リリカルなのはサーガ (DFGNEXT)
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序章:「魔法との出会い」
プロローグ「始まりの日」


パル転がスランプ中なのでスランプ原因のこの作品を投稿し
スランプ奪回を目指します。一応この作品の部類はパル転のリメイクです。


注意事項


この作品は「パルキアに転生して、着いた世界はリリカルな世界」のリメイクに相当する作品である。

リメイクした部分はパルキアがいなくなったこと。それによるキャラ変化

基本的にネタには走らない(ガノタとかの設定がないと言う意味)

主になのはとスカリ博士のキャラが崩壊。他キャラは彼らに引かれて変わっている部分も

シリアスやギャグ、ついでに多少のグロ。たまにR-15があるかも

所謂パル転の「数学大好きなのは」をさらに強化にした作品

オリキャラあり

原作で曖昧な部分、または原作にないオリ設定アリ

フェイトさんの活躍が減る。どっちかと言えば『なのはや』

なのはとユーノは恋愛に関して朴念仁

相変わらずごり押し闇の書事件

一行でもいいからマジ感想ください・・・



以上が大丈夫!もしくは一部だけなら守ってやるよ!と言う人はどうぞ!!






そして始まりはなのはさん五歳。
あいかわらずここから始まるのです。
主人公はなのはですが・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

 

あのころ・・・わたしは公園のベンチに座り、ただ呆然と前を見詰めていた。

じぃっ・・・と、ただただ公園で遊んでいるみんなを見る。

ただ・・・それだけをする日々・・・

まわりの皆は、みんな笑っていて、楽しそうだ。

 

けれどわたしは、そんなみんなをベンチに座って眺めているだけだった。

 

何度か仲間に入れてくれようとしてくれたけど、

わたしは結局どこにも入らなかった。

 

寂しいけれど、みんなに無理を言うことはできない。

わたしは『いいこ』じゃないといけないから・・・そう思っていた。

 

わたしは・・・胸に手を置き息を吐く、

ずきずきとする胸の痛みを押さえつける。

 

 

ちょっと前にお父さんが仕事で大怪我をした・・・

その日からなんだか家の中がぴりぴりしていた・・・

 

みんながみんないつもと違っていた・・・

 

そして「いいこ」にしていれば元に戻る・・・そう聞いた

 

だからわたしは「いいこ」にしていなきゃいけない・・・

そう・・・思っていたあの日々・・・

 

でもある日・・・一冊の本から、わたしの人生は変わっていったんだ。

 

 

 

 

 リリカルなのはサーガ・・・始まります

 

 

 

 

あの日はベンチにずっと座っていたら、

いつの間にか他の人はいなくなっていた。

 

公園は静かになり、耳に響くのは冷たい風の音のみ・・・

 

わたしもそろそろ帰ろうかな・・・

 

そう思って立ち上がろうと前を見ると

 

「あれ・・・なんだろう・・・」

 

目の前のベンチをよく見ると何か一冊の本とバッグが置いてあった。

忘れ物かな? そう思いわたしはその本に近づいた。

 

綺麗な本だった・・・と言っても表面には傷がちょっとついていたり

表紙の端っこや角は多少磨り減っている。

 

それでもわたしが綺麗だと思ったのはその本の表紙に描いてある図だった。

 

まるでわたしの体の中を電撃が駆け巡るような感覚だった。

今思えば、一目惚れというか、運命の出会いと言うか・・・

とりあえずなにかしら感じていたのだ。

 

落し物・・・というより、忘れ物なので

わたしはお母さんに教えてもらったとおり、

近くの交番まで行ってバッグと本を持っていった。

 

持って行ったときに警察官のおじさんからあめを貰ったりしていると

その落し物の主がその交番のところに来た。

わたしが見つけたと警察官のおじさんが言うと

その人はとても喜びながらわたしにお礼を言ってきた。

 

「本当にありがとう!!ついうっかり忘れててね。

 戻ってみたらなくなってたから驚いたんだ。

 君が持ってきてくれて本当に良かったよ。ありがとう」

 

二度もお礼を言ってくれていたはずだけど

わたしはただ空返事や心のない頷きをするだけだった。

わたしの目はただただその本に注がれていた。

もう二度と見られなくなる・・・そう思うとなんだか悲しくなっていた。

 

そんなわたしに気が着いたのか、

その人はわたしを見て、その本を見た後話し出す。

 

「もしかして・・・この本がほしいの?」

 

いきなり思っていたことをピタリと当てられて驚いたけれど

わたしは正直に・・・素直に頷いた。

 

するとその人は数秒、顔の顎に手を当てて悩んだ後、言ったのだ。

 

「良かったらこの本。君にあげるよ」

 

えっ?

 

「この本・・・買ったはいいんだけど。僕には難しくてね。

 君にも難しいとは思うけれど・・・。

 どちらにしろ古本屋に売る予定だったんだ。

 バッグを届けてくれたお礼に・・・君にあげるよ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

今思うとなんてことをしているんだ。とは思うものの

あのときは本当にうれしくて、少し苦笑いしている警察官のおじさんを尻目に

わたしはその本を受け取って、胸で抱きかかえながら

とてもよい笑顔になっていた・・・

 

その日から・・・家でも、どこでも・・・

私の顔には笑顔に満ちていた・・・

 

確かにその本の内容は最初は理解できていなかった。

けれども書いてある図・・・それを見ているだけでとても楽しかった。

何時しか、近くの図書館へ行ったりしたりして調べたりした。

その本を理解していくうちに『何か』を手に入れていた。

とても嬉しくて、楽しい・・・そんな幸せな日々だった。

 

そんな日々が終わったのは・・・あの日だった・・・

 

 

 

 

 

 



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SAGA 1「魔法との出会い」

なのはちゃんマジ楽しんでいます。
この時から空への執着があったという感じですね。

それではどうぞ!


 

 

 

 

あれから一年。

お父さんの怪我も治り、家にも前の・・・

いや前よりも素晴らしい日々が戻っていた。

家族の皆にはいつも笑顔があり、すがすがしい朝を迎えられていた。

 

「いってきまーす!!」

「いってらっしゃい」

 

そんななかでわたしは朝、早起きすると赤いジャージに着替える。

 

ちなみに家族はみんな早起きなのだ。

お兄ちゃんとお姉ちゃんはわたしよりもっと早く起きる。

家の家族は道場を持っていて、そこで剣術を学んでいるのだ。

 

その剣術の名前は『御神流』

 

正式名称は「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術」

 

聞いた話を纏めると御神流は、二振りの小太刀をメインとする剣術だ。

 

しかし飛針(とばり)鋼糸(こうし)などの暗器、

さらには体術なども用いた総合殺人術である。ということを聞いてしまったりする。

ちょっと怖い話だけれど、力の使い方を間違えなければ問題ないとは思う。

 

わたしも一応触りだけ教えてもらっている。

けれどまだ剣を持つのは早いので、今は早朝ランニングをしたり

筋トレをするだけに抑えている。体を壊しても困るしね。

 

玄関を抜けて、近くの山までランニングする。

でも・・・このランニングは御神流の訓練のためだけではない。

わたしにはある秘密の特訓があるのだ。

 

 

 

山に着いたわたしは周りに誰も居ないことを確認すると

胸の高鳴りを抑えつつ、呼吸を整える。

そして指先に力を集中する。すると・・・

 

「ぷっはぁあ!うん、できたできた。光の(たま)!!」

 

指先から力があふれ出し、現れた桜色に輝く美しい球・・・

それは後に『ディバインシューター』と名づけられる魔法の力

わたしはランニングでここに来るたびにいつもこの力を使っていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

この力を見つけたのはあの本を貰ってから二ヵ月後のことだった。

 

いつものようにわたしはあの本を机に向かって読んでいた。

 

本に書いてある数式・・・完全には理解してはいなかったものの

それでも、ある程度は頭の中で理解できていたのだ。

 

そこでわたしはいろいろな数式を頭で思い浮かべていた。

簡単なものから難しいものまで、はては本にも乗ってないような数式を。

 

その時・・・わたしは気づいた。何だか、胸の奥がポカポカしていると。

まるで春の息吹を感じたような暖かい感覚だった。

 

「なんだろう・・・この感覚・・・」

 

最初は気のせいかな? とも思いつつ、その数式を思い浮かべるたびにその感覚は続いた。

そんな時、ふと思い立ちわたしは試しに掌に力を集めた。すると・・・

 

「わぁ!」

 

掌から先ほどの光の球が現れたのだった。

いきなり現れた光にわたしは驚き、椅子から転げ落ちてしまった。

 

「なのはぁ! どうしたのぉ?」

 

大きな音を立ててしまったのでお母さんがわたしを心配する声をかけてきた。

わたしはその声に驚きつつもすぐに冷静になって、軽く返した。

 

「なんでもなーい。転んじゃっただけー」

 

嘘は言っていない。椅子から転げ落ちたのは事実。

ただ他の事を伝えていないだけだ。

 

「気をつけなさいよ」

「はぁ~い!」

 

教えるべきではない・・・そう思ったわたしは家族には黙っておいた。

こんな力が使えるなんて知られたら・・・幼いながらも

わたしはこんな思考ができるくらいには大人びていたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

それからはいろいろ試しながら、この力で遊んでいた。

 

この光の球は操作できるとわかったときは木の棒を立てて

そこに向かって命中させる、的当てゲームみたいなことをしていた。

 

またあるときは光の力を体全体に送ってみた。

すると・・・体が一瞬だが、宙に浮いた・・・。

最初は驚いたけれど、それと同時に高揚感がわたしの体の中を流れていた。

 

空を飛ぶ・・・それは人類がおそらく一度は浮かべる『夢』だと思う。

だからわたしの中には高揚感が溢れていたのだ。

 

今日は・・・それをさらに推し進める予定だ。

 

「・・・x=12k・・・3・・・zk・・・」

 

先日見つけた数式を元に改良に改良を加え、

おそらくは空を自由に飛べるだろう・・・という方程式。

 

それをわたしはまるで魔法の詠唱のようにぶつぶつと唱える。

目を瞑って、体中に力を巡回させるようなイメージを重ねて。

 

やがてその幼き小さな体が宙に浮かび始めた。

 

しかしわたしはここで一喜一憂しない。

最終的な目標は空を飛ぶことだから・・・

 

やがて、演算は更なる加速を見せていった・・・そして・・・

彼女の体は上空へと向けて加速を始めていった。

 

「や、やった・・・!!」

 

わたしの顔には笑顔がこぼれた。

憧れた空をまるで流れる流星のように飛ぶわたし。

 

「飛んでる・・・! わたしはこの空を・・・飛べるんだ・・・・・・!!」

 

風と一体化するような感覚・・・

空気を切り裂き、(そら)を飛べる・・・力!!

 

わたしは手に入れた力を全開で使って、時間目一杯まで楽しんだ。

 

 

 

時間が少し経った後、わたしは先ほどまでいた山に着陸する。

地面に降り立った後、手を握って開き体に異常がないかを確認した。

 

「わたし・・・飛べた・・・。この空を・・・飛べた!!」

 

誰かに言いふらしたい。

そんなことまで一瞬考えてしまうほどあの時のわたしは盛り上がっていた。

他の人が絶対に持っていないであろう『異能』

・・・それが幼いわたしの心を急き立てたのだ。

 

だが・・・しかし・・・力を手に入れたものには

力を手に入れたものの責任があることもまた事実なのだった・・・

 

ときは流れる・・・

 

 

 

 



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SAGA 2「力の責任」

今回はなのはちゃん魔法の怖さを知るです。
ゲストキャラが出たりしていますが、あくまでチョイ役。
本編に絡むことはないです。

それではどうぞ!!


 

 

あれから少したった。

なのははあれからもずっと訓練と一緒に魔法の特訓を行っていた。

 

そして・・・父親、士郎が退院した。

通院も終わり怪我は完全に完治したのだ。

高町家はそれからさらにかつての明るさを取り戻していた。

毎日の朝食の会話ですら、すでに違うのだ。

 

「すまなかったな。お前達にも迷惑をかけた」

「いや、大事に至らなかっただけでも良かったよ」

 

謝る士郎に対して恭也はそう言い返す。

命より大切なものなど基本的に存在しない。

助かっただけでも御の字だと。

 

「本当だよね。あのときはどうなるかと思ったよ」

「そうだよ。お父さん。わたしかなり心配したんだから!!」

 

美由希となのはもまた笑みを浮かべながらそう話しかけた。

 

「ごめんな。なのは・・・家に一人にしてしまって・・・」

「ううん、平気・・・といったらお父さんがかわいそうかな?」

「ふふふ、大丈夫よ。心配かけた分は迷惑かけてもいいわよ」

「お母さん!」

 

他愛もない会話だが、一年前まではこんな会話さえできなかったのだ。

明るい家族間の会話・・・取り戻せたことがなのはは嬉しかった。

 

「でも、これで仕事は引退だな・・・」

「大丈夫だよ、お父さん。まだ家には翠屋という切り札が・・・」

「なのは・・・どこで覚えたんだそんな言い方?」

「図書館かな」

 

といっても本ではなく周りの会話を着て覚えたのだが

 

「なるほど」

「うん、さてとごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした。これからどこかへ行くの?」

「うん、公園に行こうかと思ってる」

「そう、気をつけなさいよなのは」

「もちろん」

 

なのははそう返事をするとお気に入りのジャージに着替えて玄関を飛び出る。

向かうはあの公園・・・あの本と出合うきっかけになった場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

「すーはーすーはー」

 

公園についたなのははまず始めに深呼吸をする。

ランニングに体が大分慣れて、息が乱れにくくはなったものの

この距離を全力で走るとなるとまだなのはは息を乱してしまうのだ。

 

やがて息を整えたなのはは周りを見渡す。

今日はまだ誰も居ない・・・時間が時間だし、

そもそもそういう時間帯をわざと選んだのだ。

 

なのはは最終確認をすると指先に力を送って光の球を出す。

 

「ふふ、さってと・・・今日はもう少し遊んでみようかな」

 

そう思ったなのははその光の球を操作し始める。

そこへ近くのゴミ箱から拾った空き缶を投げつけた。

 

カコンッ!

 

そういう甲高い、どこか心地の良い音が鳴り響き缶は宙を舞った。

 

「ふふふ、まだまだ。これからだよ」

 

そう言うとなのはは光の球を操作して空き缶に当て続ける。

落とさないように壊さないように・・・力を加減しながら

空き缶を弾く。頭が時々痛く感じるもののやっていてとても楽しかった。

しかし・・・楽しい時間は些細なことで去っていくのだった・・・

 

 

「さてっと・・・あとはこれをゴミ箱に・・・」

 

入れるだけ・・・そう言おうとしたなのはの胸に突然

 

「グッ・・・!!」

 

ズキンッと一瞬・・・ほんの一瞬だったが激痛が襲った。

そしてそれが命取りとなった。

 

なのはの操作を外れた光の球は空き缶には当たらずそのまま進み

なのはの近くにあった大きな樹木の幹に直撃した。

 

グワンッと大きな音を立ててなのはに向けて倒れてくる木・・・

 

「ひっ・・・がぁ・・・」

 

なのはの幼い体では避けきることができず

ズシンッと倒れこんだ木の枝が顔の頬と上半身に直撃した。

 

「がっ!」

 

そのときなのはは一瞬何が起こったか理解できなかった。

もっとも、その後遅れてきた激痛のせいでどちらにしろ思考能力は正常に稼動しなかった。

体には太い木の枝が乗っかり、体に更なる苦痛を与えていた。

 

「ゲホッゴホッガハ・・・ヒューヒュー、ヒュー」

 

呼吸もうまくいかない。幼い体には木の枝すら重量があり肺を圧迫していた。

枝が切りつけた上半身からは血があふれ、もともと赤かったお気に入りのジャージも

鮮血に染まり、やがて酸化によって深紅色に染まっていた。

漏れ出した血は体を伝わり地面を紅く染め上げる。

 

手にもべっとりと血糊が付き、倒れてきた木も噴出した血によって紅に彩られる。

 

なのははこのとき走馬灯のようにこの6年間を思い浮かべていた。

幼いながらすでに死を覚悟していたのだ。

 

(こんなので・・・終わり・・・? いや・・・いやだ・・・

 こんなのいやぁ・・・まだ・・・まだ、死にたくない・・・

 いっぱいしたいことがある・・・のに・・・)

 

それでも死にたくないのものは死にたくない。

出血多量で意識はだんだんと朦朧としていた。

 

そのとき・・・なのはは近づいてくる人影を見つけた。

 

(た・・・すけて・・・たすけ・・て・・・よ・・・)

 

「こ・・・は!・・・大丈・・・か!!・・・くっ救急・・・呼・・・ないと」

 

もはや何を言っているのかすらわからなかったが、

人影を見て安心したなのははその意識を手放した・・・

 

 

 

 

 

 

 

「先生!!なのはは!!なのはは無事なんですか!!??」

 

知らせを聞きつけ、高町家は急いで病院へと駆けつけた。

恭也と美由希も学校を休んで駆けつけた。

自分の妹が生死を彷徨うほどの大怪我をしたと伝えられては

落ち着いて学校に行くことなど不可能だった。

 

「落ち着いてください。娘さんはご無事です。

 あと数時間ここにくるのが遅れていたらわかりませんでしたが

 発見が早かったため一命を取り留めました。

 

 もっとも顔はともかく、体には傷跡が残るかもしれませんが」

「それでも・・・生きていてくれて・・・本当に良かった・・・」

 

怪我が残ることは女の子として残念だとは思ったものの

生きていてくれただけで本当に良かったと・・・

そこへ一人の男性が駆けつける。

 

「あっ、もしかしてご家族の方ですか?」

「そうですが、あなたは・・・?」

「あぁ、高町さん。こちらは娘さんの第一発見者の・・・」

「九十九彩斗です」

 

男性は四人に向けて会釈をする。

 

「高町士郎です。あなたが病院に連絡を?」

「はい、そうで・・・」「もしかして先輩ですか?」

 

突然話に割り込んできた恭也。

 

「もしかして・・・恭也か・・・?一年の?」

「はい、そうです。あの・・・妹をありがとうございました」

「こちらからもお礼を言わせて貰う。ありがとう」

「「ありがとうございます」」

 

高町家全員からお礼を言われ、少し照れる彩斗。

 

「いえいえ、こちらこそ前に娘さんに世話になったんですよ」

「なのはに?」

「なのはちゃんと言うんですよね。かわいい名前です。

 一年程くらい前になのはちゃんが僕が公園で忘れ物をしたときに

 交番まで届けてくれていたんです。

 あれには結構重要な書類が入っていて・・・本当に助かりました。

 そのときお礼に自分が持っていた本をプレゼントした・・・仲ですね」

「あぁ、あの本は先輩が渡したんですか。

 なのはよろこんでいましたよ。あの本を持ってから

 なのはに笑顔が戻ってました」

「それなら良かった。あんな小難しい本貰って嬉しいのかな?と思って」

「私が入院していて、家族がギクシャクしていたときだからな。

 なのははとてもいい子だ・・・だから精神的に参っていたかもしれない・・・

 今回のことも含めて、本当にありがとう」

「いえいえ、そうだ。恭也くん?今から学校に行かないか?

 今なら遅刻と言うことで授業に参加できるだろ」

「えっ、は、はい。そうですね」

「言って来い。美由希もな」

「うん、わかった」

 

そう言うと三人は荷物を取りに向かっていった。

士郎と桃子は時間ギリギリまで、病室のなのはのもとに居てあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

二週間後、なのはは目覚めた。

最初に言った言葉は「あれっ、生きてる・・・」だった。

後々、顔の頬に付いている傷や何針か縫った体の傷を見て

「お嫁にいけるかな・・・」などと口走りながら、悲しんでいたものの。

助けてくれた人が、あの本をくれた人だと知ってとても嬉しい気持ちになった。

 

「あの人が・・・くれた力・・・とは違うけれど・・・

 あの人のおかげで手に入れた力を・・・こんなことに使っちゃった・・・」

 

手に力を入れて、光の球を出そうとするものの

手が震えてしまってできなかった。拒否反応だ。

 

今回のことで精神的にダメージを負ったなのはは

光の球を出すことと、空に浮くことができなくなっていた。

所謂トラウマ・・・恐怖心が力を使うことを拒否しているのだ。

 

今使える力はせいぜい、その力を周りに散布することくらいだ。

エネルギーを散布・・・そして反射したエネルギーを分析することで

頭の中に周りの状況をソナーのように理解したデータで作り上げる。

これくらいのことしか・・・なのははできなくなっていた・・・

 

「・・・この力は・・・こんなにも・・・こわいものだったんだ」

 

なのは・・・ただそれだけを理解していた・・・

 

 

 

 




※九十九彩斗はにじファンで書いていたなのは二次小説の主人公です。


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SAGA 3「親友との出会い」

なのフェイなんてものがこの作品で果たして発生しうるのか・・・
車椅子のあの子が登場です。

それではどうぞ!!


 

 

傷跡は残ったものの怪我が完治したなのはは退院した。

けれどもあんなことがあったので早朝ランニングも兄と一緒だ。

もともと今は『力』は使う気にはなれないのでそれ自体は良かった。

 

毎朝、兄妹そろってランニングをしたり、兄の訓練を見れたりして意外と楽しかった。

 

さらに携帯電話も防犯のため持たされた。

もうすぐ小学生になるので持たされた感もあるが、

そのおかげで、人通りが多い昼間などに

一人で図書館へ行くことなどは許可された。

 

力は使えないものの、平和な日々をなのははすごしていた。

そしてあの出来事から約二年。小学二年生の夏休みのことだった・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

わたしは海鳴市にある図書館『風芽丘図書館』に来ている。

ここは広さも十分あり、結構多種類の本がおいてあるうえ、

子供向けから大人向けの難しい本までいろいろとある。

 

そのためここにはよく足を運んでいるのだ。

 

 

わたしは入り口に入るとまず受付のお姉さんに挨拶する。

ここに来たのはあの本を受け取ってからずっとだ。

 

良く通うようになったので、受付のお姉さんには顔を覚えられた。

まあこの年齢では難しい本を借りるというのもあるけど。

 

「こんにちは、雨宮さん」

「こんにちはなのはちゃん。今日も来てくれたね」

 

こちらがそのお姉さん。名前は「雨宮可奈」

年齢は禁句とのこと。まぁ、仕方ないね。

初めて会ったときは転任したばかりの新米さんだったらしいけれど

今ではベテランといったところ。どこにどんな本があるか大体覚えているとか

 

挨拶をした後はいつもの数学の本がある場所へ行こうとする。

だけど今日はいつもの道が清掃中で通れなかった。

しかたなくわたしは別のルートで行くことにした。

 

数分後、本を選び終わったわたしは通路を戻っていた。

 

「ふう、今日はこれぐらいにするか。」

 

そういうわたしの手には厚めの本が3冊あった。

すべてが数学に関する本である。本当は限界である10冊まで借りたいのだが、

そこまで借りてしまうと手が完全にふさがるのでこの数で抑えている。

鍛えていても8歳の体では少しつらいものがあるのだ。

 

本を借りに受付へ行こうとするが、いつものルートではないので、

少しきょろきょろしながら戻ろうとしていると・・・

 

「く、うー・・・」

 

そんな声がしたのでふと声がしたほうを見る。

するとそこには栗色のショートヘアーに、年相応の幼い顔立ち。

その表情をほんの少しばかり歪め、必死に本棚に手を伸ばしている少女がいた。

 

どうやら上の棚の本を取ろうとしているが、車椅子に座っているせいで取れないらしい。

手を伸ばしているが、全然届く気配がない。見ていて少し不憫に思ってくる。

わたしはその姿を見て、周りを見るが台などは近くに見当たらなかった。

 

(・・・ちょっとだけだけど、力も使えるようになったし・・・

 この子は同い年っぽいし話しても大丈夫だろう・・・)

 

よし、わたしが取ってあげよう、と思い彼女のそばに近寄る。

そして力を使い本を浮遊させて、取ってあげる。

 

「これかな?」

「えっ、あっ、ありがとうな・・・て、今どうやって取ったん!?」

「ううん。気にしないで、他に取りたい本とかある?」

「え、っと・・・。それじゃあアレとアレを・・・・・・・・・」

 

なんだかその子は慌てていた。まぁ、それ覚悟で力を使ったのだけど

わたしは言われた本を、力を使い順々に取っていった。

一通り借りたいのが済んだのか、そのまま本を持ってカウンターに行った。わたしもそれに付き合う。

 

「あ、あの、ありがとうなぁ」

「どういたしまして」

 

わたしはそう言うと本を借り、図書館を出る。

車椅子は見ていてわたしがハラハラしたのでお節介を焼くことにする。

 

「よかったら家まで押していこうか?」

「え、ううんえぇよ。そこまでして貰わんでも」

「気にしなくていいよ。今日は暇だし、それに話したいこともあるし」

「そ、それじゃあ送ってもらおうかな。さっきのことも聞きたいし」

「うん、了解」

 

そういうとわたしは彼女の車椅子を押して帰り道を行く。

 

 

 

 

帰り道はお互いに自己紹介をしながら歩いていた。

 

「今日はホンマにおおきにな。あっ私の名前は八神はやてや。あなたは?」

「へぇ~。名前は八神はやてって言うんだ。

 わたしの名前はなのは。高町なのはだよ」

「なのはちゃんかぁ。あ、私のことははやてでええよ」

 

はやてちゃん・・・うん、いい響きだな

 

「じゃあ、そう呼ばせてもらうよ。はやてちゃん」

「今後ともよろしくな。なのはちゃん」

「こちらこそ」

 

そして八神家の前にたどり着く。

 

「うちはここや。ホンマありがとな」

「ううん。大丈夫だよ。ところでこんな大きな家に住んでるの?」

 

庭もあり、道場も有る家にわたしも住んでいるが、

はやてちゃんの家族が住むには大きすぎるような気がしていた。

だけど、それは少し踏み込んだ質問だったようだ。

 

次にはやてちゃんが話した内容を聞いて、そう思ってしまった。

 

「そうやで、でも一人暮らしなんや。ちょっと寂しいかな」

「えっ?一人暮らし?」

 

わたしはそのことを聞いて本当に驚く、

こんな小さな子が一人で暮らしてるなんて・・・。わたしが言うのもなんだけど

 

確かに小さい子でも一人で家にいたり、家事をしたりすることもある。

わたしだって一人で目玉焼き作ったりしてるし。

 

でもそれは保護者がいることが前提だ。

 

こんな小さい子がいくらお金があったって、一人で暮らすなんて日本じゃまずありえない。

普通は施設に入るなり、親戚の家に行くなりするはずだ。確か

 

ましてや、はやてちゃんは見ての通り障害持ちだ。

わたしはやっぱり信じられなかった。

 

今は笑顔を見せているが、本当の気持ちはどうなんだろうか。

わたしは・・・そう感ぜざるを得なかった・・・

 

「小さいころ親が亡くなっていてほんでずっと一人暮らしなんや・・・」

 

少し顔に曇りが出てきた。やっぱり寂しいんだ。

 

「あっごめんな。暗い話してしもうて」

「あっううん。大丈夫・・・わたしはお父さんもお母さんも居るけど

 前にお父さんが大怪我して・・・すこしはわかる」

 

わたしはお節介にもほどがあるが、

気持ちがわかる。ということをアピールしていた。

我ながら卑怯だが、やっと同じ気持ちがわかる人に出会えたと思った。

 

「そっか・・・。なのはちゃんも大変やったんやな。

 それじゃあ、ありがとうな。送ってってもらって」

「うん、こっちもありがとう」

「そや、さっきの話も聞きたいから家に上がってってよ」

「いいの?」

「もちろんや」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

そう言うとわたしとはやてちゃんは八神家に入っていった。

その様子を・・・一匹の猫が眺めていたことなど・・・まだ知る由もなかった。

 

 

 

「はい、お茶どうぞ」

「ありがとう」

 

はやてちゃんからお茶を受け取って、お礼を言いながら一口つける。

おいしい・・・市販のお茶なのにわたしが入れたのとぜんぜん違う。

 

「とってもおいしいよ。はやてちゃん」

「ありがとなぁ。なのはちゃん」

 

はやてちゃんは今は先ほどとは違う車椅子に乗っている。

この家は大きかったものの、すべてがバリアフリーになっており、

玄関以外で段差があるのはせいぜいトイレくらいで

お風呂は出入口の幅は目測650mm以上確保されていて、

ドアは引き戸か外開き戸にし、外からも解錠できるようになっていた。

他にも浴室の出入りを助ける手すりがあったり 脱衣所と浴室の段差はない。

浴槽も跨ぎやすい高さになっていたりした・・・

 

何で知ってるかって?

お風呂どうしてるの?って聞いたら、さっきついでに案内してくれたからだ。

 

目側での数値の判断はかなり面白かった。

 

話を戻すと、はやてちゃんは外用と中用で車椅子を使い分けていた。

当然と言えば当然で、家に一人しか居ないのだから

車輪を拭く作業は困難でしかない・・・というか無茶だろう。

だからはやてちゃんは中は手動の車椅子。

外は電動で動くことも可能な車椅子を利用していた。

 

「それでさっきのはなしだけど・・・」

「そうや、そうや。なんかなのはちゃんよりも

 若干高い位置にあった本が浮いていたような・・・」

「うん、わたしにはそんな不思議な力があるんだ」

 

そういうとわたしは目の前の湯飲みに力を込める。

するとその湯飲みはふわふわと浮かび始めた。

それを見たはやてちゃんは凄く喜びながら叫ぶ。

 

「すごい!まるで魔法やな」

「魔法・・・?」

「そうや、力なんて名前じゃなくて今度から魔法って言わへん?」

「はやてちゃんが言うならね。わたしも気に入ったよ『魔法』」

 

そんなことがあってこの力をわたしは魔法と呼び始めた。

後にそれが正しかったと知るが、それはまた別の話。

 

「他にも空を飛んだり・・・光の球を出したりしたかな」

「すごいやん。空飛べるなんて!!今できるん?」

 

はやてちゃんが期待を込めた目で私を見てくる。

でも・・・・わたしは・・・

 

「・・・・・・できない」

「・・・?どうして?」

「・・・はやてちゃんには見せておこうかな」

 

そういうとわたしは上半身の上着と下着を掴んで首まで上げた。

はやてちゃんは一瞬だけ、手で目を覆ったものの

わたしの体についている傷を見たのか、顔が唖然としていた。

 

「どうしたん!?その傷跡!?」

「・・・前に魔法を使ってたらヘマしちゃってね・・・

 木に光の球が当たって・・・大怪我しちゃった」

「もしかしてそれが理由で?」

「うん、トラウマなのかな・・・うまく魔法が使えないんだ。

 最近やっと他のものに使えるようになったけど・・・

 自分に対してはまだ使えない。使おうとすると手が震える・・・」

 

今もあのときのことを思い出して震える手を押さえる。

未だに治まる気配はしていなかった。

 

「・・・大変やったんやなぁ・・・」

「死にかけたけれどね・・・生きてるだけわたしもいいかなって思ってる」

「実は・・・私も昔、トラックに撥ねられたことがあるんよ」

「はやてちゃんも?」

 

怪我は大丈夫だったの!!??

 

「うん、幸い怪我はなかったんやけど・・・」

「もしかしてそれが原因?その足?」

「それは違うよ。足が麻痺してきたのはそのずっと後やから・・・」

「そう・・・なんだ・・・」

 

なんだか空気が悪くなっちゃったなぁ・・・

時間も時間だし・・・

 

「それじゃあ、そろそろ帰るね」

「そうかぁ、それじゃあね。なのはちゃん」

「うん、はやてちゃん」

「私はあそこの図書館か海鳴大学病院ってところにおるから、そこに行けば会えると思うよ」

「そう、わかったよ。はやてちゃん。それ・・・じゃあね!また会おう」

「ほな、さよなら。また会おうな」

 

そういうとはやてちゃんは飛び切りの笑顔を返してきた。

とても真白い肌にほんのりとしたピンク色の頬・・・

その笑顔に少しだけドキッとした後。

わたしは家へと向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

わたしは家に帰ると玄関の戸を開ける。

そして玄関で靴を脱いでリビングへと向かう。

ちょうどそこにはお母さんが居た。

 

「ただいまぁ」

「おかえりなのは。いつもよりちょっと遅かったわね」

「うん、友達ができたんだ!八神はやてちゃんっていうの」

「そう、良かったわね。なのは。友達は大切にしなさいよ」

「は~い」

 

これが・・・10年以上の付き合いとなる親友との出会いだったのだ。

そして・・・一年が経った・・・

 

 



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SAGA 4「ナノハノチカラ」

なのはさんの実力の一部が垣間見える(笑)
・・・チートすぎたかな?この世界は兄貴も姉貴も強いけどw

それではどうぞ!!


 

 

 

 

「ふ、ふ、ふ、ふ・・・」

 

額から汗を飛ばしながら、木刀を振るなのは。

あれから一年・・・御神流をやっと伝授された。

 

とはいっても、なのはは一度で覚えたものの

体が追いついていかないので、今はまだ木刀を振るうことくらいしかしていない。

 

体に無理がないように、少しずつ数を増やしていっている。

 

厳密に言えば数ヶ月前に一度使ってしまった。

そのおかげでアリサやすずかとも友達になれたわけだが・・・

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

はやてちゃんとの付き合いも大分長くなっていたころ。

はやてちゃんのおかげでメンタル的にもやっと勇気が湧いてきて

今はリハビリ的なものをかねて空を飛んでいたところだった。

 

前に比べれば・・・まだ、遅いけれどそれでも飛べていた。

 

そんなときだった。下のほうに不審な車を見つけたのだ。

見ると車から降りてくる人、女の子を引きずりこもうとしていた。

 

まずい!これは誘拐だ。

 

「お父さんに連絡しなきゃ!」

 

わたしはさきほどまで二人がいた地上に降りる。

そして携帯電話で自宅にかけた。

 

プルルルル、プルルルル、プルル、ガチャ

 

『はい高町です。』

 

ちょうど良かった、出たのはお父さんだった。

 

「お父さん、なのはだよ!」

『お、どうしたんだなのは?』

「緊急事態なの。目の前で女の子二人が誘拐されたの!」

『なんだって?・・・それで?』

 

声のトーンが変わる。

もともとお父さんは用心のボディガードをしていたから

事態の重さ、自分の実力とあわせて考えているのだろう。

 

「相手の顔は見えなかったけど人数は確認できただけで4人、多分もっといると思う」

『分かった、こっちも準備しておく。今どこにいるんだい?』

 

「今はいつものランニングコースの道にいる」

『分かった、なのはそこで待っていなさい』

「ううん、わたしは犯人を追うよ」

『何だって?おいなの・・・』

 

ピッ!

 

そう言って電話を切る。

お父さんの言いたいこともわかるけど・・・

今逃したきっとまずいことになる・・・そうわたしの直観が言っていた。

わたしは飛行魔法で、犯人が逃げた方向に向かって飛んだ。

 

 

 

目的の場所に着いたわたしはビルを見上げる。

六階建てのビルで廃墟になって大分経つようだ。

まるでちょっとした心霊スポットの様。

はやてちゃんから幽霊話を聞いたばかりのわたしはすこしブルっとした。

こんなわたしだが、幽霊は信じているのだ。

 

わたしはお父さんの電話に改めてかけた。

 

「もしもし、お父さん」

『なのは!!まさか勝手に行ったのか!?』

「それに関しては謝るよ。お父さん。でもわたしはこういうのは見過ごせないの」

『そいうことは大人たちに任せなさい』

「・・・手遅れになるのは見たくない・・・」

『おい、なの・・・』

 

間髪入れずに言いたいことだけ言って切った。

一応、場所の写真と住所だけメールで送っておいた。

 

・・・手遅れ・・・大怪我したわたしはあの人が居なければ間に合わなかった。

あの二人にも同じ目にあってほしくない・・・そう言う気持ちがわたしの中にあった。

 

周囲を確認すると本来あるはずの非常階段などはボロボロになっており

使用するにはちょっと難がありそうだった。

窓ガラスは所々割れていて外から丸見えになっている。

 

わたしは・・・以前病院で使用することで身につけた魔法の力を使う。

 

「魔力散布・・・」

 

魔力散布・・・それは自身の魔力(名づけ親はやてちゃん)を周りに散布。

反射してきた魔力を逆算して、周りの状況をソナーのように理解する力だ。

 

放たれた粒子状の魔力は周りの物体に当たった後、わたしに向かって跳ね返る。

わたしはかえってきた魔力から物体の形状、距離を逆算して頭の中に情景を思い浮かべる。

そして中にいる人の人数、持っている武器を推測していった。

 

(正面ロビーに二人、武装はハンドガンのかな・・・?

 二階はだれもいない・・・・。そして三階に二人、武装は同じ。

 五階には六人・・・二人ほど身長が小さい・・・さっきの女の子か・・・

 武装はハンドガンが二人、マシンガンを持っているのが二人か・・・?)

 

・・・これならわたし一人で何とかなるか?

自信過剰な気がするけれども・・・わたしはビルの中へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

アリサ・バニングスは見知らぬ男たちによく状況が分からないうちに

車に押し込められ、手も紐で縛られて身動きがとれず恐怖していた.

途中で目隠しされ、男たちの言動に耐えながら車に揺られているとどうやら目的地についたらしい。

 

「着いたぞ、さっさと下ろせ。気づかれないようにな」

「分かってるっつうの」

 

そしてアリサとすずかは男たちに口の中に布を詰め込まれて

叫び声をあげられないようにされると、どこか建物の中に運ばれた。

おそらく4、5階まで登って部屋に入ると、そこで手を縄で縛られ放り投げられる。

そして男がアリサとすずかの目隠しと口の布をはずす。

 

目を開けると、男がニヤケ顔を浮かべていたので、二人はもう一度目を閉じたくなった。

 

(と、とりあえず冷静に出口の確認をするべきよね。)

 

アリサは恐怖をを必死に抑えつけながら辺りを見渡す。

このコンクリートがむき出しのこの一室はそこそこ広い。

取りあえずドアは2つあることを確認する。

 

入ってきたドアと、奥にもうひとつのドア。一応窓もあるが、ここは4階だ。

二人には飛び降りるなど無理な上に隣の建物との間隔が狭いらしく、光などまったく入っていない。

 

「ちょっと、あんたたちこんな事して唯で済むと思ってんの!」

 

もはや冷静でいられなかったアリサは犯人の一人に突っかかった。

すずかのほうはもはや喋る気力もないようだ。完全に怯えている。

 

「ふーん、まだそんな元気があるのか、立場わかってるの?」

「ど、どうせアンタたちなんて警察に捕まるんだから! 」

 

アリサがそう叫ぶが、男達はただ気持ち悪く笑うだけだった。

 

「はは、これだけ考えて練った計画なんだ。よほどのイレギュラーがない限り捕まることはないさ」

「っく・・・」

「まあ金をもらうまでは生かしといてやるから安心しな。

 ・・・‥・そのあとは何されても俺は知らないがな。ケヒヒ」

 

そう言ってと男は気持ち悪い高笑いをする。

大抵こういう奴がやることは決まっているものだ。

 

アリサはもはやそんな未来に恐怖するだけだった。

しかし・・・意外と救世主と言うものは現れるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「真に残念だけど、あなたたちは直ぐに捕まるよ」

 

知らない声に驚いた犯人が声のした方を向くと

バイザーを付けたツーテールで栗色の髪の少女が一人立っていた。

手には木刀が二本あった。無論、顔を隠したなのはだった。

 

「おい、誰だか知らないが、俺たちが捕まる?

 馬鹿言ってんじゃねぇよ。どうやって侵入したか知らないが、

 ここはお前みたいな子供が1人で遊びに来るところじゃねーんだ。

 で、大人たちは呼んだのかい? おちびちゃん」

「さあね、どうかな」

「ヘッ、とにかく俺らのやる事は変わらねぇな。

 場所を変えて、そんでおめェがどうやってこの場所を突き止めたか、

 じっくりじっくりと時間をかけて聞こうじゃねえか!!」

 

もう一人の男も、なのはを脅威とは思っていないようだ。

 

「ハッ、それにしてもそんな木刀二本で本気で俺たちに勝てると思うのか?

 訳のわからねぇダッセェ、バイザーなんて着けやがってよ!」

 

男2人はふところからスタンガンを取り出した。

魔法は使うつもりはなのはにはない。あの力をこんな屑どもにも使う気はない。

バイザーに隠れたなのはの目が威圧的に細まる。

 

「少し、頭冷やそうか」

「ちょーっとお寝んねしてもらうぜ。」

「舐めてもらったものだね」

 

男がひとり襲い掛かってくる。なのはの腕が高速で動いた。

ドスッという鈍い音が聞こえた。

 

「ぐぁっ――――・・・・・・・・・」

「なっ貴さ・・・ぐわっ・・・」

 

男が気絶すると同時に木刀を振るいもう一人を無力化する。

間髪いれずに他の二人の元へと向かう。

なのははただどう動けば低労力かつ二人の女の子を守れるか、

きちんと計算に入れながら動いていた。

 

「くそ貴様!!」

 

男二人はマシンガンを取りだす。

 

「もうお前には用はない。死ね!」

 

そう言って男二人はマシンガンをなのはに向けて撃とうとする。

しかし・・・。なのはに向けるという時間もまた隙だ。

その隙を逃さずになのはは犯人の後ろに回る。

 

「「なっ、ぐぇ・・・」」

 

男たちはおかしな声を上げ、一瞬のどに手を当てるがそのまま倒れた。

鋼糸と呼ばれる糸をを首に巻いて無力化したのだ。

薄暗い部屋の中、鋼糸は注意深く見ないと視認できない。

もう一人は何が起こったかわかっておらず隙だらけだった。

 

そこでなのはは瞬歩で男の懐まで近づき、

もう一度木刀を振るい、叫ぶまもなく彼は気絶した。

 

「ミッションコンプリート」

 

そういうとなのははは周りを見る。全員がきちんと気絶していた。

なのはは残る4人も縄で縛り無力化する。下の階にいた奴らは全員すでに縛っていた。

今頃は間抜けな顔で気絶しながら、床に倒れているだろう。

 

「大丈夫!?」

 

そういいながらなのはは二人に近づく

 

「え、えぇ・・・あたしは大丈夫よ。すずかは・・・?」

「私も平気・・・でもどうしてここが?」

「偶然、見かけたから追っかけてきた」

 

そういいながら二人はアリサとすずかの縄を解く。

 

「おい!?大丈夫か!!??」

 

突然大声がしたので、

振り向くとそこにはお父さんと数名の警察官がいた。

中にはあのときのおじさんがいたりした。

 

「お父さん・・・それにおじさん・・・」

「犯人達は?」

「そこで寝てるよ。全員無力化した」

「・・・ま、まぁ、まあとりあえず無事でよかった。

 三人には事情聴取ってことで署まで来てもらうけど良い?」

「はい、私は大丈夫ですよ。」

「わかりました。とりあえず親に連絡してから」

「あっ私も」

「そうか、じゃあ早速外のパトカーに乗ってくれ、一番前のに全員な」

「「「わかりました」」」

 

そういうとわたしたちはパトカーにのり、署で事情聴取を受けた。

お父さんにこっ酷く叱られたが、叱られる程度の代償で

二人を救えたのだ。全く持ってなのに悔いはなかった。

 

そして・・・その後・・・お兄ちゃんの友達(彼女にしか見えない)

である忍さんが来て、助けた女の子が話には聞いていたすずかちゃんと聞いて驚いた。

もう一人はアリサちゃんという名前だった。

 

そんなことで出会った後・・・わたしたちはともだちになったのだ。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

訓練が終わった後は今日は静かなものだった。

学校で二人と話したり、はやてちゃんの家でお茶したり・・・

そんな平和な日だった。

 

ただ・・・神様と言うのは意地悪だ。

まさか次の日からあんなことになるなんてね・・・

 

 

 

 



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SAGA 5「ユーノ・スクライア」

オリジナル設定全開の管理局にスクライアにユーノくんw
ついでにレイジングハートもオリジナル設定です。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

次元の海を渡る巨大な艦・・・

それは発掘されたロストロギア『ジュエルシード』を

時空管理局へと運ぶスクライア艦だ。

 

・・・しかし、何事もなく終わると言われていたその旅は・・・

 

「な、何が起こった!!?」

 

突然発生した次元嵐によって、強制的な終わりを強いられていた。

 

 

 

 

そんな事件より、少し時は遡る。

 

 

見た目は6方向に種型のものが延びている特殊な形をした艦。

1つの街を内に持つ、局員とその家族以外にも一般人も暮らしている特別な場所。

そんなミッドチルダ時空管理局本局の入り口の前で、一人の少年が老人と会話をしていた。

 

「ありがとうございました。長老」

「いやいや、ユーノ。お前はよくやってくれたよ」

「いえ、僕は発掘の手伝いをしただけですから・・・」

「・・・その発掘の作業の合間に隠し部屋を見つけたのはお前じゃろう

 ついでにそちらの部屋の探索の現場指揮をとったのもお前じゃろうに・・・」

 

老人はスクライア――古代遺跡発掘を生業とする流浪の部族の長老。

そして彼と話す幼い少年の名前は『ユーノ・スクライア』

後に・・・世界をまたにかける事件を解決したりするが、それはまた後の話だ。

 

今二人が話しているのは、ユーノが見つけたロストロギアのことだ。

 

ロストロギア・・・それは過去に滅んだ世界・文明の残した危険な遺物のことを指す。

現在の技術では解明できない物が多く、中には次元世界その物を滅ぼしかねない物も含まれる。

無論、実質無害なものもありオークションに出品されるものも有る。

そしてこの下に危険性が限りなくなく、しかも出典が不明だが貴重な遺物である、準ロストロギア級というものもある。

 

「ジュエルシード」

 

これが今回ユーノが指揮を執った遺跡で彼が発見したロストロギアだ。

文献によれば、願いをかなえるロストロギアと言われている。

もっともシステムに異常があるのか、叶えたとしても歪んで・・・だそうだが・・・

 

今回ユーノがここに来ているのは管理局との交渉のためだ。

管理世界の住民とはいえ、スクライアの一族は次元渡航を唯一認められている部族だ。

 

そんな彼らの『文化』といえるものが遺跡発掘。

そのため取引などで管理局との交渉が遺物が発見されるたびに起こるのだった。

 

ユーノは今回が初めての交渉なので緊張していた。長老が来ているのもそれが理由である。

ちなみにスクライアの族長は長老とは別にいる。というより長老は引退している身だ。

今回のような若いスクライアの一員にいろいろ作法などを教えるのが仕事と言えた。

 

「さて、そろそろ行くとするか、ほれユーノ。お前にプレゼントじゃ」

 

そう言って長老はカード状の物体をユーノに手渡す。

ユーノはそれを見て、それが何か一目でわかった。

彼は少し不満げな顔をしながら言った。

 

「あの長老・・・これデバイスじゃないですか、局員が使う・・・

 僕はデバイスは使いませんし、一応持っているんですよ?デバイス」

 

そう言って彼は胸元の紅い宝玉を指差す。

その宝玉は名を・・・レイジングハートという。

 

「まあ、それについてはもちろんわしも知っておる。

 しかし、それはお前が発掘したロストロギアじゃろ?

 管理局に許可を貰い、お前が所持しているとはいえ」

 

レイジングハートはとある遺跡で偶然ユーノが発見したデバイスだ。

珍しい古代のインテリジェントデバイスであり、ユーノが触れたときにはじめて起動した。

当初ロストロギア認定されたものの、危険性は皆無と判断される。

その後、巡り巡って発掘者のユーノの下に返却されてきたのだった。

 

「まぁ、そうですけど・・・未だに仮マスターですし・・・」

《仮マスターユーノは資質と才能は素晴らしいですが、

 私とは相性があまり良くないのですから仕方ありません》

 

レイジングハートは仮マスターであるユーノを慰める。

レイジングハートの魔法適正は砲撃などの遠距離系や封印系。

ユーノは結界や防御魔法がとくい・・・つまり封印系ぐらいしか被る要素がないのだ。

ユーノが駄目なのではなく、むしろお互いが高性能すぎて合わないのだ。

 

それでも仮マスターとして認められているのはかなり凄いことだと言える。

 

ユーノ以外で彼女に仮でも認められたものは一人も存在していなかった。

 

《それに私が作られたから初めて起動に成功したのは仮マスター。

 あなたなのですから自信を持ってください》

「はは・・・そうだね」

 

レイジングハートの世辞にユーノは少し苦笑いしながらもそう返す。

長老派そんな姿にニコニコしながらユーノに語り掛けた。

 

「そうじゃユーノ。お前は少し自信を持ったほうがいい。

 謙遜しすぎても世の中うまくはいかんからな。さて、話を戻すと一応はロストロギアなのだから、

 もう一つ応用性の高い普通のデバイスを持っていてもいいじゃろ、ということじゃ」

「はぁ・・・それではお言葉に甘えて・・・」

 

そう言うとユーノは手に持ったデバイスを懐に仕舞った。

そろそろジュエルシードを積んだ艦が到着するころだ。

 

さて、行こう・・・そう思ったときだ。

 

管理局のアラームが部屋中・・・いや、本局全体に鳴り響いたのは

 

「何事じゃ!?」

 

長老は通信機器を使用して、知り合いの管理局員。

厳密に言えば今日ユーノが会う相手だった。

彼は焦りながらも正確に状況を説明した。

 

『スクライア艦が渡航中、次元嵐に巻き込まれて中破!

 幸い軽症の怪我人がいる程度で死者は居ない・・・ただ』

「ただ?」

『・・・積んでいた貨物のロストロギア『ジュエルシード』が・・・

 管理外世界・・・第97管理外世界に落ちたらしいです』

 

次の瞬間にはユーノは走り出していた。

長老は急いで彼の肩を掴み食い止めた。

 

「待てユーノ!どこへ行くつもりじゃ」

「あれは僕が見つけたものです!被害が出る前に回収しないと」

「それはお前がやることではない!管理局員がやることじゃ」

「でも管理局は人手不足なんですよね!? 対応が遅れたらどうするんですか!?」

 

そう言われてしまい黙ってしまう長老。

ユーノが言っている事はとんでもないことだが、ある意味で正論でもあった。

 

時空管理局はその巨大な組織体を長年維持しながらも、年々増えていく管理世界。

そしてそれに応じて増えていく次元犯罪者に対応するためにほとんどの人出を費やしていた。

そのために管理局は万年人手不足と呼ばれるほどの状態であり、

またその巨大さゆえ、事件が起きても小回りが利かないという欠点を持っていた。

 

それを知っているために少し悩んだ長老だったが、ユーノの真剣な表情。そして・・・

 

『事務員の私が言うのもなんだが、

 彼がやろうとしていることは間違っていないと思う・・・

 今確認したが、一番近い次元艦アースラが来るまで

 一ヶ月小はかかる・・・すまない。他所でも次元犯罪が発生していてな』

 

画面内の管理局員がそう言ったのだ。

彼としても正直言いたくはなかったのだろう。

子供を巻き込むうえ、自身が所属している組織の仕事をやらせようと言うのだから

しかし彼も覚悟を決めていった。ならば・・・答えなければならない

 

「わかった。民間協力者として登録させておく。ユーノ・・・・・・行って来い」

「長老・・・」

「た だ し・・・必ず・・・無事に帰って来い!」

「!・・・はい!!」

 

そう言うとユーノは転送装置がある部屋へと駆け出した。

転送機に乗り込み座標を設定する。

 

そしてユーノの姿は光に包まれながら、本局から消えていった。

向かうは管理外世界『地球』

 

 

 

 

そしてそれが・・・彼女との出会いでもあった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送機を使ってたどり着いた場所。

 

「第97管理外世界」現地名『地球』

 

今からここでユーノはジュエルシードを集めなければならない。

しかし・・・ここで結構重要な問題が発生していた。

 

「まずい・・・僕とこの世界の魔力素がまだうまく適合しない・・・」

 

それは魔力適合不和による能力スペックダウンだった。

 

魔力素は自身のリンカーコアを介して魔力に変換できる。

しかしユーノのリンカーコアがこの世界の魔力素とあまり合わなかったのだ。

そのために今ある現存魔力をうまく使わなければならないのだが・・・

ジュエルシードの封印が解けていた場合、21個も有るそれを封印できるかどうか・・・

 

「フェレットモードでなら回復はできる・・・か・・・

 ざっと考えて・・・怪我しなければ・・・三分間はフルパワーでいけるかな」

 

何だかんだでユーノはデバイスを貰っておいてよかったと思った。

これがなかったらこの程度ではすまなかっただろう。

レイジングハートでは処理落ちしてしまっただろう。仮マスターだから。

 

「・・・それじゃあレイジングハート。頼むよ」

《All right.》

 

二人は深夜の海鳴市を駆けていった。

まずは反応があるあそこに・・・

 

 




最近どっかでユーノくんぽい人見たなと思ったらあれだあれ
ベリアル銀河帝国のウルトラマンゼロ!!(違ッ

今回はそれを意識して書きましたw


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第一章:無印編 「運命との出会い」
SAGA 6「始まりは突然に」


と言うわけで無印編です!!
なのはさんが一つ壁を乗り越えるわけですが・・・
ちょっとあっさりしすぎたかなぁ・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

 

深夜・・・空のかなたから落ちてくる21の宝玉は・・・

海鳴の地へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++

 

 

 

ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ

 

そこは森の中だった。青々とした木々が並び立つ。

木々の周りには様々な花が咲き誇っている。

しかし太陽のない夜では多少見劣りしてしまうものであるが。

 

そしてそんなものは目に入らんと言わんばかりにその森を通る

「ソレ」はその体躯からは考えられない様な早さで走る。

「ソレ」は鳩羽色をしていた。ウネウネとしていて姿は定まらない。

赤く爛々と輝く眼の色は暗い森では恐ろしく不気味である。

その目には明確な目的など見えない。

 

そして、それを追う少年がいた。

民族衣装の様な服に端の方が擦り切れたマントをしている。

髪の毛は金髪に翠の瞳、顔には強い意志が見てとれた。

少年は必死に「ソレ」を追う。

 

広場の様な場所に出た。その中央には池があり、

近くにはボートなどが止めてある桟橋の様なものがある。

平和である泉・・・

 

そこで「ソレ」と少年が対峙する。

 

少年は手に持っていた赤い宝石の様なものを軽く握る。

 

「お前は、こんなところにいちゃいけない!」

 

そう言って持っていた宝石を「ソレ」に向ける。

体内に菱形の青い宝石の様なものが浮かび上がる。

 

「帰るんだ、自分の居場所に!」

 

そう言うと突き出した手の前に緑色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「妙なる響き 光となれ 許されざる者を 封印の輪に!」

 

少年は呪文を唱えると持っていた赤い宝玉が輝きそれに応える。

 

《Preparing to seal》

 

すると唸り声をあげ水面を疾走し水柱を上げ少年に突っ込んで来る。

「ソレ」は少年が出していた魔方陣の激突する。

 

「ジュエルシード封印!」

 

少年がそう唱えと「ソレ」の体内から

先ほど浮かび上がった青い宝石があらわになる。

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

そこへ「ソレ」がさらに力を加える。

 

「ぐあっ」

 

衝撃に耐えられずはるか後方の森に吹き飛ばされてしまった。

「ソレ」は一気に跳躍してその場を離れて行った。

 

「う・・・・・・追いか・・・け・・・なくちゃ・・・」

 

少年はそう言って立ち上がろうとするが身体が動かない。

そのまま力尽きて倒れる。

 

そして少年が輝きだす。

その光が収まると少年の倒れていた場所には

一匹の獣と紅く輝く真円の宝玉が残されていた。

 

 

・・・・・・・

・・・・・

・・・

 

 

「ふぁああ・・・なんか・・・変な夢見た・・・」

 

わたし、高町なのは私立聖祥大学付属小学校に通う

平凡な小学三年生です。

 

・・・寝ぼけて変なこと考えてた。

 

なんだろう?あの夢・・・

なんかきれいな男の子と首にかけていた紅い宝玉が

印象に残ってるけど・・・?

 

まぁ、いいか。普段早起きだけど時計を見たら

予定よりも遅く起きていた。学校に遅刻するような時間ではないが

 

「さ、てと。今日も元気に行きますか」

 

 

 

そんなこんなで平和な日は進み、ただ今昼休み。

いつも通りに屋上で、三人でお弁当を食べています。

 

ほかの二人は友達のアリサちゃんとすずかちゃん。

出会いはちょっと・・・過激かもしれないけど

今はとっても仲良しなの

 

そして今日の話題は、3時間目の授業の中であった将来の夢の話。

 

「アリサちゃんとなのはちゃんの将来の夢って何?」

「うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強してちゃんと後を継がなきゃ」

 

アリサちゃんがそういった。

アリサちゃんの両親は日米に関連会社を持つ大企業を経営している。

やっぱりいろいろ大変なんだね。

 

「なるほどね。すずかちゃんは?」

 

わたしがそういうとすずかちゃんが答える。

 

「わたしは機械系が好きだから、工学系で専門職がいいなと思ってるけど・・・・・・」

 

すずかちゃんの親も工業機器の開発・製作する会社の社長だ。

お姉さんの忍さんも機械いじりが好きだったっけ。

 

「2人ともすごいね。もう大体決まっちゃってるんだ」

「なのはは喫茶翠屋の2代目じゃないの?」

「うん。それもありだとは思うんだけど・・・

 個人的には数学者になりたいな・・・」

 

 

数式を解いていく快感

証明できたときの感動

 

        1+2=3

       4+5+6=7+8

   9+10+11+12=13+14+15

 16+17+18+19+20=21+22+23+24

 

こういうのを見ると素直に感動してしまう。

あの本を見てから病み付きになちゃったなぁとは思う。

 

 

「なのはって本当に数学好きよね」

「びっくりしたよ。先生が冗談で出した大学の問題解いたときは」

「あれって先生も冗談で出したから、大学といってもわりと簡単だったけどね」

 

 

「「あれが簡単っ!!???」」

 

 

そんなことをしているうちに昼休みは終わりました。

 

 

学校が終わった後。わたしたちはいつも通り家に帰っていた。

アリサちゃんとすずかちゃんも今日はお稽古がないから一緒に帰っている。

今日ははやてちゃんのところに行く予定はない。

 

他愛もない話しながら歩いているとある公園まで来た。

 

そしてわたしたちはその場所の惨状に気付いた。

 

そこは変わってしまっていた。

池にかかる桟橋は壊れ、木屑になっていて、ボートは壊され、管理小屋も壊れていた。

誰もが見ていられないくらいにそれはひどい状態だった。

 

「あ、君たち、危ないから入っちゃだめだよ」

 

ここの管理人さんらしき人がそう言ってきた。

見るからに危ないから入る気はもともとなかったけれど

 

「はい、でもこれどうしたんですか?」

 

そうアリサちゃんが聞く。

 

「いや~、朝来たらこの状態でね。

 いたずらにしては度が過ぎてるから警察に来てもらったんだ」

「そうなんですか」

 

ヒドイいたずらをする人もいるもんだと私は感じた。

アリサちゃんもすずかちゃんも大方わたしと同じ考えだろうと思う。

 

そして・・・そんな話を聞いているときだった。

 

― 助けて ―

 

頭の中に声が響き、ひどい頭痛がする。

 

― 助けて ―

 

もう一度声が響く。

 

「・・・ッ、アリサちゃんすずかちゃんゴメン」

 

そう言ってわたしは声のした方に走り出した。

心の奥底から胸騒ぎがする。まるでそれを無視するなとでもいうかのように

とてもとても・・・どす黒い感情が湧きでていた。

 

わたしは整備された道を外れ森の中に入って行く。

しばらく走るとそこには首に紅い宝玉をかけたフェレットが倒れていた。

なぜだかわからないけれど、その赤い宝玉を見た瞬間、心に何かが浮かんだようだった。

 

「ちょっと、なのはどうしたのよ急に!」

「どうしたのなのはちゃん?」

 

後を追ってきたアリサちゃんとすずかちゃんが追いついてきた。

わたしは両手でフェレットを抱きかかえ、二人に見せる。

 

「なのは、それどうしたの?」

「ゑ?・・・イタチ?う~んフェレットかな?」

 

確か以前見た動物図鑑でこんな動物を見たはずだった。

 

「とりあえず病院に連れて行こう」

「うん、その方が良いね」

「分かった」

 

わたしたちはそう言って近くの動物病院に向かうのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

― 槙原動物病院 ―

 

診察台の上にはなのは達が公園の近くで拾ったフェレットが、

体中を真っ白な包帯でグルグルに巻かれた状態で寝ていた。

治療を終えた先生が道具の片付けを終えフェレットのそばまで来た。

 

「あの、院長先生。この子の具合は?」

「今見た限りだと特にひどい怪我はしてないみたいね。ずいぶん衰弱してるみたいだけど」

 

なのは達三人が心配そうな顔から打って変わって、安心したのか笑顔になる。

 

「先生。この子フェレットですよね?どっかのペットなんでしょうか?」

「う~ん、フェレットなのかな?変わった種類だけど・・・」

 

先生も知らない種類と聞き、なのはの中に何かが過ぎった。

確か・・・はやてが言っていただろうか

 

「あの~、この後どうしたら?」

「そうね、しばらくは安静にしてた方がよさそうだから、

 とりあえず明日まで預かっておこうか?」

 

『はい!お願いします!』

 

三人は異口同音にそう返した。

 

「でもいいんですか?」

「良いのよ。こっちも好きでやってる事だから」

 

そう言って快く治療を引き受けてくれた。

そしてなのは達三人は病院を後にした。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そんなことがあったその日の夕食の時間だった。

わたしは意を決して今日自分が考えていた提案を話した。

 

「・・・っというわけで、家でフェレットを飼いたいんだけど・・・」

「フェレットか・・・・・・」

 

公園で拾ったあの怪我をしたフェレットを動物病院で預けた後、

わたしはアリサちゃんとすずかちゃんに家で飼えるか聞いてみると言っておくことにしました。

 

思念会話(はやての魔法講座より)が使えるフェレットがそう簡単にいてたまるかなの!

だからわたしの近くにおいておくべきなのだ!

 

さて、お父さんの反応は・・・?

 

「ところでフェレットってなんだ?」

 

その言葉にわたしは思わず椅子から転げ落ちそうになったよ。

そういえばお父さんは知らなさそうだよね。こういう動物系。

とりあえずお父さんにフェレットについて説明しますか。

 

「イタチの仲間で、近年ではペットとして飼う人が多い人気の動物だよ」

 

わたしがフェレットについて説明しようと思っていたらお姉ちゃんが先に説明してしまいました。

そんなことに何だか急に悲しくなってきてしまった・・・というか空しい。

 

「それでフェレットは飼っていいの?」

 

わたしが再度そう聞くと、お父さんは腕を組みながら悩んでいるよう。

どうして何も言ってくれないのか疑問に思っていると、お兄ちゃんが小声で話してきた。

 

「多分、なのはが御神流の修行とかしているから、

 疲れて世話をしないのか心配なんじゃないか?」

 

あ~なるほど。確かに今のわたしのスケジュールだと余り時間がないの。

 

飼う事自体は翠屋に連れて行かなければ一応、問題は多分ない。

一応は食事を扱うところだから家出も極力は避けたい部分もあるだろうけれど。

 

だけど今お父さんが心配しているのはそこではなく

フェレットの世話をしている時間はあるのだろうかという事なんだろう。

だからお父さんは本当に飼えるのかと思っていたらしい。

 

でもここで引き下がったら負けなの。

こういう謎は解明しなきゃ!

 

「フェレットの世話もちゃんとするよ!」

「しかし・・・・・・」

 

未だに引き下がらないお父さん。

そんなお父さんを説得したのは・・・

 

「なのはがそう言っているのだから別に良いじゃない。しばらく預かるだけなんだから」

「桃子さんがそう言うのならば・・・」

 

お母さんだった。

わたしはそれを聞いてうれしくなり、テンションが上がる。

 

「あ、ありがとう!! ご馳走様でした!!」

 

わたしは食べ終わった自分の食器を片づけ、すぐに自分の部屋へと駆けつけた。

 

そして鞄からお気に入りの折り畳み型の携帯電話を取り出すと

すぐさまアリサちゃんとすずかちゃんにわたしの家で飼っていいとメールを打って送信した。

 

そしてその夜のことだった・・・

 

 

― 聞こえますか? 僕の声が聞こえますか? ―

 

 

また聞こえた!

今度は頭痛も変な感情も起きなかった。

 

・・・これは・・・助けを求めているのかな?

 

わたしはそう考えると、皆にばれない様にこっそりと玄関へ向かった。

そして靴を履いた後、急いでその場所へと空を飛んで向かっていった。

 

 

 

―動物病院前

 

 

 

わたしは目的地である動物病院の前までたどり着いた。

地面へと着陸するとそこはとても静かだった。

 

人の気配がまるでない。・・・いわゆるゴーストタウンのような感覚。

時間を見ればそろそろ深夜。人の気配がないのはそれが理由だろう。

 

そんなこと思っていると、突然周りの様子が変わった。

不思議な感覚だった。まるであるものがなくて、ないものがあるような・・・そんな感覚。

 

わたしがそう思っていたときだった。

あのフェレットが動物病院の窓から出てきて姿を現した。

そして、その後ろには暴走している黒い何かがいた。

その黒い何かは周りのものをうごめく何かで粉々に破壊し続けていた。

 

わたしは急いで逃げているフェレットを捕まえようとした。

あのままではあの黒い何かに襲われそうだったから。

 

しかし、まさにその時・・・その黒い何かがそのフェレットを本当に襲おうとしていた。

今行けばフェレットを捕まえることはできる。でも助け出せるとは到底思えなかった。

 

「あ・・・」

 

わたしは走りながらも考えていた。

 

あんな強大な存在。剣のない今は対抗することすらできないだろう。

 

だけどわたしにはあれがあった。あの光の球・・・

 

あの光の球を出せばあのフェレットを助けられる・・・

だけどわたしは・・・それを未だに出せないでいた・・・

 

魔法という存在の恐ろしさを知り、親友の言葉で再び手に取ろうとして取り戻してきたもの。

 

だが、光の球だけはいまだに使用することができていなかった。

使用とするたびにとある感情がわたしの中を激しくうごめく。

 

それは恐怖・・・ただしそれは目の前の破壊活動をするモノにではなく

かつて起きてしまった自分が行ったあの破壊活動についてだ。

 

飛び散る紅い血、体を走る激痛。

 

それを反射的に思い出してしまい手が痙攣を起こし震える・・・

だが、目の前のフェレットはこのままでは攻撃されてしまう。

 

束の間の葛藤・・・わたしは考えるより先に行動を起こしていた。

 

とっさに走ってたどり着いたわたしは急いでフェレットを腕に抱える。

そして迫り来る黒い『何か』・・・わたしは指先をソレに向ける。

 

 

―出て・・・出て、出て、出て・・・出て、出て、出て、出てぇっ!!!!

 

 

その時・・・ブオンッという大きな音を立てて・・・

『なのは』の指先から桜色の光の『弾』は表れる

 

そしてそれは、黒いそれを突き破って粉々に吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

「で、出たぁ・・・」

 

そう思いながらひざを地につけてへたり込むわたし。

今ので体力のほとんどを消耗した気がした。背中も汗びっしょりだ。

 

手元に抱きかかえるフェレットを見ると包帯を巻かれていないところに怪我をしていた。

そしてそのフェレットの目が覚める。

 

「あ、あなたは・・・?」

 

フェレットが今度は普通にしゃべってきたが、今更わたしはそんなことで驚かなかった。

 

「説明は後でする。一体わたしは・・・何をすればいい?」

 

今は対抗策がほしい。どうすればあの黒い何かを倒せるのか。

いや、倒せなくてもいい。この場をどうやって切り抜ければよいのか。

それをわたしは目の前のフェレットに問いかけた。

 

「えぇ?わ、わかった君は魔力資質があるようだし。僕の指示に・・・」

「うん、わかった」

 

そういうとフェレットは自分の首にかけていた紅い宝玉をわたしに渡した。

 

「それを・・・目を閉じて心を澄ませて、僕の言葉を繰り返して!!

 

そのフェレットが言う言葉、それを聞きながらわたしも唱えていく・・・

手に持つ紅い宝玉は・・・なぜだかとても暖かく感じていた。

 

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に」「風は空に、星は天に」

 

「「そして不屈の心はこの胸に!!」」

 

「この手に魔法を!!」

 

「レイジングハート、セットアップ!!!」

 

《stand by ready.set up.》

 

「キャッ」

 

突然噴出した強い力の噴出にわたしはちょっと悲鳴を上げた。

そしてわたしの体から桜色の光が天に昇っていく。

 

「なんて魔力だ・・・」

 

フェレットが何か驚いてるの

 

「思い浮かべて君の魔法を制御する魔法の杖の姿を、君の身を守る強い衣服の姿を」

 

えっ? 魔法の杖の姿? 服?? なんのことだろう・・・?

あっもしかしてこれって・・・はやてちゃんが言っていた・・・

 

 

―魔法を使うんやったら衣装考えなあかんな・・・こんなんどう?

 

 

そう言って見せられたわたしの絵は確か・・・

 

「とりあえず、これでっ!」

 

刹那、レイジングハートがさらに光りだす。

その光は天を突き、さらに飛び掛ってきた黒い何かさえも吹き飛ばす!

 

光はやがてさまざまな数式となり、わたしの周りをリング状に回転し始める。

そしてその光が体と同化した時、わたしはイメージしたとおりに変身した。

親友がわたしの学校の制服をもとに考えてくれた魔法を使う戦士の衣服だ。

 

「起動に成功した!!」

 

あのフェレットが隣で喜んだように声を荒げた。

 

「レイジングハート・・・だっけ? あれを封印できる魔法か何かない?」

 

わたしは手に持つレイジングハートにそう問いかけた。

先ほど起動したときに言葉を発した・・・だったら会話することもできるはず。

 

《・・・・・・All right My master.Canon mode.set up.stand by ready.》

 

レイジングハートがそう答えるとその姿が少し変わる。

その杖の形ははやてちゃんが考えた杖から、わたしが考えた白き流線型のフォルムへ。

 

その名は・・・・・・カノンモード!!

 

そして、わたしは詠唱を始める。

なぜだかはわからないけれど自然と頭に浮かび上がってくる。

目の前の思念体を封印するための・・・魔法の詠唱を!!

 

「封印すべきは忌まわしき器。ジュエルシード!」

 

「ジュエルシードを封印」

 

「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21。封印!」

 

《Sealing.receipt number XXI.》

 

すると現れた光の帯が思念体の体を突き刺す。

その一撃が痛いのか、暴れだす思念体・・・だが無駄だ。

さらに発生した光の帯が今度は思念体をぐるぐる巻きにして縛り上げる。

 

それと同時にエネルギーを送り込むと、思念体の形が崩れていった。

 

そして思念体は姿を消し、その場にジュエルシードだけが残った。

わたしはレイジングハートでジュエルシードに触れてそれを回収する。

 

「一応初めてだったけど。ありがとうレイジングハート」

《No problem.master.》

 

わたしがお礼を言うとレイジングハートはそうわたしに答えてくれた。

すると近くに居たフェレットがすごく驚いたような顔で話しかけてきた。

 

「すごい・・・初めてでこんなに・・・」

「魔法のこと? に関しては初めてじゃないけど・・・」

 

封印魔法はともかく、この力はずっと使い続けてきた私の力だ。

いろいろと苦い思い出もあるけど・・・わたしの大切な力だ。

 

「魔法が初めてじゃない!? 管理外世界なのに!!?」

「か、管理外世界・・・? んのことかわからないけど、近くに公園があるからそこへ行って話そう」

「せ、説明してもらいますよ!!」

 

そういうとわたし達は近くの公園へと向かった。

道や壁が所々壊れてるけど、フェレットが結界と言う魔法を張っていたらしく

それを解くと、すぐに元通りの状態に直っていたのだった

 

 

 

 




ユーノくんはレイジングハートとは別にデバイスを所有していたので
原作よりも早く結界を張れたので被害はゼロです。

ちなみに結界は原作仕様。劇場版だと確か、現実にも影響があった気が・・・


あとなのはのバリアジャケットは相変わらず1st仕様
デバイスモードはアニメ版と同じデザインです。

(どうも自分はあの白い部分が気に食わない。エクセリオンモードもだけど)


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SAGA 7「お話タイム」

本当は前回につなげたかったけど
いろいろあって分けました。

それではどうぞ!


 

 

 

 

「さて、と・・・何から話そうか?」

 

公園に着いた後、わたしはフェレットにそう問いかける。

 

「えぇと・・・まずは名前を・・・」

 

名前?・・・あぁ、そういえば自己紹介してなかった。

 

「あぁ、そうだね。わたしは高町なのは、なのはでいいよ。あなたは?」

「あ、はい。僕の名前はユーノ・スクライアです。

 スクライアは部族名なのでユーノと呼んでください。

 それで高町さん、あなたはいったい・・・?」

「名前呼びで、呼び捨てでいいよ。なのはって呼んで。

 タメ口でもいいよ。敬語はあまり好かないから・・・」

 

学校の後輩のような年下からならともかく基本的にわたしは敬語は好まない。

自分に自信がないというか、ちょっとした自己嫌悪感がある。

他の人からすれば生意気なこと言ってると思われるかもしれないけど、

わたし自身、敬語で話しかけられる資格はないとも思っていた。

 

「あぁ、うん。それじゃあなのは・・・どうして君は魔法を使えるの?」

 

そんなことを思っているとユーノくんがそう質問してきた。

うーん、なんて答えよう。特別何かやったわけでもないし・・・

 

「うーん・・・いろいろやってたらなんかできた」

「へ、へぇ・・・そうなんだ・・・」

(むちゃくちゃ天才じゃないか!!?)

 

なんだかユーノくんが驚いてるけど・・・

まぁ、あんな力がいきなり使えるようになったら普通驚くよね。

とはいえ、その後の道のりはちょっと険しいものだったけど・・・

 

「もっともいろいろあったけどね・・・」

「そうなの?」

「まぁね・・・いろいろ・・・」

 

そう言いながらわたしは過去を思い出していた。

あの本にあったから・・・いや、あのお兄さんに会ったから

わたしはこの『魔法』の力を使い始めた・・・

あの本に会ったから、はやてちゃんに会うことができた。

『魔法』の力を舐めて見ていたから・・・大怪我をした・・・

 

そして・・・それを全部ユーノくんに話した。

なんで話したのか、自分でもあまりよく分かってないけれど、

ユーノくんなら話してもいいと思っていたことは確かだった。

 

最初はユーノくんも信じていなかった・・・というより信じたくなかったみたいだけど。

わたしの傷口を見せたら、納得してくれた。

 

ユーノくん曰く、『魔法』には殺傷設定、物理破壊設定・・・

そして非殺傷設定というものがあるらしい・・・

 

わたしが怪我をしたのは、その設定を知らないで使用したからとのことだった。

なるほど魔法とはなかなか奥が深いもののようだ。

 

ちなみにあの時の胸の痛みについても聞いてみたが、魔法とは関係がないみたい。

少なくとも通常の使用で胸が痛むようなことはまずないらしい。

 

そう言う話をある程度した後に、次はユーノくんの話を聞いた。

 

曰く、さっき回収した『ジュエルシード』と言うものの発掘者で、

ここ、地球は日本、海鳴市にわざわざユーノくんが来たのは

それを運んでいた艦が途中事故にあい、ジュエルシードがこの地球に落ちたためらしい。

 

ユーノくんは別世界の人間・・・まあ、魔法を知ってるから信じるけど

そしてユーノくんが住んでる世界にもこういう事に対処する

軍隊みたいな組織・・・「時空管理局」という組織はあるらしい。

ただ万年人手不足で対処が遅れそうなので、

発掘してしまった責任として、この世界に先に来たとのことだった。

 

「ごめんなさい・・・本当は誰も巻き込む気はなかったけど

 この世界の魔力素が合わないから、今はこの姿で居るしかない。

 この姿だと戦闘は難しいから、こんな醜態さらしちゃった・・・」

 

フェレット姿のユーノくんがそう言いながら謝ってきた。

わたしは彼に頭を上げるように促した後に、自分の本心を伝えた。

 

「ううん、いいよ。むしろお礼を言わなくちゃ・・・

 ずっとこの力が何か気になっていたから・・・

 便宜上魔法といっていたけど、これが何か・・・

 この力をなぜ持っているのか、それが気になっていた・・・

 ユーノくんのおかげで謎が解けた。ありがとう」

 

わたしはそうお礼を言った。

思い返せばわたしはこの魔法という得体のしれない力に喜びながらも、

どこか恐怖を抱いていたことは確かだった。

 

もしかしてわたしは化け物のような存在になってしまったのではないか、

もう人間ではなくなってしまったのではないか・・・

 

根拠のない考えだったが、心の奥底でずっとわたしを縛っていたのは事実だった。

 

そんななかで魔法という存在を一般的に使っているという

ユーノくんの話を聞いてわたしは安心していた。

 

わたしは化け物ではなく、人間『高町なのは』なのだと。

 

「それは僕の台詞だよ。助けてくれてありがとう」

 

そういってフェレット状態のユーノくんがペコリとお辞儀をする。

ちょっとその行為がかわいいと思ったのは内緒だ。

 

そんなときに、ふと気付いて時間を確認してみる。

時計を見ればすでに出かけてから30分は経過しようとしていた。

 

さて、と・・・まずは家に帰らないと・・・話したいこともある。

ユーノくんに全部言ったことで、大分気が楽になった。

 

すべて話そう・・・そう心に決めてわたしたちは帰宅した。

 

 

帰ってみると我が家の前に家族の皆がいた。

表面には至って普通の表情があったのだが、

身に纏ったオーラには明らかに怒りのオーラが見えていた。

 

「一体こんな時間帯に何をしていたんだ?」

 

お兄ちゃんがそういう。まあ仕方ないね。

いきなり出かけたし、こんな子供が補導されるような時間だし。

むしろ怒られなかったらどうしようかと思った。

 

さて、どうやって話を切り出そうか・・・と考えていたら、

 

「まぁ、可愛いフェレットじゃない」

 

そういったのはお姉ちゃん。このタイミングでそれを言うのですか。

普通ならこの空気にあわせてごまかすところなんだけど・・・。

全部話すつもりだから誤魔化す気はわたしにはない。

 

「あの・・・お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。大事な・・・お話があるの」

 

わたしは至って真剣な顔でそう言った。

 

「どうした?そんな真剣な顔して」

 

そんな私の顔を見て、お父さんがそう言った。

顔もわたしと同じで普段はあまり見ない真剣モードだった。

少しその顔に緊張して言うのを躊躇しているとお兄ちゃんが溜息を吐きながら言った。

 

「とりあえず中で話を聞こう。家に入って」

 

お兄ちゃんにそう言われてわたしを含めて、皆は家の中に入っていったのだった。

 

 

 

 

そして・・・わたしはすべてを話した・・・

 

魔法の事、怪我の原因、今日出かけた理由、ユーノくんのこと。

そのすべてを

 

 

 

「なるほど・・・あのときの怪我も魔法・・・こんな夜中に出かけたのも魔法か・・・」

 

腕を組み、お父さんは顔を強張らせながらそう言った。

 

「いろいろ黙っていてごめんなさい」

「僕も・・・なのはを巻き込んでしまってすみません」

 

そう謝罪の言葉を重ねながら、わたしととユーノくんが頭を下げる。

それを見たお父さんは強張らせていた顔をやさしげな表情に変えて言った。

 

「あぁ、そのことはもういいさ。

 もともと私が怪我したことが原因のようだしな

 ユーノくんに関しても事情が事情だ。仕方ないさ」

 

その言葉を聴いて、わたしは少し気が楽になった。

半ばわたしの逆恨みのようなものなのにお父さんはしっかりと事実として受け止めてくれたのだ。

そんな感情を噛み締めつつも、わたしは説明を続けた。

 

ちなみに今、わたしは魔法の説明のためにバリアジャケットを纏っている。

わたしががレイジングハートを詠唱なしに起動させたときに

隣に座っていたユーノくんが驚いていけれど気にしないでおこう。

 

「だからお父さん。ユーノくんのお手伝い・・・しちゃだめかな?」

 

ある程度の説明をした後に、わたしはユーノくんの手伝いをしたいという思いをぶつけた。

 

今のユーノくんは一人ぼっちで助けてくれる人いない。

わたしは一人ぼっちは淋しいものだということを身に染みて理解している。

 

困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、

ユーノくんは困ってて、わたしはユーノ君を魔法の力で助けてあげられるから。

 

だからこそわたしは手伝いたい。

 

「む・・・・・・・・・」

 

でもやっぱりお父さんはまだ悩んでいるみたいだ。

ある意味で当然だ。魔法の力はわたしに力を与えてくれたと同時に

わたしに一生残る傷を着けさせた異能の力でもあるのだから。

 

「あなた折角なのはがわがまま言ってるのよ。聞いてあげたら?」

「お母さん・・・」

 

そんなお父さんをまさかのお母さんが説得してくれた。

これはちょっと予想外だったな。

 

「そうだな、それにそのジュエルシードを放っておくと地球がやばいんだろ?」

 

お兄ちゃんがそう言う。これもちょっと予想外だったかな?

この説明を聴いた上でだから。まだぎりぎり後戻りはできるから・・・

 

さっき皆から自分達に手伝えることはないかとまず聞かれていた。

ユーノくん曰く、ジュエルシードが魔力のない人間を取り込む危険性があるので

自分とわたし以外にできることはないらしい。

 

「うん、なのはが折角言ったんだし」

 

お姉ちゃん・・・その発想はおかしい。

わたしが言うのもなんだけど・・・魔法でわたし大怪我してるんだよ?

普通は止めないかな? あれ?もしかして家の家族っておかしいのかな。

 

わたしもその一員だけど、はやてちゃんや

アリサちゃん、すずかちゃんの家族を見ていると何かがおかしな気がしてきた。

・・・まぁ、いいか

 

「・・・わかった。構わない。

 だが本当に私達にできることはないのかい?」

「はい、なのはから聞いて、あなたたちの強さは大体理解しましたが、

 ジュエルシードを封印できるのはなのはと僕だけなんです。

 それにジュエルシードがもしもあなた方に対して発動したら・・・」

 

とりあえず納得してくれたお父さんが再び、自分たちにできることはないか再確認する。

そしてやはりしてもらえることはないとユーノくんがフェレット状態で言った。

 

「わかった。ありがとう。それでなのは」

「なに?お父さん」

 

ユーノくんの言葉を聞いた後、お父さんは一呼吸置いて、わたしの目を見る。

そして、静かに・・・しかし力強く思いを込めて一つお願いごとをしてきた。

 

「決して無理はしないでくれ。これが私の願いだ」

「・・・・・・はい!」

 

その言葉にわたしは今ある思いを込めて返事を返した。

お父さんもわたしも無理と言うか、無茶をして怪我をしている。

だからもう、それに関してはきちんと覚悟はできている。

 

魔法は危険な力・・・それは体で理解している。

だからこそ、わたしはジュエルシードを回収するんだ!

 

「よし、それじゃあも遅いから寝なさい」

「うん、わかった」

「・・・ところで・・・ユーノはどうする? 一応人間の男の子なんだろ?」

 

話題は変わってお兄ちゃんがそう言ってきた。

わたしは特に迷わずに素直に言い返した。

 

「別にわたしの部屋でいいんじゃないの?

 ユーノくんはフェレットモードで居るからベッドとか嵩張らないし」

 

実際、部屋に一人でいるようなものだし問題ないでしょう。

 

「あ、いや・・・あの・・・そう言うものではなくてな・・・」

「ユーノくんも別に困らないでしょ?」

「えっ? まぁ、フェレットモードで寝泊りすることは困らないけど」

「・・・いや、ユーノ。論点はそこじゃないと思うぞ・・・」

 

その後、ユーノくんをどこに泊めるかで家族全員で議論した結果。

ジュエルシードが何時発動しても言いようにわたしの部屋でユーノくんは寝泊りすることになった。

 

そして地球の環境に慣れて常時人型で居られるようになったのなら

何個か空いている部屋の一つをユーノくんように使わせてくれるらしい。

 

うん、良かった。

いろいろとあったけれど何事もなく参加できそうだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

なのはたちが家族でそんな話をしていたころ・・・

 

とあるビルの屋上に人影があった。

その人影の正体は一人の女の子だった。

 

「第97管理外世界・・・現地名称「地球」・・・

 母さんの探し物、ジュエルシードは此処にある。

 行こうバルディッシュ」

 

《Yes,sir》

 

少女が呟くと、手に持っているプレート『バルディッシュ』がそれに答える。

そしてその呟きは誰に聞かれる事なく夜の空に消えていった。

 

 

 

 

 

 




いや、なのはにユーノ・・・論点そこじゃねぇよな回でした。


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SAGA 8「魔法の特訓・・・なの」

今回は短め。
なのはさんの魔法の現状と魔法について再確認。
オリジナル設定があるので注意

それではどうぞ!


 

 

 

 

先日は家族全員にわたしが今まで隠していた秘密を全部暴露した。

気持ち的には全部話して実に清清しい気持ちだった。

 

・・・もっともあの木の被害が時効ってことで秘密になったことが、心が痛い・・・

まぁ、大怪我をしてきちんと反省してるからと納得した。

 

あれからわたしたちは頑張ってジュエルシードを集めていた。

件の「魔力散布」・・・あれが結構便利で、割と簡単に集まっていた。

全21個という数字にはまだまだ遠いけれど・・・・・・

 

それでもすでにユーノくんが最初に封印したものを含めて、

占めてジュエルシード6個を回収、封印し終わっている。

 

ちなみにユーノくん曰く、

わたしの魔力散布は「希少技能(レアスキル)」と呼ばれるものかもしれないらしい。

 

ユーノくんも今まで見たことも聞いたこともない技術だそうだ。

なんだか特別感があってちょっとうれしい。努力の賜物なんだけどね。

 

ただ、ちょっとした問題点もあった。

この技術での魔力の散布スピードが最大で秒速340m・・・まぁ、大体音速なことだ。

 

わたしの能力は撒くだけではなく、反射(・・)して返ってきたものを

認識し、脳内にマップとして表示することが一番重要だ。

 

つまり音速だと理解できる範囲がわりと狭い。

今のところ最大で半径500mが限界。それ以上は精密さという面で難しい。

だからこの小さいジュエルシードを認識するのはわりと骨が折れる作業だった。

 

 

さて、そんなわたしですが現在はいつも訓練に来る山に来ています。

周りはユーノくんが張ってくれた結界で少し雰囲気が変わっています。

 

ここで何をするかと言われれば、魔法の特訓です。

わたしが現在まともに使えるのは「飛行魔法」と「浮遊魔法」

そして光の球改め「ディバインシューター」だ。

 

そしてわたしは魔法と言うものをきちんと理解しているわけではない。

だから、今回一段落しているときにきちんと教わっておこうと思ったのだ。

 

「じゃあ、さっそく説明するよ。

 まず魔法の僕たちの世界での定義はこうだよ。

 世界のほとんどに存在する魔力素を特定の技法で操作し、

 なんらかの作用を発生させる技術体系のことなんだ。

 そしてそれを施行するのがプログラム。

 用意されたプログラムは詠唱・集中などのトリガーにより起動されるんだ。

 なのはの場合は基本的に数式だね」

「ふーん、親友曰く割りとメルヘンな能力だと思ったけど

 以外と科学っぽいね。というより・・・疑似科学かな・・・」

「そう思ってもらって構わないよ。

 基本的に魔導師・・・つまり魔法を行使する人は理数系の人間だ。

 なのははもともと才能があって、かつ数学が得意だから

 この年齢でこれだけの魔法を使用することができるんだよ」

 

数学・・・か・・・なるほど。

あの本を読んでから魔法が使えるようになったのはそれが理由か・・・

 

「で、本来なら基本的に魔法使用には魔法陣を出す必要があるんだけど。

 なのはの場合は脳内で全部クリアしてるから

 さっきの『ディバインシューター』くらいなら魔法陣は必要ないんだと思う」

 

ふむふむ、なるほど

 

「他には?」

「他はそうだな・・・魔力量とリンカーコアについて説明しなきゃ」

「リンカー・・・コア?」

 

なんだろう。聴いたこともない単語だ。

ただリンカーは多分「Linker」・・・

何かしら結合させるものなのかな?

 

「リンカーコアというのは魔導師が持つ、魔力の源のこと。

 リンカーコアという名前は『連結する核』の意味で、

 大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積することと

 体内の魔力を外部に放出するのに必要な器官なんだ」

「なるほど・・・ちょっと魔力量の前に質問。

 前にユーノくんが言ってた魔力素っていうのは?」

 

今聞いた話では最初に単語しか出てきていない。

だけどユーノくんがフェレットモードで居る根本的な理由なのだから

ここで聞いておいても損はないだろう。

 

「あぁ、そうだね。魔力素っていうのは

 世界のほとんどに存在するものというか粒子と言うか。

 これが存在する空間で生活することで体内に魔力を蓄積できるんだ。

 ただ、僕の場合地球のと相性があまりよくなくて・・・

 慣れるまでリンカーコアに魔力を蓄積しにくいんだ」

「そういうことなの・・・」

 

つまりはユーノくんはハンデを背負っている状態ってわけなのか。

 

「続けるよ。次に魔力量・・・これはリンカーコアが溜めておける最大の魔力の量ってこと

 瞬間最大出力っていうのもあって、それは瞬間的に出せる魔力量ってこと」

「わたしのはどれくらい?」

「割と・・・いや、かなりあるよ。

 きちんとした機材で計測すれば詳しくわかるだろうけど・・・

 レイジングハートはわかる?」

 

ユーノくんがレイジングハートに聞いてみた。

レイジングハートは了解と言った後にわたしの魔力量を調べ始めた。

そして返ってきた答えが・・・

 

《大体Sランク相当です。すばらしい資質ですね》

「Sランク!? それはすごい。管理局でもめったに居ないよ」

 

Sランクという言葉にユーノくんがテンションを揚げながらそう言った。

 

「そんなにすごいの?」

「うん、すごすぎって言っていいよ!

 というよりこの年でここまで魔法が使えて

 魔力量もこんなにあるって凄いよ!!」

「えへへ、ありがとう」

 

ほめられることは何でもやっぱりうれしいものだ。

 

「それで、他には何かある?」

「あとは・・・どうだね。なのは自身のステータスかな。

 魔力資質って言うのがあるんだけどこれは個人的にかなり差異があるもので、

 得意な魔法技術の種類のことなんだ。

 

 圧縮とか放出とか魔法技術の様々な面において顕著に現れるんだ。

 なのはの場合は『魔法操作』と圧縮・・・いや『集束』に適正があるね」

 

魔力操作と集束・・・・・・?

 

「えっと・・・つまり?」

「まず『魔法操作』だけど。これは文字通りの意味で

 魔法の性質を自由に操作できるんだ。もっとも希少技能の一つ

 変換資質とはまた違って、魔法の性質自体にだけどね。

 あっ変換資質って言うのは魔力の変換を意識せずに行えることなんだ。

 なのはの場合は意識的に出し、変換資質もちは純粋魔力の大量放出は苦手

 なのはとは真逆の存在だからね」

「変換資質はわかったけど。性質の変化って何が違うの?」

 

例えば水の性質を変えるといったら、普通は味とか成分を変えるとかだろう(多分)

もしくは状態変化。気体、固体、液体の変化もまた性質の変化といっていいだろう。

 

「例えば・・・そうだな・・・なのはの場合・・・簡単に言えば・・・光を音にできる・・・とかかな?」

 

・・・予想外の展開来ました。

 

「え、えっと。つまりこういうこと?

 わたしが操作すれば、魔力を音と同じような性質。

 例えば速度が空気中で秒速340mになるとかってこと?」

「ざっくり言えば」

「・・・むしろこれのほうが魔力散布よりもレアスキルじゃない?」

「厳密に言えば、これもレアスキルかな?

 とはいえなのはほど汎用性が高い人は聞いたこともないけどね。

 普通の人は氷結変換とか、炎熱変換とかそういうシンプルなものだけど、

 なのはの場合は自分が理解できる範疇の性質に変えることができるからね」

 

どういうことなんだろうか・・・

まぁ、応用しやすい技能ではあると思う。

物質の性質にはそれぞれメリット、デメリットがあるが

それのメリットだけを生かすこともできるのだから。

 

「次に集束だね。

 これは文字通り・・・といっても圧縮と区別がつかないか

 まず圧縮だけど、もともと魔力を使用するときは魔力を圧縮して使うんだ。

 効率よく魔法を行使するためにね。

 レイジングハートを使うたびにダクトから出る煙は実際には圧縮された魔力の残滓なんだ」

「なるほどね・・・それで集束って言うのは?」

「集束って言うのは周りのその残滓魔力を再度魔力にして

 集束する技術のことさ。術者自らの魔力のみならず、

 周囲に散らばった魔力を集めて放つ魔法ってこと」

「へぇ・・・便利と言えば便利だね」

「まぁ、適正があるとはいえなのはの体に負担がかかるからあまりお勧めはしないけど」

「了解なの。無理はする気はないよ」

 

あんな怪我二度としたくない。

 

「まぁ、魔法知識はこれくらいでいいと思う。

 あとは魔力散布と魔力操作。実際に使って鍛えていこう」

「うん、そうだね。がんばるよ!!」

 

こうして講義も終わり、わたしは魔力の訓練をしていったわけだ。

 

無論、御神流の特訓も忘れない。

レイジングハートは砲撃型だけど。体術は実戦でも役に立つはずだ。

・・・でも・・・近接型のデバイス・・・ほしいなぁ・・・

 

《S,Sorry,Master...》

「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ。気にしてはいるけど平気平気。」

 

もう拗ねちゃうなんて、レイジングハートはかわいいなぁ、もう!

 

 

 

 



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SAGA 9「運命との出会い 激突!魔法戦士!!」

今回はついにフェトソンさんと激突!!
相変わらず一期の話は展開速いなと思います。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

なのはとユーノはその日、すずかの家、というか豪邸に招かれていた。

 

そして今はいつもは団体で乗る送迎用のバスで移動している。

なのはの座る席の後ろには兄の恭也の姿もあった。

 

走行中のバスから見える景色がなかなか珍しくなのはは外の景色ばかり見ていた。

そんな時に後ろから恭也がなのはに声をかけてきた。

 

「なのは、最近少し疲れているようだが、大丈夫か?」

 

それは妹を心配する優しげな言葉だ。

なのはの訓練は体への負担をちゃんと考えて組んだものだが、

それでも少しづつたまった疲労はかなりあった。

 

同じく御神流を嗜んでいる恭也はすぐにそれに気が付いたのだ。

 

その言葉を聞いたなのはは少し時間を置いてこう返した。

 

「大丈夫なの。最近は訓練以外してないからね。休めと言われれば休むけど」 

「何かあったら言うんだぞ。ユーノも頼む」

「わかりました。恭也さん」

 

小声で言った恭也の言葉にユーノはそう言い、なのははただ静かに頷いた。

 

 

少し時間がたった後、なのは達は無事月村邸に到着した。

なのは達はそこでノエルとファリンという月村家のメイド達に出迎えられた。

 

その後、恭也と忍は会うなり、さっそく2人きりになれる別室へと消え、

なのははすずかと同じく招待されていたアリサのいる場所へと案内された。

 

そしてなのはは庭に用意してあるテーブルとイスに近づきながら、

アリサとすずかに挨拶しながら席に着き、それからしばらくまったりと歓談した。

辺りには数えるのに苦労しそうなほどの数の猫がいる。

 

すずかが大の猫好きであり、そんな猫好きが高じて猫を何匹も飼っているのだ。

そのため近所からは「月村の猫屋敷」などと呼ばれる位の猫の楽園になっている。

 

今、話している話の内容は何気ない日常の会話だ。

なのははついでに親友であるはやてのことも話していた。

 

すずかが本好きということで気が合いそうだったので、

なのはは今度二人にはやてを紹介することになった。

 

ちなみにユーノは現在なのはのひざの上にいる。

 

これはアリサたちに正体がばれていないため、

そして女子達がスカートであるためここくらいにしか居場所がないからだ。

仮に下に下りれば猫達に襲われるのもある・・・。

 

さすがの二人もこれくらいのデリカシーはあった。

 

話も大分進んでいたとことで、ふとすずかが不意に話を切り出した。

 

「なのはちゃん。最近なんか疲れてない・・・?」

「そうよ!?本当に大丈夫?」

 

それはついさきほど兄恭也にも言われた疲労関係の話だった。

またぁ? となのははがっくりと肩を落とす。

 

「さっきもお兄ちゃんに言われたけど、そんなに疲れてるの分かる?」

「いや、なのはは基本隠そうとするから、周りの人たちはより注意深くアンタを見てるのよ

 だから疲れているのがわかって、ものすごく心配なのよ!」

 

全く手を焼かせるんだから、というように腕を組んでちょっとそっぽを向きつつアリサが言う。

自分を心配してくれているその姿になのはは少し嬉しく思うとこう返した。

 

「確かにちょっと疲れてるかもしれないけど、心配ないよ。だから大丈夫。」

 

なのはがそう言うと、アリサは恥ずかしくなったのか少し顔を赤くして言う。

 

「まったく、強情なんだから! 気を付けなさいよ!」

 

そう言いながらアリサは顔をそっぽ向けてしまった。

 

「あ、ありがとね。」

 

なのははそんなアリサの気持ちに感謝する。

そして魔法のことについて話せないことに対して憤りも感じていた。

だが、魔法と関係ない人にむやみに教えるべきではない。

そういう思いがそれを話すことを押しとどめていた。

 

そして・・・そんな時だった。

 

突然、ズンッと胸に響く感覚をなのはは覚えた。

この感覚にはなのはは覚えがあった。ジュエルシードだ。

 

【ユーノくん!】

【うん、反応はすぐ近くだ。とりあえずここを離れよう】

 

ユーノがなのはのひざの上から飛び降り、ジュエルシードの方へ駆けだす。

見えなくなるまでなのはは驚く演技をしつつ・・・

 

「!? ユーノ??」

「あっ、わたしユーノくん追ってくるね」

 

少し演技がかった口調でそういってなのはは森のほうへと走っていった。

 

なのははユーノを追いかけるが、ユーノは大分先を行っているので、

追いつくまでには少々時間が必要だった。敷地内で空を飛ぶわけにもいかなかった。

 

少し時間をかけ・・・そろそろ、遠くにユーノの姿が見えてきた。

 

そしてようやく、なのははユーノの元にたどり着いた。

修行のかいあって息切れはしていないものの少しだけ疲労感をなのはは感じていた。

 

ユーノはきょろきょろと辺りを見回している。

なのはもこの辺りからジュエルシードの気配を感じているが、

これ以上細かいところまでは分からなかった。

 

「この辺りのはずなんだけど。・・・・・・あっ! あの猫!」

 

声を荒げたユーノの指差す方向に、なのはも目を向ける。

そこにあったのは子猫がジュエルシードを咥えている様子だった。

なのはたちはすぐに何か行動を起こそうとしたが、遅かった。

次の瞬間、咥えられていた青い宝石が眩い光を放った。

 

「発動する! ここじゃ人目が! ・・・魔力結界!」

 

ユーノが叫ぶとその足元に魔法陣が現れ、魔力がドーム状に広がり、

月村家の敷地を覆うほどの広範囲の空間を円状に切り取った。

 

その間にジュエルシードは完全に発動してしまった。

 

光輝く中、なのは達は眩しさに目を覆う。

 

そして光がようやく晴れた先で、なのは達はとんでもないものを見てしまった。

 

 

それは巨大な『子』猫だった。

 

元の数十倍以上はあるかもしれない。なにしろ、周りの木々の高さより大きいのだ。

しかし見た目は子猫という、なんともいえないギャップの塊がそこにあった。

それを見たなのはは思わずつぶやく。

 

「うわぁ・・・大きい・・・。レイジングハート、写真・・・いや、動画を撮っとこう」

 

はやてに送ろうなどと、意外と呑気していたなのはだった。

 

「なのは・・・そんなのんきな・・・」

 

そんななのはの態度にユーノは唖然とするが、なのはは気にしない。

ユーノに比べ、なのは達は心の準備がすでに整っている。

なのはの場合いろいろと鍛えられた精神が理由だが・・・

 

レイジングハートも《All right.》と言って動画を撮り始めた。

 

(・・・・・・ん? 何か来た・・・?)

 

すると間もなく、なのはが何者かが近づいてくる気配を感じた。

嫌な予感がする。そう思いつつ、ユーノに警告する。

 

「ユーノくん、誰か来るよ、気をつけて! レイジングハート!」

《All right. Stand by ready. Set up》

 

なのははバリアジャケットを一瞬のうちに纏った。

レイジングハートもデバイスモードになって、なのはの手の中にある。

 

次の瞬間。

 

 ドオォォン―――

 

眩い金色の閃光が巨大子猫に直撃した。砲撃魔法だ。

一歩遅れたが、なのははスムーズに空中に飛び上がる。

 

そしてなのはは巨大子猫を攻撃した金髪の少女の前に立ちふさがった。

 

「そこまでにしてもらうよ」

 

そう言いながら、なのはは目だけを動かし少女を下から順に観察した。

そして顔の表情・・・とくに眼を見て思った。

 

(なんて暗い瞳なの・・・)

 

その時になのはが思ったのはただ一点それだった。

悲しみに満ちたその瞳はこちらの顔さえもゆがめそうだった。

暗い・・・ただただ暗いその瞳・・・自分でもそんな目はしたことなかった。

 

どうしてそんな目をしているのか、そう思いながらも話を聞こうと口を開いた。

 

「とりあえず話を聞いて。あなたもジュエルシードを集めているみたいだけど、

 これは元々そこのユーノくんが見つけた物だよ! 集めてる理由は!?」

「・・・・・・答えても多分、意味がない。申し訳ないけどジュエルシード、頂いていきます」

 

しかし少女はその言葉に心は動かされず、淡々と告げた。

そしてその手に持つデバイスを振り上げる。

 

《Scythe Form》

「アークセイバー!」

 

少女の手元ののデバイスの形が鎌状になり、そこから三日月形の魔力斬撃が打ち出された。

咄嗟の攻撃だったが、なのははその攻撃に対処し、右へと逃げた。だが・・・

 

「――ッ! 追尾!?」

 

それは、回転しながら鋭い弧を描いてなのはを追い続ける。

なのははアークセイバーの正面を向き、左手に持つレイジングハートを前に突き出した。

 

《Protection》

 

バリアが展開されるとすぐさまそれがぶつかり、腕に衝撃が走る。

ガリッガリッ、と障壁が削られていく。

 

金髪の少女はそれを見てとり、素早く次の手を打った。

 

《Explosion》

 

そのデバイスの声とともにアークセイバーが爆発した。

その威力になのはのバリアが悲鳴を上げた。

 

「――ッ」

 

なのはのバリアは強力だったので、なんとか耐え、相殺される。

 

なのはの目の前には残存圧縮魔力による爆発にともなって爆煙が広がっていた。

なのはは前が見えず、フェイトの姿も見当たらない。視界は完全に0だ。

 

飛行して移動すれば煙から逃れられるが、なのははそれをしない。

今のなのはにとっては視界がふさがれる事は別に不利なことではない。

 

なので多少余裕を持って、なのははユーノに念話で伝える。

 

【ユーノくん。悪いけどこの子と一対一で戦わせて・・・

 多分わたしが負けたらジュエルシード取られちゃうかもしれないけど・・・】

 

なぜだかわからないが、なのははこの少女と一対一で戦いたかった。

心の奥底で彼女と向き合いたいという気持ちが浮き上がっていたのだ。

 

【・・・うん、わかった。なのはに任せるよ。なのはには迷惑かけているから

 それくらいなら・・・また会ったときに取り返せばいいし、

 なのはは負けないと思うから・・・】

 

少しの時間、ユーノは悩んでいたが、最終的になのはを信じて送り出す。

 

【ありがとう・・・ユーノくん】

 

ユーノに許可を貰うとなのはは病院で鍛えに鍛えた魔力散布を行う。

なのはの体から放出された魔力が辺り一面に張り巡らされ、

それにより、まるでソナーのように周りにある物体を知らせる。

 

フェイトが高速移動でなのはの死角、左斜め後ろから現れた。すでに鎌を振り上げている。

だがなのははさらに速く、レイジングハートを自分は振り向かないままに

杖の反対側でフェイトの腹めがけて鋭く突きを放った。

 

「―――ぅッ」

 

フェイトは移動してきた瞬間に杖で腹を突き立てられた形になる。

その衝撃で一瞬だけ吐き気を催すものの、ダメージは微量だった。

 

「ぐぅッ」

(やっぱりバリアジャケットの上からじゃダメージは低い。だったら!ここは!!!)

 

《Divine Shooter》

 

なのはは一切隙を見せず、間髪いれずに追撃をいれる。

レイジングハートを横に振って、8つの手のひらくらいの大きさの魔力弾を

目の前の少女に向けて正面から4つ、左右にそれぞれ2つずつ、その8つを同時に。

 

少女に向けて放つ。

 

だが少女はそれら魔力弾をしっかりと見据えていた。

大きな鎌で、正面と横から来る弾を一閃。

一気に破壊しすべての攻撃を防いだ。

 

そのときになのはは少女に再び話しかけた。

 

「意味がないなんてことはない! 答えることに意味はあるよ、きっと変わる!」

「・・・・・・・・・あなたにはわからない・・・わかるはずがない!!」

(この子・・・あの視界の悪い中、的確にわたしを攻撃した・・・?)

 

金髪の少女はその言葉の影響か、一瞬だけ硬直したが、

すぐに立ち直り、なのはに向かって一直線に突撃する。

その途中で鎌から斧へとデバイスを変形させ、正面からなのはを斬りつけようとした。

 

だが、しかし・・・

 

「・・・真下が、がら空きだよ・・・」

 

その言葉とともに、金髪少女の真下の地面からディバインシューターが

地面を突き破って現れ、少女の米神に命中し仰け反らせる。

 

なんとか空中で踏ん張り立ち直った少女がなのはに向かって問いかけた。

 

「・・・いつのまに・・・」

「さっき話してる最中に・・・話し合う気は有るけど

 そういうときでも策は張り巡らしておくのがわたしの主義!」

「・・・そう・・・・・・」

 

そう、少女が言った瞬間。少女はその手のデバイスを片手に突っ込んできた。

まるで話すだけ無駄だということを無理やりにでもわからせようとするように

 

あまりの速度に避ける間もないなのはは逆に受けてたった。

レイジングハートを刀のように握り、向かってくる斬撃に合わせ、切る。

 

《Master!》

 

レイジングハートの警告は届いたが、間に合わなかった。

 

斧の刃と杖の中ほどの部位が「ガッ」という鈍い音を立ててぶつかる。

変化はすぐに現れた。

 

ピキ―――

 

レイジングハートがおかしな音を立ててひび割れる。

 

「しまっ!?」

 

なのはは慌てて離れる。

しかし少女はそれを追い、追撃してする。

 

なのははそれを再び受け止める。

しかしインテリジェントデバイスでそれを受けたことにより、

レイジングハートの皹がさらに広がってしまう。

 

《マスター! 私に魔力を流してください! それで直ります!》

 

要領はわかっていたなのはは返事もせず、即座に実行する。

すると、あっという間にひびが塞がっていった。

 

これならまだ戦える。

 

なのはは少女の刃の軌道をほとんど先読みするような勢いで避けていく。

しかしそれにも限界があった。少女の速度はなのはよりも圧倒的に速い。

先読みではなのはが避け続けるのは難しかったのだ。

 

金髪の少女はついになのはの動きを捉え、体の中心に斧を振り下ろした。

なのはは避けられない、と判断するまでもなく、直観的にすぐさまレイジングハートを振るう。

 

さきほどの経験から鎌の刃には柄を当てず、

相手のデバイスの先端部分からやや下辺りにレイジングハートの先端を合わせる。

 

何とか受け止めたその後、すぐさまなのはは後ろに下がる。

一定の距離がとれた。その瞬間・・・

 

《Cannon Mode》

 

レイジングハートは自分の判断でカノンモードへと姿を変えた。

そこでなのはが三度少女に向かって話しかけた。

 

「どうしてそんなに寂しそうな目をしているの!?

 理由があるなら言ってほしい。言えばきっと変わる! でも言わないと、何も変わらないっ」

「・・・・・・・・・」

「答えて!!」

 

金髪の少女は思わず目を逸らし、そして考える。

(そんなことを言っても、何も変わらない・・・。変わるはずなんかない・・・。 

 なのになんでこの子はわたしのことを・・・。いったいなんなんだろう、この子は・・・一体・・・?)

 

 

(こんなに言っても、返事もしてくれないなんて・・・・・・)

なのはは目の前の少女の反応に憤りながら、レイジングハートを少女に向かって突きつける。

 

《Thunder Smasher》

《Divine Buster》

 

「・・・サンダー・・・スマッシャー!」

「ディバイィン・・・バスタァァーーーーーー!!!」

 

互いに掛け声とともに砲撃魔法を撃つ。

2人のデバイスからそれぞれの魔力光の色がほとばしり、空間を翔けぬける。

 

ドオオオォォォン―――

 

中間点で金色と桜色の魔力が衝突する。

そして少女はなのはの持つ力に驚かされる。

 

「!!」

(なんて魔力量!それにやっぱりこの子砲撃型!)

 

一瞬拮抗するがすぐに少女が撃ち負けた。桜色が金色を蹂躙する。

しかし金髪の少女は自分の砲撃がわずかばかりの抵抗をしているうちに上へと逃げさる。

そして間一髪、桜色の砲撃を交わすことに成功した。

 

(それにしてもこの子、デバイスは杖型なのに、

 なぜか接近戦も強いみたいだ。攻撃がまるで通らない。

 でもこの子がいくら強くても、いくら対抗して来ようとも・・・

 私は母さんのためにジュエルシードを集めなくちゃいけない。

 負けられない・・・! 絶対・・・・・・)

 

そして・・・。

 

《Scythe Slash》

 

鎌の魔力刃が強化され、強く光った。

少女はなのはの上から、思い切り鎌状になったデバイスを振り下ろす。

 

「ッ!」

《Flash Move》

 

なのはは高速移動で鎌をかわした。

そして少女から遠く離れた場所まで移動する・・・。

 

なのははそこでレイジングハートを構え、放つ。

 

「ディバイーン・・・バスタァアアア!!!」

 

脈打つ高速の砲撃は攻撃をし、若干の隙があった少女に直撃する。

爆煙のなか、なのはは油断せずに構えながら少女が居た場所を見据える。

 

やがて、煙は晴れて、少女の姿が現れる。

その姿は一言で言えば、ボロボロだった。

バリアジャケットは一部がなくなり、真っ白な少女の素肌が一部からもれていた。

 

ディバインバスターには結界などを貫通する特性がある。

その対象はバリアジャケットも例外ではない。

 

「・・・悪いけど・・・少しだけ動きを止めさせてもらう・・・」

 

なのはは小声でそう言いながら、少女に向かって突撃する。

そして彼女に峰打ちをしようとしたときに・・・それに気づいた。

 

「えっ・・・」

 

彼女のバリアジャケットの隙間からこぼれる白い肌・・・

だがよく見れば、そこには痛々しい赤黒い痣があった・・・

後にそれがどういうものかわかるのだが、なのはは違うことを感じていた。

 

なのはの記憶がフラッシュバックし、彼女の動きを止めさせる。

 

(わ、たし・・・が・・・やっ・・・たの・・・)

 

かつて魔法で自分が怪我をしたから思ってしまった心配。

再び自分の魔法が、せっかく非殺傷設定を覚えたのにまた傷付けてしまったことに。

それはさきほどまでほとんど見せなかったなのはが一瞬だけ隙を見せてしまう。

そして・・・相手の少女がその隙を逃す理由がなかった・・・

 

「なっ・・・・・・!?」

 

《Blitz Action》

 

デバイスのその言葉とともに少女も同じく高速移動をする。

そしてそのままなのはの後ろに回りこんで、飛び掛かった。

なのはは予想外の攻撃であったこともあって硬直していた。

そこへ・・・。

 

「サイズスラッシュ!!」

 

・・・金色の斬撃が、なのはの背中を襲った

 

地面に向かって幼い体が吹き飛ばされる。

 

ズン―――

 

鈍い音をさせて地面に叩き付けられ、なのはの意識はそこで途絶えた・・・。

 

なのはの初めて対人戦は、結果的に黒星と言う結果に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

なのはが目覚めたのはそれから数分後のことだった。

目が覚めると目の前にいたのはフェレットの姿をしたユーノだった。

 

「なのは・・・大丈夫?」

 

自分を心配する声になのははいつつと頭に手を当てながら起き上り言った。

 

「うん、大丈夫・・・ごめん。負けちゃった・・・ジュエルシードも持ってかれちゃったし」

「それは仕方ないよ・・・それになのはが無事だったからそれでいいよ。

 ジュエルシードをあの子が集めているなら、また会えるはず・・・

 その時に取り返せばいいさ」

「うん、ありがとうユーノくん・・・」

 

しかし、なのはは取り返す・・・とは違う感情を持っていた。

 

(あの子・・・悲しい目をしてた・・・たぶん事情があるんだろうな・・・

 それにわたしと違って、魔法の危険さもきっと知っている・・・

 怪我させちゃったし・・・次に合ったらきちんと謝らないと・・・)

 

そう思いながら、ふとなのはは思い出したように言った。

 

「あっそうだユーノくん。わたしが仮に魔力少し渡したら人間に戻れる?」

「えっ!?」

 

いきなりそんなことを言ったなのはにユーノは驚く、

なのははいきなり変なことを言ってごめんといいながら説明した。

 

「今度みんなと温泉旅行行くんだけど、ユーノくんにも温泉楽しんでもらいたいんだ」

「あぁ、そうなんだ。・・・うん、戻れるはずだよ。戦闘はまだ難しいけどね」

 

ユーノの不調はあくまでもこの地球の魔力素とユーノのリンカーコアの相性が悪いだけなので、

一度なのはが魔力に変換してしまえば、理論上は問題ないはずだった。

 

もっとも戦闘に使うほどの回復は無理で、あくまでも人間体でいられるようにするだけだ。

 

「戦闘はしなくていいよ。だけど人間の状態に戻れるならそのほうがいいと思うんだ」

「そうだね。じゃあお言葉に甘えてよろしく頼むよ」

「うん、楽しもうね」

 

なのはたちはそう言う話をしながらアリサたちが居る場所へと戻っていった。

「遅い!」とアリサに怒られてしまったのは、ご愛嬌だ。

 

 

 

 

 

 

 




なのはさん・・・和平の使者が騙まし討ちってどうよ?


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SAGA 10「温泉は安らぎの空間・・・だよね・・・?」

さて、今回は温泉回・・・
なのはさんはエロスとは無縁です。
そして・・・これでも発想が重要なんです。

それではどうぞ!!



