呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) (navaho)
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予告 呀 暗黒騎士異聞 ”黒の物語”


お久しぶりです。NAVAHOです。最近は色々ありまして執筆から遠ざかっていたのですが、ここ最近になってようやく創作ができるぐらいゆとりができました。

以前からなんとなく思っていたものを予告として出してみました。

ハッキリ言えば、現在の 暗黒騎士異聞の本編も明るい話ではないのですがそれ以上に暗く救いのない話になります。

そんな予告ですが、何となくTVを付けたら まどマギの再放送をやっていましたのでそれに合わせて投稿してみました。


 

予告 呀 暗黒騎士異聞 ”黒の物語”

 

 

 

 

 

 

それはありえたかもしれない”暗黒騎士”と”彼女”との出会い……

 

 

 

 

「先生。お待ちしておりました」

 

「初めまして、暁美さん。龍崎です」

 

「あの子の事をお願いします。あの子は、ずっと心臓の病気で私達にも引け目を感じていて……」

 

「そうですか、まずは娘さんに……ほむらさんに会わせていただけますか?」

 

「はい、こちらに……」

 

 

 

 

 

 

 

「ほむら。貴女の為に先生を呼んだの。入って構わないかしら?」

 

「………うん。大丈夫だよ、お母さん」

 

扉を開けた瞬間、彼は大きく目を見開かせた……

 

「あなたが、カウンセラーの先生?」

 

人の顔色を伺うような視線で彼女 暁美ほむらは尋ねてきた。

 

「ッ!?そうだよ。僕が君のカウンセラーになる龍崎駈音だ」

 

「……よ、よろしくお願いします」

 

なるだけ視線を合わせないようにして頭を下げた。

 

「こちらこそ、ほむら君」

 

龍崎駈音は、彼女に向けて笑みを浮かべるのだった。

 

「まずは、君の事を教えてくれないかな?」

 

「は、はい。私、また迷惑をかけちゃったのかな・・・・・・」

 

「そんなことはないさ。君は、少し立ち止まっているだけだ。だから、僕が手助けをしてあげたい、君のご両親もそうしたいと願っているよ」

 

「そ、そうなんですか・・・こんな私が…・・・」

 

自身に対する評価があまりにも低いほむらに対し、龍崎は

 

「まずは、自分を好きになることから始めようか…少しイメージを変えてみるのも手だと思うよ」

 

彼女の三つ編みを解き、さらに眼鏡を取り、驚いた彼女に対し、心の内で……

 

(………母さん。こうすれば、もっと……君は、母さんに似てくる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるブティック

 

「こ、これが私ですか……」

 

「そうだよ。君は、君自身が気がついていないだけで、凄く魅力的な少女だよ。ほむら君」

 

鏡に映るのは、黒いドレスを着た黒い髪の美しい少女が驚きの表情をしていた。

 

「そうそう。その服は僕からの個人的なプレゼントだよ。退院と入学祝を兼ねてね」

 

「少しだけ、外すから待っていてくれ」

 

龍崎が去ったとほむらは自身の感情が高揚していることに気がついた。

 

「わ、私、こんなに綺麗だったんだ……」

 

自然と笑みが浮かび、足取りさえ軽く感じる。普段は人に会うことに恐れさえ感じていたが、今は人前に出てみたいという欲求があった。

 

「少しだけなら……先生……ごめんなさい」

 

ブティックを抜け出したほむらは、人ごみの中へと歩き出していった。

 

そこで彼女は、自身の”運命”に近づく……

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、その娘。私の連れなんですけど」

 

「さあ、速くこちらに……」

 

「うっはぁ~~~。近くで見るとほんとに凄い美人さんだ~~~」

 

「えっ…そ、そうなんですか……あ、ありがとうございます……」

 

「性格も可愛いじゃん!!!よぉ~~し!!!君はたった今から、さやかちゃんの嫁だ!!!」

 

「えっ!?!お、女の子どうしですか!!?!」

 

「さやかさん。この子、冗談が利かないようですよ。その辺にして置いてください」

 

「おっと、そうでした!!!あたし、美樹さやか。見滝原の可愛い子ちゃんでよろしく!!」

 

「さやかさん、カワイ子ちゃんは死語ですわ。ワタクシは、師づく仁美です。お見知りおきを……」

 

「わ、私は、暁美ほむらです。今度、見滝原中学校に転校します」

 

「じゃあ、同じだね。何時、うちに来るの!!」

 

「明後日には、転校する予定です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は、この日友達を得た。それは、二人の友人もまた同じだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、まどかが付き合いが悪くなって……ちょっと寂しかったんだよね。仁美」

 

「そうですわね。最近、三年生の巴さんと一緒に居るようですし……」

 

「なんか、嫌だな。そういうのって……まどかが三年生に取られたみたいでさ。でも……あの子とまどかも結構、気が合いそうだよね」

 

「ほむらさんは、心臓の病の件で体育はほとんど見学されるそうですから、保険委員のまどかさんとお話しする機会もありますわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから始まる新しい学園生活に期待と希望を寄せる二人……

 

 

 

 

 

 

 

「………いつか訪れる。最悪、それはこの世界すらも飛び越える災厄……」

 

「……何が見えたんだい?」

 

「えぇ、今まではハッキリと見えたわ。いくつモノ世界を破壊する”災厄”の根源が……でも今は…黒い闇がただ覆っていて何も見えない……」

 

 

 

 

 

 

暗躍する”白”と”黒”の少女。彼女たちの運命もまた交差する……

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

「……鹿目さんなの?」

 

「クラスのみんなには内緒だよ♪」

 

少女は”魔法少女”の存在を知る……それは”崩壊へと至る運命”始まり……

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!!まどか、あんた一体、どうしちゃったのよ!!!!」

 

「まどかさん。確かにほむらさんは魔法少女の素質がありますが、それを危険な目に遭わせてまで仲間にする必要があるのですか?」

 

 

 

 

「織莉子…本当にあの子なのかい?」

 

「ええ、でも…運命を変えるには……だけどあの子を殺す事が本当に正しい事なのか分からなくなってしまったわ」

 

 

 

 

”奇跡”を願った少女たちの運命に”暗黒騎士”の影が迫る……

 

 

 

 

「奇跡?お前たちのそれは”ホラー”の陰我とどう違いがある。だからこそ言おう…あの子に関わるな」

 

 

 

 

 

 

 

奇跡を売る”インキュベーター”と東の番犬所 神官 ケイル ベル ローズ。

 

「君たちはあの暗黒騎士と暁美ほむらをどうするつもりだい?僕としては暁美ほむらと契約がしたいんだけど君がもう少し効率の良い方法があるって言うからさ」

 

「「「うふふふふふ。そうですわ、あの娘には多くの陰我が集まっています。それこそメシア降臨と同じぐらい面白いことになりますわよ」」」

 

「まさか、世界の崩壊を望んでいるのかい?僕としてはエネルギーが得られれば結果がどうなろうとかまわないんだけどね……」

 

「「「うふふふふふ。あなたの手に余ることがないことを祈りますよ」」」

 

 

 

 

 

 

”希望”と”絶望”の物語の果てに少女が願ったことは………

 

 

「あははははははははは。みんな、みんな消えちゃえ!!!!私もこの世界から消えてしまえ!!!!!アハハハハハハハ!!!!キャハハハハハハ!!!!!!!!」

 

 

 

世界が暗転したとき、”ワルプルギスの夜”が始まる……

 

 

 

 

 

「ほむらくん…僕は…君を……」

 

「先生……私を気にかけてくれたのは私自身じゃなくて、先生のお母さんに似ていたからだったんですね……」

 

 

 

 

 

 





これを行うかどうかは自分次第かなと思っています。



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呀 暗黒騎士異聞 第一部
序  「面影」


普通の人間が決して立ち入ることの出来ない異界に三人の白い少女達が存在していた。

「最近、妙なモノが北の管轄に現れ始めましたね」

「他の管轄でも似たようなモノが現れていますが……」

「そうですね。バラゴ様の計画の支障になるのでしょうか?」

「ありえません、それらは”力”こそは、強いですが、”ソウルメタル”以外の武器でも排除できます」

少女達は互いに微笑みあい、

「「「邪魔になれば”排除”すればいい」」」

「”メシア降臨”は、バラゴ様の悲願。絶対に邪魔はさせません」

三人の白い少女の傍らで、執事服を着た男が無表情にそれを聞いていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?????

”キャハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!”

巨大な異形が子供のような笑うと共に彼女の意識は、黒い闇に落ちていく。

そして、目覚めるとき、よく知る天井が映り”ここへ戻ってくる”。

「……また、ここから始まったのね」

少女はベットから起き上がり、いつもと変わらぬ窓から見える夜を見た。

夜の闇は相変わらず暗く冷たい。これもいつもと変わらない………

彼女の名は”暁美ほむら”。

起き上がり彼女は病室の姿身の前に立つ。

そこに映っているのは三つ網をした冴えない眼鏡を掛けた何処にでもいる普通の少女であった。

「誰も……未来を信じない……」

眼鏡を外し、手の中のソウルジェムを握り締めたと同時に身体の中から立ち上がる力を瞳に向け、視力を矯正させる。

三つ編みを解き、長い髪を肩に、胸に下ろす。鏡の向こうにいる黒髪の少女に対して、

「誰も未来を受け止められない………だったら、私は……」

決意と共に彼女は病室を抜け出した………

 

 

 

 

「私が、ここにいる理由。まどかを今度こそ助けること……」

 

 

 

 

 

 

彼女は知らなかった”この世界”の闇に潜む”魔獣”の存在を…………

 

 

 

 

 

 

勝手知ったる”暴力団”のアジトに入り込み、そこにある銃器を手際よく回収した後のことだった………

”ソウルジェム”が何かに反応するように揺らめいた。

「……魔女?いえ、このあたりに魔女は居なかったはず……」

”魔女”。それは彼女にとって重要な意味を持つ”言葉”である。

「………この揺らめき方……いつもと違う」

脳裏にイレギュラーという言葉が浮かぶ。彼女は、何度も”いつも”を繰り返している。だが、それは同じ”いつも”ではなく、少しだけ違っているのだ。

今回の事態も同じ事と思ったが、確かめるために反応のある場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

「ねえ?お兄さん、私と一緒に過ごさない?」

人気のない繁華街の裏側に妖しくも美しい女性が一人、何処か垢抜けない青年に声を掛けていた。

突然、綺麗な女性に声を掛けられたのか青年は酷く緊張している。

「うふふふふふ、とっても可愛いわね、あなた」

青年の頬を撫で、局部に細い手を這わせる。こみ上げてくる快感に青年は興奮さえ感じた………

「………ほんと、食べちゃいたい」

女性の変化が起こる。胸部から巨大な昆虫を思わせる脚が現れ、青年をがっちりと補足したと同時に喰らった………

「魔女じゃないっ!!?!」

ものかげから様子を見ていた、ほむらは今までの時間軸に存在しなかったイレギュラーに対して悲鳴を上げた。

「あら?あなた人間?いえ、死人かしら?それにしては、活きが良いわね」

女性は四本の腕を生やし、さらに八本の足を出現させたと同時にその本性を露にした。それ”ホラー”は端正な顔を邪悪にゆがめてほむらを見るのだった。

ホラーは、一気に跳躍しほむらのまえに現れた。あまりの跳躍力に驚いたが、直ぐに気を引き締め、これを回避すべく彼女が持つ”能力”を駆使し、その場の”時”を止める。

モノクロになった時の止まった世界で彼女は手際よく、ホラーの身体とその周りに爆弾を仕掛ける。

”時”が動き出し、爆弾が爆発しホラーのその身体を大きく焼き払った。

「……何なの?こいつは……今までこんな奴は、居なかったわ」

正体は良くわからないが、これで終わったと彼女は思った。だが……

「随分と不思議な”力”を使うのね?私たちとの相性はどうなのかしら?」

爆炎の中から、ホラーは何事も無かったように現れた。

「っ!?!!何故!?!」

驚くほむらにホラーは、悪戯が成功した子供のように笑い

「お前達”人間如き”の武器が我ら”ホラー”に通じるものか」

八本の足を大きく飛翔させ、ホラーはほむらに飛び掛った。脚の爪が彼女を貫き、その華奢な身体を拘束する。

動揺していたために反応が遅れ、回避することが出来なかった。時間操作を行おうにも肩を貫かれ、楯を弾かれてしまった。

「くっ!?!」

盾に縋るような視線を向けるほむらにホラーは、

「それがあの”力”の源か……弾いて正解だったな」

(こ、こいつ…さっきの一瞬だけで私の”能力”を把握したの。魔女よりも厄介……いえ、魔女以上よ)

魔女は狂気と本能で動く化け物であるが、こいつは獣ではあるが人間以上に知恵が回る恐るべき魔獣だ。

「フフフフフ、その手にあるものに”命”を感じる。まずはそれを喰らうとしようか」

胸が開き、そこから巨大な口が現れる。

「嫌だっ!!!死にたくないっ!!!!!!!私はまだっ!!!!!あの子をまどかを救えていないのに!!!!!!」

「絶望こそが最大の”ご馳走”」

ソウルジュウムが彼女の絶望で僅かに濁りかける。

”ガシャン”

突然、その場に重々しい足音が響く。それは感情の映らない”白い眼”を持った漆黒の狼であった………

 

 

 

 

 

 

 

????????

「ほう……妙なものが居ると思えば、中々面白い”能力”だな」

その男は黒いローブを纏っていた。彼は、ある目的の為にこの場所に現れた”ホラー”を狩りにきたのだ。

そして、今しがた始まった戦いを見ていた。年は14ぐらいであろうか、そこに居たかと思えばいきなり、別の場所に現れ、爆発する。

「……法術………ではないか」

あれは”ホラー”に対して有効ではない。その証拠にホラーは平然としており、動揺した少女を捕まえてしまった。

少女が何者かはしらないが、知りもしない他人を助ける事を男はしない。何故なら、男の心に”光”など存在しないからだ………

「嫌だっ!!!死にたくないっ!!!!!!!私はまだっ!!!!!あの子を”まどか”を救えていないのに!!!!!!」

叫んだ少女の顔を見た時、男の黄色い目が大きく見開かれた。

少女の顔に男はある”面影”を見出していた。それは男にとって掛け替えのない”存在”だった……

男は、見下ろしていたビルから飛び降りたと同時に、赤紫の光を出現させたと同時に黒く禍々しい鎧を纏った……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は!?!魔戒騎士?」

ホラーは禍々しい鎧を着た男に対して、疑問の声を上げた。

ほむらは、嫌に焦った怪物の声に反応するように背後に現れた”存在”に眼を向けた………

「違うな。俺は、お前を喰らいに来ただけだ」

「!?!お前が、最近我らを喰らっているという、ホラー食いの魔戒…ッ!!!!!」

その瞬間、ホラーは強烈な力に殴られ壁に叩きつけられたと同時にその向こうへと吹き飛ばされてしまった。

砕かれた壁の破片を押しのけ、目の前に居る騎士に眼を向ける。

だが騎士はいつの間にかホラーの目の前に居り、四肢を全て両断する。その剣技は素晴らしいモノであった。

この後の惨劇など、誰も想像ができないほどの………

 

 

 

 

 

 

 

 

達磨にされてしまったホラーを呀は両手でそのホラーを掴み、頭から喰らった……

その光景にほむらは、いいようのない生理的嫌悪感に陥った………

あのおぞましい怪物をそのまま口にして、生きたまま喰らうなど、おぞましいこと以外の何者でもない。

突如湧き上がる嘔吐感に支配され、彼女は激しく嘔吐してしまった。

ある病気に犯されたようにひたすら嘔吐するしかなかった。そして、あまりの現実に対して気を失ってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラーの肉片を喰らうたびに男は力を得る。喰らうたびに黒く禍々しい鎧はさらに禍々しく輝いていく……

全ての肉片を喰らった後に男は言いようのない高揚感に浸った後、うつ伏せに倒れている少女に歩み寄る。

その少女を抱え、愛おしそうにその頬を撫で………

 

 

 

 

 

「………母さん………」

 

 

 

 

 

男 ”バラゴ”の脳裏にある”大切な存在”と少女 暁美ほむらは、瓜二つであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一話「夢幻」

 

 

黒いローブを纏った男が一人、少女をその腕に抱えながら夜の道を歩いていた・・・

少女は病院の入院患者が着る服を纏っている。

目深に被ったフードの奥の素顔には、醜い十字の傷が顔面に刻まれており、

その奥に見える黄色い目は少女の端正な顔に向けられている。

少女は病に犯されているのだろうか?その様もまた彼の記憶にある”母”の面影だった…

まさに生まれ変わりとしか言いようがなかった……

”バラゴは、本当に綺麗な目をしているね”

”父さんと同じ…”

”ごめんね。母さん、早く元気にならないとね”

”バラゴ……優しい子”

幼く無力だった自分を愛してくれた唯一の存在……

少女の顔を見ていると昨日のことのように母の優しい言葉が甦ってくる……

バラゴの記憶にある母の”面影”をさらに重ねる。

「……うぅ………まどか………」

自分が知らない誰かの名前を苦しそうに呟き、少女の瞼から涙が溢れた。

バラゴはそっと少女の涙を拭い、自身の拠点へと歩みを進めた…………

 

 

 

 

 

そのに目は、少女を苦しめる”誰か”に対しての怒りが僅かに存在していた。

「………ここまで似ているのか……」

母も同じだった。あの横暴な”あいつ”の為に身を削り、あまつさえその命をも奪われた………

バラゴにとってあの日ほど忌まわしい日はなかった……

月明かりのない夜の川辺に横たわる”母”……その母を問答無用で切り伏せた”あいつ”……

そして、”あいつ”をこの手で八つ裂きにしたあの日を忘れることはできなかった………

 

 

 

 

 

 

 

それから間もなくして、都市の郊外にある屋敷の一室に一人の少女 暁美 ほむらが寝息を立てていた……

傍らには、ほむらを見下ろしている一人の女性が居た。

 

 

 

 

 

 

 

”エルダ”

「この娘は何だ?バラゴ様は何を考えて………それにこれは……」

エルダは不思議そうに手に取った僅かに濁った”ソウルジュウム”とベッドの上で眠る暁美ほむらとを交互に見る。

ソウルジュウムをほむらの横に置き、何処からともなくタロットカードに似た22枚の”予言の札”を取り出し占った。

「………これは………」

エルダは正位置にある10番目の札”運命の輪”を見た。その意味は、”転換点”を意味していた………

 

 

 

 

 

 

 

”?????”

私は、不思議な場所に居ました……

そこは、私の知らない”森”でした……深々と茂った木々の中を誰かが走っています……

その人は必死で誰かを探しています。私も急いでその後を追いました……

私よりもずっと年上のその人は、必死な声で誰かの名前を呼んでいます……

森の奥にある洞窟の中で、彼は一冊の本を手に取り……

”汝、力を欲するか?”

とても怖い誰かの声が洞窟の中に響き、私は恐ろしくて耳を塞いでしまいたくなりました……

こんな時に、さやかちゃんが居てくれたらと……思うほどに………

”ああ、僕は力が欲しい。いや、究極の……誰にも負けない力が……そのためなら、この肉体も魂を、全てを捧げよう!!!!”

”良かろう……汝に力を……”

本は、自らの意思を持つかのように開いたと同時に溢れんばかりの闇が”彼”を包み込みました………

彼が闇に包まれたのは一瞬でした。その瞬間に彼は………怖いくらいに晴れやかな顔で笑っていました……

”……そうか、そういうことか……力は直ぐ手に届く場所にあったのか……”

不意に彼は振り返り、私と彼は目が合ってしまいました……

その目は、とても普通じゃなくて……恐ろしい何かに手を染めようとしている……そんな感じが……

彼が足早にこちらに近づいてくるのが怖くて、私は思わず逃げてしまいました。ですが、彼は私に向かってきたのではなく……私の背後に居た……今は正面に居る”悪魔”に向かっていったのです。

背後で何かが光ったかのように感じ、振り返ると……そこには、”黄金の狼”が居ました……だけど目は……何も映さない”黒い眼”でした

悪魔は怯えたように”彼”から離れようとしますが、逃がすまいと彼は剣を振るいます。彼はとても強かったです……

悪魔の反撃を尽くいなし、一方的とも言える”強さ”で……そして、それは突然……訪れました……

黄金の鎧が突如大きくなり……

”うわああああああああああああああああっ!!!!!!!!ぐぅあああああああああああああっ!!!!!!!!!”

黄金の鎧が生き物のように動き、彼を食べようとしているように……綺麗だった黄金は、闇色に変わって……

”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!”

今までにない怖さでした。あの悪魔よりも”彼”の方がずっと怖かった……彼は、どうなるのと……

”そのままお前の肉身を鎧に食わせるがいい、そしてお前の魂が鎧に打ち勝つ時……お前は……”

闇色の獣の叫びが終わった時、そこには”闇色の狼”が……感情のない白い眼で”悪魔”を見据えていました………

悪魔は逃げられないと悟ったのか、一矢を報いようとしたのか……”闇色の狼”に対して、襲い掛かりました……

”闇色の狼”は、悪魔を嬲ることを楽しむかのようにその腕を力任せに引きちぎり、黒い返り血を浴びながら、近くの巨木にその身体を叩きつけ……

片腕をなくした悪魔の上に跨って……見るもおぞましい”食事”を始めました……

”闇色の狼”の姿が徐々に薄れ、悪魔の喉笛を噛み切り、その身体を”彼”は食べていました………

全ての肉片を喰らい終わった後、”彼”は、いつのまにか胸に着けていた”アクセサリー”を掲げ、赤紫の光でもう一度”闇色の狼”に姿を変えました……

”今からお前は、暗黒騎士 呀となるのだ”

あの怖い声に応えるように”闇色の狼”は、いつのまにか持っていた剣を掲げた後、何事もなかったように去っていきました………

 

 

 

 

 

黒い騎士を見送った後、この場から逃げ出したくなった私の背後にまた、誰かが……

振り返るとそこには……綺麗な女の子が居ました………

”………まどか………”

とても悲しそうで、それでいて嬉しそうな顔で私の名前を……

 

 

 

 

 

 

「………………」

目覚ましがなる前に少女は目覚めた……

はっきりと思い出せるのは、あの女の子の顔……

「……あなたは……誰なの?」

夢の中の少女に対して、鹿目まどかは問い掛けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴは、ある騎士から奪った秘薬を手に取っていた。

何故かは分からないが、自身の顔に刻まれた十字傷を少女に見せたくないと思った。

母の面影を持つ少女に対して………

秘薬を口に含んだと同時に彼の”顔”が変化する。先ほどの十字傷は消え、黄色い目は焦げ茶色の物へと……

自身の変化を確認することなく、バラゴは少女が眠る部屋へと向かう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

 

当時の私は、”友達”と言うものが分からなかった……いえ、理解できなかったかもしれない……

生まれつき心臓が悪かった私に家族はいつも”大丈夫、きっとよくなるから”、”今度は大丈夫”と言ってくれているが、いつものように私の症状が良くあることはなかった……

いつものように治療の為にこの”見滝原”へやってきた。症状も半年前よりも良くなったので、久方ぶりに見滝原中学校へ転校し、私は”鹿目 まどか”と出会った……

私は自分の名前が嫌いだった……冴えない私に不釣合いなこの名前は、何かの嫌がらせかと思ってしまう。

でも、あの子は…

”……私その、あんまり名前で呼ばれたことなくて……凄く変な名前だし……”

”え~?そんなことないよ。なんかさ、燃え上がれ~って感じで、かっこいいと思うな”

”……名前負けしています……”

”そんなの勿体無いよぉ~、せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ”

初めて人にそんな事を言われた……いつも後ろ向きに物事を考えている私には、とても思いつくことなんてできない……

 

 

 

 

 

 

 

 

私は普通の人ができる事ができない……例えば、体育。

私の心臓は生まれつき心臓の血管が細く、急激な運動をしたり、極度に緊張すると胸が苦しくなってしまう。

何でもないときでも無意味にプレッシャーを感じてしまい、極度の人見知りになった。

当然のことながら、私には友達がひとりも居なかった……

 

 

 

 

 

 

 

転校し、まどかに初めて出会った日の放課後にに…私の”運命”は大きく変わった……

自分自身の情けなさを嘆きながら一人で帰宅していた時に、”それ”は私に語りかけてきた。

”じゃあ、死んじゃえばいいんだよ”

その声は、私にとって凄く魅力的な響きを持っていた。生きていたって、誰かに迷惑を掛けるぐらいなら………いっそのこと……

”じゃあ、はやくこっちにきてよ”

いつのまにかそこは、先ほどまでいた場所ではなく、奇怪な人形が描かれた石畳が足元に広がり、空は赤く、雲はとぐろを巻いていた。

”アハハハハハハハハハハハハ”

少女のような甲高い笑い声が響くと同時に遥か向こうから、巨大な石の門が迫ってくる。

”さあ、死のうよ。そしてこっちにおいでよ”

いつのまにか現れていた落書きのような怪物達。

私は、怖さのあまりに悲鳴を上げた。だけど、こんな訳の分からない場所に救いの手が来るとは思えない……

だけど、そこへ眩い光が私の前に降り立った…

”間一髪だったわね”

”大丈夫、ほむらちゃん”

現れたのは、黄色い鮮やかな衣装を着た女の子ともう一人は、まどかだった。

ピンクの可愛らしい衣装に身を包んだ彼女は、私を見て微笑んでくれた。

”もう大丈夫だよ”

安心させるように微笑んでくれた後に、迫ってくる巨大な門、いえ、”魔女”と向き合った……

その魔女を狩る彼女達は”魔法少女”……

 

 

 

 

 

”ほむらちゃん、心が弱くても、これから強くなっていけばいいんだよ”

 

 

 

 

 

人々の心の弱さに付けこむ”魔女”に対抗する唯一の希望 魔法少女……

だけど、それは……独り立ちすら出来ていない私達少女が盲目に見た”幻”……

 

 

 

 

 

 

最初の時間軸で最期にまどかを見たのは……瓦礫の上で横たわるかつて、彼女だったもの……

街は崩壊し、そらは赤く燃えている。あの地獄の光景は、今での覚えて……いえ、今も繰り返している………

 

 

 

 

 

 

いつも私を助けてくれたまどかが居なくなったことに私は、ひたすら泣いた……

そして願った……

”鹿目さんとの出会いをやり直したい!!!守られるだけの私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!!!”

私は、あの”悪魔”に魂を差し出した………

”契約は成立だ。君の祈りは………エントロピーを凌駕した”

 

 

 

それから、私はいくつもの”時間軸”を渡った……

 

 

 

”ほむらちゃん、過去に戻れるっていったよね。こんな結末にならないように歴史を変えられるって……”

”だからね、お願いがあるの”

”キュゥべえにだまされる前の馬鹿な私を助けてあげてくれないかな”

”よかった……あと、最期にね。もう一つだけお願い。私……××になりたくない”

”ほむらちゃん…やっと名前で呼んでくれたね……嬉しいなぁ”

 

 

 

 

 

 

 

「まどかああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

飛び起きたほむらは、苦しむように自身の胸を押さえていた。

「………何度でも繰り返す…絶対にあなたを救い出すまでは………」

涙を堪え、ほむらは自身の決意を新たに枕元にある”ソウルジュウム”を手に取った。

「そういえば……ここは……」

あの晩、気を失った後のことは知らない。このような場所に連れられたことなど”今まで”の時間軸にもなかった。

あの晩……

”お前達”人間如き”の武器が我ら”ホラー”に通じるものか”

今までに見たことも聞いたこともない魔女とは違う化け物……

培ってきた”力”が一切通用しない”力”。

その後に現れた”闇色の狼”……

”俺はお前を喰らいに来た”

感情のない白い眼は、情け容赦がなく怪物を見据え……喰らった……

そのときの光景を思い出したのか、ほむらは再び”生理的嫌悪感”に襲われる。

「…………あれは、一体。何だったのかしら……」

自分が手も足も出なかった”化け物”を一瞬にして切り伏せた”剣技”、”高い戦闘能力”。

”闇色の狼”について、様々な憶測をたてるが……

「何について、言っているのかは知らんが、私から見ればお前こそ何だと言いたい」

不意に発せられた声に対して、ほむらはそちらへ向く。

そこに居たのは、彼女が知る”魔女”よりもずっと”魔女”らしい不自然なほどに青白い肌の女性が居た……

「…あなたは……」

女性に問い掛ける前に扉の向こうより足音が近づいてくる。

「っ!?!!」

おそらくは自分を此処に運んでくれた誰かであろうとは思うが、油断は出来ない。だが、武器は何もない。

ここは堂々と構えて、相手を見据えようと覚悟を決め、扉の向こうから来る”人物”を待つ……

扉の向こうから現れた人物は、一人の青年……いや、見た目こそは青年であるが、年齢はそれ以上のモノを感じさせる……

「目が覚めたようだね……」

青年に対して、女性は恭しく頭を垂れて迎える。

「………あなたは………」

「僕の名前は、バラゴ……君には聞きたい事がある」

バラゴはほむらが所有していた楯を片手に、話を切り出した………

 

 

 

 

 

ここに”二人”は出会った……

 

 

 

 

望みを叶えられずに心身ともに限界を迎えようとしている少女と唯一の望みを叶える為に、自らの魂を闇に委ねた男

 

二人の”運命”が交錯するとき、”絶望”と”希望”は、黒き闇一色に染まる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話「魔女」

 

 

まどか

最近、夜、眠ることが怖いです。あの怖い夢を見てから、また恐ろしい夢を見るのではと・・・…

悪夢は、自分が犯してしまった罪、不安に対して、それを軽くする為に見るものだと仁美ちゃんが教えてくれました。

悪夢を見るうちは、心は安定しているそうです。でも、どうしてあんな恐ろしいモノを見てしまったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

深い眠りに付いた私は、気がつくと世界の終わりとしか表現できない場所に佇んでいました……

廃墟と化した街、夜なのに真っ赤に染まった空……影が差したとき……

”キャハハハハハハハハハハ!!!!!!!!”

空に、巨大な見たことのない怪物が浮かんでいました。あの”闇色の狼”と同じぐらい怖い何かを感じました……

全てを憎むかのように街を破壊し、狂ったように甲高い笑い声を上げる怪物に対して小さな影が纏わり付いて居る事に気がつきました。

その子は、”闇色の狼”が出たあの夢に出てきたあの綺麗な女の子でした。

女の子は、空を飛び怪物に対して果敢に戦っていました。

”頑張って”

手を握って女の子を応援しました。だけど、私の声が届くはずもなく”怪物”の風圧で木の葉を飛ばすかのようにビルに叩きつけられてしまいました。

”きゃああああ”

臆病な私は顔を覆って叫ぶことしか出来ませんでした。私は見てしまいました叩きつけられた女の子の脚が奇妙にねじれてしまったのを……

女の子は、血だらけになりながらも怪物にもう一度立ち向かおうとしています。思わず、私は”逃げて”と叫びました。

声が届いたのか、女の子は私のほうに視線を向けました。その瞳は気高くて、何故か哀しい色を浮かべていました。

彼女の瞳に対して、私は何か申し訳がない気持ちになりました。とても大切な何かを忘れているような気がして……

”アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!”

理不尽な怪物の笑い声と共に彼女が居た場所が吹き飛ばされてしまいました。小学生の頃にビデオで見せられた”核兵器”で攻撃されたかのように……

”酷い!!!あんまりだよ……”

こんな事を言うのは、誰にでも出来ます。 だけど私には何もできませんでした。彼女の元へ駆けつけて起すことも出来ないのです

ただ、脚が震えて……あの怪物に対しての恐怖だけが先立って、何もできない自分が腹立たしくて……悔し涙がただ零れるだけです。

彼女は、無理やり脚を矯正させて再び怪物に向かいますが、力の差は歴然としていて……

血塗れだった身体はさらに血に塗れて……

”何故、彼女がこんな目に遭うのか?君はそう訊きたいんだよね?”

背後から突然、誰かが私に話しかけてきました。そこにいたのは、猫とウサギを掛け合わせたような小さな生き物でした。

”そこで諦めたら終わりだよ、だけど君なら彼女の運命を覆せる”

その生き物の視線が私が見ていた彼女に向いていました。突然、爆発音が当たり一帯に響きました。気がつくと怪物から炎が上がり、少しずつ地上へ落下している光景でした。

それと同時にあの女の子もゆっくりと地上に……

”彼女、暁美ほむらはよく頑張ったよ。ワルプルギスの夜をたった一人で倒してくれたんだから…だけど、君は彼女の運命を変えたいとは思わないかい?”

私は思わず頷いてしまいました。たった一人で怪物と戦って、それで死ぬなんてあまりにも酷い話です。せめてもう一人だけ仲間が居たらと……

”本当に変えられるの?私なんかが……”

”もちろんさ……だから、僕と契約して魔法しょ……”

突然、その生き物が赤紫の炎で燃やされました。この炎に私は、覚えがあります……私の前にあの”闇色の狼”が”血塗れになった暁美ほむら”を抱えて佇んでいました……

無言のまま”闇色の狼”は、大きく剣を振りかぶりながら近づいてきて……

 

 

 

ジリリリリリリリリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

いつものように目覚ましが鳴ったと同時に彼女の視界に映ったのは、いつもの見慣れた自室の部屋だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……貴方は何者なの?何故、私を……」

ほむらの問いに対して、バラゴは特に感情を出すことなく

「特に他意はない。君が持っているこの”能力”が気になったからかな」

バラゴは、楯を片手に応えた。あの時の戦いで、瞬間移動をしたかのように現れた”術”に対して不思議に思い、操作をしてみたのだが、

彼がその”能力”を扱うことは出来なかった………

ほむらはバラゴの特に何でもないような応えに落胆を示すことなく”そう”と呟いた……

彼女は察することはできなかったが、彼が彼女を助けた理由は……彼女がバラゴの大切な存在に瓜二つだったからだ……

「………それは、他の人が扱えるものではないわ。私達の”願い”がそのまま”能力”になっているから……」

例え同じ”魔法少女”でも他の”魔法少女”の能力を扱うことは出来ない……

「”願い”か……君は、どうやって”願い”を叶えて、”能力”を得た?」

「………それは尋問なの?でも、私も貴方から聞きたいわ。あの化け物と……”闇色の狼”について……」

ほむらは、バラゴに問う。昨日の出来事の”真実”を………

傍にいるエルダの視線が鋭くなるが。ほむらはそれに動じることはなかった……

バラゴとエルダの二人は知らないが、ほむらがかつては心を通わせた者達に”白い目”で見られたことによって何の感情も抱かなくなったことを……

ましてや、他人同然の二人に対して………

「いいだろう。君の持っている情報との等価交換だ」

バラゴの言葉にほむらは無言のまま頷いた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

バラゴは、”魔法少女”と”魔女”について知ることとなる……

ほむらは、”魔獣ホラー”とそれを喰らう”暗黒騎士”の存在を・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ほむら

どうやら、この時間軸にはとんでもない”イレギュラー”が存在している。

とてもではないが、私の力では太刀打ちすることはできない。私の知る”魔法少女”達でも・・・・・・

一番のイレギュラーは私が"それら"と接触を持ってしまったことだ。

「………昨日の”闇色の狼”はあなたなのね……」

あんなおぞましいモノをよく口に出来るものだと内心思うのだが、よくよく思えば、自分達の”魂”を浄化するときも”同様のもの”を犠牲にしていたではないかと・・・・・・

「あぁ、あれこそが僕の姿である”暗黒騎士 呀”だ。こっちにいるのが下僕であるエルダだ」

誇らしげに語る彼の目には、何も映っていなかった。あるのは、あの闇色の狼と同じ………

エルダは、まるで死人のように青白い肌をしていて、人間とは到底思えない。私の知る魔女よりも魔女らしい。

いや、この二人はまともな”人間”ではないのだろう……

それは、私も同じことだ……あの”白い悪魔”と契約した時に、この身は”人”のモノではなくなったのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ

何故だ…この小娘を見ていると妙に苛立ってくる。いや、苛立っているのは僕自身か……

理由は言うまでもなく、僕の母さんによく似た少女が僕の知らないところで苦しみ、傷ついている事が許せない………

遠い昔に奪われたモノと同じものが目の前にあった……彼女を見つけたとき、思わず手を伸ばし掴んでしまった……

全てを諦めたかのような”目”に苛立ちをさらに覚える。”メシア”降臨の為のゲートである、画家を目指し、未来へ希望を抱くあの少女とは正反対の”目”に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの心情を察することなく、ほむらとバラゴの二人の会談は続く……

「つまり君は、”インキュベーター”なるものと契約して”魔法少女”となり、”力”を得たというのか……」

「ええ、私と同じ年齢の少女に契約を持ち掛けて、願いに関連した”力”を与えるわ」

「なるほど……だが、それだけではないのだろう?他に何かあるのではないのか?」

バラゴはほむらの知る”真実”にはさらに残酷なモノが隠れていることを察した。

ほむらもほむらで恐ろしく察しのいいバラゴに対して、内心冷や汗をかいたが、ここで事実を話したとしても彼らに何のメリットはないと思い

「えぇ、魔法少女となった少女は”魔女”という化け物と戦うことを義務付けられるわ。だけど、”魔女”は”魔法少女”の成れの果てなの」

少女が”化け物”になる。その言葉にバラゴは、自身が喰らう魔獣 ホラーを重ねた。

(………ある意味、陰我というわけか。希望の先は絶望か……)

あの魔獣は人間に憑依しその陰我に応じた能力を得る。少女から大人になるからこそ、”魔法少女”は”魔女”になるのだろうか?

(三神官がホラー以外で邪気をもつ存在が居るといっていたな。前々から居たらしいが、最近はさらに活発になっていると……)

バラゴは噂程度で聞いていたホラー以外の邪気を持つ存在”魔女”に興味を抱いた。

「………面白い。その魔女とやらを見てみたい。結界の中には君達が居れば入ることはできるだろう」

「っ!?!!」

突然のバラゴの言葉にほむらは目を見開いた。

「何故…あなたが”魔女”と戦う理由なんてないわ。これは、私のやらなければ成らないことよ。あなたには、関係のないこと」

話の内容によっては、危険に巻き込みたくないという発言だが、ほむらの本心は違っていた。

言うまでもなく、彼女にとって最大のイレギュラーである”暗黒騎士”が介入することでどのような事態が起こるか分からないからだ。

できるかぎり”イレギュラー”は関わらせてはならない。

「私を助けてくれたことには変わりないから一言だけ忠告させてもらうわ。貴方を関わらせたら……魔女、いえ、魔法少女にとって”良くない”ことが起こるわ」

ハッキリとほむらは、バラゴを拒絶する。彼の強大な戦闘能力は、彼女の目的からすれば非常に魅力的だが、それを含めてもバラゴは危険すぎるのだ。

「………それは、そうだ。今の僕は、道を外れた”外道”だからね。だからこそ、違う道を外れた”存在”に興味があるのだよ」

穏やかに語るがその声色には明確な悪意が存在していた。”関わらせてはならない”、そう思い、ほむらはソウルジュウムを輝かせ、変身したと同時にバラゴの手にある”楯”を奪うために飛び掛る。

「………君は、もう少し賢いと思っていたのだが……」

右手を翳したと同時にほむらの意識が一気に重くなった。何かに対して強制的に意識を落とされたように……

「どっ、どういうことなの?……魔法も無しに……こんな真似ができるなんて……」

相手は卓越した剣技による戦闘を主としていると判断していたが、得体の知れない術まで使うのは予想が出来なかった。

「君が寝ている間にその”宝石”を調べさせてもらった。それには”魂”があることを……」

”ソウルジュウム”がある左手を手に取る。

(………くっ、私は何てとんでもない奴に捕まってしまったのかしら!?!)

バラゴは、”ソウルジュウム”に手をやったと同時にほむらの身体に奇妙な痛みが走った。それは、何かに焼かれたような痛みだった。

「くぅっ!?!」

その瞬間、ほむらの胸に奇妙な形をした刻印が刻まれた。それは”ソウルジュウム”にも同様なものが……

「いつ、逃げ出されるか分からないからね。だから君に”束縛の刻印”を刻ませてもらった」

それは、太古の昔に失われたはずの”秘術”。その肉体と魂に楔を打ちつけ、術者の思い一つでその肉体と魂を死に至らしめる呪いである。

これに酷似したもので”破滅の刻印”と言うものが存在する。

「だから君は、これから僕のお願いを聞いてもらうよ。魔女のところに案内したまえ」

「何が、お願いよ……私をこんな風にして……あなた、”人間”じゃないわ」

ほむらの言葉に、バラゴは鑑賞するように彼女の顎に手をやり

「そうさ、今の僕は……”闇”そのものだ。だから、”人間”じゃないんだよ。君と同じくね」

その言葉に悔しそうに唇を噛み、ほむらはこの”男”がこれから起すであろう災いに対して不安を募らせるのだった。

(……ごめんなさい。まどか、巴さん、杏子、さやか……みんな、こんな事を言ってもどうしようもないよね。あなた達を見捨ててきた私が謝っても……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ

何故、君は僕を拒絶する?君の願いは分からないが、この僕の力が必要と思わないのか?

母さんの顔と声で僕を拒絶するなんて……苛立ちを覚える。いや、僕は許せないんだ。

助けられないのなら見捨ててしまっても君のせいではないだろうに、それなのに”運命”として受け入れ、どんな理不尽な目に遭ってもそこから逃げようとはしない……

”あの人が私を選び、私があの人を受け入れた。これは宿命なのよ”

”私達は家族なの。あの人は普通の人じゃない。魔戒騎士なの、過酷な運命を生きているあの人を支えることがどんなに大変なことか”

あいつは、母さんをモノのように扱い、理不尽な目に遭わせた。毎晩のように酒に酔い、その勢いに任せて暴力を振るう。

当然のことながら僕も殴られなかった日はなかった。

だからこそ、逃げようと言った。あいつの、ホラーの居ない地へ行き平穏に暮らそうと……

”ホラーの居ない場所なんて、世界中の何処にもない!!!誰のおかげで、お前達が生きていられると思っている!!!!!”

結局は、いつものように殴られ、修行という名の一方的な暴力を受ける……

彼女の願いがどんなものかは知らないが、どうあってもそこから逃げるということは無いだろう。

傷つき、その果てに命を散らすことは覚悟の上なのだ。だからこそ、僕は彼女をこの手から逃すつもりはない……

この手から離れたら、僕は二度、”大切なもの”を失うことになるのだから……

たとえ怒り、恨みを向けられようとも”母さん”を二度、失うよりはずっとマシなはずだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 工業地帯

辺りが夜の闇を迎えようとしていた頃、工場の片隅でそれは生まれようとしていた……

手に納まるぐらいのアンティークに見える”ソウルジュウム”から生まれたのは……

 

人形の魔女   属性  喪失

 

首だけになった子供用の人形の周りに所々、欠けている”人形”もしくは、部分が徘徊し始めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

?????

「きゅうべえ、この近くに魔女が?」

「うん、僕が気づいた時には既に羽化していたんだ」

工業地帯に見滝原中学校の制服を着た少女が黄色く輝く”ソウルジュウム”を手のひらに載せ、目の前を行く白い猫に似た小動物”きゅうべえ”の案内で奥へと進む。

「最近は特に多いわね」

「そうだね、マミ。そろそろ魔女の結界に近づくよ……」

きゅうべえは、結界の入り口に三人の影を見た。その内の黒いローブを来た”人物”を見た瞬間、その歩みを止めた。

「どうしたの?きゅうべえ、何かあったの?」

「…………マミ。既に誰かが入ったみたいだよ。ここは、先約に任せても構わないんじゃないかな」

”誰か”と聞き、マミの表情に警戒の色が浮かぶ。

「ここは、私の管轄なのに……もしかして、私以外に魔法少女が……」

彼女が知る”魔法少女”の事を思ったが…

「いや、杏子じゃないよ。マミの知らない子だよ」

「じゃあ、尚更行かないと……どんな子か確かめないと……」

「待ってよ、マミ。グリーフシードのストックはあるから……」

きゅうべえの言葉をスルーし、マミ結界に入る前に自らの”ソウルジェム”を掲げ、魔法少女へと変身を果たした。

マミの後姿を見送るきゅうべえは、

「……まったく、”彼ら”とは出来る限り接触はしないようにしていたのだけれど……イレギュラーな事態だ」

 

 

 

 

 

 

 

結界の中は、奇妙な世界だった。壊れたおもちゃ達が暮らす………

「この中が魔女の結界よ。アレは使い魔……」

観念したのかほむらは、バラゴを結界の中へと案内したのだった。追従するようにエルダが続く。

「……………」

背後に居るエルダをほむらは、少しだけ一瞥する。アレから全く言葉を発していない彼女が気になったのだ。

そんなほむらの視線をエルダが気に留めることはなかった。

三人に対して使い魔達が集まり始める。使い魔は、魔女の手下であると同時に人を襲う怪物である。

当然のことながら、三人を襲おうとしているのだ。

「ほむら君、この奥に魔女がいるのかい?」

バラゴに対して睨み、苦渋を舐めるように頷く。

「ならば、先へ進もう」

声を上げずに使い魔達が道を阻み、左右に展開する。

バラゴは剣を構え目の前に居る使い魔に対して踏み込んだ……

 

 

 

 

 

使い魔達の身体が一瞬にして切り裂かれ、破裂し、群は瞬く間にその姿を消滅させた……

 

 

 

 

 

「……………先に進むまでもなかったか」

バラゴが視線を向けると醜悪な顔をした首だけの巨大な怪物が直ぐ近くまで迫っていたのだ。

「どれほどのものか……その”力”我が肉と血と成すのに相応しいだろうか?」

何百体ものホラーだけではなく、バラゴは様々なモノを喰らってきた……

ホラー以外に喰らってきた”者達”を脳裏に浮かべ、バラゴは首飾りを外し、それを掲げたと同時に赤紫の光を纏い、”暗黒騎士 呀”へとその姿を変える。

 

 

 

 

 

黒いマントを靡かせたその背中は、見ようによっては頼もしく見えるがほむらにとってこの背中は自身を束縛する忌まわしいモノだった…………

ほむらを一瞥することなくバラゴは、魔女へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

魔女は、本来戦う相手とは全く違う存在に対して困惑するが、直ぐに攻撃を開始する。

目が見開き衝撃波が呀に襲い掛かるが、呀を動かすことは出来なかった。まるで山のように微動だにせず、それどころか一歩ずつ確実に迫ってくるではないか……

ゆっくり近づくのに飽きたのか呀は脚に力を込めたと同時に一瞬にしてその姿が消えた。

魔女の目に感情を映さない白い目をした闇色の狼の貌が映りこんだ後に自身の結界の上空が映し出された。

呀による拳が振り上げられたのだ。先回りされ、蹴りを加えられ、地上に激しい衝撃と共に落下する。

起き上がり反撃をするが、呀を怯ませることは出来なかった。そのまま魔女を両手で掴んだと同時に魔女の姿が霞み始めた……

声にならないオゾマシイ断末魔の叫びを上げる魔女であったが、それを助けるものは居なかった。

黒い血の霧のような粒子が呀のからだに吸収されていく……そして、魔女が喰らわれた後、結界は消滅した………

 

 

 

 

 

 

 

 

「………思ったほど、足しにはならないようだな」

ホラーの陰我と比べると少し、物足りなさを感じつつ、ほむらの方へ視線を向け

「ほむら君。この魔女の序列はどんなモノだい?」

「………そうね。魔女の中ではあまり強いほうではないわ。それよりも比べ物にならない魔女もいるわ」

「その魔女の名は?」

「………”ワルプルギスの夜”。一ヵ月後に来る 最強最悪の魔女よ」

もはや拒否する権利もないためほむらは、バラゴに逆らうことができないのだった……

「そうか……メシア降臨の前にその”ワルプルギスの夜”を喰らって祝杯をあげようじゃないか。君もそれを望むのだろう?ほむら君」

感情のない白い眼の奥にある黄色い目に”邪気”が浮かぶ。彼が見ているのは、絶対に並ぶものの居ない唯一の究極となった”自分”。

如何なる者が来ようとも決して、自分を止めることは敵わないのだ。

「あなた、狂っているわよ。あなたは、何を私に望むの!!?!!何を企んでいるの!?!!」

「バラゴ様に何を問う。お前は既にバラゴ様の物。それ以上でも以下でもない」

エルダがほむらの正面に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

エルダ

「全てはあの方の思うまま……お前は、何も憂う必要もない。ただ、バラゴ様のお傍に居ればいい」

”あの方の失った大切な人”の生き写しであるお前は、ただあの方の心を慰めればいい。ただそれだけで……

 

 

 

 

 

 

 

結界が崩壊した後、マミは、工業地帯から離れた場所に居た……

その表情は酷く怯えていた。まるで恐ろしい”モノ”を見てきたかのように……

「何なの……アレは……魔法少女でもないのに……どうして魔女を……それにあの子は、どうして……」

 

 

 

 

 



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第三話「騎士」

 

 

見滝原の隣町に一人の少女がいた。隣町の商店街を傍から品定めをするように視線を動かしている。

赤毛が特徴のポニーテールの活発そうな印象を持った少女の名は、佐倉杏子・・・…

視線が近くを通った男性の後ろポケットに刺さっている長財布で止まる。

「あいつで良いか……」

杏子は、人ごみを少しだけ警戒をしてから後ろポケットの財布に手を伸ばし、そのまま自身の懐へと納めた。

「~~~~~♪」

上機嫌で杏子は男が十分に離れたところで反対方向へと歩みを進めるのだが、ここで黒いコートを着た男とすれ違ってしまった。

「そこの人。財布を落としましたよ」

黒いコートの男が手渡したのは、先ほど杏子の懐に納められた財布であった……

しばらくして、納めたはずの財布がなくなっていたことに杏子が驚いたのは割愛しておく………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ達は魔女結界から出た後、拠点とする屋敷に戻っていた。ほむらは、病院へ戻ろうかと考えたが、自身に刻まれた呪いの事を考えてバラゴと一緒に居ることにしたのだ……

彼はどういうわけか自分に執着している。魔法少女に興味があってとも考えたが、それよりも深い思惑を感じていた。

普段なら、武器の調達、自作の爆弾などを製作しているのだがこういうイレギュラーの状況では、どうしても手が止まってしまう。

この屋敷には照明の類は存在しておらず、蝋燭だけが唯一の明かりである。揺らめく火を横目にほむらは、隣に居るエルダに視線を向ける。

エルダはタロットカードに似た22枚のカードを宙に浮かべ、占っている。彼女は魔法を使っていないのにこのような芸当ができるのだ。

「…………ねぇ、あなた。あいつは暗黒騎士と分かったけど、あなたは何なの?」

無言ままエルダは、カードを仕舞いほむらに視線を向ける。

「………………バラゴ様がおっしゃっていただろう、私はあの方の下僕だ」

「そうじゃなくて、あいつが暗黒騎士ならあなたは……」

「………私は、魔戒導師だ。最も今の世に導師は私以外にいないだろう」

淡々と言葉を出すエルダは、興味がないように語った。不自然なほどに青白い肌には相変わらず人間という感じがしない。

「そう……あなたも魔女と戦えるだけの”力”を持っているの?」

「…………お前の同類の成れの果てか……あんなもの恐れるに足らん。最も今の私に恐ろしいモノは何もない」

興味のないようにエルダは自分の事を言う。まるで全てに諦めがついたかのようなそんな冷めた視線だった。

”私なんとなく分かっちゃうんだよねぇ……あんたが嘘ついてるの”

”何もかも諦めたような目をしている”

いくつかの時間軸であの子に言われた言葉が浮かんだ。自分の弱さのために親友を恩人を救えないことを言い訳に、周りを切り捨て体裁だけを取り繕うとしていた、いや、今の自分にあまりに似ていたのだエルダの目は……

「…………だから、あの男に従っているの?あの男は、あなたを仲間としてみているの?」

とてもではないがほむらは、あのバラゴがそのような感情を持つとはどうしても思えなかった。

「前にも言っただろう、お前は、いや私達はバラゴ様の”モノ”私たちの行く末はあの方が決める。だた、それだけのこと」

要するに道具である。あの男は、自身の目的のためにあらゆる物を犠牲にしてきたのだろう……ただ一つの目的のためだけに………

どうしてだろうか、ほむら自身、バラゴに対して言いようのない嫌悪感を抱くことに気がついた……

彼の目的は分からないが、そのために使える駒はとことん利用し、邁進していくさまは………まるで…………

「っ!!?!!」

言いようのない怒りが、自己嫌悪が自分に渦巻くのを感じる。心に呼応するようにソウルジュウムが僅かに濁り始めた……

エルダは、ほむらに向かって先ほど回収したグリーフシードを手渡す。自身を気遣っての行為ではい、まるで主人のお気に入りの道具を手入れするかのような態度である。

「……お前は、バラゴ様のものだ。故に勝手に死ぬことは許されない」

そう一言入れてから、エルダは部屋から出て行ってしまった。軋む音が少しずつ遠ざかっていく…………

ほむらは苛立ちを抑えられなかったのか、扉に向かって近くの花瓶をそのまま八つ当たりのようにぶつけた………

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

何なの……この気持ちは、あの男の事を知れば知るほど、私自身を嫌悪する………

聞けば元々アイツは、魔戒騎士でその道を外れて暗黒騎士になった。暗黒騎士になった理由は、絶対的な力を手に入れるため………

何故、力を欲するのかは分からない………

まどかを救う事を考えれば、暗黒騎士は魅力的な戦力だ。戦列に加えれば、ワルプルギスの夜だって恐れるに足らない……

だけど、暗黒騎士を利用するという選択肢は私にはできなかった。そう考えると、私の中の何かが拒絶する………

その力があまりにも危険だったからだ。でも、それだけだろうか………

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま部屋に閉じこもっていることに気が滅入ったのか、ほむらはそのまま扉を開けるとそこには、エルダが立っていた……

「来い……バラゴ様をお迎えするために……」

エルダの顔から視線をそらし、ほむらは頷く。

お断りと言いたかったが、今の自分が抱く嫌悪感の正体が気になり、それを確かめるために一緒に行くことにするのだった……

 

 

 

 

 

屋敷の外から出た後、エルダの術によって展開された魔方陣の淡い光と共にバラゴが居るであろう廃工場の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

とある廃工場にバラゴは着ていた。時刻は深夜を回りっており、辺りは不気味な静けさを保っていた。

その闇の中に魔獣ホラーは存在していた。西洋の悪魔を思わせる姿をバラゴの前に現れる。目の前の闇から、左右の闇、背後からもその気配が………

それらのホラーに対して鎧を召還することなく剣を構え、その爪は弾き、肉体を切り裂く…

複数の敵に取り囲まれても動じることなく手際よく切り刻む……

切り裂かれた悪魔達は黒い瘴気となって消滅する。本来なら此処で喰らうはずだが、戦っている最中に現れた気配を警戒し、喰らわなかったのだ。

「我が名は、バラゴ。千体のホラーを食らいしとき、メシアと一体となりし最強の力を手に入れる」

バラゴは、現れた気配に対して話し掛けるように問う。バラゴの問いに応えるように周りに雷が振り注いだ。

「面白い術だな。西の騎士 バド」

いつの間にか開いていた扉の前に男が静かにバラゴに歩み寄る。

「知っているかバラゴ。かつてお前のように闇に魂を売り渡した者たちが居たが、誰一人として成功しなかったことを………」

歩み寄り男 バドに対してバラゴは

「だからこそ、この私が……いや、私だからこそ成し遂げられるのだ」

バラゴは不敵な笑みを浮かべ、バドに言葉を返した。

バドは何も言わずに、光を纏い”鎧”を召還する。その鎧は、銀に輝く狼の姿をしていた。二振りの剣 風雲剣を構える。

バラゴもまた、応えるように首飾りを外し、それを頭上に翳し円を描き、鎧を召還する。

その鎧は、先に召還したバドのものとは違い、黒く禍々しいものであった。

その宣言と共に、バドと呀の両名が剣を構える。廃工場で二人の騎士による一騎打ちが始まる。

地を駆けバドは、呀に剣撃を浴びせるが、呀はこれを力押しで返す。バドはそれを利用し、一瞬にして背後に回りこんだと同時に、その姿を分身させ、呀の左右に銀の影が横切り、交差するように向かってきた。

呀は攻撃を受け、鎧から火花が散る。だが、すぐに建て直しバドの本体の首を掴み、力任せに壁に叩きつけるが、バドは身体を反転させて壁を蹴り、地に着地する。

「思い出せ、バラゴ。お前が魔戒騎士になったその日の事を……」

呀は、何も応えることなくバドの言葉を嘲笑うように自身の剣に炎 魔道火を付け バドに切りかかった。バドもこれを一振りの剣で防ぎ、もう一振りで切りかかるがそれを腕で防ぎそのまま両者は組み合った。

呀は蹴りをバドの腹に加え、吹き飛ばしそのまま一閃を浴びせた。一閃を浴びたバドは膝が落ちるも踏みとどまる。それを見逃すほど呀は甘くない、そのまま止めを差すために切りかかるが、バドの姿が一瞬にして消えてしまった……

「バラゴ!!!!今なら、引き返せる!!!!内なる光があることを認めろ!!!!!」

廃工場に木霊する消えたバド声に対してバラゴこと呀は、無言のまま何もいう事はなかった………

バラゴに追従するように現れたエルダとほむらもまたこの声を聞いていた。

「バラゴ様。お見事です」

呀は臣下の礼で恭しく頭を垂れるエルダを通り過ぎ、廃工場を後にする。ほむらは、廃工場の闇に視線を向け、あの声の言った意味を考えるのだった……

(そういうことなの………でもね、私はもう引き返せない。あの男の手に落ちる前から、私の運命は……あの子の為に捧げたのだから………)

ソウルジュウムが装着された左手の甲に視線を向けた後、バラゴとエルダの後を追ってその場を後にした……

このまま逃げても構わないが、少なくともあの男の傍から離れないでいようと思った……

傍から離れたら、あの男は大いなる災いを振りまくから、それを予防するためにと自身に言い聞かせ………

戦っているバラゴを見て、あの背中は最初見たときは自分を束縛する忌々しい物だったが、今先ほど見たとき、今までにない程に”親しみ”に似た何かを感じた……

それを認めるのが嫌なのか、ほむらは苦虫を潰したような表情で歩みを進めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の隣町の外れに一人の男が壁に持たれ掛かっていた。

その男の名が、バド。先ほど、呀と一戦を交えた魔戒騎士である……

「……さすがは黄金騎士 牙狼に師事しただけある……確かに最強の暗黒騎士だ……奴は……」

戦いのダメージを引きずりながら、その場を離れようしたとき、バドは赤毛の少女が佇んでいるんのを見た……

「………あんた、怪我してるのか?」

少女はバドの元に駆け寄った……普段の彼女を知る者から見ればこういうだろう……

あの佐倉杏子が………そんな行動はありえないと…………

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話「再会」

杏子

ああ、むしゃくしゃする。せっかく頂いた財布を掏られ返されるなんて、何なんだよ、一体何処のどいつだ?アタシにこんな舐めた事をした奴は?

苛立ったアタシは普段は放って置く使い魔を憂さ晴らしに狩っていた。

 

 

 

 

使い魔っていうのは、魔女が生み出した分身のような物で”人を喰らえば魔女になる”つまり、”グリーフシード”のなるってこと。

アタシ達、魔法少女にとって、”グリーフシード”なくてはならないモノだ。”グリーフシード”を持っていない使い魔は狩るだけ無駄だ。

狙うは、高い確立で持っている魔女。持っていることが少なそうな使い魔なんて狩るだけ無駄で今回も無駄だった……

 

 

 

 

 

 

使い魔たちを狩ったアタシは、既に静まり返った街を闊歩する。アタシぐらいの年齢の奴は大抵は、寝ている時間だ。もしくは暖かい家に帰っている。

アタシにはそれはない。魔法少女って言う事もあるが、それにアタシは……

何となく冷めた気持ちを持て余していたアタシの目の前に”あの人”が………”おじさん”が居た……

「……あんた……怪我しているのか?」

誰かが傷ついても手を差し伸べることがないアタシは、気がつけば”おじさん”へ向かって駆けて行った………

正面に駆け寄ったアタシを……

「久しぶりだね。杏子ちゃん」

あの時と変わらない声と笑顔でアタシの名を呼んでくれた………

「………おじさん」

 

 

 

 

 

数年前

「最近になって、教会の教義にない教えを説いているようだが、大丈夫なのか?」

「…………そういうあなたこそ、教会の教えすら歯牙にかけることがないのに、私の心配ですか?兄さん」

一人の神父と背中を合わせるようにして話している男が居る。二人は兄弟のようである。

「分かっているだろう…俺達の使命を……」

「ええ、分かっています。救われずに悪にとらわれた魂をさらに死に追いやる”殺し”を生業にしているんでしたよね。あなたは……」

嫌悪感を表情に露にして神父は言葉を返す。

「何度言ったか分からないがホラーに憑依されることは、死を意味する。その苦しみを永遠に続かせるわけにはいかない」

「建前は結構です。あなたのような考えがあるから、世の中は不幸で溢れかえるんです。だからこそ、私は新しい教義が必要だと思ったのです」

「………そうか。だが、お前にも妻子がいるだろう。彼女達はどうするつもりだ?」

「妻と子供達は分かってくれます。だから、兄さんが関わる必要なんてないんです」

「…………………」

拒絶する弟に対して兄は、無言のまま去っていく。

「あっ、おじさんっ!!!!」

去っていこうとする男の前に赤毛の少女が駆け寄ってきたのだ。

「杏子ちゃんか…暫く見ないうちにまた大きくなったな」

駆け寄ってきた少女はそのまま男に抱きついた。

「大きくなっても変わらないな……桃ちゃんも元気かな?」

「うん、桃もお母さんもお父さんも元気だよ」

満面の笑みを浮かべて応える杏子に男は、満足そうに笑みを浮かべた。

「そうか……それは良かった。俺はこれから仕事に行かなければならない。だからしばらく杏子ちゃんには会えない」

「えっ……もう会えないの?」

寂しそうな表情になった杏子に男は視線をあわせるようにして屈み

「そういうわけではない。また、会えるさ。いつになるか分からないが、この近くに着たら必ず会いに行く。それまで待っていてくれるかな?」

杏子を安心させるように頭を撫で、お土産のお菓子を手渡した後、男はその場を後にした………

男が去った後杏子は、

「ねえ、お父さん。おじさん、また会いに着てくれるかな?」

「…………それは分からない。あの人の仕事は、何時死んでもおかしくないからね。杏子、今日のことは忘れなさい」

手を引かれ教会へと行く杏子は振り向きざまに去っていく男の姿を教会の中へ入るまで見ていた……

 

 

 

 

後に男は、風雲騎士 バドの称号を得ることとなった……

 

 

 

 

 

そして……現在 見滝原

「杏子ちゃんか、しばらく見ない間にまた大きくなったようだね」

肩を貸してくれる杏子に対して、バドは”少しかっこ悪いところを見せてしまったな”と内心思ってしまった。

「おじさんこそ、変わらない。なんで・・・・・・・・・」

顔を俯かせた姪に対して、バドはその事情を察した。

呀と交戦する前に、杏子達がいた教会へ足を運んだのだが……少し前に一家が心中した事を知っていた。

風の噂で杏子が孤児になってしまったことも知っていたが、ある事情で会いに行くことができなかったのだ。

「こんな事をいっても何もならないかもしれないが、杏子ちゃんが生きていて良かったよ」

彼の言葉に杏子は突き放すようにバドから離れる。

「何言ってんだよ。アタシが生きていて良いことなんてないから、そんなこと……言うなよ!!!!」

変わらぬ”おじさん”に対して、変わってしまった自分自身に嫌気が差したのか杏子は、背を向けて走り去ってしまった。

「杏子ちゃん!!!!」

バドも急いで彼女を追う。普段なら追いつくのは容易であるが、先ほどの戦闘のダメージが抜け切っていないのだ。

普段なら気を弱くすることはないのだが、気を緩めてしまったせいなのか……彼女の精神的な揺らぎに呼応するように”それ”は現れた。

 

 

 

 

 

 

彼女の周囲が奇妙な風景に変わっていく。それは、たくさんの積み木が積まれている世界だった………

その中でも一番大きな積み木の影からゆっくりと魔女 ”らくがきの魔女”はゆっくりとその姿を現した。

いつのまにか魔女結界に迷い込んでしまったことに軽く舌打ちをして、直ぐに自身のソウルジュウムを掲げたと同時に赤い光と共に槍を携えた魔法少女の姿へと変わる。

「ったく、今日は本当に厄日だ。財布は掏られるし、よりによって”おじさん”に再会するなんて………」

あの日からずっと会いたくても会えなかった人に出会えたことに喜びを感じる一方で、今の自身の現状に苛立ちを覚える気持ちのほうが大きかった。

 

 

 

 

 

 

槍を構え、魔女に向かって杏子は大きく飛翔した。槍を構え覗き込んでいる魔女に一閃を浴びせるが、魔女は怯えた子供のように頭を抱えて蹲る。

彼女を護るようにらくがきのような物体が杏子に特攻するかのように突撃する。それは”らくがきの魔女の使い魔”である。

”ぶぅ~~~~ん”というプロペラの音を立てて杏子の周りを大きく旋回する。その使い魔に釣られるように車に乗った誰かを描いたらくがき、船に乗った誰かを描いたらくがきがそれぞれ現れる。

複数に存在し、杏子を取り囲む。

「厄介だな、この使い魔共」

戦いを仕掛けてくる使い魔たちと違い魔女は、味方を得た子供のように万歳をしている。まるで子供そのものである。見た目も画用紙に描かれた子供そのものだが……

故に杏子は何故かは分からないが、ムッとした。

「……餓鬼は寝んねずる時間だ」

喜ぶ魔女に対して、杏子は槍の柄を二つに分離させその間から鎖が出現し、それを蛇のように操り地上に居る使い魔と上空にいる使い魔の両方を瞬時に切り伏せ、勢いのまま魔女が居る場所まで駆け上がる。

不敵な笑みを浮かべ、左右から交差するように来る飛行する使い魔を再び槍に形を戻して、正面から切り伏せて驚いたような仕草をする魔女を斬りつける。

切りつけられた魔女は、小さな子供のように身体を震わせて泣き始めた。

”ああああああああああああああああん”

泣き始めた魔女の声を聞いたとたん、杏子は意識が奇妙に揺れるのを感じた。魔女の中には精神に直接攻撃してくるものも存在している。

普段なら、対処は可能だが、今の杏子は対処できなかった。理由は言うまでもなく、この結界に入る前に大きく心を乱してしまったからだ。

”ぶぶぅ~~~~ん”

という奇妙な音と共に左から衝撃を受け、杏子は結界の地に伏せてしまった。

「くそっ、何なんだ?さっきのは……」

頭を抑えながら、杏子は直ぐに態勢を立て直そうとするものの使い魔の方が対応は早かった。

”ぷぷぅ~~~”

車に乗った人のらくがきが杏子に向かっていく。これに引かれる光景を脳裏に浮かべながら、槍で防御の態勢に入る。

 

 

 

 

 

「追ってきてみれば、最近の子は、こういう事は当たり前なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

コートを靡かせ、二振りの風雲剣で白い軌跡を魔女空間に描き、杏子の前に降り立ったのは ”おじさん”こと。バドであった………

「お、おじさんっ!?!」

杏子は場違いな驚きの声を上げてしまった。何故こんなところに彼がという気持ちが一杯だった。

「お、おじさんっ!!!は、早く逃げろよ!!!」

バドに詰め寄り杏子に対して、彼は片手で制する。

「それはこっちの台詞だ、杏子ちゃん。大丈夫、奴と比べれば、そうそうこのモノに遅れは取らんさ」

杏子には悪いが、先ほどの魔女と使い魔達の関係を見て、魔女は直接攻撃することが出来ないようだ。だが、相手を怯ませるぐらいの能力があることを把握したのだ。

杏子に背を向けると同時に二振りの風雲剣を構えたと同時に頭上に掲げたと同時に光と共に 狼を模した銀の鎧を召還する。

これこそ、彼の魔戒騎士としての姿 風雲騎士 バド………

「っ!?!!」

驚く杏子を横目に鎧の内で笑みを浮かべたと同時に二振りの風雲剣に雷が走ったと同時に周りの使い魔全てが消し飛んだ。

消し飛ばされた後、魔女は怯えたように身体を大きく震わせる。”泣く”暇など与えるものかと言わんばかりにバドは駆け出したと同時にその姿を二つに分身しさせた。

「ろ、ロッソ・ファンタズマっ?!?」

かつての仲間が名づけてくれた技を口走った杏子であった。

魔女の左右に展開し、それぞれが風雲剣を投げそれが交差するように魔女を切りつけるが寸前の所で通り過ぎたが、頭上でいきなり止まり青い光と共にバドが目前に現れた。

分身は、いつの間にか消えており、”泣く”事よりもそれに気を取られてしまった魔女は驚くしかなかった。

二振りの刃が交差した時、魔女はその姿を霧散させ、消滅した………

それと同時に、魔女結界が消失し、深夜の路上に対峙する様にバドと杏子の姿が現れた。少ししてから鎧が解除された……

「………………」

「お互いに聞きたいことは、あそこで話そうか」

バドが指差したところには、24時間営業のレストランがあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜なのか、客はほとんど居らず、二人の貸しきり状態だった。

「杏子ちゃん。好きな物を注文してかまわないぞ」

「うん、何食おうかな♪って、違うよ!!!」

久々のご馳走に対して、上機嫌の杏子だったが、自身のおじの正体をはっきりさせなければならなかった。

「そうだったな。食事をする前に言っておくと俺は魔戒騎士をやっている」

「魔戒騎士?何なんだよ、それ……」

「簡単に言うと、人を襲う化け物を狩る仕事をしている者達のことだ」

”人を襲う化け物”という言葉に、杏子は自身が狩る魔女達の姿を頭に浮かべた。

「化け物は、決まって何かに憑依する奴だ。今日見たアレとは全く別物だ」

「なあ、それって……正義の味方と化け物の関係なのか?」

杏子の疑問にバドは少し苦笑しつつ

「そういう簡単なモノではない。憑依されるのは人間だ。性質の悪いことに憑依された人間を戻す方法はないと着ている」

「じゃあ、取り付かれた人間ごと……」

「ああ、憑依されたなら斬る以外に方法はない」

バドの言葉に杏子は唖然とした。かつての仲間なら、そういう場面は許さないだろうと思いながら……

「今度はこっちから聞くよ。久々に会ってみたら普通では考えられない”力”を持っているようだが?」

「………おじさんは正直に言ってくれた。だから、話すよ」

杏子は赤いソウルジュウムをテーブルに置き、語りだした……それは一人の少女の後悔だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直で人を救うことに真面目だった父を助けたくて、少女は祈った。

”父の話を皆が聞いて欲しい”と……

その祈りは叶えられたが、祈りは決して幸福な結末を齎さなかった……

表と裏で世界を救うと心に決めていたが、ある時、父は”真実”知った。

少女の事を”魔女”と罵り、自身に絶望し、少女だけを残して、逝ってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシの勝手な祈りが……家族を壊しちまったんだ」

新聞で不幸な人を知るたびに涙する優しい人を傷つけ、絶望させてしまったことに、今も彼女は後悔していた。

「……………」

無言のままのおじに杏子は、

(当たり前だよな。家族を壊し、殺したのはアタシだもんな、軽蔑するよ)

おじは、無言のまま席を立った。”見捨てられた”と思い、杏子は俯いてしまう。数秒たって、彼女はおじに優しく抱きしめられていた。

「お、おじさんっ!?!」

「……何も言うな。お父さんのために何かしようと思ったのだろう、ずっとお父さんの助けになりたかったのだろ。仕事を理由に一人にして、すまなかった」

まるで詫びるようにいうおじに対して杏子の目に涙が浮かんだ。

「どうして…アタシは、父さんを、母さんを、ももを殺したも当然なんだぞ……なんでおじさんは、アタシを責めないんだよ」

「杏子ちゃんを責めても何にもならない。過ぎてしまったことは、”バルチャスの駒”のようにどうあってもやり直すことは出来ない」

さらに強く杏子を抱きしめ、優しくその頭を撫で

「だから、これからは杏子ちゃんが幸せになることだけを考えるんだ。罪を犯したのならそれを忘れるのではなく、忘れずにずっと覚えておくんだ」

他にも杏子が無理をして、進んで犯してしまった罪があることも察したが、それは言うまでもないとバドは思った。

本来の杏子は、人を思いやれる優しい子である。それを否定して罪を言及するなど、余計に杏子を傷つけてしまう。だから、自分が見守ることを誓う。

それが唯一残った身内である自分の務めであるからこそと………

「おじさん……アタシなんかが幸せになっていいのか?アタシは……アタシは……」

「だから、悪人になりきって誰かに罰せられたいのか?それは、単に逃げているだけだ。何時までたっても前には進めん」

おじの厳しい言葉に杏子は僅かに震える。

「だからこそ、前に進むんだ。どんなに罪を犯しても、許されなくても……居なくなっていいという理由にはならない。

生きている限り生き抜かなければならない。そもそも居なくなっていい人間など居るものか」

だからこそ、此処にいてよいと肯定する。その言葉に杏子は涙した。意地なのか杏子は決して鳴き声を漏らさなかった……

そんな姪にたいして、おじは泣き止むまで優しくあやしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話「相違」

 

とある場所にほむらは来ていた。

この場所は、見滝原の学校から離れ、街と工業地帯を結ぶ橋の真下である。

「ニャー……ニャー……」

近づくたびに寂しげな猫の声が聞こえてくる。この声の主をほむらは知っている。

「おいで、エイミー」

物陰から現れたのは、一匹の黒猫であった。黒猫の名はエイミー、別の”時間軸”で、”まどか”が助けた猫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

相変わらずこの子は警戒心がないわね。普通、猫は愛想が良くないはずなのに、この子はどの時間軸でも私やまどかに懐いてくれる。

時々であったけど、さやかと二人でこの子の様子を見に来たこともあった。

”なんで、ほむらばっかり!!!”

と騒がしく言っていたのは、ご愛嬌ね。この子を撫でているとそんな思い出が自然と浮かんでくるのは、私自身の甘さかもしれない。

腕の中で気持ち良さそうにしているこの子を見ていると、私もまどかにこんな風にべったりしていた頃を思い出す。

当時の私は、初めてとも言える友達であるまどかに甘えに似た感情を抱いていた。

「街にはあまり近づかないでよ。車に轢かれたら大変だから………」

まどかは、この子を助けるために”魔法少女”の契約を行った。彼女を”魔法少女”にしないためにもこうして、可能性の芽を摘んでおかなくてはならない。

「それと……夜はここでジッとしているのよ。この世界の夜はとても怖いから……」

つい最近知ったことであるが、”魔女”と同等、それ以上の”脅威”がここには存在している。

それは、あのインキュベーター達が持ち込んだ物ではなく、古からこの世界の闇に潜んでいたというもの……

エイミーが心配なので、私はこの子をこのまま連れて帰ることにした。少し心配なのは、この子が”あの二人”に爪を立てないかだ……

当然のことながら”あの二人”が猫をあやす光景など考えられない。そんな光景があったら、ある意味悪夢だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原にあるマンションの一室で一人の少女がソファーの上で蹲っていた。

少女の名は、巴マミ。彼女も、ほむら、杏子同様に魔法少女である。

彼女は、腕の中に一匹の白い生き物を抱いていた。マミの不安な表情を見上げるように白い生き物 きゅうべえは

「マミ。どうしたんだい?小さな子供みたいに僕を抱きしめて……怖い物でも見たようだね」

「………えぇ、未だに気持ちの整理が付かないわ」

マミの脳裏に恐ろしい断末魔の叫びを上げる魔女の姿とそれを喰らう”闇色の狼”の姿がよぎった。

魔女を喰らうなどおぞましい以外の何物でもない。それにくわえ……

「きゅうべえ、一ヵ月後に”ワルプルギスの夜”がこの街に来るの?」

間違いであって欲しいという願いを込め、

「どこで知ったんだい?マミ。僕も近いうちに言おうと思っていたんだ。”ワルプルギスの夜”はこの見滝原にやってくる」

「来るのね……史上最大の魔女が」

 

 

 

 

 

ワルプルギスの魔女 

結界に潜む他の魔女と違い、結界を必要とせず現れる最大級の魔女。魔女は一般人にはその姿は確認できない。

故にこの魔女が齎した被害は災害として認識される。そして、この魔女と敵対し生き残った者は存在しないとされる……

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね。でも、マミを助けてくれるかもしれない素質のある子をこの間、見つけたよ」

きゅうべえは、場違いな明るい声でマミに提案する。

「っ!?!そのこは、もしかして、魔法少女の素質を持っているの?」

「うんっ!!!」

愛らしく頷くきゅうべえに対して、マミは表情を和らげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさ~~ん。晩御飯、まだ~~~~~?」

妙に間延びした声がリビングから聞こえてきた。居たのは、テーブルの席に着くのは杏子である。

「ああ、今日はすき焼きだ」

「やったっ♪肉だ、肉♪」

杏子とバドは、この町における拠点にしている一軒家に居た。テーブルに二人で夕食を取る姿は家族そのものだった。

「それでさ、おじさん。今夜もやっぱり、狩りに行くのか?」

「いや、今は”暗黒騎士”の討伐を優先しろとのことだ。ホラー狩りは他の魔戒騎士に任している」

「”暗黒騎士”って、おじさん達、魔戒騎士のはぐれ者って事だよな」

「ああ、闇に存在する魔戒騎士のさらに深いところへ踏み込んだ存在だ。闇に堕ちた騎士は斬らねばならない」

バドの言葉に杏子は表情を曇らせた。彼女の苦い記憶が関連しているのだろうか?

「だが、救える可能性がゼロでなければ救える者は救いだす」

「……それって……」

「ああ、確かに暗黒騎士は掟では斬らねばならないが、奴はまだ本当の意味では闇に堕ちてはいないだろう」

「だからこそ、助けるってのか?」

「ああ、そういう事だ。それが俺の騎士としてのあり方だ。まあ、寿命を減らされる制裁は覚悟の上だ」

「魔法少女にもそういう掟があったら、アタシも今頃は誰かに追っ手を差し向けられたのかな?」

「魔法少女の事も良いが、杏子ちゃんにはもっと自分の将来は考えて欲しいものだ」

そう言いつつバドは一つの箱を取り出し、杏子に手渡した。

「おっ♪アタシにプレゼントか?」

上機嫌で杏子は箱を開けた。中の物を見た時彼女の表情が……

「お、おじさん?これって……」

「ああ、明後日から通う学校の制服だ」

「ってっ!!!おじさんっ!!!アタシは、魔法少女だ!!学校に行っている暇は……」

いきなりの事に杏子は席を立ってしまった。

「俺からしたら、杏子ちゃんはまだ子供だ。学べる時にしっかり学んでほしい。杏子ちゃんが虎狼のような人生を歩むつもりでいようと俺が生きている限りはさせん。だから行って来なさい」

「………ったく……こういう時に親面するなよな……」

口答えするようならば鋭い眼光が杏子を射抜く。実力が違いすぎて勝てる気がしないが、それ以前に温厚なおじが怒るとそれは恐ろしいのだ、杏子にとって………

それに……

(まあいいか。ていうか、アタシもこういう生活は嫌じゃないしな)

柄にもないことを思いながら自分が普通の学生であることに思いを馳せる杏子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校の教室で一人の生徒が机に伏していた。

「まどか。あんた、どうしたのよ?最近変よ」

机に伏しているまどかに話しかけるのは、彼女の幼馴染である美樹さやかである。

「・・・・・・さやかちゃん」

顔を上げるまどかの目は何処か遠くを見ているような目で応えた。

「何を憂いているのよ?アンタは・・・」

「うん・・・さやかちゃん。もし、知らない誰かが自分の為に人生を投げ出していたら、どう思う?」

「はぁ?何それ?アンタ、昨日映画でも見たの」

どことなく可哀想な人を見るような目で見る幼馴染に対して、まどかは

「う、ううんっ!!なんでもない!!!帰ろうか!!!」

直ぐに取り繕うように態度を変えて、鞄を持って教室から出ていくのだった。

「そう。アタシはちょっと寄るところがあるから、また明日ね」

「うん。また上条君のところ?」

「まあ、そんなところね」

互いに挨拶を交わして二人は教室の前で別れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかと別れた後、まどかは普段は通らない場所に来ていた。ここは、まどかが初めて彼女と出会った場所であった。

冴えない自分を情けなく思っていた彼女に襲い掛かろうとしていた”魔女”から、”魔法少女”の自分が護ったと言う信じられない話だった……

昨日、自分が契約するに至った猫を探しに来たが猫はいなかった。おそらくは”彼女”が連れ出したのだろうと思う。

「……あの子。ほむらちゃんは、今も私の為に頑張ってくれているのかな……」

出会った事のないのに知っている友達。今も何処かにいるのだろうか?

「考えるだけなら何とでもなるんだよね」

気がつけば、”彼女”が暮らしているであろうアパートへと足を向けていた。ノックをしようと扉の前に立つが、部屋には表札さえなかった。

「あ、お嬢ちゃん。そこに越してくる人、まだ着てないよ」

横から大家と思われる人の声が聞こえてきた。

「えっ?着てないんですか……」

「うん、何でも、越してくる子。親元から離れて一人暮らしをするんだけど……君は越してくる子の友達かい?」

「はい……一応は………」

まだ出会ってもいないのに知り合いですとは、さすがに変だと思う。変に聞かれるのが苦手なのか、まどかはそのままアパートを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、暁美ほむらの戦う理由か………この場合は、今までとは勝手が違うようだな」

アパートを後にするまどかの背に視線を向ける”エルダ”の存在に誰も気づくことはなかった……

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日は先生から大切なお話があります。心して聞くように」

朝のHRで担任である早乙女 和子先生は、詰問するように一人の生徒を指名する。

「はい!中沢君、目玉焼きとは、固焼きですか、それとも半熟ですか」

「えっと、どっちでもいいんじゃないかと…」

指名された中沢は、戸惑うように応える。

「そう、どっちでも宜しい!たかが卵の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです」

無事正解したのか、中沢は気が抜けたようにヘナってしまった。

「女子の皆さんはくれぐれも、半熟じゃなきゃ食べられない抜かす男とは付き合わないように!!!男子は、そんな男にならないように!!!」

思いの丈を言い切ったのか、直ぐに彼女は真剣な面持ちになり

「それでは、転校生を紹介します。入ってきて…」

「そっちが後回しかよっ!?!」

さやかの乗りのいい言葉を気にすることなく、和子は言葉を続ける。

「それでは、佐倉さん。入ってきてください」

教室に入ってきたのは、活発そうな表情をした赤毛の女生徒だった。

(なんだ?あの小さい子…アタシを見て何驚いてんだ?)

教室に入ってきたと同時に自分を驚いた目で見る、鹿目まどかに杏子は少しの疑問を抱いた……

 

 

 

 

 

まどか

なんで……ほむらちゃんじゃないの?

あなたは……ここには、居ない筈だよ……杏子ちゃん……

ほむらちゃんは、何処に行ったの?あなたは、この”時間軸”に居ないの?

 

 





こちらも思い切って掲載しました。

次回の予告を・・・

いつもと違う”時間軸”。今までとは違う”時間”を私は過ごしている。

それでも私の行うことは変わらない。でも、私が居なくとも彼女たちは、彼女たちで動いている。

呀 暗黒騎士異聞 第六話「遭遇」

私の知らない”物語”がそこで始まっていた・・・・・・





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第六話「遭遇」

 

 

鈍い足音を立ててそれは、ゆっくりと歩いてきた。光を通さない暗く深い森の奥から・・・・・・

”KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA………”

片手に下半身を無残に引きちぎられた悪魔の頭部を鷲掴みにし・・・・・・それを握りつぶすかのようにして、”力”を喰らう。

断末魔が森の奥に木霊する。暗い闇に浮かぶ狼の輪郭が崩れ、一人の男 バラゴが現れた。

それを近くでほむらは見ていた、いつもながら凄まじい光景だった・・・・・・

(本当に凄い力だわ。あの男 バラゴ自身も凄いのにそれがさらに力を増すなんて・・・・・・)

そう思いつつも自身の服装にも目を通した。病院服をいつまでも来ているわけにも行かず、バラゴは、ほむらにある服を手渡していた。

それは、魔戒法師が着る法衣。この服を着たとき、彼の目が少しだけ優しい光を灯した。

「気分はどうだね?ほむら君」

ほむらに歩み寄りながら、バラゴは笑みを浮かべる。

「………大丈夫よ。もう慣れたから、気遣いは必要ないわ」

歩み寄る彼の目をなるだけ見ないようにほむらは応えた。その様子にバラゴは僅かに目を細めた。

「そうかい?少々君が無理をしているのではないかと気になっていたのだが……まあいい、ところで”魔女”の方はどうなんだい?」

「………この近くに魔女は居ないわ。ただ、”使い魔”は居るわ」

「なるほど、取るに足らないようだね、時間の無駄だ。このまま”ホラー”を狩る続けよう。付いてきたまえ」

二人は森から街へと移動していった。

(…………アイツは、どうして”究極の力”に拘るの?あのままでも、アイツに勝てる奴なんて居るはずないのに……)

ここ数日、バラゴ達と居を共にしていて彼の凄まじさをほむらは理解していた。圧倒的な戦闘能力と力に対する狂おしいまでの執念を……

今まで、様々な者達と関わってきたが、彼と比類する存在は居ない。彼ならば、最強最悪の魔女”ワルプルギスの夜”ですらも倒すことは可能であろう……

彼と接触できたことは喜ぶべきイレギュラーである。暁美ほむらの目的を達成するためには……だが………

「ほむら君。”ワルプルギスの夜”とは、どのような魔女なのだい?」

接触を持った時から積極的に魔女狩りに興味を示し、行動を共にしている。

「結界を必要としない超弩級の魔女よ。性質は”無力”……」

「………無力。力のない魔女という意味なのか?」

「分からない。なぜ、そんな性質の魔女がアレほど巨大な力を持つのかなんて、分かっているのはアイツの姿は元の姿と大きく違っている」

「姿が違う?」

「ええ、アイツは複数の魔女の集合体なの。一体の魔女が様々な魔女を取り込み今の姿になったらしいわ」

「……………」

何かを思うように目を細め、二人はそのまま会話もなく新たなホラー狩りへと向かうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

”全てのホラーを狩る”

 

 

 

 

 

 

”全ての魔女を倒す”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転校生というのは珍しいのか、杏子はクラスメイトに囲まれていた。その杏子は少し困惑していた。

「ねえ、佐倉さんは前は何処の学校にいたの?」

「クラブは何処?」

「ああ、前はミッション系の学校に行ってて、色々遭っておじさんの世話になってる」

「色々って?」

「アタシ、親が居なくて……」

「ごめんなさい」

「良いんだよ。もう過ぎたことだ、今はおじさんが居るし」

暗くなりそうな雰囲気に対して、杏子は気にしてないと伝える。

「でも……」

「でももじゃねえ~よ。アタシが気にしないっていうから気にしない。この話は終わりだ」

”パン”と手を叩きその場を締める杏子であった。勝気な笑みを浮かべていた。

「転校生 佐倉杏子さん、あなたを姐さんと呼ばせてください!!!!」

「えっ?なんだ、それ?」

さっそくであるが、この時、クラスメイトから”姐さん”と呼ばれ、慕われるようになった。

「私は、美樹さやかと申します姐さん、アンタの心意気に惚れやした!!!」

「えぇ~~、こういうのってさ、普通、男同士での暑苦しい場面じゃねえの?」

最近見た昔のドラマの再放送にあった妙に暑苦しい”刑事ドラマ”を浮かべる。

”ジョーっ!!!”

”アニキっ!!!!”

こんな事を言っていたと

「えっ!?!女同士でだなんてっ!?!い、いけませんわ!!!!」

急に顔を赤めらせて身悶えし始め、そのまま教室の外に走り去っていった。ガラス張りの教室なのでその姿はよく見えた……

「よく見えるな~~~って、この教室って丸分かりじゃねえかっ!!?!」

「おおっ!!乗り突っ込み!!!姐さん!!!流石ですよ!!!!」

「うるせえっ!!姐さん言うなっ!!!」

このやり取りで杏子は初日で上手くクラスに溶け込むことが出来た。その後も色々とあったが、授業は問題なく終えることが出来た…

 

 

 

 

 

 

杏子

……おじさんに勉強教えてもらわなかったら、絶対に恥をかいてた……

”杏子ちゃん、勉強は今、出来るうちにやっておこうね”

学校に行くのが決まってから、やれることはやてとこうと言わんばかりにおじさんに勉強を教えられた。

とにかく厳しかった。アタシの為を思って厳しくしてくれるおじさんには、感謝しておいたほうがいいかな?

”杏子ちゃん、そこ・・・・・・”

怒鳴らなかった分、細かいところを突いてくるのは勘弁してもらいたかった・・・・・・

聞くと魔戒騎士の教育は大体が厳しいらしい。話だと最高位の黄金騎士は財閥のトップというから驚きだよ・・・

昼間は財閥のトップで夜はホラーを狩っている。どこの蝙蝠男だよって言いたくなった………

蝙蝠男ってのは、この間おじさんと一緒に行った映画で見た奴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすが姐さん!!!!動けば男子を圧倒し、頭も良いし、天は二物も三物も与えたって事ですか!!!」

「おいおい、アタシをそんな風に褒めたって何にも出てこないぞ」

満更でもないのか、少し照れる杏子であった。このように褒められる事が中々、なかったためである。

(運動に関しちゃ、自信があったし、アタシはこれでも”魔戒騎士”の血筋だしな)

ここ数日で分かったことだが、杏子は自身の中に”魔戒騎士”の血が流れていることを誇るようになっていた。

父はこの血筋を嫌っていたが、父が思っていた程、恐ろしい血筋ではないと杏子は考えていた。

父が血筋を嫌っていたのは、杏子の祖母に当たる人物が病魔に犯され、そこにホラーが付けこみ憑依され、ホラー毎祖父が斬ったのだ。

自分の一族にそんな事情があったことにも驚いた。あの優しかった父には耐えられない事実だったのだ。だからこそ、力ではなく、心による救済を求めた……

”弟のやろうとしたことは、間違いではない”

話してくれたおじは、

”だからこそ、俺は弟の血を引いている君を護りたい。これ以上、関わりのある人を失いたくないからな”

護りたいって言われたのは悪い気がしなかった。むしろ杏子は嬉しかった。

「ねえ、鹿目さんが上級生に呼ばれているみたいだけど、美樹さん。あの先輩知ってる?」

クラスメイトの一人が入り口の所に居るまどかと上級生に視線を向ける。

「あたし、知らないわよ、あの先輩。まどか、少し困ってるわ」

さやかの知るまどかは、人見知りなのだ。傍から見ても尋ねてきた上級生の対応に困っている。

「よ~~し、ここは、さやかちゃんが人肌脱ぎますか」

困っている幼馴染をフォローするためにまどかの下へ向かおうとするが、

「さやか、アタシが行くよ。マミとは知らない仲じゃないからさ」

「えっ!?!姐さんの知り合いですか!?」

「姐さん言うな!!!話してくるから席を外すぞ」

入り口に居る二人へ杏子は赴くのだった。

<久しぶりだな。マミ>

久しく使っていなかったテレパシーを使いながら………

「あなたっ!!!佐倉杏子っ!!!どうしてここに居るの!!!?!」

<せっかくテレパシー使ってんだから、こっちで答えてくれよ>

 

 

 

 

 

 

 

 

マミ

きゅうべえに教えられた鹿目 まどかさんにコンタクトを取りに、二年の教室にやっていた時、もう二度と顔を合わすことがないと思っていたあの子が居た・・・・・・

佐倉 杏子が・・・・・・

「あなたっ!!!佐倉杏子っ!!!!どうしてここに居るの!!!!」

<せっかくテレパシー使ってんだから、こっちで応えてくれよ>

直接、話しかけてきた佐倉杏子に対して、私は思わず……

「ここ”見滝原”に何をしにきたというの?」

あの時と同じように冷たい言葉を返してしまった。目の前に居る鹿目 まどかさんが居るにもかかわらず……

「ったく、相変わらずだなって…これはアタシのせいか」

何かを考えるように佐倉杏子は目をつぶり、

<そこの小さいのの勧誘は、辞めて置けよ、マミ。アタシは魔法少女を増やすのは、反対だかんな>

ずるい事に口に出せないことを言って来た。

<そう…あなたの取り分が減るからなの?でも、きゅうべえに認められたのなら、関係がないとは言えないわ>

<そういう話じゃねえよ。そいつは、誰が見ても一般人だ。アタシ達のような厄介ごとを背負うことはねえ>

魔法少女を”厄介ごと”と言うなんて……今は、引いた方がいいかもしれない。ここで騒ぎを起して目立つのは……

まだ三週間はある……ワルプルギスの夜が来るまで………

鹿目 まどかさんに打ち明けるのはもう少し後でも構わない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

私のところにマミさんが尋ねてきました……私じゃない私はインキュベーターと出会って、マミさんと出会った……

そして、ほむらちゃんとは、考え方の違いで何度も敵対して、話を聞かないで……いつも……

本当は寂しがりやの先輩。似合わない戦いをずっと一人で……最期も……

私のために頑張ってくれたほむらちゃんの為にも、マミさんは他の魔法少女と協力して欲しい……

そうすれば、きっと”ワルプルギスの夜”も………

教室を出て行ったマミさんを追いかけてしまった……

今も頑張っているほむらちゃんの為に私が出来ることをしなければと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子

あの小さいの、何でマミを追いかけてんだ?

もしかして、きゅうべえの奴に何か言われたのか……だったら、言っておかないといけない。

安易に”奇跡”になんて手をだすんじゃねえって……安易な”奇跡”は、あいつら、”ホラー”に取り付かれるのと大差ねえ事を……

マミ。寂しいからって、誰かを巻き込んで”人生”を無駄にさせんなよ!!!!

「姐さん。まどかがあの先輩を追いかけていってしまいましたけど…」

ったく、同い年なんだから、敬語で姐さんって呼ぶな!!!!!仕方ねえ、こいつでも居ないよりはマシだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、さやか。友達が誰かの為に自分の人生を投げ出そうとしていたら、お前は止めるか?それとも喜ぶのどっちだ?

 

 

 

 



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第七話「魔法」

 

 

三日前…

 

 

まどか

 

とても哀しいあの子の戦い。誰にも分かって貰えず、本当はすごく泣き虫で弱いのに、”私なんか”のために全てを犠牲にして…

絶望して、誰かを呪っても良いのに……一言で良い、”お前のせいで、私は”と罵ってくれても構わない。

自分の”理想”の為に、死を見せつけ、無責任な約束をしてしまった……それが例え、私じゃない私でも、何だか許せない……

 

 

どうして、魔法少女なんかになったの?

何故、話を聞いてあげなかったの?

自分が価値がない?少しでもカッコよくなれたら?

 

 

 

ほんの些細なことを願ってしまったために、私は話を聞かずに、ほむらちゃんを悲しませ、今も、繰り返させている………

自分自身が”呪い”を振りまき、他の皆を…世界の全てを滅ぼしてしまった……

私じゃない私達……どうして”契約”をしたの?あなたの軽はずみな願いが、人一人の人生を、他の人達の人生を滅茶苦茶にしてしまった事を……

 

 

 

 

”嫌だよ……こんなこと…いやだよ………”

 

 

 

 

それは自分じゃないと言われても割り切ることなんて出来ないよ……

今も繰り返されている”事態”に私は、泣いてしまった……

 

 

「何故、泣いているんだい?僕に言ってみなよ。何とか出来るかもしれないよ」

 

 

見計らったように私の傍に現れたのは………キュウべえ……いえ、インキュベーター……

知っているんだよ。あなたの言葉がすごく薄っぺらくて、感情がないことを……

皆を苦しめていることに、心が痛むことがないことも……

 

 

「おや?その手に持って居る物は、何だい?僕をどうするつも……」

 

 

最期まで言わせない。気がつけば、私は鋏の切っ先でインキュベーターの脳天を差していたのですから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の工業地帯に近い湖の近くに彼女 暁美ほむらは居た。湖の底、さらにはその周辺を見ている。

「今までの統計だと、この時間軸だとここに来るわね」

決まって巨大なスーパーセルが発生し、都市は壊滅的な打撃を受けてきた。

真夜中のためか、人一人居ない。街頭の明かりが湖面に揺らめき、周辺は異様な静けさと雰囲気を保っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

ここのところ、色んなことがあっていつもの準備がかなり遅れているわ。

一番の原因は、バラゴに関わってからね。イレギュラー……今までにも、私とは違う系統の”時間”を操る魔法少女が居て、その事をよく覚えている。

必要な銃器の準備もそうだけど、対ワルプルギスの夜への準備も行わなければ………

戦力だけなら、バラゴ、いえ、暗黒騎士 呀一人で足りている。でも私は、彼を戦力としてはしていない。いえ、そうすることができない。

無謀かも入れないが、私は暗黒騎士をワルプルギスの夜諸共、倒すことは出来ないかと考えている。理由は言うまでもなく、アイツが途方もなく危険極まりないからだ。

ワルプルギスの夜を倒した後、どんな大きな災厄を齎すか……誰の目にも明らかだ。正義の魔法少女故に見逃せないというわけではない。

あの危険な奴と接触してしまった自分自身の”責任”。この事態に関わらせてしまった自身の……

「?ソウルジェムが揺らいでいる……この揺れは……」

このパターンは、いくつもの時間軸で見てきた。そう……この激しく反応する揺れは……

”……あたしって、ほんとに馬鹿”

ソウルジェムがグリーフシードへ変わる反応だ。まさか……

視線を向けると手すりに寄りかかる私と同年代と思われる少女が居た……

「………………」

見滝原の制服ではなく風見野の制服を着ている。近づくと鼻を刺すような腐敗臭が漂ってくる。彼女の身体は・・・

「あなた……、もしかして魔法少女?ねえ、私って悪いことをしたのかな?」

街灯に照らされた彼女の顔は……崩れていた。そう、ソウルジェムが身体から離れて、かなり経った後にソウルジェムが戻ったようだ……

「………それは、あなたが望んだことよ。そうなることは、覚悟の上だったはず」

「教えてくれなかったわよ!!!キュウべえも!!!!ほかの魔法少女も!!!!!皆、皆!!!!自分のことばっかり!!!!」

言われなくても分かるわよ。誰もが自分の願いの為に”魔法少女”になることを選んだのだから……誰のせいにすることなんてできない……

彼女の負の感情に呼応するようにソウルジェムの穢れが更に濃くなる…ここで魔女になられても厄介だ……

グリーフシードを渡そうとしたが……

「こんな身体でどうしろというのよ!!!!!こんなゾンビみたいな!!!!!腐った身体で!!!!!誰が感謝してくれるのよ!!!!!!」

怨嗟の声は、響く。

「私は願った!!!!!皆を護って、誰も不幸にしないことを!!!!!!その報いがこれ!!!!!皆、不幸になればいい!!!!あいつも、みんな、あんたも!!!!!」

その瞬間、ソウルジェムが砕け散り、グリーフシードが生まれ、黒い奔流と共に結界と共に魔女が姿を現した……

抜け殻となった身体は、手すりを越えて湖へと堕ちていった……

 

 

 

この魔女は……確か………

 

 

 

 

”盾の魔女”   性質は 哀れみ

 

 

 

 

その姿は魔女というよりも、鬼女に見える。そう思わずに居られないのは、他の魔女に比べて姿は人間らしいが、その表情は険しく、恐ろしいモノだからだ。

右手に持った巨大な鉈を振りかざしてきた。左手にはその名を示すように盾を…そして背中にも………

 

 

 

こいつは、こうやって生まれた訳か………魔女の誕生を見るのは、初めてではないけれど…… 

 

 

 

 

ソウルジェムを輝かせたと同時に私は、魔法少女となりこれと対峙する。

 

 

 

 

 

 

元々ストックしていた銃器を構え、”盾の魔女”に攻撃を開始する。弾薬を盾で弾きながら前進して、その歩みにあわせて盾の形を模した使い魔が四方に展開する。

丸い盾、四角い盾、逆三角形の盾と姿は様々だが、共通しているのは血走った恐ろしい目を持っている。

私を恨むかのような…目は………、

使い魔達が盾本来の使い方ではなく、突進してくるさまは意表をついてくるが、私には通じない。

時間を停止させ、この場から離れ、魔女の背後に回り、マシンガンを構え、連射したのち、時間停止を解除する。

弾薬は魔女の体に直撃し、激しく震わせた。その間に爆弾足元に置き、止めを刺す……結界内凄まじい爆風が吹き荒れる。肌に付くのは熱気と火薬の匂い……

思ったとおり…盾の魔女というように、こいつの防御能力は桁違い。倒すにはそれなりの爆薬が必要………

ここのところ、バラゴと一緒に”魔女”、”ホラー”と言った存在を見てきたツケが回ってきたようね……

鉈を構えて私に振りかぶってくる魔女に対して、後退しようとするが、使い魔達が取り囲む。

時間停止を行おうとしたときだった…………

 

 

 

 

 

その瞬間、結界の空気が淀む……まるで夜が来たような肌寒さを感じる……

そう……あいつが来た。この強烈な存在感を放つのは、あいつ、バラゴ以外に私は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

私の背後に重々しい足音が近づいてくる。いきなり武装した状態で来るなんて……

「君が居ないと魔女結界に入るのは少し手間が掛かるようだ……」

隣に立ち、白い目が私を映した。

「こういう事があるのなら、予め言ってくれないか?それに”ワルプルギスの夜”の対策は、私一人居ればことは足りる」

その力を見せつけるように、盾の魔女に向かい、振りかぶった鉈を剣で受け止めず、そのまま左腕で受け止め険しい顔を鷲づかみに、近くに居た使い魔にぶつけるように投げ飛ばした。

盾の魔女は呀から逃れようと使い魔達をその進路に展開させるが、呀は、それらをたった一突きの拳で貫きそのまま奥にいる魔女を再び鷲づかみではなく、構えた盾諸共その半身を吹き飛ばしてしまった……

魔女はホラーに比べて、味が薄いと言っていたから、今回の魔女は喰らうに値しなかったということか……

半身を吹き飛ばされた魔女はそのまま倒れ、結界が崩れ、消滅していく……

あの魔女、かなり厄介な部類に入るのだけれど……剣を使うまでもなかったなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が消滅した後、バラゴは鎧を解除した。振り返ったほむらを見たとき、僅かに表情が強張った……

 

そう彼女の背後に広がる水面は、彼にとって忘れることの出来ない忌まわしき”悪夢”を象徴とする物だったからだ……

 

 

 

………崩れ落ちる愛しい母……冷たい水から引き上げた身体は、更に寒かった……

 

 

 

 

 

その光景と今のほむらが重なったのか、バラゴはその手を無理やり取った。

 

 

 

 

「……何?」

ほむらの手を取ったバラゴの手が少しだけ震えていたことに、ほむらは少しだけ驚いた。

「………あなた……」

察しられたくないのか、バラゴは直ぐに手を離し

「着いて来たまえ。今晩は、このまま拠点に戻ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……現在

 

 

「待ってください!!!マミさん!!!」

まどかは、廊下を歩くマミに呼びかけた。

「あなた?どうして、私の名前を……一言も言っていないんだけれど…」

マミは怪訝そうに眉を寄せ、まどかを見る。まどかはハッとしたように

「あ、あの……キュウべえに聞いたんです。この街を護ってくれてくれる魔法少女は、巴マミさんですって…」

「そう…キュウべえが……」

自身の”友達”が味なことをしてくれたことにマミは頬を緩めた。その表情にまどかの心に僅かながら影が差した。

「はい…この間も契約してほしいと言ってくれたんですけれど……怖くて、決められなかったんです」

「そうね。魔法少女は願いの為に戦い続けなければならない。簡単には決められないモノね……」

優しそうに微笑むマミに対してまどかも

「そうですね。私、自分に自信がなくて、でも誰かの為に戦い続けることを続けられるといわれれば……」

そっちも自信がなくてと小さく呟いた……

「だから、あなたの納得の出来る答えを見つけてね。後悔のないように……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

何だか、嫌だな。嘘をつくのって……私は知っているんですよ。

マミさんが、一人生き残ってしまって、それをずっと後悔して、自分の為じゃなくて、誰かの為に”魔法”を使ってきたことを……

でも、この事を言う事はできません。未来を、事情を知っているからといって、運命を変えられるわけじゃないから………

これを変えるには、一人じゃなくて…みんなの”力”があれば………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、私は迷い込んだ”物語”に少しだけ浮かれていたかもしれません。

だって、傷だらけのほむらちゃんを抱いた”闇色の狼”……暗黒騎士 呀の存在を忘れていたのだから………

私に向けられた感情を映さない白い目に映った”殺意”と”憎しみ”を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

「姐さん。この後、予定ありますか?」

「だから、姐さんはやめろっての……」

「杏子さん。私も姐さんて呼ばせていただいても……」

「お前もかよっ!!!!」

さやかとそれに応じる仁美に対して、声を上げる杏子であった。

「いいじゃないっすか…姐さん」

肘で突きながら、笑うさやかに杏子は内心、”このやろう”と思ったのは言うまでもなかった……

「これから、一緒に歓迎もかねてお茶ってのはどうですか♪」

「良いですわね」

こういう風に誘われるのは、久方ぶりなのか杏子は

「ああ、いいぜ。おいしい所紹介してくれよ」

「さっすが、姐さん!!!よ~~~し、行きましょうよ!!!」

さやかは声を上げて先導し、教室を出る前に

「まどかももちろん来てくれるよね」

話を振られたまどかは

「あ、うん。もちろん行くよ」

応えたまどかに対して、杏子は少しだけ眉を寄せた……

 

 

 

 

 

 

 

杏子

あの後、何もなかったみたいだが、この小さいの。まさかと思うが、願い事を決めようとしているのか?

だったら、アタシは全力で止める。魔法少女にしようとしているマミもな……

たとえ、嫌われても”人生”を投げ出してでも”魔法”なんか求めるなんて間違ってる事を………

 

 

 

 

 

とある閉鎖されたビル内部にて……一匹の白い影が躍り出る。その口元には、黒く淀んだ”グリーフシード”が加えられていた………

 

 

 

 



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第八話「契約」

 

 

見滝原氏の郊外にある屋敷の一室でほむらは、手帳に刻まれた日付に目を通していた。

印がつけられた日付は、本日。いつもなら、彼女が転校初日を迎える日だった。

 

 

 

 

 

ほむら

今日は、私が転校する日だったはず。でも……今は、学校へ言っている場合ではなくなっている……

この時間軸に来た時に接触したイレギュラー 暗黒騎士 呀と関わってしまった事で彼の動向に目を向けなくてはならない………

いや、これは単なる言い訳。真実は、あの男が私を束縛し、どういうわけか、手元に置きたがっているという…

転校初日の下校時、まどかとインキュベーターの接触を防ぐために、それを狩る事も何度かしていたが……今日は、そうすることに戸惑いを感じていた。

少し前の夜に、エルダがどういう訳かインキュベーターの屍骸を持ってきたことから、この戸惑いは生まれていた……

最初はエルダが狩ったのかと思ったが、エルダが私に気を使ってくれたとは考えられない。聞けば、まどかの部屋の窓の下に落ちていたという……

それもまどかの使っていた鋏の切っ先が刺さっているという奇妙なおまけも付いて………

これは、どういうことなのだろうか?何故、まどかがこのようなことを……この時間軸のまどかは、今までとは違うとでもいうのだろうか?

そんな私の疑問は悩みが増すだけで晴れない………

「………誰も未来を信用することはないだろう。実際にその愚かさを自身が味わうまでな」

薄暗い影に立っているのはエルダ。いつものように人間という感じがしない女……私と同じように何もかも諦めた目をしている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それは、どういうことかしら?」

ほむらは、エルダの言葉の意図を聞きたいのかそのまま彼女が居る影へと進む。

「……………言うまでもない。絶望に至る闇を誰も受け入れられないからだ」

エルダは、どこか遠くを見るようにほむらに視線を向ける。その視線は、久方ぶりに知り合いにあったようなモノだった。

「あなたも未来を見た……というの?」

「そうだな。私は魔戒導師。運命を占い、その行く末を見るもの……」

淡白に話すエルダにほむらは、

「その行く末を変えることは……」

「………出来なかった。私が、その”未来”を信じることが出来なかったからだ」

「どういうことっ!!?!」

淡々と話すエルダに対し、ほむらは思わず声を上げてしまった。

「……お前も私もバラゴ様の”モノ”。互いに素性を知っていても構わないだろう……」

 

 

 

 

 

……かつて、私には想い人が居た。彼は、シンジは誰よりも強く、優しい魔戒騎士だった……

私達は互いに将来を誓い合うほど互いに想っていた……お互いに・・・・・・

ある日、仲間達と共にホラーの始祖 メシアの牙 ギャノンの亡骸を捜す命を受けて出た旅の最中 それは起こった……

そう、それは私には見えていた。二人の仲間が私達を裏切り、想い人の命を奪う光景が……

だけど、私はそれを信じなかった…そのような未来などありえないと否定し、目を逸らしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「未来を見た?」

ほむらは、さらにエルダに詰め寄った。エルダは戸惑うことなく淡々と続ける。

「魔戒導師は、占いにより未来を少しだけ覗くことができる」

 

 

 

 

 

 

そのようにして、私は想い人 シンジを助け幾多の危機を乗り越え、人々を救ってきた。

それがシンジと同じ魔戒騎士の仲間の裏切りがあるなど、未来など……ありえるはずがないと………

故にこの危機をシンジに伝えることはなかった……それは間違いの未来だと……

ギャノンの亡骸を見つけたとき、間違いのはずだった未来は………現実となった……

 

 

 

 

仲間である二人の魔戒騎士の刃は容赦なく私達を斬り付けた。信じた仲間二人によって……

死の淵に瀕した私は、何も映さなくなったシンジの瞳を見た……

冷たくなっていく身体……冷めていく信じてきたもの…掟、信念、護るべき人々……

全てが色あせ、憎らしかった……死の淵から私は、この世の全てを呪った……

 

 

 

 

 

 

 

 

その時にあのお方。バラゴ様と出会った……そして、見たのだ。あの方が齎す 闇の世界を……

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

エルダの話を聞いていて、私は彼女に対して違和感を抱いた。そう、愛しい人を亡くしたはずなのに彼女はあまりに冷淡だったからだ。

感情の揺らぎすらない瞳。私もかつての仲間たちに冷淡に振舞ったことはある。だけど、エルダのように無かった事にはできなかった……

今もそれは引きずっている。故に深く関わらないように……することで自分の心を護って来た……

「あなたは、どうしてそんな風に他人事のように話せるの?後悔していないの?哀しくないの?どうして、そんな風に冷たく話せるの!!?!!」

自分でも驚くほど感情的だ。これでは、過去の私だ…置いてきたはずの………

「………さあな。あの方に忠誠を誓った時、全てが変わった。魔戒導師としての誓いも…シンジへの愛しさも全て……冷め切ってしまった」

やはり淡々と語るエルダの瞳には何も映していない。彼女にあるのは、暗い闇だけだ……

「お前の未来も見た。お前の未来は、暗い闇にある。そこで永遠と繰り返していた……いずれお前も…」

暗い闇を映した瞳が僅かに笑った。それは、まるで知り合いを見つけたかのように………

「・・・・・・・・・あなたと同じようになるって言いたいの?」

否定したい未来。私がエルダのように全てに絶望し、よりによって、バラゴが起すであろう災厄に手を貸す光景なんて………

「私と同じ?違うな、お前はお前でバラゴ様に寄り添うことになる。私とは違う形でな」

私に手を翳した瞬間、エルダの五本の指から金属上に爪が現れた。その爪で私の頬を撫でる。

「お前の目は、全てに諦めが付いている。希望も絶望もない……あるのは、唯一つの約束……」

そうだ。こうされていても私には何の感慨もない。ただ、エルダの言葉を否定したいという想いが微かにあるだけ……

「その約束を果たすだけの価値が”鹿目まどか”にあるのか?」

何を言うか?それこそが私に残った唯一つの道しるべ……それを否定される謂れはない。

「あなたに、何が分かるというの?全てを諦めて、あの男の”道具”に成り下がったあなたなんかに……」

「否定はしないさ。そういうお前もかつての仲間を”駒”として目的達成の手段にしてきたのだろう」

今まで繰り返してきた時間軸での行動は、はっきり言って誇れる物ではない。まどかの為といいながら……行ってきたことは………

「何を動じている?そういう感情は置いてきたのではないのか?過去に……」

エルダの闇色の瞳が更に笑う。笑っているのかどうかさえ分からない。分かっているのはエルダの心には何もない……

あるのは………私は、目の前の女が少しだけ恐ろしく思えた。何もない空虚な人間が………

「っ!?!!!」

何も言わずに私は、エルダの元から去ってしまった。だから気づかなかったエルダが笑っていたことに……

 

 

 

 

 

 

 

 

エルダ

あの娘。いや、ほむらの運命は既に見た。それに至る過去も……

面白い物だった……そして久しく感じていない親しみという物を覚えた……

何の取り得もない何処にでもいる少女が”希望”を求めて、”絶望”に至る物語は……

唯一つの約束を果たすために…全てを犠牲にしてきた様も………

そうバラゴ様のようだった……あの方の始まりは、”誰よりも強い騎士になること”、”母を死なせてしまった”こと……

最初にほむらを見たときは、バラゴ様の考えが良くわからなかったが、ほむらの未来と過去を見ることでよく分かった……

バラゴ様にとって大切な方の写し見であるほむらは、かつてのバラゴ様の果たせなかったことをほむらを利用することで果たせる。

そして、ほむらがバラゴ様に抱いている感情も……臣下としてなら、あの態度は許せる物ではないが、ほむらの目は気に入っている。

あの全てに諦めた目。そして僅かに残った道しるべは決して希望などではない。アレが砕かれたときのほむらは、どのような顔をするだろうか…

それを思うと私は、久しい感じを頬に覚えた。そう……私は笑ったのだ………いずれ”同胞”となる少女に対して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姐さん、ここですよ。アタシのお勧めは」

さやかが先導して、一件のカフェに入っていく。そのお店を見て、杏子は

「あ、ここ、一昨日、おじさんと一緒に来たところじゃん」

入学祝いという事で外に食事に来た帰りに寄った所だった。

(意外だったな。おじさんがアタシに似て甘党だったなんて……いや、アタシがおじさんに似たのかな?)

「えっ!?!ここ姐さんのご用達だったんですか?」

「ご用達って言うほどじゃねえよ。まあ、ここのケーキは美味いから入ろうぜ」

「さっすが姐さん!!さやかちゃんへのフォローは完璧っすね」

「ったく、姐さんっていうなよ」

杏子、さやかの二人に続くように仁美もまた店へ入店する。三人に遅れるようにまどかも続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

私の知っている時間軸と違う。どうして、ほむらちゃんじゃなくて杏子ちゃんが此処にいるんだろう?

それに、杏子ちゃんの言う”おじさん”って誰なの?どうして、この”時間軸”に現れたの?

私はほむらちゃんを助けてあげたい。そのためにもマミさんと杏子ちゃんが協力できたら……

でもマミさんは、杏子ちゃんとの柵と魔法少女の使命で杏子ちゃんとは、ほむらちゃんとは………キュゥべえとの……

イヤダ……初めてだった……感情がないっていうけど、生き物を殺すことが……あんなにも怖くて嫌なことだったなんて……

それに比べて、ほむらちゃんは……もしかしたら、この近くに来ているかもしれない…だったら、探さないと……

「ごめん!!仁美ちゃん、ちょっと用事を思い出したから!!ここで別れるってさやかちゃんにお願い!!!!」

「えっ!?!ま、まどかさん!?!どちらへ行かれるんですか!?!」

仁美ちゃんの声を背に私は一目散にほむらちゃんが居るかもしれない場所へと駆け出していきました………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け出していったまどかを物陰から小さな白い生き物が見ていたことに誰も気がつかなかった……

「僕を何故、目の仇にするのかは分からないけど……何か知っているみたいだね」

感情のない赤い目にまどかの姿を映しながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかは、立ち入り禁止区域に足を踏み入れていた。数ヵ月後にオープンするために改装中の区域である。

薄暗い非常灯の明りを頼りに居るであろう”ほむら”を探す。ほとんどの出会いでは、ここにいるインキュベーターを狩っている最中に遭遇するのがほとんどだった……

「何処にいるんだろう?ほむらちゃん……」

打ち付けのコンクリートのフロアに響く自分だけの足音。世界で一人ぼっちになってしまった気分だった……

まるで暗い迷路の中に居るような……

「………ほむらちゃんは、迷子になっちゃったのかな……」

自分の為に……そう思うとまどかの心は、少しだけ痛みを覚えた………

「まどかさん!!!!どうして、ここに!?!」

「えっ!?!仁美ちゃん?どうして……」

「それはこっちの台詞ですわ。なんで、こんなところに……」

一人 奇妙な行動をするまどかに対して仁美は少しだけ声色を荒げた。

「そ…それは……」

「友達であるわたくしにも言えないのですか?」

目を反らしたまどかに対し、仁美はそう言葉を返した。

そのときだった……奇妙な笑い声と共に”魔女結界”が二人を包み込んだのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けっ、転校早々の帰りに”魔女”かよっ!!!」

「姐さんっ!!まどかと仁美がここにっ!?!」

同じく二人の後を追って来たのは杏子とさやかであった。先の二人同様”魔女結界”に入ってしまったようだ。

辺りは、毒々しくそれでいてサイケな空間になっていた。

「姐さん言うなっ!!それとさやか、信じられないかもしれないけど…信じろよ!!!!」

「えっ?!?信じられないけど、信じないって?」

「目の前で色々あるからってことだ!!!」

杏子は自らのソウルジェムを取り出し、槍を構えた赤い魔法少女へ変身を果たした。

「姐さん……そ、その姿は……」

「後で話す。だから、今はあいつらを助ける!!!付いて来い!!!!」

さやかの手を取り、杏子は魔女結界を一気に飛翔する。

「ね、姐さん!!!!こ、心の準備がって……きゃあああああああああああ!!!!!!足が、体が!!!浮いてるぅぅうううううううううううっ!!!!!!!」

魔女結界に一人の少女の絶叫が響いた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどかさん…わたくし、夢を見ているのでしょうか?妙に視界がぼやけているのですが?」

「仁美ちゃん?”使い魔”が見えるの?」

「え?まどかさんには、あの黒いぼやけた物が見えるのですか?」

魔女結界に迷い込んだ二人の見えているものは違っていた。まどかには、髭を結わえた使い魔が見え、仁美には壊れたTVに映る不鮮明な何かだった……

それらは、二人を取り囲み始めた。異様な光景に二人の表情に怯えが表れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マミ!!!!二人が危ない!!!!!」

「分かっているわよ!!!!!キュゥべえ!!!!!」

二人の少女を取り囲む”使い魔”達に対し、マミは二人を護るように魔法を展開した後、無数のマスケット銃を展開しそれを一気に放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は突然、現れた光に対して仁美は、

「こ、これは一体なんですの?」

「………マミさん」

二人を護る光は使い魔を蹴散らし、蹴散らされた使い魔達はその後降り注いだ光により、倒されてしまった。

騒ぎを聞きつけたかのように”使い魔たち”がさらに集まってきたが、二人を護るようにマミは降り立った。

「間一髪ってところね」

二人を安心させるようにマミはウインクをした。

「あ、あなたは……」

「色々話したいけど、今は一仕事を終えてからでいいわね」

マミはスカートのすそを上げ、左右のそれぞれ三丁づつマスケット銃を取り出し、それらを巧みに操り、使い魔達を手際よく打ち抜いた。

場の使い魔達が倒されたあと、”魔女結界”消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

「結界が崩れてきたな……誰かがやったのか?って、違うっ!!!!」

薄れていく結界もだが、正面に怪物じみた何かが飛んでいるのが見えた。

「ね、姐さん!!!!なんか、気色悪いのが!!!!来てますけど!!!!!!!!!!」

「魔女だ!!!!誰かさんが派手に暴れたから逃げ出したんだ!!!!!しっかり捕まっていろ!!!!!!」

正面からくる魔女を回避するために杏子は槍を鎖で分割し、刃の部分を足場にし正面から突っ込んでくる横に回避する。

「てっ、急すぎぃいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!!きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

二度、絶叫が響いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの助けていただいてありがとうございます」

仁美は、目の前にいる、魔法少女に対して礼を述べた。

「いいのよ。魔法少女として当然の事をしたまでだから…それにあなた達の危険を知らせてくれたのは、キュゥべえよ」

「えっ?そこに誰かが居るんですか?」

マミの腕の中にはキュゥべえがいるのだが、仁美にはそれが見えていなかった。

まどかには、見えていたが……

「あら、あなたにはキュゥべえが見えないのね。鹿目さん、また会ったわね」

「まどかさん、知り合いなのですか?」

「う、うん…ちょっと……」

少しだけ歯切れの悪い返事をするまどかだった。

「やっぱり、マミか」

「…………………」

遅れて、杏子とさやかがこの場に現れた。杏子は少し複雑な表情で、さやかは妙に疲れた表情をしていた。

キュゥべえは、まどかに視線を向け……

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目まどかには、改めて。美樹さやか お願いしたい。僕と契約して、魔法少女になってよ」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、三者三様の反応をしたのはいうまでもなかった………

 

 

 

 



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第九話「羨望」

 

 

どれぐらい前のことなのか覚えてはいない。

そう、顔すら思い出せない”親父”にいつも、虐待に近い鍛錬で気を失って、それから目覚めた記憶が最初・・・・・・

”親父”は、牙狼の称号こそは持たなかったが、黄金騎士の家系の血を汲む騎士だった・・・

その活躍は、英雄譚と呼ぶには程遠い。そうだ、残虐非道の武勇伝といったところか・・・・・・

ホラーに対し怨念に似た執念で挑み、手段を選ばない非情さは他の魔戒騎士ですら恐るほどで、ホラーですら逃げ出すほどであったらしい・・・・・・

管轄の境界線を越えてまでホラーを追い回し、さらにはほかの魔界騎士は仲間ではなく、捨て駒として扱う。

その暴走ぶりは抑えるはずであった番犬所も見ぬふりをするという有様だった………

そんな男にも家族を思う気持ちがなどという温かいものはなく、ほとんど家を空けていて思い出したかのように帰ってきては、僕らを叩き起こし、暴言、暴力の限りを尽くした。

妻である母の献身的な態度で口答えをせずに接していた。僕には分からなかった、どうして、あんな男が黄金騎士なのか…魔戒騎士になれたのかが………

そう決してあこがれの対象などではなく、憎むべき対象だったのだ・・・”親父”は………

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の中でバラゴはソファーに腰をかけていた。その表情は俯いているため伺うことはできない。

見ようによっては苦悩しているようにも見えなくもない。少しだけ呼吸を整え、ストックしていた秘薬を口に含み、部屋を出て行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出たバラゴは、屋敷のある一室。暁美ほむらが眠る部屋へと足を踏み入れた。

ほむらは、穏やかとはいえない寝顔だったが、それでもバラゴにとっては喜ばしいことだった。

彼が近づくことで枕元に居た黒猫が毛を逆立てたが、特に気にすることはなかった。僅かに差し込める月の光を頼りに少女の顔に視線を向けた。

近くの棚に置かれているほむらソウルジェムは、ほんの少しだけ濁っているが、バラゴは回収したグリーフシードでそれを浄化する。

壊れ物を扱うようにソウルジェムを手に取った。これは彼女の魂そのものである。

これは、魔法少女から魔女になる段階の繭のようなものであると認識している。だが、バラゴはそれを許すつもりはない……

正義感からではない、彼は失いたくないのだ、自身が大切にしていた”母”を二度も………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日は、帰ってきた親父もそうだが、最悪なことが起きてしまった……珍しく外へ外出した母にホラーが襲ってきたのだ……

川を背に怯えた母に対し、ホラーは獰猛な表情で近づいてきた……親父は、母に”逃げろ”と叫び、鎧を纏いホラーを両断した……

この時、僕はあの親父が母を助けたという事に初めて親父を見直した…だが、次の瞬間、その淡い期待は砕かれてしまった………

母は、ホラーの返り血を浴びてしまったのだ。

返り血を浴びてしまったものは100日以内に死亡し、気を失うことに許されない激痛に襲われ、醜く崩れ、苦しみながら地獄へ落とされるのだという…

魔戒騎士の掟では、ホラーの返り血を浴びた者は斬らねばならない。だが、救う方法もある何件か事例がある、救う方法はゼロではないのに……

”ホラーの返り血を浴びた者は斬らねばならない”

躊躇なく親父は”母”を切った……斬られた母の体は糸が切れたように川へと落ちていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨晩見たほむらと母の姿が重なってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか

・・・・・・・・・一体、アタシが何をしたというのだろうか?まさか、あんな現実離れした事態に遭遇するなんて・・・・・・

何が起こるかわからないのか人生って言うけど、これはわからなすぎでしょ!!!!

転校生の姐さんは、魔法少女だし・・・一般ピープルのさやかちゃんが入る余地なんてないんじゃないの?

資格があるっていうけど・・・・・・こんなどこにでもいる取り立てて美人じゃないさやかちゃんが一タイトルの主役を張るなんて、すごく烏滸がましいんですけど・・・・・・

でも・・・・・・たった一つだけ願いが叶うのなら、アタシにも誰かが助けられるということ・・・・・・

この事をめぐって、姐さんと三年生が互いに険悪になってしまってあわやというところになってしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前

「キュゥべえ・・・・・・アタシの前で”契約”なんてさせないからな」

槍を構えた杏子はさやか、まどか、仁美の前に立つ。近づくことは許さないといわんばかりに……

「…………佐倉杏子。以前、言ったわよね。二度と会うことはないって…」

冷たい視線でマミは杏子に答えた。

「そうだな。あの時は、アタシが馬鹿して、マミにも迷惑をかけた……」

「迷惑をかけた?あなたは、自分の力によって、自分の為だけに魔法を使うと私に言ったわよね」

マミはキュウべえを下がらせながら、いつでも戦える態勢に入る。マミの様子に杏子は内心舌打ちをした。

(ったく、自業自得だけど……やっぱ、辛いな)

「ああ、そうだ。アタシは自分の為に魔法を使うといって、マミ、アンタの顔にも色々と泥を塗っちまった」

「そう……噂では、使い魔に人を襲わせてグリーフシードを手に入れていたと聞いたわ」

その言葉に、まどかを除いたさやかと仁美が驚いたように目を見開いた。

二人の様子に杏子は、少し辛いのか僅かながら彼女のソウルジェムが僅かに濁る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子

くそ……自分のやったことなんだけど、面と向かって言われるのは本当に辛い。

でも自分のやったことだから、アタシはそれと向き合わなくちゃいけない。そう、だって、アタシは風雲騎士 バドの血筋だ……

そして、アタシが犯した罪は絶対に繰り返しちゃいけない。だから…言うよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。アタシは人として恥ずかしいことをしたさ。それを後悔した、だから正したいんだ」

杏子は真っ直ぐマミに視線をむけて応えた。

「…………信用できるかしら?アナタのように調子のいい事を言う魔法少女がどれだけ居ると思っているのかしら?」

「ちょっと!!!なんか分かりませんけど!!!姐さんを悪人みたいに言わないでくださいよ!!!!!」

二人の会話を遮るようにさやかが鼻息を荒くして、ヅカヅカと前に出る。

「さ、さやかちゃん」

まどかの制止を振り切り、杏子の隣に並び立ち胸を張る。

「貴女には、分かっていないのよ。この佐倉杏子がどんな魔法少女か……」

「そりゃそうですけど!!!アタシをあの魔女から助けてくれたのは本当なんです!!!!」

「っ!?!魔女。佐倉杏子、魔女を見逃したというの?」

マミは目元をきつくして、杏子を責める。

「ああ、でも、さやかの安全を優先したかったんだ。アイツはアタシが後で……」

「別に構わないわ。私が魔女を倒す、だから、貴女は何もしないで……」

人助けも大切だが、人々を襲う魔女を逃してはならない。マミは四人の前を通り過ぎ、杏子が見逃したであろう魔女を追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか

思い出せば出すほど、あの三年生感じ悪かったな。姐さん曰く、正義の魔法少女で悪い奴じゃないから嫌わないでくれっていうけど……

確かにかっこいいけど、長続きはしないなって思う。あの後、歓迎会って雰囲気じゃなかったから解散したけど、まどか大丈夫かな?

三年生に何か言われたりしないといいんだけれど……

明日は恭介の手の検査があるから、何となく不安になっているんだよね。だから、今日は力及ばないけれど、出来ることをさやかちゃん、頑張っちゃいますね。

「もし…何か分かりましたら、お願いします」

黒い髪が印象的な女の人がA4ぐらいのチラシを渡して頭を下げているのが横目に映ったけど、アタシは特に気にすることなく恭介の病室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後で知ったけれど、姐さんが転校してきた今日、もう一人転校生が居た。でも、その子は行方不明になっていて、警察と両親が必死に探していること……

その子の名前は 暁美 ほむら。大人しそうな表情をした女の子の顔の写真を見たのは、恭介との面会を終えてからのことだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に戻った杏子は、鞄をソファーに放り出し横になった。あの後、魔女を自身で探したが何処に行ったのか行方は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

杏子

くそっ、自分で蒔いた種だけど何だか、嫌だな。この気持ち……これが後悔って奴かよ。

自分が持て余しているこの気持ちは、本当に嫌なもんだ…

「お帰り、杏子ちゃん。何があったのかは分からないが、鞄をその辺に放って置くのはよくないぞ」

いつのまにか、笑みを浮かべて向かい側のソファーに腰をかけたおじさんが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…おじさん。昔、世話になった先輩が居てさ、その人と喧嘩別れしちゃって、それで嫌われてて……」

歯切れの悪い杏子の話にバドは

「なるほど、前に話してくれたマミちゃんのことだね」

「……う、うん。今日、ちょっと……」

杏子の話は、バドにとっても他人事ではなかった。言うまでもなく杏子の父と自分の関係もまた……

だからこそ、同じ過ちを杏子にはして欲しくないと思う。

「一度失ってしまった信頼を得るのは難しい。だからといって歩みよらなければ、何もならない」

「頼りないかもしれないが、マミちゃんとは魔法少女としてではなく、人間として一対一で話し合ってみるといい」

「そうかぁ~、アタシ、あんまり口は巧くないからな……マミを怒らせたらどうしよう?」

不安になっている杏子に対し、

「口の巧さではない。杏子ちゃんのありのままの気持ちを伝えることが大事だ。いざという時は、おじさんが頑張ろう」

拳を掲げて、万が一の時は自分が手助けをすると…

「えっ!?!そ、そこまでおじさんに迷惑…」

言い切る前に”ぺちん”と軽くでこピンを杏子は額に当てられた。

「杏子ちゃん、君はまだまだ年端もいかない女の子だ。魔法が使えるからと言って一人前というのは、少し調子に乗りすぎだ」

口調は穏やかな物の厳しいおじの言葉……

「子供は、大人を頼るべきだ。今のうちだけだぞ、おじさんに存分に甘えられるのは」

笑みを浮かべて、バドは杏子に優しい言葉をかけた。

「そ、そういうもんか……大人って…」

照れくさいのか、杏子は少し頬を赤くしてソッポを向いてしまった。

「そういうものだと俺は思うのだが、遅れてしまったが、杏子ちゃん。転入 おめでとう」

「も、もう~~、こういう場面でそういうこと言うなよ、おじさ~ん」

「ハハハハ、すまない。こうした方が、肩の力も抜けるかなと思ったんだが……」

頬をかいてバドは少しだけ困ったように苦笑するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

早朝

いつもの通学路をまどか、さやか、仁美が通っていた。しかし、いつもの光景ではなかった。

普段なら、会話が弾むのだがそれが一切なかった。思い思いに何か考えていた。

特に仁美の表情が暗い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁美

あの後、杏子さんからお話を伺いましたが、この世界には”魔女”なる災厄が存在し、人々に害をなしていると……

それと戦う存在が”魔法少女”。たった一つの願いを叶えることを代償に ”魔女”と戦うことを義務付けられる。

それを成すのは”キュゥべえ”。彼とも彼女とも知れない白い生き物。魔法少女になれる素質……願いを叶える資格のある少女にしか見えない…

凄い話でした。どんなに大金を叩いても、素質がなければその資格を買うことなどできない。

まどかさんとさやかさんは、素質があり、願いを叶える資格を持っています。どうして、同じ人間なのにこんなにも差があるのでしょうか?

わたくしにも叶えたい願いがあります。それは……

 

 

 

 

 

 

幼い頃に、両親に連れられた発表会で聴いた今も心に残るあの方のヴァイオリンの音色をもう一度聞きたいという事……

少し前に事故で手を怪我をし、ヴァイオリンを弾くことができなくなってしまいました。あの方については、一目ぼれをしていたのだと思います。

ですから、あの方の手を治して差し上げたい。でも、願いを叶える資格はわたくしにはありません……

 

 

 

”なあ、誰かを救いたい気持ちをアタシは否定しない。だけど、奇跡に縋る前に、自分が出来ることをもう一度考えてくれ。願いを叶えたアタシがいうのもなんだけど、こんな奇跡に縋っても誰も幸せにはなれねえよ”

 

 

 

別に構いませんわ、わたくしの幸せ一つで……あの方を救えるのなら……だけど、わたくしには資格がない…………

 

 

 

もし、資格を得られるのなら……奇跡を叶えられるのなら………わたくしは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み

「やあ、まどか、さやか、君たちの願いは決まったかい?」

「キュゥべえ、そう急がないの・・・二人が困っちゃうでしょ」

屋上にいるのは、キュゥべえとマミ。向かい合うように対峙するのはまどかとさやか。

杏子は近くに待機している。万が一のことを考えてのことだった。

「・・・・・・・・・あの三年生さん。どうして姐さんを目の敵にするんですか?」

第一声はさやかだった。友好的とは言い難い声色だった・・・

「佐倉杏子ね。今はそのことよりも大事な話を・・・・・・」

「大事な話なら姐さんだってあるのに!!!それを蹴ったのってひどくないですか!!!!」

さやかは声を上げ、マミに抗議する。だがマミは、

「あの子は信用ができないわ。そもそも二度と会いたくないって互いに言ったのに・・・・・・・」

その言葉にさやかは

「ったく!!!悪い人じゃないって聞いたけど、このわからず屋!!!!!!」

「さ、さやかちゃん!!!」

「まどか、良いよ!!!この人の話なんて聞かなくていいわ!!!!」

まどかの手を引き、さやかはそのまま屋上から出て行ってしまった。

(・・・・・・姐さんの話を聞いたら、契約なんて・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュゥべえ・・・・・・佐倉さんは、本当に信用してはダメなの?」

「残念だけど、マミ。杏子は関わってはならないものに関わっている。だからマミを危険にさらすわけにはいかない」

「キュゥべえ、それは・・・・・・まさか・・・・・・」

「改めて言うと呪いは、魔女だけじゃないんだよ・・・・・・それはね。魔法少女や魔女を餌食にする悪魔さ・・・・・・」

マミの脳裏に”闇色の狼”が浮かぶ。そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”あなた、狂っているわよ。あなたは、何を私に望むの!!?!!何を企んでいるの!?!!”

 

 

 

 

 

あの時、近くにいた魔法少女は・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「あの・・・・・・巴先輩・・・・・・」

「あら、あなたは・・・・・・」

いつの間にか仁美がマミの前に立っていた。

「巴先輩。わたくしには叶えたい願いがあるんです。どうすれば叶えられますか?」

真剣な面持ちの仁美にマミは、答えることなく足を進め・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「キュゥべえが見えないアナタには願いを叶えることも魔法少女になることもできないわ」

 

 

 

 

 

 

去り際のマミの言葉に仁美はただ、立ち尽くすしかできなかった・・・・・・・・・

 

 



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第十話「対立」

 

「さやか・・・・・・あの対応はないだろ・・・・・・」

教室へ戻る道中杏子は、先ほどのマミとのやりとりに対して頭を悩ませていた。

「だって、姐さんが話がしたいって言っているのに、信用できないからってまったく話を聞かないんですよ!!!酷くないですかっ!?!」

「あぁ、それはアタシの自業自得で、マミが信用できないってのは、しょうがないことだ」

以前、喧嘩別れをして、見滝原から風見野へと移ったというよりもマミに追い出されたという方が適切な表現だった。

「だからって・・・・・・・・・」

「気長に話しかけていくよ。そうしていけば、いつかは話を聞いてくれるかもしれないしさ」

「本当にあの三年生が、話を聞いてくれるんですか?私、信用ができないな」

口を尖らせながらぼやくさやかに、杏子はため息混じりに

「まあ、さやかよりはアタシの方がマミとはある程度付き合いは長いからな。マミの良いところは知っているつもりさ。だから、あんまり悪く言うなよ」

さやかがマミを気に入らないのは、良くわかるが、一応は魔法の使い方を教えてくれた”師”でもあるマミの事を悪く言われるのは、少し許せない杏子だった。

「分かりましたよ。姐さんがそういうなら・・・・・・」

「ほんとに分かってんのか?さやか・・・・・・」

「分かりましたよ。そう言われなくても!!!」

いまいち、信用のなさそうな杏子の態度にさやかは表面だけでも、態度を取り繕うのだった・・・・・・

「ん?そういえば、まどかが居ないぞ。さやか」

「えっ!?あ、どこに行ったの!?!まどかの奴?」

先程まで居た友人の姿がないことにさやかは、周りを見渡した。

「まさかと思うけど、あの三年生の所に?」

「だから、そういう言い方はよせって・・・・・・鹿目まどかだっけ、アイツまさか魔法少女になりたいとか言ってないよな?」

「まさか・・・・・・まどかは、人に図々しくモノを言える娘じゃないですよ。だから、あんな怖いことを自分から進んで・・・・・・」

さやかの脳裏には、先日の魔女との遭遇した光景が映っていた。とてもじゃないが、あんなモノと一度だけの願いのために戦い続けることなんて考えられなかった・・・・・・

しかしながら、さやかには、それに値する”望み”が小さいながらも存在していた。

「でも、魔法が使えたら自分も強くなれるっていう考え方もあるには、あるぞ」

「それ、わかる気がします。姐さんみたいに格好よくなれるならって思っちゃいますし」

「馬鹿野郎。そういう事を安易に考えるなって・・・・・・直ぐに手の届くところでキュゥべえが契約を待っているんだ」

キュゥべえという単語に杏子は言いようのない嫌悪感を感じた。自業自得ではあるが、アレが自身の”家族”を死に至らしめた原因の一つには違いないのだから・・・・・・

途中でチャイムがなり響くと同時に遅れてまどかと仁美が現れた。どこに行っていたのかと問いただしたかったが、授業に遅れるわけにもいかないので四人はそのまま教室へと急ぎ足で向かっていくのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

「やっと、終わったぁ~~~~~~」

背を伸ばしさやかは、意気揚々と帰宅の準備を始める。

「待ち合わせは、学校の裏の方の橋で・・・・・・」

杏子はメールを打っていた。

「アレ?姐さん。誰とメールをしてるんですか?」

「おじさんとだけど、今日、ちょっと用事があるからそっちで待ち合わせをしようと思ってさ」

「へぇ~~~、姐さんの伯父ですか・・・・・・どんな人ですか?」

「なんていうかさ、メッチャクッチャ格好いい人さ」

杏子は携帯電話のフォルダの中にある画像データを一枚呼び出す。つい最近になって撮った一枚である。

「おぉ~~、なんか姐さんに似てますね」

現れた画像には、杏子と彼女と同じく髪の色をした見た目二十代後半の男と一緒に写っていた。

「そ、そうかぁ~~」

「うん、目元なんかすごく似てますよ。親子と言われてもおかしくないです」

さやかの発言に少し気をよくする杏子だった。

「じゃあ、アタシはこのまま行くから・・・さやかは、さやかで寄り道せずに帰れよ。おっそろしい魔女が何処にいるかわからないからな」

「大丈夫ですよ。魔女に誘われるほどネガティブじゃないから、元気いっぱい、さやかちゃんですから!!!」

「その元気を学校で出したら、もう少しマシになるんじゃねえの?」

「うぐぅ・・・それは言わないでくださいよ」

互いに笑い合い、昇降口の前で二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別れた後、さやかは一人考えるようにいつもの通学路を歩いていた。

(う~~ん。姐さんには、契約しないって言ってるけど・・・・・・やっぱり、気になるよね)

どんな願いでも一つだけ叶えられるというキュゥべえの言葉に大きな魅力をさやかは感じていたのだった。

事実、杏子が居なければ願いを叶えようか本気で検討をしていたかもしれないのだ。

さやかが叶えたい”望み”・・・・・・それは・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”さやか・・・僕の手が・・・・・・僕の手が・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

大好きなヴァイオリンが引けずに今も頑張っている幼馴染の姿を思うと彼のために”力”になってあげたい・・・・・・

彼のためを思うのなら、この”奇跡”を使うことは”良いこと”なのではという思いが僅かながらさやかの中で芽生えていたのだ。

しかし、それを阻むように今日この言葉が木霊する。

”あいつの奇跡ってのは、絶対にしちゃだめだ。奇跡に縋る前に他人の為に願うなら、そいつの為にできることを考えてくれよ”

かつて安易に願いを叶えてしまった杏子の悔恨を聞くと”奇跡”に対して戸惑ってしまう・・・・・・

自分の中では答えは決まっているかと問われれば、決まっていると答えられるが、いざ、実行となると進むことができないことにさやかは、優柔不断な自分が少しだけ嫌になった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原にある喫茶店に三人の女子中学生が居た。

「それで、マミさん。私、怖いですけど・・・・・・魔女退治に付いて言ってもかまいませんか?」

少し戸惑いながらまどかはマミに魔女退治への同行を願い出た。

「そう・・・やっぱり願い事は簡単には決まらないものね。だったら、魔法少女体験ツアーと洒落込みましょうか」

気弱な後輩に対しマミは優しく語りかける。

「そういうものなんですか?洒落込めるぐらいに・・・・・・」

まどかは、”とある事情”で魔女退治の恐ろしさを知っている。だからこそ、冗談半分でついていってしまっても良いのかと戸惑ってしまうのだ。

「大丈夫よ。いざという時は私が、鹿目さんを守るわ・・・でも、あなたはどうして・・・・・・」

マミはまどかからその隣にいる仁美へと視線を移す。そう仁美は”魔法少女”の資格がない一般人なのだ。この場にいることなど叶うことなどできないのだから・・・・・・

「今日も言いましたが、私には叶えたい願いがあります。だから、一緒に連れて行ってください」

叶うことができないのなら、せめて傍で”魔法少女”というものを見せて欲しいと・・・もしかしたら自分にも”奇跡”が・・・・・・

「今日言ったことをもう一度言うわ。あなたにキュゥべえは見えない。だから、このことには無関係で、関わるべきではないわ」

「ですが!?!まどかさんは!!!」

「それは彼女がキュゥべえに選ばれたからよ。選ばれたからには、無関係ではいられなくなるの」

「マミの言うとおりだね、志筑 仁美。君には魔法少女としての資格はないよ」

いつの間にか現れたキュゥべえは、仁美の前に立つ。その姿は彼女に見えることはなかった・・・・・・その声も・・・・・・

「キュゥべえが見えない。あなたは、この事に関わるべきじゃないわ」

キュゥべえという存在が見えない。ただそれだけでこうも差があるのかと仁美は世の中の理不尽さを呪いたかった・・・・・・

「だから、あなたは魔法少女のことは忘れなさい」

マミに促されてまどかは仁美に声をかけることなくその場をあとにした。残ったのは自身の境遇に嘆き、うつむいた仁美だけが残された・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミとまどかは、魔女の気配が濃い廃墟の前に来ていた。

「近いわ。この中に魔女が・・・・・・」

手に持っているソウルジェムが魔女に反応する。

(確か・・・…この時・・・・・・)

そう、”別の時間軸”で・・・覚えのある空、廃墟・・・・・・そして・・・・・・

「ま、マミさんっ!!?!!あ、アレ!!!!」

まどかは思わず声を上げてしまった。なぜなら廃ビルの屋上にOLが立っており、そのまま飛び降りたのだ。

その光景に自分ではない自分が見た光景がフラッシュバックする。落ちた時の光景を想像し、目を両手で覆う。

「任せなさい!!!!」

マミは一瞬にして複数のリボンを展開して、それらで落下するOLを受け止めた。

受け止めたOLをゆっくりと地面に降ろし、首筋にある”魔女の口づけ”に視線を移す・・・・・・

「大丈夫ね。鹿目さん、安心して、この人は無事よ」

「えっ!?!そ、そうなんですか!?!ご、ごめんなさい、何だか、情けないところ見せちゃって・・・・・・」

「良いのよ。私だって最初は怖かったもの・・・それに大丈夫、最初の私と違って、鹿目さんには私が付いているわ」

マミは安心させるように笑みをまどかに向ける。その笑みに感化されたのかまどかも落ち着いたのか。

「はい・・・・・・次は頑張ります」

「ふふふ。そんなに気を張り詰めると疲れるわ。それとこれを・・・・・・」

マミはまどかに魔法で作ったマスケット銃を一丁、彼女に手渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の中を進むと魔女結界の入口が姿を現す。これも魔法少女でしか立ち入ることができない”場所”である・・・・・・・・・

魔女結界に入った二人を迎えるように”使い魔”達の騒がしい声が結界内に響きわたる。

「マミ!!!!!さっそくだけど、使い魔が来たよ!!!!」

キュゥべえが視線を向けるとヒゲを生やしたコミカルな姿をした使い魔達が前方から迫ってきていた。

「そうね。未来の後輩のためにも、カッコ悪いこところは見せられないものね」

ソウルジェムを輝かせたと同時に黄色の光が彼女を包み、軽やかなステップと共に魔法少女としてのマミに変身する。

彼女の肩に乗っていたキュゥべえは、まどかの肩に移る。肩に乗ったキュゥべえに対し、まどかは言いようのない嫌悪感を感じた。

「キュゥべえ、勝手に私の肩に乗らないでよ」

「そうよ。キュゥべえ、女の子に触れるときはちゃんと断りぐらい入れなさい」

二人のやり取りを微笑ましそうに見たあと、マミはマスケット銃をスカートの裾を上げて取り出し、使い魔の脳天に火花を散らせた。

(そうじゃないんですよ。マミさん。キュゥべえは・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミ達が使い魔達を蹴散らしながら結界内を進んでいる頃、結界の入口に二人の影が重なった。

「ここに居たのか・・・・・・魔女の野郎」

ソウルジェムの反応を見る限り、昨日見逃した”魔女”だ。

「なるほど、やはり魔女の結界はホラーのモノに通じるものがあるな」

続いてバドは二振りの風雷剣を構えて、かつて人形の魔女の結界に入ったと同じように突き立てようとするが・・・・・・

「おじさん。ここは、アタシがやるよ」

ソウルジェムを翳して、魔女結界の入口をあけ、二人は内部へを侵入を果たす。

その二人を入口付近で視線を向ける小さな白い影があった。それは、マミ達と一緒にいるキュゥべえと瓜二つの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、彼らが関わってくるのかな?なるだけイレギュラーは無いようにしてきたのだけれど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使い魔達の抵抗を苦にせず、マミ達は結界の最奥部にいる”魔女”の元へと辿りついた。

そこにいたのは、魔女というよりも怪獣に近いものだった・・・・・・

 

     薔薇の魔女  

「アレが・・・・・・」

「そうアレが魔法少女の希望と願いと相反する絶望と呪いから生まれた存在だ。魔法少女はアレと戦う運命にある」

キュゥべえがまどかの疑問に応える。まどかは、キュゥべえの言葉に表情を僅かな怒りに歪めた・・・

(嘘つき・・・・・・アレはアナタ達が利用した魔法少女でしょ)

「そう。だから私達は負けられないわ。希望と願いを背負う魔法少女だから・・・・・・」

魔女の前に歩み寄り、マスケット銃を構え、発泡する。だが、魔女はその体格からは考えられないほどの機敏さで交わし、マスケット銃から放たれた魔弾が床に火花を散らせる。

「キシャa嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああっ!!!!!!」

耳障りで不快な声を上げ、魔女はマミに対して攻勢に転じる。迫る魔女に対しマミは余裕すら感じさせる笑みを浮かべ・・・・・・

「悪いけど、アナタで遅れを取るわけにはいかないの」

マミの脳裏に一ヶ月後に現れる”ワルプルギスの夜”の名が浮かぶものの、目の前の戦闘に集中すべく、リボンを展開させ魔女の動きを完全に捉えた。

捉えられた魔女は抜け出そうともがくが、二重、三重と絡まった拘束を解くことはできなかった・・・・・・

「これで一気に決めさせてもらうわ!!!!アルテマ・シュート!!!!!!!!!!!!!」

マスケット銃を大筒に変化させ、比べ物にならないほどの魔力を放出する。巨大な魔力は魔女を跡形もなく消し飛ばしたと同時に結界が晴れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一件落着ね」

魔法少女の変身を解き、マミは足元に突き刺さっているグリーフシードを手馴れたように回収する。

(アレが・・・・・・グリーフシード・・・・・・)

まどかは、実際にみる”グリーフシード”に目を見開いた。そう元々あれは・・・・・・・・・

「鹿目さん。これがグリーフシードで魔女の卵」

「それって・・・・・・」

「大丈夫よ。この状態なら危険はないし、むしろ魔法少女にはなくてはならないものよ」

百聞は一見に如かずと言わんばかりにソウルジェムを取り出し、濁った輝きを見せる。

「濁っているでしょ。この汚れをグリーフシードで浄化することができる。そう・・・・・・」

ソウルジェムの濁りを浄化したあと、マミは部屋の一角の闇に向かって放り投げる。

「おいおい、こういうのは粗末に扱うものじゃねえぞ。マミ」

「二度と会いたくないっていったはずよね。それ、まだ使えるわよ、佐倉杏子」

マミはまどかのときと違い、冷めた視線を杏子に向けた。

「これはお前のだろ。お前が使えよ」

「そういうわけじゃないわ。見逃してあげるの・・・・・・それの為にあなたは、何でもするんでしょ」

反論ができないのか杏子は悔しさを噛み締める。

「二人は同じ魔法少女じゃないのか。それをそういう風に意地を張って、拒絶するのは褒められたものじゃないな」

杏子から遅れて一人の男が彼女のとなりに立つ。

「あなたは?」

初めて見る男に対し、マミは警戒の色を強める。見た目はどことなく杏子に通じるものがあったからだ・・・・・・・・・

「俺はこの子の伯父だ。君がマミちゃんであっているかな?」

「は、はい。あなたは・・・それよりも佐倉杏子。一般人を魔女結界に連れ込んだの?」

「いや、なんつうか・・・・・・おじさんは、一般人じゃないんだよ」

どう説明していいのかわからない杏子は、口をどもらせる。

「まあ、君たち魔法少女のように世の中の呪いと戦う仕事をしている」

魔法少女以外でそのような存在など初めて聞いたと言わんばかりにマミは

「あなたは・・・・・・一体?」

「そうだな。俺は魔戒騎士だ」

「・・・・・・魔戒騎士・・・・・・」

さらに詳しく聞こうとしたその時だった。

「マミっ!!!!!その男は、魔戒騎士は、あの”闇色の狼”の同類だ!!!!」

キュゥべえの声にマミの脳裏にあの悪夢がよぎった。

 

 

 

 

 

 

断末魔の声を上げる魔女を喰らう”闇色の狼”・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

マミは一瞬にしてバドの周りにリボンを展開し、拘束しようとするが・・・

「っ!?!その歳で見事だ。だが!!!!」

風雷剣でリボンを切り裂くことで拘束を回避した。

「お、おじさん!!!マミ!!!!!」

「・・・・・・・・・佐倉杏子。あなたは、信用できないわ!!!そんな危険な男と一緒にいて!!!!何を考えているの!!!!!」

「な、何を言っているんだよ?おじさんは、そんな事、企むなんて・・・・・・」

マミの目は完全に二人を拒絶していた・・・・・・話し合いなどできるようなものではなかった・・・・・・

「杏子ちゃん。ここは一旦引こう」

「で、でもおじさん」

「あの子が落ち着くまで待とう。あの状態で無理に話をつけてしまっては・・・・・・今度こそ、関係は終わってしまう」

「・・・・・・・・・わかった。マミ、アタシたちはこのまま引く。落ち着いたら・・・・・・もし、アタシ達の手が必要なら言ってくれ。必ず”力”になるから・・・・・・」

「もう何も言わないで・・・・・・行くなら早く行って・・・・・・」

何もいうことがないのか、杏子たちはその場を後にするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

マミは無言のまま二人とは逆の方向に足を進めた。

 

マミに続くようにまどかは、時折二人が去っていった方を何ども振り返った・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

杏子ちゃんのおじさん・・・・・・あの人、今までの”時間軸”に居なかったのに・・・・・・

それにマミさん。あなたに何があったんですか?闇色の狼 魔戒騎士ってなんなんですか?

わからないけど、闇色の狼は・・・・・・もしかしたら、暗黒騎士 呀のこと……

何となくですが、私はキュゥべえが魔戒騎士と魔法少女を関わらせたくないように思えました・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





予告

あなたはどこにいるの?どうして、姿を現さないの?

あなたはここに居るの?いるのなら出てきて・・・

まだあったこともない”私の友達”

呀 暗黒騎士異聞 第十一話「黒炎」

やっと出会えた。だけど、あなたと私の前に現れた闇色の狼・・・・・・その名は・・・・・・


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第十一話「黒炎(1)」

話が長くなりますので、番号で振り分けます。

今回は、ちょっとオリジナルな事情があの二人に入ります。




 

見滝原の病院の一室に一人の少年がリクライニングシートに腰を掛けていた。

 

時刻は夕暮れであり、白を基調としたタイルはオレンジ色に染まっている。

 

「恭介~~、元気してる~~~」

 

「あ、さやか。そうだね、今日は少し気分が良いよ」

 

尋ねてきた幼馴染 美樹 さやかに対し、少年 上条 恭介は笑みを浮かべて彼女を迎え、応えるように彼女もカバンから袋を取り出す。

 

「はい、これ」

 

ここでの挨拶代わりなのか、さやかは一枚のCDを取り出した。

 

「うわっ、凄い。これ、ネットでも見つからない廃盤だよ。よく見つけてきたね」

 

「そ、そうなんだ。たまたま寄ったお店でいいかなと思って買ったんだけど・・・・・・」

 

ベッドサイドには、たくさんのCDが山積みされていた。これらは全てさやかが恭介のために購入したものである。

 

「いつも本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つけるのが上手だね」

 

「あはは・・・・・・う、運が良かっただけだよ。アタシ、恭介のヴァイオリンは好きだけど、音楽はさっぱりで・・・」

 

「そんな事ないよ・・・・・・さやか」

 

早速であるが、CDを取り出してプレーヤーを回す。

 

「この人の演奏は本当に凄いんだ。さやかも聞いてごらん」

 

ヘッドホンの片方を嵌め、もう一方をさやかに杏子に差し出した。

 

「い、いいのかな・・・・・・」

 

「本当はスピーカーで聞かせたいんだけれど、ここは病院だしね」

 

イヤホンのコードの長さの為か二人は寄り添う形で音楽を聴く・・・・・・

 

優しい音色が聞こえると同時にさやかの脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。この記憶は彼女にとって最も輝かしいモノ。

 

初めて行った演奏会で見た今までにない幼馴染の優雅な演奏にたくさんの拍手の中に彼はいた。

 

あの瞬間の幼馴染は世界で一番、最高に格好良かった。その時から、さやかは恋をしていた・・・・・・上条 恭介という少年に・・・・・・

 

過去を懐かしく思うのは、さやかだけではなかった。

 

 

 

 

 

恭介

 

僕もこの人と同じぐらいの演奏ができると言われていた。だけど・・・・・・今は左手が全く動かない・・・・・・

 

早く僕はこの手で音楽をしたい。大好きなヴァイオリンで・・・・・・

 

隣にいるさやかのように皆を喜ばせることができたのに・・・・・・今は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「魔戒騎士は所謂、殺し屋だよ。ホラーという”呪い”を抹殺するための」

 

「キュゥべえ・・・・・・本当なの?」

 

確認をするようにまどかはキュゥべえに問う。ある事情でキュゥべえに関する事をそれなりに知っていた。”彼女”に次ぐ程に・・・

 

「本当に何も事実さ。というか、それ以外に言い様がないんだよ、彼らは・・・・・・」

 

困ったように首を振るキュゥべえはどことなく呆れているように見える。困惑したまどかとは別にマミの表情は険しかった。

 

「彼らは人間社会とはかけ離れた世界で生きていて、社会の法というものに縛られないし、それを護るということもない」

 

「でも・・・それは、魔女が他の人達には認識ができないからじゃないのかな」

 

まどかが思うに魔女は一般の警察で手に負える存在ではないと考えている。それを一般社会の法に当てはめて考えるのは、無理があるのではないかと・・・

 

「そうだね。魔女や”ホラー”に関しては仕方がない。だけど、だからと言って何をやっても言いというわけではないと思うよ」

 

彼らとは歩み寄ることはできない。そう言いたいのだろう、キュゥべえは・・・・・・

 

「佐倉杏子には注意したほうがいい。彼女は、魔法少女でありながら魔戒騎士の血筋でもある」

 

「・・・・・・佐倉さんがあんな事を言いだしたのは・・・・・・」

 

「そうだよ、マミ。彼女は魔戒騎士の血を引いている。だから、決して気を許してはいけない。気を許したらこちらを利用しようとするからね」

 

友達がここまで警戒する”魔戒騎士”。それと一緒に居る佐倉杏子に対し、マミの中で何かが割れたような音がした。

 

「その魔戒騎士の中でも一際、性質が悪いのが”暗黒魔戒騎士”あっちは、あっちで見境がない。ほとんどモンスターだよ。マミも見たよね。あの恐ろしい姿を・・・」

 

キュゥべえの言葉にマミは体の芯から”恐れ”による震えを感じた・・・・・・

 

まるで体が溶けてなくなりそうな感覚、体から温もりが消えて行く・・・・・・そんな感じがしていった。

 

あの感じは・・・過去にキュゥべえと初めて出会った時に感じていた・・・

 

 

 

 

”た・・・たすけて・・・”

 

遠い日に自分が誰にも知れずに居なくなることへの恐怖が過去に存在していた・・・・・・

 

 

 

 

 

夕暮れ時、繁華街の片隅で二人の男女が”エレメント”と呼ばれているモノを封じていた。

 

少女は筆を持ち、撫でるように文字を描いて”オブジェ”に封印を施す。

 

「やはり筋がいいな。杏子ちゃんは、閑岱へ行って修行を行えばさらに筋が良くなりそうだ」

 

「そ、そうかな?ていうか、おじさんはどうしてアタシに術を?」

 

再開してしばらく経ってから、バドは杏子に術を教えていた。最近になりそれが本格的になっていったのだ。

 

「そのことだが、杏子ちゃんたちが使う魔法とソウルジェムの関係が少し気になってね。できれば魔法は使わないほうが良いかもしれない」

 

「代わりに術ってやつか・・・でも、アタシが男だったら絶対に騎士を目指していたよな」

 

おじからもらった筆を剣替わりにしてチャンバラをする杏子だった。

 

「その場合は、修行は断然きつくなるぞ」

 

冗談まじりに杏子に言葉を返す。

 

「へっ、そういうのは受けて立つさ。だけど……」

 

杏子は、自身の父の事を思い出した。彼は魔戒騎士の家に生まれながら、それを嫌った。何故魔戒騎士を嫌ったのだろうか?

