大泥棒一味が鎮守府に着任しました。 (隠岐彼方)
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1.大泥棒一味が鎮守府に着任しました。

「はわわわっ、どっ、どうすればいいんでしょう?」

 

麗らかな日和の中、波止場で男が三人寝ていた。

その目の前で、どこからどう見ても小中学生といった少女が困惑していた。

 

その片手には写真付きの書類がある。

その写真と三人を見比べると、一人の短髪の男の肩を揺らす。

 

「なんだよ~次元…眠いんだから寝かせてくれよ…。」

「あ、あの…こんなところで寝たら風邪を引くのです…じゃなくてっ!

司令官さん、寝るなら鎮守府に行ってからでお願いしますのです!!」

 

「なんだよ、うるせぇなぁ…。」

 

少女の声に反応したのか、三人の男が身を起こす。

 

一人は青いジャケットに赤のネクタイの痩身の男。

もう一人は紺のジャケットにハットを深くかぶった同じく痩身の男。

もう一人は着流し姿の絵に描いたような侍の男だった。

 

「あん?俺たちは…次元、隠れ家で飲んでたよな?」

「そうでござるな…すき焼きを食って、日本酒とワインとと…うぅ、頭が痛い。」

 

二日酔いなのか、三人とも軽く顔色が悪い。

が、さわやかな海風と穏やかな日差しが若干ましにしてくれているようで、時折深呼吸する。

 

「で、お嬢ちゃん。…コイツ、ルパンを【司令官】って呼んでたが…人違いじゃねぇのか?」

「い、いえ!間違いないのです、この通り大本営の指示があったのです!」

 

差し出された書類をルパンと呼ばれた男が手に取ると、残りの二人が覗き込む。

 

「おいおい、写真古いってか…大学時代のじゃねぇか!!」

「…誰だ、この『浦賀丈二中将』ってのは。」

「…ウラガ?…ジョージ!ジョージかぁ!?」

 

書類をめくる最中に、指令を出した男の名を見て声を上げる。

 

「司令官、お知り合いなのです?」

「大学時代のな…。ひっさびさで忘れてたぜ…しかし、中将?」

「それは『鎮守府階級』なのです。正式には大佐なのです。」

「…『鎮守府階級』?…とりあえず、説明をしてもらいたいものだな。」

 

じっと黙って聞いていた侍は傍らにあった木鞘の刀らしいものを片手に持ってぼそりと呟くように言う。

それにしぶしぶといった様子で男たちは立ち上がり、少女の案内ですぐそばのレンガ作りの建物へと入っていくのであった。

 

 

 

 

「いよぉ、久しぶりだな、ジョージ。卒業以来か?」

『そうだな、ルパン。どうしてるかと思いきや、手配書を見た時は爆笑したぜ。』

「で、いきなり招集ってどういうこった?俺様に役人になれなんて、こっちが爆笑しちまうぜ。しかも拉致までしちゃってどったの?」

『拉致?…妖精さん達のことだからな…どんな状況なんだ?こっちは深海棲艦が出現してから海外のネタも正直わからん。』

 

電と名乗った少女に案内された建物の奥の部屋で、ルパンは電話機越しに男と話す。

プライベート用の特別回線らしく、傍受の心配はない、とのことらしい。

 

「【妖精さん】?【深海棲艦】?なんだそりゃ?変なクスリでも手を出したのかよ?」

『…まさか、お前、知らないのか?』

 

双方ともに会話に食い違いが起こる。

ルパンとともに案内された二人の男もスピーカー越しに聞いて顔を見合わせるが、二人とも首を横に振る。

 

『そこからか。…深海棲艦ってのはな、数年前に突如発生した謎の生物だ。

まるで戦艦を模したようで、砲撃などをする人間大の生物。

一部の例外を除き、意思の疎通は不可能、かつ、人類を恨んで一方的に攻撃を仕掛けてくる。』

「おいおい、いつロードショーされるんだ?」

『ジョークじゃない、事実だ。バカげた現実だって認めるがな。

これによりシーレーンは破壊され、いくつもの国は崩壊した。

偶然かは知らないが、環境汚染の激しい地域・国家ほど攻撃が激しかったせいか、『地球の意思を反映する人類の天敵』なんていう説もある。』

 

ルパンも残りの二人も何とも言えない顔をしている。

それを受けてか、電という少女が分厚いファイルをルパンの前の机に置く。

そのファイルには【イ級】・【ヲ級】などといった分類された資料が載っていた。

 

「…ジョーク、じゃなさそうだな。っても、なんで海軍はみすみすやられたんだ?

いくら人間大のサイズでも今の兵器で何とかならなかったのか?」

『ジョークであってほしいがな。

深海棲艦にはな、近代兵器が効かないんだ。特に人やその類を介さずに運用する兵器は、な。』

「人やその類を介さない、兵器?」

『例えば、ミサイルやバルカン砲などだ。

細かく実証はできていないが…例えばバルカン砲や小銃などでも人間が手に持って撃てばそれなりの効果はある。

しかし、近代戦艦などのプログラムを介して撃っても一切効果はない。』

「そりゃまた…都合のいいこって。」

『鈍器などといったものも有効だった、という報告もあるが…な。

その深海棲艦が多数、一気に世界中に溢れた結果、世界の海軍をはじめとしてシーレンは崩壊したわけだ。

最初の数か月は人類はパニックに陥ったが…その中で光明が現れた。

それが【艦娘】と【妖精さん】だ。お前のすぐそばに一人いるだろう、【電】が。』

 

その言葉に三人の男の視線が電に集まる。

恥ずかしいのか、すぐそばにあったファイルで顔を隠してしまう。

 

「この、お嬢ちゃんが?」

『そう、彼女たち【艦娘】は第二次世界大戦の頃の戦艦の魂を持った、少女の形をした戦艦だ。

【電】は駆逐艦だが…まぁ戦艦(いくさぶね)ととらえてくれ。

彼女たちは海を駆けることができる、艤装という装備を身に着けて砲撃などができる。

それによって【深海棲艦】と戦えて、今では日本近海ならそれなりに安全になった。』

「なるほど、ね。」

「あ、あの…コーヒー、なのです。」

 

噂の電は恥ずかしくなったのか、案内された部屋に隣接した違う部屋からコーヒーを三人に差し出して、またその部屋へと逃げるように移動した。

それを片手を上げて礼を言いつつ、ルパンは煙草に火をつける。

 

「で、なんで俺なのさ。」

『まだ続きはあるのさ。【艦娘】は【司令官】・【提督】を求める。』

「【司令官】!?」

『【提督】で統一させてもらうが…誰でもいいわけじゃない、一部の人間が【提督】として【艦娘】に認められる。

何をもって認められるのかは不明だが、選ばれるんだ。本人の中身には関わらず、な。』

「へぇ…そりゃ頭の痛い問題だな。」

『それなりに候補には余裕があるから、あからさまな危険分子は事前に排除はしているがね。』

 

丈二の言葉の裏にある意図に気付いて、三人はそれぞれの反応を見せる。

三人ともそれなりでは済まないレベルでの裏家業の人間だ。

人間の汚い欲望など、嫌というほど見てきたのだから。

 

『そして、立場を利用してよからぬことをする輩も出てくるわけだ。

俺は今、そういう輩を排除する役目を負っている。』

「っても、いくら選んだとはいえ、その【艦娘】がどうかすりゃいいんじゃないのか?

人間じゃ相手にならない【深海棲艦】と対等に渡り合う【艦娘】なんだろ?」

『そうはいかないのさ。鎮守府っていう単位で【提督】は【艦娘】を支配する。

例えば下種な欲望を直接命令しても、【艦娘】は本人の意思で拒否も出来るし、大本営に密告もできる。

しかし…』

「みなまで言うなよ、ジョージ。普段の支配の中で、その辺りはどうとでもできる、ってわけだな。」

 

ここまで聞いていた中で、侍の男の顔が険しいものとなり、手に持っていた刀を強く握りしめる。

それを苦笑して諫めるもう一人の男も、少し渋い顔つきであった。

 

「おいおい、先生。そういきり立つなって…ま、気分のいい話じゃねぇのは、確かだがな。」

「次元!貴様はどうも思わんのか!あのような可憐な、いたいけな少女を…!」

「気に食わねぇよ、だが…世界のどこかで常にある話じゃねぇか。

そりゃ、目の前で起こってりゃそんな阿呆に鉛玉をたっぷり食わせてやりたくなるかもしれんがな。」

 

いきり立った先生、こと五右衛門の言葉にヨレヨレの煙草を灰皿に揉み消しながら次元は言う。

ルパン一家と呼ばれる三人の男は似た者同士である。

 

後ろ暗い闇家業をやってはいるが、心根は真っすぐなのだ。

下種とはほど遠い男たちなのだ。

 

 

『ふふ、いい友人たちのようだな。』

「よせやい、腐れ縁さ。で、それと俺たちがどう関係するんだ?」

『そういう【提督】の摘発をしているんだが、手が足りない。

誰が裏で何をやってるのかわからん…そこで【妖精さん】たちにどうにかならないか相談したのさ。

俺がこの地位にいるのも【妖精さん】とそれなりに意思疎通できるから、だからな。』

「ちょっち待った。そういえば俺たちがここにいるのも【妖精さん】のせい、なんだよな。

その【妖精さん】ってのは何なんだ?」

『伝承に残る、【妖精】そのもの、というかな。

はっきり説明するのは難しいが…艦娘の装備である艤装を整備したり、運用したり。

または艦娘自体を作ったりもすれば、シーレーンが崩壊した後に原油や鉄などの資材を作ったりもする…謎の生物さ。』

 

丈二のあまりといえばあまりの説明にルパンは渋面にならざるを得ない。

 

『気持ちはわかるが、そうとしか言えないんだ。

サイズは10cmちょっとでそれぞれ特技が違う。

例えば戦闘機や砲塔を司るのもいれば、生産を司るのもいる。

幅広過ぎて、一言でまとめきれない、というのが事実だな。』

「ちょっと待て…頭がおかしくなりそうだ。

【艦娘】が艤装とやらを扱って【深海棲艦】を倒すんじゃないのか?」

『あくまで【艦娘】は船、なんだ。砲塔を装備しなきゃただの鉄の船が人型になったものにすぎない。

ゲーム的に説明するとだな、【艦娘】はキャラクターで艦種によって色んな戦い方がある。

しかし、武器は持ってない。その武器に相当するのが砲塔などの装備、そしてそれを運用するのが【妖精さん】だ。

ある意味船の乗員、みたいなものだな。こればかりは慣れてもらうしかない。』

 

【艦娘】・【深海棲艦】だけでも十分に理解の外だが、【妖精】までくれば三人には理解しきれない。

それを仕方ないと電話越しの声が苦笑する。

 

『話を戻すぞ。俺は先日、【妖精さん】にそういう悪徳【提督】や【ブラック鎮守府】を識別する装備か何かできないか、という意味で『何とかできないか』と相談したんだ。

そうしたら【妖精さん】にお前のいる地域に新たに鎮守府を建てろ、そしてこの時間にお前が着任する、って指示されたんだ。』

「よくわかんねぇのも確かだが…まぁ、わかった。

で、ジョージ。お前は俺にどうしてほしいんだ?」

『さて、な。俺もお前を選んだわけじゃないし、何故お前が選ばれたのかもわからん。

ただ確かなのは【妖精さん】は【艦娘】の味方で、【妖精さん】がお前を選んだんだ。

むしろ、今まで説明してきたことを知らないことが俺にはわからん。

さすがに悪徳【提督】などは機密扱いだから知らなくてもおかしくはないが。』

 

丈二の疑問にルパンは鋭く目を二人に投げかける。

それに二人はただ頷くだけだった。

 

「あのよぉ、ジョージ。俺たちは昨日の晩、イタリアでの一件を片付けて祝杯をあげたんだよ。

昨日まで俺たちは世界の海を股にかけてた、【深海棲艦】なんて一言も聞いたことはない。

さらに言えば、シーレーン破壊どころか普通に旅客船が運航してたくらいだぜ?」

『は?……どういう、ことだ?』

「そのまんま、さ。俺たちァ、そんな人類の滅亡の危機、なんてもんは世界渡り歩いてたが、そんなに出会ったことはないぜ?

当然、ニュースや新聞は目を通してるし、普通に世の中歩き回ってたがね。」

 

ルパンの代わりに次元が冗談めかした軽い口調で言う。

電話越しにはしばらく無言が続くが、重い口調で丈二の声が届く。

 

『…SFじみてて、アレだがな。もしかして、異世界とやらから来たみたいだな。

異世界、で悪いならパラレルワールド。』

「なんてこった…ま、俺たちからしてみりゃ【艦娘】に【深海棲艦】に【妖精さん】だ。

いまさらって感じだがね…色んな曰くつきのお宝を狙って手に入れてきたが…ここまで荒唐無稽なのは久々だな。」

『なるほどな…とりあえず俺はお前たちが来た理由も方法もわからん。

イタリアかフランスに、俺の知ってるルパンが同時にいるのかもしれないが…。

平和な時にお前が全世界に指名手配されたのや犯行をニュースで見て、その後【深海棲艦】の件があってから…数年以上お前の噂は聞いていないな。』

「いずれにせよ、俺はどうしたもんか…ね。」

 

大きな執務机の椅子に身を預けながらルパンは天井を見上げる。

天井に上る煙草の煙を眺めながら思考を巡らせる。

 

(この様子じゃ日本の拠点はあてになんねぇな…ルパンシンジケートもどうなってるか。

さっさと逃げ出して、怪盗続けるのが妥当だろうが…今は戦時中みたいなもんか。

しかも敵は【深海棲艦】とかいうバケモンと、悪徳【提督】…ね。)

 

「一つ、聞かせろ。俺をこの鎮守府とやらに押し込めてどうしたいんだ?」

『誤解があるようだな。俺は押し込めるつもりはない、ただ拠点を提供したと思ってもらえばいい。

逆に今までの説明でお前がやりたいことはなんだ?』

「おいおい、質問に質問で返すなよ。」

『正直に言えば、俺の仕事を手伝って悪徳【提督】どもをふんづかまえる事に協力してほしい。

が、【妖精さん】はお前を【提督】にしろと言っている。

だからお前は鎮守府で最低限の仕事をしてくれれば後は何も言わんし、バックアップもしよう。

例えば、胸糞悪い悪徳【提督】の貯め込んだお宝の情報、とかな。』

 

そこまで言われればただでさえ頭脳明晰なルパンである。

丈二の狙いは否応なくわかる。

 

要は悪徳【提督】を捕まえる手伝いが欲しくてたまらないのだ。

その証拠を、お宝を手に入れるついでに手に入れてくれ、というわけだ。

 

「俺は命令されるのが嫌いでね。お前の言う通り動くかわかんねぇぞ?」

『ああ、それで構わない。俺が勝手に情報を投げるだけさ。

動かないなら普通の【提督】として、穏やかな日常を過ごしてくれればいい。

ちなみに今の社会はシーレーンのせいで、経済も停滞気味でな。

羽振りがいいのは一部の人間だけさ…。』

「ヘッ、大学時代の好だ。ありがたく乗っかってやるよ。」

『持つべきものは友人だな。…本来なら先ほどの電だけしか初期の鎮守府には配属されないんだが…。

ブラック鎮守府を潰した際に、一部の【艦娘】を保護してな。

その一部の【艦娘】を送った。鎮守府運営にも知識のある娘たちだから、手伝ってもらえばいい。』

「へいへい、そりゃありがたいこって。」

『お前は俺の知ってるルパンと姿かたちの似た別人なのかもしれないがな…いつか平和になったら酒でも酌み交わしたいもんだ。』

 

急な丈二の言葉に渋面を作るが、ほんの少し時間の後に軽くルパンは笑う。

 

「なんつーのか、俺の知ってるお前らしいや。

いいぜ、俺も正直言って右も左もわかんねぇんだ、利用させてもらうぜ。」

『それでいい。また何かあったら連絡してくれ。』

 

軽く苦笑しながら長い電話を切ると、目の前の応接ソファーに腰を掛けた五右衛門がちらっと横目でルパンを見ながら言う。

 

「いいのか、ルパン。」

「しょーがねーだろ、右も左もわかんねぇのは事実なんだしよ。

それに手を出す気はねぇけど、あんな小さい子供放り出して逃げるってのもな。」

「ヘッ、相変わらず甘ちゃんだな…が、悪くないコーヒーを淹れやがる。」

 

五右衛門の向かいのソファで脚を組んで座った次元がコーヒーを啜って仕方ないといった態度で言う。

それにルパンがニヤッと笑って二人を見る。

 

「いいじゃねぇの、悪者提督さんが貯めたお宝を救い出し、可憐な少女たちを救い出す。

そして、最後には平和な海を深海棲艦から盗み返す。

…怪盗の仕事としちゃ上出来じゃねぇか。」

「フッ…これもまた、修行、か。」

「ホント、いい趣味してやがんぜ、相棒。」

 

 

こうして、人類と深海棲艦の戦いの一つの大きな転換期が始まったのだった。




イタリア編が面白くてついカッとなって書いた。

続きは色々考えてはいますが、中身が書く時間ができるかどうか不明。
あてにせずにいていただければ幸いです。

ざっくり言えば『居酒屋鳳翔と五右衛門』とか『ルパンと鈴谷』とか面白そうかな、とか妄想が膨らんでいます。
次元は…誰と組み合わせれば…清霜とか面白そうな。


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2.大泥棒一味の下に部下が集まったそうです。

なんだか、凄い勢いでUAが…。
流石にビッグタイトル二つの合わせ技。
おんぶに抱っこにならないようにいい文章を創り出さねばいけませんね…。

お飾りを掘りつつ執筆…。


ルパンたち三人が電話を終えて少しして。

ルパンは鎮守府の執務室の机にファイルを何冊も重ねていた。

 

「まったく、お役所仕事ってのかね…マニュアルだらけで嫌になるね。」

「で、でも!そういうルールなのです!!」

「ま。頑張ってくれや、【司令官】様。」

「た、煙草は身体によくないのですぅっ!!」

 

電は執務室を忙しそうに駆け回っている。

一人の提督に、秘書艦が一人である。

なのに、執務室には司令官が三人もいる。

その全員の世話で忙しかった。

 

とはいえ、一人は黙ってソファーの上に座って刀の手入れをしているので楽ではあったが。

 

「言っとくが、俺はそんなガラじゃねぇ。

ルパンの手伝いならまだしも、俺はそんな仕事やらねぇからな。」

 

提督か否かは艦娘が一目見ればわかるものらしい。

その判別は絶対で、多数決などで分かれるものではない、とのことである。

 

ルパン一味、全員が提督になる素養を電に保証されたのだが、次元は一言で切り捨てた。

ガンマンなのに。

 

当然、といっていいかどうかはさておき、五右衛門もである。

 

 

その結果、丈二とも話し合ってルパンが提督。

次元と五右衛門はその補佐官という形で落ち着いた。

 

丈二としても五右衛門と次元を別々の鎮守府に散らしたくなかった、というのもある。

すぐ近くに鎮守府を置いても、その距離が近いと別々の鎮守府の意味がない。

 

広い海を領地とする深海棲艦を相手取るためにはやはり鎮守府は散らしたいのが本音。

ブラック鎮守府を相手にするためにはやはり一味揃って力を借りたい。

なのに、バラバラの場所にいられては集まったり、様々な協力をするのに都合も良くないという裏事情もあった。

 

丈二は三人を利用する、と言ってはばからないが、汚れ仕事と言えば汚れ仕事だ。

それを任せるにあたって当然見返りをしなくてはならないとも考えている。

しかし、それを表だってはできるはずもなく、誤魔化しながらの優遇処置を考えている以上、一か所にまとめて一気にやってしまいたいのだった。

 

 

 

提督となったせいでルパンは本来軍学校ともいうべき専門の教育課程を経て着任すべきところを、詰め込み式で様々な知識を頭に叩き込んでいた。

とはいえ、IQ300とも言われているルパン三世である。

凄まじい速度で知識を手に入れていった。

 

「なぁ、電ちゃんよ。ちょいと気になるんだけど…他の鎮守府の情報見てるとさ、同じ艦娘の名前見るんだけど、どういうこと?」

「あ、それはですね。厳密にいえばこの長門さんだったら『長門タイプ』と言うべきなのです。

ほぼ一緒の姿、艤装の艦娘は複数いるのです。

ただ、元になった記憶は同じ『戦艦長門』の記憶を持ってますけど、それぞれ個性は違うのです。

この私、『駆逐艦電』でも、もっと強気の電もいれば、弱気だったり、腹黒いのもいるらしいのです。」

 

どこか自慢げに胸に手を当てて、誇らしげに語る電を見てルパンは困った顔をする。

 

「腹黒い?…想像できねぇけど、まぁそっくりさんがいっぱいいるってことね。

で、ドロップとかで重複することはあるのかい?」

「それは妖精さんが調整してるのかわからないのですが、その鎮守府に既にいる艦娘が出た場合は、艤装のみが出てくるのです。

多分、司令官さんは解体のことも気にしているのだと思うのですけど…それはあくまで艤装の話なのです。」

「そりゃ助かるわ。牧場とか書かれてて、ちょっと気になってね。

…ちなみにその鎮守府に電ちゃんなら電ちゃんの艤装が一個もなくなったら?」

「それは私たちの意思次第なのです。

もう生きてるのが嫌になった、とかでしたらたぶん艤装と一緒にいなくなるのです。

艤装がなくても鎮守府のために働きたい、と思えば生身のまま鎮守府にいるのです。」

 

ルパンたちからしてみると、電はせいぜい小学生高学年はいっているだろうが高校生というにはどうだろう、といった体つきである。

そんな子供に働く、と言われても何とも言えない三人であったが、その辺りは慣れているのか電は笑って言う。

 

「司令官さんたちからするとピンとこないかもしれないのですが、こう見えて普通の人よりも力持ちなのです。

艤装がなくなったら砲撃とか海上を移動することはできないのですが、例えば警備や荷物運び、お掃除など何でもお任せなのです!」

「なる、ほどね。まぁそういうならそうなんだろうさ。

で、大きな問題…というか、任務があるんだけど。」

 

ルパンが見た資料にも艦娘の特性は書かれていた。

通常の人間よりも艤装をまとえば防御力は圧倒的に強く、砲撃にも耐えうる。

また艦種に左右されるものの、砲や艤装を扱う関係で駆逐艦でも一般男性よりもはるかに力が強いとあったのだ。

 

それを知らない次元と五右衛門は電が警備だの力仕事をすると言われても訝し気な顔ではあるが。

ルパンから任務と聞かされると電は嬉しそうに顔を輝かせて、軍艦らしく敬礼を返す。

 

「はい、なのです!!駆逐艦電にお任せなのです!」

「…腹減ったんだけどさ。俺たち、二日酔いだから胃に優しい食事が欲しいんだけど…そのへんどうなってんの?」

 

 

 

 

電は食堂の厨房で唇を尖らせていた。

電からすれば乙女の純情を返せ、と言いたい。

かの戦争での無念を抱え、今生こそはお国のために、司令官のために粉骨砕身で頑張るつもりだったのである。

 

助けれる命を助けたい。

これは第一命題ではない。

中にはこれを第一命題に掲げる電も多いらしいが、戦いがそんなに甘くないのをこの電は知っている。

 

戦わずに済むのなら戦いたくない。

戦いの後で要救助者がいるなら助けたい。

しかし、降りかかる火の粉を払うことは仕方ない。

 

それくらいには割り切っているのである。

 

「甘ちゃんじゃないのです。」

 

思わずうどんを茹でる鍋に愚痴をこぼしてしまった。

初期艦として配属はされたものの、電は違う鎮守府を経験したベテランでもあった。

 

電がかつていた鎮守府はブラックではない、ホワイト鎮守府だった。

白すぎて、艦娘が暇なくらい。

白すぎた結果が、提督の消失だった。

 

文字通り消失。

時折、提督は消失する。

 

深海棲艦に食われた、などという説もあるが、消失なのである。

失踪でもない。

ある日を境に司令官が消え失せてしまう。

大本営でも謎とされる現象であり、頭の痛い話でもある。

 

そういう場合は所属艦娘が大本営に報告して、鎮守府を初期化するのである。

その鎮守府によって処理は違うが、多くの場合は所属艦娘は様々な違う鎮守府や大本営へと異動となるのである。

 

電は一度大本営へ異動した経験を持つ艦娘だった。

 

 

そして新たな鎮守府へ提督の初期艦としての着任。

心機一転、といった気構えと今度こそはという乾坤一擲の決意が電の胸には燃えていたのだ。

 

そして初任務は。

 

電を含む4人の昼食の支度だった。

愚痴の一つも言いたくなってもおかしくはない。

 

 

その愚痴をぶつけたい的であるルパンは食堂の管理を司っている食堂妖精さんを囲んでいた。

 

「マジで…妖精さん、だな。」

「面妖な…。」

「いや、しかし…愛嬌があっていいんじゃねぇの?」

 

正式名称は【戦闘糧食妖精】ではあるが、食堂の管理もやっているのである。

電からすれば「間宮さんが小さくなった妖精」といった感じだが。

 

電は鍋を火から上げると、流しで湯を切って器に盛る。

妖精さんたちが用意してくれた汁を上にかけて、おあげなど具材を乗せれば出来上がりである。

 

「司令官さん!次元さん、五右衛門さん!取りに来てほしいのです!!」

 

妖精さんを見て遊ぶ三人を呼ぶ声が少し尖ったものになってしまった電を責めるのは酷だろう。

 

 

 

 

 

「いやーほっとするね。やっぱ出汁の優しい味ってほっとするぜぇ…。」

「うむ…いい味だ。きっと電殿はいい嫁になれるでござるな。」

 

次元は口を開かないが、無心にうどんを啜っている以上気に入った様子だった。

 

「まだ専門の間宮さんがいらっしゃってないのですが、今日中に着任するはずなのです。」

「間宮…ってぇと…確か、最中や羊羹で有名だった、あの間宮か?」

 

意外なことに電の言葉に反応したのが次元だった。

 

「ご存じなのです?」

「昔、テレビで見たんだよ。大量の食糧を運ぶための後方支援の船。

しかし、士気高揚のためにって菓子職人を高給で雇うようになると、中で羊羹を作って大好評だった、ってな。」

「へぇ…そんな船もいるんだな。」

「そうなのです。間宮さんはあくまで後方支援なので艦娘として海上には出ないのですが、間宮さんと伊良湖ちゃんの甘味が嫌いな艦娘なんていないのです!!」

 

手に持っていた箸ごと拳を握りしめて語る様子にルパンは苦笑しかなく。

 

「そりゃ艦娘って言ってもお年頃の女の子だしなぁ。甘いものは別腹、だよなぁ。」

「私たちは甘味が有名ではありますが、通常の食事もできますのでご安心下さい。」

 

不意に知らない声がして全員が声のした方を向けば、揃いの割烹着の女性二人が入り口に立っていた。

 

「申し遅れました、先ほどお話に出ました糧食艦間宮です。」

「あ、あのっ、私…伊良湖です!ケーキやパンなど、洋風料理や菓子が得意です!」

 

二人が食堂の長テーブルに座っている四人の前に立つと深々と頭を下げる。

テレビで「糧食艦間宮」を見た、次元は深い溜息を漏らして帽子を深くかぶりなおす。

 

「いや、すまねぇな。アンタからしたら言いがかりに近いかもしれねぇが、つい最近テレビで鉄の船のアンタを見ちまったせいでな。

これまでの説明で同じ存在、というか…そういうもんだってわかるんだが、なんか違和感がな。」

「いえ、お気になさらず。そうですね…一種の成長期だと思ってください。

ほら、久しぶりに見た小さかった子がこんなに大きくなった、とでも。」

「どんな成長期だよ、まったく…見かけによらずいい性格みたいだな。

俺がココの提督の『ルパン三世』だ。かの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫だ。

何の因果か着任しちまったようでな、これから世話になる。よろしく頼むぜ。」

 

次元の言葉にニコニコとした朗らかな笑みを浮かべて言えば、苦笑しながらルパンが手を差し出す。

その手を優しく柔らかい二つの手が握り返す。

 

「そちらのお二人は…?」

「俺たちァルパンの長年連れ添った相棒でな。ま、補佐ってヤツさ。

よろしくな、美味いメシ、期待してるぜ。」

「うむ…世話になる。」

 

司令官適正のある二人が補佐、というのが驚きなのか二人は顔を見合わせるが、何とか納得してくれたのか挨拶を済ませればふと間宮が思い出したかのように言う。

 

「あ、そう言えば提督。異動してきた中から代表の子達が司令室に向かうそうですが…。」

「っと、そりゃいけねぇや。おい、次元、五右衛門。

片付けて急いで…」

「あっ!皆さん、置いておいて結構ですよ。私が、片付けておきますから。」

 

意外なことに、大人しそうな伊良湖が自分から言い出したことに電も間宮もつい伊良湖を見てしまった。

 

「あの、そのっ…待つの、不安でしょうし。」

「そっか、そりゃそうだな。…悪ィな、伊良湖ちゃん。

このお礼は必ずするからよ。」

「…すまねぇ。」

「かたじけない。」

「ありがとう、です。」

 

四人で間宮伊良湖の隣を頭を下げながら執務室へと移動していく。

初対面が大事だというのはルパンたちもよくわかっている。

いくら相手が事前に時間を伝えてきていないとしても、待たされていい気分になる人間はいない。

 

ルパンだけでなく次元や五右衛門も媚びを売る気などはないが、わざわざ嫌われる気もないのである。

そのまま小走りで鎮守府を移動すれば、ふと五右衛門が脚を止める。

 

「おい、どったの?」

「…ちょっと待て。何やら、多数の気配が…。」

 

五右衛門の言葉に男三人が周囲に気を配れば、確かに微かながら声が聞こえる。

どうやら隣接した大きな建物の方から聞こえる。

 

「あの、多分応援の艦娘の子たち、なのです。」

「へ?そんなにいんの?」

「…言ってなかったのです。ファイルにあったと思いますが、『消失』した鎮守府の話は読まれましたか?」

「あぁ。提督がーってヤツね。」

「はい、それで私をはじめ、鎮守府がまるまる異動したのです。」

 

あまりの規模といえばあまりの規模の異動に三人とも目を見開く。

 

「はぁっ!?…それって…何人くらい?」

「はわっ!?…80人ちょっと、ですが?」

「「「はっ、80人ッ!?」」」

 

あまりの数に三人の男の声が廊下に響き渡る。

 

「は、はい…ほら、建造したりとか掘ったりとか大変でしょうし…。

浦賀中将曰く……大本営でも余っちゃって大変らしいのです…。」

「…優遇って言えば優遇なんだろうよ、提督様。

最初から設備やら人材やら万全なんだから、よ。」

「確かに…拙者たちと電殿一人だけでやるのは、ちと厳しいだろう。」

「あっちの事情は目をつぶるしかねぇな…わざわざやってきて、帰れとも言えねぇしなぁ…。」

 

電のつい漏らした実情に三人は顔をまたも見合わせるが、実際ルパンたち側にも利はあるのだ。

浦賀、そして大本営側にも多少なりとも利はあるのだが。

 

三人はしょうがないと肩を竦めて執務室へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上、87名。ルパン三世提督の指揮下に入りました。

以後、よろしくお願いいたしますね。」

「…可憐だ…。」

 

そして、執務室には約10名の見目麗しい少女で満たされていた。

執務室は報告を受けるための場所でもあるためか、普通の部屋よりは広い。

応接間のように使うためかソファーすらあるくらいである。

 

しかし、それでも10名以上、ルパン達も含めれば約20名の人間で満たされていれば息苦しいくらいだった。

それでも不快そうな態度すら伺わせず、背筋を伸ばして整列している艦娘たちにルパンもつい背筋を伸ばしてしまう。

先ほどのように我関せずといった態度を次元も五右衛門もとるわけにはいかず、執務机の前に立ったルパンの一歩斜め後ろで待機するしかなかった。

 

そんな中、代表として赤城と名乗った朱袴の弓道着をアレンジしたような和服の女性が司会のような形で、各艦種の代表の艦娘たちの紹介をし終えたのである。

しかし、ルパンも天下の大泥棒である。

 

「確かに。…さぁて、堅苦しいのはここまでだ。」

 

引き締めていた顔をニィと崩すと、肩を普段のなで肩に戻す。

 

「俺ァ、確かに『提督』って仕事を引き受けたがな、元は天下の怪盗、大泥棒さ。

だから今みたいにしゃちほこばって話す相手じゃねぇ。しかしな、俺はやると決めたことはきっちりやるのさ。

お前さん方、『艦娘』はやることやって、通すべきケジメさえきっちり通してりゃガチャガチャ言う気はねぇ。

ま、楽しくいこうぜ。」

 

あまりの落差に艦娘達は顔を見合わせる。

その中で一人の艦娘が手を挙げた。

 

「えーっと、軽空母の隼鷹、だったよな。どした?」

「提督、それじゃまるで自由時間は好きにしろ、って言ってるように聞こえるんだけど?」

「あぁ、そう言ったつもりだからな。ただ、共同生活らしいから隣人とかの迷惑にならない程度に、仕事に支障をきたさない程度に、っていう制約は課すけどよ。」

 

冗談なのか、揚げ足取りのつもりだったのか、隼鷹がニヤニヤしながら問いかけた内容をあっさりルパンが頷く。

補足を付けたものの、それでも予想外だったのか隼鷹は笑いを引きつらせる。

 

するとその傍にいた黒髪のロングの大人しそうな艦娘が手を挙げる。

 

「あの、訓練は所定の時間以外ではしてはならないのでしょうか…?」

「うんにゃ。だから『自由時間』なんだよ。

まだ細かく決めてねぇけど、要は完全な非番と準非番と当番の艦娘決めて、非番は完全に自由。

酒が飲みたきゃ飲めばいいし、外出したけりゃ申請してすりゃいい。特訓したけりゃすりゃいいさ。

ただ、やることはやれ。やりたいことをやれ。」

 

ルパンは言わずと知れた天下御免・神出鬼没の大泥棒だ。

そのルパンたちが愛するものは何か。

「自由」、そして「冒険」だ。

 

人間誰しも毎日を胸躍らせ、自分のやりたいことをやって生きていきたい。

 

しかし、多くの人間が社会のしがらみを振りほどけずに、社会の枠の中で生きていく。

これが悪というわけではない。

多くの人間が生きていけるためのシステムなのだから。

 

だが、ルパン一味にはそのしがらみはただの檻でしかない。

社会の枠を飛び出して、痛快に生きていけるだけの能力があるのだから。

 

そんなルパンたちだからこそ艦娘を縛るつもりはない。

 

ルパンの能力や生きざまはまだ艦娘たちにはわからないが、その姿勢だけは艦娘たちには通じた。

 

「…だが、なんでもやっていいわけじゃねぇ。

何かあったら相談しろ、コイツが何とかしてくれるだろうさ。」

「おいおい、次元ちゃ~ん。俺に丸投げかよ?」

「それが仕事だろ?」

 

流石に誤解されてはマズいと思ったのか、ずっと無言だった次元がおもむろに口を開いて釘を刺す。

その次元のわき腹を肘でつつきながらルパンが茶化すが、それを肩を竦めつつも軽く笑って次元が答える。

 

それを見た赤城か少し笑いながらも改めて敬礼する。

 

「了解しました、提督。これからよろしくお願いします。」

 

 

 

こうして、軍服を着ない提督の鎮守府が始まったのだった。



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3.大泥棒一味はお仕事に専念するようです。

お飾りは徹夜で掘ったおかげで回収できました。
掘りつつ、疲労抜きとかの間でカタカタ書いて二話をお届けしたのですが…。

今朝(12/30)に小説情報を確認したら…。

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(12/30 12:00現在)


( Д ) ゚ ゚


プレッシャーを感じつつもこれから頑張らねばと決意致しました。

恐らくですが、週に1~2話投稿するペースで頑張りたいと思いますので、温かい目で見守ってください。

当面、世界観の説明のために地の文が多いとは思いますが、ご了承下さい。


ルパン一家着任から数日後、執務室は大幅に改装されていた。

 

最初は電が前の鎮守府でも初期艦であり、秘書艦経験豊富だったため秘書艦として仕事をしていたのだったが。

ルパンの能力に追い付かなくなってきた。

 

ルパンは先述した通りIQ300の大天才である。

が、ルパンの真価はそこではない。

その卓越した頭脳で、『常人では考えつかない手法を実現する』ことにある。

 

その発想力と実現可能にする力を一人の頭脳が次々と生み出すのである。

しかも、大本営のルールのグレーな部分をついて。

 

一件の提案が、『アウトではないけど、ストライクゾーンギリギリいっぱい』をついたものであるため、それを大本営の許可が出るか出ないかで確認に時間がかかる。

それが『ちょっと喉が渇いたな』ってレベルでポンポン飛び出すのである。

 

全部大本営との折衝を秘書艦に丸投げするほどルパンは怠惰ではない。

当然難航しそうな重い折衝は自分から浦賀中将や浦賀を初めとする艦娘擁護派の上層部へ自分から話を持ち込んではいる。

しかし、全部が全部ルパンがやることはなく、秘書艦を甘やかすつもりはないらしい。

 

 

艦娘で会議を行った結果、複数の艦娘を『執務室詰め』という形で当番で配属することになった。

ルパンの執務机は本来の提督ならば十分なサイズの、大きいものではあったが足りなくなって書類やファイルで埋まっている。

その上にノートパソコンを置いて様々な書類の作成や処理を行っている。

 

当然、『執務室詰め』艦娘達はルパンからの書類の処理や、またはルパンに回す書類の選別などもしなくてはならない。

そのためには各艦娘がデスクが必要になり、そのデスクを置けば手狭になる。

 

さらに人がいれば当然喉を潤す設備なども必要になり…。

結果、執務室を変える話まで出てきた。

 

ルパンとすれば堅苦しい執務室に愛着はない。

多少ボロくても自分の快適な環境であれば隠れ家を愛用する男だ。

ちょっとした会議室みたいなもので十分だろう、と言ったのだが…。

 

ルパン以外の全員、艦娘も次元も五右衛門も反発したのだ。

滅多にない話だが、たまに鎮守府に来客はある。

その時のルパンの面子を重視した。

 

次元と五右衛門は自分たちの快適な環境を重視した。

快適なソファー、頼めば出てくる見目麗しい艦娘たちの手ずからの飲み物。

手を出す出さないにしても、自分たちが作るものよりはそちらがいいに決まっているのである。

 

 

その結果、執務室の隣の部屋との壁を取っ払ったのである。

従来の執務室はそのまま、隣の部屋の壁の代わりにパーティションを置いて、そちらが執務室詰め艦娘の事務室となった。

なお、次元と五右衛門の机とソファーもそちらになった。

 

電同様、新しい提督からの初任務が建造か開発かと気張っていた明石の顔は非常に複雑なものになったのも言うまでもない話ではある。

 

 

「じゃ、これで大体酒保はこんなもんか…手配はどうなってる?」

「ええ、あと一時間もしたら搬入が始まるわ!私をはじめ、第六駆逐隊の皆が受け取りと確認をしてくるわ。」

 

数日の間でルパンが一番に手をかけた仕事が、『艦娘の住環境の改善』だった。

鎮守府によって程度の差はあるものの、基本的に艦娘に私物という概念は薄い。

とある鎮守府に異動した吹雪が大きめのリュックサック一つで異動が済んだのを見れば大体わかっていただけると思う。

 

艦娘の持ち物は『軍からの支給品』でしかないのだ。

そんなものをルパンは認めない。

 

「人間にできねぇ、立派な仕事をしてんだ。

なら相応の給料に準ずるものがなきゃおかしいだろう。」

 

ルパンは祖父アルセーヌルパンからのシンジケートを持っていた。

詳細は不明だが、簡単に言えばマフィアのようなようなものであり、一種の組織だ。

組織の運営の仕方はいくらでもあるが、ルパンは能力に応じて遇する必要性を知っている。

 

そのため、ルパンはまず大本営に給料の支給を打診した。

しかし、それは大本営は拒否。

海軍の資金にも限度があり、ルパン鎮守府に認めればすべての鎮守府の艦娘に給与を支払わなければなるから不可能だ。

 

そんな回答はルパンには先刻承知であり、その打開策として提供したのは『軍票』の代わりとなる『ルパン札』の作成だった。

肖像はルパン一家の三人。

透かし彫りにはピーナッツのような頭の形のルパンのシンボルマークだった。

 

 

執務室拡張任務、の後に受けた工作艦明石の任務が『ルパン札』の製造だったのも言うまでもなければ、その時のやさぐれた顔は深い付き合いである大淀は当分忘れられないだろう。

 

 

あくまでもコレはルパン鎮守府限定の軍票である。

これを毎月一定額給料として支給することにした。

勿論鎮守府内の様々な仕事に応じて手当も追加する。

 

悪い表現をすれば『ペリカ』である。

外出時には『ルパン札』をそれ相応の『円』に換金も認めている。

勿論外出権を購入するために『ルパン札』は必要なく、外出許可申請だけ。

 

しかし、ルパン鎮守府にとってはそこまで痛手ではない。

あくまで『運営費』の範疇で、大量に物資を購入して、鎮守府内でさばく。

実際に『円』で支給するよりも圧倒的に割安に収まる計算の上で制定している。

 

外出意欲の強い艦娘はあまりおらず、『円』に換金して外で買うよりも『ルパン札』のまま購入した方が割安なのも好評だった。

 

初めのうちは『物を買う』ことや、『私物を手に入れる』ことに戸惑いを隠せない艦娘たちだったが、先進的な艦娘がおずおずと始めて見れば、次々と艦娘たちは続いたのだった。

おかげで酒保から悲鳴が止まらない始末。

 

 

これは浦賀中将が「戦争後の艦娘の取扱、及び、鎮守府運営の新たなテストケース」として上層部を納得させたおかげでもある。

そのために普通の鎮守府よりも多めの『運営費』の枠を獲得したため、多くの物資の購入も可能になった。

 

ルパンが大天才なら、浦賀中将はそれについていける程度には天才である。

成功した場合のソロバン勘定もあってのことだ。

 

結果、浦賀は大本営にいた『戦闘に否定的な元艦娘』の雇用対策もできた。

 

例えば悪名高き『捨て艦戦法』を強いられていた鎮守府の艦娘はPTSDで海に出る事すらできなくなった者も少なくはない。

それでも同僚の艦娘のため、愛する祖国のために何かがしたいという祈りにも似た願いを持っていた。

そういった艦娘の取扱は難しい。

見目麗しい艦娘であり、艦娘差別という風潮も存在する以上海軍の外に出しづらいのである。

 

このルパンの酒保騒ぎの中で、大量の人員が必要になってきた。

例えば物資の輸送、生産、酒保などの販売。

それに全ての元艦娘を充てる計画を進めている。

 

浦賀の手配で、潰れかけた会社を購入。

そこに信頼できる人間とその部下に元艦娘を配属し、海軍直営として運営。

その会社の持っていたノウハウを基に大量生産を始めようとしている。

 

それを社会に卸しつつ、ルパン鎮守府が購入していく。

元々真面目な元艦娘たちの作った日用雑貨や食料品であり、海軍が利益度外視とまではいかないが、儲けを低く抑えて生産しているため価格競争には勝てるという計画を進めている。

社会全体として戦争の影響で景気が低迷している中の改善策である。

政府からもGOサインが出るだろうという目算である。

 

これがたった数日で起こったルパンの影響である。

 

 

 

話を鎮守府に戻せば、やはり鎮守府は大盛況だった。

押すな押すな、という有様。

 

「お主ら、焦るでない!れじは限りがあるが、商品はまだまだある!

秩序だって行動せい!!」

 

ルパンのイメージではせいぜいコンビニ程度の規模でいいんじゃねぇの?という程度だったが…そこは計算違いだった。

 

最初に酒保任務を受けたのは五右衛門と朝潮型駆逐艦だった。

が、初日はよかったのだ。

二日目からが大変だった。

 

初日は遠巻きに見つつ、支給された『ルパン札』を見比べていた。

 

事件はその日の夜だった。

最低限の商品の品出しの最中、菓子でめぼしいものを大潮や荒潮がチェックしていたら、五右衛門がいくつかを買ってくれたのだった。

 

五右衛門からしたら自分では店員業務などよくわからないが、代わりに手伝ってくれた若い娘たちへのお駄賃感覚だった。

お駄賃である以上、せいぜい千円ちょっとに相当する菓子である。

 

それを食後に朝潮型の部屋で開けたところ…他の艦娘が群がったのである。

艦娘たちの感覚で『ハイカラかつ、高価』なはずの『クッキー』や『チョコレート』。

勿論、間宮・伊良湖のものに比べれば数段落ちるが、それが給与の1%未満の価格で買えると艦娘の間に周知されてしまった。

 

それから朝潮型の苦難が始まってしまったのだった。

 

 

「1080ルパンになります!!慌てないでーーー!!!」

「2640ルパンよ!ちゃっちゃと出しなさい!後ろつかえてるんだから!!」

 

五右衛門は修行がてら地上での艦娘の訓練以外に酒保の監視をしている。

というか、他にやれる仕事もあまり思いつかず、落ち着くまではということでやっているのだった。

しかし、思ったより大変で、いつもの着流し姿に襷がけで取り組むほど。

 

「五右衛門さん!新商品入荷したわ!」

「うむ、暁殿。かたじけない…荒潮殿、霞殿、仕分けを頼む。」

「ええ、一人前のレディですもの。これくらい軽いわ。」

 

ダメ提督製造機と名高い雷を先頭に、第六駆逐隊の面々が大きな段ボールを台車に乗せて運んでくる。

それを荒潮や霞と言った面々が手伝って、人で溢れた店内で何とか品出しを進めていく。

 

「霰、これが一覧だよ…。ボクは予約の人の呼び出しをしてくるね。」

「わかった…よろしく。」

 

当面朝潮型と五右衛門の苦難は続きそうだった。

 

「ええい!!群がるでない!すぐに並べるから押し寄せるなーーーー!!!」

 

五右衛門の悲鳴ともいえる声が酒保にまた響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「……カレー。」

「「「「「カレー」」」」」

「俺が、カレー。」

「「「「「カレー」」」」」

 

狭い小屋の中、次元と駆逐艦陽炎・不知火・黒潮・浦風、そして天龍が声を上げる。

近くには古いストーブとその上でシュンシュンと大きな薬缶が湯気をあげている。

 

「カレー。」

「「「「「「カレー!!」」」」」

 

これだけは譲れない、と強い気迫のこもった声が小屋に響く。

 

 

次元がいるのは艦娘の出撃・帰港のための場所のすぐそばにある控室兼待機場所の小屋である。

ルパン鎮守府は優遇されているとはいえ、資材の確保は必須である。

そのために天龍が資材獲得の遠征を進言した結果、ルパンは頼むと二つ返事で返したのだった。

 

遠征は比較的安定した航路を各鎮守府の遠征部隊が通る。

そのため、遠征の行き返りで戦闘が起きることはそう有りえない。

大本営が一番注意を払うのがこの遠征航路の確保だった。

 

従来の大半のシーレーンが崩壊した現在、残った数少ないシーレーンが遠征航路だからだ。

ここが崩壊すれば、各鎮守府の戦うための資材獲得も、また輸入に頼った物資獲得も不可能になるのだから。

 

暖冬で日中の日差しは温かくとも、海上の風は冷たい。

艦娘も寒さも暑さも感じるのだから、とルパンが手配したのが『遠征部隊へのお駄賃』だった。

直接現金(ルパン札だが)を渡すのは問題だろう、とルパン一家で話し合った結果『物資』を提供することになった。

 

そして、今に至る。

 

「お前らなぁ、俺は遠征部隊旗艦だぞ?ちったぁ譲れよ!」

「知りません、カレー味は不知火のものです。」

「「ウチもカレーが食べたいんよ!!」」

「私が長女なんだからアンタたち譲りなさいよ!!」

 

次元が売店から持って行った『物資』はカップラーメンとホット飲料だった。

冷えた身体には温かいものがいいだろうという善意だった。

好みなど知らないので、適当にカレーやチキンといった定番の味を合わせて6つ。

 

その結果がコレである。

次元自身、譲ってもいい気もするのだがここで退いては負けた気がする。

パイプ椅子でストーブを円状に取り囲んだまま、帽子を深くかぶった。

 

その中でとある考えを思いついてニヤリと笑う。

 

「なら、白黒つけようじゃねぇか。」

「へぇ、面白そうじゃねぇか。」

「…いいでしょう、不知火に何の落ち度もないことを見せて差し上げます。」

 

ガタンと音を立てて天龍が立ち上がり、腰の刀に手を伸ばす。

それを受けてか不知火も立ち上がり、目を爛々と燃やして手袋の具合を確かめる。

 

しかし、次元は格が違った。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

「おいおい、ドンパチやらかすつもりはねぇよ。平和的な、解決方法だ。

シンプルな話さ…ババ抜きくらいならお前らもわかるだろう?」

「…ババ抜き?」

 

鋭い視線を帽子のつばの隙間から覘かせ、先に立ち上がった天龍に予備動作も感じさせる間もなく、一瞬で懐のコンバットマグナムを抜いて突き付けた。

抜く動作の最中に撃鉄まで起こして、すぐに撃てる状態になっていた。

その速さに絶句していたところに提案された言葉に戸惑いは隠せない。

 

「そうさ、抜けたヤツから順に好きな味を取っていく。シンプルで公平じゃねぇか。」

「…ハッ、いいだろう。ギャフンと言わせてやるぜ!」

「メッチャフラグや…フラグの匂いがするわー。」

 

銃を次元がしまったのを見てから、天龍がやっと椅子に座り直して受けた。

黒潮の言葉はしみじみとしたものだった。

 

 

 

「…さーて、俺が上がり、だな。」

「くっそぉぉぉ!!なんでお前は毎回ジョーカーを避けるんだよ!!」

 

次元が胸ポケットから取り出したトランプでババ抜きはスタートした。

スイスイとゲームは順調に進み、次元が隣の天龍からカードを一枚抜けばやれやれといった様子で立ち上がってカレー味のカップラーメンを手に取る。

 

「ほほぉ…天龍さんがババ持っとるんやねー。」

「なるほどね、じゃ、気を付けよーっと。」

 

悔しさのあまりの失言に残りの全員が反応してニヤリと笑う。

とはいえ、これまでの動きで全員にバレバレではあったのだが。

 

回り方のせいで隣の次元が天龍から引くようになっていたのだが、毎回丁寧に天龍はカードをシャッフルする。

さらにある意味ポーカーフェイスではあるが、次元が引くたびに軽くニィと笑いながら目力が増すのである。

 

「なら、不知火は気を付けなくてはいけませんね。」

 

次元が抜けたせいで、天龍からカードを引くことになったのは不知火であった。

次元がどのカードに手をかけても天龍の顔は変化しなかったのでポーカーフェイスと言えるだろう。

それぞれのカードの枚数は2・3枚だ。

 

「天龍ちゃ~ん?何してるのぉ?」

 

そこに顔を出したのは龍田だった。

ふんわり香る次元が湯を注いだカップラーメンから香るカレーの匂いと、テーブルに並べられた封を切って湯を注ぐのを待っているカップラーメン。

そして全員が手にしたカードで大体の推測ができたようだった。

 

「あらぁ~楽しそうねぇ~。見ていっていいかしら~?」

「ああ、椅子はあるから温まっていきな。」

 

次元はゲームが終わったからか、ストーブを囲む円から一歩引いた位置に座って全員を眺めてカップラーメンを啜っていた。

その隣に龍田は備え付けのパイプ椅子を持ってきて、ゲームを眺める。

 

「……ふぅ~ん…なるほど、ねー。」

 

少し前かがみになりつつ、脚を組んでいた龍田が何気なく呟く。

ズズッと音を立てて麺を啜っていた次元がピクッと反応した後、何もなかったようにまた啜りだした。

 

(…龍田さんは、何に気付いた?)

 

ゲームが進むに至って、不知火はあと一枚、天龍は二枚だった。

いまだになんとかババを引かずに済んでいる。

が、次は50%の確率。

 

その中で斜め後ろの二人の反応がやけに引っかかった。

そして、自分が引く番。

不知火の脳はフル回転していた。

 

(……そういう、ことですか。)

 

そして、不知火はカレー味を手に入れた。

ちなみに天龍はドベだった。

 

 

「うふふ、次元さんたら酷いのねー?」

「ガン、ですか。」

「おいおい、決着がついた後で言っても無効だぜ?」

 

最後まで眺めた後に小屋の戸締りをして全員で戻る最中に、最後尾の二人がぼそっと次元に語り掛けた。

先頭を歩く天龍たちは気づいていないし、負けたのが悔しいのかいまだにチクショウだのクソーー!と雄たけびをあげている。

 

それを楽しそうに三人が見ながら鎮守府へと歩く。

 

「右上の模様の中がちょーっと違うだけですものね~?」

「工業製品だからな、不良品をたまたま買っちまったみたいだなぁ。」

「…ルパンマークの不良品なんておかしいでしょう。」

 

昼食はちゃんと食べたものの、遠征で身体は冷え、身体を動かして軽く空きっ腹なところにカップラーメン。

温まるし、小腹も満たされて不知火は満足していたので、その程度のツッコミで済ませた。

 

そのタチの悪い上官はニヤリと笑って帽子を少し上げて、目をのぞかせた。

 

「けど、楽しかっただろう?」

「うふふ~誰にも言わないけど、そのトランプ…もらってもいいかしら~?」

「否定はしません。」

 

二人とも天龍が嫌いなわけではない。

気風も気前もいい、姐御肌な先輩(姉)だと思っている。

 

ただ、いじるのが最高に楽しいと思ってるだけで。

 

「おお、怖い怖い。女は怖いけど、お前らもいい線いってるぜ。」

「いい女は怖いのよ~?」

「勝負は勝つべくして勝つ、それだけです。」

 

肩を竦める次元に龍田はにっこりと、不知火はニヤリと笑って言った。

その龍田に懐からトランプの入った箱を渡しながら、ジッポで火をつけた。

 

「ほどほどに、な。」

「わかってるわよ~。」

 

冬の日の暮れは早く、まだ3時だというのに暮れかかった夕日の中、次元は肩を竦めた。




感想返し。

>カミヤ様

何気に「イタリアの夢」の前後編を見ながら艦これしてたら、ルパンが鎮守府入りってねぇな、と思い。
ついカッとなtt(ry
皆様に失望されないように頑張ります。

>竜羽様

おほめの言葉、ありがとうございます。
いいですね、絡ませていただきます!

>ケミヤ様

多分、私を含めて読んで下さる方々はルパンも艦娘も愛している方々だと思います。
その両方を魅力的に、失望させないように、またありありと想像できる文章を書けるよう頑張ります。

>Rising193様

これはチラ裏的な、裏設定なのですが…。

この世界の大半の【提督】はいわゆる【リアルからの受信機】です。
【リアルの提督】が着任すると同時に【こちらの世界のシステム】が深海棲艦との戦いなどで死亡したはずの人間を【提督】という形で作り直します。
その際に【世界】の全てが【提督は生きていた】というように全て認識しなおします。
そして滅多にありませんが【受信機】の不調や、もしくは【リアルの提督】が【艦これ】から離れるとともに存在を維持できなくなり、消失します。

なお、その【提督たち】は自意識はありますが、多くは【リアル提督】の意思を反映することになります。
【リアル提督】がブラックな運営をすればするほど、【提督】の普段の振舞いもブラックになり、鎮守府の雰囲気も最悪へと近づいていくわけです。
(また、【リアル提督】の性質に近い【提督】を【システム】が選出する、という面もあります)

ルパン鎮守府に異動した艦娘たちの元【提督】はホワイトではありましたが、興味本位で手を出して、そのままフェードアウトしたため、建造などでそこそこの艦娘を保持していますがLvは30がいいところです。
(むしろブラックになるほど艦隊指揮に力を入れていなかった(プレイしていなかった)ため、ホワイト鎮守府だった、とも言えます。)


…こんな裏設定使うことはないんだろうなぁwww


>炭酸センベイ様

確かに共通点の見出しにくいコラボですよねー。
私の好き、というだけの共通点で編み出しましたw

ちまちま書きますので気長にお待ちください。


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4.ガンマンは銃の整備をするようです。

初めて投稿したもので、感想返しが感想のページでできることを今日初めて知った方、隠岐です。

『炎のたからもの』はガチ。


さらに先ほど小説情報を確認したところ。(12/30 午後11時過ぎ)

UA5021
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UAって何ですかね?閲覧回数でしょうか?
まさにメダマドコー?




さて、ルパン一家で一番暇なのは誰か。

 

 

ルパンは多忙である。

 

今は『艦娘に人間らしい生活をさせるため』の様々な企みをしている最中である。

先日までは酒保の整備と酒保を使わせるための取り組み、で大変だった。

ルパン札の発行に、様々な商品の入手の段取りなど。

 

入手の辺りは本当ならば大本営に丸投げでもよかったのだが、浦賀曰く「途中までやって丸投げするのか。そんな無責任な男なのか、かの大怪盗の孫が?」と言われてしまえば放り投げれない。

ネットをはじめ、様々な方面から買い取るべき企業の選出や資金運用などすべての段取りまで整えたのだった。

 

現に今日、酒保に商品を持ち込んだ運輸会社はルパンが立ち上げたものである。

ルパンが社長ではなく、海軍の持ち株会社で、社長は元艦娘『陸奥』。

 

艤装を精神的な理由で纏えなくなった、大本営預かりだった艦娘に職を与えることになった。

数十人の重巡クラス以上だった艦娘に大型トラックの資格を取らせて、海軍関係の物資運搬の任をつかせることになった。

海軍関係の、民間に任せれない仕事を安心して任せれる会社となった。

 

酒保も元は少し品物を幅広く取りそろえたコンビニだったはずが、今では鎮守府の隣のちょっとした空き倉庫をまるまる酒保へと変更した。

さらに酒保の隣に専門のカタログショップを設置。

一人の担当の元艦娘が、それぞれの艦娘の希望商品をカタログから選ばせて、取り寄せを手配するのだ。

 

 

 

では、五右衛門は今はどうしているのか。

 

具体的には、朝潮型と五右衛門はどうなっているのか。

 

まず酒保任務からは解放された。

先日ルパンと浦賀が手配した元艦娘の店員を雇うことになったからだ。

ただ、着任と同時に解放されたわけではなく、朝潮型と五右衛門たちも数日の経験からいくつか教える必要があったため、数日の教育期間が必要だった。

 

そして、朝潮型6人が手を取り合って歓喜の日を迎えた。

 

「いよぉ、大変だったみたいだな。思ったより着任に時間かかっちまったせいで、お前らには苦労かけて悪ィな。」

「いえ、司令官のお役に立てて何よりです!」

 

朝一番で朝潮型が揃って、任務終了の報告をしたのを受けてルパンは苦笑して煙草を揉み消した。

ルパン一家のお約束の山となった灰皿は存在しない。

執務室詰めの艦娘たちが即掃除をするのである。

 

理由は『多すぎると消しそこないの煙が煙いから』。

喫煙者は肩身が狭い。

とはいえ、それで止めるようなルパンと次元でもないのだが。

 

そして明石の三つ目の特別任務は『空気清浄機』だった。

それはルパンと次元の執務机の隣に設置された。

 

明石曰く「ええ、私は『家電工作艦兼大工艦』ですよ、ええ。わかりました。」と死んだ目をしていたらしい。

大淀曰く。

「でもできるのは明石しかいなかったんだから仕方ねぇじゃねぇか、大淀ちゃん作ってくれる?」の一言で片付けられもしたが。

 

 

忠犬と名高い朝潮はくたびれたような顔色だったものの、ピッと背筋を伸ばして敬礼を返す。

他の妹たちも態度には差がありつつも敬礼をしていた。

 

「とはいえよ、お前さん方が貧乏くじ引かされたのも確かなわけよ。

んで、お詫びってわけじゃねぇけど、三日の休暇とちょっとした『支給品』を用意したから受け取ってくれ。

休暇が終わったらそれぞれ遠征とか出撃に従事してもらうけどよ。」

 

休暇と支給品と聞いて6人が顔を見合わせ、歓喜に顔を輝かせる。

 

「『支給品』は酒保の受付に言づけてるから、受け取ってくれ。

とはいえ、俺も年頃の娘さんが何が喜ぶなんてわかんねぇからよ。気に入ってもらえりゃいいんだけど。」

 

ニヒヒヒ、とニィと口を横に広げてルパンが笑う。

 

「あの……五右衛門さんは、どうなんでしょう?」

 

そっと、おずおずと挙手をして問いかけたのは霰だった。

霞や大潮も一歩後ろにいた五右衛門はどうなるのかと気になったらしく、ちらちらと見ている。

それを見て、ニヤァとルパンはさらに楽しそうに笑う。

 

「あらぁ、五右衛門ちゃんも隅に置けねぇなぁ!!」

「止めぃ。同じ釜の飯を食った、というだけだ。」

 

ルパンのからかいだとわかっている五右衛門はムッとした顔つきで切り捨てる。

 

「んなっはっはっ、五右衛門には特別手当と特別な晩飯を用意してるから楽しみにしてな。

あと、お前さんの気に入りそうな着物も、な。ああ、休暇も一緒だ。」

 

それを聞いてよかろうと小さく呟くように言って、ふぅと少し寄った眉を元に戻す。

 

「では、司令官。これにて失礼します。朝潮型6名、休暇に入ります!」

「おう、ゆーっくり骨休めするんだぜ~。」

 

朝潮の返事とともに気楽に手を振ってルパンが見送る。

 

 

 

「提督は軽いのよ!もっと、こうシャキッとしろってのよ!」

 

その態度が気に食わなかったのか、執務室から出て霞が唇を尖らせる。

 

「でも…ちゃんと休暇くれたり、酒保とか…皆のために働いてくれる。」

「それは…そうだけど、もっとあるでしょう!!」

「霞?それくらいにしときなさい。」

 

朝潮の諫めにわかっているのか、霞も口を閉ざす。

 

「…でも、どんなものが支給されるのかな?」

「うふふ…チョコクッキーだったら嬉しいわ~。」

 

先日五右衛門からもらったチョコクッキーが気に入ったのか、荒潮が目尻を垂らす。

 

「フンッ、でも200ルパン程度じゃないの。」

「でも~今までそのたった200ルパンすら今までなかったのよ~?」

「うぐっ…ま、まぁ?もらえるものはもらっといてあげるけど!」

「満潮っ!まったく…霞といい…反抗期かしら。」

 

満潮も霞同様に突っかかっていく。

それを見て深い溜息を朝潮が漏らしながら頭を振る。

 

「あの~提督から支給品があるって聞いたんですけど~?」

 

話している間に離れの酒保へと着き、荒潮が係の元艦娘へと話しかける。

 

「あ、聞いてます!こちらになりますね。」

「…なに、これ?」

 

何やら一抱えもある箱が受付の後ろに並んでいる。

それを見て全員呆然とし、何とか霞が呟く。

 

「え?提督から指示された羽毛布団のセットですが?」

 

ふらふらとした足つきで朝潮が箱の蓋を開ければ、中の布団袋を手でそっと押す。

すると羽毛らしくふんわりと押し返してくる。

 

軍人である艦娘は、どんな布団や寝所だろうがすぐ寝付ける。

というか寝付けないと軍人なんかやってられない。

そのため、というわけではないだろうが支給品の布団は薄く硬い煎餅布団。

いつ打ち直したのかもわからないような綿布団だった。

 

それが羽毛布団である。

朝潮に至っては何故か天井を見つめて敬礼するわ、荒潮は「あらあら~」とずっとリピートする。

霰は全身で柔らかさを感じようと段ボール箱の中、しかも布団袋に頭から無言でダイブした始末。

 

間違いなく、この日一番の受付の元艦娘の大仕事は奇行に走った朝潮型をどう正気に戻す作業だった。

 

 

 

さて、では次元はどうしているのか。

 

正直、好き勝手やっていた。

とはいえ、仕事をしていないわけではない。

 

ルパンの指示した出撃・遠征部隊の世話を見ていたのである。

次元の専門は銃器と運転である。

 

潜水艦から装甲車まで運転すれば、対戦車ライフルやロケットランチャーまで取り扱う。

とはいえ、命を預ける相棒はコンバットマグナムだが。

 

艦娘も銃器、ではないが砲撃を専門とする。

その指導や管理を仕事とした。

 

そのついでではないが、実際の出撃や遠征の前後に顔を出す。

実際の出撃の際に気付いた点をいくつか聞いたりとした細かい仕事もやることにした。

 

その中で戦闘方法や砲撃のアドバイスもしたりもしていた。

一番本業に近いことをしていたのは次元であった。

 

「とはいえ、結構間が開くんだよな。いい機会だしな、相棒のご機嫌でも取っておくか、ね。」

 

出撃班をいつも通り見送ってから、ぶらりと鎮守府を散歩していた。

いつもは当てもなく煙草をくゆらせながら思案にくれたり、景色を眺めていたりとのどかな生活を送っていたが今日は違った。

 

今まで命を預けてきたコンバットマグナムの調子がイマイチだったのだ。

そこで龍田に相談したら、明石の工作室を紹介されたのだ。

 

「ちょっくらごめんよ…アンタが明石、だよな?」

「ええ、そうですよー。今度は何ですか?クーラーですかー?浄水器ですかー?」

「…なんだか、やさぐれてんなぁ…コイツの手入れと調整を頼みたくてな。

なぁに、道具さえ貸してもらえれば…」

 

椅子に力なく座って遠い目をしたピンク色の髪をした女性に話しかければ、薄い笑みを浮かべた。

何だか深入りしたらヤバいと思いつつも、手入れの専門道具が欲しかった次元は懐から使い古したコンバットマグナムを出した。

 

「ああ、銃の手入れですか……銃ッ!?」

「お、おう…コイツは長年の相棒で、ね。」

「貸してくださいッ!!」

 

手のひらに乗せて見せていた次元のマグナムを次元が反応できない間に奪い取る。

次元が目を見開き、慌てるが明石はマグナムを高く掲げたり角度を変えたりと返そうとしない。

 

「これ、塗装が剥げるまで使い込んでるっ!凄い!こんなになるまで大事に使われてる銃って見たことない!!」

「あ、ああ…長年の相棒だ…。」

 

明石の剣幕に次元も強く出られずにたじたじとなってしまう。

明石の先ほどまでのどんよりした雰囲気は一掃され、あからさまに目が輝いていた。

 

「で、で?どうしたんです?」

「シリンダーの回り具合とハンマーが若干重い。あと、弾を作りてぇんだよ。」

 

次元はマグナムを奪われながらも、明石の態度からして悪い事にはなるまいと素直に答えることにした。

銃好きに悪いヤツはいねぇ、などと言うつもりはないが、明石の雰囲気からして大丈夫だろうと思い、真面目な相談をしてみることにすると、明石は弾が入っていないことを確認したうえでハンマーを起こしてみた。

 

「…?そうですか?むしろこれくらいじゃないですかね?」

「いや、僅かに軋むような抵抗を感じるんだ。大よその推測はできてるけどな。」

 

次元のはっきりとした言葉に首を傾げるものの、信じることにしたのか何度も撃鉄を起こしては戻す。

 

「…んー、やっぱりよくわかりませんね…。でも、こういう撃鉄を起こす動作のいらないオートマチックの方がいいんじゃないですか?」

「ヘッ、俺はあんな下品な銃は嫌いでね。」

 

わかってねぇな、といつもの軽い猫背とともに帽子を軽く下ろす。

そのまま近くにあった椅子を引き寄せるとギシッと音を立てて座る。

 

「命のかかった瞬間にジャムったらどうする?それにな…長年連れ添った相手が一番だ。」

「あらら、ロマンチストですねー。」

「うるせぇ。そンで、できんのかい?できねぇってんなら自分でやるぜ。」

「んー一応解体掃除と、計測してみますね。歪みとか、なのかなぁ?」

 

まだわからないのか、明石は首を傾げながらも頷き返す。

次元も仮の答えが気に入ったのか、そのままさらに帽子を深くかぶって鼻先につばがつきそうなほど下ろす。

 

「終わったら起こしてくれや…あと、弾の製造の準備もしてな。」

「はーい。明石にお任せ下さい!」

 

そう言って、明石は作業台らしき机に向かった。

ちらりと帽子のつばの隙間からその背中を見送ると、そっと目を閉じた。

 

 

 

「…元さん!次元さん!起きてください!!」

「…んぉ…おう、できたかい?」

 

それなりに深く寝てしまったのか、揺り起こされてやっと次元が目を覚ましてあくびをする。

明石は依然として目を輝かせて次元を見つめていた。

 

「凄いですね!コンマミリ単位の削れによる歪みですよ!?」

「あん?…あぁ、やっぱり歪んでたか。」

 

大きく口をあけてあくびをしながらマグナムを受け取れば、ハンマーを起こして動作を確認する。

しかし、懐にしまった後にガンアクションを数度繰り返す。

 

「…グリップ、弄ったか?」

「気づきました?…少し削れ過ぎてるようだったのでグリップのパーツを新造した上で、癖の形になるように調整しておいたんですが…。」

 

怒られると思ったのか、少し首を竦めて恐る恐る上目遣いで次元を見る。

それを見て、次元は鍔を上げて目をのぞかせながらニヤリと笑った。

 

「…ほんの少し違和感が、な。しっくりきすぎて、よ。

…いい腕してんじゃねぇか。」

 

空いた左手で明石の髪をグシャグシャッと掻き回す。

髪が乱れたのも気にせず、明石は顔を綻ばせた。

 

「ほ、ほんとですか!?」

「おう、俺は銃を裏切らない。だから銃も裏切らねぇんだ。

銃に関して嘘なんかつくかよ…また相談しに来るぜ。」

 

ふと次元が腕時計を見てから、再度懐にマグナムを仕舞う。

 

「特殊弾を作りたかったが、タイムオーバーだ。今度来る時には準備は頼むぜ。」

「はいっ!徹甲弾ですね!準備しておきます!!」

 

喜色満面といった様子で力いっぱい言ってくる明石に片手を上げるだけで答えて工作室を後にした。

 

「ヘッ、変な女だ。…だが、腕は確かみてぇだな。」

 

通い慣れてきた発艦所へと歩きながら、懐に手を入れて数度グリップを握ってニヤリと次元は笑うのだった。




次元と明石の話をするつもりが、気が付いたら半分ほど五右衛門と朝潮型とルパンに盗まれた件。


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5.鳳翔は決意したようです。

ランキングを見てみたら、デイリー7位・ルーキー1位。
なにこれ、怖い。





「提督、お時間よろしいでしょうか?」

 

執務の合間にコーヒーを啜っていた執務室のルパンの下に鳳翔がやってきた。

何やら普段の穏やかな顔つきではなく、歴戦の航空母艦としての顔があった。

 

「あら~どったの、鳳翔ちゃん?そーんな怖い顔なんかしちゃってさ。」

「いえ、少々真剣なお話を。…艦娘ではありますが、前線を退かせていただきたくまいりました…。」

 

急と言えば急な鳳翔の言葉に執務室詰めの高雄型たちが目を見開く。

前鎮守府の時から一番に参戦した航空母艦であり、経歴もあって最高練度の一人である。

祥鳳・龍驤・飛鷹・隼鷹といった軽空母、そしてただ一人の正規空母赤城が追い付かんと日々の訓練を行っているところである。

 

「提督もご存知の通り、私の艦載機能力には限界があります。

機種は三種、加賀さんや赤城さんに比べれば半分程度しかありません。」

「そりゃそうだけんどね?だからといってそれだけじゃないでしょ。

次元が聞いたら撃った数じゃねぇって言っちゃうよ?」

 

少し渋い顔をしながらルパンが引き止めるが、鳳翔の意思は固いらしく静かに首を横に振った。

 

「かもしれません。しかし、決めたのです。」

 

その瞳を見たルパンは静かにため息をついた。

ルパンは鳳翔の澄んだ瞳の奥の決意を見た。

 

「そうかい…前の鎮守府の時からの功績を鑑みて、それ相応の退職金を準備するんで待ってくれや。」

「…いえ、ご心配は無用ですわ。完全に退役したい、というわけではないんです。

あくまで本格的な出撃メンバーから一歩退き、教導艦に準じた扱いにしていただきたいのです。」

 

それを聞いてホッとしたのか、ガクッとルパンが肩を下ろす。

ルパンとしてもいずれはその座を後進に譲るとはいえ、最高練度の一人がいなくなるのは辛いところだった。

 

「なんでぇ、ビックリさせねぇでくれよ、鳳翔ちゃん…。

じゃ、基本海域の出撃とかはナシで、普段は訓練を担当してもらう、ってことで。

それはそれで助かるわ、俺も次元も飛行機の運転は何とかなるけど、運用なんてのは専門外だからなぁ。」

「はい、大侵攻作戦などの時に手が足りないようでしたら、その時はお手伝いしますが…あくまで、いざという時、とお考えください。」

 

言外に鳳翔はその時もまだ自分の力が必要ならば、という意図が含まれていることはルパンもわかっていた。

頑なだねぇ、と苦笑しながら肩を竦めるが無理強いをするなどはルパンの美学に反するのでそのまま認めるようだ。

 

「退職金、と甘えるつもりはないのですが…。」

「ん~?」

 

 

 

 

「……大工艦じゃないんですけどねー。」

「そう言わないの、明石ちゃん。明石ちゃんの欲しがってたレンチセット買ったげるからさぁ。

ついでに俺のワルサーも弄っていいからさぁ。」

 

ルパンと鳳翔、明石、秘書艦として摩耶が妖精たちを引き連れて、鎮守府の傍に立っていた。

 

ルパン鎮守府の立地は波止場沿いの中心地に立っている。

その鎮守府には来客用の施設や執務室、ルパン達の部屋が入っている。

その隣には艦娘用の宿舎があり、その中に食堂などが詰まっている。

 

その宿舎の隣には元倉庫だった酒保、さらに隣には出撃用の発艦所(プレハブの待機場所含む)、装備用の倉庫とその中の明石の工作室。

 

その宿舎とは逆になる、鎮守府の隣に立っていた。

まだ空き地、ではない。

 

そこには間宮・伊良湖の『甘味処・間宮』が建っていた。

さらにその隣に全員で立っていた。

 

「それ、自分で手入れするのが面倒だからじゃないですかー?」

「そんなこたぁないよ~?なに、次元とは態度が違うじゃないのさ。」

 

唇を尖らせて明石を見るルパンだが、その目はやり取りを楽しんでるのは明白だった。

 

「…どーでもいいからちゃっちゃとやれよ。仕事は山積みなんだからよ…。」

 

摩耶の代名詞と言っても過言ではない悪態じみた激励も力ない。

噂に聞いた激務である執務室詰めでくたびれていた。

 

「へいへい、じゃあココに建てちゃえばいいよ。使う予定ないし。

細かいことは明石ちゃんと相談しちゃって。」

「本当にありがとうございます。」

「俺ァ何もしねぇさ。上手い事やって、鎮守府の経済を回しちゃってちょうだいな。

経費は退職金の前借の範疇で落としてあげっからさ。」

 

鳳翔は先ほどまでの真剣な顔を綻ばせてルパンに頭を下げる。

それをひらひらと手を振って流す。

 

鳳翔のもう一つの願いというのは、『小料理屋』をやりたいということだった。

実際、ルパンの下には嘆願書が届いていたのもあって許可を出したのだった。

 

その嘆願書は二つのグループに分かれる。

一つは隼鷹や那智をはじめとした飲兵衛グループである。

 

酒保にて様々な酒を安く、気軽に手に入れることが出来るようになった。

しかし、あくまで各自で買うしかない上に、つまみなども市販のものしか買えなかった。

艦娘に限らず、人間の欲は際限ない。

 

そこで出た要望は『いろんな酒を手ごろに飲めて、つまみの美味い店が欲しい』だった。

少々我儘にも思えなくはないが、ルパンも飲兵衛である。

その気持ちは十分にわかったし、調べてみればそれほど多いわけではないが、鳳翔が居酒屋や料亭を鎮守府内でやっていることもわかった。

あくまで艦娘のため、というよりは提督のためという趣ではあったが。

 

 

そしてもう一つのグループは、天龍と次元をはじめとした若手グループ。

間宮・伊良湖の運営する食堂の食事は美味い。

が、限度がある。

 

それは、食材の類は『海軍の支給品』ででしかない。

そして、海軍の中では艦娘は『兵器』でなければ、『一兵卒』という扱いである。

 

力のある存在に対しての警戒からか、人類社会の中でも、海軍(大本営)の中でも相応の数で反艦娘派も存在するのである。

その程度は違いはあれど、どうしても多数派になっている。

 

現在浦賀をはじめとした艦娘擁護派は中立、もしくは程度の軽い反艦娘派の取り込みを様々な取り組みの中で図っている。

 

 

閑話休題。

 

天龍・次元グループの主張は『成長期の艦娘には足りねぇ』だった。

 

酒保での売れ行きナンバーワンは、カップラーメン。

『一兵卒』である艦娘への食事は最低限であり、ルパンが食堂をのぞいた時は小食なのか、と言う程度だった。

成長期が艦娘にあるかどうかはさておき、限られた食材・調味料の中で間宮と伊良湖は頑張っていたものの、限界があった。

 

当然、その嘆願を受けてその改善もルパンは図ったが、嘆願の意味もわからなくはない。

いくら家の食事が美味かろうが、たまには違うものが食べたくなる。

そして、ふと食べたくなるものもある。

 

それを『ルパン札』で食べれるようにしてほしい、というのが天龍・次元グループの願いだった。

 

 

正直、鳳翔の願いは渡りに船だったわけで、明石に任務という事でやらせることにした。

冗談めかしてルパンは言っているものの、まだ支給はしていないものの明石の給与査定は鎮守府最高になっていたりもする。

 

「明石ちゃん、応援はいるかい?」

「そうですね…妖精さん達もですが…うーん…。

夕張ちゃんと北上さんをお願いしてもいいですか?」

「北上!?…あぁ、そういえばアイツも工作艦経験あったっけ。」

 

摩耶がギョッとした様子で驚くものの、すぐに思い出したらしく納得した。

しかし、困った顔をするのはルパンだった。

 

「北上ちゃんはなぁ…悪いけど、北上ちゃんはダメだ。育成を優先したいからね。

…代わりに、五右衛門つけるわ。

アイツなら斬鉄剣でデヤァァーッ!って木材でも鉄でも斬ってくれるからさ。」

「建てた建物斬られたくないんですけど。」

「流石に斬らねぇだろ…。」

 

明石のあんまりな言葉にひきつった笑みを摩耶が浮かべる。

それを笑いながらルパンは鎮守府へと向かう。

 

「んじゃ、メンバーの選出と査定をよろしくなー。」

 

 

 

 

 

 

 

「何故、拙者がかような事を…。」

 

数日後、五右衛門が現場で木材を抱えていた。

それに続くのは第六駆逐隊の4人。

 

「お仕事なのです。仕方ないのです。」

「…無常だ…。」

 

五右衛門が抱えた柱とも言える木材と同じ大きさの木材を第六駆逐隊の全員が抱えていた。

先日電の言っていた艦娘の力は確かだった。

 

ルパンの手配した建材と鋼材、そして調理器具を五右衛門と第六駆逐隊が現場に運んでいた。

 

 

「この木材で、最後だ。これで全てだな?」

 

数多くの木材や鉄鋼を建築予定の現場に山のように積む。

 

「ええ、ありがとうございます。ひとまずご休憩を。」

「む、かたじけない。」

「鳳翔さんありがとう!」

 

冬とはいえ、重い木材などを運んだ五右衛門たちは汗をかいていた。

そこに鳳翔がお礼とほどよい熱さのお茶を水筒から注ぐとともに、竹皮に包まれたおにぎりを差し出した。

 

「で、これからどうするのだ?まだ土台すらない状態では野ざらしにするしかあるまい。」

「ええ、そこは妖精さんのお仕事ですよ。」

 

明石は五右衛門の疑問に楽しそうに笑って、足元の妖精さんたちを指さす。

その先頭には鉢巻きに法被、さらに手にはドリルらしきものを持った妖精さんが立っていた。

 

「本来はダメコン、轟沈防止装備の妖精さんなんですけどね。見ての通り、大工仕事も得意な妖精さんなんですよ。」

「…得意、とはいっても…。」

 

鳳翔のおにぎりに一口かじりついた五右衛門が応急修理女神を見下ろす。

応急修理女神は『任せろ』と言わんばかりに腕組みをしたまま頷き返す。

頷かれても五右衛門には信用が出来そうにない。

 

どう見ても体長10~20cm程度しかない身体であり、自分が運んだ木材を担ぐことも出来そうにない。

どうやって建てるのだと困惑しきりで見ていると、応急修理女神が建築予定現場へと向く。

 

『…jjgakeiuhanhaijxaij!』

 

応急修理女神の口が開くと、何語ともつかない音を放つ。

すると、現場と建材が輝きだし、数十秒経てばそこには立派な小料理屋が建っていた。

 

「な、なんと…!!」

「ハラショー。流石女神様だ。」

 

五右衛門の隣でおにぎりを食べながらそれを眺めていた響がさほど動揺せずにそうとだけ呟くのを見て、当たり前のことなのかと困惑する。

そして、片手に持っていたおにぎりの残りを口に運び、噛みしめる。

 

ほんの少し塩味が強いが、汗をかいた身にはありがたかった。

そしてその中にほんのり甘い昆布の佃煮。

 

「まことに、美味。鳳翔殿、営業を開始した暁には寄らせていただく。」

「あら、ありがとうございます。」

 

五右衛門の言葉ににこやかに会釈で返す鳳翔。

それに反応したのが暁だった。

 

「五右衛門さん、なぁに?……ッ!ほら、ぼんやりしてないで最後の仕事よ!」

 

会話の合間の暁という単語に反応してしまったが、勘違いとわかると顔を真っ赤にして促す。

その手には残った運び込む予定だった調理器具の入った箱があった。

 

それを見て五右衛門は業務用の大型のコンロの入った箱を手に持つのだった。

 

 

 

あくまでも妖精が作れるのは建物が限界だったようで、夕張と明石は入ってからガスや電気の開通作業に入った。

それに応じて第六駆逐隊と五右衛門が機材を運び込んだりして、朝から始まった作業は夕方になってやっと完了した。

 

そしてその夜は明石・夕張・五右衛門・第六駆逐隊の7人で豪勢な食事と舌鼓を打ったのだった。

全員の顔には満足そうな笑顔。

 

「ふん、ルパンもたまにはマシな仕事を回すものだ。」

 

鳳翔の出汁巻き卵を肴に、日本酒を口に運びながらの五右衛門の呟きを紡いだ口の端はわずかに吊り上がっていた。

それを見て、鳳翔はクスクス笑いながら新しい熱燗をテーブルに置くのだった。

 

「あらあら、男同士の友情っていいものですね。」

「フン…ただの腐れ縁でござる。」

 

それを見た面々は笑いながら食事と酒に興ずるのであった。




「トワイライト・ジェミニ」最高です。

「月と太陽のめぐり」は久川綾だけあって、めっちゃ沁みる。
あと、最後の「ベイビーって呼んでくれよ。」が何とも言えないですね。


というわけで、皆様よいお年を。


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6.龍田は近づくようです。

何だか、知らないところで評価が上がっていってここ数日が本当にメダマドコー状態。

今日のメイン艦は龍田ちゃんです。



全然関係ない話ですが『提督○も忙しいX』が先日より使えなくなった(動作が停止する)のですが、同じ症状の方いらっしゃいます?


