れてないでしょうね・・・?」

 

 

 そう言って十六夜さんは、じゃっかん怒ったような顔で博麗さんを見る。本気では怒ってないんだろうけど、博麗さんのマイペースっぷりに少し不満があるって感じだ。

 

 

 でも博麗さんは、そんな十六夜さんに慌てたりひるんだりせずに首を振るだけ。

 

 

「あーはいはい。悪かったわねシスコン」

 

「ぅえっ!?だだ誰がシスコンよっ!?」

 

「あんたよ咲夜。いや~美鈴は妹に愛されて幸せね~嬉しいでしょうね~」

 

「ちょちょっとやめて!美鈴に聞こえちゃうからそういうこと言わないでお願いっ!!」

 

 

 真っ赤な顔のまま、あわてて博麗さんの口をふさごうとする十六夜さん。うん。今日はコロコロと十六夜さんの表情が変わる日だ。それを見れただけでもここに来た意味があったと言えよう!

 

 

 

「お、お待たせしました~っ!いよいしょっと!!」

 

 

 結局博麗さんの口を押さえきれず、息を切らして顔を赤くしてる十六夜さんを姫路さんや美波たちがなだめている間に美鈴さんは戻って来た。手には少し小さめの手さげカバンがあるけど、そこに食べ物があるのかな?

 

 

「お、それに入ってんのか!何が入ってるんだぜ?」

 

「そうね。食べ物があるのも大事だけど、何があるのかも大事よ。何が入ってるの美鈴?何が??」

 

「え、え~とですね。確かサンドイッチだったと思いますよ?」

 

「…サン……ドイッチ…っ!(ぽたぽたぽた)」

 

「れっ、霊夢!顔がっ!よだれが凄い溢れて女の子がしちゃダメな顔になってるわよ!?」

 

 

 口というダムが決壊している博麗さんの顔はものすごく喜びにあふれている。よっぽどお腹が減ってたんだねぇ。でもサンドイッチかー。卵とかハムとか色々とバリエーションがあって、僕も楽しみになってきた!

 

 

 

「でも美鈴。いつの間にそんなものを作ったの?今朝はそんなに早く起きてなかったじゃない」

 

 

 すると、十六夜さんは美鈴さんと手さげかばんを見比べながらそんなことを。

 

 ってことは、昨日のうちに作り終えたってことかな。僕は女の子の手料理が食べられるのなら一日前に作られていようが一週間前に作られていようとも全然気にしないけどね!(そこは気にしてください。)

 

 

「ああ。じつはそのことなんですけどね」

 

 

 いけないいけないと、なにか大切な事を言うのを忘れてたみたいにぼやいてから美鈴さんはシンプルに言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「実はこのサンドイッチ、妹紅さんが良かったら食べてって作ってくれた差し入れなんですよー」

 

「ああ、そうだったの。そういえば妹紅さんは早起きしてたわね」

 

 

 

 十六夜さんが納得するのと同時に僕を含めた何人かが凍りつく。頭に浮かんだことはおそらく同じだろう。

 

 

 

「へ~。あの白いのがねー。まあ食べれたなんでもらいいから、早く開けなさい美鈴」

 

「白いのじゃなくて妹紅さんです!・・・まあ、食べてほしいって言って渡してくれたんですから開けますけど・・・」

 

 

 僕達同志は一斉に目線を交じ合わせ、美鈴さんが袋に手をつっこんだところで意思をひとつに固め終えた。

 

 

「よいしょっt」

 

 

 

 

「第一回!」(僕の声)

 

「最速王者決定戦!」(雄二の声)

 

「「ガチンコ水泳対決――っ!!」」(僕と雄二の宣言)

 

「「「「イッ、イエーーーーッ!!」」」」(秀吉、ムッツリーニ、美波、魔理沙の合いの手)

 

 

『え?』

 

 

 皆がキョトンとしてレースを宣言をした僕たちを見る。そりゃあご飯を中断され、前置きなく水泳大会をやるなんて言われたら驚くのが普通だ。

 

 

「は?なに?いきなりどうしたのよあんたら」

 

 

 ただひとり驚かないのが博麗さん。食事を止められ不機嫌さ丸出しの眼差しに思わずドキドキ。もちろん僕はMじゃない。

 

 

「ア、アキッ!ルール説明頼んだわっ!」

 

「オ、オーケイッ!ルールはいたって簡単!ここのプールを往復して一番早く泳ぎ切った人が勝者という、誰にでも分かる勝負だよ!」

 

「さ、参加者は俺、明久、秀吉、ムッツリーニ、島田、霧雨の6人だ!この6人で誰が一番早いのかを決める!」

 

「そ、そんでその中で一番になったやつが妹紅お手製サンドイッチをゲット!だからまだサンドイッチは食べちゃあダメなんだぜっ!」

 

 

『??』

 

 

 どうしてそんな必死なのかと皆がよく分からなさそうに見てくるけど、もちろん必死になってるのには理由がある。

 

 

 実は藤原さんの料理ってちょっぴりユニークで、あるバカ達は食べた途端口から泡を吹いたり、あるイケメン少年は天国のじいちゃんに出会ったり、またあるムッツリは女神と謁見して写真を撮り損ねたことを後悔したりとバラエティーに富んだ反応を起こさせる一品なんだよねー。

 

 

 けど、今の問題は作り手じゃなくて食べ手。

 

 

 なにせ藤原さん料理を食べると言ってるのは、臆することを全く知らず自分に恐ろしく正直で遠慮のなさがどこかのガキ大将にも劣らない博麗さん。

 

 そんな辛口評論家が藤原さんの料理を食べたら・・・たぶん、おそらく想像を絶するような評価を下すに違いない。そんな博麗審査員の言葉はシャイガールな藤原シェフにはきつすぎて、卒倒してしまう可能性もある!

 

 そんなものは見たくないから、前に藤原さんお手製料理を頂戴したことがあるメンツが腹を括って立ち上がったってわけさ!僕たちの誰か一人が犠牲になりさえすれば問題は解決するからね!

 

・・・できれば一番は避けたいというのが僕の本音だけど聞かなかったようにっ!

 

 

 

「え、え~と…つまり、吉井君達6人の誰かがサンドイッチを食べる、と?」

 

「そういうことだよ美鈴さんっ!」

 

「悪いが文句は受けつけないぞ!これは俺たちだけの勝負だ!!」

 

 

 

 慎重に伺う美鈴さんにも強気に!ちょっと悪い気もするけどここは心を鬼にしてでも納得してもらわないとね!雄二の言うとおり、文句は一切受け付けないよ!?

 

 

 

 

 

「・・・だ、だそうですが・・・・いいですか霊夢?」

 

 

 

「ほお~。それはつまり、私には食べるなと?私にどつかれてしめられて沈められたいと思っているとみて良いのねおいこら?(ゴキゴキゴキ)」

 

 

『話をしようじゃないか』

 

 

 やだなあ。話を聞かないなんてそんなのジョークじゃない。そんな殺気立って拳を鳴らす必要はどこにもないよ博麗さん。

 

 

「話も何も、私はそのサンドイッチが食べたいだけよ。それを邪魔するってのなら出るとこ出るわよ」

 

「ま、待って待って博麗さん!それにはちゃんと理由があって!!」

 

「あ?理由って何よ?」

 

「え、え~~っと・・・」

 

 

 どう言おう?藤原さんの料理が変わってるから、とはゼッタイ言えないし……

 

 

「つ、つまりだね。博麗さんってすごくはっきり言うじゃない?ほら、思ったことを口にするというか、ね?」

 

「そう?あまり気にしたことがないけどね」

 

 

 そこは出来たら気にしてほしかったな。ほら、女の子数名が白い目で君を見つめてるよ?

 

 

「うん。だから博麗さんには絶対食べないでほしいというか・・・」

 

「よく分からないけど、吉井が私に餓死しろと言ってるのだけは分かったわ。表出なさいよコラ」

 

 

 ここがもう表なんじゃないのかな、ってそんなこと考えてる場合か僕っ!博麗さんが僕にターゲットをロックオンしたんだぞ!

 

 

「待って待って待って博麗さん!?に、人間の身体はお昼ご飯を抜いただけでダメになるほどやわじゃないよっ!僕なんか一日一食天かすだけでも生きていけてるんだから!」

 

「い、いや吉井君。霊夢が言いたいのはそういう問題ではないと思いますよ?」

 

「というか、天かす…?あなたはいったいどういう食生活をしているのよ吉井。バカなの?」

 

 

 そんな冷たいこと言わないで十六夜さん!僕だってあんな味のないサクサクした物ばっかり食べることに飽きてきてるよ!でもゲーム代金でほぼお金を吹っ飛ばす僕には頼りになる相棒(しょくざい)なんだっ!!

 

 

 

「とにかく、私は何が何でもそこのサンドイッチを食べるわよ。吉井、関節か打撲か窒息、どれがいいか選びなさい」

 

「そこまで!?そこまで命にかかわるような悪いこと僕してないよね!?」

 

 

 そんな僕の切ない食料体験談も博麗さんにはまったく届かず、一歩一歩と僕に接近。いくら食事の邪魔をされたと言え、そこまで過激な反応を見せるのはひどすぎないかなちょっと!?どんだけお腹が減ってるんだ君は!

 

 

 

「待って霊夢。それだったら、吉井君達がするレースに一緒に参加すればいいんじゃないかしら。それならちゃんと平等よ?」

 

 

 

 博麗さんと天国へのカウントダウンが近づき、いよいよ腹を括って彼女を撃退するしかないと僕が特攻を覚悟しようとしたところで、常識人にして淑女の鏡、アリスさんが見事なアイディアを出してくださった。もう素敵すぎるよアリスさん!ものすごく好きだっ!

 

 

「あ~?……仕方ないわね。つまりその勝負で私が勝てばいいんでしょ?」

 

「そういうことね」

 

「なら吉井、その勝負とやらに私も参加するわ。ここで文句を言ったらそれが最後の一言になるわよ」

 

「うん、全身全霊了解した」

 

「霊夢はもう少し、普通に頼むということを覚えるべきだわ・・・」

 

 

 ここで再び待ったをかけられるほど僕は強くない。アリスさん、君はどうにか行動に移してでも博麗さんを指導してあげてね。心から応援するよ。

 

 

「じゃあお姉ちゃんたち、今から水泳勝負をするですか!?すごく面白そうですっ!」

 

「ふ、ふぅん?ま、まあ勝手にすればいいじゃない。私は興味ないけどね?」

 

「どうしてそんなに偉そうなのお姉さま。というか目が興味で一杯じゃない」

 

「そ、そんなことないわよバカフランっ!!」

 

「ま、まあまあフランちゃん!私も楽しみだからレミリアちゃんはおかしくないよっ!」

 

 

「……私も、興味ある」

 

「確かに。普通だったら男子が勝つだろうけど、物がかかった霊夢がいるなら分からないわ」

 

「あ~。咲夜の言いたいことがよ~く分かるなー。霊夢ってすっごい現金だもんね~」

 

「まったくよ。さっきから自分の事ばっかり…もう少し気配りってものを覚えなさいってのあのバカ」

 

「優子…ちょ、ちょっとだけだけど優子にもその言葉が返ってくるような~…」

 

 

 他の皆は誰が勝つのかに興味があるみたいで、博麗さんみたいに参加を要求してくる人はいない。どうやら彼女たちは、景品として気前よく妹紅さんのサンドイッチを許してくれるみたいだ。優しいな~。博麗さんも少しだけでいいから彼女たちの優しさを見習ってほしいところだ。

 

 

「ちょっとちょっと!何言ってるのかは分かんないけど、アタイを勝負に入れないなんて許さないわよ!?アタイもやるのよさ!」

 

 

 するとただ一人、藤原さんの料理を食べたのに名前がエントリーされてないチルノが参加を叫んできた。

 

 だってこのアホ少女は絶対に思ったことを言うもの。まさに『バカ正直に言う』ってやつだからわざと名前をはずしてたんだけど、この様子だと聞き入れることはなさそうだ。

 

 

「え~と……じゃあ、チルノもやる?」

 

「当然よっ!アタイが最強になってみせるわ!」

 

「オーケー分かった」

 

 

 

 仕方がない決断だったけれど、これで選手は8人。これだけ揃っていたら博麗さんが勝利する可能性もグッと低くなるから、僕達としても一安心だ。・・・根本的な問題はともかくだけど。

 

 

「じゃあせっかくですし、私が審判をしましょう!判定は任せてください!」

 

「美鈴。何があっても私を勝たせなさい」

 

「う、裏取引を堂々と持ちかけないでください!?公正平等にいきますっ!」

 

 

 美鈴さんの言う通りなら、僕達から取引を持ちかけても結果は同じ。そうなると全力で勝ちに行く以外の選択肢はない!

 

 

 

『雄二、こうなったら本気を出すしかないみたいだよ』

 

『ああ。とにかく博麗だけには勝たせるな。お前らも頼むぞ』

 

『おう、とりあえず霊夢には負けないように頑張るぜ』

 

『わ、わしはあまり早くないのじゃが、努力するのじゃ』

 

『……ベストを尽くす』

 

『任せなさい。妹紅が作ってくれたサンドイッチ、まずいだなんてウチが言わせないわ』

 

 

 おお、妹紅さんの傷つけないために頑張ろうとする美波の後ろ姿はまるで勇者だ。胸は小さいけれど背中がすごく大きく見えるよ。

 

 

「??あんた達、何回も目をパチパチしてどうしたのよさ?」

 

 

 ちなみに今の流れ全部がアイコンタクトでの意思疎通。チルノはまだ分からないみたいだけど、超能力もかくやのこの技術、僕達って変なところですごいなー。

 

 

 

 

 

「じゃあ皆さん、準備はいいですか?」

 

 

 とび台に移動した僕たちを見つめながら美鈴さんが確認をする。ちなみにそれぞれの位置は上から見て、左からムッツリーニ、秀吉、僕、雄二、博麗さん、魔理沙、美波、チルノだ。

 

 

「大丈夫だよ美鈴さん」

 

「私もだぜ。いつでもオッケーだ」

 

「オッケーです!じゃ、始めますね~~!!」

 

 

『み、皆さん頑張ってください!』

 

『霊夢っ!負けたらダメよ!?』

 

『……雄二、頑張って』

 

『お姉ちゃんガンバレです~!』

 

『みんなっ!博麗なんかに負けないでよ!?負けたら許さないからね!?』

 

 

 あつい応援の言葉が僕達に投げられて、僕たちのやる気もさらに上昇。よし!博麗さんを優勝させないのが第一目標だけれど、いっちょ僕も優勝目指して頑張るぞっ!別に木下さんの言葉にびびったとかではない!

 

 

 

「じゃあ……位置について!」

 

 

 

『…………』

 

 

 

 言葉と同時に飛び込みの姿勢を取る。この飛び込みのタイミングが勝負の分かれ目にもなるかもしれないから、慎重に……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~~~い・・・!ドンっ!」

 

 

 

ドゲシィッ!

 

「ぐほあああっ!?」

 

 

『へ?』

 

 

 開始の合図とほぼ同じタイミングで悲鳴が響き渡った。あれ?今の野蛮でアホみたいな声って、僕の隣にいるバカの声だったような・・・?

 

 

 

 

「……あ、雄二……」

 

「さ、坂本君っ!?」

 

「ちょ、れ、霊夢!?」

 

 

 霧島さん、姫路さん、アリスさんの選手じゃないメンバーが驚いた顔で二人の名前を叫ぶ。

 

 プールに飛び込もうとしていた僕達も、気にせざるを得ないわけで―――――

 

 

 

 

 

「は・・・博麗ぃ…!?」

 

 

 苦い顔で、背中を思い切り逸らした状態でプールの上に滞空している雄二と、

 

 

 

 

「悪いわね・・・厄介な相手は消すに限るわ。とうっ!」 

 

 

 

 僕の方(きちんと言えば、雄二の立っていたとび台の上)に浮かせていた足を

降ろし、プールへと綺麗な飛び込みを決めようとする博麗さんがいて、

 

 

 

 ドプンッ! 

 

ドボォンッ!「ごぼばばっ!」

 

「さ、坂本ーっ!?」

 

 美波の悲鳴と同時に二人はプールへと沈み込んだ。雄二は汚い飛び込み方だなー。博麗さんとは大違い・・・

 

 

 

「ってちょちょっと!?なにやってるの雄二!?」

 

「な、なんじゃ!?何が起こったのじゃ!?」

 

 

 そのまま浮き上がった雄二に動く気配はなく、開始数秒にして限界のようだ。い、いったい今の一瞬で何があったの!?

 

 

 

「あ、あいつマジか!坂本を思い切り背中から蹴りやがった!」

 

「「「ええええっ!?」」」

 

 

 それってもう雄二が戦力にならないようにしたってこと!?

 

 そ、そりゃ僕たちの中では雄二が一番体力がありそうだよ!それで雄二を警戒するというのは分かるけど、だからってここまで堂々と潰しにかかるだなんて、スポーツマンシップなんか関係なしの暴挙だっ!!決して許されざる行為じゃないかっ!!

 

 

 

「お、おい美鈴!今のはかんっぜんに反則だろ!?霊夢の奴にレッドカードだぜ!!」

 

「そ、そうだよ美鈴さん!これは博麗さんを失格に」

 

 

『美鈴んん!!反則なんかじゃないわよねぇえええええっ!?』

 

 

 泳ぎながらも響き渡る博麗さんの大声。一種の脅迫でそれも反則行為だから博麗さんの失格は確定だ!美鈴さん!平等に審判をする君が博麗さんに引導を渡してやる時だよっ!

 

 

 

 

「・・・え~~・・・・・、イ、イエローカードということでっ!」

 

『おぉい審判んっ!?』

 

 

 どうやら審判は選手に屈してしまったようだ。おのれダメダメ審判め!今すぐその座からすべり落ちればいいんだっ!

 

 

「ア、アキ!霊夢がもう半分を泳いでるわよ!」

 

「え、もう!?」

 

 

 見ると、すでにターンを終えた博麗さんがこちらへと泳いで向かってきている!まずい!このままだと博麗さんが優勝してしまうことに!

 

 

「皆!こうなったら戦争だ!博麗さんをなんとしてでも食い止めるんだよっ!」

 

「りょ、了解じゃ!」

 

「……やむを得ない…!」

 

「そ、それしかねえなっ!こうなりゃヤケだぜ!」

 

「た、多人数ならさすがの霊夢もかなわないわよっ!」

 

 

 

 向こうが先に乱暴な手段を取ったんだから目には目をだっ!!ジャプンと水につかって、迫りくる博麗さんを僕たちは待ち構える!さあ、いつでもかかってこいっ!

 

 

「はっ……邪魔する奴は蹴散らすのみよ!」

 

 

 団結する僕たちを目視してなお動揺せず、博麗さんは不敵な言葉をこぼしながら接近。その恐れ知らずは見事だけど、さすがにそれは無謀ってやつだ!いよいよ君も年貢の納め時だっ!

 

 

『うおおおおおおっ!!』

 

 

 そして僕たちは、5対1(…あれ?なんか1人足りないような?)の仁義なき水上バトルをおっぱじめた。

 

 

 のちに、この戦いに参加していた人はこう語る。

 

 

 

『俺が目を覚ましたらプールが血の海になっていた。なぜかは分からないが、せっかく綺麗にしたのにまた掃除をやり直すのことだけは分かった』

 

 

『れ、霊夢ったら全然容赦なんかしないで、ウ、ウ、ウチの水着を……っ!!うううううう!!ウチもうお嫁に行けない~~~っ!!』

 

 

『僕は彼女の背中しか見ていません。…いや、これはほんとだからね?別に言い訳とかじゃなくてほ、本当に美波の健康的な肌色の背中しか見ていないんだっ!!それだけで十分に刺激的すぎて僕もムッツリーニも意識を落としてたんだよ!!どうか信じてください!』

 

 

 

『……あと少しだったと考えると……無念…っ!!』

 

 

『も、もう2度と霊夢と泳ぎになんか行くかっ!アリスに思いっきり見られたし、それもしょしょ、正面から…っ!あああああ!!も、もうアリスと顔合わせる顔がないよぉおおおおぉぉおおおお~っ!』

 

 

 

 

『わ、わ、わしに悪気はなかったのじゃ!あ、あの時博麗がわしの水着をひっぱろうとしたから抵抗しようとしただけなのじゃ!!

 

 

 

 ・・・ま、ま、まさかゆ、指が博麗のサラシにひっかかるとは・・・!全然見ておらん!神に誓うぞい!ほ、ほどけて肌が現れる前にわしは拳で頬を殴られて気絶したんじゃっ!鼻血は殴られたときに出たもので・・・じゃ、じゃから!わしは何も見ておるぬから、姉妹ともどもその変態を見るような目と言動をやめぬかぁぁっ!』

 

 

 

 

 

『……邪魔をしてくる奴らを蹴散らしたのはいいけど……いつの間にか、一人泳いでた小さいやつが私より先にゴールをしたわ。だから……私のサンドイッチが……!!約束は約束だから守るけれど……!食べ物の恨みは忘れないわよぉぉぉぉぉ…~~っ!!』

 

 

 

 

 

『アタイが一番にゴールして、サンドイッチを一杯食べることが出来たのよさっ!!

しかも、そのサンドイッチがとっても美味しかったからどんどん食べちゃってあっという間になくなったわ!勝負に勝っていっぱいサンドイッチも食べられて!やっぱりアタイったら最強ねっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいレミィ、牛乳ね。あ、そうだ妹紅さん!今日のサンドイッチなかなか評判でした!チルノが喜んでましたよ!』

 

『……ん。そう……って、あ、あいつだけ?』

 

『あ、ええ。実は色々とあって妹紅さんのサンドイッチを優勝賞品にして、チルノが優勝しちゃいましてね、ってこらフラン!それは私のハンバーグ!勝手に食べたらダメ!?』

 

『ふーん……別に良いけど……一応、皆のために作ったんだけどなー…ん?私の??……いいよ、ほら』

 

『ご、ごめんなさい妹紅さん。こらフラン!美鈴がダメって言ったからって妹紅さんのを食べちゃダメでしょ!!』

 

『い、良いよ…。少し大きいから、私には多かったからさ』

 

『か、重ね重ねすみません妹紅さん。ほらっ、フランもお礼!あと妹紅さんのお料理もまた今度いただきますね!』

 

『……き、気が向いたら、またやってみる』

 

『しかし、妹紅さんは料理が上手だったのね。あのチルノって子、すごくおいしいって言って食べてたわよ?ねえレミィ』

 

 

『……えっと……じ、実は…勇儀にも手伝ってもらって……一緒に料理をしたから……』

 

『あーそうだったんですか!母さんも手伝ってたのね~…って、ん?母さん、少し顔色が悪くない?』

 

『あら、本当…大丈夫、お母さん?』

 

『ごくごくっ……あ~。ちょっとばかし腹がね。まあ大丈夫だから気にすることはないよ』

 

『お母さんがお腹を?珍しいけれど、どうかしたの?』

 

『……大丈夫?勇儀』

 

『な~に大丈夫さ。これしき酒を飲んでりゃすぐ直るからな!というわけで妹紅!これから頑張って行こうか!いくらでも時間はあるから、私がしっかり教えてやるよ!』

 

『『?』』

 

『???……え、と…よ、よろしく…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・吉井、坂本、チルノ。ちょっと聞きたいことがある」

 

 

「断る」

 

「黙秘します」

 

「なによさ先生?」

 

 

 プール掃除の翌週。教室に入ってきた鉄人は挨拶もすることなく僕たちのもとにやってきて、低い声で尋ねてきた。だいたい予想はつくけれどここは拒否の一手だ。

 

 

「・・・お前たちに頼んだプール掃除、いったいどうなっている」

 

「どうって、アタイは最強だから、先生の言われたとおりにキレイに掃除をしたのよさ。偉いでしょ?」

 

 

 えへんと腰に手を当てて偉そうにするチルノ。確かにチルノも掃除をしたけれど、頑張ってくれたのは美鈴さんやアリスさん達出来る女の子たち。

 

 

 

・・・と言っても、その頑張りは意味がなくなっちゃったんだけども。

 

 

 

「・・・ならば、どうして綺麗なはずのプールが血で汚れるんだ!?しかも一緒に行ったらしい霧雨と島田は『お嫁に行けないから休む』などと訳の分からん理由で欠席をするし、木下は紅に嫌われたかもしれないと涙ながらに相談に来るし!!貴様らいったいプールで何をしていたんだ!?」

 

 

 

 空気を揺らすほどの怒鳴り声。惨劇の跡と化しているプールに鉄人はかなりお冠のようだが、怒りたいのは僕達である。

 

 

「何をしていたって、女の子が傷つくのを避けるために頑張ってたんですよ!どうしてそれを責められなきゃいけないんですか!?」

 

「そうだ!しかもそのほとんどの原因は俺達じゃねぇ!!叱るのならそっちをしかれという話だ!!」

 

 

 どれもこれもあの恐ろしいふんどし少女がしでかしたことに原因があるんだ!だから僕らは完全に被害者じゃないかっ!

 

 

「訳のわからんことをぬかすな!とにかく、詳しい話を生活指導室で聞かせろっ!しっかり説明するまで帰らせんぞ!!」

 

「ふざけんじゃねえ!むしろ褒められたいところなのに、なぜそんな地獄に落ちなきゃいけねえんだ!!」

 

「そうですよ!少しは褒めてくれたっていいじゃないですか!!」

 

「そうよそうよ!!先生は褒めてあげるってことも知らないの!?だったらアンタはやっぱりバカなのよさっ!!」

 

 

「ええいゴチャゴチャとやかましいっ!貴様ら、今度という今度は説教だけで許さんぞっ!!」

 

「くそっ!この脳筋教師め!!逃げるぞ明久、チルノ!」

 

「了解っ!」

 

「逃げるぅ!?バカ言わないで!最強のアタイが逃げるわけな、はぎゃああああー!?」

 

 

 さっそく捕まったバカチルノの断末魔の叫びを聞きながら、僕達は全力でそこから走り去った。

 

 

 でも必死の逃亡もむなしく僕達もチルノと同じ運命をたどり、拳骨を受けながらも事情の説明をすることに。くそぉ、僕達は何も悪くないのに…!

 

 

 

 

 

「………高橋先生が嘆くわけか……はぁ……」

 

 

 話を聞いた鉄人は、すごく深いため息をついて頭を抑えた。

 

 

 

 

 後日。鉄人が博麗さんをお呼びして話をしたみたいで、生徒指導室から廊下に出てきた博麗さんの頭には、大きなリボンに負けないでっかいたんこぶが出来ていたんだとか。

 

 そんな博麗さんを目撃したAクラスの皆は笑いを我慢することが出来ず、怒り暴れる博麗さんを召喚して大騒ぎになったそうだけれど、そこはAクラスの話。本当かどうかは分からない。

 

 

 けど、本当ならきっとこんなやりとりをしてたんじゃないかな?

 

 

 

 

 

『ぷっ!あ、あっはははははああはひ、ひ~っ!な、何よ博麗その頭!?わ、私を笑い殺す気!?ぷぷ、あははっはははははははははっ!!』

 

『ゆ、優子!そんな…ぷっ、そんな笑っちゃ…うふふ…!笑っちゃダメ、ア、アハハハハハハ!!』

 

『……2人と、も…っ。笑っちゃ…笑っちゃ…失礼……くふ…っ!』

 

『くっ…!れ、霊夢ったら、すごいたんこぶね…ふふふ…っ!』

 

『れ、霊夢……そ、その……か、変わった格好、ね?で、でもそんな変じゃないわ!だから気にすることなんかな―』

 

 

『ぬぁあああああああっっ!!あんたら全員そこで神妙にしろぉおおおおおお!!!』

 

 

 





 お読みいただきありがとうございました!うん、今回も今回でやらかしちゃった感がありますけれども、にぎやかに明るく終われたのではないでしょうか?


 プールと言えばポロリが物語でのお約束!というわけで台風霊夢さんに水着はがしという同性として無慈悲すぎる攻撃を行っていただきました。最終的には因果応報で自分もなったようですが、もはや博麗さんのキャラクターが断トツで濃い気がしなくも・・・。

 そんな霊夢さんに鉄人先生がげんこつを炸裂させてプール回は終了となりましたが、改めて急に話をまとめて申し訳ありません!
 
 次回からは強化合宿編を書いていくと思いますが、まだ文章が出来あがっていない状態ですので、少し間が空いてからの投稿となるかもしれません。どれくらいになるかは分かりませんが、楽しみにして待っていただければ幸いでございます!


 それではまた次回っ!感想や思ったことなんか遠慮なく送ってください~!

 


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モラルなんざ捨て置けいっ!仁義なき強化合宿編!
手紙―中身、を気にするのは人の性だぜ



 どうも、村雪です!少し間が空きましたが投稿をさせていただきますね!

 さて、今回から強化合宿編に入るのですが、今回の投稿は導入部分的な感じとなりますので短めとなっております!ゆえに楽しめる部分がないかもしれませんが、読んでもらえれば幸いです。
 
それでは、

―――ごゆっくりお読みください。


 


 

 

「う~ん……今日もいい天気だぜ」

 

 

 おっすお前ら。自称ならぬ周称『恋に生きる女』で有名な美少女、霧雨魔理沙(きりさめまりさ)ちゃんとは私のことだぜ。

 

・・・ん、なに?周称なんて言葉がないだって?そんなもん見て感じるんだ。恋に理屈は通じないんだから、私にも理屈は通用しないんだぜ。なんせ私は恋の化身だからな!!(※始まって早々、なるほど意味がまったく通じませんね)

 

 

 そんな私がえっちらおっちら歩いているのは、私の通う高校、文月学園までの通学路。毎日家から遠くない距離を歩くわけなんだが、さすがに二年近くも歩いてりゃ~女の私でも慣れて来る。おかげさまで人並みの体力は付いたんだぜ。

 

 

「む、おはようなのじゃ魔理沙」

 

「おっ、秀吉じゃないか。おはようだぜ!」

 

 

 下駄箱で靴を履き替え、さあ階段をあがるかってところで声をかけてきたのは、私と同じFクラスに所属している男子の木下秀吉だ。すげージジ臭い話し方をするのが特徴なんだが、それ以上に際立つのがその顔つき。

 

……う~ん、男子って言った私が言うのもなんだが、完全に女の顔なんだぜ。そこら辺の女子にも負けてないんじゃないか?でも、私の方が可愛さでは勝ってるけどな!

 

 

「む?わしの顔になにかついておるか?」

 

「いやなに。秀吉の顔が相変わらず可愛いなって思っただけだぜ」

 

「じゃ、じゃからわしは男じゃと言うておろうがっ!可愛いなどと言うな!!」

 

 

 そうやって怒る顔もまた可愛いから手のつけようがないんだよな~。吉井たちが秀吉を女扱いする気持ちが分かるぜまったく。

 

 

「ところで、秀吉は明日からの合宿の準備はばっちりか?ついうっかり忘れ物なんてのはつまらないぜ?」

 

「は、話を逸らしおってからに…むろん準備万端なのじゃ。学力向上が目的なのじゃが、明日からが楽しみじゃのう」

 

「だな。あ~早く明日になってほしいぜ!!」

 

 

 強化合宿と言って、四泊五日という長い期間を文月学園が持つ旅館か何かで過ごすという、この学校の中でも有名な行事の一つが明日からあるわけだ。

 

 秀吉の言う通りあくまでこれは学力を高めるための学習イベントなんだが、友人やクラスメイトと一緒に何日も過ごすなんて言われたら、いくら勉強漬けでもテンションが上がるってもんじゃないか!!

 

 

 

 

……し、しし、しかも!そその中には、ア、ア、アイツがいるわけで……!わ、私と同じで楽しみにしてる、よな?よなっ!?

 

 

 

 

「ふむ…アリスも楽しみにしておったぞい?昨日の部活で話したのじゃ」

 

「ふぁっ!?な、なんでそこでアリスが出て来るんだよ!?私何も言ってないぞ!?」

 

 

 こいつエスパーだったのか!?私の心の声をドンピシャにあてやがったぜ!

 

 

「何も言っておらぬが、思い切り顔に出ておるのじゃ。いやはや、アリスが関わるとお主は明久と同じくらい分かりやすいのう」

 

「いっ、言うに事欠いてあの大バカ吉井と一緒だと!?いくら秀吉でもそれだけは聞き逃せねぇ!」

 

 

 少し可笑しそうに言う秀吉だけど、私にとっちゃあなんも面白くない!!あれほどアホで鈍くて罪づくりな天然男子と一緒にされたら私のプライドが傷つくぜ!私はあいつみたいにアホなことなんて一回もしてないんだからよっ!

 

 

 

「ちょっと!誰が大バカ吉井なのさ魔理沙っ!?」

 

「む?」

 

「ん?」

 

 

 すると、実にタイミングよく・・・いや、悪く入って来た元気のいい声が。

 

 振り向くと、話題の主にして、いかにも天然そうな顔つきな男子である吉井明久が、不満一杯の表情で私らのもとに速足で近づいてきやがった。まだ朝早いというのに、相変わらず元気がいいやつだぜ。

 

 

「お、吉井か。おっす」

 

「おっすじゃないよ魔理沙!僕がいないと思って、僕のどこが大バカなんだよ!?いたって普通の男子高校生じゃないか!」

 

「普通の男子高校生は何度も生徒指導室に呼ばれてゲンコツを受けたりはしないぜ」

 

「あれは鉄人がおかしいんだよ!僕はただ、学校で許されてないゲームをバレないようにしながらやったりしてるだけなのに!それに気付く鉄人が悪いんだっ!」

 

「先生に罪を擦り付けたなこいつ」

 

「しかも自分の罪を本当に理解していない分、たちが悪いのじゃ」

 

 

 これを普通だと言い張る吉井はやっぱりアホだと思うんだぜ。

 

・・・いや、別にこいつをバカにしてるわけじゃないんだぞ?ただまあ一番にあがる特徴が『アホ』かなって言う話で。吉井にも良いところがあるってことを私はちゃんとわかってるからな?

 

 

 

「しかし明久、今日は一段と早いのじゃな。いったいどうしたのじゃ?」

 

 

 Fクラス前に到着し、Fクラスのおんぼろドアを開けながら秀吉が吉井にたずねた。そう言えば吉井っていつもチャイムギリギリで教室に入ってきてたな~。だというのに今は時間に余裕をもって登校してきてるけど、まさかこれから雪でも降るんじゃないだろうな?天変地異なんかごめんだぜ。

 

 

「ああ、今朝はなんか早くに目が覚めちゃったんだ」

 

「なるほど、さては明日からの強化合宿で浮かれているのじゃな?」

 

「あはは、そうかもね」

 

「あ~。私もその気持ちが分かるな」

 

 

 私も今朝は少し早くに目が覚めたからな。悔しいがその純真さだけは吉井と一緒みたいなんだぜ。

 

 

「わしもじゃ。皆で泊りがけで行くものじゃから、すごく胸が躍っておるぞい」

 

「だよな~。私も胸が弾んでやがるんだぜ!」

 

「やだなぁ2人とも。胸がって言うほど大きくないくせに」

 

「おう、ちょっくら面貸せや吉井。お前の顔面を見間違えるくらい大きくしてやるぜ」

 

「落ち着くのじゃ魔理沙。きっと明日の合宿をそれだけ楽しみにしておるのじゃろう。じゃからその固く丸めた教科書はかばんにしまってやるのじゃ」

 

 

 1つだけでもこいつと同じって認めた私が憎いんだぜ、まったく。

 

 まあここは心の広い私だから許してやるけど、やっぱり吉井と一緒くたにされるのは金輪際ごめんだ。私はここまでセクハラまがいの言葉を吐いたことがない!せいぜいからかいの言葉だけだ!!(……どっちもどっちですね)

 

 

 

「でも四泊五日なんて、修学旅行みたいでやっぱり楽し――――っ!?」

 

 

「?おい、どした吉井?」

 

 

 言い切る前に突然息をのんだ吉井。その顔はさっきまでと打って変わって、衝撃の色がありありと浮かんでやがる。何かあったのか?

 

 

「ん?どうしたのじゃ明久」

 

 

 

「What’s up, Hideyoshi, Marisa? Everything goes so well… 」

 

 

「異常事態じゃな」

 

「吉井。何があったか聞いてやるんだぜ」

 

「どうしてわかったの!?」

 

 

 逆にそれで気づかれないと思ってたのか・・・私は吉井の将来が少し心配になってきたんだぜ。

 

 

「そりゃ分かるだろ。見れば一発だ」

 

「さ、さすが魔理沙と秀吉…。僕の完璧な演技を一瞬で見破るなんて……」

 

「いや、演劇以前に言語の問題なのじゃが…」

 

「大根役者もいいところだな」

 

 

 良くも悪くも吉井は隠し事が下手だからなー。でもま、正直ってことだからそっちの方が私としては良い気がするけども。

 

 

「え、ええっと…とにかく!大したことじゃないから2人とも、見なかったことにしてくれない?」

 

 

 さすがに吉井もごまかしは不可能だって分かったみたいで、手を合わせながら私たちにそんなお願いをしてきた。え~、そう言われてもな~…

 

 

「そもそも何があったんだ?私はそれが気になって仕方ないんだが」

 

「え…え~~っとね~~~~……」

 

 

 

 私の好奇心溢れる反応に吉井は視線を逸らすのみ。ふむ、そんなに言いたくないことなのか………なおさら知りたくなったぜ。

 

 

「おい吉井~。そういうことは誰かに相談した方が楽になるもんだぜ?だからここはお話大好き魔理沙ちゃんに話してみな。な?」

 

「そ、そんな顔をされて言われても、話したくなるどころかもっと話したくなくなるよっ!!」

 

「確かに、どう良く見ても話を秘密にする顔ではないのう…」

 

 

 心外だぜ。別に私は内容を聞いても言いふらしたりなんかはしない。せいぜいその話で本人をからかったりするだけだ。

 

 

「…む?明久、その手にある封筒はなんじゃ―――」

 

「!!じゃじゃじゃあ頼んだよ2人ともっ!!それじゃっ!」

 

「あ、おい!!」

 

 

 しかしそれは叶わず、脱兎のごとく吉井は教室から走り去っちまった。やれやれ、カバンくらい置いてきゃいいのにどれだけ慌ててるんだか・・・。

 

 

 とまあそれより、だ。

 

 

「秀吉、封筒ってなんだ?」

 

「ああ、明久の手に小さな封筒が握られておったのじゃ。ひょっとするとそれが原因かものう」

 

「ほー。封筒ね~」

 

 

 そんなものはここにくるまで持っていなかったな。たぶん教室に入ってから手に入れたんだろうけど、それがどうしたってんだ?他言するなって言ってたからたぶん人に知られたくないものだろうけど…

 

 

「まあいやな物ではないのじゃろう。明久も少し明るい顔になっておったからの」

 

「へー。分かるもんなんだなそういうの」

 

 

 演劇をやってるみたいだけど、そういうところが鍛えられるものなのか?…いや、ただ秀吉が凄いだけか。だってそれだったら同じ演劇部のあいつも目聡くなるはずだもん。相も変わらず鈍感な友人のままだし……

 

 

 

 

「…ん?待てよ?封筒……中はたぶん手紙……吉井明るい…………って!まさか中身はラブレターかっ!?」

 

 

 

 ザワッ!

 

 

 

『おい…聞いたか今の?』

 

『ああ、確かラブレターって…』

 

『まさか、霧雨か木下がラブレターをもらったって言うのか?』

 

『ああ?ざけんじゃねえ。いったい誰に許可をもらってそんなナメたことやってやがんだ…!』

 

『誰だその男の風上にも置けねえやつは。今すぐおれが返事を暴力で返してやらぁ…!!』

 

『探せっ!その悪魔の手紙を送ったカス野郎に世の中甘くねえと身を持って教えてやるんだ!!』

 

『『うおおおおおおおっ!!』』

 

 

 

「おっといけねえ。このクラスでその言葉はタブーだったんだぜ」

 

「なぜわしが男に告白されたようになるのじゃ。そこはせめて女子じゃろうに…」

 

 

 私もそうだけど、うちのクラスの男子はこういう話にものすごい目がないからなー。もらい主が違うだ性別が違うだと私たちが何を言っても、こうなったら耳を貸す連中じゃないから自然鎮火するまで放っておくのが一番だぜ。

 

 

「しかし、しまったな。今からでも吉井を追いかけて中身を見に行くか」

 

「あれほど知られたがっておらんのじゃから、ここは一つ我慢してやろうぞい。明久もきっと喜ぶのじゃ」

 

「ん~。私は吉井に感謝されるより手紙を見れる方が嬉しいんだけどなー」

 

 

 つってもまあ、秀吉も友人である吉井のことを思って止めてるんだから、今回だけは見逃してやるか。私と秀吉に感謝するんだぜ吉井?

 

 

 

 

「んじゃ、このことは吉井が帰ってきてから聞くとするかね…っと、ん?」

 

 

 パサリと、荷物をロッカーに入れようとした時に何かが私の足元に落ちてきた。ん?なんだ?

 

 

 

 

・シンプルで飾りっ気のない封筒

 

 

「……ん?」

 

 

 封筒?あれ、私こんなもの入れてたっけ?

 

 

「どうしたのじゃ?」

 

「あ、いや。なんか封筒が入っててさ」

 

 

 拾って確認しても両面に名前はナシ。そんな封筒を見て秀吉は目を丸く。

 

 

「む?明久が持っておった封筒と同じじゃな」

 

「へ?そうなのか?」

 

 

 なんで吉井のと同じ封筒が……まさかっ!?

 

 

「あれかっ!?私にもラブレチャーが来たってことだぜ!?」

 

「いや、それはないじゃろ」

 

「な、なんでだよ!?吉井と同じ封筒ってことは中身も同じだってことだろ!?」 

 

「じゃが、その中身がまだ分らんのぞい。それに百歩譲って恋文にしても、明久と同じタイミングで別の人物にも送るというのは、倫理的にどうなのじゃ?」

 

「うっ……ま、まあ、中身を見るか。それで何かはすぐにわかるぜ!」

 

「ま、まあそうじゃが・・・」

 

 

 呆れとも可笑しがってるとも見える秀吉の笑いを横目に、私はびりびりと封筒の口を雑に破る。べっ、別に慌ててるわけじゃないからな!?あまりないことに少しだけ興奮してるだけだ!ラブレターぐらいもらったことがある(と思う)私を振り回そうなんざ百年早いぜ!

 

 

・・・で、でもまあ、私が可愛いからってラブレターで告白してくるとは可愛い奴だぜ。

 どこの誰かも知らないし、それに応えることも出来ないが、お前の気持ちはしかとこの胸に刻み込ませてもらうんぜ!ふふふふふ~ん・・・!

 

 

 

 

「え~っと、どれどれ……(ガサガサ)」

 

 

 

 

 

 

 

『あなたの秘密を握ってます。これをばらされたくなければ、あなたの傍の■性(間違えたのか、黒く塗りつぶされている)にこれ以上近づかないでください。

 

 

 

 

 P.S. 絶対に負けません。  』

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 ふむふむ。これまたシンプルな脅し文だな。

 

 

 

「―――ってなんじゃこりゃぁあああああああっ!!」

 

 

『最悪じゃあーーーーっ!!』

 

 

 

 私とどこかから聞こえる吉井の絶叫が空へと吸い込まれていった。どうやら喜びとは正反対の感情で、この思いの詰まった手紙を胸に刻み込むことになりそうだぜ・・・

 

 

 

 

 

 






 お読みいただきありがとうございます!魔理沙、恋文じゃなくて残念、そしてすまないんだぜ・・・!


 以前から、『この合宿の時に男子と女子の強さに差がありすぎでは?』という質問をされていたのですが、『男子が足りないのならば女子陣から連れてくればいいじゃない!』と村雪は考えまして、魔理沙にも明久と同じ立ち位置になっていただきました!

 なので今回は、もしかしたら美鈴さんよりも魔理沙が活躍する章となるかもしれません!むろん美鈴さん達にも出てもらうのですが、さてさてどうなっていくのやらや・・・

 まだまだ展開を考えてはいないのですが、皆さんが楽しめるような物語を目指していきたいところですね!

 それではまた次回っ!


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隠し事―弱み、を握るならそこをつくのが一番です!?

 どうも、村雪です!

 今回はいつも通り、美鈴さん視点での文となっております!しばらく魔理沙視点はお休みになるかもしれませんが、その時を待っていただければありがたく存じますっ!

それでは。

―――ごゆっくりお読みください。


 

「あの、吉井君と魔理沙は何かあったんですか?」

 

「あ~。明久は分からぬが、魔理沙については……まあ、うむ」

 

「な、何かがあったわけですか。まあ、じゃないとあんな風にはなりませんよね」

 

「………ものすごく辛気臭いな…」

 

「ですね妹紅(もこう)さん。いつもの2人の顔とはかけ離れてますよ」

 

 

 

 いつもと変わることなく迎える朝。

 

 居候兼妹の一人である、雪のように白い髪の毛が素晴らしい藤原妹紅さんと一緒にFクラスに入った私、紅美鈴の目に留まったのは、沈んだオーラを出す吉井明久君と、これまた深いため息を連発している霧雨魔理沙の2人。

 

 いつも元気な2人だけに違和感が強く、周囲の皆さんも気にした様子で二人をチラチラ見ているでありますよ。

 

 

 

「……でも、あの方が静かで助かるかも……」

 

「藤原(ふじわらの)。それじゃと明久と魔理沙の人格が否定されとるのじゃが…」

 

「…………い、今のは秘密で…」

 

「こやつ本気で否定しておったのじゃ!?」

 

「ち、違いますよ秀吉君!ただ妹紅さんはもう少し静かにしてほしいな~って思ってるだけですよ!ねぇ!?」

 

「そ、そうっ。………別に、体に思い切りくっつきながらからかってくるのをやめてほしいとか、変なことをやって先生に拳骨されて授業が進まなくするのはやめてほしいなんて思ってない」

 

「…いや、それは思って正解だと思います」

 

「…すまん。あやつらの友人として心から謝罪させてもらうのじゃ」

 

 

 後者に関しては、このクラスの大半のメンバーも原因ですね。ほとんどが先生の拳骨を一度は受けたことがあるのではないでしょうか。

 

 まあそれはともかく、今の吉井君達の沈み込みようには興味をひくものがあります。さっそく本人に聞いてみましょう。

 

 

「吉井君。いったいどうしたんですか?」

 

「まったくじゃ。何があったのじゃ?」

 

「べ、別になんでもないよ。あははっ」

 

「は、はあ……」

 

「……あんた、ウソ下手だな…」

 

 

 妹紅さんの言う通りです。ごまかしてるつもりなんでしょうけど、むしろ『僕は今隠し事をしてるよ~』って伝えてるようにしか思えません。

 

 小学生でももっと上手くウソを隠せるような気も・・・・あ、しませんね。だってレミィとフランはあわあわしたり視線をおろおろさせますもの。うん、可愛い!