 

 

 

その日は海鳴温泉に2泊3日の旅行の日。

参加メンバーは、わたしたち高町家は全員。

月村家は忍さん、すずかちゃん、メイドのノエルさんとファリンさん。

それにアリサちゃんとユーノくんという大人数での旅行となっていた。

乗っている自動車も大型のものを2台使っている。

 

はやてちゃんも誘おうと思ったけれど、いろいろあって駄目だった。

どうやら通院の日が重なるらしい。残念。

 

ちなみにユーノくんは予定していた通り、元の人間に戻っている。

高町家の遠い外国の知り合いだと他の皆には伝えておいた。

途中、自己紹介のときにフェレットと同じ名前だったことで

「ユーノがなのはの初恋の人?」と言う話題が発生し大分盛り上がっていた。

わたしとユーノくんは何でそんなに盛り上がれるかさっぱりだったけど・・・

 

 

約数時間の車での移動の末、わたしたちは旅館にさっそくたどりついた。

 

「というわけで! さっそく温泉に入ろう!」

 

ついて早々の忍さんの提案におー、というように腕を振り上げながら、

テンションを上げているわたし。しかし別に忍さんの意見に賛成しているわけではない。

 

はたから見れば幼い少女が温泉テンションが上がっているように見えるんだろうけど、

あくまでもわたしはあの金髪の女の子にどう謝るか考えているのだ。

 

そしてわたしの目の前には男湯と女湯、それぞれの温泉の脱衣所に繋がるのれんが下がっていた。

周りにはわたしの他に、アリサちゃん、すずかちゃん、お姉ちゃんがいる。

そこで、早速女湯の暖簾をくぐろうとする。

 

「それじゃあ、なのは」

「うん、わかった。それじゃあね」

 

わたしはそういうと女性陣がいるずんずんと脱衣所に踏み入った。

ユーノくん達男性陣も男湯の暖簾をくぐっていった。

 

昔は肌を露出させるから、銭湯系統は苦手だったけど今は大分大丈夫だなぁ

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

わりと広々とした空間とその大部分を占める温泉が入った湯船が印象的な男湯。

その中でユーノと士郎は体をよく洗っている。

 

本来、温泉に入る場合は薬理成分が含まれている分肌への刺激が強いので

入浴前に石鹸やボディソープで肌の角質をとると、温泉の刺激に負けることもあるため

かけ湯程度で済ますのが普通なのだが、マナー意識が強い二人は体をよく洗っていたのだ。

 

体を洗いながら、二人はちょっとした雑談をしていた。

普段はなのはとよくいるうえフェレットモードが普通なので、

こうして人間形態のユーノと二人きりで向かい合うのは士郎は初めてだった。

だからこそなのはがいないここでしかできない会話が弾んでいる。

 

「・・・ほぉ、ユーノくんは意外としっかりした体をしているんだな」

「はい。これでも遺跡発掘をしているスクライア一族だから

 鍛えておかないと罠に引っかかったりするんです」

 

士郎の言葉にユーノがそう答える。

スクライアの面々は基本的に遺跡発掘などの際に事故が起きないよう

日ごろから体を人によって程度の差はあれ、ある程度は鍛えている。

 

ユーノもまたその一人で筋肉がそれほどあるわけではないが、

体は細いながらも、無駄なものが無いだけでかなり理想的な体つきだった。

 

「なるほどね。そうだ、どうだユーノくん。

 君も一緒になのは達と私達の訓練に参加するというのは」

 

ユーノに向けて、士郎はそう問いかけた。。

その顔は裏のあるはずのない純粋な笑みだった。

純粋にユーノのためを思ってのことだ。

 

なのはと違って御神流自体を教えるわけではないが、

それでもこの訓練に参加すればユーノの実力はもっと上がるだろう。

 

「え、えぇ~と・・・。え、遠慮させていただきます」

 

だが、ユーノは少しの葛藤の末、その申し出を断った。

 

「なぜだい?」

 

断ったユーノに対し、士郎は別に不快感を示さずに純粋に興味を持ってユーノに問いかける。

ユーノは若干士郎の目線にビビったものの、自分が持つ確固たる意志を話し始めた。

 

「た、確かに参加して強くなりたいと言うのもありますが、

 今はなのはと協力してジュエルシードを集めています。

 僕がなのはと同じことをして、同じように疲労したらだめだと思ったんです。

 だから、お断りさせていただきます」

 

つまりはなのはと同じことをして、同じ疲労感を持つわけにはいかないということだった。

ただでさえ自分は魔力不適合でなのはたちに迷惑をかけているのだから、

余計なことをしてさらに迷惑をかけるわけにはいかないと考えたのだ。

 

そんな筋の通ったユーノの言葉を聞いて、士郎は若干寂しがりながらも返した。

 

「・・・そうか・・・。返答ありがとう。それじゃあ入ろうか」

「はい!」

 

ちなみに中に入ると会話に参加しなかった恭也が一人ゆったりと湯船に浸かっていた・・・。

頭に冷やしたタオルをのせるなどわりと被れていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

少し遅れて女湯の脱衣所に入ってわたしは服を脱ぎ始める。

そんなわたしの視界の端に、他のみんながきゃっ○ゃう○ふ的な(出典元はやてちゃん)

スキンシップをすでに始めているのが目に映った。

・・・正直言えばどうでもいい・・・

 

わたしはとりあえず無視しかけ湯をした後に温泉に体を浸ける。

何度も言うが、わたしにとってそういう方向のスキンシップは興味がない。

胸の傷を見られるのが恥ずかしいという気持ちは今は特にはない。

だけどなぜかそういうスキンシップには抵抗があったのだ。

 

浸かった温泉のその暖かな感触と温度が日ごろの訓練などの疲れを癒してくれる。

 

「はぁ~う~ん、気持ちいの。ひと時の平和なの・・・!」

 

訓練は訓練でとても楽しく、充実している。

それでも疲れるものは疲れるのだ。わたしはひと時の平和を素直に過ごしていた。

 

 

 

その後、早めに温泉をあがったわたしは誰も居ない部屋に戻って、寛いでいた。

一人ではとくにやることもないので、適当なテレビを見ていた。

 

『でね、水面走りって言うのはある意味、男の浪漫だと思うんですよ』

『いやいや、男の浪漫て普通はロボットとかドリルやろ!?』

 

見ていたのはちょっとしたバラエティ番組だ。

特別面白いとも思ってはいなかったけれど、今の言葉を聴いてわたしは少し閃いた。

 

・・・もしかしたら、魔力を下に向けて散布すれば浮けるのではないか・・・と

 

理論上は問題ないはずだ。浮遊魔法の力を下に向ければ言いだけの話だから。

問題は実際に演算できるかと言うことだが、やってみなければわからない。

 

・・・それに・・・もしできたら、体に負担をかけない良いトレーニングになる。

 

魔力の一定放出は空を飛ぶのとは少し違う。

足裏から絶妙な量の魔力を放出すれば誰でもできる。

ただし多すぎても少なすぎてもダメだろう。

微妙な調整が必要な魔力制御の訓練にはぴったりだ。

 

そんなことを真剣に考えているといつのまにかテレビはコマーシャルに入っていた。

洗剤のコマーシャルや自動車のコマーシャル・・・そんな見慣れたコマーシャルの中に

一つだけ気になるものがあった。

 

『3のRで地球の未来を守ろう!』

 

それは見る限りではデフォルメされた人間がいろいろと喋っているだけのもの

 

『Reduce!!ゴミを♪減らそうよ♪

 Reuse!!物は繰り返して使おう♪

 Recycle!!資源を大切に使いまわそうよ♪

 

 3Rで世界を救おう!!』

 

そしてただそれだけを言うコマーシャル。

だけどその特徴的な音楽と『3R』という単語が妙に印象的で頭に残ってしまった。

3Rって・・・いったいなんだろう?

 

そんなことを思っているとちょうどお母さんがお風呂から戻ってきたところだった。

 

「あら、なのは。テレビを見ていたの?」

「うん、あっ、そうだお母さん。聞きたいことがあるんだけど3Rって何のこと?」

 

模範的な主婦であるお母さんならきっと知っているはず!

 

「3R? 知ってるわよ。3Rっていうのは

 ごみの発生を減らす『リデュース』

 繰り返して再使用する『リユース』

 資源として再び利用する『リサイクル』

 という三つの単語の頭文字をとっているの。

 地球の環境を守るための標語の一つよ。

 家ではもちろん。翠屋でも守っているわよ」

 

へー、そういう意味があったんだ・・・

 

「そうなんだ。ありがとうお母さん」

「どういたしまして」

 

わたしはお母さんにお礼を言うと再び思考の海に落ちていく・・・

3R・・・もしかしたら使えるかもしれない・・・

 

またわたしの悪知恵が働き始めたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そのころお風呂を上がったユーノ、アリサ、すずかは三人で歩いてた。

風呂から上がってきたユーノにアリサが会話を持ちかけたのがきっかけだ。

なのはとの関係などを質問が中心だったが、ユーノが素直なのであまり良い結果はなかった。

 

そんなときだった。目の前から赤髪の女性が歩いてくる。

ユーノが真っ先にそれに気づく。そしてその女性のあることにも気づいた。

 

(魔力反応!? しかもこれは・・・!)

 

ユーノはとっさに身構えるが、その女性はアリサたちの横を素通りする。

だがその時、ユーノを横目で鋭くにらみ付け、念話で話しかけてきた。

 

【あんたが例の白い奴の仲間か?

 あいつはいないようだね。フン、だったら伝えときな。

 もうあたしらの邪魔をするな・・・! 今度会ったらガブッといくよってね】

 

それは警告。しかも口ぶりからすればあの金髪の少女の知り合いだと考えられた。

 

【・・・君達の目的はなんだ・・・・・・】

【ふん】

 

女性は返事をせずにそのまま通り過ぎた。

多少珍しい外国人の見た目だったからか、アリサとすずかが話題にして話し始めていた。

ユーノにも話が飛んでくるが、マルチタスクを駆使し当たり障りのない会話をしながら

 

(とにかく、なのはに知らせないと!)

 

ユーノは慌ててなのはに念話を送る。

 

【なのは、聞こえる?】

【うん。なに?】

 

念話に答えたなのははどこか上機嫌だった。

ユーノは若干気に留めるもすぐに用件を話す。

 

【この前会った魔導師の仲間らしい人がこの旅館にいたんだ!

 もう関わるなって警告されたよ・・・多分、反応から使い魔だと思う。

 使い魔が来てるなら、あの女の子も一緒に来てるかもしれない。

 また・・・・・・何かあるのかな・・・?】

【あるかもしれないね。

 ユーノくんも、心構えだけはしておいて。

 それと・・・アリサちゃん達にはそのことは言ったの?】

【いや、言ってないけど・・・。やっぱり言った方がいいかな?】

【まだ言ってないんなら、やっぱり言わない方がいいかな。

 せっかくの旅行なのに、そんなこと言ったら楽しむどころじゃなくなっちゃうし】

【そうだね。・・・・・・うん、分かったよ】

 

そういうとユーノは念話を切った。

今はなのはの言うとおり、この場を楽しむことにしよう。

まだ戦うことのできない今の状態では一人でうじうじしていても仕方がない。

 

 

なのははそのころ部屋から出て浴場へ向かっていた。

そしてその途中、件の使い魔らしき女性に遭遇していた。

もっとも魔力反応を限りなく消して、かつ後ろから見ているので気づかれては居ないが・・・

 

(あっちには温泉しかない。あの人これから入るんだ・・・・・・。

 ちょっと話してみようかな。話す機会なんてそう何度もないだろうし・・・。

 それにもう一回お風呂に入りたいし・・・)

 

なのははアルフと話すのともう1回温泉に浸かるという目的でもう一度風呂に入ることに決めた。

 

なのはは少し間を空けてから、温泉へと向かった・・・が、、

その前に近くの自動販売機でミネラルウォーターを買う。

それでこれまで失った水分を補給する。

 

なのははペットボトルに口をつけるとゴクゴクと体に流し込んでいく。

そしてペットボトルの中身すべてを一気に飲み干した。

 

「ふ~」

 

水を飲み終わった余韻を感じるとともに息を吐き出しながらなのはは歩いていた。

するとそんなとき再び彼女の姿を見ることになった。

 

「なんだ、フェイトも来てたのかい?」

「うん、アルフ。私もお風呂入ろうと思って」

 

あのとき戦った金髪の少女の姿。それを見てなのははあの女の子も来ていた!と思った。

名前は『フェイト』っていうんだ・・・何だか悪いし、今のうちに謝っておこう。

そう考えなのはは二人に忍び足で近づいていった。

 

「そうかい。そ「あれ?奇遇だね。」っ!な、お前は!」

 

アルフと呼ばれた女性の話を遮るようになのはは二人に声をかけた。

 

「久しぶり、元気だった?」

「あ、あんたおかしいんじゃないのか? 普通戦った敵に元気なんて聞かないだろ!」

「そんなこと言われても・・・あっ、それよりも!」

 

なのははそう言うと二人の目の前でビシッと身構える。

アルフは一瞬、攻撃かと思って構えるが、なのはが行ったのは二人にとって驚くべき行動だった。

 

「あのときはごめんなさい!怪我させちゃって」

 

それは頭を大きく二人に向かって下げて言った謝罪の言葉だった。

 

「は?」「えっ・・・」

 

いきなり謝られて、どうすればいいか悩む二人。

そして反応がない二人に対してなのははさらに続ける。

 

「あの、その・・・わたし、非殺傷設定にしたつもりだったんだけ・・・」

「ちょちょちょ、ちょぉっと待った! 一体アンタ何の話をしてるんだ!?」

 

突拍子もないなのはの言葉にアルフは話をいったん中断させ聞いてきた。

 

「えっ、わたしのディバインバスターでフェイトちゃんに怪我させちゃったから・・・」

 

なのはは理由を説明するが、二人は全く意味が解らなかった。

 

「・・・私・・・別にあなたの砲撃で怪我していない」

 

そもそもなのはの砲撃で彼女は怪我などしていなかったのだ。

それを聞いたなのはは驚きながら言った。

 

「ふぇ? そうなの?・・・でも確かあの時・・・赤いあざがあったような・・・?」

「「ッ!!!???」」

 

なのはのその一種の爆弾発言に二人はひどく驚いていた。

特にアルフの驚きは内心いっぱいだった。

 

(コイツ・・・あの糞ババァの怪我を自分がやった怪我と思っていたのか?

 しかも、律儀にも謝りに来た!? なに考えてんだ!?)

 

「まぁ、いいか・・・怪我させてないならないで気が楽になったし・・・」

(さて、と・・・となるとこの状況はきついかなぁ・・・

 さっきついでに魔力散布したら近くの森にジュエルシードあったし・・・)

 

なのははそう思いながらどうやってここを乗り越えるか考える。

とりあえず外に出てもう一度戦うか・・・?

そう考えて一歩踏み出そうとしたときだった。

 

ズキンッ

 

「・・・ッ!!?」

 

突然襲う、左足の痛み。顔には出さないようにしているが、激痛だ。

まるで鉄骨に足を挟まれたような。そんな激痛だった。

そのせいで左足は全く動かなくなってしまう。

 

(こんなときに・・・いったい・・・なに・・・)

 

原因は全くわからないが、痛みはいまだに収まらない。

そして・・・こんな足ではきっと戦えば負ける・・・いや、戦うという行為などできない。

ここは引くことにしよう。そうなのはは考えて顔は笑顔にしながらフェイトに言った。

 

「ところで話は変わるけれどフェイトちゃん・・・

 向こうの森のほうにジュエルシードあるから回収をしておいてくれない?」

「・・・なんでそんなことを教えるの・・・?」

「別に・・・気分の問題。あなたたちが何に使うか知らないけど

 今の私は気分が乗らないから、あなた達に任せる・・・」

 

あまり得意ではないが、ちょっとした演技を交えて嘘を二人に伝えた。

足に激痛が走っているだなんて、とてもではないが他人には言えない。

 

「・・・・・・わかりました・・・情報ありがとう・・・行こうアルフ」

「っ・・・わかったよ、フェイト・・・」

 

そう言って二人は風呂に入るのを止めて部屋へと戻っていった。

その姿は少し戸惑いと迷いがあるようだった・・・。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

そしてわたしの足の痛みが治まったのはフェイトちゃんたちが去ってから少し経った後だった。

・・・一体この痛みはなんだったんだろう・・・前の胸の痛みと関係があるのかな・・・

 

まぁ、過ぎたことは仕方がない。謎は深まるけど今は気にしない方がいいと思う。

フェイトちゃんとの再戦のための特訓をしないと・・・

 

そう考えを纏め、わたしは体を洗ったあと大浴場へと向かう。

時間帯が時間なので人は誰も居なく、中はシーンとしていた。

 

好都合・・・そう思った私は足裏から魔力を放出しながら大浴場の水面に足をつける。

 

まだ少し未熟なマルチタスクを使い、わたしは演算を開始する。

水面の向きに応じて、魔力の反射を調節しつつ魔力を放出する。

 

すると水面に美しい波紋が出現していた。

そして意を決して両足を水面に乗せる。

 

「・・・やった・・・やった! 浮いた!」

 

わたしは予想通りに水面に浮くことができた。

ありきたりな台詞だけど言いたい。「わたしの才能が怖い」

やっぱり魔法というのはこうでないと。

 

その後・・・わたしは水面に伝わる美しい波紋を見ながら

温泉を満喫していたのだった。

 

 

 

 

 



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SAGA 11「ぶつかり合う魂と魂」

 

 

 

 

二泊三日の温泉旅行は特に何事もなく平和に過ごせ、

ジュエルシードも結局、発動することはなく、静かにわたしたちは帰宅した。

 

次の日、わたしはユーノくんを紹介するためにはやてちゃんの家に向かっていた。

 

まあ実際は単純に暇つぶしってところかな。

図書館には行くつもりだけどね・・・。

 

そんなことを考えていると、八神家に到着した。

わたしは玄関の前に立ってインターホンを押す。

 

ピンポーンとインターホンの電子音が鳴り響くとスピーカーから声が聞こえてきた。

 

『合言葉を言え』

「合言葉」

『OKや・・・』

 

あえて言っておこう。テンプレ乙なの。

実際『合言葉を言え』と聞かれたら「合言葉」でいいと思う。

そんなことを考えていたらドアからはやてちゃんが出てきた。

 

「こんにちははやてちゃん」

「こんにちは、なのはちゃん・・・しかしまあ、訓練されたようにあっさりと・・・」

「悪いけど。これでもわたしって純粋なんだ」

「純粋?なのはちゃんが?馬鹿も休み休み・・・」

「・・・・・・ギロッ」

 

・・・悪かったね。純粋じゃなくて・・・

 

「・・・そんな怒らなくてもいいやんか・・・

 ところで、そっちにいるのが例のユーノくんかぁ?」

「そうなの。ほらユーノくんあいさつ!」

「は、初めましてユーノ・スクライアです」

「初めまして、八神はやてや」

 

人間形態ユーノくんがはやてちゃんに向けてお辞儀をする。

車椅子のはやてちゃんも、その上でお辞儀していた。

 

「とりあえず上がってやぁ、お茶とか用意するよ」

「ありがとうはやてちゃん。お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 

八神家に入るとリビングへと案内された。

ユーノくんは中に入って改めて一人暮らしという事実に驚いていた。

 

「こんな大きな家に本当に一人で・・・?」

「そうや、ユーノくんの年齢で遺跡発掘仕切れる世界でも

 こんな大きな家で一人暮らしは珍しいん?」

 

はやてちゃんのそんな素朴な疑問に、ユーノくんははっきりと答えた。

 

「というよりそもそもミッドチルダはあまり治安が良くないから、

 保護者が居ないと誘拐とか普通に起きるよ」

 

・・・はい?

 

「マジんこで?」

「うん」

 

・・・そんな話、初耳なの。

というか万年人手不足とはいえ管理局は何してるの?

 

「そういうのは普通管理局が防ぐんじゃないの?」

「まぁ、そうなんだけどね。ちょっと事情はあってね。

 警防っていうのはあるけど、魔法犯罪には直接対処できないからね。

 

 そもそも魔法犯罪を担当する時空管理局という組織には基本的な分類として、

 管理世界の地上を守る『陸』と次元犯罪を取り締まる『海』の二つがあるんだ。

 ただ『陸』のほうは落ちこぼれが集まるって感じで、あまり人気がないみたい。

 だからただでさえ人手不足だから、そういう細かい犯罪まで対処したくてもできないんだよ」

 

ユーノくんの言葉を聞いて、わたしは何とも言えない気持ちになる。

はやてちゃんも納得はしてない様子で、ぶつぶつと問い始めた。

 

「・・・管理局って馬鹿なん? 人手不足で自分の世界の犯罪すら取り締まれないのに

 わざわざ他の世界の犯罪取り締まってるの? 普通逆やない?」

「まぁまぁ、はやてちゃん。今回もそうだけど世界がいくつか滅びかねない

 ロストロギア回収のほうをしてもらわないと魔法知らないわたしたちが困るよ」

 

そう、ようはそういうことなのだ。

一件仕事をちゃんとできていないように感じてもそれは一面。

裏ではもっと大きなことをやっている場合のほうが、大きな組織の場合は多いのだ。

 

しかし話を聞いてもそれでもはやてちゃんは納得できていない様子だった。

 

「それはそうなんやけどなぁ・・・やっぱり感情的には納得できへんよ・・・

 はぁ・・・わたしが管理局入ったら絶対変えたるわ・・・魔法使えんけど」

 

はやてちゃんがなかば自虐的にそう言い放つ。

そこへユーノくんがたどたどしい言い方で話しかけてきた。

 

「え、えぇーと・・・はやて? 今感じたんだけど君にも魔力あるよ」

 

「「・・・・・・・・・え?」」

 

あれっ? 今爆弾発言しなかった? ユーノくん?

 

「マジで?」

「うん」

「冗談じゃなく?」

「うん、君にもなのはと同じでリンカーコアがあるよ。しかもなのは以上の魔力量だよ」

 

わたし以上って・・・S以上ってこと?

わたしですごいのにはやてちゃんはそれを上回るの・・・?

 

「・・・いよぉっし・・・」

 

それを聞いたはやてちゃんは小さくそう言いながら、手を強く握っていた。

すこし、すこーしだけ、本とーうに、少しだけその表情にいらいらしてしまった。

・・・・・・よし・・・ちょっとだけ現実を突きつけてあげよう。

 

「でもはやてちゃんてあまり数学得意じゃなかったよね?

 それじゃ、魔力量あっても魔法使えないんじゃない?」

「あぁ、うん、そうなるね」

「なん・・・やと・・・・・・?」

 

あ、あれ? は、はやてちゃーん?ちょ、ちょっとや、やりすぎた!?

は、はやてちゃんが灰に!灰になっちゃう!!

わ、話題を変えよう

 

「ね、ねぇ、はやてちゃん今日暇なら一緒に図書館行かない?」

「・・・・・・・・・ええで、ちょう待っとってな」

「あぁ・・・うん・・・」

 

そういってはやてちゃんは部屋へと戻っていった。

 

・・・はやてちゃんが魔力保有者ね・・・あれ?

そういえば・・・部屋にあった・・・ユーノくんに聞いてみよう。

 

「そういえば・・・ユーノくん」

「なに?なのは」

「ここだけの話なんだけど・・・はやてちゃんの部屋になんだか変な本があったんだよね」

「変な本?」

 

本と聞いてユーノくんも興味が湧いたみたいだった。

 

「うん、変な本。本なのに鎖で縛られていて中が見れないの・・・

 今までは気にしてなかったけど・・・もしかしてロストロギアかなぁ・・・

 さっきの話しながらふと不安になっちゃった・・・」

 

ジュエルシードが宝石型でロストロギアはそう言うものという印象があったけど。

はやてちゃんが魔力持ちって話し聴いたら急に不安になってきた。

 

そんなわけであの鎖付きの本に関して話したのだが、

それを話した瞬間、ユーノくんの顔色が変わった。

そして・・・ものすごくシリアスな顔になって言った。

 

「・・・なのは・・・リンカーコアがあるなら念話ができるはずだ・・・

 はやてにその本持ってきてもらうように言ってくれないか?」

「えっ?う、うんいいけど・・・」

【はやてちゃん、はやてちゃん】

 

わたしのいきなりの念話にはやてちゃんはちょっと驚いたようだけど

内容を理解したはやてちゃんはこちらに戻ってくる際にその本を持ってきた。

 

「これがその本や。物心ついたときからあってなぁ・・・

 本なのにくさりが着いてて、取れないくて読めへんし・・・

 いったいなんなんやろうね。これ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

はやてちゃんは説明しているが、ユーノくんは黙ったままだった。

 

「ユーノくん?」

「・・・なのは・・・僕はまだは確証もてないけど・・・。もしかしたらこれ・・・相当まずいものかも・・・」

「えっ!?そうなん!!?」

「うん、途方もない力を感じる・・・

 確証は持てないから、今度来るはずの管理局の人に聞いてみようと思う。

 構わないかな?はやて」

「え、まあ、私も気になるしええよ・・・」

 

結局その後はユーノくんはこの本について話してはくれなかった。

わたしたちは戸締りを終えたはやてちゃんと一緒に図書館へと向かった・・・。

 

後に・・・その鎖の本に関わる・・・事件が発生するなんて

今はまだ思ってもいなかった・・・

 

そして・・・それにわたしがかかわることも・・・

 

 

風芽丘図書館、ここにくるのも結構久々かな。

 

「こんにちは、雨宮さん。お久しぶりですね。」

「こんにちはなのはちゃん。久々だね。元気にしてた?」

「はい!すこぶる元気ですよ」

 

わたしはわりと久々に会った雨宮さんに挨拶した。

ここ最近はジュエルシード回収や魔法の特訓で忙しかったからね。

 

「こちらもお久しぶりです。雨宮さん」

「あら、はやてちゃんも!久しぶりね。あら?そっちの男の子は?」

「は、初めまして、ユーノ・スクライアです・・・

 今、なのはの家にホームステイさせてもらっています」

 

もちろんこの設定は家族で話し合って決めたことだ。

もっとも戸籍とかいろいろ法律的な問題があるので

ユーノくんに無茶はさせられない。

 

「あら、初めましてユーノくん。ホームステイならすぐ帰るだろうけど貸し出しカード、作る?」

「いえ、借りることはしないと思うのでいいです」

「そう?それじゃあ、また帰りにね」

「はい」

 

そういってわたし達は雨宮さんと一時別れた。

 

「相変わらずなのはちゃんは小難しい本読んどるなあ・・・」

「うん、まあね・・・。わたしはこういうのが好きだしね」

 

ちなみに今、わたしが読んでいるのは「レールガンの構造と仕組み」と書かれた本だ。

この本、このタイトルに反して内容はかなり高度だ。

この原理を魔法のほうに応用できないかな・・・?

 

まあ、まだいいか・・・新しく作るよりも、今ある魔法を伸ばしたほうが良いし・・・

 

そのとき、ユーノくんははやてちゃんに進められた小説を読んでいた。

はやてちゃんは「魔法使うんや!」といいながら小学四年生の算数の本を読んでいた。

そのレベルじゃまだまだ無理だと思うけれど・・・

 

夕方まで、わたしたちは図書館を楽しんでいた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

なのはたちがはやてと別れ街へ向かい、午後七時を少し過ぎた頃。

海鳴市の市街地付近、オフィスビルが立ち並ぶその場所に光の柱が立ち上った。

別のビルからそれを見下ろしていたのは使い魔アルフ。

アルフは隣に立つ自らの主人にこう告げた。

 

【見つけたよ!】

 

黒衣の少女は魔力流を起こしている使い魔に頷きを一つ返し空へと飛び立つ。

 

 

青白く輝きながら立ち上る光の柱の正体はロストロギア『ジュエルシード』。

フェイトは大体の場所を把握していたが、正確な場所が探れなかった。

だからアルフに魔力を流させてジュエルシードを強制発動させて発見したのだ。

 

「・・・バルディッシュ、お願い」

《Thunder smasher》

 

右手に構えた漆黒の斧『バルディッシュ』の先端から、

一見すれば、輝く柱のような黄色い砲撃魔法が放たれる。

 

そしてその砲撃は発動したジュエルシードを正確に撃ち貫いた。

命中したその魔法は確実にジュエルシードに封印を施す。

 

「・・・ジュエルシード、封印」

《Sealing》

 

封印されたジュエルシードは力を失い、コトリと地面に落ちる。

フェイトはそれを確認すると、フワリと舞うようにビルから飛び下りた。

 

これでフェイトが持つ、3つ目となるジュエルシード。

そして・・・それを『バルディッシュ』に収納しようとした、その時だった。

 

ピキンッ

 

【・・・フェイトッ!!】

「・・・・・・クッ・・・」

 

『それ』に気付いたのは、上から見下ろしていたアルフの方が一瞬だけ早かった。

しかしジュエルシードを手に入れようとして油断していたフェイトは、反応が一瞬だけ遅れた。

その一瞬の次には、桜色をしたバインドがバリアジャケットに覆われた

フェイトのその小さな身体を縛り上げて、そして締め上げる。

 

「・・・油断大敵だよ・・・フェイトちゃん・・・」

 

フェイトの耳に声が聞こえた・・・フェイトはすぐさま振り向きその声がした方向を見た。

そこにいたのは先日自分が戦った白い『敵』とアルフが会ったというブロンドヘアーの少年・・・

 

「なのは・・・君って意外とえげつないね・・・前も思ったけど」

「・・・だって隙だらけなんだもの・・・」

 

そう茶化すようにユーノに言いながら、

なのははアルフがたどり着くよりも先にジュエルシードを手に取った。

 

「・・・封印されているみたいだね・・・良かった」

「・・・返せ・・・それは私が・・・」

「・・・話を聞いてくれるなら考えなくもない」

 

そう言いながらなのははそのジュエルシードを自身が持つ杖レイジングハートの中に収納した。

 

「・・・話すことなんてない・・・!」

 

フェイトがそう言うと同時に割って入るアルフ。

しかしそれはユーノが障壁で防ぎ、アルフを弾き飛ばした。

 

そしてユーノはそのままアルフのほうへと向かう。

お膳立てしてくれたユーノを見届けた後、なのはは改めてフェイトの方を向かって言った。

 

「この間は自己紹介できなかったけど、私なのは。高町なのは。私立聖洋大付属小学校三年生」

《Scythe Form》

 

なのはの言葉は一切聞かずに、デバイスを再起動させるフェイト。

 

風が、二人の髪を揺らしていた。

 

そしてそれは二人の心が通い合っていないことを証明するかのようだった。

そして・・・二人の少女がぶつかり合う。冷たい風の中を二人は戦い続ける。

 

暗い街に飛び交う桜色の輝きと金色の閃光。

 

なのはの後ろに高速で回り込むフェイトだったが、高速移動魔法で逆に後ろを取られてしまう。

レイジングハートを構えたなのはの撃った至近距離のディバインシューターを防御壁で防いだ。

 

「フェイトちゃん!」

 

なのはの大きな声がビル街に反響する。

フェイトは相変わらず無視しようとしたが、なのはは構わずに続ける。

 

「フェイトちゃん!あなたにはわからないって言ってたけど、

 だけど、話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ!」

 

その時のフェイトの心には何があるのか。

なのははわからなかった。だがそれでも言いたいことをぶつけていく。

 

「闘いあったり競い合うことになるのは、それは仕方ない・・・けど!

 だけど、何もわからないままぶつかり合うのは、わたし、嫌だ!」

 

その言葉を聞いて、フェイトの瞳が揺れる。

 

「わたしがジュエルシードを集めるのは、それがユーノくんの捜し物だから。

 ジュエルシードを見つけたのがユーノくんで、

 今はユーノくんがそれを元通りに集めなおさないといけないから!

 わたしは、そのお手伝い。だけど! 自分の意志でジュエルシードを集めてる!

 自分の暮らしている街や、自分の周りの人達に危険が降りかかったら嫌だから!

 もうあんなことは誰にもしたくないから!! だからわたしは戦っているの!!」

 

その言葉にも動かないフェイト。

だが、その表情は確かに先ほどと変わっていた。

 

「これが、私の理由!」

「・・・・・・・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・・」

 

目を伏せ、語ろうとするフェイトに声を投げかけたのはアルフだった。

 

「フェイト!何も教えなくていい! あたし達の最優先事項は、ジュエルシードの捕獲だよ!

 そいつを倒して、ジュエルシードを奪ってやろう!!」

 

その言葉を聞いて、はっとなるとデバイスを構えるフェイト。

 

フェイトはそのまま一気になのはへと向かう。

それに対しなのはが行った行為は至極単純なことだった・・・

 

「レイジングハート!」

《Put out》

「なっ!?」

 

レイジングハートがなのはの指示の元、先ほどのジュエルシードを目の前に出す。

ジュエルシードをまさか攻撃するはずないだろう・・・そういう判断で出した。

 

しかし、それが裏目に出た。

 

車は急にはと前れないように、フェイトの力量ではそんな急に止まれるものではなかった。

 

フェイトのバルディッシュにレイジングハートが押されるような形で、

なのはとフェイト。互いのデバイスが、ジュエルシードを挟んでぶつかり合った。

 

「「なっ!?」」

 

膨大な力により互いのデバイスに入る大きな(ひび)

 

瞬間、巨大な魔力が暴走し、爆発した。

巻き起こる小規模の次元震。それは結界を、空間を、次元を揺らした。

 

レイジングハートに皹が入ったため飛行魔法が不安定になり、地面へと着地するなのは。

バルディッシュも無事ではないため、すぐさま待機モードに戻すフェイト。

 

後に残ったのは、魔力が不安定になりいつ暴走するかわからない危険物。

決意を込めた瞳でフェイトはジュエルシードへと向かう。

 

そして・・・それを自分の手で掴む!!

 

「ぐ、あ、あぁああああああああ!!!!」

 

叫び声を上げながら、ジュエルシードを素手で封印しようとするフェイト。

 

(止まれ!! 止まれ止まれ止まれ!!)

 

心の中でも叫び声をあげながら封印作業を続け、見事封印した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

フルパワーで封印作業を行い、肩で息をするフェイト・・・

そこになのはとユーノが近づいてきた。

 

「フェイトちゃん・・・」

 

なのははジュエルシードを持つフェイトの手を見た。

旅館で会ったときはあんなにも白くて細くて綺麗な手だったのに

それが今は掌が焼け爛れていて、赤黒く腫れてしまっていた。

 

バリアジャケットの防護が無ければ、手首ごと消し飛んでいただろうに・・・

何も言ってはくれないけれど、フェイトにはフェイトなりの覚悟がある。

そう改めて確信したなのははいつもよりも小さな声で言った。

 

「・・・そのジュエルシードはあげる。

 もともとフェイトちゃんが封印したものだし・・・

 フェイトちゃんの覚悟は見せてもらったから・・・

 ・・・ごめんユーノくん・・・また負けちゃった・・・」

「ううん、なのはが謝ることじゃない。

 今戦ってもお互いに利益はないだろうから・・・」

(・・・まだ管理局は来ていない・・・ここであまり無茶はできない。

 回避できるなら戦闘行為はできるかぎり自重したほうがいい・・・)

 

別にユーノはなのはに引け目があるから賛成しているわけではない。

今はやっと回復し始めたとはいえ、管理局が来ていないのだ。

無茶をするわけにはいかない。なのはにこれ以上怪我させるわけにはいかない。

そういう思いのほうが、ジュエルシードの奪い合いよりむしろ強かった。

 

「それじゃあね。フェイトちゃん・・・今度会ったらまた話そう・・・」

 

そういうとなのはとユーノはフェイトたちに背を向けて去っていった。

フェイトたちもまた、困惑しつつもこの世界の拠点であるアパートへと帰って行った・・・

 

 

そしてある日のこと・・・彼らがついにやってきたのであった・・・

 

 

 

 

 




 
いくらなんでも猫さんの監視、ざるすぎる気がしてきた


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SAGA 12「時空管理局」

今回は時空管理局との出会いです。
そして・・・なのはさん強化フラグ・・・?

それではどうぞ!!



 

 

 

 

歪んだくらい虹色のような次元空間内を、巨大な白銀の戦艦が進む。

 

その名は時空管理局巡航L級8番艦。次元空間航行艦船『アースラ』

この艦船には今回の任務『ジュエルシードの確保』を目的とした、多数の人員が配備されている。

そのアースラのブリッジに一人の女性が入ってくる。

 

「皆、様子はどう?」

「前回の小規模次元震以来、特に目立った動きは無いようですが、

 二組の捜索者が再度衝突する危険性は非常に高いですね」

 

緑髪の女性は椅子に座りながら「そう」と短く返す。

次元震が起こったと聞いたときは間に合わないか、とも思っていたが、

どうやら捜索者たちはよほど有能らしい。

 

「失礼します。リンディ艦長。」

 

そこに茶髪の女性がブリッジへ入室する。

彼女は緑髪の女性の目の前に紅茶を置く。

 

「ありがとね、エイミィ」

 

緑髪が特徴的な彼女の名はリンディ・ハラオウン

 

若くして時空管理局の提督を勤めるアースラの艦長。

自身も有能な魔導師で、この任務の責任者である。

・・・少し病気気味の甘党でもあるが・・・

 

リンディは受け取った紅茶を飲んで喉を潤す。

 

「そうねぇ・・・小規模とはいえ、次元震の発生は・・・ちょっと厄介だものね。

 早めに行ってあげないと、民間協力者の男の子に負担をかけてしまうわ・・・

 危なくなったら、急いで現場に向かってもらわないと。ね? クロノ?」

 

彼女はブリッジに立つコート姿の少年に声をかける。

 

「大丈夫。わかってますよ、艦長。僕はそのためにいるんですから」

 

彼の名はクロノ・ハラオウン

 

14歳にして、執務官の名を冠する言わばエリート。

リンディの実の息子であり、アースラの切り札でもあるAAA+ランクの魔導師である。

 

彼らはジュエルシードの確保のため第97管理外世界「地球」へと向かっていた・・・。

そこから始まる・・・歴史の証人となるために

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ、やってしまった・・・」

 

あれから二日後、なのははいろいろな意味で学校に行くような気分ではなかった。

一昨日のフェイトとの対話は結局の所、失敗してしまった。

まぁ、あれだけ対話しようといいつつ、万全の策で挑んでいて、

だまし討ちまで行うなのはのことを信用できないのもわかる。

 

「はぁ・・・」

 

そう考えて再びため息をつく、いつからわたしはこんなに捻くれてしまったかと。

おそらくはあの大怪我からだろう。あんな目に二度と会いたくない。

そういう思いが、なのはに万全の策を張った上での行動を強いる。

 

それに、今回の被害はフェイト達を除けば怪我人も出なかったが・・・

脳裏に、先日の破壊された街の光景がよぎる。

 

一歩間違えれば、大災害に発展していたかもしれない。

いや、世界がロストロギアで崩壊したこともあるとユーノ言っていた。

 

それなのにそんなデリケートなものをなのはは盾にした。

これを集めようとしているフェイトが攻撃を続けるはずがないと思い・・・

しかし、よくよく考えれば、あの速度で動く人間が急に止まれるはずがないではないか、

そう考えると、なのははますます憂鬱になっていくのだった。

 

「あ・・・」

 

通学用のバスに乗り込んだ時、気付いてしまった。

いつもようにバスに乗り込んでしまったが、不意に昨日の放課後のことを思い出した。

学校に行きにくい別の理由だ・・・

 

「あ、なのはちゃん。おはよう」

「・・・・・・・・・」

「お、おはよう・・・」

 

いつもの場所、最後尾の座席に2人はいた。

すずかとアリサ、なのはが『学校』で最も仲の良い友人2人がそこに座っていた。

すずかに関してはいつも通りに優しい笑顔で挨拶してくれたのだが、

アリサはそっぽを向いたままなのはを見ようともしなかった。

 

実は昨日の放課後のことだ。

学校の終わりの時間に、なのははアリサと喧嘩をしたのだった。

喧嘩と言ってもお互いに言い合いになったりしたわけでは無い。

 

ジュエルシードのことやフェイトのことで上の空だったなのはに、

ついにアリサが痺れを切らしたと言った方が正しい。

 

明らかに疲れているなのはを心配して話しかけているというのに無視してしまった。

 

『私達と話すのが嫌なら、ずっと1人でいれば良いじゃない!』

 

最後はアリサにそう怒鳴られてしまって、なのはは「しまった!」と思った。しかしもう遅い。

すずかは「気にしないで」と言っていたが、なのはは自分が悪いことは理解していた。

 

なのはがアリサに魔法の事を含めて相談すれば、それですむ話・・・

しかし、まだ二人には魔法のことを話す気にはなのははなれていなかった。

昨日からずっとなのはの心には後悔の念だけが残っていたのだった。

 

「あの・・・アリサ、ちゃん・・・」

「・・・・・・・・・」

 

なのはが少し怯えながら近付いていく。

それでもアリサは変わらずにそっぽを向いたままだった。

このままでは駄目だと思い。なのはは切り出した。 

 

「アリサちゃん・・・今、わたしがしていることは・・・

 まだ・・・アリサちゃん達には話せない・・・

 でも・・・終わったら全部話すよ!絶対に」

 

そうは言ったもののアリサにはあまり変化は見られなかった。

無理もないとなのはは思った。こちらにしか利益がないのだから。

 

嫌われてしまったのだろうか・・・と、なのはが顔を伏せた時。

不意に、アリサはすずかの横から少しだけズレて場所を開けた。

どうやら、座れと言うことらしい。その意味を理解しなのはは少し微笑む。

 

なのはは座りながらアリサに向けて言った。

 

「ありがとう、アリサちゃん」

 

アリサはそっぽを向いたままだったが、そばに置いたなのはの手は握ってくれた。

実質の仲直りをする二人を見てすずかは穏やかに微笑んで見守っていた。

 

 

 

その日は結局のところ平和に終わった。

授業もしっかりと受けて、放課後まで何事もなく時は進んだ。

学校でのすべてが終わったなのはは、家に帰ろう・・・そう思っていた。

 

しかし、その願いは次の瞬間には叶わないことを知る。

 

「・・・・・いいタイミングかな」

 

反応・・・ジュエルシードだ。

なのははユーノに連絡して、先に現場に行ってもらった。

その後は裏道へと走った後、レイジングハートをセットアップ。

白きバリアジャケットに身を包んだなのはも現場へと向かった。

 

 

 

 

行ってみれば、そこは海辺近くの公園だった。

木々が植えられていて緑豊かな公園で、吹き込んでくる海風が心地良いと評判の場所だ。

ジョギングや犬の散歩のコースにしている人間も多いが、今は公園に人通りは無い。

 

なのはとしては公園、木とトラウマを刺激するワードばかりだが・・・

 

そして・・・ちょうど今、ジュエルシードが発動したところだ。

 

「ユーノくん、結界!」

「うん!」

 

ユーノの結界が発動し、異質な空間へと変わる公園

そんな中なのはは目の前の一本の木が生物のように動き、

枝が腕のように、そして根が足のように蠢く化け物を見て思う。

 

(あの樹の化け物、気持ち悪い・・・)

 

そんなことを考えながら、なのはは化け物と相対する。

そして、それと同時に上空から金の弾丸が降り注ぎ、樹の化け物のバリアに阻まれる。

その魔法の主をなのはは知っている。

 

「お~!? 生意気に、バリアまで張るのかい」

「・・・今までのより、強いね。・・・それに、あの子達もいる」

 

その言葉になのはがフェイトの方を振り向く。

一昨日のこともあるので、その視線は鋭い。

 

その瞬間、樹の化け物は地面から根っこを生やしてなのはたちを襲う。

ユーノは近くの茂みに飛び込んで身を隠し、なのはは空中へと飛び上がる。

その後ユーノが化け物に向けてチェーンバインドを放ち、縛り付ける。

 

その瞬間を逃さずに、フェイトがアークセイバーで根っこを切り飛ばし、

そのまま向かっていった三日月上状のアークセイバーが当たって化け物は怯む。

 

その間に左手に持つレイジングハートを白き流線型のフォルム『カノンモード』にし、

空中で魔力のチャージを完了したなのはが木の化け物に向けて砲撃を放った。

 

「撃ち抜いて! ディバイン!」

《Buster》

 

これもバリアに防がれる。しかし効いてはいる。

かなり苦しそうにしている化け物を見るや、フェイトも砲撃の準備をした。

 

「貫け豪雷!」

《Thunder Smasher》

 

そして打ち出される金色の光線。樹の化け物がバリアで防ぐ。

しかし強力な二発の一撃にそれは耐え切れなかった。

砕け散る化け物のバリア。

 

それに気づいた二人が封印の準備を開始する。

 

《Seeling mode.set up》

《Seeling Form. set up》

 

「ジュエルシード、シリアル7!」

「封印!」

 

強敵に値するはずの木の化け物も二人の前にはほとんど無力だった。

 

「無事にジュエルシードは封印完了・・・と」

 

なのははそう呟きながら、フェイトのほうを向く。

すると珍しくフェイトから先に話を切り出してきた。

 

「・・・・・・ジュエルシードには、衝撃を与えたらいけないみたいだ」

「うん。・・・・・・一昨日・・・みたいなことになったら、

 わたしのレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュ・・・? も可哀相だもんね・・・」

「だけど・・・これは譲れないから」

 

そういってフェイトはデバイスを構える。

 

「わたしはこれでも、フェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど・・・」

 

なのはもデバイスを構える。互いに負けられないから、まずは戦う。

 

二人の戦いが始まる。

フェイトとなのはが真正面から向き合った。

 

そして同時に飛び出し、互いのデバイスがぶつかり合う瞬間だった。

 

突如青い光が溢れ、レイジングハートとバルディッシュが何かに止められた。

それは青いリング状のバインドだった。

 

「ストップだ!」

 

突然の乱入者に唖然とする二人。

 

「ここでの戦闘は危険過ぎる。」

 

現れたのは、黒いコートを着た少年・・・

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! 詳しい事情を聞かせてもらおうか。」

 

黒髪で黒目、小柄だが頼りない雰囲気は出ていない。

銀のラインが入った黒のコートの襟には役職を示す金の紋様。

漆黒のバリアジャケットを身に纏った彼はそう宣言した。

 

 

 

「時空・・・管理局!」

 

クロノと名乗った少年の言葉にユーノがそう言った。

管理世界に基本的に住んでいる彼は彼らが何者かを認識する。

やはり、やっと来てくれたのか! という思いのほうが強い。

 

「先ずは二人とも武器を引くんだ!」

 

二人の武器はバインドで拘束されてはいるが、解析すれば解くことはできる。

そう言う意味で言ったのだが・・・周りの状況を見て一瞬愕然とする。

 

いつの間にか、まわりには桜色の魔力弾が数十個も発生。

金髪の少女の周りを囲んでいた。

 

あの一瞬でこれだけの・・・そう考えながらもクロノは言った。

 

「このまま戦闘行為を続けるなら・・・」

 

しかし、その言葉はなのはによって遮られた。

 

「失礼しますが、時空管理局執務官と言いましたよね?

 一応、何か身分証明になるものを見せてくれませんか。

 さすがに見知らぬ人のいうことを聴く気にはなれません。

 ユーノくんが前にいっていた組織の人とわかったら、ディバインシューターは消すから・・・」

「む、すまない。・・・これが証拠だ。」

 

こんな小さい子なのに対応は大人だな・・・そう思いながら、

クロノは自身のデバイスS2Uから執務官の身分証明証を提示する。

普段ならばバリアジャケットに付いている紋様で証明は十分だが、

彼女は管理外世界の人間だから仕方ないだろうとも思っていた。

それを見てなのははうんうんと納得したように頷き・・・

 

「わかりました。疑ってごめんなさい」

 

そう言ってなのははディバインシューターをすべて解除する。

そして、その時だった。

 

クロノに向けてオレンジ色の魔力弾が降り注ぐ。

とっさに反応し、彼は青色のシールドで弾き返す。

 

「フェイト!撤退するよ、離れて!」

 

新たに魔力弾を精製しながら言うのは狼形態のアルフ。

 

「っ!」

 

その言葉にフェイトはすぐさま反応し、すでに解析できていたバインドを解除。

後ろに向けて高速でバックし、真下の地面に魔力弾をたたきつけた。

それにより発生した爆煙によって、彼女達は姿を消してしまった。

なのははすぐさま魔力散布をするものの反応はなかった・・・

 

「しまったな。君に解除を願うのが早すぎたかな」

「ううん、わたしもちょっと油断してた。バインドって意外と簡単に解けるんだね」

「まぁ、術式を解析すればな・・・さて、改めて管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。

 君達にも自己紹介してもらいたいが・・・先にアースラ・・・管理局の艦へと同行してくれないか?」

「構いませんよ。大丈夫だよね? ユーノくん」

「うん、大丈夫だよ。なのは」

 

ユーノが肯定したので、なのはは改めてクロノに頷く。

それを見たクロノは転移術式を発動する。

 

「・・・それでは二人とも来てくれ・・・」

 

その魔法陣の中に三人は入っていった。

 

 

二人が案内されたのは、アースラ内の一室であった。

 

そして二人が部屋に入って最初に目に入ったのは、盆栽、茶室、ししおどし。

その光景に日本を詳しく知らないユーノはともかく、なのはは反応した。

綺麗な正座を組んで座っているリンディのこともあり、違和感が半端ではなかった。

というか「日本・・・かぶれ?」という気持ちがなのはにはあった。

 

(一体ミッドチルダにはどんな文化が伝えられているんだろう?)

 

「お疲れ様。まあ二人とも、どうぞどうぞ。楽にして?」

 

なのははいろいろと言いたいことがあったものの

とりあえずはユーノとなのは、ふたりとも座る。

 

「どうぞ」

 

差し出される羊羹と緑茶。

 

「あ・・・は、はい。ありがとうございます」

 

二人は素直に受け取り、ちびちびとそれに口をつける。

なのはは、少し失礼だが、正直はやての入れたお茶のほうがおいしいと思っていた。

 

「初めまして。時空管理局巡察艦艦長のリンディ・ハラオウンです」

「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」

 

「高町なのはです」

「ユーノ・スクライアです」

 

自己紹介が終わり、事情聴取が始まった。

ユーノのことはリンディたちは聞いていたので、なのはのことがほとんどだ。

なのはのお願いにより、怪我についてはユーノは語らなかったが、

魔法を手にした切欠はすべて話していた。そしてそれが先ほど終わる。

 

「管理局員としては、民間人が勝手に先行して現地の環境に合わずに失敗。

 あげく現地住民に協力を依頼した・・・という状況自体は本末転倒だとは思うわ。

 だけど・・・なのはさんはもともと魔法が使えた・・・という情報が追加されれば話は別ね。

 ふたりとも本当にありがとう。行動が遅かったことに関しては申し訳ありませんでした」

 

そう言いながらリンディとクロノは頭を下げて、謝罪する。

 

「いえ、わたしはユーノくんに会えたおかげで魔法の力をきちんと使えるようになりましたし、

 町自体に被害は(わたしがしでかしかけたけど)出ていないので大丈夫です」

「僕も変な責任感でいったという自覚があるので、大丈夫です」

 

二人のその言葉にリンディたちは顔を上げる。

そして、ゴホンッとわざとらしく咳きをすると言った。

 

「さて・・・・・・これより、ロストロギア『ジュエルシード』の回収については、

 時空管理局が全権を持ちます。ふたりともそれでよろしいですね?」

 

ちょっとした形式のようにリンディは言う。

もちろんユーノは納得する。これ以上なのはに無茶をさせる必要はないから。

しかし、その当のなのはがそこに口を挟む。

 

「・・・わたしは少し納得できません」

「・・・なぜしょうか?」

「ジュエルシードの危険性はわかっています。それに学校も休みたくないから

 管理局にジュエルシードを任せることは納得できます・・・

 だけど・・・実際に発動している状況でも行動するなと言われるなら

 それに関してはわたしは納得することはできません・・・」

 

なのはにしてみればリンディが言っているのはこういうことだった。

 

ある一定の広さと多種にわたる家具が有る部屋があるとする。

窓もドアもないが、その中で生活をし続けることはできる。

これが今までの地球・・・

 

そこへ外からジュエルシードという時限爆弾が仕掛けられる。

それは部屋中に仕掛けられているという状態なわけだ。

 

時空管理局はそれを解除できる組織・・・なのはいいが、

なのは自身もそれが解除できる・・・何時、爆発するかもわからない爆弾があるなか

解除できる力が有るのに何もしないで平和に暮らしててなんて言われても納得できないのだ。

 

それを察したのか、リンディは言った。

 

「・・・わかりました。もしジュエルシードが捜索中に暴走し、

 思念体となった場合はあなたも介入して構いません。

 立場上は民間協力者としておきますが、あなたの行動がよほどまずい事でない限り

 私たちは口出しはしません・・・これでよろしいですか?」

「・・・はい、構いません。ありがとうございます」

「勝手に決めてしまったけれど・・・構わないわねクロノ執務官?」

「はい、もちろんです。次元干渉に関わる事件です。民間人に介入してもらう話じゃないですから

 しかし、彼女の言いたいこともわかります。自己防衛以外で介入しないのなら・・・」

 

クロノはあくまでも純粋な正義感からそう返した。

それを聞いたリンディはなのはのほうを向いて言う。

 

「とりあえず貴女のデバイスにこちらの端末の番号を送るから。

 連絡をとるときはデバイスを通じてここにかけてちょうだい」

 

そういうと、レイジングハートの中にリンディの連絡先の情報が転送される。

 

「さて、ユーノくんはどうしますか?

 現在あなたの立場は変わらず民間協力者ですが・・・」

「とりあえずはなのはのところにお世話になります。

 ジュエルシードが暴走した場合、早急に対処できますから」

「そう、わかったわ。外まで送るわ。クロノ、お願いね?」

「はい、艦長」

 

リンディは二人にそう言った。だがそれをユーノが遮る。

 

「いえ、まだちょっと話すことがあります・・・」

「何かしら?」

 

そう聞かれたユーノはとなりにいるなのはにアイコンタクトをとる。

その意味がわかったなのはは頷き、ユーノは答えた。

 

「この写真に写ってる本なんですが・・・」

 

そう言ってユーノが自身のデバイスから出したのははやての家にあった鎖の本。

そしてその写真を見た二人は驚愕し、その本に付けられた名を叫んだ。

 

「「闇の書!!!!!???」」

 

「闇の書?」

 

一人だけ蚊帳の外となったなのはがそう全員に向けて聞いた。

ユーノが答えようとしたところで、代わりにクロノが答えた。

 

「ロストロギアの一つだ・・・危険度で言えば正直ジュエルシードを上回る

 ・・・・・・二人とも・・・どこでこれを見つけた?」

 

珍しく仕事と言うよりも、私怨が見えるなにかを感じるような剣幕でクロノは聞いた。

なのははそんな危険なものが関わるならばとはやてについても含めて、

知っていることをクロノとリンディ、二人にすべて話した。

 

「・・・なるほど・・・大方状況は理解できた・・・

 おそらく八神はやての足が不自由なのは闇の書が原因だろう。

 蒐集をしていない主に対して蒐集することを強いているんだ・・・」

「しゅ、蒐集?」

「なのは、それは僕が後で詳しく話すよ。今はどう対応するかを考えよう」

 

ユーノにそう言われ、なのはは取りあえず聞くことをあきらめる。

そしてそれを見届けたクロノは話を切り出した。

 

「今のアースラはジュエルシードの回収が優先だが・・・

 闇の書が地球に有るとなれば、早めに片付けなければならない。

 もしかしたら闇の書に関しては君達にも深く関わってもらうかもしれない

 正直ジュエルシードなんて目じゃないくらい危険な代物なんだ」

「・・・クロノくんたちが仮に反対したとしてもわたしは参加したよ。

 だって親友のはやてちゃんの命がかかってるんだもの!!」

「・・・とりあえず、今はジュエルシードを回収する・・・それが最優先だ。

 その後、本局と話し合って闇の書に対して対策するつもりだ」

 

結局は闇の書に関しては今後しだいということになった。

とりあえずはジュエルシード・・・そちらを優先するとのこと。

なのははその件に関して管理局とは協力はしつつも命令はされる気はない。

 

それよりも親友のことが優先だ・・・

闇の書がどれほどのものかは知らないが、戦力の強化は必要だろう。

 

以前、ユーノが自分に言っていたあれは使えるだろうか、

なのははマルチタスクをフル活用しながら作戦を練っていく。

そして、その間にも忘れないうちになのははしておきたかった話を持ちかける。

 

「リンディさん。関わらないといっておきながらわがままを言います。聞いてくれますか?」

「なんでしょうか? 聞くだけ、聞いておきます」

「・・・近接用のストレージデバイス・・・わたしに作ってくれませんか?」

「近接用のストレージデバイス・・・? あなたは遠距離型では?」

 

リンディの疑問は当然と言えた。先ほどのなのはの戦闘方法は一部過激なところもあるが、

基本的には典型的な遠距離型魔導師の極々模範的な戦い方だったからだ。

そんな彼女が近接用のデバイスをほしがるとは、まさか思ってもいなかった。

 

「・・・わたしの家が剣術を教えてるんです・・・それを生かせるデバイスがほしいんです」

 

そういうとなのははレイジングハートに頼んで、

徹夜で作り上げたデバイスの外部デザインの設計図をだした。

それを少しだけリンディは見た後、納得したように答える。

 

「・・・わかりました・・・闇の書の情報提供のお礼・・・ということで

 私の懐から資金は出します。デバイスは知り合いを通じて作らせますよ」

「ありがとうございます・・・」

 

なのははお礼を言った。これで親友を助けることができると・・・

確証は何もないが、なのはの心は何故か確固たる自信を持っていた。

 

その後、なのはたちは海鳴の地へと帰っていった・・・

本当の戦いは、ここからだ

 

 

 

 

 



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SAGA 13「それぞれの後日」

今回は番外編といってもいい回。
それぞれのあの後を書いてみました。
ちょっと雑に書いた気もしますが・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

 

なのは編

 

アースラから帰宅してから、次の日。

わたしは普通に学校へ言った後、夕方はユーノくんと模擬戦をしていた。

 

やっぱり完全回復したユーノくんは強い。

攻撃魔法は苦手といっていたが、とくいな防御魔法や結界魔法を駆使して

非常にトリッキーな戦法で戦っている。

わたしのディバインシューターは全く効かない上にディバインバスターもバリアに皹を入れる程度だ。

一応、射撃魔法を中心に使う砲撃魔導師と言う立場のわたしにとっては少々ショックだ。

 

でもこんなに強いユーノくんが闇の書の戦いに参加してくれるのだ。

これほど心強いことはないだろう。

 

模擬戦は結局は制限時間内に決着がつかずドローに終わる。

その後はユーノくんは筋トレ。わたしは持ってきた木刀で素振りだ。

あれからお父さんから正式に御神流の使用を認められたが、

リンディさんにデバイスを買ってもらったのだ、きちんと使いこなせなければならない。

 

・・・ただ、ここだけの話。左足の調子が朝から良くない。

異変に気がついたのは朝、起床したときのことだった。

普段通りに早起きし、わたしよりも早く起きている家族に朝の挨拶をし、歯磨きにいくときだった。

 

・・・突然、左足の足首から下が麻痺して動かなくなった。

突然のことに驚いたもののとりあえずは魔法で補って自然を装って歩く。

途中、お兄ちゃんとお父さんに感づかれたものの、とりあえずは誤魔化せたはずだ。

 

そして朝練が終わって学校へ登校した後、状況は悪化した。

今度は左足の膝から下が麻痺して動かなくなった。

学校なので感づく人などアリサちゃんとすずかちゃんくらいしかいない。

二人には取りあえずは大丈夫といっておいたが、多分信じていないだろう。

 

こんな状態で・・・果たしてはやてちゃんを助けられるのか、

そして・・・フェイトちゃんとお話できるのか・・・

わたしにはまだわからない。ただ・・・この足でもわたしは動くつもりだ。

目の前のユーノくんは・・・多分気づいてるだろうなぁ・・・

 

 

 

クロノ編

 

 

あの後僕はなのはたちから聞いた情報を元に管理局に対し連絡を取ろうとした。

しかし、よくよく考えればこれはまずい。

闇の書がもたらした被害は広く深い・・・

被害者やその遺族は一般市民どころか、管理局内にもいる。

かく言う、僕もその一人だ。十一年前に父親を亡くしている。

 

そんな中で闇の書の主のことを考えもなしに伝えればどうなるか・・・

おそらくは闇の書の主の素性。闇の書の性質もわからずに復讐するかもしれない。

管理局執務官として誇りを持っている僕は同じ被害者でもそんなことをしようとは思わないが・・・

 

そして、母さ・・・艦長とも相談した結果は

とりあえず上司であるグレアム提督に報告することだった。

あの人ならば、きっといい判断をしてくれるだろうと言う思いを込めて・・・

 

 

 

グレアム編

 

 

・・・アースラに乗っているリンディとクロノから連絡が来た。

曰く、第97管理外世界で闇の書の主を見つけたと・・・

 

彼らに知られてしまったか・・・最初に話を聞いたときはそう思った。

そしてあの二人にそれが知られると言うことは

計画の一部が完全に崩壊することを意味していた。

 

とりあえずアリアとロッテには報告はしつつも

八神はやての監視は続けるように言っておいた。

 

それにしても知られてしまったとは・・・

可能性があるとすれば本局からの召集に

アリアとロッテを含めて応じなければならなかったときだろう。

あのときは監視がなかった。その時に件の私と同じ地球出身の魔導師と

民間協力者のスクライアの少年が八神はやてと接触してしまった・・・

 

そこまで考えた私はクロノには一部虚偽が有る報告をした。

まず、八神はやてが闇の書の主だと知っていて

親類と偽って資金援助をしていることは話した。

 

ただし、その理由は本来のものとは違い

管理局の余計な手出しを防ぐため・・・だったが。

クロノはどうやら似たような考えをしてこちらに連絡したらしく

この意見には素直に賛同していた。

 

次に話したのは封印の件について、

クロノもリンディも詳細を聴いて反論してきたが、

これに関しては私にも譲れない理由が有る。

しかし、それは年を食った私だから言うことだ。

これ以上の良案はないとは言えないが、確実性を重視すればこれがベターだ。

 

だが、クロノは最後まで足掻くと私の前で宣言した。

管理局執務官として、少女一人の犠牲すら出さない道を探し出すと・・・

ふ、そこら辺は父親に良く似ている。

 

私としても贖罪・・・いや、復讐をしたくないわけではない。

しかし、こんな私でも少しはプライドがあるつもりだ。

 

とりあえずは静観しよう・・・結論はその時になって出しても遅くはない。

 

 

 

フェイト編

 

 

あの白い魔導師・・・確か高町なのはといっただろうか、と戦ってから二日

ジュエルシードは現在6個集まった。ただ管理局が動き始めたのだろう。

あまり魔法を使った大胆な捜索は難しくなっていた。

 

アルフと相談し、報告もかねて母さんのいる時の庭園に戻ろうと思った。

ジュエルシードはあるが、手ぶらでもあまり良くないだろう。

 

私は拠点の近くにある喫茶店に寄っていた。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

茶色い髪をした20代位の女性がそう言った。

どことなくあの高町なのはに似ている。

しまった。あのこの家族か?

 

そう思った私はとりあえずボロが出ないように行動することにした。

飲食店なのでアルフは留守番してもらっている。私一人で何とかするしかない。

 

「あら?一人?」

「はい・・・あの母さんにお土産買って行こうと思いまして・・・」

「あら、そうなの。こんなに小さいのにえらいわねぇ。

 家の子も同じくらいなんだけど、最近の子はすごいわね」

 

家の子・・・ということはやっぱりあの子の家族か?

怪しまれないように注意しよう。もしかしたら管理局員かもしれないから。

 

「それだったらシュークリームはどう?家の評判メニューの一つなんだけど」

「あっ、それじゃあ。そのシュークリームを6個ください」

「ありがとう。・・・・・・はい、どうぞ」

 

シュークリームが入った箱を渡してくれたので、

財布からお金を出して店員さんに渡した。

 

「あと・・・これ、サービスよ」

 

お金を受け取った店員さんから、シュークリームを一つ手渡された。

これは・・・・・・?

 

「ふふ、お母さんのために買ってくれたんでしょ?

 せっかくだから味見してほしいの。代金は取らないから」

「あ・・・あの・・・ありがとうございます」

 

・・・これは感想を言わないといけないよね・・・?

そう思った私はパクリッとそのシュークリームを食べた。

・・・おいしい・・・

 

「・・・おいしい・・・」

「ふふ、そう良かったわ。お母さんにも喜んでもらえるといいわね」

 

確かに母さんに喜んでもらいたいなあ・・・

でも、これを食べてからなんだか胸の奥が暖かい・・・なんでだろう?

 

 

 

 

 

 

 

その後、フェイトとアルフは拠点としているアパートから、時の庭園へと転移する。

転移してきたフェイトとアルフは、時の庭園の中を歩いていた。

フェイトは口では大丈夫だと言ってはいるが、それでもまだ9歳の子供。

痛いものは痛いし、怖いものは怖いのである。

 

前はなのはが勘違いする程度の傷だったが、今回はどうか・・・。

 

アルフは、フェイトに何かあったらただでは済まさない

とばかりに犬歯を剥き出しにして唸っている。

 

そして、重厚な作りの扉の前に二人は立った。

フェイトはとなりにいるアルフに大して言った。

 

「アルフは、ここで待ってて?」

「駄目だよフェイト!私も行くよ!」

 

アルフとしては数日前のあの虐待を見ている。

自分の主をそう簡単にその主犯の元へといかせる気持ちにはなれなかった。

 

「大丈夫だよ、私は平気」

 

と、二人で言い争っているといきなり扉が開く。

現れたのはプレシア・テスタロッサだ。そして彼女は二人が驚くことを言った。

 

「・・・お帰りなさい、フェイト。さあ、こっちへいらっしゃい?アルフもよ」

「あっ・・・はい。母さん」

 

薄い微笑みを浮かべて歩み寄るフェイトと、警戒心剥き出しのアルフ。

そんななか、プレシアは言う・・・。

 

「・・・ジュエルシードは、いくつ手に入ったの?」

「・・・六つ、です」

「そう・・・」

 

それだけ呟くと、椅子から立ち上がってフェイトに近づくプレシア。

アルフが威嚇の声をあげるが、それを無視して歩く。

そしてプレシアはフェイトの前に立つと、右手を伸ばしてフェイトの頭を撫でた。

 

「・・・え?」

 

フェイトは予想外のプレシアの行動にそう言うことしかできなかった。

 

「ありがとう・・・フェイト。こんな短期間でジュエルシードを六つなんて・・・・・・」

「あ・・・・・・」

「わざわざ、お土産を買ってきてくれたのね・・・ありがとう・・・

 一緒に食べましょう?アルフ、あなたも来なさい?」

「う、うん!」

 

目に涙を浮かべながら返事をしたフェイト、

それとは対照的にあまり浮かない表情のアルフ。

ほんの数日前はフェイトに向かってあんな虐待をしていたと言うのに・・・

 

笑顔で手を握り歩く自分の主とその母親を見ながら、アルフは思う。

 

(いくらなんだって、数日でこんなに態度を豹変するのはおかしいよ!

 プレシアに何かあったのかい・・・?あぁ、もう何だって言うんだよ!?)

 

答えの出ないその考えは顔には出さずに、

時の庭園に、久し振りの穏やかな雰囲気を感じるアルフであった。

 

 

 

 

 

 

プレシア編

 

 

・・・どうやら、人形が帰ってきたようね・・・

私はそう思いながら椅子から立ち上がり、扉へと向かう。

 

人形・・・そう言う呼称でもしなければやっていられなかった。

アリシアと同じ見た目、アリシアと同じ声・・・

でも育てているうちに気づく、性格も利き腕も・・・何もかも違う。

なまじアリシアと同じ顔をしていたから耐えられなかった。

 

かつて知り合った最強評議会のもとで研究を行っているあの男の論述を下に完成させた

プロジェクトF.A.T.E.・・・しかし、記憶だけでは蘇生には程遠いのか・・・

 

やはりアルハザードへと行かなければ・・・アリシアとは会えないのか・・・

そんな思いをかみ締めながら、人形とその使い魔に会う。

 

人形のほうは怯えていた。当然だろう数日前にやったことはそう思われるようにやったのだ。

対して使い魔のほうは威嚇をしていた。使い魔というのはどうも主に順し過ぎな気もするわね。

 

まぁ、いいわ。ジュエルシードは何個手に入ったのかしら?

報告では現地の魔導師や管理局が介入し始めたそうだけど。

 

「・・・お帰りなさい、フェイト。さあ、こっちへいらっしゃい?アルフもよ」

「あっ・・・はい。母さん」

 

とりあえずは母親としての演技をする。

人形からその声で母親呼ばわりされるたびにイライラする。

その見た目、声が違うか、もしくはおなかを痛めて産んだ子ならこうは思わないのだろうけど・・・

わたしには時間がないの。人形に構っている暇は本来ならない。

 

「・・・ジュエルシードは、いくつ手に入ったの?」

「・・・六つ、です」

「そう・・・」

 

元々、現地の魔導師が人形より先に回収をしていて、

管理局が介入し始めた・・・。そう考えれば22日でこれだけ集まれば上出来か・・・

ここから先は向こうに任せてもいいだろう。そしてすべて集まったところを奪えば・・・

まぁ、人形にしては良くやった。少しくらいは母親として演技してやらないとね。

 

そして私は「フェイト」の前に立つと、右手を伸ばして彼女の頭を撫でた。

 

「・・・え?」

 

ふふ、予想通り驚いているわね。

あら、その箱はお土産かしら。こういうところはアリシアによく似ている。

まったく・・・どうしてここまで未完成なのか・・・

 

「ありがとう・・・フェイト。こんな短期間でジュエルシードを六つなんて・・・・・・」

「あ・・・・・・」

「わざわざ、お土産を買ってきてくれたのね・・・ありがとう・・・

 一緒に食べましょう?アルフ、あなたも来なさい?」

「う、うん!」

 

とりあえずはアルフを含めてフェイトが買ってきたシュークリームを食べた。

・・・おいしい・・・何時振りかしらね。こんな食事を取ったのは・・・

 

 

 





何気にユーノくんが強い。原作もヴィータ相手に戦えてたけどね。


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SAGA 14「海上の大決戦」

 

 

 

 

あのアースラでの対談から10日経っていた。

現在アースラの隊員が回収したジュエルシードの数は9個。

フェイトたちが何個集めているかはなぞだったが、それでも残りは5,6個だろうと推測していた。

そして、陸では見つからず、これだけの密集度からして海鳴市をそう離れるはずがないとの考えから

海鳴の海を捜索しようとしていた矢先だった。

 

 

 

なのはがジュエルシードのことは気にしつつも闇の書戦に向けて訓練していた。

そしてある時、ジュエルシードの強大な反応を確認した。

力の方角から、おそらく海の上だと確信したなのははユーノとともに

最大戦速で海のほうへと向かった。そしてそこで見たのは・・・

 

波と風と竜巻に今にも飲み込まれそうなフェイトだった。

 

 

 

それは少し前のことだった。

管理局と鉢合わせした段階で、アルフは撤退をフェイトに進言したことがあった。

そもそも、アルフはジュエルシードの回収には反対だった。

プレシアがあんなロストロギアに何を願うか知らないが、

使い魔として主であるフェイトが危険なことをやらせる気は起きない。

 

「フェイト・・・」

 

今、アルフの目の前には、海の中に強力な魔力流を撃ち込んでジュエルシードを強制発動させたフェイトがいる。

地上は管理局員が見つけただろう。それでも管理局員が去らないと言うことは

まだジュエルシードはすべて回収されていないはず。

ならば海の中にもあるだろうだろうと言うフェイトの読みが当たった形になった。

 

しかし、ただでさえ疲労する魔力流の行使に、ジュエルシードの封印を6つ同時に行う。

はっきり言えば無茶を通り越して、無謀だった。

フェイトの魔導師ランクは低くはない。むしろ高いほうだが、

それでもジュエルシード6個なんてフェイトが二人でも居なければ不可能だとアルフは感じていた。

 

フェイトは焦っている・・・疲労がたまっている。

しかしそれでもあきらめたくないと言う気持ちが、精神リンクを通じて感じられた。

だからアルフはこれ以上文句はフェイトには言わない。ただ言うことはある。

 

「頑張れ、フェイト!」

 

その応援がフェイトの耳に届いたとき、アルフは目にした。

6つ分のジュエルシードの魔力の波に押されていたフェイトが、少しだけそれを押し返した。

まるでアルフの声に応えるように、尽きかけている魔力を絞り出して。

気のせいかもしれない。自分の妄想かもしれない。それでもアルフは嬉しかった。

 

「・・・あれは!」

 

その時、空に視界の端にいくつかの魔法陣が展開されるのをアルフは見つけた。

それを行使している人物を見て、アルフはどこか安心感を覚えていた。

しかし、邪魔をするなら容赦はしない。そう思いながらアルフは彼女達に突撃して言った。

 

 

 

(まずい・・・魔力がもうない・・・!)

 

降り注ぐ雷と荒れ狂う高波を必死にかわしながら、

魔力を制御しつつフェイトはそう考える。

 

(どうやってジュエルシードの封印を・・・くっ!こうしている間にも魔力が・・・!)

 

考えながら魔法を放ちつづけ、それでも妙案は出ず、悪戯に魔力を消費し続ける。

それは完全なる悪循環だ。利益にまったくなってはいない。

先ほどのアルフノ応援で持ち直したものの『-』が『0』になっただけ。

こうして今もそれを続けていればまたマイナスにもどってしまうのはある意味で当然だった。

もはや気力でどうにかなる問題を大きく越えていたのだ。

それでもフェイトは諦めない。母の為に、温かな生活の為に。

 

(・・・っ!?)

 

そんなフェイトがその時感知した、強大な魔力。何日か前に知った、白い女の子の魔力。

 

刹那、黒い雲を桜色の光が切り裂く。

そしてそれは雲だけでなく空中へと立ち上る水の竜巻すら粉砕する。

 

現れたのは、足に桃色の羽を生やした白い魔導師だ。

まるで天使のように・・・しかし顔の傷跡がどことなく恐怖を感じさせる。

 

その顔は自信に満ち溢れていて、どこか見下しているような気もしてしまう。

実際のところはフェイトたちのことが心配で、その原因である竜巻をにらんでいただけなのだが・・・

 

「フェイトの邪魔を、するなぁぁぁぁ!」

 

ジュエルシードが起こした雷の拘束を力付くで破り、なのはへと飛び掛かるアルフ。

しかし、それは緑色をしたユーノの防壁に阻まれた。

 

「違う、僕達は戦いに来たんじゃない!」

「とりあえず、まずはジュエルシードの封印が先決だよ。このままだとまずいことになる」

 

ユーノに続けて、レイジングハートをカノンモードにしたなのはが言う。

 

「だから今は、封印のサポートを!」

 

そういってユーノが打ち出した、緑色のチェーンは竜巻へと巻き付き、動きを制限する。

ユーノに攻撃魔法はないといってもいいが、こういう補助は大得意だ。

 

「フェイトちゃん!」

 

その間になのははフェイトへと近づく。

そしてフェイトの腕を握り言った。

 

「二人・・・二人で一緒に、あれを止めよう?」

 

なのははそう言いながらディバイドエナジーを使用する。

ディバイドエナジーは数少ない自身の魔力を相手に渡す魔法だ。

なのはとフェイトの残り魔力がお互いに同じ量となる。

こんなことをしたなのはに対しフェイトは驚きながら彼女を見据える。

なのははそんなフェイトを見て口元を上げていった。

 

「そっちとこっちで半分こ!いいよね?」

 

一方ユーノの方では、竜巻が更に抵抗を増す。

必死で押し止めるユーノだが、気を抜くと吹き飛ばされてしまいそうになる。

ユーノといえどもジュエルシード6個分の魔力量はきつかった。

 

「・・・!!」

 

その時に横から伸びる燈色の鎖。

狼形態のアルフが、ユーノと同じくチェーンバインドで

竜巻の抵抗を押し止めてくれた。アルフはユーノをチラッと見ながら頷いた。

 

「ユーノ君とアルフさんが止めてくれてる!だから、今のうち!」

《Canon mode》

 

なのはのデバイスがイルカヘッドをした白い姿へ変形する。

そのまま雷を避けつつ、空中に魔法陣を展開して飛び乗る。

 

《Seeling form set up》

 

動かない主に代わり、バルディッシュがフォームを移行する。

 

「バルディッシュ・・・」

 

寡黙なるデバイスは喋らない。

しかしそのコアの輝きはすべてを語る・・・

その思いはただ主のために・・・

 

「ディバインバスター、フルパワー。もちろん・・・行けるね?」

《All right my master》

 

レイジングハートを構えるなのは。足元の魔法陣が巨大化する。

 

フェイトも魔法陣を展開し、バルディッシュを上に向ける。

 

なのはのデバイスの周りに発生する、幾条もの環状魔法陣。

脈打つ桜色の鼓動はやがて一筋の光となる。

そしてフェイトの魔法陣からは雷撃が迸った。

 

「せー・・・」

「の!」

 

合図とともに二人の一撃は・・・放たれる!

 

「サンダー・・・」

 

「ディバイーン・・・」

 

二人の魔力が一気に増幅する。  そして・・・

 

「レイジーッッッ!」

「バスタァアアーッッッ!」

 

金色の雷光、桜色の砲撃。

絡まるように放たれたそれはジュエルシードの竜巻に同時に炸裂した。

その威力はジュエルシードの思念体を粉砕し、海水を貫き、大地を露出させる。

 

こうして6つのジュエルシードは、封印された。

二つの魔法により、巻き上げられた海水が雨のように降り注ぐ。

事態は、終息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとフェイトの目の前には青く輝く、六個のジュエルシード。

二人で封印したロストロギア・・・それを眺めていたなのはが切り出す。

 

「それじゃあ、さっき言った通り、フェイトちゃん」

 

なのははそう言いながら、ジュエルシードを三つ掴んで投げつける。

そしてジュエルシード三個がフェイトに渡される。

 

『・・・なのはさん?どうしてジュエルシードを渡したんですか?』

 

突然モニターで現れたリンディ提督になのはは冷静に答えた。

 

「約束は約束だからね。それに後で取り返せば問題はないでしょう

 すでに何個か取られちゃってますから・・・】

『それはそうですが・・・』

 

リンディはそうは言いつつも納得はしにくい。

いくらなのはは便宜上関係ないとは言え、書類上は民間協力者なのだ。

しかし、そうは思いつつもなのはの断固たる覚悟の有る眼を見てとりあえずは保留としておいた。

確かにすでに何個か取られている以上、3つを約束のもと渡すことに突っ込んでいても仕方ないだろう。

時空管理局としてはあまり納得したくはなかったが・・・

 

そしてなのははすでにその話題は頭になかった。

正直言ってそこは自分とは関係ないと思っていた。

この後フェイトから管理局が目の前で取り返そうとしても文句は言う気はない。

まあ、空気を読めと言いたい気持ちも有るが・・・

 

なのはは感じていたのだ。目の前の少女は自分と似ていると・・・

何かを糧に、何かを主軸に・・・それが捥がれるとなにもできない存在。

目の前の少女からは、どこかそんな感じがしていた。

ジュエルシードについて知るたびに思っていた。

目の前の彼女がこんなものを自分の利益のために回収するようなものではないと・・・

もしかしたら、誰かから頼まれたのかもしれない・・・

なのははアースラでの対談から、ずっと考えていたのだ。

 

だから、なのはは彼女にこういいたかったのだ。

 

「・・・・・・友達に、なりたいんだ。フェイトちゃんのことをもっと知りたいんだ」

 

唐突になのはの口からはその言葉が漏れた。嘘偽りのない言葉。

たとえ初めての出会いが戦いだったとしても・・・きっとわかりあえる。

フェイトの目がその言葉に見開かれる。

 

「だから、お話・・・しよう・・・?」

 

ジュエルシードが作り上げた雲はやはりすぐに晴れて行き、

輝く光がその場にいる二人を照らしていた。

 

 

 

嵐が収まりようやく中の様子を確認できるようになったアースラ。

封印した六個のジュエルシードと、その場にいる全員が映し出される。

 

しかし・・・そのとき・・・事は起きる。

 

「っ!次元干渉!?」

 

休む隙もなく唐突にアラートが艦内に鳴り響く。

 

「別次元から、本艦および戦闘区域に魔力攻撃来ます!あ、あと六秒!?」

「え!?」

 

別次元から、紫色の雷が襲い掛かる。それは的確にアースラへと向かう。

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

ショック体制をとる隙もなく、アースラに直撃する。

そしてそれは、なのは達のいる海域にも降り注いだ。

 

「・・・ぁ、母さん?」

 

フェイトがぽつりと呟く。そこにピンポイントで降り注ぐ雷。

フェイトはいきなりだったこととその魔力の主が誰か理解したせいで全く動けない。

直撃する・・・そう思っていたときだった。

 

「ぐっ・・・あぁああああああああああ!!!!!」

 

そこに割り込んだのはなのははだった。

持ちうる限りの魔力を込めた広域フィールドを作り、自身とフェイトを守る。

魔法で誰かが傷つくところなんて見たくない。

そういう思いが、彼女のその行動をさせる切欠だった。

 

だが次第にシールドは破られていく。

入った皹から魔力のエネルギーが漏れていき、

なのはの首筋、左足に直撃していく。

 

「アルフさんっ!フェイトちゃんを早くっ!」

「言われなくても!」

 

アルフが人型へと戻り、呆然としたままのフェイトを抱き抱え、

ジュエルシード三つを持ち去っていった。

 

何とか耐えきったなのははシールドを解除する。額には汗が滲んでいた・・・。

 

「なのは!大丈夫!? 今治療するから!」

 

慌てて飛んできたユーノがそう言って治癒魔法をかける中、

なのははユーノに向けて笑顔を向ける。

心配させないためと自分が大丈夫だと教えるために・・・

それを見て安心したのか、ユーノはほっと息をつきながら治療を続ける。

そんななかなのはは結界が解けていく空を見上げながら言った。

 

「どうやら、お話できるのはまた今度になっちゃいそうだね・・・・・・」

 

見上げた空にはきらめく星々が何かを示すように輝いていた・・・

 

 

 

 



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SAGA 15「決戦前夜」

 

 

 

 

なのはたちはとりあえずアースラのブリッジに来た。

先ほどの攻撃・・・そしてなのはが感じていたことを、もっと確固たる物にしたかったからだ。

 

中に入るとまず出会ったのはリンディとクロノだったが、

となりで椅子に座っている人は初めてみる・・・となのはは思った。

そんなことを思っていたその時に、その女性から直接挨拶をされる。

 

「私は始めましてだね。アースラ通信主任のエイミィ・リミエッタです」

「初めまして高町なのはです」

「ユーノ・スクライアです」

 

とりあえずは初めて会ったので挨拶し返した。

 

「さて、問題はこれからね。クロノ執務官。

 さきほどの魔力パターン・・・そして魔力光・・・」

「恐らく艦長の考えている通りだと思います。エイミィ、モニターに」

「はいはーい」

 

エイミィがキーボードを操作すると画面が表示され、黒髪をした女性が現れた。

 

「大方予想通りかしら。前に資料を見ていたから・・・」

「はい。僕らと同じミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ。

 専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師でありながら、

 違法研究の事故によって、放逐された人物です」

「登録データと先の攻撃の魔力反応が一致しています。

 なおあのときの反応から・・・フェイトは・・・」

「あの時は母さんって呼んでいたね」

「親子・・・ね・・・」

 

リンディがそう呟いたときになのはは思い出していた。

(あの時フェイトちゃんは怯えていた・・・)

もしも・・・もしもだけど自分が同じ目にあっていたら・・・となのはは考えた。

 

あの歳頃の女の子の反応なら、母親からの攻撃は普通は驚く。

勿論、驚きの感情も少なからずあったのだろうけど。

しかし、恐怖の感情が強かったようになのはは思えた。

 

そしてプレシア・テスタロッサの詳細データを見直したなのはは気づいた。

 

「・・・59歳で・・・フェイトちゃんの母親って・・・なんだかおかしくないですか?」

 

できれば考えていることが当たってほしくはないが、なのはは疑問に思ったことを言った。

そのことを聴いたリンディはすぐさまエイミィに命令する。

 

「エイミィ! プレシア女史について、もう少し詳しいデータを出せる?

 放逐後の足取り、家族関係、その他何でも」

「はい。すぐ探します」

 

といって忙しく指を動かす。

程なくして、エイミィの説明が始まる。

26年前の「ヒュウドラ」の事件。その後の顛末。

かつて実際に起きた悲しい事件の惨劇の様子が思い浮かんでくるようだった。

 

「家族との、行方不明になるまでの行動は?」

「その辺のデータは、綺麗さっぱり抹消されちゃってますね。

 今、本局に問い合わせて調べてもらっていますので・・・」

 

事件の事はともかく、家族関係のデータが消えているというのは

やっぱり・・・・・・・・・となのはは感じた。どうやら予想が当たっていそうで怖かった。

 

「時間はどれくらい?」

「一両日中には」

「そう・・・、とりあえずプレシア女史もフェイトさんも、

 あれだけの魔力を放出した直後ではそうそう動きも取れないでしょう。

 また、こちらとしてもシステムの復旧や足取りを追うことに

 時間を割かなければいけないし・・・やることは山ほど有るわね・・・」

 

リンディは顎に手を置きながら、事態の複雑さに頭を悩ませる。

 

「あの、わたしたちはこの後どうすればいいですか?」

「とりあえずは帰宅して結構よ。民間協力者という立場だから

 アースラの問題に対してあなたたちができることは少ないわ」

「そうですか、わかりました。行こうユーノくん」

「うん、わかった。それではリンディさん。また」

「えぇ、あっでもちょっと待って」

 

そう言って帰ろうとしたなのはたちをリンディは止める。

何事かとなのはが振り向くとリンディが手に何かを持っていた。

それはレイジングハートを青くしたような蒼い宝玉だった

 

「前に頼んでいたでしょう。二日前に完成していたの。

 闇の書戦のときにわたそうかとも思ったけど。今渡すわね」

「ありがとうございます」

 

なのははそう言うとその蒼い宝玉を受け取った。

 

「フレームもちゃんと出来てるわ。後は名前つけてあげてね」

「ありがとうございます。実はもう決めているんです・・・」

 

そういうとなのはは目を瞑ってデバイスを起動させる。

そのデバイスにつけた名は・・・。

 

ブレイズハート(Blades Heart)起動!」

 

なのはが起動を唱えると、蒼い宝玉が消え、代わりに両手に1振りずつの小太刀が現れた。

片方はもう片方の4分の3ほどの長さだ。それと同時に腰の左に二つの鞘も現れる。

 

刀身と鞘と柄の色はすべて白。反りはほんのわずかだ。

(つば)の部分がコアになっている。蒼く輝く平たい円形だ。

 

そして刃の部分には柄から沿って淡い水色のラインがあった。

これに薄く魔力刃を纏わせれば非殺傷、纏わせないで純粋魔力を込めれば殺傷設定となる。

もちろん魔力刃を纏わせたままでも物理的な破壊をしようと思えば可能である。

 

「ブレイズハート(Blaze Heart)? ・・・炎の心かしら?」

「そちらのブレイズじゃなくてブレードの複数形の方です」

 

なのはは意外と拘っていた名前の由来から訂正する。

 

「ああなるほど、二刀流だからね」

 

リンディはリンディでその由来に納得した。

そんな会話をした後、なのはたちは転移魔法を使い海鳴へと帰っていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

時の庭園に、海上で貰ったジュエルシードを合わせた計3個のジュエルシードを持ってきた。

そんなフェイトに対して、やはりプレシアは労った。

 

前回の態度を見れば、確かにおかしくは無い。前回も優しい母親だったからだ。

そうされているフェイトはとても笑顔で、それを見ている限りは心が晴れやかだ。

 

しかし、それではあまりにも不自然だ。

あたし達がこの世界に来る前のプレシアは、本当に親とも言えないようなそれは酷い人間だった。

それこそフェイトを物みたいに扱うぐらいに。

 

だから。

 

フェイトが自分の部屋に戻って、寝静まる。

それを見計らって、私はプレシアの部屋へと忍び込んだ。

 

プレシアの部屋の奥の部屋に、あいつは佇んでいた。

 

「たった9つ…これでも次元震は起こせるけど、

 ・・・あの使えないお人形・・・褒めれば回収速度が上がるかと思ったけれど・・・」

 

・・・今、あいつは何て言った?

予想はしていたけれど、勘違いで居てほしかった。気のせいでいてほしかった。

しかし、次にあいつから語られた言葉がそんな考えを吹き飛ばす。

 

「もうあまり時間が無いわ、私には時間が・・・

 ふう、自分で行ったほうが良かったかしら?

 あんな使えない人形よりも早く回収できたでしょうに」

 

その声が聞こえた瞬間、あたしは物影から一気に飛び出した。

 

「うぁぁぁぁぁぁっ!」

 

一気にあいつの胸倉を掴みあげる。

 

「やっぱりそんな考えを持ってたのか!?

 あんたは母親で!あの娘はあんたの娘だろ!

 あんなに頑張ってる子に嘘までついて!

 あの娘に何も思わないのかよ!」

 

そこであたしは気づいた。

プレシアの手が私の腹に添えられていることを

目の前から途方もない魔力を感じ、そこに衝撃が走る。

 

「っ・・・ぁ!」

 

体に力が入らない。声が出ない。

足が震え、口の中に酸っぱいものが混じりはじめた。

顔を上げると、そこにはプレシアが無表情でいた。

 

「あの子は使い魔の作り方が下手ね・・・余分な感情が多すぎる」

「あの娘は…あんたのために必死で・・・っく!」

 

「作業の邪魔よ・・・消えなさい!」

「っ!」

 

咄嗟に転移術式を発動させる。

攻撃が当たる寸前に私はランダム転移をした。

 

ギリギリだったけど、何とか逃げられた。

ごめんフェイト・・・!少しだけ待ってて・・・!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

その日アリサはリムジンに乗ってピアノの稽古から帰っている所だった。

すると携帯電話が震え、メールの着信を告げた。それは親友からのメールだった。

 

(相談・・・? もしかしてあのことかな。やっと相談してくれるんだ・・)

 

アリサは少し顔をほころばせた。

最近その親友は猛烈に疲労したり、上の空になったりと忙しかった。

大丈夫だよ?とか訓練してるからとは言っていたが、どうにも信用おけなくて

なのはと喧嘩した。すぐに仲直りになったもののいずれ話すということになったのだ。

 

「アリサお嬢様、何かいいことでもおありでしたか?」

 

リムジンのドライバー鮫島がそう言った。

 

「まあね、・・・ん? 鮫島! ちょっと止めて」

 

アリサが何となく外を見ていると、気になることがあったのか、

鮫島に命じると、リムジンは素早く車体を脇に寄せ停車した。

そしてアリサは車を降り、その対象を見る。

そこには血にまみれて横たわっている動物がいた。

 

(やっぱり、大型犬。でもオレンジの毛におでこに宝石があるわね。

 ただの犬ってわけじゃないわよね・・・・・・)

 

アリサはその犬・・・もとい狼・・・のアルフに話しかけようとしたが、

アルフはそこで力尽き、眠ってしまった。

 

「かなり怪我がひどいようですな」

「でもまだ生きてる。鮫島!」

「承知しております、アリサお嬢様」

 

アルフを鮫島がリムジンに運び込み、アリサも後部座席に再び乗り込んだ。

 

「鮫島。超特急よ!」

「はい。久しぶりに腕がなりますなあ!」

 

アルフを治療してもらったあとアリサたちは家へと連れて行った。

家に帰った後、アリサはアルフの世話をした。

 

その後、なのはとすずかに状況を報告してきた。

するとなのはがアルフだということに気づき、家に来ていいかと聞いてきた。

アリサは特別断る理由がないこと、わずかだがそのときのなのはの声に違和感を感じたため、

すずかとなのはを明日家に来るように誘ったのだった。

 

翌日の学校が終わってアリサの家。

なのははすずかと一緒に遊びに来ている。

ユーノは今日はフェレットモードだ。

ついでにアースラに連絡を入れて、通信できるようにしてあった。

 

【アルフさん・・・】

【あんたか】

 

なのはとアルフは念話を使い話す。

 

【とりあえず、何があったの?】

 

なのはが聞いた。そこでユーノが提案する。

 

【なのは、ここは僕が聞いておくよ。久しぶりなんだから、一緒にみんなと楽しんできて】

【そう? じゃあ頼めるかな?】

【うん、まかせて】

 

なのはは頷きながら【よろしくね】と言った後、今度はアルフに向かって言う。

 

【じゃあ、アルフさん。ここはユーノくんに任せるけど、

 困ったことがあるのなら、わたしがきっと力になるよ】

【わたし"達"がでしょ?】

【うん、そうだね。頼んだよユーノくん】

 

なのははそう言ってアリサとすずかと一緒にアリサの家に上がった。

そして、部屋に行き、アリサ達と遊んでいる間にもアルフからの念話が流れてくる。

結局、あの場に残らなくてもあまり変わりはなかったわけだ。

 

そんなことを考えていると、アリサがなのはに向かって爆弾発言をする。

 

「・・・ねぇ、なのは。そろそろ全部話してくれないかしら?」

「・・・まぁ、相談するといったからね・・・でも今?」

「・・・額に宝石をつけたわたしの知らない犬のことを知っていて、

 フェレットのユーノを平気に家の外に置き去りにした・・・。

 前から思っていたんだけど、いい加減秘密があるなら話してほしいの

 というより相談してくれるといったんだから、今日でもいいでしょ?」

「・・・はぁ・・・わかったよ。まぁあのメールを送ったから、話すつもりだったけどね」

 

言い始める前にさすがになのははため息を吐いた。

そしてなのはは二人にすべてを話した。内容は家族にしたのとほぼ同じだった。

 

「・・・やっぱりあの人間のユーノとフェレットのユーノ、関係があったのね。

 さすがに魔法でフェレットになっていた同一人物だとは思わなかったけど・・・

 というかなのはのあの大怪我、魔法が原因だったの!?」

「秘密にしててごめんね。なんだかあまり魔法について話しちゃいけないみたいだったから

 それに・・・あの怪我はトラウマなんだよ・・・自分が情けなくなってくるから」

 

そう、あの怪我は自分の唯一の汚点であり、絶対に忘れてはいけないこと。

力に対する責任を持たずに無邪気に振り回していた自分への戒めだ。

 

「大丈夫だよ。ちゃんとなのはちゃんが今話してくれてるし、

 それに・・・今は魔法・・・ちゃんと使いこなせてるんでしょ」

「まあね。それは保障しておくよ」

 

そう言う会話はしつつもマルチタスクを駆使して、向こうの会話にも参加する。

内容は、まずアルフがフェイトとプレシアのことを説明し、

プレシアにフェイトは逆らえなかったというフェイトのロストロギア強奪についての擁護。

そして最後にフェイトの保護を頼みたいと、アルフは言った。

 

アースラからのモニター通信でクロノやリンディもそれを聞き、

それならばフェイトには情状酌量の余地は十分にあるとアルフに説明し、保護を承諾した。

 

【なのは・・・だったね、今まで散々なことをして、頼めた義理じゃないけど・・・

 でも頼めるかい? フェイトは今本当に一人ぼっちなんだよ】

【うん、任せて。言っていた通りフェイトちゃんは私がなんとかする】

【僕ももちろん手伝うよ】

【あんたもありがとう】

 

アリサの家からの帰り際。なのはが明日行くことを伝えた。

お互いにジュエルシードをかけたフェイトとの最終決戦。

さすがに町に被害は出せないのでアースラに協力することにしたのだ。

するとすずかが寂しそうに、言ってきた。

 

「そっか、また明日行かなくちゃ行けないんだ」

「うん、でも今回は多分すぐだよ」

 

事は1日で済むはずだ。だがその1日は長くて壮絶な1日になるだろう。

お互いのすべてを出し切る文字通りの死闘だ。

 

「そう、大変みたいだけど・・・頑張りなさいよねっ!」

「そうだね、もうひと踏ん張りだよ!」

「うん! また行ってくるよ」

 

そんな会話を繰り広げながら、となのはは家へと帰った。

 

家に帰ったなのははふと思い。

久々にしまってあったあの数学の本を読んだ。

 

内容はもう完璧に理解しているけれど・・・

この本はわたしに勇気を与えてくれる・・・

だからわたしはこの本を読み進めていった。

明日の・・・決戦のために・・・

 

 

 




あの本の役割は素数と同じなのです。

「落ち着け・・・ 心を平静にして考えるんだ・・・こんな時どうするか・・・
2… 3 5… 7… 落ち着くんだ…『あの本』を読んで落ち着くんだ・・・
『あの本』はわたしに勇気を与えてくれる」


なのは曰く

「自然数全体に関する和」と「素数全体に関する積」が等しくなるというオイラーの等式を見入ると落ち着くらしい。

1/1^n + 1/2^n + 1/3^n + ・・・ = 1/(1-2^-n) * 1/(1-3^-n) * 1/(1-5^-n) * 1/(1-7^-n) * ・・・

作者?作者はギヴァーよりもソルヴァーですが、
素数を数えても数式を見ても落ち着けません。
俳句を見たら落ち着けるかなw


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SAGA 16「そして戦いの時は来たる」

決戦当日です。まだ決戦にはなっていませんが・・・
次回の戦闘シーン・・・パル転のそのまんま使いまわしにならない様に頑張りたいですね

それではどうぞ!!


 

 

 

 

さて現在なのはたちはアースラにいた。

 

今は作戦会議中である。アースラ内の会議室の縦に長いテーブルに、

なのは、ユーノ、リンディ、クロノ、エイミィ、そしてアルフが座っている。

なのはたちが居るのは二人が今回参加させてもらうように進言したからだ。

 

そして何の作戦会議と言われればそれは無論、

フェイトとプレシアへのアプローチの仕方についてだ。

 

「それでフェイト・テスタロッサの保護と

 プレシア・テスタロッサを逮捕するにはどうするかだが、皆何か案はあるか?」

 

クロノがその長いテーブルに手を置きながらそう言う。

彼としては大魔導師相手に並の作戦は通用しないと考えていた。

キーボードを操作しながらエイミィが考えを述べる。

 

「難しいね。ジュエルシードはもう全部回収されてるから

 フェイトちゃんはもう出て来ないんじゃないかなー?」

「そうかもしれないわね。でもアルフさん、プレシア女史としては、

 ジュエルシードが9個というのは十分な数なのですか?」

 

手元を顔の顎に持って行きながらリンディがアルフに問う。

もしも足りないのならばそこに付け入る隙があると考えていた。

 

「いや、足りてないだろうねぇ。あたしたちは全部持って来いってあの人には言われてたよ。

 まあ21個全部とは言わないまでも、かなりの数が必要なのは間違いないだろうねぇ」

 

アルフはもう完全にこちらに協力するつもりのようで、必要なことは何でも答えてくれた。

この行為も、一応は立場上向こう側であるアルフが協力すればするほど、

フェイトが保護された後に罪が軽くなる可能性が高いから、と説明されたのが理由のようだ。

その方が裁判で有利になるからというのもある。

 

そこでユーノが確認の意味を込めてアルフに顔を向けながら聞く。

 

「そもそも、アルフはプレシアの居場所を知ってるんじゃないの?」

「ああ、あたしが知ってる位置にはもうなかったよ・・・。

 時の庭園は次元を移動することができる。あたしを追い出したんだから、

 それくらいの事は絶対当然するさ」

「じゃあ、やっぱりジュエルシードを囮にするしかないんじゃないのかな」

 

頭をフル回転したが、結局はこれしかないと考えたなのはが提案した。

昨日からずっと覚悟していたのだ。全員の要望をかなえられる策はこれだけだと。

 

「具体的には?」

「そうですね・・・要はジュエルシードを賭けて私とフェイトちゃんが決闘する。

 今、フェイトちゃんの行方は・・・・・・アルフさん、わかる?」

「いいや、どういうわけか、連絡はつかない。

 多分あいつにあたしはもういなくなったとか、

 連絡を取るなとか、吹き込まれたんだろうね」

 

アルフは苦々しい表情で舌打ちまじりに答えた。

本来、使い魔とその主との間には精神リンクが存在するが、今は非常にあいまいになっていた。

ただ魔力供給自体は止められていないので、存在を維持する分には問題はない。

 

「そっか、じゃあこうしよう。

 アースラからここら辺に無差別にジュエルシードを賭けて戦う旨の・・・

 簡単に言えば〝果たし状〟みたいなもの。

 

 ・・・それをばらまいてフェイトちゃんをおびき寄せるの。

 

 もちろん場所はこっちで指定しておいて、その場に網を張って待ち構えていれば、

 次元魔法とかを使ってきた時にプレシアさんの居場所も分かるでしょ?」

 

そこにユーノが口を挟む。

なのはの作戦にはいろいろと粗があるように感じられたからだ。

 

「は、果し状って・・・・・・、なのは。

 それにしたって位置の指定はさすがに露骨すぎるんじゃないかな?

 罠が張ってあるのはバレバレだし、プレシアも危険すぎて手を引くんじゃないかな?

 

 それでフェイトが指定した場所に現われなかったら・・・

 多分その後、クロノ達の捜査は大変なものになるよ?」

「その点は多分大丈夫。フェイトちゃんは絶対に現われるよ」

 

その発言を聞いてなのはがそう言った。

多分大丈夫なのは捜査のこと。絶対なのはフェイトが現れることだ。

 

「どうして?」

 

ユーノの問いに、なのははクロノやリンディの顔色をうかがう。

2人とも口を挟まず静観しているが、なのはの意見に賛成していることが雰囲気で分かる。

なのははそう思いつつ、人差し指をピンッと立てて話し始める。

 

「根拠を簡単に説明するね。

 プレシアさんはもう逃げることを放棄してるとしか思えないんだよ。

 

 普通なら管理局が現われた時点で慌てて逃げ出すのがプレシアさんの選択肢としては妥当でしょ?

 

 わたし達の世界観で言えばお金を盗もうとしている犯人が、

 警察が来たのに逃げないでまだお金を奪おうとしているようなものかな。

 

 むしろ、本来ならそこが本来の引き際でしょ? 茶にも程が有るし、分が悪すぎるもん。 

 自分達より総力が強い相手にジュエルシードの争奪戦を挑もうなんて普通考えないよ。

 管理局に捕まる可能性も高いしね。

 

 でも、プレシアさんはフェイトちゃん達にジュエルシードを集めさせ続けたでしょ?

 

 そうせざるを得ない理由がジュエルシードか、

 もしくはプレシアさん自身にあったって考えられないかな?」

 

「ふぅん、そう言えば、あの人はずいぶんとジュエルシードにご執心だったみたいだねぇ。

 フェイトからの又聞きだけど、今まで集めさせられた魔力を含んでるロストロギアよりも

 数段純度が高いって言ってたみたいだよ。それに願いが叶うって言う伝承付きだしね」

 

アルフはそう言うが、クロノはそれに賛成の意は示しつつも意見する。

 

「まあなんにしても、プレシアが誘いに乗ってフェイトを行かせるという予測は僕も正しいと思う。

 しかし方法は大胆だな・・・。それは賭けだぞ。もし負けたらどうするんだ?」

 

「そうだね、わたしが負けたら、ジュエルシードはフェイトちゃんに奪われる事になると思う。

 そうなったらクロノくんが疲労したフェイトちゃんを捕まえるか、

 転移するのを追うかとかすればいいと思うよ。

 

 まあ、でも・・・」

 

そういうとなのははブレイズハートを起動させて上に掲げて言う。

それは決意の表れ、覚悟の表れ・・・

 

「そもそも負ける気はないよ。わたしには負けられない理由が有る」

「まあやってみる価値はあるか・・・。

 最低でもフェイトをプレシアから引き離せる。艦長はどう思いますか?」

 

クロノはなのはのその行動を見た後、顎に手を当て考える素振りを見せる

一瞬考え込んだ後、彼は肯定の意を示しリンディに問いかけた。

 

「そうね・・・。やってみてもいいと思うわ。

 でも危険よ、なのはさん。また次元跳躍で攻撃されるかもしれないわ。

 前はフェイトさんを狙ったようですけど、今度はあなたを狙ってくるかもしれないのよ?」

「頑張って避けますけど・・・策はあります。最悪でも魔力シールドで防ぎきりますから」

 

なのはの決意がこもった瞳を見て、少し時間を置いた後リンディは納得する。

 

「・・・そうですか。分かりました。次元攻撃にはアースラからも十分に警戒し、

 分かり次第念話で報告しましょう。多少は対処しやすくなるように・・・。

 エイミィ、そこら辺はよろしくね」

「了解です!」

「決まりだな。場所はどうする? 君の戦いやすい場所で構わない」

 

クロノの言葉になのははふと思い立った場所を候補に挙げた。

 

「じゃあ臨海公園なんてどうかな。

 海沿いのところだから、ここにすれば海でも市街地でもOKだから

 かなり幅広い戦略が使えると思う。というか水の上が一番いいかな」

「じゃあ、決まりっと。

 ああそれと、戦うときは広域結界を2重に張って

 訓練用建造物を設置するからいくら壊しても大丈夫だよ、思う存分やってね」

「結界ごと破壊してくれるなよ。まあ、さすがにあり得ないか・・・・・・」

 

本人は冗談のつもりで言ったクロノの言葉。

それに対してなのはは笑みを浮かべると真実を答えた。

 

「結界ごと破壊は一応可能だけど?フルチャージなら」

「じょ、冗談のつもりだったんだが、まあいい、じゃあ早速準備に取り掛かろう」

 

クロノは冷や汗をかきながらそう言うが、

なのははそれを無視しし、思い出したようにクロノに聴く。

 

「そういえば、プレシアさんの家族関係はわかったんですか?」

「あぁ、それなんだが・・・本当に聴くか?戦いの前に」

「内容によっては戦う前にフェイトちゃんに聞きたいし、聴きますよ」

「なら、話しておくか、エイミィ!」

「りょーかい!」

 

そして・・・話された内容は、なのはにとっては予想通りでありある意味で最悪の内容だった。

 

 

 

 

 

 

その日のうちに地球に来ていたフェイトのデバイスにあるデータが届いた。

それはランダムに送られてきたもので、差出先はわからなかったが・・・

 

「え? は、果たし状・・・? えっと・・・

 

 フェイト・テスタロッサに告げる。

 ジュエルシードを賭けて一対一で戦おう。

 勝者はすべてのジュエルシードを手に入れる。

 ジュエルシード持参の下、今日PM6:00に指定座標まで来られたし。

 

 高町なのは。

 

 高町なのはって・・・誰だったっけ・・・?どこかで聴いたことが・・・

 アルフは知ってる?」

 

何気なく尋ねて、アルフがいないことを思い出した。

 

「もしかしてあの子かな? うんそうだ。確かに高町なのはって言っていた」

(それなら・・・母さんに相談しないと)

 

手持ちのジュエルシード全てとなると、

1人で決めていい規模の話ではなかったというのもあるが、

そもそもフェイトはジュエルシードをプレシアに預けたままだったというのもある。

 

魔法を使い連絡を取る。そうすると、魔法陣の中にプレシアが映し出された。

 

『フェイト・・・。何のよう?』

「あの、こんなものが・・・・・・」

 

フェイトが送られてきたデータを見せた。プレシアはそれに目を通す。

 

『―――ジュエルシードを・・・。中途半端に持っていても仕方ないわね。フェイト?』

「はい、母さん」

『じゃあジュエルシードをそちらに転送するわ。

 くれぐれも取られることのないように、・・・いいわね?』

「はい」

 

するとジュエルシードが9個転送され、フェイトの前に現れた。

 

「ありがとうございます、母さん」

「頑張るのよ、フェイト」

 

そこで、通信は切られる。フェイトは決意を込めた。

 

そしてフェイトは少し時間が経過した後、少し冷静になって考える。

 

(でも、このままじゃダメだ・・・。あの子には多分勝てない)

 

指定の日にちまであと3日あった。この間に何とか対策を考えなければならない。

砲撃では絶対に敵わない。近接ではなのはも決定打こそないものの強い。

あの時は勝てたが、あの成長度・・・次も勝てるとは思えなかった。

というより・・・前に聞いた話を纏めるなら勝てる戦いをみすみす逃した形なはずだ・・・

 

そしてそんな自分が勝っていると自信を持って言えるのは――

 

(――速さしかない・・・・・・)

 

だったらそれでなんとかするしかない。やるんだ!

そうフェイトは決意し、己のデバイスに目を向ける。

 

「バルディッシュ・・・絶対に勝つよ・・・・・・絶対に・・・絶対に・・・」

《Yes sir》

 

寡黙なるデバイスはただ主の声に静かに答えた。

 

 

 

 

 



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SAGA 17「死闘!! 運命VS星光」

今回はなのは対フェイト戦。
切りよくするために前後編でお送りします。
どこまでパル転流用から進化できるか・・・

それではどうぞ!!




 

 

 

約束の場所でなのはは待っていた。

すでにバリアジャケットを纏っていて、手にはレイジングハートを持っている。

その瞳はただ決意の元、好敵手の登場を待っていた。

 

・・・実は未だに左足の調子がよくなかった。

あれから日に日に悪くなっていった。すでに左足は膝上までもが動かない。

現状ばれていないのは特殊な歩き方と魔法による補正が有るからだ。

もっとも・・・気づいている人も居るみたいだが・・・

 

なのははこの事態にとりあえず痛み止めを薄く塗り、

ガチガチにテーピングをして固めることで取りあえず応急処置をした。

・・・できればはやてを助けるまではこのことが周りに知られてほしくはなかったのだ。

 

そして、時計の針が5時を告げる。

そうすると、なのはの後ろ、外灯の上にフェイトが現れた。

なのはは振り向き、フェイトを見据える。

 

「・・・・・・」

「来たね、フェイトちゃん・・・ジュエルシードは持ってきた?」

 

《Put out》

《Put out》

 

互いのデバイスからジュエルシードが現れた。

なのはは12個、フェイトは9個。

確認し終えてからジュエルシードはまたデバイスに収納された。

 

「まずは確認しておくよ? この勝負に負けた方は全てのジュエルシードを相手に渡す。

 それに加えて、わかると思ったから手紙の文面には書かなかったけど、フェイトちゃんが負けたら」

「うん、そうなったら、わたしは管理局に捕まってしまう。

 けど、こっちのジュエルシードの数は少ないんだから、

 それくらいのリスクは覚悟してる。でも、それでも、母さんのために、わたしは負けない!」

 

フェイトは力の限り宣言した。愛する母親のために負けるわけにはかないと・・・

それを聞いたなのははフッと微笑みながら言った。

 

「そっか。わかったよ・・・」

 

【でも・・・やる前に言う事は全部言っておくよ】

 

なのはは少し間をおき、念話でフェイトに言った。

先ほど知ってしまった事実。戦う前に言っておかなければ気がすまない。

というより・・・戦い終わった後にフェイトが知ったときのことは考えたくなかったからだ。

 

【戦う前に言っておきたいんだ。

 この勝負をするかしないかを選べる最後のチャンスだよ。

 それにこの話を聞いた後にフェイトちゃんは戦う気力がなくなってしまうかもしれない】

【念話で・・・?なに?何があっても、戦うことは変わらないよ】

 

フェイトの意思は固かった。ならばとなのはは話し始める。

 

【フェイトちゃん。あなたは人造生命体・・・クローン・・・なんだって。

 とあるプロジェクトによって、他人の体の情報と記憶から生み出されたんだ。

 キミのお母さん、プレシア・テスタロッサの手によって・・・・・・】

【え?】

 

フェイトは突然の事に頭が凍っていた。

 

【アリシアっていう名前に心当たりはない?】

 

 

 

 

 

なのはが言った途端フェイトに頭に衝撃が走り、過去の事を次々と思い出した。

 

『アリシア、おいしい?』

『いい子にしてるのよ? アリシア』

『ねぇ、今度のアリシアの誕生日に休みをとることができたの。何かほしいものはある?』

『私!・・・・・・・・・しい!』

 

フェイトの頭を駆け巡るのは昔の、優しい母親の姿。フェイトの望んでいる優しいプレシア。

しかし、そのすべてはフェイトに向けられた優しさではなく、アリシアに向けられたものだった。

 

(多分それでアリシア・・・母さんの本当の娘は死んじゃって、多分わたしはその後に生み出された・・・?)

 

だとしたら・・・。

 

(わたしに母さんが優しくしてくれたことなんて・・・一度も・・・ない?)

 

フェイトは思い出す。アリシアの記憶の中ではなく、自分(フェイト)に母が優しくしてくれたことがあったかを・・・

しかし、それはおぼろけにしか見えず核心を与えることはなかった。だが、それは関係なかった。たとえ偽りだとしても・・・

 

(わたし『が』母さんを助けたい! 笑ってほしい! 喜んでほしい! 

 わたしが誰でも、何者でも、どんな存在だろうと、その気持ちは変わらない!!

 私自身がそう願っているんだ!!!)

 

【・・・思い出した。けど、それでもわたしは母さんの娘だから・・・わたしは・・・止まらない!!】

 

少しの時間がたってからフェイトが答えた。

動揺はもう表に出ていない。それどころか、少し晴れやかな表情になってきた。

そしてなのははフェイトに笑顔を向けた。

 

【そう……。フェイトちゃんならそう言うと思ってたよ。わたしもそう思う。

 大切なのは、自分と相手がお互いに家族なんだって思えるかどうか。ただそれだけ・・・

 向こうが認めてくれなくても・・・ね・・・

 

 血のつながりも大事だよ。でも思いも大事だ。

 たとえフェイトちゃんがアリシアって人のクローンだとしても・・・

 お互いに理解しあえれば大丈夫。だから・・・】

 

その言葉とともになのはとフェイトはデバイスを構える。

 

「私達のすべてはまだ始まってもいない、だから本当の自分を始めるために・・・。」

 

そこで区切りなのはは言う。

 

「それじゃあ始めよう・・・最初で最後の本気の勝負!!!」

 

今戦いの火蓋が切って落とされた・・・。

 

 

 

 

 

 

結界に囲まれた臨海公園の中

 

なのはとフェイトは空に舞い上がり、戦っている。

開始から既に10分ほどたったが状況は依然として変わらない。

 

なのはが遠距離に持ち込もうとするが、フェイトは速さでそれを許さない。

 

広大な結界は、海と市街地、両方をちょうど同じぐらいの面積で覆っている。

戦闘の場所は開始当初の海の上から、海沿いのビルが立ち並ぶ市街地へと移っていた。

 

 

「「はぁあああああああーっ!!!!」」

 

レイジングハートとバルディッシュを打ちつけ合う。

 

なのははむやみにレイジングハートで近接に応じるつもりはない。

あくまで彼女の本領は遠距離戦なのだ。だから無理はしない。

その攻撃を技術と魔力コーティングで滑らせるように流した。

フェイトは流された勢いのまま、なのはの後ろに回りこみ、

バルディッシュで斬撃を振るった。

 

なのはは振り返ることなくそのまま前に飛んでかわす。

いちいち見ていたら隙だらけだ。何回攻撃されるかわかりはしない。

 

《Divine Shooter》

「シュート!!」

 

そのまま前に移動して距離を取りつつ、

素早く9つの魔力弾を作り、フェイトに放った。

 

フェイトに向かっていく7つのディバインシューター。

 

しかしフェイトは止まらない。

金色の魔力弾がフェイトの周りにつくられた。

 

「フォトンランサー、ファイアッ」

 

すぐさま放つ。それによりなのはの7つの魔力弾はすべて打ち消される。

しかし残った二つのディバインシューターがフェイトを後ろから襲う。

 

「くっ!」

 

それに気づいたフェイトはバルディッシュを後ろに向かって振るう。

それにより残された二つの魔力弾は切り裂かれ消滅する。

 

「なら、これはどう!? シュートッ!」

 

先ほどの弾より魔力を込めたディバインシューターを4つ射出した。

さらにそれはランダムにフェイトの元へと向かう。

 

しかしフェイトは冷静に対処した。

 

フェイトは1発目を鎌で切り裂く、

そして間髪なくなのはの所に移動し、鎌で一閃した。

 

「はぁぁああッ!!!」

 

《Protection》

 

なのはは咄嗟にバリアを張って防御し、

新たに作り上げたディバインシューター3つで

フェイトの後方から攻撃させる。

 

フェイトは背後の弾に気づくと、

被弾する寸前に高速でなのはの背後に回り込んだ。

 

なのはは自分の3つの弾とフェイトに挟み打ちにされる形となるが、

すぐさまそれを避けて魔力コーティングしたレイジングハートでフェイトを叩きつけようとする。

 

フェイトはとっさにバルディッシュで受けた。そして受けると同時に魔法を発動させる。

フェイトの周りには10個のフォトンランサーが作られていた。

 

 

「ファイヤッ」

 

《Flash Move》

 

なのははそれを紙一重でかわした。

外れた弾がビルに当り、ガラガラと音を立てて倒壊する。

 

フェイトは見失ったなのはを急いで探す。

すると桜色の魔力光が視界の下から見えた。

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

それは砲撃の準備は完了していたなのはの姿だった。

なのははカノンモードのレイジングハートをフェイトに向ける。

 

「お返しだよ・・・ディバイーン」

《Buster》

 

その言葉とともに引き金を引く。桜色の砲撃がフェイトを襲う。

 

「くっ!」

《Sonic Move》

 

高速移動を使いすぐさまその場から離れるフェイト。

過ぎ去った桜色の砲撃は後方のビル4棟を爆散させた。

訓練用とはいえそのビルの強度は本物に匹敵するにもかかわらずだ。

その威力にほんの一瞬気をとられていると・・・

 

「もうあんなところに!?」

「やっと離れられたね・・・ここからが本当の勝負だよ」

 

離れた距離でお互いが呟く。

 

この距離ならばフェイトはなのはに対して有効な攻撃手段がなく、

なのはだけが一方的に攻撃できる間合いだった。

しかし、なのはが行ったのはフェイトが驚く行動だった。

 

「ねぇ、フェイトちゃん?音速って知ってる?」

 

いきなりそんなことを言われたことにフェイトは驚くしかない。

戦闘中・・・しかも自分が有利な間合いで攻撃し放題だというのに・・・

フェイトが警戒する中、なのははそれでも続ける。

 

「音速とかマッハ何々とかよく言うけど、それは空気中の秒速340m前後のことを言うんだ。

 だけどね・・・音が伝わるのは空気中だけじゃないんだ・・・ねぇ?知ってる」

 

さきほどと同じように不適に笑いながら話すなのはをフェイトは警戒する。

一体何を言っているのだろうか?確かに音速とはそういうものだろうが、今は関係ないはず・・・

そう思っているとなのはは続きを話した・・・決定的なことを

 

「水中での音の速さって、秒速1500mくらいなんだよねぇ!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、フェイトは状況を理解しその場を離れる。

刹那、フェイトの頬を超絶な速さを持つディバインシューターが駆け抜けていった。

 

「わたしは魔法の性質を変えることができる!例えば音と同じような性質にしたりね。

 だけどフェイトちゃんなら秒速340mくらいは避けれると思っていたよ。

 だからこの海上!相性抜群なこの場所でわたしは戦うことを選んだんだ!!」

 

続いて放たれる二発の超高速の魔力の弾丸は一発は避けられたものの

残りの一発はフェイトのわき腹に直撃する。

一瞬の激痛が走る中、フェイトはなのはに言った。

 

「ま、さか・・・さっき私が避けた奴を・・・」

「そう、四発打ち込んで一発はそのバルディシュで切り裂かれた。

 けれど残りは海の中に隠しておいたの。この時のためにね・・・

 それに・・・話している間にも仕掛けてあるんだ!!」

 

その言葉とともに海中から放たれる20ものディバインシューター・・・

それぞれが水中を一度通ることで速度は約秒速1500mにまで加速される。

水が空気よりも重く、大変堅い・・・ことによって発生する現象。

また水中の音は空気中と比べて、弱まりにくく、遠くまで伝わるという性質がある。

それによって一度水中に突入しているというのに威力は下がらない。

なのはの『魔法操作』を最大限に利用した作戦は少量の魔力だけを使いながら

本来ならばその魔力だけでは達成できないような結果を残していた。

 

(これが・・・3Rの一つ。Reduce(発生抑制)!!

 魔力の使用を最小限に抑える。それだけのことでこの戦いに優位に立つ!)