先日の鳳翔の小料理屋の件でルパンの第一歩は完成した、とルパンは思っている。

 

人間の基本としてまずは『衣・食・住』を考えた。

 

「倉廩実ちて、則ち礼節を知り、衣食足りて、則ち栄辱を知る」

(穀物庫が満たされてはじめて礼節を知り、衣食が足りて自尊心を得る)

 

これに尽きると思っている。

 

むしろ、ルパンからすれば今までの艦娘の環境で国のために従事し続けた艦娘の気高さに軽く感動すら覚えるとともに、自分のありようとシンパシーを感じたのだった。

別にルパンは人権がどうだとか大層な御高説を掲げる気はない。

 

誇り高き勇者には栄誉を。

下種な小悪党には報いを。

これに尽きる。

 

艦娘は間違いなく国のために命を懸けて戦う勇者だ。

なら、その勇者には相応の生活をしてもらわなくてはならない。

 

その第一歩が『酒保計画』だった。

 

大量仕入れなどによって実際はそこまではいかないものの、ルパン札で艦娘全員が大まかに言って大卒の初任給程度の収入を持たせることになった。

こんなもので足りるとは思ってはいないが、まだこの鎮守府は南西諸島海域が途中までで手が止まっている。

 

「んま、焦ったってしゃーねぇやなぁ。焦る乞食はなんとやら、だ。」

「あらぁ~何を焦るのかしら~?」

 

深夜の私室のベッドで煙草を咥えて一人ニヤリと笑っていたルパンに声がかかる。

電気すらも消し、外の明かりが僅かに入った部屋でルパンは声のしたドアの方を向く。

廊下の明かりをバックにした龍田が立っていた。

 

「あ~ら、龍田ちゃん!こーんな夜更けにどったの?もしかして愛の告白かしら?」

 

いつものタンクトップの肌着に青と白のストライプのトランクスのまま龍田の方を向けば、目をハートマークにして言う。

にこりと穏やかな微笑を浮かべたまま龍田がそっと扉を閉じてからルパンのいる奥のベッドへ歩いていく。

 

外の明かりが次第に一歩進むごとに龍田の白い足首から太ももへと照らしていく。

明かりが全身を映すベッドサイドに立つと、そのまま腰を下ろした。

 

「それも面白いんだけど~?ちょ~っと、違うかなぁ~?」

「違わない、違わない!上司と部下で仲良くなれるし、いいんじゃないかなぁ~?

ほ~ら、こうしっぽりと~なんてね?」

 

ルパンが手を組み合わせて唇を突き出して顔を突き出せば、すいっと上半身を反らして龍田は避ける。

 

「お触りは禁止されています~。…そうやって、何を狙ってるのかしら~?」

 

すっと長刀型の艤装をルパンの眼前に差し出して、笑顔から一瞬で真顔になればその目はスッと細められる。

先ほどとは逆にルパンは龍田から逃れるように背を後ろにそらす。

 

「あらら~…そんな怖いもの可愛い子が出しちゃダメよ~?そんなものはナイナイしちゃいましょーねー?」

「誤魔化さないで欲しいわねー。…この鎮守府を通して貴方は何をする気?私たちをどうする気かしら?」

 

ルパンは長刀を指先で退けようとするが、龍田は刃を指に向けてそれを退ける。

おどけるルパンは降参とばかりに手を挙げて、逆らおうとせず、咥えていた煙草を灰皿に揉み消す。

 

「さぁーて、何のことだか。提督さんっていうお仕事を真~面目にやってるだけだぜぇ?」

「その真面目にやってる理由を聞いてるのよ…貴方は泥棒。何かを盗むために生きている…私たちが深海棲艦と戦うために生きているように。」

 

答えによっては斬る、と五右衛門のような光を目の奥に僅かに輝かせながら言う。

それを見たルパンは真顔に一瞬だけなった後、腹を抱え、脚をベッドの上でバタつかせて笑う。

 

「ンニィヒヒヒヒヒヒ!!!龍田ちゃんはあったま、いいねー!!

けど、お前さんは『泥棒』のことはわかっていても、『天下の大泥棒』・『怪盗アルセーヌルパンの孫』をわかっちゃいねぇ!!」

 

それは嘲笑ではない。

ただ単純に楽しくてたまらないといった笑いだった。

 

「ど…どういうことなの~?」

「俺がお前らを騙して何が楽しい?お前らから何を盗もうってんだ?」

 

ピタリと笑いと止めたルパンがギラリと鋭い視線で龍田を射抜く。

その百戦錬磨、いや万戦錬磨のルパンの眼光は龍田を怖気づかせるには十分すぎた。

 

武器を持っているはずの、身体能力で勝るはずの、艦娘龍田がベッドの上で僅かながら後退りしてしまった。

 

「俺ァな、『お宝』しか盗まねぇ…。

それが世間でたった25セントのモノでも、百万ドルのモノでも、俺が認めた『お宝』しか盗まねぇんだ。」

「…ッ…。」

「お前らはそんな『お宝』を持ってんのかい?」

 

龍田はルパンの質問には答えられなかった。

龍田も世間一般や多くの提督からの視線の冷たさは知っている。

 

人外のバケモノなのだ。

使い捨ての兵器なのだ。

 

ルパンが狙うような財宝などは思いつかない。

せいぜい艤装を纏えることや、身体能力程度だがそんなものにルパンが興味を持つわけがない。

 

「…なら…なんで?私たちで、遊んでるの?」

「『遊んでる』、イイ線まできたが…惜しいねぇ。」

 

再び龍田の目に怒りの炎が巻き起こる。

この男も前の提督と同じなのか。

 

面白半分に我々を扱い、そして飽きたら捨てるのか。

 

胸に黒い炎が巻き起こる。

 

「普段の貼りついた笑顔より、よ~っぽどいい顔してんじゃねぇか。」

「絶対に、許さないッ!」

 

龍田が手に持っていた長刀を大上段に振りかざし、ルパンの脳天に振り下ろす。

 

 

 

それよりも先に、ルパンが枕の下に隠しておいたワルサーP38を抜いて、龍田の額に突きつける方が先だった。

 

「おいおい、早合点すんじゃねぇよ。さっきも言ったじゃねぇか、俺は『泥棒』だって。

詐欺師とかと一緒にすんじゃねぇ、俺は盗んでナンボなんだよ。」

「ッ……食えない男ね~?なら、私たちから何を盗むのかしら?」

 

龍田は死は恐れない。

しかし、この状況でなら龍田の身体能力をしてもこのルパン三世を殺しきれる自信は持てなかった。

 

龍田は何よりも、天龍の、そして仲間の艦娘への悪影響を恐れる。

殺しきれなかったら、このルパン三世に仲間たちに何をされるか。

また艦娘擁護派の浦賀に艦娘が同窓生のルパン三世を殺したと発覚したらどうなるか。

 

その考えが龍田の長刀を、噂に聞く長門型よりも大和型よりも強い力で止めていた。

 

自分が人知れずにルパン一味を殺せれば問題はなかった。

そっと一部の同士と一緒に海に沈めればいい。

そうすれば深海棲艦が掃除してくれる。

 

しかし、銃を撃たれて銃声が響いた時点でもう詰む。

 

 

必死の思いで言葉を紡いだものの、龍田はこれからを考えれば身体の震えを抑えるので精一杯だった。

 

「ハッ、決まってンじゃねぇか。…お前さん達や妖精達の血肉の上で踏ん反り返ってる大バカヤロウどもの『お宝』を盗むのさ。」

「………どういう…こと?」

「調べてみりゃ軍隊の中でそれなりに悪さして貯め込んでるが、せいぜい小金程度さ。

じゃ、アイツらが一番大事なのはなんだ?」

 

もう長刀を構えていられなくなり、床に龍田は長刀を落とす。

しかし、龍田の頭脳はフル回転していた。

 

悪徳提督の大事なもの。

 

「…地位?」

「悪くねぇ答えだが、80点だな。アイツらが小金を貯めれて、踏ん反り返れるのは何故だ?」

「…提督、だから?」

「そう、ならその提督でいられるのは、何故?」

 

脱力して、若干呆然としながらルパンを見つめていた。

ルパンはまた新しい煙草に火をつけ、怪盗らしいギラギラとした目で龍田を見つめた。

 

龍田の脳裏に、回答が導き出された。

 

「艦、娘…鎮守府?」

「だ~いせ~いか~い。俺は、それらとの結びつきを全部ぶった切って、世の中の【クソ提督】どもを丸裸にしてやりたいのさ。」

 

そして、ルパンは普段の調子に戻って笑いながら手を大きく広げた。

まるで奇術師のように。

 

「本当、に…私たちを…助けてくれる、の?」

「そんな上等なこたぁ考えちゃいねぇさ。

ただな、当然のように踏ん反り返った大バカヤロウどもの慌てふためく姿、面白そうじゃねぇか。

もーしかしたら、結果として助かっちゃうかもしんねぇけど、俺ァ知らねぇよ?

…だからよ、龍田ちゃん…泣くんじゃないよ。」

 

龍田の茫然とした呟きに肩を竦めては、将来図を想像してルパンは笑う。

それは純粋で、また悪どく、また楽しそうだった。

最後に、ふと優しい笑顔になると龍田の頬を緩く握った手で拭う。

 

その手は、軽く濡れていた。

 

「助…けて…下さい、皆を…。」

「ちぃと龍田ちゃんは頭が良すぎたんだな。皆が見えずに、または仕方ないと思って見過ごしてることが見えちまった。」

 

ルパンは穏やかな、優しい口調でそう言って俯いて髪と影で見えなくなった龍田の顔を肩に抱いた。

 

「なぁに、悪ィようにはしねぇさ。……知ってるかい?」

 

大言壮語は吐かず、ただ頭を撫でてなだめた。

静かにふと窓の外を見れば、綺麗な月明かりが見えてふと優しくルパンは笑って言った。

その問いかけに涙で濡れた龍田はルパンを見上げる。

 

ルパンはそっと龍田から離れると、ベッドの上で立ち上がり、オーバーに手を広げた。

ルパンの背後には月明かりが煌々と照っていた。

その逆光の中でルパンはまるで舞台俳優のように、または道化師のように言う。

 

「金庫に閉じ込められた宝石たちを盗み出し、無理矢理兵器として使われようとしている女の子は自由の海に放してあげる。

コレ、みーんな泥棒の仕事なんです。」

「……バカ、よ…そんなわけ、ない。」

 

龍田にかける言葉に涙がまた一滴頬を伝う。

そんな泥棒なんて聞いたことがない、と龍田が口にすれば、ルパンはやはりオーバーアクションに嘆く。

 

「あぁ、なんてことだ…!その女の子は悪い軍人の力は信じるのに、泥棒の言葉を信じようとはしなかった…!

少女が信じるなら、泥棒は空を飛ぶことだって、海の水を飲み干すことだって出来るのに!!」

 

大げさすぎるほどの嘆きの後に、ルパンは右拳を強く握りしめて力みながらゆっくり龍田に差し出す。

 

「ンムムムッ………ッ!」

 

その拳から小さな、小さな薔薇の花がポンッと出て龍田に差し出される。

 

「今は、これが精いっぱい。」

 

そして、花と茎の間から万国旗が出て、ルパンがスルスルっと広げていく。

 

「プッ……なぁに、それ…クサいし、ただの手品じゃない。」

「そうさ、今はただの手品。手品も規模がデカくなりゃ、魔法なのさ。

なぁに、泥棒を信じなさいって。」

 

大きく口を横に広げてルパンが無邪気に笑う。

 

「あらら~…そんな恰好じゃなきゃ、カッコよかったんだろうなぁ~?」

「ありゃ?……これじゃカッコつかねぇなぁ?デヒャヒャヒャ!!」

 

薔薇を持った手とは反対の手で涙を拭いながら、龍田がルパンの肌着にトランクス姿を指摘すれば、ルパンもおかしくてたまらないとばかりに笑う。

 

「いいわ~今は信用してあげるし、手伝ってあげるわ~。ただ、裏切ったら…」

「皆まで言うない。その辺は自分たちの目で判断してくれ。」

 

少し深呼吸して落ち着いたのか、立ち上がってニコリと笑って言う。

ルパンもたったこれだけの出来事で心から信頼される、などとはわかってるのか、ベッドに寝転ぶと新たに火をつけてバイバイとばかりに手を振った。

 

その回答に満足したのか、龍田はルパンの部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「というわけで~私も出撃要員から一歩退いて、執務室詰めと遠征専門でやっていくんでよろしくね~?」

「…そりゃまぁ、龍田ちゃんみたいに頭の切れる子が補佐してくれりゃありがたいけどよぉ…。」

 

朝一番で執務室に来た龍田は他の艦娘及びルパンにそう宣言した。

これって監視なのかねーとも思いながらも、その提案を受け入れることにはした。

 

実際ルパンによる様々な布石の折衝は厄介な案件も多く、艦娘に向き不向きはある。

これからの龍田の成長次第ではあるが、任せれそうなメンバーが固定できそうなことは歓迎したい。

これからは一層難航しそうな折衝は増える一方だし、浦賀に丸投げし過ぎるのも問題だ。

さらには、全部ルパンが折衝してたらさすがのルパンも時間が足りなすぎる。

 

「あらら~?昨夜、私にあんなことまでしておいて、知らんぷりは酷いんじゃない~?」

「ちょちょちょちょっと、龍田ちゃぁんっ!?」

 

龍田の爆弾発言にこの日の執務室詰めの艦娘とルパンが大きく反応する。

特に、ワレアオバが。

 

ぐったりと執務机に倒れ伏して、ルパンが龍田を見上げる。

 

「うふふふ~じゃ、よろしくね~?あ、私用の机も準備してくれたら嬉しいなぁ~?」

「も、好きにして…。」

 

 

こうして龍田の執務室詰め専属化が決まったのだった。

とはいえ、必要があれば遠征にも行くし、ストレス発散に近海程度なら出撃もするという龍田の気分次第、という自由な身分ではあったが。

 

 

 

 

 

 

「あん?龍田、こんなの持ってなかったよな?」

 

遠征が終わって龍田より先に天龍型の部屋に戻った際に、不意に龍田の机の上に質素な花瓶にさされた一輪の薔薇が目についた。

しかし、よく見てみれば普通の花や造花ではないのか、表面を何かでコーティングされている。

何気なく手を伸ばした瞬間。

 

「…酒保でもこんなの見た事…ヒッ!?」

「天龍ちゃーん?いくら天龍ちゃんでも私物は触っちゃ、ダメよー?」

 

いつの間にか帰ってきた龍田が天龍の背中に長刀を突き付けていた。

 

「こ、こういう趣味もいいんじゃねぇか?花は、ほら、心を穏やかにしてくれるらしい、ぜ?」

 

そっと、ひきつった笑みを浮かべながらだが、天龍は薔薇に手を引っ込めると背中に感じていた長刀の感触が離れた。

 

「そうね~ただ、他の花は当分いいわね~?」

「そ、そっか…大事にしなきゃな。」

「そのために妖精さんにコーティングしてもらったんだけどねー。」

 

天龍が花瓶から離れたのを確認したのか、すっと天龍から龍田は離れた。

そのまま鼻歌交じりで龍田の制服を脱いで、私服へと着替えに行ったようだ。

 

天龍には龍田がこの変哲もない、コーティングされた薔薇に何故固執したのかわからず、ただ首を傾げた。

それと同時に、コレに極力触れないように、傷つけないように気をつけることにしたのだった。




あ…ありのまま、今起こったことを離すぜ!

いきなりルパン達を全員が信用するとは思っておらず、誰が一番反発しそうかなーと思った結果、龍田がヒロインになっていた。
何を言っているかわからねーと思うが(ry


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EX1.ルパン鎮守府のお正月

折角の正月なので、正月ネタを挟んでみました。

あと、九州の片田舎在住で冬コミに行けないのでメロ○で「IRON ATTA○K」様と「交響アクティブ○ーツ」様の新譜を購入しました。(通販)

はよ!!はよ!!!!!!


さて。

 

ルパンが鎮守府にやってきてから数週間も経った。

 

「というわけで~、大本営は最低限の人間を残して年末休暇に入るみたいね~。」

「気楽なもんだな…艦娘は出撃してんのに、軍人様は炬燵でお屠蘇かい。」

 

ルパンへの報告をたまたま居合わせた次元が鼻で笑って嫌味を言う。

 

いつものデスクに脚を上げるスタイルではなく、デスクに肘をついてコーヒーを手にしていた。

今日の執務室詰めに雷がいる。

普段なら脚をデスクに置いて椅子にもたれかかるのだが、何度も注意されてから雷の前ではやらなくなった。

さすがのガンマンも、小学生とも見える雷に「しょうがないダメな大人」といった様子で叱られ、世話を焼かれては耐えれなくなったらしい。

 

なお、次元の隣には明石印の空気清浄機が二つ置かれている。

完全に雷の仕業だった。

 

「まぁそう言うない。お役所仕事だから休暇も取らせないと大変なんじゃねぇの?」

「海軍も労基署が怖いってか?…怖いから、俺寝る。」

 

ルパンの苦笑交じりの言葉に次元は肩を竦めてブラックコーヒーを飲み干してから帽子を深く下ろす。

しかし、そんなことを彼女は許さなかった。

 

「ダメよ、次元さん!ちゃんと報告書書かなきゃダメじゃない!」

 

お盆を片手にやってきた雷だった。

素早く近づくと、帽子を取り上げようと手を伸ばし、それに気付いた次元が慌てて飛び起きる。

 

「なっ!?コイツはダメだ!」

「室内で帽子なんて良くないわ!私が綺麗にしてあげるから貸しなさい!!」

「止めろっ、ラベンダーの匂いはもうこりごりだっ!」

「煙草臭い帽子なんかかぶってたら、髪の毛まで煙草臭くなっちゃじゃない!私に任せていいのよ?」

 

先日寝ている隙に帽子を次元が奪われたことがあった。

日中に鳳翔にしごかれた空母達と飲み会を開いた際に、飲まされ過ぎてフラフラになった際に雷が盗んだのだ。

流石は昔の豪傑揃いの艦長達と生死を共にした艦娘たちである。

ウワバミ揃いだった。

 

そして翌朝、目を覚ました次元の枕元に帽子は返されていたのだが。

きっちりとアイロンがかけられ、洗剤の匂いなのか、それともコロンをふったのか。

次元の帽子からは爽やか、かつ、華やかなラベンダーの香りが漂うことになった。

 

それから匂いが落ちるまでの数日間、次元は銃を撃つとき以外は帽子は手に持つだけとなったのだった。

当然次元も雷の善意からの行動であることはわかっているので、消臭剤などをふるということは出来なかった。

 

「わかった!わかったから!仕事するから、帽子は許してくれっ!!」

「わかればいいのよ!」

 

椅子で身体を傾けて雷の手から逃れようとした次元は悲鳴を上げる。

それを見て、ふんすと鼻息を吐くようにドヤ顔で胸を張る雷。

どこからどう見てもダメな父親と娘の図に執務室詰めの艦娘達もルパンも笑いをこらえきれない。

 

空になったカップを下げて、雷が給湯室に行こうとしたルパンが呼びかける。

 

「次元ちゃん、尻に敷かれちゃってまぁ…。…あ、雷ちゃ~ん、俺にも」

「わかったわ~。」

 

先ほど報告を終えた龍田はルパンの隣のデスクに戻っていたが、ルパンが雷にコーヒーを頼む前に立ち上がっていた。

 

「いやいや、毎回毎回龍田ちゃんにお願いするのも何だし、次元のついででいいんだよ?」

「ええ、だから私も飲みたくなったから、私のついでなのよ~?それとも私がわざわざ提督のために手間をかけると思った~?」

 

ルパンが少しひきつった笑みのまま龍田印のコーヒーを辞退しようとするが、それに小さく首をかしげつつもいい笑顔で言う。

そこまで言われたらルパンももう断れない。

 

「ア、ハイ…ヨロシクオネガイシマス。」

「しょうがないわね~私のついでだもんね~。」

 

そう言いつつも、少し弾んだ足取りで龍田も給湯室へと向かった。

 

とはいえ。

先日の執務室詰め専属(仮)宣言の後、室内を見渡せる一番奥の壁際のルパンの執務机のすぐ隣に並んで机を置いた龍田が。

毎回毎回ルパンがコーヒーを飲みたいと言おうとすると、『偶然』龍田も飲みたくなって。

さらには妖精さん印の本格的なエスプレッソマシンを給湯室に置いた。

 

もうバレバレである。

 

「ヘッ、ざまぁねぇな。お前も人の事言えねぇじゃねぇか。」

「うるへー。…ま、龍田ちゃんのコーヒー、美味いからいいんだけっどもな。」

 

次元の仕返しに唇を尖らせてルパンはまた書類へ視線を戻した。

 

 

そして。

ルパンの手には赤いマグカップに入ったカフェ・マキアート。

隣の席の龍田の手には『偶然』飲みたくなった、カフェ・モカが青いマグカップに入っていた。

 

ルパンのもともと使っていた無地のマグカップ(酒保で適当に購入した)と全く同型の色違いなのは『偶然』が重なった結果であり、他意はない。

重ねて言うが…他意はない、いいね?

 

「まぁ、お正月だしねぇ。ウチも完全休業にしちまうかね?」

「それはどうかしら~?一部の艦娘からは怒られちゃうわよ~?」

「相変わらず、仕事熱心だねぇ…。なら夕方で仕事切り上げちゃどうだ。

年末に向けて少しずつ仕事減らして、夜は完全休業ってので。」

 

ゆっくりとルパンはコーヒー、カフェ・マキアートを飲みながら頷く。

 

「妥当な線だな。じゃ、龍田ちゃん、お仕事大好きなメンバー優先でシフト組んじゃって?」

「は~い、了解~。…ついでに忘年会もやらない~?」

 

唐突な言葉にルパンは少し驚きつつ、龍田を見る。

 

「忘年会?」

「理由は何でもいいのよ~?ただ、提督はたまに食堂に行ったり、散歩程度にブラつくだけであまり艦娘たちと話したりしてないじゃない~?

それって、あまりいいことだと思わないのよ~。」

 

少し小首を傾げながら、龍田は軽く考える素振りを見せながら言葉を続ける。

 

「提督がトップだって、皆わかってるわ~。今の生活があるのは提督のおかげだってことも。

でも、殆ど話したことない人を信用するのは難しいわ~。」

「道理だな。そこで忘年会で色々な艦娘達と話す機会を作ろう、ってわけか。」

 

龍田の説明に納得して、次元が頷く。

 

「そういうこと~。…どうかしら~?」

「いいじゃねぇか、ルパン。実際出撃したがるメンバーは執務室詰めにはなりたがらねぇ。

だからそういう連中はお前がどんなヤツなのか知らねぇからな。」

「そうね~訓練とかで次元さんや五右エ門さんの方がそういう子たちは親しいものね~。」

 

渋い顔つきになったルパンが外を見れば、海に面した窓は晴れた海を映す。

その先には小さい点だが、出撃から帰ってきた艦隊が見えた。

 

「普通の鎮守府じゃ旗艦が報告に提督の下に報告する事が多いけど、分業で次元さんがやってるものね~。」

「とはいえ、あれもこれも俺がやるのもなぁ…。」

 

言い訳じみた言葉に苦笑を龍田がする。

実際ルパンの処理をする仕事を間近で見続けているからこそわかるが、その量も質も尋常ではないのが確かだ。

 

だからこそ、次元も五右エ門も渋々ながら手伝っている。

 

「ま、いいや。それじゃ、間宮ちゃん達と、鳳翔ちゃんに相談して、晩飯と合わせてやる感じでいいかねぇ。」

「あ、ちょっと待ってくれ、提督!せっかくだから、鍋やろうぜ、鍋!」

 

そこに意見を挟んだのが、摩耶だった。

どちらかというと出撃が好きな方の艦娘ではあるが、執務室詰めも嫌がらない。

 

いや、口では嫌がるものの、何だかんだで「仕方ねぇなぁ!!アタシ達が手伝ってやんなきゃ、いつまでも仕事終わらねぇだろ!」と。

急な提案に三人で摩耶を見る。

 

「な、なんだよ…。ほら、やっぱ皆で同じものを鍋から取って食べりゃ、仲間って感じがするじゃねぇか。

だから、食堂で何個も鍋を並べて、いろんな味とか準備してさ。」

「摩耶ちゃんナーイスアイデア。だが、それだけじゃ面白くねぇなぁ。」

 

三人だけでなく、他の執務室詰めの艦娘からも注目を集めた摩耶が気恥ずかしそうに話すのを聞いて全員が納得するが、ルパンはニヤリと笑うのであった。

 

 

 

年の瀬も迫った翌日の昼。

 

「すまねぇな、アタシのせいで…。」

「…これもまた、修行……なのか?」

「さぁ?でもこういう自分たちで作るって楽しいわよ~?」

 

摩耶が木の板を腹の前に抱えてすまなそうに言う。

その板の上には煉瓦が積まれていた。

並んで歩いている五右エ門、愛宕の手の上にも煉瓦の乗った板があった。

 

その近くには龍驤や非番の艦娘達が量の差異はあっても煉瓦を運んでいた。

全員の顔には笑顔があった。

 

それだけでは面白くない、と提案したのがルパン。

 

「どうせやるなら、でっかくいこうじゃねぇの!」

 

そして龍田を通じて、妖精さんに依頼したのが…。

『耐熱煉瓦』と鎮守府の鋼材を使っての『大鍋』だった。

 

とはいえ、鎮守府で扱う鋼材の1にも満たない。

元々数千tの船の修理に使うための鋼材である。

1とはいえ、相当の量になるのである。

 

その鍋を3つほど、駆逐艦の姉妹たちが数人がかりで運ぶサイズである。

高さは成人の腰より少し上くらい、駆逐艦の艦娘が中で正座すればちょうどいい風呂になるくらいである。

重さはそうでもないが、大きさの関係で数人で運んでいた。

 

完全にどこぞの村や島の風景である。

具体的には某5人組が出てきておかしくない。

 

 

そして運んだ先には夕張・明石がヘルメットをかぶって指示していた。

鎮守府裏手の空き地と、小料理屋・鳳翔の裏手である。

 

どうせやるなら大鍋で、一回だけではもったいないので竈も作っちゃおう!というノリである。

それを聞いた鳳翔・間宮・伊良湖がそれぞれの店のために窯が欲しい!と凄まじい熱意で言ってきたのだ。

 

その熱意に圧されたルパンが承諾。

 

間宮と鳳翔の漏らした「本格的な窯があれば、本格的なピッツァにも挑戦できるんですが…」という言葉に負けたわけではない、断じて。

 

そこで言い出しっぺの法則で摩耶が指揮を取らされた。

しかし、作る窯は二つ、竈は三つ。

 

どう考えても大晦日のタイムリミットには間に合いそうにない。

頭を抱えていたところに助けの手を差し伸べたのが愛宕たち姉妹。

 

しかし、作業を始めたところ、それを見つけたのは夕立だった。

 

「なんだか楽しそうな事やってるっぽい!!」

 

これでどんどん手の空いている艦娘たちが参加し始めたのだ。

 

それを受けて、本当は妖精に作ってもらうはずが、全員で作り上げることにした。

 

皆で煉瓦を運び、夕張・明石で地面を均し。

煉瓦を詰み、セメントを塗る。

 

皆、汗で濡れ、顔や手をセメントで汚しても笑っていた。

 

 

「…こういうものも、いいものだな。」

「そうでござるな。」

 

それを眺めて男たち三人が並んで眺めていた。

 

「あの子たちはある程度成長して生まれてくるらしいけどよ…ホント言えば学校とかでこんな風に笑ってバカやっていいんじゃねぇかな。」

 

口には煙草が咥えられ、手はポケットに突っ込まれている。

 

「ま、そりゃそうだ。俺らはこの年になってバカやってるけどな。」

「拙者ばかり、肉体労働なのは何故だ…。」

「だって、お前事務仕事、得意?」

「お前、砲撃得意?」

 

同じく煙草を咥えた次元がポケットに手を突っ込んだまま軽く唇を歪ませて笑う。

しかし、不満そうなのは五右エ門だったが、それに対して二人が笑いながらツッコミを入れれば、五右衛門も黙るしかない。

 

「こらー!このクソ提督!!煙草のポイ捨て禁止だって言ってんでしょうがー!」

「次元さんも!ちゃんと灰皿の所で吸いなさーい!!」

 

それを見つけた曙が怒ってますと言わんばかりに両手を握れば、万歳のように両手を上げて三人の方へ走ってくる。

それに気付いたのか、電も同じように手を挙げて走ってくる。

 

「「ちゃ、ちゃんと持ってまーす!!」」

 

慌ててポケットから二人が手を出せば、手には金属の携帯灰皿が握られていた。

 

「フン、何という様だ。」

 

その絞られてるのを見てニヤリと五右エ門が笑うが、そこに満潮が走ってきた。

 

「五右エ門さんもサボってないで手伝って下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

大晦日、日も暮れた夜。

 

「ま、一か月程度だったけど、皆お疲れさん。

今日は食い放題飲み放題なんで、好きに楽しんでくれ。」

 

そう長机とストーブが並ぶテントに向かってルパンがグラスを掲げる。

その長机にはジュースのペットボトルが並んでいた。

 

その背後には皆で作った窯があり、そこに据えられた鍋は鳳翔や間宮、そして様々な艦娘が手伝った鍋だ。

中の具材は艦娘が網を引いて取った魚もつみれなどで使われていた。

 

「来年もよろしくな。飲み過ぎ、食い過ぎねぇ程度に楽しむこった!

じゃ、乾杯!!」

「「「「「「「かんぱーーーーい!!!」」」」」」」

 

こうしてこの年最後の宴が始まった。

 

ルパンも次元も五右衛門も、様々な艦娘がやって来ては話していった。

この一か月の礼もあれば、今後の運営に対する質問もあった。

まぁ、酔っぱらいの絡み酒もあったが。

 

いずれにせよルパン達への期待は窺い知れたし、様々な話もできた。

これはルパン達にも貴重な時間だったし、艦娘達もルパンをはじめとした三人の人となりを知ることが出来た。

 

 

鎮守府の一年はこうして終わり、新しい一年が始まったのだった。




女神ア○ゲスは絶対に許さない。(何

宴会開始からが指が止まりました。
多人数のシーン、書きづらいなぁ…。


UA数・お気に入り数に固執するつもりはありませんが、感想・評価は参考にしつつも楽しませていただいております。
これからもより良い作品にする励みにさせていただきますので、よろしくお願いいたします。


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7.ルパン鎮守府は演習をするようです。

風邪だと思っていた、父親がインフルで、うつされた件。




某日早朝。

 

『横須賀鎮守府』、の中にあるとある鎮守府の長門は溜息を漏らした。

早朝だけにその息は白い煙と化して、澄んだ空気に消えた。

 

 

 

『横須賀鎮守府』の中に複数の提督がいて、複数の鎮守府がある。

 

わかりづらいかもしれないが、例えるならば警察をイメージしてもらえればわかる。

大雑把に言えば『~~鎮守府』とは『~~県警』と思えばわかりやすい。

とはいえ、県をまたぐだけの規模を有しているが。

 

『横須賀鎮守府』とは、あくまでも神奈川を中心とした海軍の海軍の施設や艦娘などの総称である。

とはいえ、大まかな縛りであり、『横須賀鎮守府』所属だが、浜松はおろか名古屋近辺にある鎮守府もある。

 

 

 

前夜、年始早々に長門は自分の所属する鎮守府の提督に指示されたことが、新興の鎮守府への演習出向が命じられた。

 

「…しかし、提督。新興というならこのような陣営では少々、いや、かなり過剰戦力ではないか?」

 

命じられたメンバーは長門・陸奥・綾波・足柄・加賀・雲龍といった、平均レベル90超えの一軍メンバーである。

長門は武人であり、演習という訓練でも手を抜くのは嫌う。

 

が、訓練である以上、一方的な叩きのめすようなことは好きになれない。

それ故の抗弁だったが、それが気に食わないのか、提督は眉を不愉快そうに寄せた。

 

「構わん、資材はあちら持ちらしいしな。大本営からのお気に入りらしい、その増長慢を叩き潰して来い。」

 

その口調や言葉から悟った内容は、単なる『嫉妬』かと悟った。

 

 

長門の提督は元、海上自衛隊の叩き上げの提督だった。

そして、深海棲艦との第一次大決戦で近代兵器の塊である船に乗り、大壊滅の憂き目を見た。

 

それでもなお、日本の海の平和を守らんと軍人をつづけたのは立派だ。

しかし、その恐怖や憎悪を艦娘にまでぶつけるのは勘弁してほしい、というのが長門の真情だ。

 

だが、根っ子は悪人ではないのか、世に聞くブラック鎮守府ほどではない。

ただ兵器として使い捨てにすることを厭わない。

また、艦娘に自由を与えまいとほぼ軟禁生活なのもいただけない。

 

 

あと一つの提督の難点を挙げるならば。

出世意欲に富んでいるのが難点である。

 

提督個人で成果を挙げれるようなものではない。

あくまで提督の成果は艦娘に因るものである。

 

艦娘を嫌悪・恐怖し、しかし、出世欲を満たすために艦娘を酷使する。

 

 

俗にいう『提督ラブ勢』の筆頭と言われる金剛すら、提督と話そうとすらしない雰囲気に長門の鎮守府はなっていた。

 

 

そして、今回の演習メンバーはその新興鎮守府の頭を抑えつけたいという意図なのだろう。

 

「了解した。」

 

「手など抜くな、完膚なきまで叩き潰せ。」

 

敬礼とともに長門の口から出た言葉に満足そうに頷くと提督は手元の書類に目を落とした。

 

部屋を出て、これから演習に選ばれた残りの5人にそのことを告げねばならんと廊下を歩きながら考えれば、溜息を止めることはできなかった。

 

(過去の名将、名提督と比べれば、なんと矮小なことか。)

 

長門はこの鎮守府の中心である。

口にしたくともできないことがあるのだ。

 

 

 

「行きましょ、長門。」

 

「あぁ、陸奥。…いい二度寝ができそうだ。」

 

昨夜のことを思い出している間に、演習のメンバーが出揃った。

鎮守府の前には演習の時に遠征するためのバスが待機していた。

 

バスとは名ばかりの、護送車というべき装備だったが。

 

長門の目には、幾度となく乗ったこのバスが、新年早々というのに暗い雰囲気をまとって見える自分の鎮守府と重なって見えた。

そんな妄想を頭を小さく横に振ってから乗り込むのだった。

 

 

 

鎮守府を出て一時間もした頃、護送車は止まった。

とはいえ、座席からは外も何も見えないためどこをどう走ったのかもわからないが。

 

6人で口を開いても盛り上がる話題もないため、ただ寡黙に全員が支給品のレーションを朝食代わりに口に運んだだけの退屈な旅だった。

提督の部下らしい、運転手は何も話しかけず、車を止めてからただドアを開ける。

そして、事務的な挨拶をした後に演習をして、この車に戻る。

 

はずだった。

 

「あっけまして、おめでと~~!!」

 

タラップを降りようとしたら、その先には猿顔の、紋付き袴を着た男が陽気な声を上げていた。

その手にはクラッカーがいくつも持たれており、同時にパンッ!パンッ!!と軽快な音を鳴らしていた。

 

「ぅぁ!?…あ、あけましておめでとうございます。」

 

長門にはそう答えるのが精一杯だった。

 

「まぁまぁ、よく遠いところから来てくれたねぇ。さささ、そーんな立っててもどうしようもねぇから、こっちこっち!!」

 

ひょろりとした痩身の男に手を引かれてわけもわからないままに車から引きずり降ろされたのだった。

 

 

 

 

「ちゅーわけでー。これから皆さんにゃ、ウチの艦娘たちと演習してもらうんだけっどもさ。

朝早いし、腹も減ってるだろうし?あったかいものでも食って、それからお願いしたいわけなんだわ!

演習にかかる資材はコッチ持ち、で話通ってるから気にせずジャ~ンジャン食っちゃってちょ~だい!」

 

長門が連れていかれた先は、鎮守府の庭だった。

そこには長机とテント、そして鍋が並んでいた。

 

「まぁまぁ、気にすんなよ。役得と思えばいいんだ、新年早々ツイてる、ってな。」

 

「い、いや、我々はこのようなものをいただくわけには…」

 

近くにいたスーツ姿の髭面の男がニヤリと笑いながら言うが、長門をはじめ加賀も陸奥も皆混乱していた。

長門の鎮守府ではこのような温かい食事など提供された事はない。

いつも冷たく、臭く、ドロドロしたレーションだけだ。

 

近くにいた、恐らく他の鎮守府からの演習用に出向した艦娘たちもどうしていいのかと周囲を見渡すばかりである。

いくら全員の前にいる紋付き袴の提督がいい、と言われても判断に困ってしまう。

 

「お会いできて、光栄です!これはルパン提督の趣味と言うか…やり方なので、気にしないで召し上がって下さい。」

 

味噌の香りのする丼ほどの椀と、おにぎりが数個乗った皿をいくつも乗せた大きな盆に盆を持った朝潮と霰が長門に挨拶をすると長机に乗せた。

目の前の椀には味噌汁の中に豚肉らしき肉と、何かのつみれ、野菜がいくつも浮いている。

 

「…い、いいのですか?」

 

「はい!私たちも普段からいただいてますし、協力してます!」

 

朝潮の盆から霰がせっせと長机に並べる間に朝潮は喜色満面といった顔つきで言う。

恐らく提督の嫌がらせなのか、今日の長門たちのメンバーは資材量もだが大食漢が多い。

加賀も着任当初はあまりの少ないレーションに泣かされたクチだった故の質問だったが、大丈夫だと言い切られて恐る恐る箸をとる。

 

「その、協力、というのは?」

 

「鳳翔さんのお手伝いで…おにぎりを握ったり、近海で…魚も獲りました。」

 

霰が独特のつまり気味に言うが、その顔には自慢げな色が光る。

長門の鎮守府の霰には見られない顔だった。

 

「おにぎりのおかわりはこちらですよー!!」

 

「豚汁はこっちっぽーい!!」

 

先ほどのルパン提督とやらのいた背後にあった大鍋の方で夕立が、その隣のテントで鳳翔が大きな声を響かせる。

 

その声に押されたのか、他の長机にいる艦娘たちも出された食事に手を付け始めたのだった。

 

 

 

 

正規空母、長門型が満腹になるまで何回も豚汁もおにぎりもおかわりをしても怒るどころか、目の前のルパン提督は「いい食いっぷりだ!」と笑って新しい椀を差し出してくれた。

さらに温かいお茶などとともに菓子も差し入れてくれて、食休みがてらこの鎮守府の様々な艦娘と交流する時間をもたせてもらったのだった。

 

あのマズいレーションを食わずに来ればよかったと僚艦たちと悔いたほど、最高の時間だった。

 

勿論、他の演習用の出向した艦娘たちも一緒の待遇を受けていて、中には感極まって泣く艦娘もいたほどだった。

 

「おう、お疲れさん。あんがとな、色々勉強になったと思うわ。」

 

演習を終えて、海から上がればルパン提督が出迎えてくれた。

 

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。正直、鎮守府に帰りたくなくなってしまったぞ。」

 

「ふーん、他の艦娘たちも言ってたけど、そんなもんなのかねぇ?」

 

「内情はいろいろだとは思うが…似たり寄ったりだとは思うぞ。」

 

これまでに会ったことのある違う鎮守府や、大規模作戦中に遭遇した艦娘を思い出せばそれほど間違った話ではないと思う。

ルパン提督はなるほどね、としみじみと頷いてから首を傾げる。

 

「そういえばだな。ウチの艦隊を見てどう思う?

それなりの腹案はあるんだけっどもさ、やっぱりベテランの意見って聞きたいわけよ。」

 

首を傾げつつも煙草に火をつけるルパン提督の質問に長門は顎に手を当てて少し考え込む。

ベテランと煽てられたから、ではないが、本心から助言を求めているのは口調が軽くてもわかった。

ならば長門もそれ相応の意見を返さねばなるまいと考える。

 

「そうだな…重巡以下はそれなりにいるようだが、戦艦・正規空母の数が足りない。

規模からして大本営からそこまでキツい要求を求められることはないだろうが、大規模作戦の際には様々な方面へ艦隊を行かせる必要がある。

手札の数は多いに越したことはない。」

 

「…僭越ですが、あとは装備でしょう。

見たところ、そちらの赤城さんの艦載機は52型と見ました。

烈風とまではいかなくとも、紫電改・彗星一二型甲・流星改は欲しいところです。

いくら艦載機が乗せれても、性能が悪ければ落とされてお終いですから。」

 

長門の意見に付け加えられた加賀の言葉にも納得したのか素直に受け入れて頷く。

 

「な~るへそ。つまりはあらゆる準備が足りない、ってわけかー。」

 

まいったねと苦笑しながらルパンは頭をボリボリと掻く。

その様子にふと、気になって加賀が問う。

 

「…貴方は、何故私たちの言葉を聞こうとするのかしら?」

 

言葉通りの意味のみではない、長門にはそう感じ取れた。

その気持ちは長門にもよくわかった。

 

「ん~?そりゃ大本営とかにもデータはあるんだけっどもさ、現地の空気とか、その場にいないとわかんねぇことも沢山あるだろ?

この世の中の提督の何人がその空気を知ってるんだ?」

 

口を少しとがらせるようにして、輪っかの煙を虚空に吐きながらちらりと横目でこちらを伺いながら言う。

あまりの言葉に長門の口から言葉は出ない。

 

「提督さん、あまりそういう発言は控えた方が、いいわよ。受け取りようによっては…ね?」

 

足柄が少し訝し気になりながらも助言をする。

それを聞いたルパンはそりゃそうだとばかりに軽く肩を竦めて頷くにとどめた。

 

「そう……だな。…あとは心構え、かな。」

 

「ん?心構え??」

 

「そうだ、今はまだ南西諸島の攻略前と聞いたが…特に『2-4』と呼ばれる『沖ノ島海域』は海流が酷く入り組んでいる。

羅針盤妖精がロスのないルートを選ぶが、あくまでも『ロスと危険性の少ない』ルートを選ぶに過ぎない。」

 

「ああ、たまにボスと呼ばれる、その海域の中心部隊のいる方向に行けるかは不明、らしいな。」

 

これから話すことはあくまで噂や怪談に近い話だ、と付け加えて長門が口を開く。

 

「我々艦娘も羅針盤妖精に従ったらボスに遭遇できないルートを辿ることもわかっているが、逆らってはいけない。

これは定かではないがな、ルートに逆らった場合はとんでもない数の深海棲艦に囲まれ、妖精達がその鎮守府に一気に反乱を起こすらしい。

そして、深海棲艦がその鎮守府に一斉に襲いかかる、という噂を聞いた。」

 

「…おっかない話だねぇ…。」

 

長門の言葉に頬を引きつらせる。

 

「もちろん物証はないが、ある日忽然と消失した鎮守府があることは確かだ。」

 

「鎮守府が?提督が、じゃなくて?」

 

ルパンの確認するような言葉に長門たちは頷く。

 

「ああ、建物から艦娘まで、一切合切消えた。

偶然だがな、演習で向かった先の鎮守府が消え失せていたことがあった。

軍属の運転手が鎮守府の場所を間違えるとも思えない…。

…どういう理由で消え失せたのかはわからないが、そういう事じゃないかという噂だ。」

 

「…なるほどね、あくまで『ルール』の中でやれ、ってことか。」

 

少しだけ考え込んだルパンの言葉は長門の言葉を受けたものだった。

そのままルパンはポケットの中から取り出した携帯灰皿に煙草を揉み消す。

 

「あくまでも推測しかできませんが、そういう事でしょう。

編成などでルートを固定もできますが、それは一部の海域です。

…ボスにたどり着けないことを我々の責任と言われても、どうしようもありません。」

 

「了解、それを踏まえた覚悟、心構えってことね。」

 

「うむ。……叶うならば、貴方のような提督の下で働きたかった。」

 

付け足した加賀の言葉に苦笑して軽い言葉で返されても、それを聞き流したわけではないことは雰囲気から全員に伝わった。

そして、本心からの言葉を告げて長門はルパンに敬礼する。

 

「よせやい、俺ァそんなお偉い『軍人様』ってガラじゃねぇんだよ。

テキトーにやってるだけだぜぇ?」

 

「ふ、『悪い意味の適当』じゃないことぐらいここの艦娘の顔を見ればわかるさ。」

 

謙遜なのか、本気なのかわからないニィとした笑いを見て苦笑しながらも長門は首を横に振る。

 

長門が数時間にも満たない時間で見た、ルパン鎮守府の艦娘達は皆一様に明るい雰囲気であり、士気も高かった。

決して長門の鎮守府では見られない雰囲気だったからこその言葉だった。

 

「ヘッ、ありがとよ。…ついでってわけじゃないが、もう一演習お願いしてもいいか?」

 

「ム…それは申し訳ないが、各鎮守府との演習は一戦のみと大本営からのお達しがあるものでな。それには逆らえないのだ。」

 

長門は申し訳ないと少し眉尻を下げて首を横に振る。

 

「うんにゃ、ウチの鎮守府、とじゃねぇんだな、コレが。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…長門……いくら演習弾とはいえ、いいのかしら?」

 

「私には判断は出来ないが…これだけの厚意だ。我儘の一つくらい聞かねばなるまい。」

 

ルパンから提案されたのは『一隻のボート』との演習だった。

海上に立って、演習の開始線の位置で待機すれば俗にいうパワーボートが一隻やってくる。

 

それなりに装甲などは厚そうだが…。

 

『んじゃー演習始め~!!』

 

無線からルパンの軽快な声が響く。

 

「仕方あるまい、至近弾などで航行不能にしてしまおう。加賀、雲龍、頼む。」

 

「「了解。艦載機、発艦始め。」」

 

流れるような動作で雲龍が式神を艦載機へと変じ、加賀が弓を介して放つ。

そして、空を艦爆・艦攻が埋める。

 

『よーっしゃー!!次元ちゃん出番だぜー!!』

 

挑むだけあって、パワーボートは凄まじい速度で走り、艦爆の方へ向かっていく。

すると、信じられないものを見た。

 

「なっ!?拳銃で狙撃ッ!?」

 

加賀の驚愕の声とほぼ同時に空に爆発が広がる。

 

「ど、どういうことだ!?」

 

「あ…空を飛ぶ、艦爆の爆弾を狙撃されましたっ!」

 

「化け物かっ!?…全て落とされたわけじゃないだろう!残りの航空機で沈めろっ!」

 

拳銃とは思えない速度でパワーボートの助手席の男が銃を撃てば、それに応じて空に火の花が咲く。

しかも編隊で他の航空機が巻き添えを食う嫌らしい位置の航空機のみを狙っていた。

 

加賀・雲龍の航空隊もベテランであり、完全に爆発に巻き込まれるような編成ではない。

しかし、爆撃のために編成が乱れた一瞬を狙ったり、後続の航空機の視界を遮ったり、破片で落とすような最悪の狙撃しかしない。

 

しかしそれでも残った航空機が急降下をして、攻撃を仕掛けようとした瞬間。

 

『おっしゃぁ!!飛ばすぜぇぇぇ~!!』

 

『うむ、任せよ。…喝ッ!!』

 

ルパンの声とともにパワーボートが急加速。

恐らくニトロか何かを仕込んでいたらしく、若干ウィリー気味になりながら波を切る。

 

それと同時に座席から立ち上がったいかにも侍という風体の男が舳先に立つとともに。

銀の線が数条走った。

 

「あら…あらあら…航空機を…斬った?」

 

陸奥が呆然と呟き、ひきつった笑みを浮かべる。

むしろ、それは艦隊の全員が同じ想いだった。

 

「なんてデタラメ!!!」

 

足柄がいち早く気を取り直したのか、慌てて20.3cm(2号)連装砲を斉射する。

が。

 

「うにゃっ!?うにゃあああああああっ!?」

 

ボートが急ターンをかけると同時に助手席のガンマンがロケットランチャーを取り出して撃てば、砲身が爆発する。

中身は演習弾だからただの煙と煤がまき散らされただけだが、審判の妖精が足柄が大破したとの判定が下される。

 

「どういうことだ!?」

 

『あのロケットランチャーは特殊燃料を重点したもんでよ、っとぉ!!破片の代わりに特殊燃料を燃やしながら撒き散らすんだよ!

だから、砲塔に上手いタイミングでブチ込めばっ、中の火薬に爆発炎上ってなぁ!!

もいっちょいくぜぇ!!』

 

無線先のガンマンがわざわざ解説してくれる。

これでは下手に主砲を撃つこともままならない。

 

「くっ!!あんな速い船、狙えっこないわ!!」

 

高速性能で有名な島風ですら、最高速度が40.9kt(ノット)、つまり約75km/h。

現代のパワーボートは時速200km/h越えはざら。

直線速度で言えば、420km/hをも出した船もある。

 

それにルパンの魔改造が入っているのである。

幾分かは装甲を強化したため、速度が犠牲にはなっているが島風すら置いてけぼりにしていく速度は余裕である。

 

陸奥の言葉も泣き言、などとは決して言えない速度なのだ。

 

「来るぞっ!!」

 

ビィィィィィィンッ!!と凄まじい船のエンジン音とともに、真っすぐ突っ込んでくる。

舳先には、先ほどの侍。

 

「撃てっ!撃てぇぇぇっ!!」

 

もう長門には冷静に判断する余裕などなかった。

ただ目の前の三人の乗ったパワーボートに照準もそこそこにただ撃つしかなかった。

 

とはいえ、ほんの少しの淡い期待はあった。

いくら速くとも真っすぐ突っ込んでくるなら、当たるんじゃないか。

 

が。

 

『キィェェェェェエィッ!!』

 

舳先の侍の一閃で砲弾が切り裂かれ、海に落ちるのを見て6人の心境は一つになった。

 

 

「「「「「「\(^o^)/」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いや、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃねぇか?」

 

「………ふ、ふふ……いや、大丈夫…大丈夫だとも…。」

 

ちなみに流石に艤装は斬れないのか、それとも斬らなかっただけかはわからないがパワーボートはただ艦隊のど真ん中を突き抜けただけだった。

が、すれ違いざまにルパンが海に放り投げた掌サイズのアヒルの玩具が大爆発。

 

煤だらけにされて、演習は終了となった。

 

そこには『orz』といった姿勢でうなだれる6人。

 

その様子にルパン鎮守府の艦娘達がうんうんと共感の頷きを返すのみだった。

 

 

 

 

「本当に、色々と世話になったな。うん、本当に。」

 

風呂を借りて綺麗になった長門が護送車の前でルパンと握手をする。

その手に力が異様に入っているのは気のせいではない。

 

「あいでででででっ!!いや、どこまでできるかな、ってノリでやったらああなっちゃっただけでだなぁ。」

 

「どんなノリだ、全く…。」

 

ルパンの言い訳に眉をしかめる。

確かにそこまで突拍子の無いアイディアではない。

 

現にパワーボートの実物は世界中にあるのだから。

ただ、あくまでも卓越した操船技術、そして機銃や絨毯爆撃をどうするかという問題はある。

あと、艦娘にはついていけない速度という点も難点ではあるが。

 

やっと長門から解放された真っ赤に腫れた手を振って冷やすルパンが恨みがましく、長門を睨む。

 

「俺たちだからこそ、できる手ってわけでいいじゃねぇか。」

 

「…易々やられては、我々の立つ瀬がありません。」

 

加賀がジト目でルパンを睨みながら言うが、決して悪意があるわけではない。

 

「あれで何をしようとするつもりなのかは知らないがな…あの速度があれば、深海棲艦も艦娘もそうそう追いつけないだろうな。」

 

「へぇ~んじゃ、漁をやるにもちょうどよさそうだな~。」

 

軽く睨み付けながらかまをかけるが、ルパンはしれっとした顔で肩を竦める。

本当かどうかは判断できないため、小さく息を吐いてそれ以上の追及は止めておいた。

 

「正式な演習じゃないしな、この事は黙っておこう。こいつの礼ではないが。」

 

長門が足元を見降ろすと、カップラーメンの詰まった業務用の段ボールが積まれていた。

他の鎮守府からの艦娘も『自分たちだけいいものを食べて申し訳ない』と言う者がいたため、ルパンが用意したのだ。

こっそり艤装のスロットに詰めるなりして、隠して持ち込んで処理しろということだった。

 

「ま、空になった容器は紙パックだから工廠なりでこっそり焼けば何とかなるだろ。」

 

「ああ、仇で返すような真似はせん。」

 

その言葉にふっと笑ってまた煙草を咥えた。

 

「そんな大層なもんじゃねぇよ。ガキの駄賃で買える程度のモンさ。」

 

「その程度のモノも買えないのが我々だ。…また、ここに来れるといいな。」

 

ルパンの謙遜なのか、本心なのかわからない言葉に苦笑する。

 

「…さて、もう時間だ。次の鎮守府にいかねばならない。」

 

「ああ、元気でな。」

 

「そちらこそ。武運長久を祈る。」

 

ふと運転手が軽くこちらを睨むが、運転手は何も言えない。

上官にあたるルパンが許している以上、下士官にあたる運転手はそれに非を唱えられない。

しかし、時間が押しているのはわかっているためそのまま敬礼をして車に乗り込んで別れた。

 

その車の中ではどうやってあの鎮守府へ亡命するか、などと言った冗談で軽く盛り上がり、いい気分の一日となった。




というわけで、ルパン鎮守府には所属しないものの、長門さんとの邂逅でした。

今回は他の鎮守府との対比、というところに焦点を当てています。



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8.ルパンは大本営で出会うそうです。

というわけで、皆様お待ちかね。
龍田ちゃんの出番です。(メインとは言ってない


今日も今日とて、執務室の窓の下にある竈には大鍋が大活躍をしている。

朝晩の演習が10回ずつ、それが朝晩あるため120人分の食事を賄うのである。

それも戦艦・空母といった巨艦の食事を賄うため、竈も大鍋も無駄になっていない。

 

違和感があるかもしれない。

そう、朝晩10回ずつ、である。

 

これが長門の提督が言った『特別扱い』の一つだった。

 

名目としては『放置され続け、練度の低い鎮守府であるため、早急に練度を上げてもらう必要があるため』である。

これは決して御題目だけではなく、本音でもある。

 

ご存知の通り横須賀鎮守府は古くからの鎮守府であるとともに、関東の防護を司る。

その練度は高くて高すぎることはない。

精兵が求められるため、現在足を引っ張っているといって差し支えないルパン鎮守府の練度向上は求められる。

 

この名目はいくらルパン鎮守府が煙たい提督たちでも拒否はできない。

「自分たちの出世の方が、日本の防備より大事」などとは言えない。

 

そのため、そういう提督たちからも黙認はされていたが、嫌がらせとして最高練度クラスの陣営を回されていたのだった。

実はこの辺りも浦賀中将、ルパンとしても願ったり叶ったりである。

 

ルパンは『練習の負け』など気にしない。

むしろ、相手の中心となる部隊から様々なノウハウを聞けたりするし、最高練度ということは古株の艦娘であったりすることも多いため、様々な情報が得れるという利点もある。

その結果、『あの生意気な若造を叩きのめしてやった』と相手はご機嫌になり。

ルパンはその裏で笑うのだった。

 

 

「ルパンよぉ、とり急いでやんなきゃなんねぇことはまとめといたがな。

…ざっくり言えば、遠征部隊用の第三・第四艦隊の解放、だな。」

 

「ありゃりゃ?…なるほどね、開発・建造のための資材集め、か。」

 

「それだけではありませんわ…。大規模作戦になると、連合艦隊を組む必要があります。

連合艦隊の出撃だけなら今でも組めますが、道中支援・決戦支援艦隊を出せないため万が一の時が…。」

 

次元とこの日の秘書艦の扶桑からの報告に、椅子を回して向き直る。

 

今日の秘書艦は扶桑だった。

扶桑は前の提督が面白半分なのか、一気に大量の資材を放り込んで建造祭りをした際に生まれた戦艦だった。

 

なお、自然回復値、と呼ばれる大本営からの補給資材ほとんどをぶち込んでできた大型艦(戦艦・空母)は扶桑だけだったというのだから、頭の痛い話である。

 

「それもあったっけ…。うーんっと、あとウチでいないのは川内?」

 

「はい…もう一つの条件の金剛型は南西諸島海域での遭遇報告が多々上がっています。」

 

扶桑の報告にルパンはギシリと音を立てて椅子に背を預ける。

煙草に火をつけて、一度煙を吐き出した後に頷く。

 

「なら、レベリング兼ねて、南西諸島防衛線(1-4)の周回させといてくれ。

あそこならある程度のレベルでも十分対応できんだろ。」

 

「ま、妥当な線だな。川内と遭遇出来たら、どうすんだ?」

 

ルパンの意見と同意見だったのか、満足そうに頷けばふと次元が問いかける。

 

「そりゃ出撃担当の判断に任せるわ。な、次元ちゃん。」

 

「ケッ、丸投げじゃねぇかよ。そん時ぁ、また考えるかね。」

 

次元は、悪意の感じ取れない悪態をつきながらデスクへ戻って、煙草に火をつける。

どうやら出撃メンバーの選出に戻ったらしい。

 

「あのね~提督。浦賀中将からで、どうも大本営への出向してほしいみたいよ~?」

 

隣の席からふと龍田がいつものおっとりとした口調で話しかける。

扶桑はルパンの前で立ったまま、目を軽く見開く。

 

「どうしたのでしょうか…。」

 

「ま、どうせ政治がらみじゃねぇの?ひっさびさにジョージのシケた顔でも拝みに行くかねぇ…。」

 

「あら~上官に対してそんな事言ったら大変よ~?」

 

驚きを隠せない扶桑に反して、ルパンは笑いながら煙草の煙を空気清浄機に向かって吐き出す。

女性だらけ、非喫煙者だらけで肩身が狭いのだ。

 

「人前じゃ言わねぇよ。んーなら、龍田ちゃん、メシ食ったら行くつもりだからアポ取っといて。」

 

「わかったわ~。なら、私も行く準備…」

 

ふとルパンが時計を見れば、昼前のいい時間だったため、昼食を取ってから行くと告げれば龍田もニコニコと微笑みながら頷く。

 

「いや、今回は扶桑ちゃんに一緒に来てもらうわ。」

 

「………どういう事かしら~?」

 

龍田は笑顔のままだった。

笑顔のままだったはずなのに、執務室の空気が凍った。

 

「え?…いや、ほら。龍田ちゃん、執務室詰めのトップじゃない?

俺がいないのに、そういう事務系トップの龍田ちゃんもいないって、問題じゃないかなーとか思ったりなんかしちゃったりするわけなんだけっどもさ…。」

 

ルパンは龍田の方を見ない、いや、見れない。

見たら多分、夢に出る。

 

隣の執務机の方からチャキッとか、ガチャッとか、何やら長刀っぽい金属の武器的な何かを取り出した音がするのも気のせいだ。

 

そう思いながら書類から顔を上げれば、目の前の扶桑は軽く顔を青ざめさせていた。

目が合った瞬間、扶桑はすっと目を逸らして窓の外の海を見ていた。

 

(我、救援求ム。)

 

ルパンはこの絶対的窮地を何とかしてほしいと目の前の扶桑にサインを送る。

だが、扶桑はそれを一瞥するとやはり海を見続けた。

すると簪のようなパゴダマストにするすると信号旗が掲げられた。

 

(我、停船中。貴軍ニ救援ハナイ。)

 

全力で不幸を回避にかかった模様であった。

 

「あら~?見つめあっちゃって、仲がいいのね~?」

 

「ちょーっと顔上げた位置にいただけだけどもね!?

…いや、やっぱりさ。執務室関連の業務って龍田ちゃんに取り仕切ってもらわないと困るって言うか?

ほら、一番頼りになるのは龍田ちゃんだからね?」

 

完全に浮気のバレた亭主の姿である。

ルパンの龍田を真っすぐ見据えての必死の説得の迫力が勝ったのか、それとも、本気ではなかったのか。

片手に持っていた長刀を収納して、龍田は自分の席へと戻った。

 

「そこまで言われちゃ仕方ないわね~?…お土産、一つで許してあげるわ~。」

 

何がよかったのかルパンにはわからないものの、背後から撃たれることはなくなったようだ。

 

 

 

 

「フッ、龍田は色々とキレ者揃いだからな。演技かもな?」

 

「笑い話じゃねぇよ、(タマ)ァ取られるかと思ったぜ。」

 

そんなこんなで大本営に行ったルパンと扶桑は、浦賀の執務室で向き合ってソファに座っていた。

浦賀は艦娘を指揮はしていないが、秘書艦らしい矢矧が浦賀の隣に座っていた。

 

「で、だ。大体の情報は集まったか?」

 

「ああ、態度見りゃどんな扱いしてんのか、わかったが…ひでぇもんだな。」

 

浦賀の単刀直入な意見にルパンは少し顔を歪めて言う。

恐らく目の前の男のことだ、そういうグレーな鎮守府から選出されてルパン鎮守府へ送られたのだろう。

 

「で、そんな進捗状況の確認で呼んだわけじゃねぇんだろ?」

 

「ああ、何とか妖精さん達の口を割ってな。お前がこの世界にやって来た経緯がわかったんだよ。

ま、別ルートからの情報もあって、だが。」

 

浦賀の言葉に矢矧と扶桑は少し首を傾げる。

しかし、上官の会話に口を挟むような無作法は二人ともしなかった。

 

「単刀直入に言おう。この世界の『ルパン三世』・『次元大介』・『石川五右衛門』は死亡している可能性が極めて高い。」

 

「…そーんな気もしてたが、ね。」

 

「ほぉ、驚かないのか?」

 

音を立てずにルパンはソファにもたれかかる。

 

「こっちの世界の俺が、ルパン三世を名乗るヤツを放置するとは思えねぇ。

俺だったら、とっちめに行くぜ?」

 

「なるほど、な。どうも、妖精の仕様らしくな…『本来死んだはずの人間』を甦らせて、『提督』にすることがあるそうだ。

全ての提督がそうかはわからんが…要は、『命を救う代わりに艦娘を指揮する』という契約を結ぶようだ。」

 

「へぇ…それなら、俺はなんで死んだんだろうな。」

 

あまりの突拍子のない会話に矢矧も扶桑も身体を硬直させる。

そのとんでもない内容は今まで聞いたことがない。

 

「ま、すべての提督がそうなのかどうかまではわからん。そこまで教えてくれなかった。

ただ死因だけは偶然、わかったがね。」

 

「へぇ…海外との連絡はほとんどとれないんじゃなかったか?」

 

「あぁ、海外には船便メインだから時間が必要かと思ったんだがな…それについては本人に聞いた方がいいだろう。

矢矧、すまないが彼を呼んできてくれ。」

 

「了解しました。」

 

若干ほっそりした顔つきと、目つきの悪い浦賀が矢矧を一瞥して指示を出す。

その人好きされにくそうな、神経質に見える様子を見てルパンは苦笑する。

 

「相変わらず愛想が無いねぇ、初めて会った時から変わんねぇや。」

 

「フッ、ある意味天狗、ガキだったんだな。大学に行ってもしばらくはつまらなかった。

周りがバカに見えて、付き合っても疲れるだけだったからな。」

 

浦賀もリラックスしているのか、ソファに背を預けながら薄く笑う。

 

「お前、態度悪かったもんなぁ。鼻にかけてる感じしてたぜぇ?」

 

「そう言うなよ。昔の話じゃないか。」

 

ルパンは新任ということもあって、中尉の海軍の役職を与えられている。

それが大佐である浦賀をイジっているのは隣にいる扶桑にとって居心地が悪い。

 

「あの…ルパン提督?いくら旧友とはいえ、大佐である浦賀閣下にその態度は…。」

 

「ああ、構わんよ。ココは機密を扱う関係で防音は完璧だよ。

それにな、閣下閣下と呼ぶ連中こそ腹の中で若造と罵ってるものさ。」

 

むしろこっちの方がいいと笑う。

 

 

さて。初めての浦賀とルパンの会話でもあったが、『鎮守府階級』というものを触れねばならない。

 

『鎮守府階級』とは、『提督の貢献度』を階級で示したものである。

これは『軍人としての階級』とは別物である。

あくまでも『鎮守府階級』は参考程度、という扱いを受ける。

 

が、同等の軍人の階級の提督同士なら、『鎮守府階級』がものを言うということである。

 

そのため、浦賀は軍人としての階級は『浦賀大佐』であり、鎮守府階級では『浦賀中将』という扱いになる。

 

提督同士の会話では基本的に『鎮守府階級』が使われる。

やはり、階級が高い方が提督の自尊心をくすぐるのだろう、と浦賀は笑った。

 

「ま、せっかく拾った命さ。せいぜい面白おかしく過ごさせてもらうけどな。」

 

「それでいい。お前が暴れりゃ、世の中の小悪党はその分居心地が悪くなるだろうしな。」

 

クックックと喉の奥で低く笑って浦賀はコーヒー飲む。

 

「さぁて、な。そう手のひらで踊ると思うなよ?」

 

「そんなつもりはないさ。俺はお前の踊る舞台を整えるだけ、お前が好きに演じればいいさ。」

 

浦賀は長い付き合いからかルパンの嫌味に肩を竦めれば、ルパンは上等と満足のいく回答にニヤリと笑った。

その場には『怪盗』と『協力者』の姿があった。

 

(何なの、この二人……底知れない…。

艦娘をバケモノと言う人間は多いけど…よっぽどこっちの二人の方がバケモノじゃない。)

 

扶桑の背中に冷たいものが走る。

普段は陽気な男といったルパンの顔がただの仮面と知り、恐怖ともつかない何かが心をよぎる。

 

(でも…これくらいじゃなきゃ生きていけないのかしら…。

よく龍田は付き合えるわ…。)

 

しかし、味方であることはわかっているため忌避するどころか頼もしいとも感じるのだった。

その辺りは陸軍・海軍の魔物とやりあっていた様々な提督や政治を見た船時代の経験からだろうか。

 

 

 

しばらくどこかうすら寒い会話を繰り広げている内に、浦賀の執務室にノックの音が響く。

 

「浦賀閣下、お連れしました。」

 

「ああ、入ってくれたまえ。」

 

浦賀が促すと先に先ほどの矢矧が入るとともに後ろから身長180cm強の偉丈夫が現れた。

 

「お待たせして申しわけございません!ICPO出向、銭形幸一特別大尉、ただいま……お、おめぇ…ル、ルパン…か!?」

 

「ウゲッ!?と、とっつぁん!?」

 

ソファに完全に油断して座り込んでいたルパンが入って来た男を見て、目を見開くとともに飛び跳ねる。

入って来た男は『銭形幸一』、ルパン一味を捕らえるために世界各国を飛び回るICPOの特別捜査官だった。

 

「お、おめぇ…生きて、生きてたんだな…。よくも、よくも…ッ!!」

 

急なことでルパンにも対応できず、飛び跳ねたはいいものの逃げることもできずに扶桑の後ろに隠れるしかなかった。

が、ブルブルと肩を震わせていた銭形が二人の方へ飛び出す。

 

「ル、ル、ル、ルパァァァァンッ!!よく、よく生きててくれた!!(オラ)ァ、てっきりお前ェが死んじまったとばっかり…うおおぉぉぉぉっ!!るぱああああぁぁぁん!!」

 

ルパンの十八番のルパンダイブにも勝るとも劣らない勢いで二人の方へ飛びかかると縋るように腰のあたりにしがみつくとともに、銭形は男泣きに泣いた。

しかし、ルパンは扶桑を銭形の盾にしようとしていたのである。

それなのに銭形は飛びついた結果…ひざまずくようにして扶桑ごとルパンを抱きしめ。

二人の腹の辺りに頭を埋めて泣いたのであった。

 

「なっ、なっ、なっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

扶桑の悲鳴とともに振りかぶられた平手は、銭形の顔に真っ赤な紅葉を咲かすのであった。

 

 

 

 

「ってか、俺の消息を知ってそうなのは、そりゃ銭形のとっつぁんだな…どったの、いつもなら『逮捕だー!』ってとこなのに。」

 

「なにぃ?お()ェ、覚えてねぇのか?」

 

感極まっての行為だということは扶桑にも雰囲気からわかったのか、思いっきりひっぱたいて気が済んだのか。

あの後、銭形の必死の謝罪の後、三人で向き合うことになった。

 

「…いやな、数か月前まで記憶が飛んじまってなぁ…何があったのかよく覚えてねぇんだわ、コレが。」

 

ルパンの言葉に訝し気に眉を銭形はひそめつつも、そこまで疑うこともなく、深く頷いた。

 

「1年ばかり前か。まだワシはルパン専門捜査官としてフランスを訪れた際に、お前を見つけた。

その時はもうお前は怪盗としては半ば脚を洗っていたようでな…。

悪党どもの私財を奪ったりはしてたようだが、表ざたに出来ないような場所からばかりだったようで、被害届も出てない状況だった。

そこでワシはお前が何を企んでいるのか、とお前の隠れ家に突入した。」

 

「そだっけ?」

 

「あぁ、そこでお前は日本に比べて数少ない艦娘を率いて深海棲艦へゲリラ戦を仕掛けていた。

お前曰く『ご先祖様の愛したフランスを見捨てておけねぇ。だが、飼い犬にはなれねぇ。』とな。」

 

銭形の語る言葉に困惑するルパン。

もしも、そうなったらと考えれば納得できる行動でもあるが、もちろんそのような記憶がないためピンとくるわけはない。

 

「そう、だったっけ?」

 

「あぁ、ワシはそんなお前を逮捕することは出来なかった。

お前を逮捕しちまったら、その軍属でない艦娘はもちろん、パリの街はどうなるのかと。

その足でワシはICPOに連絡を取り、もともと消息を絶っていたお前の専門捜査官の座を降りたんだ。」

 

「…じゃ、その後は?」

 

「ワシは、警視庁に戻ろうとしたところ、過去の経歴を買われてな。

そこの浦賀大佐殿に誘われて、ブラック鎮守府の検挙をやっておる。

しかし、お前ェ、どうしたってんだ?自分の事だってのにまるで他人事じゃねぇか。」

 

何度も繰り返されるルパンの気のない合いの手に疑いの目を向ける。

それに肩を竦めながら、煙草に火をつける。

 

「それがよぉ?俺にもわかんねぇんだ、記憶喪失なのか、何なのか。

とりあえず俺も次元も五右衛門も、気が付いたら日本にいた、っていう感じでな。」

 

「ふーむ…これはワシが確認したわけではないが、フランスの知人曰く、パリはほぼ壊滅に近い被害を受けたそうだ。

その際に民間組織やマフィア、軍部などが協力し合って抵抗をしたらしいが…大損害を被った、と聞いた。

もしかすると、その時に何かあったのかもしれんな。」

 

銭形も唸るが、お互い推測しかできないし、異次元から来たというのも推測に過ぎない。

そのため、銭形も懐から愛飲するハイライトを取り出して煙を深く吐き出す。

 

「…最近色々風変わりな提案をしている新人提督、とはお前のことか。」

 

「まぁな、ジョージとは古い付き合いだし、やることもねぇしな。」

 

ギシリと音を立てて銭形が前屈みになってルパンを睨む。

その眼光は鋭く、ルパンとやりあっていた頃と大差ない。

それをニヤリと笑ってルパンは肩を竦める。

 

「ワシもな、今の兆候は気に食わん。女子供を前線に送り出して石を投げるようなマネをしてやがる。

だからワシは浦賀大佐の誘いに乗ったのだ…まぁ、警視庁も人材が溢れていた、というのもあるがな。」

 

「なんでぇ、とっつぁん。リストラか?」

 

「うっせぇ、そんなんじゃねぇや。ただ、お前ェもいなくなっちまった、そんな中で警察を続ける気もしなくてな。」

 

ルパンのからかいに不快そうに眉を寄せるが、否定はしない。

その言葉に何とも言えなくなったのか、ルパンは灰皿に煙草を置いて珈琲を飲む。

 

二人の様子を静かに眺めていた浦賀がふっと笑う。

 

「過去はさておこう。他にも協力者はいるが、主力は銭形さんとルパンの二人だ。

表の銭形さん、刑事のカンや伝手で追い込む。

それでも尻尾を出さないヤツらには、裏のルパンだ。

裏ルートでの捜査、あぶり出し…やり方はそれぞれに任せる。」

 

ルパンは浦賀の言葉に苦笑して肩を竦める。

銭形はルパンの『裏ルート』という言葉に眉をしかめるが、あえて何も言わない。

 

「まさか、またとっつぁんと手を組むとはな。」

 

「フン、盗人の手伝いはせん…が、今はお互い立場が違う。」

 

笑いながら手を出すルパンを見て少し苛立たしそうに言うが、お互いの現状を思ったのか嫌そうながらもその手を握る。

 

「上等。それに俺の調べからすりゃ、盗人はあっちだしなぁ。ケチな税金泥棒、横領犯ってな。」

 

「わかっておるわ。しかし、それは艦娘達の血と涙の上に築かれたものだ。」

 

グッとお互い手を握れば、共闘を誓う。

 

「ま、気に食わないのはお互いさま、だ。とはいえ、俺たちも鎮守府の運営をしなきゃいけねぇから、どこまで協力できるかはわかんねぇけどな。」

 

「…おい、一応言っておくが、艦娘へのセクハラは憲兵事案だからな?」

 

銭形のツッコミにガクッと肩を落とす。

その様子を見て、扶桑がクスクスと笑う。

 

「ふふ、大丈夫ですよ。それどころかむしろ、お父さんみたいな感じですから。」

 

「ならいいけどな…お嬢さんも何かあったらワシに言えよ?」

 

「…そのお嬢さんの腰に抱き着いてたオッサンが何言ってんだか。」

 

色々と女関係にだらしのないルパンをよく知ってるが故の銭形の言葉に、知らない扶桑はそれはないと笑う。

しかし、その言われように眉をしかめたルパンが先ほどの失態を取り上げて鼻で笑う。

 

「なにおぅ!?それもこれもお前が消息不明になってたのが悪いんだっ!!」

 

「ぐええっ!?とっつぁん、ギブギブギブッ!!!」

 

ルパンの胸倉を掴んで締め上げ、それから解放されようとルパンは銭形をタップする。

その銭形の目尻にはうっすらと光るものが浮かんでいた。

 

 

 

「んじゃ、俺ら買い物して帰るからよ。」

 

「なんでぇ…もう帰っちまうのか。」

 

大本営を青スーツの男と、くたびれたトレンチコートの男が肩を並べて出てきたのを見て守衛は訝し気にするが、扶桑もいることで納得したのか何も言わなかった。

入るときはお互い身分証の提示などで面倒だったが。

 

三人で大本営の門の前で別れを惜しむ。

むしろ、惜しんでいるのは銭形一人だったが。

 

「俺も鎮守府があるんだよ、あまり留守にするわけにもいかねぇしな。」

 

「…お前も真面目になったなぁ…(オラ)ァ、感無量だぞ…。」

 

涙もろい銭形はまた涙ぐむが、それを見てルパンは苦笑する。

 

「おいおい、俺は昔から仕事熱心で真面目だったじゃねぇか。」

 

「うるへー!あんな仕事で真面目って言えるか、バカヤロー!」

 

ルパンの軽口に突っかかるが、どことなく嬉しそうに見える。

そのまま扶桑に銭形が向き合う。

 

「…扶桑さんだったな、コイツはこんないい加減で人をこけにするロクでもない男だ。

だが、決して悪人ではない。」

 

「は、はい。」

 

「だから、お前さん方が真っすぐ生きてるなら、コイツと一緒に歩け。

真っすぐ生きる人間をコイツは裏切らん。」

 

扶桑を真っすぐ見据えながらの言葉に気圧されて、ただ頷くことしかできなかった。

その様子にルパンは苦笑して、二人に背を向ける。

 

「よせやい、とっつぁん。そんな上等な人間じゃねぇよ、アンタの言うただの盗人さ。

…扶桑、行くぜ。」

 

「あ、はい!それでは…失礼します。」

 

付き合っていられないとばかりにルパンが街に向かって歩き出したのを見て、扶桑が慌てて追いかける。

その背中を銭形が敬礼して見送るのだった。

 

「おう、とっつぁん。何だったらウチの鎮守府に時間があったら顔出せよ。

ウチでメシくらい食ってきなよ。」

 

「フン、気が向いたらな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で。扶桑ちゃん、皆のお土産どうしよっか?」

 

「……お菓子、でしょうか。人数が人数ですし。」

 

銭形と別れて向かった先は、駅ビルの中の土産物コーナーだった。

 

「……龍田ちゃんに、何買えばいいと思う?ケーキとか?」

 

「刺されてもいいなら……なんで私、こんな相談をうけているのかしら…不幸だわ…。」

 

下手なものを選べば龍田の手によってハイクを読まされることになりかねない。

よって、全力で回避行動に出る扶桑だった。

 

 

なお、全員には銘菓として名高い餡菓桜(あんかろう)

龍田には、それ以外にガラスの猫の置物。

 

それを受け取った時の反応を知るものは少ない。




というわけでとっつぁん回でした。

まぁ、ある意味舞台設定の説明回とも言えますが。


というわけで浦賀の下でともに働く同士(ただしやり口は真逆)というスタンスになります。
イメージとしてはカリオストロで偽札作りを見つけた時の状況ですね。

さて、これからルパン達はどう動くのか。
次回をお楽しみに。



<補足>
浦賀 丈二

・元ネタ:イタリア編の浦賀コウの『浦賀』とライダーマ○の丈二を取った。
・大学時代の同級生で、ルパンほどじゃないが天才の部類に入る男。
ただ、自分と同等の人間がいなかったため、人間嫌いというか見限っていたが、自分の圧倒的に上を行くルパンを見てばかばかしくなってマシに。
それ以来ルパンとつるむ。
・深海棲艦との戦いや兵器開発、艦娘運用システムなどに携わり、国防に対する貢献で大佐という地位についた若き俊英。
・天才科学者でもあるが、あくまで『現実』で言う天才より少し上、クラス。
(例えるなら 現実の天才科学者をIQ150とするなら、浦賀はIQ190とか200程度)

・自分が図抜けた存在であるためか、艦娘に対する偏見を嫌い、艦娘擁護派の実力者の一人。
・擁護の運動では主導しているが、あくまで海軍の擁護派の中では実力者程度。
直接は動いていないものの、浦賀より年配かつ高位の軍人の中にも擁護派はいる。



誰得設定。


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9.ルパン鎮守府は日常を過ごすようです。

なんだか、二週間もしないうちに凄い反響をいただき、恐れおののいています。

細々とした裏設定などは主に感想返しや活動報告にちらちらと書いておりますので、そちらもご確認いただければ幸いです。
(本編で書いてない設定をうっかり出しかねないため)
基本的にはネタトークばかりですが。

では、今回は日常パートになります。


ルパン鎮守府は正月も明け、日常業務へと入っていった。

 

ルパンが鎮守府に着任してから一か月余り。

様々な困惑・混乱を越えて、鎮守府はすっかり慣れ始めていた。

 

他の鎮守府の艦娘同士の口コミネットワークなのか、今ではルパン鎮守府への演習出向が決まるとその鎮守府内で歓声がおきかねないほどらしい。

とはいえ、あくまでルパンが個人的にやっていることだし、よその提督にバレて出向が禁止されてはたまらないので秘密裏に、とのことらしい。

 

 

閑話休題。

 

ルパン鎮守府は他所の鎮守府に比べて経費が非常にかかる。

勿論豊富な酒保の商品もであるし、大鍋の製作費もバカにならない。

 

そこで艦娘たちは自分たちでどうにか協力できないかと、ルパンに秘密裏に会議を行った。

その結果。

 

 

「…龍田ちゃん、何この経費?」

 

「あのね~、出撃・遠征以外のメンバーって比較的鎮守府の中で暇なわけじゃない~?