 

 

「ウソでしょアキ。さっき窓からアキの叫び声が聞こえたし、何を隠してるのよ?」

 

「お、美波さん」

 

「あ、おはよう美波」

 

 

 新たに話に入って来たのは、ポニーテールと活発的な顔がグッドな島田美波さん。どうやら吉井君に何かあったときには学校にいたみたいですが、窓からって。いったい君はどこで叫びをあげたのですか。

 

 

「おはようアキ、美鈴、妹紅、木下。で、アキは何を隠してるの?」

 

「や、やだなあ美波。僕は別に何も隠してないよ?ほら、僕のこのウソ一つ見当たらないキレイな眼差しを見て?」

 

「・・・うん。瞳がウソ一色で塗りつぶされてますね」

 

「ウソばっかりじゃないそれ」

 

「表情だけでなく瞳にもウソが出ておるのじゃな……」

 

「……すごい分かりやすいな」

 

「ウソォッ!?」

 

 

 それは本当ですよ吉井君。私たちはそんな彼を見て呆れて笑うことしかできませんでした。

 

 

「で、アキ。何をそんなに必死で隠そうとしてんの?そろそろ言ってくれてもいいじゃない」

 

「み、美波本当だって!僕はウソなんか付いてないよっ!?」

 

「まだウソを諦めんのじゃな」

 

「吉井君も意地っぱりですね」

 

「もう、なんでそんなに言いたがらないのよ?・・・そんなに大事なものなの?」

 

「そ、そうなんだよっ!だからあんまり見せたくないというか…!」

 

「やっぱり何かあるんじゃない」

 

「思い切り自爆しましたね」

 

「そこは持ってないの一点張りで良かったじゃろうに・・・」

 

「はっ!?ずっ、ずるいぞ美波!!」

 

「今のはあんたが悪いだろ……」

 

「アキ。いったい何を隠してるの?あんまり言わなかったらどうなっても知らないわよ?」

 

 

 うまく言質を取った美波さんはさらに吉井君へと詰問します。ここまで秘密にされたら気になってしまうのが人の性。私も秀吉君も、そして妹紅さんまでもが気になって吉井君に先を言ってと目で訴えます。さあ、いつまでも黙って苦しまずに言って楽になりましょうよ!魔理沙みたいに悪いようにはしませんから!!

 

 

 

「う………………じ、実はね?僕宛てに手紙が来たんだよ」

 

 

『手紙?』

 

 

 私たちの雰囲気にとうとう観念したらしく、吉井君は静かに、だけど私たちには良く聞こえる声で何があったのかをつぶやきはじめました。

 

 

「手紙……って。まさか、またラブレターをもらったのアキ!?」

 

 

 ドスドスドスッ!

 

 

「ひぃ…っ!?」

 

「美波、もう少し声を小さくしよう。周りの皆がラブレターと聞いてカッターやコンパスの針を畳に突き刺し始めたよ?」

 

「こら皆さん!!妹紅さんが怯えてるからさっさと凶器をしまいなさい!!」

 

 

 このクラスの男子はクラスメイトの幸せを心から憎むのが常識なのだとか。だからと言ってこうも犯罪行為をいとわないとは・・・相も変わらぬクラスメイトの行動に私は深くため息です。はあ~・・・

 

 

「どうなのアキ、やっぱりラブレターなの?」

 

「ち、違う違う!僕も最初はそう思ったけど違ったんだ!だからそれ以上ラブレターって言わないで美波!そろそろ僕の命が危うい!」

 

「じゃあなんのお手紙だったんですか?」

 

 

 背後で物騒な道具をこれでもかと準備し始めたおバカ達に警戒しつつも、私は質問します。

 このままだと、前に吉井君がラブレターをもらった時と同じ事態になりそうですからねー。私はもうクラスメイト担ぎも保健室運搬も鼻血浴びるのもこりごりなんですよ!だから早く何の手紙かはっきり言ってやってくださいな!

 

 

 

「え~と、実は、僕がもらったのはきょ……」

 

 

「・・・『きょ?』」

 

「『きょ』、何よ?」

 

 

 なぜか二言で固まる吉井君。『きょ』、『きょ』…………まさか、『脅迫文』とか言いませんよね?私の頭は『きょ』で始まる手紙はそれしか思い浮かばなかったのですけども……。

 

 

 非常に不安に思いつつも、吉井君からの答えを待つこと数秒。

 

 

 

 

「きょ………競泳用水着愛好会の勧誘文だったんだよ!」

 

 

「相変わらず私の常識をぶっ壊しますね君は!?」

 

 

 いったい何があればそのようなところから手紙をもらうことになるのか。多分ウソでしょうけれど、ウソをつくにももっと別のものがあるでしょうが!逆に正直に言うより事態が悪化しませんか!?主に吉井君の人格についての方面で!

 

 

「ほ、本当なのアキ?」

 

「も、もちろん本当さっ!」

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

 ほら、さっそく美波さんの顔がひきつってますよ。ああ、彼女の中で吉井君の評価が……

 

 

「ア、アキは入会するつもりなの?」

 

「ま、まあねっ!前から気になってたんだ!」

 

「へ、へ~………。ちなみに、競泳水着のどのへんに興味を持ったの?ふ、普通の水着じゃなくて競泳水着だなんて…」

 

「そ、それは……………密着具合かな」

 

「君は変態ですか」

 

「うわ、きも……」

 

 

 とうとうおとなしい妹紅さんからもダメ出しが入りました。虫けらを見るような彼女の目の中では、季節外れのブリザードが発生している模様です。

 

 

「まあ待つのじゃ美鈴、島田、藤原。こやつの言っとることは十中八九ウソじゃぞい。明久にそんな趣味はない……と思うのじゃ」

 

「ええっ!?すごいリアルなウソだったから危うく騙されるところだったじゃない!」

 

「傷ついたっ!美波と秀吉に少しでも僕が競泳用水着に興味を抱いてるって思われた事実に、涙がこぼれるぐらいに深く傷ついたっ!」

 

「ま、まあまあ吉井君。個人の趣味は個人の自由です。ですからたとえエッチな趣味でもダメということは―」

 

「そのフォローは僕をよりはずかしめてるよ美鈴さん!ぼ、僕は人に言えないようなスケベな趣味は断じて持ち合わせてないからねっ!?」

 

 

「ウソですね」

「ウソじゃな」

「ウソね」

「…………」

 

「皆なんて大嫌いだっ!あと藤原さん!せめて何か言葉をっ!黙ってごみを見るような目は精神的にきついから、出来たら温かい言葉でのコミュニケーションを僕は所望するよっ!」

 

 

 いや、この状況で温かい言葉は無理でしょう。良くてぬるめ、悪ければ氷点下の言葉に間違いないです。どうやらそのどっちも妹紅さんはしないみたいですけれども。

 

 

「で、結局その手紙はなんだったんですか?」

 

「そうよアキ。そろそろ言ってくれないと本当に怒るわよ?」

 

 

 そして話はふりだしに。美波さんもウソをつかれたとあって少し不機嫌そうです。まあここまで引っ張られたらどうしても聞きたくなりますよね~。私も最悪実力行使をしてでも知る気満々であります。

 

 

 そんな私たちに、とうとう吉井君は観念しました。

 

 

「う…う、うん……実は今朝、僕あてに脅迫文が届いたんだ」

 

『脅迫文?』

 

「は、はあ・・・そうなんですか……」

 

 

 まさかの予想大当たりでしたよ。ドラマとかでしか見ないであろうものをこの目で拝む日が来るとは、ついているのやら不運なのやら・・・。

 

 

「アキ、それって誰から?なんて書いてあったのよ?」

 

「えっと、誰からなのかは分からないけど、これには『あなたのそばにいる異性にこれ以上近づかないこと』って書いてあるね」

 

「異性に近づくな・・・ですか」

 

「……なんだ、その脅し…」

 

 

 心配6割、犯人への怒り四割な表情の美波さんの確認に、ポケットから紙を出して吉井君は答えました。ええと、妹紅さんは要求の意図が掴めなかったようですけれども、要するに女の子と関わっちゃダメってこと、ですよね?

 

・・・私、妹紅さん、美波さんの三人とこうやって会話している時点でその要求は蹴ったことになる気がしますけど、相談ということでセーフと願いましょう。

 

 

「ふむ、その文面から察するに、手紙の主は明久の近くにおる異性に対してなんらかの強い意志を抱いておるな。つまり――」

 

「うん。手紙の主はこのクラスにいる女子、つまり姫路さん、美波、秀吉、美鈴さん、藤原さんと魔理沙の誰かに好意を寄せているヤツだってことが分かる」

 

 

「なぜそこでわしが出て来るのじゃ」

 

「チルノの名前がなかったわよ」

 

「性別の扱いが見事に逆ですね」

 

「……もう、わざとじゃないのかそれ…?」

 

 

 いや、このおバカはたぶん本気ですよ妹紅さん。それだからなおさら困ったものなのですよ~。

 

 

「で、吉井君。脅迫されてるという話ですけど、どんなネタで脅されてるのですか?」

 

「あ、そういえばまだ知らないや。なになに、『この忠告を聞き入れない場合、同封されている写真を公表します』か。写真って、こっちの封筒に入ってるやつかな?」

 

 

 ワンサイズ小さい封筒を中から取り出し、吉井君は中身を取り出しました。

 

 すると、中から出てきたのは三枚の写真。吉井君はさっそく一枚目を確認します。

 

 

 

 

「こ、この格好は・・・っ!?」

 

「あらまあ。いつの間にこんな格好を?」

 

 

 写っていたのは、白い前かけが映えているメイド服姿の吉井君。・・・い、意外と似合ってますね・・・もしかして私よりも可愛いんじゃ!?おのれ!私の敵は秀吉君の他にもいたのですかっ!!

 

 

「前の学園祭のとき、Aクラスに行った時のものじゃな。こうして見るとやはり似合っているのう」

 

「そうね。アキ、なかなか似合ってるじゃない」

 

「ほ、褒められたって全然嬉しくないよ2人ともっ!褒めるならもっと他のところを褒めてよ!?」

 

「……でも……似合ってる気がする……」

 

「藤原さんもっ!?」

 

「ですよね~。これなら女子制服を着ても違和感はなさそ・・・はいウソです!今のはジョークですからそんな信用していた人に裏切られたみたいな泣き顔はやめてください!?」

 

「うう…ひどいよ美鈴さんまでっ!男である僕を女の子みたいに扱うだなんて!君のことを信じてたのに!」

 

「普段秀吉君のことをどう扱ってるのか思い出しましょうか!?」

 

「まったくもってその通りじゃ!!」

 

 

 美波さんと妹紅さんもコクコク。まったく、さんざん秀吉君を女の子扱いしている君がいったいどの口でそれを言えるのでしょうか!?

 

 

「う……じゃ、じゃあ次の写真に行こうか!さあめくるよ!?」

 

「……逃げた……」

 

 

 妹紅さんの言う通り、吉井君はごまかすように2枚目の写真をめくります。

 

 

 

「……って、うわぉ」

 

「……うわ………(スッ)」

 

「ア、アキの………っ!(カアァァ)」

 

「パ、パンツが見えておるのう」

 

 

 2枚目の写真には、メイド姿の吉井君のスカートがめくれて青いトランクスが見えている瞬間が写されていて、思わず妹紅さんは目を逸らし、美波さんは顔が赤くなっちゃいます。それほどあらわになっているわけではないのですが、青色というのが目立ってしまい、非常に目が行きやすく……ん?

 

 

「――だからセーフ、トランクスだからセーフ、トランクスだからセーフ、トランクスだからセーフ……!」

 

「ア、アキ!?ちょっと!大丈夫なの!?」

 

「お、落ち着くのじゃ明久!大丈夫ならば自我をしっかり保つのじゃ!!」

 

「だ、大丈夫です吉井君!見えてると言ってもほんのちょっと見えてるだけで、それほど致命傷ではありませんっ!」

 

「少しでもパンツが見えてるのが問題なんだよっ!たくましい美鈴さんには分からないだろうけど、僕にとってはこれでも生き恥になるんだ!!」

 

「フォ、フォローしてあげてるのに誰が恥じらいなしだコラァッ!?」

 

「ま、待つのじゃ美鈴!そこまで明久は言っておらん!ただし、し、下着を見られても気にしないと――」

 

「気にしますよ!?パンツやブラジャーを見られたら当たり前に気にしますからねっ!?」

 

 

 私って変態か何かと思われてるの!?ちゃんと吉井君以上に女の子としての恥じらいを持っとるわ!

 

 

 

「……この前、風呂上がりで暑いからってずっと下着でいたのに……」

 

「え、そうなの妹紅?」

 

「……(コク)。あいつの言ってること……あながち間違ってもない」

 

「へー。ま、ウチも少しの間そんな恰好で家の中にいた時もあったわね~」

 

「……ふーん……」

 

「妹紅さんっ!プライベートな話を勝手に暴露しないで!?」

 

 

 あ、あれは仕方なかったんです!!母さんは熱~い風呂が好きで、私はそのあとに入ったからすごく火照ってたんです!け、決して涼しいからとか良いわ~とか、家の中だしまあいいや~なんてことは思っていません!

 

 

「あ、ああもう!その話はもうやめて最後の一枚を確認しましょう!これ以上騒ぐと怒りますよ!?」

 

「「……逃げた(わね)」」

 

「そういうところがたくましいと言われるのではなかろうか……」

 

 

 逃げてません!一枚目二枚目と過激な写真の最後がどんなものかが気になっただけです!あと秀吉君!そういうところってどこですか!私は言いたいことを言ってるだけです!(※ですから、『そういうところ』です)

 

 

「う、うん。じゃあ最後の一枚を……(ピラッ)」

 

 

 吉井君は私の急かしに応え、最後の一枚をめくりました。

 

 

 

 

「………あ~」

 

「こ、これはちょっとウチも………」

 

「なんと……」

 

「………うわぁ……」

 

 

 

―――そこに映っていたのは、着替え中なのか着崩れた状態のメイド服姿で、ブラジャーを持って立ち尽くしている吉井君。

 

も、もはや変態以外の何者でもねぇ・・・!

 

 

「もうイヤァァアアアァアアアア!!」

 

「お、落ち着くのじゃ明久!着替えは誰でもするし、メイド服ぐらい誰でも一度は着るものじゃ!!」

 

「いや私は一度も着たことがありませんよ!?そして今気にするところはそこでありませんよね!?」

 

「ちょ、ちょっとアキ!周りの皆が見てるから、いったん落ち着きなさい!!」

 

「見ないで!こんなに汚れた僕の写真を見ないでぇー!!」

 

「……こ、こっちだって見たくない……!」

 

 

 決定的瞬間を撮られた吉井君の胸はいかほどか。私たちは取り乱す吉井君を必死になだめました。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。なんて恐ろしい威力だ。これは僕を死に追い詰めるための卑劣な計略と言っても過言じゃない……」

 

「だ、大丈夫よアキ。アキが変なことをやるのなんて皆知ってることなんだから、メイド服ぐらい誰も気にしないわ」

 

「待った美波!僕がいつも変なことをやるというのは認めないでもないけど、そこにメイド服を着るなんて変態な行為を加えないで!!僕だってこれを着たのは炭酸をなめる気持ちだったんだっ!!」

 

「……炭酸?」

 

「おそらく、〝辛酸(しんさん)をなめる〟のことですね」

 

「味わったものがじゃっかん薄くなっておるのう」

 

「……つらさが減ったな」

 

 

 まあ言いたいことは伝わるんですけどね~。吉井君、今度から熟語の勉強も頑張りましょう!

 

 

「みっ、みっ……皆さん、おはようございま、すっ…」

 

「おっすあんた達!なんの話をしてんの?」

 

 

 そんなことを思っていると、なぜか息の上がった声と、元気溢れる声が私たちにかけられました。

 

 

「あ、おはようございます瑞希さん、チルノ」

 

「お、おはよう姫路さん!って、なんだか辛そうだけど大丈夫?」

 

「あ…は、はいっ。ちょっとそこまで……」

 

「ちょっと!?アタイに挨拶をせずに無視するなんて、良い度胸ねバカよしーっ!」

 

「誰がバカよしーだよ!今は姫路さんの体調の方が心配なんだから仕方ないじゃないか!あとでチルノには挨拶をしようって思ってるんだからむしろ感謝してほしいねっ!」

 

「はっ!誰がバカよしーに感謝するのよさ!バカよしーに感謝するなんてアタイのブラインドが許さないわ!!」

 

「それを言うなら『ブラインド』じゃなくて『プライド』だよ!このバカチルノッ!」

 

「だっ、誰がバカよさぁあああ!?」

 

「君のことだこのバカチルノがあああ!!」

 

 

 

「はぁぁぁぁ……2人は相変わらずですね」

 

「明久もチルノもバカという言葉に過敏じゃからのう。やむを得んのじゃ」

 

 

 吉井君とゴングを鳴らした少女の名前はチルノ・メディスン。すごく小柄で可愛らしい姿からはまったく想像ができないほど活動的な女の子で、一日一回は吉井君と火花を散らし、担任の西村先生からゲンコツをもらっているおバカ問題児の1人でございます。

 

 

「もー、またあの2人は…ま、とにかくおはよー瑞希。今日は遅かったわね?」

 

「は、はい。と、途中で忘れ物に気が付いて一度家に帰ったので、ギリギリになっちゃいました。そっ、そうしたら、途中でチルノちゃんと出会って…」

 

「なるほど、それで一緒に来たってわけか。そりゃ~災難だったんだぜ瑞希」

 

「い、いえっ!チルノちゃんと一緒に来たのはとっても楽しかったです!すっ、少し走るのがつらかっただけで、嫌だったなんてことはありませんよ!?」

 

「ああ、だからそんなに息が荒いんですか」

 

「律儀に一緒に走ってあげたのじゃな」

 

「……相変わらずだな……アンタ…」

 

 

 そういう理由で息を切らす女の子は姫路瑞希(ひめじみずき)さん。体力にはあんまり自信がないと言っていたのに、律儀にもチルノの行動に付き合ってあげる彼女は〝優しい〟の一言に尽きます!このアグレッシブなメンバーが集うFクラスの中において、まさにオアシスのような存在ですね!

 

 

 

「あ、あはは……と、ところで皆さんは何の話をしてたんですか?なんだか集まってるみたいですが……」

 

「ああ、えーとですね……」

 

 

 ふむ。ここは一つ、ただ説明するのではなくて瑞希さんの意見も聞いてみましょうか。ひょっとしたら吉井君も瑞希さんの言葉を聞くと落ち着くかもしれません。まあ、今は別の理由で暴れておりますが・・・

 

 

「瑞希さんは、もしも吉井君のメイド服姿の写真があったらどうしますか?」

 

「え?吉井君のメイド服姿の写真ですか?」

 

「ええ、はい」

 

「う~ん、そうですね・・・・」

 

 

 私の質問に瑞希さんはしばし目を閉じて、少ししてからぱちりと開けます。

 

 

 

 

「もしそんな写真があったら――――とりあえず、スキャナーを買います」

 

 

 そして出てきたのは、失礼ながらも全く理解できない妙ちきりんな答えでした。

 

 

「は?ス、スキャナーですか??」

 

「スキャナーって、パソコンに絵とか写真を入れたいときに使う機械…よね?木下」

 

「う、うむ。概(おおむ)ねそうだったはずじゃが……」

 

「……なんで、ここでスキャナー…?」

 

「ど、どういうこと姫路さん?」

 

 

 私をはじめ、秀吉君達やチルノと取っ組み合いながらも聞いていた吉井君は真意が分からず、頭に疑問符を浮かべながら瑞希さんへと説明を求めます。

 

 

「だ、だって、その―――」

 

 

 視線を集めた彼女は何かが恥ずかしいのか、顔をピーチに、体をもじもじさせながら

 

 

 

 

 

「そうしないと、明久君の魅力を全世界にWEBで発信できないじゃないですか……」

 

「瑞希さんお気を確かにいいいいぃぃっ!?」

 

「……い、一番むごい対応だぞ…っ!?」

 

「あんたいつからバカになったのよ瑞希ーっ!?」

 

 

 

 正気を疑う悪魔の思案を暴露しました。いかん!吉井君を落ち着けるどころかとどめを刺しやがりましたよこの子!?

 

 

 

 

「おおおお!?ちょ、ま、待つのよさよしー!3階の窓から飛び降りたら死ぬわよっ!?」

 

「はやまるでない明久!何も飛び降りをするほどでもあるまいっ!!」

 

「離してチルノ、秀吉!僕はもう生きていける気がしないんだ!」

 

 

 ほらぁ!秀吉君とチルノが必死に窓から体を投げ出そうとしてるのを止めてるし!一度ジャンプをした私が言うのもおかしいですが、このままじゃシャレになりませんよぉおお!?

 

 

「ま、待ってください吉井君!ほら、土屋君!土屋君に相談してみましょう!土屋君ならこの手の話に詳しいですし、事情を説明すれば――」

 

「ムッツリーニに笑われる?」

 

「あ、あるかもしれませんけど違います!説明をして、その写真を盗撮した犯人を見つけてもらうのですよっ!!」

 

「おお!なるほどっ!」

 

 

 土屋君は女子の写真を撮ることに恐るべき情熱を抱いており、そのためならば隠し撮りや盗聴もなんのその!音も気配も消し去ってシャッターチャンスを探すムッツリスケベな彼ならば、きっと吉井君の助けになるはずです!

 

 

……言っておいてなんですけど、あまりにもひどすぎるわ土屋君っ!よくこれまでお縄につかなかったものですね!?

 

 

「ナイスアドバイスだよ美鈴さん!さすがは僕のお嫁さんだ!」

 

「いつ私が君の花嫁になりましたかっ!?」

 

「メ、美鈴?そうじゃったのか?」

 

「そ、そ、そうなんですか、美鈴さん…?」

 

「ああっ、お、落ち着いてください2人とも!?別に瑞希さんの邪魔をする気なんかこれっぽっちもありませんから!今のは吉井君の戯言ですから!」

 

「それじゃ、僕はムッツリーニに相談してくるから!」

 

「ってちょ!?この状況で相談しに行く気ですか君「助けてムッツリーニ!僕の名誉の危機なんだーっ!」……は……」

 

 

 走って輪から抜け出す吉井君。……せ、せめてこの2人の誤解を解いてから行きなさいよぉ!?私に後を任せて丸投げとは良い度胸してやがりますねおいっ!あとで絶対しばいてやりますっ!!

 

 

「メ、美鈴さん説明してください!」

 

「わ、わしは何を言える立場ではないのじゃが、や、やはり興味あるというかなんというか……と、とにかく説明してほしいのじゃ!」

 

「いやですから、私はまったくそんな約束はしてなくてですね……!」

 

 

 薄情物の吉井君への恨みを胸に、私は動揺する二人を元凶の代わりになだめ始めました。

 

 

・・・しっかし、瑞希さんは慌てる理由が分かるのですが、どうして秀吉君までこんなに慌ててるのでしょう?やっぱり俗に言う〝コイバナ〟というやつに興味津々なんですかねー?

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、みなみ、もこー。よしーが窓からジャンプしようとしたり、メイリンがみずき達に話しかけられてタジタジしたりしてて、アタイには何が起こってるのかさっぱり分からないのよさ』

 

『チルノは分からなくていいのよ。チルノらしくいてくれてウチは嬉しいわ』

 

『ねえもこー。そこははかなく、みなみに子ども扱いされてる気がするのはアタイだけかしら?』

 

『…それを言うなら「そこはかとなく」だろ…………色々と、巻き込まれるな……あいつ……』

 

『妹紅の言う通りよ。まったく、アキったら次から次へと…でもま、ウチとしてはラブレターじゃなくてホッとできるんだけどねー』

 

『……そこは、脅迫状が届いたことを嘆いてあげろよ………気にしてる異性ならさ』

 

『げふんっ!?も、妹紅っ!なななんでそのことを知ってんの!?ウチ、妹紅に言ったことないわよね!?』

 

『………いや、丸わかりだったけど…………あれで、隠してるつもりだったの?』

 

『~~~~~っ!?』

 

『………意外とにぶいな……あんたも』

 

『い、言ったわね妹紅!?ウチも今のアンタの言葉にはとうとう怒ったわ!ちょっと覚悟しなさいっ!!』

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます。

 今回はもあまり話が進む回とはなっておらず、皆が会話をしているだけという感じでございました!物足りなかった方には申し訳ありませんでしたぁ!!

 さて、話の区切り方で予想がつく方もいらっしゃると思いますが、次回は明久視点で書かせていただくと思います!おそらくそちらもあまり展開が早くない気がするのですが、それでも楽しんで読んでいただければ作者万歳でございます!

 それではまた次回っ!


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相談―依頼、が一杯あっても自分のことを優先してほしいんだよ!

 どうも、村雪です!だいぶ投稿が遅くなって申し訳ありませんでした!

 さて、今回は前回も言っていたように明久がメインでの文章となっております。内容に矛盾が生じてたりしてないかが不安ですが、うまく書けていることを願うばかりでございます…!


――ごゆっくりお読みください。


「助けてムッツリーニ!僕の名誉が危機なんだ!」

 

 

 なにやら騒いでいる姫路さんや美波のことを秀吉と美鈴さんに任せて、僕はムッツリーニに助けを求めた。このままだといつ僕の屈辱的な写真(Ver. メイド服+パンチラ)がばらまかれるか分からないし、事態は一刻も争うっ!!

 

 

 

「おっと待ちな吉井。私の方が先だぜ」

 

「待て霧雨、順番は俺の方が先だぞ」

 

「あれ?魔理沙に雄二、どうしたのさ?」

 

 

 風のような速さでムッツリーニのもとに向かうと、そこには2人の先客がいた。

 

 1人は僕の悪友にして、悪だくみを働かせることには右に出るものがいないワイルドな男の坂本雄二(さかもと ゆうじ)。

 そしてもう1人は、雄二に負けず劣らず悪知恵を働かせたり、人をからかったりするのが得意な少女、霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)だ。

 

 なにやら2人とも浮かない顔をしてるけど、何かあったのかな?

 

 

「………雄二は結婚が近くなり、霧雨は自分のタイプが暴露されるらしい」

 

 

 そう答えたのは、僕が探していた男子の土屋康太(つちや こうた)。小柄な体系からは想像できないぐらい頭脳(エロ方面のみ)を持ちつつも、それを誇らずひた隠しにしようとする姿に敬意を評し、男たちからはムッツリーニと呼ばれている人物だ。

 

 

「雄二の結婚と、魔理沙のタイプ?そんなすでに分かり切ってることなんかよりも、僕が校内の皆に女装趣味の変態として認識されそうってことの方が重要だよ!」

 

「なんだと?お前が変態だなんて、それこそ霧雨のタイプと同じくらい今更だろうが!」

 

「だ、誰のタイプが丸分かりだっ!私は一度だって人に話したことがないっ!勝手なこと言うなこの大バカ変態とヘタレ妻帯者がっ!」

 

「なんだとこの女の子好き女の子めっ!」

 

「お前の方がヘタレだろうがこの口だけ女がっ!」

 

「う、う、うるせえ!さっさと女装好きになってもっと変態になれ!そんでさっさと結婚して尻にひかれて肩身狭く暮らしちまえっ!!」

 

「…………!!」

 

「…………!!」

 

「…………!!」

 

「……傷付くなら、3人共黙っていればいいのに……」

 

 

 な、泣いてないっ!これは魔理沙と雄二が流す涙が僕のほほにとびかかっただけなんだからねっ!?

 

 

「で、でも実際坂本の話は遅かれ早かれじゃないか!赤ん坊が出来たとかにされたなら分かるけど、そんなことはないんだろ!?」

 

「笑えない冗談を言うんじゃねえぇええ!!」

 

「お、おおっ!?」

 

 

 肺から全ての空気を吐き出すような雄二の雄叫び。え、なに?笑えない話なの?

 

 

 

「な、何かあったの雄二?」

 

「………実は今朝、翔子が音楽プレイヤーを隠し持っていたんだ」

 

「あ?音楽プレイヤーをか?」

 

「それぐらい別にいいんじゃないの?雄二だって前に持ってきてたじゃないか」

 

 

 翔子というのは、僕達2年生で学年主席を務めている霧島翔子さんのこと。雄二とは小学生のころからの知り合いらしいけど、別に霧島さんが持ってきてたのがおかしいことはないんじゃ・・・?

 

 

「いや、あいつは結構な機械オンチだからな。そんなものを持っていて、しかも学校に持ってくるなんて不自然なんだ」

 

「あ、そうなの?」

 

「ほ~。私は結構得意なんだが、少し意外だぜ」

 

 

 魔理沙の言う通り、霧島さんは何でもできるってイメージがあるから少し意外だ。けれど、誰にでも苦手なことはあるもの。だから僕が勉強嫌いなのも仕方ないことだよね。(※ 否定はしませんが、やっぱり限度があるのでは……)

 

 

「それで怪しく思って没収してみたんだが……そこには、悪魔の確認とそれへの返事が録音されてたんだ」

 

「へ?確認?返事?それってどんな?」

 

「よく分からんが、その内容がまずいってことか?」

 

「………聞く方が早い(ごそごそ)」

 

 

 それまで黙っていたムッツリーニが、手に持った音楽プレイヤーを操作し始める。どうやらそれが雄二の言うブツとやらで、問題の発言が録音されてるみたいだ。

 

 

 

 ピッ

 

 

 

 

『………雄二、本当に優勝したら結婚してくれる?』(霧島さんの声)

 

 

 

『ああ、もちろん。愛してるぞ翔子』(雄二の声……を頑張ってマネた僕の声)

 

 

 

 ピッ

 

 

 

 

「ほ~。なかなか熱いじゃねえか坂本この野郎っ!」

 

「お、落ち着いて雄二っ!これはきっと君が無意識に言った言葉なんだっ!僕は何も言ってない!」

 

「この期に及んでしら切ってんじゃねえぞ明久ぁっ!てめえのせいでおれは地獄に落ちようとしてるんだぞぉおおおおお!」

 

 

 血の涙を流しそうな勢いで襲い掛かってくる雄二を必死に僕はなだめる!ええいすんだことをぐちぐちとうるさい男めっ!それぐらいしないと勝てない相手だったんだから仕方ないじゃないか!

 

 だいたい雄二だって、安くないお金を僕に負担させて勝負に勝つってひどい作戦をたてたくせに!被害者ぶってるんじゃないぞこの野郎っ!

 

 

「でも坂本。霧島はこれを記念に取ってるぐらいだろ?そんなに慌てる必要もないんじゃないか?」

 

「・・・いや、これを婚約の証拠として父親に聞かせるつもりのようだ」

 

「・・・・お、おおう。ものすごい大胆なんだぜ霧島の奴……」

 

 

「・・・雄二、なんか色々と悪かったよ」

 

 

 霧島さんの行動がそこまでものすごいとは思わなかった。さすがの魔理沙もひきつった顔をしているし、僕も罪悪感がものすごく湧いてきて押し潰されそうだ。

 

 

「分かればいい。んで、このプレイヤーを没収したはいいが、中身はおそらくコピーだ。だからオリジナルを早急に消さなければならない」

 

「えーと、つまり雄二のムッツリーニに相談って言うのは……」

 

「ああ。いったい誰が翔子にそんなものを提供したのか、これを録音した犯人を突き止めてほしい」

 

 

 そう言って雄二が真剣な顔でムッツリーニに依頼する。どんどん既成事実が出来あがっていってる雄二としては、なんとしてでもこのダイナマイトを抹消したいみたいだ。

 

 僕としてもそんな雄二の頼みが叶うことを願うよ。だって雄二みたいなゴリラなんかに霧島さんみたいな美人なんか贅沢すぎるじゃないか!世の中おかしいよっ!!

 

 

「・・・明久と、霧雨は?」

 

 

 と、雄二の話を聞き終えたムッツリーニが僕達の話も聞いてきた。ずっと静かだったから不安だったけど、きちんと僕たちの話も聞いてくれるみたいで一安心だ。

 

 

「あ、うん。僕はメイド服パンチラ写真が全世界にWEB配信されそうなんだ」

 

「私は……って、メイド服パンチラァ?」

 

「……何があったの?」

 

「ごめん、はしょり過ぎた。要するにね―――」

 

 

 今度はきちんとわかるように手紙のこと、そしてそこに入っていた思い出したくない写真のことを話した。

 

 

「―――そういうわけで、その写真を撮った犯人を突き止めて欲しいんだ。写真を撮られた覚えなんてないからきっと盗撮の得意なやつがこっそり撮影したんだと思う」

 

「なんだ。明久も俺と同じような境遇か」

 

「………脅迫の被害者同士」

 

「そんな仲間は出来ればほしくなかったなあ…」

 

 

 ラブレターだったらどれだけ嬉しかったことやら。まったくもう、この手紙の送り主には文句と拳をプレゼントしてやりたい! 

 

 

「ふ~む……吉井のもやっぱり脅迫文か……」

 

「??魔理沙?」

 

 

 ぽつりとそんなことをつぶやいた魔理沙は、あごに指を添えて何かを考え出した。って、『吉井のも』?それってどういうこと?

 

 

 

「………霧雨は?」

 

「…あー、私も吉井と同じだぜ」

 

「へ?」

 

「………脅迫されている、ということ?」

 

「ああ、そうだぜ」

 

「ええっ!?そうなの魔理沙!?」

 

 

 まさかの脅迫被害者の会に新メンバー!?もしかして最近は脅迫をされるのが流行だったりするの!?

 

「こんなウソついても仕方ないだろ。本当だ」

 

「その脅迫内容は何だったんだ?」

 

「えーとな。それがちょっと読めない部分もあるんだが、とりあえず人に近づくなってことだぜ」

 

「やけに大ざっぱで難しい要求だな?」

 

「仕方ないだろ。だって読めないんだもんよ」

 

 

 肩をすくめる魔理沙には慌ててる様子は全然ない。僕はあんなにも取り乱したっていうのに、なんて強い女の子なんだろうか。

 

 

 

「……もし、それを破ったら?」

 

「………っ!(カアァ)」

 

「へ?ど、どうしたの魔理沙?」

 

 

 興味心からのムッツリーニの質問に、魔理沙は急に顔を赤くしだした。な、なんだなんだ?一体何をされちゃうの?

 

 

 

「…………わ」

 

「「「わ?」」」

 

 

 

「わ・・・わわっ、私の好きな人をバラすってぬかしてやがるんだっ!!こんなのあんまりだ!絶対に許されないことなんだぜっ!!お前らもそう思うだろ!?」

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 ごめんね魔理沙。ほんの少しだけがっかりした僕がいることを許してやってほしいんだ。

 

 

 

「あ~……。つまり、アリス・マーガトロイドのことをばらされそうだと」

 

「だっ、だからなんでそこでアリスの名前が出て来るんだよ!?私何も言ってないだろーがっ!」

 

「………違うの?」

 

「……ちっ、違わないけど!違わないけど!!なんでどいつもこいつも知ってるようなこと言うんだよぉ……」

 

 

 いじけた顔をして床を見る魔理沙。やれやれ、僕達を甘く見てもらっちゃあ困るね。僕ら男子ってのは女子が誰に好意を向けてるかを死に物狂いで知ろうとする生き物。ましてや魔理沙みたいに分かりやすい子の思い人を知ることなんて朝飯前なのさ!

(※君自身に関することでは役立たずのスキルのようですね)

 

 

「とっ、とにかくだ!土屋、私にこんな爆弾を渡しやがったやつを突き止めてくれ!報酬として美鈴と咲夜のイイ写真をあげるぜ!」

 

「………良い報告を待て……」

 

「あっ、ずるいよ魔理沙!ムッツリーニ!僕は最近仕入れた秘蔵コレクションを持ってくるよ!」

 

「俺も報酬にお前の気に入りそうな本を持ってくるぞ!」

 

 

 おのれ!自分が優先されたいからとエロで釣ろうだなんて、2人ともなんてやらしい奴らなんだ!

 

 

「………全て俺に任せろ……っ!(ポタポタ)」

 

 

 そしてそれ以上のエロを行くのがムッツリーニ。この様子だと必死になって犯人を捜してくれるだろうから一安心だ。

 

 

 

 ガラガラ

 

 

「遅くなってすまない。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった」

 

 

 頼み事を終えて息をついていると、担任である西村先生が教室の扉を開けて入って来た。手には大きな箱があるのできっとそれがしおりなんだろう。ひとまず相談はここまでみたいだ。

 

 

「では、HRを始めるから席に付いてくれ。……ん?藤原(ふじわらの)。やけに髪や服が乱れてるがどうかしたのか?」

 

「…………あいつにやられた……ました(スッ)」

 

「ア、ア、アハハハ~……(すっ)」

 

「ふむ…話を聞きたいから、島田は後で先生のところに来るように。逃げることは許さんぞ」

 

「うう~……も、妹紅が悪いのに~…!」

 

 

 鉄人に死刑宣告をされて(※されてません)がくりと肩を落とす美波。髪の毛が乱れ、顔がいつにもましてしかめっ面になっている藤原さんも素敵だから、グッジョブだよ美波!

 

「さて、明日から始まる強化合宿のしおりを配るから、全員一度は確認しておくように。まあ旅行に行くわけではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題はないはずだが」

 

 

 そう言って鉄人はしおりを配り始める。ふむふむ、思ってたよりも薄いから読むのに苦労はしなさそうだ。

 

 

「集合の時間と場所だけはくれぐれも間違えないように。…とくにチルノ。先生はお前がきちんと来てくれるかが一番不安だ」

 

 

 確かに、チルノはこのFクラスの中でもぶっちぎりのバカガール。集合時間に間に合わないのは当然で、そもそも集合場所を間違えるなんてミスをしでかしてもおかしくないだろう。

 

 

「むっ!聞き捨てならないわね先生!アタイはもう子供じゃないんだから大丈夫なのよさ!最強のアタイをみくびらないことね!」

 

「そうか…その言葉を信じるぞ。では、他に質問のあるやつはいないか?」

 

「先生。この合宿にトランプとかは持ってってもいいのか?」

 

「霧雨、この合宿はあくまでも学力向上のための行事だから、そういった遊び道具はダメだ。見つけ次第没収することになるぞ」

 

「ちぇ。そりゃ残念だぜ」

 

 

 う~ん。それじゃあ休み時間の間に女の子と楽しく遊んだりすることも出来ないじゃないか。これは絶対にバレないようにして持っていかなくちゃいけないね。

 

 

「ああ。あと、他のクラスとの集合場所と間違えるなよ?クラスごとでそれぞれ違うからな」

 

「……へー、変わった制度だなぁ……」

 

「うむ。それがこの文月学園の方針だ。藤原も気を付けるように」

 

「……ん」

 

 

 学力がものを言うこの学び舎では、必然的に成績のいいクラスの方が優遇されることになる。だからAクラスやBクラスなんかはリムジンバスなんかで快適なバスの旅を楽しむんだろう。

 

 でもそうなると、最下位クラスであるFクラスの扱いはどうなるんだろ。バスには乗れるとは思うんだけど、このクラスみたいにボロボロなバスになったりするとかかな?

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?あ、あの、先生」

 

 

「なんだ、紅」

 

 

 

 

 

 僕が移動手段について考えている間に、何かに気付いて鉄人へと声をかけたのは、我がFクラス一番の世話焼きにして頼れる僕らの姉貴分、紅美鈴(ホン メイリン)さんだ。

 

 

 

 

「わ、私の見間違えでしょうか……何やら、Fクラスの集合場所が大変なことになってる気がするのですが……」

 

『大変なこと?』

 

 

 しおりを片手にしながらの美鈴さんの言葉に、Fクラス全員が首をかしげる。はて、僕はてっきり学校に集合すると思ってたんだけど、ひょっとして少し遠いところに集合することになってるのかな?あんまり遠くないところだといいんだけどなあ……

 

 

「……見間違えではない、紅」

 

 

 それに答えた鉄人の声は普段よりも低い。なんだろう、ものすごく不安になってきたぞ?えーと、集合場所のページは……

 

 

「いいか、お前ら。我々Fクラスは他のクラスと違って―――」

 

 

 あったあった。えっと僕達Fクラスは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――現地集合だからな」

 

 

 

『Fクラス  現地集合   ※交通費は自費負担とする』

 

 

 

 

 

『案内すらないのかよっ!?』

 

「交通費もないのですかぁっ!?」

 

「あ、あまりにもひどすぎるんだぜっ!?」

 

「む、無慈悲すぎるだろ…っ!」

 

 

 口々に不満を爆発させるFクラス。ちなみに集合場所はここから車で四時間はかかる場所。学校は僕に生活費を交通費に当てさせ、次の仕送りまでは水道水で生活しろと言うのだろうか。

 

 

「鉄人っ!今日という今日は許さないぞっ!僕達にだって楽しく合宿を過ごす権利はあるはずだよ!?」

 

「そ、そうよそうよこのチンパンジーっ!よしーの言う通りなのよさ!最強なアタイにこんなひどいことをする権利はないわっ!」

 

 

「西村先生と呼べっ!それにこれは、文月学園が今までしてきた規則だ。お前たちがFクラスである以上、郷に入っては郷に従う義務がある!」

 

「「うぐぐぐっ!」」

 

 

 な、なんて堅物なんだこの鉄人は!自分の生徒に優しくしてあげようという気持ちはないのかっ!?

 

 

「こ、このチンパンジー先生めぇっ!あんたの血は何色なのよさぁあああ!!」

 

 

 おお!ヒートアップしたチルノが鉄人に殴りかかった!よっしゃやってやれチルノ!珍しく君を応援するぞっ!

 

 

「赤色だ。そして西村先生と呼べと言っているだろうがバカ者っ!(ビシッ!)」

 

「へびゃんっ!?」

 

『チ、チルノーッ!?』

 

 

 応援の意味なく、頭にチョップを受けたチルノは畳に倒れたまま起き上がらない。い、いちおう女の子のチルノにも手を出すなんて、なんて外道な奴なんだ鉄人っ!絶対に許すまじ!

(※正当防衛ですし、何より君も彼女と殴り合ったことが数多くあるでしょうに)

 

 

『野郎っ!良くも俺たちのチルノちゃんを!』

 

『人の女に手ぇ出そうとは、覚悟できてんだろうなごらぁ!?』

 

『この集合場所のことと言い、久しぶりにキレちまったよ…!』

 

『無事に帰れると思ってんじゃねえぞオラァ!?』

 

 

 ガタリガタリと座布団から立ち上がる皆。どうやら、チルノの敵討ちと合宿での扱いのひどさを鉄人にぶつけるみたいだ。無論その中には僕もいて、普段からの恨みをぶつける気満々だ!

 

 

 

「ほほう……いいだろう。お前らの気持ちも分からんでもない。だから、俺に思い切りぶつけてきて構わんぞ。すべて受け止め、返り討ちにしてやろう」

 

 

『ぬかしやがれこの鉄人がぁああああああっ!!』

 

 

 鉄人のなめた言葉に僕たちは一斉にとびかかった。この人数ならさすがの鉄人もかなわないに決まってる!いよいよ年貢の納め時だぞ鉄人んんんんっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う、うわ~~。死屍累々(ししるいるい)とは、まさにこの状況ですね」

 

「し、しっかりしてください皆さん!?」

 

「あんた達しっかりしなさい!男の子なんだから大丈夫でしょ!」

 

「ふぃ~。やっぱり参加しなくてよかったんだぜ。ナイス判断だったぞ私」

 

「……あの先生……強すぎるだろ………」

 

「うううう…ぼ、僕もそう思うよ、藤原さ、ん……ガクッ」

 

「あ、明久くんんん!?」

 

「アキーッ!?」

 

 

・・・そしてこの始末。また一つ、鉄人の恐ろしさが僕達に刻み込まれたHRとなった。

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!うん、やっぱり鉄人はバカテス界では最強!このオチがあるのもバカテスの醍醐味ではないでしょうか?


 さて。ようやく強化合宿前日が終わっていよいよ合宿当日に進むのですが、物語がまだまだ構成できていないので、おそらく投稿が遅くなると思うのです。すみませんが気長に次回も待っていただくようお願いいたします!

 それではまた次回っ!出来るだけ早めに仕上げるよう頑張ってまいります!!


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通話―顔、が見えないからこそ気楽に話せるんですよね~

 どうも、村雪です!

 前回は間を空けると言っていたのですが、どうせならきりのいいところで間を空けようと思いまして、今週も投稿をさせていただきました。相変わらずいい加減な作者で堪忍でございます!

 それでは、強化合宿前日の最終回。明久たちは登場しませんが――

―――ごゆっくりお読みください。


「そういうわけで、西村先生とFクラス男子連合の合戦は西村先生の勝利だったわ」

 

「あっはっはっは!さすがはあの先生だ!一人で戦って勝つたぁ格好いいねぇ!」

 

「に、西村先生は本当に強いわねぇ……」

 

「……ああ。私も、あの人数に1人で勝つのはおかしいと思う」

 

「へ~!西村先生って先生はすごいんだね!一回会ってみたいな~!」

 

「わ、わ、私は遠慮しておくわ!だ、だってそんな人に会ったら何をされるか分からないものっ!」

 

「いやいやレミィ。西村先生はそんなひどい先生じゃないわよ?ちゃんとしっかりした先生で、今回もきちんと生徒をケガさせないように手加減をして……」

 

「てっ、手加減をしてそんなに強いなんてどんな人なのよぉ!?そのおじさん、絶対に人じゃないわっ!」

 

「ひ、人ですよレミィ!?西村先生はれっきとした人間の男性だからね!?」

 

「……正直、私もレミリアに同意」

 

「担任を信じてあげて妹紅さんっ!?」

 

 

 西村先生が傷ついちゃいますからっ!先生って体力とかはものすごいですけど、メンタルまでは分かりません!ですからそんなこと言ったらダメですよー!?

 

 

「いや~、一度は彼と酒を飲みたいもんだよ。美鈴、また明日からの合宿中にでも伝えといてくれないか?」

 

「ん、わ、わかったわ。どう返事をされるか分からないけど伝えとくわ」

 

 前に知り合いということで、Aクラスの担任である高橋先生を咲夜さんに誘ってもらったそうですが、まさか西村先生も誘うとは。母さんの積極的な呼びかけには驚くばかりね~。

 

 

 

「そっか。明日からはメイリンたちがいなくなるんだねー。なんだか静かになりそうだなぁ~」

 

「ふんっ。少しの間会えないだけじゃない。だからさみしがる必要なんかないわ。………で、出来れば早く帰ってきてほしいなんて思ってないわよっ!!」

 

「うっ。ご、ごめんね2人とも~っ!」

 

 

 だからそんな寂しそうな顔をしないでーっ!私もできるのならあなた達と一緒に合宿に行きたいの!でもさすがにそれは無理だから仕方ないじゃない!うう~!何日もレミィ達と会えないなんて悲しすぎるわよぉおお!!

