ハゲマントが鎮守府に着任しました。 (owata31)
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1話 最強のハゲ

初めての作品ですが一生懸命頑張ります。
原作104話の後の物語になりますので、村田版やアニメ版でワンパンマンを見ている方はネタバレにご注意ください。

艦娘の性格やキャラは公式設定とは微妙にずれていることがあるかもしれませんがご了承ください。




ここはA市、ダークマターの宇宙戦によって壊滅的な被害にあった町の面影はどこにもない。今はS級ヒーローメタルナイトによる全面工事によって、街は復興して活気を取り戻している。

 

 

 

A市内とあるスーパー

「あと20円ありますか?」

 

「え、うん探してみる」

1人の青年が財布の中から小銭を探している。一見スーパーの店員となんの変哲もないやり取りだろう。だが店員は彼の顔を直視することをできず、目線を下に落として話している。

 

「ママーあの人見てみて!」

 

「しっ!指をさしちゃいけません!」

無邪気に笑いながら青年を指差しする小さい子供とそれを止めさせる母親。しかし、青年は小銭を探すことに夢中で気がつかない様子。

 

「あったあった」

そう言って店員に20円を渡す青年。

「あ、ありがとうございました」

吹き出しそうになる自分の理性を抑えて挨拶をする店員。

青年は買った物を適当にレジ袋に詰め込み、左手でぶら下げ、右手には「土曜の日特売セール」と、書かれたチラシを握りながら、スーパーを出る。

 

「今日は特売セールのおかげで卵と豆腐と味噌が安く手に入ったな。ジェノスがいればもう1パック卵ゲットできたんだけどなぁ。あいつどこいったんだろ。」

 

1人つぶやきながら歩く青年。至って普通の青年…といいたいところだが、太陽の光が反射された頭はまるで光輝くダイヤモンドよりも負けないくらい眩しく光っている。

時々青年とすれ違い人々は皆こぞって首を振り返る、それは青年がイケメンだからでもない、青年が特別有名人だからでもない、禿げているからだ。

 

彼の名はサイタマ

子供の頃に憧れたヒーローを目指して3年間厳しいトレーニングをした結果、髪の毛というデカすぎる代償と引き換えにどんな怪人の攻撃も通さない、どんな怪人もワンパンで倒すことができる無敵の肉体を手に入れた。

しかし、彼は強すぎた。強すぎたのだ。作業ゲーのように感じる怪人退治のおかげで彼は戦いの緊張感や高揚感を失ってしまい、無気力になってしまった。

今まで強いと思った怪人は1人だけ、しかしその怪人もサイタマには戦いにもならなかった。

 

「ただいま」

サイタマは自分の住処であるアパートに帰ってきた。前住んでいたアパートは大家から追い出され、廃工場の管理人室を改装して細々と住んでいたのだが、怪人協会とヒーロー協会の戦闘により家が崩壊した。まぁ新居は旧居と比べて広さは変わらないが管理人室を改装した家よりマシだ。

 

「旦那!お帰りなさい!」

「ワン!」

そう答えるのは黒い精子とポチ。

元は怪人協会のメンバーであったが、怪人協会とヒーロー協会との戦闘で怪人協会は壊滅。運良く生き残った1人と1匹はサイタマの家に居候(?)している。

 

「よし!じゃあ昼飯にするか」

サイタマが台所に向かう。いつもサイタマを先生と呼び崇めている弟子は出かけているので飯は自分で作らないといけない。

 

 

「いただきます」

卵味噌汁に白ご飯、野菜炒めといたってシンプルな料理である。

禿げてもちゃんといただきますは言えるのだ。

 

「旦那!そろそろ飯の改善を要求しやす!」

そう訴える黒い精子。その横ではスーパーで買ってきたドックフードを夢中に頬張るポチ。

 

「なんでいつも俺がポチと一緒の飯なんすか!」

「いやお前もポチと一緒みたいなもんだろ!?ウチは生活が苦しいんだよ!」

 

黒い精子のお椀にはポチと同じドッグフードが盛られている。居候させて貰っている身だが、流石に犬と一緒の飯では不満タラタラだ。

 

サイタマはA級ヒーローだ。だが無所属だった頃やC、B級になっていた頃と変わらず生活が苦しい。その証拠にいつも食料はスーパーの特番セールで買っており、部屋の家具はテレビや洗濯機とちゃぶ台とその他最低限生活ができる物だけ。漫画やゲームはオタクの友人から貸して貰っている。

 

「よし、ポチの散歩でもいくか」

昼飯を食い終わり、爪楊枝を咥えながら立ち上がるサイタマ

「ワンワン!」

「ぐうえっぷ…マズ… 旦那!俺もついていきますぜ!何処に行くんすか?」

嫌々ドックフードを完食する黒い精子。

 

「そうだな久しぶりに海にでも行くか」

いつもの散歩コースはもう飽きた。馬鹿でかいビルやタワーが立ち並ぶ道路を歩いていても殺風景でつまらない。山は最近なんたらの家を破壊するときに走りで行った事がある。

 

A市は内陸の方にあるため海からはかなり遠い。しかし、ヒーロー協会の本部から伸びる道路でどの街にも行き来しやすい。これによりいつでもヒーローが迅速に怪人災害が起きている街に駆けつけることができる。

 

「よし!そうと決まれば早速行くか!」

 

携帯と痩せ細った財布をポケットに入れ、一度破れてしまってまた買い直した黄色のジャージをきる。

ガスと窓の戸締りを確認して家をでる。

ポチを抱っこする。

黒い精子はポチに掴まっている。

 

 

 

「おい、どこいくんだよ新人」

 

103号室住人鎖ガマが見下すように声をかけてきた。

A級36位、紛れもない実力者でありサイタマよりも格上だ。

「フォルテは車に轢かれてしまったが…俺はー「海行ってくる」」

そう言ってサイタマは目にも留まらぬスピードで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのアイツ…」残ったのは股間から湯気を出して腰が抜けている鎖ガマだけであった。

 




次回から艦娘登場になります。


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2話 散歩

「どうよこのF12ベルリネッタ!!V型12気筒エンジンだぜ!!」

紅いヘェラーリに乗った若い男が自慢気に語る

 

「きゃああなたすご〜い。良くこんな高い車買えたわね」

若い男の彼女なのだろうか、女がはしゃいでいる。

 

「そりゃそうよ!なんだって俺は海軍のお偉いさんの息子だからな!どっからでも金が湧いてくるぜ!」

葉巻を吹かしながら一丁前に語る男。まるで親を金づるだと思っている。正真正銘のクズだ。

 

 

ドドドドドドドドッ キラッ

 

 

しかし、若い男は葉巻を落としてしまった。女は口をあんぐり開けて唖然としていた。

何かの地響きと共にキラリと光る流れ星みたいな物が横を通過していったのだ。ほんのわずか一瞬。

「流れ星が通っていった…?」男が驚愕する。

「まさか…何かの生物だったり?まさか怪人!?」女が答える。

「流石に怪人でもありえないだろ…

だってこの車…」

 

 

 

 

「200km/hで走っているんだぜ」

 

 

 

 

 

 

「お、ついた」

とんでもねースピードで走っていたサイタマ、いきなり急ブレーキをかけ急停止。あたりは嵐がおきたように砂埃が舞い上がり視界が遮られる。聞こえるのは急におこった嵐で混乱する人々の叫び。「キャー!!」と叫んでいる女性の声が聞こえるのだが、スカートでもめくれたのだろうか。そんなことはお構いなしにサイタマは数秒後に迎える海の景色を無気力な顔ながら楽しみにしていた。

 

「おお」

広い。サイタマは素直にそう思った。

 

深い青色がどこまでも続き、海が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。決してサイタマの頭のことではない。

そして静かにささやく、耳に心地よく響く波の音がたまらない。自分の悩みのタネであるハゲや知名度の低さや生活の苦しさも、ここでは本当にちぽっけなちっぽけな悩みだと感じてしまう。

そして、久しぶりに来た海にテンションが上がる。

 

 

ポチを地面に降ろすと、初めて見る海に興奮したのか、ポチは砂浜に向かって走っていく。

 

 

「」

 

「おいピクミン大丈夫か?おーい」

 

黒い精子は気絶していた。無理もない、とんでもねースピードで移動していたのだから。サイタマは砂浜に黒い精子を寝かせ(放置)ポチを追いかけていった。まだ夏ではないので熱中症の心配はいらないだろう。

 

「いやージェノスも一緒に連れてくれば良かったな」

こういう時にいつも側にいる弟子がいないのは残念だ。

 

ポチはサイタマから400m離れたところでサイタマを待っていた。

そういえれば天気は先程晴れていたのに曇りになっている気がする。

 

「ワンワンワン!」

「おーヤドカリじゃんよく見つけたな」

サイタマはヤドカリを拾いあげる。種類や食べられるのかは分からない。食べられるなら持って帰りたいな。

 

「ワンワン!!ワワン!!」

そうじゃない!と、まるで訴えかけるように必死に吠えるポチ。

 

「ああ、このヒトデが欲しかったのか。そーれ取ってこーい。」

サイタマが足元にあったヒトデをぶん投げる。

 

「ウウーワォォォォォォォン!!」

ついに怒ったポチがツルツルのハゲ頭にかぶりつく。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ痛い痛い辞めて!今新しい発毛剤試してるばかりだから!」

無理矢理ポチを離す。痛いといいながら傷一つつかず、つるつるテカテカの頭は健在している。

もう彼の頭からは沢山の兵(発毛剤)が破れさった。

今は最近登場した「発毛の家」という発毛剤を使っている。

とある実験中に発毛効果のある成分が偶然見つかったらしく、一部の学者で注目されたらしい。CMもバンバン流れていたし、国民放送でも取り上げられていた。

 

 

「なんだよ急に怒って…ん?なんだこれ?」

サイタマはポチを頭から離すときに、大きな「何か」を背にして座っていた。

そういやデカイ大木かと思っていた。「これ」はなんなのだろうか?

 

妙に冷たく硬い。

 

大木ならこんな感触ではない。鈍感なサイタマでもわかる。

 

ポチが先程から大声で吠えている。何かを警戒するような声で。

 

ポチの目線はサイタマの後ろを刺している。

 

 

サイタマは振り返る

 

 

 

 

黒い目玉と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには地獄から生まれてきたような真っ黒な化け物が

 

 

 

 

 

 

 

死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉあぁぁぁvdp'a#.wdpp@m'」

 

流石のサイタマもバレーボールぐらいの目玉と目が合ったときはかなりビビった。あの鈍感なサイタマがびびったのだ。

飛び上がった。一瞬息が止まった。

 

 

 

化け物は横たわって死んでいる。まるで鯨みたいな形をした化け物は、歯がむき出しで、サメやシャチなどとは比べ者にならないくらいデカくて鋭い。人間どころかA市にある馬鹿でかいビルだって噛み砕き、粉砕しそうだ。

ゴツゴツの黒い皮膚は装甲と言わしめるほど硬く、メタルナイトのミサイルも余裕で弾きかえせるだろう。

何より特徴的なのは口から跳びでている巨大な砲塔。まるで昔の軍艦を思わせるような巨大な砲は、砲撃一回で人間なんて数百人は殺せるだろう。

 

 

そして作者は今までこの化け物に気づかなかったサイタマの鈍感さを賞賛したい。

 

 

 

 

 

「うぉすげーでかい」

無気力な目は変わらないものの、サイタマは唖然としていた。

よくみたら化け物は砲撃みたいな攻撃をうけて死んでいるのがわかる。座っていた場所から反対側に回ってみると腹部から夥しい緑色の血と内蔵が飛び出していた。

 

 

 

「よく分からんが新しい怪人か?まぁ死んでるし放っておくか…てか気持ち悪りぃ!」

折角散歩に来たのにこんな気色悪いもの見せられたらテンションが下がってしまう。サイタマはそんな事を考えていた。よくわからない化け物の死体があっても、彼にとってはどうでもいいのだ。

もうほっといて散歩の続きでもするか、と歩き出すのも束の間、

 

 

ドーン!!

 

地鳴りがする程の砲撃音が鳴り響いた。

「なんだ?コイツ(化け物)と同じ奴がいるのか?」

 

 

「海から砲撃音がするな」

砲撃音は海の方からする、サイタマは海を見つめた。

サイタマは肉体だけでなく視力もかなり良いのである。

 

 

 

何やら鯨の形をした物体が何かと激しく戦っている。所々に砲撃のせいだと思われる水柱がたっている。

近くには軍艦らしき船がある。軍艦は大砲みたいな装備しているが、あれではこの化け物に勝つことなど到底無理な話だろう。それどころか化け物の砲撃を一回でも被弾すれば間違えなく海の藻屑となってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「仕方ない、行くか」

 

残念ながらいつものヒーローマントと服は置いてきた。

 

靴紐を結び直す。

 

いつもは間に合ってないが今日こそ間に合うかもしれない。

 

ヒーロー協会から評価が欲しくてやる訳ではない。

 

あの軍艦がやられるのも時間の問題だ。

 

別に軍艦の乗組員や一般人の為ではない、自分の為に、自分がやりたいからやるのだけなのだ。

 

 

「ポチ、ちょっとあいつらぶっ飛ばしてくる」

ポチにそう告げ、正義のヒーローハゲマ…ではなく、サイタマは海へ向かって走り出す。

 

超能力や何かの機械ではない、ただ単に水に沈まないように、足を上下交互に動かすだけ。

彼は今海面を走っている。

 

「おっ、あっちの方だな。」

水柱を見つけた方角に向かって走り出す。とんでもねースピードで。

 

 

段々と目標に近くなるにつれて化け物の姿を確認できた。

先程浜辺で死んでいたのと同じ化け物が3体、そしてそれをさらに一回り大きくなった化け物が2体いる。一般人からみたら地獄絵図であろう。目玉には緑色の光を宿し、化け物達は生気に満ち溢れている。

しかし、その化け物達よりさらに奇妙なことがおこっている。化け物達は凄まじいスピードで走っているサイタマに気づかず、何かを囲むように游ぎ、砲撃をあたえている。

 

「ん!?」

サイタマは驚いた。

自分と同じ同業者がいたのだ。そう、ヒーローだ。サイタマが駆けつる前に他のヒーローが化け物達相手に戦っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは少女だった

 

 

髪型はもみあげがあり、髪を後ろで縛っている

 

 

年は13、14ぐらいだろうか

 

 

一昔前のセーラー服を来て

 

 

手に持った大砲みたいな物と太ももに取り付けてある棒を発射して戦っている。

 

 

しかし戦況は数で押している化け物達が優勢だ。少女はなんとか回避に専念しているが、ギリギリ避けている感じでかなり劣勢に立たされている。それでも少女は諦めておらず、隙あれば大砲と棒で反撃を試みている。しかし、化け物の放つ弾が少女の足元に着弾、巨大な水柱が立ち、少女の視界を遮り、ひるんでしまう。当然化け物達はその隙を見逃す訳がない。

 

化け物達は一斉に砲撃を開始する。

 

 

 

 

 

ああ、終わったな

 

 

私は悟った、ここが自分の死に場所だと。

 

 

だが悔いはない、艦娘として自分の使命を全うしたのだ。

 

 

所詮私は兵器でしかない、だけど、もうこの世界にもう一度生まれてくるとしたら…

 

 

平和な世界に生ま「ナイスファイト」

 

 

「え?」

 

 

「いやー今回は間に合った。あ、キングにゲーム機返すの忘れてた!」

 

 

化け物から放たれた5方向からの本弾は

 

 

全て男の右手によって全て弾きかえされた。

 

 

「え、あの、ちょ、え?」

私は唖然するしかなかった。だってもう死ぬんだなぁと悟っていたら、いきなり男の人が飛んできたんだもん。

 

「いやーしかし、その歳でキャラ作りとは大変だな。俺も学ランきてヒーロー活動するくらいじゃないと人気でないのかな」

 

いや、キャラ作りとかじゃなくて、これは私達艦娘の戦闘着なんですが…

私は名前を聞いてみた。

「あの…なんというお名前なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「ん?俺か?」

「俺は趣味でヒーローをやっているハ…じゃなくてサイタマだ」




サイタマの喋り方がこれであっているか分からない…

改行をたくさん使いましたが、読みにくかったらすいません。
次回からは説明文を短くしてセリフを多くしてみます。

追記
一部の誤字、脱字を修正しました。
誤字、脱字を発見された方はご遠慮なく作者にご報告ください。


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3話 出会い

「ん?俺か?」

「俺は趣味でヒーローをやっているハ…じゃなくてサイタマだ」

 

膝をついている私にそう答えた。私は涙が出た。だってだって嬉しかったんだもん。

 

いつもいつも人間は私達艦娘を化け物扱いし、恐れていた。

 

遂には艦娘で非人道的な人体実験をする者まで現れた。

 

私たちは人間の為に深海棲艦と戦うが、人間は私達に何もしてくれない、最低限の入渠と補給、装備を揃えてくれるだけ。

 

助けてくれたり、褒めてくれたり、一緒に笑ってくれることなんてなかった。

 

でもこの人は助けてくれた。

 

「ナイスファイト」と私を讃えてくれた。

 

もしこんな人が…

 

私達の提督だったらいいな…

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ、ゴメンキャラ作りとか言って。」

サイタマはいきなり泣き出す少女に戸惑っていた。いきなり女の子にキャラ作りというのはまずかったのか?

 

最近超能力を操るアグレッシブな姉妹としか女性との関わり合いがなかったため、サイタマは女の子にどんな言葉をかけてやればよいのかサッパリ分からなかった。

サイタマはこの歳で5体の化け物を相手に勇敢に挑み、最後まで諦めなかった少女を凄いと思った。正義感の強い自転車の乗りと似ているなとも思った。

 

 

 

しかし、戦いは終わった訳じゃない。

「あ、あの!後ろ!」

「ん?」

完全にサイタマは油断していた。

1体の化け物が口を大きく開けて突進してきた。サメとは比べ物にならないくらいの鋭利な歯をぎっしり揃えて。

 

少女は目を瞑った。あんな至近距離じゃ回避も防御もとれない、絶対に無理だ。心の底から男の人に謝った。巻き込んでしまいごめんなさいと。。。

 

 

 

 

 

 

「いやーやっぱでかいなコイツ。」

 

 

 

ポグゥ!!

 

 

ノーモーションから放たれた左アッパーは突進してくる化け物の口の中の何処かを直撃、そのまま上に吹っ飛び衝撃で内蔵が破裂、化け物の体は粉々になった。

 

 

 

 

「?」少女は目を開けた。ここはあの世か。一度は助けてもらった命はもうないのだ。私は死んだ。痛みや死んだ時の記憶がないのは神様のおかげなのだろうか。

(私、頑張ったもんね…)

雨が降っていた。雨は血生臭かった。

 

 

血生臭い?