その間、ゴロゴロしてるのも何だし~、興味ある子たちがいたの~。

でも腐らせたら勿体ないから、鎮守府に卸せばいいんじゃないかな~って。」

 

ルパンの手元にある申請書には様々な網などを経費で買わせてくれ、といった内容だった。

突拍子もない話にしか聞こえない。

それをさも当然といった様子で隣の席の龍田が説明する。

 

「将来的には採算が採れるんなら…経費もやぶさかじゃねぇけどさぁ…。」

 

平和だったころに比べれば、魚は価格が上がっている。

買うより作るほうがいいのかもしれないが…と思いつつも、ルパンは書類片手に唸る。

 

「レクリエーションの一環と思えばいいんじゃないかな~?」

 

「……確かに今も魚を遠征帰りに取らせてるしな…。」

 

「私も息抜きに行ったけど、深海棲艦の影響で漁業が困難になってるせいか、スレてなくて釣って楽しいのよ~?」

 

ふーむと声を漏らしながらも書類をデスクに置けば、そのまま判を押す。

 

「やるのはいいけど、外部に卸すなら大本営との調整はちゃんとやるように。

あと、やるにしても沈まないように警戒は厳とすることを心がけるように言っといて。」

 

次の書類を見ながら、『処理済み』の箱にぽいっと入れながら笑って言う。

それに小さく肩を竦めるだけで龍田はあえて何も言わずにパソコンのキーボードを叩く。

 

そのデスクの上で、ガラス細工の丸くなった猫が書類を押さえながら眠っていた。

 

 

 

「では、いつも通り参りましょう。今日こそ…せめて、一発だけでも当てましょう。」

 

海上に立った神通が姉妹艦の那珂と、第六駆逐隊(暁・響・雷・電)の4人を真っすぐ見据えていた。

表情は穏やかながらも、その瞳は煌々と燃えていた。

 

「うむ。いつでも参られよ。」

 

その先にはボートの上で立っている五右衛門と、次元がいた。

 

「あぁ、いつでもいいぜ。弾は砲弾に比べりゃ安いからな。」

 

.357マグナム弾は一発5$にも満たない。

サイズも段違いの砲弾の価格とは比較できない。

 

とはいえあくまで市価であり、両方とも工廠で造るため原価しかかからないが。

 

「では、始めます!!」

 

神通の言葉と同時に艦隊行動を始める。

神通は全員の艦隊行動の採点もするためである。

 

「どっかぁーんっ!!」

 

「攻撃するからねっ!!」

 

艦隊がジグザグに動き、次元からの射撃を回避しながら波状砲撃をくわえる。

 

「撃つまでが(おせ)ェ!!」

 

しかし、構えてから狙いを定めて砲撃する、そのタイムラグを狙って次元がコンバットマグナムを連射する。

その連射で次元は暁や那珂の砲塔を射抜き、その衝撃で二人の体勢ごと崩れ、砲弾はあらぬ方向に飛ぶ。

 

「命中させちゃいますっ!」

 

「さて、やりますか。」

 

「てーーーっ!!」

 

次元が撃った隙を見計らって、残りの三人が同じく砲撃を行う。

 

「狙いは悪くない、が…愚直に過ぎる。」

 

一言褒めつつも、まだ足りぬと言えば次元と入れ替わりに前に出た五右衛門が斬鉄剣を一閃させれば真っ二つに斬れた砲弾が背後の海に沈む。

あえて当てようと真っすぐ狙いすぎたが故に斬りやすくもあったのだった。

 

「ならば、これでどうですっ!!砲雷撃戦…開始しますッ!!」

 

「チッ!!考えやがったなッ!!」

 

最後尾で様子を窺っていた神通が先日出来たばかりの15.5cm三連装副砲のついた腕を振るう。

その動きを見て次元は顔を歪めて、五右衛門の後ろから速射する。

 

「こちらの、勝ちですっ!!」

 

神通は腕の15.5cm三連装砲副砲を固定して狙うのではなく、腕を大きく振るいながら斉射する。

次元の速射は確かに神通の腕の15.5cm三連装砲副砲を射抜くものの、時は遅く、また精密な狙いではなくマシンガンのように速射に専念した砲撃であった。

その宣言とともに腕の砲が火を噴けば、ボート付近の水面に水柱が立ち…ボートに大穴が開くのだった。

 

 

 

「ヘーキショィッ!!…ぁーやられちまったなぁ。」

 

これまでずっとやっていた次元と五右衛門を相手にした訓練は、ただの海上に浮くだけのボートに乗った二人を相手に勝つ、という内容だった。

 

最初は船を狙うのは…などといった艦娘としてのプライドで至近弾や直撃を狙うだけで勝とうとした。

しかし、百戦錬磨の二人には通じず。

 

ならばという事で船を狙えば、動きが緩慢であれば脚の艤装を射抜かれるわ、全部砲弾を斬り捨てられるわ。

 

そんなことを一か月以上訓練した結果、今日初めて二人に勝ったのだった。

次元と五右衛門はバスタオルに包まって、ストーブを前にくしゃみをしていた。

 

「しかし、回避行動といい、構えて撃つまでの速さといい…大分成長したな。」

 

五右衛門も次元の隣で褌一丁にバスタオルという姿だが、神通や那珂を見上げながらしみじみと言う。

次元が事務仕事で手伝えない時は基本的に訓練は五右衛門がみていたため、感慨深いものがある。

 

「いえ、お二人のおかげです。しかし、あくまで動かない的になっていただいてやっと、ですから…あの船に乗った提督たちに勝てるように精進します。」

 

「やっぱり那珂ちゃんはアイドルだからね!歌って踊れて、勝てなきゃダメでしょ!」

 

二人の言葉にふっと次元は薄く笑ってからすぐそばに干していたスーツのポケットから煙草を取り出す。

 

「チキショウ、やっぱり吸えねぇや…。アイドルがどうとかわかんねぇけどよ。

まずは負けねぇこった。死んだらお終いだ、しかし、死なない程度にできりゃ次がある。

それが出来るようになりゃ、撃たれる前に撃つこった。

今回はやられたが…銃ってのは撃った数じゃねぇ。

いかに正確に、相手より早く射抜くか、だ。」

 

水で完全に濡れた箱を見て次元はしかめっ面になり、握りつぶしてからゴミ箱に放り投げる。

帽子がないが、髪の毛の隙間から眼光を光らせながら次元は言う。

その言葉に隣の五右衛門も頷く。

 

「うむ…当たらぬ弾は何も怖くはない。

当たる軌道の弾は対処せねばならぬ。それが早ければ早いほど、受ける側は後手になる。」

 

五右衛門の言葉に発艦所にいた二人は深く頷く。

 

「次元さん、五右衛門さん!提督用のお風呂沸いたわよ!」

 

「着替えも持って行ったからすぐに言ってもらって大丈夫だよ。」

 

ボートを撃ち抜かれ、真冬の海に落ちた二人を六人は助け出すと、第六駆逐隊は一足先に鎮守府へ戻り、ルパン達専用の風呂場へ行って湯を準備していたのだ。

その戻って来た響と暁の手には、とりあえずということなのか男性用の浴衣があった。

 

「助かるぜ…ちぃとカッコはつかねぇが、これを着て行くか。」

 

「かたじけない。」

 

二人は包まったままのバスタオルの隙間から浴衣を受け取ると小さな戦士たちに礼を言う。

その様子を見て、神通が二人の服を籠に入れて発艦所の扉へと向かう。

 

「それでは…こちらはクリーニングに出しておきますので。皆さん、行きましょう。」

 

男二人に会釈をすると那珂と暁、響を連れて発艦所を後にする。

出ていく際に暁がひょっこり顔を覘かせると、軽く胸を張って言う。

 

「風邪なんかひいたらダメなんだからね?ちゃんと温まりなさい!」

 

「へいへい、お嬢様。」

 

「うむ、かたじけない。」

 

扉が閉まるのを見て、二人は苦笑し合いながら背を向けた。

濡れた下着を浴衣とともに持ってきた新しい下着に履き替えながら笑う。

 

「ヘッ……娘がいたら、あんな感じなのかねぇ?」

 

「さて、な……我々には縁遠いもの故、考えたことがないな。」

 

次元たちも艦娘と触れ合って一か月余り。

何かしらの思うところはあるようだ。

 

 

 

そして夜中。

 

ルパン達は食堂で食事を終えた後、大人しく鎮守府の自室の方へ引っ込んだようだ。

とはいえ、酒保でウィスキーとつまみをいくつか買っていたので、男三人での酒盛りなのかもしれないが。

 

食事時間を終えて、誰もいなくなったはずの食堂に艦娘達が集合していた。

 

「…龍田さん、例のDVDは…。」

 

「ええ、ココにあるわよ~?」

 

ルパン鎮守府にはTVがある。

しかし、一般的な放送は受信できないことになっている。

 

これは大本営の指示で、世論に振り回されないようにするため、という理由があった。

深海棲艦が出る前に比べれば、旧防衛省よりも軍部、特に海軍が力を持つようになったが、いまだに言論の自由は認められている。

 

そのせいで、多くの民放がアンチ艦娘やアンチ海軍といった過激な発言を多く報道しているのだ。

ルパンに言わせれば「そんなに艦娘や海軍が嫌いなら、手前(テメ)ェらで深海棲艦を沈めて来いってんだ」だそうだが。

 

大本営からすれば、そのような口汚い、無責任な放送のせいで艦娘達に反旗を翻されてはたまらないというのが本音だった。

 

実際に海軍はマスコミに関して、作戦行動時は一切の考慮をしない、という方針を貫いている。

反発も大きいが、視聴率欲しさに戦場に突っ込むヤツの尻拭いなどやってられない、という事を遠回しに貫いた結果である。

 

 

閑話休題。

そのため、ルパン鎮守府には食堂の大型TVを除くと、艦娘寮の休憩室にそれぞれ一台ずつあるのみ。

それはあくまでDVDの上映用のTVだった。

そのDVDも大本営の許可の下りたもので、多くは娯楽用の映画、特に第二次大戦を題材にした戦争モノが多かった。

 

この数日前より、こっそりと龍田が秘蔵のDVDを上映するとのことで、ルパン達には内緒で情報が回っていたのだった。

各艦娘は普段の食事用の机を隅に片付けた広間にそれぞれ座り、各自酒保で手に入れた飲み物や菓子、酒を手に集まっていた。

 

「で、今日は何のDVDだい?こうしてコソコソしなきゃいけないってことは…大本営の許可の取ってないヤツなんだろ?」

 

そう、龍田はあくまでもルパン達にバレないように、秘密裏に集まるように指示したのだった。

今日艦娘全員が食堂にコソコソ集まった理由はその謎のDVDの中身が気になったからである。

 

しかし、そこを隼鷹が普段よりも小さな声で問いかけた。

その問いかけに龍田はにんまりと笑って、ケースを開けて一枚のDVDを取り出す。

 

「うふふ~大本営の許可どころか、一般社会に出回ってない、秘蔵の逸品よ~?」

 

龍田は楽しみで仕方ないとばかりにニコニコしてDVDの再生機にDVDをセットする。

龍田の頭の艤装がフワフワと上下しながら、回転する。

 

龍田の言葉にざわざわとざわめきがおき、艦娘達は顔を赤くして食堂を出るべきか迷う。

 

「別に強制じゃないわよ~?見たくない人は部屋に戻っていいけど、このDVDに関してはナイショね~?」

 

龍田がそう言うと、あらかじめ取っておいた、最前列の天龍の隣に座る。

 

すると画面にはメーカーなのかロゴが表示される。

締め切った室内に、ほどほどの音量の音楽とともに誰かの生唾を飲み込む音が響いた。

 

龍田の隣の天龍の顔は真っ赤で、ガチガチに硬くなっているのがわかった。

とはいえ、天龍だけではないが。

 

すると、パソコンのキーボードがたたかれる映像から始まった。

すぐに一瞬、どこかで見た顔がドット絵で表示される。

 

すぐさま、雨の中のタクシーへと。

 

「87フラン、ムッシュ。」

「領収書をくれ。…おっと、釣り!」

 

運転手とヨレヨレのコートの男の声が響く。

不意に、扶桑が声を漏らす。

 

「…え?え?」

 

画像に『パリ市警本部』というテロップが出た時点で、皆何かがおかしいと思い出す。

 

しかし、映像はどんどん進んでいく。

古臭い大型コンピューターの画像。

しかし、すぐに名も知らぬ白衣の男の台詞。

 

「警部!お待たせしました。

広域Aランク犯罪者記号P26号、通称ルパン三世に関する資料です。

データテープ全16缶、追加ディスク1348枚。」

 

次の瞬間、天龍は隣の龍田の首を掴んで揺さぶっていた。

 

「たっ、龍田ぁぁぁぁぁ!!どこが、秘蔵のDVDなんだよ!!

コレ、提督に関するモノじゃねぇか!!」

 

首を絞められつつ、ガクガク揺さぶられていても龍田は凄く『イイ顔』をする。

 

「あらぁ~?提督の資料は過去のICPOとか警察の極秘資料らしくて、表沙汰にはほとんどなってないもの~。

天龍ちゃんは『どんな秘蔵DVD』だと思ってたのかなぁ~?」

 

「ッ!!!!手前ェッ!頭のパ○ック割るぞ、コラァァァ!!」

 

龍田の容赦ないツッコミに天龍は耳まで真っ赤にして叫ぶしかなかった。

が。

 

「天龍、うるさいっ!聞こえなくなるだろうが、黙れこのムッツリ!」

 

「ムッツリ言うなぁっ!皆そう思ってたヤツもいるだろうが!」

 

艦娘の多くは暗い室内で天龍のツッコミに我関せず、と素知らぬ顔をするのだった。

 

そして映像はルパンがパリ上空を自作らしい特殊な装置で空を飛び、軍用ヘリに追いかけられていくシーンを映すのだった。

 

 

 

 

 

 

上映終了後。

 

「アレは、どういうこと?提督は現役で怪盗だって言ってたけど…そうだとしたら、あんな映画というかアニメは作られるわけないわ。

犯罪を助長する、とかで絶対禁止されそうですもの。」

 

駆逐艦をはじめとした全員が満足して、自室に帰っていった。

その中で残った赤城が龍田に問いかけた。

 

「それがね~…私にもよくわからないの。

工廠の妖精さんが何故か作ってくれたんだけどね…面白そうだし、皆と見ようかなって。」

 

「…提督には確認したのか?」

 

那智が判断しきれないと見たのか、考え込みながら問う。

が、どうやら姉妹で飲みながら見たらしくわずかに顔が赤い。

 

「いいえ~。途中までは自分で確認したんだけど、提督関係の作品だってわかったから独り占めもどうかな~って思ったのよ~。

確認はそれからでも遅くないでしょ~?」

 

龍田の判断は本当ならば、よくはない。

よくはないのだが…。

 

「むぅ、しかし、見れずに秘密裏に処分されるよりは、よかったな。」

 

「…提督がどう判断されるかはさておき、以後、皆で確認してから提督に提出しましょうか。」

 

那智や赤城もルパン鎮守府流に染まったらしく、そう結論付ける。

龍田はDVDをケースにしまうと小さく頷く。

 

「そうね~実写じゃなくてどうしてアニメなのか、とかも気になるけども…。

とりあえず私はこれで失礼するわね~?」

 

そのまま龍田は電源を落とすと、ほぼ誰もいなくなった食堂を後にする。

その背中に那智はふと、声をかけた。

 

「……ちょっと待て。もちろん、自室に、帰るんだよな?」

 

「…………ええ~……(提督の)自室に、行くわよ~?」

 

しばらくの間の後、何故か小さい声の返事を聞いて赤城と那智は両サイドから龍田の肩に腕をかけた。

 

「なら。」

 

「私たちとゆっくり話しましょう。色々と。」

 

「ちょっ…ちょ……天龍ちゃ~ん!助けて~~!!」

 

先に帰ろうと、廊下の先を歩いていた天龍は振り返って『イイ笑顔』で言った。

 

「オレに『姉をハメる』妹はいない。」

 

 

この後、龍田は滅茶苦茶二日酔いになった。




活動報告でも愚痴ったが。
前回の扶桑の簪のパゴダマストの信号旗が何故スルーされたのかと悩む。


あの時代、CDとかMOとかじゃなくて『データテープ』とか『5インチディスク』だったんですよねー。(しみじみ


日常回ですが、色々とやりすぎたかなーとか思ったり。


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10.ルパン鎮守府に来客のようです。

何気なくEX海域をクリアしていき、今月初の4-5クリアで朝霜落ちて大歓喜。
Twitterで友人には様々なお呪いの言葉をいただきました。

正直ブラ鎮ネタ考えると、鬱展開がどうしても混じるため、悩んでいたんですがsirataki様の感想で「ホワイト鎮守府書いてもいいんだ」と気付かされて目から鱗が落ちましたwww


とある鎮守府の一室。

 

金剛型四姉妹と二航戦の二人が呼び出されていた。

目の前にはまさに巌と言うべき、険しい顔つきと逞しいを越えた逞しい男が執務机に座っていた。

 

「お前らには明日、演習へ回ってもらう。今回はウチが出向く番らしい。」

 

重厚感のある声が執務室に響けば、旗艦である霧島が書類を受け取る。

行先の鎮守府の一つに目を止めると霧島はピクッと目を少し見開く。

 

「…どうした?」

 

「……あの…ここの鎮守府を最後に回ってもいいでしょうか?」

 

霧島の反応を見たらしく、男はギロリと視線を向ける。

その眼光に誤魔化せないと悟ったのか、熟考の上で言葉を紡いだ。

 

「…ほぉ、新人の所か…。」

 

「ええ、新人故に所属艦娘への指導にも時間がかかるかもしれませんので。」

 

素知らぬ顔をして理由を話す霧島にフンと鼻で笑うと、机にあった葉巻をナイフで切って咥える。

そのまま少し考えれば、火をつけて煙を吐き出す。

 

「…ならば、資材を各500ずつ手配しろ。

そして、ワシも行く。いつかは顔を合わせねばならないとは思っていた。」

 

霧島はその言葉を聞いて大きく見開く。

明らかに顔にはしまったと書いてあり、他の五人から責めるような視線を向けられる。

 

 

さて、演習のシステムを説明すると基本的には大本営からの指示で様々な鎮守府からとの練習試合じみた演習を指示される。

しかし、これは双方の鎮守府の合意の上で行われる演習であり、必須ではないが熟練の艦娘との演習は大きな経験になるため各鎮守府は極力行うようにしている。

提督によっては演習による敗北の経歴を避けるために避ける者もいるが。

 

基本的に高練度を擁する鎮守府が低練度の鎮守府へ赴いて、演習を行う。

低練度の鎮守府は演習に一軍を連れて行った場合、鎮守府の守りが薄くなるため他所の鎮守府への演習出向は避けられるか、同レベルの近場の鎮守府への出向に留められる。

 

 

「し、しかし…提督が演習に同行するというのはあまりない話です。それに提督がいらっしゃらない場合、鎮守府の指揮系統が…。」

 

「この鎮守府まで攻め込まれるような大事はあるまい。それとも…ワシが知らんとでも思っておるのか?」

 

齢50を過ぎた男は鋭い視線で霧島を射抜けば、ゴクリと唾を飲み込む。

 

「何が目的かも確かめねばならん…それに一方的に貸し付けられるのも気に食わん。

見極めは必要だろう。」

 

男の静かな響く声に6人は黙って敬礼を返すしかできなかった。

 

 

 

翌日。

ルパン鎮守府に他の鎮守府からの演習出向のバスから遅れて一台のバスが入って来た。

鎮守府には違いがあるものの、他の鎮守府とは異なり、通常のマイクロバスを軍用とわかるように塗装しただけのものだった。

 

「ありゃ?龍田ちゃん、アレは?」

 

「少し遅いけど~…別の鎮守府を回って来られたんでしょうね~。」

 

ルパンの質問に龍田が首を傾げながらも答える。

そのまま出迎えようとバスの降り口に向かえば、一番に出てきたのは随分と厳めしい男だった。

 

「…へ?」

 

「貴様が、ルパン三世か。今回の出向に同行した、岩隈拓真だ。」

 

ギロリとルパンを睨みつけるように鋭い眼光で射抜き、のそりと降りてくる岩隈と名乗った男は日本人離れした体格を持っていた。

ルパンよりも高い身長に、倍はありそうな太い腕。

そして四角い顔には、左目の上に火傷の痕。

これでもかというほどに歴戦の戦士という風格を漂わせていた。

 

「は、へ?…確かに、ルパン三世だけっども…。」

 

「提督…岩隈提督は初期の大戦期よりの歴戦の提督よ~…元はヤ○ザだったらしいけど…日本刀や銛で深海棲艦も突き殺したっていう話も聞くわ~…。」

 

「いや、マジ?いくらなんでも…そりゃちょっと眉唾だろ?」

 

見目麗しい艦娘が降りてくるだろうと思っていたところに強面の、軍服を肩に引っ掛けた男が降りてくればルパンも戸惑いを隠せない。

そのまま隣の龍田が小さな声で岩隈の情報を提示する。

 

「真実だ。とはいえ、近海に出たイ級やホ級やチ級だがな。」

 

「いやいやいや、おかし……くないのか?」

 

岩隈の断言に慌ててツッコミを入れるものの、よく考えれば五右衛門がいるのでおかしくないのかと考え直し。

 

「…ウチにも、やりかねない人はいるわねぇ~…。」

 

「ならガタガタぬかすな。…大本営ってわけでもないから、ココでの服装は言わんが…敬礼の一つくらいしとけ。縦社会なんだからよ。」

 

龍田もルパンの言葉から五右衛門が思いついたらしく、そのままうーんと唸っていると岩隈の言葉に慌てて二人で敬礼する。

言われて初めて岩隈の軍服についた階級章に気が付いたのである。

 

「よし。…大本営は資材はそちら持ち、と言ってたがな。

若造に奢られるほど落ちぶれてもいねぇ…各資材500ずつ持ってきた。

あとこれを相応額のテメェの所の軍票に交換してもらおうか。」

 

敬礼に頷けば、顎で後ろから降りてくる霧島に指示するとバスの奥から資材を下ろさせ。

そのまま懐から数万円ほどの入った封筒をルパンに渡しながら、喧嘩を売っているともつかない口調で言い放つ。

 

「い、いや…そりゃありがたいんだけっども…その辺りは日本円で買えるだろうし、軍に手配させた方が安いんだが…。」

 

ルパンはシンジケートのトップであったことはあっても、縦社会の中に組み込まれたことはない。

また、岩隈のような威厳・威圧感を伴う人間と『対立』したことはあっても、縦社会の中で『対処』したことは少なく、気圧されるままに引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

「んなこたぁわかってんだよ…ウチの艦娘に買わせるんだ。どんなモンかも見なきゃいけねぇしな。」

 

全く擦り寄る気配も見せずに言い放つとルパンに封筒を押し付ける。

厚みで大体の金額が予測できたのか、少し困った顔をしつつもそれをそのまま龍田に渡す。

 

「悪ィけど、龍田ちゃん頼むわ。差額発生したら困るから、帳簿に上手くつけといてくれ。

じゃ、その岩隈少将。執務室の方へ…。」

 

「それは最後で頼む。ウチの連中の動きなども確認せにゃならんしな…そこの椅子で構わん。」

 

ルパンがどうしたもんかと思いながらも、来賓として招こうとすればきっぱりと断ると艦娘達用のテントの方へ先に行き、自分の配下の金剛型達と一つの長机へと向かう。

その自由奔放とも言える様子にルパンは頬を引きつらせるのであった。

 

 

「ほぉ、しっかりと鳳翔たちに調味料も提供しているようだな。使い慣れている味だ。」

 

「いや、わざわざケチる意味もないだろ…どうせなら美味いモン食いたいし、食ってもらった方がいいだろ。」

 

岩隈は長机に移動すると、ルパン鎮守府の振舞いの鍋を全員分準備させてそれを岩隈を含む7人で淡々と食べていた。

艦娘達はまともな食事に慣れているのか、ほんの少し顔を綻ばせる程度で静かに食事を済ませた。

 

そのまま腹ごなしに、といった様子でルパン鎮守府との演習へと向かったのだった。

ルパンも岩隈を放置するわけにもいかず、同じ長机で早い昼食なのか、今日の鍋のポトフを食べた。

 

「…このポトフのソーセージ、自家製か?」

 

「やってみたい、ってこの前言ってたし、そうみたいだ…燻製かもな。」

 

慣れない敬語を使って話していると、岩隈が最低限でいいと言い放ったので普段の調子でルパンも喋っている。

演習の場所である海上が見える波止場に、テントからパイプ椅子とポトフを持って移動していた。

 

「……そうか……お前は、艦娘をどう思っている。」

 

体格に似合う健啖家ぶりで岩隈は何杯目かわからないポトフを食い終えると海を見ながらルパンに問いかけた。

 

「そりゃま。ちょーっち特殊な力は持ってるけど、可愛い子ちゃんだと思って…ますがね。」

 

ふと普段の調子で喋りかけるが、さすがに階級が大幅に違うため、言葉を修正する。

それを聞くと、少しだけ岩隈は唇の端を歪めた。

 

「フン、なら自分のモノにしてしまったらどうだ。

こちらは上官だし、基本的には逆らえん。

聞いた話には脅して何人も情婦にしている者もいるらしいしな。」

 

「ハッ、そういうのは、そういうのが好きなヤツがやればいいかと。

俺ァ粋な関係で愛し合いたいんで。」

 

岩隈の言葉に眉をしかめるが、上官の岩隈の勧めである以上は一方的に切るのもマズいし、あくまで『聞いた話』である以上は何も判断できない。

そう判断したルパンは趣味じゃないと切り捨てた。

 

「そうか、ならそうすればいい。」

 

「ええ、そうしますよっと。」

 

そうとだけ会話をすれば、ルパンもポトフを食いきってしまうとともに、スープも飲み干す。

すると、海上に6人ずつの影が浮かんだ。

 

「……ワシはな、さっきも言ったが世間の鼻つまみ者だった。

田舎町を仕切る程度の小さな組だったがな、まぁそれなりに悪さもしたが、あくどい真似はしやしなかった。」

 

演習の最後の詰めなのか、それぞれが近づいて何かを話しているのを見つめながら話し出した。

 

「まぁワシが鼻つまみ者なのはしょうがねぇ。

ガキの時分に、親に逆らって社会に逆らって暴れ回ったからな。

深海棲艦が現れてからワシの事を一部のバカどもが英雄だ何だとか言いやがるが、ワシは守りたい街を守るためにどうすりゃいいのかと思って漁船借りて突っ込んだだけだ。

そんな剣術なんかやっちゃいねぇからな、組の武器ありったけ持って、撃って、ハッパ(ダイナマイト)火をつけて投げつけて、最後に体当たりのノリで長ドス突き付けたら刺さっただけだ。」

 

「…やれただけスゲェんじゃねぇの?」

 

岩隈とルパンはちらりとも視線を交わさずに海を見据える。

最後の話が終わったらしく、それぞれの艦隊が決まった距離を取り始めていた。

 

「逃げるっていう選択肢が思いつかなかっただけだ。

女房はワシの事を『バックギアのブッ壊れた暴走車』って言うしな。」

 

「まぁそんだけの事やりゃ言われるかもな。」

 

フッフッフと軽く鼻で笑いながら言った岩隈の妻の評価に苦笑する。

ルパンはポケットから携帯灰皿と煙草を取り出して火をつける。

そのまま横の岩隈に腕を伸ばして、煙草の箱を差し出す。

 

「すまんな。…だがな、アイツらは何をした?

ワシが英雄だって言われて、アイツらはバケモノって言われるのは…どうもな。」

 

一本ルパンからもらった煙草に火をつけた岩隈がパイプ椅子に身体を預けるとギシリときしむ音がする。

それに意識すら向けずに角刈りの頭をボリボリと掻いて、煙を吐き出す。

 

「アンタ……スゲェな。」

 

「凄くねぇよ。この顔の傷も間一髪で避けた砲撃が掠めた痕だ。

チ級の砲撃で、だぜ?あんなの受け止めきれるか。

ル級すら沈める艦娘に比べりゃ、ままごとにもならん。」

 

ルパンの呟きに苦笑して、肩を竦める岩隈。

その視線の先にはそれぞれの艦娘が縦横無尽とまではいかないものの、巧みな機動を見せていた。

 

「いや、劣ってるって認めれるだけスゲェさ。

周りは英雄だ何だってチヤホヤしてくるのに、そう言えるヤツぁそうそういねぇよ。」

 

「よせよせ。煽てられても現実が見えてりゃ、逆に冷めるわ。

実際、ワシは鍛えたが常人の域を出ねぇ…ただ崖に向かって思いっきり一歩踏み出した。

そして、ワシが振った賽が、たまたまいい目が出ただけだ。」

 

ルパンの素直な賛辞に岩隈はハッと鼻で笑って自嘲気味に笑う。

 

「…ピンゾロ、くらいかな。」

 

「チンチロだってんなら…もう一個か二個賽を増やさなきゃいけねぇな。

生き残った人数を考えりゃ、な。」

 

あくまでも大したことはないと言い張る岩隈に静かにルパンが煙草の煙を冬の空気に吐き出しながら言う。

そして、岩隈が煙草を半分ほど吸ってからルパンの携帯灰皿に揉み消す。

 

「だがな、ワシは学もなけりゃ、自分でどうこうする力もなかった。

だから、周りの人間の評価をどうにもできなかった。

若ェ頃はそんな人間じゃねぇとも言ったが…逆に現実を見せたら暴走するバカばっかりでな。

…いっつもしかめっ面して、黙って踏ん反り返る。

そうしときゃ、自分の見たいモノしか見たがらねぇバカどもは勝手に納得してくれるんだ。」

 

「…なるほど、ね。アンタが踏ん反り返って黙ってりゃ、『英雄様』がいるから俺たちゃ大丈夫って思ってくれるってか?」

 

ルパンの言葉に頷けば、そういうことだな、と小さく言う。

ルパンがちらりと横目で見れば、そこには少し疲れた老人の顔があった。

 

「正直、ワシも艦娘との接し方の正解なんかわかんねぇ。

ただ、人並に扱いはしたつもりだがな…オメェんとこの艦娘はパッと見ただけでもわかるほどいい顔してやがる。

なら、オメェんとこと同じ扱いしてやりゃ…ちったぁ、報いれるのかね、と思ってな。」

 

「それで俺の鎮守府に来た、ってわけか。」

 

「それだけじゃねぇ。…オメェ、ドルーネ、って知ってるか?」

 

深い溜息とともに岩隈が告げた言葉にどこかしんみりとした響きにルパンは不器用な男の嘆きを聞いた。

しかし、ルパンの問いかけに小さく首を横に振ると、岩隈が初めてルパンに向き合った。

 

「…ドルーネ、爺さんの事かい?EUの暗黒街のボスと呼ばれた男。」

 

「……そうかい。やっぱり、本物のルパン三世だったか。」

 

ルパンの回答を聞いて、静かに岩隈が頷く。

その顔はどこか安らいだものだった。

 

「…ワシのな、爺さんが昔一山当てようってんで、モロッコに行ったらしいんだ。

そこでイゴ族とゲルト族の戦争に参加したらしいんだ。」

 

「…なるほどね。そこでドルーネ爺さんと知り合ったのか。」

 

モロッコでは昔、ゲルト族という民族とかつてのイギリス占領政策に手を貸したイゴ族という民族の間で戦争が起きた。

その中でドルーネという男はゲルト族の独立に手を貸して、イギリスの力を借りたイゴ族と戦ったという過去があった。

 

「戦いも終わりを迎えかけ、敗北が間近となったときにな…ドルーネという方が脱出に力を貸してくれたそうだ。

そして、その後も気にかけてくれて多大な恩を受けたらしい。」

 

「ドルーネ爺さんは厳しいには厳しいが、身内にはしっかりした人間だったからな…。」

 

ルパンも駆け出しのころにもう老境に差し掛かっていたドルーネとの縁があった。

それなりに前の話だが、もう引退してベッドで寝たきりになっていたドルーネに呼ばれ、心残りを託されるほどには。

先日の事を思い出して、すっとルパンは目を細める。

 

「また、ベイビーって、呼ばれてぇなぁ。」

 

「深海棲艦が現れてしばらく経った頃、お前がEUで姿を消したってドルーネさんから連絡があってな。

…もし、日本で現れたら、出来る限りで構わないから気にかけてやってくれ、とさ。」

 

「……へっ、爺さんにゃ、かなわねぇな…。」

 

ルパンはしみじみとし、俯いて頭を掻く。

 

「とはいえ、ワシがお前に何かしてやれるかはわからんが…。」

 

「おいおい、勘弁してくれよ。俺もいい歳してんだ、ケツ拭いてもらわなきゃいけねぇガキじゃねぇんだからよ。」

 

ルパンの方から顔をそらして、海にまた視線をやって苦笑しながら言う。

ルパンもそれなりの歳であり、甘える気もないため合わせて海を見る。

 

二人の視線の先には、案の定、ルパン鎮守府の負けであったが以前のように全員轟沈判定というわけではなく、中破程度に収めていたりもしている。

一方で、岩隈鎮守府の方も二人だが中破まで追い込まれている。

 

「…いい鍛え方をしている。戦い、というものがわかっているな。」

 

「俺にゃ、頼りになる相棒たちがいてね。」

 

これまでの演習の動きを見ていたのか静かに岩隈が言うと、パイプ椅子を持って立ち上がる。

岩隈に従ってルパンは歩く。

 

「…お前の鎮守府は強くなる。士気の高い連中と低い連中じゃ成長速度も上限も変わる。」

 

「死なない程度でいいさ。」

 

「それが一番だ。死んだら何もできない。」

 

男二人でしみじみと話しながらテントへと戻っていった。

 

 

 

 

 

「…確かに相手の動きも悪くはなかった。しかし、それを叩きのめすのがお前たちのやるべきことだ。

各自、反省点を話し合って対策書を本日帰投後に提出すること。」

 

「「「「「「ハッ!!了解しました!」」」」」」

 

岩隈が立ち上がって自分の鎮守府の六人を見据えると、端的に指摘し。

特に激昂することもなく、ただ淡々と、しかし威厳を持って命じる。

それに六人は、怒ることも恐縮することなく真っすぐ受け止めて敬礼で返した。

 

「岩隈少将さんよ、コレがウチの軍票のルパン札。

アッチの中の酒保にあるものは買えるし…言えば在庫から出すんで、それなりの数で渡せるぜ。」

 

先ほど龍田に手配させていたルパン札を入れた封筒をルパンが岩隈に渡す。

中身を出して、少し興味深そうに見た後にまた封筒に戻すと、岩隈はそのまま霧島に渡す。

 

「…これは……小遣いのようなものだ。いつもの間宮のアイスなどばかりでは飽きるだろう。

ここの鎮守府の酒保で買えるだけ買ってもいいが、他の連中への分も忘れるな。

特に金剛、紅茶ばかりを買い込むんじゃないぞ。」

 

言いにくそうに迷った挙句に岩隈が言うと、六人が目を輝かせて。

しかし、念のためと金剛に釘を刺す。

 

「Oh!!Shittttt!!!」

 

「Shitじゃねぇ、誰に言ってんだ、コラ。」

 

金剛はそれを企んでいたのか岩隈の釘刺しに頭を抱える。

しかし、金剛の悪態を聞き逃さなかった岩隈がその大きな手で金剛の顔面を鷲掴みにして宙に吊るす。

俗にいうブレーンクロー(アイアンクロー)であった。

 

「NO!!NO!!提督ぅーっ!!頭蓋骨が立てちゃいけない音してるネー!!!」

 

「ルパン、酒保を確認してそのままウチの鎮守府に持ち込めるかを確かめたい。

ワシも行っていいな?」

 

金剛が吊るされながら叫ぶが、いつもの事なのか他に五人はただ合掌するばかりである。

流石にルパンも引きつった笑みを浮かべるが、触れないことにした。

 

「…おう。導入したくなったら帰りでいいから声かけてくれよ。

ウチのノウハウってわけじゃないが、大本営に通した許可とかやり方の資料まとめとくからよ。」

 

「…ワシの名前が必要な時は、力が必要な時は呼びな。『出来る限り』の事はしてやろう。」

 

そうとだけ言って、岩隈は酒保の方へと歩いていくのだった。

金剛を吊るしたまま。

 

 

 

 

「そういうことなんで、龍田ちゃん、今後の事も含めて酒保関連の資料まとめてくんない?

ほら、テンプレート作っとけばまた似た事があったらそれ渡すだけで済むしさぁ。」

 

そして、ルパンは執務室に戻って龍田に泣きつくのであった。

龍田は少しジト目になりながらもふと思案顔になると、中空を眺めながら唇に指を当てた。

 

「…私、鳳翔さんの所で晩御飯食べたいなぁ~。」

 

「OK!二人分ちゃ~んと予約しとくから!」

 

龍田の呟きに勿論とばかりに何度も頷いてルパンは承諾する。

二人分、と聞いて周囲は声を潜めつつも色めき立ち、龍田は目を見開く。

 

「へ?二人?」

 

「一人でディナーってのも味気ないじゃない?」

 

まさかのルパンからの申し出に信じられないとばかりに普段より大きく見開いた目でルパンを見つめれば、次第に顔が紅潮していく。

逆にルパンは二人で行って当然だろうとばかりに言い返せば、龍田の頭の艤装が普段より上下に揺れつつ回転が速くなる。

 

「まっ、まあ?そこまで気を使ってくれるなら、仕方ないわね~!」

 

龍田の声が普段よりも上擦り、表情をこらえようとしているのか頬がピクピクしていた。

それを見て、ルパンはうんうんと満足そうに頷いて自分の席に座る。

 

「じゃ、そういうことでお願いね~。」

 

その場にいた執務室詰めの艦娘はチラチラと目配せをしあっては頷く。

ルパンは上機嫌のまま、電話を手に取った。

 

「あ、もしもし鳳翔ちゃん?お店の方にいてくれてよかったわ~!

あのさ、今晩二人分のディナーセットを予約したいんだけどっもさ。

うん、請求は俺宛でいいんだけど。…じゃ、頼んだよ、龍田ちゃんと天龍ちゃんの二人分。」

 

そして、バキリッと何かが折れる音とともに執務室の空気が凍った。

 

言い訳をしておくならば、ルパンから女性に何かを捧げる、というのがデフォルトになりすぎていた。

特に頼みごとの交換条件となれば、相手に何かしてあげたり、プレゼントをするのが当たり前になっていた。

 

一言でいうなら、不二子が悪い。

 

 

そして、静かに龍田は折れたペンを机に置くとともにカップを持って立ち上がった。

ルパンはそれに気付かずに、他の仕事の資料を取り出していた。

 

そのまま静かにルパンの斜め後ろに立つと、静かな微笑みを浮かべたままルパンのYシャツの襟首を引いた。

 

「え?」

 

シャツが引かれるのに気が付いてルパンが顔を上げる前に。

龍田が湯気の出る、カップの中身をルパンのシャツの中にブチ撒ける方が早かった。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~~~~!!!!」

 

「死にたいバカはどこかしら~♪」

 

 

 

ルパン鎮守府は今日も平和です。(一部を除く




というわけで厳しいけど、一応ホワイト鎮守府な岩隈鎮守府のお話でした。

ちなみに途中で出てきた『ドルーネ』&『モロッコ』関連の話は、『トワイライトジェミニ』をご覧になってください。
一応言っておきますが、イゴ族・ゲルト族に関してはフィクションですので信じないように。
(ルパン史上ではあったことですが。)


以前から赤面龍田ちゃんの要望が大きかったので、入れてみました。

あと、メロ○ブックスで頼んでいた冬コミの新譜届きました。
耳が幸せです。


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11.長門さんは困惑するようです

先日のイタリア編のSPがこちらでは放送してなくて、チクショウ!!と思ったら、今晩(11日夜9:00)から放送と番組表にあって、ヤッター!と思ったら…。

実写版でした、ファッ○ンッ!!!!

あっち見るくらいならまだ田○邦衛や伊○四朗が出た念力珍○戦の方がまだマシだ。
どっちも見たくないですが。(ぉ

テレビを付ける直前までの俺のトキメキを返してほしい。
(結局イタリア編のSPは見れず。DVDで見ます。)


-追記-

この話の裏話をちょっと活動報告に書きましたので、もしよろしければ見ていただければ幸いです。


とある鎮守府に朝がやってくる。

 

この鎮守府では全員個室にはなっているが、オートロックシステムで時間になれば勝手に施錠され、朝の決まった時間になると解錠される。

全て、提督の指示通りに動くためらしいが。

 

解錠した時間には起きて、身支度を整えねば食事やそれ以降の仕事の時間に間に合わない。

長門はいつも通り身支度を整えた状態で部屋を出る。

 

「点呼を始める。各班長、報告へ。」

 

長門が廊下の先頭に立つと、十人単位の班の班長が長門の下へ報告に来る。

 

これは以前、この鎮守府のやり方に反発し、抵抗したものの認められず、ならば死をと解体を望んだがその戦力故にそれも認められなかった艦娘が朝、自決していたからだった。

艦娘同士の交流や私語も大っぴらにできないこの鎮守府では、その艦娘が自決したのに気づくまで時間がかかった。

 

その後の処理は非常に大変だった。

クーラーもない部屋での真夏の暑い最中であり、数日ではすまない時間も経っていた。

 

それだけでなく、その事にきわめて激昂して喚き散らす提督の対処にも頭を悩まされた。

 

 

極端な事例だったが、以後「各自班を作って見張る」という名目で鎮守府内での絆を作らせたのだった。

 

 

この日も普段通り、全員の点呼が終わった後、食堂へ行く。

その間にも私語は一切ない。

 

見つかったら鉄拳制裁を受けかねないからだ。

 

食堂で調理に当たるのは間宮・伊良湖ではない。

提督の子飼いの軍人たちである。

 

当然、調理師免許の類など持ってはいない。

彼らの仕事は、賞味期限ギリギリのレーションの袋を艦娘達に渡すことだからだ。

 

(あの鎮守府で食べた鍋は…温かったな、いろんな意味で。)

 

長門は冷えたレーションの封を開けて、粗末な金属製の食器の音をカチャカチャと鳴らしながら食事を終える。

この鎮守府で唯一憩いを取れるのはこの食堂だった。

 

食事の時間の後、出撃などの時間までは一応自由だし、レーションは冷えていても一応給湯器があるので温かいお茶などを飲めるのはここだけだからだ。

とはいえ、大っぴらに話などをすれば提督の子飼い達に密告、もしくは制裁を受けるので声を潜めて、だが。

 

 

しかし、この日は違った。

 

全員が食事を取り終えた頃を見計らったのか、今まで一度も来たことのなかった提督がやってきたのだった。

その体つきは軍人とは思えないほど腹が出た、のっそりとしたものだった。

 

「…長門、陸奥、赤城、加賀、那智、妙高。起立。」

 

「「「「「「ハッ!」」」」」」

 

どこか疲れたような、虚ろにもとれる表情をした提督を見て、訝し気に思うが、高練度の6人を呼んだことからきっと特別な任務でも押し付けられたのかと思った。

しかし、信じられない命令が提督から出た。

 

「この食堂にいる、艦娘以外の軍人を捕らえろ。手荒にして構わん。」

 

「…ッ!?了解した。」

 

一番早かったのは、那智だった。

答えるや否や、机を踏み台にして飛べば混乱している一番近い軍人を蹴り飛ばす。

そのまま着地とともに他の軍人を力任せに殴り飛ばす。

 

艦娘は艤装でも相応の質量はある。

それを装備したまま不安定な海上を走らねば、艦娘はやっていけない。

 

その力は軍人の技量をしても覆せない、圧倒的な差だった。

もっともこの鎮守府にいる軍人は全員提督の子飼いであり、まともに訓練などしていないのも知ってはいたが。

 

その那智に続いて、立ち上がっていた残りの五人は容赦なく殴りつけた。

手を挙げて降参した者もいたようだが、理不尽な暴力や嫌がらせを長く受けていた長門たちにはそのような者は見えなかった。

 

 

「提督ッ!何をッ、血迷ったのですか!」

 

艦娘達に殴られ、呻く、床に縛られて転がった軍人の一人が提督を見上げて必死に言う。

それを提督は一瞥だけすると、まだ状況が掴めず困惑する艦娘達を見渡して、太った身体を少し震わせると静かに言う。

 

「…私は、もう疲れたのだ。

深海棲艦に怯えるのも、お前たちに怯えるのも。

そして、あくせく小銭を貯めて、昇進争いをするのも。」

 

静かな口調で淡々と提督は語る。

 

「だから、私は全ての罪を告白し、罪を償う。

蓄えた資材は全て大本営へ納め、諸君等にはこれまでのお詫びを込めて希望する者には解体を。

または希望する鎮守府への異動、もしくは第一線から退くことも希望が通るように出来る限り計らおう。」

 

「そっ、そんなっ!!今更一人善人ぶろうなどっ」

 

「やかましいわ!!善人であるわけがないだろう。

故に全ての罪をこの身で償う、と言っておる。」

 

提督の告白にざわざわと食堂がざわめくとともに、子飼いの軍人たちが顔を蒼白にしてわめく。

しかし、それを一喝して静まらせたのも提督だった。

 

「各艦娘は六人で組を作り、それぞれ軍人たちを逃さず、捕まえろ。

そして、これから来る大本営からの憲兵などに引き渡すように。

これは諸君等への最後の命令だ、今更私に従うのは嫌かもしれないが…頼む。」

 

そう静かに言って、全艦娘達に頭を下げたのだった。

 

「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」

 

色々思うところはあったのだろうが、絶好の復讐のチャンスということもあり、全員が立ち上がれば各班長を中心にして軍人の確保へと走り出した。

 

「長門、大淀、お前たちは残れ。」

 

騒がしく動き出した中で提督は頭を上げると、長門と大淀を残す。

そのまま大淀に何かの連絡先の書かれた紙を渡す。

 

「大淀、これは憲兵組織の一人の連絡先だ。

この経緯を告げて、私が自首したい旨などを伝えてほしい。

勿論、これまでに行った罪も全て告げて構わない。」

 

「よ…よろしいのですか?」

 

「これが贖罪なのだ…。」

 

提督は、しんみりとその脂肪のついた老けた顔を俯かせて言う。

こんな弱った顔は大淀も長門も見たことはなかった。

 

「…正直、提督の下についたことは私にとって最大の不幸でしたし、これまでの数々を隠してあげる気にはなれません。

しかし……この御英断のみ、評価させていただきます。」

 

大淀は戸惑いながらも複雑な表情とともに紙を受け取り、最後に敬礼をした後に通信室へと向かって歩き出した。

 

提督と二人で残された長門は何も言えなかった。

 

 

長門は初期の頃に無茶な資材の投入で建造された。

そして、幾多の海域や大規模作戦に投入されて目の前の男に栄冠をもたらした。

 

しかし、甘やかな時間など一切なかったし、目の前のようなくたびれ果てた様子など見たことはなかった。

 

「長門よ…。」

 

「ハッ!」

 

長い習性で、呼びかけに直立して敬礼で答える。

 

「私は、執務室で全てをまとめ、身を律して待っておく。

以後の、この鎮守府の艦娘たちを頼む…伝手がなければ浦賀大佐を頼れ。

艦娘擁護派の筆頭の一人だ。」

 

「……わかった。」

 

静かに肥満の身体を揺らしながら廊下へ行く提督の背中を長門は敬礼で見送った。

 

 

 

 

 

「憲兵特別捜査本部所属、元ICPO特別捜査官、銭形幸一特別大尉だ。」

 

大淀があの後、大本営の指定された連絡先に連絡を取ったところ、目の前の男が出た。

そして事情を話すと一時間もせずに、憲兵部隊を連れて目の前のトレンチコートの男がやってきたのだった。

 

「ム?ワシの格好は気にせんでくれ、元は刑事なのでな。」

 

身分証明の手帳を見せながら苦笑して玄関先で言う。

それに長門と大淀の二人で頷く。

 

「今朝、提督が先ほど報告した通りの事を申しまして…。

私の方でもここに所属していた軍人の全員が、何らかの形で汚職に関与していた証拠も見つけました。」

 

「ウム、話が早い。ならば、その提督は?」

 

「執務室で憲兵隊を待つ、と言っていた。

念のため我々艦娘で逃亡兵が出ないように見張っていたので、逃げてはいないはずだ。」

 

三人で話せば、銭形はその返答に頷く。

すると銭形は振り返り、整列していた憲兵隊に指示を出す。

 

「既に汚職兵たちは拘束済みだそうだ。

万が一にも逃げられぬよう、全員拘束を確かめた後に護送車に押し込めろ!」

 

「「「「「「了解であります!」」」」」」

 

憲兵隊には元警視庁関係者が多い。

特に銭形と長い付き合いの機動隊員もそれなりにいた。

 

その憲兵隊たちは指示通り、提督子飼いの兵隊たちを護送車に押し込める。

艦娘達の演習出向用の護送車紛いのバスにまで押し込められたのは皮肉ではあったが。

 

 

「フム…急に心変わり、をな。」

 

「正直、私たちには何があったのかわかりません。

もっとも…まともな会話などありませんでしたので、前々からの行動なのか、それすらも判断できませんが。」

 

艦娘達は鎮守府の周りを警備し、残りは汚職兵達を押し込めた食堂を見張っているため鎮守府は静まり返っている。

その廊下を三人の足音だけが響く。

大淀の声にはには嫌悪の色が濃かった。

 

「しかし、それも今日までだ。

浦賀大佐にも悪いようにはせんようにワシからも言っておこう。

まともな鎮守府もいくつか心当たりがある。」

 

「…すまないな。」

 

歩きながら静かに頷けば、執務室のドアを開ける。

 

「ンーーーーッ!!!んんんぅぅーーーっ!!!」

 

執務室の真ん中には、ブリーフ一枚で縛られて唸る提督だけが転がっていた。

それに三人はギョッとするものの、銭形は一瞬だけ止まるが、そのまま執務机へと向かう。

 

「…フン、なるほどな。」

 

銭形の手には大判の封筒に入った何枚もの資料をめくった後に、大淀に渡す。

 

「…これは…。」

 

「汚職の証拠、揉み消してきたいくつもの悪事の証拠だな。」

 

その言葉を聞いたのか、縛られた提督は首を激しく横に振る。

しかし、誰もその猿ぐつわや縛るロープを解放しようとはしない。

 

「ま、コレが自分でやったのかどうかはわからんが…いずれにせよ証拠はココにある。

そして、正式文書による辞表も、自白書もある。

もうどうにもならん…神妙にしろ。」

 

それぞれの封筒を手に銭形は提督を見下ろしながら宣告すると、ガックリと下着一枚の提督は脱力したのだった。

 

 

 

 

 

その頃。

 

鎮守府から少し離れた場所で提督が歩いていた。

すると後ろから一台のフィアットが走り寄って、クラクションを鳴らす。

 

「いよぉ、ルパン。用事は済んだのかよ?」

 

「ま、ちょいと小遣い稼ぎをな。」

 

提督がフィアットの運転席から声をかけた次元にニィと笑うと助手席に乗り込む。

そして、軍服のボタンを外してシャツの中を少しいじるとプシュウゥゥッという音とともにだらしなく出た腹が引っ込む。

 

「ま、こんなチンケな盗みは趣味じゃねぇけどな。」

 

「小銭だけじゃなくて、ソイツの輝かしい未来も盗んだ、ってことでいいんじゃねぇの?」

 

体格が中年太りを超えた肥満から一気に痩身へと変化していく。

それに伴って顔の皮がダブついていくと、邪魔になったのか顔のマスクを一気に剥がす。

 

「そういうことにしとくかね?…で、お前は何しに行ってたの?」

 

「あん?…後ろ見りゃわかるだろうが。酒や掃除用品の買い出しだよ。」

 

ルパンが既にブカブカになった軍服を脱ぎ捨てながら振り返れば、大型量販店の袋に詰まった雑貨などが後部座席に詰まっていた。

 

「取り寄せじゃ時間かかるからってな。外出のついでに頼まれたんだよ。」

 

「…なるほどね。ま、軍を挟んだ購入じゃあまり贅沢品や民間の質のいいのは手に入れにくいからな。」

 

そのままルパンは煙草を懐から出すと次元にも一本咥えさせて、お互いの煙草に火をつける。

車はゆっくりと道路を走っていた。

 

「あとよ、化粧品の買い出しだよ。」

 

「ブッ!?…次元が、化粧品ッ!?」

 

苦々しげに、吐き出すように次元がいった言葉にルパンは思いっきり噴き出す。

運転しながら次元がルパンをジロリと睨む。

 

「しょうがねぇだろ、生まれて何歳か知らねぇが年頃って言やぁ年頃なんだからよ。

化粧の一つや二つしたくもなるんじゃねぇのか?」

 

「クックック…ぁーなるほどね。そりゃ、しょうがねぇや。」

 

ルパンが普段のジャケット姿になって、煙草の煙を窓の隙間から吐き出しながら言う。

想像してしまったのか、笑いながら。

それを横目で次元が睨みながら釘を刺す。

 

「言っとくがな、もう化粧品の買出しに行かねぇからな。

あんな恥はまっぴらごめんだ。

これからはお前が行くか、鎮守府でも仕入れれるように手配するんだな。」

 

「あいよ、俺もそんなことのために鎮守府開けるのはカンベンだしな。

ま、臨時収入もあったことだし、パーッとやっちゃおうぜ。」

 

次元の言葉にまだ笑いながらも頷けば、懐から数十枚の通帳を取り出してニヤリと笑う。

 

「んじゃ、買い出しだな。今日は…すき焼きなんてどうだ?」

 

「いいねぇ。問屋街の方にでも行くとするか…大量に買うならそっちの方がいいだろ。」

 

「よっしゃ、次元ちゃん、出発しんこ~!!」

 

 

 

その晩、ルパン鎮守府の食堂は全員すき焼きになった。

ルパンが何故か数十キロもの高級牛肉をタダで艦娘に振る舞ったのだった。

 

その全員の心境を現したのはとある艦娘だった。

 

「メシウマ!!!!!……って、出番これだけ?」

 

これだけでした。

 

 

 

 

ともあれこうして一つの鎮守府が滅んだ。

 

しかし、あるはずの汚職兵達の隠し財産は全て消え去り、摘発されたのは明らかに違法な薬物など。

そして、鎮守府に保管されていた資材は全て大本営に接収されたのだった。

 

その結果を見て、浦賀は苦笑し、銭形は渋い顔をするに留めておいた。

勿論、銭形からルパンへ電話があったものの、知らぬ存ぜぬで通しておいたが。

 

そしてすき焼きで全員が腹を満たす中で、各艦娘が自費で酒を酒保から買ってくれば宴会状態になった。

勿論、艦娘によっては飲まない者もいたため、全員が全員酒を飲んだわけではなかったが。

龍田を始め、執務室詰めが多い艦娘や、隼鷹などから肉の礼とばかりに飲まされたルパンはフラフラしながら自室へと帰っていた。

 

「ぁ~…ちぃと、飲み過ぎたかなぁ…。」

 

顔を真っ赤にしてルパンが揺れながら暗い廊下を歩けば、ひんやりとした空気がルパンの身体を震わせる。

すると、目の前にある艦娘が立っていた。

 

「…今日は、ありがとうございました。」

 

「んん?おう、ちょーっと気が向いただけだから気にすんなって。」

 

深々と廊下で頭を下げられると手をヒラヒラと横に振って、そのまま前を通り抜ける。

ふと、気になったのか数歩歩いてからルパンが振り返って呼びかける。

 

「…っと、まだ肉残ってたみたいだから、食いたいな…ら…?」

 

振り返っても、そこには薄暗い廊下があるだけだった。

周囲を見渡しても誰もいないし、ただ廊下しかない。

 

「………。」

 

そして、誰だったのか、と思っても思い出せない。

そこまで酔っぱらっているのか、それとも。

 

 

ルパンはふっと薄く笑って、自室へと戻るのだった。




というわけでブラック鎮守府解体話でした。

漣はなぁ、出したいんだけど、ルパンと噛みあうかがwww


先日のイタリア編13話はよかったですね。
漫画版で似た話がありましたが、こっちの方がとっつぁんの心情などが描かれていて、凄く好きです。


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11.長門さんは困惑するようです(裏)

ペンチ様の感想にあった通り、活動報告での裏話は閲覧をするのが手間(感想や活動報告を見ない方も多くいらっしゃる)であるため、前話の裏話を小説スタイルに起こすことにしました。

もし、通常の11話をご覧になってない方はそちらからどうぞ。


ルパンはいつも演習出向の部隊がある程度揃ったあたりの時間になると、執務室を出て、彼女たちの控えも兼ねたテントへ向かう。

これはいくらルパン鎮守府の艦娘たちが食べていいと言っても、扱いが酷い鎮守府の艦娘たちは躊躇してしまうのだ。

 

酷い鎮守府では甘い言葉で釣って、乗ったところで掌を返して暴力などで心を折る連中もいる。

それが繰り返されると何をしようとしても折檻されるのではないか、と疑心暗鬼を生じてしまい、反抗も何も出来なくなってしまうのだ。

 

それを解く鍵として、ルパンが顔を出して食べてもいいと保障してやる。

それでも躊躇するようならルパンが提督としての命令だ、ということで食べさせてやる。

 

ルパンは怪盗として動く際に怪しまれないように無邪気というか、無防備な顔を演じるのにも慣れている。

元々人好きのする性質というのもあるが、陽気で快活な男だ。

道化のように振る舞って笑いかければ、何とかなる。

 

今日もそうして挨拶をしてから少し離れたところでテントの方を次元と五右衛門の三人で眺めていた。

 

「随分と酷いものだな。ふと頭を掻こうと手を上に上げただけで身を竦める者までいた。」

 

「そこまで露骨にやってるのは、とっつぁんと浦賀に報告すりゃいいだろ。

完全にトラウマになってるならそれはそれで十分な証拠だろ。」

 

険しい顔をした五右衛門が吐き捨てるように言う。

正直、ルパンは完全に黒い鎮守府に関しては手を出す気はない。

 

ルパンは怪盗であり、盗むのが仕事だ。

気に食わない悪党を叩き潰すのは別に構わないが、あくまで盗みの結果として、だ。

盗んだ後でそのお宝を誰かにくれてやって、タダ働きになることもあるが、それは結果論。

 

ルパンは盗みという表現方法で芸術を為す芸術家ともいえる。

あくまでその『芸術』を為すことが目的で、その成果はそこまで重要じゃない。

だが、善行のために前面に立って全てを度外視するのは違う、とルパンは結論付けた。

 

あくまでそれは『正義の味方』のやるべきことだ、と。

 

「ま、そうなるだろうな。大規模なドンパチやるにゃ、ちと早い。」

 

「しかしだな…それではあの少女たちがいつになるかは…」

 

「なら、五右衛門。お前が全員引き取って養うか?

昔みたいに俺らは身軽なわけじゃねぇんだ、アシがついたら面倒だぜ?」

 

次元はそう言って煙をふかして肩を竦めるが、五右衛門は不服そうに言葉を漏らす。

しかし、それも予想が出来ていたのか次元はテントで給仕などをしているルパン鎮守府の朝潮たちを顎で指す。

 

次元にもそうだが、何かと五右衛門と朝潮型はよく仕事をすることが多い。

その朝潮型たちに自分の一存で迷惑をかけるわけにはいかないと、次元の言葉にムッとしながらも黙ることにしたようだ。

 

「それによ、あんだけわかりやすい証拠があるんだ、俺たちが出張る必要もねぇだろ。

お互い安月給なんだからよ。」

 

ルパンは笑って五右衛門の肩を抱いて、吸いかけの煙草を咥えさせる。

それを五右衛門は一吸いだけすると、ルパンのもう片手にあった携帯灰皿にねじ込んだ。

 

ルパンも次元も五右衛門も、全員海軍に名目上だが所属している。

調べたところ数々の盗みのデータは残ってはいたものの、この世界の過去のルパンの民兵としての活動による恩赦と、死亡という公式見解が出たせいで犯罪歴は全て白紙になっている。

死んだはずの人間なので、あくまで同姓同名だ、ということになっているのだった。

 

そして海軍に所属している以上、全員に国からの給与が支給されている。

勿論提督という特殊な仕事であるため、かなりの高給である。

あくまで安月給というのは、ルパンの基準から、でしかない。

 

 

そうやって三人で話しているところにテントから木曾がやって来た。

 

「提督たち、あの長門のところは微妙だ…名目で何とか誤魔化せる程度ではあるが…。」

 

「ってーと?」

 

「俺たちが聞く限りは刑務所生活でしかないんだが、あくまで管理の一環だって言われりゃそれまでなんじゃないか?

ただ、龍田はそんな運営方法で経費がどうなってるのか、って言ってたがな。」

 

「…なるほどねぇ、いい目の付け所だ。」

 

木曾の言葉に静かに頷くが、龍田の言葉を聞いてニィと笑った。

それを見て次元がニヤリと笑ってルパンのわき腹を突く。

 

「嫁の教育が上手くいってるじゃねぇか。不二子なんざよりはよっぽどいいと思うぜ?」

 

「勘弁してくれよ、次元。そんなんじゃねぇよ。」

 

次元の言葉は本心だろう。

多少過激なところはあるし、次元でも恐ろしく感じるときはあるにしても、なんだかんだルパンのために行動してくれる。

友としてどちらを勧めるか、といえば龍田の方になってくるのだろう。

 

それを聞いて苦笑気味に肩を竦めるルパンに木曾が少し驚いた顔で見つめる。

 

「…なんだ、違うのか?あの龍田があれだけ積極的に動いてるからてっきりそういう関係なのか、と思ったんだが。」

 

「木曾ちゃんまで止めてくれよ、もう…たまたま、俺が一番に会ったってのが大きいだろ。

ちと、あっちで話そうぜ。」

 

うーんと複雑な顔をしたルパンが少し離れた位置の堤防を指差す。

そのまま納得しない顔をしつつも木曾はついていき、4人で堤防に腰掛ける。

 

「なんつーのかね…お前もだが、俺たち三人は純粋にお前らを『女』として見てないわけよ。」

 

「……酷くムカつくが、どういう意味だ?」

 

ルパンは堤防の上で胡坐をかいて、煙草の煙を吐き出せば風に乗って消える。

ルパンのあまりといえばあまりな言葉に木曾は睨み付けるが、激昂まではする気はないらしく言葉を促す。

 

「言葉に出来ねぇが、お前たちは綺麗すぎるんだよ。

…いくら大人の身体をしてても、純粋過ぎて…な。」

 

「ま、俺らが泥棒とか殺しとかの裏家業の人間って意識があるのもあるんだが…な。」

 

ルパンと次元の言葉をまだ理解できないのか、木曾は不満そうな様子を隠さない。

ルパンは言葉を継げずに黙ったのを見て、今まで何も言わなかった五右衛門が口を開く。

 

「……あくまで拙者の意見だがな…拙者らからすると艦娘達は…なんというか、娘とかそういう感じなのだ。」

 

「…娘?」

 

「うむ…まぁ、なんというか、そこまではいかなくとも……ルパンからすれば、庇護の対象なのだろうよ。」

 

ルパンは五右衛門の言葉に苦笑して頭を軽く掻くが、あえて否定はしなかった。

それを聞いて、唸るように木曾は考え込むが、納得したのか頷いた。

 

「なら、提督たちの事を親父、とでも呼ばせてもらうかな?」

 

「…そんな歳でもねぇんだがな。」

 

笑いながら言った木曾の言葉に三人で苦笑するが、あえてそう呼ぶなと言うほどの事でもないためそれだけに済ませていた。

しかし、木曾は表情を引き締めてルパンを見て言った。

 

「ま、俺は納得しなくはないが…だからといって、龍田とか他の連中が求めてもそれを禁止するようなことはないでくれ。

親父たちがどう思うかは自由だけど、アイツらがどう思うかも自由だろ?」

 

それなりに付き合いが続く中で木曾はルパンの性格を読んだのか、そう言って釘を刺す。

ルパンは一本取られたと天を仰ぎながら苦笑して、煙を真上に吐き出す。

 

「だが、受け入れるかどうかも俺の自由だぜ?」

 

「そこまでは責任は俺もとれないな。」

 

ふっと笑って木曾は防波堤から飛び降りる。

そして、話はこれまでだとばかりに背中を向けたまま何も言わずに鎮守府へと帰っていった。

 

「えらく男前な娘ができちまったな。」

 

「…うむ……まさか本気では、あるまい?」

 

「…どうだろうな。」

 

男三人で顔を向け合って苦笑した。

 

 

 

 

その日の夜。

 

三人は鳳翔の小料理屋の座敷で顔を突き合わせていた。

 

「意外に、中華もイケるぜ。このマーボー丼、美味いわ。」

 

「へぇ、今度試してみるか。」

 

ルパンは新メニューのマーボー丼定食、次元は豚カツ定食、五右衛門は焼き魚定食をつついていた。

ルパンは辛さからか軽く汗ばみながらもマーボーをかきこむ。

 

そして、食べ終わったのを見計らって次元は煙草に火をつけた。

 

「…んで、調べはついたのか?」

 

「ついたにはついたがよ、杜撰もいいとこだぜ。

出入り業者もだが、多分監査の誰かを抱き込んでるな、アリャ。」

 

「…なるほどな。」

 

ルパンは一時期を境にデジタル化されていく社会に適応していった人間である。

そのため、昼に木曾たちと別れてから執務室に戻ると大本営のシステムをハッキングして(くだん)の鎮守府の経理関連の書類を調べたのだった。

 

すると出てきたのは健全この上ない経費処理。

しかし、所属艦娘の話を聞けばそんなにかかるはずもない費用ばかりが計上されていた。

それを聞いて、次元は軽く鼻で嗤う。

 

「…で、中はどんな感じだ?」

 

「あぁ、所属する軍人の異動はなんだかんだでないから、子飼いだろう。

匿名掲示板で地域のスレ見てみたら、評判は最悪。

ロクな訓練もしてねぇみたいだな。」

 

「…度し難いな。」

 

ルパンの説明を聞いて首を横に振って呆れたという様子の五右衛門。

そのまま茶を啜る。

 

「俺はどうする?」

 

「いや、いらねぇな。空き巣の真似事で済みそうだ。」

 

「じゃ、明日の昼ぐらいに近くに迎えに行けばいいか?」

 

「それで充分じゃねぇか?というわけで、鎮守府頼むわ。」

 

ニッとルパンが笑って、座敷で腰を上げる。

それ以上は二人は何も言わずにルパンを見送るのだった。

 

 

 

「……ヘッ、ザルもいいところだぜ。」

 

深夜、ルパンは鎮守府を抜け出すと、そのまま自分の手でレストアした廃棄されていたバイクで件の鎮守府まで移動。

そして、静かに警戒の網を抜けて塀から忍び込んだのだが、むしろ楽過ぎて呆れていた。

 

「…とっつぁんに警戒もしなくていい、見回りもブラついてる程度。

楽なのはいいが、張り合いが無さすぎて困ったもんだぜ。」

 

軍事施設だけにそれなりに巡回もあれば、防犯設備もある。

しかし、それはあくまでも『それなり』であり、ルパンからしてみればないも同然。

鼻歌交じりに潜入するくらいのレベルでしかなかった。

 

防犯設備をものによっては一時的に無効化、またはすり抜けてルパンは執務室へと移動していた。

 

暗い部屋でマグライト片手に部屋を捜索する。

そして、机の中などにある書類などを確認して筆跡も確認をする。

本棚に特製の粉を吹き付けて人の触れた形跡を確認すれば、本棚に頻繁に触れた場所を見つける。

 

そこにあった本をどけると、奥にスイッチがある。

 

「へぇ…ご丁寧に隠し金庫、ねぇ。」

 

そのスイッチを押すと、本棚が動き、壁に埋め込まれた金庫が見つかる。

しかし、費用の関係か金庫は一般的に出回っているレベルのものだった。

 

「ハッ、こんなもん鍵がついていねぇのも同然だっての。」

 

金庫に耳をつけてダイアル式のカギを回し、鍵穴を道具で弄れば数分もかからずに解錠されてしまう。

 

「おーおー、ご丁寧になんで証拠品を残すかねぇ?」

 

中にある数々の書類をマグライトで照らしながら嗤う。

その書類をより分けて並べなおす。

 

「さーて、お仕事お仕事っと。」

 

中の書類や貴金属、通帳なども全て取り出した後に執務机に座ると書斎にある道具を使って書き込んでいく。

時折書類を確認しながら書き進めて、封筒におさめる。

 

そして準備が出来たのか、満足そうに机の上に並べる。

その中には『辞表』などという文字が並んでいる。

 

「…どんだけ油断してんだか。」

 

そのまま懐に何かを仕込むと、息を吹き込んでいく。

すると仕込んだ道具が膨らみ、体格が痩身から肥満に近くなっていく。

そして、顔に特殊メイクのマスクを被る。

 

「…もうちょっと、ここら辺が引っ込ませて…っと。」

 

道具を触れて何やら体格を調整していくと、腹の出っ張り具合などを調整する。

そして満足がいったのか、そのまま立ち上がって執務室を後にすると近くにある提督の個室へと忍び込む。

 

「…む、ぅ…誰だ?」

 

「誰だっていいじゃねぇか…寝てなよ、いい夢の最期を楽しみな。」

 

虫の知らせか個室のベッドから身を起こす提督に、提督と全く同じ顔の男が笑いかける。

ギョッとして目を大きく見開くが、その機先を制して言うとともに提督の顔にスプレーを吹きかける。

 

「ムッ、んっ…な、ん……ッ…ンゴォォォッ、ゴッ…」

 

目の前の男に声をかけようとするが、すぐにグラリと身体を揺らすとベッドに倒れ込み、高いびきをかきはじめる。

どうやら肥満の影響なのか、いびきが常態化しているらしく室内にいびきの声が響く。

 

「チッ…うっるせぇなぁ…ったく。」

 

そのまま部屋を物色してタオルを見つけると猿ぐつわをして黙らせるとともに、縛りあげてから執務室に放り込む。

そして私室を漁った上でもまだまだ時間が余ったため、子飼いの軍人たちの個室をも漁って金品を懐に収め、時間を潰す。

 

「…も、帰って寝てぇけど、そういうわけにもいかねぇよなぁ…。

あーつまんね。張り合いが無さすぎて嫌になってきちまったなぁ…。」

 

ひとしきり愚痴を漏らすが、ここで放り投げれば中途半端な結果になるか、揉み消されかねないため、諦めて執務机の椅子で仮眠をとることにするのだった。

 

 

 

 

 

そして、全てが終わった後。

 

「なぁ、次元よ。」

 

「なんだよ、相棒。」

 

問屋街に向かう途中で、銀行に寄って汚職軍人たちの隠し預金を全ておろしてきたきたところで次元に真面目に話しかける。

 

「…少しでもストレス発散になるかと思ってよ、あそこの連中を捕まえるのを艦娘達に任せたんだけどよ。

そりゃまぁ、すげぇ勢いでぶん殴ってたぜ?」

 

「ほぉ、よっぽど恨み骨髄だったんだろうな。」

 

「それでも、じっとアイツら…耐え続けてたんだぜ。

ひょっとしたら、明日も、明後日も。」

 

次元は車に乗り込んで、黙って煙草を新たに咥える。

 

「…俺たちにゃ、マネ出来ねぇな。」

 

「逆に、俺たちのマネが出来ねぇんだろうよ。」

 

車にルパンも乗り込んで助手席で外を眺める。

二人とも笑いもしなければ、怒りもしていなかった。

 

「…情が、湧いたか。」

 

「悪ィか?」

 

次元の言葉にルパンは反発せずに、ただ淡々と問い返す。

そして次元は首を横に振ってから車を動かす。

 

「ま、不二子みたいな女に利用されようってんなら手を引くがな。」

 

「不二子ちゃんもいい女なんだけどなぁ。」

 

「言ってろ。…女は裏切るもんだが……アイツらは、な。」

 

ふっと二人で軽く笑うと、頷き合う。

 

「裏切られ続けてるヤツらを助けるのも、たまにゃいいんじゃねぇか。」

 

「ハッ、毎度毎度だが…お前の我儘に付き合ってやるよ、相棒。」

 

笑いながらも肩を竦めて次元は頷いた。




というわけで、裏話のリメイク(?)でした。

本当にプロット作っても、プロット通りに書けないんですよね…。
木曾が勝手に動いちゃったし。

木曾の呼び方をどうしようか少し迷いました。
『親父』・『兄貴』・『叔父貴』とか。

もしかしたら、話の流れで変えるかもしれません。


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12.長門ととっつぁんは大本営で動くようです

大本営の夕方。

 

「失礼いたします。」

 

「どうぞ。」

 

大規模な検挙を成し遂げてから、銭形は大本営へと帰って来た。

勿論、容疑者(とはいえ、証拠は十分だが)の検挙も全て指揮した上で、艦娘達も一度大本営預かりとなってやって来ている。

そして、報告のために銭形は上官である浦賀の下にやってきたのだ。

 

「ああ、大まかには報告が来ている。重要なのは事後処理だな。」

 

「十中八九ルパンの仕業でしょう。」

 

「だろうが、表沙汰にしてもなにもいいことはないな。」

 

浦賀は書類から顔を上げることもなく、ただ書類を処理しながら銭形に答える。

それに銭形は気に留めずにただ淡々と言うが、浦賀はその言葉にも動じない。

 

「…盗人を容認されるということですか。」

 

「銭形『元』警部。一つ勘違いされているようですね。

貴方は出向とはいえ、今は海軍軍人に属しています。

犯罪者を捕まえるのが第一の目的ではない、軍に反する者を捕まえるのが仕事です。」

 

銭形の言葉にペンを止めると顔を上げて淡々とした口調で言う。

それに銭形は眉を寄せてはっきりと不満を示す。

 

「…今の社会情勢が平和であるなら、銭形『元』警部がルパンを追うのを止めません。

アイツもその辺は理解したうえであの仕事をしているのでしょうから。」

 

「わかっております。今は、それどころではない。」

 

あえて浦賀は銭形に元という言葉を強調して言う。

銭形も決して無能ではない。

派出所勤務から叩き上げで警部まで出世した上に、ICPOにまで上り詰め、ルパンという世界的な大泥棒担当捜査官へとなっているのだ。

仮に今回の件でルパンを捕まえてしまった場合の社会への影響は計り知れないとも理解していた。

 

「今回の件に関して、艦娘達の生の声を聞きました。

ルパンの艦娘達への扱いの改善の動きを止めた場合、下手すれば艦娘に反旗を翻されかねない。

いや、艦娘は翻さずとも妖精がボイコットした瞬間に人類は詰む。」

 

「そういうことです。

例えるなら今ルパンを捕まえることは、貴方がルパン逮捕を放棄して万引き犯検挙に血道をあげるようなものです。

皮肉なものです…人類の天敵が現れたのに、人類の最大の敵が人類なのですから。」

 

フッと鼻で笑った後にまた浦賀は書類に顔を落とす。

 

「…浦賀大佐は、ルパンが用済みになればそれで切り捨てるおつもりですか?」

 

「ふむ、中々面白い質問ですね。

貴方もですが、ルパンとは同じ大学の(よしみ)はあります。

助けを求められたら借りを返すくらいのことはしたいですが……あの男がそんなことを求めると思いますか?」

 

「愚問でしたな。」

 

「ふふ…まるで、犯罪者を切り捨てるのを責めるみたいですね。」

 

一枚の書類にサインを終えた浦賀が顔を上げて、ニヤリと笑いながら煙草を咥える。

それに動じずに銭形は直立不動のまま答える。

 

「元警察官としてはそれを当然と思います。

が、一人の人間としては道義的にどうか、とも思いますな。」

 

「正直な方だ…私は貴方が好きですし、尊敬しますよ、銭形先輩。」

 

銭形の愚直とも言える不器用さに珍しく穏やかな笑みを浮かべると静かに頷く。

なお、銭形・不二子・ルパン、そして浦賀は同じ大学の出身である。

 

銭形は浦賀の言葉ににこりともせずに、敬礼を返して部屋を後にした。

入れ替わりを待っていたのか、廊下には長門と矢矧が立っていた。

 

「ム、待たせてしまったか。」

 

「いえ、先ほど来たばかりですので。」

 

鎮守府運営をしてはいないものの、矢矧が浦賀の秘書を務めているのか、銭形に表情を動かさずに答える。

そのまま銭形が立ち去ろうとすると、長門が呼び止める。

 

「すまない、ちょっといいだろうか。」

 

「…どうした?」

 

そのまま浦賀の部屋の前を移動しかけたところを足を止め、長門に振り返る。

長門も身長は高い方だが、銭形も身長181cmの偉丈夫である。

自然と長門は見上げる形となった。

 

「私の鎮守府の一部の人間が、憲兵隊に所属したいとの申し出もあった。

浦賀大佐殿には事前に話はしているが、気に留めておいてもらえたら助かる。」

 

「ワシもどこまで力が及ぶかはわからんが…覚えておこう。」

 

銭形の言葉に安心したように笑うと、長門は黙って敬礼を送った。

それに答えようと銭形は同じように敬礼を返す。

 

「ふふふ、銭形特別大尉、海軍式ではこうだ。」

 

その敬礼は警官風で肘が開いたものだったが、穏やかな笑みを浮かべた長門が肘に手をやって脇を閉めさせる。

それが気恥ずかしいのか、すぐに敬礼を解いて頭を掻く。

 

「う、うむ。いかんな、刑事人生が長くて中々癖が抜けん。」

 

「頼むぞ、尉官殿。ではな。」

 

「ああ、君も頑張れ。なに、人生山あり谷ありだ。

これからは山だろう。」

 

不器用な銭形の励ましに薄く微笑して頷いてから、長門は矢矧とともに浦賀の執務室に入るのだった。

 

 

 

「そうか、やはり一線を退く者が多いか。」

 

「うむ、いくら浦賀大佐をはじめとした大本営の方々が健全な鎮守府を紹介してくれるとはいっても、不審を抱いている者が多くてな。」

 

浦賀は長門からの報告を受けて小さく唸った。

長門には今朝方解体された、元所属鎮守府の艦娘の取りまとめを頼んでいたのだったが、今後の身の振り方の希望をそれぞれまとめさせたのだった。

 

しかし、浦賀の予想よりも多くの艦娘が艦娘としての活動を拒否してきたのだった。

 

「一部、重巡をはじめとした者達は憲兵隊に配属を願っていた。

それでも一応艦娘としては予備扱いもしくは、艦娘としての今後の活動は拒否したいらしい。」

 

「君たちの練度を考えれば、できることなら予備兵力としてでも構わないから完全に引退は避けてもらいたいね。」

 

浦賀が手元のリストを見ながら、希望を言えばわかっていると長門は頷いた。

そして一枚の紙を手に取って、浦賀は頭を掻いた。

 

「ちなみに君たちにはルパン鎮守府へ異動してもらいたいと思っている。

練度は日々上げているとはいえ、まだ南西諸島にさしかかった程度だ。

君たちの経験を活かしてもらいたい。」

 

「了解した。あとは赤城・加賀をはじめとした航空母艦たちは大本営の指導艦など後進の育成に力を貸したいらしい。」

 

「となると、どうしても戦艦に偏る鎮守府になってしまうな。」

 

浦賀としては既にいる赤城以外の空母にも異動してもらい、大規模作戦にも対応できる鎮守府へと仕立て上げたかったらしい。

しかし、裏腹に浦賀の手元にある資料にあるルパン鎮守府への異動希望者リストを見て苦笑せざるを得ない。

 

・長門

・陸奥

・大和

・武蔵

・瑞穂

・萩風

・嵐

・秋月

・照月

・江風

・海風

 

見事に、最近加入したばかりの艦娘か、大型艦のみである。

理屈としては浦賀にはわからなくもない。

 

新加入の艦娘達は、毒されるというか、ひどい目にあった時間が少ないから人間や提督への不信感まではいかなかったのだろう。

大型艦は戦意故か、その消費資材量だけに温存され続けていたためにそこまで酷使されてないためだろう。

 

「その辺りは提督になんとかしてもらうしかないだろう。

元々そういうものだしな。」

 

「ま、仕方ないな。」

 

経歴が長いのか、長門の苦笑交じりの言葉に浦賀は静かに納得する。

そのまま異動に関する書類に決済印を押して、長門に差し出す。

 

「うむ、ありがたい。ちなみに引退希望の艦娘達は?」

 

「ルパン鎮守府や岩隈鎮守府をはじめとした新型の酒保を導入した鎮守府での売店の管理などをしてもらう。

まずはルパン鎮守府での研修を受けてもらうところから、だな。

慣れてきたら仲のいいグループを選出して異動してもらう。」

 

浦賀の説明にホッとしたのか、顔を少し綻ばせてから頷いて命令書を受け取る。

それで納得したのか、浦賀は別の書類に目を落とす。

 

「うむ………幸せになれよ。」

 

囁くような、しかし低く響く声に長門は一瞬浦賀を見据えつつも、何も言えずに頷いてから執務室を後にした。

 

 

 

さて、銭形である。

 

憲兵隊には特別な宿舎と演習場が準備されている。

現在の憲兵隊は少々特殊な立場にある。

 

海軍全体の監査も行えば、また警察などの業務も兼ねている。

そのため、所属している多くの人間の出身が警察や特殊部隊などと幅広い。

また、汚職も絡むことが多いために知能犯対策のための専門班も組み込まれている。

 

その結果、憲兵隊の動向は一切公にはできないため、外部と切り離されている。

その演習場では艦娘にも劣らぬ訓練が行われていた。

 

「ふむ、中々やるじゃないか。血が騒ぐな。」

 

憲兵隊に所属することになった那智がそれを満足げに眺めて頷いた。

その隣にいる銭形もまんざらでもない表情である。

 

「うむ、相手は軍人や、下手すれば艦娘だからな。

そこそこであっては困る。」

 

「ああ、銭形殿。私も頼りにしてもらっても構わんぞ。」

 

銭形に辞令で部下が配属されることになった。

それが長門の元所属していた鎮守府の那智である。

 

「とはいえ、あくまで我々の任務は捜査だ。

そこのところを取り違えてもらっては困る。」

 

「わかっている。しかし、その時には拳を振るっても構わんのだろう?」

 

どうも那智は今朝の強制検挙で味をしめたらしく、ニヤリと笑って拳を見せる。

それを見て深い溜息を漏らす。

 

「あくまで、それは最後の手段だと覚えておけ。

ワシは捜査の上、逃れようのない状況に追い込み、逮捕する。

それがワシのやり方だ。」

 

「わかったよ、銭形殿。」

 

那智は肩を竦めながら笑った。

 

「現場に出る前には君には学んでもらわんとならんことが多くある。

逮捕術、射撃術、法律…幸い、ここにはスペシャリストが揃っている。」

 

銭形の言葉に反応したのか、訓練場から数人の人間がやってきてニヤリと笑う。

その男女交えた人々と、銭形を交互に見る。

 

「埼玉県警の逮捕術、覚えてもらおうか。」

 

「そうね、勿論捜査にかかわる法律もね。」

 

「元自衛隊、レンジャー部隊の技も覚えてもらわねばな。」

 

警棒を片手に持った男、スーツ姿の女性、そして野戦服を着たいかつい男がニヤリと笑う。

 

「だ、だまされたあああああああああ!!!」

 

「勝手に勘違いしただけだろうが。」

 

銭形は頭を抱えて叫ぶ那智をバッサリ切り捨てて、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

そしてルパン鎮守府に長門たちが翌日の朝にやってきた。

ルパンは朝一で目の前に並んだ艦娘達と、渡された書類を交互に見る。

 

その書類には浦賀からの許可で鎮守府の所属艦娘の所属枠を最大値にする許可。

それに伴って宿舎の拡張許可。

さらに酒保関連の引退艦娘の宿舎も拡張許可。

 

ルパン鎮守府も大所帯になって来た。

とはいえ、所属艦娘はそこまでではないが、主に酒保関連が大きい。

 

「というわけで、よろしく頼む、提督殿。」

 

長門が11人を代表して先頭に立って挨拶をする。

それにほんの少しの渋面とともにペンで頭を掻く。

 

「ってもなぁ、ウチはまだ南西諸島だぜ?