 

 

「といっても、5日後にはちゃんと戻ってくるわ。だから2人とも、元気にしてるのよ?」

 

「うんっ!咲夜たちも元気でね!」

 

「妹紅もちゃ、ちゃんと無事に帰ってきなさいよ!じゃないと許さないからねっ!?」

 

「……合宿に行くだけなんだけど……まあ、ちゃんと帰ってくるよ」

 

 

 そう言いながらも妹紅さんは少し微笑んでいて、レミィを見る目はとっても穏やかです。わ、私はまだそんな表情を見せてもらったことがないのに、やるわねレミィ!私もいつかは成し遂げて見せるわよっ!

 

 

 

「しかし、Fクラスは現地集合とは……文月学園は本当にはっきり区別をしてるのね……」

 

「まったくですよ!そりゃまーFとAクラスが一緒なのはおかしいってわかりますけど、だからって現地集合ってのは度肝を抜かされますよね!?」

 

「……親が文句を言ってもおかしくない。あれは」

 

「うん!妹紅さんの言う通りですよっ!」

 

 

 しかし、それがあの文月学園の方針であり、それをふまえての入学ですので文句を言う筋合いはないのかもしれませんが。自分で言っておいて自分で否定する私でございました。

 

 

「はっはっは。まあそう言うな2人とも。ちゃんと電車代とかは渡すから、電車の旅を楽しみゃあいいじゃないか!バスにはない楽しみもあるさ!(ごくごく)」

 

「そ、そりゃあそうだけど~」

 

「……電車代ぐらいは出してくれてもいいと思う」

 

 

 そして私たちの母さんは、全く怒るそぶりも見せず楽しそうにお酒を飲むばかり。もお~っ!いちおう娘たちが不満を言ってるんだから、ちょっとは話に乗ってあげてもいいじゃない!正論だけど!確かに母さんの言うことは正論なんだけどっ!!

 

 

「でも、いいじゃない2人とも。私はバスなのよ?バス酔いが激しい私にとっては、拷問に等しいと言っても過言ではないわ」

 

「む、咲夜さん。そうは言いますがね…」

 

 

 話を聞いていた咲夜さんが、私たちの電車への文句に不満をぶつけはじめました。確かに咲夜さんは乗り物に強い方ではないのですが・・・

 

 

「咲夜さんたちは普通のバスに乗るってわけじゃないですよね?」

 

「ええ。まあ……リムジンバスに乗るわ」

 

「ほらぁ!ものすっごいリッチじゃないですかっ!?」

 

 

 やはりそのセレブのような待遇の良さがうらやましいっ!ちくしょうっ!初めてAクラスになっておけばって思ってしまいました!!

 

 

「えっ…でっ、でも!私は本当にバスが一番苦手なの!だから、どんなバスでも苦痛は苦痛よっ!!なんなら電車と替わってほしいわよ!!」

 

「私だって替われるものなら替えてほしいですよ!!ねえ妹紅さん!?」

 

「(こくこく)……人の多い電車なんか絶対嫌だ……!」

 

 

 当然妹紅さんも咲夜さんに羨望の眼差しを向けます。

 

 高級感が溢れて快適に過ごせるリムジンバスと、快適どころか椅子に座れるかも定かではない満員電車(満員かどうかも分かりませんけど)。どっちかを選べと言われたら10人が10人バスを選ぶはずです!なのに新たな11人目になってどうするんですか咲夜さーん!

 

 

「り、理解できないわっ!バスに自分から乗りたいだなんて!あんなの人を目的地じゃなくて地獄に送る巨大な棺桶よ!2人とも正気なの!?死にたいの!?」

 

「何勝手にバスを処刑道具にして私たちを自殺志願者にしてるんですかぁ!私たちとバス会社の皆さんに謝りなさい!」

 

「三半規管の弱いあんたの問題だろうが……」

 

「ほっ、ほほっときなさい!!私の三半規管が弱いことが迷惑をかけたのかしらっ!?」

 

「……今、私らにかけてるし」

 

「う…!?い、いつの間にか言うようになったわね妹紅さん…!そっちがその気なら私だって遠慮しないわよ!?」

 

「……こちとら、濃い連中ばかりのクラスにいて良くも悪くも成長してんだ…!」

 

「あ、あはは。確かに妹紅さん、以前よりもたくましくなってますよね~」

 

 

 Fクラスというあまりにも個性の強い面子が揃うクラスにいるせいで、妹紅さんはあまり動じることなく咲夜さんとも口を交わします。その姿に私は思わずホロリ。ワイルドな口調の妹紅さんも大好きですよ!

 

 

 

プルルル プルルルルルッ

 

『ん?』

 

 

 すると、突然無機質な電子音が鳴り響きます。皆が一斉に音の発信源へと目を向けました。

 

 

「携帯かしら?」

 

「……誰の?」

 

「あ、私のですね。すいません、ちょっと外しますね」

 

 

 置いておいた携帯を取って私は立ち上がります。こういう時は静かな場所で電話を取るのがマナーですからね。そういうところはきちんとする女で私はありたいのですっ!

 

 

「なんだいなんだい?美鈴、とうとう春でも来たのか~?」

 

「まさか。あいにくそんな心当たりはないわよ~だ」

 

 

 ニヤつきながら的はずれなことを言ってくる母さんに言葉を返し、廊下に出て携帯のディスプレイを見ます。えっ~と、いったい誰から……?

 

 

 

「……あら(ピッ)」

 

 

 確認し、示されていた名前に少し目を丸くしながら私は通話ボタンを押しました。

 

 

 

 

 

「もしもし。どうかしましたか、秀吉君?」

 

『夕飯時にすまんのじゃ、美鈴。今よいじゃろうか?』

 

「ええ、大丈夫ですよ?」

 

 

 

 ドカリと二階への階段に腰かけ、クラスメイトの秀吉君のお話を聞きます。以前学校で連絡先を交換したことがあったのですが、こうして秀吉君と電話で話すのは初めてです。なにかこう、ほっこりしますね!

 

 

『良かったのじゃ。明日からの強化合宿の事なのじゃが、わしらは現地集合することになったじゃろう?』

 

「ええ。そのことで丁度騒いでたところですよ」

 

『騒いで?よく分からぬが、本当に電話をして大丈夫じゃったかのう?』

 

「あ~気にしないでくださいな。騒いだと言っても普段Fクラスで騒いでるような感じですから」

 

『なるほど。それならば確かに大丈夫じゃな』

 

 

 今の言葉で大丈夫だと分かってもらえるあたり、だてにFクラスにいませんね秀吉君!

 

 

「それで、明日の合宿がどうかしましたか?」

 

『うむ、実は先ほど明久達から、明日一緒の電車に乗って合宿場へ行かないかと誘われてのう。よければお主と藤原(ふじわらの)もどうじゃろうか?』

 

「ああ、それはありがたいですね~!」

 

 

 妹紅さんと二人で電車旅というのも魅力ですけど、こうやって誘いがあっては断る理由もありません。喜んで提案に乗らせてもらいましょう!

 

 

「じゃあ、私も妹紅さんとご一緒させてもらってよろしいですか?」

 

『そうかっ。良かっ、じゃなくて分かったのじゃ。明久達にもしっかり伝えておくのじゃっ』

 

「はい、お願いしますっ!」

 

 

 ん?どことなく秀吉君の声が弾んでるような・・・あっ!さてはあれですね!?お姫様みたいに綺麗な妹紅さんと一緒に行けるのが嬉しいんですかっ!あははっ!女の子みたいだなんだと言われてますが、きちんと男の子してるじゃありませんか~秀吉君!

 

(※……それもあるかもしれませんが………やはり、ねえ?)

 

 

「あ、ちなみに誰が来るか分かりますか?」

 

『えっと、わしにお主に藤原、明久と雄二とムッツリーニじゃ。最初に連絡したのがお主じゃから、姫路たちにはまだ確認しておらんのう』

 

「あ~、それでしたら女子の皆には私が連絡を取りますよ。任せっぱなしは申し訳ないですから」

 

 

 魔理沙とチルノは連絡先を元々知ってますし、瑞希さんと美波さんのは前に交換したので、女子全員に連絡を取ることが出来ます。女の子には女の子が連絡をするのが筋ってやつですね!

 

 

『おお、それは助かるのじゃ。わしは姫路たちの連絡先を知らなくてのう。お主の連絡先しか分からなかったのじゃ』

 

「なるほど。そりゃ連絡が取れませんね~。じゃあ私が連絡してどうするか聞いておきますよ」

 

『すまぬ。迷惑をかけるのじゃ』

 

「いえ。普段から秀吉君にはお世話になってますから、これぐらいはお安い御用ですよ」

 

 

 数少ない常識人である秀吉君がどれだけ私の心に安らぎを与えてくれたか!そんな人の頼みごとなら、たとえ火の中水の中咲夜さんの胸の中でございます!

 

 

『い、いや、わしは世話などしておらんのじゃ。むしろわしの方がお主に世話になっておるぞい』

 

「いやいや、秀吉君はあのFクラスではオアシスの一人!私はいっつもあなたに癒されてますよ~」

 

 

 だから謙遜なんかしなくても~。でも、そんなところも秀吉君の良いところですね!

 

 

『い、癒され……っ!?ま、ま、またお主はそういうことを言いおってからにぃ……!』

 

「?もしもし秀吉君?どうかしましたか?」

 

『な、なんでもないのじゃ!まったく!お主は無自覚すぎるのじゃ!突然言われるわしの身にもならんかっ!』

 

「は!?い、いきなりなんですか!?私何も変なこと言ってませんよ!?」

 

『それじゃっ!お主はもう少し自分の言うことの意味を理解せいっ!みょ、妙な勘違いをしてしまうじゃろうが!』

 

「妙な勘違いって何ですか!?ちゃ、ちゃんと自分の言ってることは理解してます!勝手に秀吉君がなにかと勘違いしてるんじゃないですか!」

 

『あ~もうこれじゃ!こっ、この天然女子めがっ!』

 

「ケンカ売ってるんですか秀吉くぅん!?わたしゃケンカふっかけられて黙ってるような女じゃありませんよ!?」

 

 

 さっきの言葉訂正!オアシスなのは間違いありませんけど、秀吉君も立派にFクラスのメンバーでしたっ!

 

 

『そ、そんなつもりはないが、わしだっていつも翻弄されっぱなしなのじゃ!たまにはがつんと言ったって良いじゃろうが!』

 

「だ~か~ら~何の話をしてるんですかっ!!私はただ秀吉君に癒されるって言っただけじゃないですかぁああああ!!」

 

『じゃからそういうところだと言っとるじゃろうがぁあああああ!!』

 

「うおおおうっ!?」

 

 

 まさかの逆切れ!?おおお……え、演劇部をやってるのは伊達じゃないですね。鼓膜がびりびりしてやがりますよ…!

 

 

『ぜい……ぜい…………うむ。心の中で思っていたことを少し吐き出せたのじゃ。すまんのう美鈴』

 

「い、いえいえ、それは良かったです。私の鼓膜にすごい衝撃を与えたという点にだけ謝罪をしていただければ全く問題ないのでありますよ』

 

 

 結構でかい声でしたから鼓膜がパンクするのを覚悟しましたよ。まあ特に被害なく、心底びっくりするだけでしたのですが。

 

 

「まあともかく、私はホントに秀吉君に感謝してますよ?いつもありがとうございますね、秀吉君」

 

『む………こ、こちらこそいつもありがとうなのじゃ、美鈴』

 

「あっはっは。何かお礼を言われるようなことをした記憶はありませんけど、ありがたくその言葉を受け取らせてもらいますよ(ガシガシ)」

 

 

 や~。誰からお礼を言われるのも照れくさいものですね~。私は気を紛らわすために強めに頭をかきます。

 

 

「しかし今更なんですけれど、吉井君が瑞希さんと美波さんに連絡をした方が3人共喜ぶ気がしませんか?」

 

『ああ、わしもそう思って言ってみたのじゃが、恥ずかしいからダメだと言っておったぞい』

 

「普段は色々大それたことをしているのに、変なところで気弱になりますね……」

 

『まったくじゃな。あやつはもう少し頑張る部分を変えてみるべきじゃ』

 

「でもまあ、吉井君はやるときはやる男子ですからね。この前も坂本君たちと―――」

 

『ふむ。それはまた――――』

 

 

 

 そのあと、私は秀吉君と雑談を続けました。Fクラスにいると常に何かが起こっているので話題の種は尽きず、誰かがバカをやったときの話や、はたまた見ていてむずかゆくなる青春の話(主に魔理沙とアリスの事や、吉井君達の事です)を和気あいあいとしゃべり、気づけば十数分の時間が経っていました。

 

 

「――とまあ、私としてはアリスももう少し魔理沙の気持ちに気づいてあげたらと思うんです」

 

『じゃな。どうなるかは分からんにせよ、あれじゃと魔理沙が生殺しの状態じゃからのう』

 

「うんうん。アリスってすごい出来る女の子なんですけど、そういうことに関しては吉井君と同じ感覚ですよね~!」

 

『……お主がそれを言うか……』

 

「あ、あれ?思ったよりも賛同をいただけませんでしたよ?」

 

 

 おかしいですね。今のは絶対に分かっていただけると思ったのですが……

 

 

『っと、すまぬ。長々と話してしまったのじゃ』

 

「ああ、そういえば結構経ってますね。こちらこそすみません秀吉君」

 

 

 友達と話しているとあっという間に時間が過ぎますねー。少し名残惜しいものを感じますが、ここで打ち切らせてもらいましょう!

 

 

「じゃあ、お互いお夕飯に戻るとしましょうか!お話しできて楽しかったです秀吉君!」

 

『う、うむ。わしも……た、楽しかったのじゃ。また明日も話そうぞいっ』

 

「ええ!それでは、また明日お会いしましょう秀吉君」

 

「ああ、明日からよろしく頼むのじゃ、美鈴」

 

「はい、こちらこそ!ではでは~(ピッ)」

 

 

 

 

 は~、思わぬ長会話となりましたが楽しかった~!

 さて、電話も終わったことだし早く戻ってご飯を―――

 

 

 

 

 

「「………………!!(じ~~~っ)」」

 

「………くぅぅぅぅ…!!(ギリギリ)」

 

 

 

「…………え、ええ、と…?レミィ?フラン?そんなに好奇心いっぱいの目でこっちを見てどうしたの?で……さ、咲夜さんはどうしてそんな不満そうな顏をして親指をかんでらっしゃるのですか??」

 

 

 

「メイリンッ!やっぱり付き合ってるんだ~っ!」

「メ、美鈴は大人の女性になってたのねっ!」

 

「美鈴っ!つ、付き合うなとは言わないけれど、まずは家族に連絡をするのが筋っていうものでしょう!?」

 

 

「はぇ!?ちょ、ちょちょっと3人共っ!?」

 

 

 

――食べる前に、詰め寄ってくる3人を宥めなければいけなくなりました。

 

 

 なんとか数分かけて3人を落ち着かせることに成功し、部屋に戻った私を待っていたのは、満足そうにお腹を満たした母さんと妹紅さん。

 

 

 そして、部屋を出る前にあった料理が綺麗になくなったお皿の数々。

 

 お腹をすかせた私が涙を流すまで数秒前でございます。

 

 

 

 

 

 

 

『はっは。相変わらず美鈴は愛されてるね~、さすがは長女だ。んぐっんぐ』

 

『……すごい聞き耳を立ててるけど……そんな気にすることか…?』

 

『ふはぁ。まあ慕っている姉を盗られる感覚がしてつまらないんだろうさ。フランとレミィは純粋に好奇心みたいだがねぇ』

 

『……別にあいつらはそういう関係ではない……と思うけど…』

 

『ん?そうなのか?まあ私としちゃあ、付き合おうが付き合わなかろうが、美鈴が良いならそれで構わないよ。やりたいようにやるのが一番だ』

 

『……まあ、そうかも』

 

『ただまあ……』

 

『?』

 

 

『私の娘を悲しませたり傷つけたりするような奴がいたら、私は一切の慈悲なくそのクソボケを叩き潰すだろうがね』

 

『……………子が親に似るって言葉を、今ものすごく理解できた』

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと秀吉!晩ご飯だってさっきから言ってるでしょ………って、どうしたのよアンタその顔。ニヤニヤしてすっごい嬉しそうだけど、なにかあったの?』

 

『…………姉上。わしは今、心から湧き上がる嬉しさと興奮を抑えきれんのじゃが、どうすればいいのかのう』

 

『……よく分かんないけど、頭を貸しなさい秀吉。今からあんたを落ち着かせてやるわ』

 

『ってま、待つのじゃ姉上!それは落ち着かせるというよりわしの意識を落とすつもりじゃろうが!?わしは何もしておらんぞいっ!?』

 

『うっさい!うぅ~…!ほんっとうに幸せそうな顔をしてぇぇえ……!そんな乙女な顔を弟に見せられて、姉のプライドが傷つかないわけないでしょうがぁああああ!!』

 

『そ、そんな乙女の顔などしておらっ、ぐああぁああああ!?ア、アイアンクローはあまりにもひどすぎるのじゃぁあああああっ!』

 

 

 

 




 
 お読みいただきありがとうございます。

 今回は勇儀さんファミリーを中心に書かせてもらいました!だんだんと妹紅さんも打ち解けてきているようで何よりでございます!
 そして後半は、美鈴さんと秀吉による携帯トーク!うん、もうどっちが男の子なのか女の子か分からん!もう美鈴君と秀吉さんって書いても正直違和感ない気がしますよ!


 そんなイケ美鈴さんとピュア秀吉君の会話。久々にこの2人だけのシーンを書くことが出来たのですが、皆様はいかがでしたでしょうか?あわよくば満足していただけたことを願い、後書きとさせていただきます。

 それではまた次回っ!間が空くと思いますが、ようやく合宿当日となりますよ~!


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心理―テスト、ってものすごく当たるからびっくりですよ!

 どうも、村雪です!久方ぶりの投稿をさせていただきますね!


 ようやく合宿初日へと突入!なのですが、今回はそこへ向かう間の話となるのであんまり過度な期待はされず、気楽に読んでいただくことがベストかと思われます!

 それでも、楽しみにして読んでくださる方がおられたら、その方々に感謝の気持ちを込めていつもの言葉を書かせていただきます――――


―‐ごゆっくりお読みください。


 

ガタンガタン ガタンガタン

 

 

 

「はわああ~あ……咲夜さんにはああ言いましたが、こうやって電車に乗るのもやはり乙なものです」

 

 

 私は流れゆく景色を眺めながらあくびをします。電車に乗ってから何時間か経ちましたが、目的地にはまだ到着しません。こうやって長く電車に乗るのも久しぶりですねぇ。

 

 

「……座れたからそう言えるけど、座れなかったら地獄だった」

 

「まあそうですね。ず~っと何時間も立ち続けるのは、さすがにちょっと疲れそうです」

 

「……それで〝ちょっと〟なんだ」

 

 

 シートに身体を預けてる妹紅さんが隣から話しかけてきます。呆れた表情もいつもより穏やかで、少なからず旅行ムードに心を弾ませていると見て間違いではないでしょう。

 

「ふぁふ………う~ん、こうやって眠気が襲ってくるのもシートに座れたおかげですね~」

 

「…電車に乗る前から眠そうにしてただろ」

 

「あ、朝早かったから仕方ないことです!うう…どうして妹紅さんも早起きをしたのに、普段と変わらないのですか!そんなのズルいですよっ!」

 

「……あんたの必要睡眠時間が長すぎるんだ」

 

「そ、そんなことはありませんっ!?」

 

 

 だ、だって皆さんも9時間ぐらい眠るでしょ!?その普通の枠組みの中にいる私のどこが寝過ぎだというのですか!?

 

 

「……眠いんだったら寝れば?……着いたら起こすけど」

 

「う、う~ん。それはちょっとせっかくの時間がもったいないと言いますか……ところで、あとどれくらい時間がかかるんですかね?」

 

「え~とな、あと2時間ぐらいはこのままみたいだぞ?」

 

 

 質問に答えてくれたのは私の斜め前に座っている魔理沙。どうやら手に持っていた携帯で時間を確認してくれたみたいです。

 

 

「それは結構かかりますね。ありがとう魔理沙」

 

 

「ああ。ちょうど携帯を持って「うおおおおっ!見て魔理沙!世界が傾いてるのよさ!最強のアタイだからこそ見れる景色ね!」……違うぞチルノ。それは単に電車がカーブで傾いてるだけであって、誰にでも見れる光景なんだぜ」

 

「細かいことはいいのよさ!うおおおっ!ななめ世界すげえっ!」

 

「…そ、そうか。チルノが楽しそうで何よりだぜ」

 

 

「……チルノ。もう少し静かにしてほしいんだけど」

 

「まあまあ。元気いっぱいでチルノらしいじゃないですか」

 

「……いつにも増して元気すぎるだろ」

 

「ま、まあそれもそうなんですけど。かれこれ数時間この調子ですものね」

 

 

 普段よりもさらに興奮したチルノの声に妹紅さんは顔を引きつらせますが、無理はありません。なにせ電車に乗った時からまったく興奮が衰えず、そのすさまじい元気良さに魔理沙も珍しくタジタジになるほどでございます。

 電車の何がチルノを刺激したのかは不明ですが、ともかく、チルノは絶好調です!

 

 

「ん?ちょっとよしー!何をいつもみたいにバカな顔して過ごしてるのよさ!もっと元気な顔して電車を楽しみなさいよっ!」

 

「な!?急に失礼だね君は!?誰がいつもみたいなバカ面だっ!僕はいつだってクールな顔付きじゃないか!!」

 

 

 そんなチルノの次の標的は吉井君。絶好調なチルノに吉井君も全力で迎え打ちます。

 

 

「クール~?あはははっ!クールだなんて、よしーったら面白いことを言うわね~!冗談がうまいのよさよしー!」

 

「じょ、冗談じゃなくて本気だよっ!?ほらっ!今だってクールでしょ!?よ~く僕の顔を見るんだチルノッ!」

 

「ん~?………ぷっ!あはははははっ!や、やっぱりいつものよしー面(※バカ顔のことのようです)じゃない~!ああおかし~!あっはははははははははっ!」

 

「むきぃいいいいいい!!」

 

 

「……お前ら、おしゃべりするなとは言わないけど、間にいる私の事も少し考慮してくれ。さっきからお前らの声で耳がピンチなんだぜ」

 

「そうですよ2人共!もう少し声を小さく………あ、ああごめんなさいおばあちゃん声がうるさくてっ!!」

 

 

 こっちを見てニコニコしてらっしゃるおばあちゃんの優しさが申し訳ないっ!他に乗客がいなくてよかったものの、物理的にでも口を閉じさせますよちょっと!?

 

 

「ち、違うんだよ美鈴さん!身の程知らずにもチルノが僕をバカにしてきたから、僕は間違ってるって指摘してるだけなんだ!ねっ!どこもおかしくないでしょ!?」

 

「どっちがおバカなのかはともかく、指摘をするなら小声ですればいいでしょ!電車で大声を出してる時点でアウトなんです!」

 

「まあ、明久の方がバカなのは間違いないと思うがな」

 

「失礼なこと言うんじゃないよ雄二っ!それが友達にかける言葉なの!?」

 

「ん?友達??いつから明久と俺は友達になってたんだ?」

 

「僕の今まで感じてた友情を返せこの薄情者っ!」

 

「あ、あの明久君。きっとチルノちゃんは明久君を褒めてるつもりでバカって言ってるんです!だからあんまり気にしなくてもいいとお、思いますっ!」

 

 

 坂本君も加わってさらに盛り上がろうとする中、ハラハラと成り行きを見ていた瑞希さんがフォローを始めます。が、ごめんなさい瑞希さん。お褒めの言葉に『バカ』という単語はありません。

 

 

「い~や姫路さん!このバカチルノは絶対に僕のことを褒めたりするような女の子じゃないね!僕をバカにするようなことを言わないチルノなんてチルノじゃないよ!」

 

「そ、そんなことありませんよ!?ねっ、チルノちゃん!チルノちゃんは明久君のことを嫌いじゃないですよね!?」

 

「あん?何を言ってるのよさみずき!アタイは吉井のことをバカだと思ってるのよさ!それ以外に思ったことなんて一度もないわねっ!」

 

「良くぞ言ってくれたねチルノ!そうじゃないとチルノじゃないってもんだこの野郎っ!!」

 

「お、落ち着いてください明久君っ!チルノちゃんは嫌いとは言ってないから、はっきりとは分かりませんっ!!」

 

「……互いにけなしあっているのか、互いに認め合ってるのか、微妙に分かり辛いな。霧雨はどう思う?」

 

「なんだかんだで息ぴったりだからな~。坂本と吉井みたいな関係だから、まあ悪友ってところじゃないか?」

 

「おぞましいことを言うんじゃないぞ霧雨。だから俺と明久はダチじゃねえ」

 

「そういうことを気楽に言えるところがダチって感じがするぜ」

 

「だ、だから違うってんだ!お前の目は恋愛事が絡んでる時みたいに役立たずになってるのか!?」

 

「そ、それはどういう意味だあぁ!?私は恋愛が絡むと無能になるって言いたいのかっ!?」

 

「実際そうだろうがっ!いったい何回アリス・マーガトロイドを前にしてバカになったと思ってる!」

 

「いい一度だってバカになったりしてないわっ!というか!いちいちいちいちア、アリスの名前を出すな恥ずかしいからさぁぁああ!!」

 

 

 

 

「…………あうあうあ~~~~…!!」

 

 

 吉井君達に負けずに騒ぎ出す坂本君と魔理沙。これじゃあ教室で過ごすときとなんも変わってないじゃないですか!もうっ!せっかくの電車旅ぐらいのんびりさせなさいよぉおおおおっ!!

 

 

 

 

「やれやれ、お主らはいつでも元気じゃのう」

 

「ひっ、秀吉くんっ!秀吉君もこの元気なおバカさん達に言ってやって下さい!」

 

 

 すると、ひょっこり後ろの席から顔を出す秀吉君。土屋君と一緒に後ろの座席にいて騒ぎの渦中から逃れてるわけですが、さては私の疲労を察して手助けに来てくれたんですね!?さすがはFクラスの良心です!

 

(※……あながち間違ってはいない、かもしれませんね)

 

 

「まあまあ、落ち着くのじゃ美鈴。こやつらが元気なのはいつものことじゃし、元気でないよりもこちらの方が良いではないか」

 

「う。そう言われるとそうだとしか言えませんが…」

 

「じゃろ?じゃからそれほどお主も気にすることもないのじゃ。せっかくの電車なのじゃから、もっと気楽にいこうぞい」

 

「む、むむう……確かに。皆が楽しんでるのですから、それで良いですかね?」

 

「うむ。お主だけ疲れた顔をしていてはわし……らも嬉しくない。いつものお主らしくいてほしいのじゃ」

 

「あ、あっはは!いちおうこれも〝私〟なんですけど、ごめんなさいね秀吉君!やっぱり男の子は頼りになりますな~!」

 

「む。そ、それを言うならお主も面倒見が良い女子ではないか」

 

「いや~照れること言わないでくださいよ秀吉君あっはっはっは!」

 

「それはお主もじゃと言うに、まったく……本当にお主は変わらんのう」

 

 

 ちょっとちょっと!どうしてそこでニッコリ笑顔になるのですか秀吉君!別に私は笑うようなことを言ってませんよ!?

 

 

 

 

 

「………なんか、僕達が子供で、秀吉と美鈴さんがお父さんお母さんみたいって思ったのは僕だけかな?」

 

「…いや、奇遇にも俺もそう思ったところだ明久。あいつらの会話がまさにそれだ」

 

「完全に子供をどっかに連れて行くときのパパさんとママさんの言葉だもんな。そんで私らがやんちゃをする元気な子供っつー……」

 

「き、木下君が優しいお父さんで、美鈴さんがしっかりもののお母さんですねっ」

 

「メーリンとひでよしって仲がいいわねー。親分のアタイも誇らしいのよさ!」

 

「……まあ、似合ってるっちゃあ似合ってる。……あいつ(咲夜)がどう思うかは知らんけど」

 

 

 

 

「?皆で顔を寄せ合ってどうしたんですか??」

 

 

 窓際にいる私には通路側でひそひそ話す声が全く聞こえません。前触れなく話し出しましたけど、何かありましたか? 

 

 

『いや、別に』

「い、いえっ!なんでもありません!」

 

「?は、はあ…」

 

 

 どうやら私に話す気はゼロみたいです。……別に寂しくなんかないですよっ!私はそんな弱い女じゃありませんもん!!

 

 

 

「あ、あぅ……と、ところで島田。お主は先ほどから何を読んでおるのじゃ?」

 

 

 でも秀吉君はそれが悔しかったようで(※違います。秀吉君はあなたと違って耳がよろしいのでございますよ、この罪づくり少女さん)、顔を赤くして話を逸らすべく新たに話題を作り出しました。

 そういえばさっきから美波さんが口を出してません。おしゃべりというわけでもないですけど、これほど無口だったのも珍しいですね?

 

 

 

「ん?あ、これ?これは心理テストの本よ。百円均一で売ってたから買ってみたんだけど、意外と面白いの」

 

「おお、心理テストの本を読んでたのか美波」

 

「は~、それまた難しそうな本を読んでますねー」

 

 

 私はあんまりしたことがないんですけど、あれってなかなか深いんですよねー。いちどやった時は「え!?め、めちゃくちゃあてはまってるわよこの診断結果!?」って思いましたよ。

 

 

「へ~。面白そうだね~。美波、僕にその問題を出してよ」

 

「うん、いいわよ」

 

 

 興味を示した吉井君が問題を願い、それに美波さんは快くOKを出してページをめくります。ほほう。どうやらここから心理テストタイムのようです!どんな問題で心をあばいてくるのでしょう!?私も耳を澄ませますよ~!

 

 

「それじゃいくわよ。『次の色でイメージする異性をあげてください』」

 

 

ふむふむ。色のイメージですか。

 

 

「『①緑 ②オレンジ ③青』、それぞれ似合うと思う人の名前を言ってもらえる?」

 

 

ふ~む。緑、オレンジ、青ですか。それだったら私は……

 

 

 

「ん~……順番に、『緑が美波でオレンジが秀吉。それで青が姫路さん』って感じかな」

 

 

 ビリィッ!

 

 

 あ、なんかやっちゃいましたね吉井君。美波さんの持つ本だったものがその証拠。

 

 

 

 

「…あ、あの、美波?どうして本を真ん中から切り裂いちゃったの?」

 

「これまた綺麗に真っ二つだぜ。やるな美波」

 

「いや魔理沙。問題はそこじゃなくって……」

 

「ア、ア~キ~?」

 

「は、はいっ!?」

 

 

 ものすごくひきつった笑顔を浮かべる美波さんが、裂かれた本の間から吉井君をロックオンします。気楽に質問に答えていた吉井君は一瞬で姿勢を正します。

 

 

「お、教えてくれるかしら?ウチにもちょっとぐらい、青のイメージはないのかな~?」

 

「え、ええと……う、うん。美波は緑のイメージがする、よ?」

 

「……へ~~?じゃ、じゃあ、ウチが緑色のイメージがあるのはどうして?」

 

「ど、どうしてと言われましても…」

 

「あ、あの美波さん。イメージに文句を言うのはいかなものかと……」

 

 

 その人その人に感じるものはあるのですから、そこを責められてはどうしようもないと思うのですが……

 

 

「え~~~っと………言っても怒らない?」

 

「……ウチが怒るような理由なの?」

 

「僕は美波が噴火すると思ってる」

 

「お前…どんな理由で美波に緑のイメージを付けたんだよ、吉井」

 

 

 言い直します。結構憤慨ものの理由のようですから遠慮なく怒りましょう美波さん。

 

 

「は~……分かったわ。絶対に怒らないって約束するから言ってみなさい」

 

「……ほんとに怒らない?」

 

「武士に二言はないわ」

 

「え?美波はいつから武士になったのよさ??」

 

「チ、チルノちゃん。それはことわざみたいなもので、美波ちゃんが武士になったわけでは……」

 

 

 瑞希さんがチルノに説明をしてあげますけど、確かに美波さんって武士道に通ずる性格をお持ちですよね~。

 

 まあそれはさておき、果たしてその深い心は吉井君の理由とやらを許してくれるのか…

 

 

「えっとね……その……」

 

「うん。なにアキ?」

 

「………あのね、そのだね」

 

「………なに?」

 

「なんというかだね。あれというかだね……」

 

「あああもうさっさと言いなさいよアキィッ!!そんなにウチにしばかれたいの!?」

 

 

 

「は、はいぃっ!前に見えた美波のパンツがライトグリーンだったからです!」

 

「うっわ。まじか」

「吉井君、それはあまりにもあんまりです」

「あんた最悪だ」

 

 

 予想を上回るアホかつ変態すぎる理由に、魔理沙、私、妹紅さんの目が同じものを宿します。こりゃ~確かに吉井君の言う通り、美波さんが爆発するのは時間の問題―――

 

 

「くっ……!どうしてウチはその時、青色のパンツをはいてなかったのよ。ウチのバカ…ッ!」

 

「ええ!?怒るところはそこなんですかっ!?」

 

「パンツを見られたのはいいのか美波」

 

「……なんだかんだで乙女だよな、この人」

 

 

――というのはあっていましたが、怒りの矛先はよもやの〝自分〟でございました。青色のパンツって、すっごくセクスィーですよね?それを履いて見られてもいいって……うん、恋ってすっげえですね!!

 

 

 

「あっ!?じゃ、じゃあアキ!あんた瑞希のパンツかブラジャーも見たことがあって、それが青色だったから瑞希が青なの!?」

 

「ふぁっ!?みっ美波ちゃん!私はそんなエッチな下着を持っていません!み、水色なら持っていますけど!」

 

「瑞希さん言わなくていいっ!そういうデリケートなことは正直に言わんでもよろしいです!」

 

 

 顔を真っ赤にしてまで言わなくても……ってああ、吉井君もすっごい顔を赤くして!いったいどんなセクシーな瑞希さんを想像したのでしょう!?

 

 

「なっ、なっ、なんてことを言うのさ美波!僕は一度だって姫路さんの下着を見たことがないよ!そんなこと許されるわけないでしょ!?」

 

「じゃあなんでそんな顔が赤いんだぜ?」

 

「こ、これは怒りだよ!見たことがないのに濡れ衣を着せられたら、いくら穏やかな心を持つ僕だって怒るよ!」

 

「……でも、見たいんだろ?」

 

「妹紅ちゃん!?」

 

「確かに一度は見てみたいっ!」

 

「あああ明久くくんっ!?」

 

 

「吉井。お前のそういう正直なところ、私は嫌いじゃないぜ」

 

「あまりにも正直すぎて姫路の顔がすごいことになってるがな」

 

「でもまあ、嫌な顏ではないので大丈夫でしょう」

 

 

 恥ずかしさ7割、嬉しさ3割ってところでしょうか。吉井君に下着を見たいと言われて喜ぶ辺り、瑞希さんもやっぱりお熱いですな~。

 

 

「んで、島田はなんでそんな青色が良かったんだ?よっ」

 

「あっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

「どりゃどりゃ。私にも見せてくれよ」

 

「ああ。ほれ」

 

 

 美波さんが青にこだわるのが気になったようで、坂本君がヒョイと美波さんの手から両断された本を取り上げ、中身を見ました。魔理沙も理由が知りたいようで、通路を挟みながら顔を坂本君の持つ本へと近づけます。

 

 

「―――お、これだな今の問題は」

 

「ああ。なになに?緑は『友達』、オレンジは『元気の源』青は―――なるほどなぁ」

 

「ほっほぉ~~~……なんとなく分かってたが、改めて納得したぜ」

 

 

 ニヤニヤしながら美波さんと吉井君を見るお二人。何やら見られた美波さんも顔を赤くしてますけど、何が書いてあるのでしょう?

 

 

「さ、さっさとその本を返しなさいっ!(バシッ)あと絶対言ったらダメよ!?」

 

「ああ、悪い悪い。誰にも言わないから安心しろ島田」

 

「本当によ!?ぜ、絶対に絶対に言っちゃダメだからね!?」

 

「安心してくれ美波。今後美波と話す時だけにしか言わないぜ」

 

「ウチに言うのもダメッ!あ~もう!魔理沙に知られたのが一番いや~っ!」

 

 

 本を奪還して頭を抱える美波さんのお気持ちはよーく分かります。魔理沙ほど人をからかうことが好きな子は知りません。魔理沙が何を見たのかは分かりませんが、すぐに忘れることを願いましょう。

 

 

「明久」

 

「ん?どうしたの秀吉?」

 

「『オレンジでイメージする異性』の部分で、わしが呼ばれた気がするのじゃが気のせいかの?」

 

「え?秀吉って言ったよ?」

 

「…はぁ。お主にいつになったら男と認められるのやら…」

 

「秀吉君どんまいです。きっと良いことがありますって」

 

 

 お約束とばかりに女の子扱いされる秀吉君。よしよし、吉井君がおバカなのもある意味お約束ですからあんまり気にしちゃダメですよ~。

 

 

「……ところで美鈴」

 

「ん?」

 

 って、あらあらどうしたのですか秀吉君。吉井君が見たらまた一歩男の子への道が遠ざかっちゃうお顔になってますよ?

 

 

「その……お、お主はどうじゃった?」

 

「?どうと言いますと?」

 

「島田が言った心理テストじゃ。差し支えなければお主の回答も聞いてみたいのう」

 

「私ですか?私は緑が坂本君でオレンジが吉井君、そんで青色が秀吉君ですかね」

 

「……そ、そうか。うむ、分かったのじゃ」

 

 

 普段から大人びて冷静でいる秀吉君ですから、青を思い浮かべたらぱっと秀吉君が出てきたんですよね~。こう、クールな印象と言いましょうか?とにかく、青の異性と言ったら私の中では秀吉君です!

 

 

「……島田よ。わしにもその本を見せてくれんじゃろうか。非常に青が何を意味するかが気がかりなのじゃ」

 

「……む~。なんだか木下だけうまくいっててうらやましいから、やだ」

 

「そ、そんな子供のようなことを言うでない。とんだとばっちりではないか」

 

「そ、そうですよ美波ちゃん。私もどういう意味があるのか知りたいですっ」

 

「ごめん瑞希。ウチは敵に塩を贈るほど心優しい女じゃないの」

 

「て、敵ってそんなぁ~…」

 

「むう。雄二、魔理沙。青はどんな意味じゃったのか教えてほしいのじゃ」

 

「ん?そうだな…どうする霧雨?」

 

「いやいや。こういうことは自分で調べて分かることが大事だぜ坂本。だから秀吉、私たちは黙秘させてもらうぜ」

 

「むぅ…それらしいことを言って面白がっておるな。まったくズルい奴らじゃ」

 

 

 

 あれっ?頭で自己説明している間に何を皆さん盛り上がってるのです?しかもチラチラとこっちを見て、私の回答が変だったのかしら?

 

 

「……あ。そう言えば、秀吉君はどうして私の心理テストを知りたかった―」

 

「!島田っ!つ、次の心理テストを出してほしいのじゃ!早く別の問題も聞いてみたいぞいっ!」

 

「わっ!?わ、分かったわよ!だからそんなに大声を出さなくてもいいわよ木下っ!」

 

 

 声を遮った秀吉君が大きな美波さんに心理テストを促します。はぇ~。秀吉君はそれほど心理テストが好きなんですねー。長いとは言えない付き合いですから仕方ありませんけど、全然知りませんでしたよ。

 

 

「じゃあ、ついでに私も参加させてもらおうか。興味がわいてきたんだぜ」 

 

「わ、私も入れてもらっていいですか美波ちゃん?」

 

「んじゃあおれもさせてもらうか。構わないか島田?」

 

「うん、ウチは別にいいわよ」

 

「あっ!じゃあアタイもアタイも!なんか知らないけどやるのよさ!」

 

「……私は聞いとく」

 

 

 そんな情熱溢れる秀吉君につられてどんどん参加者が増え、最終的には妹紅さんと眠ってる土屋君以外の参加が決定します。ちなみに私と吉井君も続けて参加なのでございます。

 

 

「じゃあいくわよ。え~と……『1から10の数字の中で、今あなたが思い浮かべた数字を順番に二つ挙げて下さい』だって」

 

 

ふむふむ、色の次は数字ですか。それでしたら――

 

 

「2と8ですかねー」

 

「俺は5と6だな」

 

「わしは2と7じゃな」

 

「私は9と3だぜ」

 

「僕は1と4かな」

 

「私は3と9です」

 

「アタイは1と10ね!」

 

 

 それぞれが数字を言ったのを確認し、美波さんがペラリとページをめくります。

 

 

「『今最初に思い浮かべた数字は、いつも周りに見せているあなたの顔を表します』だって。それぞれ――」

 

 

 私たちを順番に指さしながら、

 

 

「落ち着いた常識人」→私

 

「クールでシニカル」→坂本君

 

「落ち着いた常識人」→秀吉君

 

「意志の強い人」→魔理沙

 

「ああ。なるほどね」→吉井君

 

「温厚で慎重」→瑞希さん

 

「あー。確かに似てるわよね~」→チルノ

 

 

 と診断結果を教えてくれました。

 

 

「ふむ、なるほどな」

 

「おお、私と秀吉君は常識人ですか。嬉しいですねぇ秀吉君!」

 

「うむ。……しかも、お―しと―なじというのもまた…」

 

「うんうん。私の性格ぴったりだぜ」

 

「あれ?僕に教えずに納得されても困るよ美波さん?」

 

「温厚で慎重ですか~」

 

「あら?ねえねえアタイは?アタイ皆みたいに言われてないのよさ?」

 

 

 二名のぞいて各々が自分の性格分析に感想をこぼします。

 

 

「それで、『次に思い浮かべた数字はあなたがあまり見せない本当の顔』だって」

 

 

 そう言ってから、再び美波さんが1人1人に指をさします。

 

 

 

 

「たくましくて頼りになる人」→私

 

「公平で優しい人」→坂本君

 

「色香の強い人」→秀吉君

 

「温厚で慎重な人」→魔理沙

 

「……あ~。うんうん、確かにアキね」→吉井君

 

「意志の強い人」→瑞希さん

 

「寂しがりで甘えたがりな人」→チルノ

 

 

 

 ほほ~……なるほど。わ・た・し以外の分析は言われてみると納得できますね。

 皆さんも自分のあまり出さない性格を聞いて、納得したり驚いたりと様々な反応を見せます。

 

 

「姫路は意志が強いのか。言われれば分らんでもないな」

 

「坂本君は公平で優しいみたいですね」

 

「ねえ。またまた僕の結果が分からなかったのは気のせいかな??」

 

「え~?私が慎重かよ?そんなことはないぜ、なあ?」

 

「そうよそうよ!ア、アタイがいつ寂しがったり甘えたりしたのよさ!?こんなのデタラメよっ!」

 

 

 いやいや後半2人。納得できないみたいですけど、結構当たってると思いますよ?だって魔理沙はアリスが相手だと借りた猫みたいに大人しくなったり、ものすごく乙女になって言いたいことを言えずにいたりするでしょ?

 それでチルノはすっごい周りの人を振り回すことが多々ありますけど、裏を返せばそれだけ人と接したいと思ってること。

 

 うん!やはりこの心理分析は、私のものを除けばすごく正しいですね!

 

 

「ふむ。しかし確かに美鈴は頼りになるし、たのもしいのう」

 

「あ、あっはっは!冗談はやめてくださいよー秀吉君!それを言うなら秀吉君だって優しくて可愛いじゃないですか~!」

 

「む。お主も冗談を言うのう。あと、わしは冗談のつもりはなかったのじゃが」

 

「む。わ、私も冗談ではないですけどね~?」

 

「むっ」

 

「むむ?」

 

 

「「…………」」 (私と秀吉君がむくれた顔でメンチを切り合っている場面)

 

 

 どうやら秀吉君は少しばかり見るお目めがないみたいですね。もうっ!私のどこがそんなモテそうな男の子の性格なのですかっ!そんなことなら世界中の女性がナイスガイになりますよっ!

 

 

「……良い組み合わせだよ、あんたら」

 

「おらおら、お前らの仲が良いのは分かったから心理テストに戻ろうぜ。美波、次はもっと納得できる問題を出してくれよ~」

 

「ウチは今のも納得できたんだけど、分かったわ。じゃあ次の問題いくわよ」

 

「ねえ美波。次の問題の前に僕のテスト結果を言うべきじゃないかな?ものすごく気になって僕は朝も起きられなくなるよ?」

 

「明久君。それを言うなら『夜も眠れない』です」

 

「お前が朝起きられなくて遅刻寸前に学校に来るのはいつものことだろうが」

 

「よしーったらダメね~。アタイみたいに2分前には学校に来ることを心がけなさい」

 

 

 そんな譲れぬ戦いが始まる前に、美波さん達は心理テストを再開します。

 

 ぬぬ、仕方ありません。雰囲気をつぶすのも良くありませんからひとまず手打ちということにしておきましょう。でも決して私がナイスガイと認めたわけじゃないですよっ!?あとできっちり話をつけてやりますからねっ!?

(※どんだけ認めたくないのですかあなたは・・・)

 

 

 

 

「えっと、『ひとりの転校生がやってきました。その人はとても整った顔で、瞬く間にクラスの人気者となります。しかし、そんな転校生には一つだけ大きな欠点がありました。それはいったいなんでしょう?』」

 

 

「すごいバカだったことだね」←吉井君

「バカだからに違いないのよさ」←チルノ

 

 

「『今あなたが答えたものが、自分が一番知られたくないこと、または自分のコンプレックスです』……だって」

 

 

『なるほど間違いない』

 

「「おいっ!?」」

 

 

 

 

 

「『あなたが道を歩いていると、反対側から一人歩いてきました。その人の年齢はいくつでしょう?」

 

 

「なかなか高齢なイメージが浮かんだのじゃ」←秀吉君

 

 

「『その人の年齢は、あなたの精神年齢に当たります』、だって」

 

 

「なるほど。確かに秀吉君は話し方も古風ですからね。精神が大人の方ってかっこいいじゃないですか!」

 

「………そ、そう、かの?怒るところなのじゃろうが、それならまあ…」

 

「……私よりよっぽど女だよ、木下秀吉」

 

 

 

 

 

「『あなたの目の前に川があります。どれくらい黒い、または白いと思いますか?』」

 

 

「ん~。結構きれいなイメージがしますかね?飲んでも害はないぐらいです」←私

 

 

「『これはあなたの心の腹黒さを表します』だって。ん~、だから美鈴は心が綺麗ってことね」

 

 

「ほう。さすがは美鈴じゃのう。あとはその鈍さを消し去ればわしは言うことなしじゃな」

 

「喜べることなのにそんなことを言う秀吉君はそんなに私を爆発させたいんですね?清らかな私を地獄に流れるくらい水ぐらいドロドロした報復に燃えさせたいのですね秀吉くぅん??」

 

「お前ら、仲が良いのか悪いのか私には分からなくなってきたぜ」

 

 

 そんな感じで心理テストをいくつか出してもらい、私たちは楽しく時間を過ごしました。

 

でも秀吉くぅん!この私をなめた大罪!君にもいまだかつてない屈辱的な地獄の思いを味合わせて復讐をしてやりますよぉおおおお!!

