魔法少女リリカルなのは〜夜天に浮かぶ月〜 (すこすこノ助)
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第1章
第1話 幼馴染


初めまして!
小説を書く事自体が初めてなのでかなり不安です。
駄文ですが読んでいただけると幸いです。


「母さん ただいま!」

 

「おかえりなさい。カイト」

 

海鳴市にある自宅へと元気よく帰宅した短かめの黒髪で少しブルーがかった瞳の少年『月代(つきしろ)カイト』は母親に挨拶するとドタドタと階段を上がり二階にある自室に向かっていく。

 

優しく挨拶を返し、その様子を洗濯物を畳みながら見ていたカイトの母親『月代(つきしろ)エレナ』はドタドタと階段を降りてくるカイトに声を掛ける。

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

「はやての所に行ってくる!」

 

あぁなるほど、と納得のいった様子の母親にカイトは少年らしい笑顔を見せた。

「はやて」というのは隣に住む幼馴染の少女「八神はやて」の事だ。

三年前に八神家の隣に引っ越してきて以来、カイトは毎日の様に彼女の所へ行っている。

 

「夕飯までには帰ってきなさいね。もちろん、はやてちゃんも一緒にね」

「うん!分かってる!」

 

両親を亡くし足が不自由な為、今は一人で住んでいる彼女はエレナにとって娘の様な存在なので夕食は月代家で食べる事が多い。

さらに、はやては料理上手なので料理が少し苦手なエレナも助かっている。

 

カイトは言われなくても連れてくるつもりだったらしく、その様子にエレナは微笑んだ。

 

「じゃあ、行ってきまーす」

「はい、行ってらっしゃい」

 

ドア開け車が来ていないか左右を確認し隣の家へと向かうとチャイムを鳴らし声を掛ける。

 

「はやてー!入っていい?」

「ええよー」

 

カイトは合鍵を取り出し鍵を開け中に入る。

合鍵は足が不自由なはやてが毎回玄関まで来るのが大変そうに見えたカイトが両親とはやてに相談し作った物だ。

 

「カイ君いらっしゃい」

「お邪魔しまーす」

 

微笑みながら、はやてはカイトを迎え入れるとお茶の用意をするべく車椅子を動かす

 

「はやて!手伝うよ」

「おおきになぁ」

「何時もの事じゃん!気にすんなって言ってるだろ」

「それでもおおきになぁ」

 

毎度のやり取りが心地いい、はやてはそう思った。自然と笑顔になる

 

「来週から小学校やなぁ楽しみやわぁ」

「小学校かぁ…僕ちょっと不安なんだよね…」

「んん?なんでや?」

「んー小学校ってどんなことするのかなぁって思って…」

「カイ君は心配性やなぁ」

「でも、分からないのは不安なんだ…はやてもいないし」

 

カイトは私立の聖祥大附属小学校、はやては公立の小学校に通う事になっている

 

「小学校は勉強したり、友達と遊んだりするんや。わたしがおらんでもカイ君は成績ええから大丈夫やって!」

 

カイトは知らない事があると分かるまで調べるので成績がいいのだが、知的好奇心の赴くまま突っ走ってしまうので無駄な知識になる事もあるのが玉に瑕である

 

「ん?もうこんな時間や」

 

あれやこれやと小学校の事を話してると夕飯の支度をする時間だった。

 

「ホントだ。はやて今日もご飯作りにきてよ!母さんだけじゃ不安だよ」

「あははカイ君酷いなぁ!まぁ最初から手伝う気やったけどな」

「ありがとう助かるよ!」

 

カイトは、はやてを乗せた車椅子を押して月代(つきしろ)家へと向かった。

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
初投稿なので緊張しています。
まだストックがあるので週ニくらいを目標に更新していきたいですね。


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第2話 月代流剣術

第2話です。
前回より文字数が少ないです。


月代家に戻りカイトは呼び鈴を鳴らす。

玄関の扉が開くと、耳の辺りまでの長さの黒髪に黒い瞳の男性が出迎える。

 

「父さん!?今日は早く帰れる日だっけ?」

「仕事が早く片付いてな、早く帰らせてもらったんだ。はやてちゃんもいらっしゃい。」

「お邪魔しますーソウジさん」

 

カイトの父『月代総司(つきしろそうじ)』は貿易関係の会社に勤めていて普段は帰りが遅く平日のこんな時間に家に居るのは珍しい。

 

「父さん!じゃあ稽古付けて!」

「あぁ良いぞ、夕飯までだがな」

「やった!」

「じゃあ、わたしはエレナさん手伝ってくるなぁ」

 

はやてはそう言うと台所へと向かう。

三年前からお互いの家を行き来しているので場所等は把握している。

 

「エレナさん、こんばんは手伝いますよ」

「はやてちゃん!ありがとう!助かるわ」

 

腰辺りまである赤みがかった栗毛と蒼い瞳をしたエレナは日本人ではないので和食を作るのが少し苦手らしく、安堵した表情で礼を言う。

一方、リビングから出た所にある庭ではソウジとカイトが木刀を持ち向かい合っている。

 

「カイト、どのくらい振れる様になったか見せてみろ」

「はい!」

 

カイトは木刀を振るう、上段から斬り下ろし、横薙ぎに斬り払い、袈裟斬り等を数回繰り返した

 

「よし、前回より早く鋭く振れる様になっているな!だが、まだまだ足りんぞ!」

「はい!」

「じゃあ、かかってこい」

 

ソウジが教える『月代流剣術』には決まった型などは少なく、どれだけ早く鋭く振うかに主眼を置いた古流剣術である。その為、早く鋭く振るう為の基礎練習を繰り返し、その後は試合形式での実戦で高めていくのが昔からの修行方法だ。

 

ニヤリと笑うソウジに若干寒気を感じつつカイトは姿勢低くし走り出した。

猛スピードでソウジに接近し胸目掛けて横薙ぎに一閃するも簡単に防がれる。

ならば、と横薙ぎに斬り払った勢いを止めずに一回転しながら、さらに姿勢を低くし今度は足を払うべく一閃するが軽くジャンプされ躱される。

跳んだなら、と勢いを止めずに一回転しながら捻りを加えて跳び上がり頭上から斬り降ろすもソウジは木刀を横にし高く上げカイトの木刀を受け止めた。

 

(しまった!誘われたっ!)

 

「月代流剣術 上弦(じょうげん)の月」

 

木刀を受け止めた後少し剣先を下げ、カイトの木刀を滑らすとそのまま大きく弧を描く様に木刀を振るう

その軌道はまさに夜空に浮かぶ上弦の月そのままの綺麗な半円を描きカイトに直撃した。

 

 

「いつ見ても常人離れした動きやなぁ二人共。ホンマに同じ人間かいな」

 

夕飯の支度を終え二人を呼びに来たはやてはいつもと変わらぬ感想を抱き呆れるのであった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。
という訳でカイト君は剣術を習っています。
作者は剣術や剣道等一切やった事がないので色々間違っているかも知れませんが、まぁその辺はフィクションとして捉えていただければ幸いです。


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第3話 約束

年末なので早めの更新です。
というのは建前で1〜3話が1セットみたいな感じなので早く更新したかっただけです。
でも投稿しようとしたら文字数が足りなかった…
少し加筆して何とか1000文字に到達しました。
それではどうぞご覧ください!


 

ソウジの斬撃を喰らったカイトは庭に叩きつけられる寸前で受け身を取り立ち上がった。

 

「いってぇー。」

「さっきの連続攻撃は中々良かったぞ。腕を上げたなカイト。」

「へへへ、基礎練しながら考えたんだ!」

 

(それにしても、相変わらずとんでもない身体能力だな)

 

カイトの身体能力は親の贔屓目抜きにしても高い。

先程も少し跳んだソウジの頭上から斬撃を放つくらいの跳躍力を見せている。

父ソウジは剣術、母エレナも以前は体を動かす仕事をしていたので身体能力の高さは両親から受け継いでいる。

 

「ちゃんと基礎練習を続けているんだな、偉いぞ。」

「うん!父さんが作ってくれた剣術指南書があるからね!」

 

剣術指南書は基礎練習のメニューの事であり、仕事が忙しく修行にあまり付き合えないソウジが息子にせがまれて仕方なく作り始めたのだが、作っている内についつい熱くなり、かなり本格的な練習メニューになってしまったので剣術指南書と呼ぶ事になった。

 

「しかし、何故剣術なんだ?スポーツや武術なら他にもあるだろう?」

「うーん、父さんみたいに強くなって父さんが僕達を守ってくれてるみたいに母さんや、はやてを守りたいんだ!」

「そうか、なら父さんがいない時はカイトがみんなを守ってくれるか?」

「うん!約束するよ!」

 

話しながら歩いてリビングへ向かうと頬を真っ赤に染めたはやてがいた。

 

「はやて!?顔赤いけど大丈夫?もしかして風邪!?」

「だ、大丈夫や!な、なんでもあらへん!早よせなご飯冷めるで!」

 

ほぉ、と感心するソウジと、あらあらといった感じで見守るエレナに気付きさらに顔が熱くなるはやてだった。

 

カイトはいつも真っ直ぐな思いを言葉にして、それを聞いたはやては真っ赤になってまくし立てる。

カイトの両親はこんないつもの光景を眺めるのが一番幸せを感じていた。

 

わいわいと月代家とはやては楽しい夕食を食べ終えると、カイトははやてを八神家まで送る為、はやてを乗せた車椅子を押して家を出た。

 

「なぁカイ君…さっきの本気なん?」

「ん?さっきのって?」

「わたしを守るって話や。」

 

八神家までの道で、はやてが若干頬を染めながら先程の約束の事をカイトに尋ねた。

 

「うん、本気だよ!どんな事をしても僕は…はやてを守るよ。」

「どんな事をしてもって間違った事でもか?」

「うーん、でもそれはダメだよね…そうだ!僕が間違った事しようとしてたら、はやては僕に注意してよ!」

「あはは、そやったらカイ君もわたしが間違った事しようとしてたら注意してや。」

 

真っ直ぐ過ぎるカイトなら約束を守る為に間違った事をしそうだと一瞬思ったはやては一応釘を刺しておくのを忘れなかった。

 

「うん!約束だよ!」

「ふふ、約束や」

 

父との約束、そしてはやてとの約束。

 

この二つの約束は絶対に破らないと心に誓うカイトであった。

 

 




次の話も文字数足らないかもと不安になってきました…
でも4話以降からは文字数が増えていきます。
慣れてきたんでしょうかね?


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第4話 小学校


年末スペシャルって事で連日の投稿です!
前回の予想通りまたまた文字数足りませんでした…大急ぎで加筆しての投稿です!
そして遂にあの3人娘が登場です!



 

カイトが聖祥大附属小学校に入学して数週間が経った。友達といえる存在もでき始め小学校にも慣れてきた。

 

「おはよう!カイト君!」

「おはよう。高町。」

「もういい加減名前で呼んでくれてもいいと思うの。」

「えーなんか恥ずかしいよ。」

「にゃははは…」

 

栗色の髪を薄いピンクのリボンでツインテールにした少女『高町なのは』はカイトの前の席に座る。

席が近い事もありよく話す様にはなったが未だに名前で呼ぶ事が恥ずかしいと言うカイトに、なのはは苦笑いを浮かべていた。

まだ入学してから数週間しか経っていない為、席替えはしておらず出席番号順のままだ。

 

「おはよう。カイト。」

「おはよう。カイト君。」

「バニングスに月村もおはよう!」

 

ブロンドの長い髪で勝ち気な少女『アリサ・バニングス』は自分の席に荷物を置くとなのはの席に来てカイトに朝の挨拶を交わす。

そして、カイトの後ろの席に座った紫色で少しウェーブがかかった髪で落ち着いた雰囲気の『月村すずか』もカイトと朝の挨拶を交わした。

 

入学してすぐに起きたある出来事をきっかけにこの三人とはよく話す様になった。

高町、月代、月村と出席番号順に並ぶ席にアリサが来て先生が来るまで会話を続ける。

学校生活が少々不安だったカイトにとって、毎朝繰り返されるこの時間の会話はは不安を消し去るには十分だった。

 

「カイト!次のテストも勝負するわよ!」

「えぇ…またやるの…?」

「当ったり前でしょ!今度こそ理数系でも勝ってみせるわっ!」

 

アリサは学業においては他の追随を許さず天才と言われる程の成績を収めているが、毎回理数系のみであるがカイトの方が点数が少しだけ良い為、事あるごとに勝負を吹っかけている。

 

「もうバニングスの勝ちでいいよ…」

「何よそれ!勝ち逃げなんて絶対許さないんだからっ!」

 

カイトは知的好奇心を満たすのが楽しいので勉強は好きだが、自分の成績に対してはあまり感心がない。

その為アリサから吹っかけられる勝負にもあまり乗り気ではない。

 

「アリサちゃんとカイト君はいつも仲良しなの!」

「仲良し…なのかな…?」

 

ぎゃあぎゃあとまくし立てるアリサに観念したのか渋々了承するカイト。

その様子を見て仲良しと評するなのはと、その若干ズレた感覚のなのはに対してどう見てもアリサが一方的に絡んでいる様にしか見えず少し困惑するすずか。

 

「はーい!ホームルーム始めるよー」

 

先生が来ると授業を受けて休み時間にはなのは達や他の友人と話し、授業が終われば少し遊んで家に帰る。

 

こんな調子でカイトの日常は過ぎて行く。

 





これが年内最後の投稿です。
年明けから毎週火曜と金曜の週二回投稿にします。
来年もよろしくお願いします。
それでは良いお年を!


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挿話 喧嘩の仲裁


明けましておめでとうございます。

毎週火曜と金曜に更新という事は…
元日にも更新するという事!




小学校に入学してすぐの頃。

出世番号順で前の席に座る栗毛の少女とカイトは初めての日直の仕事をこなしていた。

 

「えっと、このプリントを職員室まで持っていけばいいんだっけ?」

「うん、そうだよ。あっ半分持つの」

「このくらい大丈夫だよ。」

「え…でも…」

 

結構な量のプリントだったが日頃から鍛えているカイトにはこれくらい造作もなかったが、すぐに手が塞がってしまう事に気付いた。

 

「じゃあ、扉開けてよ。」

「あ、うん分かったの!」

 

手伝える事が嬉しいのか笑顔で教室の扉を開ける栗毛の少女。

しかし扉を開けてすぐに飛び込んできた光景にカイトと栗毛の少女は言葉を失った。

 

「返してよぉ…それ大事な物なの…」

「いいじゃないの!ちょっと見せてって言ってるだけでしょ!」

 

ブロンドの髪の少女が紫髪の少女のカチューシャを取り上げていた。

 

唖然とするカイトだったが、とりあえず止めて事情を聞く為、持っていたプリントを隣の少女に渡そうとしたが、隣にいたはずの少女はすでに走り出していた。

 

バチンッ!と廊下に響く乾いた音の方を見ると、さっきまで隣にいた少女がブロンドの髪の少女に平手打ちをしていた。

 

「痛い?でも大事な物を取られた方がもっと痛いんだよ?」

「何すんのよっ!」

 

さらに唖然とするカイトだったが、そんなカイトには見向きもせずに取っ組み合いの喧嘩に発展する二人の少女。

その喧嘩の後ろでは、あわあわとどうしたらいいか分からず慌てていた紫髪の少女がカイトに目線で助けを求めてきた。

恐らく見るのは人生初であろう少女達のガチ喧嘩に呆然としていたカイトはその目線に気付きハッと我に返った。

 

「ごめん、ちょっとこれ持ってて。」

 

カイトは紫髪の少女にプリントを渡すと喧嘩する二人の間に一瞬のうちに移動し、平手打ちを繰り出そうとしていたブロンドの髪の少女の腕を掴み、さらに平手打ちに応戦しようとしていた栗毛の少女の腕も掴んだ。

 

「はい、ストップー。」

「な、何なのよアンタッ!」

「ふぇ?いつの間に?」

 

止められてさらに怒るブロンドの髪の少女と一瞬で現れたカイトに驚き変な声を漏らす栗毛の少女。

 

「ちょっと離しなさいよっ!アンタには関係ないでしょ!」

「関係あるよ。間違った事をしてるから注意するんだ。約束だからね。あ、それと先生が来るまで離さないよ。」

「約束?」

「誰か先生呼んできてよ。」

 

「あなた達何をやってるの!」

 

カイトが周りの生徒に先生を呼んできてくれる様に頼むと、すでに誰かが呼びに行ってたらしくナイスタイミングで先生が到着する。

四人は職員室に連れられて行き、職員室で事情を説明し説教を受けた後、少女三人は仲直りしたらしく三人揃ってカイトに謝りにきた。

それを笑って許したカイトだが、いつの間にか名前で呼ばれている事に少々驚いていた。

 

 

「カイト君、あの…さっきの約束って?」

「あぁ幼馴染と間違った事をしてたら注意し合おうって約束してるんだ。」

「すっごく素敵なの!」

 

なのはは日直の仕事である黒板消しをしながら先程起こった出来事の最中にカイトが言った約束の事が気になり聞いてみると思ったより素敵な約束事に胸の中が暖かくなるのを感じた。

 

 

「僕も止めようとしたんだけど、完全に出遅れたよ。悔しいな。」

「にゃはは、体が勝手に動いてたの。でもカイト君の方が凄かったの!いきなり現れたから驚いたの!」

「僕、剣術をやってるからあれくらいは普通だよ。」

「ふぇ?うちのお父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんも剣術をやってるよ?」

 

 

それを聞いたカイトはテンションが上がり高町家の剣術について聞いたり、自分の父親がどれだけ強いか語ったりしてしばらくなのはを困らしていた。

 




過去話を書きたくて挿話という形で書いてみました。
本編とは関係ない話って書くの楽しいですねw
次の更新から通常ペースに戻ります。
毎週火曜と金曜に更新!


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第5話 緊急連絡


前回投稿後にお気に入り件数が増えている事に気付き驚いたと同時にテンションが上がりました!
お気に入り登録してくださった皆さん!本当にありがとうございます!



 

小学校に通い始めて数ヶ月。

はやての影響か最近は料理に興味を持ち始め、知らない事を知るのが楽しい知的好奇心旺盛な月代(つきしろ)カイトは料理の腕もメキメキと上達しており料理の苦手な母エレナも助かっている。

 

授業が終わると、入院する事が多くなり小学校を休学する様になったはやてのお見舞いや、母親の代わりに料理をする為にすぐに帰宅するので学校帰りに友達と遊ぶ事はほとんど無い。

 

 

月代(つきしろ)君!今お母さんから連絡があって…とりあえず今すぐ帰りなさい!」

 

午後の授業が始まろうかという時に担任の先生が慌てた様子で教室に入ってきた。

先生が入ってきたと同時に告げられた言葉にカイトは不安になる。

 

「…え?何だろう…?」

「と、とりあえず急いだ方がいいと思うの!」

 

前の席の高町なのはに急かされカイトは荷物を持って急いで教室を出た。

小学校から自宅まで帰る途中に何があったのか色々考えてみるが何も思い付かず、分からないとなると一掃不安になってくる。

 

「あっカイト!早く!早く!」

「母さん!何があったの?」

 

家の前で待っていたエレナはカイトの姿を確認すると待機させていたタクシーに、カイトを放り込むと運転手に頼みんで出発してもらった。

未だにエレナは不安そうな表情を浮かべるだけで何があったのか、どこに向かっているのか教えてくれない。

 

 

タクシーの窓から見える景色はどこか見覚えがある。

 

近付いていく建物にも見覚えがある。

 

「…病院?」

 

タクシーが停まり車から降りて見上げた建物は、はやての付き添いで何度も来た事がある「海鳴大学病院」だった。

 

まさか、はやての身に何かあったのかとカイトは不安を募らせる。

 

タクシーを降り病院に入るとエレナは受付で何かを確認するとカイトの腕を引っ張ってどこかに向かう。

相変わらずエレナは不安そうな表情を浮かべたままで何を聞いても何も答えてくれない。

 

「ICU?」

 

引っ張られながら辿り着いた場所は集中治療室だった。

その中のベッドに横たわる人を見てカイトは思わず大声で叫んだ。

 

 

 

「父さんっ!?」

 

そこには包帯を巻き人工呼吸器を付けて微動だにしない父ソウジの姿があった。

 

「御臨終です…」

 

 

今、何て言った?

 

御臨終?

 

その言葉は知っている。人が亡くなった時に使う言葉だ。

 

じゃあ、誰が死んだ?

 

誰が?

 

…父さん?

 

…父さんが…死んだ?

 

 

知的好奇心が旺盛過ぎた為に医者の言う言葉の意味を理解してしまいカイトは目の前が真っ暗になった気がした。

 

 





またまた文字数足りませんでした…
焦って加筆した結果1000文字ぴったりになりました。



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第6話 決意


少し重たい話になります。



 

ソウジは交通事故に巻き込まれ病院に運び込まれた時には虫の息だったらしく、カイト達が病院に着いた時にはすでにこの世を去っていた。

 

葬式も終わって数日が経っても未だにカイトは学校を休んでいる。

食欲も無く自室のベッドに寝転んで呆然と天井を見上げている。

はやても心配して何度か来てくれてるが(ろく)に話もしていない。

 

目を閉じると父との楽しかった思い出が蘇ってくる。

 

家族で遊園地に行った時の事

 

家族で旅行に行った時の事

 

家族とはやてで水族館に行った時の事

 

家族とはやてで動物園に行った時の事

 

家族とはやてで食卓を囲む毎朝

 

早く帰ってきた時に一緒に入るお風呂

 

休日に剣術の稽古後みんなで囲む食卓

 

 

最初は家族三人で途中からはやても加わり色々な所に行った思い出。

その次に思い出すのは穏やかな日常の出来事。

 

そして思い出すのは一番古い記憶

カイトが物心ついた頃に見た剣術の稽古をしている父の姿

 

その姿に憧れ剣術を教えてもらう為に必死で頼み込んだが断られた事

 

断られても何度も頼み込んでやっと教えてもらえる許可が出た時の事

 

あまり回数は多いとは言えないが何度も剣を交えた日々

 

数日間ずっと思い出しては泣いていた。

 

 

父さん…

 

僕、父さんがいないと嫌だよ…

 

父さんがいなくなったら僕は誰に強くなったのを見せればいいの?

 

 

 

あれ?

 

 

何で強くなりたいんだっけ?

 

強くなって何をしたいんだっけ?

 

 

 

『カイト。何故剣術なんだ?』

『父さんみたいに強くなって母さんやはやてを守りたいんだ!』

 

 

そうだ。思い出した。

 

僕は父さんが僕達を守ってくれてるみたいにみんなを守りたかったんだ。

 

 

 

『じゃあ、父さんがいない時はカイトが母さんやはやてちゃんを守ってくれるか?』

 

 

カイトは父の言葉を思い出すと勢いよく起き上がり涙を拭いて自室を出る。

 

階段を降りていくとエレナの泣き声が聞こえた。

葬式の時は気丈に振る舞い涙を見せなかったが一人になると抑え切れずに泣いてしまっているのをカイトは知っていた。

 

「母さん。」

「…カイト?」

 

エレナはカイトの顔を見る。

その表情は何かを決意した様なそんな表情だった。

 

 

「父さんとの約束を思い出したんだ。これからは父さんの代わりに僕が母さんとはやてを守る。」

 

エレナは、こんな小さな子が悲しみを乗り越えて前に進もうとしているのに自分は何をメソメソしているんだと思い後悔すると同時に息子の成長に感極まりまた涙が溢れてきた。

 

「僕、頑張って強くなるから…だから泣かないで…母さん。」

「ありがとうカイト…私も頑張るわ。」

 

 

ふと、カイトがリビングのテーブルを見ると作り置きされた料理と、はやてが残した書き置きがあった。

 

「はやてにも謝らなきゃ!」

「ふふ、そうね。」

 

数日振りに月代家に笑顔が戻った。

 

 





買い溜めている時は結構文字数多いと思ってたんですが、1000文字ちょっとでした。
もう毎回1000文字くらいの路線を目指そうかなって思っちゃいますね。


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第7話 高町家 前編


長くなりそうなので二つに分けました。と言うのを一度やってみたかったんですが結局1500文字でした。



父ソウジがこの世を去ってから一週間が経ち、今日から小学校に登校したカイトは自分の教室の扉の前に立っていた。

たった一週間なのに何故か随分と久しぶりな気がして少し緊張しながら扉を開ける。

 

「お、おはよう。」

「お!月代(つきしろ)久しぶり!」

「カイト!おはよう!」

 

若干緊張しながら久しぶりにクラスメイトとの朝の挨拶を交わして自分の席に座る。

幸い席替えは行われなかった様で休む前と同じ席で間違いなかった。

 

「あっ!カイト君!おはよう!」

「おはよう高町。」

 

カイトの少し後に教室に着いた高町なのははカイトを発見すると笑顔で挨拶を交わす。

アリサ・バニングスと月村すずかもカイトに気付いた様で同じく挨拶を交わし、休んでいる間に学校であった事等を教えて貰ったのでカイトも近況を報告した。

 

カイトの父が亡くなった事はすでに担任の先生がクラスメイトに説明していたので、なのは達は気を使って話題にしない様に前々から示し合わしていたのだが、カイトの方から近況を報告してきたので三人は拍子抜けといった感じになっている。

 

「アンタ随分アッサリしてるわね…」

「寂しいけど父さんと約束したから。強くなるって…」

 

アリサが少し呆れながら言うとカイトはその目標に向かって前に進む事を決意した表情で父との約束の事を語る。

 

「強くなるってやっぱり剣術で?でも…その…お父様との稽古はもう出来ないんじゃ…」

「そこが問題なんだよね…誰か剣術の稽古に付き合ってくれる人いないかな?実戦形式だと嬉しいんだけど…」

「良かったら、ウチのお父さんかお兄ちゃんに聞いてみよっか?」

 

すずかが少し聞き辛そうに質問するも気にするなと言わんばかりの様子でアッサリ現在の悩みを答えるカイトに天の助けかと思う程の提案がなのはから出された。

 

「ホントに!?いいの!?」

「う、うん!ち、近いの…」

 

カイトはガタッと音を立ててイスから立ち上がり、なのはの肩に手を乗せ顔を寄せた。

なのははあまりの食い付きっぷりに驚くと同時に顔が近い事に気付き若干照れながらカイトを押し戻し今日の放課後に一緒に高町家に行く約束をした。

 

改めてカイトを見てみると期待に満ち溢れた表情でカイトの少しブルーがかった瞳がキラキラと輝いている様に見えた。

 

本日の授業が終わり放課後。

朝に交わした約束が楽しみ過ぎて今日一日ずっとソワソワしていたカイトは最速で帰り支度を済ませ、なのはを引きずる勢いで教室から出て行った。

 

「カイトって剣術の事になるとキャラ変わるわね…」

「うん、あんなカイト君初めて見たよ…」

 

ドタバタと教室を出て行く二人を見ながらアリサとすずかは初めて見るカイトの剣術馬鹿っぷりに呆れていた。

 

 

高町家への帰り道カイトとなのはの二人は並んで歩いていた。

カイトも落ち着いたらしく先程の暴走を謝り今は普通に話しながら歩いている。

会話の中で高町家が喫茶店を経営している事に驚いたり、その喫茶店が海鳴市では結構有名でカイトも一度家族で訪れた事がある『喫茶翠屋(きっさみどりや)』だという事にさらに驚いたりしていた。

 

商店街にある喫茶翠屋に着くと、なのはは両親であろう二人に事情を話している。

店内はピークが過ぎたいわゆるアイドルタイムらしく学校帰りの女学生や近所の奥様達がまばらに座りティータイムを楽しんでいた。

 

「初めまして!高町さんと同じクラスの月代カイトといいます。」

「初めまして。なのはの父の高町士郎だ。よろしく」

「なのはの母の桃子です。よろしくねカイト君!」

「よろしくお願いします!」

 

なのはの父士郎と母桃子は一体何歳なんだろうと思わせるぐらいの若い容姿をしていてカイトは少し驚いた。

 

 

「事情は聞いたよ。ウチの道場を使ってくれて構わない。それと今日は恭也が家にいるはずだから稽古を頼んでみるといい。」

「はい!ありがとうございます!」

 

家主の了承を得て満面の笑みでお礼を言うとなのはに連れられ高町家の道場に向かった。

 




キリが良かったので分けたんですが正直分ける必要があったのか…
とりあえず1000文字くらいのを投稿するスタイルを貫いてみました。


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第8話 高町家 後編


通算UAが1000超えてました!
お気に入りも増えていて凄く嬉しいです!
本当にありがとうございます!