 

 

 

 

「わりぃ、折角の服が汚れちまうな。移動するか」

 

ヒョイと少女を持ち上げお姫様抱っこをする。サイタマは海面を蹴った。

 

少女の思考が一瞬止まる、これは雨じゃない、男にヒョイと持ち上げられる。その体勢を一瞬で理解した。電子レンジの音がして少女の顔は真っ赤に爆発した。…いや、爆発しそうになった。真っ赤になっていたことはあながち間違ってはいない。

 

化け物が突撃してくる、両手が塞がったサイタマは化け物より高くジャンプして、左足でかかと落としを食らわせる。轟音と共に今日一番の水柱が立つ。化け物は木っ端微塵になり身体の破片が空中を舞ったり、海面を漂っている。

 

化け物が砲弾を放つ、サイタマは光り輝く己の憎っくき頭でヘディングして弾く。

「あ、やべ」

弾いた砲弾の方向には軍艦があった。当たれば一発で轟沈確定だろう。

(そういや船いるの忘れてた。)

さらにサイタマはスピードを上げる。まるで海を割ったかのように水しぶきが吹き荒れる。あまりのスピードに波は大荒れになり、大嵐がきたような海になる。

空気が切れる、音速を遥かに超えているのかもしれない。

 

軍艦の目の前で急ブレーキ。

その衝撃のお陰で軍艦は45度くらい傾いてしまう。サイレンか何かがうるさく響いている。

少女のスカートかヒラリと舞い、少女の「ブツ」が見えそうになるが、この男には関係ない。興味ない。案の定少女は顔を唐辛子みたいに真っ赤にしている。

 

 

飛んできた弾をサイタマはもう一度ヘディングする。

砲弾は遥か上空まで吹っ飛び大爆破を起こす。爆発の衝撃で、分厚い雲に覆われていた空はぽっかり青空を覗かせていた。

 

 

「あと3体」

 

サイタマは少女をお姫様だったこしたまま、先程化け物達がいた場所まで大ジャンプで戻っていった。

 

 

「あ、あの!もう大丈夫です!」

「え、そうか。ほんとに大丈夫か?」

「大丈夫です!えっと…サイタマさん!」

「ん?」

「えっとその…なんでもない…です」

「?」

サイタマは優しく少女をおろす。

本音を言えばもう恥ずかしくて耐えられなかったのだ。

 

 

 

1体の化け物が少女目掛けて砲撃してくる。少女は小さい体を活かしてヒラリと避ける。1体ぐらいなら知能の低い化け物を相手にするのは容易である。敵の装填時間の隙に手に装備ている砲でで砲撃する。しかし、敵は守りに専念しており、少女の砲撃を通さない。だがそれでいい、敵に守りを専念させていればそれで良い。

 

 

 

ドコォ!!

 

 

 

突如化け物の近くから巨大な水柱が立ち込めた。そして、何かが化け物の腹部に直撃、化け物は腹部から血を流し沈んでいった。

 

 

「新型の61cm3連装魚雷よ!」

 

 

元から自分の貧弱な砲撃で化け物を仕留めきれるとは思っていない。正面から砲撃で撃破するには軽巡以上の火力が必要だろう。だがあの化け物も全ての部位が硬い訳ではない。正面からだけ砲撃が来ると思わせておいて、腹部に魚雷を叩き込む。魚雷は水中を航行するため知能が低い敵には気づかれにくい。距離が近すぎたら敵は砲撃から接近攻撃に移行してしまうし、遠すぎたら魚雷の有効弾が減ってしまう。だから敵との距離も気をつけなければいけない。自分の武器と敵の動きや弱点を良く把握している少女らしい戦い方だ。

 

「あと2体!」

 

まだ油断できない。戦いは終わっていないのだ。

 

 

「おーすげーな、お前の足から発射している棒はなんていうんだ?」

 

振り向くと、もうとっくの昔に戦闘を終わらせたのか、サイタマが鼻をほじりながら話しかけていた。

 

「あの…あと2体は?」

 

「ああ、ぶっ飛ばしてきたぜ。それよ「ありがとうございました!!!」」

突然大きな声で礼を言われるサイタマ。

 

 

「あなたのおかげで命を救われました!!私、特型駆逐艦の1番艦の吹雪です!本当に本当にありがとうございました!」

「おお、それぐらいヒーローなんだから当然だろ?それよりその棒みたいなのがなんなのか教えてくれよ」

 

なんて心の広い人なんだ。吹雪はそう感じた。今までこんな言葉をかけてくれる人間を見たことがあっただろうか?

人間は皆、自分が艦娘だとわかると化け物を見るような目でみるか、自分の身体を人体実験に使おうとする者ばかり。

 

「えっと…吹雪だっけ?おーい聞いてる?」

「え、あ、はい!魚雷のことですね!」

「陳腐化した53cm魚雷の後継として開発された大型の61cm魚雷ですよ。53cmより火力が向上しています。主砲と魚雷を合わせたカットインは強烈で、今はこの魚雷よりさらに強力な酸素魚雷が開発中でー…(以下省略)」

 

15分後ー…

延々と吹雪の話を聞いて、サイタマの目が死んでいる。61やら53やら数字が出てきてさっぱり分からない。終いには正規空母やら艦戦やらサイタマの聞いたことのない言葉のオンパレードで禿げている頭が爆破しそうになった。自分で聞いといてあれだが、どうでもよくなってきた。

「吹雪、20行以内でまとめてくれ。」

「要するに、水中で放つミサイルみたいな武器ですね。あ、正規空母は、赤城さん加賀さん蒼龍さん飛龍さん翔鶴さん瑞鶴さん雲龍さん赤城さん天城さん葛城さん大鳳さん赤城さんですね!」吹雪が自慢げに語る。余程正規空母に憧れているのだろうか。もちろん20行を完璧超えているのでサイタマが覚えられる訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ポチとピクミン待ってるし、キングにゲーム返さなきゃ」

「じゃ、もういくわ、浜でペットが待ってる」

サイタマが戻ろうとする。

「あ…あの!待ってください!最後に一つだけいいですか?」

「なんだ?」

「サイタマさんは私のことを化け物だと思わないのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイタマは頭を掻きながら溜め息まじりでこう言った。

「お前なんかよりキングの5分間ハメ技のほうが化け物なんだよ。それにお前、結構かわいいじゃねーか。じゃーな、また会おうぜ」

 

「え…」

 

 

右手をあげてサイタマは浜のある方角に向かって走っていった。

 

 

 

 

 

深海棲艦をまるで赤子を捻るように倒したサイタマさんを化け物と言わせるキングさんとはいったいどんな人なんだろうか?

というかあの人って人間だよね?なんで艤装無しで海面に浮いていたんだろ?

私もあの人ぐらい強くなれれば赤城さんの随伴艦になれるかな?

でも今はどうでもいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと軍艦が吹雪に向かって近づいてきた。吹雪を回収しに来たのだろう。

時刻はまだ15時半である。しかし、少女の可憐な顔は夕陽に照らされたような顔になり、口の端がつり上がっていた。

 

 




ワンパンマン更新されてるぅぅぅぅぅぅぅ!



誤字、脱字はご遠慮なくご報告ください。


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4話 真面目な奴だけ会議

この回はサイタマも艦娘も出てこないので退屈するかもしれませんが、引き続き5話もご覧になってください。


A市ヒーロー協会本部

 

「皆、忙しい中朝早くから良く来てくれた。」

時刻は午前8時半

会議を取りまとめるシッチが会議に集まったメンバーに声をかける。

 

「会議といっても今日はいつにも増してメンバーが少ないな。怪人退治のための会議ではないということか?」

S級ヒーローゾンビマンが口を挟む。

 

「そうなんじゃないの?今日はメンバーが大人しい人ばかりだからさ」

同じくS級ヒーロー童帝がペロペロキャンディを舐めながら答えている。

 

「そのようじゃな、今日はどのような要件じゃ?」

お茶をすすりながらS級ヒーローシルバーファングがシッチに視線を向ける。

 

「その通りだ。今日は先日海軍から要請のあった艦娘についてだ。」

 

「艦娘?たしか深海棲艦が出現した時期と同じ時期に出現した謎の生命体のことだよね?たしか…昔の軍艦を名乗る少女らしいね。」

 

「その通りだ童帝君。実は海軍が回収した艦娘を我々ヒーロー協会が引き取ることになってしまってね。どうやら海軍では艦娘達を扱いきれなかったようだ。艦娘を戦力にして我々が今最も手を焼いている深海棲艦に戦ってもらいたいと思っている。その方がヒーローにとっても負担が減るだろうからな。海上で戦えるヒーローも数少ない。」

 

深海棲艦…最近ヒーロー協会近海に現れる謎の怪人である。この怪人のおかげで漁業は妨害され、油田基地が破壊されてしまったりと、その経済損失は日に日に増えていくばかりである。そして何より厄介なのが現代兵器が深海棲艦にはいっさい効果がないということだ。これでは海軍もお手上げである。

そんな時に海から突如出現したのが艦娘なのである。

深海棲艦を撃破することができる「艤装」を持ち、深海棲艦と対をなす存在。なぜか彼女達は昔の軍艦の名前を名乗っている不思議な生命体である。

 

「それでだ、今回はその艦娘を取りまとめ、艦隊の指揮をとり、深海棲艦討伐のための前線基地、鎮守府を運営するための提督を決めるために諸君達に来てもらった。」

 

「なるほどな、だが海軍にも提督になれるような奴なんて山程いるんじゃないのか?何故ヒーロー協会に艦娘を押し付けた?」

ゾンビマンが質問する。

 

めちゃくちゃまともなメンバーだと会議がかなりスムーズに進むことにシッチは感動する。いかんいかん、これが世間だと普通なのだ、と心に刻み、咳払いをしてこう答える。

 

「実は海軍でも鎮守府を作ってみたものの、あまりにも艦娘の管理と艦隊の指揮が悪かったらしくてな、1人の艦娘に謀反をおこされて鎮守府は壊滅、提督は全身の骨を折られて意識不明の重体。謀反をおこした艦娘は未だ行方不明だという。他にも鎮守府があったのだが未知の敵相手には艦隊の指揮がめちゃくちゃで艦娘達のポテンシャルを引き出せなかったそうだ。そこで毎日怪人と戦っている我々に助けを求めてきたのだ。」

 

「裏切り…か、さぞ無能な提督だったんだろうな」

ゾンビマンが提督を哀れむ。彼自身ある組織を裏切った身であるため、境遇は違えど艦娘にある程度共感できるものがあった。

 

「まぁとりあえず今日は提督を決めるために協調性のあるS級ヒーローを会議に出席させたって訳だね!」

童帝がジュースを飲みながら喋る。

 

「そういうことだ。いつものメンバーだとこんな会議には乗る気にならないし、S級は協調性が低いメンバーばかりだからな…新築したばかりの協会で暴れられても困る。A級以下は正直頼りにならないしなぁ…」

はぁとため息をつくシッチ。

 

 

 

 

 

バァン!!

 

「ちょーとちょっと!何私を無視してこっそりS級ヒーロー会議なんてしてんのよ!!いい度胸じゃない!!」

 

 

(あぁ…ドアが…)

(このガキャ…)

(一番協調性がない奴が来たな)

(やれやれじゃのぅ…)

 

扉が吹っ飛び、そこから現れたのは緑色の髪の癖っ毛の強い生意気な態度をとった少女、戦慄のタツマキ(28)であった。

 

「提督!?深海棲艦!?そんなもの全部私が倒せばいいのよ!!艦娘!?協会はそんな良く分からないものに頼っちゃう訳!!!?」

 

キーキーうるさい少女だ。しかし彼女はS級ヒーロー2位の実力を誇り協会の切り札でもある。あとはもう少し協調性があれば良いのだが…

 

今まで黙っていたファングがため息をついて話しかける。

「タツマキ、最近は特に怪人発生率も多く、ただでさえ陸上の怪人を退治することに精一杯なんじゃ。それにいつまでも深海棲艦を野放しにしておいたら陸に上陸してくるかもしれん。一刻も早く前線基地を作り防衛線を張らなければいけんのじゃ。これはヒーロー協会のため…いや、人類存続のための大事な会議なんじゃ。分かってくれんかタツマキ。」

 

「その通りだ!」と同感する童帝。ゾンビマンも無言で頷いている。

 

「な、何よ!もう勝手にすればいいわ!!」

 

「フンッ!」とソッポを向きつつも、いつも座っている席に座るタツマキ。実は会議に参加したかっただけなのかもしれない。

 

「とりあえず、誰か提督になってみたいという人はいないか?別に君たちじゃなくて推薦でもでもいい。超まともなS級ヒーローの推薦なら信頼できる。」

 

「何よ!私はまともじゃないっていうの!?」

 

「ドア吹っ飛ばす人のどこがまともだよ…僕は年齢的に無理だし。周りで頼れる人はいないからなぁ…。ゾンビマンさんは?」

 

「…暇なら引き受けたかもしれんが今は生憎調べなきゃいけないことがある。推薦できる奴は特にいないな…」

 

「儂も道場持ってるから無理じゃな。だが1人だけ提督にぴったりな奴知ってるわ。」

 

「おお!どんな名前の人だ?」

シッチの目が輝く。やっぱりまともな人は最高だ!!もうS級の会議はこの人たち(タツマキを除く)だけで充分じゃないか!!

 

 

 

 

「A級39位のサイタマ君じゃよ。」

 

「はぁ!?なんであのハゲなのよ!?あんた頭でも狂ったの!!?」

タツマキが椅子を倒してテーブルに身を乗り出す。

 

シッチがヒーロー名簿に目を向ける。

「ハゲマントか、身体能力は高いが筆記試験は最悪だったと聞くが大丈夫なのか?」

 

「強くて誰にも優しい。それだけの理由じゃ。サイタマくんは誰であろうとを分け隔てなく接することができる。指揮をとるということは艦娘と提督の強い信頼関係がないと成り立たない。頭は悪いが難しい仕事はジェノス君が手伝ってくるじゃろう。」

満足そうにファングが答える。

 

「はぁ!?どうみたって私の方が強いわよ!!私は絶対反対よ!!」

ムキになってタツマキが反論する。自分の方が強いと言っているが実際タツマキの超能力はサイタマに傷一つ負わせることができなかった。

 

「よし!決定だ!!ファングがそう言うならそうしよう!」

シッチが歓喜に満ちた声で叫ぶ!

 

「まぁ鬼サイボーグもいれば安心だね。」

童帝も賛成する。

 

「まぁ現状任せられる奴はいないからな。」

 

「え…なんなよのあんた達…私を馬鹿にしてるの!?」

 

 

(ふぅ、あとはサイタマ君次第じゃな。強くて優しい、人のためなら自己犠牲も構わない。いろんな人と仲良くなれる。十分提督の素質がある奴じゃ。儂は期待しておるぞ………断られたら儂の道場にでも誘ってみようかのぅ)

バンクは静かにほくそ笑んでいた。

 




誤字、脱字はご遠慮なく報告してください。

次回から鎮守府編スタートです。


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5話 配属

やっと鎮守府編ですよ…


M市

吹雪と出会ってから1週間が過ぎた。

 

 

「ケッケケッケ!!俺の名はい○ぽマン!!狙った獲物は一生勃たないようにしてやry」バコォォォ!!!

怪人は腹に穴が開き絶命した。

 

「ふーゲーム借りて帰る途中に怪人と出会うとはな。まぁ帰るか。」

サイタマはダッシュする。もう説明は不要だろう。

 

 

 

 

A市サイタマ宅

「ただいま」

 

「旦那!!おかえりなさい!さっき旦那の携帯電話が鳴ってましたよ!!」

いつものように黒い精子が出迎える。

 

サイタマ「あー忘れてたわ。ジェノスからかな?」

 

 

「携帯持ってないとまたジェノスに怒られますよー?」

 

 

「あいつは俺の母ちゃんかだってーの」

だが家の家事全般はジェノスがやってくれているので怒られても何も言えない。ジェノスが出かけて1週間以上経つがサイタマの部屋は埃っぽくなってきた。

 

「はーいもしもし、サイタマです。」

 

「ああハゲマントか、今すぐヒーロー協会まで来てくれ。」

クソ、気にしないよう心がけようとも気にしてしまう。ジェノスやじいさんのヒーローネームはかっこいいよな…俺なんて見た感じそのまんまじゃねーか。もっといい名前ぐらいあるだろ。例えば………アンパンマンとかワンパンマンとか

 

「また何処にいくんっすか?」

「ヒーロー協会、クビになったりしてな、ハハハ」

 

 

3分後

ヒーロー協会。とにかくデカイ建物。

「サイタマでーす。」

受付にいる職員に話しかける。

 

職員は首をかしげながこう言った。

「ん?君協会から車で40分のアパートに住んでるよね?まぁ良い、至急会議室に向かってくれ」

 

途中会議室までの道のりが分からなくなったりトイレしてたりして会議室到着までに30分かかってしまった。

 

「はぁはぁ…この建物広すぎだろ」

たしかに建物は広いが30分も迷う馬鹿はいない。

 

「失礼しまーす。」

何故かドアがぶっ壊れていた。

 

「おお、サイタマ君早かったな。」

ファングが迎えてくれた。

(あとの四人は…ゲッ、タツマキいるじゃん。寝てるけど。ほかの3人は…見たことあるけど名前が分からんな。たしか…biohazardと童貞だっけ?なんか違うな…)

 

「よおじいさん、なんでタツマキ寝てんの?」

 

「会議が長引いてしまってな、退屈して寝てしもーたみたいじゃのぉ、やれやれ。」

タツマキはスヤスヤ寝息を立てて眠っていた。

 

「で、なんで俺を呼んだんだ?」

 

「サイタマ君、私の事は勿論知っているな?」

「いや、知らない。」

「シッチだ!いつも会議にいるだろ!!」

こんなやついたっけ

 

「サイタマ君、深海棲艦は勿論知っているね?」

 

「いや、知らない」

 

「君が先日「艦娘」と海で接触した際に現れた化け物のことだ!!ていうか何故かヒーローなのに分からない!?色々ヒーロー協会側で調べさせてもらったよ」

 

「まさかもう艦娘と接触しているとはね」

童貞っていうやつが喋っている。俺がヒーローに憧れてた歳でヒーローやってんのか。すげーな。

 

「あーあんときのねぇ…流石に死体と目が合った時はかなりびびったな。あんまり強くなくてがっかりしたけど。てか艦娘って何?吹雪は人間じゃないのか?」

 

 

あんまり強くない、か。一番雑魚でもメタルナイトの兵器が通用しないんだぞ…

ゾンビマンは驚愕する。ガロウ戦といい、アイツに限界というものはないのか?

 

「艦娘っていうのはなー…(以下省略)」

サイタマは長々と説明をうける。説明内容は第4話に書いてある内容と一緒なので割愛させていただく。(めんどくさい)

 

「おい、20文字以内でまとめry「そこでサイタマ君には艦娘達の提督となって深海棲艦を討伐していただきたい!!!」

シッチが叫ぶ。ファングの推薦ともあって期待しているのだ。

 

「いや、俺ヒーローやってるからいいわ。やりたくてやる訳じゃねえし。あ、お茶おかわり」

鼻をほじりながらめんどくさそうにサイタマが言う。自分のやりたいことだけをやる。そんないい加減だが自由なヒーローなのだ。

 

「ヒーロー以外に副業で職についてる人はたくさんるよ。イケメンマスクさんとか。」

 

 

「サイタマ君いきなり無茶なお願いだとは充分儂らも理解している。お主は強くて正義感に溢れている。そして誰よりも優しい。艦娘も、君の優しさと正義感に救いを求めている。君の実力は世間には認知されていないものの、たくさんの人を救ってきたのは事実じゃ。どうだ?艦娘達を導いて深海棲艦を倒してみんか?」

 

 

珍しくファングが真剣な眼差しで見つめているのでサイタマの心も揺らぐ。

(正義感?優しさ?別に意識したこともないからな。ヒーローも趣味と実益を兼ねてやってるだけだしな。艦娘が救いを求めているっていうのも良く分からない。艦娘は俺の他に頼れる奴はいないのか?うーんぶっちゃけ良く分からん。)

 

ファングが追い打ちをかけるようにこう言った。

「ちなみに朝昼晩3食ついてて食料には困らないぞ。もちろん費用はヒーロー協会が負担する。料理人も腕利きじゃぞ。もう特売日に買い出しに行かなくてもいいんじゃぞ」

(な、なんだって!?特売セールに頼る生活から抜け出せるのか!?)

 

「風呂もついてデカイベットもあるぞ。部屋もお前さんの部屋の倍ぐらい広いじゃろう」

(マジか!!安い布団に小さい風呂とはおさらばできるのか!!広い部屋でゴロゴロゲームできるのか!)

 

「君の知り合いの吹雪ちゃんにも会えるかもしれんぞ」

(吹雪か、また会いたいな。あいつも差別だったり酷いことされてんのかな?)