名高い大和型や長門型を運用するような局面じゃねぇんだがな。」

 

「とはいえ、大本営も思惑があるんだろうさ。

特に我々長門型と大和型は今は解消されたが、ケッコンカッコカリをする練度はあったしな。」

 

やれやれ、とばかりにルパンは椅子の背もたれに身を預ける。

ちなみにケッコンカッコカリとは言うものの、本当の意味の結婚として行った艦娘は決して多くない。

 

特にブラック鎮守府にいたっては言わずとも知れた話である。

 

ちなみに今は提督が大本営に捕まった結果、ケッコンカッコカリは解消。

練度は99に戻されてはいる。

 

ちなみに練度はあくまで大本営が出撃回数や演習回数によって算出した目安に過ぎず、同じ練度でも実力は千差万別と言っていい。

例えるならば武道の段位などと思って差し支えない。

 

「ま、経験豊富なのはありがたいね。

ウチの戦艦は今のところ扶桑ちゃんしかいないから、教えてあげてよ。」

 

「扶桑は航空戦艦だから全てが全て教えれるとは限らないが…同じ鎮守府に所属する以上は仲間だ。

出来る限りをしよう。」

 

長門とともに後ろに控えていた陸奥、大和、武蔵が静かに頷く。

 

「ま、俺や江風とかはまだ練度は低いから世話になるぜ。」

 

「はい、秋月姉には劣りますが、この照月は防空駆逐艦としてそれなりには鍛えています。

提督のお力になれるよう頑張ります。」

 

その隣に並ぶ嵐、照月がそう言うと、全員が敬礼をする。

それに苦笑すると、この日の執務室詰めの愛宕を手招きする。

 

「愛宕ちゃん、全員の部屋を割り当てちゃって。

今としてはこの前、川内ちゃんがやってきたから南西諸島に挑んでるところだからな。」

 

「と、なるとこれから金剛型の捜索及び建造か?」

 

武蔵がルパンの言葉の続きを推測して問いかける。

その言葉にニッと笑う。

 

「いや、70点だな。昨日まではそういう感じだったが、あえて建造するまではしない。

既に十分すぎるほどの大型艦が揃ったからな。

建造は空母に専念することにする。」

 

「よく考えているんだな。だが、航空戦艦も今後の任務や海域では必要になるぞ?」

 

「オリョールやバシーでも伊勢型、扶桑型はよく発見されているから建造は不要だろ。

それよりも出撃した方がいいんじゃねぇの?」

 

武蔵の言葉にルパンは肩を竦める。

武蔵も本気で勧めたというより、ルパンを試すのが目的なのか反論に満足した様子で頷いて黙った。

 

「これからの急務は制空権の確保のための空母、特に加賀の確保だと思ってる。

そして、資材確保のために第四艦隊の解放、それからの沖ノ島沖戦だな。」

 

「ふふふ、よく調べて考えているのだな。」

 

武蔵はルパンの回答に満足してニッと男らしい笑みを浮かべると愛宕から鍵を受け取る。

それを全員が訝し気に見る。

 

「ああ、ウチの鎮守府は全員個室。私物もあるから鍵も渡してるんだ。

詳しいことは愛宕ちゃんに案内がてら聞いてくれ。」

 

「は~い。じゃ、皆行くわよ~。」

 

鍵を配り終えた愛宕がバスガイドさながらに先に立って、ドアの外へと促す。

それに困惑しながらも長門たちはついていくのだった。

 

 

 

「で、どうすんだよ、ルパン。」

 

「どうすんだもこうすんだもねぇだろ。後は海域を解放して、資材貯めて大規模作戦に備える。」

 

長門たちが去っていった執務室でルパンに次元が問いかけるが、肩を竦める。

 

「これで、次回の大規模作戦じゃある程度の戦果を求められることになるだろ、天下の長門型・大和型が揃っちまったんだ。」

 

煙草を咥えて次元が火をつける。

それにルパンは苦笑する。

 

「そして、大型建造の手間を考えたら空母の建造してません、じゃきかねぇよな。

しかも成功率を計算すりゃ備蓄も出来てません、じゃ通じねぇな。」

 

「今回の件の報酬なのか、逆に枷をつけられたのかわかんねぇな、こりゃ。」

 

次元がルパンから渡された長門たちのデータの記載された書類を眺めて苦笑する。

 

「報酬の色の方が強いだろ、大型建造で100連敗なんてよく聞く話だしな。」

 

ルパンの冷やかし半分といった言葉にもそれなりに真実は含まれていて執務室詰めの艦娘も頷く。

しかし、次元はニヤリと皮肉に笑う。

 

「しかし…絶対に必要、というわけでもない。」

 

「だが、その火力も含めて装備品などは貴重って言葉じゃすまない。

全員46cm三連装砲に試製51cm連装砲、九八式水上偵察機、水上観測機、高射装置。

大本営は一切手を付けずにそのままこっちに送り出した。

借りは大きすぎるぜ、コリャ。」

 

装備品のリストを思い出して、ルパンは目を閉じる。

ずっと黙っていた高雄が少し考えてから口を開く。

 

「何をされたかわかりませんが、普通では考えられない報酬です。

ですが、先払いならそれに応じるかどうかはこちら次第じゃないですか?」

 

「…そりゃそうだ。一度もらったもん返せ、とは浦賀も言えないだろうな。」

 

高雄の指摘にルパンは目を見開いて、高雄を見つめるが笑って言う。

 

「それに、今後への期待、があったとしてもどのジャンルへの期待かはわかりませんよね。

全体の艦娘の待遇改善に関することなのか、政治なのか、それとも深海棲艦の関することなのか。」

 

「現状では、判断がつかないな。」

 

高雄の言葉に浦賀の思惑が読めないのか、次元は天井を仰ぐ。

 

「ただ、アイツの性格上できないことや、意味のないことは求めない。

なら俺たちのやりたいようにやるだけさ。」

 

ルパンがニヤリと笑って、窓の外を眺める。

その眼下には、穏やかな青い海が広がっていた。




というわけで、長門さんたちがルパン鎮守府に着任しました。
そして、とっつぁんのアシスタントに那智さんがやってきました。

さてさて、これからどうなることやら。


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13.ルパンは工廠に赴くようです

また設定説明回です。

九州で雪降って、積もるってどういうことなの…。


とある昼下がり。

 

長門たちも鎮守府に慣れ始めてきた頃には、ルパンもやっと自由な時間を確保できるようになってきた。

 

これにはいくつも理由がある。

まず一つは執務室詰めの艦娘達の熟練。

龍田をはじめとして、様々な艦娘たちが事務仕事に慣れることによって簡単な指示を出すだけで大まかには鎮守府を回せるようになってきた。

 

龍田以外にも長良、由良、高雄、愛宕などが執務室詰めに本腰を入れてくれるようになったのも大きい。

また、酒保への民間の物資を購入する際も、彼女たちが活躍する。

あくまで鎮守府相手の商売なので、民間企業も反艦娘思想に染まった人間を担当者にはしない。

 

そこで綺麗所である艦娘達と直接やりとりをして、手を握られて頼られればそりゃ頑張ってしまうのも仕方ない話である。

 

ルパンもその辺りの男の弱さはわかっているので、無理な値引きなどは厳禁しており、数量確保や品質などそちらで頑張ってもらう形には持って行っているが。

 

 

もう一つが、ルパンがこの数か月で頑張りすぎた、ということだった。

 

浦賀も艦娘の待遇改善を考えている。

しかし、決して軍の内部を混乱に陥れようとは思っていない。

 

ルパンが有能過ぎたのが悪かった。

誰もが考えつくような『艦娘の意識改善』・『引退艦娘の雇用確保』という結末を、予想以上のスピードで段取りをつけてしまった。

そのせいで海軍の中が荒れ始めている。

 

急な変化に反発する反艦娘派と、迎合する艦娘擁護派の対立が表立ってしまってきているのだ。

 

元々反艦娘派は保守派が基盤となっている。

要は自分たちの特権の確保、大きな視点で言えば人類の特権への固執が根幹にある。

 

そのため、急な変化へも反発は大きかった。

とはいえ、軍の上層部の認可に表立って反発も出来ない。

その結果、酒保や軍票の導入は各鎮守府の提督次第になっている。

軍票まで手を出すか、それとも配給にするかなども提督に任されている。

 

しかし、ルパンによる新たな改革案に関しては浦賀からストップがかかった。

これ以上の火種は落ち着くまで待ってくれ、ということである。

 

 

「頭硬い連中の相手は大変だねぇ~。」

 

「ま、そう言うな。提督が柔らかすぎるんだろう。

私も来てしばらくは困惑したぞ。」

 

ブラブラと若干曇り空の下、鎮守府を歩きながらの独り言に少し後ろを歩く武蔵が笑って言う。

武蔵は普段の服装ではなく、無地のジーンズにグレーのタートルネックといった姿である。

 

「ってか、鎮守府内で護衛も何もねぇだろ。」

 

「ふふ、そう言うな。我々も仕事の一つや二つせねば、な。」

 

張り詰めた冬の空気も昼には多少は和らぐ。

その中を二人で缶コーヒー片手に歩いていた。

 

「で、今日は開発か?建造か?」

 

「建造、かねぇ。デイリーの4回のうちの2回は初期値でやったんだが、残りの二回を片付けようかと。」

 

「ああ、空母レシピだな。五航戦、二航戦、加賀が未着任だったか。」

 

「そういうこと。…あと、ちぃと気になることがあって、色々確かめたくてよ。」

 

ルパンはブラックコーヒーを、武蔵はカフェオレを口に運びながら工廠の門を開けた。

すると、妖精達が文字通りわらわらとルパンや武蔵の足元に集まってくる。

 

「チョコとか喜ぶって聞いたけど…おぉぉっ!?」

 

「ああ、甘いものとかには目がないらしいな。我々も人の事を言えないが。」

 

ルパンが懐から酒保で買ってきた板チョコを出した瞬間に、ルパンの足元に群がっていた妖精達が一気に隊列を作る。

恐らくは順序良くもらうための知恵なのだろうが、いきなりの行動にルパンも面喰いつつも銀紙を剥がしてなるべく均等になるように割って渡していく。

武蔵もルパンにならって、自分の目の前に並ぶ妖精達に渡すと列から外れた妖精は実に美味そうに頬張って堪能し始める。

 

「じゃ、食い終わったらでいいから…空母レシピってどうだっけ?」

 

「ん、少し待て。少し確率は落ちるが、300/30/400/300か。

それとも確率が一番いいのが300/300/600/600だな。」

 

「ふーむ…なら、ドーンといっちまうか。それで二艦頼むわ。」

 

武蔵がポケットからメモを取り出して、事前に調べておいたレシピを読むとルパンは少し考えた後にニッと笑った。

ちょうど食べ終わった妖精がルパンに敬礼をしてから、建造ドックへと走っていった。

 

「で、気になること、ってのは何なのだ?」

 

「まぁ、まずはお前たちの艤装に関してだな。

装備品とかスロットとか、そういうものってされてるがどうなってるのかってよ。

今は装備してないけど、どうなってるんだ?」

 

工廠に置かれていたパイプ椅子に腰掛けながらルパンは武蔵を見ながら問いかける。

その質問に頷くと、自分のパイプ椅子をその正面に置いて座る。

 

「あぁ、艦娘にとって艤装というのは我が身の『分身』ともいえるし、『身体の一部』とも言えるんだ。

とはいえ、表現は難しいんだが……例えば、こんな感じかな。」

 

そう言うと武蔵は椅子に座ったままポケットに手を突っ込む。

それを黙ってルパンは聞いていた。

 

「このポケットの中に入ってる手は提督には見えないな?

今の艤装を身にまとっていない状態が、ポケットに手を突っ込んでいる状態だ。

じゃ、艤装を纏おうと思えば…こうやって手を出す感覚なんだよ。」

 

「…じゃ、今あのデカい艤装を出そうと思えば出せるのか?」

 

「そうだな、しかし今身にまとえば艤装の影響でせっかく買ったこの服が影響を受けるから身にまといたくはないが。

海に近くなくてはダメだとかある程度の制限はあるものの、基本的には意思一つで身につけれる。」

 

武蔵の説明にうーむと唸ってルパンはまじまじと武蔵の身体を見つめる。

それに少し苦笑しながら腕を組んで胸元を軽く隠す。

 

「提督よ、そうまじまじ見られては少々恥ずかしいぞ。」

 

「いや、その服装の上から艤装を身に着けれねぇのかなって思ってよ。

轟沈、って言葉からしてライフジャケットでも着て艤装を身に着ければ沈まずに済むんじゃねぇかなって。」

 

「ああ、そういう勘違いか。

艤装というものを少し誤解しているが…私の艤装の砲塔などの鉄の部分だけでなく、服も艤装なのだ。

だから中破などをすると服も破けるのだ。」

 

「…んじゃ、上着の一つも身に着けれねぇの?」

 

ルパンの言葉に軽く苦笑をする。

 

「好きでサラシ一枚でいるわけじゃない。

着れなくはないだろうが…恐らく相当な動きに制限がかかるだろう。」

 

「じゃ、ムリだなぁ。じゃ、装備品はどうなってるんだ?

ほら、同じ一個の艦載機でも艦娘によって搭載数は変わるじゃねぇか。」

 

色々と腹案があったのか、武蔵の回答に頭をボリボリと掻く。

そして次の質問にかかった。

 

ルパンの疑問は同じ【一個の艦載機】なのに、艦娘によって搭載している【艦載機の総数】が変化する、というのが理解できなかった。

【一個の装備】が出来ているなら、いくつにでも増やせるというならまだ理解はできる。

しかし、一人に装備させると他の艦娘には装備させれないという便利なのか不便なのかわからない仕様が理解できなかった。

 

その疑問にクスッと武蔵は笑うと、手のひらをルパンに見せつければ何もなかったところに一枚のカードが現れる。

 

「これが私の艤装に装備している九八式水上偵察機(夜偵)だ。

今まで直接は装備品を見たことはなかったのか?」

 

「生憎事務仕事が忙しくてな…へぇ、こんなのなのか。

…カードゲームのカードにしか見えねぇな。」

 

そのカードを武蔵が差し出すと、ルパンはおずおずと受け取ってから角度を変えて眺める。

カードはレインボーの背景に飛行機と、翼の上に仰向けで寝ている妖精が描かれている。

 

「そのカードの形態をした装備品を我々は艤装に『装備』する。

そのカードを『装備』する枠を俗に『スロット』と言い、その『スロット』の総数は艦娘によって違う。

また、『スロット』によって艦載機の数も分かれるわけだ、ここまではいいな。」

 

「なるほどね、そのカードがなきゃ『スロット』に装備できない、だから同じ艦載機でもカードを多数そろえる必要があるわけか。

それで?」

 

カードを差し出された武蔵の手に返しながら、説明に頷く。

そして、武蔵の手にあったカードが手のひらから消えると、武蔵が吹き抜けの倉庫である工廠の天井を指さす。

すると何もなかった指先から先ほどのカードの絵に会った艦載機が飛び立って、狭い工廠の空を舞う。

 

「うぉっ!?…これが、運用時の姿なのか。」

 

「そうだ、このカードがなくては艤装には砲塔が見えていても砲弾を撃つことができん。

カードをこうして『装備』して、『使って』我々は戦うのだ。

ああ、どうしてカードがこのように姿を変えるか、などと聞いてくれるな。

我々も感覚というか…『こういうものだ』という知識しかない。」

 

「ま、要はオカルト的な何か、ってわけか…。

ちなみに…修理とかはどうするんだ?」

 

「それこそ妖精さん任せだな。

出撃から帰って、補給担当の妖精に全て託すと新品同様に綺麗になって帰ってくる。」

 

全ての説明をした武蔵も少し困ったように笑うが、ルパンもまいったとばかりにパイプ椅子から脚を投げ出してぐてっと脱力する。

要はこれまでの説明でわかったことは『よくわからない理屈』で運用されている、ということがわかっただけだ。

 

「イメージとしては、龍驤ちゃんとかみたいな陰陽師とかの式神みたいな形で運用してるわけ?」

 

「…そうだな、加賀や赤城といった弓矢を使う航空母艦でも放った矢が変化するからそうなんだろうな。」

 

流石のルパンの頭脳でもオカルトとなるとお手上げなのか、ため息を漏らす。

すると、妖精たちが誘導して夜偵がルパンの傍の床に滑走して着陸する。

 

「遠征などの資材に関しても同様だな。

艦娘に積む時は相応のサイズに凝縮された小さな形で現れるが、あくまでそれは艦娘用だ。

人間が使う時には変換、といえばいいのか…相応のサイズになる。」

 

「…そう言えば…確か鎮守府の単位1辺りで数百キロの鋼材になる、だったか?」

 

ふと、ルパンが漏らした呟きは事実である。

先日の窯などを作った際にも、鉄材を使ったがそれは修理の際に出た端数で事足りた。

妖精が生み出す資材は全て艦娘とその装備専用である。

 

それを人間用に使おうとすると、妖精に依頼して変換してもらって使っている。

その資材は採掘などで生み出すわけではなく、それに適した場所で妖精が『何か』をすることで生み出されている。

その辺りの研究もなされてはいるが、成果はない。

 

シーレーンの多くが崩壊し、通常の方法では資材の入手は困難になった。

その一方で不足する分を要請が賄っている形になる。

 

「ん?ちょっと待てよ?…この夜偵はこのサイズが限界なのか?」

 

「む?…どうなんだ?」

 

ふとした疑問をルパンが疑問に思えば、武蔵も知らないのか足元の夜偵の妖精に問いかける。

すると、妖精が頷いて手を振れば掌サイズだった夜偵がほんの一瞬の後にルパンが乗り込めるサイズへと変化していた。

 

「うぉぉぉっ!?…こいつは…これだけで十分お宝だぜ!」

 

「お、おいおい、提督よ…愛用の装備なんだから壊すのは止めてくれよ?」

 

倉庫のほとんどをしめかねないほどの大きさの夜偵をルパンが貼りついて興奮して叫ぶ。

 

現在では復元・修復されたものや、レプリカですら希少である。

それなのに目の前には実際に稼働する夜偵が現存している。

 

その興奮して器機を何やら弄るのを見て、不安そうに武蔵が見つめる。

流石にいきなり中身を弄るようなことはせずに稼働機であること、そして機器が戦時のものであることなどを確認してから夜偵から降りた。

 

「もういいか、提督。」

 

「あぁ、流石に数少ない夜偵で実験するわけにはいかねぇやな。」

 

「…実験?」

 

訝し気な武蔵にルパンはニヤリと笑う。

 

「例えばどこまでを『彗星』として判断するかってな。」

 

武蔵と妖精が顔を見合わせた。

それを笑いながら長い脚を組む。

 

「そりゃ完全に機体を変えちまったら、ソレは『彗星』じゃねぇよな?

じゃ、フラップとかだけなら?エンジンだけを交換したら?」

 

「…え?」

 

妖精もキョトンとして、首を傾げる。

 

「まぁ、まだ段取り踏んだりで実験しなきゃいけねぇからなぁ。

ダメ元で少しやってみるかね。」

 

ニヤリと笑って、ルパンはパイプ椅子から立ち上がるのだった。

 

 

 

 

後日、晴天の鎮守府の広場。

 

ルパンは油に塗れながら、目の前の零式艦戦52型のエンジンの換装をしている。

栄二一型と呼ばれるエンジンをルパンが近代までの研究を活かした上での改造を施したルパン印のエンジンへと換装している。

当然、金星六二型と呼ばれる後の上位のエンジンよりも出力などは上回る性能になるようにしている。

 

その傍らには加賀が立って、その様子を食い入るように見ている。

自分の艦載機がダメになるかどうかの瀬戸際であるためか、心配なようだ。

 

ルパンは自分で複葉機なども所持したり、飛ばしたり、または弄ったりもしている。

その経験と卓越した頭脳をもって装備品の改造を施したパーツをいくつも創り出したのだ。

 

それでわかったことは、ミサイルや自動操縦などの電子機器の類を利用したものは搭載不可。

しかし、あくまで原理さえ外さずにいれば改良は可能だということは判明した。

 

だが、難しいのはフラップ・エンジン・機銃などの一部の換装をしても同じ機体という扱いにはなるが、翼など外見まで弄るとカードに戻せなくなる。

という、わかりづらい線引きになっていた。

 

「ま、今までの実験の結果、機銃・フラップ・エンジンまではルパン印ので大丈夫のはずだ。

とはいえ、こればっかりはわかんねぇけどな。」

 

「…行き当たりばったりなのですか?」

 

「だって、基本ルールがわかんねぇんだもん。

やってみるしかないっしょ。さ、できた。」

 

加賀の責めるような言葉に肩を竦めて機体から離れる。

すると興味深そうに少し離れた位置で見ていた妖精達が頷くと、一瞬のフラッシュの後に一枚のカードに変化する。

 

それをルパンが拾うと、奇妙なことが起きていた。

 

『零戦52型(ルパン仕様)』と絵柄は変わっていて、背景もレインボーへと変化していた。

 

その変化に少し目を見開きつつも、ルパンが加賀に渡す。

加賀も困惑の色を浮かべつつ、カードを艤装に装備する。

 

そのまま加賀が海に向かって弓を放つと、ルパン仕様の零戦52型が空を舞う。

その機動力は明らかにこれまでの零式艦戦52型とは一線を画していた。

 

「……普通に、気分が高揚します。」

 

 

こうして、ルパンは各艦載機の改造を徐々に施していく。

とはいえ、単純にすべてのエンジンなどを変えればいいわけではなく、艦載機の機体が耐えられるようにと出力なども全て各機種ごとに調整を施しているが。

 

しかし、奇妙なことに大本営も、また違う鎮守府でも同じ改装をしようとしたが全てカードに戻せなくなった。

機銃のみ、エンジンのみの換装でもできなかったのだ。

 

浦賀としては全鎮守府で使えないのは残念だが、だからといってルパン鎮守府での実用を止める気は一切なかった。

このルパン仕様の艦載機で、戦艦との練度差を埋めてもらい、第一線で活躍してもらえるという計算に至ったのだった。

 

 

 

 

「…なんつーかねぇ…俺、過労死してもおかしくないんじゃないかなぁ?」

 

「自業自得なんじゃないかしらー?」

 

こうして新たな仕事も生み出してしまったルパンの執務机は隣にもう一つパソコンが設置される羽目になった。

その新しいパソコンは設計用のソフトの入った、専用のものである。

 

しかし、龍田はそれを切り捨てる。

 

「…龍田ちゃ~ん…空母の子たちをもうちょ~っと、落ち着かせてくれない?」

 

「空母の子たちを贔屓する提督なんて、知りませ~ん。」

 

ルパンがこれだけ急務として艦載機の(魔)改造を急いでいる理由の一つは空母勢の熱い要望。

もう一つが大本営からの情報で、近いうちに大規模作戦の兆候が表れているという情報。

 

空母は一航戦の龍驤・鳳翔が練度以外の技術指導をし、さらに演習や出撃でも練度を高めていっている。

しかし、それでもまだ場数が足りないという報告が出ている。

 

「その理由はわかってるでしょ、龍田ちゃん…流石に砲塔や砲弾の改造までは出来ねぇって。」

 

「…本当に~?出来るって言われても今更驚かないんだけど~?」

 

龍田は唇を尖らせてルパンを睨む。

それに困ったようにルパンは笑うのを見て、龍田はすっと立ち上がる。

 

「しょうがないわね~?コーヒー飲んで、やっちゃいなさい~。

こっちの仕事はやっといてあげるから~。」

 

そう言って、ルパンのデスクに積まれていた書類の束を自分の机の上に移動させるとそのまま給湯室へと脚を運ぶのであった。

 

「あんがと。……甘えたいお年頃、なのかねぇ?」

 

龍田の我儘ともとれる反発に苦笑しながら、ルパンは艦載機の装備の設計を設計を進めるのだった。

幸いだったのは、バリスタマシンの蒸気の音でその呟きが聞こえなかったことだろうか。

 

そのままルパンがディスプレイとにらめっこをしながらマウスを小刻みに動かしながら設計を続けていたところに龍田が二人分のカップを持って戻ってくる。

 

「あ、そこ置いといてね。ゆっくり飲むから。むほぉっ!?」

 

ディスプレイから目を切らずに龍田に言うと、急にルパンの背中に温かく、柔らかな感触が伝わる。

 

「うふふ~。…砲塔は無理でも艦載機は大丈夫なのよね~?」

 

「う、う、うん。できちゃうできちゃう!」

 

「……わたし~…ルパン仕様の水上観測機欲しいなぁ~?」

 

急なアプローチについ上ずった声を出してしまうルパンの首に背後から龍田の腕が回される。

その様子を見て執務室詰めの艦娘達に小さく歓声が上がる。

龍田の声が僅かに上ずっているのはご愛敬だろう。

 

「え?龍田ちゃん、執務室詰めメインなんじゃ…」

 

「欲しいなぁ~?」

 

「作っちゃう作っちゃう!龍田ちゃんのために作っちゃう!!」

 

「ありがとね~?」

 

そう言って、後ろからさらに顔を寄せるとほんの少し龍田の顔とルパンの頬が触れたか触れないかでスッと龍田はまた給湯室へと移動していった。

 

なお、龍田の顔のどことルパンの頬が触れたのかは、定かではない。

ちなみに。

龍田は給湯室へ10分近く籠って出てこなかったが、誰もその間給湯室へ入れなかったため中の龍田がどうしていたのかも不明である。




というわけでルパンチート炸裂。

震電改>52型(ルパン仕様)>烈風

と思っていただければ幸いです。
……これが標準装備になるんだぜ?(白目


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14-1.ルパンたちは遊びに出掛けるそうです。(前)

星団級、爪ウマー。(何

そして更新が遅くなって誠に申し訳ございませんでした。


とある昼下がり。

 

「おとーさんたち、間宮さんからの差し入れなのです!」

 

「お茶の支度は任せなさい!」

 

外の寒波に負けないようにと暖房の効いた執務室へ鼻の頭を赤くした暁と電を先頭に第六駆逐隊の4人が入ってくる。

電を筆頭として、多くの駆逐艦たちがルパンたちを父親と呼ぶようになった。

発端は木曾である。

 

何気なくあの後に食堂で、木曾に「ルパンの親父」と呼ばれてしまった。

それが広まった結果である。

 

四人が入った給湯室からはレンジの音と、湯を沸かす音が微かに聞こえると全員に小皿と湯のみが配られる。

 

「へー、酒饅頭か…あちちち!軽く焼いてもイケるんだよなぁ。」

 

「うむ、仄かな優しい味わいでござるな…。」

 

差し入れされたのは次元の言う通り、酒饅頭だった。

大まかに言えば、酒饅頭とは皮になる小麦粉に(こうじ)を混ぜて練り、餡子を包んだものである。

今では様々な饅頭が広まったが、実は日本最古の饅頭であったりする。

 

それを次元が二つに割れば、ほんのり焦げ目のついた皮が割れて漉し餡からほのかに甘い小豆の湯気が立つ。

次元は手で割り、五右衛門は黒文字と呼ばれる木を切って作った楊枝で小さく切ってから口に運ぶ。

どちらがいいのかは人それぞれであるが、間宮の珠玉の一品に二人とも満足そうに頷いていた。

 

「ほんと、渋めのお茶とよく合うねぇ…。」

 

「そうね!アイスも悪くないけど、こんな上品な甘さがレディには相応しいわ!」

 

ルパンがのんびりとした口調で言うと、来客用の向かい合うソファー陣取った暁が満足そうに言う。

同じソファーにいる4人は細かな違いはあれども、似通った笑顔で甘味を楽しんでいた。

 

しかし、ルパンの顔つきはあまり浮かないものだった。

 

「しっかし…金がねぇなぁ。」

 

ルパンの悩みはこの一言だった。

気持ち程度だが、ルパンの肩が落ちている。

 

これは十分予見された未来ではあった。

そのため、ルパンは多めの運営費を大本営から獲得していたし、龍田も自発的な趣味という形で海産物の加工業を立ち上げた。

しかし、はっきり言えばルパン鎮守府の収入は今のところこの二つのみなのである。

 

それに対して支出は多い。

酒保の商品に通常必要な運営費。

そして、艦載機の改造にまつわる資材や機材、消耗品の費用。

 

特に艦載機関係が大きかった。

基本的にルパン仕様へと変更のために使用されるエンジンなどの製造はルパンが独自に設計したオーダーメイドになる。

これが、すべての鎮守府に適用できるのならば特許を取って大本営に売りつければいいものの、適用できない特殊装備であるために大本営から予算が降りることなどあり得ない。

そのため、他の鎮守府同様の『提督の独自の裁量による鎮守府運営費からの支出』で賄うしかない。

 

鎮守府運営は各提督により独自の裁量権を与えられている。

提督は一応海軍に所属はしているものの、出自はそれぞれ異なる。

 

一時期の人類側の劣勢だった時期には各鎮守府に国防を一任するしかなかった。

その結果、抑えつけ過ぎて反発されることを恐れた大本営、というよりも政府は裁量権を委ねる事にしたのだった。

その反動で現在のブラック鎮守府や汚職提督が生まれた、とも言えるのだが。

 

ルパンとしてはこの自由度はありがたいのでとやかくは言うつもりはないが。

ともあれ、ルパン鎮守府は金欠状態なのであった。

 

 

「う~ん…資材の売却ルート、早く何とかしなきゃいけないわね~。」

 

「焦って不備だらけにしてもしょうがねぇし、商売で足元見られちゃお終いだしなぁ。」

 

龍田の重い呟きに隣のルパンが首を横に振って止める。

しかし、打開策に唸る二人に電が心配そうに言う。

 

「あの…おとーさん…。私たち、食事や暖房とか節約しても事情がある以上は協力するのです。」

 

「それも下策だな。

…お前たちがこの鎮守府の防衛の要なのに、その健康管理に支障出るような事はするわけにゃいかねぇやな。」

 

半分に割った饅頭をホフホフ言いながら食い終えた次元が電の提案を却下する。

電からしたら今のルパン鎮守府の待遇は良すぎるほどで、大本営の艦娘からも大本営よりもいいという評判である。

それから少しくらいグレードが下がろうが、それでも十分に好待遇だと電は考えていたが、次元はそれを良しとしなかった。

 

そのまま、ニヤリと笑ってルパンを見た。

 

「…足りないモノは、よそから持ってくりゃいいんじゃねぇのか?

なぁルパンよぉ。」

 

しかし、ルパンはうなだれてしまう。

 

「それがよぉ…とっつぁんや浦賀から釘刺されちまってよぉ…。」

 

「はぁ?下手打ったのか、お前。」

 

ルパンの言葉に信じられないとばかりに身を乗り出し、帽子を少し上げてルパンを見る。

うなだれながらも視線を上げて、ルパンが苦笑する。

 

「それがだな…仕事が完璧すぎて疑われてるんだとさ。

だって、ほら。俺天下の大泥棒なわけだし。」

 

「はぁ…なんだそりゃ…。」

 

ルパンの言葉に呆れの隠せない次元である。

 

しかし、納得もいく。

同名の別人ということにしてはいるが、世の中にルパン三世一味の犯罪歴は知れ渡っているのである。

 

泥棒として生きていくなら疑われても知ったことではないが、今では提督という守るものがある立場である。

だからこそ、前回のようなことはあまりできないということである。

 

「では、どうするのだ。我々だけならまだしも…。」

 

はっきり言葉にするのは室内にいる艦娘達を気にしてか、避ける五右衛門だったがルパンは引き出しから一枚の封筒を取り出した。

 

「ま…何とかしましょかね。」

 

 

そして、夕方。

武蔵、漣、龍田、次元、そしてルパンの五人で鎮守府の外にいた。

 

「…なんで、こんなドレスなのかしら~?」

 

「ま、ドレスコード、って言うじゃない?」

 

三人はドレスを選ぶためのブティックにルパンの車で行っていた。

ルパンはタキシードを、次元は普段のとは違うスーツへと新調していた。

 

龍田はスタンダードな鎖骨が浮かぶ程度の淡い紫のタイトなドレス。

漣は全体的にふんわりとふくらみを持たせた赤に近い濃いピンクのドレス。

武蔵はタイトながらも胸元、そして背中を開けた淡い水色のドレス。

 

「…こんなお金、使って大丈夫なの~?」

 

「必要経費、必要経費。気にしちゃダメだぜ。」

 

龍田がドレスにかかった金額を考えて眉根を寄せれば、ヘラヘラと笑って龍田と武蔵の腰に手を回す。

龍田が気にするのはレンタルならまだしも、それなりではきかない品質のタキシード、スーツを買っているからである。

 

「金をケチっちゃいい仕事は出来ねぇぜ、お嬢ちゃん。

そろそろ時間だな、相棒。」

 

「だな。じゃ、車に乗った乗った。」

 

「おぉぅ!新衣装キタコレ!!」

 

唇の端を上げる次元に頷いてルパンが店先に止めているベンツSSKとフィアットを顎で指す。

しかし、それが聞こえないのか鏡の前で漣がクルクルと回っていた。

 

「おーい、漣ちゃん?俺の声届いてる?聞こえるか?」

 

「メカ次元ですか、ご主人様?」

 

「ご主人様って言うな。」

 

「…俺がなんでメカ?」

 

意味不明な反応を返す漣に困った顔をしつつも、ルパンが苦笑する。

首を傾げて漣の言葉に反応しながらも次元はフィアットに漣と武蔵を乗せる。

 

「じゃ、行きますか。」

 

「そうね~エスコートしてもらいましょうか~?

というか、どこに行くの~?」

 

そしてSSKに龍田とルパンが乗り込む。

二人で先導して走り出しながらドアに肘を置いて咥え煙草をして笑う。

 

「なぁ、龍田ちゃんよ。

急に金を持った人間の欲求ってどんなもんだと思う?」

 

「使い道、ってこと~?

…ん~美術品とか、車とか、食べ物とか~?」

 

煙草の灰を走る路上に捨てながらルパンは頷く。

 

「それも合ってるな。俗に言う成金趣味に走るヤツも多いな。

何かの本で読んだが、人間ってのは無意識にバランスを取りたがるらしい。

急に金が一方的に入ってくると、その入ってくる加重に耐えれなくなるのかねぇ?」

 

「…要は、大金が入ったら大金を使いたくなるってこと~?」

 

「大正解。元々の金持ちやセンスのある人間はその加重に潰されずに上手く回すもんさ。」

 

「なるほどね~、それが下手な人間が成金ってことね~。

…じゃ、この車はどうなのかな~?」

 

打てば響くような回答に満足そうに頷くが、思わぬ反撃に首がカクンと落ちる。

 

「必要経費だってばさ。

それに…これが成金趣味に見えるかい?」

 

「ま、悪趣味じゃないわね~。

で、こんな格好してどこ行く気?」

 

助手席でスカートの裾を軽く広げて示しながら問いかける。

 

「じゃ、人間の三大欲求ってわけじゃねぇけどな…人間の持ち崩すモノって三つあるんだよ。

それはな、酒・色・博打さ。」

 

「…そんなものかしら?」

 

「ま、実感はわかないかもしれないがね。

金が満ちると酒食に走り、色に溺れる。

その末がスリルを味わいたくなって博打に溺れるってのがよくあるパターンなわけ。」

 

煙草の吸い殻を龍田が差し出した車載用の携帯灰皿に入れて笑う。

 

「俺が怪盗やってる一つの理由がスリルってのがあるからあまり笑えないけどな。

で、博打をしたいが損もしたくない、って人間が思いつくのが何かわかるか?」

 

「贅沢な話ね~……胴元、かしら~?」

 

胴元とは、博打場を管理する大本のことである。

龍田の回答に頷くと、片手で懐から一枚の封筒を差し出す。

 

「とある上級将校様がそう思いついて、提督の悪友やその御同類を招いて裏カジノを開いたのさ。

それもそれなりに規模が大きくなって、今じゃちょっとしたもんだってね。」

 

「へぇ~ならそこから盗むの~?」

 

「おいおい、盗んだら面倒だって言っただろ?

だが、金はいただいていくぜ。」

 

怪盗と呼ばれる悪党らしい、ニィとした笑みとともに車を走らせるのだった。

 

 

 

「その招待状は悪徳提督達の中で広まってるんじゃないのか?

そんなものが煙たがられているルパン提督や次元提督に来るとは思えないんだが?」

 

一方、フィアットに乗った武蔵と漣と次元がいた。

ルパンと似た説明をしていたが、次元の名が記された封筒を見て後部座席の武蔵が問いかける。

 

「いいところに気付いたな。

ま、相当の数の提督が呼ばれてるけどよ…確かに悪徳提督かそれに近しい提督ばかりにしか広まってねぇんだよ。

さて、俺たちと接点のある悪徳提督と言えば誰だ?」

 

助手席の次元がシートを軽くリクライニングさせてもたれかかりながら語る。

それにノリノリで答えるのは漣だった。

何故かルパン鎮守府の漣は変な知識とともに車の運転に興味を持ったので、次元が運転を許したのだった。

 

「公文書偽造キタコレーー!!www」

 

「運転が楽しいのはわかるが、落ち着け。」

 

「公文書でもないな、漣よ。

…なるほど、あの提督の下に届いていた招待状から偽造したのか。」

 

次元と武蔵につっこまれても、「俺は鷹だー!」とか口ずさみながら運転している。

しかし、普通に法定速度を守って走っているだけだというアンバランスさに同乗者の二人は何も言えない。

 

「ま、そういうこったな。

だが、盗むわけにもいかねぇが、金が必要だ。」

 

「…うーむ、だから博打か?

あまり感心しないし、提督たちのやり方を見てると『勝つべくして勝つ』クチだと思ってたんだけどな。」

 

後部座席で腕を組んで、非難するように助手席の次元の方を睨む。

それをちらりと振り返って見ると、ニヤリと笑って答えた。

 

「おいおい、俺たちは裏社会にそれなりに長いんだぜ?

運否天賦なんてド素人みたいな事をやると思ってるのか?」

 

「…なら…イカサマか。」

 

「ざわ…ざわざわ…。」

 

武蔵の言葉にふっと笑って肩を竦める次元だった。




隠岐家周辺の現状。

・大雪(足首まで埋まる)
・水道管凍結で水が出ない
・市内で水道管が破裂しまくり
・市の水道局が修理などの関係で水道の水圧調整(低圧化)

・それでも破裂したまま気付かずに放置され続けていた影響か、市内の多くの場所で断水状態。 ←new!!
※隠岐家は断水まではいきませんが、水道の水圧が低くまともに使えない状況です。

チョロチョロとは水は出ますが…食器も洗えないし、風呂に入れない状況です。
温泉県なので今晩は近くの温泉に行って来ましたが、同じ考えの人が多く、団子状態(順番を並んで待って、満員の風呂に入る)でした。
明日には何とかなりそうとの広報がありましたので…祈りたいところです。


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14-2.ルパンたちは遊びに出掛けるそうです。(中)

日曜日中、という宣言は何だったのか。

そして、タイトルでわかると思いますが、描写とかを書いているだけでどんどん長くなってしまい、一万字に近くなっても終わらなかったため、中編となります。


ルパン達がたどり着いたのは郊外にある、とある海のそばの大型の倉庫を改造した建物だった。

 

パッと見ではただの倉庫にも見えなくはないが、妙に小ぎれいである。

そして周囲には駐車場が置かれ、周りには同じような建物はあっても距離は取られている。

 

「こりゃ、儲かってるみたいだな。」

 

車を倉庫の前に停めてから真顔でルパンが呟くように言う。

それを聞いた龍田は不審げに少し眉根を寄せる。

 

「…元は倉庫だったのを買って改造したんだろうが、普通の倉庫は利便性を考えて同じような倉庫を並べるのが普通だ。

なのに、こうして周りに駐車場があったり、他の倉庫とは距離が取られてるってことは?」

 

「周りも買い取って、わざわざ駐車場にしたってことね~?」

 

御明察とばかりにニヤリと笑って倉庫の前で車を降りれば、警備員なのか入り口の前にいた黒服の男が近寄ってくる。

その耳にはイヤホンがあり、口元を隠して何かを話している。

 

「それか、倉庫街の外れに増設したか、だけどな。」

 

「おう、兄ちゃんたち。俺達ァ、招待客だぜ?」

 

同じようにルパンのSSKの後ろにフィアットを停めて降りてきた次元が黒服たちに封筒を見せる。

すると、黒服の一人が二人の下へ歩み寄ると中を一瞥して頷く。

 

「…失礼いたしました。ここは会員制になっておりまして、無用な騒動を好まれないお客様も多々いらしゃいますのでご容赦を。」

 

「へぇ、同業の方々の懇親の場、って聞いてもいたんだが…それだけじゃなさそうだな。」

 

「皆さま、御顔が広い方も多いもので。」

 

それなりの社交性を持つのか黒服はそうルパンに答えながら、他の同僚が開いたドアの中へと促していった。

 

 

 

一方、そのころルパン鎮守府の執務室では。

 

「雷ちゃん、金庫の鍵を貸してもらえる?」

 

「あら、大淀さん。どうしたの?」

 

片手に数冊のファイルを手にした大淀が執務室にいた雷に話しかけていた。

 

「大本営からの書類が着てたのよ。

皆が来る場所だし、提督の机の上に置いていくのもどうかと思って。」

 

「そうね、次元お父さんもルパンお父さんも夜遊びに行っちゃってるし…。

帰ったら叱ってあげなきゃ!」

 

夕方過ぎに早い夕食をとったルパンたちはその足で出かけていた。

いい歳をしたルパンたちの外出を『夜遊び』と称し、『叱る』という発想が出る時点で流石の雷だと言えよう。

その言葉に苦笑しながら机から取り出した鍵を受け取った大淀は苦笑するしかない。

 

「ほどほどにしてあげてくださいね?」

 

そうとだけしか言えずに受け取った鍵でルパンの執務室の隅に鎮座する金庫の鍵を開けた。

 

ルパン鎮守府の機密は多い。

勿論ルパンの独自の鎮守府運営方法は他の鎮守府ではほとんどやっていない。

艦娘用の酒保など先進的な提督が手を付け始めたが、そのノウハウや根っ子を基本的にルパンが抑えている。

というよりも、ルパン鎮守府こそが艦娘用酒保の総元締めである。

 

そのため、それに関する書類や関わる引退艦娘達の会社の経営関連の書類、データなどが大量にルパン鎮守府では保持されている。

当然ながら総元締めだからといって暴利を貪ってはおらず、あくまでシステム全体を上手く回すための総元締めである。

 

良くも悪くも海軍は軍であり、軍は縦社会である。

軍に任せたならば階級の低い鎮守府の艦娘達が割を食わされかねない、という危惧もあってルパンと民間で調整をとるように浦賀からも頼まれたのだった。

 

それらをしまうための金庫という事で大淀よりも大きな大型の金庫を設置しているのだった。

 

閑話休題。

そして開いた金庫を前に大淀は全身を硬直させていた。

 

「あ、あ、あ…あの、雷ちゃん?」

 

「なぁに?」

 

雷は我関せずとばかりに明日の遠征部隊の割り当て表に人員を当てはめては頭を悩ませていた。

 

「…き、金庫の中の…お金が……運営費が!!」

 

「……ほへ?」

 

油の切れたゼンマイ人形のようにぎこちない動きで首を回して雷を見て、震える指で明らかに空いた空間を指さす。

そこには一枚の紙が置かれていた。

 

『ちょいと使わせてもらう。』

 

そしてその隅にはルパン三世のサインとモチーフの絵が。

 

「なっ!?何をしてるのぉぉぉぉ!?」

 

「まったくもぉ。帰ったらお灸も据えなきゃ。」

 

良くも悪くも雷の肝は据わっていた。

 

 

 

「ヘッ、ザルもいいところだな。」

 

倉庫の中は外見には似つかわしくないホールとなっていた。

まるで学校の体育館よりも大きなホール。

その中には着飾った男性や数少ない女性客、そしてその連れらしき艦娘たちが数多くひしめき合っていた。

 

場所によってスロットマシーンのブースに、ブラックジャック・バカラ・ルーレット・ポーカーのテーブル。

そして壁沿いには無料で提供されるバーカウンター。

 

そこで全員のドリンクと軽食として寿司を桶で受け取ってから隅の休憩用らしいテーブルで次元がニヤリと笑って言った。

 

「まったくだ。せいぜいここの経営にかかわった連中は日本の裏カジノ程度までの経験しかねぇみたいだな。」

 

ルパンも小声でクックックと笑って言う。

それを怪訝そうに見るのは武蔵だった。

 

「…そういうものか?どこでそう判断したのか教えてくれないか?」

 

「まず、プレイヤーに交じって何人か裏メンがいるな。

それも二流のスジモノの。」

 

スジモノ、つまりは裏家業の人間だという事だ。

それを聞いて龍田も武蔵も様々なテーブルを見回すが、人相や態度ではそれらしいものが幾人もいて絞りきれない。

 

「賭け方や目線の動きで違いがあるんだよ。

あとは防犯カメラの数や配置がザル。

さらに言えば、あからさまにスロットは内部の調整で絞られてるから手を出さねぇ方がいいな。」

 

ルパンが横目でスロットマシーンのジャックポット(大当たり)の当選者の写真と、実際の動きを見て鼻で笑う。

その様子を見ても漣だけは動じずに、寿司をパクついていた。

 

「ねぇねぇ、ご主人様達。

おかわりはどうすればいいのでしょうか?」

 

「あん?…全部タダだが、艦娘のお前らが行くと角がたつかもしれねぇから俺たちに言え。

取って来てやるからよ。」

 

「何があるかわかんねぇから離れないようにな。

さーて、俺は得意のカードにいくか。

次元は…ルーレット、か?」

 

気になることがあるのか周囲の客を見回して眉を顰めるが、それでもルパンは行動を決める。

次元は問いかけにニヤリと笑う。

 

「あぁ、あそこまでチャチな腕前じゃ…2時間でクローズさせてやるよ。」

 

「ちょっと待ってくれないかしら~なんでスロットマシーンがダメなの~?

ジャックポットが今100万ドル超えしてるわよ~?」

 

リターンを考えてか、何故ルパンがスロットを除外したのか理解できずに龍田が問いかける。

 

「あそこに写真が並んでるだろ、歴代当選者って。

全員特定しにくいように顔をそれなりには隠してるけどな…全員海軍将校様だ。

そして、ここの経営者の高木大将様とオトモダチなんだよ。」

 

「あとは、スロットの挙動というか……ボタンを押した時と止まる出目のズレが露骨にあってな。

それからすると、恐らくは中でハズレとかを操作されてるのか、完全に運の勝負しかねぇみたいだからな。」

 

苦笑しながらルパンと次元が説明してやると目を見開く。

流石にルパンの仕事の補佐をやっている龍田でも関係者の顔などは頭に入りきっていなかった。

言われてみれば、写真の顔は数多くの報告書のどこかで見たことがあるような気がしてきた。

 

しかし、そんな5人に一人の男が薄い笑みとともに近づいてきて、テーブルの一席に勝手に座った。

 

「御明察、だ。ルパン提督殿、あの浦賀の兄ちゃんが気に入るのも無理はねぇな。」

 

「…オメェ、誰だ?」

 

男の笑みはどこか粗野でありながらも、荒々しい魅力のようなものを秘めていた。

ルパンほどではないが、それなりに上質のスーツにYシャツをはだけて胸元を見せていた。

腕にはブランド品ではないが、相応の腕時計をしていた。

 

「ま、ただの博打好きさ。

今日はちぃと小遣い稼ぎをしようと思ったんだがね。

中々面白れぇ匂いのする男二人が並んでたんで興味を持ってみれば、予想通りのいい目をしてるもんで首を突っ込みたくなったのさ。」

 

ルパンの鋭い目と問いかけに笑って肩を竦めれば、通りかかった女性の黒服に頼んでレッドアイを頼む。

その様子やふてぶてしい態度からまともな勤め人だとは思えなかった。

 

「ほぉ…アンタはココに雇われたのか?」

 

「確か…艦娘の武蔵、だったかな。

残念、ココの連中みたいな面白くねぇヤツらに手を貸す気はねぇよ。」

 

武蔵はルパンたちの態度から警戒に値すると判断したのか、ニィと好戦的な笑みを浮かべて問いかける。

それを笑って肩を竦めれば、冗談じゃないと告げる。

 

「浦賀の名前が出るってことは…そういうことか?」

 

「かも、な。あくまで協力者の一人、ってことさ。

ホールを見てみな。おかしくはねぇか?」

 

ルパンの推察にニヤリと笑うとやってきたレッドアイのグラスを片手で受け取り、ホールを見渡すように顎で指す。

 

「おかしいだろ?…なんでこんなに艦娘がこんな場にいるんだろうな?」

 

言われてルパンも次元も、全員が客を目線で見渡す。

 

「…そう、ね…。艦娘がこんな場に、興味を持てる環境にあるわけないわね~…。」

 

指摘の意味するところにたどり着き始めたのか、龍田も困惑を隠せないままに言葉を漏らす。

そして艦娘達を眺めていたルパンが最悪の想像をしたのか眉をあからさまに顰める。

それをレッドアイを口に運んだ男は軽くにやけた顔を崩さずに告げる。

 

「あぁ、安心した。アンタらは悪党かもしれないが、外道じゃない。

そして、社会の闇も知っていて、頭も切れる。」

 

「どういう、ことだ?…レア艦がやけに多いように見えるが…単なる自慢に連れてきてるんじゃないのか?」

 

武蔵は連れて歩かれている艦娘を見てもそうとしか思えない。

男の言う社会の闇というものが、武蔵も龍田も、そして漣も理解できずに困惑しか出来ずにいた。

むしろ、漣は最初から理解しようということを放棄して寿司に専念していた。

 

「俺の名はシゲル。今晩は付き合わせてもらうぜ。」

 

グイとレッドアイを飲み干してからテーブルの真ん中に手を出す。

その手をルパンと次元は視線を一瞬絡めた後に、頷いてからそれぞれその傷だらけの手を取った。

 

 

 

 

「さーて、ルーレットも久々だな。

ココはアメリカンかよ…ヨーロピアンなら楽なんだけどな。」

 

「あの回る台のどこの数字に入るのか当てるのですか?」

 

次元にはシゲルと漣がついて来ていた。

次元は持ってきた鞄に詰めていた札束をコインに交換して手元に持っていた。

その札束はルパンが自分の鎮守府の金庫にあった運営資金と、先日の盗みの戦利品の合わせたものである。

当然ルパンも次元と同じだけを自分で持って、違うテーブルで賭けに使っている。

 

ちなみに次元の口にしたアメリカンとヨーロピアンの違いは、赤でも黒でもない0が一つだけか、それとも0と00の二種類あるかどうかの違いである。

なお、アメリカンが0と00、ヨーロピアンが0のみである。

 

「いや、賭け方は数種類あってな。

大まかに数字は0、00、1から36の数字がある。

賭け方は0と00は一点賭けしか当たりにならない。

1~36の当て方は数種類あって、赤か黒のどちらの数字かの賭け。

偶数か奇数かの賭け、1~18か19~36、1~12か13~24か25~36か。

そして数字4つのゾーン賭け、6つのゾーン賭け。

1・4・7…34、2・5・8…35、3・6・9…36という賭けとかな。」

 

大雑把に次元は説明する。

それを聞いて漣は深く頷く。

 

「つまりggrks!ってことですな!」

 

「…意味は分からんが、凄い自信だな。」

 

きっぱりと言い放つ漣の態度に呆れながらも、次元はルーレット台とその球を投げ入れるディーラーの手を見つめていた。

 

「ま、こんなもんかね。」

 

投げ入れる手つきと、投入されて走り出した球を見て次元は慣れた手つきで賭ける場にコインを数か所に置いていく。

そして間もなくディーラーが手元のベルを鳴らすとともにベットが打ち切られる。

 

球はルーレットの中を走って、次第に失速し、そして数字に落ちる。

落ちた数字は12だった。

 

次元が賭けたのは赤と、1stのゾーン。

それぞれ置いたコインが二倍と三倍になって帰ってくる。

 

シゲルも次元と同じところと、近い場所に散らして賭けて、トータルで勝ちに持ち込んでいた。

 

「さ、この調子で行こうかね。」

 

次元もそれなりに散らしつつ、外すことはあっても着実にコインを増やしていく。

シゲルもそれに便乗して、似た個所に賭けてどんどんと増やしていった。

 

が、予想外の活躍をしたのが漣だった。

 

「ご主人様ぁ…暇です!漣もやりたいー!!」

 

完全に子供の駄々っ子のような事を言いだしたのだった。

そこで面倒がった次元は適当に一枚のコインを漣に渡して、赤か黒かの二択で遊ばせようと思ったのだったのだが…。

 

「ふふーん、32キタコレ!!」

 

ある意味堅実で、ある意味ギャンブラーな賭け方を始めたのだった。

それは一点賭け。

0と00を含めて38個ある数字の一つのみに賭けるという荒々しい賭け方である。

 

最初に渡した100ドルコインをまず最初に当ててから、常に一枚しか賭けない。

しかし、10回から20回に一回は当てて小さな体で一喜一憂して全力で楽しんでいた。

その漣の手元には既に50枚ほどのコインが貯まっていた。

 

「うーん、難しいわね~。」

 

「そうだな…中々漣のようにはいかないな。」

 

最初のうちはルパンについていた龍田と武蔵だったが、次第に白熱してきたルパンの傍を離れたのだった。

ルパンは最初は勝って負けてを繰り返していたが、次第に勝率を挙げて勝ち続けていっていた。

その結果次第にレートが上がり、龍田や武蔵が邪魔にならないようにとこちらへと移動したのだった。

 

カードゲームの多くはテーブルごとに最低の賭け金があり、白熱したルパンのテーブルでは最低の賭け金も跳ね上がった。

そのため龍田、武蔵は当然参加など恐ろしくてできるはずもない。

また、近くでルパンのカードを見てしまうと表情に出てしまってもまずい。

 

その兼ね合いもあって、ルパンの許可を得てコインを渡された上で次元と合流したのだった。

 

なお、一番勝っているのは危ない賭けをしているはずの漣であり、その次が武蔵である。

武蔵は普段は倍率の低い代わりに多くの数字をフォローする無難な賭けをするが、時折大きく賭けたり、狭い範囲の数字に絞った倍率の高い賭け方もするというカンで勝負を仕掛けもしていた。

その結果、出たり入ったりで微妙に減ったり増えたりの繰り返しだった。

 

逆に完全に赤黒の二択のみで勝負をしているのが龍田。

しかし、二択といえども偏ることもあり、むしろ龍田は負け気味ではあった。

それでも流石龍田というべきか、熱くならずに(ケン)で賭けずに様子を見て、頭を冷ましてから賭けたりして、微減という程度に済ませていた。

 

 

そうして小一時間余りが過ぎたころ。

 

「…さて、頃合いかね。」

 

「そろそろ限界だろうよ。」

 

次元が煙を吐き出してニヤリと笑って言うと、同意とばかりにシゲルが頷く。

すると、奥から年配のディーラーが一人やって来た。

 

二人の手元には大量のコインが山となっており、周囲にはギャラリーも出来ていた。

最初のうちは次元たちと同じテーブルで賭けていたプレイヤーもいたが、張り合っていく間に負けがこんだのかテーブルを去ったり、ギャラリーに回ったものが多く、今は次元たちしかいなかった。

 

「これほどお強いお客様は久しぶりです。

もしよろしければディーラーを代わりまして、面白くするためにもレートも10倍に上げていきたいと思いますがいかがでしょうか?」

 

「ヘッ、都合のいいことばかり並べやがって。

…まぁいいだろうよ。」

 

これまで次元を相手にしていたディーラーの顔色は青を超えて白い。

それだけの損害を店に与えてしまっていたのだから。

救いは若い彼だけでなく、これまでに数人のディーラーの通算だということだろうか。

 

要は今やって来たディーラーは腕利きなのだろう。

そのディーラーと変わった上で、『これまでの分を手っ取り早く取り返したいからレートを上げる』と言ってきたのだった。

普通なら受けるはずもない提案だろうが、次元は鼻で笑いながら受け入れた。

 

シゲルは目を見開いて次元を見るが、すぐに店員に言ってコインを両替させてレートの上昇に備えた。

 

「では、ディーラー代わりまして…よろしくお願いします。」

 

その年配のディーラーと共にやって来た黒服に、これまでのディーラーは連れていかれる。

恐らくは、これまでのディーラーと同じように責任を負わされるのだろう。

 

それを次元は一瞥しても、それ以上の感慨を抱かない。

龍田や武蔵も次元を窺うように見るが、次元は平然と椅子に座ったままだった。

 

「当然だが、見に回らせてもらうぜ。

適当に賭けるほどバカじゃねぇんでな。」

 

「結構です。当然プレイヤーの権利ですしね…ただ、場をしらけさせない程度でお願いしますよ?」

 

次元も両替をしながら鼻で笑うようにディーラーに言えば、ディーラーは動じずに釘を刺した。

要は(ケン)とは賭けずに一回のゲームをパスすることである。

ディーラーは『逃げるなよ』と言ったのだ。

 

それを鼻で笑いながら、次元はコインを手で弄んで球の動きを眺める。

 

「ご主人様、コレ返しますねー。」

 

漣や武蔵、龍田がこれまで遊んでいたコインをまとめて差し出す。

 

「アン?…あぁ、最小レートが上がったしなぁ。

増えてよかったじゃねぇか、あとで帰ったら小遣いやるよ。」

 

「…あの~大丈夫なの~?」

 

周囲を視線で見渡しながら問いかける。

その意味するところは、勝てるのか、また、勝ちすぎても問題がないのかなどといったいくつもの意味を含んでいた。

不意に別のテーブルでも歓声が沸けば、つい龍田と武蔵はそちらをも見てしまう。

その様子に次元は苦笑して、二回目のディーラーの球の投入を見ながらバーボンのロックを傾ける。

 

「気になるならあっちに行ってやんな。

アイツは目立ちたがり屋だからな…見られてる方が気分がノるだろうよ。」

 

帽子を軽く下げながら笑うと、二回目の球の落ちたポケットを確認する。

そして赤と白の色合いの煙草のソフトボックスから煙草を一本取り出すと、空なのかクシャッと握りつぶして黒服を呼び止める。

 

「同じヤツを一箱くんな…チップだよ。」

 

そう言って10$チップを指で弾いて空になったバーボンのグラスに入れ、空箱とともに渡して催促をする。

その堂々とした態度が気に食わないのか、ディーラーの目つきは鋭くなる。

それを受けても次元は動じずに、不敵に足を組み直す。

 

「あと、もう一回だ。もう一回(ケン)に回ったら、賭けるよ。

そんなに怖い顔すんじゃねぇよ、なぁ?」

 

そう言って隣のシゲル、そして周囲のギャラリーに笑いながら肩を竦めてみせる。

その道化ぶった様子に頬をヒクつかせるが、ディーラーにもそれなりのプライドがあるらしくすぐに平静を装って第三投目を投じる。

 

「いやいや、怖い怖い。

大人の社交場なんだから、もっと『大人らしく』いこうじゃねぇの?」

 

シゲルも次元に乗って、肩を竦める。

ディーラーは僅かな間目を閉じて、深く静かな深呼吸をすると二人を見下ろす。

 

「では、参ります。」

 

そう言って、ディーラーはしなやかな指の動きで球を投じた。

それと同時に次元は大胆な一言を告げる。

 

「0と00に半分ずつでオールイン。」

 

それに乗ってか、少し遅れてシゲルも言う。

 

「全く同じように。」

 

「ちょっ!?おまっ!?次元さぁぁんっ!?イミフッ!イミフだよぉぉぉ!!!」

 

隣の漣は頭を完全に抱えて絶叫する。

しかし、賭けは成立したとみなされ、二人のコインはそれぞれが0と00を示す場所に全て置かれる。

オールインとはテーブル上の金を全て賭ける、という意味である。

 

次元はその漣の絶叫を手で口を塞ぐ。

周囲のギャラリーも漣と同じ意見だったかもしれないが、場慣れしているのか必死で声を潜めていた。

 

「…騒ぐんじゃねぇ、もう賭けは成立したんだ。」

 

堂々とした様子で、片手で漣の口を塞ぎながらも次元はルーレット台から目を外さない。

ディーラーもその視線に射抜かれ、何も出来ずにただ回る球を見る事しかできない。

 

カッ、カッ、カッ…カラン。

 

そして、一分どころか30秒もせずに球はポケットに落ちる。

『00』に。

 

 

それと同時に周囲のギャラリーから大きな歓声が起きる。

ちょうどそのタイミングで新しい煙草とバーボンを運んできたウェイトレスはあまりの出来事に盆をひっくり返してしまう。

次元は歓声にもグラスの割れる音にもに動じないまま、漣の口を塞いでいた手で灰皿から吸いかけの煙草を取って、咥える。

 

「ワリィが、もう一杯と一箱頼むぜ。

バーボンも煙草も好きだが、チャンポンにはしたくねぇんでな。」

 

「は、はい!!」

 

そう言うと若いウェイトレスは慌ててグラスの破片を手で拾って、小走りにバーカウンターへと走る。

そして、次元がディーラーに目をやると、ニヤリと笑った。

 

「というわけで、配当をもらえるか?…現金でもらえないと困るがね。

コインだけ増えて、払えませんじゃ話にならねぇ。」

 

「な…何故……わかった。」

 

ギシッと音を立てて、椅子から身を起こして蒼白な顔色のディーラーを見る。

 

「学生じゃねぇんだ。何でもかんでも教えてもらえると思うんじゃねぇよ。」

 

次元の言葉を受けたのか、別の黒服が服につけられたインカム(無線)のマイクで慌ただしく小声で話せば、コインを数え始める。

そして、新しくウェイトレスが持ってきたグラスを受け取れば、受け取るとともに財布から一万円札を取り出して、ウェイトレスに差し出す。

 

「続けたいなら続けてもいいがな。

この金の36倍の現金を積んでからにしてもらおうか、額が額だしなぁ。」

 

グラスを傾けると、興奮覚めやらぬ漣が硬直から解放されたのか口を開く。

 

「キーーーーターーーーーコーーーーーレーーーーーーー!!!!」

 

そして運ばれてくる、台車に何個も乗ったスーツケースを見ると両手を握りしめて高く掲げて、椅子の上に立って叫ぶ。

その頭を次元が平手で叩いて、下に降りろと抑えつける。

 

「バカヤロウ!恥ずかしいだろうが、まったく…。」

 

漣も指摘されて、周囲のギャラリーの苦笑に気付いたのか小さくなるが、次元は運ばれてきたアタッシュケースを開けて中身を確認する。

全てのアタッシュケースの中身は漣の予想通り、一万円札の束だった。

 

その中から一つの束をポンとテーブル上に投げると、ニヒルに笑って台車を押していった。

 

「アタッシュケース代と、チップだよ。

楽しかったぜ?」

 

「おっ、おいおい!ちょっと待ってくれって!」

 

それを慌ててシゲルもついていった。

シゲルは最初の資金が次元よりは少なく、途中も次元と完全に同じところに賭けたりはしていなかったこともあって、勝った額は次元よりは少なかった。

それでも束がいくつも配当として運ばれて、慌てて懐にねじこみながら次元の後をついていくのだった。

 

次元はもう一つの人だかりの方へと歩いていく。

あの相棒が地味に勝つなんて想像できない。

となると、あの龍田と武蔵が向かった先の人だかりの中心にはルパンがいるはずだ。

 

そう考えながらガラガラとカーペットの上を台車を押して歩いていくのだった。

その隣では漣が興奮が全然抜けないのか、歩きながらも身体を揺らし、セットしたはずのツインテールをぴょんぴょん跳ねさせていた。

 

「…お調子者だからなぁ…しくじってねぇといいんだが。」




ルパンが空気ェ…。


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14-3.ルパンたちは遊びに出掛けるそうです。(後)

呉鎮守府、挙動が完全にアウトです。

何とかデイリーはクリアしましたが、猫るので出撃は控えました。
皆様は頑張ってくださいね~。


時間は僅かに遡って、ルパンはバカラの台にやって来たばかりの頃。

 

ルパンは1シューターのゲームが終わったのを見計らって、テーブルに座った。

龍田と武蔵は他の客の目もあるため、護衛さながらに背後で静かに立っていた。

 

1シューターとは8セットのカード(トランプ)を全てシャッフルして、一枚ずつ出すためのケースに収納する。

そのシューターを使い切るまでのゲームの流れ全てを終えるまでが一連のゲームになる。

なお、シューターに収納されたカード全てを使い切るわけではなく、その中の途中までで終わりにするように適当なところに終わりを示すプラスチックカードを差し込む。

そのプラスチックカードのところまでくれば、ゲームは終了である。

 

「ま、バカラってのはな。

プレイヤーサイドとバンカーサイドという二つの場所にカードが伏せたまま、二枚ずつ配られる。

そして、1~9まではそれぞれの数字。

10と絵札は0として捉えて、足した数の総和が大きい方が勝ち。

ただ、10の位は数えない。つまり最強が9ってわけだ。

そのどちらが勝つかを張って当てるゲームだ。」

 

ルパンは数百万のチップを小張りにして、少額の勝ち負けを繰り返しながら興味深そうに見ている二人に説明する。

テーブル内では数名の他の客もいて、それぞれが思う方に賭けている。

 

説明を補足すれば、プレイヤーサイドが勝てば賭けた額の倍返し。

バンカーサイドが勝てば賭けた額の1.95倍返し。

 

バンカーサイドが1.95倍なのはバンカー側の方が僅かに勝率が高いのと、コミッションといってカジノサイドへの手数料(ゲーム代)を含んでいるからである。

細かい条件によって最初に配られた二枚では勝負がつかずに三枚目を引くこともある。

それは今回は省こうと思う。

 

そして、プレイヤーとバンカーのカードの数字が同じ(タイ)だった場合はいずれかに賭けていても全額返還。

しかし、タイに賭けていれば賭けた額の8倍&賭けた額の返還が行われる。

 

「ある意味、丁半博打みてぇなもんだ。」

 

つまらなそうに現金を交換したコインを右手で弄び、左手でコーヒーカップを口に運ぶ。

 

「おや、提督は飲まないのか?」

 

他の客はルパンたちのような提督らしき男女や、それなりの立場の人間なのかルパンのような正装をした男がいた。

少しふてくされたような顔つきで、コインをバンカーサイドに賭ける場に少額置いてから背後を睨む。

 

「どうせ次元は飲んでるし、お前ら運転出来ねぇだろ?

あの車を代行に任せるなんて怖いマネしたくねぇよ。」

 

そう言いながらもつまんねぇと唇を尖らせる。

そして淡々とルパンは勝っても負けてもゲームを続けるが、不意に薄く笑えばそのまま手元に積んでいたコインを掴む。

 

「さーて、楽しくなってきやがった。…って、次元じゃあるめぇし。」

 

そう言ってクックックと笑うと、目を鋭くさせて周囲の客を一瞥してからコインを置き始める。

すると、ベット額が跳ね上がると同時に明らかに勝率が変わってくる。

 

「凄いな…。このチップ一枚で約一万円だろう?」

 

「ちょっと豪勢な焼酎でも一升買えるなぁ。」

 

ルパンの手元にあるコインの中でも少額のものを一つ選んでみると、『100$』と書かれている。

それを見て感心というか、複雑な心境を伺わせながら武蔵が言えば、大したことはないとばかりにルパンが言う。

実際、目の前のテーブルではそのコインやおろかその一つ上の桁のコインですらほんの一分で数十枚が行き来している。

 

そして、退屈そうにルパンはあくびをすれば欠伸をして、コインを弄びながら言う。

 

「まったく、簡単すぎてつまんねぇなぁ。

こんなもんで負けれるってのは、ある意味才能だぜ?」

 

「あらあら~そんなこと言ったらいけないのよ~?」

 

頬杖をついたルパンの肩にそっと背後から身を摺り寄せながら龍田が言う。

その視線の先を見たうえで武蔵も龍田と同様にその豊満な身体を寄せ、笑う。

 

「提督よ。できない者からすれば、できる者が理解できないのと同様に、できる者にこそ理解の及ばぬ世界もあるのだぞ?」

 

その視線の先には一人の軍服の若い男がいた。

その男と同じテーブルの全員がわかっていた、その負けがこんでいる男にあてつけで言っていることを。

 

「お客様、ゲームの妨げになる私語はおつつしみ下さい。」

 

「おっと、悪ィなぁ。

酒が飲めないせいで、口が滑っちまう。」

 

ディーラーからの注意に頬杖をといていつもの人懐っこい笑みを浮かべれば、同じテーブルの客にもわずかな苦笑が浮かぶ。

そして、淡々とゲームを続けていく内に一貫したルパンの賭け方が見て取れた。

 

先ほどの男が賭けると、その逆側に常にそれより大きな額を賭け続ける。

その戦略が全勝とはいかないものの、三回に二回、よもすれば四回に三回はルパンが勝つのだ。

 

たまに勝って男がどうだとばかりに憎しみのこもった視線でルパンや他の客を睨むが、ルパンをはじめとした逆側に賭けた客は動じない。

さも子供をいなすように平然と次のゲームへと意識を移すだけだった。

それがまた若い男の頭に血を上らせる。

 

そうすると、そう時間も経たない内に男の手元のチップは尽きる。

持ってきた現金を入れていたらしい鞄からも現金の束が出てこなくなる。

 

「お客様…いかがなさいましょう?」

 

コインがなくなったのを見計らって、黒服の一人が若い男へとそう静かに問いかける。

ギリッと歯噛みした後に、軽く血走った眼で背後の黒服に低い声で告げる。

 

「酒匂とオイゲン、大鯨だ。

早くコインを持ってこい!!」

 

「お客様、他のお客様もいらっしゃいます。」

 

怒りに我を忘れたらしい男の声に黒服がガッと素早くその肩を抑える。

すると、自分でも失言だと思ったのか男は目を逸らす。

 

「…すまない。」

 

「では、コインをお持ちいたします。」

 

先ほどの発言を受けてかはわからないものの、黒服は男が落ち着いたのを見計らって頷くと襟元のマイクに何やら小声で言うと、別の黒服が盆の上に乗ったコインを運んでくる。

ルパンは先ほどの発言を聞いても反応をしないが、龍田と武蔵は目を交わす。

それを諫めるように、背もたれに肘を乗せるようなフリをして武蔵の腹を軽く肘で打つ。

 

「では、お楽しみくださいませ。」

 

若い男を諫めた黒服がテーブルの客全員へと頭を下げると、そのままフロアへと戻っていく。

当の男は目の前に運ばれてきた十万$前後のコインとディーラーの操るカードへと集中してしまい、特に何も気にしてはいなかった。

 

 

 

「さーて、そろそろエンジンをかけるかね。」

 

資金を追加された男はさすがに借金ということもあって、賭ける勢いは落ちた。

それでも負けは嵩み、慎重に少額を賭ければ勝ち、勢いに乗ろうと多額を賭ければ負けるという負の連鎖に飲まれてコインはみるみる内に減っていく。

ルパンは逆に男とは逆の賭け方でコインをテーブルに着く前から倍はおろか十倍近くまで増やし始めていた。

 

シューターも終盤にさしかかった頃、ルパンがニヤリと笑う。

そうして首を傾けて、コキコキと鳴らしてからよく様子を窺っていた若い男から視線を外す。

 

ルパンがやっていたことはシンプルである。

一言で言えば「負け犬を棒で叩いて河に沈める」。

 

カジノのゲームの多くは、店側のディーラー対他のプレイヤー(客)である。

しかし、その中でも勝つ者がいれば、負ける者もいる。

 

ルパンが他の多くのゲームの中でバカラを選んだのも、先ほどの若い男がいたからだ。

ルパンが様々なゲームのテーブルを見渡している間、他にも負けている客はいたが特に顕著だったのがその男だったからだ。

 

人によっては「死相が浮かんでいる」、「背中が煤けている」などと評するのだろう。

不思議なもので、何をやってもダメな時期というものはある。

そこで足掻こうとする、負けを取り返そうとすればなおさら負けが嵩むというのはよくある話である。

そういう時の対処法はたった二つ。

 

無理矢理『力で』負けをひっくり返すか。

それとも、負けを認めて手を引くか。

 

そのどちらも出来なかった男と同じテーブルにルパンは座り、その負ける男とは常に逆側に賭け続けた結果が増えたコインである。

しかし、その最中にルパンはディーラーに集中し始めた。

 

人さし指でテーブルをトントンとリズミカルに叩きながらじっと見つめる。

そして、先ほどの男と逆側に賭けながらも何かを図っていた。

 

「…そろそろか、ね。」

 

そう言うと、男と逆側のプレイヤーサイドに賭けれるだけ賭けるとともに、タイ(tie)(引き分け)に初めて限界まで賭けたのだった。

 

バカラは店にもよるが、基本的にテーブルバランスといって、プレイヤーサイドとバンカーサイドの全員の賭け額の差額の制限を毎ゲーム決められている。

どちらかに偏り過ぎると、額が制限されるのだ。

また、タイ(tie)に賭けれる額も自分がプレイヤーサイドとバンカーサイドのいずれかに賭けた額の何分の一まで、と制限もある。

 

ルパンの狙いはタイ(tie)狙いであることは明白だった。

それがわかった他の客は面白いとわざとルパンと逆側に賭けて、ルパンの賭けれる額を増やせるように協力する。

それに応じてルパンはどんどん賭け額を上げていく。

 

面白くないのはあてつけるだけあてつけられた上に、もはや眼中にないという態度を取られた若手提督である。

怒りに顔を紅潮させ、握りしめた拳からコインがこぼれる。

そのままありったけのコインを元々賭けていたバンカーサイドへと積み重ねる。

 

その様子に顔を青くさせているのが龍田と武蔵だ。

何故ならテーブル上には全員で数十万$、ルパンだけでも十万$以上賭けている。

ディーラーもあまりの白熱ぶりに中々ベットを打ち切れずに唾を飲む。

しかし、既にカードはテーブル上に伏せて配られ、あとは確認するばかりである。

 

「て、提督よ…タイが来なくとも傷は浅いが…バンカーがきたらどうするのだ!?」

 

「そ、そうよ~?賭けた額があれば何か月鎮守府が運営できると思ってるの~!?」

 

武蔵と龍田の言葉には偽りはない。

まともな思考ならばもう切り上げるだろう。

途中で抜けるのが問題になるならば、無難に減らないように少額を賭け続けてシューターが終わってから止めればいいだけだ。

既に持ってきた額の倍以上にルパンだけでなっているのだから。

 

しかし、ルパンは煙草に火をつけて不敵に笑った。

 

「俺はな、落ちてるお宝は根こそぎいただく主義なんだよ。」

 

その発言とともにディーラーは手元のベルを鳴らしてベットの打ち切りを宣言する。

あまりのテーブル上に積まれたコインの山に周辺の客はテーブルを遠巻きに眺める。

 

そして、各サイドの最高額をベットしたルパンと若手提督の下に、テーブル上に置かれていた各サイドに二枚のカードが滑るようにして渡される。

若手提督はその二枚のカードをギリギリと全力をもって、専門用語で言う『絞り』という方法でカードを徐々に徐々にめくる。

 

「一枚は…足つき!!…スリーサイド!!