 

喫茶翠屋を出て住宅街から少し離れた所にある日本家屋に着いた。

表札には「高町」と書いてある。

 

「お、お邪魔します。」

「はい、いらっしゃいなの!」

 

結構立派な家だったので少し緊張しているカイトに対して、なのは笑顔で迎え入れる。

門を抜けると小さいながら道場が見えた。

 

「カイト君は先に道場に行ってて!今お兄ちゃん呼んでくるの!」

「あ、うん、お願いします。」

 

カイトは先に道場に入っていいのかと思ったが住人であるなのはに言われたので言われた通りしようと道場に入り座って待つ事にした。

 

「カイト君お待たせなの!お兄ちゃん連れてきたの!」

「ありがとう高町。」

 

少し待っていると、なのはと共に黒髪で端正な顔立ちをした『高町恭也』が道場に入ってきた。

 

「初めまして!高町さんとクラスメイトの月代(つきしろ)カイトです!」

「初めまして。なのはの兄の高町恭也(きょうや)だ。なのはから聞いたんだが剣術をやっているんだって?」

 

恭也はなのはから少し事情を聞いた様だが、こういった事は自分で説明しなければと思いカイトはここに来た目的を話した。

 

「ほう、それで俺に稽古をつけて欲しいという事か」

「はい!お願いします!」

「俺は君の流派の事は何も教えられないんだがそれでもいいのか?」

「はい大丈夫です。月代流剣術は基礎練習以外は同門や他流との実戦形式の稽古で磨いていくと父さんが言ってました。」

 

恭也が使う剣術は御神流という暗殺剣なのでおいそれと教えるわけにはいかない。

しかし、カイトはそんな事は織り込み済みな様子で答えた。

 

「そういう事なら俺でも大丈夫だな。分かった。引き受けよう」

「ありがとうございます!」

「しかし、何故そんなに強くなりたいんだ?」

 

カイトのお願いを聞いた恭也は先程からずっと思っていた疑問を口にする。

カイトはその疑問に対して亡き父との約束を語る。

 

「ふむ、約束か…じゃあ、俺とも約束してくれ」

「え?」

「その約束を絶対に忘れないと約束してくれ」

「は、はい!約束します」

 

悪戯っぽく笑う恭也にカイトは少し唖然としたが元気良く返事をして恭也と約束した。

満足そうな笑顔を見せた恭也は立ち上がり木刀を取りに行く。

カイトも立ち上がり木刀を借りる為に後を追った。

 

「ところで、君の流派はどんな流派なんだ?」

「月代流剣術と言って長刀の剣術です。一対一でも一対多でも対応できる古流剣術だって…父さんは言ってました。」

「なるほど、ならこれくらいの長さの木刀でいいか?」

「あ、はい!いつもこの長さでやってます。」

「よし、じゃあ少し打ち合ってみようか。」

 

そう言うと恭也は二刀の小太刀くらいの長さの木刀を逆手に持ち構えた。

対してカイトも姿勢を低くして木刀を構える。

カイトは対峙した瞬間、血の気が引いた気がして足が竦んだ。

 

「どうした?来ないのか?」

「いえ!行きます!」

 

ニヤリと笑う恭也にまた足が竦みそうになったが、カイトはなんとか気持ちを落ち着かせて走り出す。

 

猛スピードで接近し左下から片手で逆袈裟を放つも左の小太刀で防がれる。

 

防がれたがなんとか振り抜き手首を返し木刀を両手で持ち直して右上からの袈裟斬りを放つも右の小太刀で防がれる。

しかし今度は両手持ちを察知した恭也が防ぎながら小太刀を押し出していた為にさっきの様には振り抜けず衝撃で弾かれてしまった。

一瞬の隙を恭也は見逃すはずも無く左の小太刀で斬りかかって来る。

カイトはなんとか木刀を滑り込ませ防御するも衝撃で後ろに飛ばされた。

 

(ほう、スピードは想像以上だな。斬撃も速くて鋭い…これはさっき言ってた基礎練習とやらのおかげか…)

 

恭也がそう思っていると体勢を立て直したカイトが先程より速いスピードで走って来た。

 

(ふむ、まだ速くなるのか。とてつもない身体能力だな)

 

カイトは接近すると横薙ぎに一閃し防がれると同時に姿勢を低くして回転する。

回転した勢いを乗せながら足目掛けて一閃するも恭也は少し後ろ斜めに飛んで回避する。

回避されたのを見てカイトは回転を止めず一回転しながら飛び上がり両手で木刀を持ち下から斬り上げた。

 

「月代流剣術 満月(まんげつ)!」

 

下から上さらには木刀を縦に一回転させ満月の様な真円を空中に描いた。

今までの斬撃より速く放ったつもりだったが、恭也にはしっかり見えており小太刀を交差させて防ぎ、技の終わりに出来た隙に恭也は小太刀を叩き込んだ。

 

斬撃を受けたカイトは床に打ち付けられたが、しっかり受け身を取っていた様ですぐに立ち上がった。

 

「イテテ、最初に構えた時から思いましたけど、高町さんやっぱり凄く強いですね。」

「恭也でいいぞ?カイト君。君は今のままでも十分強いと思うが…」

「いえ!恭也さん!僕の目標は父さんみたいに強くなる事ですからまだまだです。」

「そうか、しかしスピードと斬撃の鋭さには正直驚いた。」

「父さんの剣術指南書のおかげですよ。毎日基礎練習やってますから!」

「ほう、剣術指南書…そんな物があるのか?」

 

カイトはカバンから一冊のノートを取り出し恭也に渡した。

恭也はそれを見ると感心すると同時に納得した様子を見せた。

 

「ふむ、この指南書はよく出来ているな。確かにこれさえあれば、後は実戦形式の稽古で十分だ。」

「あの…恭也さん、そこでお願いがあるんですけど…」

「ん?また稽古に付き合って欲しいのだろう?別に構わんぞ。」

「あ、ありがとうございます!」

「最初から俺はそのつもりだったんだが?」

「え?」

「週二回くらいでいいか?」

「え?」

「そうだな…俺の都合が悪い時は美由希(みゆき)にも手伝わせよう。」

「え?」

 

完全に恭也のペースに巻き込まれ戸惑うカイトを尻目に、恭也はこの状況を楽しむ様に笑いながら話をトントン拍子で進めていった。

 




2000文字超え…だと…?
前編と合わせると4000文字弱になるんですね。
二話に分けて正解だったかなと勝手に思ってます。


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第9話 覚醒


うん。文字数が増えてきました。
あ、もうすぐ第1章が終わります。



 

いつも通りに小学校の授業が終わり帰宅するとカイトは首から下げている鍵で家のドアを開けた。

 

「ただいまっと…」

 

父ソウジの死後、母エレナは事務のパートに出る様になり先に帰ってくるカイトは家の鍵を持って学校に行くのが当たり前になっていた。

鍵は三日月型をした黄色の綺麗な石が付いた紐に結ばれており、カイトはそれを無くさない様にと首から下げて持ち歩いている。

綺麗な石ではあるが宝石では無くエレナがどこかで貰ってきた物らしい。

 

最近は学校が終わると一度家に戻り着替えてから高町家に稽古に行ったり、入院しているはやてのお見舞いに行ったりしているが、毎日エレナが帰る前には必ず家に帰り夕食を作るのが日課になっている。

 

今日は高町家に稽古に行く日なので着替えてタオルや剣術指南書等が入ったバッグと木刀の入ったケースを持ち家を出て鍵を閉める。

 

高町家に着き呼び鈴を鳴らすと恭也のもう一人の妹でなのはの姉である眼鏡を掛けて黒髪を三つ編みにした『高町美由希(みゆき)』が出迎えてくれた。

 

「美由希さんこんにちは。」

「カイト君いらっしゃい。今日は私も恭ちゃんも都合悪いんだけど、お父さんが稽古付けてくれるって」

「え!本当ですか!?」

「うん本当。お父さんと稽古するの初めてだっけ?お父さん恭ちゃんより強いから頑張ってね〜」

 

美由希の話に少し緊張しながらいつも通りの道で道場に向かう。

まだ誰もいない道場に入るとストレッチをして体をほぐし剣術指南書を見ながら基礎練習を始める。

 

「やぁカイト君。もう始めてるのか」

「士郎さん!こんにちは。お邪魔してます。今日はよろしくお願いします!」

 

なのはの父高町士郎(しろう)は、うむと頷きカイトの側にある一冊のノートに目を向けた

 

「それが剣術指南書かい?ちょっと見ていいかい?」

「もちろんです!どうぞ!」

 

士郎はノートを手に取りページを捲りながら時折感心した様な声を上げる。

 

「恭也が言ってた通りだね。これはとても良く出来ている。あぁ邪魔しちゃったね。基礎練習続けてくれていいよ。」

「後からでも出来るんで大丈夫ですよ。稽古付けてください。」

「いや、僕が見たいんだ。恭也達から聞いて興味があったんだ。お願いできないかな?」

「は、はい、分かりました。」

 

誰かに見られながら基礎練習をするというのは初めてだが、別に見られて困る物でもないので基礎練習を続けた。

士郎はその様子を目をそらすこと無くしっかり見つめていた。

 

基礎練習が終わり少し打ち合った後、士郎が少し話そうと言うので、今は正座して二人は向き合っている。

 

「カイト君。恭也からも聞かれたと思うが、何故強くなりたいんだい?」

「強くなってみんなを守りたいからです。父さんともそう約束しました。」

 

カイトは最初よく聞かれるな、と思いながらも士郎の真剣な表情を見て気を引き締めハッキリと答えた。

 

「そうか…だが誰かを守るというのはそんなに簡単な事じゃないのは分かっているかい?」

「もちろんです。だからその為に力が必要なんです。」

 

士郎はカイトの言葉に若干眉をひそめた。カイトの表情は真剣そのものだ。

 

「確かに守る為には力が必要だ。しかし、その力を使うには別の強さが必要なんだ。それが何だか分かるかい?」

「別の強さですか…?うーん…」

 

カイトはしばらく考えてみたが何も思い付かず分からないと答えた。

 

「それは心の強さだよ。」

「心の…強さ?」

「そうだ。守る為に戦う。戦う為には力が必要だ。そして、その力を正しく使うには心の強さが必要なんだ。いいかい?力という物は良い事にも悪い事にも使える。その力を使うのは君自身だ。だから、君の心の強さが必要なんだ。」

「大丈夫です!悪い事には使わないって決めています!それに…もし悪い事をしている人がいたら注意するっていう約束もしています。」

 

カイトの揺るぎない決意を聞いた士郎は満足した表情で頷き、その表情を見たカイトはホッと胸を撫で下ろした。

 

「じゃあ、少し本気で打ち合おうか?君は今まで僕や恭也と美由希、そして君のお父さんとしか戦った事が無いだろう?…本当の実戦というのはまだ経験した事が無いはずだ。」

「そうですけど…実戦なんて…そんな状況になった時でもいいんじゃないですか?」

「いや、慣れてないと意外に動けないものだよ?一歩踏み出す勇気も心の強さの一つさ。これは実際に経験しておいた方がいい」

 

士郎は立ち上がり小太刀を構える。カイトもそれを見て立ち上がり木刀を構えた後に気付く。

 

(え?う、動けない…)

 

士郎から発せられる殺気に完全に飲まれ、体が緊張し金縛りにあった様に動けない。口も動かないので喋る事も出来ない。

 

(何だこれ…怖い…)

 

「どうした?この程度の殺気で動けない様なら誰も守れないぞ?」

 

今までの士郎からは考えられないくらいの低い声を聞き、カイトはさらに緊張が増し動けなくなった。

 

 

守れない?このままじゃ守れない?

 

そんなの嫌だ!僕は母さんを、はやてを、みんなを守るんだ!

 

嫌だ!守れないなんて嫌だ!

 

 

 

ドクンッ

 

 

あれ?熱い…体が熱い?

 

いや、胸の辺りが熱い…

 

なんだろう?何かが体の中を流れる様な感じがする…

 

 

 

《魔力を感知しました。これより強制的に起動を開始します。》

 

(え?だ、誰?ってか魔力?)

 

《現在の状況を確認。極度の緊張状態と断定。危険な状態の為、強制的に術式を起動します》

 

(え?何?術式って何の話?)

 

頭の中に響く様に聞こえる女性の声からは理解出来ない単語ばかりで、聞き返しても答えてくれなかった。

 

(何か…前にもこんな事あったな…)

 

一方的に話が進んで行く状況に恭也とのやり取りを思い出していると、いつの間にかカイトの緊張は解けていた。

 

《…緊張状態の解除を確認。現在の最優先事項を推察…身体強化魔法の術式を起動しました。》

 

(え?身体強化?ん?何だか体が軽く感じる…これなら!)

 

「士郎さん…行きます!」

「ほう。もう動ける様になったか…意外と早かったね。」

 

カイトは一歩踏み出す。踏み出すと同時に自分の体じゃない様な感覚を覚えるが、一切無視して無心で走り出す。

一瞬で距離を詰めたカイトは士郎目掛けて横薙ぎの一閃を繰り出した。

 

「月代流剣術 半月(はんげつ)!」

 

士郎は自身が予想していた以上のスピードの斬撃に驚愕し反応が遅れた。

防御しようとするが間に合わないと判断し体を捻り回避を選択するも虚を突かれた分カイトの方が速く、綺麗な半円を描いた斬撃が士郎の左腕を掠めた。

 

「見事な一撃だったよ。」

「やった…やったー!僕、士郎さんに…一撃入…れた…ん……」

「ッ!カイト君っ!」

 

現状高町家で一番強い士郎に一撃入れれた事に喜びを爆発させたカイトだったが次の瞬間一気に体の力が抜けカイトは意識を失った。

 





やっと魔法が出ましたね。
さぁ、魔力が覚醒したカイト君はこれから一体どうなってしまうのか!と大した事無いのに無駄に引っ張ってみる。


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第10話 告白


文字数増えてきたんで慌てて加筆する事も無くなりました。
どこかで主人公設定入れたいなぁ



エレナは自宅のベッドで眠る息子の手を取り心配そうに見つめていた。

 

士郎からカイトが倒れたとの知らせを受け職場に無理を言って早退させてもらった。

幸い理解のある職場だった為、同僚には若干急かされて病院に向かった。

病院に着くと医者から命に別状は無いし、何かの病気でも無く、ただ単に気を失っただけと説明されてホッと胸を撫で下ろした。

 

士郎からは散々頭を下げられたが、エレナにとって剣術の稽古中の気絶は日常茶飯事なので、気にしないでくださいと伝えている。

 

ただ、稽古中の気絶は日常茶飯事でも十分くらいすれば自然と目が覚めるので、いつもは放っておくのだが今回は二時間近く眠っているので流石に心配しているエレナだった。

 

「う…うーん…あれ?母さん?」

「カイト!目が覚めたのね!」

「えーと…僕の部屋…?あ!そうか…僕、気を失ってたんだ」

「もう!心配したのよ?こんなに長く気絶してた事なんて初めてだから…」

 

目を覚ましたカイトは母がいる事に少し疑問を感じたが記憶を手繰り寄せ状況を整理した後落ち着き心配をかけた事をエレナに謝った。

 

「一体何があったの?」

「えーとね…よく分からないんだけど…」

 

カイトは先程起こった出来事を話し出す。

士郎に戦う心構えを問われた事

殺気を受けて動けなくなった事

誰も守れないと言われた事

心の中で嫌だと叫んだ事

胸の辺りが熱くなった事

体の中に何かが流れ込んでくる感覚があった事

頭の中に聞こえてきた声の事

急に体が軽くなりいつも以上の動きができた事

士郎に一撃入れた事

 

「そう…カイト?聞いてもいい?声が聞こえたのね?何て言ってたの?」

「えーと、魔力とか術式とか言ってたよ?何の事かよく分からなかった」

「なるほど、そうゆう事ね。」

「え?母さん分かるの?」

 

長く話していたがエレナが気になったのは頭の中に聞こえた声の事だった。

カイトが詳細を話すとエレナは納得した表情を浮かべた。

 

「その言葉は良く知ってるわ…」

「ホントに!?何なの魔力って!?」

「説明は後。その前に確認しとかないとね?」

「え?確認?」

 

知っていると言われてカイトは驚き知的好奇心のまま質問するが、またもや良く分からない状況にカイトは困惑した。

 

エレナを見ると先程まで面と向かって話していたエレナの視線がカイトの胸の辺りに向かっているのを見てカイトも自分の胸の辺りを見る。

そこには家の鍵と三日月型の綺麗な黄色の石があった。

 

「あなたも起きているんでしょ?」

「へ?母さん?」

 

《…お久しぶりです。エレナ様》

 

「うわーっ!何?今の声!」

 

自宅の部屋の中にはカイトとエレナの二人しかいないはずなのに、あたかももう一人いる様に話す母に一瞬思考が追いつかなくなるが、母の問いに答える様に聞こえてきた機械音声の様な女性の声にカイトは驚愕する。

エレナはその様子を見て意地悪そうな笑顔を見せた後、エレナは謎の音声と会話を続ける。

その様子に完全に言葉を失うカイトだったが音声の発生源が三日月型の石からだと分かるとさらに驚愕した表情になった。

 

「…喋る石だ。」

「あはは、違うわよ。それは石じゃなくてデバイスよ。」

「デバイス?」

 

カイトがトンチンカンな感想を漏らすとエレナは笑いながら石を指差し正式名称らしき物を口にした。

デバイスというのはコンピュータのハードウェアや電子機器の事だと理解していたカイトにとって、どう見てもただの石しか見えない物体を再度見て不思議そうな顔をエレナに向ける。

 

「そうね。じゃあ、順を追って説明するわね。」

《私もその方がいいと思われます》

 

デバイスの音声にも促されエレナは話し出す。

その告白はこの世界では今まで()()()()()知らなかった秘密。

 

「私はね…魔法使いなのよ!」

「はぁ!?母さん何言ってるの?」

《…エレナ様それは唐突過ぎます》

「いいから聞きなさいっ!」

「えぇー…」

 

話の一発目から待ったをかけるカイトとデバイスに対してエレナは間髪入れずに黙って聞く様に言い放ち、カイトは若干不満があったものの母の勢いに負けて黙って話を聞く事にした。

 

エレナの話は衝撃的だった。

地球とは別に沢山の次元世界があるという話から始まり、エレナの故郷は外国ではなく数ある次元世界の中にあるミッドチルダの首都クラナガンという所だという事。

そしてミッドチルダでは高度な文明と魔法文化が盛んで数多くの人間が魔法を使えるという事。

魔法を使うには魔力が必要で、魔力は体内にあるリンカーコアという器官で精製されるという事。

魔法を使う時にはデバイスに補助してもらう事が一般的で、デバイスはそれ以外でも様々な場面でサポートしてくれる相棒の様な物だという事。

 

「さっきカイトの身に起きた事はリンカーコアが覚醒して魔力が溢れ出し魔力を感知したデバイスが起動してカイトを補助したって訳ね!」と付け加えさらにエレナは話を続けた。

 

魔法が使える人は魔導師と呼ばれ、その魔法の力を使って犯罪者を取り締まる次元世界の平和と秩序を守る時空管理局という組織があるという事。

そして結婚する前はその時空管理局に勤めており、次元航空鑑に配備される武装隊の一員だったという事。

 

「えぇっと…つまり母さんは魔導師で僕にも魔力があって、母さんは昔悪い人達を取り締まる警察みたいな所で働いていたって事?」

「流石カイトね!理解が早い!」

「う、うん…話は理解したけど信じられないよ…」

「じゃあ、論より証拠ね!ちょっと見てなさい!」

 

カイトは目を疑った。

目の前でエレナの立っている場所から円状の何かが現れるとエレナの体が宙に浮いたのだ。

そして宙に浮いたまま腕を前に出し、人差し指を立てて目を閉じると指の先に黄色の球体が現れた。

人差し指を降ろすと黄色の球体は指から離れカイトの周りを飛び回った。

カイトが触れようと手を伸ばすが、黄色の球体はまるで意思を持っているが如く動き回りカイトの手から逃れていった。

 

「ハァハァ…や、やっぱり久しぶりな上にデバイス無しだとキツイわね…」

「母さん…凄い!凄いよ!」

 

先程の話を粗方理解はしたが信じられなかったカイトは目の前で起こる摩訶不思議な出来事を目撃し信じざるを得なかった。

そしてカイトは知的好奇心の旺盛さが全面に出た様子で興奮し、黄色の球体を消し宙から降りてきたエレナに笑顔で駆け寄った。

 

「母さん!僕にも魔法教えてよ!」

「言うと思ったわ…」

 

満面の笑みのカイトを見て、カイトが次に言う事をエレナはこれまで息子を育ててきた経験から正確に予測できており、その予測と全く同じ言葉に呆れていた。

 




というわけで母親は元魔導師でした。
あと2話で第1章終了です。
ストック作る為に第2章の投稿少し間を開けるか考え中です。


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第11話 決断


今までと違って魔法が全面に出てきます。



カイトは学校が終わるとすぐに帰る。

 

学校の友人達は父が亡くなり色々大変なんだろうと気を使って遊びに誘わなくなっていた。

今日は高町家に行く日でもなく、はやてと一緒に過ごす日でもないので、スーパーで買い出しして帰宅した後は、自宅の庭で剣術の基礎練習と魔法の訓練をする予定だ。

 

「じゃあ、結界の展開お願い。」

《了解しました。結界を展開します》

 

剣術の基礎練習が終わり庭全体に結界を張る。

魔法は見られると色々困るので訓練をする為には結界を張らなければならない。

 

「まずは魔力運用トレーニングからだね。メニュー出して」

《了解しました》

 

魔力運用は魔導師にとって基礎中の基礎で魔力運用に失敗すると自ら身を滅ぼしてしまう。

先日カイトが魔法を初めて使った時に気を失ったのは、いきなりだった事もあり魔力運用に失敗したのが原因だった。

そんな経験をしているからか、カイトは魔力運用トレーニングは特に時間を割いている。

 

「うん、結構上手くなってると思うんだけど…どう思う?」

《そうですね。トレーニングの効果はしっかりと出ていると思います》

「よーし!じゃあ、次は魔力弾の特訓だ!」

 

魔力運用トレーニングは毎日欠かさず行っているのでカイトの魔力運用は自身の才能もあり結構なレベルに達している。

魔力運用トレーニングを終え射撃魔法の訓練に移る。

 

深呼吸を一つしてカイトは母に習った通りに魔力弾を生成する。

手の平に魔力弾を浮かべ意識を集中し魔力を送り込むと魔力弾はドンドン小さくなり炸裂した。

 

「うわっと!まただ…何でだろう?魔力を込めても大きくならないし安定しない…何でだと思う?」

《分かりません。厳密に言うと私はあなたのデバイスではありませんので》

 

カイトの首にかけてある三日月型の石状のデバイスは元々エレナの物であり、エレナが地球に住む事になった時にデータを初期化していた為に簡単な魔法の補助は出来るが中身はほぼ新品同様の状態なのだ。

その為、カイトの魔力適正など分からないので補助のしようがない。

 

《一度正式な適正検査を受けるべきです。どんな適正があるか分かればトレーニング方法も見直せます》

「ミッドチルダに行かないと検査できないんでしょ?とりあえず僕に射撃魔法は向いてないってのは分かるよ…」

 

魔法の訓練を切り上げ結界を解き夕食の準備に取り掛かる。

夕食の準備を粗方終わらせた頃にはエレナも仕事から帰宅しているので一緒に夕食を取りながら、エレナに魔法の事を聞いたり今日の魔法の訓練の事を話していた。

 

「カイト?ちょっとお話があるんだけど聞いてくれる?」

「何?母さんどうしたの?」

 

夕食を食べ終え片付けも済んで少しゆっくりしていると、突然エレナが話を切り出した。

その表情は真剣でありカイトは不思議に思ったが姿勢を正して向かい合う。

 

「あのね?母さんね。ミッドチルダに引っ越そうかと思ってるんだけど…」

「えぇっ!いきなりどうしたの?」

 

カイトは思いもよらなかった提案に驚愕した。

エレナによると今の収入じゃ将来的にキツくなるし、会社に就職しようにもエレナは地球出身じゃないので色々難しいと考え、故郷のミッドチルダなら身元も確認できるし管理局に知り合いもいるからもう一度勤める事が出来るという事らしい。

 

「もちろんカイトの生活が最優先よ?高町さんとの稽古もあるし、はやてちゃんの事もあるわ。」

「うーん…」

「ミッドにも探せば模擬戦の相手は見つかるわ。それにミッドに行けば魔法の事もちゃん学べるわよ?」

「うーん、今すぐには決められないなぁ…あっ!そうだ!はやてに相談してくる!」

 

カイトにとってミッドへの引っ越しは魅力的な提案だった。

ミッドに行けば今一番知りたい魔法の事を思う存分学べる。

剣術だってミッドにも強い人は多分たくさんいるだろう。

しかし、カイトにとって一番大切な事は、はやてを守るという事だ。

ミッドに行けば簡単には帰って来れない。

 

ただそれだけが気がかりだった。

 

「はやてー入るよー?」

「え?カイ君?な、なんや?こんな時間に!どないしたんや?」

「…ちょっと、はやてに相談があるんだ…」

 

いつも通り合鍵で家に入り、入るや否や先程のエレナの提案を相談した。

もちろん、魔法の事は伏せているのでミッドチルダではなくエレナの故郷という設定のイタリアに引っ越すと話を変えて相談した。

 

「あんなぁ…それは私がどうこう言える話ちゃうやろ…」

「え?僕がイタリアに行ったら、はやてを守れないんだよ?」

「私は大丈夫や!カイ君は気にしすぎや!この事はカイ君が自分で決めなあかんよ?」

「う、うん…」

 

はやては全く気にする素振りもなくカイトの相談を突っぱねた。

本人に大丈夫と言われカイトは自宅へ歩きながら考える。

 

考えるというより一番気がかりだったものが杞憂に終わった事で、すでに答えは出ている様なものだった。

 

「よし!決ーめた!」

 

カイトはあっさり決断を下した。

その表情は自らの知的好奇心を抑え切れない時に見せる満面の笑みだった。

 




正式なマスター登録をしていないので詳しい魔力適正は分からないとかは自己解釈です。


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最終話 別れ


第1章最終話です。



大きな決断を下したカイトは翌日学校に着くと先に職員室に行き近い内にイタリアへ引っ越しする事を伝えた。

 

教室に行くといつもはカイトの後に来るなのは達が先に着いており、いつもの様に雑談を開始していた。

 

「今日は遅かったね。」

「先に職員室に行ってたんだ。」

「職員室に?…アンタ何したの?」

 

自分の席に座ると、なのはに声をかけられ遅く着いた理由を話すとアリサがジト目でカイトを睨んできた。

 

「何もしてないよ…ちょっと報告。」

「報告?何の?」

「先生が来てから言うつもりだったけど、高町達には先に言っとくかな。」

 

職員室で先生に伝えた時にホームルームで発表する手筈を整えていたが、クラスの中で一番仲が良いのはこの三人組だとカイトは思っているので先に話す事にした。

家の事情で母の故郷イタリアへ引っ越す予定がある事を伝えると三人は大層驚いており少し寂しそうな表情も浮かべていた。

ホームルームでクラスメイト全員に向けて発表した後は、休み時間の度にクラスメイトから怒涛の質問責めに少し疲れたカイトだったが何とかやり過ごし放課後を迎えた。

 

学校を出たカイトはまず海鳴大学病院へ向かった。

病院に着くと受付で石田先生を呼び出してもらう。

石田先生は、はやての主治医でカイトも付き添いやお見舞いで何度も会っている。

はやての事を特に気にかけてくれている良い先生だ。

 

「あら?カイト君一人?今日は、はやてちゃんの検診の日じゃなかったはずだけど…」

「少しお話がありまして…」

 

石田先生は少し疑問に思いながら何となく言いにくそうにしているカイトを見て診察室に連れて行った。

診察室で二人きりになるとカイトは近い内にイタリアに引っ越す事を伝えた。

 

「そう…でも、わざわざ来てくれたって事はそれだけじゃないんでしょ?」

「はい。先生!はやてをよろしくお願いします!」

「ふふふ、任せなさい!あなたが守れない分も守るわ。」

 

たった一言しか言っていないのに色々と察してくれた石田先生に、やっぱりこの先生は良い先生だと思いながら感謝しカイトは病院を出て次の目的地に向かって歩き出した。

 

商店街を歩いて次の目的地である喫茶翠屋に着いた。

店内に入るとエプロン姿の美由希がカイトに気付いた。

 

「カイト君?どうしたの?今日は稽古の日じゃないでしょ?」

「はい。今日は皆さんが働いている日なんで来ました。」

 

週二回の稽古の日取りを決める時に聞いていた、なのは以外の高町家の全員が翠屋で働いている日がたまたま今日だった。

美由希にみんなを呼んでもらい高町家にイタリアに引っ越す事を伝え、今まで稽古に付き合ってくれた事に感謝すると同時に引っ越しの準備の為、今日から稽古に行けない事を謝る。

 

「それじゃあ、本当に今までありがとうございました!」

 

店の前まで出て見送ってくれた高町家全員に深く頭を下げ喫茶店を出て最後の目的地に向かう。

 

今までお世話になってきた人達に引っ越す事を伝えていくと本当に地球を離れるんだなと実感が湧いてくる。

最後の目的地が近付くとカイトは少しゆっくりと歩いた。

まるで自分の心を落ち着ける様にゆっくりと。

 

目的地に着くといつも通り呼び鈴を鳴らして合鍵を使って中に入る。

いつも通りの動きのはずなのに上手く出来ない気がした。

どうやら相当緊張している様だ。

 

「ん?どないしたん?」

「えぇっと…」

 

八神家のリビングで向かい合っていると、さっきまで普通に伝えてた事が上手く言葉に出来なかった。

 

「昨日の事…決めたんやろ?聞かせて?カイ君。」

「え!あ、うん」

 

見透かされている事に驚き若干緊張が解けたカイトはイタリアに引っ越す事をはやてに伝えた。

 

「そっか。行くんか…イタリア…」

「えぇっと…そのゴメン」

「なんで謝るんや!カイ君が自分で決めたんやろ?ならええやないか!」

 

はやては笑っていた。

その笑顔を見てカイトは笑顔になる。

この笑顔がいつも自分に元気をくれる事をカイトは思い出していた。

 

 

それから二週間が経ち引っ越しの日を迎えた。

この二週間は引っ越しの準備に追われながらクラスメイトとのお別れ会を翠屋でやったり、最後の稽古として士郎、恭也、美由希と試合したり、はやてと料理を一緒に作ったりして最後の思い出を作った。

 

「はやて…」

「ん?」

 

月代家の前でわざわざ見送りに来てくれた石田先生が引く車椅子に座るはやてに近付き、カイトははやての手を両手で包み込む様に握ってしゃがみこんだ。

 

「な、何や!どないしたんや!?」

「はやて…はやてを守るって約束…遠くに行くから約束守れなくなる…ごめん…」

「もう!わたしは大丈夫や!確かに…ちょお寂しいけど…」

 

いきなり手を握られ真っ赤になるはやてを見ずにカイトは下を向いて謝る。

そんなカイトを見て、寂しさが込み上げきたのか下を向くはやて。

 

「でも!でもね!はやてを守るって約束と、悪い事をしたら注意し合うって約束は無くならないよ!約束は消えないよ。永遠に続くんだ。」

 

顔を上げてカイトは宣言する。

はやてもその言葉を聞き顔を上げた。

しかしその目には涙が溜まっている。

 

「僕ね!よく分からないけど、絶対また会える気がするんだ!」

「うっ…ぐす…そうやな…なんか…ひっく…カイ君に言われたら…そんな気がしてきたわ…」

 

はやてはいつまでも守ってもらう弱い自分じゃなく強い自分を見てもらう為に笑って見送りたかった。

しかし迫り来る別れの時間に耐えきれなくなり涙を流してしまう。

 

「…うっぐ…ひっく…ゴメンなぁ…笑って見送りたかった…のに…」

「はやて…笑って?僕、はやての笑顔が大好きだよ!だから笑って」

 

「ふふふ、ありがとう。でもさよならは言わんよ!だって…また会えるんやろ?」

「うん。絶対に会える。だから…はやて…行ってきます。」

「行ってらっしゃい。カイ君。」

 

はやてはカイトとエレナを乗せたタクシーを見送った。

大好きだと言ってくれた笑顔で。

 

 

 

「…石田先生すんません…一個だけ…我儘聞いてもらって…ええですか?」

「ええ、一個とは言わず何個でも」

「…うっ…ぐす…ありがとう…ございます…」

 

タクシーが見えなくなると、今まで我慢していたはやては石田先生の胸の中で思いっきり泣いた。

 




泣き声の描写が大変でした。
今でも本当にあんな感じで良かったのか不安です。
とにかく、これにて第1章堂々完結です!
第2章はストックを増やす為に少し間を開けようかと考えてましたが、やはり同じペースで投稿する事にします。


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第2章
第1話 ミッドチルダ



第2章突入!



 

「母さん!起きて!遅刻するよ!」

 

少しブルーがかった瞳に以前よりちょっとだけ長くなった黒髪を全部後ろに流している少年『月代(つきしろ)カイト』は朝食を作りながら、昨日残業で遅く帰ってきた母を起こす。

 

ミッドチルダに移住して三年が経ち、母エレナは時空管理局に内勤として復帰、カイトは嘱託魔導師の資格を取って管理局に協力している。

 

「ふわぁ…おはようカイト」

「おはよう。さっさと朝ご飯食べないと遅刻しちゃうよ?」

「あら?今日は局に行くの?」

「うん。この前依頼された任務の事後処理手伝ってくるよ」

 

エレナは管理局の制服の上にエプロンを着けたカイトを見て、制服が似合う様になってきたなと思いながら朝食を口に運ぶ。

嘱託魔導師のカイトは依頼があれば出撃し部隊に協力する。

協力した後は報告書を提出して終わりなのだが、カイトはその後も部隊に顔を出して事務仕事を手伝っている。

 

「その後はどうするの?」

「相手がいれば模擬戦やって、その後は無限書庫!」

 

無限書庫は管理局の本局にあり、数ある管理世界のほぼ全ての情報が集まっており探せば必ず情報が出てくると言われている場所であるが、情報は随時更新されているので整理が追いつかず一度迷えば遭難してしまうとの噂もある為、カイトは入口付近での情報収集に留めている。

 

「今は何を調べてるの?」

「古代ベルカの歴史!ほら、俺って近代ベルカ式でしょ?だからベルカって何だろう?って思ったら止まらなくなって…」

 

カイトがミッドに来て正式な魔力適正検査を受けたところ、魔力量もそれほど多くなく射砲撃の適正もあまりなかった代わりに身体強化や魔力付与の適正が高いので、ミッド式ではなく近年研究が進められている近代ベルカ式の術式を学ぶ事になった。

 

《エレナ様。そろそろ出発しないと遅刻してしまいます》

「え!?うわ本当だ!ありがとう月下(げっか)。ほら母さん急いで!」

《マスターの言う通りです。急いでください。エレナ様はもう少し時間に余裕を持つべきです》

月下(げっか)?…私に対して当たりキツくない?一応、元マスターなんだけど…」

 

月下(げっか)』とはカイトのデバイスで元々はエレナのデバイスだった。

エレナが地球に来た時にデータを初期化し色々な機能をオミットしたので、ほぼデバイスコアのみという状態だった。

それをそのままカイトが譲り受けミッドに来てから正式にマスター登録した。

以前は家の鍵に付けていたが、現在はネックレスにして首から下げている。

 

《今の私はマスターのデバイスです。エレナ様は早く子離れするべきです》

「あら?随分な言い草じゃない…」

《エレナ様はマスターに甘え過ぎだと思います》

「自分の子供に甘えちゃいけないのかしら?」

 

(また始まった…)

 

カイトがマスター登録してから毎日こんな感じで二人は口論している。

最初の方は止めていたが止めても終わらないので最近は口を挟まない様にしている。

 

《今日も朝食を作ってもらった上に起こしてもらうなんて普通は逆ではありませんか?》

「うぐっ!そ、それは…」

「月下?それは俺が好きでやってる事だよ。母さんも早く行かないと遅刻しちゃうよ?」

「そ、そうね…じゃあ先行くわね!カイト?お昼一緒に食べましょうね!行ってきます」

 

ドタドタと家を出て行く母を見て笑顔で見送るとカイトは、ふぅと溜息をつき朝食の後片付けを始める。

 

《マスター申し訳ありません。先程は少し言い過ぎました》

「ねぇ…月下?最近の母さん明るくなったと思わない?」

《確かにやっと以前の調子に戻った様な気がします》

「月下…俺、知ってるよ?月下がワザと母さんに突っかかってるって事」

《分かっていたのですね…流石は私のマスターです》

 

ソウジを亡くして息子の決意を聞いた後、エレナ明るく振る舞っている様に見えたが、やはり無理をしているらしく夜一人になると部屋で泣いているのをカイトは知っていた。

 

「だから…ありがとう月下。」

《私は元マスターが悲しむ姿を見たくないだけです》

「うん。俺もだよ。だからもっと強くならなくちゃ!」

《そうですね。それよりもマスター。そろそろ出発しないと遅刻します》

「うわぁ!もっと早く言ってよ!」

 

カイトも母と同じくドタドタと慌てながら家を出た。

 





第2章は魔法がバンバン出てきます。
ミッドチルダにいるんだから当たり前ですね。
そして第1章から三年が経ちカイト君は9歳になっています。
更に一人称も「僕」から「俺」に変わっていますが口調自体はあまり変わっていません。
後は髪形が変わっていますね。
後ろに流すといってもオールバックの様にビシッとしている訳では無くふんわり後ろに流してます。
髪を乾かす時に後ろに流してそのままといった感じです。


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第2話 クロノ・ハラオウン

さ、3000文字オーバー!?
この辺から文字数が増えていくと思いまーす。
では、第2話です。どうぞ!