 

「……元々、弟は魔戒騎士には向いていなかった。だが、俺達、家族にとっては一員であることには変わりはなかった」

 

兄弟で騎士を目指す家は珍しくはないが、片方は騎士には似つかわしくないほど繊細で優しかった。

 

「そうか……父さんは……」

 

優しかった故に騎士の家族に疎まれていたのではないかと言うのは杞憂だった。

 

「でも、どうして、父さんはおじさんや家族から……」

 

「それはな……少し重い話になるが、話しておこう。杏子ちゃんの祖母、俺達の母は病に犯されていてな…」

 

優しかった母の日を追うごとに衰弱していく姿は今、思い出しても痛々しく、そんな母を想ってか弟は付きっ切りで看病をしていた。

 

その頃、父と俺は魔戒騎士の務めに従事していた。時々、家族で過ごす時はいつも穏やかだった。あの時も家族で共に過ごす夜だったのだが……

 

 

 

 

 

 

”母さん?”

 

”グウウウウウウウウウッ”

 

”近づくな!!そいつは、もう母さんじゃない!!!”

 

”兄さん!!!早く父さんを止めてよ!!!母さんが!!!”

 

”兄さんっ!!!何でだよ!!!やめて!!!やめて!!!殺さないで!!!!”

 

”やめてよ!!父さん!!!”

 

”この人殺しっ!!!お前達は、人でなしの屑だ!!!あいつらと同じ血に飢えた怪物だ!!!!”

 

 

 

 

 

 

「……母は病によって弱った心をホラーに付け込まれ、それを父が斬った」

 

家族は、同じ家族の手にによって崩壊した……

 

「弟は家を飛び出した。俺と父さんは暫く二人で暮らしていたが……」

 

壊してしまった代償は大きかった。騎士としての父もあの夜に……

 

「・・・・・・ここから先は話すまでもないだろ」

 

振り返ると杏子がなんともやるせない表情で自分を見ている。やはりそれなりにショックはあったようだ……

 

「さあ、ここのオブジェはこれで大丈夫だ。早く帰って夕飯の支度でもしようか!!今日は何が食べたい?杏子ちゃん」

 

自分が話しておいてと思いつつも少しでも場を明るくしようとする伯父に杏子は

 

「そうだな、アタシ、ハンバーグが食べたい!!」

 

優しかった父は耐えられなかったのだ、矛盾に…少しながら父が杏子に言ったあの夜の言葉の意味が良くわかった……

 

 

”娘の顔で!!!声で!!!語るな、この悪魔め!!!”

 

”何故だ!!!あの家から出たのに!!!どうして、あいつらは、私達を!!!!”

 

 

 

 

おじもおじで辛かったのだろう・・・・・・無理に明るくしようとするおじに気を使ってか杏子もむりやり明るく声を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、見滝原の外れにある屋敷の一室でほむらは、自身の手帳を開いた。

 

「明日は、巴マミ・・・・・・巴さんが・・・」

 

彼女の脳裏に何度も見た光景、”お菓子の魔女”と呼ばれる魔女に首を噛みちぎられる光景が浮かぶ。

 

インキュベーターとの関係で険悪となって、相入れることができなかったことで・・・・・・

 

”物分りが悪いのね。見逃してあげるって言っているの”

 

”言ったでしょ。二度と会いたくないって”

 

最初から真実を伝えられればと何度も思った。伝えたとしても、それを信じる者はいなかった・・・・・・親友である まどかでさえも・・・・・・

 

”………誰も未来を信用することはないだろう。実際にその愚かさを自身が味わうまでな”

 

エルダの言葉が嫌に響く。この場に居なくともまるで居るような錯覚さえ感じてしまう。

 

(・・・・・・エルダの言葉の通りね。例え、真実を話したとしても・・・・・・)

 

”なんで、ちゃんと教えてくれなかったの!!!”

 

”みんな、死ぬしかないじゃない!!”

 

真実という名の現実に耐えられずに・・・・・・

 

ほむらの記憶にある皆は・・・・・・結局は、一人だけが生き残り、今も繰り返している。

 

「そういえば、最近は二人揃って出ていくことが多いわね」

 

屋敷にいるのは、現在ほむらと猫のエイミーだけである。以前は、自分を監視するようにどちらかが必ずいたのだが、最近は二人揃って離れている。

 

胸に刻まれた”束縛の刻印”もそうだが、二人は察してのだろう。

 

「わかっているのかしら。私がアナタ達から離れないことを・・・・・・」

 

エイミーを抱えて、ほむらはベッドに腰をかけた。夕暮れに近いのか屋敷の周りの木々は赤く染まっている。

 

お世辞にも綺麗とは言えない薄ガラスごしに見える太陽は西へと沈もうとしていた・・・・・・

 

夜が来れば、”彼”はこの部屋にやってくる。それまでの間は此処にいよう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴに対して私が抱いている感情は危険極まりないイレギュラーという認識。これは今でも変わりはない。

 

だけど、彼と関わっていく内に親しみに似た何かを感じるようになった。

 

一心不乱にホラーを狩り、喰らい、力を付けていく様はおぞましいの一言に尽きるが、彼の行動に”純粋な想い”を私は見出した。

 

化け物を喰らい、その力をモノにする行為をほとんどの人間は嫌悪感を抱き、彼をこう呼ぶだろう・・・”悪”と・・・

 

事実私も巡った時間軸の中で”悪”と呼ばれたことがある。それは人の為の魔法を自身の為だけに使う魔法少女などあってはならないのだから・・・・・・

 

私は自分自身の願いのために魔法を望んだ。それは私自身が納得したこと。それを正当化するつもりもないし、免罪符を求めたいとも思わない。

 

彼も同じなのだろう。何のために”究極の力”を目指すのか分からない。それは、他の人から見た私も同じかもしれない。

 

何のために”魔法”を使うのかと・・・・・・答えは決まっている。私は変えたいのだ。あの光景を・・・この手で消し去りたい。ただそれだけのこと・・・・・・

 

そのためなら、様々なモノを利用し、邪魔になるようなら排除だってしてきた。それは、これからも変わらない、変えることはないのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 エルダはある用事で東の番犬所に来ていた。三人の白い少女と向かい合うようにエルダはあるモノを執事服の男 コダマから手に取る。

 

「東の番犬所がこのような事に手を貸すとは…いつもながら信じられんな」

 

彼女が手にとったのは、一振りの短剣。これはホラーを封じたものである。

 

「私たちもあのお方。バラゴ様に惹かれてこうして協力をしています」

 

「そうです。長い間生きていますとこういう事に手を貸したくなるのです」

 

「特にあの方は掟に縛られた騎士たちと違います。故に騎士たちにはないモノに惹かれるのです」

 

三人の少女 三神官達は微笑むがエルダはそれに応えることなく無表情だった。

 

「いつものようにこれをバラゴ様に納めよう・・・」

 

三神官に背を向けてエルダは番犬所を後にした。彼女の胸中は彼女達への不信感があった。

 

 

 

 

 

 

エルダ

 

 なんなのだ?あいつらは、いや、奴は何を考えている。いくら占っても奴の行おうとしている”先”が見えない。

 

一人の神官の魂が三人の少女の体に宿っている故なのか、私がかつて見た神官達以上に得体がしれないうえ、この東の番犬所の神官は魔界騎士たちの間でも信用がない。

 

どうでもいいことだが、悪戯で騎士の命を犠牲にすることもあるらしい。そういう歪んだ性格ゆえにバラゴ様に手を貸しているとでもいうのだろうか?

 

”先”が見え次第、もし、バラゴ様の障害になるようであればこの私の手で息の根を止めてくれる・・・例え、刺し違えたとしても・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 エルダが去った後、三神官達は息の合ったようにぴったりと笑った。エルダの思うように彼女たちの肉体は三つだがその魂は一つなのだ。

 

「たかだか、魔戒導師が随分と大きな態度をとっていますね」

 

「それも良いのではないのですか?ああいうのが居ないと退屈で退屈で仕方ありませんからね」

 

「そう・・・退屈を紛らわすには新しいもの、変わり者が必要なのですよ」

 

ブランコの背後に彼女たちは視線を寄せる。薄暗い回廊の奥にそれは安置されていた。それは・・・・・・一つの”グリーフシード”だった。

 

そのグリーフシードの周囲に奇妙な渦が舞っていた・・・規則正しく時を刻む 時計のように・・・・・・

 

「あちらの方に出ている”アレ”もそうですが、これはこれで中々、面白そうですね」

 

「そうですね。まさか”魔界”以外から、このようなものがこの世界に紛れ込むとは・・・・・・」

 

「これが持つのは、この世界の陰我では到底賄いきれない”呪い”。これほどの陰我。どのようにして生まれたのでしょうか?」

 

三神官は”グリーフシード”に期待に似た視線を寄せている。あまりにも目新しく、彼女たち、いや、彼女の好奇心を大きく擽るのだ。

 

姦しく騒ぐ三神官に対して コダマは相変わらずの無表情だった・・・・・・

 

 

 

 

 

ほむらの居る屋敷はお世辞にも綺麗とは言えず、どことなく幽霊屋敷を思わせる様相であった。実際、見滝原の学生達からはそういう風に思われている。

 

先程まで部屋にいたのだが、眠ってしまったエイミーを起こさないように彼女は屋敷の庭に足を運んだ。

 

かつては庭園であったであろう痕跡があちこちに存在していた。割れた花瓶、朽ちた草花、メルヘンのキャラクターを思わせる陶器製の人形たち・・・・・・

 

それらを横目に彼女は華やかであるはずの魔法少女も、いずれは人知れずに朽ち果てていくことであろうという想いを抱いた。

 

「あの光景を変えることができれば、私もいつかは・・・・・・」

 

「いつかがどうしたというのかい?ほむら君」

 

いつの間にか黒いコートをなびかせたバラゴがほむらの背後に立っていた。

 

「何でもないわ。今日は何処へ私を連れ回すつもりなの?」

 

本人は少しであるが親しみを感じていると言っているが、そうとは思えないほどほむらの態度は頑なであった。

 

「ホラー狩りと言いたいが、今日はグリーフシードを集めておきたい。だから来てくれるね」

 

笑みを浮かべ、目に法衣を纏ったほむらを映す。表情はバラゴ自身が大切にしている”対象”と少しばかり違うが、瓜二つの写身が手元にあるだけで彼は満足だった。

 

それを手放すこともしないし、ましてや、魔女という存在にさせるつもりもなかった。

 

「もちろん。ワルプルギスに備えてね」

 

「嘘ね。あなた一人でもワルプルギスの夜は、十分に倒せるわ。あなたがグリーフシードを集める理由にはならないわ」

 

理由を言うバラゴに対し、ほむらは彼の言葉とは別に真意があることを察していた。

 

「あえて言うなら興味を持った。元々あれは人の魂だというじゃないか。ホラー狩りに使えるのなら使ってみたいという個人の興味さ」

 

そう言いながらコートの下に忍ばせていた数個のグリーフシードを弄んだ。

 

「っ!?、アナタって本当に人間じゃないのね」

 

バラゴの行いに怒りを感じたことは何度もあるが、これもまたほむらの中にある怒りを刺激するものだった。

 

「前にも言っただろ。僕に”人間”じゃない。”闇”そのもので道を外れた外道なんだよ」

 

笑いながら屋敷をバラゴは背を向け、この場をあとにする。ほむらもまた、ただ付いていくことしかできない自身の不甲斐なさに苛立ちながら続くのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的にですが、バラゴって敵役であって悪役ではないと思うんですよね・・・・・・



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第十二話「黒炎(2)」


今回は、主役とヒロインが出てこず(汗)話が少し重いなと感じる一方です・・・

あと本編の設定を少し変えてみました。次回はコラボを更新できたらなと思ったり・・・

あと最近はいろいろと忙しい・・・


 

 

とあるマンションの一室では、華やかなお茶会が開かれていた。席を一緒にしているのはマミとまどか。彼女らの手前には色とりどりの洋菓子、ケーキ香ばしい紅茶の香りが漂っていた。

 

「鹿目さんは、魔法少女になるのに少し戸惑いがあるようだけど、ゆっくり自分の納得のできる願いを見つけるべきだと思うわ」

 

「そうですか。ただ、私ってすぐには決められなくて・・・でも・・・マミさんは凄く素敵だなっていつも思います」

 

「そう?あなたのお友達は私をあまり好意的には見ていないようだけれど・・・どうしてアナタは私を?」

 

さやかの事である。彼女が慕っている杏子のことを考えれば敵対の目を向けているマミに対して好意的には見られないらしい。

 

「さやかちゃんは本当は凄く良い子なんです。だけど、少し頑固なところがあって」

 

「そう。良いわね、そういう風にお互いに気心が知れている関係って」

 

まどかにとって、さやかはとても良い友人である。そのことにマミはまどかを羨ましく思った。

 

以前はそれなりに居た気心が知れた友人達も今や顔を合わしても一言の挨拶だけの関係になってしまっている。

 

嘆く間もないほどにやらなければならない使命がマミにはあった。

 

「はい。マミさんはあの時私と仁美ちゃんを助けてくれました。とてもじゃないですけど、私は凄く格好いいなって思いました」

 

「格好が良いね。そういうものじゃないわよ。いつも上手く立ち回れるとは限らないわ」

 

「そうなんですか?」

 

”記憶”にある彼女はいつも先頭に立っていて、それでいて凄く頼もしく凛々しかった。

 

「そういうものよ。いつ、魔女にやられてしまうか分からないわ。初めて魔女と戦ったあの時だって、死んでいてもおかしくなかったもの」

 

「えっ!?マミさんが!?!」

 

「あの時は運が良かったのよ。逃げたい、死にたくないって思うだけで精一杯だった。そんな風に自分勝手な気持ちだったからこそ・・・・・・」

 

マミの脳裏に閉じていく魔女結界に取り残された”少年”の姿が過ぎった。それ以前から自分は何も変わっていないことを思い知らされた。

 

「鹿目さんにだけは話して置くわ。私が魔法少女になった訳を・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、久しぶりにママとパパと私、家族で遊園地に行く予定だった。もちろん小さい頃から大好きだったあのキャラクター達の居る場所へ・・・

 

お気に入りの服にお気に入りの靴で精一杯のおめかしをした。ママは大好きなお菓子を用意してくれている。今日一日、楽しく過ごせることに心を躍らせていたときだった。

 

家族は遊園地にたどり着こ事はなかった。突然の衝撃と音と共に視界が暗転した。何があったのか分からなかった。

 

分かったとき、ママとパパは冷たくなり動かなくなっていた。気がつけばお気に入りの服は赤く染まって、身体に鈍い痛みが走った。

 

頭が痛い、身体が痛い、意識がはっきりしない・・・・・・怖かった。自分という存在が消えていくことが怖かった。死ぬことが・・・一人ぼっちで死んでいくことが・・・・・・

 

”君の願いを一つだけ、叶えてあげるよ。僕と契約して、魔法少女になってくれないかい?”

 

霞んでいく視界に映った小さな白い影。それに手を伸ばし、

 

”た・・・たすけて・・・・・・”

 

自分という存在が消えていく事に・・・死にたくないがゆえに、彼と契約を交わした・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「考える余裕なんてなかったわね。だから、鹿目さん、考える時間があるのなら自分の納得できる願いを見つけて欲しいの」

 

「そうですか・・・何だか、マミさん。私を魔法少女にしたいのかなって思っちゃったことがあったのにしたくないように言うんですね」

 

「そうね。キュゥべえに選ばれたのなら無関係では居られなくなるわ。あの子は、私たちの危機を感じて助けてくれる、そんな感じがするの・・・だから放っておけなかったの」

 

笑みを浮かべてマミはまどかに自身の想いを語る。その後は、少しだけ雑談をしてまどかは部屋を後にした。まどかが去った後、マミはテーブルにうつ伏せになった。彼女の様子は酷く疲れていた。

 

「考える余裕なんて本当は無いはずなのに・・・どうしてこういう風に言っちゃうのかな・・・・・・」

 

本当はまどかに考える時間などないことはマミには分かっていた。理由は言うまでもなく数週間後にこの街にやってくるであろう”ワルプルギスの夜”に備えて”力”を蓄えなければならないのだ。

 

それを考えるとまどかには一刻も早く魔法少女になってもらいたかった。だが、それを強要することはできなかった。佐倉杏子の言うように魔法少女などならない方が良いのだ。

 

彼女には分かっていた。まどかを魔法少女にすることは、かつて自分が謳歌していた”あの日々”を失わせることになることを・・・・・・

 

失って初めてわかる”価値”。それを他の人間が奪うことなどあってはならないのだ。故に孤独だった。一人ぼっちで死ぬことが怖い少女が死ぬことが怖くて一人ぼっちで戦うなんて・・・・・・

 

だからこそ一緒に戦ってくれる”仲間”が欲しいと思った。最初の一人とは上手くやっていけると思ったが、甘い考えであったことを思い知らされた。

 

「誰でもいい・・・・・・誰か、私と一緒に居て・・・・・・一人ぼっちはもう嫌なのに・・・・・・」

 

「大丈夫だよ、マミ。君が僕に言ってくれたよね。僕らは友達だって」

 

マミの頬に自身の頬を擦り付けているのはキュゥべえである。

 

「例え君が一人ぼっちでも僕がマミの傍にいるよ。だって友達だからね」

 

「キュゥべえ・・・・・・ありがとう。何だか、情けないところ見せちゃったね」

 

はにかんだ笑みを浮かべてマミはキュゥべえを胸元に抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅に戻ったまどかは、ベットの上に横になり今日の出来事と”記憶”を照らし合わせていた。

 

”記憶”の中にいるマミはいつも華やかであり、憧れの魔法少女だった。

 

しかし、今日あったことは”記憶”とは違っていた。もう少し後に出会うはずだった杏子が現れたことさらには、今までにいなかった彼女の伯父までも・・・・・・

 

それよりも彼女が居なかった。最初に出会うはずだった暁美ほむらが存在していなかったのだ。

 

「どうしてかな?なんで、ほむらちゃんは私の前に出てきてくれないんだろう」

 

危険に晒したくないが故に自分の前に出てきてくれないのだろうかとまどかは思った。こういうことは他の”記憶”にもあった出来事だからだ。

 

「そんなんじゃない。言ってくれない方が余程、心配だよ」

 

気分が優れなくなったのかまどかは、一口水を飲みたくなった。部屋を出てキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋から出たあと、飾ってあるぬいぐるみの間から白い生き物が躍り出た。キュゥべえである。

 

興味深そうにキュゥべえは部屋を見渡した後、彼女の机の上に飛び乗りそこに置いていたノートに前足をかけた。丸い赤い瞳は瞬き一つせず、ノートに記載されている内容に目を通す。

 

記載されているのは、少女漫画チックなイラストにその日あった出来事を日記として書いている。ノートの中に”暁美ほむら”という名前が頻繁に出てきていた。

 

興味深そうにその名前を見るキュゥべえは、さらにソウルジェムとグリーフシードを思わせるイラストにも目を向けた。さらには、巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、上条恭介という名前も・・・・・・

 

呉キリカ、美国織莉子、千歳ゆまと言った彼女とは接点のない者の名前までもが…これらの名前に覚えがあるのかキュゥべえは小さな首を傾ける。

 

何故、まどかがこのようなモノを書いたのかが分からなかったのだ。だが、頻繁に出てくる”暁美ほむら”の名前に再び目を向けた後、周りに溶け込むようにその姿を消した。

 

「キュッぷい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一階へ降りたまどかは、父 知久と顔を合わせた。

 

「まどか、まだ起きていたのかい?」

 

「うん。ちょっと眠れなくて・・・パパもまだ起きていたの」

 

「いつものことさ。起きているついでに手伝ってくれるかい?ママが帰ってきたっていえばわかるね」

 

苦笑しながら玄関に視線を向ける父に釣られてまどかも視線を向けた。

 

そこには酔いつぶれた母 詢子の姿があった。

 

「ま、またなの。ほんとうにもう~~~」

 

呆れながらいつもの母の様子に苦笑せざる得ないまどかだった。

 

「・・・・・・・・・ぐぅえええ・・・・・・み、水・・・・・・」

 

「はいはい。いつものことだけど、程々にね」

 

既に用意してあったコップ一杯の水を差し出し、詢子はおぼつかない手でそれを飲んだ後、気持ちよさそうに眠ってしまった。

 

「やれやれ、ベットまで連れて行かなくちゃいけないな。まどか、ママの荷物を運んでくれ」

 

「うん。パパ、一人で大丈夫?手伝おうか」

 

「大丈夫だよ。これぐらいいつものことだからね」

 

笑みを浮かべる父 知久の表情に安心したまどかは母 詢子のバックを手にとる。そのバックから一枚のチラシが落ちていった。

 

「なんだろう?何かの広告かな」

 

落ちたチラシを広げた瞬間、まどかがよく知る”少女”の顔がそこにあった。

 

「ほ、ほむらちゃん?」

 

”探し人 暁美 ほむら”

 

そこには、メガネに三つ編みのどこにでもいる少女の写真が大きく載っており、数日前から行方不明であるということが記載されていたのだった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

知久によってベッドに運ばれた詢子は早速布団に包まり安らかな寝息を立てて夢の国へと旅立った。良い夢を見ているのか表情は少しにやけている。

 

そんな詢子の様子に一仕事を終えたことを確認し、二人は互いにホッと一息ついた。

 

「ココアでも入れようか?」

 

「うん。お願い」

 

 

 

 

 

 

 

一階のダイニングキッチンへ移動したまどかの前には父 智久の入れたココアが湯気を立てている。

 

「なんでママは、あんなに仕事が好きなのかな?昔からあの会社で働くのが夢だったなんてわけないよね・・・」

 

これを言うなら、マミも”魔法少女になって悪い魔女と戦う”というのもないだろう・・・

 

「ママは仕事が好きじゃなくて、頑張るのが好きなのさ」

 

「?」

 

智久の言葉の意図が今一よくわからないのかまどかは疑問符を頭上に浮かべた。これに少し苦笑しながら智久は

 

「嫌いなことも辛いこともいっぱいあるだろうけど、それを乗り越えたときの満足感がママは好きなんだ。だからこそ、今の難しい仕事にやりがいを感じているし、満足なんだろうね」

 

自身の伴侶についてとなると中々、舌の回りが良い。

 

「・・・・・・ママはそれで満足なのかな?」

 

「そりゃ、会社勤めが夢だったわけじゃないだろうさ。ママはそれでも自分の理想に沿った生き方をしている。そういう生き方で夢を叶えることもできるんだよ」

 

「生き方で夢を叶える?」

 

「どう思うかはそれぞれだけど。僕はママのそういう生き方が好きだよ。そういう所は尊敬できるし、自慢できる素敵な人だってね」

 

”生き方で夢を叶える”良く分からないが、自分の理想とするやり方というのがある事は朧げながらまどかも理解した。

 

「それと、まどか。最近、少し悩んでいるようだけど何かあったのかい?」

 

最近であるが、まどかが一人で悩んでいるような様子を見かける。時折、涙している光景も・・・・・・

 

「あ、うん。なんでもないよ。この間見たTVが凄く考えさせられる内容だったから、私も色々考えなくちゃって」

 

この”悩み”は言えるはずもなかった。故にごまかすしかなかった。嘘をつくしか・・・・・・

 

「そうなのかい?何かあったら僕たちに言ってくれるかい」

 

「う、うん。何かあったらね」

 

まどかは、分かっていた。自分が嘘をついていることを父がお見通しであったことを・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の公園を一人の少女が歩いていた。右手には黄色に淡く輝くソウルジェムを片手に周囲を見回しているのは、巴マミである。

 

いつもの日課である”魔女””使い魔”を狩るための巡回を行っているのだ。周囲に怪しい気配はなく、これといった反応はない。

 

だが正面から自分に向かってくる気配を感じる。そう覚えのある気配は黒いコートを羽織った佐倉杏子。伯父である魔戒騎士はこの場には居ない。

 

昨日キュゥべえが言った”殺し屋”と言われる”魔戒騎士”の身内らしい服装だとマミは思った。

 

「・・・・・・何しにきたの?直接、私を殺して縄張りを奪おうっていうのかしら」

 

口調こそは穏やかだが、目は笑っておらず相変わらず拒絶の意志を見せている。

 

「そういうわけじゃねえよ。アタシはマミともう一度・・・・・・元通りとはいかないけど、やり直したいって思って」

 

「随分と図々しい話ね。勝手に私の下から離れて、また仲良くしたい?ふざけないでよ・・・」

 

「ああ、それについてはアタシも同じだ。だけど、アタシとマミがもう一度組めば、もう魔法少女を増やすことなんてないんじゃないのか?」

 

「何を言っているのかしら?あの子はキュゥべえに選ばれたのよ。無関係ではいられないわ」

 

「そうだけどな。関わらないなら関わらないほうがずっといい。資格があるからって、アタシ達がお節介で余計なことして、そいつの人生を奪っていいわけじゃないだろ」

 

杏子の言葉がいやにマミの胸に響く。自分の件は仕方がなかったが、他の子はそういう状況ではない。選ぶか選ばないかは決められる。

 

それは自分も時間があるのなら、しっかり考えて納得のできる答えを得て欲しいということが彼女の理想なのだ。だけど・・・・・・今は悠長に考えられる時間はない。

 

驚異が刻一刻と迫っている。数週間後に迫った”ワルプルギスの夜”が”見滝原”が来るのだ。

 

「だからさ、アタシ達でもう一度”組もう”。傷の舐め合いってワケじゃないけど、一人で突っ走るよりも話せる知り合いぐらいは居たほうがずっといいだろう」

 

手をだし杏子はマミに歩み寄る。だがその手をマミは取ることはなかった。

 

「・・・・・・仲間がいるから、さらに私を加えたいのかしら?もしかして、私を哀れんでいるの?」

 

「ッ!?!違うっ!?!アタシは、ただマミに謝りたくて。もう一度やり直せたらって・・・・・・」

 

「別に構わないわ。私のことを思うのなら、二度と私の前に姿を現さないで・・・・・・」

 

背を向けたマミに杏子は

 

「待ってくれよ!!!話を・・・・・・」

 

気がつくとマミは”魔法少女”としての姿になり杏子に銃口を突きつけていた。

 

「話す暇なんてないわ。私は色々とやらなければならないの。それこそ、あなたと話している暇なんてないほどにね」

 

彼女の目は完全に拒絶の意志を持っていた。二度と話しかけるなと言わんばかりに、二度と関わるなと・・・・・・・・・

 

背を向けて去っていたマミの後ろ姿と自身の招いた後悔に杏子は苛立たように近くの街灯をに思いっきり八つ当たりをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

マミ

 

佐倉さんのいう事は最もだけど私は、彼女のそれを信用することができない。言うまでもなく私は彼女に少し嫉妬している。

 

そうだ、彼女には血のつながりなる”家族”が傍にいる。それもいざと言うとき守ってくれる人・・・・・・願っていても決して現れることなない人が彼女には、すんなりと現れたことが・・・・・・

 

私にも血の繋がった親戚がいないわけでもないがほとんど顔すら覚えていない他人同然の人たちだ。故に私の持っていないモノを手に入れた彼女が少し許せない。

 

ワルプルギスの夜を倒すのなら、佐倉さんの”力”は魅力的で立派な戦力なのだ。だけど、こんな気持ちを抱いている私と一緒にいれば確実に不協和音をもたらすかもしれない。

 

彼女の申し出は受けるべきだった。だけど、彼女に対して、その伯父に対して不信感を抱いている私が一緒にいてはダメなのだ。一緒にいては、迷惑をかけてしまう・・・最悪の場合、ワルプルギスの夜すら倒せない。

 

ずっと一人でいたから、こういう風に捻た考えを持ってしまったのかもしれない。この感情は心の奥に閉まって、いずれ来る”ワルプルギスの夜”に備えて力を・・・・・・

 

この時私は失念していた。そうワルプルギスの夜以外にそれと同等、それ以上の驚異が見滝原の闇を徘徊していたことに・・・・・・

 

私は思い知らされる・・・・・・アレは希望も絶望を全て飲み込む”黒い炎”であることを・・・・・・誰もアレを止めることなど叶わないことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の病院の一室で一人の少年が呆然とした表情で自身の左手を見ていた。普通の人ならば意識しれば指が動くのだが、少年のそれは全く動かすことがかなわないのだ。

 

そう彼はこの左手を動かしたかった。大好きな”ヴァイオリン”を弾きたかった。

 

”前回の検査の結果だが、君の左手の指の治療は不可能だ”

 

残念だがと言われたが、その一言で納得できなかった。少年は取り乱したように喚いたが喚いたところで結果が変わることはなかった・・・・・・

 

その夜、少年はまるで世界に取り残されたような孤独と絶望を夜が明けるまで感じるのだった・・・・・・

 

積み上げられた贈り物を恨めしげに見つめたあとそれらを動かなくなった左手で崩すことで己の中の苛立ちを紛らわせることしかできなかったのだ。彼は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けた病院の一角に一つの”呪い”の種が植えられた。それはこの世の”災厄”を振りまく”魔女の卵”グリーフシード”・・・・・・

 

ゆっくりと鼓動を始め、周囲の絶望を取り込み始めた・・・・・・・・・

 

 

 






次回よりシャルロッテ戦に入ります。


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第十三話「黒炎(3)」

牙狼 三期目面白いですね。あの三人の掛け合いは結構好きだったり(笑)

今回、まどマギのキャラが少し牙狼よりになってきました・・・言うまでもなくあの子ですけど




 

 

「いやぁ~~、みんな、悪いね。付き合ってもらっちゃって」

 

時刻は、本日の授業の過程を終え下校である。見滝原の病院へ向かう道を三人の女子中学生が歩いていた。

 

まどか、さやか、仁美の三人。最初の第一声はさやかである。

 

後頭部を掻きながら、さやかはいつものように明るい笑顔を向けていた。

 

「そんなことないよ。さやかちゃん、今日は私も特に用事はなかったし」

 

「そう…で、やっぱり会ってるの?」

 

「えっ?なんの事」

 

「三年生よ。三年生、あの人と会ってるんでしょ。よした方がいいんじゃないの?」

 

”三年生”という単語が誰を指しているかは言うまでもないだろう。見滝原に拠点を置く魔法少女 巴マミのことである。

 

「どうして?マミさん。凄く良い人だよ」

 

「確かにいい人かも知れないけどさ。あの人ってさ、なんか身の丈に合わない理想を他の人に押し付けて一緒に居ると息苦しくなりそうで……」

 

さやかは、少し言葉を選ぶように応えた。普段なら感情の赴くままに様々な言葉が出るのだが、杏子に釘を刺されていて言えないのである。

 

「そんなことないよ。ただ一生懸命なだけで…」

 

”他のさやかちゃんは、マミさんに憧れていて、その意思を継ごうとしたんだよ”目の前にいる友人とは違う”時間軸”の彼女は、身の丈に合わない理想を継ごうとして潰れてしまった。

 

「実際、正義の味方ってさ。凄く損な生き方だよね。姐さん、言ってたよ。そういう生き方をするのはそうする以外でしか生きる術がない人がするものだって」

 

「でも、その代償に大切な人を救えるのなら、そういう選択もありなのではないですか?」

 

「仁美ちゃん」

 

仁美の言葉にまどかは驚いた。言うまでもなく、人としての生き方を捨てて、他者を救うという選択は”未だに姿を見せない彼女”と同じだからだ。

 

「仁美が言うなら、そうかもね。アタシもなんていうか、叶えるに値するんじゃないかなっていう願いが無いわけじゃないし……」

 

さやかは”幼馴染”を救いたいという願いがあった。だが、今の日常を捨てて戦い続けるという選択に戸惑いを覚えていた。

 

「だったら、選択すればいいんじゃないですか。欲しくても資格がないからと言って叶えられない側からすれば、迷うなんて……」

 

強い口調で仁美はさやかを責めるように言う。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。でも、願ったら願ったで……」

 

願うことで人としての生き方を失うことにさやかは戸惑っている。一時的に戦うのなら、何とかできるかもしれないが、戦い続けるというのは難しいのだ。

 

少し前に姐さんこと杏子の自宅にお邪魔した時に彼女の伯父にそう言われたのだ。魔法少女ではないがそれに近いことをしているとの事……

 

「その人のために人生を投げ出すのが嫌ですか?それだけの価値があるのではないでしょうか。投げ出せないのは、願いなんてその程度なんですね」

 

「仁美ちゃん。落ち着いて!!」

 

一方的にさやかを責めるような仁美に対して、まどかが間に入って止める。

 

「仁美もどうしたの?アタシが何したって言うのよ」

 

突然の彼女の態度にさやかも少し怒りを感じていた。言うまでもなく、理不尽だったからだ。願いが叶えられるのならさっさと叶えろと頭ごなしに怒鳴られているようなモノだったからだ。

 

「何もこうもありませんわ。私、用事がありましたので失礼します」

 

仁美も仁美で怒りを感じているのか、そのまま二人に背を向けて離れていってしまった。その後姿に

 

「なによ、仁美ッたら。アタシだってね、好きで資格があるわけじゃないのに……ったく、あの三年生と関わってから碌なことになりゃしない」

 

「さやかちゃん。それは違うよ。マミさんがというよりも簡単に願いが叶えられるっていうのはおかしいと思うんだ」

 

「どういうこと?仁美があんな事を言うようになったのは……」

 

「うん。よく考えてみれば、キュウベえってどうして皆を魔法少女にしたいのかなって…願いを叶えさせてくれるなんて少し都合がよすぎないかな……」

 

「言われてみればそうね。怪しいおじさんにおいしい物で釣られているようなものね」

 

小さい頃に親に口が酸っぱくなるほどまで言われていた”知らないおじさんから物を貰わない”と…考えてみれば、人畜無害そうな顔をしているけど、その素性は良くわからない。

 

「相手が怪しいおじさんじゃないからって油断したわ。仁美も仁美であの外見にだまされちゃったのか」

 

「……さやかちゃん。仁美ちゃんには、キュウベえは見えないよ」

 

「うぐぅ……さやかちゃんに名探偵はつとまりそうにないわ」

 

怪しい男に騙されたのなら、自分がと意気込んだものの肝心の相手が見えないのなら、何も出来ることはないと悟り、さやかはがっくりと肩を落とすのだった。

 

その様子にまどかは穏やかそうに微笑んだ。

 

(こういうのって、良いよね。さやかちゃん・・・・・・それに仁美ちゃん)

 

去っていった仁美が行ってしまった方角に視線を向ける。時刻は夕暮れ時に近い、昨日のこの道は真っ赤に染まっていた。

 

真っ赤に染まった道は、華やかな”レッドカーペット”とは真逆の血塗られた魔法少女たちの歩む道を表しているかもしれない・・・・・・

 

その道を今も”彼女”は歩んでいる。となりで百面相をしているさやかも”別の時間軸”では・・・・・・

 

脳裏に浮かんだ嫌な光景に目をそらすように、さやかに伴って病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の一室 上条 恭介の個室の前に一人の少女が立っていた。少女は 暁美 ほむら。

 

(この時間軸でも上条恭介はそうなのね・・・・・・)

 

昼間も外が明るかったにも関わらず、カーテンを締め部屋を暗くしてベッドの掛け布団に篭っている姿を見てほむらは呆れるような視線を向けた。

 

天才的なヴァイオリンリストでありながら、事故によりその将来を絶たれてしまった少年。友人であったさやかの幼馴染であり、想いを寄せる相手であった。

 

これまでの彼のさやかに対する扱いに対しては、僅かながら怒りを覚えることはあった。ヴァイオリンリストの将来を絶たれたあと、彼に期待を寄せていた人達は手のひらを返したように態度を変えたが、変わらずに接したのはさやかだった。

 

上条恭介とは、何度か別の時間軸で接してきたが、ほとんどはさやかを異性として見ていなかった。時には”自分はさやかの好みではない”というすれ違いもあった・・・・・・

 

この時間軸もそうなのだろうと・・・・・・苦い思いを感じながら、ほむらは病室に背を向けていった。その際に盾を動かし、時間を止めて・・・・・・

 

止まった時間の中を歩みながらほむらは、これからのことを考えた。

 

(流れは幾つか巡った”時間軸”と同じ。だけど、イレギュラーのホラー、バラゴの件があるからどう変わるかわからない。極力イレギュラーは、排除しなければならない。かつてのオリコ、キリカのような介入は認められないわ)

 

早速であるが他のイレギュラーの芽を摘むための準備を行ったが、幸いなことに彼女が危惧した”二人”は既に死亡していた……とはいっても魔法少女になる前ではなく、ある”陰我”に関わった事によって……

 

この世界の恐ろしさは、これまでの時間軸を遥かに上回っている。どんなイレギュラーが潜んでいるかわからない。

 

気を引き締め彼女は病院周辺の探索を始める。言うまでもなく、ここに現れる”魔女”の元である”グリーフシード”を処理するために……

 

(いつものことだけれど、グリーフシードの場所が時間軸が変わる度に変化していく……)

 

グリーグシードがある確率の多い駐輪場を重点的に調べたが全くなかった……続いて屋上に足を向ける。その背後を廊下の影から白い小さな生き物が見ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかは、待合室でさやかを待っていた。落ち着かないのか辺りを見回している。まるで何かを気にしているように……

 

「よ!おまたせ!」

 

気がつけばさやかが傍に来ていた。

 

「あれ?上条君は」

 

「なんか今日は都合が悪いみたいでさ。わざわざ来てやったのに失礼しちゃう」

 

口調は良いとはいえないが表情は、少し影が差しているが明るいものだった。

 

「そうなんだ…じゃあ、戻ろうか」

 

共に連れ立って病院の中庭から帰宅の途につく。

 

(マミさんには、言っておいたけど、ここはあの”魔女”はでてこないのかな)

 

少しだけ気が楽になったのかまどかが安堵の息を付いた時だった。

 

「あれっ?さっき、あんなのあったけ」

 

さやかが何かを見つけたのかそれの近くに近寄ろうとする。遮るように白い影が飛び出す。

 

「大変だっ!!!それは、グリーフシードだ!!それも羽化しかかっている!!!」

 

近づくさやかに警告するようにキュウベえが彼女を庇うように立ちふさがる。

 

「えっ!?!こ、これが姐さんの言ってた。魔女の卵!!!早く姐さんに!!」

 

急いで携帯電話を取り出そうとするが、グリーフシードは瘴気を発し、周囲を巻き込むように結界を発生させた。

 

「まどか!!早く逃げて!!!」

 

不用意であったが直ぐ近くまで着てしまったさやかは、キュウベえ共々結界の最奥部に近いところに来てしまった。

 

以前見た光景と違い、所々に病院の薬品庫を思わせる光景に対して…

 

「って、今日のさやかちゃん。アンラッキーな出来事が続きすぎじゃありませんか?」

 

親友に理不尽に怒られ、幼馴染とは面会できず、さらには魔女と遭遇といった最悪な出来事が連続して起こったのだから…

 

「これは困ったことになったね。美樹さやか、一応聞いておくけど、この状況を打開できる手があるよ」

 

「それは聞かないでおく。だって、アンタの都合がいい様な展開だしね。この状況」

 

さやかは、足元にいるキュウベえと少し距離を置くように離れた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃病院の近くに来ている人物がここにも居た。

 

「なんだ?ソウルジェムが反応していやがる……この感じは魔女か……」

 

伯父のモノに似せたコートを靡かせながら病院へと杏子は足を向けた。念のため伯父に一言連絡を入れて……

 

<おじさん。病院に魔女が出た、アタシは先に行くから>

 

携帯電話ではなく最近習った ”鳴札”を使って……

 

 

 

 

 

 

 

 

佐倉杏子がいる場所とは真逆の位置に巴マミは居た。

 

「鹿目さんの言ったとおりだわ。ここに魔女が現れる……」

 

病院に現れる可能性は無くはなかったが、実際に現れたとなると話は別である。

 

それと同時に僅かながら不信感に似た感情を覚えた。

 

「鹿目さん。夢で見たっていうけど……もしかして、キュウベえの言った彼女の才能だというのかしら…」

 

まるで見てきたかのように話したまどかに対し、彼女はキュウベえの言うように魔法少女として破格の才能だといえばそれまでだが、

 

それ以上に説明の付かない得体の知れなさも感じていた。

 

「でも、”ワルプルギスの夜”を倒すためには……」

 

キュウベえに選ばれたのならと無理やり納得させて……

 

 

 

 

 

 

 

その光景を屋上からほむらは見ていた。これまでの時間軸と同じく”駐輪場”のグリーフシードが孵った。

 

「あそこは念入りに調べたのに・・・どうして・・・まさか・・・・・・」

 

考えたくはないが、この魔女の出現にはアレが、インキュベーターが関わっているのではという考えが浮かんだ。

 

複数のインキュベーターが同時進行に活動しているとは聞いているが同じ場所に複数でいる光景、活動している光景は未だに見たことがなかった。

 

この魔女の出現と一緒に関わってくるのが”巴マミの死”である。一緒にいるのは最高の素質を持った少女となると・・・・・・考えつきたくもない最悪なシナリオが読めてしまう。

 

「私はいつまでたっても、弱い暁美ほむらということね。巴さんのためにもここは、私が・・・・・・」

 

結界に閉じ込められたかつての友人、引き離された親友の元へたどり着く為にほむらは、屋上から飛び降りようとするが・・・・・・

 

「できれば、このまま此処にいてくれないかな?君が関わったせいで、僕らの警戒する不安要素が関わってしまったからね」

 

振り向くとそこには、手摺の上に座り込んだインキュベーターの姿があった・・・

 

可愛らしい容貌であるが、その目には感情はなく無機質な冷たい赤が存在していた・・・・・・・・・

 

「バラゴとは正反対なのね。あなたは・・・・・・」

 

暗黒騎士は闇色の狼の貌に浮かぶのは感情のない白い目だが、目の前にいるインキュベーターのように感情がないのではなく、感情を見せないようにしている。そんな目なのだ・・・・・・

 

盾から、彼が渡してくれた”武器”を取り出す。それは紫色の弓・・・・・・

 

「あなたの忠告は無視させてもらうわ」

 

淡い紫の光の矢をインキュベーターに向けて放ち、粉砕した。

 

 

 

 

 

 



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第十四話「黒炎(4)」


あれから遅くなりまして申し訳ないです。

言っておきますが、私はマミさんが好きです!!

ティロ・フィナーレな彼女が好きです。豆腐メンタルな彼女が好きです。

なんとなく詰の甘いマミさんが好きです。

今回の話は、マミさんが嫌いなの?と言われかねないのでこう言っておきます。






 

 

ほむらが病院へ行っている頃、バラゴは自身の表の顔である”カウンセラー”の仕事を行っていた。

 

「先生……先日の件ですが……」

 

「お気持ちをお察しします。暁美さん」

 

「はい……ど、どうしてあの子が……あの子がこんな目に……」

 

涙を浮かべて女性は俯く。その強い感情の表れなのかスカートを掴む手が強かった。

 

「今は、落ち着いて下さい。警察も捜査をしていますから、必ず娘さんは無事な姿であなた達の元へ帰ってきます」

 

「………はい。先生」

 

女性こと、暁美 ほむらの母が落ち着くまでバラゴは彼女を宥めていた。

 

暫くして彼女が帰宅した後、バラゴは依頼された仕事の書類に目を向けた。その書類に記載されていたのは、黒縁めがねに三つ編みの少女 暁美ほむらの写真があった。

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ

 

まさか、こういう事になろうとは……自分でも不思議に思ってしまう。

 

このことを知ったのは僕が彼女と出会ってから、少し経ってからのことだ。

 

依頼は、心臓の病を煩い長期の入院生活で極度の人見知りである彼女のカウンセラーの件だった。

 

見滝原に行かなくとも僕は、暁美ほむらと出会う”運命”にあったようだ。そして、時間を遡行しなくともほむらは……

 

”魔法少女”としての業に関わっていたかもしれない。そう思うと僕の中の黒い感情が騒ぎ出す。

 

手に入れた”母の映し身”が再び、奪われること、傷つけられることが許容できない。

 

だから、誰にも渡すつもりもない。返すつもりもない。例え彼女の親であろうとも……そう、彼女はずっとこのバラゴの傍に置く……メシアと一体化し”唯一の究極”の存在になった後も……

 

「僕の方でも探してみますから、何か分かりましたら必ず連絡を入れます」

 

「はい、先生。お願いします」

 

ほむらの母は、涙ぐみながら僕に頭を下げて礼を言った。この茶番とも言えるやりとりは、我ながら自分は歪んでいると思う。

 

思えば、師である冴島 大河の元を離れる時から自分の歪みは自覚している。

 

大河の息子 鋼牙は覚えていないだろうが僕は彼と何度か夕食の席を共にしていた。その度に目に付くのは、幸せそうに笑う彼の顔を見るたびにこう思ったのだ。

 

”お前のその幸せを滅茶苦茶にしてやりたい”

 

大河は、孤児である僕に本当によくしてくれた。魔戒騎士としても一人の人間としても尊敬に値する人物だった。”アイツ”とは違って……

 

魔戒騎士としての修行を重ねる度に僕は、更なる力を求めた。”もっと強い力を”

 

誰よりも強い力を欲した僕は、何時の頃からか師である大河の方針に事あるごとに反抗し、最終的に意見が合わなくなり、僕は彼の元を飛び出した。

 

”バラゴ、闇に囚われるな”

 

去り際にそんな戯言を言っていたが、僕はそれに囚われてはいない。それを望んだからだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原病院

 

魔女結界に囚われたさやかの身を案じるまどかの前にマミが現れた。既に魔法少女の姿になっており、いつでも戦いに望める態勢だった。

 

「鹿目さん。後は私に任せて」

 

結界に足を踏み入れようとした時、まどかは

 

「マミさん。私も一緒に行ってもいいですか?」

 

「もちろん、構わないわ。だけど、ここの魔女は少し嫌な感じがするわ。私が居るからって油断しないで……」

 

彼女の手を取り、マミは結界の中へと足を踏み入れるのだった。その様子をほむらは物陰から見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

この”時間軸”、ほとんどの時間軸で巴さんとまどか、さやかは彼女に憧れを抱き行動を共にしていた。私自身にとっても巴さんは憧れ人だった。

 

魔法少女としての華やかさ、思想に関して彼女ほど”魔法少女”としての理想はなかった。

 

それ故に魔法少女が抱えていた”闇”に耐えられなかった。

 

不安定な”ソウルジェム”と言う名の入れ物に入れられた”魂”は、世の中の”呪い”の影響を大きく受ける。

 

そのことは今はどうでもいい。今は、巴さんとまどか、さやかの安全を如何に確保するかだ。

 

名乗り出れれば良いのだが、今の私は彼女達と一緒に入られない。言うまでもなく、あのバラゴと関わらせてはならないのだ。

 

関わらせたら、彼女達にどんな影響がでるか分からない。最悪、まどかに危害が加わるかもしれない……

 

魔女結界に入った二人の後をつけるべく私も物陰から飛び出そうとした時だった。見知った赤髪の少女が魔女結界の前に現れた。

 

……佐倉杏子。何故、見滝原に居るの?

 

 

 

 

 

 

魔女結界に入った二人は、薬品庫を思わせる迷路を行く。

 

『キュウべえ、そっちの状況は?』

 

『大丈夫だよ、マミ。魔女はまだ孵化していない。だけど、そうゆっくりしていられない状況だね』

 

マミはテレパシーで結界の最奥部に居るキュウべえに呼びかける。

 

『この声って、三年生ですか?』

 

彼女に対して、相変わらずの憎まれ口を叩くのはさやかである。

 

『さやかちゃん。今は、そんなこと言ってる場合じゃないよ』

 

さやかを宥めるまどかだった。

 

「そうね。今は憎まれ口を叩かれても助けなければならない人には変わりないもの」

 

マミは苦笑しながら、結界の奥へと進んでいく。

 

「おい、アタシも一緒に行くよ」

 

いつの間にか背後には、黒いコートを羽織った杏子の姿があった。

 

「・・・・・・・・・佐倉杏子・・・・・・・・・」

 

マミはこれまでにない程、冷たい目をしていた。

 

 

 

 

 

 

「杏子ちゃん?」

 

「ったく、あんまり魔法少女には関わらない方が良いって、あれほど言っただろう」

 

まどかの姿を視界にいれた杏子は、小言の耐えない姑のように顔を顰めたが、直ぐに表情を引き締め、

 

「奥にさやかが居るんだろう。だったら、アタシが出ても問題はないな。それと……」

 

杏子は魔導筆を懐から取り出したと同時に、青白く輝く金魚に似た奇妙な生き物を呼び出した。

 

「っ!?!」

 

「杏子ちゃん!?!それなにっ!?!」

 

マミは今まで見たことのない杏子の技術に、まどかは自身が知っている杏子とは違うことについてそれぞれが驚いていた。

 

「こいつか…魔界魚の一つだ。こいつに結界の外まで道案内をさせる。アタシがさやかを助けるから……っ!?!!」

 

杏子が言い切る前に彼女の身体が複数のリボンにより一瞬にして拘束されてしまった。

 

「ま、マミさんっ!?!」

 

「マミっ!?!てめぇ……何しやがる!!こんなことしている場合じゃねえだろ!!」

 

「怪我をさせるつもりはないわ。佐倉杏子、アナタは信用できない」

 

「!!ここの魔女は今までのとは違うんです!!!!一人でも多くの仲間がいないと!!!そうやって、ほむらちゃんの話も聞かなかったから!!!」

 

マミの言う事もある程度理解できるが、ある程度事情を知っているまどかからしてみればこの事は納得ができなかった。思わず、”彼女”の事を口にしてしまうほどに……

 

「鹿目さん。何故、ここの魔女が強いとわかるのかしら?あなた、魔法少女でもないのに……」

 

「そ、それは……前にも夢で見て……」

 

杏子に向けていた冷たい目とは違い、疑いの目をマミはまどかに向けていた。思えば、この少女には不審に思えるところがいくつもあった。

 

後で聞いたが、キュウベえは、まどかに接触したのはショッピングモールが初めと言った。何故、学校で出会ったとき、あのようなことを言ったのだろうか?

 

最近行動を共にするが、魔女が現れる場所もかなり正確に言い当てた。今回の病院に現れた魔女も同じである。

 

この少女は、魔法少女の事情をどういうわけか知っている。それをいかにして知ったかは分からない。ただ無条件に歓迎すべきではないと………

 

マミの中に芽生えたまどかへの不信感。身の回りで起ころうとしていることを見てきたかのように言い当てることに不気味さを覚えていた。

 

(・・・・・・不気味な子だけど、ワルプルギスの夜を倒すためには・・・・・・・・・この街を護るためには必要不可欠)

 

その名をを聞くだけでほとんどの魔法少女が縄張りを放棄する最悪の魔女を迎え撃つためには自身にいやでも納得させなければならなかった。

 

「・・・・・・・・・良いわ。そういうことにしておいてあげる。だけど、これが終わったら全てを話して・・・・・・」

 

穏やかに笑みを浮かべてマミはまどかに問う。まどかは、何とも言えない表情でただ無言で彼女の表情を見つめるしかできなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・どうしても秘密にしておかなければならないの?これから、仲間になるかもしれないのに、隠し事なんて・・・・・・」

 

「なら、マミさん。杏子ちゃんを開放してあげてください。悪い子じゃないんです・・・・・・だったら・・・・・・」

 

「それはできない。彼女は一度、私に手を上げてきたわ。同じ志を持っていたと思っていたのに・・・・・・彼女は・・・・・・」

 

彼女の脳裏に説得をする自身に刃を向けてきた杏子の姿が浮かぶ。あの時ほど、魔法少女になってから絶望、失望したときはなかった・・・・・・

 

信じていたものに裏切られてしまう事に・・・・・・その絶望を齎した彼女のことが信じることができない。そして・・・・・・

 

”俺は、この子の伯父だ”

 

どんなに待っても訪れなかった救いの手があっさりと差し伸べられた彼女に嫉妬する心。

 

「ここで言い争っても無駄ね。鹿目さん、行きましょう。ここには使い魔は居ないわ。帰る頃には彼女も無事でいられるわ」

 

「ま、マミさん!!」

 

これ以上、話すことなどないと言わんばかりのマミに対して、まどかは申し訳なさそうに杏子に視線を向け彼女の跡を追うのだった。

 

 

 

 

 

「ちっくしょう!!!マミの馬鹿野郎!!!いや一番の馬鹿野郎は、アタシだ!!!」

 

自身を罵り、かつて自分が彼女にしてしまったことを後悔するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 その様子を物陰からほむらは悲痛の表情で見ていた。かつて自身が体験したことがそのまま目の前で展開されていたのだ。

 

古傷を抉られるようで精神的な苦痛さえ感じられる。配役が変わり、自分の役を杏子が請け負っている。

 

(・・・・・・何故、巴さんはあそこまで杏子を拒絶するの。それにまどかも少し違う・・・・・・)

 

杏子に対しての仕打ちに抗議を行っているが、マミに問い詰められている。あの表情は、時間遡行を行い、これから起こることを話したときの時間軸に似ていた。

 

「まさか、イレギュラーはホラーや暗黒騎士だけではないと言うの?」

 

何がどうなっているのか、理解が追いつかない。ここで自分が仲裁役として名乗り出るわけにもいかない。でても事態を悪化させるだけだ。

 

「杏子が魔戒法師の術を使っているようだけど・・・・・・彼女ともここでは会わない方がいいわね」

 

盾の砂時計を回し、時間を止める。こうすることで自身以外に動ける者は誰ひとりとしていない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

魔女結界の傍に二人の男が対峙していた。一人は、赤毛の男ともう一人は黒いフードを目深にかぶった男。バドとバラゴである。

 

「・・・また会ったな。バラゴ」

 

不敵な笑みを浮かべながらも二振りの風雲剣を構える。内心、結界の中に入った杏子のことをふと気にかける。

 

最近は、魔戒法師の修行をさせているため、ある程度の実力を持っているものの保護者としては心配なのである。

 

「お前と話している暇はない。私は、この先に用があるのだ」

 

フードの奥から青白い顔に浮かぶ十字傷と濁った黄色い目が浮かび上がる。その視線は人間というよりもホラーのそれに近い。

 

「道を外れた暗黒騎士にしては、真面目なことだ。魔女はホラーに比べればお前にとっては対した足しにもならなさそうなのにな」

 

軽口を叩くバドに対し、バラゴは特に反応することなく剣を構える。

 

「バラゴ、お前に問ふ。お前には、護りたいと思える存在ができたのではないか?その子は、魔法少女か?」

 

構えを取りながら、最近になって知った魔女と魔法少女と関わった自分とバラゴを重ねる。

 

ここに来るのは魔法少女のみであり、魔戒騎士、法師はこの魔女結界に足を向けることはない。

 

「・・・・・・・・・・・・答える必要などない。私にそんなものなどない」

 

「そうか・・・・・・お前は、他の暗黒騎士にも言えることだが、まだ引き返すことができる。だから、己の内なる光を認めろ。認めないなら、俺が認めさせてやる」

 

バドの言葉にバラゴは”何を勝手なことを言っている”と言わんばかりの視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ

 

下らない。いまさら、そんなモノを認めろというのか?僕は魔戒騎士よりも遥かに強い力を求めて、暗黒騎士 呀へとなった。

 

唯一の究極の存在になるために・・・・・・ただ、それだけの為だ。”究極の存在”になる為ならば、不必要な弱さなど………

 

内なる光など、この暗黒騎士の力に比べれば、何の意味もない……

 

かつて、大河の元で修行をし僕は、牙狼の名を継ぐに相応しい実力を得た。だが僕はさらに力を求めた……

 

牙狼の称号は最高位であるが、それ以上に強いホラーは多く存在する。それらに敗れた過去の牙狼もまた存在する。

 

故に僕は、狂おしいまでに修練を重ねた。魔戒騎士が強靭であっても所詮は人間。何処かで必ず壁があり、それを乗り越えることが出来なかった……

 

更なる強さを求める僕に大河は、”闇にとらわれるな”と言っていたが、その闇を利用することはできないかと何時の頃から考えるようになった。

 

魔戒騎士の力もホラーと同種の”魔戒の力”であり”闇の力”の一種なのだ。故に僕は大河の元から飛び出した。最強の…それすら越えた究極の力を求めて………

 

そういえば、大河と居た頃を思い返していたが、奴はこの手で僕が殺したんだった……

 

奴の死に様は、犬死そのものだった。その場に居合わせた馬鹿な息子 鋼牙を庇い、死んでしまったのだから……

 

あの時は、この十字傷の呪いを解くために居合わすことは出来なかったが、心底愉快な光景がそこにあっただろうな……

 

そうだ。このバドは恐らくは魔法少女と関わっている。ならば、その少女にこのバドの骸を見せ付ければ、どれほどの絶望が降りかかるだろうか?

 

逃してしまった楽しみをここで再び味わうのも良いだろう……ほむらの事は気になるが、彼女はそれなりの実力を持っている魔法少女だ。

 

後で少しだけ小言を言っておこう。心配する必要はない……

 

まずは、この目障りな魔戒騎士を………喰らうとしようか……様々な騎士を喰らってきたが、ほとんどの騎士が情けない断末魔の声を上げて僕の血と肉となった……

 

こいつは、どんな断末魔の声をあげるだろうか……

 

 

 

 





ここでなんですが、時間遡行者って基本的に事情を知らないと気味が悪いなと思うこの頃です。

もしくはその物語の結末を知って、行動する様って格好良く見えるんだけれど、手際が良すぎると周りって不信感を抱くのではと・・・・・・

バラゴって、結構ひねくれているというか、かなり歪な人間だと思います。

小説版だと、内心鋼牙に嫉妬していたようにも見えましたので・・・・・・

次回はいよいよ、あの二人が激突。そして、マミさんは・・・・・・

それでは、では!!!



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第十五話「黒炎(5)」


こちらも久しぶりに投稿です。今回は、個人的にアリな展開かもと思ったり・・・

今更かもしれませんが、ほむらがバラゴに抱く感情は・・・わかりますよね・・・・・・




 

魔女結界の入口で二人の男が戦闘態勢に入っていた。暗黒騎士と風雲騎士である。

 

互いに攻撃の機会を伺うように鋭い視線を投げかけている。赤みがかかった瞳とホラーを思わせる黄色い目が互いに交差した時だった。

 

最初に駆け出したのは、先制攻撃と言わんばかりにバドが駆け出し、蹴りを放った。

 

風切り音と共にバラゴの正面に厚いブーツのそこが重なるが、掴む要領でそれを往なし、そのまま地に伏させる。

 

「っ!?!!」

 

背中に衝撃が走る前に受身を取るが、顔面を踏み砕かんと言わんばかりにバラゴはあらん限りの力で踏みつける。

 

コートを翻し、蹴りつけられる足を同じく蹴りで返す。同時にバラゴの態勢が僅かに崩れた。

 

そこに追い討ちを掛けるように二振りの剣による追撃が始まった。よろめきながらもバラゴは剣でその猛攻を防ぐ。

 

火花を刃が散らし、バドが優勢に戦いを進めていく。

 

だが、バラゴはこのまま相手を優勢のままにする気はなかった。

 

「っ!?!流石にやるな!!!」

 

そのまま押し切るようにバラゴは肩に風雲剣の一撃を喰らいながらも前に進みバド目掛けて大きくその刃を振るった。

 

振るわれた刃は、バドのコートを大きく切り裂く。その光景にバドは

 

「流石は黄金騎士 牙狼に師事しただけあって、戦い方と太刀筋がそっくりだな」

 

バドもかつて黄金騎士と出会う機会があった。魔戒騎士の最高位である 牙狼の称号を持つ騎士は歴代全て勇猛果敢であり、真っ直ぐな太刀筋を持って相手に向かっていった。

 

暗黒騎士に堕ちても、その身に染み付いた”黄金騎士”の太刀筋までは曇っていない。

 

その言葉に僅かながらバラゴは不快感を抱いた、未だに黄金騎士の影響が残っている自分自身とそれを平然と口にする目の前の魔戒騎士に対しても……

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴ

 

この男、前にあったよりも強くなっている。以前の実力ならば、圧倒することも可能だったが、少しでも油断をすれば手痛い攻撃を受けてしまう。

 

以前、相手をした魔戒騎士達の大半は一度の戦いで勝敗は決した。例え逃しても、追跡しこの手で抹殺した。

 

ここまで僕を手こずらせたのは、あの大河以来だ。最高の黄金騎士であると名高い 冴島 大河の強さは今でも尊敬の念は存在する。

 

ゆえにあの最後は、自分でも何処か納得ができていない。どうせなら、絶望の中無様な死に際を見たかった・・・ただの、何の力のない餓鬼の鋼牙を庇って死ぬなど……

 

目の前の男を大河と同列に見たくなかった。だけど、ここまで手を煩わされたのは久しぶりかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石にやるな。ならばこいつをお前はどう交わす?」

 

バドは指を”パチン”と鳴らすと同時に彼の周囲に放電現象が起こった。それは不規則な線を描くが、バドの意思にあわせるようにバラゴを取り囲み始めた。

 

「ついでにこいつもだ」

 

自身の左耳のイヤリングに似た魔導具を鳴らしたと同時に落ちていた石も放電にあわすように舞い始めた。

 

バドの視線に合わせるようにそれらは一斉にバラゴへと向かっていった。

 

「っ!?!」

 

さすがのバラゴもこれには目を見張った。術を使える魔戒騎士は少ない。いうなると、複数の術を同時に扱うなど、今まで、見たことも聞いたことがなかった。

 

放電と石を剣で払い、術の中心であるバドを叩くべくバラゴは強靭な脚力で飛翔し剣を突き立てるが、

 

「そうするな。だが、俺は手癖が悪くてな」

 

その言葉通りバラゴの背後を放電が襲ったのだ。苦痛に顔を歪めない場面は不気味であるが、背中から黒い煙が上がり、生身の身体を容赦なく傷つけた。

 

よろめくことなくバラゴは、バドの正面目掛けて拳を放った。放たれた拳をバドは交差させた風雲剣の柄で防ぐが、彼の拳の威力は凄まじく、バドを大きく後退させた。

 

意識をこちらに向けた影響か、周囲の放電が止まった。術への意識が途切れてしまったためである。

 

距離を置いた二人は互いに構えを取る。バラゴは、黄金騎士独特の構えでいつでもバドの術を突破し、彼を突き刺す用意を……

 

対するバドは、バラゴを迎え撃てるように意識をさらに集中させ、反撃によって意識を途切れさせないように注意を払う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の魔戒騎士が戦っている頃、マミはまどかを伴って結界の奥へと進んでいった。

 

距離はかなり開けており、互いに無言のままである。

 

「………………」

 

「………………」

 

先ほどの杏子の件とマミがまどかに対し、不信感を持っていることが明らかになった為である。

 

特にまどかは自身がマミに疑問視されていることに今更ながら気づかされ、

 

(どうしよう……これで皆の負担を少しでもと思ったのに……)

 

ある事情により得た”知識”を使い、少しでも魔女による犠牲者を減らそうと考え、マミと共に魔女退治を行ったのだが……

 

あまりにも正確に伝えたために、マミは不信感を抱いてしまった。

 

(難しいな……ほむらちゃんは、ずっとこんな想いをしてきたというの……)

 

絶望の未来を回避するために訴えてきたのにそれを”ありえない”と否定した為に回避できたかもしれない”絶望”へと至ってしまう。

 

あまりにも無力である。故に全てを救うことから個を”鹿目 まどか”個人を救うことに固執してしまった彼女の今にも折れそうな”希望”。

 

(無力だよ……こんな想いをずっとするくらいなら……どうして、ほむらちゃんは、”私”を救おうとするの?)

 

俯いたまどかをマミは振り返った。

 

「ねえ、鹿目さん。アナタは、どうしても叶えたい”願い”ってあるのかしら?」

 

「えっ?願いですか…私なりに色々と考えてみたりはしたんですか…考えてみたら、態々奇跡に頼らなくても難しい事も何とかなるんじゃないかって思ったりします」

 

歯切れの悪いまどかに対して、マミは少し思うような視線を投げかけた。疑いというよりもまどかはマミが思うよりは、良い子であるのは間違いないらしい。

 

そうなのだ。キュウベえに願わずも叶えられることは存在する。それを達成するためにはいくつもの困難、段階を経なければ達成は難しい。

 

キュウベえはそれを短縮して、その結果に行き着くが、願っても叶えられないことも存在し、それすら叶えてしまう。

 

「そうね……難しいことでも頑張れば何とかなるかも知れないわね。だけど、それを悠長に待っている訳にはいかない場合もあるわ」

 

「そ、それは……」

 

「そう。願いがなくとも無理にでも願わなければ、その先にある未来がなくなってしまえば意味がないの……」

 

マミの脳裏に”早く、願いを見つけて、そして叶えなさい”という声が響く。最悪の魔女が現れる未来に対抗するためにと……

 

”それは駄目!!この子を大切な日常を奪ってはいけない!!!”と、このまま、まどかを一般人として関わらせてはいけないという相反する声……

 

故に寂しかった。魔女という恐ろしい何時、自分が誰も知られない場所で戦い、一人で死んでいく事が……

 

そんな不安な心を華やかな魔法少女という幻想で隠し、正義の味方をしている自分が惨めにさえ思える……

 

「マミさん。どういうことですか……」

 

「いえ、なんでもないわ。まあ、願いが叶えられるなら、叶えてしまうのも一つの手ね」

 

不安な表情のまどかであるが、マミは多少の不信感を抱いても、この少女自体は佐倉杏子のような利己的な人間ではないと判断し

 

それ故に彼女は、少しだけ気を許しても構わないと思うのだった。

 

「私が思うに、魔法少女なんてやっているとならなかった前の自分を考えてしまうの。その私は、何の取り得もなくて、誰かの迷惑にも役にも立たずに終わってしまうんじゃないかって……

 

だけど、そんな日常が普通で、私達が居るこの世界はあまりにも異常なんじゃないかしらって……」

 

”だからこそ、そこに踏み入れようなんて考えちゃだめ”とマミは言いたかった。だが、目の前の少女が”破格の才能”を持っているのなら……

 

本来なら魔法少女としては歓迎すべきではないだろう。当然のことながら”グリーフシード”の取り分が減ってしまうのだ。

 

”いじめられっ子の発想”かもしれない。だが、それが魔法少女としては……

 

「そろそろね…結界の中心に近いわ。話はあとでね……」

 

<マミ!!!グリーフシードが動き始めたよ!!!!急いで!!!!>

 

テレパシーを受け、マミは魔法少女のスタイルに変身しまどかの手を取った。

 

「私は、鹿目さんの事を疑いたくない。言えない事があるならそれでも構わないわ。いつかは、話してくれることを信じるわ」

 

疑念は晴れないが、この子が自分の為になろうとしているのは”真実”なのだろう。何を思って自分の為にしてくれるかは分からないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

 

やっぱり、私って駄目な子だな。自分がこれからの事を知っているからって、未来を変えようなんて……傲慢だったのかな……

 

マミさんは凄く良い人だって分かる。魔法少女としても凄く格好良くて、頼りになって……

 

ほとんどの”時間軸”で私達は、頼りきっていて……マミさんが一人の15歳の女の子だってことをわかっていなかった……

 

”私って、昔から得意な科目とか人に自慢できる才能とか、何もなくて、これからも迷惑ばかり掛けていくのかなって、それが嫌でしょうがなかったんです”

 

”でも、マミさんと出会って…誰かを助けるために戦ってるの、見せてもらって同じ事が私にもできるかもしれないって言われて……何より嬉しかったのは、そのことで……”

 

”憧れるほどのモノじゃないわよ。私”

 

”無理して格好をつけているだけで怖くても、辛くても、誰にも相談できないし、独りぼっちで泣いてばかり。いいものじゃないわよ、魔法少女って”

 

この私は何を考えて、マミさんは一人じゃないって言ったんだろう……今、思えば優しい言葉をかけたかもしれない……

 

だけど、それは、何も考えずに何の力ももたなかった女の子の単なる声に過ぎなかっただけで………

 

”もう怖くない。わたし、ひとりぼっちじゃない”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミは迷路を飛び越えるように駆け抜け、結界の中心部に辿りついた。そこは様々なお菓子が並べられているファンシーな空間であった。

 

「あっ、姐さんじゃなくて、三年生だ!!!!」

 

「歓迎されなくても、一応言っておくわ。お待たせ」

 

さやかの憎まれ口に苦笑しながらマミは、さやかと距離を置いているキュウベえに視線を向ける。

 

「マミ!!!気をつけて!!出てくるよ!!!」

 

羽化を始めたグリーフシードの淀みから一体の魔女が現れた。ぬいぐるみを思わせる可愛らしい姿をしており、数日前に見た魔女達とは姿がかけ離れていた。

 

「性質は”執着”   生前大好きだったお菓子を司る強力な魔女だ。気をつけて!」

 

お菓子の魔女 シャルロッテ 性質 執着

 

キュゥべえの言葉に怯むことなく、マミはむしろ余裕の笑みを浮かべ、

 

「せっかくのとこ、悪いけど一気に決めさせてもらうわよ!」

 

そう彼女は例え相手が強力な魔女一体に足止めをされるわけには行かない。この先に現れるだろう最悪の魔女 ワルプルギスの夜に挑むためには・・・・・・

 

無数の銀のマスケット銃を出現させたと同時に一丁を掴み、引き金を引く。勢いよく放たれた火は、魔女の座っている椅子の足を破壊し、バランスを崩された魔女は力なく落ちていく。

 

マスケット銃を逆手に持ち、バットのように魔女を打ち飛ばす。空中へ逃亡した魔女をマミは、周りに出現せたマスケット銃を連続して打ち出すスピードは凄まじく、まるで踊っているように戦っていた。

 

その光景は、杏子寄りのさやかですらも関心、一種の憧れすら抱かせるものだった。

 

当然、まどかも知っている光景よりも目の前で起こっている光景の迫力に息を飲んでいた。だが、この後に来るかもしれない”事態”に対し、

 

「マミさんっ!!!!気をつけてください!!!!!」

 

背後からの声援に対し、

 

「わかっているわよ。格好の悪いところ見せられないからね」

 

攻撃から逃れられなかった魔女を至近距離で捉え、自身の最高の技である魔法を叫ぶ。

 

「ティロ・フィナーレっ!!!」

 

両手の光から現れたマスケット銃ではなく、巨大な銀の大砲が結界全体を震わせる衝撃が魔女 シャルロッテを吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされたシャルロッテを魔銃からリボンを放ち、それらに絡められた魔女はやがて、その首を強く締め上げられた。

 

「やった!!!やるじゃん!!!先輩っ!!!!!」

 

調子の良いことを叫ぶのは、さやかだった。だが、まどかの脳裏にこの後に送るであろう光景と今の事態がリンクした。

 

脱皮をするように魔女の口から飛び出した異形・・・・・・・・・それは、一瞬にして起こったのだ。

 

「だめ!!!マミさん、早く離れて!!!!!」

 

少し遅れて、魔女の口から何かが抜け出てきた。それは蛇にのように細長い胴体を持ち、一瞬にしてマミの正面に現れ・・・・・・

 

「・・・・・・・・・えっ?」

 

彼女を一瞬にして影が包み込んだと同時に巨大な口が大きく広げられた。

 

「だめっ!!!!!早く逃げてください!!!!!マミさん!!!!!」

 

あまりにも声は遠かった。ここでの反応があまりにも遅かったのだ。ゆえに何も行動ができなかった・・・・・・

 

上あごと下あごが閉じようとした時、マミは一瞬であるがかつて感じた死への感覚を蘇らせた。

 

”怖い!!怖い!!!怖い!!!!いや!!!!一人で死ぬのはいや!!!!!”

 

色鮮やかに見えていた光景がモノクロへと変化していく時だった・・・・・・紫色の矢が一瞬にして現れ、魔女 シャルロッテを大きく後退させた。

 

誰かがマミの手を引き、気がつけば彼女は結界の上空に来ていた。

 

「・・・・・・・・・だ、誰っ!?!」

 

手を引いてきた人物を確認する。そこにいたのは見慣れない弓を持った魔法少女だった。

 

「こう言えば良いのかしら?間一髪だったわね、巴マミさん」

 

現れたのは、暁美 ほむらであった。マミを後ろに下がらせ守るように弓を引き、シャルロッテに攻撃を始めた。

 

当たられた矢は当たるたびに、奇妙な文字を浮かび上がらせ、強い衝撃が魔女シャルロッテを襲う。

 

(便利なものね。魔戒法師の術は・・・・・・)

 

バラゴに囚われ、重火器を手に入れる機会が減った為に彼がほむらに与えたのがこの”弓”であった。

 

この弓は、魔戒騎士の攻撃ほどではないが一般の魔戒法師よりも強い攻撃を得ることができる。ここ数日である程度使いこなせるよう、最低限の修練は重ねて。

 

無数の矢によってシャルロッテは、吹き飛ばされ結界の中の大きなケーキに激突した。近くのお菓子の山に二人は降り立つ・・・・・・その光景にまどかは目を見開いた。

 

「ほ・・・ほむらちゃん・・・・・・」

 

本来なら、この場にいるはずのない少女の出現に驚くしかなかった・・・・・・・・・

 

しかし、この条件ならきっとあの事態を回避できるとまどかは確信した。そう、互いに意地を張り、協力すら出来なかった二人が協力すれば……

 

思わず手を握ってしまう。これならばきっと………だが……

 

 

 

 

 

 

「まったく予想外というか、イレギュラーだよ。外には、暗黒騎士。こっちはイレギュラーの魔法少女。悪いけど、どちらかには消えてもらって……いや、鹿目まどかとの契約が最優先か……」

 

それはお菓子の瓦礫の中に居た。白いからだの小動物は、前足で弄んでいたモノは今にも羽化しそうな”グリーフシード”だった………

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あなたは・・・いったい誰なの!?!」

 

突如現れた魔法少女に対し、マミは少し警戒するように距離をとった。

 

「はい・・・突然のことですが、私はかつてあなたに命を助けられた者です」

 

少女の言葉にマミは疑問符を浮かべた。まさか、この少女と自分は何処かで会っているというのだ。記憶を探ってみるが覚えのある少女が居ない。

 

「覚えてないかもしれませんね・・・・・・」

 

困惑したマミに対し、少女 ほむらは寂しそうに微笑み答えた。

 

(そうよね・・・・・・私は知っているけど、ここの巴さん、まどか、さやかは私のことを知らないのよね)

 

時間を遡行するたびに何処かで必ずズレを感じていた。そう、遡った時間のどこにも自分は居なかった・・・・・・本来なら自分は存在すらしていないかもしれなかった・・・・・・・・・

 

「待って、もしかしたら思い出せるかも・・・・・・」

 

慌てて、応えようとしてくれるマミをみると懐かしく思う。頼りに見えてて、実はお茶目というか自分に通じるところを持った彼女によく甘えていた。

 

「今は、大丈夫です。巴さん、あの魔女を何とかしましょう」

 

「ええっ・・・・・・でも、私は・・・・・・」

 

起き上がったシャルロッテに対し、マミは恐怖に似た感情が湧いてきた。一度、殺されそうになったためである。

 

「巴さん、一人ではできなくても二人なら、できます。私が、フォローを入れますから・・・・・・」

 

怯んでいた自分を叱咤することなく少女は励ますように手を取った。

 

「一緒に・・・・・・戦ってくれるの」

 

「はい。私に掴まってください。絶対に手を離さないで・・・・・・」

 

左手の楯に手をかけ回転させると同時に周囲の景色が一瞬にして止まった。先程まで動いていた魔女も・・・・・・

 

マミの手を取り、ほむらを先頭に二人は魔女のもとへと駆け出した・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

皮肉なものね・・・・・・かつての私は、協力を取り付けるために・・・他の魔法少女の力を利用するために・・・

 

いや、信じられなかった。弱い心が一度味わった裏切りに何度も耐えられなくて・・・・・・だからこそ、誰にも頼らないと誓った・・・・・・

 

私はこの時間軸でバラゴに出会った。彼は、ただひとり自分の目的の為だけに戦っている。

 

これだけを聞けば美談であるが、彼は恐ろしい程、歪み、狂っている。この私が嫌悪を抱く程・・・・・・同族嫌悪と言われる感情を・・・・・・・・・

 

彼と接するたびに相反する感情が溢れる。嫌悪と親愛・・・・・・故に私は、今までの時間軸の自身を見直し、今回はバラゴへの対策として誰にも関わらないと誓った。

 

だけど、どうしても気になり、気がつけば巴さんを助けるために姿を現してしまった・・・・・・

 

結局、私は馬鹿で弱い根暗な暁美ほむらでしかないのだ・・・・・・同族嫌悪を抱く私がこう尋ねるのは、烏滸がましい・・・・・・

 

バラゴ・・・あなたは本当に変われたの?魔戒騎士から暗黒騎士に堕ちたアナタは・・・・・・何を思ったの?メシアを取り込んだ後、アナタは何を見るのかしら?

 

 





次回・・・黒炎(6)で何かが起こる・・・・・・・・・

カットしましたが、ほむらを指導したのはエルダです・・・・・・

こんなこというのもなんですが、バラゴ、エルダ、ほむらの関係って・・・・・・

家出した妹が兄のところに転がり込んで、兄は見知らぬ女性と同棲していたという感じなのではと(笑)

杏子とバドは親子なのですよね。



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第十六話「黒炎(6)」

連続投稿です。これにて次章へと向かいます。結構大変なものですね・・・・・・


 

二人の魔法少女は時間の止まった世界を駆け抜けていた・・・・・・・・・

 

様々なモノが止まった世界をマミは不思議そうに見渡した。

 

「こ、これがあなたの魔法なの?」

 

「はい、巴さん。今は、私の魔法よりも魔女を倒しましょう」

 

”それと、絶対に手を離さないで”と付け加え、ほむらはマミの手を引く。かつては、誰かを引っ張る立場だったマミはこの状況に不謹慎であるが、心地よさを感じていた。

 

(私もこういう風に手を引いて欲しかったなって、思っていたわね)

 

魔法少女になり立ての頃、先輩となる、手本となる魔法少女が居らず、一人で人々の生活を脅かす魔法少女になる為に特訓をしていた時にいつも思っていたこと・・・・・・

 

”私にも仲間が居たらな”と…・・・。今は、拒絶してしまったが佐倉杏子。キュゥべえが見出した”鹿目まどか”が居るが、二人に関して思うところがある。

 

杏子はかつての対立から、まどかは、その特異な振る舞いからの不信により・・・信じたいが、どうにも信じきれない。

 

「巴さん。今、笑っている場合じゃないんですが・・・・・・」

 

「あら?ごめんなさい・・・・・・前から、こういう風に手を引いてくれるのが夢だったから」

 

気づかない間にマミは笑っていたのだ。ほむらは、油断でもされたら命取りになると言いたかったが、魔女に対して少し怯んでしまった彼女を厳しく叱咤するのを戸惑ってしまった。

 

「分かります。誰かと一緒に戦えるっていうのはそれだけ、心強いんです。今まで一人だっただけだと・・・・・・なおさら・・・・・・」

 

ほむらは、自分はその逆と内心呟いた。ただ一人を救いたくて、魔法少女になり、新人魔法少女として皆の中に飛び込んだ。

 

時間を繰り返すたびに、ズレは生じていき、独りになった。一つの衝突から始まった不穏から、仲間は仲間でなくなっていったのだ。

 

最初に感じていた心強さから独りで戦うことの心細しさ・・・・・・それを隠すために高圧的に強く見せかけていた自分自身・・・・・・

 

「この話は、またいつかに・・・・・・巴さん!!!」

 

ほむらとマミは魔女シャルロッテの正面に来ていた。ほむらの意図を察したのか、マミは笑みを浮かべ

 

「えぇっ!!!これが本当のティロ・フィナーレっ!!!!」

 

時間停止を解除したと同時に白銀の大砲が魔女シャルロッテの正面を打ち抜いたと同時に牙が漏がれたと同時に頭部は粉砕された。

 

その瞬間、結界の主シャルロッテは倒され、魔女結界が崩壊していく・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「おぉっ!!!!先輩!!!やるじゃないですか!!!それに・・・・・・あの魔法少女も!!!!」

 

倒され消えていく魔女の姿を正面に背を向ける二人の魔法少女にさやかは歓声を上げた。まどかもまさかの彼女の登場に笑みを浮かべていた。

 

今にも彼女の下に駆け出したかった。結界が消えたあと二人のもとへ行こうと・・・二人から距離を置いて、キュゥべえはマミ、ほむらの近くの結界の綻びに目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

綻んだ場所にキュゥべえと瓜二つの小動物がいた。それは、器用に尾で羽化寸前の”グリーフシード”を消滅寸前のシャルロッテ目掛けて飛ばしたのだった。

 

飛ばされたグリーフシードは、消滅寸前のシャルロッテを取り込み、急速に羽化し現れた姿は、先ほどのシャルロッテそのものだった。

 

まるで成長する蛇のように脱皮を思わせるように第二のシャルロッテは、巨大な口を開け二人に迫ったのだ。

 

「巴さん!!!!離れてっ!!!!」

 

マミを突き飛ばしたほむらを寸前でシャルロッテの巨大な顎が牙がそのか細い身体を貫いた。

 

血が飛翔し、シャルロッテは弄ぶように大きく首を回し、ほむらを痛めつけた。先ほど倒されたシャルロッテの怨がそのまま宿ったかのように・・・・・・

 

振り回されるたびに体の肉が裂け、骨が砕かれる感覚が激痛となってほむらを襲う。

 

その光景にマミは青ざめた表情で呆然と見つめていた。自分があのような目に遭っていたかもしれない恐怖と先ほど色濃く感じた恐怖が同時にマミを襲う。

 

「あっ・・・ああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

 

魔法少女は、普通の何の力もない少女のように悲鳴を上げた。その光景にさやか、まどかの二人も青ざめるしかなかった・・・・・・

 

先程までの勝利は一瞬にして消え失せ、最悪の事態に・・・・・・絶望へと至ろうとしていた時だった・・・・・・

 

魔女結界が大きく揺れ始めた。まるでこの結界の主に呼びかけるような衝撃が襲ったと同時に・・・・・・

 

異様な寒気、暗く冷たい空気が漂い始めた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

二人の男が激闘を繰り広げる中、結界の中の異変が同調するようにこの戦いの進行を進める。

 

バラゴは自身がほむらに掛けた術 ”束縛の刻印”が異変を知らせるのを感じていた。

 

脳裏にフラッシュバックするのは、魔女によって傷つけられ、血を流し、まるで捨てられた人形のように結界の中に捨てられるほむらの姿だった。

 

その光景にバラゴの心は今までにないぐらいの衝動に駆られた。この騎士との戦いに構ってなどいられないと。

 

胸元の魔導具を手に取ったと同時に彼は、暗黒騎士の鎧を召還する。突然、呀に変化したバラゴにバドは、驚く。

 

「ここで鎧を……いや、俺との決着をつけるためじゃない!!!」

 

バラゴこと呀は、バドのことなど既に眼中になく彼を攻撃せずにそのまま押し通るように結界の入り口に刃を突き立てガラスが割れるような音を立てながら結界へと強引に侵入を果たしたのだ。

 

呀の侵入に対し、結界は阻むように閉じるのだが、その侵入を拒めずに入り口は頑なに閉じてしまった。

 

結界の入口で腕のしびれを抑え、バドは閉じてしまった結界を見ながら・・・・・・

 

「こうなってしまうと開けるのは、骨が折れるぞ」

 

内心”まるで思春期の子供の心のように頑な”だと思いながらも・・・

 

この結界を強引に開けて侵入した 暗黒騎士のことを懸念していた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

結界に侵入を果たした暗黒騎士 呀は真っ直ぐに結界の中心を見据え前進した。重い鎧独特の音を立てながら………

 

その足取りは何処となく急いでいるようにも見えた………

 

 

 

 

 

 

 

杏子は、自身を拘束するリボンの力が緩んだ際にそこから抜け出し、結界の中を走っていた。

 

「くそっ!!マミのリボンはそう簡単に抜けられないのに…何かあったのかよ!!!!」

 

急いで中心へ向かおうとしたとき、”それ”は結界の迷路の壁を勢いよく破壊して躍り出た。

 

伯父の狼を模した鎧に酷似した闇色の鎧を纏った”それ”は結界の中心だけを見据え、杏子の前を過ぎていった。

 

何も映さない白い瞳を杏子は見た。それは、映る物全てに価値を見出さずに居る恐ろしい目だった……

 

かつて父から聞いた悪魔の…最近になって見た魔獣ホラーに通じるモノだった……

 

(こ、こいつヤバイ…ヤバすぎる!!!!)

 

本能的に杏子は悟った。目の前に居るこいつは”暗黒騎士”であり、魔戒騎士が越えてはならない一線を越えた恐るべき存在であることを……

 

金縛りにあったように動けなくなり、結界の中心に進んでいく暗黒騎士をただ見送るしかなかった………

 

「はは……風雲騎士バドの血筋のアタシがビビッて動けなかった」

 

 

 

 

 

 

結界の中心にたどり着いたと同時に呀は、真っ先に自身が求める”少女”を探し始める。

 

少女は、力なく横たわっている。その光景に対し、さらにこのような目に合わせた魔女に対しこれまでにない憎悪の念が彼の中に渦巻き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

”………オマエカ。母さんをこんな目に合わせたのは……許さない…絶対に……許さない………殺してやる……コロシテヤル”

 

 

 

 

 

 

 

駆け出したと同時に呀の姿がぶれたが、次に現れたのは魔女 シャルロッテの正面だった。そのユーモラスな表情を見ることなく強烈な蹴りを加えたと同時に背後に回りぬいぐるみを掴み叩き伏せ、上空へと投げ飛ばす。

 

空中へと投げ出されたシャルロッテをさらに追撃すべく飛翔する。魔女側もただやられている訳には行かず、蛇のように呀の身体に巻きつき、拘束するが……

 

力任せに拘束を解きいたと同時に一瞬にして切り裂くことで、バラバラにした。苦し紛れなのか残った頭部が呀に喰らい付くが、その鎧を砕くことは敵わず触れて瞬間に弾けてしまった。

 

それは一方的な暴力だった。恐ろしい魔女であったが、一撃一撃で徹底的に痛めつけられていく姿は、あまりにも無残であった。

 

この場に居合わせた少女達は、あまりの光景に青ざめるしかなかった。突如現れたこの”暗黒騎士”の残忍な戦い方に……

 

弾け原型を留めていない顔に更に拳を当て、掴み叩きつけ、さらに魔女を痛めつけたと同時に直接その頭部を直接喰らう。

 

声にならない叫びを上げようにも上げることができず、魔女は苦しそうに悶え抜け出そうとするものの芋虫のように手足をもがれ、どうすることもできなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐ傍でこの光景を見たマミは、あまりの残虐さに青ざめていた。先ほどの一瞬の死とは違う。一歩一歩死へと近づくたびにその恐怖が痛みと共に襲ってくる恐怖に………

 

声も出せずに、以前見た吸収ではなく魔女を喰らう光景に青ざめるしかなかった。これが魔女よりも遥かに恐ろしい存在であることに……

 

同じく、さやかもまた……

 

まどかは、あの闇色の狼を見て……

 

「……呀………暗黒騎士」

 

その呟きは誰にも聞き取られることなく直接喰らわれる魔女の声にならない断末魔と共に結界は晴れていった……残っていた部分を握りつぶしながら・・・・・・

 

結界が晴れると同時に呀は鎧を解除し、横たわっているほむらの元へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

馬鹿ね……暁美ほむら。アナタはどれくらい魔法少女をやってきたの?あそこは、時間停止の魔法を使う場面だったのにどうして使わなかったの?

 

……結局私は、まどかだけじゃなくて皆を救いたかったのかもしれない……なんて不相応な願いで、傲慢なんだろうか……

 

みんなの見たくない嫌な部分を多く見るたびにそれと同じくらいにみんなの良いところ、大好きなみんなの姿を見て……結局、どちらとも決められずに居るなんて……

 

だからこそ、冷酷になりきれずに私は巴さんを突き飛ばしたんだ…彼女に傷ついて欲しくなくて……叫ばないで巴さん…叫ばれたら、悲しくなっちゃいますから……

 

シャルロッテは油断ならないのは分かりきっていたのに、こういう事は今までになかった……

 

こんなに痛めつけられても私は死なない……普通なら死んでしまってもおかしくはないのに……この身体が生きていないことを改めて実感させられる……

 

背骨を牙で砕かれ、内臓はぐちゃぐちゃで動くことすらままならない……ここでこんなドジを踏むなんて、何をやっているの?暁美ほむら

 

あなたはまどかを救うという願いがあるのに…他の誰かを助けて命を落とすなんて、何を考えて……

 

アレ……少し寒くなってきた……ソウルジェムは割れていないのに……

 

ああ……バラゴが着たのね……この場には、まどか、巴さん、さやかが居るのに…ここで立ち上がらないと…あいつが何をしでかすか………

 

「ほむら君。無理をしないでくれ……君を失うわけにはいかない」

 

見慣れた手と声が私を抱えてくれた……彼らしくない言葉と一緒に………

 

何なの?アナタは……どうして、私に構うの?私を助けようとするの?アナタは……バラゴ。私に何を望んでいるの?

 

ねえ、応えてよ……バラゴ……

 

 

 

 

 

 

結界が晴れ、まどかとさやかは呆然とした面持ちで先ほどの光景を思い返し

 

「な、なんなのよ!!!あいつは!!!!」

 

魔法少女になり、願いを叶えるというのはアレと戦わなければならないと思うとさやかは魔法少女になりたくないと思った。

 

誰がなんと言おうとも・・・・・・

 

マミは呆然としている二人から逃げるようにこの場を後にしていた。一刻も早く先ほどの恐怖から逃げ出したかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

まどか

 

アレは夢だけじゃなかったんだ・・・・・・どうして、ほむらちゃんは・・・一体何がどうなっているの・・・

 

分からない。何がどうなっているのか・・・・・・・・・私は、どうすればいいの?

 

せっかく”未来”が分かっているのに・・・・・・これじゃあ、なんにもできないよ・・・・・・

 

ほむらちゃん・・・あなたに何があったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回予告



あの日から、私はマミさんと会っていません。杏子ちゃんとさやかちゃんはいつも通りだけど、

魔法少女の事を話題にはしません。でも、魔法少女への道は私達のすぐ傍にあることは変わりません……


あんな怖い目に合うくらいなら資格なんて持つもんじゃないって…仁美。あんな目にあってもアンタはそういうことをまだ言うの?

だけど、怖い目にあっても叶えたい願いがあることに気がついた……だから願うよ……アナタの為に……恭介。


呀 暗黒騎士異聞 第十七話「願望」



ああ…アナタは結局、願いを叶えるのですね。羨ましいですわ……私には叶えたくても叶えられないのに……


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第十七話「願望」


最新話更新です!!!九月は出来る限り出していきたいと思います。

後、かなりオリジナルが入ります。


東の番犬所

 

 

東を管轄する神官 ケイル、ベル、ローズの三人の少女と対峙するのは黒いローブを目深に被ったバラゴ。

 

三神官はブランコに座り、微笑んでいるがバラゴは普段と違い少し焦っているようにも見えた。言うなれば、”心、此処にあらず”である。

 

「バラゴ様。黄金騎士 牙狼の称号を持つ者がこの東の管轄に入ります」

 

「これでバラゴ様の計画もより確実になります」

 

「あの無様に死んだ黄金騎士の息子……楽しませてくれるのかしら」

 

これから悪戯をする幼い少女のようにはしゃいでいる少女達に対し、バラゴは冷めた視線を向けていた。

 

「そんな事で私をここまで呼んだと言うのか?」

 

「そんな事?……バラゴ様。一体、何を気にされているんですか?」

 

「君達には関係はない。かつての計画通りに進めてもらう……重要でない事以外に呼び出すのはやめてもらおう」

 

話すことなど何もないと言わんばかりにバラゴは東の番犬所を後にした。その足取りは普段と違い、急ぎ足である……

 

去っていったバラゴに対し、三神官は訝しげな視線を向けた。

 

「バラゴ様も随分と変わられたようですね……」

 

「そうですね。メシアと同化することを目的とした男が……」

 

「僅かですが……あの方の闇に光が見えたのは気のせいでしょうか?」

 

三神官は互いに顔を見合わせ、自分達が手を結んでいる暗黒騎士について考えを巡らすのだった……

 

その間、やはりコダマは無表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴは東の番犬所を離れて、見滝原へと向かっていた。本来ならば、彼女の傍に付いていて上げたかったのだが、三神官との打ち合わせは外すことはできなかった。

 

聞けば、あの大河の息子が黄金騎士 牙狼の称号を受け継いだというのだ。だが、バラゴにとって黄金騎士など取るに足らない相手だった。

 

(下らない。相手が何であろうとも僕が魔戒騎士などに遅れを取る物か……)

 

彼は既に黄金騎士 牙狼に勝利している。かつて他の騎士達から最も信頼の厚かった 冴島 大河を……

 

東の管轄での活動を ゲートを掌握するために”東の番犬所”の神官たちと手を結んでいるが、最近は見滝原に活動の拠点を置いている。

 

バラゴは、仮の姿である龍崎の姿になり、急いで彼が想う”最愛の人の映し身”の元へと…

 

(まったく。ほむら君にも困った物だ……)

 

彼にとって魔女は取るに足らない存在であるが、彼女にとってはそれなりに脅威なのだ。力を与えたが、彼女の心は自分と違い………

 

(何故、あの少女に縋る?君は本来なら戦うべきではなかった……)

 

先日の件で知った暁美ほむらの素性。たった一人の心を通わせた親友の為に世界を超え、陰我を抱えて戦い続ける……

 

その有様にバラゴは…言いようのない不快感を抱いた。彼女に対してではなく、そんな彼女に甲斐甲斐しくする自分自身に……

 

「これでは、まるで………捨てたモノが何故ここに……」

 

自身の胸のうちに苛立ちながら、バラゴは歩みを進めた。

 

「それはおまえ自身がまだ、闇に堕ちきっていないからだ。バラゴ」

 

「お前は……」

 

坊主頭が特徴的な豪快という印象を持つ男がいつの間にか、バラゴの前に立っていた。

 

「久しぶりだな、バラゴ。お前とは何度か顔を合わせていたな」

 

彼の名は、阿門。魔戒法師きっての天才である。大河と深い親交があり、バラゴも時々顔を合わせていた。

 

「合わせる顔は変わっているがな」

 

”ガハハ”と豪快に笑う阿門をバラゴは、睨みつけるのだった。

 

「そう睨むな。最近、お前さんに似た妙に捻くれた目をした魔戒騎士を見てな、お前さんの顔が懐かしくなったのだ」

 

気軽に語り掛ける阿門に対しバラゴは、殺気を含んだ視線を彼に向ける。下らないと言わんばかりに……

 

「………僕の顔を見てどうするつもりだ、大河の復讐をしようというのか?」

 

嘲笑うようにバラゴは阿門に問い掛ける。

 

「復讐などするつもりはないさ。そういう私闘は魔戒法師、騎士ともに禁じられているのはお前も承知だろう」

 

阿門はそのまま背を向けて歩き出した。今なら、この男を殺すことは容易い、だが……

 

「お前さんは、急いでいるのだろう。それを邪魔するほど、わしは野暮ではない」

 

愉快そうに笑いながら、阿門は去っていった。バラゴも見送るつもりはなく、足早にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の郊外の屋敷の一室に一人の少女が横たわっていた。

 

全身を包帯で巻かれた痛々しい姿は、少女を知る者、もしくは少女を慕う者にとっては心苦しいものである。

 

少女の名は 暁美ほむら。先日、魔女 シャルロッテとの戦いに傷つき、それを喰らったバラゴ 暗黒騎士 呀の手で此処に運ばれたのだ。

 

彼女の傍らには、暗黒 魔戒導師である エルダが魔導筆を手に取り、傷口に術を掛けていた。

 

「なるほど……ほむらの言うように魔法少女の身体は既に死んでいるも同然か……」

 

一般の人間なら、魔法少女の運命に対し義憤に駆られるかもしれないが、エルダはそういう感情を抱かなかった。

 

人というよりも魔女を思わせる青白い肌と感情を移さない黒い瞳に揺らぎはない。

 

傍らにおいているソウルジェムを交互に見ながら、エルダは立てかけている紫の弓に視線を向けた。

 

「魔法少女としては、それほどの素質はなくとも……魔戒の者としては……」

 

エルダは、数日の間彼女に師事した事を思い返した。アレは、主であるバラゴがあるホラーを喰らった後のことだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前

 

その日、ほむらは溜息をついていた。

 

(どうしたものかしら……既にストックしていた武器は少なくなってきたわ。調達するにも……)

 

普段の時間軸ならば、武器の調達とワルプルギスの夜に向けての準備を行うのだが、この時間軸で知り合った”バラゴ”により、半ば拘束されていた為行うことができなかった。

 

楯の中の武器を取り出しながら、あまりの頼りなさに溜息以外つけなかった。

 

「言ってみるしかないわね。アイツがどう反応してくるかは別にして……」

 

バラゴは、自分から厄介ごとに首を突っ込むということはしないことは、ほむらも理解していた。

 

彼は自身の目的の為に動いているに過ぎない。エルダもその過程で僕”しもべ”となった。かという自分はどうなのかといわれると疑問は尽きない。

 

考えても良くわからないのだ、彼が何を理由に自分を”束縛の刻印”というモノを使ってまで手元に置いているのかという事が……

 

結局考えても堂々巡りな為、ほむらはこの屋敷の何処かにいるであろう彼を尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういうことか。あまりそういう事には関わりたくはない」

 

ほむらが武器を調達しに行くことにバラゴは苦い顔をして応えた。彼は、他の厄介ごとには興味がないというか、係わり合いを持ちたくないのだ。

 

「そうしないと。私は戦う術を失うことになる。だから、行かせて……」

 

「それならば、態々他から持ってくるよりも私が持っているものを君に与えよう」

 

バラゴは紫色の弓をほむらに手渡した。

 

「…………これはなに………」

 

「見ての通りさ。それが君の武器だ……魔女、ホラーに対して有効な筈……そうそう……」

 

ほむらは倒すべき相手である魔女に対して有効な攻撃手段が思わず手に入ったことに驚いたが……

 

「当然、敵対する魔法少女にも有効なはずだ」

 

含むように嗤うバラゴにほむらは、頭に一気に血が上るのを感じた。この男は、酷く歪んでいる。あまりにも純粋すぎた故に……

 

ほむら自信はバラゴの行動が唯一つの目的に邁進している様に、根は非常に純粋ではと察していた。しかしながら、彼はあまりにも歪なのだ。

 

「あなたって……本当に最低ね」

 

睨みつけるほむらに対し、バラゴは薄く嗤い、傍らに控えさせていたエルダに

 

「エルダ。ほむら君に法術を師事したまえ……」

 

「勝手に話を進めないで欲しいわね……」

 

自分のことを無視して話を進める二人にほむらは怒りで自身のソウルジェムは少しだけ濁るのを感じた。

 

(まあ、いいわ。この時間軸を踏み台にするにしても……)

 

長年、戦いの中に身を置いてきたゆえか、メリットとデメリットの計算が早くなっていた。

 

ここでほむらは、新たな戦闘方法を不承ではあるが、学ぶのも構わないと考えた。

 

「……で、ほむらくん。何か言いたいのかね?」

 

「何でもないわ」

 

ほむらが軽く舌打ちしたことは、誰にも知られることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(意外ではあったが、ほむらは法術を要領よく習得していったな)

 

一番、驚いていたのはほむら自身であった。魔法少女としては最弱の部類に入るが、法師としてはそこそこ強いレベルにあったのだ。

 

この事に対し、ほむらは最初の不貞腐れた表情から一変し、真面目にエルダに師事を受けるようになった。

 

”エルダ。これに何の意味があるの?”

 

”基本的な戦い方だ”

 

エルダはほむらに爪を立てて襲いかかってきた。女性特有のしなやかな動きで彼女に拳を突き立てる。

 

”ひゃっ!?!わ、私は術を学びたいのに!!”

 

”小娘のように声を上げるな。耳障りだ”

 

感情的なほむらに対し、エルダは抑揚のない声色で応えた。

 

そのまま組手を行い、ほむらも半ば自棄になってエルダとの組手に応じるのだった。

 

”こちらは素人かと思ったが・・・・・・意外とやるようだな”

 

”ただ魔法に頼ってばかりじゃなかったわ”

 

ほむらは自身が巡ってきたループでせめて接近戦をと独学で格闘技を行い、その過程で虚弱体質だった体は改善されていた。

 

数日の間、法師としての訓練をある程度行いつつ、ほむらは自身の目的の為に動くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

傷ついたほむらをエルダは相変わらず感情のない目で見ていた。

 

「・・・・・・愚か者め。付け焼刃程度の力で動くとは・・・・・・」

 

魔法少女としてはベテランであり、戦士としてはある程度独り立ちしているだろうが、エルダにとってほむらは、まだまだ未熟であった。

 

個人的な感情では彼女のことを気に入っているが、今回のような行動は好きにはなれなかった。

 

「まったく・・・・・・鹿目まどかの事など見捨ててしまえば良いのだ。もはや希望すら抱いていないのはお前自身よく分かっているだろう?」

 

鋼鉄製の爪でほむらの頬を撫でながらエルダは呟いた。

 

「他の小娘も同様・・・望みすらないのに・・・・・・何故、救おうとする?そうまでして希望にすがり付こうとするのだ?」

 

エルダには、見えていた。ほむらの心の中に存在する僅かな”内なる光”の存在を・・・・・・

 

彼女以外にも闇にありながら、”内なる光”を持つ者を・・・・・・

 

「バラゴ様もまた、僅かな内なる光を宿していらっしゃる」

 

この場にいる”母の映し身である少女”の存在がそれを証明させていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 中学校

 

病院での一件から、まどか達はあっさりと元の日常へと戻っていた。

 

(あれから、マミさんには会っていない……杏子ちゃんとさやかちゃんはいつも通り)

 

「でさ、姐さん。お願いが……」

 

「って、またかよ!!今週で何度目だよ!!!」

 

そこには、宿題が終わっていないさやかが杏子に頭を下げている光景と……

 

「さやかさん。そういうのはあまり関心しませんわ」

 

仁美が呆れながらも笑っているというこのクラスの日常だった。時々、キュウべえの姿を見かけることもあるが、話すことはなかった。

 

こちらの様子を伺うように見ている様は気味が悪かったが、関わってこないのは……

 

(杏子ちゃんが居るからかな……)

 

”記憶”に存在しない”魔戒騎士”、”魔戒法師”……そのことについて、杏子からは聞いていない。

 

(たくさんの”時間軸”で、キュウベえは、契約した覚えのないほむらちゃんを警戒していた……魔戒騎士は、杏子ちゃんはキュウベえにとって都合が悪い存在なのかな……)

 

契約を持ちかけてこないのは、ある意味ありがたかったが、逆に何を行うか分からないと言う点では不気味であった。

 

(それに……ほむらちゃん……)

 

魔女結界の中でマミを助け、共にお菓子の魔女 シャルロッテを倒したはずだったが……倒したはずのシャルロッテが現れ……

 

(現れたのは……)

 

夢で見た”闇色の狼”。悪魔のような冷酷で感情のない目で魔女を喰らった。

 

(何だろう……どうして、この時間軸は……どうすれば、ほむらちゃんを皆を救えるんだろう)

 

自分が魔法少女になればとも思うときがあったが、それは決して行ってはならないことだった……今の自分が契約すれば……

 

(嫌だな……私が皆を傷つけ、殺してしまうなんて……)

 

酷い奴だと思い、手を掛けてしまったキュウベえの屍骸を見たとき、心の底から怖いと思ってしまった。生き物の命を奪うことの恐ろしさに……

 

(どうすればいいんだろう……)

 

何の力もない自分が出来ることは、なんだろうと考えても分からなくなってくる。思考の海に潜ろうとした時、

 

「まどかっ!!!なに、湿気た顔してんのっ!!!暗いよ!!!!」

 

「っ!?!!さ、さやかちゃんっ!!!!」

 

驚いたのか、まどかは声を上げてしまった。さやかは、いつものように明るい笑顔である。

 

「もしかして、宿題忘れたっ!?!」

 

「違うよ、さやかちゃんじゃあるまいし……」

 

「ひどっ!!!まどか、親友にそれ言う?」

 

「えぇ~~、友達だから言えるんじゃないかな。ティヒヒヒヒヒヒ」

 

先ほどの暗い表情ではなく、年相応の少女の顔でまどかは笑っている。そんな彼女に杏子は少し複雑そうな視線を向けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の街頭を一人の女性が縋るような視線で”探し人”のビラを配っている女性がいた。

 

「すみません・・・・・・お願いします。どうか・・・」

 

街頭を歩く人達は、時折受け取るか、最初から女性は居ない者として通り過ぎるだけだった。

 

「あぁっ!?!」

 

ある人にぶつかりそのまま、アスファルトの上に倒れてしまった。倒れてしまっても誰も女性のことを気に留めることはない。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

女性に一人の女子中学生が駆け寄った。その女子中学生 鹿目 まどかを見た女性は……

 

「ほむら?」

 

自分が探している”愛娘”が微笑んでいるように見えたが、少女は”愛娘”とは似ても似つかなかった。

 

「あ、あの……」

 

「ごめんなさいね。少し疲れていたみたいだから……」

 

女性は、ビラを拾い集め、まどかも集める。

 

「この子は……」

 

「えぇ、私の娘…居なくなってしまったの」

 

悲しそうに俯き、女性は思い出の中の娘の姿を思い浮かべる。

 

「あの子。自分で自分を痛めつけることがあるから心配なの・・・・・・迷惑だなんて思っていないのに・・・・・・もしあの子が帰ってきたら、あなたとは良いお友達になれそうね」

 

涙混じりに女性はまどかに礼を述べ、人ごみの中に消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、まどかと別れ、さやかはいつものように上条恭介が居る病院へと来ていた。

 

恭介はCDプレイヤーでいつものように音楽を聴いていた。

 

「・・・・・・何を聴いているの?」

 

「亜麻色の髪の乙女」

 

「ドビュッシー?素敵な曲だよね」

 

さやかは、彼が聴いている曲を一度聴いている。普段が普段なためか、さやかがクラシックに詳しいことは意外であった。

 

「あたしってさ、こんなだからさ・・・クラシックなんて聞く柄なんかじゃないし・・・・・・恭介が教えてくれなかったらさ、こういう音楽を真面目に聞こうとなんてさ、たぶん、一生なかったんだろうなって・・・」

 

音楽の授業で曲名を当てることで、他のクラスメイトに何度もビックリさせていたのだ。普段なら、恭介は彼女に”そんなことはないよ”と優しい言葉を掛けるのだが・・・・・・

 

「・・・・・・さやかはさ・・・・・・」

 

「…なぁに?」

 

普段と違う妙に冷たい声色にさやかは戸惑うように応えた。

 

「さやかはさ、僕をいじめて楽しいのかい?」

 

「えっ、!?な、何を・・・」

 

突然の、意外な彼の言葉にさやかは戸惑ってしまった。

 

「今でも僕に音楽なんかを聴かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」

 

「だって恭介、音楽が好きだから・・・・・・」

 

取り繕うようにさやかは、応えるが恭介の怒りにさらに油を注いでしまった。

 

「もう聞きたくないんだよ!自分で引けもしない曲を聞くなんて!!!!聞いているだけなんて!!!僕は!!!!!」

 

普段の物静かな彼とは打って変わって激しく怒りでそれでいて今にも泣きそうに表情を歪ませ、CDプレイヤーを叩き壊した。

 

「や、やめてっ!!」

 

「動かないんだ!!!何も感じないんだ!!!!もう痛みさえ感じない・・・・・・こんな手・・・・・・」

 

現に彼は自身の手から血が流れてもまったく痛みを感じなかったのだ。

 

「大丈夫だよ。きっと、何とかなるよ。諦めなければ、きっと・・・・・・」

 

彼の悲しみを少しでも和らげようとさやかは、励ますが、

 

「諦めろって言われたのさ」

 

少しでも彼の気持ちを和らげようと浮かべていた笑みが強ばってしまった。

 

「僕の手は二度と動かない。奇跡か、魔法でない限り治せないって・・・・・・・・・」

 

完全に望みが絶たれてしまったのだ。両親も何とかしようと海外の名医を当たっているそうだが、治せる可能性は限りなく低い。日本の最高の医師に見てもらってこれなのだから・・・・・・

 

そのことは両親も分かっているのか、心理カウンセラーまで雇っていた。

 

ただ、確実性のない励ましを言うしかできない彼女にはどうしようもできなかった。

 

”僕と契約して、魔法少女になってよ!!”

 

脳裏に浮かんだのは、親友達が警戒する得体の知れない小動物の言葉だった。

 

あらゆる願いを叶えることができる。

 

”その人のために人生を投げ出すのが嫌ですか?それだけの価値があるのではないでしょうか。投げ出せないのは、願いなんてその程度なんですね”

 

”絶対にアイツと契約するなよ。取り返しがつかなくなったら、後悔しても遅いんだ”

 

叶えたくても願いが叶えられない親友の声と、安易に奇跡に縋るなと警告する親友の声がぐちゃぐちゃに混ざっていく。

 

目の前にいる少年を絶望から救えるのなら、使える手段があるのならば、それは正しいことでないのだろうか?

 

しかし、数日前の悪夢を忘れているわけではない。願いを、奇跡を叶えてしまえば・・・・・・自分はあの恐ろしい存在と大きく関わってしまうことになるのだが・・・・・・

 

(あの時は、冗談じゃないって思ったけど・・・・・・恭介の為なら・・・・・・何とかなるかもしれない)

 

独りで戦わなければならないかもしれない。だが、彼女には一緒に戦ってくれるかもしれない宛があった。

 

(姐さんは怒るかもしれないけど、きっと分かってくれるよね)

 

決心がついたのか、さやかは、

 

「・・・・・・あるよ!!」

 

「・・・・・・・・・?」

 

訝しげな恭介に対し、さやかは彼をまっすぐ見据えて

 

「奇跡も魔法もあるんだよ!!!!」

 

さやかは決意したように言い切った。病室の前にひとりの男が居たことに二人は気がつかなかった・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・軽々しく他人の為に命を差し出すとは・・・・・・身の程知らずの小娘が・・・・・・・・・」

 

カウンセラーの龍崎ことバラゴは、この件についてはある程度、彼女から聞いていた。だが、彼はこの件をどうしようとも思わなかった。

 

「・・・・・・彼女がどうなろうと僕に関わり合いがあるわけじゃない」

 

恭介の両親から依頼を受けていたのだが、あの様子で話すのも拗れるだけかもしれないと判断し、その場を後にした。

 

二人よりも彼が関心を寄せているのは、たった一人の少女である。その少女の身が安全ならば、それ以外の事などどうでもよかった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の屋上で・・・

 

「キュゥべえ、居るんでしょ!!!」

 

彼女の声に応えるように小さな白い生き物が手摺の上に現れた・・・・・・・・・

 

「美樹さやか。君にとってその願いは命を賭けるに値する願いなのかい」

 

頷いたさやかにキュゥべえは、耳を腕のように動かす。

 

「うん・・・・・・アタシの願いは・・・・・・」

 

その後、屋上に青い光が弾けたことに誰も気がつかなかった・・・・・・ただ一人を除いて・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女が選択した事だ・・・・・・僕が態々、出るまでもない・・・・・・」

 

先ほど光が弾けた屋上に視線を向けるバラゴの視線は、まるで何も見なかったように言い聞かせているようにも見えた。

 

”あなたって、本当に人間じゃないのね!!!!”

 

かつては、止めるほどの言葉ではなかったが、何故か、今、響いた彼女の声は嫌に心を動揺させた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 




捏造になるかもしれませんが、この小説の設定では、バラゴは何度か阿門法師と顔を合わせている設定です。

阿門と出会ったのは、小説版だと鋼牙とバルチャスを興じた後、ヴァランカスの実を鋼牙が取りに行く手前でこの時が初対面です。ついでに最後の出会いでもありました。

名前だけですが、鋼牙もでましたが、あの人も捻くれた目をした魔戒騎士で、でています(笑)

時期は、TV版が始まる前ですね。この物語のコンセプトにIS×GAROでは出せない人たちを出そうというのもあったりします。

阿門法師もその中のひとりです。次回はいよいよ、飛び入りであの人に似たキャラが・・・・・・



次回予告

アレから、私はずっと一人ぼっち。

誰も傍に居られるわけじゃない・・・・・・

呀 暗黒騎士異聞 第十八話「古傷」

いま、あなたは生きているの?それとも・・・・・・





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第十八話「古傷」


久々の更新・・・・・・大変お待たせしました。

とりあえずは、こちらを優先的に更新したいと思います。

例の彼によく似た人がでました。期待に応えられたでしょうか?唐揚ちきんさん・・・・・・


 

 

数日前・・・・・・

 

『柾尾君!!!貴方って本当に最低っ!!!!』

 

周囲に木霊するのは彼の頬を叩く乾いた音だった。彼こと、柾尾優太は背を向けて去っていくかつての恋人を何の感慨もない視線を向けていた。

 

「分からないな~~。どうして、他の異性と一緒に居ただけであんな風に怒るのかな~~」

 

彼の視線は、興味深そうにまるで実験動物を観察するような視線を向けた後、使い古されたキャンパスノートに

 

”かずみ…離れる”と書き込んだ。そのページには、つい最近、撮影したと思われる写真が貼り付けられていた。

 

そこには仲つつましく肩を組んでいる柾尾と先ほど彼と別れた和美の姿があった。いや、和美だけではなく、隣のページには和美ではない別の女性のモノも。

 

「別に僕は、きみと愛し合っていたわけじゃないんだけれどね」

 

柾尾は不思議そうに自分とかずみが映った写真を眺めていた。写真の中の和美は満面の笑みを浮かべて自分の腕を取っている。だが、彼自身は口元の形を歪ませているだけで”笑っては居なかった”。

 

「不思議だな……どうして、他人は分かりもしないのに自分に都合の良い解釈で他人を見るんだろうか」

 

和美の笑顔に合わせるように頬に手をあて、口元をゆがめて笑顔を作り出そうとする彼の姿は、傍から見ればゴムのマスクをした人形が真似事をしているようだった。

 

「分からない……こんな僕に言い寄ってくる彼女達も……」

 

捲られたキャンパスノートのページには、彼がこれまでに付き合ってきた女性との日々が綴られていた。

 

彼女達との日々は悪くはなかったと感じていたが、彼はそれを”楽しい”とも思って居なかった。だからこそ、それを理解しようとも彼なりに努力をしてきたが、叶わなかった。

 

悩むように唸る彼は不意に頭上を何かが通り過ぎる影を見た。上を向くと黄色を基調とした衣装を身に着けた少女が飛翔している。

 

「…………なんだろ?あの子は」

 

普通の人ならば、呆然とする光景であるが彼は、まるで機械のセンサーのようにその光景を捉えて、後を追った。

 

いつの間にか少女は、自分が住まう自宅マンションのエントランスから階段を駆け上がっていく。

 

薄暗くなった通路を足早にかけていく影が自身が住まうとなりの部屋に駆け込む光景を見た・・・・・・

 

「巴マミ・・・・・・あぁ、あの子は確か・・・・・・」

 

数年前の交通事故で両親を亡くし、一人で暮らしている少女とだけ覚えていた・・・・・・・・・

 

「・・・・・・良くわからないけれど、面白いことをしているみたいだね・・・・・・巴マミちゃん」

 

共用通路の明かりに照らされた彼の影の表情が大きく裂けて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴マミが生活するマンションの一室に電話の着信音が鳴り響く。5コール後に、

 

<巴マミです、御用のある方はメッセージをどうぞ>

 

留守番電話用の音声の後に、数日前から同じ人物の声が

 

<巴さん、担任の保志です。ここしばらく、学校に来ていないようだけど……今日、そちらに伺います>

 

担任の保志という教師が心配の旨を伝えるメッセージが録音される。普段なら、留守電にメッセージが録音される前に彼女は電話を取るはずだが……

 

「……………」

 

彼女、巴マミはマンションの自身の寝室のベッドの上に蹲っていた。あの魔女との戦いの後、逃げるように部屋に閉じこもり、数日間食事さえ取っていなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、自身があと少しで”死”を迎えていたかもしれない光景…

 

”死”から助けてくれた、”彼女”が傷つく光景……

 

一瞬で殺すことを良しとせず、相手を徹底的に嬲り、”死”を感じた寒気を思い出させた”闇色の狼”の悪魔のような白い目……

 

ここ数日繰り返される記憶の光景にマミは頭を抱えた。かつて、魔法少女になった頃、一人の少年を助けられずに思い悩んだこともあったが、今の悩みは……

 

(怖い……なんでアレは……魔女を……)

 

魔法少女として率先し、人々を脅かす脅威と戦うことを誓った彼女であるが、遭遇した”闇色の狼”は自分の手に負える存在ではなく、魔女とは違う”恐ろしさ”を本能的にキャッチしていたのだ。

 

暴力性、凶悪性、残忍さ、さらには魔女を喰らうという狂っているとしか思えない行動に言い難い恐怖を覚えていた。彼女が恐れてやまない”死”そのものだった・・・・・・

 

さらに、自分の為に散っていった彼女の事も……

 

「ごめんなさい……私なんかの為に……ごめんなさい……ごめんなさい」

 

いつかは枯れてしまうのではないかというぐらいに涙を流していたが、涙がかれることはなかった。

 

自分の為に”一緒に戦ってくれる”と言ってくれた彼女は、自分を助けるために犠牲となり、思い出せないが、彼女は自分に命を助けられたと言っていた。

 

「どうして、助かった命を私なんかの為に…魔法少女になったの?」

 

命が助かったのなら、何故危険な魔法少女になった?どうして、命を危険に晒すような”契約”を結んだ?それはキュゥべえにお願いしなければならない程のものだったのか?

 

もし、自分が”彼女”の近くに居れば、間違いなく止めていたかもしれない・・・・・・

 

自分の場合は、どうしようもなく”死”が恐ろしかったから”生”への”契約”を結んだのだ。

 

「……何を言っているの?巴マミ……貴女は、鹿目さんを契約させようとしていたじゃない……」

 

自分の行おうとしていた事と今、思っていたことへの矛盾に呆れてしまう。彼女自身は気づいていないが、齢15の少女であるが故だった。

 

戦う力を得ても元々は大人の加護にある子供なのだ。彼女は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の部屋の前を一人の青年が佇んでいた。彼は、数日前に見た不思議な少女がこの部屋に入るのを見てから、頻繁に此処を訪れていたのだ。

 

「今日も来ないか……ちゃんと働いている?君は……」

 

部屋の前に巧妙に隠して設置していたカメラに話しかけた。常にここに居るわけにも行かないため、来れない時は、こうして”監視”を行っているのである。

 

さらには、かつて付き合っていた”彼女”達にも同様の行為を行っていた。悪趣味な行為であるが、これは彼なりに”彼女”達を知ろうという前向きな姿勢である。

 

「しっかり頼むよ。君にはそれなりにお金を掛けているんだから……」

 

彼は、知りたかったのだ。自分に好意を寄せていた彼女達がどうしてそのような好意を抱いたのかを……

 

表面上の付き合いだけでは理解は出来ない。それ故に”彼女”達を彼なりに知ろうとした。

 

スマートフォンのあるアプリケーションを開き、扉の前が映し出されたのを確認し、彼はその場を後にした。

 

その際に彼とピンク色の少女がすれ違い、彼は振り返った。見る人が見れば、分かるだろう・・・彼の目には何も写っていないことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・マミさん」

 

あの一件からまどかはマミの元を訪れていなかった。

 

(どうしよう・・・・・・何となくだけれど、顔が合わせずらかっただなんて・・・やっぱり私ってダメな子だな~)

 

あれ以来、まどかはマミと会うことができなかった。結界の中でのマミのまどかに対する不信感。

 

様々な後ろめたい感情に影響され、会って何を言えば良いのか分からないという自分に都合の良い言い訳をして・・・・・・

 

マンションのエントランスに入るが、そこから先に進むことができない。会ってどうしようというのだろうか?

 

何処にでもいる特別な才能を持たないちっぽけな”鹿目 まどか”に何が出来るのか?

 

(ワルプルギスの夜を・・・・・・今も頑張っているほむらちゃんの為にも…・・・私は、どうしたらいいんだろう)

 

一発逆転のグッドアイディアをひねり出せるほど、自分の出来は良くない。あの後、ほむらを探したが何処にも居なかった。

 

魔女によって倒されたのだろうかとも考えたが、あの少女は弱くても一つの目的のためならば、達成するまでは死ぬようなことはない。

 

これはまどかが持っている”記録”によるものである。それに結界が消える瞬間、彼女は見たのだ。

 

闇色の狼が鎧を解き、ほむらを抱えて去っていくのを・・・・・・

 

おそらくは生きているだろう・・・・・・だが、どこにいるかはわからない・・・・・・

 

(何が出来るかはわからないけれど、私も頑張ってみよう。今は、マミさんと会わないと・・・・・・)

 

軽く拳を握り、自身を奮い立たせて一歩を踏み出した。

 

(できれば、杏子ちゃんも一緒に居て欲しかったんだけれど・・・でも、マミさんは・・・・・・)

 

異常にまで彼女を敵視するマミに何も言えなくなってしまう。二人の間にあった出来事は、ある程度察しているが、ここまで拒絶する時間軸はなかった。

 

この時間軸の杏子は、家の用事の為、早退し、二日ほど見滝原をおじと共に離れている。さやか曰く”姐さんはおじ様と一緒にポートシティに行くってさ”。

 

大抵は、マミをアイドル視するさやかによって、妙にこじれてしまう。さやかという言葉でまどかは我に返った。

 

(待って・・・・・・!!!今日は、さやかちゃんが契約してしまう日だっ!!!どうして、こんな大事なことを忘れていたの!!!!)

 

ノートを取り出したまどかは、今日の重要項目である”上条恭介”を見た。自身の”予定”では、さやかと共に見舞いに行く予定だった・・・・・・それなのに・・・・・・

 

(バカっ!!!私のバカ!!!何やってんの!!!)

 

今、マミに会うことも大事だが、それ以上に彼女の契約だけは絶対にしてはいけなかった。もし、契約をしてしまえば”取り返しのつかない”ことになってしまうからだ。

 

ほとんど、キュゥべえが・・・インキュベーターが作り上げた残酷なルールにより、さやかは絶望し、世を、人を呪い始める・・・・・・

 

それを未然に防ぐ為には、何としてでもさやかの契約だけは止めなくてはならない・・・・・・マミも大事だが、こちらのほうがもっと重要だと判断し、勢いよく駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マンションから勢いよく駆け出していったまどかより遅れて、入れ違うように黒髪の少女がエントランスに入ってきた。

 

手元にバスケットを持って来たのは、暁美ほむらであった。

 

「巴さんにこれを振る舞うのは、初めてね」

 

バスケットにあるのは、かつての時間軸で”友人であり家族でもあった彼女”が教えてくれた”アップルパイ”である。

 

(不思議なものね・・・・・・貴女が教えてくれたコレを巴さんに振舞うなんてことがあるなんて・・・・・・)

 

これを持ってきたのは、自身の無事をマミに伝えることと出来ることならば、他の魔法少女と連携をとり、例え相いれなくとも歩み寄って欲しいとお願いがしたかったからだ。

 

手土産を持っていくことも”彼女”から教わったものである。かつての自分ならば、このような事を考えもつかなかったであろう・・・・・・

 

こう考えるようになったのは・・・・・・

 

(バラゴ・・・・・・彼と一緒にいる影響なのかしら・・・・・・・・・)

 

不思議と溜息を付いてしまった。彼ことバラゴの件は確かにある。シャルロッテの時に、自分が倒れた後に彼女たちも暗黒騎士 呀と会っている。

 

そして、あの残虐な戦い方も当然の事ながら見ているだろう。魔女を喰らうという悪夢のような光景に恐怖を抱かずには居られない。

 

マミも呀の事を警戒し、必要以上に自分を追い詰めてしまう可能性が高い。この時間軸では分からないが、いくつかの時間軸では”ワルプルギスの夜”への対策に向けて動き出していたことも・・・・・・

 

(……巴さんは必要以上に背負いすぎてしまう。性質の悪いことに私達がそれに甘えてしまい、さらに追い込むから……)

 

ベテランの魔法少女という事でほむらも彼女を絶大に信頼して居た時があった。

 

だが、いくつもの”時間軸”を重ねることによって、自分達があまりに彼女に重みを与えていたことと、マミもマミで自分から重みを背負う。

 

だからこそ、彼女には必要以上に物事を背負って欲しくなかった。過去に”他の子を魔法少女にするのは反対”と言っていたが、いつの間にか”まどかを魔法少女にすべきではない”にすり替わってしまった。

 

(それにバラゴの存在が、巴さんにどんな悪影響を齎しているか……)

 

ほむらの中では、やはりバラゴは危険極まりない存在であり、魔法少女にとってはプラスにはならない。

 

さらには、自分があのような失態を見せてしまったのだから……感じなくても良い罪悪感も感じているだろう……

 

数歩進むたびに腹部が痛むのを感じてしまう。先日のシャルロッテの時の傷の影響がある為である。

 

目覚めた時にあまり得意ではない治癒魔法を使い、ある程度は動けるようにしたのだが……

 

(やっぱり、こういう方面は不得意なのね。私は・・・・・・)

 

この先にいる巴マミ、魔法少女の契約を果たした美樹さやかは、治癒魔法が得意である。過去の時間軸で何度かお世話になったこともあった。

 

(こういう所は見せないほうがいいわね。巴さん・・・・・食べていると良いけど・・・・・・)

 

必要以上に自分を追い詰めているであろう”先輩”に対し、ほむらは思いを巡らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は夢を見ていた。

 

それは、何処かわからない不思議な場所だった。いや、ここは彼女が幼い頃に来たかった場所・・・・・・

 

「パパ。ママ!!」

 

そこは、彼女が大好きな御伽の国の住人が住まう園。多くの家族連れが行き交い、絵本から飛び出してきたキャラクター達が子供達を楽しませていた。

 

「ねぇ、パパ、ママ。ちゅーた君がマミに握手してくれたよ!!!」

 

両親が彼女の手を取ろうとするが、その手はすり抜けてしまう。

 

「どうして、パパとママの手が取れないの?ねえ、マミに教えてよ!!」

 

二人の両親は表情を困惑させるだけで何も語らない。それどころか、少しずつ両親が離れていく。急いで追いかけようとするが、一瞬にして襲った浮遊感と共に離れてしまった。

 

自分をサーカスの空中ブランコ乗りのようにリボンを使い、移動する少女が彼女を抱えていたのだ。

 

「だ、だれっ!?!ま、マミをどうするのっ!?!

 

黄色を基調とした衣装を着た金髪の少女は何も応えない。まっすぐに彼女をある場所に連れて行った。そこは、様々なお菓子で彩られた奇妙な空間の中央に一体の魔女が鎮座していた。

 

それは、先日彼女を”死”に至らしめた・・・・・・

 

「嫌だっ!!!!嫌っ!!!!嫌ああああああああああああっ!!!!!!!」

 

悲鳴を上げるマミに対し、黄色の少女は冷淡に突き放した。少女に表情、顔すらなかった・・・・・・

 

ぬいぐるみのような愛らしい外見から変わり、蛇のようにうねる体を持った”本体”が現れ、その鋭い牙を付きた立てるが・・・・・・

 

”巴さん!!!巴さん!!!!”

 

突如、頭に響いた声と同時に彼女は夢から覚めた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・・・あ、貴女は!?!!」

 

先ほどの奇怪な空間ではなく、見慣れた部屋であり、そして、あの魔女空間で自分を助けてくれた少女だった。

 

「あ、貴女!!!!い、生きていたのっ!?!!」

 

「は、はい。と、巴さん、落ち着いてください!!」

 

勢いよく迫ったためにほむらは、マミに押し倒されてしまった。

 

押し倒されただけに飽き足らずか、マミは彼女の両頬を触り、さらには体をこれでもかというぐらいに確認した。

 

「ゆ、幽霊じゃないわね?よかった・・・・・・本当によかった」」

 

ほむらの生存が嬉しいのか、マミは思わず涙ぐんでいた。

 

「は、はい・・・私は一応は生きていますので・・・巴さん、とりあえずどいてくれますか?」

 

「あ、ごめんなさい。私ったら、おっちょこちょいで・・・・・・」

 

”知っていますよ”と内心、呟く。この先輩は魔法少女としては頼りになるのだが、私生活ではかなりだらしないというか、お茶目な所がある。

 

起き上がった時に、ほむらは腹部に痛みを感じた。先日の傷が僅かだが開いてしまったのだ。

 

「貴女。そんな怪我をしていたのに、態々此処に来たというの?」

 

「はい。勝手にあなたの部屋に入った事は謝ります。どうしても貴女のことが気になって・・・」

 

傷が開き衣服が赤く染まる。マミは、彼女の傷に手を当てて治癒魔法を施した。

 

「随分と無茶をしたのね。どうして、傷が治るまで待てなかったの?」

 

「時間をあまり無駄にしたくなかったんです。私はいつまでも倒れているわけには・・・・・・」

 

「魔法少女としての仕事に熱心ね・・・貴女の願いはそれに値する程、尊いものなの?」

 

マミは”生きるために選択肢がなかった”自分とは違い、彼女は考え抜いて、契約を結んだのだろうと察した。

 

「はい、私はある願いのために契約をしました。その願いと同じようにどうしても果たさなければならないことがあります」

 

「それは・・・・・・」

 

「はい。ワルプルギスの夜を倒すことです」

 

「貴女も知っているのね。最大級の魔女を・・・・・・」

 

回りくどいことを言わずにほむらは自身の目的を語った。

 

「はい・・・・・・私は、ワルプルギスの夜に”仲間”を・・・”友達”を奪われました」

 

ほむらの脳裏に今も焼きついているあの光景が浮かぶ。何度やっても倒すことは叶わず、そして仲間、友達が死んでいく光景が・・・・・・

 

その度にいつも呪い、恨めしかった。自身の弱さが憎かった・・・・・・こんな自分を何度嫌悪し、抹殺したいと願っただろうか…・・・

 

思い返すたびにその時の感情がリアルに蘇る。

 

震える手と怒りに染まった表情のほむらにマミはそっと近づき、彼女の震える手を取り、そっと抱きしめた。

 

「私には、何も言えないわ。本当に辛い思いをしてきたのね・・・・・・」

 

慰めの言葉をかけても何にもならない。

 

「私も同じです。自分がどう言われようとも目的だけはどんなことをしてでも果たしたいという願いしかないんです」

 

ほむら自身も自分を哀れんだりしたくはなかった。

 

「そう…だからこそ、貴女は契約したの?亡くなった方の復讐がしたくて・・・・・・」

 

”そんなことをしても亡くなった方は喜ばないし、望んでいないわ”とマミは言いたかった。だが、言うことはできなかった。

 

彼女は、おそらくは何もできなかった自分自身を恨み、憎んでいるのだろう。そんな悲しい思いを抱え込まないで欲しかった。

 

生きているのだから、きっと素晴らしいことがあるのに・・・・・・と・・・・・・

 

「そ、そうかもしれません。私は、どうしても自分が許せないんです。あの子には生きていて欲しかったのに、戦うことが怖くてただ見ていることしかできなかった自分が・・・戦わなかった自分が!!!!」

 

最初の時間軸で、自分が契約すれば”もしかしたら”を考えてしまう。だが、契約し、やり直しても結果は変わらなかったのだ・・・・・・

 

「そんな事を言ってはダメ。貴女を守ろうとして戦ったその人だって・・・・・・」

 

「そうですね・・・ですが、もう過ぎてしまったことです。どうあがいてもあの時の”あの子”には会えないんですから・・・・・・」

 

震えているほむらに対し、マミは何も言わずに抱きしめた。

 

(・・・・・・巴マミ。貴女は何を哀れんでいたの?一人ぼっちが寂しいからって、自分一人だけが不幸だなんて思い上がりもいいところじゃないのよ)

 

「でも、生き残っている貴女もまだ生きている私もまだ、前に進めるわ。貴女は言ってくれたわよね、一緒に戦ってくれるって」

 

先程まで、孤独で泣いていた自分を叱咤した。ここにも独りで戦おうとしている子が、後輩がいるのに、何を独りで悲劇のヒロインを気取っているのかと・・・・・・・・・

 

「・・・・・・私、巴さんのことを心配してきたのに、どうして私が巴さんに励まされているのでしょうか?」

 

「う~~~ん。そういうことも稀にあるんじゃないかしら?」

 

困惑気味に答えるマミに対して、ほむらもほむらで

 

(はぁ~~~。結局私は、繰り返すだけで何にも変わらなかったかしらね・・・・・・)

 

普段なら、もっと自分を強く見せようと高圧的に振る舞い、このように話すこともなかった。

 

(結局はバラゴの影響なのかしら・・・・・・あいつの影響って悪影響ぐらいしかなさそうなのに・・・・・・)

 

ほむらは、自身の心の中で存在が大きくなっていく”闇色の狼”について、穏やかな感想を抱いた・・・・・・

 

もしくは、同族嫌悪を抱く彼と同じになりたくないという反抗心なのかまでは、はっきりしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原病院に勢いよく駆け込む影があった。時刻は既に面会時間はギリギリであるのだが、彼女 鹿目 まどかは居ても立ってもいられなかったのだ。

 

そんな彼女につかず離れずと柾尾優太は病院まで跡を付けていた。彼は病院に視線を向け、思い出したようにスマートフォンの端末を操作する。

 

自身が制作したアプリを起動させ、その中にある情報を取り出す。そこには、”楓 ナオ 入院中 見滝原病院”

 

跡をつけてきた少女も気になるが、こちらの用事も済ませておくべきだろうと判断し、彼はどういう訳か、入口からではなく病院の裏手に回ったのだった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面会謝絶の病棟にひとりの女性がベッドに横たわっていた。彼女は、全身が包帯で巻かれ、さらには両手両足が無くなり、まるでイモムシのようであった。

 

ただ息をするだけで顔は完全に焼きただれているという有様。僅かに残った視界は薄暗い病室の天井を映し出していた。目は閉じたくなかった。閉じれば、またあの悪夢を思い出すのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は付き合っていた柾尾優太と一緒に肝試しとしてある”心霊スポット”に来ていた。そこは、昔、軍の収容施設があったと噂されるところだった……

 

柾尾優太は、何処にでも居る普通の青年と私は思っていた。だけど、それは違った。彼は、一言で言うなら”人でなし”だ……

 

私をこのような目に合わせたのも、彼を”人でなし”と気がつかなかった私の運の悪さと人を見る目の無さだった………

 

良くわからないけれど、そこは妙に焼け爛れた跡があちこちに残っていた。そこで私は、あの”人でなし”にとんでもないことを言ってしまったのだ。

 

”ねえ、此処ってさ、突き落とした兵隊さんをそのまま油で焼いたんだって”

 

それを物語るように廃棄されずに残っている油の入ったドラム缶がいたるところにあった。

 

”どんな気分だったんだろうね。突き落とされて、焼かれるのってさ”

 

自分でもここまで悪趣味な発言はないと思うが、笑って済ませるか、あるいは引いてしまうだろが……

 

”………………”

 

この時、私は彼の表情を見なかったが恐らくは、新しい玩具を買ってもらった子供のような表情をしていたかもしれない。

 

突然、黙りこんだ彼に対し私は、あろうことか自分からその穴の傍まで近づいたのだった。

 

”ナオ、君はそんな目にあったら、どんな表情をするんだい?”

 

穴を覗き込んだ私の背後を彼は思いっきり押したのだ。突然、身体の力が抜けるようなそんな感じがし、私は気がつけば堅い岩の感触を感じ、さらには手足がありえない方向に曲がるのを感じそのまま十数メートルしたの穴のそこに落ちてしまった。

 

あまりの痛さに声が出なかった。手足を動かそうにも全身が痛いし、骨が折れているのか激痛がはしった。

 

痛みにのたうち回っている私の前にいつの間にか、柾尾優太が”人でなし”の姿が。

 

彼は私の表情を興味深そうに見ていて自分の表情をそれに似せようといじっていたのだ。痛みに歪む表情と、この人でなしが許せない気持が混ざり合っていた。

 

改めて見たこいつの目には何も映っていなかった。感情を知らない人形が、それを知ろうとしているというのは何処となく愉快な話だろうが、実際はそうじゃない。

 

感情は痛みや、怒り、苦しみも問うのだ。それを知ろうとしているのか、彼は今の私の表情に似せようとしていた……それはあまりのも不気味で嫌な物だった…

 

その私の思いが彼を刺激したのか、彼はいつの間にか持って来ていたドラム缶をつるはしでそれを叩き、中に入っていた油を私に掛けてきた。

 

油独特の臭いと感触に表情を歪めてしまった私を見た瞬間、彼はあろうことか火をつけたのだ。

 

”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

 

声にならない叫びを上げる私の耳に彼の悲鳴が聞こえた。いや、笑い声にも似た悲鳴が……

 

自分の身体が焼かれているのに頭は妙に冷静だった。彼は、私を見て観察し、真似ていたのだ。私の悲鳴を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐ろしい数日前の出来事を思い返していた女性であったが、悪夢は再び彼女の前に現れた………

 

「っ!!?!!」

 

声の出すことの出来ない自分を彼は興味深そうに見ていた。彼を視界に入れたくなくて、視線を逸らすが

 

「………………」

 

無言のまま彼女の視界に入っていった。

 

「はっ、はぁ、ぁあああっ」

 

声帯も焼かれてしまい、声すら出ないのだ。精一杯”人でなし、さっさと出て行け”と抵抗するが、その抵抗が彼を刺激した。

 

「ねえ、ナオ。昨日ね…猫が死んだよ…あの子さ、車に跳ねられて死んじゃったんだ」

 

突然、穏やかに語りかけてくる彼に薄ら寒さを感じるが、彼のやろうとしていることが理解できなかった。彼はバックにある三脚を取り出し、そこに小型のムービーを取り付け始めたのだ。

 

「多分、即死だったと思うんだけど、生き物ってさ。どうして、簡単に壊れちゃうんだろう」

 

その言葉と共に首に嫌な感触が走った。彼を両手で自分の首を掴んでいたのだ。

 

「壊れなかったナオなら、僕にその答えを教えてくれるよね」

 

彼はそのまま一気に彼女の首に力を込めたのだった。

 

「っ!?!っ!?!!!!!」

 

込められた力により、息が出来なくなった。酸素が脳に回らなくなり、苦しくなる。そんな彼女にお構いなく、首に掛ける手の力を緩めない……

 

そのまま視界は暗転し、二度と彼女の意識が戻ることはなかった……

 

「ああ、また死んでしまった。まだ他に教えてもらいたいことがあったのに……」

 

あの時、死ななかった彼女ならと期待したのにと内心、愚痴りながら彼は興味が失せたのか、三脚とムービーを片付けて病室を後にした……

 

病室を後にした柾尾優太は、偶然か再び鹿目まどかの姿を捉えた。

 

意気消沈したかのように病室を後にする彼女に何を思ったのか、首を傾けて不思議そうに眺め、彼女の後に続くのだった………

 

 

 

 

 






次回予告

私って本当に、誰かに迷惑ばかり掛けていたんだ……

他の”私”達も余計な事を良くしていて、頑張っている人たちの気も知らないで……

だからこそ、この時間軸でも私は、とんでもない人を巻き込んでしまったんだ……

呀 暗黒騎士異聞 第十九話「悪夢」

私は、何も役に立てずにただ、大切な人を傷つけていく………


あとがきというか弁解……

柾尾優太は、感情というか人間の大事な部分が無くなっていて、それを取り戻そうとしているという純粋な人なんです。

ただ行き当たりばったりに色々と行ってしまう為、かなり恐ろしい目に遭わされます。例の彼に割と良く似た人として描いてみましたが、期待に応えられましたでしょうか?

最初のかずみはまだいい方です。病室の彼女よりも酷い目にあった子はそれなりに多いです・・・・・・ついでに男も・・・・・・

感情のないインキュベーターと感情が無くなった故にそれを取り戻そうとしている青年。結構いいコンビになれそうですね(お近づきにはなりたくありませんが)

マミさんのお隣にいましたが、顔見知り程度で挨拶をする程度の関わりです・・・ただ、関わりが少なかったのは・・・マミさんの両親がキーワードだったりします。


裏タイトル ほむら「うちのバラゴが迷惑をかけました」

ほむらは、なんかツンデレみたいになってしまいました(笑)彼女はバラゴには一応の理解はもっています。

ほむらの時間軸の詳細については何も語られては居ないんですが、こちらではある時間軸で、両親と一緒に生活し、さらには織莉子と暮らしていたという設定があります。

父親が”弁護士”をやっていて、織莉子の父親と縁があって、彼女を引き取ったという具合です。更に言えば、と初めて遭遇した時間軸の後だったりします。

この時のほむらは、意気消沈していて能力を隠すことなく魔法少女であるさやかとマミ、まどかを助けたりしています。ただ、キリカと対立しているマミを立てようとさやかからやたら勧誘されています。

アップルパイは織莉子から、教わったという具合です。何となくですが、ほむらが本編とめがほむを足して二で割ったような感じになってしまったような気が……


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第十九話「悪夢(1)」

遅くなりましたが、今年初の投稿です!!!
年末年始は、割と忙しかった・・・・・・
新たにタグに”何処かで見かけた人?”をいれようかと思いますがどうでしょうか?
唐揚ちきんさん、今回の件の了承ありがとうございます。



「このパイ。本当に美味しいわね」

 

マミはほむらが持ってきたアップルパイの味に満足したように微笑んでいた。

 

「貴女の手作りというだから、驚きだわ」

 

「はい。以前にお世話になった人に教わりました」

 

かつては、敵であった”彼女”に教わったが、あの味にはまだまだ近づけては居ない。

 

「私もまだまだですので、次はもっと美味しい物をお持ちします」

 

「えっ!?!これで、まだまだなの?じゃあ、楽しみにしてるわね」

 

カップを取ってを摘み、自身が淹れた紅茶を飲む。ほむらもマミに倣う様に紅茶を飲んだ。

 

アレから、二人はこのように雑談を交えて”お茶会”を開いていた。

 

「ワルプルギスの夜についてですが……」

 

「えぇ、あと二週間もないそうね。貴女の情報を見れば、ワルプルギスの夜には、準備をいくらしても足りないぐらいなわけね……」

 

少し前にほむらに見せて貰った”ワルプルギスの夜”の情報を察するに見滝原周辺の魔法少女をかき集めても倒すことは叶わない………

 

いや、ほとんどが縄張りを放棄して逃げ出す可能性が高い。

 

今までと違い、このように情報を惜しみなく提供するほむらは自分自身に驚きすら感じていた。

 

魔法により魔女の攻撃するスタイル、使役する使い魔等の映像を映し出すことでその脅威を見せていた。念のため、自分が時間遡行者であることを隠し、ワルプルギスの夜が現れたのは見滝原に良く似た町という事にしておいた。

 

一緒に戦った魔法少女などは極力映さずにしている。

 

これらの事が幸いしてか、マミはほむらを信じるようになっていた。

 

(ほむらさんがどれだけ辛い思いをしてきて、ここまで来たかは分からない。だからこそ、私はそれを手伝ってあげたい)

 

病院での一件で共闘をしたことと危機を助けられたことがほむらを信用する要因になっていた。

 

(そういえば、鹿目 まどかさん。あの子は、ほむらさんの事を知っていたりするのかしら?)

 

病院の一件で最も気になったのは、鹿目 まどかが、佐倉杏子を拘束したときに”ほむらちゃん”と叫んだのは気になっていた。

 

ここでその事を目の前のほむらに伝えようか悩んでしまった。”貴女は、鹿目 まどかを知っているか?”と……

 

もし、この場でその事を伝えれば何かが大きく変わったかもしれない。だが……

 

「ねえ、ほむらさん。魔法少女の願いってどういうふうに考えているのかしら?」

 

「……魔法少女の願いについてですか?私は、誰のせいにもすることができない。ある意味自業自得な存在だと思います」

 

ほむらは、マミの意図を察した。魔法少女を増やすべきかという……誰かに願いを叶えさせて、キュウベえと契約をさせるというもの。

 

これまでの”時間軸”のマミは、ある二人を積極的に魔法少女にしようとさえしていたが、それでも後悔がないようにとしっかり考えなければならないと釘を刺していた。

 

それを踏みにじるように軽はずみで契約を交わし、自分達の願いを自分達で裏切ってしまったのだ。ほむら自身も軽はずみで契約をしてしまったと自覚はしている。

 

マミ自身もそう自覚していた。どうしようもない状況で仕方がなかったといえばそうかもしれないが………

 

「私達の生き方は、ハッキリ言えば異常で本来ならあるはずのない存在のそれですから……」

 

「自業自得ね……それには私も同意するわ。それを改めて思うと、こういう生き方は私達だけで充分だし、増やしたくはないわね」

 

何時死ぬか分からない生き方など、今の世界では非常識であろう。特にこの国では……

 

「ですけれども、インキュベーターは魔法少女を増やそうとします」

 

「インキュベーター?もしかして、キュウベえのことかしら?」

 

”インキュベーター”という聞き慣れない言葉に対し、マミは疑問符を浮かべたのだ。

 

「えぇ、私達が死に掛けている間にそれを出汁に他の子に感けていた”ロクデナシ”です」

 

突然のほむらの発言にマミは思わず、

 

「ろ、ロクデナシ?キュウベえが?」

 

言われてみれば、今まで事情を知るものとして敢えて見ないようにしていたが、自分を出汁に鹿目 まどかに契約を持ちかけようとしているように見える場面があった。

 

「それ以上に何を言えばいいんですか?アイツ、魔女狩りが危険だと自分で言っておきながら一般人をそこに同行させたりしてたりしてたんです。魔法少女ツアーなんかを提案させて」

 

なるだけ魔法少女を増やしたくないという願いと裏腹に、増やそうとする動きのある時間軸にいつも苛立ちを覚えていた。

 

「そ、そんな事をしてたの?!?資質があるからと言って、危険な世界に誘い込むなんてキュウベえもそうだけれど、それに賛成する子も子よ!!!ほむらさんは、反対しなかったの!!?」

 

「はい。私は反対していましたが、そのことで”余計なお世話”と言われ、顰蹙を買い、一応は同行は許してもらえましたが……」

 

いつものことながら、最悪な空気だったのは良く覚えている。

 

「それは反対して当然よ!!!!何よっ!?!魔法少女ツアーって!!!!そのこたちは魔法少女を何だと思っているのよ!!!!遊びじゃないのよ!!!!」

 

”バンッ”とテーブルを叩くほどにマミは憤りを感じていた。自分も鹿目まどかに魔法少女の事を知ってもらおうとこの”時間軸”でも”魔法少女ツアー”をしていた事は、棚の遥か上においている。

 

「遊びではなく、ロクデナシに見出されたから無関係ではいられないという事で、一応はそのこたちの事を案じていたのですが…」

 

「甘いわよ!!!!そういう甘さがあるから、相手を付け上がらせるのよ!!!ほむらさんは!!!!反抗されるなら相手を引っ叩くぐらいはしないと!!!!」

 

”魔法少女ツアーと言い出したのは貴女です”と言いたかったが、言えるわけがなかった。一応は仲間だったのでフォローを入れるつもりが、マミの逆鱗に触れてしまったかもしれない。

 

(引っぱたくって……巴さん。貴女はそんな人でしたっけ?)

 

内心、マミに引きながらも忠告、威嚇は出来ても誰かを…特にかつての先輩、友人に手を上げることをほむらには出来なかった。

 

(……自分は良くても他人は許せない……そういう人でしたっけ?巴さん)

 

自分の事をはるか棚の上にあげているのではと勘ぐるほむらであった。

 

「それならば、関わらせない方がずっといいわよ。何時、死ぬか分からない生き方なんて……」

 

”あとでロクデナ…キュウベえにはきつく言っておかないと”と小声で呟きながら………しばらく無言だったが、スッと立ち上がり……

 

「ほむらさん。この後、予定もないんでしょう。だったら、魔女狩りに行きましょう。グリーフシード、集めなくちゃいけないんだし」

 

先ほどまでの悲壮感は打って変わり、改めて強い意思を滾らせて立ち上がったマミに対して、ほむらは呆然とし……

 

(あの時、一緒に戦うといったけど、仲間になるなんて…この流れだと、こうなってしまうのかしら?)

 

やはり自分はあの頃から、何も変わっていないかもしれない。ほむらはそう思うしかなかった。

 

(この日は、さやかが契約してしまうかもしれない。さやかの場合は……)

 

性格は自分と正反対であるが、何処かで似通っている友人に対し、ほむらはさやかを否定する気には慣れなかった。

 

自分と同じく”大切な人”に未来をと願った魔法少女。今回も恐らくは契約を交わしているかもしれない……

 

インキュベーターと彼女が接触した場合、必ず”契約”は交わされてしまうのだから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インキュベーターと呼ばれる彼ら、いや彼と言うべきだろうか……

 

愛らしいぬいぐるみのような姿をした固体が白い空間に幾つも浮いており、現れたり、消えたりを常に繰り返していた。

 

一体だけが中央にある塔のような椅子に鎮座しており、その周辺を手鏡に似た奇妙な物体が浮遊し、鏡面には様々な国の人間達の姿が映っている

 

その中に彼、柾尾 優太の姿があった。モノクロに映し出されている光景は、動かなくなった包帯だらけの女性に背を向けて去っていった。

 

右端に文字が浮き上がる。

 

”QBさん。また、駄目だったよ”

 

その文字に応えるように新たな分が浮かび上がる。

 

”………君は、もう少し行動を起こす前にワンクッション置くべきだと思うよ。その軽はずみな欲求で首を絞めるのは君自身だからね”

 

人間で言う呆れたというように首を振るが、本当に呆れているかさえ怪しいものである。

 

”構わないよ。僕はどうしても知りたいんだ。何で、彼女達はあんななのに、僕はあんな風じゃないってことが…”

 

切実に訴えて居るようであるが、キュウベえは

 

”それが人間で言う個性というものじゃないかな?君がその人になり変わるか、なるなんて絶対にできないよ”

 

”厳しいな、QBさんは……じゃあ、僕は用事があるからこの辺で切りますね”

 

鏡面に映っている柾尾優太は、スマートフォンを操作していた。対するキュウベえは視線を動かし

 

”こんな事をいうのもなんだけれど、あまり人には迷惑を掛けないことを祈るよ”

 

キュウベえは直ぐに別の鏡面を近くに引き寄せた。そこには、肩を落として歩く鹿目 まどかの姿があり、その近くに柾尾 優太の姿を確認していた。

 

「………やれやれ、彼は少しばかり度が過ぎるね。今まで、警察組織に関わっておきながら何もないのは、どうしたものだろうか?」

 

さらには、マミ、ほむらの姿も映し出されていた。ほむらを押し倒しているという光景である。

 

「マミもマミで持ち直してくれたようだけど、困るんだよね……イレギュラーと関わるのは」

 

無機質な感情を伴わない声色であるが、何処となく人間臭く見えるのは何故だろうか?

 

画面の向こうに見えるほむらに対して、警戒の色を赤い目に浮かべる。さらには、キュウベえ自身の触手に似た物がさやかの胸に突き立てられた光景に目をむけ……

 

「美樹さやか。少しばかり抑えの利かない犬の躾をお願いできるかな?」

 

まるで期待をするような視線を”魔法少女”となったさやかに向けるのだった。さらには、少し厳しい視線をまどかの後に続く柾尾 優太に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のQBさんは、何だか怒っているように見えたな」

 

内心”変なの”と感想を述べる柾尾優太であった。普段のQBは、柾尾優太の所業に関しては割りと寛大で認めてくれさえもしてくれた。

 

QB本人曰く”感情はある種の病気”と言っているのだが、先ほどのやり取りを見ていると少しばかり感情が入っているのではとさえ勘ぐってしまうのだ。

 

柾尾にとって、QBと名乗る人物はとても魅力的であり、親愛に似た情を抱いていた。

 

やり取りの切欠は、中学の頃に自身が良く行く”怪しいサイト”で何となく知り合い、そのままネットワークを通じてやり取りを行う仲になったのである。

 

QBは、接客業をしているとのことで割りと忙しく、一言、二言交わしただけで会話は終わってしまう。柾尾優太個人としては直に会って見たいという人物であるが、QBは仕事を理由に会うことを拒んでいる。

 

柾尾優太の年齢は二十歳であり、フリーのルポライターとして小銭を稼いで生計を立てていた。QBとのやり取りの始まりは、柾尾優太が中学生の頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の柾尾優太は、特に特徴もない一人の少年だった。少し違うことを言うなれば、彼は普通の人間が感じるであろう”感情”を認識することがないということである。

 

例えるならば、人を慈しんでもその人を愛しいと思えず、誰かを傷つけても罪悪感を感じず、かつての親友のようにそれを快楽に感じることもできない。

 

幼い頃に自分を慈しんでくれた母を亡くし、慕ってくれていた猫のスイミーを親友だった少年に殺され、理不尽な罰を受けた事により、彼は人が感じるはずの”それ”を認識できなくなっていた。

 

それを悲しいとも寂しいとも辛いとも思わず、日々をただ、ぼんやりと生きていき、自分がどうなろうと興味は無く、故に誰とも関わりを持とうとしなかった。

 

この頃は、父親も亡くなり、その傾向は益々加速していった。

 

周りの人間からは陰気な人間として認識され、関わりを持った人間は誰も居なかった。そんな彼にも転機が訪れる。

 

『優太君って、何だか放っておけないと言うか?色々と人生を損しているんじゃってね』

 

三つ編みをしていて、大人しそうに見えてじつは活発な”蓬莱 暁美”との出会いと………

 

『優太君って、自分の事に興味がないっていうか、色々と諦めていて……もう少しだけ周りに期待を持っても構わないんじゃないのかな』

 

彼女は、空っぽな自分に色々とお世話を焼いてくれていた。

 

『こっち、こっち!!!』

 

『優太君って、人に懐かない黒猫のイメージがありますね』

 

様々なことを教えてくれた。だが、自分は彼女にしっかり応えられただろうかと人並み程度に悩みもした。自分は誰にも気にも留められない空気以下の人間と違って、クラスメイトの誰からも好かれている蓬莱 暁美と自分がお付き合いをしている事など……

 

最初に告白をしたのは自分だった。この胸に抱いた”感情”を知りたかったことと彼女の傍に居たいという欲求があったからだ……

 

しかし、彼女はある日を境に居なくなってしまった。突然、失踪をしたのだ。彼は居てもたっても居られずに探した。彼女を……

 

だが、彼女は彼に大きな秘密を持っていた。一般の人間の生活から大きく逸脱した活動を行っていたことを………

 

再会した時、彼にとっては残酷で、彼女にとっては当たり前の結末があった。

 

『暁美っ!!!何が、どうなっているんだっ!?!』

 

珍しいほど彼は動揺していた。様々なことに興味も関心を寄せない少年が血塗れになった少女に縋りついていた。蓬莱暁美は、見たこともない衣装を纏っていた。

 

特に右手には何かを埋め込んだような後があり、そこからの出血が特に酷かった。

 

『優太君……ごめん。私、貴方を置いていって……でも、これって私の自業自得……魔女よりも怖かったのは……人間……でも、人間に希望を……』

 

その瞬間、弾けたように彼女の身体が倒れてしまった。衣装も消え、見慣れた制服へと変わった。

 

『アレ?魔法少女っていうからさ…もう少し丈夫かと思ったんだけれど』

 

そこに居たのは、かつて自分の猫の友達であるスイミーを殺し、裏切ったかつての親友だった少年。

 

『あぁ、君だったんだ。その子の彼って……他の子は僕に靡いてくれたのに、そのこは僕を拒んだんだよ?』

 

『色々とやってくれたよ、僕が信用できないって、自分から悪者になって仲間をまとめようとしたけど、まあ無駄だったけど』

 

少年が手で弄んでいるのは、見た事のない割れた宝石であった。この瞬間、柾尾優太の中で何かが切れた。

 

その感覚は、幼少の頃に感じて以来だったのだ。

 

『アレっ?僕をまた殴るの?君、それで居場所を失くしたのに?どうせ君の事を信じる人なんて居ないのに?大した価値もない、生きているだけ無駄な消耗品の分際で?』

 

自分の事などもとより興味はなかったのだが、

 

『あの女も大した価値がなかったのに、僕のような人間の価値が分からないなんて……ほんとに無駄で価値のない……』

 

その瞬間、少年の意識が飛んでしまった。気がつかなかったがいつの間にか持っていたシャープペンの切っ先を彼の喉元に突きたてていた。

 

これが柾尾 優太が最初に起こした殺人であった……

 

何故、このような行動を起こしたのかは彼にはわからなかった。耳障りな呼吸音が響くが、彼はそれを見ても何も感じることが出来なかった。

 

”罪悪感””後悔”といったそういうモノが感じられないのだ。

 

『暁美……おかしいよ。ねえ、君が死んだら、普通は悲しく思うよね?何でだろ?何も感じないし、何とも思わないんだ』

 

同じく、付き合っていた少女。愛しいと思えるはずなのにどうして彼女が居なくなったのに何も感じないのだ。

 

普通ならば、泣くかもしれない。もしくは、感情の赴くままに叫ぶ筈なのだが……そうすることができないのだ……

 

気がつけば、彼は自らの手で表情を作ろうとしていた。だが、顔のパーツを弄ってみても何も変わることはなかった………

 

耳障りな音を出すかつて親友だった少年を痛めつけても何も感じられず、彼は迷子になったかのようにボンヤリとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの柾尾 優太の生活は、蓬莱暁美が居なくなっただけで、彼自身が何も変わることはなかったのだ……

 

その心もただ何もない空虚な穴が開いているだけで、そこが埋まることもなかった。

 

何処から始まったかは定かではないが、空気以下の人間と評価されていた彼は、進んで人付き合いを行うようになった。そう、まるでお節介焼きの蓬莱暁美のように………

 

そうすれば、何かを感じることが出来るようになるのではという淡い希望を持ってのことだったが……

 

結局は何も変わらず、何となく付き合うように恋人を作っては別れ、ある時は、それを壊したりもした。何時から人を壊すようになったかは分からないが、そうすることで自分の中に在るかもしれない心に呼びかけたかった……

 

ただ、それだけのことであった。QBと知り合ったのは、充てにならないであろうネットの怪しい相談サイトでのやり取りからだった………

 

数日前から気になっていた巴マミの姿……アレは、かつての蓬莱暁美に良く似ていたと思う。だからこそ、気になり、観察をしているのだ。

 

前に居るであろう中学生の少女は、何かを知っている。それを本能的に察して彼も歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に日が落ちた見滝原の町を仁美は彷徨っていた。その様子は気落ちしていて、他のことなど知らないといわんばかりの様子だった……

 

持っている携帯電話には随時着信の振動が来ている。今日は、習い事がありそれに出なければならなかったのだが、それに出ることはなかった。

 

「またですの?私の事を放って置いて欲しいのに……なんで、ですの」

 

 鞄から携帯電話を取り出し、忌々しそうに視線を向けた。

 

 数時間前、病院に電話を掛けて彼女は知ってしまったのだ。自分には決して叶えられない奇跡が起こったことを……

 

それは喜ばしいことなのに、そう思うことが出来ない……

 

”凄いよ!!さやかが言った通りかもしれない!!奇跡も魔法もあるんだ!!!”