もう一枚は…ッ!!ピクっ!!」

 

専門用語が男の口からほとばしるが、ルパンはカードに触れもしない。

解説は細かくなるので省くは、男は『一枚は6~8のいずれか、もう一枚は絵札(0)』だと言っているのである。

 

それを聞いてどよめく観客と裏腹に、ルパンは平然と『絞り』もせずに一枚を裏返す。

そのカードには『6』と描かれていた。

 

「いいからさっさとめくれよ。」

 

ルパンは必死な若手提督を鼻で笑って言う。

 

「ふざけやがって…ッ!!ナチュラルエイトぉっ!!」

 

カードに執念を刻むかのように、折り曲げるようにして『絞って』男はカードを場にめくって叩き付ける。

男がめくったもう一枚の札は『8』。

 

9には劣るものの、普通ならば勝ちがほぼ確定する数字である。

それを聞いて、ルールを把握していた龍田と武蔵の顔色は悪くなる。

 

しかし、ルパンはだろうなとばかりに静かに頷いてから手元のもう一枚のカードを人差し指で弾くようにしてひっくり返す。

そのカードは『2』。

 

「プレイヤー、バンカーともにナチュラルエイト!!

条件決まり、タイ(tie)!!」

 

ディーラーの震わせながらも、勝敗の結果を告げる声が響くとともに歓声が沸き上がる。

必死になっていた若手提督はまるで負けたかのように椅子に崩れ落ち、呆然と自分の賭けたコインがそのまま戻ってくるのを見る。

ルパンの手元にはプレイヤーサイドに賭けたコインそのものと、タイ(tie)に賭けたコインの8倍の配当金、そしてタイ(tie)に賭けたコインが返ってくる。

 

「よかったじゃねぇか、負けなくてよ。」

 

ルパンの冷やかしにももう男は怒りも出来ずに、打ちひしがれていた。

 

 

 

そして、シューターが終わるとルパンの手元のコインは山のようになっていた。

ちなみに先ほどの若手提督は一気に委縮してしまい、中々賭けることを決めれずに結果的に(ケン)へと回れば、さほどしない内に途中でゲームを切り上げた。

その時に残っていたコインは黒服へと全て渡し、何やら話していたので彼がカジノから借りた額はその後に話し合われるのだろう。

 

シューターに入れられていた残りのカードは念入りに破られて、ディーラーの足元のゴミ箱へと放り込まれる。

そして、新たな8セットのカードがテーブル上に並べられ、ルパンや残った客の手によってかきまぜられている時に一人の高級そうなスーツを着た男が現れた。

 

ちなみに今ルパンは一人だった。

あまりの激しい賭けに胃が持たないと、龍田と武蔵は次元の様子を見に行ったのだ。

実際、カジノにおいては一万円という額は金ではない。

ただのゲームのチップであり、下手すれば一回のプレイ代にも満たない。

 

そんな狂った世界の出来事だった。

 

 

そしてやって来た男はにこやかにルパンに話しかけてきた。

 

「楽しまれていらっしゃるようで何よりですな。」

 

「おっと、これはこれは…。

黒沼中将殿、お初にお目にかかります。」

 

カードをかき混ぜる手を止めて振り返れば、ルパンは芝居がかった振舞いで胸元に手を当てて頭を軽く下げる。

黒沼と呼ばれた壮年の男は温和そうな顔つきでありながら、僅かに目を細ませて微笑する。

 

「ハッハッハ、先進的な提督として名を馳せる君に来ていただけるとは驚いたよ。

近いうちに招待状を出そうかと思っていたが、誰かの紹介かな?」

 

「ええ、黒沼中将殿が社交場を開かれているとの噂を聞きましてね…ちょいと同行させていただいたわけで。

しっかし、中々ご盛況なようで?」

 

にこやかに話しながらもお互いの目は笑ってはいない。

黒沼はどうやってここに来たのかを探り、ルパンは誤魔化しては荒稼ぎしているなとジャブを打つ。

その際に椅子を回して黒沼に向き直りながらも、脚を組んで手の指を組み合わせて見据える。

 

「いやいや、私は伝手を知人に紹介しただけでね。

知人が経営していて、私はただの客の一人さ。

最初のうちから来ているせいか、そう勘違いしている方々も多いようだがね?」

 

笑って大きく肩を竦め、ルパンのジャブを軽くかわす。

それもルパンの予測通りなのか、ルパンも笑ってコーヒーカップを口元に運ぶ。

 

「なるほど、俺の知人もそう勘違いしていたようで、てっきりね。

考えれば、将来は大将か元帥かと言われる黒沼中将殿がこんな副業をしている、ってのは悪い冗談ですな。」

 

「将来の出世は上層部の判断だから何とも言えないがね。

確かに、そんな悪い噂は勘弁してもらいたいな。」

 

二人はにこやかに談笑をするが、お互いに目は笑っていない。

そしてルパンはカップをテーブルに戻すと、黒沼は笑っていない目のまま問いかける。

 

「どうだろう、ルパン君。

もしよかったら私と一勝負してもらえないかな?」

 

「とは言いましてもね…ちと、もう夜も遅いでしょう?

今晩のお楽しみがこれから待ってるもので、ね?」

 

黒沼からの誘いに腕時計を見ると、好色そうにニッヒヒヒと笑って避ける。

その言葉になるほどと小さく頷くと、薄く笑う。

 

「そういえば、君は先ほど武蔵と龍田を連れていたね。

…なるほど、そういうことかね?」

 

「まぁな。ほら、どうせ相手してもらうなら積極的にサービスしてもらいたいもんでね?」

 

龍田がこの場にいれば平手打ちどころか、切り落とされそうな事を肩を竦めて言う。

その発言になるほどと笑いながら黒沼が言う。

 

「なら短い勝負はどうだい?

1シューター付き合えとは言わないよ、短い勝負を台を借りてやるのはどうだ?」

 

「ま、それならいいでしょう。

適当な空いてる台でやりますかね…ツレがそろそろ来そうだしよ。」

 

次元のいるはずのルーレットのテーブルの方を見れば人だかりが出来ている。

それを黒沼も見ると、なるほどなと小さく頷いてから近くの黒服を呼び止めた。

 

 

そして、数分後には二人は空いていたブラックジャックの台にそれぞれ間の席を開けて座っていた。

 

「今回は変則ルールで、君と私の勝負をさせてもらおうと思ってね。

構わないかな?」

 

「ここまでお膳立てして構うも構わないもないだろうよ。

ただ、カードは新品の箱から出したうえで、お互いのチェックの上でお願いするぜ?」

 

強引なルールを突き付ける黒沼にルパンはバカ言ってんじゃないと鼻で笑いながらも受け入れる。

単なる常連客と言っておきながらも、実際はこんな無理が通る時点でそんなもんじゃないズブズブの仲だということは知れている。

 

その黒沼に目をつけられたルパンとの直接対決だ。

最初は特別室へと言われたものの、ルパンがのらりくらりとかわしてこのフロアのテーブルでの対決となった。

 

「要はお互いがプレイヤーでディーラーサイドだ。

ヒットもスタンドもお互いの思うまま、ただ負けた側がディーラー同様に支払うということだよ。」

 

「おお、怖ェ…さーて、時間もねぇこったし、手っ取り早くいきましょうや。」

 

「そうだね。あちらはどうなったかはわからないが、決着がついたようだ。」

 

不意に次元の台の方から歓声が上がり、そちらを一瞥してお互い頷く。

ディーラーはカードを新品の箱から出してすべてのカードがきっちりとあることを二人に確認させたあとで伏せてかき混ぜる。

その上でお互いが交互に自分で伏せられたカードをテーブル上でかきまぜて念入りにシャッフルをする。

 

当然ディーラーは黒沼側だろう。

その辺りをわきまえているルパンはディーラーから目を離さない。

 

そして、カードはシューターに収められた。

 

「あっちも終わってるみたいだし、これ一回限りにしようぜ。

俺は義理堅くてね、ツレ待たせてダラダラやるなんてのはいただけないんでな。」

 

「おやおや、カードを配る前にそんなことを言ってもいいのかい?」

 

「どんなカードが配られてもそうするつもりなんでね。

カードがどうとかじゃなくて、時間が問題だからよ。」

 

「なるほどね。一回限りなら全て君のベットにコールしようか。

折角の一回限りのゲームだ、フォールド(=降参)なんてつまらないからな。」

 

二人とも椅子に深く腰掛けながら堂々と宣言し合う。

 

それと同時にお互いに交互に表になったカードが配られる。

奇しくもスートの違いはあれども、『絵札』だった。

 

「おやおや、私はスペードのキングか。」

 

「俺はスペードのジャックだな…歳の差のせいかね?」

 

ルパンの軽口に周囲は何も言えない。

このような場にお互いいるとはいえ、黒沼は現役の海軍将校なのだ。

しかし、言ったルパンも黒沼も言及しない。

 

「面白いものだ、お互いが軍属であり、剣を示すスペードを引く。

そしてキングが私で、ジャックが君か。」

 

「組織としちゃ、あんまりキングが天辺(てっぺん)に踏ん反り返ったままってのもよろしくないだろうがね。」

 

また、ルパンが際どい発言をする。

このキングが黒沼を指すのか。

それとも現役の元帥などの上層部のトップのことを指すのか。

 

どちらともルパンは言わずににこやかにディーラーの手元を見る。

すると、自然に、何も出来ずに上から一枚を伏せたまま黒沼の方へカードを滑らせる。

そして、ルパンにも。

 

「さて、ベット額はどうするかね?

あまり興醒めなことはしないでくれたまえよ?」

 

大きな身振りで黒沼はギャラリーへ肩を竦める。

わかってると、苦笑するとルパンはテーブルの端に肘をついて軽く前のめりになる。

 

「言われなくてもわかってらぁ。

オールインに決まってるだろう、俺の持ち金全部だ。」

 

数十万$以上の額を一度に賭ける、ときっぱりと言い放つ。

 

「いいのかい、私が引いたのがエースだったらそれ以上を払わねばならないのだよ?」

 

「それくらいわかってて言ってるに決まってんだろうがよ。

それこそ、興醒めじゃねぇか?中将殿。」

 

丁寧な言葉で釘を刺す黒沼を一蹴するように、切り返す。

黒沼は一瞬目を細めたが、笑顔を崩さずに頷いた。

 

「いいだろう。では、勝負と行こうか。」

 

そう言って、黒沼も前のめりになってカードに指をかける。

 

 

 

その瞬間。

 

「提督よっ!?なんという額を賭けているのだっ!?」

 

「うわあああああ!?ご主人様まで壊れてるぅぅぅっ!!!」

 

「あら~…あらら~……。」

 

「こりゃまた、面白れェ勝負してやがンな?」

 

ちょうどギャラリーを掻き分けて最前列にやってきた次元たちが目にしたコインの山を見て、武蔵と漣の裏返った声の悲鳴が響き渡る。

その声にギャラリーも、黒沼もが一瞬視線をそちらにやった。

 

ただ、一人を除いて。

 

ゆっくりとルパンは振り返って、五人を見る。

次元の押してきた台車に乗ったアタッシュケースを見て笑う。

 

「よぉ、次元。だいぶ今日はツイてたみてぇだな。」

 

「ああ、たまたまな…そろそろ帰る時間だろうが。」

 

「これがラストゲームさ。」

 

そう言ってテーブルに振り返る。

 

「……改めて、勝負と行こうか。」

 

黒沼はスタンドもヒットも言わずに、ただ手にしていたカードを返すと、そこにはダイヤの『A』があった。

 

「スペードのキングを持つ私が、金を示唆するダイヤのエースを手に入れた。

君には申し訳ないが、私が勝つことはカードが知っていたようだ。」

 

周囲のギャラリーは興奮も示せずに、ただそのカードから目が離せなかった。

 

「…ブラックジャックね。

出来過ぎな気もしねぇでもないが、そこまで上り詰めるだけの運は持っていたってことか。」

 

フッとルパンは伏せられたカードに指を乗せたまま動かさずにいた。

完敗の宣言ともとれる言葉に観客はようやくざわめき始める。

そして黒沼の笑顔は勝利を確信した、勝ち誇ったものとなっていた。

 

「だが、俺も運には自信があってね。

実力は当然だが、運もなけりゃ何回死んでるかわからねぇや。」

 

そう言ってひっくり返すとカードには『スペードのエース』が描かれていた。

 

「…ッ!?…ナチュラル、ブラックジャック…!!」

 

黒沼は喉の奥から絞り出すような声でそう呟くことしか出来なかった。

そのまま、睨むように黒沼はディーラーを見るが、ディーラーはインカムで何やら話しかけて確認してから激しく首を横に振る。

 

そしてルパンはそのまま立ち上がって、先ほどの黒沼の勝ち誇った笑みのお返しとばかりに笑って見下ろす。

 

「通常ルールなら15倍付け、そうだろうディーラー君よ。

黒沼中将殿からの回収はどうするかは知らねぇが、カジノ側が支払うんだろう?

ツレが待ってるんだ、早くしてくんねぇか?」

 

上着の皺を伸ばすように胸元で上着を引きながら、ディーラーに言うと観念したのか黒沼の頷きとともに黒服がアタッシュケースをいくつも運んでくる。

そして、黒沼にニヤリと笑って背を向ける。

 

「楽しかったぜ、黒沼中将殿。」

 

 

 

そして、帰り道の車中にて。

 

「…よく勝てたわね~…あの中将殿のブラックジャックを見たとき、借金の返済方法を必死で考えたわ~。」

 

「あのね、龍田ちゃん…俺も勝算が無きゃ、あそこまで賭けねぇよ。」

 

助手席の龍田が万感の思いを込めてため息をつく。

決して艶めいた万感の思いではないのがネックではあるが。

 

それをルパンは苦笑しながらSSKを走らせる。

 

「…え?」

 

「バカラで勝ったのは、カウンティングって言ってシューターの中にあるカードの残数と残ってるカードを全て数えて確率で攻めただけ。

まぁ、負け犬の逆を張ったってのも大きいけど。

最後のブラックジャックはバカラの台の新品のカードから一枚失敬してきたんだよ。」

 

当然とばかりに鼻で笑って、煙草をルパンが吹かす。

それを目が点とばかりに龍田は呆然と見つめるしかなかった。

 

「…な、なら~…あの黒沼中将が、スペードのエースを引いたら?」

 

「その時は表向きはディーラーのイカサマを指摘しつつも、裏で黒沼のせいにしたな。

俺とあのディーラーは当然だが、カジノにとって俺と組むはずがねぇのはギャラリーは皆知ってるだろ。

ごり押しでいけるならナチュラルブラックジャックで俺の勝ち。

押し通せなければ引き分けでなかったことにしてトンズラだな。」

 

さらりと言ってのけるルパンに、龍田は脱力してシートに身を預けきる。

 

「……提督には勝てる気がしないわ~。」

 

「こちとら天下の、神出鬼没の大泥棒、ルパン三世様だ。

龍田ちゃんみてぇな若いお嬢さんにそうそう負けてやれないのよ、これが。」

 

けらけらと愉快そうに笑うルパンの肩を、軽く叩くくらいしか龍田には出来なかった。

 

 

 

「なんと…しかし、カジノ側もイカサマ対策はしているんじゃないのか?」

 

「ま、してたみてぇだけどな…本場でも通じるルパンのイカサマだ。

あんな程度の防犯設備じゃ見抜けねぇだろ…ちょうど、お前たちの絶叫で周囲の人間の目も引けたしな。」

 

次元の車の中でも種明かしがされていた。

ちなみに次元は後部座席でアタッシュケースを背に寝転んで煙草をふかしている。

トランクにも積んではいるが、積み切れずに後部座席の上にアタッシュケースを敷いているのだ。

 

「…アレはそんなつもりはないぞ。」

 

「だろうな、だから諫められなかったんだよ。」

 

助手席の武蔵が身体をねじって次元を見ながら、言うが次元は動じない。

すっかり慣れてしまった携帯灰皿に灰を入れながら帽子で目線を隠す。

 

「じゃ、次元ご主人様はなんであそこまでルーレットを当てれたんですか?」

 

「単純に、目だ。」

 

「「目?」」

 

シンプルに答えた次元の言葉に、二人は声を揃えて聞き返す。

 

「投げ方は練習したみたいだったがな、ディーラー全員同じ投げ方でしか投げ入れないから勢いで大体の着地点が読めるんだよ。

本場なら同じように投げ入れても細かい回転とかで変化をつけるんだが…そこまではできなかったみたいだな。」

 

「な、なら最後の『00』は!?」

 

「簡単さ…あの最後のディーラーは明らかにこっちを見下してただろ。

しかもあんなに露骨にこっちをむしろうとして来やがった上に、レートアップ。

賭けなかった時も投げ入れる場所を練習するようにしてやがったからな…。

あんなに高レートにいきなりなったなら、赤か黒に賭けるのが大半だろう?」

 

お前たちならどうだ、と次元が顎で二人を示して問いかける。

 

「そ、そりゃ…千$単位でいきなりってなると…。」

 

「そこで、出鼻をくじくために狙うとなりゃ、赤でも黒でもない0か00だろ。」

 

当然の結果、と言わんばかりの次元に薄く笑って武蔵は天井を仰ぐ。

 

「参ったな…。」

 

「とはいえ、きっちり球の投げ入れた勢いとかも目でも確認した上で、だったけどよ。」

 

気を取り直してか、漣が少し引きつった頬で笑いながらバックミラーを見ながら言う。

 

「で、でも無事に帰れてよかったですね~。

下手すれば、怖い人たちが出てきて…とも考えましたが!」

 

「そりゃ、逆にねぇんだよ。

ああいうオープンな場ではそういうことは一切できねぇんだ。

堂々とそんな無法を通して見ろ、『あのカジノじゃ勝ったら暴力で奪われる』って一気に評判になるぜ?」

 

「…全て、計算の上、ですか~。」

 

もう何も言えない、とばかりに肩を落として漣もそうとして言わなくなる。

むしろ逆に次元の方がほろ酔い気分のまま、軽く帽子の鍔を上げる。

 

「ま、それすらもわからず力づくでくりゃお前らも素手でもイケるだろうし、俺のマグナムが黙っちゃいねぇ、って寸法さ。」

 

それを聞いて漣と武蔵は顔を一瞬見合わせて、やれやれと前を向く。

夜道を走る中、武蔵はポツリと、しかし楽しそうに呟くのだった。

 

「…やれやれ、こうなっては私たちも決めるしかないようだ。」




というわけで、長くなりましたがカジノ編完了です。

E1でグラーフが落ちるとか言いだした奴は許さない。
(現在の情報によると、どうやらガセのようですが定かではありません)


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15-1.ルパンは2月を堪能するようです(1)

イベント、甲にて完了しました。
最終形態において、対空値上がりますから烈風系を増員のお勧めします。

隠岐は忘れてて、そのまま気付かないまま物理で殴り倒しましたが。

現在の掘ったレア艦は…
E1:清霜2人、瑞穂、大淀
E2:掘れず
E3:瑞鶴2人、リベッチオ、長門

この原稿も掘りながら疲労抜きの時間で書き加えてます。

あ、花壇始めました。(白目


さて、『社交場』という名目のカジノから帰宅したルパン達を待っていたのは雷と大淀だった。

その二人だけであるならばまだ理解はできる。

 

しかし、鳳翔と間宮もいたのだった。

 

「いい、ルパンお父さんたち。

そりゃたまにの息抜きで遊びに行くのは構わないわ、でも鎮守府の金庫のお金を全部持っていくのは問題だと思うの。」

 

「その通りです…このように増やして帰って来たのはいいですが、経理上どうすればいいのか…。

さらに勝てばいいという問題ではなく、負けていたらどうなっていたかをお考えください。」

 

間宮と鳳翔はいつもの穏やかな笑みを浮かべたまま、先頭に立って説教をする雷と大淀の後ろで控えている。

しかし、その目は笑ってはおらず、何故か執務室に持ち込んだ小型コンロでシチューをかき混ぜ、二人の目利きで仕入れた値段の割に上質のワインのボトルを手で弄んでいる。

 

そのミルクシチューの甘い香りに胃袋を刺激される二人は、深夜の執務室の絨毯の上で正座をしていた。

 

「い、いやね、雷ちゃん。

俺たちぁそれなり以上に嗜んでいてだな、勝算がきっちりあった上でやったわけで。

それに、今の俺たち個人の資産じゃ全然足りなくてね?」

 

「賭け事をやる人は皆勝算があるんです!

結果につながるかどうかなんてわからないじゃないですか!!」

 

ルパンの言い訳に大淀は悲鳴に近い絶叫を上げる。

大淀の発言は間違いのない事実である。

 

やる人間の大半は『勝てる』ことしか、考えていない。

特に、負けて破滅する人間は99.9%がこのタイプである。

 

とはいえ、『イカサマでひっくり返すから大丈夫!』なんて言えるはずもなく、ルパンも次元も新しいスーツのまま項垂れるしかない。

完全にダメな父親の図以外の何物でもなかった。

 

「はぁ…すみません。」

 

「それに必要なのかもしれないけど、こんなに高い服を買い揃えて!!」

 

その言葉にルパン達の後ろに直立不動の三人が小さくなる。

たまたまルパンに言われてついていった結果、とはいえ鎮守府の金で豪華なドレスを買ってもらった上にサービスの高級酒や寿司などを食べてしまった負い目もある。

 

「「ほんと、すみません。」」

 

これが悪意や言葉尻だけの説教ならルパンや次元もある程度は聞き流したかもしれない。

しかし、目の前の二人は本気の説教である。

しかも最悪の時のとる手段はルパンたちにあったとしても、彼女たちをはじめとした艦娘たちの生活を危険に晒したのも事実。

故の平謝りだった。

 

「…まったくもぉ。勿論、提督あっての鎮守府だからある程度の裁量は提督にあるけども、こんなこと大本営にバレたら大事じゃ済まないんだからね?」

 

真面目に謝る姿に納得したのか数十分に及ぶ説教の後、その小さな身体を精一杯胸を張った雷が『フンス』と擬音をつけたくなる様子で胸を張って言う。

その言葉に大淀も何度も首を縦に振る。

 

はっきり言えば運営費を持ち出して賭けに使ったなど、『公金横領』と言われて然るべきだからだ。

 

説教が一段落したのを見計らうと後ろに控えていた鳳翔と間宮が夜食らしいシチューを器に盛りつけてソファーの前にあるテーブルに乗せる。

しかし、やはり思うところがあってか釘を刺すのも忘れない。

 

「さ、お腹もすいたでしょう。軽く召し上がってくださいませ。

でも、こんな手段に出る前に我々でも工夫をしてご協力致しますので、ご相談ください。」

 

「そうです。我々も鎮守府の一員として少しでも協力させて下さいね?」

 

間宮・鳳翔の包容力に溢れた釘刺しに、スーツの上着を脱ぎながらルパン・次元は項垂れて頭を下げるしかなかった。

漣も同じようにソファーに座ってシチューを受け取るが、龍田・武蔵は二人の上着を受け取ってハンガーにかけることを優先した。

高いスーツやタキシードに変な癖や皺をつけるわけにはいかないからだ。

 

生憎、龍田の立った位置よりも武蔵の立った位置の方がルパンに近かったせいで、龍田は次元の上着を手に武蔵を刺すような目で見ている。

武蔵もさるもので、それを苦笑して流しつつもハンガーにかける。

 

その時、ルパンの上着から一枚のカードが零れ落ちた。

それを手に取ると、武蔵は薄く苦笑して執務室の机の上に置いてから夜食のシチューに向かい合うためにソファーに座ったのだった。

 

「牽制のつもりかもしれないが、そのつもりはなかったぞ?」

 

「…何の事かしら~?」

 

苦笑して漣の隣に座りながら、ルパンの隣で武蔵を見る龍田に苦笑するのだった。

 

 

 

 

翌日。

2月に入ったばかりでまだ寒いが、執務室には既に詰めていた艦娘が暖房をきかせてくれていたためほっとさせられる。

そんな中、執務室に着いて早々のルパンに昨夜の四人が早速詰めていた。

 

「…どったの?朝の食堂はまだ忙しいんじゃないの?」

 

ちなみに鳳翔は普段は小料理屋を営みつつも、毎食の支度などで間宮を手伝ってもいる。

ルパンは早起きという習慣もあまりない上に、年若い艦娘の中に乗り込んで食事というのは気が向かないために決められた食事時間の終わり頃に次元、五右衛門と連れだって食事に向かうのが常である。

それから執務室に直行したとはいえ、洗い片付けなどがあるだろうが執務室にやってきた間宮や鳳翔に驚きを隠せない。

 

「片づけは当番の子や妖精さん達に任せてまいりました。

さて…昨夜の件でかなり予算などで余裕が出来た、そうですね?」

 

間宮が物静かながら有無も言わせぬ迫力を持って、問いかける。

その顔は笑顔だが、どこか怖さも持ち合わせていた。

 

「お、おう…そうだなぁ。

今後の計画の運営資金も余裕を持てたし、軌道に乗せるまでの余裕もあるぜ?」

 

「間違いないですか、大淀さん、龍田さん。」

 

同じく鳳翔もルパンの言葉に偽りがないかと厳しい目で隣の龍田を問いただす。

その眼光は全空母の母であり、一航戦の名を背負った歴戦の戦士に相応しいものがあった。

それに射抜かれた龍田は椅子の上で無意識に背筋を伸ばす。

 

「は、はい~!艦載機を今のペースで改造しても、大本営からの予算もあるので恐らく一年は余裕が持てる計算です~!!」

 

口調は癖なのか変わらないものの、背筋を伸ばしてつい敬語になってしまうが、それを静かに頷いて鳳翔はルパンへと視線を戻した。

 

「では、提督。

提督には仕事を休んでいただきます。」

 

「…は?」

 

鳳翔のきっぱりとした口調と裏腹の言葉にルパンは目を丸くする。

ルパンも仕事人間というタイプの人間ではない。

しかし、仕事をするなと言われても困惑してしまう。

 

「…提督のおかげで我々の生活はかなり、いえ、劇的に改善されました。

しかし、しかしです。」

 

そう言って鳳翔は言葉を切って、目を閉じる。

少し待ってから言葉を大淀が繋ぐ。

 

「その結果、提督の仕事は異常なほどに多忙になりました。

最近はやっと手間が空きはじめてはいますが…それでも少々多忙すぎるでしょう。」

 

「それに、色んな子たちから文句ってほどじゃないけど不満は出てるわ。

次元さんや五右衛門さんは会って話せても、ルパンさんは話す暇がないって。」

 

雷も唇を尖らせて、眉を寄せてルパンを軽くにらむ。

そう言われるとルパンも弱い。

いくら艦娘の環境改善のシステムの根回しをやるためとはいえ、基本的にルパンは執務室にずっとこもりがちだった。

しかも執務室で暇そうにしてるならまだしも、八面六臂と言わんばかりの様々な仕事をこなしているのだ。

 

秘書艦だけではなく、他の執務室詰め艦娘も必死に働いている中、ルパンとのコミュニケーションを取りたいという願望で遊びに詰めかけるのは気が引けて当然であろう。

 

 

一つの交渉のテクニックに、『早口で、それらしいことをまくしたてる』というものがある。

相手に深く理解されない内に承諾を取ってしまい、さっさと進めてしまうのだ。

 

そのテクニックを用いてルパンは性急と言っていいスピードで様々な手立てを打ち続けた。

段階を踏んで、相手にゆっくり理解させてしまえばどこかでストップがかかる可能性がある。

そのため、なし崩し的に相手の判断を性急に求め、承諾を得て、相手が全てを理解した時には全てがもう動いてしまっている。

止めようとしても、走り出した車は止められない、そういうことである。

 

軍隊というのは縦社会という側面とともに、国に所属する『役人』という側面もあり、その結果『役所仕事』も持つ。

一旦許可が下りて動いたことを止めようとすれば、また上から『止めるための許可』が必要となる。

それほどの行動力と相応の理由づけを出来る人間は少ない、というルパンの洞察があってのことだ。

 

そういう事情があってとはいえ、痛いところを突かれたルパンは情けない顔になってしまう。

 

「おわかりいただけたようですね。

提督は、並み以上の提督としてのお仕事をこなした上で、様々なことをなされているのは理解しております。

ですが…我々所属艦娘としては、仕えるお方の人となりを知りたい、触れ合いたい、信頼を得たいと思っているのです。」

 

鳳翔がその表情を見て、微笑を濃くするとともに目をやわらげて優しく言う。

ここまで言われてはルパンも降参するしかなく、手を挙げる。

 

「わぁーった!わかりましたよ、まったくもぉ。

ただし、最低限の仕事はするぜ、何かあったら問題だしな。」

 

「…龍田さん、勿論提督の御苦労を増やすような事は…」

 

「絶対しません~!!」

 

ルパンの釘刺しに頷きつつも、間宮は鋭い視線で隣の龍田を見据えると悲鳴に近い声で龍田が誓う。

 

鳳翔はルパン鎮守府の空の守りの要である空母の総元締め。

間宮はルパン鎮守府の食の守護者。

勿論、鳳翔は間宮・伊良湖に次ぐ食を担う人員でもある。

 

この二人を敵に回すことは鎮守府全体を敵に回す、それ以上のことであると理解出来ている龍田は服従せざるを得なかった。

 

「「いつも提督のお隣にいるのですもの、これくらいの苦労は軽いものですよね?」」

 

二人の完全に一致した声に、背中に冷たいものを感じたのは龍田だけではなかった。

そのやり取りを聞いていた執務室詰めの艦娘は背筋を伸ばして、手元の書類へと一層集中するのだった。

 

これは仕事への熱意の表れであり、決してとばっちりを恐れたからではない。

執務室詰めの一人であった高雄の言葉である。

 

 

 

閑話休題。

そのまま大淀が数枚の書類をクリアファイルに挟んだまま、ルパンに差し出す。

 

「いくつか報告とご相談があります。

まず今月中旬から大規模作戦が始まりますが、今回は従来の大規模作戦に比べれば小規模であり、攻略対象地は少ないので我々でもなんとかなるかと。

傾向からの推測ですが、対潜装備と三式弾、そして徹甲弾と大型砲門が必要になるかと思われます。」

 

ルパンはクリアファイルからクリップに留められた数枚の大本営からの指示書を目を通す。

そのまま大淀の言葉に同意を示すように頷く。

 

「幸い武蔵たちの持ってきた装備で徹甲弾、三式弾は最低限なら大丈夫だろ。

緊急を要するのは対潜装備、かねぇ…。

あと、前回から必要が出てきた輸送作戦が必要になる可能性もあるよな?」

 

「失礼しました。仰る通りだと思います。」

 

「なら、デイリー開発以外にも駆逐艦・軽巡洋艦たちに開発急がせてくれ。」

 

書類の最後にあった開発の許可申請書の認可欄にルパンは判を押す。

書類には開発回数を区切っていたが、そこにルパンは横線を引く。

 

「三式水中探信義…めんどくせぇな。

三式ソナーが10個出来るまで、爆雷は出来ただけでいいや。

それまで回してくれ、確率が確率だ、予算はつけるからそれまでやってくれ。」

 

そう言って、申請書にその旨を手書きで書き加えてから隣の龍田へと渡す。

全面的に提案を受けただけでなく、それ以上を許してくれた大淀に深く頭を下げる。

 

「1/3/1/2でブン回せば、一緒にドラム缶もできんだろ。

んで、こっちは?」

 

「作戦前の戦意高揚、というわけではありませんが…。

鳳翔さん達と話し合って、提督と皆との交流の一環として、提案いたします。」

 

もう一枚の提案書に目を細めながら三枚程度の新しい提案書に目を通す。

髭を丁寧に剃ったツルツルの顎を指でなぞりながらも、僅かな思考の末、決済印を押す。

 

「ま、いいんじゃねぇの?」

 

「我々も初めての催しで楽しみにしています。

予算もそんなに必要ありませんから。」

 

快く受け入れられた提案に大淀は嬉しそうに頬を緩ませて、頷くのだった。

それを見た鳳翔と間宮が顔を見合わせて、表情を綻ばせる。

立案した側としては提案が通るかどうかが心配だったのだろう。

 

「それでは手配にかからせていただきますね?」

 

間宮たちは嬉しそうに微笑みながら丁寧に頭を下げて執務室を後にする。

間宮、鳳翔は鎮守府の母、空母の母と言われても年若い乙女である。

こういったイベントは楽しみなのか、華やいだ雰囲気で準備について話しながら去っていった。

 

「女の子だねぇ…。」

 

その様子に苦笑しながらもルパンは見送ると、不意に机の上にあったカードに気付いた。

なんてことのない、ただのトランプの『スペードのエース』だった。

 

「…なんだこりゃ?」

 

キョトンとした顔でルパンはそれを見てから、ゴミ箱へと投げ捨てるのであった。

 

「提督~…恨むわよぉ~?」

 

「俺に言うなよ…あの四人に言ってくれ。

特に鳳翔さんと間宮さん。」

 

「ムリに決まってるじゃない~。」

 

間延びした声ながらも、朝一でくたびれた口調で恨み言を言ってくる龍田に苦笑しながらルパンは執務机を立つのだった。

龍田の泣き言もわからなくもないが、ルパンが『さん』付けで呼んでいる時点で鎮守府のパワーバランスが見て取れる。

 

ルパンだけでなく、鎮守府全員の胃袋を掴んでいるのがあの二人である。

あの二人がボイコットをしたら、と考えれば仕方ないかもしれない。

 

料理ができる艦娘や妖精はいるが、あの二人にはかなわない。

それを敵に回す愚を犯すルパンではなかった。

 

「んじゃ、ま…皆、頑張ってなー。

何かあったら携帯に電話ちょうだいな。」

 

久々の完全オフに気が抜けたのか、軽く肩を落として、猫背にがに股気味にゆっくり歩きながら背中越しに執務室詰めの艦娘に手を振ってルパンも執務室を去るのだった。




<今回のBGM>
・冬イベBGM
・第三次艦隊フィルハーモニー交響楽団(by交響アクティブNEETs)
・東方フィルハーモニー交響楽団3永(by交響アクティブNEETs)

というわけで、尻切れトンボな感もありますが、続きを書くと一万字超えそうなので切らせていただきます。
隠岐としては更新ペースや読む文量の兼ね合いで六千字前後を目途にしています。
絶対じゃないんですが、気楽に読める量&更新しやすい文量ということで。



隠岐の今回の掘り対象は『グラーフ』・『風雲』・『沖波』。

同じ目的の人のために情報を挙げておきます。
(2/15 午前3時訂正)
グラーフ:E3 Lマス(0.4%前後)
沖波:  E3 Sマス(2.6%前後)
     E3 Tマス(1.3%前後)
     E2 Oマス(2.1%前後)
風雲:  E3 Tマス(0.8%前後)
     E3 Sマス(1.4%前後)

……軽く吐き気してきた…。


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15-2.ルパンは2月を堪能するようです(2)

掘り、終わりました。
某スプレッドシートにて書いていましたが…全部で300周近く掘りをしました。

まだトライ中(掘り&攻略)の皆様は頑張ってください!!
あと約9時間強!!


執務室を後にしたルパンはゆったりと歩いては外の日差しに目を細める。

外の空気は冷たいものの、日差しは明るく、外の海の海面がキラキラとまばゆく光っている。

 

「…今頃、遠征任務部隊が頑張ってるのかねぇ?」

 

どうしても海を見ると、今頃自分の指示を一生懸命こなそうとして努力する艦娘達が思い浮かぶ。

特に全員をまとめる天龍や長良、由良といった軽巡の娘たち。

それなりにアクの強い娘たちだが、決して悪い娘ではない。

 

「…できる限り、やってやりますか、ね。」

 

煙草の箱に手をつけようかと思って懐へ手を伸ばすが、鎮守府の廊下ということもあって手を止めた。

そんな気遣いをしている自分に気付くと、苦笑しながら廊下を歩いていくのだった。

 

 

そして、ルパンは歩きながら考える。

 

今日は仕事をするなと厳命された以上、格納庫や明石の工作室は避けるべきかもしれない。

とはいえ、エアコンなどの設備設置や空気清浄機などの製作で苦労を掛けたので、差し入れの一つや二つはしに行かねばならないだろう。

 

混みやすい酒保ではあまり時間を潰すのは向いていない。

切れかけの煙草と他に何かを買う程度で済ませるべきだ。

 

その後はどこに行ったものか、と迷いながらまずは酒保に向かった。

 

 

 

「ありがとうございましたー。」

 

酒保でルパンは目的通りに自分用の煙草のついでに、次元用の煙草も購入した。

なお、今ではルパン鎮守府の酒保ではルパン鎮守府所属艦娘は働いていない。

 

既に引退艦娘たちに引き継ぎが済んでいる。

そのためレジを打ったのは、恐らく元青葉と思われる女性だった。

酒保には、勤務時間の兼ね合いだろうがほとんど艦娘はいなかった。

今日非番らしい羽黒が偶然居合わせただけだった。

羽黒はルパンに慣れていないのかどもりながらも一生懸命挨拶をしてくれたので軽く話し、ジュースを一本奢った。

 

 

待機小屋とも言える『発艦所』へと差し入れの詰まった袋を片手に歩いていると、ふと先を歩いている少女たちが目に入った。

それは、酒保の際に世話になった朝潮型たちだった。

 

「お~い、朝s…」

 

「…今晩の予定…」

 

「…ルパン…暗殺……21時…」

 

前を歩く朝潮たちの言葉の端に、物騒な言葉がルパンの耳に入る。

その瞬間、ルパンは呼びかけかけた口を閉じるとともに、近くにあった扉へと音もたてずに忍び込んだ。

その数瞬後に朝潮たちは振り返るが、そこには誰もいなかった。

 

「…あれ?今、提督の声が聞こえなかった?」

 

「気のせいじゃない~?誰もいないわよ~??」

 

朝潮が首をかしげるが、誰もいない以上そう判断したのかすぐに小さな足音を立てて、別の方向へと去っていった。

 

 

「いよぉ、諸君これから出撃かね?」

 

それからさほど時間が経たない内に、ルパンが発艦所に顔を出した。

これから出撃なのか、扶桑・秋月・北上・大井・龍驤・隼鷹の六人が整列していた。

まさかのルパンの登場に、次元を含めた全員の目が見開かれている。

 

「…そんなに驚かなくてもいいだろ。俺だってお休みぐらいもらうぜぇ?」

 

「何か月ぶりのお休みだってんだ。

…ちょうどいいや、お前が訓示というか…喝の一つや二つ飛ばしてやんな。」

 

ルパンの言い訳じみた言葉を逆に笑いながら、次元が髭の生えた顎で六人を示す。

まさかの事態にどこか浮ついたような雰囲気を六人は持ちつつも、姿勢を正してルパンをじっと見つめる。

 

「お前、毎回やってんの?真面目っちゅーか…ま、いいか。」

 

その全員からの期待とからかいの混じった視線に苦笑して肩を竦めれば、軽く咳ばらいをする。

 

「ん~む。俺はな、滅私奉公なんて求めちゃいねぇ。

ただ、出来ることを、出来る限りやる。

それは自分たちの身を守ってのことで、命と引き換えにするもんなんかじゃねぇ。

ヤベェと思える兆候があったら報告、いざとなりゃケツ捲って逃げて来い。

お前たちで無理でも皆でなら出来るかもしれねぇからな…『帰ろう、帰ればまた来られるから』ってな。」

 

振られたものの何を話していいかと軽く首を傾げて悩みつつも、ルパンは故事を引用して淡々と言う。

そこには過度の期待も、失望も何もなく、ただ事実を確かめるように言うだけだった。

 

「今回はデイリー任務消化でしかないし、ルート固定もねぇ。

ただ行けるだけ行って、大破撤退を厳とし、帰ってこい。

『単なるお使い』に行くつもりでな?」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

最後にニィッと笑って言うと、六人の顔には穏やかな笑みとともにほんのわずかな緊張感が漂う。

そのまま全員はルパンと次元に敬礼をした後に、発艦所を出た。

 

小屋と言っていい発艦所を出た後に六人とも艤装を一瞬で身にまとうと、そのまま海へ出る。

北上と隼鷹は海を走りながら発艦所の方へ振り返って、手を振るのだった。

 

「で、何かあったのかよ?」

 

「んー、昨日の荒稼ぎでよ。

余裕も出来たし、最近働き過ぎだから休めって鳳翔さん達に言われたのよ、これが。」

 

発艦所で見送った次元はストーブの上にあった、昔懐かしいアルミの丸っこい大型の薬缶を手に取ると、インスタントコーヒーを備え付けのマグカップ二つに作る。

その一つをルパンに差し出しながら、椅子に腰かける。

 

「…嘘つけ。なーんか、あったんだろ?」

 

「……まぁ~な…ちぃと、信じたくねぇんだけど、な。」

 

ルパンも次元の隣の椅子に腰かけながら、迷いながら口を開く。

そして、先ほど耳にした朝潮たちの言葉を伝える。

 

次元は煙草を吸いながらも、信じられないとばかりに眉を寄せる。

 

「そりゃ…間違いじゃねぇか?

よりにもよってあの朝潮たちだろ?」

 

次元の言葉に唇を尖らせつつ、ルパンはコーヒーを啜る。

 

「この耳で聞いちまったんだから仕方ねぇだろうがよ。」

 

「百歩譲って何かを不満に思っているとしてもだぜ?

いきなり暗殺とか突拍子もない反逆をするかぁ?」

 

次元の当然と言えば当然の疑問にルパンも言われてみれば、とばかりに迷う。

しかし、その瞬間。

 

「話は聞かせてもらいました。」

 

「聞き捨てならんな、その話。」

 

勢いよく発艦所のドアを開けて堂々と入って来た二人がいた。

加賀と五右衛門だった。

これが漫画などのように堂々とした態度でドアの入口で二人とも立っていた。

 

が。

 

「……お前ら、何してたの?」

 

二人の左肩には釣り竿の入ったケースに、クーラーボックス。

そしてその手には貝が溢れかえるほど詰まったバケツがあった。

 

「鳳翔さんのお店に海産物を卸せば、食事代が割り引かれるのです。」

 

「うむ、加賀殿が非番だと言うのでな。

加賀殿に電探で魚群を探してもらい、二人で早朝から釣っては貝掘りにと実に充実した休日だった。」

 

よっぽど大漁で楽しんだのか、五右衛門も加賀も普段以上に饒舌だった。

その予想外に気の合った様子にルパンも次元も何とも言えず、ただ一言しか言えなかった。

 

「…とりあえず、茶でも飲むか?」

 

 

二人に緑茶のティーバックで熱い茶を淹れてやると、寒かったのか実に美味そうに二人とも茶を啜っていた。

 

「うーむ、最近のこういったインスタント食もバカにできんな。」

 

「本当に、驚かされます。

食品は特にですが、飲み物も安く質の良い、そして手軽に食べれるものが実に多いですね。」

 

酒保でそれなりに加賀も食べ比べているのか、しみじみと言う。

そのまったりとした様子にルパンは唇を尖らせる。

 

「いや、なごんでるところに申しわけねぇんだけどもよ。

俺の暗殺計画の事はどうすんのよ。」

 

二人は話を振られて、ああと声を漏らして顔を上げる。

 

「あの娘たちは主を守る矛や盾にはなっても、主を傷つけるような不心得者ではありません。」

 

「左様、そのような裏切りをなすような連中ではないな。」

 

加賀も五右衛門も一顧だにしないという切り捨て様だった。

 

「な、なんだよそれはぁ!?」

 

「人望の差、だな。」

 

次元がたった一言で、煙草の煙とともに斬り捨てる。

当然、ルパンは気に入るはずもない。

 

「…らしくないんじゃねぇの、ルパンよぉ。

俺たちの稼業は裏切り裏切られの連続じゃねぇか。

特に不二子なんか日常茶飯事じゃすまねぇレベルだろ?」

 

ニヤニヤと実に楽しそうに次元が笑いながら、椅子で足を組み替えながらルパンを見る。

次元の言いたいことに気が付かないのか、ルパンは困惑しながら気圧されたように軽く身を引く。

しかし、五右衛門もそれに乗って薄く笑いながら片目だけ開けて、ルパンを見る。

 

「不二子に裏切られてもお前は笑うか、ちと慌ててお終いだ。

…だが、なんだその醜態は。」

 

「しゅ、醜態だぁ!?」

 

五右衛門の指摘に予想外もいいところといった様子で目を見開き、椅子から飛び上がる。

 

「醜態、たぁ言わねぇがよ。

まるで初めての彼氏の浮気現場を見かけた小娘みたいにクヨクヨしてるようにしか見えねぇンだけどよ。」

 

それに追い打ちをかけるように次元が楽しそうに笑う。

五右衛門はその例えが面白くてたまらないとばかりに顔を背けて喉で笑うのだった。

 

「…大丈夫よ、提督。」

 

次元に五右衛門といった気心知れた仲間に追い詰められたルパンに優しい声がかけられる。

その先には澄ました顔でありながらも、優しい瞳を向けた加賀がいた。

 

「そんな取り乱した提督も、嫌いじゃないわ。」

 

「う、うるへーー!!テメェらみてぇな、仲間をからかうような薄情者なんかに頼ンねぇよ、フーンだっ!!」

 

まるで子供のような癇癪を起してルパンは発艦所を飛び出し、力いっぱい扉を閉めるのであった。

その様子がおかしくてたまらないとばかり次元は腹を抱えてゲラゲラと笑えば、五右衛門は次元ほどではないがはっきりと笑う。

しかし、加賀だけが不思議そうに小さく首を傾げた。

 

「……本気だったのだけれども、気分を害してしまったかしら?」

 

「構わんさ、どうせヤツの勘違いだしな。」

 

まだおかしいのか、五右衛門は笑いを噛み殺しながら加賀に気にするなと告げる。

次元もその通りと頷きかけながら、ルパンの飲み残しの程よく温くなったコーヒーを飲んだ。

 

「ま、時間はわかってんだから今晩付き合ってやりゃ、誤解だってわかんだろ。」

 

なんだかんだと言いつつも、付き合いのいい二人だった。

 

 

 

 

「なんでぇ、まったく。

今更裏切られるなんて、当たり前じゃねぇか…。」

 

猫背になり、唇を尖らせながらルパンは波止場を歩く。

まだまだ寒いのか、寒風にルパンは身を竦ませる。

 

ルパンもわかってはいるのだ、自分らしくないと。

 

ルパン三世は伊達で小粋な悪党だ。

自分の命を狙う者がいたならば、その上をいって企みを完膚なきまでに叩き潰し、嘲笑う。

ある意味、銭形との追っかけっこもそれと似たようなものだ。

 

それが何だ。

ちょっと数か月程度の仲で裏切りを画策された。

それだけで何故自分はこうも落ち込んでいるんだ。

 

「…なっさけねぇなぁ…全くよぉ。」

 

頭が冷えたおかげか、波止場で足を止めるとビットに腰をかけて煙草に火をつける。

自分の変化がおかしいのか、苦笑をするその背中にのんびりした声がかけられた。

 

「珍しいクマ。提督が執務室以外にいるとは驚きクマ~。」

 

「なんだ、意外に優秀な球磨ちゃんじゃねぇの。」

 

誰かが近づいてきているのにはルパンも気づいていたのか、声に反応してゆっくり振り返ればそこには球磨がいた。

何故か鍬を担いで、スポーツメーカーの普通のジャージ姿だったが。

 

「…球磨は…何してたんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたクマ。

この前妹たちと鳳翔さんのところで夕食を食べたクマ。

でも、野菜が美味しくはなってたけど、変だったクマ。」

 

「…美味しいけど、変?」

 

球磨は神妙に頷いて、ルパンの近くのアスファルトに胡坐をかく。

 

「何というか、トマトとか胡瓜とか本当に甘くなってるクマ。

色とか鮮やかだし…でも、余計な、変な味がするクマ。」

 

「品種改良、の結果だろうなぁ。

しかし、変な味、ねぇ…?」

 

「鳳翔さんと話した結果、多分農薬とかの関係じゃないかってことになったクマ。

だから、球磨たちは本当に美味しい野菜を作るクマ!」

 

球磨の言葉に納得したのか、ルパンも納得といった様子で頷く。

その一方で球磨は本気でやりがいを感じているらしく、唇をきゅっと引き締め、やる気と決意に満ち溢れた顔で頷く。

 

「しかし、美味しくなった、ってわかるってことは昔の味とか覚えてんの?」

 

「それが球磨にも不思議クマ。

昔は『船』だったから食べれるはずもないし、味を知ってるわけがないクマ。

でも、この鎮守府にやってきて、新鮮な野菜を食べた時に『違う』って思ったクマ。」

 

ふとしたルパンの疑問点に球磨もころっと表情を変えて、困ったと言わんばかりの困惑した表情で首を傾げれば、その『アホ毛』も揺れる。

それがどことなくおかしくてルパンはふっと薄く笑うと、球磨はわからないことを笑われたと勘違いしたのかムッと唇を尖らせる。

 

「変じゃないクマ。

提督だって、なんでその煙草が美味しいと思うか説明できるクマ?」

 

急な指摘にルパンは目をキョトンとさせ、指に挟んだ吸いかけの煙草を見つめる。

 

「いや、なんつーか…習慣、っていうか、癖っていうか…。」

 

「そんなもんクマ。

球磨たちは今の野菜を『美味しくなった』と思う一方で、『こんなものじゃない』と思ったクマ。

だから、満足できるもっと美味しい野菜を作るクマ!!」

 

まさに決意表明とも言わんばかりの決意を込めた言葉にルパンは気圧される。

しかし、不意に球磨はにっかりと屈託のない笑みを浮かべる。

 

「それにこれは提督が言ったことクマ。」

 

「…へ?俺?」

 

唐突な球磨の言葉にルパンは驚かされる一方だった。

それを畳みかけるように球磨は笑みとともに言う。

 

「提督は言ったクマ…『やりたいことをやれ』って。

勿論、提督たちや仲間たちと毎日一緒にいて、楽しいのが一番クマ。

それ以外にもやりたいことが野菜作りクマ。」

 

「…そっか、球磨は…毎日、楽しいか?」

 

ほんの少しの間、呆気にとられた後に軽く笑って問いかけた。

 

「楽しいクマ!

この前、妹たちと話し合ってジャガイモとキャベツを植え付けようって決めたクマ。

それで今日非番の球磨と多摩で耕したけど、多摩は足を滑らせて尻もちをついて、新しいジャージが土塗れで半泣きだったクマ!」

 

「そうか…そりゃ、可哀想に。

今植えたらいつくらいにとれるんだ?」

 

「大体夏前らしいクマ。

取れた時は提督も招待するから美味しい野菜を食べるクマー。」

 

球磨の屈託のない笑みとのどかなお誘いにルパンの心はほぐれる。

そして、しみじみと一つ、実感した。

 

(俺は、こいつらにこういう顔をしていてほしいんだな…。)

 

それとともに、自分が艦娘たちを思っていた以上に気に入っていると。

 

 

そのまま、球磨、そして遅れてやって来た多摩とルパンは穏やかに話す。

何となくルパンは肩の力が抜け、次元や五右衛門たちといる時とはまた違う、穏やかな時間を過ごした。

 

その中で、先ほどの出来事も相談してみる。

 

「…ってなことを話してるのを聞いたんだけど、さ。

何か、聞いてねぇか?」

 

「「あ~……」」

 

球磨も多摩も二人とも、ホットのカフェオレの缶を片手に空を仰ぐ。

それなりの時間を波止場で過ごして身体が冷えたので、ルパンが酒保へ買出しを頼んだのだった。

 

「……やっぱり、そういう計画聞いてんのか?」

 

ルパンはコーヒー缶を片手に軽く肩を落とす。

しかし、困ったように眉を寄せた多摩が首を横に振る。

 

「そういうのじゃないニャ。ただニャ~…。」

 

「うーん、とりあえず…提督が心配してるような事じゃないことは確かクマ。」

 

二人の言葉に怪訝そうにするルパン。

しかし、次元たちのように単なる勘違い、と斬り捨てるのではなくルパンの言葉にも理解を示したことでルパンも素直に受け入れる。

 

「…俺が相手じゃねぇってことは…どっか他所の提督とか…内紛とかか?」

 

「いやいやいや、そんな物騒な話じゃないクマ。」

 

「いやいや、暗殺って時点で物騒だろ。」

 

球磨とルパンの二人で手のひらを顔の前で立てて、横に振る。

多摩もそれを交互に見ると、真似して三人で顔の前で手を振り続ける。

 

「…じゃなくてだな。」

 

「ぅニャ?」

 

「クマー?」

 

なんだか楽しくなってきたらしい二人をルパンが止める。

その緊張感のない様子に力が抜けたらしく、何とも言えない渋い顔になる。

 

「とりあえず、そうクマねー……それは今晩の話だから、球磨たちがその現場についていくクマ。

もし、提督が心配してるようなことがあったら、球磨たちが守るクマ。」

 

「そこまで言い切るってことは、大丈夫ってわけか?」

 

「正直、全部知ってるからニャー。」

 

少し多摩が困った顔をして頬を掻く。

 

「…実際、どうなんだよ。」

 

「言えないニャー…。」

 

ルパンが額を寄せるように身を乗り出すが、多摩は申し訳なさそうな顔で言う。

度重なる追及にも何も言わない多摩と球磨にため息をつくと、苦笑する。

 

「そこまで言うならしゃーねぇか…。

なら、今晩9時だな?」

 

「提督の部屋に迎えに行くから待ってて欲しいクマー。」

 

「その必要はねぇだろ。

もういい時間だし、食堂に行ってメシ食って…時間潰せばいい時間だろ。」

 

まさかの一緒の食事の提案に二人は輝かせる。

 

「それだったら鳳翔さんのお店に行きたいニャー!!」

 

元気よく汚れたジャージ姿の多摩が手を挙げる。

その様子にルパンは苦笑すると、ビットから腰を上げる。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ…今日は頑張ったみてぇだし、ご褒美だ。」

 

そう言って尻を叩いて汚れを落としてからルパンは鳳翔の小料理屋へと歩き出す。

それに飛び跳ねるように立ち上がった多摩と球磨が走って追いつき、むしろ急げと言わんばかりに腕を引いていくのだった。

 

「急ぐクマー!!」

 

「早く行くニャー!!」

 

「おいおい、俺も鳳翔さんの店も逃げやしねぇよ。」

 

 

 

そして。

 

「…しっかし、話には聞いていたが…よく食うねぇ。」

 

日も暮れて、すっかりいい時間になった頃に感心しきりといった様子でルパンは言葉を漏らす。

その視線の先には武蔵、長門、大和、加賀、赤城がいた。

 

「腹が減ってはなんとやら、だからな。」

 

「…戦艦・空母の宿命と思ってください。」

 

長門と武蔵は苦笑で済ませるが、加賀は指摘が嫌なのかムッとした様子を見せる。

それに居合わせた次元と五右衛門が苦笑する。

 

当然、多摩や球磨も居合わせているが、何故他のメンバーがいるのか。

五右衛門と赤城、加賀が発艦所で言っていた通りに獲った魚の報酬で夕食を取りに来た。

そこにルパン達三人が合流したのである。

 

さらにルパンを探していた次元が武蔵、長門、大和を連れて合流してきた、という流れだった。

 

「ま、あんだけデケェ艤装背負って動き回るんだ。

そんぐらい食わなきゃ身体がもたねぇだろうさ。」

 

次元が取りなすように言えば、赤城が片方の眉を吊り上げる。

 

「へぇ…デケェ艤装を背負ってないのに、食べて申し訳ございません。」

 

赤城の嫌味に明らかにしまったという顔をする次元に、やれやれといった様子で御猪口片手に頭を振る五右衛門。

座敷のテーブルの中心には鶏の水炊きが鎮座するとともに、刺身や煮つけなどが並んでいた。

非常に和やかな夕食会、といった様子であった。

 

「…ってか、お前ら酒まで飲んでよぉ…。

俺の杞憂だってのはもうわかっちゃいるけど…なぁ…。」

 

五右衛門も次元も既に飲んでいるのだ。

武蔵や大和、長門といった面々まで。

 

流石に球磨や多摩は万が一のときの護衛という意味も一応は持っているので自粛してくれてはいるが。

 

その緊張感の無さには誤解らしいと二人の説得で渋々納得したルパンも一言は言ってやりたくもなる。

 

「付き合いの長さの違い、だな。

お主が執務室で書類とにらめっこをしていた間、拙者たちは直に付き合ってきた。

そのような計画を練る輩でもないと十分にわかっているし、見過ごすようなこともあるまいよ。」

 

軽く笑いながら五右衛門が猪口を干せば、武蔵が笑う。

 

「その通り…私も何の事かは知っているが、口止めをされているので言えないが…。

問題ない、とだけ言わせてもらうさ。」

 

「これくらいの酒量ではこの大和の砲撃は揺るぎもしませんので、ご安心ください。」

 

大和までもが仕方ないとばかりに苦笑をして宥められれば、流石のルパンもなんだかバカバカしくなってくる。

胡坐をかいたまま背後の壁にもたれかかると、鳳翔に呼びかけるのだった。

 

「鳳翔さーん!!俺にも熱燗と鶏の生レバーちょうだいな!!」

 

 

 

そして、そのままダラダラと飲んで9時を少し過ぎた頃。

全員でのそのそと食堂に向かって歩いていた。

 

「…見りゃわかるって言われても、ねぇ。」

 

すると、食堂の方から警報のベルとともにパトカーの音が聞こえてくる。

習性からか、酔っていても一瞬でルパン達の顔つきが変わるとともに、それぞれの武器に手が添えられていた。

 

「単なる、映像の音声ニャ。」

 

「心配いらないクマー。」

 

そのまま普段通りの様子で多摩や球磨が先を歩いて食堂のドアへと近づく。

すると、ルパンたちに聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「…とっつぁん?」

 

「ルパン?」

 

「次元?」

 

何やら話し合っている声が聞こえてくるのに戸惑って、お互いが顔を見合わせる。

多摩が唇に指を当てて静かにするように促せば、三人の男たちは戸惑いながら頷く。

 

ドアの先は暗い部屋になっており、二人の言葉通りプロジェクターでアニメが流れていた。

そのまま静かに全員で入れば、ルパン達は映像を指差して困惑を隠しきれない。

しばらく映像を眺めているが、オープニングテーマが流れ出した辺りで我慢できなかったのかルパンが叫ぶ。

 

「なんで…俺たちがアニメになってんだぁ!?」

 

その声に反応して静かに座って映像を見ていた観客たちが立ち上がり、そちらに注目する。

その、一番最前列にいた龍田が少し引きつった笑みを浮かべていた。

 

「あら~…どうしましょ…?」

 

と言いながらも、正直に妖精さんが勝手に作り出しましたと言うしかなかったが。

その背後にはサブタイトルに『ルパン暗殺指令』と描かれていたのだった。

 

 

 

なお、タイトルを言われてもピンとこなかった三人ではあるが、カレン=クオリスキーが登場すると同時に次元から必死の上映中止命令が出たのは余談であり、当然ルパンから却下され、上映されたのも余談である。




というわけで、ルパン勘違いをする、の巻でした。


<今回のBGM>
昭和ライダーOP各種
水曜どうでしょう~甘いもの国盗り物語~

全然作風と関係ありません。
むしろBGMじゃねぇ。


時間がマジでない。
勉強は思うようには進まず、ペン(キーボード)も進まず…。

一日が48時間になれば…。(白目

そして2/29 0時現在約530位。(何


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EX2.ルパン放送局<1>

前回の話はどうもルパンの葛藤を描きすぎたせいで正直、書きながら「これでいいのか」という葛藤に塗れた話でした。
とはいえ、描かずにいくのはどうもという考えもあり、自分の中でも賛否両論です。

さておき、今回は息抜きな番外編となります。
「」が多い文となり、読みにくいかと思われますがCDドラマやラジオを聞いてると思って下さい。


ルパン(以下ル)「というわけで、始まりました『ルパン放送局』。…って、どういうわけなのか教えてくれよ、加賀に赤城。」

 

赤城(以下赤)「お休みを先日から定期的に取っていただくことになったとはいえ、出撃などが重なった艦娘はやはりお会いできませんので。

その代わり、ではないですが就寝前のこの時間にこのような形で放送することで、鎮守府の近況や事前告知などといったことをしていただこうかと。」

 

ル「ってもなぁ…そんな全体に報告しなきゃいけねぇこともそうそうありゃしねぇだろ?」

 

加賀(以下加)「間宮さん曰く、その辺りは臨機応変に、だそうです。」

 

ル「間宮さん発案なのかよ!!」

 

加「…具体的には、執務室詰めの艦娘達が慰労を兼ねて食事会をした際に話し合った結論、らしいです。」

 

赤「間宮さんや鳳翔さんが絡んでいる『食事会』って時点で、お酒が入っていそうですね。」

 

ル「…酔った勢いでの企画かよ……サイコロで深夜バスに乗せられるとかに比べりゃマシか…。」

 

加「なんですか、その苦行は。」

 

赤「とはいえ、彼女たちも色々負担を軽減させようと色々工夫はしているんですよ?

気軽なトーク、ということで専用の収録部屋もこの通り用意しましたし、執務時間外という事なので軽食や飲食可という恵まれた環境での生放送です。」

 

(プシュッ!×2)

 

ル「…躊躇なく、今、二人とも缶ビールの缶開けたな?

聞いてる皆、この一航戦、真っ先に飲みやがったぞ!」

 

(プシュッ!)

 

赤「提督こそ、開けてるじゃないですかまったく。」

 

加「…ビールではなく、私はサワーです。

日本酒も悪くはありませんが、このような甘いお酒というのも新鮮でいいものです。」

 

ル「ま、早速飲み始めっちまったけれども…実際、そう伝えることもねぇよなぁ?」

 

赤「……。」

 

加「……そういえば、あのDVDは結局許可するのでしょうか?」

 

ル「あーアレなぁ。そんな映像にされるような大したもんじゃねぇけどよ。

…特に駆逐艦の子たちをはじめとして、皆から見たいって言われちゃ、なぁ。」

 

赤「私は結構好きですよ、ステルスのお話とか。」

 

加「アレもいいですね…私はマモーの話など、色々考えさせられました。」

 

ル「いや、別に俺が作ったわけじゃねぇんだけどな?

色々あったなぁ、今になって思えば。」

 

(ガサガサッ、パリッポリッ)

 

赤「あら、この九州醤油味というのはなかなかいいですね。」

 

ル「……。」

 

加「赤城さん…話の流れというものをですね…。」

 

ル「結構イケるねぇ…つまみにもいいんじゃねぇの?」

 

加「ほら、提督も拗ねてしまわれました。」

 

ル「拗ねてねぇから。ほら、加賀も食えよ。」

 

(BGM:『鎮守府の朝』)

 

加「いただきます…第六駆逐隊ですか?」

 

赤「はい、那珂ちゃんよりアイドルらしいんじゃな」

 

ル「止めて…止めて。乗り込んできかねない。」

 

加「大きなお友d」

 

ル「もっと過激な発言をするんじゃねぇよ!!

…で。このBGMで何かするんだ?」

 

赤「ははぁ…なるほど。この箱に入った紙を一枚取り出して、中の質問に答えればいいわけですね?」

 

ル「鳥海ちゃんありがとな?んじゃ、ベタだけどネタもねぇし、引きますか。」

 

(ガサガサッ)

 

加「では、読みましょう。」

 

ル「へいへい……『提督の好みの女性像はどのような女性ですか?』…。」

 

(BGM:『決戦!鉄底海峡を抜けて!』)

 

ル「止めろッ!?なんだこの曲ッ!?すっげぇ嫌な感じがするぜ!?」

 

赤「…嗚呼、古鷹さんが自分でかけて、大打撃を…。」

 

加「収録室の隣で頭を抱えて机に突っ伏しています…。」

 

ル「自爆してんじゃねぇか!!

鳥海ちゃん、外に連れ出してやって!!」

 

(ガチャッ…

 

鳥「よく頑張ったわ、古鷹…貴女は仕事を全うしたの…。」

 

バタン)

 

ル「そんなになってまでやるべきことなのか、コレ…。

…で、タイプ、ねぇ…。」

 

加「…それにしても、鳥海さんも顔色はよくないですね…加古さんも一緒に連れ出されましたし。」

 

赤「土地柄、ね…青葉型は色々と因縁のある地ですから。」

 

(ポリポリ、プシュッ)

 

ル「そういうお二人はタイプとかあんの?」

 

赤「…難しいですね…。」

 

加「……。」

 

ル「ま、難しいよなぁ。俺もこの質問は難しいな…。

基本的にカワイコちゃんなら大歓迎だけどな。」

 

赤「なるほど、となると我々にもチャンスがある、ということですか?」

 

(ガタンッ!カランカランッ…)

 

加「あっ、赤城さんっ!?」

 

ル「うわっとぉっ!?あっぶねぇー…。

からかうんじゃないよ、お嬢さん。もうちっと色々勉強して大人になってからにしな。」

 

赤「うふふ、あしらわれてしまいましたね。

…倒れたのがほとんど空き缶になってて、よかったですね。」

 

加「す、すみません。」

 

ル「これを聞いてる艦娘の皆には焦らないで欲しいね。

愛ってのは激情でもあり、またはぐくむものでもあり、与えるものでもある…ってな。

恋や愛に恋して、ロクでもない男に引っかからないでもらいてぇなぁ。」

 

赤「あら…では提督はロクでもない女に引っかかったことがおありで?」

 

ル「ま、昔は色んな女とそれなりにあったし、そんな女とのスリリングなやりとりを楽しんだけどな。」

 

加「なるほど、実体験からの忠告ですか。」

 

ル「俺はスリリングなやりとりをしつつ、その先の破滅をするりとかわすまでもを楽しむのさ。

ただ、それが出来ずに溺れて破滅してもらいたくねぇってこと。」

 

赤「…破滅、ですか。」

 

ル「そ、破滅。世の中遡りゃ、いくらでも相手に睦言囁いて情報や金やと貢がせてポイなんて(こた)ァいくらでもあったしなぁ。

ちと古い事件だが、『西山事件』、別名『外務省機密漏洩事件』なんてわかりやすいな。」

 

加「はぁ…機会があれば調べてみます。」

 

ル「ま、そんな大層な話じゃねぇさ。興味があればでいい。」

 

(BGM:『敵艦隊、見ゆ!』)

 

ル「…話題を切り替えろ、ってことかぁ?」

 

赤「そのようですねー。」

 

加「…今後の鎮守府運営について、お伺いしたいです。」

 

ル「棒読み、あんがとよ。

とりあえず予定としては鳳翔さんたちの企画のイベントやって。

んで、次回『イベント』こと、大規模作戦やって…かね。」

 

加「気分が高揚します。」

 

ル「すんじゃねぇよ。」

 

赤「…と、言われますと?

大本営からの評価も影響するかと思われますが。」

 

ル「やるこたぁやるさ。だが、張り切りすぎんなってこと。

第一、数多くの鎮守府がこの大規模作戦には参加するし、ウチが倒しきれなかったら日本が崩壊するわけじゃねぇ。」

 

加「…それは、そうですが…。」

 

ル「それによ、この大規模作戦は、俺の推測だが、あくまで相手戦力のすり潰しが目的なんだ。

完全撃破なんて大本営は考えちゃいねぇな。」

 

赤「へ!?」

 

ル「あのなぁ…目の前に報酬や評価っていうニンジンぶら下げられて目の色変えてるだろうが、完全撃破してどうすんだ?

これが最後の深海棲艦ってわけでもないし、あくまで勢力が削れるだけだろ?」

 

赤・加「……。」

 

ル「戦略的勝利と戦術的勝利を混同するんじゃねぇってことさ。

事前に情報が流れてるってことは、多分大本営辺りが画策して活動が活発になって来た地域からある程度のルートを決めて誘引してるんだろうさ。

本拠地から離れれば離れるほど補給線が伸びて、相手の戦力も自然と削れる。

心当たりがあるんじゃねぇの?」

 

赤「た、確かに…姫級の控える最深部に近づけば近づくほどこちらも弾薬や燃料が減り、疲労も重なります…。」

 

ル「だろ?だから大本営は引きずり込んで叩く、そうして戦力を調整することで相手からの本格的な大規模侵攻を防いでるんじゃねぇの?

あとは…資材とか余力を余らせた鎮守府の戦力も削る意図もあるんじゃねぇか?」

 

加「ち、鎮守府の…?」

 

ル「艦娘って戦力とそれを支える資材がありゃ、クーデターも可能って思うバカに増長させない目的…ってのは邪推かね?

定期的に大規模作戦で資材を適度に減らしてくれりゃ、バカな考えも浮かびにくくなるんじゃねぇかってね。」

 

加「さ、流石に…それは…。」

 

ル「あくまで『邪推』さ、第一俺たちには何の関係もない話だがな。

ま、そういうわけで頑張るのはいいが、張り切りすぎてポカやらかすなよーってな。

武蔵とかの熟練組はさておき、ウチの連中は初めてだったり、ほとんど経験ねぇだろ?

逆に熟練組も、いいとこ見せようとして踏み込み過ぎねぇようにな。」

 

赤「では、今回はほどほどで、という事ですか?」

 

ル「様子を見ながら踏み込む、ってことさ。

行けそうなら完全に叩く、出来ないなら出来るところまで叩く。」

 

加「臨機応変、ということですか。」

 

ル「そういうこったな。

だが、期待はしてるぜ?その代わりにお前らの誰かの犠牲の上でまで為すべき事じゃない、とも考えてるだけさ。」

 

赤「…ありがとうございます。」

 

ル「それに、もう半分の意味は『提督たちへの景気付け』ってのもあるだろうしな。

わからずに踊らされるのは勘弁だが、わかった上で踊るなら構わねぇ。

無理してまで踊るまでもない、ってことはわかった上でな。」

 

加「なるほど…以上、ルパン提督の意気込みでした。」

 

<BGM:『艦娘のお菓子作り』>

 

龍田「美味しいお菓子から、一流メーカーの絶品お取り寄せ料理」

 

高雄「便利なインスタント食品から、美味しいお酒」

 

長良「楽な部屋着から、機能性溢れた運動着に、可愛いお洋服!」

 

扶桑「アンニュイな気分を晴らしてくれる素敵な音楽」

 

朝潮「柔らかくて暖かい素敵なお布団!」

 

全員「なんでも揃うルパン鎮守府酒保では皆様をお待ちしております!!」

 

<BGM:『雨とお酒と艦娘』>

 

ル「CMまで作ったのかよ…はい、というわけで長々お付き合いあんがとな。

あとはフリートークのコーナー…って、前半もほぼフリートークだったよな?」

 

鳳「あら、そんな事はありませんわ、提督。」

 

ル「っと、というわけで後半のゲストは皆さまご存知、鳳翔さんだ。」

 

鳳「さんなんて不要ですわ。鳳翔、とお呼び下さい。」

 

ル「たはは…なーんか、照れくせぇな。で、わざわざ七輪用意して来てくれた、ってことは何かそれに関係した連絡でも?」

 

鳳「そうですね…では、早速焼かせていただきましょう。」

 

(パタパタ…)

 

ル「っと、籠から出したのは…天ぷら、かい?」

 

鳳「ええ、先日龍田さんをはじめとした軽巡や駆逐艦の皆さんで海産物を取り扱う会社を立ち上げられたそうでして…。

その製品化にご協力させていただいたわけです。」

 

ル「へー、聞いてる側じゃわかんねぇかもしれねぇけど、今鳳翔は七輪の上で手のひらくらいの大きさの天ぷらを金網で炙ってるな。

…っ…ごま油でも使ってんのか?やけに香ばしいんだが…。」

 

鳳「うふふ、それは企業秘密です、提督。

では、どうぞ。」

 

ル「ありゃ、軽く焦げ目がつくかつかないかでもう皿に乗せられてっと。

早速いただくぜ…ダメだ、もう匂いだけで美味いってわかるぜ?」

 

鳳「お好みでかぼす醤油、醤油、辛子などなんでもいいのですが…ちょっと珍しい食べ方を。」

 

ル「…なんだ、この緑色の…わさび、じゃねぇよな?」

 

鳳「ええ、柚子胡椒です。これは程よい刺激でお勧めです。」

 

ル「じゃ、いただこうか…くぅぅ~~!!たまんねぇな!!」

 

鳳「あらあら、新しいビールをご用意しますね?」

 

(シュポンッ!トクトクトク…)

 

ル「冷えた瓶ビールに、キンキンに冷えたグラスたぁ、わかってんな~…。

いやー、美味いぜ、コレ。やけに上品な魚の味だが、柚子胡椒がいいアクセントだねぇ。

ビールが進む進む!!」

 

鳳「実は、(はも)を練り込んでいます。」

 

ル「鱧!?高級魚なんじゃねぇの?」

 

鳳「そこまで大量には入れれませんが、それなりに、ということで。

それに下手に骨切りにしなくても擦って濾す際に骨を除外できるので、無駄なく使えるのです。」

 

ル「はー、いい場所に鎮守府があってよかったねぇ…で、こっちは?」

 

鳳「とある地域のを参考にしまして、さつま揚げのように仕上げてます。」

 

ル「ん~これまた鱧のとは違った、野菜の甘味が効いてるねぇ……こっちは柚子胡椒や醤油系もいいが…鱧のは塩だけでもイケそうだな。」

 

鳳「そうですね…鱧天ならビールだけではなく、日本酒や焼酎、ウィスキーとの相性もいいのではないかと。

…お酌致しますね?」

 

ル「おっととと…あんがとよ。

んで、これを鳳翔の小料理屋で出すわけ?」

 

鳳「ええ、同じ敷地内で作っているという特権を利用させていただきまして…。

その日獲った魚を分けていただきまして、私のお店では全て手製でその日のうちに食べていただこうかと。」

 

ル「手作りで?無理はしねぇでくれよ、鳳翔の料理食えねぇなんて聞いたらショックで暴動が起きかねねぇからな。

…というわけで、御返杯。」

 

鳳「大袈裟ですわ、提督…ありがたくいただきますね?」

 

ル「でも、色々すり潰すのもいいけどよ、あえてあまり潰さないのも面白いかもな。」

 

鳳「と、言いますと?」

 

ル「例えば、枝豆とかを半分は蒸しただけで触感残す、なんてのも良さそうじゃねぇか?