以前、依頼され任務を協力した部隊で事務仕事を手伝い、お昼休みには約束通りエレナと昼食を一緒に食べてカイトは時空管理局の本局に来ていた。

 

時空管理局には本局と地上本部があり本局の事を「(うみ)」、地上本部の事は「(りく)」と呼ばれている。

しかし、両者の仲は良いとは言えないので現在カイトは「陸」の茶色い制服から「海」の青い制服に着替えている。

 

《しかし、何故本局へ?訓練ならば前回の様に地上本部でゼスト様やクイント様にお願いすれば良いのでは?》

「今日は射撃の得意な人とやりたいんだよね。」

《なるほど。この前のアレを試すつもりですね》

「そうゆう事。」

 

前回の訓練は地上本部のエース『ゼスト・グランガイツ』とその部下である『クイント・ナカジマ』に相手をしてもらい見事にコテンパンにされたが、とても有意義な訓練だった。

 

「とりあえず食堂に行ってみるか」

《そうですね。もしかしたらどなたかいらっしゃるかもしれません》

 

お昼休みの時間は過ぎているが、みんなそれぞれ忙しいので時間通りに昼食を摂る事はあまり無い。

なので運が良ければ誰かに出会える可能性がある。

そう考えたカイトは食堂に入り、辺りを見渡すと執務官である事を表す黒い制服の小柄な少年『クロノ・ハラオウン』と共に昼食を摂る少年より背の高い少女『エイミィ・リミエッタ』の姿が目に入った。

 

どうやら今日は運が良い日の様だ。

 

「クロノ!エイミィ!久しぶり!」

「ん?あぁカイトか。久しぶりだな」

「やっほー!カイト君」

 

クロノとはクロノの母である『リンディ・ハラオウン』とカイトの母エレナが旧知の仲であり母からの紹介で知り合い、エイミィとはクロノの紹介で知り合った。

 

「ところで今日はどうしたんだ?…嫌な予感しかしないんだが…」

「クロノ!模擬戦しよう!」

「あはは!予想通りだねー」

 

クロノとは三年前から家族ぐるみの付き合いをしているので、カイトは事ある毎に模擬戦を挑んでいる。

エイミィもその様子を以前からずっと見てきたので、予想を裏切らないカイトに笑顔が溢れる。

 

「はぁ…普段なら断るんだが…今日は少しなら時間がある。」

「やった!じゃあ早速…」

「いや待て。昼食くらい食べさせろ」

「訓練場の使用許可取れたよー」

「おいエイミィ…」

「ありがとうエイミィ!じゃあ先行ってるね!」

 

ドタドタとしながら洗練された動きで食堂を後にしたカイトを見ながらクロノは頭に手をやり溜息をついていた。

 

昼食を終えたクロノは訓練場でカイトと向かい合っている。

クロノはすでにバリアジャケットを身に纏い準備万端といった様子だ。

 

バリアジャケットとは魔力で作る防護服で魔導師が戦闘時に身に纏う物だ。

 

「よし!月下セットアップ」

《了解。セットアップ》

 

カイトが光に包まれ、やがて光が収まると黒いシャツと黒いズボンに白いロングコート姿のカイトが現れる。

コートの背中には黄色の縁で真円が施されており、手には手甲が装着され靴も鉄の様な素材で出来た物を履いている。

そしてデバイスの月下は黒い鞘に収まった日本刀の姿になり、左腰のベルトに付いている器具に支えられている。

 

「こっちも準備完了!」

「よし。じゃあ始めよう。」

 

模擬戦が開始するとクロノは宙に浮かび円状の魔法陣を足元に展開する。

カイトその場で日本刀と姿を変えた月下を鞘から抜く。

月下の刀身は銀色に輝き一般的な刀の様に見えるが刃は付いておらず実際には斬れない。

 

『じゃあ、月下。身体強化魔法と刀身に魔力付与。』

《了解しました。マスター》

 

念話で魔法の指示を出すとカイトの足元にも黄色い三角形の頂点にそれぞれ円が付いた魔法陣が現れ魔法が発動し刀身に黄色い魔力刃が付与される。

 

「スティンガーレイ!」

 

クロノが魔法のコマンドワードを発すると水色の魔力弾が猛スピードで真っ直ぐ向かって来る。

カイトは刀を振るい魔力弾を斬って消滅させた。

 

「チッ相変わらず、とんでもない動体視力だな。」

「その魔法はもう知ってるからね!」

 

カイトは飛行魔法を行使しクロノに近付き左下からの逆袈裟を放つが、クロノは障壁を張り刀身を止める。

止められた衝撃でバランスを崩したところにクロノのデバイスS2Uが迫る。

 

「ブレイクインパルス!」

 

クロノの近接用の魔法を体を捻って何とか避けながら斬撃を放つもクロノはそれを避け少し距離を置いて射撃を放つ。

カイトは射撃をかいくぐりながら接近し右から横薙ぎに一閃。

その斬撃も障壁に阻まれるがカイトはその場で一回転し逆側から斬撃を仕掛ける。

 

「月代流魔剣術 半月」

 

真横から水平に魔力刃を纏った斬撃を繰り出すがクロノは分かっていたかの様な動きで障壁を張りガードする。

ガードされるもカイトはさらに魔力を送り込み腕に力を入れ刀身を障壁に押し込むと障壁に罅が入っていく。

 

「何っ!?そうか!魔力圧縮か!」

「うおぉぉ!砕けろぉ!」

 

カイトがさらに力を入れると障壁は砕け散り斬撃がクロノを襲う。

直撃する瞬間に後ろに下がった為クロノのバリアジャケットに傷を付けただけに終わる。

クロノは堪らず距離を取り魔力弾を連射した。

カイトは直撃コースの魔力弾のみを斬り払い再度接近を試みるも、クロノの周りに多数の魔力刃が浮かぶ光景を目の前にして足を止める。

 

「これで決める!スティンガーブレイドエクスキューションシフト!」

「ちょっ!月下アレやるよ!」

《了解。コンプレッションシールド・オーラル》

 

コマンドワードを唱えると100を超える魔力刃がカイトを襲う。

カイトがクロノの魔法で一番苦手な魔法だ。

範囲が広く多量の為に避け切れず、かといって斬り払い続ける事も出来ないのでこれを出されると今まではなす術が無かった。

 

そう、今までは

 

魔力弾の連射が終わり煙が立ち込める方向を見てクロノも手ごたえを感じ勝利を確信していた。

煙が晴れていくとクロノは先程の勝利の確信は何処へやら驚愕の表情を浮かべた。

クロノの目に入ったのは黄色の球体の障壁に包まれるカイトの姿だった。

 

「よし!上手くいったね。月下」

《これであの魔法はもう怖くありませんね》

 

新しい魔法が見事に成功し若干気を抜きそうになったが、すぐにクロノを見てみると驚愕の表情を続けていた。

これはチャンスとばかりに接近するも途中で体の自由が効かなくなった。

 

「えぇ!バインド!?」

 

慎重なクロノが念の為置いておいた設置型のバインドに捕まり身動きが取れないカイトにクロノは魔法陣を展開する。

 

「ブレイズキャノン!」

「ぐわぁぁ!」

 

クロノの砲撃が身動きの取れないカイトに直撃し模擬戦は終了した。

 

しばらく気絶し目が覚めたカイトとクロノは訓練場を後にして休憩室で飲み物を買って休憩していた。

 

「ところでさっきの球体の障壁はオーラルプロテクションか?」

「そうだよ!この前覚えたんだ!」

「それにしてもアレを防ぎきるとは…そうか魔力圧縮か!」

「ご名答。流石クロノ!」

 

先程からクロノが言っている魔力圧縮とはカイトの魔力資質の事である。

通常、魔力を圧縮する為には魔力を一度放出しその後で圧縮というプロセスを踏まなければならないのだが、カイトはそのプロセスをすっ飛ばして即時に圧縮させる事が出来る。

 

地球にいた時に魔力弾を生成した時に魔力込めても大きくならず、逆に小さくなって炸裂してしまっていたのは実はこの魔力資質のせいだったのだ。

 

その為、カイトのバリアジャケットや防御魔法は非常に強固であると同時に攻撃の方も魔力刃を圧縮して刀身に付与するので非常に強力なのである。

 

「ほぼレアスキルだな…羨ましい」

「俺だってクロノが羨ましいよ?」

「僕には目立った所なんて無いぞ?」

「近接、射砲撃、バインド何でも高いレベルで使えるじゃん…俺なんてほとんど射撃魔法使えないよ?」

「まぁ確かに君の射撃の才能の無さには同情するね。」

 

兄と慕うクロノに同情され落ち込むカイトを見てニヤリと口を歪ませるクロノであった。

 




カイト君はバトルマニアというよりも、ただの模擬戦好きです。ん?あんまり変わらないか…
バリアジャケットは適当に考えました。
イメージは牙狼の変身前ですが、あの硬そうなコートとは違いヒラヒラしてます。
え?エリオと被ってるって?
安心してください。エリオいませんよ。


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第3話 違法研究所 前編

長くなったので前後編に分けました。
分けなくて良かったかな?と思いました。
それと、今回の話だけですが主人公目線ではなく第三者目線になります。
何故かって?やりたかったからさ!



カイトは現在ジープに乗っている。

前回、任務に協力した部隊からの依頼で部隊のみんなと共に任務地へ向かっている。

 

今回の任務は少し前に発見された違法研究所の強制捜査及び鎮圧である。

前回も同じ任務内容であり、この部隊の隊長がカイトを気に入っているのかこの手の任務には必ず名指しで依頼される。

 

何度も一緒に任務をこなしている為、カイトも打ち解けた様子で部隊員達と笑顔で会話を交わしている。

 

「あの…ブラウン隊長?」

「どうした?新入り。」

 

部隊の隊長であるブラウンに、つい最近この部隊に出向になった魔導師の青年が声をかける。

 

「何故あんな子供を連れて行くのでしょうか?」

「あーお前は前回いなかったからな。後で分かるから、まぁ見とけ」

「は、はぁ」

 

新入りと呼ばれた魔導師の青年が疑問に思うのも無理はない。

地上のエースとまではいかないがこの部隊には実力者が結構いる。

隊長のブラウンも魔導師としての実力は高い。

そんな部隊が、たかが違法研究所の捜査如きにどこの馬の骨とも分からない嘱託魔導師の子供に協力を依頼した。

新入りの疑問はどんどん深くなっていく。

 

目的地の研究所に着くと隊員達は指示通りに配置に就いた。

カイトは正面入り口に配置した隊員達の一番後ろにいるブラウン隊長の隣に配置された。

 

「何で隊長の隣にアイツなんだ?」

「ん?あぁカイトの事か。この配置はいつも通りだぜ?新入り君。」

 

この配置に不信感たっぷりの新入りは思わず口に出ていた様で隣の部隊員がそれに答えた。

何故かと聞いても見とけと言われるだけで何も教えてくれない。

 

「まぁカイトが出なくていい状況に出来れば一番いいんだがな。」

 

隣の部隊員が最後に言った事が引っかかる新入りを他所に研究所にブラウン隊長から警告が発せられた。

しかし、いくら警告しても研究所側は動きが無く現場に緊張が走る。

 

「突入!」

 

ブラウン隊長の号令と共に正面入り口が無理矢理こじ開けられ部隊員達が突入して行く。

 

「うわぁぁっ!」

 

轟音と共に突入した部隊員が悲鳴を上げ煙に包まれながら飛び出てきた。

 

「まずは一人ってかぁ!」

「ギャハハ!流石リーダー!」

 

恐らく研究所が雇ったであろう趣味の悪いバリアジャケットを身に纏った魔導師の集団が部隊員達の前に立ちはだかった。

 

行く手を阻む用心棒と戦闘を開始した部隊員達だったが、かなりの手練れが集まっている様で苦戦を強いられ何名か戦闘不能に陥ってしまった。

 

「仕方ない…カイト君。」

「了解しました。ブラウン隊長。」

 

ブラウン隊長は堪らずカイトに協力を求め、カイトも了承しバリアジャケットを身に纏い用心棒の前まで歩いて行った。

 

「なんだぁ?このガキは?」

「降伏してもらえますか?」

「あぁん?何だとコラ!ガキは帰ってママのオッパイでも飲んどけ!」

「ギャハハ!ガキをイジメちゃかわいそうですって!リーダー!」

 

カイトは呆れた顔で用心棒のリーダーと呼ばれている男の顔を見上げもう一度降伏を促した。

 

「ハッ!誰が降伏なんかするかよ!」

「リーダーやっちまいましょう!」

「そうだな!オラッ死ねや!クソガキ…グヒァッ!」

 

カイトは目にも留まらぬスピードで飛び上がりリーダーと呼ばれる男の顔面に一閃した。

高速の斬撃をマトモに喰らった男は変な声を出しながら吹き飛んだ。

男は気を失ったらしく動く気配がない。

 

「これでも降伏はしませんか?」

「て、テメェ!何!?ガフッ!」

 

デバイスを振りかぶった男を見て降伏はしないと判断したカイトは振り降ろされたデバイスを避け男の顔面に斬撃を叩き込んだ。

リーダーを失い動揺した用心棒達は魔力弾で応戦するがカイトは直撃コースだけを斬り払いながら近付き斬撃を放って用心棒達を薙ぎ払っていく。

気付けば二分もかからず用心棒達は沈黙していた。

 

「…何だ…アイツは…」

「な、言ったろ?後で分かるって」

 

新入りは目の前で起こる事に信じられない様子でつぶやくと肩を叩かれそのつぶやきに答える声が聞こえた。

思わず振り向くとそこには得意げな顔のブラウン隊長がいた。

 




やっぱ短いな…
でも、分けてしまったから後戻りはできぬのだ。
今回登場したブラウン隊長と新入りですが、今後の展開には大きく関わりません。特に新入り君はこの1話でお役ご免です。
ブラウン隊長の方は色々と使いやすかったのでちょくちょく出てきます。
そして、どこか世紀末を感じさせるザコ敵達は刀に対してトラウマになったそうな…


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第4話 違法研究所 後編

後編ですよー
主人公目線に戻りますー



カイトは用心棒達を制圧した後、研究所に入りデータをチェックしていた。

研究所の職員達は部隊のみんなが捕縛して研究所の鎮圧は完了している。

 

「どうだい?何か出たか?」

「ブラウン隊長。まぁ違法な事を研究していたのは間違いないですね。」

 

カイトはコンソールを操作しモニターを表示させた。

モニターには野生の魔法生命体を改造して生物兵器の作成を行っていた時のデータが表示されている。

 

「ふむ。だが弱いな…」

「確かに…あれだけの用心棒を雇っていた割には…ん?」

「どうした?」

 

魔法生命体の改造も違法なのは間違いないのだが、そんな研究所は基本的に改造した魔法生命体に守護させるのでわざわざ用心棒を雇わない。

二人はそれぞれ疑問を口にしているとコンソールを操作していたカイトの手が止まった。

 

「いや、異常にセキュリティが厳重な所があるんですけど…」

「ほう。クサイな。破れるか?」

 

やけに厳重なデータを見つけ報告すると怪しいと踏んだブラウン隊長が迷いなく指示を出す。

二人の後ろでは研究所の所長らしき人物がバインドに拘束されながらも安堵の表情を浮かべている。

どうやら相当厳重なセキュリティが施されているらしく破れる訳が無いと踏んでいる様だ。

 

「多分、大丈夫です。月下お願い。」

《了解しました。解析を開始します》

 

カイトと所持しているデバイスであろう声を聞いて驚愕の表情を浮かべる所長を他所に作業は進んでいく。

 

カイトのデバイス『月下』には高度な解析プログラムが搭載されており、ブラウン隊長はカイトの戦闘能力とデバイスの解析能力を目当てに毎回協力を要請している。

 

何故、高度な解析プログラムを搭載しているかというと、元々は魔法もプログラムで成り立っている事を知ったカイトが戦闘中に相手の魔法を解析して弱点を見付け出し、その弱点を突く為に搭載した。

しかし、いざ使ってみると解析まで時間がかかる上に他の魔法が使えなくなる事が分かったので戦闘中は使えないが、こういった任務では大活躍している。

 

《解析完了。セキュリティを突破しました。モニターに出します》

「ん。ありがとう月下。」

 

バインドで拘束されている所長がさらに驚愕した表情を浮かべた。

解析を開始してから五分も経っていないので驚くのも無理はない。

 

「こ、これは!人造魔導師の製造と成長記録?」

「いや、それだけじゃないな。ここを見たまえカイト君。」

 

モニターに映し出されたのは人造魔導師の製造を記録したデータだった。

しかし、それだけではない様でブラウン隊長がある項目を指差す。

 

「記憶転写クローン…じゃあこれはプロジェクトFの研究記録…」

「どうやらそのようだな。おい!とっとと連れてけ!」

 

プロジェクトF。

まずはクローンを作り素体の記憶を転写する事により素体そのものを作り出そうとする技術。

倫理的な観点から見て違法とされている行為なのでブラウン隊長の指示で青ざめた表情の所長が部屋から連れ出された。

 

「月下。違法研究のデータを抽出してブラウン隊長に送って。」

《了解しました。データ抽出を開始します》

「ところでカイト君。今回もまたプロジェクトFの研究所だった訳だが…君はこれをどう思う?」

 

カイトがプロジェクトFの研究所を捜査したのは初めてではない。

最近になって急にプロジェクトFの研究所の捜査が増えた事についてブラウン隊長はカイトに意見を求めた。

 

「えっと、このプロジェクトFっていうのはすでに完成しているんだと思います。」

「ほう。それで?」

「研究者ってのは誰もやった事が無い事を追い求めると思うんです。しかしそれを追い求めるにはどうしても資金が必要です。だからすでに完成された技術を使って資金を稼ごうとした…」

「プロジェクトFは商品になっていると?」

「はい。プロジェクトFで資金調達が可能という事は需要があるという事なので商品として取り扱っている組織があるかも知れませんね。」

「うん。流石だな。」

「ブラウン隊長も同じ事を考えていたんじゃないですか?」

 

実は、ブラウン隊長がカイトを評価する中で一番評価しているのがこの洞察力なのだ。

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたブラウン隊長を見てこの人には敵わないなと思うカイトだった。

 

「ところでカイト君はまだ本格的に入局しないのか?」

「まだまだ色々な事を知りたいので今はまだって感じですね。」

 

データの受け渡しも完了し研究所から出て乗ってきたジープまで歩いているとブラウン隊長が正式に入局を勧めてくる。

このやり取りは最近任務終わりに毎回している。

 

「ははは!またフラれてしまったな。」

「いつもすいません。」

「まぁ本格的に入局する際には真っ先に声をかけてくれ。いつでも歓迎するからな!」

 

今回も勧誘に失敗したブラウン隊長はおどけながらカイトの背中をバンバン叩き自分が乗るジープに向かって行った。

 

『本当に熱心に誘ってくれるなぁ…』

《ブラウン様はマスターの事を真剣に考えてくれていると思います》

『うん。それは俺も思うよ。うーん…クロノに相談してみようかな。』

《そうですね。クロノ様に通信繋げますか?》

『いや、今度会った時に話すよ。ありがとう月下。』

 

隊長の後ろ姿を見送り、自分が乗ってきたジープに向かいながら念話で月下と話しなにやら真剣に考える表情を浮かべたカイトを乗せジープは帰路に就いた。

 




カイト君と月下が有能な件について。

解析プログラムはセキュリティの解析や魔法の解析等が可能です。
結界等も邪魔が入らなければ解析して破壊できます。
まぁ破壊は割込みプログラムを構築して割込みをかけて物理で壊すのがカイト君のやり方です。


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挿話 提督の思惑


過去話です。
時系列的には第1章の11話と12話の間です。



カイトがミッドチルダへの引っ越しを決断した翌日、エレナは一人ミッドチルダに来ていた。

時空管理局の本局の廊下を歩きながら、変わってないわねと独りごちる。

 

目的の人物がいる部屋の扉をノックし相手方の了承を得て中に入る。

 

「お久しぶりです。グレアム提督。」

「あぁ久しぶりだね。エレナ君。」

 

ギル・グレアム提督

時空管理局顧問官を務める局の重鎮。

リンディ・ハラオウンと亡き夫クライド・ハラオウンの直属の上司だった。

 

エレナとは管理局員だった時に直属の上司であるリンディの紹介で知り合ったが、いち管理局員だったエレナにとって雲の上の存在だった為あまり接点は無かった。

本当にお世話になったのは地球に行ってからだ。

 

「いきなり連絡があったから驚いたよ。で、今日はどうしたんだね?」

「急に押しかけて申し訳ありません。実は先日夫が亡くなりまして…」

 

エレナは夫が事故死して現在は息子と二人で暮している事等を説明した。

 

「それはお気の毒だったね。しかし、それだけでわざわざミッドまで私を訪ねる必要はないはずだ。」

「えぇ、そこで私はミッドチルダへ移住する事を考えています。」

「何?しかし君の息子さんはミッドの事や魔法の事は知らないはずだが?」

 

エレナは息子のリンカーコアが覚醒した事をきっかけに魔法の事を話し、その上で将来的にもミッドに移住した方が息子の為になると思った事を説明した。

 

「そうか。君の息子だから魔力を持ってても不思議ではないな。息子さんには移住の件は話したのか?」

「はい。昨日話しました。まずは息子の生活が最優先でしたので…」

「まぁ、学校や友人の事もあるからね。それで?息子さんは何と?」

「少し考えてましたが私と一緒にミッドに行く事を決断してくれました。」

 

しかし、グレアム提督はどうしても腑に落ちない。

正直、わざわざ面会を希望してまでする話では無いと思考していたが、ある事を思い出し口を開く。

 

「そうか…君がわざわざ私を訪ねたのはあの子の事か…」

「はい。任務を途中で投げ出す形になってしまい申し訳ありません。」

「ハッハッハ!任務なんて大袈裟な。私はそんなつもりでお願いした訳じゃないんだが?」

「し、しかし!家の頭金と称してですが報酬も頂いていますし…」

 

亡き夫が住んでいたアパートに転がり込む形で新婚生活をスタートしたが、カイトが産まれ三人で広い所に引っ越そうかと考えていた矢先にグレアム提督から今の家を紹介された。

しかもある条件を飲めば頭金も用意するという物だった。

 

ある条件というのは隣に住む子供の面倒を見るだけという破格の条件にエレナはすぐに飛び付いた。

ソウジはあまりにも破格の条件の為に疑っていたがグレアム提督が管理局の高官である事、そしてその子供が地球出身であるグレアム提督の親友の娘だという理由を聞いて条件を飲む事にした。

 

「確かに私はあの子の世話をしてくれと頼んだが監視してくれとは言っていない。君は監視のつもりで接していたのかね?」

「いえいえ!そんなつもりでは!私はあの子を本当の娘の様に思っています。」

「ハッハッハ!知っているよ。あの子の手紙にも君達の事が書いてあるからね。」

「私達の事を…ですか?」

「あぁ主にカイト君の事だけどね。」

 

何となく手紙の内容が理解出来たエレナは苦笑しグレアム提督も優しい笑顔を見せていた。

 

「だから私は感謝しているんだ。あの子に優しく接してくれた事をね。本当にありがとう。」

「ちょっ!て、提督!?頭を上げてください!」

 

頭を下げ感謝を述べる提督にエレナは恐縮し頭を上げる様に催促する。

しかし、こんなにもあの子の事を想う気持ちを裏切る気がしてエレナは胸が締め付けられる思いだった。

 

「本当に申し訳ありません…」

「いや、いいんだ。君達は十分役目を果たしてくれた。だから気にしないでくれたまえ。」

「ありがとうございます。それでは失礼します。」

 

話を終え退出するエレナを見送った後、一息ついていると一匹の猫が部屋に帰ってきた。

 

「本当に良かったのですか?父様。」

「アリアか…まぁ家族の問題に首を突っ込む訳にはいかないからね。」

 

一匹の猫は光に包まれると成人女性の姿に変化する。

グレアム提督の使い魔であるリーゼ姉妹の姉リーゼアリアは複雑な表情を浮かべている。

 

「アリアそんな顔をするな。私はね…少し安心しているんだ…」

「安心…ですか?」

「あぁ、彼女達をこちらの勝手な都合に付き合わせずに済んだ。犠牲は少ない方がいいからね…犠牲になるのは…あの子だけでいい…」

「父様…」

 

 

当初の思惑通りには進まなかった。

 

だがこの計画は必ずやり遂げる

 

前回の様な悲劇をまた繰り返す訳にはいかない

 

この手で全て終わらせる

 

それが残された者たちへの救いとなる事を信じて

 




という訳で家が隣同士で幼馴染だったのは偶然ではありませんでした。
そしてグレアム提督はエレナに闇の書の事は伝えていません。
闇の書の事を伝えてしまうと本当に監視になってしまいますからね。


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第5話 思わぬ高評価


前回のあらすじ!
違法研究所での任務終わりに懇意にしている部隊の隊長から正式に入局を持ちかけられたカイトはクロノに相談しようとコンタクトを取ったのだが…



お世話になっている部隊の隊長から熱心に勧誘を受けているカイトはあれからずっと考えていた。

クロノに相談しようと本局に出向くも入れ違いで会えず連絡しようとしても任務中らしく全く連絡が取れなかった。

 

そんなやきもきした気持ちを払拭すべく模擬戦をしたり無限書庫で読書に耽ったり任務で大暴れしたりしている内に一カ月が過ぎていた。

 

《マスター。クロノ様より通信です》

「えっ!つつつ繋いで!」

 

自宅付近で日課である剣術の基礎練習と魔力運用トレーニングをしていた所に不意にクロノから通信が入り若干どもりながら通信を開く。

 

『やぁカイト。久しぶりだね。連絡くれてたのにすまなかった。』

「いや、こっちこそゴメン。任務中だったんでしょ?」

『あぁ、結構大きな事件だったんだ。それよりも何か用だったのか?模擬戦なら断るぞ…』

「実はちょっと相談があって…」

『相談?なら会って話そう。丁度、僕も君に頼みたい事があるんだ。とりあえずアースラまで来てくれ。』

 

次元航行艦アースラ

クロノの母リンディ・ハラオウンが艦長を務める次元管理局所属のL級次元航行艦の8番艦である。

 

カイトはすぐさま本局に向かいアースラの中に入った。

手続きは既にクロノが済ませておりカイトは名前を言うだけですんなり通れた。

とりあえずアースラのデッキに足を踏み入れるとアースラのクルー達は忙しそうにコンソールを操作しており、クロノが言っていた事件の事後処理に追われている様だった。

 

「えっと…あっリンディさん!お久しぶりです!」

「あら、カイト君久しぶりね。クロノから聞いてるわ。今呼ぶからちょっと待っててね。」

 

忙しく走り回るアースラクルーの中からやっとリンディの姿を見つけ声をかける。

リンディは挨拶をそこそこにすぐさまクロノを呼んでくれた。

 

「本当に忙しそうですね。何か手伝いましょうか?俺こう見えても結構事務作業得意なんですよ?」

「ふふふ、ありがとう。けど今回の事件は機密事項も多いから手伝える事はあまり無いかもしれないわ。」

「そうですか…こんなに忙しいって分かってたら差し入れでも持ってくれば良かったなぁ…」

 

事務作業が結構得意なカイトは手伝いを申し出るが却下された。

差し入れ云々と唸るカイトを見てリンディは目を細めていた。

 

「すまない。待たせた。」

「え?クロノ抜けていいの?」

 

何やら部下に指示した後、こちらにやって来たクロノにカイトはこんなに忙しいのに自分の為に時間を作ってくれるのかと困惑した表情を浮かべる。

 

「休憩みたいなものさ。まぁ半分は仕事だが…」

「俺に頼みって仕事関係?」

「とりあえず執務室に行こう。」

 

言われるがままアースラ所属の執務官であるクロノの執務室に到着し中に入り対面してソファに座る。

 

「それで相談というのは?」

「えっと、この前依頼されて協力した任務の時なんだけど…」

 

カイトはこの一カ月の間とその前の任務でブラウン隊長に正式に入局を勧められている事を話した。

 

「地上部隊のブラウン隊長か。本局でも有名なやり手の隊長だな。それで君はどうしたい?」

「ありがたい話だと思うんだけど…」

「聞き方を変えよう。熱心に勧誘されてどう思った?」

「え?うーん。正直、何で俺なんだろう?って思った。」

 

クロノは、こめかみに手を当てハァとため息をつく。

その様子を見たカイトは不思議そうな表情を浮かべている。

 

「君は自分の評価を改めるべきだ。」

「え?評価?」

「そうだ。君は君が思っている以上に優秀だ。」

「え?俺が優秀?」

 

自分が優秀と聞いて驚くカイトを見てクロノはまた一つため息をつく。

 

「これは僕の評価だが単一での殲滅能力に長けた戦闘力に高い洞察力…」

「え?え?」

「それにデバイスに組み込まれている高度な解析プログラムにも舌を巻いたな。」

 

カイトは思った以上の高評価に戸惑った。

両親以外にこんなに褒められたのは初めてだ。

 

「で、でも!模擬戦で負けっぱなしだよ?クロノにも勝った事無いし…」

「僕はともかく自分より遥かに強い相手と模擬戦してたら当然だ。それに前回の模擬戦は正直危なかった。」

「え?そうだっけ?」

 

前回のクロノとの模擬戦を振り返るが自分が優勢になっている所が見当たらない。

 

「僕はエクスキューションシフトを放った後勝利を確信していた。しかし君はアレを防ぎ切った…あの時、完全に僕は動きが止まっていて君の接近に反応出来ていなかった。」

「でもバインド…」

「あれは偶然だ。君が接近する時は一直線に来るから君との直線上にバインドを設置していたんだ。」

 

カイトは驚愕していた。

あの模擬戦は紙一重だったのだ。

 

「君の弱点は真っ直ぐ過ぎる所だ。っと話が逸れたな。とにかく僕ですらこれだけ評価しているんだ。そのブラウン隊長は僕以上に君を評価しているかもしれない。」

「そ、そうなのかな?」

「多分だがブラウン隊長は君が入局した瞬間に手を回して自分の部隊に招き入れるつもりだろうな。」

「えぇ!何で?」

 

ブラウン隊長が自分を入局させたいのは魔導師の数が慢性的に足りない管理局の為に勧誘しているとクロノの話を聞きながらカイトは考えていた。

しかし自分の考えと全く違う思惑にカイトは驚く。

 

「部隊で経験を積ませていずれは君を自分の副官にする魂胆だろう。」

「な、何でそんな事が分かるの?」

「いい機会だ。正直に言おう。僕も同じ考えだからだ。」

「はぁっ!?」

 

カイトの先程よりも驚愕し思わず大声出して驚いた。

それもそのはずクロノがカイトに対して高い評価をしている事も知らなかったのだから驚くのも無理はない。

 

「もう少し早く行動していればと今僕は後悔しているよ。ブラウン隊長か…誤算だったな…」

「あれ?なんだろう…よく分からなくなってきた…」

「分からないなら教えてやろう。今すぐに入局して希望を本局勤務にすればいい。」

「そしたら所属先アースラに決定じゃん…ちょっと考えさせて…」

「あぁ。僕かブラウン隊長のどっちの下で働きたいかよく考えてくれ。」

「あ、二択なんだ…」

 

何故か入局した瞬間にどちらの部隊に行くかが決定的になり逃げ場がない事を本能的に察してしまったカイトであった。

 




何気にリンディさん初登場ですね。
カイト君は何故正式に入局しないのか不思議に思った人もいるでしょう。
理由は単純に家族の時間を大切にしたいからです。


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第6話 フェイト・テスタロッサ


今回から彼女が登場ですよー



相談しているはずがいつの間にか正式に入局の勧誘に変わるという不思議な体験したカイトは若干の疲れとストレスを感じていた。

 

「そういえば、俺に頼みたい事って何?」

「ちょっと君に訓練して欲しい魔導師がいるんだ。」

「ん?俺が?訓練をする?」

 

いつもはカイトが訓練を受ける身だ。

誰かに訓練をする経験なんて無いカイトは困惑している。

 

「ミッド式の魔導師で近接もそこそこ出来るオールラウンダーだ。その魔導師の近接を伸ばしてやりたいんだ。」

「でも、俺教える事なんてやった事無いんだけど…」

「いつも通り模擬戦をしてくれればいいんだ。近接メインでな。頼めるか?」

「それなら大丈夫だけど…ミッド式で近接出来るって珍しいね。」

 

魔法には射砲撃やサポートに秀でたミッドチルダ式と近接に特化した古代ベルカ式の二種類があり、更に最近研究が進んでいる古代ベルカ式をミッド式でエミュレートした近代ベルカ式がある。

 

カイトの様に射砲撃をあまり使わず近接で戦う魔導師は近代ベルカ式を使用している事が多い。

その為、純粋なミッド式の魔導師が近接戦闘を行うのは珍しい。

 

「その魔導師を紹介するからついて来てくれ。」

「今から?アースラの武装隊の人?」

「まぁ色々と事情があってな…説明は会ってからする。」

 

何だか分からないが事情があるらしく珍しく歯切れの悪いクロノについて行くと客室の様な部屋に着き、クロノがノックすると扉が開いた。

クロノと共に部屋に入ると部屋の中には、金髪を薄いピンクのリボンでツーテールにした少女と、燃えるような赤い髪に犬の耳の様な物があるスタイルのいい成人女性がいた。

 

「あの…えっと…」

「ほら、フェイト。こいつがさっき話した剣術馬鹿だ。」

「…おい」

 

全く見覚えの無い人物を目の前に困惑し思考が停止しかけたカイトだったがクロノのとんでもない紹介に我に返った。

 

「あ、あの初めまして!フ、フェイト・テスタロッサ…です。」

「あたしはアルフだ。フェイトの使い魔だよ!よろしくな剣術馬鹿!」

「えっと…月代(つきしろ)カイトです。よろしく…って誰が剣術馬鹿だ!」

 

はやて仕込みのノリツッコミを炸裂させ若干照れながらもクロノとアルフが笑っているのを見てウケた事に若干安堵した後にフェイトと名乗った少女を見ると何故かオロオロと戸惑っていた。

 

フェイトとアルフは今現在もアースラのクルー達が事後処理に追われている事件の重要参考人だとクロノは説明した。

 

「なるほど何となく分かったよ。要はクロノの思惑が上手くいく様に協力すればいいのかな?」

「察しが良くて助かる。事件の概要と僕の思惑は後で必ず話す。」

「了解。じゃあ、えっとフェイト?ちょっと体動かそう!」

「…え?い、今から?」

 

カイトはすぐさま訓練室に連絡を取りフェイトとアルフを連れて行った。

クロノは多分この二人を悪い様にはしない算段を立てているはずだ。

自分の役目はそのサポートだとカイトは察した。

まずは、ずっと艦の中にいてストレスを感じているであろうと思い模擬戦を提案したが、実はフェイト達と会う前のクロノとの会話で感じた自身のストレスを発散する目的もあった。

 

 

「近接メインの模擬戦ね。一応射撃魔法も少しなら使っていいよ。じゃあ、模擬戦開始!」

「えっと…よろしくお願いします?」

 

訓練室でフェイトは黒いレオタードみたいな服に黒いニーハイソックス、そして黒いマントを身に纏い斧の様な形のデバイス『バルディッシュ』を持っている。

バリアジャケット姿で向かい合い、カイトが開始の合図を出すとペコリとお辞儀をするフェイトに釣られてカイトもお辞儀した後に二人は構えた。

 

『装甲が薄そうだね。高機動なのかもしれない』

《近接はマスターと同タイプと見ていいでしょう》

 

すでに模擬戦は開始しているが、カイトは動かず月下(げっか)と念話で話して相手の出方を伺っていた。

 

《ソニックムーブ》

 

そこにフェイトが高速移動魔法を使い猛スピードで突っ込んできた。

 

(速いっ!)