 

 嬉しそうに喜ぶ彼は、”またヴァイオリンが出来る”と普段の落ち着いた雰囲気からは考えられないほどはしゃいでいた。

 

 現在の医療では決して治すことの叶わない”傷”が治ったのだ。この件は病院側も驚き、緊急の検査が明日には入る予定である。

 

さやか程の頻度ではないが、仁美もまた上条 恭介を気に掛け、見舞っていたのだ。数日前にも見舞ったが、落ち込んでいた恭介により面会を拒絶されている。

 

(一目惚れとはあのことだったのです。上条恭介さんと出会ったときから、ずっと恋焦がれていました。

 

 彼は、私の家の者からも覚えが良く、将来を約束されたヴァイオリンリストでありましたから……

 

 過去形なのは、今のあの方は約束された将来を断たれてしまったのですから……

 

 何故、あの方があんな目に合わなければならなかったのでしょうか?聞けばアレは信号を無視した違反車両によるものでした。

 

 その方は特に怪我はなかったのですが、ですが恭介さんは……恭介さんは……腕を、その将来さえも奪われてしまいました。

 

 あまりにも理不尽です。輝ける将来を約束されたあの方が怪我を負い、これと言った将来もない方が何もないなんて……

 

 あぁ、私はあの方の力に成れなかった。それどころか、手を差し伸べることさえも……

 

 家の人達は、将来性のなくなった上条さんに対して見切りを付けてしまいました。今までそれとなく話題としていたのに、それすらしなくなりました。

 

 周りも同じで、学校の教師も…一緒に頑張ったであろう方達もです……

 

 何とか力になろうと願っていた時に”魔法少女”という物を知りました。ですが、私にはその資格はなく、願いを叶えられないと……

 

 私は叶えられないのに、さやかさん、まどかさんは叶えられる。あまりにも理不尽ではないでしょうか?同じ人間なのに、どうしてこんなにも扱いに差があるのですか?)

 

そう思うと同時に仁美の中のさやかを滅茶苦茶にしたいという欲求が生まれた。

 

「どうして、さやかさん何ですか!!!!!どうして私じゃないんですの!!!!!」

 

あまりの理不尽さに八つ当たりをする様に仁美は携帯電話を舗装されたアスファルトに叩き付けた。周りの人間は、一旦何事かと思ったが、直ぐに気にすることなく思い思いに歩いていく。

 

”ずるい”、”悔しい”、”妬ましい”、”不幸”、”なんでさやかさんだけ”等と様々な感情が入り乱れる。

 

「……さやかさんはずるいですわ。魔法少女にはならないっておっしゃってたのに……どうしてっ!!!」

 

佐倉杏子から釘を刺されているのに、何故、それすらも護らなかった。

 

「理不尽ですわ……この世の中は、どうして私が欲しいと思った物を他の方が簡単に手に入れられて、私はそれを手にすることはできないのですか……」

 

下唇を噛み、彼女は願った。

 

「こんな理不尽な世の中に救いなんてあるわけないですわ」

 

”じゃあ、だったら嫌な世の中から出て行こうか”

 

それは突然、彼女に話しかけてきた。不鮮明であるが誰かが自分に手を伸ばしている。

 

この手には覚えがあるが、そんな事は今はどうでも良かった。

 

「えぇ……連れて行っていただけますか?」

 

その手に仁美は手を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まどかは意気消沈した面持ちで街を彷徨っていた。理由は、言うまでもなく”魔法少女”にしてはいけない”美樹さやか”がそれになってしまた為である。

 

(はぁ~~。私って、どうしてこんなにも駄目なんだろう………この先の事を知っているのに……)

 

彼女の脳裏に、これまでの”時間軸”で、自分の運命を変えようと必死になって進み続ける彼女の姿をいつも夢に見る。

 

最初の頃は、別の自分の亡骸を抱きしめ、後悔の言葉を吐く彼女……

 

全てを自分の弱さのせいにして、結局誰にもその”罪”を押し付けることはしなかった。

 

高圧的に周りに接するのは、誰よりも弱い彼女の虚勢。そうすることで自分の心を護り続けている。そして、悲鳴を上げるはずの心は、それすら上げることがなくなってしまった。

 

時を巻き戻し、”力”を得れば、未来を変える事はできるのだろうか?

 

まどかが知っている古い映画では、過去に行くことで現在の状況が前よりもよくなっていたという内容のモノがあった。

 

しかしながら、彼女の場合はそうは行かず、必ずと言って良いほど、トラブル、イレギュラーに巻き込まれてしまうのだ。

 

魔法の件もそうだが、最初の時間軸には居なかった魔法少女、魔女。さらには、魔法少女に関する”残酷な真実”……

 

それらを訴えても結局は、誰も信じなかった。耳を傾けようともしなかったのだ……

 

勢いに任せて契約した”自分”達は、その事実に今更ながら後悔し、周りに罰を”呪い”を求めてしまった……

 

(……どうして、皆。都合の良いことばかり考えるんだろう……そもそもキュウベえを怪しいって思わなかったのかな)

 

事の元凶であろうキュウベえは、様々な場面に現れて契約を持ち掛ける。その際には、願いを叶えた等価で戦うというモノは納得がいくだろう……

 

だが、結局それは”茶番”でしかなかったキュウベえにとっては……自分達が見た夢や希望は、キュウベえにとって取るに足らず、契約のための足がかりでしかないのだ。

 

(……ほむらちゃんは、どうして戦うの?私なんかの為に……私だって、貴女を傷つけたのに……嫌いになれば、自由にだってなれたんだよ)

 

まどかは、自分を助けようとしているほむらが契約し、未だに戦い続けていることに対して”申し訳なさ”と”怒り”に似た感情を抱いていた。

 

最初の”鹿目さん”から”まどか”までの間は、ほむらが”出会いをやり直したかった鹿目 まどか”だったのだろう……

 

それ以降の鹿目 まどかは、”出会いをやり直したかった鹿目 まどか”とは大きく違ってきている。少し調子に乗った自信をもった魔法少女ではなく、自信のないオドオドとした平凡な少女でしかなかった……

 

結局一人を救うために、他を切り捨てなければならないほど追い込まれてしまったほむらを駆り立てている自分とその自分ではない”曖昧な鹿目 まどか”に縋るほむらに身勝手な怒りを少しだけ感じるが……

 

(でも……やっぱり私は、ほむらちゃんを怒る事はできない。どんな自分でも結局は私なんだね……)

 

ある”時間軸”でほむらは、自分のやっていることに疑問を感じて、意気消沈してしまったことがあった。その時に、彼女とかつての時間軸で敵対した魔法少女が奮い立たせたのだった。

 

まさかあの魔法少女がと……

 

(キツイ…お仕置きも頂きまして、耳が痛い限りだったね)

 

その時間軸では、自分は魔法少女だった。やはり、調子に乗っていた………

 

(ここの私も少し、調子に乗っていたのかな……)

 

ある事情で自分は、”未来”を知る事ができた。それを変えようと自分は必死になって見たが、独りよがりな部分があり、巧く行っているとは言いがたい。

 

(今日は、さやかちゃんが魔法少女になったんなら、あの魔女がでてくるかもしれない)

 

覚えている限りでは、あの魔女は人の嫌な記憶に踏み込むのだ。他の時間軸では、マミを見殺しにしてしまったという罪悪感で心が押しつぶされそうになった。

 

今の自分は、あの魔女と接触したらどうなってしまうのだろうか?そのことを考えると背筋が寒くなってきた………

 

「そろそろ戻らないと……」

 

気がつけば、時刻は家に戻らなければならない門限の時刻が近づいていた。

 

「さやかちゃん……どうして契約をしてしまったの?」

 

今日の件は、これからの事を考えると自分にとっても彼女にとっても嫌な運命であることは間違いないのである。

 

何故か早い段階から居る杏子の影響で魔法少女への契約はしないだろうという淡い希望を持っていたのだが………

 

「ほむらちゃんは、さやかちゃんの事も助けたかったのにね……どうして………みんな分かろうとしないんだろう」

 

結局誰も話を聞かずに最終的に自滅に近い形で絶望していく自分達の中で唯一、話を聞いてあげられたのは………

 

「杏子ちゃんだけなんだよね……しっかりしてて、話を聞いてあげられたのは……」

 

ほむらがまどか以外で最も信頼していたのは、杏子だった。杏子はこの”時間軸”では、魔戒騎士の家系の少女である。

 

「私には結局、何も話してはくれなくなった」

 

これまでの時間軸での自分のあり方に疑問を考えていた。鹿目 まどかを契約をさせるわけには行かないというのは、自分自身が一つの大きな”絶望の卵”そのものなのではと感じていた。

 

ほむらは見たのかもしれない。自分が巨大な絶望となって全てを滅茶苦茶にしていく光景を……

 

そんな未来……自分が恐ろしい怪物になっていく未来………

 

「……話せるわけなんてないんだよね……そんな恐ろしい未来」

 

身震いをしながら、急いで帰宅しようとまどかは足早に歩いたが……

 

「ひ、仁美ちゃん!?!」

 

目の前の十字路を見覚えのある人物が歩いていたのだ。

 

まどかにはこの光景に覚えが会った。そう、この光景は魔女が現れる前兆である。

 

「仁美ちゃん!!!何処に行くつもりなの!?!」

 

「あら……まどかさんじゃないですか?これから、優しい世界へ行こうかと」

 

穏やかに笑みを浮かべるが、瞳は虚ろであり正気とは思えなかった。

 

「駄目だよ!!!そこには、魔女が居るんだよ!!!!!行っちゃだめ!!!!!」

 

「………何を仰っていますの?貴女は、資格があるからこそ、この世界に理不尽を覚えないんです」

 

仁美の表情は、まるで般若を思わせるほど険しい物になっていた。柔和な表情を普段からしている彼女とは大きくかけ離れていた。

 

「魔法少女は、仁美ちゃんが思っているほど良いものじゃないんだよ」

 

「それでも、あの方を救うことは出来ますわ!!!貴女は、資格があるのに!!!」

 

強引に突き飛ばされ、まどかは尻餅を付いてしまった。

 

「妬ましいですわ。資格を得てしまったさやかさんが!!!あの方を救ったことが!!!」

 

”どうして自分ではない”と仁美は自分自身を嘆き、世界に絶望すら感じていた。

 

「でも、それは……「だったら、僕もそこに連れて行ってもらえるかな?」

 

気がつくとまどかのすぐ傍に柾尾優太が立っていた。”なにか面白いことがあるなら、一枚かませてよ”と言わんばかりに……

 

「あなたは、誰?」

 

まどかは、柾尾優太を見て酷く動揺していた。今までの”時間軸”にこんな青年は居なかったし、こういう場での接触もなかったと……

 

しかし、青年の言葉は聞き捨てならないものだった……

 

「駄目だよ!!!!あそこには行っちゃ行けない!!!!行ったら「行ったら、何だったりするんだい?」

 

柾尾優太は、まどかに顔を近づけ

 

「彼女を行かせたくない理由は何だというんだい?君は、この先にあるモノを知っているんだよね、じゃあ、教えてよ。それは僕にちゃんと”教えてくれるんだ”ね」

 

青年の不気味な言動と彼の目の感じに覚えがあった。綺麗なガラス細工をそのまま眼球にしたような”何も映っていない”目は……

 

”僕と契約して魔法少女になってよ”

 

「なに?あなた……なにを言って……っ!?!」

 

その瞬間、まどかの口元に白いハンカチが当てられた。妙な臭いと共に意識が遠のいてしまった……白いハンカチにクロロホルムがしみこまされていた……

 

気絶したまどかを柾尾優太は荷物を持つように担ぎ

 

「ねえ、僕も一緒に行って良いかな?」

 

「えぇ、歓迎しますわ」

 

差し出された柾尾優太の手を仁美は握り返した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらがバラゴ達と一緒に居る屋敷の一室

 

 血が染みこんだ包帯とシーツをエルダは見ていた。少し前までに此処に寝ていた少女についてだった。

 

青白く無表情な貌は何を思っているのか、誰にも察することはできない。

 

表情を動かすことのないまま、血の染みこんだ包帯を手にしたと同時にある光景が脳裏に浮かぶ。

 

「鹿目まどかめ……随分と余計なことをしてくれるようだな」

 

見えた光景は彼女にとっても、仕えるべき主人にとっても好ましいとはいえない。

 

故に此処は、自分が動くべきである……自身が動くことに僅かであるが、戸惑いを感じていた。なぜならば……

 

「今、私が動けばほむらは傷ついてしまうか……」

 

少女の身を案じているわけではない。少女を傷つけることにないようにそう主であるバラゴに命ぜられているだけである。

 

自分には、この感覚は忘れていたモノである。全てを呪って闇に堕ちた自分が……

 

主が都合よく物事を進めるのならば、あの少女を自分と同じように”下僕”にすれば良いのだ。

 

それをせずに、少女の行動に手綱を取るということもしない。ただ傍に居て、見守っているように見える。

 

いやそうではない。自分の主人である”バラゴ”にそのような人間的な温かみと呼べるものは既に存在してはいないだろう。

 

あの少女の姿が彼にとっては、決して汚してはならず、冒してはならない神聖なモノであるからだ。

 

主 バラゴの抱える歪んだ心の闇の奥にあるであろう神聖な祭壇に祀られた女神の姿は、彼を唯一愛してくれた”母”の姿……

 

そして今現在、傍らに置いている少女と瓜二つの姿………

 

「道具には、道具のあり方がある。私は、あの方に未来を伝えることでその役割を果たす。そしてお前は……ただあのお方の心を慰めればよいだけだ」

 

道具にはそれぞれの役割がある。エルダとほむらでは、バラゴにとってその役割と価値が異なるだけである………

 

誰かが彼女に囁くだろう。あの小娘が妬ましくないかと……それはエルダにとっては、何の意味もない囁きである。

 

自分とあの少女とで役割が違うだけ………だからこそ、自分はその役割を果たすだけである。

 

屋敷を後にし、エルダは見滝原の大都市へと向かった。自身の役割を果たすために……

 

「………貴様も私達が気になるか?インキュベーター。そうだろうな、お前達にとって私やバラゴ様、ほむらは邪魔でしかないのだからな」

 

森の木々の間に一対の赤い光がエルダを頭上から伺っていた……それは猫に似た奇妙な小動物だった………

 

その小動物に聞こえては居ないが、そう話し掛けるエルダの頬が僅かに歪んだ………

 

「それとも今は、イレギュラーの手を借りなければならないのか?」

 

 

 

 




あとがきというのなの言い訳

キュゥべえは、感情がないと言うので結構それ故に感情によって痛い目にあうというSSはよく見かけるのですが、

キュゥべえは割と人間をかなり研究していて、無作為に観察してたりするんじゃないかと思います。

柾尾もキュゥべえに観察兼監視される対象です。余程のことがない限りキュゥべえは直接、手を下すことは無いというのが持論です。

契約に関しても自分から促すことは合っても、そういう状況を強引に作り出すこともそうそう無いのではと……

ただイレギュラーに関しては、割と積極的に排除に乗り出します。

ロクデナシはある時間軸で奇妙な共闘関係を結んでいた”彼女”がそう呼んでいたので……

次回は、バラゴ様のご活躍ではなく…エルダ姐さん。ほむらの一応の師匠?が出張ります。



柾尾の過去の魔法少女のメンバーを名前だけ紹介しますと

蓬莱 暁美

麻須美 巴

萱 美樹

円 要

杏 櫻

分かる人は分かるアナグラムです。ネタバレになるかもしれませんが、この魔法少女達の件でキュゥべえは一般人の協力者を持っていましたが、意外と扱いにくくエネルギーも回収できなかったという苦い経験があります。



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第十九話「悪夢(2)」


IS×GAROと一緒にこちらも連続投稿!!!

まどマギ新劇場版、ソフト化楽しみにしています!!!


 

 

病室の一室で少年 上條恭介はこれまでにない程の幸福感に満ちていた。

 

「ハハハハ……アハハハハハハ」

 

傍から見れば狂ってしまったのだろうかと心配されるかもしれないが、彼は正常であり、とても上機嫌なのだ。

 

動かなくなった指が動くようになり、自分が誇っていた”モノ”を取り戻すことができたことが嬉しかった。

 

繰り返し指を動かし、自分の頬を抓ったりを繰り返していて、これが夢ではないことを何度も何度も確認していたのだ。

 

「奇跡も魔法もあるか……そうだね。さやかの言ったとおりだ」

 

思えば、さやかにはずっと迷惑を掛けていたかもしれない。ヴァイオリンが弾けなくなってしまった事で周りの人達は、あっさりと自分を見捨てていった。

 

ヴァイオリンの先生、同じスクールの友達も、クラスメイトでさえ自分の事を見舞うことをしてくれなかった。

 

事故の当初は”気の毒なこと”と同情され、さらには、善意なのか、悪意なのか分からないクラスの寄せ書きを寄越されたときは微妙な気持になった……

 

そんな中でも両親とさやかだけは、ずっと自分を支えてくれていたし、構ってくれた。

 

音楽のCDだって、中学生のお小遣いからすれば大変な買い物であった。自分の家はそれなりに裕福であるが、お小遣いに関しては一般の家庭の子供と同じ額である。

 

「さやかは……もしかして、この奇跡の起こし方を知っていたのかな?だったら……今度、お礼を言った方が良いよね」

 

自分でも良く分かっているが自分自身、友人よりも音楽を優先したい人間だというのは良く分かっている為、こういう事を思うことはほぼ、稀だと思っている。

 

このように思ったのは、少し前に尋ねてきた鹿目 まどかのことだった。

 

”上条君!!!腕を見せて!!!!”

 

突然、病室に駆け込んできて腕を掴んできた彼女には、大いに驚かされた。彼女とは、それなりに交流があったがこのような行動に出ることは想像が付かなかった。

 

”な、なにをするんだ!!!鹿目さん!!!”

 

感じないはずの痛みを感じ、この時、初めて気づいたのだ。自分の指が動くようになっていたのを………

 

面会時間を過ぎていたのに病室に駆け込んできた鹿目まどかは、連行される囚人のように病院を追い出されてしまった。

 

「……なんで、あんな顔をしたんだろう……まるで僕の指が治ったのが悪いみたいにさ」

 

連れ去られる間際に自分を見たまどかの表情は、”どうして……”と言わんばかりに少し恨みがかった表情をしていた。

 

あの後、指が動くことは看護婦を通じて医師に伝えられ、明日には緊急の検査が入る予定である。

 

検査は単純なモノであるが、何故か妙に疲れてしまうことを上条 恭介は身を持って知っていた。

 

「志筑さんも鹿目さんと同じみたいだったし……良く分からないな。僕はこんなにも幸せなのに……どうして、喜んでくれないんだろう」

 

まどかの後に、指が動くようになったことを何処で知ったか分からないが志筑仁美から連絡が来たのだ。

 

この病院を出資しているのは、見滝原の名家 志筑が出しているのでこういう事もある意味許されるのである。

 

自分の今の喜びを伝えたのだが、志筑仁美も

 

”……良かったですね”の一言で電話を切られてしまった。やはり、この奇跡は歓迎されていないことが上条恭介は不満だった………

 

折角の気分を暗くしたくないと思い、上条恭介はさやかが持ってきてくれたCDを予備のプレイヤーに取り込み、音楽に身を委ねた。

 

その間、病院の隔離病棟の患者が死亡したことで大騒ぎになっていたことを知る由もなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~~、姐さんから聞いてたけど、これは魔女を発見することもできるんだ」

 

さやかは、自分の青いソウルジェムを興味深そうに見ていた。

 

「そうだよ、ソウルジェムが大きく反応があったら、それは魔女のモノだ」

 

「そうなんだ…じゃあ、ホラーとかは?」

 

”ホラー”という単語にキュウベえは押し黙った。まるで嫌なことを聞いたと言わんばかりに

 

「さやか……君は、それを何処で知ったんだい?」

 

「この間、アンタと契約するかしないかで、姐さんに相談したら教えてくれた」

 

「それは厄介なことを聞いた様だね。忠告の一つで言っておくけどホラーの呪いは、そこらの魔女の比じゃないよ」

 

「それも聞いたわ。おじ様もホラーと戦うのはいつも命がけで余裕なんてないって……でもね、アンタの事は絶対に信用するなって言われたけど……」

 

本来ならば、契約などすべきではないと言われたが、自分は契約をしなければならないと考えた。

 

あの時見た幼馴染は、大きな絶望の中に居た。たくさんの期待を寄せられたのに、事故で指が動かなくなり、ヴァイオリンが弾けなくなった事で皆が、掌を返して彼を見放したのだ。

 

いつかは治るかもしれないという淡い希望を胸にリハビリに励んでいたのに、それを無慈悲に”諦めろ”と突き放したことで彼がとても小さく見えた。今すぐに消えてしまいそうな程、儚く見えた。

 

だからこそ、放っておけなかった。今の自分の近くには彼を絶望から救い出す”術”がある。それを今、ここで使わないで何処で使うのだろうかと……

 

「そういうだろうね。彼らは……マミにも忠告したけれど、佐倉杏子とその伯父は魔戒騎士という血塗られた無法者の一族だ。あまり信用すべきじゃ「うっさい」

 

これまでにないほど、さやかは不機嫌な声でキュウベえの言葉を遮った。

 

「姐さんもおじ様もアンタの言うような血塗られた存在じゃない。アンタってさ、前から言いたかったんだけれど、本当はアタシの契約も他のこともどうでもいいんでしょ?」

 

「それはどういうことだい?僕は、魔法少女達のサポートに回っているんだけれど、それを邪推されるいわれはないんだよね」

 

「どうだか…三年生がピンチになってもアンタは悲鳴一つあげないし、あの助っ人のことも殺されてもどうでも良いようにみてたし、あの場を先に逃げ出したのはアンタなのよね」

 

このキュウベえは見た目こそは可愛らしいぬいぐるみを思わせるが、振る舞いを見ていると機械的で自分達の事を心配しているようで実は何とも思っていないように感じていた。

 

でもそんな奴でも”利用できる奇跡を起こせる”自分は、それを利用させてもらうだけである。

 

「……………」

 

「アタシを今まで馬鹿な子みたいに思ってたんでしょ?言っとくけど、アタシはぬいぐるみもどきに馬鹿にされる言われはないし……」

 

都合の悪いことを言われ、何もいえなくなったようにキュウベえはそのままさやかから背を向けて去っていった。その光景にさやかは”もう二度と来るな”と言わんばかりに厳しい視線を向けるのだった。

 

「さて、今日はさやかちゃんが頑張る日だね!!!!あんな奴と契約したのはアレだけど、ヒーローも悪い奴らに改造されたけど、それを正しいことに使ったから、アタシもそれに倣えばいいんだ」

 

幼い頃、男の子と混じってよく見ていた某特撮ヒーローの事を思い出し、さやかは夜の見滝原を見据えて

 

「変身!!!!」

 

自身のソウルジェムを輝かせたと同時に、白いマントを靡かせて夜の見滝原に跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~~。ここが良いところなのかい?」

 

「えぇ♪ここから、私達は天国へ…この理不尽な世界から旅立つのです♪」

 

妙に芝居が掛かった仁美に対し、柾尾 優太は目の前にある寂れた工場を見て興味深そうに眺めた。

 

掃除が行き渡っていないのか、あちこちに汚れが目立ち、工場内は様々な資材が放置されているという有様だった。

 

気がつくと周りには多くの人間が居た。そのほとんどが虚ろで陰気な顔をしていて、今にも自殺をしそうな表情だった。

 

以前も付き合っていた女性の一人を自殺に追い込んだことがあったが、その時の彼女もこのような顔をしていたと柾尾 優太は思い出した。

 

たくさんの絶望をした人間達が此処に集まっている。例え、呼びかけてもこのように集まることはない。

 

「……俺は、駄目な奴なんだ…こんな町工場一つ、経営できない」

 

「仕方がなかったんだ……アレは、赤信号だと気がつかなくって……」

 

「僕が悪いんじゃない。アイツが……アイツが……」

 

「あの糞女……目玉焼き一つで怒り狂いやがって……」

 

「鬼嫁め……爺さんが生きていたら……」

 

老若男女問わず、集まっていた。ほとんどが過去にあった忌まわしき記憶を刺激されて、恨み言を吐いている。

 

この光景に柾尾 優太は、興味深そうに笑みを浮かべたと同時に彼らが儀式と表して、中性洗剤と酸性潜在を大量に用意しているのを察し……

 

(此処にいる人達は、”何か”にトラウマを刺激されているんだ…じゃあ、僕も……)

 

アトラクションに入った子供のように彼は周りを見渡した。自分にも恐らくは人並みのトラウマはあるだろう。それを刺激する何かを探しださなくてはならない。

 

自分の中に眠っている”何か”を起こすために……あの時から、他の人間の行動を真似するだけで何も得ることはできなかったが、今の異常な状況を引き起こしているそれに近づけば……

 

希望を見つけたように柾尾 優太は担いでいたまどかを放り投げて、他の人間を掻き分け

 

「何処に居るんだい?出てきてよ!!僕の中にある”大事なもの”を呼び出してくれ!!!!」

 

狂おしいほどに彼は期待に満ちた表情で、ここに居るであろう、”何か”、”魔女”に呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?!!はぁっ!!!!」

 

いつものように呼吸が荒い目覚めにまどかは額の汗を拭った。此処のところずっとこの調子なのである。常に悪夢を見ては、目が覚める。

 

だが、今日は目が覚めても悪夢のような光景が目に入ってくる。今の状況は、あの魔女の齎した悪夢の光景だ。

 

”記憶”が正しければ、

 

”いいか、まどか。これだけは絶対にやっちゃいけない”

 

ある洗剤と洗剤を混ぜてしまうと致死性のガスが出てしまうのだ。此処にいる人達は確か……

 

「駄目っ!!!!」

 

誰が見ても、今、行われている光景は止めなければならない。一般常識に従わなければならない状況である。

 

まどかは、人々の中央に向かって駆け出したが、その行く手を阻むように

 

「まどかさん。何をされるつもりですか?」

 

仁美が立ちふさがる。その表情は、先ほど見せた”般若”を思わせる険しい表情をしていた。

 

「何って、アレはやっちゃいけないから……」

 

「それは、駄目ですわ。私達は此処から旅立つのです。この理不尽な世界から……」

 

「理不尽って……何を言っているの?仁美ちゃんは、そんな子じゃなかったよ」

 

まどかの友人である志筑仁美は、穏やかで思いやりのある少女だったはず……

 

「あなたに私の何が分かっているというのですの?私と違って、資格のあるさやかさんと一緒で……」

 

更に忌々しそうに”さやか”と口にする仁美は、今まで見たことのない程、負の感情を爆発させていたのだ。

 

「アレは駄目だよ!!!もし、契約したら、取り返しが付かないんだよ!!!」

 

「それでも構いませんわ!!!!私一人の命で上条君を救えるのならば!!!!!!」

 

”魔法少女”の真実を知るまどかと”魔法少女”に盲目的な理想を抱く仁美では、意見は平行線を辿るしかなかった。

 

特に仁美は自分が決してなることの叶わない”魔法少女”と”その奇跡”に対して、強い執着を持つようになっていたのだ。

 

「っ!?ごめんっ!!!仁美ちゃん!!!!」

 

このまま口論を続けても何もならないと考えたまどかは、急いで集団自殺を防ぐために走った。

 

「な、何をするつもりなのですっ!?!まどかさんっ!?!」

 

まどかは急いで集団の輪を駆け抜け、バケツを持ち、勢い良く外に投げ出したのだった……

 

「……何てことを……」

 

「まどかさん……」

 

ここに集められた人々にとっての希望を摘み取ったまどかに対し、殺意と怨嗟の声が上がった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓ガラスが割れる音を工場内を徘徊していた柾尾 優太は”何事か”と思ったが、自分の優先すべき用事に比べれば大したことはないと思い、再び工場内を徘徊し始めたのだった。

 

「何処に居るんだい?出てきてよ。君のことを知りたいんだよ」

 

不気味に響く彼の声に誰も応えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかが魔女の結界の近くに来ていた頃、ほむらとマミは、魔女の口付けにあった人をパトロール中に発見し、その反応を追っていた。

 

「巴さん……これで三人目です」

 

「そうね………ここまでの人数に口付けを……」

 

口付けだけではなく、使い魔も見かけ、これを倒したが町中に放たれた数がかなり多いのだ。

 

「ほむらさん、急いで大元を叩きましょう」

 

「もちろん、そうすべきです。ですが、今回の魔女は私達にとって、少し厄介かもしれません」

 

「どういうことかしら?」

 

マミの疑問にほむらは、これまでの”時間軸”の経験と”今回の件”を踏まえながら答えた。

 

「はい。魔女は精神的に弱った人間を誘い込みますが、今回はそれに加えて使い魔もいます。ほとんどの人がうわ言の様に愚痴を…後悔を口走っています」

 

間を置き、ほむらはわずかに胸が痛むのを感じながら

 

「今回の魔女は、おそらく私達の嫌な記憶……トラウマを刺激するタイプです」

 

「精神攻撃を行うという事?私も長いこと、魔法少女をやってるけど、そういう敵は初めてね」

 

「でも、攻撃はほむらさんがいれば大丈夫ね」

 

マミは右腕を出し何かを回すような仕草をする。それは、ほむらの魔法である時間停止の動作である。

 

「はい……ですが、あの魔女は意外と攻撃が速いんです。私も以前、それでやられかけたことがありましたから」

 

自嘲するわけではないが、様々な時間軸で強烈なモノを見せ付けられたきた為か、ほむらはこの魔女が非常に苦手になっていたのだ。

 

「貴女が苦手な魔女が居るなんて……でも行くしかないわ。この程度の魔女で躓くようだとワルプルギスの夜に勝つことなんて無理だわ」

 

「そうですね。一人では難しくても私達、二人ならば……」

 

二人は互いのソウルジェムの反応を確認し、倒すべき魔女の元へと向かうのだったが……

 

「アレっ?あの三年生と一緒に居る子って……」

 

二人のすぐ傍まで来ていた美樹さやかは、数日前の”病院での一件”で自分達を助けてくれた少女が居たことに驚いていた。

 

彼女もソウルジェムの反応を頼りに此処にたどり着いていたのだ。

 

「まさか……幽霊じゃないわよね。三年生、取り付かれているとかって話はやめてくださいよ」

 

内心、魔法少女、魔女、さらにはホラーという魔獣もいるのだから幽霊も居るのではと勘ぐってしまった。

 

「足はあるわよね…見たところ……取り合えず、アタシも行こう」

 

死んだ人間が当たり前のように目の前に居る。考えてみると、かなり怖いことなのではと思うさやかであった。

 

もし幽霊だったら、”こんな所で迷ってないで、成仏してください”と懇願するつもりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかは、暴徒と化した人間達から逃げていた。かつて映画で見た”ゾンビ”の群れのように感じる。

 

口々に自分への恨みを叫びながら追って来る彼らに対し、

 

「でも、アレは絶対に駄目なんだよ!!!絶対に!!!!」

 

誰が何と言おうが絶対に自分は間違ったことはしていないとまどかは叫んだ。

 

階段を駆け上り、そのまま目の前の扉を開け鍵を閉める。

 

追ってきた暴徒達が扉を開けようと激しく叩いてくる。さらには自分への罵声も

 

「どうしよう……この部屋は……」

 

他の”時間軸”で着た部屋と違う部屋に戸惑いを感じつつ、まどかは向かい側の扉を見つけた。

 

幸い扉の向こう側には非常階段に繋がっている。急いでここから、抜け出さなくてはならなかった。

 

(私がこれ以上、此処にいても何の役にも立てない。後は、ほむらちゃん、マミさんが此処の魔女を倒してくれるのを……)

 

何も力に成れない自分を情けなく思いつつ、まどかは扉の向こうへと駆け出すのだが……

 

「鹿目 まどか」

 

不意に声が背後から聞こえてきた。振り返るとそこには、どういうわけか一人の女性が佇んでいたのだ。

 

異様に青白い肌をした奇妙な衣装を纏った妙齢の女性 エルダが……

 

(魔女?)

 

自分が知る魔女は、どちらかというとモンスターと言ったほうが良い外見だった。この女性こそ魔女ではないかと思えるほど魔女らしい。

 

「鹿目まどか、お前に私は見えていたか?」

 

ゆっくりと歩みを進めてくるエルダに対し、怯えたようにまどかは後ずさった。先ほどの青年もそうだが、この女性も”今までの時間軸”に存在しなかった。

 

表情を変えずにエルダは、まどかに対し手を伸ばした。

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の騒ぎに対し、柾尾 優太は煩わしそうに暴徒が集まっている場所まで来ていた。

 

彼は珍しく苛立っていた。言うまでもなく求めるそれは決して自分の呼びかけに応えてくれなかったからだ。

 

「ちょっとまって、この奥に居るんだね。開けてあげるから、静かにしてよ」

 

暴徒を掻き分け、柾尾 優太は扉を破壊するため、適当な資材を手に取りそのまま扉目掛けて勢い良く振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉のドアノブが破壊されたと同時に柾尾 優太が現れた。柾尾 優太はいつもの穏やかな青年である彼らしくない煩わしそうな視線を向け、

 

「ねえ、ここで騒ぎを起こさないでよ。君のせいで此処にいる”希望”が出てこられないじゃないか」

 

その手には金属製の資材が混紡のように握られている。彼と同時に現れた暴徒達がまどかに襲いかかろうとするが、

 

「お前たちは、もういいだろ!!!僕はまだ、なんだから!!!」

 

資材で暴徒達を殴り始めたのだ。鈍い音を立てて倒れる人を気にすることなく彼は、人々を滅多打ちにした。

 

(なんなの?この人……何を気にしているの?怖い)

 

彼に抱いたまどかの第一印象は、”マリオネット”であった。今の姿は、誰かに操られているように何も映らない綺麗なガラス細工のような瞳が鈍く輝いているだけ……

 

「……アレは、ただ単に刺激に反応しているだけだ。お前が怖いと思うほどの者でもない」

 

「そ、そうなの?」

 

意外にも自分に声を掛けてくれたのは、魔女のような女性であった。彼女もまた先ほどの彼同様、まともな人物とは言いがたい……

 

魔女のような女性 エルダは近くにあるモノが近づいているのを感じていた。

 

(………魔女か。ここで出てくるとは………)

 

ほむらと共に魔女結界を巡ってきたためかエルダも魔法少女ほどではないが魔女の気配を感じ取れるようになっていた。

 

そしてこの魔女は自分もほむらの運命を占う過程でよく知っている。そう確か”箱の魔女”……その能力は……

 

「来たか……」

 

「?……っ!?!!!」

 

その時だった。部屋の空間が奇妙に歪んだと同時に奇妙な笑い声が工場全体に響き始めた。

 

『AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!!!!!』

 

笑い声と共にまどかの両腕をがっちりと使い魔達が抑え、さらにはエルダの前にも現れた。

 

「……私にも、忌まわしいと思えるものが残っているとでもいうのか?」

 

使い魔達に取り囲まれる彼女達に対して、柾尾 優太には使い魔達は見向きもしなかった。はっきりと怯えた表情のまどかは、使い魔達が自分に何をするかと思うと恐ろしくなり、

 

「嫌だよ!!!!私の中を見ないで!!!!入ってこないでよ!!!!」

 

その叫びと共に魔女結界の入り口が開き、まどかとエルダを巻き込むように歪に変化した空間に対し、

 

「ちょっと、待ってよ!!!なんで、お前達ばっかり!!!!僕もここにいるんだ!!!僕を見てよ!!!」

 

かつての仁美同様、彼も魔女の姿ははっきりとは見えず、黒くぼやけた何かが見えるだけだった……

 

無理やり空間に彼は飛び込んだ。自分にもある筈の”何か”を求めるために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔女結界にまどか、エルダ、柾尾 優太も飛び込んだ。それらに紛れるように白い小動物 キュウベえも魔女結界に飛び込んでいた。

 

「……鹿目 まどか。君がどうして魔法少女の事情を知っているのか?確かめさせてもらうよ」

 

怯えるまどかの目の前に今はほとんど見られたいCRTモニターと少女の頭部が掛け合わさったような魔女が姿を現した。

 

PCに電源が入るように画面に線が走り、そこにあるモノを映しだした。

 

それは、かつて誰かが見たかもしれない、体験したかもしれない光景だった。

 

”皆、死ぬしかないじゃない!!!!”

 

”こんなの嫌だよ!!!”

 

”うぅうううううううううううっ!!!!!”

 

”神様…こんなのってありなのかよ……”

 

”誰が愛してくれるの!!こんな体で、魂を石っころに変えられて!!!”

 

見知った声が響くと同時に結果内に複数のモニターが現れ、様々な場所、魔法少女達を映し出した。

 

崩壊した見滝原、見知った校舎で行われた殺戮を行う白い魔法少女によって放たれた魔女、打ち砕かれる赤いソウルジェム。

 

最近、見た病院での魔女結界で見せつけられた”ほむら”が傷つけられる光景……

 

「っ……うぅうううう……やめてよ……こないで……会いたくないよ……」

 

それらの光景の先にいるであろう”何か”をまどかは知っていた。それは、何処かの”時間軸”に現れた”自分の可能性”の一つ………

 

白い羽をもった今のまどかよりも少し大人びた姿をした金色の瞳を持った”彼女”の顔は影になっていてはっきりとしないが、この時間軸のまどかにとっては、毎夜悩まされる悪夢の中でも最悪な物であった。

 

「ここじゃ会いたくないよ!!!!誰かっ!!!早く、消してよ!!!!私の心を汚さないで!!!!」

 

泣きじゃくる彼女に対して、魔女は執拗にその心を攻め立てるが……

 

「凄いよ!!凄いよ!!!すごいよ!!!!君は、心を生き返らせるんだね!!!!」

 

場違いといえる歓喜の声が魔女結界に響いた。柾尾 優太である。彼が、泣きじゃくるまどかとその原因である魔女をみて興奮していたのだ。

 

その興奮は、様々な人々を殺害して感じた僅かな刺激どころではなかった。彼は居てもたっても居られず、まどかの元に飛び込んだ。

 

乱暴にまどかを押しのけ、魔女の正面に立った。

 

自分の行為が中断されたため、魔女は困惑したように画面を歪ませる。それに合わせる様に結界内に展開されていた光景もまた閉じられてしまった。

 

「僕の番だ!!!さあ、早く僕の心を見てよ!!!僕にそれを感じさせてよ!!!!!」

 

両手で受け入れるように柾尾 優太は魔女に笑みを浮かべるが………

 

魔女は目の前に突然現れた青年に対し、困惑したように首を傾けた。いつものように獲物のある部分を刺激するのだが、それがまったく彼からは感じられなかったのだ。

 

本体にある画面もまったく何も反応をせず、魔女はそのまま青年に何をするまでもなく、まどかを追おうとしたが、すぐ傍に居たエルダに反応するかのようにある光景を映し出した。

 

”シンジっ!!!”

 

”お前達も魔戒騎士であろう!!!なのに!!!”

 

画面に飛び散る血潮と崩れ落ちるかつての”愛しい人”の光景にエルダは冷めた視線を向けていた。

 

一般人ならば苦痛に歪めてしまう光景であるのだが、エルダにとっては、過ぎてしまった事であり、冷め切ってしまった思いだった……

 

「どうした…私が怯まないから、戸惑っているのか?」

 

エルダは余裕なのか笑みすら浮かべて魔女に言葉を返した。さらにエルダに攻撃をすべく魔女は臨戦態勢を整える。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のやり取りを柾尾 優太は呆然としていた。本来、人間には一つや二つ、触れられたくないモノがある。それは人が”ココロ”を持つが故であるのだが……

 

自分にとって、暁美を失ったことに悲しむこともそれに対して怒ることも出来なかった。それを何とかしようとしてきたのだが、どれも成果を挙げることはできなかった………

 

「何でだ!!!なんで、僕はああじゃない!!!!おい!!!!お前、ちゃんと僕を見ろよ!!!!!!何もないなんてふざけんな!!!!!そんな筈はないんだ!!!!!!!」

 

”人間に絶望しないで……”

 

これでは、蓬莱 暁美の遺言ともいえる言葉に応えることができないではないか。

 

「ふざけるな!!!!!お前!!!!ふざけるな!!!!!僕は、人間だ!!!!!心があるんだ!!!!!!何もないなんて!!!!!そんな馬鹿なことがあってたまるか!!!!!!!」

 

彼の叫びに誰も耳を傾ける存在は、この場に居なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五本の爪を指先から出現させたと同時に魔女に対し、攻撃を行おうと態勢を整えたと一瞬の違和感と同時にいきなり、魔女が真っ二つ切り裂かれていた。

 

「?……時間停止か」

 

そういつの間にか魔女結界に侵入していた さやかと何故か一緒に居るほむらの二人だった。

 

「ほんとうにほむらの能力は最強だよね!!!!アタシと姐さんと三人なら、絶対に最強のチームが組めるよ!!!」

 

「バランスが偏りすぎるわ。二人とも近接ばかりじゃない!!!それよりも早く!!!」

 

「分かってるって!!!!そこの魔女、覚悟!!!!!」

 

サーベルを片手にダメージを負った魔女に対し、さやかはさらに追撃すべく飛翔し、

 

「これで終わり!!!!!!」

 

魔女の頭部と思われる部分を切り裂いた同時に黒い血を思わせる液体が飛び散ったと同時に魔女結界が晴れていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり此処にきていたか、ほむら。少ししたら、また会おう」

 

自分の事を確認されたくないのかエルダは背を向けてこの場を去ろうとするのだが……

 

「お前……なんで、悲鳴を上げない?」

 

柾尾 優太がエルダの前に立っていた。その表情は納得がいかないことへの不満の色が浮かんでいた。

 

「……さあな。私にとって、もう過ぎたことだからな」

 

「答えになっていない!!!!」

 

柾尾 優太は、持っていた資材でエルダに襲い掛かるが、手刀でそのまま首を当てられ、勢い良く壁にぶつかってしまった。

 

「っ!?!……」

 

「お前が何を考えているかは知らんが、お前にとって過去は、何もなかったのだろう。今もな……」

 

柾尾 優太は、あの時、彼女を失ったが自分はそれを悲しむことも嘆くことも出来なかった。

 

さらには、原因となった者達を恨み、憎しみも抱かなかったのだ。普通ならば、復讐を行うだろう……

 

「……なんでだよ……どうして僕は、そうじゃない……なんでだ……」

 

自分に良くしてくれた蓬莱暁美を失ったことと、彼女に対する特別な想いもなく、彼女の居た意味は……

 

柾尾 優太は、己の存在は何の価値もない、ただ居るだけの何の役にも立たなく、ただ害悪にしかならない存在でしかないことに絶望すら感じなかった……

 

これで諦める程、彼は物分りの良い人間ではなかった。今回のケースは、特別だと納得させ、普段どおり自分の探求を行うべきと判断するのだった。

 

だが、次からは少しばかりリスクが大きくなる。相手は自分が腕力任せで捻じ伏せられるか弱い存在ではないのだから……

 

「……………」

 

そんな柾尾 優太に対しエルダは道端の石ころを見るような視線を向けた後、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔女結界が晴れていき、さやかは巻き込まれていた親友の下へ一目散に掛けだした。

 

「まどか!!!まどか!!!」

 

返事をしないまどかにさやかは必死に呼びかけるが

 

「大丈夫よ。美樹さん。気を失っているだけだから……」

 

「あ、うん。そうだね。それとありがとうね。ほむら」

 

畏まってさやかはほむらに礼を述べた。

 

「お礼を言われるほどではないわ」

 

「協力してくれたのは、事実じゃん」

 

肩を気さくに叩くさやかは、はっきりいって馴れ馴れしい。しかしながら、ほむらは僅かながら居心地の良さを感じていた。

 

少しばかりの気苦労はあるかもしれないが、今のところは問題はない…自分とそれに関わる彼らを除けば………

 

<ほむらさん。魔女の口付けに当てられた人達はもう大丈夫よ>

 

<そうですか、巴さん。もう魔女も狩り終わりましたから、このまま引き上げましょう>

 

<そうね。美樹さんはどうするのかしら?>

彼女は、巻き込まれた友人に付き添うみたいですから…>

 

<分かったわ。ここで待っているわ>

 

「ねえ、ほむら。三年生と一緒に戻るわけ?」

 

「三年生って…巴さんは、あなたのいう姐さんよりもベテランよ。そういう態度はあまりいただけないわ」

 

「姐さんに続いて、ほむらもですか……良いですよ。その内、ちゃんと理解するから、小言はいいでしょ」

 

うんざりと言った表情で応えるさやかに対し、内心、ほむらは溜息をつきながら、

 

「お願いするわよ……じゃあ、私はここで……」

 

振り返りざま、ほむらはまどかに視線を向け

 

(まどか……あなたはどうして、こうも日常からはみ出してしまうのかしら。でも、あなたは絶対に護りたい。そのためなら……)

 

脳裏に自分の目的の為に”様々な”モノを利用する同属嫌悪を抱くあの男と同類になりたくないのか……

 

(分かっている。そんな甘さでは、誰も守り通すこともできない……バラゴのようになることを私は許せない)

 

矛盾する感情を持て余しながら、ほむらもこの場を後にするのだった。

 

後に残されたさやかは、先ほど魔女結界で見た一瞬の光景を思い出し……

 

「それにしても……まどか。魔法少女に虐められたのかな?」

 

まどかが拒絶していた光景に映った白い翼を持った長い髪の少女……ただ、さやかもまた……

 

「悪口を言うわけじゃないんですけど、あの子に付いて行ったら二度と皆に会えなくなる気がしたんだよね……」

 

良く分からないが、アレは自分達を何処かに連れて行こうとしていた。そんな気がするのだった。

 

あの光景をほむらは見ていない。魔女はトラウマを持つ者に真っ先に反応するという性質があるらしく、ほむらは敢えて視覚をシャットダウンさせていたのだから……

 

さらには、まどかへの干渉が途中で中断されたことも理由であるが………

 

「さぁ~~てと、此処の人達は警察にお任せしますか。警察はアタシの身内みたいなもんだしね」

 

彼女は携帯電話の電話帳にある刑事のフォルダにある 父にカーソルを合わせ

 

「もしもし、お父さん。工場でたくさんの人が倒れていて……」

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、工場周辺に複数のパトカーが訪れ辺りは騒然としていた。野次馬が群れている一方でそこから離れた所で柾尾 優太は……

 

「あの子…刑事の子供だったんだ……」

 

自分の事を蛇蝎の如く嫌悪する壮年の刑事の事を思い出し、騒がしくされたくないこともあって彼はその場から背を向けるのだった…

 

「今度は……今度は………大丈夫だ……僕は人間だ……心があるんだ………そうだよね、暁美」

 

 

 

 

 

 





あとがき

今回、話がかなり長くなってしまったので、カットした部分がマミ、さやか、ほむらの掛け合いですが、次回出す予定です!!!!

ある程度、進んできたのですが呀の設定集のようなものを出すべきでしょうか?

最初の頃は、折り返し地点で出す予定でしたけれど、ネタばれになりかねませんので最終回の後に個人的な感想を入れてやるほうがよろしいかと?

この時、杏子はポートシティーにバドと一緒に用事で離れています。

何のために離れたかは、お察しと……杏子は牙狼キャラとそれなりに絡む予定です。

次回より、杏子も合流です。



願いを叶えた。私も恭介も幸せだ。

後は、アタシ達のこの幸せをどう続けていくか

私は家族も居るし、友達も居る。そして戦ってくれる仲間が居る。

だけど……

呀 暗黒騎士異聞 第二十一話「亀 裂」

新しく手に入れたこれは、これまでのアタシ達の日常に大きな傷を齎していたことに

手遅れになるまで気がつかなかった………


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幕間「少女」


なんというか久々の主役の登場。
いくつかの番外編経て、本編に入りたと思います。
最後に没案ですが、箱の魔女ではバラゴの忌まわしい記憶が刺激されて、その時にほむらと瓜二つの女性を見て、彼女がバラゴに対して不信感を強くするという展開を考えていましたが……

まどかと杏子の二編を予定しています。



 

 

 

一人の男が見滝原の町を歩いていた。男の名は、バラゴ。暗黒騎士 呀の名を持つ魔戒騎士の逸れ者である。

 

男は少し焦ったように足早に見滝原の郊外の館へと足を向けていた。言うまでもなく、先日から意識が戻らない彼女の事が心配だったのだ。

 

人の気配が感じられない寂れた光景は、近代化、開発が活発な都市とは正反対で少し前の時代の”闇”をそのまま表していた。

 

いや、闇は何時の時代も変わることはなかった。故にホラーは今も出現し、魔戒騎士はそれを狩るという光景は今も何処かで行われている。

 

その闇をさらに越えたところに自分は、踏み込もうとしているのだ。

 

バラゴにとって闇は自分のすぐ傍にあり、無条件で受け入れてくれる”母”そのものだった……

 

 

 

 

 

 

母が自分に言ってくれたのだ……大河の元を飛び出したあの日、母は闇の力により甦り、僕の前に再び現れたのだ。

 

”いらっしゃい。バラゴ”

 

”ど、どうして……母さんは、確かあの夜……”

 

僕の記憶の中で最も忌まわしいあの夜の出来事。ホラーの返り血を受けた母を容赦なく切り捨てたアイツ。そのアイツをこの手で八つ裂きにしてやった。

 

母は、僕の記憶と同じ微笑を向けてくれた。

 

”あなたも闇の力を手にしなさい。そして究極の力を手にするの”

 

母を僕に返してくれた力をこの僕が得る事ができる。そのことに心が高揚するのを感じた。

 

”闇の世界では、生も死も同じ。あなたも闇を受け入れれば、最強の魔戒騎士になれる。その力が欲しければ、私と共に着なさい。そして、闇と一つになりなさい”

 

母の元へ行こうとした時、喧嘩別れしたのに図々しくも僕の前からアイツと同じように大河は母さんを斬ったのだ。

 

”バラゴ!!!闇に囚われるな!!!!”

 

僕は大切な人を二度も奪われてしまったのだ。それも二度も魔戒騎士に……

 

高揚していた心は冷め、あの日の悪夢の記憶が氾濫した河水のように僕の心を容赦なく押しつぶしていく。冷たくなった母の身体、何も映さなくなった瞳……微笑むことすらできなくなった……

 

また目の前で繰り返される光景。母は崩れ落ち、あの日の冷たい川を思い出させるほど、黒い血が辺りに広がっていく。

 

この光景に僕の心は、怒りと絶望の感情が激しく入り乱れていたのだ。忌まわしいこの記憶を思い出さないよう、いつかは乗り越えたいと願い、固く封印していたのに……それをこの男は……

 

僕は剣を取り、怒りのままに大河に切りかかった。普段ならば冷静に物事を見据えて相手に望むのだが、それすらせずに僕は沸騰した感情のままに大河に切りかかったのだ。

 

”よくも、母さんを!!!!”

 

”正気の戻れ!!!バラゴ!!!アレは、お前の母ではない!!!!”

 

”黙れ!!!!”

 

師である大河の剣は、僕を遥かに上回り成されるがままに彼の剣を受けるしかなかっただが、このまま負けるわけにもいかず僕は必死でそれに対抗した。

 

”バラゴ、まだ分からないのか!!!アレが人間に見えるのか!!!”

 

大河の視線の先には、切られたのにも関わらず何かの力に引っ張られるように立ち上がる母の姿だった。まるでホラーに操られる屍のように……

 

でも母は僕に微笑んでくれた。僕に教えてくれた闇の力の凄まじさを……だからアレは、母さんに違いない!!!

 

怒りの赴くままに僕は大河に刃を向け、いつの間にか彼を押していたのだ。

 

”バラゴ……目を覚ませ!!!お前は誰よりも強い魔戒騎士になれる!!!だから!!!!”

 

”五月蝿い!!!!お前を信じた僕が馬鹿だった!!!!愚かだった!!!!牙狼の称号も!!!”

 

この男は僕にとって、友であり、師であり、また父親のようにさえ思えた。だが、この男は僕の忌まわしい記憶を繰り返させた。

 

所詮は牙狼の称号も一介の力に過ぎない。そんな力に縋ったところで僕は、全てのホラーを倒すことはできない。

 

だったら、そんな力も誇りも称号も、この僕の命も要らない、必要なのは、この忌まわしいほどに弱い自分自身を消し去れるほどの、母を何度も殺されるのを見ているしかなかった自分自身を殺せる力。

 

僕は大河を押し切るように彼の懐に入り、その身体を斬った。彼が膝を付くのを確認し、僕は母さんに視線を向けた。

 

母さんの身体は霧となって消滅したが、抜け出した青白い光はその場を離れるように森の奥へと飛んで行った……

 

母さんを甦らせた闇の力をこの目で確かめなければと僕は大河に止めを刺さずにそれを追った。

 

その後、メシアの存在を知り、鎧にこの身を食らわせ、暗黒騎士 呀へとなった。

 

母さんとはそれ以来出会うことはなかったが、闇は僕に新たな贈り物を齎した……

 

彼女の名は、暁美ほむら。母さんの生き写しともいえる美しい少女だった。ただ、不愉快なことにかつての母さん同じように理不尽な目にあっていたという事。

 

あの夜僕は、彼女をこの手から零さないと誓った。たとえ、誰であろうと返すものか……

 

もし、命を脅かすのであれば、そいつの息の根を確実に止めてやる。魔女、ホラー、魔戒騎士、魔法少女、彼女を悲しませ、傷つけるのであれば容赦はしない。

 

何処にも行かせるものか……たとえ帰る場所があってもそこを破壊してしまいさえすれば、彼女はこのバラゴの元にいるしかない。

 

もう二度と失ってたまるものか……母さんを………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の中心にある公園のベンチに一人の少女が寄りかかっていた。

 

彼女の名は、暁美ほむら。先ほど巴マミと別れて一人、此処で身体を休めていたのだ。

 

「……少し無茶をしたみたいね。だけど……」

 

数日前に受けた傷は、完全に塞がっていてこの身体は万全である。だが精神的には、少し気疲れを感じている。

 

この夜だけでも様々なことが起こり過ぎた。巴マミの生存、そして美樹さやかとの出会いと共闘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

巴マミと共に私は、数週間後に現れる”ワルプルギスの夜”に備えて魔女狩りに出た。

 

少し前までの巴マミ……巴さんは、罪悪感に震え、自分自身の弱さに泣いていた。

 

かつての時間軸でも同じだった。誰かを死なせてしまえば、この人は深く傷つき、それをただ甘えていた私達は彼女を破滅に追い立ててしまった。

 

さらには、彼女の死を冒涜するように”身勝手な願い”により、破滅していく私達を、もし巴さんが見ていたらどう思うだろうか?

 

弱い私は、その現実から背を背け”やり直し”と言う名の”逃亡”を繰り返す…繰り返す……繰り返してきた……

 

この時間軸でも同じく、互いに利用しあうだけの関係で終わるのだろうかと少し冷めた考えを持っていたのだが、

 

「ほむらさん。あの店、今度一緒に行ってみない?」

 

「巴さん。今は、魔女狩りに集中してください」

 

魔女狩りに出たものの巴さんは、久々に友人と遊べる事に喜んでいる普通の少女そのものだった。

 

「分かっているわよ、今は確かに気を張らなければならないけど、少しはゆとりを持たないと、勝てるものにも勝てないわ」

 

少し悪戯が掛かった笑みで私に話し掛ける巴さんは、普通の少女でしかない……

 

巴さんがよくしゃべり、私はそれを聞く役という具合でやり取りを続けていた。暫くして私達は”箱の魔女”による口付けを受けた人達、使い魔達と遭遇し、

 

「巴さん……これで三人目です」

 

「そうね………ここまでの人数に口付けを……」

 

「ほむらさん、急いで大元を叩きましょう」

 

「もちろん、そうすべきです。ですが、今回の魔女は私達にとって、少し厄介かもしれません」

 

「どういうことかしら?」

 

「はい。魔女は精神的に弱った人間を誘い込みますが、今回はそれに加えて使い魔もいます。ほとんどの人がうわ言の様に愚痴を…後悔を口走っています」

 

この魔女は、何時の頃から私は苦手になっていた。理由は言うまでもなく私にとっては振り返りたくない”記憶”を掘り返してくるのだ。

 

以前、私はこの魔女により嫌な物を大量に見せ付けられ我をなくしてしまったことがあった。

 

「今回の魔女は、おそらく私達の嫌な記憶……トラウマを刺激するタイプです」

 

「精神攻撃を行うという事?私も長いこと、魔法少女をやってるけど、そういう敵は初めてね」

 

そうだ、最初の時間軸では”箱の魔女”とは遭遇していないのだ。この魔女と出会う前に巴さんは私達の前から退場してしまう……

 

「でも、攻撃はほむらさんがいれば大丈夫ね」

 

巴さんは、私の時を止める魔法の動作を真似ている。確かに動きさえ止めてしまえばどうにかなるかも知れない。だけれど……

 

「……ですが、あの魔女は意外と攻撃が速いんです。私も以前、それでやられかけたことがありましたから」

 

自嘲するわけではないが、あの魔女は意外と動きが速い。結界に入ってきたものへの対応がかなり早いのだ。

 

「貴女が苦手な魔女が居るなんて……でも行くしかないわ。この程度の魔女で躓くようだとワルプルギスの夜に勝つことなんて無理だわ」

 

「そうですね。一人では難しくても私達、二人ならば……」

 

私も覚悟を決めて、工場内に足を踏み入れた。

 

「嫌なことを聞くかもしれないけれど、ほむらさんは何を見せられたの?」

 

自分でもはっきりと表情を歪めるのがよく分かる。

 

「………はい。以前、仲間だった人達に”お前なんか助けなければよかった”と……」

 

思い出すだけでも震えが走る。憧れであり、私にとっては最高の友達である”まどか”が鬼のような顔で攻め立ててくる光景は……

 

「そんなことはないわ。あなたを護ろうとした人の意思を信じてあげて……最後にあなたの事を責めたりなんかはしていないはずよ」

 

震えている私にとって巴さんは、やはり私にとって頼りがいのある先輩だ。彼女の言うとおり、私が見た鹿目さんは笑っていた。清清しいほどに……

 

でもね、私はもっとあなたと一緒に居たかった。ううん、巴さんと三人でずっとずっと一緒に夢を見ていたかったのに………

 

「……そうですね。信じたいんです……ですが、時間が経つほどに私の中の彼女達の姿が薄らいでいくんです。少しずつ、思い出せなくなるんです」

 

それを手繰り寄せようとして、辛うじて思い出せるまでになってしまった自分の中の彼女達。いつから自分はこんなにも白状になってしまったのだろうか?

 

「それは違うわ。あなた自身が前に進もうとしているの。いつかは、私達の今日の出来事は何時かは遠い日の出来事になってしまうかもしれない。それは決して彼女達の事を蔑ろにしているわけじゃないのよ」

 

前に進む。後ろ向きに過去へ逆行する自分にとっては耳の痛い言葉だ。

 

ここで怯むわけにはいかない。この時間軸では、幸いにも巴さんと友好的な関係が築けている。これならば……

 

「誰かしら?私達の後をつけて来たのは?」

 

突然巴さんが私の背後に視線を向けた。迂闊だった、最近は少し考え込むことが多い。気を抜いてしまったら、一瞬にして命を落としてしまうかもしれないのに……

 

誰だというのだろうか?イレギュラーな魔法少女は既にこの”時間軸”には居ないはずなのに……

 

「相変わらずな対応だね。三年生」

 

現れたのは、魔法少女の姿となっていた美樹さやかだった。

 

「そういうあなたは……契約を……」

 

巴さんは苦々しそうに美樹さやかを……美樹さんを見ていた。この前に出来る限り自分達のような境遇を増えないことを願っていたのに……あなたは………

 

「そう、後悔なんてあるわけない。言っとくけど、アタシは三年生みたいに変にプライドが高いわけじゃないから……」

 

妙に巴さんに食って掛かる美樹さやかを見ると、過去の時間軸の私を敵視していた美樹さやかを思い出す。

 

佐倉杏子に対しても、その認識を持ち、妥協すべきところを妥協せずに頑なに自分達という輪を乱すことを許さなかった……

 

その頑なな態度が美樹さやかが乱すことを許さなかった輪を自らの手で乱し、私達もその影響で崩壊していった……

 

「……新人ね。ここは私の縄張りよ。勝手な行動は控えて」

 

「出しゃばるなっていうんですか?目の前で大変なことが起こっているのに、アンタの顔を立てるって冗談がきついわ」

 

なんという光景だろうか。自棄になった美樹さやか、美樹さんが巴さんを拒絶することはあったが、こんな風に対立する光景は未だかつて見た事がない。

 

こうなったら、あの時、病院での杏子と巴さんが対立していた光景に出てこられなかったけれど…

 

「二人とも喧嘩するなら、魔女を狩った後にしてください」

 

「あっ!?!やっぱり、生きてるの!?!」

 

いきなり素っ頓狂な声を上げる美樹さんは、いつものことながら予想外の行動ばかりだ。

 

「い、生きているって……なんだと思っていたのよ」

 

「いやぁ~~、てっきり、そこの三年生が幽霊に取りつかれて……」

 

「何、勝手にストーリーを作っているんですか…えっと……あなたは」

 

いつもは唐突に初対面であるはずなのに、相手の名前を言うのはNGであると忌々しいが”彼”に忠告されたことがある。

 

「幽霊じゃないんだね……えっと、アタシは美樹さやか」

 

相手が名乗り返したのなら、私も名乗り返さなければならない。

 

「私は暁美ほむら。巴さん、貴女と同じ魔法少女よ」

 

「一応、病院での一件で知っている。あ、そうそう、あの時は助けてくれてありがとう」

 

美樹さやかは、私にお礼を述べた。こういう風に言われるのはどれぐらい前だろう。ほとんどが、彼女にとっては”悪い魔法少女”でしかなかった私が……

 

「お礼を言われることではないわ。貴女は偶々、そこに居合わせただけ」

 

「でも、アレはアタシが勝手に首を突っ込んでというか……」

 

あまり無茶はしないでね、美樹さん。

 

「でも、最初に貴女を助けてくれたのは巴さんよ」

 

「……そう、アタシは姐さんに手柄を取られたくないからと思ったんだけれど……」

 

話を巴さんに振るとあからさまに不機嫌な態度になる。巴さん、あなた美樹さやかに舐められているんじゃないですか?

 

「そういう捻くれた考えしかできないなんて、貴女、碌な魔法少女にならないわよ」

 

巴さんも巴さんでかなり高圧的に返す。他人を見て我が身を直せだったかしら……自分にとってはかなり痛い言葉だ。でも……

 

「いい加減にしてください!!!今は、魔女を目の前にしているんですよ!!!!二人とも!!!!!!」

 

思わず大きな声を出してしまった。こんな風に声を上げるのはどれぐらい久しぶりだろうか。

 

「ほむらさんがそういうなら、仕方ないわね。あまり、足を引っ張らないように……」

 

「そっちも油断して、お陀仏は二度も見てられませんからね」

 

この二人、普段の時間軸ならもっと仲良くなるはずなのに……そうか、美樹さんは誰かの腰巾着みたいになる事が多いから、多分佐倉杏子辺りが凄く大人だからなのだろうか?

 

何とかして、私達は”箱の魔女”の結界の近くまで着たが、周りに口付け、もしくは使い魔に連れられた人間達が多いことに驚いた。その中に一人だけ元気に動いている青年を見つけた。

 

あんな青年、今まで居ただろうか?

 

「あ、あの人はお隣の……」

 

巴さんは、あの青年に心当たりがあるようだ。お隣さんなんて今まで見たことがなかったのに……

 

お隣さんと聞いて少し嫌なことを思い出した。まさかと思うが、巴さんの家に訪れた時、正面に隠されたカメラを見つけたのだ。盗撮用の小さなものだ。弁護士をしていたお父さんが証拠物件として抑えていたのを見たことがあった。

 

あの青年がまさかと思うが、一人暮らしの女子中学生というのは嫌な思考を持った人間にとっては非常に魅力的なものだから……

 

「あ~っ!?!アイツ、柾尾 優太!!!!」

 

美樹さんも知っているなんて…意外と良い人なのだろうか……

 

「知り合いなの?」

 

「あんなのと知り合いたくないわよ!!!アイツは、犯罪者よ!!!!」

 

前言撤回。まさかと思うが…この時間軸の美樹さんの両親は……

 

「美樹さやかさん。そういうのは口に出すものじゃないわ。単に誤解しているだけかもしれないのに」

 

「そういうんじゃないんですよ……」

 

美樹さんは苦々しそうに唇を噛んだ。どうやら、あの青年は関わってはいけない人物らしい。私の知っているあの二人と比べたら、まだマシな方かもしれないけれど……

 

私達は、状況を見て魔女がどういう能力を持っているかを改めて確認し……

 

「巴さん。貴女は、あの人達の拘束をお願いできますか?」

 

「えっ!?私も一緒に結界に行くんじゃないの?」

 

「はい。あの中を進むのは少し骨が折れます。私は美樹さんと一緒に魔女の結界に入って、殲滅します」

 

「どうして、美樹さんと一緒で私と一緒ではいけないのかしら?」

 

ベテランの自分を差し置いて、ルーキーの美樹さやかに花を持たせるのかと少し視線が厳しかった。

 

「先ほどもお話したんですが、この手の魔女は私達の様なベテランよりもルーキーのほうが向いていまし」

 

「あぁ、そういうこと。確かに、貴女も苦手とする精神攻撃なら、そういう手もありね」

 

巴さんは渋々ながら納得してくれた。対する美樹さやかは……

 

「ふふ~~ん。アタシが居ないと始まらないみたいね♪」

 

ドヤ顔で子憎たらしいことこの上ない表情だった。少しばかり調子に乗っているかもしれないが、今は此処では何も言うまい。

 

巴さんは私にだけ聞こえるように軽く舌打ちをした……

 

巴さんは、魔女の影響で自傷行為に及んでいる人達を優先的に拘束し、さらには私達が進みやすいように口付けを受けた人達を傷つけないようにリボンで拘束してくれた。

 

「へぇ~~、一応は先輩なんだね」

 

「そういう事は言わないの。もう少し、ベテランを敬いなさい」

 

「はいはい、ほむらも姐さんと同じことを言うんだね」

 

少し小言の多い姑のような自分に少し抵抗感を感じながら、私達は魔女結界の入り口に飛び込んだと同時に

 

「いやああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

結界の中で響く友達の声を聞いたのだ。

 

「まどか!!!!!!?!!」

 

「そうだよ!!!まどかの声だよ!!!!これ!!!!!」

 

初対面の私がどうしてという事を美樹さやかが追及しなかったことはありがたかった。

 

「って、なにこれ!!!!なんなの!!!?!!あいつは!!!!!」

 

美樹さやかが叫んだ先には、白い翼を広げ一人の少女を抱える髪の長い少女だった。いや、少女というには少しばかり違う。バラゴのように見た目とは違う違和感を感じた。

 

抱えられた少女が居たと思われる場所には数人の少女が居り、悲しんでいた。あの少女はまるで死んだ少女を迎えに来た死神……そして死んだ少女は迎えられたのだ死神に……

 

「ねえ、ほむら!!!あいつのこと知ってる!!?!」

 

「知らないわよ。あんな死神のような魔法少女……」

 

魔法少女ですらないのかもしれない。もしかしたら、魔法少女の願う奇跡以上のもっととてつもない因果を抱え、さらには狂気に近い絶望よりも突き抜けた希望を願ったのかもしれない……

 

正直に言えば、あのバラゴの掲げる目的よりも………

 

あの少女?の顔は、はっきりとは見えないが私は少しだけ見覚えがあった。誰かまでは思い出せないが……

 

「それよりもまどかを!?!」

 

「そ、そうだった!!!!ほむら、お願い!!!!」

 

私は時間を停止させ、美樹さんと共に魔女の近くまで一気に飛んだ。

 

近くまで来た時、まどかをあの青年が押しのけて異様なほど興奮して魔女に話しかけていたが、

 

”シンジっ!!!”

 

”お前達も魔戒騎士であろう!!!なのに!!!”

 

何処かで聞いたことある声と共に黒い影たちが二人の男女をリンチするかのように刺し殺している光景。

 

その声は、私が知る彼女の者とは思えない程感情的だった。

 

(まさか……エルダもこの場に来ている。アレが……エルダの言っていた………)

 

かつて未来を変えようと奮闘してもそれが都合の悪い未来であれば、真実であろうとも、それを誰も信じることはないと………

 

「って、何っ!?!今度は、魔戒騎士っぽいけど、誰よ、おじ様と姐さんを誤解させるようなもんを映しているのはっ!?!」

 

美樹さんも魔戒騎士の事を知っている。佐倉杏子が魔戒騎士関係であるから当然かもしれない。だけど、今は……

 

「美樹さんっ!!!」

 

「あいよっ!!!一気に決着をつけてやるわ!!!!」

 

白いマントを靡かせ、サーベルを突き立てて美樹さんは魔女に突撃し、両断する。

 

両断された魔女は奇妙な黒い液体を結界内に飛翔する。致命的なダメージを受けたのか、魔女が映し出していた光景が消滅していく。

 

「ほんとうにほむらの能力は最強だよね!!!!アタシと姐さんと三人なら、絶対に最強のチームが組めるよ!!!」

 

巴さんを除け者にしないで欲しい。

 

「バランスが偏りすぎるわ。二人とも近接ばかりじゃない!!!それよりも早く!!!」

 

「分かってるって!!!!そこの魔女、覚悟!!!!!」

 

サーベルを片手にダメージを負った魔女に対し、美樹さんはさらに追撃すべく飛翔し、

 

「これで終わり!!!!!!」

 

瀕死の状態であるが止めは刺さなくてはならない。魔女を倒した後、いつものように結界が晴れていった。

 

少し臆病かもしれないが、私は結界が完全に晴れるまで周囲を警戒していた。以前のように”お菓子の魔女”にように二体目が現れるようなことだけは絶対になくてはならないのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美樹さん、巴さんと別れた私はこうして公園のベンチに腰掛けている。一晩で色々なことがあった。私は、この時間軸で何をすべきだろうか……

 

あの二人特にバラゴと関わってから、まどか達とは関わらないようにと考えていた。

 

理由はバラゴが恐ろしく危険な存在であり、彼女達に危害を加える可能性が高いため、イレギュラーを関わらせて、取り返しのつかないことにさせないためでもある。

 

「相変わらず無茶をするのだな。それとお前は誰にも希望を抱いてなどいなかったのではないか?」

 

いつものことながらエルダは唐突に現れる。いつの間にか私の目の前に居た。青白い肌は何時にも増して魔女よりも魔女らしい。

 

「……それが私に残された道しるべだからよ。言われるまでもないわ」

 

心が冷め切ってしまった女。私も何時かは、こうなってしまうのではないかという怖れもあるが、ここばかりは抵抗させてもらう。

 

「別にそれでも構わないか……一つだけ私からお前に伝えておこう」

 

またバラゴからの小言だろうか?

 

「鹿目 まどかだが……アレにインキュベーターは、関わろうとはしないだろう」

 

「ど、どういうこと!?!」

 

いきなりのエルダの言葉に私は動揺してしまった。インキュベーターは積極的にまどかに契約を持ち掛けるのに……どういう事だろうか?

 

「……元々、定められていた運命を書き換えようとはしたが……それはもう書き換えのしようがないものを…さらにどうしようもない事にしてしまった」

 

まどかが何かをしたというのか?インキュベーターを鋏の切っ先で殺すという彼女らしからぬ行為もそうだが……病院の件でも巴さんは、疑いの目で彼女を見ていた。

 

この時間軸のまどかは、今までとは違うとでもいうのだろうか?本人が居ない所で私が仮説を立ててもどうしようもない……

 

「それとお前は少しばかり眠ってもらう。バラゴ様にとって大事な存在だからな、お前は……」

 

突然、私の前で手を翳したと同時に私の意識が暗くなっていくのを感じる。何が起きたのかが分からなかったが、この脱力感が少しだけ心地良かった。

 

そういえば今日は、普段以上に気を張り詰めていた気がする……

 

 

 

 

 

 

 

「やっと眠りについたか……付け焼刃程度でここまで無茶を行おうとする気になれたものだ」

 

寝息を立て始めたほむらに対し、いつの間にか持ち出していた黒いローブを掛けた。今の季節は少しばかり肌寒く、何かを羽織らなければ風邪を引く可能性もある。

 

エルダは穏やかとはいえない寝顔のほむらの頬にそっと手を添え、無言のまま見つめていた。

 

「エルダ。此処にいたか……」

 

その声に対し、エルダはひざまづき、主 バラゴを迎えた。

 

「エルダ、そのままで良い。ほむら君は……」

 

「はっ、少しばかり無茶をしていたようですが、他の魔法少女達とは友好に接しているようです」

 

今日の一部始終を途中であるがエルダは見ていた。

 

”他の魔法少女”という言葉にバラゴは少しばかり表情を険しくした。言うまでもなく、彼女をこのような運命に引き擦り込んだのは……

 

「そうか…ならば今はそれでいい」

 

自分らしくはないが、その運命を自分が粉砕するなどという”魔戒騎士”のような錦を掲げる気はない。ただ、バラゴは気に入らないだけなのだ……

 

大切な人の映し見である彼女がそれを望み、傷ついていく光景が………

 

眠るほむらに対しバラゴは、膝を折り彼女の白い肌と鮮やかな黒い髪に指を滑らせ………

 

「………誰にも母さんを渡さない」

 

理不尽な運命にもインキュベーター、ホラーの陰我にも渡すつもりはない……そう例え戻る場所があろうともそこに返すつもりなどバラゴにはなかった。

 

彼の歪んだ心情を人は、”狂っている”とでも言うだろう。だが、彼は歪であっても護りたい者の為に剣を振るおうとしていた……

 

それは彼の太刀筋に色濃く残る”黄金騎士”のそれがそうさせるのだろうか?それは、誰にも分からない……

 

歪な闇色の狼の加護を受け、少女は眠りに付く………

 

 

 

 

 

 

 

 

人が眠りについている間に見る現実のように感じる出来事………

 

 

 

 

 

 

 

 

私、暁美ほむらは、奇妙な一団の中にいた。ここが何処なのかはハッキリはしないが、霧が掛かった道を青白い顔をした喪服の少女達の中にいる事は分かっていた。

 

周りを見ると彼岸花が一帯に咲き乱れており、この光景にほむらは誰かの葬儀ではないかと思った。

 

”彼は、魔戒騎士だったんだけれど、ホラーよりも母親を殺した父親よりも許せないモノがあったの”

 

棺があるであろう正面で誰かが芝居がかったように声を上げていた。

 

この声、何処かで聞いた覚えがある。よく見知っているような……

 

”彼女も魔法少女になったの。大切な人を護りたいがためにね。でも、彼女も魔女、魔法少女よりも許せないものがあったわ”

 

何処の誰か心当たりがありすぎる。正直、聞きたくはない……

 

”それはね。大切なものを護れなかった自分自身よ。誰よりも抹殺したかったのよ。その弱い自分が何よりも許せなかった”

 

声は興奮したかのように大きくなっていく。

 

”””””””””””””””””そうよね”””””””””””””””””

 

喪服の少女達が一斉に私、暁美ほむらを見たのだ。三日月のような裂けた笑いと共に……

 

”あなたとバラゴ。そっくりだわ”

 

そいつらの顔は私自身がよく知っている顔だった。そう、穏やかに笑う悪魔だった。

 

”ふざけないで!!!あの男と私を一緒にしないで!!!!”

 

そいつに手を上げるが、簡単に手を取られてしまう。堕天使を思わせる黒い翼を広げ私の頭上を面白そうに舞い。

 

”そうね。貴女はそう思っていても、彼は貴女に夢中なのよ。その辺は、しっかり理解してあげなさい。だって彼は、貴女のナイトだもの”

 

”貴女が羨ましいわ。私は、あんな風に大切に思われたことなんてなかったもの。一番の親友ですら、そう思われなかったから…”

 

何を言っているんだ”あの私”は?バラゴが自分に異常なまでに執着しているのは分かっている。それが何故なのかは分からない。

 

”もう少しだけ自分をよく見なさい。彼ならきっと貴女を……”

 

”それ以上言うな!!!!お前は、私じゃない!!!”

 

”誰も貴女だと言ってはいないわ。じゃあね、もう二度と会うこともないでしょうね”

 

薄気味の悪い笑い声と共に霧が晴れていくのと同時に私は夢から醒めた………

 

 

 

 

 

 

 

「やっと目覚めたようだね」

 

いつの間にか夜が明けており、夢と同じように少しだけ霧が掛かっていた。だがどういう夢だったのかは思い出せない。

 

悪夢だったことは間違いないが、まさかバラゴを目覚めに見るとは……

 

「………おはようって、バラゴ。まさか一晩中、私の前に居たの?」

 

だとしたら呆れた。こいつは、何処まで私を拘束すれば気が済むのだろうか?胸の悪趣味な刻印だけでは足りないとでも言うの?

 

「君が心配だったからね。ソウルジェムが傷つかなかったから良かったものの…君は君自身をもう少し大切にすべきだよ」

 

「余計なお世話よ。あなたが私をどう扱おうが、私は私のすべきことをするだけ。それだけは譲れないわ」

 

やはり私は、こいつが気に入らない。いや、同族嫌悪を感じる自分が気に入らない。

 

だから私は、バラゴに親しみを覚えてもそれを表には出さない。出したくはない、そうしたら、今まで築いてきたものが壊れてしまうから……

 

勢いよくベンチから立ち上がったが、バラゴと同じローブが落ちた。どうやら、バラゴかエルダのどちらかがかけてくれたようだ。それだけは感謝しても良いかもしれないが、私がそれを口に出すことはなかった……

 

 

 

 

 

二人はそのまま拠点である洋館へと戻っていく。戻る前にエルダは足元に落ちていた見慣れない”黒い羽”に視線を落としたが、黒い羽は、突然の突風と共に見滝原の空へと消えていった……

 

 

 

 

 





ヒーロー?とヒロインがこんな感じでよろしいでしょうか?


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幕間 「平行世界」

本編の間を挟んで幕間二です。まどかさんの話です。

この話では、少し異質ですが、もっと異質なのは・・・・・・




 

そこは、どこまでも続く白い世界だった。他の色の存在を許さない絶対の白い空間で二人の少女が組合っていた。

 

”嫌だ!!!貴女は、私じゃない!!!!”

 

いや、桃色の髪の長い少女が見滝原中学の制服の少女の手首を押さえていたのだ。

 

”私は、鹿目まどか。全ての魔法少女の魂を、希望を絶望に終わらせないために此処にいるんだよ”

 

”まどかは私!!お前じゃない!!!そうやって、誰かを置いていって貴女は特に何もできないから、魔法に縋って女神様気取りなの?”

 

”そうじゃないよ。希望を願った魔法少女達の願いを絶望で終わらせないために……”

 

”分かるもん。私と同じなのは嫌だけど、何の取り得もないただの女の子。誰かを救うだけの力も頭もないもん”

 

まどかは涙目で目の前にいる”もう一人の自分”を否定する。かつてのある世界で一人の、自分によく似た少女は絶望を感じていた。

 

希望を願っても最終的には絶望に至り、全てを呪いながら生きていく運命を書き換える為にその少女は願った。

 

だけど、少女は人としての”力”ではなく、”魔法”に縋ったのだ……

 

少女は分かっていたのだ。自分が如何にちっぽけで弱い存在であるかを……魔法という奇跡を得ても所詮は矮小な存在である人間では、どうにも出来なかったのだ。

 

だからこそ、魔法以上につよい魔法で願ったのだ。この絶望を希望に変えたいと……だがそれは少女が人としての力に絶望し、インキュベーターによって齎される魔法に縋ったことを意味していた。

 

絶望に染まり呪いを撒き散らす前に。苦しむ前に救うための”死”ならば、それも良いだろう。

 

”それに最後は、ほむらちゃんの為みたいに言ったけれど本当はほむらちゃんの為でもなんでもなかったんでしょ”

 

”この姿になって私は、ほむらちゃんの本当の姿を知ったの。弱くても傷だらけになってもずっと頑張ってきたほむらちゃんのことを……”

 

金色の目が少しだけ悲しい色を浮かべたが、もう一方の桃色も目は怒りに染まっていた。

 

”本当は、さやかちゃんの為だったんでしょ。さやかちゃんの願いが無かった事にしないために……それを誤魔化さないでよ”

 

もし、魔法少女も魔女も無い世界にして欲しいと願えば、今までの事はなかったかもしれない。だけど、それでは美樹さやかが願った希望も無かったことにされてしまう。

 

決して彼女を見ることがなかったのに、彼に尽くした彼女の大きすぎる代償を無かったことにしないために……

 

全てを知り、人の理解が及びもしない存在と化した”彼女”に対し、まどかは否定した。

 

鹿目 まどかは一介の14歳の少女でしかない。それは他の魔法少女も同じことだった。ほむらもほむらでその行動が完全に正しかったとは言えないのは、まどかも分かっていた。

 

だけど、その結末を”安楽死”というのは、あんまりではないかと……誰かによって齎された”力”ではなく、自分自身を誰も信じられないのだろうか?

 

魔法に縋っても、格好良くはならないし、元の自分と比べるだけ惨めではないか……

 

かつて、母から恐ろしい話を聞いたことがある。ある北欧で一人の神父が夜、神に祈ったのだ。

 

教会に住む十数人の孤児達に幸せを与えて欲しいと……その夜、神は願いを聞き入れたのだ。神にとっての幸せを子供達に、人間にとっては不幸を…

 

翌朝、子供達は全員、息を引き取っていたのだ。神の元に召されることが幸せという、人の感情では理解が出来なかった……

 

目の前の少女は、かつて聞いた恐ろしい神と同じに見えた。

 

”なら、あなたはどうやって、皆を救うの?あなたにできるの?”

 

そう問われてしまうとまどかは、何もいえなくなってしまう。だが、少女は続ける。

 

”いつかあなたも契約をするかもしれない。その時、私はあなたと……”

 

少女が手を伸ばした瞬間、まどかの身体は溶け込むように少女の中へと消えていく。その光景にまどかは悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどかっ!!まどか!!!」

 

母が自分を必死で呼びかけていた。

 

「っ!?!……ママ」

 

「どうしたんだい?ずっと酷く魘されていたけど……」

 

「アレ?ここは……私の部屋」

 

見慣れたぬいぐるみのある部屋は、自分の部屋だった。

 

「そうさ。アンタの家だよ。昨日は災難にあったんだね。警察のパトカーが家の前に止まった時は驚いたよ」

 

母は冗談交じりに笑ったが、よく見ると目の下に隈があった。一晩中、自分の傍に付いていてくれたようだ。

 

「さやかちゃんと総一郎さんが一緒に来てくれたんだ。集団自殺に巻き込まれそうになったんだって?気をつけなよ」

 

「……うん、ごめんなさい」

 

「謝る必要はないさ。まどかは身体をゆっくり休ませろ」

 

毛布を掛けられ、まどかはそのまま横になった。

 

「が、学校は……」

 

「そんなのは、別に後からでも取り返せるさ。だから、今日はゆっくり休む」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、また昼頃になったら顔を出すから、絶対に起き上がっちゃ駄目だぞ」

 

笑みを向けて母 詢子は部屋を後にしたが、まどかの様子にただ事ではないことを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングに降りた詢子はソファーに腰掛け、洗い物をしている和久に最近の愛娘の様子を訪ねた。

 

「なぁ、知久。まどかは、此処のところずっと張り詰めていたのかい?」

 

「うん。ここ最近、思いつめたみたいに悩んでいて、一人で泣いていたりもしているんだ。もしかしたら……」

 

TVで見かける学校の問題。まさかと思うが、それではないかと知久は懸念していた。

 

「そっちの線は無いよ。一応、和子に教えてもらった。どういうわけか面識の無い上級生とつるむ様になってたりはしていたみたいだけど……ただ……」

 

「ただ?」

 

詢子は、今の娘の様子がかつての自分の姿にダブって見えていた。そう……あの時

 

「知久、忘れていないよね。まどかが生まれる時のことを……」

 

「忘れないさ。どうしようもなかった僕達に渇を入れてくれた……まさか……」

 

当時学生だった自分たちは、羽目を外して子供を作り、周囲の猛反発に対し、大学を辞め、駆け落ちをする様に見滝原へとやってきた。

 

だが、生活は苦しく、精神的にも体力的にも限界だったことを憶えている。そんな時に、信じられない事態に遭遇してしまった。

 

魔戒騎士とホラーとの戦いに遭遇してしまったのだ。好奇心に誘われ、あろうことか自分は”魔獣 ホラー”の返り血を浴びてしまったのだ。

 

「そうさ。今のまどかは、アタシがあのホラーの返り血を浴びて、自分があと数日で死ぬのに悩んでいた時と同じなんだよ。まどかを生んであげられないことを凄く悔やんだんだ」

 

当時の切迫した生活と十数日後には死んでしまう自分と”一人で生んで育ててやる”と無責任なことを言ってしまった事に激しい後悔の念を抱いた。

 

生まれてくる命を死なせてしまうことへの申し訳なさだった。

 

その時の詢子の表情によく似ていたと知久は、改めて気づいたのだ。血の影響でホラーがやってくる気配に苦しみ、そのホラーに襲われることに恐怖していた。

 

彼女を護ることができない自分を情けなく思っていた。そんな自分達を護ってくれたのは、黄金騎士 牙狼の称号を持つ魔戒騎士だった。彼は、大河と名乗った。

 

「言われてみれば、そうだね。あの時の大河さんには返しきれない恩ができただけど…大河さんは……」

 

大河には、自分達を護り、ホラーの血を浄化してくれた。今の自分たちがいるのは大河のおかげであった。

 

「何年も前に亡くなったってな……アタシがまどかを生んだ時にあの子の名づけ親になってくれた」

 

その時の大河は、”もう二度と会うこともないだろう”と言って、姿を現すことはなかった。

 

大河からは息子がいると聞いていたが、その息子とは、二人は面識が無かった。大切な愛娘が人智を超えた恐ろしい事態に巻き込まれている。それをどうにかしてあげたいが、二人にはそれを打開できる術は無かった。

 

もし、ホラーの返り血を浴びているようなことがあれば、もう一度、魔戒騎士の助けが必要になるかもしれない……

 

”その子の名前は、まどか。たくさんの人達の愛を受けて生まれた子。いつかその子がたくさんの人を愛せるように……”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人ベッドに腰掛けていると自分以外の気配が現れたことを察する。一瞬であったが、大きな動物の影が室内を大きくよぎった。

 

「……初めて君と出会ったとき、君は泣いていたよね」

 

まどかの前に現れたのは、白い小動物であるキュウベえだった。愛らしいぬいぐるみを思わせる姿をしている。

 

だが、この愛らしい姿とは真逆のおぞましい行いをしていることをまどかは知っていた。

 

「私と契約したいの?」

 

冷たい目で感情の揺らぎのない赤い目を見た。恐らくは、契約を持ち掛けるであろう……

 

「そうしたいけど、君とは契約をしないほうが良さそうだからね。だから、言うけど魔法少女とは関わらないでもらえるかな」

 

キュウベえから返ってきた言葉は、まどかの予想を遥かに斜め上を言っていた。

 

今までのキュウベえ、インキュベーター達は自分に契約をしつこく持ちかけた。このようにインキュベーターから断るとは、一体何がどうなっているというのだろうか?

 

「っ!?!どうして!!?」

 

まどかは、思わず声を上げてしまった。そんな彼女を意に介することなく淡々とした口調でキュウベえは続ける。

 

「それが今のマミの考えでもあるんだよ。それと暁美ほむらの願いでもある」

 

キュウベえから出た暁美ほむらという単語にまどかは、異常なほど食いついた。

 

「ほむらちゃんを知っているの?!?」

 

「あぁ、知っているよ。時間遡行者だよね、彼女は」

 

驚いたまどかの反応を見てキュゥべえは、やはりかという視線を向けた。

 

「おかしいとは思ったんだ?君が何故、そんな破格ともいえる素質を持っていた事と奇妙な行動の理由がね」

 

舐め回すような視線をまどかに向け、キュウベえは自身の仮説を述べる。

 

「君には、恐らく暁美ほむらが繰り返したであろう平行世界の因果が集約している」

 

しかし、それだけならばキュウベえに対する行動は説明がつかないものをまどかは感じていた。

 

「それだけじゃないって顔だね。恐らく君は、暁美ほむらが、他の時間軸、平行世界の自分が体験したことが知識として流れ込んでいる」

 

キュウベえの確信を突く言葉にまどかはさらに目を見開かせた。キュウベえ、インキュベーターの察しのよさは自分等では、どうにもならないではないか……

 

「それはね……ある”平行世界”での二度によって行われた改変が原因だと思うよ」

 

平行世界の改変。かつてみた悪夢の中で最も忌まわしいと思ったのが、少女達の希望のために、人を捨て、概念へとなった自分が宇宙を大きく変えてしまう光景だった……

 

「君の可能性の一つ、そしてあの暁美ほむらの可能性の一つが起こした改変によるものだね」

 

まるで見てきたことのように語るキュウベえに対し、まどかは普段の彼女らしからぬ程、声を荒げていた。

 

「何で、そんな事が分かるの!?アナタは、他の世界の事が分かるというの?!?」

 

宇宙から来たといわれるインキュベーターたちの科学力は、自分等が理解できないほど高度な物だとはおぼろげながら理解していたが、まさか想像を遥かに超えるものとは、思わなかった。

 

「僕達の文明は君たちが思っている以上に進んでいるんだよ。平行世界に関しても観測は出来ている。だけど、それに干渉をするわけにはいかない。だからね……」

 

キュウベえは、更に前に歩み寄り、

 

「故に平行世界の因果が絡み付いている君とは契約をすることはできない」

 

”君とは契約をしない”こんなことを言われた鹿目まどかが今までの”時間軸”に居ただろうか?まるで理解が追いつかなかった。

 

インキュベーターは、何が何でも宇宙の為にエネルギーを集めているのではなかったのか?破格の才能を持つ自分を何度も狙ったのではないのか?

 

「どういうこと?この世界のアナタは、他のインキュベーターとは違うというの?」

 

「アレらも同じ存在ではあるのだけれど、僕らはあそこまで感情的ではないよ。とは言っても、僕も当初は君とは契約を交わしたいと思っていたんだけど、君の行動を見ていてある種の警戒を憶えたんだ」

 

ようするに自分の、鹿目まどかの行動に不信感を抱きこのような答えをインキュベーターは持ったのだ。自分の独りよがりの行動が恨めしくなった。

 

「平行世界の僕らの最大のミスは、本来干渉してはいけない”平行世界の因果”に干渉、それによる危険性を無視し、目先の利益に走ってしまったことだ。

 

 契約した覚えのない暁美ほむらを目の敵にし、彼女が原因で因果が増したイレギュラーの君を都合よく思うのは、少々身勝手だね。あの世界の僕らは」

 

「目先の利益って……私達を利用することが……」

 

「説明をしなくても分かると思うけれど、君たちの犠牲は決して無駄じゃない。むしろ、怠惰に生きていくよりかはずっと有意義だと思うよ」

 

何も悪いことはしていないと言うようなキュゥべえに対し、まどかは表情を険しくする。普段の彼女らしからぬ表情である。

 

「そもそも僕たちが何故、少女達を魔法少女にしている理由は君も察しがついているだろう」

 

頷くことはなかったが、微妙なまどかの表情の変化に肯定と見たのかキュウベえは更に続ける。

 

「話は少し戻すけど、平行世界は互いに干渉をしないように一定の距離を取っている。その平行世界に大きな異変が起これば周りも余波の影響を受けかねない」

 

「変化といえば君に流れ込んだ知識ぐらいなモノだけど、暁美ほむらの時間遡行による影響も多少なり世界に及ぼしている」

 

「少しもったいないかもしれないけど、僕は安全を取ることにするよ。仮に君に契約して、その後にエネルギーの回収が出来ても、宇宙の破滅になれば、それこそ本末転倒だ」

 

故に危険な鹿目 まどかとは契約を交わさない。それがインキュベーターの意思だった。それでは、まるで宝の持ち腐れではないか。

 

「考えてもみなよ、宇宙を改変できるほどの因果をもった君が魔女にでもなったら、地球だけに被害は留まらない。おそらくは他の星星、文明すら破壊されてしまう。宇宙を救う為に、そこに住まう高度な知的生命とその文明を犠牲にするわけにはいかない」

 

「待ってよ……だったら、どうして私達を犠牲にしているの?他の星の人達は大切にできるのに?」

 

ここも今までに聞いた事がない。宇宙を存続させるためなら、あらゆる物を犠牲にするのがインキュベーターではないのだろうか?

 

「心があるのならと、言いたいのかい?君は既に知っているけれど僕達には、そう思える”感情”と呼べるものはない。過去にはあったかもしれないけど、君達を哀れむことすら出来なくなるほど磨耗しているのかもしれない」

 

小さな赤い目にはやはり感情の色はなく、ただ”執着”に似た何かを感じさせるものが存在していた。

 

「話を平行世界の干渉についてだけれど、それはこの宇宙の星星にもそれは適用される。宇宙に住まう知的生命体達は互いに争ってきた歴史がある。僕達の祖先も遥か遠い昔の銀河の果てで争ったと記録が残っていた。見せようか、この宇宙の歴史を」

 

テレパシーの応用により、まどかの中に様々なモノが流れ込み、映し出された。

 

一つの闇から全てが始まり、巨大な爆発と光によって、いくつもの銀河が誕生し、その星星で生命が生まれ、文明を築き、高度に発展した文明は、宇宙全体を駆け巡るようになった。

 

そこにあったのは、いまの地球では到底追いつくことはできないであろう程の文化が存在していた。

 

「やがて星星は、この宇宙が終焉を迎える事を知った。それを打開するために色々と策を労したよ。滅びる宇宙を捨てて、新たに生まれる宇宙に移住するか、この宇宙を継続させること二つの意見に星星の文明は分かれた」

 

まさか、そこまで大きな存在があるとは、まどかは息を呑んだ。こんな相手に戦いを挑むなど例え、魔法の力を得てもどうしようもないではないかと……

 

自分に自信のない彼女にとって、誰の役にも立てないことはとても嫌なことだった。だからこそ、魔法の力を得た”自分たち”は誰かの役に立てることを喜んでいたのだ。

 

「!?!でも、移住ができるのなら!!」

 

キュウベえの話を聞くと少女達を魔女にしなくても何とかできる方法があるではないかと、まどかは察したが……

 

「聞こえは良いけどね、そこに生まれる文明や知的生命体達の未来を踏みにじることだよ。本来、そこに居る筈の彼らの居場所を奪うなんて、野蛮そのものだよ、まどか」

 

そういう事なのだ。移住先はこれから、生まれようとしている世界なのだ。それを滅びようとする世界が延命の為に犠牲にして良いわけがない。

 

「この宇宙が如何にして発生し、知的生命体が文明を築き上げてきたと思う?これは奇跡なんだよ」

 

「僕たちや君達がこの宇宙に生まれたのは、奇跡に近い偶然だよ。それが二度も生まれることはありえない。君たちが住まうこの星に生命が生まれたのは、奇跡だ。まさに宇宙の素晴らしさでもあるんだ」

 

「人間はこんなことを言う。またやり直せば良いと……でもね、こればかりはやり直しも利かない。だから僕達は、君達の希望を絶望に染めてもやらなければならないんだよ」

 

「移住を推進している文明は、今も野蛮な侵略の準備をしているよ。唯一つ感情的といえるのが、宇宙を存続させるための”執着”これこそが僕らに唯一残された感情かもしれない」

 

「だからこそ、僕らはやらなければならない。かつての時間軸の君や、今も繰り返しているであろう暁美ほむらのようにね……」

 

思わず下唇を噛んでしまった。事情さえ分かってしまえば、何とかできるとは甘い考えだった。インキュベーターは一筋縄でなどうにもならない存在らしい…

 

嫌な気持ちではあるが、どこか自分達に通じる共感のようなものも感じるがそれを受け入れることは出来ない。

 

「君が美樹さやかのように僕に取り入って利用しようなんて魂胆は駄目だよ。僕もある程度は君達の事を利用させてもらっているから……」

 

キュウベえは言いたい事を終えたのか、背を向け、

 

「君は、暁美ほむらに対して何を思って、彼女の事を懸念するんだい?」

 

「それは…私なんかの為に……あんなに傷ついて…苦しんで、泣いている子のことを思わないなんてできないよ!!!」

 

事情を知らなかったからこそ、”他の自分”は彼女 暁美ほむらを傷つけてきた。でもこの時間軸の自分なら……

 

「それは、彼女に対する同情と哀れみなのかい?実際に、話したことのない彼女を君の自己満足で完結し拒絶するんだね」

 

「そんな事はないよ!!!!何なの!!アナタは!!!本当にインキュベーターなの!?!!」

 

感情がないといわれる異星人の筈なのだが、何故か感情を感じさせる目の前の存在があまりにも異質だった。

 

「そうさ、僕はインキュベーターだよ。この星での役割は、君たちにとっては不快なことだけど、僕らにとってはどうしてもやらなくちゃいけないことだ」

 

キュウベえは姿を歪ませたと同時にまどかの前から姿を消した。消えたキュウベえが居た場所を呆然としてみるが

 

「異物の排除は、それなりにさせてもらうけど、暁美ほむらに関しては暫く保留にさせてもらう。理由は君自身にもわかるよね」

 

声だけが頭に響くがそれを無理やり消すように毛布を頭から被り、まどかは自分では理解が追いつかない事態に苦しむしかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうして、私はこんなにも駄目なんだろう。誰の役にも立てなくて、誰の為にもなれないなんて…ごめんね、ほむらちゃん……)

 

世界にとっては異物であるほむらの事をキュウベえ達が異様に敵視していたのは良くわかった。

 

異物であるほむらは、もしかしたらこの世界に存在していないかもしれないのだから……

 

(待って!!?!私もしかしたら、今までの私達が会っていない人と会っている!?!)

 

飛び起きたまどかは、机の上に折りたたんでいた”探し人のチラシ”を手に取った。これを配っていたのは……

 

(ほむらちゃんのお母さん!!!)

 

そう、今までの自分達は彼女の両親に直接会った事がない。一度だけ、両親と一緒に暮らしている時間軸が在ったが、そこでの自分は会っていない。

 

異物であるほむらは、その魔法の影響により彼女の両親は存在しないことになっていたのだが……

 

「この時間軸は……一体……」

 

居ても立っても居られないのか、まどかは彼女 暁美ほむらの母に会わなくてはならないと思い、部屋を飛び出したが、両親に止められてしまい、逸る気持を落ち着かせるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

探し人 暁美 ほむら

 

連絡先 暁美 レイ

 

    暁美 シンジ

 

 

 

 

 

(私に何が出来るか分からないけど、魔法に頼れないなら……私は、私の足でほむらちゃんに会いに行くから!!それまで待ってて!!!)

 

 




あとがき

まどマギにおける登場人物の親についてですが、明確な描写は、まどか、マミ、杏子の三人はハッキリとしています。

ハッキリしないほむらは、小説版では共働きで中々家族一緒になれなかったというのがありましたが、時間遡行による影響で移動した世界から異物とされ、両親が存在しないことにされていると聞いています。

一応これで、ハッキリとさせましたが、こうなるとさやかの両親というのが謎になってしまいます。

どこにもそういう話がないので、本編でのオリジナル設定で警察官の父を持っています。

この時間軸では、異物のはずのほむらに両親が何故か居ます。これは後々の予定で大いに活用したいと思います。

キュウベえに関してですが、本編見てもイレギュラーのほむらを警戒して、異常なまでの素質を持ったまどかに警戒を持たないのはあいつら、自分に都合の良い解釈しているなと常々思ってしまいました。

私の方が変かもしれませんが、何でこんな少女にこんな素質が?少しばかり様子を伺うと思います。見ていて、ほむらよりもまどかの素質のほうが危ないんじゃないかと放送中に何度も思いましたから……

理由が分かったのなら、手を出すのはかなり危険ではないかという考えが出来なかったのかしらと?そういう恐怖も持たないから、手を出してしまったんでしょうね。

彼?を単なるやられ役、アンチのように劣化?はさせたくないので、このようなバックに大きなモノが控えているという具合にしています。

実際、キュウベえが何故宇宙を延命させようという具体的な目的が本編では語られていないんですよね。色々と悟っているのなら、宇宙が滅ぶのも仕方なしと割り切ってしまいそうなんですが……

インキュベーターが感情を持たないというのは、進化の途中だったのか?はたまた、目的の為に自らそういう風に自分達を改造したのかを想像すると凄く面白いなと……

もしくはキュウベえの宇宙における立場がどんなものなのかも興味は尽きません。

新たに生まれる宇宙は平行世界が生まれるのではなく、脱皮するように新生する宇宙です。異世界、平行世界への干渉はインキュベーター達はタブーとし、絶対に犯してはならないというルールを持っています。

主人公のまどかは、エイリアンのリプリー並に逞しいと思っていますので、きつい事を言われても、切欠があれば、立ち上がれると思います。

まどかの誕生日に彼女が生まれる前の出来事”生誕”のエピソードを掲載できるようにしたいものです……今年の秋……というか、半年後に……

次回は、本編と平行してバドおじさまと杏子ちゃんの番外編も掲載できればと思います。それでは、では!!!!





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番外編「波怒 風雲騎士異聞 (前編) 」


本来ならば、纏めて出したかったのですが、このまま更新しないよりはと思い・・・・・・

前々からやってみたかった番外編です!!!

杏子のサイドストーリーは、さやかが契約をし、箱の魔女を倒した時のことです。




 

 

「さて杏子ちゃん。明日から少しばかり見滝原を離れる」

 

おじの一言から数日の遠征が始まったのだった……

 

 

 

 

 

杏子

 

病院の一件で茫然自失だったアタシに叔父さんは何も言わなかった。無理もないっていう表情を良く憶えている。

 

だけど、アイツを見たときから嫌な予感がアタシの中に過ぎってしまった。

 

魔戒騎士の逸れ者 暗黒魔戒騎士。闇の力を扱う魔戒騎士たちが踏み込んではいけない一線を越えてしまった騎士。

 

いや、あんなのは騎士なんかじゃない、アレじゃホラーだ。ここ最近、魔女以外の恐ろしい存在である 魔獣 ホラーと同じ命を持たない怪物の目だ。

 

誰も分からないところで人を助ける仕事にアタシは、忘れていたモノを思い出し、家族になってくれた叔父さんに魔戒法師としての修行をお願いした。

 

お願いした時、叔父さんは少し考えるような顔をして

 

”俺に合わせようとして習おうとしているのなら、俺は教えることはできないぞ。杏子ちゃんが魔戒法師でなくとも俺は杏子ちゃんの家族で居たいと思うんだが……”

 

そうじゃないって言った。口が巧い方じゃないけど、アタシはただ、叔父さんの言うように家族の事を忘れずにこれからを生きていかなきゃならない。自身が幸せになるために。

 

アタシが幸せの為に都合の悪い魔戒騎士の家の事を知らないでいるのは、家族の事を否定するようで嫌だった。それも含めてアタシは自分のやれることは全てやっておきたいと叔父さんに伝えた。

 

そういうと叔父さんは黙ってアタシの頭を撫でてくれた。アタシは叔父さんの大きくて固い無骨な手が大好きだ。父さんと同じ手が……

 

アタシは意外と筋が良いらしく、叔父さんが教えてくれたことは大抵のことは出来るようになった。基本的な法術、結界、格闘も大抵のことは、こなせるように成れた。

 

色々としてくれた叔父さんは、あの暗黒魔戒騎士をもう一度本来の魔戒騎士に戻したいと言っているけれど……アタシは、それは無謀だと言いたかった。

 

あんなにおっかない悪魔みたいな奴が本気で改心なんてするんだろうか?アイツが叔父さんの言葉に耳を貸すのか?絶対にそんな事はしない。

 

父さんの話は凄く立派だったけれど、誰も耳を貸さなかった。それこそアタシが話を聞いてくれるように願ってしまうほどに……

 

叔父さんと再会するまで独りの間、アタシは人間の嫌な部分をそれなりに見てきた。同じ人間でも平然と騙したり、傷つけたり、自分の為ならば正しいことも平気で捻じ曲がったモノにしてしまうからだ。

 

あの悪魔のような黒い騎士を諭すなんて、叔父さんはあの騎士に何をみて、そう思えるのだろうか?アタシは父さんと叔父さんが血の繋がりのある兄弟であることを改めて思い知らされる。

 

父さんも叔父さんも人間の嫌な部分をどうしようもないって思えるほど見てきているのに、それでも希望を求めている。なあ、叔父さん。希望があるんなら、絶対に証明してくれよ。アタシ、それで絶望をみるのは嫌だからな!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、修行は休みということになり杏子は自室で叔父が用意してくれた夜食を頬張りながら学校の課題をこなしていた。

 

現代文の課題で”高瀬舟”について感想を述べよというものである。内容は、京都の罪人を遠島へ送り出す為に高瀬川を下る船に弟を殺した罪人である喜助と護送役である同心の羽田庄兵衛とのやり取りを描いている。

 

これまでの罪人と違い晴れやかな表情をしている喜助の事を不審に思い、彼を尋ねたことにより、羽田庄兵衛の心境が何ともいえないものを感じさせる短編である。

 

「………迷惑を掛けるぐらいならって……それなら、迷惑掛けられてもしっかり支えてやるって言えよ……」

 

課題を出された時、”高瀬舟”のテーマである”安楽死”について、いかにもインテリであると言わんばかりに語る教師を杏子は感情が異様に冷めていくのを感じていた。

 

”安楽死”。今現在でも意見が二分する課題であるが、杏子はそちらに対して厳しい態度を取っている。どうあっても助からないのなら、安らかな死をもって救うということに対して彼女は

 

「ったく、赤点確実だけど、アタシは、この喜助にガツンと言ってやるよ。兄貴なら弟が苦しんでいるなら、引っ叩いても迷惑かけてもいいから生きろって」

 

杏子は、自分の思ったことをそのまま書くことした。変に気取って中身のない文章を書くよりも、不器用でも真っ直ぐに意見を言うべきだと思い、原稿にシャープペンを走らせた。

 

「……アタシの家系ってある意味、そういう事をやっているのかな?」

 

ふと頭によぎったのは、自分の中に流れる魔戒騎士の血。魔戒騎士達は人に憑依したホラーを狩ることを使命としている。

 

陰我より現れるホラーに憑依された時点で人は死同然となり、人を喰らう怪物となる。それらから人々を護るために魔戒騎士、法師達は刃を取り戦う。叔父は杏子に

 

”俺達、魔戒騎士の仕事はヤクザなもんだ。だが、俺達が戦った後に幸せそうに笑っている誰かが居ると思えば、それはそれでやりがいがある”

 

二振りの風雲剣を弄びながら叔父はそういってくれた。

 

「さ~~てと、アタシは明日に備えて早めに寝るか…休める時は休めって言ってたしな」

 

課題を終わらせ、杏子はベットに横になると同時に布団を被った。脇の棚に自身の赤いソウルジェムを置き

 

(………そういえば、アタシ達、魔法少女ってどういう結末になるんだろ?)

 

独りでいた頃は自分の為にグリーフシードを集め、自分の為だけに魔法を使うことに必死だった。その果てに自分はどういう結末を辿ったのだろうか?

 

縄張りを奪いに来た他の魔法少女か、へまをして魔女に殺されるという光景が脳裏に映った。おそらくは一般人と比べれば、凄惨な最後が待っていることは間違いないだろうと……

 

”杏子ちゃんは、自分が幸せになることだけを考えるんだ。そして、今まで関わってきた人のことを絶対に忘れちゃいけない”

 

自分を抱きしめながら言ってくれた言葉は、自分が人間であればそれで良かったが、魔法少女であれば、人としての幸せは望むことは難しいのではという思いが心の片隅に存在していた。

 

良く分からないがソウルジェムを見ていると苛立ちを感じることがある。魔戒法師として修行を始めてから、よく分からないが何かが自分の中に足りなくなっている……そんな感じがするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原外周部でバドは魔女結界の入り口に来ていた。

 

「ホラーかと思えば、”魔女”か……」

 

不穏な気配を察し、着てみれば魔女の結界が発生していたのだ。いつもの魔女の結界と違うところは、入り口は西洋の古城を思わせるほど立派な物であり、それを守護する使い魔もまた青を基調とした衛兵の衣装を纏っている。

 

二体の使い魔達は、近づいてきたバドに気づいたのか槍を前に構えた。

 

「なるほど此処に居る魔女は、腕に自信があると見た」

 

不敵な笑みを浮かべて二振りの風雷剣を構えて、駆け出してきた使い魔達を迎え撃つ。

 

二体の使い魔は、バドを前後で挟むように展開し同時に槍を突く。二振りの風雷剣を逆手に持ち、往なすように二体の使い魔を交差させ振り向きざまに一体を背後から両断する。

 

背後から切られた使い魔は、倒れたと同時に消滅し、もう一体の使い魔は楯を召還し追撃してくるバドの風雷剣を防ぐ。

 

金属特有の打撃音が響き、火花が散る。楯に対しバドは正攻法ではなく風雷剣の片方を使い魔の後方に投げつける。丸見えの軌道だった為か、これを使い魔は難なく避けるが、バドの狙いは当てることでなかった。

 

彼が視線を少し動かすと同時に投げられた風雷剣は真っ直ぐに使い魔の背を突き、そのまま絶命させた。

 

二体の使い魔の消滅を確認した後、魔女結界へと踏み込むのだった。

 

普段ならば、魔女結界の中の複雑な迷路をくぐるのだが今回は少し勝手が違っていた。何故なら、入り口を潜ったと同時に一瞬だけではあったが、通路が消えコロセウムを思わせる闘技場が現れ、雄雄しいドラムの音と共に多くの篝火が燃え上がる。

 

使い魔達は、主である魔女の意を汲んでか下がっており、侵入者であるバドに対して攻撃を行わなかった。

 

中央に現れたのは、真紅の騎馬に跨る赤い女騎士”騎兵の魔女”である。ランスを構え、バドに戦うように促していた。

 

 

 

 

 

騎兵の魔女 性質 闘争

 

 

 

 

 

 

「……どうやらこの子は、ひょっとしたら良い魔戒法師に成れていたかもしれないな」

 

魔女に対しバドは少しだけ、思うところがあった。そうもしかしたら、自分の姪も道を踏み外したらこうなってしまうのではという心配があったのだ。

 

(ソウルジェムは……彼女達の魂…認めたくはないが、間違いはないだろうな)

 

以前からソウルジェムと魔法の事が気になっていた。少しでも気の滅入ることがあればソウルジェムは濁る。まるで人の魂の色に呼応するように………

 

その件を確認するために今宵、魔戒図書館へ赴いた。

 

魔戒図書館、古の時代、騎士、法師たちの情報発信の中心であったが、古今の情報ネットワークの発達により廃れていった。

 

そこに置かれていたある手記に”魔法少女”の事が描かれており、その最後が記載されていた。希望を見た願いは、インキュベーターによって歪められた絶望であることを……

 

”彼らインキュベーターの行っていることは、私等が及び持つかないぐらいに正当なモノだ。だが、それを私は許すことはできない。なぜなら、彼らと違い、私達には心があるのだから”

 

手記を見たとき、インキュベーターの所業に怒りを覚えた。例え、この世界よりも広い宇宙にとって大切なことでも”魔戒騎士”としてこの”陰我”を許すことはできなかった。

 

ホラーが人間に憑依し、喰らうのは人間が他の動物と同じ事であるのだが、人を脅かすホラーを狩るために魔戒騎士は存在している。

 

インキュベーターにとっては、宇宙という得体の知れない巨大な存在にエネルギーを与えるのも同じことかもしれないが、

 

(自分が勝手だとは理解している。少しでも杏子ちゃんの為になるなら……)

 

大きな目線で見れば人間程、身勝手で邪悪な存在は居ないかもしれない。魔戒騎士の戦いも人の生存の為でしかないのだから……

 

”騎兵の魔女”に応えるようにバドは、鎧を召還すると同時に自身が契約した”魔導馬”も同時に出現させた。

 

 

 

 

 

 

 

”魔導馬”

 

100体のホラーを狩り、試練を越えた魔戒騎士に許される魔戒獣。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導馬を駆り、互いに武器を構え騎馬同士が前進しお互いに交差する。

 

騎兵の魔女の持つ二本の槍とバドの風雷剣が火花を散らし、結界内に衝撃が走る。その衝撃により、使い魔達がよろめく。

 

槍をバド目掛けて突き立てたと同時に馬を自身の足のように巧みに操る。その動きは、ベテランであるバドを唸らせる程のモノであった。

 

(人馬一体とは言ったが、この魔女は純粋に絶望したわけでは無いかも知れんな)

 

これほどの戦闘技量をもつ魔女ならば、魔法少女の頃もかなりの強さを誇っていたのだろう。

 

魔法少女の中でも最強の部類に入る見滝原の巴マミは、戦闘に関する技術は高い。だが、精神的な面は年相応な部分がある。話しを聞く限り非常にアンバランスなのだ。彼女は……

 

杏子の話を聞く限り、魔法少女はキュウベえに願いを叶えてもらい、その対価で魔女と戦うことになる。だが、杏子のように他人の為に願うのではなく、自分自身の為に願うケースも存在するのではないだろうか?

 

この魔女は、杏子とは違うケースの可能性が高い。それを問うたところで魔女は応えない。ホラー同様こうなってしまっては、人として死んでいるのだから……

 

大きく飛翔し、騎兵の魔女は背後に無数の槍を展開しバド目掛けてそれを弓で射られる矢のように飛ばす。

 

それらを二本の風雷剣で叩き落し、さらに魔導馬が持つ強固な装甲をもってすれば、魔女が如何に強くてもこれを貫くことは出来ない。

 

身軽さを持って騎兵の魔女はバドに手数による攻撃を加えるが、バドはこれを防御に徹しているが、僅かではあるが隙を伺っていた。

 

魔導馬の咆哮に応えるように魔女の愛馬も声を返す。魔女も高揚したように身を大きく震わせている。この魔女、相手が強ければ強いほど喜びを感じるタイプのようだ。

 

「やれやれ、中々面白い子だ。良いだろう、少しだけオジさんが相手になろう。それで満足するのならな」

 

槍を巧みに操り、二振りの風雷剣すらも翻弄する。本来であれば魔女に遅れを取らないのだが、例外とはよく言ったもので魔女の中には、ホラーはおろか魔戒騎士ですらも苦戦させるモノも存在している。

 

この状況にバドは好戦的な笑みを浮かべ、追撃してくる槍を往なしながら自身の魔導馬を走らせる。二振りの風雷剣を巨大化させ大きく振りかぶりながら”騎兵の魔女”目掛けて…

 

騎兵の魔女も巨大化した武器に対して、自身の二振りの槍を一つにしてこれに応えるように走り出す。何度目か分からない交差共に二振りの風雷剣は旋風のような軌道を描き、騎兵の魔女の馬、魔女本体を切り裂き、それらの残骸は結界上空へと飛ばされた。

 

騎兵の魔女が倒れたと同時に結界が消滅し、彼が纏っていた鎧も解除され、魔導馬も消えていた。

 

「……………」

 

彼への報酬と言わんばかりに五つのグリーフシードが落ちていた。視線のさらに先には、彼が以前の住まいから持ち出したサイドカー付きのオートバイが止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子は早目に起床し朝食の準備と今日の昼食であるサンドイッチを作っていた。今日は、ポートシティーに向かうため、その途中の弁当作りである。

 

正直料理は作るよりも食べる方が専門であるが、今日ばかりはこういうところがあっても良いのではと彼女は考えていた。

 

「よしっ!!これで……そういえば、マミもこういうのを持ってたっけ……」

 

このときの為に急遽購入したバスケットにサンドイッチを入れるが、このバスケットの形状、何処となく乙女チックなデザインに巴マミの嗜好を見た。

 

いつかは、仲直りがしたい。だが、自分は彼女に徹底的に拒絶されている。どうにかできないものかと悩むものの、現状を打開できる案は出てこない。

 

「叔父さんも付き添ってくれたのに……ていうか、キュウベえの野郎。叔父さん達を何だと思っているんだよ」

 

あの時、キュウベえは叔父を見たとき警戒するように叫んでいた。キュウベえにとって、叔父というよりも魔戒騎士は都合が悪い存在のように感じられる。

 

「あいつ等の都合なんて知ったこっちゃないけどさ……だけど、絶対、胸糞の悪いことを考えているよな」

 

家族が居た頃、安易に奇跡を願い、その罰なのか家族は自分をおいて逝ってしまった。錯乱した父親の声が今でも耳に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日々の食べるものに困っていたけれどアタシはそれで満足だった。父さん、母さん、妹のモモが居たから…時々、尋ねてきてくれた叔父さんも居たから寂しいともお金がないからと言ってそれを不幸とも思わなかった。

 

ただ不満があるとすれば、父さんは多くの人達に他の人を労る心をと説いていて、それを誰も聞いてくれないことだった。

 

父さんの言葉は正しいのだけれど、世の中には綺麗な言葉を飾り立てて下種なことを平然と行う奴等のほうが殆どだから、父さんもそんな胡散臭い奴の同類に見られていたことが悔しくてしょうがなかった。

 

自分たちの食べるものですら困っているのに、その辺の物乞いに生活費を何も言わずに渡してしまう父さんはお人よしを通り過ぎて馬鹿だったかもしれない。

 

だけど、そんな人だったから、アタシは何とかしてあげたいと思って、話を聞いて欲しいと何度も訴えかけた。だけど、殆どの人は冷たくて、アタシ達を罵倒した。

 

正しいことを言っているのにどうして聞いてくれないんだって、何度も涙した。寂しそうに俯いていた父さんの姿を見るのが辛かった……

 

そんな時にアイツがアタシの元にやってきた。人畜無害そうな顔でとぼけた名前の悪魔が………

 

”やあ、佐倉杏子。君のその望みを叶えてあげようか?”

 

”だから、僕と契約して魔法少女になってよ”

 

何でも願いを一つだけ叶えてくれる。真っ先にというかアタシは二言目に契約すると言ってしまった。もし、あの場に叔父が居てくれたらと思わなくない。

 

悲しかったけど、叔父さんと父さんは仲が凄く悪い。父さんが一方的に叔父さんを嫌っていた。どうしてかは分からなかったけど、後で聞けば魔戒騎士の家系にとっては、ある意味当たり前の残酷な出来事があったからなんだ。

 

”父さんの話を皆が聞いて欲しい”とアタシは願った。その願いを叶えたのが”幻惑”の魔法だった。

 

アタシが祈れば、多くの人が父さんの元に訪れた。父さんは喜んだ。

 

”杏子、モモ、母さん!!!皆、分かってくれたよ!!!やっと気づいてくれたんだ!!!”

 

それから信者になった人からの寄付もあり、アタシ達家族の生活は格段に良くなった。それと同時にアタシもまた、魔女狩りに精を出していた。

 

表で父さんが人々の心を救い、裏でアタシが人々を傷つける魔女を倒すという、自分勝手な理想に燃え上がり、その過程で正義の魔法少女で先輩のマミに出会って、弟子入りをした。

 

”アタシ…ワタクシは、佐倉杏子です!!魔法少女に成り立てですが”

 

”フフフ、そんなに畏まらなくていいわ。私とあなた、同じ年でしょう?”

 

妙に上がってしまったアタシにマミは優しく微笑んでくれた。あの夜が来るまでは…アタシは能天気な魔法少女だった………

 

あの日、どういうわけか教会に現れた魔女と戦い、それと戦っている光景を父さんに見られてしまった。

 

”そうか…お前が…お前のその力で……”

 

”と、父さん。アタシは……でも、この間、悪い魔女を倒したんだ!!これって、良いことだろ?”

 

”………結局、私は…あの家と…あいつと同じ事を繰り返してしまったのか”

 

”あの家?アイツ?何を言っているんだよ?父さん!?!”

 

”杏子の声で、娘の顔で私を呼ぶな!!!!”

 

”っ!?!!?!”

 

”何という事だ!!あの家から出たのに!!!どうして……”

 

崩れ落ちた父さんに駆け寄ったけど、父さんの目はアタシをまるで化け物を見るかのようなモノだった。

 

”杏子の魂を喰らい、他の人の魂をも喰らうつもりなのか、私達を利用して”

 

”父さん、アタシ達、魔法少女は魔女とは違う!!人間は傷つけない!!父さんが取り除きたかった不幸を”

 

”そうやって、言葉を並べ立ててそれらしく取り繕うのだろう。浅ましい獣め……本性を現せ!!!!”

 

”本性って…アタシは……”

 

”ハハハハ……私も結局はあの家の人間だという事か……お前にこれ以上利用されてたまるものか!!!”

 

錯乱した父さんは、アタシを押しのけ教会に火を放った。ここには母さん、モモも居るのに

 

”父さん!!!アンタ、何やっているんだよ!!!!”

 

”杏子の姿で私を惑わすな!!!!お前に喰われるぐらいなら、私は此処で家族を護る!!!こんなに救いのない世界なんて!!!!”

 

”だから、アタシは魔女じゃない!!!!”

 

火は予想以上に回りが速く、アタシは自分の命惜しさに家から逃げ出してしまった。

 

”人々は信仰ではなく、魔女…獣の幻に惑わされてしまっただけか……不甲斐ない…アイツと同じでなんて不甲斐ないんだ……”

 

あの言葉の意味は分からなかったけれど、今なら良くわかる。父さんは大嫌いだったんだ自分の家族を自らの手で破滅に追いやった自分の父親が……誰よりも憎かったんだ……

 

「……自分の命惜しさに、家族を殺したアタシが幸せになるか……できるのかな……」

 

「只今!!杏子ちゃん!!!!」

 

「あっ、おっかえり、叔父さん。今、朝飯出来てるよ!!」

 

着ていたエプロンを取り、帰ってきた叔父を出迎えるために杏子は玄関へと駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食の後、家の前には杏子が見たことのないサイドカー付きのオートバイが止まっていた。

 

「アレ?叔父さん、ここからポートシティーまで結構あるのに魔戒道を使わないの?」

 

「ああ、遠いが旅はゆっくり行くのも構わないだろう。だから、こいつで行く」

 

叔父が持ち出したのは大型のオートバイだった。サイドカーが付いており、メットを手渡された杏子は

 

「アタシこういうのに乗るのは初めてだよ」

 

「それは良かった。こいつでのんびりと行くとしよう」

 

バドもまたバイクに跨り、マフラーを吹かし、その振動がサイドカーの座席に響くのが心地よい。

 

「それじゃあ、ポートシティーまで行こう」

 

グリップを回し、オートバイが勢いよく進む。早朝の少し冷たい風が気持ちが良い。

 

初めて”家族”で行く旅行に杏子は年相応に心を弾ませた。

 

「叔父さん!!!もっと、飛ばしてよ!!!もっと、早く!!!!」

 

「ハハハハ。杏子ちゃん、ポートシティーは逃げないさ。のんびり気楽にいこう」

 

二人はポートシティーへと向かう。そこでの三日間が杏子、バドにとって大きな転換点になることを二人は知る由もなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の風景が後ろへと勢いよく下がっていく、いや自分達が勢いよく進んでいるのだ。

 

「すっげ~~~。風になるってこういう事なのかな」

 

本日何度目か分からない台詞を出すのは、現在絶賛バイクで二人旅を満喫中の佐倉杏子である。

 

「そうだな。偶にはこういう風にのんびり行くのも悪くはないだろう」

 

「それってさ、魔戒騎士としてはどうなの?」

 

意地悪い質問をする姪に対し、叔父は

 

「俺の知る限り殆どが堅物が多い魔戒騎士、もしくは魔戒法師はこうはしないかもしれんが、俺は偶にはこうやって息抜きをしても構わないと思っている」

 

「だよな!!!アタシは、そういう叔父さんが大好きだ!!!」

 

「俺もだ!!!こう言ってくれる知り合いは意外と少ないんだよ!!」

 

互いにいつもよりも少し弾けた掛け合いをしながらもオートバイはは勢いを増していくまさに風のように目的地のポートシティーへと進んでいく。

 

「じゃあ、もっと飛ばせ!!!このまま一気に目的地へ行くぜ!!!!」

 

「合点承知のすけ……杏子ちゃん、サイドカーに立つと危ないから座ってなさい」

 

「あっ、ヤベ……アタシって変なところで調子に乗るからな……え~とシートベルト、って、うわっ!!?!!」

 

オートバイが加速したため杏子は勢いよく座席に背中から当たってしまいつつも勢いよく来る風の感触を楽しんでいた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝からオートバイを走らせていた二人は、ポートシティーに近い海岸に着ていた。

 

ここはバドが管轄としている”西の番犬所”のエリアである。

 

西の管轄の特徴は海辺の景色が美しいことがあげられる。国際港として年中多くの船舶が出入りし、付近の建築物も異国情緒を漂わせる物が多い。

 

杏子が生まれ育った見滝原、風見野周辺は都市開発が多く進んでいるものの山間部なため、このような大きな海を見るのは新鮮だった。

 

潮の香りを嗅ぎながら少し早目の昼食を取りながらも杏子は叔父から買ってもらった携帯電話のカメラでこの光景を取っていた。

 

白い砂浜の感触を直で感じたかったのか、ブーツを取り素足になり、勢いよく波打ち際に駆け出し、跳ねる海水の感触に

 

「冷たっ!!でも気持いい!!おぉ~~~い、叔父さーーーーーん!!!!」

 

手を振る杏子にバドも応えるように手を振った。年相応にはしゃいでいる姪の様子にずっとこういう風に笑っていてくれればと思わずには居られなかった。

 

「へへっ、さやかにメールしてやろう♪」

 

今の時間、さやかたちは授業中だろう。自分の現在の様子を見たらどう反応するかを想像したらそれは愉快だと杏子は思った。

 

「ついでに画像もつけてやれ♪」

 

上機嫌に海と少し遠くに見える船舶、建物を立て続けに撮影し、叔父に向けるといつの間にか、叔父の隣に見知らぬ若い男が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はしゃいでいる姪を微笑ましく見ていたバドに近づく青年が居た。彼は少し綻んだ黒いコートを纏ったよく整った顔立ちであるが、少しばかり表情は固い。

 

「へぇ~~、アンタも身を固めたんだ?あの子、何処から拾ってきたの?」

 

「やれやれ、久しぶりに会う兄弟子に対して、随分な口の聞き方だな……銀牙……いや、今は零だったか?」

 

視線を向けるバドに対し、零と呼ばれた青年は悪戯を思いついた子供のように笑い

 

「ハハハハ。滅多に父さん達に会いに来ることがなかったのに、ちゃんと把握ぐらいはしているんだ」

 

「まぁな。一応は、道寺は俺にとっては親父さん見たいな人だった。彼の弟子は、俺にとっては弟みたいなもの、把握はしておきたいんだよ」

 

バドの言葉に零は少しだけ目元をきつくした。まるで嫌いな人物を見るかのように……

 

「よく言うよ。血の繋がった家族から背を向けてきていて、今更、あの子に叔父さん面かい?アンタのそういう所がずっと嫌いだったよ、いや、今でもね」

 

「……否定はしないさ。俺が今まで弟とちゃんと向き合えずに杏子ちゃんに苦労を掛けた事と…兄弟子なんだが、後輩のお前には格好悪いところを何度も見せたな」

 

懐かしいねと言わんばかりに笑うバドに対し、零はさらに目をきつくする。

 

「アンタの事情なんて俺の知ったことじゃない。聞きたいことがある、アンタは父さんを殺した奴の事を知っているか?」

 

「そうだったか?お前がやたら荒れていると聞くが、敵討ちでも始めるのか?」

 

砕けた口調のバドに態度を見かねてか

 

「私もあの時、道寺を殺した男の太刀筋は牙狼の系譜のモノに良く似ていたことを憶えているわ」

 

「シルヴァも久しぶりだな。師匠が付けていたのはどれぐらい前だった?」

 

「話を逸らさないで、貴方は貴方の父親の伝手で道寺に弟子入りをした。風雲騎士 バドの称号を継ぐ為に……師が殺されたのなら、貴方も仇を討とうとは思わないのかしら?」

 

零の胸元の魔導具 シルヴァが彼に問う。

 

「俺も師が殺されたのは悔しいさ。だが、それを道寺が望むと思うか?復讐心と怒りをその後の人生に捧げても虚しいだけだ。俺が望むのは、その下手人が自分の罪を認め、悔い改めてくれるところだな」

 

その瞬間、零はバドの胸倉を掴んだ。普段の飄々としたモノではなく、その表情は怒りを露にしていた。

 

「アンタに俺の何が分かる?俺の怒りと悲しみを水に流せというのか?冗談じゃない!!!俺は、必ず父さんを殺したアイツに復讐の鉄槌を下してやる!!!」

 

「お前のその父さんも復讐と怒りに身を震わせたことがあったが、それでも魔戒騎士としての吟味だけは無くさなかった。お前のように番犬所を放逐されるようなことだけはなかった。銀牙」

 

「アンタにその名前で呼ばれる筋合いはない!!!!」

 

怒りに身を任せ、拳を振るうが軽くバドに止められ、そのまま往なされるように反対側へと飛ばされるが、

 

「ここで倒れるのがセオリーだと思うんだが……」

 

「生憎俺は、誰にもやられるつもりはない。相手が魔戒騎士の最高位であっても……」

 

「やれやれ、減らず口ばかりは達者だな。で、態々、俺に嫌味を言いに着ただけではないんだろう?」

 

バドはいつでも風雷剣を構えられるように態勢を整える。零の狙いは……

 

「アンタの言い訳がましい所は大嫌いだけど、腕だけは確かだからね」

 

「なるほど、俺を復讐の手駒に加えたいというのか?あの頃の素直なお前が懐かしい」

 

まだ少年だった頃の零を懐かしく思うが、今は一人の魔戒騎士として目の前に立っている。

 

「俺もいつまでもアンタの背中を見ているだけじゃない」

 

ギラギラとした獣のような眼光で兄弟子を睨みつけるさまはまさに、魔戒騎士達の鎧のモチーフとなっている”狼”を思わせる。

 

「そうだな、俺もかなり歳は行っている方だが、まだまだお前達、若造に負けはせんぞ。それと……」

 

二振りの風雷剣を頭上に掲げたと思ったら、そのまま投げ捨ててしまった。

 

「っ!?!どういうことだ?」

 

「魔戒騎士同士の私闘は掟で禁じられている。お前にこれ以上、掟破りをさせるわけには行かないからな」

 

余裕の笑みを浮かべるバドに対し、零は”らしくないことをするな”と言わんばかりに睨みつけるが、ここで武器を持ち出せば、彼に勝負をする前から負けてしまうと察し、同じく自身の二振りの剣を捨てた。

 

軽く舌打ちをしながら零は拳を掲げ一直線に向かっていく。応えるようにバドも構え拳を往なす。空を切る拳をバドは往なし、自分から攻撃を行うことはなかった。

 

正直、尊敬できない兄弟子に対し、零はさらに苛立ちを覚えた。

 

「何故、攻撃をしない?」

 

拳を軽く受け止め、バドは悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべ

 

「言ったろ、掟破りをさせるつもりはないと…それにお前のヤンチャに真面目に付き合うほど付き合いが良くないんだ」

 

「ちっ!!」

 

軽く舌打ちをし、零はバドに背を向けた。どうやら、彼の目論見が外れてしまったようである。

 

「強くなれよ!!!銀牙!!!!お前は、まだ試練の途中だ!!!!いずれ、俺よりも強くなるだろう!!!!」

 

「……………」

 

振り返ることなく零は、その場を後にした。嫌う人物にこれ以上、関わりたくなかったからだ。

 

「叔父さん!?!アイツ何なんだよ!!?!」

 

こちらに駆け寄ってきたのは、杏子である。普段、息切れをするようなことはないのだが、今回は息を切らしていた。

 

「あぁ、アイツは銀牙。俺の弟弟子で、同じ師の元で剣を学んだ」

 

「じゃあ、叔父さんにあんな嫌な態度を取るんだよ!?!先輩で兄弟子ならもっとそれらしい対応ってのがあるんじゃ」

 

先ほどの零の態度に対し、憤りを感じている杏子であるが。叔父はまったく気にすることなく

 

「アイツに色々と失望させるところを見せてしまったからな。だから、嫌われているんだ」

 

”嫌われるだけの事をした”と語る叔父は、こればかりは仕方ないと言わんばかりだった。

 

「でも、アタシは、叔父さんが好きだぞ。前は格好悪かったかも知れないけど、今は格好良いからいいいじゃん」

 

「俺は、中々良い姪をもったものだ。ありがとう、そう言ってくれると気が楽だ」

 

自身の赤毛に良く似た頭を少し乱暴に撫で、バドは既に姿の見えなくなってしまった零の事を案じていた。

 

(師の仇を知ってはいるが、それをアイツに教えるつもりは微塵もない。教えたところで銀牙は、バラゴに殺されるだけだ。もし、そうさせたら師 道寺に顔向けが出来んし、向こうで再会した時に破門にされてしまうからな)

 

これを彼が聞いたら、怒り狂うかもしれないが、彼に聞かせることもないと思い、バドは今晩会うある人物が居るであろう方角に目を向けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オートバイをある森の入り口の止め、バドと杏子は木々が生い茂った獣道を進んでいた。

 

「ここが叔父さんの知り合いが居るところ?何でまた、こんな森の奥に住んでるんだよ?」

 

邪魔な草木を退けながら、悪態をつく杏子に

 

「阿門法師は、多くの魔導具を作っているからな。人目になるだけつかない様にするためらしい…」

 

詳しいことは叔父さんも知らんがねと応えた。魔導具は特殊な鍛錬を積んでいる魔戒の者だからこそ扱える為、一般人にとっては凶器そのものである。

 

「まだ言っていなかったが、預けていた魔導輪 ナダサを受け取りに行くためだ」

 

「それって、叔父さんが契約した魔導具だよな。騎士って魔導具と契約しているって聞いたけど、叔父さんも持ってたんだ」

 

「あぁ、前に俺の不注意で傷をつけてしまってな。それを阿門法師に修復を頼んでいた」

 

内心、あの陽気な魔導具と杏子が出会ったら、面白い展開が見られるのではと思うのだったが、

 

『YOUがあまりに遅いんで、Mr阿門と一緒に来たよ』

 

「フフフ、お前さんがワシを急かしたんじゃろうが、ナダサ。早く、風雲騎士の血筋の娘を見たいといってな」

 

二人の前に亜門法師とその腕に付けられていた魔導輪 ナダサの姿があった。ナダサは妙に上ずった声である。

 

「お久しぶりです。阿門法師」

 

「あぁ、お前さんも暫くだったな。ナダサも首を長くして待って居ったぞ」

 

「YES。MEに首はないけど、本当に首があったら、そうなってたかも知れないね」

 

「相変わらずだな。ナダサ、お前のその妙な皮肉は何時聞いても変わらない」

 

久しぶりに会う魔導具に対し、バドも苦笑するしかなかった。

 

「これが叔父さんと契約した奴?思ってたよりも変だし、少し悪趣味だ」

 

指を差す杏子に対し、ナダサは

 

「SHIT杏子。MEを指差すんじゃない。失礼じゃないか」

 

「アタシは、称号持ちの魔戒騎士の魔導具がそういうので良いのかって思うよ」

 

呆れる杏子に対し、阿門は

 

「やはりお主を作った時、ワシがもう少ししっかりしておったら良かったかもしれんな」

 

「NO、NO、Mr阿門に不手際はナッシング。MEは生まれた頃から、こうだったYO」

 

「やっぱり変な奴だ」

 

魔導具は変り種が多いのではと思う杏子だった。事実、彼が作った某黄金騎士の口の悪い魔導輪もそれなりの変り種である。

 

「ここで立ち話もなんじゃから、お前さん達、ワシの家まで案内しよう」

 

一同はさらに森の奥へと進むのだった。日は時期に沈む時間帯である……間もなくして、陰我に誘われホラーが現れる時間が近づいていた……

 

 

 

 

 

 





あとがき

ここでのバドと零の関係は、設定だけならば兄弟弟子だけなんですが、バドさんの事を零は腕は尊敬するけど、家族と何かしら理由をつけて会わなかった言い訳がましい所を嫌っています。

二人の関係は描かれてはいないので想像になってしまいますが、もしかしたら、年齢がかなり離れているので面識はお互いに無いかもしれません。

次回はいよいよ、後編。後編と一緒に本編も掲載したいと思います。

さて、新たにコラボを掲載します!!!予告編ですが………


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番外編「波怒 風雲騎士異聞 (中編) 」

前編と比べて少し短くなりますが、区切りが良かったので掲載します。




 

 

阿門法師と共にバド、杏子は少し古びた社である彼の住居に来ていた。

 

「その辺で適当にしてくれ」

 

そこは魔戒工房であり阿門法師の仕事場であった。室内の棚には、様々な魔導具が並んでおり、博物館を思わせた。

 

初めて見る魔導具に興味津々と言わんばかりに杏子は見ていた。

 

「杏子ちゃん。阿門法師は魔戒法師一の天才と言われる方だ。彼の作った魔導具のほとんどが一級品だ」

 

「すっげ~~な。おっさん」

 

「こら、杏子ちゃん。おっさんじゃなくて、阿門法師だ」

 

「いや、構わんよ。法師と呼ばれるのはむず痒くて敵わん」

 

礼儀を重んじる魔戒騎士達であるが、今宵は無礼講で構わないようである。

 

「法師……それで構わないのですか?」

 

「ハハハハ。道寺と最初に会った時、お前さんもあ奴の事を”おっさん”と生意気な口を叩いたではないか」

 

「そ、そうでしたっけ?法師も人が悪いですね……」

 

「叔父さんも人の事言えないじゃん」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべ、杏子は叔父に意味ありげな視線を向けていた。バツが悪そうにバドは目線を逸らしてしまった。

 

「ハハハハ、お前さん達はよく似て居るよ。今夜は歓迎しよう。さぁ、食事の用意は出来ておる」

 

阿門に居間に案内され、そこには一人の女性と既に準備がされていた料理の数々があった。

 

山の幸、さらには海の幸で作られた料理に杏子は目を輝かせた。

 

「うわぁ、こういうのって団欒って言うんだよな」

 

「そうさ、アタシにとってはそのおっさんが父親代わりだしね」

 

「ハハハ。邪美、お前さんも言うようになったな」

 

邪美と呼ばれた女性は、笑う阿門に対し

 

「法師に似たんだよ。この口の利き方は」

 

温かい笑いとともに四人の団欒が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子は、この晩今まで以上に暖かさを感じていた。家族を自身の願いにより亡くしてしまし、一人孤独に逃げ込んでいた日々が遠い昔だったようにさえ感じられた。

 

「へぇ~~叔父さんって、すっごく生意気だったんだ」

 

「それを言わないでくれ、杏子ちゃん」

 

「ハハハハ、そういうことがあってこそ、今のお前さんがあるのだろう?そう、恥じることでもあるまいに」

 

「その生意気だった男に……」

 

「邪美さん……これはかたじけない」

 

自身の少し恥ずかしい過去を阿門に暴露され、それを面白そうに聞く杏子に戸惑いながらも邪美に酌を貰い、バドは戸惑いながらも笑っていた。

 

「アハハハハ、叔父さんも若かったんだ」

 

「今でも心は若いつもりで居るんだが……」

 

「見た目若いのは、アタシも認めるけどさ……時々、おっさんくさく見えるときがあるんだよな」

 

杏子は叔父を弄ることが出来たのか、より身近に彼を感じることが出来たので終始、生意気な口が止まらなかった。

 

「そういうアンタも…杏子も大人になれば嫌でも周りにそう見られるときが来るさ」

 

「えっ!?!アタシが……そうは成らないよ。だってアタシは……」

 

言い返そうとしたが、かつての叔父も自分と似たようなモノだった為、反論しようにも喉に何かがつっかえたような感じがしたのだった。

 

「ハハハハハ、杏子ちゃんもこの俺の姪だったわけか」

 

ここで仕返しと言わんばかりにバドが追い討ちを掛けた。

 

「何だよ。それ!!アタシの逆転負けじゃん!!!」

 

盛大に後ろに倒れこみ、嘆く杏子の姿に笑いがドッと沸くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、陰我消滅の晩が近くなってきているな」

 

「そういえば、もうそんな時期でしたか、法師」

 

阿門の言う”陰我消滅の晩”に対しバドは、何時の間にと言わんばかりに感慨深そうに頷いていた

 

「インガショウメツのバン?」

 

聞きなれない言葉に杏子に対し、邪美は

 

「20年に一度のホラーがゲートから出てくることのない特別な晩さ。その日だけは魔戒騎士、法師達も狩にはでないのさ」

 

「そう、その晩がいよいよ数週間後に近づいているんだ」

 

「20年に一度か……」

 

20年に一度……気が遠くなるような年月である。何時、命を落としてもおかしくない自分たちにとってその日を無事に迎えられる保障などないのだ。

 

此処にいる阿門、バド、邪美は当然のことながら、杏子もまたそれを理解していた。

 

「20年後はお前さんの姪も立派な魔戒法師になっているかもな」

 

「じゃあ、そうなったら叔父さんに代わってアタシがホラーを狩ってやるよ」

 

「おいおい、俺は隠居確定なのか?」

 

苦笑するバドに対し、杏子は

 

「だからさ、叔父さんはずっとアタシの家族で居てくれるってことだよね。この先、ずっと……」

 

魔戒騎士としての叔父の頂に遠く及ばない杏子であるが、それでも確実に一歩ずつ近づきたいと願っていた。

 

いつかは二人で遠い未来でこのような団欒ができれば、これ以上の幸せはないだろう。

 

「いや、二人じゃなくってさ。アタシが誰かと結婚して子供ができたとしたら…」

 

思考の回廊を何処で曲がったかは知らないが、杏子は将来、自分が家族を持つことを考え始めた。

 

「杏子ちゃんが結婚か……俺は結局のところ身を固めることはなかったが……そこだけは俺に似ないでほしいな」

 

「ハハハハハハ。お前さんも気苦労が耐えないな」

 

阿門の言葉の通り、将来新たな家族が出来ることは嬉しい。だが、結婚相手の事を考えるとその時の自分は苦虫を潰したように相手の男を見ているのではと思うと悩みは増すばかりであった。

 

その間も杏子は将来魔戒法師になった自分が一緒になるのは魔戒騎士かもしれないという考えに没頭していた……叔父の悩みを知る由もなく………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社での団欒の騒がしさは無くなり、杏子は客間で眠っていた。少しだけ頬が赤いのは団欒で少しだけ酒を飲んだためである……

 

表情は穏やかであり、枕元に置かれている赤いソウルジェムも彼女に呼応するように赤く輝いている。

 

阿門とバドは、阿門の仕事場で互いに杯を片手に話し合っていた。少し前まで邪美も居たが、依頼によりホラー狩りの為この場には居ない。

 

「法師……相談ですが」

 

「分かっておる。あの子の魂の在り処について悩んで居るのだろう。ワシも同じように悩んでいた頃があった」

 

阿門は二つの小さな小箱をいつの間にか持ち出しており、その内の一つの箱を開けるとそこには欠けた”ソウルジェム”が仕舞われていた。

 

「っ!!法師……これは……」

 

「あの頃の呼び名は忘れてしまったが、今は魔法少女と呼ばれているのだろう」

 

遠い過去を懐かしむように阿門はソウルジェムの傍らに仕舞っていた古い写真を手に取った。そこには、かつて少年だった頃の自分と赤いローブを来た少女が写っていた。

 

「そうだ。ワシも彼女らのことは知っておったよ。いや、ワシが生まれる前から番犬所、元老院の神官もな……」

 

「自分達が思う以上に根は深そうですね」

 

バドは、杏子の件は何とかしなければと思っているが、具体的な解決方法は一向に見つかっていなかった。最終的には少女は女に……魔女に変化してしまうのだから……

 

「お前さんの悩みは良く分かるよ。あの頃のワシは傲慢で彼女の犠牲の上で今の自分があると自覚しておる」

 

少女と阿門法師の間に何かがあったようであるが、彼にとっては今も思い出すとあの頃の不甲斐なさを思い知らされるようだ。

 

「さて……あのインキュベーターのことだが、お前さんはどこまで知っておる?」

 

「自分も情報があまり無いのでなんともいえませんが、ホラーもどきであることは間違いないでしょう」

 

闇に潜み、古より魔界に生息し、陰我のあるオブジェより出現し人間を襲い、その魂を食らう魔獣。

 

ホラーは、我々の世界の生物のどの生態系にも属さないために、古より妖怪、悪魔として伝わっている。

 

彼らは人間、物に憑依し実体化する。特に人間が憑依される事は”死”と同じであり、その魂は安らぎを得ることなく苦しみ続ける。

 

対して、インキュベーターは素質のある少女に近づき、願いを叶える代わりにその魂をソウルジェムにし、魔女と戦わせる。最終的に魔女になり、そのとき発生するエネルギーを回収する……

 

「ホラーと同じといわれると向こうも心外と反論するだろうな」

 

「まだインキュベーターとは会ったことは無いので、分かりませんが話を聞く限りホラーの同類でしょう」

 

シニカルな笑みを浮かべるバドであるが内心は穏やかではなかった。幼い少女達の命を食い物にする存在に憤りを感じてしまう。

 

「そうだな。だが、彼らは彼らで一応の自重はしている」

 

「どういうことですか?法師」

 

阿門の話によると、彼らインキュベーターは宇宙の終焉を回避するためにエネルギーを集めているが、その活動には制限があるらしい。

 

「彼らは宇宙を持続する為に、知的生命体を好き勝手に犠牲にしてはならないそうだ。そんな事をすれば制裁が下ると言っておったな」

 

他の星からやってきた彼らにとって、魔法少女は宇宙を持続するための”消耗品”のような物であるが、制裁が下らない様に気をつけているのだ。

 

「制裁?」

 

「あぁ、何でも宇宙というのは適当に見えていて実はよくできたシステムと言っておった。そこに居る生き物はある程度定められた生き方をするが、それを他の者が捻じ曲げたり、私利私欲の為に手を加えてはならんそうだ」

 

認められるのが、生きる為に食物として他の生き物を取り込む事。必要最低限の殺生は良いらしいが……

 

「だから、ホラーよりは紳士的というのですか?やっていることは同じでしょうに……」

 

「お前さんにとっては、納得はできんだろう。だがワシも納得などできるわけがなかった」

 

阿門はもう一つの小箱を取り出し、そこにはソウルジェムに似た魔導具が安置されていた。

 

「法師……これは……」

 

「ワシは納得などできんと言ったではないか。だからこそ、作ったのだ少女の魂を肉体に戻す道具を…」

 

「流石は阿門法師……これを使えば……」

 

憤っていたバドは心が魔導具の件で心が穏やかになるのを感じた。魔法少女の過酷な運命を救うかもしれない希望がそこにあるのだ。それを目の前にして希望を抱けないという事はない。

 

「だがな、軽々しく使えるわけではないのだ。この魔導具は……」

 

「どういうことですか?」

 

「あぁ、お前さんも分かっておるだろう。目的の良し悪し関係なく魂を抜き取り、さらには移動させることがどれ程おぞましい事か……」

 

「……まさか、先ほど言っていた”制裁”が……」

 

宇宙というこの世界に居るものの生きるための土台の延命の為、インキュベーター達は制限はあるものの、そのおぞましい行為は認められている……

 

だが、自分達が行えば……

 

「あの子を魔法少女から佐倉杏子に戻したとき、お前さんには”死”という制裁を与えられるであろう。それでも行うのか?」

 

どんなに尊い行いでもそれは決して行ってはならないのだ。それを行うことは道を踏み外した外道以外に他ならない。

 

「ホラーにも命を抜き取る存在も居ますが……」

 

「アレに関しては、無理やりやられてだからまだ許容できるらしいが、インキュベーターと少女は契約をしている。それは互いに納得した上でのことだ」

 

「・・・・・・それが自分の出来ることならば・・・・・・」

 

例え間違いであっても、姪が助かるのならば、自分の命など幾らでも投げ出しても構わない。だが、

 

「お主がそれで良かれと思っても、居なくなってしまったらあの子はまた独りになってしまうのだぞ」

 

杏子を再び独りにしてしまう……少し前に弟弟子に身勝手だと罵られたが、やはり自分はどうしようもないほど身勝手な男でしかないのかもしれない……

 

(………どうすれば良い。杏子ちゃんをこのままにしておくこともできない……そうすれば……)

 

「まぁ、時間は無限とは言わんがまだある。今はお前さんの納得の行くまで悩むのも良いだろう」

 

振るまわれた赤酒を勢い良くバドは飲んだ。ただ、逃れたかったのかもしれない。どうしようもないジレンマから………

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は世の中の件についてある程度、納得をして自分なりに生きてきたと思う。だが、どんなに経験を歳を重ねてもどうしようもない程、難しい問題は多く存在する。

 

称号を得た魔戒騎士が何たるざまであろうか?たった一人の女の子の未来を救うことすら叶わないとは………

 

かつて弟がこの世界には救いがないと嘆いていたが、まさにそうだろう……様々な人が憎みあい、傷つけあうどうしようもない闇が存在しているのだ。

 

その闇がホラーであり、魔女でもあるのだ。本当に自分が何とかしてあげたい杏子を救い出せたとしても、何時かはどうしようもない絶望が降りかかってしまうのだ………

 

何杯目か分からない赤酒の赤が自分もそうだが、この世界で絶えず流されている痛みのように思える。

 

痛みを更なる痛みで癒すとは………なるほど、確かにどうしようもない世界かもしれない…………

 

 

 





あとがき

次回で番外編を終えたいと思います。


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番外編「波怒 風雲騎士異聞 (後編) 」

バドと杏子の番外編のラストです。前の二編と比べるとかなりのボリュームになりました。

今回はある詩集を参考のため、読んでいました。一応、概要の紹介だけ本編に記載しております。

詩そのものを載せるわけにはいかないので、機会があればぜひ手にとっていただきたいと思います。

後、今回は少し説教臭いかもしれません………



 

 

「おいおい、道寺はもっと飲めたぞ。しっかりせんかい」

 

夜が更けようとしている頃、二人の男が酒杯を交わしていた。かれこれ数時間も飲んでいる為か、二人とも顔は赤かった。

 

「そうですか……一応、これでも道寺の晩酌には付き合ってたんですが……」

 

師である道寺も大酒飲みであり、修行を終えた後、何度も晩酌に付き合わされたことがあった。

 

飲む酒は、阿門が好む”赤酒”のように強い酒であり、それを何杯も飲むのだ。初めて付き合わされた晩酌の翌日は、二日酔いで訓練はサッパリだったことを今でも憶えている。

 

日々、酒を飲むのが好きだった道寺は、銀牙と静香を引き取ってから一切酒を飲まなくなってしまった。

 

その訳を聞いたときは、”二人には、必要はないからな。これからの私にもな……”

 

あの時は訳が分からなかったが、今ではその理由もおぼろげながら理解している。少しでも長く二人と一緒に居たかったからこそ、身体に無理を強いる物を禁じたのだと。

 

魔戒騎士の生涯は、恨みと血に塗れた暗いものである、人々に憑依するホラーを狩り続けるだけ。人でありながら人の心を捨て去らなければならないとまで言われるほど苛烈な物であり、

 

魔戒騎士の家に生まれたことは運命として半ば、人としての生涯を諦め、名も知らぬ他人の為に刃を振り続ける。

 

自分自身も長い間、そのような生き方しか知らなかった為、それを疑問に思うこともなくなり、ただ刃を振り続けていた。ただ、心残りはあった。

 

あの夜に崩れ去った家族のことと忌まわしき魔戒騎士の家から出て行った”弟”の事が……

 

後ろめたいことはあったが、人々をホラーから護るという使命と風雲騎士 バドの称号を継ぐ者としてただ只管刃を振るった。

 

魔戒騎士の仕事に従事することに情熱は感じても、心のどこかは何かが足りないような空しさだけが何時までも残っていた。

 

弟と和解できればと足りない心をそれで補おうとさえもしたが、それを叶える事すらできなかった。そんな時に姪が孤児になったことと弟が一家心中で無くなったことを知ったのだった。

 

(結局のところ、俺は心の何処かにある空しさを杏子ちゃんで埋めようとしているだけなのだろうか?)