魚肉と枝豆だけ、とか…玉ねぎと魚肉だけとかに絞って、その味一本で勝負!とかよ。」

 

鳳「…試してみましょうか?」

 

ル「お、参考になったか?」

 

鳳「ええ、試行錯誤も楽しいですから。

あら、いけません…ちなみにこの天ぷらですが、会社の方では真空パックにして全国発送で販売するそうです。」

 

ル「いいねぇ…設備費用や人件費をきっちり稼いでくれるように祈ってるぜ~。」

 

鳳「そうですね…ちなみに、この鎮守府の方々も購入できますので、御夜食にトースターなどで炙って召し上がれますよ?」

 

ル「本格的に食いたくなったら?」

 

鳳「それは、お店にいらっしゃってください、と。」

 

ル「上手い!というわけで、気になった皆は試してみてくれ~。

鳳翔、鱧天もう一枚焼いてくれねぇかな?」

 

鳳「はい、少しお待ちください。

…というわけで、もうお時間のようですね。

それでは、皆様おやすみなさいませ。」

 

ル「え!?もうかよ…もうちっと飲んでいてぇけど…。

夜更かししねぇで、皆寝ろよー…特に川内!騒ぐんじゃねぇぞ~?」

 

鳳「あら、ひどい。川内さんが可哀想じゃありませんか。

…提督がお飲みになりたいなら、お付き合いいたしますわ。」

 

ル「おっ、悪ぃな。

じゃ、『ルパン放送局』、次回もお楽しみに!」

 




というわけで、ラジオ風味。

この世界において『イベント』とは、という考察も交えてまったりやってみました。
放送局を続けるかどうかは不明。


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15-3.ルパンは2月を堪能するようです(3)

もう3月も終わろうとしているのに2月ネタが終わらないという。

更新が遅くなって申し訳ございません。


今日も朝日が上りかけた時間に無慈悲かつ単調なベルで目が覚める。

目を開けて、空を眺めて今日も一日が始まったと少しだけぼんやりした頭でふと思う。

 

この鎮守府には呪いが蔓延している。

 

呪いで悪ければ、檻だと言ってもいい。

しかし、その呪いは身を蝕んだりといった自分を殺すものではない。

 

のそのそと長門は布団から必死の思いで抜け出してから、寝間着のボタンを外す。

ふと振り返って先ほどまで自分が包まっていた布団を見る。

 

まるで、この鎮守府のようだ。

 

そう考えると、しっくりきすぎて長門は軽く笑う。

 

この鎮守府はあまりにも居心地が良すぎる。

このルパン鎮守府以外の環境に耐えられなくなるほど。

 

 

見下ろしている布団は陸奥と話し合って、最初の給料の半分ほどをつぎ込んでそれなり以上に高級な羽毛布団を選択した。

長門の身体を下から柔らかく受け止めてくれるので、起きて背中や腰が痛いということもない。

セットで買った毛布や掛け布団は柔らかくて包まれば幸福な気持ちになれるし、すぐに温かくなって今日のような寒い朝には抜け出すのが苦痛なほどだ。

 

現に。

二段ベッドの上にいる陸奥はまるでカタツムリか何かのように色違いのカバーに包まれた、お揃いの羽毛布団に包まっている。

暖気を逃さない、という固い決意が見えるほどに頭まで布団の中に入り込んでいる始末。

 

「起きろ、愚妹。朝食を食いそびれても知らんぞ。」

 

「朝っぱらから随分じゃない!?」

 

デフォルメされた猫の絵が描かれたパジャマを脱ぎ捨て、普段の服装の上に冬用のダウンジャケットを着た長門の辛辣すぎる言葉にカタツムリは顔を飛び出させた。

長門はどちらかといえば朝は弱い。

陸奥は目覚めも早いが、布団の誘惑に弱く、起きても布団にくるまって微睡むのが常だった。

 

「そんなカタツムリのようなビッグセブン()(カッコ)は私の妹ではない。」

 

「長門、貴女とは拳で語り合う必要がありそうね。

()(カッコ)って何よ、()(カッコ)って!!」

 

「まずは布団から出ろ。殴り合いたいなら受けて立つからな。」

 

布団の中から顔だけを出してすごむ陸奥をぞんざいに流し、そのまま部屋を後にした。

 

「ちょっ!?待ちなさいよ、長門ぉ!!」

 

「起こすだけ起こしたからな。

食いそびれても一切の責任を負わんぞ。」

 

二人の部屋のドアを閉じて一足先に食堂へと向かうのだった。

 

 

長門が食堂に着くと、何か違和感を感じた。

はて、と長門は盆を手に持ったまま右に首を傾げる。

 

ずらりと並んだカウンターの向こうで、卵が乗った小鉢で満たされた新たな盆を持った伊良湖も長門と同じように、彼女にとって右に首を傾げる。

その結果、お互いがお互いに逆に首を傾げたように見える。

 

「長門さん…何かあるんですか?」

 

「いや、その質問がわからんな。

むしろ、今日は何かあるのか?何か食堂が変なんだが…?」

 

お互いがお互いの言葉が理解できないと、お互いにまた左に首を傾げる。

 

「今日は節分祭りの日で、鎮守府は最小限の出撃以外はないんですよね?」

 

「ああ!それで皆私服なのか!」

 

違和感の原因に気付いて、大きく口を開けて今気づいたとばかりに声を挙げる。

 

 

伊良湖の言った通り、この日は先日にルパンに鳳翔・間宮の提案したイベントをするために設定された休日である。

出撃をする必要がないのであえて艤装の一部である制服を身に着ける必要がないため、ほとんどの艦娘がそれぞれ自分の買った私服で食堂へやって来ていたのだった。

 

 

違和感の原因に気付いた長門はなるほどと小さく頷きながら長いカウンターに並べられた食品の中から気に入ったものを選んでいく。

最初は従来の決まったメニューだけがカウンターに並び、それを全て取っていくだけのものだった。

 

しかし、ルパンがそれにストップをかけた。

 

「朝の胃とか体調とか人それぞれじゃねぇの?

朝から和食がいいヤツもいれば、洋食とかでガッツリいきたいヤツもいると思うんだが。」

 

朝から各自食べたいものを自由に注文されたらいくら手があっても足りない、ということで流石に完全自由というのは無理となった。

しかし、間宮・伊良湖で和洋などで数種類のおかずなどをカウンターにいくつも並べて用意したバイキング形式での朝食が常となったのだ。

 

多少は作りだめしなくては人数をはけないため、多少は冷えているおかずがあるのは仕方ない。

しかし、そこは流石の間宮たちで温かくて美味すぎるし、冷めても全然美味い。

 

長門は気分で和食をチョイスしてお盆にとって、テーブルに着くのだった。

 

「ふむ…長門は和食か。」

 

「おはよう、二人とも。洋食か。」

 

たまたま、と言っては嘘になるが、気分で座ったテーブルには伊勢型戦艦姉妹が座っていた。

二人の盆にはパンとサラダ、そしてウインナーに小ぶりなオムレツが乗っている。

 

ふと二人を見ると髪が濡れていた。

長門は小鉢に卵を割って入れ、白身と黄身をかき混ぜながら問う。

 

「今日も鍛錬か?」

 

「ああ、今日もいい鍛錬だった。

何度も早朝鍛錬に陸奥を誘ってはいるが、来ないな。」

 

「…ま、アイツもアイツで色々あるのさ。」

 

「でも勿体ないじゃん。三好艦長譲りかわかんないけど、いい腕前してんのにさー。」

 

口いっぱいにパンを頬張っていた伊勢が軽く唇を尖らせる。

それに静かに頷いた日向はパンを皿の上に戻す。

 

「ああ、大和もいい腕だが、陸奥も中々だな。

足柄も捨てがたいが…足柄は少々攻めっ気が強すぎる。

天龍は…まぁよく言えば我武者羅で、悪く言えば基本からなっちゃいない。」

 

「なるほどな。私はどちらかと言えば柔道・空手だな。」

 

そう言って長門はご飯に醤油をかける。

その様子に不審そうに二人は眉を寄せる。

 

それに気付くことなく、長門は何も入れていない、かき混ぜただけの卵をご飯にかける。

そのままご飯と卵をかき混ぜずに掻き込む。

 

「「ちょっと待て。それはおかしい。」」

 

「…む、何がだ?次元提督から教わったんだが。」

 

二人にツッコミを入れられるが、長門の言葉に二人は鼻白む。

次元が言ったなら正しいのかと困惑気味である。

 

「一般的ではないらしいがな、あえて混ぜないことで味の変化が楽しめるんだ。」

 

「…今度試してみよう。」

 

「うふふ…何だか変な話ね。

他の鎮守府の話が嘘みたい。」

 

少し真剣に受け止めた日向と真逆で伊勢は笑う。

伊勢の言葉を長門は理解するが、オリョール海で発見されてこのルパン鎮守府に初めて所属した日向は理解できないのか眉を少し寄せる。

 

「そうだな…前にいた鎮守府では『美味い食事』というものは存在しなかったからな。」

 

「そこまで、か。」

 

日向は重々しく言葉を漏らすが、長門は気にもしていないという様子で卵ご飯を流し込むのだった。

 

 

 

 

「それでは皆様、準備はよろしいでしょうか。

各自、海苔を巻き簾の上にならべて下さい。」

 

午前中に最低限の出撃を済ませたルパン鎮守府の面々は昼前に海沿いに長机を一直線に並べていた。

そこに鳳翔の掛け声とともに長机の前に並んだ艦娘達が巻き簾を繋げて並べる。

 

編み糸を上になるようにきっちり並べた後に、その上に海苔を並べる。

その後に駆逐艦達が大釜で炊いたご飯を大きなボウルに詰め、酢飯にしたものを乗せていく。

 

鳳翔たちが企画したのは鎮守府全員で作る恵方巻であった。

それを苦笑しながらルパンは見つめていた。

 

「アイツら、保父としても生きていけるんじゃねぇの?」

 

「あら、提督。お酷い。」

 

ルパンは指示を出すための壇上にテーブルを用意されていた。

そのテーブルに座って全員を見下ろしながら、鳳翔の淹れた茶を啜って笑っていた。

 

「しかし、なんで急に恵方巻なわけ?」

 

「いえ、恵方巻でも何でも良かったのですがね…。」

 

テーブルの脇に拡声器を持った鳳翔が控えながら苦笑した。

 

「要は、皆で作り上げる何かが欲しかったのですよ。

戦い以外で、皆で作り、笑い合える何かが。」

 

「そうかい…。」

 

斜め後ろから聞こえる声に静かに答えると懐から煙草を取り出して咥える。

不意に顔を上げるとほんのわずかな雲と、青く澄んだ空があった。

 

「俺も、女が泣くのは見たくねぇなぁ。

で、グラーフ達の様子はどうだい?」

 

「グラーフさんをはじめとしたドイツ艦の方々は少々文化的な違いに戸惑ってもいらっしゃるようです。

翔鶴・瑞鶴さん達のやって来た艦娘達と一緒にこれから鍛えあげる必要がありますね。」

 

厳しめの鳳翔の言葉に苦笑をするが、ルパンはわかっていた。

これは愛するが故、守りたいが故の厳しさだと。

 

「お手柔らかに、な。」

 

「ええ、加減は見極めます。」

 

ルパンは差し出された灰皿に煙草を置いて、湯呑を口につけた。

あえてどういう『加減』なのかは聞くことはしなかった。

 

聞いても無駄だから。

 

 

 

「だからカツは考えて乗せろよ!!

どう考えても巻けねぇだろうが!!」

 

「でも、カツよ!?勝利のカツなのよ!?」

 

長机の一部の前で足柄と次元が言い争いをしていた。

理由はそのままである。

 

はみ出さんばかりにたっぷりと酢飯の上に乗せられたカツを次元が端で酢飯の長い方向に合わせて長くカツを配置しようとする次元の腕を掴んで足柄が抵抗する。

その周囲で清霜や海風たちがオロオロとしていた。

 

その近くで目を白黒させ、腰を抜かした秋月、初月たちを五右衛門が介抱していた。

 

「しっかりせよ!?食堂で食べた事があるであろう!?」

 

「で、でも…あんなに豪華な具材を湯水のように…。」

 

「皆で食うのだから、そんな心配は杞憂だ!!」

 

その様子を深雪が何とも言えない細目で見ながらため息をついた。

 

「あー……末期の頃の艦はどうしてもそうなるんだよなー。

…アタシも具体的には知らないけどさ。」

 

どうにもまとまらないルパン鎮守府ではあったが、紆余曲折ありつつも巨大恵方巻は完成に近づいていった。

とは言え、準備開始から30分近く経っているということを考えれば時間がかかりすぎてはいたが。

 

「んじゃー皆準備はいいかー?

1・2のー3で、隣と息を合わせて巻き込むんだぜ~?」

 

恵方巻、というよりも単なる細巻きではあった。

具材がそれぞれの艦娘達が希望したものを選ぶのが面倒になったルパンが各自好きな具材を巻けばいいとしたせいである。

当然鳳翔たちが論外な具材は除外したが。

いくらなんでもチョコやスナック菓子はやりすぎだろう。

 

単純に言えば、巻き簾の上に海苔、酢飯を乗せて具材を乗せたら巻き込むだけであるが、先ほどの騒動に似た騒動のせいで人手はあっても時間がかかったのだった。

しかし、壇上のルパンは腹を立てるどころか拡声器片手に苦笑で済ませた。

 

これもまた、少女らしいあり方じゃないかと。

 

「1・2ーのー3!!」

 

ルパンの拡声器越しの号令に合わせて、ゆっくり、慎重に全員で巻き簾を巻き込む。

その顔は皆真剣でありながら、楽しげであった。

そこには艦種の違いなど一切なかった。

 

「ほどけないようにグッと巻き込んだら、完成だ!

そのまま巻き簾をほどいて包丁係の子が来るのをゆっくり待ちな!」

 

やっと落ち着いた次元もやれやれとばかりに首をコキコキと鳴らしながら巻きの甘い部分がないか見回しながら声をかける。

すると、待機していた瑞穂や羽黒といった包丁で切り分ける係の艦娘が長い恵方巻のあちこちに散る。

それを見てから次元も壇上にやってくる。

 

ルパン達の席は壇上と決められているのである。

理由は、特定の艦娘の席に座れば席の奪い合いになりかねないという理由である。

 

なお、食事時はルパン達が自分でどこに座るか選んだなら仕方ない、というルールが鎮守府にはある。

当然、勧誘は禁止で。

 

恵方巻の方は、綺麗に切れるようにと包丁係は濡れた布巾で包丁を丁寧に湿らせながら切り分ける。

恵方巻と謳ってはいるが、流石に大口に巻物を頬張るのは彼女たちの乙女心が拒んだのだった。

 

「これでやっと昼飯かね?」

 

「…しかし、作るのを見ていたが…見事に太さも具材もバラバラであったな。」

 

世話から逃げ出した五右衛門がルパンと同じ壇上のテーブルについていた。

その手にはルパン同様に鳳翔から淹れてもらった湯呑があった。

 

「いいじゃねぇの、俺たちらしくてよ。」

 

「…悪いとは言っておらぬ。」

 

なだめるように言ったルパンに不満そうに五右衛門は言い捨て、瞑目したまま茶を啜る。

すると、切り分けられた恵方巻を皿に載せた艦娘達が壇上に駆け寄ってくる。

 

「提督!阿賀野たちが作った海老入りの恵方巻、食べてください!」

 

一番手は阿賀野型姉妹だった。

その皿には中心に海老、そして野菜が一緒に巻かれた細巻きというのに相応しいものだった。

 

「おう、悪ィなぁ。じゃ、一つもらうぜ。」

 

「ぴゃぁっ!…一つしか食べてくれないのぉ?」

 

ルパンが阿賀野の持ってきた皿から一つだけ取ったのを末っ子らしく、自分の感情に素直な酒匂が唇を尖らせる。

それを苦笑して矢矧が酒匂の肩に手を置く。

 

「そう言うな、ルパン提督も次元提督も皆の提督なんだからな。

私たちのだけでお腹いっぱいになったら、他の子が可哀想だろう?」

 

「その分、ちゃーんと味わうから勘弁してくれや。」

 

女嫌いを認める次元も素直な子供といった様子の酒匂を突っぱねることなど出来ないらしく、苦笑しつつも宥める矢矧に援軍を出す。

それを聞いて、渋々といった様子で頷く酒匂の頭を優しく能代が撫でる。

 

「いい子ね、酒匂…さ、一緒に食べましょ。

色んな恵方巻があるんだから、楽しみましょう?」

 

「そうだな、ちゃんと美味しくいただくからよ。

またこういうイベントで作ってくれよ?」

 

ルパンのとりなしに笑顔になった酒匂が大きく頷いてから、壇から降りる。

そして振り返って笑顔で言った。

 

「また、ちゃんと食べてくれなきゃダメなんだからね!

…いつも、ありがとう!!」

 

その言葉とともに、四姉妹が揃って壇上のルパンたちに頭を下げた。

ルパンは何も言い返せず、照れ臭そうに笑いながら恵方巻を頬張るのだった。

 

 

その後も色んな艦娘たちがグループで壇上のルパン達へ恵方巻を届けてくる。

その恵方巻も艦娘によってまちまちだった。

 

初春型はシンプルかつ王道な細巻き。

白露型はマグロを使ったほとんど鉄火巻き。

妙高型はレタスの中にカツを挟んだサラダ巻き。

大和・長門型は豪快にはちきれんばかりにかんぴょうや漬けマグロを巻いた太巻き。

 

例を挙げるとキリがないほど、太さも具材もまちまちだった。

しかし、全員から丁寧に頭を下げられ、感謝を告げられると三人の心中には何とも言えない甘酸っぱい感情がこみ上げる。

 

 

ルパン達は恵方巻で腹を八分目以上に満たして、茶を啜ってまったりとしていた。

 

「…ま、これまでの数か月は…無駄じゃねかったな、ルパン提督殿。」

 

「そんなんじゃねぇよ、次元提督殿。」

 

そこに間宮がそっと小皿に小さく切った羊羹を乗せて、三人に配る。

穏やかな笑顔とともに、2月末の風のような爽やかな口調で言った。

 

「いえ、そんなの、ですよ。

他の鎮守府でこのような穏やかで、にぎやかで、朗らかな艦娘の皆を見れることは稀ですよ。」

 

「…例外は、あろう。」

 

間宮の言葉にこの鎮守府だけが特別ということはないだろう、と五右衛門が少ない言葉で示す。

しかし、間宮は穏やかな、小春日和のような優しい笑顔で言いきった。

 

「ええ、例外はあります。

しかし、それは『例外』です。」

 

「…ム…。」

 

五右衛門は間宮の鋭い切り返しに眉根を寄せる。

それは抗弁されたことに対する苛立ちや怒りからではない。

 

目の前の壇の下で車座になって、談笑しながら恵方巻を食べ。

誰かが酒保から買い出してきたのか、酒や飲み物、菓子を食べて笑い合う。

 

そんな『日常』が、『例外』でしかないという現実への怒りだった。

 

それは五右衛門だけではない。

ルパンはわかりやすく唇を尖らせ。

次元は目を見せないようにか、帽子を深くかぶった。

 

「そのお気持ちを、忘れないで下さい。

そのお気持ちが皆様がお持ちである限り、我々は皆様のために生き、皆様のために散りましょう。」

 

テーブルの傍らに立ったまま、笑顔で間宮はそう言った。

その顔は穏やかな笑顔でも、間宮の目は戦場を知る一人の軍人の目だった。

護るために生き、護るために散ることを厭わない。

 

糧食艦という部類に入る間宮の目は、軍人だった。

 

当然、世話係として控えていた鳳翔も何も言わず、同じ目をしていた。

頷くことすらしない。

何も言わず、ただ立っていた。

 

言うまでもない。

言葉にするのも無粋。

 

傭兵をも経験し、数多くの戦場や命のやり取りを潜り抜けた次元にも。

剣術を極めんと数多くの決闘や戦いを繰り広げた五右衛門にも。

その目は貫かんばかりに射抜いてきた。

よもすれば、気圧されたかもしれないと思った。

 

しかし、ルパンはハッと鼻で笑った。

 

「バカ言ってんじゃねぇよ。

この俺様が誰かを捨て駒にしなきゃ勝てないような、情けねぇ男だとでも思ってんのか?」

 

そして鋭い視線で座ったまま傍らに控える二人を睨みつけた。

その鋭さは裏社会で数多くの大組織を出し抜いて生き抜いてきた凄み。

 

視線はまるで刃物のように二人を貫いた。

ほんのわずかな間の後に、間宮は深く頭を下げた。

 

「大変失礼いたしました。

提督達の手腕を疑うような発言をしてしまい、まことに申し訳ございません。」

 

その隣の鳳翔も無言のままただ頭を下げる。

 

「ま、気負いすぎねぇこった。」

 

「うむ…そう思い詰まられては折角の羊羹の味もぼけてしまう。」

 

「違ェねぇや。楽ーにいこうぜ、楽ーによ。」

 

次元と五右衛門のとりなしに乗って、ルパンがニィッと人好きのする笑みを浮かべてから視線を外す。

その横顔に再度、鳳翔と間宮は深く頭を下げるのだった。




というわけで、イベント終了回となります。

日常回と言えば日常回。


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15-4.礼号作戦参加者たちは打ち上げをするようです

大変更新が滞り、申し訳ございませんでした。

今回は大規模作戦のまとめ話です。


通称16冬イベ、こと「礼号作戦」の殊勲艦たちが小料理屋鳳翔に集っていた。

 

勿論、作戦に参加していなかった艦たちを見下すわけではないが、実際に作戦を成功させた実力者達をねぎらうという意味合いでの報酬であった。

この飲み会の会費は全てルパン鎮守府の経費で賄うことになっている。

 

しかし、そこに集っていた全員の顔は晴れやか、とは言い難いものであった。

 

「…まぁ、色々と思うところはおありでしょうが、我々が勲一等ということになっております。

その労を労うということで、皆様グラスをお持ちください」

 

今回の幹事を任された大和が座敷の上座でグラスを掲げて合図をすると、各員がそれぞれ全員のグラスにジュース、ビールを注ぎ合う。

 

「それでは…乾杯」

 

その合図とともに全員がグラスをぶつけ合い、澄んだ音を立てるとともに全員が複雑な感情を吹っ切ろうと決意した。

 

 

 

「しかし…育ったわねぇ、アンタたち」

 

しみじみとため息をついたのは足柄。

その視線の先にはちとちよ姉妹、扶桑姉妹、そして大淀と五十鈴、霞だった。

 

「ちょっ!?そりゃ、特別改装が実装されたから優先的に私たちが出撃しただけじゃない。

ろくに休めずにたまったもんじゃなかったわよ!」

 

霞がその生暖かい目で霞を見つめるのに耐えきれなかったのか、いつもの憎まれ口をたたく。

しかし、それを年上の余裕なのか大淀がアツアツの肉じゃがを飲み下して薄く笑う。

 

「あら、『あとちょっと!あとちょっとだから出撃させなさいよぉっ!!』って休めとおっしゃる提督に噛みついて出撃したのはどなただったでしょう?」

 

「ちょっ!?ア、アンタは牛丼でも食ってなさいッ!!」

 

礼号作戦が開始される直前に、霞には改二と言われる特別改装が大本営より告知された。

また、史実に基づく推測から羅針盤に何らかの影響を及ぼすのではないか、という推測からイベント開始前から居た礼号作戦組は重点的に育成を行っていた。

 

しかし、いかんせんルパン鎮守府の運営方針や全体の練度の関係上イベント開始まで改二まで間に合わなかった。

そこで俗に言うE1ことカンパン湾沖作戦から積極的に作戦に参加したのだった。

 

その結果、オートロ島マーマレードワン沖作戦(俗に言うE2)の途中での改二への改装が可能になったのだった。

 

そして、その連続出撃の結果、足柄・霞・五十鈴は改二へとなったのだった。

なお、この宴会に参加していることからもわかるだろうが、大淀はE1の最初のうちの出撃で艤装がドロップしたのだった。

 

「…それも悪くないですが、お腹にたまりますからねぇ…」

 

霞の悪態にうーんと考え込んだのが、大淀である。

悪意ととらずに真剣に宴会で牛丼を食べる事を検討していた。

 

 

 

何故牛丼か。

それはルパンの仕掛けがあった。

 

外部との様々な取引の中で、偶然知り合ったとある営業職の男がいた。

その中で、大淀たち艦娘への抵抗が薄い男だった。

 

様々な思惑の重なり合った結果、ルパン鎮守府の艦娘がその営業の会社と契約が結ばれた。

それにその営業職の仲介もあって、他社の営業も乗っかった。

 

 

その内容は『艦娘のキャンペーンガール』化である。

 

 

これは大きな反響を社会に轟かさせた。

大まかに言えば『反発派』と『肯定派』である。

 

牛丼チェーン企業は自前の店舗で一定額を買えばランダムで艦娘のブロマイドをもらえるというものである。

俗に言う『おまけ商法』であった。

 

もう一つの企業はルパン鎮守府にも商品を卸している大手コンビニチェーンであった。

そこも同様の『おまけ商法』を仕掛けたのだった。

 

社会の艦娘達への反対派からの抵抗も最初はあったが…。

その牛丼チェーンは『見た目はいいので、起用した』。

『競争がなかったので、格安で雇えた』。

そして、反対しづらい『差別をしない』というお題目で封じた。

 

そして、艦娘擁護派ともいかない一般市民と肯定派の市民には大好評だった。

各企業の店舗には肯定派の市民が行列を為したのだった。

 

当然、大本営にも許可は取っているし、各企業から手数料も支払っているので文句のつけられる筋合いはない。

 

なお、『肯定派』の反応はとある掲示板の書き込みが全てを物語っていた。

「いいぞ、もっとやれ」

 

 

おかげで大淀をはじめとしたキャンペーンガールをやった艦娘は大規模作戦開始前という忙しい時間を縫って撮影をこなしたのだった。

その際に撮影対象になった艦娘と、牛丼チェーン店の関係者とのコミュニケーションの結果、持ち帰り用の牛丼の真空パックなどをお土産に大量にもらったというのは余談である。

 

 

さて、この宴会は酒が進むにつれて次第に少し沈み気味だった気分も盛り上がってくるのだったが。

例外はE3こと北海道北東沖・捷四号作戦参加組だった。

 

ルパン鎮守府の捷四号作戦に参加した面子はというと。

 

<輸送作戦部隊>

・第一艦隊

 大潮・荒潮・朝潮・熊野・嵐・千代田

・第二艦隊

 阿武隈・雪風・夕立・時雨・利根・筑摩

 

なお、千代田は当時は水上機母艦であり、今は輸送作戦終了とともに軽空母へと改装している。

 

<殲滅作戦部隊>※水上部隊

・第一艦隊

 千代田・大和・武蔵・長門・陸奥・千歳

・第二艦隊

 時雨・阿武隈・雪風・霧島・大井・北上

 

であった。

なお、駆逐艦に関しては他の高練度駆逐艦と入渠時間の兼ね合いなどで交代して従事していた。

 

「…しかし、とんでもない鎮守府に着任してしまったな…」

 

梅サワーの入った薄い赤い炭酸の液体の入ったグラスを片手に武蔵が苦笑する。

それにビールを手にした大井が半目になりながら、ぼやく。

 

「とんでもない、っていうか…無茶苦茶よ。あんなのが普通だったら轟沈なんて出ないんじゃない?」

 

「まーそーかもねー。でも、ウチらが楽なのはいい事じゃん?」

 

それに相槌を打ちながらビールかと思えば、一緒に運ばれてきたショットグラスに入ったハーパーをそのままジョッキに入れて飲む北上。

意外に北上は酒豪なのか、美味そうにニコニコしている。

 

この二人はルパン鎮守府発足当時からの第一優先育成艦であった。

勿論、大本営と大淀からの情報、そして武蔵たちの助言もあって最優先としたのだった。

 

理由は言うまでもない、夜戦火力と先制雷撃という比類ない戦闘能力である。

 

そして二人とも今作戦において、絶大な戦力を思う存分に発揮したのではあるが。

 

「私たちの力で、提督に栄冠を…と、思ったのですが…」

 

「私たちの力が足りなかったっぽい~…」

 

「そうだね…ボクらの練度がもっと高かったら、ね…」

 

大和の呟きに時雨と夕立が項垂れ気味になって反省を示す。

 

それに反発したのが、他の面子だった。

 

「そんなことないのじゃ。

他の鎮守府ではカッコカリで限界を突破した駆逐艦でも、大破するときは大破しておる」

 

「利根姉さんの言う通りです。

提督も仰った通り、相手もこちらを狙い、避けようとするものですから…」

 

利根姉妹が特に項垂れている時雨・夕立の背を撫でて宥める。

 

ルパンは大破撤退をしても、彼女たちを責めることはしなかった。

ルパンは怪盗稼業の中で、相手が防犯などの対策を練っていたのが当然だった。

勿論、その最たるものが銭形幸一ではあったが。

 

ルパンと言えど、必ずその相手を出し抜いたわけではない。

有名なのは駆け出し時代のカリオストロ公国での失敗だろう。

 

そのため、大破した艦娘を責めずに『敵もさるもの引っ掻くもの』と笑ったのだった。

ちなみにいつもの発着艦場で出迎えた次元は『恐れ入り谷の鬼子母神』と示し合わせたわけでもなく言ったのは長い付き合いだからだろうか。

 

「…しかし、アレはないわよねー…」

 

焼酎をロックグラスで飲んでいた陸奥はグラスを傾け、鳴らしながら唇を尖らせる。

その言葉に思い当たるものがあったのか、全員が黙り込んでしまう。

 

 

 

全員が脳裏に浮かんだのが、捷四号作戦の最終日だった。

 

ルパンの考えは独特な大規模作戦の攻略法を提示した。

先日もルパンが口にしたように、今回の作戦の攻略は絶対とは思っていなかった。

 

知っての通り、ルパン鎮守府は立ち上がってから間もない。

武蔵達の加入により、特化した戦力はいるものの全体的な練度は低い。

 

そのため、ルパンが第一目標に掲げたのは『戦力拡充』だった。

それは、レア艦ドロップでもあり、甲作戦の報酬でもあった。

 

E1はルパンの読み通りに駆逐艦や軽巡が必死の思いの開発が実って、充実した対潜装備のおかげで甲クリア。

報酬の16inch三連装砲mk.7は大きさの関係で、大和型姉妹の専用とされた。

 

ここの攻略の最中で大淀の艤装ドロップ。

さらには春雨、清霜、瑞穂、酒匂、海風といったレア艦を通称『掘った』。

 

数日かけて駆逐艦勢のレベリングを兼ねて存分に掘った後に、E2へと移行。

 

E2作戦に関しては、次元・五右衛門との三者の話し合いで割れたものの、レア艦のドロップ率もあり、やはり甲作戦を選択。

 

ここの攻略でかなり手間取った成果が、冒頭の「礼号作戦」組の改二である。

 

やはり甲作戦の難度もあり、通称『ゲージ削り』の時でかなりの時間を費やした。

何回も道中での途中撤退もあった。

それでも鎮守府のメンバーは決して諦めも、またダレることもなかった。

 

幸いだったのはその間に俗に言うレアドロップは手に入れた事だった。

 

おかげで必死に遠征部隊がこれまでにかき集めた資材もまだ余裕があり、また時間も僅かながらあった。

ルパンは主だった艦娘を集め、意見を集めた結果、温存していた武蔵たちには一切の疲労がなかった上に鎮守府随一の練度である。

出来る限りのチャレンジをすることになった。

 

そしてレベリングを兼ねた輸送作戦は終了とともに、沖波・風雲のドロップ。

これはいける、と歓喜に鎮守府は沸くとともに武蔵たちの出番であった。

 

しかし、そこまで大規模作戦は甘くはなかった。

先ほどに上げた大和型・長門型による資材の溶解。

そして、戦艦棲姫による道中、及びボス戦の強力な妨害。

ボスの頑健さ、強大な火力。

 

流石の武蔵たちも苦戦を強いられた。

 

そして5回目の撤退をした後、ルパンは時間を見た。

そのまま、バケツを使用した上での再出撃を命じた。

 

 

疲労が抜けた後の出撃、道中を小破のみで切り抜けて最深部、ボス戦へと武蔵達は海を駆けた。

そして、旗艦の千代田が海を疾走しながら全員に大きな声で告げる。

 

「道中撤退を避けるための旗艦だってわかってるけど、旗艦として言わせてもらうわ!!」

 

気迫のこもった千代田の声に全員が黙ったまま、艦隊の編成を乱さぬままに耳を傾ける。

言う通り、千代田は武蔵たちに比べれば練度も低ければ、経験も浅い。

しかし、それを侮る者はいなかった。

 

彼女と千歳が必死に食らいついて、この海域制覇に努力しているのを知っているから。

 

「細かい数字は知らないけど、資材ももうそろそろカツカツ!

そして制限時間もそうないわ!しかも、今回は運よく中破すらいない!!

まさに千載一遇の好機よ!」

 

距離が近づいてきたのを察知して索敵機を飛ばしながら、声を掠れさせながら叫ぶ。

その先には海域のボスがいる時に現れる、暗雲が立ち込めた海域があった。

 

「これは甲作戦。でも、それが何!?

私たちの力、提督に、そして分からず屋の大本営に!

私たちをバカにする世の中に!!思い知らせてやりましょうッ!!!」

 

「「「「「「「「「「応ッ!!!」」」」」」」」」」

 

その場にいた全員の気持ちは一つだった。

そして、支援艦隊も。

 

「皆、今回は私たちの出番はなかったけれど…私たちのこれまでの鍛錬の成果、見せてあげましょう?」

 

どこかおっとりした穏やかな、しかし、決意のこもった声で静かに目の前の五人に扶桑は告げた。

 

その場にいたのは、決戦支援艦隊。

扶桑、山城、隼鷹、飛鷹、嵐、夕雲。

 

全員が気迫満ちた瞳をしていた。

 

「ハッ…別に、アタシ達が轟沈(しず)めてしまっても構わないんだろう?」

 

「バカ言ってるんじゃないの、一回こっきりの空爆で轟沈(しず)められるわけないでしょうが」

 

載せれるだけ載せた彗星一二型甲、流星改を次々に発艦(とば)しながらそんな掛け合いをする。

しかし、その艦載機に乗った妖精達は二人の気持ちはわかっていた。

 

可能な限りヤる。

 

そこには妥協も油断もなく、ただ本気(殺る気)の目だった。

 

「そうよ、そんな無茶して当てられませんでした、なんて事言うんじゃないわよ?」

 

二人の掛け合いにツッコミを入れる山城。

扶桑とお揃いの46cm三連装砲二門、そして32号対水上電探二つで真剣に照準を合わせていた。

 

その次の瞬間、嵐が声を挙げる。

 

「第一艦隊、千代田から!予想位置より北に20、東に3の位置に敵艦隊は配備!!」

 

その耳元には小型片耳用の、ブルトゥースイヤホンのような無線機が装備されていた。

これもルパン特製の従来品を改良し、伝達距離などを強化された装備である。

 

嵐が告げた位置に全員が照準を合わせるとともに、先に飛び立った艦載機達はその砲弾の花道を開ける。

 

「山城、いくわよ?援護砲撃、始めェッ!!!」

 

飛鷹・隼鷹の目配せとともに艦載機が砲弾の着弾とほぼ同時に攻撃を仕掛けれるタイミングを計って、扶桑姉妹の砲撃が空を裂く。

勿論、嵐・夕雲は魚雷をタイミングが合うように飛ばしている。

 

「さ…あとは任せたわよ?」

 

夕雲は目を細めてその先を見据えると、小さく頷いて帰港への途に就いた。

 

 

 

 

一方、第一艦隊。

 

「ッ!来たわ!!支援攻撃、着弾に合わせて開始するわよ!!」

 

敵艦隊が目視できるようになってくるとほぼ同時に違う方角から砲弾の空気を引き裂く音が聞こえた。

それを横目で見るとともに、千代田は全員に呼びかけながら自分と千歳の艦載機を飛ばす。

 

わずかな時間とともに、敵艦隊も顔をそちらに上げるが、もう支援艦隊の砲撃を避ける時間はなかった。

 

「クッ、流石ね!!でも、敵駆逐艦二艦、轟沈確認!

空母棲鬼、戦艦棲姫損傷軽微!」

 

千歳が僅かに眉を寄せながら告げる。

それとともに千歳・千代田の艦攻・艦爆が攻撃を仕掛けるが、敵も当然察知していた。

慌てて空母棲鬼も艦載機を繰り出すと、艦載機がつぶし合うとともに、千代田に爆弾が迫る。

 

「千代田ッ!!」

 

「お姉ェッ!?」

 

それに割って入ったのは千歳だった。

その爆撃をかばったために千歳は中破、甲板はボロボロになり発着艦が不可能となる。

 

「私の艦載機はほぼ全滅、千代田が残りは引き取って…!」

 

「千歳さん、後は我々に任せて回避行動を!」

 

大和の言葉に頷くとともに艦隊の後尾に千歳が回る。

その間に、北上・大井のハイパーズによる先制雷撃が戦艦棲姫によって受け止められる。

阿武隈はまだ改二になっていないため、雷撃はできていない。

 

「…戦艦棲姫が一艦中破っぽい!残り、四艦…素敵なパーティしましょ!!」

 

夕立の勇ましい掛け声にニヤリと長門が笑い、砲門を敵艦隊に向ける。

 

「さぁ、大和型とビッグセブンの力、見せてやr」

 

「待ぁて待て待てぇ~~~!!!」

 

さあ、戦艦同士の殴り合いの開始だ、と言わんばかりに気合の籠った長門の声にどこかひょうきんな、明るい声と甲高いモーター音が海を引き裂いた。

 

「ッ!?てッ、提督よッ!?」

 

陸奥がつい敵艦隊から目を切って、声の聞こえた方向を向くと半ばウィリーになりながら海原を突っ切るパワーボートが超高速で走って来た。

その甲高いモーター音は戦艦勢のトラウマを呼び起こすのには十分だった。

 

が、味方とならばこれほど心強いものはない。

 

敵艦隊が予想外の支援艦隊(?)に困惑する間にエンジン出力を落として、ウィリー状態から復帰。

すると、敵艦隊の目の前でルパンがハンドルを大げさなほどに回してほぼ90度と言っていい急カーブとともに大きな水飛沫が幕と化す。

助手席にいた次元が、ニヤリと笑って両肩にロケットランチャーを担いで水幕の向こうに放つ。

 

「コイツは、特別製だぜ!!」

 

次元が放った弾頭は水幕を突き破ると真っすぐに空母棲鬼へと進むと、ほぼ無傷だった空母棲鬼に直撃する。

 

「チッ!!硬ェなぁ、やっぱりよォ!!」

 

「無茶言うんじゃねぇよ!!流石の俺様でも戦艦一発で沈める砲弾なんか、そうそう作れるわけねぇだろ!」

 

次元の呟きにルパンが噛みつきながらも忙しなくパワーボートを操作しながら再びボートをターンさせる。

敵艦隊は爆煙が晴れた先の空母棲鬼が中破しているのを見て、慌てて速射性に長ける機銃で掃射するが…ルパンの操船の方が一枚上手だった。

 

「甘ェッ!そんな慌ててばら撒いた弾に当たるかよぉっ!」

 

ニヤリと笑いながら船を操作するとともに、中破した戦艦棲姫へと真っすぐ向かう。

それとともに後部座席に座り込んでいた五右衛門がふわりと浮くように飛ぶと、舳先へと立つ。

 

「またつまらぬ…いや、違うな。

これも戦の倣い…往生せいッ!ゼァッ!!!」

 

五右衛門が斬りやすいように、そして離脱に向けて最適なルートにパワーボートを疾走(はし)らせるルパン。

そして、思うところがあってか、言い直すとともに愛刀斬鉄剣を一閃させる。

 

その戦艦棲姫は理解できないといった驚愕の表情を張り付けたまま、自らの胴を見ていた。

ルパンが駆け抜けたその後、その艤装の巨腕に深い赤い線が。

その胴体にも同様の線が走り、その線の延長線上の肩口の砲塔が海に落ちる。

それと同時に彼女は一気に力が抜けたように海に崩れ落ち、そのまま深く昏い海へと沈んでいった。

 

五右衛門の抜き打ちの逆袈裟により、中破状態であった戦艦棲姫は海へと還ったのだった。

 

『よぉ、オメェら。後は任せたぜぇ…俺たちゃトンズラこかせてもらうからよ!!』

 

楽し気に笑う声が無線で入ると、何とも言えない感情がよぎりながらも第一艦隊の12人は攻撃準備に入るのだった。

 

 

 

それぞれほんの僅かな間でその最終決戦を思い出していたが、陸奥が芋焼酎の独特の香りの混じった吐息とともに告げた言葉が全てだった。

 

「もう、ルパンだけでよくね?」

 

あまりといえば、あまりな発言だがわからなくもない。

それが全員の心境だったが、責任感から大和が口を開く。

 

「ま…まぁ、口調等ツッコミどころはありますが…。

あの装備やパワーボートは海域を突っ切ったりと無茶をしているため、そうそう出せる支援ではないそうですし。

実際、龍田さんから聞きましたが我々の連合艦隊を一回出撃させるのとほぼ同じ資材を買えるほどの費用がかかるそうですから。」

 

「そ、そうだぞ、陸奥よ。

実際に空母棲鬼も沈めきれなかったし、あの三人で艦隊を相手取るのは無茶だ。

そして、実際にあの艦隊を撃破しきったのは我々だしな。」

 

大和にかぶせるように長門も援護の声をあげるが、陸奥はロックの芋焼酎『赤兎馬』を一気に煽る。

 

「…でも、あの三人なら何とかしそうじゃない?」

 

その場にいた誰も、返答を返せなかったのだった。




色々遅れた理由はあるのですが、そちらは活動報告の方で。


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16-1.ルパン鎮守府は練度を上げるようです

前回の流れからの投稿になります。

ある意味、我々提督の日常回、と言ってもいいでしょう。
ちょっとした、伏線の回収回とも言えますが。


さて、先日の打ち上げである意味落ち込んだ艦娘一同であったが。

生き死にと常に隣り合わせている彼女たちはタフだった。

 

『今の私たちの力が足りないなら、もっと強くなればいいじゃない』

 

実にシンプルな結論へと至ったのだった。

 

 

 

「はーい、では来週までのスケジュールを配布するので確認してねー?」

 

執務室詰めの筆頭である龍田が、食堂の先頭に立って書類を配っていた。

食堂には現在鎮守府にいる艦娘が全員揃ってテーブルにつき、それぞれが筆記具とノートや手帳を開いていた。

 

その筆記具や手帳も千差万別だった。

可愛らしいキャラものや、逆に無骨な実用性重視のビジネスモデルなど。

 

それぞれがそれぞれで龍田から配られた表を見て、手帳に直に書き込んでいる。

 

龍田が配ったのは、これから一週間の鎮守府の出撃及び遠征のタイムスケジュールである。

 

基本的に遠征は『遠征組』とそのままのネーミングで遠征専門の艦娘と、特に所属を決めていない艦娘で賄われる。

その逆に『出撃組』と言われる艦娘は特に大型艦(正規空母・戦艦)といった、遠征をしない艦娘達である。

 

改二実装された駆逐艦などは『出撃組』に基本的に属する。

しかし、改二実装されていなくとも希望すれば『出撃組』にも属するし、あまり戦闘を好まない艦娘達は『遠征組』にも所属できる。

 

あくまで、個人の意思に任せているのがルパン鎮守府のやり方だった。

 

 

「先週の希望書を見て配分は決めたわー。また来週出撃、遠征に多めに入りたい子は希望書を執務室へ提出してねー」

 

龍田は差配に問題ないかをチェックさせながらも全員に確かめるように言う。

ルパン鎮守府は出撃なども希望制を優先させている。

『希望書』とは大まかにどれくらい出撃、遠征に出たいか、もしくは出たくないかの希望を提出させるのである。

 

 

 

 

これの始まりは球磨だった。

 

春前のある昼下がり、唐突に球磨が執務室にやって来たのだった。

 

「提督、ちょっとお願いがあるクマ」

 

「ァン?どったの?」

 

呑気な、とも、無防備なとも言える、穏やかな様子でいきなりやって来たことに、ルパンは怪訝そうな顔をする。

それをスルーしつつも、少し申し訳なさそうに口を開く。

 

「出来れば、来週は球磨と多摩と木曾は出来るだけ出撃とかはさせないで欲しいクマー」

 

「…体調とか、悪いのか?」

 

ルパンの脳裏を走ったのは、女性特有の一定周期による体調不良のアレである。

流石に『お前ら、あるの?』とは聞けないので、ボカした言い方であるし、突っ込んで聞くにも聞けない。

 

だが、球磨は首を横に振る。

 

「健康そのものクマ。大規模作戦の間、畑の手入れがあまりできなくて雑草で酷いことになってたクマ。

だから手入れをする時間が欲しいけど、一人じゃ大変だし、飽きるクマ」

 

「あー…だから姉妹で一緒にーってことか?」

 

ルパンの言葉にこっくりと首を縦に振る。

 

ルパンは煙草に火をつけ、椅子の背もたれに深く体重をかけて天井を睨む。

 

 

(どうしたもんかねぇ…給料の兼ね合いもあるしなぁ…)

 

 

最近の懸念案にも絡むことであった。

 

大規模作戦時はいいのだが、普段の出撃で大和型・長門型の使いどころには困る。

低速戦艦でもあり、また消費資材も多い。

つまりイベントやEX海域でもないと使いづらい。

 

だからといって給料を出さないのは可哀想である。

幸いなことに彼女たちは鎮守府の警備や艦娘達の指導等にも当たってくれているので、働いていないわけではない。

 

だが、やはり命の危険のある出撃や、安全なルートを通るとはいえ同じように外海に出ている遠征組と同等に扱うのはいかがだろうか。

 

これがルパン達の懸念だった。

 

そこに、執務室詰め専門ではないが、経理を主に扱っている高雄から声がかかった。

 

「あの、提督。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「ああ、何かいい案でもある?」

 

「細かい事は…こちらの提案書をご覧下さい」

 

そう言って差し出されたのは『艦娘給与案』とタイトルを打たれた複数枚の書類であった。

その表紙には、龍田を初めとした複数人の執務室詰めの艦娘の承認印が捺されてあった。

さらには、次元と五右衛門の印鑑まである。

 

「…色々ツッコミ所はあるけど、まぁいいや…」

 

全てについて報告をしろとまで言うつもりはないが、ここまで周到な根回しをされていると苦笑しか出ない。

そのまま書類に目を通して少しだけ考え込んだ。

 

内容的には大まかにまとめると…。

 

『最低限の基本給を設定するが、現状の給与と比べて半額程度』

『出撃・遠征・鎮守府運営に伴う業務に携わった毎に手当を発生させる』

『平均的な業務をこなす艦娘で従来の給与よりも増える計算』

『休みたい艦娘は希望を提出することで完全休養日を設定できる』

『また、半休なども設定可能』

 

というシステムである。

 

数十秒程度の思考の後に、ルパンは球磨の隣に立っている高雄に頷く。

 

「いいんじゃねぇの?これを周知させた上で、運営上の問題点が出たら報告。

そして改善案とかがそっちで準備できるならそれも挙げてちょーだいなっと」

 

そう軽く言うと、ルパンの承認印を表紙の紙に捺してから渡す。

不安があったのか、高雄は嬉しそうに顔を綻ばせて書類を受け取る。

 

その様子を窺っていた他の執務室詰めの艦娘は喜びを必死に噛み殺そうとするが、それでも漏れていた。

利根に至っては立ち上がった上でのコロンビア状態だった。

 

「あーそっか、お前らも圧倒的に給与アップ見込めるよなぁ。

朝から晩まで執務室で働いてるし」

 

その原因に思い当たってルパンは苦笑する。

 

「じゃ、球磨。

早速だが、妹たちと一緒に休みの希望書を提出してくれりゃいいや。

ただ人手の関係とかで無理な時は融通してくれ」

 

「了解クマー!!」

 

話の流れ的に認められそうとはいえ、それでも不安そうだった球磨はピコンッ!とアホ毛を真っすぐ天に伸ばしながら喜色満面で執務室を後にするのだった。

そこに苦笑気味にやって来たのが筑摩だった。

 

「私たちは確かに給与アップも嬉しいんですが…。

一番嬉しいのが、自分達の給与評価の基準が出来た事なんですよ?」

 

「あん?」

 

「私たち執務室詰めの給与査定、って自分で自分の給料を決めるわけで…。

他の業務と比べた場合、不満とかも出ないとは限らないじゃないですか?」

 

筑摩の言葉に少し首を傾げながらもなるほどねとルパンは頷く。

 

「そうか、自分達に甘いんじゃないか、って言われないように今回の明確な基準の査定、ってわけか」

 

「今は給与額に関しては言われてないけど~…楽そう、って思われてそうなのよね~」

 

ルパンの隣の席の龍田が苦笑する。

 

誰しもだろうが、やはり『不公平』というものには反感を抱くものである。

それの是正措置を事前に打てた、ということなのだろう。

 

その龍田の方を見て、ニヤリとルパンは笑う。

 

「…で、周りの反応はどんな感じ?」

 

「あら~?なんで私に聞くのかしら~?」

 

何を言っているのかわからないとばかりに小首を傾げる龍田。

しかし、ルパンも龍田も笑っていた。

 

「承認印まで押して俺に回させたんだ。

反応や財源の確保から、全部根回ししてんだろうな?」

 

「うふふ~そこまで見込まれちゃ仕方ないわね~。

ちゃんと確認済み~混乱無く受け入れられると思うし、むしろ休みがとりやすくて喜ばれると思うわ~」

 

「財源は?」

 

「海産物加工業の方はスムーズな走り出し、特に余り気味な鉄鋼も上手く流してるし、コントロール出来てるから大丈夫よ~」

 

そのおっとりした口調での報告に満足したのか、小さく頷いてから新たな書類へと顔を向けるのだった。

 

 

 

 

さて、食堂に戻る。

その食堂で多くは喜色で溢れていたが、一部の艦娘が死にそうな顔をしていた。

 

「oh……また、ガッツリ詰まってるネー…」

 

「お姉様、榛名は…榛名は大丈夫ですから、キツい時は代わります…」

 

「ヒエー…ひえぇぇぇぇ…」

 

「戦況分析的には…仕方ない、デスネ…」

 

金剛型である。

 

大和型・長門型とは違い、ルパン鎮守府の金剛型は海域でルパン鎮守府の艦娘が見つけてきた『ドロップ』した艦娘である。

そのため。

 

当然ながら練度(レベル)は1であり、実際に動きもまだまだ劣っている。

 

しかし、近日に近づいた通称『春イベ』こと大規模作戦での出撃が予想される高速戦艦の金剛型は緊急での育成が必要とされた。

大和・長門・鳳翔の間で。

 

そして、同様に死にそうな顔なのは金剛型だけでない。

 

「お姉ェ…もう、ゴールしてもいいかな…?」

 

「瑞鶴……私が先にゴールしたいわ…」

 

「多門丸ぅ…助けて、多門丸ゥ…」

 

「やだぁ……色々と、はみ出そう………疲労とか、魂とか…」

 

一つの長机に座っていた真っ白な灰に燃え尽きかけている五航戦姉妹、そして二航戦姉妹である。

この四人も練度1での『ドロップ』艦。

それを鼻で笑うのが、一航戦である。

 

「皆さん。苦しいかもしれませんが、皆のため、そして我々の未来の力のため頑張りましょう?」

 

赤城は流石に疲労の色は見せながらも、普段通りと言ってもいい状態だった。

以前のホワイトすぎる逃亡提督の時代にある程度の練度を積んでいたせいか、まだ何とか余力はあるようである。

 

しかし、コンビニで買いこんだらしいチョコなどを口に運び、カロリーを摂取しつつである。

結構追い込まれているのかもしれない。

 

「…それでも私たちの後の一航戦の名を継いだの?

だらしがないわね?」

 

辛辣な、冷たい言葉を吐くのは赤城の相棒でもある加賀。

他の正規空母たちと違って、一航戦の矜持と気迫で耐えているのかもしれない。

 

「……そんな机に突っ伏しながら言われてもね…」

 

配られたスケジュールを見て、加賀は書き写す余裕もなく、ただ机に突っ伏していた。

一航戦の威厳もへったくれもなかった。

心なしか、彼女のサイドテールも萎れてしまっている。

 

しかし、その場に居合わせたグラーフは何も言っていない。

心が折れた声も漏らしていないので、のろのろとその場にいた五人が隣のテーブルのグラーフが顔を強張らせていた。

 

そのグラーフの隣には鬼……否、鳳翔と龍驤がいた。

 

「ほほぉ、キミら…そんなヌルいことでこれからやってけるん?」

 

「まさか、これくらいの『鍛錬』で泣き言は言いませんよね?」

 

元祖一航戦と言われれば、有名なのは赤城と加賀だが、厳密には鳳翔と遅れて竣工に伴って龍驤が編入されている。

その中で艦娘になって一番練度が高かったのは、鳳翔。

それに次ぐのが龍驤だった。

 

「ウチらもなぁ…アンタらほど艦載機が詰めるんやったらバリバリ喜んで出撃するんやけどなぁ…」

 

「我々は所詮は軽空母。

大規模作戦などの決戦戦力としては不足です…貴女達が制空権を取らずして誰が取ると言うのですか?」

 

どこかしんみりとした口調にくたびれた様子の正規空母達が顔を上げる。

その二人の顔には何とも言えない悔しさがにじみ出ていた。

 

「…お二人、とも…」

 

「わかり、ました!やります、二航戦の力、見せてやります!!」

 

その悔しさに感化されたのか、飛龍が拳を握って力強く宣言する。

すると、鳳翔は穏やかな微笑を向けるとともに懐から何枚もある紙を取り出した。

 

「なら、皆さんのこの休暇の『希望書』は破り捨てますね?」

 

「「「「「「アアアアアアアアアア!!」」」」」」

 

「チョロいなぁ、ホンマ、チョロいなぁ…」

 

黒い笑みを浮かべる、軽空母の二人であった。

 

 

また、同じようにくたびれ果てた顔をしていたのが、改二実装済みの駆逐艦だった。

例外で雪風も入っていたが。

 

「またドラム缶ガン積みっぽい~」

 

「…信じよう、改二になったら、解放されるって…」

 

「で、でもっ!かなりお給料が凄いことになってるよ?

先月の倍以上、下手すれば三倍に行くって!」

 

しかし吹雪の言葉に目をギラリと輝かせるのだった。

 

「ほ、本当なのかい!?」

 

「あの、伝説の羽毛布団も買えちゃうにゃしぃ!?」

 

「ペ、ペンタブも余裕すぎぃっ!?」

 

駆逐艦がざわめく。

リアルすぎる動機である。

 

故に燃えていた。

 

 

駆逐艦と正規空母、高速戦艦勢の違いは『対象数の多寡』と『仕事の重さ』である。

 

察しのいい提督達はルパン鎮守府のレベリングの方法はわかっただろう。

『東京急行』、別名『5-4レベリング』である。

 

駆逐艦たちは戦力として数えられず、ただ極力被弾を避けつつ、ドラム缶三つ積むだけである。

正規空母は必死で敵の航空機を落とし、爆撃で沈める。

高速戦艦はその速度で突っ走りながら、相手の戦艦などを殴り沈める。

 

なんだかんだ言ってノリノリで『1・2(ワン・ツー)』で殴り沈める高速戦艦もいるし、やりがいはあるのだが。

いかんせん、頻度がシャレにならない。

 

現在、鎮守府にいる正規空母は七艦(一航戦・二航戦・五航戦・グラーフ)、高速戦艦は金剛型の四艦しかいない。

ローテーションで回るとしても、特に金剛型は過労の極みだった。

 

なんせ、金剛が。

 

「紅茶なんか飲んでももうどうしようもないネー!!

栄養ドリンクとレッド●ルとライ●ンとサム●イ、モンス●ー、ロッ●スター買い占めて持って来いネー!!!」

 

とか言い出す始末。

龍田は笑顔で経費で落として、実際に差し入れて出撃させたが。

 

おかげで、四姉妹ともに改二が目前であった。

 

 

そんなこんなで各艦娘の強化は突き進められていた。

ルパンや次元の関与しないところで。

 

なんと言っても各艦娘の共通の次回大規模作戦の課題は。

 

『提督達に出撃させない』

 

という涙ぐましいものであるから。

 

 

 

その頃、ルパンは二人の男と顔を合わせていた。

 

ルパンだけではなく、次元、五右衛門、そして龍田の四人と二人の男。

二人はどうにもチグハグな二人組だった。

 

一人の男はスーツにオールバックのような髪型だが、雰囲気が異様過ぎた。

どうにも、不吉な男だった。

 

「今回の件の報酬です」

 

龍田がコーヒーやお茶を全員に出した後、すっと薄い封筒を男に差し出す。

その中身は小切手で、その金額を見て男は訝し気に目を細める。

 

「随分と…額が多いようだが?」

 

「ま、気にすんなよ。思ったよりも盛況でこっちにも予想以上の収入があったもんでねぇ。

その分を上乗せしといただけさ」

 

ルパンが笑いながら肩を竦めるが、男は警戒を解くことはなかった。

しかし、封筒を懐へと収めた。

 

「俺の教訓でな…人を見たら詐欺師と思え、と言うのがあってなぁ」

 

「そりゃ自分を見ての感想だろう」

 

「かもしれないなぁ」

 

次元が皮肉を言ってニヤリと笑うが、男は低いトーンで言う。

それが気に食わないのか、斬鉄剣を抱いて目を閉じていた五右衛門が片目を開いて男を睨む。

 

「随分と元気が…いや、怖いねえ。何かいいことでもあったのかい?」

 

スーツの男の隣の軽そうな男が肩を竦めて言った。

それをルパンが面白そうに笑う。

 

「ああ、あったさ。

一癖も二癖もありそうな詐欺師が胡散臭い正体不明の男を連れて、警備をかいくぐってアポを取って来た。

こりゃ、何か面白そうな何かがありそうじゃねぇか?」

 

軽そうな男を一瞥する。

サイケデリックなアロハシャツに、大きな十字架のネックレスにピアス。

手には指開きのグローブ、煙草を咥えた軽薄そうな金髪の中年男。

 

スーツでも着たら逆に胡散臭さが増しそうな、そんな男だった。

ルパンも次元も五右衛門も警戒を解いていない。

 

それを見かねてか、ルパンの斜め後ろに立って控えていた龍田がスーツ男に問いかけた。

 

「貝木さん…お隣のお客様はどちら様でしょうか~?

お連れ様がいらっしゃるとはお聞きしましたが~」

 

「改めて、自己紹介もしておこうか。

そちらの二人とは初対面だからなぁ…俺は貝木、貝塚の貝に枯れ木の木だ」

 

この貝木がルパン鎮守府にやってきたのは先日の事だった。

その貝木がルパンと龍田に面談を申し入れて、提案したのが一連の艦娘とのコラボ企画を打ち上げたのだった。

 

それを聞いたルパンと龍田はその場で快諾。

しっかりと貝木はルパン鎮守府にデメリットのない企画を練り上げていた。

 

そして、貝木は企画を外の企業にも出して、仲介役を果たしたのだった。

 

「そして、こっちが忍野メメだ。

俺が詐欺師としたら、コイツは心霊とでも言うかな…『怪異』というものの専門家だ」

 

「その心は、どちらも胡散臭い、な」

 

五右衛門がその説明に鼻で笑う。

どうも五右衛門は貝木が気に食わないのか、警戒を解きはしない。

 

「ま、仕方ないなあ…この世界じゃ、『怪異』はあまりないからねぇ…」

 

「その『怪異』ってのはなんなんだ?」

 

苦笑する忍野にルパンが気にせずに問いかける。

 

「ま、僕の友達の言葉を借りれば、『世界そのもの』かなぁ…。

例えば、吸血鬼、化け猫とかのように、人の信仰・畏怖・噂などから生まれる存在さ」

 

「へぇ…俺も心当たりがなくはないな」

 

ルパンの数多くの経験から納得したように静かに頷く。

 

「で、その専門家様が何のご用だい?」

 

「実はね、僕らやルパン提督達がココにいるのが一種の怪異だから、かな」

 

ギシッと音を立てて、仕立てのいいソファーに身を預けながら静かに忍野が語る。

それにピクッと反応を示して次元が忍野を見る。

 

「そんなに警戒しないでくれないかな?早撃ち0.3秒のガンマンさん」

 

「ほぉ、俺の事を知ってるのか?」

 

「ああ、よく知ってるさ…ずっと見てたからね、アニメで」

 

苦笑気味に忍野が言うが、その瞳は興味深そうに輝いていた。

その輝きに気圧されたのか、発言に気圧されたのかはわからないが、次元は少し身を起こす。

 

「そうだ、俺たちはお前たち、ルパン一味をアニメで見たことがある。

虚構の人物、としてな」

 

「そして、他にもこの世界にやってきた『虚構の作品の人物』と面識があるのさ」

 

あまりにも突拍子もない言葉に目をパチクリとさせる、ルパン。

しかし、その頭脳はフル回転していた。

 

「…つまり、俺たちは虚構の世界からこの世界に呼び寄せられた、ってことか?」

 

「それは、わからないな。それこそ神の視点で全てを見透かせるわけじゃないからな」

 

貝木は首を横に振って否定する。

 

「僕らももしかしたら虚構の世界の登場人物として扱われているのかもしれない。

だが、僕らは二つの記憶があるんだ。

この世界で生きてきた、一般人の記憶。

そして、『怪異』の色濃く存在する世界で生きていた記憶。

それが混ざり合ったのが、深海棲艦の襲撃によって命を失いかけたとき」

 

「…他にもそういう事例はあるみたいだな、多くの提督達に。

で、どう結論付けたんだ?」

 

忍野の言葉に頷ける要素があるのか、ある程度の同意を示すがその先を促す。

 

「誰も空を見上げない時代には、空に穴が開く時がある。

何故なら空も自分を見てほしいからだ。

自分を見てもらうために、とりあえず世直しから始めるのだ」

 

急な忍野の言葉に怪訝そうにするルパン鎮守府の四人。

しかし、忍野は気にも留めずに言葉を紡ぐ。

 

「これは、古い、どこにでもある、そんな伝承さ。

しかし、これもまた言い伝えられた真実を含んだものだと、僕は思っているんだ。

『世界』には意思がある、とね」

 

「…チッ、頭がおかしくなりそうな、イカれた話だな」

 

次元は付き合っていられないとばかりに首を横に振って、コーヒーに口をつける。

貝木は口を開かずに次元同様にコーヒーを口に運んで、忍野に任せる様子を見せた。

 

「深海棲艦に対する艦娘を生み出すように、『世界』はどちらか一方にだけ力を貸すような事はしないみたいでね。

多分、何かに対抗するために、僕らのような存在を外から呼んだんじゃないかというのが僕の結論さ」

 

そこまで聞いてルパンはおかしくてたまらないとばかりに肩を震わせて笑う。

 

「おいおい、俺たちが世界を救う『ヒーロー』だってのか?

そんなタマじゃねぇぞ?」

 

「それは俺たちも、だな。

俺はその『世界』にとって、ある意味『箱庭』みたいなものじゃないか、と睨んでいる」

 

その笑いに対して、静かに頷いた貝木が同意しつつ、違う見解を述べる。

反応を待たずに、貝木は言葉を続ける。

 

「ある意味、『世界』、『神』と言い換えてもいいかもしれないが…ほどほどに双方に肩入れしつつ、観察をしてるんじゃないかと思っている」

 

「つまり?」

 

「なんの強制も依頼もない、ただ俺たちはこの世界で生きている。

だから、俺なりに生きていくだけ、ということだ。

あくまで、この男の推察が正しいとしても、な」

 

「そう、人は一人で勝手に助かるだけさ。

それは世界も一緒さ…ただ、僕のやりたいようにやるさ」

 

二人の言葉を聞いて納得したのか、ルパンは小さく数回頷く。

 

「その推察が正しかろうと間違っていようと俺たちのやることは変わらねぇな」

 

「だろうね、それでいいと思うよ。

ただね、僕は僕の信念で艦娘に力を貸そうと思うんだ」

 

「俺はな、この世は金が全てだと思っている。

儲かるためには、どうすればいいか。

実に、簡単だ…勝ち馬に乗ればいい、だから、協力をしよう。

当然、うまみがあるなら、な」

 

忍野は軽薄そうな薄い笑みを浮かべながら煙草に火をつけ、それを一瞥して眉をひそめながら貝木も不吉な、胡散臭い笑みとともに宣言する。

それを聞いたルパンは苦笑する。

 

「忍野とやらはさておき、何をもって勝ち馬と判断したのかはわからんが貝木はわかりやすいな。

ただ、裏切る時は、覚悟しておけよ?」

 

「そりゃあ、怖いな…俺はお前たちと違って闘う力などないからなぁ。

ま、お前の敵より金を出せば俺は裏切らないさ、金が全てだからなぁ…」

 

ルパンの脅しにどこか思うところがあるような苦笑を浮かべると、静かに頷いた。

 

「で、お前らはどういう協力をしてくれるわけ?」

 

「僕はね、色んな情報を集めるさ。

民間人だから警戒されずに外から色々な情報が手に入るからねぇ」

 

「俺は、商売だなあ…色々、外の第三者の企業を噛ました方がいい事なんて、いくらでもあるだろう?」

 

「ふ~ん…なら、私とのお付き合いが長くなるかもね~」

 

そのやりとりに頷くと、ルパンは立ち上がって手を差し出した。

 

「完全にはまだ信用はできねぇが、お互い上手くやっていこうじゃねぇの」

 

「よろしく」

 

「あぁ、美味い話をよろしく頼むぞ」

 

そうして、アンバランスな二人組は静かに応接室を後にした。

そのまま軍施設の警備をかいくぐって、誰にもバレることなく消えていった。

 

「で、どこまで信じる?」

 

「参考意見程度、って感じかね」

 

ルパンは外を見ながら煙草に火をつける。

その背中に五右衛門が問いかけて、安心したように頷く。

 

「あのような与太話、本気で信じたかと思ったぞ」

 

「だが、一応それなりには筋が通ったストーリーで、思い当たる節もある」

 

次元は忍野達の話に相応の説得力を感じたのか、一概に否定は出来ないと口にする。

しかし、ルパンは厳しい表情のまま、三人に向き合う。

 

「それにいくらでもこんな与太話めいた(こた)ァいくらでもあったしな。

ただ、何をしてもいいっていうならこっちの勝手にするさ」

 

「つまりこれまでと変わらぬ、ということだな」

 

「ま、そーなるわな…ただ、アイツらが持ち込む情報や利益はきっちり目を通して判断する必要がありそうだが、な。

軽く鳳翔の所で飲んで寝るかー、お前らもどう?」

 

紫煙を空に吐き出した後、煙草を灰皿に揉み消すとその場で伸びをしてから三人を誘う。

しかし、次元と五右衛門は顔を見合わせてから首を横に振った。

 

(おら)ァ、明日が早いんで寝るぜ」

 

「同じく…馬に蹴られたくはないものでな」

 

そうとだけ言うと、二人はそそくさと応接室を後にする。

それに困惑するのはルパンだった。

 

「っ、おいおい…付き合い(わり)ィなぁ…」

 

「私はお付き合いするわよ~?」

 

そう笑顔で言うと、そっとルパンの腕を取って抱える。

 

「い、いやぁ、流石に二人っきりってのもどうかと思っちゃうんだけど?」

 

「…私じゃ…ダメ?」

 

鳳翔の店となると、どうしても他の艦娘の目があることを考えてルパンはそれとなく避けようとするが。

腕を抱えられ、見上げての言葉にはルパンは勝てなかった。

 

「いやいやいや!!全然ダメなんかじゃねぇさ!」

 

「じゃ~行きましょうね~?」

 

そう言って、ルパンの腕を抱えたまま引いて行く。

ルパンは一度承諾してしまった以上、諦めて引きずられるままに鳳翔の小料理屋へと向かうのだった。

 

 

「あの…龍田ちゃん、なんだか腕に柔らかいものが当たってるんだけど?」

 

「…うふふ~当ててるのよ?」

 

歩きながらの遠回しなルパンの言葉に、密着した龍田はそう、艶然と微笑して言うのだった。

耳まで赤いのはご愛敬。

 

 

二人が夜戦に突入したかどうかは定かではない。

ましてや、小料理屋でどのような女同士の戦いが繰り広げられたのかも定かではない。

 

定かではない。




というわけでスペシャルゲストのお二人&久々の龍田ちゃんの活躍でした。


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16-2.ルパン鎮守府は備蓄を始めるそうです

地震も何とか終息しだしたようで、震源地が実家・親戚宅に近くなってたりで色々忙しかったですが、何とか落ち着きました。


前述したとおり、ルパン鎮守府は礼号作戦の反省を活かして練度上昇を主眼に置いた長期作戦を展開していた。

 

ルパンが具体的に指示したわけではなく、武蔵たちをメインとした反省会の中での第一課題が『練度不足』と挙げられた。

それを受けて龍田の一言で全てが決まったのは数少ない艦娘しか知らない。

 

何はともあれ。

約二か月間のハードワークの末に多くの艦が改二へとなった。

 

そのためには設計図が必要と言う事で、鎮守府近海対潜哨戒などの作戦も攻略して勲章を獲得した。

丈二も融通をきかせて設計図を回してくれたこともあり、何とか不足もせずに済んだことは幸いであった。

 

が、ココでもルパンが無茶を通してしまったのだった。

 

 

「こ、こんな●●改二がいるか!!」

 

が最近の演習相手の艦娘の合言葉になってしまっていた。

 

第一に、まず改二への改装をする際に、大本営に申請する。

それが勲章が必要かどうかはその対象により変化し、無償で提供される改二設計図もある。

最初に改二の設計図は夕立と時雨だったのだが、ルパンが届けられた設計図を見た瞬間に。

 

「ん~…もうちっと、イジれるんじゃねぇの?」

 

ちょうどルパンが暇があったのが悪かった。

そのまま誰にも言わずに工廠へと直行。

 

そして、妖精さんたちと協議しつつ、設計図のコピーに色々と書き加えては修正した結果。

 

 

夕立は島風ばりの回避性能、火力・雷撃強化を主とした全体的な強化。

時雨に至っては先制雷撃能力、島風には至らないものの回避性能と雷撃性能強化が為された。

若干消費資材が増えたが。

 

当然、演習相手の反応でやりすぎたとわかったルパンは彼女たちの演習は禁止させたが。

 

余談だが、この強化を一番喜んだのは本人でも姉妹艦たちでもなく、島風であった。

出撃などの合間で『かけっこ』を切磋琢磨し、楽しんでいるのだった。

 

 

そうなると、黙っていないのはその他の改二実装艦たちである。

我も我もとルパン印の改良設計図を求めたのだった。

一人一人がどのような改良を加えたのかを列挙するときりがないので、割愛させていただく。

 

一言で言うなら『ルパン印の魔改造』であった。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

おかげでルパンは折角暇が出来たと思いきや、また多忙な毎日に戻ってしまったのだった。

勿論、設計図の調整だけではなく、それ以外には先日の貝木との商談もある。

 

貝木は実に有能だった。

独自に立ち上げた会社の社長として、仲卸業者として動き出した。

様々な業種の大手・中小企業と調整を担い、手数料を取りつつもこれまで以上にルパン鎮守府への物資の納入を安価かつ利便性を高める。

 

実際は仲卸だけではなく、その際に様々な企業からの裏情報を取ってくる。

そして、ルパン鎮守府からの鉄鋼などの資材や、龍田の立ち上げた海産物加工業会社の製品を高く売って回る。

 

もしかしたら一番ブラック企業なのはこの男の会社なのかもしれない。

 

しかし、このおかげでルパン鎮守府はより一層潤うのだった。

 

 

それを一番肌で感じたのは、ルパン鎮守府の激務を支えた艦娘だった。

 

「…あ、あの…龍田さん。これは…何か、間違いではないでしょうか…」

 

練度向上作戦が始まってから一か月後。

給与袋を手にした朝潮が執務室へとやって来た。

差し出された給与袋から給与明細を取り出すと、龍田はパソコンを操作する。

 

「朝潮ちゃんも~?ちょっと待ってね~……うん、おかしくないわよ~」

 

少々うんざりした様子を見せつつも、ディスプレイに映し出された前月の実績と見比べてから明細書を朝潮に返す。

しかし、それでも朝潮は食いつく。

 

「で、でも…こんな…前月の倍以上じゃないですか…。

私たち朝潮型は出撃はほとんどしていませんし…」

 

「でも~北方鼠とか~東京急行とか~遠征に出ずっぱりだったでしょ~?

深夜の遠征もこなしてるし~」

 

何度も繰り返されるやり取りなのか、ため息交じりで問題ないと告げるがまだ朝潮は不安そうだった。

それももう慣れたことなのか、機先を制して龍田はきっちりと言う。

 

「他の皆もそうだけど~給与計算は問題ないし、鎮守府運営にも支障をきたすことはないから受け取ってね~?」

 

「ひきぁっ!?りょ、了解しましたッ!!」

 

本人としてはそのつもりはなくとも、疲労がどうも声音や目力に影響を与えたようだ。

哀れ朝潮は命からがら執務室を後にするのだった。

 

別に命を脅かされたわけではないはずだが。

 

かくして、執務室前に掲示板が設置され、『給与計算に問題はありません』との旨が一番に貼り出されたのだった。

 

 

 

一方、その頃。

 

五右衛門は己を愧じていた。

 

それは、前回の礼号作戦時において、己が為したこと。

一刀の下に、戦艦棲姫を斬り捨てた。

 

しかし、己だけが知っていたこと。

それは、相手が中破状態でやっと斬り捨てれた、という現実だった。

 

物言わぬ戦艦を斬ったこともあるが、あの戦艦棲姫は特殊だった。

己の斬鉄剣をいなし、また、致命傷を避けようともがいた。

何とか致命傷へと至ったものの、戦艦棲姫が無傷であったならばと思うと己の未熟さが痛感させられたのだった。

 

そのため、五右衛門はただ修行を己に課していた。

 

「参れッ!!」

 

五右衛門の合図に合わせて、広場にいた艦娘達が動き出す。

彼女たちの腕には次元と明石の合作である、模擬弾が入った主砲。

または各自の得物を手に五右衛門を包囲していた。

 

「うらぁぁぁっ!!」

 

にらみ合いに痺れを切らしたのか、天龍が気合一閃とともに大上段に愛刀を構えて飛び上がれば全体重を乗せて振り下ろす。

しかし、木鞘に入った刀を五右衛門が左手一本で抜くとともに頭上で受け止めるとともに空いた片腕を真横に力強く振る。

すると、空中にいた天龍の腰を腕が捕らえるとともに抵抗できずに弾き飛ばされる。

 

「そこぉっ!!」

 

その天龍を押しのけた背後から嵐が模擬弾を連射する。

しかし、五右衛門は左手の刀を動かしてはそれぞれの弾丸を角度をつけて刀に当てることによって跳弾させて回避する。

 

斬り捨てないのは今五右衛門が手にしている刀は斬鉄剣ではないためだ。

万が一、艦娘を斬ってはならぬという気持ちと、斬鉄剣の斬れ味に甘えないようにという戒めからであった。

その刀は斬鉄剣とバランスなどを限りなく近づけた、模造刀である。

 

そんなものがホイホイ転がっているわけは当然なく、明石謹製である。

勿論、虎徹・良兼・正宗の合金、または示刀流あるいは石川家の先祖による特殊合金製、はたまた流星の金属(隕鉄)製など諸説あるものの、その本家には硬度も及ばない。

しかし、並の日本刀よりはマシ、とは明石の談である。

 

「やるじゃンかっ!!」

 

江風がニヤリと笑いながら動きの止まった五右衛門に走りながら全力で殴りかかる。

しかし、五右衛門もさるもの。

 

軸足を中心にして、身を滑らせて拳を躱すとともに逆にカウンターで江風の胸元に肩で体当たりをして弾き飛ばす。

 

「いざ参るっ!!」

 

「行くよ、日向ッ!」

 

そこへ伊勢型姉妹が自前の日本刀を抜き打ちにして、二人同時に斬りかかる。

その太刀筋は見事だったが、五右衛門も負けじと偽斬鉄剣で受け、流し、斬り返す。

 

日向が積極的に斬り込み、その隙をつこうとする五右衛門を伊勢が寡黙にフォローして何とか均衡を保っている。

そこに新たな闖入者が斬り込む。

 

「行きましょう、姉様!」

 

「ええ、山城…せめて一太刀…」

 

二人は刀ではなく、薙刀を手にして白鉢巻に襷がけという装いであった。

しかし、意外にも二人は薙刀の扱いを熟知しているのか必要以上に間合いを詰めず、射程の外から大振りに薙刀を振るっては伊勢型姉妹の邪魔にならないように五右衛門の動きを妨害している。

 

わざと大振りにして振るう事によって五右衛門の動きを妨害するが、五右衛門もさるもので空手などで言う『運足』という足運びで小さな動ける範囲を最大限に活用し、躱し、いなし、斬り返す。

 

それでも五右衛門は退かない。

間合いを取るために退くことすらも許さない、そう言わんばかりに果敢に前に出る。

 

合間の駆逐艦達の砲撃を避け、航空戦艦四艦の剣戟を避けては斬り返す。

そうして、広場には剣戟の鋭い金属音と砲撃音が響き渡るのであった。

 

 

そこを不意に通りかかったのはアイス『ブラックモン○ラン』を咥えた初雪と深雪だった。

 

「…池波…正太郎先生?」

 

「初雪って、そういう本も読むんだなー」

 

ルパン鎮守府は、平和、と言ってもいいのだろうか?

 

 

 

 

一方、次元はというと。

 

「あーー!!もうっ!あのフラ重の攻撃がウザったいのよぉっ!!」

 

どんどん設備が拡充され、ソファーから持ち寄られた雑誌、電気ポットなどが置かれた出撃前の待機室であった発着艦所である。

その中で足柄の声が響く。

それをうるさいとばかりに耳の穴を塞ぐポーズをし、ソファーでコーヒーの入ったマグ片手の次元が眉をしかめる。

 

「うるせぇなぁ、仕方ねぇだろ。

ああいう特別な場所は夜戦になっちまうし、夜戦じゃお互いがお互い一撃必殺になっちまうんだしよ」

 

「でも、勲章獲得まであと一回なのよ!?」

 

苛立ち交じりの足柄の噛みつきにも次元は動じずに流す。

 

「おい、羽黒に利根、お前らは入渠して修理して来い。

足柄と妙高は明石に修理してもらってきな」

 

「あの…すみません…」

 

「私はいいわよ、損傷軽微だもの」

 

彼女たち、妙高型重巡・利根型航巡の六艦で向かったのは、沖ノ島沖戦闘哨戒作戦だった。

当然、目的は勲章獲得とデイリー任務消化。

 

先日のサーモン海域への東京急行の周回作戦も今では数を減らしている。

間もなく大規模作戦の開始が予告され、練度上昇も一応目標値に達して今は鎮守府の運営は任務消化の出撃と資材獲得のための遠征メインになっている。

 

次元は鎮守府の内部の情報をリアルタイムで更新するルパン特製のアプリを内蔵したタブレットで入渠施設(ドック)に入渠予定を入れる。

それと同時に明石に連絡して修理をするように指示もする。

 

「少しでも傷があるなら治しておけ」

 

「嫌よ。アタシも那智姉さんも小破未満なの!

もう一回行かせなさい!!」

 

「うむ、他の重巡と交代して再度出撃するのだろう?