 

なのはとフェイトの魔力量はなのはが多い。

だが、高速戦を行うことに加えて防御を度外視したフェイトと

砲撃や射撃を使い、防御力を優先するなのはでは最終的な持久力はほぼ同じだった。

さらに言えば・・・なのはの魔力消費は前述のものだけではない。

 

つまり第一として、どちらが魔力を最後まで温存できるかが勝利の鍵の一つだ。

だからなのはは海という場所を選択し、魔力の温存に専念している。

 

無論、それだけではない。なのはが使用しているのはそんなことではないのだ。

 

「3R作戦は・・・ここからが真骨頂だよ・・・」

 

なのははボソリと呟く。

勝利を確信しているわけではないが、多少の余裕を持つ。

それがなのはのポリシーであり、戦略だ。

 

 

 

 

そのころフェイトは飛び交う超高速ディバインシューターを

なんとか高速移動でかわし続けていた。しかしそれは長続きするわけもなく・・・

 

「はぁ・・・、はぁ・・・」

 

フェイトは肩で息をする。

今まで避けられただけでも運が良かっただろう。

全速力でブリッツアクションを使い続けるのは体への負担は莫大だ。

 

(だめだ・・・避けるだけじゃ・・・なんとか・・・攻撃しないと、勝ち目はない・・・)

 

すでに息も切れはじめている。

 

"このまま"戦えば勝機はない。

 

だがフェイトにはこの日のために用意したものがあった。

 

「バルディッシュ、あれを・・・やるよ!!」

《Yes sir. Barrier jacket. Sonic form》

 

その言葉とともにフェイトのバリアジャケットが輝き変わる。

マントとスカートがなくなり、レオタードとスパッツだけという姿になった。

手足にバルディッシュのフィンブレードやなのはのフライアーフィンのような

光の羽「ソニックセイル」を生やしている。また、右手にも装甲が追加されていた。

 

そう、それは本来ならばもう少し後で登場するフェイトの姿。

超速の戦士「フェイト・テスタロッサ-ソニックフォーム-」

 

「姿が変わった!!!!??」

 

驚くなのはに眼もくれず、フェイトは弾丸のようなスピードでなのはに向かってきた。

なのはは対処しようとしつつも、その早さには間に合わず接近を許してしまった。

 

至近距離まで近づいたフェイトはバルディッシュを振りかぶる。

その一撃はなのはの知覚速度を遥かに上回り、非殺傷の一撃をなのはのわき腹に直撃させる。

 

「がはっ・・・!」

 

うめき声を上げ、肺に有る空気を全部吐き出すなのは。

フェイトはそれだけでは終わらずにバルディッシュを上へと振り上げて、

なのはに向けて勢い良く叩き落す!!

 

「ぐぅ・・・」

 

なのははとっさに反応し、レイジングハートの柄を頭上へと持って行きガードする。

しかしレイジングハートのフレーム強度ではバルディッシュの力は防ぎきれない。

なのはの体自身は守りぬいたものの、レイジングハートの柄は砕け散り、

なのはの体は勢い良く海面に向けて吹き飛ばされた。

 

(くっ、魔力・・・放出・・・)

 

まさかこんなことに役に立つとは・・・そうなのはは思いつつ足元から魔力を放出。

勢いを利用し体を空中で一回転して、足を海面に向けて叩きつける。

放出された魔力は水を弾き、海面には美しい波紋が出現していた。

 

なんとか海面に浮くことで水中へと没することを防いだなのは。

 

「・・・海面に・・・浮いた・・・!?」

「・・・魔力放出だよ・・・」

 

水の上に浮いたことに驚くフェイトに素直になのはは答える。

浮遊魔法や飛行魔法ではこんなことはできないのだから驚くのは当然だ。

なのはは魔力を送り、レイジングハートを直す。

 

「さて・・・と・・・ダメージが結構多いね。まったく・・・」

 

大ダメージは負いつつも余裕は崩さないなのは。

というのもなのはは吹き飛ばされたとき、フェイトが近づいてくる場合に備えて、

向かってくるだろう進路上のいくつかに、設置型バインドを仕掛けていた。

 

しかし仕掛けた数は余り多くない。来る前に打ち抜く!!

 

なのはは砲撃の準備をする。正確に、狙いを定めて撃つ!

 

「ディバインバスター!!」

 

体力と魔力の温存のための溜めのない速射型。

しかしそれは、フェイトの速さにかなわず避けられた。

しかし、それもなのはの予定通りだった。避けられることが前提なのだ。

相手は当たれば速射型ですら致命傷になりかねない状態なのだ。

 

「――ッ!」

 

設置型バインドが発動する。フェイトはそれに気づくやいなや、行動を起こした。

 

フェイトが加速したのだ。バインドが完全にフェイトを縛る前に、

常人には理解不能な速度で効果範囲から抜け出してしまった。

なのははそれを見て焦りや恐怖よりも先に、歓喜や興奮をその身に覚え、

その透き通った蒼い瞳の輝きが増し、そして笑った。

 

「やっぱりフェイトちゃんは強い!でも負けない!!」

《Flash Move》

 

なのはは残して魔力を使い、加速して迎え撃った。

空中で、デバイス同士がぶつかり合い、本来ありえない爆発音が響く。

その競り合いを二人は数分間も続けていたが、やがて変化が生まれる。

ディバインシューターの応酬、フェイトのサイズスラッシュ。

二種の魔法の戦いは再び起きた接近戦によって変化する。

再びぶつかり合う二人のデバイス・・・

 

「―――ツッ」

 

なのははフェイトの勢いに負け、後ろに弾き飛ばされる。

しかしその勢いを利用してその場を離れる。

 

レイジングハートに魔力を流し三度破損箇所を修正。

すぐさま砲撃を放とうと構えようとした瞬間。

 

「はぁああああああああ!!!」

 

フェイトは吹き飛ばされた衝撃に体を持っていかれつつも体勢を立て直し、

遠距離魔法を撃とうとしていたなのはに加速し飛び掛かった。

 

 

 

 

そのころアースラでは2人の戦いをアースラのブリッジから、

クロノ、エイミィ、リンディ、アルフ、ユーノで見守っていた。

目の前には、いくつものカメラからの、様々な角度や距離の映像が映し出されていた。

 

「クロノくん、あたし、フェイトちゃんの姿が見えてる時間の方が少ないと思うんだ」

「サーチャーの性能はいいはずなんだがな・・・・・・」

 

クロノは若干現実逃避気味だ。

無理もない、フェイトの移動速度は視認どころか、カメラが追うことすらできていなかったからだ。

そして魔力量が高いとはいえ彼女たちの戦いはかなり高度だ。

フェイトは防御を下げてでも足りない攻撃力を補う速度を極め、

なのははその驚異的な思考能力を駆使して、さまざまな策を使い戦っていた。

 

「それにしてもソニックフォームって・・・アルフは何か知ってる?」

 

目の前の光景を見てユーノもちょびっとだけ現実逃避したくなっていた。

相変わらずなのははやることがえげつないし、フェイトは全く動きが見えない。

アルフはその質問に対し、こう答える。

 

「あたしも、あれほどまでに疾いフェイトは初めて見る。あの姿もね・・・」

 

アルフもフェイトの速さに驚きを隠せないでいた。

もともと自分の主の戦闘速度は速かったが、ここまでなのは初めてだ。

 

「そうね。まったくすごいわ2人とも・・・・・・。

 さっきまでは教材に使えそうなほどに模範的な戦闘だったのに、

 今はそのレベルを飛び越えてしまっているわ。

 

 だって1人はほとんど見えてすらいないんだもの」

「でも、なのははフェイトの攻撃をちゃんと受け止められているっ」

 

ユーノはなのはを擁護する。信頼でもあるし、なによりも現実にそうだった。

相手の裏をかく作戦・・・自身の能力をフルに使った戦い。

なのはは朝の訓練もあり確実に強い。強くなっていた。

 

「だけどなのはちゃんのバリアジャケットがどんどん削られちゃってる・・・・・・

 このまま戦い続ければ、なのはちゃんが・・・・・・」

「いや、よく見ろエイミィ。なのはもかわしきれない攻撃はあるが、

 致命打になる攻撃はすべて防いでいたり、避けている。

 まともに食らったのはさっきのわき腹への一撃だけだ」

「それって、なのはちゃんにフェイトちゃんの動きが見えてるってこと?」

「いえ、そうではないと思います。なのはは自らの思考能力を使って

 フェイトの行動を分析、先回りすることで対処してるんだと思います。

 ・・・ただ、脳に負担がかかるし、何時まで持つか・・・」

 

ユーノは答えつつ、心配の声を上げる。

なのはのは緒戦は先読み、身体能力という面ではフェイトの速度よりも下だ。

結局は対等に限りなく近づいただけなので危険な賭けでもあった。

 

「でも!フェイトだってこんな攻撃してて疲れないはずないんだ!今だって相当無理してるはずさ!」

 

アルフは叫んだ。フェイトの怒涛の攻撃は、ソニックフォームになってから

すでに14分間も続いている。体力が持つかどうか・・・といったところだ。

 

「そうね。フェイトさんが攻めきるか、なのはさんが粘り勝つか・・・このままならそのどちらかね」

 

リンディがそう口にした途端、ぶつかり合った2人の動きが止まった。

一同はより一層モニターに集中しだした・・・。

 

 

 

 



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SAGA 18「流れる流星 放て星光の刃」

なのは対フェイト後編!
御神流は資料とプレイ動画でしか知らないので正しいのか不安です。

それではどうぞ!!


 

 

 

「!!その剣は!!??」

 

フェイトは驚いてた。

フルスピードによる攻撃、レイジングハートの位置では防げず

目の前の少女に確実に当たると思っていたからだ。

 

しかしその一撃はなのはがもつ白い刀身を持つ剣・・・。

ブレイズハートによって防がれていた。

 

「はあああ!!」

 

「っ!!」

 

二刀流であるブレイズハートの空いてあるほうの刀をフェイトに向け放つ。

フェイトはそれを避けつつ、攻撃を続けた。

 

なのはもまた本領発揮といったところで先ほどとは違い

超近距離戦(クロスレンジ)の戦いを始めた・・・。

 

 

(まさ、か・・・近接用のデバイスまで持っているなんて・・・

 だからあんなに接近戦慣れしていたのか・・・)

 

フェイトは攻撃をし、攻撃を受け止めるなかそう思った。

そもそも接近戦の手段がなのはにないからこそ

ソニックフォームでさきほどまでは飛ばしていたのだ。

なのはが接近戦ができるとなるとスタミナ配分から戦闘方法を最初から考えなければならない。

 

切り札(トランプ)は先にきったほうが不利だよ。フェイトちゃん

 切り札を最後まで残しておいたほうと残せなかったほう・・・

 どちらが有利かは言うまでもないよね?)

 

ブレイズハートをバルディッシュと拮抗させつつ、なのははそう思った。

まだまだなのはは余裕が有る。3R作戦はここでも生きていた。

フルパワーで飛ばしていたフェイトとは残存魔力量にかなりの差があった。

 

「くっ!!」

「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだああああ!!」

 

なのはは叫びつつブレイズハートに魔力を送る。

送られた魔力により、まず鍔の部分の蒼い宝玉が光り、

続いて刃に沿う淡い水色のラインが深い藍色へと染まる。

 

「小太刀二刀御神流裏 奥技之参 射抜!」

 

なのはが使用したのは、姉の美由希が得意とする御神流裏の奥義。

超スピードで突きを繰り出し、突いた勢いからもう一方の小太刀で相手を完全に貫く技だ。

その際に一撃目を手元に引き戻す事でさらなる突きを放つ事も可能であり、

姉の美由希は木刀で最大威力で放てば重い鉄板さえも貫けられる。

 

御神流二刀奥義の中では最長の射程で最速を誇る奥義であり、

うまく受け流すか横に避けるかしか回避方法が無いが、

姉の美由希並に熟練した使い手のそれは恐ろしいほど早く、

受け流しや回避より先に貫かれてしまうので回避はほぼ不可能と言っても過言ではない。

 

もっともなのはのそれは姉の美由希のそれには全く届いておらず

またフェイトのソニックフォームの圧倒的速度もあり、避けられてしまった。

 

「くっ・・・これを避けるなんて・・・なんて速さ・・・」

 

兄や父が使う神速とはまた違った速さ・・・

極めていないとはいえ、わりと自信のあったこの技を避けられて

多少ショックを受けているなのはだった。

 

まぁ、もっとも・・・ここで終わるわけではないのだが。

 

「まだまだ行くよ!!御神流 斬!」

 

御神流とソニックフォーム。

剣術と速さの戦いは16分も続いていた。

 

 

「はあ、はあ・・・っ・・・はァ・・・」

 

その戦いで先に動きを止めたのはフェイトだった。体力が続かなかったのだ。

 

そもそも原作のソニックフォームですら完成はしていなかったものを

この時期にたった数十時間で完全にすることは不可能だった。

 

そして、それによる莫大な魔力の消費もあった。

 

苦しそうに呼吸を乱しながら、それでもなのはへの警戒は怠っていない。

構えだけは解かず、バルディッシュをなのはに向け続ける。

 

だが、同じようになのはにも疲れはあった、フェイトほどではないものの、

体力には余裕はもうない。なのははフェイトに引きずられるように、同じように動きを止めた。

 

「・・・キミのその剣は?」

 

フェイトはなのはの持つ小太刀がとても気になった。

なにせなのはには近接戦闘での決定打がないと思っていたのだ。

フェイトはこの日までのなのはとの戦いで、

自分に有利な間合いは近接しかないと感じていた。

だから問題は近接戦闘でどうやってダメージを与えるかだ。

そしてフェイトはもっと疾くなればいい、と思った。

なのはが追いつかないほどに速く動き、そしてしとめる。

 

そのためのソニックフォーム。

 

しかし、それは覆された形になる。

 

「これはわたしがリンディさんに頼んで作ってもらったデバイス・・・

 近接用ストレージデバイス『ブレイズハート』だよ。

 まあ私も今日のために用意したって感じかな・・・・・・。

 

 ・・・それともう一回名乗っておこうかな、今度は剣士としての

 永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術。剣士、高町なのは!!」

 

「な、なが!!そ、それに近接武器のストレージ!?」

「あなたと戦うために作ったデバイスだよ!!」

 

なのははそう言って、気を取り直す。レイジングハートに持ち替え

ディバインシューター5つを出現させ、体の後ろで回転させた。

 

「そうだね。戦闘再開だ・・・。」

 

フェイトもそれに応じる。

なのはが剣を持ったところでやることは変わらない。

スピードで圧倒し、そして斬るだけだった。

 

《Scythe Form》

「アークセイバー!」

 

フェイトは鎌から三日月の斬撃を繰り出し、なのはの右半身を襲わせる。

 

それと同時に高速移動でなのはの左側に回り自らも斬撃を加える。 

普通ならばそんな攻撃は実現不可能だが、フェイトの異常な速さは、

それをこの世界に現出させることを可能にしていた。

 

「・・・ッ!」

 

なのははとっさに全シューターをフェイトに発射した。

フェイトは迂回してその攻撃をすべてかわした。

 

「はぁああ!!」

 

なのはは再びブレイズ・ハートを起動。

 

右の小太刀を振るい斬撃を飛ばしアークセイバーと相殺させた。

そしてフェイトの攻撃を左の小太刀で流すように受け止める。

 

そうしながら、もう一度作ったシューターで下からフェイトを攻撃する。

だがフェイトはその場から消えるように避け、なのはの右側に振り下ろした。

 

なのははギリギリで止め、反撃しようとするも、その時にはフェイトは次の攻撃に移っていた。

先ほどまでと同じ攻防戦・・・だが・・・

 

(止まったら、やられる!)

 

フェイトはすでに体力的に限界だった。だから気力で動き続けるのみだ。

 

「ふぅ・・・まだまだ行くよ!!ディバインシューター!!!」

 

なのはは再びディバインシューターを7つ放つ。

それらはランダムに戦闘フィールドを駆け巡りフェイトをオールレンジ攻撃で襲った。

フェイトはなのはに近づくこともできず、それらの処理に力を使った。

 

だが、しかし、動きは徐々に、確実に落ちていた。

 

そしてついに・・・

 

(捉えた!!)

 

フェイトが斬撃を繰り出すのよりわずかに早く、全力でデバイスを叩き下ろした!

 ――――御神流、『徹』――――

 

「ッ!」

 

フェイトはとっさにバルディッシュで防御する。

だが・・・この技にそんな防御は通用しない。

 

「はぁああああああああああああああ!!!!!」

 

掲げられているバルディッシュを・・・そしてその向こうのフェイトを、バッサリと断ち斬った。

斬った肩口から腰までななめにバッサリと斬られ、その部分の肌があらわになる。

 

「あ・・・っ・・・あああァ」

 

そしてフェイトは力なく落ちていった。

なのはの斬撃は体の外でなく内面に衝撃を与えるもので、あまりの痛みに気絶しそうになった。

実際の剣を使ったのならば即死していもおかしくはないが、デバイスにより魔力ダメージとなっていた。

だがフェイトはこのまま目を閉じて楽になりたい、という衝動に打ち勝ち、そしてカッと目を見開いた。

 

(こんなところで・・・・・・落ちるわけには・・・ッ!!

 母さんのためにも!!そして・・・私自身のためも!!!!)

 

フェイトは絶対にあきらめるわけにはいかなかった。

激痛を無視し、バルディッシュに魔力を流し込み、

修復し、さらに準備してあった魔法を発動する。

 

一方、フェイトを斬ったなのははちょっと動揺していた。

 

「『徹』で思いっきり斬っちゃったけど・・・大丈夫かな?」

《非殺傷設定です。外傷の心配はありません》

「そういう問題じゃ・・・。まあ最低限の配慮はしてあるけどね」

 

そう言いつつレイジングハートに持ち替えて、降りようとした途端。

なのははバインドで拘束された。

 

「――ッ!! バインド!?」

 

 

「・・・・・・ライトニングバインド・・・」

 

発動された金色のバインドはなのはの四肢を完全に押さえこんだ。

 

フェイトは再び飛行し、なのはと同じ高度まで一瞬で移動して滞空する。

続いて両手を大きく広げながら、足元に出現した巨大な魔法陣に着地した。

 

「これで決める!!バルディッシュ!!」

《Phalanx Shift》

 

フェイトの横一面に数え切れないほどのフォトンランサーが並んだ。

なのはがバインドを解く暇すら与えない。速度で!!

 

「フォトンランサー、ファランクスシフト・・・。

 あの子を・・・撃ち・・・・・・砕けぇええッッ!!!!」

 

そして高々と上げられた腕を振り下ろしながら叫ぶ。

 

「えぁああああああああー!!!!!」

 

雷撃の魔力弾が次々となのはを襲い、爆煙に包まれていく。

 

一度になのはを襲うフォトンスフィアの雷弾は38発。

当然、それだけで終わりではない。

 

フォトンランサーが一気に発射され打ち終えたら

また次を、そしてまた次を・・・と一人を相手にするには過剰な弾数が発射される。

 

怒涛の攻撃。最後の切り札!

その数は合計で1064発!!。

 

だがまだ終わらない。

フェイトは腕を上にかかげ、千の弾を撃ち終わった後にさらに70発ほどのフォトンランサーを束ねていく。

やがてそれは身の丈の3倍はある金色の槍と化した。

フェイトはそれを容赦なく、なのはに投擲する。

 

「・・・スパーク・・・エンド」

 

フェイトの声とともになのはに雷撃の槍がぶち当たった。

刹那、大爆発が起こりまわりのビル群6棟が粉々に粉砕する!

爆炎はフェイトがいる場所まで来た。

 

(これで決まって・・・)

 

勝っていてほしい・・・そう思い願うフェイト。

母との約束のために・・・自分のために!!

 

「・・・まだだよ・・・まだこれからだよ!」

 

しかし・・・そこにまるで悪魔のような宣言が響いた・・・

 

 

 

 

アースラでは皆がそろってなのはとフェイトの映像を見ていた。

なのはを近くで見ていたユーノを除き、なのはの負けだと誰もが思っていた。

 

「なのは!!」

 

それでもユーノが思わず叫ぶ。

負けてはいない!と心は納得していてもだ。

心配なものは心配である、何よりも足のことがあった。

 

「これはフェイトの勝ちだね・・・。あれはフェイトの最後の切り札さ。

 あれをまともに食らって無事な奴なんていないよ・・・・・・」

 

アルフが複雑そうに言った。アルフはなのはに勝ってもらわなければ困るものの

同時にフェイトにも負けてほしくないのだった。

 

「いや・・・そうでもないさ。なのはを見てみろ」

 

クロノがモニターを指差す。

エイミィはそれに目を向けながら言った。

 

「そんなこと言ったってクロノくん。

 さすがにあれを食らったらさすがのなのはちゃんだって・・・。あっ」

 

やがてなのはを覆っていた周りの煙がなくなっていく。

現れたのは何発かもらったのかバリアジャケットが焦げているが、まだまだ健在のなのはの姿だった。

 

なのはは防御魔法を発動していた。

しかしそれは、普通のシールドではなかった。

脈打つ桜色に輝く、そのシールドは・・・

 

「集束・・・シールド・・・?」

 

 

 

少し時はさかのぼる。

なのはは今まさにファランクスを受けようとしていた。

見るとフェイトは腕を振り下ろし無数の雷弾を放とうとしているところだった。

 

なのはは急いでバインドの魔法プログラムを演算。

右腕のバインドを高速で解除する。

 

(間に合って!!)

 

そういうとなのはは右腕を前に突き出し魔力を集束する。

少しづつ桜色の防壁が作り上げられていく。

 

「スターライト・シェード!!!」

 

シールド展開とほぼ同時に雷弾がなのはに殺到した。

 

「ぐっ・・・うぅっ」

 

最初の数発はシールドをすり抜けられて食らってしまった。

だがなのはにはもうダメージはない。

 

「フェイトちゃん、その攻撃はもう通用しない!!」

 

来るべきフェイトとの再戦に勝つために・・・

己の集束技術を元に、利用し創られた新たな魔法。

3Rの二つ目!「Reuse(再利用)

 

 集束防御魔法 「スターライト・シェード」

 

 その名の通り魔力を集束し傘のように攻撃を防ぐことができる。

 

 欠点として発動直後にはあまり防御力がないことが挙げられるが、

 この魔法は時がたつにつれて集束が進み、より強固になっていく

 それによって時間が経てば経つほど防御力が上がっていく特殊なシールドなのだ。

 

 

そして鉄壁を誇る桜色の障壁はスパークエンドさえもやすやすと受け止めた。

やがて怒濤の攻撃が止んだ。そのうちに他のバインドをブレイクする。

そしてなのはは最後の切り札の準備を始める。

 

「さて、と・・・。いい感じに魔力が満ちてる・・・。

 残りの使用できる魔力も限界ギリギリだけど・・・

 レイジングハート、フェイトちゃんの全力に応えよう。

 こっちも全力全開で!!!」

 

《All right my master.》

 

3Rのラスト・・・Recycle(魔力再生)!!

 

 

 

爆煙が晴れるとそこにいたのはほぼ無傷のなのはだった。

 

「・・・そんな・・・・・・」

 

なのはがいまだに健在なことにフェイトが愕然とした。

もうフェイトには度重なるなのはの砲撃やシューターを受け、

御神流の誇る技の数々を受け続け、そしてそれを避け続け、

魔力を削られたことでもうほとんど余力は残っていなかった。

残存魔力などもうほとんど残っていない。

ファランクスは最低限の魔力を残しての決死の攻撃だった。

なのに・・・なのに・・・

 

(なんで・・・なんでまだあんなに魔力が・・・)

 

フェイトにとっては目の前の少女がなぜあれだけの攻防をしながら

未だにあれだけ魔力が残っているのか、不思議で仕方なかった。

 

なのはは防御魔法を消し、フェイトが動揺している間に砲撃の準備を整えた。

迷いなく、カノンモードのトリガーを引く。

 

「ディバイィィンン、バスタァァァァアアーーー!!!!!!!」

 

桜色に輝く砲撃、ディバインバスターがフェイトを襲う。

範囲も大きく、距離もそう離れてはいないのでフェイトは逃げられない。

 

フェイトは前に手を伸ばしラウンドシールドを張った。

魔力が激しくシールドにぶち当たった。

 

「あの子だって・・・もう限界のはず・・・ッ!これを耐え・・・切ればッ!!」

 

ディバインバスターの性質と余りの威力にシールドが少し抜かれ、

フェイトの手を覆うバリアジャケットがはがれていく。

 

フェイトのバリアジャケットはソニックフォームになってからさらに薄くなっている。

左手のグローブはすべて消し飛んでしまった。だがその砲撃にフェイトは耐え抜いた。

耐え抜いたのだ。まだ、まだ戦える。フェイトはそう思いながら前へと進もうとする。

 

「よし・・・これでなんとか。――ッ!!」

 

その瞬間にフェイトの左腕を除く手足が桜色のバインドで拘束される。

 

「バインドッ!? 何時の間に・・・」

 

レストリクトロック。集束系のバインドだ。

発動から完成までの間に指定区域内から脱出できなかった

対象全てをその場に固定し、捕獲輪で動きや移動を封じるものだ。

 

(ちぇ、左腕はミスちゃったか・・・でも・・・)

 

そしてフェイトは自らが囚われているバインド以外に、

もう一つ魔法が発動していることに気づいた。

 

魔力の光が線が引かれるように上空に向かって集まっている。

自分の残された魔力も・・・自分のバリアジャケットを構成している魔力も・・・

フェイトは頭上を見上げた。

 

 

それは一つの巨大な桜色の球体だった。

いやもうそれは星と言っても差し違えのないものだった。

 

それを中心に、周りの魔力がまるで無数の流星のように集まっていく。

フェイトのあちこち破けたバリアジャケットからも魔力が吸い取られていく。

 

「集束・・・砲撃・・・・・・・・・」

 

フェイトは絶望に彩られた表情で、呆然とつぶやいた。

それは異常な規模の集束魔法だった。とても人間業とは思えなかった。

 

なのはが持つレイジングハートからその魔法の名が告げられる。

 

 

《STAR LIGHT BREAKER!!》

 

 

「使い切れずに・・・ばら撒いちゃった魔力を・・・

 もう一度自分のところへ集める。」

 

使いきれずに散らばった魔力がもう一度、なのはのところに集まってゆく。

それはなのはが常時使用していた『魔力散布』の魔力をもだ。

辺り一帯が桜色に包まれた。やさしき光だが、どこか恐ろしさもあった。

 

「3R作戦のラスト!!レイジングハートと考えた。知恵と戦術、最後の切り札!!!」

 

着々と集束は進行し、そして段々とその球は大きくなってゆく。

その大きさで、もはやお互いの姿は見えていなかった。

脈打つそれを見ているとフェイトの頭の中には、ただ絶望という言葉しかなかった。

 

「受けてみて!ディバインバスターの・・・ファイナルバリエーション!!」

 

そしてついにそれは完成した。集められた魔力が暴発寸前にまで圧縮されている。

その大きさは圧縮を繰り返されたのにもかかわらずなのはの身長の五倍は有ろうかというものだった。

 

「くっ!あぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

フェイトは叫びとともに最後の力を振り絞り、左手を突き出して

自分とスターライトブレイカーの間にまるで塔のように5重のシールドを張った。

駄目押しだ。相手も全力なのだ。生き残ったほうが勝つ!

 

「これが私の全力、全開!!!!!!!

 スタァーライトォオオオ、ブレイカァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

なのはは叫びながらレイジングハートを大きく振り上げ、自らの何倍もある巨大な球を叩き出した。

刹那、球が崩壊し、莫大なエネルギーの激流が一気にフェイトへと撃ち出される。

 

まるでそれは極太のレーザーのようだった。

文字通り魔力のビームだ。それがフェイトのシールドに当たる。

 

「あっ・・・」

 

 バリン、バリバリバリバリ―――

 

フェイトのシールドをまるで苦にしないように次々と破りながら突き進んでいく。

フェイトの必死の抵抗もむなしく、最後のシールドも破壊され桜色に飲み込まれた。

それと同時にフェイトも桜色が飲み込む。

 

砲撃はそのまま海に叩きつけられ、そこからまるで大きな爆弾でも落とされたかのような

光球と余波が広がってゆく。

 

その余波は、海をも飲み込んだ。

消して狭くはない結界内の建物をすべて破壊しつくした。

結界内にあった街は、いまや影も形もない。

 

そこにあるのはただ一つ、広大な海だけだった・・・。

 

 

 




没ネタになのはが懐に忍ばせていた煙玉ぶっ放して
魔力散布で状況理解しつつぼこぼこにしようとしたら
フェイトが前回の戦いですでに対策していたのであまり効果がなかった。
とか
「前に真下ががら空きって言ってたよね。今回は真上だったね」
といいながら秒速500mほどのディバインシューターを真上からぶっ放すってのがあった。

どちらも展開的にカットしてしまった。ちょっと残念・・・


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SAGA 19「時の庭園」

時の庭園編。ちょっと後々のために無茶な展開もありますが・・・

それではどうぞ!!


・・・ユーノ・・・・・・

追記:パルキアなんて居なかった・・・残念、これが現実・・・
すみみせん。修正しました。




 

とてつもなく長い、長い集束砲撃が終わって、しかしフェイトはまだバインドに縛り付けられたままだった。

そのままの状態で攻撃を受け続けたフェイトの意識は朦朧としている。

 

もともと薄いソニックフォームのBJは、その大半が消し飛ばされていて、

かろうじて残りの切れ端が、女性として見えてはいけない所を死守していた。

 

なのははフェイトのバインドを解きつつ抱きかかえて、

海に浮かぶ、かつて建物だったものの残骸に着地した。

なのはもさすがに心配になって声をかける。

 

「フェイトちゃん、大丈夫?」

「う・・・ん、なん・・・」

 

フェイトは最後まで言い切れず、そこで気絶した。それも無理はなかった。

もともとフェイトのバリアジャケットはソニックフォーム。

はっきり言って生身と大して変わらない。そこにまともにスターライトブレイカーを食らったのだ。

 

今までかろうじてでも意識を保っていた事は、もはや奇跡に近い。

しかしなのはは自分で自分の砲撃を受けた事などないので、そんな事は分からなかった。

ただ、フェイトが意識を失った事に慌てた。

 

「あれ? フェ、フェイトちゃん?・・・フェイトちゃん!!えーっと、ヒーリング!」

 

なのははフェイトを少しゆすった後、治癒をかけ始めた。

自身も疲れてはいるが、3R作戦は功を奏しまだまだ戦える余裕はあった。

念のため集束能力を使い魔力を温存しつつ使用に成功する。

 

《Put out》

 

そのときバルディッシュから9つのジュエルシードが出された。

なのはは一応レイジングハートからジュエルシードを一個取り出し

本物か確認する。プレシアを信用していないのもあるが・・・本物だった。

 

「しかし・・・フェイトちゃんが気絶するなんて・・・人に向けて撃つものじゃないね。これ」

 

いろいろあったが勝負はなのはの勝利だ。

 

 

 

 

アースラではなのはの集束砲撃を見ていた誰もが、茫然とその威力に見入っていた。

ユーノもなのはの訓練で説明は受けていたとはいえ、現実にあるそれを見て完全に硬直していた。

やがてクロノが目を見開きながら、言った。正直言って完全な現実逃避だ。

 

「・・・なんつーバカ魔力だ。本当に結界内の建物を全壊とは・・・」

「宣言通りだね。でもフェイトちゃん生きてるかな?」

「そんなことが起きたら非殺傷設定の存在意義って一体・・・」

「でも・・・本当にすごいわ・・・」

 

リンディはクロノと同じく驚きながら言った。

 

「・・・才能もあって努力もちゃんとやるとここまでか・・・」

 

そこに突然、

 ウウゥゥゥン―――

とアラート音が響いた。それは件の攻撃を伝えるものだ。

 

「転移魔法と次元跳躍攻撃だ! エイミィ!」

「了解!ディストーションシールド展開!」

 

 

 

 

 

 

バルディッシュがジュエルシードを出し、なのはが回収しようとした途端、

そこに発動した転送魔法で10個のジュエルシード全てが吸い取られてしまった。

 

(あぁっ!!警戒してたのに!!しまった余分に一個取られちゃった。)

 

手際が以上に周到だった。転送魔法は発動され、

フェイトのジュエルシードは奪われてしまった。

ついでに自分が出したシリアル5のジュエルシードも回収されてしまった。

完全な自分のミスに愕然としながらも、次のエイミィの通信を聞いて立ち直る。

 

『なのはちゃん! 次元跳躍攻撃がそっちにいくよ! 気を付けて!!』

 

その言葉になのは『はい!』と答えつつ空を見上げると、大きく黒い穴が開いていた。

もうすぐ、そんなに時間を置かずに例の雷が落ちてくるだろう。

 

(とりあえずわたしにできるのはフェイトちゃんを連れて逃げるしかない!

 最悪・・・あれを使えば・・・・・・頭痛くなるけど・・・)

 

なのはは素早くそう判断すると、フェイトを抱えて飛んだ。

そして同時に雷が落とされる。

なのははそれを横目で見つつ必死に飛ぶが、当たることは確実に思えた。

 

(一か八かだけど・・・!)

 

そんな状況になり、なのはは覚悟を決めて使用する。

 

「御神流 奥義之飛行法 神速・・・!!」

 

それは御神流奥義の歩法・・・そしてそれを応用した飛行法。

原理としては人間は五感で周囲の状況を判断するが、

その一つである視覚が凄まじい集中力を発揮している場合には、

脳が他の感覚を遮断し、視覚にのみ全ての能力を注ぎ込む現象が起こる。

本来、そういった通常では発揮されない感覚を、

極度の集中状態にすることで強制的に発揮させるものであり、

肉体に非常に大きな負担をかけるのだ。

 

この力により周囲の動きが止まっているように見え、色彩がモノクロになる。

 

(こ・・・れな・・・でも・・・頭が・・・間に合え・・・間に合えぇえええ!!!)

 

何とか神速の奥義により強化された飛行魔法によってギリギリで避けるなのは。

神速の状態を解除し、疲れ果てた顔で肩で息をするなのは。

ズキンと痛む頭を抑えながらなのはは言う。

 

「がぁ・・・はっ・・・いつつつ・・・やっぱりこれわたしには無理か・・・」

 

この年で御神流のほとんどをマスターしているだけでも

なのはの才能、努力はすさまじいものがあったが、

神速だけはただでさえ限界まで思考速度を上げている脳に大幅な負担をかけるため

まったく使用できないでいた。今回は本当に奇跡的に成功したのだ。

 

『エイミィ!すぐに回収を!!』

『了解!』

 

そして、その場にいたなのはとフェイトはアースラへと転送された。

 

 

アースラでは攻撃をなのはが受けたとき、その攻撃の主が居る場所を突き止めていた。

 

「ビンゴ!尻尾を掴んだ!」

 

コンソールを高速で叩くエイミィ。続いて座標を割り出す。

 

「よし、座標を!」

「もう割り出して、送ってるよ!」

 

アースラブリッジでは

 

「武装局員!転送ポートから出動!任務は、プレシア・テスタロッサの身柄確保です!」

《ハッ!》

 

そういって、約30人ほどの局員が時の庭園内に転移する。

なのはが今回協力を面目上していないときにジュエルシードを回収していた人たちだ。

平均ランクはB。本局でも指折りのメンバーだ。

 

「第一部隊、転送完了!」

「第一小隊、侵入開始!」

 

ブリッジに、なのはと、ユーノ、アルフ、

そして白い病人服のような服を着て、手錠をかけられたフェイトが入ってきた。

 

「お疲れ様。・・・それからフェイトさん。初めまして」

 

フェイトは俯いたまま答えない。

待機状態のバルディッシュを握りしめ、自分の無力さをかみしめていた。

先ほど聴いたから自分がクローンだということはわかっている。

母さんに・・・本当に母さんと認めてもらえるのだろうか?などという気持ちが彼女を包んでいた。

そしてモニターから聞こえてきた声に、一同は目を向けた。

 

『総員、玉座の間に侵入、目標を発見!』

 

武装局員の一人が言う。

 

『プレシア・テスタロッサ!時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑で貴女を逮捕します!』

『武装を解除して、こちらへ』

 

目の前にいるプレシアは動かない。

デバイスを構えたままプレシアを取り囲み、一部の武装局員は玉座の裏へ回る。

 

『なんだ?なにかあるぞ!』

 

そこにあったのは隠し扉のような物。

武装局員はデバイスを使って電子錠を解除する。

 

『こ、これは・・・』

「え・・・!?」

 

ブリッジでもユーノとアルフが声をあげる。

そこは、おそらくはなんらかの実験室だっただろう。

その見た目と雰囲気から、かなり古いものだとわかる。

そこにあったのは・・・

 

「フェイト・・・?」

 

一際大きなポッドに入った、液体内に漂う小さな少女であった。

生まれたときの姿をしたままで漂う少女。

金髪でツインテール・・・姿は小さかったが、フェイトと酷似していた。

 

『私のアリシアに近づかないで!』

 

プレシアが局員を雷弾で屠りながらアリシアに突き進んでいく。

そして残りの局員をサンダーレイジで気絶させた。たったそれだけで、武装局員は全滅してしまう。

その場に残ったのはアリシアの入ったポッドに寄り添うプレシアと倒れ伏す武装局員だ。

圧倒的・・・本局の精鋭といえどもSランクオーバーに勝つことは難しかった。

 

「すぐに局員たちの送還を!」

 

リンディが慌てて指示する。すぐにエイミィがそれを実行する。

なのはが何かを思っているとプレシアが口を開いた。

 

『もう駄目ね・・・時間が無いわ。たった十個のロストロギアでは、

 アルハザードに辿り着けるかどうかはわからないけど・・・』

 

自分を見ているであろう管理局と、フェイトに向けてプレシアは喋る。

 

『もういいわ。終わりにする。・・・この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、

 この子の身代わりの人形を娘扱いするのも』

 

アースラにいるなのはとフェイトの目が見開かれる。

わかっていたこと・・・いや知らされたことだが、それでも・・・

あのときの優しい母親が・・・幻想だなんて信じたくはなかった。

 

『聞いていて?あなたの事よフェイト』

 

プレシアは喋る。その言葉にある種の狂気を滲ませながら。

 

『折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』

 

フェイトはその言葉にうつむく。

フェイトは自分がクローンだということを先ほどなのはたちから聞かされたが、

母親であるプレシア本人からの宣告はやはり響いた。

 

そこにエイミィがプロジェクトF.A.T.E.のことを説明する。

フェイトは使い魔を超える人工生命でフェイトはアリシアの記憶を与えられたクローンなのだと。

この場でたった1人教えられなかったため知らないアルフは驚き、他の皆は暗い面持ちになった。

 

『よく調べたわねぇ。そうよ、その通り』

 

プレシアが少し笑いながら話を続ける。

 

『けれど駄目ね。ちっとも上手く行かなかった・・・。

 作り物の命は所詮作り物・・・失った物の代わりにはならないわ・・・』

 

愛でるようにアリシアの入ったポッドを撫でる。

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。

 アリシアは時々我が儘も言ったけど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた・・・

 アリシアは・・・いつでも私に優しかった・・・』

 

周りから聞こえる声に全く耳を貸さずに続ける。

 

『フェイト・・・やっぱりあなたは、アリシアの偽者よ。

 折角あげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった

 利き腕も違う。性格も違う・・・あなたは失敗作・・・』

 

その時、いい加減に話を聞いていてイライラしていたなのはは

自分が立っている床に勢い良く蹴りを入れて言った。

 

「フェイトちゃんはアリシアちゃんじゃない。

 いくら記憶をコピーしたってフェイトちゃんはフェイトちゃんだよ。

 アリシアちゃんの変わりになれるわけないじゃない!!」

 

『そうよ、だからこそ失敗作だったのよ』

 

「・・・そこは否定はしない。

 いくら世界にとって良いものを作ったとしても

 もともとの目的が違うのならばそれは開発者にとっては失敗作・・・。

 

 ・・・だけど・・・だけど!!

 

 それでも例えフェイトちゃんがアリシアちゃんじゃなくても・・・

 フェイトちゃんはあなたの娘でしょ。あなたが作ったんだから!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・もう、戻れないのよ』

 

そして、時の庭園内に大量の傀儡兵が起動する。

 

「プレシア・テスタロッサ・・・一体何をするつもり!?」

『私の・・・邪魔されたくないのよ』

 

玉座の間へと出てきたプレシアは、ジュエルシード10個に魔力を流し強制発動させる。

その脈動は時の庭園全体を襲い、時限の海を揺らす。

 

『私たちは旅立つのよ!忘れられた都・・・アルハザードへ!』

 

画面に背を向け、顔は見えない。その時

 

『ぐふっ・・・』

 

プレシアはすべてを制御できず口から血を吐いた。

膝をつき、苦しげに咳き込み出した。

次に顔を上げた時には、その口元には紅い血が滲んでいた。

 

それを見たフェイトは叫ぶ。

 

「母さん!」

「止めなさい!プレシア!!

 暴走したロストロギアなど人の手に制御できるものではありません!

 あなた自身もただでは済みませんよ!!」

 

「黙りなさい!!・・・ぐふっ・・・私は・・・・・・取り戻すのよ・・・アリシアを!!」

 

リンディの忠告に耳を貸さずにプレシアは苦しそうに言った。

口もぬぐわないまま、再びロストロギアを制御し始める。

このままでは大型の次元震・・・いや、次元断層が起こってもおかしくはない。

リンディはクロノと一緒にプレシアの居る時の庭園にいくことを決めた。

 

「あっわたしも!でもその前にやることがありますけど」

「僕も行きます。世界が崩壊しかねないんです。見ているだけなんて無理です」

 

なのはとユーノがそれぞれ話す。

もともとここまで広がるとは思っていなかったなのはは

胡散臭い時空管理局と表面上協力しなかったが、ここまで来るのならば話は別だ。

親友のはやてを救うのだ。先に世界に崩壊されても困る。

 

そして、なのはの言うやることとはさまざまな真実を知った上で、

母親の血の吐くところを見てしまい呆然としているフェイトを医務室に連れて行くことだった。

そしてそれを見ていたアルフも言った。

 

「あたしも構わないだろ?」

 

味方をすればフェイトの罪を下げられるのだ。協力させてもらわなければ困る。

 

「わかりました、皆さん。

 クロノ執務官はプレシア・テスタロッサの逮捕を!

 あなたたちはその援護をよろしくお願いします」

「「了解!」」

「それじゃあ、わたしはフェイトちゃんを医務室に連れて行きます」

 

そういうとなのはを除くメンバーが転送ポートから時の庭園へ向かって行った。

 

 

アースラ医務室のベッドには、表情を暗くしたフェイトが横たわり、その横になのはがいる。

アルフは「また、元の優しいフェイトを見せてほしい」と言い残してクロノの援護に向かった。

二人しかいない部屋は沈黙している。

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

 

ベッドに横たわるフェイトをなのはは抱き上げて

己の胸にギュッ抱きしめる。親の温もりがない状態は・・・なのはも理解していた。

 

「今なら、わたししかいないから。自分の中に溜め込むと、いつか爆発しちゃうよ

 そしたらフェイトちゃん壊れちゃうよ?そんなのは困るよ」

 

上から目線気味だが、それはなのはなりの照れ隠しだ。

そうなのはが言うとフェイトはポツリと、言葉を漏らす。

この子になら・・・言っても良いと思っていた。

 

「・・・私が生きていたいって思ったのも、母さんに認めてほしかったから。

 どんなに足りないと言われても、どんなに酷いことをされても。・・・だけど。笑ってほしかった。

 前に笑ってくれたときは、一緒にシュークリームを食べてくれたときは・・・本当に嬉しかった。

 あんなにはっきりと捨てられた今でも、私、まだ母さんにすがりついてる」

 

無意識に・・・温もりを求めるようになのはの服の袖を握るフェイト。

そんなフェイトを深く、だれど優しく抱きしめて背中をさするなのは。

 

「アルフには、ずっと我が儘を言ってきた。そんな私を、多分悲しんでた」

 

知らず知らずの内に、服を握る手に力が篭る。

 

「あなたは何度もぶつかった・・・ちゃんと私と向き合ってくれた・・・

 何度も出会って戦って・・・何度も私の名前を呼んでくれた。

 そして・・・私の為に・・・母さんに怒ってくれた」

「うん・・・きっとその通りだよ。間違ってない」

「生きていたいと思ったのは、母さんに認めてもらいたいからだった。

 ・・・それ以外に、生きる意味なんか無いと思ってた。

 それが出来なきゃ、生きていけないんだと思ってた」

 

いつの間にかフェイトの目からは涙がこぼれ落ち、なのはのバリアジャケットに染みを作っていた。

魔力を流せばすぐ消えてしまうものだが、なのははまだ消そうとはしなかった。

 

「逃げるだけじゃだめだよ。捨てればいいってことでもない。フェイトちゃんは何をしたいの?」

 

なのはのその言葉にフェイトが顔をあげる。前と変わらない、微笑み。

なのはが抱きしめていた腕を離す。

 

「わたしはユーノくんのため、町のために今日まで戦ってきた。

 そして・・・親友を助けるために・・・過去を塗り替えるために頑張っていたんだ・・・

 それがわたしのしてきたこと。そして今からはみんなの所へ行くよ。

 フェイトちゃん、どうする?」

 

フェイトはその言葉を聴き、横に置いてあったバルディッシュを手に取る

 

(わたしはまだ・・・何も始まってなかったのかなぁ・・・。

 でも・・・もしそうだとしたら、それはもう終わりにしなくちゃ。

 この子がわたしと向き合ってくれたように・・・私と母さんも、正面から向き合わないといけない。

 きっと、そこから始まるんだ・・・。本当の私が・・・)

 

バルディッシュをデバイスモードにする。

漆黒に輝く戦斧はただただ主のために輝く。

 

(だから、こんなところで逃げてなんかいられない!

 ここまで支えてくれた皆のためにも、ちゃんと最後までやり遂げよう)

 

「本当の私はまだ始まってもいない・・・。

 だから始めるんだ。本当の私を!!!

 だから私は・・・母さんに会いに行く!!

 伝えたいことが有るから!!」

 

それは決意のこもった言葉だった。

その顔を見たなのはは一瞬呆けた顔をしたあとクスリと笑っていった。

 

「ふふ、良かった。・・・レイジングハート、私たちも!」

《All right.》

 

二人がバリアジャケットを纏う。

一人は黒く輝く光の魔導服。一つは白く照らす(・・・)の魔導服

 

「さ、行こう?フェイトちゃん。本当のあなたを始めるために。

 今までのあなたを終わらせるために・・・」

 

なのはは掌をフェイトの拳に押し付ける。

ディバイドエナジーを使用し、フェイトに残っていた魔力の一部を与える。

フェイトが回復したのを確認するとフェイトは転送魔法を発動した。

そして二人の足元に、魔法陣が展開される。

 

「・・・うん」

 

決意の篭ったフェイトの言葉と同時。

部屋から二人が消えて行った。

 

 

後に飛び立ったなのはたちは合流する。

なのは、フェイト、クロノ、ユーノ、アルフ、リンディは時の庭園に降り立った。

次元の中を浮遊しているだけあって、辺りには混沌とした闇が広がっている。

そして目の前には無数の機械の兵士「傀儡兵」が時の庭園の建物内部への入り口を塞いでしまっている。

人型の二足歩行型が大半だが、足がない代わりに翼を羽ばたかせ飛行している傀儡兵もいる。

 

「君たちは魔力が少ないだろうから、ここは僕がやろう」

「いや、わたしはまだあるけど・・・」

 

クロノはなのはとフェイトに言った後、傀儡兵たちを睨みつけた。そして駆け出す。

 

「悪いが通らせてもらう!」

《スティンガースナイプ》

 

クロノの持つストレージデバイス「S2U」から出たのは、

多少大きめではあるがたった一発の魔力弾。

通常、こういう殲滅戦ならば砲撃魔法を使うのが一般的だ。

 

それは単純な威力の問題だし、一機に一発ずつ撃つなんて単に時間の無駄だからである。

なのはのような精密さを持たない限り、集中力を考えても非効率的だ。

正確な射撃を打ち込むなど、よほどのことがない限りそんなことはしない。

 

しかし・・・どこにでも必ず例外というものがある。

 

クロノが放った一発の魔力弾は迫る傀儡兵を尽く打ち砕き、

勢いを落とさないままに空中へと上がる。

 

「スナイプショットォ!」

 

驚くなのは達を尻目に、魔力弾は傀儡兵を一気に破壊していく。

とてつもなく繊細で、無駄が無い。

 

今回の相手は大魔導師プレシア・テスタロッサ。

しかも、まだまだ傀儡兵も大量に残っているはず。

 

出来る限り少ない魔力で、出来る限り多く倒す。

 

それが最良の作戦だった。

 

最後に控えた巨大な傀儡兵が魔法弾を耐えたのを見たクロノは跳躍。

 

《ブレイクインパルス》

 

振り下ろされた斧をかわし、振動破砕で打ち砕いた。

 

なのは達はクロノを先頭に一同は先に進んでいく。

リンディは途中の開けた部屋で止まった。リンディの目的は次元震の進行を抑えることだ。

そこまで奥にいかなくてもいいらしい。リンディは魔法を発動すると背中に翼を発現させる。

 

 

今は道がところどころ欠けている道を走っている。

下を見ると奇怪な黒い穴がところどころに点在している空間が広がっていた。

 

「下の黒い空間がある場所は気を付けるんだ。虚数空間といって、

 あらゆる魔法がデリートされるんだ。もし落ちたら重力で底まで落下する」

 

(魔法がデリートされる・・・、実際どういう空間なんだろう?)

 

なのははそんなことを思いながらクロノの言うことには適当に返事を返す。

 

 

そして大きな部屋に出た。

そこでもクロノが活躍し、次々と傀儡兵をなぎ倒していく。

だが――

 

「でかいな・・・」

 

なのはの隣のクロノが思わずそうつぶやいた。

それは、高さ20メートル程はあろうかという巨大な傀儡兵だった。

その両肩に乗っている、巨大な魔力砲が嫌というほど存在感を発している。

 

正直言って最近のロボットアニメなら出ていても違和感はないとなのはは思う。

かなりポーカーフェイスの得意ななのはですらその大きさに呆れ、現実逃避していたのだ。

 

「ど、どうするの・・・?」

 

なのははそう聴いた。フルパワーで戦えば倒せるだろうが、

そうするとこの後の戦いに支障が出る。

 

「ここは僕に任せて!!」

 

そんななかユーノがそういって傀儡兵の前に立った。

 

「大丈夫・・・?ユーノくん・・・」

「大丈夫だよ。なのは、そこで見てて・・・」

 

そういうとユーノの足元に緑色の魔方陣が作られる。

一般的な局員から見れば大きいもののなのはから見れば普通。

そんな魔力が圧縮されていった。

 

「アレスター・・・チェーン!!!」

 

すると緑色をした魔力でできたチェーンが

傀儡兵を絡めとリ、一切の動きを封じてしまう。

傀儡兵は破壊しようともがくが、全くもって破壊することはできない。

むしろ動くことによってさらにチェーンが体をきつく縛っていった。

 

「アサルト・・・チェーン!!!!」

 

もう一度緑色のチェーンが出現する。

今度は傀儡兵の体を手当たり次第に突き刺しまくった。

そして、その攻撃を受け続けた傀儡兵は大爆発を起こした。

 

「すごいな・・・」

「すごい・・・」

 

その場にいた全員が口をそろえて驚いていた。

ユーノの魔導師としての才能の高さは皆が理解してはいたが、

ここまでだとは皆が皆、予想外だった。

 

「攻撃魔法はないとか言ってなかったっけ・・・?」

「アサルトチェーンは攻撃に一番使えるけど一応攻撃魔法じゃないからね。

 それに使えないとは言ってないよ。不得手なだけ」

 

ユーノが現在まともに使える攻撃魔法は誘導射撃魔法の『シュートバレット』だけだ。

アサルトチェーンは本来は攻撃用ではなく、チェーンアンカーと同じ

魔力の鎖で拘束した相手に向かって一気に接近する魔法だが、

先端が鋭いため、多数当てれば先ほどのように攻撃に使えるのだ。

 

「さ、それはともかく、皆早く行こう!」

「あ、あぁ!!!」

 

そういってクロノが扉を蹴破る。

そこにいたのは、入口とは比べものにならない量の傀儡兵。

 

「ここから二手に別れる。君達は最上階にある駆動炉の封印を!」

「クロノくんは?」

「プレシアの元へ行く。それが僕の仕事だからね。・・・今道を作るから、そしたら!」

「うん!わかったよ」

「うん!アルフはなのはたちのほうへ」

「わかった!」

「よし!!」

 

クロノがデバイスを構る。

 

《ブレイズ・カノン》

 

クロノの砲撃が傀儡兵を吹き飛ばす。

 

「クロノくん!気をつけてね!」

 

その言葉に笑顔を浮かべるクロノ。

なのはとユーノとアルフはフェイト達とは別の道に飛んでいく。

時の庭園の中で一番高い位置にある部屋。

壁からなにから全てが金色一色の螺旋階段を昇りきった頂上。

駆動炉のある最上階へと。

 

なのは達は、駆動炉を目指し上へと向かう。

しかし・・・その途中にいる傀儡兵たちが道をふさぐ。

 

「くっ数が多い!」

 

アルフが吠える。

駆動炉はプレシアの目的の大事な歯車の一つ。

それだけに、途中に配置されている傀儡兵もかなりの数が揃えてあった。

 

「何とかしないと・・・」

 

チェーンバインドで四機の傀儡兵を押さえていたアルフだったが

抵抗に負けて鎖が引きちぎられ、四機がなのはの元へと殺到する。

 

なのはが気づいた時には斧や槍を振りかぶった傀儡兵がすぐそこまで迫っていた。

魔法の発動も間に合わず、これまでかと目をつぶるなのは。

 

「なのはっ!!」

 

そこへユーノがなのはへ飛び掛って突き飛ばした。

そして相手の攻撃をバリアで防ぐ。だが、その一部を受けて右腕を負傷する。

 

「くっ、ディバインバスター・エクステンド!!!!!」

 

なのはの放つ、拡散型の砲撃によりその場にいたすべての傀儡兵が破壊される。

そしてなのはは急いでユーノの元に近づいて、話しかける。

 

「ユーノくん!大丈夫!!?」

「う、うん、大丈夫・・・。この程度なら・・・」

 

そういってユーノは治癒魔法をかける。

見る見ると傷が塞がっていった。

それを見て安心したなのはは一呼吸置いて言った。

 

「ユーノくん・・・ありがとう・・・」

「うん、どういたしまして、さあ行こう!!」

「うん!」

 

三人は再び駆動炉のもとへと向かった。

 

最上階に入ると、先ほどまでの金色一色の風景から打って変わり、

多くの機械類が目立つどんよりとした部屋だ。

 

そして部屋の中心には大きな柱のような機械があった。

その機械の上の部分には赤い宝玉が光っている。

あれが駆動炉のコアに違いないと三人は思った。

 

傀儡兵も20体ほどが待ち構えて駆動炉を守護しているようだった。

 

なのはは飛行を止め、地面に降り立つ。

ユーノは素早く入ってきた出入り口に防御の結界魔法を張った。

追ってくる兵をこの部屋にこれ以上、入れないためだ。

 

20体ほどの傀儡兵がうじゃうじゃと蠢く姿を見ながらなのはは言った。

 

「さすがにここは全部倒さないと危なっかしくて封印できないね・・・」

「うん、サポートは任せて。・・・はぁあああ!」

 

ユーノは傀儡兵に次々とバインドをかけていく。

 

「じゃあ、さっさと片付けようか・・・。ディバインシューターフルパワー!」

 

魔力弾は魔力の節約のため1つだけ。代わりに、その一つにはかなりの魔力が込められていた。

性質は『音』 秒速340mの文字通り音速の魔力の弾丸はなのはによって発射される。

 

魔力弾が部屋を突き進む、それは身動きが取れない傀儡兵を無慈悲に貫通させていく。

そして傀儡兵を1分もかからずにすべて倒し、なのははディバインシューターを消した。

 

「妙なる響き、光となれ! 赦されざるものを、封印の輪に! 駆動炉コア、封印!」

 

封印作業はユーノにお願いした。封印には相当の魔力が必要だから

それになのはがやるよりもユーノがやったほうが効率が良かった。

 

「はい、なのは」

 

ユーノからなのはに駆動炉のロストロギアが手渡される。

 

「うん、ありがと。じゃ、レイジングハート」

 

レイジングハートの中にロストロギアは収納された。

そしてエイミィに連絡を取り、ここでやるべきことは完遂した。

 

「じゃあ、やることはやったし・・・・・・

 今度は、皆のところまで一直線で行こう。行くよ、レイジングハート」

《All right》

 

なのはは床にレイジングハートを向ける。そして狙いを定めた。

 

《Coordinates are specific. Distance calculated. Downward clearance confirmation》

 (座標特定、距離算出。下方の安全確認)

 

「ディバイィィィンンン、バスタァァァアアアアアアアアアアア」

 

桜色の砲撃は邪魔な床を、壁を問答無用で粉砕していった。

 

 

「終わりです。次元震は、私が押さえています。」

 

時の庭園上層部。

残骸になった傀儡兵の中心で魔法陣を作りだし、

背中から四枚の羽を模した魔力を放出しているリンディ。

提督の名に恥じぬ実力をもって、被害を押さえている。

 

「駆動炉もうじき封印。貴女の元へは、執務官が向かっています」

 

語りかけるのは、庭園深部にいるプレシアへ。

管理局員として・・・なによりも・・・一人の母親として

 

「忘れられし都アルハザード。そしてそこに眠る秘術は、存在するかどうかすら曖昧な、只の伝説です」

 

言い切るリンディ。

しかし、そんな言葉一つで止まるなら、

こんな事件は起きていない。実際にあるか、ないかの問題ではない。

そしてプレシアには存在していると・・・少なくとも存在していたという事実は真実と認識していた。

 

「違うわ、アルハザードは道は次元の狭間にある。

 時間と空間が現れた時、その狭間に存在する輝き・・・道は確かに、そこにある!」

「ずいぶんと分の悪い賭けだわ。・・・貴女はそこに行って、

 何をするの?失われた時間を、侵した過ちを取り戻すの?」

 

既に駆動炉の封印は完了し、庭園内の全員がプレシアの元へと向かっている。

 

「・・・そう。私は取り戻す。私とアリシアの、過去と未来を…!」

 

ふとリンディが違和感を感じた。

彼女が放つ言葉には、さきほどまでの狂気や悲壮感が無いような気がした。

あくまでも自分自身のただの勘ではあるが。

 

「取り戻すのよ・・・こんな筈じゃなかった・・・世界を」

 

突如爆音が起こる。

プレシアは目を向けずに、アリシアの入った生体ポッドへ寄り添う。

 

フェイトとクロノはプレシアのもとにたどり着いた。

そこにはプレシアと液体に浸かっているアリシアの姿があった。

プレシアは一瞬悲しそうな顔をして言った。

 

「来てしまったのね・・・フェイト」

 

そしてフェイトは思いをプレシアに伝えるために口を開く。

 

「はい、あなたに言いたいことがあって来ました」

 

プレシアはその言葉に聞く姿勢を見せる。

振り返り、フェイトを正面から見据えた。

 

「確かにわたしはあなたの望むような娘じゃないかもしれません。

 わたしはアリシア・テスタロッサではありません。

 あなたの作りだした・・・ただの人形なのかもしれません。

 だけど・・・私は・・・フェイト・テスタロッサは

 あなたに生み出してもらって育ててもらった、あなたの娘です」

 

フェイトはまっすぐに思いをぶつけた。

フェイトの言葉にプレシアは衝撃を受ける。

 

「あなたを今更娘だと思えと・・・?」

「あなたがそれを望むなら・・・私は世界中のだれからも・・・

 どんな出来事からも・・・あなたを守る。

 ・・・私があなたの娘だからじゃない。

 

 あなたが私の・・・母さんだから!」

 

「・・・ふふ、あははははは、やっぱり理不尽なことばかりだわ。

 時も、世界も、・・・・・・・・・・・・そして人の心も!」

 

プレシアは思い通りにいかない世の中に自棄になりながら言った。

そしてクロノが叫ぶ。

 

「そうだ、世界にはこんなはずじゃないことばかりだ!・・・ずっと昔からいつだって誰だってそうなんだ!

 でも、そのために他の誰かを巻き込んでいい権利なんてどこの誰にもありはしない!

 ・・・だから・・・もう止めるんだ・・・・・・」

 

だが、プレシアは止まらない。

止まるという選択肢など、もはやどこにもない。

 

「止められないのよ、どうしても!私はたった一つの願いを・・・貫き通すわ!!」

 

プレシアは言いながら、杖を床にゴン、と力強く叩きつける。

そうすると、前々から準備していた魔法が発動した。

 

「プレシア・テスタロッサ!!!!」

 

クロノがそう叫ぶがもう遅かった。

 

その部屋と、そして時の庭園が崩壊を始める。

プレシアの足場も壊れ始めた。しかし、プレシアはその崩壊に抵抗せず、身を任せ続ける。

そこに・・・天井を突き破って桜色の砲撃が突き抜けた。

 

「勝手に・・・逃げるなぁああ!!」

 

そこに降りてきたのは体のバリアジャケットの一部を焦がしつつもいまだ健在ななのはだった。

なのははディバインシューターを飛ばして、床の一部を飛ばしプレシアの体をこちら側に飛ばす。

母を見過ごす事などできないフェイトは、必死に駆け寄り、手を伸ばす。

その手は届き、プレシアを幼いその手が支える。

 

「逃げないでよ!フェイトちゃんは自分の思いを伝えたのに!勝手に逃げようとしないで!」

 

なのはにそう言われて、フェイトのほうを振り向くプレシア。

フェイトの顔は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。

 

「ねぇ・・・一緒に生きよう?また一緒に・・・シュークリーム食べよう?母さん」

 

涙を拭いつつフェイトはプレシアに言った。

そんな二人を助けようとなのはたちも近づいていく。

プレシアはその言葉を聞いて、初めて涙を流す。

 

「・・・昔、アリシアが言っていたわね・・・」

「・・・私がほしい・・・いや、私じゃなくてもいい。ただ妹がほしいって言ってたよね」

 

フェイトは思い出したアリシアの記憶の中でアリシアが言っていたことを思い出した。

『妹がほしい』それがアリシアの願い。シングルマザーのプレシアはそれを聞いてちょっと困っていたが。

それを聴いたプレシアはハッとした顔をした後、何が足りなかったかを理解して言った。

 

「・・・やっぱり・・・遅すぎたわね」

「え・・・?・・・・・・つっ」

 

突然、フェイトを襲った激痛。それはプレシアが最後の力を振り絞ってはなった一撃だった。

その痛みにとっさに手を離してしまうフェイト。

プレシアは満足そうな顔を浮かべながら、魔法の使えない虚数空間へと落ちていく。

 

「あ、あぁ・・・母さぁあああああああああああああん!!!!!!」

 

フェイトはもう一度手を掴もうと自分も虚数空間へと行こうとする。

それを止めたのはなのはだった。彼女の手を引き、己へ引き寄せ言った。

 

「フェイトちゃん!行こう!フェイトちゃんまで死んじゃったらどうするの!!?」

「な、なのは・・・」

 

なのはの剣幕有る叫びにフェイトは何も言えなくなる。

 

「と、とりあえずここは危険だ!僕たちもアースラに戻るぞ!!!!」

 

クロノが二人にそう言うが、二人はほとんど聞いていなかった。

 

その時クロノは違和感を覚え、ふと周りを見てみた。

さきほどまでジュエルシードの暴走で崩れかかっていた庭園が一時的に静かになっていた。

そして上空にはシリアル5のジュエルシードを中心にして

9つのジュエルシードが均等に並び、一定のスピードで回転していた。

 

「なんだ・・・あれは・・・?」

 

やがて回転を始めたジュエルシードは輝き、

そのエネルギーはシリアル5へとそそがれる。

その輝きは一点に集まり、一つの光の球体となる。

 

 

パキンッパキンッ!!

 

 

そしてエネルギーを過剰に消耗したジュエルシード9個は甲高い音を上げて砕け散った。

そして残ったジュエルシードシリアル5は一瞬眩い閃光を放つとフェイトに向けて飛んでいった。

 

「危ないフェイトちゃん!!」

「フェイトォ!!」

 

なのはとアルフが叫ぶ。

とっさになのははフェイトを庇うために飛び込む。

フェイトに当たるはずだったジュエルシードはなのはの胸に直撃。

そしてその体内に吸収されてしまう。

 

「な、なのはぁあああああ!!」

 

ユーノが叫ぶ。がそれどころではなかった。

 

「ぐっ、が・・・がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

この世のものとは思えない激痛に、なのはは胸を押さえ叫んだ。

かつて胸に受けた激痛とも今まで足に受け続けた激痛とも違う

・・・いや、全く比べ物にならないものだった。

 

「なのは!なのは!!」

 

ユーノが近づきなのはを揺するが、なのはに変化は見られない。

せいぜい抑えているのが胸から頭になっただけだ。

 

「とりあえず後だ!暴走するロストロギアを取り込んだ人間を送るのも危険かもしれないが、

 エイミィ!転送の準備を!あとは医療班を呼んでおいてくれ!!」

『了解!!』

 

その声とともにその場にいた全員とアリシアの入った生体ポッドがアースラへと転送された。

なのはは激痛が治まったのか、叫ぶことはしなくなったが、深い眠りについていた。

 

 

 

 




プレシアさんが改心した切欠はなのはの言葉でアリシアが言っていたことを思い出したのが理由ですが・・・劇中では説明できてませんね。これ・・・

別に改心させる必要性はなかったけれど。伏線入れるためにはそのほうが自然だったというか・・・

そしてなのはさんは無事なのか!? 次回無印編最終回


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SAGA 20「名前を呼んで・・・ただそれだけでいい」

無印編。完☆結!!きり良く20話で終わりました。
まぁ、伏線もいろいろ張りましたし・・・パル転は未だに駄目だ・・・ティーダさんマジどうしよ

さて、注意事項は小説じゃないというまさかの指摘を受けたので、とりあえずプロローグの前書きに移行しました。
自分はあらすじはシンプルなのが良いのでここにしました。見難かったらすみません。

次回からはA's編。ネタにできるかぎり走らない制約のおかげで
パル転よりも早く進みそうだ・・・グレアムさん味方だし・・・
もっとも・・・最終決戦はまた違うのですが・・・

それでは皆さん、無印編最終回。どうぞ!!


 

 

 

 

アースラにたどり着いた一行は事件が終わっていたものの緊迫していた。

さきほどまで激痛で顔を歪め叫び続けていたなのは・・・

今は落ち着いていて、深い眠りについていた。

だが、その胸の中にはロストロギア・ジュエルシードが取り込まれているのだ。

予断は許さない。何時暴走してもおかしくないのだ。

 

「・・・彼女を医務室に連れていってあげてください」

 

リンディの命により医療班の手によってなのはは医務室へと運ばれた。

 

 

 

「ジュエルシードは結局残ったのは11個・・・

 なのはの体内に入ったものも含めて12個か・・・」

「一応、事件は解決したといって良いでしょうね。

 もっとも・・・いろいろと問題は残っていますが・・・」

 

そう言うとリンディは膝をついて泣いているフェイトを見た。

アルフが「フェイト・・・」といいながらフェイトを慰めている。

そんなフェイトの状態はある意味で正常だ。

目の前で家族を失い、自分を庇って周りの人間が傷ついたのだから・・・

 

「・・・とりあえず・・・なのはさんが目覚めてからね・・・」

 

リンディはそう言いながら、後々スムーズに行くように

今回の事件の溜まっている書類を片付けに行った。

なのはが目覚めるまでは・・・まだ何もしないほうが良いだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん・・・・・・こ、ここは・・・」

 

数十分後なのはは目覚めた。

最初は意識が朦朧としていて状況をつかめなかったが、

今ここに居る場所がアースラの医務室だということに気づいた後は

時の庭園であったことを次々と思い出していた。

 

「・・・プレシアさんが落ちていって・・・フェイトちゃんを庇って・・・それから・・・」

 

それから襲ってきた激痛。なのははそれを思い出し身震いしていると気づいた。

 

「・・・左足の痛みが・・・なくなってる・・・」

 

今の今まで続いていた左足の痛みがなくなっていた。

それだけではなく、動かそうと思っても動かなかった足が動かせた。

久しぶりに感じる足の感覚に喜びつつも不安は絶えない。

 

「どうして・・・ジュエルシードの・・・せいかな・・・」

 

なのははとりあえず目覚めたということをユーノに知らせて来てもらうことにした。

 

 

 

 

「それで・・・フェイトちゃんはこの後どうなるんですか・・・?」

 

あれからいろいろと話した。ジュエルシードのことなど。

そのとき足についていたテーピングからユーノ以外の面々にいろいろ突っ込まれたものの。

怪我防止のために左足だけつけたと言われて、とりあえず納得していた。

 

そのときに話された事実はこうだ。

とりあえず、取り込んだジュエルシードは実質的に封印されているため、暴走の心配はまずないこと。

次に・・・その取り込まれたジュエルシードはなのはのリンカーコアと完全に融合していることだ。

そのため魔力量を計算したところ、ランクにしてSSに匹敵する魔力があった。

本来ならロストロギア。最高ランクのSSSでもおかしくないのだが、体がセーブしているらしい。

無理やり引き出せばSSSの魔力を行使することも可能だが、体にどれだけの負担がかかるかわからないという。

 

とりあえずは管理局にはロストロギア所持の許可を貰い。

後々、ミッドチルダにある大病院で詳しく検査してもらう予定になっていた。

 

そして、なのはがそう聞いているのはその話がすべて終わったからだ。

なのはは管理局に対して詳しくないし、今回の事件がどれだけの罪かも知らないからである。

そんななのはにクロノは言った。

 

「次元断層まで起きかねない次元犯罪だからな。普通に考えれば数百年以上の幽閉ってところだろう」

「そんなッ!」

「まぁ、そうはならないだろう・・・いや、する気はない・・・」

「え?」

 

その言葉に顔を上げたなのはに、エイミィが立ち上がって答える。

 

「フェイトちゃんは、お母さんの願いを叶える為に頑張っただけだからね。そんな子をクロノ君が言ったような罪に問うほど、管理局は非道じゃないよ」

「管理局は人手不足だから嘱託魔導師になれば罪は軽くなるはずだよ」

「まぁ、状況的にはほぼ無罪まで持ち込めると思うよ」

「そうですか・・・よかったぁ・・・」

 

クロノの言葉になのはは心底安心した様子で、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「とりあえず君たちは本来なら時空間が安定していないから

 暫くアースラに留まってほしいところだが、構わないか?

 とくになのははロストロギアをその身に宿しているんだ。

 もっと詳しく検査はさせてもらう。いいな?」

「うん、まぁ仕方ないからね。わたしも何が起きているのかもっと良く知りたいし・・・」

 

双方が納得したため、なのはたちはアースラに残っていた。

一応、通信は可能だったので家においておいた通信機に帰りが遅くなることだけは送っておいた。

 

 

 

 

 

あれから数日・・・

 

事件は終わりを告げ、なのはとユーノは一応感謝状などをもらい、

特になのはは事件の功績から嘱託魔導師にほとんど無条件になれる権利などを手に入れた。

まあ、それは管理局からの間接的な勧誘みたいなものなのだろう。

もっとも数学者になりたい本人は頑なに拒否していたが・・・

ロストロギアをその身に宿していることを理由に勧誘してくるものもいたが、

なのははそっと耳元であることをつぶやくことで追い返していた。

 

そして、ミッドチルダの大病院で検査してもらったが、アースラの診断とはあまり変わらなかった。

とりあえずはロストロギア所持の許可を管理局から貰い地球へと帰っていった。

 

そして高町家に帰宅し、数日がたった。

それまでに両親にロストロギアのことを話して、

いろいろと心配されたりしたが、それはまた別のお話・・・

 

その日はなのはたちはちょうど休日で暇だったのだが、

クロノから時空間が安定し、また裁判まで時間があるので海鳴公園でフェイトと会えることになった。

 

それを喜んだなのはは急いで支度をし、約束の場所へと向かった。

そのときにあることを忘れずに・・・

 

 

 

 

フェイトとの待ち合わせ場所は、海鳴公園の近くの、海が見渡せる橋だった。

今日は気持ちのいい快晴。なのははその橋の手すりに寄りかかりながら、海からの静かな風を浴びる。

風で白いリボンで2つに結ばれた栗色の髪がわずかになびいていた。

 

なのはは普段は海を見ても、特別何の感情もはなかった。

家が割と海の近くにあるので、ここでの景色は見慣れてしまったのだ。

この辺の住民ならたいていはそうだろう。しかし、今日は海が輝いて、とても綺麗に見えた。

光を乱反射させ、蒼い背景の中照りかえる虹色の光は・・・とても神秘的だった。

 

そのまましばらくしていると、転移魔法でフェイト達・・・フェイト、クロノ、アルフが現われた。

それから合流し、ユーノとクロノ達は空気を読んで少し離れたベンチに腰を下ろした。

そしてなのはは静かに話し出した。

 

「何だかいっぱい話したいことあったのに。変だね。フェイトちゃんの顔見たら忘れちゃった」

「私は・・・そうだね、私も上手く言葉に出来ない。だけど嬉しかった」

「えっ」

「真っ直ぐ向き合ってくれて」

「うん、友達になれたらいいなって思ったの。でも今日はもうこれから出かけちゃうんだよね」

「そうだね。少し長い旅になる」

「また会えるんだよね?」

「うん・・・少し悲しいけどやっと本当の自分を始められるから。やりたいことも見つけた・・・」

 

そういって一呼吸置くとフェイトは本題に入った。

 

「今日、ここに来てもらったのは、返事をするため」

「え?」

 

フェイトが切り出した話題になのはは少し驚いて聞き返す。

それに対しフェイトはきちんと答える。

 

「君が言ってくれた言葉。友達になりたいって」

「うん、うん!聴きたいよ。フェイトちゃん!」

 

なのははその言葉に頷く。白いリボンで2つに結ばれた栗色の髪が縦に揺れる。

 

「私に出来るなら、私でいいなら、って。だけど私、どうしていいかわからない。

 だから教えて欲しいんだ。どうしたら友達になれるのか」

「・・・・・・・・・簡単だよ」

 

フェイトの疑問になのはは答えを言おうとする。

それはとても簡単なこと・・・でもそれが簡単なのは友達になれる人だけだ・・・

フェイトは間違いなくその一人になれるはずだ。

 

「え?」

「友達になるの、すごく簡単」

 

そう言って一呼吸吐き、なのはは自分の考えを伝える。

こうやって自分もはやてと友達になったのだから。

 

「名前を呼んで?はじめはそれだけでいいの。

 君とかアナタとか、そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、

 はっきり相手の名前を呼ぶの。最初はそれだけでいい」

 

そう言った後、一呼吸つきなのはは言った。

 

「わたし、高町なのは。なのはだよ」

 

「・・・なのは」

「うん、そう」

 

「な、の、は・・・・・・」

「うん」

「なのは・・・」

「うん・・・」

 

繰り返しなされるやり取りの中、なのははフェイトの手を握る。

あたたかかった。心地よい体温の温もりが伝わってきた。

 

「ありがとう、なのは」

「うん・・・」

「なのは・・・」

「うんっ!」

 

フェイトはなのはの名を呼び続ける。初めての・・・友達の名を・・・

 

「君の手は暖かいね、なのは・・・」

「っく・・・うっ・・・」

 

その言葉が引き金となったのか、瞳のダムは崩れ落ちなのはの瞳から大粒の涙が流れ出す。

 

「少し分かったことがある。友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ」

「・・・フェイトちゃんっ!・・・」

 

「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。

 そうしたら、また、君の名前を呼んでもいい?」

 

フェイトはそう言ってなのはの目をみる。

初めての友達へ思いを伝えるために・・・

 

「うん・・・うんっ」

 

なのはは頷く。なのはもまたうれしかった。

 

「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはも私を呼んで。

 なのはに困ったことがあったら、今度はきっと、私がなのはを助けるから」

「・・・くっ・・・(フキフキ) それじゃあ約束して、

 わたしはこれからわたしの大切な親友を助ける。助けるために戦う。

 そのときになったら、一緒に戦ってくれる?」

 

図々しいのはわかっている。まるで見方を変えれば都合のいい道具扱い。

だけれども、フェイトにはなのはの真意は理解できる。

 

「もちろん、なのはの親友は私の友達でもあるから・・・必ず・・・行くよ」

 

その言葉を言った途端、二人に対して静かなそよ風が優しく吹き、二人の髪がなびいていた。

 

ユーノ、クロノ、アルフの3人は近くのベンチに座って2人の様子を見ていた。

アルフはもらい泣きしながらフェイトの成長ぶりに感激して言った。

 

「うう、フェイトがあんなに強くなって・・・。それもあんたのとこの主人のおかげさ・・・」

「僕のとこのって・・・僕はなのはの使い魔じゃないんだけど・・・・・・」

 

すでに散々アースラの中でからかわれていた話題にユーノが過敏に反応する。

スクライアで学んだ道が狭いところでも通るための変身魔法が

まさかこんな展開になるとは思っていなかった。

 

なのはを巻き込んだことは、はやてを助けるきっかけになりそうなので

とりあえずは後悔していないが、使い魔呼ばわりは困る。

 

「時間だ、そろそろいいか?」

 

時間がそろそろ来るので、クロノは二人に近づきそう言った。

 

「うん」

「待ってフェイトちゃん!・・・そろそろかな・・・」

「・・・?」

 

なのはがそういったとき。上空から光がフェイトとなのはの間に落ちる。

良く見るとそれはディバインシューター。そして括り付けられている箱。

ものすごい勢いで落ちてきたのに、その箱も地面もまったく傷ついていなかった。

 

「計算どおりだね。くく、発射角度、発射時間、滞空時間、会話時間

 そしてフェイトちゃんの移動の仕方・・・すべて予想してここに来た」

「あ、あの・・・なのは?これはいったい・・・」

「ん?お土産だよ。性質変化で硬質化したディバインシューター四つを上空に飛ばしておいたの。

 中身が劣化しないよう厳密な計算の末にここに来るようにしたんだ。

 ちょっとフェイトちゃんを驚かせようと思ってね・・・」

「・・・・・・・・・・・・嘘でしょ、なのは。それだけじゃないでしょ?」

 

フェイトのその言葉になのはは最初キョトンとした顔をしていたが、

次の瞬間には口元をくの字に曲げた指をつけながら笑った。

 

「はは、フェイトちゃんにはバレちゃうか・・・うん、そうだよ。

 フェイトちゃん・・・ずっとわたしのこと心配してくれていたからね。

 魔法もきちんと使えるってことを証明させたかった・・・」

「・・・でもなのは、食べ物。粗末にしちゃ駄目だよ」

「大丈夫だよフェイトちゃん。ちゃんとシミュレーションしたし、

 箱も中身に影響が出ないよう、友達のお姉さんに頼んで作ってもらった特注品。

 本人曰く強度もTNT爆薬1t爆発しても問題ないし、中身もジャイロセンサー内蔵で・・・」

「あの・・・なのは?言ってることがまるでわからないんだけど・・・」

 

質量兵器が使用できない世界の住民にTNT爆薬についてかたってもわかるはずがない。

ましてやフェイトはほとんど時の庭園から出ていないのだ。

それに気づいたなのはは苦笑いしながら言った。

 

「ごめん、ごめん。まぁ食べ物は粗末にしていないから安心してって意味。

 お母さん特製のシュークリーム。よかったらアルフさんと一緒に食べて」

「う、うん・・・あ、ありがとう」

 

フェイトは若干引きながらそれを受け取る。

前々からなのはにはどこか二面性が有る気がしていた。

普通の女の子のようで、実は意外とアグレッシブでえげつない。

 

今回も魔法が使えることをこんな回りくどい方法でしなくてもいいと思う。

やっぱりどこかずれているのだろうか・・・?

そして、それを理解できる自分もどこかずれているのではないだろうか

 

そんなことを考えているとなのははリボンをほどいて話し出す。

 

「・・・会えるってわかったときにいろいろ考えたんだ・・・

 だけど・・・やっぱり見つからなかった。そのシュークリームはなんか違うしね。

 だから思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど・・・受け取ってくれる?」

 

そう言って白い太目のリボンをフェイトに差し出す。

それを見て、フェイトも笑顔を浮かべながらリボンをほどく。

 

「じゃあ、私も」

 

フェイトも細く黒いリボンをなのはに差し出した。互いに相手のリボンを受け取る。

そしてなのはたちは再び見つめあい、やがてフェイトが言った。

 

「ありがとう、なのは」

「うん、フェイトちゃん」

「きっとまた・・・体には本当に気をつけてね」

「うん、きっとまた・・・いずれ・・・」

 

絶対に会える。そう確信しているから・・・なのはは笑顔で彼女を見送る。

するとアルフはなのはの肩を叩く

 

「ああ、色々ありがとうね。なのは、ユーノ」

「こちらこそありがとうございます。アルフさんも元気でね」

「うん、またね・・・」

 

「それじゃ、僕も行く。なのは、仮にもロストロギア所持者だ。体には気をつけてな」

「クロノ君もまたね。うん、大丈夫。わたしは無理はしないよ」

「そうか・・・またな」

 

「バイバイ、きっとまたね。クロノ君、アルフさん、フェイトちゃん」

 

そしてフェイト達が転送されていく。なのは達は手を振りながらそれを見送った。

三人が消えた後も、少しばかり別れの余韻がさめるまで、しばらくその場にたたずんでから、言う。

 

「なのは」

「うん・・・行こうか」

 

そうして歩き出す。普段の生活へ戻るために・・・

海から漂う潮風が心地よい。歩きながら、なのはは話し出す。

 

「・・・でも、ここからだね。闇の書・・・

 はやてちゃんを助けるにはまだまだ力が足りない・・・

 もっと・・・もっと・・・もっと力を・・・」

 

なのはのやることは山積みだ。

魔法の修行。そしてスターライトブレイカーの威力アップ。

それにフェイトと向こうでも会えるようにミッドチルダ語を覚えたり、

リンディに新しくもらった各分野の魔法の教科書の魔法を覚えたり、

手に入れた新デバイス「ブレイズハート」を使いこなしたいし、

それにできればデバイスの知識もほしい、と挙げればキリがなかった。

 

なのはは胸元に光る紅と蒼の真円の宝玉を指でなでる。

この二つの力を・・・もっとうまく使わないと・・・いけない・・・そんな気がする。

 

なのははそんなことを考えつつ、家族の待つ家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

そしてなのは達は普段の生活に戻った。

 

なのはの両親は喫茶店の営業を順調に続けている。

居候のユーノは自ら志願し、翠屋の手伝いをしている。

幼い中世的な顔つきが、客に意外と人気らしい。

もっとも年齢的に学校に通っていなければならないので、

手伝うのは学校が終わっている時間帯だけだが。

 

「なのは!」

「はーい!」

 

そしてなのはは学校へ出かけた。

学校での様子もいつもどおりだ。前と変わらない日々・・・

学校に行って、暇があれば図書館へ行き本を読み。

時々ははやてとあってたわいない日常的な会話をしたり・・・

 

だけれど・・・なのはのリボンはフェイトと交換したものに変わっていた

細く力強い・・・黒いリボンはその輝きで周りを照らす。

 

 

アースラ内では相変わらずエイミィがクロノをからかっていた。

そしてフェイトはなのはと交換したリボンをつけていた。

 

今はまだ会えないけど・・・すぐに絶対に会える・・・

 

フェイトが手に持ったバルディッシュを見て、

また同じ頃なのはがレイジングハートとブレイズハートを見てお互いの事を思っていた。

照りかえって輝く赤青黄のデバイス・・・はそれを繋いでくれていそうだった。

 

彼女達の物語は・・・まだこれから始まるのだった・・・

そして・・・それはまた彼女達の苦難の旅路でもあったのだった・・・

 

 

 

   リリカルなのはサーガ 無印編:「運命との出会い」Fin

 

 

 

 




 
七回確認したんだ。誤字はあってもパルキアはいないはず・・・


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キャラクター紹介

とりあえずは無印編のキャラ紹介です。
なのはにオリジナル設定が有るけど気にしないでください。
とらハ設定だと年齢的な意味で違和感があったので・・・
(早生まれではという意味であり、この本編のなのはは表記は9歳だが、実際は8歳である)




名前:高町なのは

 

生年月日:1995年(新暦56年)7月21日

 

髪型:無印時と同じ

 

瞳の色:原作と同じ青

 

魔力ランク:S(SS)

 

バリアジャケット:MOVIE 1stのものと同じ

 

原作との差異:顔と体にある傷。とくに顔は左頬に斜めの傷跡

 

 

概要

 

ご存知原作の主人公

 

五歳の頃、ある本と出合い数学を知る。

そしてそこから発展して魔法を独学で覚えた天才児。

だが、ある日魔法を使っていたところ、突然胸を襲った痛みで操作を誤り

目の前の木に当ててしまい、その木が体に直撃し大怪我。

命に別状はなかったものの顔の左頬と体の上半身には今も傷跡が残っている。

 

それ以外はほぼ原作と同じだが、

数学好きから発展した技術と知恵と経験は小学生にしては異常。

 

でも文系はちょっと無理。理系は原作同様アリサよりも上というか学年トップ。

先生が冗談で出した大学の問題をすらすら解けるほど。

 

御神流を習っている。神速以外はとりあえずマスターしている。

もっともマスターしているといっても使えるだけといったほうが正しい。

 

かなりのバトルマニア。

本人も自覚はしている超重症。

 

時の庭園にてフェイトを庇ったことにより、

ジュエルシードがリンカーコアと一体化している。

そのため魔力量がSSになっている。

現在のところ暴走する気配はないが・・・

 

 

使用デバイス

 

「レイジングハート」

 

原作とほぼ同じ。ただしシューティングモードはカノンモードになっている。

またデバイスモードは原作TV版のもの。

 

なのはの魔法レベルに少なからず驚いている。

そしてあまりに凄すぎて戦闘中構ってもらえないのが玉に傷。

普段の生活では念話も含めて会話しているが、デバイスとしては何だかむなしい。

 

 

「ブレイズハート」

 

なのはがリンディに頼んで作ってもらったストレージデバイス。

近距離専用であり、なのはが徹夜で書いた設計図を基に作られている。

 

御神流を魔法として使えるように設定してある。

 

またレイングハートとリンクしていてブレイズハートの意思はレイジングハートそのものといえる。

設計図を書く際にレイジングハートが拗ねないよう考えたシステム。

もっともフェイト戦では未完成であり、あまり成果は出ていなかった。

 

スタンバイモード

 

蒼い結晶のような球体。

レイジングハートの実質的色違いであり、止め具の色は淡い銀色。

 

ブレイズモード

 

1振りずつの小太刀。

片方はもう片方の4分の3ほどの長さ。

このモードになると同時に腰の左に二つの鞘も現れる。

 

刀身と鞘と柄の色はすべて白。反りはほんのわずか。

(つば)の部分がコアになっている。蒼く輝く平たい円形。

 

刃の部分には柄から沿って淡い水色のラインがあり、

これに薄く魔力刃を纏わせれば非殺傷、纏わせないで純粋魔力を込めれば殺傷設定となる。

もちろん魔力刃を纏わせたままでも物理的な破壊をしようと思えば可能。

 

 

 

使用魔法

 

 

 

ディバインシューター

 

なのはが適当な数式を思い浮かべていたら偶然見つけたなのは初めての魔法。

なのはの戦闘での基本技であり、ディバインバスター並のバリエーションがある。

アクセルシューターなんてなかった。

 

最大操作数は97発

 

 

液体反発波紋疾走(リキットリパルション・オーバードライブ)

 

なのはがテレビのバラエティ番組を見ながら編み出した訓練のための魔法。

マルチタスクを使い演算をする。そして水面の波の向きに応じて、

魔力の反射を調節しつつ魔力を放出し、水面に浮く技術。

 

使用すると水面に美しい波紋が出現するのが特徴。

 

魔法演算の訓練のために作ったが、フェイト戦では意外な面で役に立った。

 

名前は本編中にはない。完全なネタ。

(というか浮く波紋は疾走じゃないと思う・・・)

 

 

ディバインバスター

 

なのはの砲撃魔法。なのはの魔力運用のまさにより

威力は原作よりも上がり、かつ反動も低い。

連射用の低威力と一撃必殺用のバージョンがある。

 

 

ディバインバスター・エクステンド

 

ディバインバスターのバリエーションの一つ。

拡散型というか、レイジングハートを振り回して広範囲の敵に砲撃を当てる技である。

 

 

 

スターライト・シェード

 

フェイトとの再戦に勝つために己の集束技術を元に、創られた新たな魔法。

3Rの二つ目であるReuse(再利用)を象徴する技。

 

その名の通り魔力を集束し傘のように攻撃を防ぐことができる。

劇中では鉄壁を誇る桜色の障壁はスパークエンドさえもやすやすと受け止めた。

 

欠点として発動直後にはあまり防御力がないことが挙げられるが、

この魔法は時がたつにつれて集束が進み、より強固になっていく。

時間が経てば経つほど防御力が上がっていく特殊なシールドである。

 

 

スターライトブレイカー

 

ご存知スターライトなブレイカー。劇中ではディバインバスターのファイナルバリエーション

意味は「星を軽くぶっ壊す」・・・ではなく「空を翔る銀色の流星」

 

3Rのラスト、Recycle(魔力再生)のための技であり、

第一部で使用した際はまわりの訓練用フェイクビルをすべて破壊した。

 

 

 

希少能力

 

『魔力散布』

 

なのはの希少能力のひとつ。

魔力を周囲に発射し、その反射魔力を捉えることで目的の物体を探す能力。

また、存在する物体をレーダー映像のように捉え、自分を中心に

前方、左右方向などの物体の分布状況、密集度などを探知、脳内に表示することができる。

 

病院で寝ていたなのはがトラウマで他の魔法が使えない中、

唯一使えた魔法というか能力。ユーノが希少能力扱いしたのはそのため。

 

非常に便利な能力であり、なのはは戦闘中常時使用しているため

たとえ目を瞑っていても周りを確認することができる。

 

ただし弱点として魔力の散布速度が19話終盤まで音速の秒速340mであり、

高速で動く物体は捕らえきれない。また捉えてもそれは数秒前の状態であること。

現在ジュエルシードと一体化したことにより、散布スピードは秒速3000mにまで上がっている。

 

 

『魔法操作』

 

なのはの持つもう一つのレアスキル。

文字通り、魔法の性質を自由に操作できる。

例えば音と同じ性質にして、速度を音と同じ性質にしたり、

硬質化することで中身をガードしたりと汎用性が非常に高い。

なのはの得意な魔法であるディバインシューターとは非常に相性が良く

フェイトとの別れの際にはあまり空気を読めない贈り物に役立った。

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサ

 

髪型:無印時と同じ

 

瞳の色:原作と同じ赤

 

魔力ランクAAA

 

バリアジャケット:TV本編のものと同じ

 

 

概要

 

ほとんど原作と同じお方。天然度が多少低い。

原作同様プレシアの頼みでジュエルシードを回収していた。

なのはのことは最終的に友達だと思っているが、

桜色を見ると少し体に寒気が襲うらしい。

 

何かしたいことを見つけたらしい。

 

原作と違ってすでにソニックフォームが使用可能。

 

 

 

ソニックフォーム

 

原作より早く完成したフェイトの速度強化形態。

見た目は、ほとんどレオタードにスパッツのみという状態。

さらに、手足に光の羽「ソニックセイル」を生やしている。

また、原作と違い右手にのみ装甲が追加されている。

 

バリアジャケット構成のリソースをすべて速度にまわしているため

速度が常時ブリッツアクション状態。その上でさらにソニックムーブを重ねがけできる。

 

完全なる速度特化のためのバリアジャケットであり、

防御性は右手につけている装甲以外ないといっても過言ではない。

そのため加速と攻撃の反動に耐える以外の目的は無い。

 

このためスターライトブレイカーを直撃した際、

フェイトのバリアジャケットはほとんど崩壊していた。

辛うじてなのはの魔力提供もあり大事なところは見えていない。

 

 

 

 

 

八神はやて

 

原作と違い、闇の書事件の前になのはたちと知り合っている。

自分の数奇な運命に悲しみを覚えつつも、なのはのトラウマのことを聞き

自分ひとりで悲しんでいる暇はないと思っている。

 

管理局の事を聞き、そのシステムに疑問を持ち

管理局員となってそれを改善していきたいと願っている。

 

魔力はジュエルシードを取り込んだなのは以上だが、

数学が苦手なため、まだ魔法は使用できていない。

 

 

 

 

 



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第二章:A's編「幻想の現実」
プロローグ「姿なき旅立ち」


というわけでA's編です。
のっけからよくある展開ですがw
まぁ、生かせるように頑張りたいと思います。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

暗闇の中、ソレは目覚める。

何もない『くうかん』の中をソレはただ漂う・・・

 

・・・ようやく目覚めることができた・・・やっとだ。何千年も待ちわびていた・・・

 

ソレはそう言った後、舌舐めずりをする。

その顔はとてつもなく不快であり、不気味だった。

 

・・・さぁ、始めようじゃないか・・・宴の時間だよ。なのはぁ・・・

 

 

 

リリカルなのはサーガ 第二章:A's編「幻想の現実」

 

 

始まります・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

薄暗い海の上、二人の少女が戦っていた。

 

一人は栗色の頭髪を持ったツインテールの少女。

その手に掲げるのは金色に輝く杖「レイジングハート」

 

もう一人は先ほどの少女を少し暗い色にしたストレートの少女

その両手に持つのは真白く照らす二刀の小太刀「ブレイズハート」

 

 

ツインテールの少女が砲撃を放つ。

その攻撃をストレートの少女は高速移動で避けつつ接近する。

 

ツインテールの少女はそこへ魔力弾を放つ。

ストレートの少女もまた魔力弾を放ち、相殺させる。

 

再び切りかかろうとしたストレートの少女を襲ったのは

水中音速で下から飛び出す魔力弾。しかし彼女は慌てず騒がず

そのすべてを見切り、その手に持つ白い小太刀ですべて

体全体を高速で動かしながら、魔力弾を切断する。

 

そして三度突撃するストレートの少女。

それを迎え撃とうと杖に魔力を込め、砲撃を放とうとするツインテールの少女・・・

 

その両者の一撃がぶつかり合い・・・そして・・・

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁあ~あ・・・また、なんか変な夢見た・・・」

 

6月2日、相変わらず高町なのはの朝は早い。

早朝とはいいつつも起きる時間はまだ太陽が昇りきらない午前5時過ぎ。

やることは剣術、魔法の修行、どこか非日常のような日常。

 

 

なのはは起床し、身支度を整えて家を出る。

高町家の御神の剣士たちもこなしているランニングと、少し実際に魔法を使うためだ。

だからなのはは魔法の時間も取るために早くに出発した。

 

その日、なのはのテンションは高かった。鼻歌が出てしまうほどに。

 

「ふっふーん♪」

 

実は先日フェイトからビデオレターが届き、なのははうれしい気持ちでいっぱいになっていた。

そのせいで今日のテンションは非常に高かった。

やがて練習場所である山にたどり着く。

 

「じゃあ、始めよっか」

《Yes, my master》

 

脳内でイメージトレーニングはいくらでもできるが、やはり実際に使うのも重要なことだ。そして開始。

なのははさまざまな魔法を実際に使った。朝はいつも大きな魔法は使わず、細かな技術の洗練が中心だった

そのためただでさえ凄かったディバインシューターがさらに凄くなっていた。

それはもしかしたら吸収したジュエルシードの力かもしれないが・・・

 

 ・

 ・

 ・

 

そして、20分ほどが経ち、仕上げに取りかかった。

 

「仕上げに、シュートコントロールをやろうか」

《All right》

 

シュートコントロール、それはデバイスの補助なしでのディバインシューターの精密な制御の訓練だ。

なのはは持ってきたスチールの空き缶を拾い上げ、空高くに放り上げた。

かつてこの大怪我を追わせた訓練と同じだが、はやてと出会ったなのはにはもはやトラウマではない。

 

「ディバインシューター」

 

なのはの周りに3つの魔力弾がつくられる。

 

「シュート!」

 

そしてそれらを飛ばし、それぞれが空き缶をかするように接触させる。

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

絶妙な加減とリズムにより、空き缶はその場で回転しながら滞空しているようになる。

とそこで、

 

《997、998,999、1000――》

 

レイジングハートが1000回を数えた。

 

「アクセルブースト!」

 

なのはの掛け声によって魔力弾のスピードが倍速になった。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

と大きな音を立てながら魔力弾が空き缶の周りで激しく乱舞する。

 

《1500・・・1600・・・1700・・・1800――》

 

レイジングハートの数え方も、100ずつになった。

あまりにも速すぎて1つ1つ数え、発言することがとても困難なためだ。

そして2000を数えるに当たり、空き缶が少しずつ、少しずつ移動し始めた。

もちろん、それはミスなどではない。あの時やりたかったことだ。

やがて空き缶はゴミ箱の上にたどり着き、再び静止するように動かなくなった。

そして、

 

《3000!》

 

レイジングハートが目標数である3000回を数える。

そしてなのはは今あるものを消して、新たに三つのディバインシューターを放つ。

 

「ラスト! 2つのファイアリングロック、解除!」

 

なのはは3つのうち2つ魔力弾の非殺傷設定を解除し別々の方向に飛ばす。

残りの1つでカン、と絶妙なコントロールで空き缶を横向きにした。

そして間髪なく物理破壊設定の魔力弾が空き缶を両サイドから襲う。

 

グシャ!

 

と空き缶はつぶれる。そのままでは貫通、粉砕してしまうので、その寸前で2つの魔力弾を消し去る。

残った1つが最後にコツン、と上から軽くたたき、潰れた空き缶がゴミ箱に入った。

あの時もこれをするはずだったのに・・・忌々しい・・・

 

《Excellent!》

 

優秀な出来を、レイジングハートが褒めた。

しかしなのははあまり嬉しそうではない。最近、レイジングハートの評価は常に厳しいのだ。

それは魔法を使用するときに自分が全く使用されないことを危惧したレイジングハートの策略だが

なのははそのことには全く気づいてはいなかった。ある意味で当然といえる。

なのははやや緊張の面持ちでたずねた。レイジングハートが答える。

 

「それで、今日は何点?」

《90点です》

「あとの10点は!?」

《理想は規定数の3000回と同時に空き缶をゴミ箱の上にたどり着かせることです》

 

「それは無茶だよぉ、レイジングハート・・・」

 

あまりの厳しい採点に、なのはは沈んだ。速度調整をこの距離感でやるのは至難の技だ。

だが、これはこれでレイジングハートの思いやり『も』あった。

もともとあった才能を幼少期からの訓練によりさらに磨いていた

なのはは完璧にかなり近くなり、レイジングハートは粗を探すのにかなり苦労していた。

このままでは自分の価値観がなくなってしまう・・・と

 

《いえ、マスターならいずれできます。必ず・・・(できればできてほしくないですが・・・)》

「そうだといいけどね」

 

ため息混じりに言って、なのはは地べたに腰かけ、そのまま2,3分の小休止をとった。

魔法の訓練は終わってもまだまだ御神流の訓練がある。

そう思いながらなのはは胸元のブレイズハートを撫でるのだった。

 

 

そのころユーノ・スクライアは無限書庫と呼ばれる場所にクロノとともに居た。

今回ここに来た理由は『闇の書』に関する資料を集めるためだ。

 

グレアム提督を中心の元、闇の書に対してついに管理局が行動を起こす。

それを行うのが臨時任務の為に編成される部隊特務機動隊(エクストラフォース)の一つに作られた部隊。

 

その名は『特務五課』

ロストロギア『闇の書』に対して具体的な対応を行う組織だ。

特務と名のつく部隊はいろいろな部隊に作られるが、

今回は古代遺物管理部の特務機動隊である。

 

メンバーは管理局員が672名。民間協力者が45人だ。

そのうち約273名が魔導師で平均ランクはA。

Aもあるのは後述するがオーバーSが幾人か所属しているからである。

 

また闇の書被害者の関係者もいるにはいるが、

グレアムから先に警告を受けているのではやてに手をだそうなどと考える人はいない。

もっとも作戦に重要な蒐集をさせようなどと言うものは居ないのだが・・・

 

そして民間協力者の内の二人がユーノとなのはである。

なのはは具体的な作戦が始まるまで特別することは無いが、

ユーノには今からすでに仕事がある。

 

それが無限書庫での作業だった。

 

無限書庫・・・それは時空管理局本局内にある、

管理世界の書籍やデータが『全て』収められた超巨大データベース。

気の遠くなるほどの規模で本棚が並んだ書庫であり、

その形状は円筒形で内部は実質的な無重力状態である。

 

管理外世界の書籍はないものの世界のすべての知識が集まっているといっても過言ではない。

 

そんな空間に許可を貰いユーノが入るとすでに先客が居た。

 

「おぉーねずみっ子くんじゃない」

「あら、ユーノ君。久しぶりね」

 

そこに居たのは二人の長身の女性。

ロングヘアで、背筋がぴしっとした素行の良さそうなのがリーゼアリア。

ショートカットで今も本を片手に尻尾をふりふりしたりと、

素行はあまりよろしくなさそうなのがリーゼロッテだ。

 

ユーノは以前二人と出会っているが、アリアはともかくロッテには

変身魔法でフェレットになれることを知られてからかわれているので

多少苦手意識を持っていた。

 

「お久しぶりです。リーゼアリアさん、リーゼロッテさん。

 というより驚きました。リーゼアリアさんはともかく

 リーゼロッテさんまで来るとは・・・どういう風の吹き回しですか?」

「ふふ、嫌われてるわね。ロッテ」

「あーあ。残念残念」

 

・・・初対面で数時間も経っていないのにねずみ呼ばわり挙句

食ってやる発言とはちょっと過激すぎではないでしょうか・・・

 

「まぁ、それはともかくとしてユーノ君も検索に?」

「はい、そうですね。スクライア一族として」

 

そういうとユーノは魔法を発動させる。

それは検索魔法であり、読書魔法も同時に使用する。

彼の周囲に様々な記録のリストが載った表示枠が出ては消え、

必要な項目のみが別の表示枠に移されて、中にはより古い記録へと換えられる。

膨大な情報量だが、ユーノは常人では考えられないスピードでそれらを消費していった。

 

「予想以上・・・だね」

「まぁ、あのフェレットモドキの才能はアースラで知っているが・・・」

 

クロノがそう言うが、言った本人も想定外だった。

本来ならば無限書庫とは数十人で組んでチームで検索して

数年単位で資料を見つけるものだ。

 

それが・・・たった一人の9歳の少年に変えられようとしている・・・

 

これなら・・・11年前から続く因縁に決着をつけられそうだ・・・とクロノは無意識に思っていた。

 

 

 

 

 



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SAGA 21「暗躍の片雲」

今回は短め、早速キャラが崩壊しているあの人の登場です。
次回ははやて誕生日編。パル転よりはスムーズに行くはず・・・

それではどうぞ!!




 

 

 

 

多少薄暗さがある研究室。清潔感はあるにはあるが、ある意味で不気味だ。

そんななかに一人の男性が実質的な自分の趣味としての研究をしていると

一つの通信が入ってくる。見ればそれはその男性のスポンサーだ。

男性は作業を中断し、通信に出た。

 

「おやおや、最高評議会の皆さん。何か御用ですか?」

 

表記されているのは時空管理局のエンブレムに数字が書いてあるものだが、

その男性にはそれが自分の海の親であり、スポンサーの一つである

「最高評議会」だということを知っている。

 

『・・・お前に仕事だ。第97管理外世界に行ってもらたい』

「第97管理外世界?私になにをしろと?」

『闇の書・・・については知っておるな。管理局はギル・グレアムを中心に

 それの対策をするようだ。最高評議会名義でお前もそれに参加してもらう』

「私が・・・?今の私の研究と何が関係しているのですか?」

『・・・闇の書の守護騎士プログラム・・・および管制人格のデータ。

 どちらも我々の目的の完遂のために必要なのだ。

 さらに世界の安定・・・すべての世界の管理化にもな・・・』

 

最高評議会の評議長、評議員、書記が順番に話す。

男性としてはその話し方は非効率だからやめてもらいたいのだが、

彼らの目の前で余計なことをしても、また非効率なので黙っておく。

 

「まぁ、構わないでしょう。あなたがたが私に授けたデータの中に

 闇の書・・・いや、ここは夜天の魔導書といったほうが良いかな。

 確かにそのデータはある。直すことも可能でしょう」

『ならば、頃合いをみて行ってもらおう』

 

そう言って最高評議会は通信を切ってしまった。

相変わらず言いたい放題だな、と男性は思った。

前回の通信のときは今やっている研究を早めろと言ったり、

さらに数十年前にはやっていた研究をやめろと言ったり・・・

 

そのせいで製作し終わったナンバーズはすでに10人目だ。

9人目に関しては何故かはわからないが、最高評議会が遺伝子データを送ってきた。

調べてみたらかつてインターミドルでトップの成績を持っている女性だった。

何をもって送ってきたかはこの際気にしない。時間の無駄だ。

 

稼動はまだしていない個体もあるが・・・この際問題ないだろう。

自分一人で行くのもなんだと思い彼はある端末に通信を入れる。

 

「ウーノ、今良いかい・・・?」

『なんでしょう、ドクター』

 

画面に映ったのは紫のロングヘアーの女性。

名をナンバーズ・ウーノ。男性の秘書をしている。

 

「最高評議会からの指令といったところか、第97管理外世界に行く。

 君が来てもいいが、表に出て情報を残しても得策ではないだろう?

 向こうにはチンクを連れて行く。知らせておいてくれないか。

 あとは偽造の身分証を作っておいてくれればいい」

『わかりましたドクター』

 

そういうと彼女は通信を切った。彼女は優秀だ。

これだけでも用件はすべて伝わっているだろう。

 

「さて、準備をするとしよう。これはこれで面白そうだ」

 

そういうと彼は研究室を出て行く。

彼の名は『ジェイル・スカリエッティ』

 

最高評議会によって作られた存在『無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)』である。

 

 

 

 

 

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

そのころの海鳴市では、なのはが家族と一緒に夕食をとっていた。

 

あれから管理局本局に行ったなのはは今回の作戦のリーダーである

ギル・グレアムと出会っていた。当初来た目的は彼がフェイトの保護監察官になるからだったが、

途中から話は変わっていた。それはいつ闇の書が起動するかということ。

その結果、はやての体の麻痺の進行度から今年の彼女の誕生日ではないか

という結論が出た。今日はそれに関係のある話を家族にする予定だ。

 

「・・・お母さん、ちょっと話がしたいの」

「なぁ~になのは?」

「あの、明日、友達の家に泊まってもいい・・・かな?」

「友達の家?」

 

恭也がなのはにそう言う。

 

「うん、はやてちゃんの家なんだけど・・・」

「あぁ、はやてちゃんか」

「それでどうしてそのはやてちゃんの家に泊まるんだ?」

「えぇ~と・・・二つあって一つははやてちゃん。その日誕生日なんだ。

 去年は会ったときは誕生日過ぎちゃってて祝えてなかったんだ。

 わたしのときは祝ってもらったでしょ?

 だからやってあげたいんだ。はやてちゃんの誕生日」

 

はやてになのはは夏休みに出会ったので、

6月4日が誕生日のはやてを祝うことはできておらず。

逆に7月21日が誕生日のなのはが祝われることになったのだ。

今年こそはお祝いしたいという気持ちもあった。

 

「なるほど、それならかまわない」

「私もケーキ作ってあげるわ。去年ははやてちゃんにご馳走になったしね」

「それで、もう一つは?」

 

士郎と桃子は許可を出したが、恭也はなのはにもうひとつの理由を聞く。

なのはは隠すこともないので素直に答えた。

 

「実は魔法関係で・・・」

「魔法関係?この間みたいな?」

「うん、そうだよお兄ちゃん。今度も世界が滅ぶかもしれないような

 大変なものなの。だけど今からならまだ防げるの」

「そ、そんな・・・大丈夫なの・・・?」

「うん、わたしは大丈夫。今回は管理局の人たちも全面協力してくれるからね。

 身に覚えのない力ではやてちゃんに罪を着せたくないもの」

 

なのはは決意を込めた瞳で士郎の目を見た。

それを見た高町家の面々はお互いに顔を見た後なのはの顔を見て言った。

 

「そうか、がんばってこいなのは。俺たちは応援することしかできないがな」

「あぁ、がんばれよ。俺たちの分もな」

「うん、がんばってなのは」

「なのは、頑張ってね」

 

高町家全員からの応援を受けて、なのはは頷く。

その後は平穏な明るい夕食を食べていた。

 

・・・闇を照らす光の存在も知らずに・・・

 

 

 

 

 





はやて一人暮らしに高町家が突っ込んでいないのは、
グレアムが認識阻害の魔法を八神家にかけていたというファン設定利用です。
なのはは家族が居ないことしか話してません。


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SAGA 22「闇を呼ぶ少女たち」

きりよく分けたら話が短く・・・他県帰りってつらいなぁ・・・
それではどうぞ!!

なのはさん・・・えげつなくしすぎたかなぁ・・・


 

 

 

午後3時・・・着替えなどを持ってなのはは八神家へと向かっていた。

なのはの手にははやての9歳のバースデイケーキ(1ロール)がある。

件の特殊な箱に包まれ、かつ花柄物の紙袋に入っていた。

 

今日ははやての誕生日前日祝い兼、闇の書対策のための打ち合わせだ。

なのはの予想が正しければ年をひとつ重ねる今日、闇の書が起動する。

おそらくなので確証はないが、それで駄目でも起動するのは今年だということはまず間違いない。

闇の書が主本人を起動前に殺すとはとても思えなかった。

無論・・・バグの塊である闇の書が計算どおりに行くかはまた別問題だが・・・

 

そんなことを考えているうちになのはは八神家の前へとたどり着いた。

なのはは玄関のインターホンを押す。

 

『は~い』

 

聞こえてきたのは八神はやての声だ。

なのはは久々に利く親友の声を聴き、うれしくなりながら言った。

 

「はーい、はやてちゃん。私だよ。高町なのは」

『あぁなのはちゃん。今開けるわぁ』

 

そして少したった後、はやては車椅子に乗り玄関から出てきた。

 

「久しぶりなのはちゃん」

「こっちも久しぶり、元気にしてた?」

「まぁまぁや。取りあえず家に入ろか?」

「うん、そうだね。お邪魔しまーす」

 

その言葉とともになのはは八神家へとお邪魔する。

 

 

「元気そうで良かったよ。まぁ、はやてちゃんのことだから

 我慢している可能性も否定しないけどね・・・」

「あはは、大丈夫や。最近はホンマ調子良くてなぁ」

「そうなんだ。なら信じるよ。そういえば管理局の人が

 説明しに来たんだよね。なんか言われた?」

 

今回なのはが来る数日前に管理局員が数名、八神家に来ていた。

理由は闇の書の主が今まで管理局に対して非協力的だったためであり、

はやてが協力的かどうか確認するために来たようなものだった。

もっとも対談の結果、ここにきた管理局員ははやてを認め、

はやては彼らから、今後行う作戦の説明を受けていた。

 

「まぁ、前になのはちゃんから聞いたとおりや。

 やっぱり最悪自分が死ぬ作戦は聴いてて楽しくなかったけど」

「それはごめんなさい」

「なのはちゃんに謝られても困るんやけど・・・」

「まぁ、まぁ。わたしも言ったわけだし」

「まあ、ええけど・・・」

「そんなことよりも明日誕生日だからね。

 去年はわたしがやってもらったから、今回は盛り上げるよぉ!」

「はは、お手柔らかに・・・」

 

そして二人はまた世間話を始めた。

なのはは学校でのこと、はやては日常でのこと・・・

会う機会が最近なかった二人はそんな会話をずっと続けていた。

 

午後7時になったころ。

時間的には夕食の時間だった。

 

「そろそろ夕飯の時間だね」

「そうやな。今日はなのはちゃんが来るって言ってたから

 二人で突けるようにトマト鍋や。ええよね?」

「うん、いいね。わたしも手伝うよ」

「ほんまありがとうな、でも実は来るって聞いてたから

 もうとっくに作って冷蔵庫に入れてあるんよ」

「それじゃあわたしがレンジで温めてくるよ」

「ありがとうな」

 

その言葉の後になのはは立ち上がり、台所へと向かった。

はやてはそれを見ながら心に暖かいものを感じていた。

なのはとは一年の付き合いになるが、やはり記念日を祝ってもらうのはうれしいのだった。

 

「「いただきます」」

 

そう言うと二人はトマト鍋を食べ始めた。

最近流行のメーカーの素は二人には甘すぎるので、

はやてオリジナルのさっぱりとしたトマトがおいしい鍋だ。

はやてがこの一年間で試行錯誤してなのは好みにしてるので

わりと料理に辛口ななのはにも高評価だ。

 

「うん!とってもおいしいよ。はやてちゃん。やっぱり料理上手だね」

「ありがとうな。私としてもなのはちゃんに満足してもらってとってもうれしいわぁ」

 

二人はそんな話をしながら盛り上がっていたのだった。

これが・・・二人の絆の姿なのだった。

 

 

 

午後9時すぎ・・・お風呂に入り終わった二人は食事の片付けも終わり

あとは明日の誕生日のために寝るだけだった。

 

「それじゃあ、なのはちゃん。一緒に寝よか?」

「えっいいの?はやてちゃん」

「もちろんや。なのはちゃんは部屋に居ないと駄目やろうし、

 だったら一緒に寝たほうがええやろ?」

「うん、そうだね。はやてちゃんと一緒に寝るのは初めてだね。」

 

この一年間、お互いの家に泊まったりすることはなかった。

アリサ、すずかに誘われてお泊りするときも大抵はやての通院の日とかぶってしまい、

はやてとなのはが同じ寝床に寝るのも初めてだった。

そして二人は寝るためにベッドの中に二人で入っていった。

 

「・・・今日はほんまありがとうな、なのはちゃん」

「こちらこそ、楽しかったよはやてちゃん。でもお楽しみは明日でしょ?」

 

個人的には誕生日前日で満足してもらっても困る。

そんなことを考えていたなのはだったが、次のはやての言葉で考えを改める。

 

「・・・私な・・・親が死んでから、ずっと一人やった・・・

 お父さんの知り合いだって言うグレアムおじさんも忙しいから

 会えてなかったし・・・なのはちゃんと遊んだりするのは楽しかったよ。

 でも・・・やっぱりこういう日を祝ってもらえるのは・・・初めてやから・・・」

 

はやての目にはそれを話すたびに涙がたまっていた。

なのはとの出会いはなのは自身だけでなく、はやての心の隙間も埋めていた。

だが、やはり記念日というものを祝ってもらえるのは違うのだ。

 

涙が少しづつ溜まっていくはやてをなのははそっと抱きしめてあげる。

はやてはその腕と胸に感じるなのはの暖かさにいろいろな感情を抱いていた。

 

「あっ」

「ふふ、大丈夫だよ。はやてちゃんはもう一人じゃないよ。

 明日・・・誕生日を祝えたら・・・きっとその涙も乾くよ・・・」

「・・・なのはちゃん・・・本当はな、ずっと今まで怖かったんや・・・

 日に日に悪くなっていく足・・・それに孤独やったから・・・

 明日死ぬんやないか、なんてことも思ったわ・・・

 せっかくなのはちゃんに会えたのに・・・皆に会えたのに・・・

 無くしてしまうんが・・・本当に怖かったんやぁ・・・」

 

はやてはやがてダムが崩壊したかのように眼から涙を流す。

彼女もまた・・・孤独とともに生きていたのだ・・・

 

「・・・そうだったんだ・・・大丈夫。わたしがさせない・・・

 はやてちゃんをここで亡くすなんて・・・絶対にさせない!」

 

なのはの決意をこめた宣言・・・それを聞いたはやては頷きながら呟いた。

 

「・・・ありがとうな・・・なのはちゃん・・・」

 

そういいながらはやてはもう一度思いっきり泣いた。

今までためていたものをすべて吐き出すように・・・

 

「・・・どういたしまして」

 

なのはは明るくそうはやてに返した。

まだ言われる立場ではない。お礼を言いたいのは自分自身・・・

そう言う思いもあったが、今はただはやてのために尽した・・・

 

 

《・・・・・・会話に入ることができません・・・》

 

・・・自身の存在意義をそろそろ見失いそうなレイジングハートであった・・・

主が万能すぎるのも考え物である・・・

 

 

午後11時58分・・・予定では後数十秒で闇の書は起動するはずだ。

 

「いよいよだね」

「そうやな・・・これで何もなかったらそれはそれで面白いけど・・・」

「それは・・・なんだろう・・・いろいろと悲しくなってくるよ・・・」

《悲しいのは私のほうです》

「あれっ?レイジングハートおったん!?」

《・・・最初から居ました・・・》

 

そんなことを話しながら、机の上においてある鎖に閉ざされた闇の書を二人は眺める。

あと・・・十五秒・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

カチカチと秒針が動きちょうど12時を指した時、

異変が起こる。本棚にしまってあった一冊の本が急に光出し動き出す。

 

【封印を解除します】

 

その本から声が聞こえる。なのははは何が起こっても大丈夫なように

はやてを抱きかかえ臨戦態勢を取った。

 

【起動】

 

その言葉が聞こえた後、光はいっそう強める。

視界が白一色になり、はやてとなのはは目を瞑る。

 

その光が晴れてようやく目が開けられるようになると、

魔法陣が展開した。そしてそこから現れたのは3人の女性と一人の男性

 

「闇の書の起動を確認しました。」

 

「我ら闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士でございます。」

 

「夜天の下に集いし雲」

 

「ヴォルケンリッター、なんなりとご命令を」

 

 

一人一人が口上のように述べ跪く。

はやては目の前に起こった事が聞いていたとはいえ、現実味が少し感じなかった。

その腕はなのはの服をしっかりと掴んでいた

 

一人この状況を冷静に判断したなのはは守護騎士に言葉を掛ける

 

「貴女達が闇の書の守護騎士なんですか?」

 

「誰だ貴様!!」

 

桃色の髪をした女性がなのはに食ってかかる。

自分達の主を抱えていたので警戒したのだろう。

他の守護騎士も臨戦態勢に入った。

 

なのはが状況を説明しようとする。

 

「落ち着いてくだ・・・」

 

ガキーンッ

 

「くっ!」

 

話をしようとした瞬間にシグナムはレヴァンティンを起動してなのはに切りかかる。

なのははとっさにブレイズハートを起動し受け止めたのだが・・・

 

バキンッ

 

「!!!!」

 

威力を受け止めて、なんとかなのは自身へのダメージは抑えたが、

レヴァンティンの直撃を受けたブレイズハートはその威力をすべて吸収し砕け散った。

アームドデバイスとストレージデバイス・・・フレームの強度という面で

ブレイズハートはレヴァンティンに全く及ばなかったのだ。

 

「ちょ、何やってんや!」

「落ち着いてください。わたしはお話しに来たんですよ!」

 

なのはがそう言うが、赤い髪をした少女が言った。

 

「あのさ・・・ベルカの諺にこういうのがあるんだよ、和平の使者なら槍は持たない・・・」

「・・・それは諺ではなく小噺の落ちだ・・・」

「う、うっせぇ・・・」

 

自分ではかっこいい台詞を言ったつもりなのだろうが、

中途半端に間違えたせいで微妙な空気になる・・・もっともなのはには関係ないのだが・・・

 

「はは、面白い話もあるんだね・・・じゃあ、こっちも教えてあげるよ。

 はやてちゃんから教わったんだけど・・・日本にはこういう諺があるんだ・・・

 『備えあれば憂いなし』ってね!!」

「あん・・・? なっ!!?」

 

赤い髪をした少女は最初なのはが何を言っているのかがわからなかったが、周りを見て驚いた。

 

「・・・いつのまに・・・」

「我々に気づかれないようにこれを・・・」

 

闇の書のヴォルケンリッター・・・彼女達の周りには

部屋いっぱいにディバインシューターが敷き詰めて配置。

彼女達を目標に向けていた。

 

「戦力的にはそっちが上だろうけどね。はやてちゃんに教えてもらったんだけど

 中国の兵法書に「孫子」ってのがあってこう書かれているらしいんだ・・・

 『勝利というのは戦う前に全てすでに決定されている』ってね」

「ちょ、なのはちゃん今ここでそんなこと言いだすん!?」

「貴様、何者だ。なぜ主と共にいる。返答次第では切るぞ!」

 

桃色の髪をした女性はなのはの力量に驚き、

自身の剣型のデバイス『レヴァンティン』を構える。

 

「ちょ、ちょい待ちぃ!喧嘩はアカンよ。とりあえず、話しがしたいから皆下のリビングに来てな」

 

そこへはやてが、この状況に待ったを掛けた。

守護騎士は最初は渋ったが、主に言われては逆らう事はできないので、リビングに向かう。

最初はなのはが連れて行こうとしたが、桃色の髪の女性が納得しなかったので

彼女が連れて行くことになった・・・

 

・・・こんな最悪の出会いをしながら・・・彼女達は話し合うのだ・・・

 

 

 

 

 

 





なのはの文系知恵袋、それがはやて
ただし学校の勉強に応用できないという致命的な問題が・・・


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SAGA 23「君を想う力」

なのはさん説明回。はやて相変わらず。
ヴィータ洞察力が高い・・・?シグナム短気
ザッフィーとシャマルン空気・・・?