 

カイトに接近したフェイトはバルディッシュを振り下ろした。

カイトはそれを刀身で受け止めて弾き右からの袈裟斬りを放つがフェイトはすでにカイトの攻撃範囲から脱出していた。

 

『おぉ…自分と同じスピードの相手と初めて戦うかも…』

《今のところスピードは互角ですね》

 

少しテンションの上がったカイトはフェイトに猛スピードで接近し横薙ぎに一閃する。

フェイトは少し目を見開き驚いた表情を見せたが難なく斬撃を受け止め鍔迫り合いの形に持っていき、少し力比べをしてから両者共に距離を取った後、フェイトはバルディッシュを変形させ振りかぶった。

 

《ハーケンフォーム》

「アークセイバー!」

 

変形したバルディッシュから魔力刃が出現し鎌の様な形になりフェイトが振り下ろすと魔力刃が回転しながらカイトの方へ飛んできた。

カイトは飛行魔法を使い回避するが通り過ぎた魔力刃が戻ってきた。

 

「うお!誘導制御式!?じゃあ…受けるしかないか…月下(げっか)。」

《コンプレッションシールド》

 

誘導制御されているなら逃げ回っても意味がないと判断し地上に降りて障壁を展開し受け止めるが回転する魔力刃がカイトの障壁を噛んできた。

しかし圧縮された魔力の障壁は強固であり破壊されるまでには至らない。

 

《セイバーブラスト》

 

バルディッシュのコマンドワードが聞こえ危険を察知したカイトはすぐさまその場を離れた。

離れたと同時に魔力刃が爆発しカイトは煙に包まれる。

ほんの少し離脱が遅ければ危なかったと冷や汗をかいた直後、フェイトが背後からバルディッシュを振り下ろす気配を感じ振り向いて斬撃を放った。

カイトの斬撃とフェイトの斬撃がほぼ同時だった為二つの力が衝突し衝撃を生み両者共に弾かれた。

 

「じゃあ今度はこっちの番だね!」

「え?あの距離で…構えた?」

 

「月代流魔剣術 三日月(みかづき)!」

 

カイトは少し離れた位置で刀を振り上げ刀身を頭の後ろくらいまで持っていき勢いよく真下に振り下ろした。

振り下ろしたと同時に三日月型の魔力刃がフェイトに向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 

「私と同じ魔法!?」

《ディフェンサー》

 

フェイトのアークセイバーの様に回転はしていないが、かなりのスピードがあり虚をつかれたフェイトは防御を選択するしかなかった。

とっさにディフェンサーを展開し受け止めるが魔力が圧縮されているのでディフェンサーにヒビが入っていく。

 

「ぐっ…何…これ?」

 

ヒビが入ったディフェンサーを横に動かしカイトの魔力刃をなんとか後ろに流したフェイトは後方で爆発する音を聞いて誘導制御式じゃなくてよかったと安堵しながらカイトがいる場所を見るが、そこにカイトの姿は無かった。

 

「後ろっ!」

 

気配を感じフェイトは振り向きざまにバルディッシュを振るうがその斬撃は勢いよく空を切った。

 

「え?」

「ハズレー」

「え?」

 

確かに背後から気配を感じ振り向いて攻撃したのに、何故また背後から気配と声がしたのかと思考する暇もなくカイトの斬撃を背中に受けてフェイトは気絶した。

 

意識が戻ったフェイトが最初に見た光景は自分の使い魔であるアルフがカイトの斬撃を受けて地上に落下する瞬間だった。

 




祝!カイト君模擬戦初勝利!
まぁ書いてないだけで勝った事くらいはあると思いますけどね。
あ、PT事件はすでに解決済みです。


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第7話 大切な友達


前回のあらすじ!
フェイトと模擬戦して勝ちました!



模擬戦が終わりフェイトと気絶していたアルフも目が覚め今は三人で訓練室の床に座り休憩していた。

 

「えっと…あの…か、カイト?」

「ん?何?フェイト。」

 

カイトの隣で体育座りをしてオドオドしながらフェイトが話しかけてきた。

 

いきなり名前呼びになっている事にもミッドチルダに来てからは普通の事なのであまり気にならなくなっている。

 

「えっと…カイトのあの魔法って…私のと同じ?」

「ん?あぁ三日月(みかづき)の事か。一応射撃魔法だけどフェイトのは誘導制御式だし障壁に噛み付いてきたりするじゃん。俺のはただ真っ直ぐ飛ぶだけだよ。」

 

確かにフェイトのアークセイバーとカイトの三日月は魔力刃の型が同じだけで性能は全く別物である。

どちらかというとフェイトの方が防御や回避が厄介だ。

 

「で、でも、スピードが速くて威力が高かった…」

「威力は魔力圧縮させてるからね。」

「そ、そうなんだ…」

 

フェイトも魔力を圧縮させて魔力刃を飛ばしているので、やっぱり同じだと少し嬉しさを感じていた。

性質の違いなどは、すでにフェイトにとってどうでもよかった。

 

「しかし強いね。フェイトもアルフも。」

「あたしなんか何も出来なかったのによく言うよ…」

「私も…一撃でやられた…」

 

二人に対して強いと言うカイトだったが言われた二人はあまり褒められている気がしない。

それもそのはず二人はカイトの一撃を喰らっただけで墜ちたのだ。

 

「それは魔力圧縮のおかげ。さらに近接メインだったからね。射砲撃混ぜられたらお手上げだよ。」

「でも後ろだと思ったらいなくて、でもやっぱり後ろで…えっと…」

 

フェイトは最後の攻防の事を言いたいのだが上手く表現できずにあわあわして全く頭で理解できてないのが見て取れた。

 

「それは、まず後ろに回り込んでフェイトが振り返ってくる間に更に後ろに回り込んだんだ。」

「え?嘘…そんなこと…」

「アンタまさかフェイトより速いってのかい?」

 

フェイトの高速起動は使い魔のアルフも良く知っている。

カイトも今まで模擬戦した相手の中でもトップクラスのスピードだと思った。

 

「瞬間的な速さだけならね。」

「えっと…どうゆう事?」

 

こてん、と首を傾げ聞いてくるフェイトにカイトは種明かしをする。

カイトは非常に短い距離ならフェイトより速く動けるが長距離となるとスピード落ちる事を説明した。

 

「それは移動魔法…?」

「いや、俺は高速移動魔法は使わないよ。使わないと言うか使えない。」

「えぇ!アンタ魔法無しであのスピードなのかい!?」

 

二人はこの短時間で何度驚くのだろうかと全く関係ない思考が働くカイトであった。

 

「ところでさっきから言ってる魔力圧縮って何なんだい?」

「あ、私も気になる…」

 

先程からカイトが口にしている魔力圧縮という言葉に疑問を浮かべる二人。

カイトは自身の魔力資質である魔力圧縮について説明した。

 

「へぇ…勝手に圧縮されるんだ…」

「それじゃ魔力圧縮で射撃魔法使えば高威力になるんじゃないかい?」

「いや、魔力弾を固める前に勝手に圧縮していくから上手く生成出来ないんだ。さらに俺に射撃魔法の適正が全く無い…」

 

射撃魔法の適正が無いと言った後目に見えて落ち込むカイトを見て、アルフは何だか可哀相なものを見る目をカイト向け、フェイトはただオロオロと戸惑っていた。

 

「あの…えっと…あっでも!カイト射撃魔法使ってた!」

「そ、そうだよ!あの魔法が使えるなら適正が全く無いって事にはならないんじゃないかい?」

「俺…アレしか射撃魔法は使えないんだ…どれだけ練習しても他のは…」

 

とてつもなく落ち込んだカイトを元気づけようと二人してとりあえず必死で励ますが、あまり効果が無くむしろ逆効果であり、その証拠にカイトは現在涙目である。

 

いきなりの涙目騒動も収まりアースラのデッキに戻った三人だが、そこにはカイトの見慣れない人物がいた。

 

「カイト!丁度良かった!紹介しようと思ってたんだ。」

 

クロノの隣にいる少年は金髪に黒い瞳の中性的な顔立ちでアースラのクルー達とは違う民族衣装みたいな服装をしており『ユーノ・スクライア』と名乗った。

お互い自己紹介を終えしばらく談笑しているとカイト、フェイト、ユーノは同い年だという事が分かった。

 

「ところでカイト。君はもしかして地球のニホンという国の出身だったりする?」

「え!ユーノ何で分かるの!?」

「名前の響きが似ているからね。」

 

少し談笑しただけなのに出身世界を言い当てられ驚くカイトだったが、ユーノの推理に少し疑問が生まれた。

 

「ん?あれ?ユーノって地球に行った事あるの?」

「あ、えっと…それは…」

 

管理局でも地球は「第97管理外世界地球」と呼称されており魔法文化は無い為まだ管理局による管理の必要が無い。

 

「それは僕から説明しよう。」

 

突然クロノが会話に入ってきた。

神妙な面持ちで後にプレシア・テスタロッサ事件、略してPT事件と呼ばれる事件の概要を話し出した。

 

「地球…いや海鳴でそんな事が…」

「僕の所為なんだ…僕がジュエルシードを発掘しなければこんな事には…本当にゴメン。」

「え?何でユーノが謝るの?俺はユーノに対して感謝の気持ちでいっぱいなんだけどなぁ…」

「え?」

「地球を救ってくれてありがとう!」

 

カイトは最初は三年前まで自分が住んでいた海鳴市が事件の舞台だった事に驚いていたが、自分の責任だと俯き謝るユーノにカイトは感謝を伝えた。

 

「いや本当に僕は何も…今回活躍したのは現地の民間協力者だから…」

「うん…そうだね。」

 

ユーノが現地の民間協力者と言うとフェイトが頷き何だか嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「ところで、現地の民間協力者って一体何者?俺が海鳴にいた時は魔導師なんていなかったし、魔力なんて感じた事も無かったよ?」

「カイトこれを見てくれ。」

 

クロノがモニターをこちらに回して映像を再生させる。

その映像にはカイトが通っていた聖祥大付属小学校に似たバリアジャケットを身に纏った見覚えのある少女が桜色の砲撃魔法を放っていた。

 

「え…?た、高町…?」

「え?なのはの事知ってるの!?」

 

思わず名前を呟くとフェイトが驚いていつもより大きな声を出していた。

 

「高町とは小学校の時の同級生で友達なんだ。もしかしてフェイトも?」

「うん。なのはは私のとっても大切な友達…」

 

高町なのはの事を思い浮かべたのかフェイトは満面の笑みでどこか誇らしげにハッキリ「友達」と口にした。

そんな様子を見てカイトは一年前くらいから手紙が届かない幼馴染の事を思い浮かべていた。

 




ユーノ君登場!
そして映像でなのはも登場!


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第8話 ビデオレター


今回の話を書いている時すごく楽しかったです。



フェイト、アルフ、ユーノと出会い数日が過ぎた。

 

クロノによればフェイトは母親に言われるがまま事件に関与しており、母親を想い母親の為に行動していたと主張し温情を以って説く事でフェイトの減刑を狙っているらしい。

アルフもフェイトの使い魔として主人と同じ想いで行動していたと訴える事でフェイトと同じく減刑させる事が出来るらしい。

 

ユーノとは両者共に知識欲が旺盛なのでやたらと話が合い、カイトはユーノと話していると充実感を感じるくらいの間柄になっているもののユーノは基本的には地球にいるのでほとんど会えない。

 

「フェイトの裁判の日が近付いてきたね。面会できないかな?」

《…昨日もそう言って面会に行ってましたね》

「心配なんだよ。フェイトって結構内気でオドオドしてるでしょ?」

《戦闘中は強気なんですけどね》

 

月下(げっか)との会話に笑顔を見せていると不意にカイトに通信が入った。

普段、通信は月下が受けるのだが、今回通信が入ったのは別の通信機だ。

この通信機はクロノが用意した物で親しい者達だけのプライベート用みたいな物だ。

 

『か、カイト!ど、どうしよう!』

「フェイト!?何?どうしたの?」

『えっと…なのはが友達を紹介したから…私も紹介しなきゃ!』

「…ハァ?」

 

全く訳が分からないカイトはとりあえずフェイトを落ち着かせると、会ってって事情を聞く為フェイトの所へ向かう事にした。

 

「ビデオレター?」

「うん。なのはと交換してるんだ。」

 

フェイトが言うには、地球にいるなのはとビデオレターの交換をしており先日新しいビデオレターが届き観てみると、なのはが地球の友達を紹介するという内容であり、フェイトもこちらの友人を紹介しないといけないかもと思ったらしい。

 

「とりあえず観せてよ。」

「う、うん。」

 

カイトが問題のビデオレターを観ると予想通りなのはを中心にアリサとすずかが映り自己紹介を開始していった。

 

「やっぱりこの二人だよね…」

「カイト知ってるの?」

「うん。俺が高町と友達だって前に言ったでしょ?この三人はいつも一緒だから月村とバニングスとも当然の様に友達だよ。」

「そうなんだ…やっぱり私も誰か紹介した方がいいよね?」

 

どうするか?とカイトは思考する。

完全に高町はフェイトからのビデオレターを友達や家族にも観せている。

そして、ビデオレターに映る三人は明らかにフェイトの知り合いもしくは親しい人物の紹介を催促している。

なら今後の為に魔法の事は伏せなきゃならない。

上手く魔法の事を隠せてフェイトが親しい人物は…とりあえずアルフは変身魔法で犬の耳を隠せば大丈夫として…

 

「カイト?カイト!」

「え?何?」

 

完全に思考の海に潜っていたカイトはフェイトの呼び掛けが聞こえ思考の海から戻ってきた。

 

「えっと…カイトがビデオレターに出てくれないかな…?」

「ハアァァッ!?」

 

フェイトはもじもじと言いにくそうに出演依頼をカイトに出した。

カイトは唐突な依頼に大声を出して驚いて若干倒れそうになっていた。

 

「いやいや俺が一番ダメだよ!三人共俺の事知ってるし!三人共俺がイタリアに引っ越したと思ってるんだよ?俺が出演なんかしたら魔法の事がバレる可能性が一番高いんだよ?」

「うぅ…でも私はカイトを紹介したいんだ…」

 

今現在フェイトは涙目だ。

涙目でカイトを自分の友達に紹介したいと言われてこれ以上ダメだとは言えないカイトだった。

 

「…分かった。」

「本当に?ありがとうカイト!」

 

ぱぁぁと笑顔になるフェイトを見てカイトは腹をくくってビデオレターに出演する心の準備を終えた。

 

「ん?ちょっと待って…高町はフェイトの事をどう説明してるのかな?」

「どうって…?」

 

まさか魔法使いの友達とは言わないよね?わざわざビデオレターを交換する程の友達だったら、高町は家族の士郎さん達やバニングスや月村にフェイトの事をどう説明している?

 

「カイト?カイト!」

「え?あ、ゴメン考え事してた。」

 

再び思考の海にダイブしていたカイトは、またもやフェイトに呼び起こされ思考の海から帰還した。

 

「多分なんだけど…なのはは私の事を外国の友達って言ってると思う…」

「外国?」

「うん。遠い外国の…友達。」

 

カイトは光明が見えた気がした。

思考をフル回転させるとパズルのピースを一つずつ埋めていくのではなく、一瞬でパズルが完成した様な感覚に襲われカイトの頭の中には一つの考えが浮かんだ。

 

「よし。外国だね。それなら上手くいくかも!」

「うん?えっと…何が?」

 

未だ状況が飲み込めておらず頭の上に疑問符を浮かべた表情のフェイトとは対照的にカイトは晴れやかな表情を浮かべている。

 

「フェイトはイタリア人という設定にしよう!それならイタリアにいるはずの俺がビデオレターに出てきても何も不思議じゃない!」

「う、うん?」

 

フェイトはイタリア人でイタリアに引っ越してきたカイトと友達になった。

 

これなら魔法の事も伏せながらフェイトの依頼も完遂できる。

なのはにはカイトが魔導師だと完全にバレるが、なのはも魔導師なのだから遅かれ早かれいずれバレる事だ。

バレるのが早まっただけで、こちらは何も問題は無い。

それよりも、なのはの外国の友達が紹介する人物が自分達の知っている人物なのだ。

さぞかし驚くだろう。

カイトはあの三人と後で観るであろう高町家の皆さんにドッキリを仕掛けている気分になりテンションが上がっていた。

 

「フェイトはイタリアの友達だって言って俺を紹介するんだ。それで全て上手くいくんだよ!そうと決まれば早速ビデオレターの準備だ!やるぞー!オーッ!」

「お、おー?」

 

 

 

 

 

「フェイトちゃんからビデオレターの返事なの!」

 

なのはは家に届いたディスクを大事そうに抱えリビングに急いだ。

テレビを付けプレイヤーを起動しディスクを入れ再生する。

 

『もう映ってるのかな?えっと…ビデオレターありがとう。この前は、なのはの友達を紹介してくれて嬉しかったよ。私も二人と会ってみたいし仲良くなりたいって思った。』

 

「ふふふ、フェイトちゃんなら絶対仲良くなれるよ。」

 

『えっと…この前のビデオレターで言ってたから私もこっちの…イタリアの友達を紹介するね?』

 

「ふふふ、誰が出てくるのかな?アルフさんは絶対出るとして後は…クロノ君かな?リンディさんとエイミィさんかも!」

 

 

 

 

 

 

『よ、よう。高町。久しぶり…』

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

なのはの叫び声は家中に響き渡り部屋にいた恭也と美由希が驚いた表情ですっ飛んでくる程だった。

 




原作で学校に編入したフェイトがイタリアからの転校生という設定から今回の話を思いつきました。
母親のエレナがイタリア出身という設定なのは今回の話を書く為の設定でした。


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第9話 フェイトの想い


フェイト裁判中の出来事。
意外と文字数少なかったです。
でも、1話あたり3000文字以内がこの作品のスタイル!



フェイトの裁判が始まり、カイトはフェイト達を出来る限りサポートし裁判の傍聴には欠かさず出席している。

 

「カイト?ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「ん?いいよ。何でも答えるよー。」

 

裁判の打ち合わせが終わりフェイト達を送っている道中、不意にフェイトが口を開いた。

 

「カイトは嘱託魔導師なんだよね?」

「うん。そうだよ。」

「嘱託魔導師ってどんな事するの?」

「えっ!嘱託に興味あるの?」

「うん。だから教えて?」

 

裁判の真っ只中にいるフェイトの事だからてっきり裁判関係だろうと思っていたカイトは少々驚くが、真剣ながら上目遣いで聞いてこられると答えない訳にはいかなかった。

 

「管理局の任務に協力するのが嘱託魔導師だよ。」

「どうやって仕事を受けるの?」

「俺の場合は依頼される方が多いから依頼を受けて協力してる。」

「依頼が無かったら?」

「管理局に受注しに行くんだ。俺も嘱託始めた当初はよく管理局行ってたなぁ。」

 

カイトも駆け出しの頃は当たり前だが誰もカイトの事を知らない為、自分から仕事を受注しに行っていた。

最近はブラウン隊長やクロノからの依頼が大半なので自ら仕事を受注してはいない。

 

「どんな依頼があるの?」

「色々だよ。次元犯罪の捜査とかロストロギアの護送に違法研究所の捜査とか。」

「カイトにはどんな依頼が来るの?」

 

最近はブラウン隊長から名指しで指名される違法研究所の捜査任務がメインだとカイトは説明する。

ちなみに、裁判を傍聴してフェイトがプロジェクトFで生み出された事を知ったのでプロジェクト名は伏せて説明している。

 

「毎回カイトを指名するんだね。」

「うん。しかも任務終わりには毎回勧誘されてるよ…」

「勧誘?管理局に?」

 

カイトは任務終わりにする恒例のやり取りをブラウン隊長のモノマネ付きでフェイトに披露した。

 

「ふふふ、でもそんなに熱心に誘ってくれるなんてよっぽど気に入ってるんだね。」

「その事をクロノに相談したら、ブラウン隊長が僕を副官に据えるつもりじゃないかって言われたよ。」

 

自分と同い年の少年がそこまで評価されてる事にフェイトは驚いた。

しかし、その後クロノも同じ考えを持っているという事を、クロノから直接言われたと言うカイトにフェイトは更に驚いた。

 

「ところでフェイト。何で嘱託の事を聞いてきたの?」

「あ、そうだった…えっと私も嘱託魔導師の資格取りたいなって思って…」

「へーフェイトも嘱託に…ん?ちょっと待てよ…」

 

いきなり考え込んだカイトを見て、フェイトは不安になった。

しばらく考えた後、カイトは何かを思い付いた様な表情をしていた。

 

「ねぇ、フェイト。クロノはこの事知ってるの?」

「いや、まだ言ってないけど…えっと…ダメなのかな?」

「そういう意味じゃないんだ。むしろ今の状況ではかなり有効だよ!よし!とりあえずクロノの所に戻ろう!」

 

フェイトはとりあえずダメでは無いという事は分かり安心するが、何だかあまり話が噛み合っていない様な気がして先程とは別の不安を感じていた。

 

「えっと…クロノ?私、嘱託魔導師の資格を取りたい!」

「嘱託の資格か…それなら裁判が終わってから…」

「いや、クロノ。今だから意味があるんだよ。」

「今だから?カイトどういう事だ?」

 

カイトに言われるがままクロノの所に戻りフェイトは自分の想いを告げた。

裁判が終わってからと言いかけたクロノを遮る様にカイトが口を挟む。

 

フェイトが自分の意思で管理局に協力したいと申し出たのを受けて、その意思を尊重し嘱託資格を取得させる。

その気持ちと行動を明確に表す事によって今執り行なわれている裁判に対して良い印象を与えれるのでは?という事をカイトは説明する。

 

元々勝率の高い裁判なのだが更に勝率を上げれるのではないか?とカイトは考えていた。

 

「なるほど…確かにそれなら良い判断材料になるかもしれないな。」

「ね。いい考えでしょ?」

「ところで君は執務官に向いてるんじゃないか?どうだ?まずは執務官補佐の資格を取ってみないか?」

「…それって俺が資格取ったら補佐に指名する気でしょ…」

 

執務官は自らの補佐を指名出来る権限があり、クロノはカイトに執務官補佐の資格を取らせてカイトを補佐に指名する算段を思い付いていた。

それを即座に見破ったカイトは呆れた様で困った様なそんな表情でクロノに反論していた。

 

 

「執務官か…」

 

そんな二人のやり取りを見て、今現在自分を助けてくれている二人の様に自分も誰かを助けれる人になりたいとフェイトはその想いを強くした。

 




フェイトがぼんやりとですが執務官という夢を抱きました。
嘱託魔導師の仕事の受注の仕方や、管理局の裁判に傍聴できるシステムあるのか等は完全に独自解釈です。


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挿話 魔力適正検査


挿話挟みまーす。
時系列的には一章と二章の間ですね。



月代親子がミッドチルダに移住してすぐの頃、カイトはエレナに連れられ時空管理局の本局に来ていた。

 

「リンディ提督お久しぶりです。」

「エレナ本当に久しぶりね。その子が今日検査を受ける息子さんね?」

「初めまして!月代カイトです!」

「初めまして。私は、リンディ・ハラオウン。そしてこっちが息子のクロノよ。」

「クロノ・ハラオウンだ。よろしくカイト君。」

「はい!よろしくお願いします!」

 

リンディは母エレナが管理局にいた時の直属の上司で提督、そのリンディの息子クロノは執務官であると二人の階級が高い事をエレナから教えられておりカイトは結構緊張している。

 

「では早速始めようか。エイミィ!」

「はいはーい。えーと、カイト君だっけ?じゃあ始めるよー!」

「え!あ、はい!」

 

リンディとエレナが談笑するのを尻目にクロノに連れられ検査をする場所に移動すると検査を担当するエイミィに指示され検査を開始した。

様々な検査を行い結果が出るまで外で若干緊張しながら待機していると、名前を呼ばれ結果を聞く為に部屋に戻った。

 

「じゃあ検査の結果を伝える。先に言っておくが非常に微妙な結果が出た…覚悟しておいてくれ。」

「えぇっ!」

「それじゃ説明するねー。」

 

エイミィが検査の結果を説明する。

まず魔力量はCランク。

成長するにつれ魔力量は増えるらしいが、成長しても精々Bランクくらいが限界との見立てだった。

 

そして肝心の適正はというと空戦適正はまずまずだが、射撃の適正がほぼ無く砲撃の適正が若干あるらしい。

そして適正が高いのが身体強化と魔力付与のみといった感じだった。

 

「えぇっと…つまり?」

 

一通り説明されたが、カイトはイマイチピンと来ていない表情を浮かべてクロノとエイミィを見た。

 

「ハッキリ言おう…総合すると君の魔導師しての能力は高くない。」

「そうなんですか…」

「クロノ君ハッキリ言い過ぎだよ…」

 

何とも微妙な空気になっている部屋に談笑を終えたリンディとエレナが入ってきた。

変な空気に気付いた二人は検査結果を確認し、結果を見たリンディは物凄く微妙な結果に少し残念そうな表情を浮かべていた。

 

「やっぱりね。こんな感じになると思ったわ。」

「エレナ?あなた分かっていたの?」

「地球にいた時に簡易的な検査はしましたし、大体予想通りですね。」

 

エレナのあっけらかんとした言い方に少し驚くリンディだったが、何故かエレナの表情は嬉しそうだった。

 

「射撃の才能は無いのは元から分かってましたよ?この子ったら魔力弾の生成も上手く出来ないんですもの。」

「エレナさん?射撃の才能が無くても魔力弾の生成だけなら誰でも出来ると思いますが…」

 

クロノの言う通り魔力弾の生成だけなら術式通りにやれば誰でも出来る。

検査の結果は魔力弾を飛ばしたりコントロールしたりする適正が無いと出ている。

エレナがカイトに何か指示しカイトが術式を起動させ手の平に魔力の塊を出し魔力を操作して魔力弾を生成しようとするが、手の平の魔力の塊はドンドン小さくなりやがて炸裂し消滅した。

 

エレナはそれ見たことかと言わんばかりの顔をしていたが、クロノはしばらく考え込むと何か思い付いた様な表情の後、部屋の中を物色し鉄の棒を持ってきた。

 

「カイト君。これに魔力を付与させてくれないか?」

「あの…魔力付与ってどうやればいいんですか?」

 

魔力付与のやり方を知らなかったカイトにクロノは唖然とするが、クロノがやり方を教えるとカイトは少々手こずりながらもなんとか鉄の棒に魔力を付与させた。

クロノは更に魔力を込める様に指示しカイトは指示通りに魔力を込めた。

 

「エイミィ!付与されている魔力を解析してくれ!」

「はいな!解析完了っと!…え?魔力の濃度が濃くなってる?」

「やはりか…魔力が圧縮されてる。」

 

クロノ以外の全員が頭に疑問符を浮かべる中でクロノはカイトが持つ魔力資質を説明した。

 

「つまり僕は魔力を勝手に圧縮出来るって事ですか?」

「そうゆう事だ。」

 

しかし、勝手に圧縮されるだけであまり使い道が無い事を説明すると部屋の中にいる全員が黙ってしまった。

 

「くくっ…あっははは!も、もうダメ!あははは!」

「か、母さん?」

「ちょっとエレナ!?」

 

沈黙を破ったのはエレナの笑い声だった。

笑うエレナに全員が困惑しどうすればいいのか分からない状態に陥った。

 

「いやぁ、ごめんなさいね。あまりにもカイトの魔力適正がカイトらしいものだからつい…ね。」

「カイト君らしい?エレナ?どういう事なの?」

「そうですね…説明するより実際に見てもらいましょうか。カイト?木刀は持ってきた?」

「え?うん。持ってきたよ?」

「じゃあクロノ君。カイトと模擬戦してくれないかしら?」

 

エレナの急な申し出に呆気に取られたクロノだったが、リンディが了承したので訓練室に向かった。

 

カイトはエレナから何かアドバイスを貰ってからクロノの前に立ち木刀を構え、模擬戦開始の合図と共にカイトは猛スピードで接近し斬撃を放った。

クロノはカイトのあまりのスピードに回避が追い付かず障壁を展開し斬撃を受け止める。

カイトは更に木刀を振るい次々と斬撃を放っていく。

 

「こ、これは…」

「魔法は身体強化と魔力付与しか使ってませんよ?」

「信じられないわ…」

 

先程エレナは身体強化魔法を使って木刀に魔力を付与していつも通り戦えばいいとカイトにアドバイスしていたのだ。

 

目の前で苦戦するクロノを見てリンディは驚愕の表情を浮かべ、それとは対照的に誇らしげな表情を浮かべながらエレナは息子の勇姿を見守っていた。

 




ちょっとした主人公設定みたいな挿話でした。

通算UAが5000を突破しました。
そしてお気に入りも40に増えて嬉しい限りです。


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第10話 魔導師襲撃事件


タイトルでバレてますがA's本編開始です!