だったら、私と足柄は再度このまま出撃させて欲しい」

 

足柄を見もせずにタブレットとにらめっこをしていた次元が足柄と那智の言葉に顔を上げる。

しかし、その帽子の鍔から覘く目は冷たく凍てついていた。

 

「お前ら…なぁんか、勘違いしてねぇか?」

 

「「ッ!?」」

 

ギシリとソファを軋ませて体重を預けつつ、煙草を取り出して火をつける。

 

「俺らァ、プロだ。

どんなアクシデントがあろうが、どんな不利な条件になろうが目的は達成する」

 

「わ、私たちだって対深海棲艦のプr」

 

那智が言い返そうとするが、その言葉を淡々とした口調で遮る。

 

「しかしな、俺たちはそんなアクシデントを切り抜けるのが腕前なんだと思っちゃいねぇよ。

アクシデントが起きねぇようにするのがプロなんだよ」

 

ふぅと紫煙を横を向いて吐き出す。

 

「いつも最高の条件でやれるとは限らない、だからといって最高の条件を放り出すのは怠慢でしかねぇ。

そんなのは駆け出しの一人前に『なったつもり』のルーキーのやることじゃねぇのか?」

 

再び視線を足柄と那智に向ければ、その背後には大破した羽黒と利根、筑摩、妙高も神妙に顔を伏せて立っていた。

特に大破姿の羽黒と利根は素肌の露出の関係もあり、備え付けのバスタオルで身体を隠している姿だった。

足柄と那智だけに言ったつもりもないが、それ以外の彼女たちを責める気もそこまでないため軽くため息をついて外に繋がるドアへと顎で示す。

 

「わかったらとっとと行け。

入渠施設(ドック)入りが遅くなれば、その分出るまでの時間が遅くなる」

 

そう言うと、もう何も言わずに六人はドアを出て入渠施設へと向かう。

妙高の普段のおっとりと垂れ目がちな目が吊り上がっていたことからして、恐らくこの後に説教大会だろう。

 

普段は穏やかな押され気味に見える妙高ではあるが、責任感のしっかりした長姉なのである。

 

次元がやれやれと肩を竦めると、すぐに夕張に連れられた朧を除いた綾波型がやって来た。

特に物怖じしない漣がニヤニヤしながら次元の隣に腰掛けて、肘でわき腹を突く。

 

「大人のやることかー?」

 

「大人だからやるんだろ」

 

漣のツッコミが大人げない怒り方だと言いたいのかと鼻で笑いながらも、きっぱりと言う。

 

「お前らは艦種の別なく、まだまだ子供みてぇなもんだ。

それを俺たち大人が間違いを正さなくちゃ、誰が正すんだ」

 

からかいを口にしただけのつもりだったのか、隣の漣がきょとんとしながら聞き入る。

しかし、次元は動じない。

 

「お前たちはいったい何のために、深海棲艦と戦っているんだ」

 

「そ、それは…人類の敵であり、我々艦娘の敵だからです」

 

次元が他の五人も合わせて見渡してその言葉をかければ、潮が戸惑いながらも答えを口にする。

 

「だれが頼んだ?誰がそれをありがたがってくれるんだ?」

 

次元の言葉にもう何も言えなくなるが、向こうっ気が強い曙がそれに突っかかる。

 

「何よ?なら深海棲艦に制圧されて、滅べばいいって言うわけ?」

 

「俺は構わんよ、俺は俺で生き延びるように全力で生きる。

…だがな、現実、深海棲艦が滅んだとして喜ぶ連中は多くいるだろうよ。

それでもお前らに感謝するのはほんのわずかだろう」

 

残酷な現実に曙ですら口を閉ざす。

 

「だからこそ、だ。

俺やルパン、五右衛門がお前らに現実を生きていける力を教えてやらなきゃいけねぇ。

俺たちが生きていくにはお前らの力があるにこしたことはねぇ、だからこそ、お前らの力になるし、力を与えるんだよ」

 

ギシリとソファーを軋ませてから前屈みになって、自分の太ももに肘を置く。

鋭い歴戦の傭兵でもあった男の眼光が六人を射抜く。

 

「お前ら、楽すんじゃねぇぞ?

ずっと俺たちはお前らの子育てをやるつもりはねぇ、お前らはお前らの力でこのつまんねぇ社会で生きていけ。

そのためにあらゆる力をつけて、自分の足で歩いて行けるようにしろよ」

 

その言葉に一人、ふっと優しく微笑んだ艦娘がいた。

 

「提督達は…厳しくて、お優しいんですね…」

 

夕張だった。

その言葉の裏の意味も全て理解した上で微笑んでみせた。

 

「ハッ、勘違いすんのも勝手だがな。

こっちは元からこんな人の世話とかするタチじゃねぇんだよ。

とっとと自由にしてもらいてぇもんだ」

 

「…おー、オッサンのツンデレキタコレー」

 

色々と台無しな漣の混ぜっ返しもあったものの、場の雰囲気は少し落ち着き、次元も気を取り直して煙草を吸いきって灰皿に揉み消す。

 

「では、北方AL海域に行ってきますね」

 

「ああ、さっきの話は『これから』の話であって、『今日』を切り抜けなきゃ絵に描いた餅でしかねぇ。

変な話をしちまったが、気持ちを切り替えて上手い事やってくれ」

 

綾波の言葉に頷くとタブレットで元々のスケジュールとの確認をする。

予定装備との間違いがないかを六人は相互で確認し合った上で、一列に並んで敬礼する。

 

「いつも通り、誰か一名でも大破したら即時撤退。下手に欲かくんじゃねぇぞ」

 

次元大介と言えば、殺し屋としての経歴が最も有名だが、傭兵や外人部隊としてもキャリアがある。

その時を思い出してなのか、戦場に赴く艦娘たちを見据えてきっちりと指示を出した。

 

それは艦娘達には恒例のものでもあっても、それでもなお飽きた様子などを見せずに黙って敬礼を返した。

 

「ふぅ、ではいってまいります」

 

旗艦の夕張が敬礼を解いた後にそう挨拶すると、そのまま真っすぐに出撃へと向かっていった。

しかし、一人発艦所を出るドアの前で一人の艦娘が立ち止まって振り返った。

 

「たった一つの命を捨てて生まれ変わった不死身の身体!」

 

「バカ言ってねぇで、とっとと行きやがれ!」

 

ポーズを取って何やらドヤ顔で言い出した漣に次元は手元にあったクシャクシャに丸まった煙草の空き箱を投げつけるのであった。

それを空中でキャッチして、ゴミ箱に入れながら漣は苦笑するのだった。

 

「ご主人様方はご主人様方で、色々と考えてるんでしょうけどねー。

私たち艦娘も艦娘で少しずつ考え始めたわけで…もっとやさしく大きな愛で、ひ弱な私たちを包んでほしいなァ~」

 

「勝手に登校でも何でもしてこい…俺ァ(おら)、もう疲れた…」

 

ぐったりと肩を落とした次元にうへへと笑い、小さく手を振ってドアを閉めるのだった。

 

「…全く…どうしたもんだろうなぁ…」

 

ソファに身体を沈ませ、静まり返った発着艦所で溜息を漏らす。

正直、一番悩んでいたのは次元であった。

 

 

ルパンは人当たりの良さもあり、また様々な仕事をこなせる器用さがあった。

そのおかげで今では鎮守府の運営のみならず、龍田や丈二、貝木などと様々な仕事へ手を伸ばしている。

五右衛門は元から修行一筋といったところが多分にあり、今ではフィジカル面で優れた艦娘を指導、または修行の相手をさせてある意味いい距離感で付き合っている。

 

しかし、次元は自分がどう振る舞っていいかに悩んでいた。

 

確かに傭兵稼業やルパン以外と組んで仕事をしたこともあるが、どうしてもそういう荒っぽい稼業は基本的に男社会である。

それが、今では真逆で男がほとんどいない上に、基本的に慕ってくれる。

 

それ相応に厳しく指導するなりはしているものの、若干距離感に悩んでいるのである。

 

その姿を見て、ルパンには爆笑された。

『お前は新人女子社員の扱いに悩む中間管理職かよ』と。

思いっきり腹を抱えて笑われて腹が立ったので、ヘッドロックを決めてやったが。

 

実際、上手い例えだとは本人でも思ったが。

 

「…俺もちっと…歩み寄って考えてみるかねぇ…」

 

深い溜息を漏らして、ソファーからゆっくり体を起こすのだった。

 

とはいえ、具体的にはどうしていいのか妙案が思いつかなかったため、誰かに相談しようと発艦所を後にするのだった。

 

「誰にすっかなぁ…ルパンなんかにゃ聞きたくねぇし…」

 

不器用な男の悩みは尽きないようだ。




というわけで、大規模作戦開始前日のアップとなりました。

まぁ色々と細かいネタを交えつつの鎮守府の日常でした。
次元の件はまた後日引っ張りますが。


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EX3-1.ルパンは奇妙な招待を受けるようです

実家自体は震災の影響はさほど受けておりません。

ただ、そこそこの近くの友人・親戚などが比較的被害を受けた地域であるため若干その関係で忙しかったりします。

さて、先日告知いたしましたごません様とのコラボ企画話のスタートです。
全く同じ時系列の出来事をごません様と隠岐それぞれが描くスタイルになります。

ごません様には大変こちらが遅筆なせいでご迷惑をおかけしますが、同時投稿とさせていただきます。
新企画、お楽しみ下さい。


「というわけで、とっつあんによろしくな」

 

「…貴様のやり方の是非は何とも言えないが、仕事が助かる。それには感謝しよう」

 

今では珍しくなった深夜の公衆電話でルパンは笑いながら電話をする。

その電話先は先日憲兵隊に所属した、銭形の助手になった那智である。

 

那智もどちらかと言えば融通がきかないタイプではあるが、自分達の窮地を救ったのはルパンの非合法な手腕によるものといういこともあり、ある程度の許容を見せている。

銭形も巨悪を倒すためにルパンと手を組むことは辞さない程度の融通がきくところもあるが、あまり借りを作るのを良しとしないだろうという判断により、那智を通している。

 

事の次第を説明した上で、電話を切るとすぐそばで路上駐車で待っていた次元が運転席で煙草をふかしていた。

その助手席にルパンが乗り込むとともに次元は車を静かに走らせ始める。

 

「しっかし…この国もどんどんおかしくなってきてんなぁ…今回で何件目だ?」

 

「言うなって、根っから洗脳されてんだ。まともな判断をしろって方が無茶な話だぜ?」

 

ほんの少し前に二人はとある鎮守府に忍び込んだ。

その鎮守府の提督は反艦娘派に属し、またそれと同時に某大陸の『元』大国に軍事情報を売り渡している。

そんな情報を貝木と忍野の二人が持ってきたのだった。

 

さらには艦娘ですら売り渡そうと計画が動いていたのを水際で阻止できた、というのがこの晩の出来事である。

同様の案件が既に複数件にもおよび、ルパン達が手を出した鎮守府を皮切りに憲兵隊独自ででも同様の検挙が行われている。

 

 

余談だが、現在の大陸の国家バランスはというと。

 

某大国、及び半島の二国は艦娘はほぼいない。

艦娘となる元の艦がほぼいないせいではないか、と言われている。

 

対深海棲艦の海防能力はほぼ皆無なせいか、深海棲艦の猛攻を受けて沿岸部はほぼ壊滅。

少ない艦娘人間による肉弾戦で何とか上陸は阻止しているが、海からの資源回収はほぼ不可能。

そのように余裕がなくなると、一気に半島へと陸上戦力及び近代兵器により半島に侵攻。

そして武力で属国化、というよりも隷属を強いた。

 

それだけでは足りないとばかりに西へと攻め入ろうとしているのが現状である。

 

当然、国連による制裁処置も経済制裁のみならず、西への国連軍による包囲網が敷かれている。

しかし、国連に所属する各国も深海棲艦への対策で余力がないため、にらみ合いで止まっている。

 

 

「ま、土下座が好きならご自身だけで勝手にやってくれってんだ」

 

車を走らせ始めた次元が冷笑を浮かべて肩を竦めるのをルパンは笑う。

 

「あっちはもう余裕がねぇ、そして空っぽのプライドが許さねぇ。

そして反艦娘派と利害が一致する、そういう背景もあるんだろうけどな」

 

ルパンも煙草に火をつけて苦笑する。

 

「…なるほどねぇ…いずれにせよ、俺たちに迷惑かけねぇように自分だけでやってほしいってのは代わりねぇな」

 

「その『俺たち』ってのには、艦娘は入ってんのか?」

 

次元の呟きにニヤニヤしながらルパンがからかうが、次元は咥えていた煙草を無言で灰皿にねじ込むだけだった。

 

「そんなつまんねぇ冗談はさておき、あの招待状、どうすんだ?」

 

「ま、怪しいっちゃ怪しいがな…評判を聞く限りじゃ悪くないみてぇなんだよなぁ…」

 

先日、とあるブルネイの鎮守府より招待状が届いた。

内容を見るに、所属地は違うものの国防を担う者同士、親交を深めようという内容である。

とはいえ名目上としては『視察』という形ではあるが。

 

「親艦娘派でガチケッコンして、元帥の一人からの信頼も篤い…ねぇ…」

 

「ただ、俺たちは色々と目立つ存在だからな…あえて火中の栗を拾うようなマネをする理由が、なぁ?」

 

鎮守府へと車は走る。

その中でルパン達はうーむ、と悩む。

 

「…妥協案としちゃ、公的には表向きにはせず、なおかつこちらの武装可で、って感じか?」

 

「妥協、というか妥当、だな…」

 

次元の言葉に頷いて、同意を示すと助手席の背もたれにルパンは身を預ける。

親艦娘派でもあり、実力者でもある先方の提督に目立つルパンが接触したとなると警戒してくる連中もいるだろうという判断である。

 

「じゃ、そういう線で調整するわ」

 

「世話をかけて悪ィなぁ」

 

「今更だな」

 

男同士は薄く笑って、深夜の道路を走るのだった。

 

 

 

 

そして、当日。

公的な記録にはルパン達は鎮守府にまだいることになっている。

しかし実際にはこうしてブルネイの地を踏んでいた。

 

いつも通りの服装でタラップを降りる。

滑走路に止まった背後の飛行機は中身を弄っており、緊急時には即座にブルネイを離れることが可能だ。

 

「ようこそブルネイへ。俺がここの鎮守府の提督、金城だ。遠路はるばる悪かったな、ルパン提督。」

 

「いや~、俺様提督としてはまだまだ新人のペーペーだもんで。ベテラン提督のご招待とあっちゃあ来ない訳にもいかんでしょ~?」

 

金城という目の前の男に差し出された手を笑って握る。

その真意を見透かすように細めた目で見据える。

 

「そういやアンタ、制服は着ねぇのかい?」

 

その背後で早速懐から煙草を取り出しながら次元が問う。

名目上は『視察』である以上、てっきり堅苦しくくるかとも思った。

しかし、金城提督はニヤリと笑って言った。

 

「生憎と学がねぇモンでな。堅っ苦しいのが嫌いなんだよ。お前さん方もそういうクチだろう?」

 

自虐ともとれる言葉と、次元としても堅苦しくされたいわけじゃないためあえて何も言わなかった。

その隣の五右衛門もわずかに閉じていた片目を薄く開けて、金城を見据えた。

 

目の前の男はどんな男なのか、何を企んでいるのかと。

 

張り詰めはじめた空気を読んでか、金城が口を開く。

 

「……そういえば、事前に艦娘を3名同行させると聞いてたんだが?」

 

「おっといけね、忘れてた。お~い!降りてきていいぞ~!」

 

軽く笑いながら背後の飛行機に向いて、声をかける。

しかし、本気で忘れていたわけではない。

 

相手の出方や対応によっては、即座にこのまま逃げ出すことも考えていた。

そのためにルパン達が許可を出すまで飛行機で待機するように言っていただけだった。

 

「エスコートの一つもしてくれないなんて酷い提督よね~?」

 

「…少々、頭にきました」

 

「まぁ、そうなるな」

 

そう皮肉を言って、ルパンの芝居に乗って降りてきたのは龍田、加賀、日向であった。

この人選はルパン達に害をなそうとした場合を警戒しての人選である。

 

執務室詰めのトップとして、交渉や情報に関してルパン鎮守府一長けた龍田。

弓術や体術のみならず、正規空母としての腕、そして冷静さを買われた加賀。

五右衛門の指導を受けた剣術、航空戦艦としての腕で選ばれた日向。

 

龍田が頭脳となり、時には冷静な二人がサポートをしつつも遠距離、近距離戦能力で切り抜けるという人選である。

龍田とルパン一家の話し合いによる、ルパン鎮守府内の艦娘による『疑似ルパン一家』であった。




イベント海域の件ですが、やっとE5甲クリアです。

また時間作ってE6行かねば…。
あとはE2で照月も…。


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EX3-2.ルパンは鎮守府を視察するようです

前に書き損ねておりましたが。

『この作品はフィクションであり、特定の国家・地域情勢とは関係はございません』

ご了承ください。


 

「エスコートの一つも無いなんて、酷い提督よね~?」

 

「……少々、頭に来ました」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

背後からのルパン鎮守府の艦娘三人の口からは嫌味がこぼれる。

しかし、今回の後から呼び出すという事は織り込み済みであり、この嫌味も当然織り込み済み。

 

目の前の金城提督はその様子を見ても、特に反応を示さない。

いや、むしろあえて反応を出さずに観察をしているのかもしれない。

 

本心が反艦娘派であるならば、このような嫌味などといった反抗ともとれる行動に何らかの嫌悪を示すこともありうるかとも思ったが、そういう様子は見えない。

 

「あら~、私の顔に何か付いてるかしら~?」

 

「いやいや、そちらさんの秘書艦が美人だったモンでね。見とれてたのさ。」

 

龍田のからかい雑じりながらも、不躾ともとれる視線に反撃をするが、冗談めかして肩を竦めてかわす。

とはいえ、あくまで龍田は艦娘であり、提督からすると部下という対象になる。

あまり他所の鎮守府の提督相手に龍田だけで相手をさせるのはまずいとルパンが混ぜっ返す。

 

「あら~?もしかして龍田ちゃん口説いちゃったりなんかしちゃったりしてるワケぇ?」

 

「まさか。んな事したらウチのカミさんに殺されちまうわ」

 

冗談なのか、本気なのかわからないが後ろの金剛を示しながら金城提督が苦笑する。

その様子を見て、龍田たち三人は目を輝かせるが、次元と五右衛門は何となく悟ったように『あぁ…』と小さく漏らした。

 

表立って金城提督の相手をしているのはルパンであり、特にまだ敵対していない以上、失礼な対応をするわけにはいかないのでルパンはあえて特に反応を示さない。

 

「へーぇ、そちらさんが?」

 

「ハイ!テートクのwifeの金剛デース!宜しくお願いシマース!」

 

よろしくと言いながらも旦那の腕に抱き着いて、こちらにアピールする金剛。

何となくいたたまれずにルパン一行は苦笑するしかなかった。

 

とはいえ、艦娘達は思うところがあった様子でもあったが。

 

 

 

「んじゃま、とりあえず鎮守府の中を見学させてもらいてぇんだけっども?」

 

「このまま会食……でも俺は構わねぇんだがな」

 

飛行場での立ち話もなんだ、ということで移動をしながらルパンは提案する。

一応は『視察』という名目になっている以上、拒絶されることはないだろうが、いい気分のものでもない。

 

ルパン鎮守府のように国内の鎮守府はさておき、国外や大本営から離れた僻地の鎮守府は一種の裁量権を与えられている。

海の大半が深海棲姫に奪われた中で、数限られたシーレーンがあるとはいえ一から十まで大本営にお伺いを立てていると、緊急時の対応に後れを取る。

その遅れでシーレーンを喪失などということは絶対に避ける必要がある。

さらに各地の風土にあった対応を求められることもあるが、その風土や気質を肌で感じていない離れた土地の大本営の人間が把握しきれるものでもない。

 

勿論大本営もある程度の首輪はつけているし、今回のような『視察』も適度に行われている。

しかし、その費用もばかにならないため、能力があり、ある程度以上の信頼が置けないと僻地の鎮守府には配属させられない。

それでもやはり僻地であるが故に政治的には後れをとりがちであるため、左遷の色合いは否定できないが。

 

 

閑話休題。

そういった、『己の王国』である鎮守府の施設を見られる、というのは歓迎すべきことではない。

しかし、金城は歓迎とまではいかないが、普通に応じた。

 

「いや~、滅多に他の鎮守府なんて来る事ぁねぇし、何より海外遠征なんて提督なってから初でねぇ。是非とも見学させて貰いたいんだわ。な?センパイ。」

 

そういうお題目で下手に出て、『見させていただく』形で提案する。

あからさまなおだてに金城だけでなく、次元もよくやるぜと言わんばかりに鼻で笑う。

 

もしかしたらこの『視察』に丈二をはじめとする親艦娘派の派閥からの内情偵察も含んでいるのすら気付いているのかもしれない。

 

「よく言うぜ、ったく。……まぁいいさ、大淀!青葉!」

 

そうして呼ばれたのは、ルパン鎮守府でも顔を見知った大淀と青葉だった。

しかし、違いがあるとすればそれぞれの顔や雰囲気だろうか。

 

「はい、ここに」

 

「今日は宜しくお願いします!」

 

挨拶をしながら、振舞いや様子を観察する。

 

ルパン鎮守府の青葉はここまで好奇心を表に出さず、もう少し静かにこちらの情報を引き出すような雰囲気もある。

そういった物腰から龍田からの信頼の篤い、執務室詰めもこなす艦娘である。

 

一方大淀はルパン鎮守府の大淀に比べれば、若干血色がいい。

執務室詰め制度が始まる前までは一人で鎮守府運営の事務を切り盛りして、先日やっと艤装が手に入ったが、いまだに事務関連業務の重鎮の一人である。

当初に比べれば負担は軽減させてはいるが、出撃のために練度も上げて、事務もこなさせているというのは負担が多すぎるかもしれない。

 

(ちと、こきつかいすぎたかね?)

 

と、少々内心で反省しながらも、軽い三枚目といった様子で挨拶をする。

 

「ウチの鎮守府の総務担当の大淀と、広報の青葉だ。この二人も同行して鎮守府の案内をさせる」

 

「あらま~、そちらも別嬪揃いで。俺様嬉しいねぇ♪」

 

後頭部のあたりで指を組み、周囲を呑気に観察するといった様子を見せながら歩く。

すると、歩く先へと距離を取ってついてくる気配を感じる。

 

(ま、それなりに出来るようだが、まだまだ甘いねぇ…)

 

その尾行・観察の腕前を内心で笑いながらも、剣呑な気配がしないため放置する。

次元や五右衛門が警告、もしくは警戒の様子を見せない事からも安心して歩く。

 

当然、万が一の時に即座に動ける、自然体でではあるが。

 

 

 

「まずは本館です。ここで普段の執務や業務、出撃の準備などを整えます」

 

大淀の解説に周囲を見渡せば、ルパン鎮守府の造りとの違いに頷く。

ルパン鎮守府の場合は、出撃準備の場所は発艦所という別棟の小屋でなされている。

 

その理由は、次元提案で、出撃前となると緊張などで気分が昂ることがあり、それが元でトラブルが起きないようにといった配慮である。

 

あえてルパン鎮守府の実情などを教えてやる義理もないので、黙っているが。

 

「随分と建物の造りが広いな」

 

「ここは元々艦娘量産化の実験施設を兼ねててな。どれだけ艦娘が増えても良いように元の設計から広く作ってある」

 

その解説に納得して、ルパンは頷きながら周囲を物見遊山であるような様子で見渡す。

 

(…壁も相応に厚いし、中に何か仕込んでそうだな、コリャ)

 

広いだけではなく、壁も厚い。

それだけで警戒に十分に値する。

 

それが中の艦娘による暴動などの外に向けての防備の壁か、それとも、外からの攻撃に備えた中に向けての防備の壁かはわからないが。

その辺りを軽く突っつく。

 

「それに万が一の時は、ここを要塞代わりにして籠城戦も出来るようにしてあんだろ?多分」

 

「ご明察、流石だな」

 

「いやね、ここの土地と海域の位置関係を考えりゃあ誰でも解るこった」

 

最初の内は、『外に向けて』の防備であった可能性が高い。

しかし、この鎮守府の艦娘などの様子や現在の立地や社会情勢を考えれば『中に向けて』の防備だろうと推察する。

 

 

シーレーン、と言うのは『海の道』である。

 

ただ、現状海が深海棲艦にほぼ制圧されているため、その道が途中でどこかが途切れた瞬間にその先もその手前も全てが崩壊する。

陸の道と違って、海流などの影響もあるため、そう簡単に回り道などは出来ない。

 

深海棲艦たちに占領されれば、下手すれば日本だけでなく世界各国の輸送ルートは崩壊する。

今の勢力バランスが一気に崩壊しかねない。

 

そのため、現在このブルネイをはじめ、ブルネイ・トラック諸島・ショートランドといった東南アジアは世界的に重要な人類の拠点である。

日本からここまでのルートを取れば、この諸泊地で補給をした後に陸伝いに欧州まで回るシーレーンで各地に物資などを提供できる。

 

そのため、艦娘という深海棲艦に特化した海戦力を持つ日本がメインで防備を張っているが、陸地では国連軍が警備を行っている。

 

しかし、問題は深海棲艦ではなく、人類である。

深海棲艦が出る前から、大陸の某国は南沙諸島などに独自理論で占有権を主張していた。

まぁ、国際司法の場には一切出たがらなかったことから正当性がない事はわかっていたのかもしれないが。

 

それはさておいて、その延長線なのか、各泊地の所有権を主張するとともに乗り込んで制圧しようとする動きもある。

その大国の要求は理不尽で、『日本は深海棲艦という脅威への対抗を名目に、不当占拠をしている。即座に防備のための艦娘を置いて、日本に帰れ』である。

『君たちはいつもそうだね。わけがわからないよ』が某匿名掲示板の流行語に一時期上がった。

 

そんな余談はさておき、そういう事への対策でもあるのだろうと推察はした。

が、現役の軍人、さらに鎮守府の提督がそれに関してコメントすれば問題になるだろうからあえて口にしなかった。

 

「でも、これだけ設備が大きいと維持費や設備投資費が凄い額よねぇ~、そのお金……どうしてるのぉ~?」

 

龍田の疑問も当然である。

人や物を動かし、運営するには当然カネが必要になる。

それは執務室詰めであり、副業も取り仕切っている龍田には肌をもって理解していることだ。

 

「では、それに関しては私がご説明を」

 

そう言って一歩進み出たのは大淀だった。

『解説しましょう!』と言わんばかりに、メガネの位置を直している。

 

「我が鎮守府では大本営からの予算の他に、ブルネイや日本、その他協力関係にある国の企業から海上輸送の際の護衛任務を受注し、それによって報酬を得て運営予算に計上、私達艦娘の給与もそこから支払われています」

 

「つまり……現金支給か?」

 

「えぇ、そういう事になります」

 

その言葉を聞いた次元が軽く眉をしかめる。

 

「オイオイ、そいつはまずいんじゃねぇのか?だってそりゃあ傭兵稼業みてぇなもんだろうが」

 

いくら裁量権が与えられているとはいえ、独自採算で収入を確保しているというのは色々と問題がある。

言うならば、カネという首輪を外しているのと同じだからだ。

 

ルパン鎮守府の場合は、あくまでも『いったんすべての収入を大本営に納め、その中の一部を運営費用として渡されている』という名目にしている。

さらに海産物加工業は『艦娘達の趣味で収獲した魚介類の有効活用の結果』であり、軍事行動を商業活動へ転化させてはいない。

 

「その点は問題ありません。日本・ブルネイ両政府からも認可を得ている歴とした正規の依頼です」

 

「つまり、半国営の傭兵稼業ってワケだ。……まぁ、ウチの鎮守府がテストケースらしいがな」

 

その説明に次元はわかったようなわからないような顔つきになる。

ありていに言えばこのブルネイの鎮守府はルパン鎮守府と同様に『テストケース』であり、本格的には取り入れられないものの実用性の類などで特別に取り入れさせた結果なのだろう。

 

全ての鎮守府でこれを許可してしまえば、大本営に反旗を翻す連中は数えきれないだろう。

独自に収入を得ることが出来る上に、裏帳簿などによる後ろめたい資金も貯めやすくなるのだから。

 

しかし、『テストケース』とはいえ、それを認めさせれるくらいには色々と『優秀』なのだろう。

 

「な~る程、熊みてぇなガタイかと思ったら、とんでもねぇ狸親父だったワケだ。」

 

「よせやい、褒めても何も出んぞ。」

 

男たちはニヤリと笑って顔を見交わした。

その上で、ルパンは金城の目を見て、はっきりと爆弾発言をつきつけた。

 

「じゃ、よっぽど大本営上層部か深海棲艦がバカやらない限り、未来永劫この戦争が終わらない、ってのもわかってるよな?

いや、大半の大本営の人間の望みは『現状維持』だっていうべきか?」




現状E6甲ラストダンス。

レアドロは道中の三隈程度、新規艦ドロップはまだありません。


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EX3-3.ルパンは生々しい話をするようです

というわけで、前回の生々しい話の答え合わせ(ただしすべての答えを言うとは言っていない)編です。

7月までリアル都合によって更新が本当に遅れます。
読者の皆様とごませんさんにはご迷惑をおかけして申し訳ございません。


 

「じゃ、よっぽど大本営上層部か深海棲艦がバカやらない限り、未来永劫この戦争が終わらない、ってのもわかってるよな?

……いや、大半の大本営の人間の望みは『現状維持』だって言うべきか?」

 

背後に歩いていた次元と五右衛門、そしてルパン鎮守府の三人の足が止まる。

しかし、あえて何も言わずにルパンの後ろで脚を止めるに留める。

 

そしてルパンは金城を冷静に見つめていた。

金城はその視線を受けて僅かに身を固くする。

 

(さぁて、どう出る?どちら寄りなのか、ただの昼行燈か、それともキレる男なのか…)

 

ルパンの意図に気付いたのか、下手な回答が命取りではないが信用すら得られなくなることを理解したようだ。

そのままほんの僅かに思考を巡らせた後に、金城は口を開く。

 

「まぁ、戦争ってのは形はどうあれ巨大消費だ。

そこら辺の利益を貪ってる連中はこの戦争を終わらせる気はねぇんだろうさ」

 

「提督、それは……!」

 

金城の回答に目を見開く大淀。

中にいるからこそ、言ってはならない言葉がある。

軍人が、己の正当性を否定したらそれはもう己が殺人に加担する者でしかないという宣言になるから。

しかし、その回答はルパンに満足は与えず、淡々と次を促した。

 

「ほぅ?それで?」

 

「戦争を起こすにも続けるにも、莫大な金が掛かる。

兵器を作る為の資源を買い付ける予算、戦線を支える為の兵站、それらを輸送するコスト、新兵器の研究・開発費……数えていけば儲かる種はキリがねぇ。

当然、それを提供する企業と消費する側の軍部は利権やら賄賂やらでズブズブ。両者丸儲け、ってワケだ」

 

指折り数えて語る金城の言葉に静かにルパンは頷いた。

悪くはない、といったレベルである。

 

(惜しいねぇ…そりゃ、『普通の』戦争の場合だ。

今回の戦争の実質は艦娘と深海棲艦という人外同士の争いだってことを失念しかけてる。

が、言ってることは間違っちゃいねぇが、そこを指摘出来てないのは減点だな)

 

金城の言った通り、戦争とは『巨大消費』、即ち『盛大な無駄遣い』である。

ルパンの言う『普通の戦争』において言うなら、戦場に人や弾丸・爆薬などといった消耗品を大量に持ち込んで、大量に消費する。

その消耗品には『人命』というものも含む。

 

『無駄遣い』をケチれば、負けるし、奪われる。

しかし、戦場以外を見れば『いくらでも消耗品を作れば際限なく売れる』のである。

最高の好景気の形をもたらす上に、それで儲けてもケチをつけられない。

『お国のために』という大義名分があるのだから。

 

しかも、銃だけでなく戦車や戦闘機、軍艦などとなれば莫大な金が動く。

アメリカの原子力空母、ジェラルド・R・フォード級の現在建造中の艦があるが、研究開発費で50億ドル、さらに建造費は30億ドルと言われている。

(その前のニミッツ級9番艦ロナルド・レーガンだと建造費が45億ドルと言われているので、さらに建造費はかかると思われる)

原子力空母一隻で約1兆円。

利益が1%だとしても100億円の利益である。

 

こんなものを受注できるなら、生産できる企業は血眼になり、接待も裏金も横行するだろう。

 

 

さらに規模の大きい、世界的な『死の商人』・『闇の商人』と言われる武器商人たちはさらに上を行く。

ルパンもそういう連中と多々やりあったが、ルパンが嫌っているから、だけではない。

それだけ儲けているからだ。

 

世界的な規模になれば、関係のないA国とB国の戦争に間接的に介入が出来る。

不利なA国に最新鋭の武器を『キッチリ利益を取って』多く売り渡す。

そしてA国が有利になればB国に最新鋭の武器を『キッチリ利益を取って』多く売り渡す。

 

その結果、負けないためにと自国民から税を搾り取って、残ったのは両国ともボロボロになった勝者と敗者が残るだけ。

勝てばまだいいが、実質的には双方ともに敗者の可能性もある。

勝者は死の商人たちだけ。

 

罵られようとも、それだけ利益の上がる商売であり、それに関われる間は続けたいのが本音だろう。

しかも、大本営の連中は安全な日本の司令部で踏ん反り返って、裏金を受け取って政治ゲームに腐心するだけでいいのだから。

 

 

「成る程。……で、アンタはどうなんだ?」

 

後ろで黙っていた次元が口を開く。

次元も色々な戦場を渡り歩いたこともある男だから、艦娘達に感情移入もしているのかもしれないし、傭兵でバカな上に苦汁を舐めさせられた苦い思い出が口を開かせたのかもしれない。

次元だって、金城の指摘していないことに気付いていないはずがないのだから。

 

「俺も人間だからな、ある程度の報酬は貰わねぇと生活にならねぇ。そういう点では、俺もある意味同類さ。

……まぁ、こんな下らねぇ戦争続けたいとも思わねぇがな」

 

金城の言葉に黙って次元は顎をさする。

 

(なるほど、ね。現実や歴史をきっちり直視した上で、相応に人情味のある男、ってところか…)

 

仮に終戦後の事を考えれば、今回は人間ではない艦娘が戦場に赴いている事からそこまで強くはないかもしれないが厭戦ムードが高まるだろう。

そして、軍というものは古来金食い虫である。

そのため、その厭戦ムードを政治家は利用して軍縮方向へ行くだろう。

 

それを見越してのこの『傭兵稼業』なのかもしれない。

深海棲艦が一切消えて、艦娘が残ったとしても世界にはいまだに海賊がはびこっている。

その対策の護衛艦としての運用へと方向転換すれば、艦娘及びこの金城の身の振りようはいくらでも可能だろう。

独自の会社を立ち上げてもいいし、専用の会社などに配下の艦娘とともに入ってしまえばいいのだから。

そして、現在進行形でこの男はそのノウハウを蓄積している。

 

恐らく本心から現状の上層部を苦々しく思っているらしい金城に優しく宥める。

 

「悪いな、胸糞悪い話をさせて」

 

「いいさ、『水清ければ魚棲まず』ってな。世界は綺麗事だけじゃ成り立たねぇ。

どこかで泥を被る連中がいないと行けねぇのもまた事実だ」

 

そう言って、再び金城は先を歩きはじめる。

その後ろにつきながら、ルパンはどこかで聞いた言葉を思い出していた。

 

(…『泥なんてなんだい』か。ま、信用はできそうだな…)

 

 

 

そうしてやってきたのは道場だった。

一応ルパン鎮守府にも道場はあるが、意外に五右衛門はあまり使っていない。

 

五右衛門は常在戦場と口にしているわけではないが、『剣術家』である。

そのため、どんな悪条件でも切り抜けれることを優先する。

そういう事から条件の整った道場稽古を重視していない。

 

「こちらは剣術や柔術、弓術といった戦闘に関する艦娘の鍛錬の場となっております。

……あぁ、今ちょうど何名かが利用してますね」

 

視線の先には霧島と日向が木刀で打ちあっていた。

最低限の防具はしているものの、竹刀ではないことにルパンは目を見開く。

 

「……斯様な鍛錬は必要でござるか?」

 

「まぁ、艦娘は今更ながら人の形してるからな。何が起こるか解らねぇからこそ、その為の備えさ」

 

なるほどな、と次元は頷く。

あえて口にするほどではないが、ルパンも次元もそれなりに徒手空拳での格闘もこなす。

泥棒だから、ではないが、人間は裸で生まれてくるものであるからこそ、その裸の技から練るべきではないかと思っていた。

一流のガンマンであっても、走って少しでもいい条件での撃ちあいに持ち込む必要があるからだ。

むしろ安定した環境下ではこなして当然、その先をこなすからこそ超一流のガンマンであり、怪盗なのだ。

 

一方目を移せば、柔道をしている神通と那珂が目に入る。

 

「よぅ神通、精が出るな。」

 

「あぁ、提督でしたか。お疲れ様です。……そちらの方々が例の?」

 

「あぁ、本土から視察に来たルパン提督とその補佐官と護衛の艦娘達だ」

 

しかし、ルパン達は神通よりも投げ飛ばされて、極められている那珂から目を外せない。

完全に極まっているからだ。

 

「お初にお目にかかります、軽巡洋艦・神通です。このような格好ですいません。」

 

「そう思うなら早く離してよ神通ちゃ~ん!肩、肩外れちゃうって!」

 

「……ほどほどにしとけよ?」

 

流石に金城もそれ以外何も言えずにいた。

 

不意に五右衛門が口を開いた。

 

「拙者たちの那珂なら組ませんな…あの組み方なら、組まれる前に無力化するだろう」

 

「…え?」

 

五右衛門の何気ない囁きにルパンが脚を止めて振り返る。

それに次元が眉を顰めつつも頷く。

 

「…柔道とか寝技って耳潰れるじゃねぇか?

那珂が『耳の潰れたアイドルなんてアイドルじゃない!』とか言い出して…空手始めてな。

アレ、もう空手じゃねぇぞ。アレはカラテだ…」

 

「え、なにそれ、怖い」

 

ルパンはそうとしか言えない。

 

「この前は巻き藁ではなく、畳に貫手やっていました」

 

「鉄砂掌とやらにも興味を持って調べていたぞ」

 

外の弓道場が多少気になったのか、そちらを見ながら当然のように加賀が漏らす。

それに関して龍田は天井を見上げてこう漏らした。

 

「ウチの川内型は……どこへ行こうとしてるのかしら~?

川内ちゃんはサスケ伝とかマスクザレッドとか超人プロレスとか言い出すし、風林火山とかいう木刀は探し出すわ…」

 

そんな内輪話は聞こえなかったのか、穏やかな時を過ごす金城鎮守府の姉妹。

 

「大丈夫です、私の妹ですからヤワな鍛え方はしてませんよ」

 

「それでも痛いのは痛いってば~!」

 

神通が笑っているから、穏やかなのだ。きっと。

 

 

 

 

そうして移動先の弓道場の隅では、ライフル射撃も行われていた。

これまでの流れを考えれば不思議ではないが、それでもやはり違和感はあった。

 

実際ライフルも銃でしかなく、艦娘に目と指があれば撃つことは可能だ。

なのでおかしくはないが、砲を撃つ者というイメージから違和感を覚えさせられるのだろう。

 

「おいおい、ライフル射撃なんてやってていいのか?」

 

「こんなご時世だ、鎮守府に攻め込んで来るのは深海棲艦だけとは限らねぇからな。

備えすぎて困るって事はねぇだろうさ」

 

実際問題、対人を考えればライフルは実に悪くない選択肢である。

一説によると人間の戦争の歴史はいかに『手を伸ばすか』の歴史であったともいえる。

 

相手が攻撃できない間合いから、一方的に、もしくは有効な攻撃を与えるか。

素手から剣へ、剣から槍(矛)・弓へ、そして銃、大砲と進化してきた。

 

ライフルというものは、多数を殺傷するものではなく、一人を対象にしたものであり。

だからこそ、指揮系統を崩壊させるために指揮官を超長距離から射抜く道具。

指揮官でなくとも、相手の設備の無力化(19世紀などの古い戦争では大砲手の狙撃など)といった用途で用いられた。

今では特殊部隊などでも重要視されている職種である。

 

それをあえて訓練していることから、相応の対策を練っているのだろうとも判断をルパンは下す。

次元も同様で、冗談交じりに指摘しただけで、あえてそれ以上は言わずに済ませるが、加賀は食い入るように様々な場所をチェックしていた。

 

「さぁ、次は工廠に向かいます。遅れないでついてきて下さいね」

 

大淀はあまりここで語ることはないのか、そのまま通り過ぎていく。

それを加賀が名残惜しそうにチラチラと振り返りつつ、ついていくのだった。

 

「……俺なんか撮っちゃってどうすんの?」

 

「そりゃもう明日の一面ですから!!」

 

パシャパシャと飽きることなくカメラを向けて様々な角度から撮ってくる青葉にルパンは苦笑する。

その向けるカメラも相応の一眼レフカメラである。

 

ここまで堂々と撮って来て、満面の笑みで言われれば何も言えずにピースなどを向けてやるのだった。




あ、iQOS始めました。

イベは春風と甲攻略のみとなりました。


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EX3-4.ルパンは道化を演じるようです

お久しぶりです。

色々考えることなどがあって手が止まるや否や、

・病気により入院
  ↓
・仮退院
  ↓
・ドジかまして、自爆大けが(横幅5cmほどザックリ顔を斬る羽目に)
  ↓
・その治療&経過が微妙で再入院

というわけのわからない不運続き。

寝てばかりで身体もなまって、体力無くなるわ、集中力も欠けるわと散々です。
皆様も暑いですが、お体にはお気をつけて。

行進は相変わらず亀ですが、お許しくださいませ。


設備などを見渡しながらも、ルパンはどこかおどけた態度で青葉の要求に応えてポーズをとる。

その後ろを歩く次元や五右衛門は迷惑、とまではいかないが、仕方なく撮られているといった様子を崩さない。

 

「むぅ…もうちょっと何とかしてくださいよー」

 

「悪ィな、お嬢ちゃん。あまり写真は好きじゃねぇんだ」

 

愚痴めいた言葉に次元はそっぽを向きながらも低い声でいなす。

そのままいったん屋外に出ると、ランニングをしている一団と出くわす。

 

金城提督はルパンをおいて、その一団の先頭を走っていた比叡と苦笑交じりに話しているのを静かに眺める。

 

(…仕込みかどうかはさておき、艦娘との仲は良好、か…)

 

「走り込み、ねぇ……随分と古臭いトレーニングじゃないの?」

 

「古臭かろうが有効な物は使うさ」

 

金城の言葉に少しルパンは考え込む。

勿論、非力であることは問題だが、艦娘に脚力とはどこまで必要なのか、と。

恐らく金城提督なりの軍隊・軍人というものへのイメージや理想があってのことなのだろうと推測すれば、自然と艦娘を『兵隊』としてもとらえているのが想像できた。

 

「そうかい…ま、すぐヘバるようじゃ、困るしな」

 

そうとだけ言って、ただ頷いておいた。

 

ルパンの艦娘へのイメージは少し違い、パワーボートで追いかけた際に見ていたが海上移動の際に脚力を使っているという印象を受けなかった。

そのため、走り込みで総合的な体力をつけるということの有用性は認めつつも、脚力をつけるということはあまり必要とは思っていない。

 

それは、ルパンたちの瞬発力や咄嗟の判断力を求められる、泥棒稼業というものからの考えもあってだろうが。

 

ルパンたちの想像だが、金城提督は軍事行動をラグビー・アメフトのような陣取りゲームのように認識しているのだろう。

それは王道中の王道であり、何も間違っていない。

 

しかし、ルパンは泥棒であり、トリックスターである。

ルールの裏をかき、一手で局面をひっくり返してしまう。

その一手のためのトレーニングを優先してしまう、思考の癖がそこには存在した。

 

 

「ま、とりあえず視察を続けようじゃないか?ルパン提督」

 

その言葉に頷いて、目玉と金城が自信を持って言った工廠に着くと、その大きさに全員が目を見開く。

 

「随分とデケぇな?」

 

次元がしみじみと言えば、金城がそうだろうとばかりに頷く。

 

「本館の時にも説明したが、ここは元々艦娘の量産化の為の実験施設でな。その名残だよ」

 

ちなみに軍においては基本的な工廠など、あらゆる施設の面積や規模は定められている。

その中で申請を出すことで増設などを決められた基準値の幅で許されるが…ルパンは『ただの倉庫』などと偽って、別の倉庫を隣接させて航空機などの改造を行っている。

その『倉庫』を含めたとしても、この金城提督の工廠は大きかった。

 

「あぁ、提督!お疲れ様です!」

 

「よっ、随分熱心に弄ってるな?」

 

「そりゃそうですよ!今朝方技研から届いた試作品艤装のフィッティングですから……あ、もしかして見せちゃマズい感じでした?」

 

工廠の奥からやって来た明石と金城提督が穏やかに話し合う。

その明石の顔は油で汚れていた…恐らくは、つい先ほどまで何かの機械を弄っていたのだろう。

 

(…試作品艤装?)

 

思わぬ単語にルパンは眉をほんの少しだけ動かす。

それに気付いてか、それとも己の失言に気付いてか明石が表情を硬くする。

 

「別に今更だろ~?そこまでお前がベラベラ喋ったら。機密もクソもねぇだろが」

 

「で、ですよねぇ~……アハハ」

 

金城提督はその様子に苦笑しつつも、大したことではないとうそぶく。

本心からかはともかく、実際に艤装などを見て、弄るルパンからすればその背後にある艤装は従来品のとは違うものだということは確認できた。

 

「どもども初めましてお嬢さん、俺はルパン三世って最近提督になったモンなんだけっども。さっき弄くり回してたのは艦娘の艤装かな~?」

 

「え、えぇまぁ。ただ、特殊な試作品でして……」

 

軽く前屈みになって角度を変えて、明石の背後の艤装を横目で見ながら明石に近づく。

同じ明石の姿をしているが、顔つきやメイク、肌の手入れ具合などをよく見ればルパン鎮守府の明石とは違うことがわかり、どこかおかしくなる。

 

ちなみに、ルパン鎮守府の明石は勿論このような機械弄りも大好きなのだが、美容にもうるさいのである。

明石・大淀がタッグを組んで、酒保の美容用品のラインナップが充実させまくっているのは鎮守府では周知の事実だったりする。

 

「もしよろしければ見学します?」

 

「是非是非!」

 

おずおずと勧めてくる明石にニッカリと無邪気に笑って近寄るルパンだったが。

 

「…お触りは、禁止されてますよ~。特に、よそ様の艦娘ですもんね~?」

 

ルパンのすぐ後ろに立った龍田に釘を刺されてしまう。

ルパンの背中に押し当てられた金属のような、硬い棒状のものが何かと問いかけるほどルパンも愚鈍ではない。

 

「…ふぁ~い…」

 

ただ大人しく、両手を肩の上に挙げて、明石とほんの少し距離を取るのだった。

 

 

 

「どうぞこちらへ。今朝方届いたばかりなんですが、『技研』からのデータ取りを頼まれた試作品の艤装です」

 

「ハイハイ先生質問~!」

 

先導する明石の説明にわざとおどけて、冗談めかして手を挙げる。

ルパンの処世術、というか、誘導話術の一つである。

 

情報を引き出すには中途半端に知ったかぶりするよりも、相手に油断させるように愚鈍に振る舞う。

人は格下相手には警戒しないものである、という心理的な隙を狙ったものである。

 

しかし、その様子を見慣れてしまい、その腹黒さを知ってる次元や五右衛門からは若干冷たい視線が飛んでいるが。

 

「な、何でしょうか?ルパン提督」

 

「さっきから言ってる『技研』って何の事ですか~?俺っち新米だから知らないのよ~!」

 

「『技研』ってのはラバウルにある『艦娘技術研究所』の事でな。通称『ラバウル技研』……ウチでは長いんで、略して技研と呼んでる」

 

金城提督が明石の代わりに説明をしてくれる。

当然ながら、それくらいはルパンも浦賀経由で情報は得ている。

 

ラバウル技研は、本来は主流派から外れた技術者の飛ばされる左遷先、だった。

名目上は『最前線の一つであるラバウル』で、『戦場で必要とされる艦娘に関する技術を研究』するため。

 

しかし、人間三人集まれば派閥が出来る、という格言があるように軍内でも当然派閥はある。

親艦娘派、なども大きな派閥の括りではあるが、それ以外の人や職務などによる括りもある。

簡単に言えば、個人的には艦娘を嫌っている(もしくは、気味悪く思う)ものの、仕事などで世話になる上司(要は派閥の上の人間)が親艦娘派なので、人道的に扱っている提督・軍人などもいるのである。

 

詳細はこの場では割愛するとして、この派閥は技術者にもある。

そして、予算は有限である。

 

その結果、ラバウル技研を初めとした地方の技研の多くは『本土の技研の派閥から漏れた技術者の左遷先』である。

 

 

が、技術者の中にはそんなことをおかまいなしで喜ぶ人間もいる。

要は『本土じゃ出来ない、やりたい研究が好きにできる!!』と考えるタイプであった。

 

各地方によって特色は違うが、一つだけはっきりしているのは『本土の技研は既存技術を少し弄って、堅実に、無難な改良を目指す』事である。

これは研究費を出す、軍部の人間の意向である。

 

『既にあるものを少し改良して、運用方法からどういう研究をするかもわかりやすい研究者』と。

『今までなかった、出来るかどうかもわからない、突拍子もない研究を、よくわからない理論を語ってやりたがる研究者』。

このどちらに、素人とは言わないものの、研究者でもない人間がより多くの、有限の資金を預けたいか。

 

その結果であったりする。

どちらが上だ下だ、というのはないが、ルパンは後者の方が好きである。

理由は面白いから、と、実用化できた場合、人の虚をつけるから。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

「お前さんらの鎮守府での装備の『魔改造』についての話は調べが着いてる……だがな、あそこの連中のいかれ具合はそれ以上だ。

あそこの連中はほとんど『既存の装備』を弄らない。妖精さんとの共同開発で、新機軸の武装の開発をやってる。

その中でも大きな功績が艦娘の改二艤装の開発だ」

 

金城提督の説明に、内心ルパンは情報収集にも余念がない、と判断する。

しかし、その能力はどこまでかはまだ判断はつかない。

 

当然ルパンも素人ではないので、『表に出す情報』と『表に出さないようにしているように見えるが、漏らす情報』と『絶対に漏らさない情報』がある。

そのどのレベルまで達しているのか。

 

それを伺いつつ、感心したように工廠にいる村雨を興味深そうに見えるように、見る。

 

「へぇ……それで、この村雨ちゃんが付けてるのがそこの研究所の試作品、と」

 

「なんでも、『現代化改修』という開発段階の技術らしくて。海上自衛隊等に引き継がれた名前の娘限定ですが、その後継ぎの艦の装備を使えるようにする……らしいです」

 

ざっと見た感じだが、近代武装、特にレーダーやミサイル系の強化を意識した艤装に見える。

 

 

(…ま、実用は無理かもな。出来たとして、短時間運用や極地運用が限界だろうさ)

 

内心、ルパンはそうつぶやくが、決してこの研究や艤装をバカにするつもりはない。

使えるならルパンも活用したい。

 

が、今のルパンの艦娘に関する情報を分析した結果、艦娘はただの少女でもなければ機械でもない。

上手く言えないが、『神霊』に似た何か、というイメージを持っている。

 

だから、まだ深海棲艦の戦いで沈んで間もない旧自衛隊の護衛艦たちの艦娘もいないのではないかと思っている。

『付喪神絵巻』曰く、「器物百年を経て、化して精霊を得て…」とある。

過ごした年月や、想いという精神的なナニカが影響して産まれたのが艦娘ではないか、というのがルパンたちの結論である。

 

五右衛門は斬鉄剣を見て複雑な顔をして…

 

「この斬鉄剣もいつかあのような少女になるのか?」

 

「美少年かもな」

 

などと次元がからかっていたが、その手は懐のコンバットマグナムに伸びていたため、似たような気持ちなのかもしれない。

 

 

「成る程……どうだ村雨、着けた感じは?」

 

「うーん……実際動かした訳じゃないから解らないけど、多分馬力とかはこっちの方が上かな?それに、固定の武装もどんなのか解んないし」

 

「そうか。まぁテストだから無理はするなよ?怪我でもされたら敵わんしな」

 

金城提督が村雨に優しく確認をしつつ頭を撫でるが、その後ろの金剛の目つきが若干ヤバい。

金城提督は金剛とケッコンカッコカリをした、という情報を得ているルパンは内心溜息をつく。

 

ルパンの目から見ると、金城提督からの村雨への視線には男女というよりも、親子といった様子が窺える。

 

(…ま、愛がひっくり返って殺意になるってよくあるしな…刺されねぇように祈っとくかね)

 

『情が(こわ)い』という言葉があるように、強すぎる情は恐ろしくもあるのをルパンは知っていた。

だからといって、他人の恋路というか、家庭にくちばしを突っ込むつもりはないが。

 

「でもぉ、こんな凄い装備が回って来るなんて……どんな取り引きをしてるのかしら~?」

 

あえてつっこまなかった部分を龍田が口にする。

 

(…龍田ちゃん、減点一。聞いたところで正直に言ってくれるわけもないしねぇ)

 

素知らぬ顔で上着の懐を漁って煙草に触れる。

しかし、当然火薬・油などの危険物がある工廠内で吸えるはずもなく、懐の中の箱に触れるだけに留める。

 

「何の事ぁねぇ、そこの研究員の一人に知り合いが居てな。その伝でウチが頼まれる事が多い……それだけよ」

 

「……けれど、それだと他の鎮守府では不満に感じるのではないかしら?」

 

それに白とも黒ともつかない回答をする金城提督。

さらに追い打ちをかけるのは加賀だったが、それに関してもルパンは口を出さない。

 

「なぁに、簡単よ。『他の鎮守府』はやりたがらねぇのさ、何せ試作品だからよ……何が起こるか危なっかしいてんで、ほとんど技研の内部でテストしてるんだがな?」

 

その言葉にほんの少しだけ帽子の鍔から目を覘かせたのは次元だった。

技研という言葉で純粋な研究所と思い込んでいたが、テスト場と艦娘の両方が揃っているらしい。

 

二人の詮索に対する金城提督の回答は至極無難なものだった。

 

(その研究者とどう仲がいいのか…金などで抱き込んだお抱えに近いのか、それとも純粋なギブアンドテイクなのか…

抱き込んでいるなら、その矢先に何を見ている?)

 

次元は軽く顎の髭に手をやりながら少しだけ考え込む。

後者ならまだいい、研究者が主導で手伝わされて、その恩恵を受けているならどのような装備が目の前の男に渡るかは運次第。

 

しかし、前者だったら、もしくは『研究者が一人ではなく、全員』だったら。

目の前の男は火種になりかねない。

 

(…だとしても、遠く離れたこのブルネイで何かをしても、すぐには俺たちには影響はねぇだろうが…な)

 

「それでも手が足りない時にはたま~に、な。試作品のデータの採取と譲渡の条件で、ウチに期限付きで回してもらってるのよ」

 

「はぁ~……随分とぶっ飛んだ事を考える奴も居たもんだ」

 

そんな事を考えていた次元の目の前で、ルパンがしげしげと、しかし演技で、村雨を見つめる。

それが気恥ずかしいのか、照れた様子を見せる村雨に小さく苦笑を漏らす次元だった。

 

「さて、と。そろそろ見学もいいだろう?会食に移りたいと思うんだが……どうかな?」

 

「いいねぇ、俺様達も歩き回って程よく腹も減ってきた。そろそろ飯にしようじゃないの」

 

そんな金城提督の言葉と、ルパンの軽いノリに次元は軽く頷きながら、懐から煙草を一本取り出して咥える。

どんなマナーの会食かは知らないが、その前にでも喫煙所にでも寄らせてもらえるだろうと考えての事だった。

 

無意識のうちに、喫煙マナーを刷り込まれた次元とルパンであった。




ごませんさんの原稿と、私の原稿の差異がますます開いていく。

キャラクターというか、筆者の性格の差が出ますね。
自分で読み返しても…なんというか。(苦笑


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EX3-5.次元は酒を楽しむようです

スクーターでバランス壊して、左足の親指の先の皮がベロンと剥け、さらに爪が1/4ほど割れました。

呪われてるのかしらと思わざるを得ない…。
今年、厄年だったのかなぁ…orz


道中で一服をしたルパンと次元を尻目に、こっそり龍田たちと金城提督の金剛は密談を交わしていた。

 

「…なるほど、そのような感じですか…」

 

「そうなのデス!ウチのdarlingは奥手すぎて困りマース!!」

 

「あら~…そういう時は普段と違う衣装とかはどうかしら~?」

 

「…そういう下着とかもあるらしいな」

 

若干生々しすぎる会話に必死にルパン、次元、五右衛門はわざとらしく空を見つめて煙草を吸う。

普段から吸うわけでもない五右衛門も近くに居たくないのか、喫煙所にわざわざやってきたのだった。

 

「…そういう薬でも送ってやるか?」

 

「やめておけ…ある意味、最悪の喧嘩の売り方になっちまうだろ」

 

ルパンのお節介を次元が横目で睨んで止めるのだった。

 

「冗談だよ、どうせ金剛の性格からして独占欲とかを満たすほどのイチャつきができねぇのが不満なんじゃねぇの?」

 

「ふむ…演習で来た艦娘に聞いた話だが、酷い金剛の場合は24時間貼りついて、執務室でも膝の上から降りたがらない、という金剛もいるらしいな」

 

次元のツッコミに肩を竦めるルパンだったが、不意に漏らした五右衛門の言葉に全員が驚きを隠せずにいた。

 

「「「マジかっ!?」」」

 

「うむ…我らの金剛があまりルパンに執着を表立って見せていないことにあちらは驚愕していたがな」

 

あまり吸い慣れていない五右衛門が、軽くふかし気味に煙を吐き出しながら淡々と告げる。

つい、金城提督にルパンと次元の視線が向かうが、必死に横に首を振っていた。

 

「ウチはそんなんじゃねぇからな!?」

 

 

 

きゃいきゃいと華やいだ会話が一段落するのを待った一同は、金城提督に案内されるままに屋内を移動する。

前を歩く金城提督を眺めていたら、不自然な動きが少し見て取れた。

その直後に、ルパンたちの監視の目が和らぐとともに急に気配が現れたのを感じ取る。

 

確認のために次元や五右衛門に目配せをすると小さく頷かれる。

ルパンの推測だが、これまで気配を消そうとして逆に不自然な『全く気配のない』監視者が監視をして、任を解かれて脱力してしまったのだろう。

全く気配を感じさせないのは立派だが、そのあとの消え方などがまだまだ『超一流』には足りないなとルパンは採点する。

 

「もういいのかい?」

 

「あぁ、お前さんらにそういう気を起こすつもりが無いようだしな。

万が一の備えだったが……必要無かったようだ」

 

ルパンたちが警戒していたのと同様に、金城提督側も警戒をしていたようだった。

 

ルパンたちからすれば杞憂としか言いようがない。

今のところ敵とも味方ともつかないものの、あえて敵にしたいような非道でもなければ十分に有能な提督相手である。

しかも欲しいお宝があるわけでもなく、敵に回して面白そうな相手でもない。

ルパンからすれば、悪い言い方になるが『眼中にない相手』なのである。

 

別にルパンは戦争(戦闘)狂なわけではない。

好き好んで殺し合いや戦争を仕掛けることはないのである。

売られた喧嘩は最高値で買うが。

 

「そりゃま、ご苦労さん」

 

軽くからかうようにニヒヒッと笑いながら言ってやると、肩を竦める金城提督。

とはいえ、本気でバカにしているわけではなく、提督という立場かつ守るものがある人間である金城は『大泥棒』であるルパンを警戒せずにはいられない立場なのはわかっている。

そんな不自由な金城への言葉であった。

 

「さぁ、ここだ」

 

そして、開けられたドアの先はルパン鎮守府のほどは広くないが、標準的な執務室よりも広い執務室だった。

 

(仕出し弁当か何かか?今更歓迎してないって示すにしちゃ今更過ぎるしなぁ…)

 

どう見ても目の前の執務室は客を迎えて会食をしようというには向いている部屋ではない。

それを不思議そうにしていたが、不意に壁や机の周りを見て違和感に気付く。

 

(…擦れた跡?……なるほど、ね)

 

「さて、その辺の調度品には触らないようにな」

 

納得するとほぼ同時に金城提督が何やら操作すると壁や机が動いて部屋の内装が一気に変わる。

 

「あら~…」

 

「…なるほど、な…」

 

このような仕掛けに慣れていたルパン一味は無言で見るにとどめるが、ついてきた艦娘三人はギミックに驚きを隠せない。

加賀は何も言っていないものの、普段よりも目が見開いてまじまじとバーと言うには少々キッチンが豪華な内装に変わった部屋を見渡していた。

 

 

 

「さぁさぁ、いつまでも呆けてないで座ってくれ」

 

呆ける龍田や日向、加賀を置いてさっさと席に座るわけにもいかず、立っていたルパンたちだったが店主たる金城提督に促されてカウンター席に並んで座る。

 

巻き込まれたくないのか壁寄りの一番端に五右衛門が座り、軽く肩を竦めた後にその隣に日向が座る。

そして、次元も端に座ろうかと一歩踏み出しかけるが、不意に隣の龍田からの視線が強まる。

 

(へいへい、わかりましたよっと…)

 

刺すような視線に負けて、肩を竦めればせめてもの復讐なのか、次元は煙草を咥えて火をつけながら日向の隣に座る。

 

別に日向はルパン鎮守府の中で特に意見を口にすることはない。

彼女が興味を示すのは、己の鍛錬と瑞雲を初めとした艦載機に関してのみである。

なので、次元とも五右衛門とも、ルパンともそれなりに仲が良い。

 

おかげで日向とは適度な距離関係が築けているのが現状である。

それに、煙草を吸っても文句を言わないのが次元的には評価が高かったりもする。

 

その隣に加賀、さらにルパンが座『らされ』、龍田が一番奥に座る。

 

(…絶対にあっちは見ねぇでおこう…)

 

紫煙を吐き出しながら、次元はそう誓うのだった。

 

「『Bar Admiral』へようこそお客様。ささやかながらおもてなしをさせて頂きます」

 

その修羅場の火種を見て見ぬふりか、気付かないのか金城提督はカウンター内に入って挨拶をする。

次元の隣の日向はどうしたものかとばかりに、次元と五右衛門を交互に見る。

 

(ま、慣れてるわきゃねぇな…)

 

居酒屋ならまだしも、バーというものは敷居が高く感じられがちである。

独特の雰囲気を持っていたりすることや、内装のイメージから堅苦しく感じられがちなのもあるだろう。

 

さらに本土では艦娘には様々な制約が課せられている事が多く、気軽に飲みに行くなんてこともできないのが現実だからだ。

 

「ま、堅苦しい挨拶はこれくらいにしよう。さぁ、飲みたい物を言ってくれ」

 

「そうは言っても……メニューが見当たらねぇが」

 

出し忘れかとカウンターテーブルを見渡しても見たらず、煙草片手に問いかける。

しかし、どこか自慢げにニヤリと金城提督が笑う。

 

「ウチはメニューが無い分、食いたい物・飲みたい物を言ってくれれば材料があれば何でも作るのさ」

 

よほどのレパートリーや客の目利きに自信があるようだった。

その言葉のみならず、挑むような意思が瞳に見えた。

 

「ほーぅ、なら……バーボン・ロックだ。銘柄は任せる、それと料理の前に摘まめる物を」

 

「……拙者は日本酒を貰おう。冷やでな」

 

五右衛門は金城提督の言葉に特に何も思っていないのか、いつも通りの注文をする。

逆に面白がっているのはルパンだった。

 

「……で?お前さんはどうするんだ?ルパン提督」

 

左手で頬杖をつき、軽く見上げるようにして笑いながら言う。

 

「俺かい?そりゃあアンタが俺に飲ませたい一杯をくれ」

 

次元は内心苦笑する。

初見の客相手に、好みに合う一品を出せるのか、という挑戦状だった。

 

しかし、金城提督は慣れているのかあっさりと流す。

 

「お嬢さんがたはどうするね?」

 

「じゃあ……提督と同じ物を」

 

それに応じたのは龍田だった。

しかし、どことなく挑むような、勝ち誇ったような笑みを金城提督ではなく、ルパン越しに加賀に向ける。

 

それをどこ吹く風とばかりに流して加賀は少しだけ考えて口を開く。

 

「では、私も日本酒を。肴は……そうね、何か温かい物がいいわ」

 

「私は芋を貰おう。ツマミは……魚がいいな」

 

それにかぶせるように注文をしたのは日向だった。

あまり酒に執着を見せない日向があえて芋を選んだのを珍しいなと次元は思っていたが、背後のテーブル席から怒りの声が飛んできた。

 

「ちょっとdarling!こっちの注文は!?」

 

先ほどまでルパン鎮守府の龍田たちとガールズトークで盛り上がっていた金剛だった。

ガールズトーク、という割には生々しい内容もあったのは、既婚者、しかも新婚であるが故か。

 

「あ?まずは客人優先だろが。少しくらい我慢しろ」

 

「薄情者~!」

 

その会話を聞いて、ルパンは軽くため息を漏らす。

 

(そりゃ金剛ちゃんが不満を抱えるわけだ…もうちっと言いようがあるだろうに…)

 

微笑ましいやり取りではあるものの、色んな意味で『百戦錬磨』なルパンとしては合格点をやれないなと判断する。

とはいえ、放置するほど薄情ではないのか、軽く注意の意を含んだ言葉を紡ぐ。

 

「随分ラブラブじゃねぇの」

 

「うるせぇ、茶化すなぃ。あれでも寂しがり屋な上に嫉妬深くてな、手懐けるのに苦労してんだ」

 

それを聞いて苦笑を漏らすルパン。

 

(ま、嫉妬深いっても可愛い反応しかしねぇならいいのかね…ちっと鈍感な提督と可愛い焼餅焼きの嫁さん、か。

お似合いって事でお節介はこれくらいにしときますか)

 

あえてそれ以上は何も言わずに小さく肩を竦めて、料理の手つきを眺める。

意外なことに次元も何も言わずに作業の様子を煙草を吸いながら見ていた。

 

「あら~、随分奥さんの事理解してらっしゃるんですね?」

 

「まぁね。一目惚れ、なんて口に出すのも恥ずかしい惚れ方した相手だからこそ、どんな事でも理解したいのさ」

 

それに茶々を入れたのは龍田だったが、逆に返り討ちにあって赤面していた。

余裕ぶっているくせに、意外に純情な龍田である。

 

背後のテーブル席から歓声やら舌打ちなど聞こえてくるが、色々と怖いので聞こえないフリをする一同ではあったが。

 

「さて、そろそろあがるよ…はいお待ち、『バーボン・ロック』と『ナチョス』だ」

 

一番に出てきたのは、次元の注文だった。

ナチョスとは日本では馴染みが薄いかもしれないが、アメリカやメキシコではバーなどでの軽食で人気の一品である。

 

1943年にアメリカの国境にあるメキシコのレストランで、「ナチョ」というあだ名のウェイターが調理師不在の時にありあわせで作ったメニューである。

簡単に言えばトルティーヤ(トウモロコシの薄焼きパン)を揚げて、その上に熱したチーズとピクルスのスライスを乗せたものが始まりである。

 

自由度が高く、広まるうちに様々な工夫がなされて、サルサソースやバーベキューソースをかけたり、ひき肉炒めを乗せたりとバリエーション豊かな軽食である。

また、基本的に油が多く味が濃いため、バーだけではなく、野球観戦の売店などでもよく見る。

 

それを見て、少し次元は珍しさというより、懐かしさから目を見開く。

それなりに海外生活も長い次元はよく知るメニューでもあるし、お手軽にあるもので作れる一品だったりもしたことで好きと言うほどではないが食べつけていた。

 

適当な余り物を濃い目に市販のサルサソースなどで味付けして、市販のトルティーヤチップス(なければポテトチップスでも代用して)に乗せれば出来上がりのお手軽軽食である。

どうしても油物に油物を乗せるので、食べ過ぎには注意だが。

 

 

「悪いが、先にやってるぞ」

 

冷めたら味が落ちるのは経験上知っていたので、そう宣言してまずバーボンを口に運ぶ。

先入観のない、フラットな舌になじむ程度の量を口に含む。

 

そして口に拡がるねっとりとした甘みと深い味わい。

ともに広がる芳醇な香り。

 

次元の脳内にこれまで味わってきたバーボンのリストが広がる。

そして、一つの答えにたどり着く。

 

「『ブラントン』か…いい趣味だ」

 

それ以上は何も言わない。

酒飲みの口は蘊蓄を語るためのものではなく、酒を味わうためのものだ。

 

そう言わんばかりに黙ってもう一口。

しかし、先ほどよりも多くを口に含んで喉を微かに焼く刺激と喉から口までを満たす香りを楽しむ。

そのままナチョスを一枚口に含んで噛みしめれば、ソースの酸味と辛味、チーズの甘さ、そしてひき肉の旨味と油。

 

こうなると次元の口はその後味をブラントンでフラットに戻そうとまた一口口に運ぶ。

そして、飲み干すとブラントンの芳醇な香りを含んだ溜息を漏らす。

 

「なるほどな…提督にしとくにゃ惜しい腕だ」

 

「そうか?あくまでも家庭料理の延長のつもりなんだがな、俺としては」

 

正直な感想に謙遜気味に答える金城提督。

しかし、その顔は次の料理の準備なのか手元から離れない。

 

「美味そうだな、一口くれよ~次元」

 

「ヤだね、自分の分が来るまで我慢しろ」

 

しかし、無粋と言うべきかルパンが甘えた口調で次元の目の前のナチョスに手を伸ばす。

しかも、間に加賀がいるのに取ろうと身を寄せるせいで、加賀が二人の間に挟まれて少し顔を赤くしていた。

 

「…あの…提督…」

 

困ったように、しかし、喜色を声ににじませつつも何といっていいのかわからないらしい加賀に次元は溜息をつきながら、ルパンの手を叩き落とした。

 

(戦闘の時のように大胆にいきゃいいものをよ…)

 

突っぱねられて唇を尖らせたルパンが、フンとばかりに鼻を鳴らす。

その隙に龍田がカウンターの椅子をルパンに寄せたのを次元は横目で見ていた。

 

「ケチくせぇ野郎だぜ、ったく」

 

「テメェに言われたくねぇよ。スパゲティだって、すき焼きだって、お前はいっつも多く取っていきやがって」

 

多少カチンときた次元が過去を挙げて、鼻で笑う。

 

「何ィ!?晩飯奢ってやっただろうが!?」

 

「俺ァ13回奢らされたな」

 

「数えてんじゃねぇよ!!そういう所がケチくせぇんだ!!」

 

再び肩を怒らせて声を荒げるルパンを鼻で笑って、次元は見せつけるようにナチョスをまた一つ口に運ぶのだった。

今にも飛びかかろうとするルパンの両肩に背後からそっと苦笑しながら手を添える龍田。

 

それを横目で見ながら、自分の酒を楽しむ次元であった。




ちょっとマニアックな小ネタを交えつつ、じゃれあう二人でした。

ちなみにこのEX3が終了後、本編は大きく動く予定です。
一応言っておきますが、ハッピーエンドの方向への一歩を踏み出します。

前回イベ(16春イベ)と、本日より始まる夏イベの内容を見て、それを加味した話になるかと。
次回予告というわけではないですが、お楽しみに。


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EX3-6.加賀は苦悶するようです

夏イベお疲れ様でした。

アクィラで60周あまりさせられましたが、E3ラストダンスで伊26が落ちるというホームランにより、無事に隠岐鎮守府の夏イベは開始一週間余りで終わりました。
100周行かずに済んで何よりです。

しかも、全員手動キラ付け(遠征も含む)のせいか、E4甲ラストダンスは1回で終了しましたし。
皆さんの夏イベはいかがでしたか?


ルパンと次元がやいのやいのといつものやり取りをしている間、五右衛門は静かに黙ってカウンターの中を観察していた。

 

五右衛門とルパン鎮守府の加賀は実は似た者同士である。

普段は冷静沈着でありながら、ひょんなことで怒りに火が付いたりもする点も然り。

(加賀の場合、大抵その怒りに火をつけるのは某ツインテールだったりするが)

 

食事に対する並々ならぬ執着、も同様である。

 

加賀とセットで語られるのは赤城であるが、赤城はどちらかというと総合点を評価することが多い。

赤城は大和型ほどではないが、健啖家であることもあり、『一定基準以上の味』であれば問題ないというスタンスである。

そして、食べるのが異様に早い。

例えるなら運動部の男子高校生か、というくらいに。

カレーはおろか、丼物すら飲み物とか言いかねない勢いで食べる。

さらに、ほとんど全てをご飯に乗せて一緒に口に入れる。

どこの巨漢タレントだ。

 

一方、加賀も相応には食べれるのであるが、食べるのが遅い。

それには事情があるのだが、とりあえずよく噛んで食べるし、しっかり味わって食べる。

そのため、食べている間に瞑目して舌に集中している事すらある。

 

よく噛んでゆっくり食べる間に満腹中枢が満たされて、赤城ほど食べることは稀である。

そのためか、質を求める傾向にある。

 

たまに昼休みの食堂でメニューを選ぶために真剣に数分以上メニューの前で悩んでいる事もある。

そこに大抵ちょっかいをかけて、アームロックを喰らう某妹もよくある光景でもある。

当然、加賀の脳は何を頼むかでフルに使われているので、某ツインテールが悲鳴を上げようが気にも留めない。

 

そんな些事に気をかける脳の余裕はないのだ。

いかに満足できるランチタイムを迎えるかの方が大事である。

ナニかが折れるか折れないかの加減は身体が自然と覚えているから意識などする必要はない。

まさに生かさず殺さず。

 

どこか幸せそうな表情を浮かべているのは見なかったことにしておいた方がいいのだろう。

 

 

質を求めるのは五右衛門も同様だが、どこぞの食通のように『女将を呼べ!!』とかはないのである。

秋月型などに代表されるが、戦況が苦しくなった時の記憶のある艦娘をはじめとして食に感謝を捧げる艦娘が多い。

実際『腹いっぱい食べれる』ということは幸福な事である。

それは全ての艦娘も共通して思っている事である。

 

五右衛門もその信念には感謝し、よほどの事がないと出されたものは全て感謝して食べる。

ただ、あまりに好みに合わない場合は二度とその店で食べないだけである。

料理も男の手料理程度でしか出来ず、食べさせてもらえるだけでもありがたい、というスタンスである。

 

当然、二人とも食通ではないのでどんな工夫が、食材がと語られても『そうですか』で終わりである。

肝心なのは【己が美味いと感じるかどうか】であり、料理人泣かせとも言える。

 

 

酒に関しても同様である。

加賀も五右衛門も酒は強い方で、詳しくもない。

 

知識も素材も歴史もそこまで気にしない。

ただ、口に合うか否かしかなく、大抵のものは美味しくいただけてしまうのだった。

 

 

 

ゆえに。

 

(満足できる酒に出会え、それと合う食事を出してくれればそれで十分なのだがな…)

 

五右衛門の心境はその程度でしかない。

何やら目の前の金城提督が張り切っているのに水を差すのもどうかと思って黙ってはいるが。

 

加賀も同様で、出てくる料理に関しては多少の注文はある。

しかし、美味ければそれでいい。

 

(あまり熱すぎる料理と、濃すぎる料理は遠慮願いたいものね…

その時はビールでも追加で頼みましょうか)

 

料理を作る金城提督を横目で見つつも、気になるのは隣のルパンと龍田であった。

先ほどの次元との喧嘩の時に僅かに席を寄せたのを加賀は見逃していなかった。

 

(確かに艦娘として生を受けてからの人生経験や事務処理の腕には差があることは認めましょう。

ですが、この一航戦として、提督の刃となってお役に立ってみせましょう)

 

意外と口にしないだけで加賀は饒舌なのである。

口は開かないが。

 

 

「お待ち、『鮭のルイベ』だ。今回は伝統的なアイヌ料理風に仕上げてある。塩は振ってあるから、好みで山葵を付けてな」

 

そうこうしている間に五右衛門に皿が出される。

その皿の上にはぱっと見は鮭の刺身に見えるが、半分凍っている。

 

ルイベとは、アイヌ語で凍った食べ物を意味する。

自然の知恵で、魚を凍らせて保存をすると同時に寄生虫が死ぬことを知ったことから広まったものである。

これは北海道だけでなく、中国やロシアの一部地域に似た食べ方は存在している。

有名なのは鮭だが、マス、ニジマスやイカなどでも作られる。

 

とはいえ、これは家庭ではお勧めされない。

サナダムシやアニサキスなどの寄生虫が死ぬのは-20度以下であり、家庭用冷蔵庫だとせいぜい-10度。

家庭用冷蔵庫では寄生虫は死なず、長期間保存すると水分も抜け、味も落ちるし、危険性も高まる。

そのため、家庭で楽しむ場合は業務用で専用の処理をされたものを購入し、即座に食べることをお勧めする。

 

なお、市販のスーパーなどで肉類などを保存する場合も同じで、せいぜいもって一か月程度で、それ以上保存すると品質の低下と食中毒などの可能性もあるので気を付けていただきたい。

 

 

閑話休題。

 

出されたルイベに手をつける前に金城提督から美しいカットの刻まれた江戸切子のグラスに入った『冷や』を差し出される。

それだけで五右衛門はほんのすこしだけ目を細める。

 

最近の飲み屋で冷やを頼むと氷などを入れた『雪冷え』を出されることがある。

本来、日本酒の『冷や』とは常温を指す。

 

日本酒は温度によって表情を変えるものであり、冷蔵庫などで冷やせば美味い、というものではなく、その違いも楽しみ方・合わせ方の一つなのである。

勿論雪冷えを否定するわけではないが、冷やを頼んで雪冷えが出てくると、『エスプレッソ』を頼んだのに『アメリカン』が出てきたような気分になるのは筆者だけだろうか。

 

 

(…このような基本を守っているという事はよほどこの男、酒が好きなのだな)

 

執務室にバーを作った男に対する感想として今更過ぎるが、改めてそう思うのだった。

 

そのまま無言でルイベを一切れ箸で摘まみ、わさび醤油をほんのちょっと。

それを口に運んで噛みしめると、通常の鮭とは違い、脂が通常よりも少しだけ落ちて脂ののった白身魚のような口当たりと、凍った部分と生の部分の絶妙な歯ごたえ。

刺身醤油ではなく、通常の醤油の旨味とわさびの刺激が口から鼻へと抜ける。

 

そして、切子を傾けて喉を湿らせる程度に日本酒を注ぐ。

すると口内のルイベの旨味と脂、醤油とわさびの香りがそっと流されると同時に日本酒の辛味と香り。

 

日本酒は、日本酒だけで嗜むものではなく、料理と嗜むもの。

それがつまみであったり、塩であったりもするが。

 

そんなことを考えると唇がほんの少し綻ぶ。

 

「…………うむ…」

 

先ほど見た瓶の銘柄をちらりと確認して、また二口目のルイベへと五右衛門は挑むのだった。

 

ちなみにルパンも次元もそれを見ても手を出そうとはしない。

別に傍らの斬鉄剣が怖い、などではなく、箸が五右衛門の手の中の一膳しかないからである。

さすがに人前で手づかみで刺身は食べれない。

 

ましてや醤油をつけた刺身をドタバタ奪い合いなんかした日には、スーツかYシャツか着物かわからないがどれかに被害が出るだろう。

それがとある女性の衣服となれば……切り落とされかねない。

何が、かはわからないが。

 

 

五右衛門が饒舌な、会話を楽しむタイプではないことを理解しているのかそれ以上は金城提督は何も言わず次の料理に取り掛かる。

次はルパンなのだろうな、と誰しも思っていた。

 

そして漂うのは香ばしい香り。

リズミカルにまな板を叩く包丁の音と、かき混ぜる菜箸とボウルの音。

ごま油ににんにく、しょうがの火の通る香ばしい香りが漂う。

 

鰻ではないが、香りが時には暴力となる。

実際に小腹の空いたルパンや加賀は軽く前のめりになってしまっている。

 

そして中華鍋が振るわれてふんわりとした卵が器に乗る。

冷めぬ間にということであろうか、再び手早く中華鍋を振るって作られた餡が卵の上にかけられる。

 

(次元提督、五右衛門提督、とくれば、ルパン提督でしょう。

幸い、と言ってもいいかもしれませんが…あとで少し分けていただきたいものね)

 

加賀はつい唾を飲み込みかけるのを耐え、そうひとりごちる。

 

彼女は先ほども述べたが、猫舌なのである。

どうも口内の粘膜が弱いのか、皮膚が剥けるわ、ヒリヒリするわで大変なのである。

 

そのため、かに玉が大きい事には気づきながらもルパンに饗されるなら、むしろ余ったほどよく冷めた分を分けてもらおうと思っていた。

 

しかし。

 

「はいお待たせ、『かに玉』だよ。お酒は今注ぐから待っててな」

 

金城提督の差し出した皿は加賀の前に置かれるのだった。

 

(えっ、順番的にルパン提督じゃないのでしょうか?