 

人が聞けば浅ましい欲求そのものである。もし、この事を杏子が知れば自分を罵るかもしれない。

 

だが、一人の肉親というのは余りにもおこがましいことだが、放っては置けなかった。自分は結局、結婚をせずに子供を成すこともなかった。

 

魔戒騎士の掟である”血を絶やすな”。その掟を全うできない自分は、魔戒騎士としては半端者かもしれない。これは、師である道寺も事あるごとに言っていたが、

 

”私は、生涯どうしても忘れられない人が居てね。それ以来、誰かと付き合うということを考えずにここまで来てしまったよ”

 

自嘲気味に笑いながら言っていたが、後悔だけは無かった。それを選んだのは自分自身だから、納得しているのだというのだ。

 

(そして……杏子ちゃんへの救い……魔法少女から人間にか……)

 

あの魔導具を使えば、杏子は人間に戻ることが出来る。ただ、それを行えば自分は世界という得体の知れないモノから制裁を受け、死んでしまう。

 

これは自分にとっての自己満足なのだろうか?彼女をまた一人にしてしまうようなことはあってはならない。

 

その疑問にバドは、答えが出せないことに苛立ったように酒を口にするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝、二人の男が床に横になっている……いや、倒れこんでいるといった方が良いだろう。

 

羽目を外して酒を飲みすぎて寝ている伯父に

 

「ったく・・・飲んだくれんなよ。伯父さんにおっさん」

 

そこらに転がっている酒瓶達を見ながら、杏子は溜息をつき、

 

(ぜって~、飲んだくれにはならないぞ。アタシは……)

 

滅多に見せない叔父の少しだらしない姿に呆れながらも甲斐甲斐しく世話ができることに少しだけ喜びを感じていた。

 

「昔は道寺と飲んでいたらしいからね。その代わりだったんだろうさ」

 

阿門もまたバド同様、邪美に世話をされるのだった………

 

「起こしたほうがいいかな?邪美……さん」

 

「邪美でいい。さん付けなんてむず痒いからさ」

 

「じゃあ、邪美。起こしたほうがいいのかな?」

 

「このままで叶わないさ。最近は色々と疲れているみたいだし……」

 

敬語を使うのが苦手な杏子に対し、

 

「そうだ、杏子。魔戒法師としての修行だけど、少しだけど見てあげようか?」

 

「うんっ!!!叔父さんも色々と教えてくれるけど、魔戒法師に教えてくれたことってなかったよ」

 

「じゃあ、そこまで一緒に行こうか」

 

二人は、そのまま森の奥へと向かっていった。残された男二人は、未だ夢の中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝の森は空気が澄んでおり、霧が掛かった木々の間を抜け、二人は森の中心で対峙していた。

 

「さて……杏子。アンタは、どうして強くなりたいんだい?」

 

邪美は杏子が何故、魔戒法師として強くなりたいかを尋ねた。

 

「そりゃあ、この業界でやって行くからって決めてるんだけど……それよりもアタシは、叔父さんの信念が正しいってことをアタシ自身が証明したいんだ」

 

魔道に堕ちた魔戒騎士は斬らなければならない。だが伯父はそのような考えは少し行き過ぎだと言った。

 

”必要の無い人間など居ない。それに間違いを犯し、償うことが許されないなんて、少し悲しすぎるんじゃないかな”

 

だからこそ、あの恐ろしい暗黒騎士をもう一度道に引き戻そうとしているのだ。第三者が聞けば”馬鹿なこと”と嘲笑うだろう。

 

やりもしないで何もしないで伯父を馬鹿にしないで欲しい。だからこそ、杏子は強くなりたかった。

 

風雲騎士の血を受け継ぐものではなく、彼の姪として……

 

暗黒騎士に負けないようにと伯父の信念が決して間違いじゃないと胸を張れるようになりたい、それが杏子の信念である。

 

「信念か……自分はこうありたいと思っても斜め横から見たら間違いだって事もあるかもしれない」

 

「それでもだっ!!!アタシは前に進みたい!!!いつかは胸を張って言えるように!!!!」

 

「だったら強くなりな!!アタシよりも……そこらの魔戒騎士に遅れを取らないぐらいに!!!」

 

邪美は勢い良く駆け出したと同時に杏子との組み手が始まった。大人と少女の体格差により邪美が有利であり杏子は押されるが、邪美にカウンターを浴びせる。

 

「っ!?!」

 

杏子の切り返しの速さに驚いた。殆どの魔戒法師、騎士見習いは、そのまま尻餅を付き地に付してしまうのだが、杏子は自分に反撃をしてきた。

 

さらに組み手じゃ生ぬるいといわんばかりに飛び上がり

 

「たぁあああああああああっ!!!!」

 

魔導筆まで取り出し、咄嗟に邪美も自身の魔導筆を構えることで術を防ぐ。威力も申し分ない……

 

(凄いね。直に実戦に行けるレベルだよ)

 

彼女の力量は、その内に流れる血の影響か、はたまた才能によるかは分からない。自分がこの頃、ここまでの力量があったかと言われると当時の自分では今の杏子には及ばない。

 

邪美は知らないが、杏子は魔法少女としてはかなり高い力量を持ち、多くの魔女との戦闘経験が生きているのだ。さらに、伯父からも訓練を施されている為、杏子の力量は平均の魔戒法師よりも高い。

 

故に楽しみになった。この少女が将来どれほどの魔戒法師になるか楽しみだった。

 

元々邪美は、閑岱で魔戒法師の育成を行っている。故に目の前にいる原石を熱いうちに鍛えておきたかった。邪美による応酬が激しくなり、杏子もそれに応じる訓練という名の激闘が続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に日は高く上っており、二人がいた森は明るくなっていた。

 

「はぁ、はぁ、邪美ってさ。結構スパルタだよな」

 

いつの間にか、肩を並べて杏子は邪美と近くの木の根元に座っていた。

 

「そうだな。魔戒騎士、法師の修行は厳しいものさ。その為か、皆頑なになってしまう」

 

「へぇ~~、伯父さんも割りと厳しいけど邪美程じゃなかったな」

 

「生意気な口を利くのは、誰に似たのかね」

 

「イテテテテっ!!!抓んなって」

 

頬を抓られ杏子は涙目に抗議するが、邪美はその手を緩めることはなかった。

 

「一人、男勝りの弟子が一人いるけど杏子とは気が合うかも知れないね」

 

魔戒法師としては、最上級の強さと素質を持ったあの少女は、今も修行の旅をしている。一人で強くなる、誰にも頼らずにという決意を持って……

 

「これを言うのは二人目だけど、一人で強くなる法師も騎士は居ないんだよ」

 

心配ではあるが、いつか彼女は自分が知る黄金騎士と出会うかもしれない、その時、彼女は大切な何かを得るかもしれないのだ。

 

「良いこと言ってんのは、分かってんだけど……この手を何とかしてくれよ!!!」

 

抓られる杏子は抗議の声を上げるが、

 

「その生意気な口を直したら、考えなくは無いね」

 

少し意地が悪そうに笑う邪美に対し、杏子は再び抗議の声を上げるのだった。

 

「それとさ……ホラー退治は初めてじゃないだろ?」

 

邪美の手には、いつの間にか指令書が握られていた。その指令書を杏子は抓られ、赤くなった頬を摩るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バドは身体にけだるさを感じながら思い瞼を開けた。気がつけば毛布が自分に掛けられている。

 

おそらくは杏子、もしくは邪美に掛けられたのだろう。向かいには阿門法師が鼾をかいている。この光景は修行時代に何度も見た。

 

修行、ホラー狩りが終わって師 道寺の付き合いで晩酌をしていて、意識を失い、覚めたときに大抵向かい側で眠っていたのだ。

 

ハッキリ言えば、師 道寺は少し破天荒な人物だった。大の酒好きであり、さらには異国の文化特にスペインという国を愛していた。

 

若かりし頃にフラメンコに魅せられ、それ以来彼はその文化をこよなく愛するようになったのだ。

 

彼らの文化は”生と死”が身近に存在している。特に闘牛等は命がけの催しである。魔戒騎士としての彼は、命がけの何時死ぬか分からぬ戦いに怯むどころかそれすら楽しんでいたのではないかと思うときがあった。

 

結局、彼に勧められるままにロルカの唄を読まされたが、これが中々難しく、その意味を理解するのは相当骨が折れた。

 

ロルカの唄とは、フェデリコ ガルシア ロルカというスペインの古都グラナダ生まれの詩人であり、38という若さでこの世を去った優れた芸術家である。

 

彼の歌は”私のロルカ”とスペインに住む人たちにとってはとても馴染みが深く、単に読まれるだけではなく場合によっては歌われる。

 

道寺が謳った唄で特に印象的なのは「愛の記憶のガセーラ」

 

最初に聞いたときは何となく意味は分かるが、実を言えばサッパリというのが正直、彼の趣味は単に聞き流す程度に齧っていて、その意味を今も理解できたとは思えないのがバドの感想である。

 

「ワシはいずれ死ぬ。どういう最後になるかは分からぬが、自分の伝えられることはしっかりと伝えるつもりだ」

 

「そもそも明日生きられるという保証など無いさ。だからこそ、ワシはこの唄をいつも口ずさんでいる」

 

「………良く分かりませんね。相反する物が一緒になって、何故そこが良いというのが……」

 

「そこがお主の悪いところだ。死は確かに恐ろしい、今ある想いは居なくなってしまったら消えてしまうのだ。だが、それ故にいま生きているこの想いの何と素晴らしいか分かるだろう」

 

死を身近に感じるからこそ、今の生が何と美しいことか……ただ、長く生きることがそんなにも尊いだろうか?今、生きることに怠惰になっていることのほうが愚かではないか……

 

師 道寺の下で修行を積み、他の称号持ちよりも少し遅く自分は 風雲騎士 バドの称号を受け継いだのだ。

 

魔戒騎士の務めの傍ら、何度か飲み仲間として顔を出していたが、道寺は病に伏した。彼は病で亡くならず、暗黒騎士の手により殺されてしまった。

 

それを息子である銀牙の心に大きな傷を齎したのは言うまでもなく、あの生と死を楽しんでいた彼が死に急ぐことを息子に望むことは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛の記憶 それだけはおいていけか……僕の胸に……」

 

どういう意味であろうか?バドにとっては、居なくなってしまった人に対し、後に残った者にとってその人との記憶こそが大切なものではないだろうか。

 

死んだら関係がないというのはあまりに残酷だ。自分がもし、杏子の為にこの命を投げ捨て、犠牲にしたら、杏子はそれこそ大きな絶望と心に傷を負ってしまう。

 

弟弟子には偉そうなことを言っておきながら、自分がこのざまなのは情けない。

 

「まぁ、お前さんがあの子を独りにしてしまうことを気に病んで居るようだが、如何にしてあの子にお前さんの全てを伝えるという事が大事だろう」

 

いつの間にか阿門は起きており、目覚めの一杯と言わんばかりに酒を杯に注いでいた。

 

「ワシのザルバ、大河はそうやって鋼牙と向き合っておったよ」

 

「大河がですか……」

 

バドは大河とは何度か共に戦った事があった。彼は立派な黄金騎士だった。アレほどまでに心身共に強靭な騎士は自分は数えるほどしか知らない。

 

その彼は、息子を庇って亡くなった。心無い者は無駄死にと嘲笑ったが、彼は自分の護るべき者の為に戦ったのだ。

 

それは誇るべきことなのだ。

 

「人はいずれ死ぬ……それが数年後、数日後、数時間後、数秒後とも限らない。それでも生きなければならん」

 

「……そうですか。後に残される者達は……どうすれば……」

 

「そうだな。だからこそ、問題は後回しにしてはならん。今、行わなければならないことを行っておけば、残された者も納得はするだろう」

 

「そこに一人、それを行わずに後悔した者が今もそこにおる」

 

阿門が視線を向ける先には一振りの剣が鎮座していた。それは、古い剣なのか所々に錆が付いている。

 

「この剣は、ある男が自分の行いに後悔した男が残された者に唯一残せた物だ」

 

一瞬ではあるが、魔戒騎士特有の黒いコートを羽織った男の幻影が過ぎったが、その男は何かを悔い嘆いているようだった。

 

「これだけしか残せなかったのだ。本来、役目を終えたものが後の者に残すものはこういう形があるモノだけではないはずだ」

 

バドは阿門の言葉に何かを思ったのか、これまでに短かったが杏子と一緒に家族をしていた光景が浮かんだ。いや、今でも家族である。

 

”幸せになることを考えろ。関わった人の事を忘れてはならない”と、伝えた後、見滝原に家を買った。そこで二人で暮らし始めたのだ。

 

最初はぎこちなかったが、手探りでお互いの事を理解しようと務め、その過程で、魔戒法師としての訓練をはじめ、杏子は自分の進む道を見出そうとしていた。

 

道寺の言葉すら浮かぶ。かつての異国で暮らす人達は、明日も知れぬ命だった。その中で人々は生きていた。その一瞬、一瞬に向かい合ってきたのだ。

 

今の自分に出来ることは、大いなる計画とはいえないが杏子と共に今の生活を真剣に向き合うことだろう。

 

これから先、喧嘩をしたり、あるいはお互いに嫌な部分を見るかもしれない、そしてその先で過ぎ去った日々を笑いあうだろう……どこまで約束されているか分からないが、自分のできる事は……

 

「ありがとうございます。法師。決心がつきました」

 

迷うことは無い。大河も道を踏み外した弟子を救うことが出来なかったことを悔いていたが、それ以上に自分が過ごす時間に向き合っていた。

 

大きな問題を人は抱えてしまうが、それを理由に今の生きている時間を無駄にしてはならない。自分達の時間はそれほど多くは無いが、多くの事を伝えられるはずである。

 

「お前さんも良い顔をするようになったな。ついこの間までは優柔不断な男だったのに」

 

「人は変わるものですよ。そして変わらない物もあります」

 

コートを羽織、二振りの風雲剣を携えてバドは戸口へと向かっていく。

 

「もう行くのか?」

 

「ええ、早く杏子ちゃんの顔が見たいんですよ。そして、少しでも長く一緒に居てあげたい」

 

「達者でな。お前さんのこれからの行いは間違いではないぞ。それだけは、言っておくよ」

 

「ミスター阿門の言うとおり。今の君を否定など誰もできないさ」

 

「ナダサ。お前、今まで喋らなかったのか?」

 

「HAHA。ミーも空気ぐらい読むさ。ここから先は気楽に、いや、変にプレッシャーを感じるのはよそう」

 

「こいつは、餞別だ。使うか使うまいはお前さん次第だよ」

 

例の魔導具を受け取り、足早に出て行ったバドに対し、阿門は振り返り自分と向かい合う半透明の神父の手前に酌をし、

 

「そのような姿になってお前さんもようやく兄の事が家族の事を認められるようになったのか」

 

神父は少し気恥ずかしそうに頭をかくが、直に笑顔を浮かべたと同時に幻のように消えていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポートシティ郊外 

 

杏子と邪美の二人は、ポートシティの都市部の一角に来ていた。

 

時刻はまだ日が暮れたばかりであるが、都市は様々な人達の活気が溢れている一方で、二人がいる周辺は別世界のように寂れていた。

 

時折、路上生活者の影とゴミをあさるネズミの気配が疎らにその存在を主張している。

 

二人が向かっているのは、つい最近ここで起った行方不明事件の現場である。

 

「ふ~~ん。この辺ってさ、幽霊が出るって噂だけれど実際のところどうなんだろ?」

 

杏子はスマートフォンの画面に映る都市伝説を扱うサイトの記事に目を通していた。

 

噂はこうである。

 

『 数年前に都市の一角に一軒の教会があった。そこに一人の少女が亡くなった両親に代わって祈りを捧げていたが、少女はある日、暴漢により殺害された。

 

人々に笑われながらも健気に神に祈りを捧げていたが、その代償が暴漢による殺害であった。その為か少女は神を呪い、悪魔と契約し甦り、人々を呪いながら今もその教会に居るというのだ』

 

「けっ、胸糞悪い話だ」

 

杏子は乱暴にサイトのページを閉じ、強引にポケットの中にスマートフォンを仕舞い込んだ。

 

妙に身に憶えのありすぎる話なのだ。ただ一人だけ残された少女。悪魔と契約し、人々を呪う件にどうしても自分を重ねてしまうのだ。

 

「杏子。所詮は噂だよ。あまり自意識過剰にならないように…」

 

少しばかり精神を乱している杏子に邪美は気をしっかり持つように伝える。目的地に居るのはホラーである。そのホラーを前に気を乱してしまえば、付け込まれる隙になってしまう。

 

「分かってるよ…アタシだって伊達に修羅場を潜ってきたわけじゃないんだ。ただ……特別にむかっ腹が立つんだよ」

 

「噂は所詮噂だよ。女の子は確かに殺されたけど、女の子を利用して人々を喰らっているのは、亡霊じゃなくてホラーだよ」

 

「えっ?じゃあ、死体にホラーが取り付いたって?」

 

ホラーは森羅万象に存在する闇 陰我から現れる。それは、主に人間の持つ負の感情、邪心や欲望である。

 

「多分、そこには女の子が健気に祈るぐらい荒れていたんだろうね。そこから現れたホラー ルドーシャがその死体を身体に使っているのさ」

 

此処にいるホラー討伐の指令はこうである。

 

”夜の闇に潜む影 ルドーシャを討伐せよ。ルドーシャは実体を持たないホラーである”

 

「ホラーの中には、死体を寄り代にして覚醒する奴もいるけど、ルドーシャは性質の悪いことに死体から死体へと憑依を繰り返すのさ」

 

正体は影とも言われるが、これを見た魔戒騎士、法師は数少ない。

 

「気持ち悪いホラーだな……アタシも色々とグロイのは見てきたけど、ソイツはアタシとしてはアウトだよ」

 

昨日、会ったばかりの変な魔導具のような口調で杏子はルドーシャに対し嫌悪感を露にしていた。口調をおどけさせないとやっていられないのだ。

 

キュウベえと契約を交わし、魔法少女として様々なタイプの魔女と戦ってきた。魔女という名に反して、そのほとんどが怪物のような姿をしていた。

 

「そうなのかい?杏子は、あの風雲騎士に引き取られる前に、アタシ達みたいなことをしているって阿門法師から聞いたけど」

 

「あぁ、魔法少女ってのをやってた。って、今もやってるか」

 

杏子はソウルジェムを指輪の状態から卵型の宝石の姿へと変え、邪美に見せた。赤く爛々と輝くそれは杏子の性格をそのまま現しているように見えた。

 

「こいつが忌々しいことに魔法少女の契約の証で、アタシが馬鹿な事をやっちまった証だったりするんだ」

 

ソウルジェムに対し、邪美は眉を寄せてみていた。杏子は”ソウルジェムって割と珍しい物なのかね”と考えていたが、邪美は、目の前のそれの輝きがあるモノとダブって見えた。

 

「前までは、どうとも思わなかったけど最近になってこいつを見ていると、アタシの中で何かが足りなくなっているように思えてくるんだよね」

 

”おかしいだろ”と語るが、邪美は

 

「………そうだね。そいつは、なるだけ大事にしておいた方が良い。特にこれから遭う奴の前では絶対に手放しちゃいけないよ」

 

邪美の態度を怪訝に思いながら杏子はその後に続くのだった。ソウルジェムを指輪の状態に戻し、それを何となく眺めたが、直に気にしても仕方がないと言わんばかりに杏子は考えを止めるのだった。

 

そのソウルジェムに対し、彼女の叔父が今も悩んでいるのをこの時点で彼女が知ることは無かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟と化した教会の扉に手を掛けた瞬間、誰もいない中から人々のざわめきが聞こえてきた。さらには、建物から灯りさえ漏れてきたのだ。

 

「……なあ、邪美……これって」

 

「ルドーシャの奴、アタシ達に感づいているみたいだ」

 

魔導筆を取り出し、邪美は戦闘態勢に入る。彼女に応じるように杏子も魔導筆を手に取った。

 

「殴りこみか。シンプルで良いね」

 

ホラー狩りの場合、人間に憑依するため、それを見極めるために色々と面倒なことをしなければならない。だが、今回は最初から分かっているので、面倒を掛けることは無い。

 

杏子はその労を厭わないが、シンプルな話はありがたかった。

 

互いに頷きあった後、二人は頑丈な作りの扉を蹴り破り、中に飛び込んだ。

 

飛び込んだ教会内には、様々な年齢の人々が壇上に立つ一人の少女の説教を聞いていた。飛びこんできた二人など気にしていないのか、あるいは取るに足らないのか、人々は一心不乱に説教を聞いている。

 

『主は、私達に問いました。死は終わりではなく、始まりであると……肉体に宿る時間は一瞬の幻であり、皆、何もない虚無へと還っていくのです』

 

オレンジ色に輝く灯りに照らされているが、人々の表情は影になっていて良く分からない。邪美はホラーである少女に視線を向ける。

 

少女は青みが掛かった髪の色で、可愛らしい顔立ちをしているが、その表情に年齢特有の無邪気さは無く、無機質な……人ではない何かを思わせる目の輝きがあった。

 

正面に立っている二人の魔戒法師達に対し、少女の目にホラー独特の”魔戒文字”が浮かび上がったと同時に教会内の明かりが消え、一般的だった教会の内装は瞬く間に廃屋と化し、

 

席についていた人々が一斉に二人に頭を向けた。その表情は生気のない青白い顔をしており、所々に皹が浮かんでいた。

 

その光景に杏子は妙に胸のうちがざわめき、苛立つのを感じた。

 

(何なんだよ?こいつら……胸糞の悪いホラーの手下って奴か?何だよ……どうしてアタシはこいつ等のことがこんなにムカつくんだ?)

 

指輪の状態であるソウルジェムと交互にホラーとその手下に視線を向けるたびに怒りがこみ上げてくるのだ。

 

「邪美…アイツがルドーシャか」

 

「そうさ。あの少女が本体みたいだ」

 

ホラーの本体がこの中のどれかは邪美にも分からなかった。ルドーシャは実体を持たないホラーと言われており、その正確な姿を知る者は少ないからだ。

 

「じゃあ、アタシが先に行く!!!」

 

いきなり駆け出した杏子に対し、邪美は

 

「杏子、待ちな!!!!」

 

独断で先行する杏子に対し、邪美は声を上げるがそれを阻むようにルドーシャの手下達が様々な木材などを持って暴徒さながらに襲ってきた。

 

攻撃は単調で数は多いが、邪美にとってはさほど大したことではなかった。拳、蹴り、手刀で応戦し、魔導筆による術で数体の手下を一気に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子は魔導筆を取り出して、憶えた攻撃用の術を少女の姿をしたホラーに対して放つ。だが少女はこれを避けることなくそのまま首が離れ、倒れこんでしまった。

 

「えっ!?!」

 

本体のホラーならば、もっと戦闘には通じているはずである。それなのに呆気なさ過ぎるのだ。

 

「杏子!!!ルドーシャが実体を持たないホラーだって事を忘れるな!!!!」

 

邪美も言葉に今回のホラーが一筋縄ではいかないかも知れないことを思い出し、周囲を警戒するが、杏子の背後から一体の影が浮かび上がり爪を立てて攻撃を始めたのだ。

 

「っ!!?!!」

 

その影は腕をゴムのように伸ばし、杏子の首を掴んだ。そのまま大きく腕を振るわせて壁面目掛けて叩き付けたのだ。

 

石造り独特の壁の感触を衝撃と共に感じながら杏子は、痛みに声を上げたかったが、それを持ち前の気の強さで我慢し、顔を上げる。

 

いつの間にか目の前に首を長く伸ばし自分を凝視していた。影にそのまま目が付いた不気味な顔であり、淀んだ生々しい視線を向けている。

 

「この野郎っ!!!」

 

拳を振り上げるが首は難なくそれを避け、胴体がそのまま首の元へやってきた。正面に立ったルドーシャに対し杏子は接近戦を仕掛ける。

 

ゴムのように身体を伸縮させるルドーシャに杏子の拳が当たる事はなかった。

 

「……お前は何だ?今までに見たことが無い」

 

杏子に対し、ルドーシャは大きく興味を抱いているのか問い掛けた。それに対し、杏子はホラー独特の訳の分からない妄言だと思ったが……

 

「不思議だ?私の手下同様の匂いを感じるが、そうではない、何かを感じる」

 

「ホラーの寝言に付き合うほど暇じゃねえ」

 

ホラーの言う事に耳を傾けるな。叔父にそう教えられ、杏子はそれを耳にすることは無かった。ルドーシャは少女の正体が気になったが、それを易々とは聞けそうにはないと察した。

 

「杏子!!!!」

 

ルドーシャの背後より邪美が術による一撃を放った。それを察した杏子はその場から離脱した。ホラー ルドーシャの影が一撃により霧散する。

 

影が消えても手下達が健在であり、迫ってきていた。

 

「ったく、本体は何処に居やがるんだ?」

 

「焦るな。奴はアタシ達の近くにいるよ」

 

迫る集団と潜んでいるであろうルドーシャに対し、周囲を警戒する。ルドーシャは二人の直近くにいた。そう、頭上の影より迫ってきていた。

 

ルドーシャは杏子を興味深そうに観察していた。魂があるべきところに無い少女を。だが、それを確かめる方法はないのだ。だからこそ、ルドーシャはこの二人を喰らうことにした。

 

杏子が自分たちを見て少し苛立った様子だった。だからこそ、揺さぶりを掛けるべく……

 

彼女の心の奥にあるであろう忌まわしい記憶を呼び起こすことにした。直接触れなくとも、このルドーシャにはそれを具現化する能力を備えている。

 

これを駆使して、獲物である人間を捉えてきたのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔女め!!!』

 

突然、教会内に響いた聞き覚えのある声に対し、杏子は身が震えるのを感じた。彼女にとっては、苦い記憶である………

 

「どういうことだ?何で、父さんの……」

 

正面にはいつの間にか青白い顔をした”父”が立っていたのだ。恨めしそうに自分を睨みつけている。

 

『お前にそう呼ばれる筋合いは無い!!よくも私の思いを踏みにじったな!!!!私の救済を無価値にしてくれたな!!!!」

 

その声は嫌に心のうちに響いてくる。ホラーによる揺さぶりだと心に言い聞かせて魔導筆を取るが……

 

『あの家の忌まわしい血だ!!!人々を問答無用で殺す野蛮な殺し屋!!!!お前も、あの男も!!!!』

 

揺さぶりだと頭で分かっていても、隣の邪美の叱咤を耳にしてもどうすることもできなかった。

 

『お前のような殺し屋が生き残って、私達が死ななければならない!!!!生きることなど!!!許されないのに!!!!』

 

呪いの声を上げる父の姿に杏子は、忘れていた……整理したはずの亡くしてしまった家族への罪悪感、後悔が大きく膨れ上がってしまった。

 

(そ、そうなのか……やっぱり。アタシは……弱気になっちゃ行けない……でも……)

 

肩をつかんで邪美が何かを叫んでいるが、遠い世界の住人のように言葉が聞きえてこない……

 

邪美は、杏子の様子がただ事ではないと察し、庇うように頭上から迫っているルドーシャの気配目掛けて一撃を放った。

 

ルドーシャは手下の波の中に着地し、その中から二人を眺める。このまま押し切ってしまえば、二人はただでは済まされない。逃がすつもりなど無いのだ。

 

「杏子ちゃん、再開した時に言ったろ。その人のことを忘れないでいることが大事だと・・・それに、俺も弟といつまでもこじれたままじゃない」

 

ルドーシャは背後より、男の声が聞こえてきた。そこに立っていたのは赤い髪の魔戒騎士であった。

 

「何を言う?貴様の弟は、その娘が殺したも同然。殺された者の無念が、恨みが消えるとでも?」

 

バドの言葉にルドーシャは嘲りの言葉を返すが、バドの表情はそれに動じること無く、魔戒騎士の強靭な脚力で飛翔し、杏子、邪美の前に立った。。

 

「この仕事に恨みは付き物だ。弟と杏子ちゃんのすれ違いはあまりにも大きすぎた。だが、ここに来る前、弟に見送られた」

 

阿門法師の家を離れれる時、自分を法師と共に懐かしい視線を見送ってくれた。アレは、間違いなく杏子の父だった。

 

「杏子ちゃん。いつまでもそこで立ち止まってはいけない。魔戒法師として歩むのならなおさらだ」

 

厳しい伯父の言葉に体を震わせる。彼を自分の傲慢な願いで傷つけ、命さえも奪ってしまうようなことを仕出かしてしまったのに、今更”自分が幸せになる”とは余りにおこがましかった。

 

「弟は素直じゃなかったが、他の人の不幸を自分のことのように悲しむことができる優しい心の持ち主だった。だから、その弟がずっと杏子ちゃんを恨み続けることはない」

 

だからこそ、許すことが出来ないのではと思う。それを確認したくても居なくなってしまった者に尋ねることはできないのだ。

 

「杏子ちゃんも罪深いと自分を卑下して、弟を怨霊にしないでくれ。そんな事をして、ずっとお互いに傷つけあうようなことは悲しいじゃないか」

 

二振りの風雲剣を構え、ルドーシャとその従者達とバドは対峙する。

 

「フフフフフ。魔戒騎士の家系は呪われているも同然。我らホラーに最も近いのに、何故、我らに付きまとう?」

 

ルドーシャのおぞましい思考がそのまま形になったような巨大な影が教会全体を覆う。道具としていた死体達が集まっていき、黒い影に取り込まれていく。

 

「そうだな、殆どの騎士たちが心の奥底でこう願っているだろう。普通の人間としての生を送れたらと……」

 

自分もその例に漏れなかった。もし、自分たち家族が魔戒騎士の家系でなかったら、あのようなことにはならなかったのではと……

 

だが、それは叶わない願望なのだ。どんなに手を尽くしても過去は変えられない。自分には時間を遡ることなど出来ないからだ。

 

崩壊してしまった家族は二度戻らないが、弟は新たな家族を築いた。そこで新たな生活を始めたのだ。

 

魔戒騎士の家の因縁か定かではないが、杏子は偶然にも闇の世界へと足を踏み入れてしまい、そこで杏子は家族を失ってしまった。

 

それぞれの道を歩んでいた伯父と少女は再会し、”家族”となったのだ。

 

「だがな。魔戒騎士として生きるのも苦痛ばかりではなく、意外と悪くないと思うときもある」

 

迫る影の手を刃で払いながら、バドはルドーシャの問いに笑って応えた。

 

「本当にそう思えるのか?お前たち人間は朽ちていく詰まらぬ器でしかない。その希望とやらも朽ちていく器がみる一瞬の幻でしかないであろうに」

 

巨大な影が大きく嗤うが、バドはその問い掛けに怯むことなく果敢に向かっていく。

 

「人間がそういう生き物だからだ。無駄と分かっていても、無謀だとしても目の前の壁に向かっていくのが人間だ。お前たちホラーのようにただ無駄に永遠を生きることなどないからな!!!」

 

それが悪なのか善なのかは分からないが、バドにとっては醜いところも美しいところもあってこその人間であると……どちらかが欠けてしまったら人は人ではなくなってしまう。

 

「それに弟の娘。俺にとっては可愛い姪が生まれてくれた。彼女に会えただけでも、俺の魔戒騎士人生はそう捨てた物ではないということだ」

 

バドは無数に分裂する影たちを往なし、放電を起こす術を組み合わせて応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伯父の戦いと彼の言った自分の父がどのような人物だったかを杏子は今この場で思い出さなくてはならなかった。

 

本来ならば、時間をじっくりかけて考えなければならないのに余りに急なことに杏子は焦りさえも感じていたが、焦っては結局何も解決はしないことは良く分かっていた。

 

思い返せば、自分は父の助けになりたいと常に願い、焦るあまりに道を踏み外してしまった。神の奇跡に反する魔法に縋ってしまったのだ。

 

あの時の父の鬼のような表情は今でも覚えている。アレは、今思い返してみれば”魔戒騎士”の事情を知っていたことと”魔法少女”の事情を知らなかったことの行き違いから発生した。

 

何処でボタンを付け間違えたのかは分からない。だが、あの父がいつまでも人を恨むような卑屈な人物だっただろうか?

 

「アタシは家族に申し訳ないことをしたけど、父さんは誰かを恨むよりも、傷ついた人の為に涙を流して、少ない生活費をそのまま寄付してしまうようなお人よしだったじゃないか」

 

だったら、自分が父に対して卑屈になってしまっては、その父をさらに傷つけてしまう。父のことは自分がよく知っている。そんな彼の背中を見てきたから……

 

「父さん。苦笑いするかもしれないけど、アタシは叔父さんと同じ道を行くよ。だから、小言はアタシが役目を終えるまで勘弁ね」

 

”・・・・・・私の説教は長いぞ”

 

「それだけ長いのを聞くだけのことをした。だから、長いのを考えろよ、親父」

 

”暫く、口をきいていなかったら随分と悪くなったようだね。まったくどうして、そういう所は兄さんに似たんだろうね”

 

懐かしい父の声がしたようだが、それは今も父が自分を、叔父と自分達を見守ってくれているのだろう……そう信じた杏子はバドの元へと駆け出すのだった。

 

父は伯父を”あの人”ではなく”兄さん”と呼んだのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け出した杏子は、魔法少女の姿に変身し普段は一振りの槍を出現させるのだが、今回はそれぞれの手に槍を出現させている。

 

二刀流ならぬ二槍流である。駆けでして行く姿はあの風雲騎士 バドを思わせるものだった。

 

「おらっ!!罰当たりホラー!!!」

 

バドを取り囲む黒い腕達を切り裂くように杏子は槍を分割させ、蛇のように槍の刃を操った。トランプのダイヤの絵柄を髣髴とさせる刃が獰猛な蛇を思わせる荒々しさで腕達を全て切り裂いた。

 

切り裂かれた腕達は霧消していく。

 

「伯父さん。アタシも戦うよ!!!こいつだけはどうしても許せない!!!」

 

「そうだな。確かに杏子ちゃんを随分と虐めてくれたみたいだから、魔戒法師流のお礼を返してあげるよ」

 

鎧を召還するための構えを取るバドに対し、杏子も二振りの槍を構えて

 

「へっ、そいつはいいや♪」

 

大きく振るわれる槍の刃と鎖は独特の金属音を響かせながらルドーシャの黒い影拘束していく。影であるルドーシャに実体は無いと聞いているが……

 

「ISee……そういう事ね。杏子、そのままルドーシャを拘束だよ!!」

 

中途半端に外国語と日本語を織り交ぜた口調のナダサはルドーシャの正体を看破したように声を荒げた。

 

傍で戦いを見守っている邪美もルドーシャの正体を察したのか、巨大な影のある一点に視線を向ける。

 

突破口を見出したのか、バドは鎧を纏ったと同時に一気に飛翔した。

 

頭部に強力な拳を当てたと同時にルドーシャの身体は教会の屋根を突き破り、そのまま外へと飛び出してしまった。

 

鎧独特の金属音を立てながらバドは二振りの風雷剣を交互に振るい、その身体を切り裂く。先ほどよりも素早く、思い一撃が影を切り裂き、その中にから死体独特の青白い顔が浮かび上がってきた。

 

綻びを暴くようにバドはさらに鋭い一閃を放った。そこから暴かれたのは、いくつものかつては温度を持った温かい人の身体だったものを合わせて作られたおぞましいオブジェだった。

 

ホラー ルドーシャによって命を絶たれ、もしくは、その死後、辱められた人々の身体。一人一人に夢があり、絆があり、生活があった。それを突然、奪われ、死後、その魂は弄ばれてきた。

 

人間で言う心臓がある部分に黒い水晶が草の根のような触手を張っている。それこそがホラー ルドーシャの本体であった。

 

「お前もいずれ、死ぬ。死に向かって歩むお前達が何故、それを否定し、生に執着するのだ?」

 

おぞましい腕を振り上げるがバドはそれを刃で切り裂かず、避け、本体である黒い水晶目掛けてその刃を付きたてた。

 

「そうだな。その死が感じられるからこそ、今、生きていることが尊く思えるんだ。お前たちホラーには永遠に分からないことだろうよ」

 

罅割れた黒い水晶は断末魔の声を上げずに消滅した。教会に立ち込めていた邪気が消えていく。

 

「くたばりやがったぜ。あの罰当たりホラー!!!」

 

拳を握って杏子は叔父の勝利に喜びを上げ。彼を労うために空けられた屋根の大穴に飛翔する。

 

この時、杏子は気づかなかったが教会の至る所から青白い輝きを持った無数の蝶が現れ、教会の入り口から出て行ったのを……

 

無数の蝶は、ホラー ルドーシャによって弄ばれた人々の残留思念であり、ルドーシャの邪気に囚われていたが、倒されたことにより開放されたのだ。

 

それらの蝶に続くように邪美も教会を後にするのだった。

 

「杏子、また会おう」

 

教会の屋根の上で勝利を祝っている彼女に対し邪美は、別れを告げて去っていった。いつかまた出会うその時を邪美は楽しみに思うのだった。

 

その邪美に続くように笑みを浮かべた半透明の神父もまた教会を後にした事を誰も知る由は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「邪美、もう帰ったのかよ?別れの挨拶ぐらい言わないのか……」

 

「魔戒騎士、法師の出会いは一度きりじゃないさ。いつかまた、出会うさ。だから別れの言葉はいらないんだよ」

 

不満を口にする杏子にバドは苦笑しながら応える。

 

「そうか……じゃあ、また会える日までって奴か」

 

まだ、夜が更け始めたばかりの海沿いの町は眠りの中にあった。

 

徐々に明るくなっていく景色に杏子は、今の自分はあの明るい場所へ向かうのだという希望に満ち溢れていた。

 

「伯父さん。アタシ、叔父さんと父さんの家に行きたい!!」

 

「そうだね。暫く帰っていなかったから、偶には帰らないとな」

 

「ソーソー、他の人に管理を任せっぱなしというのもどうかと思うしね」

 

その後、杏子は自身のルーツである風雲騎士の屋敷を訪れ、ここで一日をすごした後、見滝原へと伯父と共に戻っていくのだった……

 

見滝原に訪れる運命をまだ、杏子が知る由もなかった………

 

だが、その運命を前にしても杏子の胸にはこれから先の”未来”に対しての希望が輝いていた…………

 

 

 

 

 

 




道寺のキャラクターですが、少しエキセントリックな人物に設定しました。

彼を描写した小説、SSも無いので私なりに解釈して断片的にバドに回想させました。

酒好きでスペインという国が大好き。結婚をしなかったのは、生涯一人の女性を思い続けてのことというのが 呀 暗黒騎士異聞の道寺です。

次からは、本編もそうですが、入れ替わりで見滝原を離れたほむらとバラゴの番外編の執筆を頑張りたいと思います。

それでは、では!!!!!




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第二十話「亀裂(1)」


本編と合わせて番外編も一緒に掲載です。

例の彼、上手くかけているか少し不安です。あとキュゥべえを書くのが楽しい。




 

 

見滝原警察署の資料室で一人の刑事が数年前に起こった事件を見直していた。

 

その事件の始まりは一人の少女の死亡から始まり、複数の少女達の死亡を経て、一人の少女の死で終わった事件。

 

当時、奇怪な噂が見滝原の街を巡っていた。それは、

 

”街に怪物たちが徘徊している。それは、ある素質を持った少女達にしか見えない”

 

”素質を持った少女達を戦士へと変える不思議な少女と生き物”

 

”それらが戦いを人知れず続けている”

 

あまりにも捜査が進まず、結果迷宮入りになってしまったこの事件に人々は突飛な物語の出来事と思うようになってしまった。

 

「事件は、蓬莱 暁美の死をもって終焉を迎えた」

 

刑事の名は、美樹 総一朗。見滝原中学に通う美樹さやかの父親である。

 

ここ最近、見滝原やその周辺で起こっている不可解な事件に目を通していた。

 

”見滝原の工業地帯の河川近くで、隣町の14歳の少女が変死体で発見される”

 

”三国議員の息女とその友人が失踪”

 

”週に3度以上発生する行方不明事件”

 

”見滝原に転校予定の少女 暁美ほむらの失踪”

 

これらの事件以外に、若い少女たちが失踪、さらには変死体で発見される事件が相次いでいる。

 

特にここ最近の見滝原では、不可解な行方不明事件が多く、そのほとんどが迷宮入りしている。

 

多くの刑事が諦め、背を向けた事件ではあるが、彼はその答えの一端を一度だけ見たことがあった。

 

あれは、まだ娘のさやかが小学校に入って間もない頃だった。

 

”なんだ?あれは……俺は幻覚を見ているのか?”

 

あの時自分を取り囲んでいた不鮮明なノイズのような影達。それらを背中の翼の羽ばたきで一蹴してしまった黒い髪が特徴的な冷たい表情の少女。

 

”これは、私達の仕事。アナタは迷い込んでしまっただけ”

 

”ま、まて…そういうのは大人のやることだ。子供が危険なことをするんじゃない”

 

”大人のやること?あなた達には最初から期待なんかしていないわ”

 

翼を羽ばたかせて少女は去っていった。その少女を見たという噂は時折聞いていたが、自分たちが暮らすマンションの近くに住んでいた蓬莱 暁美が亡くなったと同時にその噂は途絶えてしまった………

 

”警視庁 X白書”

 

警察組織が遭遇した不可解な事件を纏めたFILE。

 

その中の一文にこう書かれている。

 

”悪魔を見た”

 

この悪魔に関する証言は警察組織が結成される以前より報告され、時折、報告が上がっている。

 

悪魔達に関しては、”人を喰らった”、”絵の中の女が笑った”、”鏡の中に人が閉じ込められた”、”死体が動き出した”、”異形の怪物を見た”

 

という常識では考えられない報告がほとんどである。だが、ここ数年の間に目撃、報告が上がっているのは……

 

”少女と怪物”の報告である。その少女達とは、煌びやかな衣装を纏い、異形の怪物たちと戦っているという報告である。

 

この報告によると、少女達は希望から生まれた”魔法少女”であり、絶望から生まれた怪物”魔女”と対決する運命にあるというのだ。

 

その少女は、言う事だけ言って、職員の前から去っていったらしい。

 

「魔法少女か…女の子なら一度は夢中になっていたな」

 

幼少期のさやかが、その手の玩具をねだっていたのは良い思い出である。

 

彼女がそうであったかは、確信が持てないがもしかしたら、そうだったのではという考えがあった。そもそも自分があったあの”魔法少女”と”蓬莱暁美”とでは、全くと言っていいほど、正反対な印象であったからだ。

 

あの魔法少女は、朗らかで明るかった彼女と違い、一言で言うのなら厳格で冷静な少女だった。当時、蓬莱暁美はよくさやかと遊んでくれていて、彼女の覚えもよかった。

 

だが、彼女が付き合っていた?といわれていた当時少年だった柾尾 優太に関しては、さやかは酷く怯えていた。

 

人を無闇に怖がる物ではないと言いたかったが、あの少年に対する第一印象は”気味が悪い”の一言である。

 

常に無表情で目に輝きは無く、感情の起伏すら全く無くただぼんやりとそこにいるだけの空気、いや空気以下の存在というのが周りの認識だった。当然、友人もいない。子供は彼が近くにいるだけで泣き出す始末だからだ。

 

そんな彼に色々と世話を焼いていくれた蓬莱暁美は好印象であったが、男の趣味だけはどうしようもなく最悪だった。

 

彼女が死んでから、無口無表情の少年は人が変わったように明るくなった。まるで彼女の分まで生きよう言わんばかりに…だが、彼の目だけは全く変わっていなかった。

 

曇ったガラス細工のような目だけは、全く変わる事は無かった。

 

その変わりように美樹 総一郎は吐気さえ感じた。まるで”人形”が人の真似をしているだけで、心など無いのに心があると思い込んでいる様はおぞましい光景であり、総一郎は彼とは関わらないようにした。

 

だが数年を経て、ある行方不明事件の容疑者に彼 柾尾 優太の名があった。久々に見た彼は相変わらず、気味の悪い青年だった。周りは好印象を抱いているようだが、それは周りに彼の本質が見えていなかったのだ。

 

調べれば調べるほど、彼の周りでは、十数人以上の行方不明者がいることが明らかになった。性質の悪いことの確実な証拠が何一つ無いという有様だったのだ。

 

ある時、匿名希望で彼の有罪を確定できる証拠を提供してくれた”人物”が居た。その電話記録は

 

”僕は、彼のこれまでの事件を解決できる証拠を知っている。だから、早く彼を捕まえて”

 

声変わりをしていない少年のような声で連絡をし、その指示された場所に”証拠”はあった。だが……

 

”警察側の証拠ですが、少し前に紛失したそうですので、今回の件では取り扱いません”

 

何という事であろうか、証拠が何者かに消されてしまったのだ。彼は無罪となり、今もあの気味の悪い青年は何処かで罪を犯している。

 

証拠を提供してくれた人物は、公衆電話からかけていたようだが、目撃者は居ない。もしかしたら消されたかもしれないのだ。

 

長いこと現場で刑事をしているが、犯罪者にはその罪を犯す背景という物があった。

 

自身の中の鬱屈とした感情、境遇、追い詰められ暴力に走ってしまった者、家庭や周囲に虐げられ、その復讐に走る者等……

 

彼らを許すわけには行かないが、どこかしら思うところは存在する。柾尾 優太もそういう背景があるかもしれないが例えあっても、もはや関係はないであろう。

 

彼らと違い、彼にはそういう根本が存在しないのだから……

 

そんな事を考えていると携帯電話が鳴り始めた。流行のスマートフォンではない携帯電話である。

 

画面を見ると”さやか”とあった。

 

「もしもし、さやか。仕事中に電話は掛けない様にと言っただろう」

 

<そうじゃなくってさ、お父さん。工場の方で人がたくさん倒れているの。よく分かんないけど柾尾 優太も居る>

 

「な、なんだって?分かった、すぐそっちに向かうから動くんじゃないぞ。それと彼を見ても何もするな」

 

<えっ!?!アイツ、何人かに暴力を振るってたよ!!!!今、捕まえないと!!!>

 

「さやか!!!お前にもしものことがあっては駄目だ!!!彼の事は俺が何とかする。だから、そこで待っているんだ」

 

感情的に怒鳴ってしまったが、娘が危険な人物の直ぐ傍に居るというのは親としては安心が出来ないのだ。

 

<………分かったよ。アタシ、ここで皆を介抱するからお父さんも早く着てね>

 

「ああ、分かった。すぐに何人かで行く。他に変わったことは?」

 

<まどかが気を失っているの。アイツが何かしたんじゃないかな、まどかの近くに居たみたいで……>

 

「!?!わかった。一応、救急車の手配もしておくから、まどかちゃんの傍に付いていてあげなさい」

 

<うん、わかった。また後でね>

 

さやかからの電話を切り、総一郎はコートを羽織って資料室を後にした。駐車場に向かう途中で一人の若い刑事とすれ違った

 

「あ、美樹さん」

 

「……並河か……こんな時間まで何をしていた?」

 

「何って、やだな~~。仕事ですよ、仕事」

 

「……そうか。だったら、さっさと報告書を書いて、とっとと上がってしまえ」

 

総一郎の刑事 並河 平治を見る視線は異様に厳しかった。何故なら、彼があの柾尾 優太の有罪を確定する証拠物件を紛失させた人物だったからである。

 

急ぎ足の総一朗の背に対し、並河はバツの悪そうな表情で

 

「本当に……アンタの言うとおりにしたほうが良かったよ」

 

忌々しそうに視線を手元に握っていたスマートフォンの画面に向ける。そこには柾尾 優太の名前があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある所に小さな雑貨屋さんがありました。そのお店には様々な物が売られていました。

 

家具、衣服、お菓子、玩具、本とたくさんのモノを取り扱っていて、そのお店の奥の棚に一体の人形が置かれていることに誰も気がつきませんでした。

 

その人形はこのお店の主人も覚えていないぐらい昔からあり、誰もそれを手に取ろうとする者も居ませんでした。

 

子供達により残酷な悪戯の為、棚の上から落とされたり、酷い言葉を掛けられていました。

 

売り物であるはずなのに、時々衣装を着せられて人形劇に出されても悪い役ばかりをさせられ、その時もやはり子供から酷い言葉を掛けられていました。

 

その人形はあってもなくてもどうでも良い存在でした。いつかは、何処かで処分をされてしまう筈でしたが………

 

ある日、その人形を買っていった少女が居ました。少女はこの人形の友達になりたいと思い、あってもなくてもどうでもよかった人形に価値ができました。

 

その日から、人形はいつも少女と居ました。少女の生活を見守り、応えることはできませんでしたが、その話を熱心に聞いていました……

 

ですがある日、少女は家に帰ってきませんでした。何日も人形は待ち続けましたが、それでも少女は帰ってきませんでした……

 

ある夜、動くはずのない人形が動き始めました。居なくなってしまった少女を探しに家を飛び出したのです……

 

そこで人形は知ることになりました。少女は魔法使いであり、人々の為に戦っていた”戦士”だったのです。

 

そのことを知ったとき、人形は初めて願い始めたのです。

 

”人間になりたい”

 

人間になるために人形は、心を学ぼうとしましたが……食事、遊戯、睡眠等と人間の真似を行いましたが、

 

”どうしてだろう……何も感じない”

 

木で作られた人形は、物を食べてもそれを取り込むことはできない、遊んでもそれを楽しいとも思えず、睡眠も行うことなどできませんでした。

 

やがて人形は、人の暗い部分を知り、それの意味も分からずに真似を行うようになったのです。

 

人を騙し、モノを盗み、さらには人の命を奪うようになりました…死んだ人を見て

 

”僕と同じだ。僕は最初から人間だったんだ”

 

不思議そうに眺めていて、人形は自分を”人間”であったと思うようになりました。自分は人間であると思い込んだ人形は、人間達の中で暮らし始めました……

 

人形は人間と同じであると言いながらも彼は殴られても決して傷つかず、血を流すことなく、加減を知らず、自分の思うままに人々を傷つけることに喜びを感じていたのです。

 

時には、小さな子供の手を取ってはその腕をへし折り、悲鳴を上げる様を見ては喜色の声あげ、大人に対しては、痛みを感じない身体を良いことに殴りつけ、その人が持っているモノを取り上げました。

 

家、服、お金、家族、命と大切なモノを奪ってきていました。最初は”人形だ”と言えば、人形は激怒し、”僕は人間だ!!!人間だ!!!”と叫びながら暴れ、人々を傷つけ、傷つけられることを恐れて、人々は人形を人間と思うことにしたのです。

 

痛みを知らない人形は例え腕が取れても直ぐに治ってしまい、斧で切りつけても人のように死なず、痛がることもなかったのです。

 

綺麗な服を纏い、宝石を木の指に散りばめさせ、食べ物を悪戯に振り回し、綺麗な女の子がいれば、恋人として扱い、あきれば捨てました。

 

人形にとっては幸せな、人間にとっては地獄のような日々が続いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人間というのは面白いものだね。在りもしない虚構の存在に感情を移入するなんて」

 

深夜の閉館した図書館の片隅でキュウベえはその絵本を興味深そうに眺めていた

 

暗い館内に赤い目が爛々と輝き、その絵本に描かれている”人形”は、シンプルな木製の人形であり、見ようによっては気味が悪かった。

 

彼ことキュウベえは、一部の人間だけが知る特徴がある。それは感情と呼べる物が存在しないのだ。

 

具体的に言えば、合理的に物事を抑え、自身と他者のどちらの都合に寄ることなく目的を遂行する。

 

キュウベえはある目的の為に存在する歯車のような物であり、自身もそれを自覚している。

 

その為、感情豊かな人類に”悪魔”と罵られても、その人類を傷つけることになっても心を動かすことはないのだ。

 

全てが自分も含めて役割を果たすための”歯車”でしかない。キュウベえの事情に限ったことではなく、この世界に存在する全てにそれは適用される。

 

だが、最近は害悪にしかならず他との協調、役にさえ立てない”壊れた歯車”にキュウベえは心当たりがあった。

 

「最近のエネルギー回収も以前と比べれば格段に落ちているが、今の事情を考えれば仕方がないか……」

 

ある少女を勧誘すれば、それは達成されるのだがキュウベえは積極的に勧誘を行うことはある種の危険性を孕んでいると予想していた。

 

言わずともその少女の異常性を考えれば、何をされるか分からないのである。その願いにより取り返しがつかなかったら、大変な事態に陥るからだ。

 

自分達”インキュベーター”の目的達成の為に”各地に散らばる同士”達からは、この機会を逃すなと声が上がるのだが……

 

「……訳が分からないよ。僕達は全ての存在に対して平等でなくてはならない。それなのに、こちらの都合を優先させるとは……いつから僕達は精神を病んできたんだ?」

 

あの少女と契約すればノルマは達成されるが、確かめなければならないことがある。その懸念が当たっていれば、あの暁美ほむらや暗黒騎士以上に厄介なことになるかもしれないのだ。

 

人によっては憂うように見えるキュウベえの後姿にそっと近づく影があった。その影は黒い執事服を着ており……

 

「やあ。コダマ、久しぶりだね。君のお母さんは元気かい?」

 

目を細めて無表情な執事服の男 コダマは、応えるようにキュウベえを丁寧に抱きかかえるのだった。

 

遠くでパトカーのサイレンが見滝原の夜空を木霊していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾はあの晩の後、殺人をまた一件起こしてしまった。

 

「ダメだ。こいつは・・・・・・」

 

彼はベッドの上に横たわる女性の死骸を横目に悪態を付いた。その女性は、少し前に付き合っていた女性であった。

 

昨日肉体関係に至ったのだが、いつもなら殺人同様、僅かな興奮を覚えていたのだが、それを覚えることはできず、喘いでいた女に苛立ちを覚え、そのまま処分してしまったのだ。

 

昨晩の”魔女”の件が忘れられなかった。あの魔女は自分に応えてくれなかった。

 

(自分は人間なのに・・・あんな人間離れした者に興味を示すなんて・・・・・・)

 

「アレは応えてくれないから………」

 

いつも自分を気に掛けてくれたあの人なら……と思い、早速メールを”QB”に送るが、直ぐに返信される返事は来なかった。

 

「…………」

 

苛立ったのか柾尾はスマートフォンを床にたたきつけると同時に玄関のチャイムが鳴り響いた。不機嫌な様子で玄関に行き、訪問者を迎えた。

 

「………柾尾さん。こういうのは、もうやめにしてくれませんか……」

 

訪問者は彼よりも少し年上の刑事 並河であった。柾尾の機嫌を伺うような視線を向けていた。

 

視線をこの部屋の主である横たわっている女性に向ける。

 

「ま、またって……今度はって、幾らなんでも早過ぎですよ!!!」

 

この刑事、以前、柾尾 優太の事件を担当していた時、容疑者として食って掛かったのだが……

 

ある事情により、柾尾 優太にとっての都合の良い”ゴミ処理業者”になってしまったのだ。彼の言う”ゴミ”とは、何なのかを言うのは野暮であろう。

 

(美樹さんの言うとおりにして置けばよかった。僕が迂闊だった)

 

悔やむように持ってきた大き目のスポーツバックに女性を詰め込んだ。その何ともいえない嫌な感触に顔を歪めながら……

 

昨晩の彼は酷く荒れていたようだ。何故なら女性の顔は見るも無残に腫れ上がり、歯は折れ、白濁とした目が見開き、皮膚は異様に青白いという凄まじいモノだった……

 

顔に視線をやりたくないのか刑事はなるだけ見ないように、手の感触だけで作業を行う。

 

刑事を柾尾 優太は、いつものように観察をしていた。彼にとって全てが観察対象である。この刑事には色々と無理難題を振りかけては、その反応を見ているのだ。

 

「ねえ、どうしてそれを触るのが嫌なの?」

 

また、その質問かと刑事はウンザリした表情で”また、いつものアレが始まるか”と嘆いた。

 

「………だって、死体は気味が悪いでしょ。好き好んで触りたくないですよ」

 

特に目の前の死体は、今まで見た中でも最悪な部類に入る。

 

「そうなんだ……こんなの唯の肉の塊なのに……どうやって動いているんだろうね」

 

いつの間にか持っていたハンマーで女性の頭を突然、割り始めたのだ。異様な打撃音と共に頭部が割れ、血が一瞬だけ吹き出た。

 

頭蓋骨を割るだけに飽きたらずか、その脳を取り出し手に取り

 

「頭の悪い女だったけど、意外と中身あるんだ。これの何処に”ココロ”が詰まっているんだろう」

 

意外と白い脳にウッと吐気を催し、刑事は洗面所に駆け出し吐き出した……

 

(っ!?!もうこんな生活イヤダ!!!!!)

 

あの時、功名心が先走り、さらには保身しか考えなかった自分が恨めしかった。この男は、無理難題を振りかけてくる。

 

死体の処理はまだしも、死体だけではなく刑事である自分に殺しさえも強要した。断れば、恐ろしい仕打ちが待っている。

 

おそらくは、殺されるだろう。用済みになったら、観察対象でなくなったら、平然と捨てるのだ彼は……

 

その光景を真後ろで柾尾 優太は感情のない視線で観察していた。鏡に映る柾尾 優太が一瞬だけだが、無機質な人形に見えたのは一瞬の気の迷いなのだろうか……

 

普段なら並河の反応に薄ら笑いを浮かべているのだが、それすら浮かべて居らず、寧ろ不機嫌さを増していた。

 

「ダメだっ!!!!こんなんじゃだめだ!!!!」

 

いきなり声を張り上げ、彼は並河の頭を掴み、力任せにそのまま何度も洗面台の蛇口に叩きつけ始めた。

 

「ぐっがあっ!!!?!がぁっ!!あ、アンタ、何考えているんだ、ぶべっ!?!」

 

何度も何度も叩きつけ、血が飛び散るのが見えないのか、悲鳴を上げるのが聞こえていないのか

 

「ダメだ!!!!だめだ!!!!こんなんじゃダメだ!!!だめだ!!!ダメだ!!!!お前もダメだ!!!!ダメだ!!!!!」

 

「や、やめてくれ!!!!」

 

金属独特の硬い感触と襲ってくる衝撃に顔を歪めながら並河は、悲鳴を上げた。

 

何とか柾尾 優太の拘束を抜け出し彼を突き飛ばした。その間も彼は”こんなんじゃダメだ”と叫んでいた。

 

「な、何なんだよ!!!何が、ダメなんだ!!!アンタ、俺にこれ以上、何を望むんだよ!!!!」

 

「僕の心が何も感じない!!!昨日から、皆、皆、何も感じない!!!!今までのことじゃダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!!僕の心が!!!心が!!!あああああ!!!」

 

駄々を捏ねる子供のように柾尾 優太は、感情のない目で自分の頭を掴み嘆いた。あの夜に感じた衝動は、今までの日じゃなかった。これまで通りの探求では物足りない。

 

「おぎゃあ嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!あああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

泣き叫ぶ赤子のような甲高い声を上げ、柾尾 優太手当たり次第に周りのモノを壊し始めた。

 

姿見に映った自分の姿が一瞬、糸が外れたマリオネット人形とダブった。木製で生気のない顔、瞳のないポッカリと開いた穴の目は心を感じさせない。

 

「違う!!!!僕は人間だ!!!!人間だ!!!!!人間だ!!!!人間だ!!!!人形じゃない!!!!!!」」

 

執拗に鏡に攻撃し、狂ったように自分の姿を映し出すものを壊した……数分ほど騒ぎ立てた後、落ち着いたのか。

 

「……アレは、どういう風に心を感じているんだ。人間じゃないくせに……心があるなんて……」

 

脳裏に浮かんだのは、白いマントを靡かせ、サーベルを突き立てて希望を打ち砕いた少女の姿。

 

人間じゃない力を持った不思議な少女。自分の部屋の隣に居る巴マミとあの美樹という壮年の刑事の娘………

 

そう思うと少し愉快になったのだが、実際に行おうとすれば多大なリスクが降りかかるる。あの力に自分などあっという間に捻られてしまうだろう。

 

息の荒い刑事の元に歩み寄り上着の内側に忍ばせた拳銃に手を伸ばし……

 

「ねえ、お願いがあるんだけど。聞いてくれるよね」

 

刑事を見つめる目は、作り物のガラスそのものだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原より東に遠く離れたその場所は、一般人が感知できない居空間に存在していた。

 

その場所を”東の番犬所”と言う。

 

ブランコにすわる三人の少女とその内の一人の少女に抱えられている白い小動物の姿があった。

 

三人の少女の名をケイル、ベル、ローズ。この東の番犬所の神官である。白い小動物はキュウベえ。

 

「前にあった時とは少し違うさまだね、ガルム」

 

「そういうアナタも同じじゃないですか。以前は、もう少し気品のある姿をしていたのに・・・」

 

「今では、間抜けなぬいぐるみのような姿をしている」

 

「魔法少女なんてネーミング。まるで子供のお遊戯のようですわ」

 

彼女達とキュウベえはお互いによく知っている関係のようである。知り合ったのは、遥か古の時代まで遡る。

 

「今は、ケイル、ベル、ローズと呼んだ方がいいかな?僕と同じく三つの肉体を一つの意思でリンクさせているんだね」

 

この三人の少女は、一人の神官の魂が彼女らを寄り代にしてこの世に存在している。元々は一人の人間であることをキュウベえも知っていた。

 

「そうですわ。長い間生きてきて、アナタを思い出して」

 

「アナタもいくつもの身体を同時に動かしているということを」

 

「ですから、こうして適当に三人の少女を選び、その体を動かしているというわけです」

 

だから真似をしてみたんですと笑みを浮かべるが、キュウベえは特にリアクションを出さずに

 

「君も相変わらずだね。魔戒騎士、法師を束ねる神官がそういう風に場を乱すのは少し考えものだと思うよ」

 

風の噂で聞いていたが、この神官は退屈しのぎに法師や騎士をゲームの駒のように扱い、死なせてしまうことがあるそうだ。

 

当然のことながら騎士達の忠誠は低い。

 

「君の退屈しのぎに突き合わせれると命がいくつあっても足りないんじゃないよ」

 

「アナタも相変わらずの生真面目さ。感情がないと言うのは、どういうことですの?」

 

「簡単に言えば、機械を思ってくれればいい。効率の良い方に物事を間違いがないよう進めるだけだよ」

 

「そうですの?アナタに関しては元老院は忌まわしいモノと呼ばれるだけの事をしているじゃありませんか?」

 

「星を食いつぶす外道」

 

「ある意味ホラーの同類ですね」

 

三人の少女達の言いたい放題に対し、キュウベえの反応は薄い。

 

「ホラーと一緒にされたくないよと僕は返したいね」

 

「そうですわね。ホラーと違い、アナタの行いは他の方々との共同でしたっけ」

 

愉快そうに少女達は笑う。番犬所の短剣を納める祭壇に一つのグリーフシードが納められていた。キュウベえはそのグリーフシードに対し。

 

「まさか、これを君たちが持っているとは……休眠状態の”ワルプルギスの夜”を見るのは、初めてだよ」

 

興味深そうにグリーフシードにを見つめる。

 

「あら?魔法少女達の間では有名な”ワルプルギスの夜”ですよ?」

 

「調べなかったわけじゃないのですの?」

 

「まさか、自分たちが作ったものなのに分からないなんて、見た目と同じ間抜けなんですね」

 

三人の口の悪さは可憐な容姿とは違い、年老いた人のそれを感じさせる。

 

「確かに”ワルプルギスの夜”は有名さ。だけど、僕らにとっては良くわからないイレギュラーなんだ」

 

キュウベえの意外な言葉に少女達は視線を彼から、グリーフシードに眼を向けた。

 

「そもそも何処からやってきたのか?僕らは魔女誕生の瞬間を全て把握しているけど、ワルプルギスの夜に関しては不明なんだよ」

 

そもそもこんなグリーフシード見た事がないと言わんばかりに視線をキュウベえは向ける。

 

「イレギュラーならば、さっさと処分しては?」

 

「そうそう、基本的にこういう良く分からないものを排除するんでしょ?」

 

「出来るモノならば、速やかに処分したいところだけれど」

 

いつものようにグリーフシードを処理するために進み出るが……

 

”グワァッ”と言わんばかりに黒い影がキュウベえの身体を一瞬にして飲み込んでしまった。番犬所内に肉を喰らう音だけが響き渡る……

 

「やれやれ、代わりがあると言っても。アレを処分するのはそうとう骨が折れるよ。それに加え……」

 

グリーフシードの近くには、ホラーを封じた短剣が納められており、そこから”陰我”を取り込んでいるのか、グリーフシードが僅かであるが脈打っていた……

 

「君達のおかげで、”ワルプルギスの夜”は伝説に伝わるメシアか、レギュレイス、ギャノンに匹敵する程の脅威に成長するだろう」

 

何故、こんなモノをこういう場所に置いておくんだと言わんばかりにキュウベえは視線を向けるが……

 

「まあ良いじゃありませんか」

 

「ホラーだけを見るのも飽きてきたところですし」

 

「そのワルプルギスの夜が現れるとき、お祭りのように騒がしくなると聞きますわ」

 

「やれやれ、事が大変なのに君はどうしてそうも気楽に抑えるのかな?」

 

「「「うふふふふふふふ。長いこと生きていますと退屈を紛らわすために色々と魔が差してしまうのですよ」」」

 

同時に答える少女たちに対しキュゥべえは、彼女達の感情は理解できないと判断した。

 

「まあ、君がそれでいいのなら僕はいつものようにこの世界のために働くとするよ。ワルプルギスの夜をここまで厄介だと感じたのは初めてだよ」

 

「あなたと契約する交渉につかえるかもしれませんのに……」

 

「出来ることならそうしたいけど、”鹿目まどか”も”ワルプルギスの夜”も本来ならば、僕らが関わってはいけないモノだからね」

 

キュゥべえはそのまま番犬所を後にするように姿を消した。その後ろ姿を見ていた三神官は笑みを浮かべて見送るが、傍らにいるコダマは無表情であった。

 

 

 

 

 

 




彼は、クロスキャラの単なるヤラレ役にはしないつもりですので……少しは存在感があってもと思います。

意外と顔が広いキュウベえさん。長いこと地球に居るようですので、牙狼の世界と一緒ならば、あの神官と知り合っていてもおかしくないかなと思います。

補足ですが、この時間軸では、キュウベえの存在は元老院、番犬所も知っています。ホラーとほぼ同類と認識していますので、見つけたら殲滅のお達しが触れ込まれています。

後は、今のインキュベーターの姿は、ガルムと会ったときとはかなり違います。



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第二十話「亀裂(2)」

この間にいくつかの出来事が平行しています。

前話の「悪夢」とこの「亀裂(2)」の間に杏子とバドはポートシティーに行っていました。
ちょっと話数がカオスになっていますが……出来たので取り合えず……






 

 

さやかは父 総一朗、母 咲結と共に、上条恭介が入院している病院へ自家用車で移動していた。

 

「それにしても良かったですね。恭介君の手が治って」

 

さやかの母 咲結は嬉しそうに笑った。

 

「そうそう、あんな恭介見たくなかったから、本当に良かったよ」

 

「恭介君のご両親もこれで一安心ですね」

 

後部座席での会話をバックミュージックに総一朗はハンドルを切りながら今回の奇跡について少しだけ眉を寄せた。

 

(今回の件は、医者もなぜ治ったのか分からないと言っていた。知り合いの医師にも来てもらったが、手の施しようがないと)

 

自身の知り合いにも見てもらったが、どうにもならないとのことだった。先日も結果は変わらず、手の治療は諦めるしかなかった。

 

恵まれたヴァイオリン弾きの才能を断たれた彼の嘆きと絶望は、聞くだけで気の毒であった。だが、彼はまだ若い。

 

今までしていたことに背を向けるのは辛いが、これからは新たな道に進まなければならないのだ。そこに至るまでは辛いが、後悔はないと総一朗は自身の経験で知っている。

 

かつて自分も高校野球で豪腕を鳴らした投手であったが、事故で肩を壊しその選手生命を断たれてしまった。

 

そのあとの自分は奇跡だけを願い、自分自身で歩くことを辞めてしまい、性根が腐っていくのを感じていた。親に当たり、さらには心配してくれた友人さえも傷つけ、迷惑をかけた。

 

結局の所、奇跡が叶うことはなかった。どうしようもない自分を献身的に支えてくれ妻となった咲結のおかげで、警察官になり、刑事としての仕事に誇りを持つようになった。

 

あの時の自分が上條恭介の事情を知れば、妬ましかっただろう。だが、今となっては過ぎてしまったことだから気にはしない。

 

(……だが、失くした物は二度と戻ってこない。失くしたものを再び得る事などできるのだろうか?)

 

上条恭介に起きた奇跡を素直に喜べない自分は、心のどこかで彼に嫉妬をしているのではと思ってしまう。考えても無駄だと思い、そのことを頭の隅に追いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、恭介。調子はどう?」

 

「さやかかい。うん、今日は少し調子がいいね」

 

何事もないと言っているが、その表情は今まで以上にないほど喜びに満ち溢れていた。その理由はさやかにもよく分かっていた。

 

「そうそう、恭介。ちょっと屋上に行ってみない?」

 

腕時計を確認するさやかに対し、恭介は怪訝に思ったのか……

 

「屋上に何のようがあるんだい?」

 

「いいから、いいから♪」

 

強引にいつの間にか用意されていた車椅子に促され、恭介は訳が分からぬまま屋上へと連れ出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の屋上には、手が治ったことを祝福する為に主治医、看護婦達、スクールのメンバー、先生、恭介の両親が居た。

 

「な、何なんだい?これは……」

 

戸惑う恭介に構うことなく拍手が鳴る。突然のことに何が何なのか分からないが、これが自分の事を祝ってくれていることが分かると途端に恥ずかしくなり、頬が熱くなるのを感じた。

 

「な~~に、照れてんのよ。恭介」

 

「こ、こんな状況じゃ仕方ないじゃないか。さやか」

 

悪戯が成功した子供のように笑うさやかに対し恭介は、照れを強引に隠そうとするものの隠し切れなかった。

 

「本当のお祝いは、退院のあとだったんだけれど、足よりも手が先に治っちゃったしね」

 

恭介の前に彼の父親が進み出る。手には、諦めかけていた、既に無くなってしまったと思っていた”宝物”があった。

 

「それは………」

 

「お前からは処分しろと言われていたが………どうしても捨てられなかったんだ。私は……」

 

「私からもお願いしたの。いつかはこういう日が来ると思って」

 

父に続いて、スクールの先生が歩み出た。差し出された宝物 ヴァイオリンを受け取り、皆の期待に応えるように本体を構え、弓を手に取った。

 

長い間、引かれていなかった為か音はずれており、少しのチューニングをし、演奏を始めた。恐る恐るの音からだったが、次第に情熱的なものへと変わっていく。

 

数ヶ月のブランクを感じさせない天賦の才能。その場にいる全員が聞き惚れていた。

 

諦めかけていた演奏の喜びに、自分に舞い降りた奇跡に感謝した。この幸福に涙しながら……

 

(後悔なんてあるわけない。私の……戦う理由が……姐さんもきっと分かってくれる)

 

今は、用事で町を離れている友人に……

 

(ほむら……アタシは大丈夫だよ。心配性っぽいアンタは、願った時の気持を忘れないでって言ったけど…いくら馬鹿でも絶対に忘れない)

 

これから一緒に戦うかもしれない”魔法少女”へ……

 

演奏が終わり、恭介は久しぶりの心地良い疲労を感じた。聴衆たちは拍手喝采で復活した”天才”を祝福する。奇跡を感謝するように演奏は日が落ちるまで続けられた………

 

「先生には、お手数をかけましたね。龍崎先生」

 

「いえ、私は何もしていませんよ。奇跡が起こしたのは、誰よりも彼の事を心配していた彼女かもしれませんね」

 

カウンセラーとして雇われていた龍崎ことバラゴは目の前の奇跡に対し心が冷ややかになっていくのを感じずに入られなかった。

 

(……あの少年の傷は絶対に癒えることは無かった。だけど、少女の人生を犠牲にしてこの奇跡は起った……とんだ茶番だ)

 

満足そうに頷くさやかに対し、バラゴはいっそのこと恭介にこの事を言ってみようかと思ったが、それを聞いたところで彼がどうなろうと興味はなかった。

 

(そういえば……ほむら君は今日も巴マミのところに行ったとエルダが言っていたな。友人は結構……だが、あまり深入りだけはしないでくれよ)

 

奇跡の演奏に対し、バラゴの心は普段以上に冷ややかであった。だが、彼がほむら以外で関心を寄せることがある。

 

(………番犬所の神官によるとアスナロ市に使徒ホラーの一体が現れたようだ。どちらが、より闇に近いかハッキリさせるのも悪くは無いだろう)

 

最近の見滝原は、魔女が少なくなっている。それに加えてホラーの出現も収まっているようにさえ感じていた。そんな時に知らされた大物の存在である。

 

(ほむら君もこの町から離れれば、頑なな態度も少しは和らげてくれるだろう……)

 

”遠出”に少し惹かれるものがあったのは、彼の胸のうちだけの秘密である……奇跡の演奏に浸る気は全く無かった為、関係者に軽く断りを入れて屋上を後にするのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巴マミさんですか?」

 

「はい。そうですが、……貴方は?」

 

突然の訪問者に対し、マミは呆然としていた。彼は隣の部屋に住んでいる柾尾 優太であった。

 

「この件について、教えてくれないかな?」

 

彼が見せたのは、マミにとっては馴染み深いモノ……

 

「そ、ソウルジェム!?!」

 

「知っているんだね……だったら……」

 

何故、一般人がソウルジェムを持っているのかが気になるが、このままにしておけないと思い、

 

「ここではなんですので、中に入ってください」

 

マミは、柾尾 優太を自らの部屋に招き入れるのだった……

 

紅茶を傍らに、柾尾 優太は自身に優しくしてくれた彼女について語った。魔法少女であることは知らなかったが、どうして自分に何も言ってくれなかったと嘆いていた。

 

「巴さん。ぜひ、君の事を僕に教えて欲しいんだ。暁美が何をしていたのか……君がどういう存在かを……」

 

砕けてしまったソウルジェムを握り締め、震える彼にマミは自分が抱えている”問題”を話してよいかと悩んでしまう。

 

魔法少女の因果を背負った少女達も人間である限り、何処かに人としてのつながりを持っている。蓬莱暁美という魔法少女が何をしていたかは分からないが、彼女は彼を残して逝ってしまった。

 

残された彼はずっと答えが知りたかったのだ。その一端が明らかになるのなら、自分はこの青年に話すべきかもしれないマミは結論を出した。

 

(……一般人が役に立てるか分からないけど、私達の事を知ってくれるのなら、それはそれで良い事かも知れない)

 

人知れず戦いに明け暮れ、その果てに最後を迎えるという結末ならば、そういう少女がいたことを記憶にとどめてくれる人が居ても構わないと……

 

「柾尾さん…貴方にとっては、信じられない話ですが……私にとっては、当たり前のことなんです」

 

自身のソウルジェムをテーブルに置き、自分の体験を彼に語った。

 

一般人からしてみれば、それは現実離れした御伽噺、もしくは単なる妄言かもしれない、

 

巴マミにとっては現実であり、彼女の日常であった。魔法少女としての契約…キュウベえの存在、魔女と呼ばれる呪いと災いを振りまく怪物……

 

それに唯一対抗できる希望と願いから生まれた魔法少女。この見滝原以外にも存在していると……

 

「………暁美は何を願って魔法少女になったんだろうか?僕に黙って……僕を独りにしてまで……」

 

「柾尾さん。私からは何も言えませんが、彼女は最後は貴方と会えたんですよね。だから彼女が”希望”と言ったのなら、貴方は貴方の幸せを見つけることだけを考えてください」

 

紅茶を淹れ直し、

 

「それが彼女さんに対して、できることなんじゃないですか?」

 

「………………」

 

押し黙った柾尾 優太の表情は俯いていてハッキリはしなかったが、彼をよく知る人が見ればその目に何の感情も映っていなかったことに気がついただろう。

 

一般人には見る事ができない存在”キュウベえ”が物陰から伺っていたのである。

 

(………やれやれ、マミは余計な事をしてくれたようだね。こうなってしまっては、さやかの荷が重くなってしまうよ)

 

感情を持たない生き物であるが、あの青年を見ていると先日見た絵本の中の”あの人形”とだぶってしまう。

 

かつて自分が契約した蓬莱暁美の件で、彼女が幼少期の頃の美樹さやかと関わりがあった。彼女の付き添い、いや、キュウベえから見たら、一方的に付きまとっていた柾尾 優太については…

 

(僕に感情はないけど、蓬莱暁美……君の男の趣味は最悪と言って良い)

 

二人のやり取りを冷ややかな視線で送った後、キュウベえは興味を失ったようにその場から去っていった。

 

別の固体がこのマンションに近づく暁美ほむらを捕らえたからだ……彼女の件も不安ではあるが、自分が長年監視していたあの青年よりはマシだろうと思うのだった。

 

”ねえ、キュウベえ。私ね、空を飛びたいの?叶えてくれる”

 

彼女 蓬莱暁美はその願いと共にソウルジェムを輝かせたことはキュウベえの記憶に強く刻まれていた………

 

マミよりも先に見滝原を護っていた魔法少女。彼女はキュウベえにとっては良き協力者でもあった……

 

”あなた達のやり方って、人から見ると詐欺だって言われるけど……仕方ないといえば仕方が無いのよね”

 

”分かっていながら、僕に友好的にしてくれるのは君が初めてだよ。君は、どうして他の子の様に僕を非難しないんだい?”

 

”アナタも好きでやっているわけじゃない。やらなければ、アナタ自身も困るんでしょ。慈善事業じゃないんだから……”

 

”そこまで分かってくれるなんて……君には全面的に協力しよう。君の計画の前に一言良いかな?”

 

”何?”

 

”君に付きまとっている男子なんだけど、アレの何処に魅力を覚えたんだい?”

 

”アレじゃないわよ。彼にはちゃんとした名前があるの柾尾 優太って名前が”

 

”可愛いじゃない。何も無くて純粋なところが……まるでお人形さんみたいで”

 

手には、あの人間と思い込んでいた人形が描かれた絵本が在った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾 優太が退室した後、入れ替わるようにほむらはマミの住まうフロアに来ていた。今回も前回と同じく、”アップルパイ”を手土産に向かう途中で妙な青年とすれ違う。

 

その青年はほむらにぶつかるが気にも留めないように部屋の中に入っていってしまった。その青年の態度は、よく言われる”世代”であった。

 

怪訝に青年を見たが、直ぐに目的の人物に会わなければならないと思い、背を向けた。

 

「こんにちは、巴さん」

 

「暁美さん、いらっしゃい」

 

目的の人物 巴マミは快くほむらを迎えた。

 

「改めてだけど、暁美さんの衣装ってとても素敵ね。何だか、魔法使いみたいで」

 

ほむらの衣服は魔戒法師の法衣である。魔戒法師の法衣は見ようによってはそう見えるだろう。

 

「はい……今は、衣服がこれぐらいしかなくて……」

 

「えっ?そうなの…じゃあ、今度私と一緒にほむらさんの服を買いに行きましょうよ」

 

いつものことであるが、マミはかなりの世話好きである。

 

「それは……またの機会に……それよりも先ほどこっちの方から男の人が……」

 

何処かで見たことのある青年だと思ったが、先日の魔女結界でさやかが異様に毛嫌いしていた人物であった。

 

「柾尾さんのこと?えぇ、あの人も魔法少女と係わり合いがあったらしいの」

 

「どういうことですか?」

 

マミの話によると、蓬莱暁美という魔法少女が見滝原に居たらしい。その魔法少女と特別な仲であり、突然居なくなり、目の前で死んでしまったことに対して、長年疑問を募らせていたらしい。

 

「蓬莱暁美……(まさか、巴さんの口からその名前を聞くなんて……)」

 

「ほむらさんは、知っているの?その魔法少女の事を」

 

「は、はい……一度、別の町で噂だけは聞いています。ただ、あまり良い噂ではなかったですが…」

 

言いにくそうな表情のほむらに対し、マミはあまり良い噂ではなかったのだと察した。

 

「そうね……噂は所詮、噂よ。本当のことはちゃんと自分で判断しなければ駄目ね」

 

この話題は聞かないでくれるようだった。そのことにほむらは、内心ホッとしていた。彼女が巡った時間軸の一つで”蓬莱暁美”の名前を聞いていた。

 

”蓬莱暁美……彼女は、悪魔に魂を売った魔女だ”

 

ほとんどの魔法少女は、インキュベーターの実態を知ればほとんどが敵対する道を選ぶのだが、彼女はそれを知りながら、あろうことか協力までしたらしい。

 

(……私が今までに出会った事のないインキュベーター側の魔法少女……人の不幸を喜ぶ趣味は無いけど、この時間に居なくてある意味良かったわ)

 

突然の意外な人物の名前にほむらは失念していた。その魔法少女に関わりを持っていた青年の危険性を推し量ることを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僅か数日であるが、いつものようにほむらとマミはお茶会を開いていた。

 

「ワルプルギスの夜の件ですが、やはりここは他の魔法少女にも呼びかけたほうが確実だと思います」

 

”他の魔法少女”という単語にマミは表情を曇らせた。言うまでも無く該当する魔法少女に対して良い印象を持っていなかったのだろう。

 

ほむらは、ここで自分の素性を少しだけマミに知らせようと決めた。

 

「もしかして、その魔法少女は魔戒騎士と係わり合いがあるので信用ができないのですか?」

 

「ほむらさんも魔戒騎士を知っているの?」

 

「はい、私も魔戒法師の術を使います。キュゥべえは魔戒騎士、法師は無法者だと言っているようですが」

 

魔戒法師関係だから信用できない。自分も同じだとほむらは告白するのだが、マミは動揺することなく

 

「……そうね。私もキュウベえの事はある程度信用しているけど、少し考えてみれば、そうでもないんじゃないかって思うわよね」

 

だったら、どうして?とほむらは問うが、マミは少し疲れたような表情を浮かべ、

 

「佐倉さんに関しては、仲直りをしたいって言うのもあるわ。でも、私は彼女に対して嫉妬をしているの」

 

「……嫉妬ですか?」

 

マミからまったく似合わない言葉が出て、ほむらは戸惑ってしまった。

 

「そう、佐倉さんには護ってくれる人が、独りになっても手を差し伸べてくれる力強い人が傍に居てくれる。私がどんなに願っても着てくれなかったのに……」

 

(巴さんは、私達のリーダーという風に認識していたけど、巴さんも強くて優しい誰かに導いて欲しかったんだ)

 

「私にも親戚が居ないわけじゃないわ。でも、皆、私の両親が残したお金が欲しくて私の手を取ろうとするだけなの……」

 

親戚は、彼女の両親が残した莫大な財産を得ようと優しい面をするだけであり、話の中心はいつも遺産の管理についてで、そのたびに他の親戚と騒がしく争う。

 

「私の事を本当に心配してくれる人も居る。そういう人に限って、浅ましい親戚が執拗に攻撃をするわ」

 

あんな人達と血が繋がっているなんてと嫌悪するように吐き捨てた。

 

「でも、私はまだ佐倉さんと向き合う勇気はないわ。少しだけ、時間をもらえるかしら?」

 

マミの身の上を聞くことは初めてではないが、彼女も彼女で思うところはあるのだ。

 

「……はい。私のお節介かもしれませんが、向こうには、一言入れておきますので……」

 

「ありがとう。ごめんね、頼りない魔法少女で」

 

ほむらの気遣いはマミにとってありがたかった。

 

「いえ、私も同じです。いつも肝心なところで大切な人を護ることができませんでしたから」

 

「だったら、次は護れるようにしないとね。よしっ!!!見滝原アンチマテリアルズの結成ね!!!」

 

「へっ?」

 

突然のチーム宣言にほむらは、疑問符を浮かべてしまった。

 

「何を呆然としているの?私達のチーム名よ!!チーム名!!!」

 

「な、何をって…なんですか?チーム名って……一応、協力者でそこまでは……」

 

「ほむらさん。こういうのは私達の団結が必要なのよ。それをしっかりさせるための精神的な心構えなの」

 

(それならば……佐倉杏子との連携を考えて欲しいんだけど…少し無理か……)

 

マミもまだ15歳の少女である。魔法少女としてのマミではなく、人間 巴マミを見る事ができて彼女に対する親近感が増すほむらであった。

 

(以前は苦手だと思っていたけれど……こういう弱いところを見せてくれるってことは、信頼してくれるということなのね)

 

事情により敵対してしまう場面が多かったが、今回に限っては今まで以上に良好な関係を築けそうであったが……

 

「じゃあ、名乗りの練習に入りましょうか」

 

(前言撤回……やっぱり巴さんは苦手だ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾 優太は隣の自室に戻っていた。彼の部屋を訪れた者は誰一人としていない。

 

あらゆる物が錯乱し、荒れ放題だった。寝室には数台のモニターとさらには、壁一面に張られた数千枚の顔の写真で埋め尽くされていた。

 

自分にはないものを手に入れようと様々なことを行ってきたが結局、彼がそれを理解することは出来なかった。

 

いくつかのモニターは割れており、一つのモニターには男女二人が互いに愛し合っている光景が映し出されていた。その光景を不快に思ったのか

 

「何故だ!!?何でだ!?!!優しくされたのに、何も感じない!!!どうしてだ!!!!お前たちとちがって僕は、何故、何も感じない!!!!」

 

苛立ったようにモニターを手にとり、そのまま壁にぶつけてしまった。鈍い音と共に何かがショートする音に構うことなく、彼はゴミ溜めの中にそのまま横になる。

 

「…あの刑事の娘は、願いを叶えたんだ……じゃあ、それを……無かった事にしたら……」

 

先ほどの魔法少女から聞いた願いについて考えだし、そこに手を加えたら自分は素晴らしい体験が出来るのではと……

 

複数のディスプレイの明かりに照らされた彼の影が大きく笑ったように見えたのは気のせいだろうか?

 

「ねぇ、暁美…駄目なんだ。最近はQBさんも協力してくれないし、他の女の子に優しくされても駄目なんだ。君だけなんだよ…僕が優しく慣れるのは……」

 

自分の今の行いは悪いことと理解はしているが、それをやめることは出来なかった。何故なら、殺人は彼にとっては無くてはならないものになってしまったのだから……

 

割れたソウルジェムを優しく撫でるが、直ぐに自分の隣に不快なモノが横たわっていることに気づき、

 

「なんだよ?お前、まだ居たのか?もうお前の下品な顔は見たくないのに、さっさと消えろ!!!」

 

立ち上がり、黒いゴミ袋からはみ出ていた腐敗した青白い女の顔に蹴りを入れると鈍い音と共に黒い何かが部屋を横切っていった……

 

「並河……処理にきてくれ…それと美樹総一郎の家族で変わった事がなかったか教えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

マミと見滝原のパトロールを終え、ほむらはこの時間軸での拠点である郊外の屋敷に戻ろうとしていたが、ある人物と遭遇してしまった。そう、彼女が複雑な感情を寄せるバラゴである。

 

「……………」

 

「やあ、彼女とのパトロールは楽しかったかい?」

 

バラゴは柔らかい笑みを浮かべてほむらに話しかけるが、対する彼女はいつも通り頑なであった。

 

「……魔女狩りに楽しいも楽しくないもないわ。遊びじゃないもの……」

 

魔法少女は仲良しクラブではないのは、マミ共々しっかりと理解していた。だからこそ、この先にある脅威に備えているのだ。

 

「そうだったね。それが君の目的でもある。だけど、ワルプルギスの夜は、この僕が居れば充分だというのに……君は何故、僕にそれを望まない?」

 

僅かながらバラゴの口調に苛立ちが含まれているが、ほむらはそれを気にすることなく、いや、正面から向き合うように……

 

「そうね。アナタが危険だからという理由はもう言い訳にはならない。だけど、私は誰かに縋るような弱い自分を必要としていないわ。アナタがどう言おうとも私は私のやり方でやらせてもらう」

 

例えアナタがそれを踏みにじろうとも自分は噛み付いてでも目的を果たすと強い視線でバラゴに臨んだ。

 

「………僕のやり方を否定するわけでもないんだね。良いだろう、君のやりたいようにやるがいいさ。僕は君の覚悟に口を挟むほど野暮じゃないからね」

 

正直、ほむらの執念は嫌いではなかった。むしろ自分に似た妄執を感じさせるところに親しみすら感じていたのだ。母とは違うが……

 

「どの口がいうのよ……私に色々とやってきたくせに…良いわ、戻るんでしょ……」

 

今日は少し気分が良いから、並んで歩いても構わないと言わんばかりにほむらは彼の横に並んだ。

 

「そうそう、これからアスナロ市に向かう。君も一緒に来てもらおう」

 

「?アスナロ市。見滝原から離れるというの?」

 

冗談じゃないと言わんばかりにバラゴを見るが、バラゴは余裕を含んだ笑みで

 

「ワルプルギスの夜が来るのは、まだ先のこと。それに君が気に掛けていた少女二人も大きなことに巻き込まれることはないだろう。いや、一人はそうでもなかったな」

 

”一人はそうでもなかった”誰のことかは言うまでもなくほむらは察した。余計な悪意には思わず怒りすら感じてしまう。こういう悪態を突く自分は所詮はただの餓鬼としか言いようが無い。

 

「本当にアナタって、言うまでも無く……最悪ね」

 

「それは君も承知していたんじゃないかな……ほむら君」

 

バラゴもほむらの扱いに慣れてきたのか、軽口さえ聞けるようになったのは何となくであるが癪である。

 

「僕はまだやらなければならないことが残っている。君はこのままアスナロ市へ向かいたまえ」

 

後でエルダも向かわせると聞きながら、バラゴからチケットを渡され、ほむらは怪訝な表情を浮かべるが……断る理由も無かった為……

 

「良いわ。先に行く……それとバラゴ。アナタ、まだ何も食べてないなら、これ……食べても良いわよ」

 

ほむらは手に持っていたバスケットをバラゴに強引に手渡し、そのまま背を向けて別れてしまった。

 

(呆れた……これじゃあ、バラゴと同じじゃないの……何故、こんな事をしたのかしら?)

 

彼には親しみを感じているが、それを表に出すことは絶対に無いと思っていた。だが、先ほどの行為はまるで親愛の情を抱いているようではないか……

 

(何処かで私は彼に何かを期待しているかもしれない。彼の言う究極の力がどんなものなのか…その果てに何を手に入れるのかを見てみたいのかもしれない……)

 

危険極まりないイレギュラーに変わりなく、魔法少女にとっては魔女と同等の災厄でしかない暗黒騎士のどこに期待が寄せられるのだろうか?

 

自分は歪んでいるかもしれない。それこそ矯正ができないほどのそれを抱え込んでいる。暗黒騎士に何かを期待してしまうほどに……

 

それを僅かながら認めてしまうとバラゴに対する嫌悪が、同族嫌悪が少しだけ和らぐのは……暁美ほむらは惰弱な少女でしかないのだろうか……

 

自分が一番分からないことは自分自身と誰かが言ったが、確かにその通りだとほむらは思うのだった………

 

 

 

 

 

 




あとがき

さて、次回で本編とバドのサイドストーリーを同時に終えられたらなと思います。

一応ではありますが、呀はかずみ☆マギカと交差します。劇場版 呀ということで使徒ホラーとの対決に入ります。

ヒーロー バラゴ。ヒロイン ほむらの提供で行えればと思います。七月までには全ての話が書き終えればと目標を立てていますが、最近はまた忙しくなりそうでどうなることやら………

それはそうと、恭介のヴァイオリンの先生ですが、設定では父親が先生らしいんですが、こちらでは別に先生が居るという設定にしています。さらには志を同じくするスクールのメンバーもいます。

何となくですが、ほむらがデれました……

オリジナル魔法少女 蓬莱暁美に関してはダイジェストで物語りに出てきますが……

一言で言うなら、彼、キュウベえ、彼女の組み合わせは”三悪人”とでも言っておきます。




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第二十話「亀裂(3)」

上条恭介ファンの方についてですが、NAVAHOは彼が嫌いなのかと思われかねませんが、決してそうではありません。

恭介の不幸は確かにだけれど、それを乗り越えるのは彼自身であり、さやかは余計な事をしたような気がしないでもないです……

本編での結果は、彼女も納得していましたので特に何も言いません。

ただ、彼の奇跡とその代償でのさやかの生涯とを考えると理解は出来ても納得は出来ないだけです。

劇場版でも仁美に対しても、寂しい思いをさせているところを見ますと・・・・・・スタッフ曰く、音楽を第一にする男らしいですから……




 

奇跡

 

「神の力」 奇跡の起因からの名称である。奇跡は、被造物の世界に創造主である神が力をもって介入した時に起こることから……

 

古来より、人々は想像を超えた力の存在を信じ、それらにより人では叶えられないことを行ってきたと信じていた。

 

超自然的な力は”精霊”とも呼ばれ、「その人を救う為に行うべき事としてはならないこと」を説く教えも存在する。

 

奇跡とは、我々人間では到底図りきれないモノである………

 

 

 

 

 

 

魔法

 

「神」以外の力によって起こされた奇跡を指す。魔法は、宗教や地域によって様々な定義が存在する。

 

一つにユダヤにおける賢い”magi"より発生し、複数の意味の”magic"マジックと我々が知る一般的なイメージに近い。

 

西洋では、魔法は宗教、神に反する物とされ”魔女狩り”が行われた歴史を持つ。魔法=悪は、東洋よりも西洋では根深く存在する。

 

よって魔法は、神の奇跡を意図的に起こした”人の業”とも言える………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原の住宅街の一角に久々にヴァイオリンの音色が響き渡っていた。数ヶ月前までは、いつも鳴り響き、近隣の人達はそれを覚える程だった。

 

数ヶ月ぶりに上条恭介は、自宅の自室でヴァイオリンを弾いていた。同年代で彼に匹敵する奏者は居ないといわれるほどの腕前である。

 

本来ならば、入院中であり病院に居なければならないのだが、彼が無理を言って退院し、そのままリハビリも兼ねて明日より登校の予定である。

 

「……少しでも遅れを取り戻さないと……いつまでもこんな所で燻っている暇なんてない」

 

無理はしてはいけないと医者に言われているが、多少は無理をしても遅れを取り戻さなければならないという”焦り”が上条恭介の胸中に渦巻いていた。

 

何時かは手が治ると信じリハビリにも力を入れていたが、どういうわけか治る筈がない手が治るという奇跡に上条恭介は涙した。

 

自分を神は見捨てては居なかった……ヴァイオリンを弾けることに感謝した……

 

どれぐらいの時間、演奏していたか分からなかったが、扉から母が出てきたとき、ノックをしていた事に気がつかなかった。

 

「恭介……鹿目さんからお電話よ」

 

「鹿目さん?何のようだろ……」

 

意外な人物の名前に、上条恭介は疑問符を浮かべた。言うまでも無く、彼女とは顔見知り程度の関係で、さやかの幼馴染の一人ではあるが、これと言って仲が良いというわけでもなかったからだ。

 

先日の病院では手が治ったことを気づかせてくれたこともあるが、その件に対して喜びではなく失望に似た表情を彼女は浮かべていたのだ。

 

その事を思い出すと上条恭介は、折角のよい気分が冷めていくのを感じた。どうせ大したことでもないのなら、謝罪なら明日にでも聞ければ良いと思い……

 

「母さん。鹿目さんには、今日は電話に出られないって言っておいてくれないかな……」

 

「せっかくお電話をしてくれたのに?」

 

「良いんだ。明日、学校に行くから、向こうに用があるなら向こうの方から聞きに来るだろうしさ」

 

上条恭介は再び弓を構え、演奏を始めた。再び演奏が鳴り響き始めた……

 

息子は少しばかり難しい性格をしている。このことは母親は理解しているが、溜息をつくしかなかった。

 

結局、この日彼がまどかからの電話を取ることはなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿目家

 

自宅の固定電話の前で、まどかは溜息を付いていた。原因は先ほど電話をかけた上条恭介がそれに出てくれなかったことだった……

 

(……上条君。どうして、話を聞いてくれないのかな)

 

これまでの自分は知らなかったが彼が皆に黙って退院し、その翌日には学校に登校し、それを誰よりも心配していた彼女の心に傷を付けたことを今の自分 鹿目 まどかは知っていた。

 

上条恭介は、まどかにとってはある意味宇宙人のような存在だった。内気で気弱な性格の為、乱暴で意地悪な印象を持つ男の子というものが非常に苦手だったのだ。

 

幼少期の頃、数人の男の子に虐められたこともあり、その件で自分から話すということはほぼ皆無であった。

 

結局、また繰り返されるのだろうか?これは今も、時間を遡行している彼女も同じ思いをしているかもしれない。

 

未来を知っていてもそれを簡単に変える事は出来ない……彼女と比べれば、自分は新米そのものであるが、痛いほど理解した。

 

「なぁ、まどか。ちょっと良いかい?」

 

気がつくといつの間にか母が自分を呼んでいた。

 

「なに?ママ」

 

「ちょっと、晩酌に付き合って欲しいんだな」

 

「えっ?私、お酒なんて飲めないよ」

 

「まぁ、飲めなくても話ぐらい聞いてくれればいいからさ」

 

母の笑みに誘われ、家族全員で母曰く”晩酌”が始まった。

 

仕事の愚痴から始まり、最近の出来事に一喜一憂しながらまどかは、話を聞いていたが、少し気になることがあったので思い切って聞いてみた。

 

「ねえ、パパ、ママ。もし、誰かが大切なモノをなくして、その人の為に大切なモノを取り返すってのはアリなのかな?」

 

娘の突然の問いに二人は、少し驚いたが、考えるように唸りながら……

 

「そうだね…僕は、二人の同意があればと思うけど……片方の一方的なそれだと、少し問題があると思うよ」

 

「そうなの?例えば、一度だけ叶えられる願いをその人の為に使うとか」

 

妙に具体的な例え話だが、父 知久は内心、やはり何かあったと察するが娘に悟られるわけには行かないと思い……

 

「その大切なものが何なのかはよく分からないけど、どうしても取り戻したい事なら、何とかしてあげたいという気持はわかるよ。だけど……」

 

「だけど?」

 

「その大切なモノを元通りにしてあげることが本当にその人の為にしなければならないことなのかなって……」

 

知久の言葉には、何かを含んでいるように感じる。

 

「どうして、その人の為にならないの?」

 

「う~~ん。僕自身も良くわかっていないところもあるんだけれど、その人の人生に意味の無い”試練”はないんだってさ」

 

突然の”試練”という言葉にまどかは戸惑ってしまった。父はこんな熱血な言葉を使うような人ではなかったはずだからである。

 

「こらこら、知久。まどかが戸惑っているだろ。その試練っていうのを言ったのは、大河さんだったよね」

 

「そうだね。大河さんの事をまどかに教えないと分かりづらいよね」

 

二人だけに分かる笑みに対し、まどかは困惑するしかなかった。

 

「大河さんってのは、まどか。アンタの名づけ親さ」

 

「えっ!?私に名付け親が居るの?私に親戚が居るって聞いたことないよ」

 

自分の名前のルーツを始めて知り、まどかは驚くしかなかった。

 

「はは。実を言えば、アタシと知久は駆け落ち同然でここ、見滝原に来たのさ。そのときにお世話になった人でさ……」

 

そこはもっと重い話になるんじゃないのかとまどかは思うのだが、両親は懐かしそうにそれでいて、楽しく当時の事を語るのだった。

 

「でさ……大河さんは言ったさ。人の力は本当に小さくて弱い。だから、一つ一つ”試練”に打ち込む。そうすれば、何時かは一人の人間が大きな星すら動かすほどの軌跡を起こすかもしれないってさ」

 

一人の人間が起こす大きな奇跡……その例えにまどかは、自分では受け入れることの出来ない”可能性”の一つが浮かんだ。だが、アレは”魔法”に縋った結果であり、人の力とはいえないだろ……

 

「それって、魔法とか不思議な力なのかな」

 

「アタシは、そういうもんじゃないと思う。色んな人が物事に関わって、それでいて一つの形に仕上げていく感じじゃないのかな」

 

難しいことは分からないけどねと豪快に笑いながら、母は勢いよくビールを飲むのだった。

 

(……いつかは、魔法少女たちもインキュベーターの手から離れる時が来るのかな)

 

彼らが宇宙を救う為に利用する感情のエネルギーは、もしかしたら、彼らもまた人の持つ大きな力の存在を知り、利用しているのではないかと……

 

まどかは、そう思わずには居られなかった………

 

「アタシから言わせて貰うと余計なお世話って言いたいところだけど……大河さんもそんな感じだったしね」

 

当時の自分は、色々と余裕がなく迷惑ばかりかけていた。そんな自分も今や二児の母親である。

 

「話を戻すけどさ。何も魔法や奇跡が悪いってわけじゃない、それをどう扱うかは本人次第さ」

 

その結果が望んだモノと違うものかもしれないが、

 

「自分なりに納得の行く結果が得られれば、それはそれで良いかもしれないね」

 

(………納得のいく結果か………)

 

まどかが関わっている問題は冷酷で残忍なモノである。それを根本的に解決、せめて、希望を見た魔法少女たちを絶望で終わらせずに出来る方法は”あの可能性”でしかなかったかもしれないが……

 

(………何だか、少し歪んでいるかもしれない。結局は………)

 

古い漫画であるが安楽死を持って苦しむ病人を救おうとする男は、”あの可能性”と根本は同じで苦しむ人を救いたいという純粋な願いからであるのは、間違いないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たあぁっ!!!」

 

奇怪な結界…魔女のものではなく、使い魔の結界の中を勢いよく駆けて行く影が一つ……美樹さやかである。

 

白いマントを靡かせ両手にサーベルを構えながら、迫りくるかつての”薔薇の魔女”の使い魔達の両バサミを巧みに受け止めながら両断する。

 

数はかなり多いが、さやかは焦ることなくむしろ余裕を感じさせる表情で使い魔達を見据えていた。

 

「ふふん♪頭数、揃えたって無駄だよ♪」

 

マントを大きく靡かせると同時に無数のサーベルが出現し、それらを自身の魔法で浮かび上がらせ、

 

「いっけえええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!」

 

ギロチンの断頭を思わせる勢いでサーベルを使い魔達を串刺しにした。使い魔達は、全て狩られたと同時に結界は消滅した。

 

結界が晴れるとそこは、繁華街の路地裏であった。

 

「さぁ~~てと、さやかちゃん。今日も頑張っちゃいましたね」

 

上機嫌と言わんばかりにさやかは、使い魔が消えた場所には”アレ”は無かった。

 

「やっぱり、グリーフシードは落とさないか……まぁ、やらなくちゃいけないんだよね」

 

「そう……かつて、佐倉杏子は効率が悪いからと言って、使い魔を放置し、人を襲わせていたわ」

 

「って……いきなり出てきて、早速嫌味で人の悪口ですか?先輩」

 

現れたのは、巴マミとその肩に乗るキュウベえであった。二人の姿にさやかは、軽く舌打ちをした。

 

「まぁ、マミ。佐倉杏子は最近、その辺のところは反省しているみたいだし、それをここでいう事はないんじゃないかな?」

 

キュウベえの助言にマミは”それもそうね”と返す。

 

「悪口に聞こえるのなら、私の配慮が足りなかったわ。でも、必ずしも絶対視するものではないわよ」

 

「へんっ!!そんなこと、アンタに言われなくっても分かってますよ!!!」

 

”姐さんのことは、私がよく知っています”と言わんばかりにさやかは返すのだった。

 

「そうね……貴女がそういうのならそういう事にしておきましょうか」

 

「いちいち、癇に障るな~~アンタって……」

 

さやかの憎まれ口には慣れたのか、マミは特に言葉を返すことなく……

 

「貴女は魔法少女になったのは、本当に後悔のない選択だったのかを個人的に確認をしておきたかったの」

 

「そうですよ!!!だったら、話してあげますよ!!!アタシの覚悟を!!!!」

 

可能性を断たれた幼馴染の絶望を払ったことを…その代償に戦い続けることに後悔はないと……

 

眼前を行く人々の生活を守ることに誇りを感じ、自分の行いは”正しい”ことであると……

 

(その願い……本当にアナタの正直な心なのかしら?彼を救いたかったの?それとも彼の恩人に……)

 

さやかに対し、マミは不安を募らせてしまった。人は言うまでも無く欲望、望みを際限なく要求する生き物である。

 

目の前に自分にとって美味しいモノがあれば、それを手に入れようと…もし、それがすぐ伸ばせば手に入るところにあれば、真っ先に手を伸ばすであろう。

 

最初の望みを叶えたら、その次の望みを叶えようとするだろう。手を治したら、次に望むのはその男の子と……

 

「本当に貴女はそれで良いというの?貴女が後悔しないと言い切れるの?」

 

魔法少女は増えるべきではない。その生き方はある意味自業自得であり、誰のせいにもすることはできない厳しい茨の道だからである。

 

その生き方を選ぶことはなるだけして欲しくないのだ。伝えなければならないのだが……

 

「分かってますって!!!そんな説教言われなくても!!!!アタシは後悔なんてしてない!!!!それで良いじゃないですか!!!!」

 

「ま、待って!!!」

 

さやかはそのまま壁を蹴り、建物の屋上に向かうようにして路地裏から去ってしまった。

 

さやかが去った後、マミは自分が伝えたいことを伝えることの難しさに…それができない自分の未熟さに肩を落とすしかなかった。

 

「駄目だな~~。私って……どうして、こんなにも駄目なんだろう」

 

かつて、佐倉杏子が自分の元を去った時も結局は、互いに自分の都合を主張ばかりして、話を聞くこともできなかった……

 

「……ほむらさん。アスナロ市から早く帰ってきてね……私って意外と寂しがりだから、拗ねちゃうかもしれないからね……」

 

「マミ。僕が居るのに、それはないんじゃないかな?」

 

「男の子には、分からないことです」

 

肩をすくめるキュウベえに対し、マミは厳しく突き放す。少し前に彼女の”使い魔”により、町を離れることが伝えられ、ほんの少しだけ寂しく思うのだった。

 

マミ達から離れた空を青く輝く蝶が飛んでいた。その蝶は、歩道橋の上を歩く一人の少女の手元に止まる。

 

「巴さんには、これで………良し」

 

良しと言って良いのか微妙なところであるが、ほむらはこの”時間軸”の異質さもそうだが、現状ではこれと言った問題は起っていない。

 

だが、彼女にとっては最大の目的であり救うべき少女とは未だに言葉すら交わしていないことが悩みであった。

 

(このままでは行けない……とは、分かっているけど………まどかの安全を考えると一番は、関わらないことが……)

 

彼女を護る自分になりたい。出会いをやり直したいと願ったが、どうしてもそれ以上の事を求めてしまう。

 

まどかと一緒に学校に行き、勉強をし、遊びに行ったりと……

 

(分かっているわよ。それは叶える事ができない願いだって事……私達の過剰な欲求が自分の願いを裏切る……)

 

憎たらしいことこの上ないがインキュベーターの言う事に間違いはなく、彼自身に非?は無いかもしれないが……

 

(納得が出来ないなんて……本当に自分勝手なものね……)

 

だからこそだろうか。この時間軸で行動を共にしている彼 バラゴに期待を抱いてしまうのは………

 

正義とは言い難い行いをする暗黒騎士の行動は、心の奥底にある暗黒面の感情を大きく刺激する。ホラー映画等でも主人公が凶悪な殺人鬼であることは、受け入れられないのだが、人はそれを受け入れ、あろうことか自分の感情を移入してしまう。

 

自分もバラゴに感情移入しているとでも言うのだろうか?同類の匂いを感じるからこそ嫌悪してはいるが、親しみを憶えるという訳の分からない自分の心情には呆れるしかなかった。

 

エルダから貰った使い魔は自分の周りをこの右も左も付かない様に飛んでいる様はどちらにも定まらない自分の不安定な心情を顕しているように見えた。

 

「……誰にも言えるわけないわよね……」

 

もし、自分がやばい男の事が気になっていると相談をすれば殆どの知り合いは”そんな男はやめておけ”と口を揃えていうだろうが、彼女だけは、戸惑いながらも肯定してくれる……そんな気がするのだ………

 

(……そこまで酷い奴じゃ……何を言っているのかしら。私は……)

 

自己弁護まで始めだしたら、いよいよ自分はどうかしているようだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

体調もよくなり、まどかはいつものように通学路で幼馴染を待っていた。

 

「おっす、まどか!!」

 

「おはよう。さやかちゃん」

 

いつもに増して上機嫌な親友は、本来なら喜ぶべきことであるが、あまり喜ぶべきではないのではと感じてしまう。

 

「どうしたの?まどか。まだ、体調が悪いの?」

 

「う、ううん。大丈夫だよ」

 

「本当に?あんまり無茶はしちゃダメだぞ。それよりもあの犯罪者に本当に何もされなかったよね」

 

”あの犯罪者”こと柾尾 優太に対し表情を険しくするさやかであるが、まどかはあの青年のことを思い出すと背筋が寒くなった。

 

人間であるが人間を感じさせない青年。人形が人間の振りをしているだけにしかみえないガラス細工のように何も映さない瞳。

 

一度だけであるが、あの青年を見たことがある。父とタツヤの三人で公園で遊んでいた時、彼がやってきた途端、優しい父が険しい目で彼を睨み、自分達を連れて公園を出て行ったことがあった。

 

その時に父が険しい目を向けていたのがあの青年だった。

 

「あぁ~~。自分で言うのもなんだけど、あの犯罪者のことを朝から、言うもんじゃないわね……まぁ、いざとなれば……」

 

ソウルジェムが変化した指輪に視線を向ける。

 

「さやかちゃん。そういうのは、良くないよ。そんな事の為に魔法少女の力を使うなんて……」

 

手に入れた力に対し、さやかは半ば自惚れていた。その様子にまどかは、彼女が出会った最初の頃の自分を重ね、少しだけ溜息を付きたくなった。

 

「まぁ、そうだね。姐さんやおじ様に叱られちゃうね……こういう時に、ほむらが間を取り持ってくれたら……」

 

「えっ!?!さやかちゃんっ!!!ほむらちゃんのことを知っているのっ!!!!」

 

突然の言葉にまどかは、勢いよくさやかに詰め寄った。

 

「ちょ、ちょっと、まどか……な、何よ、アンタ、どうしちゃったっていうの!?」

 

「ちょっとでもなんでもないよ!!!何で、さやかちゃんがほむらちゃんを知っているの!!!!」

 

今までに見たことのない幼馴染の様子にさやかは、戸惑うしかなかった。そもそも、ほむらとまどかに面識はあったのか?

 

二人のつながりが良く分からないことに対し、さやかは困惑した。

 

「………何を騒いでいるんですの?道を歩いている人に迷惑ですわ」

 

二人の間に割り込むように仁美が普段とは違う険しい表情で押し通った。特にさやかを見る仁美の視線を厳しい。

 

指輪に対し、ますます表情を険しくし、話さずに立ち去っていった。

 

「全く……どうしちゃったのよ。仁美……」

 

わけがわからないと言わんばかりにさやかは口を尖らせる。まどかは、複雑そうに二人を見ていた。

 

(……何だか、この空気って嫌だな……)

 

まどかの悩みを気に掛けることなく、一人の少年が松葉杖を付いて登校する光景があった。

 

「きょ、恭介?」

 

久しぶりに見る恭介に対し、周りの同級生達は声を掛けていく中に自分達を押しのけていった仁美の姿も会った。

 

困惑するさやかに対し、まどかは彼女の様子が不安定であることを察するのだった。

 

(何よ……恭介の奴。アタシに何も連絡を入れないなんて……)

 

悲しそうにそれでいて怒っている様な表情にまどかは、先ほど気になっていたことが聞けなくなったことに対し……

 

(上条君……どうしてなのかな………)

 

どんなに頭を捻っても彼のことが理解できなかった。そうまるで遠い星から来た宇宙人のように………

 

いつもの見慣れた光景のはずなのだが、何かが違うように感じる違和感。

 

何がこの日常を変えているのだろうか?奇妙な日常に対し、まどかは少しだけ頭が痛くなった……

 

 

 

 

 

 

 

日常に入り込んだ非日常により刻まれた亀裂は、音を立てて日常を大きく歪ましていく・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

そこは繁華街の一角であった。誰も寄り付かないというよりもかつては、栄えたであろう一角であるが今や見るも無残な光景が続いている。

 

数十年前のバブル経済の遺跡ともいえる場所を小さな白い小動物ことキュウベえが我が物顔で歩いていた。

 

「数年経ってもこの場所は変わらないね……蓬莱暁美。君と僕とで作ったアレである少女達が面白い試みをしているよ」

 

ある建物の前に止まり、キュウベえは感慨深そうにその建物を見つめていた。ここには、ある魔法少女がインキュベーターと共に築いた”遺物”が残っていたが、数ヶ月前にある一団がそれを持っていってしまったのだ。

 

人間ならば怒りを覚えるところだが、彼にはそう感じる感情は無かったが、むしろ呆れていた。

 

「向こうにはイレギュラーの暁美ほむらが行ったようだし、君達とどういう風に絡むかを僕は近くで観察させてもらうよ……」

 

キュウベえは、ふと気配を感じ背後を振り返った。いつの間にか、美樹さやかの父親 総一郎が立っていたのだ。

 

彼は興味深そうに建物を見ていた。そして、意を決したように中に入っていくのだった。

 

「美樹さやかの父親は何かを察したようだね。蓬莱暁美の真実を……だけど、彼は真実を探るどころかそれを理由に……」

 

再び凶行を重ねる理由にしていた。彼は、彼女の事が大事であり、心を感じることが出来ると信じている、思い込んでいる。

 

「彼には、その辺の利用価値はあるみたいだからね……蓬莱暁美。そうなるのなら、君も本望だろう」

 

今は居ない少女に語るキュウベえの姿に感情を持たないとされる生き物に”感情”の影がよぎっていた………

 

 

 

 

 

 





あとがき

次回……何かが起きます……話の進みが遅いかもしれませんが、早くすると何となく違和感を覚えてしまいますのは、どうでしょうか?う~~~ん。

ちなみにほむらの気になっているお相手に対してどうすれば良いのかという悩みを”何処かで見たことのある人”の元ネタの少年に伺ってみたいところです。

ほむら(呀)「彼については自分でもよく分からないの。嫌いなのか、好きなのか……恋愛ではないと思う……」

大概の人はそんな男は辞めておけと口を揃えていうかもしれませんが(笑)

最後に、恭介が少し嫌な男になってしまいました(汗)




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第二十話「亀裂(4)」


最初にですが、この話でマミさんは禄な目にしか遭いません……

考えてみれば比較的マシなのは杏子ぐらいじゃないかと思うしだいです。

まどか  良く分からない記憶に振り回されていて情緒が若干不安定。

さやか  今のところ原作基準(これは良いのでしょうか?)

ほむら  ヒロインではあるが、ヒーロー?バラゴに対し、色々と複雑な思いを抱き葛藤。

仁美   魔法少女の件を知り、少し嫌なキャラになりつつ……

こうしてみますと皆、あまり良い目に遭ってないような気が…どうでしょうか?






 

 

 

上条恭介の登校は、見滝原中学校にとってホットなニュースであった。

 

学校側も天才ヴァイオリンリストの復活は喜ばしい。だが、この喜ばしい雰囲気に対して、二人の少女は眉を寄せていた。

 

特にさやかの表情は戸惑いもそうだが、半ば怒りの色すら浮かんでいたのだ。

 

「さやかちゃんは、上条君のところには行かないの?」

 

「……あ、アタシは良いよ……別に」

 

歯切れの悪い幼馴染に対し、まどかは思わず彼女の手を取り、

 

「誰よりも上条君の手が治って嬉しいのは、さやかちゃんなんでしょ!!!!」

 

「ちょっ!!!まどか、またっ!!!」

 

今日の幼馴染は、かなりアグレッシブであるとさやかは思うのだった。

 

「上条君!!!おはよう」

 

周りに大きく聞こえるようにまどかは、上条恭介の周りの生徒を押しのけて強引にさやかと対面させる。

 

「あ、鹿目さん。おはよう………さやかも……」

 

さやかを見る恭介は、特に何との無く……いや、今までと変わらない朗らかな笑みを浮かべ

 

「おはよう、さやか」

 

「お、おはようって……何、学校に登校してるの?まだ退院じゃなかったよね」

 

戸惑いながらもさやかは、自分の疑問を彼に問い掛けた。

 

「ああ、どうしても早く遅れを取り戻したくって……いつまでも病院のベッドにいるわけには行かないよ」

 

恭介は治った手を動かし、自分のやりたいことを告げる。今は、ヴァイオリンが引けることもそうだが、早くスクールの仲間達と合流しなければならない。それにコンテストだってあるのだ。

 

今年は出られなくても、来年は前の年にやれなかったことをやらなくてはならないのだから……今の上条恭介の目は、希望に満ち溢れていた。

 

「恭介……(今、やりたいことがたくさんありすぎてアタシのこと、眼中に無かっただけ?)」

 

思わず、嫌な思いが胸中によぎっていたが、上条恭介に悪意はなく、彼は純粋に今の自分が嬉しくて仕方が無いのだ。

 

「(……それでもショックだな)…行くなら行くって、連絡ぐらい入れなさいよ」

 

「はは、ごめん、ごめん。母さんにも言われたよ……でも、いつまでも誰かを背にもたれるわけには行かないからね」

 

彼にも一応のプライドというか吟味があるようだ。その事を察するとさやかは、盛大に溜息をつき……

 

「まったく。アンタは……まぁ、恭介らしいといえば恭介らしいかもね」

 

ニッと笑みを浮かべ、さやかは恭介と肩を並べて登校するのだった。その際に仁美が睨んでいたが、その事を察する者は誰一人としていなかった。

 

「これで良かったのかな……」

 

魔法少女となったさやかは彼に対し必要以上に境界線を貼り、自分で自分を追い詰めていたように思える。ここで二人を接触させれば、あの事態を回避できるかもしれないのだ。

 

「よう。まどかだったけ…ありゃ一体、何があったんだ?」

 

「あ、佐倉…「杏子でいいよ」

 

数日振りに杏子が見滝原中学校に登校していた。その表情は、僅かながら苛立ちの色を浮かべていた。

 

「杏子ちゃん……あの……」

 

「言われなくっても分かってる…ほむらの言う事は本当だったんだな」

 

「杏子ちゃんも!!!」

 

まさか、彼女からもほむらの名前を聞くとは思わなかった。

 

「アタシもって…アンタもほむらを知っているのか?」

 

昨夜、青い蝶の使い魔を見つけ、その後を追った所で彼女に叔父と共に出会ったのだ。

 

(……ほむらちゃん。大丈夫なんだ……でも、どうして学校に来ないんだろう)

 

本来なら転校生である彼女は、自分たちと同じように登校するはずだったが、何故か、居る筈の無い両親が居り、さらには”探し人”として捜索までされているのだ。

 

この時間軸での自分もそうだが、色々とイレギュラーが複雑に重なり合っていることだけは間違いなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、まどか、さやか、杏子の三人は屋上に居た。

 

「ったく……安易に奇跡に縋るなって言ったよな…」

 

さやかの指に嵌ったソウルジェムを見ながら、杏子は溜息を付くしかなかった。

 

「まぁ、そうですけど……でも、どうしてもやらなくちゃいけないって思ったんです」

 

絶望に陥った彼を救うには願うしかないと……そのことに対して自分は後悔なんてあるはずが無い。

 

さやかは、やらなければないと……純粋に彼を助けたかったのだ。

 

「そうかよ……でも、もっとやりようはあったんじゃないか?って…電話だ………って、叔父さんだ!!!」

 

杏子は思わず電話を取った。小言というよりも愚痴だけが出てきたが、突然の電話に対し驚いてしまった。

 

<杏子ちゃん。今の時間、大丈夫だよね?>

 

「うん。大丈夫だよ。ちょうど、昼休み始まったばかりだし……うん。わかった」

 

いつもの叔父の声に安心し、彼の意図を察した杏子は電話をさやかに差しだし、

 

「叔父さんがさやかと話したいってさ」

 

「えっ!?!おじ様が?うん、分かった」

 

もしもし、さやかですと応える。

 

<さやかちゃん。以前、俺は君に言ったよね。もしもの事があったら、必ず相談するようにと…>

 

バドは内心、迂闊に見滝原を離れてしまったことを悔やんでしまったが、なってしまったものはどうしようもなかった。

 

だが、これからをどうするかは自分達で決められる。さやかも最悪の結末にならないで済む場合だってあるのだ。

 

「姐さんにもおじ様にも申し訳ないんですけど、アタシにもやらなくちゃいけないことがあったんです。恭介を助けることがそんなに悪いことなんですか?」

 

さやかは、真剣になって彼を助けたかったのだ。純粋に目の前に一発逆転の奇跡があるのならば、それに手を出すのも無理はない。

 

事実、彼もまたそのような奇跡を内心、願ったことがある。あの夜の事を無かったことにできればと………

 

頭ごなしにさやかを否定することはできない。そんな事をしても何の解決にもならないからだ。

 

<叔父さんからは、さやかちゃんがそうしたかったのなら、それを尊重すべきだと思うけど、なってしまったものは仕方ない>

 

魔法少女の真実をこのまま伝えるわけには行かない。だが、そのための準備もしている。

 

<これだけは聞いて欲しい。おじさんもそうだが、俺とさやかちゃんの生き方は例え騙されるような事があったとしても選んだのは自分自身だ。誰のせいにもできないし、誰かを責めることは絶対にしてはいけない>

 

彼の厳しい言葉にさやかは思わず息を呑んだ。自分の願った奇跡は自分自身の責任の為、誰にも頼ることは出来ない。だが、

 

<だからだ、何か困った時があれば、必ずおじさんに相談しなさい。もし、一人で抱え込むようなことがあれば、杏子ちゃんと一緒に乗り込むからね>

 

「それって凄く図々しくないですか?おじ様」

 

いきなりのバドの言葉にさやかは、苦笑いを浮かべる。

 

<魔法少女絡みはおじさんにとっては、他人事ではないからね。だからこそ、近くにいる子だけでも何とかしてあげたいんだ>

 

「分かりました。そういう図々しいおじ様、嫌いじゃないですよ」

 

<そうかい。じゃあ、杏子ちゃんにもよろしくと伝えてくれないか>

 

了解と敬礼をしてさやかは、バドの電話が切れるのを確認し杏子に返した。

 

「姐さんの叔父様って本当に素敵な人ですね~~」

 

意味深に笑うさやかに対し、杏子はムッとし

 

「あっ!!アタシの叔父さんだぞ!!!変なこと言うなよ!!!」

 

「あれっ、姐さん。もしかして妬いてます~~」

 

幼い声であるが、何処と無く大人びた少女の年相応の姿にさやかは笑わずには居られなかった。

 

「ばっ、そうじゃねえよ!!!」

 

二人のやりとりにまどかは、ホッと胸をなで下ろした。

 

魔法少女の問題については、杏子の叔父が協力してくれる。

 

(初めてだね……大人の人が、それも一緒に戦ってくれるかも知れない人が居るなんて)

 

魔戒騎士という存在がどういったものか良くわからないが、魔法少女と同等の力を持つのは間違いなく。経験豊かな年長者が居てくれるのは心強い。

 

(後は……ほむらちゃんも一緒に居てくれたらな)

 

自分を助けようと苦難に挑む出会ったことも無い友達にこの最善の状況を伝えたかった………

 

さやかが恭介にお昼に誘われた為この場から居なくなった後、杏子はまどかに、

 

「なぁ、まどか。アンタとほむらの接点がよく分からないんだ?どういう知り合いだよ?」

 

(……ここで真実を話しても良いのかな……でも、杏子ちゃんなら……)

 

他の時間軸でほむらが最も信頼を置いていたのは、杏子であることは間違いない。今の自分とほむらの事を話してもきっと信じてくれる……

 

「ねえ、杏子ちゃん。私が実は未来の事を知っているって言ったら?」

 

「な、何だってっ!?!」

 

いきなり突拍子の無いまどかの言葉の杏子は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。アタシの頭の出来じゃ追いつかないけど、アンタの言っていることは嘘じゃないんだな」

 

「うん。私も凄く不安なんだ……この記憶が何なのかって、本当に私なのかって……」

 

不安そうな表情のまどかに対し、杏子は

 

「未来を知っている事情通なら、もっと自信を持てよ」

 

”パン”と、肩を叩き励ます。事情はまだ理解できないところは多いが、

 

此処ではない場所で一人の少女が近い未来に契約し、過去へ遡り、運命を変えようと奮闘する物語。

 

「……ほむらの奴もさやかと同じで他人の為に自分を犠牲にしすぎだろう」

 

まどかにより明かされた暁美ほむらの真実。彼女も本人の了承も無くその正体を伝えることに罪悪感を憶えたが、話さなければ相手も分かってくれない。

 

「ほむらは、ほむらで他の魔戒騎士と一緒にいるみたいだし……今度、あったらアタシが腕掴んでまどかのところに連れてってやるよ」

 

杏子も杏子で同じ魔戒法師の術を使うほむらを気にしているようである。さらにマミのことも気に掛けているようなので、個人的にも仲良くしておきたいのである。

 

「どんな騎士と一緒にいるのかな~~。もしかして、叔父さんみたいに称号持ちの騎士かな」

 

二人の魔戒騎士が力を合わせる。まさに愛と勇気が勝つ王道のストーリーではないだろうか。だが、まどかはほむらと一緒にいるであろうその魔戒騎士に心当たりがあった。

 

(……ほむらちゃんと一緒にいるのってまさか……)

 

かつて夢の中で現実で見た闇色の狼 暗黒騎士 呀。もし、そうだとしたら、彼女が自分の前に現れない理由も察しが着くのだ。

 

危険なイレギュラーと関わってしまい、自分達を傷つけないように姿を現さない。今の状況は喜ばしいが、この状況を壊しかねない存在まで居るとなるとまどかは頭が痛くなった。

 

懸念だったのは、自分を殺すために暗躍していた魔法少女たちも居たが彼女達は”この時間軸”に存在していないのか、姿を現さない。

 

その魔法少女たち以上の脅威が近くに居ることに対し、単に未来を知るだけではどうにもならないことを痛感するしかなかった。暗い気持のまどかに対し、杏子は明るい心持で二人の魔戒騎士の共闘に心を躍らせるのだった。

 

「それはそうとさ、マミが今日、休みだって……なあ、まどか。この時期のアタシ達ってどうだったんだ?」

 

マミも交えてさやかと話そうと考えていたが、彼女はどういうわけか無断で欠席をしているらしい。つい最近も不登校だったが、久しぶりに来たと思ったら今日もまた………

 

「色々とパターンがあるんだけど……病院の一件でマミさんが魔女に……その後に杏子ちゃんがインキュベーターに誘われて……」

 

映画を見るような気軽さとはいえない生々しい光景の数々。彼女が遡る時間はそれぞれ違っていたが、親しい人、ましてや自分が異形と化す言葉にし難い感覚、さらには死んでいく光景をペラペラと喋ることができようものか……

 

「あぁ、分かった。それ以上は言わなくて良い。あんまり無理はするなよ。無茶はしても……」

 

顔色が悪くなっていくまどかに杏子は、この少女がかなり無理をしていることを察した。こういうときに気の利いた言葉一つ満足に言えない自分に内心、呆れながらも…

 

「まぁ、気分治しに食うかい?」

 

本来は”学校”に持ち込みは禁止であるが、何故か持っている”お菓子”をまどかに差し出す杏子だった。

 

(……見滝原に戻ってから色々とやることが増えたな……それにしても、マミの奴。どうして学校に来ていないんだ?)

 

事情を知っているまどかに尋ねようにもかなり無理をしている為、聞くことは難しいと思い、特に追求することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昨日まで遡る。杏子がポートシティーから戻った夜のことだった。

 

マミは、自室に戻るべくエントランスを歩いていた。夜も遅いため、照明は必要最低限しか照らされたいないがそれでも充分だった。

 

普段ならばキュウベえを肩に乗せているのだが、そのキュウベえは”用事が出来た”と言って何処かに行ってしまった。

 

最近少しばかり付き合いが悪くなっている友達に対し愚痴りたくなるが、彼が居ない事に少しだけ落ち着いている自分が居た。

 

どういうわけか、最近のキュウベえは他の魔法少女 ほむらと顔を合わせようとしない。さらには、時々物思いにふけるようにリビングの窓からある方向を眺めていることが多くなっている。

 

キュウベえの見ている方角は、マミにとっては絶対に関わりたくない場所……そう、かつてキュウベえと契約を交わした場所なのだ。

 

魔法少女としての自分が誕生したのだが、それは同時に両親を亡くした場所でもあった。だからこそ、キュウベえが何を思っているのかを尋ねることはしなかった。

 

あの過去は自分にとっては思い出したくもないが、自身の魔法少女としてのあり方にも疑問を感じてしまう。

 

”助けて……”

 

あの日の事故に遭って、冷たい死から逃れたくてキュウベえと契約した。自分が助かりたいがために……

 

どうして両親を助けなかったんだろうと……何度も後悔をした。もし、やり直せるのならばあの日の自分に言ってあげたい。

 

”私達を助けて”

 

そんな願いだったなら、両親は死なずに済んだのではないかと………

 

後悔をするよりも今をどうにかしなければならないことは誰かに尋ねなくてもわかる。過去の自分勝手な自分ではなく、人々の為に何かをしてあげるそんな存在にならなければならなかった。

 

故に魔法少女として、正義を行おうとした。人々を影から守り、それを他の魔法少女たちにも教え、導こうともした。

 

”そういうのってさ、魔法少女としては褒められた物じゃないよ”

 

”これからはさ、魔女だけを狙おうよ”

 

自分自身の願いの為に戦う。それが魔法少女にとっては無理の無い選択であるが、マミはそうではなく誰かの為に戦うという姿勢を曲げることは無かった。

 

他の魔法少女たちからは損をしているとも馬鹿な生き方とも言われてきたが、それでも彼女は自分の思うがままに生きることを良しとしなかった。

 

(……正義の魔法少女か……それは誰にとってのかしら?他の皆の理想?それとも私自身の理想なのかな)

 

辛いこともあるが、やりがいのある仕事と分かっている為、寂しさを憶えても自分の活動に疑問を抱くことは無かった……

 

この事をほむらにも相談した。ほむらはマミが思ったとおり自分と同等の魔法少女のベテランだった。

 

”私にも、ハッキリした事は分かりませんが。誰かの為、自分自身の為の願いに善も悪も無いと思います。もうそうする以外にどうしようもなかった、縋るしかなかった人達の気持は当人でしか分からないですから”

 

ほむらは、何か思うことがあるのか戸惑っているように見えた。もしかしたら、そういう人が身近にいるのかもしれない。そういう人がいるのと尋ねてみた。

 

”……彼のしていることは誰もが忌み嫌うかもしれません。でも彼はそうするしかなかった。例えそれが間違いであっても迷ってはいけないと自分を駆り立てているんでしょう”

 

それ以上語ることは無かったが、マミはほむらの語る彼は、ほむらの中ではかなりのウエイトを占めているようである。

 

(皆は皆で、傍に誰かが居るのね。良いわね……私にもそういう人が居てくれたら……)

 

「…………巴さん。今日は、君に確認したいことがあるんだ」

 

考えに耽っていたマミの前に現れたのは柾尾 優太。薄暗いエントランスの奥から現れた彼は、普段の好青年とは違い、何処か幽霊を思わせるほど無表情であった。

 

自分の隣ではあったが、父や母は彼の事を嫌っていたことを今更ながら思い出した。思い出すのは、まるで忘れ去られたように店の隅に置かれた人形のようにボンヤリとしている光景だけ……

 

「あ、あの…今日はもう遅いですし、明日は学校に行かなければならないので、また別の機会にお願いできますか?」

 

断りを入れて立ち去ろうとするが、柾尾 優太は強引にマミの手首を取った。

 

「な、何をするんです「お前の都合なんか!!!知ったこっちゃないんだよ!!!」

 

突然、怒鳴りだした青年に対しマミは嫌な物を彼に感じたのだ。

 

「何ですか?アナタは……」

 

「それよりもお前こそ、何だ!?!暁美と同じだろ!!!こいつを見せろ!!!!」

 

取り出したのは、蓬莱暁美のソウルジェムだった物。この青年は何を求めているのだろうか?ソウルジェムが絡まると悪寒さえ感じてしまう。

 

「アナタに話したのは、間違いだったようですね。私に二度と関わらないでください」

 

一応はベテランの魔法少女。それなりに睨みに自信はある。だが目の前の青年にそれを察することは出来なかった。

 

喚き散らしている青年に対し、身を守るために少しだけ魔法少女の力を使うことにした。筋力を少しだけ上げ、彼を痛めつけない程度に腕を振るい、手を振りほどいたのだ。

 

「っ!?!」

 

僅かに手首を傷めたのか、僅かに表情を歪めるものの、その目には何の感情もなかった。

 

(……この人の目、凄く嫌な感じがする……何だろう、でも何処かで見たことが……)

 

身近で見たことがあるのだ。そういうものだと気にしないで居たが……よくよく考えれば……何処か違和感を感じていたが、あえて思わないようにさえ……

 

「嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

狂ったように青年はマミを押し倒した。突然の体当たりに対し、マミは背中に固い感触を感じながら表情を歪めた途端に”バチバチ”という音を聞いた。

 

いつの間にか青年はスタンガンを手に持っており、それを戸惑い無く押し当てた。

 

「きゃあああああああああああああああっ!!!………」

 

放電される感触と腹部が焼けるような感触と身体を走る衝撃と共にマミは意識を失った……

 

倒れた少女を無表情に見下ろし、柾尾 優太は、いつの間にか変化していたソウルジェムを手に取り……

 

「並河……早く来い。こいつを部屋に連れて行け」

 

物陰からバツが悪そうに並河が出てきた。自分は何も悪くないと呟きながら、マミの身体を抱え、荒れ放題である彼の部屋へと連れ去られた。

 

(ったく…何なんだよ…こいつ、本当に頭がおかしいんじゃないのか)

 

元々分かっていたが、それを目の当たりにするとそう思わずには居られなかった。

 

当の柾尾 優太は何かを焦っているように忙しなく手を握ったり閉じたりを繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在……

 

見滝原中学でまどか達が昼食を取っている頃、マミの身体は心電図を測る機械に繋がれていた。これは柾尾 優太が病院より持ち出した物である。

 

さらに彼女の周りをカメラが回っており、その様子を撮影している。心電図を表すモニターは全く動かなかった。

 

マミの身体は、現在死んでいるのだ。だが、彼女は生きている。ここより離れた柾尾 優太の手の中にあるソウルジェムに魂があるのだ。

 

「そうか…そうだったんだね。僕の思ったとおりだ。これが巴さんで、暁美だったんだ」

 

あの男によって、ソウルジェムが割られたために暁美は糸が切れた人形のように死んでしまった。暁美をあんな目にあわせたのは、契約を持ちかけたのは誰なのかが知りたくなった。

 

「素質のある少女にしか見えないんだよね……だったら……」

 

昨日聞いた上条恭介に起った奇跡もまた、誰かが願った奇跡ではないかと察した。

 

「その子に契約を持ちかけたそいつを呼び出させよう。そうすれば……」

 

そう思うと興奮せずにはいられなかった。自分の中にあるはずの”心”を呼び覚ましてくれるかもしれないのだ。

 

願いを叶えてくれるのなら、自分の”心”を呼び覚ましてくれるぐらいのサービスぐらいはしてくれるだろうというのが、彼の都合の良い甘い見通しであった。

 

早速であるが、スマートフォンに目を通しプランを立てる。メール受信の画面が現れ差出人”QB”とあるが、

 

「今は、忙しいんだよ。QBさん……僕の心が何か感じたら、話に付き合ってあげるから……」

 

メールの内容を確認せずに柾尾 優太は画面に映る”上条恭介”に対し、無表情な視線を向けるのだった……

 




ネタばれかも知れませんが、次回はキュウベえの主役回。



かつて君は、僕と一緒に歩んでいくれると言ってくれた。

僕に奇跡を願い、彼女達は自分自身で願いを裏切ったにもかかわらず、僕に責を求めた。

それを知りながらも君は僕をその腕で抱いてくれたね。

呀 暗黒騎士異聞 二十一話「過去」

蓬莱 暁美。君の心に”この宇宙”はどう写っていたのかな?

君の残した”人形”は、今日もまた無意味なことを繰り返しているよ・・・・・・





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第二十一話「過 去」


一ヶ月ぶりに更新。最近、プライベートがゴタゴタしています。
今回はオリジナルの話になります。
オリキャラである蓬来暁美のダイジェストっぽいかも・・・




 

見滝原のとある場所にて……

 

60年以上前に見滝原で空襲があり、数千人の犠牲者を悼む慰霊碑が都市の中心に建てられている。その慰霊碑をキュゥべえは見上げていた。

 

 

 

 

人類とは一日二日の付き合いではないが、僕達インキュベーターと彼らの繋がりは、とても根深いものだと僕は思っている。

 

こういうのは、彼らに対して切欠こそを提供した物のその後の生き方、行動については僕らは殆どノータッチだったからだ。

 

彼らは知的生命体であり、一個の意思を持っている。そんな彼らに干渉し、僕らインキュベーターに依存をさせてはならない。将来、彼ら人類はこの宇宙を担う世代になりうるかもしれないのだから。

 

人類の為にもこの宇宙の為にも、僕達は彼らが忌み嫌う行為を行わなければならない。その過程で”悪魔”と呼ばれたこともあった。

 

悪魔に対する認識は、『人の弱みに付けこみ、契約を交わし。その対価として魂を奪う』と言うもの。

 

なるほど……こんなことを書き残したのは、心当たりがあるけど言わないで置こう。これこそが、大まかな悪魔に対する認識だ。

 

人類は様々な解釈を悪魔に持っている。かつてこの国では漢訳仏語に対する言葉の一つだったが、ここ最近では西洋のサタン、デビルに訳されている。

 

他にも悪魔は人智を超えた超自然的なものであるという事。人に悪を行わせるものとも……

 

ここまで悪口を言われるのは、僕としては心外だ。むしろ僕らよりもホラーの方がそれなんじゃないかと思うよ。ホラーの誕生、出現は僕らにとってはイレギュラーだったが、それについては後々語るかもしれないね。

 

自分から奇跡を求めておいて、それが意にそぐわなかったら、裏切りと呼ぶ。騙したとも言うが、それを口にしなかった君達に問題があると思うよ。まあ、それを言ったところで、都合よく解釈されて、結局は同じことかな?

 

彼女達に恨み、あるいは呪いの言葉を掛けられても僕は”いつものこと”として割り切っていた。もしくは、彼女達に対して”罪悪感”を抱くことは、あまりにもおこがましいと僕自身がそう思っていたのかは分からない。

 

今現在の見滝原もそうだけど、この世界において人類は何度も争いだけを繰り返していた。特に60年以上前のこの国を巻き込んだ大戦の時……

 

あの時だった。僕が蓬莱暁美に出会ったのは……

 

過去の見滝原を襲った”大空襲”。あの業火の中、僕は彼女にこう尋ねた。

 

”僕と契約して、魔法少女になってよ。そうすれば、この地獄から君は抜け出せる”

 

急なことに彼女は、良く分からないといった表情だった。だけど……

 

”じゃあ、キュウベえ。私、空を飛びたい。此処から飛び立ちたい”

 

その願いと共に彼女は胸の内から、灰色のソウルジェムを出現させ、灰色の翼をはためかせた魔法少女が生まれた。

 

僕を抱え込むと同時に彼女は翼を羽ばたかせて飛び上がった。眼下には、あの時代特有の木造家屋が多く立ち並んでいたが、今は激しい業火に焼かれていた。

 

その間を多くの人々が逃げ惑っていた。その様子を蓬莱暁美は、特に表情を変えることなく無機質な瞳で見つめていた………

 

”助けないのかい?君なら、彼らを助けることぐらい訳ないよ”

 

”まさか貴方。私に人助けをさせるために契約をさせたというの?”

 

何をさせるのだと言わんばかりだった。そうだ、魔法少女の願いは自分自身の為、それが何処に向けられるかは契約者次第だったのに……僕も何処かでこの星の少女達に毒されていたのだろうか?

 

”私が助けるのは、今のあの人達にとっては傍迷惑だわ。だって……死ねる時に死ねないのは地獄だもの……”

 

薄笑いを浮かべる彼女の事を、他の魔法少女たちが見れば何と言うかな?そう、僕は単に強い素質を感じて彼女 蓬莱暁美に契約を持ちかけたのだ。

 

この状況下なら、嫌でも僕に縋りつくのだから……普通の少女なら……

 

”蓬莱暁美……君は一体?”

 

”私の名前を知ったのだから、私の素性ぐらい察することはできるでしょう”

 

そうだ、素質のある子に関しては彼女達にインキュベーターのコンタクトを取れば察することが出来る。そして、彼女の事情を把握した。

 

彼女が居たところの遥か背後には、この国の陸軍管轄の軍事研究所があったことも………

 

”ねぇ、キュウベえ。どうして契約を交わさなければならないの?”

 

僕は、魔法少女の事に付いて全てを伝えた。彼女は笑いながら僕を抱きしめてくれた。ソウルジェムが魂であることといつかは、狩るべき魔女になることも………

 

”そう……貴方も頑張っているのね。私のお父さんと同じで……”

 

灰色のソウルジェムを見つめながら、蓬莱暁美は僕を優しく丘の上に降ろした後、何処かへと飛び去ってしまった。その間にも眼下は、夜なのに空は赤々と燃え上がっていた………

 

彼女は日本を離れ、各地を転々としていたことは分かっていた。グリーフシードは使い切ったらその場に放置しておいても僕らが回収しに来ることは彼女に教えていたから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は、巴マミが柾尾 優太によりソウルジェムが奪われる数時間ほど前に遡る。

 

その時間、柾尾優太は河原の近くを散策していた。特に用事があったわけではなくただ何となく気分を変えたかったのだ。

 

理由は言うまでも無く、少し前にあった”不思議な出来事”の影響で今まで感じることのなかった苛立ちだけが胸のうちに募って居たからだ。

 

それにこの河原には彼なりに素晴らしい思い出があった。自分の想い人である蓬莱暁美に自分が告白をした場所でもあったのだ。

 

当時の彼は、蓬莱暁美に出会うまでは空虚な人間で周りからは空気以下の人間としてボンヤリとそこに居るだけで何の役にも、邪魔にもならない存在しても意味の無い人物だった。

 

そんな時だった。進級と同時にクラスメイトの入れ替えがあり、その時に蓬莱暁美と一緒になったのだ。

 

(………暁美は僕を見つけてくれた。僕を好きだといってくれたんだ)

 

あの時の光景は今でも彼の中で輝いていた。夕暮れで紅く染まった河原と少し紫がかった空の下に伸びた二人の影法師が重なったこと………

 

”ぼ、僕は君が好きなんだ!!僕と付き合ってください!!!”

 

居ても居なくてもよい人間が自意識過剰になっているだけと言われかねないが、彼にとっては彼女は”希望の光”そのものだった。

 

”うん♪良いよ、じゃあ、キスでもしましょうか♪”

 

突然の事に一番、慌てたのは柾尾優太であった。気がつけば、美人というよりも可愛らしい感じの顔が自分の前に迫っていたのだ。

 

そんな事も感じることが出来なかった彼にとって、自分が亡くしたと思っていたものを思い出させてくれた”蓬莱暁美”は希望そのものであった。

 

彼にとっては、色あせない素晴らしい思い出だった。話しかけられなかったクラスメイトにからかいの祝福の言葉を送られたこともあった。

 

だが、それは唐突に終わってしまった。今でこそ知る事ができたのだが、自分に内緒で”魔法少女”と言う者になり、さらには、その過程で忌まわしいあの少年に命であるソウルジェムを奪われ、殺されたのだ。

 

何処で彼女が魔法少女として契約したのかを知りたかった。そして、契約を促した存在を見つけ出さなくてはならなかった。

 

この決意だけを聞くならば、愛しい人を死に追いやった元凶に制裁をすべく行動しているように見えるが、本質を知る”インキュベーター”は……

 

「やれやれ……柾尾優太、君は君が思っているほど心を失っているわけじゃないよ。ただ、君はあまりに身勝手なだけで」

 

直接、会話をしたわけではないが彼が自分を見つけようとしているのはここ最近の行動で把握していた。正確には彼がマミの元で”魔法少女”の事情を聞いた後から、

 

インキュベーターことキュウベえは、相変わらず無機質な赤い目を彼に向けているが、その目の中に冷ややかな感情を宿していた。

 

「それにね……君は、彼女を想っているけど、彼女はそういう想いを君に持っていたわけじゃないんだよ。それは君もだよね」

 

ここ数年、彼を監視していたキュウベえは彼の本質が”身勝手”である事を理解していた。今回の行動も自分がなくした”心”と言うものを探すことが第一で想い人の事など、何とも想っていない。

 

自分に刺激を与えてくれる蓬莱暁美に反応していただけで、彼自身それが心地良かったので蓬莱暁美に付きまとっていただけだった。

 

「フフフフ、彼がアレを見たらどんな風に彼女を見るのだろうかな?」

 

ここでインキュベーターは口元を吊り上げて笑った。この姿を見た事情を知る者は目を見張るであろう。このインキュベーターは何なのかと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 リンクしているインキュベーターの拠点に居る個体の前に一つの画像が映し出された。それは、蓬莱暁美と銀髪 赤目の少年が互いに肩を抱いている光景だった。

 

その固体の影が大きく伸びる。影の主は、白いぬいぐるみではなく、画像に写っている銀髪 赤目の顔立ちの整った少年であった。

 

「僕はこの姿で暫く居るとしようか。おっと、今の僕はキュウベえじゃなくてカオルでよかったかな?暁美」

 

優しげに視線を向けた先には、白い寝台の上に眠る”蓬莱暁美”だった少女が横たわっていたのだ。彼女の傍に近づき、カヲルは笑みを浮かべた。

 

「僕がこんな風にしているなんて、時間遡行者である暁美ほむらがイレギュラーの鹿目まどかが見たらどう想うのかな?」

 

以前にそのまどかから、”アナタは本当にインキュベーターなのっ!?!”と問い詰められた事があったが、自分は自分であるのが彼の持論である。

 

本来ならばインキュベーターには、感情は無い。一種の機械の様な存在であり、役割を果たすものでしかない。

 

感情を抱いたインキュベーターは、精神疾患として同胞達から処理されるのだが……

 

「やれやれ、君が時々分からなくなるよ。同じインキュベーターなのに……」

 

カヲルの前にもう一体のインキュベーターが姿を現す。

 

「それは人類に対しても同じだよ。言っておくけど、彼らを見下して、こっちの都合の良い存在と認識したら、僕らの破滅だよ」

 

「………その辺は、承知するよ。やはり君を加えておいて良かったよ。残念なのは、蓬莱暁美を失ってしまったことか……」

 

インキュベーターにとって”蓬莱暁美”はかなり大きな存在であった。その存在を失った後、インキュベーターは”計画”を断念せざる得なかったが、”見滝原”は魔法少女、インキュベーターにとって価値のある場所へと変化したのだ。

 

「それに関しては彼女も言ってたよ。自分は唯では転ばないと……だけど、彼女を失ってしまった事は、僕らインキュベーターも人類と同じく愚かさに差は無いという事だよ」

 

カヲルは、インキュベーターに対しアルカイックスマイルを浮かべる。

 

「本当に君は変わっているね。大抵の精神疾患を起こしたインキュベーターは、魔法少女と共に僕達に反旗を翻すけど、君は僕らと歩みを共にしている」

 

そして本当に意味で彼は”笑う”という概念を持っている。魔法少女の対応で、一応は笑みを浮かべることはできるが人のそれと違いぬいぐるみのような姿のためその違いを明確に指摘できる人間は少ない。

 

「ハハハハ、感情が芽生えたから優しくなる?それは間違いだよ。僕はこの仕事がいい意味で天職だと思っている。それに慈善事業じゃないんだ……砂糖菓子のように甘ったるい小娘達側についても一銭にもならないからね」

 

心底おかしそうにカヲルは笑う。身体を震わせ頬を吊り上げて笑う姿にインキュベーターは僅かに後ずさってしまった。目の前の現象に対して冷徹に物事を運ぶのがインキュベーターの性分であるが、この精神疾患は……

 

(………彼はかなり危険ではあるけど、そのおかげで僕らも危ない徹を踏まないで済みそうだ)

 

「……それと君に頼みがあるんだ。暁美ほむらにアスナロ市からファイルの回収をお願いできるかな?」

 

カヲルはインキュベーターに”ファイル”の回収を望んだ。”ファイル”と言う言葉に

 

「それは君自身がお願いすれば良いんじゃないかな?君は僕じゃないか」

 

「お互いに意識は複数の体でリンクしているけれど、僕よりも君のほうがずっとインキュベーターらしい。変に勘ぐられるのは本位じゃないからね」

 

「やれやれ、鹿目まどかの所には君が出たのに、君は君でどうするつもりだい?」

 

「一つの事に今は集中したいからね。暁美に付き纏っていた身勝手な人形がいい加減、目障りになってね」

 

赤い目にはっきりと映る悪意を浮かべてカヲルは笑った。どうやら、自分が描くシナリオが面白くて仕方が無いらしい。

 

「分かったよ。あのファイルでの実験は非常に興味深い。もう少しだけ観察しても良いんじゃないかな?」

 

今現在、アスナロ市で繰り広げられている”実験”についてインキュベーターは語るがカヲルの目に怒気が浮かんだ。

 

「………それは駄目だ。アレは僕と暁美との大切な記録だ。それを……神聖な墓を荒らして持ち去った小娘に……」

 

苛立ったようにあるモニターに移る”インキュベーター”に酷似した黒い毛並みの小動物に対しさらに苛立ち、憎しみに似た視線を向けたかと思えば、ストックしてある身体を掴んだと同時にそれを握りつぶしたのだ。

 

「もったいないのは君も分かっているだろ?いいさ、言っておくけど君の本体はここから出てはいけないよ?分かっているね」

 

「分かっているよ。リンクしている個体だと僕の感情が制限されるのは当然なのは、ルール上、仕方ないんだよね」

 

肩をすくめるカヲルに対し、インキュベーターは

 

「僕らはこの惑星にとっては部外者だからね。やれることは限られているのが辛いところだ」

 

インキュベーター本来の科学力、勢力ならば、この惑星そのものを人類等、牧場の家畜のように飼いならすことも分けなかったが、それが出来ない故に魔法少女への契約という地道なことを行っているのだ。

 

「そう思うと蓬莱暁美の提案と計画は、ギリギリではあったけど僕らにとっては画期的なものだった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女 蓬莱暁美と再会したのは、数年前だった。変わらない姿で、彼女は僕にテレパシーで呼びかけてくれた。

 

魔法少女は年をとらない……何故ならその肉体は既に死んでいて、成長などしないからだ。

 

魔法少女はソウルジェムの魔力により、その肉体を維持しているに過ぎない。

 

この事実を知ったほとんどの少女達は絶望し、僕と敵対する道を選ぶのだが、

 

僕からしてみれば、あまりにも身勝手な主張だ。だけど、僕らの行為が人類にとって悪意があると思われても仕方が無い。

 

そして、そういう反応をされることが分かっているのに繰り返していることは、人類よりも高い文明を誇っていながら、彼らとなんら変わらない愚かさを自嘲せざる得ない。

 

宇宙の為に尊い犠牲、仕方が無いことと繰り返しているインキュベーターも人類の愚かさとの差は無い。

 

今現在、僕が居る慰霊碑の前で彼女はあの時と変わらぬ笑顔で

 

”インキュベーター。私と契約して、パートナーになってくれないかしら?”

 

”改めて契約をするにも、もう既に僕と君はパートナーじゃないか”

 

そうインキュベーターは、少女が夢見る魔法少女のマスコットなのだ。僕らとしては貴重なエネルギーである彼女らのケアはそれなりにさせてもらっている。

 

”フフフ、そうだったわね。それじゃあ、私の計画を聞いてくれる?”

 

”君は、本当に変わっているね。そうか……君は……”

 

”そういうこと。私はアナタが契約した少女達の誰とも違う存在。だから、アナタの事を受け入れられるの”

 

人間で言う親愛の表現である口付けを僕にしてくれた……

 

この時からだったか分からないが、僕は彼女 蓬莱暁美に対し特別な思いを抱くようになった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女に対しての想いを自覚し始めたのは、彼女が僕に人の姿になれるのかと問い掛けられ、変化した時だった……

 

”ねえ、キュウベえ。いえ、今はカオル君ね”

 

”呼び方なんてどっちでも構わないよ。僕らにとって、名前なんて無いような物だから……”

 

”それは貴方達が全体で一つであるから?”

 

”そういう解釈でいいよ。僕ら……いや、僕と言った方がいいかな。他の個体に若干の差異こそはあっても根本的には同じだからね。それに比べて人類の個というものは非常に面白いと思うよ”

 

”へぇ~~、貴方からしてみれば人類は下等な、単なる電池でしかないと考えていそうなのに?”

 

”暁美。それは君達…いや、僕らが深く関わる人類を貶めちゃいけないよ。僕らの祖先も人類に似た知的生命体だったらしい”

 

”らしい?”

 

”途方も無いくらい過去のことだったから、今やそういうしかないよ”

 

”だからこそ、過去の自分たちによく似た生き物を探して、人類を見つけ、選んだのね”

 

”そうだよ。今の僕らには地球の人類ほど感情は豊かじゃない。何時の頃か、僕達は感情というものが分からなくなり、それが無いというように思うようになった”

 

二人は、今や閉館したショッピングモールを闊歩していた。天井部からは、近隣の超高層ビルのイルミネーションが星のように輝いている。

 

”でも、貴方は思うようになったと言っているだけで、本当は感情はあるんだけど、何を見ても何も感じられなくなったのかしら?”

 

”………そうだね。僕も生き物であることを認めざるえないよ。だって、生き物の記憶には許容量が存在している。おそらくは、その許容量を越える年月を生きてきた弊害か……”

 

それすらも分からなくなっていった。自分達がどのように生まれ、どこに向かうのか…インキュベーターには分からなかった。

 

だが、自分は他の者達の為にこの宇宙の継続を求めている。そうすることで欠けた何かを埋め合わせようとしているのかを気にしてもどうにもならないことだった。

 

”じゃあ、貴方にとって人類はどういう存在なの?カオル君”

 

微笑む蓬莱暁美に対し、カオルは赤い瞳に笑みを浮かべさせるように目を細め……

 

”人類は、本当に面白い生き物だ。それでいて愚かだけど、何となくやっていけそうなパートナーだと思うよ”

 

”あっははははははははははは♪じゃあ、私達にとっていいパートナーになれるかもしれないってことなのね。次は、あのお店に♪行こう、カオル君♪”

 

手を引く少女に戸惑いながらインキュベーターはそっと笑みを浮かべた。あのぬいぐるみの姿の時は、そうでもなかったが、この姿になってから自分は少し感情に影響されているのではと思うのだった。

 

”それでね、カヲル君。私達の拠点だけど、あそこを使いたいんだ。それと……”

 

悪戯を思いついたような子供、いや、途方も無い何かを胸のうちに秘めた獣に似た視線を向け……

 

”ほんの少しだけ”みんな”を幸せにする計画……私達とインキュベーターの共同戦線を張りましょう”

 

それは、僕らにとっては有意義な物であったが、人類にとっては同胞と星を異星人であるインキュベーターに売り渡した魔女の禁じられた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、かつて旧大日本帝国陸軍が管轄していた軍事研究所跡……

 

ここは、地下に広大な施設を誇っていて空襲の爆撃により上の建造物は消失し、別のビルが建っていたが、そこも90年代のバブル崩壊により、壊されること無く残っていた。

 

かつては繁華街であったこのエリアは、都市開発計画より外され、一画に廃墟だけがそこに佇んでいた。

 

元々は地下施設こそ、中心であった。多少は崩れている物の拠点としては機能は可能だった。蓬莱暁美は、インキュベーターと共に掌握し、そこで様々な実験、試みを行っていた。

 

”暁美。君の計画だけど、あくまで僕らは影に徹するというわけだけど、直接的な干渉はルールで禁じられているよ”

 

”貴方達はあくまで協力者。私がお願いをしてインキュベーターの知恵を借りるんです。それを後に結果として返すの”

 

”なるほどね。人類の発想……いや、知的生命体として…魔法少女という種としてみれば当然か……”

 

”ええ、均等に渡るようにするための、グリーフシードを安定して供給することが必要なの。だからこその……”

 

”そのための魔女の養殖……この場は、魔女を育成するための養殖場と言ったところか”

 

かつては、様々な兵器が生み出されていた広大なドックの至る所にアンティークを思わせる台座に浮かぶ奇怪な怪物達が漂っていた。そして、その台座の元には、かつては魔法少女だった少女の亡骸がインキュベーターによって処理されていた。

 

”やっぱり、アレは食べちゃうんだ”

 

無数のインキュベーター達が倒れている少女の亡骸に群がる光景は生理的嫌悪感を抱きかねない。だが、少女、蓬莱暁美は平然としていた。

 

”彼らについては、気をつけるように言っておくよ。人の味を憶えたのか、少し見境がなくなっているからね”

 

同じ自分ではあるが、処理するインキュベーターに関しては別にリンクしているらしく、別に行動するように制御している。

 

この魔女の養殖は、魔法少女にとっては有意義なモノになることは倫理的に考えれば御法度ではあるが、事情が事情ならば仕方が無いのかもしれない。

 

かつて狩猟生活を行っていた人類は農耕、畜産等を発達させ、その勢力を拡大させる礎を築いたのだから………

 

”お~い、ボス。今日も鴨を一匹、狩ってきたぜ”

 

一人と一匹の背後に青い髪のポニーテールの少女が現れた。背中に巨大な刀を背負い、首元には割れたソウルジェムを数珠繋ぎにしている。

 

手に掴んでいるのは血だらけになっている魔法少女だった。その表情は明らかに敵意と屈辱に満ちていた。

 

”単位が違うわよ。鴨は一羽よ”

 

”あっ、悪いな。じゃあ、こいつもあそこに行っとく?”

 

視線を向けるとそこには、待機状態のソウルジェムに似た巨大な容器があり、そこにはおぞましい色をした液体が渦巻いており、それを見た少女は一瞬にして青ざめた。

 

理由は言うまでも無く、ソウルジェムが濁るほどの呪い、邪気や、瘴気が渦巻いていたのだ。

 

”そうね。ソウルジェムは?”

 

”おぉ、こいつのはちゃんと持ってるぜ。ほらよ”

 

投げ渡されたソウルジェムを蓬莱暁美はその容器の中におもむろに投げ込みいれた。

 

”いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!”

 

魂がおぞましく変化していく感覚を感じたのか、少女は悲鳴を上げた。だが、この場に居る他の者達は無表情にその光景を眺めていた。

 

投げ込まれた瞬間、ソウルジェムは瞬く間に黒く染まっていき皹が割れ、グリーフシードへと変化していった。

 

液体の中を生まれたばかりの魔女が敵意を向けて、容器を突き破ろうとするが、その容器を突き破ることは叶わなかった。

 

”いつみても凄いもんだな。これ?”

 

青い髪の少女 杏 櫻は、興味深そうに容器のガラスを叩いていた。

 

”滅多に使わないけれど、遮断結界の応用だよ。今の人類の科学力で魔女を拘束なんてできないからね”

 

”そうか。よ~~く育てよ。腹いっぱい食わせてやるからな”

 

心底愉快そうに笑う杏 櫻に対し 蓬莱暁美は

 

”いつも悪いわね。貴女には汚れ役を押し付けて”

 

”気にすんなよ。アタシはこういうのが大好きだし、アンタに付いた方がアタシらしく居られるって奴だ”

 

豪快に笑いながら、杏 櫻は背を向けて施設にある自分の部屋へと向かっていった。

 

同じくして、蓬莱暁美も魔女の養殖場から別の施設へと移動を始めた。そこには、キュウベえに良く似た小動物がペット用のマットの上で眠っていた。

 

”貴方達インキュベーターの協力は大切だけど、やりすぎると貴方達も制裁を受けてしまうのよね”

 

”そうだね。だからこそのハイブリットなんだね”

 

”そうよ。人間とインキュベーターのコラボレーション。インキュベーターとの友情 ユウベえとでも名付けておきましょうか”

 

”それなら、僕はユウと名付けるよ。こんなにも可愛いのに間抜けな名前はカワイそうだ”

 

二人の会話に反応するようにユウは、感情を宿した瞳を二人に向けた。

 

”おはようございます。お父さん、お母さん”

 

目を細め、笑みを浮かべるユウに対し、二人は満足そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全ては、このままいけば間違いなく僕らにとっても魔法少女にとっても有意義な時間になるはずだった」

 

それは僅か一年足らずで崩壊してしまった。言うまでも無く、蓬莱暁美の死亡とその原因を作り上げたユウが契約した二人の魔法少女と一人の少年によって……

 

二人の内、一人は今も何処かに居るそうだが、少年はあの人形によって殺された。

 

カヲルの忌まわしい記憶に呼応するようにいくつモノ画像が浮かび上がる。そこには、魔女プラントが崩壊し、閉じ込められていた魔女達が一斉に暴れだし、施設から無数の使い魔と共に脱走していく光景だった。

 

さらには、そこで蓬莱暁美のソウルジェムを握り、勝ち誇ったように笑う少年の姿。

 

”ハハハハハ。暁美ちゃん、僕チンを舐めすぎだよ。君の計画は大崩壊だね”

 

”……素直に負けだけは認めてあげる。だけど、貴方はここを壊してどうするつもりなの?”

 

”何故って、こんなにも魔女が一杯いるんだよ!!こいつらがこの見滝原で暴れるなんて、凄いロマンじゃん!!!最高じゃん!!!”

 

何という狂った喜びであろうか?ここの魔女達を解き放ち、上に居る人々の怯える様を見たいという性質の悪い好奇心故の行為だった。

 

”ちょっと待ってよ!!!この魔女達はここから出しちゃいけないよ!!!

 

”要ちゃんだっけ?僕チンが何時何分何秒にそんな事を言ったの?僕チンは誰かさんのしてやったりな顔を歪ませるのが大好きなんだよ!!!”

 

抜け出していく魔女達を面白そうに見つめる少年に対し、蓬莱暁美は……

 

”貴方達には完敗ね。だけど、貴方を喜ばせるのは癪だけれど、ここにある呪いを全てぶちまけてあげるわ”

 

”待って、そんな事したら、この街はどうなるの!!?!”

 

この施設に貯蔵されている呪いと瘴気の量は半端ではないのだ。それこそ、これから先100年は魔女達を使い魔達を引き寄せる程の……

 

”そうね、私も悪意を持ってたわけじゃない。魔法少女にとって魔女狩りは死活問題。だから、ここを彼女達にとって最高の狩場にしてあげるわ”

 

レバーを引くと同時に施設の至る所から呪いが具現化した赤黒い液体がぶちまけられた。それに触れないように蓬莱暁美は背を向けて走り出した。

 

彼女を面白そうに少年は追いかけた。

 

”円さん!!!ここから、早く離れましょう!!!”

 

”ほのかちゃん!!!駄目!!!!”

 

桃色のお下げの少女が 円 要を救おうとしたが呪いが具現化した液体に巻き込まれ、ソウルジェムを黒く濁らせてしまった。

 

少女の絶叫が響く中、ユウは何が何だか分からないといった様子で戸惑っていた。

 

”お父さん!!!どうしてお家が壊れているの!?!なんで!!?!なんで!?!”

 

うろたえるユウに対し、インキュベーターは無表情なまま近づき……

 

”痛いっ!!!酷いよ!!!お父さん!!!どうして僕を食べるの!!?!どうして僕を殺すの!!!?!”

 

我が子の問いかけに答えることなく、インキュベーターはその身体を処理すべく悲鳴を背に食らった…………

 

「何時見ても嫌な光景だ。人間の愚かさがよく分かる。だけど、この狩り場こそが彼女が生きた証であり、ここで活躍する魔法少女が居てこそ、彼女の存在は無駄ではなかった」

 

ある映像には施設を脱走した魔女がある高速道路で一台の乗用車にぶつかっていた。それは、巴マミと両親を乗せていた。

 

正確には運転していた父親のすぐ傍を通り抜けたため、その瘴気に当てられ操作を誤ってしまったためである。

 

そして………

 

”た、助けて”

 

”契約は成立だよ。巴マミ”

 

同時刻………

 

”優太君……ごめん。私、貴方を置いていって……でも、これって私の自業自得……魔女よりも怖かったのは……人間……でも、人間に希望を……”

 

その瞬間、弾けたように彼女の身体が倒れてしまった。衣装も消え、見慣れた制服へと変わった。

 

”アレ?魔法少女っていうからさ…もう少し丈夫かと思ったんだけれど”

 

”あぁ、君だったんだ。その子の彼って……他の子は僕に靡いてくれたのに、そのこは僕を拒んだんだよ?”

 

”色々とやってくれたよ、僕が信用できないって、自分から悪者になって仲間をまとめようとしたけど、まあ無駄だったけど”

 

”アレっ?僕をまた殴るの?君、それで居場所を失くしたのに?どうせ君の事を信じる人なんて居ないのに?大した価値もない、生きているだけ無駄な消耗品の分際で?”