フェイトの裁判も保護観察期間付きの無罪という最終判決が下された翌日。

カイトはブラウン隊長に呼び出され地上本部に来ていた。

 

「魔導師襲撃事件…ですか?」

「そうだ…まずはこれを見てくれ。」

 

部隊の隊長室でブラウン隊長は苦虫を噛み潰した様な表情でカイトにモニターを見せる。

モニターには事件の概要と現場の様子に被害に遭った魔導師のプロフィールと怪我の状態が表示されている。

 

「結構多いですね…」

「大体一カ月半くらい前から起こり始めたみたいだ。元々は本局の事件なんだが、先日別の任務で派遣してたウチの若い奴もやられてな…」

 

基本的に本局の事件を地上本部の部隊が調査する事は有り得ないのだが、今回は自分の部隊員が被害に遭った事で無理を言って情報を回してもらったらしい。

 

「被害者に共通しているのが怪我の具合は大した事はないんだが、リンカーコアが異常に収縮していて魔法はしばらく使えないって所だ。」

「魔力を奪われたって事ですか?」

 

ブラウン隊長は更に襲撃を受けた場所も時間もバラバラで転移の痕跡を追っても複数の世界を経由している為、一切足取りが掴めない状況だと説明していく。

それに加え犯人の目的や人数等も不明であり、まさにお手上げといった状態だった。

 

「犯人の少人数のグループですね。」

「あぁそれは俺も気付いた。」

 

被害に遭った魔導師の傷を見てカイトが口を開くとブラウン隊長もそれに同調した。

カイトが気付いたのは傷のパターンが三種類という事だった。

全て魔力ダメージによる傷なのだが細部が異なっている。

何か鈍器の様な物を打ち付けられた傷に、攻撃の際引く動作が必要な物で付けられた傷と、何も介さないで直接打ち付けられた傷の三種類。

この事から犯人は少人数と判断した。

 

「…最低で二人…多くて四人程度のグループ…魔力を集めている…時間も場所もバラバラ…」

 

カイトは今ある情報を元に思考の海へダイブした。

ブラウン隊長もその様子を見て考えがまとまるまで黙って待つ。

 

「時間…あ!この時間って全て現地時間ですか?」

「あぁそうだが…」

「それなら、時差があるはずです!どこか一つの世界に時間を合わせれば犯人の行動パターンが掴めるかも!」

 

色々な次元に数多くの世界がある為、時差があったり無かったりするが時間を合わせる事で見えてくる物もある。

 

「そうか!ありがとうカイト君!早速取り掛かる様に手配する。君はそろそろ帰らなければならない時間だろう?後は俺達の仕事だ。」

「え?うわ!本当だ!それじゃあ失礼します!」

 

カイトは急いで帰宅し夕食の準備に取り掛かりエレナが帰宅すると一緒に夕食を食べた。

 

《マスター。クロノ様より緊急通信です》

「うぇ!こんな時間に!?」

 

夕食の片付けも終わりエレナと二人でまったり談笑していると月下(げっか)にクロノから通信が入った。

カイトは基本的に家族との時間を優先する事をクロノは重々承知の上で通信を送ってきたという事から、その緊急度合いが伺える。

 

『カイト!なのはが襲撃された!更になのはに会いに行く途中だったフェイトもやられた!』

「えぇ!高町とフェイトが!?分かった!すぐ行く!」

 

なのはの戦闘記録を見たがとてつもない魔力量と砲撃だった。

フェイトも自ら模擬戦だが戦った事があるので強さは知っている。

そんな二人が負けたと聞いて驚愕の表情を浮かべながらカイトはエレナに事情を話し家を飛び出した。

 




カイト君有能だなぁ。
各次元世界に時差があったりなかったりするのは独自解釈です。


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第11話 ベルカの騎士


あの子と再会です。



なのは襲撃の一報を聞いて大急ぎで本局に向かい、途中で会ったエイミィに状況を確認したところ怪我は大した事ないと聞いて少し落ち着いたカイトは現在本局医務室の扉の横で座り込んでいる。

 

「はぁぁぁ…どうしよう…」

「何をやっているんだ…君は…」

 

座り込んで溜め息混じりのカイトを見て、クロノは何か可哀想な物でも見るかの様な目をしながら話しかけた。

 

「いや、すっごい入りづらい雰囲気なんだよ…」

「君は何を言ってるんだ…なのはとは久しぶりなんだろう?普通に入ればいいじゃないか。」

「あ!今は!」

 

中にいる二人に確認も取らず本当に普通に医務室の扉を開けたクロノの目に飛び込んできたのは、なのはとフェイトが抱き合っている光景だった。

 

「…あ…いや…すまない。」

 

一瞬思考が停止したが事態に気付きクロノは謝りながらプシュッと扉を閉じる。

その後、中の二人は大慌てで扉を開け顔を真っ赤にしながら言い訳を開始した。

 

「高町。本当に久しぶりだね。」

「うん。久しぶり。本当にカイト君も魔導師だったんだね。」

 

一悶着あったがなんとかカイトとなのはは再会を果たした。

カイトは魔力が目覚めてミッドに移住し魔導師になった経緯を伝えた。

談笑の中、カイトが出演したビデオレターを見た高町家の様々なリアクションを聞いてドッキリが大成功した事に心の中でガッツポーズをしたカイトだった。

 

「ところで、高町を襲撃したのはどこの誰なの?」

「それは場所を変えて話そう。」

 

カイトが質問するとクロノが場所を変えると言うのでカイト達三人は大人しくついて行く。

連れて来られた場所は、なのはとフェイトの破損したデバイスが修理を受けているメンテナンスルームだった。

 

「ユーノ。状況はどうだ?」

「うーん…良くは無いね…コアは無事だったけど…」

 

メンテナンスルームでコンソールを叩くユーノにクロノは破損状況を聞く。

かなり破損が酷く見えたがコアが無事なら何とかなるとカイトは安堵した。

しかし、破損した自分達のデバイスを見た二人は各々のデバイスの前に立ち悲痛な表情を浮かべていた。

 

「あ、ユーノ代わるよ。ユーノも戦って疲れてるでしょ?」

「え?ありがたいけどコレはいくらカイトでも…」

 

ユーノも戦いに参加した事を聞いたカイトはデバイスの破損チェックをしているユーノに交代を申し出るが、いくらカイトでもデバイスの事は分からないだろうと断ろうとした。

 

「え?あ!言ってなかったっけ?俺のデバイスは自作したんだ。だからこれくらい出来るよ?」

「えぇ!?そうなの?」

 

あまりにもサラッとデバイスを自作したと言うカイトにユーノとなのはは驚愕の表情を浮かべた。

ちなみにクロノとフェイトは知っていたので、うんうんと頷いていた。

 

カイトのデバイス「月下(げっか)」は、もちろん技術部の人達の協力もあったがカイト自ら作り上げた物だ。

修理やメンテも自ら行っている。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

「任せてよ!俺は疲れてないからこれくらいはやらないとね。」

 

ユーノに代わってコンソールを操作し出したカイトはモニターを見ながら時折誰かと話す様に呟きアッと言う間に必要な部品のリストを作成した。

 

「え?もう終わったの?」

「うん。二機と話しながらだったからすぐだったよ。二機共いい子だね。」

 

あまりの早さにまたもや驚愕の表情を浮かべるユーノを尻目にカイトは更にコンソールを操作する。

 

「じゃあクロノ。例の襲撃者の事を聞かせてよ。」

「あぁ。二機が残してくれた映像とこちらのサーチャーの映像を出してくれ。」

 

先程とは打って変わって気を引き締めた様な表情のカイトがコンソールを操作するとモニターに赤い服の少女と桃色の髪の女性、そしてアルフが戦った褐色の肌の男性が映し出された。

カイトは映像を見ながら真剣な表情でクロノの説明を聞いていく。

 

「でも、あいつらの魔法…何か変だったねぇ。」

「これはベルカ式だね。しかも…これは本物…真性古代(エンシェント)ベルカだ…」

 

アルフが実際戦った相手の疑問点を挙げると、カイトが疑問点と映像を擦り合わせて答えを出した。

 

「ベルカ式?」

「遥か昔、ミッド式と魔法勢力を二分した術式だよ。優れた術者は騎士って呼ばれるらしい。」

「確かにあの人もベルカの騎士って言ってた…」

 

カイトは更に射砲撃や補助等汎用性に優れるミッド式とは逆に近接戦闘に特化していると相違点を説明し、ベルカ式の最大の特徴である儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸を搭載する事で、瞬間的に爆発的な破壊力を得るカートリッジシステムの説明も付け加えた。

 

「か、カイト君詳しいの…」

「まぁ、俺は近代ベルカ式だからね。気になって古代ベルカの事調べてたんだ。」

「え?じゃあ、カイト君もベルカ式ならカートリッジシステムも?」

「いや、俺はカートリッジシステムは付けてないよ?危険で物騒だから…それと俺は近代ベルカ式ね。」

 

なのはに近代ベルカ式はベルカ式をミッド式でエミュレートした物だと説明し、一通り話が終わるとクロノは面接の時間が迫っている事をフェイトに告げ、なのはもクロノに連れられメンテナンスルームを出ていった。

 

「しかし、ベルカの騎士か…いいね…強そうだ。」

 

三人が出ていった後モニターを見ながらカイトが呟くと、ユーノとアルフは戦闘狂の一面を覗かせたカイトを見てまた始まったかといった表情をして苦笑いを浮かべていた。

 




カイト君は立派な戦闘狂に育ちました。
一体、誰のせいなんだ!
そして、デバイスはまさかの自作という衝撃の新事実。


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第12話 闇の書


2500文字ぴったり!



クロノ達が面接の為、メンテナンスルームから出て行った後カイトは破損した二機が記録した映像の続きを眺めていた。

 

「うわ!ちょっとユーノ!これどうゆう状況?」

「僕も原理は分からないけど何らかの方法でなのはのリンカーコアを捕獲して魔力を奪ったんだ。」

 

カイトが見ていたのは、なのはの胸から腕が出てきてリンカーコアと思しき光を手の平に浮かべている所だった。

ユーノの説明を受けてカイトはたちまち顔が青ざめていく。

 

「魔力を…?奪われた?」

「うん。今なのはのリンカーコアは異常に収縮していて、しばらく魔法は使えないんだ…」

 

魔力を奪われた事を知らなかったカイトは夕方にブラウン隊長と話した事件と今回のなのは襲撃は同事件だという事を今更ながら理解した。

 

「でも、犯人の目的は?魔力を奪って何をするつもりだろう?」

「僕も詳しくは分からないけどロストロギアが絡んでいるらしいよ?」

 

ユーノからロストロギアと聞いてカイトは少し考え込む。

思考の海にダイブしてしまった姿を見て、この状態のカイトはしばらく戻ってこないと知っているユーノとアルフはメンテナンスルームを出ていった。

 

 

しばらく考えていると一つの仮説が浮かび顔を上げると、ユーノとアルフとエイミィの姿が目に入った。

いつの間に来たのだろうと若干疑問に思うも、一つの事に集中すると周りが見うなくなるカイトにとって日常茶飯事なので、気にせず会話に混ざる事にした。

 

「あの…エイミィさん。フェイトの面接をするグレアム提督って凄く偉い人なんですよね?」

 

ユーノにグレアム提督の事を聞かれたエイミィは、コンソールを操作しながらグレアム提督はクロノの指導官で一番出世した時で艦隊指揮官、その後は執務官長、そして現在は管理局顧問官だと説明するとアルフはとてつもない経歴にかなり驚いていた。

 

「でも、いい人だよー優しいし。」

「確かに想像出来ないくらい偉い人なのに優しくていい人だよね。」

「えっ?カイトってグレアム提督の事知ってるの?」

 

カイトは母親が管理局にいた時にお世話になっていたらしくミッドに来た時に紹介されたとユーノの質問に説明していると、作業を終えたエイミィの号令で全員メンテナンスルームを後にした。

 

カイトは友人達と離れ、これからどうするかと思案していた。

とりあえず時間も遅いので、一旦家に戻りたいのだが先程浮かんだ仮説をクロノに話して検証しない事には帰れないと思い歩いていると、幸いにも今からクロノのところに行くというフェイトとリンディ提督に落ち合う事ができたので一緒に付いて行く。

 

「クロノ。」

「艦長。フェイトも一緒か。」

「俺もいるよー」

「カイト…こっちから呼び出したとはいえもう遅い。君は早く帰るんだ。」

「うん。ありがとう。でも、この事件について聞きたい事があるんだ。」

 

クロノは家族の時間に水を差してまで呼び出した事を気にしていたが、カイトは先程の仮説を検証しようとクロノに質問を投げかけた。

 

「何だ?さっき全部説明しただろう?あれ以上は…」

『闇の書…』

『なっ!?』

 

あれ以上話す事は無いと言いかけたクロノにカイトは割って入るかの様な勢いで仮説として浮かび上がったロストロギアの名前を念話で伝えた。

 

推理自体は簡単だった。

ベルカの騎士が魔導師を襲撃して魔力を奪う事件が多発し更にロストロギアが絡むとなると思い当たる節は一つ「闇の書」だけだった。

 

その名前を聞きクロノは驚愕の声を挙げ、それを念話で聞いたカイトは仮説は立証された事を悟った。

 

『やっぱりか…何で黙ってたの?』

『…すまない。今回は場所が場所だし時間もかなり掛かりそうなんだ。』

 

クロノはカイトが家族との時間を一番大切にしている事を知っている。

なので、今回の様に地球から個人転送で行ける範囲に限定された遠くの世界での事件や長期に渡り自宅に戻れない様な事件には関わらせたく無かった。

 

『水臭いなぁ…闇の書が関わるなら話は別だよ?協力するから依頼出しておいて!』

『すまない。助かる。』

 

十一年前に起きた闇の書事件でリンディの夫でありクロノの父クライド・ハラオウン提督が亡くなった事をカイトはクロノから聞かされていたのでクロノが闇の書事件に関わった場合は必ず協力するとカイトは心に決めていたのだった。

 

『有り難いんだが…本当にいいのか?地球に行く事になるぞ?』

『…え?ちょっと待って!それは聞いてない!』

 

念話でクロノと話しながら並行してアースラが整備中で使えず長期航行できる艦が二カ月先まで空きがないという話は聞いていたが地球に行くなんて話は聞いていない。

 

アースラスタッフが集まる部屋で、スタッフに今回の事件の担当を割り振っていたリンディが最後に地球に拠点を置くと発表した。

その拠点はなのはの保護を兼ねて、なのはの家のすぐ近くだとリンディが言うと、なのはとフェイトはとても嬉しそうな表情を浮かべ、その表情を見たアースラスタッフ達は温かい眼差しで全員笑顔を浮かべていた。

 

「あの…リンディ提督?俺は地球に行かなくていいですよね?」

「戦力的に出来ればカイト君も来てほしいのだけど…」

「いやいやいや!ダメですよ!俺、三年前まで普通に海鳴で暮らしてたんですよ?イタリアに引っ越した事になってるのに、もし知り合いに見付かったらどうするんですか!?」

「そうよねぇ…数日なら誤魔化せるけど長期間滞在するのは無理があるかしら…」

 

カイトは三年前まで普通に海鳴市で暮らしていた。

家の都合でイタリア人という設定の母の故郷イタリアに引っ越した事になっている。

知り合いに見付かれば、遠い外国に住んでいるはずの人間が生まれ故郷である海鳴市に長期間滞在していれば不思議に思われるのは仕方のない事である。

 

「あ!そうだ!レイジングハートとバルディッシュの修理手伝います。」

「なるほど。そうしましょう。その後は、またこちらで考えるわ。」

 

リンディもカイトのデバイスに関しての知識や技術は知っているのでメンテナンススタッフの手伝いには適任だとカイトの提案を受け入れた。

 

咄嗟に思い付いた提案が通り、とりあえず現時点では地球に行かずに済んだ事に安堵の表情を浮かべ、ほっと胸を撫で下ろしたカイトであった。

 




カイト君は地球に行きません。
基本的にミッドかアースラに居ます。


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第13話 カートリッジシステム


うわっ3600文字!すごい!



なのは襲撃事件の翌日、クロノ執務官からの協力要請の手続きを正式に済ませたカイトは朝一番で無限書庫で闇の書の事を触りだけ調べた後、メンテナンスルームに向かった。

 

「マリーさん。おはようございます。」

「おはようカイト君。」

 

メンテナンスルームにいたのは管理局技術部に所属する「マリエル・アテンザ」という女性だった。

エイミィの後輩でカイトがデバイスを自作する時に色々教えてくれたので、カイトにとってはデバイスの師匠みたいな人だ。

 

「どうですか?バルディッシュとレイジングハートは?」

「うーんと、後はパーツ交換して終わりって感じだよ。」

 

カイトが帰宅した後に修理していたのか予想以上に早く修理が終わりそうでカイトは安堵した。

後は発注したパーツが届き次第パーツを交換し軽くテストして終了という流れになりそうだ。

 

二機の細部チェックも終わったので、ついでにカイトのデバイス月下(げっか)のメンテナンスをしていると発注していたパーツが届いたので、月下のメンテナンスを切り上げ二機のパーツ交換に取り掛かった。

 

カイトのデバイスマイスターとしての技量も中々のものであり、パーツ交換くらいなら普通にこなせる為、マリーと分担して一人一機ずつやれば効率がいい。

 

カイトはフェイトのバルディッシュを何回かイジった事があるのでバルディッシュの担当になり数時間でパーツの交換が終わりマリーも交換が終わっていたので二機を再起動した。

 

「そういえば、月下にはカートリッジシステム付けなかったんだっけ?」

「付けようか迷ったんですけど…」

 

二機の再起動を待っている間ヒマになったマリーはカイトに質問する。

 

月下を作った後にベルカの事を調べているとカートリッジシステムの事を知り、カイトはその魅力的なシステムの搭載を相当迷ったが色々検討したあげく断念した。

 

「確かに危険な物だからねぇ。」

「危険なのもあるんですけど、僕の場合あんまり必要無かったんですよ。」

「そうなの?」

 

マリーは必要無かったという答えに頭に疑問符を浮かべてカイトを見る。

 

カイトの魔力量はBランクで、なのはやフェイト程多くは無いが、カイトが戦闘中に使う魔法は身体強化と圧縮魔力の付与がメインであり、この二つの魔力消費量はそこまで多くない。

 

そして、カイトの戦闘スタイルは元々高い身体能力を強化して相手の攻撃を避けたり受けたりしながら一瞬で近付いて斬るという物なので、対応し切れない攻撃にのみ防御魔法を使用するので使用頻度はあまり高くない。

更に飛行魔法は、空中では足場が無く走れないので本来のスピードが出せないのでこちらも使用頻度は高くない。

 

結果的にカイトは戦闘中の魔力消費量が少ない為にカートリッジで魔力の底上げをする必要が無いし、わざわざ圧縮魔力を込めた弾丸(カートリッジ)を使わなくても自ら魔力を圧縮出来るので必要無かったとマリーに説明した。

 

マリーと談笑していると二機の再起動が完了したので仕事に戻った二人は各部のチェックをしていった。

 

「じゃあ異常も見当たらないし、これで修理完了だね!」

「意外と早く終わりましたね。あれ?エラー?二機共?えーと…ちょっとマリーさんこれ見てください!」

 

異常も見当たらず終了と思われた瞬間に二機は同時にエラーを出した。

モニターに映るエラーコードを見てカイトは驚愕しマリーにモニターを見る様に促した。

モニターを見たマリーもカイトと同じ様な驚愕の表情を浮かべコンソールを操作して二機に聞いてみるがエラーを吐き出すだけで、二機は一切コマンドを受け付けなかった。

 

「うーん困ったな…幾ら何でもコレは独断では出来ないよね…?」

「ですね。誰かに連絡して聞いてみない事には…」

「とりあえずエイミィ先輩に連絡してみるよ。」

「お願いします。じゃあ、俺は万が一了承が取れた時の為に在庫があるか確認しておきます。」

 

マリーはエイミィに連絡し、カイトは別のコンソールで二機が指定した部品が管理局に保管してあるか検索する。

 

二機がそれぞれ指定した部品が管理局にある事を確認したカイトは何かを確信した後ため息を吐いた。

 

「はぁ…マリーさん…こいつら在庫がある事を確認してからエラー出してますよ…」

「あらら…これは上の了承が取れたら徹夜確定だねぇ。」

「でも、俺はこいつらの気持ちに応えたいです。」

 

修理が終わった二機は自らの意思でベルカ式カートリッジシステムの搭載を望み管理局に部品があるか調べてから二人に進言してきているとカイトは考え、主人の力になれなかった悔しさを痛い程感じたカイトは二機の想いに応えたい気持ちでいっぱいだった。

 

カイトは祈る様な気持ちで、上つまりはリンディ提督の返答を待っていると(いと)も簡単にゴーサインが出た。

 

カイトはあまりにもアッサリと許可が出た事に拍子抜けしたが、気を取り直し二機が指定してきた部品「CVK-792」シリーズを取りに行った。

 

「えっと…レイジングハートがCVK-792-AでバルディッシュがCVK-792-Rだったっけ?」

《合っていますよ。マスター。そこを右に行った所にあるようです》

「ありがとう。月下。」

 

月下にナビゲートされながら倉庫の中から部品を探し出しメンテナンスルームに戻ったカイトはマリーと共に早速作業に取り掛かった。

 

一般的にインテリジェントデバイスとベルカ式カートリッジシステムは相性が悪いが二機が独自でシュミレートしたデータでは何も問題無かった。

 

しかし、問題は時間だった。

また他の魔導師が襲われる可能性が無いとは言えない為、なるべく早く終わらせて主人の元へ返さないといけなかった。

そうなると当然、徹夜で泊まり込みの作業になる事は想定出来たのでエレナには連絡して着替え等を持ってきてもらった。

 

それから、カイトとマリーはデバイスの改造に全力を注いだ。

数日間、食事も作業をしながら摂り仮眠とシャワー以外は全て作業に当てた。

その結果、二人の目の前には新しく生まれ変わったデバイス二機の姿があった。

 

「で、出来た…」

「おつかれさまぁ…」

 

数日間、ほぼ不眠不休のカイトとマリーは精根尽き果ててフラフラの状態だが大仕事をやり切った達成感で笑顔だった。

 

「あとはカートリッジのテストしたいところだけど…あっ!」

「え!カイト君?どうしたの?」

「カートリッジに魔力入ってない…」

 

カートリッジの性能テストと慣らし運転はデバイスの使用者本人に任せようと考えていたカイトだったが、管理局の倉庫にあった新品を使った為に肝心のカートリッジに魔力が入ってない事に気付いた。

 

「どうしようか?予備のカートリッジ全部に魔力を込めるって事になると相当な魔力量になるよ?」

「リンディさんやクロノがやってくれればいいんですけど…今は二人共地球ですもんね…」

《マスターの魔力を使えばいいのではないでしょうか?》

「俺の魔力量だと足らないよ?」

 

魔力を供給してくれる魔導師を探そうとしたところで月下がカイトに提案するがカイトの魔力量はBランクで全てに魔力を込めるには足らなさ過ぎた。

 

《テストだけならデバイスに装填する六個分の魔力でよろしいのでは?》

「あーそっか。でも二機だから十二個分だよね?足りるの?」

《今、計算してみたのですがギリギリ足ります》

「ギリギリなんだ…まぁ足りるなら時間も無いし俺のでいいかな。」

「それよりもカイト君、魔力の封入方法知ってるの!?」

 

自らのデバイスに言われるがままカートリッジを手にしたカイトにマリーは驚いた。

カートリッジシステムを使った事が無いはずのカイトが魔力の封入方法を知ってるとは到底思えなかった。

 

「一回調べた時に一応術式はコピーしておいたんですよ。結構簡単なので大丈夫だと思いますよ?」

「思いますって、やった事は無いんだね…無茶するなぁ…」

 

月下にカートリッジシステムを搭載するかどうかを検討している時に魔力封入自体は簡単だったので一応術式はコピーしておいた。

しかし、実際にやるのは初めてのカイトだが何の迷いも無くカートリッジを一つ手に取り術式を起動させた。

カイトの手が黄色の光に包まれると数十秒程でカートリッジに魔力が封入された。

 

「うん。出来たけど…何か効率悪い気がする…」

《マスターは魔力を自然に圧縮出来るので圧縮の工程が不要です》

 

なるほど、といった様子で術式を確認し組み直して再度カートリッジを手に取り魔力封入を開始した。

すると、今度は明らかに時間が短縮され数秒程で終了しカイトは次々とカートリッジを完成させていくが、残り半分を切った所でカイトの額に汗が滲み出し段々と辛そうな表情を浮かべていき最後の一個に魔力を込めた後、カイトは気を失った。

 

「カイト君ッ!?」

《魔力切れですね》

「何でそんなに落ち着いてるの!?」

《マスターは訓練でよく魔力切れを起こすので、この様な気絶には慣れてます》

 

数日間ほぼ不眠不休の状態で魔力を酷使し倒れたカイトを見てマリーは慌てるが、いつも通りだと言わんばかりの月下の口調に一体どんな激しい訓練をしてるんだと更に心配するマリーであった。

 




カイト君はデバイスをいじくるのも好きですが、まさか改造までしてしまうとは…
そして安定の気絶エンド。


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第14話 無限書庫


今さらですが原作は基本的にテレビ版を軸にしています。



魔力切れで気を失ったカイトは一応医務室で検査を受けたが疲れて果てて眠っているだけと診断されたので、その後は仮眠室に運ばれていた。

すでに日付も変わっておりカイトは丸一日くらい眠っている。

 

「おい!カイト!そろそろ起きろ!」

「…んあ?クロノ?」

 

だらしない顔をして眠りこけていたカイトをクロノが叩き起こした。

目を覚ましたカイトは意識が覚醒していくのと同時に気絶する前の事を思い出していった。

 

「あぁそうか…カートリッジに魔力込めてたら気絶したんだっけ…」

「全く無茶をする…と言いたいところだが今回ばかりはその無茶のおかげで助かったよ。」

「ん?何かあったの?」

 

デバイスの所有者本人に動作テストをお願いしようとなのはとフェイトを呼び寄せたタイミングでベルカの騎士達の補足に成功してしまい、なのはとフェイトは受け取ったばかりのデバイスを手に出撃し戦闘が開始され、カイトがデバイスに装填する分のカートリッジに魔力を込めていなければ、せっかくのカートリッジシステムがただの飾りになっていたところだったとクロノは説明した。

 

「詳しくは歩きながら話そう。カイトついて来てくれ。」

「今すぐ?シャワー浴びる時間があれば嬉しいんだけど…」

「それくらいの時間はある。待っててやるから早く浴びてこい。」

 

クロノに許可を貰いベッドから出てシャワーを浴びて仮眠室を出るとクロノとユーノが待っていた。

二人と共に廊下を歩きエイミィと合流するとクロノがモニターを出しカイトが眠っている間に起きた戦闘記録を見せてくれた。

そこにはカートリッジシステムを使いベルカの騎士達と互角に戦うなのはとフェイトが映っており、カイトは絶好調だったらしいデバイス二機の活躍にホッと胸を撫で下ろした。

 

カイトが安堵したのも束の間モニターには衝撃の映像が映し出された。

クロノが守護騎士(ヴォルケンリッター)と呼ばれる四人の一人を見つけ出し拘束しようとした瞬間、仮面の男がどこからかいきなり現れクロノを蹴り飛ばした。

 

「え?誰?この仮面の男。」

「分からない…」

「サーチャーにも全く反応が無かったんだよねぇ…」

 

カイトが思わず質問すると、それぞれ苦虫を噛み潰した様な表情のクロノとエイミィが答えた。

エイミィが言うには管理局のサーチャーやレーダーに全く感知されずに突然現れたらしい。

管理局のサーチャー等は非常に優秀だと思っていたカイトはその包囲網をいとも簡単にすり抜ける技量を持った仮面の男に恐怖を覚えた。

 

「しかし、邪魔されたとはいえ追い詰めた事には変わりない。しばらく守護騎士達も動けないだろう。」

「ところでクロノ、どこに向かってるの?ユーノは聞いてる?」

「いや、僕もついて来いとしか言われてないんだ。」

「君達に仕事を頼みたい。」

 

前回の戦闘で守護騎士達にこちらの動きが本格化した事を意識させたのは明白なので、しばらくは慎重になると予想したクロノはこの隙を使って二人に仕事を頼む事にした。

しかし、どこに向かって歩いているかも仕事内容も教えてくれずに困惑気味の二人は廊下を歩いて行くクロノについて行くしか無かった。

 

しばらく歩いていると目的地である部屋に着いた様でクロノは扉を開ける。

部屋の中にはグレアム提督の双子の使い魔「リーゼアリア」と「リーゼロッテ」がいた。

 

「やや、クロスケじゃないか!」

「うわ!来るな!ロッテ!」

 

部屋に入るとリーゼロッテがクロノに途轍もないスピードで向かって行く。

クロノは拒絶するがロッテは聞く耳持たずにクロノに抱きつき過剰なスキンシップを開始した。

 

「ロッテはいつも通りだなぁ。アリア久しぶり!」

「アリア久しぶり。」

「カイト、エイミィ久しぶり。」

 

ソファの向こうで揉みくちゃにされているクロノを尻目にリーゼアリアと挨拶を交わしていると、満足したのかロッテが戻ってきたのでロッテとも挨拶を交わす。

 

「それで、こっちの美味しそうなネズミっ子は食べていいのかにゃあ?」

「仕事が終われば好きにしていい。」

 

ユーノもロッテの標的にされかけたが復活したクロノが仕事の話を始めたので頭を切り替えて耳を傾ける。

 

クロノは無限書庫でユーノに闇の書の事を調べてもらうつもりらしい。

そして、リーゼ達とカイトはユーノの手伝いを依頼された。

 

「あたしらも教導が残ってるから、ずっとは手伝えないよ?」

「その為のカイトだ。一時期、無限書庫に入り浸っていたカイトにはうってつけの仕事だろう?」

「あはは!確かに!」

 

確かに嘱託魔導師になってすぐに無限書庫の事を知り、色々気になる事を調べている内に気付けば毎日の様に無限書庫に入り浸っていたカイトには適任の仕事だった。

しかし、皆に笑われながら肯定されると文句の一つも言いたくなるが、全く否定出来ない為口籠るしかなかった。

 

別に仕事があるクロノとエイミィと別れ、カイトとリーゼ達はユーノを無限書庫に案内した。

 

「ここが無限書庫…」

「すごいだろー。ここに全ての情報が集まるんだよ!」

 

無限書庫に着き中に入ると内部は巨大な円筒形になっており所狭しと書物が並んでおり無重力空間になっている。

入り口からは天井も底も見えないくらいの規模であり、奥に行き過ぎると遭難すると言われている。

 

「じゃあ、早速始めよう!」

「うん、えっと探索魔法と読書魔法を使えばいいのかな?」

 

ユーノの質問にカイトが見本を見せると、どこからか本が一冊飛んできてカイトの目の前でページがめくられていく。

 

「でも、闇の書で検索して一冊ずつ処理するとなると大変な作業だなぁ。」

「え?別に一冊ずつじゃなくてもいいんじゃない?」

「え?」

 

カイトの目の前ではユーノが数冊の本を自分の周りに浮かべ複数の本を同時に読んでいた。

驚愕の表情を浮かべるカイトを尻目にユーノは物凄いスピードでページをめくっていく。

 

「え?ちょっと待ってユーノ。その術式どうなってるの?」

「どうって…こうだけど…」

 

ユーノは術式を表示させた。

それを見たカイトは複雑過ぎる術式に目を回した。

 

「ゆ、ユーノ…よくこんなの使えるね…」

「え?普通だと思うんだけど…」

 

一度に広範囲を検索し複数の情報を集めマルチタスクで同時に処理していくユーノに情報処理能力は高めだと自負していたカイトは開いた口が塞がらなかった。

しかし、頼まれた仕事は待ってくれないのでユーノの術式を自分が使えるくらいに改良し何とか一度に三冊は同時に処理できる様になった。

 

ユーノとカイト、それにたまに手伝ってくれるリーゼ達と闇の書について調べていくと色々な事が分かってきた。

 

まず、闇の書は本来の名前ではなく正式名称は「夜天の魔導書」という事。そして、元々は各地の様々な魔法を研究し後世に伝える為に蒐集し主と共に旅する魔導書らしい。

 

だが、今回や十一年前の事件の様に破壊の力を振るう様になったのは、歴代の主の誰かがシステムを改変し自動防衛プログラムを組み込んだのが大きな原因で、全てのページを埋めると暴走し主を含め破壊の限りを尽くすと新たな主を求めて転生するという事が分かった。

 

「つまり、自動防衛プログラムを組み込んだ際にバグが発生したって事?」

「うん。それに転生機能と自己修復機能は無限に再生し転生し続ける物へと改悪されてるみたいだね。」

 

カイトはバクが発生した原因を尋ねるとユーノは他のシステムも改悪されていると答えた。

 

「プログラムを改悪されて全く別の物になってしまったんだね…」

「うん…本来なら歴史的に価値の高い古代遺産になるはずだったと思う…」

 

遥か昔、戦乱の時代のベルカでプログラムが改悪されたと二人は予想していた。

 

血で血を洗う戦渦の中、歴代の主の誰が何を想い何を願ってプログラムを改変したのか。

生き残る為、戦争を終わらせる為、あるいは世界を牛耳る為…

 

「っと…今はそんな事考えてる暇無いんだった。さぁて仕事仕事!」

 

いくら考えても決して答えの出ない思考を頭の外へと振り払い、カイトは目の前の仕事に取り掛かっていった。

 

 




カイトとユーノの無限書庫探検記!