 

 

「それに」

 

 

 

「ガロウや怪人協会を超えるぐらいの実力をもつ艦娘や深海棲艦と戦えるかもしれないぞ。」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーガタン、ガタン、

一台の護送車が何処かに向かって走っている。護送車には海軍とデカデカと書かれており、その護送車が海軍の物だと良く分かる。

 

(はぁ…いきなり鎮守府に配属されると言われたのはいいけど、何故私が手首に手錠をかけられたのだろう。いつもの護送車なら手錠なんてかけられることなかったのに。今日は見張りも多いしなんか悪いことでもしたのかな。うぅ…そんな目で見ないでよ…怖いよ…)

 

吹雪の細い手首には警察の手錠なんてかわいいくらいの手錠がかけられている。まるで自分が極悪人にでもなった気分だ。自分は兵器だから極悪人とあまり大差ないのかもしれないが。

恐らく毎日訓練して鍛えているのだろう、屈強な肉体をした4人の海兵隊員が吹雪に目を光らせている。銃も携帯しており、抵抗しようものなら即、頭に鉛弾が飛んでくるだろう。

 

怖い、そんな目で見ないで。声には出せないが心の底から恐怖を感じていた。泣きそうにもなった。

 

「ついたぞ、さっさと降りろ。」

 

うぅ…気持ち悪い。乗り心地は最悪だった。

 

降ろされた場所は港みたいなところだった。ああ、いつ見ても海は綺麗だ。心地良い潮風と水平線まで広がる深い青色は宝石みたいに太陽の光で輝いていた。この先にあの深海棲艦がいるのだとしたら想像がつかないぐらいだ。

 

「さっさといけ!何ボケッとしてやがる。」

ドン!と突き飛ばされて地面に体を転がした。よろよろと立ち上がって渋々従った。従わないと研究所送りかその場で殺される。

 

 

 

数分歩いた先に大きい建物があった。レンガ作りの洋風な屋敷だ。大きな柵に囲まれており、正門は大層立派な門だ。看板にはヒーロー協会鎮守府とだけ書かれている。柵越しから屋敷を見てみると、庭に色とりどりな綺麗な花が植えられていて、中心には綺麗な噴水があり、小ささ虹ができていた。

 

「ここが鎮守府だ。行くぞ。」

海兵に声をかけられたその時、

 

「あーあ、このでけー屋敷みたい所に住んだのはいいけど、コンビニまで遠いのが不便なんだよな。」

 

 

 

「え?」

吹雪が振り向く。

 

 

 

 

「お、よう吹雪、悪いことして捕まったのか?」

前と変わらず無気力な声で話しかけてきた。

 

 

海兵隊員が叫ぶ

「誰だ貴様!!何故この艦娘の名前を知っている!?」

 

「誰だ貴様ってお前らは誰だよ」

ヘラヘラ笑いながらそう返す。

 

「口答えするな!答えろ!」

 

バナナオレを飲みながらこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「俺はサイタマ、趣味でヒーローと提督をやっている者だ。」

 

 

 

「は?趣味だと?」

「あ、証明書みたいなのならあるぞ。」

サイタマは証明書を渡す。

 

海兵隊員達ははまじまじと証明書を見ながら。

「おい、マジかハゲてる!!」

「ほ、ほんとだ。こんなハゲが鎮守府の提督なのか!?」

「制服着てないぞこのハゲ!!」

「てか俺らより若いのにハゲてやがるぞこいつ!!」

 

「誰がハゲだコラァァァァァ!!制服は暑苦しいんだよ!」

サイタマの服装は半袖の黒文字でOPPAIと書かれた白色のTシャツと赤の短パンである。

 

「で?なんでお前らは吹雪を手錠で拘束してんの?」

 

「海軍の鎮守府で艦娘が裏切りをおこした事件を貴様も知っているだろう!?それをきっかけに今回は暴れられないようにダイヤモンドより硬い超合金手錠で拘束しているのだ!!所詮艦娘は兵器の形をした化け物でしかないからな!化け物にはそれ相応の対策をとらなくちゃな!!」

海兵隊員は高笑いする。ゴミを見るような目で吹雪とサイタマを見下す。

 

 

 

サイタマは吹雪を見た。吹雪は俯いていた。泣きそうになっていた。辛そうだった。

 

 

 

サイタマはテクテク歩いて海兵隊員達と吹雪の前に立つ。

「あ?なんだハゲ頭。提督だからと言って調子にのるなよ?まずその頭でヒーローなんて良くやってられるよなwwwwどうせC級のお遊びヒーローごっこだろハゲwwwwwこっちは国の命令で働いてんだよwwwww」

またケラケラと笑い声が起きる。

 

 

 

 

ガシャン!!

 

 

 

鈍い音を立てて、手錠がぶっ壊れた。

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

海兵隊員も吹雪も全員固まった。まるで5人だけ時が止まったように。

 

「そうか、新たに配属される艦娘ってお前のことだったんだな。また会えて嬉しいぜ。吹雪。」

ニヤリとサイタマが笑う。

 

無気力だけど、優しい優しい優しい優しい優しい優しい声だった。

吹雪はゆっくり上を向いた。目がぼやけてサイタマの顔が良く分からなかった。頭が熱かった。

 

「な!?超合金の手錠を…!!何者なんだテメェ!!」

 

「あ、もういいんで帰ってください。」

サイタマはそういって4人まとめてワンパンで吹っ飛ばす。吹っ飛んだ先は木があるので死にはしない。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…」

 

「『悪い奴』を退治するのがヒーローの仕事だからな。」

 

「え…人間を退治するのですか…」

 

「お前にとっては『悪い奴』じゃねーか。いこうぜ、吹雪。」

 

サイタマは手錠をぶっ壊した手を差し伸べる。その手は、とても暖かく力強い手だった。

 

 

 

 

 

 

 

私はサイタマさんと手を繋ぎながら鎮守府の扉の前にいた。さっきまでヒックヒックとしゃっくりをあげながら大泣きしてサイタマさんの胸で泣いていたが今は落ち着いてきた。サイタマさんは「やっちまった」と言ったみたいな顔をしてオロオロしていたが、私が泣き止むまでずっと見守っていてくれた。

 

「ただいま」

サイタマさんそう言った。誰かいるのだろうか?

 

そしたら階段からドドドドと音がして何かが駆け下りてきた。

 

「チィースサイタマwwwwwwwwwパシリお疲れ様でーすwwwwwww」

「お疲れっす旦那!!黒胡麻プリン買ってきましたか?」

 

「まさかスマブラXでお前らに負けるとは…対キング用にとっておいた俺のスネークが歯が立たないなんて…」

 

「いやサイタマのスネーク弱すぎwwほぼ毎回私のクッパと黒ピクミンのピクミンでタイマンしてんじゃんww」

「2試合に一回は自滅してますよね旦那…」

 

「んだとコラァァァァァァァァァァァァァァァ。次はぜってー負けねー!!あ、これ鈴谷のロールケーキね。チョコなかったから普通の買ってきた。はいピクミンの黒胡麻プリン」

 

「んー売れ切れなら仕方ないね。いっただきまーす」

「うぐ、やっぱスイーツはたまんねぇ。うめぇ涙がでる」

「おい、お前ら立ったまま食うなよ」

あんぐりロールケーキというものを速攻で食べ終える、鈴谷と呼ばれるとても綺麗な女性。人間でいう高校生ぐらいの歳だろうか、私より2、3歳上だ。髪は鮮やかな緑色でとても顔は可愛い。何より特徴的なのが大きな胸だよね…もう装甲と言っても良いくらい大きすぎる…別に嫉妬なんてしてないですからね!!女の子の私でも可愛いと思うのだから、きっと男の人からモテモテなんだろうな。

 

もうひとりの黒胡麻プリンというものを泣きながら食べている小さい黒い小人(?)みたいな人は、頭に尻尾みたいな物を生やしている。この小人さん、海軍の怖い人達と顔似てるなぁ…

「そういえればその子誰?てかなんで顔真っ赤?」

 

「ああ、こいつは吹雪。今日からここに配属だってよ。」

 

「あ〜〜、特型駆逐艦のねぇ…私は最上型重巡鈴谷。よろしくね!あなたと同じ艦娘よ。」

え!?この人も同じ艦娘なの!こんな美人な人が艦娘かぁ…胸も大きいし…

 

「俺の名は黒いs「あんたはピクミンでいいから!!吹雪ぐらいの歳の女の子には刺激が強すぎ!!」

 

「は!?別にいいじゃねーか!!なんで俺だけ名前教えちゃダメなんだよ!!」

 

「駄目だっつーの!!乙女心を考えろピクミン!!」

 

「ピクミンじゃネェェェェェェ」

 

「うるせーぞピクミン。」

 

「うぅ…元は旦那が原因なんですからね…」

 

何故だか黒い小人さんの名前を巡って鈴谷さんと小人さんがケンカしている。刺激?乙女心?なんのことだろう?とりあえず小人さんの名前はピクミンさんでいいのかな。

 

「あ、あの私、特型駆逐艦1番艦吹雪と申します!!一生懸命頑張りますので皆さんよろしくお願いします!!!」私は挨拶をしなきゃと思い、右手を上げて肘を曲げ手のひらを左方向にむけ、人差し指を頭部の前部にあてて、敬礼した。この日の為に一生懸命練習したんだよね…

 

「おおー吹雪は真面目だねぇ。こちらこそよろしくね!」

太陽のように笑う鈴谷さん。本当に綺麗な人だなぁ…

「まーよろしく」

ピクミンさんも返してくれた。

 

「そういやもう昼飯の時間だよな。食堂いこうぜ。吹雪は飯食った?」

サイタマさんが壁においてある大きな古時計を見ている。

 

「まだ食べていませんね。」

朝食は朝早くに食べていたのでお腹が空いていた。

 

「じゃあ俺たちと一緒に食べようぜ。」

 

「あの…いいのでしょうか?」

 

「当たり前だろ?飯は皆んなで食ったほうがうめーだろ」

なんて心の広い人なのでしょうか?ここまで優しい人間は見たことがありません。

 

「よ〜し食堂まで突撃して参りましょうか!!行くよピクミン!!吹雪も行くよ!!」

「ギャァァァァア!!頭を引っぱんな!!」

鈴谷さんはピクミンさんの頭を掴んで走って行ってしまった。

 

「じゃあ俺らもいくか!!腹減ったからダッシュで!!」

「え?あ、はい!!」

サイタマさんと私も走って食堂へと向かっていった。

 

 

食堂

「おおーサイタマと吹雪遅いぞー!」

鈴谷さんが手を振りながら呼んでいる

 

「あら?その方は?」

調理室から誰かがでてきた。透き通った声で話しかけてきた、昔の白いエプロンを来た美しい女性。淑女とはこの人のことを言うのだと思う。

 

「おー間宮。カレーの匂いがするぞ。こいつは吹雪。今日配属になった艦娘。こいつも一緒に飯食うわ」

「特型駆逐艦1番艦吹雪です!よろしくお願いします!!」

先程と同じ敬礼をする。

「あたりですよサイタマさん。まぁまぁ…可愛らしい子ですね。私は給糧艦の間宮と申します。見ての通りこの食堂を経営しています。よろしくお願いしますね。じゃあ4人分用意しておきますよ。」

 

見る者を癒してくれるように優しくにっこり微笑む間宮さん。本当に美しい。そして大きな胸に目線が飛んでしまう。別に悔しくなんかは……ないです!!

 

「鈴谷さんとピクミンさんはもう席に着いておられますよ。ポチは寝ていますので後でエサをあげておいてくださいね。では、私は盛り付けをしなければいけませんので…」

そう言って間宮さんは調理室へ戻っていった。

テーブルに目を向けると鈴谷さんとピクミンのさんが手を振っている。

 

鈴谷「しっかし人が少ないとこんなにイスとテーブルを用意した意味がないね」

 

サイタマ「まーまだ俺が着任して2週間だからな。その内人が増えるだろ。そういや明石は?」

 

黒「あの機械オタクならそのうち来ると思いますよ」

 

吹雪「明石さんとは誰でしょうか?」

 

サイタマ「機械オタク。朝昼晩工廠に籠っているニートだ。」

 

食堂は私達4人だけでガランとしててちょっと寂しい。周りにはたくさんテーブルやイスが配置してある。

あたりにはスパイシーな匂いが漂っており、だんだん食欲が湧いてくる。

 

「はいお待ちどうさま。カレーですよ!!」

間宮さんがカレーというものを運んでくる。

「「おおー待ってましたー!!」」

鈴谷さんとピクミンさんが同時に声をあげていた。

この2人とても気が合ってそう…

 

私はカレーという食べ物を初めて見た。皿の横にスプーンがおいてある。スパイシーな匂いがはこの食べ物が原因だった。とても美味しそう。人参や茄子やレンコン、その他色々な野菜が茶色のタレ(サイタマさん曰くルーというらしい)みたいなのに入っていて、とても美味しそう。

「吹雪、カレー食うのはもしかして初めてか?」

サイタマさんが話しかけてくる。

 

「はい、初めてです…」

 

「そうか、うまいぞ。特に間宮の作るカレーだからな。」

ニヤリとサイタマさんが笑った。間宮さんは顔を赤くして照れていた。

 

「じゃー皆さんお手を拝借!!」

鈴谷さんが掛け声をかける。

 

「いや忘年会じゃねーぞこれ」

サイタマさんが突っ込む。

 

「うぅぅぅぅ…またカレーにありつける日が来るとは…」

何故かピクミンさんは目を潤ませている。

 

「皆さんおかわりはありますからね。」

私の横に座った間宮さんが微笑む。

 

私は手を合わせる。カレーを初めて食べるからだろうか、みんなと一緒にご飯を食べるからだろうか、私の心臓はドキドキしていた。

 

「それじゃあせーの!!」

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

 

兵器としてではなく、艦娘としての生活が始まった。

 




誤字、脱字はご遠慮なく報告してください。

ちなみにサイタマが着任して間もない頃の物語もいつか書く予定なので楽しみにしていてください。


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第6話 鎮守府

ギリギリ書き終えました…


「うめぇ…うますぎるよカレー…ウグッウグ…」

涙を流して顔をクシャクシャにしながらカレーを食べる黒い精。その向かいに座る鈴谷がカレーを一口食べてから話しかける。

「イヤ…普通は吹雪が感動するところでしょ…」

 

「は!?ここに来るまでずっと飯はドッグフードだったんだぞ!!酷すぎるだろ!犬と同じだぞ!?何度メシの改善を要求してきたか…」

 

「そこまで酷かったのか…」

 

そんな2人のやり取りを全く気にせず吹雪に話しかけるサイタマ。

「吹雪、うまいか?」

 

吹雪が元気いっぱいに答える。

「はい!!とっても美味しいです!こんなに美味しい食べ物生まれて初めて食べました!!ありがとうございます!サイタマさん!!間宮さん!!」

 

「おう、別に呼び捨てでもいいぞ。」

「お粗末さまです。」

サイタマと間宮が答える。吹雪はすっかり元気を取り戻しており、明るく真面目な少女に戻っていた。

そこからは各自黙々とカレーを口に運ぶことだけに集中していた。スプーンが止まらない。うますぎる!!

 

「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」

 

「はぁ…食べた食べた…間宮さんの料理美味しすぎ」

鈴谷が満足気に語る。

 

「お前何杯食ってんだよ。太るぞ」

サイタマがアイスの棒を咥えながら鈴谷を見る。

 

「は!?レディに太るなんて失礼ね!!そーゆーサイタマだってガリガリ君4本目じゃん!!腹壊すよ!!しかもソーダばっかり!!」

鈴谷が言い返す。

 

「コーンポタージュの美味しさがサッパリわからねえんだよ!俺はソーダ一筋だ。」

サイタマもムキになって言い返す。

 

「コーンポタージュの良さも分からないなんてアホすぎ!!」

 

「まあまあお二人共…とりあえず吹雪さんにこの鎮守府を案内したらどうですか?」

くだらない口喧嘩を見て間宮が呆れ声で言う。

 

「そうね…じゃあ私と一緒に行こうか吹雪、いろいろ教えてあげるよ!」

吹雪を見つめて元気良く笑う鈴谷。

 

「はい!よろしくお願いします!!」

同じく元気良く笑う吹雪。

 

「よし、俺もついていくぜ。」

5本目のガリガリ君を咥えながら席を立つサイタマ。

 

 

「あら、サイタマさんは午後の業務が残っていますよ?早く司令室にも戻ってくださいな」

何故だろうか、間宮自身は天使のような笑顔で話しかけているのに、背後からドス黒いオーラを放っているような気がする。

 

サイタマの背筋が凍る。恐怖、不安、焦り、怪人との戦いでは味わうことのない緊張感が走る。できればこの緊張は怪人と戦う時に走って欲しい。サイタマはそう思った。

「い、いや…食後の運動に…それに俺、提督だし。」

 

「そういって昨日も一昨日もサボっていましたよね?書類が夏休みの宿題のように溜まってますよ」

さらにドス黒いオーラが強くなる。オーラや雰囲気は災害レベル龍を余裕に超えているのかもしれない。心なしか間宮の顔が引きつり、さらには額の血管が浮き出ているような気がする。

マジでやべぇ、サイタマの頭から脂汗が噴き出てくる。脂汗が反射して頭が光る。

 

 

「あ、あとd「仕 事 し ろ」」

 

 

 

 

「クソったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

間宮にTシャツの天巾を掴まれながら引きずられ、ハゲ頭の提督は司令室へと消えていった。

 

 

 

「あーあ旦那…ご愁傷様です…」

 

「間宮さんを怒らせたらいけないよ?ああなっちゃうからね」

 

「善処します…」

 

黒い精子、鈴谷、吹雪の一同は大きな渡り廊下を歩いていた。

この廊下は中央A館からB館を繋ぐ物である。この鎮守府には大きくABCの3つ館に分かれている。

3つ館は共に3階建てであり、A館は1階に食堂、2階に会議室と司令室がある。3階はまだ手付かずのままだ。

B館には工廠と入渠や倉庫、研究室がある。

C館はサイタマや艦娘達の寮である。

 

レンガ造りの美しい外見とは打って変わり、B館の内部は部屋というより工場になっている。鉄工で組み立てられた柱やコンクリートの床が先程とはまるで違った空間を生み出しており、あたりには鉄と油の匂いが立ち込めていた。

 

吹雪は口を大きく開きながら驚いていた。

「外見やA館はあんなに綺麗なのに…すごいですね。」

 

鈴谷が苦笑いしながら言う。

「ここが工廠よ。この前視察しにきた海軍の偉い人もそういってたよ。まぁこのギャップにはみんな驚くよね。」

 

黒い精子が鼻をつまむ。

「くっさ、早く出て行きたい…」

 

良く分からない機械や工具のジャングルを潜り抜けて、一同は、【装備開発室】と手書きで書かれたと思われる紙が貼られている扉の前までやってきた。

 

「たっく、なんでこんなに散らかってるのよ!おーい明石!!いるの!?生きてる?」

イライラしながらガンガン扉を叩く鈴谷。

10秒遅れて扉が開かれる

「はいはい…生きてるっつーの…ん?ピクミンとあなたは誰かな?」

出てきたのは黄色の赤のタンクトップに水色の作業ズボンを履いた、オシャレとはかけ離れた格好をした鈴谷と同い年くらいの少女だった。しかし、綺麗なピンクの髪は、横髪が左右両方結ばれパッツリ切られていて、後ろ髪は少女の腰ぐらいまで届いている。顔にはススがついているが、とてもかわいい少女だ。

 

「あ、あの!特型駆逐艦1番艦吹雪です!今日からここに配属されることになりました!よろしくお願いします!」

元気よく敬礼しながら挨拶する吹雪。

 

「あー特型駆逐艦ねぇ…私は工作艦明石。戦闘はしないけどここで装備の開発だったり修理をやってるわ。よろしくね。」

笑顔で挨拶を返す明石。笑顔も綺麗だ。そして胸もでかい。女子なら嫉妬し、男子なら目が釘付けになるような谷間がタンクトップから露出していた。

 