というか、湯気がはっきり出てますよね?熱いですよね?)

 

加賀の心の内での疑問符だらけの絶叫に誰も気づくことなく、金城提督はグラスと一升瓶を取り出す。

加賀は目の前のかに玉から目を離せず、凝視するしかなかった。

 

(食べれなくはないわけではありません。

実際に香りやふんわりとした卵の火の通し加減を見る限り、絶対美味しいでしょう

むしろ食べたい料理です。しかし、食べた後の惨劇を考えると…)

 

そのような葛藤をよそに金城は気の良い笑みを浮かべてロックグラスを差し出してくる。

 

「ハイよ、『森の菊川 本醸造辛口原酒』のオンザロックだ」

 

そして、彼女は覚悟を決めた。

 

「ありがとうございます。では頂きます」

 

そうとだけ言って、合掌。

 

蓮華でふんわりとした卵を切り取って、餡と一緒に乗せる。

餡を乗せすぎたら熱くて食べれないし、後で足りなくなるが、少ないと物足りない。

まさに匙加減。

 

サイドテールが零れ落ちないように軽く手で抑えながら、少し頭を下げて蓮華の上の卵を軽く吹く。

そして、意を決して口に含む。

 

(熱っ!…でもっ、香ばしくて…美味しいっ!!)

 

口内に広がる甘酸っぱい餡の旨味と、ごま油の香り。

そして噛むと広がる卵の柔らかい甘さ。

ハフハフと熱を吐息で漏らしながら咀嚼するものの、熱くてままならず飲み込む。

すると熱が喉を通り、食道が焼けるような錯覚を覚える。

 

そこでロックグラスを手に取って半分ほど冷え切った日本酒を口に運ぶ。

 

するとよく冷えた日本酒が熱を帯びた口内を冷ますとともに、キリッとした辛口の日本酒の旨味が刺す。

そして飲み干すと熱くて堪らなかった食道を冷ますとともに喉からスッと抜ける爽快な香り。

 

そこでやっと加賀は一息つく。

 

(つまみとしては程よい味の濃さに、爽やかな味わい。

これはいい組み合わせかもしれませんが…)

 

手にしたグラスを見下ろす。

勢いでつい半分も飲んでしまったため、残りは半分程度。

 

そして、ふと隣の席のルパンを見る。

ルパンはかに玉を凝視していて、分けてくれと言わんばかりである。

 

「私は少々熱い物が苦手ですが……この組み合わせはとても良いと思います」

 

そのまま真っすぐカウンターの中の金城提督を見据えてそう評じる。

しかし。

 

「…申し訳ありませんが、チェイサーでビールを」

 

(これを数杯開けたところでどうということはありませんが…どう見えるかは別問題ですし。

あまり飲兵衛だと思われても、女の身としてはよろしくないかもしれません)

 

などと自分の選択に自信があるのか、軽くドヤ顔気味になっている。

 

 

 

 

しかし、その横顔を見るウィスキー片手の次元がジト目を送っていた。

 

(かに玉と日本酒に、チェイサーでビールってどうなんだよ…)

 

 

ルパン鎮守府の面々はどこかしらズレているようである。

 

次元の味のバランスへの不満にも気付かずに、再度加賀は蓮華を片手にかに玉に挑むのであった。




しかし、プリンツ・オイゲンは落ちなかったッ!!(血涙)

あ、二人目ですよ?


今日明日は台風が襲来するらしいですね。
…大丈夫かな。

これからやってくる方、もしくは襲来中の方はお気を付けて。


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EX3-7.やっとありつけるようです。

今年の台風はなんだったんですかねぇ…最近異常気象と定型文のように言われてましたが、本当に異常でした。
水不足からの大雨連発…。

水害などに遭われた皆様にお見舞い申し上げます。


「チェイサーにビールを下さい」

 

その注文を聞いて次の準備をしていたらしい金城提督がちらりと加賀を見る。

それでもそれ以上の反応をせずに冷蔵庫から出した鰹を一本、まな板の上に置くとともにジョッキに注いでそのまま出す。

 

(あまり飲み過ぎるとお腹が満たされ過ぎますが…)

 

猫舌の加賀は熱いものをあまり噛むことができない。

そうなると口内でいつまでもハフハフと留めるのも辛いので慌てて飲み込んでしまうと…自然と喉や胃が灼ける。

そういう時にありがたいのが、度数が少ない、もしくはノンアルコールの冷たい飲み物。

しかし、特にビールなどは炭酸で胃が満ちてしまうし、水分の摂りすぎにも繋がるので警戒せねばならない。

 

渡されたジョッキを加賀は受け取ると、胃の灼ける熱さに耐えかねてそのまま喉に流し込む。

口内に満ちるかに玉の自然な甘さと風味をビールの僅かな苦味と旨味で流し込む。

すると先ほどまで痛いほどの灼ける感覚が癒され、そしてまた目の前のかに玉を今度はよく息を吹きかけて冷まして挑む。

 

(あぁ…ビールの注ぎ方も上々です…高揚してきます)

 

そうして新たな一口を口に運ぶのだった。

 

 

昨今、『ビールは不味い』などと言う若者が多いらしいが、それは行った店が悪い場合が多い。

昔と違って今は格安のチェーン店の居酒屋が増え、そのような場所で供されるビール・カクテルは紛い物に過ぎないことが多い。

それを勘違いして、『ビール・カクテルは不味い』という若者が多いと思われる。

 

カクテルの材料だが、簡単なジンライムだとライムジュースとジンを1:3で混ぜるだけだが…その混ぜ方にも技術がある。

ライムジュースを使うか、フレッシュライムを使うかなどの配合などで勿論店の差はあるが。

しかし、チェーン店などの場合『保存方法』に問題がある場合が多々ある。

 

キッチンなどは冷蔵庫など多くの機械があるため、店内とキッチンでは約5度以上差があることも多々ある。

当然、機材があり、火を扱うキッチンは暑いのだ。

意識されづらいが酒も当然生き物というか、ナマモノである以上、適温で保存せねば劣化する。

 

そんな常温以上の温度下で放置するようにキッチン台の上で置かれた酒を。

最悪いつ購入したのかもわからない酒を使って美味いカクテルが出来るはずもない。

さらにビールに至っては混ぜることもしないそのままを飲む飲み物であるから、なおさら管理状態が味に直結する。

 

勿論メーカーでは機械のメンテナンスで毎日始業前と終業後にサーバーの清掃を推奨しているが…それなりに手間と時間がかかるため、酷い店だと一切していない事がある。

同じメーカーのビール、サーバーを使っても味は千差万別になることを知ってほしい。

特にちゃんとした国産ビールなのに『酸っぱさ』を感じる場合は数日以上サーバー清掃をしていない可能性があるので、その店を使わないことをお勧めする。

 

下手に安いチェーン店の居酒屋よりも古くからある居酒屋(特に個人経営)をお勧めしたい。

長年続けれるということは料理の味や酒の管理がしっかりされているからこそ、客が離れない店である可能性が高いからである。

 

純粋に酒の味を楽しみたいならバーをお勧めするが、評判などを確認した上で行くことをお勧めする。

特にビールの違いを味わいたいならしっかりしたバーが一番で、ちゃんとした品質・温度管理及び注ぎ方で注がれた、『本当のビール』を味わえるだろう。

 

当然だが、加賀の飲んだビールにはそのような酸味など無縁であり、加賀はそこまでの知識がなく、そのような性質(タチ)の悪い店で飲んだことがないため普通に満足しているが。

 

 

そんなビールとかに玉をゆっくりと、しかししっかり楽しんでいる加賀を横目にルパンはカウンターの中に釘付けになっていた。

これまでの様子からすれば、金城提督は間違いのない腕を持っていることは疑うべくもない。

そこで出してきたのが鰹。

処理や鮮度にもよるが、刺身もいいし、王道で言えばたたきも悪くない。

空きっ腹にそのようなものを見せつけらればついつい前屈みになって見たくなるのも仕方ない。

 

それを知ってか知らずか、金城提督はタマネギなどの薬味の類をリズミカルに包丁とまな板で音を立てて刻む。

 

「こりゃ、たたきかねぇ?」

 

「そうね~ただ、さすがにこの設備じゃ藁は難しいわよね~?」

 

ルパンと龍田は小声で話し合う。

最近のこだわった居酒屋では専用の藁焼きが可能な設備を整えてはいるが、あくまで料理メインの居酒屋の話だ。

バーの場合は基本はそのような凝った料理を提供するよりも、酒に重点を置く。

金城提督の執務室のバー設備は、料理もできるように十分に拡充されてはいるがそれでも基本はバーであり、出来そうには見えない。

 

そしてどうなるかを二人が前屈みになって見守る中、フライパンで鰹が熱される。

フライパンを熱しきった後に、数十秒程度焼いて焼き目をつければ金城提督は鰹を下ろして、綺麗に切った後に皿に盛る。

そのやり方につい声を漏らしてしまったのは次元である。

 

「へぇ…そんなやり方もあるのか…」

 

意外かどうかはさておき、ルパン一味の中で一番料理をするのはルパンである。

しかし、それは大抵その時に入れ込んでいる女性に振る舞うためだったりするのだが。

(古い例で言えばバイバイ・リバティーにおけるジュディのために作っていた)

が、結構こだわって作るのは次元である。

すき焼きを作る時に味見をして、調理酒の代わりにビールを入れてコクを出したりとちゃんと料理の味を調整している事もある。

(死の翼アルバトロス参照)

 

そして、金城提督がリズミカルに包丁でまな板を叩き、玉ねぎ、小葱などが切られ。

それが彩りと化して皿の上に並べられる。

 

それがルパンの期待と裏腹に日向の目の前に置かれる。

 

(…少々、気まずいな…)

 

内心、日向が苦笑しながらもそのまま箸をとる。

 

「ハイお待ち、『鰹の塩たたき』と『山ねこ』のロックだ」

 

「ありがとう……頂きます」

 

 日向は物静かにだが、よく食べるしよく飲むタイプだ。まだほんのりと暖かい鰹を一切れ薬味と共につまみ上げ、一口で口の中へ放り込む。シャクリ、シャクリと玉ねぎが歯応えと辛味を出しているそこに、フルーティーな甘味を誇る『山ねこ』を流す。

 

「うん……うまい」

 

 ふぅと満足げな吐息を漏らすとともに静かに頷き、またもう一切れ鰹を口に運ぶのだった。

 

 そこで満足できないのはルパンと龍田だ。

腹が減ってる時にほとんど同時にオーダーをしたはずなのに目の前で美味そうな料理が、美味そうな香りをバラ撒いて違う客の元へ届く…拷問にすら感じてしまう。

しかし、流石にこれ以上素通りはないだろう。

賓客となっているルパンをスルーして、自分の嫁を優先させるというのは流石にないだろう。

 

 釘を刺すように笑いながら言うルパンだが、少しばかり頬が引きつっているのは愛嬌。

 

「さんざん待たしてくれちゃってぇ、期待してるぜ~?」

 

「ま、期待に添えるように全力でやるさ」

 

 そんな軽口を叩きながら金城提督がシェイカーを出し、そして数本のボトルを出したのを見るとフッとルパンは笑う。

ルパンはジャズバーなどにも顔をよく出す上に、盗みの際にバーテンダーに扮したこともある。

そのため、出されるカクテルはいくつも予想はしていた上に、その本命と言えるカクテルの材料が見えて少しだけ笑った。

 

 それは決して金城提督をバカにしたわけではなく、日向ではないが『まぁそうなるよなぁ』という笑いだった。

 

 そしてウォッカ、アリーゼ、オレンジジュースがシェイカーに投入される。

 

 ただシェイカーは振ればいいわけではない。

シェイカーの目的は『全てを一気にかき混ぜるとともに、氷と最大限触れさせて酒を一気に冷やす』こと。

振りすぎてかき混ぜすぎれば氷と触れ合い過ぎて、氷が解けて水っぽくなる。

振りが足りなければ冷えてなくて口当たりが喧嘩する。

 

 そこにバーテンダーの技術がある。

 

 ウォッカは有名だから説明を省くがアリーゼというものは聞きなれないリキュールかもしれない。

アリーゼはフレンチ・コニャック(コニャック産ブランデー)とウォッカと天然果汁を混ぜたリキュールである。

アリーゼも数種類あり、混ぜる果汁などによって色が違うが、ルパンにはゴールドパッションというオレンジのパッションフルーツを混ぜたものを使うことが多い。

 

「へーぇ、ホントにカクテルも作れるんだな」

 

「何だよ、疑ってたのか?」

 

 その目の前で堂に入った動きでシェイカーを振る様子を見て、つい冷やかしのようにルパンは言う。

実際バーに修行で入ったとしても、厳しい店だとドリンクを客に出せるようになるまで一年どころではない。

ただ混ぜるだけと思いがちな『ステア(スプーンを入れてグラスを混ぜる)』のも熟練の技が必要になる。

理由はシェークの時と一緒でかき混ぜるだけなら誰でもできるが、『美味しく混ぜる』には技術が必要なのだ。

 

 最低限の回数で、最大限均一にかき混ぜ、適切に全体を冷やす。

 

 ルパンの肥えた目には金城提督の手つきは昨日今日の修練ではないものがあるのを見て取った。

金城提督もその言葉の真意が理解出来ているのか、言葉に気を悪くした様子はない。

そのまま静かにフルートグラスにオレンジ色のカクテルを注ぎ、飾りのフルーツを刺す。

 

 余談になるが、筆者もたまにバーなどでこのような洒落たカクテルを頼んで楽しむ時がある。

この刺されたフルーツには時折惑わされる。

基本は食べていいのだが、熟れてない飾りのためだけのフルーツもある。

時折、その中途半端な熟れかけのフルーツを刺されると本当に困ってしまうが、あからさまに青くなければ好き好きでいいだろう。

筆者は特にバナナなどだが、青いフルーツが好きなので基本的に食べるが…デートなどでカッコつけたいときは、スマートにペーパーナプキンの上に置くなり、バーテンダーに頼んで小皿などを出してもらって手を付けないのも手だ。

 

 

「まずは挨拶代わりの一杯、『ルパン』だ」

 

 そして差し出される『ルパン』。

見た目はただのオレンジジュースに見えるが、コニャックの僅かな残り香、ウォッカの清冽な香り、そしてオレンジやパッションフルーツの甘く酸っぱい香り。

その混ざり合った香りを確かめるように目を閉じて確かめる。

 

「ウチのじい様をイメージしたカクテルだったか?んじゃま一口……くぁ~、甘いなぁこりゃ!」

 

「……ホント、甘くて男を口説いてる時の誰かさんみたい~♪」

 

「オイオイ、そりゃないぜ龍田ちゃ~ん!」

 

なんて軽口を龍田と叩きながらも、自らの、そして祖父の名前の大きさに内心苦笑を隠し切れない。

勿論コニャックやパッションフルーツの甘さが舌を打つが、実際はそんなに甘いカクテルではない。

ベースにウォッカを使ってる上にアリーゼにもウォッカにコニャック。(両方ともアルコールは大体40度以上)

タチの悪いナンパ男が酒に慣れていない女性を酔い潰すのに使うような、口当たりの良さがある。

 

 悪用はしてほしくないが、そのようなカクテルを俗に『レディキラーカクテル』などと言ったりもするが、このルパンもその内に入り得る。

 

 しかし、この味をルパンは嫌いじゃない。

祖父のアルセーヌ・ルパン然り、このルパン三世然り。

善人のために動くだけのような甘ちゃんなわけでもなく。

仁義も忘れた外道のようなキツさだけでもない。

甘くもあり、その中にキツさもある。

『ルパン』とは一言で言い現わせるような薄っぺらいものではいけないのだ。

そう思う。

 

「ハイよ、『ハムカツ4種盛り』。ソースはお好みでね」

 

 ルパンが色々な事を思いつつ、少しずつ喉を潤しているとその間に響いていた揚げ物の音が止んで、皿が差し出された。

その皿の上に数種のカツとキャベツ。そして彩りのトマト。

 

「……中身は?」

 

「オイオイ、それを言ったら食べる楽しみが無くなるってモンだろ」

 

(ごもっともといえばごもっともなんだがな…甘い『ルパン』にハムカツねぇ…?)

 

これまで出してきたつまみと酒のバランスを考えれば、この組み合わせはどうかと少し首を傾げる。

ポカミスなのか、それとも妙手となりうるのか。

 

 そんな期待を抱きながら箸を龍田とともに動かして、ハムカツを運ぶ。

 

「く~これこれ、ハムカツって言やぁ薄っぺらいハムに分厚い衣だよなぁ」

 

 ルパンの歯に伝わるのは薄く、少し硬い衣の歯ごたえの中にあるハムの旨味。

今どきは厚めのハムとかもあるが、あえてこの『薄いハムカツ』というものも捨てがたいものがある。

その厚い衣にたっぷりウスターソースをジャブジャブに浸して、ジャンクな味わいもまた一興。

 

 懐かしさのままにたっぷり浸して口に運べば、これまた懐かしいジャンクな毒々しい味わい。

確かに毒々しいと言ってもいい過剰な濃い味。

龍田はそれを見て『そんなのが美味しいのかしら…?』と怪訝そうにしているが、ある意味モノが少なかった時代の味なのだ。

 

ジャンク(ガラクタ)な味わいには、ジャンキー(中毒)な魅力がある。

そして、それに溺れると身体を壊すのもジャンクフード特有だが。

 

「く~!これまた懐かしい味だこと」

 

「ほらよ、ハムカツ食うならカクテルよりこっちだろ」

 

 そう言って金城提督から差し出される中ジョッキ。

その黄金で満たされたジョッキを見てそうだろうと内心ルパンは頷くと、半分以上飲んでいたルパンを飲み干してフルーツをそのままに差し出す。

 

「気が利くじゃねぇの」

 

「そりゃ、一応ここのマスターだからな」

 

「ちょっとぉ、私の意見はぁ?」

 

 そのままルパンが濃い味と油に満たされた口をビールで洗い流せば、すぐ隣の龍田が唇を尖らせる。

バーでの甘い雰囲気を期待していたのだろうか。

 

「いやいや、すまんすまん。無視してるつもりは無かったんだがね」

 

 慌てて金城提督が平謝りすると、まぁいいけれど~などと言いながら、サクッというより、カリッという音に近い音を立ててハムカツを齧る。

 

「でもぉ、ホントに美味しいわぁコレ。こっちの丸いのはハムでチーズを挟んであるのよね?」

 

「お、ご名答。ハムチーズカツってやつさ。定番だけど、美味いだろ?」

 

 龍田の齧った断面には熱で蕩けたチーズがこぼれかけ、その中にハムが見える。

このハムチーズカツは、ハムが薄くて食べごたえや味が物足りないのでチーズを足して、チーズの濃厚さを足したものである。

これもまた贅沢にいこうと思えば、チーズの品種を工夫することもできる。

 

「こっちの半円の奴は……ポテトサラダか」

 

「もうひとつの方は海老とアボカドが入ってるわ~」

 

 また違う一つを齧れば、今度はあまり聞いたことのない変り種が出てくる。

 

(こういうのもあるのか…)

 

ここ最近B級グルメの発展が目覚ましい。

慣れ親しんだ味をさらに深めるとでもいうのか。

こういう変り種に見えてもバカに出来ないものが多々あるので、面白い。

 

 そんな事を思いながらルパンはまたビールを煽った。

 

 

 

「そら、こいつはサービスだ」

 

 別に龍田と加賀は張り合ってはいるが、仲が悪いわけではない。

お互いの料理が出揃ったので、それぞれのフードを一味で味見し合っていた。

多少バーというよりも居酒屋っぽいやり取りになってしまってはいるが。

 

 そんな中金城提督から出された皿に次元が苦笑する。

 

「『レバーペースト』に『ガーリックトースト』だ」

 

「こりゃまた……随分とスタミナが付きそうなメニューだな?」

 

 文句をつけるような言葉だが、即座に手に取っているから説得力はない。

むしろ、ルパンたちを横目でちらっと見てから、冗談めかして笑いながら帽子を深くかぶる。

 

「ん?お前らの艦娘を見ててな。大分疲れが溜まっている様だったから、スタミナ補給にな」

 

 金城提督の言葉にルパンは苦笑する。

別にルパンは1から10まで、箸の上げ下げまで命令する気はない。

だが、実際ルパンもだが、特に龍田をはじめとする執務室詰めは八面六臂の大活躍である。

ルパンのやろうとしている鎮守府運営はこの世界ではレアケースで独自の事をやろうとしている。

そのため、どうしても事務処理や様々なコネなどの作成などといった執務室での仕事が多くなる。

 

 しかし、出撃組という艦娘としてのレベル(練度)を上げるための、特に改二という艤装の改造が普及している艦娘は死ぬ気で出撃している。

 

必死で寝かせろと叫ぶ加古を涙目で説得しながら引っ張り出す古鷹。

逃げる青葉に罠で捕らえる衣笠。

据わった眼で穏やかに殺意を口にする妙高、泣いて怯えながら沈める羽黒、達磨を飲む余裕がなくなるまで扱かれる那智に、やる気を漲らせすぎて叱られる足柄。

 

 駆逐艦に至っては完全にローテーションと化している。

 

 さらにその出撃を支えるために休みなく遠征に旅立つ遠征組。

 

 ただ幸いなことにこれらは全て『自主的な』ものであり、相応の給料が支払われ、出撃も同じ艦種内で話し合って十分に休養を取っている。

…ただ、どのような話し合いかはルパンも次元も聞けないのだが。

ガッチガチの姉がいると大変なのである。

 

 むしろ、練度が99に達している移籍組の方が給料が低く、普通に酒保(コンビニ)で買い物くらいは出来るのだが、待遇が悪くなってしまっているという問題があるくらいだ。

それでも移籍元に比べれば雲泥の差なので、不満を言う気は一切ないらしい。

 

 

 余談が過ぎたが、そのような疲労を見抜くくらいには金城提督は艦娘を見て来たということがルパンにはわかった。

 

(ま、このまま行けば距離もあるし、敵対する事はないだろうな…ただ、艦娘が関わったら面倒なことになりそうだが…)

 

 ガーリックトーストにペーストをたっぷりつけて齧る。

そして思い起こすのは今日の視察内容。

 

有事に対する備え。

艦娘を取りまとめる人心掌握術。

艦娘・人間という枠にとらわれず、各人の適正に合わせた運用。

そして、地に足のついた、処方面へのコネ作り。

 

 孫子曰く、算多きは勝ち算少なきは破れる。

 

それが全てではないが、事前にいかに備えられるか、そしていかに現実が見えているか。

これが重要なのだ。

 

 こういう相手を潰すのは逆にしんどいのである。

良くも悪くもねちっこい、しぶとい。

一戦負けても焦らない、将棋のように着実に一手一手押さえ、過信をしない。

絶対にこちらの嫌なことを淡々としてくるタイプに見えた。

 

 そのため、ルパンは金城提督への評価を高めるとともに危険度を低く設定した。

一応親艦娘派に属するし、嫌艦娘派のような振る舞いをする気もないルパンは敵対する理由がない。

敵対する理由のない、手強そうな相手なら敵対しなければいいのだ。

 

 ルパンは別に出世レースには興味ないし、恐らく金城提督もそうだろう。

だったら距離的にも離れている事だし、お互い頑張ろうね、程度でお茶を濁せばいい。

そして貸しを作れるチャンスがあるなら、貸しを作って、利息を取ればいい。

逆にヤバくなったら適当に借りて、安い利息で返してもいいし、トンズラこいてもいい。

 

 わざわざお宝も関わらないのに、不必要な敵を増やす必要はないのだ。

 

そんな結論を内心で導き出しながら、ルパンは次の一杯を何にしようかと考えるのだった。




そういえばもうすぐヒラコー氏のあのアニメが。
wktkせざるを得ない。


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17-1.きなくさい人たちが集まるようです

今回はナンバリングでわかるかと思いますが、本編の続きです。
時期的には春・夏のイベと思っていただければ。

ごませんさんとのコラボのEX.3は挿入話として更新します。
コラボ話が最新話として更新履歴に上がるのかは不明ですが、文末にでも更新履歴を挙げる事にします。


春めいてきたある日の海軍施設内。

 

その会議室、というよりも、大学の講義室といった様相の部屋に多くの提督が集まっていた。

前半は新人の提督達への訓示を込めた、講習。

後半は通称『イベント』に向けた講習だった。

 

これは海軍公式のものではなく、あくまでとある提督が『国土防衛』のために、周辺の提督と連携して深海棲艦に対抗するための会議、となっている。

ただし、隣り合っていても呼ばれていない提督もいれば、似たような思想を持つ提督ばかりが集まったのも偶然である。

 

「…以上が、今回の『イベント』こと大侵攻計画の予想進路である。

諸提督方に至っては、普段よりも慎重を期し、資材の準備を心がけていただきたい」

 

司会役の少将と名乗った男が手元の資料を見ながら、プロジェクターで資料を壁面に映しながら解説する。

 

「全海域の制覇は必須ではないが、海軍内での評価はそれに準じる事を胸に刻んでいただきたい。

また、特定の集団に侮られぬよう、我々が一致団結し、我々の力こそが海軍の力であると内にも外にも知らしめる必要性も同様に。

…なお、今回の資料は流出は禁止である。破った者には相応の報いがあることも理解いただきたい」

 

陰気な男が淡々と言うとともに全員が起立して敬礼を返す。

それによって、男は壇上から去っていった。

 

 

 

「いや~参りましたね…資材を貯めろと言われてもどうしていいものか…」

 

新人らしい髭を蓄えた軍人がすぐ隣に着席したベテランらしい軍人に苦笑気味に漏らす。

そのベテランらしい男は、太った身体を揺らして鼻で笑う。

 

「貴様、新人か?その頭は軍帽を飾るための飾りでなければ使ってみせんか」

 

「あははは、これは手厳しい。よろしければ先達の知恵を授けてやっていただけませんか?」

 

新人提督はわかりやすい嘲笑も気に留めずにへりくだる。

それに気分を良くしたらしいベテラン提督はわかりやすい見下した笑みを浮かべる。

 

「ないなら持って来ればいいではないか」

 

「遠征ですか?それでも結構厳しいし、あと一か月もせずに始まるという予想ではないですか。

まだ大本営からの支給を受ける程度の備蓄しかないため、間に合わないんですよねぇ…」

 

大本営は、資材不足による各鎮守府の機能停止を恐れてか、基準数値以下の資材しかない場合は資材を補給している。

新人の内はその補給を受けつつ、艦隊を拡充するとともに効率のいい遠征などを導いて自活していく、というのが各鎮守府の成長の流れである。

 

目の前の髭の新人提督はそこまではまだ至っていないと苦笑して言う。

 

「それ以外にも現金で購入すればいい」

 

そのまっとうな考えを鼻で笑うベテラン提督。

 

「…大本営からのですか?買うと高いんですよね…薄給、とは言えないですが、身銭を切るには…」

 

新人提督は軍帽ごと頭を片手で抑えて溜息を漏らす。

弾薬にしろ、重油(燃料)にしろ軍用とはいえ、お安くはない。

安くはないが、購入する事は可能なのである。

 

「…ふぅ…仕方のないヤツだ。このような場では言えぬが、色々なルートがある。

気になるならば、こちらに連絡して来い…融通できる方法を教えてやろう」

 

困ったとばかりに溜息を漏らす新人提督を見て、ベテラン提督は渋々といった口調でありながら、ニヤリとそのだぶついた頬を歪ませて言う。

すると懐から名刺を取り出せば、そこには携帯の番号が書かれていた。

取り出す様子や、周囲を伺って口に運ぶ様子から手慣れた手筈のようだった。

 

「…その、ルート、とは?」

 

「まぁ、仲間内で互助的な事をするわけだ…ここにいる以上、貴様もあのような気色悪い兵器を上手く使って身を立てよう、というわけだろう?」

 

ニィと笑みを深くさせながら、怪訝そうな新人提督にベテラン提督は顔を近づけ、声を潜めながら言う。

 

「なに、公的には鎮守府間の融通は禁止されてるがな…つまらんことは言うな。

我らが海軍の主流派になり、あの中将殿が頂点に立てばそのような些事など言われん」

 

「…なるほど…あくまで、互助、というわけですな?」

 

髭の新人提督が悟ったようにニヤリと笑い返せば、ベテラン提督もそれでよしとばかりに笑い返す。

 

「勿論、呼ぶならば『相応の場』に呼ぶようにな」

 

そうとだけ言うと、渡した名刺をそのままにその場を去っていく。

新人提督はその背中を敬礼で見送り、解散になったはずの会議室を見渡せば、先ほどまでの自分同様に新人らしい提督が他の提督から何かを言われているのを幾組も見つけれる。

 

それを見て、少し鼻で笑うとともに軍帽を深くかぶって目を隠して海軍を後にする。

携帯を取り出すと、電話帳から一件選んで鳴らす。

 

「おう、終わったぜ。車を回してくれ」

 

出口から少し離れた路上で、会議室で渡された資料をめくりながら待てば、一台のセダン車が目の前に止まる。

軍人の運転する車に新人提督が乗り込むと、車が走り出す。

 

 

 

「で、連中の会議とやらはどうだった?」

 

軍服を窮屈そうに着ている貝木が車を運転しながら、相変わらずの陰気そうな声で問う。

しかし、どこか面白がっている声音でもあった。

 

「ま、青田刈り、というかカモの奪い合いの現場だったな。

しかも、言外に接待しろとも言われたぜ」

 

ルパン特製の変装セットを使っているらしく、顔に手をつけると提督の顔がベリベリと剥がれて普段の次元の顔が現れる。

トレードマークの髭は隠したくなかったらしく、顔から剥がす際に髭が引っ張られて痛いらしく、「いてててて」と声を軽く漏らす。

 

そして、先ほどのベテラン提督から受け取った名刺を誰もいない助手席に投げる。

 

「ま、あくまで携帯番号だしな…プリペイド携帯、切り捨てれる番号だろうが、な。

とっつあんにでも教えてやってくれや」

 

「安くはないぞ…」

 

「よく言うぜ、とっつあんとは言わなくても、浦賀からも金を取ってるんだろうが」

 

後部座席で姿勢を崩しながら資料をめくり、貝木の言葉を鼻で笑う。

それが図星なのか、次元ほどは長くない髭面を歪めて笑う。

 

「フン…で、その資料には面白い事は書いてるか?」

 

「面白いも何もな…尤もらしい推察をいくつも並べ立てているが、説明の口調からすると相手の出方はわかってる、って感じだな」

 

それを聞いてなおさらに面白そうに貝木は笑みを深くする。

 

「ならば、細工は十分に効いてきている、ということか?」

 

「そうだな、アイツらの手足は少しずつ切り落としていってる。

このまま座していたら胴体だけ、下手すら胴体すら切り落とされるって焦りが出始めたのかもな」

 

次元はニヤリとして言う。

 

ルパンが着任してから数か月以上経っている。

ルパンも鎮守府運営だけに関わってきたわけではなく、資金確保のためもあって、悪徳提督の鎮守府に盗みに入っては悪事の証拠を盗んで浦賀経由で銭形をはじめとする憲兵隊に引き渡してきた。

 

その結果、艦娘だけではない、人身売買。

ギンバエと言っていいか微妙だが鎮守府資材の横流し。

艦隊の私用運用。(副業など)

 

様々な悪事が芋蔓式に発覚して多くの悪徳提督の検挙に繋がったが、どう見ても末端でしかない、というのが銭形の言だった。

 

「ま、連中は数が多いってのが面倒だが、言ってみりゃ数さえ削ればそこまで怖くないってことだ。

さらに主流派だから乗ってるって連中もいるだろうしな、風向きが怪しくなりゃ逃げ出す連中もいるだろ」

 

「お前さんたちのような連中がそうゴロゴロいてたまるか、ってのは正直な感想だがな」

 

貝木の言葉に苦笑しながら次元は煙草を咥え、火をつける。

 

「五右衛門じゃねぇがな…『石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ』とはよく言ったもんだが…。

泥棒ならまだマシじゃねぇかって、つくづく思うぜ」

 

「フン…銭形から色々聞いてるがな、そりゃまぁ捕まった連中はひどいもんらしいな。

こんなはずじゃなかっただの、開き直りだの…つくづく悪事を為してる自覚のない悪党程救われないものはないな」

 

次元は貝木の言葉にフッと鼻で笑う。

 

「お前さんもそう思うかい、詐欺師さんよ」

 

「そっちもそう思うか、殺し屋さん」

 

お互いの出自を揶揄し合うような言葉を返せば次元は紫煙を窓の外に吐き出す。

 

「ま、この資料はあとでコピーを回す。うまいこと活用してくれ」

 

「それは俺の仕事じゃないな…が、伝えておこう」

 

運転しながらバックミラーなどで貝木はつけられていないかを確認して、様々な回り道を使いながらルパン鎮守府へと車を走らせる。

次元は携帯灰皿に灰を落としながら、見慣れた道になってきたのを確認する。

 

「さぁて、今頃五右衛門は泣き言言ってる頃かね?」

 

「ん…なんだ、ルパンはいないのか?」

 

不意に漏らした次元の言葉に眉を軽くあげて、バックミラー越しに次元を見ながら問う。

 

「ああ、何だか用事があるってな。詳しいことはわかんねぇな…付き合いは長いが、そんな仲良しこよしのお友達やってるわけじゃねぇしよ」

 

「少々興味深いが、まぁいいだろう…」

 

あのルパンがただの息抜きに出かけたというのもありえるが、何かを秘密裏に行うために出かけたというのも十分にありうる。

しかし、それは次元にもわからないのか黙っているのか判断がつかない貝木は肩を竦めるだけにしておいた。

 

そのまま鎮守府の入り口で警備兵のチェックを受けてから、車はルパン鎮守府へと入っていく。

途中で、鎮守府所属の艦娘たちがセダン車の中にいる次元に手を振って来たのに、次元は軽く手を挙げて返す。

鎮守府本棟の前に車を止めると、次元は車から降りながら背中越しに貝木に告げる。

 

「ルパンはこの国には、いや、世界には荒療治が必要かもしれねぇって言ってたぜ…どう動くかは、よく考えるこったな」

 

それは警告か、忠告か。

それに言葉を返せぬ間に次元は車からカモフラージュ用の買い物の袋を抱えて本棟に入っていくのだった。

 

「……ふん…沈む船にしがみつけば、どうなるか…か」

 

やれやれと首を横に振ってから、車を走らせて鎮守府を出る。

不意に以前、浦賀と秘密裏の話をした時の事を思い出す。

 

 

貝木と浦賀が様々な商談を兼ねた話をした時。

ルパンたちの話になった。

 

「浦賀大佐殿にとって、ルパンとはどういう存在なのでしょう」

 

丁寧な言葉遣いをしていても、やはりどこか不吉で胡散臭さを感じるのは貝木故だろうか。

向き合ったソファーに座り、浦賀の秘書艦の矢矧の淹れたコーヒーを片手に貝木が純粋な疑問から問いかける。

特にこれといった理由はなく、ただ気になったから聞いたのだが、不意に浦賀は天を仰ぐ。

 

「…どういう……そう、英雄……いや、ヒーローなのかもしれないな」

 

迷いを見せた上で、浦賀はそう答えを出した。

貝木はその言葉に少々戸惑いを隠せない。

 

「…ヒーロー…」

 

「純粋に憧れるような純粋さも忘れたし、いざという時には切り捨てるだけのものも背負ったが…それでもあのような自由かつ奔放な生き方は、男として憧れるね」

 

浦賀の言葉になるほどと貝木は小さく頷く。

 

ルパン三世という男、そしてその仲間はどこまでも自由だ。

あらゆる障害を乗り越え、打ち砕き、好きに振る舞う。

確かに英雄と言っていいかもしれない。

 

さしてさらに浦賀はコーヒーで口を湿らせてから言葉を続ける。

 

「最近思ったんだがね。かの英雄、曹操孟徳が『治世の能臣、乱世の奸雄』であったとするならば…ルパンは『治世の奸雄、乱世の能臣』と言えるのではないかと」

 

「あの男が…能臣、ですか?」

 

貝木が怪訝そうに言う。

どうしてもルパンと能臣という事が結びつかなかったからだ。

 

「あの男を上手く使える上がいたら、という前提だがね。

ルパンはいわばジョーカーのようなもので、何でもできるし、何にでもなれる。

そういう意味では曹操と似通ったところがあると思うが…さらに言えばある程度周囲が荒れた中でスリルを楽しみ、その波に乗る男とも言えるかな。」

 

浦賀の言葉になるほどと貝木は頷く。

確かに芸術などにも治世にも軍事にも才を示した曹操と、多才ぶりでは似通っている。

それに確かに鎮守府の立て直しに関しては抜群の成果を上げている事も改めて思い至る。

 

「方向性は違うものの、あの男ならやりかねない…いや、既に鎮守府運営で手腕は示している、か」

 

「あと一つ、重要な共通点がある」

 

真面目な顔で浦賀は貝木の言葉をさえぎって断言する。

 

「あの男と敵対すれば、滅ぶ」

 

あまりにはっきりとした、断言に貝木は何も言えず、ただ温くなってきたコーヒーを口に運ぶことしかできなかった。

 

 

 

その時の事を思い出しながら貝木は車を走らせる。

 

「フン…敵対できないなら、味方になるか、逃げるか…それとも…」

 

ハンドルを持つ手の指でトントンとハンドルを叩きながら独り言を漏らし、考えを巡らせるのだった。

 

 

 

 

その頃。

海軍の機密部にあたる最深部。

 

そこに女が一人歩いていた。

通い慣れているのか、慣れた様子でキャリアウーマンといった服装の女は奥から出口へと向かって歩く。

そして、懐からスマホを取り出して何やら確認したところで、物陰から現れたルパンが女の肩に手を添えて笑いながら言う。

 

「動くな…こ~んにちは、不二子ちゃん」

 

「キャッ!?…ルパン…もうこんなところまで来ちゃったの?」

 

女、不二子が振り返って目を見開く。

 

「随分なお言葉じゃない…結構探したんだから。

…その様子じゃ俺たちより、色々知ってるみたいだな?」

 

「あら、探してたのは私の事よりも艦娘の()達に関する事じゃなくて?」

 

クスッと笑いながらからかう不二子にわざとらしくルパンは肩を竦める。

 

「あらぁ…知ってたの?」

 

「そりゃ、私がこちらに来たのは貴方よりも先だし、色々な情報と接するもの。

…教えてあげてもいいけど、私の仕事の邪魔しない?」

 

どこかでやったことのあるやり取りにクククと喉の奥で笑いながら、ルパンは頷く。

 

「ヌフフフフ…しないしない。したこともない」

 

「…全く調子がいいわね?ランチくらいおごりなさいよ?」

 

ルパンの言葉に肩を竦める不二子は交換条件とばかりに軽く笑って言う。

 

「それに、近いうちにそっちにお邪魔しようと思ってたくらいだし…随分と動いてるみたいだし、ね?」

 

「さぁて、何のことだか?」

 

お互い含みのある笑みを浮かべ合いながら、化かし合いの前哨戦が始まるのだった。




というわけで、不二子ちゃん登場&色々と知っているようです。


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17-2.ルパンは不二子とランチデートと洒落込むようです。

ルパン鎮守府が立ち上がってから現状への変遷をお伝えするために、どうしても地の文が多くなっております。
多少冗長化しておりますが、いつものことと諦めて下さい。(ぉ


最近ルパン鎮守府では、ルパンの仕事はかなり減ってきている。

その理由は二つある。

まず一つ目はこれまでのルパンの組んだ段取りで外部の企業との契約などが完全に結ばれて、取引などが完全に軌道に乗った事である。

 

以前取り上げた酒保の計画も順調に進み、また親艦娘派がこれまで保護していた戦えなくなった艦娘を雇用する形での運送業などのいくつもの会社も立ち上げも終わった。

そして、ルパン鎮守府をモデルとした現行のコンビニなどの入ったスタイルの【親艦娘派提督向けのビジネスモデル】が完成したのだった。

 

このビジネスモデルとはどういうことか、というとそのままルパン鎮守府の形を取り入れる、ということである。

 

例えば、艦娘達の出撃、待機状態などの管理用のタブレット端末に入れるリアルタイムに現状を示す鎮守府運営管理アプリ。

コンビニ企業が提携して商品を提供する酒保。

またその酒保にネットで注文を受け付けて様々な商品を配送するweb通販サービス。

 

これら以外のこれまでルパンが立ち上げた艦隊運営にかかわる様々な事業をルパンから提供されるようになったのだ。

 

これまでの親艦娘派の提督達はこれらのことを何故しなかったのか。

いくつか理由があるが、大きなものは『様々な企業との契約締結の手間』、『目立つ行動への忌避』である。

 

当然酒保のコンビニ化に関してもコンビニ企業と契約を結ぶ際に条件を突き付けられたり、配達などの手筈を整えたりと様々な条件のすり合わせも必要になる。

企業も企業で利益を生むために存在する以上自分たちに有利な条件を求めるし、利益が見込めないなら契約を拒否するのは当然である。

そのため、かなりの能力やノウハウが求められる。

 

それがコンビニ以外の様々な企業との契約が求められる。

アプリに関しても、アプリ以外にも施設の様々な場所にアプリに対応する設備を設置するなどの工事などもある。

しかもそのための資金の問題などと広範囲にわたる問題があり、それを解決するには時間がかかりすぎる。

 

 

さらにもう一つの問題は目立ちすぎる、ということである。

 

鎮守府運営は艦娘から提督として認められるか否か、という一点が非常に大きい。

実際に人格・能力ともに艦娘に理性で評価されても、感情というか感覚で『でも提督じゃない』と評価されてしまうと鎮守府運営は成り立たない。

大本営によって様々な人材で実験してみたが、艦娘が過度のストレスを感じてしまって鎮守府が成り立たなくなってしまうという実験結果が出ている。

そのため、相応の申請さえ行えば鎮守府の相応の改造は認められている。

 

しかし、海軍というものは人の集まった組織であり、大きく言えば『親艦娘派』・『中立派』・『嫌艦娘派』という三つのグループが存在している。

 

『中立派』はそこまで艦娘に関する扱いには執着せず、全体がどう扱うかに任せるといった様子見なので大勢には影響しないので問題はない。

しかし、『嫌艦娘派』は艦娘への負担を一切考慮せず、機械のように扱う。

そのため、『嫌艦娘派』の方がどうしても成果は大きく、評価や階級は高い人材が多くなる。

 

そうなると、下手に艦娘の環境を改善しようと大きな動きをした際に先日の黒沼中将のような上役にあたる『嫌艦娘派』から睨まれる羽目になる。

それは組織人としてはよろしくなく、どうしても二の足を踏む結果に繋がりやすい。

 

しかし、ルパンにはそのようなことは一切考慮しない。

別にルパンは海軍内での出世に頓着していないどころか、面倒になったら飛び出せばいいくらいの感覚なので睨まれても気にしない。

そのため、横槍が入っても押し通してしまって現在のシステムを構築してしまった。

 

さらに浦賀との話し合いにより、単純な艦娘の環境改善のためのものだけでなく、鎮守府運営の効率化のためのサービスをも確立。

そのサービスと艦娘の環境改善のサービスをパッケージ化して、『鎮守府運営のため』に『ルパン鎮守府を通して一括で』サービスを依頼するという形を作ったのである。

その結果上役に何か言われても言い訳ができるようにしたのである。

 

「別に艦娘の環境整備はいらないと思うんですけど、鎮守府運営の効率化のために導入したんですよ。

セットになってるからいらないとは思うんですが、一緒に導入するしかなくて…」

 

という多少は苦しくても言い訳というよりもお題目があるかないかは大きく違う。

しかも海軍の大本営では禁止されている行為ではない。

なので、それらしい言い訳が出来れば十分であり、しかも煩雑な手続きは既にルパン鎮守府が行った契約を基にして右に倣えで問題がない。

細かい調整は必要でも、大筋でレールが敷かれている以上それに沿うだけでいいからである。

 

 

また、『準・退役艦娘』の扱いは『親艦娘派』でも問題になっていた。

ルパン達がやってくる以前からあまりにも酷い鎮守府は取り潰しになっていたが、その際に保護された『戦えなくなった艦娘』を『準・退役艦娘』として扱っている。

勿論、健全な運営をしている鎮守府の艦娘でも何らかのショックにより『準・退役艦娘』は出てくる。

 

しかし、ここで『艦娘』という存在がネックになってくる。

人間のようで人間でなく、艤装を纏っている方が力はあるものの華奢な女性の姿をしていながら常人の何倍もの力を発揮する。

一般社会で自由にさせるのも問題がある。

艦娘が邪な考えを持たずとも、悪用されないとは言い切れないためだ。

そのため、『退役艦娘』とすることはできず、『準・退役艦娘』として軍関係で保護するしかないが軍内でもそれほど仕事もなく扱いに困っていた。

 

それに軍関係の運送業などで軍直属の下請け会社をルパンが設立し、その責任を浦賀とともに背負った。

そして、コンビニなどの民間企業がその会社に卸した物資を、『準・退役艦娘』がトラックなどで契約した鎮守府に運ぶ。

そして、代金は現金ではなく資材で大本営に支払い、それで清算する。

 

燃料や資材はダブついたら暴落するが、軍の設備でも使用するので備蓄しても問題ないし、軍が国を通して民間に卸しても問題ない。

そのため、軍及び国内の経済にも寄与するため動き出した以上、止められない。

 

しかも、それらを全て確立した以上、ルパンが汗をかく必要はなくなった。

このシステムの販売の営業は貝木が行っている。

勿論一人ではなく、一般から雇用した人間も使っている。

今や貝木は詐欺など行えない一企業の代表となってしまっている。

ちなみに忍野はその部下という形で雇用され、様々な鎮守府の情報を集めて回っている。

あの服装で営業は無理である。

みかじめ代の請求と勘違いされても仕方ない。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

そういうわけでルパンは今は手が空き、様々な情報収集に専念していた。

その結果、先日の不二子の発見につながったのである。

 

そして、あの後連絡先の交換とともにいったん別れて今に至る。

 

「…で、それでどうするんだ?」

 

「どうするも何も話を聞かないと判断のしようもねぇだろ」

 

いつもの執務室でルパンは龍田の淹れたいつものコーヒーを飲み、本をペラペラとめくっていた。

その中のソファーに次元、五右衛門の二人が腰を下ろしてルパンを睨んでいた。

 

「オメェなぁ…あの女のことだ、ロクでもない企みをしてるに決まってるだろうが」

 

「左様、振り回されるのは御免だぞ」

 

次元、五右衛門ともに今までの経験から苦り切った顔をしながら放っておけと言外に告げる。

しかし、ルパンはそちらに顔を向けずに本に顔を伏せたまま動かない。

 

「もちろん俺も甘い顔をするつもりはねぇよ…ただなぁ、俺よりも色々とこの世界の事をわかってるようなんでね。

真偽はともかく、情報は多いに越したことはないだろ?

…だから、その薙刀…しまってくれたりしたりしたら嬉しいんだっけどもなぁ~」

 

軽くため息交じりに言っていたが、とうとうその斜め後ろに立つ龍田のプレッシャーに負けて懇願するように言って恐る恐る横目で龍田を見る。

執務室内でありながら龍田は艤装を装備し、薙刀を持って立っていた。

まるで山田浅右衛門のように。

 

「…鎮守府運営に支障が出そうなら、持ち帰って相談してね~?」

 

「その様子なら、大丈夫か」

 

龍田も本気で折檻しようというつもりはなく、釘を刺すに留めるつもりだったらしく素直に艤装をしまう。

やっと本から顔を上げたルパンの様子に静かに五右衛門は頷く。

 

「で、いつどこで会うんだ?」

 

「明後日の昼。場所はこっちの指定でいいってことだが、海軍の目を誤魔化せる場所っていうご注文だな」

 

「やっぱり後ろ暗いことやってんじゃねぇか」

 

質問の答えにやってられないとばかりに次元は帽子を抑えながら天井を仰ぐ。

 

「それ言ったら俺らも似たようなもんだしな…スペシャルゲストを用意しているってことだが…」

 

「そりゃま、そうだけどよ…で、お前一人で行くつもりじゃねぇよな?」

 

ルパンの言葉に納得したのか、短く吐息を漏らすと横目でルパンを見る。

言外に俺も連れていけ、と言っているのはルパンもわかっておりただ頷く。

 

「そうだな…万が一に備えて五右衛門には鎮守府にいてもらおうか。次元と俺と…大和か武蔵に頼むか」

 

その言葉を聞いて少し考えた五右衛門が口を開く。

 

「ならば、武蔵がいいだろう。武装していくわけにもいくまい…刀を携えてよいなら大和でいいと思うがな」

 

どうも普段の訓練での様子から五右衛門は判断したらしく、静かに頷く。

普段の出撃任務において、艦娘が揃ったルパン鎮守府の現状としてはあまり戦艦や空母が忙しくなるようなことは多くない。

その結果、自然と五右衛門に武道を学び、研鑽しあう事が多くなる。

 

ちなみに五右衛門はどうしても抜刀術に近い剣術ばかりがスポットライトを浴びがちだが、実際は伊賀忍術など様々な武道に精通している。

初代の石川五右衛門自体が伊賀流忍術を用い、かの百地三太夫の流れを汲むという言い伝えがあるほどである。

 

「ならそうすっかね…こっちも色々と裏を取れたし」

 

五右衛門の目を素直に信じると、本をパタリと閉じて執務机に置く。

その表紙には『世界史』と書かれていた。

 

 

 

 

 

その翌々日、ルパンは鎮守府を愛車のベンツではなく、黄色のフィアットである。

 

「むぅ…少々、狭いな」

 

「そう言うなって、そんなに遠くはねぇんだからよ」

 

よく晴れた昼前に次元を助手席に乗せ、後部座席に武蔵を乗せてルパンはフィアットを走らせる。

ルパンと次元はいつものスーツ姿、そして武蔵は外出するということもあってパンツスーツであった。

その武蔵は後部座席で女性にしては多少大きい身体を軽く窮屈そうにする。

 

「…で、待ち合わせは?」

 

助手席のシートを軽く倒し、インパネに足を上げた次元は窓を開けて春の訪れを感じていた。

さすがに後部座席の武蔵の事を考えてか煙草は吸っていない。

 

「ま、ランチというには合わないかもしれねぇがな…とある個人経営の喫茶店を貸切りにしたぜ」

 

「へぇ…お前にしちゃ珍しいな。どっかの高級レストランでも借りてキザにやるのかと思ったがよ」

 

ルパンの返答に次元は軽く皮肉って笑う。

その予想が頭にあったのか、ルパンは軽く唇を尖らせる。

 

「うるへー、このムッツリスケベ。硬派気取って、やるこたぁやってるくせによ」

 

「しょうがねぇだろ、俺の方がモテるんだからよ」

 

ルパンの反撃を軽く鼻で笑うように薄く笑って流す。

その余裕ぶった態度が気に食わないのか、ムッとして横目で次元を一瞬見るが街中の道路でよそ見運転はするわけにはいかずに前を向いて運転する。

 

「後で覚えてろよ?」

 

「ま、それはさておきだ…その喫茶店に何かあるんだろ?」

 

ルパンの捨て台詞を軽く流した次元が余裕を浮かべたまま、帽子の鍔から目をのぞかせながら口を開く。

 

「さっすが相棒…よくわかってんねぇ」

 

「あったりめぇだ、どんだけ付き合わされてると思ってんだよ」

 

次元の言葉にルパンが笑えば、次元が軽く肩を竦める。

そのやり取りを面白そうに武蔵が笑えば、座席の間から軽く顔を出す。

 

「なるほど、らしくない行動の裏には理由がある、ということか。ではルパン提督よ、その心は?」

 

明らかに楽しそうにする武蔵に苦笑するルパンだったが、楽しそうに笑いながら車を運転する。

 

「着くまで暇だしな…武蔵、貝木を覚えてるか?」

 

「ああ、あの胡散臭い男か。この前は暇がないと嘆いていたが?」

 

「そうそう。仕事量は自己責任でやってもらうしかねぇがな、アイツが全く違う世界からやって来た、という主観を持っているのは知ってるだろ?」

 

あくまでルパンは断定せず、『そういう主観を持っている』と表現した。

 

「ああ、らしいな。そして提督もとある時を境に艦娘がいない世界からこの艦娘のいる世界にやって来た、という主観を持っている」

 

「そうだな、勿論俺の気付かない間にどうにかして記憶を操作された可能性もある」

 

「ああ、魔法のランプの事件もあったな」

 

武蔵はルパン鎮守府の妖精が唐突に生み出すDVDでアニメ化されたルパンの過去の事件を見ている。

その中であったエピソードを口にする。

 

「そんなこともあったがな、どうも今回はそれにしちゃおかしい。

次元も五右衛門もまとめて拉致して記憶を操作する、しかも過去にあった艦娘に関わる記憶だけを消してしまうなんてピンポイントの操作なんて不可能だろ。

そこでヒントが鎮守府のDVDさ」

 

「…あのアニメがどうかしたんだ?」

 

流石に黙っていられなくなったのか、次元が問いをを入れる。

 

「俺もちぃとあのDVDを見たがよ、アニメになってることを除けば俺たちのやってきたことに間違いねぇ。

しかし、あの製品化された様子を見たら、とあるSFで見た『パラレルワールド』ってのを思い付いたわけよ」

 

「…平行宇宙ってヤツか?」

 

「なんだそれは?」

 

記憶を掘り起こして次元が怪訝そうに言えば、武蔵は知らなかったのか眉を寄せる。

さもありなんとルパンは小さく頷く。

 

「まるで無限のページのある本をイメージしな。その本の1ページには今の俺たちの宇宙の過去や未来、現在の全てが描かれている。

そして、隣のページはこの現在と全く一緒だが、一ヶ所だけ…そうだな、次元の今日の靴下が黒じゃなくて灰色っていう違いしかない。

その隣は次元のパンツの色が違う…という細かい違いが少しずつ異なっていて、ページが離れれば離れるほど今とかけ離れる」

 

「…例えば、我々艦娘がいない世界、提督たちがアニメの登場人物の世界…ということか?」

 

ルパンの説明を聞いて少しだけ考えれば、武蔵はルパンの言う言葉を咀嚼した後に答えを口にする。

それは次元の導き出した答えとも一致していたらしく、次元は口を開かない。

 

「そう考えれば貝木も俺たちと似たような事例、と言えるだろうな。

何しろ、鎮守府に帰ればアイツらの出るDVDがあるんだからよ…ま、アイツは元の世界で死んだ記憶があるらしいがな」

 

それは知らなかったのか、次元がギョッとした様子で目を見開いてルパンを見る。

それに反応せずに、ルパンは車を走らせ続ける。

 

「じゃ、俺たちは元の世界とやらじゃどうなってんだ?」

 

「知らねぇよ、もしかしたら胡蝶之夢のように夢の中の出来事かもしれねぇし。

あくまで仮説の一つってことしか言えねぇよ、平行宇宙が存在するかどうかの確認も出来なけりゃ違う平行宇宙の観測も出来やしねぇんだしな」

 

どこか慌てた様子の次元に肩を竦めるルパン。

完全にお手上げといった口調のため、次元も諦めてため息をつく。

その様子に苦笑しながらもルパンは慰めるように言う。

 

「でも、そんなもんわかったってしょうがねぇだろ?

とりあえず俺たちはこの世界に確かに生きてる…だったら生き抜く以外にねぇさ」

 

「そりゃ…そうだけどよ」

 

「なるほど、帰る方法どころか、帰る場所の存在の有無すらわからなければどうしようもないな」

 

次元よりも武蔵の方がルパンの心境がわかったのか、頷く。

その言葉にルパンは信号で車を止めると、窓を開けて煙草を咥えて火をつける。

 

「そういうこと…ま、それらがわかったらその時改めて考えればいいだけだしな。

誘拐されたなら誘拐されたで落とし前はつけるが…ちと話が逸れたな。

で、俺は考えたわけだ、似た事例が二件ある……だったら、三件目もあるんじゃねぇかってな」

 

次元がルパンに無言で続きを促すと、武蔵も黙ってルパンの横顔を見つめた。

 

「で、とある一人の男に当たりをつけたらこれが面白いことに芋づる式に見つかってな…それがこれから行く店が関係してるってわけだ」

 

そしてまた車を走らせながら、ルパンは窓の外に煙を吐き出す。

そこまで聞いた次元は深い溜息を漏らす。

 

「毎度のこととはいえ…よくそんな突拍子もないことを思いつくもんだ…」

 

「ま、今日行く先が本当に当たりかどうかは半信半疑さ。

その確認も兼ねてそいつらの溜まり場らしい、その喫茶店に行くことにした…ってとこさ。

外したところで問題ないしな…ちと、頭がおかしいんじゃねぇか、って思われるくらいか」

 

その言葉に次元は天を仰ぐ。

もう何も言えないとばかりに帽子を押さえながら首を横に振る。

しかし、武蔵はまだ聞きたいことがあるのか、どこか不安そうにルパンを上目遣いに見やる。

 

「…その…ルパン提督よ」

 

「んー?これ以上の推察はあるけど、行った先で確認した上でしか言えねぇぞ?

なんせ、推察っていう積み木を積み重ねまくった上の結論だからな。

途中で一個間違ったら俺の今の答えは違うってことになる…そんなことは恥ずかしくて言えねぇよ」

 

軽く冗談めかして言うが、武蔵はその表情を変えずに口を開く。

 

「仮に…仮に違う世界からこの世界に連れてこられたとしたら…その、帰ってしまうのか?」

 

「…その時に考えるがな……ある程度この世界でも途中で放り出していなくなることはしねぇよ」

 

武蔵のどこか普段とは異なる口調に少しだけ考え込みながらも、ルパン本人も答えが出ていないのか曖昧な言葉しか口に出来なかった。

その言葉に軽く笑った次元をルパンは横目で睨むことしかできなかった。

 

そして、短いドライブの時間の後にとある駐車場を見つけると、ルパンはフィアットを駐車場に停車させる。

 

「さーて、答え合わせの時間だ」

 

そう言うとルパンはフィアットの灰皿に煙草を押し込んで消すと車を降りる。

それに続いて普段通りの次元、そしてまだ何か言いたそうだが口を閉じた武蔵も降りる。

 

その視線の先にはバイク屋と併設された一軒の少々古い喫茶店が視線の先にあった。




実は生きておりました…恥ずかしながら。

更新が滞っていた理由は今後の展開を悩んでいたせいです。
ゴールは決まっているのですが、途中の展開をかなり悩みました。

最初の構想通りに展開させたら絶対荒れるなーという予想があり、展開に迷って全然書けなくなっておりました。
一ヶ月ばかり悩んだ末に「俺の読みたい作品・展開を書く」という根本に戻って、結局一番最初の構想通りに書きます。

下手に皆様の評価を頂いたせいで欲が出て、評価を気にし過ぎて自縄自縛に陥ったのは己の未熟さ故です。
長らくお待ちくださった皆様、本当に申し訳ございません。

そして途中の展開が気に食わないと思われた方はそっとお気に入り解除していただけますようお願いします。


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17-3.ルパンは怪しい会合を行うようです。

皆様お久しぶりです。

今回から他作品からのクロスオーバーが始まります。
苦手・嫌いな方はお気に入り解除をお願いいたします。


あまり言い訳するのもカッコ悪いので、一言。

皆様、ストレッチ大事。
特に腰、そして脚。


そして、店のドアに手をかける直前にふとルパンは振り返って武蔵を見る。

 

「武蔵ちゃんよ…まぁ、俺の護衛ってことで来てるのはわかってんだけどよ…。

一つコレだけは守ってくれ。『俺の許可か、相手から攻撃を受けるまではこっちからの攻撃は禁止』な?」

 

その言葉に怪訝そうに眉をひそめる次元と武蔵だが、次元はそのまま黙っている。

自分にもその言葉は適用されることはわかっている。

 

「…いきなりこちらから突っかかるつもりはないがな…。

その不二子は、そんな相手と手を組んでいるのか?」

 

「ま、推測だが間違っちゃいねぇだろうさ…とりあえず武装解除して入るくらいの気持ちでいてくれたら助かるぜ」

 

それ以上は詳しく言いたくないのか、小さく肩を竦めるだけでルパンは二人に背を向けてドアを開けるのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ルパンがドアを押すと、カウベルの音が招き入れる。

その中にあるカウンターの奥に柔和そうな中年男が笑顔を向ける。

 

「すんませーん、予約してたルパン三世って者だけども」

 

「あぁ、いらっしゃい。こんな喫茶店で予約なんて珍しくて驚いちまったよ」

 

ルパンの軽い挨拶にも男は笑って答えながら、奥まったスペースにある大きなテーブルに案内する。

いくつかのテーブルを組み合わせた上で洒落た清潔感のあるテーブルクロスが掛けられている。

 

そのテーブルには先客が一人いた。

 

「フン、呼ばれてきたが…何を貴様は企んでいる?」

 

そこにいたのは銭形だった。

いつものくたびれたトレンチコートは脱がないまま、帽子は預けているのか手元には置いていなかった。

 

「随分な御挨拶だな、とっつあんよ。

俺たちも善意の協力者として手を取り合ってる仲じゃねぇの…もうちっと心を開いてくれてもいいんじゃねぇの?」

 

「フン、悪党と馴れ合いはせん。貴様らも悪党だが、もっと腐った悪党が世の中には多い。

だから手を結んでいるだけだ」

 

次元のからかいに軽く唇を尖らせつつも、腕を組んでそっぽを向く。

しかし、その様子に苦笑してルパンは銭形の斜め90度にあたる席に座る。

当然次元、武蔵はその隣に倣って座り、二人でルパンを挟む。

 

「死人を捕まえることは出来ねぇだろ、俺たちの指名手配は死亡という事で抹消されてるんだからよ」

 

やれやれとばかりと肩を竦めつつも笑ってルパンが言うが、ジロリとその顔を銭形が睨む。

 

「ワシにはお前がこのまま大人しくしとるとは思えん。

大人しくなったならそれにこしたことはないんだがな…」

 

渋い顔つきの銭形の追及に肩を竦め、肯定も否定もせずに済ませる。

そのまま案内してきたマスターらしき男に人数分のコーヒーを頼むとともに、ルパンはエスプレッソを頼む。

武蔵、次元もそれに便乗してエスプレッソを頼めば室内にエスプレッソマシンの音が響く。

 

そのまま少し待てば、アルバイトなのか女性がそれを給仕する。

ルパンや次元を横目で見ながら武蔵が真似をしてカップに注がれた少量のエスプレッソに砂糖を入れてかき混ぜる。

二人は軽く水を口に含んで飲んだのちに、たっぷりと砂糖を入れて攪拌したエスプレッソを口に運んで飲んで通常のコーヒーよりも濃厚な味わいを楽しむ。

武蔵はそのパンチの強さ、濃さにギョッとしたような顔をするがこういうものかと納得したように頷く。

 

一方ただ一人のブレンドを飲む銭形は逆にドリップコーヒーをブラックで少しずつ飲む。

お互いあえて何も語らずに不二子がやってくるのを待っていた。

 

「…来たか」

 

お互いコーヒーカップを置くと煙草に火をつけて一服していると、不意に銭形が口を開く。

その言葉と共に武蔵が入り口に視線をやると、二人の人影が見え…

 

「武蔵ッ!!」

 

武蔵はその人影を見た瞬間、椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、気が付けば艤装を纏っていた。

陸上での効果は海上に比べれば落ちるものの、十分に銃火器として成立する。

その砲身を入り口の、不二子の脇にいた女に向けていた。

 

威嚇などではない、ルパンの声が無ければほぼ条件反射といっていい感覚で砲撃をしていただろう。

 

その砲身の先にいた女二人はそれを平然としていた。

不二子はルパンを軽く責めるような視線で見つめ、連れの女は愉快そうに顔を少しゆがめていた。

しかし、それ以外には何も言わずにルパンの正面になる席に静かにつく。

 

不二子はいつも通りであり、パンツスーツ姿。

その隣に座る女は黒いワンピースで白い素肌を覆い、ロングスカートで足首近くまで隠していた。

その容貌は美しかった。

いや、美しすぎた。

 

「はじめまして、ね。話は伺っているワ…ルパン三世」

 

その女はその整った顔を、ほんのわずかに唇を歪ませて笑った。

それはひどく酷薄で、整っていて、吸い込まれそうな笑顔だった。

声は高く、冷たく、武蔵の背筋に冷たいものが走った。

 

「提督よ…わかっているとは思うが…」

 

「待ちな、お客様があと一組来るんだよ。話はそれからだ」

 

武蔵は知っていた、その女を。

直接見たことがあるわけではないが、今まで似た女たちと幾度となく戦いを繰り広げてきたのだから。

 

次元はルパン同様にその女の雰囲気に飲まれるどころか、どこか楽しそうにニヤリと笑って帽子の鍔を軽く下げるに留めていた。

 

武蔵は本能と言っていい、自分の奥底から目の前の女の危険性を感じ取っていて、出来る事ならば全力で砲撃をぶつけたい気持ちを必死に押し殺していた。

それと同時にその感情は恐怖から生じていることも理解していた。

彼女がこれまで戦ってきた女たち、それよりも上位に位置すると。

 

数分なのか、数時間なのか。

武蔵は最期のカウベルが鳴ったのがどれほど時間が経った後なのか、わからなかった。

しかし、その音が響いた直後に能天気な声が響いた。

 

「おう、猛じゃないか。悪いが今日は貸切りなんだよ」

 

「ああ、わかってるよ…おやっさん。今日は俺たちも呼ばれたんだ」

 

店主の中年男に声をかけられた顔見知りらしき男は静かに頷いた。

その男はカジュアルなスーツを身に着け、少々緊張気味の面持ちでテーブルについた。

 

「さ、お話合いの始まりといこうか」

 

ルパン一人がふてぶてしいまでの笑みを浮かべて頷くのだった。

 

 

 

「じゃ、自己紹介といきましょうか。

私は峰不二子。この『白姫』のパートナーにして、スポークスマンといったことかしら」

 

ルパン同様に堂々とした不二子が自己紹介をすれば、どこか掠れたような高い声音で隣の白い女が口を開く。

その声を聞くだけで一同の背中に冷たいものが走り、強烈な圧迫感に襲われるが、ここにいる一同はそれで暴発するほど短慮ではなかった。

 

「我が名はない…が、暫定的に『白姫』と名乗ってイル。

察しているだろうが…深海棲艦の姫の一人だ」

 

「予想以上に強そうだったけども、まぁそっち側に立ってるのは予想通りだねぇ」

 

ルパンがコーヒーカップ片手に笑うが、次元と武蔵は聞いてないぞとばかりにルパンを睨む。

それを苦笑気味に肩をすくめればルパンが種明かしをする。

 

「まぁ不二子ちゃんが義にかられて…なんて慈善事業をするわきゃねぇからよ。

軍とかに出入りしているのを確認して関係しそうな企業とかを洗ってたら、いくつもののダミー企業を含む企業を経由させて海底資源や貴金属、そして海上輸送ルートに関わってるのがわかってよ。

この御時勢で軍事的背景なしでそんな商売を大々的にいくつもできるってことは海軍なり、深海棲艦側に話を通せなきゃおかしいからな」

 

「あら、ひどい言い分ね…と言いたいけども、当たってるから何とも言えないわ」

 

不二子はルパンの言葉に軽く笑いながらコーヒーを口に運ぶと、少し考えてから喫茶店のオーナーにパンケーキを頼む。

そのままルパンは白姫と猛を見て、ニヤリと笑う。

 

「まぁ、腹を割って話そうじゃねぇの。おたくらは、『何がしたい』んだ?」

 

それを聞いて、猛は軽く動じたように目を見開き、白姫はニタリと笑う。

白姫はそのまま軽くルパンを下からねめつけるように、ねっとりと視線を走らせる。

 

「我々は…人類の自由と平和と正義のために戦う」

 

少し迷いを浮かばせながらも猛は言葉を紡ぐ。

それを冷笑したのが白姫だった。

 

「フム…まず、我が求めているのは『平穏』であることを告げておこうか。

理解のためには我の出自や、深海棲艦というものを理解してもらわねばなるまいヨ…」

 

「そりゃ助かるね。正直提督やってても、深海棲艦が何なのか、何を求めて戦っているのかがよくわからねぇからな」

 

当然ルパン三世ともあろう者が全く推測も何も立てずにこの場にやってくるはずもないが、あえて誰もその事は指摘しなかった。

そのまま、白姫による深海棲艦に関する話を黙って全員で聞くのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

我はお主らと同じく、異なる世界より呼び寄せられた者ヨ。

但し、お主らと異なり、人間ではナイ。

 

過去を語っても詮無キ事ユエ、語らぬが…まぁ邪悪の権化として戦い、敗れ、眠りについた。

そして、その眠りの中で微睡む内に…ナニカに引き寄せられ、気が付けばこの身体になり、深海にて眠っていた。

 

その際に人類への憎悪などを子守唄が如く囁かれたが、我にも矜持ガアル。

我は挑まれ、挑み、戦い、敗レタノダ。

 

それを異なる身体故、世界故に、ナドと理由をつけて再度挑むナド無様ヨ。

 

とはいえ、目覚めたての寝起きに狂おしいほどの憎悪を植え付けられ、不意に大陸で暴れたことは不明でアッタガ、ナ。

我に返り、そのまま海にて眠っていたが、我には及ばぬにせよ深海棲艦は生まれた。

その者達の多くは理性もなく、ただ人類への憎悪とともに戦っていたが、我は関与しなかった。

 

その内『姫』と呼ばれる、多少の自我を持ち合わせた者どもも生まれ、次第に勢力が生まれた。

その者たちが我に助力や恭順を求めたが、全てを力にて突っぱね、話を多少はした。

 

その中でわかったのは、深海棲艦を生み出したのはこの『大地』、『地球』のようなモノだということだ。

人類により切り刻まれ、削られ、穢され、踏みにじられた怒り。

そして、人間を含む様々な生物の遺した怨念。

それらを捏ね上げて作られたのが深海棲艦というワケヨ。

 

トワイエ…無から生み出すわけではないらしく、何らかの『素体』にそのような『邪悪』を塗り固めて形にするようで、ナ。

その基となった『素体』によっては塗り固められた『邪悪』に囚われにくかったり、解放されやすかったりもスル。

その強さにより、『姫』と言われる種別も生まれるノヨ。

 

そして、艦娘はその『邪悪』を祓う力を無意識に持っており、攻撃によって沈めることでその『邪悪』を吹き飛ばすが…マァ、一回や二回沈めて上手く祓えれば運がいいだろう。

お主らの知っておる『姫』など無数におり、その中の一体が『邪悪』から解放されたところで大勢は変わりはセヌガナ。

上手く『邪悪』を祓い、『正』に転じれば『艦娘』と化すこともあれば、無に返ることもあろうヨ。

 

フム、勘違いしておるようだが、深海棲艦が『沈んだ』ところでどうということはナイゾ?

攻撃の食らい様によっては無に返る事もあろうが、『深海に棲む艦』である『深海棲艦』が深海に沈んでどうなると思ってオル?

 

 

話ガ逸れたナ。

我は『邪悪』の束縛からももう解放されておるし、戦う意味も見出せヌ。

故に、我は不二子に海軍に連絡をさせて情報を与えつつ、不可侵を誓わせたのダ。

その報酬に我のいる海域の資源や海底の財宝などを配下に集めさせて与えてオル。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

あまりに絶望的な戦力差と、知らされていない事実に一同が愕然としながらも、ルパンだけは煙草を吸いながらそうだろうなと静かに頷いていた。

 

「おそらくだが、『ガイア理論』のような『地球の意思』だか、神のような『超越者』がいて、それが人類に間接的に牙を剥いた、ということかね?

それか人によっては『神からの試練』とでも評するのかもしれねぇが…それを観測できねぇ俺たちからすりゃ、関係ねぇ話だな」

 

「アン?…地球が意思を持っていて云々とかいうやつか?」

 

次元の訝しげな言葉に首を小さく横に振る。

 

「そういうトンデモ理論と勘違いされやすいが、実際は要は地球と地球上の生命体は相互影響のもとにあり、地球が環境を自動的に調整している、ってのが正しい『ガイア理論』だがな。

俺が言うのは、そっちのトンデモ理論的な『ガイア理論』だな」

 

「よくわかんねぇな」

 

次元がお手上げとばかりに肩を竦めて煙草に火をつける。

それに少し眉を潜める猛。

 

「そうだとしたら…人類は地球に滅ぼされようとしている、ということか?」

 

その疑問に関して白姫が首をゆるゆると横に振る。

 

「そこまではいかんな。そのつもりなら天変地異なりで地球環境を大幅に変えてしまえばいいだけだ。

そして、人類側に立つであろうお主らを呼んだ以上、完全に人類を滅ぼそうとしているとは思エヌ…」

 

不二子が白姫がどこかいやらしい、試すような笑みを浮かべて睥睨するのを肩を竦めてみせる。

出されたパンケーキにナイフを走らせてから口元に運び、妖艶な唇をアピールするかのように軽くナプキンで拭いてから口を開く。

 

「とはいえ、私たちも世界を外から見れるわけじゃないから推測しかできないんだけどね。

結論から言うと、この世界は『ソーシャルゲーム』のようなものなんじゃないか、って思ってるの」

 

あまりといえばあまりの表現に全員が目を見開いて、不二子を見る。

ただ白姫だけがいきなりのネタばらしが気に入らないのか、つまらなそうに鼻で笑う。

 

「ソ…ソーシャルゲーム?」

 

「…ウム…あくまで喩えだがナ…。

人類の敵に、人類への憎悪などの『邪悪』を配置したのはいいが、思ったより我のように人類の敵側が強力すぎた。

故に、お主のように他の世界の『希望』となる、人類側の『ユニット』を慌てて配置した…というべきカ」

 

あまりといえばあまりの喩えにその場の全員が顔を引きつらせる。

ただ一人、ルパン三世を除いて。

 

「なら、この場にいる俺はキャラデータってわけか?」

 

「ドウダロウナ…私の感覚になるので正しいという保証もナイガ…この世界にいる我モ、ソシテ、本来の我の存在モ確かに感ジル。

ナラバ、一時の夢、胡蝶之夢ノ如キ世界なのかもしれヌ」

 

掠れたような、高い声で言い、それ以上は何も言わずにパンケーキを食べ始める。

その様子を腕を組んでいた銭形が困惑しきり、といった顔を一同に向ける。

 

「お、おい、ルパン!全くわけがわからんぞ!!」

 

「ああ、とっつぁんは気にしなくていいぜ。ある意味哲学みたいな、証明のしようのない話しだしなぁ…

要は、俺たちはこの艦娘と深海棲艦のいる世界で生きていくしかねぇ、ってことさ」

 

ルパンは軽く肩をすくめてカップを傾けて飲み干せば、カップを掲げて揺らして見せることでおかわりを求める。

ここまでの話は本題ではないのか、そのまま大した執着も見せずにあっさりとした結論で終わらせる。

 

「要は、ここが異次元だとしても次元を超える道具なんか作れるはずもなけりゃ、理論の目途もねぇ。

だったらココで生きていくしかねぇ。その上で、今俺たちの頭上には爆弾が飛んで来ようとしてる、それはいいな?」

 

 

 

 

一同が軽食を終えて、テーブルが片付くのを見計らうと食後のコーヒーとともにルパンがさほど厚くない書類の束を一同に配る。

銭形や不二子は目を細めてその書類をめくるが、一人だけその表紙を睨んだのちに顔を上げた男がいた。

 

「一つ聞きたい、ルパン三世」

 

本郷と呼ばれた男だった。

 

「そこにいる白姫という女性、そして提督であるルパン三世、憲兵隊に属する銭形。

この場にいるメンバーで大体のことは、これから何をするか、理解はした」

 

その書類を一瞥した上で中身を見ずに、そう言ってのける。

ルパン三世が天才ならば、この本郷も天才である。

本郷の瞳を見ただけで、ルパンはそれがブラフではないと判断して、笑う。

 

「さすがだね、城南大学生化学研究所史上最高の頭脳は伊達じゃねぇな」

 

「…その上で、聞きたい。『私に、何をさせたい』?」

 

ルパンのからかいめいた言葉に反応を示すことなく、真っすぐルパンを見つめて、否、見据えて言う。

それはまるで一足で飛び込み、一刀両断に斬りつける五右衛門のような鋭い瞳だった。

 

「ああ、一応そっちの行動原理というか、目的は知ってるぜ。安心しなよ、別に部下になって手足にしてぇなんて言いやしねぇよ」

 

警戒する理由をわかっているのか、笑ってルパンはテーブルに肘をついて軽く本郷を見上げる。

 

「一つわかってほしいのは、俺たちは正義なんてものは信じちゃいねぇわけだ。

ただな、敵には容赦しねぇし、外道に堕ちる気もねぇ」

 

ルパンの挑発的な発言にも本郷は表情を変えることなく、真っすぐ見据える。

その様子を茶化すような軽い口調で次元が継ぎ足す。

 

「俺たちが許せねぇってんならかかってくりゃいいさ。

勿論、鉛玉で返事させてもらうがね」

 

その喧嘩を売っているような言葉に苦笑しながらも否定する気はないらしく、ルパンは言葉を口を開く。

 

「ただな、そこにあるように今回のヤマは結構デカそうだ。

俺らもいっぱいいっぱいにならねぇとも限らねぇ…その中で泥沼の三つ巴、もしくはそれ以上の泥仕合なんかまっぴらごめんってわけだ」

 

そこまで言ったら本郷も求めるところを理解してか、頷いて手元の資料を手に取って開く。

 

「つまり、同盟。利害が一致するなら協力し、そうでないなら不戦を求めると?」

 

「それが理想だが、期待しちゃいねぇな。全てを知った上で俺たちと敵対したいならどうぞってなもんだ」

 

同盟を求めながらも敵対を認めるルパンに本郷は軽く顔を上げてそのニヤケ顔を見つめるがそのまま資料に目を落とす。

目の前の強かな男が敵対する相手にタダで情報を与えるはずもない。

つまりは手元の情報の確認は必要であるし、さらに、同盟を組めないような事態なはずがない。

 

そのまま無言で全員は手元の資料をめくるのであった。




中途半端といえば中途半端なところで申し訳ないですが、文量の兼ね合いでご容赦ください。

なお、今回から別作品からのクロスオーバーが増えます。
とはいえ、あくまでもメインはルパンです。

ルパンが他の作品の「天才」もしくは「超人」と組んだらどうなるの、って感じで書きます。
が、そこまで多くの作品からは出ません。

そして、知識的に間違っていたりしたらご指摘をお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

次回作はごませんさんとのコラボの最終話を書きます。
その後に、この続きと行きますのでご了承ください。

※追記
R-18タグを追加しましたが、私の意図するR-18ではないようなので、R-15のみにしておきました。


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