ユーノisチート

それではどうぞ!!



 

 

リビングに戻ったなのはたち。そこで守護騎士たちが状況説明に入った。

曰く、自分達は闇の書の守護騎士であると。

闇の書の主を守り蒐集を行うためのプログラムであると。

主の願いを叶えるのが自分達の使命だと、そう言った。

 

しかし、はやては彼女達に優しく話しかけてあげたのだ。

たとえ・・・あらかじめ聞かされていなくても、きっと言っていただろう言葉を話す。

 

「人に迷惑を掛けたりするのはアカン事や。だから、私はなんも望まんよ。

 ただ、分かった事は主として皆の衣食住きっちり面倒を見なアカンと言う事や」

 

その言葉になのはは微笑んだ。やっぱり親友はこういう人間だと再認識する。

守護騎士の方は今までの主とは全く違う考え方に驚きの様子を隠せない。

 

「とにかく、そんな恰好では外に出られないよね、朝には服を買いに行こうよ」

「そやね。服のサイズ測るからジッとしててなぁ・・・グヘヘ」

「はやてちゃ~ん、サイズを測るだけだからねぇ~?変な事をしたら・・・分かるよね?」

 

なのはは先ほどまでとは違う恐ろしい剣幕ではやてを見る。

斯く言う彼女もはやての被害者になりかけた女性だった。

ただし「わたしは空気抵抗がかかるからいいの」という言葉により

具体的な被害は胸に触られる程度で終了している。実は顔が怖かっただけだが・・・

それを聞いたはやては焦りながら弁解した。

 

「わ、分かってるよ。なんや、なのはちゃんは私がセクハラすると思ったんか?早とちりはアカンよ~」

 

ものすご~く視線を逸らしているが額から垂れる汗で嘘がバレバレである。

乳揉み魔は伊達じゃないのである。欲望は罪じゃないのだ。

 

「主はやて、先程から親しそうにしているそちらは一体?

 あれだけの実力者・・・管理局のものでは・・・」

 

守護騎士全員が疑問に思っていた事を、代表してシグナムが聞く。

それを聴いてはやては微笑みながら答える。

 

「あぁ、紹介するわぁ。親友のなのはちゃん」

「初めまして高町なのはです。さっきはごめんね」

 

なのはが頭を下げて挨拶をする。謝罪の言葉も忘れない。

そしてシグナムの質問に答える。別に黙っている理由はない。

 

「管理局員かと言われればそうですね。民間協力者ですが・・・」

「なにっ!!?」

 

守護騎士たちはなのはがそういった瞬間に再び、警戒を高める。

 

「やはり管理局員だったのか!主をどうするつもりだ!?」

「どうもするつもりはわたしにはないけどね。ただ今回管理局は味方だよ?」

「味方だと・・・どういう意味だ・・・」

 

味方・・・という言葉にシグナムは反応する。

今まで敵対してきた管理局が急に味方になるとは思えないからだ。

 

「とりあえず話は聴いてもらえるかな?質問は最後に聞いてあげる」

「・・・・・・」

 

沈黙を肯定とみたなのはは話を始めた。

ある意味で・・・一番爆弾発言から・・・

 

「・・・簡単に言えば・・・このままだとあなたたちの主、はやてちゃんは死んじゃうの・・・」

 

ガキーンッ

 

「くっ!ちょっとまたぁ!?」

《Protection》

 

はやてが死ぬ・・・そう言った瞬間にシグナムはレヴァンティンでなのはに再びに切りかかる。

なのははあわてず騒がずに、プロテクションを発動。その攻撃を防いだ。

久々に役に立てたレイジングハートはとても嬉しそうだ。

 

「ちょ、喧嘩はアカンって言ったやろ」

「ですが、いきなり主はやてが死ぬなどと・・・世迷言を・・・」

 

シグナムのほうもいくらなんでも、主が死ぬと言うのはかなり悪い発言だと思っていた。

 

「ちょっとちょっと話しは最後まで聞いてってば!!

 変なことしたらどんどんはやてちゃんの首を絞めるだけじゃない!!」

「せ、せやからまずは最後までなのはちゃんの話し聞いたって!」

「・・・・・・主はやてがそうおっしゃるのであれば・・・聴きましょう・・・」

 

シグナムはそう言うとしぶしぶレヴァンティンを待機状態にした。

他の守護騎士たちもとりあえずは黙って聞くことにした。

 

「とりあえず・・・はやてちゃんに説明したのと同じことを言うね」

 

そういうとなのはははやてに話したことと同じことを説明していった。

これはこの数日でユーノが無限書庫で見つけた情報だった。

厳密に言えば昨日通信で聞いた話であるが、彼が見つけたのだ

まず間違っている情報ではないだろう・・・となのはは考えていた。

 

 

「・・・われわれが壊れているだと?」

「そうなるね・・・」

「嘘言うなよ!あたしたちのどこが壊れているって言うんだ!!」

「そうですよ!」

「そうだ!私たちが壊れているなどと・・・世迷言を・・・!」

 

さすがに自らが壊れていると言われれば、

感情の希薄な彼らでも激怒するほかはない。

そんな反応はあらかじめ予想していたので、

なのははユーノたちと相談し、どうやって理解させるか考えた

23通りの質問のうちの7番目の問いを守護騎士たちに投げかけた。

 

「それじゃあ、まず第一に聞くけど・・・

 皆さんは・・・今までの主の最後は覚えていますか?】

 

「なに言ってんだ。そんなの覚えてるに決まって・・・」

 

そういいながらも思い出そうとして、困惑、そして驚く。

 

「な、なんでだ!?なんで主の最後を覚えてねぇんだ!?」

「主と一緒に戦ったり、主から命令されたりしていたことは思い出せるのに!」

 

二人は困惑していた。シグナムとザフィーラも主の前なので落ち着いているようにしてはいたが、

内心では主の最後だけをまったく思い出せず、かなりあせっていた。

 

「予想以上に効果あったね・・・というわけで、

 わたしたちが言っていることがあながち間違いではないことがわかったでしょ?

 あんまり言いたくはないけど、あなたたちは壊れてるんだよ・・・」

「ぐっ、それは認めよう。だが我らが主はやてに害をなすというのか!」

「そ、そうですよ!私たちが主に・・・」

「そういうのなら・・・シャマル・・・さん?、実際にはやての足を調べてみてください。

 さっきの自己紹介で『風の癒し手』って言ってたのならわかると思います」

 

そうなのはにいわれ、シャマルははやてに近づき足などを調べた。

そして真実に驚き顔の表情を歪める。

 

「ほ、本当に闇の書のせいで足が動かなくなってる・・・」

「「!!!」」

「で、でもこれって闇の書に蒐集していないからだろ!?

 だったら蒐集すれば治るんじゃねぇか!!?」

 

ヴィータがそう叫ぶ。もっともそれで終わるならばこんなことは起きていない。

 

「さっきも言ったけど闇の書はバグってるんだよ?

 一度、蒐集してない主に蒐集を強要するために体を蝕んだら、

 蒐集し始めたからって治るとは限らないんだよ?

 もしかしたら完成しなきゃ治らないかもしれない・・・

 完成させちゃ駄目なのはさっき言ったとおりだよ」

「だ、だけどよぉ・・・」

「いい? 闇の書は現在、人間どころか世界に悪影響を与えているんだよ。

 そして管理局はそれを追っているけど・・・毎回失敗して犠牲者も出ている。

 そんな状況で蒐集でもしてみてよ。はやてちゃんは一発で犯罪者だよ!!?

 わたしはそんなはやてちゃんを守るために戦おうとしている!!!

 だからそれを邪魔するなら、あなたたちを倒すことすら厭わない!!」

 

なのははただ言葉で守護騎士たちを圧倒していく、

はやてを守りたいと言う気持ちは彼女達以上なのだ。

たとえ同じ目的の持ち主でも邪魔するのであれば敵だ。

 

「じゃあ・・・じゃあどうしろっていうんだよ!!」

「方法はあるよ・・・。こんなこともあろうかとね。というよりこれを話したかったんだけど・・・」

 

「ほ、本当か!」

 

ヴィータはそう言ってなのはにすがる様な目を見せた。

なのははここまで言ってやっと納得してもらえる守護騎士たちに多少落胆しつつも

とりあえず話は聴いてもらえるとわかり話し始める。

 

「はぁ・・・じゃあ説明するよ。まずやることは蒐集これは変わりない」

「それはさっき駄目だって・・・」

「さっきのはあなたたちが独断でやるから駄目なの。

 今回は管理局と協力することができる。管理局の元でするなら問題はない」

「ほ、本当に管理局と協力できるのか・・・」

 

現実に驚くヴィータを尻目に、なのはは人差し指を頬に当てながら話を続けてく。

 

「えぇーと・・・次に400ページまで埋めて管制人格とコンタクトをとる。だっけな・・・」

「か、管制人格の存在さえ知っているんですか!」

「わたしの友達を舐めないでほしいの」

 

その友達とはユーノのことである。

ユーノの捜査能力は本当にとんでもないものなのだ。

 

「それじゃあ、続けるよ。管制人格さんとコンタクト・・・

 そして666ページ溜めたら、封印開放。バグと夜天の魔導書、はやてちゃんを分離。

 残ったバグである防衛プログラムをわたしたちで粉砕。できない場合は最悪

 信用できる管理局員に協力してもらおう。アルカンシェルで止めを刺す」

 

「・・・バグである防衛プログラムを分離できなかった場合はどうするのだ・・・?」

 

ザフィーラの問いになのはは少しだけ躊躇し、はやての方を見る。

なのはの意図を理解したはやては静かに頷いた。

それを見たなのははザフィーラの質問に答える。

 

「・・・その場合は・・・はやてちゃんごと・・・闇の書を凍結封印する・・・」

「なっ・・・そんな・・・」

「しかたないもの・・・はやてちゃんを救えないって事は最低でもそう言うこと・・・

 むしろ生きているだけましなのかもね・・・昔の主はアルカンシェルで消されてたから・・・

 絶対にそんなことさせたくないけど・・・最悪の場合は・・・」

「お前には・・・その覚悟があるのか・・・」

「もちろん。だけど・・・そもそも分離を失敗する気はない。

 ユーノくんが頑張って調べてくれてるんだ。絶対に分離はできる!!」

 

ユーノへの信頼、自分の作戦への絶対的自信・・・

そして、なによりもなのは自身の絶対にはやてを守り抜くという決意が

そんな強気な発言をすることをなのはが可能としている理由だった。

そして、それを聴いたシグナムは静かに目を閉じ、言った。

 

「・・・・・・主のためだ。協力しよう」

「良いのか、シグナム」

「あぁ、こいつが嘘をついているようにも見えん。

 それにわれらでは主を助けることは無理だろうからな・・・

 我らに気づかれずにあれだけの魔法の行使・・・力量は上だろう・・・」

「・・・あたしも癪だけどはやてのためだ」

「私もです!」

「・・・なら私も構わない」

 

ヴォルケンリッターはすべてを総合し、なのはの話に納得した。

それを聞いたなのははヴォルケンリッター全員のほうを向いてお辞儀をした。

 

「・・・良い返事を・・・ありがとうございます!」

 

「もっとも・・・一つ条件があるが・・・」

「条件・・・?」

 

なんだろう、となのはは思いながら聞いた。

その条件はなのは自身は了承できるものであった。

あとで管理局に了承を得られたら、ということでお互いに納得したのだった。

 

「ふぁ、ふぁあ~あ」

 

そのとき突然、はやてが大きなあくびを立てる。

それもそのはず。まだ彼女は寝ていないのだ。

わりと夜更かしには慣れてはいたが、それでも現在の時刻は二時だ。

さすがに9歳の体では耐え切れるものではなかった。

 

「ふふ、はやてちゃんまだちゃんと寝てなかったもんね」

「ははは、そうみたいや。それじゃ今日はまだ寝させてもらうわ

 あっでもみんなの寝床どうしよう?お母さんの部屋に寝てもらおうか?」

 

「いえ、今日はせめて騎士らしく護衛のようなものをさせてもらえれば・・・」

 

シグナムはそう言った。この先管理局と協力することになれば

このようなことができるのは今回くらいだからだろう。と考えたからだった。

 

「う、う~ん・・・まぁ今日だけならええかぁ。でもヴィータは一緒に寝ようなぁ」

「えっ!?」

「あっそれいいね。ねっヴィータちゃん一緒に寝ようよ!」

 

そう言ってなのははヴィータを所謂お姫様抱っこした。

 

「なっ!なにすんだテメェ!!」

「ヴィータちゃん軽いんだね」

「あっこら、ちょ下ろせ!!」

「ふふふ、暴れちゃ駄目だよ?ヴィータちゃん、ふふふ」

 

そういいながらものすごく悪い顔をしながら笑うなのは。

相変わらずえげつない顔だ。この歳でよく作れると思う。

それを見てヴィータが一言・・・

 

「悪魔め・・・」

「悪魔でいいよ・・・。悪魔らしいやり方で、一緒に寝てもらうから!」」

 

そう言うとなのははヴィータを連れてはやての部屋へと向かった。

ヴィータは多少はもがくが、なのはの予想以上のパワーに抜け出せなかった。

仕方なくなのはに自身を任せることにする。

 

そして裏のまるでない、彼女の優しい横顔を見て思った。

 

(こいつ・・・なんか二面性があるような・・・?一体なんなんだ?

 さっきみたいな悪魔みたいなことすると思ったら、今みたいな・・・

 ・・・あぁ、もうわけわかんねえ・・・!!)

 

ヴィータもまたフェイト同様なのはの二面性に気づく、

そしてその感覚にどこか懐かしいものも感じていたのだった。

 

はやてはそれを見届けた後、シグナムに連れられて部屋に戻った。

 

 

 

「うふふふ、ヴィータちゃん」グミュ

「えっあっちょ、やめ・・・」

 

なのはの過剰なスキンシップにアセアセするヴィータ。

そんな微笑ましい光景を見ながらはやてはこう言った。

 

「ふふ、私、こんな大家族ができてうれしいわ。今日の誕生日会は盛大やなぁ・・・」

 

やはり家族ができると言うのは嬉しい。はやてはもう一度痛感していた。

そこへなのはがはやてに言ってあげたのだ。去年は言えなかったことを・・・

 

「はやてちゃん」

「ん、なぁに? なのはちゃん?」

「・・・誕生日・・・おめでとう・・・」

「・・・ありがとうなぁ・・・」

 

ようやく言えた、感謝の言葉。なのはとはやて、二人の絆・・・

 

二人の少女の願いは雲の騎士団とともに・・・そして・・・時は進むのだった・・・

次に出会うは・・・運命の少女・・・・・・今こそ揃う『星光』『運命』『夜天』

 

そしてそれは、輪廻の呪いを解く鍵となるのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・見つけた・・・

 

 

 

 




次回は本編ではなくちょっとした番外編です。
なのはとフェイトのデバイス強化しないと。ギラティナはいないし。
ちなみに、はやての誕生日はパル転とあんまり変わらないので書く予定は今のところないですね。


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SAGA Extra Edition 1「私達の新たな翼へ」

今回は番外編。
オリジナル設定紹介となのはとフェイトのデバイス強化!
あいかわらず限界を超えろ!!したいなのはです。
今回は・・・あれがありますが・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

はやての誕生日から4日後、現在なのははアースラに来ていた。

というのもシグナムとの約束のためにエイミィの後輩だと言うデバイスマイスターに会うほか、

闇の書対策の関係でフェイトとも会えるからである。

 

今回、闇の書による被害を最小限に防ぐために民間からも優秀な人材を要請した管理局。

それは立場上次元犯罪者でもあるフェイトも例外ではなかった。

リンディやグレアム両提督の根回しやクロノの報告などもあり、

数年間の保護観察と管理局への入局を条件に実質的な無罪となった。

 

なお管理世界は立法と行政を行う管理局と司法権を持つ司法省の二権分立制である。

しかし、管理世界の実質的な権力は管理局がほとんど持っているので、

管理局側が無罪にしようとするならば司法省は基本的に形だけの裁判しかできない。

一応、有罪にしようとする場合は権力に屈せずに妥当な判決を下すのだが・・・

 

話を戻すと、フェイトの管理局への入局は本人の志願もあり、

その裁判と平行して「時空管理局嘱託魔導師」となる試験も受けていた。

フェイトが嘱託魔導師になったのは、PT事件の裁判を迅速に終わらせるためと、

異世界での行動がかなり自由にできるようになるためであり、

つまるところなのはに早く会いたいのと自分の夢をかなえるため、

そして・・・なのはとの約束を守るためであった。

 

そしてフェイトもまた管理局員として特務五課に所属していた。

アースラ所属の嘱託魔導師でもあるので、集合場所にアースラを選んだのであった。

 

そんな訳でなのはがアースラの食堂で待っていると

食堂の扉が開き、そこからフェイトとアルフが入ってきた。

 

「久しぶりフェイトちゃん、アルフさん」

「うん、久しぶりだね。なのは」

「あぁ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

まずは挨拶、彼女達とビデオレター以外で会うのは実に3週間ぶりだ。

そしてなのははアルフの質問の真の意図を理解し答えた。

 

「うん、大丈夫。今のところ暴走する気配はないよ。

 気分も悪くないし、調べても体にも異常はないし・・・」

 

体に吸収されてリンカーコアと融合しているジュエルシード。

ミッドチルダの医師によると吸収当初よりも融合が確実に進んでおり、

今ではもう完全に一体化しているとのことだった。

魔力量は相変わらず体がセーブしているのかSS判定だったが、

なのはは3R作戦も含めると体力が続く限り、まず魔力が尽きない体となっていた。

 

(・・・ただ気になるのは左足が完全に治っていることかな・・・

 ジュエルシードが願いを叶えた・・・? それにしては変だけど・・・)

 

気になることもあるが、なのはにとってはジュエルシードの融合は

魔力を上げると言うメリットがあったものの、個人的にはデメリットのほうが大きかった。

下手すれば世界を破壊しかねないジュエルシードと一体化しているリンカーコアからの

蒐集の許可が出ていないのだ。つまりは自分は魔力提供に協力できないと言うことになる。

親友であるはやてを救いたいなのはにとっては非常にもどかしかったのだ。

 

「そうか、なら良かった。でも嘘はつくなよ?

 手遅れになっていたら困るんだからな」

「うん、それはわかっているよ。ダイジョブ、わたしは無茶はしないから」

 

なのはにとって無茶とは己のしでかした消したい過去・・・

しかし、それによって今があるのだから消すわけにも行かない。

過去が与えてくれた教訓を生かし続けることが、なのはにできる唯一のことだ。

 

「それでなのは、今日はアースラに何しに来たの?」

「あぁ、フェイトちゃんには具体的なことは言ってなかったね。

 まず第一に・・・闇の書が第一段階で起動。守護騎士プログラムが起動したんだ」

「・・・それで?」

「いろいろあったけど取りあえずは協力を申し付けたよ。

 ただ条件があって・・・それがわたしと守護騎士の将との一騎打ち」

「一騎打ち?」

 

なのはがあの時シグナムから言われた条件・・・

それは彼女となのはの一対一の決闘(無論非殺傷)であった。

ルールはなのはがやれる範囲に制限があるものの(それでも決闘には十分)

なのははデバイス二機を使用してシグナムと戦うだけのシンプルなものだった。

 

「うん、一騎打ち。だけどあの人たちはベルカ式っていって

 一対一では負けなしっていう魔法体系らしいよ。

 武器とかを使って対象に直接魔力を叩き込むのを基本としてるらしいよ。

 まぁ、フェイトちゃんの近接戦闘を極限まで極めたものみたい」

「一対一では負けなしなんて・・・そんな奴に勝てるのかい?」

「今のままでは難しいと思う・・・実際数秒だけ戦ったんだけど・・・」

 

そういうとなのはは自分のポケットからあるものを取り出す。

それは一部破損しているブレイズハートの蒼いコアだった。

 

「・・・ブレイズハートが!」

「っそ、ぶつけ合ったら・・・こんな感じに一瞬で粉々・・・

 ストレージとベルカの騎士が使う『アームドデバイス』・・・

 フレームの強度に圧倒的な差があって負けちゃった・・・」

 

なのははブレイズハートを起動し、その惨状を見せながら

今の向こうとの実力の差を暗に示した。

なお、ブレイズハートは魔力を流せば直るのだが、

具体的に受けたダメージのデータ採取のためにそのままにしてある。

 

「それで今回、前にブレイズハートを作ってくれた

 マリエル・アテンザさんに改良依頼をするんだ。

 これは闇の書対策ということで経費出してくれるらしいからね。

 ついでにレイジングハートもするんだ」

「そうなの?レイジングハート」

《Exactly》

 

 

レイジングハートはフェイトの質問に肯定の意を示す。

今回の強化はレイジングハート自身が言い出したことだった。

理由は言うに及ばず・・・・・・

 

「昨日、ユーノくんが久々に休暇取れて家に来てくれたんだけど

 目の下に隈ができてるわ、欠伸ばっかかいてるわ、すごかったけど。

 そのときにお願いしたわけじゃないんだけど、ユーノくんが気を利かせてね。

 わたしが知りたがっていたデバイスの情報が書いてある本持って来てくれたんだ。

 今回はそれも参考に設計図を二人で作ったんだ。ねっレイジングハート」

《All right》

 

そう言ってなのはとレイジングハートは二人で考えた設計図をフェイトに見せた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

フェイトはなのはとレイジングハートの話を聞き、悩んでいた。

あのなのはが"普通"に戦って勝てないと言う相手・・・そんな相手に果たして

今の自分が勝てるのだろうか・・・なのはの役に立てるだろうか、

そんな気持ちが彼女の胸の中を渦巻いていた。

 

そして・・・そんな悩む彼女に、彼は言った。

 

《Please strengthen...》

 

「えっ・・・」

 

《Please strengthen me too!!》

 

それは彼の主への思いが出した結論。

バルディッシュのフェイトへの気持ちだった。

 

「バルディッシュ・・・!」

「バルディッシュも・・・か・・・うん、後で聞いてみるよ。

 多分大丈夫。フェイトちゃんも一緒に戦うんだから」

「ありがとうなのは・・・ありがとうバルディッシュ」

《・・・My pleasure》

 

寡黙なるデバイス・・・彼は初めて主の言葉に返事を返した・・・

 

 

 

 

 

数十分後、二人は放送で呼び出されてアースラの会議室へと向かった。

そこに居たのはエイミィ・リミエッタと太マユ、タレ目、でこ、眼鏡で

深緑色の髪の毛を持ったエイミィと同じくらいの年の女性が居た。

二人が入ってきたことに気づいたエイミィは言った。

 

「あっ、来たね。なのはちゃん、フェイトちゃん

 紹介するよ。彼女が前にブレイズハートを作ってもらったマリエル・アテンザ。

 私の後輩で、普段はリンディ艦長のご友人のレティ提督の下で働いている人なんだけど

 今回レティ提督のご好意で来てもらったんだよ」

「あっ、なのは。レティ提督は私の嘱託魔導師試験の合否を担当してくれたんだよ」

 

エイミィの紹介にフェイトが補足する。

 

「へぇ、そうなんだ。あっ初めまして、わたし高町なのはです」

「あっ、すみません。フェイト・テスタロッサです」

「アルフだ」

 

「あはは、構わないよ。私はマリエル・アテンザです。

 あっできればマリーって呼んでくださいね」

 

マリエルの言葉に二人は頷く。

仕事があるということでここでエイミィはブリッジに戻っていった。

 

「・・・まぁ、それはいいとして。デバイスの強化案だったよね。

 前みたいに案は何かあるのかな?あればいろいろとやりやすくなるんだけど」

「あっ、はい。レイジングハート」

《All right.My master.》

 

レイジングハートはそう発すると同時になのはと二人で考えた

デバイス強化案の図案を表示させる。

そしてマリエルは一通りそれを見た後、その内容に顔を青ざめる。

 

「カ、カートリッジシステムに、フルドライブ使用形態への変形!?

 それに一体どこで知ったのか、リミットブレイクまで・・・他にもあるけど・・・

 こんなの使用したらあなたの年齢じゃ、確実に莫大な負担が・・・」

 

マリエルは驚くほかない。フルドライブならまだいい。

なのはのカノンモードのシーリングモードも実質的なフルドライブ形態だ。

体への負担はあるものの、まだ現実的だ。

 

だが、カートリッジシステムはミッドチルダ式、さらにインテリジェントデバイスとは相性が非常に悪い。

デバイス用のパーツ自体は近代ベルカ式用のものがあるため調達はできるが、

前述の二つはこれまで研究はされたものの、デバイスの破損や術者の負傷が相次いだため、

実際にミッドチルダ式やインテリジェントデバイスに採用されることはなかったものだ。

 

そしてなによりリミットブレイク・・・フルドライブを超える力を術者から引き出すものであり、

その肉体への負担はフルドライブの比ではない。

研究自体には成功しているため、搭載自体は可能ではあるが、使用は無謀である。

 

そう説明しようとしたマリエルだったが、なのはは制止した。

 

「大丈夫です。わたしには魔法が使えなくなっても、

 たとえ指でも両足だって失っていい覚悟があります!」

 

なのはにははやてを守る覚悟がある・・・

その辺に転がっている連中とは動機の「格」が違うのだ。

 

「で、でもそれでも下手すれば、制御できなくてデバイスごと粉々に・・・」

「何度でも言います。わたしもレイジングハートも覚悟の上です」

《Yes》

 

なのはの決意ある言葉、そしてその瞳にある燃え滾る炎を垣間見た

マリエルは「はぁ・・・」とため息を吐き、納得したように言った。

 

「わかった。やってみるよ。パーツはあるしね。デバイス貸してもらえる?」

「はい、レイジングハートとブレイズハートをよろしくお願いします。

 あっフェイトちゃんはどうする?今の話を聞いてもやる?」

「もちろん、なのはほどじゃないけど私にも覚悟がある。

 私はカートリッジだけで構いませんからお願いします」

 

フェイトもまた覚悟ある宣言とともにバルディッシュを渡した。

 

「はい、確かに預かりました。それじゃあ待っていてね。必ず良いもの作るから」

 

そう言うとマリエルは先輩であるエイミィのところへ向かっていった。

今のところ予算の許可を貰っているのがなのはだけなので了承は得られるだろうが、

とりあえずは本部へ予算が降りる許可を貰うためだ。

 

それを見届けるとなのははフェイトの方へ振り向き、彼女に問いかけた。

 

「それじゃあ、フェイトちゃん、アルフさん。何してようか?特にやることもないから・・・」

「うーん、そうだね。あっそうだ。私最近料理を始めたんだ」

 

フェイトのその言葉になのはは少し驚いて言う。

 

「へぇえ、そうなんだ。それで?」

「うん、今からまた作るんだけど・・・今日はお菓子なんだ。

 だからなのはに味見してもらえないかなぁ・・・と」

「うん、いいよ!わたしは料理にはわりとうるさいからね?覚悟してよ」

「お、お手柔らかに・・・あと、それから・・・・・・」

 

そんな会話をしながらと三人はキッチンがある部屋へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 



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SAGA 24「二つの誇り」

番外編のつもりで書いたら、いつのまにかストーリーが急展開に
今回はなのはVSシグナム!一対一のガチバトル!
まぁ、いろいろ制限はありますがね。

それではどうぞ!!


 

 

 

「はーい、なのはちゃん。久しぶり

 とりあえずレイジングハートとブレイズハートは完成したよ」

「ありがとうございます。マリーさん」

 

あれから二週間。なのはは再び呼び出されてアースラへと来ていた。

頼んでおいたデバイス改造の内、なのはのデバイスのほうは

シグナムとの約束もあるので優先的に進められていたのだ。

マリエルから紅と蒼の宝玉をなのはは受け取った。

 

「それにしてもやっぱり凄いよ。本当に素人なのかなってくらい。

 図面もシンプルだし、コンセプトもわかりやすいし」

「前回はともかく、今回は無限書庫でデバイスの情報を得ていたので」

「それでもだよ。あんなので二三日できるものじゃないからね。

 基礎理論がしっかりしてるし、謙遜しなくてもいいよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 

なのはは取りあえずはお礼を言った。

やはり褒められるのは小さなことでも嬉しいと彼女は再認識していた。

 

「それじゃあ、起動してみてよ。使用者の意見も聞きたいから」

「はい、わかりました。レイジングハート、セットアップ」

《All right. My master.》

 

なのはの支持にレイジングハートは了解の意を示し、セットアップする。

そしてなのははバリアジャケットを纏う。

 

新たなるレイジングハート用バリアジャケット「セイクリッドモード」

 

外観の変更点は少ないが、ブレストプレートの追加や

防御用積層構造が8層から22層へ向上し、物理装甲やプロテクトレイヤーも増加されている。

さらに両肩へフィールドジェネレーターを追加など上半身を強化されている。

レイジングハートの戦闘方式が射撃、砲撃のため

スピードを殺す代わりに防御性能を限界まで上げたバリアジャケットだ。

 

そしてレイジングハートもまたその姿を変えていた。

まず目立つのはコアと柄の接続部に新たに設置されたベルカ式カートリッジシステムCVK792-A。

性能を説明すればは6連装オートマチック型カートリッジシステム。

マガジンラックに入ったカートリッジを消費することで魔力の強化ができる。

一つのマガジンラックにつき装弾数6個。保持できるラックの数は全部で12個。

 

またベルカ式のカートリッジシステムと違い、あくまでも魔力量の総上げが目的のため

デバイスも使用者も制御しやすくなっており、体への負担を通常よりも抑えてある。

 

そしてこのモードはなのはが行う中距離射撃と誘導管制、

強靭な防御力を含めた中距離高速戦専用モードとなっている。

 

その名を「アクセルモード」

 

なのはが魔力弾を加速させることに特化したところからこの名称をつけた。

もっとも魔法操作を使えば速度は変えられるのだが、レイジングハートが・・・(以下略

 

なのはは大体性能を確認してから、バリアジャケットを解いた。

今回のデザインははやてのものをベースに自分好みに変えたものだ。

そのため実際にデッサンを見た前のバリアジャケットに比べてイメージが正確か心配だったが

どうやら問題は全くないようだ。

 

「うん、レイジングハートは問題なし。次はブレイズハートっと・・・セットアップ」

 

なのはが今度はブレイズハートに登録されたバリアジャケットを展開させる。

以前は時間の関係もありレイジングハートと同じものを使用していたが、

今回からはブレイズハート専用のバリアジャケットを構築しておいた。

 

その名は「ストロングルナモード」

 

見た目は今までのバリアジャケットとほぼ同じ。

ただしスカート部分を腰ぐらいまでにし、薄手のズボンとして構築。

さらに上半身部分も一部分の防御特化にすることでセイクリッドモードと違い、

機動力を上げている。もっともフェイトのものほど特化していないため

スピードは前とそこまで変わらない。多少は早くはなっているが。

 

そして何よりも変わったのはカラーリング。

白の部分を減らし、黒色と青色を増やし若干クールな印象を受ける。

また手袋を指まで覆うタイプに変更してある。

 

ブレイズハートもまたレイジングハート同様見た目が多少変わっている。

もっともこちらにはカートリッジは積んでいないし、フルドライブ形態への変換もない。

リミットブレイク機能はついてはいるが、レイジングハートとは違い

強化したのはフレーム強度。ストレージでありながらアームド並みの強さを持つ。

 

変わった見た目はレイジングハートに比べれば少ないが、

片方が短かった小太刀が両方とも同じ長さとなっていた。

ただしもともと短かったほうの小太刀はもう片方よりも軽量化されている。

減った重さは両方の小太刀を合わせて21gで大幅な軽量化に成功している。

バリアジャケットとあわせてより攻撃的なデバイスへと進化した。

 

そしてその名は「クリーブモード」

 

すべてを切り裂き、前へ突き進む心。という意味を込めて名づけた。

 

 

なのはは数回ブレイズハートで素振りをした後、魔力を流したりして確認する。

 

「うん、全部完璧だね。あとは・・・レイジングハートどう?」

《Please wait until the connection》

 

レイジングハートの言う接続とはかつてブレイズハート製作時に

設計図を書く際にレイジングハートが拗ねないよう考えたシステム。

 

「インターフェイスシンクロシステム」

 

レイジングハートがブレイズハートのAIとしても機能するためのシステムで

これが発動すればブレイズハートの意思はレイジングハートそのものといえる。

訳なのだが、フェイト戦では未完成であり、あまり成果は出ていなかったのだ。

そのため今回はもう一度、改良し今度こそ正常に作動するようにしたのだ。

これが成功すればブレイズハートを使用していてもレイジングハートが

とっさの魔法発動を可能にすることができる。

 

というわけでただ今レイジングハートはブレイズハートと接続しているわけだ。

そして・・・

 

『Connection was complete. Systems all green.』

 

接続は完了。システムも正常に作動しており、レイジングハートの声が

ブレイズハートのコアから聞こえるようになっている。

予定していた機能がフルドライブとリミットブレイク以外確認できたなのははマリエルにお礼を言う。

 

「ありがとうございました。マリーさん」

「ううん、私もいろいろ試せたからこっちこそありがとう。

 ただ忠告しておくけど、まだフレームは完璧じゃないからね。

 フルドライブはまだしもリミットブレイクはギリギリまで使わないように」

「わかりました」

 

なのはもあくまでも保険として用意してもらっただけなので

素直にその忠告には耳を傾けて頷いた。

それを見て納得したマリエルは再び自分の職場へと戻っていった。

なのははそれを見届けると自信の胸にある二つの宝玉を見る。

 

レイジングハートとブレイズハート・・・

新たな姿を得た二つの力でなのはは闇の書事件に挑むのだ。

そして・・・今から行うことは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、時は少したち場所はとある無人世界。

砂漠のような地形であり、今は時期もあり砂嵐はほとんどない。

 

そこで相対するは、蒼き魔導服を見に包む『高町なのは』

そしてもう一人は己がデバイス「レヴァンティン」を構え佇む烈火の将『シグナム』

二人の間の距離は10弱といったところだ。

 

二人が今から行うことは一種の・・・決闘だ・・・!

 

ルールはいたってシンプル。一対一で戦う・・・ただそれだけだ。

ただしなのはは勝つためには手段はあまり選ばないので細かい範囲での使用制限はあるが、

シグナムが望む戦闘状況にあわせるためのものでなのは自身にも不自由はない。

 

お互いに静かに己のデバイスを構え相対する・・・

 

観客はこの場には居ないが、上空に待機しているアースラにて

アースラ職員とフェイト、アルフ。守護騎士とはやて、グレアム提督とリーゼ姉妹。

以上のメンバーが今回の決闘をサーチャーの映像を解して観戦する。

開始の合図をするのは・・・管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。

 

『それでは二人とも、準備は良いか?』

「うん、大丈夫だよ」

「こちらはいつでも問題ない」

 

お互いに戦闘準備はできていた。あとはクロノが開始の合図をするだけ。

この決闘は実質的に形式だけ、どちらが勝っても結果はそこまで変わらない。

シグナムがあくまでもなのはを心から信用したいがために戦うだけなので、

なのはが負けても守護騎士たちは協力するつもりだった。

ただしその場合は全面協力というわけではないので終わった後に多少の問題があるのだが、

となのは自身は思っていた。

 

「戦う前に名乗っておきます。剣士としての名を・・・

 永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術。剣士、高町なのは!!」

「ならば私も名乗ろう・・・守護騎士(ヴォルケンリッター)は烈火の将 シグナム!!」

 

お互いがお互いに名乗りあう。それがこれが決闘だと言うことを認識させた。

クロノはそれを見届けると、戦いの始まりを告げた。

 

『それでは・・・始めるぞ、レディ・・・ゴー』

 

そして、その合図とともに二人は突撃した。

 

「レヴァンティン!!」

《Explosion.》

 

シグナムは突撃しながら告げて、白い大剣を振りかぶる。

そしてガコン、と音をさせてカートリッジをロードした。

 

レヴァンティンからその言葉が発せられ、その刀身に炎が宿る。

 

「紫電・・・一閃!!」

 

レヴァンティンのシュベルトフォルムから出されるシグナムの必殺技。

レヴァンティンの刀身に魔力を乗せた斬撃で、威力もさることながら、強力なバリア破壊力を併せ持つ。

また、魔力の炎熱変換による効果で辛苦に輝く炎が燈っていた。

 

「ならこっちも!レイジングハート!」

『All right.』

 

その言葉とともにブレイズハートの刀身のラインに藍色の光が燈る。

 

パッシブレード・ディフェンダー

なのはがレイジングハートに指示し、使用した魔法の名前である。

ブレイズハートの刀身に圧縮魔力を流し、魔力刃をある一定の波長で形成。

そしてその状態となったブレイズハートで相手の攻撃を防御する技である。

 

なのはは紫電一閃の魔力パターンを演算、そしてその対となる波長を導き出し

その二つをぶつけ合うことでシグナムの紫電一閃を防ぐ。

 

ガキン! とデバイスとデバイスがぶつかり鈍い音がする。

紫電一閃の防御自体は成功、しかし・・・フレーム強度は別だ。

 

ピキピキッと音を立ててなのはのデバイスにひびが入った。

 

(なっ! うそ!? 予想以上に硬い!)

 

なのはは驚いて後方に飛びつつ、ブレイズハートに魔力を流し修復。

 

《Divine Shooter》

 

そしてすぐさま魔法操作で『音』に変えたディバインシューターをシグナムに向けて放つ。

しかしシグナムはなのはが放ったすべての魔力弾に避けるそぶりすら見せない。

避ける代わりに行ったのは、カートリッジをもう一発使うことだった。

 

《Panzergeist!!》

 

レヴァンティンの言葉とともにシグナムの体が赤紫の魔力に包まれる。

パンツァーガイストはシグナムが使う防御魔法の一種だ。

ベルカ式には本来ミッドチルダ式にあるオートガードシステムがない。

そのため通常騎士が使うのは全身を纏うタイプの装身型バリアであることが多い。

シグナムもまたそれを使う一人だった。

 

魔力弾が体のいたるところからぶつかるが騎士甲冑に傷ひとつつかなかった。

 

「効いてない!?」

 

ノーダメージ。なのはにとってそれはかなり衝撃的だった。

音速で進むディバインシューターの威力は魔力ダメージすらかなりのものだ。

その威力はなのはのセイクリッドモードですら、完全には防ぎきれない。

それを清清しく防ぎきったシグナムはなのはに向けて言った。

 

「どうした? その程度では私にはかなわんぞ?」

 

(これが、カートリッジシステムとベルカ式か・・・ッ!

 攻撃が通らないなんて・・・。でも・・・こっちだってまだ手はいくらでもある!)

 

「だったら・・・今度はこれ!」

 

なのはは再びシグナムに向けて駆け出した。

そしてシグナムに斬りかかるが、受けとめられる。

 

ガキンッと音が鳴るが、先ほどと状況は違っていた。

今度のブレイズハートには皹一つ入らない。

 

シグナムは驚く、さきほどのは紫電一閃は防がれたもののフレーム強度の違いが

なのはのブレイズハートに皹を入れていたはずだ。なのに今度は入らない。

 

「魔法操作『石化』。厳密に言えば強度強化って言うべきかな。

 ブレイズハートに流す魔力の性質を変えた。とっても頑丈にネ!!」

 

なのはは笑みを浮かべて再び斬り込む。

対象はレヴァンティン。やられた分はやり返す!

 

「はぁあッ!」

 

まず右の小太刀で一閃、そして続けて左でもう一閃。

そしてとどめに両者を振りかぶり『徹』で剣内部に衝撃を与える。

その攻撃は両者ともレヴァンティンに直撃する。

 

「・・・砕け、ブレイズハートッ!!」

 

バリンッという音とともについにレヴァンティンが破壊され、

その破片がシグナムの頬をかすめた。つぅぅと血が垂れる。

レヴァンティン自体には非殺傷設定はあってもアームドデバイス。

その硬度によってシグナムの顔に傷をつけた。

 

そしてレヴァンティンは真ん中から上は砕け散っていた。

なのははそれを見やるが、当然攻撃の手を緩めない。

 

「そこっ!」

 

なのはががら空きのシグナムの左の胴に斬りかかる。

二刀のブレイズハートを同時に振りかぶり、そしてそれは直撃する。

戻す勢いでもう一撃をさらに与えようとする。

 

「・・・ッ! これは!」

 

しかし、突如としてシグナムの左手に現われた大剣を納める巨大な鞘で受け止められる。

だがなのはの攻撃は止まらない。構わずに鞘へと攻撃を加え続ける。

シグナムの動きを予測し、シグナムの向かうところへと太刀を振るう。

シグナムも鞘で裁くものの、なのはの剣術は悪くはない。ある瞬間に弾かれてしまう。

 

「もらったッ!!」

 

今度こそ無防備になったシグナムに攻撃を見舞う。

だがその瞬間、彼女の手元にあったのは修復が終わったレヴァンティン。

 

なのはの攻撃に合わせ、猛烈な勢いで斬り上げた。

右手の小太刀がはじき上げられ、なのはは思わず声を上げる。

右腕だけ上空に上げた状態でバランスを崩し、半ば背中を向けるように半身になってしまう。

シグナムはその瞬間を逃さず、両手でレヴァンティンを思い切り振り上げる。

そしてカートリッジがロードされて、その剣が再び灼熱の炎を纏った。

 

「紫電、一閃!!」

 

掛け声と共に、一気に炎を纏う剣を振り下ろす。

体勢を崩したなのはは剣で防御することができない。

 

「くぅ」

『Protection』

 

とっさにレイジングハートに指示し、バリアを張るが、

あのときの通常の斬撃とは威力がまるで違った。

コンマ数秒程度のの抵抗の後にあっけなく破壊される。

 

シグナムはもらったと思いながらそのまま振り続ける。

しかし・・・突如として下の砂からディバインシューターが

地面を突き破って現れ、彼女の米神に命中し仰け反らせる。

 

何とか姿勢を保ち、耐え切ったものの攻撃自体は失敗してしまう。

なのはもまた素早く体勢を立て直し、シグナムと相対する。

 

手には斬り上げられたときの痺れが残っていて、少しの間は使い物にならなさそうだった。

もっとも・・・それは利き腕ではない右手だったのが幸いしていた。

そこにシグナムが声をかける。

 

「すばらしいな。これほどの強敵に(まみ)えることは、そう多くない」

「あなたも強いですよ。その剣技、うちの家族とどちらが上か・・・」

 

そのなのはの言葉を聴いたシグナムは「ほぉ」と漏らし、

 

「ならば、その者たちとも一度剣を交えてみたいものだ」

「家の家族は魔法なんて使えませんからね」

「かまわないさ・・・若いお前がここまで強いのだ。さぞ名のある流派なのだろう?

 これほどの強者だ。改めて名乗っておこう。

 

 ベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将シグナムだ。

 そして我が剣、レヴァンティン」

 

再び名乗った。もう一度きっちりと。なのはを強者だと認めた証だった。

 

(・・・経験はともかく、見た目だったらシグナムさんも十分若いと思うけど・・・)

 

なのははそう思いつつも、対抗してもう一度名乗った。

なのはもまた改めてシグナムを強者と認識したのだ。

 

「永全不動八門一派・御神真刀流の使い手にして、

 ミッドチルダ式魔導師・・・高町なのは。それとレイジングハートとブレイズハート」

 

そう言ってなのはブレイズハートを待機モードにし、レイジングハートを起動する。

できれば剣術で戦いたいが、まだ右腕は回復していない。無茶はなのははしない。

 

「そうか、高町なのは。まだまだ粗いながらも見事な太刀筋、魔法の冴え。

 ・・・・・・お前との勝負は、心が躍る。どちらが上か・・・決着をつけよう!」

「そうですね・・・」

 

なのはは冷静だった。カノンモードに変えたレイジングハートを構え

ガチャリッと高速でシグナムを照準に捉える。そしてトリガーを引いた。

 

「くっ・・・!」

「ディバィィィィィィィィン」

《Buster!》

 

素早く桜色に脈打つ砲撃が発射され、シグナムを飲み込まんとする。

溜めのない速射型だが、かなりの威力があった。

 

「レヴァンティン!」

 

シグナムも一声かけ、カートリッジを一発使うとともに、防御魔法パンツァーガイストを再び発動した。

やがて、砲撃が終わる。シグナムの防御魔法に直撃したため、下にある砂とともに爆煙が広がる。

そして間髪なく、シグナムは自らの周りに発生した爆煙を突っ切りなのはに飛び込んだ。

そしてレヴァンティンを振り上げ。カートリッジをロードする。

 

「紫電・・・一閃!!」

 

シグナムの攻撃にとっさになのははレイジングハートをかかげて防御する。

だがシグナムはデバイスごと断ち切らんとして振り下ろした。

受け止めるレイジングハートの強度はブレイズハートほどもない。

 

炎の魔剣はそのままなのはを一刀両断した。なのはが縦に真っ二つに斬られた。

シグナムは妙な手ごたえに驚く。斬った感触がまったくなく、なのはも平然としている。

その時なのはがニヤリッと笑うとともに顔がグニャリと崩れた。

 

「――ッ!?なんだ・・・これは!?」

 

そしてシグナムはその正体が何か気づいた。

 

それは『水』だった。

 

厳密には水の性質を得たなのはの魔法。

その名は『ディバインシューター・ウォーターウォール』

ディバインシューターを大量に作成。

それらをまるでレンガを積むように重ねたものだ。

そして性質を水にすることでまるで鏡のようになのはの姿を映していたのだ。

 

なのはは爆煙の中でも魔力散布で関係なく動ける。

なのはは迫りくるシグナムの動きを感知し、避けた上で先ほどの演技をしたのだ。

 

「わたしの魔力散布はこんな状況も関係ない。

 そして今でも3R作戦は続けているんだ。わたしの魔力は・・・まだある!!」

 

現在なのはが使用している3R作戦はReduceとReuseの二つ。

Recycleはシグナムがベルカの騎士なので相性が悪いので使用はしていない。

さきほどのディバインシューターはReuseによってさらに魔力消費を抑えたものだ。

まともに自分の魔力だけを使ったのはプロテクションとディバインバスター。

そしてパッシブレード・ディフェンダーだけだ。

 

なのははそう言いながら空中へと飛び立つ。

なのはにとって空とは憧れ・・・海に続く自分のテリトリー

 

「おもしろい、実に面白いな・・・やはり心が躍る!」

 

シグナムは再びレヴァンティンを構え、なのはの方へ飛び立つ。

戦いは・・・まだ終わらない・・・

 

 

 

 

 

 

そのころアースラで観戦していた者たちはほとんどが二人の対決に唖然としていた。

 

 

「相変わらず、えげつない戦い方をする・・・」

「確かにな。しっかしまぁ、フェイトと戦ったときよりも剣術のレベルは高いねぇ」

「そうだねアルフ。私ももっと頑張らないと・・・。一回くらいは勝ちたいもの」

 

唖然としていなかった組はかつてのフェイトとの戦いを直に観戦したことがあるものたちだ。

逆に今回はじめて見た守護騎士の面々はなのはの力量に改めて驚くほかない。

 

「あ、あいつシグナムとあんなに互角に戦ってやがる」

「防御も硬いな。私も少し見習いたいほどだ」

「私、シグナムとここまで戦える魔導師は初めて見ました」

 

そんな守護騎士たちの反応を遠くのほうで見ていたロッテが言った。

 

「あいつら・・・あんな反応できるようになってたんだね・・・」

「この数週間、はやてちゃんからいろいろと学んだんだろうね・・・

 何だか複雑かな、今まではやてちゃんすら犠牲にしていいと思うくらい

 闇の書に恨みがあったのに・・・手段なんて選んでいなかったのに・・・」

 

別に彼女達二人に闇の書に対する恨みがなくなったわけではない。

仮に今回の事件が万々歳に終わったとしても、二人は守護騎士たち

果ては管制人格とも打ち解ける気は全くない。今までやったことを許す気もない。

ただ、今見ている守護騎士たちの姿を見て同情していただけだ。

 

二人はこれからも彼女達を許さないだろう・・・また、それも彼女達が追うべき贖罪だ。

 

そして二人は目の前の画面に映るシグナムとなのはの戦闘を見て各々感想を言った。

 

「近接が得意なあたしからすれば、二人ともとんでもないね。

 不意打ちなら勝てる・・・いや、それはシグナムだけだな。

 なのはには魔力散布があるから、多分気づかれるだろうね。

 家が剣術教えていて、なのはも習っていると言っていたけど・・・

 なのはの家系はNINJAかね。ハハ」

 

リーゼロッテはそう言いながら背中を壁につけて寄りかかる。

近接戦が得意な身としては遥かに年下のなのはの実力には空笑いするほかない。

無論、近接戦"だけ"ならばこちらとしても負ける気もないのだが・・・

 

「私からすれば、魔法制御が本当にうまい・・・一体どれだけの努力をしたのか、

 クロノも努力はしたけれど、それは才能があまりなかったから・・・

 魔力量も当時のクロノを遥かに上回り、才能も十分・・・

 そして絶え間ない努力・・・一体彼女のなにがそこまでさせるのかしらね」

 

クロノはもともと魔力量自体はは両親譲りでそこそこあったものの、

魔法に関しては遠隔操作も出力制御も下手で、フィジカル面も弱かった。

 

さらに言えば覚えも悪い生徒だったが、一途で頑固な性格ゆえに

文句を何も言わずにそれを猛特訓で着実に学習し、補い、覆し、

現在のAAA+クラスの実力者にして時空管理局執務官になった。

いわゆる「努力の天才」であった。

 

しかし、なのはは違う。

魔法に出会ったのも偶然、その使用理論も自ら思いつき、

独自の訓練方法で伸ばした天才児・・・というのが二人の認識だった。

 

リーゼたちははやての家の監視はしていたものの、

その中の会話までは盗聴していたわけではない。

あくまで闇の書が起動したかどうか、それを監視していただけなのだ。

 

そのため、二人にはなぜなのはがここまで力をつけたのか、

彼女が魔法に対して何を思っているのか、

どうしてここまではやてのために戦うのかは知らなかったのだ。

 

彼女達の疑問はそれを知らない限り解けることはない。

解けぬ疑問が渦巻く中、二人はただなのはとシグナムの決闘を観戦していた。

 

そして・・・心友と家族が戦う中、一人複雑な気持ちで見ていたのが

シグナムたちの主にしてなのはの大親友「八神はやて」だ。

 

「・・・・・・」

 

彼女は見ている間何も話さない。

二人が戦っているのはどちらも自分のため、

それを知っていながら応援やら戦闘解析やらをする気持ちにはなれない。

 

はやてはチラリッとグレアムの方を見た。

久々に会った「グレアムおじさん」が実は父親の知り合いでもなんでもなかった。

そのことを先日会った時に謝られた。

 

はやてにとっては複雑な気持ちだが、この戦いが無事に終わったらすべて話す・・・

そうグレアムは言ってくれた・・・はやてにとっては今はそれだけでよかった。

 

理由がどうあれ、今の自分が居るのは・・・グレアムのおかげ・・・

なのはとこのような出会いができたのも・・・きっと・・・

 

だからはやてはこの戦いを見届ける・・・きっとここからすべてが始まる・・・

戦いは・・・そろそろ終局へと向かっていた。

 

 

 

 

戦局はなのはとシグナムが互角に戦っていたが、ついに変化が見られた。

シグナムが切り札の一つを取り出したのだ。

 

《Schlangeform》

 

シグナムのレヴァンティンからそう発せられカートリッジが一つロードされる。

 

その言葉とともにレヴァンティンはいくつもの節に分かれ、なのはに襲い掛かってきた。

 

この形態は使用者の防御力が下がる代わりに中距離攻撃の他

シュベルトフォルムにおける斬撃の死角を補ったり、

立体的な攻撃が可能となり、戦闘の幅を大きく広げることができる。

 

「くっ・・・動きが、読めない!?」

 

試しに脳内で126通りの攻撃パターンを予測演算するが、そのどれもが当たらない。

完全なデータ不足。フェイト戦でもなのは本人が言っていたが、

「切り札は先に見せたほうが不利」なのだ。

 

逆にシグナムはなのはの切り札はすべて理解していた。

このシュランゲフォルムもなのはの魔力散布を防ぐ意味合いが強かった。

 

レヴァンティンの蛇腹状になった刃の節がなのはを襲う。

 

「魔力散布が・・・ッ!だったら先に本体を・・・ディバイーン・・・」

《Buster》

 

発動させているシグナム本人に向けて、なのははディバインバスターを放つ。

しかし、その桜色の砲撃はレヴァンティンの刃によって拡散されて

まるでシグナムに向かって当たらなかった。

 

このなのはですら予測不可能。太刀筋が読めない攻撃の中

なのははシグナムを攻撃することは叶わず、避ける事に専念する。

 

試しにディバインシューターも撃ってみたが、思うように当たらないからだ。

当たったとしても、弾かれる。『音』も『硬質化』も・・・今使えるコマが全部・・・!

なのはのコントロール、予測演算をすべて上回る一撃だった。

 

避けること事態はなのははぎりぎり可能だった。

なのはとて剣士、珍しくめったに使わないが『勘』というものはある。

完全には難しく頬を掠めたり、バリアジャケットに傷をつけてはいたが。

 

だがそれによるわずかな隙をシグナムは逃さない。

彼女が持つレヴァンティンの連結刃が再び連結される。

 

《Explosion》

 

レヴァンティンからその言葉が発せられ、その刀身にもう一度、炎が宿る。

レヴァンティンのシュベルトフォルムから出されるシグナムの決め技。

レヴァンティンの刀身に魔力を乗せた斬撃で、威力もさることながら、強力なバリア破壊力を併せ持つ。

また、魔力の炎熱変換による効果で炎が燈っているその技の名前は・・・

 

「紫電・・・一閃!!」

 

バキンッ

 

「ぐぁっぐ・・・」

 

完全に隙を狙われたその一撃をなのはは持っていたレイジングハートで咄嗟に防ぐ。

だが、ブレイズハートでも強度が足りないのだ。防いだレイジングハートの柄が砕け

そして勢いを失わずにそのままなのはの体を直撃した。

 

耐え切れなかったなのははそのまま地面に叩きつけられた。

再びなのはは立ち上がろうとするが・・・体が全く言うことを聞かず

・・・そのまま・・・・・・その意識を手放した・・・

 

 

 

 

(なんとか勝ったか・・・。しかし、あの剣技に、魔法操作を使った魔力弾、

 どんな状況でも相手を補足できる魔力散布、そして先ほどの砲撃か)

 

シグナムの騎士服はところどころ、袖の端っこなどが破れていた。

魔力を使って回復は一切していない。それだけ彼女自身の防御力は高い。

もっともこれがなのはがシグナムより劣っていると言う意味には厳密にはならない。

 

(あの技量・・・確実に一朝一夕に覚えられるものではないな。

 今回は本当の実力で戦ってはくれなかったが仕方あるまい)

 

今回の対決・・・なのはは本気で戦っていたが、それは本当の力ではなかった。

御神流は具体的な技を出す暇がなかっただけだが、

レイジングハートに"関して"言えばカートリッジもフルドライブも使用していない。

 

シグナム自身もそれを使わない理由は知っていたし、だからこそある条件も飲んだのだ。

心が高ぶる戦いをしながらも、物足りなさを感じた自分に嫌気が差し

シグナムはため息をつきながらレヴァンティン・・・

そしてカートリッジの残りを確認し、ポツリとつぶやいた。

 

「あと5発。長期戦に持ち込まれていたらどうなっていたか・・・」

 

今回なのはが本当の力を出せないので、シグナムはカートリッジの制限があった。

といっても今回シグナムがあまり躊躇せずに使っていた通り、速攻で決めるならば問題ない量だ。

カートリッジ自体も貴重なのでその条件は飲んだのだが・・・

 

「とりあえずは戻るとしようか・・・約束どおり協力しよう・・・

 共に戦い・・・主はやてを救うことを・・・」

 

シグナム自身はあくまでも勝負してほしいといっただけで勝敗はあまり関係なかった。

もっとも・・・自分を満足できないほどの実力だったら負けた瞬間見限ったのだが・・・

 

シグナムにとっては未だに管理局は信用できない相手・・・

しかし、これほどの戦いを繰り広げたなのはが味方するのだ・・・

信用しよう、そうシグナムは誓った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ観戦していたアースラのメンバーはなのはが負けたことに唖然としていた。

 

「まさか、あのなのはが負けるとはな・・・これが守護騎士の・・・実力」

 

クロノがそういう。それを聴いてヴィータが自慢げな顔をするが、

そこへ実際になのはと戦ったことのあるフェイトが話しかけた。

 

「でも、今回なのはが負けたのはそれだけじゃない。

 ・・・さっきなのは・・・余裕が全くなかった・・・」

「それがどうかしたのか? 余裕がないから負けた・・・ではないのか?」

「うん、なのはは前に言ってたんだ。

 どんな状況でも余裕を持って戦うのが自分のポリシーだって・・・

 言い換えれば、どんな状況でも冷静に自分のできる限りの行動を行うってこと」

「それで・・・余裕がなかったと言うのは?」

「多分、さっきのシュランゲフォルムの動き・・・

 なのははいつもどおりに動きを予測しようとしたんだと思う。

 いたって冷静に・・・だけどそれが仇となった・・・

 予測したとおりに動かない攻撃になのはは焦ってしまった。

 そこからのなのはの戦いは見るに耐えなかった・・・

 焦って砲撃を放ち、聞かないとわかったら性質を変えた魔力弾・・・

 最後は慣れない魔力弾・・・そしてブレイズハートは実力を出し切っていない・・・

 なのはらしくない戦いだったんだ。だから負けたのはある意味で当然かな」

 

フェイトの・・・実際に戦ったことのある人物の戦闘考察には

アースラに居る守護騎士以外の全員が納得するほかなかった。

そこへシグナムが気絶したなのはをつれてやってきた。

 

「・・・少しダメージを与えすぎた。ベッドに寝かしておいてくれ」

 

そう言ってシグナムは近くに居た職員へとなのはを渡した。

なのはを受け取った職員は急いでアースラ医務室へと連れて行った。

 

「・・・本当の力を使ってなかったとはいえ・・・これほどとはな・・・」

 

できれば本当の力を完全に使った上で戦いたかったが、

お互いに無理をして主であるはやてを助けられなくても困る。

今回は楽しめたし、仕方なかった。とシグナムは一人納得していた。

 

「それで・・・シグナム。管理局に協力はしてくれるのか?」

 

そんなシグナムにクロノは言った。

無論、シグナムが答えることは一つ。

 

「もちろん協力しよう。共に主はやてを救ってくれ」

「わかった。我々特務五課・・・全精力を持って戦おう」

 

そう答えたのはグレアムだった。

 

「あなたは、主はやての・・・すみません。いろいろと思うところはあるでしょうが・・・」

「リーゼたちはわからないが、私は闇の書の被害が終わればそれでよい。

 協力すれば終わる確率が上がるのなら、協力は惜しまない」

 

自分が真に思っていることは隠す。ただしそれは守護騎士に対する憎しみと言うよりは

はやてに対する罪悪感だ。グレアムは今はただそれだけを思っていた・・・

 

そんななか・・・アースラのブリッジの扉を開けるものが居た。

それは紫の髪を持った男性となのはたちよりも幼く見える小柄な銀髪の少女・・・

そして男性が話し始めた・・・

 

「初めまして、最高評議会の勅命で来た。ジェイル・スカリエッティだ」

 

物語は・・・さらに進んでいく・・・

 

 

 

 

 

 

 



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SAGA 25「進む歯車」

一難去ってまた一難・・・それが今回の話ですね。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

「・・・ここは・・・またアースラの部屋かぁ・・・」

 

なのはが目覚めたのはあれから一時間経った後だった。

ダメージ自体は30分程度で回復していたが、治療薬の副作用で少しオーバーに寝ていた。

目覚めたなのはは頭を左手で抑えながら上半身を起こす。

そして手元のレイジングハートとブレイズハートを見て言った。

 

「負けちゃったね・・・」

《Yes》

「できれば・・・勝ちたかったかな・・・フェイトちゃん以来だよ・・・こんなに心が躍ったの」

 

お互いに死力を振り絞った戦い。本当の力を使えなかったのは痛いが・・・

 

「いや、わたしは最後焦っていた・・・レイジングハートに拘っていなかったら・・・まだ・・・」

 

そういうとなのははブレイズハートを起動する。

二つの小太刀の『クリーブモード』・・・だが、

これがほとんど通じなかったとはいえなのはは

ブレイズハートに隠された"もう一つ"のモードを使っていなかった。

 

「ブレイズハート・・・ガンローダーモード」

 

なのはのその言葉とともにブレイズハートが光の粒子となり、なのはの両腕に集まる。

その姿は剣の形から大きく変わり、肘まで覆う防御武装・・・拳を覆う籠手のようになっていた。

 

これが「ブレイズハート・ガンローダーモード」

 

手首部分に高速回転する歯車状のパーツがあり、これをローダースピナーと言う。

魔力を加速、回転の力を加えて撃ち出す、あるいは打撃の威力強化を行う機構を持っている。

それだけではなく防御用魔力をここに集中することによって、

スターライト・シェードに匹敵する防御性能を誇る。

 

なのはが格闘技が得意なわけではないが、御神流には剣を使わないものもある。

それを扱うのにはこのモードがあるといろいろと便利だし、

防御性能をさらにあげられるからこそ取り付けたモード・・・

 

さらにこのモードならばレイジングハートと同時に使用できるのだ。

 

なのになのははこのモードを今回の戦いで使用しなかった・・・

しかも作戦があったわけでもなく・・・

 

「焦らずに・・・このモードを・・・使わなかった・・・負けて当然だよねぇ・・・

 自分のポリシーを無視して戦っちゃったんだ・・・シグナムさんには悪いことしたなぁ・・・」

 

フルドライブやリミットブレイクは使用しないと最初に言っておいた。

だからまだ良いのだが、これに関しては完全に自分の落ち度だ。

そう考えながら、なのははブレイズハートを待機モードに戻す。

 

そして・・・なのはは数分反省すると両頬をパチンッと叩いてから言った。

 

「よしっ、何時までもくよくよしていられないね。

 レイジングハート、今回の戦闘の問題、羅列」

 

反省を終了し、吹っ切れたなのははレイジングハートにそう言う。

今回の戦いを次に生かせなければ意味がないのだ。

レイジングハートは少し待ってくださいと言った後、問題を言っていった。

 

《今回の戦闘の問題点ですが、最後の焦りを除けば・・・

 やはり、砲撃の速攻性ですね。今回はディバインバスターを速射型で打ちましたが

 シグナム氏の防御魔法に簡単に防がれてしまいました。

 次の十分に威力を溜めたタイプもあのシュランゲフォルムのレヴァンティンに

 防がれてしまいました。ディバインバスターの特長はなんといっても

 精密な射撃とバリア貫通能力です。本来ならば速射や連射には向いていません》

「と、なると・・・ディバインバスターよりも威力が高くて、

 精密さとバリア貫通能力をオミットして、代わりに速射向けの砲撃を構築すれば・・・」

 

なのはがそう言って具体的な魔法の術式を構築、作成する。

術式を自ら考えるのは久々だ。最後に考えたのは・・・一年前だったか・・・

完成したそれを受け取ったレイジングハートはシミュレーションを行いその答えを言った。

 

《駄目でした。速射型としては申し分ないものになりましたが、

 着弾時の威力と魔力が今のままでは不足しています。

 消費魔力が大きくこのままでは使用はできません。

 カートリッジでも足りないレベルですので、残念ですが・・・》

「そっかぁ・・・だめかぁ・・・」

 

なのははそう言って落胆し、頭をベッドに置かれた枕に当てる。

腕で目を覆い、あ~あと言いながらうじうじしていた。

 

しかしその時、なのはにある希望の道筋が見えた。

なのはは急いでレイジングハートに言った。忘れないうちに

 

「レイジングハート!仮にさっきのをフルドライブで放てば!?」

《少々お待ちを・・・》

 

なのはのとっさの発想。今のままでは足りないとレイジングハートは言った。

今のままでは・・・ならば、今より基礎魔力を上げればどうか?

フルドライブでなのはが持ちうるすべての魔力を出し切れば・・・

そして、レイジングハートから答えが返ってきた。

 

《結果が出ました。使用は可能です》

「よっし!」

 

その答えになのははガッツポーズをとる。

 

《速射性はそのまま・・・いえ、1.25倍にまで上昇しました。

 そのうえで威力はディバインバスターの1.2倍に上がっています。

 消費魔力は変わりませんが、フルドライブ状態の魔力で使用可能です。

 カートリッジを使えば、強化も可能です。》

「完璧だね。それじゃあ、名前を考えてあげないと・・・

 発動のキーワードにもしたいし・・・うーん。どうしよう・・・

 ディバインバスター・・・いや、ディバインバスターを基にしたけど

 これはもう違う魔法だよね。レイジングハートは何か案ある?」

 

なのはの言葉に、レイジングハートは数秒考える。

やがて、何か思いついたのかレイジングハートは答えた。

 

《一つ思いつきました》

「なになに?どういうの?」

《フルドライブでのみ使用可能という点から、フルドライブ形態の名をとって・・・

 『エクセリオンバスター』・・・などはどうかと・・・》

「・・・・・・・・・」

 

エクセリオンバスター・・・その名を聞いたなのはは数秒悩んだ。

やがて・・・顔を上げたなのははニヤリッと笑いながら言った。

 

「うん、うん!いい名前だよ、レイジングハート!

 エクセリオンバスター・・・この魔法の名前はエクセリオンバスター!」

 

なのははそういいながらとても気持ちのいい笑顔を見せた。

 

「よっし、調子が出てきたぁ!

 おちおち寝ても居られないね。ブレイズハート!」

 

なのはのその言葉とともにブレイズハート・ガンローダーモードが起動する。

ベッドから降りたなのははベッドの隣でシャドーボクシングを始めた。

・・・のだが・・・そのとき病室の扉が開き、フェイトが入ってきた。

 

すべての行動を停止し、お互いに見つめあう二人。

フェイトの目にはどことなく怒りの表情が見え、

なのははその表情に頭から冷や汗をたらたらと流す。

 

そして、先に覚醒したフェイトがなのはの元へと近づき・・・

 

 

 

 

ペチンッ

 

 

 

「あたっ」

 

なのはの米神に向けて、デコピンをぶち当てた。

イツツ・・・と痛がるなのはを見ながらフェイトはため息をつき、言った。

 

「なのは・・・人に心配かけさせといて・・・起きたのに連絡もしないの?」

 

フェイトにしては珍しい、怒りの表情を見せながら言った。

それはわたしがする表情な・・・となのはは思いつつもそんな余計なことは言わない。

 

「ごめんなさい、フェイトちゃん。心配かけさせちゃって」

「うん、よろしい。はい、私が作った甘さ控えめで少し苦いカカオケーキ」

 

フェイトはそう言いながら、前になのはがシュークリームを入れた箱をなのはに渡した。

なのははそれを受け取りながら、驚いた顔をしながら言った。

 

「・・・だんだんお菓子のクオリティー上がってきてない・・・?」

「実はなのはのビデオレターとは別に桃子さんにお菓子作りの指南をして・・・」

「・・・お母さん・・・娘に黙って何をやっているのか・・・」

 

自分ですらビデオレターだったというのに・・・となのはは憤る。

 

「ほら、リンディさんってあんまり料理の味に信用が置けないというか・・・」

「いきなり本音ぶち撒けたね。それに関してはわたしも同感だけど・・・」

「あんなに糖分摂取して・・・よく太らな・・・」

 

フェイトがほとんど言い切ってしまいそうになった瞬間、艦内放送がかかった。

 

『フェイト・テスタロッサさん。高町なのはさん。

 至急、第二会議室まで来てください』

 

「第二会議室・・・?」

「なんだろう?私はなのはが起きてるかどうか確認するように言われてきたけど」

「とりあえず、行ってみようか?」

「うん、そうだね」

 

そう言って二人は部屋を出て、第二会議室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

第二会議室の前へと来たなのはたちはドアの前に立ち、

暗証番号を入力して、会議室の扉を開けた。

 

その部屋を見ると、そこに居たのは二人。

一人は紫の髪をした大人の男性。もう一人はなのはたちよりも小さい銀髪の少女だ。

フェイトは曲がりなりにも管理局員らしく挨拶をした。

 

「失礼します。アースラ所属管理局嘱託魔導師 フェイト・テスタロッサです」

「特務五課民間協力者 高町なのはです」

 

それにあわせてなのはも挨拶をする。

それを聞き届けた男性は同じく挨拶を始めた。

 

「やあやあ、初めまして。私の名前はジェイル・スカリエッティ

 管理局最高評議会の勅命でここに来たんだ。よろしくね」

 

どことなく着ている白衣や挨拶の仕方から・・・所謂マッドなアレを想像する二人。

そして次に銀髪の少女が挨拶を始めた。

 

「チンクだ。ドクターのもとで働いている。

 今回は本来の助手の変わりにドクターの助手としてきた」

「どうも初めまして」

 

なのはは無難に挨拶するも、その身長が気になる。

自分よりもかなり小さいのだ。なのはとしては気になる。

それに気づいたのかチンクはなのはに問いかけた。

 

「・・・何か?」

「えっ、ううん。なんでもないですよ。決して何歳かなんて聞いたりは・・・ハッ」

「ちょっと、なのは」

 

もろに言ってしまった・・・となのはは口を押さえる。

だが、チンクは気にせずに答えた。

 

「私の年齢は6歳だ。あなたたちより三歳ほど年下ですね」

「はは、そうですか・・・」

 

気を使わせてしまった。となのはは気にしてしまう。

が、スカリエッティはそんなことは気にせずに話題を進めてしまう。

 

「さて、私が今回ここに来た理由を言おう。

 君達『特務五課』は今回、闇の書の事件に終止符を打とうとしてるね?」

「はい、そうです」

「今回、最高評議会は闇の書のバグの処理に私を指名したのさ。

 もっとも本来は私は生物方面が専門なのだがね。いろいろと機械にも詳しいのさ」

「そうなんですか・・・あの、少し余談なのですが良いですか?」

「私に答えられる範囲であれば、構わないよ」

 

フェイトの問いかけにスカリエッティは許可を出した。

なのはとチンクはその姿を何事かと傍観する。

そして、フェイトが切り出した。

 

「・・・あの・・・プレシア・テスタロッサと言う人物について・・・ご存知ですか・・・?」

「あぁ、知っているよ。前に一度だけだが会ったことがあるね」

 

フェイトの質問。そしてスカリエッティの爆弾発言になのはは心底驚く。

ちなみにチンクは何のことだかさっぱり理解していなかった。

 

「・・・生物方面が専門と言ってました・・・よね・・・?」

「ああ、なるほど。君が聞きたいのはプロジェクトFのことかな?

 確かあれは

 『数ある魔導師の分析データを基に人が制御できる人造魔導師を完成させる』

 というコンセプトで太古の昔『アルハザード』にあった計画を

 『人物を記憶ごとコピーする記憶転写型クローンを作り出す』と変えて

 最高評議会の命令で私が基礎理論だけは完成させたが、

 興味を失ったので、そこら辺に捨て置いた計画だね。

 それを彼女・・・プレシア・テスタロッサが見つけて利用したと聞いているよ」

「そう・・・ですか・・・」

 

スカリエッティが語っていくことはフェイトにとってもなのはにとっても衝撃的だった。

厳密に言えば、もともとのプロジェクトFとスカリエッティが新たに定義したものは

どちらも出自がアルハザードということでのみ共通していたのだが。

 

アルハザード時代では権力者が自分の予備として

記憶転写型クローンを作ることは常識であった。

 

それをスカリエッティがプロジェクトF.A.T.Eと名づけ新たに定義したに過ぎない。

 

「なるほど・・・資料では見てはいたが・・・君がそうかい?」

「はい、そうです」

 

フェイトは先ほどまでの態度とは違い、はっきりと答えた。

なのははそのフェイトの態度に驚きを隠せず、念話で話しかけた。

 

【フェ、フェイトちゃん?】

【ん?どうしたのなのは】

【いや、あの・・・さっきまでとフェイトちゃんの態度が違ったから・・・】

【・・・私決めたんだ。私はアリシア・テスタロッサのクローン。

 それは変えられない事実・・・だったら・・・それを受け入れようと思って。

 ジェイルさんにプロジェクトFについて聞きたかったのは・・・】

 

そこまで言い終わったときに

 

「聴きたいことはそれについてです。

 プロジェクトF・・・仮にもっと推し進めた場合・・・

 母さんは・・・プレシア・テスタロッサの計画は成功していましたか?」

 

フェイトが聴きたいこと・・・それはプレシアの計画が成功するかどうかだった。

どうしても気になっていたのだ・・・自分がもし成功体だったら・・・

また、違った未来が待っていたのではないか・・・と・・・

 

しかし、スカリエッティが言った答えはそれを・・・否定するものだった。

 

「無理だろうね。あと数年あればアルハザード時代の科学の知識がある私ならともかく

 プレシア・テスタロッサは病に冒されていたし、知識も足りない。

 プロジェクトFを完成させただけでも素晴らしい科学者だ。

 それ以上を望むと言うのは野暮だね」

「そうですか・・・」

(アルハザード時代の・・・知識・・・?)

 

フェイトはスカリエッティの答えにどこか納得した表情を見せながら俯いた。

 

しかし、なのははスカリエッティの言った

アルハザード時代の知識・・・という言葉が気になっていた。

それについて問い詰めようとしたとき、チンクが話を切り出す。

 

「ドクター・・・そろそろ本題に入ったほうが・・・」

「ん、ああ、そうだったね。構わないかな?フェイト・テスタロッサ」

「あっ、はい。構いません」

 

「それでは話そう。バグの処理・・・に関しては君達も知っているよね?」

「はい、闇の書の防衛プログラムの切り離し・・・のことですね」

「そう、だが防衛プログラムの名の通りそんなことをすれば不正アクセスとみなされてしまう。

 だから代わりに正常なプログラムを強制的に上書きする」

「なるほど・・・でも正常なプログラムのデータなんて・・・」

 

闇の書・・・いや、夜天の魔導書の正常だった頃のデータ・・・

それはユーノが無限書庫で調べているが、まだ見つかっていない・・・

いや、そこにあるかすらわかっていなかった。

 

「ないね。だけど元のデータを推察することはできる。

 今あるデータ・・・そして無限書庫から見つかる情報を元に作成するのさ」

「まるで粒子加速器で宇宙の始まりを演算するようなものですね」

「そう、その通りだ。もっとも正しいかどうかはわからないし

 そもそもアクセスするには闇の書を起動しなければならないらしいからね。

 結局は君が考えた通りの作戦になるだろうね」

「そうですか・・・」

「今回はそれに関して『君』と話すようにリンディ艦長から言われている。

 今ここでね。フェイト・テスタロッサ君も同行してね」

「わかりました」

 

そして、四人は会議していった。

彼女を蝕む・・・ものの存在も知らずに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、今日は平日。学校があるのでなのはは朝早く起床した。

・・・起床したのだが・・・

 

「う、う・・・ん・・・」

(なんだ・・・か・・・気分悪い・・・のか・・・な・・・)

 

風邪・・・それとはまた違った気持ちの悪い感覚・・・

なのははそんな感覚を感じつつも、ベッドから起きる。

レイジングハートがそんななのはに挨拶する。

 

《Good morning,my mater.》

「うん・・・おはよう・・・レイジングハート」

《?》

 

なのはの様子のおかしさにレイジングハートは少しだけ感づくものの

なのはが特に何事もなくリビングへと向かっていったので

気のせいだと思い、静かに送り出した。

 

 

 

 

「おはよう、なのは」

「うん、おはよう。お父さん」

 

リビングではテーブルに父親の士郎が、キッチンには母親の桃子が調理をしていた。

 

「おはよう、なのは」

「おはよう、お母さん。聴いたよ。フェイトちゃんに料理教えてるんだって?」

「あらあら、バレちゃったの。二人の秘密だったんだけどね」

 

そう言って桃子は懐から何かを取り出す。

それは次元世界を超えても交信できる通信機材だった。

 

「何時の間に・・・」

「リンディさんからね。フェイトちゃんのお願いだったみたいよ。

 私としても断る理由はなかったから・・・ね」

「ね・・・って言われても・・・まぁ、いいか。いただきます」

 

そう言ってその日の朝は過ぎていった。

朝食を食べ終わったなのはは学校へと向かっていった。

 

 

それは他愛もない・・・いつもどおり・・・二人の友達が魔法について知っているだけの

普通の・・・日常・・・そんな学校生活・・・だった・・・

しかし・・・その日常は・・・突如として崩れ去っていくのだ・・・

 

 

4時限目・・・今日のこの時間はなのはの好きな数学の時間。

私立でも難関校のここは小学校でありながら算数ではなくすでに数学だった。

もっとも難易度的にはなのはの敵ではない。しかしなのはは楽しかった。

 

だが、今日は違った。

 

「・・・であって、ここはこ・・・きを・・・い・・・」

 

視界が崩れる・・・教師のきちんと声が聞こえなかった。

なのはを今襲っていたのは小さな頭痛と・・・極度の疲労感だった。

 

(あ・・・れ・・・おかしい・・・な・・・シグナ・・・ム・・・さ・・・との・・・

 決闘・・・で・・・つかれ・・・・・・ちゃった・・・の・・・か、な・・・)

 

今まで感じたことのない感覚で、なのはは今何が起こっていたのか

自分自身の頭で理解していなかった。いや、できなかった。

 

となりの席のすずかが、なのはの異常に気づいたのか

なのはを心配したように声をかける。

 

「なのはちゃん? 顔が赤いけど・・・大丈夫?」

「う、うん・・・大丈夫・・・・・・だいじょう・・・」

 

バタンッ

 

なのはは大丈夫・・・とも言い切れずに椅子からずり落ちて床に大きな音を立てて倒れる。

その大きな音にクラス全員がなのはのほうを振り向き、そして大きな悲鳴を上げる。

異常事態に気づいた教師が急いでなのはのもとに近づいていく。

 

「高町さん!? 大丈夫ですか!!? 凄い熱・・・月村さん。

 あなたいま、携帯電話を持っていますか!?」

「は、はい。持っています!」

「それじゃあ、救急車を呼んでおいてください。保健室にくるように言って」

「は、はい!わかりました! 電源入れないと・・・!」

 

すずかは先生に言われて、急いでバッグから携帯電話を取り出して電源を入れる。

 

「ハァ、ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

熱そうな息遣いをするなのは。

その顔はとても真っ赤に染まっていた。

皮膚に触れると通常の体温よりも明らかに高かった。

とても大丈夫だとはいえない状態だ。

 

「待っててね。なのはちゃん!」

「な、なのは!大丈夫なの!!?」

 

すずかが119を電源が入った携帯電話にかける中、となりの席のアリサが多少正気に戻り

なのはに対して声をかけ続けていた。しかし、なのはは何の反応もできない。

 

「はい、皆そこどいて!皆さんは静かに自習していてください!!」

 

教師はなのはを抱えると急いで保健室へと連れていった。

二人が居なくなった教室では、静かに自習しているよう言われていても

とてもではないが静かにできる様子ではなかった。

 

 

そして保健室に連れて行かれたなのははたどり着いた救急隊員によって

主治医も居る海鳴大学病院へと搬送されていった。

 

原因不明の症状・・・

 

それはジュエルシードによって抑えられていた異常が

せき止められたダムを水が越えるように一気に発現したのが原因だった。

 

しかし、そんなことに病院の人間が気づくことは・・・なかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
エクセリオンバスター開発秘話(大嘘)
プロジェクトFオリジナル設定。
スカさん予定通りキャラ崩壊。お前そんなキャラじゃないだろ!

そして超急展開!!はたしてどうなるのか・・・



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SAGA 26「捥がれた翼」

今回はキャラが多くて地の分が難しかった・・・
オリジナル設定があるので注意してください。

そして病気に関しては又聞きでしかリアルでは知らないので、
間違っているかもしれません。実際にかかった人が居たら申し訳ありません。

それではどうぞ!!


 

 

 

その日、病院は突然の急患に院内全体に緊張が走っていた。

他の患者の迷惑にならないよう大分これでも落ち着いているほうなのだが、

院内にはびこる空気がいやでも、病院側の焦りを感じさせた。

 

それは無理もないと言える。

ドラマならまだしも無症状でニコニコと元気だった子が、

数時間後に聴診器程度で分かるほど危険な状態の肺炎になるとは考えにくいからだ。

 

厳密に言えば、肺炎に近い症状の『何か』だったが、

医師達にそれを判断する技術も知識もなかったので仕方がない。

 

なのはの現在の症状は発熱、それによる極度の脱水症状。

咳に呼吸困難など、ほぼ一般的に言われる肺炎の症状に酷似していた。

気管支炎よりも症状が重症なので病院側は便宜上、そう判断した。

 

しかし、原因菌が全く特定できない。

無論、それはそもそもこれの原因が肺炎でないからなのだが・・・

 

数時間後、適切な処置のおかげで何とか症状がましになった頃だった。

 

突然、なのはの転院が決まって別の病院に連れて行かれた。

医師達は突然のことに驚いてはいたが、すぐに沈静化した。

それは管理局の介入があったからなのだが、彼らには知る由もない。

 

管理局、さらには月村家の情報操作のもとでなのはは

ミッドチルダの大病院へと連れて行かれていた。

 

そこの個室の病室で、なのはは周りに機材が大量にある中眠りについていた。

口元には酸素マスクが点けられ、体中が周りの機材と繋がれており、

脱水症状を防ぐために点滴による水分補給を受けていた。

 

しかし、それでもなのはの症状はあまり良くはなっていなかった。

咳や呼吸、脱水症状は大分収まってよくなったものの、

熱は相変わらず38.7°Cという高熱だ。

 

そんななのはのいる病室には人が集まっていた。

メンバーは、リンディ、クロノ、フェイト、はやて、シグナム、シャマル、

高町士郎、桃子・・・そしてスカリエッティだった。

 

ここに居ないメンバーのうち、

エイミィはアースラから離れられないので残り、

アルフはフェイトに頼まれてある人物を呼びに行ってもらっていて、

恭也と美由希は管理外世界から来れる人数に急だったため限界があったので

仕方なく、地球の海鳴に残っていた。

 

ヴィータとザフィーラは今回、管理局監修の元で蒐集活動中だったのでいない。

はやての護衛役と治療役ということでシグナムとシャマルははやてと一緒に来たのだ。

 

「・・・また、なのはがか・・・」

 

士郎と桃子は愛娘に起こった現実に何も言えなかった。

入院は二度目だが、今回はあの時とはまた違った心配を感じていた。

言葉に言い表せない悲しみと何もできなかったむなしさ。

なによりもなのはの様子のおかしさに気づかなかった自分達に怒りを感じていた。

 

フェイトはとなりにいるスカリエッティに聞く。

 

「ジェイルさん・・・なのはに一体何が起こっているのかわかりますか?」

 

フェイトにそういわれたスカリエッティは「ふむ」と一瞬悩み。

あくまでも医者としてではなく、研究者としてだが・・・と前置きした上で言った。

 

「おそらくだが、これはリンカーコアの異常だろうね。

 ジュエルシード・・・が原因と言うわけではないだろうが・・・

 これに似た症状を前に見たことがある。実際にではなく資料でだがね。

 ・・・もっとも言い難いが、はやて君がほとんど同じ状況だね。症状は違うけど。

 私は医者ではないから正しいかはわからないが・・・

 おそらくは当分は治らないだろうね・・・シャマル君はどう思うかね?」

「・・・私も同じ判断です。これはリンカーコアの異常・・・

 はやてちゃんと違って特に闇の書などの外部機関から

 影響を受けているわけではないとは思いますが・・・

 どちらにせよ、自然治癒くらいしか方法はないと思います」

 

それを聞いてその場に居るほとんどの人物・・・とくにシグナムの落胆は大きかった。

自分が決闘を行ったせいだろうか、などと頭の中はぐるぐるしていた。

 

・・・そんななか、なのはから"事情"を聴いていたはやては

何時頃からなのはがなのはがリンカーコアの異常だったのか、

自分もほぼ同じ状態だったからこそ、考え付いていた。

 

(もしかして・・・なのはちゃんが言っていたあのときの胸の痛みも

 リンカーコアの異常が原因なんやないか・・・?)

 

はやても詳しくはないので、そこまでしか考察はできない。

だが、親友の治療に役に立つならと彼女がとなりにいるシャマルに言おうとしたとき

突然病室の扉が開いた。そこにいたのは・・・

 

「ゼェ、ハァ・・・ゼェ・・・ハァ・・・な、なのは・・・」

 

ちょっと息を乱し、全身から汗が吹き出ていて

目元にはものすごく濃い隈ができているユーノ・スクライアだった。

手元にはレイジングハートが握られていた。となりにはアルフもいる。

 

ユーノが一度高町家の自分の部屋に転送されたときに

なのはの入院を知り、そのときに念話でレイジングハートから

自分も連れて行くように言われた為持っていたのだ。

 

そしてフェイトに言われてきたアルフに連れられてここにやって来たのだ。

 

「ユーノくん・・・それにアルフさんも」

「も、桃子さん、なのはは大丈夫なんですか!?」

「・・・・・・」

 

桃子も士郎もどちらもユーノの問いに何も言い返せない。

そこへはやてがとっさに問いかけた。

自分の考えを唯一知っていそうなユーノに聴いて確かめたかったのだ。

 

「あ、あんなユーノくん・・・なのはちゃんが倒れたのって

 私と同じリンカーコアの異常らしいんやけど・・・

 もしかして、前になのはちゃんが言っていた胸の痛みって・・・」

「あ、あー、確かに・・・たぶんはやての言っていることで間違いないと思う。

 それに前に確かなのはは足引きずっていたりしてたし・・・」

 

はやてにそう言われて一瞬だけ油断していたユーノは

なのはに秘密にするように言われていたこと、

知っていたことをうっかり話してしまった。

 

「なんだって? それはどういう意味だい?ユーノくん。

 私は前に君と始めてあったときに胸の痛みについては聞いていたが・・・」

「わ、私たちにはそれすら言われてないのですが・・・」

 

士郎とリンディの反応にユーノは焦ってしまう。

別にわざと黙っていたわけではないのだ。

 

そもそもなのはの胸の話をリンディたちに言わなかったのはなのはの頼みだが、

足についてはユーノがなのはの足の動かし方を見て疑問に思っていただけだ。

 

気づいてはいたもののなのはは何も言ってこない。

なのはが無茶をするような子ではないと知っていたので

何もいってこないということは大丈夫だろう。もしくは自分の気のせいだと思っていた。

 

そしてジュエルシードとリンカーコアが一体化して倒れた後は

なのはは足を引きずっている様子はなかったのだ。だから安心して報告はしなかった。

結局はそれが仇となっているかもしれない状況となっていたが・・・

 

「あ、えっと。今から説明しま・・・オロッ・・・」

 

ユーノは説明しようとしたが、ひどい脱力感に体が倒れ掛かる。

近くに居たアルフが支える。シャマルはその状態が何かすぐに気づいた。

 

「ユーノくん。あなた寝不足みたいね。

 はやてちゃんのためにずっと頑張ってくれてたから・・・」

「あっ、そういう・・・ことか・・・でも・・・説明はしておかないと・・・」

《いえ、元仮マスターは休んでいてください。私が説明します》

 

寝不足で話の呂律も悪くなっていたユーノはそれでも話そうとしていたが、

手元のレイジングハートがそれを制し、自分が話すと言った。

 

「れ、レイジングハート・・・」

《私が話しますので、休んでいてください。あなたには使命があります。

 あなたまで倒れてもらってはマスターが困ります》

「・・・私もそう思う。アルフ連れて行ってあげて」

「・・・わ、わかったよ・・・それじゃあ、皆さん・・・失礼・・・します」

 

ユーノはしぶしぶ病室を出て行く。その足取りはフラフラだった。

とてもではないが、彼に説明を続けられるとは思えなかった。

アルフもフェイトに言われたのでユーノを案内していった。

士郎たちはそれを見送った後、レイジングハートを問い詰める。

 

「さて、レイジングハート・・・まぁ、胸のことは後にしよう。

 先に足についてだが・・・いつのことだ?」

《はい、初めてマスターが足に違和感を感じたのは皆さんで温泉旅行に行ったときのことです》

「温泉旅行?月村家とアリサちゃんと一緒に行った?」

《はい、そうです。最初は左足でした。

 そこにいらっしゃるフェイト嬢と二度目の出会いをしたときです。

 最初はジュエルシードを賭けて戦闘を行う気だったマスターは

 左足の激痛からそれを断念し、あなたにジュエルシードは託しました》

「あ、あのときのなのはの行動はそういうことだったんだ」

《その後もマスター左足の異変は続きました。

 少なくとも日に日に悪くなっており、フェイト嬢と戦うときも

 左足はほとんど動かせない状態でした。痛み止めとテーピングをした上で

 あなたとの戦いにマスターは挑んだのです》

「な、アレだけの戦闘を空戦とはいえ片足に激痛を負った状態で行ったのか!?」

 

クロノはそれを聴いて驚くほかはない。

確かに基本的になのはが行っていたのは空中戦だったが、

その戦いの前のアースラでの会議などでも片足に異常がある状態とは思えなかった。

 

フェイトもまた自分に片足に激痛がある状態で戦って勝っている事に驚く。

その戦闘中、確か水の上に浮いていたはずだ。あの時も痛くはなかったのだろうか?

 

《続けます。その後はあなたがたが経験したとおり、

 時の庭園にて戦闘・・・そしてジュエルシードがリンカーコアと融合・・・

 それからでした・・・。マスターの足の調子が元に戻ったのは・・・》

「まさか・・・まさか、ジュエルシードが今まで何かのリンカーコアの浸食を抑えていたのか?」

 

《そう考えて間違いではないでしょう・・・

 そして少なくとも今日まではマスターに異変は起きていなかった。

 しかし・・・マスターが現在このような状態になってしまった・・・》

 

レイジングハートがそう言った事でスカリエッティは理解した。

 

「なるほど・・・そういうことか」

「どういうことですか?ジェイルさん」

 

フェイトが聴いてきたのでスカリエッティは答えた。

 

「なに、これだけの状況証拠があれば簡単なことさ。

 つまり今まで起こっていたからだの異常・・・

 それをリンカーコアと一体化していたジュエルシードが今まで抑えていた・・・

 だが、おそらく限界があったんだろう・・・

 まるでせき止めた水を流すように・・・症状が一気に発症したんだ」

「それは・・・私との決闘が原因ですか・・・?」

 

シグナムがそう聴く。自分の決闘が原因ならば・・・

と思っていたのだが、スカリエッティがそれを否定する。

 

「いや、こういうタイプは想像でしかないが違うだろう。

 彼女があの戦闘でカートリッジやフルドライブを使用していたなら別だが、

 少なくとも今回の件に君が行った決闘は関係ないだろう。

 遅かれ早かれ、彼女はこうなる運命だっただろう」

「そう・・・ですか・・・」

 

「とりあえずは・・・仮に今言ったとおりだとしても私たちにやれることはない。

 そう私は思うが、シャマル君はどう考える?」

「私も同意見ですね。なのはちゃんに私たちができることはなさそうです・・・

 風の癒し手として何もできないのはとても悔しいですが・・・」

 

シャマルは珍しく、声を荒げながらそういった。

彼女も悔しいのだ。主の親友に対して何もして上げられないのが・・・

 

《そしてマスターはジュエルシードと一体化後、体に異変を感じていなかったので

 皆さんには何も言わず、今日まで生活していた・・・ということです》

 

レイジングハートがそう言うとその場にいる全員が黙ってしまう。

なのは自身は無理をしていたかもしれないが、無茶は宣言どおりしていなかった。

言わなかったことはともかく、言われていた所で今回のことが回避できるわけではない。

なのは本人ですら・・・その正体に気づいていないのだから・・・

 

むなしくも・・・誰も何もできずに時は過ぎていったのだった・・・

 

 

 

 

 

 

やがて、この病室に残ったのは士郎と桃子、そしてはやてだった。

シグナムとシャマルには今は一人で居させてほしいと外で待っているように言っておいた。

他の皆は・・・それぞれ思うところがあり、仕事へと向かっていった。

 

なのはが眠る病室に静かに立つ三人・・・とレイジングハート

 

そして・・・そんななかはやてが話し始めた・・・

 

「・・・私たちにできること・・・一体何があるんやろ・・・」

 

自分のために・・・必ず守り抜くといってくれた親友の現在の末路・・・

それを目の前で見ているともう何も考えられなくなっていた。

 

親友がこんなになるまで戦っているのに・・・自分は何もできないのかと・・・

 

「なのはちゃんは私を守ってくれるって行ってくれたのに・・・

 私は・・・何もすることができへん・・・」

 

やがて、はやての眼には涙が溜まっていた。

そしてそれが流れそうになったとき、桃子がそれを指で拭う。

 

「桃子さん・・・」

「はやてちゃん。あなたの気持ちは私たちも良くわかるわ」

「あぁ、そうだ・・・。いくら魔法が使えないとはいえ・・・

 娘が死と隣り合わせのことに関わっているのに・・・

 何もして上げられない・・・止めることもできない・・・

 なんども私は何をしているのか、なのはに何ができるのか・・・

 そしてそれをずっと考えていてわかったことがある」

 

「わかった・・・こと・・・ですか?」

 

「あぁ、なのはが望んでいること・・・

 それは自分が帰ってこられる場所・・・だよ」

 

士郎のその言葉にはやてはハッとなる。

 

「なのはの過去は前に聞いたと言っていたよね?」

「はい・・・魔法を使って大怪我したことですよね?」

「うん、それもある。だがその前・・・

 なのはが魔法を手に入れた切欠は私にも原因があるんだ・・・」

「士郎さんに?」

 

予想したものとは少し違ったらしい。

士郎は少し時間をおいた後、話し始めた。

 

「昔、私はボディガードのような仕事をしていたんだ。

 だけど4年ほど前に私はある仕事で大怪我を負った。

 命は助かったものの意識は戻らなくてね。

 家族全員に心配かけさせてしまった・・・」

 

そして桃子がその話の続きを言う。

 

「そして、私たちは士郎さんの看病をしていたの・・・

 だけど、そのときに私たちは間違いを犯していたのよ・・・」

「間違い・・・?」

「私はそのときなのはに「いい子にしているように」と言ったの・・・

 だけどあの子がいい子を違うように解釈しているのに気がつかなかったの・・・

 「誰にも迷惑をかけちゃいけない」・・・そう解釈していたらしいわ。

 だからなのはは私たちに何のわがまま・・・いえ、お願いすらしなかったわ・・・

 

 だけど・・・そんな状態で心が持つはずがないわ・・・

 なのはの心が限界になろうとしたとき・・・なのはは出会ったのよ・・・

 『数学』に・・・いえ、この本に・・・」

 

そう言って桃子が鞄から取り出したのは、一冊の本だった。

タイトルは辛うじて読めるものの、すでに角や縁はボロボロになっていた。

そして・・・はやてはそれが何かを知っていた。

 

「もしかして・・・これは・・・なのはちゃんが言ってた・・・」

「ある日に忘れ物を見つけたなのはは・・・これははやてちゃんも知ってるかな?」

「は、はい。全部聴いてます」

 

なのはははやてと始めてあった後、魔法に出会った切欠も教えていたのだ。

ここまで教えているのは家族以外にはユーノとはやてだけだ。

アリサもすずかも・・・ここまでは知らない。家族と『ほぼ』同じ話はしたが・・・

 

「そう、だったらここからは言わなくても大丈夫ね・・・」

「そんななのははあるものを必要としているんだ・・・

 それが寄り代・・・いや、自分の存在を証明するもの・・・かな」

「自分の存在を証明するもの・・・」

「なのはは怖いんだよ・・・自分の周りから何もなくなるのが・・・

 数学もそう・・・なのははあれが無くなった自分と言う存在が怖いんだ。

 だからはやてちゃんを助けたいんだよ。なのはは」

「そう・・・だったんですか・・・なのはちゃんも私と同じで・・・

 孤独に・・・一人になるのが怖かったんかぁ・・・」

 

だから、なのはははやての気持ちが理解でき、

なのはははやてに・・・多少依存する形になっていたのだ。

 

「だから私たちにできることはただなのはの帰る場所を守ること・・・

 なのはが笑顔で戻ってこられる場所を守ってあげることなのよ」

「だから、はやてちゃんも・・・待ってあげたらどう?

 すべてが終わったあと、笑顔でなのはを迎えてあげるのはどう?」

 

士郎と桃子が優しい笑顔でそうはやてに問いかけた。

なのはが帰ってくる場所を守る・・・それが二人の・・・

いや、今この場に居ない恭也と美由希も思っていることだった。

魔法が使えない・・・だからこそ、精一杯できることはする。

高町家全員がそう思っていたのだ。

 

はやてはそれを聞いて顔を俯ける・・・そして考える。

高町家は帰るべき場所を・・・なのはがなのはで居られる場所を守りたい。

そう願っていると言った。しかし、それは魔法に関われなかったから・・・

 

自分は関わることができる・・・いや、関わることが決まっている。

だからなのはは自分を守ろうとしてくれるのだ・・・

 

 

―そうや・・・最初から答えは決まっとったやないか

 

 

はやては理解した。答えにいたった。

もう何も迷うことは無い。なのはのためにだったら自分だって何でもできる。

 

「私は・・・決めました・・・」

 

はやてはそう言いながらなのはの手を握る。

その手は暖かかった・・・発熱の熱とは違う・・・

心に感じる暖かな優しい手の温もりだった。

 

そうだ。なのはが自分を守るように・・・

 

「私は・・・戦います!」

 

なのはの手をギュッと握りながらそう宣言した。

 

「「はやてちゃん・・・」」

 

「失礼します。することが見つかりました」

 

はやてはそう言って車椅子を操作するとなのはを二人に任せて

扉を開けて出て行った。その顔は笑っていた・・・。

 

とびきりの・・・悪い笑顔だった・・・

 

「なのはちゃん・・・待っててなぁ・・・

 私も・・・なのはちゃんのために・・・戦うよ・・・」

 

はやてはそういった。

もう彼女に迷いは無い。やることは唯一つ。

 

闇の書の力・・・それを使うしかない。

 

(蒐集のペース・・・魔導師からやれていないために圧倒的にペースが足りへん・・・

 なのはちゃんを助けるにはそれじゃ間にあわへん・・・だったら・・・)

 

はやての車椅子を進めるスピードは速い。

早くシャマルたちに会ってアースラにいるグレアムの元へ向かわなければない。

一刻も早く、相談に乗ってもらわなければならない。

 

闇の書に対してあまりいい感情を持っていない管理局本局は闇の書による

人からの蒐集を暗黙であるが、了承していなかった。

現に前になのはがはやてを助けるために要求しに言ったときもやんわりと断られていた。

・・・なのはの場合、ジュエルシードを盾にされたので仕方が無いのだが・・・

 

(前にユーノくんから聞いたこと・・・ミッド地上は治安が悪い・・・

 でもそのあと皆に詳しく聴いたら、地上はここ最近犯罪検挙率が上がっている・・・

 そして・・・それを成し遂げた人物の名前は「レジアス・ゲイズ」・・・)

 

はやてはなのはとは違い、管理局の存在を知ってから入りたいと思っていた。

だからこそ、彼女は管理局員に会うたびに管理局について聞いていた。

そのとき聞いたものの一つが、レジアス・ゲイズという地上の救世主の名前だった。

 

経歴を教えてもらったら、根っからの武闘派・・・

そして口は相当悪い。しかし人望はそれなりに厚い人物だった。

本局では黒い噂が絶えなく、あまり良くは思われていないが、

地上は救世主と呼ばれるだけあって、相当尊敬されているらしい。

 

だったら・・・私利私欲で行動する人ではない。はやてはそう結論付けた。

 

(説得してみせる・・・! 協力させてみせる!

 本局が駄目なら・・・地上本部にッ!)

 

なのはを助けるためだったら何だって利用してやる・・・

はやてはそう決意しながら、病院の廊下を進んで行った

 

 

そして・・・一週間後、はやてはレジアスと出会うこととなる。

それは新たな歴史の始まりでもあったのだった。

 

 

 

 

 

 




 
なのはの病気はリンカーコアの異常・・・はやてとほぼ同じです。
なぜなのはのリンカーコアに異常があるのか、なぜジュエルシードで食い止められていたのか、
なぜ左足なのか・・・はなぞでもあまり無いか・・・

それが明かされるのはもう少し後で・・・

そして次回ははやてちゃん単独で地上本部に向かいます。

それでは、また


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SAGA Extra Edition 2「語り合う二人」

今回は番外編と言うよりも短編です。
はやてさんマジ異常wなのはとユーノに影響されまくっています。

理系のなのは、文系のはやて、万能のユーノ、行動のフェイト

完璧な布陣だ(キリッ

次回は・・・大分飛ばしてフェイトさん海鳴へでしょうか?

それではどうぞ!!


 

 

 

あれからはやてはグレアム提督にやりたいことをすべて話した。

最初はグレアムたちも反対したものの、やがて折れて協力してくれることになった。

 

そして今はやてが居るのはミッドチルダは地上本部。

中央の超高層タワーへと来ていた。今回こちらに来たのは言うまででもない。

 

はやてはグレアムからもらったゲストIDカードを握り締め、震えながら言った。

 

「・・・現地上本部長レジアス少将・・・に・・・今から会いに・・・行くんやなぁ・・・」

 

自分で言っておきながら、いざ目の前に来ると少し緊張する。

 

仕方ないとはやては心で言い直す。本局が応じてくれない。

地上ならばきっとそのリスクは大幅に減るはず、

一応だが、自分なりに考えて向こうにも利益があるから・・・

はやてはそこで思考を停止する。いや、させる。

決意したのだ。今更後戻りする気も必要も無い。

 

ゲストIDカードを入り口でかざし、認証してもらった後中を進む。

 

車椅子で廊下を通っていくと、通りかかる地上局員の方が全員が全員

はやてに向かって敬礼をしてくれた。はやてはなんのことだかわからなかったが、

とりあえず頭を下げて挨拶はしておいた。

 

そんなことをしているうちに、レジアス少将がいる部屋の前へとたどり着いた。

はやては扉の前に立ちノックをする。

すると画面に男が移った。レジアス少将だ。

 

「失礼します。連絡しておいた八神はやてです。少しの時間・・・よろしいでしょうか?」

『・・・入れ』

 

ぶっきら棒な一言ともに扉の鍵が開くような音がした後、

その重厚で非常に重そうな扉が左右へと開いた。

 

「失礼します」

 

はやては一礼した後、そのまま部屋の中へと入っていった。

そして本棚に囲まれた部屋の真ん中の机にレジアスは座っていた。

いつもは秘書の方が居るらしいが、はやての意向で一人だった。

 

「初めまして・・・レジアス少将。あなたのお話はお伺いしています。

 八神はやてです。以後、お見知りおきを・・・」

 

はやては今まで読んできた本などから学んだ

標準語・・・そしてあまり慣れていない丁寧語を使ってらしくない日本語を話す。

なのはのためなら・・・形振りかまっていられない。

幼くも・・・すでに将来の片鱗をはやては見せ始めていた。

 

「レジアス・ゲイズだ。話には聞いている・・・八神はやて。

 今日は何の用で来た?グレアムやハラオウンのコネを使い、

 わしのスケジュールを二時間も空けることができるように手回ししてまで

 何をしに来たんだ。闇の書関係のことか?」

「さすがですね。少将。その通りです。・・・もしかしてあなたやご家族に被害が?」

「・・・いや、わし自身に直接被害が出ているわけではないが、

 本局の人間には被害にあったものも多いようだな。

 地上本部の局員には少ないそうだがな、それがどうかしたか」

「その闇の書関係でお話があるのですが・・・よろしいでしょうか?」

「・・・・・・話だけは聞いてやろう・・・」

 

レジアスはそう言うとはやてのほうに改めて体を向ける。

 

「私は闇の書の・・・いえ、夜天の魔導書の主です。

 そして闇の書が壊れていると聴いた私は・・・

 闇の書の修復を行うために管理局に協力しています」

「それは資料で聞いている。最初は闇の書と聞いて犯罪者風情かと思っていたが、

 今のお前を見る限りそうでもないようだな・・・」

「さすがですね。レジアス少将・・・そこらへんの官僚とは違いますね」

「・・・官僚か・・・なるほど・・・」

 

そこらへんの官僚・・・そう言われてレジアスは何か感じたのか、

少し黙り込む。空気を読んだはやてはとりあえず話を中断した。

やがてレジアスは少し口元を上げてにやけた後、話を再び始めた。

 

「いや、すまなかったな。それで続きは?」

「はい、その闇の書の蒐集スピードを上げるために・・・

 地上本部所属の魔導師から、魔力を蒐集させてもらえませんか?」

「断る。と言いたいところだが、ここまでのお前の言動・・・

 先に理由と・・・我々への見返りを言ってもらってから判断してやろう」

「ありがとうございます。実は・・・」

 

はやては話す。すべてを・・・

なのはのこと、自分のこと、計画のこと、見返りのこと・・・

そのすべてを話した後、レジアスから考える時間をもらいたいと言われ、

はやては地上本部を後にしていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ふん、中々おもしろい奴だったな・・・」

 

地上本部の事情、儂の計画・・・すべてを先読みし

我々に有利な・・・いや、地上本部に今一番ほしいものを言うとは・・・

あの年でこれほどの交渉ができるとはな・・・

 

おっと、通信か・・・相手はあいつか

 

「・・・久しぶりだな。ゼスト・・・任務は終わったのか?」

 

任務に行っていたため、通信も含めて久々だったな。

 

『あぁ、久しぶりだな。レジアス・・・どうした?』

「どうかしたか?」

『いや、お前が何時になく・・・いや、久々に見たぞ

 お前のそんな嬉しそうな顔』

「顔?」

 

儂はそう言われて近くにおいてある鏡を見る。

・・・やはり自分ではわからないか

 

『何かあったのか?』

「あぁ、時間があるか?少し話をしたい」

 

儂はそう言うとさきほどの八神はやてとの対談の様子を

事細か、儂が言える範囲でゼストに話した。

 

「・・・というわけだ」

『なるほど、闇の書か、聞いたことはある。

 古代ベルカが生んだ。最強最悪のロストロギアだとな。

 まさか、俺がいない間に本局でそれの対策本部が設立されていたとはな』

「どうする?八神はやての要求は確かにこちらにも利益はあるがな・・・」

 

利益はある。しかしそれは・・・

 

『代わりに自分を地上本部に入れさせろとはな。

 管理外世界なのになかなか勇気のあることだな』

 

「あぁ、しかもだ。闇の書の存在を知る前から・・・

 数ヶ月前に起きたと言うPT事件のときだ。

 

 そのときに地上本部の現状、管理局の行動・・・

 それに絶望して地上本部には入りたかったらしい。

 お世辞かもしれないがな・・・あの顔は嘘をついているようには見えない」

 

『なるほどな。お前が悩むのも無理はないか。

 まず不可能だろう。闇の書の主にして魔力ランクはSSS。

 さらに闇の書の性質上、魔導師ランクも少し鍛えればSSには届くだろう。

 そんな人材を本局が放っておくはずがない。いくら本人が望んでも不可能だろう』

 

確かに・・・八神はやて本人が望んでいるとしても無理だろう。

八神本人に罪はないが、守護騎士たちには被害者遺族のことも考えれば

必ず今までの分の罪を償わなければならないだろう。

 

そうなれば八神はやてが地上本部勤務を望んだとしても

おそらくはそれらを盾に脅迫されて本局勤めになるだろう・・・

 

・・・儂はそれを彼女の伝えられなかった。彼女の本気の目を見ていたらな

 

『親友のための行動か・・・すばらしい友情だな・・・

 八神はやても・・・その親友の高町なのはという人間も・・・』

「お互いがお互いを必要としているのだ。儂にも覚えがある」

『ふっ・・・お互い年を取ったものだ・・・いつの間にか汚い大人の考えになっている』

「よせよせ、そんな陰気臭い事を・・・確かにそうだな。

 八神はやてに言われて痛感したよ。

 何時の間にか儂はただの官僚に成り下がっていた。

 理想に燃えていたあの頃と違ってな・・・・・・」

 

今日は自分が時空管理局の局員ではなく、

ただの官僚に成り下がっているのを気付かされた。

闇の書の主・・・そんな書類上の情報だけを鵜呑みにして、

八神はやてをただの犯罪者呼ばわりしてしまった・・・いや、しかけた。

彼女に気づかされなければずっと気づかなかっただろう・・・。

 

 

かつて現場で治安維持に当たっていた時に行った取調べでは、

犯罪者が止むに止まれぬ事情で罪を犯すケースが多かった。

 

もちろん中にはどうしようもない悪人も居た。

とても環境でなったとは思えない。生まれながらの悪党が・・・

 

しかし、ほとんどの犯罪者は何かしらの不運が重なり

その生きる道を踏み外してしまった者ばかりだった。

 

現場を離れて随分の時が経つが、

いつの間にか儂は現場の事を書類上でしか認識しなくなってしまった。

 

まだ理想に燃えていた頃、現場で叩き上げとして我武者羅に働いていた頃は

罪を犯した者はしっかり罪を償って更生してほしいと心から願っていたはずだ。

 

魔法の才がなくても・・・親友ゼストと共に・・・

 

かってに状況だけから犯罪者呼ばわりしていた自分が恥ずかしい。

今日の会談は少しだけだが、儂の意識を変えるいい切っ掛けになった。

 

「・・・と思っていたんだ。だから儂としては八神はやてに協力したい・・・

 だが・・・儂が良くても地上局員が納得するかはまた・・・」

 

そう儂が言いかけたときに突然ゼストが笑い声を上げた。

 

『ハハハハハハハハッ お前らしくもないなレジアス。

 地上局員はそこまで柔じゃないさ』

「だが、ゼスト。ミッドチルダでは少ないほうとはいえ

 地上局員のなかにも闇の書の被害者の遺族はいるのだぞ?」

『確かにそうだ。俺も何人か知っている。

 だが、そいつらには誇りもあるんだ。地上局員としてのな・・・

 任務ならば、彼らは誇りを持って従うさ。

 ましてやお前からの直接の命令だ。局員全員盛り上がると思うぞ』

「そういうものか?」

 

『あぁ、局員のほとんど全員はこういうだろうな

 

「俺たちは本局の頭の固い奴らとは違う。人助けのためだったら

 私情は一切挟まないで任務を遂行します」とな』

 

そうか・・・フッそうだな。

儂が誇りに思う地上本部は・・・そんな柔な存在ではない。

 

本局の連中にも良い志を持った者もいるが、権力というものは人を惑わす。

ついさきほどまでの儂のようにな。

 

ならば・・・答えは決まったな。

 

「決めたよゼスト。儂は八神はやての申し出を受けよう。

 無論、地上本部には入れそうもないことは説明してだがな」

『そうか、それならば良いさレジアス。

 それでも協力してくれると言うのならば、

 将来、地上と本局を繋ぐ架け橋になってもらえばいい』

「ふん、とんだロマンチストだな」

 

そういえば、あの頃の儂達もそうだったな。

今からでも・・・遅くはないかもしれない。

間違っても、気づけばそれが勝利への道だ。

 

『お前も戻って来い。あの頃にな』

「言われるまでもない。儂は儂だ。レジアス・ゲイズだ。

 理想は若い者に任せよう・・・儂等はそれを手助けしてやればいい」

『あぁ、そうだな。俺たちの部隊も力を貸す』

「ああ、よろしく頼んだ」

 

そうと決まれば・・・まずは根回しか・・・

見せてやるぞ。本局、そして八神はやて

地上の意地と誇りをな・・・!!

 

儂はそう気張りながら、仕事を再開した。

 

 

 

 

 

 



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SAGA 27「不屈の主の居ない日々」

決戦前夜の二人の描写。はやてはこれ以外はあまり普段と変わってないです。
というか、主人公なしで大丈夫か?これ(笑)

それではどうぞ!!


 

 

 

そしてあれから数ヶ月経ち12月5日。

私フェイト・テスタロッサは今とある場所に来ています。

 

「ふぅ・・・うん、緊張するね」

 

今日私が来ているのはなのはが通っていた私立聖祥大学付属小学校だ。

今回、私・・・厳密には私たちとハラオウン家の皆は海鳴市に住むことになった。

理由は闇の書の主はやてと守護騎士の監視・・・と言う面目で、

実際は私のちょっとしたわがままをリンディさんが聞いてくれて

グレアム提督と相談した結果、この世界に住むことになったのだ。

 

そして、本来はなのはと会うためにずっと前から計画していたことだったのだが、

少々裁判の処理やなのはが倒れたこともあって、結局この日になってしまった。

 

なのはは・・・まだ目覚めていない。

今もミッドチルダの特別病棟でいろいろな機材に囲まれながら眠っている。

私は・・・今はなのはに何もできないから、なのはの部屋に

レイジングハートとブレイズハートを置いておいた。

きっと・・・なのはは目覚めてくれるだろうから・・・

 

はやてもいろいろと頑張っているらしい。

先月には地上本部の局員から蒐集をさせてもらったらしい。

今までの分とあわせると526項のページが溜まっているとのことだ。

管制人格と呼ばれる存在にも出会い、協力を申し付けたと言っていた。

 

そして計算ではあと一ヶ月もしないうちに溜まりきるらしい。

なのはのためにも早めのほうが良いだろうからそれはよかった。

 

またユーノが見つけたデータからジェイルさんたちが

主と闇の書を分離するプログラムが入ったカートリッジを作ったらしい。

理論上は95%、はやてと闇の書を分離できるそうだ。

 

下準備はすべて揃い、私にできることは・・・

 

「結局・・・戦闘訓練だけ・・・かぁ・・・」

 

学校についた私は口からため息を吐きながらそう言った。

最近の日課は朝起きた後、ジャージに着替えて裏山までランニング。

魔法の訓練をした後、ここでの家に帰って朝ごはんを食べること。

やっぱり早起きして食事をしないで訓練は少々つらいものがある。

 

しかしこれはなのはがやっていた訓練。

もっともなのはは魔法の訓練以外に御神流の修行もしているけれど。

同じだけのことができなければなのはには一生追いつけない。

 

だから続けるんだ!と私は強く決意していた。

 

学校に着いたので職員室へと向かい挨拶。

担任になると言う先生に案内されて、私は教室へと向かった。

 

 

そして先生が教室に来てHRが始まった。

私はまだ外にて待機している。

 

「さて、今日はみなさんに転校生を紹介します。

 今日からみなさんと一緒に学校生活を送るフェイト・テスタロッサさんです!」

 

私はそう言われ、失礼しますと言いながら教室の中へと入った。

 

「皆さん仲良くしてくださいね。じゃあテスタロッサさん自己紹介して」

 

みんなの前で自己紹介・・・以前の私だったら緊張していただろうけど

今の私はそんなことにはならない。ぺこりと頭を下げお辞儀をしながら

私はクラス皆の目の前で自己紹介を始めた。

 

「初めまして。フェイト・テスタロッサです。今日から皆さんよろしくお願いします」

 

挨拶をした後、シーンとなる教室・・・あれ?何か変だった?