(絶対負けません!私だって大人になったら……)

こぶしを握り締め新たに決意する吹雪。そんなことなどつゆ知らず、明石が話しかける。

「まぁ新人の吹雪ちゃん連れてここに来たってことはここの案内だよね?」

 

鈴谷が鼻をつまみながら答える。

「まあそうね。好きでこんなとこいるのはアンタぐらいよ。」

 

レンチをクルクル指で回しながら明石が得意げに説明した。

「ここは工廠(こうしょう)よ。主に艦娘の武器の開発だったり修理、艤装(ぎそう)の燃料補充をやってるわ。それに艦娘の『建造』もね。その名の通り艦娘を『作る』ことよ」

 

「あ、あの、どうやって艦娘を建造しているのですか?」

建造ということは艦娘は人間に作られた物なのか?吹雪が

生まれた時は海にいた。船ではなく人の姿をして海で『生まれた』のだ。それを海軍が保護(正確には捕獲)されて今に至る。

 

「あーもしかして吹雪ちゃんはドロップ艦ってやつかな?鈴谷はこの鎮守府で建造されたんだけどね。艦娘が生まれれる方法は二種類あるのよ。一つは海で突然艦娘が出現するいわば『ドロップ艦』っていうやつね。その理由を海軍とヒーロー協会が必死こいて調べてるらしいけど全く不明らしいね。2つ目は…」

すると明石の作業ズボンのポケットから小さい小人が顔を覗かせていた。

 

「あー出てきちゃった、あんまり人には顔をださないんだけどね。この子たちは『妖精』と言ってね、私の作業を手伝ったり、艦娘の建造をしたりしているわ。普段は武器の開発だったり修理を手伝ってくれたりしてくれるんだけど、何故か建造だけは私にも教えてくれないし、建造の仕方も分からないのよね。資材を渡すだけで艦娘を建造しちゃう不思議な子達よ。」

よく見ると女性の手のひらぐらいのサイズの小さい妖精達が明石の足元に集まってきた。艦娘と似ている制服を着ていて、顔はもちろんのこと、髪型や髪の色も一人一人違っており、個性豊かでとても可愛らしい。

 

吹雪が妖精達に手を差し伸べると、我先にと争うように妖精達が手に乗っかって来た。

「ほへ〜かわいいですね。この子達は喋れるのですか?」

 

「いや、残念ながら喋れないのよね〜表情は豊かだけど。」

明石は妖精に手に置いて頭を撫でていた。

 

 

「ホント不思議だよなこいつら」

 

鈴谷が叫び上がる。

「うギャァァァハゲ頭いつの間に!!!」

 

「誰がハゲ頭だコラァァァァァァ!!お前も苔色頭じゃねーか!!」

 

「お前に決まってんだろクソハゲ!!そんでもって誰が苔色頭じゃァァァァァァァァァァ!!エメラルドグリーンと呼べ!!」

 

「提督、仕事はどうされたのですか…」

 

「おう吹雪、面倒だからサボってきた。」

 

後が怖くないのかこの人は…。

いつから来てたのかサイタマも妖精達と遊んでいた。

 

 

「あ、提督、3DS修理しときましたよ。」

明石がサイタマに3DSを手渡す。

 

「おーサンキュー明石、実はこれキングのなんだよな。」

 

「あーモンハンくっそ強いですよね。キングさん。」

 

「大体俺と鈴谷が3落ちして負けちまうんだけどな」

 

「あんたの方が死んでる回数は多いんだけどね〜下手くそハンマーさん」

 

「はぁ!?いつもクーラードリンクとホットドリンク間違えてんの誰だよ!?この太刀野郎!!」

 

「明石はオールラウンダーですよ〜」

 

「あっしは弓矢ですな。」

 

「何を話をしているのでしょうか?」

聞き慣れない言葉に頭を傾げる吹雪であった。

 

 

その後モンハン談話に花を咲かせ、吹雪に無理矢理モンハンをプレイさせた後、昼飯を食べに行く明石と別れ、サイタマも含む一同はB館2階の入渠にいた。

 

「えーと…『入渠(にゅうきょ)』は艦娘達の怪我や疲労を回復せるための施設であり、人間で言えば風呂みたいなものである。お風呂のお湯は妖精さんにしか分からない成分が含まれており、現時点の科学では皆目見当もつかないお湯である。」

明石に貰った紙を読み上げる鈴谷。

 

入渠と呼ばれる艦娘達の風呂場は大浴場みたいに広く、お湯の色は紫や青色など色とりどりである。ちゃんとシャワーやシャンプーなど必需品は揃っており、幼い駆逐艦のためなのか、子供用シャンプーや水に浮かべて遊ぶアヒルもある。

 

もちろんだが今入渠するわけではないので、皆服を着て裸足で入渠にいる。

サイタマがアヒルを浮かばせて遊んでいる。

「風呂に入ったら怪我治るってスゲーよな」

 

「そーね、例え全身大火傷だろうが骨が折れようが風呂入れば治るものね。化け物と言われてもあながち間違ってないのよね艦娘って。」

風呂場を眺めながら鈴谷が苦笑いして、なんだか悲しげに聞こえるような声で言った。

だがそんな声をサイタマは気にするはずがない。

「いや?風呂で怪我が治るってスゲー羨ましいぜ。化け物なんてお前らを知らない奴が言ってることだろ?気にすんなよ。」

鈴谷も吹雪もこのハゲの言葉を聞いてなんだかホッとした。別に漫画やアニメに出てくようなかっこいい名言ではないが嬉しかった。こんな優しさがあるから笑いあったり、口喧嘩ができるのかもしれない。

 

「まあ怪我の具合や艦娘の種類によっては風呂に浸かっている時間が長くなるんだけどね。」

 

「ふーん。長くても風呂では寝るなよ。」

 

 

 

そして一同は移動してC館の居住エリアに来ていた。

艦娘達が好きな時間に使えるように、卓球台やマッサージ機、自販機はもちろんのこと、畳の休憩所もあり、とても大きいテレビも置いてあった。

艦娘の部屋は1人1部屋個室があたる。何十人ここに住んでも大丈夫だろう。もちろんサイタマの部屋もある。

 

「じゃあ俺の部屋で吹雪のイャンクック装備揃えようぜ。」

 

「オッケー1分で狩ってやるわ」

 

「なんかゲーム機とカセットも頂いちゃいました…頑張ります!!」

 

「なんかあっしの存在が空気だったような気がする…」

 

 

後でサイタマが間宮にボコボコにされたのは語るまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーその夜

 

 

 

「ギャァァァァァァ」

夜の街のとある路地裏で男の悲鳴が響き渡る。

 

「その髪…まさか…!!」

 

「クソ!!化け物め!!銃が効かねえ!!」

 

「ハァ…ハァ…やめてくれ…俺たちが悪かった!!」

 

吹き飛ばされてゴミと共に埋もれている仲間を横目で見ながら3人の男達はそれぞれ苦悶の言葉を吐き出していた。

 

 

 

「はぁ…今更豆鉄砲撃ちながら命乞いですか…」

綺麗な声をした少女がコツコツと音を立てながら男達に近ずいている。少女が歩く度に男達は血の気が消えていく。

 

「ヒグゥ!!」

奇妙な声をあげる一人の男。

男は彼女に胸倉を掴まれて持ち上げられている。普通ドラマや映画なら立場は逆だろう。だが、少女が普通ではないから立場が逆なのだ。

 

少女の背中には2つの巨大な砲塔が装備されており、砲塔の先からは2本ずつ主砲が男を左右から睨みつけていた。肩には背中の装備の一回り小さい砲塔がまるで水筒を肩にかけて持ち運ぶ子供のようにかけられている。

 

「てめぇ…陸じゃ艤装も艦娘の力も使えないはずじゃ…」

胸倉を掴まれながらも声を振り絞る男。

 

「そんなことはどうでもいいのです。鎮守府が崩壊して以来、生き残った艦娘はどこに行ったのですか?早く答えてください。あ、拒否権はありませんよ?」

淡々とした口調で喋る少女。氷のように冷たく冷徹である。

 

「し、知らねーよ!!」

 

「答えてください。」

 

「知らないと言ってるだろ!!」

 

「答えてください。」

顔の表情と口調は全く変わらないが、今度は男の胸倉ではなく首を掴む少女。これで男の命は少女の手の中に移ってしまった。その気になればいつでも殺せる。

 

「答えてください。」

 

男はもがき苦しみながら辛うじて答える。

「カハッ…アァ…その…髪型とその…制服みたいな服…お前が海軍を裏切った艦娘だろ………一部の艦娘…はお前みたいに……逃走しちまったよ…俺たち下っ端が今血なまこ…で探してる…残った奴は…グフ…カハッ…」

 

「残った奴は?」

ここで初めて語気を強める少女。

 

「ハァ…ハァ…全部ヒー…協…って奴ら…引き取っちま…よ…また鎮守……作…ために…ゴフ…」

 

仕方がない…少女は男の首を離した。男の目は充血し、息は絶え絶えで、足は恐怖で固まっていたが、なんとか意識だけは残っていた。

息を整えながら男が喋り出す。

「ハァハァ….ヒーロー協会が残った艦娘を引き取って新たに鎮守府を設立したんだよ!!まだ海軍にも少しいるらしいが…本当だ!!信じてくれ!」

 

 

少女の眉がひそめた。ヒーロー?そんな物があっても私達を救ってくれないではないですか。所詮人間、信じることなどできない。今度こそ私がみんなを救うのだ、そう決めた。

 

 

「場所はどこですか?」

少女の目つきが更に鋭くなる。殺気と怒りに満ち溢れた目で男を睨らみつける。

 

男は腰を抜かしてビクビク震えながら話す。

「ヒィ……場所は教える!!嘘はつかねえ!!たまたま今日の昼にその鎮守府に艦娘を連行した後だったんだ!!特型駆逐の一番艦だよ!!お前も知ってるだろ!?」

 

 

 

吹雪さんのことか…顔はみたことなかったのですが貴方も艦娘に…

 

 

 

「お前は明らかに他の艦娘とは違う。S級ヒーローと互角以上の深海棲艦をも倒せるんだしよぉ!!なんたって1人で鎮守府壊滅させちまった!化け物以上の化け物だ!!だがなぁ…」

 

 

 

全ての艦娘を救うために…そして艦娘を苦しめる『悪』を殺すために。

 

 

 

「あの鎮守府にはお前よりもーーー…」

 

 

鈍い音と共に吹き飛ばされ壁にめり込む男。他の3人も恐怖のあまり失禁して気絶していた。

 

 

少女の脳裏には艦だったころの苦い記憶が焼きついている。

今度こそ絶対に助ける。救う。私は絶対沈まない。死なない。

 

 

 

「まあ海軍の人間ならメモ帳ぐらい持ってますよね。場所は分かりましたのでいきましょうか。鎮守府潰しに。」

 

 

 

 

己の正義のために1人の少女が闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 




誤字、脱字報告はご遠慮なくご報告ください。

後半部分が個人的には納得していないのでもしかしたら改訂版を出すかもしれません。
艦娘やヒーローの登場を予想するような感想はご遠慮ください。
当たってると書きづらいので…


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第7話 出撃

遅くなり申し訳ありません。


「吹雪、準備はいい?」

 

「はい!いつでも大丈夫です!」

 

宝石のような青い海、どこまでもフワフワ飛んでいきそうな白い雲、今日も優しく生命を見守る太陽、この景色の向こうにあの深海棲艦がいるとはとても思えないぐらいだ。

 

この日は吹雪の初めての任務だ。これまでは鈴谷とサイタマの2人で任務をこなしていたのだが、吹雪が配属されたことによって、サイタマは提督の仕事とヒーロー活動に専念するために出撃することはなくなった。

 

「魚雷OK、主砲も異常無し、砲弾も入ってる、艤装も異常無し、あとは手に「人」を書いて飲み込む…」

 

「ホイ」

 

「フニャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

ふらふらよろけてぺたんと地面に座り込む吹雪。

 

「アハハ!吹雪緊張しすぎww装備確認もこれで10回目でしょ?」

 

緊張でガッチガチの吹雪に膝カックンをくらわせた鈴谷。吹雪が予想以上にかわいいリアクションだったたので、鈴谷は心の中でガッツポーズしていた。

 

「鈴谷の言うとおりだぜ、リラックスしろよ吹雪。」

 

「うふふ、帰ってきたらごちそうを用意しますね。」

 

「ワンワン!」

 

(お、パンツ見えた。白か…)

 

「装備はバッチリ整備しておいたから大丈夫よ!」

 

サイタマ、間宮、ポチ、黒い精子、明石が見送りをするために集まっている。

 

「は、はい!昨日は10時間寝たので大丈夫です!頑張ります!」

 

「真面目だねぇ…」

「真面目だなお前」

鈴谷とサイタマが苦笑いする。

 

「まあとりあえず今日は鎮守府近海の警備だな。えっと……」

なんだったっけ?サイタマが頭を掻く。任務内容を綺麗サッパリ忘れたハゲを見て呆れた明石が説明する。

 

「最近深海がよく出現するポイントを端末のマップにマークしてあるからそこを回って帰ってきてね。見つけたら倒すのが望ましいけど深追いは禁物よ。」

 

鈴谷と吹雪が手首につけられた端末を見る。

端末には現在地の座標と目的地の座標とマップが表示されてあり、波の高さや気温や方角、天気や風向きや風速まで表示されていた。

「スマホみたいな腕時計で自分と仲間の位置まで分かるなんてすごいわね〜」

鈴谷が関心する。

 

「私と妖精さんの技術ならこれぐらい余裕よ!!………と言いたいけどね、デザインのセンスは皆無だからそのままiPhone6を参考にさせてもらったわ…いえ、もろ丸パクりね。訴えられたら終わりよ。」

創造力豊かになりたい…とため息をつく明石。ポケットには妖精が顔を出していた。

 

 

 

「よしそれじゃあいきましょーか。」

海に着水する鈴谷。足に装備してある艤装のお陰で沈むことはない。吹雪もあとに続く。

 

「お二人ともお気をつけて!!」

 

「早く帰ってきてゲームしようぜ!!」

 

「がーんばってーー!!!」

 

「ワンワン!ワオーン!!」

大きな声で見送ってくれる3人と一匹。

そして

 

 

 

 

「おい、鈴谷 吹雪」

 

 

「もし自分の命がヤバイと思ったらすぐに逃げて帰って来い。絶対死ぬなよ。」

 

 

「うん!」

「はい!」

 

1人のヒーローの声に元気よく返事をして、2人の艦娘は出撃したのであった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「ここも異常無しと…」

拍子抜けするほど平和な海が続き、端末に表示されているポイントはあと一つだった。

 

「あと一つで任務完了ですね。」

 

「そうね、でも油断はできないわ」

周囲を警戒しながら最後のポイントに向かう吹雪と鈴谷。

15分ほど移動して最後ポイントまで到着した。

 

 

「ここは…」

 

「異常無し………ではないね…」

鈴谷が腕に装備している主砲を構える。

 

「吹雪!!私が囮になるから、コイツの横腹に魚雷をぶち込んでしまいなさい!!」

「はい!了解しました!」

鈴谷の主砲を構える方角から突進してくる黒い物体、まぎれもなく深海棲艦だ。

 

吹雪は深海棲艦と距離が離れているうちに大きく回避行動をとる。

鈴谷はそのまま主砲を構えたままだ。

ツノに松明をつけられた牛のごとく突進してくる深海棲艦。だが敵を闘牛に例えるなら、鈴谷は牛を華麗にかわす美しい女闘牛士である。

 

「よっと」

頭は冷静に。敵をギリギリまで観察し、常に筋肉はリラックスさせる。

黒い牛が巨大な口を開けた瞬間に一瞬で体の重心を移動させ体をひねる。

そして紙一重で黒い牛をヒラリとかわす。

 

「今よ!吹雪!!」

 

「はい!」

 

(日頃の訓練の成果を見せないと…)

吹雪が深海棲艦の側面に回り込み魚雷を発射する。

 

 

てっきり鈴谷を捕らえた気でいる深海棲艦の横腹に魚雷が命中した。

 

そのままあっけなく深海棲艦は黒い煙をあげながら海に沈んでいった。

 

 

 

「鈴谷さんケガはありませんか!?」

沈んでいく深海棲艦の光景を眺めていた鈴谷に吹雪が話しかけた。

 

「うん無傷だよ。それにしてもナイス吹雪、いい偏差射撃だったよ。」

 

「はい!ありがとうございます!」

笑顔で返事をする吹雪。

 

命中率が決して高くない魚雷で敵の動きを先読みしながら見事に命中させられた判断力と集中力。魚雷発射のタイミングもばっちりだった。きっと鎮守府に配属される前から練習していたのだろう。

 

もしかしたら将来旗艦も任せられるんじゃね?と思う鈴谷。

 

「とりあえず任務は完了したし戻ろうか。」

 

「はい!みんなが待っています!」

 

吹雪の初めての任務は無事完了したのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー任務完了1時間前

 

「あー暇だな。」

立派な机に足を置き、いかにも偉い人が座るような椅子にもたれかかるサイタマ。しかし、半分ぐらい食べられたバター醤油味のポテトチップスの横にはまるでエベレストような書類が置いてある。暇ではなくサボりなのだ。

 

「間宮とピクミンとポチは買い物に行ったし、明石も工具買いに出かけちまったな。」

 

ちらっと書類のエベレストを見る。サイタマの背筋がヒヤリと凍る。こんなのを間宮に見られたらひとたまりもない。

 

「しょうがない…やるか…」

 

書類に手を伸ばそうとするサイタマ。すると何気なくつけていたテレビが騒がしいことに気がついた。

 

『えーただいまRJ市では超巨大怪人がーー……』

それはいつもテレビで目にする緊急の怪人災害のニュースであった。いつもサイタマはこのニュースを見て現場に駆けつけているため、いつも怪人退治には遅れてやってくる。

 

「おっ、ちょうどいいや、いくーー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

バゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!