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第15話 砂漠の世界


お気に入りの数が増えているのを見ると嬉しくなりますね。



無限書庫で闇の書の情報収集を開始して数日が経った。

新たに分かった事は多くなく、闇の書には管制人格というユニットが存在するという事くらいだった。

 

「うーん…やっぱりプログラムの修正方法とかは出てこないなぁ…」

「それは、どんな風に改変したのか記した記述が出てこない限りは不可能だよ。」

「記述を残している可能性も考えられないしね…」

 

カイトはなんとか闇の書のプログラムを修正する方法を探すが己の欲の為にプログラムを改変する欲の塊の様な人物が自分以外に情報を与えるとは二人共思えなかった。

カイトは、これ以上捜索しても目新しい情報は出てこないと思っていた。

 

「カイト君!今大丈夫!?」

「エイミィ?どうしたの?」

 

クロノに報告して今後の方針を固めようかとしていた時、慌てた様子のエイミィから通信が入った。

 

「守護騎士を捕捉したんだけど、今こっちの戦闘要員は三人だけなの!」

「なんてタイミングの悪い…」

 

リンディは対闇の書用にアルカンシェルという武装を搭載したアースラの試験航行の為に本局に行っており、クロノも不在だ。

 

エイミィの話によると文化レベルが皆無の無人世界で守護騎士二名を捕捉。

こちらにはフェイトとアルフが向かった。

なのはは待機していたが別の世界でさらに守護騎士一名が捕捉されたので、そちらに向かってもらったらしい。

 

「エイミィ。どっちに行けばいい?」

「フェイトちゃんはまだ蒐集されてないからフェイトちゃんの方が危険なんだけど、なのはちゃんの方の守護騎士は闇の書本体を所持してるの!だから…えっと…どうしよう?」

 

闇の書の蒐集は魔導師一人につき一度だけだ。

そうなると、すでに蒐集されているなのはは比較的安全と言える。

 

「エイミィ落ち着いて。この際、闇の書本体の事は考えない方がいいと思うよ?フェイトの方が危険だ。」

「分かった!座標送るね。転送ポートには連絡しとくから!」

「了解。じゃあユーノちょっと行ってくるよ。」

「うん。気を付けてね。カイト。」

 

カイトは無限書庫を出て本局の転送ポートへ走り出した。

すでに戦闘は開始されているだろう。

フェイトが簡単に負ける事は無いだろうが仮面の男の事を考えるとのんびりとはしてられなかった。

 

「砂地か…これは厄介だね。フェイトはどこかな?」

《少し離れた所にフェイト様の魔力反応が確認出来ました》

 

全速力で転送ポートに向かい指定の座標へ転送されると辺り一面砂だらけの砂漠世界だった。

カイトは辺りを見回すが近くにフェイトの姿は無く少し離れた所で戦っている様だ。

柔らかい砂地は踏ん張りが効きにくい上に足を取られたりするのでカイトの戦闘スタイルでは少々分が悪い。

 

「さて、フェイトは前回同様一対一で戦うはずだから…俺の役目は…」

《仮面の男の無力化ですね》

 

フェイトと守護騎士が戦っている所に仮面の男が現れる可能性はフェイトがまだ蒐集されていない事を考えると非常に高い。

 

「じゃあ、月下(げっか)。作戦開始だ!」

《了解。術式を展開します》

 

 

 

フェイトとシグナムと名乗る守護騎士が戦い始めて数十分が経っている。

近接攻撃が主体のシグナムに対してフェイトは射撃等も織り交ぜながら、カイトとの模擬戦で鍛えたクロスレンジで応戦していた。

 

(クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなし…ソニックフォーム使うしかないかな…?)

 

何度も互いのデバイスで斬り結び、少し間をおく為にシグナムから離れたフェイトは相手の圧倒的な力量に元々薄い装甲を更に薄くして自身の機動力を底上げするソニックフォームの使用を考えていた。

 

「え?」

 

目の前のシグナムに全神経を集中し過ぎていたのか、フェイトはいつの間かすぐ横に現れた気配に反応が遅れた。

気配を察知し、すぐ横に居たのが仮面の男だと気付いた時にはすでに遅くフェイトは身構える事も間に合わなかった。

仮面の男は左手をフェイトの背中を突き刺す勢いで伸ばしてくる。

 

(仮面の!?ダメだ!やられるっ!)

 

 

 

「させないよ。」

 

 

フェイトは聞き覚えのある声に振り向くと仮面の男の腕を掴んでいるカイトの姿が目に入った。

仮面の男はカイトの手を振り払い後ろに飛んで距離を取った。

 

「カイト?えっと…」

「フェイト。説明してる場合じゃないよ?俺は仮面の男の相手をするから守護騎士の方をお願い。」

「うん。分かった。」

 

カイトとフェイトはそれぞれの相手に目を向け、同時に走り出し再び戦いの火蓋が切って落とされた。

 

カイトは仮面の男に近付き横薙ぎに一閃、仮面の男はしなやかな動きでそれを避けるとカイトの顔面目掛けて鋭い蹴りを放つ。

カイトはしゃがんで蹴りをギリギリかわすと今度は拳が目の前に迫って来ており避けれずに拳を顔面に喰らってしまう。

殴られた衝撃で顔が上に向いたカイトに仮面の男は肘を打ち下ろして追撃を加えてくる。

迫り来る肘打ちに合わせる様に刀を振るうと肘と刀身が衝突した。

カイトは踏ん張りそのまま肘と刀身で鍔迫り合いの様な状態に持って行く。

 

「何で闇の書の完成を手助けする!?目的は何だ!?」

「答える必要は無い…」

 

鍔迫り合いの様な状態でカイトは仮面の男に目的を聞くが、仮面の男は答えずに肘を引いて刀身を振りほどきカイトの体勢を崩してきた。

仮面の男は肘を引いた状態からまたもカイトの顔面を狙って拳を振るう。

 

カイトは顔を横にズラして拳を避けると少し前に踏み出し仮面の男の横腹目掛けて斬撃を振るう。

当たると思われた斬撃は後ろに飛びながら体を捻った仮面の男に避けられ空を斬りカイトに隙を与えてしまう。

その一瞬の隙を逃さない仮面の男は斬撃を避けた動きのまま回転し後ろ回し蹴りをカイトの側頭部に叩き込んだ。

 

「がはっ!」

「…邪魔をするな…」

 

遠心力も加わって強力になった蹴りを喰らって吹き飛ばされ倒れたカイトの所に一瞬で移動した仮面の男はカイトをバインドで縛ると鳩尾に拳を叩き込んだ後にフェイトとシグナムの方へ目を向けた。

 

「うぐ…やめ…ろ…」

「お前も後で蒐集されるんだ。それまで大人しくしておけ…」

 

仮面の男はそう言うと先程よりも強い力でカイトの鳩尾に拳を叩き込んだ。

強烈な一撃を受けたカイトは衝撃と共に意識を失った。

 




ちょっとだけエイミィにはポンコツになってもらいました。
それと気絶エンド使いやすい。


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第16話 過去との相違点


今回のサブタイあんまり意味無いかも…



カイトが目覚めると割と見慣れた天井が目に入った。

この白い天井が管理局本局の医務室だと訓練でよく気絶するカイトはすぐに直感できた。

 

「んん…医務室?」

「あ、カイト起きた?」

「私、先生呼んでくる!」

 

フェイトとなのはの声が聞こえ意識が覚醒していく。

なのははカイトが目覚めた事を医者に知らせに医務室から出て行った。

 

「そうだ…俺…負けたんだ…フェイトは大丈夫?」

「うん。体は元気だよ。魔法は使えないけど…」

 

隣のベッドに上体だけを起こして座っているフェイトを見て気を失う前の記憶が戻ってきた。

フェイトによると仮面の男はカイトを倒した後すぐにフェイトに襲いかかり、フェイトをあっという間に行動不能にするとシグナムに二人の魔力を蒐集させて姿を消し、数分後にはなのはの前に現れヴィータと名乗る守護騎士を、なのはの長距離砲撃から守り長距離から一瞬でなのはをバインドで縛ってヴィータを転移させる時間を作ったらしい。

 

「ごめん…フェイト…俺…何も出来なかった…」

「ううん。私も何も出来なかった…だから謝るのは私の方…」

 

俺が悪い、いや私が悪いと言い合っていると、なのはが医者と共に医務室に戻ってきた。

その場で簡単な検査をして、すでにリンカーコアの回復が始まっている事としばらく魔法は使えない事を伝えて医者は医務室から出て行った。

 

「あー!クソー!最初は作戦通りだったのになぁ…」

「え?作戦?」

 

カイトは仮面の男の映像資料から姿を隠す幻術魔法のオプティックハイドと認識阻害魔法を使用しているに気付き相手のお株を奪ってやろうと考えた。

 

元々、月代流剣術のある技の為に練習していた幻術魔法と認識阻害魔法を使用しフェイトが戦っている場所から一瞬で移動出来る距離を保って身を潜め仮面の男の出現を警戒していた。

カイトが睨んだ通り仮面の男が現れフェイトに攻撃を加える寸前で阻止出来たまではよかったが、思った以上に仮面の男が強く返り討ちにあってしまったとカイトは説明した。

 

「でも、何で姿を消して認識阻害魔法まで使ってるのに現れたのが分かったの?」

「認識阻害魔法は相手からの認識を逸らすだけだからね。集中して気配だけを探ってたから現れた時はすぐに分かったよ?」

 

フェイトの問いにあっけらかんと答えるカイトに、なのはとフェイトは不思議そうな表情を浮かべる。

今の話だと姿を隠し認識を阻害されている相手を気配だけで察知し気配だけを頼りに仮面の男の正確な位置を特定しフェイトへの攻撃を防いだと言うことになる。

 

「カイト君…もう人間じゃないの…」

「うん。野生の動物みたいだね。」

「えぇ!?酷いよ二人共…」

 

二人の評価に驚いた後に落ち込むカイトを見て、なのはとフェイトは顔を見合わせてクスクスと笑った。

 

「でも、人間じゃないで思い出したけど守護騎士の人達も人間じゃないってクロノ君言ってたね。」

「うん。確か魔法プログラム体だって聞いた…」

 

闇の書の守護騎士は主を守り魔力を蒐集する為だけに存在し、それ故に自我や感情等は無く主の命令のみで動くただのプログラム体だとカイト達の調べで判明している。

 

「フェイトはシグナムだっけ?あの人と何か話してたよね?」

「うん。でも聞いていた感じとは違ったよ?シグナムからはハッキリと意思や感情が見て取れた。」

「私も報告と違うって思った!ヴィータちゃんも感情があったの。」

 

確かに守護騎士達には感情というものが見て取れた。

シグナムも自分の意思で話している様に感じたし、ヴィータの方は感情表情が豊かだったというのが実際に戦って言葉を交わした二人の感想だ。

更にアルフの報告だとザフィーラと名乗る守護騎士が蒐集を行なっているのは自分達の意思で主の命令では無いという発言をしたらしい。

 

集めた情報とは明らかに違う守護騎士達の様子に戸惑うカイトだが、今度会った時は話をしてみようと決意するのであった。

 

 

翌日、検査を終えた二人は退院しフェイトは学校へ向かい、カイトはリンディに呼び出されているので試験航行から戻ったアースラの艦長室に向かっていた。

 

「うん。絶対怒られる。」

《独断で勝手な作戦を決行し結果的にフェイト様を危険に晒した訳ですから怒られるのは当然ですね》

「いや、自分でも分かってるから…わざわざ言わないでよ…」

 

カイトは行きたくない気持ちをグッと堪えアースラの艦長室の扉を開ける。

和風で統一された室内にはリンディとクロノが揃って座っている。

二人から怒られるのかと内心思いながら着席を促されたので二人の前に座った。

 

「さて、カイト。何故呼び出したのかなんだが…」

「すいませんでした!」

 

クロノが呼び出した理由を話そうとした瞬間にカイトは謝った。

和風の室内なので正座していたので現在カイトは綺麗な土下座の形になっている。

その様子を見たリンディとクロノは目を見開き驚いた後、少し笑いながらカイトに頭を上げる様に促した。

 

「カイト君。呼び出したのは昨日の事じゃないのよ?」

「え?フェイトを危険な目に遭わせた事で呼び出されたんじゃ…」

「その件に関しては応援を呼ぶとか、すぐ離脱しろとか色々言いたいが、あれだけ力の差がある相手だと難しいというのがこちらの判断だ。」

 

怒られると思っていたカイトは拍子抜けした表情で二人を見つめていたが、今回呼び出されたのは説教では無いと理解すると安堵した表情を浮かべた。

 

「それじゃあカイト君。本題に入る前に一つ伝えておきたい事があるの。」

「はい。何ですか?リンディさん。」

「実はフェイトさんを養子に迎えようと思っているの。」

「うぇっ!?そうなんですか?」

 

母親を亡くし天涯孤独になってしまったフェイトを養子縁組をしてハラオウン家に迎える。

すでに本人には伝えており、後はフェイトの返答待ちという状態らしい。

 

「すごくいい事だと思います!じゃあクロノはフェイトのお兄ちゃんになるんだ!」

「あ、あぁ。そうゆう事になる…」

「おぉ!クロノが照れてる!」

「なっ!う、うるさい!」

 

しばらくカイトがクロノを弄り倒しているとリンディがコホンッとわざとらしく咳払いして乱れたその場を仕切り直した。

 

「二人共?そろそろ本題に入っていいかしら?」

「は、はい。すいませんでした。」

 

表情こそ笑顔だが声は明らかに怒気を含んでおり、リンディの背後にはドス黒いオーラが見えた気がしてカイトは恐怖を感じ素直に謝った。

もちろん実の息子であるクロノは何度となく同じ場面に遭遇した事があるので、すぐさま佇まいを直している。

 

「カイト君。私が聞きたいのはね…」

「は、はい。」

 

リンディのあまりにも真剣な表情にカイトはゴクリと喉を鳴らした。

余程重要な案件なのかとカイトも真剣に聞く体勢に入った。

 

 

「クリスマスって一体どういった行事なのかしら?」

「は、はい?」

「なのはさんから聞いたのだけど、いまいちピンと来ないのよ。」

「は、はぁ…」

「地球にいたカイト君ならもちろん知ってるでしょう?お願い!教えて?」

「いいですけど…何だか真剣に聞いて損した気分ですよ…」

 

クリスマスとは地球のある宗教の行事が発祥で本来はその宗教の教祖の誕生祭であり今ではその宗教を信仰していない人でも特別な日になっており、主に家族や恋人の様な大切な人と豪華な食事とケーキを食べて過ごす日だという事と、良い子にしていた子供達にはサンタクロースという人から枕元にプレゼントが届く事を説明した。

 

「なるほどねぇ…何だか素敵な行事だという事はよく分かったわ。ありがとうカイト君。」

「いえ、お役に立てて良かったです。やっぱりフェイトの為ですか?」

「あら?やっぱり分かっちゃう?私達もだけどフェイトさんも初めてなんだからちゃんとしなきゃと思ってね。」

 

まだ家族になるかはフェイトの気持ち次第だが、今年のクリスマスはフェイトにとって忘れられない日になるだろうとカイトは思った。

 

「ところで…サンタクロースというのは何者だ?世界中の子供達に一晩でプレゼントを贈り終えるなんて…」

「そう言えばそうね…しかも枕元にって事は人様の家に勝手に進入するのかしら?」

「あ、いや…あのですね…サンタさんってのは…」

「はっ!まさか…サンタクロースというのは…魔導師か!?」

「はぁ!?」

 

その後、クロノとリンディの勘違いを正すのに小一時間程必要になり、もう一日入院したくなったカイトだった。

 




うん。いいオチだ(自己満足)


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第17話 ホーリーナイト


今までよりは文字数多いです。



リンカーコアの回復も順調で一週間もしない内に魔力は全快し、最後の検査を受けたところ以前より魔力量が増えていると言われカイトは若干舞い上がっていた。

 

「魔力量がBランクからAランクになってるんだって!」

《嬉しいのは分かりますが先程から同じ事ばかり言ってます》

「だって、もっと色んな魔法使えるかも知れないんだよ?高町みたいな砲撃魔法も使える可能性もあるんだよ?」

《確かに射撃魔法よりは砲撃魔法の適正はありますが…》

「よし!今度高町と模擬戦する時に砲撃魔法のコツを教えて貰おう!」

 

なのはもヴィータと戦う為に近接の訓練としてカイトと何度か模擬戦をしているので砲撃魔法が得意な人にコツを教えて貰える絶好の機会である。

 

次に行うなのはとの模擬戦を楽しみにしながらアースラまで帰ってきたカイトはリンディや他のクルー達に全快の報告をしてクロノの元に向かった。

 

「カイト。もう大丈夫みたいだな。」

「うん。前より魔力量増えたんだ!」

「そうか。そんな事より君に聞きたい事がある。」

「そんな事?俺の魔力量が増えた事がそんな事扱い?」

 

クロノのぞんざいな扱いにガックリと項垂れるカイトを尻目にクロノは話を続ける。

 

「カイト。あの仮面の男と戦った感想を聞きたいんだが…」

「うーん…とりあえずオーバーSクラスだね。あれだけの使い手は中々いないと思うよ?」

「だろうな。それに数分で別の世界に転移する程の魔導師だ。知らないはずは無いんだが…」

 

Sランクの魔導師なんて管理局に所属している魔導師の中でも全体の数パーセントしか存在しない。

次元犯罪者でも中々いないし、むしろ探す方が厄介なぐらいだ。

超長距離転移を僅か数分でやってのける魔導師がいれば知られてない方がおかしい。

 

「うーん…僅か数分でか…まさか二人いたりして!ってそんな訳ないか…」

「二人?そうか!最初から二人なら全て説明が付く!」

「え?クロノ?どこ行くの!?」

 

クロノは何か辻褄が合ったのか慌てて部屋から出て行った。

いきなり一人取り残されたカイトは自分が次に何をすればいいのか聞かされなかった為しばらく呆然としていた。

 

 

数日後、アースラも地球の軌道上での待機が完了し、カイトはしばらく観測や事務処理を手伝いながら、なのはやフェイトと模擬戦を繰り返していた。

 

「それじゃあ、高ま…なのは。砲撃魔法のご教授よろしくお願いします。」

「はい。良く出来ました。こちらこそよろしくお願いします。」

「まだ慣れないんだね…」

 

なのはに訓練後に砲撃魔法のコツを教わる交換条件として名前呼びを強制されたカイトはずっと苗字で呼んでいた為になのはを名前で呼ぶのに未だに慣れないでいる。

フェイトも余りの慣れなささに若干呆れている。

 

なのはが言うには射撃魔法は魔力弾を形成するのに対して砲撃魔法は形を作らず一箇所に魔力を溜めて一気に放出するイメージだという。

カイトの魔力資質「圧縮」が邪魔して魔力弾が形成出来なかった為に砲撃を含む射撃系統は一切使用出来ないと思い込んでいたが、ただ単に魔力を溜める事は出来るカイトには朗報だった。

 

コツを教えて貰い、なのは達が帰った後は独学で術式を構築して一応完成はしたが、チャージに時間がかかり過ぎる上にチャージ中は行動不能になってしまい、威力は十分だが使う場面が非常に限定される物になってしまった。

 

カイトにとって唯一の砲撃魔法が一応完成した翌日、地球はクリスマスイヴを迎えていた。

ハラオウン家のクリスマスパーティにはカイトの発案で、なのはの実家である翠屋のクリスマスケーキを予約してある。

 

「今日は月村の友達のお見舞いに行くんだっけ?」

『うん。あの人達に動きは?』

「今のところ全く。恐らくクリスマスパーティの準備にでも追われてるんじゃないかな?」

『ふふ。そうだといいね。』

「何があるか分からないんだから気を付けてね。何かあったらすぐ連絡する事!」

『分かってるよ。じゃあねカイト。』

 

終業式を終えたフェイトとの通信を終え一息ついたカイトは守護騎士達の事について考える。

昨日までの数日間は魔力反応をキャッチしても、すでに蒐集された後であったりとイタチごっこを繰り返していたが今日は本当に一切動きが無い。

もしかしたら本当にクリスマスパーティの準備に追われているのかも知れないなんて事も考えていた。

 

本当に何も動きが無いまま夜になり、リンディがアースラから海鳴へ帰宅しようかとしていた時にクロノから通信が入った。

クロノによると普段なら帰宅している時間なのにまだ帰ってこないのでフェイトに連絡してみたところ全く通信が繋がらないという。

カイトも試しにフェイトに連絡するが通信妨害を受けている疑いがある。

 

リンディはすぐさま準警戒態勢を発令しエイミィがフェイト達が向かった病院の周辺を捜索すると、病院から少し離れたところに結界が張られていた。

 

「クロノは?」

「すでに現場に飛んでいます!」

 

結界が張られている周辺の通信妨害が消滅し復旧したモニターには、長い銀髪に真紅の瞳で背中に黒い翼を持った女性が映し出された。

カイトは無限書庫で見た闇の書の管制人格だと一目で分かった。

あのユニットはユニゾンデバイスであり主と融合して彼女が表に出てきたという事は闇の書が完成してしまったのを意味していた。

 

もう一つのモニターには結界近くのビルにいた二人の仮面の男とそれをバインドで縛り上げるクロノの姿が映っており、クロノのストラグルバインドの強化魔法を強制的に解除する効果により変身魔法を使用していた仮面の男達の正体が明らかになった。

 

「え?ウソ…」

「…リーゼ?」

 

エイミィもカイトも信じられないといった表情でモニターを見つめていた。

仮面の男の正体は変身魔法で姿を変えたリーゼ姉妹だった。

意外な正体に驚いていたカイトだったが、あの二人なら色々と説明が付くし自分が全く歯が立たなかった事を考えると妙に納得できてしまった。

 

『これから二人を連れてグレアム提督の所へ行く。カイトも来てくれ。』

「え?何で俺も?」

 

理由を聞く暇も無くアースラに戻ってきたクロノに連れられ本局のグレアム提督の執務室に到着した。

 

「クロノ待っていたよ。そしてカイト君も久しぶりだね。」

「お久しぶりです。グレアム提督。」

「リーゼ達の行動はあなたの指示ですね?グレアム提督。」

「違う!クロノ!父様は関係無い!私達の独断だ!」

「いいんだ。アリア、ロッテ。クロノはもう粗方の事は掴んでいる。」

 

十一年前の闇の書事件以降、クロノの父クライドを闇の書と共に葬り去った事を悔やみ続けていたグレアムは新たな主の元に転生する闇の書をずっと探し続けていた。

 

「そして発見した…完成前の闇の書と現在の主…八神はやてを…」

「…え?」

 

クロノの衝撃的な発言に一瞬聞き違いかと思ったが目の前のモニターには見間違える事などあるはずの無い幼馴染の画像が表示されていた。

 

「そんな…はやてが…闇の書の主?」

 

しかし、完成前の闇の書を破壊しても主を捉えてもすぐに再生し新たな主の元へ転生してしまうので意味は無い。

なのでグレアムは、はやての亡くなった両親の友人を装い生活を援助し、ご丁寧に監視まで付けて闇の書の完成を待った。

 

「その監視役が君だ…カイト。」

「…は?」

 

グレアムによると今から六年前に八神はやてと闇の書を発見し、結婚しミッドを離れ丁度地球に移住していたカイトの母エレナを監視役として選び八神家の隣に引っ越させたという。

 

「え?じゃあ…母さんもこの事を?」

「いや、エレナ君には闇の書の事は伝えていない。私はあの子の両親の友人を装ってエレナ君にあの子の世話をお願いしただけだ。」

「そう…ですか…」

 

物心ついた時から一緒にいるのが当たり前だった幼馴染が仕組まれて作られた物だと言われている様で、途轍もなく複雑な感情がカイトの中に渦巻くのを感じた。

 

「それで見付けたんですね?闇の書の永久封印の方法を…」

「あぁ。闇の書が完成し暴走が始まる瞬間の少しの時間に強力な凍結封印魔法で主ごと封印する。」

「そして、次元の狭間かどこかの氷結世界に閉じ込める。そんなところですか?」

「…主ごとって?はやてを…封印するって事…ですか?」

 

カイトが口を開くとグレアムは無表情で頷いた。

助けを求める様にクロノの方を向くがカイトとは目を合わせず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

「…嫌だ…絶対に嫌だ…はやてを封印するなんて…絶対に嫌だ!」

「これまでの主だってアルカンシェルで消滅させたりしてたんだ!それと何も変わらない!」

 

カイトは大切な幼馴染を封印するなんて絶対に嫌だった。

しかしリーゼ達はカイトの心情など知らずに今までと同じだと主張する。

 

「違う!同じじゃない!」

「そうだカイト。同じじゃない。暴走が始まる瞬間ならまだ凍結封印される様な犯罪者じゃない。」

 

クロノの言葉にカイトはハッとする。

暴走して地球を破壊でもすれば犯罪者として封印などの処置をしなければならないが現時点ではただ闇の書に主として選ばれただけではやてには何の罪も無い。

 

そして、クロノはどんなに厳重に封印しようが、どんなに遠くの世界に閉じ込めようがいつか誰かが手にしてしまうとグレアムの計画には不備があると指摘した。

 

「現場が心配なので戻ります。行くぞカイト。」

「待てクロノ。カイト君もだ。…アリア…デュランダルをクロノに。」

 

クロノがアリアからデュランダルというデバイスを受け取っている間にグレアムは両親を亡くし体を悪くしたはやての事を考えると心が痛んだが、せめて死ぬ前には幸せを与えたかったのだと弁明した後で全て偽善だったとカイトに謝罪した。

 

「そして、あの子からの手紙と君の手紙だが少し前から全てこちらで止めさせてもらっていた。君達を巻き込みたくなかったんだ…すまない。」

 

カイトは地球に手紙を送る時にリーゼ達の手を借りていた。

地球出身のグレアムが地球の両親に手紙を出していた事があるからと聞いて協力してもらっていた。

一年前くらいから手紙を出しても返事が来なくなっていたのは恐らく地球からの手紙に守護騎士達の事が書いてあったからだろう。

 

巻き込みたくなかったのは本音だろうとグレアムの優しさを知っているカイトは何と言っていいのか分からず無言でクロノと共に部屋を出た。

 

「クロノ…俺…はやてを助けたい…」

「それは僕も同じだ。」

「だからクロノ。俺をはやての所に行かせてよ。」

「それはダメだ。君はアースラで待機していてくれ。」

「ッ!何で!」

 

はやてを助けたいという想いは同じだったがクロノが下した命令は非情な物だった。

 

「今から戦うのは、話を聞いて君の精神が不安定になるくらい大切に想っている幼馴染本人なんだぞ!」

「俺は大丈夫だよ!クロノ!俺をはやての所に行かせてよ!お願いだ!」

「大丈夫じゃないと判断したからこそ待機なんだ!聞き分けろ!」

「これだけは絶対に譲らない!クロノお願い!何でも言う事聞くから!」

 

待機だ!嫌だ!と言い合っていると不意にカイトがニヤリと口を歪ませてクロノを見る。

 

「な、何だ…?」

「出撃の許可くれたら何でも言う事を聞くよ?例えば…」

「…例えば?」

「正式に入局して執務官補佐の資格を取れと言われればその通りにする。」

「ぐっ…今ここで、それを言うのは卑怯だぞ…」

 

クロノが事あるごとに言っていた提案を今この状況で持ち出してやったカイトは過去に例を見ない程に途轍もなく悪い顔をしているだろう。

しかしクロノにとってこんな魅力的な条件は無かった。

 

「…分かった。その条件飲もう。」

「ありがとう!クロノ!」

「だが絶対に忘れるなよ!約束だぞ!」

「うん!俺が約束を守る男だってクロノも知ってるでしょ?」

「そう…だったな。」

 

カイトとの付き合いも三年になる。

亡き父との約束や幼馴染との約束を今までずっと守り続けているのをクロノはその目でずっと見てきている。

そんなカイトが約束を破る事は無いと知っているクロノは、この事件後に優秀な補佐を得て自分の執務官としての未来は明るく照らされた様に思えた。

 





カイト君の将来が決まりました。
人使いの荒いクロノの補佐という事はカイト君は忙殺されてしまうかもしれませんね。


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第18話 届かぬ声


今回も4000文字オーバー!



思わぬ形で自らの将来が決まったカイトはエイミィに連絡して地球に転送してもらった。

闇の書の意思とも言える管制人格は広域攻撃型だという現場からの情報と以前調べた情報からカイトは対策を考えていた。

 

まず、管制人格がユニゾンデバイスであり現在は主であるはやてと融合していて管制人格の方が表に出ているという事は、はやては現在意識を無くしている状態だ。

はやてを目覚めさせる事が出来れば何とかなるかもしれないと考えたカイトだったが具体的な案は浮かばない。

クロノからは相手と話が出来る様なら投降と停止を呼びかけてくれと言われている。

 

「さて、とりあえずこの結界を破らなくちゃね。月下。解析プログラム起動して?」

《了解しました。結界術式の解析を開始します》

 

結界が張られている所まで来ると解析プログラムを起動させ術式の解析を始める。

古代ベルカ式だが月下に搭載されている解析プログラムなら問題は無い。

 

《しかし良かったのですか?あんな形で将来を決めてしまって》

「いいんだ。はやてを助けられるなら自分がどうなろうが構わないよ?」

《マスター…それは本気ですか?》

「いや、ごめん半分冗談。どっちの部下になるかずっと決められ無かったから、丁度良かったと思うよ?」

《マスターがそう言うのなら私は良いのですが…解析完了しました》

 

月下の急な問い掛けに何となくはぐらかす様に答えてしまったが、クロノとブラウン隊長どちらの誘いを受けるか決めかねていたのは事実だった。

こんな事態が起きなければ決めきれずにずっと悩んでいたかもしれないと思っていたのでカイトは意外とスッキリした気分だった。

 

「じゃあ術式に割り込みかけて壊すよ!」

《刀身に割り込みプログラムを付与しました。いつでも行けます》

「よし!久しぶりに本当の月代流剣術!三日月!」

 

カイトは両手で刀を持ち上段に構え刀身を頭の後ろまで持っていくと一気に振り下ろした。

結界に当たると割り込みプログラムが作動し結界の刀身が触れている部分から亀裂が入っていく。

それを確認するとカイトは更に力を込め結界を斬り裂いた。

 

月代流剣術三日月は元々相手の頭上から刀を振り下ろして一刀両断する豪剣である。

ちなみに魔法と剣術を融合させた月代流魔剣術の三日月は厳密に言うと射撃魔法である。

 

結界内に浸入し魔力反応を追って闇の書の意思の元へ向かうと、なのはとフェイトが闇の書に砲撃魔法で挟撃しているところだった。

闇の書は砲撃を難なく防ぎながら小さな魔力刃の大群を二人の周りに囲む様に出現させた。

 

「月代流魔剣術 三日月!」

「ッ!…防げ。」

 

小さな魔力刃が二人に向かう瞬間にカイトの三日月型の射撃魔法が猛スピードで闇の書を襲った。

それに気付きすぐさま障壁で防御するが魔力が圧縮されている三日月は障壁に罅を入れていく。

 

「カイト!」

「カイト君!」

「助太刀に来たよ!二人共!」

 

カイトの名を呼ぶ二人に応えている間もカイトの三日月は闇の書の障壁に罅を入れ続けている。

 

「…潰せ。」

 

障壁を爆発させ三日月を相殺しその場を離れた闇の書は持っている魔導書のページを開き桃色のミッド式の魔法陣を展開した。

 

「え?アレって…」

「スターライト…ブレイカー?」

「マズイ!二人共離れるぞ!」

 

なのはの切り札スターライトブレイカーを展開する闇の書に気付いた三人はカイトの指示でその場を離れる。

フェイトはなのはを抱えて飛びカイトはその後について行く様に飛んだ。

 

「あの…フェイトちゃん?こんなに離れなくても…」

「至近で喰らったら防御の上からでも堕とされる。」

「フェイトの言う通り。回避距離を取らないとアレは防げないよ?」

 

なのはは二人の言い分に複雑な表情を浮かべていた。

しばらく飛んでいるとフェイトのバルデッシュが民間人の反応を捉えた。

結界内に取り残された民間人がいるという非常事態に三人は戸惑ったが、巻き添えを喰らわせてはならないと思い反応があった付近まで飛んでいく。

 

「あのーそこの人!危ないので動かないでください!」

「そこの二人!動かないで!」

 

なのはとカイトは民間人を見付けると大声で注意を呼びかけた。

二人の声を聞いた民間人二人は動きを止めてこちらを向いた。

 

「今の声って…なのは?」

「フェイトちゃん?」

「アリサちゃん…すずかちゃん…」

 

結界内に取り残された民間人はなのはとフェイトそしてカイトの友人のアリサとすずかだった。

驚く魔導師三人と状況が全く飲み込めないアリサとすずか。

そしてアリサとすずかの二人はいつも学校で見る時とはどこか様子の違う友人達と一緒にいる少年に目を向けた。

 

「もしかして…カイト君?」

「髪型が違うけど…確かにカイトだ…アンタ何でこんな所にいるのよ!イタリアに行ったんじゃないの?」

「バニングスは相変わらずだね…説明は後で。とりあえず死にたくなければ今はジッとしていてくれるかな?」

 

死にたくなければと聞いて怯えた表情の二人に近付きカイトは前を向く。

色々と面倒な事になったと思いながらも二人を絶対に守らなければならないと決意する。

 

「月下。」

《了解。コンプレッションシールド・オーラル》

 

カイトは自分とアリサとすずかを覆う様に球体状のシールドを展開して踏ん張る体勢を取った。

 

「カイト!説明しなさい!」

「今は無理。喋りながら防げる程優しくないからね…アレは。」

「一体何なのよ!あの光は!」

「だから!説明は後で!悪いけど集中させてくれないかな?」

「アリサちゃん!カイト君の言う通り大人しくしとこう?」

「わ、分かったわよ…」

 

昔、学校で話していた時には少なくとも聞いた事が無い程、珍しく声を荒げるカイトにすずかはアリサに言う事を聞く様に諭した。

カイトはやっと大人しくなった二人を見て気を引き締める。

目の前を見るとなのはが障壁を展開して攻撃に備えた直後、途轍もなく巨大な桃色の光がこちらに押し寄せてきていた。

 

『月下…もし障壁が破られた場合は俺の事はほっといて二人を最優先で守ってね。』

《その必要はありません。この距離ならマスターの防御は抜けませんから》

 

二人に心配させない様に念話で月下に指示するが、距離となのはとカイトの防御力を計算したのか月下の言葉からは自信みたいなものが感じられ、少し弱気になっていたカイトはその言葉に後押しされる様に力を込めて桃色の魔力の奔流を受け止めた。

 

「ぐぅっ!うおぉぉぉ!」

「カイト…」

「カイト君…」

 

気を抜けば飲み込まれるぐらいの勢いで桃色の魔力の奔流は続くが、後ろにいる大切な友人達を守るという想いだけでカイト達魔導師三人は必死で食い止める。

必死で歯を食いしばって耐えていると恐ろしいまでの魔力の奔流はドンドンと弱まっていき、やがて完全に消滅した。

なんとか防ぎ切ったカイト達魔導師三人は友人二人の無事を確認し安堵の表情を浮かべていた。

 

『エイミィお願い。』

『はいはーい。すぐに安全な所まで運ぶねー!』

 

エイミィに指示を出してカイトはふぅと一息つくと障壁を解除しその場から少し離れる。

すると突然アリサとすずかの二人は光に包まれ安全な場所へ転移された。

 

「よし。二人共クロノから伝言。話が通じる様なら投降と停止を呼びかけてって。」

「うん。分かった!やってみる!」

 

いきなり戦闘に割り込んだ為、この様なタイミングでクロノからの指示を言い出す事になったが、二人は了承して闇の書に語りかけた。

二人が必死に説得を試みるが闇の書は主の願いを叶える事のみを遂行するただの道具と返答する。

 

「我は主の願いを叶える為の道具だ。道具に心など無い…」

「本当に心が無いんなら!そんな風に泣いたりなんかしないよ!」

 

二人の説得を聞きながらカイトは思考を張り巡らせた。

 

はやては何で泣いている?