 

(※すでに吉井君達にされています。そしてそれを『地獄の思い』とさせる辺り、あなたも優しいですねぇ美鈴さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

『………う、うえっぷ……うう……』

 

『咲夜、酔い止めは飲んだの?顔色がすごい悪いわよ?』

 

『……の、飲んだわアリス。それも推奨容量を超えた量を、ね。うぇぇ…』

 

『…そう。ごめんなさい。でも気をしっかりしっかり持ちなさい。あなたは弱い子じゃないでしょ、咲夜』

 

『さ、咲夜ってこんなにバス酔いがひどかったんだね?もう死にかけというかなんと言うか……』

 

『愛子、よしてあげなさい。咲夜は車酔いが本当に激しいの。あまり言ってあげないであげてちょうだい』

 

『ご、ごめん。でも、また一つ咲夜の新しい一面を知っちゃったな~。咲夜、あんまり無理をしないでよ?まだ時間はかかるからリラックスしようね?』

 

『……バ、バスに乗ってる限り私に安らぎは来ないけどね……うぷっ』

 

 

 

 

『……2人とも。バスの中でケンカはだめ』

 

『り、理由があるのよ代表っ!博麗の奴が勝手に人の持ってきたお菓子を全部食べたのが悪いのよっ!』

 

『げふっ。な~にを人を悪人のように言ってんのよ木下。あんたが『食べてもいい』って言ってくれたから、私はその好意に甘えて食べさせてもらったのよ?それのどこが悪いってのよ、ええ?』

 

『…確かに言ったわ。『一口食べてみる?』ってね?あんたに言うなんて、自分でも気が狂ったのかと思うわよ。これが〝旅行の時は心が広くなる〟ってことねぇ。…でも、誰が全部食べてもいいって言ったのよ!?こんな大袋、よく文字通り跡形もなく食べたわね!バカじゃないのかしらっ!?』

 

『ふん。人の好意を無下にするほど私だって落ちぶれちゃいないわよ』

 

『あんたの場合は人の好意に食いつき過ぎなのよっ!わ、私はほとんど食べてないのに……!一応私だって楽しみにしてたのよ!?』

 

『……霊夢、それはあなたがいけない。優子に謝るべき』

 

『え~………。でも霧島、木下に頭を下げるのはなんか嫌よ。私の矜持が泣いちゃうわ』

 

『……でも、悪いことをしたらちゃんと謝るのが大切』

 

『むう。じゃあ木下、あんたが謝りなさい。そうすれば万事解決よ』

 

『この状況でよく私が悪いことをした流れに持っていくわね!?なんでお菓子を食べられた私が、図々しくお菓子を食べ尽したあんたに謝んないといけないのよっ!』

 

『そりゃアンタが騒いでもめたのが原因だからに決まってるじゃない』

 

『理不尽すぎる理由をぬかしてんじゃないわよごらぁ!あんたは何事にもいちゃもんつけなかったら気が済まないの!?』

 

『そんなことないわよ。あんたにしかそんなことしないっての』

 

『そんな特別扱いなんかこっちから願い下げよっ!あ~もぉ!やっぱりらしくないことなんかしなきゃよかったわ!!』

 

『後悔先に立たず、ってことね。とにかくごちそうさま木下。初めてアンタといて美味しい思いが出来たわ。けぷっ』

 

『こっ、こいつ本っ当にむかつくわねっ!?礼を言うなら言うで、せめて余計な言葉を付け加えんじゃないわよ!!』

 

『……優子、バスの中だから静かに』

 

『そうよ木下、もう少し静かにしなさいっての。お茶も落ち着いて飲めないし、皆が迷惑するでしょうが』

 

『……っ!だっ、だっ、誰のせいと思ってんのよこのクソアマ~…っ!!』

 

『……優子。バスの中で乱闘を起こしたらダメ…っ』

 

『は~。霧島、そっとしておきましょ。きっと木下はこのりむじんバスとやらに乗れて興奮してるんだわ。ここは大人である私たちが大きな心を持ってやるのが大事よ』

 

『あんたみたいなのが大人だったら世も末よ博麗の大バカァァァァアアアアァッ!!』

 

『だ~れが大バカって~?このヒステリック木下が』

 

『優子…っ!ものさしは線を引くための文房具…っ!博麗も水筒を持って身構えない…っ!』

 

『こいつがすべて悪いのよっ!邪魔しないで代表!』

 

『霧島、こいつと決着が付いたら話を聞いてあげるからあんたは引っ込んでなさい。タンコブ出来ても知らないわよ』

 

『……ふぅぅぅ……2人とも……1回頭を冷やす……!!』

 

 

 

『……アリス。咲夜じゃなくて、あの2人がバス酔いだったらどれだけ違ったと思う?』

 

『……その時はきっと世界に平和が満ちていたと思うわよ、愛子』

 

『だよねー。……これ、代表の援護に行った方が良いかな?』

 

『ええ、1人で2人の仲裁をしてる代表があまりに気の毒だわ。咲夜の代わりに私達で頑張りましょう、愛子』

 

『こうして快適なバス旅行は夢となっていくんだね。世界は甘くないなぁ~』

 

『うぇぅ……あ、頭に響くから勘弁して、霊夢、木下さん……』

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!文字数だけが多くて話が進まず。展開を望んでいた方には申し訳ありませんでした!

 今回は電車、そしてバス内でのやりとりを書かせてもらったのですが・・・う~ん、バスであろうと電車であろうと、普段学校で彼ら彼女がやることと見事に変わっていませんね。唯一それらしいことをしているのが、グロッキー状態の咲夜さんだけとは・・・!

 そういうことで今回は乗り物内だけでの話となりましたが、次回はやっと合宿場に物語の舞台を移せそうでございます!またも投稿が空くことになるかもしれませんが、心の隅で楽しみに待っていただけることを願います!

 それではまた次回っ!


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情報―盗聴、じゃない…ただバレないように録音しただけだ…!

 どうも、村雪です!大変間が空いてしまいましたが投稿させていただきますね!お待ちいただいた方はすみませんでしたっ!

 ようやく今回舞台の合宿場へと到着するのですが、果たしてどのような展開となっていくのか……!気を楽にして読んでいただけたら幸いでございます!

それでは!


――ごゆっくりお読みください。


「……(とんとん)」

 

「む。起きたのじゃなムッツリーニ」

 

「……空腹で目覚めた」

 

「あら、もうそんな時間でしたか?」

 

 

 心理テスト大会を開催してしばらくたったころ、秀吉君の隣で眠っていた土屋君が目を覚ましました。時間は1時15分。思ったよりも心理テストに熱中しちゃいましたね~。

 

 

「確かに頃合いじゃな。そろそろ昼にするかの?」

 

「そうだね。遅く食べるとせっかくの夕飯が食べられなくなっちゃうもの」

 

「じゃあ心理テストはいったんここまでにしましょうか。美波さん、また後でよろしくです」

 

「オッケー。まずはお昼ご飯ね」

 

「よっと。電車の中で食べるのも久しぶりだぜ」

 

「確かに電車で飯なんか、旅行に出た時ぐらいしかないからな」

 

 

 自分の荷物を探ってそれぞれ昼食の準備を始めます。ちなみに妹紅さんと私のお弁当は咲夜さんが作ってくれたものです。ああ!食べるのがなんと惜しい代物!このまま観賞用として取っておきたいぐらいです!

 

 

 

 

「あ、あの皆さんっ!」

 

『ん?』

 

 

 

 それでも食べないと大変失礼なので、覚悟を決めて咲夜さん手作り弁当に箸をつけようとしたとたん、隣から瑞希さんが大声を上げました。

 

 

 

 見るとその手には…………いつかの屋上で見かけたことがある風呂敷が……

 

 

「どうしたのじゃ姫路?」

 

 

 

 

「え、ええっと……実は私……お、お弁当を作ってきまして…」

 

 

 

 

 

 

「……ほっ、ほう。お、お弁当となっ?」

 

「へ、へ~?そっ、そうなんだ~?(がくがく)」

 

「…………!(ぶるぶる)」

 

「ひっ、姫路は積極的なんだな~?(がたがた)」

 

「な、な、何かしら。体の震えがぜんぜん止まらないのよさ…!(ぷるぷる)」

 

 

「お、おいお前ら大丈夫か!?目に見えて分かるほどに身体が震えてるぞっ!?」

 

 

「……どうしたの?」

 

「あ~・・・た、たぶんトラウマですよ、妹紅さん」

 

「……なんの?」

 

 

 あ、そっか。妹紅さんはあの時まだいなかったですかね。

 

 

 以前瑞希さんがお弁当を作ってくれたことがあるのですが…実は彼女、お料理がかなり苦手なようでして、今震えてる4人はそのお料理を食べたひがい…じゃなくて、うらやましい人達でございます。

 

 そして、そのお料理の味がなかなか独特のようでして……今のところ気絶率100%を誇るという、まさに必殺料理というわけなのです!

 あの時以来お目にする機会がなかったのですが、まさかここで現れることになろうとは…くうっ!こ、心ではしたくないのに身震いが……っ!

 

 

「あ、あぅ……あ、あの時の事は本当にごめんなさいっ!で、でもどうかっ!どうか私にチャンスを与えてくれませんかっ!?」

 

『チャ、チャンス?』

 

 

 ところが、私たちの反応にめげることなく瑞希シェフは叫びます。

 

 

「は、はい!私、あの時からずっとお料理を練習をしてきたんです!何度も何度も倒れたりお腹が痛くなったりしましたけど……こ、今回は味見しても大丈夫でした!ですから、どうか一口だけでも食べてくれませんか!?」

 

「み、瑞希!あんたの気持ちは伝わるけど、そんな症状を聞かされた後じゃますます食べにくくなるわっ!!」

 

「な、なんだかんだで瑞希さんって体力がありますねぇ~…」

 

 

 何度も腹痛や気絶を繰り返してもめげずに作り続けるとは、容姿からは全く想像できないガッツです。さきほど心理テストで意思が強いと診断されていましたが、まさにその通りでしたね。

 

 

 

「明久いけ…!お前が先に食べてあげるところだろ…っ!(ぐいぐい!)」

 

「そ、そうしたいけどやっぱり怖いよ…!雄二、ここは君がいって僕を安心させるべきだって…!(ぐいぐい!)」

 

 

 それに比べてこの2人は、友達を盾に逃げようとする始末。なんと心が小さいっ!以前みたいに男を見せましょうよ!

 

 

 

 

「……分かった。瑞希がそこまで言うならウチがもらうわ」

 

「ええっ!?」

 

「なんだとっ!?」

 

「ええええっ!?ほ、本当ですか美波ちゃん!?」

 

 

 そんな2人をよそに、漢気ならぬ女気を見せたのが美波さん。吉井君達だけじゃなく、食べてほしいと懇願していた瑞希さんまでもがビックリ仰天です。

 

 

「本当よ。人が頑張って作ったお弁当を食べないのは良くないじゃない。それに、瑞希が大丈夫って言うんだから大丈夫でしょ。人をだますような子じゃないし、ウチは瑞希を信じるわ」

 

「み、美波ちゃ~ん…っ!」

 

「やべえ、美波がものすごくかっけぇ…!わ、私もあれぐらい男らしさを持てたらアリスにも…!」

 

「わ、わしもこれぐらい漢気が備わっていれば、周りの見る目も違うのじゃが…!」

 

「やかましいわよそこ二人っ!ウチの性格なんだから仕方ないでしょ!出来るならこっちからあんた達に投げ渡したいわっ!」

 

 

 三白眼で2人を睨む姿もまたかっこいいです、なんて言ったらパーかグーが来そうなので控えましょう。

 

 

「ほら瑞希。お弁当もらうわよ?(ひょい)」

 

「あっ」

 

「(パカッ)…うん。見た目には何も問題ないわね」

 

「おお、確かに」

 

 

 美波さんの言う通り、ポピュラーなおかずが入ったお弁当は実に食欲をそそられます。

 

 

………が、重要なのはそこではなく。

 

 

「確かに全然おいしそうな見た目だぜ……前回もそうだった気もするが」

 

「そ、そうですね。ですから大事なのは中と言いますか…」

 

 

 果たして食べてもハプニングは起きないのか。と、ときめきとは遠いもので胸がドキドキしてきました…!

 

 

 

 

「じゃあ、いただきまーす(パクッ)」

 

『『『!!い、いった…っ!?』』』

 

 

 パクリと。見ている私たちよりもずっと落ち着いた美波さんが、その箸に取った卵焼きを一気に口へと入れました。な、なんと腹の座った女の子か…!うわさで聞いただけですが、そりゃ~女の子からモテるのも当然ですね!

 

 

 は、果たしてそのお味は……っ!?

 

 

 

 

「………あら、美味しいじゃない」

 

『何ぃ!?』

 

「ふぁぁ~…!よ、よかったです~!」

 

 

 咀嚼を終えた美波さんが出した感想に、全員…というか以前ノックダウンした四人組が仰天してお弁当を凝視します。

 

 いささかそのリアクションは失礼な気がしますが、そればっかりは申し訳ないですが瑞希さんのせいなので何も言えないでしょう。あ、美波さんの感想に感動してるみたいなので聞こえてませんねこりゃ。

 

 

「じゃ、じゃあ僕ももらうね姫路さんっ!」

 

「んじゃ俺もいただくか。悪いな姫路」

 

「……なら、俺も」

 

「う~ん。よく思い出せないけど、アタイも食うのよさっ!」

 

「私ももらうぜ。美波の反応なら大丈夫そうだからな」

 

「ではわしもいただかせてもらおうかのう。良いかの姫路?」

 

「は、はいっ!どうぞ食べてください!」

 

 

 美波さんが大丈夫なのを見て、次々と瑞希さんのお弁当をとっていきます。じゃあ私はこのシンプルなおにぎりをいただくとしましょうか!いただきま~すっ!

 

 

 

「むぐむぐ…あ、いいじゃないですか!」

 

「おおっ?なんだ、全然いけるじゃないか瑞希!」

 

「ああ、確かに普通に食べられるなこれは」

 

「本当ですか!?あ、ありがとうございますっ!」

 

 

 以前が以前だけに少し身構えていたのですが、少し塩が強いのを除けば全然食べられますね!やるじゃないですか瑞希さん!これなら吉井君の胃袋を掴む日も遠くありませんよ!

 

 

「………美味い」

 

「ムッツリーニの言う通りじゃな。なかなか美味しいのじゃ、のう明久?」

 

 

 

 

 

シーン

 

 

 

ん?吉井君の返事がありませんよ??

 

 

「む?どうしたのじゃ明久?」

 

「あ、明久君?」

 

「どうした明久?何かあったか?」

 

「おい、どうしたんだ吉井。瑞希の弁当美味かっただろ?」

 

 

 

 シーン

 

 

 

『?』

 

 

 なおも反応のない吉井君。もしかして眠ってるんでしょうか?でも、さっき美波さんが大丈夫だったのを見て一番に箸を伸ばしたのは吉井君だったはず。

 

ほら、現に今もお箸を口にくわえて固まってる姿の吉井君が見え―――

 

 

 

「―――って、はっ!?も、もしや!?」

 

「あ、明久しっかりしろ!一口ぐらいでやられるほどお前はやわじゃねえだろうがっ!」

 

「……胃の強さは、世界一なはず…っ!」

 

「お、お茶を飲むのじゃ明久!きっと落ち着くはずなのじゃ!」

 

「ごっ、ごめんなさいごめんなさい明久君っ!私頑張って作ったつもりだったんですけど、またダメなものを作ってしまって・・・!う、ぅぅ~~!」

 

「ま、待って瑞希!し、失敗したからって瑞希が悪いわけじゃないわ!ウチが大丈夫だって自信満々に言ったからアキが食べたのよ!だから責めるならウチを責めなさい!瑞希は悪くないわ!」

 

「そ、そうだぜっ!瑞希は良かれと思って作ったんだ!だから気にすんな!なっ!?」

 

 

 私達は一斉に吉井君の安全確認と瑞希さんの慰めに走りますっ!こ、これはもしかして以前のようなおかずが混ざっていてそれを吉井君が食べてしまったのでは!?

 

 なんてことっ!!せっかく瑞希さんが頑張ってくれて作ったというのに、最も喜んでほしい人をまたもノックアウトさせてしまうとはっ!

 

 

 

とにかく、急いで蘇生作業を――!

 

 

「………お」

 

「っ!い、意識はあるのですか吉井君っ!?」

 

 

 すると、ようやく口を開く吉井君。ほっ、症状は軽いみたいですね!じゃなければ話をするのも困難となっていたでしょうから、これは不幸中の幸いでした!

 

 

「………お、お…」

 

「なんだ明久!『お』がどうしたっ!?遺言なのか!?」

 

「いや、さすがに生死はさまよってませんよ!意識の狭間はさまよってるかもしれませんけども!」

 

 

 坂本君の物騒な発想はともかく、何やら吉井君は伝えたいことがある様子。いったい彼は何を伝えようと………!?

 

 

「お―――――

 

 

 

 

お、おいしいっ!すっっごくおいしいよ姫路さんっ!」

 

 

 

 

『…あ?』

 

「…え、ええっ!?ほほ、本当ですか吉井君!?」

 

「うん!この卵焼き、すっごい甘めに出来てて僕好みの味だったよ!今まで食べてきた玉子焼きで一番好きかもしれないやっ!」

 

「は、はわぁ…っ!あ、ありがとうございます明久君っ!明久君が気に入ってくれて本当に良かったです~!」

 

 

『………………………』

 

 

 

………興奮気味に瑞希さんの玉子焼きを褒め始めた吉井君。

 

 

 なるほど、つまりあれですか。あまりに自分好みの玉子焼きだったため、言葉も出ないぐらい感激していた、と。あれほど声をかけたのに無視をしたのも、気絶したからではなく、卵焼きの味をかみしめていたから……と。

 

 

 

 

 

 

『……紛らわしいマネすんなアホがぁあああああっ!!』

 

「うわわっ!?どど、どうしたの皆、いたただぁあああっ!?」

 

「あ、明久君っ!?皆さんやめてください~っ!!」

 

 

 結果オーライでも私たちの心臓を驚かしたのは事実。少々彼には理不尽な目にあっていただきましょう。

 

 

 

 

 

 

『むぐむぐ…やれやれ、みんな揃ってやかましいわねー。どんな時もアタイみたいに冷静でなきゃいけないのよさ、あむあむ…』

 

『……待ってチルノ。その手に持ってる弁当は何だ』

 

『んぐっ、ん?なにってみずきが作ったお弁当じゃない。いちもくりょーぜんよさ』

 

『……それは分かってる。私が聞いてるのは、その中身のこと』

 

『ん?中身?すごくおいしかったわよ!もこうも食う?アタイが許すのよさ』

 

『……許可を出すのはチルノじゃない、という話以前に………中身、ほとんどすっからかんなんだけど…』

 

『あら、アタイったらつい食べ過ぎちゃったわ。でもよく見なさいもこう!きちんとサラダと酢の物は残してあるわよ!』

 

『……嫌いなもの残したんだろ』

 

『そ、そんなことないわっ!最強のアタイに嫌いな物なんてないもの!』

 

『……そうか。でも、よくこんだけの量を食べたな。食べる方なのか?』

 

『アタイ?そうねー、普段あんまり食べないご飯があったらいっぱい食べたくなるのよさ』

 

『……けっこう、鉄板なやつばっかりだったと思うけど』

 

『てっぱん?アタイ鉄なんて食べてないわ?』

 

『…………よくありそうな料理ばかりだったと思ったけど……』

 

『え?そうかしら。魚以外はアタイほとんど食べることなんて無いものばっかりだったわ』

 

『……魚?』

 

『そうよ。近くの川で釣った魚を食べてるのよさ』

 

『………え?』

 

『でも釣れない時も多いからね~。そん時はカエルを焼いたり、適当に取った草を煮て食べたりしてたわ』

 

『………………』

 

『あと、あれね!夏はザリガニだわっ!あいつならどこでも釣れるから食うのに困らないのよさ!』

 

『…う………………そ、そうか…』

 

『それもダメな時は、仕方ないから最終手段よ!原っぱとかで見かける―――』

 

『ごめんチルノそれ以上言うなお願いほんとお願い絶対言わないで』

 

『へ?どうしたのよもこう。顔青白くなってるわよ?』

 

『…………その話はもうやめよう。私の弁当やるから、その先は絶対言うな』

 

『ほんとっ!?ひゃっほ~!もこう大好きよさ~!』

 

『…………こいつ、見た目に反して生活がえげつなすぎる…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はっ!?」

 

 

 な、なんだろう。ものすごい数の鬼に襲われる夢を見ていたような…?

 

 

「ん?目を覚ましたのか明久」

 

「おお、目を覚ましたのじゃな明久。ずいぶん眠っておったのう」

 

「あ。ゆ、雄二に秀吉」

 

 

 恐ろしい夢に身震いしていると、隣の座卓でくつろいでいる様子の雄二と秀吉が目覚めの声をかけてきた。・・・確かあの鬼の中に雄二がいて、気のせいか秀吉もいたような気が・・・ち、違うよね?秀吉がそんなひどいことするわけないよね?

 

 

「こ、ここはもう合宿場なの?」

 

「ああ、きぜ…眠っていたお前が起きないもんだから運ぶのに苦労したぞ」

 

「うむ。声をかけても叩いても起きなったからのう。雄二に運んでもらったのじゃ、きちんとお礼を言うんじゃぞい?」

 

「うん、ありがとう雄二」

 

 

 なんだか不穏な言葉も聞こえたけど、ひとまずお礼はしておこう。なんだか頭が痛いのはきっと寝起きだからだね。

 

 

「ところで、僕たち以外には誰もいないけど三人部屋なの?」

 

 

 しかもその内の一人が秀吉だなんて。これで雄二がいなかったら僕は間違いを犯してそうだったから、心からこの悪友がいることに感謝しよう。

 

 

「いや、ムッツリーニもこの部屋だ。今は情報収集に行ってる」

 

「情報収集?それってなんの?」

 

「お前は自分が頼んだことも覚えてないのか……」

 

 

 失礼な、少しド忘れしただけじゃないか。今すぐ思い出してみせるよ。……え~~と………

 

 

「(ガチャッ)………ただいま」

 

「おーすお邪魔するぜ。お、目が覚めたのか吉井。元気そうで何よりだぜ」

 

「む、噂をすれば戻って来たな」

 

 

 あと少しで思い出しそうなところで、実にタイミング悪くムッツリーニと魔理沙が部屋に戻って来た。うん、途中で思考を中断されたから思い出せなくても仕方ない。今はムッツリーニ達の会話に専念しようじゃないか。

 

 

「霧雨はどうしたんだ?」

 

「例の件で話があるって言うからな。すぐに来たんだぜ」

 

「お。その話ってのは、俺や明久や霧雨が頼んだ例のヤツか?」

 

「(コクリ)………昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

 

「おお、さすが土屋だな。仕事が早いんだぜ」

 

「……手口や使用機器から、明久たちの件は同一人物の犯行と断定できる」

 

「そうか。まぁ、そんなことをするヤツなんて何人もいないだろうし、断定しても間違いないだろうな」

 

「そもそも、私の知る範囲で盗撮犯が2人いるのが相当だけどな」

 

「……俺は、盗撮犯なんかじゃない……っ!」

 

「誰も土屋がとは言ってないんだが…」

 

「一応、自覚があるにはあったんだな」

 

「……っ!?卑怯な…!」

 

「「いや、自分から言い出したんだろうが」」

 

 

「………」

 

 

 えっと、僕を放って皆は何で盛り上がってるの?えっとえっと、確か聞こえたのは、犯人……僕達が頼んだ………盗撮犯……

 

 

「……あっ!!僕のパンチラメイド姿を盗み撮りしたヤツのことを話してるんだね!?」

 

「やっと思い出したか」

 

 

 脅迫文に添えてあったあの忌々しいベストショットを激写した犯人を見つけてもらうために、その犯人と同じく盗撮と盗聴のスペシャリストのムッツリーニに頼んでたんだった!そんな大事なことを忘れるとは、きっと合宿が楽しみ過ぎたんだね。……僕の記憶力がバカすぎるなんて事実はない。

 

と、とにかく今はムッツリーニから話を聞くのが最優先だ!

 

 

「それで土屋、犯人は誰だったんだ?」

 

「……(フルフル)」

 

「ん?分からなかったのかムッツリーニ?」

 

「……(コクリ)」

 

 

 すると、ムッツリーニから意外な結果報告が。このムッツリーニの手から逃れるとは、思ったよりも相手は手ごわいみたいだ。

 

 

「……すまない」

 

「いや、まあしょうがねえよ。もともと面倒な頼み事だったんだからさ」

 

「そうだよムッツリーニ。調べて分からなかったのならそれは仕方ないよ」

 

 

「……犯人は、尻に火傷の痕(あと)がある女ということしか分からなかった」

 

「「お前(君)はいったい何を調べてきたんだ」」

 

 

そんなことが判明しているのなら、もう犯人の正体も分かってもおかしくないだろうか。この男の捜査方法が気になるところだ。

 

 

「……各地に、網を張った(ごそごそ)」

 

 

 そう言ってムッツリーニが懐から小さい機械を取り出す。どうやらそこに手がかりが入ってるみたいだけど…

 

 

「ムッツリーニ、それは何?」

 

「……小型録音機。学校中に盗聴器を仕掛けた(ピッ)」

 

 

 

 

 

 

≪……土屋、今いいか?≫

 

≪……大丈夫。今日は?≫

 

 

 おおっ、声が聞こえてきた!……って、あれ?この声って……

 

 

 

≪わ、分かってるだろ?あれだよ!その、アリスの……≫

 

≪……新作が入ってる。これ…≫ 

 

≪………おお、これは見事な微笑みだぜ…いくらだ?≫

 

≪……常連価格で、これぐらい≫

 

≪分かった。恩に着るんだぜ≫

 

≪……毎度あり≫

 

 

 ピッ

 

 

 

「「「…………………」」」

 

「……こっちが本物(ごそごそ)」

 

「な、なかったようにしてるな!?私のトップシークレットをこんな形で暴露しやがったのに、話を進めて闇に葬り去ろうとしてやがんな!?土屋ぶっ飛ばす!」

 

「(ガシッ)まあ落ち着け。霧雨がアリス・マーガトロイドの写真をムッツリーニから買ったところで、今更驚きやしないさ」

 

「そうだよ魔理沙。僕だってムッツリーニからアリスさんの写真や他の女の子の写真を買ってるんだから、恥ずかしがることなんてないよ」

 

「う、うるせえっ!っていうかアリスの写真を買ってるのかお前!二度と買うんじゃねえぞこら!」

 

 

 そう言われても、アリスさんって外国のお人形みたいに綺麗だから衝動的に写真を買いたくなっちゃうんだよね。

 

 ちなみにアリスさんの写真はムッツリーニが主催するムッツリ商会でも売れ筋のものらしくて、男女ともに買いの嵐がすごいそうだ。

 

 

 

ピッ

 

 

≪―――らっしゃい≫

 

 

 ムッツリーニが新たに出した録音機を再生すると、今度はノイズ混じりの声が響いた。一応女の子の声というのは分かるけど、だいぶ音質が悪いなぁ。

 

 

「なんか、だいぶ音が悪いな」

 

「校内全てを網羅したのなら仕方ないだろう。音質や精度にこだわる時間はなかっただろうしな」

 

 

 この声から誰なのかを見分けることは出来そうにない。だからここからは聞こえてくる内容に耳をすませよう。

 

 

≪……雄二のプロポーズを、もう一つお願い≫

 

 

 次に聞こえてきたのも女の子の声。こっちも音が悪いけれど、しゃべり方と要求するもので誰なのかはすぐに予想できた。

 

 

「しょ、翔子……!アイツ、もう動いてやがったのか…!」

 

「それだけ坂本の欲しかったんだな。いや~お熱いこったぜ」

 

「霧島さんもこんなゴリラのどこが良いんだろうなー」

 

 

 他にも素敵な人はいるだろうに。女の子の心って分かんないもんだね。

 

 

 

≪毎度。二度目だから安くするよ≫

 

≪……ありがとう。でも、値段に糸目はつけない≫

 

≪さすがはお嬢様、太っ腹だ。あるいは、それだけ熱いってことかねえ?≫

 

≪……それで、雄二のプロポーズは…?≫

 

≪ああ、それじゃあ明日――と言いたいんだけど、明日からは強化合宿だから引渡しは来週の月曜日になるけど、いいかい?≫

 

≪……分かった。我慢する≫

 

 

 

「あ、危ねぇ……強化合宿があって助かった…!」

 

「でも、坂本もあんなに好かれて悪い気はしないんじゃねえか?前にお前もプロポーズをしてたわけだしな」

 

「そっ、そんなことあるか!だいたいあれは明久のバカが仕組んだことだと言っただろうが!俺があんなふざけたことを言うか!」

 

「またまたそんなことを。僕はただ雄二の思ってたことを代弁してあげただけじゃないか」

 

「それが思い切り間違ってると言ってるんだボケッ!!」

 

 

 まったくこの男は素直じゃないなぁ。ともかく、霧島さんに雄二のプロポーズが渡るのは来週の月曜まで延びたみたいだ。

 

 

「……そして、これが犯人特定の手がかり」

 

 

 

≪―――でも、相変わらずすごい量の写真だねみ、ゴホンッ!・・・こ、こんなに写真を撮ってるのをバレたら怒られない?≫

 

≪う~ん、実は一度、前に母親にバレてね≫

 

≪そ、それってどうなったの?≫

 

≪文字通り、尻にお灸を据えられたよ。まったくいつの時代の罰なんだか≫

 

≪うわ~。それは気の毒だったねー≫

 

≪まったくだ。おかげで未だに火傷の痕が残ってるよ。乙女に対してひどいと思わないかい?≫

 

≪う、う~ん……でも、み…じゃなくて、やってることがやってることだから自業自得な気がしなくもない、かな?≫

 

≪おや?そんなことを言ってもいいのかな~?せっかく君のために彼氏君の写真をまとめ撮りしたのに…≫

 

≪ウ、ウソウソウソだよ!?ひどいよね女の子のお尻にそんなことするなんて!そんなの絶対許されざる蛮行だよ!悪いのはお母さんだよねっ!≫

 

≪……前のお客さんもそうだったけど、誰もかれも熱いこったね~…≫

 

 

 

 

「(ピッ)……以上、分かったのはこれだけ」

 

「なるほどだぜ。それで尻に火傷の痕ってことか」

 

「犯人が女だというのも間違いないな」

 

「それよりも僕は、この女の子の彼氏ってヤツのことの方がすごく気になり始めたよ」

 

 

 女の子にこれほど熱く思われるなんてなんと妬ましい。どこの誰かは知らないけれど、言い値を払うから僕にその秘訣を教えてほしいものだ。

 

 

「でもな~。手がかりなのは間違いないけど、どうやって尻なんか調べるんだよ?」

 

「そうだよね。仮にスカートをめくってまわっても見つけられるか分からないし……」

 

「……赤外線カメラでも、火傷の痕が映るか分からない」

 

 

 それはすなわち映るのなら実行するということ。やっぱりこのムッツリの情熱は並じゃない。

 

 

「話の腰を折って済まぬが、お主らは何の話をしておるのじゃ?昨日明久がムッツリーニに相談したことに関するものかのう?」

 

「ん?ああ、そう言えば秀吉はいなかったな。要するに俺と明久と霧雨のことでな―――」

 

 

 話についていけず首をかしげていた秀吉に、雄二がざっくりと説明してあげる。この件に秀吉はなんの被害もないけれど、最初にムッツリーに相談するよう提案してくれた優しい秀吉ならまた手助けをしてくれそうだから話して損はないだろう。

 

 

「ふむ、そういうことじゃったか。ならば魔理沙が女湯に入ったときに、尻を確認すればよいのではないか?」

 

「お。それがあったな」

 

「おお!ナイスアイディアだよ秀吉!」

 

 

 それなら誰にも気づかれず、なおかつ自然にお尻に火傷があるかを確かめられる。さすが秀吉、出来る女の子は違うね!

 

 

 

「えっ?い、いやいやいや!それはダメだろ!」

 

 

「あん?」

 

「え?ど、どうして魔理沙?」

 

 

 ところが魔理沙から返って来たのは反対の声。それには思わず僕もとまどった。魔理沙を脅迫している犯人も同一人物だから、喜んで引き受けてくれると思ったんだけど……

 

 

 

「だ、だってそれって!≪私≫が女の尻をじっくり見ろってことだろ!?それって完全に変態で犯罪だし、何よりそんな目で見られたやつが可哀そうだろうがっ!」

 

「「「「……あー」」」」

 

 

 

   魔理沙➡アリスさん♡  

 

 

 

 この構図を踏まえると、確かにそれは色々とよろしくない気がしてきた。見られた子は気にしないだろうけど、魔理沙本人が気にしたらなー。普通は逆だと僕は思うけれども。

 

 

「魔理沙ってすごい大ざっぱな性格だけど、そういうことに関したらほんとに乙女になるよね」 

 

「まったく、普段の性格を出せば変わるものもあるだろうにな」

 

「しかし、そこも含めて魔理沙の良さでもあると思うがのう」

 

「……良きも悪きも含めて、自分になる」

 

「や、やかましいお前らっ!とにかく私は嫌だからな!そんなのでアリスに変態なんて思われたらシャレにならないぜ!」

 

 

 どうやら魔理沙の意志は固いみたいだから、魔理沙にお尻を確認してもらうのはダメみたいだ。う~ん、でもそうなると他には……

 

 

「あっ!じゃあ秀吉だ!秀吉に女子風呂で見てもらえばいいじゃないか!」

 

「明久。お主はわしに女子連中に始末されろと言うのじゃな?」

 

 

 さすがは僕!これならお尻の火傷確認作戦を決行できるぞ!

 

 

「それは無理だ、明久」

 

「へ?どうしてさ雄二?」

 

「いやじゃから、わしは男じゃと言っとろうが」

 

「それも当然だが、ここを見ろ」

 

「え?」

 

 

 雄二が見せてきたのは強化合宿のしおり。どこかのページを開いてるみたいだけど、ん~?

 

 

~合宿所での入浴について~

 

・男子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(男)

・男子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(男)

 

・女子ABCクラス…20:00~21:00 大浴場(女)

・女子DEFクラス…21:00~22:00 大浴場(女)

 

 

 

・Fクラス木下秀吉…20:00~21:00 個室風呂④

 

 

「な、なぜわしだけが個室風呂なのじゃ!?」

 

「くそっ!これじゃあ秀吉にも見てきてもらえないじゃないか!」

 

「そういうことだ。そもそも無理な話ではあったが、やっとバカのお前も納得できたか」

 

「しかし先生たちも思い切ったことをしたもんだなー。よもや個室風呂とは・・・」

 

「……教師陣は、正しい判断をした」

 

「どこがじゃ!?見事な大間違いではないかっ!」

 

 

 残念だけど決まってしまってはしょうがない。また何か別の方法を考えないと…

 

 

「ん?なら美鈴に頼めばいいんじゃないか?あいつなら事情を話せば協力してくれると思うが」

 

「おおっ!それだよ魔理沙!」

 

 

 心の広い彼女ならきっと僕たちの頼みを聞いてくれるに違いない!まさに妙案とはこのことだ!

 

 

「俺もそれを考えていた。紅ならおそらく引き受けてくれるだろうからな」

 

「じゃあ早速美鈴さんに頼みに行こうよ。魔理沙、部屋は分かる?」

 

「ああ、同じ部屋だからそりゃな」

 

「いや、別の場所で話をしてこのことが漏れると良くない。誰かあいつにメールをしてここに来るよう伝えてくれないか?」

 

「それならわしがしよう。あやつの連絡先は知っておるしの」

 

「そうか。それじゃあたの――――」

 

 

 

 ドガアアンッ!!

 

 

『!?』

 

 

 な、なになにっ!?どうして突然ふすまがスライドせずに正面からぶっ倒れたの!?

 

 

 

 

 

「――――お~じゃ~ま~し~ま~す~よぉおおおお~~・・・!」

 

 

『ひいっ!?』

 

 

 何だ、何をしてしまったんだ僕たちは。

 

 

 倒れたふすまを踏みながらノシノシ入って来たのは、今まさに連絡を取ろうとした人物。だけどその雰囲気、態度から見ても、彼女も僕達にとてつもない用事があるのは間違いない。

 

 

「・・・ちょおっとお話を聞いてもらってもいいですか~~?」

 

 

――断ったら分かるわね?

 

 

『…………!(コクコクコク!)』

 

 

言外に目でそう言われれば断れるはずもなし。

 

突如僕たちの部屋を襲来した鬼少女、美鈴さんの圧倒的な恐怖に僕達は首が取れるぐらい頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

『ふぃ~、いい湯だったね~。思わず眠っちまいそうになっちまったよ』

 

『うんうん!うつほも思わず泳ぎたくなっちゃったもの!』

 

『お空、その衝動はプールで発散するもんだよ。あたいの目が黒いうちは風呂場では絶対にさせないからね』

 

『うにゅっ!お燐のケチ~ッ!』

 

『やれやれ、小さいルーミアでも大人しくしてたのに、この子はいつまでもぶれないねぇ~』

 

『むむ、小さいなんてことはないのだ。周りの皆が大きすぎるのか。な~大越?…………大越~?』

 

『………あっ。ご、ごめんルーミアちゃん!なんの話をしてたのかな?』

 

『あれ?聞いてなかったのかー?』

 

『あ、あはは。ごめんね。ちょっと見入っちゃってて……』

 

『見入って?何にだい大越?』

 

『え、ええと……こ、この写真なんだけど……』

 

『なになに!?………えーと、だ、誰だっけ?』

 

『あれ?これってFクラスの田中か~?』

 

『う、うん。そうだよルーミアちゃん』

 

『よく分かったねルーミア。知ってるのかい?』

 

『んー。よく大越がおしゃべりしてるのだー。確か………大越の彼氏だったっけー?』

 

『………え、えへへへ……』

 

『おおっ、ま、まじかい!?やるじゃないか大越!』

 

『え、えへへへ~。私、人生で最初で最後の経験かもしれないよ~』

 

『うは~、それはそれは!つまり、彼氏の写真で夢中だったってわけかい!?かっ~!お熱いこったね~~っ!!』

 

『い、いや~~。実はこれ、昨日手に入れたばっかりなんだ。だからついつい見ちゃって……』

 

『にゃっはははは!そうかいそうかい!じゃあ今夜は大越のめでたい春について聞かせてもらおうかい!今夜は寝かせないよ!』

 

『うええっ!?お手柔らかにお願いだよお燐さん~~っ!?』

 

 

『……なんだかお燐が楽しそうだねルーミア!うつほ嬉しいなあ!』

 

『うん、お燐もそういう話が好きなんだな~。サバサバしてるお燐も、やっぱり女の子なのだ』

 

『でも、あんなにたくさん写真を撮るなんて大越もすごいな~。うつほ機械が苦手だから絶対出来ないや!』

 

『…でも、大越も確か機械オンチだった気がするけどなー。誰かに撮ってもらったんじゃないのかー?』

 

『あれ?そうなの??だったらうつほと仲間だね!やった~!』

 

『ま~そうなるな~。…でも、それを言ったらお燐が大越の仲間だと思うのだ』

 

『へっ?どうしてどうして?』

 

『ここだけの話、平賀とよく出かけたりしてるらしいぞー?あの2人も、案外遠くないのかもしれないなー』

 

『??よく分かんないけど、お燐にも良いことがあったってことだよね!?じゃあおめでとうって言わないと!』

 

『それはよすのだ。私がお燐に怒られちゃうのだ』

 

『うにゅ、分かった!じゃあお燐は平賀と仲が良いねって言うのをやめるねっ!!』

 

『こっ、こらこら。声が大きいのだ――』

 

『――ほほ~う?何やらあたいの知らないところで、あたいの面白い話をしているようだねぇルーミア~?』

 

『……そ、そんなことはないのだ~』

 

『こうなったらついでだい!あんたの思い人の話も聞かせてもらおうとしようかい!ほらっ!とっとと部屋に戻るよっ!!』

 

『まっ、まっ、待つのだ!私の恋人はご飯だけなのだ~っ!』

 

『あっ。待って待って2人とも~!お、お空ちゃん行こっかっ!』

 

『あ、うん!・・・そう言えば―――は機械が得意だったな~。またうつほも教えてもらおっ!』

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました! 

 ん~、大越冬美、田中勝!君たち付き合ってたんかいっ!いやはや、数少ないオリジナルキャククター、と言うよりサブキャラクターとして出演してもらっていたのですが、よもや主人公たちを抜いて先にゴールをするとは……!作者が言うのもなんですが、びっくりの一言ですな!果たして田中君は無事で済むのか(主にFクラスのメンバーから)?今後が楽しみですね!


 さて、久しぶりに投稿させていただきました今回ですが、ようやく話を進めることが出来ました!瑞希さんのお料理レベルが発達してたり、まさかのカップル発覚したりといろいろと目立ったことが多い内容でしたが、いかがでしたでしょうか?一度でも笑ってしまったり和んでいただければ感激でございます!

 それではまた次回っ!おそらく次も明久視点です!




 


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激昂―身内、に手ぇ出されて黙ってられるわけないでしょうが~!

 どうも、村雪です!長らく間を空けて申し訳ありませんでした!


 これはこの作品と関係のない話なのですが、実は別の原作で新しいssを書いてみたい!と衝動的に思ってしまい、こちらの執筆そっちのけで下書きみたいなのを書いておりましたのです!楽しみにしていただいてる方には本当に申し訳ありませんでした~!


 さて、そういうわけで久々の投稿なのですが、果たして駄文になっておらぬかどうか・・・!


――ごゆっくりお読みください。




「は、は、話とは何じゃ美鈴(メイリン)?そんな恐ろしい顔をして…?」

 

「そ、そうだぜ美鈴。いつもの大らかなお前がどこかに消えちまってるぞ?」

 

 

 鬼と化して僕たちのいる部屋に突入してきたクラスメイトの女子、美鈴さんに勇気をもって声をかけたのは秀吉と魔理沙。そ、その剣幕から何かのっぴきならない話があるのは分かるけど、いったいなんだろう…?

 

 

 

「……先ほどですね~――」

 

 

 バタバタ!

 

 

「メッ、美鈴さん!まだ明久君達が犯人と決まったわけじゃありませんから、少し落ち着きましょう!」

 

「そうよ美鈴。まずは話を聞かないといけないわ!」

 

「あ。ひ、姫路さんに美波っ!」

 

 

 美鈴さんの声を割って部屋に入って来たのは、同じくクラスメイトの姫路さんと美波。しかもその背後には険しい顔をした大勢の女子も控えている。どうやら美鈴さんだけじゃなく、皆も僕達に用があるみたいだ。

 

 

「いったいどうしたんだ?こんなにぞろぞろと女子が集まって」

 

「もう、あんた達はのんきねぇ。こっちはちょっとした騒ぎになってるっていうのに…」

 

 

 僕たちを代表して雄二が集まった女子達に要件を尋ねるけど、美波はそれに呆れたようにため息をついて答えるだけ。

 

 何が起きたのか気になって仕方がない僕は、一番冷静そうな美波に尋ねてみる。

 

 

「な、何かあったの美波?」

 

 

 それに答えたのは、一番冷静そうじゃない彼女だった。

 

 

「それなんですがね~………これ、見てもらえますか?(ごそごそ)」

 

 

 そう言って美鈴さんはポケットから何かを取り出した。これは……何かの機械?

 

 

「ん~?なんだぜそれ?」

 

「……CCDカメラと小型収音マイク」

 

 

 そこはさすがムッツリーニ。すぐさま機械の名前を答えてくれた。

 

 

「ほ~。そんな名前なのですか……」

 

『………(じろ~)』

 

 

 なのに女子からの視線は冷めたまま、むしろさらに冷たさが増したような気がするのはどうしてだろう。

 

 

「そ、その機械がどうしたんじゃ?」

 

「……それがですね~。これが、女子風呂の脱衣所に置かれてたそうなんですよ」

 

 

へー。カメラとマイクが女子風呂に・・・

 

 

『――――って女子風呂に!?』

 

 

 それって完全に盗撮じゃないか!いったい誰がそんなことを!?

 

 

「……ええ。それで私は一人、思い当たる方がいましてねー」

 

「ええっ!こ、心当たりがあるの!?」

 

 

 すでに目星をつけているとはさすが美鈴さんだ。そいつはいったい…!?

 

 

「………ええ。実はその方、吉井君のすぐ横におられるんですよ~」

 

 

 ぼ、僕の横!?そんなバカな!さっきまで僕達以外に怪しい奴なんか誰もいなかったはず――!

 

 

 

「…………………あー」(僕)

 

「…………………なるほどな……」(雄二)

 

「…………………た、確かにのう……」(秀吉)

 

「…………………そりゃ誰でも疑うわな~……」(魔理沙)

 

 

 

「………なぜ、皆して俺を白い目で見るんだ……っ!」

 

「今までの行いを考えてくださいな、土屋君~?」

 

 

 僕の友達が一番怪しかったんだね。灯台下暗しとはまさにこのことだ。

 

 

「正直におっしゃってください土屋君………。あなた、女子風呂に入りましたか?」

 

「……入ってはいない。入りたいと思っただけだ…!」

 

 

この状況で本音を言うとは、この男は命が惜しくないのか。

 

 

「………じゃあ、この機械を設置したのはあなたではないのですね?」

 

「……俺なら、そんなすぐに見つかるようなヘマはしない…!」

 

「お前、弁解する気ないだろ土屋」

 

 

 魔理沙の言う通り、そんなことを主張されても得られるのは信頼ではなく不信感だけ。もはやムッツリーニの命は風前の灯火だ。 

 

 

「………坂本君達。土屋君の言葉を信じてよろしいでしょうか?一緒にいらしたんですよね?」

 

「えっ」

 

 

 すると、信用するためか同じ部屋の僕達にまで美鈴確認してきた。そ、そう言われてもムッツリーニが戻ってきたのはついさっきで、どこに行ってたのかも分かんないんだけどなあ。

 

 

「ああ、大丈夫だ。俺たちが保証しよう。な、明久?」

 

「え?あ、う、うん。そう、だね?」

 

 

 って、しまった!雄二に聞かれて思わずうなずいちゃった!ちょっと雄二っ!どうしてムッツリーニが白って決まってるわけじゃないのに、やっていないなんて後に引けなくなるようなことを勝手に……!