 

 

台風のように暴れる砂埃、何かが爆破するよう轟音が鼓膜をつん刺した。砂埃が止むと、辺りは書類のエベレストではなく瓦礫のエベレストであった。

 

「ん?………………」

突如起こった大爆発によりサイタマは瓦礫の下敷きになり、顔だけ瓦礫の隙間から顔を出した状態になっていた。

 

美しいレンガ作りの鎮守府は跡形もなくなり、青い空が広がっていた。

 

サイタマの状況把握が追いついていない内に、カツン、カツン、と何やら鉄の靴を履いて歩いているような音がして、誰かがサイタマの目の前までやってきた。

 

 

 

 

 

 

そこには主砲をサイタマに突きつける、ピンクの髪をした綺麗な少女が立っていた。

「艦娘達の仇…………死ね」

 

 

いきなり周りの瓦礫が粉々になり何十発も轟音が響き渡る。

少女は主砲を突きつけ何十発も0距離射撃でサイタマの顔面に撃ち続けていた。

 

 

少女は顔を色一つ変えない。

 

コイツの顔をグチャグチャに

 

絶対殺す

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

ひたすら砲撃を受け続けるサイタマ。

「お……い………お…前……………やべ…………………マ…………ジで…………や……………べぇ…………………」

 

 

殺意と復讐心に満ちた少女に、サイタマの声など聞こえるはずがなかった。

 




誤字、脱字はご遠慮なくご報告ください。


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第8話 ヒーロー

遅れて本当に申し訳ありません。グダクダですがどうぞ。


計40発…跡形も残らないだろう…

人間が瓦礫の中で生きていたことには驚いたが、艦娘と人間では身体能力に天と地ほど差がある。

なにはともあれここの提督は死んだ。貴様らのような無能な人間のおかげでたくさんの艦娘が死んだんだ。道具のように扱われたり、虐待を受けた。戦場で犬死していった艦娘達も死ぬほど見てきた。

許さない。今度は私達が人間をころー……

 

「うァァァァァァァァァァマジでやべえぇぇぇぇ!!!!お、おれんちと俺の服が!!!!!!」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイタマは裸になっていた。隠す物などなにもない。全てをさらけだしていた。スッポンポン

「お前…鎮守府を直接壊しにきたってことはキンタマ棲艦の仲間かと思ったぞ………」

 

「何を言っているんだこのハゲ」

 

「まだ建って3週間の俺のマイホームと在庫処分セールで買ったTシャツが…おいテメェ!!……許す!!」

 

「許す?この状況が分かっていないのかこのハゲは…」

 

「それに今怪人退治に行く途中なんだよ!!邪魔すんな!!」

 

「怪人はお前だろハゲ。うまく人間に擬装しているのか?そのハゲ頭でバレバレだぞ?」

 

「誰が怪人ハゲだコラァァァァァ!!好きでハゲてるわけじゃねーんだよ!!」

 

「その歳でハゲてる人間なんているわけないだろ」

 

「あ………そうすか………」

 

落胆するサイタマ。いつかこの砂漠地帯にオアシスができることはあるのか。

 

「そんなことより…お前が生きていることが問題だ。」

少女がサイタマに主砲を向ける

 

「あ、ちょっと待ってくれ」

サイタマはそう言うと右手に持っていたお気に入りのスーツに着替えようとする。ちなみにスーツは司令室の机にいつも畳んであり、砲撃された瞬間に手に持っておいたのである。相変わらず人気はでないがサイタマの商売道具、ヒーロースーツがないとやっていけないのだ。

 

「あ、やべ、ノーパンだしベルトもない、おまけに靴下も片っぽないぞ…」

そそくさとヒーロースーツに着替えるサイタマ。黄色のスーツ、白いマント、赤い手袋、ヒーローハゲマントの登場である。

「ところで誰だお前?例の鎮守府狩りってやつか?」

 

少女はまゆをひそめる。

「………鎮守府狩り……そうだ!!!!!」

 

いきなり少女はサイタマとの距離を肉薄し、ハゲ頭を鷲掴みして海に投げ飛ばす。

 

「うお、まるでソフトボールみたいだな」

 

サイタマは海に投げ飛ばされ着地(着水?)した。瓦礫と化した鎮守府から海まで50mはある。

 

少女はどこから取り出したのか刀を抜きだし、サイタマが投げ飛ばされた方向に突進する。

「死ね!!!!」

人間の動体視力では追いつけないぐらいのスピードだ。まるでミサイルのようなスピードで海に突っ立っているサイタマの心臓を躊躇なく狙いにいく。

 

ズゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

巨大な水しぶきがおこり、サイタマの心臓に少女の刀が突き刺さる。

「手応えあり、死んだか。」

少女は顔色一つ変えない。

(確実に心臓を刺した)

 

 

(おお、折れてねーぞ)

 

「な!?」

 

サイタマは少女の渾身の突きをまともに受けて平然としていた。

「いやーお前、ちょっと刀みせてくれるか?」

(マジで折れてねえ!!)

投げ飛ばされて海に着水した瞬間、サイタマは少女が刀を持っていることに気がついた。それからが大変だ。サイタマはどうやって刀を折らずに少女の渾身の突きを受けるか考えていた。

 

頭突き?パンチ?キック?つまむ?もぐらたたき?ぐるぐるアッタク?

 

結局鼻をほじっていた瞬間に思ったより速かった少女の突きが胸に当たってしまった。

 

要するに、たまたままともに突きが当たったことが功を奏して折れなかったのである。

 

 

 

 

 

サイタマが刀に顔を近づけた瞬間、少女は無数の斬撃をサイタマの急所に浴びせる。鋼鉄の塊だろうがバラバラに切り刻む斬撃がサイタマを襲う。

 

そして悲劇は起きる。

 

カツンッ!!!!!!

 

「ああ!!」

驚きと落胆の声を上げるサイタマ。

斬撃がサイタマのおでこに当たった瞬間、刀が真っ二つに折れてしまったのだ。

 

サイタマは申し訳なさそうに声をかける。

「す、すまん…折れたトコは綺麗だから多分接着剤か何かで…」

 

すると少女は折れた刀を捨てて一旦距離を取り、サイタマに突撃して突撃してする。

 

「お」

サイタマが少女に向かって腕を伸ばした瞬間、少女はサイタマの頭スレスレをジャンプして背後を取った。

そして少女の太ももに取り付けてある魚雷を全弾放つ。

至近距離の魚雷は自分自身も巻き込みかねない危険な攻撃だ。

 

少女が戦っていた所には凄まじい轟音と巨大な水柱が立ちこめる……はずだったが………

 

「おお、そういや吹雪もそんなやつ持ってたな。けど近くで撃ったら危なくね?」

両手一杯に魚雷を持つサイタマ。数えてみると6本持っている。

 

「な…………」

少女は本日2度目の顔をしかめる。

 

「なあ、これって捨てたら環境問題になるじゃねーの?」

捨てるか捨てないか迷うサイタマ。

 

 

 

少女は頭をフル回転して考える。

 

もっとスピードを上げて敵を翻弄させるか?

ダメだ、スピード技は通用しない。

 

もっと砲撃の火力を上げるか?

ダメだ、さっき何十発も撃っただろ。

 

敵を油断させて死角から攻撃するか?

ダメだ、魚雷を全弾キャッチする人間だぞ。

 

どうすればあの人間を殺せるのか?

スピード?パワー?技?策?

 

ん?人間??????????????????????

 

 

この時、少女は気がついた。

 

 

 

 

 

待てこの人間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも何故艤装も装備せずに水に浮いている?

 

 

これまで冷静だった少女から脂汗がしたたり落ちる。

敵のペースにのみ込まれ気がつかなかった。

 

自分の攻撃が全く効いていないこと

 

敵はかわすどころかまともに攻撃を受けていたこと

 

 

 

そもそも戦いにすらなっていなかったこと

 

 

まるで玩具みたいに遊ばれていたこと

 

 

自分の体のなかで雷が走るような感じがし、同時に凍えるような極寒の寒さも感じた。足が震えていた。

 

 

 

 

いまやっと分かった。目の前にいる敵は、艦娘や深海棲艦、怪人、武術、科学、超能力、そんな物が小さく小さく小さく見えるような存在。

 

 

 

 

最強の生物。

 

 

 

 

 

勝てるわけがない。無理だ。強すぎる。

少女の頭の中はそれだけが流れていた。

 

 

 

 

 

だが何故だろう、「強さ」という恐怖と同時になぜか心が少し軽くなったような気がする。

 

-------------

 

 

こちらに気づいているか確認するかのように手を振りながら歩いてくるサイタマ

「おーい、腹痛いのか?刀は後で弁償するから……」

少女はそのばにすわりこんでぐったりしていた。

「……殺すのなら殺してください………」

 

「いや殺すって……お前悪いことでもしたのか?」

 

「貴方を殺そうとしたでしょう?挙げ句の果てに鎮守府まで壊したのですよ?」

 

「あ、いや、さっき言ったけど許すわ。」

(書類の山が全部消し飛んでくれたし、みんなのプリン食べちまったしな…)

 

「は?」

少女が顔を見上げる

 

「まあ…色々あるんだ。」

(男湯のお湯でなかったんですけど…)

 

「殺してください…」

 

「いや…だから…」

(二階の男子トイレ使えないし…)

 

突然少女はサイタマの胸ぐらをつかみ声を荒らげる。

「殺せ!!いつもいつもいつもゴミみたいに扱われ、昔みたいに仲間はみんな沈んでいき、残された私は毎日毎日沈んでいった仲間の声が頭から離れはしない!!お前達には分からないだろう?戦場で痛い痛いと泣き叫びながら死んでいく仲間のことを…………」

ぐわんぐわんサイタマを揺らし、握りしめた両手がサイタマのスーツをくちゃくちゃにして、顔からは滝のような涙が流れていた。

 

「理不尽だ!理不尽だ!人間は都合のいいように私達を使い、都合のいいように捨てる!!誰も助けてくれない!!仲間は死んでいく!!意思を持つ鉄の塊には英雄(ヒーロー)なんていない!それなら私が人間を殺してして……仲間の仇をとろうと……死んでいく私達を嘲笑う人間どもに復讐しようと……」

 

 

「お前のその薄汚れたマントと古臭い手袋はヒーロー気取りか!?ヒーローなんていない……いないんだ………」

がくりと膝をつく少女。それを見たサイタマが足をかきながら口を開ける。

「でもお前さっきまで死ね死ね殺す殺す言ってたけど人1人も殺してねーだろ。」

「!!!」

少女が目を見開く。

 

「潰された鎮守府でも怪我したのは提督だけであとは全員無事だって聞いたぞ。復讐なら殺しててもおかしくねーだろ。」

サイタマは手に顎を乗せたあとこう言った。

 

「お前は復讐したいんじゃなくて、独りが寂しくて仲間が欲しかったんだな。仇とか復讐とかなんだの、本当は仲間が欲しかっだけなんだろ。だから鎮守府狩りをしてたんじゃねーのか。」

 

矢で的を射抜かれたような気持ちなる少女。

 

「まぁ艦娘を逃したのはお前だったんだな?」

最近水虫になってしまった足の裏をかきながら話すサイタマ。

 

「結局艦娘は1人も救えませんでした……まぁ私が誘拐していない証拠なんてどこにもありませんが………」

 

「ふーん、まあもう馬鹿なことはすんなよ。」

 

「あなたのせいでその気も失せました……貴方は強すぎる…」

 

「いやいや…俺のせいにすんなよ。クソッ!!足かっゆ!!」

 

少女は海面に手をつきヒクヒクと涙をながしながらうなだれていた。

 

自分がどれだけ無力で、弱い存在だったのかを思い知らされた。

 

独りは怖い、嫌だ、一番助けが欲しかったのは自分だったのかもしれない。

 

 

 

「おーいサイタマー!!!!」

瓦礫の山の方から声が聞こえた。ちょうど買い物を終えて帰ってきた明石達だった。

 

「おー明石」

なんかほっといた方がいいだろうと思い、少女はそのまま置いてきた。サイタマはジャンプして明石達の目の前に着地する。

 

「ちょっとサイタマ!!!!!どうなってるのこれ!!!深海棲艦にやられたの!?」

青ざめになった明石が話しかける。

 

「なんか壊れた」

目を逸らすサイタマ。

 

「これじゃあ今夜はすき焼きができませんね〜」

鎮守府がぶっ壊れたにもかかわらずマイペースな間宮さん。

 

 

「いやいや!?鎮守府はどうするんですか!? 新築ですしまだローンが残っているんですよ!?どうするんですか間宮さん!」

 

「はい?今夜の夕食は雑炊にすることにしましたよ〜」

パァァァと光が差しこみそうな天使の笑顔。どこにいようが何が起ころうが幸せそうな間宮さんであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

どんな話をしているかは分からない。

だがとても楽しそうだ。あの男の横にいるのは明石さんと間宮さんだろうか………鎮守府が壊れたのに、あんなに笑って…幸せそうに…

 

いいな……私も…あの中に入りたい。私もあの人達と一緒に…笑いたい。

 

あの男は強さだけでなく人を惹きつけるなにかを持っているのだろうか。

 

いや、あの男がヒーローだからなのか?

 

まるで正義の化身みたいな強さはなんなのだろうか?

 

私もあれくらい強ければ仲間を救えていたかもしれない

 

 

私には分からなかった

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「雑炊か…まあ仕方がねーか。間宮の作る料理は全部うまいもんな」

瓦礫の山を見て腕を組むサイタマ。米を炊く雑炊よりすき焼きの方が手間はかからずに済むのだが……バカと天然しかいないメンバーでは気がつかない。

 

「あらサイタマさん。嬉しいですね〜。」

微笑む天使。とても嬉しそうだ。

 

「とりあえずここから皿でも探すか……」

 

 

 

 

 

瓦礫に手を伸ばそうとした瞬間、耳を破壊するような轟音と共に500m離れた住宅街の方から何がが突き出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

巨大な真っ黒い壁が。

 

 

否、巨大な蜈蚣が

 

 

 

 

 

どす黒く末端の見えない胴部が快晴な空を覆い尽くし、街を曇らせる。

 

 

 

 

 

「人間め!後輩達の仇は必ず取る!!!!!!」

ムカデ仙人(災害レベル龍)

 

 

 

 

 

何百本の蠢く脚。

 

全てを噛みちぎる毒の牙。

 

金剛石を遥かに超える無敵の甲皮。

 

建物やビルが蟻に見えるような巨体。

 

戦国時代では甲冑や武具などに蜈蚣のデザインを取り入れる武将もいたという。

かの有名な戦国武将上杉謙信が信仰していた「毘沙門天」では虎と蜈蚣が神の使いとされている。

 

 

通るだけで街は破壊され、嵐が起こり、地面が抉れる。

その巨大さ硬さゆえ、人間の力では無力。

 

 

 

害虫でも神の使いでも無く『神』そのもの。

 

 

 

 

神が少女を見つけ、住宅地を瓦礫に変えながら突進してくる。

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あぁ………」

少女は震える。恐怖する。恐れる。

脚が震える。鳥肌が立つ。汗が出る。頭を抱える。

恐怖と絶望の襲来による人間の本能。

 

迫る死。死へのカウントダウン。

 

孤独

 

 

死だけではない。独りで死ぬという、『孤独の恐怖』

「誰もいない」「一人ぼっち」「気づかれない」「仲間が欲しい」「寂しい」それが孤独。

 

結局自分は独りぼっちが嫌だったのだ

 

「tg839tpadwjptmdxqjmw」

叫ぶ。泣き叫ぶ。こんな時に言葉なんて出てこない。

 

孤独という「沼」に身体がハマる。

 

死という「鎌」に首がかけられる。

 

 

 

 

 

 

 

「おお、じゅーぶん伝わった。逃げるぞ。」

右腕で少女を抱き、害虫の突進を大ジャンプで避けるサイタマ。

 

「のわぁぁぁぁぁぁ化け物ぉぉぉぉぉ!!!」

涙と鼻水で顔がくちゃくちゃになる明石。

サイタマは左手で明石の服を掴んで、左腕で間宮を抱きかかえている。

黒い精子はサイタマの右脚にしがみついており、ポチは明石が懸命に抱きかかえていた。

 

「ちょぉぉ……手がぁぁ…旦那…早くしてくだせぇ…」

限界に近いのか体がピクピクしている黒い精子。

 

害虫が身体を捻りサイタマを追尾してくる。とてつもなく巨大な牙で食いちぎろうとする害虫に対しサイタマはバックステップで避け続ける。

 

瓦礫や石に当たらないようして、激しいステップで明石達に衝撃がいかないように避け続けるサイタマ。

頭突きや左足で攻撃はできるのだが明石達への負担は測りしれない。今は避けるのみである。

「うわすごい、ジェットコースターより乗り心地もスリルもサイコーですね。」

のほほんと驚く間宮。

「おお、一発でも貰ったらお前らが危ないからな。かといって避け続けたら殴れないからそろそろ下ろすぞ。」

「えええ!?変なところに降ろさないでくださいよ!?」

真っ青になる明石。

4人と1匹を1人で抱えながらもサイタマは巨大な害虫相手にスピードで圧倒的に凌駕する。

 

 

「くそォォォ人間ごときがちょこまかとぉぉぉぉぉ!!!」

ついにイラついた害虫が牙を大きく振り被った瞬間、サイタマは後ろにステップし大きく距離をとった。そして比較的安全な場所に4人と1匹を下ろす。

 

「あら楽しかったです〜」

 

「お、おぉぉぉぉ…おうふぅ…」

 

「あっし、いきてるぅぅぅぅ………」

 

ぺたんと地面に座り込み放心状態の明石と黒い精子、二人とも生きていることの幸せを精一杯噛み締めている最中である。

 

 

 

「よし、ちょっとアイツをぶっ飛ばしてくるわ」

(今回はちょっと期待できそーだな)

巨大な害虫のおかげで夜みたいに暗くなった街。サイタマは怪人を倒すため飛び立とうとした。

その時、よろりと少女が起き上がった。

「な、なぜ……」

 

「ん?あ、お前起きてたのか」

振り向くサイタマ。震えながら絞り出すように少女はこう言った。

 

「なぜ…なんのために、あなたは戦うのですか?」

 

その質問にサイタマは頬を搔きながら素っ気なく答える。

「なにって?趣味。」

 

「趣味…!?い、いやもっとこう……仲間や家族のため、とか正義のため、とか……」

予想だにしなかった返答に少女は焦り狼狽えたる。今、目の前にいるヒーローの、ヒーローらしからぬ言葉に、少女の価値観は崩されていく。サイタマは続けて少女の言葉にこう返す。

 

「いやこれやりたくてやってるだけだから。趣味だ趣味」

素っ気ない表情を変えずにサイタマは少女を見つめる。

 

「ならば……仲間のために戦うことはダメなのでしょうか…」

 

「ん?好きにやればいいじゃねーか。自由にやるのがヒーローだ。まあ…艦娘ならたくさんここにいるし…仲間が欲しいならここにいてもいいんじゃねーの。じゃあな」

 

「あ、あの!!!」

 

「あ?まだあんのか。」

 

「先程は……助けてくれて…ありがとうございます…お名前は…?」

 

 

 

「サイタマ。趣味でヒーローと提督をやっている者だ。」

 

 

そう言うとぼろっちい手袋をはめ直し、ヒーローは薄汚いマントを翻す。そして明石達に背を向け飛び立った。

 

それを黙って見守る少女。さっきの恐怖はどこかにいってしまった。趣味という理由でヒーローと提督をやっている人間がいるのだ。なんとも馬鹿馬鹿しい。

 

「あの人は最強のヒーローだから絶対負けないわ。それよりも雑炊作らなくちゃね!7人と1匹前かしら」

間宮が空を見上げながら話しかけてきた。

 

「最強の……ヒーロー…」

少女も空をを見つめていた。

 

 

 

「ふはははははは!!ハゲ人間ごときがこのムカデ仙人に勝てるとでも思ったか!!所詮n『あーごちゃごちゃうるせぇ。連続普通のパンチ』」

 

巨大な身体をうねらせながら突進する害虫。サイタマが豆に見えるぐらいであった。

サイタマの右手から放たれる最強の鉄拳。手が何百本に見えるぐらいのスピード。害虫の甲皮をまるで泥だんごを潰すかのように破壊していく。

 

断末魔すら発することを許されない衝撃とスピードで害虫は一瞬で粉砕されていく。分厚い甲皮に覆れていた街は瞬く間に太陽の光が差し込めていった。

 

 

「な……あぁぁ………」

その光景に少女は絶句する。みかんが入るぐらい口が開き、固まっていた。

 

あれがヒーロー……

 

 

 

 

地上最強の男。

 

 

 

 

 

「あー期待したんだけどな。とりあえず街が無くならなくて良かった。」

甲皮や体液の雨の中地上に降り立つサイタマ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!!!」

 

「お、無事だったか」

少女が駆け寄ってきた。

 

「まさか弟ry「私、陽炎型2番艦不知火と申します!!!!」」

 

「サイタマさん……いや、サイタマ先生!!