 

”あの女も大した価値がなかったのに、僕のような人間の価値が分からないなんて……ほんとに無駄で価値のない……”

 

その瞬間、少年の意識が飛んでしまった。気がつかなかったがいつの間にか持っていたシャープペンの切っ先を彼の喉元に突きたてていた。

 

これが柾尾 優太が最初に起こした殺人であった……

 

何故、このような行動を起こしたのかは彼にはわからなかった。耳障りな呼吸音が響くが、彼はそれを見ても何も感じることが出来なかった。

 

”罪悪感””後悔”といったそういうモノが感じられないのだ。

 

”暁美……おかしいよ。ねえ、君が死んだら、普通は悲しく思うよね?何でだろ?何も感じないし、何とも思わないんだ”

 

耳障りな音を出すかつて親友だった少年を痛めつけても何も感じられず、彼は迷子になったかのようにボンヤリとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての思い出に浸る柾尾 優太の目前に一組の親子連れが歩いていた。少年は幸せそうに笑い、父親はそれに応えていた。

 

「まろかにおみやげ、おみやげ~~♪」

 

「そうだね、タツヤ。今晩は久しぶりにご馳走にしようか」

 

二人は柾尾 優太をいや、タツヤの父親である知久は彼に気がつくと息子の視線に映すのが汚らわしいのか、近くまで抱き寄せてそのまますれ違っていった。

 

振り返りざまに柾尾 優太を見る知久の目は何処までも冷たかった。まるでこの世に存在することを許さないように……

 

その親子を眺めていた柾尾 優太は、数年前に殺した少年に続いて二度目の殺人 自らの父親を殺した光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女を失った後、葬儀は行われる事がなかった。何故なら、蓬莱暁美は天涯孤独の身だったため、その遺体は警察が引き取ることになったが

 

”暁美は僕と一緒にいなくちゃだめなんだ!!!駄目なんだ!!!!暁美に会わせろ!!!!会わせろ!!!!”

 

警察に詰めかけ喚きたてる少年に対し、父親は

 

”馬鹿者!!!!死体を引き取るなど!!何を考えている!!!!この大馬鹿者!!!!”

 

容赦なく殴られるが、少年の目に感情の色はなかった。その光景にわが子ながら気味の悪さを憶えつつ、喚きたてる息子を引きずり、父親は警察署を後にした。

 

結局少年は少女の遺体と面会することは無かったが、蓬莱暁美の遺体がその日の内に盗まれたことは警察上層部によって揉み消されていた事を少年は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に戻った父は、少年を厳しく説いた。死んだ者は帰らない事を、いつまでも囚われるなと…彼女の分まで生きることを……

 

だが、少年にはその言葉は届かなかった。いや届くはずなど無かったのだ……

 

我が子可愛さゆえに、盲目的に一方的な信頼を押し付けていたが故に少年が何者かであることを知らなかった………

 

”ウルサイ!!!お前と居ても何も感じない!!!僕の心は暁美が居たからこそ感じられたんだ!!!お前と居ても!!!!居ても!!!!何も感じないんだ!!!”

 

少年は一度目の殺人を犯した凶器を持って父親に飛び掛った。突然の事に父親は呆気に取られ、視界が紅く染まると共に凄まじ痛みが胸に走った。

 

”やめろ!!!……やめろ!!!!……”

 

”ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!おぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!”

 

一心不乱に凶器を振り下ろす少年の姿は人間のそれではなかった。そう木で出来た人形が一心不乱に自分を殺そうとしているのだ。

 

瞳だったところは窪んだ空虚な穴だけが自分を見ていた。

 

”柾尾 優太……息子は何処に行ってしまったんだ?”

 

いつ少年は、人形と入れ替わってしまったのだ。この人形は一体、何を求めている?

 

その疑問を解消するまでも無く、父は物言わぬ屍と化した。そう、まるで人形と変わらぬ冷たい身体へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして二人を背に柾尾 優太は、歩き始めた。

 

(暁美。僕は絶対に君を魔法少女なんかにさせたキュウベえを見つけてやる。そして、心を……)

 

既に居なくなった少女に誓うが、その決意は事情を知るものからすれば滑稽であった。

 

”恋は盲目”とは、よく言ったものである………

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾 優太の小さくなっていく背中をキュウベえは視線を向けていた。

 

その視線は、嘲りを含んだそれであった……

 

「いずれ時が着たら姿を見せてあげる。その前に柾尾 優太君も君でやることをやっておきなよ。君自身の舞台の為にもね」

 

一般人には聞こえるはずの無い笑い声が辺り一体に響き渡った……

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告を………

どうして、こんなことが……

アタシが何をしたっていうの!?!

呀 暗黒騎士異聞 第弐拾弐話「崩 壊」

誰かの為に祈ることがそんなにも悪いことなの!?!





キュウベえさんが凶悪化したかな……これは……笑うキュゥべえてあまり見たことないですよね。

蓬莱暁美についてのダイジェストでした。

この時間軸では、見滝原には何故、アレほど多くの魔女が居たかという理由については、蓬莱暁美が大量の魔女を飼っていて、それがヒョンナことから逃げ出し、悪あがきを行ったためという事にしています。

ハッキリ言うと彼女は人間ではないかもしれません。出自については今回、省きましたが、見滝原での活動とその目的についてのみをキュウベえ視点で語らせました。

補足すると、魔法少女の一応の救済を目的にはしていたのですが、その方法はあまりにも悪辣でした。

擬人化したキュウベえは、それなりの美少年で源氏名”カヲル”です(笑)元ネタは、わかる人じゃなくても分かりますよね。

キュウベえさんことカオルさんは、割と寛大で一人二人男と別に作っても咎めませんが、彼だけはどうしても受け入れがたかったのです。

所謂ペットのような認識で見ていたという具合です。

キュウベえは、そんなのよりももっと良いのがあるから今度一緒に探しにいこうと誘ったりと(笑)

彼女については、詳しく書くと本編がややこしくなりそうなのでこの辺で・・・ただ、書いていると円環の理には絶対に組みはしないだろうなと思う次第です。

インキュベーター側の魔法少女。さやか辺り、いや本編の魔法少女達とは間違いなく敵対する存在として蓬莱暁美は描いています。

さやかはさやかで優しいお姉さんが実はこういう事をしていたのを知ったらしったでショックを受けるでしょうな……

もしできるのであれば、”魔法少女 あけみ★マギカ”というスピンオフをやってみたい物です。

柾尾 優太さんにフォローを入れるとしたら、キュウベえことカヲル君は蓬莱暁美の事を誰よりも理解していると言っていますが、実を言えばキュウベえも言うほど理解していなかったり………

蓬莱暁美「人の事を完全に理解したなんて、よくもまあ……まあいいか、二人とも可愛いし♪」

こんな少女ですけど、かの少年は似たような人である柾尾 優太さんになんていうのかしら?

唐揚ちきんさん、特別コラボ、楽しみにしていますよ!!!


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第弐拾弐話「崩壊(前編)」


2015年初の投稿です。纏めて掲載しようと考えていましたが、何時までも更新しないのは、どうかと思い掲載します。

今回は、さやかとオリキャラが出張っています。

主役達は只今、出張中の為今回も出番は…


初恋

  

 

 

 その人にとって初めての恋の意。

 

 

 

 

 

 

 

 彼、上条恭介にとっての初恋は、幼少の頃まで遡る。そして、自分の中にある”才能”を見出してくれた”優しいお姉さん”が胸の内に数年たった今でも存在している。

 

今も奇跡的な回復を遂げた自らの手でヴァイオリンの弓を取り、四本の弦を指で抑え、音色を奏でている。ヴァイオリンの弦は左側から G線、D線、A線、E線の四本により構成されている。

 

 教本を用いた練習を一通り終えて、リハビリを兼ねてクラシックの入門曲として度々紹介される パッヘルベルのカノンを弾き始める。

 

カノンとは、ヴァイオリン三本と他の弦楽器 チェロ、ヴィオラ、コントラバスによる演奏で、最初のヴァイオリンから始まり、二小節ごとに二本目、三本目のヴァイオリンが続く。

 

本来は複数の奏者で行う曲であるのだが、彼は自身のヴァイオリンの後に続くようにカセットテープを回しており、今も彼の胸の内にいる”優しいお姉さん”の音色が響き渡った。

 

(蓬莱暁美お姉さん……お姉さんの音色はいつも僕を優しく包み込んでくれる)

 

 ヴァイオリンが大好きなのは、自他共に認めていることだが、彼にとってのヴァイオリンは、初恋の人と一緒になって一つの曲を演奏することにあった。

 

初めての出会いは、今も騒がしい幼馴染のさやかにヴァイオリンを聞かせていたところに偶然居合わせたことだった。

 

 今も思い出すのは、彼女のヴァイオリンの音色は天才と言われる自分以上に優雅にそれでいて、誰もが思わず穏やかになるような美しい音色だった。

 

 ”ヴァイオリンの音色はね、人の声を真似て作られたの”

 

 他の楽器とは違う、まるで人が歌うような音色はまさしく”人の声”を真似て作られた楽器と言われるだけあった。

 

美しい音色を奏でるヴァイオリンに見せられて、自分もその美しい音色を出したくて……彼は、覚束ない手でヴァイオリンを手に取った。

 

 今はどうだろう天才ヴァイオリニストと呼ばれるほどに指はしなやかに動き、同年代では自分以上に引ける奏者は居ないと言われるまでになった。

 

だが、上条恭介は決して今の自分に満足できなかった。何故なら、過去に憧れたあの美しい音色を奏でる奏者のようになりたかった。そして、いつか彼女の隣でずっと音楽を奏でて居たかった……

 

 かつて、さやかは自分に言ってくれた。

 

”あるよ!!!奇跡も魔法もあるんだよ!!!”

 

(もし、奇跡が叶うのなら、何故あの時、叶えられなかったのだろう。どうしてお姉さんは、あの時突然、居なくなってしまって……)

 

最後に見たのは、さやかの父 総一郎に連れられてみたのは、今までに見たことのないぐらいに白い顔をした”蓬莱暁美”お姉さんだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条 恭介 

 

 お姉さんが亡くなった時、神様にお願いをした。”僕の大切なお姉さんを返してください”と……

 

だけど、それを神様は聞き入れてくれなかった。大切な人のあの音色を二度と聞くことが出来ない……思い出の中でしか聞くことが出来なくなってしまった……

 

お姉さんが僕の為に練習用に録音してくれたこのカセットテープにある音色は、思い出の音色には良く似ているけれど、録音された機械自体が古くて碌な物じゃなかったばかりか、時折ノイズが入るのが嫌になる。

 

お姉さんが引くヴァイオリンがもっと聞きたい、あの音色を出したいと願い、僕は父に頼んでヴァイオリンのスクールを紹介してもらった。腕を磨くためにたくさんのコンテストにも出た。

 

”天才”と皆に評価されるたびに自分の中に”自信”が生まれ、このヴァイオリンに全てをかけようとさえ思った。だけど、僕は知っている。決して人前に出ずに、あの美しい音色が誰にも聞かされずに終わってしまったことが許せなかった。

 

小さな頃は純粋だったと、大人は振り返る。その気持ちを僕は14歳ながらおぼろげに理解している。あの頃は、亡くなったお姉さんの為に、天国に居る”蓬莱暁美”お姉さんに聞こえるぐらいの演奏が出来るヴァイオニストになろうと夢を見ていた。

 

だけど、14歳の自我が強くなってくる思春期を迎えて僕は、周りが思うほど良い人間ではなくなっているのを自覚せざるえなかった。

 

コンクールでたくさんの賞を取ったとしてもあの音色にはまだ程遠く、一緒に演奏をしたかったお姉さんの幻を見てもそこにはおらず、幻の為か新たな演奏を聴くことが出来ない現実へのみっとも無い逆恨みすら心の底で抱いていた。

 

その為か、周りの人間からは少し難しい人物として扱われていて、クラスメイト達からも少し距離を置かれていた。だけど、ヴァイオリンだけは続けた。あの音色をこの手で演奏が出来るまで……

 

そんな時に、あろうことか僕の右腕が”再起不能”の傷を負ってしまったのだ。さやかに何度も励まされ、両親からも諦めなければ何とかなると言われたが、現実は僕から初恋の人を奪うだけに飽き足らず、その人との繋がりさえも奪ったのだ。

 

初恋の人との思い出……僕にヴァイオリンを与えてくれていて、それを教えてくれた優しいお姉さんが持っていたのは”ストラリ・ヴァリ”。

 

ヴァイオリンの中でも特に有名な名器であり、大量生産されているヴァイオリンと違い、腕のある職人が丹精を込めて作り上げた。天涯孤独の身だったお姉さんが高級ともいえる名器を持っていたのは、お祖父さんの形見であったからだ。

 

”蓬莱 夏一郎 ほうらい かいちろう”。お姉さんと同じ名前であるお祖母さんの夫であり、今や遠い過去となってしまった”太平洋戦争”で亡くなったと聞かされた。

 

お姉さんのお祖父さんは、文武に長けた人だったけれど、とても穏やかな気性で音楽を、特にヴァイオリンを演奏することが大好きであって、戦争が終わったらヴァイオリン弾きとして生活をしたかったらしい。

 

結局、戦争でそれは叶わず、彼はアジア、南方へ行きそこで戦死した。お祖母さんはお祖父さんの遺骨だけでもと日本を離れアジアを旅し、そこでお祖母さんは再婚し、孫であるお姉さんが生まれたのだ。

 

古ぼけた写真には、お姉さんにそっくりな若い頃のお祖母さんとその旦那である夏一郎さんが笑顔で写っていた。うれしそうにヴァイオリンを掲げている気持ちは、直接話していなくても僕には良くわかった。

 

大好きな人に聞いてもらいたかったから、笑顔で居てほしいから……演奏が終わった後の満足そうなギャラリーの顔を見るのは僕ら”演奏者”にとって最大の報酬だからだ……

 

ヴァイオリンが二度と弾けないと頭ごなしに諦めろといわれた時は、今まで生きてきた世界から理不尽に追い出されたような気持ちだった。

 

二度とあの世界に踏み入れる事ができない?二度とあの感動を味わうことができない?僕の心は、どうしようもなく荒れてしまった。大好きな人との繋がりもそうだが、世界で一人だけ取り残されたようなあの喪失感、絶望……

 

もしかしたら、お祖父さんも僕と同じ気持ちでお祖母さんを残してしまったのだろうか?二度とヴァイオリンが弾けないことへの絶望と、大切な人との繋がりが亡くなってしまった事に………

 

だからこそ、今まで僕を励ましてくれた人が、根拠のない希望を語る身内と幼馴染が憎たらしくなってしまった。あろうことか、さやかに八つ当たりをしてしまった。さらには両親や、病院の先生にまで……

 

宝物であったヴァイオリンを捨てるようにさえ告げたが、その日の晩に奇跡は起きた。僕の手は奇跡的な回復を遂げ、今はこうして遅れを取り戻すために、はやくお姉さんに聞かせてあげたかった。

 

もしかしたら、この奇跡は”お姉さん”が起こしてくれたかもしれない。そういえばさやかはお姉さんと凄く仲が良かった。血は繋がらないけど、お転婆なさやかを甲斐甲斐しくお世話をしていた暁美お姉さんは本当の姉の姿そのものだった。

 

さやかも本当に慕っていて、両親が不在の時は親代わりになってさやかと僕の世話をしてくれた。そんなお姉さんが亡くなった時、さやかは酷く悲しんでいて、彼女の両親も本当に悲しんでいた。

 

居なくなったお姉さんの為にも僕達は、日々懸命に生きてきたと思う。せめて、お墓参りぐらいはといつも思うけど、それだけは叶えられないかもしれない。

 

なぜなら、亡くなったお姉さんの遺体と遺品が何者かに盗み出されていたのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条恭介がもう一度、練習の為にカセットテープを掛けようと手を伸ばした時、その光景を窓から赤く光る一対の目が見ていた。その目を持つ影は猫ほどの小動物の様を持つインキュベーター。

 

魔法少女たちからは”キュウベえ”と呼ばれている。所謂、マスコットであるが、姿は間の抜けたぬいぐるみに似ているが、見ようによっては無機質な能面にも見えなくもなかった。

 

キュウベえの姿は、魔法少女になるための資質がなければ見る事は出来ない。故に上条恭介はその存在を知ることは難しい。故にキュウベえは大胆にも上条恭介の隣を通り、流れている音楽の元にまで近づき……

 

「……欲しいなぁ、これ」

 

小さな子供が玩具を欲しがるような熱い視線をカセットテープに向けていた。

 

同時刻、インキュベーターが拠点としているある場所では、銀髪、赤目の少年 カヲルが蓬莱暁美の持ち物であった”ヴァイオリン”を弾いていたが、耳障りな何かを引っかくような音のみが木霊していた。

 

「やっぱり駄目だ。僕には、君のように音楽を奏でる能力はなさそうだ。どうしてだろう……同じ時間に始めたのに、何で彼はこんなにも引けて、僕は引くことができないんだろうか?」

 

もし、上条恭介がこのカヲルを見たら激怒するであろう光景だった。大切な人の形見を我が物のように扱い、さらには、その骸すらも自分のモノだと言わんばかりに下劣な行為に及んでいたのだから。

 

「この間のアレと言うか、本星の連中は音楽を無用な雑音でしか思っていない。だからこそかな、映像は良くても全部、無音なんだよね」

 

インキュベーターは感情がない生き物の為か、音楽の定義である”感情の高鳴り”についてはまったくと言って良いほど理解を示しておらず、記録するモノは全て無声無音である。

 

故に音楽を記録したとしてもお節介な他の個体がそれを不要と称して消してしまうのだ。故にカヲルは彼らには骨董品でしかない地球の記録装置を用いるしかなかった。

 

それを中々用意することが出来ず、結局は自分も音楽に夢中になってしまうので録音どころではなかった。だが、偶然にも求めていたモノを見つける事ができたのだ。

 

「欲しいなあ……暁美の音色が記録されたテープ」

 

子守唄代わりに子供という名の”ハイブリット”にも聞かせていた。

 

「酷いよね。あの人形と出来の悪い子供には良く聞かせていたのに……僕には中々、聞かせてくれないし。引いてもくれなかった」

 

恨めしそうにベッドに眠る蓬莱暁美だった”遺体”に目を向けると同時に、自分がいずれ処分しようと考えていた”人形”を利用する算段を思いつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”打算なんてなかった。僕はただ暁美とずっと一緒に居たかっただけなんだ”

 

 

 

 

 

 

 

 柾尾 優太は見滝原の隣の町である風見野にまで来ていた。とはいっても都市ではなく、風見野の中心から外れた古ぼけた神社の境内に来ていたのだ。

 

この神社では夏になると、この神社で祭ってある神様を祝って祭りが開かれ、さらにはこの周辺では一番の花火大会でもあるため、周辺の祭り好き、花火好きはこぞって此処に詰め掛ける。

 

今は夏祭りの面影などなく、辺りは静まり返っており、遠くから聞こえる高速道路から聞こえる車の走る音や草木が風で揺れる音だけが耳に良く響き、彼は変わらない思い出を懐かしむように神社の中に足を踏み入れた。

 

「……暁美。もしかしたらここに君は居るんじゃないかと思ったけど、君はこういう静かな所よりも騒がしいお祭りが凄く好きだったよね」

 

美樹一家と接している時は落ち着いた姉のように振舞っていたが、いざ、お祭りになると彼女は妹分のさやかのように騒がしくなり、誰よりもお祭りを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ねえ、優太君。今日、お祭りがあるから、一緒に学校、さぼっちゃおうか?”

 

優等生である彼女のいきなりの言葉に僕はあの時ほど、驚いた顔はしていなかった。

 

学校では先生にも皆にも真面目とされているのに、学校をサボるなんて僕には全く思いつかない事を言い出したのだ。

 

”この花火大会。色んなところから見に来るのよ。早いうちに場所を取っておかないと花火が見れないし、お祭りも楽しめないわ”

 

口を尖らせながら、黒目がちの大きな瞳が悪戯を思いついたように僕を見てくる。

 

ああ、そうだった。暁美は僕の一番の恋人であり、女性なのだ。僕をいつも楽しいことに連れ出してくれる”魔法使い”のようだった。

 

あの日の花火は、今では綺麗とも思わなかったものが凄く輝いていた。僕よりも大人びていて、手を引いてくれる彼女が子供のように打ち上げられる花火をみて騒いでいた。

 

二人で楽しんだあの花火大会は僕にとって、色あせることのない思い出の一つだ。花火が終わった後も暁美は思いも寄らないことを僕に見せてくれた。

 

”そういえば、知ってる?ここの神社って天狗を奉っているんだって、だからこういう事もやらないとね”

 

今にして思えば、彼女はとんでもなかったかもしれない。神社の宝物庫に行くやいなや、そこにある天狗の面と派手な着物を着て、僕の前でいきなり舞を始めたのだ。

 

舞を始めた時は既に深夜でお祭りも終わっていて、僕達は帰りのバスも電車もない状況だったけど、お互いに帰りたくはなかった。

 

高揚したこの気持ちをお互いにいつまでも感じて居たかった。そして、暁美が舞う舞の主人公は 天狗。

 

後で暁美に教えてもらったけれど、地方によっては能に似た舞が色々とあるらしい。この風見野の舞の主人公の天狗はかつて人々が争い、荒んだ時代に現れ人々を芸で楽しませて争いを治めたという言い伝えからきているらしい。

 

ちなみにだけど、暁美の出身の東北のある村では、悪い魔法使いが居て、あまりの悪さに大名によって退治されることになって、椿の花になって逃げようとしたけど、川の流れの逆に移動していた為そのまま弓で射られて死んだのだ。

 

それからか、その村では毎年疫病が流行り、それを鎮めるために舞と祭りが行われるようになったのだという。暁美の出身の正確には祖母らしいけど、この風見野の天狗はかなりのお節介でお人よしだったらしい。

 

派手に鈴の音を立てて、舞を踊る暁美はかつて争いを終わらせた天狗そのものであり、見ていて思わず笑みが浮かんでいた。そう、君がいたからこそ……笑えたんだ…・・・

 

どうして、君は僕の傍から居なくなったんだい?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

風見野の天狗は、その後皆と一緒に楽しく暮らしたというけど、君は僕を置いて逝ってしまった。

 

君が居なくなった後、僕は必死で君を探したんだ。改めて僕は君の大切さを理解したんだよ。君は僕を光に連れ出しただけじゃなくて、護ってくれたんだって事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて君を会ったとき、君は僕を助けてくれた。助けてくれた……

 

君は”そんなこともあったかな?”と笑って応えたけれど、僕にとっては色あせない大切な思い出なんだ。

 

あの日、ただ態度と体がでかいだけのボンクラ達にいつものように虐められていた……いや、僕にはどうでもよかったかもしれない。生きることも死ぬことにも価値を見出せずに、ただそこに居るだけの僕にとっては………

 

小柄な女の子が大きな身体の男子を圧倒するなんて、何処の夢物語だろうか?いや、暁美は確かに圧倒はしたけど、徹底的に叩きのめさなかった。適当に往なして

 

”じゃあ、一緒に逃げましょう♪”

 

笑顔で僕の手を取って、そのまま人ごみの中を只管走った。ただ走ったんだ。周りの人たちは何事かと目を見張っていて、あの時の僕は少し恥ずかしかったかもしれない。

 

だけどこの感情は、今となってはどうにも感じることは出来なかった……だけど、あの頃の僕は、それを感じていたんだ。そうだ、君が居たからこそだったんだ。

 

学年が上がって、一緒のクラスになったとき僕は、君の姿を見て思わず胸が高鳴った。だけど、どう接するか分からなかった僕に真っ先に声を掛けてくれた。

 

”優太君って、何だか、放っておけないですね”

 

ああ、あの時から僕は恋をしたんだ。君にずっと僕は恋をしていたんだ。そして”希望”をみたんだ。だけど、君は僕を残していった。

 

あの後、僕がどんな目に合ったと思う?どんなに悲しんだと思う?そう、今まで好意的に見てくれた連中が手のひらを返したように僕に冷たくしたんだ。

 

特にあの美樹さやかの父 総一郎は僕が必死になって君を探している時に、邪魔だといわんばかりに暴力を振るったんだ。君の前では優しいお父さんだけど、本当は排他的で自分の認めないものには決して容赦のない男だったよ。

 

”このロクデナシが!!!!!あの子を何処にやったんだ!!!!おまえがやったんだろ!!!!”

 

あろうことか僕を犯人扱いして、冤罪まで押し付けようとしていたけれど、”暁美 シンジ”という弁護士が僕を庇ってくれた。

 

総一郎は、僕を排除したかったけれど、彼のやっていることはただの横暴と言って、僕は”暁美 シンジ”によって少年院送りにはならなかった。

 

だけど、君以外に助けられても特に何も感じなかった。総一郎に暴力と暴言を浴びせられても特に何も感じなかった。何故だろうね?君が居なかったからさ……

 

”暁美シンジ”は善意ではなく、弁護士としての義務で僕を庇ってくれた。だけど、僕は冤罪を免れても嬉しくはなかったよ。君が居ないと何の意味がないんだ。

 

だって君が居ないんだモノ。あぁ……君の代わりなんて居ないし、君のような魅力的な女性は何処にも居なかった。

 

僕の人生はある意味空虚な闇だけが広がっているのは、自分でも分かっている。皆が感じられることが感じられないし、皆のように振舞うことさえ出来ない。

 

そんな中に君は、現れた。僕の中には闇だけじゃなくて、暖かいものがあるんだって気づかせてくれたんだ。

 

それも君が居なくなってから久しく感じられない。下らない女や下品な有象無象に”刺激”を与えて、それを真似ても何も感じられなくなってしまった。

 

おかしいよ……なんで、あの僕を拒絶した総一郎の娘が君と同じなんだい?君の妹分だからと言っても、僕には君のような魅力を美樹さやかには感じられない。

 

人間じゃないくせに人間のように振舞って、僕をまるで”モノ”のように見るあの一家は、僕から君を引き離そうとしていたけれど……

 

”大丈夫だよ。アナタはロクデナシじゃないよ。私は知ってるよ、あなたが凄く可愛いってこと”

 

男の僕に可愛いと言ったのは、少しショックを感じていたかもしれない。

 

だけどね。最近それすら感じられなくなったんだ。おかしいんだ……あの魔女が僕に何かをしたんだ……

 

僕の中にあるはずのそれをたったかもしれないんだ。おかしいよ、愛しい君を亡くして、それが僕にとって何の価値もなかったなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。久しくやり取りを行っていなかったQBよりメールが来たのだ。今回は何と、音楽用のフォルダを添付しており、奇妙に思った柾尾 優太はそのフォルダを開き、データを呼び出した。

 

流れてきたメロディーを聴いた瞬間、彼は思わずスマートフォンを落としてしまった。そう、何も感じられない筈の彼が唯一、高揚させる彼女の過去の音色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕闇の中に浮かんだ彼の影が大きく歪む……

 

 

 

 

「ああ………暁美。君は、そこに居たんだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

居てもたっても居られないのか、柾尾 優太は足早にその場を去った。彼の中には、久しく感じていなかった高揚感があった。それは、とある少年にとって二度目の不幸の始まりであることを誰も予期することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 警察署 刑事課

 

「間違いないんですね。やっぱり奴が何かをしたのは、間違いないんですね」

 

美樹総一郎は、知り合いの鑑識の人間にある事件から得られた証拠の詳細を確認していた。

 

「あぁ、間違いない。こいつは奴さんのモノだ。ちなみにルートもハッキリしている」

 

鑑識の男は、総一郎よりも遥かに壮年の男性であり透明のビニール袋には、べったりと赤く染まったナイフが納まっていた。

 

「まさか、ミリタリーオタクの少女にまで手を出していて、そいつからナイフを奪って、そのまま試したのは末、恐ろしいな」

 

総一郎が追っていた青年の所業は、おぞましいの一言であり、ハッキリしている事件だけでも相当な数であり、状況証拠のみで確実な証拠が今まで挙げられなかったことにはいつも歯がゆさを感じていた。

 

「なんで、またこんな奴が今まで捕まらずに居たのかね?」

 

「………あの時、彼女が亡くなった時にハッキリしていたんだ。アイツがやったのは絶対なんだ」

 

「そ、総一郎さん。アレは、アンタの暴走だぜ。今はどうかは知らんが、あの時の奴さんは無罪で特には何もしていなかったんじゃ……」

 

正確には、風見野にいたとある男子中学生の殺害の容疑が掛かっていたが、彼のしたことの方が明るみになり、あの少年は彼女が彼の手に掛かったことに対して衝動的に殺害してしまったという結論に至っている。

 

当時の何もしていなかった彼よりも風見野に居た明良 樹という少年の所業の方が話題となり、柾尾 優太の罪は特に問われることはなかった。

 

「そんな筈はない!!!!奴は、暁美ちゃんに付き纏っていただけのロクデナシだ!!!!!奴をどうにかできなかったため、彼女は死んだんだ!!!!!」

 

興奮してデスクを勢いよく叩く彼の表情は、普段よりも赤く染まっており、刑事としての正義感を出している彼ではなく、一人の人間としての純粋な”憎悪”が滲み出ていたのだ。

 

総一郎自身も壮年で灰色が掛かった白髪であるが、長身の身体は怒りに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。奴がもう一人の娘である暁美ちゃんを奪ったに違いない。彼女が生きていた頃、街には奇妙な噂があり、夕方には多くの行方不明事件が見滝原を騒がせていたのだ。

 

ホームレスから、一般のサラリーマン、OL、教師、学生といった様々な人間が一晩の内に消えてしまう事件が連日報道され、幼い子供たちに危害がないように大人達は常に神経を尖らせていた。

 

あの頃に見た灰色の翼をもった少女を見たとき、私はこのようなことを少女がしてはいけないと訴えたのだが、彼女はそれを拒否して私達の前から去っていった。

 

もし、あの時暁美ちゃんがそのようなことになっていたとしたら、私は繰り返してはならないだろう。そうだ、あの上条恭介君に起った奇跡は、本来ならばありえない奇跡なのだ。

 

もしかしたら、強引に無理やりねじ込んだような奇跡だとしたら、長くは続かないかもしれない。そうだ、私達から大切な娘を奪ったあの気味の悪い青年同様の何かが近くに居るかもしれない。

 

そいつは、どうにもならないかもしれないが、私は長年、放置していたあの青年を今夜、檻にぶち込んでおかなければならない。

 

私は、あの気味の悪い青年を見るに耐えられなかった。奴が人間の真似事をするのが我慢できなかった。あんな”人形”のような青年に将来性などない。ただ、居るだけで何にも役には立たない人間だ。

 

あの時、若造の”暁美シンジ”が、庇いだてしなければ、ここまで被害は多くはなかっただろう。しかも”暁美シンジ”の娘”暁美 ほむら”は、行方不明になっていると聞く。

 

いい気味だ。あの時、人形を庇い、これまでに無用な犠牲者をだしたお前には相応しい罰だろう。それは、殺された犠牲者たちからの罰なのだ。

 

さらには、汚職議員の冤罪を晴らそうと躍起になっているらしいが、そんな無意味なことしかできないのは哀れに思うよ。

 

蓬莱暁美は、この見滝原で私たちが得たもう一人も娘だった。品行方正で、教養が高く、大人びていて、それでいて年相応の無邪気さを持つ彼女は私達の中で大きな意味を持っていた。

 

そんな彼女が恋人と紹介したあの人形については、私は心から残念に思った。何故、君のような少女がそのようなロクデナシに惚れたのか?

 

私達には、分からなかった。だが一刻も早く引き離したかった。君には相応しくないその人形から……

 

だけど、安心したまえ、暁美ちゃん。おそらくあの人形は君の元には、行かないだろう。まもなく法の裁きにより相応しい場所へと送られる。君の居る天国には行くことはない。

 

あの魔法少女が君ではないと思いたいが、君は見滝原で何をしようとしていたんだい?数年前の噂を追って様々なところへ行ったが、何も得ることはできなかった。

 

だが私は信じている。君が私達には言えない大きな戦いをしていて、志半ばに倒れたことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 繁華街 路地裏

 

 時刻は既に帰宅の為の人達で込み合う時刻となっており、そんな人混みから少し離れたところで一般人が認知できない世界が広がっていた。

 

「やっぱり使い魔も放ってはおけないね!!!」

 

白いマントを靡かせ、周りに自身の魔法により発生させたサーベルを握り、さやかはそれぞれのサーベルを器用に操り、使い魔達を切りつけていく。

 

使い魔達は、かつてマミが倒した”薔薇の魔女”のそれであり、鋏を突き立ててさやかに向かって行くが、さやかはその動きに対して

 

「遅いよ!!!もっと腰を入れないとちゃんと当たらないよ!!!!」

 

”さやか腕だけでは駄目よ。自分からしっかり踏み込まないとね”

 

「へへッ♪こんなところでお姉ちゃんの教えが役に立つなんてね♪」

 

かつて姉が教えてくれたのは二刀流ではなく、一本の刀で行うチャンバラでそう教えてくれたのだ。

 

確か今でもシリーズが続いている女の子が活躍しているアニメのお気に入りのキャラクターが日本刀を使うキャラクターであり、女の子らしくはないのだけれど、その実誰よりも乙女だったキャラクターに憧れてお姉さんと一緒に遊んだのだ。

 

その時に、”どうせなら、本格的に剣道をやっても良いかも”

 

”剣道”といえば、父やその同僚の人たちがやっているような痛くて乱暴なことではと思っていたが、お姉ちゃんは私に強そうに見える打ち方、実際は護身術に通じる方法を教えてくれたのだ。

 

そのおかげで、幼馴染のまどかが虐められていたときに、彼女を護ることができた。同年代の子と一緒に遊んだ時も”さやかちゃん、かっこいい”とはまり役に成れたのも

 

「お姉ちゃん。アタシ、ちょっと大変なことになっちゃったけど、ちゃんと見守ってよね!!!!」

 

使い魔に対して、さやかはかつて父に連れられて見た姉 蓬莱暁美の姿を自分に重ねていく。

 

警察の剣道部の中に一人道着に身を包んだ姉は、誰よりも凛々しく有段者である大人の男を鮮やかな剣で一本取って行く光景に幼いさやかは誰よりも憧れを抱いた。

 

”アタシもお姉ちゃんみたいにかっこよくなりたい!!!!”

 

贅沢に言えば、普段は大人しく穏やかなのだが、いざと言う時は誰よりも凛々しくなる”強い女性”になりたかった。

 

”ばっさ、ばっさ、とかっこよくなりたい!!!”

 

当時に自分が何を言っているのか分からなかったが、姉は剣についてこう教えてくれた。

 

”さやか。剣道と剣術は違うわよ。道は自分の生き方をあり方を模索することで術は相手を殺すための、倒すためのあり方なの。そのあたりのことは、今は難しくても、決して間違えないでね”

 

(昔は、よく分かんなかったけど……今はお姉ちゃんが剣術じゃなくて剣道の方にアタシを行かせたかったみたいだけれど、アタシはこの道を踏み外さないようにするから……)

 

姉が行方不明になり、亡くなった時は彼女を生き返らせてと何度も神様に祈った。幼馴染の恭介は、姉のヴァイオリンが大好きで今もあの音色を追っている。

 

キュウベえの存在を知ったとき、幼馴染の手を治したいと願った。だが、それと同時に姉を生き返らせたいという願いが脳裏に浮かんだ。

 

姉は自分を犠牲にしてまで復活を望まないだろう。自分が他人の為に人生を投げ出したといったら、おそらくは自分を叱ってくる。お叱りは、自分の願いを全うしてからゆっくりと受けますと内心呟きながら、最後の使い魔に対し、サーベルを突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、さやかが使い魔と戦っている間に人ごみの中に柾尾 優太が足早に移動していることを察することは出来なかった。

 

ポケットの中に忍ばせていたマミのソウルジェムが揺らいでいるのを見たが、特に気にすることなく彼が求める物を得るために”上条恭介”の元へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、とある住宅で起る事件とさらには見滝原で立て続けに大きな事件が起ることをこの時、誰も知る由は無かった。そして、ある少女が嘆くことも………

 

 

”どうして!!!こんなことになるのよ!!!!!!!”

 

 




あとがき




蓬莱暁美を想う方々。以前、感想で書かれましたが、蓬莱暁美がビッチすぎる(笑)

それぞれの想いを説明させていただくと 

上条恭介君は確かに初恋の人ですが、惚れたのはあくまで彼女のヴァイオリンの音色であって彼女自身はおまけのような感じです。

インキュベーターこと カヲルは完全に夫気取りであり、彼女をなくしたこと自分に酔っています(笑)

柾尾さんは、純粋に暁美ちゃんを想い続けています。

美樹総一郎は 家族愛に近い愛情を持っています。娘は絶対にやらんという頑固親父をイメージしていただければ……

さやかは、純粋に姉として慕っていて、今でも憧れで彼は知りませんが、姉と一緒に写った写真が今でも自室に飾られています。





次回、上条君の扱いがあんまりになるかもしれません。プロットだけならば、今まで以上にかなり胸糞が悪くなる可能性があります。






キャラ語り

蓬莱 夏一郎

蓬莱暁美より語られる祖父。かつて太平洋戦争でなくなり、今となってはどういう人物だったかは作中のキャラ達は知る由もありません。

人物像としては、名のある武家の家系を継ぐ家の出であり、出身は東北地方を設定しています。武芸の才覚は超一流であったが、本人は争いを好まず、才ある武芸にはあまり興味がなく、音楽を特にヴァイオリンを愛していました。

武芸だけではなく音楽方面の才能もあったため、そちらの方面に進みたかったが、家の方針により反対されていた。家出、駆け落ち同然で祖母 蓬莱暁美と共に見滝原に出てきたのは15、6歳の頃です。

多才な人物で 外見のモデルはISの織斑一夏です。原作の一夏も戦いの方面の才能もありますが、本人はあまり争いを好まず、友達とワイワイしているほうを好んでいそうなので、モデルにしました。

ちなみにですが余計な事をというか、許婚がいましたがそれを蹴って”蓬莱暁美”と一緒になるぐらい一途で行動力のある人でした。

時代が悪かったのか、戦争に行かなければならないと周りに強制され、自身の進みたかった道、さらには大好きなヴァイオリンを手放して、国の為に手を汚さなければならなかった真情はいかがな物だったのか?

※一種の遊びですが、もし呀とIS×GAROが同じ世界感ならば、一夏と千冬の遠い血縁関係にある人物でもあります。

※賢明な方には分かるかもしれませんが、60年前の蓬莱暁美の祖母の正体……分かりますよね。








美樹 総一郎


この小説における美樹さやかの父。今は刑事であるが、若かりし頃は豪腕でプロ入りを約束された有望な野球選手だったが、事故による腕の怪我により選手生命を断たれる。

事故後はかなり荒れていたが、刑事になり、少し歳を経てから結婚。娘のさやかを設ける。

名前からして、デスノートの主人公の父親がモデルかと思われるかもしれませんが、実を言えば外見はエヴァの冬月がモデルです(笑)

ちなみに旧姓は 冬月 総一郎という設定を考えていましたが、本編で紹介することもないので、ここで書きます。

正義感のある優秀な警察官には違いないのですが、かなり思い込みと我が強い人物であり、第一印象で人となりを決め付けてしまいますので、かなり付き合いが面倒くさい人物でもあります。

柾尾さんに対しては、最初から嫌っていて、何とかして暁美ちゃんから引き離すことだけを考えていて、理解する気などありませんでした。

※暁美ちゃんは、彼の事を理解して欲しいと度々訴えていましたが、聞く耳持たずです。

※柾尾さんだけではなく、ほむらの父も嫌っています(笑)そして、ほむらも(汗)坊主、憎ければ袈裟までとはよく言ったものです。







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第弐拾弐話「崩壊(後編)」

かなり久々の更新です。昨年はリアルでへこむことが多くあり、人間関係で非常に疲れていました。世の中って、どうしてこうもやるせないというか、人の良さそうな顔をして人を利用することしか考えないのかしらという嫌な考えに支配されていました。
ストレス発散でダイビングを行ったりもしましたが、聞こえの良いことばかり言う人には要注意ですよと言いたくなりました!!

こちらの注意ですが、上条君がかなり酷い目にあうので彼が酷い目に会うのは嫌だという人はバックをお願いします。





風雲騎士 バドは、見滝原の繁華街にある劇場に来ていた。

 

繁華街と言っても駅前の開発計画によりかつての活気を失い、道中見かける店舗のほとんどがシャッターを閉めており、人通りは少ない。

 

その中にある西洋の劇場をイメージした劇場があり、現在公開している映画のタイトルとそのイメージボードが掲げられていた。

 

古い映画がほとんどであるが、どれも広い世代で親しまれているタイトルばかりであり、平日の午後にTVで放送していたタイトルもあった。

 

橙色の照明の下、バドは劇場の中に足を踏み入れた。造りはレトロであるが、何処となく品のある佇まいである。

 

その奥に新聞を広げる老人が一人居り、缶コーヒーを片手に休憩を取っていた。

 

「次の三十分後に開始するよ」

 

いつものように訪れた客に対し接するが、今回の客は少し事情が違っていた。

 

「ここは、かつて蓬莱暁美がよく通っていた劇場でかまわないのかな 日登美さん」

 

ここ数年聞かなかった”蓬莱暁美”の名前に対し、老人は大きく見開いた。

 

「嗅覚の利く知り合いに探らせてもらった。14歳の女の子からのお小遣いにしては随分と多い気がするんだが……」

 

胸元から書類を持ち出し、老人に視線を向ける。それは現在も存在している蓬莱暁美の講座に関する書類であった。その資金はこの劇場に定期的に振り込まれており、今も劇場運営の資金となっていた。

 

「そうだね。私があの村から出て、見滝原に来たのは随分と前だ。あの村のイカレタ風習から逃れられると思ったのに……」

 

突然、遠くをみるように老人は古ぼけた電話を取り出した。既に回線を切っているため使用は出来ないが、この中に記録してあるメモリーだけは今も聞くことが出来る。

 

「一から始めていて、どういうわけかあの村から出られないはずの蓬莱暁美があの時の姿のままで現れたんだよ」

 

頭のおかしい話かもしれないが、あの時の衝撃は今でも忘れられない。そして、彼女は自分にいった言葉も……

 

「アンタは、魔法少女というのを知っておるかい?言っておくが、いい年をした若い者が夢中のアレのことじゃない。現実におるんだよ…言っても分からんか、今の人間は目に見える世界しか信じないからな」

 

この老人の孫娘は、かつて魔法少女だったというのだ。

 

「目に見えない世界?」

 

気になる単語であるが、老人はバドに構わず続ける。

 

「あの子は、あるお願いをしたのだよ。この劇場を立て直して欲しいと……不思議なものじゃろ、こんな寂れた劇場にいつも人が居るというのは……」

 

最初の頃は多くの来場客で賑わっていたが、時代の流れと共に劇場は形を変え古い劇場は次々と閉館していった。そんな時代に消えるしかなかったこの劇場が今でも残っているのは……

 

「お孫さんの名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「日登美 雫。私のたった一人も孫じゃった。あの子には、味あわせたくなかったのに、どうしてだろうか?あの村だけではなく、何処もいかれておるのは人間がそういうものだろうか?」

 

「今は……」

 

「数年前から行方不明じゃ。いや……もう生きては居ないじゃろう」

 

老人は、疲れたように古びた固定電話の留守電に残されたメッセージを再生させる。

 

<おじいちゃん……ワタクシ……もう駄目みたいですわ……>

 

<円さん。もう少しだけ待っていただけますか?ワタクシの最後の身内へ残すのですから……>

 

メッセージの後に騒音、何かが激しく戦うような、ガラスが割れたような音の後に……

 

<アハハハハハ♪やったね。あ、おじいちゃん♪聞いてる?ねえ、居るんならさ、出てよ!!!お宅のお孫さんなら、さっき亡くなったばかりで、間違って川に死体を落としちゃったよ>

 

<ねえ、聞いてる?聞いてる?もしもし?もしも~~し>

 

その後を聞きたくなかったのか、再生を中断させた。老人の表情は暗く、それでいて何か納得できないようだった。

 

「なぁ、この子達は何様のつもりで蓬莱暁美に攻撃をしたんじゃろうか?孫が得体の知れないモノに手を出したのは自業自得じゃが、あの子たちにはあの子達なりの正義を持っておった」

 

”たとえ、因果応報でも”を付け加え、老人は席を立った。

 

「お前も身内に魔法少女が居るんなら、中途半端な覚悟で関わるのならやめておけ。中途半端な正義感で蓬莱暁美を下した結果が今の見滝原じゃからな」

 

老人は吐き捨て、

 

「今はもう蓬莱暁美は居らんが、彼女の墓だけは荒さんでくれよ。眠っている亡霊を叩き起こして良いことなんぞないからな」

 

バドにある場所の地図を差し出した。そこは、かつて”バブル”と呼ばれていた時代に見滝原で最も栄えていたある場所だった。そこは、数日前に美樹さやかの父親である総一郎が訪れていた場所であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は放課後であり、真冬ほどではないが肌寒く感じる風を頬に感じながら、人を探していた。

 

「ったく……マミの奴何処をほっつき歩いているんだよ」

 

「ソウ言うもんじゃないよ。杏子、事情があって街を離れているという可能性も否定できないんじゃないのかな?」

 

杏子の腕に付いているのは、伯父が契約している魔導具である”ナダサ”である。何かあったときにという理由で伯父からもたされているのだ。

 

「ほむらのことを言ってんのか?暫く街を離れるからマミに見滝原を任せているんだろ、そんなマミが黙って街を離れるわけがない。何かあったんだ」

 

杏子は、少し前に出会った暁美ほむらの事を思い出していた。ポートシティーから戻った夜、青い光を発する蝶の使い魔を従える彼女と出会ったのだ。

 

『なあ、伯父さん。あれって?』

 

『ああ、珍しいな。使い魔だ。それも魔戒導師の……』

 

サイドカーにのり何となく空を見上げてみれば、見滝原の空を一匹の青い蝶が何処かへ向かっているのだった。

 

『魔戒導師?』

 

『今の時代にはほとんど居ないが、未来を予期することの出来る存在だが…最後の一人が居なくなってから、もう数年は経つな』

 

青い蝶は歩道橋の上に居る黒い髪が特徴的な少女の指先に止まった。その少女を見かけたバド、杏子の二人はサイドカーを近くに止め、その少女の下へと急いだ。

 

『あの子って、伯父さんの知ってる子?」

 

『いや、知らないが……あの子に良く似た人は知っている』

 

この時のバドは、遠めに見た少女 暁美ほむらの容姿は、今自分がちょっかいを出しているあの男が最も大切にしている”人物”に良く似ていたのだったから……

 

『お~いっ!!アンタっ!!!お~いっ!!』

 

杏子は思わず声を上げてしまった。理由はいうまでもなく、見滝原で出会った初めての”魔戒”の関係者なのだ。個人的に興味は尽きないし、話も聞いてみたいのだ。

 

『そうだな。杏子ちゃん。鳴り札をあの子に向けてくれるかい?もしくは・・・・・・』

 

『分かっているよ♪伯父さん』

 

杏子は袖から淡く輝く金魚に似た生き物を歩道橋の上に佇む少女 ほむらに対して放った。

 

放たれた生き物は、ほむらの前に躍り出るように現れ、彼女もその意図を察したのだ。

 

『そういうことね。分かったわ、近くにあなた達のバイクが止められる所があるから、そちらで会いましょう』

 

ほむらもまた、自身の使いである蝶に伝言を載せて杏子達と合流を果たすのだった。

 

『魔法少女で魔戒導師見習いって……アタシと同じかよ』

 

『……まあ、そんなところかしら』

 

杏子とバド、ほむらは近くのファミリーレストランの前に来ていた。杏子からみたほむらの第一印象はそれほど悪くはなかった。

 

むしろ親近感すら抱いていた。理由はいうまでもなく、自分と同じ境遇、同じ立ち位置にいる少女と出会うのは初めてだった。

 

伯父との付き合いで、出会う同業者”魔戒関連”の者のほとんどは、自分よりもずっと歳を経ている者ばかりだったからだ。

 

『へぇ~~。その衣装って法衣だよな。邪美に似てるけど、向こうと比べたらおとなしいな』

 

『……あの…あまりじろじろ見ないで欲しいのだけれど……』

 

『あ、ごめんよ。法衣を着ていて魔法少女ってことは、相当この業界に入れ込んでるってことだよな』

 

『えぇ、つい最近ね。彼とその従者に就いているわ』

 

ほむらは、素直に”魔戒”に関わったのは、ここ最近であることを明かした。嘘をついて魔戒騎士、法師の家系と偽るほど図太く振舞うつもりはなかったのだ。

 

『あんたは……っと』

 

『暁美ほむらよ。アナタは、佐倉杏子で良かったかしら?貴女の事は美樹さんから伺っているわ』

 

自己紹介がまだだったので、ほむらは自身の名前を杏子に明かした。さらには、自分が美樹さやかと顔見知りであることも伝えて……

 

『な、なんだって!?!さ、さやかが契約をしたっ!!!?』

 

自分が離れている間にとんでもないことになっていたことに杏子は驚きの声を上げた。

 

『えぇ、幼馴染の男の子の手を治そうと……インキュベーターと契約を交わした』

 

ほむらから、自分が居ない間の見滝原で起きたことを大まかに聞き、さらには……

 

『巴さんは、今ワルプルギスの夜に向けて動き出している。私も参戦するけど、どうしても手が足りないの。貴女にも……』

 

『で、でもさ……アタシはマミに…』

 

拒絶されていることに後ろめたさを感じるのか、いつもの彼女らしからぬ歯切れの悪さである。

 

『巴さんは心のそこから貴女を嫌っているわけではないわ。ただ、彼女もベテランの魔法少女ではなく、一人の人間だという事を分かってあげて』

 

巴マミとの付き合いならば、ほむらよりも杏子の方が長く、よく理解しているだろう。だが、人というものはただ付き合いが長いというだけでは理解は出来ない。

 

そのことをおぼろげながら、ほむらは理解しているが、それを本当の意味で解ってはいなかった。

 

『そ、そうかい?じゃあ、アタシも近いうちに顔を出すよ』

 

『そうだね。そのときは俺も一緒に行こう。できれば、ほむらちゃんも着てくれると話がスムーズに進みそうで助かるんだが……』

 

ここでバドが二人の会話に入った。今まで魔法少女の会話に入らなかったのは、自分が不用意に立ち入っては駄目だと判断していたからだ。

 

『そうですね。私も橋渡しになりたいのですが、話を強引に進めては巴さんを傷つけてしまいます。私は三日後に戻りますのでその時に……』

 

『三日後って?何処に行くんだよ』

 

『アスナロ市です。そこに大物の使徒ホラーが現れたので、一緒に居る者とそこに行かなくてはならないのです』

 

”一緒に居る者”という単語の時に表情が引きつっているのを杏子は見た。

 

『なあ、アンタ…ほむらと一緒に居るのは伯父さんと同じ魔戒騎士だよな?なんか、凄く嫌そうな顔をしてたけど』

 

『………別に……アイツを見張ってないと何かしらあったら、後悔しても遅いのよ』

 

手のかかる身内に苦言するさまであるが、実際は自分等がどうあがいても勝てる相手ではないことはほむら自身よく分かっている。

 

だからと言って、大人しく従うつもりもないし、言いなりになるつもりも無かった。ほむらの様子にバドは”くくっ”と笑い、”程々にな”と付け加えていた。

 

『それで君は、杏子ちゃんと俺のように魔戒騎士の家系でもないのに、どうして魔戒の技術を学ぼうとしているんだ?それに魔法少女の契約まで……』

 

”何者にも勝る力”それこそが、自身の奪われたモノを取り戻す物であるのではなかろうか?その理想に近い存在は、彼女 ほむらの傍に居り、自身の同類であることへの同族嫌悪、

 

そして、無敵としか言えない彼の凄まじいまでの”闇の力”に対しての僅かな憧れ……

 

『………私は誰かの為とか、正しいこと等を言うつもりはありません。ただ自分自身が憎いだけです。弱くて、何も出来ずに愛しい人を失う。そんな自分を抹殺したくて仕方が無いんでしょうね』

 

自身への嫌悪にも似たほむらの言葉に杏子は思わず息を呑んでしまうが、バドはこの少女といま彼がちょっかいを掛けている男の姿が重なったのだ。

 

《だからこそ、バラゴと一緒に居るのか?自分と同じ人間を見つけてどうするつもりだ?》

 

その疑問を彼は口には出さなかった。そこに不用意に踏み込んでは駄目なのだ。彼女自身の意思を強制するようなことは、たとえ身内でも許されることではない。

 

『それでは、三日後に佐倉さん。大変かもしれないけど美樹さんの事をよろしくお願いします』

 

頭を下げ、ほむらはアスナロ市へ向かうべく駅のほうへと歩みを進めていった。

 

『あ、あぁ……』

 

去っていたほむらに対し、杏子はただ見送ることしか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ほむらもややこしい奴なんだけど、悪い奴じゃ~ないんだよな)

 

さやかのこととマミに対して気を使ってくれるところは、ありがたく、同じ魔戒のモノとしては個人的には仲良くしておきたいのだが……

 

(あの自分自身を抹殺したいってのは、どうにかならないかな)

 

魔法少女ではあったのだが、最近になって魔戒導師の術を学びだしたのは、強い力を欲しているためだ。確か、魔戒騎士の逸れ者になる者のほとんどが強い力を欲することから始まるのだ。

 

自分ではどうにか、ならないかもしれないが、マミと一緒なら何とかほむらの助けになるのではと杏子は考えていた。

 

杏子はマミが如何なる魔法少女であるかは、自信を持って述べることが出来ると自負している。

 

魔法少女としての”師”であり、”友人”でもあった彼女は、魔法少女の中では一番良識がある部類だと考えている。キュウベえですらもその辺りは認めている。

 

正義感が強く、道徳、倫理もあるのだが、自分を必要以上に追い詰めてしまう傾向があり、魔法も自分の為であることに目を背けており、他人の為に使わなければならないことを自分に強要している風にさえ見えるのだ。

 

(……だから、反発したアタシはマミに拒絶されたんだ)

 

誰かの為に魔法を使うことを主張した時は、穏便に話をしていたが、次第にヒートアップをしていき互いに魔法を使って傷つけあうに至ってしまったのだ。

 

「OK。杏子の事情は良くわかるよ。信用をGETできるのは、難しいかもしれないけど、気長にやって行こうじゃないか。それにマミちゃんは君の先生だったんだよね。だから無事で居るさ」

 

「気持ちだけは受け取っておくぜ。ナダサ」

 

杏子は内心、マミが魔女、もしくはホラーにやられてしまったのではと考えたが、マミが死んだのならキュウベえ辺りが他の魔法少女を見滝原に呼び込もうとするだろう。

 

恐ろしく邪悪な魔法少女がアスナロで消息を断ったという噂を耳にしていたが、その辺りの事をほむらに伝えてあげるべきだっただろうかと今更ながら後悔の念を感じてしまう。

 

とは言っても、以前見滝原で活動をしていた”蓬莱暁美”ほどではないだろう。

 

他の魔法少女の気配は無く、見滝原は異様な雰囲気に包まれている。普段と変わらない街の光景であるが、言い表すことの出来ない違和感を覚えてしまうのだ。

 

特にキュウベえの動きが無く、時折、観察をする様にこちらを見ているあの纏わりつくような視線が鬱陶しかった。

 

「そういえば、伯父さん言ってたよな。見滝原は異常に陰我が多いから気をつけろって……」

 

見滝原は魔法少女の狩場としては最高の場所であると言われている。魔女が他の街と比べて異様に多いのだ。

 

風見野にも魔女はそれなりに居るが、見滝原と比べれ多くはない。何故、ここまで魔女が多いのだろうか?見滝原に大きな陰我があるのは何故なのか?

 

伯父も”蓬莱暁美”の事を気にしていた為、見滝原の陰我の中心にいたのは彼女であるのはほぼ間違いないかもしれない。

 

「伯父さんはそれを調べに行くって言ったけど……って……ん?」

 

杏子は人混みの中に見知った顔というよりも記憶の中に何となく憶えているといった人物を見かけたのだ。

 

「アイツ、マミの隣に居た奴だよな?」

 

記憶の中にあるのは、マミとコンビと組んでいた時の道中、何だか近くで女と一緒に居るのを見た事があった。見かけるたびに女が違うことに杏子は内心、軽蔑に似た感情を抱いていた。

 

「ま~~た。別の女のところに行ってるのかよ。お盛んなことで……」

 

「杏子。そういうのは、あまり口にはしないようにLeadyとしてはしたないよ」

 

「別に……あんな女たらしに言葉の汚い綺麗はどうでもいいだろ……それよりもさ。アイツってさ、陰我ってあるの?」

 

「ん~~~っ、確かに男と女がらみならそういう陰我というのはあるね。だけど、あの青年自体に陰我は……ないけど……」

 

黙ったナダサに対し、杏子は

 

「なんだよ?あるのかないのか、ハッキリしろよ」

 

「長いことホラーは見てきたけど、あそこまで恨みを引き連れている人間は現代でもそうそういないよ」

 

「あん?やっぱり、女で災難に遭ってるのか?」

 

思わず笑ってしまう杏子であったが、ナダサがあの青年から感じたそれは非常に危うい物だった。ホラーは陰我より現れる。それは自然界に存在する邪悪なものであり、人の悪しき心が陰我を招くのだが……

 

ナダサが見たあの青年には邪念は無かった。純粋に何かを求めて、一度火がつくとそれに向かっていくだけのある意味純粋な存在に近い。だが、そんな彼の影に隠れるように、絡みつくようにいくつモノ女の顔が…

 

いくつもの女の怨念が絡み合い、あの青年に迫ろうとしていたのだから………

 

古の時代、多くの女性達に言い寄られながらもそれに応えることなく、その想いを呪いに変化させ、魔物に変えてしまった言い伝えが存在している。                                                                             

 

「はは、じゃあろくな死に方しないってことかよ。まさかマミの奴…あ、でもそれは無いか……」

 

内心、マミがあの青年に何かされたのではと考えたのだが、普通の少女のマミならば可能性はあったかもしれないが、魔法少女としてのマミならばそんなことはありえないだろうと考え、人探しを続けるのだった。

 

”魔法少女としてのマミ”に対する盲目的な信頼……この時間軸で彼女と接した暁美ほむらが内心危惧したことであるが、その危惧が他の魔法少女たちは察していなかった。暁美ほむらも例外ではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柾尾 優太は、足早に見滝原の住宅地に足を踏み入れていた。普段と違い落ち着きの無い様子であった。

 

大切なモノをなくし、それを必死に探しているように見える。事実、何人かの人間が彼に声を掛けたのだが、その度に

 

『話しかけるな!!!!今、僕は、忙しいんだ!!!!』

 

声を掛けてきた人たちを怒鳴りつけ、場合によっては突き飛ばすなど、普段の彼を知る人が見れば明らかに様子がおかしかった。

 

やがて彼は、ある住宅の前にたどり着いた。表札には ”上条”と書かれていた。

 

美樹 さやかの願いにより、手を取り戻した少年 上条 恭介の自宅であり、今もヴァイオリンの練習をしていた。

 

閑静な住宅街に響くヴァイオリンの音は、複数にあり一つは彼自身の演奏であり、もう一つはカセットテープに録音された”蓬莱暁美”のモノだった。

 

「あぁっ!?!暁美だ!!!暁美の演奏だ!!!!」

 

居ても立ってもいられず、彼は上条恭介の家の敷地内へと呼び鈴を鳴らさずに入っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭に入り込んだ彼は、演奏の音源を捜すべく勝手に徘徊を始めた。その都度、この家の住人の趣味であるガーデニングを施された庭の花を踏み荒らしていくが、特に気にすることも無かった。

 

彼の求める物は1階ではなく2階にあるらしく、何としても家に入らなければならなかった。

 

「あ、アナタはっ!?!だ、誰ですか!?!勝手に人の家の庭に……」

 

声を上げたのは、上条 恭介の母親だった。その手には電話が握られており、警察に突き出すつもりだったが……

 

彼は感情の篭らない目で見据え、警察にいる自分の協力者から奪った”拳銃”を突き出し……

 

驚く間もなく上条婦人の視界が安定し鈍い音と共に庭に倒れた……住宅街に銃声が響いたのだが、時間が時間の為か誰もそのことに気がつかなかったが、

 

「な、何なんだい?銃声?それも僕の家の……1階からだって……」

 

恭介は突然の事態に対して恐怖を感じていた。言うまでも無くいきなり非日常的な銃声が自身の近くで聞こえてきたのだ。

 

何かしらの事件に自分が巻き込まれたのではと考え、最悪な結末が脳裏に過ぎった。

 

「冗談じゃないよ……お金なら上げるから僕から”お姉さん”だけは奪わないでくれ……」

 

ヴァイオリンを乱雑ではあるがケースに押し込み、数日前に治ったばかりの自身の右手を大切そうに押さえ込み、恭介は祈った。このまま何事も無く災厄が過ぎることを……

 

だが、災厄は過ぎるどころか着実に彼 上条恭介の元に近づこうとしていた。

 

柾尾 優太は、ガラスを割りそのまま土足で上条家のリビングに上がった。リビングは婦人の趣味なのか北欧を思わせる家具で統一されているが、彼にとってはリビング等どうでもよかった。

 

リビングで彼は思わず目を見開いた。家族や旅行を行った際に撮影されたであろう写真の中に彼が求めていた”彼女”が居たのだ。

 

「暁美っ!!!」

 

その写真は、上条家の人と美樹さやか、蓬莱暁美が写っている物だった。何処かのスタジオのようだが、その場所を彼は知らない。

 

柾尾 優太は、鞄から鋏を取り出し写真の蓬莱暁美のみを切り出し、他の部分は不要と言わんばかりに捨てた。

 

「暁美……僕の蓬莱暁美………」

 

普段の物静かな彼を知る人からしてみれば異様な光景だった。彼は笑っていたのだ……光悦としており、愛おしそうに切り取った蓬莱暁美を眺めていた。

 

二階からは、彼女 蓬莱暁美が演奏していた物を記録したカセットが流れていたが急に止まってしまった。

 

上条恭介が強制的に機器を止めたのだ。そして彼は、部屋の中に立てかけてあった金属バットを掴んでいた。

 

「来るなら来い!!!!お姉さんを奪われてたまるか!!!!」

 

音楽が聞こえて来なくなったことに柾尾 優太の表情は不機嫌さを強くしていた。

 

「誰だ?お前なんかがどうして僕の蓬莱暁美と一緒にいるんだ?僕だけだ……蓬莱暁美は僕の……僕の……」

 

自身の中に渦巻く”何か”に心地良さを感じながら、柾尾 優太は階段を上がり上条恭介の部屋の前に立った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上がってきた侵入者に対し、上条恭介は金属バットを入り口の前で構えていた。

 

(……さぁ来い!!!!)

 

心の内の言葉に呼応するかのように引き戸から何処と無く見覚えのある青年が顔を出した。その青年は……

 

(あっ!?!この人はお姉さんに纏わり付いていた!?!)

 

恐ろしい何者に対する恐怖心に対し金属バットを握っていたが、彼の中の感情に黒い物が過ぎった。青年がこちらに顔を向けたと同時に感情の篭らないガラス玉のような目が自身の目と交差した。

 

上条恭介の感情に過ぎったのは”不快感”であった。かつて幼い頃に慕っていた”お姉さん”に唯一の不満はこの”人形”のような青年と交際をしていたことだった。

 

なんどもどうしてと、問い詰めたが、”お姉さん”は聞く耳を持ってくれなかった。お姉さんとの演奏は自分との大切な時間なのに、どうしてこの”人形”にまで時間を割くのかと……

 

途端に彼は、容赦なく柾尾 優太の頭部に鈍い音を立てて金属バットを振りかざしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が大きく揺れるのを感じながら柾尾 優太は目の前の少年の目に対し、”不愉快”なモノを感じていた。必死になって自分を排除しようと大切な人から引き離そうとしていたあの一家と同じ目を少年はしていたのだ。

 

逆に上条恭介の表情は光悦としていた。目障りとおもっていたこの青年を自身の手で排除できるからだ。

 

(僕とお姉さんの演奏は誰にも邪魔させないぞ!!!!出て行け!!!!僕の前から!!!!)

 

さらに容赦なく彼は青年に対して金属バットでその頭部を叩きつけようと振りかざすが……赤く充血した目を交差したと同時に右腕に激しい痛みが走った。その瞬間先ほど聞いた銃声が同時に部屋の中を木霊した。

 

青年の顔ばかり見ていたが、彼が拳銃を所持していることに気がつかなかったのだ。その拳銃が自身に向けられており、右腕が手首からねじ切れるように弾け飛んでいた。

 

「うっうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!僕の腕が!!!!!僕の腕がぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

数日前に奇跡が起きたことと目の前で起きたことが信じられないのか上条恭介はパニックを起こしていた。

 

「お姉さんが!!!!お姉さんが!!!!!!よくもぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

パニックを起こし、柾尾 優太に向かっていくが今度は腹部に衝撃が走りさらには、肩を打ち抜かれたと同時に背後の窓が割れ、彼はそのまま2階から下の庭へと落ちていってしまった……

 

普段ならば、柾尾 優太は観察を行うところだが、彼は部屋の中にあるカセットのプレーヤーから一本のカセットを見つけ確認の為再生を行う。

 

「あぁあああああああっ!!!!!暁美!!!!君は、ここに居たんだね」

 

つい久方ぶりだろうか、柾尾 優太の目に涙が浮かんだ。

 

「君のおかげだ!!!僕の心が!!!!心が!!!!甦ったんだ!!!!僕は人形なんかじゃないんだ!!!!」

 

上条恭介が自分を出来損ないの人形を見ているあの目は、幼少の頃から他の人間が自分を見る目だった。だが、彼女だけは自分を見てくれた。なんと素晴らしいのだろうと彼は、心から信じても居ない神に感謝した。

 

赤く染まった夕焼けに反射した窓ガラスに写ったのは、真っ黒い穴から奇妙な液体を流す木彫りの人形だった……

 

人形は、かつて自分が慕った少女が写る写真をもう一枚切り取った。そして切り取られた写真には右腕が無い少年のそれだげが落ちて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓喜に震える人形は家を飛び出した。そして声高に叫んだ。

 

「僕は人形なんかじゃない!!!!!!心ある人間なんだ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予告

 

私は、人間なの?この身体は…なんだというの?

 

アナタ達には、心が無いの?どうしてこんなことが?

 

なのにアナタは…キュウベえ……どうして笑っていられるの?

 

呀 暗黒騎士異聞 第弐拾参話「化 生」

 

美樹さん!!?!やめなさい!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラ語りと補足

 

 

上条 恭介

 

今更でありますが、彼について私なりの解釈を語りたいと思います。所謂 音楽を大事にする男であり、まどマギの製作の方々曰く、もしさやかと一緒になっても幸せにはなれないだろうと言われて居ます(汗)

 

彼については、さやかがかなり大損してしまい、彼の為に色々と尽くしたんだけれど報われなかったというのが本編なんですよね。

 

さやかは、正直彼に構いすぎな感じがあります。何となくですが余計なことをしてしまったのではと思わなくも無いです。もしくは、願いを叶えればというさやかの打算的な部分もあったりすると

 

どっちもどっちに見えてしまいます。

 

新編でも仁美に寂しい思いをさせていたり、本人はそのことを特に気にすることなくヴァイオリンに打ち込んでいるところを見ると彼に、恋愛はまだ早かったのではと思わなくも無かったです。

 

むしろ周りが少しせかしていたようにも見えました。特にアンチというわけではないのですが、傍から見ると酷い男だったなと(笑)思わなくも無いです。

 

こちらでは、音楽に関してはかなりの執着を持っていて、蓬莱暁美の演奏に対して強い執着を持っていたという具合です。彼女自身ではなく大事なのは彼女の演奏です。

 

仮に蓬莱暁美が事情でヴァイオリンが弾けなくなったら見向きもしなくなります。ちなみにですが彼はまだ生きています……

 

 





次回は、見滝原の魔法少女達が大いに荒れます。

ちなみに主役達はよその町にいますので、次回共に出番はありません(笑)


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第弐拾参話「化 生 」

お久しぶりです。活動報告にもありましたが色々とありましたNAVAHOです。

今回のお話ですが、かなり残酷な描写が多く人によっては不快な思いをさせてしまうかもしれませんので予め了承ください。

主役はさやかです。本編の主役とヒロインはちょい役(汗)



 

上条 恭介が柾尾 優太によってその腕を奪われる事件より数時間前……

 

 

火葬場より一人の男性が包を抱えて車に乗りこんだ。

 

男性の名は 暁美シンジ。中性的で整った顔立ちであり、少し癖のある長い髪をした今年で齢 40になるのだがまだまだ二十代に見える外見である。

 

赤みがかかった瞳は、優しげで頼りない印象を持つ貌にどこか近寄りがたい雰囲気を称えていた。普段は、人の良い弁護士で通っているが、自身の性格を彼はこう分析している

 

”自分は、決して人当たりの良い人間ではないし、皆が言うほど優しい人間でもない”と

 

普段の彼は、見た目と違い雰囲気が重く暗いのである。だが、そんな彼でも心を唯一寄せている存在が”家族”であった。そんな彼の最初の家族となってくれた恩人の忘れ形見を今、この包の中に収めていたのだ

 

”美国 光一”議員の娘 ”美国織莉子”の遺骨を引き取っていた。

 

本来ならば、重要な証拠として警察が抑えていなければならなかったものを暁美シンジは、あの場より持ち出していた。

 

そこには、撮影者 キリカ。撮影対象 暁美一家と美国織莉子が写されており、撮影日は・・・

 

「今から2週間後の日付・・・・・・なぜ、彼女はこれを持っていたのだろう。そして・・・」

 

荒れた屋敷のベッドには、既に息を引き取っていた彼女の遺体だけが残っていた。だが、その遺体は

 

「どういう訳か、14歳の少女ではなく80以上の老婆だった・・・・・・・」

 

その表情は、自分が今までに見たことがないほど、穏やかな死に顔だった。まるで、心から慕う誰かに見送られたかのように・・・・・・

 

何があったのか、彼には分からなかった。だが、見滝原を中心としたこの地域では不可解な現象が多く目撃されている。

 

特に行方不明者、自殺者が多い。だが自分が先ほどまで当たっていた現象は、その中でもかなり不可解だった。

 

14歳の少女が僅か数日で老婆になってしまうなど、ありえるだろうか?未来ある少女が突然、先が短い老婆にさせられたら、絶望しかないだろう。

 

だが、彼女は…………人生の意味を見つけたかのように安らかな笑みを浮かべ、穏やかな表情すら浮かべていたのだ。

 

彼女が持っていた写真を本来なら、共に火葬して持っていかせるべきであったが、

 

「ほんの少しの間でいい。僕の娘”ほむら”を探すためにこれを貸して欲しい」

 

14歳の少女が行方不明となっており、自分の知らないところで想像のつかない事を行っているのは明白であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミは不思議な意識の中にいた。

 

自分が存在しているのは分かるのだが、自分と他人の境界線が酷く曖昧で何処までが自分で他人なのか分からない奇妙な感覚。まるで夢を見ているように感じられる。

 

”私は、今何処にいるの?それよりもどうして此処にいるのかしら?”

 

曖昧な自我に何かが自分に触れた。そこは現実感を失ったかのように浮遊している 佐倉 杏子の姿があった。

 

”アタシさ、つい最近魔法少女を始めたんだ”

 

彼女に触れるとこれまでの出来事が一気に流れ込んできた。彼女との出会い、触れ合い……

 

”マミさんとアタシって、最高のコンビだね”

 

いつまでもずっと二人でやっていけると信じていた、だけど……

 

”やっぱ、魔法は自分の為に使おうよ”

 

同じ信念を持っていると信じていたのに……どうして、そんな事をいうの?

 

ああ、私って本当に駄目だな。どうしてこんなことになっちゃうんだろう?

 

”ねえ、マミちゃん。私たち、親戚の所に来なさいよ”

 

”なぁ、遺産は全部、他人の弁護士が管理するのか!?”

 

”私達は、マミちゃんの親戚よ!!!どうして、アナタに何の権利があって!!!”

 

両親がもしもの為を思って、私に残してくれた物を”親戚”を称する獣達が浅ましく私に集ってきた……

 

目の前にある”美味しい物”に群がる獣の顔は、いつか何処かで見た女の子が大嫌いな”カエル”によく似ている。

 

何と浅ましく、醜いんだろうか?人間は……このおぞましく嫌な物を好む魔女は、人が生んだ”陰我”が生んだ歪みそのもの……

 

この時ほど”希望の光”である”ソウルジェム”が濁ったのを感じたことがなかった。

 

歪みを正すのが、私たち魔法少女……人々をこの歪みから守り抜くのが私たちの使命。その使命から決して背いてはならない。

 

”陰我”。確かキュウベえが危険だと言った”魔戒騎士”達が好んで使う言葉だ。この意味を深く理解は出来なかったが、一緒にやっていけると思った彼女が教えてくれた。

 

”人間は、善にも悪にもなれないんでしょうね。どちらかに踏み込んだら人間ではなくなってしまいます”

 

14歳の少女とは思えない程疲れきった表情で彼女 暁美ほむらは話してくれた。

 

”私が見てきた魔法少女達がそれでした。皆の為と願ったものの結局は誰にも感謝されずに破滅したり、見返りを求めたのにそれすら無かった”

 

虚しいものね。魔法少女は……私も誰にも感謝をされずに、独りで消えていくのかも知れないわね………

 

”別に大勢の人に感謝なんてされなくても良いと思います。ただ話を聞いてくれる人が一人でもいれば、それだけでも十分かもしれませんよ、巴さん”

 

なら、どうしてその人の所から離れたの?

 

”ふふ、そうですね……居たくてもいることが叶わなかったんですよ。彼女がそれを許してくれなかった……あの子に縋る以外に私は進むことが出来なかったんです”

 

彼女を憎んでいるの?

 

”どうでしょうか?色んな感情がぐちゃぐちゃになっているのは理解していますが、それ以上に彼女を否定することが何だか自分を否定しているようで、結局は自分が分からないんですよ”

 

羨ましいわね。あなたがそこまで思える存在がいるなんて……私は魔法少女であって人間じゃない……そうあんな醜く浅ましい獣であっては駄目なのだ……

 

良いわね……そういう人間は嫌いじゃないわ。貴女のような人間らしい人間は大歓迎よ。

 

”ただ最近はどんなに力を得ても姿を変えたとしても自分の本質は自分が自分である限りは変わらないと思います”

 

それはどういうことかしら?

 

”彼にしても私にしても、結局は自分の弱さに絶望し、憎悪して今があるんです。だからその弱い自分の延長線でしかないんですよね。現在も未来も……”

 

そう……でも、ほむらさんの願いも間違いじゃないと思うわよ。私は貴女の願いを詳しくは知らないけど、私はなんであれ、誰かの為に願ったのは間違いないのだから……

 

”私を買いかぶり過ぎですよ……私はただ自分自身の為に動いているだけです。願いに良いも悪いもないんですから”

 

時々だけどほむらさんは、少し歪に笑うことがある。いや笑うのではなく嗤う。その嗤いは14歳の少女とは思えないほど大人びていて……何処か暗い影を帯びている。

 

”私は弱い自分が許せなくて不甲斐ない自分を今も抹殺したくて仕方がないのですよ”

 

自分を哀れむのではなく、ただ事実を述べるだけのほむらさんの瞳は恐ろしく暗い。本来なら忌いすべきなのにその瞳をもっと見ていたい衝動に駆られるの……

 

”巴さん……あなたは少しばかり私に近すぎていますよ。私は貴女の考えるような存在ではないのですから…あのバラゴの同類でしかないんですから”

 

バラゴ?それは一体誰なのかしら?私の知らない誰かなの?

 

”……巴さん。貴女は既にバラゴを見ていますよ。ほら、あなたの忌み嫌う死の臭を最も強く放つあの闇色の狼ですよ”

 

その瞬間、ほむらさんの姿が少女のモノから狼を思わせる黒い獣の影へと変わっていった。気が付けば私が漂うこの奇妙な空間が一瞬にして闇に変わり、悲鳴を上げるまでもなく私 巴マミの意識は暗い闇の底へと沈んでいったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハっ!!!やった、暁美だっ!!!とうとう僕の元に帰ってきてくれたんだっ!!!!」

 

右目が充血し、よろめきながら柾尾 優太は笑っていた。言うまでもなく今まで欲しくて欲しくて堪らなかった物が手に入ったからだ。

 

それこそが彼が唯一、絶対視する蓬莱暁美に関係する物だったのだ。喜びながら彼は、自身の部屋に駆け込んだ。

 

その際に上条恭介によって傷つけられた額より血が出ていたが、それを気にすることは無かった。

 

「やったよっ!!!やったよっ!!!!」

 

明らかに普段の彼とは違っていた。これが彼の本性、もしくは、彼の言うように自分に心が存在し、それが甦ったとも言うのだろうか?

 

足元は不安定であり、何処となく覚束なくなっていた。エレベーターは何故か今日に限って検査の為に動いていない。

 

階段を上がるのだが足元が不安定な為何度か踏み外し、その度に頭から、背中から落ちていくのだ。それでも彼は気にしていない。

 

普段以上に心が騒ぐのを感じるのだ。故に喜びのほうが勝り、自分自身の異常に気がついていなかった。明らかに普通ではなく、普段の彼を知る人ならば病院へ行くことを促していただろう。

 

最も彼に”親しい人”が居ればの話であるが……

 

『う~~~ん。やはり脳に異常が見られるようだね』

 

そんな柾尾 優太を見上げるようにしてキュウベえが足元おり彼は柾尾 優太の異変を察していた。少し前に上条恭介によって頭部を強く殴られた為に、脳に大きなダメージを受けていたのだ。

 

言動もおかしく、さらには足元まで覚束なく不安定なのは脳に深刻な……あるいは致命的なダメージを追ってしまったこと以外のなにものでもなかった。

 

『あの人形は、元から壊れていたけど、今回のことで修復不能なまでに壊れてしまったようだね』

 

自身の住まう階へ行ってしまった柾尾 優太と入れ違うように一つ下の階に住まう住人が一階のごみ処理場にゴミを捨てに出てきた。

 

キュウベえは興味が無かったので中身を知らなかったが、ゴミの内容は”古くなり四肢が捩れてしまい、修復が出来なくなった人形”であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上條恭介の自宅前は多くの人達でごった返していた。突然銃声が聞こえたという通報があったため救急、警察が現場に来ており、この事態に対して”何事かと”興味を持った野次馬で溢れかえっていたのだ。

 

その騒ぎの中心である少年 上條恭介は半狂乱に陥っていた

 

「ぎゃああああああああああああっ!!!!僕の腕が!!!!僕の手がぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

2階から落ち全身を強く打ったにも関わらず 上条恭介は手首先から吹き飛んでしまった自身の手に対して悲鳴を上げた。

 

元々事故で骨折していたにも関わらず彼は必死で自身の吹き飛んでしまった手首を探し始めた。

 

「何処だ!?!僕の手は!?!僕の手は!?!」

 

自身の手首を探そうにも……

 

「君!!!そんなことをしている場合じゃない!!!早く病院へ!!!!」

 

「その患者を取り押さえろ!!!!傷をそのままにしておいたら壊死を起こすぞ!!!!」

 

救急隊員が上條恭介を抑えるものの彼は、自身の現状に対し正気を失っていた。

 

「いやだ!!!僕の手はどこなんだ!!!!僕の手を元通りにしてよ!!!!」

 

かつては手が動かないだけならまだ希望が持てた。だが”手”そのものがなくなってしまってはどうしようもなかった。再び手を繋げるという選択肢もあるのだが、彼の手の所在が分からないためそれは叶わないだろう。

 

「恭介!!!落ち着いて!!!!」

 

取り押さえられる上條恭介の元に駆け寄ったのは、幼馴染のさやかだった。その光景を遠目ではあるが青ざめた表情で 仁美が見ていた。騒ぎは既に見滝原のニュースになっていたのだ。

 

「さやかっ!!!!」

 

彼女の姿を抑えた上條恭介は少年とは思えない力で救急隊員達の拘束から逃れ、彼女のもとへ駆け寄るやいなや

 

「さやかっ!!!早く、僕の手を戻してよ!!!!早く!!!!奇跡も魔法もあるんだろ!!!!早く手を!!!!僕の手を!!!!!!」

 

「きょ、恭介……」

 

血走った目でさやかにもう一度奇跡を起こすように詰め寄る。だが、

 

「無理だよ……もうアタシは……奇跡を願えないんだよ」

 

既に願ったと言っても上條恭介は聞く耳を持たないだろう。いや、現にさやかの話が聞こえていない。

 

「だったら、誰かに願わせてよ!!!僕の手を直してくれるように!!!!!!!仁美さん!!!誰でも良い!!!!僕の手を治してよ!!!!奇跡を願ってよ!!!!!」

 

正気を完全に失ったのか上條恭介は野次馬目掛けて駆け出すが、

 

「さやかちゃんの奇跡を否定する気はないが、君は少し落ち着くべきだ」

 

突然首元に衝撃を感じたと同時に上條恭介は倒れた。いつのまにか赤毛の男性こと バドが彼に当身を当てていたのだ。

 

大人しくなった上条恭介を救急隊員が救急車に載せたと同時にサイレンの音が見滝原の夕方に鳴り響いた……

 

「なんでこんなことに……恭介………」

 

さやかはその場に崩れ落ちた。気遣うようにバド 続くように杏子が駆け寄る。杏子はなんといって良いか分からなかった……

 

何を言ってもさやかには届かないし、何の慰めにもならないのだ。今のさやかの状況はかつて杏子が味わった出来事そのものだったからだ……

 

バドも同じであった。こういう時に気の利いた言葉を掛けられるのが理想の大人ではあるのだが、その理想の大人として振る舞えない自身に落胆する以外にできなかった。

 

「………それは貴女がそう望んでしまったからではないでしょうか?」

 

崩れ落ちたさやかの前に、志筑 仁美が怒りの声を静かに上げていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなことって今までなかったのに……」

 

まどかは駅前のスクランブル交差点のエキシビジョンに映る見知った光景で起こった事件に対して驚愕していた。

 

(なんで上条君があんな目に遭っているの?どうして……さやかちゃんの願いが……こんなことになるなんて……)

 

「なんだ。まどかちゃんの知り合いなのか?」

 

付き添いで暁美ほむらの自宅からの帰りの道中で一緒になったジン が心配そうに彼女を見る。深くは聞かないが、彼の妹分である ”ほむら”を知る”まどか”はかなりの訳ありなのだ。

 

「はい。私の友達で…前に事故があって……それで………」

 

友達といってもさやかの知り合いなので。彼 上条 恭介とはそれほど親しい仲ではない。

 

「事故で手が動かなくなってヴァイオリンが弾けなくなってしまったんです。奇跡的に……動くようになったんですけど……」

 

上條恭介の真相が真相なだけにその事実をそのまま伝えるわけには行かなかった。だが……

 

「その奇跡ってのは、あの写真みたいにオレ達、一般人には想像もつかない現実が絡んでいるのかい?まどかちゃん」

 

”あの写真”とは、数時間前にまどかが訪れた暁美ほむらの両親から見せられた奇妙な写真のことである。それは突然死した美国織莉子が持っていたものであり日付は今から”二週間後”の日付で撮られたものだったのだ。

 

「はい。さやかちゃんは奇跡を願ったんです。でも、これってあんまりじゃないですか!!どうして、こんなことに!!!!」

 

まどかは居てもたっても居られなくなったのかさやかのもとへと駆け出そうとしたが、ジンに止められる。

 

「すぐに行ってやりたいのは分かるが、今はご両親のもとに戻るべきだ。上条君を傷つけた輩が何処に居るか分からない。だからオレが家まで送っていくよ」

 

「でも!!さやかちゃんの元に行ってあげないと!!!」

 

「確かに友達が心配なのはよくわかる。だけど自分を疎かにしていいという理由にはならない。だから、さやかちゃんから連絡があるのを今はご両親のもとで待つんだ」

 

まどかの友達思いには、少々残酷ではあるがここで彼女を行かせてしまったら取り返しのつかないことになりかねない。それに”ほむら”の友達である彼女に何かあったら、顔向けができないのだ。

 

「でも……「まどかッ!!!」

 

まどかの言葉を彼女にとって慣れ親しんだ声が挟んだ。

 

「ママッ!?!」

 

「何をしていたんだ!?こんな時間まで……それに今日、学校に行っていなかったっていうじゃないか!!」

 

時刻は既に日が沈み夜といっても良い時間なのだ。そんな中、身近な人間を傷つけた”危険人物”が近くを徘徊している。既に市の一部では厳戒態勢が取られており外出を控えるようにテロップさえ流れているのだ。

 

「それは…どうしても確かめなくちゃいけないことがあって………」

 

まどかはいつものように家を出たのだが、学校へは行かずに”ほむらの両親”の元を訪ねていたのだ。そこで彼女が知らなかった”ほむら”の過去の一端を知ることになった。

 

暁美ほむらは両親の特徴をそれぞれバランスよく受け継いでいる少女だった。かつての気弱な性格は母親である 暁美 レイ。誰も信じないと言って強気な自分を演じているさまは父親である 暁美 シンジ。

 

さらには彼女が知らない”時間軸”のことも。

 

「こんな時間まで出歩く必要があるのか?もう遅いんだ。頼むから明日の明るい時間にしてくれ」

 

親の立場なら学校へ行かなかったまどかを叱るべきだが、今は非常に危ない状況なので一刻も早く家に連れ帰らなければならなかった。

 

「そういうことだ。まどかちゃん。オレからも頼むよ。ほむらの兄貴としてな」

 

家に入るまで見届けないと何をするかわからないまどかに対してジンは少し悩んでいたが、親が出てきたことで彼女が無茶をすることはないだろうし、彼女の友達を思う気持ちには悪いが今は手を引いて欲しかった。

 

「それじゃあ、まどかちゃん。ほむらのことで何かあったら連絡するよ」

 

母親が迎えに来たことでジンも特にやれることはないだろうと思い、一応念のためではあるがタクシーを呼び止め彼女らの自宅までと伝えておいた。お釣りはいらないといって数千円程を手渡すことを忘れずに……

 

「タクシー代は自分が持ちますんで、それじゃあ失礼します」

 

「あ、アンタ。そこまでしなくても……」

 

詢子が呼び止めるまもなくジンはそのまま足早に去っていった。

 

「まどか…さっきの外人さんはどちらさまだい?」

 

「え~~と、ほむらちゃんのお兄さんなんだって…」

 

外人さんことジンは本人曰く 日独中三カ国友好の象徴だと言っていたので混血児なので見た目は日本人のそれではなかった。ほむらとは幼少の頃からの付き合いであり、彼女の兄貴分というのが彼の言い分であった………

 

「ふぅ~~ん。そのほむらちゃんって子も色々あるんだね」

 

まどかも色々な出会いがあるものだと詢子は思うのだが、彼の好意を無碍にすることはできないためそのままタクシーに乗り込み、帰路に就くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハハッ!!!!!アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

 

普段からは考えられないほど彼 柾尾 優太は笑っていた。傍から見れば狂ってしまったかにしかみえない光景であるが彼はそうとは思わなかった。

 

「僕は今の今まで何も感じなかったんだ!!!だけど、君が弾いてくれたヴァイオリンの音が僕をもう一度人間にしてくれたんだ!!!!」

 

かつて蓬莱 明美は自分に音楽とは”自身の感情の高鳴りそのもの”であることを教えてくれた。感情に問いかけ、震わせてくれるものと。

 

彼女が初めて聞かせてくれた音楽に彼は安らぎを感じたことは今も覚えている。だが彼女がいなくなってから何もかもが色褪せ、自分自身の欠けた何か……失ってしまったものを取り戻そうと足掻いたのだった。

 

気まぐれにヴァイオリンを弾く女性、もしくは知人と付き合うこともあったがそれらが弾く音色は柾尾 優太に何も与えなかった……彼に齎したのは不愉快という気持ちだったのだ……

 

「君以外に僕を僕として認めてくれる人はいなかった。君が居ないとダメだったんだ。あぁ、どうして魔法少女なんかになってしまったんだい?どうして君だったんだい?」

 

やがて視線は物言わずに横たわっている巴マミに映った。彼女の体は本来人が持つ温もりがなかった……

 

「なんでこんなモノが存在するんだ?人間じゃないくせに、人間のフリをして……なぁ、何か言ったらどうなんだよっ!!!!!」

 

理不尽な八つ当たりに似た感情とともに柾尾 優太はマミの体に蹴りを入れた。本来ならば痛がって飛び起きるのだが、そのなな床にバウンドし沈黙するだけだった。これまでも同じように扱った”連中”は痛がったのに……

 

「お前さぁ、僕を冷たい目で見ておいて…おまえが冷たいじゃないか…どうしたんだよ……何かしてみろよ……まるで魂が抜けたみたいじゃないか?死んでるのに、どうして生きてるんだよ?なぁっ!!!」

 

意識を失った少女 意識がない少女に対して柾尾 優太はさらに追い打ちをかけるように近くに落ちていた刃物を手繰り寄せて更なる痛みをマミに与えようとした。

 

「アハハハハハハっ!!!!血が出てるのにこんなに刺さってるのに起きない!!!お前は何も感じない!!!そんな奴は人間じゃない!!!!人形だ!!!!僕は人間で!!!おまえが人形だっ!!!!!!」

 

狂って笑う柾尾 優太の姿を傍から冷めた視線で見ている存在が居ることに彼は気がつかなかった………

 

「あれじゃあ、あの絵本の人形そのものじゃないか。確かあの絵本の人形は自分が人間だと思い込んでいて、やたら人間を傷つけて、それでいて人間じゃありえない振る舞いや反応だったからね」

 

キュゥべえがかつて見た絵本の中に出てくる自分を人間だと思い込んだ人形の話はこういう話だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある所に小さな雑貨屋さんがありました。そのお店には様々な物が売られていました。

 

家具、衣服、お菓子、玩具、本とたくさんのモノを取り扱っていて、そのお店の奥の棚に一体の人形が置かれていることに誰も気がつきませんでした。

 

その人形はこのお店の主人も覚えていないぐらい昔からあり、誰もそれを手に取ろうとする者も居ませんでした。

 

子供達により残酷な悪戯の為、棚の上から落とされたり、酷い言葉を掛けられていました。

 

売り物であるはずなのに、時々衣装を着せられて人形劇に出されても悪い役ばかりをさせられ、その時もやはり子供から酷い言葉を掛けられていました。

 

その人形はあってもなくてもどうでも良い存在でした。いつかは、何処かで処分をされてしまう筈でしたが………

 

ある日、その人形を買っていった少女が居ました。少女はこの人形の友達になりたいと思い、あってもなくてもどうでもよかった人形に価値ができました。

 

その日から、人形はいつも少女と居ました。少女の生活を見守り、応えることはできませんでしたが、その話を熱心に聞いていました……

 

ですがある日、少女は家に帰ってきませんでした。何日も人形は待ち続けましたが、それでも少女は帰ってきませんでした……

 

ある夜、動くはずのない人形が動き始めました。居なくなってしまった少女を探しに家を飛び出したのです……

 

そこで人形は知ることになりました。少女は魔法使いであり、人々の為に戦っていた”戦士”だったのです。

 

そのことを知ったとき、人形は初めて願い始めたのです。

 

”人間になりたい”

 

人間になるために人形は、心を学ぼうとしましたが……食事、遊戯、睡眠等と人間の真似を行いましたが、

 

”どうしてだろう……何も感じない”

 

木で作られた人形は、物を食べてもそれを取り込むことはできない、遊んでもそれを楽しいとも思えず、睡眠も行うことなどできませんでした。

 

やがて人形は、人の暗い部分を知り、それの意味も分からずに真似を行うようになったのです。

 

人を騙し、モノを盗み、さらには人の命を奪うようになりました…死んだ人を見て

 

”僕と同じだ。僕は最初から人間だったんだ”

 

不思議そうに眺めていて、人形は自分を”人間”であったと思うようになりました。自分は人間であると思い込んだ人形は、人間達の中で暮らし始めました……

 

人形は人間と同じであると言いながらも彼は殴られても決して傷つかず、血を流すことなく、加減を知らず、自分の思うままに人々を傷つけることに喜びを感じていたのです。

 

時には、小さな子供の手を取ってはその腕をへし折り、悲鳴を上げる様を見ては喜色の声あげ、大人に対しては、痛みを感じない身体を良いことに殴りつけ、その人が持っているモノを取り上げました。

 

家、服、お金、家族、命と大切なモノを奪ってきていました。最初は”人形だ”と言えば、人形は激怒し、”僕は人間だ!!!人間だ!!!”と叫びながら暴れ、人々を傷つけ、傷つけられることを恐れて、人々は人形を人間と思うことにしたのです。

 

痛みを知らない人形は例え腕が取れても直ぐに治ってしまい、斧で切りつけても人のように死なず、痛がることもなかったのです。

 

綺麗な服を纏い、宝石を木の指に散りばめさせ、食べ物を悪戯に振り回し、綺麗な女の子がいれば、恋人として扱い、あきれば捨てました。

 

人形にとっては幸せな、人間にとっては地獄のような日々が続いていました。

 

 

 

 

 

 

「確かあの本の結末は………」

 

キュゥべえは絵本の最後も人形がどのような結末を思い浮かべた………

 

「人形の元に購入者の妹が現れるんだよね…現れた理由が………」

 

 

 

 

 

 

さやかは真っ直ぐに柾尾 優太の自宅があるマンションへと走っていた。その表情は怒りに染まっており、彼女は既に魔法少女に変身していた。

 

「なんで、こんなことになるのよ!!!!アタシはこんなことを望んでいたわけじゃない!!!!アタシは恭介のヴァイオリンがもう一度聞きたくて!!!!弾かせてあげたかっただけなんだからっ!!!!!!」

 

まるで誰かに弁明するように叫でいた。そうあの後、志筑 仁美より言われたあの言葉が彼女の胸に深く突き刺さっていたのだ。

 

”貴女がこれを望んだからではないですか!!!!”

 

”貴女が上条君のことを信じないで!!!!彼にあんなことを押し付けたから!!!!!”

 

”全ては貴女が望んだからこうなったのです!!!!!!あなたのせいです!!!!!!あなたのせいです!!!!!!”

 

「うるさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

気が付けば仁美の体は大きく飛んでいてコンクリートの壁面に頭を打ち付けて血を流していた。仁美の元に駆け寄った杏子らを背にさやかはその場を飛び出していった。

 

「アタシが悪いっていうの!!!アタシは恭介の為に!!!!あいつを救いたかっただけなのに!!!!!誰かを救いたかっただけなのにどうしてこんな目にあわなければならないのよ!!!!!!」

 

やり場のない怒りが最初に向かったのは親友である仁美であった。仁美の姿を見たさやかは何がなんなのか分からなくなってその場を逃げ出したのだった。

 

だがすぐに彼女はこの怒りと憎悪を叩きつける相手の下へ向かったのだ。これを行ったのは間違いなく”あいつ”だ。あいつ以外に考えられない。

 

自分が行わなければならないのはあいつをこの手で痛めつけ、恭介の味わった絶望を思い知らせてやらなければならないのだ。かつて父が忌々しげに眺めていたマンションの一室のバルコニーを飛び越え窓を突き破ってさやかは部屋に飛び込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「現れた理由が恋人の腕を斧で人形が切り落としてその復讐のためにでてきたんだよね」

 

 

 

 

 

 

突如 窓ガラスが割れ音と共に何かが部屋に飛び込んできたことに柾尾 優太は

 

「何だい?何が起こったんだ?」

 

少し驚きながら確かめるべくその部屋に足を進め飛び込んできたと同時に鋭い痛みが彼の顔に走った。

 

「っ!!!?!!!!!」

 

視線を向けると自分を疎んじていたあの刑事 美樹 総一朗の娘…明美の周りに図々しくも居座っていた少女 美樹 さやかがサーベルを自分に向かって振り下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本の通りになるとは……これも君のシナリオなのかい?カヲル」

 

「そういうことだよキュゥべえ。僕はね、こういう人の感情は常常面白いものだと思うよ。実益と娯楽を兼ねていてね」

 

キュゥべえの前にもう一匹の全く同じ生き物が姿を現した。キュゥべえと違い、カヲルは何処かニヤついた笑みを浮かべていた。

 

「そうそう。そろそろマミを元通りにしてあげないと…楽しみだな…起きた時の反応が……こんな面白い場面を見たらどんな感情を表すのかな~~」

 

カヲルは嬉々としていつのまにか回収していたマミの”ソウルジェム”を傷だらけになったマミの体の元へと近づけるのだった。

 

「やあ、マミ。気分はどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めたというよりも彼女が感じたのは意識がいきなり覚醒したというのが正しい感覚だった。

 

「……っ!?!」

 

いつものようにキュゥべえに声を掛けようとするものの”ヒューヒュー”と空気が抜ける耳障りな音が響くだけだった。

 

「あぁ、マミ。体を魔法を使って回復したほうがいいよ。君の体は……今はちょっとばかり怪我してるんだよね」

 

やけにキュゥべえが感情的というか妙に馴れ馴れしい感じがする。それに体の感覚が怠いというよりも異様な痛みを感じる体に力が入らない……まるで”あの時”の感覚によく似ているのだ。

 

”あの時”…かつて両親を亡くした事故の際に体中が傷つき、痛みの感覚が通り過ぎて何とも言えないあの気怠いような冷たく鈍い感覚だった。

 

腕も動かすと鈍い痛みが走る。薄暗い部屋であるため全体は掴めないが自分の腕が刃物で傷つけられ、血まみれになっているのだった。

 

「っ!!?!!!」

 

空気が抜ける音がするのは自身の喉元からだった。触れると生肉を素手で触れたあの感覚がそのままマミに伝わり、自分の喉が切り裂かれているのだった!!!

 

「っ!!?!!おぇっ!!!こ、こんなっ!!!」

 

真っ先に自身の切り裂かれた喉を魔法で回復というよりも修復し、近くにあった姿見で自身の体をマミは見た。

 

「っああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

 

そこには見慣れた自分ではなく死体そのものと言って良い状態の血まみれの異様なまでに青白い顔をした変わり果てた姿だった。

 

「おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」

 

マミの悲鳴に呼応するように耳障りな聞き覚えのある悲鳴が響いた。そう、確かあの声はあの青年の……

 

足も切り裂かれていて覚束無いが悲鳴をあげているのならばなにか恐ろしい目にあったのではと考え、マミはその隣の部屋に向かった。

 

そこで繰り広げられていたのは魔法少女による一般人への一方的な”暴力”だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ったと同時に鼻腔に飛び込んできたのは”血の匂い”であり、肉を恐ろしい力で殴りさらにはそこに突き立てられる刃物の音が響き、それを行っていたのはつい先日魔法少女になった美樹さやかだった。

 

「おぎゃあっ!!!!あああっ!!!!」

 

「アンタの声って気持ちわるいんだよね…黙ってよ」

 

サーベルで勢いよく切り裂き夥しい出血がさやかに降り注ぐがお構いなしだった。そのまま拳を握って顔に一発、さらに腹に蹴りをと加えていった。

 

出血量は夥しいのだが柾尾 優太はそれでも死ななかったが虫の息であった。

 

「あははは、なんであんたみたいなのが生きてたんだろうね。あんた元々、生きてるんだか死んでるのか分からない奴だったよね」

 

かつて父 総一朗より教えられた柾尾 優太のこと。居ても居なくてもどうでも良い存在であり、誰も気にしないし構う価値もない存在だと……

 

「ほらほら~~はやく起きなさいよっ!!!!」

 

さやかは勢いよく柾尾 優太を蹴り飛ばし、彼はそのまま備え付けのキッチンへと大きく打ち付けられてしまった。声を上げることができずに蹲っており、適切な処置を施さなければ命すら危うい状態であった。

 

その光景にマミは

 

「やめなさいっ!!!美樹さん!!!!魔法少女がすることではないわ!!!!!」

 

普段ならば変身をして魔法少女の凶行を止めるのだが、そんな考えすらというよりも体の修復が完全ではなかったためそのままさやかに対して声を荒げるしかなかった。

 

「……三年生。こんな時まで……って、あんたっ!!!?!」

 

苛立ちながらさやかはマミに視線を向けるが、マミの姿を見て目を驚愕に見開いた。マミの状態ははっきり言って生きているはずのない姿だったのだ。まるで墓穴から死者が飛び出したとでも言わんばかりの……

 

「どうしたのっ!?!その身体!!なんで、あんたそんな状態で生きてるのよ!!!?!」

 

「私のことよりも魔法少女がこんなことをして良いわけないじゃない!!!!貴女は希望である魔法少女をなんだと思ってるの!!!!」

 

かつて袂を分かった佐倉杏子が”自分のために魔法を使おう”と持ちかけたが、これはあまりにも度が過ぎていた。こんなことは許せるわけがなかった。

 

「その希望さえもアタシは奪われたんだ!!!!だから、希望を奪ったあいつを!!!!!あの人形みたいなロクデナシに制裁を加えてやるんだ!!!!!!」

 

勢い余って親友を傷つけ、そのざまを慕う杏子にすら見せてしまった。もう自分は真っ当な魔法少女にはなれない。だったら、せめて自分のこの”怒り”をぶつけるまでだった。

 

「だからって……美樹さん後ろっ!!!」

 

いつの間にか柾尾 優太が立ち上がっていた。顔は無残にもぐちゃぐちゃに変形しており、さやかに痛めつけられたのか足元は覚束なかった。だが、そんな状態とは逆に彼はあらん限りの声を上げた。

 

「ウルサイっ!!!!ダマレっ!!!!ボクはニンギョウじゃない!!!!ニンギョウじゃない!!!!ニンゲンだ!!!!!」

 

背中のベルトに差し込んでいた拳銃をさやかとマミに向ける。自分が人形と言われることが我慢ならないのか怒りの声を上げていた。

 

「こんのっ!!!!」

 

拳銃を撃つ前にマミは柾尾 優太を拘束しようと魔法でリボンを出そうとするが何故か出てきてしまったのはマスケット銃であった。自身の魔法はリボンからマスケット銃にするのが手順であるはずなのにそれを飛び越えてしまうとは……

 

さやかが撃たれてしまう前に柾尾 優太を何とかしなければと彼の肩 目掛けてマスケット銃が火を噴いた。

 

マミのマスケット銃の威力は本来ならば人間に向けるものではない為、その威力は人にとって重い衝撃となって彼を再び吹き飛ばしたのだった。右肩が吹き飛び再びキッチンのガステーブル付近に叩きつけられたと同時にガスホースが外れ勢いよくガスが

 

吹き出し、吹き飛ばされた腕の神経は反射的に反応、指が引き金を引くと同時にガスが引火し轟音が室内に響き爆ぜた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人形は最終的に切り刻まれて二度と動くことがないように焼かれたんだったよね」

 

火の手が上がり室内が大きく燃え上がる見据えながらインキュベーターはそのまま部屋を後にするのだった。魔法少女達は爆発も間近に居たのだが、マミが咄嗟に魔法で防御壁を作り上げることによって回避しそのままさやかを伴ってマンションを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしもこの時、さやかとマミが残っていたら炎に焼かれる柾尾 優太に起こった異変を目撃しただろう……

 

それは彼に絡みついていた怨念であった……これまでに彼が自身の快楽のために犠牲にしてきた人たちの暗い恨みの感情がそれを彼の元に呼び寄せた……

 

無数の怨念の影が形となり、それはゆっくりと彼の眼前に立った……

 

「陰我もないのに何故、陰我が……これは面白い……」

 

西洋の悪魔を思わせる黒い異形の影は焼かれる柾尾 優太の前に現れ……影と柾尾 優太が重なったと同時にそれは声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

キュゥべえ、アナタ!!!私達を騙していたの!!!どうしてそれを言わなかったの!!!!魔法少女が希望だといったのはウソだったの!!!!!

 

全ては私たちが抱いた身勝手な幻想だった。この魔法に意味はない。ただ私達が勝手に思い込んでいただけなのだ。

 

これまで積み上げてきたものが崩壊していく……だけど意味がないことを自覚せず、意味があると思い込んだ”悪意”があの炎の中で生まれていたことを私は知らなかった。

 

呀 暗黒騎士異聞 第弐拾四話「顔 無 」

 

それに顔はない……あるのは、自らの悪意と人の忌むべき記憶だけ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




去年の終わりにはこういう感じで終わらせたかったのですが、やっとのこさ書けたといった感じでした(汗)

別のタイトルだと 柾尾 優太覚醒!!こうかくと何だか格好よくなった感じになりますが実際は化けただけだったり……

ある程度話に区切りが付きましたら各キャラクターの紹介とレビューをしたいと思います。

今回の仁美ちゃんについてですが、さやかを詰りすぎてさやかが逆切れして魔法少女の腕力で突き飛ばして怪我をさせられというかさやかがやらかしてしまいました。
杏子とバド伯父様につきましては犯人が誰なのかがわからなかったため現場に行くことができませんでした……

さやかはこういうことをするのはあいつ以外にないと確信していました。

次回は、魔法少女の秘密が大暴露されます。

ちなみにほむらが合流するのはもう少し先の予定。

間にまどかのほむらちゃんのご自宅訪問もやりたいと思います。

柾尾 優太さんがラスボスみたいですが実際は中ボスなので勘違いしないように(笑)

もう少しペースを上げていきたいと思う次第です。




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幕間「暁美 ほむら 前編」

 久しぶりの投稿です。昨年やるぞと言いながらも結局は、気持ちの問題でどうにもならずでした。昨年の夏より落ち込みやすくなっており、身近な人に裏切られたりと割とショックな出来ごともあり、さらには会社の方針が変わり、付いていけないといって辞めた方々により慢性的な人手不足もあり、ちょくちょく描いていました。

後編は頭の中で既に出来上がっていて後はアウトプットするだけです。

久々にバラゴが出たような気がしましたが、新しい牙狼では何故か”悪霊”と化していたことに驚きながらも私なりに彼を描いていきたいと思います。





 

幕間「暁美 ほむら 前編」

 

 

 

 まどかは”探し人”のチラシを手にここに居るであろう人物を探していた。

 

「昨日はこの辺りに居たんだけど……今日はいるのかな……ほむらちゃんのお母さん」

 

数日前より行方不明になっていた少女”暁美ほむら”の母親。まどかの知る”記憶”にはほとんど出てこないというよりも全く知らないと言っても良い人物である。

 

現在、まどかは学校に行かずにほむらの母親が居た駅前に来ていた。先日ここで探し人のビラを配っていたのでもしかしたら会えるかもしれないからだ。

 

来てみるとほむらの母親は来ておらず、今日は別の場所にいるのではと思い周囲を散策していた時だった。

 

「ちょっと貴女。こんな時間でここで何をしているの?」

 

いつの間にか正面には怪訝な表情をした婦警が自分を見下ろしていた。

 

(どうしよう……)

 

内心、やってしまったと思うまどかだった。

 

 

 

 

 

同じ時刻、まどかと同じく”ほむらの母親”を探しに来ていた人物がこの場にもう一人いた。

 

「シンジおじさんの話だと、おばさん結構無茶してるかもしれないから様子を見てくれってか」

 

赤黒い長髪を靡かせる蒼い目が特徴的な青年は見た目こそ日本人離れしているが、自然な日本語でボヤいていた。

 

青年の名前は、ジン シンロン。暁美 ほむらとは幼少の頃から家族ぐるみで付き合いのある人物である。

 

「みたところおばさんは居ないみたいだから、とりあえずは大丈夫かな」

 

体の弱い”ほむらの母親”が無茶をしていないかこの場所に来てみたが居ないようなので、彼女に会いに行くべく

 

このまま見滝原における彼女らの家に行こうと踵を返したときだった…

 

”ジン お兄ちゃん”

 

ふと懐かしい”妹分”の声が耳元に聞こえてきたのだ。

 

「ほむら!?」

 

周囲を見渡すと一瞬であったが婦警に問い詰められている少女の姿が”暁美ほむら”と重なった。

 

その少女がほむらとは似ても似つかなかったが、ジンの”ほむら”という声に反応してこちらを見ていた。

 

ジン本人としては、見知らぬ他人ではあるがほむらと何らかの関りがあるのではと感じたのか、

 

「あぁ~っ、その子オレの知り合いの子でね。気分が悪いから今日は早退ってことになっているんで」

 

まどかに問い詰める婦警に赤黒い髪をした青年が説明する。

 

「そうですか……それでしたら早めに帰宅してくださいね」

 

婦警が去った後に青年 ジン シンロンは改めてまどかと向き合う。

 

 

 

 

 

 

初対面であるのだが、見たところこの少女は少し人見知りなのか、怯えに似た視線をこちらに向けていた。

 

「オレはこっちでのほむらの知り合いはよく分からないんだが、お互いに自己紹介をした方が良いかな」

 

少し緊張しているまどかに対してジンは彼女に目線を合わせて笑った。

 

屈託のない人懐っこい笑みに触発されたのか少女ことまどかも少しだけ笑った。

 

「ほむらと会った時もこんな感じでお互いに自己紹介をしたんだよな」

 

「ほむらちゃんの知り合い!?!」

 

と驚くまどかに対してジンは

 

「そうだぜ。ただの知り合いじゃないんだぜ、ほむらの兄貴分で小さい頃からの知り合いだ」

 

「そうなんですか。私の名前は 鹿目 まどかです」

 

「おっとっ!ほんとならオレが先に言うべきだったよな。オレは、ジン・シンロン。気軽にジンって呼んでくれや」

 

少しおどけた態度をジンが取って自分を気遣ってくれることにまどかは感謝した。

 

「ジンさんって、日本の方なんですか?凄く日本語が上手なんですね」

 

まどかは改めてだが、ジン・シンロンを見る。彼の第一印象は赤黒い髪をした蒼い目の端正な顔をした異国の青年であった。

 

背も高く来ている衣服もセンスが良く正直言ってカッコいいというのがまどかの感想であった。

 

「あぁ、オレは日本人の母と独逸と中国人のハーフの父を持ってたからな。生まれはドイツで育ちは日本なんだな」

 

”日独中 三か国”友好の証と大げさな手振りで自己紹介をするさまにまどかは思わず笑みを浮かべてしまった。

 

”一緒に居るだけで明るくなる人だな”と思い、まどかは改めて

 

「私の生まれは別で小学生の頃にこっちに越してきましたから、育ちはこっちです。ちなみにお姉ちゃんです」

 

「奇遇だな。オレは一応……さっきも言ったけど、ほむらの兄貴分で通っていたんだぜ」

 

「じゃあ、お兄ちゃんお姉ちゃんですね」

 

二人の会話は大きく弾むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。まどかちゃんがほむらと出会ったのはつい最近なのか」

 

「はい。心臓の病気も一段落して、ここ見滝原の学校に通うことになったってほむらちゃんから聞きました」

 

現在二人は、ほむらの見滝原における住居へと向かっていた。その道中”ほむら”のことを話題にしていた。

 

ほむらとの出会いについては、体の調子が良いので病院を抜け出した時に出会ったと語ったまどかだが、何故かジンという青年は妙に納得していた。

 

「出会いについては色々とあるみたいだが……ほむらもアスカのことを引きずっているんじゃないか心配していたんだ」

 

「?アスカさんって誰ですか?ほむらちゃんのお姉さんでしょうか?」

 

父と母がいるのならば姉が居ても不思議ではないと思いジンに聞いてみる。

 

「あぁ、オレにとっちゃ本気で好きになった女でほむらにとっては姉そのものだったよ」

 

”本気で好きになった女”。年頃であるまどかは、そんな恥ずかしいセリフを堂々というジンに対して頬を赤くするが彼は過去形で応えた。

 

「あの~。好きになったって言ってましたけどアスカさんは今は……」

 

ジンの表情が一瞬ではあるが少し気まずそうになるが、このまま答えないわけにはいかないので

 

「随分前に亡くなったよ。あんなに明るくていい娘がなんでって思ったよ…古いが、これだな」

 

ジンは携帯電話の画像フォルダより一枚の画像を映し出し、まどかに見せた。

 

「凄く奇麗な人ですね……アスカさんって」

 

そこにいたのは赤みがかかった金髪に青い目が印象的な少女だった。日本人離れしたスタイルに勝気そうな笑みを浮かべてほむらに抱きついている写真を見る限り魅力的な少女だったのだろう。

 

「あぁ、実際こういう顔をするようになったのはオレがちょっかいを出してからだったかな」

 

「えぇっ!?!ジンさん、アスカさんに何をしたんですか!?!」

 

「なんつーか、ほむらと同じで心臓に病気持ちだったんだ。母親が早くに亡くなって親父さんとは仲があまり良くなかったってな」

 

実際のところジンはアスカの父親と出会ったことはなく、アスカが亡くなった時も姿を現すことはなかった。

 

「暗い顔をしてたからな。とりあえず笑わせようと体を張ったり話しかけたりしたかな」

 

当時の自分はかなり馬鹿をやっていた。 

 

アスカと出会った切っ掛けは警察のパトカーに勝手に乗り込みひったくり犯を追跡したことにより、犯人は捕まえたもののパトカーは大破し、ジン自身も数日の怪我を負い、入院する羽目になったことである。

 

「………パトカーに勝手に乗り込んだんですか」

 

当時のことを懐かしいなと話す人に対してまどかはこの青年と”ほむら”に共通しているものがあると感じた。

 

彼女が知る”暁美ほむら”もまた、自身の武器を調達する際に様々な場所に足を運びそこから拝借していくのだ。

 

平然とパトカーに乗り込んだのだから他にもいろいろやっているのではないかとまどかは察するのだが、そこは聞かないでいようと思うのだった。

 

「おっ!!そろそろ、ほむらの家が見えたぞ!!」

 

気が付けば閑静な住宅街に来ており、新築の三階建ての家が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原に越してきたばかりの暁美 れいは応接室でカウンセラーである龍崎 駈音のカウンセリングを受けていた。

 

「それで……やはりあの子はまだ見つかっていないのですか……」

 

時間を見つけては我が子”ほむら”を探しているのだが、一向にその行方は知れなかった。警察にも届けを出しているのだが正直に言えば警察が真面目に捜査に取り組んでいる様子はなかった。

 

「美樹 総一郎氏のことですか…正直に言えば彼に関してはあまり良い噂を聞きませんね」

 

カウンセラーの 龍崎ことバラゴはほむらの周りとその過去を大まかであるが把握していた。彼女の過去は何というか様々な不運に見舞われていたのだ。

 

「えぇ、あの”ニルヴァーナ事件”の頃に一度誘拐されてしまい怖い目に遭いました。その時に大好きだったお義父さん。あの子にとっては祖父にあたる方でした」

 

応接室に飾ってあるその写真には小学低学年ぐらいのほむらと髭面のかなり厳つい”ヤクザ”面の男性が満面の笑みを浮かべるという違和感が強いモノだった。

 

はっきり言えば幼女を誘拐する決定的瞬間にも見えなくもない。

 

バラゴも内心この厳つい祖父の血を”ほむら”が引いていることに内心驚いていたが、自身の忌まわしき肉親の一人もこのような険しい顔をしていたことを思い出した。

 

唯一の違いはほむらはこの祖父に愛されていたということ。父親である暁美シンジが家を空けることが多いこと妻であるレイは身体が弱い為、娘のほむらの世話をお願いすることが多々あったのだ。

 

「彼は今……失礼しました」

 

「いえ、先生が気にされることではありません。私としては人を疑いたくはないのですがお義父さんとほむらを酷い目に遭わせたのはあの美樹 総一郎と思っています」

 

「そうですか、確かに彼は”ニルヴァーナの幹部”に連ねていましたね。今では洗脳も解けて警察官として職務を全うしているとか……」

 

内心バラゴは笑った。”真っ当な警察官”とはよく言ったものだと……彼の経歴は粗方調べがついていたのだった。カルト組織ニルヴァーナ事件は大きくなる前に教祖が亡くなったことで崩壊した。

 

残党は細々としているが、ほぼ解散状態でありまともに機能はしていないという。そのニルヴァーナ組織はある組織に目を付けられ壊滅させられた……

 

その組織については世間ではほとんど知られておらず、バラゴも関わり合いこそはなかったが番犬所と不可侵条約を結んでおり、魔戒騎士とは関わらないようにしていたと聞いていた。

 

だが、ほむらと関わることでその組織が魔法少女に大きく関わる集まりであり、またこの国の影で暗躍していたことも……裏表のない輪と目を掛け合わせたエンブレム”メビウスの目”。

 

その首魁として名前が知られる 蓬莱 暁美。この蓬莱 暁美が本来ならば罪に問われるはずの美樹総一郎が今も大手を振って表を歩いている理由だろうと察するのだった……

 

「確かに娘さんの誘拐事件については何故か、見滝原警察署には記録が無かった。当時もすぐ近くに美樹総一郎が居て、ほむらさんがその施設に連れ去られ、さらには祖父が殺害される事件までも起こっていました」

 

当時の”ニルヴァーナ事件”については数年程たったにも拘らずほとんど風化しており、そんな事件があったことでさえも知らないという有様であった。

 

人の悪癖ともいえる過去の忌まわしい出来事はなかったことにしたいという心情が働いているためか、年内には風見野にある本部施設跡が解体されることになっている。

 

「お母さん。今回は”ニルヴァーナ事件”の残党ではないと思いますよ。この見滝原にかつて存在した施設も今では解体撤去されていて当時の信者達のほとんどが逮捕され有罪となっています」

 

「ですが、先生!!どうしてあの子ばかりが怖い目に悲しい目に遭うのですか!?」

 

「僕にもわかりません。ですが、娘さんはいつか必ず無事な姿で帰ってきます。ですから今は落ち着いてください。お母さん、貴女もほむらさんと同じ病なのでしょう。興奮しますとお体に障りますから……」

 

感情的な母 れいに対してバラゴは心配し気遣うのだがその心中は自身の振舞に対して自嘲していたのだった。

 

(………はははは。これでは道化だ。貴女の娘さんは今僕の傍にあり、何度も恐ろしい目に悲しい目に遭わせてきた滑稽な貴女方に返すつもりなどないのですよ)

 

本来ならば例え両親であってもバラゴとしては関わりあいたくもなかったのだが、ほむらという少女はそれなりに両親の事を懸念しており、時間遡行の際には場合によっては異物と判断され両親や彼女の過去に関わるものは一切存在しなくなることもあると聞いていたが、いつかの時間軸では両親が存在し、両親と引き取った養女と暮らしていたことがあった。その時の表情は普段よりも明るく彼女にしてはかなり滑舌だった。

 

その時バラゴが不機嫌になったが、表情にこそは出さなかった。その養女として引き取られた彼女はこの時間軸ではしておらず現在はこの家の仏間に写真が飾られている。彼女の名は 三国 織莉子。ここでは特に語られることはない少女の名前である。

 

 

 

 

 

 

 暗い雰囲気に包まれたリビングに”コンコン”と窓を叩く音がした。いつの間にとバラゴは庭に入り込んだ異国の青年に対して訝しげに見た。対してれいは青年に対して覚えがあるのか先ほどとは打って変わって笑みを浮かべていた。

 

「まったく貴方はいつになったら玄関からちゃんと入ってくれるのかしら?」

 

心底可笑しいのかレイは笑みを浮かべながら窓に近づいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジンさん!?ちゃんと玄関から入らなくて良いんですか!?これじゃ…」

 

「オレはいっつもここから入ってたからな。ほむらの部屋からはいつも2階の窓から入ってたぜ♪」

 

勝手気ままに玄関をスルーし、そのまま庭に足を進めるジンに戸惑うまどかだったが……

 

(そういえば・・・ほむらちゃんも私の部屋の窓から忠告をしてくれた時間軸もあったような)

 

もしかしたら、窓からの忠告のルーツは”この兄貴分”が根底にあったのではないかと思うのだった。そういう忌では、間違いなく”ほむらの兄”なのだろう。

 

(あぁ……だからほむらちゃんとの出会いも納得してたんですね)

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです!!!おばさん!!ジン・シンロン、久々に参りました!!!」

 

「貴方とはお手紙で随分やり取りしていたけど、今更だけど留学の件おめでとう!!!」

 

笑顔で出迎えてくれたれいにジンもまた笑顔で応えた。

 

「どうも。ほむらが見たらオレのことなんて言うかな」

 

「貴方の破天荒ぶりと無茶苦茶ぶりは私自身も見てたし、特に一番近くにいたあの子はそれこそ驚くわね」

 

それもそうなのだ。かつてのジンの行動は破天荒そのものであり、”騒動の影にジンあり”と言わんばかりの悪名を轟かせていたのだ。

 

とはいっても彼の行動のほとんどが”人助け”がほとんどであり、納得がいかない理不尽なことがあれば相手が”学校の先生”、”いじめっ子”、”素行の悪い者”等に向かっていく。

 

弱い者いじめは一切しなかったため、彼に助けられた人からは今でも感謝されている。ほむらもまた彼に助けられた人間の一人だった。

 

「ほむらにとっちゃ俺は馬鹿な兄貴分だったもんな。まっ、今でもそのつもりで居るんだけどな♪」

 

「あの子も貴方のことを馬鹿のお兄さんと言っていたけど、ほんとに嬉しそうに話していたわね……」

 

途端に悲しそうに顔を伏せた れい に対しジンは自身が地雷を踏んでしまったと察し

 

「おばさん。今は辛いかもしれないけど暗い気持ちで居るとおばさんが病気になっちまうよ。だから今はほむらが無事に帰ってくることだけを考えよう」

 

「わかったわ。ジン君。ほんとに貴方が居ると明るくなるわね……アスカさんもあの頃は……」

 

そんな彼にも好きな人ができたのだ。彼が一目惚れし積極的にアタックしたという、破天荒な彼もまた女の子に恋をする普通の男の子だった。

 

「いいんすよ。アスカのことはもう大丈夫です。ちゃんとお別れもできました。アスカの奴はこっちがウジウジしてたら”馬鹿!!”と言いながら背中を蹴ってくるような女だから、オレはオレで天国のアイツが安心できるようにいつもの馬鹿ジンで居るんすよ」

 

彼と彼女の関係はまさに理想的な男女の一つの形だったとれいは思った。もしも彼女が生きていたら二人は結ばれていただろうと。でもそれは、叶えられなかった。

 

「ジン君、あなたが連れているその子は?」

 

何処か見覚えのある少女に対してれいは疑問符を浮かべた。

 

「この子はまどかちゃん。ほむらのこっちでの初めての友達だぜ」

 

「あら?そうなの・・・・・・でも、ほむらは・・・」

 

ほむらは心臓の病で入院しているはずなのだ。そんな彼女に友達ができることなどあるのだろうか?

 

「え、えっと……」

 

「なんでも体調が少し良かったから病院を少しの間抜け出した時に出会ったらしくて…誰に似たんだが?」

 

助け舟を出したのはジンだった。ジンはジンなりにまどかとほむらの複雑な事情を察しているが、追及をする気はなかった。

 

「貴方でしょ。ジン君・・・・・・」

 

れいは呆れながらジンに返した。あまりよろしくはない影響ばかりだが、この青年と今は居ない彼女のおかげで”あの頃”の我が子がどれだけ救われたか感謝しきれなかった。

 

「そうなんですよね…ほむらちゃんったら、入院してるのに抜け出すなんて凄い子だなと思ったけどジンさんの妹って感じになってますよね。今の話を聞いてますと」

 

「まどかちゃんもそれを言うなら、オレのおかげって言ってくれよ。弟のたっくんも男なら多分……」

 

「たっくんはジンさんみたいに勝手気ままにはなりません。そうなったら、そうなったでジンさんのせいですからね」

 

「おいおい。オレの責任かよ」

 

三人はいつのまにか和やかな雰囲気になっていた。そんな三人に冷たい視線を送るものがこの場にただ一人だけ存在していた……龍崎 こと バラゴである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………なんなんだ、彼は……そうか、彼がほむら君の話していた………)

 

バラゴが抱いた感情はこの場で最も場違いな”不快”の感情だった。かつての自分もまた”師”とは”弟子”でありながら家族のように過ごしたことがあった。

 

自分はあの頃、師である冴島大河と過ごした時にあのように”家族団欒”と和やかに過ごせただろうか?否、強い力を求めたその為に彼に師事しただけに過ぎない。

 

幼少の頃の冴島鋼牙を”弟分”としてみたことなどなかったのだから……あの男もそうだが……

 

(まさかここで本人を見ることになるとはな……)

 

バラゴはジンから視線を鹿目 まどかに視線を移した。ジンに向けていた不快感ではなく彼女には明確な嫌悪感と怒りの視線を向けたのだった。

 

(全ては君が彼女に関わったことが原因だ。本来なら魔法少女に関わることなく過ごせたかもしれないのに……何故、関わらせた……)

 

暗い感情が炎のように沸々と燃え上がっていくのを感じる。もしもこれがホラーを狩る魔戒騎士ならば、その時の記憶を消すか関わらないように忠告をするであろう……

 

何故かほむらに縁のある魔法少女は、素質があるのならば例え本人に今は願いがなくとも”願いが叶う”と告げ、願いを考えるように誘導してしまうのだ。

 

その最もたるものが今、ほむらが気にかけている”巴マミ”である。

 

彼女に関しては死の直前にインキュベーターと遭遇し、助けてほしいと願ったことによって魔法少女となった。その願い故に”正しい魔法少女”のあり方に固執し、魔法少女の真実に目を背け続けた居ることはあまりにも滑稽であった。

 

ほむらはそんな彼女に心を砕いているが、それを巴マミがどのように解釈しているだろうか?都合の良い自身の真実だけに目を向けているだけではなかろうか。

 

そもそも魔法少女は自業自得な存在であり、誰にも助けを求めることができず、また誰のせいにすることもできないのだ。

 

そして彼女の目は……

 

(何故だ……どうして、そんな全てを諦めた目で…希望などないのに未だにあんな小娘に縋るんだ……何故、母さんと同じ……)

 

全てがあまりにも自身の母に似すぎた 暁美ほむらに対しバラゴは苛立ちを覚えていた。そんな彼に対しいつの間にかジンが目の前に来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………君は?」

 

「もしかしたらですけど、心理カウンセラーの龍崎駈音さんですか?自分は心臓を勉強している学生ですが、”心”の方にも興味がありまして龍崎駈音さんの本はよく読んでいるんですよ」

 

若干ながらバラゴは不機嫌な心情を露わにした目でジンを見ていた。ジンもまたジンで、まどかとれいを護るように間に入っていた。

 

「聞き耳を立てさせてもらったけど、君は随分と暁美さんの娘さん……ほむら君と随分親しげのようだね」

 

「ははっ、自慢じゃないっすが、一応は兄貴分で通っているんですよ。ちょっと自信のない可愛い妹なんだな、ほむらは」

 

「それは羨ましい限りだね。血の繋がらなくとも”心”は繋がっていると言うべきかな」

 

親しみのある笑みを浮かべ、バラゴは形だけではあるが彼に右手を差し出し、ジンもまた応えるように右手を差し出したのだった。

 

「………ほむらには情けないところを見せてしまいましたから、今度こそは大丈夫だってところを見せたいんです」

 

だからこそ、ジンは行方の分からなくなってしまった”ほむら”を想い、探し続ける。

 

「………そうだね。きっとほむら君も喜ぶだろうね」

 

バラゴは少し含んだように笑い、改めてほむらの母 れいに視線を向ける。

 

「れいさん。ほむら君を心配している人はこんなにも居ます。僕も微力ではありますがお手伝いさせていただきます」

 

”それでは”と断りを入れてバラゴはこの場を後にするのだが、去り際にまどかと僅かながらすれ違った。

 

まどかは自身を抱くように倒れこんだ。その様子にジンは彼女に駆け寄り

 

「まどかちゃん。大丈夫か?もしかして、あまり人に慣れていないのか?」

 

彼女と初めて出会った時、怯えるように自分を見ていたので、かつての”ほむら”と同じように人見知りなのかもしれない。

 

「ううん……大丈夫です。ジンさん…あの人……なんだかわからないけど……怖い」

 

まどかの脳裏にあの”闇色の狼”の影が龍崎駈音と重なった。

 

 

 

 

 

 

 バラゴの内面は普段の彼とは思えないほど荒れていた。言うまでもなく、ほむらの周りにいる人間の存在を彼は気に入らなかったのだ。

 

血の繋がらない赤の他人でしかないのに、実の血の繋がった兄妹のような関係を持ち、周りの人間に認められているあの青年が……

 

そして、彼女を”陰我”に引きずり込んだ切っ掛けであるあの 鹿目 まどかの存在が……

 

ここ最近のほむらは、自分に話しかけてくることが多くなっていることは喜ばしかったが、その話のほとんどが家族や親しかった友人の話だった。

 

家族や親しい者を作らずに只々。”力”を求めてきたバラゴにとっては創作物よりも遠い”異世界”のような存在でしかない”家族”。

 

”この時間軸に父と母、織莉子も居たわ……ジンお兄ちゃんも居るのかしら”

 

ああ……そうか、彼が君のお兄さんなんだね。でもね、ほむら君……君の過去は僕も把握しているよ。だからこそ、言わせてもらおう。

 

君を”悲しみ”から救ってあげられなかった”彼”よりも僕こそが君が居るべき場所だと……こんなことは言うべきではないだろう……

 

母さんを誰の手にも渡さないし、もう誰にも傷つけやさせないから……

 

 

 

 

 

 

 

「随分と荒れているな。バラゴ」

 

いつの間にか目の前にはいつかの魔戒騎士である バドが立っていた。

 

「そんなにほむらちゃんの家族に妬いているのか?あの娘はもう少し視野を大きく見るべきだと思うよ」

 

「・・・・・・貴様」

 

「おいおい。俺はお前とやりあいに来たんじゃない。ほむらちゃんの家族が気になってな」

 

偶然、出くわしただけだと弁解する様子からバドは戦いに来たのではないようだが、

 

「知っているか?私がこれまでに喰らってきたのはホラーだけではないことを」

 

「いつか聞いたような言葉だな。少し前はお前がほむらちゃんを優先したから決着付かずだったんだが」

 

「それに俺はお前と戦う気は今は無いんだ。俺も見逃すから、今日ばかりは手を引いてくれ」

 

穏便に済まそうとするバドであるが、バラゴにはその気はなく、むしろ戦闘意欲を高めている。

 

「正直に言おう。今の僕は気分が悪い。この気持ちを晴らさなければ気が済まない」

 

「口調が変わったな。それがお前の素か?意外と頭に血が上りやすい性質のようだな」

 

バドの指摘通りバラゴは普段の彼では考えられないほど激昂していたのだ。

 

自身の手元にあり、誰にも触れさせることを許さない”彼女”を求め、探す”家族”が許せなかった。

 

何故、自身が”家族”に対してここまで嫌悪を抱くかは定かではない。だが気に入らないのだ。

 

彼女が悲しみに暮れている時に守ることのできないただ血のつながりがあるだけの他人が・・・

 

目の前にいる男が”彼女”のことを気にかけていることが・・・

 

普段の彼ならば真っ先に剣を抜くのだが、口元を吊り上げる目の前の魔戒騎士の顔面目掛けて拳を振るっていた。

 

「ハハハハ。結局はこうなるか!!!良いだろう!!!今回はとことん付き合ってやるさ!!!」

 

拳を往なし、カウンターとしてがら空きになったバラゴの胸に強烈な衝撃が襲う。

 

「っ!!!くっ!?!!」

 

外壁を背に更なる衝撃がバラゴを襲った。肺に衝撃を受けたためか呼吸が荒い。

 

「どうした?バラゴ。まだ始めたばかりだぞ」

 

気が付けばバラゴは自身が膝を付いていたのだ。

 

耐え難い屈辱だった。最強の存在を目指す自身が膝を付くなど決して許されない。それをさせたこの魔戒騎士も。

 

このまま激情に任せたまま戦えば、自身が敗北する可能性のほうが高い。

 

不覚にも彼は急所を突かれてしまい、戦闘を続けることは難しかった。

 

故に彼はこの場からの撤退を選択した。撤退するしかできない自身の今に・・・

 

”この程度の力”しか持たない自身への怒りの視線をバドに向け

 

「このままでは済まさない。必ずお前も僕の糧にしてやる!!!必ずだ!!!!」

 

ホラーを思わせる淀んだ黄色い目と感情に呼応するように浮かび上がった痛々しい十字傷。

 

バラゴはバドへの”再戦”を告げたと同時に一瞬にして姿を晦ました。

 

「なあ、バラゴ。お前もまだ迷っているんだろ。いい加減に認めろよ。内なる光を・・・」

 

その場から背を向け、バドは誰にも告げることのなかった己の胸の内を呟く。

 

「お前の境遇をどうこう言える立場じゃないのは分かっているさ。俺は家族から背を向け続けてきた臆病者でしかないんだから」

 

自身の姪に今更ながら家族をしている自分は情けない以外の何物でしかないのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




呀 暗黒騎士異聞におけるバラゴについて

呀 暗黒騎士異聞のバラゴは小説版を基にしています。鋼牙はバラゴについては人伝いに存在を聞いたというのがTV本編ですが、大牙の下で修業をしていた時は幼少の頃の鋼牙とあっており夕食の席を共にしていたのが小説版。この時少しだけ、話をしたのですが、冴島家に馴染めないバラゴは大牙の下を飛び出していきます。
故にバラゴは”家族”というものを知らずに育ち、唯一の肉親である父親からは母親とともにDVを受けており、唯一愛してくれた母親に対しては肉親以上の気持ちを持っていたのではないかと考察しています。故に母親とそっくりであるほむらに執着し、彼女自身を束縛し、関わるものを忌み嫌っているという具合です。


ほむらはほむらで少し流されやすい部分がありますので、本来ならば直ぐにでも逃げ出さなければならないバラゴに対して彼女なりに近づこうとしています。
これはバラゴが自身を守ろうとしてくれている事に理解を示していて、悪い気がしないという部分もあります。バラゴの本性というか真実を知らないので、ただ単に危険だけど、自分に似ている部分がある放っておけない存在としてみています。
そのまま流されるように一緒に行動をしております。

この二人は、意外と良い組み合わせなのではと今更ながら思いますが、他のキャラからみれば、まどかは「すぐに別れなきゃだめだよ」と言いますが、ほむらは「意外と頼りになるし、結構話しも合うのよね」と応えてしまいます(笑)




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幕間「暁美 ほむら 後編」

ここの所久々に執筆の意欲がましてきましたので、後編を投稿します❗



「大丈夫か?まどかちゃん、身体が冷えているな。ちょっと待ってな。おばさん、ちょっとキッチン借りるよ」

 

そのままジンは冷蔵庫を開けると何やら食材を探していた。

 

「あら。ジン君。ココアなら私にも一杯お願いできるかしら?」

 

「言われなくてもみんなの分はちゃんと作っておくぜ。さすがはおばさん、オレのレシピに必要なものはチャントありますね」

 

「ふふふふ。貴方のココアは私達家族は皆大好きよ。中々、貴方の作る味にならなくて、貴方に淹れてもらうのがいつも楽しみなのよ」

 

「じゃあ♪ここは一つ、ジン・シンロンが張り切りましょうかね♪」

 

食器棚よりカップを取り出して行くが、その中には自身が好んでいる色のマグカップがあり、さらには……

 

「このカップは・・・・・・確か、アスカが気に入っていた奴だな」

 

懐かしそうに笑い、マグカップを手に取った。

 

 

 

 

 キッチンでココアを作っているジンを横目にまどかは改めて、ほむらの家のリビングを見渡した。

 

自身の家によく似た構造であり、所々に家族の写真が飾られている。自分の知るかつての三つ網に眼鏡をかけた大人しい様子の彼女を囲むように集合する父、母、ジン、アスカが写っているモノ。

 

病院の病室で撮影されたものから、旅行に行ったであろう様子を写したものもあった。

 

そんな中、まどかが思わず目を止めてしまった写真が一枚。

 

髭面の顔の厳つい男性が満面の笑みで幼いほむらと一緒にいる一枚。

 

「・・・・・・すごい顔」

 

幼女を誘拐する決定的瞬間に見えなくもない一枚だった。

 

「あらあら、お義父さんったらまどかさんをびっくりさせて。ちょっと怖いけど優しくて、ちょっと可愛い人だったんですよ」

 

「えっ!?!」

 

もしもこの頃のほむらと同じ年齢だったのなら、顔を見た瞬間大泣きするであろう ヤクザというよりもマフィアとしか言いようのない外見の男性 暁美 ドウゲンは 暁美ほむらの祖父であった。

 

さらに信じられない一言が母 れいは祖父 ドウゲンを可愛い人と言ったことだった。

 

「あの・・・・・・このヤクザじゃなくて・・・え、えーと」

 

「あらあら、外見でいつも誤解されていたんですが、本当は繊細でとても気の優しい人だったんですよ」

 

まどかの発言は失礼極まりないものであったが、それもこの祖父にとってはいつもの事であったのか 母 れいは懐かしむように笑みを浮かべるのだった。

 

「そうだったんですか?お祖父さんなんですね。ほむらちゃんの・・・・・・」

 

両親、義兄、義姉に続き、祖父の存在にまどかは”記憶”にはない彼女の家族の存在に対し、驚くしかなかった。

 

自身の家族は両親と弟が居るのだが、親戚に出会ったことは一度もなかった。

 

ましてや祖父母の存在は両親のどちらからも聞いたことはなかったのは、自身の両親がそれぞれの家と絶縁して、駆け落ち同然で見滝原にやってきたことを彼女は知る由もなかった。

 

「それにほむらはお義父さんが大好きで一緒に良くいたものなのよ」

 

「そ、そうなんですか?えぇ~~~」

 

ほむらの家族と関わってから困惑する場面が多く、まどかは彼女の一族はもしかしたら一癖も二癖もあるのではないかと思うのであったが、

 

「じゃあ、ほむらちゃんはおじいちゃんっこだったんですね。今、ほむらちゃんのお祖父ちゃんは・・・・・・」

 

幼少の頃に可愛い孫娘に相当なつかれていたのだから、かなり溺愛しているのではと察するが・・・

 

「もう随分前に亡くなってしまったわ。いえ、あの娘の目の前で命を奪われてしまったの」

 

「えっ!?!それって、殺されたってことですか!?!」

 

まさかの展開にまどかは声を上げてしまった。

 

「えぇ、あの後、ほむらは急に病気がちになってしまったわ」

 

あの忌まわしき事件によって、ほむらが大好きだった祖父 ドウゲンは帰らぬ人となり、目の前で家族が奪われてしまったことの精神的な傷は深く、一時的に記憶すらも失ってしまった。

 

祖父から引き放され、誘拐された彼女はあろうことか”ニルヴァーナの本部施設”で保護された。違法な実験を行っていたことが明らかになりほむらは寸でのところで実験にかけられることはなかった。

 

「じゃあ、心臓の病気の原因って・・・・・・」

 

「私自身もあの娘と同じ病気だからというのもあるんだけど、心の傷の方があまりにも深かったわ」

 

当時のことを思い出すだけで悲しい気持ちになる。身勝手な”人類の幸福”を謳い、多くの人を悲しませたあの団体は今での許せない。ほとんども関係者が原因不明の事故死を遂げている。その幹部でありながら、今ではその罪を省みることのない”恥知らず”なあの男のことも・・・・・・

 

「ごめんなさい。ほむらちゃんのお祖父ちゃんに失礼なことを・・・・・・」

 

「大丈夫ですよ。お義父さんはそういうことに慣れてて自分からネタにしていましたし、お義父さんも草場の陰で笑って許していますから」

 

れいは懐かしむように写真に写る義父 ドウゲンに笑みを向けた。

 

「それにお義父さんは子供好きで職業は意外にも絵本作家だったのよ」

 

立ち上がりながらリビングの本棚から一冊の絵本を取り出した。

 

「この絵本は知っているかしら?」

 

「あっ!?!それっ、火の子どもですよね!!」

 

”火の子ども” 怖い物として教えられる火を擬人化し主人公とした絵本である。

 

燃やしてしまう火でありながら、寒い夜の日に凍える子供の傍に寄り添い、温め、時には森に仲間たちのために火を使った料理を振舞ったり、暗い洞窟に迷い込んだ子供たちの先頭に立ち明かりとなって導いたりという、内容はとても優しく、一部の大人にも人気のあるシリーズだった。だが途中で作者が急死したためにシリーズは10冊目で止まってしまっている。

 

「火って本当は凄く優しいんだって、この火の子どもがわたし、すごく好きなんですよ」

 

自宅に今もあり、弟のタツヤもお気に入りの一冊で父も母もこの本を読んでいるときは凄く優しい気持ちになれるのだ。まさか、ほむらの祖父が作者だたっとは・・・彼女からはこの話を聞いたこともなかった。

 

ただ、一度だけ何処かの時間軸で寂しそうにこの絵本を眺めていた光景があった。

 

「そうなのよ。あのこの”ほむら”は火の子のように小さくても良い、誰かの手を温められるようなそんな当たり前の優しい気持ちを持てる人間であってほしいというお義父さんのお願いもあったの」

 

ほむらの名付け親は祖父だった。

 

「そうだったんですか・・・・・・ほむらちゃん。辛かったんですね」

 

ジンから話に聞いた姉であるアスカ、名付け親である祖父とほむらの人生は唐突なまでに大切な人達と引き離される運命にあった。

 

あまりにも理不尽ではないか・・・そしてそんな子の事情も知らずに身勝手なまでに別れを告げた自分自身の浅はかさに嫌悪すら感じた。

 

「ごめんなさい。お花を摘みに行ってもいいですか」

 

まどかは断りを入れてこの場を離れた。胸中にあるこの気持ちを整理したかったのだ。

 

 

 

 

 まどかは二階に来ていた。暁美家のお手洗いは二階にあり、彼女はほむらの家族と接することで改めて自身が彼女について何も知らなかったことを思い知らされた。

 

(ほむらちゃん・・・・・・常に理不尽な何かに大事な人を奪われてばかりだったんだね)

 

”鹿目さんを護れる自分になりたい”

 

それは過去になくした自分自身への無力感と自傷にも似た怒りがあったのかもしれない。

 

(これ以外にどうしようもないからこそなのかな・・・・・・でもね、ほむらちゃん。一人ぼっちはだめだよ。お母さんもジンさんもみんな、ほむらちゃんを心配しているんだよ)

 

今も何処かにいるであろうほむらに一度でも構わないから、家族の元へ帰ってきてほしいと願わずにはいられなかった。

 

その部屋の前を通り過ぎようとしたとき、ふと誰かの気配を感じた。

 

部屋は自分にはなじみのない和室であり、ガラスの引き戸の前にいつの間に立っていたのだった。

 

「ここは・・・・・・」

 

引き戸を引き、部屋の奥には、ほむらの姉 アスカの遺影とその位牌が置かれていたのだった。

 

「ほむらちゃんのお姉ちゃんのアスカさん」

 

今の自分と同じ14歳なのだが、自身と違い本当に綺麗な少女だ。

 

(アスカさんって本当に私と同じ女の子なんだろうか?とてもじゃないけど同じ生き物とは思えない)

 

思わず溜息が出てしまう程だ。ほむら地味なお下げに眼鏡といった何処にでもいる子なのだが、顔立ちそのものは整っている。眼鏡を外し、お下げではなくストレートの黒髪の彼女ならアスカと並んでも決して見劣りはしないだろう。

 

「もしもアスカさんが生きていたら・・・・・・ほむらちゃんはどんな子になっていたんだろう」

 

母 れいもジンと一緒になって楽しそうに話すのだからきっと明るくていい娘だったのだろう。

 

ほむらは血は繋がらなくても本当の姉のように慕っていた。

 

「そうだね。きっと明るい子になっていたと思うよ。だけど、それは決して叶わなかっただろうね」

 

「・・・・・・インキュベーター・・・・・・」

 

「まさか君がここまで来るとは思わなかったよ。暁美ほむらについて色々知ったみたいだね」

 

まどかの足元にはいつの間にかキュウベえが座っていたのだ。

 

「何をしに来たの?まさか、ほむらちゃんの家族に何かするつもりなの!?!」

 

自分とは契約をしないと言っているので、契約ではないのは分かるが、魔法少女候補にいないほむらの家に現れるのは何か目的があるのではと、まどかは彼女らしからぬ考えを抱くのだが、

 

「いやいや、君の様子が気になっただけさ。学校にも行かずに何をしているんだろうってね。ちょっとした気晴らしだよ。僕も一日中契約ばかりするのはさすがに疲れるしね」

 

「疲れる?あなたが?」

 

インキュベーターらしからぬ言葉にまどかは違和感を感じたのだ。感情を持たないはずのこの”エイリアン”が何故か感情的というか妙に人間臭い言動に・・・・・・

 

「女の子を付け回したのはさすがに失礼だったね、謝るよ。まさかここでアスカの顔を見ることになるとはね」

 

「インキュベーター。どうしてアスカさんのことを知っているの?」

 

キュウベえではなく、インキュベーターと呼ばれたことに今更ながらキュウベえは驚くものの直ぐにまどかの疑問に応えるのだった。

 

「彼女はかつての魔法少女候補だったんだ」

 

懐かしそうにキュウベえはアスカのことを思い返していた。そう彼女は心臓の病の為、数週間後にはその命が危うい状況にも関わらず、治せる契約を・・・・・・

 

「でも、断られちゃったんだよね」

 

「アスカさんが魔法少女の素質があった?」

 

まどかは二重で驚愕した。アスカが魔法少女候補であったこと、さらにはキュウベえの契約を断ったことに

 

「彼女は本当の意味で興味深かったよ。願いは必要ない魔法は単なるまやかしでしかないってね」

 

再生される記憶の中の彼女は

 

 

 

 

 

 

”へぇ~~、アタシの病気を治せるんだ?だから契約して魔法少女に?”

 

”そうだよ、君には素質がある。その理不尽な運命もきっと変えられる”

 

”冗談じゃないわよ。アタシはね、アタシ自身の人生を自分で生きているの。それを横からしゃしゃり出て指図なんかされたくもないわ”

 

”そうかい?君の運命は人類ではどうしようもないんだよ?他の人達を悲しませることになるのに”

 

”だから、アンタが救うっていうの?それこそ余計なお世話よ!!!!”

 

”アタシは例え大人になれなくても、明日、亡くなったとしても今、生きている時間を大事なアイツとほむら一緒に過ごしたい!!!それは魔法なんかに頼らなくても叶えられるアタシ自身の願いなんだから!!!”

 

”それは君の傲慢そのものじゃないか”

 

”そうかもしれない。だけど、アタシ達はいつかは別れなければならない時が来る。その時が何時かは分からないけど、アタシはアタシの時間を生きていたいんだから!!!!”

 

 

 

 

「彼女は言ったよ。自分の願いは魔法に頼らずとも叶えられるって」

 

「そ、そんな、それじゃあ、ほむらちゃんは・・・・・・」

 

アスカは最後の最後まで自分らしく生きる事とほむらとジンらと一緒に生きる事を短くとも願ったのだ。

 

その願いは彼女自身の命の続く限り叶えられたが・・・その後、姉を亡くしたほむらは”死”という抗えない運命に絶望したのだ。そして、”魔法”の存在を彼女に教えた”鹿目 まどか”・・・・・・

 

あまりにも間の悪い状況が続く暁美ほむらの運命・・・・・・

 

「人生とはままならないものだよ。だからこそ奇跡を願うし、魔法の力を欲しがるんだろうね」

 

ほとんどの魔法少女候補者は、”奇跡”に”希望”を見出し、契約する。だが、彼女だけは契約しなかった。

 

それは多くの少女達と接したキュウベえにとっては驚きであり、また異端でもあった。

 

「アスカはとても幸福な人生を送ったと思うよ」

 

遠目からその後のアスカを見ていたが、彼女は毎日を噛みしめるように心の底から笑っていた。

 

喧嘩をしたり、喜んだり、泣いたりと感情豊かに過ごしていたのだ。一般の幸せというモノがあるのならまさしくあれの事だろう。心から恋している異性が居て、自分を慕ってくれるか妹分、さらには血がつながらなくても家族同然に扱ってくれる人がいる。

 

これを幸せと言わずになんと言えばいいのだろうか。

 

「ただ、たった一つの心残りがあるのなら・・・・・・」

 

 

”キュウベえ、アンタに一つだけ聞いておくわ。ほむらに素質はあったりする?”