はやての願いは何だ?

 

「そして愛する者達を奪った者には永遠(とわ)の闇を!」

 

愛する者を奪った?誰が?

愛する者達は守護騎士の事か?

あの二人が守護騎士を奪った?

非殺傷設定にしてある二人が守護騎士達を殺した?あり得ない…

ならば…誰かに騙された?

もし、本当にそうなら…はやての勘違い?

はやては勘違いであの二人に消えて欲しいと願ったのか?

 

だとしたら…間違ってるな…

 

 

「この!駄々っ子!」

 

フェイトの荒げた声を聞いて思考の海から戻ってきたカイトが見たものは闇の書に突っ込んで行ったフェイトが闇の書に吸収された様に消えていくところだった。

 

「フェイト!」

「フェイトちゃん!」

 

とっさの事で一瞬何も考えられなくなりそうだったが、エイミィからフェイトのバイタルに異常は無く生存していると伝えられ二人はホッと胸を撫で下ろした。

 

「なのは…ちょっといいかな?」

「どうしたの?カイト君。」

 

とりあえず先程思考して出た疑問を聞いてみると、なのははカイトがここに来るまでの事を話してくれた。

なのはが言うには仮面の男がなのは達に化けてはやての目の前で守護騎士達を消し去ったという。

 

「なるほど…やっぱりはやての勘違いなんだね。」

「カイト君って…はやてちゃんの事知ってるの?」

「あれ?言って無かったっけ?はやては幼馴染だよ?」

「ふぇ?幼馴染?もしかして昔言ってた約束をしてる幼馴染って…はやてちゃんの事なの!?」

「うん。だからもうこれは運命だと思ってる。」

 

なのはがアリサと喧嘩した時に仲裁したカイトは幼馴染との約束を守ったと言っていた。

その幼馴染が目の前の闇の書の主であるはやてなのだからなのはが驚くのも無理は無いし運命だと言われても不思議では無かった。

 

「それで俺は今、はやてが間違った事をしてると思うんだ。」

「うん。私もそう思う…」

「だからさ…注意しないといけない。」

「うん!間違った事をしてたらお互い注意し合おう。だよね!」

 

なのはは、その約束の内容がとても素敵だったので今でも覚えていた。

むしろ自分も間違った事をしている人に注意できる人になりたいと思っていたくらいだ。

 

「約束は守らないとね!」

「うん!」

 

カイトの言葉には大切な幼馴染を助けたいという想いが込められおり、それに気付き自分も同じ想いだったなのはは満面の笑みで力強く返事を返し、お互い顔を見合わせてから同時に闇の書へと目を向ける。

 

少年は戦う

 

運命に抗う為に

 

少女との約束を守る為に

 




ついにカイト君参戦!
闇の書の意思との激闘!勝機はあるのか!
次回をお楽しみに!


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第19話 夜天に浮かぶ月


意外と短かったです。



カイトの作戦はどうにかして闇の書の中で眠っているはやてに声を届かせるという単純な物だった。

 

「待ってて…はやて。今、助けてあげるから…」

 

眠っているのなら声が届くまで声をかけ続け叩き起こせばいい。

その為にはなるべく近くで呼びかけないといけないが、戦闘スタイルが近接メインのカイトなら何も問題は無い。

 

カイトはなのはに援護を頼み目の前にいる長い銀髪に真紅の瞳をした女性に向かって飛び立った。

 

向かってくるカイトを撃ち墜とさんとと魔力弾が迫るが、なのはのアクセルシューターが魔力弾を相殺していく。

 

なのはの完璧な援護を受けて闇の書へ接近し刀を振るう。

目標に向かって真っ直ぐ飛行した体勢のまま横薙ぎに一閃するが、闇の書は刀身が当たる部分だけに障壁を展開して斬撃を防ぐが、カイトが刀身に魔力を送り込むと障壁に(ひび)が入る。

 

罅が入っていく障壁に眉をひそめて不思議そうな表情の闇の書を尻目に刀身を押し進めながらカイトは作戦を実行に移す。

 

「はやて!起きろ!」

「…爆ぜろ。」

「チッ!」

 

カイトが闇の書の中で眠っているはやてに声をかけるが、闇の書は障壁を爆発させるコマンドワードを口にした。

カイトはバリアバーストのコマンドワードだと瞬時に判断しなんとかその場を離れ事なきを得た。

闇の書は追撃の魔力弾を放つが、なのはの魔力弾で相殺されていく。

 

カイトは念話でなのはに礼を言いつつ再び闇の書に迫り斬りつける。

障壁で防がれるのは想定済みなので、今度は連続で刀を振るった。

 

「はやて!目を覚ませ!はやてがさっき見たのはなのは達じゃない!偽物なんだ!」

「無駄だ…」

「無駄なんかじゃない!はやてなら分かってくれる!」

「我が主の願いは変わらぬ…」

 

連撃を繰り出しながらカイトの説得は続くが全身を覆う様な障壁を破れなかった。

鉄壁の防御に焦ったのかカイトの動きが単調になってきたのを見て闇の書は斬撃を避けて魔力弾を撃ち込みカイトを吹き飛ばした。

 

「カイト君!」

「ごめん!なのは!助かった。」

 

何とかギリギリ障壁を展開してダメージを最小限に留めたが至近距離からの攻撃で吹き飛ばされたカイトをなのはが受け止めてくれた。

 

「障壁が硬い…あれを抜ければ何とかなるかも知れないのに!」

「じゃあ、私がやってみるね。」

 

カイトの返答を聞く前になのはは魔法陣を展開させカートリッジを使用するとレイジングハートから桜色の翼が出現した。

 

《A.C.S.スタンバイ》

「え?魔力刃?」

「うん。本当は次の模擬戦で使えるか試そうとしてたんだけどね。」

 

レイジングハートの先端に圧縮された魔力刃が形成されたのを見て、カイトはなのはが何をしようとしてるか見当もつかない。

 

「エクセリオンバスターA.C.S.!ドライブ!」

「えぇっ!?」

 

ストライクフレームと呼ばれた魔力刃を展開したレイジングハートを手になのはは闇の書に向かって飛び立っていくのを見てカイトは目を丸くして驚く事しかできなかった。

 

闇の書が展開した障壁に魔力刃を突き刺したなのははカートリッジを使用し魔力を高め障壁を突破した瞬間、レイジングハートから桜色の砲撃が放たれた。

なのははバリアを無理矢理抜いてほぼ(ゼロ)距離で砲撃を叩き込んだのだ。

 

「…え?アレを俺相手に試すつもりだったの?絶対死ぬよね?」

《非殺傷設定なので死にはしません》

「死ぬ一歩手前までいきそう…」

 

なのはのとんでもない魔法を目の前にして自分相手に試すつもりだったのを考えると非殺傷設定であっても大怪我じゃ済まないだろうと思いカイトは冷や汗が止まらなかった。

しかし、なのはの強烈な砲撃を超至近距離で食らえば、いくら闇の書であってもダメージは与えただろうと思っていたが、爆煙の中から姿を見せた闇の書はほぼ無傷といった様子でこちらに目を向けていた。

 

「うーん…もうちょっと頑張るしかなさそうだね。」

《そうですね》

 

カイトは刀を握り締め再び闇の書に向かって飛び立ち刀を振るって斬撃を繰り出す。

相変わらず斬撃は障壁によって防がれているが、カイトは攻撃の手を緩めなかった。

 

「はやて!聞こえるか!はやてが今しようとしてる事は間違ってるんだ!」

 

どんなに防がれるようが関係無いといった様子で刀を振るながら叫ぶ。

 

「はやては間違った事をしようとしてるんだ!だから注意する!間違った事をしちゃいけないって!」

 

必ずはやてに声が届くと信じてカイトは叫び続ける。

 

 

 

『ん…眠い…』

『今はゆっくりとお休みを…』

 

闇の書の中で、はやては先程大きな衝撃を感じ一瞬だけ目を覚ましたが再び強烈な睡魔に襲われていた。

 

 

『……て!』

 

朦朧とした意識で目の前から聞こえた声に言われるがまま眠ろうとした時、またもや衝撃を感じたと思ったら今度は誰かの叫ぶ声が聞こえた気がした。

 

 

なんや?声?

 

『…やて!は…て!』

 

誰かわたしを呼んでるんか…?

誰や?誰が呼んでるんや…?

よう聞こえへん…

けど…この声…どっかで聞いた事あるような…

なんや懐かしいなぁ…

両親が死んでしもうて一人ぼっちになった時もこんな風に名前呼ばれ続けたなぁ…

今も家族を失って同じ気分やから思い出したんやろか?

 

あの時はどうなったんやっけ…?

悲しすぎて泣いてばっかりのわたしに誰が名前を呼び続けてくれたんやっけ?

 

それが何か嬉しくて…

名前を呼ぶ声が嬉しくて…

その優しさがわたしを救ってくれたんやっけ…

 

『…やて!はやて!』

 

八神はやての心は例えるなら夜の空。

両親を亡くした時、そして今も家族を失って心の中は夜天の様に真っ暗だ。

 

『はやてを守る!そして間違った事をしようとしてたら注意する!』

 

しかし、その存在はどんな時でも真っ暗な空を淡く優しい光で包み込む様に照らしてくれる。

 

『約束だから!』

 

そう…それはまるで…

 

 

夜天に浮かぶ月

 

 

「カイ君!」

 

 

 

約束を守る為に戦いながら、はやてに呼びかけていたカイトは闇の書の動きが鈍っているのを感じていた。

それでも攻撃と呼びかけを止めずに、むしろ好機と捉えはやてに届く様に願いながら叫んでいると闇の書が持っている魔導書から金色の光が溢れ一筋の閃光が飛び出してきた。

 

カイトは攻撃魔法かと思い闇の書から離脱したが、閃光から感じる魔力はカイトもよく知っている魔力だった。

 

「フェイト!無事で良かった。」

「うん。ちょっと色々あって脱出するのに手間取っちゃった。」

「フェイトちゃん!良かった!」

「なのはも心配かけてごめんね。」

 

カイトとなのはがフェイトの周りに集まり帰還を喜んだ後、闇の書の方へ目を向けるとそこには全く微動だにしない闇の書の姿があった。

 

 

「…動きが止まった…?」

 

 

 




この場面を書きたかったんです。


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第20話 再会する二人


終わりが近づいてきました。



完全に動きが止まった闇の書を警戒しながら見ていたカイトは思考を張り巡らせていた。

 

何故、動きが止まった?

フェイトが脱出したから?

何か強力な魔法の準備?

 

色々と考えながら闇の書を警戒し次の動きを待っていた。

 

『外で戦ってる方!管理局の方!』

「はやてちゃん!」

「ッ!はやてっ!」

 

いきなり闇の書からはやての声が聞こえ、なのはがはやての名前を呼ぶ。

闇の書を警戒し思考していたカイトは一瞬遅れてはやての声だと認識し弾かれる様にはやての名前を叫んだ。

 

『その声…なのはちゃんか?それと…もしかしてカイ君?』

「うん!そうだよ!()だよ!カイトだよ!はやて!」

 

はやてだけが呼ぶカイトの愛称を三年振りに聞きカイトは思わず一人称が「俺」から「僕」に戻っていた。

 

『久しぶりやなぁ…って今はそんなん言うてる場合やない!この子の黒い淀み何とかしてくれへんか?』

「何とかって言われても…」

『なのは!カイト!聞こえる?』

「ユーノ?」

 

はやてのざっくりとしたお願いに少々困惑しているとユーノから通信が入った。

現在ユーノとアルフはこちらに向かっていて色々と状況が掴めているらしく、ユーノによると闇の書の覚醒後に主が目覚めている今なら防衛プログラムを切り離す事が可能かもしれないらしい。

 

「それで具体的にはどうするの?」

『なのは、フェイト二人の純粋魔力砲で闇の書を吹っ飛ばして!全力全開!手加減なしで!』

「さっすがユーノ君!分っかりやすい!」

 

なのはとフェイトは共にフルドライブモードのデバイスを構え魔法陣を展開させる。

二人の魔力がとんでもなく高まっていくのを感じカイトは近くにいると危険と判断し二人から距離を取った。

 

「N&F中距離殲滅コンビネーション!」

「ブラストカラミティ!」

 

二人がコマンドワードを唱えると桜色と金色の魔力砲が発射され、途轍もない魔力の奔流が闇の書を飲み込んだ。

 

「…うわぁ…何アレ?」

《マスターあからさまに引かないでください》

 

二人が放ったとんでもない威力の魔法にカイトは戦慄し背中に冷や汗が流れるのを感じながら魔力の奔流の中にいる闇の書を見つめていた。

 

 

 

 

 

『名前をあげる…もう闇の書とか呪われた魔導書なんか呼ばさへん!わたしが呼ばさへん…』

 

『夜天の主の名において、汝に新たな名を与える…強く支える者、幸運の追い風、祝福の風…』

 

『リインフォース。』

 

はやてが闇の書の管制人格に名前を贈ると真っ暗でまるで闇の中の様だった空間が砕け散り、先程とは全く正反対な明るく真っ白な空間に変化した。

 

『行こか…リインフォース。』

『はい!我が主!』

 

 

 

 

カイトは二人が放った魔導砲により飲み込まれた闇の書がいた所を見ているとベルカ式の魔法陣の上に白い大きな光が浮かんでいた。

警戒しながら観察していると白い光の周りに新たに四つの光が出現した。

 

四つの光はそれぞれ紫、紅、ライムグリーン、白に輝いている。

様々な色をした光が次第に大きくなるとそれぞれが人の形に変化していく。

 

桃色の髪の凜とした女性シグナム

赤い髪の気の強そうな少女ヴィータ

金髪の優しそうな女性シャマル

褐色の肌の屈強な男性ザフィーラ

 

そして、夜天に付き従う雲の中心にあった白い光が輝きを放つと、騎士甲冑を纏い先に剣十字が付いた杖と魔導書を持ち、髪は銀色に瞳は空色に変化した八神はやてが現れた。

 

 

ヴィータに泣きながら抱きつかれ守護騎士達に笑顔を見せるはやての姿をカイトは呆然と眺めていた。

 

無我夢中で呼びかけた末に起きた奇跡の様な出来事に頭の整理が全く追いつかなかったが、はやての笑顔を見て本当に救えたと改めて実感したカイトは動けずにいた。

 

「カイト君?行かないの?」

「カイト?行ってくれば?」

 

なのはとフェイトはそんなカイトに声をかけ三年振りに再会した幼馴染の元に行かそうと軽く背中を押した。

 

「ッ!そうだね…二人共ありがとう…行ってくる!」

 

二人の行動に我に帰ったカイトは二人にお礼を言うと刀を鞘に収め一目散にはやての元に向かって飛び立った。

今まで見た事も無い様な笑顔で飛び立つカイトを見て、なのはとフェイトはお互いに顔を見合わせ微笑んだ。

 

 

「はやて!」

 

泣きじゃくるヴィータの頭を撫でて再会を喜んでいたはやては懐かしい声で名前を呼ばれて振り返ると、そこには小さい頃から何度も自分を救ってくれた優しい幼馴染の姿があった。

 

「カイ君…ほんまにカイ君や…」

「言ったでしょ?絶対また会える気がするって。」

 

三年振りの再会に涙が溢れ出し上手く言葉が出てこないはやてはウンウンと頷くだけになっていた。

 

「はやて…笑って?僕は、はやての笑顔が大好きだよ!だから笑って?」

 

別れの時と同じ台詞を聞き涙を拭いて今出来る精一杯の笑顔を見せるはやてにカイトも自然と笑顔になった。

 

「カイ君…わたしカイ君の声が聞こえたから目が覚めたしウチの子らも無事帰ってこれた…あの約束覚えててくれたんやね…」

「言ったでしょ?約束は消えない。永遠に続くって!」

「ふふふ、そうやったなぁ。ほんまにありがとう。」

「なぁ…はやて。こいつが前言ってた外国に行ったっていう幼馴染か?」

 

はやてとの会話に割り込んできたのはヴィータだ。

はやてを取られそうになる不安と助けて貰った感謝がごちゃ混ぜになり複雑な表情を浮かべている。

 

守護騎士達とカイトの自己紹介が終わる頃には、なのはとフェイトがこちらに合流しており、はやては合流した二人にも改めてお礼を言っていた。

 

「ねぇ、はやて。ベルカでは騎士甲冑だっけ?それ格好いいね!」

「いきなりどうしたん?」

「僕のバリアジャケット適当に作ったからさ。そうゆう格好いいの羨ましいな…」

 

ふと、はやての騎士甲冑を見てカイトは素直に格好いいと感想を述べた。

カイトのバリアジャケットはデザインが思い浮かばず適当に黒の上下に白いロングコートにしたのだ。

 

「そうだ!はやての騎士甲冑と同じの使っていい?」

「へ?まぁ別にええけど…」

「いいの?やった!じゃあ月下(げっか)!はやてと同じデザインのバリアジャケット作って!スカートはズボンにしてね!」

《帽子はどうしますか?》

「ちょ!ここで変えるんか!?」

「うん。そうだけど?ダメ?」

「いや、ダメやないけど…」

 

いきなりバリアジャケットのデザインを変更しようとす事にはやては驚くがカイトは不思議そうな顔をした後、特に気にする様子も無く月下に帽子は無しとか腰に付いてる装甲みたいなのは削って動きやすい様にと注文していた。

 

「あ、それやったら髪型も変えた方がええと思うで?」

「え?」

「カイ君…その髪型正直言って全然似合ってへんで?」

「えぇ!そうなの!?」

 

カイトの今の髪型は前髪も後ろに軽く流した髪型だ。

ミッドに来た時に思い付きでやってからセットが楽なので自分では気に入っていた。

それを似合っていないと言われショックを受けつつ、なのはとフェイトの方を見ると露骨に目を逸らされた。

 

「二人も似合ってないと思ってたんだ…」

「あはは、私は昔のカイト君の髪型が良かったかな?」

「私は最初に会った時ちょっと怖かった…かな?」

 

目を逸らしながら正直な感想を述べたなのはとフェイトの言葉にカイトはショックで何も言えずに口をパクパクさせていた。

 

「カイ君は、つり目でキリッとしてるからな。前髪上げたらちょっと怖いんや。」

「そ、そうだったんだ…」

 

今まで誰にも言われた事が無かった事実を知らされて頭がクラクラするカイトだったが、ふとフェイトを最初に会った時の事を思い出した。

 

『月代カイトです。よろしくって…誰が剣術馬鹿だ!』

 

クロノからフェイトとアルフを紹介されて自己紹介した時にノリツッコミをした時、爆笑するクロノとアルフの横で妙にオロオロしていたのは、カイトの若干怖い目つきのせいで本当に怒ったと思ってしまったのだと、今更ながらあの時のフェイトのリアクションの謎が解けたカイトであった。

 




ちょいとオチが弱い気がしますが気にしたら負けだと思っています。
そして、物語が佳境に入ったところでまさかのバリアジャケット変更です。
元々、はやての騎士甲冑の男バージョンを想像していたので最初のバリアジャケットは本当にテキトーなデザインでした。


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第21話 雲心月性

5000文字超え!
ここは一気に行きたかったんです。



カイトは適当に作ったバリアジャケットを変更し、似合っていないと言われた髪型もついでに変更した。

 

バリアジャケットは、はやてと上半身は同じデザインでスカートは黒のズボンに変更し腰にある装甲みたいな物と背中の黒い羽と帽子はオミットした。

 

髪型は女性陣から色々と注文があり意見がまとまらなかったので、後々ちゃんと考える事にして前髪だけ下ろした状態で落ち着いた。

 

「うん。前髪下ろしただけやけど似合ってるやん。騎士服もええ感じや。」

「でも、こうしてお揃いのバリアジャケットだと恋人みたいだね!」

 

はやてがカイトの新しい髪型とバリアジャケットを褒めていると、なのはから爆弾発言が飛び出した。

改めて考えるとお揃いのデザインだという事はそう思われても仕方ないと今更気付いたカイトとはやては急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にして俯いてしまった。

そんな微笑ましいリアクションの二人を見て、なのはとフェイトそして守護騎士の三人は温かい目を向けていた中で唯一ヴィータだけがカイトを睨んでいた。

 

「すまない。話の腰を折ってしまうんだが少しいいか?ん?カイトどうしたんだ?顔が真っ赤だぞ?」

「な、何でもないよ!」

「それにバリアジャケットのデザインが変わっているが…ん?あぁ、なるほどな…」

「ニヤニヤするな!それより何か話があるんじゃないの!?」

 

カイトのバリアジャケットが助け出した幼馴染と同じデザインになっている事に気が付いたクロノはニヤニヤと口元を歪ましている。

クロノにとってカイトは弟の様な存在なので、からかいたくて仕方ないといった表情だった。

 

しかし、今は弟の恋路をからかっている様な状況ではない為、クロノは顔を引き締めてはやてや守護騎士達に近くの海上に(うごめ)いている黒い淀みが闇の書から切り離された防衛プログラムかどうか確認を取った。

 

クロノは防衛プログラムがあと数分で暴走すると告げ、その場にいる魔導師達に協力を仰ぐと全員二つ返事で了承した。

暴走した防衛プログラムに対してクロノが用意したプランは極めて強力な凍結封印魔法で封印するか、アースラのアルカンシェルで消滅されるかの二つだったが、前者は封印しても完全ではないとクロノは考えており、後者は地球に向けて発射すると地球に甚大な被害が出る為、地球に住んでいるなのは達に却下された。

 

「あと10分ないよー。」

 

エイミィが暴走までの時間を知らせてくる中、クロノは守護騎士達に自分の持ってきたプランより良い方法が無いか聞くが闇の書のプログラムの一部である守護騎士達も直接暴走に立ち会った経験が無い為に良い方法は思い浮かばなかった。

 

「ここじゃないどこかでズバッとやっつける訳にはいかないのかい!?」

 

先程から思考を張り巡らせ良い方法が無いか考えていたカイトはアルフの一言で光明が見えた気がすると一気に頭の中でプランが組み上がっていった。

 

「あと5分!」

「ねぇクロノ。こんなのはどう?」

 

エイミィに急かされる中、カイトが思いついたプランをクロノに告げると、通信越しにエイミィが実現可能か計算してくれている。

こうゆう時のコンビネーションは流石だなとカイトはプランを話しながら思った。

 

カイトが思いついたのは暴走を開始した防衛プログラムに威力の高い魔法で攻撃しコアを露出させ、コアを軌道上に待機しているアースラの前に転送してアルカンシェルで消滅させるというプランだった。

エイミィが計算上は実現可能と知らせるとクロノは守護騎士達に防衛プログラムの特長を聞き作戦を立てる。

 

防衛プログラムの防御結界は魔力と物理の複合四層式なので、クロノはまず現場の魔導師達の意見と各自の能力を聞きながら防御結界を破壊する攻撃組とそれをサポートするサポート組に分けていく。

 

「カイト。君は待機だ。何かあった時の為にサポートに回ってくれ。」

「えぇ!何で!?」

「君の魔法では高火力の攻撃なんて無理だろう?」

「いや、クロノには言ってないんだけど砲撃魔法があるんだ。」

 

カイトがサポートに割り振られた事に対して不満をぶつけるとクロノは至極当然な理由を述べた。

しかし、今のカイトには少し前に完成した砲撃魔法があった。

 

「そうか。では、その砲撃魔法とやらにはどんな欠点があるんだ?」

「何で欠点から聞くんだよ…」

「君はこの状況で使えない魔法の事を言うほど馬鹿じゃないからだ。しかも僕も知らないという事は最近完成したんだろう?ならば何かしらの欠点があると考えるのが普通だ。」

「普通じゃない気がするけど…クロノの言う通りだから何も言えない…」

 

普通か普通じゃないかは置いといて欠点があるのには変わらない為、クロノにチャージに時間がかかるのとチャージ中は完全に無防備になるという欠点を伝えた。

 

「ユーノ。カイトのサポートも頼めるか?」

「うーん…暴走した防衛プログラムの動きを止めながらってなると…ちょっと厳しいかな?」

「そうか。アルフはどうだ?」

「そうだねぇ…アタシもユーノと同じでちょっと厳しいね。」

 

クロノはユーノとアルフにカイトのサポートを頼んでみるが、やはり無防備な人間を守りながら星一つを軽く破壊する程の力と相対するというのはかなり厳しいのは明白だった。

 

「今は少しでも火力が欲しい。何とかならないか?」

「あ、あの!すんません!それやったらこっちに任してもらってもいいですか?」

「はやて?」

「ザフィーラ。いけるか?」

「お任せを。」

 

クロノが再度二人に頼んでいると、はやてが突然話に割り込んでザフィーラに指示を出す。

ザフィーラの頼もしい返答にはやては笑顔を見せていた。

 

「えっと…ザフィーラさん?結構厳しい役割ですいません。」

「私は盾の守護獣。守るのが私の役目だ。主の命令とあらば尚更な。」

 

全ての役割が決まり各自行動しやすい位置に散らばって暴走まで待機している時にカイトはザフィーラに話しかけた。

 

「それに主はやてと家族同然の者なら我々にとっても家族の様なものだ。」

「あ、ありがとうございます。ザフィーラさん。」

「敬語は不要だ。言っただろう?家族の様なものだと。」

「そうでし…いや、えっと…そうだね。ありがとう。ザフィーラ。」

「それでいい。騎士カイト。」

「え?騎士?」

「そうだ。闇の書に飲み込まれた主はやてを救ってくれた時のお前は騎士そのものだったぞ?」

 

真性ベルカの騎士たるザフィーラに騎士カイトと呼ばれ、カイトは何だか嬉しいやら恥ずかしいやら何と言っていいか分からない感情に処理が追いつかない状態になっている。

 

「来るぞっ!」

 

クロノの一言に我に返り海上の黒い淀みを見ると、淀みはドンドン大きくなっていき中から何とも形容しがたい怪物が現れた。

六本の脚が付いた巨大な体躯には首が無く胴体にそのまま付いている様に見える怪物の顔には鋭く大きな牙が並んでいる。

そして、その顔の上には女性の上半身が生えており耳を(つんざ)く高い声で悲鳴とも歌声とも取れる鳴き声を上げている。

 

怪物のいたる所から触手が現れ、こちらに攻撃しようとしているところをユーノとアルフがバインドで拘束し隙を作った。

 

「よし!月下(げっか)。」

《術式展開。チャージ開始》

 

カイトは魔方陣を展開し両手を開いて前に出し、目を(つぶ)って砲撃のチャージを開始した。

 

 

「ちゃんと合わせろよ!…高町なのは!」

「うんっ!ヴィータちゃんこそ!」

 

複合四層式の防御結界を破壊する為の攻撃が開始され、第一陣のなのはとヴィータのツーマンセルが飛び立った。

 

今までちゃんと名前を呼ばなかったヴィータが名前を呼んでくれた事に嬉しくなり笑顔を見せたなのはは先行するヴィータに迫る攻撃を魔力弾で撃ち墜としていく。

なのはの完璧な援護を受けたヴィータは怪物の真上に到着するとカートリッジをロードしグラーフアイゼンを振り上げる。

 

《ギガントフォルム》

「轟天爆砕!ギガントシュラーク!」

 

ヴィータは身の丈の十倍以上の大きさになったグラーフアイゼンを振り回し怪物に振り下ろすと防御結界の一枚が砕け散った。

 

「次!フェイトちゃんとシグナム!」

「いくぞ。テスタロッサ。」

「…はい。シグナム。」

 

シャマルの号令を受けたフェイトとシグナムの第二陣が飛び立つ。

怪物の前に位置取ったシグナムがカートリッジをロードしレバンティンと鞘を合わせると弓の形に変化する。

 

()けよ!(はやぶさ)!」

《シュツルムファルケン》

 

弓から放たれた矢は炎を纏い真っ直ぐ飛んで行き防御結界を破壊した。

続いて怪物の後ろに位置取ったフェイトはカートリッジをロードしザンバーフォームのバルデッシュを構える。

 

「撃ち抜け!雷刃!」

《ジェットザンバー》

 

フェイトがバルデッシュを振り下ろすと雷を纏った斬撃が防御結界を斬り裂いた。

残る防御結界が一枚になったところで怪物が反撃しようと触手を動かす。

 

「撃たせん!縛れ!鋼の(くびき)!」

 

カイトの目の前にいるザフィーラが怪物の触手に白い杭の様な物を打ち付けて拘束していく。

怪物の反撃が封じられると、みんなの視線がカイトに集まる。

 

「ありがとう。ザフィーラ…おかげで目一杯集中出来たよ。」

「カイト!行けるか?」

「問題無いよ。クロノ。」

 

ザフィーラが護衛してくれているという安心感から本当に集中出来たカイトはゆっくり目を開いてクロノに返事を返した。

カイトが前に突き出した両手の先にある魔力の塊は今にも爆発しそうな勢いだ。

ザフィーラが射線から退避したのを確認すると目の前の標的にしっかり狙いを定め魔力の塊を一気に放出する。

 

雲心月性(うんしんげっせい)月光(げっこう)!」

 

カイトがコマンドワードを発すると両手の先にあった魔力の塊が巨大な光条となって怪物に向かっていく。

今あるほとんどの魔力を注ぎ込み、更にカイトの魔力資質により圧縮された強烈な砲撃が防御結界を破壊した。

 

「ハァハァ…次!はやてっ!」

 

魔力をほとんど使ったカイトは息を切らしながら、はやてに号令をかける。

はやてが持つ魔導書のページがめくられ最適な魔法を導き出すと、右手の杖を振り上げ魔方陣を展開させた。

 

「彼方より来たれ、宿り木の枝。銀月の槍となりて撃ち貫け。石化の槍!ミストルティン!」

 

詠唱完了と共に杖を振り下ろすと突き出した杖の前にある魔方陣から合計七本の白い光条が発射された。

七本の槍が突き刺さり怪物が悲鳴を上げた束の間、怪物が石化する。

微動だにしなくなった怪物はしばらくすると石化を解いて再び動き出した。

 

「やっちゃえー!クロノ君!」

 

通信越しにエイミィが叫ぶ声が号令の代わりとなり、デュランダルを持ちリフレクターを周りに展開していたクロノが白い息を吐く。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ。凍てつけ!」

《エターナルコフィン》

 

クロノが詠唱するとリフレクターが飛び立ち怪物の周りを囲む様に配置されると、突き出したデュランダルの前に展開された魔方陣から強力な凍結魔法が発射された。

怪物に直撃した凍結魔法は勢いあまって飛び散るが周りに配置されたリフレクターに反射され再び怪物に凍結魔法を浴びせ怪物を凍結封印していく。

 

氷の塊になった怪物はしばらく動きを止めていたが次第に氷に(ひび)が入り始めると凍結封印を破って怪物が姿を現した。

 

「全力全開!スターライトー!」

「雷光一閃!プラズマザンバー!」

「響け終焉の笛!ラグナロク!」

 

なのは、フェイト、はやての三人がそれぞれのデバイスを振りかざす。

怪物が凍結封印されている間にチャージは完了している。

 

「ごめんな…おやすみな…」

 

はやては闇の書の闇と呼ばれた自動防衛プログラムが具現化した怪物の姿を見て呟いた。

 

「「「ブレイカーッ!」」」

 

三人が同時に叫ぶと桜色、金色、白色の奔流が怪物を飲み込んでいく。

三人の最大威力の魔法が直撃し生体部分が崩壊していく。

 

「捕まえ…た!」

「長距離転送!」

「目標!軌道上!」

 

シャマルがクラールヴィントを展開し旅の鏡を発動させて怪物のコアを補足するとユーノとアルフが転送魔法で軌道上に待機しているアースラの射線上まで転送する。

 

「アルカンシェル発射!」

 

物凄い速さで再生しながらアースラの目の前に現れたコアに向かってリンディがアルカンシェルを発射させた。

魔導砲が直撃したコアは文字通り跡形も無く消滅した。

 

「目標完全消滅!再生反応…ありません!みんな!お疲れ様!」

 

エイミィからの通信を聞いた現場の魔導師達は歓喜に包まれた。

カイトは近くにいたザフィーラと笑顔で拳を突き合わせた後、クロノに近付いて力強くハイタッチを交わした。

 

「はやて!」

「はやてちゃん!」

 

ヴィータとなのはの焦った様な声が聞こえたカイトは声のした方を向くとユニゾンを解き普段の髪色に戻った幼馴染が気を失い守護騎士達に抱きかかえられている姿が目に入った。

 




全力全開とかの掛け声をカイト君にも言わせたくて月が付く四字熟語を調べていると雲心月性を見付けました。
意味は「名声や利益を求めず雲や月の様に清らかな心や性質を持つ人の事」です。
もう正にカイト君の事だと思い即採用しました。
闇の書の暴走体を何と呼称するか散々迷いましたが何の捻りもない「怪物」で押し通しました。
映画版のナハトヴァールにすれば良かったんですが、ナハトにするなら色々加筆しなければならなかったので諦めましたw
それでは最終回まで後少し!次回もお楽しみに!