 

私を……弟子にして鎮守府に入れてください!!」

 

「いや鎮守府はいいけど弟子は無理。」

 

 

「書類処理や業務、なんでもやります!!!なんなりとお任せください!!!」

 

 

 

 

 

「………………………」

(書類のエベレスト、その他糞めんどくさい業務)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パンツと皿買いに行くか」

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

続く

 




誤字脱字はご遠慮なくご報告ください。
1〜7話までの誤字脱字は少しずつ修正していきます。


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第9話 サイボーグ

8話に続き連続投稿。


「先生!!書類が終わりました」

 

「おうサンキュー、そこ置いといて」

 

「先生!!コーラをお持ちしました。」

 

「おー仕事疲れに冷たく甘いコーラはしみるな……」

 

「先生、午後からの予定はありますか?」

 

「午後は暇だからツタヤに寄ってパトロールでもやるか」

 

「先生!それならお供させてください!」

 

 

ーーRJ市、とある街ーー

 

鎮守府はRJ市に移転した。

世間では「鎮守府は災害レベル龍の襲撃を受けて崩壊した」とマスコミに取り上げられている。

災害レベル龍の事件から丸1週間経つが、もう朝のニュース番組や新聞では取り上げられなくなってきている。それだけ怪人による被害が日常的なものになってきており、市民達の感覚がマヒしているからである。

あの宇宙海賊によるA市の被害ですら今じゃ全く話題にされない。

 

ーーーーーー

 

平和な街、美しい太陽、せっせと仕事に励む人々、そして平和を守るハゲ。

 

いつもならその横に金髪の美少年がいるのだが、今日は鮮やかなピンク色の髪と透き通った蒼色の目を持つ可憐な少女がハゲの隣を歩いていた。

 

 

「不知火、ちょっとコンビニでも寄ろうぜ。」

コンビニを見つけたサイタマが不知火に話しかける。

 

「はい!行きましょう。」

 

「今日は俺がおごt……」

 

所持金78円

 

一瞬サイタマの身体が凍る。

「…………」

「ポンタカードは貸してやるよ。ポイントは好きに使っていいぞ」

 

「はい!ありがとうございます。」

 

 

 

「ありがとうございました!!またお越しくださいませ!!」

とても美人な銀髪の女性店員に挨拶されて店を後にする二人。

 

「はぁー……それにしても平和なだな」

ガムを噛みながら背伸びしてあくびをするサイタマ。

 

「そうですね。」

歩幅を乱さず歩く不知火。

 

パトロールというよりも街をぶらつき歩いているだけである。

 

すると不知火が口を開いた。

「あの……先生が前仰られていた強くなる方法とは…本当に筋トレなのですか?」

 

サイタマがまたかと言わんばかりの顔をする。

「だから俺は筋トレしかしてねーっつーの!!」

 

「ですが、筋トレだけであの力が手に入るとは思えません。サイタマ先生以上にトレーニングを重ねる人間はたくさんいますよ。」

 

純粋な蒼色の瞳で言い返されと流石のサイタマもたじろいでしまう。

「そんなこと言われても特になんもしてねーぞ。」

幾ら不知火が真面目に質問してもこれしか言えないのである。本当に筋トレしかしていないのだから。

 

ハッ!!突如不知火の頭の中に電撃が走る。そしてすぐさまノートとシャーペンを取りだした。

「それは、『強くなる方法は先生からではなく己が探し求める物だ』と仰っているのですね!!勉強になります!!」

 

「いや何してんだお前……」

 

目の前で自称弟子が高速でノートに何かを書いている…

もう一人の自称弟子もこんなことしてた気がする…

 

不知火を見ながらサイタマは頭を掻く

そういえば不知火と街を歩いていて全く違和感を感じない。なんというか、いつも一緒にいたみたいな……そんな感じがした。まだ不知火と出会って1週間である。何故だろうか。

 

 

「まあいいや。いくぞ不知火。」

 

 

「…?はい!後はツタヤですね。」

その後はツタヤに寄り、何事もなく鎮守府に戻ってきた。

 

新たに新築された鎮守府は庭に噴水が無くなっただけで特に外観や内装は変わっていない。

 

「あー腹減った。ただいまー」

玄関のドアを開くサイタマ、その後ろに不知火が続く。

 

シーン

 

玄関が静かだ。いつもみたいに階段をドタドタ駆け下り、土産はないかとねだってくる鈴谷とピクミンの姿を見かけない。

それどころかいつも笑顔で迎えてくれる吹雪の姿もいないのである。

 

「ん?出かけてんのかアイツら」

 

「今日は出撃や演習の予定はありませんね。」

 

まあいいやと階段を登り司令室に向かう二人。

司令室に近ずくにつれ鈴谷と明石の声が聞こえてきた。二人ともやけにハイテンションで喋っているようである。

 

「お前ら、帰ったぞ」

サイタマがドアを開ける

 

司令室の中には鈴谷や明石、ピクミンだけでなく吹雪や間宮まで顔を揃えていた。ポチは吹雪にだっこされている。

そして男子が羨ましがるような人だかりの中心に誰かが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

サイタマに気が付いた鈴谷が話しかけようとする。

「チィース!!!s…『先生!!!!!!!』」

 

 

 

 

 

 

「鎮守府着任早々戦線から離脱してしまい申し訳ありません!!!」

 

 

 

「深海棲艦は俺が全て排除します!!!任せてください!!!」

 

 

 

 

 

 

青年の声だった。

綺麗な金髪に白目の部分が黒になった目、勇ましい鋼のボディ、少年達が憧れるような焼却砲を持ち、女子のハートを一瞬で燃やすような美少年。

 

 

 

「あ、ジェノス、帰ってたの」

 

「はい!遅くなってすいません!!!おい鈴谷!!腕から離れろ!明石!俺の胸に触るな!!吹雪、間宮!突っ立ってないでコイツらを離してくれ!!」

 

するとそれに反応して叫び声が返ってくる。

「キャァァァァァァ!!ジェノスが私の名前呼んでくれたぁ〜」

ジェノスの腕にぶら下がりながら鈴谷が顔を真っ赤にしている。

 

「ねぇねぇこの胸の中には何が入っているの?ほんのり暖かいし顔もちょーイケメンだし最高ね〜」

ジェノスの胸に頬ずりしながら顔を真っ赤ににする明石。

 

「うわぁぁ…すごくかっこいい…」

顔を真っ赤にしてジェノスに見惚れている吹雪。純粋な乙女そのものである。

 

間宮は困惑するジェノスを見てクスクス笑っている。

 

 

「お前…こいつら見てなんも思わないの?」

 

「?ただ鬱陶しいだけですが?」

サイタマの質問に即答するジェノス。

 

「あぁ…そう」

サイタマはげんなりして答える。

これだけ艦娘達に人気なのだからファンクラブもできるわけだ。

ヒーローを趣味でやってるとはいえ、サイタマは自分の人気の無さを少し気にしていた。

 

 

ジェノスは若干強引に鈴谷と明石を引き離した後、サイタマに近づいた。後ろでは二人がキャーキャー騒いでいる。

 

「先生そいつは誰ですか?」

 

「ああコイツ、不知火」

 

「陽炎型2番艦不知火です。先生の弟子でもあります。」

不知火はサイタマの一歩前へ出て挨拶する。

 

 

「弟子?」

ジェノスが眉をひそめ、不愉快そうに答える。

 

「なぜ貴様が弟子と名乗っている?貴様がサイタマ先生の弟子などおこがましい…さっさっと失せろ糞ガキ。」

 

 

その発言で場の雰囲気が一気に変わる。

不知火は目を細めてジェノスを煽るように言い放つ。

「はあ?あなたからは『腐』の匂いがプンプンしますね。先生に近寄るなポンコツパツ金」

 

すると今度はジェノスが不知火に詰め寄りドスを聞かせるように言い放つ。」

「なんだと…!?淫乱ピンクが…ぶちのめすぞ」

 

「やってみろ、ただのお茶汲みロボットが艦娘に勝てると思うなよ」

 

「おいおい、やめろよ」

殺気を滲み出し睨み合う2人を横目にツタヤで借りたDVDを棚に仕舞うサイタマ。先程までキャーキャー騒いでいた2人もピタリと静かになっていた。

 

「先生!!いつからこいつを弟子にしたのですか!?」

ジェノスが納得いかないような顔で質問してきた。

 

「え?1週間前ぐらいだっけ?」

頭を掻きながら答えるサイタマ。

 

「そうです。私は正式に先生の弟子になったのですよ。」

不知火が勝ち誇った顔でジェノスを見下す。当然身長はジェノスの方が高いので見下せてないのだが。

 

「ならば、いいだろう…俺とお前、どちらが先生の弟子に相応しいか決めようじゃないか」

シューーー… そう言うと、強化された自分の肉体を確かめるように手を握り締めるジェノス。手には灼熱の炎が滾っていた。

 

「望むところです、先生の弟子は私だけで十分です。」

不知火は白の手袋をはめ込み、目が獲物を狙う猛禽な鷹のようになった。昼間の可愛らしい駆逐艦の面影はもうない。

 

 

殺気と狂気が漂う2人を露知らず、サイタマが輪の空にこう言った。

「しっかし、外に出てたから喉乾いたな。下にお茶でも取ってくるか…」

 

「あ!!、そ、それなら私が取ってきます!!」

場の状況をサイタマ以上に察している吹雪が取りに行こうとした。

 

「おお、それなr…」

 

吹雪のスカートが捲れるぐらいの風が起こり、二人の弟子は争うように下へ降りていった。

 

 

続く




誤字、脱字はご遠慮なくご報告ください。

お気に入り854件…まさかここまで伸びるとは思いませんでした。この小説を読んでくれている方々、本当にありがとうございます。


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第10話 戦闘

遅くなりすいません…


「「先生!!」」

「麦茶です!」「緑茶です!」

僅か20秒で司令室へと戻ってきた不知火とジェノス。それも2人同時に戻ってきた。

 

「貴様…先生はいつも緑茶を飲んでおられる…さっさとコップをどけろ。」

まるで死ねと言わんばかりの殺気を放ち不知火を睨むジェノス。

 

「残念ながら朝は麦茶をお飲みになられてたのですよねぇ…あぁ朝はいませんでしたか」

ゴミを見るような目で皮肉たっぷりに言い返す不知火。

 

「うん、どっちも飲むから壊れたドア直しとけよ」

 

「「はい!!!!」」

次の日司令室のドアはまるで職人が作ったかのような素晴らしい物になっていたという。

 

ーーーーーーー

 

次の日

 

「うぉすっご!これジェノスと不知火が作ったの!?」

司令室に遊びにきた鈴谷が驚きの声を上げる。

 

「あぁ、左側が不知火が作って、右がジェノスだってよ」

サイタマがソファに寝転がりながらそう答える。

 

ドアは片開きから両開きドアになり、ピカディリ色のシンプルで尚且つクラシックな出来になっていた。派手な物を好まないサイタマにはぴったりなチョイスであろう。

 

「しっかし、右と左で違う人が作ったとは思えないわね…

ズレやキズは一つもないし色は全く同じだし…本当に仲悪いのか疑っちゃうぐらいだね。」

ドアをペタペタ触りながら話す鈴谷。家具に特別興味もない鈴谷ですら魅入ってしまうほど完璧なドアだった。

 

「だよなぁ…類は友を呼ぶってやつか」

 

「え?」

鈴谷はキョトンとした顔になる。

 

「ん?」

 

鈴谷はサイタマの隣にあるリクライニングソファに座る。

「いや…サイタマでもことわざとか知ってるんだなぁと思って」

 

「いや、一応中学高校は真面目に通ってたからな?」

 

「でも筆記試験とか絶対赤点でしょ?」

 

「バカで悪かったなバカで」

学生時代どころか最近行われた筆記試験にまで落第点を取っていたので否定できない。

 

「まーまーそう怒らないでよ。話し戻すけど、『類は友を呼ぶ』の類語で『牛は牛連れ、馬は馬連れ」っていう言葉があるんだよ」

 

鈴谷の話に、ポテトチップスを開けながら気だるそうに聞き返す。

「牛連れ馬連れ?なんだそれ」

 

「お、いっこもらい。まぁ意味は二つともほとんど同じよ。牛と馬は歩調が合わないけど牛同士、馬同士だったら歩調が会うでしょ?」

鈴谷は話そう言いながらサイタマの横から手が伸ばしポテチを3枚かっさらっていく。

 

「コンソメいっぱい付いてるやつ取りやがって…まぁ同じ者同士ならうまくいくってことだよな」

 

「そうそう、でも不知火とジェノスって馬でも牛でもないと思うんだよね」

パリッと良い音を立てながら鈴谷はポテチを口の中に運んでいく。鈴谷の言いたいことが分からずサイタマは聞き返した。

 

「はぁ?言ってる意味がわかんねーよ」

 

「いつもジェノスと不知火は何してる?」

 

「なにしてるって…家事とか出撃とか?マジでお前のいってる意味がわからねーぞ…」

ポリポリポテチを食いながらサイタマは訝しめる。すると鈴谷は笑いながらピンポーンと指でジェスチャーし、こう言った

 

「そそ、まさにサイタマの為に仕事も戦闘もこなす忠誠を誓う忠犬!!2人とも可憐さと冷徹さを兼ね備えた完璧な弟子ってことね!」

 

「いやあいつらに犬耳なんてついてねーぞ。ジェノスは目的があって強くなりてーみたいだし。」

 

「そういう意味じゃないんですけどね〜いいお弟子さんをお持ちってことよ」

 

「たまにめんどくさいけどな。特にノートになんか書いてる時。」

 

その時、ドアが慌ただしく開いて吹雪が入ってきた。

「サ、サイタマさんと鈴谷さん!!」

 

「おお、どうした吹雪」

 

「あ、あの!!不知火さんとジェノスさんが!!」

 

 

 

ーーーーーーーー

鎮守府周辺の海

 

「驚きました。先生以外に海面に立っていることができる人間がいるとは…」

 

「お前…どういうつもりだ……」

 

「どういうつもりとは…?私は先生の『1番』弟子だからですが」

 

「…サイタマ先生はお前を弟子だと認めても俺は認めない。サイタマ先生の弟子は俺だけで充分だ。」

 

「はぁ…こんなキンカン頭の弟子抱えるなんて、サイタマ先生もさぞ大変でしょう…」

 

「黙れ淫乱ピンク」

 

「殺す」

 

不知火が刀を抜き、ジェノスへ詰め寄ろうとした瞬間、ジェノスの右の掌が真っ白にに光り、灼熱の火炎が放射され辺り一面が火の海になった。

 

「新しいパーツのテストにもならなかったか…」

その時、ジェノスの背筋が凍った。サイボーグの背筋が凍るなんて馬鹿馬鹿しいかもしれないが、この感覚は先日戦った龍クラスの化け物にも匹敵するほどだった。

 

ガチィィィィン!!

 

金属金属がぶつかり合う音が響く。

不知火が背後に回り込み斬りかかった所をジェノスが左の手の裏でガードした。

(本人は慢心しなどていないとでも思っているのでしょうね)

 

(慢心など絶対にしない…先の戦いで学習済みだ…)

そしてジェノスの蹴り上げを不知火が躱す。2人は距離を置き、ジェノスが火球を繰り出しながら不知火を追尾する形になる。

 

「おびき寄せる気か?ならば…」

ジェノスは止まり両腕を前に突き出し両手首を合わせる。その瞬間、両腕から大量のパーツが出てきて組み立てられ瞬く間に腕のフォルムがチェンジした。そして、周りの海水が熱により蒸発し、水蒸気を放つ。

「フルパワーまで1.5秒!!最大火力焼却!!」

 

轟音ととてつもない光と共に破壊熱線が放たれる。

 

 

(きたな…予想通り最大火力で撃ってきた)

 

 

(長軸半径25m短軸半径40mの楕円型…水深約15mぐらいは間違いなく()()()()())

 

(だが()()()は水深25m!敵は熱線の死角…『熱線の真下』は死角のはず!あとは…全力で避ける!!!!!)

 

海面抉りながら突き進んでくる光線に対し、不知火は一気に全身の機関部をフル稼働させる。凄まじい熱風により吹き飛ばされはしたものの、間一髪避けることができた。

 

(チィ…流石に無理をしすぎました…中破といったところでしょうか…)

 

服は破け、両腕からは目を覆いたくなるほど血が流れており、主砲も動かなくなっていた。陸上ではs級ヒーローと言われ、軍隊一つ分の力を持つと言われる最強の戦士。以前捻り潰したA級ヒーローとは格が違う。陸上で戦っていたならどうなっていたことか…

 

「ですが…あちらも無事ではすまないでしょう…」

 

不知火が目線を移した先には巨大な水柱が立ち込めていた。

 

 

 

 

「魚雷か!?……」

ジェノスはフルパワーの焼却を撃ち、敵を完全に捉えたかと思った。しかし、敵の魚雷が焼却砲の光線の真下を通って被弾したのだ。

 

自分は『油断』していたのだ。

切り札の焼却砲を放った腕は跡形もなかった。魚雷の爆発と衝撃で両腕が引きちぎれたといった方が分かりやすいであろう。

 

高威力の焼却砲に頼りすぎてしまった。

 

何より艦娘は陸上ではなく海上での戦闘に長けているのだ。

 

いくらS級ヒーローとはいえども、海上での経験、戦術、武器は艦娘の方が圧倒的に上なのだ。

 

「自惚れていた…つくづく俺は学習しないな…」

だが、たかが腕の1本2本なくなるような戦闘は日常茶飯事。寧ろジェノスにとってはサイタマに言われた『精神面を強く鍛える』ための戦闘になっていたのだ。

 

 

「肝心なのは気持ちの切り替え…そして…精神を鍛える…先生、そういうことだったのですね」

 

ジェノスは不知火に向かって音を切るようなスピードで突進しする。刹那、金属と金属がぶつかり合うような鈍い音が響き合う。ジェノスは巧みな脚技を繰り出し、不知火は華麗な剣術をぶつけていく。不知火が大きく振りかぶった瞬間、ジェノスの目から鋭い閃光が放たれた。

「眩しい…目眩ませか!?」

辺り一面が一瞬光り、元の景色が戻ってきた瞬間、即座に辺りを見回した。

「いない…」

海には何もいなかった。

「空か!?」

空を見上げても何もいなかった。

 

「まさか…」

そのまさかだった。周りの波が揺れ、不知火の真下から影が出てきた。その瞬間、大量の泡と共に水中からジェノスが出てきたと思えば、不知火の鳩尾めがけて蹴り上げる。しかし、不知火は反射的に刀で防御しており、致命打には至らなかったものの、空中に吹き飛ばされた。

 

「フン…水中からの攻撃に反射的に防御したということは、お前達のの敵の中には水中から攻撃を仕掛けてくる奴もいるということだな。」

 

「見た目は年の若い少女だが、海上戦ではS級ヒーローですらかなう奴は少ないだろう…艦娘に対しての俺の認識が甘かった。だが、今度は確実に仕留める。」

 

 

「…腕の1本2本はいつものことですか…体は折れても心は全く折れていませんね…」

不知火は体制を整えて着水する。そして、一呼吸おいて刀を鞘に収め構える。

 

「抜刀術か…いいだろう」

ジェノスは左足を前に突き出し、足のジェットにエネルギーを溜め込む。

 

波の音とかすかに低い音を発しながらジェノスのエンジン音が聞こえる。

そして何処かで飛んでいるのであろう、鴎が鳴き出した瞬間、

 

「フン!!!」

 

「ウオオオオォ!!」

 

波が荒れ、嵐が起こり、空気を引きちぎり、音速にも匹敵するスピードで距離を詰め合う二人。そのまま両者は今叩き出せる最大限のスピードとパワーをぶつけ合う!!!!!!…はずだった……

 

 

 

 

 

 

時が止まった。

否、周りの波や風は未だに激しく暴れている。

時が止まっていたかのように思えたのは二人の身体が動かなくなっていたからだ。

 

「おいおい、お前らケンカすんなよ」

 

「ジェノス、前にも言ったがそのパーツはケンカ用じゃねーだろ」

 

「不知火、その勢いだとまた鎮守府壊しかねないからやめろ」

 

「てかお前らどっちが一番弟子に相応しいかでケンカしてんじゃねーよ」

 

「あとケンカするお前らを見て明石が泣いてたぞ。後で謝れよ」

 

刀は豆粒を摘むように摘まれ、脚はまるで子供とキャッチボールをするかのように捕らえられていた。

 