 

 

 

 

「………雄二………友達を盗撮なんてしてたら、絶対に許さない……!(ゴゴゴゴゴ)」

 

「明久、しっかり翔子に聞こえるように大きな声でやってないと言ってやれ。というか言ってくれ。後生だ、マジで頼む…!」

 

「うん。僕たちは盗撮なんてしてないよ霧島さん」

 

 

 こんなやつでも惨たらしく死ぬ姿は見たくない。美鈴さんの後方からただならぬ怒気をたぎらせる霧島さんを落ち着かせるために、僕は雄二の切願を聞いてあげた。これは一つ大きな貸しだね。

 

 

「……ふむぅ………秀吉君。あなたが一番信用できるのですが、どうでしょう?」

 

「う、む……そう、じゃな。わしはムッツリーニがそのようなことはしておらぬと信じ……たいのじゃ」

 

「………そうですか。え~と、その、すみませんでした!突然やって来た上に皆さんを疑ってしまってほんとに申し訳ありません!」

 

 

 だいぶ秀吉の擁護がグレーだったけど、どうやら美鈴さんの怒りを冷ますのに成功したようだ。あ~怖かった!いつもの美鈴さんに戻ってくれて僕のハート(心臓)も大喜びだよもう!

 

 

「だ、だから言ったじゃないですか美鈴さん!明久君達はそんなことしませんよ!」

 

「そうよ美鈴。アキは確かにエッチだけど、やっちゃいけないことぐらい分かってるわ」

 

「そ、そうですね!いや~よかったよかった!なんせ咲夜さんや妹紅さんの脱衣を撮ろうとした輩ですからね!かつてないレベルで怒るところでした!」

 

「・・・妹が絡むとあんたは本当に容赦ないわね。まあ、ウチも葉月が同じ事されたらそうなると思うけど」

 

 

 その時僕たちは生きていられたんだろうか。訪れなかった未来とはいえ、僕は美鈴さんの笑顔の告白に震えが止まらなかった。

 

 

「土屋君、あと吉井君達。証拠もなく疑ってしまってごめんなさい!この詫びはまたさせてもらいますね!」

 

 

 そう言って美鈴さんは、女の子たちが成り行きを見守ってた入口へと向かう。犯人が僕達でないと判断してくれたから、真犯人を探しに出かけるんだろう。

 

 

「あ、ううん。僕達は全然気にしてないから大丈夫だよ」

 

「うむ。わしらを信じてくれて嬉しいのじゃ」

 

「……分かってくれたなら問題ない」

 

「また今度甘いものをおごってくれたら私はOKだぜ」

 

「あやうく翔子が鬼になりかけたからな。頼むとしたら、次からそういうことは証拠を見つけてから行動―――」

 

 

 

 

 

ガチャンッ

 

 

『・・・ん?』

 

 

 それぞれ声をかけ雄二が締めくくろうとしたところで、なにかにぶい音がした。なんだろう、機械が落ちた音のような・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

・ムッツリーニが持っていた小型録音機←………美鈴さんが見せてくれたものと似て見えなくもない。

 

 

 

 

『………………』

 

「…………………失礼(スッ)」

 

 

 このタイミングで落とすとは、君はチルノ以上の大バカ野郎なのかバカ。

 

 

 

「・・・おい。それは何?」

 

「…………………俺の、所有物」

 

 

 どうやらムッツリーニはここまでのようだ。一度収めた怒りを復活させた美鈴さんは、もはや口調すら攻撃的になっている。

 

 

「(ゴキゴキゴキ)………あんたら覚悟できてるんだろうな、おお?」 

 

「っえ、ええっ!?ま、待って美鈴さん!なんかムッツリーニだけじゃなくて僕達にも怒りの矛先が向いてない!?僕達は何もやってないよっ!?」

 

 

 それはあまりにもひどすぎるっ!ムッツリーニはどうなってもいいけど、どうして僕達まで・・・!?

 

 

「さっき土屋君をかばったでしょうが。だったら、あんた達がグルと思うのが自然じゃないかしら?」

 

「ちっ、違うんだ美鈴さん!それは雄二が言っただけで正直僕たちは判断に迷ってて・・・!」

 

 

 や、やばいやばいやばいっ!?このままだと僕らもムッツリーニと心中しちゃう!何か助かる道を探さないとっ!

 

 

「ゆっ、雄二!君の力で何とかこの場を収めて―――」

 

 

 

『………雄二、絶対に許さない…っ!』

 

『ち、違うんだ翔子!風呂場のものはムッツリーニのとはちが、ぎゃああああああ!!』

 

 

「くううっ!もはや雄二の人生もあそこまでか・・・!ム、ムッツリーニ!君のせいなんだから君が責任を取って――!」

 

 

『……待て……小山友香……!これは誰かによる罠だ…っ!』

 

『黙りなさい。あっちは霧島と紅がやってくれるだろうから、あんたは私たちが裁いてやるわ。あんたには今までさんざん写真を撮られて来たから、その恨みもここで晴らさせてもらうわよ…!』

 

『……小山の写真は、あまり撮っていない・・・っ!』

 

『しっ、失礼ねこの変態がっ!(ずしんっ!)』

 

『………な、なぜ…っ!?』

 

 

 ダメだ。ムッツリーニもすでに石畳へ正座に加え、重石を乗せられて罰を受け始めてる!なんて古典的な懲罰だ!

 

 

「ひ、秀吉!魔理沙!なんとかこの状況を収める起死回生の手を頼むよっ!(ババッ)」

 

「わ、わしかっ!?というかなぜわしらの後ろに身を隠すのじゃ!卑怯じゃぞい!」

 

「お、女の私の後ろに隠れるってお前はそれでも男かっ!男見せて私の代わりに散りやがれっ!」

 

 

 何とでも言うがいいさっ!でも今大事なのは僕の安全!そのためなら僕はどんなみじめなことでもして見せよう!(カッコ良く言ってもカッコ悪いものはカッコ悪いです…)

 

 

 

 

 

 

 だけど、そんな抵抗は無意味だったみたいで……

 

 

 

 

 

 

「咲夜さん達の身体を盗み撮ろうとしたその大罪ぃ………っ!魂(タマ)もって償えやぁあああああ!!」

 

 

 

 そう叫んだ美鈴さんが一直線にこちらへ向かって走り、

 

 

「(ビシッ!)いっ、痛いのじゃああああ!?」

 

「(ガンッ!)いってええぇっ!?」 

 

 

 チョップを見舞われた二人はそこを抑えて崩れ落ち……って、壁!僕の最後の砦があっという間に崩れ落ちた!?

 

 

「………!!(グオオオッ!)」

 

「ま、待った美鈴さん!それはだめだっ!そんな大きく手を振りかぶったりなんかしたらゼッタイだめ―――!」

 

 

 

 ベッチィイイイインッ!!

 

 

 

「あっ、明久君んんんんんん~っ!?」

 

「ちょ、やめなさい美鈴っ!アキの首が変な方向に向いちゃって―――!?」

 

 

 

 そんな声を最後に、僕は強制的に意識をシャットダウンすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

『(ガチャ!)こらお前ら!いったい何をはしゃいでるんだ!…む!?』

 

 

 

『やっ!やめてあげてください美鈴さんお願いしますやめてあげてくださいぃ!明久君が死んじゃいますぅうううっ!!』

 

『知ったことか~!私の妹たちの裸を撮ろうとしたやつらに持ち合わせる慈悲なんざいらないのよぉ!離しなさ~~い!』

 

『や、やめなさい美鈴んんんん!!アキの意識はもうないのよ!?やるなら意識のある魔理沙か木下にやんなさいってぇええええ!』

 

『おっ、お前なんちゅうことを言うんだぜ美波!?私らに死ねと言ってんのか、おお!?』

 

『わ、わしらもじゅうぶん痛い目にあっておるのじゃぞ!?さらになんて絶対にいやじゃ!!』

 

『後でいくらでも謝るし何でもするわ!だからゴメン魔理沙、木下!アキのために一肌脱いでやって!』

 

『一肌ってレベルじゃねえよバカ!』

 

『もはや肌が無くなるほどじゃその要求は!・・・はっ!?に、西村先生っ!実に良いところに来てくださった!どうか美鈴を抑えてくださらんか!後生の頼みじゃー!』

 

『ほ、本当に頼むぜ先生!と言うかお願いします先生!私らの命の危機が~~~っ!!』

 

 

『ぬあああああああ~っ!離しなさい瑞希美波ぃいいいいい!!』

 

『『ぜっ、絶対にダメ(です)~~~~っっ!!』

 

 

 

『……何がどうあったらこうなるんだお前らは……ええいやめんか紅んんんっ!』

 

『!?ななにすんですかせんせ、っぴ!?にゃああああ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぐぁぁああ………美鈴のやつ、本気で怒りやがって~……!」

 

「か、か、身体全身がまだ痛いのじゃ……美鈴がすごいということを、改めて思い知ったのう………いたた……」

 

「ふぉうふぁよね。ふぉくまふぁふぉっふぇたがひんひんふるよ」

 

「うむ、明久。見事に何を言ってるのか分からんのじゃ」

 

「無理してしゃべんなくていいぞ吉井。見ているこっちが痛くなってくるんだぜ」

 

 

 うん、ありがとう魔理沙。正直口を動かすだけで涙が出そう、と言うかもう出て来てるんだよこれが。

 

 

 美鈴さんという嵐が猛威を振るってから数分後。僕たちはいまだに立ち直れずケガを痛がっていた。

 

 むう、この見事なはれ具合。僕はいつから顔がアンパンのヒーローになったんだろうか。

 

 

「………災難だった」

 

「〝ふぁいふぁんふぁった〟じゃふぁいよ!ふぉもふぉもむっひゅりーにふぁあふぉふぇんなきふぁいをおふぉしふぁのふぁふぇんいんでふぉ!?」

 

(訳:「〝災難だった〟じゃないよ!そもそもムッツリーニがあの変な機械を落としたのが原因でしょ!?」 ※ 字数が多くなっちゃいますので、ここからは翻訳したものだけ書かせていただきます)」

 

 

 ムッツリーニはムッツリーニでCクラスの小山さん達から拷問を受けてたみたいだけど、そんなの僕たち自慢の美鈴さんの殺戮演技に比べればなんてことなさすぎるよ!僕が代わって天罰を下してやろうかこのムッツリめっ!

 

 

「………あれは、仕方なかった」

 

「仕方ない!?何がさ!」

 

「……いつどこで金になる情報が出て来るか分からないから、録音をしようとしたら……」

 

「君のその欲望への忠実さに、今は殺意さえ覚えたよ僕は!」

 

「同意だぜ吉井。お前あとで覚えてろよ土屋!」

 

「わ、わしらは金のために死にかけたのか……」

 

 

 ちくしょう!だから僕はこんな変態を信じるのは嫌だったんだ!それを雄二のバカが命惜しさにかばったから―――!

 

 

「・・・って。そう言えば雄二、さっきから静かだけど大丈夫?」

 

「………」

 

 

 霧島さんにバツを受けていた雄二だけど、さっきから背中を見せるだけで何もしゃべってない。ひょっとしてホントにお陀仏したのかな?

 

 

「おい、大丈夫か坂本?意識でもとんでるのか?」

 

「………上等じゃねえか」

 

「は?」

 

「へ?」

 

 

 ゆらりと雄二が立ち上がった。その目は怒りの炎がメラメラ燃えている。

 

 

「ここまでされて大人しくさがってたまるか!本当にやってやろうじゃねえか!」

 

「本当に?何をやるのじゃ?」

 

「決まってる!覗き以外に何がある!」

 

「「はあっ!?」」

 

 

 この男は何を言い出すんだろう。今死にかけたというのに、また死にに行こうとするなんてどこかがおかしくなったとしか思えない。

 

 

「正気かよ坂本!?今何されたかもう忘れたのか!?」

 

「そうだよ雄二!霧島さんの裸を見たいんなら個人的に頼めばいいじゃないか!」

 

 

 きっと彼女なら喜んで雄二にスッポンポンなってくれるよ!だからこれ以上命の危険を引き起こすのはやめて!

 

 

「んバッ、バカ言うな!誰がそんなこと頼むか!あいつの裸になんか興味ねえ!」

 

 

 それはそれで男としていいのだろうか。ちなみに僕は興味津々だ。

 

 

「いいかお前らよく考えろ。俺たちは尻に火傷の痕がある犯人を捜さなきゃならん。そこはいいな?」

 

「それは知ってるよ。でも、その話は美鈴さんに頼むってことで…」

 

「明久、お前はさっき紅に何をされたか忘れたか」

 

「絶対にこの作戦は不可能となったね」

 

 

 今の美鈴さんなら、頼むどころか話しかけただけでビンタが飛んでくるに違いない。せっかくの妙案もこれでボツ入りだ。

 

 

「そういうことだ。覗きなんてマネはさすがにやり過ぎだと思ったが、女子の大半はすでに俺たちを覗きと断定してる。なら遠慮なく俺たちも覗きをしてやろうじゃないか」

 

「待て待て!さすがにそれは女である私は看過できないんだぜ!もっと別の方法を探してからでも遅くないだろ!?」

 

 

 魔理沙が慌てた様子で雄二の策を止めにかかる。そりゃそうだ。自分と同じ女の子たちが、僕達男に裸を見られては気分が悪くなって当然のこと。意外と人情あふれる魔理沙だから、そんないけないことを見逃すはずがない。

 

 

 

「安心しろ霧雨。ウチのクラスの女子とアリス・マーガトロイドとその親友だけは絶対に見ないと約束する」

 

「いや雄二。魔理沙が言ってるのはそういう問題じゃ・・・」

 

「ん?そうか?ならオーケーだぜ」

 

「そういう問題だったの魔理沙!?」

 

 

 友達や思い人が無事ならそれで良いんだろうか。人情溢れるどころかものすごい薄情な女の子である。

 

 

「……さっきのカメラとマイクは、脅迫犯の物と同じだった」

 

「なんじゃと?それは本当かのムッツリーニ?」

 

「……間違いない」

 

「おお。だったらだいぶ手間が省けるな」

 

「だな」

 

「そうじゃな」

 

「……ターゲットは1人だけ」

 

「え?なになにどういうこと?」

 

 

 そんな4人だけ分かった顔しないで僕にも教えてほしい。疎外感がすごくて僕さみしいよ。

 

 

「やれやれ。つまりだな、俺と明久と霧雨を脅している犯人はおそらく同じで、さっきの盗撮犯のカメラとマイクがその犯人と同じものだった。そして、盗撮犯は火傷の痕があるという話だから――」

 

「ああ、なるほどその火傷の痕がある人を探せば全部解決するってわけだ!!」

 

「そういうことだ」

 

 

 それならもう迷うことはない!犯人を捜すためにも盗撮犯の汚名を晴らすためにも!やってやろうじゃないか女湯覗きっ!

 

 

「いや、だけどそう上手くいくかぁ?今度美鈴に知られたら命はないと思うぞ?まあ私はその時、風呂に行こうとしてたって言えばセーフだろうけどさ」

 

「こっ、怖いこと言って僕の決心を鈍らせないでよ魔理沙っ!」

 

 

 しかも自分だけ助かろうとするなんて!僕がそう言ったって消されるのは確定だし、一人だけずるいじゃないか!

 

 

「じゃ、じゃが美鈴も話が分かる奴じゃ。誠心誠意説明をすれば分かってくれるのではないじゃろうか」

 

「ああ。かもしれないが、やはり紅との接触は極力避けろ。そこを守らなきゃ……命の保証は出来ん」

 

「「「「……(ゴクリッ)」」」」

 

 

 よもやクラスメイトに始末される可能性が出てきてしまうとは。今後同じクラスで過ごすことも考えると……絶対にこの盗撮事件、真犯人を見つけ出さないとねっ!死におびえながらの学校生活なんてごめんだよ!

 

 

 

「よし。行くぞお前ら……女子風呂へ!」

 

『了解(ラジャー)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっぱりやりすぎですよ美鈴さん!まだ明久君達がしたと決まったわけではないじゃないですか!」

 

「瑞希の言う通りよ美鈴!これでアキが何もしてなかったら、美鈴がひどいやつになっちゃうわよ!?」

 

「し、心配には及びません2人とも!あれは家族に迫る魔(ヘンタイ)の手を払うためだったんです!だから正義は私にありました!何も問題はありません!」

 

「「問題大アリ(です)(よ)っ!」」

 

「む、むグググ…!?」

 

 

ええいなんと厳しい追及っ!普段の穏やかさはどこへいったんですか2人とも!

 

というのも吉井君達をおしおき(おしおき…?)し、途中でやって来た西村先生に力づくで止められてから温泉に入るまで、この2人からの注意がすごいんですよ!せめて温泉につかってる今だけはゆっくりさせてください!

 

 

「で、でも2人も土屋君のあれを見たでしょ!?あれってどう見てもその用途にしか使わないものじゃないですか!」

 

「そ、それはそうですけれど…!」

 

「つ、土屋ならすぐにばれるような仕事はしないわ!だからきっと、風呂場にあったのは別のヤツが仕掛けたものよ!!」

 

「それを女の子の美波さんが言います!?」

 

「そっ、そうですよね!土屋くんならもっと上手にカメラを仕掛けて、私たちの脱衣を撮ると思います!」

 

「瑞希さんも何言っちゃってるんですか!?」

 

 

 吉井君をかばいたいからって土屋君の盗撮を買ってもダメでしょう!?どっちにしても被害をこうむるのは私達ですよ!?

 

 

「と、とにかく美鈴さん!きっと明久君達は盗撮に関与していません!今からでも謝りに行きましょう!(ザバッ)」

 

「そうよ美鈴!…でも瑞希!そんなに勢いよくお湯から立ち上がらないで!アキを陥れたヤツより、すごい揺れてるあんたの胸を叩きのめしたくなるから!」

 

 

 お~、確かにすごいゆれました…ってそうじゃなくて。

 

 

「え~?正直に言いますと、私は謝りたくないのですが…」

 

 

 真犯人が正しい間違ってるとかではなく、あれだけやっちゃったのに今さらどの顏下げて謝れと言うのでしょう。ましてや私の中ではっきり白と決まったわけでもないですし、いくら瑞希さんの言葉でも素直にうなずけません。

 

 

 

「そう言わないのっ!アキは優しいからきっと許してくれるわ!ほら、そろそろ出るわよ!(ジャバン)」

 

「う~。もう少し浸かってたかったのに~…(バシャバシャ)」

 

 

2人が出て行ったので、私も仕方なくお風呂から立ち去ります。ちなみに私たちが3人なのは、チルノと妹紅さんが2人でいろんなお風呂巡りをしていて、魔理沙はどういうわけか吉井君達といたので放置をしております。次はFクラス女子全員でユックリまったり湯に入りたいですね~。

 

 

 

「……でもですね2人とも。ちょっとを越して結構吉井君を美化してますけど、彼は結構スケベですよ?ですから彼がカメラを仕掛けた可能性もゼロじゃ……」

 

「ゼ、ゼロですっ!明久君は絶対そんなことをしません!」

 

「そうよ美鈴っ!アキは盗撮も盗聴なんかもしないわっ!ちょっとはアキを信じてあげなさい!!」

 

「…さ、さいですか……」

 

 

 そこまで言われては何も言い返せません。私は肩身の狭い思いをしながら素早く着替えを終え、暖簾をくぐります。

 

 

「は~、仕方ありません。2人もああですし、吉井君に謝りに――(スッ)」

 

 

 

『ま、待ってくれ先生!私はただ風呂に入ろうとしてただけだぜ!?なのにどうして私もこいつらと一緒に反省文を書かなきゃいけないんだよっ!』

 

『ウソをつくな霧雨っ!だったらどうして布施先生に召喚獣を仕向けたんだ!誰がどう見てもこいつらの仲間だろうが!』

 

『そ、そんなことはないぞっ!なあお前ら!?私は関係ないよな!?』

 

『何言ってるんだよ魔理沙!君だけ助かろうなんてそうはいかないぞ!落ちる時は皆一緒だよ!』

 

『てめえ吉井!少しは恩を作るとか考えやがれっ!』

 

『くっ…!まさか3人も教師が見張りをやってやがるとは。うかつだった…!』

 

『む、むう…!さっぱり分からぬ…!ムッツリーニ。『反省する』という単語はなんじゃったろうか?』

 

『……そこまで、見えているのに…っ!』

 

『まだそっちを見ておったのか!それよりも早くお主も英文で反省文を書かんか!美鈴たちがいつ現れるか分からんのじゃぞ!』

 

 

 

「…………………はい?」

 

 

 地下に位置する女子風呂から、一階の階段までの一本道。

 

 

 その上で正座をしながら何かを書く男子4人+1人を見た途端、私は一瞬思考がストップしました。

 

 

 

「(ふぁさ)ふ~。良いお湯だったわ~…ん?どうしたの美鈴、ん、んんん…?」

 

「(ふわっ)気持ちよかったですね~。…………え?あ、あ、明久、君………?」

 

 

 続いて出て来る2人も、せっかくお湯であったまってほぐれた身体が硬直します。

 

 

「………西村先生」

 

『げっ!?』

 

 

 何ですかその反応。今は西村先生に話しかけてるんですよ。あなたらはあとで拳でじっくりと聞かせてもらいますよ。

 

 

「むっ……紅か。すまんな道を邪魔して」

 

「いえ……この5人、どうしたんです?」

 

「………実は、女子風呂に入り込もうとしおってな」

 

 

「………………バカは死なないと直らないものですね」

 

 

 よもや機械に頼らず直に覗きに来やがるとは。

 

 

 さすがにこれには………彼女達も限界のようですよ?

 

 

 

「………美鈴の言うとおりね。アキ。さすがにもうウチも………堪忍袋の緒ってやつがキレたわ(パキパキ)」

 

「吉井君………さすがにそこまでやってしまっては………女の子として怒ります(ガタッ ガタッ)」

 

 

 激昂の表情で身体をならす美波さんに、暖簾を武器にする瑞希さん。2人とも攻撃準備は万端で、私もばっちりOKです。

 

 

「あんなことがあってまたやろうなんて、覚悟はしてきたんですよね?え?地獄に落ちる覚悟は出来てるのよね?おお?」

 

 

 

『………助けてください西村先生っ!』

 

 

 出来てないのかごらぁ!せめてそこは潔く覚悟するなりなんなりしなさいよーっ!

 

「……この状況を生み出したのはお前たちが原因だろう。…反省文は免除してやる。けじめをつけてこい」

 

 

「なっ!?ま、待て鉄人!俺たちに死ねと言うのかおいっ!」

 

「………死刑になるようなことはしていない……っ!」

 

「ウ、ウソだろ先生!この状況で放置なんてあんまりだぜ!?」

 

「そんなこと言わないで先生!お願い!ボク達を見捨てないで先生―っ!」

 

「い、いやじゃっ!このあと起こることを想像するだけでイヤなのじゃ~!!」

 

「やかましい!自分たちのしようとしたことをきちんと反省しろっ!」

 

 

『あっ!せ、せんせ―っ!』

 

 

 おお。スッと五人の前から立ち退いてくださるとは、ありがとうですよ先生。 

 

 

 

「――――では、もうすこ~し反省してもらいましょうか?ねぇ美波さん、瑞希さん」

 

「ええ………その身体に刻み込んでもらいましょ。―――人を怒らせたらどうなるのかを」

 

「皆さん………どうかこのお仕置きで、こんなことを二度としないようになってください」

 

 

 バッ!

 

 

 私たちは怒り十割で、おバカな五人組へととびかかりました。

 

 

 

『いやぁあああああああああ~~~…!!』

 

 

 

 

 

 

 

「も……もこお~………あ、あんた大丈夫なのよさ……?も、もうかれこれ30分はサウナにいるわよ~~……」

 

「………いや、私はちゃんと言ったぞチルノ。苦しくなったら先に出るようにと、私は5回は言ったよな?」

 

「バ、バ、バカね~……さいぎょーのアタイが先に出るなんで……ゼッタイに許されないのよ~……うあ~……」

 

「そんな典型的なことを言って………。って、相当まずいじゃないか。出るよ」

 

「あ~~……い、生き返るのよさぁぁぁぁ~~…!」

 

「……冷たっ。こんな冷たいところに、よく全身をつかれるな…」

 

 

「あら、大丈夫?サウナや水風呂に無理して入ったらダメよ?」

 

「っ!?………(こく)」

 

「あ~?あ、あんたたち誰よ?Fクラスじゃないわよね」

 

「アタシはEクラスの島林!あとEクラスの女子数名よ!アンタがやんちゃっ娘のチルノと、噂の転校生のもこうさんかしら?」

 

「や、やんちゃって何よさ。アタイはやんちゃじゃなくてさいきょーって言ってるのに~……あ~~~」

 

「……(こくこく)…………そ、そうだけど……?」

 

「やっぱり!うわ~!!ほんとにキレ~~!(ぎゅ~っ!)」

 

「ひい…っ!?(バシッ!)な、な、何…!?うわさって何…!?」

 

「あうっ!だって有名よ!?雪みたいな綺麗でなが~い髪の毛に、びっくりするぐらい人見知りな可愛い女の子がFクラスにいるって!私、一度会ってみたかったの!」

 

「………!な、なんでそんなうわさが…っ!」

 

「ムッツリ商会の土屋が言ってたの!〝ウチのクラスに新しく入って来た女の子は熱い〟って!半信半疑だったけど、今正しかったことに気づいたわ!」

 

「………っ!!あ、あの変態野郎……っ!」

 

「きゃ~!代表だけずる~い!私たちもギュッてさせて~~!!」

 

『きゃ~~!妹紅ちゃ~~~ん!!』

 

「ひぃいいいいいい…!?た、助けてチルノォ~…!!」

 

「うぼぅ!?ちょ、ちょっと待ちなさいもこう!アタイを頼ってくれるのはいいけど、今水に浮いてるか、ら……あばばばばぁ~!?」

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございます!どうも最近、妹紅さんの活躍が最後の部分だけとなっている気がして申し訳ないでがすよ。また彼女にもどんどん出てもらわねばなりませんね!

 さて、今回で長かった合宿一日目も終わりました!次回からは合宿二日目、おバカ達がますますバカをやっていくこととなりますよ~!

・・・が、最初にも書きましたように、ちょっと違うものを書くのがマイブームとなってまして、投稿がなかなかに遅れることになると思います。誠にすみませんが、気長に待ってやっていただけるようお願いいたします!

 それではまた次回っ!自分勝手な作者でごめんなさい~!


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自習―勉強、より遊びを取るのが学生だよね!(大ペケです)

 どうも、村雪でございます!一か月以上空けての投稿となってしまって申し訳ありません!

 知らぬ方に伝えさせていただきますと、実はもう一つssを投稿し始めまして、そちらに力を注いでおった次第でございます。お待ちしていただいた方々に改めてお詫び申し上げます!すみませんでした~!


 さて、前回までで合宿一日目は終了し、今回から二日目へ突入していきます!さてさてどうなっていくか・・・楽しめる内容であることを祈りますっ!

 それでは!


―――ごゆっくりお読みください。





『はわ~あ~あー。ん~、よく眠れたー・・・あら?お早いですね魔理沙。もう起きてたのですか』

 

『……お前な。自分をぼこぼこにしたやつらと一緒の部屋で安眠できると思うか?わたしゃそんなタフな精神を持ち合わせていないんだぜ』

 

『どの口がそんなウソを言うのですかねまったく。お茶いりますか?』

 

『おう、渋めのを頼むぜ』

 

 

 

『う~~ん・・・なによさこのデカイボールは~・・・(ふにふに)』

 

『あ、あうう~~~・・・そこはダメです~・・・・』

 

 

『・・・か、壁が・・・壁がのしかかって・・・助けて勇儀・・・』

 

『う~・・・貧乳には貧乳の魅力があるはずなのに、アキのバカ~(ギュ~)』

 

 

 

『・・・な、なんとも男は興奮間違いなしの光景だな(ずずっ)』

 

『それは魔理沙もなんじゃないですか?顔赤くなってますよ(ズズー)』

 

『ぶっ!ババッカ野郎!興奮なんかしてねえっての!私を吉井たちといっしょにすんな!』

 

『そう言いつつ、その横目は一体何をロックオンしてるんですか・・・。今更なんですけど、変な気は起こさないでくださいよ?寝込みを襲ってきたら部屋からたたき出しますからね』

 

『だ、誰が襲うかっ!さっきからお前は私を何だと思ってるんだ!』

 

『何って・・・〝百合〟ですが(ズー)』

 

『だっ!だ誰が〝百合〟だバカ~~~ッ!』

 

『(ガラッ!)こら!早朝から何を騒いでるんだ霧雨!他の皆に迷惑だろうがっ!』

 

『げっ!?ち、違うんだ慧音先生!今のは全部美鈴が―――ごはぁ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙、大丈夫?くまが出来てる上に、おでこがかなり赤くなってるわよ?」

 

「・・・隣にいるだけだってのにこの癒し・・・私の味方はお前だけだぜアリス・・・!」

 

「へ?ど、どういたしまして?」

 

 

「………雄二。私も、私の好きな人は雄二だけ」

 

「霧雨にのっかってたわ言を言うんじゃねぇ翔子。ウチのアホどもが靴を脱いでおれを狙ってやがる」

 

 

「やい!ここで会ったが百年目よさ!あの時受けたくつじょくを何割にもして返して――」

 

「あーもう、うっさいわよ。寝ようとしてたんだから静かにしなさい(ドスッ!)」

 

「やほぷっ!?」

 

「チルノちゃん!?はっ、博麗さん!お腹を殴ったりなんかしちゃダメです!あと、今は自習の時間でお昼寝の時間じゃありませんよ!?」

 

「ああ、耳元でうるさかったからついね。あと、覚えときなさい姫路。睡眠は人に欠かせないもの。だから昼寝の時間なんか気にせず、寝たいときに寝るのが一番なのよ」

 

「そ、それはそうなんですけど・・・どうしましょう。そう言われると博麗さんが正しいことをしているように見えてきます・・・」

 

「ダメよ姫路さん、こいつのたわ言を信じちゃ!このバカは昨日すっごく早く寝てたんだから睡眠時間は十分よ!」

 

 

 

「の、のう美鈴。ここの問題を教えてほしいのじゃが・・・」

 

「ん?どこの問題ですか秀吉君。覗きが出来るエッチな秀吉君が出来ない問題とはいったい?」

 

「・・・か、勘弁してくれんかのう。昨日の事は本当に悪いと思っておるのじゃ。寛大なお主の心で許してやってほしいぞい」

 

「ほほう?秀吉君は、友達や妹の裸を狙ったハレンチな野郎をすぐさまに許せとおっしゃいますか。秀吉くんこそなかなか寛大ですね」

 

「うう、あれだけシバかれてシメられれば贖罪したことになってもいいと思うのじゃが・・・」

 

 

 

 

「まったく、皆朝から元気なこと……美鈴と秀吉君はギクシャクしてるみたいだし、どうしたのかしら?」

 

「……さあ……昨日からずっとああ」

 

「う~ん。同じクラスメイトで同じ女の子なんだから、仲良くしてほしいんだけどなー」

 

「で、何を当たり前のように私の隣にいるのかしら、吉井明久?妹紅さんは大歓迎だけど、その友達の性別も正しく判断できない頭はついに理性も制御不能になったのかしら?じつにスケベで変態でケダモノね」

 

「そっ、そこまで言わなくてもいいよね十六夜さん!?ただ十六夜さんみたいな美少女の隣に座りたいっていう純粋な心をそこまでぼこぼこに痛めつけなくてもいいはずだよねっ!?」

 

「……思いっきり不純じゃないか」

 

「たく、そういうことは瑞希に言えと言ってるのに。あなたなんかに言われてもまったくときめかないわ」

 

「だからさらに追い打ちをかけないで十六夜さん!もう言葉の刃で涙という名の血が止まらないよっ!」

 

 

 

 女子風呂覗き作戦に失敗してから一夜たった合宿二日目の朝。僕達FクラスはAクラスと合同学習を行っていた。

 

 せっかくの機会だから美鈴さんの妹である十六夜咲夜さんと仲良く勉強をしようと接近を試みたけど、相変わらず手厳しい女の子で僕に優しさを向けてくれる日はまだまだみたいだ。

 

 

「でも、どうして授業じゃなくて自習形式なのかな?僕としてもそっちのほうが嬉しいんだけど…」

 

 

 こうやって十六夜さんと並んでいられるのもそのおかげ。友達と向かい合って分からない問題を解き合ったりしてる光景があちこちで見える。

 

 

「ふん、モチベーションの向上が目当てだそうよ。Fクラスの人はAクラスを見て頑張ろうと思い、Aクラスの人は吉井を見て吉井みたいにはなりたくないと思う。つまり互いがお互いを見てやる気をあげるってことね」

 

「なるほど。どうして〝Fクラス〟じゃなくて〝僕個人の名前〟だったのかをのぞけば分かりやすい説明だったよ、十六夜さん」

 

 

 確かにこうやって上のクラスの人と一緒に勉強すれば、何かが変わってきたりするんだろう。僕は女の子と一緒に勉強できるのが一番の喜びだけども。

 

 ちなみに今ぼくは、美鈴さんや姫路さんにはうかつに近づかないようにしてたりする。いつ昨日の怒りが再発するか分かんないからね。

 

 

「あ、咲夜はここで勉強してたんだね。ボクも一緒していいかな?」

 

 

 そうやって十六夜さんと会話を弾ませていると(※あまり弾んでいません。)、一人の女の子が僕達の前に近づいてきた。確か、工藤愛子さんだったかな?

 

 

「あら愛子。隣にスケベがいるけど、それでいいなら全然かまわないわよ?」

 

「ちょっと十六夜さん!藤原さんにそんなことを言うだなんていくら君でも許さないよ!?」

 

「あんたこそ人の家族に罪をなすりつけるなんて良い度胸ね?ん?」

 

「……なんで、私?」

 

 

 大丈夫藤原さん!僕は君のことをスケベだなんて思ってないよ!すぐに十六夜さんに発言を撤回させるから安心して!

 

 

「あははっ!大大丈夫!ボクもすっごくエッチだから全然気にしないよ~」

 

「マジですかっ!?」

 

 

 ところが工藤さんの反応は僕をとりこにするのに十分だった。ぼ、僕もスケベだからそこら辺の話をもっと詳しく!

 

 

「愛子、あなたはまたそういう教育に良くないことを…見なさい。バカ吉井が興奮して目を血走らせるし、妹紅さんはおもいっきりあなたと距離を取ったわよ」

 

「…………こいつが世に噂の………痴女か……」

 

「ちっ……!?あ、あ、あははは。ち、痴女っていうのはちょっとな~……とにかくお邪魔するね?(いそいそ)」

 

 

 工藤さんはこわばった笑顔で僕たちの正面に腰を下ろした。おや、どうやら生々しい言い方はダメみたいだ。女の子としての恥じらいを完全には忘れていないようで逆にホッとしたよ。

 

 

「えっと、藤原妹紅さんだよね?咲夜から話は聞いてるよ。ボクは工藤愛子。趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ」

 

 

 いや、そんなこともなかったようで工藤さんは赤裸々と思春期の男の心を揺さぶる言葉を続けてきた。

 

 

「………あっそ」

 

 

 対する藤原さんの反応は淡白なもの。思わず工藤さんも肩をガクッとすべらせる。

 

 

 

「あ、あれ?ボクなりにユニークな自己紹介をしたつもりだったんだけど、なんだか妹紅ちゃんの反応がさらに冷たくなったのは気のせいかな?」

 

「………そういう類はクラスの変態共でいっぱいいっぱい……だから、それ以上は払い捨てる」

 

「大人しそうな顔の割にバッサリした考え方だねっ!?」

 

 

 確かにFクラスの男子は一言目には「彼女欲しい」、二言目にも「彼女欲しい」と言い続けるスケベな連中ばかり。僕みたいにまじめで凛々しさあふれてたら別だけど、そんな大勢と一緒にいると妹紅さんの負担も大きいよねー。

 

 

 

「そ、そんな冷たいこと言わないでよ妹紅さんっ。ほらっ、特技のパンチラを特別サービスで見せてあげるよ~?」

 

 

 そんな魅力的すぎることを言ってスカートをつまむ工藤さん。誰がまじめ?凛々しいだって?そんなもの撤回するから僕に見せてくれ工藤さん!

 

 

 

「……恥じらいとか持て。同じ女として、かなり恥ずかしい」

 

 

 しかし鉄の心を持つ藤原さんを動かすには至らなかったようで、工藤さんは容赦ない一言が告げられることに。

 

 

「がぁん!?は、恥ずかしいって~……!」

 

 

 さすがにそれにはこたえたようで、工藤さんはよろよろと地面にへたり落ち、その肩を十六夜さんが撫でてなぐさめに入った。

 

 

「愛子……残念だけど一理あるわ。この機会に自分というものを考えましょう(ポン)」

 

「う~……咲夜の新しい妹さんは厳しすぎるよ~……」

 

 

 というより工藤さんの話し方が少し刺激的なのが行けないと思う。僕は全然良いけど、藤原さんはそういうの苦手そうだもんなー。

 

 

 って、あらら。ポケットから色々とこぼれちゃってるじゃないか。ハンカチやお菓子や変な機械が散らばって……

 

 

 

「―――って、あれ?工藤さん、その機械は?」

 

 

 僕の見間違えでなければ、昨日ムッツリーニがヘマをして落っことしたブツに似ているような…?

 

 

「え?ああこれ?コレは小型録音機だよ!最近はまっててね~、使うとすごく面白いんだ!」

 

 

 工藤さんはそう言って録音機を拾い上げる。するとそれに興味を持ったのは、以外にも藤原さんだった。

 

 

「……そういうの、何に使うんだ?」

 

「!い、色々あるよ!妹紅さんはこういうのはやったことがないかな?」

 

「……やらない」

 

「そっか~。色々面白い使い方があるんだよ?たとえばね~……(かちゃかちゃ)」

 

 

 じっと録音機を見る藤原さんに仲良くなるチャンスと見たのか、工藤さんが素早く機会を触りだす。どうやら使い道の一例を見せるみたいだ。

 

 

「――こんなふうに声を組み合わせたりできるんだ!(ピッ)」

 

 

 

 

 

≪………私≫≪藤原妹紅≫ ≪世に噂の≫≪痴女≫≪だよ≫ ≪すっごくエッチだから≫≪やらない≫?

 

 

「「ぶふぁっ!?」」

 

 

 なるほど。藤原さんと工藤さんの言葉があわさって、ものすごく過激な言葉が出来あがったではないか。これには思わず僕も十六夜さんも変な声が出ちゃったよ。

 

 

「ねっ!こーやって妹紅ちゃんとボクの声を混ぜて面白い紹介にしたり……て、あ、あれ?妹紅さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………痴女じゃない………!私、そんなふしだらな女じゃない……!!まだ【ぴちゅーんっ!】なのに………ひどい………っ!!!(プルプルプル)」

 

 

 〝頭隠して尻隠さず〟。まさにそれを表現するかのように、合成音声を聞いた藤原さんは自分の座布団を頭にかぶせて沈み込んでしまった。う~ん、こんな妹紅さんを見るのも久しぶりだな~。よっぽど恥ずかしかったみた・・・・・・むっ!?

 

 

 

「ええっ!?ご、ごめん妹紅さん!座布団に思いっきり頭を突っ込んじゃって、そんなに嫌だった!?本当にごめんなさいっ!わ、悪気はなかったんだよ~!!」

 

 

「も、妹紅さん大丈夫!妹紅さんがそんなハレンチな女の子じゃないことは私たちがよく分かってるわ!だからいったん落ち着いて!ほ、ほらスカートがみだれてパンツが……!」

 

 

 

―――なるほど。藤原さんの好みは〝白〟なのか。

 

 

 しかしこれじゃー〝尻隠さず〟じゃなくて〝パンツ隠さず〟だ。こんな珍場面を拝める日が来ようとは、藤原さんには心からお礼を言わねばなるまいね。……マジありがとうござっしたぁああ!!

 

 

 

「おぉおぉ。いったいなんだぜこの光景は?吉井も鼻血を流しちまって…何があったんだ?」

 

「……十六夜が、藤原の尻を……!男女ともにバカ売れ…っ!(バシャバシャバシャ!)」

 

「あ、魔理沙、ムッツリーニ」

 

 

 すると、さわぎをかぎつけた魔理沙とムッツリーニが野次馬のようにやってきた。幸い十六夜さんがスカートをなおしてあげていたので妹紅さんのパンツが激写されることは無かったけど、代わりに別の目玉写真が撮られたみたいだ。次のムッツリ商会が楽しみだね!

 

 

「えっと、工藤さんがちょっとイタズラみたいなことをしちゃって、それで藤原さんがね」

 

「イタズラねー。…どんなイタズラをされたら、こんな頭隠して尻隠さずの可愛らしい妹紅が出来あがるんだぜ?」

 

「……あと少しで、パンツが見えるのに……!!(ポタポタ)」

 

「ほら、藤原さんに謝り続けてる工藤さんが録音機を持ってるでしょ?それで変な言葉を作っちゃって……」

 

 

 藤原さんのパンツが見えたのはものすごく嬉しいけど、やっぱり友達にそんなことをするのはやめてあげてほしいものだ。パンツが見えたのはこの上なく嬉しいんだけども。(最近の君のスケベ度はうなぎのぼりですね、まったく)

 

 

 

「…録音機か…(ジッ)」

 

「?どうしたの魔理沙、そんな難しい顔して?」

 

 

 魔理沙も藤原さんみたいに興味がわいたのか、急にまじめな顔で工藤さんの録音機を見つめだした。アリスさんとお話ししたときにその内容を記念にとっておこうとか考えてるのかな?

 

 

「なあ工藤。お前よくその機械をいじんのか?」

 

「へ?う、うん。最近の趣味だからよく触ってるよ?」

 

「ほ~……。どんなことしてるんだ?」

 

「え、えっとね~……今度は妹紅さんじゃ悪いから……(カチャカチャ)」

 

 

 再び工藤さんが機械を触りだした。また声を組み合わせるつもりみたいだけど、藤原さんが今度こそ怒っちゃうんじゃ……

 

 

 

 

「はい、こんな感じでいつも楽しんでるよ」

 

 

 

ピッ

 

 

≪藤原さん≫ ≪僕と≫ ≪やらない≫?

 

 

 

「げはっ!?」

 

 

 その矛先はどうやら僕となるみたいだ。

 

 

「あっ、ちが!も、妹紅さんじゃなくってボクで・・・!」

 

「ちょ、ちょっと工藤さぁん!?」

 

「…!!……明久……お前と言う奴は……っ!(ボタボタボタ)」

 

「………吉井………お前なんつーことを……(ドン引キ)」

 

「ちっ、違うよ!?今のは僕じゃないからね2人ともっ!?」

 

 

 ななっ、なんて言葉を生み出してくれちゃってるのさ!?そんなもの聞かれたら、僕はあっという間に女の子たちからクズ野郎の称号を得ることになっちゃうじゃないか!

 

 工藤さん!その相手が工藤さんだろうが妹紅さんだろうが僕が社会的に死ぬのは間違いないから、操作ミスであわあわしてないではやく僕を弁明してーっ!?

 

 

「――――~~っ!?死ねっ……死ね変態……っ!(ガタガタガタ!)」

 

「はい!一番聞かれてはならない子に聞かれて最上の罵倒の言葉をもらったー!?」

 

 

 座布団に頭を埋めててもちゃっかり言葉は聞いてたみたいで、座布団の震えがさらにヒートアップ。これはもう二度と僕と口を聞いてくれないんじゃないだろうか。

 

 

「ちっ、違うよ藤原さん!今のは僕じゃなくて工藤さんが流した録音だからねっ!?」

 

「吉井……確かにお前の正直なところが嫌いじゃないって前に言ったが……さすがに今のはないわ。あまりにもないんだぜ」

 

「……懲役もやむを得ないセクハラ……(ポタポタ)」

 

「ま、魔理沙もムッツリーニも今のが僕じゃないってことぐらい見てたから分かるよね!?分かってるんだからそんな怖い顔して僕を睨まないでよ!?」

 

 

 っていうか鼻血を流してるムッツリーニが非難する側にいるのが納得いかない!さっきから誰をチラチラとみてるんだっ!君の方がよっぽど興味津々になってるじゃないか!

 

 

 

 

 

「………ヨシイアキヒサ」

 

「…………………………………はい」

 

 

 

 そして、そんな大慌てする僕にとどめをさすかのように凍えるような声。

 

 

 

ふっ………もう後ろを振り向かなくても分かるさ。彼女でしょ?僕をヘンタイと信じてやまない美人でドSなあの子に間違いないんでしょ!?

 

 

「……ナニカ、言イ訳ガアッテ?コノ性欲ダダモレ下種野郎ガ…!」

 

「…………思春期の男の子だから、やっぱりそういうことにきょ―――」

 

 

 

 

 自分が言ったんだから、せめて言い分を聞いてから関節を決めてほしかったよもう。

 

 

 

 

 

 

 

『おっ、おお落ち着いてください咲夜さん!吉井君をそんな鬼気迫る表情で締めあげてるものですから周りの方が一人残らず震え上がっていますよ!?いったいどうしたというのですか!?』

 

『……この変態があろうことにも、妹紅さんにやらしいことをしようとぬかしたのよ……!』

 

『よぉし潰すっ!手ぇ貸しますよ咲夜さんっ!!』

 

『まっ、待って待って美鈴さん咲夜!それは吉井君じゃなくてボクが勝手にやっちゃったことで吉井くんはなんにも悪くないのっ!だから2人そろって関節技を決めないで~!?』

 

『ちょ、ちょっと何やってんの美鈴!?止めに入ったあんたがなにアキに止めをさそうとしてんのよ~!』

 

 

 

 

 

「やれやれ、最近の吉井はサンドバッグ代わりだな」

 

「………女子とあれほど密着出来るとは………けしからん……っ!」

 

「じゃあ変わってやれよ。当の本人は泡を吹いて気絶寸前だから、喜んで変わってくれると思うぜ?」

 

 

 まああの2人のターゲットが吉井だから、向こうがお断りするだろうけどなー。

 

 しかし、咲夜のヤツもやっぱり美鈴の妹だぜ。あの声が吉井のじゃないってことぐらい賢いアイツなら分かるだろうに… 

 

 

「ふう、明久にはすまぬが、なんとか一難去ったのじゃ…」

 

「おっ?どうした秀吉。珍しく元気がないじゃないか」

 

 

 そうやって安全な場所から他人事のように眺めていたら、少しばかり疲れた表情の秀吉が私たちのもとへやってきた。さっきまで美鈴と話してたわりには妙だな??