 

「かわいい!!!」

「美少女キタァァァァア!」

「髪の毛すごく綺麗・・・・・・」

 

そんなことを思っていた私を尻目に教室中から様々な声が上がっていった。

特に男子の反応が凄まじい。・・・綺麗と言われるのは嫌いじゃないけど。

 

「テスタロッサさんの席は窓側の一番後ろ・・・高町さんの隣ね。

 せっかくだから1時間目まで自由にお話する時間にしましょう。

 先生はいったん職員室に戻るからね。あまり騒がしくしちゃダメだからね」

 

先生はそう言い残し教室から出て行った。

私は・・・本来なら隣になのはが居るべき席の隣に座る。

 

すると先生がいなくなった途端にクラスの皆が私の周りに集まってきた。

 

「どこから来たの?」

「前はどこの学校にいたの?」

「日本語上手だね」

 

・・・・・・一度に何人も来られても困る。

 

そう思っていると、一人助け舟に来た金髪の女の子・・・

確か・・・なのはのビデオレターに居たアリサ!

アルフを助けてくれた人のはずだ。

 

「はぁ・・・まったくしょうがないわね。ちょっとアンタたち、

 一気に言われてもフェイトは分からないでしょ。そこに並びなさい。質問は一人ひとつまでよ」

 

アリサは人を纏めるのがうまいらしい。

すぐさま皆はさっと一列に並び、私に質問してきた。

私は取りあえずはその質問に答えていった。

 

・・・その質問には答えられないよ

 

 

 

 

―昼食―

 

 

「さて、と改めて久しぶりねフェイト。実際に会うのは初めてだけどね」

「うん、アリサ久しぶり。すずかもね」

「うん、久しぶりフェイトちゃん」

 

実際に会うのは初めての二人、でも私はなのはのビデオレターで知っている。

すずかのお姉さんの忍さんのことも桃子さんから聞いて知っている。

 

「このタイミングで学校に来るとはね・・・今日知って驚いたわよ。

 前からなのはからこっちに来るらしいとは聴いてはいたけど」

「うん、本当はもっと早く着たかったけどね。

 裁判もあったし・・・・・・・・・なのはのことも・・・あったしね」

「なのはちゃんは大丈夫そう?」

 

すずかがそう聴いてきた。私が知っているのは・・・

 

「うん、取りあえず命に別状はないらしいけど・・・

 まだ・・・目は覚めていないんだ・・・」

「なのはが休んでからもう5ヶ月ね・・・そんなに眠っているなんて」

 

なのははこの5ヶ月間一度も目覚めてはいなかった。

ミッドチルダの最新技術と魔法によって筋力の衰えは最小限に抑えられているものの

日に日に少しずつ衰えていくなのはを見るのはつらい・・・

だからこそ、早く闇の書事件を解決したいと言う気持ちもある。

 

解決できれば・・・まだ、いくらでもチャンスはあるはずだから

 

「なのはも戦っているんだよ・・・自分の過去と」

「自分の過去・・・かぁ。なのはちゃんの怪我のことだよね」

「うん、そう。あの怪我を負ったときに会った胸の痛みが

 今になって再発して悪化したってことみたい。

 もちろんなのはは無茶はしないからね。気づいてなかっただけ」

「そうなんだ・・・何だか寂しいね・・・」

「そうよ、あいつが居ないと学校での楽しみが大分減るわ!」

 

学校での楽しみ?なのはが?

 

「アリサ、なのは学校で何かやってるの?」

「もちろんよ、フェイト! 前にあったことなんだけど・・・」

 

そう前置きした上でアリサは続けた。

曰く、なのはがこんなことを休み時間に言い出したらしい。

 

『見てアリサちゃん。この素晴らしき一続きの数字の連なりを。

 220の約数の和は284。284の約数の和は220。友愛数っていうんだけど

 

 ――(中略)――

 

 神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なの。美しいと思わない?』

 

・・・すずか曰く、これは『博士の○した数式』という本の中の台詞らしい。

あのなのはがそんなことをしているとは・・・読書はあまり好きじゃないとか言っていたのに・・・

 

そしたら他にもいろいろ言っているらしい。

 

『これは魔方陣だよアリサちゃん

  1  6 11 16

 12 15  2  5

 14  9  8  3

  7  4 13 10

 縦、横、斜め・・・そのどれを足しても34になる

 魔法の陣なんだ。でも漢字は魔方陣

 魔方陣は中国では紀元前からその存在が知られていて、

 古今東西、時に恐れられながらも、占いやお守りとして、

 なが~く、なが~く愛され続けてきたという歴史があるパズルなんだ。

 ものすごく綺麗でしょう?数学好きとしてはたまらないよ!』

 

とか

 

『フェルマーの最終定理・・・答えを言うのは簡単だけど

 それを証明するために途方もない時間を沢山の数学者が費やしたんだ。

 実際にそれを完全に証明したイギリスのアンドリュー・ワイルズが

 この問題に興味を持ったことから数学者になったことはかなり有名だね。

 私も将来、こういう事を証明する数学者にもなってみたいと思っていたりするんだ!

 ってあれ?アリサちゃん?もしもし?もしもーし?』

 

後半はすずかが聞いていたらしいが、なのはの数学愛も凄い。

将来の夢・・・案外決まってたんだね。悩んでいるとか私に言っていたくせに

 

「こんな話をほぼ毎日のように聞かされてウンザリしていたけど・・・

 いざ、いなくなると・・・やっぱり寂しいわよ・・・

 今回のことでつくづく痛感したわ、私はアレを楽しんでいたってね」

 

うん、それは聴いていて大体わかったよ。

アリサもすずかもなのはが大好きなんだ。

・・・待っててね。きっとなのはを・・・連れてくるから・・・

 

「さて、陰気くさい話は終わりにしましょう。

 ところでフェイト、そのお弁当おいしそうね?

 リンディさんとかが作ってくれたの?」

「ううん、作ったのは私だよ?」

 

大体、エイミィならまだしもリンディさんに料理なんて任せられな・・・

あっでもクロノは甘いもの苦手だけどリンディさんの料理で育っているんだよね?

もしかして料理は普通なのかな?いつも仕事で忙しいから

食堂とか自炊だから、食べたこと一度もないけど

 

・・・? 二人ともどうしたの?そんな黙りこくって

 

「・・・まさか、フェイトがこんなおいしそうなお弁当を作れるとは・・・」

「手先が器用なんだね。とっても綺麗に並べてあるよ」

「ありがとう、二人とも。よかったら食べてみる?」

「「いいの!?」」

「うん」

「それじゃあ」「いただきます」

 

・・・どう・・・かな?

 

「「おいしい!」」

 

良かった。うん、なのはも言ってたし褒められるのはやっぱりうれしいね。

その後もお互いにお弁当の中身を交換したりしながら過ごした。

 

そして・・・楽しくも切ないお昼休みは終わったのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

なるほどなぁ・・・これがヴィータたちが生きてきた記憶かぁ

見ているだけで吐き気がするなぁ、うん・・・

 

「いかがでしたか?何か見つけられましたか?」

「ううん、まだなんも。やっぱり過去から見つけようとしても

 もうそれは闇の書の過去・・・夜天の書のものやない・・・

 駄目かぁ・・・闇の書の中から答えを見つけるのは・・・」

 

やっぱり見つからなかった・・・

 

あれから私は自分ができる範囲で夜天の書について調べていた。

あの後、地上本部の人から蒐集してもらったことで、

闇の書中への深層アクセスも大分負担のかからないものになっていた。

 

それを利用して闇の書の深層部に記録されている情報を調べてたんやけど

あまり成果は出てへん。あるのは闇の書時代の悲しい記憶だけやった。

 

「・・・そろそろ深層アクセスの限界時間です。

 主が目覚めると同時に表層までお送りします」

「うん、ありがとうなぁ・・・ごめんなぁ、名前まだ決まってなくて」

「いえ、私はまだ構いません。それに約束でしたからね」

 

さっきから私が話していたのは闇の書・・・いや、夜天の魔導書の管制人格や。

闇の書の項を400ページ集めると、管制人格とお話できる。

そうユーノくんから連絡が入ってから集まった後、

実際に会っている。そのときは挨拶とお願いだけで終わった。

そのときに名前がないゆうてたから、今度会うときまでに考えとく!キリッ

とかっこつけて言っとたんやけど・・・決まらなかった。

 

そして、約束と言うのは・・・

 

「まあなぁ・・・とはいえ

 闇の書に取り込まれて目覚めたときに教える・・・

 これは目覚めなかったらどちらにしろ私は駄目やし。

 闇の書事件を解決させるってゆう願掛けやしなぁ」

「いえ、それでも構いません。今まで名前のなかった私に名前を与えてくださるのですから」

 

「そう言うもんかなぁ・・・」

「そういうものなのですよ」

 

ならええかぁ、満足してもらえているならこれ以上は何も言わへん。

 

「・・・そろそろ時間かぁ・・・なぁ、また最後にお願いしてええかぁ?」

「はい、よろこんで。我が主」

 

そう言って管制人格さんは私を抱っこしてくれた。

感じるこの温もり・・・やっぱりええなぁ・・・

ポカポカして落ち着いてくる。

 

私はそんなことを思いながら、管制人格さんの顔を見た。

 

「こうして抱っこしもらうとな、顔が近いやろ?

 瞳の奥がよう見えるんや・・・」

「ええ・・・よく見えます」

「深い赤で、綺麗な目してるなぁ・・・銀の髪もサラサラや・・・」

「ありがとうございます」

 

そんで・・・おっぱいも結構おっきい

おぉっと・・・うっかり欲望をさらけ出すところやった。

 

・・・体が光ってきた。

 

「目を覚まし始めているようですね。お別れです」

「う~ん、仕方へんなぁ・・・」

「また、会いましょう・・・」

 

うん、また会おうなぁ・・・

 

「もう一度言っとこう思う。

 あなたの綺麗な瞳と髪によう似合う、優しくて強い名前・・・

 私が必ずつけたあげたるから!」

 

もう一度決意しておこう。

なのはちゃんも大事の時はいつもこうやって宣言しなおすらしいから

 

「はい、何時までも待っています」

 

うん、またなぁ・・・あぁ、意識が遠のいていく・・・

目が覚めるんやなぁ・・・夢見るみたいやけど・・・

 

私は・・・こうして深層アクセスを解除した・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そして・・・あれから少したって12月24日・・・

今から私たちは闇の書を夜天の魔導書に直す。

作戦はいたってシンプルだ。

 

人が誰も居ない、その名の通り無人世界。

今回、闇の書を開放する場所に選ばれたのは第78無人世界「アクアボリス」だ。

ここで闇の書の闇を破壊、または永久に封印する。

 

この星は地表全体が海であるので、なのはが選んだのだが、

今回もなのはは参加できそうにない。

 

目の前に居るなのはは・・・まだ目覚めていなかった。

あの時とは違って安らかに眠っているだけましと言うべきなのだろうか・・・

 

「行ってくるよ・・・なのは・・・待っててね」

 

目が覚めないのならば仕方がない。

私はそう自分に言い聞かせながらなのはの手を握って言った。

 

『がんばって、フェイトちゃん』

 

それは幻聴か、なのはの声が聞こえたような気もするけど

私は「うん」と素直に頷いて握っているなのはの手をぎゅっと強く握る。

 

さてと・・・行ってくるね。

 

そう思って私が病室を出ようとすると・・・

 

《Please wait》

 

声が聞こえた。それはなのはのベッドの隣にある棚の上においてある

レイジングハートが発した声だった。

 

《Please Take Me too》

「レイジングハート・・・一緒に行きたいの?」

《Yes, I want to go instead of my master!》

 

そっか、なのはの代わりに行きたいんだ・・・

うん、わかったよ。

 

「それじゃあ・・・一緒に行こうか」

《Thank you》

 

私は置いてあるレイジングハートとブレイズハートを手に取る。

そして自分の首に二つの紅と蒼の宝玉をかけた。

 

「・・・よしっ、それじゃあ・・・行こう・・・」

《Yes,sir.》

 

私の声に金色のプレート・・・バルディッシュは反応する。

 

「・・・マリーさんから渡されたときに、

 生まれ変わったあなたに新しい名前をあげてって言われたよね」

《Yes》

「だから今、言うよ。ここから始まるんだ・・・!」

 

私はバルディッシュを両手で滴る雫を受け取るように持ち、

新たな名前・・・『閃光の戦斧』にふさわしい名前を・・・あなたに!!

 

「バルディッシュ・アサルト!!セェェットアァップッ!!!」

《Drive ignition.》

 

そして・・・その言葉と共に私は光に包まれ、そして変わる。

バルディッシュもまたその姿を変えていた。

 

アサルトフォーム・・・それが今のバルディッシュがとっている形態だ。

 

カートリッジを内蔵したバルディッシュの新たな姿!

 

「行くよ!皆!!」

《Yes,sir》

《All right》

 

私の掛け声にバルディッシュとレイジングハートが反応する。

私は微笑みながら頷いて病室から出ようとした。

 

『いってらっしゃい』

 

一瞬、その声に振り向く。

やっぱりなのはは起きてはいなかった。

でも・・・あの声はきっと私の妄想ではない・・・そう思う。

 

「・・・いってきます。なのは」

 

私はそう言うと病室を飛び出し、

皆が待つ、アースラへと向かっていった。

 

その手に閃光の戦斧を、その胸に不屈の心と突き進む心を持って・・・

 

 

 

 

 

 

 

 



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SAGA 28「滅びの序章」

絶望と言う言葉ふさわしい・・・のかな?

ウルトラゼロファイトの絶望展開見てたらこんな感じに・・・

そして相変わらず観戦するクイントさん。
ティーダさんと違ってキャラが掴みやすいからいい。
この作品では大食い設定なんてないですけどw

それではどうぞ!!



 

 

 

 

アースラにフェイトが集合した。

場所はすでにアクアボリスが見渡せる宇宙空間に来ていたところだ。

 

「それでは各自紹介と行きましょう・・・」

 

リンディが場を仕切るようにそういった。

今この場にいるのはアースラメンバー、八神家、スカリエッティとチンク。

・・・そして地上本部からのお目付け役のクイント・ナカジマだ。

 

「私はこのアースラの艦長リンディ・ハラオウンです

 今回の作戦では実質的に私が指示をすることになります」

「アースラ所属のクロノ・ハラオウンだ。今回はよろしく頼む」

 

まずは言いだしっぺということでハラオウン親子が自己紹介をした。

続いてエイミィを含むアースラブリッジメンバーが紹介を行った。

 

「続いては、地上側だな・・・」

「はい、地上部隊のゼスト隊所属の捜査官。クイント・ナカジマ曹長です」

「お久しぶりです。クイントさん」

「えぇ、久しぶりね。はやてちゃん」

 

紫色の長い髪を持った女性がそう答えた。

今回来たのははやてが地上本部に協力を申し出たため、

地上本部の面目上、監視役と言うか御目付け役が必要になり、

階級的にあまり低くはなく、信頼でき、自由に行動できる人物として

今回、クイント・ナカジマが選ばれたのだ。

 

ついでに言えばゼスト隊から蒐集させてもらったときに

ゼストやメガーヌを含めてはやてに会っていたというのも大きかった。

 

 

「クイント・ナカジマ・・・!?」

(ノーヴェの遺伝子提供者の・・・)

 

スカリエッティは小声で驚く。小声だったために他の皆には聞こえていない。

チンクは冷静に大体の雰囲気で自分の妹の遺伝子提供者と気づいたので取り乱してはいない。

そんなことも知らずにクイントは話を続けていく。

 

「今回は私は協力した地上本部が面目上、監視役に選んだだけで作戦自体には関わりません」

「それに関してはすでに上が承認しているので構いません。まぁ、万が一があった場合は

 ここにはいらっしゃいませんが、グレアム提督の使い魔二名と共に現場に行ってもらいますが」

「それについてはこちらも了承しています。まぁ、何事もなければそれでいいのですが・・・」

 

地上側の紹介も終わり、そしてフェイトたちの紹介も無難に終わる。

最後にスカリエッティたちの紹介だ。

 

「そして最後に・・・彼が今回、最高評議会の勅命で来ました・・・」

「初めまして、私はジェイル・スカリエッティ。よろしくたのむよ」

「私はチンク。今回はドクターの助手として来ている。」

 

必要最低限、資料を見れば偽とはいえ今回彼らがやることはすでに書いてあるので

二人は無駄なことは言わずにシンプルに自己紹介を終えた。

 

「さて、自己紹介も済んだところで作戦について説明します」

 

そう言ってリンディ提督が画面を空中に出し説明を始める。

 

「今回行う作戦は、闇の書の修復です。

 まず、魔力の蒐集をすることですが、すでにこれはほぼ完了しています。

 次に暴走している闇の書の防衛プログラムとその他のプログラムを切り離します。

 そのときにはやてさんが管理者権限を取り返し管制プログラムを分離、

 その後残った防衛プログラムを皆で外部フレームを殲滅。

 それでもコアが残った場合。宇宙空間まで転送魔法を使い転送。

 グレアム提督の支持の元、このアースラに取り付けられたアルカンシェルで完全消滅させます」

「その後はスカリエッティ氏によって防衛プログラムが再生するのを防いでもらい

 作戦は成功となります。失敗ははやてさんごとこの星にクロノ執務官が現在持つ

 デュランダルにより永久冷凍封印することになります。

 その後はグレアム提督によって人が誰も立ち寄れない場所に送られます。」

「作戦の決行は今日、地球時間で12月24日午後7時です。

 現在は午前10時26分・・・それまで各自準備をお願いします」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

そして全員は各自の持ち場へと散らばっていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルディッシュ・アサルトの強化ですか・・・?」

「あぁ、君が望むなら私が最近作ったJSエンジンを君のデバイスに搭載しよう」

 

他の皆がそれぞれの思いを胸に闇の書対策のための準備をしている頃、

アースラのある部屋で一人の少女と一人の科学者が会話を始めていた。

内容はバルディッシュ・アサルトの強化である。

 

「でも私はマリーさんにすでに依頼して強化してありますよ?勝手にやってしまって大丈夫ですか?」

「彼女にはすでに許可は取ってあるさ。心配しなくてもいい。

 私も一応デバイスマイスターの資格はきちんととっているからね」

 

きちんと・・・とはいっても実質の資料改ざんによるものだが・・・

そんなことはやった本人以外は誰も気づかないレベルのものだ。

そもそも彼の存在自体が違法な存在であるのだ。気にするほどのものでもない。

 

「そうですか・・・だったらお願いします。いいよねバルディッシュ」

 

はやてを助けるための戦力はあればあるほどいい。

マリーさんは信頼しているし、スカリエッティは信頼はできると思う。

そう考えたフェイトはバルディッシュの許可を貰おうとする。

 

《Yes,sir.》

「それでは・・・お渡しします」

 

そう言ってフェイトはバルディッシュスカリエッティに丁寧に手渡した。

 

「預かっておくよ。作戦開始までには返すよ」

「よろしくお願いします」

 

スカリエッティはバルディッシュ・アサルトを受け取った後、

今度はハッと思い出したように懐から箱を取り出した。

 

「すまない、これを忘れていた」

「・・・これは?」

「前に言っていただろう? 最近やっと完成した。

 主とプログラムを分離させるワクチンプログラムの入ったカートリッジさ。

 全部で二種類、数は六個。」

 

そう言って箱をフェイトに手渡す。

 

「二種類?」

「まぁね。いろいろと試したがこの二つがシミュレーションでは有効だったからね。

 両方を試してもらいたいと思ったのさ。説明しようか?」

 

フェイトがお願いしますと言うとスカリエッティはわかったといいながら説明する。

 

「といってもこっちの蒼いのが『タンホイザー』紅いのが『ボレロ』って名前以外は

 説明することもないがね。好きなほうを使うといい」

「わかりました。それじゃあ私は『タンホイザー』を使います。

 こっちの『ボレロ』は万が一のときのためにアルフに預けておきます」

 

そう言ってフェイトは懐へとその二つのカートリッジが入った箱をしまう。

 

それを見たスカリエッティは「それじゃあ、また」と言いながら

今回自身に与えられた部屋へと戻っていった。

 

フェイトはそれを見届けた後、そういえば昼食を食べていなかったと思い

少し遅めの昼食を食べるため、食堂のほうへと向かった・・・

 

 

 

 

 

 

 

そして現在6時56分。現在一行は第78無人世界「アクアボリス」へと来ていた。

この星は本来は地表全体が海なのだが、はやてが魔法をまだ使えないため

一つだけだが、ビルを建てていた。その上で作業を行うのだ。

 

現在アースラは宇宙空間でアルカンシェルの準備をしていた。

いつでも発射できるようにしておかないと闇の書の被害を他の世界へ広めてしまうからだ。

 

そしてはやてと守護騎士たちは、とあるビルの上で最後の仕上げの準備を始めていた。

闇の書の項は現在、660項・・・あと6項だった。

それぐらいならば別に守護騎士を戻さなくても問題はない。

ただ、今回は守護騎士たちが闇の書に操られる場合も危惧し、

最初から闇の書の中ではやてが目覚める手助けをしてもらおうと考えていたのだ。

 

戦力的に言えば、ワクチンプログラムもあるので足りてはいるのもあった。

 

「それじゃあ、始めよか・・・皆覚悟はええな」

「はい、主はやて」

「必ず、生き延びような!」

「ああ・・・そうだな・・・」

「そうです!生き残って私達は闇の書の罪を少しでも償っていくんです」

 

守護騎士たちとはやてはつかの間の雑談をしていた。

そして時は過ぎていき・・・・・・・・・・・・7時ジャストとなった。

 

『・・・時間だ・・・始めるぞ』

「はい」

 

通信によるクロノの合図とともに作戦が決行される。

ちなみにクロノは今回、デュランダルによる封印も担当しなければならないので

先発隊ではなく、アースラにいた。

 

「ほんなら、ちょうお休みな」

「はい・・・」

 

そして守護騎士達が自ら闇の書に封印される。

それによって残り6ページだった項が満たされる。

ページが満たされたことによって、闇の書は完成した。

 

そして・・・次の瞬間

 

はやてが座り込んでいる場所から魔法陣が展開される。

魔法陣を中心にある闇の書が鈍い光を放つ。

 

そして、その魔方陣は徐々に黒に・・・いや、闇に染まっていく

 

「封印・・・・・・解放・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・来よ、我が寄り代よ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封印を解除しようとした瞬間、闇の書とは別に近くから魔力反応が検知される。

はやても含めてそちらのほうを見る。膨大な魔力反応だった。

そこにあったのはミッドチルダ式ともベルカ式とも違う魔法陣・・・

 

小さな円が4つ・・・正方形の形にになるように配置し、

それを繋いだ形で中央にある魔法陣を囲むように2つの菱形を重ねあわせたもの・・・

 

それは召喚魔法陣・・・そしてはやてはその魔力光、その魔法の主を知っている。

 

「メガーヌ・・・さんの・・・召喚魔法陣・・・?」

 

そして・・・その召喚魔法陣から何かが召喚される。

 

その正体は人・・・栗色の髪を持ち、それを今は何も結ばずに降ろしていた。

そしてその姿はぐったりとしていて生気がない。

来ている手術着のような病院服がまたそれをいやいやと認識させる。

 

そして・・・その場にいるほとんどの人間がそれが誰かを知っている。

 

「な、なのはちゃん!!???」

 

はやてが叫ぶ。なぜ親友がここにいるのか、

いや、なぜ召喚魔法陣から召喚されたのか、

 

尽きぬ疑問の中、はやてとフェイトが気づく。

数ヶ月間・・・一度も目覚めなかったはずのなのはの瞼が開き始めていることを・・・

 

やがて、半覚醒を果たしたなのははうつろな目をしながら目の前の人物を見て言った。

 

「・・・はやてちゃん・・・? フェイトちゃんも・・・?」

 

状況をまだ理解していない感じだった。

はやてとフェイトは目覚めたなのはの姿を見てほっと安堵する・・・

 

しかし、そんな久々の再会を闇に染めようとするものが居た。

 

 

 

 

《Freilassung》

 

そう闇の書が言い放った瞬間、突如として闇の書から大量の闇があふれ出す。

 

「な、なんやッ!!?」

 

あふれ出した闇は一つに纏まるとはやてに向かっていく。

瞬間に、はやては闇の書から溢れる闇に取り込まれる。

 

「は、はやてッ!!!」

 

フェイトがはやての名を叫ぶが、もう遅かった。

闇はどんどんはやての中に取り込まれていった。

 

「う、うわぁあああ、あああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

この世のものとは思えない叫び声を上げるはやて。

その足元に・・・古代ベルカ式の紫の魔法陣が展開する。

そして・・・闇が完全にはやてに取り込まれ、はやての姿が変わる。

闇の書から放たれた鈍い光を放つ鎖などが巻きつき、

あらわれたのは長い銀髪と深紅の瞳が印象的な若い女性の姿・・・

 

「・・・・・・始まってしまったか・・・」

 

始めに発したのはその言葉・・・悲しみに溢れながら、どこか諦めたような表情で言った。

フェイトが何を言っているんだ。と言いたげな表情で警戒しながら見ていると

それは右手をかざす。その先になのはを捉えて・・・

 

「・・・我がうちで眠れ・・・」

「ひぃ・・・っ」

 

その言葉と共にその女性の右手から出たのは白い紫の目をした『蛇』だった。

数十匹の蛇が、右手と一体化していながらものびていく。なのはへと向かって

 

なのはは声も上げることもできなかった。単純な恐怖。

普段のなのはならまだしも、目覚めたばかり、

さらに親友が取り込まれるところ、その親友の叫びを聞いてしまった。

 

いままで動かしてなかったこと、恐怖を感じていたことも含めて

なのはの体は全く動かなかった。白い蛇たちはそんなことはお構いなしに迫る。

 

距離が遠すぎた。近くに居るアルフもアースラにいるクロノたちも当然間に合わない。

なのは辛うじて動かせた腕で顔を覆った。

 

 

 

 

・・・来ない・・・

 

 

 

蛇たちはなのはを襲わなかった。何があったのかと腕をどかしたなのはが見たのは・・・

 

「ぐふっ・・・よ、かった・・・なのはを守れて・・・」

 

白い蛇たちになのはを庇って噛まれたフェイトだった。

 

「ふぇ、フェイト・・・ちゃん・・・」

 

なのははまだ納得できていなかった。

なぜ、フェイトが噛まれている?なぜ彼女の体中から血が出ている?

なのはの理解がまだ追いつかない中、フェイトはなのはに手渡す。

 

紅と蒼の宝玉・・・レイジングハートとブレイズハートだった。

 

「フェイト・・・ちゃん・・・?」

「な、の・・・は・・・はやてを・・・たの・・・」

 

フェイトはそれを渡すのが精一杯だった。

彼女の身体から光の粒子が立ち上り、身体の感覚が徐々に消失していく。

 

白い蛇が消えると共にフェイトの肉体は・・・闇の書の中へと取り込まれていった。

 

「フェイトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

そしてその場にはアルフの空しい叫び声が響くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ、フェイト・・・ちゃん・・・?」

 

まだ納得できない・・・いや、したくなかった。

目覚めたら親友が闇に取り込まれ、守ってくれた友が消える。

そんな状況をなのはは信じたくなかった。

 

だが、闇の書の意思が言った言葉で・・・それが変わる。

 

「・・・庇ったか・・・まぁ、いい・・・こいつも蒐集できた・・・」

 

闇の書の意思としてはとくに意図していない何気ない言葉。

今も手をコキンと音を立てながら体の感触を確かめている。

しかし、なのははそれで理解した。フェイトが・・・もうここにいないと・・・

 

次の瞬間には持ちうる魔力をすべて使って立ち上がっていた。

ミッドチルダの医療で抑えているとはいえ、衰えたその足で。

 

蒼の宝玉を持ち、ありったけの力を込めて叫ぶ。

 

「ブレイズハァアアアアトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

なのはのその言葉とともにブレイズハートはガンローダーモードへと変わる。

そして・・・

 

「はやてちゃんを・・・フェイトちゃんを返せぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!」

 

その拳に怒りを込めて、闇の書の意思へと突っ込んでいった。

彼女らしくない・・・莫大な魔力と共に・・・

 

桜色の魔力光が・・・アクアボリスを包んでいった・・・

 

 

 

 

 

 

 





メガーヌさんが召喚魔法を使えるか知りませんが、
Vividを見た限りでは前衛と言うより後衛向きの魔法をもってそう
(StSでは普通にクイントと背中合わせてましたけどw)

そして娘が召喚魔法を使うので・・・まぁ、こんなオリジナル設定に

そしてなのはさんが復活しましたが・・・こんな寝起きいやだww
いや、笑い事じゃないですけどね。心折れるよ普通

今のなのはさんの気持ちは「殴りたいあの(笑)顔」

本人らしくないので当然のごとく・・・な、次回な予定です。



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SAGA 29「強さと力・・・そして・・・」

今回はなのは暴走。もっとも彼女の絶望はここからだ!(キリッ

そして相変わらずな、あの人。この作品は一応「パル転」のリメイクですがw

それではどうぞ!!


 

 

 

 

「あぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

 

桜色の魔力を体中からもらしながら、なのはは闇の書の意思を殴る。

ガンローダーモード状態ならば殴ってもなのはは痛くも痒くもない。

反動が攻撃が当たっているとなのは自身が正常に認識できるくらいにしか

なのは本人の体に来ないように設定されているからだ。

 

なのはは叫びながら、闇の書の意思を殴り続ける。

 

「返せッ!返せッ!!返せッ!!!二人を返せぇえええええええ!!!」

 

右、左、右、左、右、左、右、左、右、左、右、左、右、左、右、左、右、左、

 

なのはは怒りと魔力を込めた一撃を与えていく。

殴る拳には力が入る。負ける気がしない。なのはは怒りに身を任せ

闇の書の意思をただ、ひたすら、ひたすらに殴っていく。

 

いつもの悪魔みたいな笑顔をしつつも優しい彼女とは違う。

遠慮も何もない、戦いを喜んでいるわけでもない・・・

 

ただ、そこにあるのは怒りの感情・・・・・・

 

大切なものを奪われたなのはは、普段ならば決闘や下衆相手などを除いて

傷付いたりするのを恐がってこんな強引な真似してこないのにも関わらず

ただただ怒りのまま闇の書の意思を攻め続けた。

 

復讐・・・今のなのはを一言で表すならばそれが相応しかった。

 

「・・・らしくないな・・・」

 

そして・・・そのなのはらしくない行動は目の前に居る闇の書の意思もわかっていた。

彼女になのはの攻撃は全く効いていない。ダメージすらまともに通っていない。

普段のなのはならばすぐにそれに気づくが、頭に血が上ったなのはは気づかない。

見ている限りではなのはが一方的にダメージを与えているようにしか見えないからだ。

 

「・・・失望させるなよ・・・高町なのは・・・」

 

闇の書の意思はそう言いながら、腕を下から振りかぶると、

なのはの鳩尾に向けて上向きの本気の一撃を与えた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そしてそれより少し前の・・・

なのはが召喚されたことフェイトが取り込まれたことなどで

現場が非常に焦っているアースラでのこと。

 

「・・・エイミィ、フェイトさんはどうなったの?」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

エイミィは急いでフェイトの魔力反応を検索する。

アースラのキーボードを素早くたたき、そして言った。

 

「フェイトちゃんのバイタルは健在。闇の書の内部に取り込まれただけです」

「それはつまり・・・はやてさんと同じような状況ってこと?」

「はい、そう思います。助ける方法は現在検討中です!!」

 

エイミィの報告を聞いて、クロノは顎に手を当てて考える。

今の状況で自分が加勢に行ったところで、どう動けばよいのか。

または今は行かないで静観しているべきか・・・

 

判断に迷ったクロノは上司であるリンディに問いかける。

 

「・・・どうしますか?・・・艦長」

「いまはまだ様子見ね。

 なのはさんが今、我武者羅に攻撃している以上

 下手に攻撃すれば、なのはさんを巻き込むわ。

 アルフさんにもすでに連絡してあります」

「そうですか・・・」

 

とりあえずは上官の命令なのでクロノはしぶしぶ頷き、

なのはが戦っている映像が映っている画面を見た。

 

「・・・すごいな、あれだけの力を出せるとは・・・」

 

莫大な魔力を的確に使い、闇の書を殴り続ける。

そんな珍しく近接格闘戦を行うなのはを物珍しく見ていると、

となりにいるクイントが歯軋りしながら言った。

 

「駄目だわ・・・このままでは・・・」

「どういうことですか?」

 

リンディがクイントにそう問う。

クイントは管理局の魔導師としてではなく、

シューティングアーツを使う武闘家として意見を言った。

 

「今の彼女は怒りに縛られています。

 そしてそれを力に変えて戦っています」

 

「それがいけない事なのですか?

 なのはさんはその力をうまく使っているようにも見えますが・・・」

 

リンディがあくまでも自分が見た限り思ったことを言う。

管理局員としては怒りに縛られるのはいただけないが、なのはそうではない。

民間協力者としてはかなり素晴らしい『力』を出しているとは思っていたのだが、

クイントはそれに答える。

 

「怒り自体は問題ではありません。戦う人というのには

 感情を爆発させてリミッターを外して戦う動のタイプと、

 心を静めて冷静さを武器に戦う静のタイプの二つが存在しますから。

 動のタイプならば怒りを制御できるなら感情のままに戦っても強いです。

 

 ・・・でも、はやてちゃんに協力するときに見せてもらった彼女の戦闘資料・・・

 あれを見た限りではなのはちゃんは冷静に戦う静のタイプ・・・

 怒りに縛られたままいくら戦っても絶対に勝てません。

 それに・・・一時の逆上なんて、一瞬しかもちませんから・・・」

 

クイントの言葉の重みは素人であるほかの皆から見ても歴然としていた

もっともクイントとしては9歳という、かなり若い年で

すでにタイプを決めているなのはは凄まじいとも思っていた。

 

普通ならば師匠などに導かれて見つけ、どちらかを選ぶ。

もしくはいつの間にか決まっていることも少なくはない。

 

なのはの場合は知らず知らずのうちに静のタイプに決めたが、

本人が全く自覚していない。厳密に言えばポリシーなだけだと思っている。

さらにある要因を全く考慮に入れていない。

 

そのことが今回の出来事などを起こしていた。

 

「・・・なるほど・・・確かになのはさんの戦い方はそういうものでしたね。

 シグナムさんとの決闘のときは焦って負けてはいましたが。

 ・・・今回も感情に任せて戦っては駄目だと言うことですか」

「はい、そうなります。このままではいずれ・・・・・・」

 

やられますとクイントが言いかけたときだった。

画面に映るなのはの鳩尾に闇の書の意思が一撃を与えたのは・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ごがぁぁあああああああああああああああッ!!???」

 

肺の中の空気と言う空気を押し出されるような一撃に

なのはは少女らしくない呻き声を上げる。

 

闇の書の意思は気にせずにさらなる追撃を与える。

鳩尾の一撃でなのはを上に少し飛ばした後は、

両腕を握り締めて、頭上から叩き降ろす!!

 

その一撃はなのはの背中に直撃し、なのはは真下に向けて吹き飛ぶ。

 

「ぐげぇ・・・」

 

もはや呻き声を上げることも難しい。

なのはは満足に魔力放出もできずに海面へとぶつかり、

そして大きな水飛沫を上げながら、海中へと没していた。

 

なのはは酸素も足りずにガバゴボ言いながら海中へと沈んでいく、

死を覚悟しながら・・・なのはは自分がひどく落ち着いていることに気づいた。

 

海水の冷たさを浴びて、物理的に頭を冷やされた形になる。

そしてそれが、なのはを精神的に冷静にしたのだ。

 

(・・・・・・・・・何やってるんだろう・・・わたし・・・

 はやてちゃん助けるって言っていたのに・・・

 勝手に寝てて、勝手に激情して・・・そして負ける。

 馬鹿馬鹿しいよ・・・本当・・・フェイトちゃんは最後まで頑張っていたのに・・・)

 

酸素が足りない。しかしそれが逆になのはに複雑なことを考えさせず

シンプルに・・・自分のやっていることを冷静に見る力をくれたのだ。

 

(力が・・・・・・皆を守る為にも必要なのは力なんだと思っていた・・・

 もっと力があれば、もっと皆を守る事が出来る・・・そう思っていた・・・)

 

だからフェイトとの戦いが終わった後、なのはが望んだのは力だった。

ブレイズハートの改良に、レイジングハートの強化――

それは確かになのはに彼女自身が望んだ力を与えていた。

 

だけどそれは違ったのだ。力『だけ』では駄目なのだと・・・

力だけでは何もできなかった。それが今の自分だ。

冷静さを欠いて、敵に挑み、敗れた。無様な自分だ。

 

(力は・・・優しさを消してしまう・・・いや、力だけに頼ってたらだ・・・

 優しさだけでも・・・力だけでも・・・足りないんだ・・・・・・・・・

 もっと違う・・・何かがきっと――――)

 

『そうだよ、優しくても力だけでも駄目なんだ。でもね。

 なのはは強いよ。私に勝ったんだから・・・もっと自信を持っていいんだよ?

 焦らないで、冷静に華麗に戦うほうがなのはらしいよ』

 

なのはの耳に・・・いや、心に響いてくる友人の声。

幻聴のようで、そうではない声・・・とても強い声だ。

 

『なのはちゃんはホンマ優しいから、自分の心に蓋をしてる。

 でも、もっと勇気を持っていいんよ? なのはちゃんは優しいから

 きっと皆、受け入れてくれるよ。自分を偽らんとって・・・』

 

聞こえてくるのは親友の声、優しい声だ。

その暖かい声を聴くだけで、自分は安らげる・・・

 

 

――――そうか・・・そうだったんだ・・・わかったよ、皆・・・

 

 

なのはは胸元にあるレイジングハートを握り締める。

 

《Master...》

【ありがとう、レイジングハート・・・やっとわかったよ。

 私に足りなかったもの、そして受け入れるべきもの・・・

 それは・・・・・・皆から貰った優しさと強さ、そして・・・勇気!

 何物にも諦めない。止まらない・・・そんな自分自身を!!】

 

その言葉と共になのははレイジングハートもセットアップ。

バリアジャケットを纏いながら、高速回転をする。

 

水を切り裂き、弾き飛ばしながらなのはは飛ぶ。

 

その回転を維持しながら、上へと向かう。

そして水飛沫を上げながら、なのはは海上へと飛び出し闇の書の意思へと向かう。

 

「はぁああああ!!」

 

それは怒りの感情の表れではない、自身の一撃に気合を込めるために叫ぶ!

闇の書の意思に炸裂するなのは渾身の一撃。

 

開いている右腕を使い、殴り殴り殴り、なのははさらに攻撃を続ける。

 

そして四発目をはなって吹き飛んだ闇の書の闇に向けて

溢れる魔力をすべてつぎ込んだ砲撃を放つ!

 

「ディバイーンバスタァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

闇の書の意思に向けて放たれた桜色の砲撃は見事に直撃する。

炸裂する爆発光・・・広がる粉塵・・・なのははそれを見届けたあと

フライヤーフィンを足元に展開し、アルフの元へと向かう。

 

「ごめんなさい、アルフさん。暴走してしまって」

 

「あ、いや、それはいい。フェイトのために怒ってくれたんだろ?

 それよりもフェイトだ。どうやって助けるか・・・」

 

「とりあえずは魔力ダメージを与えていこう。

 アルフさんはフェイトちゃんたちを助け出せるまでわたしの援護をお願い」

 

その瞬間、なのはたちの真下から触手のようなものが現れる。

なのはは落ち着いて対処、ディバインシューターで焼き払う。

 

「周りの変な触手みたいなのが出てきてる・・・

 わたしはそれの処理もする。無理をする必要はないよ」

「・・・そうだね。わかった頼むよ」

「オーケー・・・それじゃいくよ!!」

 

なのははそう言うとディバインシューターを再び生成。体の周りに漂わせる。

その後、なのはは再び闇の書の意思がいる上空へと飛び立っていった。

 

「負けないよ。防衛プログラム!! ディバイーンバスタァアアア!!!」

「・・・そんなもの・・・盾・・・」

 

レイジングハートをアクセルモードからカノンモードに変えて、

周りの魔力をも大量に費やしたディバインバスターを放つなのは。

しかし闇の書の意思は難なくそれをバリアで受け止める。

さらに地面の真下から追撃用の触手を出し、上空のなのはを狙う。

 

「させないよ!!チェーンバインド!!」

 

アルフも突撃の前になのはを襲う触手をチェーンバインドで切り裂く。

それを見た闇の書の意思は少し、イラっとした顔をしながら言った。

 

「・・・余計なことを・・・そんなことをしても苦しみが増えるだけなのに・・・」

 

闇の書の意思は邪魔をするアルフに向けて触手を向けさせる。

だが、なのはが放ったディバインシューターによって触手たちが処理される。

 

「よそ見してないでよ!ディバインバスター!!」

 

余所見をされたことに対し少しイラついたなのはは闇の書の意思に向けて

牽制用のディバインバスターを放つ。牽制用なので威力はそこそこだ。

あくまでもこちらに意思を向けさせるのが目的だ。

 

「なんどもなんども同じことを・・・」

 

闇の書の意思は今度は防御の姿勢をとらず、なのはに向けて手をかざす。

そしてその手に徐々に魔力が溜まっていった。

 

「まさかあれは!!?」

「・・・ディバインバスター」

 

なのはのディバインバスターに対し、闇の書の意思もディバインバスターを放つ。

だがその攻撃は牽制用だったなのはのものを上回り、さらに広域攻撃能力を持っていた。

 

「くっ、レイジングハート!!」

《Flash move》

 

二つのディバインバスターが拮抗している隙にフラッシュムーブで高速移動。

闇の書の意思が放ったディバインバスターとは正反対の方向に逃げ込む。

 

しかし・・・闇の書の意思はその動きすらも読んでいた。

 

「・・・お前の行動パターンはすでに読んでいる・・・」

 

パキンッ

 

「ッ!?バインドッ!!?」

 

なのはの四肢を縛るバインド。しかもそれはただのバインドではなかった。

そしてアルフは真っ先にそれがどんなものなのか気づいた。

 

「ライトニングバインドッ!?フェイトのやつじゃないか!」

「・・・お前もうるさいな」

「なっ、くぅ・・・」

 

アルフに対しても闇の書の意思はバインドを行う。

ご丁寧にフェイト同様、電撃が仕込まれている。

 

そして闇の書の意思はすでにチャージを終えていたもう一方の手から

先ほど、なのはに向けて放ったものよりも威力の高いディバインバスターを放った。

 

大きさで言えばスターライトブレイカーに匹敵する一撃・・・

そんな桜色の砲撃がなのはの体目掛けて、一直線に突き進んでいく。

 

「なっ・・・」

「なのは!?」

「散れ・・・銀河の果てへ・・・」

 

ライトニングバインドで四肢の自由を奪われた

なのはとアルフにはその攻撃に対処する方法はなかった。

解析して解いて、そして避ける。そんな時間はなかった。

 

迫りくる自分と同じ魔力光のディバインバスターを見ながら

なのはは今までのことが走馬灯のように脳内に流れていた。

 

殺傷設定のあんな攻撃を防ぐことができない自分には死を待つことしかできなかった。

 

(そ・・んな・・・いやだ・・・まだ死にたくない・・・まだまだ・・・やりたいことあるのに・・・

 ・・・フェイトちゃんも・・・はやてちゃん達も助けてないのに・・・

 いやだ・・・そんなの・・・いやだ・・・・・・・・・折角・・・決意したのに・・・)

 

嫌だ・・・そう思ってもなのはにはどうすることもできなかった。

 

目をギュッと瞑るなのはに対し・・・

非情にもディバインバスターは彼女の体を包んでいった――

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・なんだ・・・?」

 

だが、闇の書の意思は気づく。

 

桜色のディバインバスターは確かになのはの体を包んでいた。

しかし、その前には緑色のサークルプロテクションが出現しており、

その絶対的な強度でなのはの体を守っていた。

 

「待たせたね。なのは。遅れてごめん」

 

やがてディバインバスターが収まるとそこには高町なのはを守るように立つ

どこかの民族衣装のような服を着たブロンドヘアーの少年がいた。

闇の書の意思はその存在に問いかける。

 

「・・・お前は・・・何者だ・・・」

 

その言葉を聞いた少年は高らかに宣言する。

 

「友達だ!! なのはのね」

 

少年・・・ユーノ・スクライアはそう宣言した後、戦闘体勢に入った・・・

彼もまた・・・大切な友達を・・・守り抜くために

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ユ、ユーノくん・・・・・・」

「ごめん待たせたね・・・なのは・・・」

 

ユーノがなのはにそう話しかける。

なのはは苦笑いしながらこう言った。

 

「全く・・・いいタイミングで来るね・・・」

「ごめん、無限書庫でギリギリまで探してたんだけど

 なのはがここにきて、目覚めて戦ってるって聴いてね。

 急いできたら、なんだかピンチだったから・・・ね・・・」

「グッドタイミングだよ。ありがとう」

 

なのはのお世辞にこちらも苦笑いしつつユーノは返事をした。

闇の書の意思の攻撃が続くもののユーノの防御魔法がそのすべてを防ぐ。

そしてその攻撃が一時的に終わるとユーノは闇の書の意思にバインドをかけた。

 

そしてライトニングバインドをなんとか解除したアルフと合流する。

 

「えっと・・・アルフ、なのはが起きて戦っているとは聞いたけど」

 

「あぁ、急に闇の書が暴走し始めてな、

 フェイトが闇の書の中に取り込まれちまったんだ」

 

「なるほど、それに関してはフェイトは無事だと思うよ。

 闇の書には幻想を見せる魔法があるらしいからね。

 多分取り込んで夢を見せているんだと思う」

 

「夢?」

 

なのはがユーノにそう聴く。

ユーノはなのはの疑問に詳しくは云わず、要点だけを簡潔に述べる。

 

「うん、闇の書が考えた本人が一番望む世界を作り出す・・・もちろん幻想だけどね」

「だったら・・・いや、フェイトを信じよう。フェイトは強いよ」

「うん、そうだよ。フェイトちゃんは強い・・・おっとと」

 

なのはが突如バランスを崩し、ユーノによりかかる。

 

「大丈夫?なのは。無理はしないでよ。仮にも病み上がりなんだから」

「う、うん。大丈夫無茶はしないよ」

(なんだろう・・・? 何か変な感じ・・・)

 

なのははそう言ってユーノから離れる。

そして二人はユーノに何か作戦があるかどうか聞いた。

ユーノは少し考えたあと自身の出した答えを二人に話す。

 

「僕が無限書庫で探していたのは闇の書の情報・・・なんだけど

 いろいろ見つけた中に二つほど、今回のことで役に立ちそうなのがあった。

 一つは魔力を使用させれば管制人格にアクセスしやすくなること

 

 つまりは防衛プログラムに大量の魔力を使わせ、消費させれば

 はやては闇の書の主人としての力を使うことができるようになる・・・」

 

「つまり?」

 

「あの防衛プログラムをどんな方法でもいい。

 魔力ダメージでぶっ飛ばして! 全力全開!手加減なしで!!」

 

「・・・・・・さっすがユーノくん!!わっかりやすい!!」

《It's so》

 

なのはとレイジングハートは非常にわかりやすいユーノの説明に納得。

レイジングハートはカートリッジを三つロードする。

 

そして、その形態が変わる。

 

「フルドライブ!!」

《Ignition.》

 

先端が金色の三角形に似た形に赤い宝石を埋め込まれたもののような状態になる。

その形態はもはや杖というより槍としか形態であった。

 

これが改良したレイジングハートの最大出力形態(フルドライブモード)

 

「エクセリオンモード」

 

なのはの魔力から本体破損を防ぐ出力リミッターを解除した状態で、

魔力消費と引き換えに爆発的出力を生み出し、術者の全能力を底上げする。

限界を出し切る、レイジングハートのモードだ。

 

エクセリオンモードとなったレイジングハートの柄を

ガンローダーモードのブレイズハートで強く握り締める。

 

「さてっと、行こうか。アルフさんは援護よろしくね?」

「あぁ、わかったよ」

 

そう言うと同時にアルフは横に飛び近くにあった触手を切り裂く。

ユーノとなのはもその場から離れ行動を開始する。

 

「とりあえずなのはは攻撃に専念して、僕は攻撃を防御するから」

「了解!いくよレイジングハート!!」

《All right》

 

なのははそう言うと闇の書の意思へと突っ込んでいった。

不屈の心と突き進む心をその手に持って・・・

 

しかし、これは彼女の絶望の始まりの序章でしかなかった。

強さを手に入れた彼女・・・その心を完全に粉砕する・・・

そんな大きな絶望の始まりだと言うことを・・・

 

まだ、誰も知らない・・・

 

 

 

 




 
次回はフェイトの夢・・・そして・・・
更新が少し遅れるかもしれません


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SAGA 30「砕かれた誇り」

・・・希望・・・そしてそれからの絶望・・・を書いたつもりですが・・・
なんだか中途半端になったかなぁ・・・まぁ、難しい。

明日から免許取りに行かなきゃならないし・・・

とりあえず今回が闇の書戦の中盤です。

それではどうぞ!!




 

 

 

 

「・・・んっ・・・」

 

優しい光が差し込んでくるような感触にフェイトは少し声を漏らす。

目蓋越しに光を感じ、無意識的にゆっくりとその目蓋をあげた。

 

柔らかな陽光にとても暖かな感覚、そして体全体を包み込む感触。

自分がベッドに寝ていると分かるまで、フェイトは少し時間がかかった。

 

体にかかっていたシーツを取って周りを見渡す。

装飾品はそれほど多くはないが、すなおに綺麗な部屋だと思っていた。

しかし、漂う雰囲気はどこか懐かしく、そして心が落ち着くようにフェイトは感じた。

そしてここがどこか気づく。懐かしさを感じるのも当然だった。

 

「ここは・・・・・・時の・・・庭園? どうして? ・・・私は確か闇の書に・・・」

 

自分は確かなのはを庇って・・・そして・・・

わからない。フェイトにはそこから先の記憶はなかった。

 

とりあえずは周りを見渡す。

 

窓の外から見える青々とした森林と緑に包まれた庭。

まるで絵画のように切り取られた美しい風景から吹き込む風が、

僅かに開いている窓の隙間から流れ込みカーテンをゆっくりと揺らしていた。

 

それはとても幻想的なものだった。

 

この風景自体はフェイト自身は直接その目にしたことはない。

しかし、アリシアから受け継がれた記憶の中に映る幸せに感じる情景の記憶が、

ここは自分が生まれ育った時の庭園だと言うことを直観的に感じ取っていた。

 

ここは夢だと頭ではわかっていても、どこか夢であることを否定したい気持ちもあった。

 

「ん~~? もう、あさぁ~?」

 

突然の事態に自分しか見えていなかったフェイトは、

隣で身じろぎしながら寝ぼけた声を出す少女のことを認識していなかった。

 

その姿にフェイトは見覚えがあった。

 

「アリシア・・・・・・?」

「うん、そうだよ? おはよ、フェイト」

 

アリシアはそう言ってフェイトに朝のあいさつを言ったあと、

となりにいた子犬アルフの尻尾を掴んでベッドから飛び降りた。

 

「アルフもおはよ」

「うん、おはようアリシア。できれば尻尾は辞めてほしいかな」

「あっ、ごめん」

 

はたから見れば微笑ましい光景だった。

フェイトもここが夢だとわかっていても少し微笑んでしまう。

そしてベッドから随分遠く見える扉が開く音にフェイトは身を止める。

 

「みんな、ちゃんと起きてますか?」

 

とても懐かしい声にフェイトは吸い込まれるようにそちらを見た。

そこに経っていたのは、かつての魔法の師匠、そして育ての親。

 

「・・・リニス・・・・・・?」

 

もう二度と会えないと思っていた人が目の前にいることに

フェイトは少しだが喜びを感じていた。

 

「さっ着替えて、朝ご飯にしましょう。プレシアはもう食堂ですよ」

「わ~い、ご飯、ご飯」

 

「・・・・・・母さん?」

 

アリシアは喜びの声を上げる。

フェイトはその名前を聞いて複雑な感情を抱いていた。

 

 

 

 

「おはよー、母さま」

「おはよー、プレシア」

「アリシア、アルフ。おはよう」

 

厨房から食堂に温かいスープの香りが漂う中、

アリシアとアルフの声に、プレシアは振り向いた。

 

全く邪気のないその笑顔で我が娘アリシアに微笑みかける。

そして、もう一人の娘の様子が少しおかしいと気づく。

 

「フェイト、どうしたの?」

 

やさしい言葉とともに穏やかなその瞳がはっきりとフェイトの姿を映し出す。

その視線に晒されて、フェイトはまるで条件反射のように身体を硬くさせてしまう。

しかし、フェイトもそう心は弱くはない。自らの・・・幻想の母親に挨拶をする。

 

「おはよう、母さん」

「おはよう、フェイト・・・どうかしたの?」

「どうも怖い夢を見たようで、今が夢か幻のように思っているみたいです」

「フェイト、勉強のしすぎとか?」

 

アリシアのちょっとしたからかいもフェイトの耳には届かない。

ただ、その瞳は目の前のプレシアのほうを見据えていた。

視覚以外――他の五感の情報が全く入っていなかった。

 

「フェイト、いらっしゃい」

 

プレシアにそう言われ、数秒その場に立ち止まった後

フェイトは少しずつ歩いて、プレシアの近くにたった。

 

プレシアのそっと差しのばされる手に反射的に

フェイトは痙攣するように肩を震わせてしまう。

意図したわけではない。ただ単純に反射的にだ。

 

「怖い夢を見たのね・・・フェイト・・・

 でももう大丈夫よ。母さんもリニスもアリシアも皆あなたのそばにいるわ」

「プレシアァ!あたしも!」

「そうアルフもね」

 

平和だ。とても平和だった。

 

「さあ、席についていただきましょう」

「はぁ~い」

 

プレシアの声に応じてアリシアは席に座る。

平和な・・・とても平和な食事が始まった。

 

だが、フェイトはやはりそれが現実と思っていなかった。

そんな曖昧な気持ちを抱きながら食事は終了した。

 

 

 

朝食後、庭園の庭を散歩していた。

 

「そうだ、今度皆で町に行きましょうか?」

「いいですね」

「フェイトには新しい靴を買ってあげないとね」

「あぁ~フェイトばかりずるい!」

「魔導試験満点のご褒美ですよ。アリシアもがんばらないと」

 

そんな会話にも参加できないフェイトにアリシアは話しかける。

 

「ねっ、フェイト。今度の試験までに補習お願いね」

「う、うん・・・」

 

他愛もない会話・・・夢だとわかっている世界・・・

だけれでも自分が望んでいた世界が目の前にあることに

フェイトはどことなく、喜びを覚えていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「くっ・・・」

 

フェイトが長い夢を見ている最中もなのはたちは戦いを続けていた。

砲撃や魔力弾が飛び交い。バリアと拳が火花を散らすが、現状に進展はない。

 

「まだ駄目か・・・もう少しダメージを与えないと・・・」

 

現状が今一良くないことに憤りを覚えるユーノ・・・

しかし、それでもなのははあきらめずに戦っていた。

自分を庇ってくれた。フェイトはとても強い子だ。

絶対にあきらめていない。だから自分もあきらめない。

 

「マガジン残り4つ・・・カートリッジ24個・・・

 スターライトブレイカー・・・打てるチャンスあるかな・・・?」

《I have a method.》

 

悩むなのはにレイジングハートが語りかける。

 

《Call me "Blaster mode."》

 

それは禁断の力・・・マリエルからはまだ早いといわれた力・・・

自らの能力の限界を突き破る力の名前だった・・・

 

「駄目だよ!あれは本体のフレームを補強するまで使っちゃ駄目だって

 わたしがコントロールに失敗したら・・・レイジングハート壊れちゃうよ!!??」

 

《Call me. Call me "Blaster", my master.》

 

必死に止めようとするなのはだが、レイジングハートは一歩も引かなかった。

彼女もはやてたちを本当に助けたいのだ。その覚悟はなのはと同じだ。

レイジングハートの決意を感じ取り、なのはも決心する。

 

「わかったよレイジングハート・・・わたし絶対成功させるから・・・」

 

そう言いながらなのははレイジングハートを構える。

もう何も迷わない。全力全開で使う!! 信じる仲間がいるから!!

 

「ブラスタァアアアア!!!!!スリィイイイイイイ!!!!!」

 

《Ignition.》

 

そしてなのはの叫びとともになのはの魔力が膨大な量に膨れ上がる。

戦場に吹く風が・・・変わる。なのはの・・・リミットオーバーだ。

 

 

ブラスターモード・・・それはなのはのレイジングハートに搭載した

リミットブレイク機能を使用するための『前段階』モード・・・

レイジングハートの見た目はエクセリオンモードのままだが、

なのは自身の魔力が大幅に上がる。当然リミットブレイク・・・

つまりは自身の限界を超える以上代償はあり、なのはが操作に失敗した場合。

基礎フレームが魔力カートリッジの使用に耐えきれる程度のレベルでは

フレームがブラスターモードの反動に耐え切れず、レイジングハートが大破する。

 

ましてやブラスター3をいきなり使用したなのはは無謀とも言えるものだったが、

レイジングハートの意地となのはの圧倒的な演算能力が使用を可能としていた。

もっとも、なのはは病み上がり、ちょっとした負担でなのはの演算は止まる。

 

そもそも体を今動かしているのはなのはの魔力で強制的にだ。

希少技能の『魔力散布』も現在全く使えていない状況だった。

 

「・・・なっ!!」

 

そんな事情を全く知らない闇の書の意思は

突然目の前のなのはの魔力が大幅に上がったことに驚く。

 

気が着いた時にはなのはは目と鼻の先まで近づいていた。

 

なのはは間髪入れずに至近距離でエクセリオンバスターを放つ。

チャージなしでも最高威力。エクセリオンバスターの本領を発揮する。

 

「ぐふぅ・・・!!」

 

不意打ち気味に至近距離で食らった砲撃にさすがの防衛プログラムもダメージを受ける。

しかしなのはは止まらない・・・魔力を集束しディバインシューターを連続して作り出し、

闇の書の意思に向けて発射・・・それを続けて行い相手に的確にダメージを与えていく。

 

 

無論闇の書の意思もそれを黙って受けるわけはなく反撃、

なのはもまたガンローダーモードのブレイズハートで受け止め、打ち込む。

なのはと闇の書の意思は高速で戦闘を開始し、その姿は光の線のようなもの・・・

そしてぶつかり合う音とところどころで爆発のような光が見えるだけになっていた。

 

「・・・アルフ・・・なのはたち見える?」

「一応ねぇ、見えるよ・・・フェイトの通常時の戦闘のほうがまだ速いから・・・」

 

アルフはフェイトの嘱託試験での戦闘を観戦していたし、

フェイトの戦闘技術や能力・・・またソニックフォームの最高速度も知っていた。

だからこそなのはと闇の書の意思の戦闘はそれに比べればまだ遅いのだ。

 

そんな会話を二人がしているなか、なのはは現状を冷静に分析する。

早めに方を付けないと自分自身の体が持たないのだ。

 

「・・・わたしの今同時に操作できるディバインシューターの数は64個・・・

 わたしの計算が間違っていなければ・・・ブラスターモードの使用可能時間は

 最大2分・・・早く勝負を決めたいところだけど・・・」

《That's right》

 

「・・・さすがだ・・・だが・・・そんなちまちました攻撃が通ると思っているのか?」

 

闇の書の意思のその言葉になのはが答えようとしたとき

一番信頼できる彼女の相棒が先に答える!

 

《通します!!マスターが私に力を与えています!

 命と心を賭けて、答えてくれています!

 泣いてる子を、救ってあげてと!》

 

「レイジングハート・・・」

 

レイジングハートがそう言ってくれた喜びと先に言われたことに対する嫌悪感が

若干だがなのはの心を強く支配するが、首を振って瞬時に彼女は元に戻る。

 

「うん、そうだね。いくよレイジングハート

 ・・・一か八かだけど・・・やってみよう!!」

《All right. My master!!》

 

そう言うとなのはとレイジングハートはブラスターモードを一時的に解く。

突然なのはの魔力が下がったことに対し、闇の書の意思は警戒する。

 

だが、そのまえに自らの四肢にバインドが食い込む。

 

「なんだと・・・!?」

「悪いけど・・・なのはの邪魔はさせないよ」

「フェイトは必ず返してもらうからな!」

 

その二重のバインドはアルフとユーノのもの。

二人分の強力なバインドに闇の書の意思は身動きすら取れない。

解除を試みるが、まだまだ時間がかかりそうだった

 

そして・・・その隙になのはは動き出す!

 

「行くよ・・・」

《Mode Blazing Heart!!》

 

そのなのはの言葉、そしてレイジングハートの言葉と共に

なのはの手にあるレイジングハートとブレイズハートが虹色に光り輝く。

そしてレイジングハートからカートリッジが二発ロードされる。

 

「な、なにが・・・」

 

その輝きのあまりの眩しさに目を覆う闇の書の意思。

そしてなのはは詠唱する。そのモードの名前と共に!

 

「突き進む不屈の心よ!!我が体に宿れ!!!

 起動せよ!!ブレイジングハァアアアアアアアアトッ!!!」

《Drive Ignition.》

 

そして二つの心の姿が変わっていく。

レイジングハートは先の宝玉がある金色の三角の部分を残して

カートリッジと柄の部分がなくなる。そして白い装甲のようなものが

レイジングハートを包んでいった。

 

ブレイズハートはガンローダーモードからクリーブモードへ

そして持ち手の部分がレイジングハートの部分と一体化する。

 

そう、その姿は巨大な弓。なのはの背丈を越える。

 

白く光り輝く、超弩級サイズの超弓の姿。

 

これが『ブレイジングハート』

ブレイズハートとレイジングハートが合体した姿だった。

 

「・・・なにっ!?」

 

「ブレイジングハート!!!」

《A. C. S., standby.》

 

システム展開と同時にレイジングハートは6枚の光の羽根を大きく広げる。

なのははカートリッジを三つロード。自身の魔力を高めると同時に

足元にミッドチルダ式の桜色の魔法陣を生成する。

 

「アクセルチャージャー起動・・・ストライクフレーム!!」

《Open》

 

合図と同時にレイジングハートだった部分の先端に

半実体化した魔力刃「ストライクフレーム」を形成する。

 

「スターライトバニッシャーA.C.S.!!!!!!ドライブ!!!!」

 

その言葉と共になのははブレイジングハートの間に作られた光の弓を引いていく。

力を込めて引く、硬い・・・2cm引くにも相当の疲労だった。

 

しかし、それだけの疲労の価値はあり、ブレイジングハートの先端には

なのは個人では決して生み出せない強大な魔力エネルギーが溜まっていった。

 

「これが・・・なのはの真のリミットブレイク・・・」

 

そうこれがなのはの真のリミットブレイク。

レイジングハートのブラスターモードはただの通過点に過ぎない。

あくまでもあれはレイジングハートのリミットブレイクだ。

 

これこそレイジングハートのフレーム強度の弱さを

合体することでブレイズハートのフレーム強度で上げる秘策。

ブレイジングハートならばなのはのリミットブレイクはブラスターの優に3倍は行く!!

 

「くっ、くぅ・・・」

 

闇の書の意思はバインドを解こうとするも未だに解けない。

いや、正確に言えば解いたそばからユーノが新たなバインドをかけていく。

これではきりがなかった。抜け出せない。

 

そんななかでも、なのはは弦を引き続ける。

エネルギーが溜まっていくごとにブレイズハートだった上のコアが、

続いて下のコアが光り、その刃の溝を藍色に染めていく。

 

そして―――――――完全にチャージは成功した。

その証としてレイジングハートだったコアもまた紅く光る。

 

なのははそれを見届けると・・・弦を離し、放つ!!

 

『スターライトバニッシャー』

それはブレイジングハートを撃ち出す必殺技。

 

なのはによって力強く打ち出されたブレイジングハートは

その身を高速回転しながら闇の書の意思に向けて高速突撃した。

だが、闇の書の意思はそれをバリアで防ぐ。

 

拮抗している。だが防がれそうだった。

 

「こんなもの・・・」

「・・・届い・・・てぇえええええ!!!」

 

防ぎきられる。ユーノたちがそう思っていた時だった。

 

なのはは叫び声とともに自身の体を回転させながら

回転するブレイジングハートに向けてとび蹴りを放つ!

 

「なにっ!? まさか!!」

 

なのはの予想外の行動に驚く闇の書の意思。

蹴りによって先端に形成したストライクフレームが押し込まれ

敵の強固なバリアを破る。そしてその先端にエネルギーを集中する。

 

「ブレイク・・・シュゥウウウウウウウトッ!!!!!!!」

 

そのまま、なのはは敵の内側へと零距離射撃を撃ち込んだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そして闇の書内部ではドゴーン!!という爆発音を聞きはやてはやっと目覚めた。

 

「ハッ!! な、なんや今の爆音・・・」

「我が主!!やっとお目覚めになりましたか!」

 

はやては声のした方向を向く。そこにいたのは長髪の女性・・・

 

「管制人格・・・さん・・・?」

「はい、そうです我が主。よくぞご無事で・・・」

 

管制人格は自分の主が無事で本当に安堵する。

さきほどまで取り込まれたはやてはずっと眠り続けていたのだ。

 

「私は確か・・・なのはちゃんが召喚されて・・・

 それを見て驚いていたら・・・闇が私を取り込んで・・・

 それから・・・記憶があらへん・・・どうして私寝てたん?」

「それは防衛プログラムが主のもう一つの願いをかなえようと・・・

 誰にも邪魔されない幸せな世界・・・家族と一緒に暮らしている幸せな夢を・・・」

 

管制人格が言おうとするとはやてがそれを続ける。

 

「見させようとしてたわけや・・・でも所詮夢は夢や。

 重要なのは過去を糧に今を生きることや」

 

「我が主・・・」

 

「昔の私やったら夢を見続けようとしたかもしれへん・・・だけど今は皆がおる・・・

 もう夢を見るのは御仕舞いや。ここはどうも落ちつかへん・・・皆が待ってる・・・」

 

「そとで高町なのはが魔力ダメージを与えています。あと一息です」

 

「そうかぁ・・・だったら・・・」

 

なのはに連絡を取ろう・・・そう思った瞬間だった。

はやては闇の書の内部にいたために気付くことができた。

 

闇の書の中で新たな闇が生まれ始めたことに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く・・・これで効いていないっていうのは体にこたえるよ」

 

なのはは肩で息をしながらブレイジングハートを解き、

レイジングハートカノンモードとブレイズハートガンローダーモード切り替える。

 

前方は爆発の粉塵で覆われているが、なのはには気配でわかった。

闇の書の意思は無傷だと・・・

 

やがて粉塵が晴れるとそこに居たのは予想通り無傷の闇の書の意思だった。

なのはの放った一撃でユーノたちのバインドは砕け散っていた。

 

「さすがだな・・・これほどの威力・・・とてもすばらしい」

「お世辞のつもり? まったく・・・」

 

なのはは敵である闇の書の意思がお世辞を言ったかと思う。

しかし、闇の書の意思は突然笑い始めた。

 

「くく、あははははははははは、あはっははあはははははははは!」

「何がおかしいの!?」

 

なぜ笑うのか、なのはが闇の書の意思に問いかける。

いくらなんでも笑い方がおかしい。何か意図があるのかとなのはは思った。

 

・・・しかし・・・闇の書の意思が放った台詞はなのはの予想を遥かに上回っていた。

そして、その言葉がなのはの心を粉々に砕くには十分だった。

 

「お世辞だと・・・お世辞のはずがないだろう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・我が主よ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

今、なんて言った・・・?

 

「なんどでも言ってやるぞ。我が主『高町なのは』よ」

「なのはが・・・あなたの主・・・?」

 

ユーノもアルフも闇の書の意思の言っていることが理解できない。

 

闇の書の主は八神はやて・・・それは間違いない。

守護騎士も管制人格もそう認めている。なのはに精神リンクはない。

だから、今目の前にいる防衛プログラムの主がなのはであるはずがない。

そう考えているとすべてを見越したように闇の書の意思は言う。

 

「当然だ。闇の書の・・・いや、夜天の魔導書の主は確かに『八神はやて』だ。

 だが、防衛プログラム・・・そして私の主は『高町なのは』お前だ」

 

うそだ! なのははそう言い返してやりたかった。

だが、否定できなかった。黙り続けることしかできなかった。

理由は明白だった。それを証明されてしまったからだ。

 

「どうだ?精神リンクでお前と私をつないだ。

 私の感情が少しだが伝わるだろう? これが証拠だ」

 

なのはは身震いする。否定が全くできないだけではない。

伝わってくるのは感情・・・だが、それだけではない

なのはの心の問いに答える悪魔の声も聞こえたのだ。

 

「・・・どう・・・う・・・こ・・・」

 

呂律が回らない。知りたくなかった。

こんな事実・・・なのはには重すぎた。

 

「どういうことだと・・・?そのままの意味だよ」

 

闇の書の意思は答えてしまう。

なのはを・・・そしてその場に居る皆を絶望させる言葉を。

 

「お前は本来はリンカーコアをもっていないただの人間だった。

 お前を魔導師にしたのは・・・防衛プログラムだ」

 

なのはは耳をふさぐ、聴きたくないと

しかし心に響く言葉はそれでは防げない。

なのはの心の問いに闇の書の意思が答えていく。

 

 

 

 

 

―わたしはあの本にあったから魔法に目覚めた!

―それも防衛プログラムが目覚めさせた。お前の力じゃない

 

―わたしの決意はあの怪我があったから・・・

―あの怪我もそうだ。防衛プログラムが仕組み、決意も誘導した。

 

―傷ついた心ははやてちゃんに偶然出会い、はやてちゃんに癒してもらった。

―それもだ。普通の人間が魔法を他人に見せるわけないだろう?

 

―御神流を覚えたのはわたしの好奇心・・・

―それもだ。

 

―誘拐されたアリサちゃんとすずかちゃんを見つけ、助けようとしたのはわたし

―あれもそうだ。防衛プログラムが見つけ、助けさせようとした。

 

 

あれもそう・・・あれもそう・・・

 

防衛プログラムはなのはの行動をすべて制御していた。

なのは自身の心で選んだ道は一つもなかった。

なのはの魔法の才すら、防衛プログラムが植えつけたものだった。

 

 

「ど・・・して・・・」

「どうしてお前を主と選んだかか?

 それは4年前ほどか・・・夜天の魔導書の主『八神はやて』はトラックに轢かれた・・・」

 

知っている・・・はやてからなのははその話を聞いている。

 

闇の書の意思の話を・・・なのはだけでなく

ユーノもアルフもアースラに居る全員も黙って聞いてしまっていた。

 

「そのときに彼女は無傷だった。それは私が守ったからだった。

 しかし、彼女のみに危険が及んだことには違いはない。

 だから防衛プログラムは彼女を『守るため』の新たな力を望んだ・・・」

 

新たな・・・力・・・それはまさかとなのはは思う。

信じたくないし、聴きたくなかったが、彼女は言ってしまう。

 

「そしてそれから少し経った後、防衛プログラムは見つけたのだ。

 途方もない深い深い『心の闇』の持ち主を・・・・・・・・・」

 

そして闇の書の意思はなのはを睨み言った。

 

「そう、お前だよ。『高町なのは』だからお前は防衛プログラムに選ばれた。

 八神はやてを・・・永久に守り続けるための道具としてな」

 

だが、一つだけ誤算があった。そう闇の書の意思は言った。

 

「お前を制御しても周りは制御できなかった。

 現にお前はユーノ・スクライアとフェイト・テスタロッサの導きで

 闇の書を破壊、または封印しようと考えてしまった。

 それは大きな誤算だったのだろう。ただでさえバグの塊だった

 『防衛プログラム』が暴走したのさ。おかげでコントロールを奪うのは簡単だった」

「コントロールを・・・奪う・・・?」

 

ユーノの言葉に目もくれず。

闇の書の意思はなのはに向けて再び白い蛇を放つ。

 

「ひぃ・・・がぁ・・・」

「な、なのはぁああああああ!!」

《Master!!!!》

 

ユーノたちの叫びも空しく、すでに心が折れかけていたなのはに避ける気力はなかった。

白い蛇はなのはの体を噛み付き、そして残りの蛇がなのはの穴という穴に侵入していく。

その白い蛇たちに持ち上げられ、なのはの体は空中に十字に固定されてしまう。

 

「んぐ!?んぐぐ、むぐー、むー!!??」

 

口をふさがれ、身動きもとれないなかで・・・

なのはに向けて、闇の書の意思は・・・伝える。

 

「だが、私はお前にそんなことをしたくはない・・・

 おとなしく・・・我が闇に眠ってくれ・・・心が壊れる前に・・・」

 

そして白い蛇を通して闇を送り込む。

その闇はなのはを包み、その意識を奪っていく・・・

 

(いや、やめて・・・いやだ。消えたくない!!

 守るって約束したのに・・・あれ・・・?それは本当にわたしの意志・・・?

 本当にわたしの気持ち・・・? わからない・・・わから・・・ない・・・)

 

なのはの気持ちは・・・心は折れかけていた。

もう自分を見失っていた。さきほど自分で決意してしまったがために

その意思をすべて壊されてしまったなのはには疑問符に抗う(すべ)がなかった。

 

(・・・助けなきゃ・・・わたしが・・・わたしが消えちゃう・・・)

 

その言葉を最後に・・・なのはの意思は・・・この世から跡形もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どういう・・・ことだ・・・? なぜ体が取り込まれない?」

 

闇の書の意思は目の前の出来事に驚きを隠せない。

彼女がやったことは、なのはを『肉体ごと』取り込むこと

それを避けさせないためになのはの心を粉砕寸前まで破壊したのだ。

 

なのに・・・目の前のなのはは意識なく頭をグタリと下げながらも

その肉体を維持していた。消滅していなかった。

 

なんだ・・・?何が起こっている?

そう闇の書の意思が思ったとき・・・それは起こる。

 

「くくくっ・・・」

 

不気味な笑い声・・・その音源は目の前の少女『高町なのは』からだ。

 

「・・・なんだ・・・」

「なのは・・・?」

 

闇の書の意思、ユーノ、アルフがいっせいになのはの方を見る。

おかしい。なのははふざけでもしない限りあんな笑い方はしない。

 

その時だった。

 

「ふんっ!」

 

そんな掛け声と共に『なのは』は自分の体に取り付く白い蛇をすべて引きちぎった。

 

「なん・・・だと・・・」

 

闇の書の意思は取り込んだはずのなのはの意思が残っていることに驚く。

体が消えていないのは失敗したからか?しかし・・・

 

そう思っていた闇の書の意思・・・だが、『なのは』は突然・・・

 

「あひゃ・・・」

「!!????」

 

 

「あひゃ、あひゃひゃひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!あげゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!あひゃひゃひゃ!!」

 

 

不気味で、不快で、気に障る大きな笑い声。

今度こそなのはが絶対に出さない笑い声だった。

体を退けぞらしながら、天空に向けて笑い続ける。

 

その後、笑い声をやめたと思うと『なのは』は俯く。

 

そしてニヤリッと笑い。

顔を勢いよく上げて闇の書の意思を向くと『なのは』は言ったのだ。

先ほどと同じく気に障る不快な声で・・・

 

 

「あひゃひゃひゃひゃ!! 待たせたなッ!!!!!!!

 真打ち登場だぜぇえええええええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 

 




 
ブレイジングハートは
  /
←<  ⌒*(・∀・ )*⌒
  \

こんな感じです。
ブレイズハートはクリーブモードが刺さった状態で、
レイジングハートは劇場版エクセリオンモードが飛行形態みたいになった感じです。

なのはの心は消え去り、新たな心がその肉体を支配する・・・


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SAGA 31「光を継ぐもの」

ちょっと不完全燃焼な回になりました。
免許取りに行った後書くもんじゃないね。
ハイスピードだから一日目から自動車乗ったし・・・

というわけで今回は・・・自己紹介とフェイトの心・・・です。
前回、とんでもないシリアスの中の笑いを引き起こしたお人の紹介です。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

「何者だ・・・。貴様・・・」

 

闇の書の意思は目の前の『なのは』にそう問いかける。

こいつはなのはでは断じてない。そう確信していたからだ。

無論『なのは』も誤魔化す気はない。

というよりも、『自己』こそが『なのは』のすべてだった。

 

「はは、とっくにご存知なんだろ!? ・・・とは言いたいが・・・

 お前は知る由もないよなぁ、だがお前は会っているだろ?

 ユーノ・スクライアァッ!!」

 

そう言われて、ユーノは気づく。その正体を・・・

自らが見つけてしまった。あの古代遺物のことを・・・

 

「ロストロギア・・・ジュエルシード・シリアル5・・・」

「ご名答ォ! さすが発掘者、やればできるじゃないか!ユーノ君よぉ!!」

「な、ジュエルシードだって!!?」

 

アルフはその正体を聞いて驚くしかない。

自分の主であるフェイトとなのはが集め、そのために戦った存在。

ジュエルシードが今なのはの体を支配していることを・・・

 

だが、アルフ自身も心の奥底で納得している面もあった。

フェイトを庇ってなのはのリンカーコアとジュエルシードが融合していたのだから。

 

「私が生まれたのは数千年前・・・ジュエルシード自体はもっと前らしいがな。

 私の所有者が願った願いによって、私は誕生した・・・・・・。

 

 その後、お前達の知っている通り。ユーノ・スクライアが私を見つけ、

 私は再び、現世の空気を吸うことができるってわけさ・・・」

 

「・・・それで・・・なんでなのはを狙った・・・?」

 

ユーノの言葉にくくくっと『なのは』は笑った後、

シリアル5は「あぁ、それはな・・・」と言いながら語り始めた。

なぜ、なのはを狙ったのかを・・・

 

「あのとき、私はなのはを見つけたときにティンと来たんだ。

 こいつの心の闇を・・・その深さを・・・すばらしい力の鼓動を感じたぁ!

 だから私は高町なのはに取り付くために体を定期的に操っていたのさぁ

 闇の書の防衛プログラムにも気づかれないようにやるのは苦労したけどなぁ」

 

「・・・なるほど・・・確かに確認のためにジュエルシードを出すように操ったが・・・

 お前であるシリアル5を出したのは、お前が操っていたからか・・・」

 

「なんて、やつらだ・・・なのはのことを道具みたいに・・・」

 

アルフはプレシアがフェイトにした仕打ちを思い出し、

目の前の二人に対して明確な敵意を見せる。

 

対してユーノはジュエルシードを発掘した責任者として

なのはを巻き込んでいたことを再び後悔していた。

 

「まぁ、あとはお前らも知っているだろう?

 私は高町なのはに取り付き、なのはの心が消え去った今、

 その体を支配させてもらったのさ・・・

 

 あぁ、勘違いしてもらっては困るけど。

 フェイトを最初に狙ったのはなのはがどうせ庇うだろうと思ったからさ

 別に庇おうとしなくても隙はできると思ったからなぁ」

 

シリアル5はただただ過去を語っていくだけ・・・

だが、それを聴くものはただなのはの境遇のあまりの残酷さに黙り込むしかない。

今、場は完全にジュエルシード・シリアル5の独擅場(どくせんじょう)だった。

 

「さてとぉ・・・昔話はここまでだ・・・

 せっかく体を手にしたんだ。楽しませてもらうぞ

 さぁ、レイジングハート・・・」

 

シリアル5は自身の魔力をレイジングハートに流し込む。

その力を発揮するためだったのだが・・・

 

《E...error,err...r...The enormous amount of energy, the feature is paralyzed.》

 

しかし、レイジングハートから告げられたのはエラー。

そして告げ終わった後にレイジングハートはその輝きを失った。

 

「ちっ、だらしねぇ。私のエネルギーに耐え切れなくて

 システムがオーバーロードしたのか・・・まぁ、いいか・・・」

 

そう言うとシリアル5はレイジングハートを待機状態にし、

胸元にかけて置く。使えないのならば無理強いはしない。

 

「やっぱり私は・・・魔法を使うより・・・」

 

そう言って次に手をつけたのはブレイズハート。

手を後ろに回し、ガンローダーからクリーブモードにする。

そしてそれを振りかぶりながらシリアル5は叫んだ!

 

「切り裂くほうが好きだねぇえええええええええッ!!!!」

 

その言葉と共にシリアル5は闇の書の意思に向けて飛び掛る。

圧倒的な速度に闇の書の意思は避けきることができずに

その腕で受け止める。防衛プログラムの頑強な盾を展開してだ。

 

ガキンッという甲高い音と共に闇の書の意思の腕と

シリアル5が放ったブレイズハートの一撃がぶつかり合う。

 

「な、に・・・」

 

その攻撃の違和感に闇の書の意思はその場を離れる。

そして攻撃を受け止めた自分の腕を見た。

 

その光景は誰もが信じられないものだった。

 

傷ついていた。その腕はブレイズハートの一撃によって切り裂かれ

その右腕の手首から肘まで傷が広がっていたのだ。

 

防衛プログラムの絶対防御をシリアル5は難なく切り裂いたのだ。

 

「ははぁ!私の魔力は最強だぜぇ!?

 その程度の防御ぐらい簡単に切り裂けるのさァア!!!」

 

そう言いながらシリアル5は手に持つブレイズハートに魔力をさらに送る。

送られる魔力はなのはの桜色から、さまざまに輝く虹色・・・いや光の色になっていた。

とてつもない・・・膨大な魔力だった。はやてすら上回る・・・魔力!

 

「私のモードは『光』なのさぁああああああッ」

 

その言葉と共にシリアル5は再び闇の書の意思へと突撃する。

 

「くっ、なめるなッ!!」

 

闇の書の意思も二度も同じヘマをする気はない。

盾を直に体を覆うのではなく、体から離し一時的に攻撃を防いだ後避ける。

そしてシリアル5・・・いや、なのはの体を殴る。

 

その攻撃を受けつつも、シリアル5は怯みも止まりもしない。

笑いながら斬撃を闇の書の意思に向けて浴びせまくった。

 

二人の戦いはリミットブレイクであるブラスターモードを使用した

なのはと闇の書の意思の攻防をはるかに上回るものだった。

 

戦いの衝撃がアクアボリスの海を揺らし、宇宙空間を次元空間を揺らす。

 

ジュエルシードと闇の書・・・光と闇の戦い

二つのロストロギアの攻防は小規模の次元震すら起こしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころアースラは多少の混乱に陥っていた。

与えられた真実の情報量の多さもそうだが、

シリアル5と闇の書の意思・・・二つのロストロギアが繰り出す攻防により、

転送魔法が一切使用できない状態になっていたのだ。

 

おかげで戦力が格段と落ちたこの状況でもクロノたちは現場に迎えないで居た。

 

「くそっ!こんなことになるなんて!!」

「落ち着きなさい、クロノ執務官。叫んだところで何も状況は変わりません!」

 

リンディが珍しく叫ぶクロノを静止するが、自身も冷静で居られる自信がなかった。

作戦は実質失敗状態。第二案を決行しようにも転送魔法が使えない。

さらに次元通信も使えないため、特務五課とも通信できない。

 

完全に詰みの状態だ。アースラに居る全員が何もできないのだ。

 

「まったくだね。こんな状態になるとは・・・」

 

スカリエッティも珍しく現実逃避したくなっていた。

最高評議会の命令でここに来たはいいが、こんな状況ではその命令もこなせない。

それどころか、この状態が続けば次元断層が起こり死にかねない。

自分自身はともかく、チンクが死ぬことだけは避けたかった。

だが、彼ほどの頭脳を持ってしてもこの状況は打破できない。

 

それは・・・まだ彼が理解しきれていない『心』の問題だったからでもあった。

 

 

 

光と闇の遺産・・・二つの戦いは終わりの見えない戦いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシア、アルフ、リニスと一時的に分かれたフェイトとアリシアは

二人して今居る広場にぽつんとある大樹の幹の下に寄り添っていた。

 

そしてフェイトはアリシアと一緒に空を見上げた。

 

そこにはいつの間にか薄暗い雲が漂い始めていて、

まるであのこの瞳のようにまっすぐな澄み切った青空、

柔らかな陽光を次第に雲間の端々に追いやっていっていた。

 

「ひと雨来そうだね」

 

アリシアの呟きに呼応するように、細い雨がぽつりぽつりと降り始めてきた。

 

「そろそろ戻ろうか」

 

アリシアは振り向いてフェイトに庭園の建物を指さして誘った。

 

「私は、もうちょっとここにいるよ」

 

フェイトは上を向き、微笑みながらそう言った。

 

「そう? だったら、私も、雨宿り」

 

アリシアはそういってフェイトの隣に足を伸ばして座った。

やがて雨は激しくなっていき、冷たい雨が二人の体を濡らしていた。

降り続ける霧雨の中、二人は言葉を発せずにただ佇む。雨がやむのを待つ。

 

「ねえ、アリシア」

 

沈黙を破るのはフェイトの声。

その言葉にアリシアは少しだけ視線を上げた。

 

「どうしたの?」

 

アリシアの問いにフェイトは答える・・・

 

「楽しかったよ・・・夢の中でも皆に会えて」

「・・・・・・・・・」

 

アリシアは口を閉ざしてしまった。

その沈黙はフェイトの言っていることが正しいことを明確に述べており、

フェイトは否定されないことに一つの終わりを感じた。

それは・・・悲しくもとてもすがすがしい気持ちでもあった。

 

「私が見ている夢。欲しくて、手を伸ばしても届かなくて、諦めていた夢

 母さんはもういない。それに本当の母さんは私にあんなに優しくはしてくれなかった」

「優しい人だったんだよ。優しすぎたから壊れたんだ」

 

アリシアは悲しそうに・・・でもどこかすがすがしくそう言う。

自分でも夢の存在だと分かっていた。でも、妹と一緒にいたかった。

フェイトはそんなアリシアに向けて苦笑いしながら自分の思いを語っていく

 

「アリシア、私は・・・・・・私はね・・・」

 

アリシアの方を改めてむいて、フェイトは言った。

ずっと胸に抱いていた思いを――自らの夢を・・・

 

「私は将来・・・喫茶店の店主になりたいんだ・・・」

 

それが・・・フェイトがこの一年間ずっと思っていた将来の夢。

母親の愛だけを求めていたフェイトが初めて抱いた自分自身の夢だった。

 

それを聞いたアリシアが予想外、といった表情で驚いた顔を見せた。

フェイトはそれに気づくも、自分の思いを――夢の続きを語っていく。

 

「私がね。朝起きるとケーキやシュークリームをたくさん作っているんだ。

 そして開店時間になったらお客さんがたくさん・・・ううん、常連さんが

 少数来るのも良いかな・・・。そしたら皆から「いつものお願い」って言われて

 私は微笑みながら、皆にコーヒーや軽食を配っていくんだ・・・」

「・・・フェイト・・・」

 

アリシアは楽しく自分の将来の夢のヴィジョンを話すフェイトを見て何もいえなかった。

この世界に残っていてもらいたいはずなのに・・・そんなフェイトを見ていると・・・

アリシアはそんな自身の中に眠る複雑な思いを閉じこめ、頷いた。

 

「強いね、フェイトは」

「そんなことはないよ。なのはのおかげで、私は自分を始めることが出来たんだ。

 なのはに会ったから・・・桃子さんに会ったから・・・今の私の夢があるんだ」

 

そう言いながらフェイトは立ち上がった。

 

「いつか、恩返しがしたいんだ。約束を守りたいんだ。

 だから、私は・・・ここには、いられない」

「・・・あーあ」

 

フェイトがそう言い終わった後、アリシアはそんな声を上げながら、

両手を天高く上げて、背中を伸ばしながら木の幹に背中を預けた。

 

「これで私もフェイトと一緒にいられるって思ったのになぁ。失敗しちゃった」

 

アリシアは笑顔でそんなことを言った。

その笑顔は・・・とても清々しく、とても爽やかだった・・・

彼女も納得した。どうやってもフェイトは前に向かって進んでいくと

 

「ごめんね、アリシア」

「いいよ、フェイトが決めたことだから」

 

アリシアはポケットを探り、そこから一枚プレートを取り出しフェイトへと差し出した。

それは、この世界から解放されるための鍵。

 

「そっか、アリシアが持っていたんだね」

 

彼女の小さな手の上に鎮座する一枚のプレート

バルディッシュはようやく会うことが出来た自らの主に、無言で光を明滅させる。

 

「フェイトとバルディッシュなら、きっとここから出ることが出来る」

「だけど、はやてを置いては・・・」

 

闇の書に取り込まれたのは自分だけではない。

彼女たちを置いては外に行くことは出来ない。

そんなフェイトに対してアリシアは今起っていることを話した。

 

「大丈夫。はやてに関しては・・・なのはが助けたよ・・・だけど・・・」

「だけど・・・?」

「なのはが闇の書に吸収された」

 

「え・・・・・・」

 

フェイトは信じられない。そんな顔をした。

あのなのはがどうして――そんな思いが胸をよぎった。

 

「詳しい事情ははやてに聴いて、はやてならその後起こったことも全部教えられるから

 ここで私が説明していたら・・・時間がなくなるだろうからね・・・・・・・・・」

「・・・そう・・・わかったよ。アリシア。教えてくれてありがとう」

 

そう言った後、フェイトはアリシアから

バルディッシュをを受け取るとそっと彼女を抱きしめた。

 

「フェイト?」

 

「夢の中なんだから・・・最後くらい・・・いいでしょ・・・」

 

フェイトは泣いた。さきほどまでずっと抑え続けていた感情を外に出した。

夢だとわかっていても・・・外に出たいと願っていても・・・

この世界は自分が望んだもう一つの世界だったのだ。

 

涙腺が壊れ、決壊したダムのようにフェイトの二つの眼から涙があふれ出す。

 

フェイトは涙を流しながら・・・でも顔は微笑みながら言う。

 

「ほんの少しの間だったけど。夢幻でしか無かったけど、私は幸せだった。

 だけど私は行くね。なのはが吸収されたなら助けに行かなきゃ・・・」

「忘れないで。それだけで、たぶん私たちはフェイトの側にいられると思うから」

「うん、絶対に忘れない」

 

「さよなら、フェイト。なのはを・・・助けてあげてね・・・」

 

アリシアの身体から光が放たれる。

その光は粒子となって、次第にアリシアを包み込んでいく。

 

「あぁ・・・最後にフェイトのケーキ・・・食べたかったなぁ・・・」

 

その言葉を最後に彼女の姿はその光と共に空気に溶けていった。

アリシアは笑顔で消えていったのだった。

 

「うん・・・わかったよ、アリシア・・・姉さん・・・」

 

フェイトはギュッとバルディッシュを握り締めてそう言った。

そして・・・最後に・・・この夢に・・・自分が望んだもう一つの世界に別れを言う。

 

「さよなら、アリシア。さよなら、リニス。さよなら・・・プレシア母さん・・・」

 

そして、フェイトはしっかりとした足取りで立ち上がり、バルディッシュを起動させる。

 

「はやてのところに行くよ、バルディッシュ・・・真実を知ろう・・・」

 

《Yes,sir》

 

金色の光を纏いながらフェイトは黒い装束に身を包み、

手に持つ杖は鋭角のフレームを力強くスライドさせた。

激発された二発のカートリッジが莫大な魔力をフェイトにもたらす。

過去を糧に・・・今を生き・・・未来へ進むための力を・・・

 

「バルディッシュ、ザンバーフォーム」

《Zamber Form Get set.》

 

バルディッシュは応じて、自らのフレームを変形させた。

フェイトは自らの光を振りかぶり、その剣身は天を指し示し、脚は大地を踏みしめる。

 

「雷光一閃! スプライト・ザンバァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

その一閃は世界を切り裂き、幻想空間は音を立てて崩れ去る。その先にあるものは常闇。

そしてその闇の中には光があった。その光は金色の道となり彼女を導いていった・・・

 

 

運命(フェイト)は・・・真実(アリシア)の光を受け継ぐもの・・・

 

迷い人(なのは)を導く光の人・・・

 

 

 

 




 
というわけでフェイトさんがやりたいこととは喫茶店の店主。
もちろん桃子を見ていてやりたいと思ったのです。

この件でメンタル面に関してはなのはとフェイトは原作と逆なんですよね・・・
優しいはやて、強いフェイト・・・なのはは何を掴むのか・・・

そして・・・シリアル5さんは書いてて楽しいのですが・・・
読者的にはこいつどうなんでしょう?目障り?うるさい?





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SAGA 32「約束された使命」

今回はちょっと分けました。
そのほうがきりが良いと思ったので・・・

実際今回は現状と今後の説明会と次回の導入です。

オリジナル設定全開ですが、どうぞ!


 

 

 

「闇の侵攻は相当進んでいるな・・・」

「まったくだ。おかげではやてが闇の書の中を自由に動けるようにするので精一杯だぜ」

 

そのころ吸収された守護騎士たちは当初の予想とは違うできごとに

戸惑いを隠せなかったものの、主であるはやてを守るために

はやてがこれ以上侵食されないよう、闇の侵攻を四人で精一杯押さえ込んでいた。

守護騎士たちで話すことはできるものの、外の様子がわかるだけで

自分達ができることは何もないと言ってよかった。

 

「でも・・・はやてちゃん本当に大丈夫でしょうか・・・」

「主はやては大丈夫だろう。主はとても心の強いお方だ・・・

 だが、高町はどうだろうな・・・あの現実はあいつには重すぎる」

 

戦ったシグナムだからわかる。なのはは自分の魔法、剣術に誇りを持っていた。

その誇りを現実によってすべて砕かれてしまった。

なのはが一人で立ち直る可能性はほとんどゼロに等しかった。

 

「・・・どうやら、なのはのもとにはフェイトも向かったようだな・・・

 だが、本当に現実に戻せるのか? 心を失ったなのはを・・・」

「闇の書の意思ちゃんがなのはちゃんを防衛プログラムから守るために

 闇の書の中に取り込もうとした・・・だけどジュエルシードが

 それを中途半端に防いだから・・・なのはちゃんの心は・・・」

「心の核だけを残し、『なのは』という人格だけが闇の書の中に取り込まれた。

 だから説得するのは、相当難しいだろうな・・・」

「あいつ・・・」

 

シャマルとシグナムの出した答えにヴィータは黙り込むしかなくなってしまう。

ほんの一日だけしか、なのはとはちゃんと話してはいない・・・

だが、彼女の体には今もあのときの温もりが残っていた。

だから、ヴィータは呟いた。届くともわからない自分の願いを・・・

 

「なのは・・・早く帰ってこいよ・・・」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そのころ闇の書の意思とジュエルシード・シリアル5の戦いは激化していた。

二人がぶつかり合うたびに小規模だが強力な次元震が発生する。

 

そのためにアースラクルーはおろか、その場に居るユーノとアルフすら

光と闇――二人の遺産の戦いに干渉することすらできていなかった。

 

(・・・くっ、駄目か・・・防衛プログラムめ・・・

 私ごとすべてを巻き込んで破壊するつもりかッ!!?

 どうする・・・どうすればいい・・・?)

 

その攻防の中で、闇の書の意思は自らのタイムリミットを悟る。

彼女が居る真下では大量の炎の柱が海面から吹き上がり、

管理局結界魔導師によって作られた結界が徐々に崩壊していた。

さらにこの場所を襲う風が突然、強くなっていった。

 

次元震が引き起こすものとは違う・・・彼女の現出の限界時間が迫っていた。

 

(一か八かだ・・・あいつに・・・頼むしかない!)

 

「はっはっはっ!!!いいねぇ!いいねぇ!!

 最ッ高!だねぇえッ!!楽しいよぉ、闇の書ォオオオオ!!」

 

そんなことは露知らず、ジュエルシード・シリアル5は攻撃を続ける。

闇の書の意思はその攻撃は防ぎながら、念話を送る。

 

彼女にとって嫌いな人間に分類される者などほとんどいない。

ただそこに高町なのはが関わるだけで決めているのだ。

 

だから、彼らに助けを請うことに躊躇いなど全くなかった。

 

【ユーノ・スクライア!アルフ!聞こえるか】

 

突然響く思念通話。そしてその主が目の前で先ほどまで戦っていた

闇の書の意思からのものとわかり、二人は驚いた。

 

【聞こえるけど、何で君が僕達に念話なんて!?】

【なのはを助けるためだ。お前達に協力してもらいたいことがある】

【はぁ!?何言ってんだい!?あんたはなのはをあんなに

 道具みたいに使いやがって、今更なのはを助けるだって!?】

 

アルフは闇の書の意思の言葉に反感しか起きなかった。

正直言って闇の書の意思の真意をわかるための情報が

あまりにも言葉遊び過ぎて普通にはわからなかった。

 

アルフが多少だが勘違いするのも無理はない。

だが、勘の良いユーノだけは気づいていた。

彼女の言葉が少なくとも嘘ではないことを・・・

 

【・・・いや、アルフ。彼女はなのはを道具にしてはいない。

 確かになのはの心を粉砕直前まで壊したのは彼女だけど・・・

 さっきコントロールを『奪った』って言ってた。

 彼女が防衛プログラム本人ならコントロールを奪う必要性はないよね?】

【だ、だけど・・・】

【他にも・・・防衛プログラムと自分をまるで意図したように分けて話してた。

 彼女はなのはの心を完全に破壊することを良しとしていないとも言っていた。

 だから・・・なのはにしたことを許す気もないけど・・・信用はしてもいいと思う】

【・・・・・・】

【頼む。なのはにさっきしたことは自覚している。許してくれとは言わない。

 だけど・・・こんな私の願いはなのはを助けることなのだ】

 

アルフはユーノと闇の書の意思の言葉を吟味する・・・

しかし、自分に今ほかにできることもないので渋々了承する。

 

【わかったよ・・・だけど、フェイトは返してくれるんだろうな?】

【無論だ。なのはには彼女も必要だ。取り込んだのは完全な事故。

 彼女が望めば夢を見させ続けたし、出たがっているのならば出した。

 だが、彼女が望んだのはなのはとはやての救出・・・

 だったら私には止める理由がないからな・・・】

【・・・だったらいい。気に食わないけど協力してやる】

【ありがとう・・・】

 

アルフは闇の書の意思の言葉を聞き、嘘はないと判断。

彼女に何をすればいいかを聴いた。

 

【やってもらうこと自体は簡単なことだ・・・

 奴の胸にあるレイジングハートを奪い、私に渡してほしい】

【はぁ?なんでレイジングハートを・・・?】

【ユーノ・スクライアは知っているか?知らないなら説明する】

 

「はっはぁあっ!!防戦一方かぁあ!?もっと熱くやれよぉお!!」

 

シリアル5の攻撃を防ぎながら、闇の書の意思がそう問う。

ユーノは念話で詳しいことは何も知らないと伝える。

 

彼が知っているのはレイジングハートもまた立場上はロストロギアになること。

ただし、現在のところまで危険性は『皆無』なので

準ロストロギア級にまで格下げにはなっていること。

 

かつてなのはが手にするまで、自分が仮マスター認証を受けていたことくらいだ。

 

それをすべて聞き入れた闇の書の意思は思念通話でなるほどと言いながら・・・

 

【そこまでわかっていればいい。ここからの説明に苦労はそうしないだろう】

【・・・それで・・・なんでレイジングハートを・・・?】

 

【あれはロストロギア。そしてその目的はマスターに『不屈の心』を授けること。

 レイジングハート自身は自覚はしていないだろうがな・・・】

【不屈の心を授ける?それってどういう意味だい?】

 

いまいち理解できないアルフが聞く。

闇の書の意思は「あぁ」というとその補足説明に入る。

 

【不屈の心・・・文面からでは理解することは難しいだろうが・・・

 ようはこういうことだ。どんな困難に陥ってマスターの心が『壊れた』としても

 レイジングハートに『バックアップをとる』ことで結果的に

 『絶対に砕けない心』を実現すると言うことだ】

【【な、なんだって!?】】

 

二人は驚愕の真実を知り、ただ唖然とするしかない。

闇の書の意思はさらに補足を続ける。

 

曰く、ユーノが仮マスターだったのはユーノの心が一定の強さを持っていたから、

なのはがマスター認証されたのは、その心の脆さを感じたことからで、

さらに闇の書の意思自身が認証させることを促していたと・・

 

なのはの心が弱いわけではない。むしろ強いほうだ。

だが、それは非常に硬く脆い。まるでダイアモンドがハンマーの一撃で

粉々に砕け散るように・・・なのはの心は脆く砕けやすかった。

 

だからレイジングハートのシステムが無意識に彼女をマスターとして認証したのだ。

 

【つまり、レイジングハートの中に・・・】

【・・・いや、それが良くわからないところなんだが・・・

 今、もう一度確認したが、なのはの人格は間違いなく私が取り込んで、

 闇の書の内部にある。現在フェイトとはやてがそちらに向かっている。

 だが、仮にこのまま戻してもなのはの体にこの人格は適合しないんだ。

 戻した瞬間になのはの人格は今度こそ完全に消滅する・・・】

【??どういうことだい?】

 

アルフはその説明で理解できていなかった。

だが、ユーノはまさか、という顔を一瞬。シリアル5に感づかれないよう

ほんの一瞬だけしたあと、闇の書の意思に言う。

 

【・・・もしかして・・・なのはが二重人格・・・ってこと・・・?】

 

二重人格・・・正式には解離性同一性障害という。

 

人間の防衛的適応が慢性的な場合は反作用や後遺症を伴い、複雑な症状を呈し、

それが慢性的であるが故にその状態が恒常化し、何かのきっかけで炸裂して

コントロールを失うことで、苦痛を生じたり、社会生活上の支障まできたす。

 

これが一般的に解離性障害と呼ばれるものなのだが、

解離性同一性障害はそれのもっとも重いものである。

 

基本的によくアニメなどにある完全な別人格ができるわけではなく、

あたかも独立した人格のように見えても、それらはその人の「部分」である。

これを一般に交代人格と呼ぶ。一人をまるで二人以上居るように分けているのだ。

 

つまり、なのはが本人も気づいていないが二重人格者で

もしも人格に当たるものを二つ持っていたとしたら、

片方がレイジングハートに、片方が闇の書に取り込まれている。

 

そして、どちらも揃わないと「なのは」という心が

完全に回復しないのではないかとユーノは考えた。

 

その考えに闇の書の意思は「まぁ、似たようなものだ」といって補足する。

 

【正確に言えば解離性同一障害ほど分かれているわけではない。

 言うなれば、なのはの『人格』が闇の書に・・・そしてなのはの『心の核』が

 レイジングハートの内部に取り込まれているということらしい。

 なぜ、そんな分かれ方をしたのか・・・それは不明だがな】

 

三人はとりあえずそれで納得することにする。

もしもここにヴィータやフェイトがいたらなのはの持つ『二面性』について

話すことができ、真実へと近づけたのだろうが彼女達では無理だった。

 

それに・・・真実を知らなくてもここでは問題ない。

 

【まぁ、理屈はこれぐらいでいい・・・納得したなら協力してくれ!

 私に残された時間はもう10分あれば十分くらいなのだ・・・

 だから・・・頼む・・・一緒になのはを救ってくれ・・・】

 

闇の書の意思の願い。それを聴いたアルフとユーノはもちろんと答える。

ここまで言われたら断る理由もない。自分達だって皆を助けたい。

 

二人はシリアル5が操るなのはのほうを向いた。

・・・これ以上・・・好き勝手させるわけにはいかない・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは暗い闇がはびこる真夜中だった。

鉄骨が武骨い鉄橋の上で、彼女は一人佇んでいた。

真下を見ても何もない、左右を見ても何もない。

ただ鉄橋の上・・・いや、これが本当に鉄橋かもなのはには理解できてはいない。

 

ただ・・・確実にこの世界は夢の中とわかる中・・・

 

たった一人、手すりに両手をつけながら、ぼんやりと目の前の闇を眺めていた。

 

(・・・・・・どうして、こうなっちゃったのかな・・・)

 

そんなことを思いながら、なのはは目の前にディバインスフィアを作る。

いつもはディバインシューター発射と同時に役目を終えて消されるそれを

今のなのははずっと眺めていた。消耗品・・・道具・・・

 

今まで何気なく消費し続けたそれと、今の自分は同じレベルの存在。

そう考えると無性にディバインスフィア単体を見てみたくなったのだ。

 

もっとも・・・ここは夢の中、目の前にあるのは現実味がなく

本当にディバインスフィアが見えるのかすらわからない。だから色がない。

だけど、なのははただ目を細め、小さく笑っていた。

 

(・・・本当の自分、よくそんなこと言われたけど・・・本当ってなんだろう・・・?

 わたしにとっての本当・・・ただの道具の、わたしの本当・・・)

 

わからない、それがなのはが先ほどから出すしかない答えであり、

結局のところそれが正解なんだろうと思ってしまう。

 

決意を固め、戦った・・・だから砕け散った心・・・

 

闇の書に、ジュエルシードによって縛られた過去・・・

なのはにとってもはや過去の決意すら、他人事のように感じてしまう。

 

わたしはただの道具・・・なのははそう思いつつも、どこか未練があった。

 

いつも優しく微笑みかけてくれる少女・・・いつも強い眼差しで進む少女

そして、こんな自分を頼ってくれた眩しすぎる少年・・・

 

彼女達と過ごした日々はとても楽しくて・・・暖かくて・・・

でも今の自分にはもう手にする資格がないと感じる。

 

鉄橋の手すりを握る力が強くなる。その手の甲に暖かな雫がたれ落ちる。

それは涙・・・彼女、高町なのは『自身』が出した本当に久しぶりな涙。

 

――助けて・・・

 

「・・・た、すけて・・・」

 

彼女の声が響く、悲しく切ない、ボロボロの呟きはただ闇に消えていく。

何も見えない。暗いくらい闇の中、自分の鏡写しのような闇の中に

 

「・・・だれか・・・たすけ・・・て、よ・・・たすけて・・・あげてよ・・・」

 

ぽたぽたと五月雨のように冷たくなった透明な雫が地面へと落ちていく。

彼女の思いは誰にも伝わらない、届かない。

 

そう思っていたときだった。

 

「こんなところにおったんか・・・?」

 

聴きなれた車輪の音と共に、親友が現れたのは・・・

 

 

 

 

 



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SAGA 33「たとえどんなに傷つき、炎 燃え尽きても」

グダグダになっチッたァァァァーーーーーッ!!
くそう・・・今後の伏線張るために書いたら、グダグダになるわ
タグの「発想が勝利を呼ぶ」が(笑)になるわ、
はやてが役立たずだぁ・・・あぁ、自分にもっと才能があればこんなことには・・・

まぁ、くよくよしていても仕方ない。とりあえず細かいことは気にせず
こういうことがあったんだという結果だけ知っておいてください。

GOD編とStS編で必要なので・・・すみません


それではどうぞ!! あとグロ注意。わりとガチで




 

 

 

 

「こんなところにおったんか・・・?」

 

聞こえてきたのは聴きなれた親友の声。

なのははその声のほうを振り向きながら、その名を言う。

 

「はやて・・・ちゃん・・・?」

「そうや、よかったぁ・・・なのはちゃんが生きててくれて・・・」

 

よかった?生きててくれて?そんなことを言われる資格はない。

なのははそう思ってしまった。

 

「さ、はやく皆のところへ行こう?皆待ってるよ」

「待ってる?誰が?」

 

その言葉にはなんの感情もなかった。

悲しみも、怒りも、妬みも、開き直りも何も・・・

ただ機械的に返しただけだ。もはやなのはは感情を表に出すことすらしたくなかった。

 

「誰がって・・・それは勿論、まず私やろ?あとアースラにいる皆やろ?

 ユーノくんにアルフさん・・・あと桃子さん、士郎さん、恭也さん、美由希さん

 それに・・・フェイトちゃんも皆待っててくれとるよ」

「本当に待っていてくれてる?待っていてくれたとして、それは本当のわたし?

 望まれているのはわたし?それとも私?それとも・・・」

 

はやての答えにすら、なのはは淡々と聞き返す。

親友となのはもはやても二人が思っている。

だが、なのははその感情すら信じられなくなっていたのだ。

 

それだけ彼女の思いを、さきほどの真実が砕いてしまっていたのだ。

 

「本当のなのはちゃんに決まってるやろ!?

 あんな言葉、なのはちゃんに関係あらへん!

 なのはちゃんはなのはちゃんやろ!?他なんて居ない!

 

 皆はなのはちゃんに帰ってきてもらいたいんや!

 ジュエルシードでも、闇の書に操られたなのはちゃんでもなく!

 高町なのは自身に帰ってきてもらいたいんよ!」

 

はやての言葉を聞いて、なのはの頬が引きつる。

ずっと押し殺していた。感情・・・そしてはやての甘美な言葉。

それが複雑に混ざり合い炸裂・・・なのはは心の奥でずっと思っていたことを呟いた。

 

「わたしに・・・そんな・・・資格・・・ない・・・」

 

瞼を閉じ、目尻から涙を再び流しながらの告白、

だがはやてにはなぜなのはがそんなことを言うのか理解できなかった。

 

「資格・・・?なんなんそれ・・・」

「わたしは・・・わたしは・・・わたしは・・・」

 

まるで血がついた手を眺めるように、両手をなのはは見る。

その手は震えていて、それを見るなのはの目はどこか怯えていた。

なのはは話す。自分になぜ資格がないのか・・・その真実を・・・

 

 

「わたしは・・・「なのはちゃん」を見殺しにした」

「え・・・?」

 

はやては一瞬、なのはが何を言っているのか理解できなかった。

ほとんど同じ時間に闇の書の意思とユーノが会話で話していなかったら

はやてはここに居る限り、一生答えに気づかなかっただろう。

 

そして外の会話が聞こえたことによってはやては理解する。

なのはがなぜ帰りたくないのかを・・・なぜ、自分が許せないかを

 

「・・・なのはちゃん・・・」

「あの時ね。わたしがすべて否定されたとき・・・

 闇の書がわたしを吸収しようとしたとき・・・

 バグの塊だった防衛プログラムはわたしを拒絶したの。

 あの人はわたしを守るために吸収してくれたらしいけど・・・

 防衛プログラムは異物であるわたしを消去しようとしたんだよ」

 

語っていくうちに、なのはの目には再び涙が溜まっていく。

 

「だけど・・・だけど!!なのはちゃんが庇った!!

 わたしが弱かったばっかりに・・・なのはちゃんが全部!!

 あの子は何も悪くないのに!!」

 

なのは本人もはやてにわかってもらってほしくて言っているわけではない。

あくまで抑えていた感情のままに内に秘めていた気持ちはすべて吐き出す。

 

はやても予想外の展開に目をぱちくりさせる。

なのはが過去を、自分をすべて否定されているから苦しんでいる。

そう考えていたので、自分が説得できるはずだと思っていた。

だが違った。なのははもはやそこだけを悩んでいるわけではなかった。

 

「あんなにいい子だったのに・・・空が好きで、機械が好きで、

 暴力なんか好まない・・・優しい子だったのに・・・なんで・・・

 なんで、わたしが生き残ってるの・・・・・・・・・?」

 

なのはは決して二重人格者ではない。

あくまでも『優しさのなのは』と『強さのなのは』の二つに

闇の書の吸収、レイジングハートのバックアップ、防衛プログラムの拒絶。

この三つの要素によって無理矢理に分けられただけだ。

一つの人格を無理やり二つにしたと言っても良い。

 

だからなのはが今言っていることは前々からそう認識していたわけではない。

分かれて初めて、どちらがどちらを司っていたかを悟ったのだ。

 

はやては何もできないでいた。親友だから・・・

なまじ親友だったから、何もできなかった。

 

そして幸せだった・・・家族を失ったことが悲しくても、

なのはといた日々は楽しかった。だから経験がない。

なのはの悩みを解決できる経験がなかった。はやてもまだ9歳だ。

 

時間だけが過ぎていく・・・

なのはが悲しみを再認識していく時間が増えていく。

そんな――終わりの見えない時だけが過ぎようとしていたときだった。

 

「・・・!???」

「な、に・・・?」

 

暗闇だった世界に一筋の光が走る。

それは上空からだった。真上の空間の闇を切り裂き、光がなのはの後ろに走る。

なのはは急いで振り向き、はやては見上げる。

 

そこから降りてきたのは、金色に輝く一人の少女

その手に閃光の戦斧を持ち、両手を上に上げながらまるで天使の様に降りてくる。

 

二人はその少女が誰かを知っている。

いや、その微笑を知っている。なのははその名を呟く

 

「フェイト・・・ちゃん・・・・・・」

「なのは、助けに来たよ」

 

運命(フェイト)は・・・真実(アリシア)の光を受け継ぎ迷い人(なのは)を導く光の人

なのはには眩しすぎる少女がこの世界に降誕した・・・

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

闇の書の意思自身が戦えば、次元震の発生は回避できない。

彼女は少しでも自己消滅を抑えるために全魔力を集中させる。

シリアル5との戦いはユーノとアルフの役目だ。

 

ユーノ・スクライアは叫びながらプロテクションスマッシュでシリアル5へ突撃する。

 

「うぉおおおおお!!」

「おや、おや、ユーノくぅううん。この私に君が攻撃とはねぇ!!」

 

シリアル5は余裕タップリにユーノの攻撃をブレイズハートで受けきる。

ユーノのバリア自体は強度が強く、破壊はできなかったが、攻撃自体は防ぎきった。

シリアル5にむけてユーノは心からの決意を叫ぶ。

 

「なのはは!!絶対に返してもらう!!」

「そんな簡単に返すかよぉ!せっかく手に入れたんだ、楽しませてもらうぜぇえ!!」

 

シリアル5はユーノの宣言も軽く流し、ブレイズハートで切りかかる。

 

「させないよ!チェーンバインド!」

 

だが、その攻撃はアルフが使用したチェーンバインドによって

ブレイズハートの持ち手が縛られることによって中断させられてしまう。

 

バインドが引っ張られることでピンッと甲高い音を立てるなか、

シリアル5はその顔から、決して笑顔を絶やさない。

 

シリアル5にとってこの戦いですら遊びだ。

まずは現世を楽しむ。それが今のシリアル5の思考だ。

 

アルフの行動を見たシリアル5は口元を上げながら笑う。

 

「ふん、こんなもんか?」

「あん?・・・なっ!」

 

シリアル5はブレイズハートを逆手に持ち替えてそのまま力任せに引っ張る。

そしてそのまま開店の勢いを利用して、アルフを海面へと投げつける。

 

アルフは投げ技という予想外の攻撃にとっさの対処ができず

そのまま頭から海面に叩きつけられる。

 

「アルフッ!?」

「残念、無念、また来週ゥッ!!ってか!! 当分そこでお寝んねしてな!!」

 

シリアル5はアルフが落下した海面に向けて手をかざす。

その手の中には膨大な魔力と冷気が集まる。それは一瞬の出来事。

ジュエルシードの力のほんの一片だが、それでも人間から見れば驚異的だ。

 

そしてシリアル5は放つ、-273.15℃という絶対零度の光弾。

直撃した海は一瞬で凍結し、その氷はわずかな衝撃で分子レベルまで破砕してしまう。

幸い、アルフがいる部分にまではそんな極端な被害は出なかったが、

アルフの体は二の腕の半分から下が氷で埋まってしまい、身動きができない。

ユーノはその攻撃から、アルフを守ることも庇うことができなかった。

 

そんなユーノを嘲笑うようにシリアル5は笑いながら言った。

 

「ひゃははは!! 始めてやってみたが、すごいねぇ『魔法操作』

 氷に性質を変えるだけでこの威力とはねぇ、なのはには荷が重かったんじゃないの?

 ユーノも大変だったなぁ、こんな訳のわからない能力を持つ奴を

 渋々ながらも頼んなきゃいけないなんてなぁ!」

 

「貴、様・・・」

 

「お? 怒るの怒るの?ユーノ!

 友達を馬鹿にされて怒りくるうのォ~~~~~?

 どんどん怒りやがれッ!! だが、無意味だ。私はなのはすらを超越する!!

 お前みたいな雑魚が、私に触れようとすることすらおこがましいんだよぉ!!」

 

ユーノの怒りすら、何事もないように流しながら

シリアル5はブレイズハートに魔力を送り込む。

 

刃のラインは藍色に・・・いや、オーバーフローしたエネルギーにより

光の色に染まっていく・・・莫大なエネルギーを維持したまま

シリアル5はブレイズハートを横に振るう。

 

「くっ・・・!」

 

ユーノはぎりぎり体を上へと仰け反らせて、その攻撃を避ける。

刹那、ユーノが避けた攻撃は一つだけ存在していたフェイクビルに直撃

真っ二つに切られたビルの上半部分は一瞬だけ浮き上がり、

そして落下・・・下半分とぶつかり粉々に粉砕される。

 

「おぉ、よく避けたなぁ。雑魚にしてはやるなぁ

 だが、そろそろあいつとの決着をつけさせてくれよぉ

 さっきからなんも反応しないしよぉ、大方お前らがグルなんだろうけどよ」

「だ、れが!!なのはを返してもらうまで決して退かないぞ!!」

「あぁ、聞こえんなぁ? 雑魚の分際でよぉ

 お前この体が誰か理解してんのかよ?高町なのだぜぇ?

 お前の魔法や戦い方は全部知っているんだぜ?

 だからお前ごときが私に勝てるわけないんだよぉ!!!」

 

一体どこから引き出しているのか、シリアル5の魔力は尽きない。

なのはのリンカーコアと完全に一体化した存在『ジュエルシード』

これがロストロギアの力、ロストロギアがロストロギアと呼ばれる所以。

 

「だからさぁ・・・いい加減楽になりやがれぇえ!!」

 

その言葉と共にシリアル5の姿が消える。

ユーノは突然の事態にまわりをキョロキョロと見渡しながら

見失ったシリアル5を探す。そして気づいたときには遅かった。

 

真後ろ、死角からの攻撃!ユーノは振り向くのが精一杯だった!

攻撃を避けることはできない。悪魔のような強大な斬撃がユーノの体を襲った!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「フェイト、ちゃん・・・」

「なのは・・・一緒に帰ろう?ここにいても前に進めない」

 

突然現れたフェイト、なのははそんなフェイトにすら睨む。

だが、その目には変わらず涙が浮かんでいた。

 

「フェイトちゃんも?今更わたしが帰って何になるの?」

「帰りを待ってくれる人がいるんだ。だからなのはは帰らなきゃ」

「いやだ、もう誰にも騙されない!だれも傷つけたくない!