 

”ああ、彼女も素質がある。それなりにね・・・・・・”

 

 

 

「今も時間遡行をして繰り返しているほむらにお別れを言えなかったことだけだろうね」

 

 

 

 

”だったら、ほむらに手を出さないで。アタシの妹を不幸にするのは許さないんだから”

 

 

 

 

「あぁ・・・・・・本当に人生とはままならないものだね」

 

背を向けて部屋を後にするキュウベえだったが・・・ふと見覚えのある人影が部屋の前に立っていた。

 

まどかに聞こえないようにしてその人影に

 

「君の妹に手を出したのは別の時間軸の僕であって、僕自身じゃないんだよ」

 

言い訳がましく弁明するがその人影の視線の厳しさが緩むことはなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?まどかちゃんもしかしたら気分が悪くなったと思ったらこの部屋に来てたのか?」

 

「あっ、ご、ごめんなさい。わたし、勝手に・・・・・・」

 

いつの間にかジンがプレートに三つのマグカップに注がれたココアを持ってきていた。

 

「まあ、その辺は気にしなくていいぜ。アスカも案外、ほむらの友達のことが気になってたりするかもな」

 

まどかにマグカップを手渡し、アスカの遺影と位牌の前にココアを供えた。

 

「でも・・・・・・わたし・・・・・・」

 

真実を言えば、姉のアスカから見たら自分はある意味彼女が危惧した不幸に誘い込んだ疫病神そのものなのだ。

 

「でも、ほむらはまどかちゃんのことを悪くは言わなかったんだろ。だったら、いいじゃねえか」

 

「ジンさん・・・・・・もしかして・・・・・・」

 

「いんゃあ、オレは何も知らねえよ。アスカがいきなり魔法少女になったら病気が治るって変な事言ったことなんてな」

 

唐突なジンの爆弾ともいえる発言にまどかは驚いてしまった。まさか、ジンは魔法少女のことを・・・・・・

 

「さすがに14にもなって魔法少女はどうかと思ったけど、世の中はそんな都合の良い奇跡なんてなかったしな」

 

ジンはマグカップに口をつけ、自身の入れたココアに舌鼓を打ちながら

 

「本当ならな・・・・・・オレはほむらの兄貴分なのにさ、妹の前でみっともない恰好をさらしちまった」

 

あの日、心の底から恋をしたアスカが亡くなった時、それ以外何も見えなくなってしまった自分のあの情けない姿。暁美家の人は仕方のないことだと優しい言葉をかけ、ほむらと同じように気にかけてくれた。

 

「でも大事な人が亡くなったのなら仕方ないですよ」

 

「大事な人が亡くなったことは悲しいさ。だけど、去っていった人が大切にしていた妹に目を向けるべきだったんだ。それを怠ったオレは本当にみっともなかった」

 

今でも後悔している。あの14歳の頃のただの子どもでしかなかった自分。兄貴分と言いながら、妹分に何もしてやれなかったことに・・・・・・

 

その後は、何とか立ち直り、ほむらとは普通に接することができたのだが・・・・・・以前と違い僅かであったが溝ができていた。

 

「オレはほむらに言ったんだ。心臓の病気が治せる医者になるって、その時は必ずもう一度会いに行くって」

 

医者を目指すため、それなりの高校に行くためほむらと別れなければならなかったが、何度も手紙を送った。

 

返事は決まって帰ってこなかった。ほむらの両親曰く、姉 アスカの件を今も引きずっていることと・・・・・・

 

彼女から暫く一人になりたいと告げられたことを・・・・・・

 

「こっちに来て色々あったし、様子を見てあのアパートからこっちに迎えに行く予定だったんだけどな」

 

いつまでも一人暮らしをさせるわけにもいかないので、時間を見て彼女を迎えに行き、見滝原に建てられていた祖父 ドウゲンの家に越してきたのだ。

 

「・・・・・・・・・初めて会ったほむらちゃんは自分に自信が無くていつもビクビクしていました」

 

「アスカが初めてほむらと出会った時もそんな感じだって言ってたな」

 

自分は拝んだことはないと軽口を叩くジン。まどかの声色が少し沈んでいるのが気になり、気を明るくしたかったのだ。

 

「ん?まどかちゃん、右の所の生え際が少し違うけど、前に事故でもあったのか?」

 

改めて気が付いたが、まどかの右側の頭部に大きな傷があったのだ。具合からしてここ最近になってできたようだ。

 

「これですか?半年前に車に跳ねられちゃって……一か月ぐらい意識がなかったって聞いています」

 

「だいじょうぶか?意識不明の重体だったのに……」

 

まどかの意外な事情にジンは驚きの声を上げるが、まどかは少し照れ臭そうに笑いながら

 

「うん。それが後遺症もなにもなくて問題ないっていってくれました」

 

”運が良かった”としか言いようがなかった。ジンもそういう幸運もありなんだろうなと思い、改めてアスカの遺影に視線を向けた。

 

「まどかちゃん。そろそろ下に戻ろうか?おばさんが心配してたからな」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 リビングに戻るとほむらの母 れいと初めて会うほむらの父 シンジがソファーに腰を掛けていた。

 

「シンジおじさん。只今、戻っております」

 

白髪交じりの黒髪の中性的な顔立ちの男性 暁美 シンジは苦笑し

 

「久々に会えて良かった。もっと顔を見せに来てほしいんだがね」

 

「オレも予定がつくようにはしたかったんですが・・・・・・」

 

「ジンも大学生で留学の件もあるから、なかなか時間がとりづらい部分もあるのは仕方がない。ほむらの為に来てくれて助かったよ」

 

二人は血こそは繋がらないが、実の親子のように関係は良好である。それは今は居ないアスカも同じである。

 

仏間に遺影と位牌があるのはアスカは父親こそは今も存命であるが行方が分からないため、彼女は実質 天涯孤独の身であったのだが、養子縁組で暁美家に引き取られた経緯があった。正式に養子の手続きが終わったのは彼女の死後であったが・・・・・・

 

「それで、その娘は・・・・・・」

 

「ほむらのこっちでできた友達のまどかちゃん。何となくほむらに雰囲気が似てるような気がするんだけど、おじさんはどうよ?」

 

「大人しい雰囲気は何となくほむらに似ているかな。実際に会うのは初めてだね 鹿目まどかさん」

 

「えっ?わたしのことを知っているんですか?」

 

まるで自分を知っているかのような口調の父 シンジにまどかだけではなく、れいとジンも

 

「あれっ?シンジおじさん、まどかちゃんと知り合いだったの?」

 

「あなた・・・・・・まどかちゃんの名字はまだ話していないわよ。わたし」

 

驚く三人をよそにシンジは一枚の写真を取り出した。そこには”まどか”と”ほむら”の二人がお互いに肩を並べて写っている光景があった。見滝原中学の屋上で撮られたもので二人は同じ制服を着ており、ほむらの姿はお下げに眼鏡と言ったまどかもジンも知る姿だった。

 

「なんだ?この写真・・・・・・ほむらはまだ転校してなかったよな。まだ制服だって・・・・・・」

 

ジンの疑問に対してシンジは

 

「僕も信じられなかったさ。何故、三國さんの娘さんがこれを持っていたのかって・・・・・・」

 

そしてもう一枚を取り出す。そこには暁美家の父 母 ほむらと三國光一の娘である織莉子が写っていたのだ。

 

「撮影日が今日から二週間後?!!」

 

何がどうなっているのか全くもってわからないのだ。フェイクなどではない。そもそも暁美 シンジがこのような悪ふざけをするはずがないのだ。

 

「あの・・・・・・これを一体何処で?」

 

まどかもまたこの写真に困惑していたのだ。

 

「この写真は織莉子君が持っていたんだ。三日目前に亡くなっていたんだけど、この二枚の写真を持って穏やかな顔で眠っていたよ」

 

三國 織莉子 かつて様々な時間軸で最悪の魔女になるであろう自分を抹殺しようと動いていた魔法少女。

 

汚職議員の娘と聞いていたが、実際のところはよくわからないというのがまどかの織莉子に対する答えだ。

 

この時間軸は、知らない自分が見た光景でもある魔法少女にならなかった織莉子がほむらと一緒に過ごしていた。

 

姉気取りの織莉子だったが、結局のところほむらは彼女を姉としては認めなかった。それは”アスカ”の存在があったのだからだろう・・・・・・

 

「多分、ほむらは自分に降りかかる理不尽を何とかしようとしているんだろうね。僕たちが手を差し伸べても取ってはくれないかもしれない。だけど、ほむらの家はここにあるということだけは伝えられたら・・・・・・」

 

父 暁美 シンジはそれ以上のことは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 その後、まどかはジンが付き添いで自宅まで送ることになり、暁美家を後にした。

 

家を出る際に父 シンジより

 

「この写真はまどかさんが持っていてくれた方がほむらも喜ぶから、持っていてくれないだろうか?」

 

手渡された写真を手にまどかは、今日知った”暁美ほむら”の過去と彼女自身について思いを馳せる。

 

 

 

 

 

(わたしに何ができるんだろう・・・・・・でも、ほむらちゃんは一人じゃないんだね。ずっと悲しいことがあって悔しいことがあって魔法少女になったんだね。でもね、もう終わりにしようよ。わたしに何ができるかわからないけど・・・・・・まだ、お互いにお話もしてない友達だけど・・・・・・)

 

 

帰りの途中で母と合流し、上条恭介が事件に会ったこととどういう訳か志築 仁美が重傷を負ったという知らせが入り、さらにはマミのマンションが火事に遭うという今までにない状況・・・・・・

 

これからのことに不安を覚えるまどかだったが、自室のベッドにそのまま横たわり疲れたのかそのまま寝息を立てたのだった。いつもなら夢に現れる”知らない自分”に怯えるのだが・・・・・・

 

今夜、知らない自分が現れることはなかった・・・・・・

 

 

まどかを見下ろすように白い少女は黄金に輝く視線を手元にある写真に向けていた。

 

 

”もうすぐだよ・・・・・・ほむらちゃん。やっとアエルネ”

 

 

白い少女の顔は”鹿目まどか”そのものであった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 




次の話の投稿は早ければ、明日にはだせるかもと言うぐらい勢いがあったりします笑
ほむらの過去は、この作品独自の捏造設定なのですが、私が感じたほむらの願いは、一種の逃げです。
姉の死を認められず、家族や兄と接することで姉との思い出が過り、彼女が居なくなったことに耐えられなかったと言った感じです。

ほむらの祖父 ドウゲンのもとねたはマダオじゃなくてエヴァの碇ゲンドウです笑
ちなみに絵本作家でした。





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第弐拾四話「顔 無」

 勢いよく本編に入りますが、バラゴ、ほむらは見滝原から離れています。




 

 

 

 

・・・・・・・ああ、ぁああああああ・・・・・・・・・・・・

 

燃え盛る炎の中、”彼”は声にならない声を上げていた。皮膚が焼かれ視界が赤く染まっていく。

 

感覚は消失しており、自分が無くなっていく感情のようなものを彼は感じていたのだ。

 

(嗚呼・・・・・・これが居なくなるって感覚なのかな?あぁ、暁美、君も僕の前から居なくなった時、こんな感覚を感じていたんだろう。いや絶対にそうなんだ、君を見つけて・・・・・・僕はやっと君の所へ行くんだ)

 

余りに多くの罪を犯した柾尾 優太が今際の際の心情はあまりにも身勝手なモノだった。

 

自身の”欲求”の赴くままに多くの人達の命とその未来を奪ってきたことに罪悪感を全く抱いていなかったのだ。

 

それもそのはず、彼を嫌う人物曰く”人間の振りをした人形”いや、”人間と思い込んだ人形”こそが彼の真実であり、人間ならば誰もが持っている”心”等、最初から持っていなかったし、それを手にすることは生涯、叶うことはなかったであろう。

 

居ても居なくても良い”人形”でしかない彼には唯一の”欲求”が存在していた。

 

それは”餓え”である。ひたすらに彼は飢えており、常に自身が持つことの叶わない”心”を手に入れようと足掻いた。

 

その”餓え”を彼自身は自覚しておらず、”心”を持たないのにそれがあると自身を騙し、”餓え”を満たすことだけを優先して過ごしてきた。

 

彼を唯一愛してくれた少女 蓬莱暁美を目の前で亡くした時、彼は何も感じなかった。

 

いや必死になって、悲しもうとしたが悲しむことができなかったのだ。

 

その時が、彼の十数年の中で思い知った”絶望”であり、己の中に”心”が存在しない真実に目を背けたのだった。

 

今の彼は自身が死ぬこの状況を喜んでいたのだ。そう、彼は自身が彼女と同じように”死”を迎えることに意味を見出しており、このまま何も残らずに消えていくことこそが本望だと・・・・・・

 

 

 

 

だが・・・・・・そんな彼に安らぎなど与えることを”ソレ”らは許さなかった。

 

 

 

 

”フザケルナ・・・・・・オマエハクルシンデイナイ”

 

”ソウヨ・・・・・・ワタシヲコロシテオキナガラ”

 

”オマエヲノロってヤル”

 

”ワタシタチハオマエヲジゴクニナンカイカセナイ”

 

”オマエはオマエノダイジナヒトノモトニナンカイカセテナルモノカ”

 

 

 

 

 

 

ソレらは魔法少女が敵対する魔女ではなく、様々な”怨み”の念であった。柾尾 優太によって理不尽に全てを奪われた人達のモノであった。

 

古来、強い怨みを抱いたまま、もしくは死んだ者は”呪い”となり、者や人に取り憑き”生者”に災いを齎すとされている。

 

彼、柾尾 優太もその例に漏れず様々な”怨み”を溜め、その”呪い”を一身に受けていたのだが、彼がその”呪い”を受けることはなかった。それは生者が本来持つべきであるモノをかれは持ち合わせていなかったのだ。

 

”魂”を持ち合わせていなかったのだ。ただ肉体があるだけで”餓え”の欲求のみが存在する人形でしかない柾尾 優太が生きていない存在が”生者”であるはずもない

 

それらは取り憑き、大きな”邪念”を形作っていき、そして”陰我”を生み出すに至った。

 

「陰我のない人間が陰我を生み出すとは・・・・・・これは面白い」

 

”陰我”に惹かれて現れたのは”ホラー”。西洋の悪魔を思わせる黒い異形は柾尾 優太に憑依するのだが、

 

「ヤ、、ヤメロっ!!!ボクは暁美のトコロにイクンダ!!!!オマエタチ邪魔ヲスルナ!!!!」

 

炎により顔の凹凸を無くし、口だけになった彼は声を上げて自身に纏わりつくそれらを拒絶の意思を示すが、

 

”イカセナイ、オマエハ、マダクルシンデイナイ”

 

かつて彼が命を奪った”怨み”の声が・・・・・・

 

「デキソコナイ!!!ヤクタタズ!!!!ナンデイルンダ!!!!」

 

「これは随分と変わった陰我だ・・・・・・これは本来の”フェイスレス”とは全く別の存在になるだろうな」

 

「ヤメロ!!!ボクカラ暁美ヲトルナ!!!ジャマを!!!!コンナモノイマサラホシクナイィィィィ!!」

 

どす黒い瘴気が弾け、彼の中に様々なモノが流れ込んできた。痙攣するように体が弾み、火傷をした皮膚が膨れ上がり、変化していく。

 

通常のホラーの憑依ではなく、それは変異としか言いようのない光景だった。

 

「コンナモノ、イマサラ、イラナイ!!!イラナイノニィィィィ!!!!!!」

 

多くの命を自らの”餓え”を満たす為だけに奪ってきた彼に訪れた結末は・・・・・・

 

「おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

立ち上がったそれは白を基調としたケロイド状の皮膚を持った異常にまで肥大化した身体を持った異形であり、人間にあたる顔には何もなくただ大きな口だけが存在しており、目も鼻も耳もない只々、醜い異形だった。

 

「アああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

それは怒りに似た声を上げてその場から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 柾尾 優太の部屋から先に飛び出した二人 美樹さやかと巴マミは近くの高層ビルの屋上から燃え上がるマンションを暫く眺めていたが、

 

「美樹さやか・・・・・・貴女、自分が何をしたのか分かっているの」

 

少し前彼女を名字で呼んでいたのだが、フルネームで呼ぶのはかつての佐倉杏子と同じく強い拒絶の感情が出ていた。

 

「はんっ!!アタシはもうこうするしかなかった、真面な魔法少女になれないなら、せめてアイツだけは、アイツだけは制裁をしくちゃ気がすまなかったんだ!!!!」

 

「だからって、貴女は!!!魔法少女を穢して!!!!」

 

マスケット銃を構えようとするが、突然視界が揺れたと同時に彼女は倒れてしまった。

 

「っ!?!はぁ、はぁ、なに、これ!?!体が苦しい!!」

 

自身の視界に青白い手が写りこんだ。この手の色を彼女は知っていた。そう、これは数年前に見た両親を見送った時、葬儀の時に見た二人の身体と同じではないか

 

「さ、三年生って、アンタどうしたの!?!なんで、そんな身体で生きてられるの!?!普通じゃありえないよ!!!!」

 

さやかもまた月明かりに僅かに照らされたマミの姿に改めて戸惑っていたのだ。

 

かつての最愛の姉の最期の姿も目の前にいるマミと同じ顔色で二度と起き上がることはなかった。

 

「な、なんなのよ!?!私は一体、何をされたの!?!」

 

動揺するマミの疑問に答えるようにそれは姿を現した。

 

「それはだね、マミ。君の本体であるソウルジェムが長いこと離れていたからだよ。それに柾尾 優太の部屋はあまり衛生的ではなかったからね。早く適切な治療を施さないと使い物にならなくなるよ」

 

「キュ、キュウベえ、それはどういうことなの!?!」

 

ソウルジェムが本体?その先を聞いてしまっては自分が今まで信じてきたことが崩れてしまう感覚を彼女は覚えていた。

 

「そのままさ。君たち魔法少女を効率的に戦えるようにしたまでさ。命あって、なんぼだというけど、その命を守るには人間の肉体はとても脆くてね。だから脆い肉体から引き離したんだよ」

 

「ちょっと、待って!!!それじゃ、アタシ達、ゾンビにされたようなもんじゃない!!!!」

 

さやかは変身を解除し、自身のソウルジェムを手に取った。目の前に自分を敵視する巴マミが居るがそんなこと等些細な事であると言わんばかりだった。そう、自身の身に起こった事態を把握しなければならないのだ。

 

「こ、これがアタシなの?アタシの存在はこんなちっぽけな石ころみたいなものでしかないの!!!」

 

青ざめるさやかに対し、マミはマスケット銃をキュウベエに向け、

 

「キュウベえ!!!私たちを今まで騙していたのっ!?!」

 

これまでにない怒りの声を上げ、彼女は引き金を引かんと言わんばかりだった。

 

「今までだって?最初から何も君が今の今まで何も知ろうとはしなかったからじゃないのかな?」

 

何をいっているのかと言わんばかりキュウベえは何処となく笑うようなそぶりを見せた。この場に暁美ほむらが居たら違和感を覚えるであろう光景だった。

 

本来なら機械的に事実を述べる”インキュベーター”と違い、感情的であるのだから・・・・・・

 

「僕ら自身もはっきり言えば契約を取らなければならなかったからね。あの時のマミ程、契約のチャンスはなかったよ」

 

小馬鹿にするかのような態度にマミは震えたが、その反応を面白がるようにキュウベえは

 

「でも君自身が助かったことは君にとって大いなるメリットだよ。もう一度言うけど命あってのものだよ、人生っていうモノはね」

 

「じゃあなに?貴方は何一つ間違ってないとでもいうの?私達の身体をこんな風にして!!!他の子たちが悲しんでも貴方はなにも感じないの!!!」

 

「君たちのその感情こそが生きていることなんだよ。あの時”契約”交わさなかったら君は今そうして感情を発散することさえもできやしない」

 

「・・・・・・あなたに何を言っても無駄なのね。ほむらさんの言った通りあなたは最低のろくでなしよ」

 

キュウベえに何を言っても無駄でしかないことを悟り、マミはマスケット銃を持つ手に力を込めた。

 

「マミ。僕らと袂を分かつのが君の意思ならばそれでもかまわないさ。だけど一つ言わせてもらえば魔法少女の実態を知ろうともせずにただその役目を自分自身の都合の良いモノと考えていたのならば…君を騙していたのは僕じゃない……”真実”を知ろうとしなかった君自身の願いが君を騙していたんだよ」

 

背にしたキュウベエの表情は分からなかったがその口調が妙に喜色の感情を弾んでいたことをマミは感じていた。

 

「キュウベえっ!!!!」

 

マミはマスケット銃の引き金を引いたと同時にキュウベえの小さな体が吹き飛んだ。

 

「あははははっ!!なによ!!!あなたって結局は女の子を騙すだけのロクデナシじゃないの!!私だって、やろうと思えばできるのよ!!!」

 

親愛の情さえ抱いた”友達”だったことも今となっては、自分を騙した憎い相手でしかなかった。だからこそ、この手で殺してあげたのだ。

 

「やれやれ、マミ。ストックは十分にあるんだけど、そんな風にされるともったいないじゃないか」

 

いつの間にか足元に先ほど殺したはずのキュウベえが居たのだ。一匹だけでない、戯れるように周りには数匹のキュウベえが自分を無機質な赤い目で見ていた。

 

「ちょっと、あんた達、何なの!!!一体、これはどういうこと!?!!」

 

複数存在するキュウベえにさやかもまた困惑するように叫んだ。表情はわけの分からない存在に対して怯えすら感じていたのだ。

 

あまりの状況に対し、マミは少しだけ落ち着いた。この生き物は不可解すぎる上に分からないことが多すぎる。今の今までこの生き物について何も知ろうとしなかった自分に苛立ちを感じる。

 

「じゃあ、一つだけ教えて。このことを私たち以外に知る人は居るの?」

 

「あぁ、そうだね。暁美ほむら辺りは知っていると思うよ。確実に知っているだろうね」

 

マミは自身と共にあることを約束してくれた彼女ならば、そうだと納得をするのだが、ならば何故、教えてくれなかったと身勝手と分かりながら怒りの念が込み上げてきた。

 

「マミ、暁美ほむらを恨むのは筋違いだよ。彼女もこのことについてはかなり慎重だし、それに魔法少女を都合の良い何かと思い込んでいた夢見がちな君たちじゃ彼女のことを信じることはなかったんじゃないかな」

 

嬉しそうに声を上げながらキュウベえはその場から消えた。キュウベえことカヲルは上機嫌だった。

 

自身が欲しかったモノを手に入れることができたのだし、それに常々鬱陶しくも思っていた夢見がちな魔法少女にお灸を据えさせたことに対して・・・・・・

 

「わ、私が今までしてきたことは・・・・・・間違いなの?私は何故、あの時あんなことを願ってしまったの?」

 

もしかしたらこれは、罰なのだろうか?両親の死を間近で感じながらも自身の生に執着し、二人を見殺しにしてしまったことへの・・・・・・

 

項垂れるように座り込んだマミはただ、この事実に絶望するしかなかった。

 

彼女の絶望に呼応するようにソウルジェムが濁っていく。本当の絶望を彼女が知ることになるのは・・・時間の問題であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 あの場を後にしたさやかは、気が付けば見知った住宅地に来ていた。今は誰にも会いたくなかった。

 

そうこの場所はかつて姉と一緒に過ごした家があったのだ。

 

「どうして・・・・・・恭介・・・仁美・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・どうしていいかわからないよ」

 

勢いよく今は無人であるが、時々訪れるこの家が今は恋しかった。

 

さやかを近くの民家の屋根から見下ろしている小さな白い小動物が一匹。先ほどさやからに残酷な事実を伝えた存在、キュウベえであるが、カヲルと違い、彼の口元にはグリーフシードが加えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原 とある分譲マンション

 

その夜 美樹 さやかの母 咲結”さゆ”は一向に連絡をしてこない 夫 総一郎と娘 さやかに対して溜息をもらしていた。

 

「総一郎さんもさやかも・・・・・・どこへ行ったのかしら?」

 

最近のさやかは、遅くまで外出することが多くいつの間にか夜中に帰ってきていることがほとんどである。

 

さやかに至っては年頃というのもあり、おそらくはそういう友人と付き合いを始めたのかもしれない。

 

さやかのそれはまだ可愛いものである。夫の総一郎と比べれば・・・・・・

 

総一郎に至っては、あの柾尾 優太という青年を捕まえようと躍起になっている。それもかなり病的に・・・

 

夫である総一郎は刑事であり、その能力は非常に優秀なのだが、それ以上に性格は独善的な部分が酷く、また傲慢になりがちな所があるため人としてはあまりお付き合いのしたくない人物でもある。

 

刑事という仕事はある意味ヤクザなどとは紙一重であり、とくに総一郎は暴力的な傾向が強い。

 

結婚はハッキリ言えばデキ婚であり、酔った総一郎と一夜を共にしたことでさやかを授かったのだ。

 

家族仲はかつては、あまり褒められるものではなかったが、さやかが姉と慕っていた蓬莱暁美のおかげで一般的な家族に成れたのではと考えていた。

 

総一郎は今でこそ、過去の存在というよりも皆が忘れようとしている”ニルヴァーナ事件”にかかわりを持っており、ニルヴァーナの非道な行いを警察という立場を使って揉み消していたことを彼女は知っていた。

 

最も夫は気づいていないと考えているようだが・・・・・・

 

蓬莱暁美は、彼女にとっても実の娘のようだった。さやかの世話や、上条恭介と引き合わせてくれたりと今でも感謝をしきれない。それは総一郎も一人の娘として認めていたのだが、総一郎の場合は少し違っていたのではと考えている。蓬莱暁美は天涯孤独の身ではあるが、ある資産家の一族を恣意の間柄であり、そこを総一郎はみていたのではと・・・・・・特に彼女に近づく男に対しては厳しく、柾尾 優太に対しては本人の気持ち悪さもあるが、人生で成功されるのが嫌だったのではと夫に対して酷い感想を抱いていたのだった。

 

「わたしも結構酷い妻ね。さやかは幸いにも総一郎さんには似なくてよかったし、わたしにも似てないから本当に良かった」

 

実の娘の前では絶対に口に出してはいけないと思いつつ、用意した夕食にラップをかけようと食器に手をかけた時だった。

 

『アアァアアっ!!!!オギャアあああああああっ!!!!!』

 

奇妙な声が家全体に木霊したのだ。育ちすぎた何かが苦しんでいるようなそれでいて苛立っているようにも聞こえる声だった。

 

「な、なに?とにかく、誰かを・・・・・・」

 

何か恐ろしいモノが近くにいるのではないかと察し、咲結はスマートフォンから警察へ電話をかけるのだったが・・・・・・

 

「どういうこと?電話が繋がらない・・・・・・」

 

沈黙するスマートフォンを片手に困惑する咲結であったが・・・

 

『アァあああああああっ!?!!』

 

スマートフォンの画面に顔が焼けただれた男が絶叫する映像と共に設定もしていない大音量で響いた。

 

それが男性だと分かったのは声が男性のそれであったからだ。顔は原形が分からないほど崩れており、目はつぶれ鼻に至っては無くなっている。

 

「な、なにこれ?悪戯にしては性質が悪すぎるわよ」

 

警察が来れないのなら急いで此処から離れなければならない。

 

本能的な恐ろしさを感じつつ、咲結は玄関へと走るのだが・・・・・・

 

「っ!?!!」

 

何かに足が取られ、視界が下に向かっていくのを意識しながらフローリングの床に倒れてしまった。

 

思いっきり顎を打ってしまい痛みを感じるが、足に違和感を感じたのだ。誰かが自分の足を掴んでいるいや、一人ではなく複数の手が自分の身体を掴みだしたのだ。

 

身体は動かない動かすことはできない。玄関の扉が目の前で開かれた・・・・・・

 

そこに居たのは白い奇妙な異形だった。いやこれまでにない悍ましい姿をしていた。

 

生理的嫌悪感を抱かせる白い吹き出物だらけの身体に両生類を思わせる太い指。

 

顎と首の区別がつかないほど太い体躯のそれに本来あるであろう顔はなかった・・・

 

「な、なにこいつっ!?!だ、誰か・・・・・・」

 

『オマエノセイダ・・・・・・オマエタチガボクをキラウカラボクは暁美のトコロにイケナイ!!!』

 

咲結を押さえていたのは柾尾 優太がこれまでに手をかけた人達の痛ましい亡霊だった。

 

『オマエタチの所為デっ!!!!』

 

巨大な手を思いきり、咲結の顔にたたきつけると同時に何かが潰れる音と同時に血が勢いよく部屋の至る所に飛び散った。

 

肩で息をするその生き物はやはり苛立ちのままその場を後にするのだったが、倒れていた咲結が起き上がったのだ。

 

頭部は完全に潰れており、即死のはずであったが、生き物を追うように歩き出し、そのまま生き物……ホラーの背中に溶け込んだと同時にホラーの身体に苦痛に悶える咲結の顔が浮かび上がったと同時に様々な顔もが現れたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

アタシ達の希望は何だったの!?!アイツはアタシ達をただ利用してどうするつもり!?

 

何もかもが信じられなくなったアタシの前にまたキュウベえが現れる。だけど、こいつはさっきのキュウベえと違う?

 

呀 暗黒騎士異聞 第弐拾五「孵 化」

 

アタシは知らなかった絶望が連鎖することを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 




 柾尾 優太についての補足。彼については色々と訳ありなんですが、死んだ蓬莱暁美の所に行きたいのなら自ら命を絶とうと考えなかったのかという疑問が出てくるのですが、
自ら命を絶つ行為は”生きる事に絶望し、自らそれを終わらせる”ことであり、柾尾 優太はそもそも存在しているだけで”生きていないんです”故に自ら命を絶つという考えを全く待たないし、考えることもありません。

そしてホラーになった経緯は、死んで楽にしてたまるかという”怨み”と”ホラー”によるものです。

まどマギ 本編での一番の謎はさやかの家族関係。外伝、派生作品にまったく出てこない為どういう両親のなのか全く持っての謎。さらには、その関係もです。

もしかしたら両親ともに関係が冷え切っていて、さやかもそんな両親に失望していたのかもしれません。上条恭介のお見舞いに必ずクラシックのCDを持っていくことから、中学生にしてはそれなりにお金を持っているような描写もありますので、おそらくは金銭的な面では不自由はしていなかったけど、本当に欲しかったのは傍にいてくれる人でそれを上条恭介に求めていたのかもしれません・・・・・・



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幕間 とある学生の日常


傍から見た本編をある少年の視点です。





 『見滝原市 栄町お住いの皆さんにお伝えします。只今、近隣で事件が発生しました。犯人は拳銃を所持しています。決して、外出はしないでください。犯人は近辺に潜んでいると思われます』

 

 

 

外からのアナウンス スマホのニュースに載っている文字を見滝原中学 在籍 中沢 ゆうきは、ここ最近の見滝原は物騒になってきたと内心、つぶやいていた。

 

見滝原の治安が悪くなってきたのは今に始まったことではなかった。数年前には”カルト組織 ニルヴァーナ”が隣の風見野に居たことも覚えていた。あの頃は、とにかく知らない人には絶対に声をかけたはいけないし、掛けられても応えてはいけないと聞かされていた。

 

自室のベッドに横たわりながら、彼はここ数日の自身の周りが奇妙なことになっていることに気が付いたのだ。

 

まずは、ここ最近の鹿目まどかさんの様子がおかしいのだ。元々、大人しい子でクラスでは目立たない存在であったが、何よりも気配りができて隔てなく誰にも優しく接してくれる子なのだが・・・・・・

 

それは、ほとんどが女子に限った話なのだ。クラスメイトから聞いた話だと鹿目まどかさんは、男性が少し苦手らしく初対面の人に対してはかなり警戒してしまうのだ。自分から男子に話しかけることはなく、大抵は幼馴染である友人の美樹さやかが間に入る。

 

でも、そんな彼女は誰かを探しているように街のあちこちを歩き回っているというのだ。今日も学校に来ておらず、母親が直接確認しに来ていた。

 

一体、誰を探しているんだろうと興味が湧かないわけではないが、鹿目まどかさんに聞いても彼女は答えてくれないし、自分を避けてしまうのでどうにもならないと思う。自分、中沢 ゆうき にできることは何もないのだ。

 

鹿目まどかさんの変化がはっきりしてきたのは、佐倉杏子さんが転校してきたころだ。

 

 

 

 

 

 

 

佐倉杏子さん。色々あって見滝原中学に転校してきて、今やクラスの中心的な人物だと思う。

 

性格はサッパリしていて、誰にでも明るく接してくれるし、勉強も運動も中々のものだ。転校生と言うのは、こういう感じの子がデフォルトで皆がイメージする。

 

今、ベッドにおいてある”友人”から借りた”ライトノベル”も転校生が来てから、主人公の日常が変化し、非日常に変わるというものだ。そして異世界へ向かい、大冒険と言う流れだ。

 

ここ最近、流行りの死んで転生する内容と比べると一昔前の物語に近いが、もう一人の友人が好んで見ているのは”転生もの”であり、やはり友人も”神様”に”チート”を貰えることを常に願っていたりする。

 

佐倉杏子さんを見ると何処となく物語の登場人物を思わせるんだ。僕らの日常にこそは居るけど、何となくだけど本当は僕らとは別の世界を生きているんじゃないかと思う時がある。

 

偶々、用事で見滝原から遠出をするサイドカーに彼女の保護者である伯父と乗って居たのを見た。

 

あの伯父は見た目がかなり若く、黒いコートを着ていてすごくさまになっていて、本当に日常を生きる人間とは思えなかった。

 

やはり、僕らとは違う世界を生きていて、偶々僕らが彼女らと一緒に過ごしているだけなのだろう。

 

ただ一緒にいるだけで、僕が何かの役目を負うとかそういうことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

佐倉杏子さんは意外な人と関りがあった。巴マミ先輩だ。

 

一つ上の三年生で、綺麗な先輩だということぐらいは知っているが、三年生には一つ上の従兄弟が居て同じクラスだけど、誰とも話さないし、表面上の付き合いはするけど、踏み込んだ付き合いをする人ではないと言う。

 

そんな巴マミ先輩は、佐倉杏子さんと知り合いなんだろうけど、あまり良い雰囲気ではなかった。

 

ハッキリ言えば敵対関係のような険悪なもので、何故か鹿目まどかさんと美樹さやかさんが巻き込まれていたけれど、これもまた良くわからなかった。

 

友人曰く”きっと、俺たちの退屈な日常が終わるんだ。凄い大冒険が始まるんだよ”と興奮気味に言っていて、さっそくちょっかいを掛けようとしていたが僕とクラスメイトで強引に止めることで事なきをえた。

 

巴マミ先輩も過去に家族を事故で亡くして一人暮らしだと聞いている。その為、人との関りを極端に避けているのではという噂が立っているのだけれど、真実は分からない。

 

先輩の暮らしている地域は見滝原の中でも富裕層が住むマンションで、しかも新築だったりする。

 

当然のことながら、保護者が居るかと思いきや保護者は居ないらしい。先輩自身がそれなりの資産持ちで家族が亡くなった後にその遺産をモノにしようとする”親戚”と揉めにもめたというのだ。

 

これは、巴マミ先輩の気持ちは痛いほど良くわかる。かという我が家も母親が父 僕からしたら祖父が所有するマンション一戸を譲渡したのだ。かなり条件が良くて資産価値もそれなりのモノだったんだけど、それを他の親戚が妬み、母は嫌がらせを受ける羽目になったのだ。

祖父は、経済的に楽にできるようにと将来は売って、何かの足しにしてくれという軽い気持ちだったんだけど、周りはそうじゃなかったんだ。母は祖父以外の親戚とは一切の縁を切っており、二年前に祖父が亡くなってからは完全に絶縁している。時折、マンションの件で連絡を入れてくるがほとんど無視している。

 

かという僕も親戚がぼくらを居ないもののように扱っていて、父さんも内心かなり怒っていた。

 

そういうことがあったから、先輩は人と関わることが嫌になったんじゃないかと思う。

 

そんな先輩も何故か学校に来ていなかった。何かの事件に巻き込まれたのだろうか?先輩の事情が事情だから、巻き込まれてしまう可能性は十分にあるんじゃないかな・・・・・・

 

資産目当ての何かだとすると本当に怖いのは”人間”だよ。お金の為なら何でもするし、子供だって殺す事も平然でやってのけるかもしれないから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでなら、単なる日常だけれど一番の非日常になったのは上条恭介の手が治ったことだ。

 

不幸な事故とで右手が動かなくなってしまい、得意な”ヴァイオリン”を弾けなくなってしまった。

 

上条恭介は、学校では知らない人が居ないほどの有名人だ。天才ヴァイオリニストであり数々のコンテストで受賞しているし、学校でも彼が生徒であることを宣伝しているし、学校の入学案内にも載っていたりする。

 

でも、彼がヴァイオリンを弾けなくなった途端に誰も相手にしなくなってしまった。手は治る見込みが厳しいらしくそんな彼を応援するどころか学校側は直ぐに切り捨ててしまった。入学案内からも削除されてたし、彼に期待をしていた志築家も全くもって相手にしなくなったんだ。

 

かなり酷い話だとは思うけど、僕自身は上条恭介とそこまで仲が良いわけではない。

 

というよりも美樹さやかさん 志築 仁美さんの二人以外に親しい人が居ないのだ。

 

それもその筈、彼はヴァイオリンに情熱を注いでいたから、僕らとはあまり関わり合いがなかったんだ。

 

偶に話をするんだけど、そのほとんどが”音楽”のことばかりで、正直話が合わないし、僕らのほとんどがクラシック音楽よりもポップミュージックに興味があることにも影響していると思う。

 

手が治ったことは、僕らも喜ばしかったし、彼を切り捨てた学校側も手のひらを返してサポートすると言っているのだから何とも言えない気持ちになった。やっぱり人間って怖いとつくづく思う。

 

ずっと上条恭介を支えていた美樹さやかさん、志築仁美さんの二人も変わってしまった。

 

彼の回復は喜ばしいことなのに、志築仁美さんが美樹さやかさんを親の仇を見るような目で見るようになったんだ。

 

一体、何があったんだろう。二人の関係が変わったのは、佐倉杏子さんと巴マミ先輩に関わり合いを持ってからだった。

 

巴マミ先輩は鹿目まどかさんと美樹さやかさんに何かを訴えていたみたいだし、佐倉杏子さんはそれに反対している光景を時折見ることがあった。あとは志築仁美さんが巴マミ先輩に何かをお願いしていたが、巴マミ先輩は軽くあしらっていた。巴マミ先輩はそれなりの資産はあるけど、見滝原で一番の資産家の志築さんが懇願するなんてことがありえるんだろうか?

 

「ゆうき、今、大丈夫?」

 

考え事をしていたら、母さんが部屋のドアをノックしていた。

 

「良いよ。今は宿題も終わって何もしてないから」

 

「ゆうき。今日、上条さんの所で事件があったそうよ。奥さんは亡くなって、上条君も重傷を負ったって」

 

「えっ!?!上条恭介が!?!」

 

まさかの事件に僕は声を上げてしまった。なんということだろう、まさか上条恭介がまた重傷を負ってしまうなんて・・・・・・彼は一体、どんな不幸の星の元に生まれたんだと聞きたくなってしまったが、こんな不謹慎なことを考えてはいけない。母さんが態々このことを言いに来たのは・・・・・・

 

「ゆうき、こんばんは外でお食事の予定だったけど、とてもじゃないけどいける雰囲気じゃないわ、お父さんも念のため今日はビジネスホテルに泊まって明日には帰るって」

 

「うん、僕は別に構わないよ。気にしないで」

 

「ごめんね。必ず埋め合わせはするから・・・・・・ちゃんと窓の鍵は閉めておくのよ」

 

母さんはそのまま下に降りて行って暫くしてから家の窓のシャッターが下りる音が響いた。

 

まさか、上条恭介はこんなことになるなんて・・・・・・もしかして、知らない間に変なことに巻き込まれたのではなかろうか・・・・・・多分、原因はここ最近変わってきた鹿目まどかさんの周りかもしれない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿目まどかさんと言えば、上条恭介と同じで半年前に交通事故に遭ってたんだ。しかも上条恭介もその場に居合わせていた。かという僕も偶々、その現場を見てしまったんだ。

 

余所見運転をしていた車に引かれてしまい、鹿目まどかさんの身体が歩道に入ってきた輸送用のトラックに跳ねられた光景は今でも怖い物を感じる。

 

人間があんな簡単に吹き飛び、まるでボールが跳ねるようにアスファルトを跳ねて血の海に沈む。鹿目まどかさんの意識のない虚ろな目が僕を見たとき、思わずその場を逃げ出してしまった。

 

上条恭介も跳ねられたけど、重傷こそは負ったけど鹿目まどかさんのように意識不明の状態にはなっていなかった。

 

あれから聞いた話だと鹿目まどかさんは、打ち所が悪く意識不明の重体になり、目覚めることはなくなったと聞いた時、僕は恐ろしくなった。単なる中学生が自意識過剰ではあるが、あの場から逃げたことに罪悪感を感じずにはいられなかった・・・・・・

 

だけど、鹿目まどかさんは奇跡的に回復したのだ。それもたった二週間で・・・・・・

 

何故、こんなことが起きたのかは分からない。だけど、上条恭介に起こったこととはまったく別の何かが彼女に起こったのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

もう一つ、分からないことがある。佐倉杏子さんが転校してきた時、もう一人転校生が居た。

 

彼女の名は 暁美 ほむら。今は、行方不明になっている・・・・・・

 

駅前で彼女の母親が”探し人”のチラシを配っていたことを見かけたことがある。

 

上条恭介が登校した時に、鹿目まどかさんが佐倉杏子さんに

 

「ほむらちゃんを知っているの!?!」

 

と言っていた。二人はまさか知り合い?鹿目まどかさんがどうして転校生の暁美 ほむらさんと知り合いなのだろうか?

 

分からない・・・・・・

 

だけど、鹿目まどかさんと暁美ほむらさんの二人の関係はもしかしたら、僕には想像もつかない何かがあるのかもしれない。

 

見滝原で時々、化け物を見たという噂話さえもある。

 

誰もが一度は想像する非日常に飛び込む冒険譚。だけど、僕はそんな非日常に飛び込むつもりはない。

 

だって、僕は物語の登場人物でも何でもないただの一般人なんだ・・・・・・

 

そんな一般人に何ができるんだと言うんだよ・・・・・・

 

だから僕は関わらない僕は何の変哲もない日常を生きる何処にでもいる男子中学生だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あとがき

中沢くん視点の暗黒騎士異聞。

ほとんどがまどか達の学校でのやり取りを傍で見ていただけの話です。

この時間軸でのまどかは訳アリです。

あとは中沢くんは少しドライと言いますか、心の中ではフルネームで人を呼びます。

設定ではクラスの学級委員長なので和子先生と絡みが多いということにしています。

突発的に話を振られるのはそういう理由があったりします。

彼自身も言っていますが、基本的に本編で絡むことは一切ありません。

彼は偶々そこに居合わせただけの一般人ですから・・・・・・


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第弐拾五話「孵 化」

その頃の見滝原・・・・・・

アスナロ市編と並行して進めています。

今回は、久々にこんなキャラいたっけという方が出ています。




「ふんふんふんふん♪ふんふんふん♪」

 

彼はとある空間で上機嫌で歌っていた。純白の髪に赤い目をした少年の姿をした インキュベーター カヲルであった。

 

現代でも古いとされるカセットレコーダーにカセットテープを入れ、再生ボタンを弾むように押す。

 

演奏されるのは、蓬莱暁美がヴァイオリンで演奏しているものであり、彼はこれはどうしても手に入れたかったのだった。

 

「我が名はオジマンディアス、王の中の王。我が業を見よ、汝ら力強い者よ、絶望せよ

 

傍らには何も残っていない。この巨大な残骸の断片の周りには、限りなくむなしく

 

寂しく平坦な砂地が遥か遠くまで広がっている」

 

誇るようにカヲルは詩をそらんじてみた。

 

「まったくもって素晴らしいよ。人類の文化とは奥深くて中々興味深い。こういうことを楽しまなければならないんだよ」

 

「18世紀の詩人が作ったものだよね。え~と、確か作者は・・・・・・」

 

「バイロン。本当に素晴らしいよ、過去には偉大な天才が居たというのに、だれもそのことには興味を示さない。

嘆かわしい限りだよ」

 

カヲルの背後には魔法少女には馴染み深い白い小動物の姿をしたキュウベえが座っていた。

 

作者を答えようとしたが、カヲルが先に言ってしまったのでその先を言うことはなかった。

 

「美樹さやかは良く動いてくれたよ。そして、あの人形もね・・・・・・あの場で魔女になってくれたら万々歳だったのにね」

 

さり気なく話す言葉には悪意が込められていた。自身が煩わしく思っていたあの人形は消えたのだ。

 

今まで何かの役に立つのではと自由にさせていたが、ここ最近になって煩わしく思い、処分しようと考えていたのだ。最後に役に立ってくれたことには感謝していた。

 

「・・・・・・君は少しばかり、干渉しすぎではないかい?それに”オジマンディアス”を持ち出すなんて、君が”神”を気取っているように思えるんだ」

 

「それはそうさ。魔法の意味をしっているかい?神の奇跡を神以外のモノが行うことを意味するんだよ。彼女たちに魔法をという奇跡を齎す存在。それを神以外になんというんだい?惜しむらくは、僕という存在を誰も知ることがないということかな」

 

笑顔で語るカヲルに対し、キュウベえは改めてこの”罹患者”に不安を抱いた。

 

(彼はあまりにも行き過ぎている・・・・・・全てが上手くいっているように考えているけど、イレギュラーはつきものだよ。この時間軸に”暁美ほむら”という時間遡行者、そして、暗黒騎士が居る)

 

それにあの暗黒騎士を見守る”東の番犬所”の神官もこの事態を見ている。

 

故に何が起こるか分からない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミは街をさまよっていた。既に夜は深まっており、歓楽街の賑わいを背にする彼女は行く当てなどなかった。

 

表情は沈痛としており、普段ならば積極的に使い魔や魔女を狩るために奔走するのだが、今はそんな気すら起こらない。

 

改めて自身の魂が納められた宝石”ソウルジェム”を見る。なんということだろうか・・・・・・

 

自分の命とはこんなにちっぽけなものでしかない現実にマミの心に暗い影が差していく。

 

「言い訳とかさせちゃ駄目っしょ。稼いできた分はきっちり全額貢がせないと。女って馬鹿だからさぁ、ちょっとお金を持たせておくとすっぐにくっだらねえことに使っちまうからね」

 

マミの横を二人組のホストが通りかかった。酒で寄っているのか顔は赤く、スーツは着崩れしている。

 

「いやほんと、女は人間扱いしちゃ駄目っすね。犬かなんかだと思って躾けないとね。あいつもそれで喜んでいるわけだし。顔殴るぞって脅せば大抵は黙りますもんね」

 

「・・・・・・・・・」

 

マミは虚ろな視線を二人に向けた。ハッキリ言って下劣な会話だった。

 

「ちょっと油断すると籍を入れたいってつけあがってくるからさぁ、甘やかすのは厳禁よ?ったくテメェみてえなキャバ嬢が10年後も稼げるのかってえの。身の程をわきまえろってんの」

 

「捨てる時がさぁ、ほんとうに、うざぁいというかね。一人で勝手にどこかに行ってくれれば楽なんですけれどねぇ、そのへん、ショウさんは巧いから見習わないとねっ!!」

 

上機嫌に笑いあう二人の背を見てマミはやりきれない気持ちを抱いた。

 

「なによっ!?!みんなっ!?!どうしてこうも身勝手なのよ!!!!誰も他人を思いやることなんてないじゃない!!!みんな、みんなッ!!!!」

 

マミは膝をつき思いっきりアスファルトの上を叩く。魔法少女の力により砕けた路面。こんなことを普通の人間がすれば手に怪我をするのだが彼女は痛みを感じなかった。

 

どいつもこいつも身勝手な人しかいない。魔女と使い魔は人に呪いを振りまく、その呪いを生み出しているのはなんだ!!人間ではないか・・・・・・

 

「ちょっと・・・・・・君、中学生がこんな時間に・・・・・・」

 

マミに一人の警官が声をかけてきた。彼は美樹さやかの父 総一郎の部下である並河であった。

 

「き、君は・・・・・・」

 

「あの・・・・・・私をご存知なんですか?」

 

柾尾 優太に嵌められ、色々と手を貸していた時にこの少女を運んだことがあった。

 

どうやら、マミは並河のことを知らないようだった。

 

「あぁ、人違いだったよ。君は確かあのマンションに住んでいたよね」

 

並河が視線を向けると先ほどまで、燃え上がっていた火事は鎮火されていたのだが、マミはあそこに戻る気はなかった。あの男の部屋の向かい側で火の手は既に自分の部屋にも及んでいただろう。

 

「はい・・・気が付いたら燃え上がってて・・・・・・今夜はどうすれば・・・・・・」

 

言葉こそは困っている素振りを見せているが、内心はどうでもよかった。今はただ一人になりたい。

 

そして、早く彼女に帰ってきてほしかった。

 

「知り合いもいないようだし、今回は俺の方から署に言っておくよ」

 

並河は知り合いの婦警にお願いし、マミを保護するつもりだった。

 

普段ならば、こんな事をするつもりはないのだが、今夜だけは良い刑事として振舞っても良いのではと思う。

 

今まで柾尾 優太に利用されていたとはいえ、自身が警察でありながら多くの罪を犯してしまったのは事実なのだから・・・・・・

 

マミは流されるがままに刑事の運転する車両に乗り込むのだった・・・・・・

 

「ねぇ、刑事さん・・・・・・」

 

「並河だ・・・・・・えと、君は・・・・・・」

 

「マミです。巴マミ・・・・・・ちょっとお尋ねしても構いませんか?」

 

「なんだ?俺で答えられることなら・・・・・・」

 

突然のマミの質問に戸惑いこそ覚えるが、マミは虚ろな視線で・・・

 

「一般の人を護ることをどう思っていますか?」

 

「・・・・・・一応は仕事だからこそ、護るのかな。今はそういうことでいいかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

並河の答えはマミの望むモノには程遠いが、一応は納得のできるものだった。

 

(それにしても・・・・・・あいつの所に行って、なんで無事なんだろう?)

 

柾尾 優太に手を貸してきたからこそだが、彼の手に渡ってしまったら、助かるはず等ないのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「まぁ世間は厳しいってことっすよね、ショウさん」

 

「あぁ、まったくだ。オレもオレでその辺は弁えているよって、そういえばここいらで殺人事件が起きたんだよな」

 

いつの間にか二人は自宅マンションの近くに来ており、気が付けばつい先ほど事件があった住宅街に来ていたのだ。

 

「ハハハハハ、こういうのも運って奴なんですかね。あの時ショウさんが来てくれなかったら、俺は今頃、刺されていましたよ」

 

「まったく、お前はもっと上手くやれってのっ」

 

上機嫌で二人は”KEEP OUT”が張られた上条家を横切り、そのまま帰路に付く。

 

上条恭介の家は既に警察の鑑識が離れており、誰も居なくなっていたが・・・・・・そんな上条家の家を徘徊する影があった。

 

それは、柾尾 優太によって撃ち抜かれた彼の右手だった。右手が拳銃により撃たれ、吹き飛んでしまった右手は何故か見つからなかったのだ・・・・・・

 

生き物のようにそれは室内を徘徊し、そのまま家を飛び出していった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでさぁ、今相手にしている娘はどうなのよ?」

 

「ショウさん、凄く貢いでくれますよ。ただ、金は大丈夫かって心配しちゃいますけど、そこは俺たちが心配することじゃないっすよね」

 

「だから変に情を見せたら駄目だろぉ。相手は人間と思わず犬かなにかと思えば良いんだから・・・・・・」

 

『へぇ~~~~、犬にも心があるのかい?だからこいつも苛立っているのかな?』

 

「えっ?お前、何か言ったか?」

 

「いえ、喋ってたのはショウさんでしょ」

 

突然、割り込んできた声に対して二人は困惑の声を上げた。声の主は妙に寒気のする気配を持ち、何やら不気味な音が周囲に響いてきたのだ。

 

「お、おい・・・・・・な、なんだ」

 

ふと正面に視線を向けるとそこには、青白い女の顔が浮かんでいたのだ。

 

具合が悪いとかそういう顔色ではない。なんというか、恨めしい表情をしている。

 

『あれ?こいつもか、こいつも、こいつも・・・・・・』

 

目の前の女の顔の周りに一斉に無数の顔が現れた。

 

「しょ、ショウさん・・・な、なんですか?こいつら、おかしいですよ!!」

 

「ば、馬鹿!!あたりまえだろ!!」

 

『おかしい?こいつらをおかしくしているのはお前たちじゃないの?』

 

暗闇からそれは現れた。そうカエルの腹を思わせる真っ白いふっくらとした腹には、女の顔が無数に浮き上がっていたのだ。

 

腹の主はゆっくりと蛇のように長くなった首を擡げた。

 

「しょ、ショウさん!!!」

 

「な、なんだ、この化け物!!?か、顔が!!!!」

 

化け物 ホラー フェイスレスには顔がなかった。あるのは異様にまで裂けた口だった。

 

腹に浮き出た女の顔が一斉に触手となって二人に向かっていき、赤く染めあがった口を開き喰らった。

 

声を出すまでもなく一瞬にして二人はホラー フェイスレスに食われてしまったのだ。

 

二人を喰らったフェイスレスのガマガエルを思わせるでっぷりとした姿から白い比較的スリムな体躯へと変化する。やはり、顔は存在せず、異様に裂けた口だけがあり、夜空に浮かぶ三日月のように嗤った・・・・・・

 

『あははははははは!!!!僕を恨みながら、他も恨むのか!?!お前達のせいで暁美のトコロにイケナイ・・・・・・あぁ・・・あああああああああ』

 

覚束ない足取りと支離滅裂な呟きと共にホラーフェイスレスはこの場から消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 病院 特別病棟

 

「先生・・・どうですか?恭介の具合は・・・・・・」

 

「はい。精神が錯乱していて、暫くは鎮静剤を打たせて大人しくさせるしかないでしょう」

 

悲痛な表情で上条恭介の父親は、息子の姿を見る。息子は暴れ出さないように拘束され、さらには鎮静剤を点滴を持って投与している。半開きの何も映していない目には、奇跡が起きた時の彼とは思えないほどだ。

 

さらには息子の右手は手首の先から消失しており、もはやヴァイオリンを引くことは絶望的だろう。

 

できれば息子の傍にいてやりたいが、今はやらなければならないことが多い。恭介の母は最悪なことに殺されており、その確認と事情を警察と話し合わなければならないのだ・・・・・・

 

「先生。恭介を・・・息子をお願いします」

 

頭を下げ、彼は病室を後にするのだった。そんな恭介の病室に視線を向ける少女が一人 志築仁美であった。

 

 

 

 

 

頭に包帯を巻いており、軽い脳震盪と頭部に少しの切り傷の軽症で済んではいるが、彼女の心は軽傷とは言い難いほど重傷であり、これまでにないぐらい苛立ちを覚えていた・・・・・・

 

「上条君・・・・・・どうして彼がこんな目に遭わなければいけませんの・・・・・・」

 

面会謝絶の文字が彼女の心をさらに重くする。

 

「全てはあんなものに・・・魔法なんかに頼ろうとするから・・・・・・こんな事になったのです」

 

資格のない自分ではどうあがいても何もすることができなかった・・・・・・

 

彼の為に何かをすることができなかった自分が恨めしい・・・・・・

 

自分を差し置いて”資格”のある子が叶えてしまったことが悔しい・・・・・・

 

「さやかさん・・・・・・美樹さやか・・・・・・全てはあなたのせいです。あなたが願いさえ祈らなけえれば

・・・・・・こんなことには・・・・・・」

 

結局のところここで何を言っても彼の不幸が覆ることはないのだから・・・・・・

 

肩を落とし、仁美は自身の病室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

美樹さやかは、かつて姉として慕った蓬莱暁美と一緒に過ごした家に来ていた。

 

ここは定期的に掃除に来たりしているが、管理している人が居り偶に掃除も行っている。

 

姉が亡くなったとき真っ先にこの家に来た。そして彼女は遺産としてこの家をさやかが成人した暁に相続させるという遺言を残していた。そんなものは当時のさやかは望まなかった。望むのは姉ともう一度暮らしたいという願いだけだったのだ。その願いを聞き入れたものは当時存在しなかった。

 

「なんでよ・・・・・・どうして・・・・・・」

 

テーブルの上に置かれたソウルジェムが黒く濁る。手持ちのグリーフシードは無く、感情の赴くままにあの”男”の元へ行き、この手で制裁を加えた。そして、炎に包まれるという生きてはいない状況の中にあったのだ・・・

 

さやか自身の目的は果たせた。自分の願いを踏みにじった”人形じみた男”をこの手で・・・

 

そう思うと少しだけではあるが自分が笑っていることに気づいた。自分は十分に望みを叶えたのだ・・・

 

「アタシはやったよ。アタシ自身の手で望みを叶えたんだ・・・・・・」

 

このままソウルジェムが濁りきるとどうなるのだろうか?おそらくは何か良くないことが起こることだけは何となくではあるが分かる。

 

濁りきったら、自分はどうなるのだろうか?おそらくは”死”に近い、いや”死”よりも受け入れがたい運命を迎えるだろう。それでも構わなかった。勝手だが、恭介の絶望はもう誰にも癒すことはできないし、仁美との関係は修復など不可能になってしまった。姐さんこと佐倉杏子と彼女の伯父である魔戒騎士とも歩みを共にすることもできない。だったら、このままフェードアウトしても良い。

 

魔法少女としては自分は最低であり、落伍者なのだ。両親もそこそこではあるが自分が居なくなっても、最初は気にするが、数日たてば居ないもののように扱うだろう。

 

さやかは絶望こそはなかったが、諦めだけが心を占めていたのだっだ。ソウルジェムに視線を移すと

 

「さやか様・・・・・・」

 

自身のソウルジェムに似た青い光を放つ二つの目がいつの間にか目の前に存在していたのだ。

 

「あ、アンタ・・・キュウベえ・・・・・じゃない・・・・・・」

 

赤い目ではなく目が青く、所々のも配色がキュウベえとは異なっていた。

 

「今は私のことは後にしてください。それよりもソウルジェムを浄化させていただきます」

 

言葉こそは丁寧だが、慇懃無礼な無機質なキュウベえと違い、この青い目のキュウベえは自分を気遣っている。

 

器用に耳を手のように使ってグリーフシードを持ち、そのまま呆然とするさやかのソウルジェムの穢れを浄化する。

 

「ど、どういうこと?さっき見たアイツらはみんな同じに見えたけど……」

 

「私は、アイツらと違いリンクしていません」

 

「リンク?」

 

「はい。魔法少女がキュウベえと呼ぶ存在、インキュベーターは一つの意思が複数の身体を動かしている存在です。一つの個体を潰したとしてもまた、代わりが現れるのです」

 

「っていうことは、アイツら全部で一人分の意識なの?」

 

魔法少女のマスコットにしては、かなり気持ちの悪い存在だと思うが、この目の前にいる存在はなんだろう?

 

「そうです。本体は誰も見たことがありません、何処に存在するのかも・・・」

 

納得しつつも戸惑うさやかに対し、青い目のキュウベえは

 

「紹介が遅れました。私は蓬莱暁美様により創造された地球製のインキュベーター。創造主からは、ソラと名づけられました」

 

「えーと、ソラさん・・・お姉ちゃんは・・・・・・ま、まさか」

 

姉 蓬莱暁美の名前が出てきたことに戸惑うが聞かずにはいられなかった。答えは一つしかないのだが・・・

 

「そうです。蓬莱暁美様はあなたと同じ魔法少女でした。さやか様」

 

姉の真実に対し、さやかはすんなりと納得することができた。何かあるのではと幼心なりに感じていたが、まさか姉が魔法少女だったとは・・・・・・

 

「それで・・・どうしてアタシの所に・・・・・・」

 

「はい。もしもさやか様が魔法少女になり絶望する事態が発生した時、目覚めるように命を受けました」

 

「じゃあ、ソラさんは・・・アタシの絶望を感じて・・・・・・」

 

「ソラとお呼びください。私はその役目の為に目覚めたのです。インキュベーターには、さやか様とは契約を行わないように接触させないよう蓬莱暁美様は行動していましたが、アレは必要とあらば、平然と土足で約束やその人の思いを踏みにじってきます」

 

ソラの話のほとんどが理解することも受け入れることも難しいが、彼女は姉が自分を助けるために用意していたことと魔法少女の存在をしりながら、その過酷さを悟られないように振舞っていた彼女の想いを無碍にしてしまったことにさやかは、ある意味キュウベえと同じではないかと軽い自己嫌悪を感じるが、

 

「さやか様が罪悪感を感じることはありません。蓬莱暁美様の睨みが無くなれば、インキュベーターの行動は当然です。アレには人の心を理解することはないですし、その必要性も感じてはいないのです」

 

ある意味同族であるのに嫌悪感を出すソラ。

 

「私もそこまで人間の感情を理解しているとは言い難いのですが、さやか様の為に動きます。押しつけがましいかもしれません、それにさやか様に蛇蝎のごとく嫌われようともあなたに尽くします。あなたがこの場から出て行けと言われればそうしましょう・・・・・・」

 

さやかは、余りの事態というよりも目の前のソラに対し、

 

「ねえ、アタシのこと、さやか様じゃなくて、さやかって呼んでよ」

 

彼女はこのソラを信じることにした、いや、信じられた。彼女は必死になって自分が味方であることを訴えた。

 

なにより彼女の青い目には、インキュベーターの赤い目と違い、はっきりとした感情が存在していたのだ

 

いつまでも、さやか様というのはむず痒い。

 

「で、ですが・・・私はあなたの指示に従うように・・・・・・」

 

これはソラにとって想定外であった。

 

「そんな固い事言わないでよ、ソラ」

 

「は、はぁ・・・では、さやか」

 

「それで良し!!!」

 

先ほどまでは絶望を感じ、このまま消えてしまおうとさえ感じたのだが、ソラが自分の元に来てくれたこととソラが話してくれたように自分が消えてしまえばソラは存在意義を無くし独りぼっちになってしまう。

 

「それで、ソラの事はキュウベえ達は知っているの?」

 

「いえ、インキュベーターにも悟られないように創造され、その後も知られないように封印をされていますし、此処へ来るときは、この姿で・・・」

 

ソラの姿がさやから魔法少女が良く知るキュウベえの姿に変わる。

 

「その姿は、辞めてよ。他にないの?」

 

「はい、でしたら、本来の姿よりは人間の姿の方が都合が良いかもしれませんね」

 

「人間に成れるの?」

 

「はい・・・少し眩しくなりますが」

 

目を閉じると同時に眩い光が部屋を包み、収まると同時に一人の少女がさやかの隣に座っていたのだ。

 

何処となくではあるが、自分に似た顔立ちをしている・・・・・・

 

「アタシと少し似てるね、ソラ」

 

「そうかもしれません。この姿は、もしかしたら蓬莱暁美様がさやかを想って私を創造されたからではないでしょうか?」

 

「だったら、アタシの後に生まれたんだから、妹みたいなものね!!」

 

上機嫌にさやかはソラに抱き着いた。

 

「なっ、さやか・・・」

 

「ソラ・・・・・暫くだけこうさせて・・・・・・良かった、ソラがアタシの所に来てくれて・・・・・」

 

抱き着いたさやかは震えていた。ソラは何も言わずに彼女を抱き返した。抱かれた感触が心地よいのかさやかはそのまま目を閉じ、ソラから感じられる温もりに身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 病院 特別病棟

 

上条恭介は鎮静剤で混沌とする意識の中にいた。

 

(・・・・・・僕はまた見放されたんだ。世界から・・・・・)

 

体中の感覚が鈍いが右手の感覚はどうあっても感じられない。あの時よりも酷く、何もない。その通り右手は完全に失ってしまったのだから・・・・・・

 

(くっ・・・・・・なんでだ・・・さやかが奇跡を願えて・・・僕は僕自身に奇跡を起こせないんだ・・・魔法のような奇跡が・・・・・・)

 

悔し涙が零れる。自分には何もない・・・・・・終わってしまったのだと・・・

 

(なんでもいい・・・僕はもう一度音楽ができるのなら、なんだってやってやる、そうだ、この命だって・・・・・・)

 

『それは・・・本当か?お前にもう一度、手を与えてやろう。我を受け入れるのなら』

 

それは、上条恭介に話しかけてきた。

 

(な、なんだ?この声は直接僕に話しかけている、それも心に・・・)

 

『上を見ろ』

 

視線を天井にやるとそこにはなんと引き千切れた筈の自分の腕が張り付いていたのだ。

 

(ぼ、僕の手!!!僕の手だ!!!)

 

直ぐに起き上がりたい。だが、鎮静剤の影響もあり動くことは叶わない。

 

『我を受け入れろ。そうすれば手を与えてやる、お前の望みを叶えるがよい』

 

(かまわない!!!僕はオマエヲ受け入れるよ!!!僕の手!!!僕の手!!!)

 

『その言葉に嘘偽りはないな。さあ、我を受け入れよ』

 

天井に張り付いた手が離れ、上条恭介目掛けて落下する。

 

(僕の手!!!僕の手!!!!僕の手!!!!僕の手!!!僕の手!!!!)

 

落下した手は上条恭介の目の前で弾けたと同時に黒い悪魔を思わせる異形が目前に迫る。

 

(僕の手!!!僕の手!!!!僕の手!!!!僕の手!!!!)

 

黒い悪魔ことホラーは霧状に変化し、上条恭介の身体と重なった・・・・・・

 

時間にしてほんの数秒ほどで上条恭介は起き上がった・・・・・・

 

引き千切られたはずの右手が存在し、それを愛おしそうに眺める。

 

窓に反射した彼の目には、ホラーに憑依された人間に現れる”魔戒文字”が浮かび上がっていたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

自分で書いておいてあれなんですが、見滝原がヤバいことになっています(笑)

ホラーが退治されているどころか増えてしまいました。

上条恭介のホラー化は元々考えており、今回実現しました。実は手と本体それぞれが別のホラーになることも考えたのですが、それは少し絡ませにくいので没にしました。

改めて思うと、今作で一番の被害者は上条恭介ではないかと思わなくもないです。


今作では、強化されている魔法少女は ほむら、杏子に続いてさやかも強化されます。
しかも頼もしいというか”仲間”ができました。

柾尾 優太に顎で使われていた刑事 並河 平治さん。あまり印象的な感じではありませんが、再登場。

そして、感情を持ったインキュベーター カヲルが今回も登場しましたが、彼は何もかも自分の思い通りに進んでいると考えていますが・・・イレギュラー、しかも自分が入れ込んでいた蓬莱暁美が内緒で何かしてました(笑)

ソラはさやかに似た姿に成れるインキュベーターですが、実際のところは人工的に作られた魔法少女に近い人造人間だったりします。




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第弐拾六話「上条 恭介 前編」

前回 ホラーと化した上条恭介。

今回、私なりに書いてみたいと思ったのは、魔法少女の存在を資格があるものとそうでないものが知った時、片方しか願いが叶えられないと言われた時、叶えられない側は言いようのない悔しさを抱くというものです。

そういうのをもっと掘り下げて書いてみたいです。

さやかと仁美の二人が今作ではそんな感じです。


 見滝原市 巴 マミの住まうマンションにて

 

「ったく、マミの奴は何処に行ったんだよ!!」

 

既に消火作業が終わった深夜に幼い少女の声が響く。

 

杏子はマミのマンションが火事に遭ったことを知り、伯父と共にこの場へ来ていた。

 

「無事だと良いんだが、ここにある邪気はあまり気持ちの良いものではないな・・・」

 

バドは火事の中心であった部屋の向かい側に向ける。

 

見えるのは異様な邪気というより”様々な怨みの念”の跡が濃く残っていたのだ。

 

このような”怨みの念”は曰く付きの場所に多いのだが、このような新築マンションには似つかわしくない程だ。

 

部屋の主は、どういう神経をしていたのかと問いたくなる。こんな場所には近づくだけでも危ないし、生活等したら数日と待たずとして亡くなってしまうだろう。それだけ”生者を恨む念”が多く渦巻いていたのだ。

 

「伯父さん。ナダサの話だと、色々と怨みを買ってたって・・・・・・それにここの奴、見かける度に違う女を連れてたよ」

 

かつてマミとコンビを組んでいた時、時折見かけていたこの部屋の主 柾尾 優太に対して杏子はいつも不快感を抱いていた。元々、神父の娘であるからか不快感は強かった。

 

「杏子ちゃんは、知っているのかい?ここの、まだ表札は残っているか・・・まさ・・・柾尾 優太か」

 

「話したことはないよ・・・なんていうか、あんまり関わりあいたくない奴だったかな」

 

マミとコンビを解消した後は、ここに来ることはなくそれ以来見かけなくなったが・・・

 

「そうか・・・これはそういうことなんだろう」

 

「それってどういうこと?伯父さん」

 

一人で納得している伯父に対して問いかける杏子。

 

「あぁ、ここに居た柾尾 優太は、”存在するだけで生きていない人間”だったんだろうな」

 

「存在するだけで生きていない?」

 

「人間っていうのは、色んな目に遭って変わっていくんだ。良くも悪くもな・・・」

 

「杏子ちゃんや俺みたいに色んな目に遭って、やらかしたことも変わることに違いない。だけど、ここの奴は違うんだろう」

 

伯父の言っている意味がよく分からないという表情の杏子であったが

 

「色んな目に遭って、悲しかったり、嬉しかったり、怒ったりすることを繰り返すことなんだ。ここで感じながら変わっていくんだ。良くも悪くもな」

 

バドは自分の胸を指す。ここにあるのは人ならば必ず持っている”心”が宿る場所。

 

「柾尾 優太には、それがないんだろう。生まれつきなのかどうなのかは知らないが、ただ人の形をしているだけで、色んな目に遭っても何も感じることがないから、変わらない。”存在しているが生きていない”」

 

「・・・・・・なんだよ。それ、気持ち悪いな・・・まるで人形。あの気味の悪い絵本にそんな人形がいたな」

 

昔、まだ家族が居た頃に父が貰って来た絵本の中に自分を人間と思い込んで悪さをする人形が主人公のモノがあった。小さい頃に見たとき、あまりの人形の気持ち悪さに絵本はそのまま燃えるゴミの日に出してしまった。

 

結末までは読んだが、あの人形の最期は燃やされた灰になったというものだから、この部屋の主も似たような末路を辿ったのは間違いないだろう。

 

バドは、焼け跡となった柾尾 優太の部屋に足を踏み入れた。部屋の中は爆発したのか様々なモノが散乱としていて荒れ放題だった。部屋の一角に視線を向ける。そこには魔戒騎士ならば馴染み深くも忌まわしい”陰我”の後を感じた。やはりここにホラーが現れたのだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原病院 志築仁美の病室

 

仁美は眠れない夜を過ごしていた。さやかに突き飛ばされ頭を打ち、怪我をしたが特に異常がなかった。

 

意識を回復してから彼女の考えることはただ一つ、上条恭介の事だった。

 

「やっぱり納得がいきませんわ・・・・・・どうして、美樹さやかなんですの・・・私だったら・・・もっと・・・うまく・・・・・・」

 

彼女が考えていたことは上条恭介に奇跡を齎す資格が自分にあれば、きっとさやかよりも上手く事を運べたのではないかと・・・・・・

 

正直に言えば、自分はクラスでは優秀な成績で物事の見識もさやかよりもずっと深い。

 

だからこそ、今回の結末は奇跡を願ったのがさやかだったから、この結末に至ったのだとさえ考えていた。

 

「でも・・・まだですわ・・・私が叶えられなくとも・・・・・・誰かに叶えてもらえれば・・・・・・」

 

ここでふと思いついたのは、友人である鹿目まどかだった。入学当初より仲良くしている友人であるが、悔しいことに彼女も”奇跡を起こす資格”を持っている。だが、何も叶えていない。

 

資格がないことに悔しい思いをしている自分を差し置いて、欲しくてほしくてたまらない資格を有効に使おうともしない彼女を半ば軽蔑すらしていた。

 

「どうせ叶える願いなんてないんですなら、わたくしの為に・・・上条恭介さんの為にその奇跡を捧げるべきではないでしょうか・・・」

 

思い立ったが吉と言わんばかりに病室にある自身の荷物から携帯電話を取り出し、さっそくまどかに掛けるが、すぐに留守電になったことに苛立ちお覚え、そのまま携帯電話をベットに叩きつけた。

 

「・・・・・・こんな時に・・・・・・わたくしや上条恭介さんが美樹さやかの為に大変な目に遭っているのに気にもかけないなんて・・・」

 

所詮はその程度の友情でしかないのかと思うが、普通ならばほとんどの人間が眠っている時間なのだ。

 

そんな時間に電話を掛ける方が非常識なのだが、その非常識な時間に出歩いている影があった。

 

病院を背に歩いているのはいつの間にかタキシードに着替えていた上条恭介だった。

 

偶然にも仁美は病室の窓から彼の姿を目撃した。一瞬、見間違いではないかと思ったが、

 

「か、上条さん!?!ど、どうして!!」

 

居てもたっていられず彼女は病室を飛び出していった。

 

その後、辺りを隈なく探したが彼の姿を見つけることは叶わなかった・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ミュージック スクール virtue

 

上条恭介の父が理事を務めている音楽教室であり、5階建てビル全てが教室、スタジオである見滝原を代表するスクールの一つである。

 

スタッフルームで上条恭介の父は、非常に落胆していた。息子の不幸とこれからの将来に対して……

 

「理事。気を落とさないでください。恭介君はまだ若いですし、やり直しはいくらでもききますよ」

 

「先日も手の事は諦めろと言われた時の恭介の荒れっぷりを知っているか?あの子にとってヴァイオリンがすべてだったんだ」

 

後で病院関係者に聞いた話だといつも見舞いに来ている美樹さやかに八つ当たりすらしたと言う。

 

このことを知ったときは我が子ながら情けないとしか思えなかった。ほとんどのモノが息子の才能と将来に期待を寄せた居たのだが、将来性がないと判断した時には手のひらを返したように無視を決め込み、治療に専念している時すら、励ましの言葉すらかけてはいない。そんな息子に変わらず接してくれたのは、幼馴染の美樹さやかだけであり、あの子がどれだけ息子を想っていてくれたことには感謝しかなかった。

 

志築家からは、将来をと話を持ち掛けられたが、将来性がないと知った途端に勝手に話はなかった事にと言われた時は思わず怒鳴りたくなった。あそこの娘さんも恭介のことを好いているのだが、一度たりとも見舞いに来たという話は聞いていない。仮に付き合っても交際は認めたくはなかった。

 

その後、息子の右手が奇跡的に治った事には救ってくれた幸運の女神に感謝した。

 

あの病院の屋上で戸惑いながらもヴァイオリンを引く息子の将来はまたこれからと思っていた矢先に・・・

 

立ち会ってくれた美樹さやかにも感謝していたし、誰よりも喜んでくれた彼女も息子の不幸に大きく傷ついているだろう・・・・・・

 

「恭介の不幸もそうだが、私はさやかちゃんが心配だ。警察はちゃんと探してくれているのだろうか?」

 

現場に居合わせた後、そのまま行方が分からなくなってしまったさやかを心配し、警察に問い合わせたが…

 

「まだ見つかっていないそうです。彼女の父親に至っては・・・なんというか・・・・」

 

「あぁ、、子供の安否よりも犯人探しに躍起になっているんだったな」

 

スタッフルームに控える講師達も今回の件で非常に心を痛めていたのだった。

 

今まで傍にいてくれたさやかの安否、傷心の娘よりも犯人を捕まえることに躍起な父親に対しては溜息を付いた。

 

そんな時であった・・・・・・

 

「あれ?まだ、誰かスタジオにいるんでしょうか?」

 

突然、ヴァイオリンの音色が聞こえてきたのだ。聞いたことのない曲だった・・・

 

「うん?この弾き方の感じは・・・まさか・・・」

 

上条恭介の父親は、この曲を弾く奏者に覚えがあった。だが、決してありえないのだ。奏者はもうヴァイオリンを引くことはできないのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原のビル群を駆け抜けていく影が二つ。魔法少女に変身した美樹さやかと彼女を護るために創造された人造インキュベーター ソラである。ソラは魔法少女の姿をしており、白いマントを靡かせる軽装に対しソラは巫女装束を模した衣装纏っており、その姿は完全に魔法少女の姿である。ソウルジェムを思わせる宝石が額に輝いていた。

 

「さやか、本当にそれで構わないのですか?」

 

「うん。もう決めたんだ。アタシは自分が叶えた願いの責任を果たさなくちゃいけない。だから、恭介の所に行ってやれることをする」

 

二人が向かっているのは、上条恭介が入院する病院である。その目的は彼の腕をもう一度治すことだった。

 

「アタシの魔法は治癒でソラと合わせれば手の再生は十分可能なんだよね?」

 

「はい。私自身の能力は”転写”。彼の左手を転写し、反転すれば右手の再生は十分に可能です」

 

ソラは状況によっては姿を変えることのできる能力を持ち、外観をキュウベえに擬態したり、また今のように魔法少女に擬態することができる。それは自身に装備であったりと多岐に渡る。

 

その能力があれば上条恭介の失った右手を再現できるのだが、肝心の右手を繋ぐすべがなかった。ここを繋げるのがさやかの”治癒魔法”であった。

 

落ち着いたさやかは、恭介の失われた手を何とかする方法がないかとソラに聞いたところ、彼女は、さやかの魔法を確認した後、この方法を提案したのだった。

 

そして・・・・・・さやかは、あることをソラに尋ねた。

 

「ねえ、ソラ。多分、三年生も姐さんも知らないと思うんだけど、ソウルジェムってさ・・・・・濁り切っちゃうとどうなるの?」

 

願いが叶えられるという甘い言葉に魅せられ、魔法少女になったが、その実態については知らないことが多すぎる。

 

「・・・・・・はい。インキュベーターは、聞かれなかったから話さなかったと答えるでしょう。ですが、この事実は魔法少女を希望としてみているモノからすれば、あまりにも救いがなさすぎます」

 

ソラは答えることに対して躊躇していた。その様子にさやかは、真実はあまりにも残酷であることを察した。

 

生唾を飲み込み、真っ直ぐにソラを見据え

 

「遅かれ早かれアタシ達は知ることになるってことだよね。先延ばしにしたって、結局は逃げじゃん。だったら、アタシは知っておきたいんだ!!魔法少女の真実を!!!教えて!!!ソラ!!!!」

 

どんな事であってもさやかは受け入れようと決めたのだ。どんなに残酷な真実であっても・・・・・・

 

残酷な真実を知り、潰されるのならば結局はそれまでだろう。今更ではあるがさやかの脳裏に姉が話したある話が鮮明に浮かんでいた。

 

アレは姉が祖母の故郷に墓参りの旅行について行ってしまった時に、そこに祭られていた”みながみびと”の伝説を聞かされた時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東のある寒村にそれは大層な腕前の笛吹きの男が居り、彼のその腕前には寒村を収める領主にも覚えが良かった。

 

そんな彼に想いを寄せる村娘が一人・・・その娘は男とは幼い頃からの馴染みでその男の傍らでいつも笛を聞いていた。

 

ある日、男が村から用事で隣村にの道中で野党に襲われ、腕を斬りつけられてしまい、男は笛を吹くことができなくなってしまった。

 

意気消沈した男に対し、娘は村に伝わる”水神”が宿る泉に祈った。

 

男の腕を治すようにと・・・・・・娘の祈りを”水神”は聞き入れた。だが、”水神”は代償を求めた・・・・・・

 

祈りを叶える代わりにお前の命を捧げよと・・・・・・

 

それを受け入れ、娘は男にもう一度笛を吹けるようにと・・・もう一度あの音色が聞きたいと願って・・・・・

 

命を捧げ、男は笛を吹くことができた。その代償を知ることもなく・・・・・・

 

男がその代償に気づいたとき、娘が自分を好いていてくれたことと何もしてやれなかったことを後悔し、幼馴染への感謝の想いから、”みながみびと”として祭られることになったという・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

”さやか・・・・・・神仏、いえ、大きな力に願いを祈ることは大きな代償を払わなければならないわ。命をそれこそかけてね。だけど、それを求めるあまりに道を外れて鬼や魔に堕ちることもあるわ。これはこの話とは別の昔話だけど、今はやめておくわね”

 

 

 

 

 

 

 

今の自分は、姉の話してくれた”みながみびと”の村娘のように奇跡の代償として命を払ったのだ・・・

 

そして、さらなる代償が必要なのだろう・・・その真実こそが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「わかりました・・・・・・魔法少女はあくまで少女 ソウルジェムも同じです。少女が大人になれば、女になります」

 

ソラはこの先を話すことに抵抗を覚えたが、さやかは”やはりそうなのだろうか”と察した。

 

「魔法少女が成長した姿こそが、”魔女”なのです」

 

「やっぱりね・・・・・・キュウベえのやることだから、どうせろくでもないことだと思ったけど、本当にろくでもないことだったね。そんなろくでもないことに調子に乗ってたあたしって・・・・・」

 

 

 

 

 

「アタシって・・・・・・ほんとに馬鹿」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人はビルの間を駆けていたが、さやかはここが見覚えのある場所であることに気が付いた。

 

「ちょっと待って、ソラ。少しだけ寄り道したいんだけど」

 

「はい。この辺りは確か、ミュージックスクールVerite がありましたね」

 

「知ってるんだ。え~と、やっぱりお姉ちゃんから?」

 

「はい。あのミュージックスクールの上条理事は蓬莱暁美様のお知り合いでしたから、その辺りの事も聞いています。最も数年前の情報なので更新をしなければなりませんが・・・」

 

さやかが魔法少女になり絶望しそうになったら、封印が解けるというピンポイントな状況で目覚めた為か、少しばかり自信がなさそうであった。

 

このソラは頼りになるのだが、時折見せる不安そうな表情がさやかの庇護欲をそそる。

 

「ここは、アタシが案内するからこっち!!」

 

方向転換し、二人はミュージックスクールのあるビルへと向かうのだった。

 

「さ、さやか、待ってください」

 

少しだけ上づいたソラの声が響いた。

 

 

 

 

 

スタジオに響く不思議な曲は、楽しげではあるが、何処となく不気味な響きを奏でていた。

 

時刻と誰もいないはずのスタジオからあり得ない人物が演奏していることにスタッフ達は不気味さを感じていたのだった・・・・・・

 

「理事・・・なんというか、これ引いてるのって・・・・・・」

 

「いや、あり得ない・・・・・・恭介は病院に居るはずだが」

 

扉の前まで来た時、ゆっくりと扉が開き始めた。そしてパッと照明が照らされる。

 

「ここに来るのは久々だけど・・・・・・僕もまだまだだな~~。早く後れを取りも出さなくちゃいけないのに」

 

聞こえてくるのは、聞き覚えのある息子 上条恭介のモノだった。

 

「父さん、先生方・・・夜分遅くに失礼します」

 

上等なタキシードに身を包み、ヴァイオリン本体と弓を持った上条恭介が笑った。笑った瞬間の顔に影が差した。

 

「ほ、本当に恭介なのか?何故、ここにいるんだ。それに・・・」

 

信じられないことに吹き飛ばされた右手が恭介に存在していたのだ。

 

「僕も奇跡を起こしたんだよ。さやかが願ってくれたんだけど、運悪く台無しになっちゃったんだ」

 

「な、なにを言っているんだ?さやかちゃんが・・・」

 

全く話が呑み込めなかった。奇跡を起こした?どういうことだ?一瞬見た息子の顔は奇跡が起きたというよりも何か恐ろしいものに取り憑かれたのではとしか思えなかった・・・・・・

 

「あははははははは!!!そうさ、僕はやっと自分の音楽を取り戻したんだ!!!でも、少しだけ欲が出ちゃったんだよ」

 

「色んな曲を弾いてきたけど僕自身の曲が欲しいなって・・・でも、インスピレーションが湧かないんだ」

 

「適当に引いてみたら何かいいフレーズが見つかるかもしれない」

 

恭介は曲を奏で始めたその曲調は甲高く、まるで人の断末魔の悲鳴のように聞こえる響きを持っていた。

 

「な、なんだ・・・この曲は、人間が考えるものではないぞ」

 

心の底から不安にさせる響きを持ったそれは人間の原初の本能を刺激する。

 

「あ、あ、ああ。ああああああああああっ・・・・・・・」

 

恭介の父の隣にいる講師が痙攣を起こし、白目を剥き出しガラスの陶器が割れるように弾けた。

 

「ああっ!?!!」

 

余りの出来事に仰け反り、腰を抜かしてしまった。割れた陶器のような肉片が恭介の奏でる曲に合わせて浮遊しの足元に展開された円に吸収されていく。

 

「あはははははははは!!!!これが恐怖なんだね!!!!音楽は理屈じゃない、感性なんだ!!!その時に感じる感情の高鳴りこそが僕が求めるオリジナルの!!!僕だけの曲なんだ!!!!」

 

恭介の身体から悪魔を思わせる悍ましい二本の腕が背中から飛び出す。

 

さらに頬が裂けていき口が耳まで大きく開いていく。

 

「きょ、きょうすけ・・・オマエは・・・音楽の為に・・・そのためだけに悪魔に魂を売ったのか・・・このバカ息子が・・・・・」

 

「それだけの価値があるんだよ。その価値は十分にあった・・・だから父さん。協力してくれるかな?」

 

悪魔のような悍ましい顔から穏やかな上条恭介に変化させ、実父へと近づくが、

 

スタジオの窓を突き破るように彼女は、上条恭介の前に飛び出した。

 

「恭介!!!!あんた、なにやってんの!!!!!」

 

魔法少女の姿のさやかは、怒りの表情でサーベルの切っ先をホラーと化した恭介に向けた。

 

「さやか!!!相手はホラーです!!!魔女とは比べてはいけません!!!」

 

続いてソラがさやかに続く。

 

「ソラ!!!おじさんを逃がして!!!アタシはちょっと恭介と話さなくちゃいけないから」

 

「さやか・・・・・・あの後どうなったか心配したけど、無事だったんだ?てっきり魔女にでもなったんじゃないかと思ったのにな~~」

 

「あいにくさま。さやかちゃんはそう簡単にへこまないわよ。恭介、あんた魔法少女のことしってたんだ?」

 

「つい最近になって知ったんだよ。魔女になる話は結構ショックを受けるんだけど・・・それを曲にしてみたかったな」

 

魔法少女の事を知らないはずの恭介が何故、知っているのか気になるが、彼の身に起きたことによる影響だろう。

 

「悪趣味すぎるよ・・・・・・恭介・・・・・・」

 

「それは感性の違いだよ、さやか。人それぞれなんだよ。本当の芸術を理解する人は本当に少ないんだ」

 

笑みを浮かべる恭介の姿は、彼女が知る幼馴染のモノではなかった・・・・・・

 

(これがアタシの罪と罰・・・・・・魔法に縋って、命を払った代償が恭介・・・・・・)

 

彼女の暗い感情と後悔に呼応するようにソウルジェムが僅かに濁るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 




あとがき

仁美がなんだか、物凄くヤバいことになってきました。

悪いのは、某青年なのにさやかのせいにするという逆恨みっぷり・・・・・・

さりげなく、まどかを利用しようと考え始めたのでかなりきています。

今回はさやかがホラー化した恭介と対峙。そして、魔法少女の真実を先んじて知ることになりました。

さやか先に魔法少女の真実を知り、受け入れるというSSは中々なく、さらには魔法少女となって恭介を治癒するというのは本来ならあり得ないんですが、そういう方向性でということにしてください。

さやか自身が割としっかりして居たのは姉 蓬莱暁美の影響ということで・・・

その姉とのやり取りは別作品にて・・・・・・






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第弐拾六話「上条 恭介 中編 壱」

普通に魔戒騎士を活躍させるとあっさり終わるので何度か書き直していました。




 

 

さやかと恭介は互いに対峙していた。

 

穏やかな笑顔を浮かべる恭介に対しさやかの表情は険しかった。

 

「芸術って・・・・・・こんな悪趣味なモノが?」

 

生理的嫌悪感を抱かせるアートも実際に存在し一定数の愛好家もいるとのことだが、さやかにはそのような感性を愛でる趣味はなかった。

 

「良いじゃないか。でも今のさやかの生き方も凄くいいと思うよ。僕に対して罪悪感を感じているのなら、心配ないよ。僕は今の自分に満足しているからね」

 

「・・・・・・そうかもね。だけど、責任はきっちり取らなくちゃね」

 

サーベルを構え直し柄に力を込める。

 

「まさか、僕と戦おうというのかい?魔戒騎士でもないのに?あの外の世界からやってきたインキュベーターが作った操り人形の分際で」

 

「アタシをおちょくってんの?ろくに喧嘩もしたことがない恭介が?」

 

幼い頃から同年代の男子に交じって、遊ぶことのなかった恭介。家の中でヴァイオリンを引くか、音楽を聴くかのどちらかで過ごしていた。

 

「今までの僕とは違うんだ・・・ガサツなさやかに分かるわけないよ」

 

さやかの煽りに若干、カチンときたのか少しばかり口調が荒くなっており表情も強張っていた。

 

「さやかちゃんにそれを言う?今の恭介の音楽を好きになる奴なんて誰も居ないよ。アタシは前の恭介のヴァイオリンが大好きだったよ」

 

勢いよくさやかは駆け出し、サーベルを恭介に突き出し。恭介はヴァイオリンの本体を盾にすることでそれを防ぐが、四本の弦がサーベルによって斬られることなくそのまま弾き、恭介は弓を剣のように振るってさやかを斬りつけた。弓をサーベルで防ぐ

 

「こらぁ!!恭介!!!ヴァイオリンをそんな風に使うなって!!!お姉ちゃんにアタシが怒られたこと、忘れたの!!!」

 

幼い頃、弓を姉に持たせてもらった時に遊びでチャンバラをしたら怒られ、傍で見ていた恭介に呆れられていた頃を叫ぶが、

 

「そんなこともあったね、さやか。本当に懐かしいよ。楽器で遊ぶのはさすがに辞めておいた方がいいね」

 

彼女の叫びに毒気を抜かれたのか、ヴァイオリンを大切にケースにしまいこんだ。そのケースは黒い霧となって消えた。

 

「ここからが本当の闘いだね。上条恭介こと ホラーの楽士 ミューゼフの姿を見せようさやか」

 

恭介の身体が痙攣を起こすと同時に黒い霧が勢いよく飛び出し、変化を起こす。

 

蝶ネクタイを模した骨でできた部位が特徴的な四本腕の異形がさやかの前に立っていた。

 

その姿は昆虫を思わせるものであり、外殻は異様に黒く奇怪な模様が浮かんでおり、

 

顔は上半分はキリギリスを思わせる顔立ちと下半分は人のそれであった。

 

『アハハハハハハハ!!!!さやかぁ!!!魔法少女を希望を願うんだよねぇ!!!その希望の果てがこの姿なんだよ!!!!!』

 

自らを鼓舞するように嗤うホラー ミューゼフの影に苦悩する上条恭介の姿があった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハ!!!やるじゃないか!!!!さやか!!!ついこの間、契約したばかりとは思えないよ!!!』

 

四本の腕を巧みに動かし、さやかに攻撃を加えるが、さやかは周囲にサーベルを展開させ、それらを回転させ自身を守らせる結界のように動かすことで攻撃を防ぎ、サーベルを横一線にしてミューゼフを斬りつけるが、

 

「魔女なら、致命傷なのに……これがホラー」

 

まだ成りたての魔法少女であるが、それなりにやりあえているのだが、如何せんダメージを与えられていないのだ。

 

ソウルジェムは魔法を使えば使う程、濁ってしまう為、長引いてしまうと不利になってしまう。

 

正直、最後の手段として”魔女”になってしまうというのも手ではあるが、それでは自分自身の責任を放棄したも同然である。

 

姐さんと慕う杏子とその伯父が戦う脅威である”ホラー”は魔戒騎士が扱う”ソウルメタル”、もしくは”力の強い魔戒法師”ならばホラーを封印、対処できるのだが、魔法少女である自分は、一般のそれをはるかに超える力を有しているが、ホラー退治に必要な”力”を有していない為、圧倒的に不利であった。

 

さらに、ホラーの邪気は周囲に影響を催す為、ソウルジェムの濁りが”魔女”の時よりも早い。

 

「さやかっ!!!」

 

上条恭介の父を非難させて自分の元にソラが着ていた。彼女の両手には”薙刀”が握られている。

 

「ソラっ!!」

 

さやかの隣りに立ち、ソラもまた刃をホラー ミューゼフに構える。

 

「さやか、ここは一旦引きましょう。ソウルジェムの濁りもそうですが、グリーフシードが足りません」

 

グリーフシードをさやかのソウルジェムに近づけ、穢れを浄化させる。手元にあるソウルジェムはあと三つを切っていた。魔女相手なら、一つ使えば、ほとんどは倒せるのだがホラー相手には決定打がない為、いくら用意したとしても倒すことはできない。

 

「そうだよね。元々、恭介の手を治す為に外へ出たのに・・・・・・こんな事になるのは予想外だったわ」

 

ここへ来る時、ソウルジェムが魔女の気配を感知する以上に揺らぎを感じ、確かめてみたら、恭介がホラーと化し、さらには自身の父親に手を掛けようとしていた為、そのまま感情の赴くままに飛び込んだのだった。

 

「・・・・・・で、ソラ。アタシ達って魔戒騎士や法師と違って、ホラーを倒す術がないじゃん。こういう場合ってなんとかならないの?」

 

もしかしたら、ソラなら何か知っているのではと一応は聞いてみるが・・・・・・

 

「はい・・・・・・なくはないんですが・・・・・・ホラーを封印するソウルメタルは”ホラーの爪”を素材にしており、対ホラーにおいて絶大な効果を発揮しますが、それと同等な”モノ”も存在しています」

 

「なにそれ!?!そういう奴って、滅茶苦茶”呪われたアイテム”だよね!!絶対に!!」

 

魔法少女になるという最悪な契約を行ってしまったが、さらに危ないモノが物入りになることにさやかは思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「ハッキリ言えば、それです・・・・・・かつては蓬莱 暁美様も切り札として持っていたんですが・・・今はある場所に預け、保管をお願いしています」

 

その間にミューゼフは、昆虫の鈴虫のような羽を展開させて強烈な衝撃波を放ってきた。

 

その衝撃波によりスタジオが爆破し、窓ガラスが割れる。ソラは壁に叩きつけられ、さやかとミューゼフはそのまま外へと飛び出してしまったのだった・・・・・・

 

「ソラに預け場所を聞き損ねたって・・・・・・アタシもかなりまずい状況だよね」

 

ミューゼフの衝撃波により、魔法で作り上げたサーベルに皹が入っており、そのまま砕けてしまったのだ。

 

足元が心もとなく、無重力感を感じながらさやかは、抵抗と言わんばかりに苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 病院を飛び出した仁美は、ミュージックスクール virtueの近くに来ていた。

 

上条恭介を病院の外で見かけ、院内に居なかったため外に出たのではと考え、彼が行きそうな場所であるミュージックスクールまで来ていたのだった。

 

「もしかしたら、ここに上条さんが・・・・・・」

 

居たのなら、慰めてあげたい、そして自分の想いを告げよう。

 

自身の想いに従って、仁美はその場所を目指すのだった。

 

仁美の後姿をミュージックスクールに現れたホラーの気配を嗅ぎつけた魔戒騎士とその姪が見ていた。

 

「あれって?志築じゃねえか、なんでこんな夜中に?」

 

杏子は夕方に病院に運ばれた仁美を見て、まさか病院を抜け出したとは思わなかった。

 

「あぁ、まさかもう一体、ホラーが現れていたとは・・・・・・」

 

バドはつい先ほど届いた指令の封筒を魔道火を使って開放する。

 

 

 

 

 

 

 

 

”ある少年に憑依し、ホラーの楽士 ミューゼフが出現した。出現したミューゼフは、自身の音楽仲間であるホラーを召喚するため、動くであろう。直ちに殲滅せよ”

 

 

 

 

 

 

 

「よりによってミューゼフか・・・・・・」

 

「どんな奴なんだ?そのミューゼフって奴は・・・」

 

「キョウコ、ミューゼフは出現したら必ず仲間をコールする。ミューゼフは、もう一体のホラー フェイスレスよりも性質ではデンジャーだ」

 

魔道具 ナダサの説明に杏子は”うぇっ”と声を上げる。

 

「そういうことだ。しかもあのお嬢ちゃんの向かっている先にミューゼフが居る。誰かと戦っているようだな」

 

バドは現状を探るべく”遠見の術”を使う。そこには、ホラー ミューゼフと対峙し戦うさやかの姿があった。

 

「無茶だ、さやかちゃん!!!魔戒騎士以外がホラーと戦うとは、何を考えているんだ!!!」

 

「あんの馬鹿!!!自棄になってホラーに喧嘩を売ったのかよ!!!」

 

伯父の言葉に杏子は、飛び出したっきり何処に行ったのかと心配したのにと憤った。

 

二人は急いでさやかの元へ向かうのだが、突如、ビルが爆破し周辺にガラスの割れる音が響き渡る。

 

上空に二つの影が飛びだした。魔法少女であるさやかとホラー ミューゼフの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に放り出されたさやかは、足場を作る為足元にサーベル複数、水平に展開させてその上に着地をし、駆け出す。

彼女の動きに合わせてサーベルも前に進んでいく。

 

「秘儀!!刀渡り!!なんてねっ!!」

 

幼い頃に姉に連れられて見に行ったサーカスで綱渡りのように剣の上に乗る芸人を見たことがあるが、無意識であるがその光景が脳裏に浮かび、それを彼女なりにアレンジして展開していた。

 

『へぇっ~。魔法少女って器用なんだね』

 

真上からミューゼフが下りてきたのだ。さやかは、目を見開き

 

「ちょ、ちょっとっ!!?こっちこないで!!!定員オーバーだから!!!」

 

自身の展開している足場は彼女だけが使えるものであり、魔力の量もギリギリの為、足場に乗られたらそのまま地上に落下である。

 

さやかの懇願も空しく、ミューゼフがサーベルで作られた足場に着地したと同時に邪気に充てられたのか、崩壊し、さやかは再び無重力感を感じた。

 

「こ・・・これ、アタシ死んだかも・・・・・・」

 

魔法少女の本体はソウルジェムの為、ある意味肉体は死んでいるのだが、損傷が激しければ、活動は困難になるうであろう。

 

ミューゼフは羽を広げ、そのまま飛行しながらさやかへと迫る。飛行できない自分では突進してくるホラーに対し避けるなどの対処ができない。

 

「・・・死んだかもって・・・言ってみたかっただけなんだけど・・・やばいなぁ・・・」

 

黙っているよりも自身を落ち着かせたいのか、無駄口ばかりでてくる。

 

「少しは俺を頼ってくれ。一応は大人という立場なんだがな」

 

耳元に苦言を零しながらも、頼もしい声がさやかの耳に入った。

 

『うんっ?!この気配っ!?!しまったッ!?!』

 

ミューゼフはこの場に参戦した存在は自身の天敵であることを感じていた。

 

その不安を肯定するかのように強烈な突風が前方より吹き、姿勢を崩してしまう。逆にさやかの周りには、空気中の水分が彼女を庇うように集まり始めていたのだ。それは大きな円を描き、衝撃を和らげるクッションを形どった。

 

水でできたクッションがそのまま彼女を地上への落下から守る。

 

その光景に目を見張るミューゼフだったが、背中に強烈な衝撃と熱が走り、勢いよく地上へと落とされてしまった。

 

『があぁああっ!?!ま、まさか・・・法師と魔戒騎士が・・・気配は・・・・・・』

 

ミューゼフが落下した近くに彼女 志築仁美は佇んでいた。驚いたようにミューゼフの声は、エフェクトこそは掛かっているが、彼女が想いを寄せる少年のそれであった。

 

「そ、その声は、上条恭介さんですの?そうなんですね」

 

姿こそは変わっていても自分には分かる。どんなに姿を変えようとも自分は彼に好意を抱いているのだから・・・

 

志築仁美は直ぐに駆け寄ろうとしたが、その行く手を一人に男が阻む。

 

「それ以上、踏み込んではいけない。奴は君やさやかちゃんが好いた少年ではないんだ」

 

”さやか”の名前を聞き、不快感を露わにして志築仁美は男をにらみつけた。

 

『・・・なに?魔戒騎士が術を使ったとでも・・・』

 

魔戒騎士は、魔戒法師よりもより戦闘に特化した存在であり、先ほどの風、水、雷等の複数の術を扱うのは魔戒法師である。自身の前に現れた男は、魔戒騎士でありながら術を使えるのだ。

 

「あぁ、俺はこっちも得意なんでね、魔戒騎士の戦闘スタイルで行かせてもらおうか」

 

両手に二振りの風雲剣を構え、一気に駆け出した。

 

その光景に志築仁美は青ざめていた。まさか、上条恭介に危害を加える存在が居たことに・・・・・・

 

「こ、こんなの間違っていますわ!!!わたくしが上条さんを!!!」

 

居てもたっても居られずに駆け出すが、彼女は不思議な力によって動けなくなってしまった。

 

「ちょっと、待ちな。アイツはもうクラスメイトでもあんたの好きなヴァイオリン坊やなんかじゃない」

 

「さ、佐倉さん・・・・・・貴女なんかに何がわかるんですか?何も知らない癖に・・・」

 

睨みつける志筑仁美に対し、杏子は魔戒騎士や法師は職業柄恨まれることが多いことを改めて思い知りながら

 

「アンタは何にも分かっちゃいない。魔法少女のことも・・・ホラーの事もな」

 

「そ、そんなこと貴女の押しつけでしょう。わたくしの気持ちがどんなに・・・・・・」

 

「だから願いが叶えられないから、悔しくてたまらないっての?仁美」

 

杏子の隣りにはさやかが立っていた。

 

「美樹さやか・・・・・・貴方のせいで・・・上条さんは・・・・・・」

 

睨みつけてくる仁美に対し、さやかは特に何も言わなかった。

 

「さやかぁ、ほんとうにいいのか?・・・アイツの事、好きだったんだろ」

 

それこそ、命を捧げて願いを叶えたのだ。その彼が伯父により殲滅されることが分かっているのだろうか。

 

「・・・・・・アタシが好きだった恭介はもう居ないよ。いや、アタシが奇跡を恭介に押し付けたんだ」

 

自嘲するようにさやかは笑う。全ては自分の傲慢だった・・・魔法と言う”奇跡”に魅入られ、彼自身を信じられなかった自分の浅はかさが招いたのだ・・・・・・

 

その浅はかな自分を罰するように彼に齎された奇跡は取り上げられ、再び絶望へと身を落とした・・・

 

絶望の果てに彼は、”陰我”を受け入れるに至った・・・・・・

 

彼もまた”奇跡”に魅入られ、自身の身を”魔獣”へと変えてしまった・・・・・・

 

(アタシ達って・・・なんだか似てるよね。恭介・・・希望を見出したのに、絶望して”呪い”を振りまくなんて・・・・・・)

 

今の上条恭介はある意味自身の”辿った可能性”の一つかもしれない。

 

あの姿の恭介を見たとき、正直に言えば目を逸らしたかった。だが、逸らしてはいけないと感じた。

 

アレが自分の行いなのだと・・・自分の責任を果たさなければならないと・・・・・・

 

だが、自分にはホラーを倒すことは叶わない。だからこそ、見届けなければならないのだ・・・・・・

 

「そ、そんなことって・・・」

 

仁美は、納得ができなかった・・・・・・このまま上条恭介が訳の分からない存在に殺されてしまうことに

 

 

 

 

 

 

 

ホラー ミューゼフと風雲騎士 バドとの戦いは終始、バドが優勢であった。

 

四本の腕と衝撃波を操るミューゼフは上級ホラーにカテゴライズされるが、風雲騎士 バドはこれを術と剣術を駆使して切り抜けていた。

 

「さてと・・・・・・このまま決着をつけさせてもあろうか」

 

風雲剣で円を描き バドは鎧を召喚する。銀色の荒々しい狼を模した魔戒騎士としての姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔戒騎士となったバドと追いつめられるミューゼフの姿を第三者が見ていた。

 

「まさかこんな事になっているとは・・・美樹さやかがこんなことになるなんてね。あれじゃ、絶望を中々しそうにないね」

 

それは、キュウベえであった。だが、魔法少女の前に現れ、契約を行う個体と違っていた。

 

しいて言えば妙に感情がこもった声色なのだ口調が、そうこの個体は”カヲル”と名乗っている存在なのだ。

 

「せっかくだから、これを”使ってみようかな”。君たちも注目しているんだよね・・・ケイル、ベル、ローズ」

 

彼が持っていたのは、ある”魔女”のグリーフシードであった。

 

彼はそのままグリーフシードをホラーと魔戒騎士が戦う戦場へと放り込んだのだった。

 

グリーフシードは、そのまま”ホラーの邪気”を取り込む事により”孵化”をする。

 

”呪い”は”陰我”を取り込み、強大な魔力の黒い奔流となって周囲を巻き込んでいく。

 

「お、おい!!!なんで、魔女が出てくるんだよ!!!」

 

突然の事態に杏子はホラーと時間差で現れた魔女に対して叫ぶ。

 

「ま、前にもこんなことがあったよ。たしか、ほむらが一度やられた時・・・」

 

あの病院での”お菓子の魔女”との戦いの際に倒した魔女とは別個体の”お菓子の魔女”が現れ、奇襲を掛けてきたのだ。

 

これはあの時の状況とよく似ていたのだ。

 

孵化したその魔女の名は”人魚の魔女 オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ"

 

『こ、これは一体?君は、僕を好いているようだね。何故かはわからないけど・・・』

 

”人魚の魔女”は自らが生み出した結界に作り上げたステージにホラー ミューゼフを招く。

 

「な、なに?あの魔女・・・使い魔が・・・まるで・・・」

 

周りにいる使い魔の姿は”志筑仁美”に酷似していたのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東の番犬所

 

泉に見える光景に三人の白い少女が興味深そうに視線を落としていた。

 

「これは随分と面白いことになりましたね」

 

「あの娘が別の世界で魔女になっていて、その魔女をこちらに呼び出す」

 

「これはこれで面白いものが見えそうですね」

 

三人の少女は互いに微笑みあっていた。

 

「バラゴ様もつれませんね。こんなにも面白い事をお一人で楽しまれるなんて」

 

「そうですね。暫くは留守にしているようですから、楽しみましょう」

 

「あのグリーフシードがここに流れてきた時はどうしたものかと悩みましたが、モノは使いようですね」

 

三人の少女達 東の番犬所は暗黒騎士 呀と繋がっており、今回は彼が留守の間に拠点である見滝原で遊ぶことにしたのだ・・・・・・

 

彼女達の遊戯の駒は”魔戒騎士”、”魔法少女”、”ホラー”、”魔女”であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

今回、上条君編でしたが、普通に書いていたら普通に上条君をバド伯父さんが殲滅するというあっさりとした展開になってしまったので、せっかく原作キャラ上条君の凶化なので何とかできないものかと考えていたら、見滝原に居るイキッたキュウベえことカヲルとバラゴがアスナロ市に行って見滝原を留守にしている為、その間に見滝原で遊んじゃおうと燥ぐ性悪三神官に出張ってもらいました。

さらにはサプライズとして”人魚の魔女”にも出てもらいました。さやかが生存すると当然のことながら出てくることはないのですが、”ここは三神官の仕業”で出てもらうことにしました。

さやかの所は書いていて楽しかったです。さやかが少し強すぎる印象がありますが、そこは幼少の頃に居た”姉”の影響と教育ということでお願いします(汗)

もう一体のホラー事 あの人は後回しにされました(笑)





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第弐拾六話「上条 恭介 中編 弐」

バド伯父さんが書いていて強すぎると思ったり(笑)

風雲騎士 バドですが、バラゴとほぼ互角と言うか若干ながら押していた描写がありましたので、かなり強い部類の騎士だったのではと今更ながら思ったり。

初期の鋼牙、零よりは強いんだろうなと思います。

設定だと 風 水 雷 瞬間移動 幻覚技等を使うので魔法少女の味方サイドとしてはかなり相性が良いと思います。




「さやかっ!!」

 

ソラは背中の痛みを感じつつ、ビルから飛ばされてしまったさやかを追うべく、駆け出した。

 

眼下では、さやかの直ぐ近くに赤毛の黒いコートを着た二振りの剣を握った男が立っていたのだ。

 

さやかは、魔法とは違う”力”によって守られており、彼女は水で作られたクッションの上に居た。

 

「良かった・・・あの男は”魔戒騎士”・・・・・・情報にはない顔ですね・・・」

 

魔戒騎士の介入には驚いたが、さやかを助けてくれたことにソラは感謝していた。

 

だが、戦いのさなかに異変が起こった。何者かが、ホラーとの戦いの最中に”魔女”を出現させたのだ。

 

”意図的に”・・・

 

「この魔女の気配・・・・・・どういうことですか?何故?さやかの魂と酷似しているのですか」

 

”人魚の魔女 オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ”の放つ気配は、さやかの魂 ソウルジェムの気配そのものであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 突如として現れた”人魚の魔女”は風雲騎士 バドに対し敵意を向け、志築仁美に酷似した使い魔たちを差し向けてきた。これ以上にない数であったが、

 

「飛び入りながら、即興でやってくれるな」

 

孵化したばかりでありながら大量の使い魔を呼び寄せる事を察するに魔女がそれなりに力が強かったのか、はたまた、ホラーの邪気により影響で強化されているのかは定かではない。

 

少女の姿をした使い魔に刃を向けることに罪悪感を感じないわけではないが、か弱い女性を装って人間を襲うホラーも存在する為、ここは仕事として割り切ることにした。

 

風雲剣に雷を纏わせ、上下に構え、刃の切っ先でS字を描くと同時に眩い光と共に雷が龍の姿へと変わっていく。

 

振り下ろされた風雲剣に後押しされるように雷の龍は咆哮を上げて使い魔達を一気に雷の威力を持って一掃し、さらにその先に居るホラー ミューゼフと人魚の魔女が居るステージに降り注いだ。

 

ステージに衝撃が走り、使い魔達が結果内に飛散する。威力により使い魔は瘴気と共に消滅していく。

 

バドは鎧独特の金属音を立てながら、ステージで態勢を崩している二体に向かっていく。

 

「オオオオオオオオオッ!!!」

 

『クソッ、こ、こんなところで・・・』

 

自分を狩りに来た魔戒騎士が予想以上に強敵であることにミューゼフは悪態をつくが

 

『嗚呼あああああああああッ!!!』

 

ミューゼフを護るかのように”人魚の魔女”が立ちふさがり、手に持った剣をバドに向けて振り下ろす。

 

風雲剣で防ぐと同時にしなやかな動きで態勢を変えて、反撃を行う。

 

ミューゼフも”人魚の魔女”に加勢する形で衝撃波をバドに向けて放つが、ギリギリのところで回避される。

 

『・・・・・・・・・』

 

『君は、何故僕を助けてくれるんだい?喋れないのか・・・でも、このままだと』

 

目の前の白銀の狼の騎士は恐ろしく強い。二人ではおそらく勝てないとミューゼフは考える。

 

ミューゼフの昆虫に似た目は複眼のように機能しており、その複眼の内の一つが”彼女”の姿を捉えたのだった。

 

『そうか・・・・・・君は確か僕を助けようとしたんだったね。だったら、役立ってもらおう』

 

志築仁美に使い魔をけしかける。杏子、さやかも動くが行く手を阻まれてしまう。

 

「あんの野郎!!!ホラーにすっかり染まりやがって!!!!」

 

「ホラーは取り憑くんだっけ?ほんとにいい加減にしなさいよっ!!!恭介!!!!」

 

二人は志築仁美を助けるべく動くが、使い魔達がいつの間にか多数集まっていた為、中々近づくことができなかった。

 

仁美に集まる”使い魔”達は、何故か彼女に対して強い敵愾心を持っており、一部の使い魔達の気配は鬼気迫るものであった。

 

バドは急いで仁美を助けるべく、ミューゼフと人魚の魔女より離れる。だが、助けるためには、いったん鎧を解除しなければならなかった。

 

鎧のまま彼女に触れることができない為である。術を使えばその余波で傷つけてしまうこともあり得る為、直接助けなければならなかった。

 

通常に解除するのではなく、意図的に使い魔達に当てるように鎧を飛ばした。

 

金属音と共に使い魔に当たった幾つもの部位ごとに分かれた鎧に弾かれるようにして使い魔が吹き飛ぶ。

 

バドは仁美を抱えると、自身の得意とする”瞬間移動”を駆使し、杏子、さやかの元に行く。

 

「伯父さん!!!」

 

「伯父様!!!!」

 

「二人とも無事だな。この娘をお願いできるかな」

 

抱えられた仁美は、バドが再び”上条恭介”に危害を加えると察し

 

「させませんわ!!!これ以上、上条さんを傷つけたりはさせませんわ!!!!」

 

仁美はバドの腕を抑え込むようにしがみ付く。

 

「っ!!こいつ・・・」

 

「仁美っ!!!アレはアタシ達の知っている恭介じゃないんだよ!!!」

 

杏子とさやかが”現実”の見えていない仁美に声を上げるが、

 

「それでも!!!あの方は生きていますわ!!!わたくしがお守りして!!!」

 

「君も辛いが、ホラーに取り憑かれるのももっと辛いんだ」

 

バドは若干の罪悪感を感じつつ仁美を強引に振りほどき、再び鎧を召喚すべく駆け出すが・・・・・・

 

魔女の結界が突如閉じ、そのまま結界と共に”ホラー ミューゼフ”は”人魚の魔女”と共に姿を眩ませた。

 

「・・・・・・逃げられたか・・・・・・」

 

風雲騎士の称号を持つ者として若干屈辱を感じるが、姪とその友達が無事ならばそれでもかまわないと思うことで自身の感情の高まりを抑えるのだった。

 

気まずそうにしている杏子とさやか、対して仁美はこれ以上にない怒りの目をバドに向けていた。

 

「みんな、怪我はないか?」

 

振り向きざまにバドは”気にするな”と二人の魔法少女に笑いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

「怪我ですって!!!上条さんをあんな風に痛めつけておいてよくもそんなっ!!」

 

「仁美っ!!」

 

「てんめぇ!!さっきから、やりたい放題しやがって!!!伯父さんの仕事を邪魔しただけじゃ飽き足らないってのかよッ!!!」

 

バドに詰め寄ろうとする仁美に対して、杏子は彼女に近づき、そのまま胸ぐらを掴む。

 

「アレが仕事?人を不幸にする殺し屋じゃないですか?上条さんの音楽はみんなを幸せにします」

 

自分は何も間違ってはいないと言わんばかりの仁美に対して、杏子は思わず手が出そうになった。

 

「杏子ちゃん。放してあげなさい」

 

「でも・・・伯父さん・・・分かったよ。魔戒法師も一般の人に手を出しちゃいけないんだよな」

 

伯父の言わんとしていることに渋々と了承し、杏子は手を離した。

 

「仁美・・・アタシも納得は難しいけど、伯父さまは仁美の命を助けたんだよ。あの恭介は、仁美を自分の為だけに利用してた。仁美のことはもう何とも思っていないんだよ・・・アタシの事もだけど・・・・・・」

 

さやかも自身の心情を仁美に明かした。事実、もしかしたらホラーに取り憑かれた恭介が呼びかけに応えてくれるかもしれないと何度も彼の名を呼んだが、結局、彼の声でホラーが応えただけに過ぎなかった。

 

自身が逃亡するために人質をとるようなやり方で仁美を利用したことから、彼女らの知る”上条恭介”は死んだのだろう。

 

幼馴染をあのように追い詰めてしまった原因は自分にあるのだろう。さやかは、震える声で語った。

 

「だから仁美・・・・・・恭介のことは・・・・・・」

 

「それは、美樹さやか。貴女だったから、このような結末になってのではないですか?奇跡を叶えることができてもそれを生かすことのできない貴女だからです」

 

「お、おいっ、何言ってるんだ?」

 

突然の仁美の嘲りに対し、杏子は声を上げ、さやかは呆然とする。

 

「だって、そうじゃないですか。佐倉杏子も美樹さやかもみな、奇跡を叶えてもその奇跡は結局は、無駄にしてします。わたくしでしたら、こんな結末はあり得ませんし、奇跡だってもっと有効に叶えられます」

 

仁美の表情は光悦としていたが、はっきり言って正気ではなかった。畳みかけるように声をさらに上げるが

 

「それは、結果論だ。後になってこうすればよかったなんて、いくらでも言える」

 

「わたくしは、魔法少女の奇跡について話しているんです。あなたには・・・関係」

 

「世の中はハッキリってどうしようもないくらいロクでもない場所だ。だけど、一途に何かを行いたいと願う気持ちに間違いはない。裏切られることなんてしょっちゅうだ。だが、それはみんなが通らなければならない道だ。その道を避けてはならない。理不尽を味わい、悔しい思いをして、みんな前に進む。杏子ちゃんもさやかちゃんもそうやって、前に進もうとしている。そんな二人を悪く言う権利は誰にもない」

 

「そ、それは、説教ですか?大人だからですか?あなたが・・・・・・」

 

バドの話に対して、仁美は反論するが、

 

「俺は誇れるほど立派な大人じゃない。色々やらかしているし、怨みもそれなりに買っている。だから、俺みたいにはなってほしくはないのさ。杏子ちゃんもさやかちゃんも・・・そして、君もな」

 

その話を受け止めるかは各々によるところであるが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けて、さやかと杏子は学校に登校していた。

 

あれから直ぐにソラと合流し軽く紹介をしてから、周囲を探索したが、ホラー ミューゼフ、人魚の魔女は完全に行方は分からずであった。

 

仁美がやはり騒ぎ立てたが、病院から抜け出したことが病院側で発覚し、そのまま両親に腕を掴まれて家に連れ戻されてしまった。

 

ホラーが動くのは夜の為、昼間はおそらく動かないことと、”人魚の魔女”が結界を張り逃げてしまった為、その捜索を伯父が行っているのだが、今回の件には何者かの横やりがあった為、”番犬所”に足を運んでいる。

 

「番犬所に確認か~。あんまり、いい感じじゃないんだよな」

 

「えっ?番犬所って、伯父様達の上司でしょ?」

 

「そうなんだけどさ。言っちゃ悪いけど、神官の連中は結構冷たいというか、堅いのが多くて結構苦労しているって」

 

正直に言えば、伯父も仕事以外にはあまり関わり合いたくもないと言っていた。

 

「それでも、キュウベえよかマシだと思うよ、アタシは」

 

「それは言えてるな」

 

二人は軽く笑いながら校門をくぐるのだった。

 

「そういえば、さやかンとこの妹はどうしてるんだ?」

 

昨夜、さやかから紹介されたさやかによく似た少女に対して、杏子はしっかり者の妹のような印象を抱いていた。

 

「ソラなら、お留守番なんだけど・・・あの子、抜け出してないかな~~」

 

「ハハッ、いっちょまえにお姉ちゃん面かよ」

 

「抜け出して変な男に絡まれたら嫌だな~~特にキュウベえとか・・・」

 

「人の話聞けよ。さやかぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

西の番犬所

 

「さっそくですが、見滝原での昨日の件は何者かが暗躍しています。暗黒騎士以外の何者かが」

 

異空間に存在する番犬所はそれぞれの地域を管轄しており、ここはバドが所属する西の番犬所である。

 

「はい。暗黒騎士は使徒ホラーに惹かれて見滝原を離れています。今回、暗躍したのはインキュベーターに間違いないでしょう」

 

神官よりまさかの”インキュベーター”の名前が出たことにバドは少しだけ驚いた。

 

「あれはホラーとは違う別の外の世界からやってきた存在。しかし、所業はホラーと何ら変わりのない”陰我”を振りまく存在です」

 

「そこは私も同意します。しかし、ここまでインキュベーターが魔戒騎士を敵視するようなことはあったでしょうか?まさかと思いますが、魔法少女を魔女にすることが目的を果たすために・・・・・・」

 

「それは私にもわかりません。ですが、インキュベーターにしては悪意を持ちすぎています。何者かがそのインキュベーターを唆し、今回の件を引き起こした可能性は十分に考えられます」

 

「連中の中に”悪意”を持った個体が存在し、そいつを誰かが”利用”、もしくは唆しているということですか?」

 

「おそらくその予想で合っているでしょう。その者はおそらくは暗黒騎士と関りがあり、今回は暗黒騎士が離れたことにより、見滝原に介入してきたのでしょう」

 

”介入してきた黒幕”が何者かまでは分からないが、少なくとも暗黒騎士が見滝原では、東の地のように暗躍を行わずに過ごしているという事実とアスナロ市に足を向けたことによる留守を狙ってのことだと・・・・・・

 

「何処の何者かは分かりませんが、空き巣紛いなことをやられた側にしてはたまりませんな」

 

大げさに両手を上げて、バドは返した。神官の前で取るような態度ではないのだが

 

「それは私も同じです。ですが、暗黒騎士が戻るまでにホラーを殲滅しなければなりません」

 

神官の言葉にバドは頷き、その場を後にするのだった。

 

(バラゴの件は今は、俺が動く必要はないだろう。今は、ホラー狩りに専念すべきか・・・バラゴと繋がっている存在・・・まさか”東の番犬所”・・・千体のホラーを狩るのならば、当然のことながら番犬所は抑えておきたい。しかし、これはまだ確証がない。東の番犬所の神官の評判はハッキリ言って最悪だ。だからと言って疑うのもな)

 

バドは、計画的にホラーを狩る上で必要なことを考えながら、自身の発想があまりにも突飛しすぎていることを感じながらも一応の探りだけは入れておかなければならないと考えるのだった・・・・・・

 

東の番犬所を疑う理由は、バラゴの活動の中心が東の番犬所の管轄内がほとんどなのだ。

 

番犬所が暗黒魔戒騎士を見逃すとは考えられないとは言い切れない。時折、番犬所の神官の中には珍しいからという理由で”危険故に封印、破棄された魔導具”を隠し持っているケースも少なからず存在する。

 

”番犬所の反乱”は罪が重い。上位組織である”元老院”より刺客が差し向けられる。

 

(一度、閑岱へ行き、邪美に探りを頼むか。そういえば、邪美は大河の息子 鋼牙と幼馴染だったな)

 

どうでも良いことを思いつつも、バドは”魔戒道”に入り、閑岱へと足を進めるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 中学

 

「アレ?今日もまどかの奴は居ないのか?」

 

「あぁ~。姐さん、まどかは今日、定期健診だよ。ずっと前に交通事故に遭っちゃって・・・・・・」

 

杏子は、いつもなら学校で合う鹿目まどかが居ないことに声を上げるが、さやかがその疑問に応えた。

 

「あいつ、事故に遭ったのか?随分と難儀してんだな・・・」

 

「そうなんですよ・・・あの時は恭介も一緒で・・・・・・」

 

さやかの脳裏に数か月前に起こった痛ましい事故が浮かんでいた。

 

突然の車両が歩行者通路に乗り込み、数人の通行人と学生を巻き添えにしたのだった。

 

あの時に恭介は左手が動かなくなる重傷を負った。そしてまどかは・・・・・・

 

「まどかは・・・特に酷くて・・・・・・もう目覚めることはないんだって・・・・・・」

 

当時のあの光景は今でも恐ろしいものだった。親しい友人が痛ましい姿で横たわる姿はとてもではないが見ていられなかった・・・・・・

 

「おい、まどかは今・・・」

 

「それがですね。一か月後に目覚めたんですよ、奇跡だってみんな、燥いじゃって」

 

「なんだ・・・そうだったのか。アイツも運が良い・・・・・・って、待てよ」

 

杏子の脳裏に、今は見滝原を離れている”暁美ほむら”の姿が浮かんだ。

 

まどかが明かしてくれた自身には”これから起こる未来”の知識があることとほむらが”時間遡行者”であることを思いだしたのだ。

 

(二度と目覚めない奴がたった一か月で目覚めた?奇跡って・・・それこそ、何処かの誰かがまどかの為に祈ったのか?まさか、ほむらじゃないだろうな・・・ほむらが、この”時間軸”にやって来たから”まどか”が目覚めた)

 

「ど、どうしたんですか?姐さん、急に深刻な顔をして」

 

「あぁ、何でもねえよ。ただ、ホラーと魔女がちょっと気になってな。そろそろ人手が欲しいなって・・・ほむらが早く切り上げて戻ってきてくれたら、楽なんだろうなって思ったんだ」

 

「そういえば、三年生もだけど、ほむらの姿を最近見ないけど何処に行ったの?」

 

「ほむらはな、アスナロ市の方に用事があるって行ってるぜ。多分、あと二日ぐらいで戻って来るんじゃないか」

 

「ほむらは、色々魔法少女については知っているみたいだし・・・来てくれると助かるんだけどね」

 

さやかも、あの夜にキュウベえから聞いた”魔法少女の秘密”について考えていた。ほとんども魔法少女が認めないというか信じない”秘密”を知っているほむらに対し、その助けを必要としていた。

 

「そうだな・・・アイツ、魔戒導師なんだぜ。知ってたか、さやか」

 

「えっ?魔戒導師って、法師と何か違うんですか?」

 

「それはな・・・ほんの少しだけ未来が見えるらしいんだ」

 

杏子もまた魔法少女であり”魔戒”の力を用いる彼女の事を気にしており、今現在、連絡が付かない巴マミとの合流を望んでいた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市のとある場所

 

白い空間に一人の少年と背の高い執事服の男が退治していた。

 

少年の名はカヲル、執事服の男は コダマである。

 

「君のお母さんのガルム・・・いや、今は、ケイル、ベル、ローズで良かったんだね」

 

カヲルはつい先ほど、渡された二つのグリーフシードを上機嫌に弄んでいた。

 

「君のお母さんの遊び好きには本当に参るよ。いやぁ~~~こんな、貴重なグリーフシードを僕に譲ってくれるなんてね」

 

鼻歌を歌うカヲルに対して、コダマは何も言わずにただ見つめているだけだった。

 

その二人を傍からキュウベえは・・・・・・

 

「やれやれ、今回の件はイレギュラーが出たかもしれないね。それにしても・・・美樹さやかに味方するあの少女は一体・・・・・・」

 

キュうべえは、さやかと共に現れた彼女によく似た”ソラ”を警戒していた。そして・・・

 

「ホラーはミューゼフだけじゃない。フェイスレスもまだ健在だ・・・あと少ししたら、暗黒騎士と暁美ほむらも見滝原に戻ってくる・・・・・・その間に何とか事態が収まってくれればいいんだけど・・・・・・」

 

自身には感情がないはずなのに、人間でいう”不安”を彼は覚えていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

東の番犬所

 

異空間の中で三人の白い少女が姦しく話していた。

 

「ほんとうに愉快なことになっていますね」

 

「えぇ・・・あのホラーに加勢したのは予想通りとして、魔法少女の奇跡を巡って”陰我”が生まれるかもしれません」

 

「もともと魔法少女は魔女の前身、呪いを生み出すところ。”陰我”は生まれていたのでは?」

 

「いえいえ、魔法少女ではなく、それに魅入られた”娘”がいるんですよ。ほら・・・」

 

ベルが泉を指さすとそこには、昼間であるのにカーテンを閉め虚ろな表情でベッドにうずくまる志築仁美の姿があった・・・・・・

 

 

 

 

「絶対にわたくしは・・・上条さんを・・・・・・その為には・・・・・・」

 

志築仁美の脳裏に未だに願いを叶えていない少女 鹿目まどかの姿があった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、まどかは定期通院で病院に父 知久と弟のタツヤも一緒に居た。

 

「まどかもだいぶ良くなったみたいだね。先生も通院もしばらくは大丈夫だって」

 

「わたし・・・一か月も寝たきりだったんだ。まだ実感が湧かないんだけど」

 

正直に言えば、まどかはあの”事故”の事を覚えていなかった。目覚めたら知らない天井が目の前に遭って、病室に居たときは、心底驚いてしまったのだ。まるで”彼女”のようだったから・・・・・・

 

「あの時はママもパパもみんな大変だったんだよ」

 

穏やかに笑って言えるのも、娘が回復してくれたからこそであった。もしも、今も意識不明だったら、こんな風には言えなかっただろう・・・・・・

 

「なんか、ごめんね。迷惑をかけちゃって・・・」

 

「良いんだよ。まどかがこうして元気になってくれたからね。今日は買い物してから帰ろうか」

 

「じゃあ、わたしも手伝うね」

 

タツヤも嬉しそうにまどかと知久の間に入り笑っていた。そんな三人の前にある人物が同じタイミングで病院の入り口の前に立った。

 

「あ、あなたは・・・」

 

知久はその人物を知っていた。そう彼は、あの大河と共に自分達を・・・生まれる前のまどかを助けてくれた。

 

「懐かしいな。大河が助けた子がまさか、まどかちゃんだったとは・・・」

 

「杏子ちゃんの伯父さん!!」

 

かつて鹿目まどかの母 詢子がホラーの血に染まりし者になったとき、自分達を助けてくれ、娘の名付け親になってくれた”大河”と共に戦ってくれたもう一人の魔戒騎士 風雲騎士 バド。

 

「あぁ、あの時も大河と違い名乗らなかったが、今も”ナナシ”と呼んでくれ、知久」

 

 

 

 

 

 




あとがき

ある意味、恭介 さやか、仁美による三位一体の連携にも見えなくもない状況(笑)

内訳 ホラー 魔女 人間。

仁美ちゃんが良からぬことを企んでいますが、うまくいくのやら・・・・・・

今回、色々とまどマギキャラとGAROキャラが本格的に交わり始めました。

まどかの両親は、大河と知り合いでさらには、バドとも知り合いでした。

ちなみにバドが病院に居たのは、病院に存在していた”陰我”のゲートを封印する為でした。既に邪美さんにはお願い済です。

ホラー ミューゼフが出たことと、某青年による行いにより、”陰我”のゲートが出ていた為です。

次回辺りは、アスナロ市におけるバラゴとほむらか、もしくは、鹿目家とバドが大河の思い出話をするお話のどちらかになります。

こうしてみると、バドが主人公になってるような気がしますが、この小説のタイトルは 暗黒騎士 呀です、ですのでバラゴが主人公なんですが・・・バラゴはバドと違って妙に暗いので話が重くなるかもと思います(笑)

なにげにほむらは、杏子、さやか、マミからの好感度は高かったりします。


杏子 同じ魔法少女で魔戒の力を使う境遇。さらには騎士と一緒に居る。

さやか 病院の件で助けてくれた事と魔法少女の真実を同じく知っている。

マミ さやかと同じく、病院の件で助けられ、一緒に戦ってくれると言ってくれた。

ちなみにまどかは、ほむらのことがすごく気になり、暁美一家とも知り合っていますので、早く見つけて家族に会ってほしいと願っています。



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第弐拾六話「上条 恭介 後編 壱」

 

今回の時間軸ではちょくちょく”ニルヴァーナ事件”というワードが出てきますが、この辺りで詳細を出します。

原作キャラもこの件には関わっており、別の拙作には当時の事を書いています。






 

早乙女 和子の朝は早い。彼女自身の職業である教師も関係しているが、朝が早いというよりも眠りが単純に浅いのである。過去に遭ったある”事件”により、大切な人を失い、というよりも奪われてしまった為、精神が若干不安定になっているのである。

 

寝室のベッドのサイドボードには、自身の恋人である”鈴原 トウヤ”と一緒に写った写真と彼の遺品である”渡されることが叶わなかった婚約指輪”が置かれていた。

 

ベッドから降りる際に必ず彼女は一度、”指輪”に手を通す。暫くしてから、それを外して身支度に入る。

 

スマートフォンには何時ものごとく実家より見合いの連絡が来ており、両親の顔を立てる為、お見合いをし、互いを理解するためにお付き合いをするのだが、自分がこのような感じというよりも”本来の自分”を曝け出してしまうことで相手が逃げてしまうということを続けている。

 

おかげで生徒達との話題には困らないので、可能な限りこれからも続けていくだろう・・・・・・

 

朝のニュースをチェックする為にテレビをつけると見滝原の隣の町である風見野にある施設が近日中に取り壊されることが報道されていた。

 

映し出された施設を見て和子は思わず目を見開いた。そう彼女にとって今も自身を苦しめる忌まわしき”事件”の象徴ともいえる”ニルヴァーナの本部施設”であったからだ・・・・・・

 

『今月末にニルヴァーナの本部施設は解体される予定です。住民からは早期の撤去を求められていましたが、市議会によりようやく決定されました。この施設に関連してニルヴァーナ関連の裁判では、幹部、関連者は現在逃亡中の一人を除いて進行しています・・・・・・』

 

流れてくる報道に和子は心臓の鼓動と精神が異様に高ぶるのを感じながら、常備していた精神安定剤に手を出しそれを服用する。本来ならば、朝の食事前に服用すればよいのだが、万が一に備えて強いストレスや精神的な高ぶりを感じたら服用するようにと渡されたものだった。

 

(・・・・・・あの事件からもう数年ね。事件は終わってはいないわ・・・だって、まだ私の中では・・・)

 

自分は直接この事件に関わったわけではないが、過去に”ニルヴァーナ”の危険性と重大な違法行為が行われていたことを突き止めようとしていた想い人である”鈴原 トウヤ”の死は明らかに他殺であるのに、今も”事故死”として扱われているのだから・・・・・・

 

”鈴原 トウヤ”の友人である”報道記者”も”ニルヴァーナ”が違法行為を行っていた背景には、”警察機関”に回し者が居て”事件”の証拠を揉み消しているのだと言っていた。

 

今も”鈴原 トウヤ”の件が”事故死”なのは、自身の罪が公になるのを恐れている存在が今も何処かで隠れているということなのだろう。友人の報道記者はその誰かを突き止めていたが、2年前に謎の”失踪”を遂げている。

 

想い人の事件の真実が明るみに出るまでは、彼女の中では”ニルヴァーナ事件”は過去の出来事ではなく、今もなお進行形のできごとである・・・・・・

 

和子は精神衛生上あまりよろしくはないが、”鈴原トウヤ”が残した記録と友人である”相原 ケンスケ”が残した情報に少しだけ目を通すことにした。

 

遺品として彼女が引き取ったもののそれらを目にする、手に取ったことはほとんどなかった。

 

”相原 ケンスケ”が残した情報には、過去に見滝原で起こった”暁美 ドウゲン氏 殺害事件”についてだった。”暁美”という名字が今更ながら気になったからだ。

 

そして”ドウゲン氏の孫娘が誘拐され、ニルヴァーナの本部施設で保護された”。

 

もしかしたら、彼女なら自身の恋人を奪った”犯人”を見ているのではと考えた。

 

年齢から察すると自身の生徒達と同じ年齢である。

 

保護された少女の名は ”暁美 ほむら”

 

そう、自身のクラスに佐倉杏子と共に転校してくる少女だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校

 

ホームルームを終え、クラス全体が和やかな雰囲気になり、授業の準備を行ったり、またグループ同士が集まって思い思いに過ごしていた。

 

杏子とさやかも直ぐに集まり、雑談などをしていたのだが、そこへクラス委員長である 中沢 ゆうきが近づいてきた。

 

「美樹さん・・・今日、鹿目さんはいつもの定期健診だけど、志築さんはどうしたの?今日の休みの理由が先生も分からないって言ってたけど」

 

普段、あまり話すこともないのだがクラス委員長の仕事は割とまめに行うため、クラス全体からの信用は高い。

 

「あぁ~~、仁美ね・・・ちょっと、訳アリみたいなんだ・・・・・・」

 

歯切れの悪い言葉を返すさやかに対し、中沢 ゆうきはこれは聞かない方が良いかもしれないと思い

 

「ここのところ色々あったからね。分からないなら、それで大丈夫だよ」

 

席に戻った中沢 ゆうきはクラス日誌に本日の欠席者を三名 書き込んだ。

 

 

 

 

 

 

鹿目まどか 定期健診の為 欠席

 

志築仁美  理由分からず。

 

上条恭介  理由分からず。

 

 

 

 

 

 

 

中沢ゆうきが上条恭介の事をさやかに聞かなかったのは、彼自身が聞くべきではないと判断したからだった。

 

今朝のニュースもそうだが、スマートフォンのニュースには彼の父親が経営する ミュージックスクールで謎の爆発事故があったからだった・・・・・・

 

そして、念の為、彼自身は入院していた上条恭介の事を病院に確認したら、昨晩より行方不明になっていたことが分かったからだった・・・・・・

 

この事実を知ったとき、中沢 ゆうきは何か”とんでもない事態”がやはり上条恭介自身に起こっているのではと考えるが、それは”関わってはいけない何か”なのは間違いないであろう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かのとある魔女の結界にて・・・・・・

 

 

どこあの水族館を思わせる迷宮とさらには、コンサートホールを思わせるステージに上条恭介こと、ホラーミューゼフは居た。観客席にはこの結界の主である”人魚の魔女”が座している。

 

この結界より”陰我”を発生させ、魔界に存在する自身の仲間を集めようと思案していた。

 

だが、ホラー ミューゼフはこの”人魚の魔女”が自分を慕う理由を把握しかねていたのだ。

 

言うまでもなく、無言で自身を助けてくれ、さらにはこの結界には憑依した”上条恭介”の望むモノ、嗜好に合ったものが多く存在するのだ。

 

正体こそは、気になるがこの”魔女”は”音楽”に理解を持っているので同好の士として迎え入れても構わないと考えていた。

 

一刻も早く仲間を魔界から呼び寄せてコンサートを開きたいと願っていた・・・・・・

 

時折、自身が憑依した上条恭介の”魂”が何やら嘆いているのだが、ホラーとしてはいつもの事なのだから気にするまでもなかった。

 

ホラー ミューゼフは”上条恭介の魂”が嘆く時、”人魚の魔女”が睨むような視線を向けることに気が付いていなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校 四限目 社会科

 

「皆さんもは、今朝のニュースを見ましたか。いよいよ風見野市に存在する カルト組織”ニルヴァーナ”の本部施設がいよいよ解体されることになりました」

 

電子掲示板へ自身の端末より画像をダウンロードさせる。そこには特徴的な三角形の105階建ての巨大建築物があった。画像の建物は、柵や有刺鉄線により完全に封鎖されていた。

 

その建物に杏子は見覚えがあった。幼い頃に自身の家族を不安にさせた”カルト組織”の総本山だったからだ。

 

(いつみても嫌な建物だ・・・・・・あそこだけは絶対に近づきたくないんだよな・・・・・・)

 

魔法少女となり伯父と再会するまで、宿無しの放浪暮らしこそはしていたが、あの建物だけには死んだとしても入りたくはなかった。

 

”ニルヴァーナ”が組織として活発に動いていた頃は、人嫌いを滅多にしない”杏子の父”ですら、立ち退きの運動に参加しており、”ニルヴァーナ”から脱走してきた人達を教会に保護していた。

 

あの時、逃げ込んできた人達のほとんどが生気のない顔をしており、”ニルヴァーナ”で何が起きたのかを話そうとしなかった。体中の至る所に薬物を注入したであろう傷やさらには手術をしたで思われる傷まであった。

 

保護して親元や家族の元へ帰れたら良かったのだが、逃げ出したほとんどの人間が何らかの拒絶反応を起こして死亡するという異常な事態を杏子は幼い頃に見てしまい、それから数日は死んだ人の顔が夢に出てくるなど悪夢にうなされてしまった。

 

この異常な事態に”杏子の父”も教会を避難場所にすることを拒否した。苦痛に満ちていたが、家族への悪影響を懸念した為であった・・・・・・

 

(思い出しただけでも嫌な事件だ・・・アタシもあの事件で死んだ奴を間近で見たんだよな・・・・・・アイツらが何をやったかって知りたくもない)

 

教師から回されたプリントには、当時の事件についての大まかな概要が記載されていた。

 

杏子が知りたくもないことを知らせようと教卓に立つ教師は声を上げて授業を始めた・・・・・・

 

クラスメイトは神妙な顔でプリントを見ており、二人ほど顔色を青くしていた人物が二人居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

一人は 美樹さやかであった。

 

(・・・・・・あの気持ちの悪い女の人だ・・・この人、昔、お父さんが熱心に信仰していたんだよね)

 

”ニルヴァーナ”組織のトップである 錨 ユラ。顔立ちこそは整っている年齢の割には、かなり若い外見をしているのだが妙に生理的な気持ち悪さを感じる目をしているのだ。

 

さやかも幼少の頃に”ニルヴァーナ”の施設に連れられたことがあり、このトップの女性に会ったことがあり、気持ち悪さだけを感じていた。彼女を神聖視していた当時の”父親”には心底呆れていたことを思い返していた。

 

父親のあまりの”ニルヴァーナ信仰”に耐えられなくなり、家を飛び出し、姉である蓬莱暁美と出会ったことは、彼女にとっては唯一の温かい記憶一つだった・・・・・・

 

気が付けばいつの間にか”ニルヴァーナ組織”は謎の崩壊を遂げており、あの父親が普通になっていたことは心底驚いてしまったことに姉は苦笑いを浮かべて家族の間を取り持ってくれた。

 

あの組織が何をしていたかまでは詳しくは知らないが、恐ろしい”何か”をしていたことだけは分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

プリントに記載されている”ニルヴァーナ事件”は、現代で”人体実験”を行っていた団体であり、”人類の進化”の名のもとに多くの犠牲者を出した戦後最悪の事件であったと・・・・・・

 

この事件は、様々な製薬企業もまた認定を受けていない薬物の実験を”ニルヴァーナ”と提携し行っていたことも連日報道され、現代の悪魔の飽食とも呼ばれ、関わっていた一部の政治家への追及もされていた。

 

この時、多くの”ニルヴァーナ”に関わった企業、政治家を断罪し特別法、被害者への救済を呼び掛けたのは

 

三国 光一議員が中心となっていた。後年、三国 光一議員は汚職議員として報道されることになるのは、当時の情勢には何も関係のない事であった。

 

また、この事件は不可解な点を幾つも残しているが、その中でも最大の謎が・・・・・・

 

実験に掛けられたのは何故か10代前半 第二次成長期の少女がほとんどであることだった・・・

 

そして、錨 ユラは日本の最高学府を卒業するほどの才女であったが、どういう訳か”魔法少女”の話題をたびたび話していたことだった。さらには、魔法少女関連のグッズやキャラクター等をコレクションしていたこともあってか、錨ユラの影響もあり”魔法少女”モノは非難の対象となり、数年間はメディアに上がることはなかった・・・

 

彼女は”魔法少女が存在している”と度々主張していた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・10代前半って、アタシ達ぐらいの年齢だよな・・・・・・)

 

教師は狂った人間の戯言であり、精神に異常のある人間の考えることは理解できないと熱弁を振るっていたが、杏子は”ニルヴァーナ”の 錨 ユラが人体実験を行っていたのは人工的に魔法少女を生み出そうとしていたのではと考えた・・・・・・

 

前例と言うよりも、魔法少女の素質がなく”願い”が叶えられないことに逆恨みしている志築仁美の姿と一瞬であるが被ったのだ・・・・・・

 

頭の出来は正直あまり良くないというのが杏子自身の評価であったが、伯父と共に”陰我”に関わるうちに”人の闇”を覗き見るうちにこのような考え方をするようになっていた・・・・・・

 

(まさか・・・この女も魔法少女の素質が無くて願いが叶えられなかったから・・・・・・)

 

幼い頃に自分の近くで起こったおぞましい事件に杏子は寒気を覚えた。やっていたことはホラーと同じ、いや、ホラー以下の”鬼畜の所業”だろう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

二人目は、ある男子生徒だった。彼は普段、お調子者で通っていた夢見がちな少々”痛い”年頃の少年でクラスで通っていたのだが・・・・・・。

 

授業が始まってから、顔色が徐々に青ざめていた。呼吸も若干、荒くなっており、彼の脳裏に数年前に”ニルヴァーナ”の施設で発見された姉の変わり果てた姿がフラッシュバックしていた。

 

 

 

 

 

 

 

”今日は、友達と一緒に遊んでくるからね”

 

”姉ちゃん、何処へ行ったの?母さん・・・・・・”

 

”分からないわ。お父さんも探しているんだけど・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いやだ・・・いやだ・・・・・・姉ちゃん・・・姉ちゃん・・・・・」

 

地元では可愛いと評判だった自慢の姉が・・・自分をとても可愛がってくれた姉ちゃんが・・・・・・

 

”姉ちゃんが見つかったんだ!!!姉ちゃん!!!!”

 

やっとのことで再開した姉は・・・・・・人の形をしていなかった・・・・・・

 

「あああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

突然、少年が狂ったように叫び出したのだ。頭を押さえ、必死に何かを抑え込むように・・・・・・

 

「おい!!!大丈夫か!!!!」

 

中沢 ゆうきが急い駆け寄るが、彼は電子黒板まで走り、そのまま映し出されていた”ニルヴァーナ関連”の画像に向かって拳を叩きつけ始めた。

 

「消えろ!!!消えろ!!!消えろ!!!消えろよオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

黒板を一心不乱に壊す彼に教師は、青ざめていたが、騒ぎを聞きつけた 早乙女和子が扉から入ってきた。

 

「保志君!!!どうしたんですか!!!まさか、貴方も・・・・・・」

 

生徒が突然暴れ出した原因は、生徒の机にあるプリントを見て早乙女 和子は直ぐに察した。

 

そうこの少年も自分と同じで”ニルヴァーナ事件”の被害者なのだ・・・・・・

 

おそらくは大切な家族を理不尽に奪われ、そのトラウマに今も苦しんでいるのだろう・・・・・・

 

「早乙女先生・・・一体、彼は・・・」

 

訳が分からないと訴える社会科の教師であったが、

 

「先生・・・こんど授業を行う際は注意してください。とくにニルヴァーナ事件は・・・あの事件でPTSDを患っている人はまだ見滝原に沢山いるんです」

 

一通り電子黒板を壊したことに落ち着いたのか、保志は肩で息をしていた。だが拳は血で染まっており、すぐにでも手当をしなければならなかった。

 

「保志君。私達の配慮が足りなくてごめんなさいね。保健室へ行きましょう・・・今日は鹿目さんはお休みだから・・・・・・」

 

「俺が行きます」

 

保健委員である 鹿目まどかが欠席の為、クラス委員長である 中沢 ゆうきが彼を保健室まで付き添うことにした。

 

「先生。今日は保志が落ち着いたら一緒に早退しても構いませんか?とてもじゃないけど、彼がこんな様子だと心配で・・・それにこいつ親は母親だけですから・・・・・・」

 

そのことはかつて中沢 ゆうきは保志自身から話を聞いていた。姉を探しに行った数日後に”変死体”として発見されたと・・・・・・その時の彼は、生気のない虚ろ表情をしていた・・・・・・

 

その後、授業ができるわけもなく、自習を各々過ごすことになった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

鹿目家

 

鹿目まどかは、自室で少し奇妙な気分に浸っていた。

 

(なんだか恥ずかしいな・・・わたしが生まれる前にそんなことがあったなんて・・・名づけ親の人と一緒にパパとママを助けてくれたのが杏子ちゃんの伯父さんだったなんて・・・)

 

いきなり頭を杏子の伯父であるバドこと”ナナシ”に撫でられた時はそういう年頃じゃないのにと思わなくもなかった。

 

とりあえずは予習をしておこうと思い、机に向かうのだった・・・・・・

 

今夜は一緒に食事にと父が誘っていたが、用事があるとのことで明日杏子と一緒に来るとのこと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、志築仁美は鹿目家の前に来ていた。自宅を隙を見て抜け出し、まどかを連れ出そうと考えていたのだ・・・・・・”上条恭介”を救うために・・・・・・

 

だが、自宅には忌まわしいあの男が居り、手が出せる状況ではなかった。

 

自分が”願い”を叶えれば、有意義なものになると信じている為、それを邪魔する存在が許せなかった・・・・・・

 

これ以上ここに居ると抜け出したことがばれてしまい、今後の動きがとりにくくなると判断し、忌々しそうに鹿目家を睨み、その場を後にするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

保志の手は血は出ていたものの多少の切り傷出会った為、学校医が処置を行い、そのまま中沢 ゆうきと一緒に早退することになり、現在は彼の自宅に居た。

 

「大丈夫か・・・一応スポーツドリンク買っといたから、これを飲んで」

 

「悪いな・・・ゆうき。みっともないところを見せて・・・・・・」

 

ばつが悪そうに保志は、中沢 ゆうきから冷えたスポーツドリンクを受け取り、そのまま勢いよく飲んだ。

 

普段はやたらお調子者で少し”痛い”年頃の少年なのに、そんな普段の彼と違って、年齢以上に落ち着いているように見えた。

 

「べつにみっともないのはいつものことじゃないか」

 

「おい、言ってくれるなよ。俺だってな・・・まぁ、チート転生には憧れるけど・・・さすがにそこまで上手くやれる自信はないんだよな・・・・・・」

 

意外であった。”神様からチート”を貰い、異世界で無双すると言っていたのだが、その彼がそれを否定したのだ。

 

「おいおい、この間”退屈な世界から抜け出して大冒険”って言ってたのは、何処の誰だったんだ?

 

「そういう意味じゃなくて・・・俺さ、巴先輩にあわよくばお近づきになれればッて思ったんだよ」

 

「なんだ・・・そんな理由かよ。お前も年相応の男の子をやっているんだな」

 

思い返せば最近の星の好みは”痛い系”の年上のお姉さんというものだった・・・

 

なるほど、あのやり取りを見てそういうモノと思っていたんだろうか・・・・・・

 

「俺だってさ・・・普通の人間だぜ。チートなんか貰って上手くやれるのは創作物だけだ・・・実際は上手く行かないことぐらい分かるよ・・・・・・」

 

「創作物だからこそっていうのは、分かるよな。実際に町全体にゾンビが大量発生して生き残れるかと言われれば、そんな風にできるかわからないし」

 

「そうなんだよな・・・・・・それもそうだけど、上条の奴、なんで休んだんだろうな・・・まさか、異世界に行ってたりしてないだろうな」

 

「おい、あまり不謹慎な事を言うなよ」

 

保志の言葉に今現在、行方不明になっている上条恭介についてそのようなことは本人が居ないところで言うべきではないと注意するが・・・

 

「だってさ・・・アイツ、動かなかった手が動くようになって、それでまた事件に巻き込まれて手が吹き飛んだって話じゃないか・・・・・・もう、何かに呪われてるか・・・アイツ自身がそんな目に遭っているってことじゃないかな・・・」

 

「だったらどうする?助けに行くのか?」

 

保志自身も上条恭介とはほとんど話したことのなかったが、やはり彼の不幸はどうしても気になってしまうのだ。

 

「いや、辞めておくよ・・・俺にはもう母さんしか家族は居ないし・・・魔法少女みたいなファンタジーな世界なんて誘われたって、行ってやるもんか」

 

保志は何だか自分が罪人になったかのような目で中沢 ゆうきを見た。

 

「俺はそれが正しいと思うよ。保志には傍に居てあげなくちゃいけない家族が居るんだろう。だったら、そっちを優先して考えるんなら、それで良いじゃないか」

 

中沢 ゆうきの言葉に気を軽くしたのか、保志は少し笑って

 

「サンキューな。せっかくだから夕飯ぐらい食べて行けよ・・・俺が奢るからさ・・・」

 

いつの間にやら、保志の手には宅配ピザのチラシがあった。

 

友人の気持ちが落ち着いたことに安心し、その彼から奢りと言われれば断る理由はないと思い、彼らは何を注文しようかとチラシのメニューについて夢中で議論をしていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

上条恭介は、見滝原のコンサートホール前に来ていた・・・・・・

 

いよいよ今晩、この地で”魔界”より、ホラーミューゼフの仲間を呼び出すのだ・・・・・・

 

”魔戒騎士”の存在が気がかりではあるが、こちらには音楽に理解を示してくれる”人魚の魔女”が居るのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

過去に見滝原市、風見野市で起こった”ニルヴァーナ事件”について出してみました。

日本の歴史上最悪極まりない事件として知られており、今なお被害者が悲しみに暮れており、助けられた生存者も実験の後遺症で苦しんでいます。

傍から見ていた中沢君も最近の出来事はちょっと不可解すぎやしないかと思っています。
とは言っても彼自身に何かができるわけではなく、トラウマに苦しんでいる友人の傍に居てやることが精一杯な状況です。

ちなみに保志くんですが、やはりいた何処かで見た人(笑)
上条君の事を心配するモノの自分達に何ができることと今の日常を放棄するほどの覚悟が持てないこともあり、非日常へ関わることはありません。

和子先生もまた当時の出来事に精神的に苦しんでいます。

今更ながら、恋人を殺害した人物を目撃していたであろう人物が転校生 暁美ほむら。

暁美ほむら。本人の居ないところで大変なことになってます(笑)

ほむらも被害に遭っていますが、当時の出来事があまりにもトラウマモノなのでその辺りの記憶が抜けています。

次回はいよいよ、上条恭介編の決着に入ります!!!



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第弐拾六話「上条 恭介 後編 終」

今回で上条恭介編は決着です。

さやかの”願い”と”奇跡”の結末です・・・・・・








”ねえ、お姉ちゃん。この楽器ってヴァイオリンだよね”

 

”そうね。クラシックではよく見かける楽器よ”

 

時折、TV等で見かけるヴァイオリンを興味深そうに幼いさやかは見ていた。

 

”うふふふふ。ヴァイオリンはお高いイメージがあるけど、意外とストリートで演奏したりする人も居るのよね。ステファン・グラッペリ辺りが有名かしら”

 

”えぇ?ヴァイオリンって、お金持ちの子がするもんじゃないの?”

 

”ほとんどがそういうイメージを持つ人が多いわね。ステファン・グラッペリはクラシック奏者じゃなくて、ジャズヴァイオリ二ストで中古のヴァイオリンを買って、路上や庭で演奏をしてて、89歳まで現役だったわね”

 

”えぇえええッ!!89歳っておじいちゃんじゃん!!!”

 

驚くさやかが微笑ましいのか、姉 蓬莱暁美は軽く笑いながら

 

”うふふふふ。そもそもヴァイオリンは放浪する人達が演奏することも多くて、その理由が持ち運びがしやすいということなのよ。本来なら、もっと身近で親しみやすい楽器なんだけどね・・・さっそくだけど、私が弾いてみましょうか?”

 

”おねえちゃん、ヴァイオリン持ってるの?”

 

”そうよ、この間、弓の張り替えと一緒にメンテナンスを頼んでおいたのよ。アレは私のお爺様の形見だからね”

 

二人は、楽器店に入りそのまま蓬莱暁美は預けていたヴァイオリンを受け取った後にさやかを連れて見滝原文化ホール前の公園へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市 見滝原文化ホール 公園

 

美樹さやかは、ソラと二人で見滝原文化ホールの施設の一つである公園に来ていた。

 

見滝原市における演奏会などのイベントで使用される施設であり、美樹さやかにとっては思い出深い場所であった。

 

「アタシと恭介が出会ったのは、ここだったんだよね・・・」

 

「そうだったんですか。さやかにとっては二人が初めて出会った場所と言うわけですね」

 

懐かしそうに公園に足を進めるさやかに対して、ソラは物珍しいのか周りを興味深そうに見ていた。

 

そんなソラの様子が微笑ましいのか、さやかは

 

「それでね、ソラ。ここは色んな発表会もやっててね。来月もヴァイオリンを含めた発表会をやる予定だって」

 

さやかは電子掲示板に表示される来月開かれる発表会をソラに教える。さやかの表情は得意げだった。

 

想い人であった上条恭介と出会ったのはこの公園で姉がヴァイオリンを弾いてくれた時、その音色に誘われるようにやってきた少年こそが彼だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

さやかの知っている”きらきら星”、”童謡”、”G線上のアリア”等の一度は聞いたことのある曲を蓬莱暁美は一通り演奏する。

 

初めて間近で聞く”ヴァイオリンの演奏”にさやかは終始笑顔で聞いていた。

 

演奏が終わるたびに拍手をし、その演奏を聞きつけて、数人の人達が足を止めて聞いていく。

 

人が集まるごとにさやかも満足そうに笑いながら、姉を見る。

 

一通りの演奏が終わり、拍手を受けて蓬莱暁美は軽く頭を下げて礼を行った。

 

人々が解散する中、一人の少年だけが熱心に蓬莱暁美と手に持つ”ヴァイオリン”を見つめていた。

 

”あら、貴方、熱心に見ているのね、ヴァイオリンがそんなに気になるの?”

 

少年は戸惑いながらも頷いた。そんな少年に蓬莱暁美は少年 上条恭介の元へ近づき、

 

”気になるのなら、一曲弾いてみる?”

 

”ぼ、ぼくが・・・むりだよ”

 

楽器を触らせてもらえることは嬉しかったが、まさか弾かせてもらえるまでとは思っていなかった為、断ろうとするが・・・・・・

 

”大丈夫よ。私が一緒に教えながらだから、貴方の思うようにやって見せて・・・”

 

ヴァイオリンの持ち方を教え、弓を持つ手は不慣れなのがぎこちなく頼りないものだったが、傍に居る年上の少女に少し顔を赤くしながら、上条恭介は幼いながらも”きらきら星”の演奏を始めた。傍では、同年代のさやかがその光景をニコニコしながら見ており、三人を包む空気は穏やかなモノだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時から恭介とアタシはお姉ちゃんと一緒にヴァイオリンを聞かせてもらったり、習ったりもしたんだよね」

 

「さやかは、以前はヴァイオリンを演奏していたんですか?」

 

「うん・・・・・・一緒に始めたはずだったんだけど、恭介の方がアタシよりもずっと才能があって、あっという間に差をつけられたんだよね」

 

一緒になって始めたのに、あっという間に差ができてしまった事で周りに比べられたりと悔しい思いをしたが、姉である蓬莱暁美は

 

「お姉ちゃんが、音楽は楽しむものだから楽しくない音楽をさせるぐらいなら、その人たちは演奏なんて聞いても居ないし、楽器だってロクに扱えないじゃないのって言ってくれたんだよね」

 

上条恭介の音楽を認めていたが、それと同じぐらい自分の音楽も認めてくれた姉の存在が嬉しかった・・・

 

姉はクラシックも嗜んでいたが、クラシックよりもジャズの方が好きだった・・・・・・

 

「当然だけど、恭介はヴァイオリンは凄く上手な上に音楽をする人には分け隔てなく接してくれたし、変に傲慢になることもなかった」

 

人柄も良かったのだが、周りの影響や期待もあり彼自身も悩むことはあった。

 

その辺りを自分はどこまで理解していただろうか?正直に言えば、ほとんど彼の事を理解していなかったのではないかと思う。その結果が”今の上条恭介”なのだから・・・

 

「そうですか・・・・・・上条恭介を意識されるようになったのは・・・・・・」

 

「うん。発表会の時にいつの間にあんなに上手になったのってぐらい上手くなってて、アタシ感激したんだ。それから・・・かな、恭介を意識するようになったのは・・・」

 

”発表会”で家族と姉と一緒になって、上条恭介の晴れ舞台を見たのだ。

 

あんな風に感動させる音楽を演奏できる”彼”は世界で一番素敵な少年だった。

 

「さやかは、何故、今はヴァイオリンを辞めたのですか?彼にも認められていたのですよね?」

 

「・・・・・・それはね。お姉ちゃんが死んだ後なんだ・・・・・・」

 

姉が亡くなった後、上条恭介は”お姉さんが居る天国まで届くようなヴァイオリニストになる”と言いだし、彼女はその彼を応援しようと誓った。

 

自分等ではとてもじゃないが”姉の居る場所まで届くような音楽”を演奏などできそうになかったのだから・・・・・・

 

「そうですか・・・・・・さやか。そろそろ、魔戒騎士と杏子との待ち合わせが近いですよ」

 

懐かしい思い出にこのまま浸って居たいところであったが、時間は刻一刻と迫っていた。

 

夕暮れ時の公園は先ほどまで遊んでいた子供らの気配が僅かに残っており、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「もうそんな時間なんだね、ソラ。行こうか・・・・・・」

 

さやかもまた、自身の手で”責任”を果たさなければならなかった。だが、自分の力では、ホラーと化した上条恭介を倒すことはできない。

 

故に級友の伯父である 風雲騎士 バドの力を借りなければならなかった。

 

「ねえ、ソラ。アタシと恭介、仁美はどうしてこんな風になっちゃったのかな?」

 

この事態を引き起こしてしまったのは、自身が”奇跡”を願った事が発端だった・・・

 

もしも、魔法少女の事も知らずにいたら、仁美との関係は親友のままで居られただろう。

 

そして恭介もまた、ヴァイオリンこそは弾けなくても別の形で”音楽”をしていたのかもしれない・・・・・・

 

だが、願った奇跡が齎した結果は、自分達の関係を大きく変えてしまった・・・・・・

 

それも誰も望んでいない”最悪な結果”を齎したのだった・・・・・・

 

「誰かのために奇跡を願う。それも自身の全てをかけることが裁かれなきゃいけないほど罪深いなんてことはないと私は思います」

 

「そ、ソラ・・・・・・それって・・・・・・」

 

「わたしはさやかのしたことは決して間違いではなかったと思います。少しばかり独善的だったかもしれませんが、上条恭介を救いたいと願ったことが悪いということはありません。今回は、色々と間が悪かったんでしょう・・・」

 

無意識の内にさやかは自身が、誰かに裁かれることを望んでいたかもしれない。

 

だけど、ソラは自分に付いてきてくれると救うために姉によって”創造”されたと聞かされた。彼女はさやかの味方であり続けると言ったのだ。

 

例え、嫌われることがあっても拒絶されることがあっても・・・さやかが最終的に救われればそれで良いのだから・・・

 

「ありがと、ソラ。あんたはアタシを護るって言ったけど、ホラーは凄く危ないから、アタシもソラを護るから・・・背中・・・任せたよ」

 

瞳を僅かに潤ませながら、さやかとソラは公園の入り口の前に立つバドと佐倉杏子の元へと足早に進むのだった。

 

自分は決めなくてはならない・・・彼にこれ以上”呪い”を”陰我”を背負わせない為にも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 志筑仁美の自宅

 

志筑仁美は、今度こそ鹿目まどかを連れ出そうと自宅から抜け出そうとしていたが、思いもよらぬ人物が自分を尋ねに来たことにより断念せざる得なかった・・・・・・

 

「あの・・・・・どうしてあなたが・・・・・・上条さん」

 

「恭介は今晩、大事な用事があるんだ。仁美さん・・・・・・君に邪魔をさせられないようにする為に私は君に会いに来たんだ」

 

仁美を訪ねてきたのは、上条恭介の父だったのだ。彼の父ならば、上条恭介の身に起きていることを訴えれば自分の力になってくれるのではと希望を抱いたのだが、それは彼の言葉によりあっさり砕かれた。

 

「待ってください、上条さん。貴方は自分の息子が殺されそうになっているのを知ってそんなことを言っているのですか!!!今すぐ、止めなくてはいけません!!!その為の手段だって!!!!」

 

声に熱がこもるのだが、上条恭介の父は冷めた目で仁美を見ていた。何も見えていない少女には哀れみすら感じてしまう。

 

「・・・・・・さやかちゃんと同じ素質を持つ女の子に恭介を元に戻すように願わせるのか。さやかちゃんと同じように、これ以上息子のための犠牲は出せない・・・・・・」

 

「上条さん・・・・貴方は、恭介さんの手が治った奇跡を・・・・・・」

 

「知っているさ。大人だってしっかりと目の前のことを見ていれば非常識なモノだって真実だって分かるさ。全てはさやかちゃんとあの魔戒騎士が教えてくれたよ」

 

驚いている仁美に対して、上条恭介の父は冷静であった。彼は、息子 上条恭介の身に起きたことをすべて理解していた。幼馴染 美樹さやかが泣きながら話したのだ。何度も何度も謝罪をしながら・・・・・・

 

魔法少女の”願い”と”奇跡”とそして、人の”陰我”より現れる魔獣 ホラーが語られた・・・・・・

 

「さやかちゃんは、恭介の為に全てを捧げた・・・・・・あの子には普通に暮らす人生があったのに・・・それを息子の為に祈り”奇跡”を起こしてくれた・・・・・・恭介にはあまりにも過ぎた贈り物だった」

 

奇跡を得た息子は本当に喜んでいた。一度挫折した道にもう一度戻ることができたのだから・・・・・・

 

だがその奇跡を失うことで、彼はもう一度奇跡を願った・・・その奇跡を叶えたのが・・・・・・

 

「魔戒騎士の彼から詳しく聞いたよ。恭介は”奇跡”の旨味を知ってしまい、それをもう一度願ってしまった。その結果、魔獣 ホラーに憑依されることになった。これはさやかちゃんの責任ではない・・・恭介・・・馬鹿息子の甘えが原因だ」

 

やりきれない感情が胸中に渦巻くが、決してここでそれを爆発させてはいけない。今夜、息子に憑依したホラーは殲滅される。これは、真実を知った上で了承したことなのだ。自分の役目は”志築仁美”が余計なことをしないようにこの場に留めておくことなのだから・・・・・・

 

「貴方はそれでも親なんですか!!!!恭介さんは貴方の大切な息子ではないんですか!!!!あの方があんなふうになってしまったのは、美樹さやかが原因です!!!!こんなことになったのは全てあの女の限界が知れていたから『それ以上、何も言うな!!!!!』

 

喚く仁美に対して、上条恭介の父は彼女にこれ以上何も言わせるつもりもなかったし、聞くつもりもなかった。

 

「他人の君にこそ何が分かる。恭介は確かに大事な息子だ・・・だが、息子はホラーに食われてしまった。食われてしまったらもう元には戻れないし・・・息子の姿を使って世の中に災いを振りまくんだ」

 

歯を食いしばり上条恭介の父は

 

「あの子にそんな地獄を歩ませられない!!!だったら、あの子は今夜終わりにさせてあげなければいけないんだ!!!」

 

この決断を下すにはあまりにも時間が足りなかった・・・身を切る思いで決断を下した。

 

亡き妻にはなんと言えばよいのか分からない・・・こんな決断を下した自分は決して天国には行けないだろう。

 

仁美は親の仇を見るような目で上条恭介の父を見た。

 

「なんて親なんですか・・・貴方は・・・・・・」

 

「なんとでも言いなさい。私はもう決めたんだ・・・恭介にこれ以上、罪を犯させないために・・・・・・」

 

仁美は一刻も早く上条恭介の元へ行きたかったが、この家に居る者達もまた上条恭介の味方をしており、何もすることができなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原 文化ホール

 

近くに美術館も併設しているこのホールは、本場欧州の建築物を参考に作られてはいるが所々が近代化に伴い改修されている。その入り口の前に四人の人影が立つ。

 

バド、佐倉杏子、美樹さやか、ソラの四人である。

 

「ホラー ミューゼフは既にこの建物の奥にSTAYしているよ」

 

バドの契約魔道具である ナダサがホラーの気配を正確に察知する。それに伴い異様な邪気が周辺に僅かながら漂っている・・・・・・

 

「そろそろ時間のようだな・・・パンフレットがあるのなら先に買っておいた方がいいかな?さやかちゃん」

 

「伯父様、今の恭介の音楽は一度聞くと嫌になりますから、形に遺さなくてもいいですよ」

 

若干強張った表情をしているさやか達に対してバドは、ホラーの開くコンサート入りを楽しむような素振りを見せた。そんな年長者、保護者なりの気遣いが嬉しいのか、さやかも笑顔で言葉を返した。

 

「アタシは、こういう音楽ってのはあんまり聞いたことはないんだよな・・・前に声楽をお袋に教えてもらったぐらいかな・・・・・・」

 

かつて教会で暮らしていた際に聖歌を妹と共に歌っていたことがあるが、このようなコンサートホールに入るという経験は杏子にはなかった。最近でいえば、伯父と一緒に映画館へ足を運んだことぐらいなのだが、音楽をほとんど聞かない杏子にとって、コンサートホールは未知の領域であった。

 

「杏子もですか・・・わたしも音楽は最近になって、さやかに勧められたのですが・・・こういうところで間近で演奏を聞くとまた印象が変わるんでしょうね」

 

「なんだソラ・・・お前もか・・・じゃあ、アタシ達がここで聞く羽目になるのは、ホラーの聞くに堪えないオーケストラってわけかよ・・・」

 

せっかくこういうところに来たのだからと思わなくもないのだが、ホラーの楽士という気取ったミューゼフを倒さなければと思い直し、杏子は”魔戒筆”を構える。

 

「連中は人間と違いますからね。その辺りは感性の違いもあると思いますよ」

 

ソラの応えに杏子も”それもそうだな”と返し、4人は異様に暗くなった見滝原 文化ホールの中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

コンサートホール ステージの中央に陣取った上条恭介・・・ホラー ミューゼフは”人魚の魔女”の協力の元”使い魔”達に集めさせた”陰我”のゲートとなるオブジェを配置していた。

 

その配置した場所は、オーケストラにおけるポジションのような位置であり、魔界に住まう仲間達をこれより呼び出すつもりなのだ。

 

自身の結界と”人魚の魔女”が張る結界は、互いに混ざり合うことによりこの建物全体を要塞のように機能させることすら可能だった。

 

ここを拠点とすれば、人間は食い放題であり、これ以上にない快適な空間を作り上げることができるのだ。だが、自分だけでは難しく、仲間のホラーの協力により強固なモノに仕上げなければならない。

 

「おや・・・さっそくネズミが4匹入って来たか・・・・・・さっそくだけど、このホールを楽しんでもらおうかな」

 

白い手袋をしており、器用にフィンガースナップで音を出すことで要塞が動き始める・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

文化ホールはいくつかのエリアに分かれており、演奏などが行われるコンサートホールは奥に存在している。

 

四人は、コンサートホールを目指して入り口の購買コーナーを抜け、現在はイベントエリアで展示されている絵画が飾られている通路を取っていた。

 

現在の開催されているイベントは、ある画家の作品をテーマにしているのだが、花がほとんどではあるが、見ようによっては霊魂が漂う湖のようにも見える絵が多数存在し、暗く人気のない建物に不気味な印象を与えていた。

 

「アタシにはわかんないな~~。芸術ってのは・・・」

 

横目で絵画を見ながら杏子は、それらの価値がまるで理解できなかった。見ようによっては汚い落書きでしかなさそうなものもあり、上手く描けているモノは素直に感心するが、だから何だと言うのが彼女の感想であった。

 

「実を言えば俺もなんだ・・・杏子ちゃん。こういうのは俺達には無縁なんだろうな」

 

バドもバドで絵に対して関心はないのか、杏子に同意する。

 

「伯父さまも姐さんももう少し視野を広げるべきだと思うんですよ」

 

さやかは、姉の影響なのか”絵”に限らず芸術全般に理解はあった。こういうのは、どれだけ身近に感じるかによるものなんだろうなと彼女は思うのだった。ソラは何も言うことはないのか一同の会話に相槌を打っていた。

 

和やかに進んでいたのだが、途端に建物全体が生き物のように呻き声をあげだした。

 

”ウゥウウウウウウウゥぅぅぅぅぅ”

 

それに伴い建物全体が歪み、景色が変化していく。ホラーの結界よりも”魔女”のそれに近かった。

 

「どうやら、おしゃべりタイムはここまでのようだ」

 

二振りの風雲剣を構えたと同時に杏子、さやか、そらの四人は戦闘ができるようにそれぞれが魔法少女へと変身を完了する。

 

通路の奥より使い魔とそれに交じって”素体ホラー”の姿も存在していた・・・・・・

 

「Everybody、Be Careful!!!ホラーと使い魔が来たよ!!!」

 

魔道具 ナダサの変な英語と日本語が入り混じった言葉に対し

 

「ったく、ナダサよ・・・・・・気が抜けるっての!!!」

 

杏子は伯父の契約魔道具はポンコツではないかと思うが、ここで気を抜くようなことをしてはいけないと気を引き締め・・・・・・

 

「俺が率先してホラーを斬る。皆は使い魔を頼む、絶対に油断をするなよ」

 

バドが切り込むと同時に杏子、さやか、ソラはそれぞれ三方向に展開していく。

 

杏子は槍で牽制しつつ、魔戒筆による攻撃の術で応戦し、さやかはサーベルを幾つも出現させ一斉に飛ばし、ソラは薙刀で使い魔達を払い、時折、現れる素体ホラーはバドが術を使うことによって、三人をフォローしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラー ミューゼフは迫りくる脅威に対し焦っていた。

 

いうまでもなく、前回自分を圧倒する魔戒騎士の強さに対し対抗する術がなかったからだ。

 

この場所を突き止めたのは流石としか言えなかったが・・・

 

称賛するほど余裕があるわけでもなかった。だが、ここの文化ホールを歩いているときにあるエリアでの興味深い論文に目を通したことを改めて思い出したのだ・・・・・・

 

それは物質には”固有のパターン”が存在するというモノである。そこに干渉することにより物質の強度を下げたり、場合によっては破壊することもできるというモノだった・・・・・・

 

”固有振動周波数”と呼ばれるものであり、これは物質の固有周波数が分かればいかなる物質でも破壊が可能である。

 

「魔戒騎士の鎧も精製方法こそは特殊なものだが、物質であることは間違いないんだよね・・・とすれば・・・・・・」

 

試してみないことには分からないが、この攻撃ならあの忌々しい鎧を”無効化”できるかもしれない。

 

だが、鎧そのものの固有周波数を調べるのは戦闘中には困難である。だが、鎧を纏っている人間ならばどうだろうか・・・人間ならば、古の時代から”陰我”を通じて憑依している・・・・・・

 

そう考えると魔戒騎士も恐れるに足らない・・・・・・

 

先ほどまでの怯えに似た感情も消え、むしろ感情は高揚していく・・・・・・

 

ここは仲間をある程度呼んだうえで対策をするべきだが、ホラー ミューゼフは自身の手で風雲騎士にリベンジを果たすことを優先し、ここで待ち構えることにしたのだった・・・・・・

 

ホラー ミューゼフが笑みを浮かべるが、”人魚の魔女”は言葉を発することがないのだが・・・・・・

 

”・・・・・・・キョウスケ・・・・・・”

 

言葉を発するはずのない”人魚の魔女”は何かを確かめるように呟いたことにミューゼフは気が付かなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサート会場の入り口を開くと観客席の照明は落ち、ステージに立つ上条恭介の姿をしたホラー ミューゼフがオーケストラの指揮者のように立っていた。

 

「ようこそ、魔戒騎士、そして魔法少女の諸君。よく、ここが分かったね」

 

尊大な態度で語りかけるホラー ミューゼフ。

 

「恭介が来そうな場所ってここぐらいだってことを伯父様達に教えたのはアタシよ」

 

「さやか・・・・・・君との縁は本当に腐れ縁とも言うべきだね」

 

内心、あの場で殺しておけばもう少し時間を稼げたのではないかと考えたが、過ぎてしまったことは仕方がない。

 

「さやかちゃんのおかげで早く動くことができた。仲間を呼んでいないようだが・・・それで十分なのか?」

 

バドは見た目少年のミューゼフに対して挑発的に語り掛ける。

 

「ハハハハ!!あの時は、驚いたけれど今回はここで君たちへのレクイエムを演奏してあげるよ!!!」

 

上条恭介の姿からホラーミューゼフの姿へと変化する。

 

昆虫を思わせる黒い異形がステージの上で咆哮を上げた。それに合わせるように”人魚の魔女”もまた出現する。

 

「伯父さん、アタシとさやか、ソラで魔女をやる」

 

「魔女も能力や使い魔次第では、下手なホラーよりも厄介だからな、杏子ちゃん、さやかちゃん、ソラちゃん、頼むよ」

 

「任せてください伯父様。それと・・・恭介の事をお願いします」

 

既にさやかは、覚悟を決めていた。だが、ホラーを倒す術を持たない彼女にできることは”風雲騎士 バド”の力を借りる事しかできないのだから・・・・・・

 

「ああ、彼の”陰我”も・・・あの魔女の”呪い”もここで断ち斬ろう」

 

バドは、鎧を召喚し、装着し、ミューゼフへを駆け出す。

 

一方、杏子ら三人の魔法少女は”人魚の魔女”へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく向かってくるバドに対し、ミューゼフは背中の羽のチューニングを行う。

 

そしてホラーが勝手知ったる”人間の肉体”の感触をイメージしながら”物質が持つ固有振動周波数”を発生させ、バドはに向かってはなったのだ。

 

通常の衝撃なら鎧で防ぐことができるのだが、その衝撃波は鎧を通過しそのまま本体であるバドを貫いたのだ。

 

「ッ!?!」

 

予想もしない攻撃に対し、態勢を崩し、バドは観客席に落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「伯父さん!!!」

 

「伯父様!!!!」

 

バドがホラーの攻撃で倒れたことに杏子とさやかは声を上げるが、

 

「今は俺よりも目の前の魔女に集中するんだ!!大丈夫だ・・・ほんの掠り傷だ・・・少しだけ胸が痛むがな」

 

杏子たちを心配させぬようにバドは軽口を叩いて応える。伯父の様子に三人の魔法少女らも安心し、すぐに気持ちを切り替え上空を泳ぐように佇む”人魚の魔女”に視線を向けた。

 

「ん?さやか・・・なんか変じゃないか・・・」

 

「どうしたんですか?姐さん」

 

「あの魔女この間、伯父さんに向かってきて、使い魔は志築仁美を襲ったけど、アタシ達には攻撃してないし・・・・今も・・・・・・」

 

杏子が視線を向けると”人魚の魔女”は何故か三人の魔法少女を牽制するように居るだけで、使い魔達を呼び寄せることもせず、さらには攻撃の意思すら感じられなかったのだ。

 

「・・・・・・言われてみれば・・・そもそもあの魔女どうして恭介を助けたんだろ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

さやかは、”魔女”の不可解な行動に疑問符を浮かべ、ソラはあり得ない正体を察するとあるその行動は当然であると胸中で納得していた。

 

魔法少女三人から、”人魚の魔女”は睨みつけるような視線を”ホラー ミューゼフ”に向けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハ!!!どうだい!!!人間の知識も大したものだよ!!!』

 

まさかこの方法が本当に効力を持つとは思わなかった。固有振動周波数は鎧を通過し、装着者であるバドにダメージを与えたのだから・・・・・・

 

痛む胸を押さえながら、バドはまさかの方法に驚くが・・・・・・

 

「なるほど・・・そういうやり方もあるのか・・・固有振動周波数に合わせればこの鎧も破壊は可能か・・・」

 

ホラーの予想外の攻撃はいつもの事だが、人の知識 科学をこのような形で使ってくることにホラーの脅威はこれから先の時代ますます大きくなるかもしれない。

 

「フフ・・・それで勝ったつもりか?お前達ホラーは古の時代よりこちらに現れているが、どのホラーも決して長くは居られなかった」

 

『減らず口を!!!直ぐにお前を粉々に吹き飛ばして!!!そこの三人の魔法少女を絶望させてやるよ!!!』

 

今度こそ、固有振動周波数をバドそのものにチューニングし、決着をつけようと動くミューゼフ。

 

バドは自身と瓜二つの幻影を出現させ一直線に向かっていく。

 

好機と見たミューゼフは、固有振動周波数にそのような攪乱は無意味であることを笑った。

 

固有振動周波数は、特定の物体のみの破壊が可能な為本体である生身のバドを木っ端微塵にすることができる。

 

背中の羽を大きく振動させようとした瞬間、バドと鎧が突如として解除されたのだ。

 

『逃げても無駄・・・っ!?!!』

 

嘲笑おうとした瞬間、分離した鎧はそのまま人が耐えられないほど加速しながら、ホラーミューゼフへ突っ込んでいったのだ。

 

鎧は意思を持つかのようにミューゼフの両腕を切り裂き、さらにその羽すらも完全に両断する。

 

バドがモノを動かす術の応用で鎧を操作したのだ。もとより継承してから慣れ親しんできた鎧の為、その操作は容易なモノだった。

 

さらには、魔戒騎士といえども生身の肉体には変わりはなく、限界というモノは存在する。だが、鎧に中身が無いゆえにその限界を考慮しない加速をつけることもできた。

 

留めと言わんばかりに、雷の術を幾つもミューゼフに落すことによりその身体は燃え上がると同時に衝撃により吹き飛んだ。

 

『う、うわぁあああああああ・・・・・・』

 

まさかの風雲騎士の反撃にミューゼフは瀕死に誓い重傷であった。

 

バドは瞬間移動で再びミューゼフの前に立つと同時に鎧を再装着する。

 

「これでお前も終わりだな・・・・・・お前が仲間のホラーを呼んでいたら俺も危なかったかもな」

 

『くっ・・・うううう・・・・・・』

 

悔しそうに声を上げるミューゼフの後ろにはいつの間にか”人魚の魔女”が立っていたのだ。

 

「こいつは杏子ちゃん達が・・・・・・まさか」

 

まさかと思い、周囲に意識を向けると三人は無事であり、”人魚の魔女”だけが此処にやってきたようだった。

 

前回と同じように逃げ出すつもりなのだろうか?