「先生…」

 

「サイタマ先生…」

 

「てかお前ら腕大丈夫なの!?不知火!お前血だらけだし左腕があらぬ方向にまがってるぞ!?ジェノス!お前腕がそのものがねーじゃねーか!」

サイタマは二人の自称弟子を見て驚いた。工廠で泣きじゃくる明石から聞きつけて駆けつけてみればこのザマだ。

 

ジェノスは不知火を睨みつける。

「すいませんサイタマ先生…ですが。こいつです。この糞ガキから先にふっかけたのです。」

 

不知火が俯いて顔に手を添える。

「そんなことはありません。先生、こいつは私に淫乱ピンクと罵倒しながら暴力をふるってきました…ウ、ウゥ…酷いです…」

 

「お前!!嘘泣きをするな!」

ジェノスが涙を流す不知火に対して大声をあげる。

 

「お前ら…仲直りしないと弟子にしねーぞ」

 

「すいません。ジェノス、これからはお互い仲良くさせてあげましょう。」

 

「すまない不知火。お前を鎮守府の仲間(笑)として認めてやる」

 

「メンドクセーなお前ら…」

その瞬間、波から打ち上げられた海藻がサイタマの頭に乗っかるのであった。

 

ーーーーーーーーー

 

夜 食堂

 

「うぅ…びっくりしましたよ、二人共鬼の形相で睨み合って、ケンカして帰ってきたと思ったらボロボロですもの…」

パクリと唐揚げ口にしてそう言う明石。

 

「大丈夫ですよ明石さん。もう私たちは仲良しですから」

不知火はサラダをひとつまみする。体の傷は入渠して元通りになっていた。

 

「ああ、もう仲間だ」

姿勢を正しく白米を食べているジェノス。ちなみに腕はクセーノ博士が新しい腕を取り付けてくれた。

 

「この唐揚げうまいな…」

サイタマがポイポイ唐揚げを摘む。

 

「じゃあ二人とも握手してみてよ」

鈴谷はニヤニヤしながら二人に話しかけた。

「いいですよ」

「いいだろう」

二人はなんのためららいもなく握手をする。

「ほらなんともないぞ」「いたって普通です。」と、真顔でいいながらも握られた手はミシミシと音を立てており、よほどの天然な性格でなければ相当な力が入っていると認識できる。不知火の腕は注射が下手な医者でも一発でわかるぐらい血管が浮き出ており、もう片方の手からはモーターみたいな機械音が聞こえてきた。

 

「あらあら、昼とは違って仲良しになったのね二人とも」

笑顔でそういいながら間宮が肉じゃがを持ってきた。吹雪はそんな二人を見て苦笑いし、鈴谷とピクミンは腹をかかえて爆笑する。するとサイタマが今何かを思い出したようにこう言った。

 

「そういや明日は仲間が増えることになるぞ」

「ぬい!?本当ですか!?」

不知火が突然の朗報に驚きの声を上げた。

 

「ああ、えーと…どんな奴だっけ?」

 

「サイタマ先生、明日配属される艦娘は現在服役中です。明日釈放されてた後、我々の艦隊に配属される予定です」

 

「え!?服役ってことは牢屋にいるんですか!?」

吹雪が驚きの声を上げる。すると不知火は味噌汁を飲んだ後に、こう言った。

「人を殺めてしまったのでしょうか?無理もありません…海軍にいる人間なんて犬の糞に匹敵するゴミ屑ですから」

「いや、違う。寧ろその逆かもしれない…とにかく吹雪、お前は気をつけておけ…そこにいるピンクはともかく、お前は危険な身になるかもしれない」

「ヒィ…どんな人なんですかぁ…」

「ま、どうにかなるんじゃね?飯食ったらキングから借りたゲームしようぜ」

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー臭蓋獄ーーーー

 

「ふぅ…最近はイキのいい男子が少ないわね。また街に出て見つけに行こうからしら…アラ?」

 

ここはA級賞金首や殺人や性的暴行などを犯した罪人やギャングやヤクザが収監される最凶最悪の監獄。しかし、この監獄にはS級ヒーロー『プリプリプリズナー』が収監されており、プリズナーに刃向かう男子は容赦なく抜け殻にされ愛人にされてしまう。それを恐れた囚人達は皆、プリズナーに怯えながら仲良く暮らしていた。

 

「あら、貴方は何を読んでいるのか?」

監獄のボス、プリズナーは薄暗い牢屋の中で本を読んでいる一人の囚人に話しかけた。

 

「プリズナーか…」

凛とした美しい声…女性の声だった。

「これはな…()()時に駆逐艦に読み聞かせてやる物なんだ…」

 

プリズナーは女の読んでいる本を覗き込んでみた。

「イッソプ物語ね…なかなかいいセンスだ。これなら子供達が喜びそうだ。」

 

「ふふ…そうだろう。私は楽しみで仕方がない。だから今日まで大人しくしてたんだからな」

本のページをめくりながらそう優しく答える女は、艦娘である。プリズナーは極秘でヒーロー協会と海軍からこの艦娘の監視を依頼されていた。

「貴方とは特殊な性癖を持ち合わせ、悩みを相談できる友人だった。童帝君の話ですごく盛り上がれて楽しかった。どうだろ…海での戦いが終わった後はヒーロー協会にも入ってみないか?」

 

「どうだろうな…ヒーロー協会や海軍は私をあまり好きではないらしい。だからあなたがここにいるのだろう。まぁ、あなたがいたからここは暇にはならなかったが」

艦娘は立ち上がり、本を丁寧に本棚に片ずけて自分の牢屋へと帰っていった。

 

「俺のように性癖には異常があるが、明らかに実力はS級トップレベル…ジェノスちゃん達の鎮守府に加わればかなり戦力になるだろう」

 

 

プリズナーは壁を殴って穴を開け、夜の街へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字、脱字はご遠慮なくご報告ください。


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第11話 大物戦艦!?

かなり遅れてしまい申し訳ありません。投稿は遅いし文才なんぞありませんが最後まで読んでくれたら幸いです。


不知火とジェノスのいざこざから翌日、ヒーロー鎮守府とやけに立派な表札が立てある正門に、サイタマを含む5人のメンバーが、今から配属される新たな艦娘を今か今かと心待ちにしていた。

 

「いや〜楽しみだな!戦艦なんだから強いんだろ!?いや〜ワクワクするな!」

配属される艦娘が戦艦だと聞いてサイタマはワクワク胸を躍らせていた。駆逐艦やら魚雷やら、サイタマにとって軍事の話などチンプンカンプンであり、興味もないので全く分からない。しかし、『戦艦』という単語は、軍事に詳しい人間…俗に言うミリオタと呼ばれる者以外の一般人には『強い』『デカイ』『主砲がすごい』『宇宙戦艦』というイメージが世間一般なのである。サイタマのもつイメージもその世間一般が持つイメージとはなんら変わりのないものであった。

 

「先生、たしかに戦艦は強力な主砲や艤装の大きさが特徴的ですが、はっきり言って先生に勝てる艦娘なんていませんよ。」

サイタマの隣に立つ不知火が顔色一つ変えずにこう言った。サイタマの最大の悩みは対等に戦える敵がいないこと、それは一番弟子を名乗る不知火が良く知っていた。だからこそ、師匠であるサイタマにはがっかりしてもらいたくなかったのだ。決して今から来る艦娘が弱いわけではない。寧ろ艦娘の中でも最強レベルである。だがサイタマは強すぎるのだ。サイタマと対等に戦える相手を探すというのは砂浜に落ちたダイヤを探すより難しい、本気で不知火はそう考えていた。

 

「『そうか、わかった……… 』サイタマ先生、配属される艦娘は徒歩でこちらに向かっているそうです。なんでも自ら徒歩でこちらまで赴くと言っていたようです。」

携帯をしまい、腕時計を見るジェノス。もうすぐ約束の時間である。

 

「そうなのか。てか徒歩だと遠くないのか?」

 

「艦娘の収監かれていた『臭蓋獄』から我々の鎮守府まではかなり距離があるようですが…人間が嫌いだという可能性がありますね。」

 

「あー!!!サイタマ動かないで!!サイタマの頭にモンジャラが!!!!!」

突然鈴谷がサイタマの目の前にスマホを向けてきた。最近流行りのゲームに夢中なのである。

 

「なんだよ急に!俺の頭にはなんもついてねーぞ!」

 

「ついてるのよ髪が!!マジで!!!サイタマ今日はついてんじゃん!!髪だけに!!」

 

「マジか!ちょっと見せてくれよ!」

 

「無理無理!!サイタマに見せたら逃げられるじゃん!」

 

不知火がため息をついて話しかける。

「先生…残念ながら鈴谷のやっているゲームの中だけの話であって、現実では何も生えてません。」

 

「あっそう…」

生えてると言われると少しではあるが気にしてしまう。

まだ午前中だというのに騒がしいサイタマと愉快な仲間たち、そんな中、吹雪だけはある一点を見つめて絶句していた。

 

 

 

「あの……皆さん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこの電柱にお尻をフリフリしながら私を凝視している人がいるんですが…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身長は180cm超え、長く美しい黒髪、凛々しい顔立ち、勇ましくも透き通った声、ゴツゴツな筋肉ではなく、しなやなに鍛え上げられた美しい肉体、出ているところは出ているナイスバディ、どこからどう見ても超絶美人。

「私は長門型超弩級戦艦!ながも…ではなく長門だ。艦だったことは連合艦隊旗艦も務めていた!!よろしく頼む!!」

ただしこの戦艦、性癖も超弩級だったのだ。

 

「と、特型駆逐艦1番艦の吹雪です…よろしくお願いします…」

 

「ふふ、ふふふふふふふふふ…………………ふふっ」

 

「く、駆逐艦だぁ……それも生の…」

 

「あ、あの…何かおかしいでしょうか?」

吹雪は恐る恐る顔をにやけて不気味に笑う長門に尋ねてみた。なんだか悪い予感しかしない。

「いや…健気な子がまるで富士山の湧き水みたいな純粋な瞳で真面目に挨拶してくるとね…なんだか背筋がゾクッとしてうっとりするんだよ…それも最近まで男まみれのゴミみたいな所にいたからな…たまるものも溜まっていたんだ。アアァウゥ…、涙と鼻水も出てきた…ティッシュくれないか?なんなら君のハンカチでもいいぞ」

恐るべき戦艦である。内股になり、身体を震わせ全身で喜びを感じていた。駆逐艦に挨拶されただけで恍惚していたのである。

 

「陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です。よろしくお願いします」

 

「な、なぁ!!ぬいぬ…じゃなくて不知火!!!私の事を養豚場の豚を見る目で罵倒ってくれないか!!????」

今度は突然奇声を発したと思えば地面を蹴り空中に舞い上がり、そのまま丸くなったと思えば、美しい着地ともに土下座していた。流石の不知火も突然の変態に困惑の表情を隠せない。

 

「あ、あの頭を上げて貰えないでしょうか…」

 

興奮しているのか鼻水もだらしながら見上げている。

「君の無愛想な瞳から放たれる殺気と躊躇なく放たれる罵倒の鞭をこの身体で受け止めたいんだ!!!ふふ…なんなら踏んでくれても構わないのだぞ!!!!そしてスパッツもいいッ!」

 

「む、無愛想…ですか…」

戦闘や家事、秘書艦もこなす不知火に足りない物は『愛想』だった。人並みの感情は持っているのだがとにかくそれが顔に出ない。本人はそれを十二分自覚しており、解決に向けて努力しているのだがまだまだ道のりは長いだろう。彼女が無理矢理つくる笑みはサイタマですら凍りつく程なのだから。

 

「ジェノス!!この人超ド変態じゃん!!!」

鈴谷が吹雪を守りながらジリジリ後退りしながら叫んでいる。

 

「だから言っただろう、こいつは特殊な性癖を持つ変態だ。」

 

「あ、あの!ハンカチならありますよ。」

吹雪が長門にハンカチを渡そうとした瞬間、鈴谷とジェノスが止めにはいる。

 

「ダメェェェェ吹雪!!早まらないで!アイツはロリコンなのよ!吹雪のハンカチをクンカクンカするに違いないわ!」

 

「え!?なんですかそれ!?」

 

「ロリコンとはロリータ・コンプレックスの略だ。思春期前または思春期早期の幼女や少女へ性的嗜好をもつ者のことであり、小児性愛という異常な性愛と定義されている。」

無表情でなんの躊躇いもなくロリコンを説明する19歳。

 

 

「フ、S級ヒーローのジェノスと重巡の鈴谷だな。だが少し違うな。私は『ショタコン』もいけるロリショタだ。意外と守備範囲が広いだろ?」

 

「知るか!超前進守備じゃん!!!吹雪、不知火、ジェノスの後ろに隠れて!!」

鈴谷が警戒の色を強めるとまたもや長門は叫びだした。

「違う!!私は幼い子は好きでも。絶対に手はださない!!ロリショタは愛でる物だ!!!そんな事をする奴はこの長門が正義の鉄拳をくだしてやる!!」

 

 

「YES ロリショタ NO タッチ!!! 」

 

 

「…………」

「…ま、まぁよろしくね…」

もはやここまで潔いが良いと呆気にとられてしまう。

 

「あぁ!!よろしく頼む!!あとは…」

 

「おぉ、俺だな」

サイタマは一歩前に出てそう言った。

 

「俺の名はサイタマ。ここの鎮守府の提督とヒーローをやってる。なんかお前変な性癖持ってるけどよろしくな。」

 

「ああ、さっきも聞いていたと思うが、長門型超弩級戦艦、長門型一番艦の長門だ。よろしく頼む。ところでヒーローと言ったが、サイタマはヒーロー登録をしているのか?」

長門が興味深そうにきいてきた。

 

「おう、A級39位のプロヒーローだぜ。」

サイタマは胸を張ってそう答えた。

A級ヒーローは下位ランクヒーロー達の指標でもあり社会的な影響力の強いランクである。あまりランクや知名度というものには興味がなかったサイタマだが、ハゲてることと同様に決して気にしていない訳ではなかった。「お前など知らん」と言われれば多少はなりと傷つくのである。すると長門が信憑な顔でサイタマを見つめてきた。

 

「…本当にA級なのか?」

 

「ああ、マジだぜ!」

無気力な目がちょっとだけキリッと吊りあがり声のトーンも少しだけキリッと変わった。自分の知名度が上がるとなればちょっとだけ嬉しい。すると長門が何やら考え込むような仕草をした。

 

「すまない…A級以上のヒーローは全員覚えているつもりだったのだが…正直サイタマの顔を見ても全く思い出せない。そうだ、カエルの被り物をしたヒーローじゃなかったか?」

すると会話にジェノスが割って入ってくる。

「あれはただの雑魚だ。サイタマ先生はA級39位ながらS級以上の実力をもっている。」

 

「ふむ、S級のジェノスが言うなら信用しよう。それなら『ヒーローネーム』も教えてくれないか?」

 

「え」

サイタマは固まった。固まらずにはいられなかった。

 

「『ヒーローネーム』だ。ヒーローならあるだろう?ヒーローはヒーローネームで呼び合うのが常識と聞いたことがあるのだが。」

そう長門が言うと、サイタマは目線をそらしながらなんとも言いづらそうにこう言った。

 

 

 

「…………………………………ハ………、ハゲマント………」

 

 

「え」

今度は長門が固まった。

 

 

「だからハゲマント…」

 

「…………」

長門とサイタマとの間に時が止まったような数秒の静寂が訪れる。一瞬長門の視線が頭からつま先を一往復し、眉間にシワをよせる。

「それは罵倒だと思うぞ。」

 

 

「好きでついた名前じゃねーんだよぉぉぉ!!」

ツルピカな頭が赤くなりながら叫び上げる。ランクは上がってもヒーローネームは変わらない。弟子の名前はかっこいいのにサイタマだけは見た目そのまんまで決められたような感じだ。

 

「そうなのか。すまない。それならハゲはファッションなのか?世紀末な世界で出てくる悪役みたいな。」

 

「んなわけあるかっ!!!好きでハゲてるわげじゃねぇ!!!」

 

「ならば何故ヒーローネームの変更願いを出さなかったのだ?たしかヒーローネームが決まった一週間以内なら変更願いの申請書をだせるはずだ。」

 

「え……やっちまったぁぁぁぁぁ!!!!!!」

そういえば大人数で鍋を食べたときに鍋が爆発(原作57撃目参照)してしまいヒーロー協会から貰った書類は、全て鍋の汁がかかってしまい捨ててしまった。するとジェノスは失念と後悔に蝕まれながら携帯を開いた。

 

「申し訳ありません先生!!!俺がついていながら…それなら俺が協会に直談判してきます。先生の髪の毛もより天然に違い毛の植毛手術もクセーノ博士に相談してきます!」

すると今度は不知火が刀を抜き出し、

「不知火が先生の名前を決めた輩に直談判してきます。」

 

 

「やめて!!お前ら物騒だし俺が恥ずかしから!!」

物騒極まりない二人の弟子を落ち着かせる。

 

「ま、ヒーローなら名前じゃなくて怪人を倒して腕で語らないとな」

仕方がないと割り切ったサイタマはそう言うと、長門はフッと微笑み、手を差し出しだした。

「そうだな。武人たるもの戦ってナンボだ。前置きが長くなったが、改めてよろしく頼むぞ。サイタマ。」

 

「おう、よろしくな。期待してるぜ長門。」

サイタマもそれに応えガッチリと握手した。なんの変哲もないただの握手である。

 

 

 

だが、長門は感じた。このたった数秒の握手で凄まじいサイタマの莫大なエネルギーを感じたのだ。

 

 

今まで強い奴は散々見てきた。まだ鉄の塊だった頃、自分より小さいが凄まじい戦果上げる駆逐艦、圧倒的な戦力を誇る大日本帝国海軍の正規空母や戦艦達。世界最強の練度や性能を誇った艦載機や乗組員。艦娘になり人間の形として生まれ変わってからも、邪悪なオーラを放ちラッシュを繰り出す者や音速で斬りかかってくる者など、たくさんの強者を見てきた。

 

しかしサイタマは違う!!