 もう何も失くしたくから・・・だから・・・だから・・・」

 

なのははそういいながら膝を地面につく。

目から零れ落ちる涙が地面を冷たく濡らす。

本当はなのはだって帰りたい。でも帰る資格がないと思っていた。

大切なものを見殺しにした自分には・・・

 

「・・・なのは、前に君が言っていたことを覚えてる?」

 

そんななのはに近づき、その肩に優しく触れながら、

フェイトは優しく微笑みながらなのはに問いかける。

なのはは首を横に振る。いまは自分が信じられない。

だから、うんと言うこともできなかった。

 

フェイトはそれを見届けると「それはね・・・」と前置きをして言った。

 

あの時、なのは自身の口から自分に向けて送られた言葉を――

 

「逃げるだけじゃだめだよ。

 捨てればいいってことでもない。フェイトちゃんは何をしたいの?

 わたしはユーノくんのため、町のために今日まで戦ってきた。

 そして・・・親友を助けるために・・・過去を塗り替えるために頑張っていたんだ・・・

 それがわたしのしてきたこと。そして今からはみんなの所へ行くよ。

 フェイトちゃん、どうする? そう言ってくれたんだよ?」

「そうなんか?」

 

フェイトが言ったことにはやてがそんな声を上げる。

はやてはなのはからPT事件について大体のことしか聴いていない。

二人だけで話したこのことについては、何も知らなかった。

 

それを聴いても黙り込んだままのなのはにフェイトは語り続ける。

 

「なのはのその言葉に私は助けられた・・・だから私は今ここにいる」

「違う!違うよ!フェイトちゃん!それはわたしじゃなくて

 闇の書の防衛プログラムが勝手に言っただけ!わたしじゃない・・・」

「それでも構わない。

 それを言ったのが、防衛プログラムだろうとなんだろうと

 なのははなのはに変わらないじゃない。だから構わない。

 私を助けてくれたのはなのはなんだよ?」

「だ、けど・・・だけど・・・」

 

フェイトのその言葉にもなのはは振り向いてくれない。

フェイトでも駄目なのか・・・はやてはそう思ってしまう。

それでもフェイトは説得をあきらめない。

 

「なのははまだ何も始まってなかったのかもしれない。

 でも・・・もしそうだとしたら、それはもう終わりにしなくちゃ。

 

 なのはが私と向き合ってくれたように・・・

 なのはも事実に正面から向き合わないといけない。

 きっと、そこから始まるんだ・・・。本当の『高町なのは』が・・」

 

「そんなの・・・できるわけない・・・」

「だったら・・・約束しようよ」

「・・・・・・?」

「約束、会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはも私を呼んで。

 なのはに困ったことがあったら、今度はきっと、私がなのはを助けるから」

 

今度こそなのはの呼吸が止まる。なのははその言葉を知っている。

その続きの言葉を知っている。自分が・・・いや、『自分』が言った言葉だ。

 

 

『・・・くっ・・・それじゃあ約束して、

 わたしはこれからわたしの大切な親友を助ける。助けるために戦う。

 そのときになったら、一緒に戦ってくれる?』

 

 

それを思い出して固まっているなのはにフェイトは続ける。

 

「私はその約束があったから、ここに来た。

 なのはとの約束を守るために来たんだ。だから約束しよう?

 約束すればきっと変わる。なのはの過去が否定されたなら

 今から作っていこう?本当のなのはを・・・」

 

そんなことばを聴いてしまったら・・・

親友のはやてではなく、自分とよく似ているフェイトが言ってしまったら

 

なのはの中で何かが崩れ落ち、何かが誕生するような、そんな感覚があった。

 

「私、フェイト・テスタロッサ。フェイトだよ」

 

――あのときと・・・逆になっちゃったね。

 

「・・・フェイトちゃん・・・」

「何?なのは・・・?」

 

「助けて・・・」

 

なのはの呟くようにはいた言葉にフェイトは強く頷く。

その言葉を待っていた。とばかりに微笑みを返しながら。

 

「助けるよ、いつだってどんな時だって!!」

 

力強い、言葉。フェイトの『強い心』はなのはに響いた。

なのはの涙腺は完全に崩壊し、大泣きしながらフェイトに抱きついた。

 

「・・・もう、フェイトちゃん一人でええんじゃないかな・・・」

 

はやては一人、そう誰にも気づかれないように小さく呟く。

フェイトに任せたのは『自分』だが、ここまでうまくいくとどうも複雑な気持ちだ。

 

だが、納得もしていた。これは『親友』である自分では解決できなかった。

なのはとはやてが親友であればこそ、それが否定されてなのはは壊れたのだ。

だから真に解決できるのは同じような経験をしたフェイトだけ、

同じような状況でなのはに助けられたフェイトにしかできないのだ。

 

だから・・・これでいい。

 

「・・・約束・・・でも、わたしには決められないよ」

「じゃあ、私が決めてあげる。・・・なのは・・・

 私達のすべてはまだ始まってもいない、だから本当の自分を始めるために・・・

 だから始めよう・・・本当の最初で最後の本気の勝負を」

「・・・ずるいよ、フェイトちゃん・・・それわたしの・・・」

「ふふ、駄々をこねたお返し・・・」

 

フェイトは微笑みがら、そう言い返した。

戦いたいというのは本当だ。フェイトも負けたままで終わりたくなかった。

厳密にはあの時、お互いに本気とは言えない状態だった。

だから、今度こそ本気で戦って結果を知りたかったのだ。

 

フェイトの申し出に納得はしつつもなのはは悩む。

 

「でも・・・良いのかな・・・これで・・・わたしは・・・なのはちゃんを・・・」

「あぁ、それなんやけど・・・」

 

そこへはやてが話しかける。

ついさっき、外で聞こえた。闇の書の意思たちの念話。

それはきっともう一度なのはを立ち上がらせてくれる。

 

親友として、少しはなのはのために行動したい。

 

「さっき外の皆が言ってた。

 なのはちゃんの心の核はレイジングハートが守ってくれとるって」

「レイジングハートが・・・?」

「詳しい話は難しいから省くけどなぁ、とりあえずなのはちゃんは

 見殺しにはしてへんよ。『なのはちゃん』は助けられて本当に嬉しいはずや。

 だから、それを否定したら『なのはちゃん』を否定することになる」

「・・・そうなんだ・・・生きて・・・いるんだ」

 

優しさのなのはは生きている。外装がなくなっても核が生きている。

それを聴いただけで、なのはは踏み出せなかった後一歩を踏み出せる気がした。

 

「だから、ユーノくんたちを待っとこう。きっとチャンスはあるはずや」

 

三人は待つ、外の皆が自分達を助けてくれる瞬間を・・・

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

ガキンッ

 

戦場に響いたのはそんな甲高い金属と金属がぶつかり合う音。

 

「あん、なんだそれは?」

 

シリアル5は目の前の状況が理解できていなかった。

ユーノの隙を狙い、仮に防御したとしても絶対に防げない一撃をぶつけたはず。

なのに、ユーノには効いていなかった。厳密には防がれていた。

 

だが、それはバリアではない。

 

金属だった。左右対称の立体的な六角形の盾だった。

シリアル5の攻撃を防ぎきったユーノはブレイズハートとそれを重ね合わせながら言った。

 

「君は何でも知っているっていってたけど・・・

 これは知らなかったでしょ?なのはには確か見せていなかったはずだからね。

 これは僕が貰ったデバイスをマリーさんが僕専用に改造してくれたもの

 『リヒトムート(licht Mut)』・・・これが僕の切り札だ」

 

リヒトムート・・・これがユーノのデバイスの真の姿だ。

形態は攻撃魔法がほとんど使えないユーノのために

盾形態とカード状態の待機モード。この二つだけだ。

 

その盾の力はユーノの防御や結界魔法の才能を存分に生かす。

攻撃をすべて跳ね返し、すべて防ぎきる鉄壁の盾だ。

 

ロストロギアの攻撃と拮抗できるだけでも相当な性能だと理解できる。

ここから逆転する。シリアル5はこのデバイスを知らない。

情報でのアドバンテージは勝っている。そう思ったユーノは

胸にあるレイジングハートに左手を伸ばそうとして・・・

 

 

「これで・・・」

「あぁ、そうだユーノ。一つだけ言っておく」

 

シリアル5は右手でブレイズハートを避けてに持ち、

そのまま右手の人差し指を上空に向けてピンと立てる。

なにをするんだ?そう思ってユーノは伸ばそうとしていた腕を止めてしまう。

そして――それが、彼の命を救ったのかもしれない。

 

「真下ががら空きだ」

 

シリアル5からその言葉が投げかけられた――その瞬間だった。

ユーノがいる真下の海が光り、そしてその光が上空へと向かう。

その光は、ユーノの左半身の皮を抉り、そして吹き飛ばす。

 

「が、がぁあああああああああああッ!!」

 

「ユゥウウウウウノォオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「ひゃははは!! 惜しかったなぁ、

 後もうちょい前に出てれば苦しまずに死ねたのによぉ!」

 

そんな様子を見て、楽しそうな表情で万歳をするシリアル5。

予定通りに一撃で倒せなかったが、それでもユーノはもう行動できないだろう。

内臓までは届いてないものの、左上半身はもう使い物にならないやけどを負っている。

 

それでもユーノは倒れない。友達を守るために・・・

 

だが、ユーノはもはや飛行魔法ですら正常に使用できないのか、

その体のバランスは崩れ、やがて少しずつ落下していってしまう。

 

「うぁ・・・ああ・・・あぁ・・・!」

「止めとけよ、無茶してもお前は勝てねぇよ・・・

 せめてもの慈悲だ。そこで勝手に散ってろ・・・」

 

もはや興味をなくしたとばかりにそれを見届けたシリアル5は

後ろに振り向きユーノに背を向け、闇の書の意思を見据える。

そろそろ決着をつけよう、そう思いながらだ。

 

しかし、ユーノもただでは終わらない。

 

ユーノは最後の力を振り絞り、背を向けたシリアル5が操るなのはに飛び掛る。

飢えて死ぬ寸前の獣が、獲物に襲うように背後から飛びかかる。

 

それに気づいたシリアル5は驚いたように急いで旋回する。

まさか、あの状態でまだ動けるとは。そう驚きながらだ。

 

そして振り向き終わったとき・・・

 

 

プチッ

 

 

ユーノは血塗られたその左手でレイジングハートを掴み、紐を引きちぎった。

 

「貴様ッ、なぜレイジングハートを・・・!?」

「は、はは・・・僕・・・はね・・・この世界に来て・・・なのはに助けられた・・・

 うれしかった・・・こ、なことに・・・巻き込・・・だのに『ありがとう』・・・

 そう言って・・・笑ってくれた・・・

 

 だから・・・僕だって、なにかしなくっちゃ・・・

 カッコ悪い・・・じゃないか・・・・・・・・・」

 

声が途切れ途切れになりながらも、レイジングハートを持つ手は強く握り締める。

ユーノはシリアル5を尻目に闇の書の意思の方へ向かい、

シリアル5の行く道をふさぐ。目線は闇の書の意思だ。

 

そして・・・思いのすべてを込めて叫んだ!!

 

 

「なぁのはぁああああ!!!みんなぁ!君を待ってる!!!

 だから・・・受け取ってくれぇえええええええええええーッ!」

 

そのまま右手にレイジングハートを持ち替えて、力の限り振りかぶる。

左半身のあまりの痛みから体全体ではなく、腕の力だけでだが、

放たれたレイジングハートは放物線を描きながら、闇の書の意思の右手に収まった。

 

「よくやった!!ユーノ・スクライア!!」

 

その言葉を聞いて、ユーノは満足げに笑う。

だが・・・そこへ、無慈悲な一撃が彼を襲った。

 

ザシュッ

 

 

「ぁ・・・・・・・・・」

「ジャマだぁ」

 

いきなり訳のわからないことをされ、怒り食ったシリアル5の一撃。

それはユーノの腹部にクリーブモードのブレイズハートを突き刺すことだった。

ものの見事に貫通したそれは、ユーノの腹部から血に染まった姿をさらけ出す。

 

「ひゃはは、バーカッ」

 

シリアル5は嘲笑うように無常にも、それを引き抜く。

ユーノの腹部から押さえられていた血が大量にあふれ出す。

そして、ユーノは虚ろな目のままその体は海に向かって落ちていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ふん、雑魚の分際で何をしているんだか」

「それはどうかな」

 

シリアル5のその言葉を否定したのは闇の書の意思。

その目には怒りの表情が見え隠れしていたが、シリアル5は気づかない。

 

「あん?やっとこっち向いたと思ったらなんだ・・・」

 

よ、と言おうとしたがシリアル5は言うのを中断する。

 

「うぉおおおおおおおおッ!!!」

 

それは闇の書の意思が珍しく、大声で叫びながら突撃してきたからだった。

 

シリアル5は、今更そんなものは怖くない。受け止めてやる。

そう思いながら闇の書の意思の攻撃に備えようとしたときだった。

 

ガシッ

 

突然、体の自由が利かなくなったのだ。

そして、その理由はすぐに判明した。

 

「なっ・・・!!?」

「・・・ま、だ・・・僕は・・・たお・・・れ・・・」

「な、お前まだ・・・ッ!?」

 

それは・・・まだ倒れるわけには行かないユーノが

シリアル5が操るなのはの両腋の下から自らの両腕を通して、

羽交い絞めしたためだった。予想外の事態にシリアル5は正常な判断ができない。

まさか、あそこまでダメージを与えてまだ動けるとは思わなかったからだ。

ユーノを払いのけようと意識をそちらに向けた瞬間だった。

 

「うぉおおおおおお!!」

「ぐぼぉ・・・」

 

闇の書の意思がやった行動・・・

それは左手に持っていたレイジングハートをなのはの胸へと押し当てること。

ジュエルシードの魔力光で光るその胸で、レイジングハートが眩く光る!

 

「ぐあああわあああああ」

 

その光はやがてジュエルシード・シリアル5の放つ光を押し返す。

そして辺りの空間はその光によって包まれようとしていた。

 

「目覚めよ!我が主、高町なのはぁあ!」

 

闇の書の意思は懇親の力を込めてさらにレイジングハートを押し込む・・・

高町なのはの体を中心に桜色の輝きが広がっていった。

 

その光を見ながら、シリアル5は開き直ったように言う。

 

「ちっ、ここまでか。まぁいい。光あるところに闇があるように

 闇が輝く限り、また光も照らす・・・。また会おうなぁ、なのはぁ」

 

・・・それを最後にジュエルシード・シリアル5の意思は消え去り、

高町なのはは真の体の主の心を取り戻した。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

本当に無茶しちゃって・・・わたしのために・・・

ユーノくんが血まみれになりながらもわたしを守ってくれた。

 

「ユーノ・・・ッ」

「なのはちゃん!早く戻ってあげてぇな」

「うん、わかってる。今ならまだ間に合うはず。フェイトちゃん!」

 

わたしはここからの帰り方はわからない。

知っているのははやてちゃん以外にはフェイトちゃんだけ

そしてはやてちゃんはまだ出られず。フェイトちゃんはでなければならない。

 

「うん、はやて。必ず助けるから待ってて」

「うん、わかった。それじゃあ・・・また外でなぁ」

 

そう言うとはやてちゃんの体が光の粒子になり、そして消えていった。

はやてちゃんの本当の意思は本来ここにはないらしく、今いたのは幻影。

本当の意思は闇の書の管制人格さんと一緒に居るらしい。

本人が来ることも可能ではあったが、コントロールが取り返せないので

素っ裸らしい・・・それは来れないよね。フェイトちゃんは会ったらしいけど

 

「それじゃあ、なのは・・・掴まってて」

「うん」

 

フェイトちゃんの言葉にわたしは頷き、差し出された右手を左手でギュッと握る。

そしてフェイトちゃんの導きの下、わたしは闇の書の外へと出て行った。

 

途中でわかれて、わたしはレイジングハートの内部に入り込む。

レイジングハート自身の意思は今は眠っている。

 

そこで会ったのはついさっきまでいたのに、懐かしさを感じる人。

 

『やっと帰ってきたね』

「うん、ごめん・・・わたしのせいで」

『気にしないで、わたしも咄嗟にしちゃっただけだから・・・』

「・・・わかった。もう何も言わないよ」

『助かる』

 

わたしの・・・もう一つの面。

暴力なんか嫌いで、皆に優しく、空が大好きで、機械が好きな子。

バトルマニアで、皆には悪魔みたいな笑顔をして、海が大好きで、

機械よりも自然が大好きなわたしとはまた違った存在。

 

でもどちらも『高町なのは』で、どちらもなくしちゃいけない存在。

はやてちゃんとフェイトちゃんはそう言ってくれた。

わたしも・・・皆に必要とされているんだ。

 

『ふふ、わたしたちはもうすぐ融合しちゃうけど・・・

 わたしたちも約束ってものしてみない?』

「約束?」

 

さっきのに一つ追加、このこ意外とお茶目だ。

 

『うん、たとえどんな困難にあっても、決して負けない不屈の心で

 空に向かって飛び立って行こうって約束・・・どうかな?』

 

本当に空が好きだね。

 

「いいよ。約束。レイジングハートが作る不屈じゃない。

 ちゃんとした不屈の心を持とう・・・」

 

そう言ってわたしたちは指切りをした。

 

『それじゃあ、お別れだね』

「そしてそれが・・・出会いでもある」

 

その言葉を最後に、わたしとなのはちゃんは融合する。

意識が、心が・・・一つになり「高町なのは」は再誕したのだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「本当に無茶しすぎだよ・・・ユーノくん」

 

そう言いながらなのははユーノに治療魔法をかける。

怪我や体力はまだ治せない。だが、致命傷となる傷はその莫大な魔力で治せる。

そんな傷口を塞いでいくとユーノが意識を取り戻す。

 

「なのは・・・」

「うん、帰ってきたよ」

 

目の前のなのはは本物のなのは。そう認識したユーノはこういった。

 

「おかえり・・・なのは」

「ただいま、ユーノくん」

 

現在、なのははユーノをお姫様抱っこしている状況なのだが、

それに突っ込みを入れるものは誰もいない。厳密には通信が回復したアースラが

初めて映したのがこのシーンなのだが、それはまた別の話。

 

そのころフェイトによってようやく抜け出せたアルフとフェイトが近づいてくる。

アルフは体の調子を確かめながら、申し訳なさそうにユーノに向けていった。

 

「悪かったなぁ、ユーノ・・・なにもできなくて」

「ううん、大丈夫・・・気にしないで・・・」

「それじゃ、アルフさん。ユーノくんをよろしくお願いします」

 

ユーノをなのははアルフに任せ、フェイトのほうをむく。

 

「フェイトちゃん・・・」

「うん、わかってるよ。なのは・・・」

 

お互いに頷きあうと二人は闇の書の意思のほうをむく。

その動きは止まっているが、魔力量はむしろ増大していた。

そして二人に対し、闇の書の意思から思念通話が入る。

 

【なのは、フェイト聞こえるか?】

【うん、聞こえるよ】

【現在、防衛プログラムは私が食い止めている。

 今から管制人格とはやてに繋ぐ。対処法は二人から聞いてくれ】

 

そう言うと闇の書の意思は一方的に思念通話を切った。

次に聞こえたのは念話でも思念通話でもなく、この空間に響く声だった。

 

 

『な・・・はちゃん! なのはちゃん聞こえるかぁ!?』

「うん!!聞こえるよはやてちゃん!」

『そうかぁ、よかったよかった』

 

目の前の闇の書の意思ははやての声が聞こえ始めてからは動きを見せていない。

おそらくははやてが一時的に体のコントロールを奪っているのだろう。

 

「それで?はやてちゃんたち出れそう?」

『まあなぁ・・・ただ一つ問題があってやなぁ・・・』

「どうしたの? はやて?」

 

どもるはやてに対し、フェイトは問う。

ここで妙な問題があってはすべてが台無しだからだ。

はやては黙っている理由もないので答えた。

 

『魔導書本体からのコントロールは切り離したんやけど・・・

 防衛プログラムが現出してると管理者権限が使えへん

 どうにかしてその子に魔力ダメージ与えてくれへんか?』

「・・・ユーノくんの言ったとおりだったね・・・」

 

なのはは少しにやりと口元を上げながら笑うと言った。

そして、戦いに傷つき今は眠っているユーノに向けて・・・

 

「ありがとう・・・ユーノくん」

 

起きている間は少し恥ずかしくていえなかったことを言った。

 

そのとき闇の書の防衛プログラムは闇の書の意思からの妨害を遮り、

再びなのはたちを攻撃しようと行動を再開しようとしていた。

グギギと効果音をつけるのがふさわしいだろう、そんな機械的な動きだった。

 

「なのはッ!!」

「ん?・・・なにこれ?」

 

突然、アルフから投げ渡されたのは見たことがない色合いをしたカートリッジ。

色は紅い色をしていて、側面には緑色で『B』と一つ頭文字がある。

投げ渡したアルフの代わりに、フェイトがそれの説明をしてくれた。

 

「それはね。なのは。ジェイルさんが作ってくれたワクチンプログラム。

 これを使えば、はやてと闇の書を分離できるはずだよ」

「なるほど、OKわかったよ!レイジングハート?起きてる?」

 

その説明でとりあえず何かを理解したなのははレイジングハートに声をかける。

シリアル5の膨大な魔力でシステムダウンしていたが、なのはの魔力で復活する。

 

《ギ、ギギ・・・システム回復しました。おはようございました。マスター》

「うん、ありがとうレイジングハート。状況は理解している?」

《大体は・・・》

「ならいいや、これロードして、セットアップ」

 

そう言ってなのはボレロカートリッジをレイジングハートに突っ込むとセットアップ。

ストロングルナモードからセイクリッドモードへ、かわいそうなので

ブレイズハートは待機モードからガンローダーモードにしておいた。

 

《Load Borelo Cartridge》

 

なのはの指示により、レイジングハートはボレロカートリッジをロードする。

 

「なら私たちも・・・いくよ、バルディッシュ」

《Load Tannhauser Cartridge》

 

バルディッシュもまた、タンホイザーカートリッジをロードする。

 

二人がカートリッジをロードすると同時に二人のリンカーコアが共鳴する。

不思議な感覚だった。こんな副次効果があるのかとなのはは納得する。

 

負ける気がしない。そう思いながらフェイトにコンタクトする。

使う魔法は二人で使うアレしかない!

 

「行くよ!フェイトちゃん!!」

「うん、行くよ!なのは!!」

 

二人が放つのは二人で考えたコンビネーション空間攻撃。

なのはによるバレルフィールド展開後、魔力をフェイトのザンバーの刀身に集中する。

 

「全力、全開ィッ!!」

「疾風ゥ・・・迅雷!!」

 

掛け声と共にフェイトが自らの魔力を乗せた斬撃による威力放射をし、

闇の書の防衛プログラムの動きを完膚なきまでにその場に結い止める。

 

そしてなのはとフェイトはレイジングハートとバルディッシ・アサルトを重ね合わせる。

その重ねあわされた部分から、桜色と金色の魔力があふれ出し、やがて融合する。

 

ここから放たれるのが、なのはのエクセリオンバスター・フォースバーストと

フェイトのプラズマスマッシャーでフィールド内を満たすことで完成する空間攻撃・・・

 

「「ブラストォオ・・・カラミティイイイイイ!!!!」」

 

刹那・・・脈打つ桜色と金色の光の柱は煌びやかに輝き、

まるで莫大な魔力を持つ津波のように、極めて高密度の魔力奔流は放たれ、

一直線に空中に磔にされた闇の書の防衛プログラムを飲み込んだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱり二人は敵に回したくあらへん・・・おっそろしい攻撃やなぁ・・・・・・」

「魔力量ならば主はやてのほうが上ですが・・・」

「魔力量だけ勝っててもなぁ・・・・・・まぁ、えぇか・・・まずは約束を守らへんとなぁ」

「約束・・・ですか・・・・・・」

 

管制人格ははやてに対して聞き返す。

少し前のことだが、彼女達はその約束をきちんと覚えている。

はやては管制人格のやわらかい頬を両手で優しく包みながら、語りかける。

 

「名前をあげる。もう闇の書とか、呪われた魔導書何て言わせへん・・・・・・

 闇の書の呪いとか、血塗られた運命(さだめ)なんて下らない物に縛らせへん

 もう、なのはちゃんみたいな犠牲者を出さなくてもいいように・・・

 

     夜天の主の名において、汝に新たな名前を与える。

 

            強く支える者

            幸運の追い風

            祝福のエール

 

                     ──リインフォース!」

 

管制人格・・・リインフォースは主に名前を与えられること。

それがいかに歓喜をもたらすものかをたった今、知った。

初めて、彼女は微笑むと言う表情をした。

 

「リインフォース。それが私の名前・・・」

 

彼女は呪われた魔導書として何百年もの時を渡り、幾多の人の命を奪い去ってきた。

 

そのような自分に、希望と祝福の願いを与えられて、

それをそんな素直に受け入れていいのかと彼女は思った。

そんな様子のリインフォースにはやては言った。言ってあげた。

 

「リインフォースはな、私にとって希望の象徴なんや。

 闇の書のおかげで私は家族と一緒に・・・友達と一緒に過ごせた。

 そして、これから未来を生きていく希望。そのことに私は本当に祝福してる。

 これからあなたは私を太陽のように強く・・・月のように優しく支えてくれる」

 

「私が・・・・・・」

 

「だからこれからも一緒に居てくれへん?家族として」

 

そういうとはやては右手を差し出す。

リインフォースは迷わずにその手をとった。

 

「ありがとうございます。我が主」

 

リインフォースはその希望と祝福の名前を受け入れた。

そして、なのはとフェイトの攻撃によって防衛プログラムが停止する。

 

「防衛プログラム、過剰負荷により機能を一時的に停止・・・。

 これより闇の書、管制人格『リインフォース』は、八神はやてを新たな主とし、

 夜天の魔導書として再起動します。

 

 ワクチンプログラムも正常に効いています。

 しかし残された膨大な魔力と防衛プログラムは止まりません・・・

 いずれ暴走を始めるでしょう・・・」

 

「まぁ、最初からそれはわかっとったことやし・・・

 それは何とかする・・・ さ、行こうかリインフォース」

 

そう言うとはやては目の前の夜天の魔導書を優しく抱きかかえる。

 

「はい・・・我が主・・・」

 

光は広がる・・・闇の書を包み込むように・・・

そして、それが最後の戦いを告げるギャラルホルンの笛でもあった。

 

 

 

 

 

 

 




 
ユーノくんは生きてます。勿論

なのはは二重人格ではなく二面性があっただけです。
だから今後なのはちゃんと分かれることはないです。
似たような感じに分かれるときはあるかもしれませんが・・・

そして・・・彼女はいったい・・・


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SAGA 34「輝けるものたちへ」

ハイパーフルボッコタイム
まぁ、パル転とそこまで大きく変わったわけでもありません。

せいぜいディスティンとパルキアがいなくなり、
代わりにシグナムがファントムフェニックスを放ったことくらいかなぁ(ヲイ)

それではどうぞ!!


 

 

 

 

闇の書の防衛プログラムだったものは二つの光の塊へと分かれていた。

一つはどす黒い・・・そして苦々しくどこか悲しい闇のヒカリ・・・

もう一つは光はとても明るく優しく人々を包む白き光・・・

 

そんな二つの存在が輝く中、彼女達は再び現世へと現出する。

 

近くに感じる家族達にはやては微笑み、

書の表紙の中央に設えられた剣をモチーフにした十字の紋章を手に取り、

包み込み、胸に抱き、祈りを捧げるように目を瞑り呟いた。

 

「おいで、私の騎士達」

 

何もないはずの光の雲霧の中に、朱、緑、青の光の粒子が出現し、

それぞれの粒子の下側にそれぞれの色の光を放つ魔法陣が土台のように出現した。

 

そしてそこに立つは彼女の守護騎士たち・・・

 

『我ら、夜天の主の下に集いし騎士』

 

『主ある限り、我らの魂尽きる事なし』

 

『この身に命ある限り、我らは御身の下にあり』

 

『我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に』

 

そして、守護騎士達が口上を終えるのと同時に、純白の球体が砕け散る。

 

「夜天の書よ、私に杖と甲冑を・・・。祝福の風『リインフォース』セェットアップ!!」

 

はやての手の中に剣十字が舞い降り、続き服が現出し、髪は銀に、

目は紺碧へと変わりし、背中に三対の黒い翼が展開される。

 

守護騎士達は、はやてが無事であることを確認し涙を流す。

そんな自分の騎士達に、はやてはただただ優しく言う。

 

「おかえり、みんな」

 

その言葉を聞いてヴィータがはやてに泣きながら抱き着く。

そんなヴィータをはやては優しく抱きしめてあげる。

その光景を、残りの騎士達も穏やかな眼で見守っていた。

そして・・・・・・

 

 

「おかえりはやてちゃん」

「「おかえり、はやて」」

「「おかえり」」

「おかえりなさい」

 

各人言い方に差異はあるものの、皆がはやての帰りを祝福した。

その時、はやての後ろに何かが転送された。

厳密には物ではなく人だった。

 

「遅れてすまない。ようやく転送できるようになったんだ」

「構わへんよ。今から一緒に戦おう」

 

氷の杖『デュランダル』を構えるクロノ・ハラオウン・・・

役者はここに集った。そして始まる・・・

 

長久のときを経て・・・闇の書の闇との最終決戦

 

深い闇の塊がアクアボリスの海・・・もはや結界すら完全破壊され、

表面が露出している海の上に佇む中で皆はここに集う。

 

「すまなかった。管理局員として何もできなくて・・・」

「構わないよ。ユーノくんをよろしく」

「あぁ、こいつも・・・もうフェレットモドキとからかえないな・・・」

 

クロノは苦笑いしながら、ユーノを転送魔法にかける。

医療班は現地には直接来ることはできない。だからこちらから送りつけたのだ。

ユーノはまず問題ないだろう・・・ユーノが抜けるのは痛いが、仕方がない。

彼は良くやってくれた。だからもう揶揄(からか)い難いのだ。

 

「さて、私情はここまでにしておいて・・・エイミィ時間は?」

『後数分で暴走が始まるよ。皆気をつけて!』

 

クロノが通信を開いて聞くと、エイミィがそう伝えた。

時間もあまり残されていない。そう感じながらクロノは皆に指示を出す。

 

「わかった。では作戦を説明する。

 大部分は理解してもらっていると思うが、今回やることは大まかに三つだ・・・

 一つは暴走する防衛プログラムを守る外壁を破壊すること。

 外壁は物理、魔力個別に耐性があり、順番に攻撃する必要がある。

 本来はなのはにも参加してもらいたかったが、あれだけのことがあったんだ。

 今回、君はサポートを頼む。かわりにフェイトの仕事が増えるが・・・」

 

「うん、構わないよ」

 

「私も平気、まだまだ魔力は有り余っているから」

 

なのはは無茶をする気はないので素直に頷く。

フェイトは左腕をグッと握りながら了承した。

 

「よし、攻撃の順番はフェイト、ヴィータ、シグナム、フェイトだ。

 それぞれ魔力、物理、魔力、物理だ。頼むぞ」

「あぁ、わかった」

「了解した」

 

二人の騎士は頷く。

 

「アルフとザフィーラはなのはと一緒に援護に回ってくれ」

「「「わかった」」」

 

「これが第一の作戦だ。第二は防衛プログラムの外部フレームの破壊」

 

「私とクロノくんで動きを止めて、そこに私達の最大の攻撃を打ち込む」

 

「ただ予想よりも本体のフレームが強力そうだ・・・

 最悪二発目を撃ってもらうことになるかもしれない・・・」

 

「そこは了解したよ。なのは、援護よろしくね」

「うん、わかったよ。まかせて!ユーノくんの分も頑張るよ」

 

フェイトの言葉になのはは拳を握りしめ、そう言い返した。

自分のために力を尽くしてくれたユーノのためにも頑張らなければならない。

 

「そして最後はシャマルがリンカーコアを露出させ、

 アルフの援護の元、上空待機するアースラの目の前まで転送。

 アースラに装備したアルカンシェルでコアを消滅させる・・・」

 

それが理想・・・だが、実現できなければ皆は明日の光は拝めない。

 

「ではこれより作戦を開始する。皆・・・頼んだぞ」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

クロノの言葉とともに全員がそう宣言する。最終決戦・・・その幕開けだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

やがて暴走を始めた闇の書はその闇を食い破りアクアボリスに現出する。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

その姿は禍々しく、シグナムたちが今まで蒐集してきた

生命体の集合体のような見た目をしていた。

 

その言葉に表せない不快な泣き声がアクアボリスの大気を震わせ、

一面に広がる海を揺らしていた。凄まじい魔力だった。

 

擬似生体部品で構築された柔軟な体と、脚部や胸部の外皮を覆う硬質装甲の肉体は

まるで滅亡をたくらむ邪神のように――海上に禍々しく佇んでいた。

その姿を見て、夜天の魔導書の主はやては言う・・・

 

「夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム・・・闇の書の、闇」

 

その言葉を合図になのはとアルフは魔法を発動する。

 

「チェーンバインド!!」

「ディバインシューター・アクセルブースト!!」

《All right. My master》

 

チェーンバインドは闇の書の闇から出ている触手を縛り、そして粉砕する。

そしてディバインシューター・アクセルブーストはレイジングハートによって

加速された魔力弾。出現した触手を手当たり次第にぶち抜き破壊する。

 

「縛れ、鋼の軛!!」

 

さらにザフィーラの使用する拘束魔法が新たに出現した触手たちを薙ぎ払った。

末端部分とはいえ、一度に破壊されたため闇の書の闇は悲鳴声を上げる。

 

「それじゃあ、フェイトちゃん!ヴィータちゃん!」

 

シャマルの合図と共にフェイトが魔法陣を展開し、魔力を開放する。

 

「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・アサルト!行きますっ!」

 

加速・増幅用の環状魔法陣が複数生成されて、

展開されていた魔法陣が、更に輝きを帯びる。

そしてカートリッジ4発をロードした。

 

「撃ち抜け、轟雷!プラズマ・・・スマッシャーッ!!」

 

フェイトの目の前に自身の身長を越える大きさの巨大な光球が展開。

そして左手でそれを押し出して、雷撃を帯びた砲撃を放つ。

 

それは砲撃を撃たせまいとする防衛プログラムによる攻撃ごと砲撃で蹴散らす。

 

さらに巨大な環状魔法陣が光球の周囲を囲み、更に魔力を加速させる。

そして放たれた砲撃が、バリアに突き刺さる。

 

「トドメのぉお・・・シューーーーーートッッッ!」

 

そしてとどめの砲撃の中心に最大級の魔力をもって放たれた砲撃は、

圧倒的な魔力量をもって防衛プログラムのバリアを対消滅させた。

 

「鉄鎚の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

《Gigantform.》

 

宣言とともにカートリッジが三発ロードされる。

 

それは鉄槌の騎士。最大威力の物理攻撃。

巨大な・・・巨大な大槌となったグラーフアイゼンがヴィータの頭上へと上げられる。

そしてその大きさ似合わない小さな主がそれを振り下ろす。

 

「轟天、爆砕!ギガント・・・シュラーーーークッッッッ!」

 

致命的なまでの質量と破壊力は圧倒的な物理的強度を持つ

闇の書の第二層バリアを粉々に叩き割った。

 

 

「次、シグナム!」

 

その言葉に高密度の魔力を帯びたシグナムが閉じていた目を開ける。

 

「・・・剣の騎士、シグナムが魂。炎の魔剣、レヴァンティン

 刃と連結刃に続く、もう一つの姿・・・」

《Bogenform!》

 

鞘から抜き放った剣の柄を鞘に連結させ、形を変質させる。

その形は弓・・・刃と連結刃に続くもう一つの姿・・・

 

シグナム魔力で出来た弦を引き、形成された矢を構える。

カートリッジ2発をロードし、鏃に魔力が集束する。

 

末端から炎を噴出し、まるで翼を広げたようなその姿は

隼というよりは、まさに不死鳥と言うべきものだった。

 

「翔けよ、隼ぁっ!」

《Sturmfalken!》

 

音速を越える隼の刃はやがて炎を纏いし不死鳥となる。

燃え滾る不死鳥はアクアボリスの大気を揺るがし、真下の海を蒸発させる。

 

放たれた貫通力に優れた一撃は四層目のバリアに大きな風穴を開け、

爆炎と衝撃波で第四層の魔力障壁を粉々に粉砕した。

 

 

 

「次、もう一度フェイトちゃん!」

「はい、フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・ザンバー、行きます!」

 

その声にフェイトが、身の丈の倍ある雷の大剣を構え答える。

バルディッシュ・アサルトのフルドライブ形態、ザンバーフォームだ。

カートリッジを2発ロードして剣を一度大きく振るい、

物理的破壊力を持つ衝撃波が途中の触手や砲台を斬り飛ばす。

 

天空へとその刀身を向けると、その身を雷が纏う。

 

「撃ちぬけぇええ!!雷ッ神ッ!!!!!」

《Jet Zamber.》

 

黄金の光を放つ雷の剣がバリアを真っ二つに切り裂き、その下の本体までを叩き切った。

再生できるとはいえ、体を切り裂かれて闇の書の闇は叫び声を上げた。

 

そして闇の書の闇は大技を使用したその隙を突こうと

海面から触手状の魔力砲台を浮かび上がらせる。

しかし、その攻撃はザフィーラとなのはによって防がれる。

 

「盾の守護獣ザフィーラ、砲撃など、打たせんっ!!」

「ディバインシューター・フルドライブッ!」

 

鋼の軛が全ての砲台を貫き、爆破させ、

なのはの回転するディバインシューターが闇の書の体ごと、

触手を発生させていた部分を抉り取った。なのはのちょっとした復讐である。

 

「はやてちゃんっ!」

「彼方より来たれ、宿り木の枝・・・」

 

闇の書・・・いや夜天の魔導書の項が開かれる。杖を掲げ、詠昌に入るはやて。

6本もの輝き照らす光の槍が闇の書の闇に向けて穂先を合わせる。

 

「銀月の槍となりて、撃ち貫け!石化の槍、ミストルティンッ!」

 

バルドルを死に至らしめたアイテムとして名高い枝『ミストルティン』

その名を模した槍が次々と刺さり、刺さった場所から全体が一気に石化していく。

 

むやみに動かそうとした闇の書の闇の体は崩壊。

ミストルティンで石になった場所が次々と崩れ落ちていく・・・

そして、それを補うかのように中から再生が始まっていく。

 

触手がうねうねと石化した部分を払いのけながら、

まるでメタリックな恐竜のような怪物の頭部のようなものが現れる。

 

「「「うわぁ・・・」」」

「あ、アウト・・・アウトや・・・」

 

その蠢く体は確かに見た目は気持ち悪い。

とっとと早めに処理したいとなのはは考えてしまう。

なのははクロノを急かすことにする。

 

「クロノくん!」

「わかったなのは。行くぞ・・・デュランダル!」

《OK.BOSS》

 

既に術式の準備を進めているクロノ。

その手に構える氷の杖『デュランダル』に変換した魔力を送り込む。

そしてその魔力はデュランダル自身によってさらに強化され放出された。

 

「永久なる凍土、凍てつく棺の内に永遠の眠りを与えよ・・・」

 

闇を中心に海が固まりはじめる。

すでに暴走している闇の書の闇を完全封印はできないものの

アクアボリスの海を凍らせることは簡単だった。

 

そしてデュランダルから4機の浮遊ユニットが闇の書の闇の周囲に展開する。

 

「凍てつけっ!」

《Eternal Coffin.》

 

本体の杖から凍結魔力粒子の放射による反応冷凍弾を発射。

その魔力弾の着弾点を中心に巨大な氷柱が出現する。

 

そして溢れた凍結魔力を反射させることで冷凍効果をさらに倍増させる。

 

完全凍結は無理だったものの。その威力は確実に闇の書の闇の動きを止めた。

やがて氷柱が砕け散り、すぐに中核部分は凍結中に再生されてしまったが、

フェイト達の攻撃が照射されるまでその活動をほぼ押さえ込むという任務は果たす。

 

 

「もう一度行くよ。バルディッシュ!」

《Phalanx Shift》

 

フェイトの横一面に数え切れないほどのフォトンランサーが並んだ。

 

「フォトンランサー、ファランクスシフト・・・打ち砕けッ!ファイアッッ!!」

 

 

「ごめんな・・・・・・お休みな・・・闇を貫け、氷結の槍!ブリュ―ナク!!!」

 

悲しげに目を伏せたはやてが、決意を篭めて目を開く。

悲劇を起こすつもりは本来の防衛プログラムにはなかったはずだ・・・

だから、親友を利用されたとはいえ、はやてはやりきれない思いもあった。

だが、彼女はそれを振り切り・・・彼女達はそれを振り切り魔力を込める。

 

もう誰も傷つけさせない・・・ここで終わらせる!!

 

そして、二人が一斉にデバイスを振りかぶる。

 

大量の魔力弾が動きを止めた闇へと突き刺さる。

魔力弾はその莫大な数と威力で、闇の書の闇の外殻を破壊する・・・

しかし、外殻が破壊されただけ、まだコアを露出させることができなかった。

 

「これでも・・・駄目なのか・・・」

 

【おそらく666項・・・・・・

 完全に蒐集されている中でテスタロッサと高町の魔力を蒐集したために

 エネルギーがオーバーフローし、それが強固なバリアとなっているのだろう。

 このままでは再び再生されてきりがなくなる・・・】

 

クロノの言葉にはやてとユニゾンしているリインフォースが補足説明をする。

いまや、防衛プログラムは並みの攻撃を受け付けない状態だった。

 

その様子を見て、なのはは一人思う。

 

(・・・ジュエルシードの力を使えば・・・もしかしたら・・・だけど・・・それは)

 

―そのときはお前の心が完全に砕け散る。いいのか?

 

自らの問いに答える声、それが示すのはなのはの心の崩壊。

 

シリアル5の意思が封印されているなかでの

ジュエルシード使用は今のなのはには自殺行為だ。

 

魔力をコントロールしきれなかった場合。

リンカーコアに直接大きなダメージを受けるだけではない。

 

大きな魔力のオーバーフローにより、なのはの心に莫大なダメージが加わる。

自らの心が壊れることはほぼ確実と言えるのだ。

 

だが、なのはは決意する。

 

(どちらにしろこのままじゃ皆死ぬ!だったら・・・可能性に賭ける!!)

 

あきらめない。約束を少しでも守りぬける可能性があるほうを・・・

なのはは初めて『無茶』をすることにしたのだ。

そしてなのははとんでもないことを言い出した。

 

 

「皆! もう一発、大きいの撃つよ!! 私も含めて!」

「「えぇええええ!!??」」

 

先ほど撃ったばかりの二人はなのはのその台詞に驚く、

一応、まだ二人とも与力はあり撃てる事には撃てる。

しかし、心が一度崩壊したなのはが戦うというのは驚くほかない。

 

ただでさえこの数か月間寝たきりの生活をしていたのだ。

二人はなのはにそんな無茶なことをさせたくなかったが、彼女は引かなかった。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫、これがラスト。最後は皆で笑わないとね」

 

なのははそう言いながらレイジングハートを構えなおす。

レイジングハートは主の真意を悟り、残されたカートリッジをすべて使用する。

 

「ブラスタァアアアアアアアアアア スリィイイイイイイイイイイイイイイ!!!」

 

一度決意した。だから彼女は加減しない。

たとえ心が砕け散り、生命の炎が燃え尽きようともだ。

レイジングハートには悪いとも思ってはいたが、なのははもう一度平和な空を飛びたい。

 

心がなくなっても皆との絆は変わらないから・・・終わらないから、

皆を助けるために力のすべてを、なのはは出し切る!!

 

ジュエルシードの力を解放する・・・たとえこの身が砕け散ろうと・・・

 

放つべきは・・・なのはの持つべき究極の技。

魔法操作、魔力散布に次ぐもう一つの切り札の集大成!!

 

 

「・・・そうだね・・・ここで諦める訳にはいかない!」

 

フェイトはそう言ってバルディッシュにカートリッジをロードさせる。

今回持ってきた分、すべてを・・・なのはの決意のために使い切る。

 

ちょっとでも間違えれば暴発しそうな魔力を的確にフェイトはコントロールする。

 

その時、バルディッシュの中に搭載されたJSエンジンがエネルギーを発した。

 

生真面目なフェイトはJSという単語を聞いて、

作り上げたジェイル・スカリエッティのイニシャルだと思っていた。

 

しかし、その真の正体は彼が暇つぶしになのはの体に取り込まれた

ジュエルシードを解析、魔力炉としての機能のみを残した複製品だったのだ。

 

JSとはジュエルシード・・・JSエンジンの力。

それは持ち主の願いを糧にエネルギーを出す超進化動力体!

 

フェイトのカートリッジフルロードと彼女の願いに反応、

そして、なのはの本物のジュエルシードと共鳴することによって起動したのだ。

JSエンジンから膨大な魔力がバルディッシュ、そしてフェイトを覆っていった。

 

「今度こそ、皆で笑うんだ・・・そして私は未来へと進む!!

 雷光・・・一閃! プラズマザンバー・・・!」

 

フェイトは高速で儀式魔法を展開。雷を発生させ、

そのエネルギーをザンバーフォームの刀身に蓄積させる。

 

バルディッシュ・ザンバーの刀身に雷のエネルギーが溜まっていく・・・

煌めく未来へと突き進むためのの一撃を放つための・・・力が・・・

 

 

『主はやて』

「うん、わかっとるよ、リインフォース・・・もうこれは私だけの問題やない・・・

 世界の人々を守るために・・・絶対に負けられない戦いなんや・・・!」

 

今度こそ、この血塗られた運命に決着をつける。

はやては自らの杖に自らが持ちうるすべての魔力を込める!!

 

リインフォースと二人で一緒に彼女は杖を振るった。

 

「響けっ」

『終焉の笛!!』

 

 

『「ラグナロクッ!!!!!」』

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「・・・ありがとうレイジングハート・・・こんなことに付き合ってもらって」

《いえ、私はマスターとともにあります。マスターの願いは私の願いでもあります》

 

レイジングハートはマスターであるなのはの心・・・

いや、失敗すれば自らもしにかねない賭けに乗ってくれた。

 

なのははその期待を裏切るわけには行かないと気を引き締める。

 

「・・・そう。それじゃあ、やろう!!レイジングハート!!」

《All right my master.》

 

ブラスターモードによって高まったなのは自身の魔力・・・

しかし周りに散らばっている魔力だけではまだ倒すには足りない。

なのはは覚悟を決めて、なのは最強の技をさらに越えた究極技の準備を始める。

 

この『アクアボリス』がある世界全体・・・

そこに存在する残存魔力すら、なのはは貪欲に集束し始める。

 

「いくよ・・・レイジングハートッ!!!」

 

《COSMIC STAR LIGHT BREAKER!!》

 

「・・・集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す

 荒ぶる魂を昇華させ、未来に向かって突き進めッ!!!!!」

 

それは詠唱・・・なのはが奏でた詠唱により、

魔力はさらに集束を始める。集まった魔力が様々な色を持っているため

虹色の中に銀色に光る魔力光という光の球体を作り上げていた。

 

脈打つその光は、集束し大きくなってはなのはによってサイズを小さくされ、

また大きくなっては小さくされ・・・と着実に圧縮される。

 

爆発寸前まで圧縮された魔力はやがて

なのはの身長の三倍になろうかというほど大きくなっていた。

 

そして魔力の完全集束を完了したなのはは叫ぶ!

 

「コズミックゥ!!スタァアライトォオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

三人の魔導師は自らの最高の力を持って、今それを放った!!!!

 

「「「ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」

 

三人のエース級魔導師による超巨大砲撃は、

闇の書の闇の残された内部フレームに直撃。

 

空間を湾曲させようというその魔力は大爆発を起こし、

さきほどのはやてとフェイトの大多数の魔力弾の連打ですら

外部しか破壊できなかった闇の書の闇の外装フレームを

その圧倒的エネルギーで一気に削り落とした。

 

しかし、それでも闇の書のリンカーコアは破壊できない。

だが、それでも構わない。トドメは彼女に任せた。

 

パリン――――――

 

その時、なのはは壊れてしまってはいけない何かが壊れる音を感じた。

 

(く・・・砕けた・・・。わたしの中で何かが砕けた・・・決定的な・・・何かが・・・)

 

そう思いながら・・・なのははその意識を手放した・・・

 

 

 

 

 

「本体コア露出・・・捕まえ、たっ!」

 

闇の書の闇の殻が破壊されたことにより、コアが露出。

再生するより先にシャマルがそのコアを捕獲することに成功する

 

「長距離転送!」

「目標、軌道上っ!」

 

アルフと協力して長距離転送を行う。

緑と燈色の魔法陣がコアを挟むように展開され、

逃走を阻むと同時に強制転送魔法を発動させた。

 

「「転送っっ!」」

 

残骸と化していた闇の書の闇を巻き込み、光の道をコアが高速で駆け上がって行った。

 

 

「コアの転送、来ます!」

「転送されながら、生体部品を修復中!凄い早さです!」

 

「アルカンシェル、バレル展開!」

 

使用認証を即効で終わらせ認証すると、

アースラの前方に直径数十mにもなる環状魔法陣が展開されていく。

 

撃ち出される弾体自体に攻撃力はほとんどないが、

着弾後一定時間の経過によって発生する空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する魔導砲・・・

 

それが『アルカンシェル』

 

「ファイアリングロックシステム、オープン。

 命中確認後、反応前に安全距離まで退避します。準備を!」

「「了解っ!」」

 

リンディは目の前の球体についた鍵穴に真紅の鍵を差し込む。

 

そして、その緑色だった球体は赤く染まり、

アルカンシェル発射のための最終確認装置が解除された。

 

強制転送魔法によって闇の書の闇がアースラの前方に姿を現す。

 

うじゃうじゃと職種を出しながら再生している闇の書の闇。

眼前にそれを見るリンディの心境は複雑だった。

 

しかしリンディは単なる夫の復讐のためではなく、管理局提督としてこれを放つ

グレアムの、リーゼ姉妹の、クロノの、はやての、・・・そしてなのはの思いも込めて

 

「アルカンシェル、発射っ!」

 

最後の鍵が捻られる。

 

一筋の閃光が本体コアを正確に貫く。一拍遅れて巨大な空間歪曲が発生。

その効果範囲は発動地点を中心に百数十キロに及び爆発、四散した。

 

数百年にわたって災厄を撒き散らした闇の書・・・

いま、それは完全に消滅した。

 

 

「効果空間内の物体、完全消滅。再生反応、ありませんっ!」

「・・・準警戒体制を維持。もうしばらく反応空域を観測します」

「了解っ!・・・という訳で、現場の皆お疲れ様でしたっ!

 状況、無事に終了しました!」

 

エイミィのそんな喜びの声が、アースラと現場に響き渡った――

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「「良かったぁ・・・・・・」」

 

極度の緊張状態から解放されて、力を抜く二人。

そして現実をもう一度認識した後、二人で向き合い。

そしてお互いの手を当ててハイタッチをした。

 

やく数ヶ月かけてずっとやってきたことが、たった今報われたのだ。

周りでは守護騎士も含めて勝利を祝っていた。

 

だが、そのときはやては気づく。なのはだけが全く反応していないことを

 

「なのはちゃん?」

 

はやてが呼びかけるが、返事はなかった。

そして突如ふらりとなのはの体がぐらつく。

 

「!!なのは(ちゃん)!!!」

 

倒れこんで落下しようとしていたなのははフェイトとはやてに支えられる。

 

「艦長!!至急医療班を!!」

「なのは!!」

 

体を揺らされても、なのはに反応はない・・・

だが、それだけならばまだ良かったのだ・・・

 

パリーンッ・・・

 

何かが割れるような・・・甲高い不快な音がその場に響く

それは彼女の最愛の相棒・・・

 

「レイジングハート・・・!?」

 

最高の相棒レイジングハートがその役目を終えたように・・・

その体すべてが粉々に砕け散った音だった・・・

 

そして・・・アクアボリスに響いた一陣の風が・・・

その破片を塵のように空へと飛ばしていった・・・

 

この日・・・二つの心はこの世から消え去った・・・

 

 

 

 

 

 




 
パル転と違いコアまで完全に風化したレイジングハート・・・
果たして無事なのか!?・・・まぁ、主人公機だし・・・

今回はフェイトさんが頑張りすぎちゃったかな?
まぁ、今後出番はなくなるのでこれが最後の輝きかも・・・



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SAGA 35「光りある世界の果てへ」

今回は事後処理です。
いろいろと伏線だけ張って、BoA編に行きます。
それではどうぞ!!

そして次回最終回です。


 

 

 

 

『・・・・・・ここは・・・?』

 

なんだか白い空間だなぁ、とわたしは思った。

上を見ても下を見ても、もちろん左右を見ても白。真っ白。

そんな空間の中にわたしは一人でここに居た。

 

『レイジングハート・・・はいないか・・・でも服はセイクリッドモードと同じか』

 

白と青のコントラストが何気無く気に入っているわたし。

最近では私服よりも気に入り始めているその服を見ながら呟く。

この服ははやてちゃんがデザインしてくれた服。わたしのためだけに

だからこれも一生手放せない、大切な宝物だ。

 

『それにしてもここは一体・・・?』

「ここはお前の夢の中の世界だ」

 

突然、後ろからした声に驚いたわたしは振り向く。

そこに居たのは銀髪で長髪で紅い眼をした女性。

はやてちゃんが言ってたリインフォースさんによく似た姿・・・

だけど違う。わたしはこの人を知っている。

 

『闇の書の・・・防衛プログラム・・・いや、それからわたしを・・・』

「あぁ、そうだ・・・会えて良かった。我が主・・・」

『その我が主って言うのはやめてほしいな。自分でも似合わないと思っているでしょ』

「ふ、そうだな。なのは・・・これでいいか?」

『うん、それで全然OK』

 

でも、だとしたら・・・なんでわたしの夢の中に・・・

そもそも本当にこれは夢なのかな・・・

 

「なぜ私がお前の夢の中にいるのか、そもそもこれは夢なのか・・・と考えているな?」

『まぁ、そうだけど・・・よくわかったね』

「言っただろう?私とお前には精神リンクがつながっている。この空間なら丸わかりだ」

『ふふ、なるほどそう言うことだね』

 

わたしは口元に手を持ってきながら笑った。

 

「さて、私がお前の夢の中に居る理由だが・・・すまなかった」

『え?』

 

なんでいきなり謝れているの? なにかわたしされたっけ?

 

「我が主ながら・・・まぁ、そこは今はおいておこう。

 私は・・・あなたを助けるために一番ベターとはいえ・・・あなたの心を壊しかけた。

 だから、謝りたい・・・本当にすまなかった」

 

あぁ、なるほど・・・そう言うこと・・・

だけど、別にそちらは私は気にしていない。

シリアル5の支配から助けてくれたのはあなた。

防衛プログラムからわたしを守ってくれてのもあなた。

一人で何でもしようとすれば、それは一つは失敗するもの、わたしは気にしてない。

 

「本当・・・なのか?」

『勿論、むしろわたしがお礼を言いたい・・・助けてくれてありがとう・・・』

 

そう私が言った途端、目の前の彼女が急に涙目になって・・・

そして大粒の涙を流し始めてしまった。一体どうしたの?

 

「あ、あぁ・・・すまない。まさかお礼を言われるとは思わなく・・・てな・・・」

 

そんなすすり泣きしながら言わなくても・・・まぁ、言える事は言ったからいいか

 

『それで話は終わり?』

「いや、もう二つか三つほどあるのだが・・・」

『あっ、その前に聞いていい?』

「何をだ?」

 

これを聴かなきゃ、始まらないからね。

 

『・・・名前・・・なんていうの?』

「このタイミングで聞くのか・・・」

 

はぁ、とため息を吐きながら彼女はそう言った。

 

確かに名乗っていなかった。

 

色々いいたい事があって一番大切なことを忘れていたと言って

彼女は話してくれた。自分の名を・・・本当の名前を・・・

 

「ナハト・・・ナハトヴァール・・・それが私の名前だ・・・」

 

『ナハト・・・ヴァール・・・それがあなたの・・・』

「あぁ、本来ならば私に意思などなかったのだがな・・・

 これは本来ならば防衛プログラムの名だが・・・いいだろう?」

『うん、とってもいい名前。でも本来、意思がなかったって?』

「それは私の出生に関わるのだが・・・構わないか?」

『うん』

 

ぜひ聴いてみたいね。一応わたしはあなたの主なんだから・・・

 

「では話すぞ。私が誕生したのはほんの5年前ほどだ。

 闇の書の主、八神はやてがトラック事故にあう前だ」

『そんな最近なの!? それじゃあ、あなたは・・・』

「・・・先に話を続けるぞ。その時闇の書の主はやては一人身だった。

 すでに両親は他界していたし、お前にも会っていない。

 防衛プログラムもお前を感知していない。あのころはまだ暴走してないからな。

 そして八神はやては願ったのさ。『友達がほしい』とな」

 

友達が・・・ほしい・・・?

 

「思えば、それが最初の・・・今世での初めての防衛プログラムの暴走だった。

 あいつはその願いを主と闇の書を守るために必要なものと認識。

 そして、管制人格・・・・・・いや、今はリインフォースか・・・・・・

 あいつの記憶の一部と姿・・・そして防衛プログラムの力の一部を受け継ぎ

 この私は誕生したのさ・・・つまり私は防衛プログラムであってそうではないのさ」

『だから・・・トラックからはやてちゃんを・・・?』

 

あのときの話し方を今になって冷静に考えれば、はやてちゃんを守ったのは

防衛プログラム本体ではなく、ナハトということになる。

 

「後はお前に言った通りさ。だから私に本来意思はなかった。

 通常ならナハトヴァールは左手に装着する腕部武装としても使用されるもの。

 その際は、杭のようなものを内蔵した大型の手甲の形を取る・・・

 つまり私は道具だった・・・意思を持った道具・・・・・・」

 

なるほど・・・それが理由か・・・

 

『だからわたしを助けてくれたんだね。同じ意思を持った道具であるわたしを』

「あ、いや、そう言う意味で言ったわけでは・・・」

『ううん、いいんだ。これが真実・・・でも受け入れるから。

 わたしはそれで迷いたくない。わたしには守らなきゃいけない約束がある』

「そうか・・・」

 

ナハトはそう言いながら目を瞑り、口元を上げて笑った。

自分の中でも決着がついたんだろう。多分ね

 

「これが一応、二つ目だな・・・」

『三つ目は?』

「最終確認だ。本当に聴きたいのか? これはさっきまでとはまるでレベルが違うぞ」

『構わない。わたしは全部受け入れるから・・・』

 

 

「そうか・・・なら言うぞ・・・お前の心は・・・すでに限界だ・・・

 おそらく・・・当分・・・復活はできない・・・」

 

 

 

『やっぱりそうかぁ・・・やっちゃったなぁ・・・

 もう、何か大切なものが砕ける音聞いちゃったもの・・・』

「ん?それだけか?もっと絶望すると思っていたが・・・」

『まぁ、そうなんだけどね。受け入れるって言ったし・・・

 当分ってことはいつか回復できるでしょ? いつくらい?』

 

生きている間に回復できるなら、まだ大丈夫だ。約束も守りぬける。

 

「ざっと・・・十年・・・」

『なら、大丈夫だね。19歳か20歳なら全然大丈夫。』

 

フェイトちゃんとはやてちゃんには迷惑かけるけどね。

まぁ、10年なら許してくれるよね・・・きっと・・・

あぁ、でもすずかちゃんとアリサちゃん怒るだろうなぁ・・・

・・・許してもらうしかないね。

 

わたしがそう納得したその時、ナハトの体が徐々に光の粒子となって消えていった。

ナハトもやはり、と言いたげな表情をしながら消えていく自分の体を見ていた。

 

「時間か・・・もう一ついいたい事があったが・・・まぁ、十分居れた・・・私は満足だ・・・」

『また・・・また、会えるよね!?』

「あぁ、会えるさ。きっとまた・・・必ずな・・・?」

『うん、必ず会おう!!だから、はい!』

 

そう言ってわたしは自分の手を出し、小指を立てた。

 

「これは・・・?」

『指きりだよ。必ず会おうって約束するの』

「ふ・・・なるほどな・・・あぁ、いいだろう」

 

わたしとナハト・・・ふたりで曲げた小指を互いに引っ掛け合う。

そして指を絡め合った状態で上下に振りながら言う。

 

「『指切拳万、嘘ついたら針千本呑ます』」

 

約束・・・だが、叶うかどうかは本当はナハトにはわからない。

だけど・・・きっと叶う。そう願いながらわたしたちは約束した。

 

「・・・なのはこれを・・・」

 

消えかかっているときナハトはそういいながらとわたしに紫色の小さな石を渡す。

 

『これは?』

「思い出の品・・・ということにしてくれ、そして必ず会う約束の証として・・・」

『うん、ありがとう! 必ず、また会おうね!』

「あぁ・・・かな・・・ず・・・また・・・あ・・・」

 

そしてナハトは光となって消える・・・

わたしもまたその意識を闇の中へと埋めて行った・・・

 

愛を守るために、ナハトは光りある世界の果てへと旅立っていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「シャマル・・・なのはちゃんは・・・」

「・・・どうかしら・・・全く目覚める気がしないけど・・・

 ユーノくんは怪我はしているけど、4日もすれば完治するわ・・・

 でも・・・なのはちゃんは・・・」

 

ここはなのはが以前、シグナムとの戦いの後眠っていた病室。

ここになのはと傷ついたユーノは寝かされていた。

ユーノはいまだ眠ってはいるが、なのはの治療魔法により、

命には別状はない。怪我もしているが、ミッドの技術で傷跡すら残らないだろう。

 

だが、なのはは一向に目覚めない。

皆が心配していたその時だった。

 

突然、なのはの胸にいつの間にか掛けられていた紫色の石が光り輝いた。

皆がその眩しすぎる光に目を腕や手で覆う。

 

そして、光が晴れるとそこにいたのは・・・長い銀髪と深紅の瞳が印象的な若い女性の姿・・・

 

「えっ、あれ?リイン・・・フォース・・・??」

「私はこちらにいますよ。我が主」

 

あまりにもリインフォースに似ていたため、はやては車椅子に乗りながら

リインフォースと目の前の女性を交互に見ながら、頭に疑問符を上げていた。

守護騎士たちも含めて、ほとんどの人間が疑問に思っていたが、

そんななか、アルフがその正体に気づいた。

 

「アンタ・・・まさか・・・」

『あぁ、フェイトの使い魔か・・・お前とユーノには会っているな・・・

 我が名はナハトヴァール・・・お前達には防衛プログラムの一部とったほうがいいか・・・』

「「「「!!!!??」」」」

 

防衛プログラムという単語に一同が警戒態勢をとる。

そんななかで、アルフだけが皆を制止していった。

 

「そんな言い方、誰も望んでないぞ。お前は違う存在なんだろ?」

「えっ? どういうことアルフ?」

 

フェイトがそう言ってアルフに聞く。

彼女は開始早々闇の書に吸収されたので、知らないのだ。

 

「あー・・・まぁ、こいつは防衛プログラムであってそうじゃないんだよ。そうだろ?」

『あぁ、そうだが・・・まさかお前が味方してくれるとはな・・・』

「まぁ、あれだ。助けてもらったお礼だよ。

 フェイトを吸収したことはまだ根に持っているけどね」

 

助けてもらったと言うのはシリアル5とユーノ戦で

シリアル5がちまちま放っていた流れ弾を触手で防いでいたことだ。

 

『あぁ、それはすまなかった。許してくれ・・・』

「ちょ、ちょっと待て、話の筋道が一切わからない。

 ナハトヴァールといったな。お前は本当はなんなんだ??」

 

一人、状況が全くできていないクロノが聞いた。

彼は通信障害が発生するアースラの中にいたので、ほとんど事情を知らないのだ。

 

『わかった・・・時間はないが・・・話しておこう』

 

そう言うとナハトはなのはに話したこととほとんど同じことを皆に話した。

真実を知り、はやてを中心に驚きの声が上がる。

 

「そうやったんか・・・あのときの私の願いが・・・」

 

『そうなるな。誇っていいかもしれない。それが今の状態にしたんだ。

 本来だったら・・・このまま闇の書の運命は変わらなかったはずだ。

 君が変えたんだ。八神はやて・・・』

 

「そうなんか・・・ありがとうなぁナハトヴァール・・・

 そういえばナハトヴァールって・・・立場上もしかしてリインフォースの妹さん?」

 

その発言に守護騎士たちとアルフ、ついでにリインフォースが噴出す。

だが、その後の発言が一番爆弾発言だった。

 

『いや、私の親は実質的に防衛プログラム・・・

 そしてこいつの立場はリインフォースからすれば姉妹・・・

 だから、こうなるな・・・リインフォース お ば さ ん 』

 

ピキッ

 

リインフォースの脳内で何か切れてはいけないものが切れる音がした。

そして、それを聞いた守護騎士たちが笑い出す。

 

「ぷっ、くくくく・・・お、おばさ、くく・・」

 

必死で口を手で押さえながら、笑い声を抑える烈火の将。

 

「おばさん、くく・・・おばさんだってよw」ププッ

 

何だか発言に草が生えている鉄槌の騎士。

 

「お・・・おばさん・・・い、いや、私は・・・」

 

なにやら某少女漫画のように白くなっている風の癒し手

 

「・・・・・・・・・・・・ぷ・・・」

 

今笑ったな!?今笑ったよな!?盾の守護獣

 

「貴様ら・・・」

 

そう言いながら元凶であるナハトを見るが、

その笑顔が純粋すぎて気持ちが留まってしまう。

実は・・・すべてを想定していたナハトの罠だったのだが・・・

 

そして一番笑っていたのがはやてだった。

 

「ぷくく、あーはははあは!!なるほどなぁ、そっかぁリインフォースの姪っ子かぁ

 それなら確かにナハトヴァールの言ったとおりやなぁ・・・」

 

「ま、待ってください。我が主!!

 防衛プログラムはもともとこそシステムこそありましたが

 そもそもは後付けです。だから仮に姉妹だとしても義理です。義理・・・ハッ」

 

言ってしまった。自分で認めてしまった。

それを聴いたはやてとナハトヴァールがニコニコしながらリインフォースを見てきた。

 

続いて、重症のシャマルと冷静を装うザフィーラ以外の

二人の守護騎士もそんなにやにやとした眼で見てきた。

 

「み、見るな・・・そんな目で私を見ないでくれ・・・」

「いやいや、本人が認めているならええんやないか?なぁナハトヴァール」

『あぁ、本人が認めているなら構わないな。リインフォース伯母さん』

「あぁ、姪っ子は大切にしろよ・・・リインフォース伯母ちゃん・・・くく」

「・・・・・・ふふ・・・」

 

そんなことを言われてしまい。ついにリインフォースは頭を手で押さえて・・・

 

「ぐっ、が・・・がああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

撃沈したのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『さてと、楽しいからまだ続けたいが、したい話が二つあるからな・・・』

 

あまりの精神的ダメージで体育座りをして、

病室の片隅で座って深い闇を放出しているリインフォースを放っておいて

ナハトヴァールはしたい話というものを始める。

 

「したい話?」

『あぁ、一つ目はなのはについてだ』

「なのはちゃんについて?」

『そうだ。あいつの心は・・・今、修復しているところなんだ・・・』

「修復??どういうこと??」

『あいつの心は最後のコズミック・スターライトブレイカーの反動で完全に砕け散った。

 仮に今目覚めても・・・そこにいるのはなのはであってなのはでない・・・』

「「えっ・・・・・・」」

 

はやてとフェイトはそれを聞いて思考が停止してしまう。

ナハトヴァールは気持ちはわかるといって話を続ける。

 

『あの技はジュエルシードの力をブラスターモードの力で無理やり引き出して使用した。

 だから、あの魔法の反動は心が回復したばかりのなのはには負担が大きすぎた。

 仮にブレイジングハートで放てばそうはならなかっただろうがな。

 逆にその場合は・・・なのはは一生回復しない肉体的ダメージを負っただろう』

 

ナハトはそう言うが、現実はそう甘くは無い。

仮にブレイジングハートにした場合。チャージに時間がかかってしまい

防衛プログラムの再生を許してしまう。

 

さらに今回なのはの肉体的反動が低いのは

ブレイズハートを防御性能の高いガンローダーモードにし、

セイクリッドモードと併用して反動を完全に防いだからだ。

 

もしそうしなければなのはの体は一生治らない障害を負っただろう。

 

一生治らない肉体か、最大でも10年経てば治る心か・・・

なのはの選択は間違ってなかったと言える。

 

『・・・だからなのはを責めないでやってくれ・・・』

「責める気はあらへんけど・・・」

「だけど・・・なのはは・・・なのはの心は・・・」

『安心してくれ・・・といえるのかはわからないが、最大でも10年経てば回復する』

「「そうなの(なんか)?」」

『あぁ、だから二人はなのはを見守ってやっていてくれ・・・』

 

ナハトはそう言った後、瞳を閉じて頭を下げる。

はやてとフェイトはお互いに頷いて、納得した。

帰ってくるならいつまでも待ってあげようと考えたのだ。

アリサとすずかが納得するか、高町家の皆がどう思うかはまた別だが。

 

「それで・・・二つ目というのはなんだ?」

『シグナムか、二つ目は闇の書に隠された秘密に関してだ。

 これは無限書庫にもおそらくないだろう・・・リインフォースも知らないはずだ』

「管制人格である私も知らないことだと?」

「おっ、リインフォース復活したんか」

 

はやてにからかわれながらもリインフォースは自分も知らないことと聞き

ナハトヴァールを問い詰める。ナハトは話す。

 

『夜天の書が闇の書と呼ばれる存在になる前、ある人間が後付した機能がある。

 その人物については不明だが、後付された機能・・・

 

 それが『闇の書』の最深部に封印されていた『永遠結晶エグザミア』を核とする

 魔導力を無限に生み出し続ける『無限連環機構』のシステム・・・

 

 それが、砕け得ぬ闇『システムU-D』だ。もともとは『紫天の書』と呼ばれるもので

 夜天の書を乗っ取るために点けられた。だが防衛プログラム「ナハトヴァール」の

 肥大化によって封じられていた存在だ。リインフォースを乗っ取るために

 システムを定期的に上書きすることで気づかれないようにしていたようだな』

 

「なん・・・だと・・・」

 

リインフォースは自らが管理する夜天の書にそんな秘密が隠されていたと知り驚く。

まさか、そんな機能がいつの間にかつけられていたとは、確かに気づいていたなかった。

 

「ちょう、待ちぃ・・・今言ったナハトヴァールはあんたやあらへんやろ?

 防衛プログラムは今ジェイルさんとマリエルさんが二度と復活せぇへんようにしている。

 てことはその紫天の書は・・・・・・・・・」

 

『あぁ、私が言いたかったのはそれだ。

 おそらく1週間もしないうちに復活するだろうな。

 

 私が防ぐことも可能だが・・・

 私にはジュエルシードからなのはを守るという使命がある』

 

「なるほどなぁ、ナハトがさっき言ってた私のことを秘密にしていてというのは」

 

『そうだ。なのはとは必ず会う約束をしているが、シリアル5が生きている限り無理だ。

 だから、秘密にしてほしい。紫天の書については話しても構わないがな』

 

ナハトがそう言うと同時にその姿が揺らいでいく。

 

『時間か・・・言えることはすべて言っておいた。頼んだぞ』

「うん、わかった。必ず役立てるよ・・・」

「私もなのはのために頑張るよ」

 

言葉には発しないが、そこにいる全員が頷いた。

それを見ながらナハトヴァールは微笑んで消えていく。

 

『さらばだ・・・我が友『八神はやて』・・・そしてリインフォース・・・伯母さん・・・』

 

「最後にそれで終わるなぁ!!」

 

リインフォースの叫びも空しく、ナハトヴァールは消えていった。

怒り心頭のなか、リインフォースを宥めながらはやては言った。

 

「紫天の書、エグザミア、・・・そして砕けえぬ闇・・・いろんな単語が出てきたなぁ」

 

なのはがいない今、自分も頑張らなければ・・・そう思いながらはやては決意した。

そして、クロノはやる仕事が増えたと嘆きながらブリッジへと報告しに向かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そして話が終わった後、はやてとフェイト、

そしてリインフォースはマリエルとスカリエッティがいる場所へと来ていた。

取りあえずは二人の無事を安堵しているマリエルにフェイトが言った。

 

「レイジングハートは大丈夫なんですか?」

 

あの時粉々に砕け散ったレイジングハート・・・

残された欠片を何とか集めたものの、それは4グラムも満たない小さな量だった。

それで果たしてレイジングハートは無事なのか、と考えていたのだ。

 

「一応レイジングハートのAIは無事なんだ。

 インターフェイスシンクロシステムのちょっとした応用だよ」

《皆さん、お騒がせしました。》

「「レイジングハートッ!?・・・て、あれ?」」

 

異口同音に二人は驚き、そして気づく。

マリエルが手に持っていたのはレイジングハートではなくブレイズハートだった。

そしてそこからレイジングハートの声が聞こえたのだ。

 

「インターフェイスシンクロシステムはブレイズハートをレイジングハートが

 操ることができるんだけど、それを応用することで、レイジングハートのコアが

 破壊される前にブレイズハートにデータを全部移し変えたんだよ」

 

《もっともブレイズハートには『不屈の心』機能はないため

 二度とマスターの心のバックアップは取ることができません。

 今回それが吉と出たのか凶と出たのか・・・・・・私にはわかりません》

 

レイジングハートは複雑だ。自分のマスターは二度とこの機能を使いたくないのに

自分のマスターを最短で助けられる唯一の方法が捨て去られてしまったのだ。

 

「大丈夫だよ、レイジングハート・・・なのははいつか必ず帰ってくるよ」

《それならいいのですが・・・》

 

フェイトの言葉にとりあえず納得する。

 

「それでマリーさん・・・レイジングハートは直るんですか?」

「一応ね。データと本物の欠片があるから。

 たださっきも言ったとおりロストロギア『レイジングハート』にはもうできないけどね

 普通のインテリジェントデバイスとしてのレイジングハートには戻せるよ」

「「よかったぁ・・・」」

 

直ることがわかり二人は手を取り合って喜ぶ。

そんななかでスカリエッティはリインフォースに話しかける。

 

「・・・さて、話題は少し変わるが、リインフォースくん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「おそらくは私の処置で防衛プログラムの修復はなくなる。

 だがそれは君の修復能力もかなり落ちることになる。

 それこそ我々人間のようにね。寿命もつくだろう。

 今回の守護騎士のような復活は二度とできなくなるが構わないね?」

 

「はい、それはもちろん。我が命は主はやてとともにあります。

 おそらく守護騎士たちも同じ考えでしょう。

 主はやててともに・・・人間らしく生きたいと」

 

「ふむ、了解した。それでは君はここに残っていてくれ、

 夜天の書も一緒にね。マリエル君にも手伝ってもらおうかな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

マリエルにそう言った後、スカリエッティははやてのほうを向く。

 

「はやてくん・・・なかなかおもしろかったよ。

 私も科学者として個人的にいいデータが取れた・・・」

「そうですか、それは良かったですね」

「あぁ、他にもいろいろと学ばしてもらったよ・・・

 私も覚悟を決めたほうがいいかな・・・」

「・・・??」

 

三人にはそれが全く意味がわからなかったが、

それを言ったスカリエッティの顔はどこか清々しいものだった。

 

「そういえば・・・チンクちゃんはどうしたんですか?」

 

はやての問いにスカリエッティは少し笑いながら答えた。

 

「ん?チンクはブリッジにいる艦長に報告しに行ったよ?

 もう少しで帰ってくるんじゃないかな?」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「さてと、報告も終えたし。ドクターのところに戻るか」

 

そのころチンクは艦長がいるアースラブリッジから

スカリエッティのいる第二技術室へと向かっていた。

艦長への報告も終えて、あとはデータを手に入れたドクターと一緒に

アジトへと帰れば今回の任務は終了だった。

 

そんなとき向かい側から人が歩いてきた。

それは紫色の髪の毛を持った女性。どこか自分の妹のひとりに似ている気がした。

 

(確か・・・クイント・ナカジマ・・・)

「・・・あら、あなたは確か・・・チンクちゃん・・・だったかしら?」

「はい、そうですが? 何か?」

「えぇ、ちょっとこういうの艦は初めてだから道に迷っちゃってね。

 道を聞きたいんだけど、ブリッジはこの先でいいかしら?」

「はい、このまままっすぐ行けばそうですよ」

「そう、親切にありがとう」

 

そう言ってお辞儀をするとクイントはチンクの隣を通っていく。

チンクはお辞儀を仕返して、前を向いて目的の場所へと向かう。

 

「・・・また、会えるといいわね」

「・・・・・・!?」

 

そんな声が聞こえた気がして、チンクは急いで振り向いたが

クイントは特に何事もなくブリッジのほうへ向かっていた。

 

(気のせいか・・・? まぁいい。早くドクターの所へ行こう

 

そうチンクは考え、ドクターの元へと向かう。

これが二人の・・・最初の会話だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「・・・あら、通信?・・・隊長から」

 

ピッ

 

「はい、隊長・・・はい、はい・・・はい、作戦は一応成功です。

 一名負傷、一名精神的ダメージを負いましたが、本人曰く大丈夫だと

 ・・・はい・・・はい。はやてちゃんからはありがとうございましたと言っておいてくださいと

 ・・・・・・はい、メガーヌにも・・・・・・はい・・・はい、それでは」

 

ピッ

 

「・・・スバルとギンガには・・・伝えておくべきか・・・」

 

 

 

 

 

 

 



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エピローグ「終わりなき旅路」

はい、今回でリリカルなのはサーガA's編最終回です。
ちょっとごり押し展開が多かったですがwまぁ許してください。

エピローグははやて視点です。
相変わらず関西弁が難しいので変なところがありますが・・・

それではどうぞ


 

 

 

 

あれから・・・数日が経った・・・

 

闇の書との戦いは終わり、私たちは平和な世界を歩んでいた。

 

私はあれから少しづつやけど闇の書の被害者達と交流している。

許してはくれへん人たちも当然居るけれど・・・それでも謝罪を続けている。

 

そして・・・グレアムおじさんは私に真実を話してくれた。

最初聞いたときは驚いたけど、冷静に考えればそこまで間違ってへんとも思った。

 

罪のない少女の永久凍結。普通なら許されることやない。

だけど、闇の書がもたらす被害に比べたら全然少ないほうだ。

2,30年で封印が解けるかも知れへんけど、それでも10年は先延ばせる。

 

管理局と言う組織がやるんならともかく、グレアムおじさん個人がやるなら

まぁ、多少は許せへん気持ちもあるけど・・・間違ってはいないと思う。

 

もっとも途中で道を変えてくれたんや。

あとは事後処理を一緒に手伝ってくれれば構わへん。

許す、許さへんやない。大切なのは進むか進まないかや。

私もグレアムおじさんたちも前へと進んで行こうと思う。

 

あっ、でも多少だけど、お願い事を頼んだんや。グレアムおじさんも納得してくれた。

 

 

フェイトちゃんはハラオウン家の皆と一緒に今でも海鳴市に住んどるそうや。

中学まではこっちに居るとか、来年度からは私も一緒に行けそうや。

学校楽しみやなぁ、一回も行ったことあらへんもん

 

闇の書と切り離されたリインフォースと守護騎士たちは

ジェイルさんのおかげで修復され、ひとりの人間として生きていけるらしい。

私とも一緒に暮らせるみたいで、本当に良かったわぁ

 

でもリインフォースは今回みたいなユニゾンは当分できへん言われた。

システム改変の影響でリインフォースも今は本調子やない。

 

だからリインフォースの妹みたいな融合騎を作る予定や。

管理局に入りたいからなぁ、私はユニゾンしてへんとどうも魔法の操作が甘いもん。

自画自賛するわけやないけど、私の魔力は正直言ってロストロギア級や。

下手に扱うとコントロールが効かへん。そんなん管理局員やないからな。

 

ちなみにその子の名前は・・・考え中や。

リインフォースは私の名前を受け継いでほしいとか言っとたけど

折角リインフォースに名前あげたのになぁ・・・いくら祝福の風を受け継ぐからって

大切な名前をそんな売らへんでも・・・まぁ、その時になったら決めればエエか

 

 

そしてなのはちゃんとユーノくんは私と一緒にリハビリや。

ユーノくんはこっちの戸籍がないから、ミッドでやけど。

なのはちゃんは私と一緒にリハビリしとる。

 

石田先生は私の体が治りそうで、とってもうれしそうやった。

いつのまにか直っていたことに関して、いろいろ思うところはありそうやけどな。

なのはちゃんも一緒にやるリハビリは身体的にはつらいけど、

精神的には全く辛くない。私としてはとっても楽しい。

 

 

「なのはちゃん、どうや調子は?」

「・・・大丈夫・・・問題ない・・・」

「あっ、私ジュース買ってくるけど、なのはちゃん何か飲むもんある?」

「・・・うん・・・」

「わかった。お茶でええ?」

「うん・・・」

「わかった。ほな行ってくるなぁ」

「・・・いってらっしゃい・・・」

 

 

あの後起きたなのはちゃんは・・・ナハトの言うとった通り、心を失っていた。

応答にも答えてくれるし、日常生活もとくに問題なくおくれとる。

だけど・・・その行動には心がこもっていなかった。

 

体そのものは元気なんやけどなぁ・・・

学校の皆には三人を除いて病気の後遺症やって言ってあるらしい。

高町家の皆さんはその現状に悲しんどった・・・私にも責任があるから胸が痛い。

 

私もフェイトちゃんもユーノくんもすずかちゃんもアリサちゃんも高町家の皆も

皆、いつまでも待っとるから・・・だから、いつでも帰ってきてええからな。

 

ちなみにユーノくんは無限書庫の司書さんになりたいみたいやった。

本人も今回のことで司書になってみたかったらしい。

リハビリが終わったら行くみたいや。無理はせぇへんようになぁ

 

 

 

 

 

そして、私がこれからやるべきこと・・・それはナハトが言うとった「紫天の書」

いずれは復活するであろう、それの対策。

 

リハビリがある程度進んだら、フェイトちゃんと模擬戦もするんや。

なのはちゃんは心がないけど使命感はある。だから無茶はさせたくない。

私も強くなって、ずっとなのはちゃんのそばにいたい。

 

だから、これからも頑張って行くんや。

 

深い闇を解き放って、自由の光に包まれた世界を進んでいっている。

 

強く果てない遥かな未来へと・・・

奇跡みたいなものが軌跡に変わっていく未来への道を――

 

私の夢は終わらへん。全てを賭けて走っていく。

 

真っ直ぐ、真っ直ぐ・・・前だけを見つめて・・・

そう、きっとここから私の旅は始まるんや!

 

 

 

 

   リリカルなのはサーガ A's編:「幻想の現実」Fin

 

 

 

 




次回はキャラ紹介A's編

その後はBoA編です。
パル転は・・・ごめんなさい・・・ティーダさんが、ティーダさんが・・・



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キャラクター紹介 Ver.A's

A's編のキャラクター紹介です。
まぁ、だいたい本編で描写されていますがw

スカさんなどはやっぱり書いていませんが・・・




 

 

 

 

名前:高町なのは

 

生年月日:1995年(新暦56年)7月21日

 

髪型:無印時と同じ。リボンだけフェイトのもの

 

瞳の色:原作と同じ青

 

魔力ランク:S(SS)

 

バリアジャケット:MOVIE 1stのものと同じ

 

原作との差異:顔と体にある傷。とくに顔は左頬に斜めの傷跡

 

 

概要

 

相変わらず数学好きな主人公

 

はやてを助けるために四苦八苦していたが、シグナムとの決闘の後、突然意識を失う。

そのため6ヶ月間ずっと眠り続けていたのだが、闇の書戦のときに

闇の書の意思「ナハトヴァール」によってその場に召喚させられる。

 

目の前で自分を庇ってフェイトが吸収されたため

怒り狂って攻撃するが、逆に反撃されて海に沈む。

そのときに物理的に頭を冷やされて、もともとの冷静さになって反撃。

スターライトバニッシャーではやてを起こすことには成功するものの

 

実は自分が防衛プログラムの真の主だと言うことを聞かされる。

今までの行動から全てを操られていたと知り、心が崩壊寸前になり

闇の書に吸収されるときに心を優しさと強さのなのはに分離してしまう。

 

その後は自暴自棄になってはやての言葉にすら耳を傾けないようにしていたが、

ほとんど同じ経験をしたフェイトの説得、そしてユーノの決意を聞いて

再び現世を自分の力で生きていくことを決意する。

 

その後、シリアル5から体のコントロールを取り戻し戦う。

しかし、闇の書の闇の内部フレームを破壊するために禁断の究極技

「コズミック・スターライトブレイカー」を使用し、リンカーコアに莫大な負担がかかり

ボロボロだった心が完全に崩壊してしまった。

 

レイジングハートのバックアップももうないため、今は自然治癒を待っている状態。

そんなときに闇の欠片事件が発生し・・・

 

ナハトヴァールから紫色の綺麗な小石を貰っており、それを無意識にいつも胸にかけている。

 

戦い方は「静のタイプ」なのだが、後述する「なのはちゃん」が「動のタイプ」なので、

どうしても感情を高ぶらせてしまうと思うように行動できず負けてしまう。

 

 

使用デバイス

 

「レイジングハート」

 

はやてを助けるために強化を決意。

カートリッジシステムとリミットブレイク機構をつけてもらう。

なのはの役に立ちたいがための改良であり、なのはに気づかれないよう多少いじってある。

 

実はロストロギアであり、その機能は『不屈の心』

ようは、どんな困難に陥ってマスターの心が壊れたとしても

レイジングハートにバックアップをとることで結果的に絶対に砕けない心を実現すると言うもの

レイジングハートは実際にそれが使用されるまで、自覚していなかった。

 

闇の書の闇戦の終わりでコズミック・スターライトブレイカーの反動や

シリアル5から送られた莫大な魔力にフレームが耐え切れず粉々に粉砕してしまう。

後述する「インターフェイスシンクロシステム」の応用により

AIとデータは無事だったが、『不屈の心』機能は永遠に使用ができなくなってしまった。

 

 

―セイクリッドモード

 

新たなるレイジングハート用バリアジャケット

外観の変更点は少ないが、胸にブレストプレートが追加され、

防御用積層構造が8層から22層へ向上し、物理装甲やプロテクトレイヤーも増加されている。

さらに両肩へフィールドジェネレーターを追加など上半身を強化されている。

レイジングハートの戦闘方式が射撃、砲撃のためスピードを殺す代わりに

その防御性能を限界まで上げたバリアジャケット。

 

その防御力はSLBを受けてもなのはの体自体は全くの無傷であるくらい。

 

 

スタンバイモード

 

紅い宝玉状態。止め具の色は金色

 

 

アクセルモード

 

レイジングハートのデバイスモードの後継モード。

目立つのはコアと柄の接続部に新たに設置されたベルカ式カートリッジシステムCVK792-A。

性能を説明すればは6連装オートマチック型カートリッジシステム。

マガジンラックに入ったカートリッジを消費することで魔力の強化ができる。

一つのマガジンラックにつき装弾数6個。保持できるラックの数は全部で12個。

 

またベルカ式のカートリッジシステムと違い、あくまでも魔力量の総上げが目的のため

デバイスも使用者も制御しやすくなっており、体への負担を通常よりも抑えてある。

 

そしてこのモードはなのはが行う中距離射撃と誘導管制、

強靭な防御力を含めた中距離高速戦専用モードとなっている。

 

なのはが魔力弾を加速させることに特化したところからこの名称をつけた。

もっとも速度自体は魔法操作を使えばいくらでも変えられるのだが、

レイジングハートが主のために役立ちたかったために無理やりつけた。

後の戦いで、疲れきり魔法操作が使用できなかったなのはの役に立った。

 

 

カノンモード

 

見た目はカートリッジシステムがついたくらいだが、フレームがさらに補強され

約7㎞先の目標にも砲撃を直撃させられるほどの精密射撃が行えるようになった。

基本的になのははこのモードで行動する。

 

 

エクセリオンモード

 

レイジングハートのフルドライブ形態。原作TV版と全く変わらない。

カートリッジを発動時に3つもロードしたのはノリ。

 

 

ブラスターモード

 

レイジングハートに搭載したリミットブレイク機能を使用するための『前段階』モード

 

レイジングハートの見た目はエクセリオンモードのままだが、なのは自身の魔力が大幅に上がる。

当然リミットブレイクつまりは自身の限界を超える以上代償はあり、なのはが操作に失敗した場合

基礎フレームがブラスターモードの反動に耐え切れず、レイジングハートが大破する。

 

闇の書の闇戦では、ジュエルシードの力を引き出すために使用した。

 

ブラスター1からブラスター3まであるが、なのはは3しか使用していない。

 

 

「ブレイズハート」

 

なのはがリンディに頼んで作ってもらったストレージデバイス。

今回マリエルによって全体的にフレーム強度を上げられている。

さすがに硬さ命のアームドデバイスにまでは届かないが、

その強度はシリアル5の莫大な魔力を受けても正常に作動できるほど

 

マリエルによって予定されていた機能が完全に機能している。

 

その名は「インターフェイスシンクロシステム」

 

レイジングハートがブレイズハートのAIとしても機能するためのシステムで

これが発動すればブレイズハートの意思はレイジングハートそのものといえる。

 

フェイト戦では未完成であり、あまり成果は出ていなかったが、

マリエル・アテンザによって改良されて今度こそ正常に作動するようにした。

このためなのはがガンローダーモード以外でブレイズハートを使用していても

レイジングハートがとっさの魔法発動を可能にすることができる。

 

この応用でレイジングハートは本体が破壊されてもデータとAIは無事だった。

 

 

―ストロングルナモード

 

以前は時間の関係もありレイジングハートと同じものを使用していたが、

今回、設定されたブレイズハート専用のバリアジャケット。

 

見た目は今までのバリアジャケットとほぼ同じなのだが、

スカート部分を腰ぐらいまでにし、薄手のズボンとして構築。

 

さらに上半身部分も一部分の防御特化にすることでセイクリッドモードと違い、

機動力を上げている。もっともフェイトのものほど特化していないため

多少は速くなってはいるが、スピードは前とそこまで変わらない。

 

カラーリングがレイジングハートのものと完全に変わっており、

白の部分を減らし、黒色と青色を増やし若干クールな印象を受ける。

また手袋を指まで覆うタイプに変更してある。

 

 

スタンバイモード

 

蒼い結晶のような球体。

レイジングハートの実質的色違いであり、止め具の色は淡い銀色。

 

 

クリーブモード

 

ブレイズモードの後継モード。

 

機能はそこまで変わっておらず。

変わった見た目はレイジングハートに比べれば少ないが、

片方が短かった小太刀が両方とも同じ長さとなっていた。

 

ブレイズモード時に短かったほうの小太刀はもう片方よりも軽量化されている。

減った重さは両方の小太刀を合わせて21gで大幅な軽量化に成功している。

バリアジャケットとあわせてより攻撃的なデバイスへと進化している。

 

一応、リミットブレイク機能がついているが、使用されていない。

 

 

ガンローダーモード

 

肘まで覆う防御武装と拳を覆う籠手のような形態が特徴的なモード。

 

手首部分に高速回転する歯車状のパーツがあり、これをローダースピナーと言う。

魔力を加速、回転の力を加えて撃ち出す、あるいは打撃の威力強化を行う機構を持っている。

 

それだけではなく防御用魔力をここに集中することによって、

スターライト・シェードに匹敵する防御性能を誇る。

 

通常でもコズミック・スターライトブレイカーの反動からなのはをほぼ無傷で防ぐほど。

 

なのはが格闘技が得意なわけではないが、御神流には剣を使わないものもある。

それを扱うのにはこのモードがあるといろいろと便利であり、

防御性能をさらにあげられるからこそ取り付けたモードである。

 

このモードならばレイジングハートと同時に使用できる。

 

 

「ブレイジングハート」

 

レイジングハートとブレイズハートが合体した新たな形態。

 

発動時の詠唱は「突き進む不屈の心よ、我が体に宿れ。起動せよブレイジングハート」

 

見た目は白く光り輝く、超弩級サイズの超弓で、

レイジングハートは先の宝玉がある金色の三角の部分を残して

カートリッジと柄の部分がなくなる。そして白い装甲のようなものが

レイジングハートを包んでいる。ようは劇場版エクセリオンモードのヘッド。

 

ブレイズハートはクリーブモードに変化し、

そして持ち手の部分がレイジングハートの部分と一体化している。

 

ブレイズハートのフレーム強度とレイジングハートの魔力運用を同時に使用できる。

ただし、使用エネルギーレベルが大きすぎ、弦を引くのに精一杯やっても2cm引くだけで

相当の疲労があり、反動が全く持って減少されないため

これを使うとなのはの体には莫大な負担がかかる。まだまだ未完成なモード

 

あくまでもデバイスたちを守るための『真のリミットブレイク』である。

 

エネルギーが溜まっていくごとにブレイズハートだった上のコアが、

続いて下のコアが光り、その刃の溝を藍色に染めていき、

完全にチャージは成功するとその証としてレイジングハートだったコアも紅く光る。

 

 

使用魔法

 

 

 

ディバインシューター

 

なのはが適当な数式を思い浮かべていたら偶然見つけたなのは初めての魔法。

なのはの戦闘での基本技であり、ディバインバスター並のバリエーションがあり、

劇中ではアクセルモードで加速させるアクセルブーストと

回転させることで相手の体を抉り取りながらダメージを与えるフルドライブが登場。

 

現在、後遺症により最大操作数は67発。闇の書戦前は135発。

 

 

液体反発波紋疾走(リキットリパルション・オーバードライブ)

 

なのはがテレビのバラエティ番組を見ながら編み出した訓練のための魔法。

マルチタスクを使い演算をする。そして水面の波の向きに応じて、

魔力の反射を調節しつつ魔力を放出し、水面に浮く技術。

 

使用すると水面に美しい波紋が出現するのが特徴。

今回の戦いでは描写はされていないが、ブラスターモード使用時の攻防で

実は海の中に沈まないように使用している。

 

 

ディバインバスター

 

なのはの使う砲撃魔法。威力はさらに上がり、かつ反動もない。

基本的にチャージして使う用であり、速射型は後述する

エクセリオンバスターが担当することになった。

 

エクセリオンバスター

 

シグナムに負けたなのはがレイジングハートと共に

速射型に向いていないディバインバスターの代わりに

ディバインバスターよりも威力が高くて、精密さとバリア貫通能力をオミット

代わりに速射向けの砲撃を構築したいと考え、試行錯誤の結果。

エクセリオンモードで放つことで解決した新たな砲撃魔法。

 

速射性はシミュレーションの1.25倍。

威力はディバインバスターの1.2倍に上がっている。

 

 

スターライトバニッシャー

 

ブレイジングハートを撃ち出す必殺技でなのはの技では最強。

 

ブレイジングハートの弦を引いて発動する。

 

力強く打ち出されたブレイジングハートは

その身を高速回転しながら対象に向けて高速突撃する。

 

基本的にはA.C.S.での使用が前提。

 

 

コズミック・スターライトブレイカー

 

なのはの禁断の究極技。

ジュエルシードの力を解放し、その能力により世界中から魔力を集束。

一気に放つ技。その威力は桁違いだが、体への負担は非常に大きい。

これを使用したためになのはのボロボロだった心は完全に崩壊した。

 

様々な魔力光が混ざっているため、銀灰色と虹色が混ざった色をしている。

 

 

希少能力

 

『魔力散布』

 

なのはの希少能力のひとつ。

ジュエルシードと一体化したことにより、散布スピードは秒速3000mにまで上がっていたが、

そのジュエルシードがなのはのリンカーコアを乱用したため、

現在常時使用が不可能になっている。一定時間の使用は可能であり、

慣れれば特別問題があるわけでもない。

 

 

『魔法操作』

 

一番役に立ち、一番悪用されたレアスキル。

今回は音と硬質化以外にも『石』、『水』、『氷』の性質に変換した。

 

 

『ジュエルシード』

 

厳密にはレアスキルではないが、なのはのリンカーコアと一体化しているため

その能力を制御できれば、ジュエルシード本来の力も発動できる。

もっとも後述するシリアル5のせいでなのはには使用できない。

 

闇の書の闇戦ではブラスターモードで無理やり魔力炉として使用した。

 

フェイトのJSエンジンと共鳴したような反応があった。

 

 

 

 

ジュエルシード・シリアル5

 

なのはのリンカーコアと融合したジュエルシード。

意思を持っており、なのはと一体化したことすら計算の内。

その性格は残忍であり、そしてどこかイカレた基地外。

もっと言えば傲岸不遜かつ傍若無人な凶悪な性格、

狂ったようなハイテンションさとイカレタ笑い声が特徴。

 

ナハトヴァールがなのはを取り込んだ瞬間になのはの体を乗っ取り、

ナハトヴァールにブレイズハートを使用して戦いを挑んだ。

 

途中、ユーノとアルフから妨害を受ける(厳密にはレイジングハートを奪う)が、

アルフは海面にたたきつけた後、魔法操作『氷』で海ごと凍らせて封じ込め、

ユーノもその圧倒的な魔力で重傷を負わせるが、ユーノには目的を果たされてしまう。

 

ナハトヴァールがレイジングハートを押し付け強制的に排除したことで

シリアル5の意思は再び封印される。しかし、

 

「ちっ、ここまでか。まぁいい。光あるところに闇があるように

 闇が輝く限り、また光も照らす・・・。また会おうなぁ、なのはぁ」

 

という言葉を残したとおり、まだ消滅はしておらず。

現在はなのはには内密にナハトヴァールが侵攻を抑えている。

 

 

 

 

なのはちゃん

 

なのはのもう一つの一面であり、心を司るもの。

防衛プログラムのバグ、ナハトヴァールの行動、レイジングハートバックアップにより

なのはから分離させられた存在。通称「優しさのなのは」

 

なのはが人格を担当するのなら、なのはちゃんは心を担当する。

 

暴力は大嫌いで、皆に優しく、空が大好きで、機械が好きな子であり、

バトルマニアで、皆には悪魔みたいな笑顔をして、海が大好きで、

機械よりも自然が大好きななのはとはまた違った存在。

 

ただし、どちらも高町なのはであり、どちらがかけても駄目である。

現在彼女は心の核を残して消滅している。

彼女の復活にかかる時間が10年であり、高町なのはの真の回復の合図である。

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサ

 

髪型:A's時と同じ。最近ポニーテールにしようと思っている。

 

瞳の色:原作と同じ赤

 

魔力ランクS(SS)

 

バリアジャケット:TV本編のものと同じ

 

 

概要

 

ほとんど原作と同じだが、なのはの母 桃子と連絡を取り合っている。

料理が趣味であり、最近はお菓子作りにもはまっている。

 

心の強さははやて並みにに強くなっており、

闇の書が見せた幻影も一人で払いのけ、なのはを説得できるほど。

 

将来の夢は「喫茶店の店主」であり、趣味の料理もそのため。

執務官になろうとしているが、それは自分のような立場の子を救うため以外に

この喫茶店の開店のための資金集めでもある。

 

 

 

 

使用デバイス

 

 

バルディッシュ・アサルト

 

強化されたバルディッシュ。原作とほぼ同じだが、

闇の書戦前にスカリエッティによってJSエンジンが組み込まれている。

 

JSエンジンは彼が暇つぶしになのはの体に取り込まれたジュエルシードを解析、

魔力炉としての機能のみを残し作成された複製品である。

 

JSとはジュエルシードのことであり、持ち主の願いを糧にエネルギーを出す超進化動力体である。

 

本作品ではフェイトのカートリッジフルロードと彼女の願いに反応、

そして、なのはの本物のジュエルシードと共鳴することによって起動した。

 

このシステムが完全起動するとフェイトの魔力はSSになる。

 

 

 

 

 

 

八神はやて

 

髪型:A's時と同じ。最近髪を少し伸ばそうと思っている

 

瞳の色:原作と同じ

 

魔力ランクSSS

 

バリアジャケット:TV本編のものと同じ

 

 

概要

 

今回はちょっと脇役気味。

倒れたなのはのために少しだけだが、将来の狸の側面を見せ、

地上本部に魔力蒐集を要求し、了承を得る。

 

そのとき首都防衛隊のメンバーと知り合いになる。

その家族とは会っていないが、娘の存在自体は知っている。

 

闇の書戦中はナハトヴァールによって取り込まれてしまうが

なのはによって助けられる。が当のなのはが取り込まれたため出られなくなってしまう。

説得にも境遇が違いすぎたためフェイトに任せる。ちょっと今回不遇。

 

それでも親友には変わりなく、心を失ったなのはのために生きていく。

 

将来は管理局地上本部に入りたいが、本局の圧力で迷惑をかけるわけにも行かないので

自分だけの部隊を作って、地上に恩返しをしたいと思っている。

今現在は嘱託魔導師試験合格を目標に頑張っている。

 

紫天の書をめぐる戦いをナハトヴァールに忠告された彼女が選ぶ道とは・・・

 

 

 

使用魔法

 

原作と同じ、ブリューナクの詠唱はオリジナル。描写も

 

 

 

 

 

 

 

ユーノ・スクライア

 

髪型:A's時と同じ。

 

瞳の色:原作と同じ

 

魔力ランクAA

 

バリアジャケット:TV本編のものと同じ

 

 

概要

 

今回、頑張った男の子。

無限書庫で不眠不休で闇の書と夜天の魔導書の情報を調べ上げ、

闇の書戦ではナハトヴァールの攻撃からなのはを守った。

 

なのはが取り込まれた後、シリアル5が現れたときは

ナハトヴァールと共闘しシリアル5と戦う。

倒すことはできなかったが、目的は果たす。

 

だが、左半身が抉られ、腹部をブレイズハートに貫かれたため

原作と違い闇の書の闇戦には参加していない。

 

二日後に目覚めた後、ミッドの病院でリハビリする生活を行っている。

 

 

 

使用デバイス

 

「リヒトムート」

 

ユーノが長老から貰ったデバイスを秘密裏にマリエルに頼んで改造してもらったもの。

 

名前がベルカなのは本来はアームドデバイスだから。

改造もとのデバイス自体はミッド式であり、これ自体も使用魔法術式はミッドチルダ式。

 

ユーノの魔法適正に完全に合わせており、防御性能はなのは以上で

攻撃をあいての波長にあわせて反射することもできる。

 

シリアル5戦では攻撃の防御には成功したのだが・・・

 

 

 

 

守護騎士とリインフォース

 

全員無事に生き残った。

 

・・・おばさんw

 

 

 

 

 

ナハトヴァール

 

闇の書の防衛プログラムの一部が意思を持ったもの。

 

本来は意思などなかったのだが、

5年ほど前に一人身だったはやての願い『友達がほしい』を受けて

防衛プログラムの暴走、その願いを主と闇の書を守るために必要なものと認識し。

管制人格・リインフォースの記憶の一部と姿、そして防衛プログラムの力の一部を受け継ぎ

誕生した存在。つまりナハトヴァールは防衛プログラムであってそうではない存在。

 

本来はナハトヴァールはリインフォースの左手に装着する腕部武装。

その際は、杭のようなものを内蔵した大型の手甲の形を取る。

 

自身も道具だったから、そしてはやての友人だったから

主であるなのはを助けようとしていた。

 

彼女にとってはなのはとはやてが最優先で、他にはユーノとアルフは気に入っている。

他の人間はなのはとはやてが認めた人間か、自分が認めた人間以外にはそっけない態度である。

 

リインフォースは伯母さん認識。冗談が半分、本気が半分。

本人もリインフォースをからかうのを結構楽しんでいた。

 

現在はなのはをシリアル5の魔の手から守るために

紫天の書の存在を皆に警告した後、消滅した。

 

 

 

 




 
次回の投稿予定日は3月16日です。



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第三章:THE BATTLE OF ACES編「探していた明日へ」
SAGA 36「心のあり方」


今回からBoA編。なのは、フェイト、はやて&リインフォースの三部作の予定です。

それではどうぞ!!


 

 

 

 

あれから少したち・・・平和な日々が続く・・・

 

「スレイプニール正常起動、慣性コントロール問題なし、リインフォースこれでへーきかな?」

「はい、我が主・・・もうお一人でも十分に飛べていらっしゃいますね」

「いやいや、なのはちゃんたちはもっとピュンピュン飛んでたやん」

 

そう言うはやてはリインフォースとユニゾンしていないと自由に飛べないのだ。

もともとはやては数学系統がとくいではない。リインフォースという存在がいて

初めて魔法というものを駆使することができるのだ。

 

「あの子達も鍛錬と研磨を積んできた故です。主はまだ修練を始めてから一週間足らず・・・

 この調子で研磨を続けていただければ、必ず誰よりも立派な魔導騎士になられます」

「そやな・・・リインフォースに教えてもらって、立派な主になってかな・・・」

「この身に賭けて・・・我が魔導のすべて、お伝えいたします・・・」

「頼むで、フェイトちゃんとの模擬戦・・・絶対負けられへんからな」

 

しかし・・・ナハトの予言の通りに・・・

彼女達は現世に再び起動する・・・

 

 

 

 

 

「・・・今年ももう終わりなんだね」

 

『闇の書事件』が終わってから、もうすぐ一週間が経つ。

『闇の書の闇』そして『ナハトヴァール』が光に消えて、

 

はやてと守護騎士の皆はもちろん

リインフォースも今は八神家で元気で過ごしている。

 

なのはは・・・まだ心は戻ってないけど、楽しく学校に通っている。

レイジングハートも修理されたらしく、先日私に渡された。

なのはに渡しておくよう言われたのでさっきなのはに渡しておいた。

 

そして私たちは、少し薄暗い夜道を二人で歩いていた。

話しているのはちょっとした世間話。もっとも私の一方通行かもしれないけど。

 

「・・・お正月は平和に過ごせそうでなりよりだね」

「・・・・・・わたしは初詣は行かない・・・」

「なのはは行かないんだ」

「うん・・・並ぶの・・・好きじゃない・・・」

 

話し方にはやはり違和感を持ってしまう。

機械的というよりも、二択で話しているような感じがする。

それでもなのははなのはだ。

 

「そうなんだ・・・」

「・・・旅行は楽しみ。・・・ユーノくんはいないけど・・・」

「リハビリ中って行ってたもんね」

「うん・・・」

 

少し特殊だけれど、本当に平和な日々・・・だけどそれは・・・

もうほんのちょっとしたことで・・・崩れてしまったのだった

 

 

 

リリカルなのはサーガ THE BATTLE OF ACES編「探していた明日へ」・・・始まります

 

 

 

「・・・・・・この反応は・・・」

《どうしました? マスター?》

「闇の書・・・似た反応・・・これは・・・もしかして・・・」

 

なのははそう言うと反応がした方向に駆け出した。

なのはは心がないが、思考はできる。

持ち前の思考能力で数式を頭に浮かべ、大空へと飛び立っていった。

 

何か、大切なものを見つけたかのように急いで・・・

 

 

 

 

 

 

 

空中にて向かい合う二人。

クロノとフェイトは今から模擬戦を始めようとしていた。

 

「君もずいぶん強くなってきているが

 年長者の意地として僕も早々簡単に負けるわけにはいかないからな」

「私だって頑張るよ。・・・なのはやアルフともずっと練習してるんだから」

「まあ、まずは軽く一本だ。始めるか?」

「うん、お願いします!」

 

 

そして一戦が終わった頃・・・

 

 

「とと・・・・・・しまった。取られたか」

「うん!!今日は調子いいかも」

「そうだな。いい動きだった」

「うん!」

 

『クロノくん、フェイトちゃん一緒に居る?』

「エイミィ?」

「一緒に居るぞ、どうかしたか?」

『さっき市内で結界が・・正体不明の結界が発生したの

 なのはちゃんとアルフが調査に出てくれたんだけど

 通信が途切れがちで・・・・・・』

「そんな・・・なのはも?」

 

そして、通信は変わってリンディ

 

『それに、二人が今居る世界でも結界が現れているの』

「わかった。フェイト手分けしよう。

 僕はこちらの結界を確認しに」

「わたしは戻って、なのはとアルフに合流する。必要があれば助ける!」

 

 

 

 

 

 

―海鳴市上空

 

「ディバインシューター・・・」

 

なのはの放つディバインシューターによって

次々と霞のように消滅していく闇の欠片たち・・・

心のないなのははいちいち欠片たちが話す言葉を聞いていなかった。

魔力ダメージで消せるのだから、本物かどうか気にする必要性もない。

 

前にはやてとリインフォースから事情はすべて聞いていたからだ。

紫天の書の存在を、そしてエイミィから闇の欠片についてを・・・

 

ただあまりの数の多さに、なのはもまるで心があるかのような反応をする。

あくまでも記憶の中の自分の行動を参考にそのような行動をとる。

 

「・・・数が多い。・・・めんどくさい」

《そうも言ってられませんよ》

「・・・しかたない・・・レイジングハート」

《All right. My master》

 

なのはの指示を受けて、レイジングハートはディバインスフィアをなのはの周りに

多数生成する。本来ならばここからはディバインシューターが発射されるのだが、

なのはは数式をちょっとだけ変更することによってここからあれを放つ。

 

「ディバインバスター・・・フルバースト」

 

なのはは目を忙しくターゲットである闇の欠片に向けて動かし、

多数存在する闇の欠片一体一体に照準をマルチロックオン。

そしてロックオンされた闇の欠片すべてに向けてディバインバスターを一気に放った。

 

この攻撃によってなのはの周りの闇の欠片はすべて消滅する。

 

そこにもう一度闇の欠片が・・・いや、違う。

闇の欠片は今までの知り合いの姿が出現していたが、彼女は違った。

自分の友人によく似ているが、青いその髪の毛は友人のものではなかった。

 

確か・・・さっきの通信でマテリアルとか言っていたなとなのはは思っていた。

 

「君は・・・・・・闇の書の闇を打ち抜いた白い魔導師だね」

「・・・うん」

「何故だろう。君の存在は著しく不快だ。君を見ていると、苛立ちがつのる」

「・・・そうなの?」

「上手く言えないが、今の自分が、本当の自分でない感覚がある」

 

マテリアルは蒼い髪を揺らしながら、叫ぶ。

 

「そして、僕の魂がこう叫ぶ!

 君を殺して我が糧とすれば、この不快感も消えるはず、と!」

 

マテリアルの宣言になのはの顔に闇が燈る。

心はなくとも、その記憶がなのはの顔をそうさせる。

 

「本当のフェイトちゃんはそんなこと言わないよ」

 

次の瞬間、その場にあった光景は誰もが目を疑うものだった。

 

残されたのは二つの小太刀を手に蒼い衣装を纏うなのはと

消滅しかかっているマテリアルだった。

 

「そんな・・・・・・!僕の雷光が、触れることすら・・・・・・!」

 

マテリアルは驚くほかない。

自分が攻撃されるとは・・・しかも反応すら、触れることすらできなかった。

そんなマテリアルになのはは捨て台詞をはく。

 

「似ているのは姿だけ・・・フェイトちゃんのほうが・・・速い・・・」

 

「うああ! 馬鹿な・・・・・・馬鹿なァ・・・ッ!!」

 

「おやすみ・・・」

 

なのはのその言葉を最後に・・・マテリアルは霞のように消滅していった。

なのはは一瞬だけそれを見た後、新たな空へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・結界が解けた・・・?」

 

先ほどまで海鳴の空を覆っていた不可解な結界が消滅した。

そして次の瞬間、アラームが鳴り響きエイミィから全員に一斉の連絡が入る。

 

『現場一同、緊急事態・・・・・・!

 闇の欠片が、ひとつに集まってる!!

 場所はポイントD付近、海上上空!』

 

緊迫な連絡、早く行かなければならないだろう。

そしてそのポイントに一番近かったのはなのはだった。

 

「エイミィさん・・・わたしに行かせてください・・・」

『なのはちゃんッ!?でも・・・』

「わたしが一番近い・・・だから、行かせてください・・・」

 

そう言ってなのはは通信を切った。

なのはは急いでポイントD付近へと向かう。

実はなのははただ自分が近いだけでそこに行くわけではない。

 

見つかるかもしれない・・・自分の・・・探し物が

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこです・・・・・・? 私は何故、ここにいる?」

 

それは望んだものではなかった。

心がないなのはだが、現実に落胆する。

自分が望むのは・・・でも今はそんなことは関係ない。

 

「・・・期待はずれ・・・高町なのは、目標を駆逐する・・・レイジングハート」

《All right. My master.》

 

その言葉と共にレイジングハートはカノンモードから

フルドライブ形態、エクセリオンモードへと姿を変える。

 

「なぜでしょう・・・心が滾る・・・

 眼前の敵を砕いて喰らえと、胸の奥から声がします。

 安らかな闇と破壊の混沌を、呼び覚ませと訴えている・・・」

「・・・闇は・・・わたしだけでいい・・・」

「ならば語る言葉はありません。この身の魔導で、貴方を屠るのみ」

「やれるものなら・・・」

 

星光と星光の殲滅者・・・二人の戦いがここに始まった。

 

 

 

 

 

「ディバインシューター・アクセルブースト」

 

レイジングハートのアクセルモード。

その主力の技と言える射撃魔法であるディバインシューター・アクセルブースト。

まずは牽制、合計八発分を目の前の星光の殲滅者に向けて放つ。

 

「来なさいナノハ・・・・・・。パイロシューター!」

 

その攻撃が迫る中、星光の殲滅者も手に持つそれを準備する。

レイジングハートとよく似たアームドデバイス「ルシフェリオン」

 

そしてそこから魔力弾、パイロシューターを放つ。

 

合計8発の両者の射撃魔法がぶつかる。

 

ぶつかり合う事で発生した煙によって視界が不安定な中、

星光の殲滅者はもう一度追い討ちのパイロシューターを放つ。

 

煙の中心を注意深く見詰める。

まさか、あれだけ言ってあっさり敗北は無い筈。

そう思ったときだった。後ろから殺気を感じたのだ。

 

「ディバイン・・・・・・」

「・・・・・・!?」

 

それは理解すれば簡単なことだった。

なのはは魔力弾同士がぶつかり合った瞬間、囮のディバインシューターを少し残し、

自分は上空へと急上昇、そして逆さまのまま星光の殲滅者の真後ろに回りこんだのだ。

頭を大地に向けた状態のまま、なのははチャージが完了した砲撃を放つ。

 

「バスター・・・」

 

真後ろから迫り来る桜色の砲撃に星光の殲滅者は避けることは叶わずバリアで防ぐ。

同じく桜色の防護壁はなのはのディバインバスターを完全に防ぐ。

しかし、それを防いでいて星光の殲滅者は気づかなかった。

 

真下から星光の殲滅者の頬を超絶な速さを持つディバインシューターが駆け抜けていった。

なのはのレアスキル「魔法操作」水辺ではお得意の『音』の性質だ。

秒速1500kmの音速の魔力弾が星光の殲滅者に向けて次々と向かう。

だが、直撃を受けても星光の殲滅者にはダメージが入っていなかった。

 

「・・・どういうこと・・・」

「私はあなた・・・防御性能もほぼ同じのようですね・・・」

「・・・なるほど・・・レイジングハート・・・」

《All right.》

 

なのはの指示のもとレイジングハートは待機状態となり、なのはの胸にかかる。

そして今度はブレイズハートを起動した。二つの小太刀を構えてなのはは振るう。

 

―御神流・裏 花菱―

 

ストロングルナモードの圧倒的加速能力で、一瞬にして距離を詰めてはなった技。

それは二つの小太刀による斬撃を連続で浴びせる技だ。

 

星光の殲滅者もさすがに対応はできず、とっさにルシフェリオンでガードする。

なのは気にせずに小太刀を振るう。さらに徹を重ねがけし、確実にダメージを与える。

その攻撃を受けたルシフェリオンを粉々に粉砕する。

 

自身のデバイスが破壊されると言う事態に星光の殲滅者の顔は驚きに染まる。

だが、すぐに持ち直しルシフェリオンに魔力を流して修復する。

 

そしてゼロ距離と言う距離を使用し、近距離で砲撃を浴びせようとする。

 

「ブラストファイ・・・・・・!!」

 

砲撃魔法「ブラストファイアー」を放とうとした星光の殲滅者だが、

ゼロ距離での砲撃を仕掛けるのは自分だけではなかったのだ。

 

目の前ではエクセリオンバスターの発射準備をしているなのはがいた。

槍状のレイジングハートの先端部には自分以上の魔力が溜まっていたのだ。

 

(こんなに早く持ち替えた・・・・・・!?)