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第22話 心残り


今回を含め残すところ後三話。



気を失ったはやては本局の医務室に搬送された。

いきなり魔法を使った事で負担がかかり気を失っただけという検査結果を受けてカイトと守護騎士達は安堵した。

 

「お前達に話がある。」

 

はやてが眠る医務室でリインフォースが突然口を開いた。

カイトと守護騎士達はリインフォースの話を聞いて苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

 

「そんな!せっかくこれから一緒にいられるのに…」

「もう決めた事だ。」

 

カイトはリインフォースとシグナムを連れて、医務室で聞いた話をクロノ達にも聞いてもらう為に大食堂に来ていた。

リインフォースの話というのは、闇の書を完全消滅させるという事だった。

 

「闇の書の闇」すなわち自動防衛プログラムは切り離して消滅させたが闇の書の無限再生機能は残ったままだ。

その再生機能が再び防衛プログラムを再生してしまう可能性が多いにあるので再び暴走の危険性がある。

しかし、防衛プログラムが切り離されている状態なら闇の書の完全消滅は可能だ。

ならば消滅させればいい。

暴走の危険性と主の身の安全を考慮した上でのリインフォースが下した決断だった。

 

「その…シグナム達も消えるの?」

「いや、我々は残る。」

「あぁ。消えるのは私だけだ。」

 

リインフォースが言うには守護騎士システムも防衛プログラムと共に切り離したので消滅するのはリインフォースのみらしい。

 

「…ユーノ。無限書庫で対処法を探せないか?」

「探せば出てくるかもしれないけど、いつになるかは分からないね…」

「そんなに時間は無い。対処法が見つかる前には再生してしまうだろう。」

 

本当に消滅以外の道が無いのかクロノは思案するが、頼みの綱の無限書庫でさえも何十年かかるかユーノは検討すら付かなかった。

 

カイトも話を聞いた時に頭をフル回転させて考えれる方法を片っ端からリインフォースに進言したが全て却下されている。

それもそのはず、デバイスであるリインフォースの演算能力で出せない答えなのに、人間である魔導師に導き出せるはずが無かった。

 

そこにいる全員が暗い顔をする中、リインフォースだけは淡々となのはとフェイトに消滅の儀式への協力を打診していた。

 

「ねぇ。リインフォース。」

「どうした?」

 

儀式の段取りを決めてはやての病室に向かう廊下の途中でカイトは不意にリインフォースを呼び止めた。

カイトは、今までザフィーラ以外の守護騎士達と直接話しをしていなかったが、他の守護騎士達もザフィーラと同じ理由でカイトを家族同然だと考えており少し話しただけだが、すぐに打ち解ける事が出来た。

 

「リインフォースはさ…心残りとか…無いの?」

「…無いと言えば嘘になる。今、私は綺麗な名前も貰い主と共に闘う事も出来た。だが…この手で守る事は出来ていない…それだけが唯一の心残りだ。」

「…うん。そうか!分かった!教えてくれてありがとう!」

 

リインフォースの心残りを聞いたカイトが何かを思い付いた様な表情をしてはやての病室へ向かって走り去って行った。

 

「お、おい!」

「ほら!リインフォース!シグナム!はやての所に戻るよー!」

 

走り去るカイトを見てリインフォースとシグナムはお互いに疑問符を浮かべた表情のまま顔を見合わせていた。

 

 

 

翌日の早朝、闇の書完全消滅への儀式の準備が着々と進んでいる頃。

カイトは未だに目を覚まさないはやての傍にいた。

リインフォースが消滅する事を、はやては知らない。

このまま黙って消滅してしまうのは、はやてにとって心残りになるだろう。

それは、カイト自身が三年前ミッドチルダに行く時に思った事だ。

行き先がミッドチルダという事情もあり黙って行く選択肢もあったが相談もしていた事もあって結果的に見送られて別れた。

もし、黙って行っていたらと考えるとはやての事が気になって気になって仕方が無かっただろうとゾッとする。

 

 

そんな事を考えていると儀式が始まったのを感じ取ったのか、はやては目を覚まし飛び上がる様な勢いで体を起こした。

そして、キョロキョロと辺りを見回し傍にいるカイトを見付けると目をパチクリさせて、こてんと首を傾げた。

何とも愛らしい仕草に小さな笑みをこぼしたカイトは、気を取り直しリインフォースが消滅する事を伝えた。

 

「どうする?って聞くまでも無いか。ほら手伝ってあげるから早く準備しよう!」

「カイ君…おおきにな。」

「だから気にすんなっていつも言ってるじゃん。」

「ふふ、それでも…おおきにな。」

 

リインフォースの消滅の事を聞いた時はやては暗い顔をしていたが、今は覚悟を決めた様な表情を浮かべている。

そして、久しぶりに交わす毎度のやり取りに懐かしさが込み上げ自然と笑顔になっていた。

 

 

「リインフォースッ!!」

 

はやての乗った車椅子を押して雪道を駆け抜け儀式が行われている場所にたどり着き姿が見えた瞬間にはやてが叫んだ。

はやての声に儀式途中の魔導師達が目を見開き驚く。

 

「主はやて?何故…」

「リインフォース!黙って消えるなんて許さへん!」

「申し訳ございません…しかし主はやてに辛い想いをさせたくは無かったのです。」

「なぁ…リインフォース…ほんまに消える以外の選択肢は無いんか?」

「ありません。時間が経てば自動防衛プログラムはいずれ再生し確実に暴走してしまいます。」

「わたしがちゃんと抑えるって言っても駄目なんか?」

「はい。確実に暴走を抑える事は出来ません…」

「そっか…」

 

リインフォースが消滅するのは決定事項で暴走を止める手立てが無い事も、闇の書の主として覚醒した時に与えられた知識ではやては理解しているが、本人から直接聞いておきたかった。

 

「でも!お別れぐらいちゃんと言わせて?わたし達は…家族なんやから…」

「ッ!主はやて…私は世界で一番幸福な魔導書です。綺麗な名前を貰い主と共に闘えて…その上家族と呼んでいただいた…」

「うん…」

「主はやて…最後に一つお願いが…私はこれから何の力も持たない小さなカケラへと変わります。どうかそれを後に主が手にするであろう魔導の器にしてください。」

「うん…分かった…約束や。」

 

はやての瞳から涙が溢れそうになるが必死で我慢してリインフォースと約束する。

別れは辛いが泣いてばかりだとリインフォースが安心出来ないと思い、はやては涙を堪える。

 

「リインフォース。」

「カイ君?」

 

二人に割って入るかの様に今まで黙っていたカイトが口を開いた。

はやては少し驚き自分の後ろにいたカイトがリインフォースの前に移動するのを目で追った。

 

「お前には本当に世話になった。改めて礼を言わせてもらう。」

「うん。リインフォース…あのね?これから先はリインフォースの代わりに俺がはやてを守るよ。約束する。」

 

カイトの突然の宣言にリインフォースが目を見開く。

はやても驚いていたが徐々に頬を赤らめていった。

 

「俺だけじゃないよ?なのはやフェイト…そして何より守護騎士のみんながいる…だからリインフォース?これでもう心残りは無いよね?」

「あぁ…お前達なら安心出来る。これで私は心残り無く逝ける…」

 

主をこの手で守れなかったというリインフォースの心残りは、これから先カイト達に託せばいいのだ。

 

「しかし、これから消える私と約束などしても意味が無いのではないか?」

「大丈夫だよ。リインフォースも知ってるでしょ?約束は消えないよ。永遠に続くんだ!」

 

闇の書はずっとはやてと共にいた。

三年前、はやてにカイトが別れ際に言っていた言葉をリインフォースは思い出した。

 

「そうか…そうだったな…ありがとう騎士カイト。約束だ。」

「うん!約束!」

 

またこの少年に救われた気がしたリインフォースは、もう何も心残りが無くなり穏やかな表情をしていた。

 

「それでは…我が主はやて。行ってまいります。」

「おやすみ…リインフォース。」

 

別れを告げ儀式に戻ったリインフォースは最愛の主の笑顔に見送られ空に向かって消えていった。

そして、リインフォースが消滅した空から剣十字を(かたど)ったペンダントがゆっくりと落ちてきた。

はやてが手を伸ばして落ちてきたペンダントを受け止めて胸に抱き締めると今まで我慢していた涙が溢れてきた。

 

「はやて…」

「う…ぐす…カイ君ごめん…でも…ぐす…わたし…笑顔で見送れた。」

「よく頑張った。もう我慢しなくていいから…」

 

リインフォースを笑顔で見送る為に必死で涙を我慢していたはやてはカイトの胸の中で(せき)を切った様に思い切り泣いた。

 




リインフォースは原作通り消滅しました。
しかし、カイト君の一言で心残り無く逝けたと思います。


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第23話 ホウレンソウ


サブタイトルがテキトー過ぎる気がしますが、コレしか思い付かなかったので押し通しました。



闇の書事件が解決しカイトの嘱託魔導師としての仕事は終わった。

はやてと守護騎士達の裁判があるがクロノに任せておけば、フェイトの時の様に上手くやってくれるだろう。

尤も今回の裁判にはカイトも参考人として出廷しなければならないのだが。

 

それよりも、これから先カイトはクロノとの約束通り正式に入局して執務官補佐の資格を取る。

だが、その前に各方面に色々と報告や連絡をしなければならなかった。

とりあえず今日一日は報告、連絡、相談に全て費やすつもりでいた。

 

『おぉカイト。そっちから通信寄越すなんて珍しいな。ん?本局の制服?それと…そこは次元航行艦の中か?』

「お久しぶりです。ブラウン隊長。よく分かりましたね…」

 

カイトはまず最初に熱心に誘ってくれた地上本部のブラウン隊長に通信を繋げた。

カイトが着ている制服と通信越しの背景を見ただけで、次元航行艦の中にいるとすぐに気付いたブラウン隊長の観察眼にカイトは思わず苦笑いを浮かべながら、ブラウン隊長の部下も被害にあった魔導師襲撃事件が解決した事を伝えた。

 

『この二カ月くらい任務中のままで指名出来ないと思ったら、あの事件に関わってたのか。』

「報告しなくてすいません。」

『いや、俺に報告する義務なんかねぇよ。それにしても、こんなに時間がかかるって事はかなりデカイ事件だったのか?』

「そうですね。機密事項が多すぎて詳しくは話せませんが…」

『その辺は分かってるさ。それで事件解決の報告する為だけに連絡してきた訳じゃないんだろ?本題は何だ?』

 

何だか全て見透かされている気がしてカイトは苦笑しながら、正式に入局する事と本局で働きながら執務官補佐の資格を取得する為に勉強するつもりだと伝えた。

 

『そうか。お前は海に行くのか…しかし執務官補佐は意外だったな。お前が執務官を目指してるとはな。』

「それは…あの…何と言いますか…成り行きと言いますか…でも、今回の事件を手伝ってみて執務官を目指すのもいいかなって思ったんです。」

 

今回の事件でクロノと長い時間共に仕事をして執務官という仕事に興味を持ちカイトは補佐という立場から執務官をもっと見てみようと考えていた。

 

『まぁ、お前が自分で決めた道だ。頑張れよ!』

「ありがとうございます。それと誘ってくれたのにすいませんでした。」

『その事なら気にすんな。さっきも言ったがお前が自分で決めた事だ。俺がとやかく言う筋合いはねぇよ。』

 

カイトはブラウン隊長の言葉に再度お礼を言って通信を終わらせた。

気にするなと言われたが結構罪悪感が湧いてきたので、とりあえず貸しという事にしておいて有事の際には駆けつけようと心に誓った。

 

 

しばらくすると、クロノと今後の話し合いを終えたはやてが合流し二人で地球からの連絡を待つ。

なのはが地球の友人二人に魔法の事を話すのでカイトとはやてもそれに乗っかる事にしたのだ。

はやてと談笑していると、なのはから連絡が来たので通信を繋げた。

 

『カイト君。私の話は終わったよ。』

「うん。じゃあ次は俺達の番だね。」

 

何もない空間に突然モニターが出現しそこに映ったカイトの姿に驚きを隠せない友人二人は何も言えず口をパクパク動かしていた。

未だに状況が掴めないアリサとすずかの様子に苦笑しながら色々と説明を開始する。

 

まずは地球に居た頃に魔力が覚醒した事を話し、そして魔法の事は話せないのでイタリアに引っ越すと嘘を吐いた事を謝罪し、本当はミッドチルダに移住した事を説明した。

幸いミッドチルダという世界がある事は、なのはが先に説明してくれていたおかげで説明はスムーズに進んだ。

 

カイトの話が終わると次ははやてがモニターの前に現れ友人二人に魔法の事を告白した。

 

「イヴの日にカイ君達と戦ってた相手おるやろ?あれ、わたしや。」

 

はやての場合、機密等があって色々と説明しにくい。

なので、論より証拠という事で無理矢理納得してもらった。

 

『まだちょっと信じられないけど、実際アンタ達が戦ってるのを見たから信じるしか無いわね。でも、一つだけいいかしら?カイト!何でわざわざミッドチルダ(そっち)に引っ越したのよ!別に地球(こっち)に居ても良かったじゃない!』

「俺の母さんはミッドチルダ出身の元魔導師なんだよ。それで、まぁ金銭的な問題もあったからミッドに引っ越したんだ。」

『え?そうなの?』

「え?そうなん?」

「うん。あれ?言ってなかったっけ?だから母さんの故郷ってのは嘘じゃないよ?」

 

モニターの向こうの三人娘とはやてが今日一番の驚きの表情になった気がして母親の出身地について言い忘れていたカイトは改めて報告連絡相談(ホウレンソウ)はしっかりしないといけない事だと心に刻んだのだった。

 

 

なのは達との通信を切りカイトは仕事関係と友人への報告を終えた。

しかし、カイトにはもう一人報告しないといけない人がいる。

 

「じゃあ、はやて。今から俺の家に行こうか。」

「…え?…ちょっと待って!いきなり過ぎへん?た、確かに一生守るって言ってくれたって事はそうゆう事なんやろうけど…その…順序ってもんがあるやん?だ、大体!わたしらはまだ子供や!そうゆう事はもうちょっと大人になってからって言うか…その…今はまだ心の準備が出来てないと言うか…」

「…え?何?どうしたの?」

 

何故か顔を真っ赤にして身を(よじ)りながら大慌てしているはやてを見てカイトは不思議そうな表情を浮かべている。

 

「どうしたもこうしたもあるかいな!家に連れ込んで何する気やねん!」

「え?何って…母さんに報告しに行くんだけど…」

「なん……やて……?」

 

顔を真っ赤にしていたはやてはようやく自分の勘違いに気付いた。

そして、いかに自分が恥ずかしい勘違いをしていたかを再確認し更に顔を真っ赤にしたのだった。

 




勝手に勘違いしてワタワタするはやてかわいい。
ちゃんとかわいく書けてるかなんて気にしたら負けなんですよ。
「なん…やて…?」はずっと言わせたかった台詞です。
そんな事よりも次回が最終話です。
何とか四月中に完結出来ます。


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最終話 これまでの事これからの事


最終話です。完結です。



「母さん!ただいま!」

「おかえりなさい!カイト!」

「わっ!母さん!?…苦しいよ…」

 

約二カ月振りに帰宅した息子を出迎え、その元気そうな姿を見て母エレナは思わずカイトを抱き締めた。

母の暖かい温もりに照れながらも安心感を得て、いつまでもこうしていたい衝動に駆られるが家の外で待ってもらっている少女の存在を思い出しエレナの抱擁を解いた。

 

「入っていいよ。」

「お、お邪魔します…」

 

カイトはドアを開けて外にいた少女を迎え入れた。

おずおずといった感じで玄関をくぐる車椅子に乗る少女を見てエレナは目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

 

「は、はやてちゃん!?」

「お久しぶりです。エレナさん。」

 

実に三年振りとなる突然の再会にエレナは言葉を失った。

地球に居た頃の隣人であるはやてにはイタリアに引っ越したと言っていたはずで魔法の事もミッドチルダの事も伝えていないのに何故ミッドチルダに来ているのかが理解出来ずエレナは思考がフリーズしてしまっていた。

 

「ドッキリ大成功!」

 

そんな母の様子を見て肩を震わせ笑いを堪えていたカイトは少年らしい満面の笑顔で言い放った。

嘱託の仕事が終わりエレナに今日帰る事は伝えていたが、はやての事は一切秘密にしておいたのだ。

エレナのリアクションはカイトにとって満足のいく物だったらしく、実はドッキリにノリノリだったはやてとハイタッチを交わしていた。

 

「…カイト?きちんと説明してくれるかしら?」

「ッ!はい!ごめんなさい!」

 

ドッキリに引っかかり呆然としていたエレナは目の前でハイテンションな息子と娘同然の少女を見てワナワナと怒りが込み上げてきた。

エレナの底冷えする様な低い声を聞いて背筋が凍るのを感じたカイトは直様謝る事を選択したのであった。

 

怒られはしたがドッキリを成功させたカイトはリビングに移動して今回の事件とはやての事について説明を開始した。

今回の事件は特にロストロギア関連という事で機密事項が多いが事前にエレナには話していいとリンディとクロノの許可は得ている。

 

エレナは十一年前の闇の書事件の概要をリンディから以前聞かされて知っていたので闇の書自体の説明は必要無かった。

なので、はやてが現在の闇の書の主だという事と闇の書の完全消滅で事件が解決した事を説明したが、はやての手前グレアム提督が裏で色々動いていた事は伏せている。

 

「色々あったのね…でも、本当に無事で良かった…」

「心配かけてごめん…」

 

エレナはカイトの話を聞いて息子が結構危険な目に遭っていた事に驚いたと同時に無事に帰ってきてくれた事に少し瞳を潤ませていた。

 

「ごめんなさい!せっかく二人共無事なんだから湿っぽいのは無しよね!次は、はやてちゃんの事を聞かせてちょうだい!」

「わたしですか?」

「そうよ。私達が地球を離れてからの事が聞きたいの。」

 

意図せず少し重くなってしまった空気を何とか打破しようと、エレナははやてに話を振った。

はやてのことを本当の娘の様に接してきたエレナにとって、自分が傍に居られなかった三年間をどう過ごしていたか気にならない訳が無いのだ。

 

はやては少し考えてから口を開いた。

まずは、病院に行ったり図書館に行ったりご飯を作って一人で食べたりの繰り返しだった寂しい毎日に突然現れた新しい家族との楽しい半年間。

そして闇の書の暴走に取り込まれた時にカイトに救ってもらった事。

更には大切な家族の一員との別れ。

 

流石にリィンフォースの事を話す時は悲しそうな表情をしていたが、それ以外は終始楽しそうに話していた。

はやてはその時の感情も加えながら話すのでカイトは自分が登場する話を聞くと背中がむず痒くなるのを感じた。

 

「良かった…はやてちゃんには新しい家族が出来たのね…」

「そうなんですよ!みんな優しくてええ子達です。」

「本当に良かった…実は私ずっと後悔してたのよ。はやてちゃんを一人にしていいのか、一緒に連れて行った方が良かったんじゃないのかって…でも、間違いじゃなかったって思えたわ。だって新しい家族の事を話すはやてちゃんはとっても嬉しそうで楽しそうな顔をしてるんだもの。」

「エレナさん…」

「母さん…」

 

エレナは本当に安心した様な柔らかい笑顔を二人に見せていた。

母親の表情を見たカイトは、はやてと共に母親も救っていたのだとその時に初めて気付いた。

 

「それで貴方達はこれからどうするか考えてるの?」

「わたしはとりあえず裁判が終わったら家族全員で管理局にお世話になろうと思ってます。」

「はやてちゃん達も局員になるのね。カイトは?」

「俺も正式に入局する事を決めたよ。それで執務官の補佐をするってクロノと約束してるんだ。」

「あら、そうだったの?将来的には執務官を目指すの?」

 

エレナはこれまでの事を聞き終えると次はこれからの事を聞いてきた。

はやてに執務官とはどうゆう仕事かを説明しながら、今回の事件で執務官の仕事に興味が持ったので補佐をしながら近くで見てみたくなった事を母親に伝えた。

 

「知的好奇心が旺盛なのは本当に相変わらずね…」

「でも、それが無いとカイ君じゃないですよ?」

「ふふ、確かにそうね。カイト!頑張りなさい。」

「うん!ありがとう母さん!」

 

知的好奇心の赴くまま自分の進路を決めた息子にエレナは軽く呆れるが、はやての言うとおり興味を持った事には全力で挑むのがカイトだと納得し息子の将来を応援する事にした。

 

 

エレナに進路を相談し終わったカイトは地球の自宅に戻るはやてを転送ポートまで送る。

 

「なぁ、カイ君。お願いがあるんやけど…ええかな?」

「ん?何?」

 

転送ポートへ向かう道すがら車椅子に乗るはやてが口を開いた。

カイトは車椅子を押しながらはやての言葉に耳を傾ける。

 

「えーと…わたしを守るっていう約束やねんけどな…リィンフォースには悪いねんけど、あの約束…無しにしてもらってええかな?」

「えぇ!何で?」

「これからは守られてばっかりやったらあかんなって思ったんや。これからは…わたしがあの子達を守っていかなあかん。だから、わたしも強くなってあの子らを…家族を守りたいんよ。」

「そっか…じゃあ一緒に強くなろう。守る為に強くなろう。」

「守る為に強くなるか…うん…そうやな…わたし強くなりたい!みんなと楽しく暮らす為に強くなりたい!」

「じゃあ!約束だ。一緒強くなろう!はやて!」

「うん!カイ君!約束や!」

 

一方的に守られるだけだったこれまでの弱い自分に別れを告げ、これからは大切な人を守る為に二人で一緒に強くなる。

 

二人はどちらからともなく小指を差し出し指切りをして約束を交わし、顔を見合わせ笑顔を浮かべるとカイトが口癖の様に言っていた言葉を同時に口にする。

 

 

約束は消えないよ。永遠に続くんだ。

 




これにて堂々完結です。
昨年の十月頃から執筆を開始し、ある程度ストックを作ってから昨年のクリスマスに投稿を開始しました。
リインフォースの命日に投稿しようと思い立ち執筆を続けながら投稿し、苦しみながらですが何とかペースを乱す事無く完結させる事が出来ました。
書いてみて執筆作業の大変さを思い知ったのでこれからは只の読者に戻ります。
最後に主人公設定を投稿して終了となります!
読んでくださった皆様!本当にありがとうございました!


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主人公設定


物語なんか考えずに設定を書いていたら楽しくなってきて何だかウィキみたいになってしまいました。



月代(つきしろ)カイト

 

前髪だけは下ろして残りは後ろに流した黒髪にブルーがかった瞳の九歳の少年。

目付きが鋭い為、前髪を上げると初対面の人には怖い印象を与えがち。

性格は基本的に落ち着いているが、知的好奇心が旺盛であり興味を持った物に対して調べたがるのが玉に瑕。

時折、少年らしくイタズラ好きな面を覗かせる事もある。

 

 

地球人の父ソウジと元魔導師の母エレナの間に生まれる。

三歳の頃から八神家の隣に住んでおり六歳の時に父親を亡くした後、魔力に目覚め母親と共にミッドチルダに移住する。

クロノとはこの頃からの付き合いであり兄の様に慕っている。

 

現在は管理局の嘱託魔導師で闇の書事件後に正式に入局し執務官補佐の資格を取得してクロノの執務官補佐になる予定。

 

父親の影響で幼少期より月代流剣術を学んでおり、持ち前の身体能力の高さと剣術を活かした近接戦闘に関しては中々の戦闘力を見せるが射撃の才能は皆無。

 

魔力量はAランク。魔力光は黄色。

闇の書にリンカーコアを蒐集された後に成長の限界値と言われていたBランクから奇跡的にAランクに上がった。

更に魔力資質「魔力圧縮」を有しており、本来は魔力を圧縮する為にはプロセスを挟まなければならない所を、そのプロセスを必要とせず一定量を超えると本人の意思とは無関係に勝手に魔力が圧縮される。

 

 

術式は近代ベルカ式。

自身の適正が近接戦闘なのでベルカ式をミッド式にエミュレートした近代ベルカ式を選択した。

しかし、作中ではミッド式の魔法をアレンジした物を多く使用しているので混合ハイブリッドに近くなっている。

バリアジャケットは黒の上下に白いロングコートだったが、八神はやての騎士甲冑を気に入り上半身をはやてと同じデザインにした。

 

使用するデバイスは、ほとんど自作のアームドデバイス「月下(げっか)

待機状態は黄色い三日月型のペンダントで首から下げている。

セットアップすると日本刀になり黒い鞘とセットで展開する。

刀身には刃は付いておらず圧縮した魔力刃を付与して戦う。

実は鞘の方にコアがあるので作中で「月下を振るう」等と表現せずに「刀を〜」や「刀身を〜」と表現しているのは鞘が本体の為である。

 

また、月下には高度な解析プログラムを搭載しており魔法の解析や厳重なセキュリティを突破出来たりする。

元々は戦いながら相手の魔法を解析し無力化するのが目的だったが解析に時間がかかり実行中は魔法のサポートが出来なくなる為に戦闘中は使えない。

 

 

使用魔法

 

コンプレッションシールド

圧縮した魔力で作る強固なシールド。

 

コンプレッションシールド・オーラル

圧縮した魔力で球体状のシールドを作り全方位からの攻撃に対応する防御魔法。

自分はもちろん任意の相手にも張る事が可能。

 

月光(げっこう)

魔力量が増えたカイトがなのはからコツを聞いて完成した唯一の砲撃魔法。

なのはのエクセリオンバスター並みの威力を誇るがチャージに時間がかかるのとチャージ中は行動不能になる為、使い所が非常に限定される。

 

オプティックハイド

姿を消す幻術魔法。

月代流剣術の技を再現する為に練習中の魔法で現在の完成度は七割程度。

 

認識阻害魔法

自分の認識を阻害させる幻術魔法。

こちらも剣術の技を再現する為に練習中の魔法で完成度は七割程度。

 

 

月代流剣術

月代家に伝わる古流剣術。

基本的な型などは無く、速く鋭い剣閃で相手を圧倒する実戦派の剣術。

ちなみにカイトは刀身に魔力を付与して技を放つ場合は「月代流魔剣術」と呼んでいる。

 

 

 

月代流剣術 三日月(みかづき)

上段に高く構え剣先を頭の後ろから一気に振り下ろし相手を兜ごど一刀両断にする豪剣。

斬撃の軌道が三日月の形に見える事からその名が付いた

コマンドは↓↘︎→+C

 

月代流魔剣術 三日月(みかづき)

構えは同じだが振り下ろすと三日月型の魔力の斬撃が真っ直ぐ飛んで行く。

刀身に付与した魔力を飛ばしているので厳密にいうと射撃魔法の一種。

コマンドは↓↘︎→+A

 

 

月代流剣術 半月(はんげつ)

体の横に刀を構えそこから半円を描く様に真っ直ぐ横薙ぎにする斬撃。

斬撃の軌道が半月の形に見える事からその名が付いた。

魔剣術版は魔力が付与されているので若干攻撃範囲が広い。

コマンドは→↘︎↓↙︎←+AorC

 

 

月代流剣術 満月(まんげつ)

空中の相手に向かって飛び上がり刀を一回転させながら斬りつける技。

斬撃の軌道が満月の形に見える事からその名が付いた。

コマンドは→↓↘︎+AorC

 

 

月代流剣術 上弦(じょうげん)(つき)

上段からの攻撃を刀で受け止めた後に少し刀をズラし滑らせる様にして反撃に転じるいわゆる当て身技。

斬撃の軌道が上弦の月の形に見える事からその名が付いた。

コマンドは←↙︎↓↘︎→+B

 

 

月代流剣術 下弦(かげん)(つき)

下段の攻撃を受け止めた後に反撃する当て身技。

斬撃の軌道が下弦の月の形に見える事からその名が付いた。

作中では相手が下段からの攻撃を仕掛けてこなかった為に不使用。

コマンドは←↙︎↓↘︎→+D

 

 

月代流剣術奥義 月蝕(げっしょく)

刀を高く突き上げた状態から円を描く様に一回転させている間にまるで月蝕の様に姿を消す大技。

詳細は相手の視線を刀へ誘導し動きの緩急を駆使して一瞬に相手の懐に潜り込む歩法。

 

ちなみにカイトはこの技を教えて貰う前に父親を亡くしたのでやり方が分からず、どうにか再現出来ないかと考えに考えた結果、幻術魔法を用いて再現しようとしていた。

 

 

月代流剣術奥義 新月(しんげつ)

「月蝕」で姿を消し相手の懐に潜り込んだ後に真円を描く様に斬りつける技。

月代流剣術では月蝕と新月がセットで一つの奥義という考え方であり新月の習得には月蝕の習得が必要不可欠。

月蝕で消えた後に現れた新しい月の様に見える事からその名が付いた。

コマンドは↓↙︎←↙︎↓↘︎→+AC同時押し

 

入力すると月蝕を発動して相手の前に現れ新月を放つ超必殺技。

 

 




はい!主人公設定でした!
コマンドはK○Fに主人公がいたらという妄想です。
これにて本当に終了です。
ありがとうございました!


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