 

 

46cm砲だとか、はたまた世界の抑止力に使われる核兵器とか、そんなものが子供の遊ぶ玩具に見える。

 

 

その力は地球上の生物では到底及ぶことのできない莫大な『正義の力』。

 

 

 

 

「お、おい、どうしたんだ?急にボーっとしちまって、風邪か?」

 

「え、あぁ…すまない。」

サイタマの声でハッと我に返される。その時、道路から急ブレーキを踏んだ甲高い音が鳴り、一台の白い車がサイタマ達の目の前で停車した。ドアがせわしなく開くと、中からスーツ姿の男がオロオロした様子で現れた。

 

「おい、危ないだろ。ヒーロー協会の役員が何の用だ。」

ジェノスが役員の前に立ちはだかる。

 

「これはジェノスさん!S級ヒーローのあなたに用があってきました!緊急事態です!!!至急現場に向かっていただきたい!」

必死な様子でそう訴える役員を尻目にジェノスはため息を吐く。こういう時のヒーロー協会は無茶難題しか押し付けない。龍クラスの怪人や大規模自然災害による被害がおきる直前に招集だったり、なんの情報や作戦もなく現場に駆り出されたりめちゃくちゃである。協会の運営体制を疑いたいぐらいだ。

「…先生、今回も無茶難題を押し付けられそうです。夕食までには戻ります。」

 

「そうか、頑張れよ。」

 

「はい、頑張ります。………それで、要件はなんだ。夕食までには済ませたい。」

 

「『艦娘』と呼ばれる対深海棲艦兵器が盗難されたのです!」

 

「「「「「!!!!!!!」」」」

 

「どういうことだ!」

最初に声を荒らげたのは不知火だった。彼女は役員の胸倉を掴み、それを見た鈴谷と吹雪に制止させられていた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ痛い痛い!!『鎮守府狩り』の不知火!私は何もしてないぞ!!」

 

「言え!!どこのどいつに連れてかれた!!!」

 

「不知火ちゃん落ち着いて!!ここで怒っても何も変わらないよ!?」

吹雪が珍しく声を荒らげようやく不知火は胸倉から手を離した。

 

「す、すみません二人とも…」

流石に熱くなりすぎたと不知火は誤った。

 

「まぁ場所を聞いても血相変えて1人で先走らないでよ?私達だって心配なんだから。」

鈴谷は見た目こそ冷静を保っていたが、心の中でも不安な気持ちでいっぱいだった。

 

「んで、どこに連れてかれたんだ?駆逐艦って吹雪や不知火とあんま歳は変わらないだろ。やべーじゃねーか。」

サイタマも子供が誘拐されたと聞いて黙っている訳にはいかない。

 

「あ、あなたは誰ですか?まぁこの際どうでもいい、艦娘を保護していた海軍から駆逐艦が誘拐されたんです!どうやったかはわかりませんが、誘拐された時刻に怪しい黒いバンが目撃されたのです!」

 

「な、なにぃ…黒バンだと!?羨ま…じゃなくて許せん!!絶対にゆるせんぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

長門が大きな雄叫びをあげる。それを聞いたサイタマが長門向かって指を指す。

「なあ、こいつも退治したほうがいいんじゃね?」

 

「少しでも怪しい動きをしたら俺が排除します。」

 

「な!?私はロリショタnoタッチだ!!!!」

 

「遊んでいる暇はないんです!!深海棲艦に対抗できる貴重な兵器なんです!!居場所は特定できましたので大至急現場に向かってください!!!」

役員はそう言うと、乱れた服装を直しながらサイタマに地図を渡した。

「どこだここ。」

 

「EF市の山の中ですね。俺達が走れば40分で着くでしょう。」

 

「よしジェノス、俺も行くぜ。晩飯は賑やかになるな。」

 

「分かりました。直ぐに向かいましょう。」

 

「私も行きます。」

 

「この長門も同行しよう。よぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!!!!!!待ってろよ駆逐艦!!!!」

 

 

「なんで長門さんはテンションが高いんですか…」

 

「吹雪、長門にも気をつけてね」

 

 

 

 




1週間以内に申請すればヒーローネームを変えて貰える…といのは本編のオリジナルです。ヒーローに名前ってかなり大事だと思うので申請すれば変えて貰えると思うのですよね…



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番外編
番外編 問題児 その1


遅くなり申し訳ございません。
12話更新はもう少しお待ちください。
番外編も不定期更新で続けていきます。



テレレレッテテ〜

「げっ」

最近流の歌の着メロが携帯電話から流れてきた。

 

「ん?電話かね?できれば電源は切って欲しいのだが」

白い制服を着た海軍と思われる軍人が高圧的な態度で話しかけてくる。

 

「妹からの電話は無視できねーんだよ!!ちょっと出るぜ!」

忙しなくドアを締め部屋から出て行き、少年は着メロが鳴り止まない携帯電話を取り出し電話に出る。

 

「も、もしもしゼンコ、悪りぃけど今日は忙しいんだ。ピアノの発表会には行けそうにねぇ…今どこにいるかって?今日の任務は極秘情報で教えられねーんだよ。いや泣くなよ…あとで美味いもん買ってやるからよ…じゃーな、切るぞ。」

はぁ……少年はため息を吐く。いつもヒーロ協会は急な任務を理由も教えられずに押し付けてくる。今日も協会から指定された場所に行くとそこは海軍だった。

「電話長かったな。ではS級ヒーローの君に任せるよ。金属バット君。失敗したら私の名誉にも関わってくるし、私個人で買っているヒーロー協会の株を買うこともないからな」

海軍でも偉い地位にいる偉そうな小デブがパイプを吹かしながらそう言う。

 

「(てめーのキャリアや協会なんて知ったこちゃねーよ!殺すぞじじい)」

妹に泣かれ、1時間ぐらいよく分からない話を聞かされて、金属バットの堪忍袋は切れそうだった。上官の部屋のドアを乱暴に締めて部屋から出て行き、バットを肩に乗せて風を切りながら廊下を歩く。髪型は一目みて不良と分かるリーゼント。まさしく昔のヤンキーみたいな風貌だ。

 

「お、おい、あれ金属バットじゃねーか?」

 

「本当だ。S級ヒーローを生でみるの初めてだぜ」

 

「あんな髪型と、格好してて恥ずかしくないのか?」

 

「俺はこの前災害レベル鬼の怪人をしばき倒してたの見たぞ!」

すれ違う海兵からはヒソヒソとそんな声が聞こえてくるが、今はどうでもいい。金属バットは早く仕事を終わらせて妹に会いに行くことしか頭になかった。彼は妹に頭が上がらないのである。階段を下り、玄関をでると2人の海兵が敬礼をしながら出迎えてきた。

「金属バットさん、お待ちしていました。」

 

金属バットはめんどくさそうな顔をした。

「あー、たしか艦娘っていう少女の護送だよな。そんなもになんで俺が付いてかなきゃいけねーんだよ。」

 

 

「こいつは艦娘の中でも問題児でして…とにかく作戦を拒否したり上官に反抗したり懲罰房にいれても何度も脱房したりするのです。しかし、この娘は『正規空母』であり、深海棲艦撲滅の大変貴重な戦力でありますので護送は万全を期したいのです。最近は怪人も増えておりますので。」

すると海兵の1人が近くに駐車している護送車から1人の少女を引っ張りだしてくる。少女の手首と足首には小さい身体には見合わない手錠と足枷がかけられており、口にはテープまで巻かれている。

 

「おいおい、たかが女1人にそこまでするか?」

金属バットも流石にやり過ぎてはないかと口にする。それもそのはず少女の見た目は金属バットよりも年下に見えるからだ。

 

「いえ、この艦娘にはこれくらいが丁度いいのです。では我々はこれで失礼します。よろしく頼みますぞ。」

再度敬礼し、2人の海兵は立ち去って行った。

 

 

 

「………」

護送車に乗った後は暫く無言の時間が続いた。護送車の中には運転手と金属バット、それに少女の3人だけである。少女の横には矢筒に入った矢と弓よく分からない板が置いてあり、それを触ろうとしたらキッと睨みつけられた。ただの弓と矢にしか見えないのだがそんなに大切な物なのだろうか。

 

「あ〜あ〜暇だなぁおい…今頃妹のピアノ発表会も終わっちまってるぜ。」

藪から棒にそう言い放つと運転手に話し声が聞こえないことを確認して少女の口についているテープを剥がしてやる。テープを剥がされた少女は深呼吸をしながら金属バットを見つめていた。

「プハッ…なんで剥がしたのよ…」

 

少女の言葉にため息ながら金属バットはこう返す。

「あぁ、片道まだ2時間もあるんだぜ?話し相手くらいにはなると思ってよ。名前は?」

少女の声は年相応の物だった。見た目15、16くらい、黒髪を2つの白いリボンで結んだツインテール、そして神社で見かけるような巫女装束風の服を着ている。

「翔鶴型2番艦の瑞鶴って言うの。まぁうん…テープ剥がしてくれてありがと。」

 

「瑞鶴ぅ〜??変な名前だな。俺は金属バット。S級ヒーローやってんだよ。」

 

「よろしくね、金属バット。変な名前というか私達は元々艦だったからね。私なんてまだマシな方、もっと変な名前の艦娘なんて山ほどいるよ」

 

「おいおいマジかよ…いやまぁヒーローにも変な名前奴は沢山いるな。てか艦だと?船ってどういうことだよ」

任務のことは散々上官に聞かされたが、艦娘については何も聞かされなかったので金属バットは興味本位で聞いて見た。

 

「うーん、学校っていう所で習った第2次世界大戦ってあったでしょ?艦として造られた私達はこの国の為に戦ったのよ。私は正規空母として…結果はご覧の通りだけど…」

 

「い、いやにわかに信じられねぇぞ…第2次世界大戦って何十年前の話だよ…俺の爺ちゃんの爺ちゃんぐらいの…しかもお前が空母って、話がぶっ飛んでて意味が分からねーよ。」

自分から聞いてなんだが、瑞鶴の話を聞いたがさっぱり意味が分からない。空母ってゼンコにせがまれて見に行った海軍パレードに出てきたあの空母のことなのか?しかし砕けた口調ながらも時には真剣に語ったり、時には悲しい顔をする瑞鶴が嘘をついているとは思えなかった。そんな彼女の話に金属バットは飲み込まれていき、時間は刻々と潰れていく。

 

「ね、ねぇ金属バット、後ろの窓から怪しい黒い物体見えたんだけど見にいってくれない?」

話がひと段落し、ぼーとシートに寝転がっていた金属バットに声をかけた。

 

「あぁ?怪人か何かか?ちょっと見てくるぜ。」

バットを持ってズカズカと後ろの窓へと歩いていく。後ろへズカズカ歩いていく金属バットを見計らって瑞鶴は手錠と足枷を外し、音を立てないようにそっと椅子の上に置く。飛行甲板を装備し、矢筒を肩に掛け、弓を持ち、気付かれぬように抜き足差し足で金属バットに近づいていく。

 

 

 

 

あと4歩

(正直ここまで私の話しを聞いてくれ人間がいるなんて思いも寄らなかったわ)

 

 

3歩

(ありがとう金属バット、短い時間だったけど楽しかった…)

 

 

 

2歩

(でも…)

 

 

 

 

1歩

(私には戻ってやらなきゃいけないことがあるのよ!!!)

 

 

 

艦娘…特に正規空母や戦艦の力は人間とは比べ物にならないくらい力が強い。手加減しているとはいえ、瑞鶴の振り抜いた拳は大の男を2日寝かせるくらい威力が乗った拳をだった。しかし、その拳は肉体には当たらず、代わりに響いてきたのは鉄がぶつかるような鈍い音だった。

 

「!!!!!!」

 

「はぁ…今日はため息ばかり突く日だぜ。こういうのはよ、日頃怪人と戦ってるとそんな珍しいもんでもないんだぜ?」

 

瑞鶴の拳を、金属バットは何の他愛もなくバットで防御していた。瑞鶴は狼狽えながらも距離を取ろうとする。

 

「あ、あんた、最初分かってたの……!?」

 

「いや?そんことよりまし今出てきたお前は運が良いかもしれないぜ!」

そう言うと金属バットから離れようとする瑞鶴の袖を握り片手でバットを振りかざし窓を叩き割り、そのまま窓から外に飛び出した。

飛び降りた瞬間、地面がうねり声を上げたと思えばバスの下からコンクリートが割れ、溢れ出した土が一点に集まり硬直化し、瞬く間にバスを串刺しにする。遂にはバスは真っ二つ割れ、その場には土で固まった巨大な槍が突き出ていた。

 

「な、なによあれ!!土が固まった!!」

 

「出やがったか!お前は下がってな!!!」

 

すると土の槍が崩れて穴が空き、中から6本の腕と剣を持ち、ハニワのような怪人が現れる。

 

「我は真・地底王!!軟弱な前・地底王が軟弱な地上人にやられたが、今日こそこの地上は我々がいただく!!」

 

「ケッ!久々に気合いが入る戦いになりそうだぜ。」

唾を吐き、自慢のバットを握り、金属バットは臨戦態勢に入る。

 

「貴様はS級ヒーローの金属バット!!まずは貴様を殺せばこの地底王の名も上がるはずだ!!!」

 

「ああ!?俺の名前を知ってるてことは地底にもパソコンでもあんのかゴルァァァァァ!!!」

地底王は6本の巨大な剣を振りかざし、対する金属バットは細道をすり抜けるネズミの如く巨大な剣をかいくぐり一気に距離を詰める。

 

「オラァァァァ!ボディががら空きだぜぇぇぇぇえ!!!!」

地底王の懐に入り込みフルスイングで勝負を決めにいく。しかし、突然目の前から巨大な土の槍が行く手を阻み、金属バットの足元からも土の槍が何本も突き出てくる。

 

「チィ!!」

 

「フハハハハハハハ!!我が能力は土を操る能力!!そのまま串刺しになって埋葬されるがいい!」

土の槍が針山地獄のように何十本も襲ってくる。これには流石の金属バットも退くしかなかった。後ろにジャンプし、何本か襲ってくる槍を叩き壊しながら後退する。

 

「ちょっと!あれじゃあらちがあかないわ!!一旦退いて土のない所で戦うべきよ!」

 

「いいや!退かねえ!!!ここら辺には妹のピアノ教室もあるもんでな!!とっとと任務も終わらせて妹の迎えにいくぜ!!」

 

何十本も土の槍が束になってになって押し寄せる。金属バットはバットを遠心力にしてグルグル回り始める。それはやがて大きな竜巻になり、風がうねり声を上げた。

 

「気合い!!!野蛮トルネード!!!」

竜巻は土の槍を粉微塵に叩き割り、破竹の勢いで進んでいく。その圧倒的なパワーとスピードに瑞鶴は驚愕していた。

 

「バットを持っててふざけてるのかと思ったけど…信じられない、凄まじい威力だわ。」

 

「ク、我が土の槍をこうも打ち砕くとは!!流石はS級!!だが所詮貴様はバットで殴るだけの脳筋だ!!!!」

すると今度は土からたくさんの小さいハニワが一斉に飛び出し、空中に浮遊した。

 

「金属バット!!!このハニワの中にはガスが溜まっており触れた瞬間大爆発を起こす!!!!貴様に耐えられるかぁぁぁぁぁ!??」

 

「ああ!?上等だ!!どっからでも来やがれ土人形!!」

金属バットはさらに竜巻の威力を上げる。浮遊するハニワ達が一斉に金属バットに向けられた瞬間、何やら空からエンジン音が響き渡り、ハニワは獲物を捉えることなく空中で次々と爆散していく。

 

「あんたの戦いっぷりはめちゃくちゃね…負けることはないにせよ、危なっかしいから見てらんないってば」

空をかっ切り、白色の機体に日の丸が塗られた小さな戦闘機。その戦闘機からは放たれる機銃はまるで針穴に糸を通すが如くハニワに命中していき、美しい陣形を描きながら離脱していった。

 

「な、なんだあの小さい戦闘機!!!まさかあの正規空『ど こ み て ん だ よ』

 

地底王が見た最後は、基地外じみた威力で脳天向かって放たれる金属バットであった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

瑞鶴は、肩につけている飛行甲板に戦闘機を着艦させ、矢に変えて矢筒に戻した。

 

「ほぉ〜魔法でも見てるようだぜ」

 

「分かったでしょ?私が正規空母だってこと」

 

「あぁ、よぉ〜く分かったぜ、お前が本物だってことは」

金属バットは壊れたバスの中から運転手を見つけ出し、道端に寝かせていた。気を失っており、骨の1、2本は折れてると思うが、幸いな事に命に別状はなかった。

 

「別にお前が誰であろうが俺には関係ねー。だがよ、任務は任務だ。お前を護送する任務は終わってねえ」

 

「……見逃してって言ったら?」

 

「悪りぃが任務だからな。今日はため息が続く日だぜ。」

ため息をつきながらバットを両腕に掛け瑞鶴を見つめる。べつ

 

「そう…あなたと話せてよかったと思うし、後ろから襲った挙句助けて貰ったことには感謝してるし、悪かったと思う。でもね、私にはどうしても戻ってやらなきゃいけない事があるの。」

一瞬、ほんの一瞬だけ、悲しい目になり、すぐに獲物を狙う鷹のような鋭い目を金属バットに浴びせる。金属バットの目の前にいるのは年頃の正直ではなく、命を奪う兵器であった。

 

「安心しろよ痛くしねーよーに気ぃ失わさせてやるからよ」

だが瑞鶴の目の前いるのも軍隊一つ分の戦闘力を持つS級ヒーロー。睨みつけられた程度で

 

「野外なら私の方が優位なんだけどね。こっちは殺す気で行くわよ」

 

一触即発、まさに殺し合いが始まる寸前の空気である。瑞鶴は矢を金属バット向け、金属バットはバット握りしめる。

 

 

 

 

 

 

「ああ!!おにーちゃん女の子を虐めてるぅ!!!!」

そんな突然の少女の声と共に殺し合いの空気が霧散していく。あまりの突然に瑞鶴は面を食らった表情になり、金属バットは苦虫を噛み潰したような顔になり、額には汗がびっしりついていた。

 

「おにーちゃん女の子は痛めつけないって約束したよね!?なんで破ってるの!?キャー暴力よ〜」

 

「ぜ、ぜ、ぜ、ぜ、ゼンコォォォォォ!!これには深いわけがあんだよ!」

悲鳴のような金属バットの声がこだました。無敵のS級ヒーローも今目の前にいる妹のゼンコには頭が上がらなかったのだ。

 

「ねぇ!バットおにーちゃんなんで女の子虐めるの!?女の子には暴力しないって言ってたよね?」

瑞鶴は唖然と二人のやり取りを見ていた。先程の勢いはどこへやら、参ったと言うような顔になり、立派な黒い学ランは小さく見える。さっきまで自分を倒そうとしていた強大な敵は、今目の前の小さな少女に倒されている。

 

「い、いやな?ゼンコ、これはパントマイムだぜ?ほ、ほら、初めて会ったからレクリエーション…みたいな奴だぜ、なぁ!?」

パッと金属バットは助けを求めに瑞鶴の方を向く、急にふっかけられた瑞鶴はえ?私?と焦りの表情を浮かべ、咄嗟に矢を仕舞う。

「そ、そうよ!ゼンコちゃん…だっけ?パントマイムよパントマイム!ちょっと演技みたいなもんよ」

うんうんと金属バットも同情する。

「そうだぜ。そうだぜ。ゼンコ、怪人倒したらパントマイムやりたくなるもんなんだよ」

 

「ふーん、『別にお前が誰であろうが俺には関係ねー。だがよ、任務は任務だ。お前を護送する任務は終わってねえ』『悪りぃが任務だからな。今日はため息が続く日だぜ。』とか言ってたくせに?」

 

「わ、分かった…もう勘弁してくれ…お前の好きなパフェ食べさせてやるから…」

 

「瑞鶴にもね!!!!」

そう言うとゼンコは瑞鶴に向かってウィンクする。大した子だ。S級ヒーローの戦闘に容赦なく割って入る度胸と気の強さ。自分の名前を短時間で覚えたり、兄の揚げ足を取る記憶力と判断力、瑞鶴は心底感心していた。

 

 

 

「うわぁー美味しそう!瑞鶴!食べよう!」

運転手を病院へ運んだ後、金属バット達は現場から少し離れたファミリーレストランに来ていた。

 

「えぇ…そうね。いただきます。」

横にいるゼンコは美味しそうにパフェを口に運んでいる。テーブルには瑞鶴の顔を隠してしまうほどのの二つの巨大なパフェが並んでいた。そのパフェの間から対面して座っている金属バットの顔を伺った。

 

「食えよ。今更頼んだ物残されても困る。」

そう言われるとパフェへと顔を向き直し、スプーンでアイスを割り、クリームのついたイチゴと一緒にスプーンに乗せ、口の中に入れる。

甘く冷たいバニラと甘酸っぱいイチゴが口いっぱいに広がり、言葉に表せない感動を覚える。その後は無我夢中で人目を気にせずパフェにがっついた。そんな二人の様子を金属バットはコーヒーを飲みながら二人の様子を黙って眺めていた。

 

「まー成り行きが成り行きだ。話は聞いてやる。」

パフェを食べ終えた瑞鶴に金属バットがティッシュをさしだしながらそう言った。横ではゼンコが口をティッシュで拭いて貰っている。

 

「あ、ありがとう。」

ティッシュを受け取り口にあてる。クリームがぽっぺにまでついており、初めて自分が無我夢中でパフェを食べていたことに気がついた。恥ずかしくなりながらもクリームを拭き取りティッシュを丸めてテーブルに置いたのだった。

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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