 

星光の殲滅者は驚くほかない。さきほどまで二刀流のブレイズハートを持っていたのに

あの粉砕してから修復するまでの間にレイジングハートに持ち替えていたのだ。

 

「エクセリオンバスター」

「っ! ブラストファイアー!!」

 

なのはは当然の様にエクセリオンバスターを発射。

星光の殲滅者はもまた舌打ちをしつつブラストファイアーを発射した。

 

二つの桜色の砲撃がぶつかり合う。

チャージされたブラストファイアーとなのはのエクセリオンバスター。

威力はほとんど同じだった。

 

お互いの砲撃が相殺し合う中で、星光の殲滅者はブラストファイアーに更なる魔力を加える。

ここで押し切れば自分の勝ち・・・そう思っていたときだった。

 

「・・・ぐっ、がはっ・・・な、な・・・に・・・」

 

それは真後ろからのディバインシューター・アクセルブースト・・・

なのはは砲撃を放っている間に星光の殲滅者の後ろへ放っていたのだ。

 

7発ものディバインシューターが背中に直撃し、星光の殲滅者は仰け反る。

そして解除されたブラストファイアーを突き抜け、エクセリオンバスターが直撃した。

 

「がはっ・・・」

 

この勝負は決した。

なのはのエクセリオンバスターの直撃を受けた星光の殲滅者の体が光となって消えていく。

それはなのはの完全勝利の証。消えていく星光の殲滅者は語っていく。

 

「なる・・・ほど・・・あなたは強いですね。私が消えるのですね・・・」

「・・・消えるなら勝手に消えてって・・・わたしが会いたいのは貴方じゃない」

 

なのははただそう言い放つ。自分がほしいのは彼女・・・

しかし今になって思う。彼女は厳密には魔導師ではない。

なのはは魔導師だが、彼女は空を飛べるだけの存在なのだ。

あえるはずがなかった・・・

 

そして、そのことばを聴いた星光の殲滅者は何かを悟ったように話し始めた。

 

「・・・・・・なるほど・・・あなたは・・・心がないのですね・・・」

「・・・・・・なんでわかったの・・・」

「私はあなた・・・ですが、あなたには何か足りないものがありました。

 あなたの強さは素晴らしい・・・ですが、私にあったものがない・・・」

 

星光の殲滅者は何かを伝えようとするが、体がどんどん消えていってしまう。

だから、彼女は自らの想いだけを伝えた・・・

 

「・・・次に会うときは・・・本当の貴方と・・・お会いしたいですね・・・」

「本当の・・・わたし・・・」

「・・・今度はきっと消して砕け得ぬ力をこの手にして、貴方と戦いたいと思います」

「・・・いい迷惑・・・だよ・・・」

「そんな演技は・・・いいです。・・・きっと・・・本当の貴方は・・・あそこに・・・」

 

「あっ・・・・・・」

 

そして・・・彼女は最後まで言い切らずに消滅してしまう。

なのはは星光の殲滅者の最後に言いたかった言葉を知りたかった。

本当の自分が居る場所を・・・でも、もう遅かった。

 

「・・・そうか・・・いるんだ・・・」

 

だから・・・なのはは決めた。

 

探す・・・彼女がいる場所を・・・わたしがわたしになれる場所を・・・

 

 

 

 

この日を境に・・・なのはは海鳴から姿を消した・・・

家族に一つ・・・置手紙を置いて・・・

 

 

みんなへ

 

わたしはわたしを探しに行きます。さがさないでください。

たいせつなものです。見つけるまでかえりません

 

もし、それが見つかって・・・わたしが心をとりもどしてかえってきたら・・・

 

そのときは「わたし」をめいいっぱいおこってあげてください

 

それでは・・・さようなら・・・

 

 

                         高町なのは

 

 

 

 

 




心のないという描写はファイブレインとか、キング○ムハーツを基にしたんですけどどうでしょうか?


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SAGA 37「運命が選ぶ道」

フェイト編です。
なのはと違って、クロノ戦があるので二、三話の予定。
ただ時系列に関しては、三部作でずれているので注意。

それではどうぞ!!


 

 

いろいろな事があった『闇の書事件』。

事件のすべてが終わりを告げてから、もうすぐ一週間。

 

わたし、フェイト・テスタロッサは、今まで通り、

リンディ提督のおうちでお世話になっています。

 

 

 

 

「闇の書事件の事後処理も、もうほとんど終わりだねぇ」

「そーだよねぇー」

 

『闇の書事件』厳密にはこれは、あのナハトヴァールとジュエルシード・シリアル5

この二つの戦いによって発生した次元震に関する名前である。

 

あくまでもこのときに同時進行で闇の書の処理が行われていたと言うことになっている。

これに関しては通常のロストロギア回収作業とほとんど変わらないからだ。

 

そのため事件といっても厳密にははやては関わっていないのだ。

代わりに被害者として高町なのはとユーノ・スクライアの名前があるのだが。

 

「ただ、あれだけの大魔力を消し飛ばしたからな。

 現在もアクアボリスの監視は続いている。なのはの無茶もあるからな。

 少なくとも年内いっぱいは警戒を続けないと」

 

現在、アースラメンバーは3交代制でアクアボリスの監視を行っている。

ちなみに闇の書事件を担当していた特務五課はその役割を終えて解散している。

もともと闇の書の修復が目的のため、今回の『闇の書事件』に関しては立場上対象外だったのだ。

結果的には地球に拠点を持つ、アースラチームが担当することになったのだ。

そしてさらに艦長であるリンディの代わりにグレアム提督とリーゼ姉妹が総責任者として

監視を行っているため、リンディたちもこうして休暇もどきをゆっくりと味わうことができるのだ。

 

「このままなんにもなく年が明けて、観測チームに引き継げるといいんだけどね」

 

フェイトの言うとおり、年内いっぱいはアースラチームが監視を行う。

観測チームが引き継ぐのはあと4日といったところだ。

 

「だよねー、旅行とか行きたいもん」

「まあ、大丈夫よ、きっと」

「ナハトヴァールの言っていた紫天の書のこともあるが、

 何かあっても、細かい案件なら、僕とランディ達が残ればいい。

 よほどのことがない限り、フェイトやエイミィ達の旅行は動かないさ」

「えー。クロノも一緒がいいよ。せっかくの合同旅行なんだから」

「ね」

「そーだよ」

 

フェイトの意見にエイミィとアルフも賛同する。

それを聞いてクロノが少しだけ笑みを浮かべたあとにリンディが聞いてきた。

 

「そういえば、なのはさんと・・・あの子・・・リインフォースは元気なのかしら?」

 

今回の事件でなのはは心を失い、リインフォースはスカリエッティの処置を受けて少し調子が悪かった。

 

リインフォースはナハトヴァールによって無理やり『闇の書』から分離させられたために

もともとユニゾンの調子が悪かったところをはやてとユニゾンした。

そのためその代償として、ユニゾン能力が現在使えなくなっていた。

 

融合騎としてそれは致命的であり、そのバグのようなものがリインフォースの体調が少し優れない理由だった。

 

「うん、元気ではあるみたいだよ」

「さすがにまだ二人とも体調は戻らないみたい。

 なのはは旅行は楽しみって言ってくれたたけど」

 

フェイトは昨夜、一緒に街を歩いていたときになのはが行っていたことを報告する。

心がない以上、それが建前のようなものだということはわかっていたが、

やはり楽しいと言ってもらえるとうれしいのだ。

 

早く、なのはの心が戻ってきてほしいと今も願っている。

 

「そう、それなら良かったわね」

 

リンディはそう言い切った後、お茶を一口のみ話を続ける。

 

「旅行、はやてさん達も一緒に行けたら良かったんだけどね」

 

今回の旅行ははやてたちは来れない。

闇の書の主だったことに関しては解散した特務五課への協力があったためそこまで問題はないが、

ヴォルケンリッターは今までの主のもとで行った罪の清算が残っていた。

はやては無関係でも彼女達はそうは行かないのだ。

 

今も裁判は続いているが、判決はおそらくこのまま行けば数年間の保護観察処分だろう。

それは今までの罪の重さからすれば、とても軽いものだったが、

これは司法省が闇の書の遺族から受ける迫害を考慮した結果であり、実際にすべてを考慮すればかなりきつい判決でもある。

 

「彼女達は闇の書の主とその守護騎士として、いろいろとやることがありますからね。

 レティ提督が、いろいろ落ち着いたらミッドを案内してあげると仰っていましたよ」

 

そう言いながらクロノは羊羹を一口頬張る。

 

「そう。じゃあこっちはこっちで、ゆっくりしましょ。ね、フェイトさん」

 

リンディは微笑みながらフェイトに向けてそう言った。

フェイトも頷きながら返した。

 

「はい、リンディ提督」

 

(ほんとうに色々な事があった、この一年だけど・・・・・・

 今はわたしもアルフも、平和で幸せ・・・桃子さんとも約束しているし)

 

そんなことを考えながら羊羹を食べる。

最近は料理のレパートリーも増えてきた。

お菓子もやっと翠屋名物のシュークリームに挑戦させてもらった。

 

結果としては失敗してしまったが、とても楽しかった。

 

(そして、母さんを亡くしてひとりぼっちになってしまったわたしを・・・

 リンディ提督が家族として・・・養子として迎え入れてくれる、という話もいただいてて

 まだ、答えは出せてないけど・・・一生懸命、考えています)

 

そんななかでクロノが話を切り出す。

 

「さて、今日も食事の前に・・・・・・」

「あ、練習!? 私もやる!」

 

クロノは食事の前に魔法の練習を行う習慣があった。

フェイトも時々それに参加させてもらったことがあるので、

クロノのその言葉の一部で何が言いたいかを理解したのだ。

 

フェイトの発言にクロノは了承の意を顔に出しながら問いかける。

 

「あぁ、アクアボリスの観測のついでにやるから、少し遠出するんだが、それでもいいか?」

「うん、もちろん!」

 

そして二人は出かける準備をした。

準備も完了し、クロノがフェイトに問いかける。

 

「よし・・・じゃあフェイト、準備はいいか?」

「ばっちり!」

「ふたりとも、気をつけてなー」

「はあい。それじゃあ」

 

フェイトとクロノは転送装置の上に立つとアースラにいったん転送した。

そして、アースラにつき、メンバーに挨拶をした後、再び転送装置に乗り

アクアボリスへと行く。フェイトとクロノはバリアジャケットを纏う。

 

「バルディッシュ・アサルト セーーット、アーーップ!」

《Get set.》

 

その言葉と共にプレート状から閃光の戦斧の形態へとバルディッシュが変わる。

フェイトは魔力の流れなどを肌で感じ、そして言った。

 

「うん!今日も絶好調! 魔法の練習、がんばろう!」

 

そして空中にて向かい合うクロノとフェイト。

クロノはS2Uをフェイトはバルディッシュ・アサルトを構える。

 

「君もずいぶん強くなってきているが

 年長者の意地として僕も早々簡単に負けるわけにはいかないからな」

「私だって頑張るよ。・・・なのはやアルフともずっと練習してるんだから」

「まあ、まずは軽く一本だ。始めるか?」

 

 

「うん、お願いします!」

《Zamber form.》

 

そう言うとフェイトはフルドライブを発動。

バルディッシュをザンバーフォームにして構えた。

それを見てクロノは一瞬顔をゆがめた後、はぁ、とため息をついて言った。

 

「そうか・・・そういえば君の場合、通常のフルドライブは『軽い』だったな」

 

そう、フェイトがライトニングフォームでフルドライブをすることは

フェイトにとっては軽い運動に等しい。もともとあったソニックフォームの処理のほうが

フェイトの体には負担がかかるのだ。そしてその制御が完璧にできる今、

通常のフルドライブ使用の模擬戦はフェイトにとっては「軽く一本」に当たるものだった。

 

JSエンジンを積み込んでいるのもその一つと言える。

未だに通常の方法では起動してくれない、駄々っ子だったが。

 

「まぁ、だからといって年長者の意地としてすぐに負けるわけには行かない」

 

そして構える。クロノも負ける気はない。

年上として、魔法の先輩として、管理局執務官として・・・

 

 

静かにお互いを見据える二人。

アクアボリスの水分を多く含み、そして潮の香りが漂う空気が漂う中、

二人はお互いに攻撃のチャンスを窺う。正直言ってすでに軽く一本ではない。

そして一陣の風が、二人の間を駆け巡る。それが合図だった。

 

「はああああーッ!」

「くぅ」

 

まず最初に攻撃を仕掛けたのはフェイト。

クロノに向けて一目散に突撃するが、クロノはラウンドシールドで防ぐ。

フェイトはその反動を利用し、急旋回しもう一度クロノに攻撃する。

 

クロノは慌てず騒がずにS2Uを振るう。フェイトはとっさにバルディッシュで防ぐ。

クロノも下手にザンバー部分に触れることはなく、バルディッシュの基部の部分を重心的に狙う。

 

フェイトも攻撃を受け続けるつもりは毛頭ない。

ザンバーの角度を変えながら、非殺傷の一撃をクロノに向けて浴びせていく。

もっともS2Uで上手く捌かれてしまった。接近戦では状況は変わらない。

 

そう考えたフェイトはいったんクロノから距離をとり、

フルドライブを解除、そしてクロノに向けてフォトンランサーを数発牽制に打つ。

クロノはフォトンランサーを、二つは避けて、残りはシールドで防ぐ。

そこへ動きを一時的に止めたクロノに向けて、フェイトは放つ。

 

「ハーケン、セイバー」

 

ハーケンフォームの刃を飛ばして攻撃する魔法「ハーケンセイバー」。

射出された三日月型の刃は、飛翔しながら高速回転して円形状に変化する。

クロノは迫り来るそれが来る前にフォトンランサーを多少残してギリギリ避ける。

 

すかさずフェイトはクロノが避けて向かった方向目掛けて飛ぶ。

もう一度、牽制。今度はプラズマランサーを放つ。

 

「くっ・・・」

 

避けて動きを一瞬止めていたクロノに直撃する。

チャンスとばかりにフェイトはクロノ目掛けて飛び込む。

 

「まだだ!」

 

飛び込んできたフェイトに対しクロノが放ったのはスティンガーレイ。

高速な光の弾丸を発射するその魔法に飛び込もうとしていたフェイトは

とっさに上空に向けて、避ける。

 

そのまま横滑りをするように斜めに旋回しながらクロノの後ろに回りこむ。

そして、その状態のまま至近距離でプラズマスマッシャーを放つ。

 

「プラズマスマッシャー!!」

「ぐはっ・・・!」

 

至近距離+雷撃攻撃を受けてクロノは吹き飛ぶ。

爆煙が周りを包む中、フェイトは追撃のハーケンセイバーを放つ。

クロノはまたも避けて、スティンガーレイを放つがフェイトもまた避ける。

 

フェイトはクロスレンジに持ち込みながら、バインドをかけるが

クロノはかかったバインドをすぐさま解除し、こちらもクロスレンジを挑む。

 

「はあああッ!!」

 

バルディッシュをハーケンモードのままフェイトが突撃する。

 

だが・・・

 

「・・・なっ、バインドッ!?」

「設置型のディレイドバインドだ」

 

バインドの解除にもがくフェイトに向けて数回、S2Uによる打撃攻撃を加えていく。

そしてフェイトが一撃で吹き飛んだところに向けて砲撃を放つ。

 

「ブレイズキャノンッ!」

 

熱量を伴いながら、対象を破壊する直射型砲撃魔法がフェイトに向けて発射される。

吹き飛ばされていたフェイトは反応が遅れ、直撃は避けたが左半身には当たってしまう。

クロノが追撃を掛けようとする。だが、フェイトもまだまだあきらめていない。

 

「まだだよ、ここからが私だよ」

《Sonic form.》

 

フェイトはバリアジャケットをパージ、そしてソニックフォームになる。

パージの衝撃を利用し、後ろへと飛び出した後空中で後ろ側に一回転しながら

そして体勢を立て直した後、再び発動する。

 

「フルドライブ」

《Zamber form.》

 

再び、巨大な魔力刃を発生させる。

そして、それを振るうことで物理的ダメージを与える衝撃波をクロノに向けて放つ。

 

この衝撃波が命中すると同時に不可視のバインドが展開され、クロノをその場に固定する。

 

「撃ち抜け、雷神!」

《Jet Zamber》

 

形成した魔力刃に雷撃が落ち、魔力が刃に溜まる。

そしてそれを振りかぶり、真上からクロノに向けて斬り落とした。

 

クロノは直撃してしまい、勝負はフェイトに軍配が上がる。

 

「とと・・・・・・しまった。取られたか」

「うん!!今日は調子いいかも」

「そうだな。いい動きだった」

「うん!」

 

ピピピピピッ

 

『クロノくん、フェイトちゃん一緒に居る?』

 

その時、突然エイミィから通信が入る。

 

「エイミィ?」

「一緒に居るぞ、どうかしたか?」

『さっき市内で結界が・・正体不明の結界が発生したの

 なのはちゃんとアルフが調査に出てくれたんだけど通信が途切れがちで・・・・・・』

「そんな・・・なのはも?」

 

そしてリンディが通信に参加する

 

『それに、二人が今居る世界でも結界が現れているの』

「わかった。フェイト手分けしよう。僕はこちらの結界を確認しに」

「わたしは戻って、なのはとアルフに合流する。必要があれば助ける!」

 

「ふたりとも気をつけて。何か、妙な感じよ」

「「はいっ!」」

 

リンディからの忠告に二人は力強く返事をする。

クロノはアクアボリスの結界を、フェイトはなのはたちがいる海鳴の結界を・・・

 

お互いに行くべき道を見極め、進んでいった。

どうやら、休暇にはまだ早いようだ

 

 

 

 





追記:特務五課のその後が分かり難い気がしたので修正。
   特務五課の役割は闇の書に対して具体的な対応をする組織であって、
   次元震を発生させた片方がジュエルシードのため、立場上「闇の書事件」そのものには関われないのです。
   そのため闇の書事件はジュエルシードも担当したアースラチームが後処理も担当しています。
   グレアム提督たちはあくまでも志願してサポートに来ただけです。

   他のメンバーは本来の仕事や生活に戻っている人がほとんどです。


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SAGA 38「先導者と殲滅者」

今回、少し多くなりそうだったので微妙に予定を変更してフェイト編が一話増えそうです。
前半と後半に分けました。後半は戦闘シーンばかりなので少し不安ですが・・・

それではどうぞ!!

・・・・・・おかしいなぁ・・・なんでフェイトちゃんの出番が増えているのかなぁ・・・どうしちゃったのかな
書きたいのはわかるけど、注意書きは破って良いものじゃないん(ry

フェイトさん単体の出番が増えそうw
実はプロット段階からこの活躍量は決まってたんだけど
プロットがForceまであるから、必然的になのはとフェイトの出番の比率はフェイトのほうが少ないんだけど。
A's編とオリジナル編だとフェイトの出番が多いから必然的に多く見えるんですよねw
Forceまで行くと、あれ?フェイトどこ行った?状態になるのですが・・・






 

 

海鳴へと向かったフェイトは結界が張られているのを見て言う。

 

「なのはと連絡がつかない・・・? アルフには伝えたのに・・・どういうこと?」

 

さきほどから念話を送り続けているが、なのはの応答がない。

エイミィからの通信には答えていたそうなのだが・・・

 

「なのは・・・ううん、今は大丈夫だね。信じてる」

 

今はなのはを信じ、フェイトは結界の中にある魔力反応の元へ向かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「フェイトちゃん・・・・・・」

「え、はやて!? どうしてこんなところに?」

 

フェイトは驚く。正体不明の結界。

その中にある魔力反応の元を辿ってみれば、そこにいたのがはやてだったからだ。

確か、はやては今、リインフォースと魔法の練習をしているはずだ。

 

何故ここにいるのか・・・フェイトがそう思っていると、

はやては悲しげな表情をしながら、呟いていく。

 

「ヴィータ達が、いないんよ・・・・・・

 シグナムやシャマル、ザフィーラも・・・・・・」

「そんな! まさかリインフォースも?」

「リインフォース? それって、何・・・・・・?」

 

そしてはやての言葉を聞いて、フェイトは再び驚く。

今・・・はやてはなんて言った・・・?

もう一度、聞き返すようにフェイトははやてに向かって言う。

 

「!? リインフォースだよ! はやてが助けた、夜天の書の・・・・・・」

「やてんのしょ・・・・・・? この子は闇の書や・・・そんな名前とちゃう」

「???」

 

夜天の書のことも知らない。本当にはやては一体どうしたのだろうか?

そうフェイトが思っていたときに、エイミィから緊急の通信が入る。

 

『フェイトちゃん! その子ははやてちゃんじゃない!』

「えッ!?」

 

はやてじゃない?そう思うフェイトに対し、エイミィは話を続ける。

 

『各地で結界を生み出している犯人。闇の書の残滓から再生した思念体!

 闇の書に関わった人達の記憶と願いを再生して、実体化しているの』

 

エイミィの説明を聞いて、フェイトはさらに驚くが、

そのことをさらに考える前に目の前のはやてが言う。

 

「うちの子たちにひどい事して・・・・・・どっかやったんは、フェイトちゃんか?

 そうだとしたら、いくらフェイトちゃんでも、許せへん!」

 

思念体はやてはそう叫びながら、唖然としていたフェイトに突撃してきた!

 

「くっ、どうすれば・・・ッ!」

 

はやてが振るう『杖』をフェイトはバルディッシュで防ぐ。

思念体といわれたが、一体どうすればいいのか、攻撃しても良いのか。

そう考えているとエイミィから続報が入る。

 

『フェイトちゃん!思念体の名前は『闇の欠片』!

 さっき言った通り、それは闇の書の残滓から生まれた存在!

 闇の欠片は魔力を集めて、闇の書の闇を復活させようとしているんだ!

 だから魔力ダメージを与えれば消滅するはずだよ!

 そのはやてちゃんも早く眠らせてあげないと悲しみがどんどん増すばかりだよ!』

 

その情報を聞いて、フェイトは頷く。

助ける方法がわかった。だったらそれを実行するだけだ。

 

「はやて・・・今の貴方がどんな記憶から生まれたか、私は知らない。

 ・・・・・・だけど、私はあなたを助ける。どんな形でも!それがなのはとの約束だから!」

 

フェイトは思念体はやての杖による打撃攻撃を弾き飛ばす。

そしてバルディッシュを正面に構え、叫ぶ。

 

「フルドライブ!」

《Zamber form!!》

 

フェイトの言葉と共にバルディッシュの姿がザンバーフォームに変わる。

バルディッシュ・ザンバーを振りかぶりながらフェイトは言った。

 

「一撃で倒す・・・ッ! あなたが見ている夢を・・・覚まさせてあげる!!」

 

フェイトは自らの光を振りかぶり、その剣身は天を指し示す!

そして力の限り、それをはやてに向けて振り下ろす!

 

「疾風、迅雷!! スプライトォオオ・・・ザンバァアアアアアアアアアアアアアア!!」

「く、きゃああああああーッ!」

 

その攻撃を受けた思念体はやては真後ろへと吹き飛んだ。

攻撃があたった部分をはやては手で押さえる。

 

「く、う・・・・・・ッ」

 

思念体はやての体が消えていく・・・足元から霞が消えるように

光の粒子となりながら、少しずつ・・・

 

「うちの子たちを、かえして・・・・・・なんで、ひどいことするん・・・・・・?」

 

涙を瞳から流しながら、はやては言う。

思念体とはいえ、そんな不憫なはやてを見てフェイトは言う。

 

「・・・・・・大丈夫、ヴィータ達、すぐにはやてのところに帰すから」

「ほんまかー・・・・・・?」

 

半信半疑な思念体はやての言葉に対し、フェイトは優しく答える。

 

「うん、本当」

「なら・・・よかった・・・・・・」

 

やがて体の輪郭が揺らいでいき、思念体はやての存在は完全に消滅した。

 

ピピピッ

 

そのときにフェイトに連絡が入る。

相手はリンディだった。

 

『ごめんなさい、フェイトさん。嫌な戦いをさせちゃったわね』

「いえ、リンディ提督、この状況は一体・・・・・・」

 

フェイトがリンディに聞いたとき、代わりに通信に割り込むものがいた。

 

『すまない・・・・・・ここからは、私に説明させてくれ』

「リインフォース!」

 

その正体はリインフォース。彼女はフェイトに今回の状況を説明する。

 

『今回の事態を引き起こしているのは闇の書の防衛プログラムの残滓だ。

 それが魔導師や騎士達の思念を再生し、力を蓄え・・・・・・

 もう一度、闇の書の闇として復活しようとしている』

『急いで叩かないと、増えていく可能性があるんだって。

 守護騎士のみんなも、ミッドから緊急出動してる』

『すまない・・・・・・本来であれば、私がしっかり責を持ち、

 退治して回るべきなのだが・・・まだまだ本調子でなくてな』

「ううん、大丈夫だよ。情報くれただけでも十分だよ。

 まだ静養中なんだから、しっかり休んでて」

『あぁ、すまない。恩に着る』

 

そう言ってリインフォースは通信を終える。

彼女も無茶をしそうだが、はやてたちもいるし大丈夫だろうとフェイトは納得させる。

フェイトはバルディッシュをアサルトフォームに戻すと海鳴の空を翔けていった。

 

結界は・・・まだあるのだから・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

その後、私はたくさんの闇の欠片と出会った・・・

 

闇の書だったころの・・・悲しい記憶を持つザフィーラとシャマル。

今の二人を知っている自分としては、守護騎士とリインフォースは

はやてに会えて本当に幸せだっただろうと思ってしまった。

 

その次に会ったのはシグナムの闇の欠片。

途中でリインフォースから連絡が入り、そのシグナムは一度模擬戦を見て

なのは以外に私と戦ってみたいという、想いが具現化したものらしい。

 

それを聞いて、ちょっと嬉しいなとも思いつつ。

そのシグナムと戦った。さすがはベルカの騎士。

なのはとアレだけの攻防をできただけのことはある。

でも・・・私には約束がある。そしてその時には今度こそなのはに勝つ!

 

だから、ここで負けるわけにはいかない。

そして、激しい攻防の末に・・・ギリギリ私が勝った。

シグナムは自分が幻想の存在だと気づいていたらしく、

本物のシグナムと出会ったら、戦ってやってほしいと言って消滅した。

 

次に出会ったのは・・・まさかの本物のヴィータ・・・

・・・私と闇の欠片を間違えないでほしいな、少し傷ついたよ。

多少ぶっきら棒に謝られた後、ヴィータは別の結界のほうへと向かっていった。

・・・後々聞いた話だと、あのときのヴィータは過去の自分と戦っていたらしい。

なるほど・・・それは確かにイラつくよね・・・

 

そう思ってしまうのはその後、自分の闇の欠片と戦ったから。

 

それは母さんに頼まれてジュエルシードを探していた頃の私。

そのころのことを思い出すだけで、いろいろと・・・いろいろと感情が浮かんでくる。

後で聞いたらはやてから「黒歴史」と言われたが、そこはどうでもいい。

 

とりあえず、なのはに助けられる前の「弱い」私はこれ以上見たくない。

大量に今の自分の話・・・もとい自慢話をいろいろ語って勝った。

 

その時に入ったのが、アルフからの連絡だった。

 

『フェイト、無事!?』

「アルフ! 大丈夫だった? なのはとは連絡がついた?」

『あぁ、とりあえずエイミィの無差別通信に反応してくれた。

 さっき海上の特殊な結界のほうに向かうって言ってたよ』

「さっきの闇の欠片が集まっているって言ってたの?」

『そう、さっきその反応が消えたらしいんだけど・・・

 まだ、なのはとは連絡ついていないんだよねぇ・・・』

 

そんな!なのはの身に何かあったんじゃあ・・・

 

『フェイト、なのはのことはアタシも心配だけど、それよりも先に』

「先に?なのはよりも?」

『あぁ、闇の欠片がまた集まっているんだ。どうも反応がおかしいと思って

 リインフォースが調べてたんだよ・・・そしたら・・・』

「そしたら?」

 

一体、何のことだろう?そう思っていたらアルフが言った言葉は

私の心に残るのには十分すぎる情報だった。

 

『紫天の書・・・あれが関与しているらしい・・・

 闇の書の闇を逆に利用して、砕け得ぬ闇を復活させるつもりだ』

 

紫天の書・・・? それってナハトヴァールが言っていた!

 

『多分、当分紫天の書のマテリアルたちは復活を続けるみたいだ。

 闇の欠片はアタシや守護騎士に任せて、フェイトは向かってくれないか?

 はやてとリインフォースは大本を叩くらしいから・・・』

「わかったよ、アルフ。アルフも気をつけてね!」

『了解、ご主人様』

 

そう言って、アルフは通信をきった。

なのはに連絡がつかない・・・心配だけどなのはが負けるということはないはず。

 

先にマテリアルの子のもとに向かおう。

きっと・・・そこに答えはあるはずだから

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

たどり着いた先でフェイトがであったのは友人にとてもそっくりな存在。

といっても一目でそれが自らの友達「高町なのは」ではないとわかる。

 

髪型は異なりあの特徴的なツインテールがなく、眼もなのは以上にはっきりとした青色。

服はなのはのバリアジャケットの白い所は黒紫、青い所は牡丹色、

そしてなぜか金属チックななのはのバリアジャケットと違い。

胸にはリボンがあり、それは紫色、他にも赤だったところが紫になっていた。

 

「なのはじゃ、ないよね、どう見ても」

「貴方は私を知らないでしょうが、私は貴方を良く知っています」

「・・・・・・!?」

「終わりのない迷宮に迷い込んでも、悲しみと傷みを乗り越え、

 そしてまだ見ぬ未来に向かって走っていく強い魂」

 

マテリアル――S

 

彼女はフェイトをそう評価した。

闇の書の幻影の中で、確実な幸せを得てもそれを跳ね除けて

さらに自らのオリジナルの心を救った強き魂を持つもの、と・・・

 

それを聞いてフェイトは言い返した。

 

「それはなのはがくれたんだよ。あなたのオリジナルが・・・」

「なるほど・・・やはり、心あるナノハの強さは本物のようですね。

 今はまるで見る影もない、か弱き存在でしたが・・・」

「!? なのはと戦ったの!?」

「はい、激しい攻防の末に私は敗北しました。

 確かに彼女は強かったですが、あなたの瞳を見るとどうも揺らぎますね。

 是非とも、心ある強きナノハと戦ってみたかったのですが・・・」

 

目を閉じながらマテリアルSはそう呟きながら、ため息を吐いた。

 

「ちょっと待って、なんでなのはに倒されたのに、ここにあなたが?」

「よくわかりませんが、再び舞い戻りました・・・」

 

その様子を見る限り、本当に何も知らないようだ。

さきほどのアルフからの通信の内容、そして以前ナハトヴァールから語られた真実。

この二つを総合すれば、まず間違いなく闇の書の再生機構で復活したはずだ。

 

そんなことを考えているフェイトを尻目に、マテリアルSは

自らのデバイス「ルシフェリオン」を構えながら、話していく。

 

「さて、それでは答えてください。貴方は私と戦ってくれますか?」

「・・・どうして、そうまでして私達と戦いたいの?」

 

フェイトがそう聞くとマテリアルSは笑みを浮かべながら答えた。

 

「この私にとって、強者だけが真理。勝者だけが、正義であり友情です。

 だから強者であるあなた方と戦いたい・・・それが本音です。

 もっとも・・・その前に『砕け得ぬ闇』を手に入れる・・・?」

 

突然、マテリアルSの様子がおかしくなる。

 

「いえ、闇の書の復活が私の目的です?

 ・・・すみません。再生を二、三回ほどしたのですが、

 どうやら記憶媒体に不備があるようですね。戦いには支障はありませんが・・・」

 

目的・・・それを語るときの彼女の言葉はまるで語尾に?がついているようだった。

そんな彼女を見て、フェイトは彼女の身に何が起こっているかを理解した。

 

(そうか、この子は紫天の書のマテリアル・・・だけどナハトヴァールが言っていた。

 後付されて暴走した防衛プログラムに封じ込められていたって・・・・・・

 そして、防衛プログラムはなのはを操っていた黒幕・・・

 マテリアルたちを侵食しててもおかしくない――

 

 本来の目的の「砕け得ぬ闇」の復活と防衛プログラムの望む「闇の書」の復活。

 二つの思いが混ざりあっているんだ・・・・・・だから目的を言うときだけ変に・・・)

 

フェイトはそう思いながら、どうするべきか悩む。

彼女にとってはどちらも大切な目的のはず。どうすればいいか――

 

だけどフェイトは決めた。迷っているこの子と争いたくないと

なのはがかつて、自分に真実を打ち明けたように・・・この子にも・・・

 

「あなたの目的はそっちじゃない。「砕け得ぬ闇」の復活・・・それが本当のあなたの願い」

「そうでしたか?なぜあなたがそれを知っているのですか?」

「あなたのことは前に聞いていたから、あなたは防衛プログラムに利用されているんだよ」

「・・・あなたの言っていることが理解できません・・・いったい何が言いたいのですか?」

 

マテリアルSはいつの間にか、構えを解いていた。

フェイトは彼女のそんな言葉に苛立ちを感じていた。

真実を知らずに利用されている存在・・・見た目も含めて自分の友達に似ていたからか

自らに似ていたからか、フェイトは叫んで言ってしまう。

 

「忘れちゃったの!!?

 紫天の書のことを!!エグザミアのことを!!

 そして・・・・・・・・・システムU-Dのことを!!!」

 

「紫天・・・の、書・・・?システム・・・U・・・ぐっ」

 

フェイトの叫びを聞いた途端にマテリアルSは頭を突然襲う痛みに米神に手を当てる。

真実と嘘の狭間・・・今のマテリアルSのおかれた立場はそれだ。

 

ズキンッと痛む頭を抑えながら、マテリアルSは呟いていく。

 

「わ、たしは・・・紫天の・・・書の・・・構成体(マテリアル)・・・シュテ・・・・・・ぐぅ・・・が、ああ・・・あああ・・・」

 

そして今度は両手で頭を押さえて、うめき声を上げる。

何かから逃れるように、何かの支配から負けないように・・・

 

「がああああ、わたしは・・・わた、しはぁ・・・・・・ぐうう・・・」

 

絶え続ける彼女に突然それは起こった。

 

  闇だ

 

突然、彼女の周りに闇の瘴気が発生した。

それは次々と発生をし続け、マテリアルSの体を蝕んでいく。

闇が蝕むたびに、彼女の体がさらに黒く染まっていく。

 

「くぅうう、ぐ、がぁああああああああ」

「大丈夫!?しっかりして!!」

 

一応、立場上は敵なのだが、あまりのマテリアルSの苦しみ様に

フェイトも心配になって問いかける。依然、マテリアルSは苦しみ続けていた。

だが、彼女も抗っていた。近づいても、遠のいてしまう真実を掴むために

 

「や、め・・・なさい・・・わ、たしは・・・私は・・・私は・・・違う・・・これは違うッ!!」

 

そして、その叫びと共にマテリアルSは闇の瘴気の呪縛を解き放つ。

瞬間、闇が爆ぜると同時に彼女の体から圧倒適量の光が放出される。

 

やがて、その光は真っ赤に燃え滾る灼熱の焔へと変わる。

彼女は閉じていた瞳を、フェイトに向けて開け放つ。

 

その瞳には先ほどとはまた違った強い意思が込められていた。

先ほどまでのなのはと同じ桜色の魔力光が、真っ赤に燃え滾る深紅に染まっていた。

そして、彼女は改めてフェイトに向けて話しかける。

 

「ありがとうございます・・・おかげで支配から逃れることができました」

「やっぱり、防衛プログラム?」

「はい、申し送れましたね。今度こそ本当の私の名を名乗りましょう。

 私は紫天の書のエグザミアとそれを支える無限連環(エターナルリング)構築体(マテリアル)

 その一人、「理」を司り、殲滅者(デストラクター)の称号を持つ者。

 

 シュテル・・・・・・私の名前は星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)です。」

 

彼女は名乗った自分の真実の名を・・・

それを聞いてフェイトは微笑む。

 

「シュテル・・・かいい名前だね」

「ありがとうございます。・・・さて、そろそろ私と戦ってもらえないでしょうか?」

「・・・本当に戦うの?」

「はい、先ほども言いましたが、私にとって強い戦士こそ真理・・・友であり尊敬する者です。

 だから、貴方と戦いたい。助けてもらっておいておこがましいとは思いますが・・・」

 

フェイトはそのシュテルの真っ直ぐな瞳を見て悩む。

確かにマテリアルである以上、フェイトに戦う理由はあるのだが、

正気に戻った彼女を素直に攻撃していいのか・・・フェイトはそう考えていた。

 

そこへ、シュテルが交換条件のようなものを出してきた。

 

「もし、貴方が勝てば・・・なのはが向かおうとしている場所をお答えしましょう」

「なのはが向かおうとしている場所!!?」

 

フェイトはそれを聞いて目を見開く、連絡が取れないなのは。

そのなのはが向かおうとしている場所を知ることができる。かなりおいしい情報だ。

 

だったら・・・答えは決まった。

 

「いいよ、()ろう・・・

 管理局嘱託魔導師 フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・アサルト!行きます!!」

 

「行きますよ、ルシフェリオン!」

 

そして、次の瞬間にはぶつかり合っていた。

お互いの愛機(デバイス)を力強く、己の持ちうる全てを賭けて

ガキンッという大きな金属音が結界内に響き渡る。

 

 

黄金色に光る雷音と灼熱に燃え盛る焔紅

 

片方には轟雷を・・・片方には劫火を撒き散らしながら

 

運命の先導者と星光の殲滅者は今ここにぶつかり合った!!

 

 

 

 




 
なのはや+フェイシュテ+なのユー・・・になるかもしれない・・・ライバル的な意味で


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SAGA 39「星の破壊者の願い」

  


   


 

 

不可思議な結界が辺りを包む中、彼女達の戦いは続く。

 

「「はあああああああああッ!!!!」」

 

フェイトはバルディッシュを、シュテルはルシフェリオンを

 

ぶつかり合う衝撃が、結界を揺らし大地を揺るがしていた。

フェイトの轟雷とシュテルの劫火が左右を黄金色と深紅色に染め上げる。

 

甲高い音が響く、どちらも一歩も退かない攻防だ。

接近戦ではまだ勝負はつかないと思ったフェイトはプラズマランサーを数発放ちながら

後方に向けて、高速で避ける。そしてハーケンフォームにしたバルディッシュを振りかぶる。

 

「ハーケン、セイバー!!」

 

放たれた雷撃の刃が弧を描きながら、円形の光輪となってシュテルへと向かう。

シュテルも慌てず騒がずに、いたって冷静に対処する。

 

彼女は自らの周りに数発、炎熱変換された魔力弾を形成し、放った。

 

「パイロシューター!」

 

直線的な軌跡を描きながら、シュテルの放ったパイロシューターが

フェイトの放ったハーケンセイバーに直撃し、お互いを相殺する。

 

「やるね、シュテル!バルディッシュ、カートリッジロード」

《Yes,sir》

 

フェイトの指示を受けて、バルディッシュが一発カートリッジをロードし、

魔力を増大させたフェイトの周りには10個のフォトンランサーが作られていた。

 

「ファイヤッ」

《Flash Move》

 

シュテルは受け取ったなのはの魔法を使いはそれを紙一重でかわす。

 

フェイトは一瞬だけシュテルを見失うが、すぐにその場を離れた。

その行動にいたった理由は簡単だ。朱色の魔力光が視界の下から見えたからだ。

 

真下では砲撃の準備が完了したシュテルの姿があった。

シュテルはブラスターヘッドのルシフェリオンをフェイトに向ける。

 

「ブラストォ、ファイアアア!」

 

その言葉とともに放たれた朱色の灼熱を持つ砲撃がフェイトを襲う。

 

「くっ!」

《Sonic Move》

 

その攻撃に対して、高速移動を使いすぐさまその場から離れるフェイト。

だが、シュテルはまだまだ砲撃の手を休めない。

 

「まだまだ、行きます。ブラスト、ファイアアアアーッ!!」

 

再び放たれた、朱色に輝くの太い砲撃がフェイトを襲う。

 

「まだ、遅いッ!!」

《Sonic Move》

 

一瞬のうちに加速し、紙一重にかわす。

動きは最小限に、そうしながらフェイトはスタミナを温存しつつ戦う。

大幅な動きのほうが疲れないのだが、隙が大きいし動きが読まれやすい。

彼女は一番戦術的に有効で疲れにくい避け方を編み出していた。

 

「くっ、当たりませんか・・・ならば!」

 

そう言うとシュテルはホーミングミサイルのような軌道を描くを魔力弾を4つ放つ。

放たれた魔力弾はそれぞれ個別に緩急を付けながら4方向からフェイトに迫る。

 

彼女は砲撃による一撃必殺から、己が理の力を駆使してフェイトを追い詰める作戦に切り替える。

 

フェイトの高速移動の終着点・・・その一瞬を狙ったそれは、的確にフェイトを追い詰める。

だが、突然フェイトの肩にかかっているマントが金属のような硬さを持って板状に固まる。

そしてそれは戦闘機のスポイラーのように風を受けて、フェイトの速度を急激に下げた。

 

最初の2つの魔力弾がタイミングが合わずにフェイトの目の前を空しくも抜けていく。

 

そしてフェイトはそれを一瞬だけ見た後、バルディッシュをハーケンモードにし、

光り輝く魔力刃を生み出して振り向きざまに残りの魔力弾を・・・斬る。

 

「ハーケンセイバー!」

 

魔力弾を両断した後、続けざまに振り抜いた大鎌から、雷撃の刃が回転しながら放たれた。

シュテルがこの技を見るのは二回目、対処方法もわかっている。

もう一度魔力弾を生成し、それを粉砕しようとしたのだが・・・

 

「はあぁぁああああああッ!!」

「ちぃっ」

 

一気に距離を詰めて、滑るようにシュテルの後ろに回りこんだフェイトが、

振りかぶったバルディッシュをシュテルの体目掛けて、振り下ろす。

 

シュテルはすかさず防御魔法を展開し、フェイトの一撃を受け止める。

 

フェイトの攻撃によって巻き起こされた爆煙の中から、最初に飛び出したのはシュテルだった。

彼女の戦闘衣服である殲滅服(ヒートスーツ)は所々が破け、胸のリボンは半分が焼け焦げていた。

 

己の炎熱による炎の影響はないが、シールドの間さをすり抜けた雷撃による被害だ。

魔力変換資質の雷撃が込められた一撃は、それだけ強力だったのだ。

 

「くっ、これほどとは・・・なっ!?」

「ふふ、ライトニングバインド・・・」

 

シュテルの四肢を襲ったのは、雷撃を纏った小さいリング状のバインドだった。

しまった、そう思いながらシュテルはバインドを解除しようと演算を開始する。

だが、フェイトはわざわざ作ったこのチャンスを逃さない。

 

フェイトは大技の詠唱を始める・・・

 

「アルカス・クルタス・エイギアス・・・・・・!」

 

この魔法を使うのに詠唱は本来はもういらない。

だが、詠唱したほうがコントロールに余裕ができ、さらに威力は上がる。

だから彼女は久々に唱えていく・・・かつて師から教えてもらった詠唱を

 

「疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」

 

46基ものフォトンスフィアが少女の周囲に展開され、無数の魔法陣と雷撃が明滅する。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け、ファイアー!」

 

雷撃の魔力弾が次々とシュテルを襲い、その体は爆煙に包まれていく。

合計で1064発のフォトンランサーがシュテルの体に追撃を加える。

 

そし勿論、それだけでは終わらない。

フェイトは腕を上にかかげ、70発ほどのフォトンランサーを束ねていく。

やがてそれは身の丈の3倍はある金色の槍と化した。フェイトはそれを容赦なく投擲する。

 

「・・・スパァァアアアアアク・・・エンドォォオッ!!!」

 

フェイトの声とともにシュテルに巨大な雷撃の槍が直撃し爆ぜる。

刹那、大爆発が起こり、シュテルはおろか離れていたフェイトがいる場所まで爆煙が来た。

 

(これで決まっていれば・・・)

 

そう思って煙が漂う場所を見るが、突然フェイトはその場から左へ高速で移動する。

そしてさきほどまでフェイトがいた場所を朱色の脈打つ砲撃が通り過ぎていった。

フェイトは未だに煙漂う先を見据える。やがて煙が晴れて現れたのは無傷のシュテルだ。

 

見ると彼女の目の前に炎燃え盛る障壁が出現していて、彼女を守っていた。

 

「危ないところでした。あとコンマ数秒遅れていたら直撃でした」

「スターライト・シェード・・・なのはの防御魔法だね・・・」

「はい、あなたのその攻撃を防ぐ手段は私にはそれしかありませんから」

 

確かに一度フェイトのこのファランクスシフトとスパークエンドを防いだのは

なのはが使用したこの集束防御魔法「スターライト・シェード」だけだ。

もっと言えば闇の書の闇の内部フレームもだが、それはまた別物だろう。

 

「まったく・・・炎熱変換能力持ちで、これほどの集束技能もあるなんて珍しいね」

「はい、それが私の個性ですから」

 

ため息を吐きながら言ったフェイトの言葉にシュテルは笑って切り返す。

フェイトの言うとおり、炎熱変換持ちにこれほどの集束技能持ちなんて魔導師はかなり珍しい。

フェイトが知る限り、知り合いには一人も存在していなかった。

 

まだ、なのはの希少技能「魔力散布」の使い手のほうが探すのが簡単そうだ。

使用した残骸魔法の魔力の集束技能自体は上級者なら珍しくもないが、

なのはやシュテル並みに集束できる人はかなり珍しいのだ。

 

「ここからです。まだまだ戦いを終わらせるわけには行きません」

「残念、私としては仕事柄速く終わらせないとね」

 

お互いに言い放った後、二人は距離を離し、再び己のデバイスを構える。

距離は約200mといったところか、お互いに目を見ながら相手の行動を予測する。

 

先に動いたのはシュテルだ。

 

「パイロシューターッ!」

 

今度は4つの炎熱を帯びた魔力弾を上に向けて二つ、斜め下から左右二方向に一つずつ放つ。

フェイトは上の二つはバルディッシュで切り裂き、残りの二つは完全に無視して突き進む。

ライトニングフォームの最高速度までフェイトは飛ばしながら、一気にシュテルとの距離を詰める。

 

(これでサイズスラッシュをすれば・・・)

 

シュテルはその場から動こうともしない。チャンスと見たフェイトはそのまま突っ込もうとして・・・

 

 

 

 

 

ピンッ

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

突然耳の奥に聞こえた、甲高い音。

それを聞いたフェイトはとっさに急ブレーキをかけた。

車は急には止まれないというが、ことフェイトに関しては

急ブレーキを使えば停止距離は6mに抑えることができる。

 

ほんの一瞬、とっさの判断だが動きを止めたフェイトの1cmにも満たない目の前で、

 

 

ガキンッ

 

 

「・・・!!?バインドッ!!??」

 

赤色の光の輪が現れて、誰もいない虚空の空気を拘束した。

それを見たシュテルは舌打ちをしながら、呟いた。

 

「ルベライト・・・よく見破りましたね。目視確認はできないはずですが・・・」

 

設置型タイプのルベライトをフェイトと自分の間に設置。

パイロシューターの挑発と自分がこの場を動かないことにより

フェイトがこちらに向けて真っ直ぐ向かってきたときに発動するようにしたのだが、

目視確認できないはずのそれをフェイトは見破ったかのように回避した。

 

しかし、フェイトはそんなことを考えてはいなかった。

別に見破っていたわけではない。よくわからない音が聞こえたのでとっさに止まっただけだ。

偶然をそう褒められても対応ができない・・・そう考えていた。

 

 

彼女はまだ知らない・・・これが彼女に与えられし力の一端だと言う事を・・・

 

 

そのころそんな事情を知らない――――

ルベライトに嵌める作戦が失敗してしまったシュテルは別の作戦を立案していた。

 

(ブラストファイアーは彼女にはおそらく当たらないでしょう・・・

 しかし魔力弾であるパイロシューターは威力には乏しいです・・・。

 と、なると・・・ルベライトに嵌める作戦が失敗した、今・・・使えるのは・・・)

 

(この子にはソニックフォームは通じない・・・ライトニングフォームの加速性能だから

 今の罠に嵌らずに済んだ・・・ソニックフォームだったら抜け出せばいいとも思うけど、

 あのころのなのはの設置型バインドよりも速度も強度が高い・・・

 

 抜け出せなかったら・・・たぶん砲撃を喰らえば一撃で落とされる・・・

 ってことになると・・・私らしくないけどここは・・・)

 

またフェイトも同じく作戦を考えていた。

シュテルの仕掛けた罠は本来の目的は達成できなかったものの、

フェイトの戦略の幅を狭めたと言う意味では役に立っていた。

 

お互いに作戦を考えていたのはわずか数秒・・・

 

そして運命の先導者と星光の殲滅者は同時に結論を出す!

 

 

 

((ブレイカーで撃破(焼滅)する!!))

 

 

ここからは騙し合いだ。先に撃ったほうが勝利する。

シュテルはまずは牽制のパイロシューターをフェイトに向けて5発放つ。

フェイトの対処の仕方は先ほどとそう変わらない。

 

向かってくる三発はプラズマランサーで相殺。

残った二発はハーケンセイバーで消し去った上でシュテルに向けて放つ。

 

「こんなもの! ブラストファイアーッ!」

 

シュテルはルシフェリオンをブラスターヘッドに変えた上で砲撃を放つ。

放たれた深紅に染まる光の束はフェイトのハーケンセイバーを完全に消し去り、

フェイトへと向かって突き進んでいく。

 

「バルディッシュ!!」

《Sonic Move》

 

フェイトはまたも高速移動魔法を使い、砲撃を避ける。

そしてそのまま、上空へと向かった彼女はプラズマスフィアを並べて構えた。

 

「!!まさか同じ考えだったとは」

「バルディッシュ、これで決めるよ。カートリッジロード!」

《Yes,sir.》

 

その言葉と共にバルディッシュはカートリッジを三発ロード。

バルディッシュ・アサルトの姿は変わり、ザンバーフォームとなる。

 

さらにバルディッシュは自身に残されたカートリッジをフルロード。

 

雷撃の変わりにプラズマスフィアを使い、

そのエネルギーをザンバーフォームの刀身に蓄積させる。

 

「ならば、力と力のぶつけ合いです!!」

 

シュテルもまたルシフェリオンをディザスターヘッドにしてカートリッジをロードする。

 

「疾れ、明星(あかぼし)すべてを焼き消す炎と変われ・・・」

 

ディザスターヘッドの先端に炎熱に染まった魔力が集束し溜まっていく・・・。

 

そしてフェイトは放つ。雷光を伴った強力な砲撃を・・・

シュテルは迎え撃つ、劫火を纏いし滅砕の砲撃を・・・

 

「雷光一閃・・・プラズマザンバー・・・ッ!」

「轟熱滅砕・・・真・ルシフェリオン・・・ッ!」

 

そしてその二つの砲撃は・・・放たれた!

 

「「ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」」

 

ぶつかり合う金色と朱色の太い光の束。

その威力はお互いに互角!拮抗しあう二つの砲撃の着弾点では膨大な光が発生している。

衝撃で周辺一帯に爆煙と稲妻が散った。地を揺るがすような轟音が鳴り響く。

 

勝負は引き分けか・・・観客がいればそう思う中で・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ガハッ・・・! 私の・・・負けですか・・・」

 

 

力なく倒れ、地へと堕ちていくのはシュテル・・・

そしてその後ろにいたのはソニックフォームのフェイト!

 

砲撃が拮抗する最中、ジャケットをパージしたフェイトはシュテルの後ろに回りこみ

己に残された魔力のすべてを使ったサイズスラッシュを放ったのだ。

 

「・・・まさ、か・・・そのような・・・いえ、負けは負けです」

「まだまだ・・・本気で使えないけどね・・・私の、勝ちだよ・・・」

 

シュテルはフェイトがしたあることに気づく。

だが、それを確認している暇はない。徐々に自分の体が消えていくのがわかる。

勝負にフェイトは勝った。約束は守らなければならない。

 

「・・・ナノ、ハの行き先・・・でしたね・・・」

「うん、なのははどこに・・・行ったの・・・?」

 

フェイトの静かな問いにシュテルは瞳を閉じ、そして答える。

 

「・・・『始まりの園』・・・あそこはそう呼ばれています」

「始まりの・・・園・・・? それは一体どこに?」

「わかり・・・ません・・・あくまでも私の知識にあったもの・・・

 ナノハの望むものは確かにそこにあります・・・。しかし、場所までは・・・」

 

知らない・・・シュテルの答えは実質それだった。

しかしシュテルが約束を破ったわけでもない。

あくまでもシュテルは行き先を知っているから勝ったら教えるといっただけだ。

 

フェイトはそれを聞いて、一つ頷いて答える。

 

「そう・・・ありがとう、教えてくれて」

「すみ・・・ません・・・・・・それと・・・一つお願いしてもよろしいでしょうか・・・?」

「何?」

 

体が消えぬく中、シュテルはお願い事があると言った。

フェイトはその願いを聞くことにする。

 

「・・・マテリアル・・・は・・・私のほかに・・・あと二人・・・います・・・

 王の『ディアーチェ』・・・水色の・・・『レヴィ』・・・・・・」

「ディアーチェ・・・レヴィ・・・」

「・・・二人も・・・・・・おそらく・・・私同様、闇の書に操られているでしょう・・・

 もしそうであれば・・・助けてあげてほしいのです・・・・・・」

 

残された二人のマテリアルを闇の書の闇の呪縛から助けてほしい。

それが消え行くシュテルが最後に残した願いだった。

 

フェイトはそれを聞いて迷わずに頷く。

 

「わかった。私が・・・いや、私『達』が必ず二人を助け出す! 安心して待っていて・・・」

 

そんなフェイトの決意を聞き届けたシュテルは満足げな表情を上げながら消えていく。

身体が光の粒になり、体の輪郭はほとんどぼやけていった。

 

「あ・・・りがとう・・・ございま・・・す・・・」

 

ありがとう・・・お礼の言葉と共に、彼女は一人、先に闇の中へと帰っていった。

フェイトはそれを最後まで見届けていた。

 

後に二人が奇妙な友情のもとに、再び戦うことになることを・・・まだ誰も知らない。

 

フェイトは無言で・・・しかし、力強くバルディッシュの柄を握ると

残された強い反応のする闇の結界の方へと飛び立っていった。

 

約束は守らなければならない・・・そう強く決意をしながら・・・

 

 

 

 




なのはさんの影響が見えるフェイトさん・・・


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SAGA 40「超音速の追撃」

 

 

シュテルとの戦いを終えて、私ははやてと連絡を取っていた。

はやてのほうもどうやら訓練中に闇の欠片と戦闘していたらしく、その顔は少し疲れていた。

となりには先ほど合流したと言う、リインフォースさんが少し困惑した顔でこちらを見てきた。

 

私は特に気にせずにはやてに話しを続けさせることにする。

 

「それではやて、さっき私はマテリアルの子と戦ったんだけど・・・そっちは戦った?」

『ん~?マテリアルの子?戦ったよぉ。

 紅い服を着たなのはちゃん似の子と、水色の髪の毛をしたフェイトちゃん似の子』

 

紅い方はシュテル・・・かな

 

「紅い服のほうはさっき戦ったよ。名前はシュテル。あの子が言っていた通りなら

 その水色の子はレヴィ・・・だと思う。私似ってシュテルと同じで見た目?」

『そうやよ。見た目は凄いそっくりや。見た目・・・はな・・・』

「???」

 

見た目・・・は・・・?そんなことを行った後、はやては話を続ける。

 

『・・・そっかぁ、あの紅い服の子シュテルちゃんいうんやぁ

 私の時は名乗ってもらえなかったんやけどね。』

「私のときも最初は名乗ってくれなかったけどね。途中で教えてくれたんだ。

 それで戦いに勝ったら、他のマテリアルの子の事も教えてくれた。

 水色の子がレヴィ。あと王のディアーチェって言ってたかな?」

『レヴィにディアーチェやね。了解。・・・あれかぁ・・・もしかして・・・』

「どうかしたの?」

 

はやてが急に挙動不審になったので、聞いてみる。

となりで待っているリインフォースの顔も何か変になっていたけど。

 

『ほら・・・なぁ・・・シュテルって子はなのはちゃん似やろ?』

「そうだね。本人は見た目と魔導はなのはから得たって言ってたし」

『そうなんか、だったらレヴィはフェイトちゃんのデータからやろ?』

「うん、そうだね」

 

それがどうかしのかな?

そう思っていたら、はやては急に落ち込んだ顔をして言った。

 

『・・・だったら消去法的にいって・・・ディアーチェって私のデータ使ってへん・・・?』

 

あっ、そうか。シュテルがなのはでレヴィが私。

そしてほかに闇の書に吸収されたのははやてくらいだ。

確かに紫天の書の王であるディアーチェが夜天の王であるはやての姿を模してもおかしくない。

でも、そんなに嫌がることなのかな・・・?

 

「そんなに嫌がること・・・かな?」

『フェイトちゃんもレヴィに会えばわかる・・・自分の闇の欠片以上にキツイんや・・・』

『それには私も同感ですね。おそらくあってみればわかるかと・・・』

 

珍しく、リインフォースまで必死に言ってくる。

一体、レヴィははやてたちに何をしたのだろうか・・・?

そんなことを考えながら、とりあえず通信を終えて結界がある空間へと向かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「はーっはっはっはっは、会いたかったぞ!フェイト・テスタロッサ!!」

「よ、予想以上にキツイ!?」

 

水色の髪の少女の攻撃をバルディッシュで受け止めながら、フェイトが驚きの声を上げた。

聞いていた以上の現実にフェイトは面食らった様子でそう叫んだ。

 

「僕は君の事を知っている! 君の心の強さを、君の羽ばたく速さを!」

「えっと・・・レヴ・・・」

「さあ、我が刃の下、我が血肉、我が糧となれ! 君を倒し、僕は王となる!」

「えっと、えっと・・・話を・・・」

「我が名は雷刃!またの名をマテリアルL!! さあ、正々堂々かかってこぉーーいっ!!!」

 

困惑しているフェイトのことなどお構い無しに、マテリアルLは一方的にまくし立てる。

フェイトの話を全く聞いていない。というか会話が全く成立していない。

唖然としながらも、フェイトは頑張って会話をしようとする。

 

「あ、あの・・・!」

「行くぞぉ! 我が太刀に、一片の迷いなーしっ!!」

「話を聞いてぇ・・・・・・・・・」

 

フェイトの叫びも空しく、会話はやっぱり成立してない。

 

彼女の攻撃自体は続いており、実力はフェイトに勝るとも劣らないレベルだ。

 

常人には認識のできない、目にも止まらぬ速度で飛び回ると的確な斬撃を繰り返す。

流石のフェイトも会話の成立をあきらめ、同じく高速で飛び回り応戦することにする。

 

フェイトのバルディッシュとマテリアルLのバルニフィカスがぶつかり合う音が響く。

同じ高速機動型同士の格闘戦は、おおよそ20分は続けられた。

 

 

 

「はははは、流石は我がオリジナル! 君の速さ、まさしく神の領域!!」

「・・・そういう・・・貴女も、早い・・・」

 

緊張感を根こそぎ持っていくような事を叫んでいるのはマテリアルL。

彼女の言葉に、フェイトが真剣な表情で答えるのだが彼女は全く取り合ってくれない。

バルニフィカスを振り回し、その圧倒的力を振るいながらマテリアルLは宣言する!

 

「だが、僕はそれを乗り越え更に飛ぶ!そして砕け得ぬ王となる!!」

「え、えっと?」

 

答えは聞いていないのにいきなりそんなことを言われて困惑するフェイト。

正直言って、ここまでだとは思わなかった。実力も、そして精神的ダメージも。

 

その実力は紛れも無く本物だ。速度は互角だが、パワーはフェイトを数倍上回っている。

動きや魔法がコピーである以上、速度で戦うフェイトにとっては非常に最悪な相手だ。

 

いくら速度で多少上回っても、パワーで負けていればいずれは押し切られる。

 

「いくぞ! 僕を止められるものなら止めてみろ!」

「くっ!」

《《Sonic Move.》》

 

二人はほとんど同時に高速機動魔法を発動させる。

常人では目で追うことのできない音速の世界へ突入してゆく。

 

お互いの雷の鎌がぶつかり合い火花を散らす。

そして、ぶつかり合うたびに、フェイトの動きが少しずつ遅れてゆく。

 

直撃はギリギリは避けているものの、体に小さな傷が少しずつだが増えていった。

フェイトのライトニングフォームのバリアジャケットの裾が切れ、

ところどころ切り裂かれた布切れがひらひらと舞っていた。

 

対する水色の髪の毛をひらひらと晒すマテリアルLは全くの無傷だ。

 

速度がほぼ同じなため、パワーで上回るマテリアルLのほうが有利なのだ。

ぶつかり合いを続けていく度に、少しずつ・・・少しずつ、フェイトの対応が遅れていく・・・。

そして若干の反応の遅れは致命的ともいえる隙を生み出してしまう。

 

「ははは!喰らえ!!」

「あっ、きゃっ!」

 

マテリアルLの攻撃を受け流す事が出来ず体勢を崩したフェイトにマテリアルLは大技を繰り出す。

 

フェイトのジェットザンバーとよく似た形の技で、

衝撃波で相手を攻撃した後、雷の力を収束した大剣で斬り伏せる。

 

「砕け散れ!雷神滅殺!きょっこーーーざん!」

 

雷刃の襲撃者の手にあるバルニフィカスの光刃に圧縮された雷が迸る。

そしてそこから放たれた光の奔流がフェイトの身体を包み込み、

次の瞬間、強大な雷は火花を上げた後、巨大な爆発を引き起こした。

 

「がああああああああああ!!!!」

 

叫び声を上げながら、フェイトはなんとか耐え凌ぐ。

ライトニングフォームは防御性能をピンポイントに集中することで、

フェイトが持つ、従来の機動性を維持したフォームだ。

 

そのために射撃魔法や剣などの武器による打撃攻撃は防げても

全体に受ける攻撃・・・例えば砲撃魔法などは防御魔法なしで防ぐことは難しいのだ。

 

「くぅ・・・はぁ、はぁ・・・」

 

なんとか防御魔法を一瞬張れた事で、なんとか助かった。

マテリアルLの攻撃は殺傷設定・・・まともに喰らえば待つのは・・・死、あるのみだ。

 

「ははは、耐えきったか!フェイト・テスタロッサ!!

 だが力は僕のほうが上だ!何時まで持つかな!」

「さすがだよ・・・私を基にしたとはいえ、ここまで追い込まれるなんてね・・・

 だけど・・・私にも約束があるからね・・・一か八かだけど・・・私は貴方に速さで勝つ!!」

 

その言葉と共に、フェイトの身体を強い金色に輝く魔力光が取り囲む。

光に煽られ、マントが、バリアジャケットが光の粒子に変わる。

 

そして次の瞬間、両腕からソニックセイルが噴出する。

フェイトの切り札であるソニックフォームが、その姿を現した。

 

「防御を捨てたか、フェイト・テスタロッサ」

「賭けだけど、貴方を助けるには・・・これしかない!」

 

そして、二人の少女は再び高速の世界の戦いに突入して行った。

もはや、常人の目には刃同士が撃ち合う光しかわからない。

写真で切り取れば、おそらく夜空に光り輝く満天の星があるように撮れているだろう。

 

そしてお互いに距離をとる。

マテリアルLは金色に輝く魔力弾を三個生成し、フェイトに向けて放つ。

 

「電刃衝!」

 

雷弾が、空中を突き進み、フェイトへと向かう。

フェイトはそれを右手の装甲で弾くと、お返しとばかりに魔法弾を放ち返す。

 

「プラズマランサー!」

 

同じく金色に光る魔力弾がマテリアルLへと向かう。

だが、彼女はフェイトとは違い、バルニフィカスを振るい魔力弾を切断する。

フェイトが放った雷の矢はむなしく宙に消えていった。

 

彼女達はそれでも戦いを続けていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」

 

全く決定打が放てずに、体力を消耗していくフェイトは肩で息をする。

シュテルに頼まれたのは良いのだが、このままでは確実に先に負ける。

どうすればいいのか・・・そう考えるフェイトにマテリアルLが問いかける。

 

「君は何のために戦う・・・」

「えっ・・・?」

 

突然、先ほどまでと方向性の違う話をされてフェイトは呆ける。

そんなフェイトをお構いなしに、彼女は話を語り続ける。

 

「さっきから僕の中に何か別のものを感じている。

 はっきり行って不快だ。自分が本当の自分でない感覚がある・・・

 だからオリジナルである君に聞きたい。君は何のために戦う?」

 

「・・・約束」

 

「約束・・・?」

 

「そうだよ。約束だ。なのはとの、はやてとの、そしてシュテルとの約束。

 君を助けること・・・それがシュテルとの約束なんだよ。レヴィ」

 

フェイトは足を止め、レヴィに微笑みかけながら言った。

 

「レ・・・ヴィ・・・?」

 

「君の名前だよ」

「嘘をつくな。僕の名はマテリアルL。またの名を雷神の襲撃者。

 レヴィなんて知らない。誰だそれ・・・は・・・」

 

最初は否定していたものの、レヴィも否定の言葉を並べようとするたびに言葉を失っていく。

 

「シュテルの名前も忘れたの?本当のあなたはそんな名前じゃないって

 同じ紫天の書のマテリアルであるシュテルが教えてくれたんだよ?」

「シュ・・・テ、ル・・・?」

「貴方の名前はレヴィ・・・だよ。思い出して」

 

「僕は・・・僕は・・・」

 

フェイトの言葉を聞いた途端にマテリアルLは頭を襲う痛みに米神に手を当てる。

 

「レヴィ・・・?」

「やめろ、やめろ、やめろやめろ、やめろ・・・ッ!!」

 

そして今度は両手で頭を押さえて、うめき声を上げる。

何かから逃れるように、何かの支配から負けないように

 

 

―そんなことをしても無駄なのに―

 

 

突然、空間に響く声にフェイトは周りをキョロキョロと見渡す。

誰もいないはずなのに聞こえた声、そしてそれがもう一度響く。

 

―あなたをいじめていいのは私だけ―

 

「やめろ、やめろ、やめ・・・ろ・・・ぐっ!」

「レヴィ!!」

 

その瞬間だった。

 

突然、彼女の周りに闇の瘴気が発生した。

それは次々と発生をし続け、レヴィの体に取り込まれていく。

 

「ぐっ、がああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

闇が蝕むたびに、彼女の体がさらに黒く染まっていく。

レヴィは闇に抗い続けるが、闇は着々と彼女の体に入り込み、彼女を覆っていく。

 

「シュテルのときと同じ!!?レヴィ!!大丈夫!!!?」

「がぁ、ああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

フェイトの心配の声も空しく、レヴィは闇に取り込まれてしまう。

まるで雲のように漂うレヴィを包んだ深い闇。

 

やがて、それが晴れた先に彼女はいた。

 

「・・・ぁ・・・ぅぁ・・・・・・・・・」

「レ、レヴィ・・・・・・」

 

だが、その心はすでにそこにはなかった。

レヴィの心は、闇の瘴気に取り込まれてしまったのだ。

その瞳には輝きがまるでなく、そこから彼女は力なく涙を流す。

体にはまるで力が入っていないように、だらりと四肢を下げていた。

 

「・・・」

「!くぅ」

 

取り込まれたレヴィはバルフィニカスをザンバーフォームと似た形状のブレイバーにし、

レヴィを心配していて、立ち止まっていたフェイトに突撃しながら接近をしてくる。

とっさにフェイトもフルドライブを発動しバルディッシュをザンバーフォームに変形。

 

空間に響き渡る巨大な音を立てながらザンバー同士がぶつかり合う。

レヴィは真っ直ぐには縦斬り、フェイトは斜め下からの斬り上げだ、。

そのまま二人はザンバーを上下の押し合い、力比べとなる。

 

当然、力比べならばレヴィにフェイトが勝てるはずがない。

武器はほぼ同じでも、腕力の違いで押し合いの勝敗は決まるのだ。

力のマテリアルであるレヴィの圧倒的な力がフェイトを襲う。

 

「くぅ・・・バル、ディッシュ・・・!」

《Blitz Action》

 

ソニックムーブに比べれば若干速度は落ちるが小回りが効くブリッツアクションを使い

フェイトはとっさにレヴィとの打ち合いから逃れて、レヴィの後ろに回りこむ。

レヴィの死角を奪取したフェイトはバルディッシュを振りかぶる。

 

一閃必中の如く、バルディッシュをレヴィに向けて横へ一閃する!

 

だが、その攻撃はレヴィの周りを漂う闇が押さえ込む。

そしてそのままバルディッシュ・ザンバーを掴み取り、フェイトごと背負い投げをする。

 

「なっ」

 

投げ技・・・バリアジャケットを身にまとう魔導師にとってそれはまるで意味がない。

DSAA競技のように硬い地面があり、そこに魔力を込めて打ち込めるテクニックがあればともかく

通常の投げ技をしても、大抵の魔導師にとって隙が大きいため攻撃を受ける可能性がある。

 

つまりは格闘家でもないかぎり、使用することもされることもない。

 

そのため空戦魔導師はおろか、陸戦魔導師もほとんど使用しない。

その風習を利用してあえて使用する魔導師もいるがそれは例外だ。

 

ましてやフェイトは空戦魔導師。さらに投げ技を受けたことがない。

そのため完全に予想外の方向からの攻撃を受けてしまいフェイトはまともに投げ飛ばされる。

 

そしてそこへ闇はレヴィの体を利用して、魔力弾を放っていく。

それはフォトンランサー・ファランクスシフトと同じ攻撃。

気づいたフェイトはダミーランサーを手当たり次第に撒き散らしてソニックムーブで避ける。

 

射撃では決定打にならない。そう考えた二人は雷の刃をデバイスから生み出すと、

近接戦を行うべく相手に向かってゆく。金色の閃光が空中で交差する。

 

その戦の閃光は螺旋を描き、空中に軌跡を残す。

打ち合ったのは十数秒。それだけで、互いの速度は限界を越える。

 

ぶつかり合う雷光と雷光・・・だが、・・・

 

「ぐ、あっぁ・・・ぁ・・・」

 

閃光が通り過ぎたそこには、フェイトの肩口に雷の刃が深々と突き刺さっていた

 

彼女の左肩に突き刺さった、雷の刃をレヴィは静かに引き抜いた。

その傷口から鮮血が噴出し少女たちの顔を赤く染め上げる。

その痛みに耐えながら、フェイトはそれでも約束を守るために作戦を考える。

 

(致命傷・・・じゃない・・・けど・・・これは・・・まずい・・・

 だけど、諦めない。それが約束だから・・・だから・・・諦めない

 作戦は一つ・・・力で勝てないのなら・・・もう防御は・・・いらない)

 

そう心の中で呟くとフェイトは手に持つバルディッシュを見る。

寡黙なるデバイスはそれだけですべてを理解し、静かに点滅をする。

 

 了解・・・

 

その意思を汲み取ったフェイトは静かに頷き、バルディッシュを構えて瞼を閉じる。

そしてレヴィのほうに顔を向けて、そして目を見開く!

 

「起きろ!駄々っ子ぉおッ!!!」

《JS Engine Overdrive》

 

その言葉と共にバルディッシュはカートリッジを二発ロード。

その魔力を起爆剤にJSエンジンはエネルギーをオーバーロード。

その莫大な魔力により、フェイトの周りに強大な閃光が放たれる。

 

「!!???」

 

レヴィが、それに取り付く闇があまりの眩しさに目を覆う。

そして、輝きが終わると同時に・・・それは目の前に現れる。

 

それは神速の存在

それは強さの究極なる姿

 

雷光を纏いしその衣・・・

轟く雷鳴、大地を揺るがし

たばしる迅雷は神すらをも打ち砕く!!

 

ソニックフォームから防御を完全に取りきり、

腕から飛び出すソニックセイルは更なる巨大な翼を広げる!

 

 

 

「これが私の全力全開!アクセルソニックフォームッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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SAGA 41「疾風の領域」

フェイト編最終回です。
予想以上に長くなったのは、まず間違いなくフェイトさんのキャラ改変のせい。

なのはの場合、闇の欠片戦を減らせた分プロローグを含めて一話で終われましたし、
はやて編は大体、原作BoAと同じなので一話で終われそうです。

でもフェイトの場合、シュテルとGODで何故か会っている事になっていた
レヴィさんとの出会いを入れたかったので、
どうしても長く・・・そして高速戦を文章で表現するとどうしても薄くなるなぁw

さて、長話になってもどうかと思うので、フェイト編最終回!どうぞ!!



 

 

眩い閃光で、空間を包みながら彼女は新たな姿を見せた。

 

 

 

 

「これが私の全力全開!アクセルソニックフォームッ!!!」

 

 

アクセルソニックフォーム・・・

 

それは、フェイトがなのはとの再戦のためにソニックフォームを再構成したバリアジャケット

 

ソニックフォームは防御を最小限に抑えることで、そのリソースをすべて速度にまわしたものだ。

 

だが、アクセルソニックフォームには"防御の概念"自体がない。

バリアジャケットは胸と腰から下のみを覆うだけで押さえ、お腹は丸出し。

さらにソニックフォーム時にはあった腕の装甲も「ない」。

 

また髪を縛るリボンも一本のポニーテールにすることで一つに減らしている。

そんなリボン一本分の防御リソースすら速度などにまわしているのだ。

 

結果的にアクセルソニックフォームの持つ防御力は

自身の速度による反動をぎりぎり防ぐレベルしかない。

そのため、下手に攻撃を喰らうとフェイト本人は一撃で死にかねない。

 

それでも、圧倒的な速度を求めたのがこのフォーム。

その速度はソニックフォーム時の3000倍の速度であり、

あらゆる動作を通常の2800倍の速度で行う事が可能となる。

 

また、腕のソニックセイルはより肥大化し、姿勢制御や高速推進用のバーニアとしての役割を持つ。

 

これぞ速さにすべてを注いだフェイトの究極最終形態だが、一つだけ難点がある。

 

この形態はJSエンジンから提供される莫大な魔力を元に構築しているのだが、

このエンジンが相変わらずの『駄々っ子』で、カートリッジで起動には成功しても長持ちしない。

さらに、もともと防御性能をかなぐり捨てているアクセルソニックフォームの稼動限界時間は・・・

 

「バルディッシュ・・・残り時間は・・・?」

《・・・12 seconds remaining》

 

十二秒・・・たったそれだけしかこの形態を維持できない。

だが構わない。・・・それだけあれば十分だった。

 

目の前の少女を助けるためには・・・それだけあれば!!

 

「いくよ、バルディッシュ!!!」

《Yes,sir》

 

瞬間、レヴィの目の前から・・・フェイトテスタロッサの姿が跡形もなく消えた。

 

「!!!!???」

 

レヴィは急いで周りを見渡すが、どこにもフェイトは見えない。

闇の力で存在を探ろうとしても、捕捉できない。

 

それほどの速さ。それほどの領域!

常人どころか、高速戦を行える魔導師にすら認識することはできない。

 

それが今のフェイトの全力。

そしてレヴィが後ろを振り向いた、その時だった!

 

「!!!!」

「―――――――――ゃぁぁッ!!」

 

もはや音速を遥かに超えているため、声が聞こえたのは七つの攻撃がヒットした後だった。

そしてかすかに聞こえた声すらも、曖昧で小さなものだった。

 

「ぐふっ・・・」

 

残ったのは結果だけ・・・

それはレヴィの襲撃服の一部が細切れに吹き飛ぶというものだった。

だがダメージはそう多くはなかった。七回分の攻撃を一瞬で喰らったにもかかわらず、

身体へのダメージはその攻撃の派手さと反比例して、ほとんどなかったのだ。

 

超高速で空間を蹂躙する中、フェイトもそのことを思っていた。

 

アクセルソニックフォームは圧倒的速度と反応速度を与えてくれる。

しかし、それを「非殺傷」設定で使う場合は話が少し変わる。

 

本来なら掠っただけでも移動エネルギーだけで相手を殺しかねない。

そのエネルギーをすべて粉散させて、魔力ダメージだけにしてしまった場合。

一撃分の攻撃力が著しく低下してしまうのだ。

 

だからこのフォームは重い一撃を叩き込むのではなく、

一度に連続攻撃を重ねてダメージを蓄積していくのが管理局魔導師としての戦法なのだ。

 

そのためにダメージは微量でも残された12秒の間にフェイトは着々とレヴィの体に溜めていく。

攻撃はまさに怒涛、威力は少なくともその猛撃はレヴィの体に纏わりつく闇を剥ぎ取っていく。

 

そして・・・アクセルソニックフォームの制限時間・・・12秒が過ぎ去る。

 

 

 3

 

 

 2

 

 

 1

 

 

 0

 

 

《Time up》

 

バルディッシュのその音声と共にフェイトの姿が再び現世に出現する。

息を乱しながら、先ほど攻撃を受けた左肩を抑えつつ、しかしレヴィを包む闇をキッと睨む。

 

《Form Release》

 

再び発せられたバルディッシュのその音声と共にフェイトを光が包み、

そしてアクセルソニックフォームから通常のソニックフォームへと姿が戻る。

さらに、すぐさまもう一度フェイトを光が包み、今度はライトニングフォームへと戻った。

 

これはアクセルソニックフォームからアイドリングであるソニックフォームを経由しないで

直接ライトニングフォームに戻ってしまった場合、回される魔力リソースの変化の大きさに

フェイトの体が耐え切れず大ダメージを受けるため、一度経由する必要があるのだ。

 

切り札はすべて使い切った・・・あと・・・自らに残されているのは・・・

 

フェイトは一度目を瞑った後、改めて目の前のレヴィを見据えた・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

結局のところ、レヴィへのダメージはフェイトの予定よりも多く与えられていた。

左肩に受けた傷が痛むために、多少はダメージ効率の低下を予測していたが、

どうやらフェイトの杞憂だったようだ。

 

だが、レヴィを包む闇の瘴気はまだ消えていない。

ちまちまと削り取ったおかげで、最初の頃に比べればかなり減ってはいる。

もっともレヴィを呪縛から解き放つことはまだ無理だが・・・

 

 

さて、どうしようか・・・とフェイトが考えていると・・・・・・

 

―あらあら、頑張っているね―

 

「!?」

 

また響いてきた声、闇が発する忌々しい声がフェイトがいる空間に響いたのだ。

フェイトはその声に恐れずに大声をながら問いかける。

 

「あなたは誰ッ!!? どうしてシュテルやレヴィにこんなことをするのッ!!?」

 

―知っているくせに、あの子達をいじめていいのは私だけ―

 

答えになっていない答えに、フェイトは珍しく舌打ちをする。

 

全く予想がつかない。

 

自分が知っている明確な敵の中では、データで見たシリアル5ではないことだけはわかる。

この空間に響いてくる声の主が誰だか・・・フェイトには判断はできなかった。

 

だが、今はそんなことは関係ないとも思った。

友達の友達が目の前で苦しんでいる。そしてそれをしている者に対して

自分自身が、なんと言うかは決まっている。

 

「させない!!! レヴィだって私は助けてみせる!! たとえどんな敵が来ようともッ!!」

 

左肩から来る激しい痛みに耐えながら、そう叫んだフェイトは

両手でしっかりとバルディッシュ・ザンバーを握り締めて、闇に向ける。

 

―愚かだね・・・そんなことをしても無駄なのに・・・―

 

「無駄かどうかは私が決める!!あなたに言われることでもない!!」

 

―真実も知らない・・・人形の分際で・・・―

 

人形・・・その言葉を聞くとイラっとくる・・・だけど、いちいちいったりする気はない!

 

「だったら見せてあげる!あなたが言う人形と呼んでいる『人間』の絆の力を!!」

《Struggle Bind!!》

 

フェイトの宣言と同時にバルディッシュがそう発言をする。

それとほぼ同時に展開した魔法陣から伸びる、魔力で編まれた縄でレヴィを闇ごと捕縛した。

そして、それは雷撃を帯びながら、レヴィと彼女を包む闇の力を封じ込める。

 

―こ、これは・・・ッ!?―

 

「ストラグルバインド・・・クロノに教えてもらっておいて正解だったよ・・・」

 

フェイトはハラオウン家で世話になっている今、クロノにあらたな戦略のために

クロノの使用できるさまざまな魔法のプログラムを教えてもらっていたのだ。

ストラグルバインドもそのときに本人曰くついでに教えてもらったものだ。

 

クロノは少し苦笑いしながら、魔法生物にしか役に立たないと言っていたが、

どうやら目の前の闇はそう言う類のものらしい。十分役に経ってくれた。

 

必死にストラグルバインドを解こうとしているが、

強化魔法も打ち消されているので全く何もできないでいた。

 

フェイトはそのチャンスを当然逃さない。

バインドを維持しつつ、急いでレヴィの前方斜め上空へと向かって飛んでいった。

 

―な、なにを・・・ッ―

 

「言ったでしょ、絆を示すって・・・今度は・・・なのはに教えてもらった技術を!!」

 

そう言うとフェイトの周りにプラズマスフィアを数発並べる。

そしてそれを軸として、自分の魔力を込めていく・・・

 

―こ、これはぁ・・・ッ!?―

 

いや、自分の魔力だけではなかった。

そこにはフェイトの魔力光以外にも様々な色の魔力が集まっていたのだ。

 

魔力の集束・・・

 

フェイトがそれまでに使用した魔力に加えて、レヴィが使用した魔力を集積していたのだ。

これがフェイトがなのはから以前教えてもらった集束技能だ。

 

本人もシュテルに向けていったとおり、不得手だとは納得しているが

ここではそうも言っていられない。アクセルソニックフォームの代償で

現在の魔力ではプラズマザンバーブレイカーは使用できないからだ。

 

自分が使える・・・残された手段がこれなのだ。

 

 

着々と集まっていく魔力を、闇はただ呆然と見据えるしかなかった。

 

まるで流星のごとく周囲の魔力が集束していく・・・

 

着々と集束は進行し、そして段々とその球は脈を打ちながら大きくなっていく。

 

「これが、なのはから教えてもらった・・・絆の集大成!!」

 

そしてついに集められた魔力が暴発寸前にまで圧縮されているそれは完成した。

雷鳴を纏いし、閃光の星屑の弾丸が・・・そしてフェイトはそれを解き放つ!

 

「シューティングゥ・・・スタァーダストォオオオ、

 ブレイカァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

フェイトは叫びながらバルディッシュ・ザンバーを大きく振り上げ、

自らの何倍もある巨大な雷光を発する魔力の球を叩き出した。

球が崩壊し、莫大なエネルギーの激流が一気にレヴィへと撃ち出される。

 

 

 

―ぐぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!!!―

 

 

 

そしてそれはレヴィを飲み込み、直撃。

そこを着弾点として、まるで大きな爆弾でも落とされたかのような光球と余波が広がってゆく。

 

その激しい余波は、海をも飲み込んだ・・・そして・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「はぁ、はぁはぁ、・・・・・・」

 

まったく無理しちゃ駄目だね・・・こんなに疲労があるなんて・・・

レヴィは・・・大丈夫かな・・・?

 

闇が消え去ってくれてればいいけど・・・

そう思っていた私の目の前で、煙が晴れていく・・・

 

 

そして、煙が晴れた先にいたのは・・・闇が晴れたレヴィの姿だった。

瞳もちゃんと光を取り戻している!

 

「レヴィ!!大丈夫!?」

「あつつ、だ、大丈夫だ!問題ない!」

 

レヴィはそう言っているけど、よくよく見るとその足元が光の粒子となって消え始めていた。

レヴィはそれを見ながら、フッと少しだけ笑うと私に向けて話しかけてきた。

 

「ありがとう、君の強さが僕を闇の書の呪縛から解き放った」

「うん、どういたしまして」

 

おそらく・・・レヴィはシュテルと同じで一度紫天の書のに帰るのだろう・・・

でもきっとシュテルと同じでまた今度会えるはず。そう私は思った。

 

その時だった。

 

 

ピキンッ

 

 

どこか遠くの空で、何かが砕ける音がした。

その音が聞こえた後、レヴィは何かを悟ったように一人、小さく呟いた。

 

「そうか・・・王様は負けてしまったか・・・」

 

なるほど・・・はやては助けられたんだね。

シュテルとの約束・・・はやてが守ってくれたんだ・・・。

 

「そうだね。負けちゃったけど・・・きっとディアーチェも助けらたはずだよ」

「ふふ・・・そうか・・・そうだな・・・」

 

レヴィは笑いながら、改めて・・・といった顔で言い始めた。

その笑顔はとても清々しくて、気持ちが良くて・・・・・・・・・

最初のいろいろとキツイ印象がすべて幻想だったのではないかと思えるものだった。

 

「僕の名前はレヴィ・ザ・スラッシャーだ。覚えておけ!」

「うん、わかったよ。レヴィ」

 

襲撃者(スラッシャー)か・・・物騒だけどかっこいいね。

そう思っているとレヴィはフンッとでも言いたげな表情で私に言ってきた。

 

「今回は君が勝者だ。君はこの空を飛べ、僕は落ちる」

「・・・わかった」

 

レヴィは勝者として私を讃えると、静かに目をつぶる。

私も、消えていっているレヴィの言葉に、静かに頷いた。

 

レヴィの崩壊はどんどんと進んでいく・・・

そして、夜空に消えていく星屑のように、光となって彼女は消えていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピピp

 

ん?エイミィからの通信・・・?

 

『闇の欠片、すべて停止を確認。再発の気配、なし!』

『ひとまず、解決かしら』

 

リンディ提督も・・・そうか、なのはとはやては頑張ったんだね。

 

『フェイト、アルフ。一度戻ってきてくれ』

「クロノ?なのははどうしたの?」

『未だに通信はない。さっき君が言ってくれたシュテルとの戦闘を最後に

 本人がかけているとしか思えないジャミングのせいで、位置情報もつかめない』

「どういうこと・・・?」

 

なのは・・・いったいどうしちゃったの・・・?

 

『とりあえず、はやては少し用事があるから後で来る。

 なのはのことも含めて話をしたいから、な・・・』

「うん、わかった。取りあえず戻るよ」

 

なのはのことも気になるけど・・・とりあえず戻らないと・・・

 

そんないろいろな想いが葛藤する中、私は戻っていった

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

――そして、

闇の欠片はその後も再生する事なく、事態は無事に収束しました。

 

クロノやレティ提督によれば

『闇の書事件の余波被害としては、むしろ想定より小規模だった』とのこと

 

確かにナハトヴァールとジュエルシード・シリアル5の戦闘では

次元震すら発生していたのだから、紫天の書の件を含めても小規模だと私も思う。

 

そのため、旅行の日程は、少しだけズレちゃいましたが、

それ以外はなんとか普通に年末年始を過ごすことができました。

 

 

 

なのはがここから姿を消したことを除いて・・・

 

 

 

あの後、なのはを皆で捜索したけれど・・・見つからなかった。

そして高町家のなのはの部屋から一通の置手紙が見つかった。

 

それによれば・・・シュテルの言ったとおり、なのはは『彼女』を見つけに行ったのだろう。

いろいろ言いたいこともある。はやてもアリサもすずかも・・・皆心配しているし、怒こってる。

それは当然のことだし、なのはもきっとわかっているのだろう・・・

 

 

でも・・・・・・・・・待っているよ。なのは

 

まだ、あなたに私のカカオケーキ・・・食べてもらっていないんだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、冬休みも終わって・・・

 

「ねぇ、アルフ」

「んー?なーに、フェイト」

「ずっと迷っていた事・・・・・・踏ん切りがつきそうかなって」

 

そう、あの問いに・・・今こそ答えられる気がする・・・・・・

 

「ほんと? それは、すごくいい事だね」

 

「なのはのこととか、いろいろ悩むこともあるんだけど・・・

 自分で決めたことは、しっかりと守っていきたいと思うんだ」

 

なのはやレヴィに言った通り、私のすべては約束にあると思うから

だから、決めたことは守っていきたいんだ。

 

「ま、あたしは、フェイトについていくだけだけどね」

「ありがとう、アルフ」

 

ずっと一緒にいてくれたからね。そして、これからも・・・

 

「それで・・・答え、いつごろ出せそう?」

「そうだね・・・」

 

いつごろ・・・かな・・・でも・・・きっと・・・

 

「きっと・・・・・・桜の花が、もう一度咲く頃かな」

 

 

 

 

 

 

 

 



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SAGA 42「夜天が導く輝き」

はやて編前編です。
ほとんどBoAと同じなので、BoAのはやてストーリーとリインフォースストーリーをやっておくとよりわかりやすいかも・・・?


それではどうぞ!!


 

 

 

 

――夜天の魔導書。私、八神はやてが物心ついた時から、

ずっとそばにいてくれた。一冊の本。

 

その本にはずっと昔から、綺麗な融合騎と4人の守護騎士が住んでいました。

 

主とともに過ごす守護騎士・・・主とひとつになって戦う融合騎。

 

その事について、親友をも巻き込んだ『闇の書事件』も終わって、

とりあえず、今は平和な毎日。

 

闇の書の呪縛から、守護騎士を・・・そしてリインフォースを助けることができた。

 

それでも、私の一番の親友「高町なのは」は心を失ってしまった・・・

残されていたのは、なのはちゃんであってなのはちゃんでない・・・

そう、ナハトヴァールに呼ばれた存在・・・

 

だけど、それでも私の親友のなのはちゃんに変わりあらへん。

私はなのはちゃんが帰ってくるその日まで・・・ずっと待ち続けます。

 

 

そうそう・・・魔法の練習も、ちゃんとしてます。

シャマルやリインフォース、フェイトちゃん。そして親友のなのはちゃんに

毎日、教えてもらっています。

 

仮にも『最後の夜天の主』が魔法の初心者のまんま、ゆーんも、どうかと思うし・・・

管理局を変えたい!って豪語している身としてはがんばらなあかんと思う。

 

なのはちゃんからは数学を、フェイトちゃんからは管理局のことを

シャマルとリインフォースからベルカ式魔法の運用の仕方を教えてもらっています。

 

これからは私がもっともっと、家族を守っていかなあかんのです。

 

年明けには、フェイトちゃんと練習試合の約束もしてたりして。

ええ試合にできるよう、がんばらな!

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「スレイプニール正常起動、慣性コントロール問題なし。

 リインフォースこれでへーきかな?」

 

「はい、我が主・・・もうお一人でも十分に飛べていらっしゃいますね」

 

「いやいや、なのはちゃんたちはもっとピュンピュン飛んでたやん」

 

そう言うはやてはリインフォースとユニゾンしていないとまだ自由に飛べないのだ。

 

飛行魔法自体は初歩の魔法だが、もともとはやては数学系統がとくいではない。

 

そのため融合騎であるリインフォースという存在がいて、

初めて魔法というものを使用することができるのだ。

 

ふらつく危うい飛行をしながら、そう言うはやてにリインフォースは言う。

 

「あの子達も鍛錬と研磨を積んできた故です。

 主はまだ修練を始めてから一週間足らず・・・

 

 この調子で研磨を続けていただければ、必ず誰よりも立派な魔導騎士になられます」

 

「そやな・・・リインフォースに教えてもらって、立派な主になってかな・・・」

 

「この身に賭けて・・・我が魔導のすべて、お伝えいたします・・・」

 

「頼むで、フェイトちゃんとの模擬戦・・・絶対負けられへんからな。

 ほんなら今日も、トレーニングやってみよか!」

 

「はい、我が主」

 

その言葉共に二人はトレーニングと称した魔法戦を始めた。

 

結果としては近距離戦が苦手なはやてはブリューナクやバルムンクを駆使して

遠距離戦に持ち込み、ギリギリだったがリインフォースに勝利した。

 

「やった・・・!けっこう、うまくできたんとちゃう?」

「はい・・・素晴らしいです」

 

リインフォースは素直に主の成長を祝福する。

 

「やっぱり、魔法の練習は楽しいなー

 リインフォースに教えてもらってるから、余計にや」

「はい」

 

(スカリエッティ氏の処置で、我が魔導のほとんどは

 夜天の書の中に封じられ、主はやてにお預けする形になってしまった。

 未だに私が本調子でないというのもあるとはいえ・・・

 我が主も本当に・・・魔法の扱いが上手になられた)

 

防衛プログラムが二度と復活しないようにするための処置。

それは結果的にリインフォースから魔導のほとんどを奪い、

夜天の魔導書内に封じられる形になってしまっていた。

 

そのために、時間が経てばほとんど元通りとなるが、

リインフォースは今、本調子ではなかった。

 

融合騎としてユニゾンできないという致命的な欠陥も加わってしまったために

今では一人の魔導師として、主であるはやてのために尽くしたいと思っていた。

 

「放出制御がもうちょい、上手にできたらなぁー・・・こう・・・・・・こーかな?」

 

はやては手から魔力を放出しながら、いろいろと試行錯誤をしている。

 

(何より、才に溺れることなく勉強熱心でいらっしゃる。

 いずれは本当に偉大な魔導騎士になられるだろう・・・

 是非とも・・・それを最後まで見届けたいものだ・・・)

 

瞼を閉じながら、静かにリインフォースはそう思っていた。

本当に自分は最後に素晴らしい主に会えた。改めてそう思っているときだった。

 

 

ピーキンッ

 

 

「あれ?」

「・・・・・・?」

 

耳・・・いや、頭に響くような甲高い音に二人は思考を止める。

 

「誰か、こっちに向かってきてるような・・・・・・」

「!! この気配、騎士達ではない。・・・・・・何者だ!?」

 

感じたことのない気配に、リインフォースは警戒を強くする。

 

「我が主、どうかお隠れください。私が確認してまいります」

「あかんよ、リインフォース、まだ体調が戻ってないやん。私が行くよ」

「ですが・・・・・・」

 

主に危険な仕事を押し付けるわけには・・・そう思っていたリインフォース。

ただし・・・はやてはかなり先まで考えているのだ。

 

「私が行くから、サポートして。

 戦うんは私がやる。リインフォースは少し離れたとこから見てて。ええか?」

 

「・・・・・・」

 

主に逆に心配されて、断れない代案を出されてしまった。

リインフォースは多少、融合騎として悔しがりながらも了承する。

 

「・・・はい・・・・・・」

 

そして、二人は気配のする空へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「闇の書の闇の残滓が具現化したもの?」

『うん、そうだよはやてちゃん。呼称名は『闇の欠片』

 魔導師の記憶や願いを元に作られた幻想だよ』

 

そのあと、少し騒動があった後、エイミィさんからの連絡を受けて、

私達は今何が起っとるかを理解していた。

 

闇の書の闇の残滓・・・それが形作ったもの・・・かぁ

通りでさっき戦ったシャマルやシグナムが・・・こう、なんか悪ーい感じがしたわけや

 

「とりあえず我々はシャマルとシグナムの闇の欠片と戦っています。

 こちらも闇の欠片の対処に参加してもよろしいでしょうか?」

 

『ん、え~と・・・どうします?リンディ艦長?』

『とりあえずは協力をお願いしたいのが半分ね。

 闇の欠片の存在がどういうものか、私達では情報に限界がありますから

 

 ・・・もっとも本調子でないリインフォースさんに

 あまり無理をしてほしくないというのもありますが・・・』

 

「なのはちゃんが参加しとる以上、私は参加に志願しますけど・・・」

「もちろん、我が主が戦うというのであれば私も・・・」

 

リインフォース・・・ありがとなぁ

 

『・・・わかりました。協力感謝します』

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

そう言ってリインフォースは軽く会釈をした後、通信を切った。

 

「我が主、我々も結界の元に向かいましょうか」

「うん、そうやな。なのはちゃんたちに遅れをとるわけにはいかへんし」

 

というわけで、私達は二人一緒に海鳴の空に蔓延る結界に向かったんや

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

その後はいろんな人の闇の欠片と戦った。

最初はヴィータ、やっぱり闇の書時代のもの。

以前見たとても悲しかったときのものやった・・・

 

・・・・・・バカ呼ばわりされたときは、ちょう悲しかったけど・・・

 

次に出会ったのは、なんと私達に会う前のクロノくんや!

相変わらずと言うか、堅物でちょっと融通がきかへんかった。

まぁ、本物はもうちょい柔軟な思考やけどな。

 

それでもニセモノとはいえ、お世話になった人と戦うゆーんは、やっぱり複雑や

 

とりあえずその後は守護騎士の皆と合流した。

闇の欠片は結界の中で悪いことしてるから、一般の方に被害がないんゆーんが

不幸中の幸いといったところやけど・・・

 

皆の話を聞く限り、どこか核のようなものがあって

それが存在する限り、この闇の欠片の発生はとまらへんみたいや

 

その時、なのはちゃんが防衛プログラムのマテリアルを倒したゆう連絡が入った。

どうやらそれが核みたいらしいんや。

 

だから私とリインフォースはそれらしき反応がある結界のほうへと向かった。

他の闇の欠片は守護騎士に任してな。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「闇の書の完成融合騎・・・・・・捕らえました」

「おまえは・・・」

「なのはちゃん!?・・・やないな」

 

そこにいたのは高町なのはそっくりだけど、色合いや見た目がかなり違う存在。

理のマテリアル「星光の殲滅者」だった。もっとも似ているといっても

はやて自身が考えたデザインと違い、多少は魔法少女に見えなくもない服を纏っていたが

 

そして彼女はリンフォースとはやてを見つめながら話し始める。

 

「お初にお目にかかります。闇の書の主も・・・

 ――――というのも妙ですね。

 もともとはずっと一緒だったのですから」

「ちょう待ち、この子は闇の書やない。夜天の書や」

「私にとっては夜天の書時代のあなたを知らないので・・・

 まぁ、特別、間違ってはいないでしょう」

「そういう問題!?」

 

星光の殲滅者の言い分にはやては憤るが、リインフォースが話を戻す。

 

「防衛システムの、構築体か」

 

「はい。姿形とこの身の魔導自体は、

 闇の書の蒐集データから再現したものですが、

 私は他の誰でもない私として今、ここにいます。

 もっとも・・・オリジナルには負けてしまいましたが」

 

「なのはちゃんと戦ったんは、あなたなんか?」

 

「はい、ナノハとの戦いは・・・心躍る戦いにしたかったのですが

 心のない彼女との戦いでは、少しばかり不満が残りました」

 

だから、と言って彼女は自らのデバイス「ルシフェリオン」を構える。

 

「私は是非とも、あなたと戦いたいですね。リインフォース」

「・・・私とだと?」

「えぇ、私にとっては戦いこそ真理です。あなたの強さをぜひ確かめたいのです」

「ちょう待ちぃ!私は無視か!!?」

 

全く話題に出されないはやてがそう叫ぶと

 

「はい、あなたは才能があろうとも所詮初心者。

 せいぜい我がオリジナルに匹敵するレベルでなければ・・・」

「それ・・・絶対無理やわぁ・・・」

 

守護騎士と始めてあった日にディバインシューターをあれだけ並べたのだ。

魔法を勉強し始めて、改めてなのはのその異常さが理解できた。

理数系が得意云々抜きにして、あんな数のシューターは普通出せない。

はやては夜天の魔導書の援護を得て、初めて射撃魔法を使用できるのだ。

そのレベルにならなければ自分と戦う資格がないなどといわれたら、

よほど時が立たなければ無理だともはやては思っていた。

 

「さて、闇の書の復活が私の目的でもあります。

 あなたを斃し、糧とさせていただきたいのですが」

「すまないが、そういうわけにもいかない」

「そうや!うちのリインフォースに変な手出しはさせへんで!!」

 

そう大声で言うはやてをチラリと見た後、

改めてリインフォースを見た星光の殲滅者は言った。

 

「そうですか・・・しかし、私にはそれをしなければならない理由があります。」

「なおさらだな。それにこちらも、お前を見過ごしてはおけん」

「それならば話は早い。互いの死力にて、雌雄を決しましょう」

「結局そうなるんかい・・・」

 

ハァとはやてはため息を吐く。

 

「夜天の主はそこで黙ってみていてください。

 手出しをしたら承知しません。口出しも許しませんよ」

「我が主。とりあえずは彼女の言うとおりに」

「ハァ・・・わかったよ。リインフォース。頑張ってなぁ」

「はい、我が主!」

 

そしてはやての目の前で、星光の殲滅者とリインフォースの戦闘は始まったのだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「はぁあああ!」

 

まず最初に手を出したのはリインフォース。

自らの魔力を己の右手に込めて、星光の殲滅者に殴りかかる。

 

しかし、星光の殲滅者は桜色のプロテクションでそれをガード。

そしてルシフェリオンを一撃、二撃・・・と与えていく。

 

直撃してしまったリインフォースは後方へと吹き飛ばされる。

さらにそこへ星光の殲滅者は追撃のブラストファイアーを打ち込む。

 

「ファイアーッ!!」

 

速射型のためチャージをあまりしていないため

その砲撃の威力はそこまで大きいものでもなかったが、

防御をする暇のなかったリインフォースにはかなりダメージをとして蓄積される。

 

「パイロシューター!」

 

星光の殲滅者はさらに追撃として桜色のパイロシューターを放つ。

立て直したリインフォースは苦にすることなくそれを右へ避ける。

 

「ルベライトッ!」「封縛ッ!!」

 

ガキンッとお互いに同時に発動した拘束魔法に捕らえられる。

四肢を縛るそれを、二人はほぼ同時に解こうと力を込める。

 

理のマテリアルである星光の殲滅者は演算してのバインドブレイクを

リインフォースはほとんど力任せに引きちぎろうと魔力を込める。

 

そして、先にそれを解いたのは星光の殲滅者だ。

彼女は一目散にルシフェリオンに魔力を込めて砲撃を放つ。

 

「ブラストォ、ファイアァアーッ!!」

 

「くぅ、盾!!」

 

間一髪、パンツァーシルトの発動に成功し、ブラストファイアーを防ぎきる。

 

「ブラッディダガー!」

 

防ぎきり、パンツァーシルトを解除したリインフォースは

高速直進弾であるダガーを星光の殲滅者に向けて放つ。

 

続いて砲撃魔法としたナイトメアを駄目押しとして放つ。

 

「くっ!ですがまだまだです!」

 

対して、星光の殲滅者そう言うとラウンドシールドを展開。

ダガーを防ぎ、ナイトメアはギリギリのところで避ける。

そして再びルシフェリオンを構え、砲撃を放つ。

 

「ブラストファイアーッ!」

「ちぃッ!」

 

迫り来る砲撃に対し、リインフォースは体を捻らせて回避する。

そして体勢を立て直した後、今度はブラッディダガーを七つ生成する。

ダガーが星光の殲滅者の周囲を舞い、そして連続ヒットする。

 

「ぐぅ・・・ッ」

「はぁあああああ!!」

 

星光の殲滅者がその攻撃に怯んだ瞬間を逃さず、

リインフォースは接近し、拳による打撃攻撃を与えていく。

 

星光の殲滅者もその攻撃をルシフェリオンとシールドを使って捌くが、

さすがに接近戦ではリインフォースのほうにわずかに軍配が上がる。

もっとも理のマテリアル。そして高町なのはをオリジナルに持つ

星光の殲滅者のほうが裏工作では、仕込みでは上だった。

それに真っ先に気づいたのは遠くで観戦していたはやてだが、

リインフォースとの約束もあり声に出して伝えることはなかった。

 

そしてリインフォースも気づいたのだが、少し遅かった。

 

「ぐっ!?がぁあっ!!」

 

それは後ろからの8つのパイロシューター。

リインフォースの打撃の最中、星光の殲滅者はそれを悟られないように放っていたのだ。

そして、それは弧を描きながらリインフォースの背中に直撃したのだった。

 

「まだまだ行きます!!ルベライト!!」

「なっ!?」

 

パイロシューターの不意打ちに怯んでいたリインフォースを

星光の殲滅者は今度は拘束魔法で四肢を封じる。

 

そして距離を急激に離れ・・・魔力の集束を始める。

 

「あ、あれって・・・?!」

 

観戦していたはやては気づいた。アレが何であるかを・・・

それが親友が使う最後の切り札。

 

最強にして最悪。使用した本人も人に向けて撃つものではないと考えている必殺の刃。

 

桜色の魔力が流星のように集束していく姿はまさに『ソレ』そのものだった。

 

「スターライト・・・ブレイカー・・・・・・・・・?」

 

魔力の集束はまだ続く。

リインフォースも必死でルベライトを解こうとするが、

先ほどよりもかなり強力になっており、未だに解ける気配はしない。

 

そして・・・星光の殲滅者のそれが放たれる準備が整ってしまう。

 

「私は今、あなたを超えます・・・受けてください

 ルシフェリオーン・・・ブレイカァアアアアアアアーッ!!!」

 

刹那、溢れる莫大な魔力の激流がリインフォースの体を包み込み・・・炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ

 

 

 

 

「ぐふっ・・・まさ、か・・・こう来まし・・・たか・・・」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・危なかった・・・」

 

その場にあったのは一つの結末。

それは星光の殲滅者のルシフェリオンブレイカーを受けたはずのリインフォースが

星光の殲滅者の後ろに突如出現し、至近距離からナイトメアの一撃を与えたことだ。

 

それは本当に一瞬の出来事であった。

遠くから見ていたはやてにも何があったか理解はできなかったが、

星光の殲滅者がその答えを語っていく。

 

「まさ、か・・・幻術・・・とは・・・驚きです・・・かかった感触もあったのに・・・」

「私に残された・・・たった一つの闇の書の魔法だ・・・」

 

その言葉を聞いてハッとなったはやては

先ほどまでリインフォースが拘束されていた場所をも見る。

 

そこには、未だにリインフォースが居た。いや、厳密には本物ではなく幻影だ。

 

それは闇の書となった夜天の書に取り付けられ、

そして唯一リインフォースに残された魔法だった。

 

「く・・・紙一重・・・と、言いたいところですが・・・・・・」

「紙一重だ・・・・・・危なかった」

 

パイロシューターの集中攻撃を受けて痛む右肩を抑えながら

リインフォースは星光の殲滅者の言葉を否定する。本当にギリギリの戦いだった。

主を巻き込まなくて本当に良かった、とリインフォースは考えていた。

 

「ふむ。残念ながら、目的は果たせませんでした。

 闇の書の復活は、他の構築体(マテリアル)に任せることにしましょう」

「マテリアルは、他にもいるんか?」

 

近づいてきたはやての問いに星光の殲滅者は律儀にも答える。

 

「独自の人格を持っているのは、『理』の私と、『力』の雷剣士・・・

 そして、中枢となる『王』の3基です」

「・・・!! そうか・・・・・・ありがとう、というのも妙な話か?」

「いえ、再び見えることがありましたら・・・」

 

そう区切って星光の殲滅者は言葉を綴った。

 

「私と戦ったことを後悔するくらいギッタンギッタンのボコボコにして差し上げます」

 

「・・・・・・その機会が来ない事を、祈っている」

 

(ど、どんだけ悔しかったんや!!!??)

 

リインフォースとはやてが星光の殲滅者の物騒な物言いに心底引いていると・・・

星光の殲滅者の体が徐々に光となって消えていっていた。

 

「・・・どうやら・・・今回はここで終わりのようですね・・・

 それではお二人とも・・・・・・また見えることがあれば・・・」

 

その言葉だけを残し、星光の殲滅者は光となって消滅した。

 

「・・・・・・なんだか、静かやけどとんでもない嵐が過ぎ去ったなぁ・・・」

「心配をかけて申し訳ありません、我が主」

「ええよ。リインフォースが無事やったんやから・・・

 さあて・・・結界は他にもある。行こか、リインフォース」

「はい!我が主!!」

 

改めて決意をした二人は、もう一つの結界がある場所へと向かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「見つけた・・・かな・・・?」

 

はやてが見据える先にいたのはもう一人の友達フェイトに良く似た存在。

違うのは外見で、髪の色は水色で先端は前髪以外は青みがかった黒。

瞳の色がワインレッドでフェイトよりもツリ目がかっている。

 

髪の毛を結ぶリボンの色は青で、その水色の髪の毛に良く似合っていた。

 

「マテリアルの一種に間違いないようですね。

 周囲の闇を集めて、具現化しているようです」

「ふむ、なるほど・・・・・・

 あーそこの子。フェイトちゃんの姿で、悪い事してたらあかんよ。

 ええ子やから、ちょう、こっちにおいでー」

 

はやてがそう言って手を振るのだが・・・

 

「君は、夜天の主!? 何故ここに?

 闇の書を破壊して、その上、僕達の再生まで阻止する気か

 だが、ちょうどいい。君を倒せば、僕達も再生できる」

「あぁーちょっと、私の話し聞いとるかぁ?」

「もう一度、あの暖かであでやかな・・・・・・血と怨嗟の闇に帰ることができる」

「あ、あのちょ、ちょっと・・・」

 

話が全く通じない。

一体どうすればいいのか、そうはやてが考えていたときだった。

 

「だったらどうする!? 羽根も揃わぬ子鴉一羽と、壊れて使い物にならない融合騎。

 二人揃ったところで、闇の深淵に触れることなど・・・・・・」

 

 

ブヂィイイイイイイイッ

 

 

「ちょう黙れ・・・・・・・・・・・・」

「えっ!?」ビクッ

 

はやての声の剣幕に雷刃の殲滅者もたじろぐ。

どうやら触れてはならないモノに触れてしまったようだ。

 

「あ、主・・・?今何か凄い音が聞こえたのですが・・・」

 

リインフォースがそう話しかけるが、はやての耳には聞こえていない。

顔を上げたはやての目からはハイライトが完全に消えており、

顔には黒い影、周りには憤怒のオーラが見えていた。

 

「人を子鴉呼ばわりは・・・まあ、えーやろ。そやけどなー」

 

そこで切り、はやては続ける。

 

「うちの大事な子を・・・夜天を護る祝福の風を!

 リインフォースを穢すんは、許されへん!!!!!!」

 

そしてはやての足元にミッドチルダ式の魔法陣。

目の前には雪のように真白く輝くベルカ式の魔法陣が出現する。

はやては杖を上空へと掲げて、叫ぶ。

 

「響け・・・終焉の笛・・・ラ グ ナ ロ ク!!!!!!!!」

 

刹那、怒りの込められた白き終焉の砲撃が有無を言わさずに雷刃の襲撃者を飲み込んだ。

 

「そんな馬鹿なぁーー!」

 

雷刃の襲撃者のそんな断末魔と共に、戦闘は一瞬でケリがついた。

砲撃を受けた雷刃の襲撃者の体が徐々に消滅していく。

 

「くぅー、ええと、闇は何度でもよみがえるぞ!

 僕も王への道をあきらめたわけじゃない!

 いずれ、またきっと! それから、えーと、えーとッ!・・・アーーッ!!」

 

最後はそんな断末魔を残しながら、雷刃の襲撃者は完全に消滅した。

 

 

「対象、活動停止・・・・・・ですが、あの・・・少し、驚きました」

「なにが?」

 

何の疑問にも思っていないはやてのその質問にリインフォースは答える。

 

「その・・・・・・あなたがお怒りになるのを、私は初めてみたような」

「そーかー?まあ、私は普段ぼーっとしてるからなー」

「いえ、あの、そういうことでは・・・」

 

普段はぼーっとしているが、一度起動すると止められるものがいない。

ましてやなのはが関わるとはやての性格は180度変わるといっても過言ではない。

それもまたはやての一面だということをリインフォースが知るのは

もう少し後の話・・・・・・

 

「そやけど、家族は私のなによりの宝物や。

 しかも心があって傷付くこともある宝物なんやから・・・

 心の大切さはなのはちゃんから十分教わってる。

 だから目の前で傷つけられたら、それは怒るよ」

「はい・・・」

 

ピピピピピp

 

はやての言葉に取りあえずリインフォースが納得していたときだった。

突然入って生きた通信にはやては出る。

 

『はやてか?クロノだ』

 

出たのはクロノだった。

 

「クロノくん!そっちは?」

『事態はどうやら収束に向かっているよ。もう少しだ』

「まさか、本当ですか」

 

リインフォースの驚きの声にクロノは答える。

 

『あれだけ大きな『闇の書の闇』が消滅したばかりなんだ。

 アクアボリスは警戒していたし、君達がいる海鳴市に

 余波被害が来ることも、ナハトヴァールからの忠告もあって万全さ』

「ナハトヴァールの・・・そうか!」

 

リインフォースは何かに気がついたように言う。

 

『どうした?』

「いえ、今回の事件・・・どうやら原因が少しわかってきたようです」

『本当か!?』

「はい、ただ。まだ証拠が足りませんし、私にも実感が湧きませんが・・・」

『実感が湧いたらでいい。それよりも今判明したんだが、

 君達がいる空域の近くに二つほど大型の反応があるんだ』

「ほんまか!?」

『あぁ、今応援もそっちに向かっているんだが・・・・・・

 なのはや、フェイトのほうにも大型の結界が発生していて・・・』

 

クロノは申し訳なさそうにそう言う。

それはつまり誰も間に合いそうもないということ。

闇の欠片は他でも発生しているのだから、それは当然ともいえる。

 

「今回のこれは、闇の書の残滓やから、

 わたしとリインフォースのところに来たがっているのかも」

『そうなのか?』

「お世話になってばっかりでもあかん。

 わたしとリインフォースが、止めてくるよ」

『了解、でも無理はしないでね』

「エイミィさん。はい、わかりました」

 

そして、それを最後にアースラ組との通信は終わる。

はやてはリインフォースの方に顔を向けて言った。

口元を上げて、少しだけ小悪魔な笑顔を作りながら

 

「さ、行こか、リインフォース」

「はい、我が主!」

 

二人は向かう・・・夜天が導く、新たな未来のために・・・

 




レヴィは好きだけど、雷刃の襲撃者はこういう扱いのほうが好きな自分。
レヴィは好きですよ!? アホっ娘万歳!\(^O^)/

まぁ、こんな人を見ればフェイトにキツイっていったのもわかるけど・・・w



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SAGA 43「絆が照らす未来」

今回は、少し無理やり気味かな?
・・・まぁいつものことでもありますが・・・

とりあえず次回でBoA編は最終回の予定。
次々回からはGOD編に行きます。

ただ、前半はゲームとそう変わらないのでかなり省くかもしれません。

それではどうぞ!!




 

 

 

 

クロノたちと連絡をとった後、はやてとリインフォースは

二つある大型の反応のうち、一番近い一つのほうに向かっていた。

分散して叩くことも考えたが、本調子でないリインフォースと

未だに魔法初心者のはやてを分断するわけにも行かないため、

先に二人で近いほうから攻めることにしたのだ。

 

そして、二人で向かった先で出会ったのは・・・・・・

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「防衛システムの再生が遅い・・・・・・阻んでいるのは、お前か」

「ああ・・・・・・」

【リインフォース・・・あれってもしかして・・・】

【はい、我が主・・・おそらくあれは・・・】

 

そこで出会ったのは銀色の長い髪と深紅の瞳の女性。

ナハトヴァール・・・今回ははやてもその存在に気づいた。

ただし、やはりといってよいのか、そこにいるのは本物ではなく闇の欠片だった。

 

「闇の宿命も、果てない呪いも・・・終わらんよ。どこまで逃げても追ってくる」

「かもしれないな。私も分かっている」

【リ、リインフォース、なんで闇の欠片ナハトヴァール。こんなにネガティブなん?】

【おそらくあのときの・・・高町なのはが闇の呪いに囚われていたときの彼女なのでしょう

 どんなに頑張っても・・・決して報われなかった・・・あのときの・・・・・・・・・】

 

「ならば・・・・・・何故運命に抗う?

 逃れられないならば、自我も願いも・・・無くしてしまえば楽になる」

 

闇の欠片ナハトヴァールの言葉・・・

自我を持ったがために、なのはを闇の書の呪いから助けられないことに後悔し、

願いから誕生したために、はやてと友人として接することのできなかった悲しみ。

それらを無くしてしまえば、楽になれる。彼女はそう言いたかったのだ。

 

「ああ・・・・・・昔の・・・主はやてと初めて話す前の私なら、

 そう言っていたろうな・・・・・・。だが・・・私には、それはできんよ」

「―――――何故?」

 

リインフォースの答えにナハトヴァールが疑問符を投げかける。

それを受け止めたリインフォースは語っていく、自分の思いを

 

「終わらない呪いをこの手で断ち切るため。

 それは今、私にしかできないい・・・私が何より、なすべきことだ」

「リインフォース・・・」

 

「無理だ・・・そんなことできるはずがない・・・」

「できるか、できないかではない。やるか、やらないかだ」

 

ナハトヴァールの言葉に、リインフォースは自らの言葉を授ける。

だが、闇の欠片の彼女にはどうやら聞き届けてはくれなかったようだ。

 

「無駄だ・・・・・・すべては、闇の狭間に消えていく・・・

 夢も・・・決意も・・・・・・・・・そして、悲しみも!」

 

それは・・・かつてなのはの夢も決意も踏みにじったことへと皮肉か・・・

本人は気づいてはいないが、その目から一筋の涙を流しながら彼女はそう言った。

その悲しげな姿を見て、はやては言い放つ。

 

「だったらその呪い!私達二人が断ち切る!いくよ!リインフォース!」

「はい、我が主!!」

 

悲しみの闇を広げるナハトを助けるために・・・

はやてとリインフォースは魔導をこの手に立ち向かっていった・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「いくで!ブリューナク!!」

 

まずははやての溜めに溜めた魔力弾で牽制。

ナハトヴァールに見事、直撃する。しかし・・・

 

「効いてない!?」

 

牽制とはいえ、かなりの魔力を込めたはずだがナハトは無傷だった。

特に何かしらの防御魔法を使用したわけでもないのに・・・だ。

その秘密は闇の書の一部だったリインフォースが気づく。

 

「わかりました、我が主。彼女は元々防衛プログラムの一部。

 その圧倒的防御力を闇の欠片ながら、彼女はフルパワーで使用できるのです」

「そ、そんな・・・!だってあれってフェイトちゃんのファランクス防ぎきったんやで!?