 

『ハハハハハ。君は本当に僕を助けてくれる!!!今度は、別の・・・』

 

”人魚の魔女”に再び結界を張るように声を上げるがミューゼフは声を上げることができなかった・・・・・

 

「なんだとッ!?!」

 

バドも目の前の光景に驚いてしまった。

 

何故なら”人魚の魔女”は、ホラーミューゼフの頭に剣を突き立てていたのだ。

 

時折、魔女同士が潰し合うこともあるが、まさか魔女がホラーを攻撃するとは・・・・・・

 

前回はミューゼフを助けたにも関わらず・・・・・・

 

”・・・・・・・アンタハ・・・・・・キョウスケジャナイ”

 

ミューゼフは、今まで言葉を話さなかった魔女の言葉にこの物言わぬ”人魚の魔女”の正体がおぼろげに分かってしまったのだ・・・・・・

 

近くに居るバドも・・・また杏子も”人魚の魔女”のあり得ない正体に・・・・・・

 

「まさか・・・そんなことがありえるのか?」

 

「お、おい・・・あの魔女の声って・・・」

 

驚く二人に対してさやかとソラは、あの魔女の正体を理解した・・・・・・

 

「ソラ・・・・・・あんたが居なかったら、アタシ、ああなってたんだね」

 

沈黙するソラの態度を肯定とみたさやかは

 

「伯父様!!!!断ち切って!!!アタシ達の”呪い”と”陰我”を!!!!」

 

ミューゼフは、身体を修復するために”人魚の魔女”を取り込もうとするが、”人魚の魔女”はさらに体重をかけるように抵抗をする。

 

バドは二振りの風雲剣に必殺の太刀筋を描き、ミューゼフと”人魚の魔女”のそれぞれを断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの影が消滅し、その刹那に二人の少年少女の姿を見ることは叶わなかった・・・・・・

 

ただ一人を除いて・・・・・・

 

「・・・・・・恭介をお願いね・・・もう一人のアタシ・・・・・・ごめんね、恭介。あんたの事、大好きだったよ」

 

「おい・・・今、なんて言ったんだ?」

 

さやかの言葉に疑問を投げかける杏子であったが、いつの間にか来ていた伯父が肩に手を置き、

 

「今はそっとしておこう」

 

さやかの傍に居るソラもまた頷いていた。

 

少し納得がいかなかったが、今はさやかも気持ちの整理をつけたかったのではと思い、杏子もこれ以上は追及しなかった・・・・・・

 

戦いが終わり、コンサート会場は何事もなかったかのように静まり返っていた・・・・・・

 

この場に”陰我”も”呪い”も残っていなかった・・・もうこの場でできることは何もない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なくなった見滝原 文化ホール コンサート会場 ステージ

 

 

 

 

 

 

 

”こんなの僕の音楽じゃない・・・僕の・・・僕の・・・・・・”

 

”恭介の音楽はアタシが一番知ってるよ・・・もう終わったよ、恭介・・・”

 

”君は・・・・・・あぁ・・・・・・僕は取り返しのつかないことを・・・・・・”

 

”良いんだよ。アタシが馬鹿だったから、恭介は何も悪くないよ”

 

”疲れたよね・・・・・・恭介・・・・・・独りぼっちは寂しいから・・・アタシが一緒に居てもいいかな”

 

”こんな・・・こんな僕の傍にいてくれるのかい・・・さ・・・や・・・・・・か・・・・・”

 

”うん!!!これからずっと一緒だよ、恭介”

 

”じゃあ、そろそろ行こうか、恭介”

 

”そうだね・・・・・・行こう、さやか”

 

 

 

 

 

 

 

コンサート会場のステージを二人の少年少女が手を繋いで降りていく・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のこれからの行先は・・・・・・誰も知らない・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”アタシさ・・・恭介のことも恭介のヴァイオリンも大好きだよ”

 

”今更だけど僕も君の笑顔が大好きだよ、さやか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

もしかしたら、さやかもヴァイオリンを習っていて早々に恭介との才能の差を知り、彼の音楽をずっと応援しようと決意しヴァイオリンを辞めたのではと言う考えの元、描いてみました。

上条恭介の結末は、少しだけ救われるラストにしました。単純に殲滅されて終わりというのもなんですので、まさかサプライズで出した”人魚の魔女”が動き出した為にこのようなラストになりました。

何気に読み返すと、まどマギ関連の親、家族をやたらと出していることに今更ながら気づいてしました。

ちょっとまとめると。

鹿目まどか  父 知久 母 詢子 弟 タツヤ 名付け親 冴島 大河

暁美ほむら  父 シンジ 母 れい 義理の姉 アスカ 義理の兄 ジン 祖父 ドウゲン

佐倉杏子   父 名不明 母 名不明 妹 モモ 伯父 風雲騎士 バド

美樹さやか  父 総一郎 母 咲結  義理の姉 蓬莱暁美 妹?ソラ

上条恭介   父 名不明 母 名不明

中沢ゆうき  父 名不明 母 名不明




纏めてみると結構出ています。親、家族については何気にマミさんだけ描写していないのでどうしたものかと悩んでしまいます。今回、上条恭介の父親が出張ったのは自分でも驚いています・・・・・・

次回は、ここのところご無沙汰していました マミさんが中心になります。
あのフェイスレスもまた出てくる予定です(汗)

ほむらはバラゴと一緒にアスナロ市からまだ帰ってきません。




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「 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 」
呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 序


呀の特別編です。序のみ公開、纏めて書けたら、一気に投稿したいところです。
オリキャラありだったりします。




アスナロ市某所 その場所に数人の少女達が訪れていた。

 

「これで……12人目か……」

 

「そうね。今度は絶対に希望に変えてみせる」

 

「そう……私は、あの子を取り戻すために罪を刻み続ける」

 

悲痛ともいえる表情の後、少女達はその場を後にした。そこは、数日前に一人の少女が住んでいた部屋だったのだが……

 

強大な力を持つ猛獣が暴れたかのように、滅茶苦茶にされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 とある病院のロビーにて……

 

古い掲示板に張られている一枚の”探し人のチラシ”を一人の青年が無造作に千切った。

 

「ったく、久々に名前を聞いたと思ったら、こんな事になっているって……」

 

赤黒い毛を一束に結わえた端正な顔立ちの蒼い瞳の青年が表情を歪めた。

 

「……なぁ、ほむら。一体、何があったんだ?」

 

チラシに載っている眼鏡を掛け、三つ編みの何処にでも居る少女の写真と手元に持っている携帯電話に保存している画像に目を向けた。

 

その画像には、青年 ジン・シンロンとチラシの写真よりもずっと幼い暁美ほむらと輝かんばかりの笑みを浮かべる赤みが掛かった金髪碧眼の少女がVサインを向けていた。

 

彼は”暁美ほむら”を知っており、それなりに深い付き合いをしていたようである。

 

「ったく……これから、一旦アスナロに戻らなきゃ行けないんだよな………」

 

実を言えば、彼もまた暁美ほむらの両親同様、彼女が行方不明になったと報を受けて、アスナロから見滝原に駆けつけてきたのだ。

 

言葉を交わすことが少なくなってしまったが、彼の中では……

 

「湿気た花火みたいに落ち込むなよ……ほむら……とりあえず、酷い目には合っているが、それほどな目に合っていないってことでいいよな」

 

彼の第六感が現在のほむらの状況を察していた。この青年、一応は……

 

「まさか俺が医大生って聞いたら、どうなんだろうな~~」

 

当時のほむらが知っている自分は”馬鹿なお兄ちゃん”である。体力だけが取り柄で勉強はからっきしで、ただ勢いと常識を無視した行動で何度もほむらと”アスカ”の心臓を冷や冷やさせただろうか。

 

時を経て、そんな彼も医大生で、明日から、重要な講義があるため出席しなければならなかった。合流したほむらの両親からも、しっかりと講義は受けなさいと言われ、一旦戻ることになったのだ。

 

普段の彼ならば、講義もへったくれと言わんばかりに動くのだが……ここは仕方がないと割り切らなければならない。

 

かつての14歳のように無茶な行動は自重しなければならないのだから。

 

「………ほむら。お前はちゃんとアスカにお別れを言えたか?俺は俺なりにお前のお姉ちゃんに伝えたぞ」

 

画像を閉じ、青年 ジンは病院から背を向けて少し早めに駅へと向かって言った。時刻は既に日が傾いている。今日の夜中には、アスナロに付ける筈である…………

 

”ほむら!!!今日は、久々の外出だから張り切っていくわよ!!!!”

 

”ま、待ってください!!アスカお姉ちゃん!!!”

 

”って、お前ら、荷物全部お、俺に押し付けんな!!!ってこら、俺を置いて電車に乗るなって!!”

 

”あぁ~~~ジンお兄ちゃん。挟まってます!!車掌さんが凄い顔でこっちに来ています!!!!”

 

”馬鹿ジン!!!何やってんのよ!!!って、逃げるわよ!!!”

 

”な、なんで逃げるんですか!!?!”

 

特に理由も無く三人で騒いだ日々を思い返しながら、ジンは明日からの講義を終えたら、また見滝原に戻ろうと心に決めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市

 

突発的な豪雨の中、一人の少女が宛もなく彷徨っていた。何日も衣服を着替えていないのか、汚れと解れが目立ち、青いジーパンは元の色がわからなくなっていた。

 

「はぁ…はぁあ……はぁ……」

 

足が縺れ、目の前の水溜りに転んでしまう。口に広がる泥の味と冷たくなったアスファルトの感触に身体を大きく振るわせた。

 

冷たくなった身体がさらに凍えていくのを感じる。寒さに震えながらも少女は頭を上げた。

 

少女が居る場所は路地裏であり、目の前には傘を差した人々が行きかっている姿を少女は目に映した。

 

その少女の目は、普通の人のそれとは違っていた。何故なら、本来白い部分が黒く瞳は血を思わせる真っ赤な物だったからだ

 

「はぁ………はあ……はぁ…うぅううう……」

 

痛む身体を起き上がらせと同時に自分の手の中にある唯一の持ち物である”ソウルジェム”を見つめる。

 

そのソウルジェムは、他の魔法少女のそれとは違っていた。そう…ソウルジェムの下に”グリーフシード”の棘を思わせるモノが存在していたのだ。

 

さらに今も頭の中に響く自分を呼ぶ声に対し、精神的な頭痛が常に響いていた。

 

”ミチル”

 

「……違う……私は……貴方達の知っているミチルじゃない……」

 

ソウルジェムを胸に抱え、少女は覚束ない足取りでその場を後にするのだった……

 

「じゃあ……私は、一体誰なの?」

 

”お前は、ミチルじゃない!!!!!”

 

「勝手なことを言わないでよ……私は……じゃあ、何だというの?」

 

少女の影が大きく広がったと同時に近くに居たと思われるネズミが悲鳴を上げて息を引き取った。

 

まるでこの世に生きる”命”を呪わずには居られないほどの瘴気を放ちながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、少女たちは拠点であるある場所に来ていた。

 

「で、大丈夫なの?12人目……あの子の暴走はかなりやばいって……」

 

「えぇ、私達との記憶は持っているはずなのに……今までのミチルとは違う。ミチルの記憶を持った他人なの」

 

裏切られたといわんばかりに少女は表情を歪ませた。

 

「わ、分かったよ。今度は誰がやるの?私は、もう嫌だよ……」

 

「今更、何を言っている!!!共犯の癖に!!!!」

 

怯える少女に対し、浅海 サキは叱咤した。

 

「で、でも……今度の13人目は成功させるためには12人目は殺さないといけないの?」

 

これから行うことに対して、怯えを含んだ視線を投げかけるが……

 

「………えぇ、忌まわしい事にそれを証明してくれた先輩がちゃんと私たちの為に書き残してくれましたしね」

 

御崎 海香は、鞄から一冊のファイルを取り出す。それは数ヶ月前に”見滝原”のある場所から回収したモノである。著者は 蓬莱暁美と記されている。

 

「何でも、魂というのは同一のものは二つとして存在しておらず、複数の身体を用意しても命が宿るのは一体の身体だけだと……」

 

これを証明させるために、かなりの業を行ったのは誰の目にも明らかであった。事実、自分たちもそれを行ったが……

 

「………さらには、仮に目的の人物を蘇らしても、それは決して生前の人物とは別人だと……単なる怪物」

 

狂ったように魔女や、その他の魔法少女に襲い掛かるそれは獣そのものだった。さらには、可憐な少女だったのに、醜い怪物へと変化し、最後には泥のように崩壊していく。

 

悪趣味なことにそれらを写真にまでしているのだ。

 

「そんなのっ!!!あの魔女が性悪だったから、そういう結果が出ただけじゃない!!!!」

 

浅海 サキはさらに言葉を続ける。これまでの結果は、単にヘマをしただけで次こそは巧くいくと言わんばかりに……

 

「大体、あの魔女は”インキュベーター”とつるんでたり、さらには、道徳や倫理すらない凶悪な魔法少女を多数従えたり、見滝原がああなったのは、あの魔女が何かしたって話でしょ!!!!」

 

過去に見滝原に居た魔法少女の罪状をこれでもかと述べる。まるで自分達が行っているのは、彼女達とは違う崇高なものだといわんばかりに………

 

「私達は違う!!あの日記を絶望で終わらせないために!!!!その為に私は、汚れたって構わない!!!!」

 

宣言する彼女の眼下には、クリスタル状の棺に揺らぐ少女達の姿があった。それは、かつて見滝原に存在したとされる”魔女プラント”に酷似していた……

 

だが、ここは”魔法少女という矛盾に満ちた存在に対する叛逆”の砦である。魔女プラントのような汚れたものではない。中央には色とりどりのソウルジェムが存在している。

 

「キャハハハハハハハハハ!!!!そんなの貴女の単なる自己満足で、あの子のことなんてちっとも考えていないじゃない?要らなくなったら、新しいものに?まるで……」

 

それを言い切る前にその少女の体から血飛沫が跳んだと同時に強烈な電撃が走る。

 

声の主は、ソウルジェムが置かれている台座の中央に手足を切り刻まれ、さらには、本来眼球があるところにはそれすらなかった。衣服など着せられず、身体の至る所には電流を流しやすくする為か、無数のボルトが打ち込まれていた。

 

「…アンタに喋ることを誰が何時許した?このロクデナシが……」

 

汚らわしいといわんばかりにサキは、その少女 麻須美 巴に対しさらに鞭で制裁を加えた。

 

「かぁっ!!?……まったく、少しは先輩を敬おうとは思わないのですか?」

 

表情を歪ませて憎まれ口を叩く彼女に対し、サキはさらに苛立ってしまった。海香はそんな彼女を制するように震える肩に手を掛けた。

 

「サキ……こいつに何を言っても無駄。それに蓬莱暁美とはそれなりの仲だったけれど、あの実験をやっていたのは蓬莱暁美だけで、こいつは特に関わりが無いみたい」

 

海香の視線は、サキよりも更に厳しい。”この役立たず”と言わんばかりのものであった。

 

「蓬莱さんは、私達の中でもそれなりにずば抜けていたわ。彼女の功績が後輩の役に立つなんて……友達として鼻が高いわ」

 

「最悪の友達ね。それに加担していた貴方も相当なまでに最悪な魔法少女……」

 

笑う巴に対し、海香は吐き捨てるように巴の隣に置かれているソウルジェムに視線を映した。どういうわけか、巴はこの状況にも全く絶望していないのだ。

 

それもそうだろうこの少女は、周囲に対して最悪な願いを押し付けて、魔法を得るに至ったのだ。それなりに能力は厄介だったが、蓬莱暁美の関係者として拘束し、今に至っている。

 

その過程で、絶望を希望に変える実験にも協力してもらったが、大した効果は挙げられていない。単に制裁という傷を与えただけであった。

 

先に進まない現状に苛立ちながらも次こそはと少女達は決意を新たにしてこの場を後にした。だが、少女達は気がつかなかった。ここを監視するために備え付けていた”監視カメラ”が設定とは違う動作をしていた事に……

 

”監視カメラ”に繋がれたケーブルは、部屋に備え付け得たるノートPCに、複雑なプログラムをいくつも映し出し、様々な映像を表示した。

 

カメラは中央に貼り付けられた少女に視線を向けた。同時に画面にあるプログラム名が表記される。

 

 

 

 

 

 

 

                                                 ”BAGUGI”

 

 

 

 

 

 

 

 

この文字の意味を知る者は、一部の者に限られている………

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は誰?魔女?それとも………」

 

目が見えない巴は、独特の感覚でこの施設に訪れたモノを察していた。

 

 

 

 

 

 

 

劇場版 呀 暗黒騎士異聞  序

 

 

 

 

 

 

見滝原

 

 

 

その夜、少女は一人駅のホームを歩いていた、時刻は幼い少女が歩いてよい時間ではなかった。ここで彼女は一人の男と合流しなければならなかった。

 

「……見滝原の闇は私が思うよりも深いのね……」

 

魔女結界と共に何かが紛れこむ感覚があった。

 

”陰我”。あらゆる万物に宿る邪悪な意思。それは、呪いを撒き散らす魔女も同等である。

 

暁美ほむらは、ソウルジェムを輝かせたと同時に魔法少女へと変身し、紫の弓を構えた。

 

そこに居たのは、陰我に憑依していないホラー、素体ホラーであった。ゲートになったのは、魔女結界のようだった。

 

(……これが陰我に取り付いたら厄介なことになるわね)

 

ほむらは、弓を引き素体ホラーに先制攻撃を掛ける。ホラーは縦横無尽に結界の中を飛び回り、接近してくるがこれを彼女は難なく交わしカウンターと言わんばかりに袖に仕込んでいた短刀をホラーの額に突き立てた。

 

黒い血を出しながら額を押さえるが、至近距離から矢を放ち、跳ね飛ばされた首に呼応するようにホラーの身体は消滅する。

 

「私は……ここで立ち止まるわけには行かない……いつまでもホラーに遅れを取るほど愚か者ではないわ」

 

それを横目にほむらは結界の中を進み、そこに居る魔女に視線を向ける。現れた魔女は、今までも何度か遭遇した…一言で言うなら

 

「相変わらず嫌な奴と同じ顔をしているわね……こいつは」

 

キュウベえに良く似た頭部を持った魔女に対し、ほむらは今までの魔女以上の憎たらしさを感じていた。インキュベーターなどこの世から居なくなってしまえば良いという想いはいつまでも変わることはない。

 

無表情であるインキュベーターに良く似た顔が嘲笑っているように見えるのが余計に腹立たしい。だからこそ、普段の魔女以上に容赦しない。

 

ほむらは、紫色の弓を取り出し、法術で練られた矢を複数、射る。紫の矢が魔女の頭部、胴体に突き刺さると同時に魔戒文字を浮かび上がらせて弾けた。

 

魔女はほむらに対し敵意の声を上げると同時に体の至る所から針を無数に渡って飛ばしていく。だが、ほむらにとってこの攻撃は脅威ではなかった。

 

左腕の楯を回転させることにより周囲の時間を停止させる。停止させられた時間により、魔女の攻撃は全て意味を成さなくなる。

 

見慣れたモノクロの景色に対し、ほむらは魔法少女特有の身体能力で飛翔し、振り返りざまに魔女の急所 頭部、胴体へと先ほどとは比べ物にならない程の矢を発射させた。

 

時間を再び動かしたと同時に魔女はさらに弾けた。頭部からはぬいぐるみの綿ではなく生き物のそれとは違う黒い何かを弾けさせ、紅い目は勢いよく吹き飛んでいく。

 

一般の少女ならば青ざめるであろうこの光景に対し、ほむらの視線は冷ややかであった。魔女結界が消失すると同時にほむらは、戦利品であるグリーフシードの元へと向かっていく。

 

(この光景……まどかが見たら何と思うのかな?)

 

あの優しい少女はいざという時、誰よりも頼もしい一面を見せる。だが、本心ではこのような事を望んではいないだろう。例え、それが人に危害を加える魔女であっても……

 

「敵対するのならば、容赦はするな。妙な慈悲は己の身を滅ぼすだけだ」

 

魔女を倒した後、自分を迎えるようにエルダが立っていた。いつもの魔女を思わせる奇抜な衣装ではなく、喪服を思わせる衣服を纏っている。

 

「バラゴは…まだ着ていないの?」

 

「バラゴ様は現地で我らと合流される。我らはこれで先に行かねばならない」

 

気づけば夜行列車がホームに来ていた。二人はそれに乗り、目的地である”アスナロ市”へと向かう………

 

「その服は目立つ。バラゴ様より預かってきた」

 

衣装が入れられた綺麗にラッピングされた箱をほむらに差し出した。その箱に覚えがあるのか、ほむらは少し複雑そうに眉を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”君も少しは着飾ったほうが良いと思ってね。その服もいいが着飾った君自身も見てみたい”

 

さやかが魔法少女になった翌日、バラゴは私をとあるブティックに連れ出していた。

 

”呆れた・・・・・・貴女、まさかと思うけどロリこ・・・”

 

”ほむら君。そこまでは言ってはいけないよ。僕も流石に許しがたい”

 

何を気障に振舞っているんだろうか?私は知っている、こいつがわたしと同じ根暗であることを・・・・・・

 

根暗がそんな綺麗な衣装を纏うのはどうかしている。私はこの魔戒法師の法衣をジャージのように日常的に着用していた。

 

理由は言うまでもなくこの法衣がとても動きやすいためである。良くは分からないが、バラゴが紹介したお節介なスタイリストにより私はいくつかの衣装を着ることになった。

 

まどかに良く似合いそうな桃色のドレスを見つけたが、これは私には似合わない。だが、バラゴは何を勘違いしたかしらないが、この衣装と私が選んだ黒い衣装を私に押し付けてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロにも魔法少女は存在しているらしいので、騒ぎを大きくするわけにもいかない。ある意味目立つ法衣からバラゴがほむらの為に用意した衣装を切るため、列車に備え付けてある個室のトイレに向かうのだった。

 

ほむらの後をつけるように白い小動物が窓を横切った。

 

ラッピングされた箱を見ながらほむらは、こんな服を纏うような子ではないと自嘲した。綺麗な物には憧れるが、それが自分に似合うなど思わなかった。

 

「着替える前にここで話をしても構わないかな?暁美ほむら」

 

不意に背後を振り返ると見慣れた白い悪魔が座り込んでいた。ほむらの白い悪魔ことキュウベえを見る視線は何処までも冷たく厳しかった。

 

「視線は気にしてはいないよ。暁美ほむら。君はこれからアスナロ市に向かうようだけど、何かマミから聞いているかい?」

 

古い時間軸であるが、マミから見滝原以外にも魔法少女は居ると聞いているが、実際に他の町の魔法少女は風見野以外にほむらは知らなかった。

 

彼女の沈黙を肯定と見たか、キュウベえは言葉を続けた。

 

「そうだね。魔法少女の遠征は早々無い物だからね。僕から、一つお願いがあるんだけれど……いや、気が向いたらでいいよ」

 

「……不思議ね。少女と契約すること以外にお前がお願いごとをするなんて」

 

純粋にほむらは驚いた。インキュベーター自身の目的の為に魔法少女を絶望のレールに乗せようと画策するのだが…

 

「プレイアデスから蓬莱暁美が書き記したファイルを回収してもらいたい。何なら、中身ぐらいは自由に見てもいいから」

 

妙な前不利は言わずにズバリ言ってくるところは、ある意味好感をもてるのだが、ほむらはインキュベーターが嫌いだった。

 

聞きたくもないと言わんばかりにほむらは、キュウベえから背を向けた。対するキュウベえもこの手の対応はほむら以外からも受けていたので、特に気にすることなく背を向けるのだが……

 

ここでキュウベえは、不意に今アスナロ市で活動している”同類”を思い出した。自分と同類であるが、自分とは違う存在はこんな事を言っていた。

 

「チャオ、暁美ほむら」

 

キュウベえらしくない言葉に対して、ほむらは思わず振り返ってしまった。だが、そこにはキュウベえ、インキュベーターの姿は無かった……

 

「……インキュベーターって、あんなだったかしら?」

 

もっと機械的でかつ独善的な人類と価値観が違う生命体には違いなさそうだが、この時間軸のインキュベーターも今までとは違うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衣装は黒いゴシック服であり、エルダが着ている喪服よりもフリルなどの装飾がされており、ほむらに良く似合っていた。

 

「私にこんなモノを着せるなんて……何を考えているのかしら?」

 

スカートの裾をつまみながら内心、バラゴはそういう性癖なのではと疑ったが……

 

「ほむら、バラゴ様への侮辱は許さんぞ」

 

人の心を読んだと言わんばかりに応えるエルダに対し、

 

「バラゴは気にしていないわ」

 

自分がどんなに噛み付いても気にすることなく、微笑ましそうに見てくるところは腹立たしいことこの上ないが……

 

「…そうかもしれん。私とお前では在り方が違うからな」

 

「在り方って…バラゴは私に何を望んでいるというの?」

 

「……………」

 

いつものように口を閉じてしまう。バラゴに聞いても彼は応えることはなかった。

 

(分からない……何故、私にここまでしてくれるのか?本来の二人なら私が死んでも関心なんて寄せることなんて絶対にない)

 

バラゴを含めて自分たちは全うな存在ではない。そのことを自覚しつつ、暗い窓の奥の光景に視線を向けた。見滝原を離れ、列車は暗い森を走る。暗い闇の先は一切見えず、列車の走る音だけが闇の中に木霊していた。

 

暗い場所は嫌いだった。小さい頃に大好きだった”お姉さん”が居なくなり、最後に見たのも暗い場所だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカお姉ちゃん・・・

 

私、暁美ほむらの病室のすぐ隣にいた14歳のゲルマン系アメリカ人の少女。もしかしたら、まどかと同じぐらいに大好きだった私のお姉ちゃん。

 

初めて会ったとき、彼女は

 

”挨拶に着たわ、お隣さん。アタシ、霧島 アスカ ツエッペリンよろしくね”

 

年上で、気さくな彼女に私は、入院した時に出会った彼女の手を思わず取ってしまった。

 

”ほむら、辛気臭い顔しない!!!あんたの名前は、炎なんだから燃え上がるの!!!”

 

ツインテールが特徴的で勝気な青い目が大好きだった。アスカお姉ちゃんにベッタリしていた頃の私は、まだ10にも満たない年齢だったと思う。

 

今の私と同じ年齢だった彼女は、巴さんと同じぐらい大人びていた。時々二人で病室を抜け出して、近くの町を遊んだこともあった。

 

二人でスイーツ食べたり、流行りものの服を見繕ったりと私達は楽しい時間を過ごしたことを憶えている。

 

私にとっては姉のような人だった。だけど、そんなお姉ちゃんにも好きな人が居て、見ていてお姉ちゃんが幸せになってと思う気持ちとお姉ちゃんを彼に盗られたという複雑な思いを私は抱いていた。

 

その人 お兄ちゃんはお姉ちゃん曰く”あの馬鹿ジンにロマンスなんて無いわよ”と言われて納得するぐらい無駄に熱い馬鹿なお兄ちゃんだった。

 

でも、そんな馬鹿で熱いお兄ちゃんが私は、お姉ちゃんが好きでよかったと思っていた。

 

アスカお姉ちゃんは、小さい頃にお母さんを事故で亡くして、お父さんに引き取られているんだけど、あまり仲が良くない。

 

看護婦さん達が、陰で”ここは託児所じゃない”と零していたのを聞いたことがある、アスカお姉ちゃんとジンおにいちゃんの馴れ初めは、ジンお兄ちゃんが馬鹿な事をして大怪我を負って入院してしまったことだった。

 

何でも誘拐犯の車めがけて、偶々近くにあったパトカーを盗み、それを運転して突っ込んでしまったからだ。聞けば誘拐された近所の女の子を助けるために”仕方なく”やったらしいけど……

 

とんでもなく馬鹿だけれど、思わず心がスッとするようなことを仕出かすし、アスカお姉ちゃん曰く、放っておけないらしい……

 

”アイツを放っておいたら、絶対に人様に迷惑を掛けるわ。ここは…アタシが…”

 

隙あらば病院を抜け出そうとするアスカお姉ちゃんも…って痛い。こんな事を思っていると頬を抓ってくるのだ。

 

”いいのよ、いいのよ、アタシの人生だモノ。好きに生きてやるわ。今、この場で心臓が止まっても後悔なんて無いわ”

 

怖いことを言わないでください。その言葉に何度、ハラハラしたことか……それが現実になろうとは、この時の私は考えすらしなかった。

 

話を戻して、馬鹿ジンことジンお兄ちゃんは受付から来ずに窓からアスカお姉ちゃんの病室にやってきては、看護婦さんや先生をいつも困らせていた。私の病室にもよくやってきていた。

 

”よっ!!ほむら、相変わらず湿気た顔してんな。もっとぱぁ~~っと弾けたらどうだよ”

 

来るたびに私を湿気た花火と言わんばかりに笑うハンサム顔は何時見てもムッとしてしまう。アスカお姉ちゃんよりもずっと濃い蒼い目はいつも私達を優しく見ていた。

 

外出許可が出たときは、三人で避暑地に行ったりと見滝原でまどか達と過ごした頃と特色の無い楽しさがあった。

 

だけど、それもまた理不尽な”死”という形で楽しさは悲しい過去へと変わっていった。

 

”000号室の患者が急変だ!!!”

 

”先生を呼びなさい!!!!急いで!!!”

 

穏やかな朝だったのに、目覚めと共に私は異様な喧騒の中にいた。何があったのかすら分からなかった。分かっているのは、隣に居たアスカお姉ちゃんが私の傍から居なくなってしまったという事だけだった。

 

ジンお兄ちゃんが必死だったのは憶えている。ただ、どんなに想いを叫んでも神様はそれを聞き入れてくれなかった。ただ残酷に私達の手の届かない世界へお姉ちゃんを連れて行ったのだ。

 

最後に見たのは、地下の薄暗い階の奥の部屋で白い布を被せられたお姉ちゃんだったもの。

 

それからの私は、いつか自分も得体の知れない何かに見知らぬ場所へ連れて行かれるのが恐ろしくなった。

 

卑屈になった心は、私を長い間蝕んでいた。楽しかった、輝かしい思い出も過ぎてしまえば、何も感じられないただの記録と成り果ててしまった事に、私は絶望を感じた。

 

お兄ちゃんは、時々私の所に来てくれたけれど中学を卒業して高校入学と同時に地方へと引っ越してしまった。

 

時折連絡を入れてくれたけど、私はそれを返すことは無かった。彼と関わることで彼女の事を思い出し、自分が傷つくのが嫌だったからだ。

 

そうだ、私は”アスカ姉ちゃんの死”が怖くて、認められなくて、逃げ出したのだ。だからこそ、大好きなお兄ちゃんの言葉にも耳を貸さなかったし、酷いことに無視までしてしまった。

 

そして見滝原に転校して行き、まどかと私は出会った。

 

私は”魔法”と出会い、この身体を人間のモノとは違うものへと変え、いくつモノ迷走を繰り返し、今に至るのだ。

 

幼い頃、死人は決して帰らないことを私は知り、二度目の大切な友達 まどかを亡くした時、あの白い悪魔の甘い言葉に縋ってしまった。

 

”死者は戻らない”それを幼く不出来な暁美ほむらは分かっていた。だからこそ、”契約”を交わしてしまったのだ。

 

今、現在の状況は今にして思えば、私は”お姉ちゃん”の死を引きずっていて、それを解決させることなく怠惰に過ごしてきたつけだったかもしれない。

 

”二度目の大切な人”を亡くしてしまった事実に何も見えなくなり、インキュベーターと契約してしまった。

 

他の魔法少女同様、自分の過剰な願いが自分自身を裏切るかもしれないのに………

 

なぜ、あの時鹿目さんを生き返らせてと願わなかったの?と問われたこともあった、私は真っ先に応えた。

 

”死者は絶対に帰ってこない”

 

例え、インキュベーターに願ったとしても、完全には叶えられないだろう。だからこそ、私は”やりなおし”を願ったのだ。

 

もし、願いでまどかを蘇生させてもそれは、まどかではない、”何か”だったのではと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暗い場所は本当に嫌なことが多すぎるわ。アスナロまでは……一晩掛ければ大丈夫ね」

 

自分の人生は人に話すようなものではない。卑屈な自分を追い立てるように絶望が、ほんの僅かな救いはあっという間に自分の元から去っていく。

 

これからいく先には、今まで以上に恐ろしい何かが待っているかもしれない。少しでもそこから逃れたいのか、ほむらは瞼を閉じ、意識を闇の中に沈ませていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の身体は眠っているが、意識だけがハッキリとしている。不思議な感覚だった……

 

まるで私の居る場所が世界から切り離されたようなそんな感じがするのだ。

 

私の向かい側に”そいつ”、”わたしではないわたし”が居た……

 

「ふふふふふふふ。そうよね、死んだ人は決して帰ってこない」

 

今まで覚えていなかったのが不快すら感じる。この”自分であって自分”でない存在は、バラゴ以上に嫌悪を感じる。

 

以前、動物ドキュメントで言っていたが、生き物は同じ生き物を自分のテリトリーに寄せ付けないと・・・・・・

 

「……アナタとは、少し前に会ったけれど、今度は何なの?バラゴと私の事でまた何か言いたいの?」

 

二度と出てこないといったくせにと…やっかみなら喜んで受けてやるわ。癪だけれど、私には複雑だが、それなりに頼りになる”二人”が居る。

 

貴女にはいない……どうせ、貴女は今も昔も一人だったんでしょう。

 

「少しばかり、アナタとは話がしたかったのよ。それに気になることもあるしね……」

 

アメジストを思わせる淀んだ瞳は、見る人に不思議な気持ちにさせる。人々は、目というものには不思議な力が宿ると信じていたが、改めて目の前の”存在”をみる。

 

人には無い奇妙な魅力があり、彼女の仕草の一つ一つにどうしても注目してしまう。

 

「……気になること?」

 

「フフフフフ。今までの貴女だけど、まどかと一度も言葉を交わしていないけど、そういうのは良くないわよ」

 

「っ!!!貴女に……」

 

「事情が、事情だと言いたいの?あの危険な男をまどかと関わらせてはならない。そうよね……バラゴって、まどかの事を結構、目の仇にしているみたいだし……」

 

「そこまで分かっているの?だったら……何か言いたいわけ?」

 

まどかの件での自身の不甲斐なさもそうだが、それと同等に彼女が気安く”バラゴ”と呼ぶのが何故か気に入らなかった。漣が立つように私の感情が揺さぶられる。

 

「貴女と私に言えることだけれど、お互いに視野が狭すぎて色々と損な生き方をしているのよ。今にして思えば、もう少し視野が広ければって思うところがね…」

 

自嘲気味に笑っているが、それに対して後悔はしていないようだ。選んだのは、自分自身なのだから・・・

 

「暫くは、アスナロ市で色々と見てくるといいわ。それと……まどかとは、なるだけ早く話をしなさい。今のあの子は……」

 

「母さんそろそろ時間だよ」

 

次に現れたのは、自分の笑い顔を模した白い仮面を被った男装の少女だった。まさか、こいつはナルシストなのだろうか?それに母さんって………

 

少女と判断したのは、腕に奇妙なぬいぐるみを抱いているからだ。あのぬいぐるみは、何処かの時間軸で”ナイトメア”と呼ばれていることを私は知らない。

 

「メイ……もうそんな時間なの?」

 

「ええ、その人が夢から醒めようとしているんです」

 

その人とは無論、私のことだ。よく分からないが。夢であって夢でない、現実であって現実でない時間なのだろうか?

 

「うふふふ、分かったわ。じゃあね、暁美ほむら。気が向いたら、またお話をしましょう」

 

両手を”パンっ”と合わせたと同時に私に意識は弾けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 駅

 

「……ほむら。アスナロ市だ……行くぞ」

 

気がつけば、エルダが私を起こしてくれていた。見た目魔女を思わせる”まともな”女ではないが、最近はそうではないのではと思うようになっている。

 

この時間軸での”戦闘技術”を師事してくれているのだ。エルダはエルダで得たいが知れないが、バラゴ同様、私に気を使ってくれる事に私は気を許している。

 

「……その低落では、また不覚を取るぞ」

 

気だるさを感じながら、私はエルダを睨み返した。いつまでも”ホラー”に遅れを取る訳には行かない。私は……どうしても”あの光景”を変えなければならないのだから……

 

「その気概をしっかりと持っておけ。そして……これをここ、アスナロ市に居る間で憶えるんだ」

 

私にエルダが差し出したのは、タロットカードを思わせる”魔戒札”の束だった。こういったものを憶えて何になるのかと思ったが、まあ、何かの足しにはなるだろう……

 

普段の私なら必要が無いと切り捨てるかもしれないが、エルダは人物像がアレだが、師としては、私が今まで見た誰よりも優秀だった。

 

こんな私をたった数日程でホラーを倒せるぐらいにまで鍛えてくれたのだから………

 

「分かったわ……私にもアナタが覗いている物が見えるようになるのかしら?」

 

「……さあな。前にも言っただろう。例え見えたとしても都合の悪い物であれば、己自身が愚かさを認めなければ……」

 

結局、未来は変わらない。そして、それを後悔した時にはもう、手遅れなのだ。

 

私達はここでの拠点となる”ホテル”に向かうべく駅を後にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ、アスナロ市で私は思い知ることになる。憶えてはいない誰かが、私自身の視野は狭く、色々と損な生き方をしていると………

 

そうだ。別に珍しいことではなかったのだ。見滝原で行われていた絶望と希望の物語は……ここアスナロ市でも繰り広げられたことを………

 

出会わなければ良かったと……もし、出会わなければ、こんな想いを感じなくても良かったのにと……

 

でも、私は出会った……アスナロ市の中心人物である12人目のミチルと………そして、懐かしいお兄ちゃんとも再会することを私は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続  「劇場版 呀 暗黒騎士異聞 壱」

 




あとがき




一応というか、ほむらの”まどかとの出会いをやり直したい”の真意を考察する。

これに関しては、ほむら本人から聞かなければ分からないことですが、私としましては神様でも悪魔でも絶対に出来ないと思うことの中に”死者の復活”と言うものがあります。

古今東西、死者に未練があり呼び戻そうとアレコレ行った結果、その人物と違う何かになったり、酷い場合、復活までの間が我慢できなくて、蘇生途上の腐敗した姿を見てしまい、拒絶し、”死”を齎す恐ろしいモノになったりと…

この作品の勝手な設定ではありますが、ほむらはまどかと出会う前に姉と慕う人物が居り、彼女の死を認められず、ずっと逃げ続け、二人目の大切な人であるまどかを亡くし、勢いに任せて契約をしてしまったという具合にしています。ほむらは、死人が甦ることはない、帰って来る事はないことを経験で分かってしまったのです。

例外も無くはないんですが、”死人の復活”は、例え、キュウベえでも出来ないのではと思います。それなりの因果が在っても、それが元通りの本人として生き返るということは……まず無いだろうという夢の無いNAVAHOの意見でした。

仮に生き返らせても、それはその人が思う都合の良い”何か”であり、その人そのものではないと思います。事実、他者というのは、長年一緒に居る夫婦でも時々、よく分からないこともあるそうなので、そういうところがあるからこそ、その人本人なのではと考えています。




キャラ紹介

ジン シンロン

この劇場版でのゲストキャラ。元々はかつて、私がエヴァで描いていたシンジ君を助ける仲間キャラとして設定していました。

丸分かりのアスカの元ネタのお相手であったりもします。日独中の混血児なので、瞳が蒼く、体型もそれなりに良かったりします。

こちらでは、入院中のほむらの兄貴分だったのですが、数年間やり取りがありませんでした。時折、ほむらの両親に近況を尋ねたりと気にしていたりしました。

彼の癖に”ちょっと借りる”と言って、人様から勝手にモノを拝借するという悪癖があったりします。

ほむらの武器の拝借のルーツは、この男の存在があったり(笑)ほむらの記録に成り果ててしまった思い出の中の彼は、今も健在だったり(汗)

何気に病院の掲示板の”探し人のチラシ”を少し拝借しています。







霧島 アスカ ツエッペリン

このSSにおけるオリジナル設定であり、元ネタは分かる人には分かりますよね(笑)

ほむらと同じ病状で入院生活を送っていた少女であり、日独の混血児だったりします(元ネタを参照)

性格は勝気で、ハッキリとモノをずばり言ってしまう子で割とキツイ性格に見えて、世話好きな一面を持った心優しい子です。

ほむらよりもかなり前に入院生活を送っていて、お隣さんという事で交流がありました。ほむらも彼女にはかなり懐いていて、姉のように思っていました。

容態の急変により、亡くなってしまい、このことがほむらの人生に大きな影響を与えてしまいました。
















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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 壱

かなり間が空いてしまいましたが、呀の特別編の続きができましたので投稿します。

ほむらとバラゴがアスナロ市に現れた 使徒ホラー バグギを倒すために向かいます。

見滝原で起こっている事態と並行して進めていきます。

かずみマギカとのコラボになりますが、時系列はかずみマギカ本編の前です。

今回もオリキャラも居り、特別編の敵役も登場します。




 

 

 

アスナロ市

 

 見滝原より離れた場所にある地方都市であり、元々は海外より移住してきた異国の人達が多く住まう町であったがここ最近は国際化の波もあり目まぐるしく発展している。

 

その発展を象徴するのが様々な企業によるその技術や新製品を発表するイベントが近日中に開催されることになっている。

 

最新のAI技術を中心とした、最新鋭のロボット工学などを全面的に押し出すイベントであり、介護用はもちろんのこと人に代わって危険な作業を請け負う機種までもがラインナップに組み込まれている。

 

会場は、アスナロ第三ドームであり、ここはアスナロ市の中でも一際巨大な施設であり商業施設はもちろんのことながら遊園地なども施設がある最大の行楽しせつである。

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 東北 京極神社 

 

高層ビルが立ち並ぶアスナロ市のはずれにあるこの神社の周辺は発展の波から取り残されたのか畑などがあり、古い民家が立ち並び地域に京極神社は建っていた。

 

京極神社 由緒正しき神社と言われ、その歴史は二百年以上前の明治維新の後に建立され、維新、幕府等の派閥を問わずにその犠牲者を弔っている。

 

アスナロ市は地方都市でがあるが、都市群は首都東京に匹敵するほどの規模を誇り、ドームやタワー等の巨大建築物が立ち並ぶ程の発展を遂げている。

 

都市の外部に位置する京極神社は二百年以上前からその周りをあまり変化させず、少し前の昭和の風景を見ることができる。

 

この神社の神主 京極 カラスキは、眼前にあるアスナロ市を見ていた。決して眠ることのない大都市を眼下に彼は少し疲れたような視線を向けていた。

 

神主こと京極 カラスキは若く年齢は十代後半であり、高校を卒業後そのままこの神社の神主に就いていた。

 

彼の要望は垂れ目であり、髪はくせっけが強く、さらには天然パーマが部分的なのか毛先がカール状になっており、いつもは神社に訪れる人たちに人懐っこい笑みを浮かべているのだが、この時ばかりは物憂げな表情を浮かべていたのだった。

 

「……何処を見ても人の陰我は業が深いったらありゃしない。少し前に妙なことを誰かがやらかしたのか、嫌に痺れるモノが出たね~~~」

 

肩で杓杖を鳴らしながら、カラスキは眼下の大都市へと進んでいった。遥か眼下にある大都市へ向かう石段は何時にも増して冷たく、夜風の寒さは肌を刺激する。

 

「さてと……番犬所の依頼だと、風雲騎士が担当している暗黒騎士がこっちに来るかもしれないか・・・そういえば、見滝原に飛んでったジンの妹分のほむらちゃんが行方不明になっているんだよな」

 

 数年の付き合いの友人が何時にも増して慌てて見滝原に飛び出していったのを思い出し、彼の妹分が何事もなく親元に帰る事を心の内で祈るのだった。実を言えば友人の妹分である 暁美ほむらとは何度か会っているが、姉であるアスカにベッタリしていたことと兄である人に少しだけ嫉妬しながらも幸せそうにしていたことだけはよく覚えていた。

 

一般人である彼らとは少し距離を置いていたので、それほど親しいわけでもなかった。言うまでもなく、この京極神社は”闇の世界”に関わる場所であり、魔戒騎士、法師を統括する番犬所、その上位組織である元老院の下請けであり人の世に蔓延る様々な”呪い”、”陰我”を回収し、速やかに封印を施す役目を負っている。

 

さらには、ホラーの居場所やその情報を魔戒騎士らに提供を行うなどのサポートに徹している。

 

カラスキ自身はさすがにホラー等と戦えるほどの戦力を持たず、情報の提供、さらには陰我を持ちかねないモノの回収と保管を生業としている。

 

今夜も自殺した”女性”の遺品の中にある”やばいもの”を警察より引き取りに行かなくてはならないのだ。

 

カラスキは”見かけたら絶対に連絡しろよ!!!それじゃ!!!”といつものように勝手気ままに厄介ごとを押し付ける友人が渡した 探し人のチラシに目をやった。

 

 

 

        ”探し人  暁美ほむら ”

 

 

 

「神社の神主にどうしろというんだ・・・・・・全く・・・・・・おいらは超能力者でもなんでもないんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

”ワルプルギスの夜”

 

魔法少女たちに伝わる最大級の脅威を誇る魔女。その正体とルーツは不明であり、分かっているのはその強さは一つの文明を崩壊させる程であるということ。

 

魔法少女達は、個々に動いているため連携を行うことは滅多にないが、時折、他の魔法少女の噂がワルプルギスの夜のように伝わることがある。

 

この時間軸では、ある魔法少女の噂が魔法少女達を騒がせていた。

 

”魔女のように結界を張り、魔法少女を襲う魔法少女が居る”

 

 

 

      呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 壱                 

 

 

 

 

数日前 アスナロ市 繁華街

 

二人の魔法少女はいつものように魔女狩りの為に魔女の結界の中に入ったのだが、

 

「な、何なのよ?この結界は!?!どうして違う魔女がこんなに居るのよ!!?!」

 

通常の魔女結界ならば、使い魔達が闊歩しているのが普通であるのだが……この結果居はどういうわけか……

 

”ぬいぐるみの魔女”、薔薇の魔女”、”甲冑の魔女”等、複数の魔女が大量に存在し、それぞれの使い魔達までもが結界の至る所に居るのだ。

 

「わ、分からないわ。も、もしかして、複数の魔女が集まったって言うワルプルギスの夜の結界だとでも言うの?」

 

パートナーである魔法少女も訳が分からないという顔をしていた。魔女同士の潰しあいはごく稀にあるが、魔女達は潰しあうことなく自分達を攻撃している。

 

一度は逃げようともしたが、どういうわけか入り口はなく自分達の行く先々に魔女、使い魔が現れる。

 

最悪の可能性である”ワルプルギスの夜”は複数の魔女の集合体である噂もまた存在している。だが、

 

「違うよ。ワルプルギスの夜は結界を必要としないんだ。確かに複数の魔女の集合体ではあるんだけどね」

 

二人の魔法少女の前に彼女達にとっては、顔なじみのマスコットキュウベえが現れた。

 

「じゃあ、どうして他の魔女や違う使い魔達がごっちゃになっているのよ?」

 

「それは、彼女の結界の特徴だよ。なんていうか、僕には良く分からないけど人間は何かをやたらと集めたがるんだよね。コレクションと言ってね」

 

キュウベえは小首を傾けながら、懐かしそうに結界を見渡していた。

 

「キャハハハハハハ!!!!!ごきげんよう!!!!麻須美 巴でぇ~す!!!」

 

キュウベえに応えたのか、分からないが二人の魔法少女の前にアイドルがコンサートに現れるように派手な音楽とさらには様々な演出と共にわざとらしくポーズをとる 魔法少女 麻須美 巴が現れた。

 

「あれ?君ってそんなキャラだったけ?」

 

「インキュベーター、すっごく懐かしいじゃないの?もう五年以上は経ってるわよね」

 

キュウベえに視線を合わせるようにして麻須美 巴は笑みを浮かべる。いつものように無表情なキュウベえことインキュベーターが笑みで応えることはない。

 

「まあ、そんなところだね。それにしても君は相変わらずだ。また、こんなに魔女を取りこんで……君はワルプルギスの夜にでもなるつもりかい?」

 

「別に……ただ私自身の楽しみと食事も兼ねての活動よ。まぁ、ここには私の”魔女プラント”もあるから、グリーフシードには困らないんだけどね~~~」

 

両手を大きく掲げると同時に大量のグリーフシードが結界か降り注いできた。

 

「ちょっと!!!なんで、こんなに大量のグリーフシードが!?!」

 

「拙いわ!!!ここは、大量の魔女と使い魔がいる!!!!そこにグリーフシードなんかばら撒かれたら!!!!」

 

予想通りグリーフシードが結界に蔓延する瘴気に当てられ一斉に還り始めたのだ。急いで引き上げなければとこの場から飛び上がるが…

 

「せっかく着たのに、もう帰るの?私と遊びましょうよ♪」

 

彼女の衣装は、見滝原を縄張りとする魔法少女に酷似しているが、麻須美 巴のオレンジを基調とし衣装はさらに派手にしており、色鮮やかな装飾品が身につけられている。

 

勢いよく駆け出し、右腕が魔力により硬質な刃に変化しそれを振りかざすことにより相手の魔法少女の首を刎ねたのだ。

 

「よくもっ!!!」

 

仲間を殺された怒りから、彼女は剣を突き立てて攻撃を行うものの麻須美 巴は平然と右腕の刃で受け止め、金属音を鳴らしながら

 

「も~~~う、最近の子はどうしてこうも手が早いんですの~~~~」

 

麻須美 巴は口調とは裏腹に恐ろしく獰猛な笑みを浮かべ、

 

「そんな子は、バラバラにしちゃおうかしら♪」

 

真須美 巴の影が立ち上がり、もう一人の彼女が現れ、後ろに回り込んだのだ。

 

「なっ!?!……」

 

驚くものの二人の真須美 巴は左右対称の動きで少女を仕留めた。

 

モノ言わぬ肉塊となった二人分の遺体より彼女は迷うことなくソウルジェムを取り出し、自身のソウルジェムと重ねた。

 

真須美 巴のソウルジェムは他の魔法少女とはかなり異なっていた、通常のソウルジェムは卵を思わせる形をしているのだが、彼女のそれは一応はソウルジェムの形を保っているが頭頂部が開くというギミックがあり、その奥にはオレンジを思わせる色をした赤い球体が波打つように輝いていた。

 

「キャハ♪」

 

倒した魔法少女のソウルジェムをかみ砕き、そこに詰まっているモノを取り込むことにより真須美 巴は言いようのない高揚感に浸っていた。

 

「ァハハハハハ・・・・・・いいわぁ、やっぱり育ち切った魔女よりも、魔法少女の方が穢れが無くて本当に食べ心地が最高よ・・・・・・」

 

続けてもう一つソウルジェムを食す。彼女は、魔法少女でありながら魔法少女を喰らう存在である・・・・・・

 

「やれやれ…ホラー食いのホラーが居るのなら、魔法少女を喰らう魔法少女が居てもおかしくはないか」

 

キュウベえの赤い瞳は彼女の歪な輝きを放つソウルジェムを見つめていた……

 

「ホラーね・・・・・・あの魔女とは違う存在でしょ。アレはアレでそこそこ話が通じるから割と便利よ」

 

「まさか、君はホラーとも結託していたのかい?」

 

驚くインキュベーターに対して、真須美 巴は

 

「感情のない癖に驚く真似はよしなさいよ。私はね、利用できるものは何でも利用するわ、奪う側に回れるのならね」

 

「やれやれ、ホラーと結託するというか利用する狡猾さをもつのは君ぐらいだろうね、ホラーに憑依されないように気を付けたほうが良いよ」

 

インキュベーター事 キュウベえから見ても真須美 巴は異常の事この上ない。今まで多くの魔法少女と契約してきたがこのような存在は長い魔法少女の歴史から見ても他に例はないであろう。

 

仮にホラーと、いやホラーと既に接触済みでホラーと利害関係が一致すれば嬉々として協力をしたことも想像は容易であった。

 

「キャハハ♪インキュベーター、私はね、自分が常に奪う側で居たいのよ。だからね、自分が奪われることは耐えられないし、私を奪おうというのなら何だろうと容赦はしない」

 

「おっと、僕もある意味、君から何かを奪った立場になるのかな?」

 

「そこは大丈夫ですよ。私が奪う側に回ると決めたのは魔法少女になってそれなりに時間が経ってのことだから、あなたは例外にしておくわ」

 

感情はないはずであるが、妙に薄ら寒いモノを感じさせる存在である 真須美 巴。かつては蓬莱 暁美の仲間であったが、この真須美 巴は放置しておくと何をしでかすかわからないため、目に届く場所に居てもらった方がよいという理由で組織に誘われた経緯がある。

 

 

結界を閉じるべく自身のソウルジェムをかざすと同時に結界内に居た様々な魔女がソウルジェムに飲み込まれ、捕食されていく。

 

その光景にキュウベえもわずかながら戸惑いを隠せなかった。

 

「き、きみは随分と食べるんだね・・・・・・少し食べすぎじゃないかい」

 

結界を閉じたのではなく食べたのだ。そこに居た魔女、使い魔ともども・・・・・・

 

「う~~ん。私は割と食べる方だし。、それに魔法少女って太らないから食べ放題なのよ」

 

”そういう風に作ったのはあなたじゃないの”と言わんばかりの笑みを浮かべて・・・

 

「せっかくだからデザートも探さないと♪」

 

まさか自分が食われるのではないかと一瞬ではあるが冷や汗をかいたキュウベえだが、彼女のデザートは視線が物語っていた。

 

通りを行きかう一人の男性に熱い視線を向けた居たのだから・・・・・・

 

 

 

 

その後、アスナロ市で魔法少女ではない一般人を”食”していたところに不意を突かれて、アスナロ市を拠点とする魔法少女の集団「プレイアデス聖団」によって捕らえられ、拷問にかけられ見るも無残なダルマにされていたのだが・・・・・・

 

           ”BAGUGI”

 

 

このメッセージに応えると同時に真須美 巴はそこから逃げ出した。そこに保管されていた大量のソウルジェムを持って・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふ~~ん♪今日は、どういう風に着飾っちゃおうかな♪」

 

思わず鼻歌を歌うほどであった。つい先ほどまで達磨同然に四肢を切られていた筈なのだが傷は完全に癒えていた。

 

彼女が現在いる所はアスナロ市の高級住宅街のある豪邸であり、その一室で大量に積まれている衣装一つ一つに袖を通している。

 

「この帽子可愛いわ、このバックも♪。やだわ、また子供っぽい趣味が出ているわ。あの後輩たちに舐められたのもこの容姿のせいかしら?」

 

丸い楕円形の姿見に写る自身の姿を彼女は上機嫌に眺めた。彼女は自身を子供のような趣味と言っているが、彼女の容姿は14歳のそれであるが年齢以上に大人びていた。

 

まるでアイドルのような愛くるしい貌であるが、大人の女を思わせる肢体と何処か気怠そうにしている雰囲気が非常に妖しく彼女を魅せていた。

 

鮮やかな黒髪を靡かせながらまた衣装に手を伸ばしていく。その時、不意に開け放たれた部屋の扉の前に大柄なトレンチコートと帽子を目深にかぶった大柄の人影がいた。

 

「あら、バグギ?もしかして、お仕事?」

 

目深にかぶった帽子と極端に建てられた襟の間に一対の赤い光が灯った。

 

「そういうことなの?ホラーもこうやって話すと結構話が分かってくれるのよね」

 

気軽に話しかける真須美 巴であるが実際のところはこの使徒ホラーである バグギに対して全面的な信頼はしておらず内心、どう付き合うべきか測りかねていた。

 

当然、ホラーであるのだから善意で助けたなどという輩が居たら真正の阿呆であろう。自身をプレイアデスから助けたのは何らかの利用価値があるからであろう。

 

「♪なるほど、アナタ達、使徒ホラーは、ホラー食いのホラー。アスナロ市に何か大物が来るのですね」

 

真須美 巴は大柄のトレンチコートの人物の腕に自らの豊満な胸を色白の長い腕を絡ませて妖しく微笑んだ。

 

『そうだ……あの黄金騎士を葬った暗黒魔戒騎士、そして……メシアが気に掛けている呀が如何なる物か……楽しみではないか』

 

バグギと名乗る使徒ホラーの声は、機械のそれを合成したような物であった。

 

「私も楽しみだわ。貴方の話だと、その暗黒騎士が魔法少女を連れているって……」

 

『あぁ……つい先ほど、このアスナロ市に入った。これは、数十分前の映像だ』

 

アスナロ市 中央駅より人ごみと共に都市へと足を踏み入れる 見滝原の魔法少女 暁美ほむらと暗黒魔戒導師 エルダ、見滝原の駅より、アスナロ市へ向かうバラゴの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがアスナロ市・・・・・・思っていたよりもずっと大きい都市ね」

 

アスナロ市の中央にある巨大なターミナル駅より降り立ったほむらは早朝ならでは通勤ラッシュに感心していた。

 

見滝原もそれなりに大きな都市であるが、アスナロ市のターミナルの規模はそれを凌駕しており商業施設もそうだが、国際便空港用のラインも引かれている。ここ最近の海外資本の参入が激しく、様々な企業のビルが乱立している。目的の為、ほとんどを見滝原からあまり出たことのないほむらは珍しく自身の気分が高揚しているのを感じていた。

 

「何を浮かれている。我々はバラゴ様を迎えなければならない、早く拠点へ移動するぞ」

 

やはりここでいつものように厳しい言葉をかけてくるのはエルダである。普段の魔戒導師の衣装ではなく、西洋の喪服を着ている。ほむらもまたゴシックな喪服を身に着けており、彼女たちのことを周りの人間は遠方から身内の不幸に駆けつけたのだろうと考えていた。

 

「分かっているわよ。アイツが何を考えているかは分からないけど・・・・・・」

 

 エルダは、バラゴに長く仕えていた為、その思惑を粗方把握していた。自身の心を慰撫させる存在である彼女を見滝原とは別の場所に連れ出したかったのだ。ここ最近は、ほむらは最初の頃のように露骨な嫌悪感を表に出すことはなくなっており、偶にバラゴとお茶をすることがある。最も一方的にバラゴが話しかけており、ほむらはそれに応えるといったものである。最近は練習もかねてアップルパイをほむらが作り、それをバラゴが頂くという光景になっている。

 

「お前はそれで構わない。バラゴ様がお前に望む役割は私とは違うのだからな」

 

無表情なエルダの言葉は、ほむらにとってはいつものことである。

 

このエルダとの付き合いは、長くはないのだが彼女は自身を気遣っていることを察しているがこの無表情さと冷たい言いようはどうにかならにかならないだろうかと思わなくもない。

 

だが、”人の振り見て”という言葉があるように、エルダの振舞は自身のこれまでの”時間軸”の振舞そのままではないだろうかと時折思うことがある。

 

事実、エルダは未来を占い、その先を覗くことができる”魔戒導師”であったが、とある”最悪な未来”を見たが、それを間違いの未来として認めず、その果てに”最悪な未来”を受け入れなかった自身の愚かさに絶望し、その果てにバラゴの下僕として今に至っている。

 

バラゴに対して、同族嫌悪に近い感情を持っているがエルダに対しては奇妙なシンパシーを感じていた。

 

「それもそうだが、お前には何が見える?」

 

つい先ほど手渡された”魔戒札”についてだった。タロットカードに似た模様が描かれており、かつて敵対した白い魔法少女が使っていた・・・・・・

 

手元にある魔戒札に意識をやり、直感的に脳裏に現れるイメージを見る。

 

”歪な形をした二つのソウルジェム”

 

「・・・・・・・・・」

 

このイメージは何なのだろうか?奇怪な形をしたソウルジェム二つ。

 

そして自身が手にしたカードは・・・・・・

 

「それは”死”を意味する。終わりにしなければ、始めることが叶わぬようだな・・・・・・」

 

妙に心当たりのある内容だ。結局のところ、自分はここでも変わることがなく、繰り返すだけなのだろうか?

 

「お前の事ではない、ほむら・・・・・・ここで誰かが終わることのない何かを繰り返しているようだ」

 

「そう・・・・・・同じ時間を繰り返している魔法少女が”キリ”と私以外に存在するのかしら?」

 

”キリ”・・・・・・かつての時間軸でまどかと同じぐらい、いえ、もしかしたら他の誰よりも仲間を感じていた魔法少女。

 

”君もいつも同じ時間を繰り返しているのかい?私もそうなんだ、いつも同じ14歳を・・・・・・”

 

この時間軸でもいるのではと探したのだが、彼女は見滝原に居なかった。もしかしたら、ここアスナロ市にいるのかもしれない。

 

”どこかの時間で私たちは出会うと思う。でも君は私が隣にいても気が付かないかもしれない”

 

あの時間軸以来、彼女とは会っていない。”キリ”と私は呼んでいるが、彼女の姿は” キリカ”そのものであり、あの時はキリカの姿を借りていただけだった。

 

(今更何を感傷的になっているのかしら?ワルプルギスの夜を倒す・・・・・・だけどまどかは未だに魔法少女になっていない。私が現れない方が彼女にとって幸せかもしれない・・・・・・)

 

一抹の寂しさを感じ、ほむらはこの時間軸における異質さに不安を覚えていた。

 

魔女以外に人々に災いを齎す 魔獣 ホラー。さらにはそのホラーを糧にする 暗黒魔戒騎士 呀の存在。

 

そして、魔法少女の契約をまどかへ持ちかけないインキュベーターと来ているのだ。

 

これまでのインキュベーターは、まどかの破格の素質から得られる”エネルギー”を搾取しようとあの手この手と動いていたのだが、今回はあまりにも消極的なのだ。

 

インキュベーターも油断してはいけないが、インキュベーターが危険視するまどかの身に何かとんでもないことが起こっているのではないだろうか?

 

いつにもまして思考に囚われていたが、不意にあの”魔戒札”により得たイメージが脳裏をよぎった。

 

閃きにも似た感覚であり、その感覚に導かれるままほむらは足を進めた。

 

エルダは追わずに彼女の後姿に僅かながら喜色の笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・・それでいい。魔法少女としてはともかく、お前は魔戒の者としてならば私をも遥かにしのぐ素質を持っているではないか」

 

ここ最近、自身の教えをモノにしていく彼女に対してエルダは久しく満足していた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・そこまでして私を殺したいの」

 

人気のないビル街の一角で少女は、自身を追ってくる彼女達に対して声を上げた。

 

目の前に現れたのはモノクル(片眼鏡)を掛けた乗馬服を思わせる男装の麗人を思わせる装いの魔法少女 浅海 サキ。

 

対する少女の姿は浮浪者そのものであり、その目には生気がなくただ絶望の色だけが色濃く存在していた。

 

「・・・・・・あなたはとても危険すぎる。辛いけど分かって、ミチル」

 

「違うっ!?!私はお前たちのミチルじゃない!!!!」

 

声を上げる少女 ミチル?はハッキリとした拒絶の意思を示す。

 

「でもね・・・あなたは存在するだけで、周りが危険に冒されてしまう」

 

「私を勝手に生み出して、危険だから処分する?そんなこと分かるもんか!!!」

 

ミチル?は怒りの赴くままに腕を振り上げる腕は獣の腕を思わせるそれに変化し彼女へ振り下ろそうとするが、

 

「ボクのサキに何をするんだ!!!!この偽物!!!!!」

 

この場に似つかわしくないテディベアの大群がその行く手を阻むと同時に巨大なステッキを魔法によって出現させて勢いよく振りかざし、ミチル?を弾き飛ばした ピンク色の髪と可愛らしいフリルの衣装の小柄な少女

若葉 みらいはその外見とは似つかわしくない声を上げていた。

 

コンクリートの壁に叩きつけられたミチル?は背中に激しい痛みを感じる。自身の戦力はこの二人の足元にも及ばない。そういう風に生み出されたのだから当然かもしれない・・・・・・

 

だけど、このまま何もわからずに死んでいくのだけは嫌だった。

 

「貴女たちがアスナロ市の魔法少女ね」

 

聞きなれない声と目の前から聞こえてきた。ふと顔を上げると黒い髪を靡かせた見知らぬ魔法少女が立っていたのだ。

 

驚くミチルだったが、二人の魔法少女らも突如として現れた魔法少女 暁美 ほむらに対して同じだった。

 

「だ、だれ!?!」

 

「どこから現れた!?!」

 

自分らに察知されずに現れたほむらは、未知の存在である。これを警戒せずには居られなかった。

 

「何処からでも良いじゃない。私はこの子に用があって来たの」

 

一見するとほむらは、怪我をした少女を助ける”正義の味方”に見えなくもなかったが、実際のところは”このミチル?”が自身の”魔戒札”による占いにより見えたことと僅かながら”陰我”を発していたことに興味を持ったからである。

 

(打算的な考えね・・・・・・本当に私は・・・・・・純粋に助けたいじゃなくて、この子には私を飛躍させるのに役立たせることができるから、助けるなんてね)

 

元々自分が正義という物とは程遠いとは考えていたが、これでは益々悪役染みているではと自嘲するほむらであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これは面白いことになって来たわね・・・・・・」

 

その光景を第三者が見ていたことに”プレイアデス聖団”と”暁美ほむら”は知る由もなかった・・・・・・

 

    真須美 巴

 

彼女は新しい玩具を貰った子供のように笑っていた・・・・・・

 

 

 

 

 

続  「 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 弐」

 

 

 

 




あとがき

こちらもやってみたかった特別編。アスナロ市でのほむらとバラゴの活躍。

今回の敵は使徒ホラー バグギ。特別編ということもあり、劇場版 GARO RED REQUIEMを意識して、使徒ホラーに出ていただきました。

物語は、かずみマギカ本編が始まる前です。

当時のアスナロ市はキュウベえが認識できないようになっていますが、この作品のキュウベえは何故か、真須美 巴には認識されています。



キャラ紹介

真須美 巴

イメージカラー オレンジ

人物像

元 蓬莱暁美と共に”メビウスの目”の所属していた魔法少女であり最高幹部だった。

容姿はアイドルのような愛くるしい顔と少女らしからぬ抜群のスタイルを持つ。

何処となくけだるそうな表情は、見る者の劣情を誘います(笑)

性格は、異常なまでな冷酷さと残忍さを持ち、”常に奪う側に回る”という信念で動いており、他者の存在は自身の糧であるとし、犠牲にすることに戸惑いはない。

幹部ではあったが、自己中心的な性格で周りとの協調がなく、蓬莱暁美を持っても放っておくと何をするか分からない存在であり、自身の利益の為ならば裏切ることも辞さない。

魔女と同じく結界を張ることができるが、これはほぼ使い捨てであり解除すると中に居る存在までもが消滅してしまう。

近接攻撃を得意とするのは、奪うことをより実感するためである。

彼女の恐ろしいところは、魔女、魔法少女を”食す”ことであり、さらには人間すらもその対象であり、性行為と食事を同時に行い、その快楽を楽しみ、相手の命を奪うことに喜びを感じる最悪の魔法少女である。

特別編における 脅威である 使徒ホラーと利害関係で結託しています。

過去の彼女は「外道魔法少女 蓬莱暁美★マギカ」の第二回にでています。

やっていることは特別編とかわりません。

元ネタは 巴 マミですが、マミとは正反対のキャラクターです。

余談
一応は、プレイアデスの魔法少女狩りの被害者になるのですが、この女が被害者面したところで自業自得と切り捨ててしまって結構です。



京極 カラスキ

アスナロ市にある京極神社の神主であり年齢は19歳であり、ほむらの兄貴分である ジン・シンロンとは中学の頃からの馴染みであり、当然のことながらほむらとその姉であるアスカの事も知っている。
偶にジンと一緒にキャンプの手伝いやイベントでアスカらにこき使われていた(笑)
ほむらとは、そこまで親しいわけではなくジンの友人のうちの一人として、ほむらの記憶に薄い人物。
魔戒騎士や魔戒法師らをサポートする下請けを行っており、曰くつきのものを回収、封印することを生業にしています。

こちらも元ネタは、エヴァの二次創作で書いていたシンジの仲間としてのキャラですが、あの作品のような力はなく、魔戒法師見習い以下の一般人よりは少しだけマシな力しかありません。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 弐

 
今回は、戦闘シーンを久々に描いたような気がします。

今更ですが、かずみマギカの舞台である”あすなろ市”が正しいのですが、ここでは敢えて”アスナロ市”と片仮名で表記しています。



 

 

 

プレイアデス聖団 

 

地方都市 アスナロ市を拠点とする7人の魔法少女によって構成されるチーム。

 

ギリシャ神話に登場する7人の姉妹 プレイアデスの名を冠している。

 

構成員は、御崎海香 牧カオル、宇佐木里美 神那ニコ 浅海サキ 若葉みらい そして・・・・・・

 

和紗ミチル・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 浅海 サキは突如として現れた魔法少女 暁美 ほむらに対して厳しい視線を向けていた。

 

「私たちの邪魔をするのなら、容赦しない」

 

「それならば何故、この子をそこまでして消そうとするのかを説明してもらいたいわ」

 

浅海 サキに対してほむらは、特に表情を崩すことなくこれまでの時間軸のようにポーカーフェイスで応えた。

 

内心、ほむらには、浅海 サキと若葉 みらいの二人にある考えがよぎっていた。

 

縄張りに入ってきた魔法少女に対して、魔法少女が行うことは徹底した排除か、話し合いの場を設けることの二択なのだが、この二人はどちらも選ぶつもりがない様に思えた。

 

脳裏によぎるのは忌々しい”魔法少女狩り”。同じ魔法少女を”殺す”ことで何らかの目的を果たそうとしていた存在が過去に廻った様々時間軸に存在していた。この二人にも過去の二人と似たというよりも確実に”魔法少女狩り”を行っているという確信がほむらにはあった。

 

兄の言葉を借りるのならば”そういう匂い”が二人からはするのだ。こういう発想をするのは、バラゴの暗黒騎士の姿が”狼”だからだろうか。

 

「説明する必要はない。お前はそいつを庇った時点で私達の敵だ」

 

初見攻撃と言わんばかりに乗馬用の鞭をほむらに対して振るうが、鈍い金属音と共に鞭が跳ね返った。

 

「なにっ!?魔法少女が銃を!?!」

 

サキは純粋に驚いていた。通常の魔法少女ならば、魔法による武器を生成し戦う。そして、武器を生成する大まかな時間も把握しており、自身の鞭による攻撃は確実に相手に届くはずだった・・・

 

「早撃ちは得意よ。言っておくけど私は目的の為なら、形振り構って居られないの」

 

ほむらの右手には拳銃が握られており、いつの間に出現させたのか分からなかった。いや、魔法で作ったのではなく元々持っていた銃を抜き出し、サキの攻撃に対応してみせたのだ。

 

魔法少女らしからぬ魔法少女 ほむらに対し、浅海 サキは危険と判断し、目配せで 若葉 みらいに手を貸すように指示する。テレパシーを使えばよいのだが、この目の前の魔法少女は得体が知れないため、テレパシーを使うことで手の内を相手に垂れ流してしまうことさえ考えられる。

 

二人は一斉に飛び出したと同時に若葉 みらいは自身の得意とする魔法 テディベアを大量に召喚し、ほむらを足止めしようと指示を出す。

 

対するほむらは、いつもであるならば”時間停止”を行うのだが、今回は戦闘ではあえて使わないことを選んでいた。

 

これは、この時間軸で戦闘面で指導してくれる”エルダ”より、”時間停止”は大きなアドバンテージだが、故にそれを崩された時の対処が甘いと指摘をされたからだ。

 

実際、バラゴと出会う前に蜘蛛の女 ホラーには時間停止を見破られて不覚をとっていた。

 

これを機に戦闘方法を改めて見直すべきではとほむら自身も必要性を感じ、時間停止を戦闘では、必要に迫られる以外は使わないことにしたのだ。

 

二人よりも高く飛ぶことでアドバンテージを得て、ここ最近の得物である弓を構えようとするが

 

「っ!?!っ」

 

サキの身体が一瞬であるが電気が弾けたように見えたと同時に魔法少女でもありえない速さで眼前に迫って来たのだ。手には自身の固有魔法を誇示するかのように電気の塊が走っており

 

(これで・・・・・・)

 

サキはこのまま距離を詰めて、自身の生命すらも操れる魔法を当てればよかったのだが・・・

 

鋭い金属音と共にほむらの袖から四本の異様に長い爪が飛び出してきたのだ。

 

勢いよく振るわれたその金属製の爪の威力を察して回避するのだが、いつのまにかほむらは真横に来ており、そのまま横っ面に肘を当てられたと同時にビルの壁に叩きつけられてしまった。

 

「サキっ!?!!」

 

仲間を傷つけられたことに怒りを覚えて、ほむらに視線を向けテディベアをけしかけるが・・・・・・

 

「私は早く用事を済ませたいから、ここで失礼するわ」

 

ある意味、数を揃えられる若葉 みらいを厄介であると判断し、サキが戦線に復帰する前にほむらはこの場から離れるべく、楯から閃光手榴弾を取り出し、それを爆発させた。

 

「キャっ!?!!」

 

視界に強烈な光が飛び込むと同時に爆発音が聴覚を奪い、若葉 みらいは困惑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この事態に頭の整理がつかないミチル?だったが、急に手を掴まれたと同時に彼女はほむらに手を引かれていた。

 

「あ、あの、あ、あなたは」

 

「自己紹介は後にしましょう。今はこの場から離れるわ」

 

戦闘での自身の力量の把握に満足し、この場から離れるためにほむらは”時間停止”を使い、モノクロとなった世界を走った。

 

先ほどの戦闘スタイルは”魔法少女狩り”をしていたあの白と黒の魔法少女に似ていることに自嘲しながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは何処に行った?」

 

「サキ・・・・・・目が・・・目が痛いよ」

 

地上に叩きつけられるように降り立ったサキは、すぐにほむらを探すがすでに彼女の姿はなく、さらにはミチルの姿もなかった。

 

「あいつ・・・・・・今度、見かけたらただじゃおかない」

 

サキは必ず次こそはこのような無様な姿をさらしてなるものかと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハハハ!!!!あんなにいきっておいて、新参者にコテンパンにされてるじゃないの。すっご~~~く、だっさぁあああい♪」

 

躍り出るように彼女 真須美 巴は現れたのだ。彼女の出現にサキとみらいは表情が引きつってしまった。

 

「えっ!?!サキ、あいつ。ボクたちがこの間、捕まえて・・・・・・」

 

「何故だ・・・・・・あそこから出てこられるはずがない・・・・・・」

 

あの拠点は厳重に結界を張ることと真須美 巴自身にも封印を施していたはずなのだ・・・・・・

 

「それは・・・そうよ・・・・・・ワタシにも助けてくれる”仲間”が居るんですもの。あぁ~~~、あなた達の無様な姿が見れて本当にお腹いっぱいだわ」

 

上機嫌に”仲間”という言葉を強調する 真須美 巴に対し、二人は警戒するのだが、その仲間はもしかしたら先ほど、自分達と戦ったあの”魔法少女”ではないかと考えた。

 

「私は帰るわ。見かけたら声をかけてちょう~~~だぁい♪」

 

今の二人は明らかに戦闘でダメージを負っているのに、自分たちの知る真須美 巴ならば容赦なく攻撃をしてくるだろう。だが、攻撃をするどころか隙を思いっきり見せ、さらには背中を向けて去っていったのだ。

 

「ふざけるな!!!私達なんていつでも倒せると言いたいのか!!!」

 

怒りの声を上げるサキに対し、みらいもまた不安を覚えていた。

 

あの真須美 巴に仲間が居たのだ。これは由々しき事態だった。すぐに他のメンバーにも知らせるべく二人はテレパシーを飛ばしたのだった。

 

そんな二人の様子は近くに設置されていた治安維持用のセキュリティカメラが無機質に覗いており、さらにその光景は真須美 巴の手元にあるスマートフォンに映し出されていた。

 

さらにはプレイアデス聖団のテレパシーを傍受し聞き耳を立てていたのだ。

 

「あらあら・・・・・・私、あの子が”仲間”だなんて一言も言ってないのにね~~~~」

 

バグギが狙う 暗黒魔戒騎士を捉えるには手駒は多い方がよい。あのプレイアデス聖団はきっと良い駒になる。

 

真須美 巴は邪悪に微笑む。その笑みは希望を齎す魔法少女のそれではなく、人々の邪心に付け込み、肉体と魂を喰らう魔獣 ホラーそのものだった・・・・・・

 

「バグギ・・・・・・面白いことになったわ。プレイアデスには動いてもらいましょう。私達の望みの為に」

 

LINEのアプリを起動させ、メッセージを送る。メッセージは直ぐに既読と表示された。

 

 

 

 

 

 

 エルダ、ほむらと遅れてバラゴがアスナロ市に足を踏み入れたのは正午を回った頃だった。

 

 彼がアスナロ市に足を踏み入れて奇妙な違和感を感じた。町全体が何かを拒絶するかのような結界が張られているように感じたのだ。

 

「これは・・・・・・魔戒法師でもホラーでもない。いや、だから惹かれたのか?使徒ホラー バグギ」

 

久しく感じていない闘争心が滾るのをバラゴは感じる。本来ならば、使徒ホラーは7つのエレメントに罠を張り、人間を喰らうという他のホラー以上に性質の悪い性質を持っており、その強さは魔戒騎士、魔戒法師らも幾人もの犠牲を出す程のものである。だが、アスナロ市に現れた バグギはエレメントに現れず、通常のホラーのように出現したのだ。今までにない使徒ホラーの出現に対して番犬所も警戒していたが、このバグギに惹かれるようにして暗黒騎士 呀もまたアスナロ市に現れた。

 

今までのホラーや魔女以上に手ごたえを感じさせる相手に対し、高揚感すら覚えていた。

 

二体の脅威に対し、番犬所も互いに潰し合って、疲弊したところを討伐するよう風雲騎士に指令がでたのだが、その風雲騎士は未だに指令を受理していなかった・・・・・・

 

市内の至る所に設置された治安維持用のセキュリティカメラがバラゴの姿を捉える。

 

様々な角度からバラゴをそれは、電子の海、電脳空間より見ていた。

 

「ようやく現れたか・・・暗黒魔戒騎士・・・・・・」

 

様々な映像があり、その中にはオープンカフェでティータイムと洒落こんでいる真須美 巴の姿があった。

 

「真須美 巴め。随分と楽しんでいるじゃないか、私の欲しいものをちゃんと用意してくれるのだろうな」

 

「私も楽しむとするか・・・・・・暗黒魔戒騎士とはいかなるものかをな・・・・・・」

 

電脳空間に潜んでいた バグギは意識をあるモノに転送した。それは赤い光を輝かせ、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   呀 暗黒騎士異聞  アスナロ市編 弐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は昼を回った頃、彼もまたアスナロ市にある大学の講義に出ていた。

 

彼は、ジン シンロン。先日まで見滝原で行方不明になった自らの妹分 ほむら探すべくアスナロ市から飛び出していたのだが、今日は重要な約束がある為、大学に来ていたのだ。

 

講義の内容は心理学でありテーマは”トラウマ”についてだった。

 

ジンが医師を目指すようになったのは、かつて自身が恋をした少女 アスカが心臓の病で亡くなったことがきっかけであり、さらには同じ病を患う妹分を治したいという願いがきっかけだった。

 

だが、姉と慕ったアスカが亡くなり、心に深い傷を負ってしまったほむらの手助けがしたいと願っても、姉との思い出があまりにも眩しくその思い出を共有した自身が彼女を傷つけてしまっていることに内心、ジンは不甲斐なさを感じているが、いつまでも不甲斐なさを感じるだけではなく、これを乗り越えなくてはならなかった。

 

だからこそ、こうやって勉強に明け暮れ、他の同期からの誘いも断っている。

 

身体の傷は時間がたてば治るが、心の傷は時間と共に広がり、いつまでも囚われる。

 

心に負った傷を治すことができるようになったら、世の中は今とは比べ物にならないくらいに”優しい世界”になっているだろう。

 

だが、人はそんなに”優しくはない”。これは自身の経験を持って知ったことである。

 

自身の生まれは日独中の混血児であり、日本人の血は流れているがドイツと中国のハーフである父親の血が濃く、見た目は西洋人のそれであり、アジア系の血もあり典型的なハーフ顔である。

 

青年になってからは自身の見た目に憧れを異性に抱かれているが、幼少の頃はこの容姿で差別されたこともあり、さらには今は亡き両親を周りの大人に侮辱されたこともあった。その時は、怒り暴れたことで”問題児”扱いされやが、自身を本当の”息子”のように扱ってくれる”暁美家”の人達には”怒って当然”、”殴られても文句の言えないことをした”と肯定してくれたのだ。

 

だからこそ、自分は”暁美家”に恩を返したいし、妹分である”ほむら”を助けたかった。

 

今回は行方不明と来ていて、自身の考えの及ばない事態に巻き込まれていることに無力感を募らせる。

 

「まるでXファイルだな・・・・・・オレはモルダー派なんだが、今はスカリーに鞍替えしたいぜ」

 

少し前に新シリーズがリリースされているあの”都市伝説 海外ドラマ”の主人公二人を思い出しながら、ぼやくのだが・・・・・・

 

「ジンは、どちらかと言えばモルダーよりもドゲット捜査官の方がお似合いだと思うんだけどね~~僕は・・・」

 

ジンの蒼い目に緑色の目が覗き込まれた。オレンジが入った赤毛のハーフの少女が少年のような口調でジンの隣に立っていた。

 

彼女の名は メイ・リオン。イギリスの血が入ったハーフであり、同じ異国の血が入った者同士何かと気が合うのであった。印象は悪戯好きな猫を思わせる可愛らしい顔立ちの少女である。

 

「オレはターミネーター2のT-1000かよ・・・・・・」

 

あのどうやったら倒せるんだと思わせた水銀ロボットの姿を思い浮かべる。

 

「あの俳優 ロバート パトリックさんは凄いよね。瞬き一つしなかったよね」

 

役を意識しすぎて奥さんとの夫婦仲が気まずくなったという裏話があるほどのめり込んでいたそうだ。

 

「そうそうターミネーター2と言えば、アスナロ市のあのイベントのAI技術の発表に便乗しイベント上映するらしいぜ」

 

近々、アスナロ市で行われるイベント ”科学博 未来への希望”のテーマが最新鋭ロボット工学を押し、それらを支える人工知能などの体験できるらしい。

 

さらには、年齢問わずに自作のプログラム、アプリ等を発表できる場もあり、人材をスカウトする場にもなっている。メイもまた参加することになっており、彼女が作り上げた自作のアプリを発表する予定である。

 

話は変わるが、あの映画の人工知能は、希望ではなく絶望の未来を齎していた・・・・・・

 

「それは楽しみだね・・・僕はAIは人類にとって自分達を見つめ直すにはいい機会にしたいんだけどね」

 

メイは最近纏めたレポートのテーマは「人工知能と愛情」であった。

 

彼女が専攻する学科は”情報技術”である。

 

これは効率ばかりを追求する”道具”としてのAIの技術発展が人間の適応能力を凌駕し、やがては人間社会そのものが崩壊していくのではというものであり、AI 人工知能の想像はある意味、聖書に伝わる”神が自らに似せて人を作った”行為に似ていることから、人工知能を開発していく過程で人としての愛情等の情操教育が必要であることを述べたものである。実際にこの社会の発展は凄まじく適応できる人間とそうでない人間の差があまりにも多く、そこにAIが加わることでさらに加速するのではないかということなのだ。

 

人類最後の発明は”人工知能”とされているのだから、その影響は計り知れない。

 

メイが聖書に準えさせたのは彼女が信仰しているキリスト教 プロテスタントの考えが強いためである。

 

イギリスでのプロテスタント宗派は、一人の司祭を崇めるよりも個人が考え、行動する個人主義の側面が強い。

 

”万人司祭”という言葉すら存在するのだ。

 

代表的なプロテスタントの言葉に”私は立つ”のように個人としての自立を重視している。

 

自立するためには、やらなければならないこと身につけなければならないことは多い。その中でも重要なのは他者との触れ合いであり、感情面などの情操教育というのがメイ・リオンの持論であるのだ。

 

「だったら、AIの完成はもっと先だな・・・・・・ドラ〇もんなんて22世紀じゃなくて多分、24世紀ぐらいまで開発延期に決まりだ」

 

「それまでに僕たち人間が優しくなっていればいいんだけどね」

 

二人は何か思うことがあるのか、何処か気落ちするような視線を講義室の電子掲示板に宣伝されている”科学博 未来への希望”に向けられていた。開催まであと一週間である・・・・・・

 

「ここだけの話だけど、出資している企業の大半が軍事産業で儲けているところなんだって・・・・・・」

 

堂々と軍事用ドローン等も展示予定なのだが、あくまでも平和の為という理由らしい。

 

さらには、ここ最近の国産の戦闘機を作るというニュースもあり、国を挙げて軍需産業に参入したいという魂胆が出ている。

 

「人間っていうのは、嘘つきだからね・・・・・・嘘つきと言えば・・・・・・」

 

「メイ。詐欺にでも遭ったのか?」

 

「違うよ。昔、人畜無害そうな顔をしてそういうことを言うのに会ったことがあるだけだよ」

 

メイの脳裏にかつて、契約を持ち掛けてきた”白い小動物”の姿が浮かぶのであった。

 

 

 

 

 

  『僕と契約して魔法少女になってよ』

 

 

 

 

 

僕はそんな柄じゃないよ。だって、皆に期待もしてないからそんな奴が身の丈の合わない魔法少女になっても希望なんて与えられないよ。他を当たってよ・・・・・・キュウベえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に到着したほむら達の待つホテルに向かうバラゴであったが、誰かが自分を常に見ている奇妙な感覚を覚えていた。ホラーの意思のようなのだが、それにしては邪気を感じることができない。

 

(何なんだ・・・・・・この気配は視線だけは感じる・・・・・・こんな人混みで接触をするつもりだろうか?)

 

この接触は友好的なものではないだろう。少なくともここで騒ぎを起こしたくなかったのか、バラゴは一旦は人混みから離れた。

 

彼を追跡するように目深に帽子を被ったトレンチコートの大柄の男が動き出した。

 

顔を隠すように襟を立てており、僅かに見える口元は何故か生気がなく、呼吸音すら聞こえなかった。

 

無機質な赤く光る目がバラゴを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人混みから離れたバラゴはアスナロ市の開発地区まで来ていた。アスナロ市は日進月歩と言わんばかりに開発が進められており、近日中に巨大な商業施設を立てることになり、現在はテナントを募集している最中である。

 

資材置き場で足を止めたバラゴは、背後からくる存在に対し・・・・・・

 

「私に用があるのならばここで聞こう。お前はホラーか?」

 

重い足音と共にバラゴの目の前に現れたは、大柄なトレンチコートの男であった。

 

『・・・・・・YESと言っておこう』

 

返ってきた言葉はサンプリングした声を合成したかのようなものであった。さらにバラゴは、目の前の相手に対し、視線を険しくする。

 

「お前のその視線はホラーのモノに間違いないが、ホラーの気配が感じられない」

 

『フフフフフフフフ。この身体の意思こそ使徒ホラー バグギのモノが入っているが、これは我が作り出したのではなく、この時代の人間の欲望が生み出したものだ。少しばかり試させてもらえるかな』

 

トレンチコートの男は一気に駆け、拳を突き出す。人の放つ拳にしては正確に頭部に向けられる。

 

威力は当然のことながら凄まじく、バラゴはそれを正確に見極め往なす。

 

勢い余って倒れ込んだ際に人間が倒れる音ではなく、鈍い金属音が響いたのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

バラゴの視線はさらに険しさを増す。これまで多くのホラー、魔戒騎士を相手にしてきたが、このような毛色の違う相手は今までに存在しなかった。

 

まるで、”宇宙人”を相手にしているような感覚さえ感じていた。

 

『ハハハハハハハハッ、暗黒騎士もこの身体の相手は初めてだろうな』

 

起き上がる際に発した笑い声にはノイズが入る。ホラーの声ではない。

 

姿勢を低くし両腕を広げて掴みかかるが、バラゴは往なすのではなく敢えて相手の懐に飛び込み相手の顔面に向かって拳を撃ち込んだ。

 

拳の感触はやはり生き物ではなく、作り物であった。固い構成樹脂で作られた顔が砕ける。

 

露わになったのは・・・・・・金属で作られた”骸骨の顔”だった・

 

赤い目の輝きがバラゴを押さえ、蹴りを繰り出すが・・・・・・

 

「ほう・・・・・・確かにその身体は魔戒法師、騎士にはない技術だ・・・だが・・・・・・」

 

手に構えた魔戒剣を抜き、繰り出された腕を斬る。感触は金属であり、斬り落とされた腕から火花が散る。

 

さらにはもう一方の腕を斬り落とすが、同じく火花が散る。落ちた腕もまた金属でできていた。

 

そのまま手を緩めることなくバラゴは一刀の元、首を刎ねたのだった。

 

刎ねられた首の根元から火花が散ったと同時に眼窩に埋め込まれていた赤い目・・・目を模したセンサーの輝きが消え、地面に落下したと同時に金属音を鳴らした。

 

バラゴは倒れ込んだ大男に視線を向けた。

 

「バグギは古の時代・・・・・・雷と共に現れた。現代でのライフラインである電気を使って来るか・・・そしてこれもまた・・・・・・」

 

特に興味がないのかバラゴはその場を後にするのだった。その様子をこの資材置き場に備え付けられていたセキュリティカメラが覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム イベント会場

 

イベント会場のある一角にバグギは存在していた。先ほどのバラゴとの戦いを画面に映し、それを眺めていたのだった。

 

「やはり、機械人形では相手にもならないか・・・・・・まあいい、それならばもっと改良をすればいいだけの事」

 

バグギの視線は、第三ドーム周辺にある施設の一角に向けられた。そこでは、先ほどバラゴと交戦していた”機械人形”が10体程作られていたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほむらは直ぐにエルダと合流し拠点であるホテルに辿り着いていた。

 

連れてきたミチル?は薄汚れていた為、一人でシャワーを浴びていた。

 

彼女はその間、考えていた。何故、彼女 暁美ほむらは自分を助けてくれたのかと・・・・・・

 

自分は認めがたいが人の形をした”災い”に近い存在だ。それなのに、そんな”災い”に用があるとは、どういうことだろうか?分からない・・・・・・

 

(でも悪い気はしない・・・・・・どんな目的であれ、私を私としてみてくれるなら・・・・・・)

 

自身が体験したことのない記憶を持つが故に”オリジナル”と違うために拒絶された自分を受け入れてくれるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、ほむらは部屋に備え付けのキッチンを使い、簡単な食事を作っていた。

 

ここの所、バラゴの食事の用意をしているのはほむらである。かつてはエルダが身の回りの世話をしていたが、エルダの作る料理はお世辞にも美味しいとは言えなかったので、さすがに食事ぐらいは楽しめるぐらいの美味しさが欲しかったので自分が作ることになったのだ。

 

これは何故かバラゴに好評であり、彼は朝食と夕飯には必ず現れる。普段の彼は何をしているんだろうと考えなかったわけではないが、考えても教えてくれないだろうと諦めていた。

 

エルダには戦闘面で指導を受けていた為、その礼も兼ねていたがエルダ自身は食事に手を付けても何も言うことはなかった。

 

この部屋に居るのは、自分とエルダとミチル?と名乗ったあの少女である。

 

ほむらはミチル?について考えていた。あの少女が持っていたソウルジェムについて・・・・・・

 

胸元にあるソウルジェムとグリーフシードを掛け合わせたようなモノが根付いているのだ。

 

あのようなものは今までの時間軸でも見たことがない。おそらくは何かとんでもないことをあの二人の魔法少女は行っているのではないだろうか?

 

自分の”魔戒札”による占いで見た二つの内のソウルジェム。もう一つはあの場にはなかった・・・

 

これは自身の技術がまだ未熟であると彼女は判断した。

 

改めて考えるが、今回はバラゴの目的である”使徒ホラー バグギを倒す”ことを目的とすると関わるべきではなかったと思う。だが・・・・・・

 

(寄ってたかって一人の女の子を虐めて・・・・・・ジンお兄ちゃんがみたら絶対に許さなかったわね)

 

この時間軸で父と母は確認した。それに兄 ジンもまた居るのだ。かつての祖父の家に用意された自分の部屋に彼の手紙があったのだから・・・・・・

 

正義の味方とは名乗るにはあまりに烏滸がましい。ならば、悪役らしく名乗る方が自分らしいだろう・・・・・・

 

二人のあの”魔法少女狩り”に似た行為に嫌悪だけは感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続  「 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 参」

 

 

 

 

 

 




あとがき

久々に戦闘シーンをと書いてみましたが、意外と難しい。

バラゴはアスナロ市で頑張ってくれる予定です。

ジオシティっぽい街になっており、治安維持も含めてあちこちにカメラが設置されている具合です。

アスナロ市でのイベントでは、軍需産業で有名な企業も参入しており、さらにはそれと接触してコネを作ろうとする国内企業、政治家等も多数、来ており、陰我も強くなっています。


ほむらのバラゴとエルダに対する気持ち。

今作におけるほむらは、割と料理もできるるのでバラゴとエルダの食事を作ったりしています。この辺りはまどマギ スピンオフ作品「見滝原 マテリアルズ」よりマミとほむらがルームシェアして食事を当番制で交代したりし、マミが手のかかる姉と化し、ほむらがしっかりものの妹のようになっていたので家事全般はこなせるという設定です。


バラゴは家族料理や誰かに作ってもらう思い出はほとんどないと思いますので、ほむらのこの行為を嬉しく思っています。そして、ほむらに対する執着も強くなっています。


エルダはエルダで特にほむらに居場所を奪われるとかそういう気持ちはなく、主人であるバラゴの心を慰撫する役目はほむらであり、自身の役目はバラゴの道具としてあり続けることであり、彼女も彼女で指導し、弟子となったほむらのことを彼女なりに気にかけています。

そんな二人に対してほむらも気持ちに変化が生じ、二人は自分に似た存在であるが故の仲間意識を無自覚ですが抱いています。

ある意味共依存にも近いですが、ほむらとバラゴの関係は少しずつ変化していきます。

またある願望も抱いています。それは究極の存在になった暗黒騎士 呀の姿を実際にこの目で見てみたいと思っています。

ほむらも戦力アップしており、隠し武器を袖に仕込んでいます。

相手の不意を突く形でカウンターも兼ねた伸縮自在の金属製の四本の爪とさらには、短剣をしこんでいます。これはエルダの指導もありますが、偶然にも爪はキリカの武器に似ています。
魔戒札を使っての予知なども行えるよう訓練していますので、この辺りは織莉子の魔法に近くなるかもしれません。

魔法少女から魔戒法師よりの戦いにシフトしています。

メイ・リオンのキャラ紹介は次回に回します。 



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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 参


見滝原と同時に事態が進んでいる”アスナロ市”

かずみ☆マギカのキャラ達が割と出てきていますが、この人を書くことになるとは思いもよりませんでした。






アスナロ市 御崎 海香の書斎

 

 

プレイアデス聖団所属の魔法少女 御崎 海香は、浅海 サキ、若葉 みらいより齎された情報に対し、若干ながら溜息を付いていた。

 

言うまでもなくその内容が、どうも信憑性に欠けるのだ。

 

内容は、真須美 巴が自分たちの封印を破ったこととミチル?を仲間の魔法少女に奪われたという内容だったからだ。

 

「あの真須美 巴の言葉は信用してはいけないわ。あの女に仲間なんてあり得ない」

 

海香は、真須美 巴がどういう存在なのか大まかな所理解していた。あの女は言うまでもなく”奪う”為ならどんな手段でも使う人物であり、仲間も結局は自身の快楽や欲望を満たす為の道具としか見ていない。

 

仮に脅されて無理やり協力させられていたとしても、真須美 巴本人が危機に陥った場合も助けるどころか、これ幸いと逃げ出すだろう。

 

現れた”魔法少女”も気になるが、問題は”ミチル?”を連れ出したことだ。

 

これだけは、何としてでも連れ戻すか処分しなければならない。

 

再び彼女達に希望を齎してくれた”和沙 ミチル”を取り戻すために・・・・・・

 

 

 

 

 

 

その頃、牧カオルはアスナロ市の解放されたグランドに来ていた。

 

ここはアスナロ市のアスリート達が集う場所であり、様々なスポーツが楽しめる施設であり、牧カオルが来ているグランドもである・・・

 

彼女はグランドを走っていた。仲間である”プレイアデス”からのテレパシーにも耳を傾けていたが、これと言って意見を挟むことはなかった。

 

彼女の中にあるのは、ミチル?を救い出した”魔法少女”のことだった。

 

(私たちを傍から見たら、どんな魔法少女か・・・多分、ミチルが生き返っても、同じようには過ごせない)

 

あのミチル?の表情は、自分達の行いを糾弾しているかのように険しかった。

 

”希望”を見せてくれた”少女”をむしろ弄び、絶望に陥れているのはある意味自分達ではないかと・・・・・・

 

ミチル?は危険な存在であるが、彼女にも”命”は存在し、彼女の意思もまた・・・・・・

 

不謹慎であるが、自分達から彼女を助けてくれた”魔法少女”に心の内で感謝していたのだ。

 

自分たちのやっていることは、おおよそ魔法少女がやることではなく、むしろ一般人が想像する”魔女”の所業そのものではないかと・・・故に感情の整理をつける為、何も考えないようひたすら身体を動かしていた。

 

魔法少女であるが、やはりある程度運動すると当然のことながら疲労する。

 

少し休憩を挟む為、牧カオルは近くの休憩所に立ち寄ることにした。

 

「もしも見かけたら・・・お願いします」

 

休憩所の所には二人組の外国人がチラシを配っていた。

 

牧カオルは、何気なく二人よりそのチラシを手に取った・・・・・・

 

 

 

 

 

     探し人 暁美ほむら

      

連絡先

 

ジン シンロン

 

メイ リオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 ホテル

 

「あの・・・これは?」

 

「見ての通り食事よ。見たところ、2、3日は何も食べていないみたいね」

 

目の前に用意されたサンドイッチに対して、ミチル?は信じられないようなモノを見るかのようだ。

 

ほむらは、ミチル?があの二人の魔法少女からどういう扱いを感じたが、あまり良い扱いを受けてはいないんだろう思うのだった。

 

「食べなさい。少しは落ち着くと思うわ・・・」

 

さっそくサンドイッチに手を出し、頬張るミチル?。食べた瞬間に瞳から涙が零れる。

 

今までこのような扱いを彼女は受けたことがなかった。あの少女たちが自身を勝手に生み出し、そして拒絶した。

 

最初の内は慕ってくれていたが、自分ではなく自分ではない誰かを彼女たちは見ていた・・・・・・

 

その後は、自身を閉じ込めようと何処に連れ出そうとした瞬間の隙をついて逃げ出した。

 

「・・・・・・落ち着きなさい。私に柄でもないことをさせないで」

 

こう言う役目は、”まどか”、”巴さん”の二人だろうと内心思いつつほむらは自身がそういう柄ではないことを口にした。

 

「いえ、あなたはとても親切な方です・・・・・・」

 

自身が生み出されてから数日も経たないが、彼女から見ればほむらは十分、親切な存在であったのだ。

 

「それはあなたの勝手な解釈よ。いずれ、私がそういう存在ではないことが分かるから・・・・・・」

 

背を向けてこの場を後にするほむらに

 

「あ、あの・・・どちらへ・・・・・・」

 

寂しそうに声を開けるミチル?に

 

「ちょっと紅茶を淹れてくるだけよ」

 

一応、飲み物はあるのだが、温かい紅茶の方が安心するだろうと思いほむらはそのまま部屋を出ていくのだった。

 

その背中をミチル?はずっと見つめていた。

 

部屋を出たほむらは、自分よりも少しだけ年上と思われる少女がかなり精神的に幼い事に改めて気が付いたのだった。

 

「・・・・・・ほんとに柄でもないことをしているわね・・・私は・・・・・・」

 

本来ならば、”まどかを救う”という目的があるのに、見滝原から離れた”アスナロ市”でこのようなことをしている暇などないのに、何故かそれを受け入れている自分にほむらは、内心呆れていた。

 

幸いなことにエルダはこのことには、何も言ってこなかった。普段ならば、なにかと”甘い”と自分を駄目だししてくる彼女なのだが、このことについてはただ遠巻きに見ているだけだったのだ。

 

「紅茶よりもココアの方が良いかしらね・・・あの娘には・・・・・・」

 

紅茶も良いのだが、あのミチル?にはココアの方が喜ばれるかもしれないと思い、久々にココアを作ることにほむらは少しだけ”兄ともいえる男性 ジン”を思い出していた。

 

この時間軸に居るであろう”兄”は血こそは繋がらないが、自分を”姉”アスカ共々大切にしてくれた。

 

兄の甘さが今更ながら自分に出てきたことに自嘲し、ほむらはキッチンへと足を向けるのだった。

 

その頃、エルダはほむらが用意したサンドイッチに一口だけ手を付けていた。

 

彼女の視線は、ほむらが拾ってきた”少女”に対し厳しい視線を向けていた。

 

「・・・・・・希望を齎す魔法とはよく言ったものだ・・・・・・」

 

エルダには、見えていたのだ。このアスナロ市を拠点とするプレイアデス聖団の所業が・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 参

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 警察署 証拠・遺留品保管庫

 

「え~と刑事さん。いつも通り引き取りに来ました」

 

「いつもごめんなさいね。こういう”モノ”はあまり置いておきたくないから、引き取ってくれるだけでありがたいわ」

 

アスナロ市の女刑事 である石島 美佐子は訪れた青年 京極カラスキに事件場所から発見された曰く付きの”モノ”をいくつか渡していた。

 

「あぁ~~、良いんですよ。こういうモノは、こんな所に置いておくと碌なことにならないんで・・・しかし、まぁ、今回のはとびっきり嫌なモノが来ましたね」

 

カラスキは、その中でも異彩を放つ奇妙なまでに輝く”緑色”の蛇の目に似た宝石を注意深く手に取り、そのまま御札が張られた木箱に映した。

 

「それは・・・なんなの?」

 

「あぁ~、これね。多分、何処かの馬鹿が外国の神様のご神体を盗んできて、売った奴ですよ・・・しかも、こいつは人を魅了して生気を吸いやがる奴だ。今回の仏さん、衰弱死していなかったかい?」

 

石島美佐子は、カラスキの言葉に冷や汗を垂らした。この遺品の経緯や発見場所については何も言っていないのだ。ましてや、死亡した人の状況なども・・・・・・それも見てきたかのように語るカラスキはハッキリって、気味が悪い以外の何物でもなかった。警察署の人間もカラスキには、お祓いの為会うのだが、この青年の”常人には計り知れない何かを見る”姿勢を肯定的に捉えるものはほとんどいなかった。

 

「あぁ~~、良いですよ。そういう風にみられるのはいつものことですし、おいらは、そろそろ退散させてもらいますが、他にもちょっとヤバいものがありますね」

 

犬が匂いで何かを見つけるように、”曰く付き”のモノを察するカラスキに石島美佐子は顔を引きつらせた。

 

「な、なにかしら?他のは・・・・・・」

 

「いんゃあ・・・・・・そこにあるよ。そこに・・・・・・」

 

カラスキは証拠物を保管する一つの棚に手を出し、そのまま引き出し掴みだした。

 

「そ、それはっ!?!」

 

「あぁ、危ない危ない。こいつは、正直危なかったね。どこで紛れたかは知らないけど、あの小動物。仕事をさぼっていたみたいだね」

 

カラスキが取り出したのは、魔女の卵である”グリーフ・シード”であった。

 

「あの・・・カラスキ君。魔法少女って知ってる?」

 

「あぁ・・・・・・あの女の子が変身する奴かい・・・そういえば、最近になってメディアでやっと市民権を獲得してたね。数年前は、あの”ニルヴァーナ事件”でそういう奴は、魔女狩りになってたっけ」

 

カラスキは思い出すように、ここ数年のことを思い返していた。とは言っても小学校高学年の頃の記憶でしかなかったが・・・・・

 

「それで違いないわね。ここ最近の少女失踪事件は、常識では計り知れない事実が存在するわ。それこそ、”奇跡”や”魔法”でなければ説明がつかないほどの・・・」

 

ぼかしたように話すカラスキに石島美佐子は、カラスキが”魔法少女”について何か知っているのではないかと察するが、

 

「あぁ~~そういうのは、現実逃れって奴でしょ。石島さん・・・非常識ってのは常識の延長にあるっていうし」

 

「待って!!私の友人がかつてそうだったわ!!!今も行方が分からない!!!その真実が知りたいの!!!」

 

突然、声を張り上げる石島美佐子にカラスキも”わぁお”と思わず、驚きの声を上げてしまった。

 

しらばっくれるカラスキに対し・・・・・・

 

「誰も事実を伝えても信じなかったわ。私は、友人が何処へ行ったのか知りたいの」

 

自身が刑事になったのも魔法少女であった友人「椎名 レミ」を見つける為であった。その過程でレミの妹が姉が魔法少女であったことを証言し、常識では計り知れない現象や遺留品という立派な証拠があるのだが、それは上司や同僚に一笑されてしまい、調べられず、未だに成果が上げられない状態なのだ・・・・・・

 

彼女自身も分からなかったが、遺留品保管庫にまさか証言に遭った”グリーフシード”が存在していたことに驚いた。これこそ、立派な証拠ではないか・・・・・・

 

「人が何処に行くかなんて・・・当人の自由意志だから後を追っかけるのは正直、良い趣味じゃないと思うよ。おいらは・・・・・・」

 

カラスキは石島美佐子と話をする気がないのか、そのまま背を向けて出ていこうとした。まだ話すことがあることと”グリーフシード”を調べさせてほしいと彼に詰め寄るが・・・・・・

 

「あぁ~~~。石島さん。真実を知りたいのは結構・・・・・・目に見えない”隣の世界”には、あまり関わりすぎると最悪、命がなくなるよ・・・それは友人もそういうことは望んでないと思う」

 

カラスキは、何かを含むように笑った。ようするにこれ以上関わるなと言うのだ・・・・・・

 

危険な”グリーフシード”は後で適当なところに放置しておけば”回収”しにくる存在が居る為、そっちに任せておけばいいだろう。

 

去っていくカラスキを背に石島美佐子は必ず、”真実”を突き止めると改めて誓うのだった・・・・・・

 

その為には、どんな手だって使ってやると・・・・・・

 

遺留品の中にある”組の構成員”から摘発した”爆発物”が覗いていた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!!やっべぇ・・・ジンに頼まれてたこいつをお願いするのをすっかり忘れてた・・・・・・」

 

カラスキは腐れ縁であるジンの妹分 ほむらの捜索とそのチラシを警察に見せるのをすっかり忘れていたのだった。

 

内心、申し訳ないことをしたと思いつつも今は仕事中なのでこれを切り上げた後にしようと考える。

 

「とりあえず、こいつらだけでも・・・・・・処分しとくか・・・・・・」

 

今は手元にある”曰く付き”を何とかしなければならなかった。これを万が一、落としたり、無くしたりしたら大変な事になるのだから・・・・・・

 

「そういえば・・・以前、神社から”祟り神のご神体”を持ち出した馬鹿が居たな・・・確か・・・明良 樹 (アキラ イツキ)だっけ・・・見滝原で自業自得な最期だったかな」

 

数年前に亡くなった 明良 樹 (アキラ イツキ)。当時、様々な学校で問題を起こしたというよりも学校での目を覆いたくなるようないじめを行い、彼の死後にそれが明らかになり、隠蔽した学校関係者共々地に落ちていった。自業自得ではあるが、カラスキ自身は当人の明良 樹に会ってはいないが、”曰く付きのモノ”を感じることができる感性故に気味悪がられたことはあったが、そんな彼を唯一友人として迎え入れてくれたのが、ジンとアスカ、その妹分である ほむらだった。

 

そのほむらが行方不明になっていることを心配しながら、アスナロ市のモノレールに乗りこむのだった・・・

 

行先は 京極神社である・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真須美 巴はある人物とオープンカフェでティータイムを楽しんでいた。

 

「へぇ~。巴ちゃんは、思いっきり”仲間”って叫んだんだ。で、その娘を”仲間”と勘違いしているわけなんだね。

プレイアデス聖団の娘たちは・・・・・・」

 

「そうなのよ♪私の事を知ってたら、”仲間”なんてそんなのを必要としないのは分かり切っているのにねぇ~~」

 

”キャハハハハ”と笑う、真須美 巴の笑顔は非常に魅力的なのだが、彼女の本性を知るものからすれば非常に薄ら寒い感情を抱くだろう。

 

「君の場合は、利用価値があるか、ないかだよね・・・僕もある程度は利用価値があるのかな?」

 

真須美 巴の前に座る青年は、苦笑しながら答えた。

 

「そうね・・・・・・でも、貴方は死んだお兄さんのように派手に動かないのよね~~~」

 

遊びに誘おうかのように微笑む真須美 巴に対し、青年 明良 二樹 (アキラ フタツキ)は、

 

「良してくれよ。僕は兄さんのように何でもかんでも欲張ったりはしないんだよ。本当においしいところはほんの僅かな所なんだ・・・」

 

そう言いながら、彼は目の前にあるショートケーキの中心に乗っている苺をスプーンで掬う。

 

「貴方って・・・随分変わっているのね・・・善人でもないし、かといって悪人でもないし・・・というよりも何処のカテゴリーにも属さないってやつかしら?」

 

「ハハハハハ。正しいとか正しくないとかは誰が決めたんだろうね・・・大多数が受け入れることが正しいことで、大多数が受け入れられないことが正しくないってことだと思うよ・・・僕としては、世の中が変われば、価値観が逆転することになれば・・・それこそ正しい事って分からなくなるよ」

 

上機嫌にイチゴを食し、満足そうに微笑む。

 

「巴ちゃんの”奪う側で居る”っということは、ある意味では正しいよ。世の中は奪うか、奪われるかで成り立ってるしね・・・・・・」

 

そう言いつつ彼は、スマートフォンが呼び出しになっているのを横目で見た。

 

「ちょっとごめんよ。巴ちゃん・・・・・・」

 

さっそく電話に出てみると・・・・・・

 

『ちょっと!!!アンタ、アタシ達になんてところを紹介したのよ!!!今、大変な目に遭ってんのよッ!!!』

 

電話口から聞こえてくる怒声に明良 二樹は、

 

「なにって・・・・・・色々大変だから、助けてくれそうなところを紹介しただけだよ」

 

気軽に返す明良 二樹の表情は非常に晴れやかであった。

 

『だからって、個人金融を紹介するってどういうことよ!!!おかげでアタシはっ!!!!』

 

「ハハハハハ。だって、君、色々やらかしていて、正直、実家も誰も助けてくれなくて僕に相談したんじゃなかったの?残念だけど、僕自身も君を助けられるほど、大した男じゃないんだよ・・・・・・だから、助けてくれそうなところを紹介するぐらいしかできなかったんだ・・・・・・感謝こそはそれても恨まれる筋合いはないと思うんだけどね」

 

『そんなこと聞いてないわよ!!!アンタが助けてくれれば・・・・・・』

 

「馬鹿を言っちゃいけないよ。君は男を都合の良い何かと勘違いしているんじゃないかい?僕はね、自分にできる範囲で手助けはするよ・・・でも、その範囲を超えられたら僕もどうすることができないから・・・まぁ、頑張ってよ」

 

『ちょっと、待って!!ねぇ・・・』

 

そのまま電話を切り、LINE等をブロックするのだった。彼の顔は非常に晴れやかだった・・・

 

「キャハハハ♪結局、そのこどうしたの?どうするの~~?」

 

「どうもしないよ・・・実際に目で見て、実物にガッカリするよりも、楽しいことになっているのを想像する方がずっといいじゃないか」

 

明良 二樹は、かつての双子の兄 明良 樹 のように徹底的に相手を破滅させることはしない・・・・・・

 

「やっぱり変わっているわね・・・あなたのお兄さん、壊すときはとことん壊すのにね・・・」

 

「壊すことの何処が良いの?壊したらおしまいなんてもったいないじゃないか。人生を深く味わい深く過ごすためのスパイスはほんの少しの悪意と善意だと思うよ。このチョコレート箱のように・・・」

 

好物のチョコレート箱から一つチョコを摘み、口に入れる。

 

「うん。この少しの苦みが良いんだよね」

 

真須美 巴は微笑みながら、明良 二樹に手を伸ばし、

 

「わたしにもちょぉ~~だぁい♪」

 

「良いよ。君にあげなかったら、君に食われるかもしれないからね」

 

さすがの”兄”も目の前の真須美 巴には手を出さなかった、何をしでかすかわからない存在とはこのように適当な距離で付き合うのがベターなのだ。

 

初めての出会いも衝撃的だったのを覚えている。パパ活を行っているところを目撃し、ちょっとお節介をしようとついて行ってみたら、真須美 巴が人食いをしているところにそのまま遭遇してしまったのだ。

 

その時になって思い出したが、生前、兄が

 

”あの女だけは絶対に傍に置いておきたくない、寝込みを襲われたらたまったもんじゃない”

 

若干ながら苦手意識を持っていた少女だったことを改めて思い出し、その後食われそうになったが、色々あって時々話をしたり、二人でお節介をしたりとやりたいようにやっていたのだ。

 

「あっ?わたしもそろそろ、出かけなくちゃいけないわ。それじゃぁあねぇ~~♪」

 

彼女は誰かから連絡が来たのか、そのまま席を立って何処かへ行ってしまった。当然のことながら支払いはしていない・・・・・・

 

「奢るのも男の甲斐性って奴だからね・・・・・・兄さんはあの”人形”に殺されたけど・・あの”人形”も色々やらかしているみたいだけど、僕は関わらないよ・・・僕が関われるのは、舞台をほんの少しだけお手伝いすることだけだからね・・・・・」

 

真須美 巴が何やら大きな舞台で活躍するようであるが、自分は彼女の休憩時間に立ち会っただけなのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴはアスナロ市の京極神社に立ち寄っていた。

 

本来ならば、ホテルで待っているほむらとエルダに合流をしなければならないのだが、使徒ホラー”バグギ”の動きが予想以上に活発だった為、念には念を入れて此処に足を踏み入れていたのだ。

 

この京極神社は、魔戒騎士や魔戒法師の下請けを行っているのだが、その扱いはあまり良いモノではなかった。

 

魔戒騎士と魔戒法師の関係は、本来ならば協力関係が理想的であるのだが、”力”に優れる魔戒騎士が”力”に劣る魔戒法師を下働き扱いすることが多い。両者が互いの立場を尊重する人ができた騎士、法師は少数というのは嘆かわしいと思うどころか、バラゴにはある意味真実であった。

 

言うまでもなく、彼の父親こそ”力”で法師である母を虐げていたのだから・・・・・・

 

さらに立場の弱いこの”京極神社”の扱いは、察するべきだろう。

 

噂話だと、ある魔戒騎士がここの先代の神主を”ホラー”の巣に”餌”として利用した挙句、番犬所から制裁が加えられたというらしい。当然のことながら、一部の魔戒騎士、法師以外の関係はこれ以上になく最悪なのだ。

 

だからこそ、暗黒魔戒騎士である自身がここを”第二の拠点”として利用することも可能なのだ。

 

神社の鳥居を潜ると石段の先の神社の本殿が建っていた。先ほどのアスナロ市内と比べるとここだけ時代から取り残されたかのようだった。

 

神社の境内に踏み入れると古びた木製の掲示板があり、そこに彼にとっては身近な少女が映し出されていた印刷物が貼られていた。

 

 

 

 

”探し人 暁美ほむら”

 

 

 

 

「彼はここにも友人がいるようだ・・・交友関係は広いのだな・・・・・・」

 

ここにもあのほむらの兄である青年と交流のある人物がいるようだ。ならば、ここは見逃しても構わないだろうとバラゴは考えた。

 

京極神社の奥にある蔵には”陰我”を抱えたモノが多数封印、保管されているので今後の利用価値もあるのだが、それすらも”暁美ほむら”と関係があるのならば、手を出すべきではないだろう・・・・・・

 

ハッキリ言えば気に入らないことこの上ないが、彼女が慕う”兄”に手をかけ、それで彼女に”拒絶”されることに対してバラゴの中に怯えに似た戸惑いの念が浮かんでいた・・・・・・

 

「あんらぁ、今日は珍しい来客もあったもんだな、有名人が訪ねてくるとわね~~」

 

いつの間にか仕事を終えて戻ってきた 京極カラスキがバラゴに対して声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 四

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

次回、辺りでいよいよ本格的にバグギが動き出す予定です。

さらには、ほむらもまた色々な目に遭います(笑)

補足で京極カラスキは、魔戒騎士、魔戒法師らの協力者として下請けを行っています。

GAROの世界では、ホラー以外の怪異も存在している為、魔戒法師、騎士以外にもその方面を生業にしている人もいるのではと言うことでカラスキは、そういう役目を負っています。こちらでは、まどマギ関連の”魔女”も存在していますから、割とヤバい世界観だと我ながら思いました。

主に目に見えない”呪い”の類の封印やお祓いを生業にしている為かそういうモノを感じたり見ることができます。ちなみにキュウベえも見ることができます。

魔法少女の資格がない場合でも、霊感等そういう方面に強い人ならばキュウベえを認知できるのではと考えたからです。

「見滝原アンチマテリアルズ」では、キュウベえが古い神社に漂う幽霊を魔法少女候補として認識していた為(契約できるかは不明)そっち方面に強い人ならばもしかしたらという考えからです。

今回、見滝原にはどこかで見たような人が居ましたが、アスナロ市にも似たような人が居ました(笑)ただ、こちらは見たような人の身内ですが(爆)




キャラ紹介

明良 二樹 (アキラ フタツキ)

柾尾 優太に第二十一話「過 去」で殺害された明良 樹 (アキラ イツキ)の双子の弟。
アスナロ市在住のフリーター。見滝原に追い出された兄と違い、常識があると思われ、父親の手元に置かれていたが、派手に悪事をもしくは狙った相手を徹底的に破滅させる兄と違い、相手を破滅させず、ジワジワと相手が苦しむ様を想像し、直接自身は手を下さずに相手を地獄へ誘導することを好む。

真須美 巴とは、知り合いでお茶友達。費用は全て彼持ち。

魔法少女などの事も真須美 巴から知っていますが、自身がそれに関わる気はあまりなかったりします。言うまでもなく見滝原で破滅した兄は”魔法少女”に関わったからです。
故に、自身も同じ轍を踏まないように関わらないだけです。

彼はチョイ役なので、今回以降出てくるかは不明です。





前話のキャラ紹介

メイ ・リオン

ジンと同じ大学に通っているイギリス人の母を持つ赤毛のハーフの女性。

緑色の目をし、どことなく猫を思わせる容姿と悪戯好きな笑みをいつも浮かべている。

専攻は、IT情報技術を専攻しており、自作でアプリなども作ったりしており、ここ最近はやりの”おしゃれアプリ”を作るなど何気に凄いことをやっていて、自身のブランドを立ち上げ、企業などに売り込んでいる。

母の影響で、キリスト教 プロテスタントを信仰しており、自立心が強く、基本的には自分の事は自分で行う。実は、過去、キュウベえに勧誘されていましたが、魔法について魅力を感じなかった為、契約を断っています。

ジンとは、高校時代からの腐れ縁であり、京極神社に居る京極カラスキとは、割と仲が良い。カラスキが心霊体験などの話題が豊富な為、そっちで話が合うためである。






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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 肆

気が付けば、この作品も50話目に入りました。

アスナロ市でのほむらとバラゴですが、見滝原の風雲騎士一家と違い、二人はほとんど別行動を取っています。

お互いの目的を知っているモノの互いに干渉せずに、寄り添っているという奇妙な関係です。

フライングして、かずみ☆マギカの本編でのキャラがゲスト扱いで登場。どうなることやら・・・・・・

時系列では、見滝原でさやかがホラー ミューゼフと初交戦した日です。







 アスナロ市 京極神社

 

「あんた・・・・・・龍崎駈音さんかい?まさか有名人がこんな寂れた神社にって・・・・・・」

 

バラゴの表の・・・人間社会においての姿と名である”龍崎駈音”は、この国では知らない人が居ないほどの有名人であろう。書籍の執筆からTV番組のコメンテーター等と幅広く活躍している人物である。

 

だが、その実態が”魔戒騎士”の逸れ者である”暗黒魔戒騎士”であることを知る者は本人と一部の者に限られる。

 

神社の神主である 京極カラスキはまさかの有名人の訪問に驚きの声を上げるのだが・・・直ぐに警戒の色を浮かべた。

 

「・・・・・・どうやら、君は私の”闇”が見えるようだな」

 

「生まれてからずっと見ていたからね・・・そういうモノをね・・・あんたのそれは”人間”が持っていいモノじゃないよ」

 

カラスキの”霊感”がバラゴの抱える”闇”の深さを正確に捉えていた。ハッキリ言って、これほどまでの深く濃い闇を見たこともないし、感じたことがない。

 

人間と言うよりも形を持った”呪い”・・・”火羅 ホラー”に近い・・・・・・

 

「君はどうやら、私の”力”を正確に判断できるようだ・・・そして私に勝てないこともしっかりと弁えている」

 

これまで”龍崎駈音”の姿で”自称 霊能力者”の類は見てきたが、どれもそう思い込んでいるだけの愚かな一般人でしかなかったが、この京極カラスキは”自称”ではなく本物であり、知恵もしっかりとある。

 

「・・・あんたにはどうあがいても勝てない・・・だけど、アンタなら”使徒 火羅 馬愚魏”を倒せると思うよ」

 

使徒ホラー バグギの名前をまさか一介の神主から聞くことになるとはバラゴも予想外であった。

 

「知っているのか?バグギを・・・・・・」

 

「ここはアスナロ市の東北に位置する神社。”鬼門”の位置にあるのはちゃんとした理由があるんよ」

 

カラスキは、アスナロ市における”歴史”を語る……

 

「今でこそ、この国一の経済都市と言われているけど・・・三百年前は”飢饉”や”戦”、”災害”が頻発していてたくさんの人間が亡くなった忌まわしき土地だった・・・立ち入り禁止にしているが、この裏の山にはそういう曰く付きの土地が多く存在しているんだよ・・・・・・それ故にこの地は”新しい呪い”を今も呼び寄せる」

 

そんなことを知っている人間は、このアスナロ市にはもう居ないし、誰も知ろうとしないがねとカラスキは付け加えた。

 

「・・・・・・バグギはこの土地に何度も姿を見せている・・・その度に”魔戒騎士”や魔戒法師”には痛い目に遭わされているからね・・・殉職してるの魔戒騎士じゃなくて、うちの身内がほとんどなのよ」

 

「フフフフフ・・・魔戒騎士ともあろうものがホラーを狩る為に、この土地を護る者を犠牲にするとは随分と良い身分なものだな・・・・・・」

 

内心、バラゴは記憶の中の忌まわしい”あの男”もホラーを狩る為ならば平気で”仲間である魔戒騎士”を平然と捨て駒扱いしていたことを思いだしていた。

 

本来ならば”魔戒騎士”と”魔戒法師”は互いに協力する関係にあるのだが、実際は法師を下働き扱いする魔戒騎士が多く、そのさらに下の立場である”京極神社の身内”の扱いはある意味”奴隷”に近い・・・・・・

 

番犬所も謝罪等をしているらしいが、やられた側からすると形だけのパフォーマンスでしかないのだろう。

 

「おいらも番犬所にはお願いしたんだけど、ことがことだから、いい返事がもらえなくてね・・・下手な騎士に来られてもまた”呪い”を増やしてくれそうだから正直、アンタを見たときに渡りに船と思ったのよ」

 

「ほう・・・この私の力を借りようというのか?いや、利用しようと考えているのか」

 

バラゴの目がホラーを思わせる”黄色い目”でカラスキを睨みつける。カラスキはバラゴに対し

 

「いんやぁ~~、利用なんて考えてないさ・・・おいらはこの地で”呪い”を見張る役目を負っている。それに死なせたくない人も居るし・・・アイツらにはそんな事を知らないで”往生”してほしいんだ」

 

カラスキは自らの顔に手を翳すと同時にその顔が変化していく・・・・・・

 

「その顔は・・・・・・”呪い”か・・・・・」

 

「あぁ・・・・・・おいらは、色々と訳ありでね・・・」

 

黒く澱んだ眼は鮫のそれを思わせ、目の真下には黒に近い紫の隈が濃く縁取られ、口は耳まで大きく裂けていた。その顔は、まさしく”異形”のそれであった・・・・・・

 

「人の世の呪いって奴だよ・・・・・・そんな呪いに塗れた奴でも役目は果たさなくちゃいけない・・・だから、アンタに頼むよ・・・”龍崎駈音”さん・・・・・・いや、”暗黒騎士 呀”さんよ」

 

カラスキは膝をつき、頭を下げたのだった。バラゴはまさかこのような態度を取られるとは思わなかった。

 

内心、驚いていたが表には出さなかった・・・

 

「おいらも”闇の世界”を生きる者の端くれ・・・当然、流れを知らなきゃ生きていけない。ホラー食いの魔戒騎士の噂は聞いているよ・・・・・・だからこそ、アンタにとってもバグギは絶好の獲物じゃないかい」

 

裂けた口を歪ませるようにカラスキは笑う。彼なりの敵意がないことを示しているのだ。

 

「ハハハハハハ、君は本当に賢い神主だ・・・役目を果たす為なら手段を択ばないその心がけ・・・良いだろう、お互いに損はない・・・」

 

”生まれ持った呪い”故に魔戒の術を修めることが許されなかったのだろうか?この青年の過去などバラゴにとってどうでも良かった・・・まさか自分から協力を申し出てくれたことは、彼にとっても都合がよかったのだ。

 

「バグギについて、今分かることは?」

 

「この土地にバグギは何度も現れているからね・・・・・・今回は大々的に派手に動いているよ」

 

カラスキはバラゴを神社の本殿に案内する。内心、バラゴは、この青年は”獲物”の動きをしっかりと追ってくれていることに感謝していた。このまま”エルダ”と同じように”下僕”とするのも悪くはないと思ったが、彼はあいにく”ほむら”の関係者でもあるのだ・・・手を出すのは辞めておいた方がよいだろう・・・

 

「あぁ・・・それとバグギとは別に誰かが動いているようなんだ」

 

思い出したようにカラスキは、ここ最近”アスナロ市”で気になっている事をバラゴに話した・・・・・・

 

「他に何者かが暗躍しているのか」

 

バラゴが気にするところは、以前ホラーの始祖メシアの牙と呼ばれた ”ギャノン”の遺骸を探しに行ったとき、既に持ち去った何者かであったが、未だにその影をバラゴを見ることはなかった・・・・・・

 

いつかは相対することになるかもしれない・・・・・・

 

「誰かが外法の儀式を行っているんだよ。それも性質の悪いことに”死人”を生き返らせようとしているんだ」

 

この世で最も忌むべき行為、それは”死者の魂”を辱めることである・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 肆

 

 

 

 

 

 

 

彼女が目覚めたのは、数日前の事だった・・・・・・

 

目覚めたというよりも最初からそこに居た・・・

 

自分を囲む6人の少女達・・・・・・彼女たちの顔には見覚えがあるというよりも知っている・・・

 

そうだ、自分は彼女達を知っている。

 

「海香、カオル、サキ、みらい、里美、ニコ・・・どうしたの?私・・・どうしてここに・・・・・・」

 

「「「「「「ミチル!!!!」」」」」」

 

6人の少女達は潤んだ眼で自分の名を呼び抱き着いてきた。

 

何故、みんなは泣いているんだろう?私は、いつものように魔法少女として活動していて・・・・・・

 

「あれ?昨日、わたしどうやって帰って来たんだっけ・・・」

 

「昨日の魔女の攻撃で今日まで気を失っていたんだ・・・大丈夫、またいつもの通りにすればいいよ」

 

「みんながここまで連れてきてくれたんだ・・・・ありがとう・・・」

 

前に出ようとしたら足が縺れてしまった……上手く歩けないというよりも、初めて歩いたような気がする。

 

笑顔で礼を言ったが、どうも表情がぎこちない・・・上手く笑えていないのだろうか?

 

6人が戸惑うように自分を見ている。彼女達は縋るように・・・それでいて・・・確かめるような視線で・・・

 

「ねえ・・・ミチル・・・もっと堂々としてよ・・・私達のまとめ役なんだからさ・・・・・・」

 

「この間の小説の感想を聞いても良い?聞かせてくれるよね?」

 

「信じてくれてるんだよね?ミチルが、私達を信じたように・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ふむ・・・・・・何か困った事でも?」

 

「どうして・・・そんな顔をするの?」

 

分からないのだ。6人の事は知っているはずなのに分からない・・・そんな矛盾に対して苦痛の表情を浮かべた瞬間・・・・・・浅海サキが

 

「お前は私達を裏切った!!!!お前はミチルじゃない!!!!!」

 

望んだ答えを答えることができない”中途半端な存在”に対し、6人は一斉に魔法少女へ変身し、拘束しようと向かってきた。

 

「裏切るも何も!!!私は、お前達のミチルじゃない!!!!だったら、何なんだ!!!!」

 

ミチル?より黒い瘴気が漂う。人と言うよりも”獣”に近い姿になり、6人を”怒り”の感情の赴くままに向かっていく。

 

傷つきながらもミチル?は6人を薙ぎ払い、乱れる感情のまま屋敷の外へと飛び出していった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 数日前の出来事が不意に脳裏を過る。6人の知っているはずの誰よりも親しみを感じていたはずの少女達が何故か怒りすら感じるほど嫌悪している・・・・・・

 

そんな矛盾に知識こそが十数年生きてきた経験があるのに、実感すら湧かない感覚に違和感を覚える。

 

「・・・・・・どうしたの?そんな顔をして・・・これで少しは落ち着きなさい」

 

ふと顔を向けると自分を6人の少女達”プレイアデス聖団”より助けてくれた暁美ほむらがココアを自分に差し出していたのだ。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

自信が無さげに返事を返す彼女に対し、ほむらはこの少女は自分に”柄にでもない”ことをさせたがると思い

 

「どういたしまして・・・そんな風に自分を卑下してはだめよ・・・もっと自分をしっかりもって・・・」

 

内心、自分こそもっとしっかりしないといけないのにこのような話をするのはあまりにも滑稽だった。

 

”ほむらちゃんって、名前凄くかっこいいよね。なんだか燃え上がれーって感じで”

 

自信がなかった卑屈な自分にエールを送ってくれた”鹿目さん”の言葉が過った・・・・・・

 

「でも・・・わたしには・・・・・・そんなモノは・・・何もないんです・・・アルのは知らない誰かの借り物でしかないんです」

 

あまりにも辛い思いをしたのか表情を伏せてしまった。逆効果だったかと内心焦ったが、直ぐに”姉”の姿が浮かんだのだ。

 

ここ数年、思い出すこともなかった、いや記憶の何処かに鍵をかけてみないようにしていた”姉”の言葉が

 

”ほむら!!!そんな辛気臭い顔しないの!!!ほら、笑う!!!”

 

強引に頬を摘み、無理やり笑い顔を作られたのだ、気が付けば、ほむらはそのままミチルの両方の頬を摘みむりやり笑い顔を作らせていた。

 

「にゃ・・・にゃにを・・・しゅ、しゅるんでしゅか?」

 

「辛気臭い顔を見ているとこっちも辛気臭くなるのよ・・・笑いなさい」

 

ミチル?からするとほむらの言葉は無茶苦茶であった。しかも命令口調である・・・・・・

 

だが、悪い気はしなかった。とりあえずは笑っておかないと頬は掴まれたままだ。

 

「は、はひ・・・あはははははは」

 

乾いた無理やり声を出して笑うのだが・・・・・・

 

「まぁ・・・・・・それで勘弁してあげるわ」

 

改めてココアをほむらは差し出した。

 

「勘弁って・・・・・・ほむらさんって・・・無茶苦茶じゃないですか!!」

 

「そうね・・・私の姉がそういう人だったからよ。ついでに兄はとんでもない”馬鹿”だけど・・・」

 

口調こそは酷いが、表情は穏やかなモノであった。まさか”姉 アスカ”のように振舞うことになろうとは、今までこんなことはどの”時間軸”ではなかったのに・・・・・・

 

「じゃあ、ほむらさんは・・・お姉さんなんですねって、痛っ!!」

 

「貴方の方が見た目年上でしょう・・・・・・まったく世話が焼けるわ」

 

額を押さえているミチル?ほむらは彼女に理不尽にもデコピンをしていた。

 

見た目の割には幼いのか、ココアを口にすると小さな子供のように喜んでいた・・・・・・・

 

その様子にかつて”兄”に淹れてもらった”ココア”を一緒になって飲んでいた”幼い自分”と”姉”の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

 

”ジンお兄ちゃんのココアって美味しいですね。アスカお姉ちゃん”

 

”まぁ、馬鹿ジンにも一つぐらい取り柄はあったってことね”

 

”まったくもう少し味わって飲めよ。おまえら”

 

 

 

 

 

 

 

ほむらはミチル?とその後も交流を続けていた。時刻は夜の10時を回ったぐらいで彼女は急に眠気が襲った為、ベッドで静かな寝息を立てていた。その様子に年齢以上の幼さを改めて感じていた・・・・・・

 

本来ならバラゴが来るはずだったのだが・・・

 

彼はここ”アスナロ市”で協力者を運よく得ることができた為、独自にアスナロ市で動くことを”エルダ”から知らされた。

 

「まったく・・・自分勝手なのは相変わらずね・・・・・・」

 

そういう自分も”見滝原”から離れている為か、彼の事をどうこう言える立場ではないのは自覚している。

 

その協力者が兄 ジンの友人であることは想像もしないだろう・・・・・・

 

「バラゴ様にもお考えがある・・・お前こそ私が与えた”課題”はどうだ」

 

「言われるまでもないわよ・・・・・・”魔戒札”は凡そ理解したわ。ただ、まだ見えていないモノも多いけど」

 

ほむらは自身の周りにタロットカードを思わせる78枚の札を展開させる。その中より彼女はある一枚を取り出したのだ・・・・・・

 

「・・・・・・正義か・・・・・・」

 

”正義 JUSTICE” 自分にはあまりにも過ぎた言葉である。何故、こんなモノが・・・・・・

 

「ほむら・・・これは感情を制しよという意味だ。お前が連れ込んだあの女の件は、少し厄介になるかもしれん」

 

ほむらの心情を察しているのかエルダは、庇うように助言する。

 

「エルダ、それはどういうこと?あの子は名前を言うだけで戸惑っているわ・・・まるで・・・・・・」

 

自分ではないのにそう呼ばれているかのように・・・まるで似ている誰かの姿を重ねているような・・・・・・

 

「魔法少女という者はお前を含めて、命を糧に願いを叶える。だが、ここに居る魔法少女は、あまりにもそれを逸脱している・・・お前自身も分かっているだろう・・・戻ってこない者を呼び起こそうとしているのだ」

 

「まさか・・・エルダ・・・ここの魔法少女達は・・・・・・」

 

ほむらは、誰もが特に自身も身を持って味わった忌まわしい”現実”・・・・・・

 

近くのベットで寝ている”ミチル?”にほむらは視線を向けた・・・・・・

 

「まさか・・・この子は・・・死者だというの?そんなことありえない・・・だって・・・・・・」

 

ほむら自身が味わった”死”による大切な人達との別離・・・・・・

 

だがミチル?は生きているのだ。”死”のような冷たさを感じないのだから・・・・・・

 

「そうだ・・・身の程を弁えぬ奴らは禁忌に手を出したのだ」

 

エルダのいう”禁忌”とはそういうことなのだろう・・・

 

キュウベえですらそんなものを願おうならば、別の願いにすり替えようとするほどなのだから・・・・・・

 

「・・・・・・まさかこんな事になるとわね・・・正直に言うとあの子を助けるべきではなかったのかもしれない。だけど・・・・・・あの子をアイツらに渡すことを嫌う私が居るわ」

 

ほむらは、この地であの子を”アスナロ市の魔法少女達”から護ろうと決めた。それは自身の正義感等でもなんでもない。ただ、気に入らないだけなのだ・・・・・・

 

あのミチル?の甘え方は、かつて姉 アスカを慕っていた自分によく似ていたのだから・・・・・・

 

「・・・・・・それで構わない。今夜は少しばかり騒がしくなる・・・・・・」

 

エルダもまたほむらが展開した”魔戒札”の中にある一枚に視線を向けていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 

 

ほむらとエルダらが拠点としているホテル周辺の空には、夜間見かけることがない鳩が飛んでいた。

 

鳩はやがて一人の少女の元へと降りる。

 

宇佐木里美・・・プレイアデス聖団所属の魔法少女である。

 

魔法少女としての姿は”メルヘン”を意識したのか動物を擬人化したかのうなものであり、彼女の能力は…

 

「そう・・・ここにその魔法少女が居るのね」

 

鳩より”くるっぽー”と気の抜ける返事をもらい、そのまま寝床へと帰した。

 

テレパシーを使い、アスナロ市に展開している他のメンバーに伝える。

 

<みんな・・・12人目とサキちゃん達を襲った魔法少女の居場所が分かったわ・・・場所は・・・>

 

5人の魔法少女達はほむらとエルダが滞在するホテルへと向かっていった・・・・・・

 

「ごめんなさい。12人目のミチルちゃん。ミチルを取り戻すためには、貴女は居てはいけないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム イベント会場

 

明良 二樹は、夜間警備のアルバイトの為、近日中に開催予定のイベント会場に来ていた。

 

いつもならば、警備主任に挨拶をし、決まったコースを巡回する予定だったのだが・・・・・・

 

「キャハハハハ!!夜のお勤め♪ご苦労さま♪」

 

警備の制服を着た 真須美 巴が警備主任席に座っていたのだ。

 

視線を部屋の端に向けるとそこには、ミイラ化した警備主任だったモノがあった・・・・・・

 

(あちゃ~~、警備主任、やられちゃったか。まぁ、あの人色狂いだったからこうなっちゃたんだね)

 

仮にもバイト先の上司であり、顔見知りであるのに明良 二樹は特にこれと言った感情は湧かなかった。

 

ただ昨日まで生きていた人間が突然死んだだけのことだから・・・彼にとって死ぬことはそこまで珍しいものではなかった。

 

事実、ずっと楽しくやっていけるはずの”兄”ですら、数年前に亡くなったのだから・・・・・・

 

「主任は巴ちゃんで良いのかな?バイト代はちゃんと出せる?こう見えても結構ギリギリの生活だからね」

 

異常な状況にも関わらず、和やかに話しかける彼もまた”異常”であった・・・・・・

 

「ちゃんと出すわ♪前金で思い切って1000万円でどうだぁ~~ってね♪」

 

とんとテーブルに1000万円の札束を明良 二樹に出したのだった。明良 二樹もこれには驚いていた。

 

あの”奪う”ことのみを信条としている真須美 巴がこのようなことをするとは・・・・・・

 

「バグギに頼もうと思ったんだけど、アイツ、忙しいからって私をないがしろにするのよ・・・復讐にも人手がひつようなの」

 

「復讐?なにをするつもりだい・・・」

 

真須美 巴が笑っているが目が笑っていないことに明良 二樹は気づいていた・・・・・・

 

明良 二樹は、口調こそは真面目だが、目は興味津々と言わんばかりに輝いていた。

 

「今夜、プレイアデス聖団が総出で昼間の魔法少女を襲撃しようと動き出しているのよ。そこを私達も出張るわけ」

 

楽しいイベントを盛り上げようと陽気に笑っているが、心の内は怒り狂っており、自身に屈辱を与えた”プレイアデス聖団”を徹底的に攻撃をするつもりのようだ・・・・・・

 

「私達って言ったよね。さすがに僕も”魔法少女”相手はきついよ。危険手当込みの前払いのようだけど」

 

「そこは・・・人手は呼んであるわ。直ぐに採用したわ」

 

真須美 巴は既に呼んでいた三人の魔法少女を明良 二樹へ紹介する。

 

「プレイアデスに怨みを持っている子達よ・・・私が声を掛けたら喜んで協力してくれたわよ」

 

甲高く笑う真須美 巴に対し明良 二樹も笑う。

 

「へぇ~~~、聖団の癖に怨みを買っているなんて興味深いね・・・」

 

「アンタ達・・・いい加減、アタシ抜きで話をするなって・・・」

 

「ごめんなさいね。ユウリ・・・二樹さんとは話が合って、ついつい弾んでしまうのよ」

 

金髪のツインテールの髪型の衣装がワインレッドの帽子とスカート、露出の高いボディースーツをきた魔法少女が不満そうに口を挟んだ。

 

「貴女だけじゃなくて”わたし”たちも居るんですけど・・・・・・」

 

「あやせさん達も待たせてしまったわね。貴女の欲しがっているジェムはそこでたくさん手に入るわよ」

 

真須美 巴の発言にユウリは

 

「待て、プレイアデスはアタシの獲物だ。ジェムは絶対に壊してやるんだ」

 

「えぇ~、勿体ないよ。命は粗末にしちゃいけないんだよ」

 

白いドレスを着た魔法少女 双樹 あやせが反論する。互いの主張を通したいのか、口論になりそうだったが

 

「まぁまあ。私達はプレイアデスに復讐したいという共通の目的で此処に来ているの。つまりは、どのようにしたいかは、私は特に指示したり、命令なんてするつもりはないわ」

 

真須美 巴の発言にユウリは

 

「どういうことだ?アンタ・・・アタシ達を利用したいんじゃないのか?えぇ、魔法少女食いの魔法少女さん」

 

「ねえ、ソウルジェムってどんな味がするの?」

 

「アンタは黙ってな!!ややこしくなるから!!!」

 

自分の好奇心のままに発言する双樹 あやせに思わず声を上げてしまったが、真須美 巴は心底面白そうに笑った

 

「キャハハハハハハハッ!!!!」

 

「何がおかしい!!!」

 

「まあ落ち着きなよ、ユウリちゃん。巴ちゃんのこういう態度はいつもの事だからね」

 

一般人らしいこの青年も妙に腹立たしいのだが、魔法少女のような力はないので特に無視しても構わなかった。

 

「だって、そうでしょ。魔法少女ってのは自分の願いをかなえるために奇跡を願っているのよ・・・それを態々、遠慮するなんておかしいじゃない・・・・・・」

 

凄みのある笑みを浮かべ、真須美 巴はさらに言葉を掛ける・・・・・・

 

「これはね、争奪戦よ・・・相手は6人いるわ・・・それをどれだけ多く狩れるかの競争と言う訳。貴女達の望みも叶うし、私の望みも叶うの・・・これは、ズルもなにもない公平な提案なのよ」

 

ユウリは、真須美 巴の言葉に一理あると考えた。双樹 あやせはプレイアデスに怨みを持っているか微妙なところであるが、真須美 巴そのものを信用しているわけではないが、自分が本気で戦えば問題はないだろうと考えた。

 

「あれぇ?わたしたち以外にもう一人いるって言わなかった?」

 

「あぁ~あの子ね。顔合わせは現地でってことで先に行ったわよ」

 

真須美 巴の発言に対して、ユウリは

 

「なんだとっ!?!出し抜こうだなんて許せない!!アタシは行くよ!!」

 

「じゃあ、わたしも~~」

 

飛び出していったユウリに続くように双樹 あやせも続いていった。

 

二人が居なくなった後、真須美 巴は満足そうに”ニンマリ”と笑った。

 

「巴ちゃんも悪い子だね~~実際のところ、美味しいところはみんな、巴ちゃんが持っていくつもりなんだよね」

 

明良 二樹は真須美 巴の意図が分かっていたのだ。

 

「魔法少女は我儘で欲張りなのよ・・・二樹・・・貴方にはこれを渡しておくわ」

 

真須美 巴は明良 二樹に”箱に詰められた大量のグリーフシード”を手渡した。

 

「魔女の卵を随分と奮発したんだね。君の事だから、これを使って場を盛り上げろっていうことだね」

 

楽しい玩具が手に入ったかのように明良 二樹は笑った。

 

「玩具は組み合わせて遊んだほうが面白いわよ・・・」

 

真須美 巴はさらに明良 二樹へもう一つの玩具を提供する。

 

「最新式よ・・・気に入る?」

 

「当然だよ。ロボットは男の子の浪漫だからね」

 

明良 二樹の前には、5体の金属でできた骸骨を模した機械人形が赤い目を光らせて整列していたのだ。

 

「さて・・・私達も行きましょうか。なんなら、特別手当もつけるわよ」

 

「バイトの仕事はちゃんとやるさ・・・雇い主の意向にはちゃんと添うよ」

 

 

 

 

 

 

今宵、アスナロ市において盛大な”宴”が始まる・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 伍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

バラゴ、まさかのアスナロ市で現地協力者ゲット。

協力者は魔戒騎士関連アンチ気味な神主(笑)

バグギは、頻繁に”アスナロ市”に出ています。

ほむらは、複数の魔法少女が一斉に揃うことになるとは思いもよらないでしょう。

真須美 巴は明良 二樹と一緒に三人の魔法少女を利用して場を盛り上げちゃおうぜと燥いでします。ユウリと双樹あやせらがゲスト出演。さらにもう一人の魔法少女も現地入り・・・・・・

明良 二樹は、現地の会場でのスタッフとして場を盛り上げる予定です(笑)

チョイ役と言っておきながら、さっそく裏方として活躍するありさま・・・・・・

明良 二樹と真須美 巴はお互いに”同類”としてみているのでかなり仲が良いのですが、男女の仲ではありません。同好の士です・・・・・・

元ネタの何処かで見たことのある少年は、似た他人の双子の弟とその同好の士をみてなんと思うのでしょうか?まあ、彼の場合、自分以外は玩具ですからね・・・・・・

真須美 巴とは絶対に敵対しそう(笑)

万が一、話があったとしても二人で盛大に楽しんだ後、お互いに滅ぼし合うことを楽しみながら殺し合う関係がお似合い・・・・・・嫌んな関係だこれ・・・・・・

そこは明良 二樹に頑張ってほしいですが、火に油を注ぐことしかしなさそう(汗)

次回は、ほぼ戦闘パート・・・アスナロ市編は予定ではあと6話ほどで終わらせたいと考えています。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 伍

まさかのあの人もゲスト出演!?