 

 

「うむ。先ほどまで美鈴に、昨日のことで延々と文句を言われておってのう…」

 

「ああ。なるほどなー」

 

 

 背と胸と同じように心も大きい美鈴も、さすがに昨日のことは怒ってたもんな~。おおっと、何かを思い出しそうでブルっちまったぜ。

 

 

 

 

「『異性の裸を盗み見しちゃダメです!』とか、『そんなところで男の子らしいことを見せなくても…』とか、『秀吉君もちゃんとそういうことに興味があったんですねー』とか、『秀吉君の新しい一面を見れました』とか、『も~、あんまりイタズラしちゃダメですよ?秀吉君のエッチさん♪』とか言われたのじゃ…」

 

 

「私の気のせいか?後半になるにつれて怒りが喜びになってねぇかそれ?」

 

「………悪いことをした可愛い子供をしかりつけるお姉さん」

 

 

 あいつ、実はこの秀吉に覗かれようとされてまんざらでもないとか言うんじゃないだろうな。それだと今後、アイツを見る目がものすご~く変わることになるんだぜ。

 

 

「まあ、紅も紅で、やはり姫路や島田と同じ女子ってことなんだろうさ」

 

「おっ。霧島は大丈夫なのか坂本?」

 

 

 するとまたまたやってきたのは、Aクラスの学年主席である霧島翔子の夫の(あくまで予定だが)坂本雄二。1人で来たところを見ると、どうやらさっきまで隣にいた霧島と離れることに成功したみたいだぜ。

 

 

「ああ。翔子はあっちで乱心状態の十六夜を止めに行ったから大丈夫だ。……もっとも、今なら紅のヤツもセットになってるがな」

 

「あいつら2人を相手に、霧島も美波も根性があるなー。台風に突っ込んでいくようなもんだぜ」

 

「確かにのう。雄二、お主はたくましい嫁を持ったのじゃ」

 

「…………実に妬ましい……」

 

「だっ、誰が嫁だ誰が!!秀吉!お前もとうとう明久と一緒のバカになっちまったのか!?」

 

「でも秀吉の言う通りじゃんか。いいじゃないかよ~、美人で賢くて愛がいっぱいの嫁だぜ?全世界の男が欲するものだぞそれは」

 

 

 それを本当に心から否定するんなら、こいつは一度病院に行くことをお勧めするぜ。私なんか!私なんか全然うまくいってないってのに!贅沢病かなんかにかかってるとしか思えねえんだよこいつっ!

 

 

「う、うるせぇ!人のことをとやかく言う前にお前がまずアリス・マーガ――」

 

「うわぁあああああ!?バカ言うなシャラァアアアップ!」

 

「ムガガガガッ!?」

 

 

 こっ、こいつはバカなのか!?今ここ同じ部屋に本人がいるんだぞ!?私が機転を利かせて口を封じれたから良かったものの、もしも聞こえてたら――――!

 

 

 

 

 

「あら?呼んだかしら坂本代表?」

 

 

 

………そうだよな。あんな大声だったらそりゃ絶対聞こえるよなバカ野郎が!

 

 

「い、いやいやアリス!なんでもないんだぜ!アリスが気にすることは無いぞっ!?」

 

「ぇ…で、でもそれは、今口を封じられている坂本代表が言う言葉であって、魔理沙が言うことではないんじゃないかしら……」

 

 

 そう言って正論を返してきたのは、まさに坂本が叫ぼうとした件の少女、アリス・マーガトロイド。ア、アリスとおしゃべりできるのは嬉しいけど、このタイミングだとあまりにもまずいっ!なんとしても元の場所へ戻ってもらわねぇと…!

 

 

 

「だっ、大丈夫だって!きっとアリスの聞き間違えだ!坂本がアリスを呼ぶわけないんだぜ!アリスを呼ぶ理由なんざまったくないんだからさ!」

 

「そ、そうかしら……?………あと、魔理沙にまあまあひどいことを言われてる気がしてならないのだけど…」

 

 

 とたん、ショックを受けたと言わんばかりにしゅんとしだすアリス。あ、あれ?私何か言っちゃった?アリスを傷つけるようなこと言っちゃったか!?

 

 

「ま、待ってくれアリス!私はアリスを傷付けたくて、何かを言ったわけじゃないんだぜ!」

 

「そ、そうなの?本当??」

 

 

 

 

「お、おうっ!―――ただ、アリスに(恥ずかしい話を聞かれたくないから)絶対に来てほしくなかったんだ!」

 

「……………(ピシッ)」

 

 

 

 ………ん?おかしいな。きちんと理由を説明したつもりだったんだけど、なんでアリスは安心した顔で硬直したんだ?

 

 

 

 

「……う、うう~~~!!(ぶわっ!)どうして私はいつもこんなことを言われるのよ~!霊夢っ!霊夢~~!!(ダッ!)」

 

「ええっ!?アッ、アリスー!?」

 

 

 なっ、なぜだ!?いったいどこにアリスを号泣させて脱兎のごとく去らせる要素があったんだよ!?

 

 

「ぶはっ!は~、は~……。いや、今のはアイツも勘違いしちまうだろ。霧雨の言い方が悪かったな」

 

「うむ。アリスはわしの知る女子の中でも随分と繊細じゃからのう。その言い方はマズかったのじゃ」

 

「……少し配慮が足りなかった」

 

「なっ、なんだと!?いったいどこに間違いが……ああっ!?霊夢の奴、アリスに思い切り抱き着かれやがって…!」

 

 

 メ、美鈴といい咲夜といい霊夢といいっ!どうして私に出来ないことをこうやって簡単にしてもらえるんだ!うらやましいんだよ畜生っ!お金払うから秘訣を教えてくれ!

 

 

 

「……しかし、明久は何をやらかしたんだ?おかげで翔子から逃げられたが、あいつらの剣幕が凄まじいな」

 

 

「………」

 

 

 そんな私の切実な願いを知らない坂本は、さっきの私と同じようなことを言って向こうを見る。

 

 

……仕方ねえ。ここは頭を切り替えて気になったことを報告しておくか。

 

 

「あ~・・・坂本。ありゃ工藤の録音が原因だぜ」

 

 

「ん?どういうことだ?」

 

「ついさっきなんだけどな……」

 

 

 私は、工藤が機械をいじるのが得意なこと、最近の趣味が録音……あるいは盗聴であることを坂本に話した。

 

 

「…………なるほど。それは少し気になるな」

 

「だろ?」

 

「??お主らは何を言っておるのじゃ?」

 

 

 坂本はすぐに理解したみたいだけど、秀吉はよく分からないと首をかしげて私の方を見て来る。んー、そんな確信ある話ではないから言っていいものか分からないけど………一応伝えとくか。

 

 

 

 

「つまりだな……。私たちが探してる盗聴犯、及び盗撮犯が工藤の可能性があるってことだ」

 

「!なんと、いったいどういう根拠があってなのじゃ?」

 

「あいつ、意外と機械の操作がうまくってよ。しかも結構イタズラ好きだろ?完全に根拠のない予想だけど、容疑者の1人にしてもいいかなって思ってさ」

 

「………確かに、素人にあれほどのことはできない」

 

 

 そこらへんに詳しい土屋もうなずきながら工藤の技術を褒めた。どうやら土屋の目にも工藤は怪しく見えたみたいだぜ。

 

 

「ふむ。では工藤を犯人と仮定するとして、どうやって調べるのじゃ?素直に答えることは無いと思うぞい?」

 

「まあそうだろうな。だから単純に、あいつに犯人の証がないか調べるだけだぜ」

 

「火傷の痕があるかどうか、ってことだな?」

 

「おう。そういうこった」

 

 

 火傷があったら黒、なかったら白と実にシンプルなことだ。

 

 

「じゃが…どうやって工藤の尻を調べるのじゃ?聞くも調べるも至難なのは変わりないぞい」

 

「………しかも、やつはスパッツをはいている……」

 

 

 なんで工藤の下着事情を知ってんのかはともかく、土屋の言う通りなら脱がせるものが倍になったんだから、確かに痕を確認するのがさらに難しい。

 

 

 

「大丈夫だ。私に考えがある」

 

「「「ほう?」」」

 

 

 でも、私だって何も考えてないわけじゃない。きちんと自分に迫る危機(好きな人の暴露)を回避するために昨日の晩から頭を働かせているんだぜ。

 

 

 

「対価はでかいだろうが、間違いなくうまくいくはずだぜ」

 

 

 

 さて、まずは全力で抱き着いてるアリスを剝がさないとな。

 

 

……いい加減うらやましいんだよっ!私の目の前でそんなイチャついてんじゃねえぞごらぁ!!

 

 

 

 

 

『霊夢っ!霊夢~~~~!!(ぎゅ~~!!)』

 

『うわっ、なによアリス?私は美鈴と違って柔らかい胸なんかないわよ。そんな全力で顔をおしつけてもさらしの感触しかしないってのに…』

 

『う~~……!だ、だって美鈴も咲夜も何かもめてるから、あなたしか慰めてくれる人がいなくって……!』

 

『はいはい。ややこしい言い方するなっての(なでなで)。……んで、今度は何が原因なのよ?』

 

『ひっく……!ま、魔理沙が私に来てほしくないって……私なんかに用はないって言われたの……!』

 

『……は?何かの聞き間違いじゃないのそれ?魔理沙に限ってそんなこと言うわけないじゃない』

 

『で、でも……本当にそう言われて……!』

 

『………(ちらっ)。………あー、アリス。きっとあんたの早とちりよ。魔理沙がすごい羨ましそうな顔してこっちを見てるから、さっさと仲直りしてきなさい』

 

『………でも、でも、また同じことを言われたら……』

 

『あ~もうウジウジと面倒くさいっ!(ぐいっ!)そんときは私がなんとかしてやるから早く行きなさいっての!(ぺしっ!)』

 

『痛いっ!?わ、分かった!分かったからお尻を叩かないで霊夢!私はあなたみたいに強い心と身体を持ってないのよ!(よたよたよた)』

 

 

 

『は~、まったく…………あ?なによ、姫路、チビ』

 

『あっ。いえその…』

 

『だっだ誰がチビよさぁ!?アタイはチビなんかじゃないもんっ!』

 

『あーはいはい。じゃあノッポね。それなら文句ないでしょうが』

 

『は、博霊さん。チルノちゃんがノッポと言うのは、さ、さすがに無理があると思うのですが……』

 

『ノッポ!?ふ、ふふん!あんた意外と分かってるじゃない!そうよ、アタイは誰よりもノッポ!絶対にチビなんかじゃないのよさっ!』

 

『こいつはそう思ってないみたいよ』

 

『…あ、あはは……』

 

『んで?私をじっと見てどうしたのよ。なんか前もそんなことがあったわよね』

 

『あ、えっと、博霊さんも……や、優しい人なんだなって思いまして……』

 

『………あ?〝優しい〟??………〝冷たい〟ってのはよく言われるけど、優しいってのは初めて言われたわね。どこにその要素があったのよ?』

 

『だって、泣いてるアリスさんを慰めて、魔理沙ちゃんと仲直りさせてあげようとしてたじゃないですか。冷たい人ならそんなことしません』

 

『……そうかしら。あまり適当なこと言ってると怒るわよ』

 

『え、ええっと………私は褒めたはずなんですけど、どうしてそこで怒りが……』

 

『うっさいわね………あんまりそういうの慣れてないのよ』

 

『えっ?』

 

『だーかーら、恥ずかしいって言ってんのっ。何度も言わせんじゃないわよ』

 

『…………ふふっ(にこにこ)』

 

『姫路………その笑顔はいったい何かしら?その慈愛に満ちたほほ笑みは?』

 

『はいっ。―――――博霊さんって、すごい可愛いんですねっ』

 

『・・・あ、う・・・・だっ、だから褒めるなっ!(ビシッ)』

 

『あう!痛いですっ!?』

 

『ノッポのアタイに敵は……むっ!?あんた何みずきにデコピンしてんのよさぁ!ノッポのアタイの恐ろしさを見せてや(ガン!)けふぅっ!?』

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました。

 はい、とうとうやってしまいましたよ弾幕被弾と言う名の伏字を!

 久しぶりの投稿と言うことで思いっきりテンションが上がっての書きなのですが、あくまでギャグです!文を書いた本人が言うことじゃないですが、変にやらしいこと想像するんじゃないですよー!?

 さて、前半は明久が中心だったのですが、後半は久しぶりに魔理沙に語ってもらいました今回。明久が神に幸運を授けられたり罰を受けたり、アリスがダッシュしたり、珍しく霊夢がうろたえたりするといった色々な場面を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?一度でも笑っていただければ嬉しゅうございます!

 それではまた次回っ!再びおバカ達が動きますよーっ!

 

 


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依頼―報酬、が出るかどうかは成果次第だろうがバカぁ!

 どうも、村雪です!忙しくて投稿が遅くなってすみませんでした!

 前書きも短いものとなってしまいますがここは一つ、短くて読みやすいと考えていただければ!

――ごゆっくりお読みください。


「うし、今回のターゲットは工藤だぜ」

 

「え?」

 

 

 勉強も終わり美鈴さん十六夜さん姉妹の拷問も受け、夕食も取ってお風呂の時間となったころ。昨日と同じように僕らの部屋にやってきていた魔理沙が早々にそんなことを宣言した。

 

 

「………(こくり)」

 

「うむ」

 

「ああ。昼間言っていた通りだな」

 

 

 よく分かんなかったのは僕だけみたいで、他の三人は多く語らずうなずくだけ。なんだか最近僕は仲間外れが多いなぁ。

 

 

「工藤さんがターゲット?それって盗撮犯の?」

 

「おう。今日の昼間、吉井も見ただろ?あいつがやけに録音機とかに長(た)けてるところをよ」

 

「ああ、そう言えばそうだったね」

 

 

 それが原因で起きた絞め技大会のせいですっかり忘れてたよ。確かにあれだけ機械に強いのなら、いくらでも盗撮も盗聴もできるだろう。つまり今回は不特定多数じゃなくて一人に標的を絞ったってことか。

 

 

「でもさ、それって結局お風呂を覗きに行くってことなんでしょ?別に1人に絞らなくてもいいんじゃないの?」

 

 

 もしかしたら他の人が犯人なのかもしれないし、どうせやるならば徹底的にした方が良いと思うんだけどな。………やましい下心が少しあるのは、今回正直に告白しよう。

 

 

「いや、今回は覗かねぇ」

 

 

 でも、魔理沙の口から出たのはそんな言葉だった。

 

 

「え?じゃあどうするの?」

 

 

 

「単純だ。―――工藤と一緒に風呂に入るヤツに確認してもらうんだぜ」

 

「えっ?」

 

 

 ちょ、ちょっと待ってね?ええと、つまりそれは……

 

 

「だ、誰か女の子に協力をしてもらうってこと?魔理沙」

 

「おう、その通りだぜ」

 

 

 分かってくれて良かったと満足そうにうなずく魔理沙。確かにそれはシンプルで確実な手段だと思うけど………

 

 

「でも魔理沙、そんな友達を裏切るようなことに協力してくれる女子っているの?」

 

 

 そんなことを相談して断られることだけならまだいい方で、下手をすればそんな相談を受けたって言い触らすかもしれない。もしもそれが美鈴さんや美波あたりにばれたりしたら……うう、想像するだけで体全身が痛くなってくるよ!!

 

 

 

「そんなに心配そうな顔すんなって吉井。私はそれについて、大きすぎるアテがあるんだぜ」

 

「!ほ、本当っ!?」

 

「もちろんだぜ。嘘はつかねえさ」

 

 

 ニッと笑顔を浮かべる魔理沙。なっ、なんて頼もしい女の子だ!この男気豊かなところをアリスさんに見せてあげたら絶対にときめくこと間違いなしだよ!僕が保証してあげよう!(※それが出来ないから彼女は苦労しているのです)

 

 

「魔理沙よ。わしらもそこまでは聞いたが、いったいそれは誰なのじゃ?」

 

 

 その女の子が誰かなのは秀吉たちも聞いてなかったみたいで、皆揃って魔理沙を見つめる。僕達の命運を決めるかもしれないキーパーソン。その子とは、いったい……?

 

 

 

「ああ、それはだな―――」

 

 

 

がらりっ

 

 

『!!』

 

 

 するとその時、ノックもなくふすまが開かれた。ま、まさか誰かに嗅ぎつけられたかっ!?

 

 僕達はいつでも動けるよう、臨戦態勢をとって突然の来訪者をにらんだ。

 

 

 

 

 

 

「邪魔するわよ、あんたら」

 

 

「えっ?は、博麗さん?」

 

 

 一体だれが予想できただろう。

 

〝あんたのご飯は私のもの〟〝喧嘩上等 邪魔をする者容赦なし〟という、〝女番長〟の言葉がものすごくシックリくる少女、博麗霊夢さんがずかずかと遠慮なく入って来たではないか。何度か彼女の猛威を目撃した僕は思わず一歩後ずさる。

 

 

「ど、どうしたんだ博麗?何か用か?」

 

 

 前にプールで全力の蹴りを受け取った雄二も、二歩下がって博麗さんを警戒しまくっている。この野蛮な男までも震え上がらせるとはなんと末恐ろしい女の子だろう。

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 そんな僕たちの反応が気にくわなかったのか、博麗さんが思い切りまゆをしかめた。いかん、また何かまずいことを言っちゃたんだろうか?殴るのなら雄二だけでお願いします。

 

 

 

 

「むしろこっちが聞きたいわよ。私は魔理沙に呼ばれてここに来ただけだっての」

 

「え?」

 

 

 

・・・・・・魔理沙に呼ばれた?じゃあ、それって・・・

 

 

「魔理沙!ひょっとして協力を頼む女の子って博麗さんなの!?」

 

「ああ、そうだぜ?」

 

 

 魔理沙はなんのことなく頷く。えええ?は、博麗さんがかぁ~・・・・

 

 

「だ、大丈夫なの?こう言ったらなんだけど、僕にはどうしても彼女が僕たちの言うことを聞いてくれるとは思えないよ?(こそこそ)」

 

 

 普通のお願いでも嫌そうな顔をする博麗さんが、どうして犯罪に近いお願いを聞いてくれるだろうか。そのシーンが全く浮かび上がらなかったので、僕はまた魔理沙に耳打ちをした。

 

 

「ま、見てなって。―――や~悪いな霊夢。お前に頼みがあってここに来てもらったんだぜ」

 

「なによ?早く風呂に行きたいんだから手短かにね」

 

 

 博麗さんの言うとおり、手には着替えが入っている袋とバスタオルが準備してある。お風呂の時間はクラスの人と一緒だから、同じクラスの工藤さんも今入っているに違いない。

 

タイミングはばっちりけど、どうやって頼むつもりだろう?

 

 

 

「おう。ちょっと風呂場で工藤のお尻に火傷の痕があるか確認してきてくれないか?」

 

 

 それはもう〝ちょっと〟では収まらないお願いじゃないかな魔理沙。

 

 

「お尻ぃ?なんでよ?」

 

 

 やっぱり疑わないはずもなく、博麗さんがジトリとした目で魔理沙をにらんだ。そりゃクラスメイトのお尻を見ろなんて言われて、素直にうなずくわけないよね。

 

 

「ちょいと私らの事情でな。火傷の痕があるかどうか見るだけでいい。一つ頼まれてくれねえか?」

 

「いやよ。面倒くさいもの」

 

 

 理由はともかく迷うことなく断る博麗さん。魔理沙は自信があったみたいだけど、やっぱり友達を売るようなことは―――

 

 

 

 

 

「まあそう言うなよ。後で、焼肉【天カルビ】の食べ放題チケットを贈呈するぜ」

 

「(ガシッ)全身全霊で引き受けたわ。任せなさい」

 

 

 博麗さんなら間違いなく乗ると思ったよ。ちなみに僕も全力で乗っかってたね。

 

 

「んじゃ行ってくるわ。愛子の尻を確認すればいいのね(スタスタ)」

 

「おう。あ、もし余裕があったら、他の奴にも火傷があるかどうか確認できたらありがたいぜ」

 

「一応覚えておくわ(がらりっ)」

 

 

 そこまで言って、博麗さんは任務を果たしに行った。

 

 

・・・この後工藤さんに降りかかることを考えると、容疑者だけど同情せざるを得ないね。うん。

 

 

「霧雨・・・お前、鬼だな。〝欲〟であいつを動かすとシャレにならんぞ」

 

「私にも関わる事だからな。ま、何も撮るとかじゃなくてお尻に火傷あとがあるかどうかを確認してもらうだけだから、そうひどいことにはならんだろ」

 

「い、いや。わしには博麗が穏便に事を済ますとはとても思えんのじゃが・・・」

 

「・・・十中八九、荒事になる」

 

「僕も2人に同意だよ」

 

 

 僕達が頼んでおいてなんだけど、どうか平和的にお尻を確認してね博麗さん。いや、フリとかじゃないからね?心の底からお風呂にいる女の子たちのことを心配し………て…………

 

 

 

「………あれ?ねえ魔理沙」

 

「ん?なんだぜ?」

 

「さっき、他の子のお尻も確認してって言ってなかった?」

 

「ああ。そうすりゃ工藤が犯人じゃなくても見つかるかもしれないし、仮に見つからなくても容疑者が減るわけだから損はないと思ってな」

 

「ああ。確かにそうだね」

 

 

 あわよくば僕達が動かなくても犯人が見つかる可能性もあるわけだから、僕や雄二にとってはこの上なくありがたい作戦だ。

 

 

 

「――でも、魔理沙は良かったの?」

 

「??何がだ?」

 

 

 

 いや、何がも何も………

 

 

 

 

「だって、工藤さんってAクラスでしょ?だったら同じクラスのアリスさんもターゲットになっちゃうような………」

 

 

 

「「「あ」」」

 

 

「………………………あ」

 

 

 

 

 

 

 

『ああ……いい湯だわ……』

 

『そうだねー……アリスの言う通りだよ~~』

 

『・・・・疲れが取れる・・・』

 

『そうね代表。昼間の疲れがすっと抜けていくわ・・・』

 

『昼間のって・・・・咲夜、何度も言うけれどあれはやりすぎだと思うわ。美鈴と二人がかりで攻撃するのもそうだし、聞けばその吉井君の言葉は愛子が作ったものらしいじゃない』

 

『……2人を止めるのは大変だった…』

 

『う。そ、それについては…さすがに申し訳ないと思ってるわ・・・・・・一応』

 

『ボ、ボクもそのことはすごく反省してるよ・・・吉井君、大丈夫かなぁ・・・?』

 

『そう思っているのなら、きちんと謝ることよ。吉井君は優しいからきっと許してくれるわ』

 

『う、うんっ!また吉井君にきちんと謝りに行くよ!ねっ咲夜!?』

 

『……くっ………頭では分かってるけど………あの変態に謝るのだけはどうしても抵抗があるわ……っ!!』

 

『さ、咲夜咲夜?ボクが全面的に悪くて吉井君は悪くないんだから、そんな渋面にならなくても・・・』

 

『……十六夜。唇から血が……』

 

『ま…前々から思ってたけど、なぜ咲夜はそんなに吉井君のことが嫌いなの?面白くて優しい男の子じゃない』

 

『…………面白い?優しい??ならどうして私にはちっとも笑えないことを言うの?どうして無慈悲に事実を伝えてくるの!?ウソでもいいから私が笑えて喜べることを言いなさいよっ!誰がまな板っ!誰が平原……っ!』

 

『……十六夜、落ち着いて。お風呂で暴れたらいけない』

 

『……ごめんなさい咲夜。吉井君を苦手としているのはよく分かったわ・・・』

 

『み、見た感じだとボクよりもありそうだけどなー……って、あ。遅かったね霊夢。どこに行ってたの?』

 

『あー、ちょっとね。それより咲夜はどうしたのよ。えらい荒れてるじゃない』

 

『あー、うん。こっちも色々あってね~。咲夜もそういうこと考えるんだなー』

 

『ふーん。……あ、そうだ愛子』

 

『ん?なぁに?』

 

『ちょっと尻見せてくれないかしら』

 

『それはちょっとじゃすまないよ霊夢っ!?……え?きゅ、急にどうしたの?』

 

『愛子の尻が見たいからよ。だから見せて頂戴』

 

『え、え~~と……と、突然言われてもやっぱり困るかな~…?』

 

『何言ってるのよ。アンタ普段からスカートめくってパンツ見せたりしようとしてんじゃない。だから尻の1つぐらいなんてことないでしょ?』

 

『パンツ見せるのとお尻を見せるのはぜんっぜん違うからね!?たった布一枚の違いとは言えそこには大きすぎる差があるよ!?』

 

『いいから見せなさいよ。減るもんじゃないでしょうに・・・』

 

『確かに減りはしないよ!その代わりボクの精神負担が激増するけどね!だ、代表、アリス助けてっ!霊夢が変だよ!』

 

『……霊夢、どうしたの?』

 

『霊夢。女の子同士とは言え、嫌がってる子にそういうことをしてはダメよ。いったん落ち着きましょう』

 

『私は至って冷静よ。あ、そうだ。あんた達の尻も見せてくれるかしら?』

 

『私達にも飛び火がっ!?』

 

『(ザパッ)………これでいい?』

 

『ん、ありがと霧島』

 

『ってだ、代表!?』

 

『ボ、ボクはためらったのに躊躇なくお尻を見せるだって!?代表、やっぱりすごいなぁ・・・』

 

『……ないわね。じゃあアリス、愛子。次はあなた達も見せてくれるかしら』

 

『え、えええ………?でも霊夢、私もやっぱり愛子と同じで自分から…お、お尻を見せるのは……』

 

『そ、そうだよ霊夢っ。やっぱり抵抗があるというか、なんというか……』

 

『……そう、分かったわ』

 

『!ありがとう、分かってくれたのね霊夢』

 

『え…?れ、霊夢がこんなにあっさり…?』

 

『だったら私が無理やり見るしかないわね』

 

『ほらやっぱりねっ!』

 

『ぜんっぜん分かってないじゃないバカ!どうしてそこで諦めるという選択肢が浮かばないの!?』

 

『すべては肉のためよ…。見せる時はすぐにすぐに言いなさい。私もさすがに、友達の嫌がることは出来れば避けたいわ』

 

『いっ、今まさにやってるよぉ!』

 

『れっ、霊夢!いったん落ち着きましょう!あなたは本当は優しい子!だからそんなことをする子じゃ――――!』

 

『優しいとか言うなっ!……とにかく、肉の食べ放題のためなら私は外道にでもなるわ。アリス、愛子……あとそっちでぶつぶつ言ってる咲夜……私に尻を見せろぉおおおお!!』

 

 

『『キャアアアアア~~っ!!?』』

 

『……謝りたくない……でも、謝らざるを得ない……でも、悔しいから謝りたくないぃ………!!』

 

 

『………私、見せない方がよかった……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ってわけで、あいつら4人と何人かの尻には火傷の痕が無かったわ」

 

 

「おっ、落ち着くのじゃ魔理沙!もとはと言えばお主が発案したんじゃぞい!」

 

「し、知るかあっ!よくもっ、よくも無理やりアリスのお、おおおおお尻を~~っ!!」

 

「暴れるのか泣くのか鼻血を流すのかどれかにしろ霧雨!宥めればいいのか励ませばいいのか分からんっ!」

 

「わ、わわ、私も見たかった、じゃなくて!わ、私の友達にひどいことしやがってぇ!これが怒らずにいられるか、じゃなくてうらやましがらずにいられるか~~っ!!」

 

「本音と建前がもはやゴチャゴチャになっとるぞ!?」

 

「アリス・マーガトロイドに関わると本っ当にアホになるな、お前!」

 

 

 

 ああ、やっぱりこうなっちゃったか。

 

 見事任務を果たした博麗さんの報告に、魔理沙が大変お冠になって飛びかかろうとするから雄二たちが必死になって抑え込んでいる。でも最初に言い出したのは魔理沙だもんなー。可愛そうだけど、これは自業自得ってやつだね・・・被害を受けたのはアリスさんだけれども。

 

 

「さて、魔理沙。ちゃんと約束は果たしたわ。今度はあんたが守る番よ」

 

 

 そんな暴走魔理沙を見ても博麗さんは揺るがない。すっと手を差し出して報酬を受け取ろうとする彼女に、魔理沙は涙目で叫ぶ。

 

 

 

「こっ、これで私が約束を守ろうと思うかバカ!ゼッタイやるもんかバカァ!」

 

「ああん?」

 

「ちょ、博麗さん落ち着いてっ!そんな底冷えするようなどす黒い声を出すにはまだはやいと思うんだ!?」

 

 

 なっ、なんて命知らずのことを言うんだ魔理沙っ!また僕に三途の川のほとりに行かせたいのっ!?

 

 

「きっ、霧雨!ちゃんと約束を守ってやれ!このままじゃ俺たちにまで被害が及ぶだろうがっ!!」

 

「す、すまん魔理沙よ!わしもまだ命が惜しいのじゃっ!(パッ)」

 

「あっ!か、返せ秀吉!霊夢のスケベなんかに渡す理由がないんだぜ!!」

 

 

 散りたくないのは誰でも同じ。雄二がガッチリ魔理沙を抑え、一番良識あるはずの秀吉が、魔理沙の手からお食事券を奪取してまで博麗さんの約束を守ろうとしているほどだ。

 

 秀吉があんな泥棒みたいなことをしてしまうとは、大きな力の前では道徳も何もあったもんじゃない。

 

 

「ほ、ほれ博霊よっ!これが約束の報酬じゃ!しかと受け取るがよい!」

 

「お前が望んだものだ!これで何も文句はないだろう!?」

 

「………あんたら、男2がかりで女にカツアゲするなんてなかなかに外道ね」

 

「誰のせいだと思ってるんだボケッ!」

「誰のせいじゃと思うとるんじゃ阿呆がっ!」

 

「誰がボケで阿呆っておい?」

 

「「すみませんでしたぁ!!」」

 

 

 女の子1人で男子2人に頭を下げさせている君は、修羅道の鬼に思えてならないよ博麗さん。

 

 

「まあいいわ(パシッ)。うふふ~、焼肉食べ放題♪胃袋が躍るわ~♪」

 

 

 でも焼肉券を受け取った途端、春が来た桜の如き満面の笑みを浮かべる博霊さん。そこだけを見ていたらすごい可愛いんだけどなぁ…。

 

 

「じゃ、私は行くわ。こういう話があったらまた誘ってね♪」

 

「にっ、二度と誘うかバカーッ!」

 

「やっきにっくやっきにっく~♪」

 

 

 そんな魔理沙の罵倒にも笑顔なまま、博麗さんは軽やかな足取りで部屋から出て行った。・・・残った僕たちの間に、魔理沙の息切れ声だけが漂う。

 

 

 

「ま、魔理沙………その、災難だったね?」

 

「わっ、私はいいんだよっ!アリスが一番災難なんだようわぁ~~!!」

 

 

 頭を抱えてアリスさんのことに心を痛める魔理沙。おおっと、まさか人をからかってそれを楽しむのが日常の魔理沙がこれほど反省するとは。アリスさんも罪な女の子だなぁ。(※そう思えるのなら、自分自身を見つめ直してはいかがでしょう)

 

 

「ま、まあまあ。もう済んでしまったことじゃ魔理沙よ。ここはきちんとアリスに謝ってじゃな・・・」

 

「ど、どう謝れってんだよ!?『霊夢にアリスのお尻をのぞかせてごめんなさい』とでも言えっていうのか!?そんなこと言ったら絶対…き、き、きらわれ……アリスに嫌われうわぁあぁあああーんっ!」

 

「ご、号泣!?そこまで泣くほどわしはひどい提案をしたかっ!?」

 

 

 数分前までの凛々しい魔理沙はどこへ、ブワリと涙を流す魔理沙はもはや秀吉よりもずっと乙女に見えて仕方ないよ。

 

 

「まあ、なんだ。おかげでおれ達も次からのことを考えられるから、感謝してるぞ霧雨(ポン)」

 

「……疑わしい容疑者が消えたのは大きい(ポン)」

 

「うう……アリスに知られたら絶対嫌われるよぅ……」

 

 

 そんな魔理沙の肩を、雄二は珍しく憐憫と感謝の表情で、ムッツリーニはいつもどおり鼻血を流しながら叩いた。きっと〝湯けむり霊夢さんご乱心の変〟で起こったであろうピンク色の光景を思い浮かべたに違いない。このムッツリめ!っておっと、この血はいったいどこから流れたのかな。

 

 

「しかし今更なんだが、よく〝天カルビ〟の食べ放題券なんか持ってたな?あれは大人気で、なかなか手に入らないと聞いてたが」

 

「……ママにもらってたんだよ。『良かったら友達と行ってきな』って。ママ、よくそういうのもらってくるからさ」

 

「ほう、そうなのか。まあ結果は友達〝だけで〟行くことになって残念だったな」

 

「僕の母親と君のお母さまを入れ替えてもらえないかな魔理沙」

 

「明久。そこまで目を血走らせても無理なものは無理だぞ」

 

「こやつ、本気の本気で提案しておるのう……」

 

 

 魔理沙のお母さんが今後僕のお腹を満たしてくれるかもしれないという事実に胃袋が騒ぎ始める。ダメだったら養子として引き取ってくれても大丈夫。どうかこの空腹高校生活から僕を救ってやってくれないだろうか。

 

 

「なんにしても、これで工藤が白になったわけじゃ。これからどうするかのう?」

 

「ああ。これで黒だったら一件落着だったんだが、違うのならまた動く必要があるな」

 

「………かなり対象が増えるけど……どうする?」

 

 

 叶わないことを願っている間に雄二たちは話を進めだす。今回は機械を使うのが慣れていたから工藤さんを容疑者にしたわけだけど、それが違うとなるとまた大人数の女子の中から犯人を捜さなくちゃならないわけだ。

 

 そうなると………

 

 

「決まってる。昨日と同じように女子風呂に行って確認するまでだ」

 

 

 やっぱりそうなるよね。どんなことも自分達で実行して確かめる、実に僕達らしい考え方だ。

 

 

「それはいいけど、雄二。ただ行っても昨日の二の舞になるよ?」

 

「そうだな。また見張りをしてる先生達のえじきになるのは見え見えだぜ」

 

 

 中でも鉄人は生身で僕の召喚獣を撃退するぐらいだ。あれほどのゴリラ相手だと僕達だけでは手に負えないだろう。

 

 

「なに、もちろんここの五人だけでリベンジする気はないさ」

 

「ふむ。ではどうするのじゃ?」

 

「ああ、まずはFクラスのアホどもを――」

 

 

 

 

 

 

「もこーっ!今日こそあの灼熱地獄でケリをつけるのよさ!覚悟しておきなさい!」

 

「……昨日ついてたのに………。いつもいつもどっからその元気が沸くのやら……」

 

「ほらほら、あんまり強く妹紅さんの手を引っ張ったらダメですよチルノ。焦らなくてもサウナは逃げませんって」

 

「バカねメーリン!何事も早いに越したことはないわ!早く行けばそれだけアタイに勝利の女神があざわらってくれるもんよ!」

 

「チ、チルノちゃん。それだと良くない結果が出る気がしてなりませんよ?」

 

「そこは確か〝微笑む〟よね?ウチも前に聞いたことがあるわ」

 

「おお、さすがです美波さん。チルノも次からはしっかり覚えましょうね?」

 

「別にどっちだっていいわよ!アタイがさいきょーなのは変わりないのよさ!」

 

「チルノが最強なのかはともかく、意味が真逆になるんですがね~…」

 

 

 

 いつもどおり元気なチルノの相手をしながら、私達Fクラス女子は風呂場へと向かいます。いや~昼間はすこし汗をかいちゃいましたから待ち遠しかったですよ~!ここはしっかり温まってリフレッシュしませんとねー!

 

 

「――あ、ご苦労様です西村先生」

 

「ああ、お前たちか。ちゃんと時間通りに来たな」

 

 

 女子風呂の前まで行きますと、担任である西村先生が不埒な輩の侵入を許すまじと仁王立ちをして立ちふさがっているではないですか。う~ん、ただ立ってるだけなのにこの気迫!Fクラスという凄まじいクラスをまとめるだけありますね!(※他人事みたいに言ってますが、あなたもそのFクラスでございます)

 

 

「むっ!?な、なんでせんせーがいるのよさ!今からアタイ達が入るっていうのを邪魔するっていうの!?」

 

「いや、そんなつもりはないぞチルノ。ただ見張りをしているだけで……」

 

「あっ!?さてはアタイ達と一緒にお風呂に入りたいのね!もーせんせーったらHなのよさ(バゴンッ!)んぎゃぁあああああ!?」

 

「お前はおれを何だと思ってるんだアホ!そんな考えなど持ち合わせておらんわっ!」

 

「そっ、それはさすがです先生!ですが今の一発はまずいかと!ほら、チルノがすごい勢いで床を何往復もしていますよ!?」

 

「あっ、頭がぁ!アタイの頭にヤバい痛みがぁあああああ!(ごろごろごろ!)」

 

「チッ、チルノちゃん大丈夫ですか~っ!?」

 

 

 転げまわるチルノに瑞希さん達が心配してかけよりますが、チルノは変わらず勢いよく転がるまま。あ、あんなすごいゲンコツをかますなんて!見てただけで私も頭が痛くなってきましたよ!?

 

 

「いぢぢぢ……っ!んがぁああああ!いったいわねこのチンパンジーゴリラせんせーのバカァァアアアア!」

 

「わっ!?ちょ、チルノ!?」

 

 

 そんな強烈な一撃をやられても黙ったままではいないのがチルノ。大きなタンコブに涙を流しながら、西村先生へと報復に向かいます。

 

 

「こらチルノ!今のは西村先生に変なことを言ったあんたが悪いでしょ!」

 

「そ、そうですよチルノちゃん。今のはチルノちゃんがいけないと思いますっ。妹紅ちゃんもそう思いますよね?」

 

「………私に同意を求められても……」

 

 

 が、両脇にいた瑞希さんと美波さんがそれを抑えました。当然チルノは収まらず、じたばたと二人の間でもがきます。

 

 

「うるさ~~い!この痛みを受けて黙ってちゃサイキョーじゃないのよさ~!」

 

「あっ!もう!瑞希、妹紅!このままお風呂に連れていきましょ!足持って!」

 

「は、はい!」

 

「……なんで、私が……」

 

「こ、こら~!3人共離すのよさあ!アタイはまだ負けて―――!」

 

 

 

 ガラッ ピシャン!

 

 

 そのまま、四人は女の仕切りの中へと消えていきました。

 

 

「………えーと、その。色々とすみませんでした」

 

「紅が謝ることではないが、一応受け取っておくとしよう。はぁ…」

 

「その苦労、身を持って分かりますよ。はぁ……」

 

 

 揃ってため息をつく私達。担任と生徒が同じ理由で悩むことだってあるのです。

 

 

「う~ん。チルノももう少し落ち着いてくれればいいのですがねぇ……」

 

「それもそうだが、あいつはまず男顔負けの口の悪さを直すべきだな。あれほど堂々と俺に悪口を言うやつはそういないぞ?」

 

「先生のことを新種の生き物みたいな呼ぶ方をしてましたもんね。怖いもの知らずここに極まれり、ですね」

 

 

 西村先生の鉄拳をあれほど受けて懲りないのはもはや感心してしまいます・・・まぁ、その口から出て来るやんちゃな言葉に確かに物申したいのですけども。矛先が私に向くことだってあるのですよ。グスン。

 

 

 

「ご苦労様です、西村先生」

 

「ああ、ご苦労様です上白沢先生」

 

 

 そうやってチルノの事を話していると、西村先生と同じように見張りをしていた女教師、上白沢慧音(かみしらさわ けいね)先生が私達のもとにやってきました。

 

「すみません慧音先生。うち(Fクラス)のおバカ達がバカをなことをしてしまったばかりに・・・」

 

「おいおい、紅が頭を下げる必要はないだろうに。まるで吉井たちの保護者みたいじゃないか」

 

「そ、そんなつもりはないですけど、やはり同じクラスメイトとして謝るのが筋ではないかと思いまして」

 

「ふむ、紅は律儀なのだな。いいち……は、母親になるだろうな。将来が楽しみだ」

 

「褒めて頂いて嬉しいのですが、イマなんて言おうとしました?母親の前に何と?」

 

 

 性別を間違えられるのは納得できません。秀吉くんならともかく私はどこから見ても女の子なのです。

 

 

「ゴホンッ!そ、それはそうと西村先生。話によると、昨日吉井たちを厳しく説教されたそうだが、私たちが見張りをする必要はないのではないか?せっかくだから休まれてはどうだ?」

 

 

 西村先生を気遣ってそんなことをいう慧音先生。実際説教したのは私達なんですが・・・ともかく先生は、吉井君達がもう何もしないと考えているようです。

 

 

「「………(ふっ)」」

 

「む?ど、どうして目で閉じて鼻で笑うのです?しかも紅まで……」

 

 

 どうやらまだまだあのおバカ達のことを甘く見ているようですね。西村先生、ここは担任としてしんよー溢れる言葉をお願いしますよ。

 

 

「お気持ちは嬉しいのですが上白沢先生……やつらは生粋のバカです。素直に懲りるのであれば今頃立派な模範生徒になっていますよ」

 

「その通りです慧音先生。それでしたら私達も日々、苦労せず平和に過ごせていたでしょうとも」

 

 

「……そ、そうか……」

 

 

 大丈夫です先生、ひきつった顔を無理やり笑顔にしようとしなくてもいいですよ。そのぐらいで傷つく私達ではありません。

 

 

 

「ま、ま、まあしかしだ。いくら生粋の阿呆であろうと、さすがに連日で動くことは―――」

 

 

 

 

 ドドドドド・・・!

 

 

「「「ん?」」」

 

 

 はて?気のせいか、すごい地響きの音が聞こえたような気が・・・?

 

 

 

『うおぉおおおお~!楽園に進めえええ!!』

 

『道を阻むヤツは全て蹴散らせぇええ!』

 

『サーチ&デストロォーイッ!』

 

 

 

「な、なんだっ!?男子達が集団でやってきたぞ!?」

 

「………もぉぉぉ。言ってるそばから~…!」

 

 

 怖い顔をしてこちらにやってくる人物は、全員クラスで見たことがある男子ばかり。

まぁたFクラスに『問題児の巣窟』のレッテルを貼りつける気ですかちょっとお!

 

 

「少数ではかなわないからと人数を増やしてくるとは、これだからアイツらは……!」

 

「とっ、とにかくここから先に進ませてはまずい!西村先生、ここの守備は頼んだっ!」

 

「了解!紅、聞いての通りここから先へは進ませんから、お前は気にせず風呂へ――」

 

「この状況でそんな気は起きませんよっ!あ、先生を信用してないとかではないですよ!?」

 

 

 何をどう説明されて手ごまになったのかは知りませんが、吉井君達と同じことをするということはHな野望を胸に抱いている証!見過ごすわけにはいかないでしょうがっ!

 

 

 

「――全員んんっ!女湯じゃなくて地獄を見せてやるわこらぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!アリスさん・・・・不憫な役ばかり与えてしまってすんませんっ!ゼッタイ良いことも書いていきますから許してやってー!

 
 さて、一か月越えという久々な投稿となりますが、なにぶん忙しくなりまして執筆が続かずにいました。お待ちになってくださった皆様にはすみませんが、次回以降も気長にお待ちいただければありがたく存じます。

 
 それではまた次回っ!再び女子風呂抗争が勃発しますよー!


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絶対に怒らせてはいけない!バカたちの八雲家訪問編!
訪問―招待、されたからと言って勘違いするなっ!


どうも村雪です!何か月も間を開けた上、新年の挨拶もせずに本当に申し訳ありませんでした!皆様あけましておめでとうございます!

 さて、長々と間を開けての投稿となるのですが、今回は前までとは別の話を挟ませていただきます。個人的な事情で全く話を進めることができず、いわば穴埋めのような作品となってしまいお待ちになって下さった皆様には申し訳ありませんが、一つ寛大な心で許してやってくださいませ!

それでは、何か月ぶりかになりますが………


――ごっゆくりお読みください。



「吉井明久。放課後職員室へ来い」

 

「えっ?」

 

 

 いつも通りの学校、いつも通りの授業。今日も無事一日が終わってこれからどうしようかと考えていた僕に、そんな言葉が飛びかかってきた。

 

 

「聞こえなかったのか。放課後私の元へ来いと言っているんだ」

 

「ど、どうしてですか?八雲先生」

 

 

 突然だった上に理由が分からなかったので、僕は命令してきた女先生――八雲藍先生にすぐさま尋ね返す。心なしかその目が授業中より冷たく見えるのは気のせいかな?