 そないな硬い鎧を纏ったナハトになんか手はあるんか?」

「えぇ・・・おそらく・・・」

「おお、それで!?私はどうすればええ?」

 

可能性があるならば、それに賭けてみよう。そう思いはやては問いかける。

ナハトヴァールから放たれる暗黒の火球を避けながら、リインフォースは答える。

 

「はい。まず私があの防御システムに干渉します。

 闇の欠片とはいえ、おそらく可能でしょう・・・

 そうすれば二分はあの圧倒的防御性能を落とさせることができます」

 

「なるほどなぁ、そしてその間に私達の一撃を・・・

 ナハトの呪いを解く一撃を与えるんやな!」

 

「はい、そうです。我が主」

 

「よっしゃ、のったで!私が隙を作るから、リインフォース!」

 

「はい!我が主!!」

 

はやての言葉に、リインフォースは力強く頷く。

それを見届け頷き返したはやては闇の欠片ナハトへ振り向き、そして放つ。

 

「いくでぇ!バルムンク!!」

 

射程は短いが威力の高い放射弾をナハトに向けて、広範囲に向けて発射する。

そしてそれは、ある一点で急速に方向転換をしてナハトヴァールに直撃する。

だらにはやては左側へ流れるように飛びながら、ブリューナクを数段当てていく。

ナハトヴァールの意識がはやてのほうへ向いた瞬間を逃さずにはやては叫ぶ。

 

「リインフォース!!」

「はい、我が主!!」

「!!!?」

 

瞬間的にナハトヴァールに近づいたリインフォース。

彼女は自身の右手に己の魔力のすべてを込めて、ナハトを殴りつける

そして勿論、それはただ殴ったわけではない。

 

「ぐっ、き、貴様・・・ッ!」

「防衛システム干渉・・・解析完了!」

 

見事、リインフォースはナハトが駆使する防衛システムに干渉に成功。

それは遠目から見るはやての目にも分かるくらいに見た目にも変化が現れる。

さきほどまでナハトの体を覆っていた闇が少しだけ晴れて、

その強固な鉄壁の障壁がほんの少しだけ薄くなっていた。

 

だが、それだけで十分。はやては自身の最強魔法を放つ準備を始める。

 

足元にはミッドチルダ式の、放射面にはベルカ式の魔法陣が展開する。

そして、正三角形のベルカ式魔法陣の各頂点上でエネルギーをチャージ、

それぞれ効果の異なる三連撃の貫通破壊型砲撃を放つ。

 

「響け!終焉の笛!ラグナロク!!」

 

はやての白銀の砲撃がナハトヴァールに迫る。

ナハトヴァールは残された障壁をそれに対して、一点に集中させた。

 

拮抗する障壁とラグナロク。

火花を散らしながら、力と力がぶつかり会う中、

その隙を狙ってリインフォースがナハトヴァールの真横から突撃する。

脇ががら空きになったところに魔力を込めた右拳を命中させる。

 

「なっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

そしてそこから雷のような強力な魔力を放出させる。

 

「撃ち抜け、夜天の雷!」

 

その言葉と共にリインフォースはさらに魔力を放出する。

それは闇の欠片ナハトヴァールに直撃し、確実にダメージを与える。

だが、その一撃だけでは終わらない!

 

「ぐわぁああああああああああああっ!!!!」

 

放出された膨大な魔力は回復をし始めていた

ナハトヴァールの障壁のバリアに閉じ込められて、

ナハトヴァールと障壁の間の閉鎖空間で乱反射。

ナハトヴァールに更なるダメージを与えたのだ。

 

乱反射をし続ける夜天の雷の光・・・それはナハトヴァールに宿る闇を消し去っていった・・・

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「お前は何だ・・・? なぜ・・・これほどの力を・・・」

 

それに対し、リインフォースは力強く答える

 

「私は!夜天に響く、祝福の風!リインフォースだ!!」

「・・・・・・そうか・・・なるほど・・・そういうことか」

 

その言葉を聞いた闇の欠片ナハトヴァールは瞳を閉じ、静かに頷いた。

 

「ナハトヴァール・・・お前も、自らの主の為に戦ったぞ・・・」

「・・・・・・・・・あぁ、先ほど思い出した・・・お前達のおかげだ・・・」

 

そして・・・ナハトの体が徐々に光の粒子となって消えていく。

ナハトは名残惜しげな表情をしながら消えていく自分の体を見て、そして言った。

 

「ふふ、私もお前達のように戦いたかったが・・・仕方ないか・・・

 オリジナルの私は・・・・・・今もなのはのために戦っているのだからな・・・」

「ナハトヴァール・・・」

 

はやてが同情の目をナハトヴァールに向ける。

闇の欠片だとは分かっているが、彼女の立場になって考えてみると・・・

それはとても重いものだった。

 

ナハトヴァールは「気にするな」と口ずさんだ後、語る。

 

「だが、構築体(マテリアル)は私で終わりではない・・・中枢部が、まだ・・・」

「・・・先ほどのハラオウンとの通信で今回の事件の切欠が何かを少しだけ悟った。

 記憶を思い出したなら、最後に聞きたい。

 

 今回の事件・・・オリジナルのお前が言った『紫天の書』は関係しているのか」

 

「・・・・・・関係はしている・・・が、今回は彼女達は被害者に当たる。

 本来のナハトヴァール・・・つまりは闇の書の闇・・・

 あれに存在そのものを乗っ取られたかわいそうな子羊。

 今の紫天の書について語るのならば・・・それが一番相応しいだろうな」

 

「紫天の書は闇の書の闇を逆に利用して、

 砕け得ぬ闇を復活させるつもりではないのか?」

 

「最初はその気だったのだろうが・・・今は目的が挿げ替えられているな・・・

 おそらく・・・・・・本人達も・・・闇の侵食度にもよるが・・・自覚していないだろうな」

 

「そうか・・・ありがとう・・・」

 

自身に残されていた最後の力を振り絞り、

情報をくれた闇の欠片ナハトヴァールにリインフォースはお礼を言う。

そして、ナハトヴァールの下半身がだんだん白いキューブとなって消えていく。

 

「中枢部・・・マテリアルの『王』には・・・気をつけろ・・・あれは・・・・・・凄まじく・・・・・・」

 

ナハトヴァールは最後にそれを言い残して、消滅した。

 

「・・・・・・また・・・会えるとええなぁ・・・」

「はい、いつか必ず・・・ですね・・・」

 

二人は消え行くナハトヴァールを最後まで見届け、そう言った。

その後、二人はアースラのメンバーへと今回の事件の元凶を告げ、

残された最後の結界・・・マテリアルの王がいる空間へと向かっていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・まったく・・・行く道に闇の欠片多すぎやろ!!」

「そうですね・・・まぁ、なんとか魔力は温存できてはいるのですが」

 

ホンマに多すぎや!闇の欠片!

中枢部のマテリアルに近づく度に増えてきよるし!

 

ピピピピピp

 

ん?通信・・・?フェイトちゃんか

 

「はい、はやてです」

『こちらフェイト。はやて大丈夫!?』

「こっちはへーきや。リインフォースもやで」

「はい、私も大丈夫です」

『そうなんだ、良かった・・・』

 

フェイトちゃん、顔が大分やつれてるなぁ・・・

こっちも多少は疲れとるけど・・・フェイトちゃんも大概やなぁ

 

『それではやて、さっき私はマテリアルの子と戦ったんだけど・・・そっちは戦った?』

 

おろ?フェイトちゃんも戦ったんか?

 

「ん~?マテリアルの子?戦ったよぉ。

 紅い服を着たなのはちゃん似の子と、水色の髪の毛をしたフェイトちゃん似の子』

 

フェイトちゃんはどっちと戦ったんやろ?

 

「紅い服のほうはさっき戦ったよ。名前はシュテル。あの子が言っていた通りなら

 その水色の子はレヴィ・・・だと思う。私似ってシュテルと同じで見た目?」

 

マテリアルに名前あったんか!?

まぁ、紫天の書のいわば守護騎士ポジションのようなものやって考えれば当然かぁ

シュテルに・・・レヴィ・・・レヴィかぁ・・・見た目は・・・確かにそっくりやけど

 

「そうやよ。見た目は凄いそっくりや。見た目・・・はな・・・」

『???』

 

そう・・・見た目・・・はな・・・

フェイトちゃんが困惑しとるから、取りあえず話題を変えよう。

 

「・・・そっかぁ、あの紅い服の子シュテルちゃんいうんやぁ

 私の時は名乗ってもらえなかったんやけどね」

『私のときも最初は名乗ってくれなかったけどね。途中で教えてくれたんだ。

 それで戦いに勝ったら、他のマテリアルの子の事も教えてくれた。

 水色の子がレヴィ。あと王のディアーチェって言ってたかな?』

 

マテリアルの王ってディアーチェっていうんかぁ・・・

ん・・・?・・・ちょう待ちぃ・・・まさか・・・まさか・・・

 

「レヴィにディアーチェやね。了解。・・・あれかぁ・・・もしかして・・・」

『どうかしたの?』

 

隣にいるリインフォースもフェイトちゃんを改めて見て、あれを思い出したのか

顔が多少凄いことになっとった。本人が目の前におるとさすがにキッツいなぁ

 

「ほら・・・なぁ・・・シュテルって子はなのはちゃん似やろ?」

『そうだね。本人は見た目と魔導はなのはから得たって言ってたし』

「そうなんか、だったらレヴィはフェイトちゃんのデータからやろ?」

『うん、そうだね』

 

はぁ・・・やっぱりそうなるんかなぁ・・・

だって今までのマテリアル・・・闇の書に取り込まれたメンバーやし・・・

 

『・・・だったら消去法的にいって・・・ディアーチェって私のデータ使ってへん・・・?』

 

搾り出すように私はフェイトちゃんにそう言った。

あぁっ、フェイトちゃんでも、そんなに嫌がることなのかな・・・?って顔しとる!

実際に本人に会ったらそんな顔すぐに吹き飛ぶで!!

 

『そんなに嫌がること・・・かな?』

 

やっぱりか!あとで会ってみぃ!

 

「フェイトちゃんもレヴィに会えばわかる・・・自分の闇の欠片以上にキツイんや・・・」

「それには私も同感ですね。おそらくあってみればわかるかと・・・」

 

珍しく、リインフォースまで必死に言ってくる。

まぁ、無理もないねんけど。

 

そんな感じで、私達はフェイトちゃんとの通信を切った。

 

そして、マテリアルの王・・・ディアーチェやっけ?

その子が居ると思う結界へと二人で向かっていったんや。

 

その時やった。

エイミィさんから緊急の連絡が再び入る。

 

「海上に、異常反応!!特殊結果以内魔力反応が・・・大きくなってる!!」

 

ここからでも分かる!なんて魔力量や!

正直皆に唯一勝てる私の魔力量より、3倍くらいは上やった。

急がへんと!!!

 

「急ぐよ!リインフォース!!」

「はい!我が主!!」

 

スレイプニール魔力放出・・・フル稼働でいくで!!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

さきほどまでの結界とは違い・・・深い・・・暗黒の闇に包まれた空間・・・

 

「ふふ・・・・・・はは・・・・・・・・・・・・ッ! 力が漲る・・・・・・魔導が滾る

 集え、闇の欠片よ・・・・・・我が身に捧げる贄となれ・・・・・・ッ!!」

 

そこに居たのは八神はやてを髪の色は銀色で前髪以外は先端に黒いメッシュを入れて、

瞳の色を緑にし、全体的に黒や紫といった印象を受けるように色を変えたような存在。

ぶっちゃけて言えば、闇統べる王さんがそこにいた。

 

周りを漂う、まるで幽霊のような闇の欠片が・・・正直痛い雰囲気を醸し出す。

 

「あれが構築体(マテリアル)の中枢・・・・・・よりにもよってなんという姿を・・・ッ!」

「ほんまやぁ・・・ほとんど私の姿であんなことせーへんでほしいわぁ・・・」

 

はやてとリインフォースは闇統べる王のそんな姿になんともいえない感情を持っていた。

あまりの莫大な魔力にかえって冷静になれているというのも理由だ。

正直言って、今の闇統べる王の魔力量は桁違いだ。

 

はやてやかつてのシリアル5を軽く上回っている時点で

その多量の魔力量が持つ異常さが理解できるだろう・・・

闇の書の闇の圧倒的魔力を闇統べる王は手にしているのだ。

 

その時、はやては気づいた。闇統べる王の周りを纏わりついている闇。

さきほどのナハトヴァールに取り付いていたものとは違う。

しかし、それはどこか見覚えがはやてにはあった。そして気づく。

 

(あの闇・・・私を取り込んだ闇の書からでてきたのと同じ闇!?)

 

そう、それは闇の書を起動したとき・・・なのはが召喚魔法陣から召喚された瞬間に

はやてを包み込んだ闇と全く同じだったのだ。そしてそれが意味するのは・・・

 

(あの子の力は・・・闇の書の闇と同じってことやんか・・・)

 

あまりの敵の壁の大きさに、絶望してしまうはやて・・・

しかし、リインフォースが小さく紡いだ言葉を聞いて思う。

 

「・・・あの凶悪な魔力・・・・・・壊れかけたこの拳で・・・止めること、かなうか・・・?

 いや、先ほどナハトに言ったばかりではないか・・・かなう、かなわないではない。

 やり遂げるんだ・・・祝福の風・・・リインフォースとして・・・」

 

リインフォースは諦めてはいなかった。

その顔は決意に溢れていた。だが、同時に無茶をしてでも食い止める。

そんな気持ちがあるようにも見えてしまう。

 

そんなのは絶対いや、そう思ったはやてはリインフォースを見て・・・

そして、思い出した。あの親友が始めて無茶をしでかしたときのことを・・・

 

(そうや・・・あのなのはちゃんが無茶したんはなんのためや・・・

 約束を守る・・・そのためや。私を助ける・・・守る・・・ただそれだけのために

 いや、フェイトちゃんとの約束もあるかぁ、どっちにしろなのはちゃんは

 自分の心を犠牲にしてでも守ろうとしてくれたんや・・・

 だったら・・・リインフォースが無茶をするゆーんなら・・・)

 

「駄目やないか、リインフォース」

「我が主・・・?」

「夜天の主と祝福の風は一心同体・・・無茶するんも、一緒にや」

「我が主・・・・・・はい、そうですね。行きましょう。

 早く帰らないとと皆が心配しますから」

 

リインフォースのその言葉にはやてはただ頷く。

そして、左手をリインフォースに差し出す。

リインフォースは一瞬、呆けた顔をした後、すぐに安らかな笑顔に変え

その手を自らの右手で握り返した。

 

「さ、行こか。リインフォース」

「はい!」

 

その手にお互いの暖かさを感じあいながら、

二人は闇統べる王の元へと飛び立っていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「来たか、我が写し身」

「って、こっちがニセモノみたいな言い方やな。この劣化コピペ」

「闇の書の主である事・・・闇統べる王の玉座を、自ら棄てたのは、うぬであろうが」

「よくまぁ・・・操られているくせに抜けぬけと・・・」

 

はやてがそう言うが、闇統べる王は一切気にしない。

彼女の闇の侵食はシュテルやレヴィの比ではなく、完全に意識を乗っ取られていたのだ。

そのため彼女は自分がしている事に対して全く違和感を抱いていなかった。

 

「フフ・・・使い物にならない小虫と塵芥が組んだとてなんになる・・・?」

「闇の書の運命はもう終わりだ・・・甦っても、もう何も・・・誰のためにもならない」

 

リインフォースの忠告を闇統べる王は軽く受け流す。

今の彼女にとって他の人間にほとんど興味はなかった。

 

「誰のためなどではない・・・我は我のために。

 心地よき暗黒を永遠に生きるためにここにある

 さあ・・・・・・貴様等も、我が糧となれ」

 

エルシニアクロイツを構え、ただ塵を見るような冷たい目で闇統べる王は二人に言った。

だが、二人も引くわけには行かない。闇の書の悲劇を・・・これ以上起こさせるわけには!

 

「そうはいかん・・・夜天の主とその翼が」

「ここで全部、終わらせるッ!」

 

 

「戯言を・・・」

 

そんな二人の決意の言葉すら、軽く受け流す。

そして、闇統べる王は手に持つ紫天の書から魔法を引き出す。

 

引き出す魔法・・・その名はアロンダイト。

 

直撃すれば当たった周囲に衝撃波となる魔力乱流を引き起こし、

広域にダメージを与えることができるその砲撃を二人に向けて放つ。

 

「リインフォース!!」

「はい!我が主!」

 

はやてとリインフォースはその砲撃に対し、二人で同時にパンツァーシルトを張る。

正三角形の魔法陣型のシールドを二枚重ねで、アロンダイトを防ぎきる。

 

「ぐぅがぁ・・・・ぐぎぎ・・・・・・」

 

だが、その攻撃はとてつもない威力だった。魔力量の差が大きすぎたのだ。

高々砲撃魔法一つを防ぐのに相当の疲労を二人は強いられていた。

 

なんとか、すべてを防ぎ、受け流すことに成功する。

肩で息をしながら、それでも力強い眼差しで闇統べる王を二人は見据える。

 

「ほう・・・これを受けてまだそのような態度が取れるとは・・・」

「言った・・・はずやろ・・・闇の書の運命は・・・ここで終わらせるって!!」

 

はやてはブリューナクを三発、闇統べる王に向けて放つ。

未だになのはのように複雑な軌道を描ける訳ではないが、

高速で突き進む魔力弾は確実に闇統べる王に向かう。

 

「ふん、このようなもの・・・避けるまでもないわ!!」

 

闇統べる王はその攻撃を避けるような真似をせずにシールドを展開、

そのシールドに当たったブリューナクは何の抵抗もせずに消滅する。

 

「・・・ッ!?」

「効いていない・・・?」

「はははッ!!こちらも言い返してやろう。言っただろう?

 使い物にならない小虫と塵芥が組んだとてなんになるとな」

 

続いて、闇統べる王が放ったのはドゥームブリンガー

性質として、射程は短いが威力の高い魔力の刃を広範囲に向けて発射する魔法だ。

それがはやてとリインフォースの周りに拡散した後、二人に向けて集束する。

 

二人は再びパンツァーシルトで防御する。

今度はあくまでも時間稼ぎ、一撃分だけ耐えた後はすぐさま避ける。

このままでは防戦一方。こちらも攻撃しなおさなければ

 

「いけ!クラウ・ソラス!!」

 

はやてが使う、高威力の直射型砲撃魔法『クラウ・ソラス』

白銀のその砲撃は寸分違わずに闇統べる王を狙う。

 

「ふん、幾度やっても無駄だ・・・」

 

闇統べる王は再びシールドを展開、クラウ・ソラスを難なく防ぐ。

ふんっ、と声を上げながらはやてを見る闇統べる王。

だが、その時気づく。先ほどまでいた融合騎がいない事に

 

そして、それに気づいたその時だった。

 

「はぁああああッ!!」

 

自分の斜め下左後ろからリインフォースが右拳に力を込めて突撃してきたのだ。

タイミング、角度、速度・・・・・・すべてにおいて完璧な攻撃。

闇統べる王も絶対に防御魔法を張れない速度の攻撃を打ち込んだ!

 

・・・だが・・・

 

「ふんっ、惜しかったな」

「なっ、それは・・・!」

 

その攻撃はあるものによって完全に防がれた。

それは闇統べる王が左手に持っていた夜天の書に良く似た「紫天の書」

紫天の書は外部からの攻撃では何をしようと破壊されないという特性を持っている。

闇統べる王はそれを利用してリインフォースの決死の一撃すら防ぎきったのだ。

 

「まぁ、まぁ、と言ったところか・・・だが所詮塵芥の浅はかな考えよ」

 

そのまま闇統べる王は体を回転させ、エルシニアクロイツで

リインフォースのがら空きのわき腹に強力な一撃を与えて吹き飛ばす。

 

「ぐふっ!?」

「リインフォース!!くっ、バルムンク!!」

 

はやては咄嗟に魔力刃を広範囲に発射。

闇統べる王に向けて魔力刃が大きく広がった後に、目標に向かって収束する。

 

だが、闇統べる王にはそれすらも通じない。

今度は防御魔法すら展開せず、エルシニアクロイツの一閃ですべて消し去ってしまった。

 

「あーははははッ! 愚か、愚か!!貴様の攻撃が我に効くはずがなかろう!!!」

「な、なんちゅう・・・魔力量や・・・」

「く・・・これほどとは・・・」

「ふん、今更自らの愚考を後悔し始めたか!だが遅い!はるかに遅いわ!!」

 

次の瞬間、リインフォースとはやてを真白のバインドが縛る。

 

「「なっ!?」」

「あははは!いいぞいいぞ!! 泣け!喚け!!そして・・・死ぬがいい!!!」

 

その言葉と共に、闇統べる王は巨大な魔法陣を二つ形成する。

そして・・・そこに圧倒的な魔力を込めていく・・・世界を白銀に染める一撃・・・

はやてのラグナロク、なのはのスターライトブレイカーをはるかに上回る力!

 

そして・・・それは放たれる。

 

「絶望に足掻け塵芥、エクスカリバー」

 

魔法陣から放った3本の白色の光を収束させ、

魔力の奔流がはやてとリインフォースを飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「・・・・・・? なんだ・・・?」

 

闇統べる王は目の前の光景に疑問符を上げる。

間違いなく必殺のエクスカリバーは二人に直撃したはずだった。

だが、彼女の目の前に広がるのはそれを受けて砕け散る二人ではなかった。

 

 

・・・・・・光だ

 

 

さきほどまで二人を飲み込んでいた闇統べる王の

エクスカリバーを強力な光が防ぎ、反射していたのだ。

その光は左に渦を巻き、エクスカリバーを弾き飛ばしていく。

 

いや、それだけではない。

 

その光はエクスカリバーの攻撃エネルギーを逆に吸収して増幅させ、

そのパワーを利用してエクスカリバーを押し戻していたのだ。

 

「なんだ・・・?・・・・・・なんなのだこれは!!!??」

 

目の前の現実が理解できない闇統べる王・・・

そして、エクスカリバーは光に完全に弾き飛ばされ粉散する。

眩い光はエクスカリバーを防ぎきったこの瞬間も輝いていた。

 

やがて、光が弾けた・・・そしてその光が消え去ったとき、その場に一つ影があった。

影はやがて一つの姿を作り上げる。

 

それは・・・背中に三対六枚の黒翼と騎士甲冑を備え、

銀色からクリーム色へと変わった長髪を静かに靡かせ、

紅き瞳ですべてを見据え、金と銀の光の粒子を身に纏う光の魔導騎士・・・

 

「まさか!?貴様ら・・・・・・子鴉が融合騎に融合したとでも言うのか!!?」

 

その現象の名は『逆ユニゾン』

 

それは術者がマスター権限により起こす、疑似融合事故とでもいうべき現象。

融合騎が術者にユニゾンするのではなく、デバイスが主体となり術者が融合するものだ。

 

本来のリインフォースがはやてにユニゾンするのではなく、

術者であるはやてがリインフォースにユニゾンすることによって、

夜天の書の管制人格リインフォースはかつての力を取り戻す・・・

いや、それすらを上回る究極の力を手に入れたのだ。

 

「くっ、だがそんなことをすれば子鴉だけだなく貴様自身も只ではすまんぞ!?」

 

闇統べる王の言うとおり、この逆ユニゾンはとても危険なものだ。

逆ユニゾンは通常のユニゾンとは比較にならないほどの術者へ負担がかかるのだ。

魔力の制御に失敗すれば術者ごと消滅しかねないのだ。

 

『かまわへん・・・多少の無茶は承知の上や!』

「夜天の翼は・・・主と共に!!」

 

その言葉と共に彼女は背中のスレイプニールを広げる。

いや、それはもはやスレイプニールといってよい代物ではなかった。

 

普段は黒いそれは白銀に染まり、光を纏いながら巨大な翼を広げたのだ。

そして、この世界を光で包みこむように、その巨大な翼が広がっていく・・・

その光はこの結果の空間内に蔓延る暗黒の闇を弾き飛ばし、

透き通るような青みを帯び、明るく晴れ渡った青空を出現させた。

 

「な、な・・・あ・・・・・・」

 

その幻想的で、神秘的で、綺麗で美しい姿を見て

闇統べる王は言葉を発する事ができないでいた。

 

翼の付け根から広がる光の翼が、まるで天使のような印象を与えていたのだ。

 

ある意味で、闇統べる王は逆ユニゾンしたリインフォースとはやての姿に見惚れていた。

そのために体を硬直させ、空中で呆然と突っ立ってしまっていたのだ。

 

少し卑怯かもしれないが、リインフォースとはやてはその隙を逃さなかった。

彼女達は闇統べる王の元へと急速で突撃し、彼女の胸に魔力を込めた右拳を打ちつける。

 

「なっ!?き、きさ、貴様ぁああああ!!??」

 

『行くよ!リインフォース!』

「はい!我が主」

 

突き出され闇統べる王の胸を貫く右拳に二人はさらに魔力を込める!

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

『夜天の祝福!』

「今!ここに!」

 

稲光が激しく飛び散り、膨大な光が闇統べる王を包み、そして消滅させていく。

 

「ぐ・・・うああぁあああああああああああ~~~~ッ!!!!」

 

(そんな、バカな・・・我が力が・・・・・・ッ!!

 ぐぅう・・・・・・ッ・・・あと少し・・・あと少しで、

 決して砕け得ぬ力を・・・手にできたものを・・・)

 

断末魔の叫びと共に・・・・・・闇統べる王の体は光となっていった・・・

その光がはじけ飛ぶと共にアクアボリスを、海鳴の空を覆っていた結界が消滅していった。

 

後に『闇の欠片事件』と呼ばれる事件は・・・こうして終わりを迎えたのだった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「とっ・・・・・・・・・と――!?」

「大丈夫ですか!?我が主!」

 

空中で倒れ掛かっていたはやてをリインフォースがお姫様抱っこのように支える。

 

八神はやてが気がついたのはあの戦いから少し経ってからだった。

魔力を完全に放出しきり、負担がかかっていたはやてはガス欠で倒れていたのだ。

それはリインフォースも同じで、気がついたときには目の前で倒れ掛かっているはやてがいたのだ。

 

「あ、あれ?リインフォース・・・さっきのマテリアルの王様は?」

「わかりません・・・私も気がついたときには、結界がすでに解けていて・・・」

「確か、あのラグナロクみたいな攻撃を受けて・・・そんで・・・あれ?」

 

はやてとリインフォースは先ほどの戦いの記憶がばっさりと抜け落ちていた。

 

具体的にはやてが最後まで覚えているのは

闇統べる王のエクスカリバーの直撃を受け、それに飲み込まれたことのみ。

 

一体自分達はあの後どうなっていたのか、闇統べる王はどうなったのか・・・

そんなことを二人は考え続けたが、結局は答えは出なかった。

 

実は逆ユニゾン時、彼女達は一種のトランス状態だった・・・

そのために逆ユニゾンしていた時の記憶がなかったのだ。

 

いくら考えても答えの出ない中・・・エイミィから入ってきた通信により、

彼女達二人は、この事件の終わりを認識したのだった。

 

取りあえず、伝えたい事があるというので

二人はアースラへと向かっていったのだった・・・。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「どうゆう・・・ことですか・・・?」

 

私は・・・今目の前で言われた事が理解できていなかった。

厳密に言えば・・・理解をしとーないと頭が否定していたんや・・・。

 

それだけ、今目の前で伝えられた現実は私に衝撃を与えた。

 

「なのはちゃんが・・・帰ってきていないの・・・」

 

エイミィさんから伝えられた事実は私を絶望させるには十分やった・・・

なんで・・・なんで・・・みんなが無事に帰って来れたのに・・・

なんで・・・なのはちゃんだけが帰ってきてへんの・・・?

 

「こっちの連絡にも全く応じないし、

 本人がかけているとしか思えないジャミングのせいで、

 なのはちゃんの位置情報もつかめないんだ・・・」

 

なんで、なんでなん?なんでなのはちゃんはそんなこと・・・

 

錯乱している私を見かねてか、クロノくんが気を利かせてくれたようだ。

 

「はやて、とりあえず落ち着いてくれ。君は極度に疲れているし、

 とりあえずリインフォースとともに家に帰っても構わない。

 なのはのことは僕達に任せてくれ」

 

確かに・・・すぐにでも探したいけど・・・

なんだか、体が凄く重い・・・

 

「主はやて、高町のことは我々に任せてください」

「あぁ、必ず見つけ出してやるよ」

 

シグナム・・・ヴィータ・・・ありがとうな・・・

でも・・・やっぱり・・・私は・・・・・・・・・

 

「さぁ、主はやて。我々は先に戻りましょう」

 

そう・・・やな・・・とりあえず家に帰ろうか・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そして、家に帰った私達やけど、やっぱりどこか心が重かった。

なのはちゃん・・・一体どこへ行ったんや・・・

 

ソファに寄りかかって体を休めていても、心は落ち着かへんかった。

 

「主はやて・・・」

「あ、うん・・・大丈夫やリインフォース・・・うん、大丈夫」

 

本当はとっても辛い・・・けど・・・リインフォースには心配かけられへんもん

だから・・・夜天の書の主として、頑張っていかなあかん

 

そう私が思っていたとき・・・

 

 

プルルルルル

 

 

ん?電話・・・?

 

「はい、八神・・・あっ、桃子さんですか」

 

リインフォースが出てくれた電話は・・・桃子さんからかぁ

桃子さんは知ってるのかなぁ・・・なのはちゃんが居なくなったこと・・・

 

「はい・・・はい・・・主はやてにですか?」

 

私に・・・?なんやろ

 

「はい・・・はい・・・わかりました」

 

そう言ってリインフォースは電話を切った。

 

「主はやて、桃子さんがこちらに急いできてほしいとのことです」

「え?なんやろ?私は大丈夫やから、すぐ行けるけど」

「そうですか、ならば行きましょう。向こうもなにやら慌てていたようですし」

 

慌ててた?どういうことや・・・って考えるまでもないかぁ

なのはちゃんが行方不明なんやからな。大方それのことについてやろ

 

「ほんなら行こうか、リインフォース」

「はい、我が主!」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「いらっしゃい・・・はやてちゃん」

「お邪魔します。桃子さん。今日は・・・なのはちゃんのことでですか?」

「・・・えぇ、その通り、さっきリンディさんから連絡があってね・・・

 今日は家には私しか居なかったから、私も驚いちゃって・・・

 それで、何か手がかりがないかって、さっきなのはの部屋にいったの」

「それで!何か見つかったんですか!!?」

 

もしかしたらなのはちゃんの居場所が分かるかも!!

 

「それが・・・見つかったのは・・・これなのよ・・・」

 

そう言って桃子さんが出したのは・・・手紙・・・?

 

「読んでみる?私としてはあまりお勧めできないんだけどね」

「はい、何か分かるなら・・・読みます」

 

何か知れるなら、今は情報がほしい!

 

「・・・わかったわ・・・はい」

 

桃子さんから手紙らしきものが渡される。

私は急いでそれを開いて、読んで・・・そして・・・

 

「あ、あぁ・・・あ・・・」

 

絶望した・・・

 

 

みんなへ

 

わたしはわたしを探しに行きます。さがさないでください。

たいせつなものです。見つけるまでかえりません

 

もし、それが見つかって・・・わたしが心をとりもどしてかえってきたら・・・

 

そのときは「わたし」をめいいっぱいおこってあげてください

 

それでは・・・さようなら・・・

 

 

                         高町なのは

 

 

 

手紙には・・・そう書かれとった・・・

なんで・・・なんで・・・なんで・・・なんで居なくなるん・・・

なのはちゃんの心くらい・・・10年くらい・・・私は待っていられたのに・・・なんで・・・

 

「う、うぅ・・・あ、あ・・・・・・ぅ・・・・・・あっ・・・っく・・・・・・」

 

気がついたら・・・私は・・・泣いていた・・・

親友の苦しみに気づいてあげてやれなかった・・・そういう思いも浮かんでしまったから・・・

 

「はやてちゃん・・・」

「主はやて・・・・・・」

 

桃子さんとリインフォースが心配する声は聞こえる・・・

だけど私は・・・ただただ声を上げて泣いていた。

 

「あっあっ・・・あ・・・・・・」

「はやてちゃん・・・良いのよ・・・?もっと大声で」

 

桃子さんはそう言うと私の頭を優しくなでてくれた・・・

その温もりが・・・とても暖かくて・・・涙腺が、不意に緩んでしまい・・・

溜め込んで、張り詰めていた想いを・・・爆発させてしまった・・・

 

「う、うぅ・・・わぁぁぁ うわぁー・・・うわぁああああああー・・・!」

 

私は、大声を上げて、泣いた。

桃子さんの腕に抱かれながら、その暖かな胸の中で命一杯泣いていた・・・

 

その涙が枯れるまで・・・ずっと・・・ずっと・・・

 

その日、私は・・・大切な何かを――失った気がした・・・・・・

 

 



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エピローグ「その後の・・・そして・・・」

皆さんお久しぶりです。

最近一人暮らしを始めたため、その準備や慣れるまでいざこざがありました。
そのせいで今回・・・何やら深夜のテンションの作ったらしく、
設定の記憶があいまいになっています。

たぶん、GOD編が終わったら前半は大幅な修正が入るかもです。


それでは!BoA編エピローグ・・・どうぞ!!




 

 

 

 

「・・・・・・」

「はやて・・・」

 

高町家からなのはの手紙のことを伝えるためにアースラへと戻ってきたはやて達。

なのはの手紙の内容、そして状況から判断しなのはは自らの意思でいなくなったと判断。

 

アースラメンバーは本部を経由して捜索願を出すだけに留まっていた。

情報もなにもないので、どうしてもこれ以上の行動が起こせなかったのだ。

はやてもそれはわかってはいたのだが、やはり心のどこかで納得できないものがあった。

 

今は、アースラに用意された部屋で一人ベッドに腰掛けていた。

今のはやてはリインフォースたちすら部屋から出ていくように言うくらいの重症で、

その様子を見ていられなくなったフェイトが隣で話し相手になっていたのだった。

 

「・・・なぁ、フェイトちゃん・・・なんでなのはちゃん・・・いなくなったんやろ・・・」

「・・・シュテルが言ってた通りなら・・・やっぱり心を取り戻しに行ったんだろうね・・・」

 

フェイトはシュテルから言われた『始まりの園』

その単語についてはリンディたちに報告はしてあった。

とは言っても、シュテルが話したのはなのはの行先・・・

いや、なのはの向かおうとしている場所

 

そして、その目的がなのはの望むものを探す。ということだとしか報告していない。

なのはが心を探そうとしているというのは、元々はフェイトの推測であり、

はやてが高町家で見た手紙の内容を見て、初めて確固たる答えとなったのだ。

 

そんなことかフェイトら推測したなのはの望む大切なもの・・・

それをフェイトの口から改めて伝えられたはやてはポツリとつぶやいた。

 

「なんでなん・・・なんでなのはちゃん・・・」

「はやて・・・!」

 

はやてが未だ魔法を使わなければ満足に動かせない足を

両手でギュッと握りしめながら言葉を吐く。

 

「もう・・・いやや・・・こんなんいやぁ・・・

 なんで・・・なのはちゃんがこんな目にあわなあかんの・・・」

 

「はやてッ!!そんなこと・・・!」

 

フェイトははやてを言葉で止めようとするが、もう遅かった。

はやては感情のままに言葉を口から漏らしていった。

 

「なんで私は・・・もう嫌なんよ・・・こんなん・・・こんな悲しいなら、最初から!!」

 

「ッ!!!!」

 

刹那、部屋の中で鳴り響いた乾いた音。それはフェイトがはやての頬を叩いた音だった。

その音の後に、はやては自分の頬を抑え唖然として、フェイトは瞳を伏せる。

突然自らの身に起こった出来事にはやては思考が追いついていかない。

 

フェイトは一つ呼吸を置いた後、はやてに語りだしていく。

 

「痛い?でもね、大切なものをとられちゃった人の心は

 もっと・・・もっと・・・痛いんだよ・・・・・・!」

 

「フェ、フェイト・・・ちゃん・・・」

 

そして、フェイトは声を荒げながら・・・泣きそうな顔をしていた。

大粒の涙を両目同時に一粒こぼし、それが合図であったかのようにやがて泣きだす。

 

鼻をひくひくとさせながら彼女はしゃくり上げ始める。

鼻の頭が紅潮し始め、大きな両目も半開きにして涙をたっぷり宿して・・・

そして、その眼にあるまつげの間から次から次へと涙の粒をあふれ出させていった。

 

「私だって・・・私だって・・・辛いんだよ・・・

 なのはは私の・・・生まれて初めての友達なんだ・・・

 約束もした。本当のなのはを作っていこうって・・・

 でもなのはは先に行っちゃった・・・正直怒りすら感じてる。

 私たちはそんなに役に立たない存在なのかって・・・」

 

流れ出る涙を拭いながらフェイトはそう言った。

そして言葉を区切った後、顔に少し笑みを浮かべながら呟いていく。

今の偽りのない、自分の思いを

 

「だけど・・・思い出したんだ。ナハトヴァールに言われたこと

 二人はなのはを見守ってやっていてくれって・・・

 よくよく考えたらそうだよ。友人はそれぞれ幸せに生きて欲しい。

 なのはの幸せは生きていろいろなことをしたいこと・・・皆を守ること・・・

 前にそう言ってたんだ。なのはは魔法にトラウマがあるみたいだから」

「あ・・・」

 

その言葉にはやては思い出す。なのはの魔法へのトラウマ。

それは実際にはすべては防衛プログラムが仕組んだことだったが、

なのははあれがあったから魔法を人助けのために使いたがっていたのだった。

 

「全部、防衛プログラムが仕組んでいたことでも、あれがなのはの願い。

 そしてそれを叶えるにはなのはには彼女が必要なんだよ。

 だから私は待つんだ。なのはが帰ってくる日をいつまでも!」

「・・・!・・・フェイトちゃん・・・ホンマに・・・強い子やなぁ・・・」

 

自分にはこんなこと絶対言えない。はやてはそんなことを思いながら、笑う。

まったく自分はどうしてここまで弱い存在なのだろうか・・・と・・・

 

自分の親友は自分のせいで友達が悲しんでいるなんてことは絶対に認めたくない。

嘘でも、本当でも・・・笑っていてほしい。それがなのはの思いだったはずだ。

 

皆の幸せのために、約束を守るために無茶をした少女。

その本当の気持ちははやてやフェイトにもわからない。

だが、それでもフェイトには言えることがあった。

 

「なのはのお蔭だよ・・・きっと

 

 『言えばきっと変わる! でも言わないと、何も変わらないっ』

 

 だから私は思いを言うよ。なのはのこと・・・待ってあげよう?はやて

 今度こそ、皆で笑うんだ・・・」

 

「・・・うん・・・」

 

心からは納得はしてはいない。だけど、待っていてあげようと思った。

なのはが望んだのははやての幸せ、そしてはやての望んだ幸せは家族との平和な日々。

だから、なのはが帰ってくるまでは・・・楽しく・・・暮らそうと考えたのだ。

 

紫天の書のことなど、気になることもあるけれど・・・

それははやて一人でどうこうできる問題ではない。

 

だから、まずは・・・幸せな生活を、送っているということを示したくなっていた・・・。

魔法という・・・ちょっぴり夢のような力を使いながら・・・

なのはがはやてに望んでいた

 

「だから、今度の練習試合・・・負けないよ」

「・・・・・・こっちこそ・・・」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

あれからから数日が経ち、私はまだまだ本調子ではないものの平和な日々を送っていた。

 

構築体(マテリアル)を失った闇の書の断片たちは・・・・・・ほどなく沈黙した。

 

そこに、高町なのはやテスタロッサ、

執務官や騎士達の働きがあった事は今更私が語る事でもない。

 

その後も事後処理への協力に終われる日々が続いていたが、

そんな中、私はひとつの朗報を聞き・・・事後処理の終了と同時に・・・

・・・若干、困った事態にもなってしまった。

 

その困った事態とは主はやてが原因不明の症状で寝込んでしまれた事。

高町がいなくなったと聞いた後、主はやては心ここに有らずといった様子であったが、

テスタロッサから何か聞いたのか普段の明るい主に戻り始めたと思っていたころだった。

 

どうやら無理な魔力消費が原因なので、

静かに寝ていればなんの問題もなく治るのだが・・・

 

「うー。あかんお料理できんとストレスやー」

「まあ、その・・・たまにはゆっくりされるのも、良いものです」

 

現在、動けない主は私の膝の上で体を横にされていた。

ベッドで寝ているのが御嫌だったらしく、風の癒し手の指示のもと

結局このような形になってしまっていた。・・・悪くはないとは思う。

 

「あー・・・そういえばリインフォース、マリーさんやエイミィさんたちに、

 何か『いい話』って聞いてたみたいやけど」

 

主はやてがそう聞いてこられたので、私はお答えした。

 

「はい・・・・・・ごく限定的ですが・・・・・・融合能力が、戻るかもしれないと」

「ほんまか?」

 

私の答えを聞いて、主はやてはとても喜んでくださっているようだ。

 

「完全にとはいきませんが・・・それでもこの先、私と融合を行える事もあるかと」

「あー、それは嬉しいなー」

 

勿論・・・・・・私自身が仮に本調子に戻ったとしても、融合能力は限定的・・・

 

おそらく、かねてからの予定通りに・・・

私は主はやてとともに空を翔ることはできないだろう

 

だから・・・受け継ぐものは必要だ

 

「ですが・・・やはりその役目は、いつか、あなたとともに空を駆ける

 『二代目』に・・・・・・受け取ってほしいと思います」

「もー、リインフォースは気が早いな・・・・・・それはまだ、もーちょい先の話や」

「はい・・・」

 

聡いこの方は・・・・・・全てを知って、笑っていて下さる。

 

例え、管制人格としての、融合騎としての役割を失ったとしても・・・

それでも私はこの方と・・・生きていこうと、そう思う。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

―――そして、闇の書の闇の残滓に関する事件・・・・・・

 

『の』が多くてめんどくさいので、まとめて『闇の欠片事件』と名づけられた

この事件は、無事終わりました・・・まぁ、まだ紫天の書の問題は残っとるんやけどな

 

事後処理も含めてみんなで手伝って、いろいろ勉強にもなりました。

管理局就職への道!(地上本部は無理ゆわれた。なんでやねん!!)

 

 

そして時を超えて3月になって、私は来月から

なのはちゃんやフェイトちゃんが通っている学校へと通うことになります。

 

制服も届いて、春から通学が楽しみな毎日です。

なのはちゃんは未だに帰ってけぇへんけど・・・

フェイトちゃんに言った通り、いつまでも待とうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?フェイトちゃんとの練習試合はどうなったか?

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「あそこでソニックフォームになって連撃&突撃なんてありえへん!

 しかも、容赦なく特に苦もせず普通にフルドライブ使ってくるし、

 カートリッジ?何それおいしいの?とでも言いたげにバンバン使ってくるし、

 さらに止めの如く、プラズマザンバーブレイカーからの

 シューティング・スターダストブレイカーとか・・・・・・無茶苦茶や!!」

 

 

 

フェイトちゃんとは二度と戦いたくないと思いました。

 

てか、あれで3割の力とかぜえったいに勝てるわけがないやん!!

なのはちゃん、あんなのに一体どうやって勝ったんや!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある世界・・・太陽が大地を照らすなか、

光の入らぬ、薄暗い森の中で・・・

 

鬱蒼と生い茂る木々の合間を、一人の少女が駆け抜ける。

その小さな手に、これまた小さな小太刀を持って・・・

 

そんな少女の左の頬にはななめに傷跡があった。

その傷がまた、人々が彼女の存在を恐れている理由でもあった。

 

彼女は走ることを止めない・・・

それはあるものを、ある場所を探していたからだ。

それが幻想だったとしても・・・探していた明日を見つけ出すために‥・

 

彼女は前へ突き進む・・・たとえそれが、終わりの見えぬ戦いの時だとしても・・・

大切な約束を、守り抜くために・・・

 

 

 

 

   リリカルなのはサーガ THE BATTLE OF ACES編「探していた明日へ」Fin

 

 

 

 



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第四章:THE GEARS OF DESTINY編「いつか見た未来」
プロローグ「旅人」


今回やっとこさ、GOD編です!
王様が主役だけど、なのはを主人公に持っていくってのは結構つらい気がしてきた。
一人暮らしのせいで、時間間隔がずれてきてるし・・・

それでは第四章:THE GEARS OF DESTINY編どうぞ!!

あっ、今回の章ではモロにオリキャラが出るので注意。


 

 

 

わたし、アミティエ・フローリアンは、きょうから日記をつける事にしました。

妹のキリエも、じぶんの日記をつけます。

 

わたしたちは、エルトリアの片隅にある小さな家に、3人で住んでいます。

 

 

わたしたちのおとうさん・・・・・・

グランツ・フローリアンはかせは、学者さんです。

 

わたしはまだ小さいので、あんまりむずかしいことはよくわかりませんが・・・・・・

「世界のため」に、いろんな事を調べて、研究しているそうです。

 

悲しい思いをしている大地を、救ってあげるための研究。

はかせは自分の研究を、いつもそう言っています。

 

だからわたしたちは、「おとうさん」じゃなくて、

尊敬を込めて「はかせ」って呼びます。

 

 

 

「ねー、おねえちゃん」

「なーに、キリエ?」

 

彼女が妹のキリエ、わたしの可愛い妹です。

 

「はかせ、きょうもけんきゅうにおでかけ?」

「そうよー。はかせは世界のため、エルトリアの大地のために、がんばってお仕事中」

「なんだか、そればっかり。もっと遊んでくれてもいいのになー」

「キリエはわがまま言わないのー」

 

ちょっとわがままなところがあるけれど・・・

 

「おねーちゃんはさびしくないの?」

 

それは・・・

 

「ちょっとさびしいけど」

「ほらー」

「でも大丈夫!わたしたちがもっと大きくなって、

 いろんな事を覚えたら、はかせと一緒におしごとできるんだし」

 

わたしがそういったらキリエはよろこびながら言ったんです。

 

「そしたら、おでかけできる? おうちから、もっと遠くまで」

「もちろん!『ししょくのもり』の向こうだって、行けちゃうんだから!」

「じゃあ、キリエ、はやくおっきくなる!」

「ふふ、負けないもん」

「あはは、さーおねーちゃん、遊ぼう!!」

 

 

 

やさしいはかせと、元気な妹のキリエ。

わたしはふたりといっしょにいられて、毎日しあわせだなって思います。

 

こんな毎日がずーーーつと、続いたらいいなって思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっとずっと、続けばいいって―――本当にそう思ってたんです。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「キリエ!やっと追いついた!」

「アミタってば、ホントにもう。追ってこないでって、私があれだけ言ったのに

 私のお姉ちゃんってば、わりと本気でお馬鹿さんなの?」

「馬鹿はどっち? 妹が馬鹿なことをしているのに、それを止めない姉はいません!」

 

アミタの言葉にも耳を傾けず、キリエは言い返す。

いつから・・・こんなことになってしまったのだろうか・・・

 

「ちょっとくらい早く生まれたからってだけで、妹の生き方を曲げる権限なんてないもん

 とにかく、私は、この時代、この場所でやることがあるの!

 

 こっちの世界の人にもなるべく迷惑をかけないように頑張る!

 いいから私の邪魔をしないで」

 

「させません!!縄で縛って、お尻を抓りあげてでも!!

 エルトリアに――私たちの博士が待つあの家に、連れて帰りますッッ!!」

 

アミタは自身の武器『ヴァリアントザッパー』を構え、そう宣言する。

そんな姉の言葉をキリエは気にも留めないように言い返す。

 

「ま、力尽くは望むところ! ・・・といいたいけど・・・」

 

ダンッ

 

「なっ・・・こ・・・・・・これは、一体・・・?」

 

キリエがザッパーから放った一つの弾丸がアミタに当たった瞬間。

アミタの体が突如として硬直し、全く動かなくなってしまう。

体中が麻痺し、喋ることすら困難な中な状態になってしまっていた。

そんな様子を笑いながら、キリエが言った。

 

「あははー。効いてきた?

 特製のウィルス(バレット)。動けないでしょー?」

 

「なん・・・・・・ですって・・・・・・?」

 

「ま、死ぬことはないから安心して。

 あーんなに止めたのに、それを無視して、私を追ってくるような馬鹿なお姉ちゃん。

 いっそこの場で、本当にブッ壊しちゃってもいいんだけど」

「やれるものなら・・・」

 

「や・ら・な・い」

 

「わたしがあなたを傷つけたりしたら、博士はきっと悲しむもの」

 

そう言うと、キリエはバイバイと手を振りながらアミタに背を向ける。

 

「キリエ・・・・・・!待ちなさい・・・・・・ッ!」

 

「バイバイ、アミタ。 多分、もう会わないから」

 

アミタはキリエに向けて必死に手を伸ばしながら、離れていく彼女を止めようとする。

だがその手はどれだけ手を伸ばしても届かず、キリエは遥か彼方へと消えて行ってしまう。

 

 

「キリエ・・・追わなくちゃ・・・・・・!」

 

アミタは震える体を抑えながら、キリエが消えた空へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のGEARSがこの世界に舞い降りた・・・

 

静かで平和な時の中、現れた「運命の守護者」と「時の操手」の2人。

壊れて行く時の流れの最中、過去と未来が交錯し、運命が再び形を変えていく。

 

再び、現出する光の化身――

 

星光が光り、運命が走り、疾風が世界を超える。

そして、日食と闇は出会い。新たな物語が幕を開ける。

 

それぞれの戦いの果てに待つ答えは何なのか、

光と闇の遺産が見せる戦いの結末とは何なのか、

運命の歯車が、今静かに回り始めたのだった。

 

 

 

リリカルなのはサーガ 第四章:THE GEARS OF DESTINY編「いつか見た未来」

 

 

始まります・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ふ、ふ、ふん!・・・よしっと。だいぶ調子が戻ってきたかな」

 

とある世界のとある空で・・・

 

その手に持つ盾を振るいながら、一人の少年が空に佇んでいた。

彼の名はユーノ・スクライア。闇の書事件での傷も大分癒え、

現在、この世界にリハビリがてら発掘調査に来ていたのだった。

 

今はそれも終わり、自らの愛機「リヒトムート」を振るいながら

頭の中で戦闘シミュレーションをしていたのだった。

 

彼がこんなことをしているのは、リハビリ前に聞かされたことが原因だった。

曰く「高町なのはが行方不明」だと・・・はやてやフェイトからは家出と聞かされていた。

 

彼にとってそのことは、心に深いダメージを与えていたが

反面、なのはの性格を考えてむしろ当然だとも思っていた。

 

彼女は家族や親友や友達が大好きだった。

だから心がない状態が続くのが嫌だったはずだ。

 

そんなときに心を取り戻せる可能性があると聞いてしまったら、

あのなのはだったら、きっとこんな行動を起こすだろうと

 

そして、彼女は自分のために悲しまれたり同情されることを一番に嫌う。

だからユーノはなのはをいつまでも待ってあげようという結論に達していたのだった。

 

「それに・・・ふん!・・・・・・なのはだったら、

 帰ってきた時に僕が無限書庫司書だったときのほうが喜びそうだしね」

 

そんな冗談を言いながら、リヒトムートの使用方法を考えていた時のことだった。

 

「あのすみません、地元の方ですか?」

「あ、ええと・・・・・・?」

 

突然現れた赤紙の女性が酷い焦りようでそう聞いてきた。

ユーノもいきなりのことに唖然とし、咄嗟に返事ができないでいた。

 

「いきなりですみません、助けていただけないでしょうか?

 治癒術を使える方か、AC93系の抗ウィルス剤が必要なんですッ!!」

 

言葉だけをとれば、彼女が助けをほしがっているとは思われるが、

その彼女がよくわからないがとりあえず銃だとはわかるものを

ユーノに向けている所を見ればとてもではないが、そうは見えないだろう。

 

「お、お困りなのかなとは思いますが!

 とりあえず、銃を降ろしていただいていいですかっ?」

 

ユーノがそう言って相手を落ち着かせようとするが、

女性はそんなことはお構いなしに話を続けていく。

 

「比例は重々承知ですが、当方非常に急いでおりますッ!

 妹を止めないと、大変なことになるんです!!

 薬か治癒術をお持ちですか?お持ちでないですかッ!!?」

「わわ、ちょ、ちょっと!!」

 

何を焦っているのか攻撃してきた女性に対し、

ユーノは焦りながらも咄嗟に防御魔法を発動し、その攻撃を防ぐ。

 

「ちょ、ちょっといきなり何を・・・!?」

「ぜー、はー・・・・・・ダメです・・・やっぱり体がうまく動きません・・・・・・」

 

体をビクビクとさせながら彼女はそう呟いていく。

 

「あうう、しまった!動き回ったせいで、ウィルスが余計に・・・・・・!」

「えええッ? 落ちたッ!?」

 

勝手に出てきて勝手に落ちていった女性をユーノは目をパチクリしながら眺めてしまう。

 

ふと助けなければ、と思ったときにはすでに遅し。

その女性は影も形もなくなってしまっていた。

 

「え、あれ?一体どこに・・・」

 

探しても見つからず、どうしようかと悩んでいた時

ユーノの持つ通信機に次元通信が入ってきた。

 

『ユーノ君?』

「あ、シャマル先生」

 

相手はシャマルだった。

現在は医療班として活動しており、ユーノのリハビリの手伝いもしてくれたいた。

一体どんな要件だろう?ユーノはそう思うなか、シャマルは話をしていった。

 

『ごめんねー、オフタイムに。あのね、今アースラにいるんだけど』

「はい」

『ユーノ君のいる場所の近くになんだか変な反応があるの』

「変な反応?それっていったい?」

 

自分には特にそのような反応は検知できていなかった。

そう考えながら、ユーノは詳しいことを聞こうとするが、

シャマルからは特別何か具体的な情報は得られなかった。

 

ただ、未知の魔力運用技術を使う異世界からの人間の可能性があることだけはわかった。

 

「今、調査員が向ってるから・・・・・・良かったら協力してあげて」

「わかりました」

 

シャマルとの通信を切った後、ユーノはこちらに来た調査員とともに

その得体のしれない反応の正体を探っていったのだった。

 

そして、これが・・・後に「砕け得ぬ闇事件」と言われる事件は始まったのだった。

 

 

 

 

 



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SAGA 44「復活の紫天」

あぁ、大学生活いそがしやぁ。
こいつは予想外だった。なんてね。でも結構忙しいもんだな。

とりあえずはここまで、次回はついにあの方が・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

ユーノがとある世界で調査をしていたころ、はやてはとある人物と遭遇していた。

その人物は髪はピンクのロングヘアで服装もピンク基調な女性だった。

女性ははやてに会うなり、どこか癇に障る声でこう言った。

 

「見ぃーーつけた♪ ちょーっと色彩が違う気もするけど、適合率的にはバッチリ!」

「えー。すみません、初対面やと思うんですが・・・・・・どちら様でしょうか?」

 

いきなりよくわからない話を合ったこともない人から言われて聞き返すはやて。

彼女は今回、アースラに行っていたのだが、そこにて妙な魔力反応がある場所を見つけ、

それがここだったので、魔法の訓練がてら調査に来ていたのだった。

まさか、こんな事態になろうとは思ってもみなかったのだが・・・

 

「エルトリアの「ギアーズ」キリエ・フローリアン。

 あなたからちょーーっとだけ、頂戴したいシステムがあるの」

「・・・・・・システム?」

 

一体何のことだろうか、とはやては目の前のキリエが言った言葉について考える。

 

頂戴したいシステムと言われても

はやてが知っているのは彼女が持っている夜天の魔導書くらいしかない。

 

それも今となってはスカリエッティやマリエルの改良により、

ほぼ完全に八神はやて専用ストレージデバイスになっているのだ。

 

誰かがほしがるようなシステムとも思えないし、何のことだろうと思っていると・・・

 

「そ。あなたが手にしている無限の力――システムU-D

 それを渡してくれたら、痛くはしないであ・げ・る」

 

答えを全部、目の前のピンクが話してくれた。

 

 

「あぁ、はいはい。人違いですねぇー」

 

はやてが半ば棒読み気味にありがたーくそう言ってあげると・・・

 

 

「はい?ヒトチガイ?」

 

あちらもものすごく棒読みでそう返してきた。

 

「はい、私と似ている理由もわかりますが、人違いです」

「じゃ、じゃあじゃあ、その子はどこにいるの?知ってる?教えて?」

 

「あー、それがですねー。三か月ほど前にみんなで退治してもーて」

 

「へ?」

 

はやての説明に呆然とするキリエ。

はやてはさらに追撃の言葉を投げかける。

 

「ディアーチェについてはよくわかってないですけど、もうこの世には・・・」

 

「うそーん!?」

 

キリエそう呟いて唖然とする。

そんなキリエにはやては面白がるように追い打ちを仕掛けた。

 

「ほんまです。ディアーチェについてはいつの間にか消えてただけやけど」

 

「マジんこで?」

 

「マジんこです」

 

「うっそォーーーーん!?」

 

酔狂な声をあげながらキリエはすべてを理解し驚く。

わざわざこの時代を選んだというのに来て早々計画がパーになってしまったのだ。

彼女としてもテンパって驚くという行動しか起こすことができない。

 

「なんてこと! なんてこと!?

 それじゃあ私の計画が、のっけからメチャクチャにッ!!」

「あー・・・・・・」

 

はやては心底、同情したような表情でキリエを見ていた。

正直、はやて自身も先ほどと全く違うそのあまりのキリエの変わりように

この状況をどうすればいいのか、考えかねていたのだった。

と、そんな悩めるはやてのもとにさらに彼女を悩ます情報が入ってきた。

 

『我が主!!』

「リインフォース」

『緊急事態です。御身の側に、危険な気配が現れつつあります!』

 

リインフォースからの緊迫とした連絡。

はやてはさきほどまでの状況もあり、思考が追いついていかず

普通の口調で返事を返してしまう。

 

「ゆかいなお姉さんなら、もう一人現れてるけど・・・・・・それとは別に?」

『我々はこの気配を知っています。先の事件で現れた、紫天の書の構築体――』

「マテリアルたちが・・・蘇ったってことかぁ!?」

「なんですと」

 

先ほどまで落ち込んでいたのはどこへやら、キリエはその情報を聞いて復活する。

とりあえずはやてはキリエを無視して、リインフォースの話に耳を傾ける。

 

『私も今、そちらに向かっています!合流まで、どうかご注意を!』

「うん、リインフォースも無理せんといてな」

 

リインフォースとの通信も終わり、はやては周りの状況を確認する。

確かにディアーチェ以外のマテリアルたちは皆が倒したはずだし、

唯一、倒した斬ったどうか判別が全くつかないディアーチェもあの後、

闇の欠片の反応が消えてから復活した気配も反応もなかったはずだった。

 

システムU-Dの性質上、いずれの日かまた復活することは危惧してはいたが、

なぜ今なのか、目の前の女性と関係があるのか・・・今はまだはやてにはわからなかった。

 

そんなときだった。突然、空が割れるような大きな音が空間中に響き渡ったのは・・・

 

「!!?」

「空が揺れてる・・・・・・それにこの感覚は!?」

「我が主!」

「リインフォース!」

 

どこかで・・・いや、あの時感じたことのある反応をもう一度感じている時、

はやてのもとにリインフォースが合流する。どうやらかなり全速力で来たようだった。

 

「あれは、やはり・・・・・・」

「多分、そーや」

「もしかして、もしかして!!」

 

二人とは裏腹に計画が再始動できると分かったキリエのテンションは急上昇していく。

そして三人が見上げる先の空では、暗黒の闇のエネルギーが一つの形を作り上げようとしていた・・・。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「ふふふ・・・・・・ ははは・・・・・・はーーっはっはっはッ!!

 黒天に座す闇統べる王!! 復ッ! 活ッッ!!!」

 

どこか馬鹿馬鹿しい元気な大声をあげながら、ここに再び顕現する闇統べる王。

先ほどのキリエ以上に上がっていくテンションのボルテージはマックスをはるかに超えて

遥か頂の頂上まで上がって行ってしまっていた。

 

「みなぎるぞパワァー!

 あふれるぞ魔力ッ!

 ふるえるほど暗黒ゥゥゥゥウウウッ!!!!」

 

「うっわぁ・・・・・・まぁた面倒な子が、面倒なタイミングで・・・・・・」

 

どこか吹っ飛んでいる王様の奇行に心底引くしかないはやて。

はやてが以前、何かで聞いたことがあるようなセリフを吐いていたのだから無理もない。

 

そんなときに闇統べる王は目の前のはやてたちに気付く。

 

「む? 小鴉・・・貴様か。

 それにその融合騎と・・・あとはなんだ、その頭の悪そうなのは?」

 

「ええっ!? もしかして・・・わたしのことッ?」

 

まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかった。心外だとキリエは心の中で思う。

 

「相変わらず口悪いなぁ」

「うるっさい!貴様たちに味わわされた屈辱は、1000年経っても忘れんがなァ~!?」

「よくゆーわ、おもいっきり闇の書の闇に操られていたくせして」

「ふん、そんなことは今はどうでもよいことだ」

「うわぁ、うわぁ」

 

(この子たちの身内話はわからないけど・・・

 私の目的を果たすのは今がチャンス!キリエ、ファイト!)

 

「どちらにせよ、生まれ変わって手に入れた、王たるこの身の無敵の力!

 さっそく披露してやるとしよう・・・へぶっ!?」

「待ちなさいッ!」

「ぐぅ・・・むっ!?なんだ貴様はッ!?」

 

そこにいたのは全体像は服装も含めてキリエに容姿がよく似た女性。

違いは髪は赤毛のおさげで、キリエと違い青を基調とした服を着用していることだ。

 

「ピンクのお姉さんと、同じ武器で、おんなじカッコや・・・?」

「黒羽のお嬢さんと、銀髪の方。ピンクで不肖の妹が、ご迷惑をおかけしました!

 この場は私がなんとかしますので、皆さんは下がっていてください!」

「ちょ、アミタ!手を出さないでってば!だいたいあなたウィルスはッ!?」

 

キリエがそういうと、アミタはこう言い放った!

 

「あんなものは、気合いで!!」

 

「えええっ!?」

 

「そう!気合で何とかしてみせます!!それが燃えるお姉ちゃん魂ィ!!!」

 

ビシィとポーズを決めながら気合を入れて元気よくそう言い返すアミタに

キリエとはやて、そしてリインフォースは唖然とするほかなかった。

唯一、闇統べる王だけは彼女の言葉に疑問符をあげながらも、

とりあえず優しく話だけはきちんと聞いてあげていた。

 

「さあ、参りますよ!

 エルトリアの「ギアーズ」アミティエ・フローリアン!

 この世界の運命は、私が護りますッ!!!!!」

「なんだか知らんが、かかって・・・おろっ?」

 

突然、闇統べる王の体が空中でよろける。

何か先ほどから自らの力が減っていくような、そんな感覚が続いていたのだ。

前回現世に現出した時の圧倒的魔力に比べればかなり低い。完全な不調だった。

 

「な、なんだ・・・急激に力が抜けていくような・・・この感覚は・・・」

 

「チャーンス、リインフォース!いくで!」

「はい、我が主!!」

 

そんな闇統べる王が弱っているチャンスを前回ぼこぼこにされかけた

はやてが黙ってみているはずもなかった。

 

リインフォースとユニゾンし、速攻で決めようとする。

 

「なにィ!? ま、待て貴様ら!

 こんな苦境の我を相手に、まさか攻撃を仕掛けるつもりかッ!?」

 

「いや、だって隙だらけやし」

 

にっこりと飛び切りの笑顔をディアーチェに見せながら、はやては彼女にそう言った。

 

ある意味で正論。

だが、ある意味でお約束を破るはやての言動に闇統べる王は心の底から叫ぶ!!

 

「ぐぅう~!! おのれ、おのーれェェ!!」

 

そして悲しくも、闇統べる王はあわれはやての餌食に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てぇーーーーーーーいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああッ!!」

 

なーんてことは起こらずに、攻撃しようとしていたはやてを誰かが吹き飛ばす。

その正体は蒼い雷光を纏った雷刃の襲撃者と紅い炎を纏いし星光の殲滅者だった!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

そんなことが起こる少し前、アースラに来ていたフェイトはマリエルと会話をしていた。

 

「・・・よし、バルディッシュ・アサルトの調整終わったよ」

「ありがとうございます。マリーさん」

 

フェイトが今日ここに来ていたのは、今言ったとおりバルディッシュの整備のためだ。

 

マリエルがそんなことをしているのはバルディッシュを、

バルディッシュ・アサルトに改造をした張本人だからでもあるのだが、

バルディッシュにはスカリエッティが取り付けたJSエンジンがあり、

それがきちんと整備することができるのはあの時直接教わっていた

マリエルにしかできないからというものあった。

 

そんなとき、マリエルはバルディッシュのプレートをフェイトに渡しながら

ポツリと一人と独り言をいうかのように話していく。

 

「あぁ、それにしてもなのはちゃんが行方不明かぁ・・・大丈夫かなぁ」

「なのはならきっと大丈夫です」

 

フェイトがそう言い返したが、マリエルの懸念は別のところにあった。

 

「まぁ、それはそうだろうけど。

 なのはちゃんに渡したレイジングハートとブレイズハートは

 リミットブレイク機構の改良のほかに、もう一つ新機能を付けておいたんだよ」

「新機能?」

 

一体何のことだろうか?そうフェイトが思っていると

それを見透かしたかのようにマリエルが説明していった。

 

「ふふ、その名も『ゼクセリオンドライヴ』!!

 

 これはリング状のパーツ・・・一応名称を「アンプリーリング」

 これを回転させることで、込められた魔力を増幅させることができるんだよ!!」

 

マリエルは声を荒げながらモニターを出しながらフェイトに説明をし続ける。

そのあまりの変わりようにさすがのフェイトも・・・若干引いていた。

 

「似たようなシステムであるカートリッジシステムと比べると

 増幅させる量に個人差がある代わりに使用者への負担は圧倒的に少ない。

 

 ジュエルシードの件からあまり魔力が使用できないなのはちゃんには魔力が今足りない。

 

 だからこの新システムをなのはちゃんのレイジングハートと

 ブレイズハート・ガンローダーモードに取り付けたんだけど・・・

 まだまだ作ったばかりだから正常に作動するかわからないんだよぉ・・・」

 

ジュエルシードの暴走、そしてコズミック・スターライトブレイカーによって

なのはのリンカーコアに莫大な負担がかかってしまっていて、

今は集束砲撃系統の技はなのはは使えてないでいた。

 

それを見かねたマリエルが実験がてら搭載したのだが、まさかのなのはの家出で

管理が全くできない状態になってしまい、現在搭載したことを後悔していたのだった。

 

ゼクセリオンドライヴはこめられた魔力しか増幅できないが、

籠められた魔力量がいくら低くても、膨大な魔力量に増幅できるのだ。

そしてそれの使用はそれを難なく操れる演算能力と魔法運用技術が必要だった。

そういう意味ではなのははマリエルが知る中で一番最適な存在だったのだ。

ちなみに二番目は同率でフェイトとユーノだ。

 

「あぁ・・・良かれと思ってやったことがあだにぃ・・・」

「ま、まあなのはのことだからきちんと扱えてますよ」

「そうだといいんだけどねぇ・・・やっぱり心配なん・・・」

 

マリエルがそういった瞬間だった。

突然、アースラに警報が鳴り響く。

 

「緊急警報!?」

『フェイトちゃん!』

「エイミィ!?どうしたの?」

『大変なんだよ!!構築体(マテリアル)達が海鳴で復活してるんだよ!!』

「シュテルたちが!!?」

 

フェイトは突如と来た知らせとその内容に驚きの声を隠せない。

いつか復活するとは聞いてはいたが、今までその兆候はなかったはず。

こんなタイミングで復活するとはさすがのフェイトも予想だにしてなかった。

 

といっても管理局員として、何よりフェイト個人として目の前の事態は見過ごせない。

 

「わかりました!すぐに向かいます!」

『頼んだよ!今そこにははやてちゃんもいるから!』

 

「了解!!行くよ!バルディッシュ」

《Get set.》

 

その言葉と共にプレート状から閃光の戦斧の形態へとバルディッシュが変わる。

バリアジャケットを身に纏い、フェイトは魔力の流れなどを肌で感じ、そして言った。

 

「それではマリーさん行ってきます!」

「行ってらっしゃい。もしもなのはちゃんに会ったら急いで戻ってくるように言ってね」

「もちろんです」

 

フェイトはそういうとマリエルに別れを告げて、転送ポートから海鳴の海上に転移する。

 

「全力全開!アクセルソニックフォームッ!!!」

 

その言葉と共にバルディッシュはカートリッジを二発ロード。

そして、その魔力を起爆剤にJSエンジンはエネルギーをオーバーロード。

ソニックフォームを経て、彼女は光速の鎧「アクセルソニックフォーム」となった。

 

フェイトはその圧倒的な速度を持って、現場へと急行していったのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・みつ・・・けた・・・ぁ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

ドラえもーん!大学生活で忙しくても時間が取れる道具出してよ!!
てか料理のレパートリー、中華以外でなんか教えてくれよぉ!!



今回の没ネタ

キリエ「それを付けて俺なれ!一緒に戦うんだ!!」
はやて「……ほい!(ザッパーを杖で弾き飛ばす)」
キリエ「うそーん」

・・・えぇ、もちろんやりませんよ


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SAGA 45「闇に染まりし-絆-」

今回は大分原作と違う流れに・・・なったよな・・・?
時間旅行組の時系列は微妙にずれます。理由は後ほどわかるかと・・・
登場自体はしますので・・・

それではどうぞ!!


 

 

 

 

「あーーっはっはッ!王様だけ蘇って、僕らが蘇らないって道理はないッ!!

 久しぶりだな!!小鴉ちんにクロハネ!! ・・・あれ?あとの二人は知らないな」

「ロード・ディアーチェ。この姿でお目にかかるのは、お初になります。」

 

さっそく現れながら、相変わらずのテンションで叫ぶレヴィ。

そしてまったく感情が読み取れない表情でディアーチェの目の前に立つシュテル。

そんな二人を見ながら、ディアーチェは確認するように聞く。

 

「貴様ら・・・!!「(シュテル)」と「(レヴィ)」!

 構築体(マテリアル)が3基揃うのは初めてだな。なるほど、力が満ち溢れて・・・・・・ん?」

「王様?どうしたの?」

 

何かに気が付いたかのような王様に対してレヴィが聞く。

そして・・・ディアーチェはすべてを理解すると二人に問い詰める。

 

「今気づいたが・・・・・・・・・貴様らが実体化するにあたって、

 ここらの魔力とシステムの共有リソースを、かなり適当に食い荒らしたな?」

「うん!」

「美味しく頂きました」

 

二人が何事も問題がないようにそう返す。

それを聞いたディアーチェは額をプルプルとさせながら言った。

 

「もしかしなくても、

 それが先ほどの我から急激に力が抜けていった原因ではないのか?」

 

「そーなの?」

「そうなりますか」

 

二人のその自分は無関係だと言いたげな話し方に、

ディアーチェはついに堪忍袋の緒が切れる。

 

「・・・阿呆かキサマラ!!!復活するなら時と場所を考えんかァッッ!!!!」

 

そんな下らないことで先ほど自分が消されかけたかと思うと

心の底から怒りがわいてきたディアーチェは二人に向かってそう言い放つ。

だが、二人も好きにこのタイミングで復活したわけではないのだ。

 

「そんなこと言われたって・・・ねぇ・・・?」

「はい・・・何かに呼ばれたような気がしたんですよ。

 まるで無理矢理に、時を動かされたような」

「はぁ・・・?」

 

二人の物言いに頭の上にハテナマークをあげるディアーチェ。

一体何を言っているのやら。そう思っていた時だった。

 

 

「「あっ!?」」

 

突然、キリエがザッパーを長剣状態にしたかと思うと

アミタとリインフォースの二人をを切りつけたのだ。

 

攻撃を受けた右腕を抑えるリインフォースを心配するように

はやてはリインフォースに側に飛んで行って寄り添う。

 

「キリエ・・・あなた・・・・・・!!」

「リインフォース、大丈夫か?」

「はい・・・私は大丈夫です・・・」

 

「ごめんなさいねー。ちょっと斬らせてもらっちゃった」

 

「ちょっとって!」

 

大切な家族を傷つけられたはやてがキリエの物言いに怒るが、

彼女はそのはやての言葉を無視して、ディアーチェに向かって話しかける。

 

「あのね、王様? ちょっとだけ、私のお話聞いてみない?」

「聞かぬ。失せよ。下郎と話す口は持たぬのだ」

「仮にそれが砕け得ぬ闇・・・システムU-Dについてのことでも?」

「何・・・?」

 

キリエの出した「システムU-D」・・・

それはマテリアル三人がずっと探していた存在。

 

その言葉が持つ意味の重さは彼女たちにとって

耳を傾けずにはいられないほどのものだった。

 

「・・・砕け得ぬ闇・・・」

「そう私はその目覚めさせ方を知っているの」

「本当に!?」

「よさぬかレヴィ!こ奴は得体が知れぬ」

「あらーん、そんなこと言わないで♪」

 

キリエはいかにもわざとらしい言い方をした。

それを見ながらも、シュテルはディアーチェに自分の意見を述べた。

 

「確かに得体は知れませんが、話だけを聞くだけならタダです」

「タダより安い物はないともいうけどねー」

「ふむ、まぁ良いだろう。よかろう、話せ。邪魔者は・・・」

 

ディアーチェはそう言いながら、はやてたちのほうに向けて手をかざす。

次の瞬間、リインフォースとはやて、そしてアミタを紫色のバインドが縛る。

 

「「「なっ!?」」」

 

「貴様らはそこでおとなしく見ていろ」

 

「な、なんでこんなことするん?

 周りに迷惑かけるような事でないんなら、私たちも手伝うのに・・・」

「無礼者め。貴様らの助力などいらんわ。

 それに砕け得ぬ闇を入手した後、我が何をするか知らぬであろう?」

「そ、それは・・・教えてもらってないからなー・・・」

「ふん、無限の力、砕け得ぬ闇を手に入れて――我は真の王となるのよ。

 何物にも縛られず、いかなる事にも害されぬ強き王に!」

「おー!王様かっこいい!」

 

レヴィの言葉を聞いて、ディアーチェは少し嬉しそうな表情をした後、

再びはやてたちの方向を向いて話を続ける。

 

「闇の書の部品にすぎなんだ苦汁の日々はもう終わりよ。

 シュテルやレヴィも自由にしてやりたい・・・」

「王様・・・」

「王・・・」

 

「それなら!局にはシステム解析のエキスパートが沢山いる!」

「スカリエッティ氏にも頼めるかもしれない!」

「だから砕け得ぬ闇なんて使わなくても、

 3人を自由にするやり方、きっとすぐに見つかるよ!」

 

はやてとリインフォースの言葉・・・

それを聞いたディアーチェはその申し出を一蹴して言い放つ。

 

「阿呆か貴様は。情けにすがって恵んでもらった自由など、自由とは呼ばぬ。

 

 ――そこも所詮は・・・籠の中よ・・・」

 

「王様・・・・・・」

 

「下らん話はここまでだ。桃色、話せ」

「はいはーい、というよりもう今の間にほとんど準備は終わってるのよねぇ」

「キリエ・・・いつの間に・・・ッ!」

 

その場にいるほとんど全員がはやてとディアーチェの会話に集中している最中、

キリエだけは空中にモニターとキーボードを出し、

砕け得ぬ闇復活のための準備をしていたのだ。

 

「あれは・・・」

 

そして・・・シュテルが見た先にあったのは集まっていく緋色と漆黒の闇・・・

それがやがては一つに集まり、巨大な球体を作り上げていた。

 

「な、なんや・・・あれ・・・」

「魔力とはまた別の何かを感じます・・・ッ」

 

「すごいや、王様!」

 

「よし、時は満ちた。行くぞ桃色!!」

「はぁーい♪、強制起動システム正常、リンクユニットフル稼働。」

 

キリエのその言葉とともに、空中に浮かぶ赤い・・・

いや赫焉に輝く球体が心臓のように脈を打つように激しく反応し始める。

 

「さあ、蘇るぞ!無限の力『砕け得ぬ闇』!!我の記憶が確かなら、

 その姿は『大いなる翼』!名前からして戦船か、あるいは対外強化装備か・・・

 まあ、どちらでもかまわん!この偉大な力を手にする我らに負けはない!

 残念だったな小鴉とそのお供!

 

 ふはははは!さあ蘇れ、そして我が手に収まれッ!!

 忌まわしき無限連環機構、シスエムU-D――砕け得ぬ闇よッ!!」

 

そうディアーチェが叫んだ瞬間だった。

赤い球体がその叫びとともにガラスが割れるような大きな甲高い音ともに崩壊。

そして、そこから漏れる光の中から声が聞こえてきた。

 

「ユニット起動――――無限連環機構作動開始。

 システム「アンブレイカブル・ダーク」正常作動」

 

「お・・・・・・おおお?」

 

ついに目覚めたシステムU-D。だが、ディアーチェは予想とは全く違ったその姿に

お・・・・・・お(↑)お(→)お(↓)?というおかしなイントネーションで驚いてしまう。

 

「はいっ?」

「え・・・?これって・・・・・・」

 

禍々しさをところどころに感じるとはいえ、まさかの人型・・・

それも金髪の女の子の姿だとはこの場にいる誰もが思っていなかった。

はやても復活を手助けしたキリエもその姿に驚いていた。

驚いていなかったのはレヴィとアミタくらいのものだ。

 

「ちょっと王様?システムU-Dが人型してるなんて、聞いてないんですケドッ!?」

 

「むぅ、おかしい。我が記憶でも、人の姿を取っているなどとは・・・・・・

 ・・・いや、それを言うなら、我々も元々人の姿などしておらなんだわけで・・・・・・」

 

予想外の事態に、さすがのディアーチェも混乱してしまっていた。

 

(害意は感じない――無害なシステムであってくれれば良いが――)

 

その隙を狙い、主と自分のバインドをやっと解除しながら

リインフォースとはやてもシステムU-Dを見つめる。

 

「あー・・・取り敢えず、『砕け得ぬ闇』やから・・・・・・ヤミちゃん?」

「ヤミちゃんっ!?」

 

はやてのネーミングセンスが光る中、U-Dは今の状況を分析していく。

 

「視界内に夜天の書を確認――防衛プログラム破損、保有者認証、困難・・・・・・」

「あ、あの、こんにちは。現在の夜天の書の主、八神はやてです!」

 

「待てェーいッ!うぬら、なんたる横入りッ!起動させたのは我ぞ!」

 

はやての言葉に混乱が解けたのか我に返ってはやてに注意するディアーチェ。

 

「起動方法を伝授したのは私です~!」

 

そして、なぜか所有権か何かを誇示しようと宣言するキリエ。

 

「くっ、やっと解けた!キリエ!そんなこと言って!!」

「げっ、お姉ちゃん・・・ッ!?」

 

そんなキリエに向かっていく気合っ娘お姉ちゃんアミタ。

 

「そやけど、夜天の書の主は私やから・・・・・・」

「黙れ黙れッ!これは我のだ!誰にも渡さんぞッ!」

「あ~ん、王様、話が違います~!!」

「あっ、こら!待ちなさいキリエ!」

 

U-Dを放置して、どことなく盛り上がる四人。

それを見て、さすがのリインフォース、シュテル、レヴィも呆れてものも言えなかった。

その時だった。先ほどから何もしていなかったU-Dに動きがみられたのだ。

 

「状況不安定・・・駆体の安全確保の為、周辺の危険因子を・・・」

 

そんな言葉を発しながら、大きく血の色をした翼を広げ・・・そして・・・

 

「排除します」

 

その二つの眼を赤く煌々と光らせ、淡々とそう告げたのだった。

 

「なっ、攻撃してくるんか!?」

「主はやて!今こそ!」

「うん、了解や!」

 

二人はそういうとお互いの手を握り締めて、言う。

 

 

ユニゾン

 

 

「「インッ!!」」

 

 

はやてとリインフォースはその言葉とともに一つになった。

はやてを主体とした通常の融合。はやての髪の毛が、

茶髪から白に近い色となり瞳の色も、変化する。

 

そして、その身から放たれる魔力量は桁違いと言えるほどのものとなった。

 

「さ・・・・・・・・・いくよ、リインフォース!」

『はい・・・我が主!!』

 

二人はそう宣言しながら、U-Dと対峙・・・したのだったが・・・

 

「空中打撃戦システムロード。出力上限・・・21%」

 

「な、なんやこの重圧・・・・・・魔力量の桁が違う!?」

『あの時の王以上の魔力量です。気を付けてください』

 

システムU-D・・・その力は上限を本気の状態の21%にしてすら、

かつての闇の欠片を吸収したディアーチェをはるかに上回る魔力量を持っていた。

ユニゾンしてはやての魔力や魔法運用能力は上がっているが、

それでも二人が絶望しかねないほどのものだった。

 

「くっ・・・まるっきり、勝てる気がせーへん・・・」

 

「殲滅、開始」

 

そして背中から血の色をした二つの魔力スフィアが彼女の両肩上に形成。

それはまるで悪魔の目。赤く鈍い輝きは一瞬で赤い翼となり、

その翼の先が細まり巨大な手のような五つの刃となる。

U-Dの背後の禍々しい翼が周辺の危険因子の排除を開始しする。

 

U-Dの背中から広がる真紅の翼ははやてのいる空間を貫こうとする。

 

『我が主!!』

「くっ!なのはちゃん直伝の!!」

 

はやてはフラッシュムーブを使い、ギリギリのところで避ける。

だが、本当にギリギリだった。。U-Dの攻撃のあまりの速さにかすっただけなのに

はやてのバリアジャケット上半身部分が、すべて粉々に砕け散ってしまう。

 

「ぐ、きゃあああああああああ!?」

『ぐあああああああああああああッ!!!』

 

「黒羽のお嬢さんッ!!!?」

 

そしてその余波を受けて吹き飛んでいくはやてにアミタが叫び声をあげる。

妹のことも気になるが、このままでは皆が危ない。

そう思ったアミタはヴァリアントザッパーを片手にU-Dへと突っ込んでいく。

 

「どりゃりゃりゃりゃーッ!!!!」

 

アミタは右手にあるザッパーを銃形態にして、バルカンレイドを散髪連続発射する。

だが、システムU-Dはそれをその背中の紅い翼で完全にガードしてしまう。

 

「バルカンレイドがッ!?」

「くっアミタさん、ACS、ドライブ!」

 

吹き飛ばされたアミタを見たはやてはなのはから教わったもう一つの直伝技。

中距離突撃技「マニューバACS」を使用する。なのはがいなかったとはいえ

はやてもこの三か月間遊んでいたわけではない。しっかりとマスターしていたのだ。

 

己の魔力を全身にまとい、シュベルトクロイツを突き出して突進する。

 

「はぁあああああッ!!」

 

その一撃は確実にU-Dを捉え、直撃する。

その衝突と同時に爆煙が巻き起こりあたりを包み込む。

 

「駆動状態修正。反撃開始」

「なっ!? ぐはぁっ」

 

だが、U-Dにはかすり傷う一つすらついてはいなかった。

はやては反撃してきたU-Dの鎌のような翼で強く胴を打たれ、海面に叩き付けられる。

なのはと違い、演算能力が低いはやては液体反発波紋疾走は教わってはいたが、

使用はできなかったため、そのまま海面に叩き付けられた後、海に沈んでしまう。

 

「お嬢さんッ!!!?」

 

アミタが悲痛の叫びをあげる中、U-Dははやてに対してさらなる追撃を与えていく。

 

「ヴェスパーリング!」

 

リング状の炎をその腕に形成すると、はやてに向かって投げつけたのだ。

炎のリングは直進しながら、はやてがいる海上に直撃。

そして巨大な爆炎をあげ、その場に大きな火柱を上げさせたのだ。

膨大で圧倒的なU-Dの魔力量だからこそできる力技だった。

 

「・・・?」

 

だが、その攻撃は手ごたえがなかった。

 

「ふぅ、危ない危ない。リインフォースありがとうな」

『はい、我が主!!』

「え、え・・・?」

 

突然、何事もなかったかのようにU-Dの背後に立つはやて。

それをずっと見ていたアミタは一体全体何が起きたのか疑問に思ったが、

それはアミタ以外にもその場にいるほとんど全員が同じ気持ちだった。

 

だが、一人だけカラクリに気付いたものがいた。

他でもないこの魔法を受けたことがあるシュテルだ。

 

「なるほど・・・あのとき使っていた幻影魔法ですね。

 海に突き落とされたまでは本物でしたが、その後海中に沈んだ後は

 本物は海中を通ってすでに抜け出しており、幻影だけが残されたのですね」

 

かつての宿敵とその主にして、初心者はやて。

シュテルの先ほどまでの認識はそうだったが、今の攻防を見て改める。

どうやらこの三か月間、なのはもいないのにかなりの成長を遂げていたようだった。

 

「あっ、幻影か。なるほどね。オリジナルにできるなら王様もできる?」

「無論だ。あやつにできて、我にできぬことなど・・・」

 

レヴィの言葉にディアーチェはそう返したが、途中で己の失態に気付く。

確かに夜天の書からはやての情報はほとんど吸収していたし、

闇の欠片を吸収した際にリインフォースの魔導もその身に宿していた。

 

だが、ディアーチェが受け取ったのはあくまでもリインフォースのもの。

闇の書から直接受け取った幻影魔法は実際にはディアーチェにはまだ使えなかった。

 

しかし、となりで尊敬のまなざしをしながら自分を見てくる

レヴィを見ているとそんな真実は結局言えないでいた。

 

 

 

そんななかでも戦いは続いていた。

 

「はぁああ!ファイネストカノン!」

 

アミタが放ったのは弾体の形状の砲撃型魔法『ファイネストカノン』

直進するそれはU-Dに直撃、その後大爆発を引き起こす。

だが、それでもU-Dにはダメージを与えられない。

 

はやてはそれを見ながら思い出していた。

あの圧倒的な魔力量と防御力を持っていた存在を

あの宿敵を・・・親友を操っていた宿敵を・・・・・・

 

「あの硬さ・・・まるで防衛プログラムや・・・」

『我が主・・・あれはそれをはるかに上回っています。魔力の量がけた違いです』

(どうする・・・今のまま戦ってもただの消耗戦や・・・あるはずや・・・

 必ず・・・勝利への道が・・・どこかに・・・!!探すんや!それを!!!)

 

リインフォースの忠告を聞きながらも、はやては冷静に状況を分析する。

今使える駒は少ない。今共闘しているアミタの情報が少ない以上

どうしてもはやてが取れる選択肢がかなり狭められてしまう。

必要なのは情報と信頼・・・そう思ったはやては叫ぶ。

 

「アミタさん!!何かあの子を足止めできる、物凄い技!なんかないですか!!?」

「えっ? あっ、はい。ありますよ!」

 

とっさのことに一瞬だけ呆けてしまったアミタだが、すぐに冷静になり返事を返す。

 

「それじゃあ、それをお願いします!私は魔法の準備をしますので」

「了解しました!任せてください」

 

はやての言葉に了承したアミタはそういう。

それを聞き届けたはやてが頷いた後、はやては白い魔法陣を形成。

それと同時にアミタがヴァリアントザッパーを構えて突撃する。

 

「EOD!行きますよッ!!!」

 

まずはけん制の射撃でU-Dを吹き飛ばし、

ザッパーをヴィエッジの状態にして斬りかかる。

そして今度はザッパーを刃状態のフェンサーに変形させ

ダッシュで追いかけて、U-Dを追い越して斬りつける。

 

アミタは最後に無数の弾丸を発射し、U-Dの周囲を包囲した後、渾身の一撃を見舞う。

 

「はぁああああああああ!!!シュート・・・エンドォオオオッ!!!」

 

空中にとどまっていたエネルギー弾が同時に発射され、直撃し爆発を起こす。

 

これがアミティエ・フローリアンの必殺技「EOD」だ。

 

その攻撃を受けたU-Dはほんの一瞬だが、その動きを止める。

そしてはやてとリインフォースはその隙を逃さない!

 

「いくで、リインフォース!!」

『はい、我が主!!』

 

正三角形状のベルカ式魔法陣の各頂点上で魔力をチャージ、

真っ白に輝く三連撃の貫通破壊型砲撃を放つ。

 

『「響け!終焉の笛!ラグナロク!!」』

 

はやてとリインフォースの放った白銀の砲撃が小さなU-Dの体を飲み込んで爆発した。

そして煙が晴れた先には膨大な魔力ダメージを受けて負荷を受けているU-Dの姿だった。

はやてとリインフォース、そしてアミタは肩で息をしながらも、

それを確認して、自分たちが一応の勝利をしたことを悟った。

 

「か・・・・・・か、勝てた・・・・・・・・・?」

「動作不良・・・・・・システム負荷増大・・・・・・躯体動作・・・・・・困難・・・」

 

はやては困惑するようにそう言った。

今でも勝てたのが信じられない。あの魔力量の相手によく勝てたものだと

自画自賛したくなるほどの快挙だった。リインフォースも中で褒め称えてくれていた。

 

「なんとーーーーーーー!?」

「小鴉ちゃんとアミタ、強ッ!? あの怪物を倒しちゃったッ!?

 アミタ本当にウィルスを気合で治しちゃったっていうの!!?」

 

はやてたちの強さもそうだが、ウィルスに蝕まれているはずの

アミタですらあんな動きができたことにキリエは驚・・・いたのだが

 

「ぜぇ、はあ・・・・・・ぜぇ・・・・・・ね・・・ねっけつ・・・びくとりぃ・・・・・・」

「って、ウィルスの効果、思いっきりでてるじゃない!ギリギリじゃない!」

 

結局無理していただけの姉に落胆してしまう。

そして、ディアーチェは傷ついて行動を止めた

U-Dのもとに近づいて心配する声で介護をする。

 

「し、しっかりせいU-D! 傷は浅いぞッ!?」

「闇の書の構築体、マテリアル-D―――駆体・・・・・・起動・・・・・・?」

「そうとも。お主と同じく、駆体起動中だ」

 

「――――ディアーチェ・・・・・・ディアーチェですか?」

 

ようやく正式な起動を果たしたU-Dは目の前の女性がディアーチェだと認識する。

 

「そうとも。我が名はディアーチェぞ。

 いやはや、やっと巡り会えたわ。我ら3基、うぬをずっと捜しておったのよ」

「シュテルやレヴィも・・・・・・?」

「ここに」

「僕もいるよーーー!」

 

U-Dの言葉にシュテルとレヴィは笑顔を振りまきながら返事を返した。

 

ここにマテリアル3基とシステムU-D。

紫天の書を構築するエターナルリングのメンバーが揃う。

 

「会えて嬉しい―――本当は、そう言いたいです」

 

U-Dは悲しげな表情をしながらそう呟く。

 

「・・・・・・なんと・・・・・・?」

「だけど、駄目なんです・・・・・・私を起動させちゃ」

 

「あの、お話が見えないんですが、それはどういう・・・・・・?」

 

話の内容が理解できずキリエが我慢しきれず質問する。

U-Dはポツリとまるで自分に語り掛けるかのようにその答えを話す。

 

「みんなが私を制御しようとしました―――だけど出来ませんでした。

 だから必死で沈めました―――――私に繋がるシステムを破断して、

 別のシステムで上書きして、闇の書に関わる全ての情報から、私のデータを抹消して。

 夜天の主と管制融合騎も知り得ない、闇の書が抱える本当の闇、それが・・・・・・」

 

何か様子がおかしい。とっさにそう思ったはやては

ディアーチェたちに向かって全速力で向っていく。

 

「私なんです」

 

そしてU-Dがそう言った瞬間だった。魄翼をU-Dが広げ、

視認できないスピードでU-Dの刃がシュテルたちに向かって迫っていく。

 

「王様ッ!!! 危ないッ!!!」

「うぉっ!!!?」

 

その攻撃がディアーチェを貫く前にはやては彼女を吹き飛ばす。

 

だが、このままではシュテルたちは守れない・・・そう思っていた時だった。

 

「―――――――――はぁああああああああああッ」

 

突然響いた轟音とはやてが聞きなれた人物の声・・・

そしてその声が過ぎ去る少し前にシュテルとレヴィの姿が消え、

凶器に満ちた刃は彼女たちを傷つけずに空を切る。

 

「――危なかったね。シュテル、レヴィ」

「・・・フェイト・・・?」

「オリジナル・・・」

 

彼女たち二人を助けたのはアクセルソニックフォームで現場に急いで駆け付けた

フェイト・テスタロッサだった。今はアイドリングのソニックフォームになっている。

彼女はアクセルソニックフォームの速度を持って二人を攻撃範囲から救いだしたのだ。

 

はやてはそれを見届けて、よかった・・・そう心の奥で思う。

だがそう思っていられたのも一瞬だった。まだそれで終わりではなかったのだ。

 

 

ディアーチェを狙った刃・・・それが少しだけ方向を変えてはやてに向かってきたのだ。

 

『ッ! 主はやて!!』

 

リインフォースが叫ぶが、もう遅かった。刃ははやてへと向かってくる。

この距離ではよけられない。そう感じたはやてはギュッと目を瞑る。

ここで終わりか・・・はやてはそんなことまで思ってしまうような状態になる。

 

しかし・・・次の瞬間だった。

 

 

 

 

ズンッ!!

 

 

 

 

突然、この空間に轟音と震動が響いた。

 

「・・・?」

 

はやてが目を開けると・・・そこにあったのは天まで伸びる光の柱。

 

それも見覚えのある淡い桜色をした巨大で太い光の柱だった。

その桜色をした光の柱が、それ自身が持つ圧倒的な威力を持って

はやてに襲い掛かろうとしてた刃を弾き飛ばしたのだ。

 

それを見てはやては咄嗟に上を見上げる。

その光の柱の正体は砲撃・・・それも親友の・・・

 

はやてが見上げた先・・・そこにいたのは一人の少女だった。

 

 

顔にある傷は相変わらず彼女の特徴としてアクセントとなっていた。

そして・・・・・・いつもと違うのはその身に纏っているものだ。

 

まるでどこかの砂漠を歩く人が着ているようなボロボロの古布を身に纏っていた。

差し詰めさすらいの民と言ってもそのイメージは崩れない。

だが、そのイメージとは裏腹に彼女のその髪も顔の皮膚も

まるで毎日の手入れがしてあるかのように光り輝いていた。

 

はやてはその姿を見て、顔に喜びの笑顔が広がる。

三か月ぶりに出会った親友・・・その姿を久しぶりに見れたからだ。

 

しかし、同時に気付いてしまった・・・その親友の変化にも・・・

 

 

 

 

彼女はその手に持つ自らの杖を構えて言う・・・・・・

 

「・・・・・・ミツケタ・・・・・・・・・」

 

瞳から光沢が消えて表情のなくなった目を焦点も合わずに

ただ見開きながら、眼前のU-D・・・ただそれだけを

 

彼女・・・高町なのはは空虚な瞳で、静かに見据えていた・・・

 

 

 

 

 



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SAGA 46「それでも少女は涙を拭わない」

パル転がひとまず一区切りついたので、こちらのほうを進めていきます。
今までに溜めてきた分を一日2つ、投稿する予定です。





 

 

「・・・・・・ミツケタ・・・・・・・・・」

 

遥か上空、まさに天に立つ彼女はそう告げた。

瞳から光沢が消えて表情のなくなった目を向けながら・・・

 

だが、はやてとフェイトはある違和感に気付いていた。

彼女の顔の表情は今までのなのはとは違う表情だったのだ。

 

以前までの、心のない感情の読み取れない顔とは違う。

そこにあったのは笑顔。それもどこか狂喜に満ちた笑顔だった。

 

「あひゃ、あはは・・・やっとだよぉ・・・やっと見つけた

 ずっと探してたんだよ・・・砕け得ぬ闇・・・あなたが持つエグザミアァ・・・」

 

そんななのはを見ながらU-Dはさげすむような眼を彼女に向けて話す。

 

「・・・偽りの迷い人・・・心を手にしてまで何を望む」

「決まってるでしょう! わたしはわたしを取り戻す!!

 あなたの持っているエグザミアを手に入れて!!」

 

なのははそう言いながら手に持つレイジングハートを振りかぶりU-Dに殴りつける。

U-Dは避けるそぶりすら見せずに自らの背中から出てくる魄翼で防ぎきる。

 

そんな様子を見て、はやて、フェイト、シュテルは疑問符をあげることしかできない。

キリエはともかく、なのはにエグザミアを手にしたい理由などなかったはずだ。

私を取り戻すとも言っているが、一体どんな関係があるというのだろうか?

 

そして特にはやてとフェイトは話し方にも疑問符をあげていた。

あんな話し方などなのははしていない。するはずもない・・・はずだ。

だが、同時にあんな話し方をする存在も二人は知っていた。

 

なのはを操っていた闇の書以外のもう一つの存在。

今はナハトヴァールに封じられているはずの・・・忌まわしき5の存在を・・・

 

三人がそんなこと思っている最中もなのはは攻撃の手を緩めない。

今の彼女は目的を果たすためにならば、容赦をする気は全くない。

なのはは先ほどの攻防で自分に密着しているU-Dを右足で蹴り飛ばすと

吹き飛んだ彼女に向けてディバインシューターを六発放つ。

 

「シュートッ!!」

 

放たれた六発のディバインシューターは弧を描くように旋回し

吹き飛ばされていくU-Dの体に直撃していく。

 

「ディバイン・・・バス、ター!!」

 

続けて追撃のディバインバスターをなのはは撃ちこむ。

U-Dは体を回転させながら、それを難なく避ける。

それは彼女の防ぐ必要すらないという意思表示だった。

 

「・・・ふざけてるの・・・?」

「ふざけてなど・・・いない・・・沈むことなき黒い太陽――

 影落とす月――――――――ゆえに、消して砕かれぬ闇

 私が目覚めたら――あとには破壊の爪痕しか残らない――

 だから・・・あなたの願いはかなえられない・・・」

「あなたが知らなくても構わない。それにシュテルが言っていたんだもの」

「・・・私が・・・?」

 

なのははU-Dに対してシュテルから聞いたと言っているが、

シュテル本人はそんなことを言った覚えはなかった。

もっと言えばなのはに対して名を名乗ったこともなかったはずだが・・・

 

そう考えているシュテルに対して、なのはは話しだした。

それを聞いて、シュテルは言葉の意味を取り違えたことを知る。

 

「そうだよ!あの子たちが居るって!だから私は探したんだ!

 『始まりの園』・・・調べるのは随分と苦労したけどね」

「ちょっと待ってください。あなたの行先がそこだということは聞きましたが、

 そこに本当のあなたがいるとは私が言ったわけではないでしょう?」

「・・・そうだよ・・・だけどね・・・いるってだけで十分だよ、シュテル。

 あの子たちがいるってことだけで充分。あとはわたしが調べたんだよ」

 

(どういうことですか?・・・というよりもあの声の情報は正しかったのですか)

 

「そしてやっと見つけたんだ。始まりの園のこと・・・

 『すべてが始まり、終わりがまた向かう場所』・・・そしてその扉を開けるのが

 永遠結晶エグザミアだってことを!!」

「残念ですけど・・・エグザミアにあなたを蘇らせる力はありません。

 始まりの園などという存在につながるなどということも知りません」

「あなたがそれを知らなくても構わない!!

 エグザミアさえあればわたしはわたしに戻れるから!!」

 

なのはがそう言って再びレイジングハートで殴りかかるが、

U-Dは悲しげに顔を伏せながら、言葉を連ねていく。

 

「ごめんなさい――さよなら――みんな―――」

「ま、待て!U-D!!」

 

ディアーチェが叫ぶが、もう遅い。

U-Dの体が静かに消えていき、なのはの攻撃が空を切る。

 

「消えちゃった・・・」

「何々? どうゆーこと?」

 

突然、姿を消してしまったU-Dに対して

フェイトとレヴィが口を揃えてそう言った。

そんななかでキリエはザッパーを構えながら叫ぶ。

 

「待ちなさいッ!わたしはあなたに用があるのッ!!

 全力追跡ッ!!アクセラレイターッ!」

「あっキリエ!!待ちなさい!!」

 

U-Dを追うキリエ、そしてそれを追うアミタ。

二人は高速移動「アクセラレイター」を使い、どこかへと行ってしまった。

 

取り残されてしまった一行は唖然として思考停止に陥るが、

ほんの少しだけ時間を置いた後、復活したメンバーが各々反応した。

 

「あっ、キリエさん。アミタさん」

「ええい、なんなのだ一体!!?桃色は勝手に消えるわ

 U-Dが消えるわ。一体全体何が起こっているというのだぁあ!!」

「王・・・」

 

理不尽な現実に行き場のない怒りを感じるディアーチェ。

そんな彼女をシュテルは心配するように見つめていた。

 

「・・・ちっ、逃がしたか」

 

そして彼女らしくない言葉遣いとともになのははそう吐き捨てる。

どこで覚えたのか転送魔法を使用して、この場から立ち去ろうとしていた。

それに気づいたはやては必死に彼女を止めようと声をかける。

 

「ま、待ってなのはちゃん!! なんでまたいなくなろうとするん!!?」

 

必死でなのはを説得しようとするはやて。

だが、なのはは親友のその言葉を聞いても止めようとはしなかった。

 

「わたしは・・・まだ帰れないから・・・」

「帰れないって・・・! 10年待てばええ話なのに何で!!?」

「・・・わたしが・・・耐えきれないからだよ・・・」

 

もういいよね。そう言いながらなのははその場から立ち去ろうとした・・・のだが・・・

 

「おっと・・・もう少しいてくれてもいいんじゃないかな?」

 

なのはのその細い腕を突然、緑色に輝く鎖状のバインドが縛り付けた。

なのははそのバインドを忌々しげに見つめながら、その発動主の姿を見た。

知っている顔だ。・・・久々に出会ったが、元気そうでよかった。

なのははそんなことを思いながら彼を睨み付け、言ったのだった。

 

「ユーノくん・・・」

 

そこにいたのはユーノ・スクライア。

アミタたちを別ルートで追っているときに、たった今ここにたどり着いていたのだ。

 

「久しぶりだね、なのは。元気そうで何よりだよ」

「ユーノくんもね。よかったよ。怪我の原因にはわたしにも非があるしね」

「そっけないね、君も」

 

話がどんどん進んでいき、情報が行きかう中、

頭がその情報量に混乱してきたディアーチェが頭を抱えながら言う。

 

「・・・ダメだ。全く話についていけないぞ・・・」

「とりあえず王様。・・・U-Dもどっか行っちゃたし、

 アースラで情報交換といこうやないか!」

 

はやての提案にディアーチェは一瞬嫌そうな顔をしながら、

となりのシュテルとレヴィの顔を見る。二人とも肯定の意を示す表情をしており、

さらにシュテルは続けて、自分たちが誘いを受けたい理由を話し始めた。

 

「王、我々にも今は情報と戦力が不足しています。

 あれほどの力。我々が求めているモノそのものですが、

 このままでは手に入れるどころか、逆に返り討ちに会いかねません。

 ここはお互いに情報交換をするのが得策かと・・・」

「そうだよねぇ、オリジナルや小鴉ちんに協力したほうがもっと早くやれそうだし!」

「む、むぅ・・・まぁ、臣下の言うことを聞くのも王の仕事だ。

 いいだろう小鴉。その誘いに乗ってやろうぞ」

「誘いって・・・」

 

悩みながらもディアーチェは結局二人の意見を尊重して、

はやてたちについていってアースラに行くことを決めた。

 

それをうんうんと見届けたはやては次に

相変わらずユーノ縛られているなのはを見ながら、にこやかに言った。

 

「もちろん、なのはちゃんも一緒にな」

「・・・わたしも・・・?」

「そりゃ、そうやろ。なのはちゃんが一番情報持ってそうやしなぁ」

 

「・・・手紙に書いた通り、帰るんじゃないからね。

 あくまでも寄り道で偶然会っただけだよ・・・」

 

溜息を吐きながら、なのははそういえば自分の親友はこんな感じだったと思い出す。

 

結局はやてに押し切られる形となってしまい、

なのはは渋々ながらその指示に従うことにした。

 

「了解や。それでええよ。リインフォース、転移魔法は使える?」

「はい、ここにいる全員をアースラに送るくらいならば・・・」

「じゃあ、リインフォース。やっちゃって!」

 

リインフォースはその言葉に返事をすると、ベルカ式の転送魔法陣を展開する。

その魔法陣は徐々に大きくなって、その場にいた全員を囲った後、発動。

その場にいた全員を、アースラへと転送したのだった。

 

 

「・・・いつまで縛ってるの?」

「アースラにつくまで」

 

結局、アースラに着くまでなのははユーノに縛られていた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

リインフォースの転送魔法によって、アースラへとたどり着いた一向。

ブリッジで彼女たちを出迎えたのは、リンディとクロノだった。

 

「よく来てくれたわね。マテリアルの皆さん・・・

 そして・・・久しぶりね。なのはさん・・・」

「はい、お久しぶりですね。リンディ提督・・・」

「えぇ・・・三か月・・・ぶりかしら?」

「厳密に言えば、三か月と24時間21秒ってところですね」

 

聞くだけならば、他愛もない会話。

だが二人は表面上には見えない一種の駆け引きというものを行っていた。

無論、それに気づいたのはクロノを含むごく一部のメンバーだけだったのだが。

 

「今まで置手紙だけ残してどこに行っていたのかしら?」

「そー。そーや、なのはちゃん!どんだけ皆が心配したと思ってんねん!!」

「はやてちゃん、怒るのはわたしが大切なものを取り戻したらって手紙に書いたよね?」

「う・・・それはそうやけど・・・」

 

確かにそう言ってはいたが、今それを出すのか。

はやてはそんな感情を抱いていたが、当のなのはは気にしてはいなかった。

 

そして、少し時間を置いた後、仕方なしといった表情で溜息を吐きながら答えた。

 

「・・・ま、いっか・・・わたしがどこに行っていたかね。

 少し長くなるけど・・・それでもかまわない・・・?」

「うん、ええよ」

「それじゃあ、話すよ・・・マテリアルの皆も聞く?」

「私はぜひとも聞いておきたいのですが・・・王とレヴィはどうしますか?」

「うむ、臣下が聞きたいのであれば、王も聞かねばなるまい」

「僕もシュテるんが聞くなら聞いておくよぉ」

 

シュテルの問いに二人はそう答える。

それを聞き届けたなのはは自分が今まで何をしてきたかを話し始めたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

なのはからの話が終わった後、なのはは一足先に与えられた部屋へと戻っていった。

リンディももう少し事情を探ろうとしていたが、うまくたぶらかされてしまっていた。

 

ユーノはその話を聞いて、一度情報を洗いなおす必要があると感じ、

リンディ艦長に事情を話したうえで、再び無限書庫へと戻っている。

 

そんななかフェイトとはやて、そしてリインフォースは

アースラ何に設置されている自販機完備のリラクゼーションルームにいた。

自動販売機に嘱託魔導師の給付金であるミッドの硬貨を入れて、

フェイトは緑茶、はやては珈琲、リインフォースはココアを買う。

 

リラクゼーションルームに設置された椅子でそれを飲みながら、

はやてはフェイトに先ほどなのはから聞いた話の話題を振る。

 

「なぁ、フェイトちゃん・・・。なのはちゃんと・・・

 あとシュテルも聞いたんやっけな・・・女らしい声って一体なんやろうな?」

「さあ・・・? 始まりの園になのはが探している心があると言っていたらしいけど。

 結局、シュテルも詳しくは知らなかったみたいだしね」

「始まりの園・・・それは私も今日初めて聞いた単語でした」

 

三人がなのはから聞いた話の内容はこうだ。

 

一つ目に、なのははシュテルと出会った後のこと。

心の場所までは聞けなかったなのはにある声が響いたらしいこと。

 

二つ目に、その声はシュテルも聞いた声であり、女性らしい声だということ。

 

三つ目に、その声はなのはに対して

『シュテルが言っていることは本当だよ。あの子たちはいる『始まりの園』に・・・』

と言っていたこと。

 

四つ目に、なのははその言葉とシュテルが知っていたことから

それが砕け得ぬ闇-システムU-D-・・・そしてそれが持つエグザミアがヒントだと思ったこと

 

そして、最後に先ほどの響いた声がそれらの情報を与えていったことだった。

 

その情報をもとにこの三か月間、どこで習ったのやら転送魔法を駆使し、

地球やミッドチルダ以外の様々な世界を旅してまわっていたらしかった。

 

話を聞けばユーノがいない無限書庫にも侵入していたというから驚きだ。

よほど今のなのはにとってその情報は魅力的だったのだろうと三人は思っていた。

 

「結局はその女性の声になのはちゃんが踊らされているってことやろうけど・・・」

「わからないよ。もしかしたらその声の情報があっているかもしれない」

 

しかしいくら考えてもなのはの言っていることが正しいかどうか、

実際にその声を聴いたことのない三人にはいくら議論しても結論は出なかった。

 

三人はとりあえずは結論の出ないそれの議論を諦め、

話題はなのはの変わりようについてに移り変わっていく。

 

「・・・なんか、なのはちゃん。また雰囲気変っとったなぁ・・・」

「うん、そうだね・・・なんというか、前はナハトの言っていた通り、

 心がなくて、外見からなら無気力にも見えた・・・。だけど・・・」

「今のあいつは・・・まるで心があるみたいだったな・・・

 欲望・・・自分の心を取り戻すという欲望の心を持っていた」

 

心を取り戻したのだろうか?

しかし、ナハトヴァールが言っていた通りなら、修復に10年かかるはずだし。

さらにあのなのはの口調に性格・・・とてもではないが、今までのなのはではなかった。

 

それに心を取り戻したのに、自分の心を取り戻すというのもおかしい。

 

「・・・やっぱり、ジュエルシードが原因なのかな・・・」

「それは少し違うと思われますよ」

「シュテル・・・ッ?」

 

そんな疑惑が浮上する中、同じくリラクゼーションルームに来たシュテルが、

フェイトの出したなのはの今の状態への見解を少しだけ訂正する。

 

「違うとは・・・?」

「はい、管制人格・・・いや、今はリインフォースでしたね。

 その言葉の意味の通りです。私はナノハから記憶などのデータは

 なぜか受け継がれなかったために事情をよく知りませんが、

 ナノハの今のあの状態はジュエルシードは直接の原因ではないと」

「それじゃあ、いったい・・・」

 

はやてが当然の如く理由を聞き、シュテルも頷きながら返答する。

 

「ナノハはかつて、コズミック・スターライトブレイカーを

 ジュエルシードの力を利用して発動し、心を失った。

 ここまではよろしいですね?」

「ああ・・・それで?」

「はい、私が初めて会った時の彼女はまず間違いなく心はなかった。

 いや、今思えばあの時からすでに兆候は見えていましたか・・・」

「兆候・・・?」

 

シュテルの言い出した不穏な空気にはやては耳を傾けていく。

そして大方の状況を説明した後に、彼女は本題を切り出した。

 

「簡単に言えば、心がなくなるという状態は真っ白な布と同じです。

 何色にも染まっていない・・・そして染まりやすいものでもあります」

「・・・・・・」

「そして、もし・・・そんな布地に黒いインクを一滴落としたらどうなるか・・・」

「まさか、無の状態のなのはちゃんが一から心を作り直したゆーんか?」

「少し違いますが、それで大方間違っていないでしょう。

 すなわち、今の彼女は本物を取り戻すまでの捨て駒です。

 あの話し方は本心を隠して言ってますね・・・」

「捨て駒・・・・・・? あのなのはが・・・?」

「本人も覚悟の上なのでしょう――

 それにジュエルシードの進行もまだ続いているはずですしね・・・」

 

今のなのはについて四人で議論していく中、また新たにリラクゼーションルームに

人影が現れる。その人物はなのはのデバイスを整備していたはずのマリエルだった。

 

「あっ、皆も来てたんだね」

「マリーさん? どうしてここに・・・?」

 

親友のデバイスを整備していたはずなのにこんなところに来たマリエルに

はやては疑問符を頭に浮かべる。彼女とは新たなはやての家族になる予定である

『リインフォース(ツヴァイ)』の作成の事で親交があるのだが、

三度の飯より機械弄り――といっても過言ではない機械好きな彼女が、

なのはのデバイスを整備中にリラクゼーションルームに来たわけがわからなかった。

 

マリエルは自身のお気に入りの財布から、硬貨を取り出して自販機に入れ

自分のお気に入りの栄養ドリンクを買って、それを一気飲みした後、

フェイト達の質問に答えたのだった。

 

「実はね。なのはちゃんにデバイスの整備させてって頼んだんだけど

 なぜかブレイズハートしか整備させてくれなくてね――――

 ゼクセリオンドライヴの最終調整も終わったから、少し休憩にね」

「レイジングハートは整備しなくて大丈夫なんですか?

 あれにも確か、ゼクセリオンドライヴを入れたって言ってましたよね?」

「まぁ、レイジングハートはインテリジェントデバイスだし

 コアが破壊されてなければ整備の必要もないだろうからいいんだけどね。

 あっちに関しては優先して調整しておいたから起動させなければ問題ないよ。

 

 でも、なのはちゃんらしくないなあ・・・確かにあの子もデバイスマスターの資格。

 それを取ろうと必死で頑張ってたから、自分でも整備はできるだろうけど・・・

 いつもなら普通に私に渡してくれたんだけどなぁ・・・現にブレイズハートは渡したし」

 

マリエルも今のなのはが普段のナノハと違うことは感づいていたが、

具体的な理由が示せず。結局ここにいた5人が答えを出すことはできなかった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

そのころアースラに用意された一室でなのはは床に体を置きながら、

その小さな背中を壁に委ねて力なく座っていた。

 

ダラダラと多くの汗が流れてべた付きがある感じの汗が額から流れ、

ずきずきと痛む米神を抑えながら、彼女は絶え絶えに聞こえる呼吸をする。

 

辺りが寂としているため、耳を澄まさなくても心臓の音が聞こえる。

 

全身がギシギシと悲鳴を上げて、なのはにダルさを訴えかけている。

なのはは米神に当てていた手を下におろすと大きく息を吐いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・皆――元気そうでよかった・・・・・・

 ごめん・・・なさい・・・まだ、帰るわけにはいかないから・・・」

 

先ほどまでとはまるで違う口調。

この喋り方こそがこのなのはの本来の喋り方。

さきほどまでのは素も少し混じっているが、ただの演技だ。

 

なのはがここまで疲れているのには二つ理由がある。

一つはさきほど砕け得ぬ闇であるU-Dに会うまでに闇の欠片達と戦っていたのだ。

 

しかも狙ったかのように自分の姿をした闇の欠片だけだった。

それを吸収して心を取り戻せたのなら苦労しないのだが、

いくらやっても心を取り戻すことはできなかった。

 

ただただ、自分という『異物』の自我がどんどん強くなるだけだった。

 

その現実に彼女の心と体が疲労していたのが理由の一つ。

 

そして、もう一つの理由が――――

 

「レイ・・・ジング・・・ハート・・・」

 

自身の愛機である紅い宝玉を手に取りながらなのははその名を呟く。

 

――返事はなかった。

 

その理由はほんの三か月前にあった出来事にあった。

 

シュテルの予想通り、このなのはは新たに生まれた心。

『なのは』でも『なのはちゃん』でもない新たな『高町なのは』

 

ほどなくして誕生したなのはだったが、一つだけ問題があったのだ。

人格面でも魔力面でも技術面でもない。もっと根源的なものだった。

 

それは彼女の存在が『なのは』や『なのはちゃん』と違い。

闇ではなく光の方に近かったのだ。・・・そして、そこに問題があった。

 

この体はもともと闇の書が取りついていたため闇側の存在だ。

だが、この体を乗っ取ろうとしているジュエルシードの存在は『光』だった。

 

そのため、本来のなのは以上にシリアル5の浸食は容易。

このままではこのなのははジュエルシード・シリアル5に乗っ取られてしまう。

いや、仮に乗っ取られなくても性質が近い存在であるなのはの存在が、

シリアル5の復活を後押ししているという問題があったのだ。

 

そんなとき、彼女の愛機「レイジングハート」はある博打的な行動に出たのだ。

 

それは自身の意識をすべてシリアル5の進行を防ぐために回すという荒業。

しかしそれが意味するのは演算能力のすべてをそちらに回すということだ。

だから彼女は今起動できない。そして自分の身体から離すことができない。

 

なのは自身もシリアル5の進行を防ごうとはしているが焼け石に水だった。

 

逆にそのせいで疲労感がさらにたまってしまい、今現在こんな状態になっていたのだ。

 

「・・・高町なのはが黒い布なら――わたしは白いインクか・・・

 いくらやっても・・・この体に同調することはない・・・か・・・」

 

そう、シュテルたちの考えは方向性は間違っていなかったが、

根本的なところ・・・光と闇という点が違っていたのだ。

 

ジュエルシード・シリアル5ならともかく、なのはではこの体に同調できない。

 

早めに心を取り戻さないと、彼女の存在自体が維持できないのだ。

だから彼女は親友のはやてすら拒絶して、エグザミアを・・・・・・・・・

延いては『始まりの園』へ早く行こうとしていたのだった。

無論・・・その結果自身の存在が消え去ろうとも――

 

そんなことを考えながら、やがて思考は先ほどまで戦っていた

闇の欠片――偽物の自分たちの存在についてに変わっていた。

 

狙ったように出てきた偽物の「高町なのは」・・・

 

「あ~あ・・・なんでわたしを期待させるようなことするかなぁー・・・

 シュテルならまだ許したけど・・・偽物なんて所詮偽物かぁ・・・」

 

自分もそうだが、結局偽物は偽物なのだ・・・

芸術品で贋作が贋作とすぐにわかるのは本物にはあるものがないからだ。

 

勉強のために模写したものと偽物は違う。

偽物には本物に対する敬意がない。純粋な気持ちが入ってないのだ。

そこにあるのは自らの利益のために手っ取り早さを望む醜い願い。

 

そんな感じが闇の欠片の偽物たちからは感じられたからうんざりしているのだ。

・・・少しだけ期待してソレを吸収したなのはは今も後悔してはいるが・・・

 

「あの子たちだったら・・・全力全開でなんとかするんだろうなぁ・・・」

 

どこか自虐的な言葉を連ねながら、彼女は自身の頬の傷を撫でる。

今となってはこれは勲章なのか、あのころの証なのか・・・

 

高町なのはが高町なのはであることを示すその古傷が、

今のなのはにはただの苦痛にしかならなかった・・・

 

そんなことを考えながらも、余計なことだとなのはは首を振る。

なのはにとっては過去よりも未来がほしかった。

 

『高町なのは』がみんなと平和に暮らす未来が・・・

 

「だから・・・みんな、わたしを止めないで・・・

 わたしを前に行かせてよ・・・それ以外願わないから・・・

 皆には――わたしなんて残らないんだから・・・」

 

心の中にノイズが走る。

彼女に残された時間はもう残り少ない。

 

なのはは残された力のすべてを使って、立ち上がる。

 

まだ、ここで立ち止まるわけにはいかなった――――

 

 

 

 

 



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