 

 

「貴様が知る必要はない。ただ私のもとへ来ればそれでいいんだ」

 

「呼び出されたらその理由を知る権利があると思いますよ!?ちゃんと説明をお願いします!」

 

「うるさい。いいか、絶対に私の所へ来るんだぞ。来なければ明日を過ごせると思うなよ(ガララ)」

 

「そこまで言われるだなんて僕はいったい何をしたのっ!?」

 

 

 もうそれは行っても行かなくても嫌な結果は変わらないんじゃないかな?そう不安を抱く僕を無視して、八雲先生は教室から出て行った。

 

 

「おいおい明久、今度はいったい何をやらかしたんだ?」

 

「や、八雲先生すっごく怒ってましたね。何かやったんですか明久君?」

 

「雄二、姫路さん。僕が一番それを知りたいよ……」

 

 

 近づいてきた悪友、坂本雄二とFクラスの可憐な花の1人、姫路瑞希さんに僕は力なく答える。姫路さんは当然だけど、今だけは雄二の好奇心の言葉にも慰められるなぁ~…

 

 

「しかし、八雲先生もどうしたのじゃろうな?いつもはあそこまで話が通じぬ人ではないのじゃが…」

 

「ですよね?八雲先生ってあんなに理不尽な方ではなかったと思うんですけど…」

 

「いや、秀吉、美鈴さん。八雲先生は意外と理不尽に怒る時があるよ」

 

「む?そうじゃったか?」

 

「ああ。おれも身を持って断言できるぞ」

 

「はえ~。知りませんでしたよ、ねえ秀吉君?」

 

「うむ。知らなかったのう美鈴」

 

 

 続いてやってきた男子(おんなのこ)の木下秀吉と、男子ばかりのクラスでもかなり身長が高い女子、紅美鈴(ホン メイリン)さんが八雲先生の新しい一面を知ったようで顔を見合わせた。

 

前までは紅って呼んでたのに、学園祭のころから秀吉は美鈴さんとよくおしゃべりしてる気がするなぁ。この前もムッツリーニが2人のツーショットをとらえて大売れだって言ってたっけ。

 

 

「で、アキはどうするのよ?藍先生の所へ行くの?」

 

「うん、美波。そうしないと怖いことになりそうだからね」

 

 

 かと言って先生のもとへ行くのも同じくらい怖いけども。ポニーテールがトレードマークの島田美波さんが心配そうな顔をする気持ちがよくわかる僕だった。

 

 

「まあ安心するんだぜ吉井。いざという時は私が骨を拾ってやるから成仏はできるさ」

 

「僕が心配してるのは成仏できるがどうかじゃないからね魔理沙?」

 

「………遺影はおれが準備しよう」

 

「だから僕がお陀仏すること前提で話を進めないでよ!?」

 

 

 冗談だろうけど全然笑えないことを言うイタズラ好きの霧雨魔理沙さんと、エロがすべてのムッツリーニこと土屋康太に僕は全力で訴えた。まだまだ花盛りの高校生だというのに、そんな切ないことを言わないでほしいもんだ。僕だってこれから花を咲かしていく予定なのだから。

 

 

「ん?何してんのよさみんな?」

 

「ああ、チルノか。今から明久が八雲藍先生と命がけの勝負をしに行くんだ」

 

「らんせんせーと?ふ……よしーったら自分のバカさも図らずにらんせんせーに挑もうだなんて、いつまでたってもダメなやつね~」

 

「今はバカさは関係ないよね!?それを言うなら力量でしょ!」

 

 

 そもそも挑むどころか逃げる気でいっぱいだというのに、やっぱりこのチルノ・メディスンという女の子はFクラスが誇る大おバカだ。

 

「……でも、実際に何かやったの?」

 

「う~ん、でも藤原さん。僕は心当たりがありすぎて見当がつかないよ」

 

「……どんな過ごし方をしてるんだ。アンタは」

 

 

 そして僕の偉業に感心してくれたのは(※していません)、新参者にしてウサギにも引けを取らない人見知りの美少女、藤原妹紅(ふじわらの もこう)さん。今日は珍しく特徴の白髪を結んでポニーテールにしてるんだけど、ふわっとした美波とは違ってストレートなポニーだからまた別の魅力があるね。

 

 

「ふ~……まあ、行ってくるよ。八雲先生のところに」

 

『グッドラック』

 

 

 どっちにしても動かないことには始まらない。僕は思い切り上げたくない腰を上げて、八雲先生がいるであろう職員室へと向かった。う~ん、この勇気を称えてちょっとだけでも優しくなってくれると嬉しいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くっ……!ちゃんと来たのか……っ!」

 

「八雲先生がそう思い切り脅したんですよね!?」

 

 

 なのにそんな嫌そうな顔をするのはおかしいでしょ!どうして優しくなるどころか手厳しい反応をされなきゃいけないの!?ねえ!

 

 

「……仕方ない。そこに座れ」

 

「あ、あの。僕が来ない方が良いのなら、このまま帰らせてもらえるとありがたいんですけど」

 

「この部屋が棺おけでいいんだな?」

 

「(ガチャン)先生の気が済むまで付き合いましょう」

 

 

 僕の未来はどうやら完全に握られてしまったようだ。抵抗する力を持たない僕は、素直に八雲先生の正面のいすへと座った。

 

 

「え………え~と。それで、僕になにか用事でも…?」

 

 

 そして恐る恐る気になっていたことを尋ねる。こうなったら少しでも八雲先生に従順になって撤退しよう。じゃないと僕の命が保証されないもの。

 

 

「……………………」

 

「いや、無言のまま重苦しい顔をされても僕には事情が分かりません先生」

 

 

 でも、この様子だと僕が何かをやったことを怒るとかそんなんじゃないようだ。ひとまずそこは一安心だけど、話ってじゃあなんの話なんだろう?

 

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

 

 知りたいけど、返ってくるのはまたまた沈黙ばかり。う~ん、聞こえてないってことは無いと思うけど、もう一度―――

 

 

 

「………土曜日(ボソッ)」

 

「え?」

 

 

 ど…………土葬日(どそうび)?もしかして僕の葬り方を告げられたのっ!?

 

 

「先生…………僕はまだ、土の中へ眠りにつきたくないです……!!」

 

「……何を突然言い出すんだ?」

 

「い、いやだって今『土葬日』って……」

 

「土葬…………たわけ。土曜日だ土曜日」

 

「ど、土曜日?」

 

 

 な、な~んだ良かった~~!!思いつかなかったけど本当に辞世の句まで考えちゃったよもー!

 

 

「土曜日がどうかしたんですか?」

 

「……………………」

 

「いや、だからそこで口を閉じられても……」

 

 

 そんなに言いづらいことなんだろうか。安定した鼓動がまた騒がしくなるのを感じながら僕は八雲先生の言葉を待った。

 

 

 

 

「…………今週の土曜日。貴様は時間が空いてるのか」

 

「へ?」

 

 

 そんな言葉が、しばらく無言だった先生の口から飛び出してきた。

 

 

「ど、土曜日だったらまあ大丈夫ですけど……」

 

「………むぅ」

 

 

 返って来たのは、可愛らしいけどすごく不機嫌そうなうなり声。ゲーム三昧の至福の一日を捨ててまでOKと言ったんだから、少しは褒めてほしいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

「―――ならばウチへ来い」

 

「……………はえっ?」

 

 

 んんっ?聞き間違えたかな。今『ウチへ来い』って…………家(ウチ)?

 

 

「そ、それって八雲先生の家……ですか?」

 

「そこ以外にどこへ招くというのだ」

 

「………………」

 

 

 何を当たり前のことを、みたいな顔をする八雲先生。い、いやいやいや!僕にとっては天変地異が起きたことにも匹敵する異常事態ですよ!?お招き!?すっごい美人でお子さんもいる既婚者の八雲藍先生から直々のお招きだなんて、始めてやって来た春がまさかの禁断の恋!?僕ってやつぁなんて憎いんだ!

 

 

「い、いいんですか?僕なんか呼んじゃって……」

 

 

 とは言え何かの勘違いの可能性がある、というかその可能性の方が高い。確認のため八雲先生に念を押してみた。

 

 

「…………ふん。構わん」

 

「!」

 

 

 八雲先生の言質も取れたっ!こ、これはもう僕も腹を括って、八雲先生とのご自宅デートを満喫するしか―――!

 

 

 

「橙のためなら、私は泥にまみれて血の涙も流そう」

 

 

 

…………………………あれ?

 

 

「先生」

 

「なんだ」

 

「今、橙(チェン)ちゃんって言いましたか?」

 

「言ったが、貴様がその名前を呼ぶんじゃない」

 

「……すみません」

 

 

 聞き間違えではないようだ。橙ちゃんというのは八雲先生の一人娘さんの名前で、その溺愛っぷりは怖いものを感じるぐらい。3回身を持って味わっている僕がその恐ろしさを保証しよう。

 

 でも、ここで橙ちゃんの名前を出すということは……

 

 

 

「ひょっとして、チェ…娘さんが何か言ったんですか?」

 

「……………っ!!(ギリギリ)」

 

「わ、分かりました!僕の予想が当たってたのが分かりましたから血が出るほど唇をかんで僕を睨まないでください!」

 

 

この血の涙も流しそうな気迫を見たら、地獄の鬼もはだしで逃げ出すこと間違いなしだ。

 

・・・でも、やっぱり僕の早とちりかー。そりゃ橙ちゃんを狙ってるって勘違いしてる先生が自宅にあげるわけないよね。それこそ、大切に思っている橙ちゃんが何か言わない限り。

 

 

「その……せ、先生が良かったら、何があったのか聞いてもいいですか?」

 

「……………つい昨日(さくじつ)のことだ」

 

 

 

 

 

 

『おかーしゃまおかーしゃま。私もお手伝いしていーい?』

 

『あら~ありがとう橙!でも大丈夫よ。私が全部準備するから橙はゆっくり待っててね~』

 

『でもでも、おかーしゃまばかり頑張ってて橙は何もしてないもん。橙も頑張って、おかーしゃまのお手伝いをしたいの!』

 

『……っ!ほんっとうに良い子ね橙~~!じゃあ、一緒に野菜の皮を剥きましょうね~♪』

 

『は~い!』

 

 

 

『学校はどうだった橙?何か嫌なことがあったかしら?』

 

『ん~ん!皆と休み時間遊んだりしてとっても楽しかった!あっ、ちゃんと勉強も頑張ったんだよ!算数のテストが満点だったの!』

 

『そっかそっか、偉いわね~♪これはご褒美に、橙のお願いを一つ叶えてあげなきゃいけないとね!』

 

『え?ほ、本当っ!?』

 

『もちろんよ橙!私は橙にウソなど絶対につかないわ!』

 

『やった~!おかーしゃまありがと~!』

 

『いいのいいの!さっ、どうする橙?おこづかい?お洋服?欲しいものがあったら遠慮なく言ってちょうだい!』

 

『えっと、えっと~~………あっ!』

 

『!思いついたのね!おかあしゃまに言ってくれるかしら?』

 

『……で、でも良いのかなぁ……』

 

『大丈夫よ橙!何でも聞いてあげるから遠慮なく言ってちょうだい!』

 

『ほ、本当?おかーしゃま怒らない?』

 

『怒るわけないじゃないっ!だから安心して言ってちょうだい橙!私はいつまでも橙の味方よ!』

 

『じゃ…じゃあ………えっとね?』

 

『うんうんっ。何かしら?』

 

『…………この前会ったお兄さんと、遊びたいなぁ……』

 

『…………………………………………うんっ?』

 

『この前おかーしゃまの学校に遊びに行ったときに会った優しいお兄さんなんだけど、また遊ぼうって言ってから全然会わなくて……』

 

『……………』

 

『だ、だからおかーしゃまが良いのなら、あのお兄さんに遊ぼうって言ってくれたら嬉しいなーって……』

 

『……………』

 

『…あう、ご、ごめんなさいっ!やっぱり先生が生徒に勝手なことを頼んじゃダメだよね。ごめんなさいおか―』

 

『だ、だ、だっ、だ駄目なものかっ!私に任せなさい橙っ!』

 

『ええっ!ほ、ほんと!?』

 

『……ほ、ほ、本当だとも!チェ、橙に嘘など私はつかない!』

 

『わ~!!ありがとうおかーしゃま!大好きーっ!』

 

『そ、そーかそーか。はっはっはっはっは……!』

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「な、なるほど。それで僕をいやいや招こうと……」

 

「でなければ貴様のような、いたいけな少女をたぶらかす変態を橙に会わせるかぁあああっ!!(ドンッ!)」

 

「大粒の涙を流してますけどそろそろ泣きたいのは僕ですからねぇ!?(バシンッ!)」

 

 

 それぞれの悲しみで瞳を濡らしながら力いっぱい机を叩く僕たち。そんな趣味はないのに。僕が至って真面目な男子生徒ということをいつ分かってくれるのかな!?

 

 

「でも…『優しいお兄さん』ってなんだか照れるな~」

 

 

 そんなことを言われたのはここ最近じゃ初めてのことだ。厳格なお母さんとは違ってなんて優しい娘さんなのだろう。

 

 

「ふんっ!橙は人への気配りができる立派な子だからな!今生で最後の褒め言葉にせいぜい浮かれてるがいい!」

 

「生徒の未来を勝手に灰色で染めるなんて八雲先生はそれでも教師なの!?」

 

「教師である以上に橙の母だっ!貴様と橙のどちらが大事かなど吟味するまでもない!」

 

「それを言われたら何も言い返せないよ畜生!」

 

 

 それに対してこの刺々しい対応。確かに親子の愛情が大事なのはわかるけど、もう少し生徒のことも大切にしてほしいものだ。(※あなただけがこうであって、普段は常識溢れる八雲藍先生でございます)

 

 

「ま、まあともかく、そういうことだったら僕はぜんぜんオッケーですよ?」

 

 

 いろいろ言われたけれど、要するに橙ちゃんが遊ぼうって僕を誘ってくれてるらしい。純粋なお願いを断る理由もないから、僕は迷うことなく引き受けた。

 

 

「……っ!や、やはり駄目だっ!貴様を橙に会わせても百害しかない!」

 

「へっ?いやでも、先生から言い出したんですよ!?あとそんな存在が罪でしかないような言い方はやめてくださいっ!」

 

 

 でも八雲先生はどうしても嫌みたいで、最初とは真逆に自宅へ僕を上げることを拒みだした。絶対に生徒に言ったらまずい言葉まで使って、どれだけ危険人物と思われてるんだ僕は。

 

 

「えっと、じゃあ、行かない方が良いのなら僕行きませんけど……」

 

「それも駄目だっ!貴様は橙が悲しんでも良いというのか!?だったら実力行使に出るぞ!」

 

「行くも行かぬもふさがれて一体どうしろっていうのかなぁ!?」

 

 

 ちょっと怒ってしまった僕は絶対に悪くない。僕はまだまだ八雲先生という母親をナメていたようだ。

 

 

「……他にも連れてこい」

 

「は、はい?」

 

 

 そして、無謀にもメンチを切り合い、桁違いの剣幕にびびって詫びを入れようとしたところで、八雲先生が叫んだ。

 

 

「他にも誰か女子を連れてこい!でなければ絶対に貴様を敷居に上げず、それ相応の覚悟をしてもらうからなっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なるほど。それで私たちが呼ばれたと」

 

「うん。じゃないと僕は橙ちゃんに会えないままひどい目に会っちゃうからね」

 

「も~。あんたはそんなのばっかりねアキ」

 

 

 当日。僕は来てくれた女子2人……、美鈴さんと美波と一緒に八雲藍先生の家へと向かっていた。最初は来てくれるか不安だったけど、こうしてオーケーをしてくれたから2人には感謝をしなくちゃいけないや。

 

 

「しかし吉井君。どうして瑞希さんではなく私を誘ったのですか?誘ってあげたら大喜びだったでしょうに」

 

「そう言えばそうねアキ……………ま、まぁライバルがいないことは嬉しいんだけど……(ゴニョゴニョ)」

 

 

 ん?美波の後半の声が聞き取れなかったけど………ひとまず美鈴さんの質問に答えよう。

 

 

「ほら、2人ってレミリアちゃんとか葉月ちゃんみたいな妹がいるでしょ?だから年の近い女の子とも仲良くできるんじゃないかなーって」

 

「あ~、そういうことですか」

 

「ウチ。美鈴もいる時から分かってたでしょ。アキがそのつもりで誘ったんじゃないって最初から分かってたじゃない……!(ゴスッ ゴスッ)」

 

「あ、あれ?なんかダメだった美波?」

 

 

 なぜか近くの電信柱に拳をぶつけ始める美波。ケガをする前に、電信柱を倒壊させないかが心配だ。

 

 

「ふ~、なんでもないわ。それより藍先生の家はこの辺なのアキ?」

 

「うん。確かこのあたりだと思うんだけど……」

 

 

 書いてもらった地図だともう見えてもおかしくないはず。えっと、一体どこにあるんだろう?

 

 

「おっ。あれじゃないですか?」

 

「あ、見つけた美鈴さん?」

 

 

 美鈴さんの近くに寄ると、確かに目の前に【八雲】と書かれた表札がかけられていた。あまりない苗字だし、ここで間違いないよね?

 

 

「へ~。ウチ、こういう家は初めて見るわ」

 

「確かに、私もここまで和風な家は初めてですかねー?」

 

「うん、僕も久しぶりだよ」

 

 

 その家は、今どきにしては珍しく木造建ての一軒家。2階がない代わりに面積がかなり広くて、少し視界からはみ出るくらいだ。なんだか田舎のおばあちゃんの家を思い出すな~。

 

 

「あ、ピンポンはここにありますね」

 

「じゃあアキ、ピンポンお願いね」

 

「うん、りょうかい」

 

 

 正しくはピンポンじゃなくてインターホンとか呼び鈴らしいけど、招かれた人が押すのは当然。僕はすこしだけ息を整えて、八雲宅の来宅の合図を鳴らした。

 

 

 

ピンポーン

 

 

『(プツッ) はい』

 

「あ、こんにちは八雲先生。Fクラスの吉井です。約束どおり――」

 

 

 ブツンッ 

 

 

「―来ました……のに無言で切るのはあんまりだっ!」

 

 

 妹紅さんみたいなクールな反応はやめてほしい!あれって本当に心に来るからイヤなんだよ!

 

 

「あらら。吉井君、なんだか嫌われちゃってますね」

 

「うん。美人の人に嫌われるってこたえるよ……」

 

「残念ねアキ。………ウ、ウ、ウチで良かったら、胸を貸してあげるわよ?」

 

「う~ん。気持ちは嬉しいけど、美波の胸で泣くとちょっと固くて居心地が悪そうな気が……」

 

「かっ…!?ひ、人の必死な誘惑になんてこというのよバカーっ!(ゴキン!)」

 

「ヘッドバットォォ!?」

 

 

 胸だけじゃなくて頭もしっかり鋼鉄の硬度のようだ。直撃した鼻から血が止めどなく溢れて来てるのがその証拠。

 

 

「あっ、こらこら!人様の家の前で暴れちゃダメですよ!」

 

「うるさい美鈴っ!エロカップのアンタにBカップのウチの悲しみが分かるわけないわよ!」

 

「ちょ、エ、エ、エエロカップってなんですか!?私の胸はやらしくありませんっ!」

 

「よく言うわよっ!ウ、ウチもこれぐらいおっきな胸があったら、アキを悩殺できたのに~…!」

 

「あいたたたたっ!?ちょ、ちょっと美波さん!触るなとは言いませんからもう少し優しく!もぎ取るように握っても胸は外れませ~んっ!」

 

 

 おまけに刺激の多い言葉と光景も届いてきて、僕の意識はもう限界寸前だ。君たちは僕を出血多量死させたいのかな?

 

 

 

 ガチャガチャ ガララ

 

 

「「「あっ」」」

 

「む……」

 

 

 あと少し……というか天国のおじいちゃんみたいな人がぼんやり見えてきたところで、八雲家の引き戸が開かれ藍先生が顔を出した。

 

 

ん?あれ、なんだろう。なんだか思ってたよりも表情が穏やかなような……

 

 

 

「よく来てくれたな2人とも。休日のところ申し訳ない」

 

「先生、嫌いな僕を数に加えたくない気持ちもあるでしょうけど、ここにいるのは3人です」

 

 

理由が分かった僕はすぐさま存在を主張した。ちゃんといるよね?いつの間にか姿が消えちゃったとかそんなのになってないよね僕!

 

 

「あ、いえいえ。丁度時間も空いてたのでお気になさらず」

 

「ウチも楽しみにしてたから大丈夫です」

 

「ありがとう。さあ上がってくれ。あの子もきっと喜んでくれるよ」

 

「では、お邪魔しますね」

 

「お邪魔しまーす。わっ、やっぱりキレーね~」

 

 

でも、八雲先生の反応は変わらないまま。2人を敷居に入れた先生はガラガラと玄関の戸を閉め始めて………

 

 

「――ってちょっとちょっと!?全員を入れたみたいなことをするにはあと1人足りないですよ先生っ!(ガシッ)」

 

 

 人の家ということを無視して僕は全力で扉にしがみつく!こ、ここまで来て入れてもらえず帰るなんて出来るもんかぁ!

 

 

「ええい黙れっ!私はどうしても貴様を橙に会わせたくないのだっ!」

 

「もうこれは橙ちゃんがどうこうではなく普通にヒドイと気づいてください!」

 

 

 うう…!冗談抜きで締め出されるのは本気でつらい!そろそろ涙がこぼれ落ちそうだからねっ!?

 

 

「メ、メ、美鈴さんっ!お願いだから八雲先生を止めて!」

 

「い、いやしかし、八雲先生のお宅なので部外者が勝手なことをするのは……」

 

「うっ。じゃあ美波!男みたいにたくましい美波だったら簡単に八雲先生を止められるよね!?」

 

「ウチも美鈴と同じだし、あんたがウチのことをどう思ってるかよ~く分かったわ」

 

「しまったつい本音が!」

 

 

 どうやら2人に期待は出来ないようだ。こうなったら仕方ない、頼れるのは僕だけ!

 

 

「(ぎりぎりぎり)先生……!ここは一つ大人になって、僕を快く招いてあげてください…!」

 

「(ぐぐぐ)ぬかせ…っ!橙を狙う輩を快く招くぐらいなら、私は喜んで外道となってそいつを嫌ってやるさ…!!」

 

 

 なんとか閉めるのを防ごうとするけど、八雲先生も僕を入れまいとかなりの力を込めて引き戸に手をかけている。こ、こうなったら上等だ!そっちがその気なら本気を出すまでだよっ!

 

僕は負けじと、さっきまでよりも強く八雲家の引き戸を引っ張った!

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?お姉さんたちは誰ですか?」

 

 

 

「「ん?」」 (美鈴さんと美波の声)

「っ!!?(パッ)」 (慌てた顔をして手を離す八雲先生)

「わわっ!?」 (抵抗が無くなって慌てる僕)

 

 

 ピシャアアンッ!

 

 

「ニャアッ!?」

 

 

 そこにやってきた突然の乱入者により、軍配は僕に上がった。よ、良かった!見たところ壊れたとかはなさそうだ!こんな高そうな扉を弁償することになってたらまた水道水生活をしてたところだよっ!

 

 

「あっ、ごめんね。ケガはないですか?」

 

「は、はいっ!ちょっと音にビックリしちゃっただけですから大丈夫です!」

 

「そっかそっか。それは良かったですよ~」

 

「ハロハロ~。ウチは美波っていうの。あなたが橙ちゃんかしら?」

 

「はい!私の名前は八雲橙です!」

 

「やっぱり。へ~、八雲先生とは髪の色が違うのねー」

 

 

 そう言う美波の言う通り、現れた少女――八雲橙(やくも ちぇん)ちゃんの髪の毛は混じりっ気のない金髪の藍先生の違って穏やかな茶色。お父さんの遺伝かな?

 

 

「ああ。この子の父親は黒髪で、遺伝的にな。大丈夫橙?ケガはしてない?」

 

「うん。大丈夫だよおかーしゃま!」

 

「そっか。ふ~良かった……」

 

「ですよ~。こんな幼い子にケガをさせちゃマズいですからね」

 

「まったく、アキったらあんなに力を込めなくってもいいじゃない」

 

「全くだ。仮にも人様の家というのに……」

 

「吉井君。あんまり乱暴なことをしちゃダメですよ?」

 

「ぼ、僕のせいなのは確かだけど八雲先生にも原因はあるよね!?しっかりそっち側にいて僕を睨んでるけれども!!」

 

 

 いつの間にかすっかり僕が悪者じゃんか!僕はただ頑張っただけなのに!男のメンツをかけて八雲先生に挑んだチャレンジャーなのにっ!

 

 

「あっ!お久しぶりです優しいお兄さん!元気にしていましたか?(たたっ)」

 

「う、うん。ちょっと今は涙が出そうだけど、全然元気だったよ」

 

「それは良かったです!」

 

 

 そう言ってニコッと笑う橙ちゃん。この優しさが今はすごくありがたいなぁ…!

 

 

「橙ちゃんの方こそ元気だったのかな?」

 

「はいっ!優しいお兄さんに会えてすっごく嬉しいです!」

 

「そ、そう?本当?」

 

「はいっ!」

 

 

……ど、どうしよう。小学生と分かってるはずなのに不覚にもドキッとしちゃったぞ。これが親御さんにバレたら間違いなく命がないから全力で隠さないと。

 

 

「え、え~っと。とにかく、誘ってくれてありがとう橙ちゃん。今日はよろしくね」

 

「こっちこそです!今日はよろしくお願いしますっ!」

 

 

こうして、半ば強引だったけれどそれほど嫌じゃなくなったお遊び会は始まった……んだけど。

 

 

 

「2人とも。すまないがもしも橙に危険が及んだら、即座に私を呼んでくれ。すぐにヤツを始末しよう」

 

「い、いや~。そんなことをする吉井君じゃないと思いますけど……まあ、その時は私がクラスメイトとしてきっちりケジメをつけさせますのでご安心を。橙ちゃんにはやましいこと一つさせません」

 

「オッケー。ウチもアキが変なことしないかしっかり見張ってます。瑞希達ならともかく、さすがに小学生はまずいもの」

 

「それは頼もしいな。改めてよろしく頼むよ2人とも」

 

 

 

果たして僕は無事にいられるのか……どうしても欲しかったその保証は、一切ない。

 

 




 お読みいただきありがとうございました!

 さて、お読みになられたように今回は久々の橙ちゃんと、その母親の藍せんせーが加わっての回でございます!藍せんせーの親バカっぷりはさすがですな~!

 そして前書きでも書きましたが、今回は短編回。本家でいう『〇、5巻』のようなものですね!短いですが、読んでくださった皆さんが一度でも笑ってくれれば感謝でございます!


 それではまた次回!今回のように長く間を開けないように頑張りますっ!


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入宅―遊び事、に真剣になってもいいじゃない!

 どうも、村雪でございます!長らく間を空けてしまい申し訳ありませんでしたぁ!

 知っている方も知らない方もいるでしょうが、実はもう一つ作品を投稿させてもらまいまして、そちらに時間を割いたり現実の多忙もあってこっちを放置していた次第でございます!

 それでは、およそ五ヵ月ぶりの投稿で皆様が楽しめるかどうか不安でございますが!



――ごゆっくりお読みください。


「じゃあこっちが私の部屋ですので、ついてきてくださいお兄さん達!」

 

「は~い。おお、本当に純和風な家ですね!」

 

「お邪魔しま~す。わ~。なんだか昔の日本の家に入った気分ねー」

 

 

 橙ちゃんが僕たちの前に現れてから数分。ようやく家に入ることを許された僕たち(というか許されてなかったのは僕〝だけ〟だけど)は、弾み足の橙ちゃんのあとをついていく。外見と同じく中もふんだんに香り豊かな木材が使われており、美鈴さんや美波が興味深そうにあちこちを見ている。

 

 

 だけど僕にはそれ以上に気になることが。

 

 

「……………(ジロジロ)」

 

「あ、あの先生……そんな間近から睨まれるとすごく居心地が悪いんですけど」

 

「うるさい黙れ」

 

 

 そう言ってバッサリ切り捨てる橙ちゃんの母、八雲藍先生がものすごく厳しく僕を睨んでいることだ。橙ちゃんに手を出させまいと観察してるんだろうけど、そのおかげで僕だけ深い緊張感に包まれている。ただ遊びに来ただけなのになぁ…

 

 

 

「美鈴。これって確か〝じょうじ〟って言うんだっけ?」

 

「正しくは障子(しょうじ)ですね。ちなみにあんまりその言葉は外で言ったらだめですよ美波さん」

 

「え?どうして?」

 

「ん~。なんと言いますか、あまり公の場で言うような言葉ではないものも含まれるというか…」

 

「??どういう意味があるのよ、その〝じょうじ〟って」

 

「で、ですからあんまり大きい声では…!」

 

 

 

「先生。美波が美鈴さんにセクハラしてるのを止めなくていいんですか」

 

「……彼女は帰国子女だと聞いている。純粋に気になっているだけで他意はないはずだ」

 

 

 ある意味美波の方が僕より危ない気がするんだけどな。ほら、さっそく橙ちゃんが美波達をチラチラ見て知りたそうな顔をしてるよ?

 

 

「あ、つきました!ここが私の部屋ですっ!(カラリッ)」

 

 

 それを口にする前に到着したみたいで、橙ちゃんが立ち止まって目の前のふすまを開いた。

 

 

「おお。シンプルできれいな部屋ですね橙ちゃん」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

 

 美鈴さんの感想通り、部屋の中は思っていたよりも家具が少なく、勉強机。タンス。小型テーブルと座布団しかなくて、小学生の女の子のというより大人の部屋みたいだった。ひょっとしたら散らかった僕の部屋よりキレイかもしれないぞ。

 

 

「ホント。ウチにも妹がいるんだけどあの子の部屋よりキレイだわ。えらいわね~」

 

「ニャ~。そ、そうですかね?」

 

「うん、そうだよ橙ちゃん。きっといいお嫁さんにな(ガバァッ!)べぶっ!?」

 

 

 

 な、なになに!?どうして言葉の途中で僕は口を抑えられたのっ!?

 

 

「ア、 アホですか吉井君…!君は自らボコボコにされたいんですか!?(ボソボソ)」

 

「え?え?どういうこと!?(ボソボソ)」

 

 

 犯人はどうやら美鈴さんのようだ。僕に負けないぐらい慌ててるけど、いったい………?

 

 

 

 

「落ち着いて藍先生っ!アキは橙ちゃんをほめようとしただけだから!別に2人がそうってわけじゃないわ!」

 

「嫁……っ!誰の許可を得て可愛い娘を嫁と呼んでいるんだ……っ!」

 

 

 

「…………(ウルウルウル)」

 

「先生への恐怖か何かは知りませんけど、そんな風に涙を決壊させることがないよう気をつけていきましょう」

 

 

 そういって美鈴さんは手を離す。ちなみに涙の成分は肩を抑えられる藍先生への恐怖が五割、美鈴さんと美波への感謝が五割だ。

 

 

「??どうかしましたか皆さん?」

 

「!ああいや、ちょっとね。で、ではまず飲み物を持ってこよう。ここに来るまで暑かっただろう」

 

「あっ。お手伝いしますよ先生」

 

 

 橙ちゃんの言葉で正気に戻った先生が部屋を出ていこうとして、美鈴さんが手伝いを名乗り出た。だけど八雲先生はやんわりと断る。

 

 

「なに。それぐらいなんてことはないからその男を見張っていてくれ。何をしでかすか分からんからな」

 

「それもそうですね。分かりました」

 

「だから僕は何もしないよ2人とも!」

 

 

 さっきのは違うんだ!ただこんな小さい子が高校生の僕より立派だから、こんなお嫁さんがいたらいいなーって思っただけなんだって!

 

 

「も~。あんたどんだけ藍先生に信用されてないのよ」

 

「う~ん。八雲先生は少し人を見る目がないなぁ。健全な青少年の歩く見本である僕を疑うだなんて」

 

「吉井君の自分を評価する目も相当ポンコツな気もしますが……よいしょ」

 

 

 八雲先生がいなくなって気が緩んだ僕たちは腰を下ろす。美鈴さんの対面には美波が、僕の正面は橙ちゃんだ。

 

 

「それじゃあ改めまして、今日は私の家に来てくださってありがとうございます!無理を言ってしまってすみませんでした!」

 

「いやいや、全然気にしないでよ橙ちゃん。僕も橙ちゃんと遊べて良かったもの」

 

 

 もしも出会えてなかったら藍先生との約束を破ったことになって怖い未来が待っていただろうし。でも、それ抜きでもこんなに嬉しそうにしてもらえたら来たかいがあったというものだ。

 

 

「そうですよー橙ちゃん。それに、せっかくこのお兄さんと2人で遊べたのにお邪魔しちゃって私たちこそ謝らないといけません」

 

「そんな!お姉さんたち二人も来てくれて嬉しいですよ!・・・・ほ、ほんのちょっぴり残念な気持ちもありますけど(ボソボソ)」

 

「うふふ。正直で偉いですね~」

 

「にゃっ!?ごご、ごごめんなさいごめんなさぁい!」

 

「いーのいーの。その気持ちはウチもよく分かるからね~。・・・にしてもこんな小さい子までなんて、もうアウトじゃないかしら美鈴?」

 

「まぁ本人じゃなく好意を向けられてるって形ですから、ここはセーフと見て問題ないでしょう。八雲先生だったら一発アウトでしょうが・・・」

 

「そう。は~・・・良い子なのはわかるんだけど、小学生に負けたらウチ、女の子の自信が無くなるわ」

 

「大丈夫!美波さんには美波さんだけの魅力がありますから!」

 

「よ、よくわかりませんけど、大丈夫です美波のお姉さん!美波のお姉さんも美鈴のお姉さんも羨ましいぐらいキレイですよ!」

 

「なんだか、励ましが逆にウチの心にチクチク来るわね・・・」

 

 

 

・・・いちおう、今日の主役は僕だよね?よく分からない話を繰り広げて僕が入り込めない空気にするのはよくないと思うよ3人とも?

 

 

「さ、3人とも。何の話をしてるか僕にも分かるようにしてほしいかなぁ」

 

「にゃう!?え、ええっと・・・」

 

「ダメよアキ。もしも入ってきたら全力で締め出すわ」

 

「すみません吉井君。これはあなたに分かられたらダメですからね~」

 

「そ、そう?ごめんね3人とも」

 

 

 

 大事なことをもう一回聞こう・・・・・・今日の主役は僕だよね?一応だけど僕だよね!?

 

 

 

 スゥ

 

 

「失礼するよ」

 

「あ。せ、先生」

 

 

 蚊帳の外になって悲しくなりそうになっていたら、ふすまを開いて藍先生が現れた。自然と僕たちは先生の方に向く。

 

 

「は~い橙!橙が好きな牛乳よ~♡」

 

「わー!ありがとうおかーしゃま!」

 

 

 八雲先生の手には盆が握られていて、橙ちゃんに渡したカップ以外に3つ乗っかっている。さすがにちゃんと僕たちのも用意してくれたみたいだ。

 

 

「それで、こっちは緑茶になっている。舌にあってくれるといいのだが」

 

「おぉ、ありがとうございます先生」

 

「わ~いい香り!ありがとう藍先生!」

 

 

 

 確かに湯飲みから抹茶の濃厚な匂いが漂ってくる。ぜひ味わってみたいところだけど・・・・僕の前に湯飲みはない。

 

 

 

 

「(ドンッ!)ほら、水だ。しっかり味わって飲むように」

 

「先生!ただの水に味付けは一切されていません!」

 

 

 代わりに提供されたのはプラスチックのコップに並々と注がれたお水。出てくるだけマシと思うけど、やはりモノ申さずにいられるかっ!

 

 

「そんなことはない。水道水とあ〇みのの天然水ではやはり成分が違う。しっかり確認すれば差を感じられるはずだ」

 

「僕はミネラルと水道水の違いが分かるような舌を持ってないから!正直僕は水道水しか飲みませんよ!」

 

 

 お金がないときの唯一の味方だけれど今は違う。その天然水代をジュースか何か別の飲み物に回してほしかった!

 

 

「ふん。ならば次からはそちら(水道水)にしてやる。喉が渇いたならばまた呼べ」

 

「そんな!せめてあ〇のの水のままにして先生ーっ!」

 

 

 僕の訴えは聞こえたのか果たしてわからず、先生はさっさと部屋を出て行った。

 

・・・いいもん。僕だけ何も出されないとかそんな可能性があったことを考えれば水でも十分な栄養だよバーカ!

 

 

「ご、ごめんなさいお兄さん。なんだかおかーしゃまお兄さんのことをよく思ってないみたいで・・・」

 

「だ、大丈夫大丈夫!このぐらい普段クラスで起こることに比べたらどうってことないよ!」

 

 

 例えばチルノにバカ呼ばわりされたり雄二に殴られたり、魔理沙にからかわれたりムッツリーニに文房具を投げつけられたり・・・・・・改めて振り返ると荒れた日常を送ってるなぼくは。

 

 

「・・・!ありがとうございますっ!やっぱりおにーさんは優しいですね!」

 

 

 ぼくを見上げながらそんなことを言ってくれる橙ちゃん。間違いなく今あげたバカたちよりずっと優しさにあふれた小学生だ。

 

 

 

「吉井君・・・・仲良くすることを責めるつもりはないのですが、あまり行き過ぎると先生との約束上動かざるをえなくないのですけど・・・」

 

「アキ・・・小学生はアウトよ?ウチ本気で引くわよ?」

 

 

 そしてこの2人もバカ仲間にもれず冷たい。な、なんかものすごい誤解をされそうだから別の話題を・・・!

 

 

「チェ、橙ちゃんは牛乳が好きなの?先生のことだからものすごい高級なお茶を出すかと思ったけど」

 

「あ、はい!お茶よりも牛乳の方が飲みやすくて!良かったら飲みますか?」

 

「うん。命が惜しいから気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとう」

 

 

 間接キスをしたらいよいよデッドラインは免れない。無自覚なんだろうけど橙ちゃんは実に大胆だ。

 

 

 

「ふ~(コトン)。ところで、2人はいつからお知り合いで?私ずっと気になっていたのですが」

 

 

 それぞれ出された飲み物を飲んでいると(やっぱり水の違いは分からなかった・・・実は天然水じゃなくて水道水だったりしないよね?)、美鈴さんが僕たちを見ながらそんなことを聞いてきた。そういえばあのときいたのは僕と橙ちゃんと藍先生だけだったっけ。

 

 

「あ、そういえばそうよね美鈴。アキに誘われるまで2人が友達だったなんて全然知らなかったわ」

 

「えーっと、この前の学園祭の時に知り合ったんだよ、ね?」

 

「はいっ。私がおかーしゃまを探してたときにおにいさんとぶつかっちゃって!」

 

「まぁ、だめじゃないですか吉井君。廊下は走っちゃいけないんですよ?」

 

「迷うことなく僕が走ってたことにされたけど、あの時僕はのんびり歩いてたから!これは冤罪だっ!」

 

「そ、そうですよお姉さん!私が走ってたからおにいさんは何も悪くありません!」

 

 

 すかさず橙ちゃんが援護に回ってくれ、美鈴さんもすぐに間違いだと分かってくれた。

 

 

「あれ?それは失礼しました」

 

「でも、どっちかって言うとアキの方が橙ちゃんより悪いことをしそうなのよねぇ」

 

「うっ、悔しいけどそこは否定できない・・・」

 

 

 今度からもっと普段の過ごし方を変えないといけないなぁ。まさか小学生から反省を促されることになるとは・・・

 

 

「それで、おにいさんがおかーしゃまを探すのを手伝ってくれようとしたんです!」

 

「へ~、優しいじゃないアキ」

 

「そのことは良かったんだけれど、まさか藍先生の娘さんだとは思わなかったよ」

 

 

 声をかけた子供のお母さんが美人っていうのは男の夢だけれど、そのあとの悲劇が今なおたまに悪夢に出てくるから困ったものだ。

 

 

「その時に約束したんです。また一緒に遊びましょうって!だからおかーしゃまがおにいさんを呼んでくれた時は、本当に嬉しかったです!」

 

「なるほど納得できましたよ。やはり吉井君は吉井君ですね~」

 

「美鈴さん。それは褒めてるの?それともバカにしちゃってるのかな?」

 

 

 ケラケラ笑う彼女の顔からはどっちなのか判断がつかない。でも美鈴さんを信じよう、だって美鈴さんだもの!

 

 

「それじゃあ、皆さんがよかったら遊びませんか!?私すっごく楽しみにしてたんです!」

 

「おっ、それもそうですね!早速遊びましょう!」

 

「そうだね。今日はそのためにここへ来たんだもんね!」

 

 

 当然橙ちゃんの提案に僕らは反対せず喜んで聞き入れた。さてさて、いったい何して遊ぶのかな。小学生だからかくれんぼみたいな身体を動かす遊びか、あるいはテレビゲームみたいな今の子供らしい遊びかな?

 

 

 

「橙ちゃん、何してウチらが遊ぶか決めてるの?」

 

「はいっ!『世界の偉人さん言い当てクイズ』なんてどうでしょう!」

 

「僕の完敗だよ橙ちゃん・・・!」

 

「ええっ!?ま、まだクイズを出してませんしこの遊びに決定したわけでもないですよおにいさん!?」

 

 

 もうおうち帰りたい・・・頭を使う遊びだなんてずるいよ勝てるわけないじゃないかぁ!

 

 

「こら吉井君。せっかくの提案をむげにしちゃ大人げないですよ!」

 

「それは違うね美鈴さん!僕より賢い橙ちゃんが残酷なゲームを提案したんだから橙ちゃんの方が大人げないよ!」

 

「ええええ!?ご、ごめんなさいお兄さんっ!」

 

「あんた小学生相手になに言ってるかわかってんのアキ!?」

 

「小学生相手に頭脳で負けを認めるて・・・高校生もなにもねー断言ですね」

 

 

 2人がすごい目で見てくるけど、僕の圧倒的不満は変わらない!何か別のゲームを所望する!

 

 

「う~ん、橙ちゃん。このおバカさんがダメとおっしゃってますので、何か他の遊びはどうでしょう?」

 

「は、はい。じゃあ『英単語意味当てゲーム』とか――」

 

「申し訳ありません。間違いなく彼が1問目でギブアップするので勘弁してあげてください」

 

「失礼な!僕だって英語くらいなら少しは出来るよ!」

 

「・・・〝Lion〟?」

 

「ライオン!」

 

「〝Koala〟?」

 

「コアラ!」

 

「〝Korea〟?」

 

「ゴリラだよ!」

 

「うん、絶対そう言うと思いました」

 

「音はあってるけど全然違うじゃない・・・」

 

「た、たしか〝韓国〟でしたね!」

 

「うそ!?」

 

 

バ、バカな!動物の流れだったから動物が来ると思うじゃないか!卑怯だよ美鈴さん!

 

 

「橙ちゃん。ここはひとつお勉強抜きで出来る遊びはどうでしょう?」

 

「え、え~~と、それでしたら・・・(ごそごそ)」

 

 

 そう言って橙ちゃんがクローゼットに近づき中を探り始めた。・・・・・・おや?あれってもしかして・・・

 

 

「よいしょ。前におかーしゃまに買ってもらったんですけど、このボードゲームはどうでしょう!」

 

「あ~、〇生ゲームかー」

 

 

 懐かしいな~。小学生の時なんかよく遊んだけど、テレビゲームを買ってからはしてないや。

 

 

「いいですね!あ、ちなみに美波さんはご存知でしたか?」

 

「うん、知ってるわよ。前に葉月とその友達と一緒にやったことがあるわ」

 

「そうでしたか。では吉井君、このゲームのやり方はですねー・・・」

 

「知ってるよ!?帰国子女の美波が知ってるんだから生粋の日本人の僕だって知ってるからね!?問答無用で知らない扱いしないで美鈴さんっ!」

 

 

 出身地的に考えれば僕が一番触れ合う機会が多いってことを忘れないでほしい。まったく、いったい僕はどこから来たと思われてるのやら。

 

 

「じゃ、じゃあ大丈夫ですねっ!さっそく準備します!」

 

「手伝いますよ橙ちゃん。いやはや久しぶりだから燃えますね~!」

 

「僕も手伝うよ!よし、やるからには大金持ちになってみせるぞ~!」

 

「あはは。アキがお金持ちって想像できないわねー」

 

 

 言ったな美波!?その言葉、これから始まる僕のサクセスストーリーを見ても同じことを言えるか楽しみにしてるよ!後悔したって遅いからね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ええ、と・・・吉井君。借金の返済ということで$300を・・・」

 

「・・・これ以上逆さになっても鼻血さえ出ません」

 

「アキ・・・始める前の言葉覚えてる・・・?」

 

「やめて美波、これ以上僕を辱めないで・・・!」

 

「だ、だ、大丈夫ですお兄さん!次はきっといいことが起きますよ!」

 

「何回目かになると慰めの言葉も痛くなるものだよ橙ちゃん・・・!」

 

 

 思い切り後悔したのは僕だった。ゲームなんだからもっと夢があってもいいのに・・・どうしてこうも、借金だとか倒産だとか残酷な展開を考えるんだこのゲームは!作成した人はどんなつもりでこんなひどいゲームを作ったんだぁ!

 

 

 

「(カラカラ)えーと、いちにぃ・・・おっ!女の子が生れましたね~!」

 

 

 それでもめげずに続けていると(他の3人は結構いいマスばかり踏んでてウハウハになってる。なんだろうこのもの凄い敗北感は・・・)、美鈴さんが子供誕生のイベントを起こして女の子を示すピンク色の棒を車に差し込んだ。

 

 う~ん、ゲームとはいえ友達のそういう話を聞くのは変な気分だなー。

 

 

「美鈴に子供ねー。強くてたくましい女の子になると思うわ」

 

「い、いいことじゃありませんか!というか私はそんな男気溢れたイキのいい女じゃありません!何を根拠にそんなことを言うのです美波さんっ!」

 

「根拠も何も、今までのアンタの行動がぜーんぶ根拠だわ」

 

「うおぉおーん!私の乙女心がひどく傷つきました~!」

 

 

 そう言って目に腕を当て泣く姿が誰が見ても男泣き。ちなみに僕も美鈴さんの子供は絶対パワフルになると思う。やったね美鈴さん、親子そっくりじゃない!

 

 

「メ、美鈴のお姉さん泣かないでください!お姉さんが優しい人だって私は知ってますから!」

 

「橙ちゃ~ん!!(ガバッ!)」

 

「ひゃあ!?」

 

 

 感激したのか、フォローしてあげた橙ちゃんを美鈴さんが猛烈に抱きしめた。おお、橙ちゃんの顔が埋もれる埋もれる。ここにきてやっと目に幸運が訪れたみたいだ。

 

 

「橙ちゃんはいい子ですね~!将来もしも娘が出来たとしたらこんな優しい子が欲しいものです!」

 

「いや、橙ちゃんみたいな子は絶対ないと思うわよ美鈴」

 

「うん。美鈴さんの遺伝がそれを許さないんじゃないかなー」

 

 

 優しいところは似てるけれど美鈴さんとは真逆で大人しい女の子だもの。まあ、それを言ったら橙ちゃんのお母さんもだいぶ似ては・・・・・・あ。

 

 

 

 

「誰が、誰の娘を欲しいって?(コトリ)」

 

「・・・ほゎっ」

 

 

 いつの間にかお菓子を持ってきていた藍先生が、穏やかに盆を置いて美鈴さんとその胸に埋もれている橙ちゃんを見比べる。ふう、今回僕は無事で済むみたいで良かった良かった。

 

 

「いったい誰の許可を得て私から親権をはく奪し、終いには橙を抱き締めているのかな?紅」

 

「・・・えーとですね。前半は聞き間違いで、後半につきましては女の子同士ですからセーフではないか、と・・・」

 

「あいにく、私は男女平等を心掛けているのでな・・・橙~、少しそちらのお姉さんと話があるから退いてくれるかしら~?」

 

「ぷはっ!は、はいお母しゃま!」

 

「あっ!チェ、橙ちゃん行かないで!?あなたがいないと私―!?」

 

「(グワシッ)さて、では菓子は置いたのでお盆は引かせてもらおう。丁度いい道具が出来た」

 

「お、殴打ですかっ!?そんな硬そうなお盆で人を殴ったりしたらダメで――!」

 

 

 ピシャン!

 

 

「・・・行っちゃったわね」

 

「お盆で殴ったらだめって言うけど、前に不良を泣きわめくまでボコボコにしてそこからガラスの灰皿をぶちかまそうとしてたのは美鈴さんなんだけどね」

 

 

 これが国語で習った因果応報ってやつか。また一つ勉強になったよ美鈴さん。

 

 

「あ、あれ?なんだか障子の奥からガンガンって音とお姉さんの悲鳴が聞こえるような・・・」

 

「幻聴だよ橙ちゃん。さて、次は僕の番だね(カラカラ)」

 

 

 世の中に知らない方がいいこともいっぱいある。橙ちゃんの注意をそらせるため僕はゲームに戻ってルーレットを回した。

 

 

「・・・あ。僕も女の子が出来た」

 

「けふっ!?」

 

「?急にむせてどうしたの美波」

 

 

 コマを動かしてそこにある文字を読むと、突然無い胸を押さえて美波が震えだした。僕と美鈴さんのピンクの棒を見比べてるけど、違いなんてないよね?全く一緒なはずだよ?

 

 

「な・・・なんでもないわ。ゲームとは言えつい、ね」

 

「ん?そう?」

 

 

・・・ああ、ひょっとして格闘ゲームをやってるときキャラクターに感情移入しちゃうアレかな?だったら僕もよくダメージを受けると痛いって叫んじゃうからわかるなー。

 

 

「ウ、ウチも女の子を・・・(カラカラ)!!美鈴に負けたく、ああああっ!美鈴に

取られちゃった~~っ!!」

 

 

 でもここまで感情が籠ることはめったにない。べ、別に悪いマスに止まったわけじゃないのに、そんなに子供が欲しかったのか・・・女の子ってやっぱり子供が好きなんだなー。

 

 

「え、ええと。大丈夫ですか美波のお姉さん?」

 

「・・・大丈夫・・・ウチはあなたを信用してるわ。ウチが不安になってるようなことにはならないって信じてるわよ橙ちゃん・・・!」

 

「は、はひっ!じゃあ私の番でしゅ・・・!」

 

 

 美波の暗い目に怯えながら、次の番の橙ちゃんがルーレットを回した。

 

 

・・・あ、そこから4って。

 

 

「あ・・・わ、私も女の子が―」

 

「いやああああああっ!小学生にもウチ負けたぁあああっ!!」

 

「にゃううっ!?」

 

「落ち着いて美波!小学生相手に大人げないよ!」

 

 

 すっかり美波はご乱心。こんなにゲームで熱くなるとはこれから良いゲーム友達になれそうだ!

 

 

「アキィイ!ウチがダメでなんで小学生はいいのよ~~!」

 

「よ、よくわかんないけどきっとサイコロの数字がよくなかったんだろうね!また次があるから落ち着いて!」

 

「次ってねぇ!あんたはウチに愛人か浮気相手にでもなれっての!?この女の敵いいっ!」

 

「さらにワケが分かんないけど美波が何かを誤解してるのだけは分かった!僕が言ってるのはゲームだから!そんなことこれっぽっちも考えてないからこれ以上小学生によろしくない言葉を叫ぶのはやめようか美波!」

 

 

 橙ちゃんも状況が読めずおろおろしてるから!・・・っていうか美波が言ったのって全部既婚者に関係することじゃん!そもそもの1人目が僕にはいないってのに嫌味なのかなこらこら!?

 

 

「だいたいよく考えれば美波の方が女の敵じゃないか!ほとんどない胸とさっぱりした性格と美鈴さんに負けない腕っぷしですごい女の子から受けがいいし!僕よりもよっぽどモテてるよ!」

 

「う、う、うっさいわね!あとどさくさに紛れて胸がないって言ったでしょ!?ウチだってさすがにこの子よりは胸があるわよ!」

 

「い~や、それは分からないよ美波!お母さんがあの胸だったら橙ちゃんも未来は・・・ひょっとしたら今でも美波に勝ってるかも・・・!」

 

「んな・・・っ!?」

 

 

 美波がグラリとふらついた。高校生の美波にももちろん可能性はあるんだろうけど、小学生である橙ちゃんにはそれ以上の成長が考えられる。人一倍胸のことに関心を持ってる美波だからこそ、その理論を簡単には否定できまい・・・って、あれ?どうしてこんな話になったんだっけ。なんか思い切り脱線しちゃってるような気がするぞ。

 

 

「・・・いーわよ」

 

「え?」

 

 

 だから元の話題に戻そう、そう思ったところでわなわな震えていた美波が口を開いた。

 

 

 

 

「そこまで言うんなら確認してやるわよ!(ずんずん)」

 

「はい?」

 

 

 突然何を言い出すんだろう美波は。橙ちゃんに近づいて何を・・・

 

 

 

「橙ちゃん」

 

「ふぇ!?は、は、はい!?」

 

 

 

 

「胸見せてちょうだい」

 

 

 

「・・・・・・むにゃああ!?」

 

 

 本当に何言ってるんだこのぺったんこは!?

 

 

「ちょ!?なな何言ってるのさ美波!それは完全に逃れようがないアウトだって!」

 

「アキが悪いんでしょうが!ウチにだって高校生としてのプライドがあんのよ!小学生に後れを取ってたまるものですか!」

 

「年の差が大きくあるのに同じ土俵で勝負する時点でプライドも何もないって美波!」

 

「うるさい!あんたは向こう向いてなさい!(ゴキッ!)」

 

「むーりぃっ!?」

 

 

 く、首が・・・!危うく壊れた人形みたいにすっ取れるところだった・・・!

 

 

「さぁ橙ちゃん・・・!大丈夫、痛いことはしないわ。ちょっとだけ胸を確認させてもらうだけだから・・・!」

 

「ひ、ひぃいいい~!?」

 

 

 おびえる橙ちゃんに美波はにじり寄ってるみたいだけど、ふすまを向いてダウンした僕にその光景は見えない。

 

 まずい、このままじゃ橙ちゃんは成長を確認され、美波が年下の女の子の服を脱がせた変態っていう人としてマズイ称号を・・・!くそぉ!!せめて、せめてこの首が動いてくれれば2人を視界に入れることが出来るのにぃ!(※そこは最後まで欲望に駈られないで欲しかったです…)

 

 

 

ガラリッ

 

 

「いいか。次からはあんなことをしないよう注意するよ、う・・・・・・に」

 

「あいたたたた。分かりましたけど、あれはあくまでスキンシップ・・・・・・でぇ?」

 

 

 そこへ裁いていた1人と裁かれていた1人が戻ってきた。おぉ、ここまで2人が硬直するなんて、僕の後ろの光景はそれだけ衝撃的なんだろうか。

 

 

「おっ、おおおおおおおのれ橙に何をする気だ島田ぁ!」

 

「いやいやいやいやいやいやっ!?なっ、何やってんのよ美波ぃ!?」

 

「へ?・・・あ、ち、違う違うのよ2人とも!これは違うのっ!ウ、ウチはただこの子の胸(のサイズに勝ってるかどうか)が見たかっただけで、美春みたいな変な気はないの!」

 

 

「「変態と断じて余りあるわぁあああああ!」」

 

 

「いたっ!いたたたたたたたたたたあぁああああ~~!?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・僕より2人の方がよっぽど危険じゃないかな。これ」

 

 

 思わず僕はつぶやいた。どうやら人選を間違えちゃったみたいだよ姫路さん、秀吉。

 

 

 あと後ろの諸君。僕は今動けないんだからそんな物が飛び交うようなドッタンバッタンしちゃダゴフッ。

 

 

 

 

 

 

 

『へぇ。じゃあ今ごろ美鈴と島田さんと吉井君は八雲藍先生の家に行ってるの?』

 

『ええ。今朝美鈴が出かける前にそう言ってたわ』

 

『私は学校で美波ちゃんに教えられました。や、やっぱりちょっと悔しいですねっ』

 

『あら。気になるなら遠慮なく行ってもいいのよ?ここから瑞希の恋路が上手くいくことを応援するわ』

 

『そ、そんなっ!行きたくないって言ったらウソになりますけど、アリスさん達と遊ぶのも楽しみにしてたからゼッタイ行きません!』

 

『ふふふ、冗談よ。ごめんなさいね瑞希』

 

『う~。アリスさん、今日は少しイジワルですっ』

 

『それだけこの時間を楽しみにしてたってことよ。それにしても、吉井君は色々と巻き込まれるわね。良いことなのか悪いことなのか・・・』

 

『ふんっ。あんな男は疫病神にでも取りつかれてヒーヒー言ってしまえばいいのよ。そうすればきっと私の心はすごく晴れるわ』

 

『さ、咲夜さん。明久君の不幸を目の前で願われると複雑なのですが・・・』

 

『やめてあげなさい咲夜。あまり人を傷つけるようなことを言ってはダメよ』

 

『その言葉をあの変態に言ってやってほしいものね、まったく』

 

『・・・・なぁ』

 

『ん?どうかした藤原さん?』

 

『・・・・私、帰っていい?』

 

『ええっ!?ど、どうしてですか妹紅ちゃん!せっかく四人で遊んでるのに!』

 

『そうよ妹紅さん。終わりどころかまだ集まったばかりじゃない。なのにそれはいけないわ』

 

『・・・・そもそも私はいいって言っただろ。それをあんたがほぼ強引に連れ出して・・・』

 

『あれは妹紅さんが家でのんびりしてたからよ。たまには外に出てリフレッシュすることも大事だわ』

 

『・・・・休日にのんびりするのがいつから悪くなったんだよ。あとニートみたいな言い方すんな。外に出るときは出てる』

 

『でも藤原さん。私はあなたが来てくれて本当に嬉しいわ。あなたと遊ぶのは初めてだもの』

 

『・・・・あ、あっそう』

 

『私もです妹紅ちゃん!今日はいっぱい遊びましょうね!』

 

『瑞希の言う通り。せっかくなんだから楽しまないと損よ』

 

『・・・・・・甘ったるい恋話とお前(咲夜)の胸の話でどう楽しめってんだ』

 

『こここ、こいぃっ!?』

 

『むむむ、胸のことなんか気にしてないわよバカッ!』

 

『・・・・そんなに動揺せんでも。今更のことだろうに』

 

『あ、あぅぅぅ・・・』

 

『い、今さら・・・!確かに今さらだけども・・・っ!』

 

『藤原さんは思ったよりもスッパリ言う子なのね。なんだか霊夢に似ているわ』

 

『・・・・誰それ』

 

『私とクラスメイトの女の子よ。ちょっと・・・まぁ、多少ものぐさな子なんだけど本当は優しい子なの』

 

『・・・・わ、私優しくなんてないし』

 

『その言葉もそっくりだわ。きっと気が合うわよあなたたち』

 

『・・・・・・あっそう』

 

『さて、それじゃあ行きましょうか。3人はどこへ行きたいのか聞いてもいい?』

 

『わ、私は甘いものが食べたいですっ!』

 

『私は服よ・・・!きっと、きっと胸のサイズが・・・!』

 

『・・・・好きにして』

 

『なるほど。それじゃあまずは服屋に行きましょうか。甘味は最後にするとしましょう』

 

『わ、分かりました!』

 

『大丈夫・・・!きちんと牛乳も飲んだんだから・・・!』

 

『・・・・・・なぁ、聞いていい?』

 

『?何かしら藤原さん?』

 

『・・・・・あんたよく、若年寄って言われる?』

 

『どこで何を思われてその言葉がっ!?』

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました!やっぱり主観で書くほうがイキイキして書けますね~!

 さて、今回は前回に続きまして八雲家における物語となりました!橙ちゃんのためなら鬼をも吹き飛ばす!そんな藍先生ですから不埒者には男女問わずで運転すると踏まえての展開をしてみましたが、いかがでしたでしょうか?


 そして改めて、投稿が遅くなって申し訳ありません!時間が空いてしまったために読者様の数が減ったでしょうが、また続けて書いていきたいので暇があった時にでも読んで明るい気分になっていただければ!


 それではまた次回っ!さすがに今回ほどは空かない・・はず!


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運試し―命令、するもされるも平和はありません・・・っ!

 どうも、村雪でございます!さすがにクーラーなしだと汗が止まりませんね~。


 さてさて前回に続きまして八雲宅での物語!果たして皆様に一度でも笑ってもらえるのか!

――ごゆっくりお読みください。



 

「あ痛たたたた・・・藍先生もそうだけど、あんたも少しは手加減しなさいよ美鈴~」

 

「いやいや、仮にも小学生の女の子にセクハラかまそうとしてたんですから酌量の余地はなかったかと」

 

「そういうあんたも今まさにやってるじゃない」

 

「これは違います。ただ美波さんのご乱心に怯えてる橙ちゃんを慰めてるだけです」

 

「ふにぃ~・・・!こ、怖かったです美波のお姉さんが・・・!」

 

「う。ほ、ほんとにごめんね橙ちゃん。アキのせいでついムキになっちゃって」

 

 

「意識がないと思って責任を押し付けるのはどうかと思うんだ美波(むくり)」

 

 

 

 ようやく意識と体が元に戻った僕が見たのは、またまた美鈴さんの胸に抱き着く橙ちゃんとその頭をなでなでしている美鈴さん、そしてなき罪を僕に被せようとする美波だ。ただでさえ首が痛むというのに良心まで痛むようなことを言わないでほしいものだ。

 

 

「あら、起きましたか吉井君」

 

「うんまあね。橙ちゃん、大丈夫?」

 

「は、はい。お兄さんこそ大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫、このぐらいはどうってことないよ」

 

 

 そう言いながら僕は元々いたテーブルの一角へと戻った。うん、やっぱりゲームは止まったままか。

 

 

「僕は起きたけど、ゲームは再開するの?」

 

「うーん、どうしましょうか。なんだか続けているとまた危なくなりそうな気がしますね・・・」

 

「うん。また2人が暴走したら危ないもんね」

 

「あっ、あれは事故よ!元はと言えばあんたのせいじゃないアキ!」

 

 

 美波の言い分はともかくとして、最初にゲームを始めてからもう8回ぐらい続けてる。すごくハマってしまったわけだけど、そろそろ違うゲームもしたいと思う僕もいちゃうわけだ。

 

 

「じゃあ、違うゲームをするとして・・・橙ちゃん、別のボードゲームをお持ちですか?」

 

「あ、ごめんなさい。実はそれだけしか持ってなくて・・・」

 

「あ~、それは仕方ないよね」

 

「うんうん。ウチの家だってそんなにボードゲームはないもの」

 

 

 だから橙ちゃんがそんな顔をする理由なんかない。だったら9回目の〇生ゲームに突入かな??

 

 

「そ、それでですねっ!」

 

『ん?』

 

 

 そう思って次の順番が誰だったか思い出そうとしてたら、橙ちゃんが声を続けて僕たちに訴えてきた。

 

 

「実は学校のお友達がすごく面白いって話しててやってみたいなぁってゲームがあるんです!それでどうでしょうか?」

 

「へー。それって何か準備がいるゲームなのですか橙ちゃん?」

 

「いいえっ、すぐに準備が出来るものです!」

 

 

 なるほど、そういうことだったら次のゲームに困ってたところだし丁度いいタイミングだ。

 どんな遊びか美波も気になったみたいで橙ちゃんに尋ねる。

 

 

「橙ちゃん。それってどんなゲームなの?ウチも知ってるゲームかしら?」

 

「あ。そ、それは分かりませんけど、そんなに難しいゲームじゃないので大丈夫だと思います!使うのはこれだけですから!(パッ)」

 

 

 そう言って何かを見せてきた橙ちゃん。

 

 

 

 

 

 

?あれは赤マジックと・・・・・・割りばし数本?

 

 

 

「割りばし?・・・・割りばしって言ったら・・・」

 

「え・・・橙ちゃん?もしかしてそのゲームって・・・」

 

 

 どうやら知っていたらしい美波と美鈴さんが、予想外の可能性に目を丸くしてしまっている。まさか、橙ちゃんはあの伝説のキャッキャうふふゲームを言う気では・・・っ!?

 

 

 

「はいっ!王様ゲームって言うそうなんです!ご存知ですか?」

 

「むしろ君のお友達が知っていることに驚きだよ、橙ちゃん」

 

 

 こんなハレンチなゲームを知っているだなんて最近の小学生はませてるなぁー。

 

 でもまぁとにかく、だ。

 

 

「う~ん。しかしですね橙ちゃん。あんまりこういうゲームを小学生がするのは」

 

「やるわ橙ちゃん」

 

「よくないって美波さん!?」

 

「うん、せっかくだしやろうよ美鈴さん」

 

「吉井君まで!?」

 

 

 思春期まっしぐらの僕にこれほど素晴らしいゲームなんかない。美波も乗り気なのは意外だけれど橙ちゃんの友達グッジョブ! 

 

 

「ま、まぁ。全員が良いと言うんでしたら私はとやかく言いませんけども・・・」

 

 

 あんまり乗り気じゃなさそうだったけど、なんだかんだで付き合おうとしてくれる美鈴さん。そんな君にあーんなことやこーんなことが出来る可能性が来ようとは今日はなんていい日なんだっ!

 

 

「橙ちゃん。本当にいいんですか?もしかしたら恥ずかしいことをすることになったり――」

 

 

 

「いいわけないだろうたわけ共がっ!(スパァン!)」

 

「あ、藍先生」

 

 

 ただし保護者の藍先生はそんな僕の幸福を許そうとしない。姿がなかったから廊下で聞き耳を立ててたんだろうけど、彼女の顔は美鈴さんほど簡単に不埒なゲームをさせそうになかった。

 

 

「ひうっ。お、おかーしゃまどうしたの?」

 

「チェ、橙~~?私は橙の決めたことを止めるつもりはないわよー?でも、そこのいやらしくて下卑た顔をしてる男子と一緒にやるというのはどうかしら~?」

 

「今日ここにきて一番無害だった僕になんてことを!」

 

 

 下卑ただなんて!自分の気持ちを隠さず堂々と出した顔にひどいことを言うのはどうかと思います先生っ!

 

 

「で、でもお兄さんだけ仲間はずれにするのはかわいそうだよ?」

 

「うっ。し、しかしだな・・・」

 

 

 そんな僕をまぶしすぎる言葉で橙ちゃんがフォローしてくれる。第一僕だってそんな過激すぎる命令なんかする気はない。せいぜいボディタッチしか考えてない紳士な僕をなめないでいただこうか(※紳士とはいったい・・?)

 

 

 

 

 

カラリ

 

 

「らーん。お邪魔するわよ~」

 

 

『うんっ?』

 

 

 そうやって僕がゲームをやるか否か、さらには王様ゲームそのものをやめさせようとする先生を必死になだめようとしている僕たちの前に、意外な―――だけどよくよく考えればおかしいことでもなかった――人が現れた。

 

 

「あら、靴が多いから誰かと思ったら美鈴ちゃん達じゃない。珍しいところで会ったわねー」

 

「どうもどうもです、紫先生。今日は吉井君のお付き添いでここまで来たんですよ」

 

「そうなの?藍が男子を上げるだなんて珍しいわねぇ。とうとう橙離れの時かしら?」

 

 

 いや、今なお絶賛溺愛中ですこのお母さんは。

 

 そんな未来永劫来ないとも思える推測を立てたのは、藍先生と同じく文月学園の教師で藍先生の姉にあたる八雲紫(ゆかり)先生。呆れた表情の藍先生から察するにお姉さんを招いていたわけではないようだ。

 

 

「姉さん。来るのは構わないが連絡の一つぐらいは入れろといつも言ってるだろうに」

 

「も~、私と藍の仲じゃない!寂しくなるからそんな他人行儀なこと言わないっ!橙、久しぶりね~!元気にしてたかしら?」

 

「あ、はい!紫おばさん「お・ね・え・さ・ん・よ?」もっ、ゆ、ゆゆかりお姉さんも元気ですかぁ!?」

 

「もっちろん!紫おねーさんはいつでも元気でピチピチのレディーだもの!」

 

「三十路前半を終えた姉さんが何を言うか・・・」

 

 

 幸いそのつぶやきは届かず紫先生が憤怒することはない。っていうか紫先生ってまだ三十代だったのか。てっきり四十代かと思ってたなー。

 

 

「ところで何をしようとしてたの?見たところ〇生ゲームをしてたみたいだけれど・・・」

 

「ああ、はい。先ほどまではそちらをやっていまして。違うゲームに移ろうとしてたんですよ」

 

「あら、どんなゲーム?」

 

 

 紫先生に美鈴さんが説明をしてあげるけど、これは良くない流れだ。そもそも王様ゲームって遊びを教育者として良く思わないだろうし、何よりそこに橙ちゃんが加わろうとしてる。おばさん、じゃなくてお姉さん(笑)の立場として見逃すわけが・・・

 

 

「それが王様ゲームで――」

 

「藍あなたも参加しなさい。これは姉命令よ」

 

「はぁ!?」

 

 

 むしろお仲間であったようだ。紫先生のらんらんとした目はばっちり藍先生を捉え何が目的か丸わかりだ。特定の1人に熱心なところは姉妹そっくりである。

 

 

 そしてなし崩し的に、王様ゲームは2人の大人も加わった6人で開催されることとなった。

 

 

 この勝負・・・・・・絶対に負けられないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。それじゃあ始めましょう。一応言わせていただきますが、過激なのはダメですよ?あくまで橙ちゃんがいるということを忘れずに、です」

 

「当然だ」

 

「も、もちろん分かってるよ美鈴さん!」

 

「ウ、ウチだって分かってるわ美鈴!」

 

「も、もちろんよ美鈴ちゃん!教師として節度は出来るだけ弁えるわっ!」

 

 

・・・4人中1人だけしか信用できないんですけど。大丈夫ですかね始めてしまっても?

 

 

「だ、大丈夫です美鈴お姉さんっ!私が言い出したことですから命令されたことは何でも守りますっ!」

 

「・・・橙が・・・なんでも・・・っ!?」

 

「親御さんっ!娘に何を思ったか知りませんけどそっちに寝返らないでくださいよ!?」

 

 

 ええいそんな満面の笑顔を浮かべて残るひとりっ!もはやこの場で冷静なのは私と小学生だけですか!

 

 

「・・・もう!始めますよ!全員好きな割りばしを引いて下さい!」

 

 

 こうなったらなんとしても私が王様となって行き過ぎないゲームにしてやりますっ!

 

 半ばヤケになりつつもそう意気込みながら私は握る6本のくじを差し出します!余り物には福がある!この言葉を信じますよっ!

 

 

 

「それじゃあ!――――王様だーれだっ!?」

 

 

 全員がくじを引いたのを確認し、お約束の言葉を宣言します。当然、福の積もったくじを引いた私が王様で・・・!

 

 

「・・・あ、僕が王様だ!」

 

 

 ちょっと福の神さん。なんでよりによって危険人物筆頭に幸運をもたらしてんですか。

 

 

「えっと。それじゃあ~・・・」

 

 

 あ~これはまずい。吉井君。私たちを一瞥して何を確認したんですか。いったいどんな命令を下そうと思っての観察ですか!

 

 

 

 

「さ、3番の人が王様と握手しよう!・・・・王様ゲームの最初ってこんな感じだよね?」

 

「あれっ?」

 

 

 ところが出された命令はことのほか穏やかなもの。・・・・ほっ、なんやかんや言いつつも心は優しい吉井君。きちんと優しめな指示を出してくれたんですねー。

 

 

 こういうことなら特に問題は―――

 

 

 

 

「む。私が3番だ」

 

 

 

 あかん、起こりますねコレ。しかも不運が降りかかるのはおそらく支配者の王様です。

 

 

「・・・・・・先生。もしも僕なんかと握手したくなかったら遠慮なく断ってくれても」

 

「なに、王様の命令は絶対なのだろう?(ニコッ)それにお前とは握手をしたいと思っていたところだ(スッ)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい(スッ)」

 

 

 そう言って笑顔で手を差し出す藍先生。王様ゲームにおける絶対ルールを持ち出された吉井君も観念し、死地に赴くような表情で手を差し出して・・・・・・

 

 

ガシッ!

 

 

「ふぬぁぁぁああああああっ!?」

 

 

 握手が原因とは思えない絶叫をあげました。・・・つい数分前自分の身で味わったから分かるんですけど、藍先生ってやたら力が強いんですよねー。

 

 

 

 

「・・・ふぅ。少し気分が晴れた。礼を言うぞ吉井」

 

「は、初めて先生にお礼を言われたのに、手の痛さのせいでぜんぜん喜べないです・・・!」

 

 

 本当に気が晴れたとばかりに爽やかな顔をする藍先生に、手のひらをさすりながら吉井君が恨み節をこぼします。王様ゲームって基本的に王様本人に害は及ばないはずなんですけど・・・。しょっぱなからついてませんでしたね吉井君。

 

 

「い、いいな~藍先生・・・ウチが3番だったら・・・!」

 

「こ、ここしばらく藍と握手してなんてないのに・・・!吉井君たら、羨ましい~・・・!」

 

 

 しかし反対に羨ましがる女性も2人。なかなか上手くいかないのもこの王様ゲームの醍醐味です。

 

 

「次は私が王様になるわよっ!みんな、私にくじを!」

 

 

 今の一回が火をつけたようで、紫先生が張りきった顔でくじを要求。1回目が失敗なら次を!その意気込みに同意した私たちはすぐに割りばしを渡します。

 

 

 

「さぁ、行くわよ!」

 

『王様だーれだっ!?』

 

 

 

「っ!ウチが王様よっ!」

 

 

 二回目の王様は美波さん。素早く手を挙げた彼女の目が捉えるのはただ一人です!

 

 

「そ、それじゃあ・・・!2番の人が王様にハグされなさいっ!」

 

 

 おおっ!吉井君へ合法に抱きつくため美波さんが大胆な命令を!?これは・・・2人の関係が進展すること間違いなし!

 

 

 

 

 

「あ、私2番です美波さん」

 

「なっ、なんであんたなのよバカァ!」

 

 

 相手が吉井君だったらの話ですけども。

 

 

 しっ、仕方ないじゃないですか!さすがに美波さんが言う番号と私の持つ番号をずらすなんてこと出来るわけないですもの!

 

 

「ま、まぁまぁ美波さん、今回はダメだったということで。さぁばっち来いです!」

 

「うー、美鈴に抱き着いても仕方ないのに・・・!(ぎゅっ)」

 

 

 美波さんが渋々といった表情で私に抱き着いて・・・て、あの美波さん?そんなに嫌なのでしたら適当でいいのでは?なぜそんなに背骨が痛くなるほど強くぅううううっ!?

 

 

「(ぱっ)ふ~。少しスッキリしたわ。ありがと美鈴」

 

「ス、ストレス発散をハグでされるとは思わなかったです・・・」

 

 

 時には理不尽な思いをすることも。これも王様ゲームの宿命ですから割り切りましょう!さあ次です!

 

 

「今度は成功させて見せるわっ!せーの!」

 

『王様だーれだっ!』

 

 

 

 

「!うふふふ、私が王様だわ~♪」

 

 

 続いての王様は紫先生。嬉しそうに王様割りばしを見せびらかしながら妹さん、及び姪っ子さんへと眼を流しているためターゲットが丸わかりで・・・

 

 

「じゃあ、5番の人が私に膝枕をしてちょうだいっ!その時私が何をしようとしても止めたらダメよ!」

 

 予想通りこれまた欲に忠実なご命令。確率で言えば5分の2と悪くないもので、5人中4人が女の子。たとえ藍先生や橙ちゃんが外れてもデメリットは少ないですねー。

 

 

 

「さぁ、5番の人は誰!?私は藍でも橙でもどちらでも―――!」

 

「あ、僕です先生」

 

「・・・・あれっ?」

 

 

 しかし当たったのは残る20パーセント。紫先生もその少ない可能性を引くとは思っていなかったようでにやついた顔を硬直させます。

 

 

「よ・・・・・・吉井君?」

 

「えっと・・・僕が5番なんですけど」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 たっぷり10秒。紫先生は沈黙を保ちましたが、意外にも笑顔で現状を受け入れました。

 

 

「ま、まぁいい機会ね!たまには男子の膝を枕にするというのも乙だわ!失礼するわよ吉井君!(ゴロン)」

 

「あ、はいどうぞ」

 

 

 紫先生が吉井君の膝へ頭を降ろします。女性が男性にするイメージが強い膝枕だけに違和感がありますけど、意外と絵になりますね。なんかお年よゲフンッ!お、お母さんをいたわる息子さんみたいな感じです!それは果たしてフォローなのか・・・)

 

 

「ふ~、意外と落ち着くものね~。ほら吉井君、良かったらこの美少女先生の頭を撫でてもいいわよ?」

 

「それは全力で遠慮させてもらいます」

 

「躊躇う間もなく完全拒否っ!?わ、私の何が不服だというのよ!年齢!?アラサーの髪なんか触りたくないと!?」

 

「い、いやいやそこまで言ってないから先生!ただ藍先生と美波の2人がものすごい凝視してて、触った瞬間アイアンクローとジャーマンスープレックスがさく裂しそうな気がするからです!」

 

「ぬぅぅ・・・姉さんを膝枕しようとは・・・!」

 

「紫先生いいなー・・・ウチもあんな風に堂々とアキに・・・!」

 

「わー、紫おばさんいいな~・・・」

 

 

なるほど、藍先生の目が少し据わってて怖いことに。吉井君が必死に紫先生をどかそうとするのも納得です。

 

 

「信じられないわね・・・!だったら私の魅力的なところを1つでも挙げて見なさい!じゃないとどいてあげないわよっ!」

 

「なんでそんなに抵抗するんですかっ!?え、ええっと・・・・・・・・・・・あ、先生のつけている香水、すっごくいい香りですね!」

 

「あらぁ分かってくれるのね!もう、最初っからそう言ってくれればいいのに~♪(ムクリ)」

 

 

どうやら満足したようで吉井君の膝から起き上がる紫先生。ですが、良いんですか先生。それって香水を褒めたのであって紫先生本人を褒めていないような気が・・・

 

 

「・・・・あら?ちょっと待って吉井君。褒めはしてくれたけどそれって香水よね?私個人への称賛の言葉は――――」

 

「さぁ次のゲームを始めよう!時間は有限じゃないからねっ!」

 

 

 気づいた紫先生の声を遮りながら吉井君が次の準備を始めます。それはいいのですが〝有限〟じゃなくて〝無限〟ですねそこは。話を逸らすどころかじっくり話をすることになっちゃいますがそれは。

 

 

『王様だーれだ!』

 

 

「・・・おっ、私が王様です!」

 

 

 そして再開した第4回王様ゲーム。ようやく来ました私が王様ですよっ!

 

 

さて、先ほどまでは王様が絡んでばかりの命令でしたので・・・今度は王様抜きの命令と行きましょうか。

 

 

「それでは、3番の人が5番の人の肩を揉んであげましょう!」

 

 

 これなら過激ではありませんけど盛り下がることはない指令!さぁ、3番と5番の人は!?

 

 

「むっ。私が5番―――」

 

「(ガシッ)あなたはいつかやってくれると信じてたわ、美鈴ちゃん」

 

「あ、はい」

 

 

 出来たらその言葉は部活とかその辺りで聞きたかったです、紫先生・・・。

 

 

「姉さん、か・・・手柔らかに頼むぞ?」

 

「保証は出来ないわ。随分と久しぶりのスキンシップの時間だもの・・・っ!!(わきわき)」

 

 

 ムニッ

 

 

 手をいやらしく開け閉めして目を輝かせる姿は助平そのもの。藍先生がすごく警戒した表情なのに私が納得しているうちに、後ろに回った紫先生が藍先生の肩に触れ始めます。

 

 

 

あれ?思っていたより普通の肩もみで・・・・

 

 

 

「スゥ~・・・・あらぁ、藍。だいぶ凝ってるじゃない。我慢は身体に良くないわよ。スゥゥゥゥ~・・・・・」

 

「その忠告はもっともだが、私の首筋に顔をうずめて匂いを嗅いでいる姉さんに私は今我慢しているんだがな」

 

 

 いえ、発言撤回。あんな首に顔を付けるぐらい近づけながら肩もみなんて見たこともありません。あんな奇抜な態勢で肩を揉む紫先生に藍先生はなんと冷静な・・・

 

 

「んふふ、そう言わないでよ藍。こんなに藍にベッタリ出来る機会なんてそうないんだからー♪」

 

「普段ことあるごとに抱き着いてくるだろうに・・・ん、今のところは気持ちよかったな。頬を触るのに移行せずそのまま揉んでほしかったぞ姉さん」

 

「分かったわ♪ふふふふっ、藍~♡、可愛い可愛い妹の藍~~~っ♡♡」

 

「気持ちは嬉しいが、さすがに恥ずかしいものがある。勘弁してくれ姉さん、まったく・・・」

 

 

 

 

・・・・・・ええ~~と、な、なんでしょうかこの桃色の空間は。紫先生は顔が蕩けまくりですし、冷静な対応をしている藍先生の顔を少しゆるんでるし・・・・

 

 

 

 

「あれですね。世に噂のシスコンというのを始めて目撃しました」

 

「シスコン筆頭の美鈴が何言ってんのよ」

「だね、僕たちいっつも美鈴さんを見てるし」

「は、はい。私も美鈴お姉さんはシスコンだと思います」

 

 

「前半2人はともかく最後1人!なんで今日会ったばかりなのにそんなこと思うのですちょっと!」

 

 

 そ、そりゃ咲夜さん達の話もしたかもしれませんけどっ!そんな結論に至らせるほど私は咲夜さんが可愛いだとか妹紅さんがビューチフルだとかレミィがキュートだとかフランがプリティーだということは伝えてません!たった数時間だけで伝えられるはずないでしょうに!(※言葉少なくともその熱い思いはしっかり橙ちゃんに届きました)

 

 

 

 そして私があらぬ疑いを晴らそうと弁明をし終えたところで(皆さん素直に〝ハイ〟とか〝うん〟と言ってくれました・・・・・なんか気持ちが籠ってない気もしましたけど、それこそ気のせいですよね!)、ちょうど八雲姉妹のスキンシップも終わりを迎えたようです。

 

 

「ふ~~♡こんなに元気になれたのはいつぶりかしら。感謝するわよ美鈴ちゃん♪」

 

「は、はぁ。それは良かったです」

 

「まったく、肩を揉むだけなのにこうも服が・・・姉さんは遠慮がなさすぎるぞ」

 

「そう怒らないでよ藍、私たち姉妹の仲じゃない~」

 

「姉妹の間にも度というものがあると思うがな・・・」

 

 

 そう不満を言いつつも表情は穏やかな藍先生。対して紫先生のボルテージは最高潮で、妹さんが服を整えるのを待ってから声を張りました。

 

 

「さぁ次行くわよ!次は私が王様になって藍と今以上に戯れてみせるわ!」

 

「さすがにそれは御免だ。阻止させてもらうぞ・・!」

 

 

 藍先生も気合は十分。さぁ次です!

 

 

『王様だーれだ!』

 

 

「よしっ!ウチが王様よ!!」

 

 

 続いての王様は美波さん。

 

 

 しかもそれだけではありません。彼女はなんとここから3回連続で王様を担ったのです!

 

 

「じゃあ1番の人!ウチの頭を撫でてちょうだい!」

 

「ふむ、これでいいか?(なでなで)」

 

「う・・・!は、はい。それで充分です」

 

 

・・・ですが、

 

 

「つ、次こそは・・・!5番の人!ウチの身体をマッサージして!」

 

「あら、いいわよ~。極上のマッサージで蕩けさせてあげるわ♪」

 

「ん、んんんん~~・・・!き、気持ちいいけどぉぉぉ・・・!!」

 

 

どうやら今日の美波さんは、

 

 

「ぅぅぅぅぅ・・・!さ、3番の人!ウチが満足するまで身体を触らせなさーい!」

 

「は、はいっ!どうぞ美波のおねえさん!」

 

「2度も橙に手を出そうとは・・・!おのれ島田~・・・・・・!!」

 

 

 

恋愛運は地を這っているみたいでして・・・

 

 

 

 

「キライ・・・ウチに中途半端な運をよこした神様なんて大嫌い・・・っ!」

 

「み、美波?せっかく王様に3回もなれたのにどうしてそんなに落ち込んでるの?」

 

 

 ものすごい勢いで落胆してしまいました。ふ、不憫な・・・せっかく勇気を振り絞って命令を出したというのにことごとく空振りとは。そしてその真意を理解しない吉井君も残酷なことを言います・・・!

 

 

 

 

「あ・・・わ、私が王様です!」

 

 

 それでも1人凹んでいるぐらいでは止まらず、8回目へと突入する王様ゲーム。ここでようやくいまだに王様になっていなかった少女に出番が回りました。

 

 

「おお、橙ちゃんですか。それでは命令をどうぞ」

 

「はいっ!それじゃあ・・・!」

 

 

そこで最年少の橙ちゃんはちらりと吉井君に目を向けてから、初となる命令を下します。

 

 

「4番の人の膝に、私を乗せてもらってもいいでしょうか!」 

 

 

 

 

 

「あ、僕だ」

 

「「んな・・・っ!?」」

 

 

 

 瞬間息の詰まった悲鳴が2つあがりました。

 

ま、まさか一発でお目当ての人物にお望みの命令を下そうとは・・・!?見た目によらずこの王様、出来るっ!

 

 

「やった・・・!それじゃあお兄さん、乗せてくださいねっ(ぽすん)」

 

「うん。こんな命令だったらお安い御用だよ」

 

 

 そして吉井君は快く橙ちゃんをあぐらの上に招き入れました。元々笑顔だった橙ちゃんはさらに嬉しそうになり、吉井君の胸に後頭部を預けながらつぶやきます。

 

 

「えへへ~・・・すごい気持ちいいです~♪」

 

「あはは、橙ちゃんは上手だね。僕の座り心地なんかポンコツの座布団みたいなものなのに」

 

「いえ、私にとっては高級座椅子にも負けない安らぎです!これだけでも今日お兄さんと遊べた甲斐がありますっ!」

 

「そ、そ、そうかな~?いや~照れちゃうなーー!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・~~っっっ!」

 

「せっ、先生これは橙ちゃんが望んでのこと!さすがにこれで吉井君を責めるのは筋が違うかと思いますっ!」

 

「そうよ藍!橙が進んでしてることなんだから、親として受け止めてやりなさいな!」

 

 

 それを見た藍先生の表情の怖い事怖い事。ちょっとビビりながらも私と紫先生は全力でしがみつき『ぐわしぃ!』ぐぬふぁああああああ!?

 

 

「そこをどいてもらおうか、紅・・・!」

 

「お、お、お、お気持ちは察しますが、これはあくまでゲーム。王様ゲームですから一つ大目に・・・!そして私の頭蓋を鷲摑みする手にも容赦をぉ~!!」

 

 

 そ、そりゃ行く手を阻んでますから粛清の対象になって当然かもしれませんけど!美波さん!吉井君たちを見ながら乙女の顔で「いいなぁ~・・・」って呟いてる暇があるなら私を助けてください~~!

 

 

「・・・・・・・(ぱっ)」

 

「はふっ!?あ、あいだだだ~・・・!」

 

 

 すると私の思いが伝わったのか、藍先生の手が私を解放したではありませんか。よ、余韻が・・・!いったいどれだけの力を込めてたんですかもー!

 

 

「まったく、藍は過保護すぎるのよ。この間も永琳と話したけれどあなたは少し橙を甘やかしすぎ「独り身で子もいない姉さんは黙っていろ」ヒギュッ!?」

 

 

 そして実姉にも容赦がないっ!紫先生が首を捻られたような鳥のような鳴き声をーっ!?

 

 

「・・・よーくわかった。つまり、ゲームに則(のっと)ればいいのだろう?」

 

「えっ?ま、まあそうですが・・・」

 

 

 姉を一撃で沈めた藍先生。こ、心なしかさきほどよりはるかに目が据わっているような・・・

 

 

 

「なら、次のゲームに移ろう・・・・くじを渡してもらおうか」

 

『イ、イエスマムッ!』

 

 

 もしも今まで準備の時間を測っていれば今のは間違いなくぶっちぎりNo.1スピードでしたね。だって怖いですもん・・・西村先生が優しく見えるぐらい今の親御さん怒ってますものこれぇ!

 

 

 

「・・・・私は最後でいい。好きなくじを引いてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

「わ、私はこれにするねおかーしゃまっ!」

 

「ウ、ウチはこれ!」

 

「じゃ、じゃあ僕はこれにしますっ!」

 

 

 むせび泣く紫先生は外しながら私たち四人は我先に持つ割りばしを握ります!どっ、どうか王様でありますように・・・・・!!

 

 

 

 

「・・・・・あ、王様じゃないです」

 

「わ、私もですお姉さんたち」

 

「ウ、ウチも・・・」

 

 

 しかし私を始め女子陣は外れを引いた様子。残るは・・・・

 

 

「吉井君、どうですか?」

 

 

 

「・・・・・・(ふっ)」

 

 

!おっと、この何も言うなとばかりの表情!さては王様の割りばしを!?

 

 

 

 

 

 

「私が王さまだ」

 

 

 

 ダダッ!

 

 

「ってよ、吉井君!?」

 

「(がしっ)こら、どこへ行こうというんだ」

 

 

 紛らわしい反応をしないで!っていう言葉は躊躇うことなく窓から飛び出そうとする吉井君とその首根っこを瞬座に捉えた藍先生の早業に飲まれました。当然逃亡を阻止された吉井君は全力で叫びます。

 

 

「インチキだっ!この場面で先生が王様のくじを引くだなんてこれはインチキだ~っ!」

 

 

「そうおびえるな。ただ2人きりになりたいだけだ・・・・激しいひと時となるだろうからな」

 

「なんだかいやらしい響きだけど騙されないぞ!僕の目には成すべなく先生にタコ殴りにされる僕が見えてるっ!」

 

「四の五の言わず大人しくしろ。お前に滾るこの思いを、私は早くぶつけたいんだ・・・っ!」

 

「畜生!状況が状況だったら全力で乗っかってたのに!それに先生!そもそも王様ゲームは番号で命令するものですよ!?ぼ、僕の番号も言わずにそんなこと・・・!」

 

「4番」

 

「僕の番号を売った奴は誰だちょっとぉ!?」

 

 

 いや、売ったも何も逃げる時にそこへ割りばしを放ったのは君でしょうが。私たちにも見えるんですからそりゃ藍先生にも見えますよ。

 

 

 まぁ、とにかく私たちのすることは――

 

 

「紫先生、引っ張りますよー(ずるずる)」

 

「橙ちゃん、ウチらも外に出るわよー」

 

「へっ?は、はぁ・・・」

 

「つ、ついに藍にまで・・・妹にまで独身を揶揄されたぁああ・・・!」

 

「って、ちょちょちょちょっ!?一片たりとも助けようと思わずに僕を見捨てようとしてない4人とも!?」

 

 

 ここから一歩でも早く離れる事。何かを叫んでいるようですが、吉井君・・・ご武運を!

 

 4人が避難し終えたのを確認して、私は地獄へのふすまを閉ざしました。

 

 

『さぁ・・・!たぁっぷり(怒りを)愉しむがいい、吉井ぃ・・・!』

 

『ぜっ、絶対に楽しくなんかならないですよねこれ!?ムッツリーニが好きそうなことなら全力で乗るけっ、ぎゃあああああああああああああ~~~~・・・・!』

 

 

 

 ピシャン

 

 

「・・・ふ~。とりあえず安全確保ですね」

 

「アキは最前線にいたままだけどねー」

 

「お、お兄さん大丈夫でしょうか・・・?」

 

「いいじゃない・・・独身でも楽しいのならそれでいいでしょうがぁぁぁぁ~・・・」

 

 

 1人残る吉井君の身を案じる橙ちゃん。高校生(わたしたち)は胸を撫で下ろしていて大人(紫先生)に至ってはまだ凹んだままというのに。な、なんと決まりが悪い・・・!ここはひとつ年上の貫録を見せねばなりません。

 

 

「大丈夫ですよ橙ちゃん。ああ見えて吉井君も臨死体験をしてきた男の子ですから、身体は丈夫なはずです」

 

「えっ?臨死体験って本当にあるんですか!?」

 

「うん、あるわよ。ウチも1回だけ経験したことがあるもの」

 

「美波のお姉さんもっ!?」

 

「ちなみに吉井君は数回経験したそうですよ」

 

「す、数回っ!?お姉さんたちは普段どんな過ごし方をしてるんですか!?」

 

 

 ん?どんなって言われましても・・・

 

 

「そんな変ではないですよね、美波さん?」

 

「そうね、別に変わったものじゃないわよ?」

 

 

 

 

「「(鼻)血と暴動と暴力が絶えないクラスで過ごしているだけ(ですから)(だもの)」」

 

 

「とても〝だけ〟では済まない異常事態だらけじゃありませんかそれっ!?」

 

 

 

 慣れと言うものはなんと恐ろしいものなのか。怖いものを見る目で私たちから後ずさった橙ちゃんを見て、私は久々に所属するクラスのユニークさを痛感するのでした・・・

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・ふっ。無い胸と書いて無乳(むにゅー)。柔らかそうな呼び方とは裏腹に硬いものね、私の胸』

 

『・・・・・・おい、今までにないぐらい卑屈になってどうした。あいつ』

 

『咲夜。試着室に籠ったまま小声でつぶやき続けるのはよしなさい。他の人が使えないし、何より気味が悪いわ』

 

『あ、あはは。しばらくの間そっとしてあげましょう2人とも。まだ時間はありますから!』

 

『それもそうね・・・。ところで、2人は何を買ったの?袋を持ってるみたいだけれど。欲しいものは買えた?』

 

『あ、はい!ちょうどソックスが欲しかったのでそれを買いました!』

 

『そう。妹紅さんは?』

 

『・・・・・胸下着を買った。ちょっと、小さい気がしたから』

 

 

 

 

『そう。胸した・・・・胸下着?』

 

『・・・えっ?』

 

『・・・・・・?なんだよ』

 

『・・・ごめんなさい、妹紅さん』

 

『ご、ごめんなさい妹紅ちゃん』

 

『・・・んっ。か、勝手に揉むな・・・』

 

 

 

 

『・・・・・・・・藤原さん、あなた・・・・・・・』

 

『・・・い、い、意外と・・・・大きいですね』

 

『・・・・・・・どうだっていいだろ。私はそういうのに興味ないんだ』

 

『『絶対にその言葉を咲夜(さん)に言っちゃダメ(です)よ』』

 

『大丈夫。同じ〝む〟でも〝無〟じゃなくて〝夢〟がある・・・!いつか、いつか夢の詰まった胸に・・・!』

 

 

 

 





 お読みいただきありがとうございましたっ!う~ん、王様ゲームというと桃色の展開があるお約束なのに、吉井君碌な目にあっとらん!そして美波さんにもどんまいな展開となっちゃったな~。

 さて。前回のすごろくゲームに続いてのリア充ゲーム!せっかくだからということで紫おば、お姉さんにも登場してもらい八雲姉妹の絡みを久々に書かせてもらいました!美鈴さんに負けないシスコンっぷり・・・!村雪的には嫌いじゃないですよ!


 


 それではまた次回っ!誤字とかあったらぜひともご連絡をお願いします!



 


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