ネットではバラゴが出てくるSSはほとんどないんですが、この人が主人公で出てくるSSはおそらくないと思います(汗)

戦闘パートと言いながら、ほとんどがプレイアデス側で起こった出来事のパートになっています。








アスナロ市のビル群をの狭間を駆け抜ける一人の少女が居た。

 

彼女の名は”佳乃 ゆい”。つい最近になって”魔法少女”となった少女であった。

 

「待ってて!!カオル!!!直ぐに助けに行くから!!!」

 

かつて彼女は”牧 カオル”に助けられた少女だった・・・

 

自分の不注意で”牧 カオル”彼女の足を折ってしまい、彼女の”選手生命”を奪ってしまった・・・

 

”牧 カオル”は許してくれたが、周りはそうではなかった・・・有能な彼女の”可能性”を潰してしまった行為を許さなかった・・・常に責められ、それがエスカレートし、生きる事が辛いと思えるほどのいじめに発展した。

 

自殺を実行したがそれでも死にきれなかった自分を”牧 カオル”は救ってくれたのだった・・・

 

 

 

 

”自分がケガをした試合で傷ついた全てのヒトを救うこと”

 

 

 

 

願ってくれたおかげでいじめは無くなり、彼女に再び平穏が戻ったのだ・・・・・・

 

だけど、自分に起きた変化への戸惑いが残ったのだ・・・

 

その戸惑いを解決する手段があると教えてくれた存在が居た。

 

”君のその戸惑いを悩みを解決してあげられるよ。だから、僕と契約して魔法少女になってよ”

 

キュウベえと契約して魔法少女となり、彼女は願いを叶えた・・・

 

”わたしの悩みを・・・恐ろしいことが起こる前に人を助けられるようになりたい”

 

彼女の願いは、”予知”という魔法へと変化した・・・

 

そしてその”予知”は今宵、最悪なモノを”予知”したのだった・・・

 

「魔法少女食いとその仲間がカオルを恐ろしい目に遭わせてしまう!!!急いで知らせないと!!!!」

 

願いを自分を助けるために祈ってくれた”牧カオル”の為に、佳乃 ゆいは飛ぶ・・・・・・

 

さらに訪れる”魔女よりもさらに恐ろしい魔獣の存在”見たのだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

喫茶 アミーゴ

 

「おやっさん!!コーヒー一杯!!!」

 

「ボクもね~~ミルクは多めで!!!」

 

カウンター席に一組の男女が座って注文をする。その様子に喫茶のマスター 立花 宗一郎は

 

「おやっさんって・・・俺はそんな年ではないのだが・・・・・・」

 

「立花の名字で喫茶店のマスターだったら、おやっさんて言いたくなるんだけど、オレは」

 

赤黒い長髪の青年 ジン シンロンは笑いながら応えるのだった。

 

「これで実はバイクレーサーの育成を目指していたら完璧だよね」

 

赤毛の少女 メイ リオンがさらに笑いながら続いた。

 

「あのなぁ~~お前達は・・・・・・」

 

この異国の血を引いた男女はこの店の常連であり、こうやって店主である自分とアルバイトを含めた従業員らを巻き込んで楽し気に騒ぐのだ。迷惑行為などではなく、今の時間のように比較的空いている時はまるで”友人”のようになごやかに話すのだ。

 

「まぁいい・・・お前らもまだ夕飯は食っていないだろ・・・俺のおごりだ」

 

二人に対し、立花 宗一郎は自身の得意の料理であるビーフストロガノフを二つ差し出した。

 

「おっ♪おやっさん、太っ腹!!」

 

「いいよいいよ、ボク、マスターのビーフストロガノフ大好きだよ♪」

 

二人は遅めの夕食を頂く。

 

「まったく・・・お前達はちゃんとご飯粒残さずに食べるから、気持ちが良いんだよな」

 

「カラスキの奴が米には七人の神様が宿るから粗末にするなって言ってたからな」

 

ジンはこのアスナロ市の神社で神主をする友人の名を呟く。

 

「そういえば、京極君はどうしたんだ?今日あたりは来るかと思っていたんだが・・・・・・」

 

「カラスキなら、今夜厄介なお祓いがあるっていって、暫くは会わないって言ってたぜ」

 

ジンは友人の仕事熱心さもそうだが、危ないことにはならないようにと胸の内で祈っていた。

 

「ぼくとしてはカラやんの事もそうだけど、今日は確か”佳乃 ゆい”ちゃんはどうしたの?」

 

「佳乃ちゃんなら今日は用事ができたって言って、急遽休みになってな・・・」

 

なにか切羽詰まっている様子だったのは気になるが、自分に何ができるかは分からなかった・・・

 

だがメイは”佳乃 ゆい”の指に嵌っていた”指輪”を思い出していた・・・

 

そうあの”指輪”は魔法少女の”ソウルジェム”が変化したものだったからだ・・・・・・

 

(なにかあったと思うけど・・・・・・魔女絡みかな・・・・・・)

 

思い返してみれば、ここ最近の”アスナロ市”は少し妙なことが起こっている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル周辺に集まったプレイアデス聖団・・・

 

プレイアデス聖団のメンバー 御崎海香、牧カオル、浅海サキ、若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコの6人は近くの建物の屋上に集まっていた。

 

「みんな、これから12人目の処分に行くわ。覚悟はできている?」

 

「待て、12人目だけではなく真須美 巴の仲間の討伐もだろう」

 

浅海サキが異論を唱え、若葉みらいも同意の意思を示す。

 

「その話は保留でしょう。あの真須美 巴の言うことは絶対に信用しては言けないわ」

 

御崎海香が浅海サキに反論する。言うまでもなくあの女は”嘘つき”なので信用してはいけないのだ。

 

「サキちゃんはやられたのが悔しいだけでしょ。あの魔法少女は得体は知れないけど、真須美 巴と比べたら遥かにましな子だよ」

 

宇佐木里美がいつの間にか抱いている猫を撫でながら話す。猫に様子を見に行かせたら、12人目とは穏やかな関係を築いており、動物から見ても”悪い人間”ではないそうだ・・・

 

「サキを責めないでよ!!!」

 

里美に食って掛かるみらいであったが、牧 カオルが

 

「みんな、こんな事をしている場合じゃないよ。みんなでやるって決めたのは合意だろ」

 

乱れがちなメンバーに対し、牧カオルは再び結束するように話す。

 

若干納得がいかないが、ミチルを取り戻すためには12人目を処分しなければならないのだ。

 

故に今夜、ミチル?を匿っている魔法少女の元へ行かなければならない。

 

一歩踏み出そうとしたホテルに視線を向けた時だった・・・

 

「待って!!!カオル!!!」

 

振り返るとそこには、一人の魔法少女が居た・・・

 

「あ、貴女は!?!」

 

牧カオルは、少女 佳乃 ゆいをみて目を見開かせていた・・・・・

 

最後に彼女を見たのは、自殺未遂で意識不明で父親に抱えられていた姿だったからだ・・・・・・

 

「ゆいなのか?どうして、魔法少女に・・・・・・」

 

「そうだよ。カオル、貴女に助けられたのは分かっている、だから、わたし、貴女に恩を返したくて、だから魔法少女にわたしもなったんだよ!!!」

 

突然の再開に戸惑いを隠せない 牧 カオルだったが、

 

「カオル!!今すぐ、ここから離れて!!!あの魔法少女食いがアンタ達を狙っている!!!」

 

直ぐに佳乃 ゆいは自身が見た”予知”を現実にさせないために逃げるように叫んだ。

 

「何を言っているあの真須美 巴の仲間がそこに居るんだ。お前も仲間か」

 

戸惑う牧カオルに対し、浅海サキが強い敵対心を持って彼女に視線を向けていた。

 

「その子は関係ないよ!!早くここから離れて、魔女よりも怖い物が来るんだから!!!」

 

必死にこの場から逃げるように叫ぶのだが、

 

「サキの言う通り、お前はあの女の仲間で・・・ボク達の邪魔をするな!!!」

 

突然、テディベアの大群が現れ、佳乃ゆいに向かっていった。

 

「待って!!!わたしは戦いに来たんじゃない!!!っカオル・・・」

 

テディベアを避けた瞬間、真上には牧 カオルが居たのだ。

 

「ゆい・・・悪いけど、おまえは私のことを案じているようだが、私はお前に応えられない」

 

「危ない目に遭うんだよ!!助けてくれたカオルを私は・・・」

 

次の瞬間、雷撃が彼女を襲った。衝撃と共に彼女はコンクリートの屋上に叩きつけられてしまった。

 

「うぅ・・・カオル・・・・・・・」

 

悲痛な視線を向ける佳乃 ゆいに対して、牧 カオルは・・・

 

「私達は止まることはできないんだ!!ミチルを取り戻すためには!!!!」

 

魔法でそのままソウルジェムと肉体から引き離した・・・

 

ソウルジェムから引き離された瞬間の佳乃 ゆいの表情は絶望に歪んでいた・・・・・・

 

”・・・・・・どうして・・・・・・カオル・・・・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

牧 カオルは抑えようのない気持ちを晴らそうと近くの壁に思いっきり蹴りを入れた。

 

そこへ二つの影が舞い降りた・・・・・・

 

「あぁ~~もう始まってたか」

 

ユウリ、双樹 あやせが”プレイアデス聖団”の前に現れたのだった。

 

「な、なんだ?お前たちは・・・・・・」

 

困惑する”プレイアデス聖団”は二人の魔法少女を見た。

 

何処か”見覚えのある容姿”のユウリ。

 

品定めをするような視線を向ける双樹 あやせ。

 

「一人脱落か・・・アタシ達の狩れるチャンスは増えたな」

 

(一人脱落?どういうこと?さっきの子は偶然、こいつらの事を知ってカオルを助けようとした・・・)

 

海香は自分達は恩を仇で返すようなことをしてしまったのだと今更ながら思い知ったのだ。

 

”後悔”しても既に遅かった。

 

自分達に襲撃を仕掛けてきた”首謀者” 魔法少女食い 真須美 巴が姿を現したのだ。

 

「キャハハハハハハ!!!!こんばんは、プレイアデス!!!!ご機嫌いかがかしら!!!!」

 

派手なパフォーマンスと共に真須美 巴が現れたのだ。

 

「・・・真須美 巴・・・」

 

プレイアデスの誰かが呟いたのかは分からない。この場に現れた”彼女”の目的はただ一つ・・・

 

「さぁ~~て、楽しい、楽しい♪パーティーの始まりよ♪」

 

両腕が金属のスライムのように滑らかに変化し、ブレードを形成する。

 

「お前達!!!私たち相手に三人で戦うつもりか!!!なにがパーティーだ!!!ふざけるのも大概にしろ!!」

 

あまりの真須美 巴の態度に浅海サキが吼える。だが、

 

「戦いは”数”とは”真実”よ。だから、こっちも4人、追加させてもらうわ・・・二樹」

 

「巴ちゃん、みんな。”魔号機人”の準備は万全だよ」

 

魔法少女が集まっているこの場で場違いな”男性”の声が響いた。

 

「ちょ、ちょっと・・・なんで男の人が・・・」

 

「真須美 巴!!!アナタ!!!一般人を巻き込んだというの!!!」

 

魔法少女に関係のない一般人を巻き込んだ三人に海香が問う。

 

「違うよ、魔法少女ちゃん。僕は巴ちゃんの目的に同意してここに居るんだよ。僕は見てみたいんだよね・・・君たちが希望から絶望に姿を変える瞬間の”顔”がどんなに歪むのかをね・・・」

 

明良 二樹は海香に対し、笑った。これからお前達の破滅する様を見せてくれと言わんばかりに・・・

 

海香はまさか、魔女や使い魔の脅威に晒され、守らなければならない一般人が”敵”に回ることが信じられなかったのだ・・・・・・

 

さらには、魔法少女の”真実”を知っているようだった・・・・・・

 

「信じられないって顔をしているね。いいよ・・・少しだけ昔話をしてあげるよ。悪い魔法少女、外道を許せないって夢いっぱいのキラキラした魔法少女は居たんだ。そいつは、悪を倒したら、みんなが幸せになるって言ったんだ・・・」

 

”でもね”と一瞬だけ区切った。傍で聞いていたユウリは、明良 二樹の話に何か思うのか視線を彼に向けていた。

 

「僕の身内は世間一般に言えば”悪”だったよ。それも最低最悪、生きているのが罪だと言わんばかりのね。じゃあ、何だい、生まれ持った”悪”には生きる資格がない?生きていちゃいけない?そんなことを誰が決めたんだ?

僕の”兄さん”は夢見がちな”魔法少女”に殺されたんだよ!!!分かるかい!!!たった一人の”兄さん”を殺して満足そうにしている奴の顔を見るたびに湧き上がるこの怒りをどうすればいいんだ!!!!」

 

お前達”魔法少女”に”身内”が殺されたと明良 二樹は叫んだ。この叫びに”プレイアデス”の何人かが悲痛な顔を浮かべるが・・・

 

「でも、貴方のお兄さんは・・・」

 

「悪だというのかい?だったら仕方がないって・・・僕にとっては”正義”なんてものはクソくらえなんだよ」

 

もう何も言うことはないと手を挙げた瞬間、明良 二樹の周りに五体の骸骨人形 ”魔号機人”が立った。

 

「が、骸骨の人形・・・・・・」

 

「なんだか怖い・・・・・・」

 

「魔法じゃない・・・一体どうやって・・・・・・」

 

困惑するプレイアデス聖団に対して、ユウリは勝ち誇るかのように

 

「これで、こっちも数は同等だな」

 

「あの女・・・なんてものを持ってたんだ・・・・・・」

 

4機の”魔号機人”達は一斉に刃を抜き、プライアデスへと切りかかった。

 

「おい、お前達、殺すなよ。止めはアタシがやるからな」

 

「うん。ジェムは傷つけないでね・・・わたしとルカのコレクションに加えるから・・・」

 

それぞれが主張する中、明良 二樹は

 

「そういう指示で良いんだね。一応は魔号機人の指揮権は僕にあるんだからね」

 

明良 二樹の指示に対し、4機の魔号機人達は目を光らせた。

 

さらにユウリ 双樹 あやせも攻撃に加わった。

 

 

 

 

 

 

一体の魔号機人は牧 カオルへと刃を大きく振りかぶった。

 

「くっ!?!速い!!!」

 

例え魔法少女の強化された感覚であっても避けることは叶わず、そのまま頭を両断されていたであろう。

 

だが、牧 カオルは自身の反射神経でもってこれを紙一重で回避したのだ。

 

その一太刀は鋭く、コンクリートでできた足場に鋭い跡をつけていた。

 

「みんな!!!気を付けて!!!こいつら、もしかしたら魔女よりも厄介かも!!!」

 

さらに突きを放ち攻めてくる魔号機人は、機械故の冷徹さで魔法少女を攻撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子に乗るな!!!」

 

浅海サキは、手のひらから”雷撃”を放つことで、魔号機人の動きを封じようとする。

 

金属でできている以上機械のような精密部品で動いていると判断したのだろう。

 

魔号機人は刀に炎を纏い、そのままそれを刀を振るうことで放ち、浅海サキの放った”雷撃”を相殺したのだ。

 

「なにっ!?!こ、こいつ!!」

 

ただの機械人形風情に自身の魔法が打ち消されたことが悔しいのか、浅海サキの表情は怒りで歪んでいた。

 

対する魔号機人は無言のまま目を赤く光らせ、刀を構えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、サキ!!」

 

「おっと・・・アンタの相手はアタシだよ」

 

浅海サキを助けようと飛び出す若葉 みらいの前に魔法少女 ユウリが両手にハンドガンを携えて立ちふさがった。

 

「そこをどけ!!!」

 

自身の武器である”大剣”を出現させ、ユウリに斬りかかるが

 

「言われなくてもどいてやるさ・・・」

 

横一線に振り回される大剣を飛び上がることで回避し、自身の武器である”ハンドガン”による一斉射撃を若葉 みらいに浴びせる。一斉に発射された弾丸を自身の魔法である”大量のテディベア”を楯として召喚するが・・・

 

「甘いな!!!そいつらじゃこれを回避はできないよ!!!」

 

放たれた弾丸は、リボンが解れるように変化しテディベアたちの間を縫ってそのまま若葉 みらいを拘束してしまった。

 

「こいつを喰らわせてやる!!!いけぇ!!!」

 

自身の使い魔である牛を模した”コルノ・フォルテ”を召喚し、そのまま若葉 みらいへと突撃させたのだった。

 

巨大な使い魔の突進を諸に受けた”若葉 みらい”はそのまま吹き飛ばされてしまい、そのまま屋上から落下してしまった・・・・・・

 

「へへ・・・一人狩ってやった・・・」

 

ユウリは上機嫌に振り返った。そこには一体の魔号機人がユウリの指示を待つかのように佇んでいたのだ。

 

周りに視線を向けると先ほど吹き飛ばした少女を除いて、既に5人になっていたのだ。どうやらこの”魔号機人”が一人仕留めたようだったのだ。

 

「お前も中々やるじゃないか・・・これが終わったら、アタシと一緒に来ないか?」

 

魔号機人は愛想こそ全くないが、仕事はきちんとしてくれる為、ユウリは僅かな時間であるが彼女なりに愛着を持ってしまったのだ。元々は、真須美 巴から借り受けているモノだが、協力の報酬として一体ぐらい譲ってはもらえないだろうかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「二樹。貴方・・・良い役者になれるわよ♪プレイアデスに揺さぶりを掛けられたわ」

 

「せっかくのデビューなんだから、衝撃的な役柄で出たほうが良いじゃない、こういうのはね」

 

先ほどの様子とは打って変わって、明良 二樹はあっけらかんとした様子で眼下の戦いを楽しみながら、”魔号機人”に指示を出していた。

 

”プレイアデス”に揺さぶりを掛ける為にわざとあのような話をしたようだった・・・

 

「そんなことは別にいいんだけど、巴ちゃん一つだけ聞いてもいいかな?」

 

「なに、二樹?なにが知りたいの?」

 

「巴ちゃんが僕に渡してくれた”魔道具”だっけ・・・あれと似たのがあのドームの工場で作られていたんだけど・・・どう見ても製造元が違うよね。これとアッチの奴だと・・・」

 

明良 二樹はドームに作られた工場で見かけたトレンチコートの大柄の男に対して疑問を投げかけた。

 

「ああ、そうね・・・名前は言うなって言われているから言わないけど・・・”赤い仮面の男”と言っておくわね」

 

 

 

 

 

 

遡ること・・・数か月前・・・・・・

 

「魔戒法師というのは、もっと忙しなく働いているイメージがあるんだけど・・・貴方はいつもここに籠りっきりよね」

 

とある人里離れた場所に建てられた屋敷に真須美 巴は居た。彼女の目の前には黒いローブと赤い奇妙な仮面をつけた男が座っていた。左腕は禍々しい異形の形をしており、仮面故に表情は読み取りにくかった・・・

 

「・・・・・・魔戒法師が最初にホラーと戦っていたのだ。その苦労は並大抵のものではなかった・・・」

 

二人の居る書庫には様々な”ホラー”に関する文献が納められており、そのほとんどを執筆したのは”名のある魔戒法師”から名もなき法師たちが後世に伝えようと書き記してくれた”遺産”なのだ・・・・・

 

「分かるわよ・・・蓬莱さんもその辺は感謝していたわよ・・・酷いわよね・・・”護りし者”を名乗りながら、”法師”は騎士の”下働き”なんて・・・あぁ~~、世の中の組織って本当に世知辛いわよね~~」

 

茶化すように話す真須美 巴に対し”赤い仮面の男”は、同意したのか僅かに頷いた。

 

「お前の”陰我”も大概にしておけよ・・・ホラーに憑依されたらそれこそ、俺はお前を殲滅しなければならない」

 

男は、真須美 巴が一般でいう”極悪人”であることを察していた。だが、彼は”魔戒”の者であるが故に”人間”に手を出すことはしなかった・・・彼女は人間というには少し微妙な立ち位置ではあるが・・・・・・

 

「キャハハ。そこで”ホラー”も狩れる貴方の”発明品”が欲しいのよ・・・あの骸骨人形”魔号機人”の出来は凄くよかったら、追加であと10体はほしいわ♪」

 

”金は弾む”と言わんばかりにアタッシュケースに三つ分の大金とさらには此処まで運んできた”物資”を渡す。

 

「10体もか、随分と欲張りだな。まぁいい、お前のお陰で実験もできているからそこだけは感謝しておこう」

 

真須美 巴は満足そうに笑い、人型の”魔導具”を複数受け取った後、そのまま屋敷を後にするのだった・・・

 

”仮面の男”・・・布道シグマは仮面を外し、真須美 巴の背を見送った・・・

 

「・・・あの女の報告書を見る限りまだまだ足りない・・・」

 

自身が理想とする”イデア”もそうだが、計画遂行の為、魔戒法師達による新たな時代を迎える為にも”より強い魔道具”が必要なのだ・・・

 

真須美 巴とは、”計画遂行”の為に動けない自分に代わって”魔道具”を使い、その成果を試してもらっている。

 

”ホラー”を狩ることが一番の理想なのだが、彼女はそれ以外の用途にも使っており、おかげで”魔戒騎士”等の対策も兼ねたモノの作成も順調であった・・・・・・

 

”アスナロ市”に行くと言っていたので数か月は合うことはないだろうと考え、作業を再開する為、布道シグマはこの屋敷の地下へと降りていく・・・

 

そこにはかつてバラゴが発見できなかった”メシアの牙 ギャノン”の赤い異形の姿があった・・・・・・

 

 

 

 

 

そして現在・・・・・・

 

 

 

 

 

 

骸骨人形型の魔道具”魔号機人”は”赤い仮面の男”の作品であり、その魔道具の出来栄えに”バグギ”が感心し、この時代で得た”機械工学”を使い、科学で複製したのがバラゴがアスナロ市で交戦した”大柄の機械人形”だった・・・

 

「あれ?もう一人いたよね・・・その子は大丈夫なの」

 

改めて二樹は、三人目の魔法少女が気になった。

 

「大丈夫よ・・・あの子・・・カンナには感謝しているから、花を少しだけ持たせてあげるわ」

 

真須美 巴は自身にだけ聞こえてくるテレパシーに耳を傾けた。

 

”プレイアデス聖団”の状況を報告してくれた”協力者 聖 カンナ”からの・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 プレイアデス聖団との戦闘をエルダは自身の魔道具である”遠見の鏡”でほむらと一緒にその様子を見ていた。

 

「呆れたわ・・・忠告してくれた友達が居たのに・・・その人を切り捨てるなんて・・・・・・」

 

ほむらが特に呆れたのが、襲撃の情報を得て危険を知らせようと命がけで知らせてくれた魔法少女の言葉を信じないでそのまま排除したことだった・・・

 

味方になってくれる魔法少女をあのように”排除する”排他的な態度は正直頂けなかった。

 

「都合の悪い未来は結局、自分の愚かさを身を持って知るまでは認めることはないか・・・」

 

いつかエルダが自分に語ってくれた事をそのまま口に出してしまった・・・エルダは

 

「お前自身も身を持って知っている。私自身もな・・・あのような連中を見ていると反吐が出るな」

 

このまま”プレイアデス聖団”はおそらく負けるであろう。ほむらが見るに、”プレイアデス聖団”の動きは最初から誰かに情報を流されていたかのようにタイミングよく”襲撃者”が現れているように感じる。

 

あまり疑いたくもないがというよりもこういう思考ができてしまうあたり、自分はつくづく”悪”よりな魔法少女なのではと思ってしまう。

 

「知らせてくれた魔法少女はイレギュラーとして・・・プレイアデス聖団の魔法少女の中にもしかしたら内通者が居るのかもしれないわね・・・あんな風に襲撃を掛けられるのは常に相手を補足しているからこそよ」

 

自身も”時間遡行”により、現れる魔女や使い魔については詳細な情報を持つゆえに効率的に動くことができた。

 

それに近いモノを感じるのだ。”時間遡行”以外だと、リアルタイムで敵の内部情報を流している”内通者”の存在を疑う方が自然である。

 

「中々のものだな、ほむら。私からも一つ言っても良いか?」

 

「えぇ、エルダ。貴女が気になるのは、あの骸骨達かしら?」

 

ほむらも気になっていた。金髪のツインテールの帽子を被った少女のように”牛型の使い魔”を使役するなら、考えられなくもないのだが、あの金属の骸骨達はどうみても”魔法少女”らとは別の”誰か”によって作られたとしか思えないのだ。エルダから聞いた”号竜”という下級ホラーを材料にした自律式の機械ではないかと思うが・・・

 

「ああ、最近”元老院”の天才魔戒法師が法師でもホラーを封印できる魔道具を作ったらしいが、アレは元老院の法師とは違う”誰か”が作り上げたのだろう・・・」

 

”号竜”にちなんで”号竜人”と呼ぶべきだろうか、あの骸骨達は”魔号機人”という名前があることを知らない。

 

「ほむらさん・・・エルダさん・・・」

 

いつの間にかミチルが起きていた。表情は何か焦っているようだった。

 

「どうしたの?ミチル、怖い夢でもみたのかしら」

 

”どうしたのよ?ほむら、怖い夢でもみたの?しょうがないわね、今夜はアタシが一緒に居てあげるから”

 

かつて夜に怯えたときに自分を温かく迎えてくれた姉 アスカの言葉が再び脳裏によぎる・・・

 

「ほむらさん・・・・・・あの子達が近くに感じるの」

 

怯えに似た表情のミチルに対し、ほむらはあまり良い影響をつくづく与えない”魔法少女”だと”プレイアデス聖団”に対して毒づいた。

 

「そう・・・だったら、そろそろ此処から離れましょう」

 

エルダに視線を向けるが、特に反対する意思がないのか無言だった。彼女も騒ぎが大きくなる前にこの場から離れたほうが得策だと判断しているようだった。

 

 

 

 

 

”遠見の鏡”に映る”プレイアデス聖団”達は、”襲撃者”により苦戦を強いられていた。

 

一人は屋上から吹き飛ばされ、また一人はサーベルを持った一人、いや二人の影を持つ魔法少女に翻弄され、

 

四機の”魔号機人”による攻撃により傷ついていく・・・

 

さらには、その場から少し離れたところで1機の”魔号機人”を従える青年と魔法少女・・・・・・

 

「・・・・・・・海香、カオル、みらい、さき、里美、ニコ・・・・・・」

 

6人の少女達に対して思うことは憎しみでしかなかった・・・

 

勝手に生み出し、勝手に処分しようとした彼女達は・・・だけど・・・

 

「私じゃないミチルだったら・・・・・・どうするんだろう・・・・・・」

 

もう一つの感情と記憶。かつて絶望した6人を救いたいと願った”最初のミチル”・・・・・・

 

だけど、ミチルは希望を残せず、彼女たち6人に”呪い”を齎してしまった・・・・・・

 

その様子にほむらは、前言撤回しなければならなければならなかった・・・・・・

 

「ミチル、貴女が例え何人目でも私にとってはこのアスナロ市で出会った唯一のミチルよ。だったら、貴女はどうしたいの?私にできることがあれば言ってみなさい」

 

気が付けばほむらは、魔法少女へと変身していた。その様子にエルダは

 

「甘いとしか言いようがないが・・・良いだろう、ほむらお前は自分の思うがままに戦うがいい・・・」

 

「分かっているわよ・・・そんなこと・・・私は私がやりたいようにやらせてもらうわ」

 

紫の弓を携え、ほむらはホテルのバルコニーに立った。

 

「ほむらさん!!!わたしの、ミチルのことなのに!!!どうして!!!!」

 

自分が何も言わない内に危険に飛び込もうとするほむらにミチルは声を上げた。

 

「貴女が私にらしくないことをさせるのよ・・・もう”希望”とかそういうモノを謳うことを諦めていたのにね」

 

”ほんとにどうしてしまったのか”と自嘲しながら、ほむらは不本意ながらも”プレイアデス聖団”を援護すべく、飛翔した。

 

呆然とするミチルに対し、エルダが隣に立つ。

 

「ほむらとバラゴ様はよく似ている・・・まだ捨てきれぬ内なる”光”を今も持っているのだ・・・」

 

二人は合わせ鏡のような存在であった・・・お互いに自身の”弱さ”に憎悪し、”より強い力”を求め、自らの味わった残酷な運命を覆すために進む・・・・・・それこそが、二人の歩んでいた”闇”であった・・・・・・

 

故にこのアスナロ市で真っ当な事をするつもりは互いになく、あるのは現状に対する反骨精神だけだった・・・

 

「・・・混乱に紛れてこちらに来るとは・・・・・・お前が”内通者”か?」

 

エルダは音もなくこの部屋に入ってきていたプレイアデス聖団所属 神那ニコの姿を振り返らずに察していた。

 

「・・・・・・ニコ?・・・・・・・」

 

ミチル?の言葉に神那ニコ・・・ではなく瓜二つの容姿を持つ聖 カンナは静かに笑った・・・・・・

 

 

 

 

 

アスナロ市 京極神社

 

時刻は既に11時を回り、あと一時間で日付が変わる頃合いであった・・・

 

その京極神社の奥の”本殿”とは別の建物”社務所”にバラゴは居た。

 

主にここは、神社の事務全般を行う場所であり、さらには参拝者にを持て成す”客室”も兼ねている。

 

バラゴは、バグギの現れた場所は非常に厄介であることを察した。

 

カラスキからの”情報”、さらには現地で”戦利品”として持ち帰った”金属製の骸骨”である・・・

 

バグギの現在を察すると、その”性質”から機械や電気機器を操り、利用することを考えており、この”金属製の骸骨”も現代の”ロボット工学”から作られた・・・

 

ご丁寧に製造番号の横には”BAGUGI"の名がありホラー自身が作り上げた絡繰り人形であるらしい。

 

本来ならば”魔戒騎士”と”ホラー”との戦いは”番犬所”により隠蔽されるのだが、自分のような逸れ者にはそのような恩恵は望めない。

 

想像以上にバグギは派手に動いている。下手をすれば自身の存在共々”元老院”に感づかれてしまうかもしれない。

 

来てもらうのならば、”相手”にするのだが・・・・・・彼の懸念は意外にも”協力者”への配慮だった。

 

バグギの情報を正確に伝え、便宜を図ってくれたことに感謝している。

 

用が済んだらこのまま”バグギ”を狩ればよいのだが・・・・・・

 

(どういう心境の変化だ・・・用済みになればこのまま捨ててしまっても良かったのだが・・・)

 

彼の心を乱しているのは、”暁美ほむら”のことだった・・・

 

この神社の神主 京極カラスキは過去に”暁美ほむら”と交流があった。その出自故に深くは関わろうとはしなかったが、お節介な彼女の”姉”と”兄”によって、半ば無理やり関わったのだが・・・・

 

”だからかな・・・・・・本当なら、こんな呪い塗れな奴が神主するのもおかしな話だけど・・・アイツらが住むこのアスナロ市を見守る役目をしっかり果たしたいんだよ”

 

”それに・・・ほむらちゃんとはあまり話はできなかったけど、あの娘とジンを合わせたやりたいしね”

 

京極神社の管轄するアスナロ市で暗黒魔戒騎士が動けば”元老院”は直ぐにこの京極神社に疑いの目を向ける。

 

元々奴隷扱いされていた”京極神社の神主”だ・・・単に処分してまた新たに補充されるだけだろう・・・

 

このやり方にバラゴは強い反発を覚えていた・・・言うまでもなく”暁美ほむら”の関係する協力者を”危険な目”に合わせることに・・・・・・

 

だが、京極カラスキは了承していたのだ。暗黒騎士の力を借りることの代償を・・・

 

結果アスナロ市をバグギの脅威から護ればそれで良い・・・その代償は払うことに戸惑いはなかったのだ・・・

 

(・・・・・・まさか魔戒騎士のように振舞わなければならなくなるとは・・・まぁいい・・・今回限りだ)

 

自身の心境に自嘲しながら、バラゴは深夜の時間帯を見計らって目的地に行くことにした・・・

 

 

 

 

 

「うん?こいつはまた・・・・・・」

 

「どうした?」

 

カラスキがアスナロ市の市内に入ってから何かを”感知”したようだった・・・

 

「新しい”呪い”が生まれそうだ・・・しかも”陰我”まで招きやがって・・・・・・」

 

顔を引き攣らせるカラスキは、今夜は何やらよくないことが起こっているのではと考えた。

 

そんな様子のカラスキに対し、バラゴは

 

「ちょうどよい、バグギの前にその”陰我”を見てやろう・・・1000体のホラーを狩るには、一体でも多くのホラーを喰らわねばならない」

 

そんなバラゴに対して、カラスキは”末恐ろしい事”と思うが、自身の役目を果たすために暗黒騎士に力を借りたのだ。

 

これは分かり切っていたことだったが、何故か妙に自分に気をつかっているようなので、不思議には思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

彼女の意識は混濁した波の中にあった・・・

 

かつて傷ついた自分を助けてくれた”友達”に危険が迫っていると分かった時、居てもたっても居られずに走った。

 

だが、”友達”と思っていたのは自分だけで、彼女 牧カオルにとって自分は邪魔な存在だった・・・・・・

 

本当に危険な目に合っている彼女を助けたいという気持ちはもうなかった・・・

 

あるのは虚しさと・・・あんな女の為に”魔法少女”になった自分への苛立ちだった・・・・・

 

このまま何もできずに終わるのだろうか?いや、魔女にこのまま孵化して”復讐をしてやろうかと考えた・・・

 

”お前は悔しいのか?”

 

突如としてそれは聞こえてきた。まるであの時、契約を持ち掛けたキュウベえのように・・・・・・

 

悔しい・・・それでいて憎たらしい・・・このままで済ませてなるものか・・・・・・

 

”ならば、我を受け入れよ。その魂を新たに強力な肉体を持ってお前の望みは叶う”

 

その声に対し、彼女の意識は答えた。その瞬間、何かが弾けるように世界に闇が広がった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

海香が持っていたソウルジェムが突如として強力な邪気と瘴気、呪いをまき散らし始めたのだ。

 

魔女の孵化とは違う現象に戸惑うが、手元に持っていたら危険と判断し、そのまま投げ捨てた。

 

ソウルジェムはグリーフシードに変化せず、そのまま弾けたと同時に西洋の悪魔が現れる・・・・・・

 

 

 

 

 

 

魔法少女の絶望が別の”呪い”へと至った瞬間だった・・・

 

 

至った先の名は”陰我”・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 陸

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

別行動を取っていても何故かやることが一緒な二人 バラゴ様とほむら。

バラゴは”ほむら”関連では、割と気を遣うようになっています。

ほむらに嘆かれるのが堪ったものではない為・・・

ほむらはほむらで、自身の都合で助けたミチルに肩入れし、彼女の為に動く。

拾ったものの情が移ってしまったことと自分の思うままに何かをしたいという気持ちもあるのですが結果的には”バラゴ”と同じく人の為に動いています。

意外と強いぞ”魔号機人”。使い方次第ではホラーも倒せるし、一般の魔戒騎士、魔法少女なら十分に戦えます。

バグギよりも”赤い仮面の男”の方が”邪悪”に見えてきました。危険極まりない武器を危ない奴にばら撒く”赤い仮面の男”・・・死の商人のようになってしまったのは気のせいではないと思います。


牧 カオル関連で出してみた例の子 どこにも資料がなかったのでほぼオリジナルな魔法少女になりましたが、まさかの魔女化ではなく、ホラー化。

どうなることやら・・・・・・

やはりプレイアデス聖団 メイン7人は多いような気がします。結局 牧カオル関連の子が話に絡むこともなければ、御崎海香の件での編集者が出てくることもなかったので、この辺りはどうだろうと思わなくもないですが・・・

次回より退場する子が多々出てきます。

キバ 時間軸でのかずみ☆マギカの前日譚的な位置づけなので、死ぬことはないです。

一部を除いて・・・・・・

暇を見て”赤い仮面の男”が主人公のSSを見たいのですが、ないのなら自分で書いてしまえと思う今日この頃・・・・・・

バラゴが主人公なSSがないので自分で書き始めた口なので、やってしまおうか悩みます。



アスナロ市編 キャラまとめ 

呀ことバラゴとバグギの陣営に限り・・・



呀 陣営

暗黒騎士 呀 バラゴ

暁美 ほむら

エルダ

ミチル(ほむらが保護)

京極カラスキ(アスナロ市をバグギの脅威から護る為、協力)



バグギ 関連

使徒ホラー バグギ

真須美 巴(バグギと利害関係の一致で協力)

明良 二樹(真須美 巴とは同好の士)

赤い仮面の男 布道シグマ(真須美 巴へ魔道具”魔号機人”を提供)

ユウリ(プレイアデスへの復讐の為)

双樹 あやせ (ソウルジェムをコレクションする為、参戦)

聖 カンナ (ユウリと同じく復讐の為協力)




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 陸

今回ホラーが本格的に攻撃を開始します。

前回でのプライアデス聖団ですが、すでに聖 カンナがニコと入れ変わっています。

正直、この子なら、ニコとカンナが入れ替わっていることに変則的ですが気づけたのではないかと思います。

プレイアデス聖団には既に、心が離れたメンバーがもう一人居たのです・・・・・・

今更ながら気が付いたのですが、じゅうべえが出てきていません(笑)




 

 

宇佐木里美が彼女の存在に気づいたのは偶然だった・・・・・・

 

アスナロ市の郊外には彼女の秘密の友達が居る。それは・・・・・・

 

「シロ・・・今日は元気?」

 

顔を出したのは、カラス・・・一般的な黒いカラスではなく白いカラスだった・・・・・・

 

アルビノの個体であり、黒い姿が普通の中に居る白い”異端”・・・・・・

 

「そう・・・今日は誰かに虐められなかった?大丈夫、私が守ってあげるからね・・・」

 

シロを抱き、宇佐木里美はその場を後にするのだが・・・・・・

 

「黒い身なりが常のカラスに白の異端でござんすな」

 

「ニコちゃん・・・シロはシロだよ」

 

異端の白いカラスであっても自分の友達なのだ。神那ニコに白いカラスの友達が居ると伝えたら、見てみたいと言って時々二人で世話をしている。

 

突如、シロが神那ニコを見て騒ぎ出したのだ。初対面の人には警戒心が強いシロなのだが、彼女とは何度も顔を合わし羽の世話もする程打ち解けていたはずなのだが・・・・・・

 

「えっ、シロっ!?!どういうことなの!?!」

 

シロは彼女が神那ニコではないと叫んでいた。それも普通の人間ではない何かだと・・・・・・

 

動物は人間が失ってしまった”勘”が今も生きている。その”勘”が告げているのだと・・・・・・

 

宇佐木里美は信じられないような目で神那ニコに似た少女に問いかける。

 

「あなた・・・・・・誰?」

 

「・・・・・・・・・・・・誰だと思う?」

 

神那ニコ・・・聖 カンナは口元を歪めるようにして笑った・・・・・・

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 

 

ミチルは目の前に居る神那ニコに問いかける。

 

「・・・・・・違うよ、ミチル。貴女と同じだよ」

 

神那ニコ 聖 カンナは静かに笑いながらミチルへと歩み寄る。

 

エルダは庇うように彼女の前に立った・・・・・・

 

「お前からは妙な気配を感じる。誰に作られた?」

 

「作られた?お前に私達の何が分かる」

 

エルダの”作られた”の言葉は、聖 カンナにとってはこれ以上にない忌まわしい言葉だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

プレイアデス聖団の援護の為に現場に向かうほむらであったが、不意に”ホラー”の邪気を感じたのだ。

 

その前にはソウルジェムが濁り、グリーフシードへ変化する気配があった。

 

(まさか・・・魔法少女にホラーが憑依したとでもいうの!?!)

 

可能性としてはあり得たのだが、実際のにそれが具現してしまったことに、ほむらはプレイアデス聖団の行いによる行為が原因であり、”陰我”を招いたと考えた。

 

(つくづく関わり合いたくない連中ね。それも自分たちの行いを”悲劇のヒロイン”気取りで正当化しようとしているから余計に性質が悪いわ)

 

ミチルから聞いた話だと、”プレイアデス聖団”は自分を通して別の”ミチル”を見ているのだという・・・

 

ある意味プレイアデス聖団の行いには同情してしまう。

 

自身もまた”失ってしまった親友”に訪れる”絶望”の未来”を変えたいと願った・・・

 

最初の鹿目さんと以降のまどかでは、性格などが若干ながら違っていた。故にプレイアデス聖団はある意味、自分に近いものではないかと考えていた・・・・・・

 

バラゴに関しては自身の同類なので”同族嫌悪”の感情を抱いているが、それと同じぐらいに”親愛”に近い感情を抱き始めていた。

 

プレイアデス聖団の魔法少女の詳細は分からないが、”失ったものを取り戻したい”という願いを持って動いている。だけど、彼女達は知らないのだろう・・・そう・・・

 

「私があなた達よりマシだとは言わない・・・だけど、”死んだ人”は絶対に帰ってこないのよ」

 

あの時、鹿目さんを生き返らせようと願ってもそれは叶えられなかったと確信できる・・・・・・

 

「そんなあなた達でも死んだら、ミチルは悲しむわ・・・」

 

助けたところで、プレイアデス聖団が感謝などしないだろう。

 

何の得もないことではあり、かつての佐倉杏子なら絶対に受けようとはしなかったものだ・・・・・・

 

そんな自分が可笑しいのかほむらは、胸の内で”道化”を演じる自分に苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

ソウルシェムから黒い西洋の悪魔が飛び出したと同時に悪魔から強烈な瘴気と邪気の渦がプレイアデス聖団、真須美 巴一派らを巻き込んだ。

 

「あらあら・・・あの子。飛び入り参加にしては随分と派手な事をしてくれたわね」

 

真須美 巴は目の前で変化する”ホラー”を感心するような視線を向けていた。

 

「うん?飛び入りって・・・あそこで転がっている娘かい?」

 

「ええ、そうよ…多分、”予知”か何かの力で私達の事を察して”プレイアデス聖団”を助けようとしたみたいだけど、まさか・・・自分が”プレイアデス聖団”を攻撃することになる”未来”になるなんてね」

 

真須美 巴は心底愉快に笑った。

 

「キャハハハハハハ!!!あーっははははははっはははは!!!!!!」

 

ワザとらしくお腹を抱え、場違いなほど陽気な声で笑う。

 

「あはははははは!!!巴ちゃん!!!最っ高だよ!!!こんなに面白い事なんてそうそうないよ!!!」

 

明良 二樹もまたこの光景が面白いのか心の底から笑った。

 

ここ数か月の間でここまで面白いことがあっただろうか・・・・・・

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAxッ!!!!!』

 

ソウルジェム・・・直接魔法少女の魂に取り憑いたホラー ジャムジュエルは闇から怪しげな青い光を伴ってその姿を現した。

 

その姿は三つの首・・・ではなく一つの蛇の頭と首が三等分に分かれている異形の蛇であり

 

断面には、剥き出しになった筋肉、骨が存在し・・・

 

腹の部分にはソウルジェムを思わせる卵型の宝石に似た巨大な器官を持ち、長い体を巻き、宙に浮いていた。

 

中央の額には”佳乃 ゆい”の怒りに満ちた顔が浮かび上がっており、鱗には魔法少女としてのシンボルであった”五角形”が描かれていた・・・

 

体の鱗一つ一つもまたソウルジェムの輝きに似た光を示しており、その光景に一人の魔法少女

 

「・・・・・・なんて綺麗なの・・・・・・」

 

双樹 あやせは色とりどりの宝石を散りばめたかのような姿をしたホラー ジャムジュエルの姿に目を輝かせていた。

 

「おい・・・あいつ相当ヤバいぞ。そう言ってられる状況じゃ・・・・・・」

 

「ううん・・・綺麗なモノは本当はすごく怖いものでもあるの・・・あんなに綺麗なモノみたことない」

 

ホラー ジャムジュエルの輝く身体に双樹 あやせはこの怪物が”欲しい”と願った・・・

 

だが彼女は理解していた”この怪物”は決して手に入らないモノであると・・・叶わないこそ欲していた・・・

 

ユウリは明らかにあの怪物 ホラーは自分達が狩る存在である”魔女”よりも遥かに危険な存在であることを一目で理解した。そして、この化け物をこの場に呼び寄せたのは・・・・・

 

「アンタの怨みは相当だったんだな・・・アタシでもアンタには負けるよ」

 

プレイアデス聖団への攻撃は、それぞれの意思の元で行う平等なモノであったが、今回は自分の意思以上にこのホラーの方が遥かに強いことを認め、憧れるような視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「違う!!ゆいは、アンタ達の仲間なんかじゃない!!!」

 

牧 カオルは襲撃者達の言葉を否定するように声を上げる。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAッ!!!!』

 

牧カオルに対してジャムジュエルは抗議するように吼えた。

 

吼える際に怒りに満ちた”佳乃 ゆい”の頭部を見せつけるように・・・・・・

 

『ユルサナイ・・・ゼッタイニ・・・ユルサナイ』

 

「ゆ、ゆい・・・ごめんなさい・・・ま、またわたしは・・・・・・」

 

自分達を助けようとしてくれた”佳乃 ゆい”を拒絶し、自分の都合で排除したのは自分たちなのだ・・・

 

「・・・ここにいるメンバーは君達への憎しみや怒りを持って集まっているんだよ。今この場で君たちへの”憎しみ”もった彼女は・・・僕たちの同士だよ」

 

明良 二樹は牧 カオルの言葉を否定する。拒絶しておいてそれはないんじゃないのと小馬鹿にするように笑う。

 

二人の会話を聞いていたユウリは違和感を感じていた。

 

(となると・・・あいつは三人目じゃなくて四人目・・・じゃあ、三人目は何処に居たんだ?)

 

先に先行していたもう一人は結局誰だったのか分からなかったが、この状況下ではとくに考える必要のないこととしてユウリは思考を止めた。

 

ホラー ジャムジェルは散りばめられた宝石を輝かせると同時に至る所にゲートを開いた。

 

このホラー ジャムジュエル”ホラーの大量召喚”であったのだ・・・・・・

 

西洋な悪魔が大量に咆哮を上げる・・・

 

そして一斉に”アスナロ市”の空へと飛びあがった。

 

 

 

 

 

 

一部の素体ホラー達が真須美 巴らに迫ってくるが、5機の魔号機人達が庇い、刀で迎撃、殲滅を行った。

 

「キャハハ!!!これは盛大に楽しまないといけないわね!!!」

 

「強いな、魔号機人・・・ホラーと戦えるのはこの場では君達だけだね」

 

本能的にホラーを攻撃するようになっているのだが、使用者に危険に身が及ぶとそちらを優先して護るように行動する魔号機人に明良 二樹は5機の機械人形らに労いの言葉を掛けた。

 

「プレイアデスに言っておくわ。この怪物の名は、ホラー!!!人間の邪心を糧にする怪物よ!!こいつのはどんな攻撃も通じないわよ!!!魔法少女の力でもね」

 

笑う真須美 巴はこのままホラーに喰われる”プライアデス聖団”を見るのも悪くはないと考えていた。

 

「巴ちゃんの補足をすると、魔戒の力を持つ人じゃないと戦えないってさ・・・この場だと魔号機人だけかな」

 

魔号機人達は赤い目を光らせて、ホラーを見ていた。元々が対ホラー用の武器である魔号機人達は本能的にホラーに敵対感情を持っているが、指揮者である明良 二樹の護衛に徹している。

 

機械である魔号機人達は眼下で絶望的な状況にある”プレイアデス聖団”を護る気などなかった。

 

護るべきは使用者である”明良 二樹”と”真須美 巴”の二人である。

 

事実、浅海サキは果敢にも素体ホラーに攻撃を仕掛けるが、全くのダメージを与えられていなかった。

 

逆に魔号機人は、一太刀でホラーを切り伏せていたのだ。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!』

 

三つの首を持つ蛇はその牙をプレイアデス聖団・・・特に牧 カオルに対して向かっていく。

 

「く、こんな奴に!!!」

 

「待って!!!ゆいを攻撃するのは!!!」

 

「そんな事を言っている場合じゃないわ!!!」

 

戦おうとする浅見サキに対し、罪悪感からなのか戦いを止めようと制する牧カオル。

 

だが、状況はハッキリって最悪そのものだった。既に二人のメンバーがこの場から排除されており、今や4人になってしまったことに御崎海香は声を上げた。

 

宇佐木里美は、三人を何とかして護ろうと結界を張るのだが、数の多いホラーの多勢無勢に苦戦していた。

 

時折、嫌らしそうな視線を向ける真須美 巴らには怒りしかないのだが、ある意味この事態を引き起こしてしまったのは自分達だと彼女は自覚していた・・・・・・

 

正直に言えば宇佐木里美は”プレイアデス聖団”のやり方に半ば嫌気が指していたのだ。

 

だからこそ、黙っていたのだ。プレイアデス聖団の一人が既に”裏切っていた”ことを

 

いや、裏切ったのではなく、身勝手な願いの代償と言うよりも因果応報に近いというものだったのだ・・・

 

(・・・ニコちゃん・・・・・・いえカンナちゃんはもう12人目には会えたのかな)

 

ミチルにもう一度会いたいと願ったことに嘘はない。それと同時に”死んだ人”が蘇ることに恐怖する自分が居た・・・会いたいけど会いたくない・・・・・・

 

自分の願いは”声を聴くことのできないペット”の死がきっかけであったからだ・・・

 

ミチルの”死”に恐怖し、その”死”をなかった事にしようと幾人ものミチルを創造したのだった・・・だけど結局は、何も変わらなかった・・・

 

ミチルは”死”んだままで現状は何も変わらない・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「どうして!!!私達魔法少女は貴方のような人を護って来たのに!!!!」

 

改めて御崎海香は明良 二樹に叫んだ。真須美 巴のような最悪な極悪人と手を結んだあげく自分達に悪意を向ける彼に訴えたのだ。

 

明良 二樹は呆れたように肩をすくめる。あまりにもプレイアデス聖団の頭の中が”ハッピー”だったからだ。

 

「それは君たちの押しつけじゃないの?僕が君たちに護ってくれと泣いて頼んだことがあったかい?守ってやってるから感謝しろって、魔法少女って厚かましいんだね」

 

明良 二樹は1機の魔号機人に指示を出す。その行為に御崎海香は僅かであるが喜色の色を浮かべるが・・・・・・

 

「僕はね・・・真須美 巴ちゃんと一緒に遊ぶのが大好きなんだよ♪君たちと遊んだって面白くもなんともないよ。ホラーって邪気が凄いからソウルジェムも割とすぐに濁るらしいから、メンバー追加でもいいかな?」

 

「そんな感じよ♪二樹、ホラーとの交渉は惜しんではだめよ♪」

 

あろうことか、最大の脅威であるホラー ジャムジュエルに加勢する始末だった・・・

 

「キャハハハハハ!!!アナタたちの最期は私達が看取ってあげるから、安心しなさいな」

 

ホラー ジャムジュエルが咆哮を上げ、プレイアデス聖団の四人に迫った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ最後じゃないわよ・・・間一髪といったところかしら、プレイアデス」

 

 

 

 

 

 

 

突如として声が響く。

 

ホラーはその声の気配の中に自身の天敵である”法師”のモノを感じる。

 

視線を向けるとそこには、長い黒髪を夜風になびかせ、

 

紫色の弓を構えた魔法少女 暁美ほむらの姿があった。

 

遠くに見えるアスナロタワーを背に彼女は眼下に居るホラーに視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

弓を構え、矢を放った瞬間であった。一瞬にして多くの”魔戒文字”を伴った衝撃が大量に召喚されていた素体ホラーを粉砕し、さらにホラー ジャムジュエルの身体に衝撃を与える。

 

その光景に一同は驚愕する。まさか魔法少女でありながら、ホラーを狩る”魔戒”の力を持つ者の存在に・・・

 

「ああぁ・・・綺麗なモノに・・・なんてことを!!!!」

 

双樹 あやせはこの世で最も美しいモノを傷つけるほむらに対して怒りの視線を向け、飛び出していった。

 

サーベルを突き立てるように構え、彼女に向かっていく。

 

「綺麗なモノ?・・ホラーの本質はおぞましいの一言に尽きるわよ」

 

見慣れない魔法少女に対しほむらは焦ることなく左手を横に振るうことでカウンター用の五本の爪状の刃を抜く。

 

抜かれた五本の刃は鋭い音を立てて双樹あやせのサーベルを防ぐ。そのままサーベルは横に弾かれる。

 

弾かれ大きな隙を生じた双樹あやせに対し、ほむらは追撃をせずにいつでも放てるように弓を構えた。

 

「・・・・・・・へぇ・・・このまま来てたらルカが攻撃するの・・・分かってたんだ・・・」

 

先ほどの双樹あやせとは違う雰囲気と口調で”双樹 ルカ”は笑う。

 

「貴女からは少し得体のしれないモノを”見た”からよ・・・」

 

ほむらの横に数枚の”魔戒札”が飛び出す。この”魔戒札”がほむらにほんの先の展開を伝えていたのだった。

 

「・・・・・・貴方とやりあうのはあまり得策ではありませんね。最も貴女であっても”アレ”・・・ホラーを倒すにはまだまだ力不足のように思えますが・・・・・・」

 

「そうね・・・私の目的はプレイアデスをここから逃がすことにあるわ。結果的にはホラーもこの場で何とかしなくてはならない」

 

魔法少女、魔女ならまだしもホラーに後れをとるものかと”エルダ”に師事してきたが、ホラー ジャムジュエルの身体は見た目にふさわしく頑強なもののようであった・・・・・・

 

「それでしたら、私は貴女を止めませんわ。最も”魔法少女狩り”のプレイアデスが貴女に感謝するとは到底思えませんしね」

 

「ああ・・・そうだぜ、アタシからも忠告しておく。アイツらは自覚のない外道だ・・・助けたってアンタには何の得意もないし、恩を仇で返されるだけだ」

 

いつのまにかユウリも近くに来ており、プレイアデス聖団に関わるのはやめろと言っていた。

 

最もユウリ自身が”正義”と言うべきではなく、”悪”にカテゴリーされる存在であることは彼女も自覚していた。

 

故にあのプレイアデス聖団を救うべきではないと・・・・・・

 

事実、あのホラーはプレイアデス聖団の”陰我”により誕生したのだから・・・

 

「言いたいことはそれだけかしら?あなた達」

 

ほむらは何を言っているのかと言わんばかりに返す。

 

「相手が何であれ、魔法少女狩りでも死んだら悲しみ娘が居るのよ・・・憎いけど死んでほしくない。そう思っている娘の為に・・・動くのも悪くはないと思ったからよ」

 

ほむらの言葉に二人は呆気にとられたが、彼女はそんな二人に気づかれないように”時間停止”を行った・・・

 

確実にプレイアデス聖団の少女達を助けるために・・・・・・

 

「私は”正義”とかそんなモノを求めるつもりはない。自分に思うように戦う。彼のように・・・・・・」

 

”彼” バラゴのようにと口に出した自分は、いよいよ”暗黒騎士”に染まっている・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・まだ・・・生きている・・・・・・・・・・」

 

若葉 みらいは思い意識を覚醒させる。高層ビルの屋上から投げ出されたが辛うじてだが自分は助かったのだ。

 

背中に激痛が走り、手足の関節は奇妙に曲がっており、鈍い激痛が身体を走る。

 

(・・・・・・サキとみんなは・・・どうなったの?)

 

戦局はハッキリって自分達に不利であった。あの骸骨の人形達の強さに加え、手練れの魔法少女二人とさらには不意を突いて運よく捕らえるのが精一杯だった真須美 巴の布陣なのだ・・・

 

単体でもかなりの強さを誇る 真須美 巴が徒党を組んで襲撃を掛けてきた。

 

「・・・・・・はやく・・・行かなきゃ・・・どうしよう・・・身体が動かないよ・・・・・・」

 

魔力を使えば身体を修復できるが、その身体が言うことを聞いてくれない。

 

このまま気づかれずに・・・”死”・・・ソウルジェムが濁っていき、気づかれずに”魔女”になるのだろうか・・・

 

”ミチル”復活の為に創造した”ジュゥべえ”ならば、ジェムを浄化できるはずだったが、結局は見せかけだけであったことが判明した後、封印を施した為この場に来ることはない・・・・・・

 

「まさか・・・魔法少女にまた会うなんて・・・ぼくの人生はこういうのに縁があるのかな?」

 

誰かが自分の傍に来ている。それに魔法少女の事を知っていた。

 

「メイ、その子を動かすなよ。下手に動かしたら神経が傷ついちまう」

 

さらに・・・若い男性の声が聞こえてきた。

 

「どうやったらこんな・・・ってまさか上から落ちたのか?」

 

ジンはまるで強い衝撃を受けたかのような傷跡とさらにはそのまま真上の屋上から落ちたことに驚く。

 

奇妙な事と言えば、彼女の纏っている衣装だった・・・

 

「ったく・・・なんだ?この格好は・・・まるでふうぞ「それ以上は言ってはダメだよ!!ジン!!!」

 

メイからみても彼女の衣装は、魔法少女としても少し問題があり夜の蝶と言われても致し方のないものであったからだ・・・・・・

 

「君っ、意識はちゃんとある?グリーフシードは持ってるよね」

 

視界に現れたのはエメラルドを思わせる緑色の目をした20前後の赤毛の女性が心配そうに見ていた。

 

それに彼女は、魔法少女について知っている。

 

「あ、貴女は・・・僕達・・・・・・魔法少女を知っているの?」

 

「前にあのキュウベえに勧誘されたことがあっただけだよ」

 

”断ったけどね”と言い、メイは若葉 みらいが持っていたグリーフシードを手に取り、首にある少し濁ったソウルジェムへと近づけた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらは時間の止まった”世界”を勢いよく駆け抜けた。

 

自分の”魔法”を明かすことになるのだが、ミチルの為だ。後の事は何とでもしようと考えていた。

 

直ぐに時間の止まっている牧 カオルに近づき手を取る。

 

「あ、アナタは・・・そ、それにこれはっ!?!」

 

周りの景色があり得ないモノに変化していたのだ。時間が止まったかのように全てが”停止”していた。

 

「時間が止まっているの!?!」

 

「そんな事はどうでもいい事よ。早く他の人の手を取りなさい」

 

自分が手を取るのも悪くはないのだが、手を取った瞬間攻撃をしてくる可能性もある。

 

「わ、分かった」

 

ほむらの指示に従い、牧 カオルは他の三人に触れ、この場から離れるようにと伝える。

 

牧 カオルと同じように驚く 御崎海香、宇佐木里美だった。

 

浅見サキはほむらとの因縁があったのか、攻撃をしようとしてきたが三人に戒められ、悔しそうにほむらを睨んでいた。

 

4人を比較的安全な別の建物の屋上へ連れ出した後、ほむらは直ぐにホラー ジェムジュエルの元へと向かっていくのだった・・・・・・

 

降ろされた4人は、呆然とした様子で遠くなっていくほむらの背を見送っていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、魔戒文字と共に衝撃波がホラー ジャムジュエルを襲う。

 

ほむらは上空に佇むホラーに対し・・・・・・

 

「堅いわね・・・・・・中級ホラーぐらいならいけると思ったのに」

 

やはりホラーは自分にとっては強大な敵だと改めて思い知る。だが、ここで歩みを止めるわけには行かないのだ。

 

「まだまだ私にはやらなければならないことが残っている」

 

ほむらは”魔戒符”を取り出し、牙を立てて突撃してくるジャムジュエルに対し投げつける。

 

”魔戒符”はホラーの額に浮かんだ少女の顔で爆発四散する。

 

『ジャマヲスルナああああああああ』

 

上空に飛翔し、宙返りの反動で勢いよく後退し、態勢を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巴ちゃん・・・どうする?あの魔法少女ちゃん、かなり厄介だよ。僕たちの遊びが・・・・・・」

 

不満そうに明良 二樹はホラーと戦う 暁美ほむらを見ていた。

 

「まさかのイレギュラーね。ホラーも中々楽しいものでしたが、現場でのアクシデントは付き物ですから」

 

真須美 巴は少し思案するように視線を動かす。協力者である他の二人もこのアクシデントに目を見張っており、プレイアデス聖団への攻撃を中断している。

 

「簡単なゲームよりもある程度の難易度があった方がずっと面白いわ・・・」

 

「じゃあ、魔号機人を援護に差し向けようか?」

 

明良 二樹も魔号機人を四機同時に差し向ければ攻略できるだろうと考えたが、暁美 ほむらの能力が分からない為、下手に手を打つと四機すべて失う可能性があると考えた。

 

『お前達・・・随分と楽しそうにしているな。ええ・・・真須美 巴』

 

ゲームを攻略しようと動いていた二人に背後に大柄のトレンチコートの男が立っていたのだ。

 

「あら・・・バグギ。今更、何をしに来たの?」

 

「こいつが巴ちゃんの言っていた。使徒ホラーってやつ?あっちと比べると迫力がイマイチかな」

 

魔戒騎士、法師が恐れる”使徒ホラー”に対し二人は、これと言って恐れを感じていなかった。

 

『お前達の遊びに引かれてホラー ジャムジュエルもそうだが、暗黒騎士が近くに来ている』

 

バグギが興味を引く”メシアを召喚し一体化する”という大それたことを行おうとしている”暗黒騎士”のその本領を見たいから、バグギはこの場所に足を運んでいたのだ。

 

餌風情の明良 二樹に軽んじられることに対してもこれと言って情が昂ることもなかった・・・

 

それ以上の昂ぶりを感じていたのだから・・・・・・

 

『ハハハハハハハハハハッ!!!!!ジャムジュエル、お前には”餌”になってもらうぞ!!!!!』

 

バグギは両腕より黒い渦を発生させ、黒光りする”雷”をジャムジュエルとほむらの居るビルへと叩きつけるように振るった。

 

 

 

 

 

 

 

耳に酷くこだまする音と共に衝撃波が光と共に”アスナロ市”を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?魔法少女ってほんとに居るんだな・・・」

 

先ほどまで重傷であった少女が傷一つなく回復した様子にジンは目を丸くしていた。

 

衣装はPT〇に引っ掛かりそうだが・・・そんな視線を察してかメイはジンの腕を抓った。

 

「痛っ!?!抓んなって!?!!」

 

「ジン・・・君達男子には縁のない話だよ。まぁ、そっちの方が良かったかな」

 

メイは魔法少女に関する残酷な真実を察すると男子の方がある意味幸福であると考える。

 

「あのボ、じゃなくて私を助けて・・・」

 

「はいはい、畏まって言わなくても良いよ。君も自分の事をぼくって言うんだろ。ぼくもさ♪」

 

「ボクは若葉 みらい。助けてくれてありがとう」

 

メイの気さくな態度と言葉遣いに若葉 みらいは笑みを浮かべて感謝を述べたのだが・・・

 

突如として響く爆発音と衝撃波が三人を襲う。咄嗟にジンは、二人を庇った。

 

近隣のビルの窓ガラスと言うガラスが砕け、さらにいくつかのビルの一部が倒壊する。

 

落下してくる瓦礫から庇うジンから飛び出すように若葉 みらいは不得意であるが結界を張った。

 

「ちょっと、大丈夫?結界を張るのは割と魔力を消費するんだよ」

 

魔法少女の事情を知っているメイに対し、若葉 みらいは

 

「大丈夫・・・魔女ならまだしもこのぐらいなら頑張れる!!!」

 

自分の身を案じ助けてくれた人たちを助けるべく 魔法少女の責務を果たそうと彼女は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の山とさらには炎上する周辺はパニックに陥っていた。

 

逃げ出す人々とは逆に騒ぎの中心へと足を進める影が二つ バラゴと京極 カラスキであった。

 

「嫌な”呪い”が二つも・・・もう一方は・・・・・・多分、バグギか」

 

カラスキは人目を憚らずに騒ぎを起こした”使徒ホラー バグギ”に対し歯を噛みしめた。

 

対するバラゴは、バグギとホラーの近くに”彼女”が居ることを感じていた・・・・・・

 

(ほむらくん・・・・・・君は魔戒導師としては素晴らしい素質をもっているようだね)

 

ホラー ジャムジュエルと戦っているほむらに対し、バラゴは場違いなほど穏やかな感情を抱いていた。

 

彼女の魔戒導師としての才はいずれ自分にとっても大きな力になることを・・・

 

共に歩むことのできる存在に成長することへの期待が胸中に存在していた・・・・・・

 

だが、バグギが近くに居る以上戦闘に時間を掛けさせるわけには行かない、ホラー ジャムジュエルはその堅い体は魔戒騎士ですら手を焼く程なのだから・・・・・・

 

胸元の魔導具を手に取り、怪しく輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!』

 

鳥とも猿とも違う獣の咆哮が響く。突然の事態に ジン メイ 若葉 みらいの三人は

 

「な、なんだ!?!化け物でもでたのか?!」

 

「え~と、これ魔女じゃないよね?こんな奴が居たの?」

 

「魔女よりももっと邪悪、それでいて強い・・・」

 

若葉 みらいのソウルジェムはホラーの異様な邪気を感じ、僅かに濁り始める。

 

三人の前に長い黒い髪の少女が降り立った。それに続いて、ホラージャムジュエルも現れた・・・・・・

 

背後の気配を察し、ほむらは三人に対し勢いよく振り返った。

 

「この場から早く逃げなさい!!!アイツは人を喰うわ!!!死にたくなかったら!!!」

 

振り返った少女 暁美ほむらをジン シンロンは目を見開かせた。

 

自分の記憶と違い、装いは変わっているが・・・間違いなく、行方不明になっている妹だった・・・・・・

 

「ほ、ほむら!!!おまえ、ほむらなんだろ!!!!」

 

「私をって・・・ジン、ジンお兄ちゃん!!?!何故・・・っ!?!」

 

思いがけない再開にほむらは、迂闊にも集中を欠いてしまった。

 

直ぐに時間停止を行うべき時に、手元が狂ってしまったのだ・・・・・・

 

その隙を逃さんと迫りくるジャムジュエルだったが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両者の間に割り込むように黒く長い柄を持った斧「暗黒漸」がジャムジュエルのその巨体を吹き飛ばした。

 

使用者の強大な力によって投げられたそれは一撃必殺に近い”衝撃”を与える。

 

深々とアスファルトの上に刺さった「暗黒漸」の存在に、ほむらは近くに彼が来たことを察する。

 

「バラゴ。あなたは・・・どうしてこういうタイミングで来るのかしらね」

 

内心、”私でも十分だった”と言いたかったが、これを兄の前でいうのは気が引けたのだった。

 

「ほむら君。良くやった・・・あとは僕がこのホラーを喰らおう・・・・・・」

 

黒いローブを目深に被っていたバラゴは、魔導具を頭上に掲げると同時に”暗黒騎士”の鎧を召喚する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市に”暗黒騎士 呀”が立つ。

 

『お、オマエは・・・な、ナンだ?』

 

態勢を整えつつ、目の前に現れた”闇色の狼”から感じられる自身のそれよりも・・・それ以上の”威圧感”と”邪気”を持った存在にジャムジュエルは・・・思わず後退してしまった・・・・・・

 

「・・・・・・使徒ホラー バグギを目の前にしてそれか・・・お前など喰うに値しない」

 

魔戒騎士・・・ではなくおそらくは鎧に食われた”暗黒魔戒騎士”には違いないだろうが、ここまでの”力”と”意思”をもつ存在はジャムジュエルも聞いたことがなかったのだ・・・・・・

 

身体中の鱗を身体を振るうことによって弾丸のようにして攻撃を開始するが、

 

黒炎剣を構え、それらを一刀のもと全て粉砕する。

 

使徒ホラーがアスナロ市に姿を現していることにすら気が付かない三流ホラーにバラゴは嘲笑う。

 

だが、その身体の堅さだけは一級品であるホラー ジャムジュエルを倒すには一撃必殺の剣を撃ち込む必要があった。

 

呀は、黒炎剣に炎を纏わせると同時に一瞬にしてジャムジュエルの正面に踏み込む。

 

『ナッ・・・っ!?!』

 

額に浮かんだ”佳乃 ゆい”の顔が再び絶望に歪む・・・

 

その表情を感情のない白い目が映したと同時に

 

金属が崩壊する音と共に炎が上がり、黒炎剣が空を切った・・・・・・

 

ホラー ジャムジュエルは黒い炎と共に消え去った・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒騎士 呀は、紅蓮に染まるアスナロ市を瞳のない白い目がある一点を見る。

 

 

 

昼間倒したトレンチコートの男と瓜二つの影に従う二人がビルの上から暗黒騎士 呀を見下ろしていた・・・

 

 

 

 

 

 

続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 漆

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

暁美ほむらがチョイ強め。今のところ上級ホラー以外ならば倒せるレベルにあります。エルダの指導もですが、ほむらは魔法少女としての素養は低くても魔戒導師、法師ならば素養が高いのが今作の設定。

全員揃いました。ほむらも兄と再会・・・

暗黒騎士 呀としてのバラゴは結構久々だと今更ながら気が付きました。

見滝原の風雲騎士と比べるとやはり原作における”敵役”なので、重い・・・・・・

次回から、バラゴと合流して本格的にバグギとの戦闘に入ります。

あと3、4話程で終わらせればと思いつつ、1話分追加になるかもしれません。

正直、プレイアデス聖団のアンチが割と入っているような気がしないでもないのですが、やっていたことはほぼ、外道だったと思います。

故に後々の追及が怖いところです。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 漆



バグギとの戦闘に入ります。

使徒ホラー バグギはかなり強い部類に入ると考えていますので・・・

この小説ではバラゴにとって風雲騎士に次ぐ強敵です。


「そんな・・・・・・・ルカ・・・・・・綺麗なモノが・・・黒いモノに燃やされた・・・・・・」

 

双樹 ルカ・・・ではなく双樹 あやせは暗黒騎士 呀により一刀の元、焼き切られたホラー ジャムジュエルの最期を嘆いていた。

 

「なんだ・・・アイツ・・・・・・狼か・・・確か噂だと・・・・・・」

 

ユウリは眼下に立っている 暗黒騎士 呀の姿である”狼”を模した鎧に聞き覚えがあった・・・・・・

 

まだ魔法少女になる前に好んで読んでいた”都市伝説読本”に記載されていた”狼を模した鎧の騎士”だった・・・

 

自身が負けを認めた”ホラー ジャムジュエル”をほぼ瞬殺した存在に冷や汗をかくと同時に、都市伝説、噂でしかないと思われていた”鎧の騎士”の実在に半ば興奮していた。

 

「・・・・・・やる気なくした・・・・・・帰る・・・・・・」

 

双樹 あやせは欲しいと願った”美しい怪異 ホラー ジャムジュエル”を目の前で消されたことによるショックで戦闘意欲が無くなり、肩を落としてこの場から離れていくのだった・・・・・・

 

「・・・・・・・・こんなのってないよ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

『このまま静かにするのは、勿体ない。せっかくアスナロ市に来たのだ。”雷獣伝説”を見せつけてやろう』

 

バグギはそのまま暗黒騎士 呀のいる真下へと降りていく。

 

真須美 巴と明良 二樹はこれから始まる戦いに期待を寄せていた。

 

「”雷獣伝説”ってあの昔話の・・・あのバグギが雷獣本人ってことでいいのかい?巴ちゃん」

 

「本人がそういうのなら、そういうことじゃないの。キャハハ、ホラー食いのホラーが一般のホラーと比べてどれだけ強いのか・・・この目で見られる機会なんて滅多にないわよ」

 

「ハハハハハ。そうだね・・・惜しむらくはこの素晴らしい戦いを特等席で見られるのは限られた人でしかないんだよね」

 

 

 

 

 

 

重量を感じさせる落下音と共にトレンチコートの大男”バグギ”は暗黒騎士 呀の前に降り立った。

 

アスファルトの道路が揺れ、皹を入れる。赤い無機質な輝きを持つ目が呀の白い目と交差する。

 

「昼間に使ったあの下らない絡繰りと同じか?それならば・・・何度やっても結果は同じだ」

 

呀は、バグギの意識が宿ったと思われる”人型の機械人形”に対し挑発するように剣を振るった。

 

『クククククク・・・実験を伴って改良を重ねていくものだぞ、暗黒騎士・・・』

 

バグギの宣言に応えるようにアスナロ市全体のライフラインである”電気”に異常が発生した。

 

アスナロ市タワーを彩っていたイルミネーションが消え、町全体の電子機器が異常を起こし始めたのだ。

 

街頭のライトが割れていき、夜空は雷雲を伴った轟音を轟かせている。

 

全ての”電気エネルギー”がバグギを中心にしていたのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

バグギによる”異変”をエルダは即座に感じていた。ホテル全体が停電に陥り、街の明かりが消えていく。

 

「これが・・・太古より雷雲と共に現れていた 使徒ホラー バグギの”力”か・・・」

 

これまでに相対してきたどの相手よりも強い。おそらくはこれまでに主人が戦った”相手”の中では最強格であろう

 

「え、エルダさん・・・これは・・・」

 

ミチルは正直に言えば、エルダが苦手であったが、この異常事態に不安を隠せないでいた。

 

「おまえは少し落ち着け・・・ほむらと合流する・・・そこにバラゴ様も居られる」

 

エルダは自身の指先より金属製の爪を鋭い音共に出現させたと同時に”転移の術”を使い、ミチルと共に離れるのだった。

 

「・・・・・・私には何か言うことは他にないの?なんか・・・・・・ムカつく」

 

聖 カンナはミチルに触れることが叶わなかったことを悔しがったが・・・・・・

 

「真須美 巴のパートナーが動き出したか・・・あんな奴と手を組むなんて・・・”人間”の考えることは分からないな」

 

 

 

 

 

 

 

ほむらはまさかこのアスナロ市で”兄”と再会することになるとは思ってもいなかった為か心を乱してしまった。

 

脳裏に”正義 JUSTICE”の魔戒札が浮かぶ。

 

(あの魔戒札の心を制しよとは・・・このことも含まれていたのね・・・まだまだだわ・・・・・・)

 

魔戒導師はその術で僅かな先を見ることができる。だが、その先は常に変化しており予想だにしない展開を見せる。兄との再会がまさしくそれであったのだから・・・・・・

 

「き、君は昼間の!?!」

 

若葉 みらいがほむらの姿を見て思わず叫ぶ。アスナロ市で敵対行動を互いにとっていた為か両者に一瞬だけ緊張が走るのだが・・・・・・

 

「そうね・・・昼間の決着をつけたいのなら後にしましょう。私は兄を一刻も早くこの場から離れさせたいの」

 

「・・・兄?」

 

若葉 みらいは振り返りジンに視線を向ける。

 

ほむらとジンは容姿が大きく違うため血縁関係があるとは思えなかった。

 

「あぁ、みらいちゃん。ほむらは、オレの妹みたいな・・・いや、妹なんだ」

 

懐かしそうにいて愛おしそうに”肉親”を見るジンに若葉 みらいは先ほどまで胸中に存在していた”暁美ほむらへの敵対心”を消した・・・・・・

 

「・・・相手はさっきのホラーとは比べ物にならないほど恐ろしいわ」

 

”もしかしたら・・・ワルプルギスの夜よりも”・・・まさかここでそれ以上の脅威を見ることになるとは・・・

 

「ホラーってあの魔女じゃない怪物のこと?邪気が強すぎて・・・・・・」

 

若葉 みらいの首元のソウルジェムがホラーの邪気に影響されて濁っている。

 

「慣れていないとそうなるわね。これを使って・・・それと向こうのビルの屋上に”プレイアデス聖団”のメンバーが居るわ」

 

「もしかして・・・君がサキ達を助けてくれたの?」

 

まさか”プレイアデス聖団”の仲間が生きていることに若葉 みらいは表情を綻ばせた。

 

「えぇ、不本意だけど、ミチルが泣くから仕方なくね」

 

「それでも良いよ・・・ありがとう」

 

ほむらの口調こそは慇懃無礼ではあるが、若葉 みらいにとっては仲間を助けてくれた事は彼女にとって、ほむらのそんな態度などどうでも良かった。

 

「だったら、早くこの場から逃げなさい・・・アイツらは向こうに居て意識もバラゴとバグギに向いているから今の内よ」

 

「わかった。心配はいらないかもしれないけど・・・気を付けて」

 

若葉 みらいは魔法少女の脚力を使い、高く飛翔しその場を離れるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「話はもういいのか?ほむら」

 

気が付けば、兄 ジン・シンロンが真っ直ぐ自分を見ていた。

 

思わず視線を逸らしたくなったが、ここで逃げ出してはならない・・・・・・

 

「うん・・・話は終わったよ。久しぶりだね、ジンお兄ちゃん」

 

「久しぶりもなにも・・・こんな夜中に何をやってるんだよ・・・馬鹿をやるのはオレだけでよかったのによ」

 

気が付けばジンはほむらのその華奢な身体を抱きしめていた。

 

「ったく・・・ちゃんと食べてたのか?おばさん達・・・すごく心配してたんだぜ。オレもだけどよ」

 

自分が知っている頃よりも大きくなった身体はかつて少年だった彼の面影を残していた・・・・・・

 

無言のままほむらは、なされるがまま兄 ジンに身を委ねていた・・・・・・

 

かつて感じていた”兄”の温もりを懐かしく感じながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

去り際に気になったのか、若葉 みらいは血の繋がらない”兄”と”妹”の姿に笑みを浮かべていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

去った若葉 みらいと入れ違うように京極 カラスキが複雑そうに兄妹を見ていた。

 

「ったく・・・難儀な兄妹だな・・・おまえらは・・・」

 

急いで離れなければと思い、近くにメイ リオンが居たのでそちらに声をかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故・・・この場に彼が居る・・・・・・)

 

まさかこの場にほむらの”兄”が居合わせたことに内心驚いていたが、それ以上にバラゴの心を乱したのが、ほむらがなされるがままに彼に身を委ねている光景だった・・・・・・

 

激しい嫉妬を感じ、直ぐに彼女から”ジン シンロン”を引きはがしたい感情に囚われた。

 

二人は男女の関係ではなく”兄”、”妹”の関係である為、バラゴの考えるような感情を二人が抱くことはない。

 

だが、家族を知らないバラゴにとって、それを理解すること等できなかった。いや、彼は知らないのだ・・・

 

人が抱く”愛”という感情を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうした暗黒騎士?我を前に何を気にしている?』

 

「っ!?!」

 

気が付けば巨大からは想像ができぬほどの素早さでバグギが迫ってきていたのだ。

 

らしくもない油断をしてしまい、呀は一瞬反応が遅れてしまうがバグギの拳を強引に掴む。

 

『ククククク・・・そうなくちゃ・・・面白くない・・・なぁあっ!!!』

 

拳からバグギの”雷”が放電される。信じられないことに・・・・・・

 

「っ!?!(手が熱い・・・まさか・・・・・・)」

 

バグギの雷は熱を伴い、鎧の下のバラゴの手に熱を与えていたのだ・・・・・・

 

さらに掌底を呀の胸元に叩きつけたと同時に強烈な衝撃が襲ってきた。その衝撃により呀は後退し、壁に叩きつけられてしまった。

 

「バラゴっ!?!」

 

まさかあのバラゴがやられるとは思っても居なかったのか思わず、ほむらは叫んでしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

バグギの拳を掴んだ左手を呀は見る。鎧はホラーのあらゆる攻撃を弾くはずなのだが・・・・・・

 

『暗黒騎士よ・・・ホラーもお前達も一般人から見れば非常識な超常の存在であるが、その鎧も金属には違いないだろう・・・当然のことながら我の”雷”も通用するであろうな』

 

その証拠に左手は痺れていたのだ。さらには急所である肺の付近に強い衝撃を受けた為か呼吸が乱れていた。

 

本来ならば特に支障などないはずだが・・・バグギが相手であれば話は別であろう・・・

 

さらにはイレギュラーな事に護るべき存在である”ほむら”がバラゴの感情を乱していた。

 

『ククククク・・・メシアと一体化するなどと言った割には所詮は、魔戒騎士・・・我の敵ではない』

 

勝利宣言をするようにバグギはさらに追い打ちをかけるべく迫ってきた。

 

自分を心配そうに見ているほむらに何を感じたかは彼のみ知ることであるが、少なくとも”悪感情”ではなかった

 

轟音と共に強大な雷のエネルギーが暗黒騎士 呀に迫るが、暗黒漸を召喚しそれを雷エネルギーへと投げる。

 

投げられた暗黒漸はそのまま”避雷針”となり、迫るバグギの雷エネルギーを逸らしたのだった。

 

黒炎剣を構え、呀はバグギのボディに斬る。斬られたバグギのトレンチコートが裂け、露わになるのは昼間と同じ機械部品を内蔵した金属の身体であった。

 

身体全体より”電気エネルギー”の結界を張るように放電を行い、呀を迎撃する。

 

大量の熱と衝撃を伴う攻撃に呀の鎧が僅かに焼け、煙すら上げていた。

 

バグギの力は凄まじく、近隣にすら影響を与え無差別に電気エネルギーと衝撃がアスナロ市全体を揺らす。

 

足元が揺れ、さらには轟音が常に夜空に響く。過去に起こった”アスナロ市”の”災厄”の再現であった・・・

 

繁栄を謳歌していた近代都市群の灯りは失われ、暗い夜の闇の世界がそこにはあった・・・

 

破壊と嘆きと悲鳴を伴って・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・バグギ・・・この世界はお前の支配する世界であっても、私はお前達ホラー喰らう」

 

僅かに焦げ、赤熱化した鎧は生身であるバラゴにもダメージを与えていた。

 

だが彼はここで負けるわけには行かなかった・・・全ては”究極の存在”になる為にも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

           ”・・・・・・・バラゴ・・・・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

 

他者によって奪われてしまった最愛の存在を二度と奪われない為にも”力”を手に入れなければならない。

 

今現在、自分に寄り添ってくれている”暁美ほむら”と”最愛の母”の姿が彼の中で一つになる・・・・・・

 

「お前達ホラーが闇であるならば、僕はその闇をさらに超えよう!!!さらに深い闇そのものに!!!」

 

振り下ろした黒炎剣をそのまま突き立て、呀は眼前のバグギにその拳を振るった。

 

鈍い金属音が響きバグギの身体が揺れる。

 

関節が脆かったのか首が折れ、垂れるが痛がる様子もなく反撃の拳を振るうがバラゴは今度は受け止めずに同じ拳で応戦し、強引に関節ごと破壊し、がら空きになった胴体に突き立てられた黒炎剣を突き上げてバグギの身体を切り裂いたのだった。

 

『ククククク・・・さらに深い闇だと・・・暗黒騎士風情が・・・思いあがるなよ』

 

「っ!?!」

 

破壊されたボディから強烈な雷光を伴ってバグギ本体が飛び出してきた。

 

それは黒い瘴気を雷雲のように纏った”金色の獣”だった・・・・・・

 

『ハハハハハハ!!!!実に愉快だ、暗黒騎士 呀!!!お前は絶対に我が喰う!!絶対にだ!!!!』

 

雷雲を伴い、バグギは轟音と共に姿を晦ました・・・・・・

 

『いずれまた・・・会おう・・・その時は、人間らしく無様な最期を見てやろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バラゴ!!」

 

”闇色の狼”に駆け寄るほむらに合わせるように呀の鎧を解除した。

 

解除した際に黒いローブで被っていた素顔が明らかになった・・・

 

「・・・・・・龍崎駈音・・・あいつ・・・・・・」

 

ジンは、先日暁美家で彼に会っていたのだ。

 

その彼はほむらの行方を知っていながら、意図的に隠していた。

 

さらに、龍崎駈音のことを”バラゴ”とほむらが呼んでいることにも疑問が浮かぶが、

 

彼、龍崎駈音には聞かなければならないことが山のようにある。

 

表情が険しくなったジンに対し、いつの間にか来ていたカラスキは

 

「ジン・・・言いたいことはおいらもわかる。ここは一旦抑えてくれないか」

 

「カラスキ・・・これが今夜厄介になるって言ってたお祓いか?それよりも、お前もほむらの事を知ってて隠してたのか?」

 

正直に応えろとジンは視線を厳しくし、語気を強める。

 

「いんや、正直、龍崎駈音さんの連れがアスナロ市に入っているって聞いただけでほむらちゃんって知ったのは、ついさっきだよ」

 

カラスキはジンに事情を話す場を設けると話す。

 

「・・・納得はしねえけど・・・・・・場所を変えるのは賛成だ。だけど、直ぐにその場所へ行くぞ」

 

これだけは譲れないとジンは語気を強めた。

 

「分かった・・・おいらの自宅兼仕事場の京極神社で全部話す」

 

カラスキはバラゴに視線を向けた。バラゴは”すきにしろ”と言わんばかりに無言であった。

 

今夜は拠点としていたホテルに戻るのは難しくなった為、不本意ながらも”ジン シンロン”と共に京極神社へ行くことを無理やり納得するのだった・・・・・・

 

「ジンお兄ちゃん・・・その・・・」

 

今更ながら身内に心配をさせてしまったことに罪悪感を抱くほむらだったが・・・

 

「お前はオレの妹だから・・・こういうことをするものだって納得させてくれ」

 

”アスカ”はかなり問い詰めるだろうが、ジンはそういうことができなかった・・・

 

「まったく・・・君って奴はぁ~、ジン。妹に甘すぎるんじゃないの?」

 

「うるせーやい!!世の中の兄貴ってのはそういうモノなの!!!」

 

ジンとメイのやり取りを傍目にカラスキはほむらに近寄った

 

「え~と、ほむらちゃん・・・騒がしいところなんだが、ソウルジェムは大丈夫かい?」

 

「はい・・・先ほどの戦闘で少し濁りましたが・・・貴方は・・・もしかして、カラスキさんですか?」

 

「えっ?おいらのこと覚えててくれたのかい?ほとんど、話さなかったのにな~~」

 

数える程しか顔を合したことがなかったのに自分を覚えてくれていることにカラスキは純粋に驚いていた。

 

「アスカお姉ちゃんが良く話してくれましたし、私も何度か話しましたから・・・・・・」

 

妙に距離を置いている態度を取っていたことが気になっていたが、彼はソウルジェムが濁ることが”大事”に至る事を知っている為、元々そういう位置に居た人間であると察したのだった・・・

 

そして、アスナロ市でのバラゴの協力者がカラスキであることも・・・・・・

 

「数年前のことなのにな・・・まぁ、手持ちもそうだが、こいつを使ってくれ」

 

頭を掻きながらカラスキは懐からグリーフシードを取り出し、ほむらに手渡すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 御崎海香の自宅 リビング

 

時刻は既に深夜を回っており、時計の針は午前二時半を指していた・・・

 

一時間前に降り始めた雨が今も降り注いでおり、窓を容赦なく叩いていた。

 

リビングには無言の四人の少女が各々過ごしていたのだが、誰一人として会話を行おうとはしていない。

 

数時間前の出来事があまりにも彼女ら”プレイアデス聖団”にとっては受け入れ難いモノだったからだった。

 

今夜の敗北に各々が重い雰囲気を出していた。

 

「ねえ・・・本当にアタシ達はさ・・・ミチルを取り戻せるのかな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

牧 カオルが話題を振るのだが、浅海サキは無言であり表情を険しくしていた。

 

「わからないわ・・・私達プレイアデス聖団の目的は”ミチルの復活”と”魔法少女システムの否定”だった」

 

御崎海香が悲痛な顔で”プレイアデス聖団”の目的を語る。何れも達成できていないのが現状であった。

 

「認識阻害が上手く機能しない・・・どうやっても・・・・・・」

 

自分達が思い描いた”魔法少女システム”はほとんど機能していなかった。

 

記憶捜査の魔法をアスナロ市全体に掛け、インキュベーターをジュウベえに置き換えるというものであり、さらにはグリーフシードに代わる代替品も生み出し、実行に移したのだが・・・・・・

 

最初は巧く行っても直ぐに認識阻害はエラーを起こしてしまう。ジュウべえによる浄化は効果を見せたと思われたが実際には表面を綺麗にしただけで浄化はほとんどできていなかった・・・・・・

 

中途半端に作用した魔法は、インキュベーターことキュウベえを認識しなくなる効果だけを残していた。

 

キュウベえに代わるジュウベえは、希望通りに機能せず・・・今はある場所に封印を施すに至っている。

 

「何が原因なのかしら・・・・・・」

 

全くもって分からなかった。ただ蓬莱暁美らが残したファイルには、曰くつきの土地等での魔法はどういう訳かその土地に沁み込んだ”陰我”によって修正され、機能しなくなるというモノが記載されていた・・・・・・

 

「このアスナロ市が呪われているっていうの?」

 

御崎海香は、かつてアスナロ市の取材でその歴史を調べてみると目を覆いたくなるような”歴史”が過去にあり、その為か一部では”曰く付きの土地”とも言われていたことを思い出していた。

 

かつてアスナロ市は”戦”、”飢餓”、”天災”が多発し、多くの人達が亡くなった忌まわしき土地であるとのことであり、さらには”雷獣”が人々に災いを振りまいていたという伝説も存在していた・・・・・・

 

当時の御崎海香は、過去の人達の迷信、世迷い言であると一笑したが、結局はこの状況を見る限り”アスナロ市”は自身の魔法”認識阻害”の結界が根付かないことと更には、あのビル街を襲った”雷”を思わせる衝撃は伝説に伝わる”雷獣”のその強大な力によるものではないかと彼女は考えていた・・・・・・

 

”伝説”が真実であったことに改めて身体を震わせていた・・・・・・

 

「つまり・・・過去に死んだ亡霊が私達の邪魔をしているということか」

 

浅海サキが苛立ったように呟いた。

 

彼女にとっては自分達の”目的”が達成できていない事の原因は”アスナロ市”そのものが自分達を邪魔していると考えていた。

 

今夜、一般人である 明良 二樹が忌まわしき”真須美 巴”と共に自分たちを攻撃したこともまた浅海サキに暗い感情を抱かせていたのだった・・・・・・

 

「サキ・・・そんな言い方はよくないよ・・・死んだ人達を悪く言うのは・・・」

 

若葉 みらいが浅海サキのあまりの言いように反論するが、それが彼女をさらに苛立たせた。

 

「みらい。私達の味方は私達しかいないんだ。それを邪魔する存在は一般人だって敵だ」

 

苛立つように”プレイアデス聖団”以外は敵であると語る 浅海サキに若葉みらいは友情以上の気持ちを抱いていたが、彼女に対し気持ちが若干ながら冷めていくのを感じていた・・・

 

「それはあの人だけだったでしょ。魔法少女は希望を見せるってミチルはボクらを救ってくれたのに・・・今のボク達は希望どころか”絶望”を振りまく”魔女”と変わりないよ」

 

若葉 みらいは、暁美ほむらと彼女の身内であった兄 ジン シンロンとその友人である メイ・リオンに危ないところを助けられた。

 

彼女が魔法少女になろうと思ったのは「トモダチが欲しい」というモノであったが、サキと友達に成れたことによりその願いはいつもそばに居てくれた”テディベア”の為に使うことにした。

 

関わり合いのない自分を損得なしで助けてくれた”一般の人”の存在が彼女を変えたのだ。

 

暁美ほむらとの因縁がないわけではないが、二人を護ろうとしていた場面を間近で見ていた為に彼女に対する敵対心はなかった。

 

かわりに抱いた感情は、”プレイアデス聖団”だけを見ていた自分が如何に視野が狭かったという事実と”プレイアデス聖団”の異常なまでの排他的な性格に対する失望であった・・・

 

「サキはもうボクが大好きなサキじゃないんだね・・・こんなことを続けてもミチルは喜ばないよ」

 

「何を言っている、私達の味方は私たち以外に居ないんだぞ!!!一般人ですらも私達の敵だ!!!」

 

自分達の身は自分で守るしかないということと守ってやれるのは”プレイアデス聖団”だけだと訴えるが・・・

 

「そんなことを言っているからだよ・・・じゃあね、サキ。大好きだったよ」

 

背を向ける若葉 みらいに対して浅海サキは

 

「待てっ!!どこへ行くつもりだ?」

 

自分を慕っていた若葉 みらいの離反に彼女は信じられなかった。一番の友達は自分であるはずなのに・・・

 

「何処へでもいいよ・・・私は魔法少女だから・・・希望を見せるのが仕事だから・・・」

 

未練はないのか、彼女は決して振り返らなかった。その様子に呆然とする浅見サキ、御崎海香 牧 カオルであったが彼女を引き留めることができないのか見送るしかなかった・・・

 

意外な離反者に対し、さらに空気が重くなる。

 

この雰囲気を何とかしようと牧 カオルは未だに来ていない神那ニコの話題を振るが、

 

「そういえば、ニコは?ニコの姿が見えないけど・・・」

 

「やられたわ・・・多分、あの時に・・・・・・」

 

おそらく魔法少女ではなく骸骨人形の手によって葬られてしまったのだろうと二人は考えた。

 

事実テレパシーによる連絡が全くつかないのだから・・・・・・

 

プレイアデス聖団は離反者である若葉 みらい等を含め、その数は四人にまで減ってしまったのだ。

 

「何とかしてミチルを取り戻そう!!そうすれば、みらいも戻ってくれるはずだ」

 

そのミチルを取り戻すためには12人目を処分しなければならない。

 

問題は、ホラーと戦えるほどの戦闘力を持つあの”暁美ほむら”を如何にして攻略するかだった。

 

だそれを行うのはあまりにも困難であった。浅海サキに同意する牧カオル 御崎海香に対し

 

宇佐木里美はその光景に対し、”プレイアデス聖団”は既に崩壊していると察した・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・私の事を探そうともしないんだ・・・あっ、私じゃなくてニコか・・・・・・」

 

御崎海香の自宅近くでワイヤレスイヤホンから聞こえてくる会話に聖カンナは呆れたように呟いた。

 

黒い雨傘を指し、雨に濡れながら遠のいていく若葉 みらいを見送る・・・・・・

 

ここで襲っても構わなかったのだが、とてもではないが”プレイアデス聖団”から離れた彼女を襲う気持ちになれなかったのだ・・・彼女に対する怒りも当然あるのだが、今はそれを発散すべき時ではないかもしれない・・・

 

「・・・・・・嵐が過ぎるまで大人しくしておいた方がいいわね」

 

アスナロ市に現れた”使徒ホラー バグギ”と”暗黒魔戒騎士 呀”との対決は”嵐”である・・・・・

 

”嵐”の中を出歩くなど、愚か者のすることである故に聖カンナは待つことにしたのだ・・・

 

嵐が過ぎるのを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 明良 二樹 自宅マンション

 

「今夜は楽しかったな・・・・・・それにお土産も貰ったしね」

 

1LDKの一室に設置してあるベッドに腰を掛けながら、明良 二樹は今夜の出来事を振りかえり、楽しんでいた。

 

サイドテーブルの上には箱に詰められた”グリーフシード”とその脇には”トランク”に収納された”魔号機人”があった・・・

 

あの後、彼は真須美 巴から魔号機人を譲り受けそのまま彼の持ち物となったのだ。

 

魔号機人に対し、明良 二樹はトランクに触れ語り掛けた・・・・・・

 

「君達には本当に感謝しているよ・・・これからもっとやれることが増えそうだ・・・今までは対抗策がなかったから”魔法少女”とは距離を置いていたけど・・・こちらから攻めてみるのも面白いよね」

 

本当に楽しかった・・・全てをぶち壊す瞬間が本当に愉快だった・・・・・・

 

魔法少女の絶望する様ときたら本当に愉快なモノだった・・・

 

堕ちた後の事なんて、あまり楽しいものではないと思っていたが堕ちて更に壊れていく・・・

 

なんて愉快なんだろうか・・・ああ、これからの日々が楽しみになる・・・・・・

 

「巴ちゃんは・・・もっと楽しいイベントに出るみたいだけど・・・いいなぁ、僕も参加したいよ」

 

あの”闇色の狼”の強さは想像を絶しており、魔号機人を束にしても勝てそうにないと彼は考えていた・・・

 

”使徒ホラー バグギ”に至っては、単純な破壊力ならば”闇色の狼”を上回る。

 

「あ~あ、早く遊びの誘いが来ないかな~~」

 

今現在、アスナロ市で繰り広げられている一大イベントに彼は子供のように高揚していた・・・・・・

 

「誘いが来るまでの遊び相手は・・・そうだ・・・あの中には確か・・・・・・」

 

直ぐにスマートフォンである人物を検索する”作家 御崎海香”を・・・・・・

 

「やっぱり居たよ♪ひゅぅ~~~♪明日さっそく遊びに行こうかな、もちろんアポなしでね♪」

 

彼の部屋には魔号機人が5機ではなく、さらに2機追加された7機がトランクでの待機状態となっていた。

 

 

 

 

 

雨が上がったアスナロ市の朝は普段と違い、混乱の極みにあった・・・・・・

 

突如として発生した異常な現象による都市部の一画が崩壊したことと都市中の電子機器が過電流により破壊されており、都市のセキュリティ機能は完全にダウンし、人々は昨夜の出来事に不安と恐怖を抱いていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 御崎海香自宅 

 

「ここか~噂の売れっ子小説家にして・・・魔法少女の御崎海香先生の自宅は・・・・・・」

 

失意に沈む”プレイアデス聖団”に単なる人間による”悪意”が追い打ちをかける・・・・・・

 

「プレイアデス聖団のみんなぁ~~~、あ~そび~ま~しょ~」

 

明良 二樹の背後には6機もの”魔号機人”が赤い目を光らせて佇んでいたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 捌

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

物語上の退出された方 まとめ・・・

双樹 あやせ 欲しくてたまらないけど手に入らない美しさを持ったホラー ジャムジュエルに魅入られるが、呀に殲滅させられ、意気消沈したためそのまま退出・・・
先の未来で”ホラー”に魅入られた為、何かしらやらかす予定。

若葉 みらい 一晩で色々ありましたが、現状の自分達の状況がかつて自分を救ってくれた”和沙ミチル”が望んだことと正反対である事、プレイアデス聖団の排他的な性格に嫌気が差し離れます。またほむらとジンの関係を見て、このままではいけないと考えて、プレイアデス聖団を去りました。

聖 カンナ  使徒ホラー バグギと暗黒騎士 呀がアスナロ市で激突することに危機感を覚え、”嵐”が過ぎるのを待つ為、身を隠します。
先の未来で”双樹 あやせ”同様に何かしら騒ぎを起こす予定。

プレイアデスより離反者が二人ほど出ましたが、キバ時間軸でもかずみ☆マギカの出来事は起こる予定です。ただ、その展開はかなり異なりますが






そしてジュウベえ・・・モブ以下になってしまいましたが、未来では活躍できる時代が来るでしょう・・・・・・

できれば、ほむらと対面させたかったのですが、それは叶わなかったのは私の力量が足りなかったのでここは、今後の何かしらの課題にしたいところです・・・・・・

以上が退出された方々ですが、ジュウベえはちょっと違う気がしないでもありません。



明良 二樹さん。チョイ役の筈がほぼメインの悪役に(笑)

彼は良い仕事をしてくれます。まさかの単独でのプレイアデス聖団を攻撃・・・

次回は、プレイアデス聖団を攻撃する明良 二樹さんが出張ります。




バラゴは、ほむらを危ない目で見ています(汗)

カッコいい悪役というよりも色々拗らせた”主人公”ってやっぱり重い・・・・・

危機感のないほむらに、誰か一言をと思わなくもないです・・・・・・

まどか「ほむらちゃんにはジンさんが居るでしょ!!そんな危ない〇ジさんから早く離れないとだめだよ!!!」

ほむら「えぇ~~、ジンお兄ちゃんはお兄ちゃんだし、バラゴは別に〇ジさんって感じもしないし、話も合うから、一緒に居ると気が楽よ。皆が言う程危なくないわよ」

何気にほむらを巡る修羅場まで(汗)見滝原の風雲騎士一家と違い、バラゴ、ほむら組は展開が何だか重い・・・・・・



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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 捌

ほぼ悪役サイドの話になり、普段よりほんの少しだけ短いです。

明良 二樹がほぼメインな悪役回(笑)

見滝原ではこの日は、上条恭介に憑依したホラーとの決着があった日です。





アスナロ市 明良 二樹 自宅マンション

 

「調べようと思えば、調べられるものだね・・・」

 

明良 二樹は御崎海香が魔法少女であることを”真須美 巴”から聞いてはいたが具体的な情報までは持ってはいなかった。

 

彼が現在見ているのは、自宅バルコニーで取材を受ける作家 御崎海香の特集記事であった。

 

当然のことながら似たようなデザインのバルコニーは幾つもあり、自宅住所の詳細を突き止めるのは困難である。

 

彼が注目したのは画像の御崎海香の瞳に反射して写っている自宅周囲の景色であった・・・

 

とある住宅地にあるらしいということが分かり、さらには近くにある景色にある建物を”衛星を使ったビュアー”を使い、そこからさらに範囲を絞っていく・・・・・・

 

「ハハハハ・・・ここだ。いい家に住んでいるんだね。さすがは大作家先生だ・・・」

 

明良 二樹の手元には御崎海香著の書籍があったが、彼も一応は呼んだが特に心を惹かれることはなかった。

 

言うまでもなく彼の嗜好に合わなかったのだ・・・・・・

 

彼が好むのは”フィクション”よりも”ノンフィクション”である。

 

架空の恋愛に希望を求める世の読者と違い、彼が求めているのは”残酷で陰惨な現実”なのだ・・・・・・

 

さらに目的地までの経路を確認したうえで準備を行う。魔号機人達の輸送は自前の車を使う為、キーを手に取る。

 

キーが普段置いてある場所には、彼の唯一の身内であった”兄 明良 一樹”と一緒に写った写真が立てかけられていた。

 

準備に勤しむ明良 二樹に対し、写真の中の兄の笑顔は本当に笑っているかのように明るかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 御崎海香の自宅 周辺

 

「え~~と、さすがに電話番号までは分からないか・・・」

 

御崎海香の自宅が見える位置まで来ていた明良 二樹は門から堂々と入ろうかとも考えたが、ここはやはり一言挨拶を入れておくべきではないかと思い直していた。

 

突如として明良 二樹のスマートフォンがLINEアプリがメッセージの受信を知らせる。

 

「うん?巴ちゃん・・・ハハハハハ、巴ちゃんと僕は本当に気が合うな~~」

 

受信したメッセージは、真須美 巴が入手していた”御崎海香”の個人情報であり、そこには家族構成からさらには彼女の携帯電話などの番号まで記載されていたのだった・・・・・・

 

メッセージには”二樹♪楽しんでね♪”とあり、これを見て更に彼は嬉しそうに笑いながら、その番号に電話を掛けた。

 

そして・・・待機状態であった魔号機人6機を起動させ、さらに1機の手に孵化寸前にまで濁らせた”グリーフシード”握らせた。

 

 

 

 

 

 

 

結局は昨夜は眠れない夜を過ごし、各々がリビングで動かずにジッとしていた。

 

そんな中、突如として御崎海香の仕事用のスマートフォンが鳴り出した。

 

「仕事かしら?」

 

このスマートフォンの番号は基本的に担当編集者以外誰も知らせていない為、何かしらの仕事が入ったのではと思い電話を取るが・・・・・・

 

「はい、御崎ですが・・・」

 

『やぁ、魔法少女ちゃん♪あぁ、失礼、御崎海香先生だったね』

 

御崎海香の表情が強張った。言うまでもなくこの声は昨晩、自分達を真須美 巴と共に襲撃をしてきたあの一般人の声であったからだ・・・

 

「ねぇ、海香・・・誰からなの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

牧 カオルは電話の主に嫌な予感を覚え、浅海サキは無言の視線を向けていた。

 

『いやぁ、今日ね。みんなと一緒に遊びたくてね、近くまで来ちゃいました♪』

 

「遊びたい?あなた・・・何を言って・・・・・・」

 

『言ったままそのままの意味だよ・・・さぁ~て、まぁじょぉ~は、お・う・ち・のなぁかぁ~♪』

 

陽気な声と共にリビングの窓が割れ、勢いよく何かが飛び込んできたのだ。

 

それは孵化寸前のグリーフシードだった。

 

「おのれ!!ここまで来るとは!!!!」

 

浅見サキは、自分達を攻撃してきた明良 二樹に怒りの声を上げながら”グリーフシード”を自身の魔法である”雷撃”を使って破壊する。

 

『あ~~あ、勿体ない・・・魔女を狩ればグリーフシードを落とすのに・・・せっかくのプレゼントは気に入って貰えないみたいだね』

 

「貴様!!どこに居る!!!姿を見せろ!!!卑怯者め!!!!」

 

御崎海香から強引にスマートフォンを奪い取り、明良 二樹に怒りの声をぶつけるが・・・

 

『いいよ。ただし、魔号機人を倒せればの話だよ・・・』

 

窓から6機の魔号機人達が飛び込んできた。赤く目を光らせながら、刀を抜いていた。

 

「数が昨日よりも増えてる・・・」

 

前回は数合わせのために態々5機の内、4機で対応してきたが攻撃に加わっているのは6機であり、プレイアデス聖団の現在のメンバーは4人の為、状況は最悪であった・・・・・・

 

『ハハハハハハ、プレアデス聖団の魔法少女ちゃん♪あぁ~そぉ~びましょ♪』

 

明良 二樹の言葉を合図に魔号機人達は一斉に向かっていく。

 

若干半開きになった口元は感情のない機械人形である彼らが笑っているようにも見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おのれっ!!!」

 

御崎海香のスマートフォンを苛立ちながら叩きつけ、魔法少女に変身し自身の武器である”乗馬用の鞭”を手に取り、浅海サキは魔号機人へ攻撃を行う。

 

伸縮する鞭を使い、魔号機人の左手首に巻き付ける。これで刀を握る手を片方封じ、その間に胸元か頭部に雷撃を加えるべく左手に電撃を発生させるのだが・・・・・・

 

「なにっ!?!うわぁ!!!」

 

魔号機人はそのまま強引に左腕を引き、浅海サキを引き寄せる。

 

見た目骸骨でそれほど力強く見えない印象である魔号機人だが、その力は見た目に反して強い。

 

そのまま引き寄せ魔号機人はその強固な頭部を使って浅見サキを攻撃する。

 

突然の反撃が頭突きであった為か、されるがままに浅海サキはその攻撃を受けてしまった。

 

顔に衝撃を受け、彼女は力なく倒れそうになるが魔号機人には、例え少女であっても容赦しなかった。

 

さらに腹部目掛けて足蹴りをしそのままリビングの壁に勢いよく吹き飛ばしてしまう。

 

鈍い音を立てて浅海サキは倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「サキっ!!!く、くそっ!!!」

 

牧 カオルは倒れたサキへ駆け寄りたかったが、魔号機人が2機は張り付いている為進むことができないでいた。

 

相手が人体、人間の骨格を元に作られているのならば当然のことながら可動範囲も人間と同じではと判断し彼女はかつてサッカーで鳴らしたフットワークと反射神経を持って振り下ろされる刀と蹴りを回避し、背中を抜けた。

 

「伊達にサッカーをやってたわけじゃない」

 

3機目の魔号機人が迫ってきた。獲物は刀ではなく槍であった・・・どうやら武装の切り替えは自由らしい。

 

突かれてくる槍の切っ先を回避し、足元に向かってスライディングで回避したうえで、魔号機人の足元を崩したうえでカウンターとして脚を硬化させて態勢の崩れた魔号機人の首元目掛けて強烈な蹴りを喰らわせた。

 

強い衝撃を感じつつ、魔号機人の首は強い衝撃を受けそのまま左に吹き飛び壁を突き破って廊下へと本体ごと倒れ込んだ。

 

「やった・・・・・・っ!?!」

 

脚に痛みが走る。一度経験した痛みだった・・・魔法少女になる前の・・・・・・

 

魔号機人の頑強さは想像以上であり魔法で硬化させても骨に皹を入れるほどであった・・・・・

 

瓦礫を押しのけ魔号機人は少しだけずれた首を強引に修正し、牧 カオルに向かって足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

御崎海香は自身の魔法である「イクス・フィーレ」を使い、魔号機人達の弱点を探しているのだが・・・

 

「これといって特徴がないのが特徴って・・・こんなにも厄介なモノだったの・・・・・・」

 

魔号機人達は、元々はある人物が”量産”を目的とした”魔道具”として設計されている為、これといった特徴はなく、”兵器”としてどのような人物が使っても十分な戦果を挙げられる。

 

魔法少女の魔法は契約した本人でしか使用できないのだが、魔号機人は魔法を使えない一般人であってもその力を使うことができ、使用者の技術次第で大きな戦果をあげることも可能だった・・・・・・

 

魔号機人達は当然のことながら御崎海香にも迫っており、彼女は魔法で光弾を作りそれらをぶつけることで距離を取るが、昨夜、浅海サキの雷撃を封じたように刀に炎を纏わせ、それらを飛ばすことで相殺し、さらに他の魔号機人が斬りかかって来るため彼女は完全に防戦であり、時間がかかればかかるほど疲弊していく。

 

一発逆転の弱点を見つけられないことに御崎海香の神経はすり減っていた。

 

 

 

 

 

 

 

明良 二樹は魔号機人達の様子を彼らを指揮する為に用いられる操作用の魔道具から映し出される映像を笑いながら見ていた。

 

「ハハハハ、魔号機人はこれと言った特徴がなく地味かもしれないけど、それが最大の武器なんだ」

 

時折見る”アニメ”等では、主人公専用の専用機であったり、また凄い武装盛りだくさんの兵器等があるが、そのようなモノは主人公だからこそ使えるもので、それ以外が使えないモノはハッキリ言って欠陥品であると彼は考えていた。

 

興味本位で”兵器”とはどういうモノのかを調べてみれば、使用方法さえ理解すれば誰でも戦果をあげられるものこそが”兵器”として優秀なものであるという・・・

 

その定義を当て嵌めれば、魔号機人は”兵器”として完成されていた・・・・・・

 

プレイアデス聖団の魔法については昨晩の戦闘で粗方把握しており、さらには真須美 巴からの情報もあり、彼は自身が有利になるように戦況を進めていた。

 

「さてと・・・そろそろ一人は退場を願おうかな・・・・・・」

 

明良 二樹は浅海サキの髪を掴み上げている魔号機人に指示をだす。

 

「その子を殺して他のプレイアデス聖団に見せつけろ、魔号機人」

 

彼の指示に了承した魔号機人は躊躇なく浅海サキの胸元目掛けて刀を突きさしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「「「サキっ!!!!」」」

 

その光景に御崎海香、牧 カオル 宇佐木里美は悲鳴を上げた。

 

「あぁああああああああああっ!!!!」

 

胸に突き立てられた刀に力を込められるたびに痛みが走り、浅海サキは苦痛に表情を歪ませる。

 

一思いに殺さずじっくりと時間をかけて死に至らしめるつもりのようだった。

 

宇佐木里美はその光景を止めようと自身の魔法である”意識”を憑依させる魔法を発動させるが、魔号機人達には効果がなかった・・・・・・

 

昨晩の戦闘でも使用しても効果がなく、この魔号機人は考えられるだけの魔法や術への対抗策を持っている為、倒すには強力な力による攻撃でしかない・・・・・・

 

「ダメ・・・この骸骨には魔法が通用しない」

 

魔女どころか、ホラーですら倒すことができる魔号機人達に宇佐木里美の心は折れかけていた。

 

だがその間にも魔号機人は浅海サキを痛めつける。助けようにも助けられない状況にプレイアデス聖団は絶望の色を深くするのだが・・・・・・

 

不意に宇佐木里美に話しかけてくる声があった。それは彼女にしか聞こえない”友達”からのものだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「シロ!!!来ちゃダメ!!!!」

 

彼女の悲鳴を合図に窓ガラスを割り数十羽のカラスがリビングに雪崩れ込んできたのだ。

 

白いカラスを先頭にカラス達は魔号機人に一斉に群がる。突然のカラス達の奇襲に魔号機人達の動きが鈍ってしまった。だが、これが彼女の友達が彼女の為にできる唯一の手段だったのだ・・・・・・

 

「・・・・・・分かったわ。みんな、はやくこの場から!!!!」

 

瞳を涙で潤ませて、プレイアデス聖団のメンバーにこの機を逃すなと叫ぶ。

 

浅見サキも刀から解放されぐったりと倒れ込んでいるが、彼女を御崎海香が回収し、4人は無我夢中でその場を離れるのだった・・・

 

昼間であるが人目を気にする余裕などない。

 

今は、逃げれるだけ逃げるしかなかった・・・可能な限り遠くへ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

プレイアデス聖団が逃げ去った後、カラス達もその場から離れていった。

 

一羽の白いカラスを含めた十数羽の亡骸がリビングの至る所に散らばっていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・あちゃ~~、あの子の能力は正直知らなかったわぁ~、あと少しだったのにな」

 

残念そうに明良 二樹は大きくため息を吐いた。表情は言う程落ち込んではいなかった。

 

「まぁいいか・・・そろそろ遊びの誘いが・・・巴ちゃん・・・それはないよ」

 

いつの間にか受信していたLINEのメッセージの内容は・・・

 

 

 

 

 

 

 

     『逃がしちゃって残念でしたね♪キャハハハハ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

明良 二樹が見た目だけで落ち込んでいる同時刻、御崎海香の自宅近くの傍に来ている魔法少女が一人居た。

 

ユウリである。彼女は勢いよく逃げ出す4人の”プレイアデス聖団”を目撃し、彼女自身も追いかけようと考えたのだが、拠点である御崎海香の自宅から逃げ出していることが気になった。

 

「何があったんだ?・・・って、あの明良 二樹の奴か・・・エグイ事しやがるな」

 

内心、明良 二樹のプレイアデス聖団の攻撃は少しやりすぎなのではと思わなくもなかったのだが、実際はプレイアデス聖団がこれまでに行ってきた方がより”悪質”であると気が付いた・・・・・・

 

明良 二樹も真須美 巴も自分達が”悪い事”をやっていることを自覚したうえで”悪事”を行っている為、そういう意味でいうと二人は真っ当な”悪”であろう・・・・・・

 

自分も彼女らに復讐する為に”魔法少女”の契約を結んだのだが、ここまで怨みを買い徹底的に攻撃を受けている彼女らを見ているとその気さえ失せてくるのを感じていたのだった・・・・・・

 

「アタシは”ユウリ”の命を引き継ぎたいから・・・ユウリを殺したアイツらが許せなくて・・・・・・」

 

あの時、魔女に襲われ”プレイアデス聖団”に助けられたのだが、魔女こそが親友である”ユウリ”の変わり果てた姿であり、ユウリが倒されたことを感謝した浅はかな”自分”が許せなかった・・・・・・

 

何も知らない自分が許せなかった・・・・・・

 

ユウリは自分に敵討ちを望んでいただろうかと考えることがあった・・・・・・

 

今までの自分ならこんな事を考えることもなかったのだが、真須美 巴という極悪人と接する内に自身は彼女と比べれば、遥かにマシな部類に入るのではと考えた・・・・・・

 

親友 ”飛鳥ユウリ”が魔法少女になったのは”自分”の病気を治すということだった・・・

 

その後も自分と同じ難病の少女達を助けていたと”キュウベえ”から話を聞いていた・・・・・・

 

「アタシには・・・・・・復讐なんて向いていなかったのかな・・・・・・」

 

これ以上、真須美 巴らとも関わるつもりもなかった・・・

 

あの恐ろしい”金色の雷獣”の力を目の当たりにし、その邪悪さと強大さをユウリは恐れた。

 

故に彼女は、ここで”プレイアデス聖団”への復讐をやめることにした・・・・・・

 

既に”プレイアデス聖団”はその行いによる”罰”に等しい痛みを受けている・・・

 

それ以上のことは自分にはできそうにない・・・・・・

 

頭に浮かぶのは、まだユウリではなく彼女が”杏里あいり”だった頃の記憶だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

”聞いたでしょ・・・・・・もうあと三か月なんだって・・・・・・”

 

”・・・・・・もう終わったの・・・私の人生・・・・・・”

 

”終わってなんかいない・・・アンタが生きたいのならどんな手を使ってもアタシが助ける”

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はね・・・ユウリ。一緒に楽しいことをして笑って、美味しいモノも一緒に食べたかったんだ・・・」

 

気が付けばユウリの口調ではなく”杏里あいり”の・・・本来の自分の口調になっていたことに彼女は笑った。

 

「だからね・・・ユウリ。私・・・もう復讐はやめるよ。もしかしたら、それを望んでいたかもしれないけど、考えてみればユウリが私に復讐を託すなんてありえないもんね」

 

”プレイアデス聖団”の行いは、真須美 巴から聞いているが、彼女達も自分と同じで”死んだ仲間”の為になにかをしたかったのかもしれない・・・

 

その為に仲間が望まない”罪”を犯してきた・・・・・・

 

結局自分はプレイアデスを殺すどころか、詰めが甘くただ単に痛めつけるだけに終わってしまった・・・・・・

 

「・・・・・・まだ引き返せるかな・・・・・・」

 

”そうだよ・・・だって、あいりはまだ生きているから・・・・・・”

 

不意に親友 ”飛鳥 ユウリ”の声が聞こえてきたが、そんなことあるわけないと思い笑った。

 

「生きている限り終わらないよね・・・ユウリ」

 

新しい門出を思ってか、ユウリは大好物の”バケツパフェ”が食べたくなり、喫茶 アミーゴへと向かっていった。

 

彼女の胸にはあの日”ユウリから返してもらった夢色のお守り”が顔をのぞかせていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム イベント会場

 

イベント会場の奥で使徒ホラー バグギは自身の能力を使い、このイベント会場にあるあらゆるもののを自身の糧とすべく取り込みを行っていた・・・・・・

 

このイベント会場は、現代の科学の最新鋭の技術を用いたモノが多く展示、運び込まれておりバグギはそれらを自身の”力”に変えていく・・・

 

バグギはアスナロ市の古い伝説で”雷獣”と呼ばれ、恐れられていたが、魔戒騎士、法師からも使徒ホラーの名だけではなく”魔雷ホラー”としての名も持っている。

 

雷との結びつきが非常に強く、さらには現代の人類の文明が電気を土台としていることが古の時代以上の”力”をバグギに与えていた・・・・・・

 

電エネルギーを操り作業用の機械、さらには喰らい下部とした”元人間”等を使い、イベント会場全体を自分好みの住居へと改造を行っていた・・・・・・

 

全ては”暗黒騎士”と戦い、喰らい、無様な最期を与える為であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・みんな、大丈夫?」

 

無我夢中で逃げ、気が付けばアスナロ市の郊外まで来ていた。

 

都市部ではなく、開発区域から大きく離れた場所だった。

 

「えぇ・・・でもサキはまだ気を失っているわ」

 

未だに気を失っているサキの姿は痛ましく、直視できるものではなかった。

 

牧 カオルは悲痛な表情でサキを一瞥し、ここがどこなのか改めて確認する。

 

「みんな、ここはアスナロ市の東北の地域だって・・・ほら、あの山」

 

宇佐木里美は直ぐ近くに居た野良猫に話かけ、今どこに居るのかをメンバーに伝える。

 

「あの山は・・・確か何かが出るって噂の・・・・・・」

 

御崎海香は以前取材などで調べた”アスナロ市”に伝わる”曰く付きの場所”であった為、口を噤んだ。

 

口に出したくなかったのだ。既にアスナロ市が”呪われた場所”であることと伝説の雷獣の出現に彼女の精神は限界に近かったのだ・・・・・・

 

「今はもうその話は止そうよ。それよりもサキを早く手当てしないと・・・・・・」

 

改めてではあるが、サキは酷い重傷を負っていた。手持ちのグリーフシードは無く、このままサキのソウルジェムが濁ってしまったら、魔女になってしまう・・・

 

もしも魔女との戦闘になったら、今の自分達ではあっという間にやられてしまうであろう・・・・・・

 

「うん~~誰だ、こんなところで何をしている?」

 

誰かがこの場所に近づいてきていた。プレイアデス聖団は近づいてきた人物に対して身構えた。

 

「まぁ~、待て待て!!!おいらはこの近くの京極神社で神主をやってる京極 カラスキってんだ」

 

”怪しい者じゃない”と両手を上げて自分には敵意がないと伝える。

 

「そんなこと信じられないわ!!」

 

御崎海香がカラスキに対し、声を上げる。

 

一般人による悪意を受けた彼女にとっては見知らぬ一般人もまた警戒すべき存在なのだ。

 

今も気を失っている浅見サキを除いた牧カオルも睨んでいた。宇佐木里美はどうフォローしてよいのか分からないのか何も言うことができなかった。

 

「信じるも信じないも少しは冷静になったらどうなの、プレイアデス」

 

カラスキの背後から長い黒髪の少女が出てきた。

 

「あ、アナタは!?!」

 

牧 カオルが叫ぶ。そう、彼女達の前に暁美 ほむらが再び現れたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

  続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 玖

 

 

 

 

 

 




あとがき

予告通り 明良 二樹によるプレイアデス聖団への襲撃。

これだけで普段の話の半分の量になりました(笑)

書いていて魔号機人が正直強すぎるのではと言われそうなんですが、スペックでは魔戒騎士と斬り合える程の性能を持っており、対ホラー用なのでその頑強さは相当なものです。
それでも単なる戦闘員にしては強すぎるのですが(汗)

やられ役のつもりがどうしてこうなってしまったのか・・・・・・

魔法や術の類に惑わされないようにもなっているところが無駄に高性能・・・・・・

操作用の魔道具を使えば、離れた場所からの操作も可能です。

そんな魔号機人も牙狼の主要 魔戒騎士達からすれば大した相手ではなかったり・・・

悪意を持って痛めつける明良 二樹と違って、悪意も良心も持たずにただ与えられた指示を淡々とこなす魔号機人の組み合わせは悪役としては上出来だと思います。

当初では浅海サキは殺される予定でしたが、さすがにやりすぎと思いやめました。



今回でユウリ様ことユウリが退出。

ユウリ=杏里 あいり

理由は”プレイアデス聖団”への復讐に意味を感じなくなり、また真須美 巴という魔法少女食いの極悪人と接したことで自分自身を振り返った事とさらには一般人でありながらその真須美 巴と大差ない悪である明良 二樹の存在を知ったこと。
”金色の雷獣”ことバグギの邪悪さに恐れを感じた為です。
そして親友の”飛鳥ユウリ”の事を改めて振り返り、彼女の姿で彼女の分まで生きていこうと前向きに歩いていくことを決めたからです。
とは言っても”プレイアデス聖団”を助ける気はなく、これまでの行為から助けても恩を仇で返されると認識していますので関わったらいけないと考えています。
先の未来では、原作のかずみ☆マギカよりも態度が丸くなった彼女が笑っているかもしれません。
今作では使徒ホラー バグギ、魔法少女喰い 真須美 巴 明良 二樹の極悪三人衆がいるのでユウリはこの三悪と比べたらはるかにマシです。



プレイアデス聖団が逃げ出した先には、バラゴらが滞在する京極神社・・・・・・

クライマックスまで後4話程で目途を付けています。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 玖

今回は、プレイアデス聖団が突撃握手会に見舞われた前日

バグギとの一戦を終えてからのバラゴ達の話というよりもほとんど暁美ほむらの話です。




アスナロ市 京極神社

 

 

バグギとの一戦を終えたバラゴは、ほむら、合流したエルダらを伴い協力者である京極カラスキの案内の元、拠点をアスナロ市内のホテルから郊外の京極神社へと移していた。

 

バラゴの様子は目に見えて不機嫌であり、精神が幼いミチルは困惑した表情でほむらの傍についていた。

 

他に理由を挙げれば、バラゴとほむらの兄である”ジン・シンロン”の間の空気がギスギスしており、周りにとっては非常に居心地が悪いものであった・・・・・・

 

ほむらもこの空気を何とかしたかったのだが、二人が目に見えて不機嫌なのは”自分自身”であることを察しておりそれを態々口にして出す程、彼女は愚かではなかった・・・・・・

 

唯一の彼女の心の癒しは自分よりも年上の容姿でありながら、行動や思考が幼いミチルの相手をすることであった。

 

そんな様子のほむらにエルダも珍しくバラゴではなく、ほむら側に就いており飛び火しないように庇ってくれているところはありがたかった・・・

 

「あの・・・ほむらさん。エルダさんってどうしていつも黙っているんですか?」

 

ミチルからしてみればエルダは”怖い年上の人”という印象であった。

 

生気のない青白い顔に無口無表情で威圧的な雰囲気を持つ彼女の存在が苦手なのであった・・・

 

「エルダは無駄なことは絶対に言わないからよ。必要な時にしか喋らないわ」

 

出会った当初は、”魔女”を思わせる得体のしれない女であったが、今は、ほむらに戦闘訓練を師事してくれる頼もしい”師”であった。

 

「私から話しかけても返事こそはしないけど、話は聞いてくれるわ。苦手意識を持つまでもないわよ」

 

口に出してエルダを正直にフォローしても”無駄なことを”と切り捨てられるであろう・・・

 

今の彼女にとってエルダはいざという時”頼りになる”存在であった・・・・・・

 

自分と似た経験の果てに”闇に堕ちた”、”暗黒魔戒導師”の彼女に自分”IF”を思わせる為、ほむらは彼女を内心懼れていたのだが、ここ十数日間過ごし、彼女と接したことでその気持ちに変化が生じていたのだった・・・

 

「・・・・・・うん・・・言われてみれば・・・・・・」

 

ホテルで迫ってきた神那ニコに似た”少女”から自分を守ってくれていた。そのことは改めて思うと感謝すべきなのだろうとミチルは考えるが、エルダ本人は”感謝”をされても”無口無表情”で返されるだろう・・・・・・

 

「・・・・・・お礼をいうのもありだけど、エルダにはいつも通り接してあげる方がエルダの為よ」

 

ほむら自身も”エルダ”には感謝しているのだが、彼女は普段通り一言で済ませてしまうため、もう少しだけ愛想よくできないモノかと考えてしまう時があるが、考えるだけ無駄であろうと思い、ほむらは考えるのを辞めた。

 

続いてバラゴであるが、自分の中では素直になれない気持ちもあるのだが、”同族嫌悪”に近い感情を抱いている。

 

他人から見た”暁美ほむら”を一人挙げろと言われれば間違いなく”バラゴ”であると彼女は考えていた。

 

言うまでもなく、彼の目的は”唯一の究極の存在”になる為の”力”への渇望であり、その為なら、いかなる犠牲を払っても達成しようとするであろう。自分は実際の目にしたことはないが、目的の過程で”邪魔”と判断すれば間違いなく”障害”として排除するであろうことは明白だった・・・・・・

 

彼は弱い”暁美ほむら”と違い、圧倒的な戦闘力を持つ”暗黒魔戒騎士 呀”である。

 

その力は彼女が知る限り、どの魔法少女、魔女でも敵うことができない”存在”であり、最大にて最悪の魔女”ワルプルギスの夜”ですらも倒すことも容易いのは間違いなかった・・・・・・

 

故に分からないことがある”彼”が何故、暁美ほむらに構うのかであった・・・・・・

 

自分の魔法に興味があり、”ワルプルギスの夜”をこの目で見てみたいという”好奇心”で協力してくれているようだが、実際は彼に半ば”囚われている”方が正解である。

 

何故、彼は自分を手元に置きたがるのだろうか?それだけが良く分からなかった・・・

 

少しだけ分かることがあれば、彼は自分を通じて”誰か”を見ているのではと思う視線を時折、感じるが、それは懐かしさからくるものであり、その”誰か”ではなく”暁美ほむら”としてみてくれている・・・・・・

 

彼が自分を護ろうとしてくれていることに悪い気もせず、本来ならば”まどか”を護るために見滝原で準備や活動を行わなければならないのだが、彼と共にこのように”アスナロ市”に来ていることで一種の気分転換もできており、初めて出会った頃のような”恐ろしさ”は薄れていた・・・・・・

 

そんなバラゴが兄であるジンとの間に何かあったのか互いに睨み合うように険悪な雰囲気を出している。

 

自分の知らないところで何があったのか知りたいところであるが、自分が出しゃばっても状況を悪くするだけであろう。

 

 

 

 

 

 

時刻は既に深夜を回り、日付が変わって一時間ほど経とうとしていた。

 

一同はカラスキの案内で多くの参拝者を持て成すための大広間に案内される。

 

純和風の構造で畳などが敷かれ少し高い場所には歴代の神主の写真が飾られており、歴史を感じさせる掛け軸などがいくつも掛けられていた。

 

「とりあえず、みんな適当に座ってくれや・・・茶でも沸かしてくるわ」

 

カラスキが一同に寛ぐように声をかける。

 

「カラスキさん。その前にミチルを休ませても良いですか?彼女、あまり体調がよくないようなの」

 

ほむらが少し顔を赤くしているミチルの容態を伝える。

 

「そうだよ、カラやん。ぼくもほむほむの意見には賛成だよ」

 

「・・・・・・ほむほむって、私の事ですか?メイさん」

 

突然の自身の呼び方にほむらは、困惑するように聞き返した。

 

「そ~だよ♪ほむほむって、響き・・・良い感じだよね」

 

兄 ジンの友人であるメイ・リオンとは道中話してみたが、明るくそれでいて気遣いのできる女性だった。

 

最初は兄の”彼女”かと思えば、そういう関係ではなく単なる”友人”関係でしかないようだ・・・・・・

 

何故なら彼女は、”異性”に対して恋愛感情を持てないと明るく話してくれたのだ。

 

現代でこそ、理解が深まっているが世間では厳しい目で見られるのだが、彼女は”言わせたい奴に言わせておけ”

と話してくれた。

 

「その子は普通の魔法少女とは違うみたいだしね・・・」

 

メイは目敏くミチルの胸元にある奇妙な形をした”ソウルジェム”を見ていた。

 

「メイさんは・・・魔法少女の事を・・・・・・」

 

「うん・・・昔ね。契約を迫られたけど、契約をしなかったんだよね」

 

悪戯好きの猫のように笑い、カラスキに断りを入れてからほむら、ミチルはメイの案内で泊り客用の客間に案内されることとなった。

 

「メイさん。ここに泊まったことあるんですか?」

 

「うん、カラスキが年始年末に巫女のバイトを募集しててさ、その度によく利用させてもらっているんだ」

 

三人は大広間から退出するが、少し時間をおいてエルダが

 

「バラゴ様・・・ここは多少なり安全であっても用心はすべきです。私はほむらを護衛させていただきます」

 

「・・・エルダ・・・まぁいい」

 

普段はバラゴに直接意見することがほとんどないエルダの発言にバラゴも少しだけ驚いたが、アスナロ市はバグギが徘徊している地域である為、つけておいた方が良いと判断した。

 

外は雨が降っており、時折雷鳴が響く。

 

これが自然現象なのか、はたまた”魔雷ホラー”バグギによるものなのか判断はできなかった・・・・・・

 

大広間に残ったのは、ジン、カラスキ、バラゴの三人であった。

 

「・・・ほむらの手前、オレも騒ぎたくはなかったが改めて聞くぞ、カラスキ・・・龍崎駈音さん、アンタら、一体何者だ?」

 

ジンは改めて二人の問いただした。友人であるカラスキは”神社”で仕事をしている為、お祓い等を行っていることと職業柄不可解な現象や体験を多くしてきたことを知っている。

 

だが、今晩の出来事はジンの中の常識が大きく揺らいだ。想像の存在である”魔法少女”の実在とさらには、アスナロ市に現れた”金色の獣”と黒い・・・闇色の禍々しい鎧を纏った龍崎駈音の存在であった

 

一般人であるのならば、ほとんどのモノが取り乱し現実から逃避するのだが、ジンはこれをしっかりと直視し現状の把握を務めていた。

 

「何者って言われてもな・・・ジンはおいらのこの顔を知ってたよな」

 

カラスキは、自らの顔を手だ翳すと禍々しい”呪いの顔”が浮かぶ。

 

鮫の目を思わせる黒く澱んだ眼に目の下には黒く紫の入った毒々しい隈が濃く存在しており、口は耳元まで裂けていて不揃いな牙を思わせる歯が並んでいるという禍々しいものであった・・・・・・

 

「お前のその顔は前から知ってるから、今更だよ。つーかその顔、ほむらとミチルちゃんの前で見せんなよ。絶対に泣くから、あと夜中、枕元に出たら殴られても仕方がないって思えよ」

 

恐れるどころか、普通に受け止めているジンにカラスキは”呪いの顔”で笑みを作り

 

「普通なら、腰を抜かして叫ぶところだよ・・・そういうジンだから、”闇の世界”の事は知らないでほしかったのにな・・・・・・」

 

この友人は相手がどんな境遇であろうとも決して拒絶することはなくどんなことがあっても手を差し出してくれ、支えてくれる。

 

以前、お祓いに行ったときに妙に正義感だけが先走りした料理人見習の青年が居たのだが、余計なことをされて呪いが祓われるどころか余計に怒らせたこともあり、カラスキはこいつは痛い目に遭わないと駄目だと感じ、祓うには祓ったがその青年にわざと呪いを取り憑かせていた・・・・・・

 

ジン・シンロンという青年も正義感は強いのだが、彼の正義は”家族”や身近の人”に向けられていて、その人たちの支えになることを前提とした人として真っ当な生き方をしてきた。故に平穏な日常の中で一生を過ごし、血なまぐさい”闇の世界”を知ってほしくなかった。

 

だがどういう運命の悪戯なのか、妹のほむらは”魔法少女の契約”を結んでしまい、結果的にジンは魔法少女の世界だけではなく”陰我”の世界、ホラーの存在すらも知ってしまった。

 

「カラスキが言ってくれたことはオレも良くわかる。呪いってのは収まるところに収まれば何も害がないって奴だろ。だけど、今回だけは別だ、ほむらの身に起きたことはほむらの問題だというのは分かる」

 

”分かるんだ”とジンは再び、バラゴとカラスキの二人に視線を向ける。

 

「アイツはオレの妹だ!!!あの時みっともない姿をさらしてアイツを支えてやれなかった!!!だからこそ、今度は絶対にアイツを支えたい」

 

ジンの言葉にカラスキは、こういう真っ当な人間は自分達と関わっちゃいけないのにと改めて思うのだが、この青年と友人になれたことを嬉しく思っていた。

 

「・・・・・・君は血の繋がらない彼女を妹というが、彼女が必要としているのは”支え”ではなく、障害を取り除く為の”圧倒的な力”だ・・・君がどんなに頑張っても持ちえないほどのね」

 

逆にバラゴは冷たい視線でジンを見ていた。

 

数日前の暁美ほむらの家族の前では見せなかった厳しい言葉をかける

 

「龍崎駈音さんの言うことは分かってるよ。どんなに良いことを言ったとしてもオレは、体が丈夫なだけのただの一般人だ。カンフーもやってたけど正直に言って、それも役に立たないこともな」

 

カラスキやバラゴの住まう”闇の世界”は、自分達が想像にできないほどの厳しい世界なのだ・・・

 

そんな世界を知らずに生きてきた自分が今更ながら何ができるのだろうか?できることなど何もない。

 

「それでもな・・・オレはほむらの傍に居てやりたいし、アイツには笑っていてほしいんだ。妹が辛そうな顔をしていたら兄ってのは笑わせなくちゃいけないだろ」

 

ほむらの望みは、おそらくバラゴのような”力”が不可欠なものであろう。だが、それでいて辛く笑えない望みなど叶えてしまっても意味のないものではないかと・・・

 

どんな結果であろうと彼女が心の底から笑ってくれることが”兄”の望みなのだ・・・・・・

 

「ハハ。龍崎さん、こいつはとことん、妹、家族の為ならどんなことがあっても笑わせようとする馬鹿な奴なんですわ・・・龍崎さんからしたら足手纏いかもしれませんが、おいらにとってもジンには生きてほしいし、ジンらしくやってほしいんですよ」

 

若干口調こそは厳しかったが、カラスキはジンがほむらの傍に居させてもらえるように頼む。

 

「・・・・・・・・”力”無くして望みは叶えられない。僕だけが彼女の望みを叶えることができる」

 

バラゴは口調こそは、ジンを認めることはなかったが、このアスナロ市での彼女のことを考えるとこの青年にも一応の使い道はあると自分を無理やり納得させてそのまま席を立ち、出ていった・・・

 

「京極カラスキ・・・あとでバグギの事とその対策について聞かせてもらおう」

 

去り際に協力者との打ち合わせを告げて・・・・・・

 

「・・・・・・カラスキ・・・・・・」

 

「言わなくてもわかってるよ、おいらは。龍崎さんに協力をお願いしている手前こういうしかかなかった」

 

「サンキューな!!」

 

そのまま勢いよく背中を叩かれたカラスキだった。妙に力が込められていて痛むのは気のせいではないだろう

 

「で、今夜出てきたあの金色の化け物は一体何なんだ?」

 

「あぁ、そいつの為においらは龍崎駈音さんの力を借りたかったんだよ。ジンも聞いたことぐらいはあるだろ、アスナロ市の”雷獣伝説”を・・・・・・」

 

カラスキは視線で大広間に掛けられている掛け軸に視線を向けた。

 

魔雷ホラー バグギの姿が描かれていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ほむらとミチルの夜の会話。家族について聞くミチル。

 

泊り客用の客間では布団が敷かれ、ほむらはミチルを寝かしつけた。

 

「・・・なんだか、ごめんなさい。ほむらさん」

 

「いいのよ・・・ミチル、貴女は生み出されてから”プレイアデス聖団”に追われ、ろくに寝ることもできなかったんでしょう。それに今夜は使徒ホラーも現れた」

 

あの強大な力を持つ”金色の雷獣”の”邪気”による悪影響も考えられるのだ。

 

「今日はこのままおやすみなさい。今は自分の体を休めることだけを考えなさい」

 

見た目の年齢は明らかにミチルの方が上なのだが、精神的な年齢ならばもしかしたら”暁美ほむら”の方が上かもしれない。いや、実際にミチルは”生み出されてから数日”の存在なのだ・・・・・・

 

「ほむほむって、そうやってみるとお姉さんみたいだね」

 

「お姉さんですか・・・アスカお姉ちゃんがこんな風にしてくれたこともありました」

 

数年間思い出すこともなかったのにどうして、今頃になって姉、アスカを思い出し、彼女が過去に自分にしてくれたようにミチルと接しているのだろうか・・・・・・

 

「私には、ほむらさんみたいな家族は居ないかな・・・最初のミチルにはグランマって人が居たみたいなんだけれど・・・よくわからない」

 

魔法少女であるが人間であるほむらには、当然のことながら両親も居れば”姉”と”兄”も存在していた。

 

そのことに”普通の人間ではない”ミチルは羨ましく思った。

 

「・・・グランマは祖母ね。私には祖父が居たわ。正直言って凄いマフィア顔だったわ」

 

それでも自分にとっては優しい祖父であり、絵本 ”火の子”の作者であった。

 

小さい頃はそれを気にすることなんてなかった。

 

「濃い顎髭に色の付いたサングラスをいつもしていたわ。小さい頃は特に気にしなかったけど・・・」

 

「じゃあ、グランパだね。今は・・・・・・」

 

少しだけほむらは、寂しそうに笑い

 

「亡くなったわ・・・覚えているのは怖い人たちが私と祖父を追い回していたわ」

 

 

 

 

 

 

”ほむら・・・大丈夫だ、お祖父ちゃんが守ってあげるからな”

 

”お祖父ちゃん”

 

人混みから離れ、気が付けば二人は街の外まで逃げていた。

 

”お前達!!なんのつもりだ!!!ほむらに、何をするつもりなんだ!!!”

 

”その子は素質がある!!!我らが指導者に選ばれたのだ!!!”

 

”お前達はニルヴァーナか!?!ふざけるな!!!”

 

 

 

 

 

 

 

「今、思い返しても私をどうして追い回していたのか分からない」

 

霧が覆うように記憶があいまいなのだが、何故か祖父の声は強く思い出すことができる。

 

「普段は争いごとを嫌う祖父が声を荒げて私を護ろうとしてくれた・・・だけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

”お前こそユラ様の理想が分からない愚か者だ。愚か者はユラ様の為、ここで処分する”

 

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきた大きな音と共に視界が真っ赤に染まった。

 

「多分、銃声だったと思うわ。祖父は頭を撃ち抜かれて私を抱いたまま倒れてしまった」

 

無理やり引き放され、連れ去られた自分は両親と再会するまでの数日間の記憶が抜け落ちていた。

 

そして帰ったときに”祖父”が亡くなっていた。死因は”事故死”として処理されていた・・・・・・

 

「あっ、ごめんなさいね。ミチル、こんな話をすべきじゃなかったわね」

 

自分の話している内容の重さに改めて気づき、ほむらはそのままミチルが落ち着き眠るまで他愛のない話をしていた。

 

「ねぇ、ほむらさん・・・わたしはこのまま生きていても良いのかな?」

 

「なにを言って・・・・・・」

 

「だってわたしは”ミチル”を模して造られた人間みたいだけど人間じゃない存在。普通じゃありえない生まれ方をしているの」

 

「貴女までなに、重い話をしているの。生きているんだから、そんな事を悩む前に体調を治しなさい」

 

ほむらは、ミチルに軽く額にデコピンをしてそのまま彼女を寝かしつけた。

 

眠るまで傍で彼女の手を握りながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな顔をして眠るミチルの眠る客間を出た後、ほむらとメイは大広間へと向かっていた。

 

「ほむほむ。ぼくに聞きたいことがあるんじゃないかな?」

 

「はい、メイさん・・・あの・・・」

 

「メイさんなんてそんな風に呼ばなくても良いよ。メイって呼んでよ♪ジンの妹なんだからさん付けなんて他人行儀はなしさ♪」

 

やはり悪戯好きの猫のようにころころ表情の変わる女性である。

 

「じゃあ、メイ。貴女は魔法少女の契約をインキュベーターに持ち掛けられたのに貴女は魔法少女にならなかったことを聞きたかったんです」

 

「そのことかい?ほむほむも随分と事情通だね。キュウベえの事をインキュベーターって呼んでるところなんか」

 

「メイも魔法少女が・・・・・・」

 

「うん。知ってる・・・宇宙の為に第二次成長期の女の子の感情エネルギーを集めてるって話だけど、魔法少女なんてゴージャスな装飾品でデコレーションされた電池ってわけよ」

 

メイは笑いながら話す。魔法少女の真実は非常に重いものであるのにこの女性は何でもないように話している。

 

魔法少女にとっては死活問題であるはずなのにこのように話すメイ・リオンに対してほむらは、少しだけではあるが怒りを覚えた。

 

「気に障ったら謝るよ。ぼくにとってはもう過ぎてしまったことだからね・・・」

 

「ほむほむ・・・ちょっとだけ昔話をしようか・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

”これは、ぼくがほむほむと同じぐらい、もしかしたら、もう少しだけ子供だった頃の話だよ”

 

 

”あの頃のぼくはずっと子供で何処にでもいる子供と言う割には、可愛い女の子だったと思うよ”

 

 

”そういわないで、ほむほむ。その頃はちょっとした悩み事があってね”

 

 

”ぼくはね、女の子が大好きだったんだ。恋愛対象としてね”

 

 

”当時のぼくは実はとんでもない性癖の持ち主じゃないかと真剣に悩んだよ。同年代の女の子の”男の子との恋バナ”の話なんか当然のことながら理解できなかった”

 

 

”そういうことで悩んでいたらね・・・アイツが来たんだよ、インキュベーターが、ついでに魔女まで来てね”

 

 

”そこで魔法少女にであったんだ。それも凄く美人で一目惚れだったよ”

 

 

”本当に綺麗な子って息を飲むぐらい雰囲気があるんだ。そして誰よりも芯が通っているんだよ”

 

 

”その子・・・要 カルナにね。魔法少女になりたいって、一度言ってみたんだ。カルナみたいにかっこよくなりたいってね”

 

 

”でもカルナはぼくに言ったんだ。魔法少女になる前に自分でできることを見つけることから始めなさいって”

 

 

"インキュベーターはカルナを責め立てたけど、足蹴りして追い出されたけど”

 

 

”良い女っていうのは腕っぷしも強いんだってね、あ、話がそれたね”

 

 

”ぼくの女の子が大好きなことを解決してもらおうって考えたんだけど、それを魔法で解決するのは違うって言われてね。カルナはぼくが自分にできることを見つけようとしてた時もずっと見守ってくれた”

 

 

”そしたらぼくは思ったんだ。魔法でぼくの悩みを解決しても結局は何も変わらなくて、こうやって悩んで色々な事を考えてきたのが自分自身なんだってわかったんだ。だから、ぼくは自分らしく自分を受け入れていこうってね”

 

 

”カルナは、魔法少女の真実をぼくに教えてくれたんだ。こんな契約を結んでしまったら二度と引き返すことができないって・・・そして魔法よりも本当に大切なのは自分自身を認めることなんだって、魔法はいつか解けるんじゃなくて自分自身で解くものなんだって・・・”

 

 

”それからカルナはどうなったて?アレから会ったことはないよ。分かっているのは、カルナは今も何処かで自分自身に掛けた魔法を解こうとしているんじゃないかってことかな・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

「これがぼくの昔話さ・・・カルナと別れてからインキュベーターがぼくに契約を持ち掛けてきたんだ。その頃は自分自身に納得していて悩みなんてなかったけど、ちょっと理不尽な目に遭ってイラっとしてた時に来たんだ」

 

「だから言ってやったんだ。僕はそんな柄じゃないよ。だって、皆に期待もしてないからそんな奴が身の丈の合わない魔法少女になっても希望なんて与えられないよ。他を当たってよ・・・・・・キュウベえってね」

 

”パンッ”と手を叩き、これぐらいやる気がないように言えばあきらめるでしょと付け加えて・・・

 

「これでぼくの昔話はおしまい。魔法少女になるのはその子が悩んだ末だから、どうこういう気はないけど、カルナの言うようにやり方は魔法に頼らなくてもあるってことかな」

 

メイの話を聞き、ほむらは気が重くなってしまった。

 

言うまでもなく、”鹿目さんとの出会いをやり直したい”と願った自分はメイのように自分から行動を起こしたことがあっただろうか?

 

いや、姉 アスカの死を認められずに、見滝原で新味になって接してくれた”鹿目さん”が目の前で亡くなってしまったことに自分は姉の死から逃げたように鹿目さんからの死から逃げ出したのだ・・・・・・

 

「もしかして気に障った?というよりも・・・・・・何か悩んでいるの?」

 

「・・・・・・メイ。少しだけ私の話を聞いてもらえる?」

 

大広間まで少しのところまで来ていたが、ここは敢えて適当な言い訳を考えてほむらの話を聞こうとメイは思った。

 

 

 

 

 

 

 

ほむらは今まで誰も信じなかった”自身の過去”をメイ・リオンに語った・・・・・

 

少し前にミチルに思わず話してしまった祖父との理不尽な別れ・・・・・・

 

心臓の病が悪化した為、入院した病院で出会った”姉 アスカ”と”兄 ジン”との出会い・・・

 

そして二人と一緒に過ごした騒がしくも楽しい日々・・・・・・

 

そんな日々も長くは続かず、姉 アスカの容態が悪化し彼女の死を目の当たりにしてしまったこと・・・

 

彼女の死と向き合うことで姉との思い出が暗く塗りつぶされることが耐えきれずに”一人”になりたいからと言って無理を言って”見滝原”に行き、そこで”鹿目 まどか”と出会い、魔法少女の事を知った・・・

 

見滝原に現れた最大の魔女”ワルプルギスの夜”との戦いで亡くなった”鹿目さん”・・・・・・

 

”鹿目さんとの出会いをやり直したい!!彼女を護れる私になりたい!!”

 

願い、インキュベーターと魔法少女の契約を結んだ・・・

 

時間を遡り、再び彼女と出会いともに魔法少女として歩み出した日々・・・だけど

 

それは自分達の都合の良い色眼鏡で見ていた”幻想”であった・・・

 

魔法少女と魔女の残酷な真実を知った時、かつてのような”幻想”のような時間を過ごすことはできなかった。

 

”ほむらちゃん過去に戻れるんだよね。だったら、キュウベえに騙される前の馬鹿な私を助けてくれないかな”

 

”やっと・・・名前で呼んでくれた・・・嬉しいな”

 

誰も未来を信じないという”考え”に至り、信じられないのなら自分が信じることのできる”未来”にしてやると

 

幾つもの過去を・・・何度も時を遡っても”鹿目まどか”の救うことは叶わなかった・・・・・・

 

その過程で様々な人達と出会い、別れた。

 

かつては敵対しながらもある時間軸では”家族”として過ごした 三国 織莉子・・・

 

自分と同じく時間を繰り返していた魔法少女 キリ・・・・・・

 

別れてから、鹿目まどかとのズレは大きくなり自身の無力とやり場のない怒りと自己嫌悪・・・・・・

 

そんな思いの果てに彼女は・・・暗黒騎士 呀バラゴと出会った・・・・・・

 

自分自身と合わせ鏡のような”闇色の狼”に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

語り終えたほむらにメイ・リオンは彼女をそっと抱きしめた。

 

抱きしめてくれるメイに対して、一瞬身体を強張らせたが・・・・・・

 

「・・・・・・ほむほむ。よく頑張ったね・・・・・・ぼくに言ってくれてありがとう」

 

”よく頑張った”そんな言葉をかけてくれた人なんてほとんどいなかった・・・・・・

 

「でもメイ・・・わたしは・・・たくさんの世界を・・・・・・みんなを・・・」

 

「それはほむほむが頑張った上ででしょ・・・それにほむほむの話を聞こうとしなかった、いや、魔法少女の真実を知ろうともしなかったその子たちはなるべくしてそうなったんだよ、ちょっと厳しく言わせてもらうとね」

 

「まどかを悪く言わないで」

 

「ほむほむ・・・・・・ずっとずっと悔しくて・・・それでいて自分が嫌になってまでその子の為に頑張れるのは凄いよ。でもその子はその子で進んでしまった”破滅”は彼女自身の責任であって、救えなかったきみのせいなんかじゃない」

 

抗議するほむらであったが、メイは諭すように穏やかに話す。

 

「やり直したいと願ったほむほむの気持ちは、みんなが一度は願うことだから分かるよ」

 

「ぼくだって、カルナを救ってあげたいって思ったこともあるよ。だけどカルナはそんなことを望まなくて、自分のことを思うのなら”メイ自身の時間を生きて”って言ってくれたんだ」

 

「もしかしたらだけど・・・ほむほむに助けてってお願いした彼女はほむほむにこれから、インキュベーターに自分のように騙される馬鹿な子を助けてくれるようにお願いしたんじゃないかな」

 

「まどかが・・・そんなことを・・・・・・」

 

「ほむほむが守りたいって願った子だよね。だったら、そういう風に・・・思っていても不思議じゃないよ」

 

メイはほむらから身体を放し、軽く頭を撫でる。

 

「ずっと言えずにいたことも人に話してみると案外、今まで見えてこなかったモノが見えたりするんだよ」

 

「・・・・・・メイ。あの時、貴女のような人がいてくれたら・・・・・」

 

彼女のように魔法少女の契約を選ばなかった人物が居たら、まどか達を含めた自分達は少しだけでも明るい未来を見られたのだろうか?

 

「それは買いかぶりすぎだよ。ほむほむ・・・ぼくは君が友達の妹だから味方で居たいなって思ったんだよ」

 

悪戯好きの猫のように笑いながら足早に大広間へとメイは足を進めた。

 

「だから、ほむほむにマルを上げよう♪」

 

そんなメイの後追うようにほむらは、もう一度だけ”まどか”との約束について考えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

”魔法は誰かが解くのではなく・・・自分自身の力で解くものである”

 

”いつか自分は繰り返すときの更に先へ進むことが出来たとき・・魔法少女の自分はどうなるのだろうか?”

 

 

 

 

 

 

続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾

 

 

 

 

 

 

時刻は既に夜が明け朝になろうとしていた。メイ・リオンは客間で眠るほむらとミチルを背に部屋をでた。

 

部屋を出ると直ぐにジンと顔を合わせた。

 

「メイ。ほむらとミチルちゃんは・・・・・・」

 

「穏やかに寝ているよ。可愛い女の子の寝顔が見れてぼくは満足さ♪」

 

「相変わらずだな・・・まぁ、今夜は色々あって眠れそうにない」

 

「そうだよね・・・ほんとに雷獣が居て、今になってまた悪さを働くなんてね]

 

一般人である二人もまた今夜の出来事で今まで過ごしてきた”日常の崩壊”を感じていた。

 

「ところでさ、ジンはほむほむの事情は知ってるの?」

 

「魔法少女の契約をしたことだけだな。どうして願って、あの龍崎駈音と一緒にいるかは分からない」

 

ジンの疑問にメイはほむらの事を彼に話そうと決めた。

 

本人には悪いかもしれないが、今は伝えられるときに伝えなければならない・・・

 

使徒ホラー バグギの脅威は未だに終わっておらずどうなるか分からないのだから・・・・・・

 

メイは、ジンにほむらが何故、魔法少女になったのかを、その願いと祈りを・・・

 

幾つもの時間を旅して、この世界へやってきたことを伝えた・・・・・・

 

「君の妹の事だけど、姿かたちはそっくりだけど限りなくよく似た別人の可能性もある。それでも君は・・・」

 

「そんなの関係ねぇよ。ほむらは、どんな事情があれでもオレの妹だ、あの時、オレの事を”兄”って呼んでくれたんだ・・・それだけで十分なんだよ」

 

「君って奴は・・・・・・ほむほむのことちゃんと見てあげるんだよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

暁美ほむらの願いについてですが、一種の逃げに近いモノを感じますが、まどか達魔法少女らを救えず、犠牲にしてしまったことは少なからず彼女も気にしているようですが、それらは彼女らが選択肢したうえで進んでしまったことなのでほむらがそこまで気に病むこともないというちょっと厳しい事を書いてしまいました。

メイ・リオンは魔法少女の資格はあったけど、その資格で悩みを解決するよりもそれ以外での方法を自分自身で考え見つけることを経験した為、魔法少女の願いや魔法は不要と考えています。
今作の志築仁美辺りは、激怒し、責め立てそうですが・・・

実際に魔法少女になって願いを叶える方法以外にもできることはあったと思うんですよね

まどマギシリーズの魔法少女は、結構安易に魔法に頼ってしまう印象があり、もう少しだけ魔法に縋らずに頑張ってみてもいいんじゃないのと思うことがあります。

あるいはまどマギ世界があまり良い世界ではなく、少女らが魔法に安易に手を出してしまうような暗い世界の可能性もありますが・・・・・・

オリジナル魔法少女 要 カルナについては、やはりこちらも過去に書いていたあるキャラをサルベージしました。名前は当然のことながら変えています(汗)

ほむらも今まで他の人に話すというのは、中々難しかったと思いますが、魔法少女の事情を知った上である程度、人間としてそこそこできている人ならば心境や考えに影響が出ると思います。魔法少女同士だとある意味身内なので堂々巡りにしかならないので・・・
実際のところ”魔法少女”の真実は、当事者である魔法少女にとっては受け入れ難いので実際に目の当たりにするまでは受け入れることはできないと思います。

今作の相談相手は”女の子が大好き”なお姉さんですが・・・・・・

メイさんはおそらくは、バラゴサイドではかなり真面な人だと思います。

次点でジン・シンロン。

京極 カラスキは目的の為なら、手段を択ばないので常識はあるがあるだけなので、それを平然と破ります(笑)

そしてジンはほむらが例え”別の世界”から来た限りなく似ている別人であっても”兄”と呼んでくれるのならば、自分は”兄”であると覚悟を決めています。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾

バグギも動き始めました。

こいつがアスナロ市に現れた”原因”が少しだけ明らかに・・・





アスナロ市 ”雷獣伝説”

 

その”雷獣 馬愚魏” 世が乱れ、汚れし時、雷雲と共に現る・・・

 

馬愚魏 狡猾にて邪悪、人を喰らう

 

その身体は、雷そのもの・・・人の手には決して触れられぬ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム イベント会場

 

真須美 巴はイベント会場のステージにパイプ椅子を置き、腰を掛けていた。

 

周りには彼女が惨殺した少女達の遺体が横たわっており、無残な残骸となったソウルジェムが至るところに転がっている。

 

彼女が横に視線を向けるとここ数日の間で馴染み深くなった”金色の雷獣”が浮いていた・・・

 

「バグギ、ちょっと聞きたかったんだけど、アナタどうやって”プレイアデス聖団”から私を見つけ出したの?」

 

「そんなことか・・・なに、この地に現れた時に偶々ある小娘らを見かけてな・・・」

 

「ふぅ~~ん。それが、プレイアデス聖団だった訳ね・・・」

 

真須美 巴はあることに気が付いた。バグギが現れた時にすぐ近くに”プレイアデス聖団”の魔法少女達が居た。

 

「キャハハハハハハ。ようするに、アナタをこのアスナロ市に呼び寄せたのは・・・あの子達だった訳」

 

「フフフフフフフ・・・まぁ、そんなところだ。あの日、偶々”雷”に焼かれた小娘の魂の怨みが”ゲート”となり我をこの地に呼び寄せたのだ」

 

その”雷”も自然発生したものではなく”ある魔法少女”が攻撃の為に使用したモノであった・・・

 

「そこで我の一部をその場にいた二人の小娘に憑依させてやった・・・色々と我に今の世を見させてくれたからそこだけは感謝しても良い・・・まぁ、お前にとっては面白くもない話だな」

 

”プレイアデス聖団”に怨みを持つ真須美 巴からしてみれば彼女らに感謝しているバグギの話は面白くはないだろう。

 

「キャハハハハハ。そんな事はないわよ・・・まぁ、そういう攻め方ならわたしも大歓迎よ♪」

 

彼女はバグギの話を全面的に肯定していた。言うまでもなくプレイアデス聖団の二人の少女は”バグギ”の駒に知らず知らずにさせられていたのだ。

 

直接痛めつけるのも悪くはないが、真綿でじっくりと首を絞めて”死”に至らしめるのもまた面白いのだから・・・

 

「”雷撃”を使う小娘も面白かったが、特にあの二人御崎海香、牧カオルの”陰我”は良かった。あそこまで我のそれに馴染んでいたとはな・・・」

 

「ふぅ~~ん。それで・・・どうしたいわけ?」

 

「元々は暗黒騎士が”魔法少女”を連れていると聞いてな・・・あの二人を下僕にしてやろうと考えていたが、お前が見つかったから、用なしになったがな・・・」

 

雷獣の姿でバグギは笑う。擬人化した獣のように表情豊かであるが、その表情は悪意に塗れていた・・・

 

「お前のお気に入りの人間もよく働いている。ホラーが憑依するよりもあのままの方が面白い」

 

「あら?二樹を気に入ってくれたの・・・友達として嬉しいわ♪」

 

上機嫌に真須美 巴は応えた。自分をコケにしてくれた”プレイアデス聖団”・・・特に御崎海香と牧カオルだけは彼女自身の手で痛めつけたかったのだが・・・

 

何故なら二人こそ、自分の油断しているところに押し入ってきた・・・・・・

 

別行動を取っている他の”プレイアデス聖団のメンバー”等どうでも良かった。

 

二人を”美味しくいただいた”後に、ゆっくりと楽しめれば良いのだから・・・・・・

 

「フフフフフフフ、本当によく動いてくれる・・・あとはあの二人に少しだけ干渉してやるか・・・」

 

バグギは真須美 巴に視線を向けて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 京極神社 宝物社

 

「バグギについての記録なんですが・・・番犬所もだが、魔戒騎士や法師が強引に持ち出して行ってそのまま返ってこなかったモノも多くて・・・まぁ、取り戻せるだけ取り戻したんですがね」

 

現在、カラスキはバラゴ、エルダを”宝物社”に案内していた。ここは京極神社の”蔵”であり”曰く付きのモノが多数、封印、保管されている。

 

「バグギについていうと・・・こいつは形を持った”呪い”であるホラーのそれをさらに上回っているから、どう立ち回っても命がけになる」

 

過去に現れた”バグギ”についてカラスキは語った。

 

使徒ホラーの内に数えられ、その力は”強大な雷”を操るだけでも強力なのだが、さらに厄介なことに”雷”そのものである為に”実体”を捉えることが困難であることも挙げられる。

 

カラスキが京極神社で保管している”資料”に目を通すバラゴとエルダであったが、やはり一筋縄ではいかない相手のようだった・・・・・・

 

特に実際に戦ったことバラゴは、”バグギ”のその強さを正確に捉えていた。

 

昨夜バグギは自身の身体となる”機械人形”に入っており、身体を黒炎剣で突き、切り上げたはずだが、身体は破壊できたが本体である”金色の雷獣”には一切のダメージが通っていなかったのだ。

 

”機械人形”は魔戒法師が使う”魔道具”と違い、人間の現代社会で使われている”電気”で動いており、バグギ自身がエネルギー体となって中に入っていたのだろう・・・・・・

 

エルダもエルダで魔戒導師として”魔戒札”で戦いの行く末を占うのだが、バグギが存在する未来は暗く見通しのきかない深い闇だけが広がっていた・・・・・・

 

あまりの強大な邪気故に・・・・・・

 

「京極 カラスキ・・・奴を倒す手立てを用意していたのではないか」

 

バラゴの突然の発言にエルダは彼女にしては珍しく驚いた感情を見せていた。

 

「そこはやっぱりお目が高いわ。一応、うちの神社の中で”雷獣”を封じることが出来る法具がこれよ」

 

カラスキは大広間に掛けられていたバグギが描かれた同じ掛け軸の裏より古い布に包まれた長い得物を取り出す。

 

「それは・・・・雷清角(らいしんかく)ではないか・・・」

 

エルダはその法具を知っていた。かつて魔雷ホラーの脅威に備えて作られた”魔道具”の存在を・・・・・・

 

「そうなんだよ・・・もともと13本作られた内のこれは最後の生き残りだわ、こいつは・・・」

 

平安時代の京都である”陰陽師”によって鍛えられた13本の槍。

 

ほとんどの雷清角は過去のバグギとの戦いや他の”雷”を操るホラーの戦いで失われた。

 

雷清角を再現しようと多くの才のある”魔戒法師”達が挑戦したが、作られたのは粗悪な模造品でしかなかった。

 

故にこれは本来ならば”元老院”等で厳重に保管がされなければならないモノであった。

 

このような神社に隠されていたとは・・・・・・

 

「それならばバグギを封じ、奴の実態を捉えることもできるだろう・・・だが、何故あの時それをもちださなかった?」

 

バラゴの疑問は最もであった。まさかこの期に及んで”雷清角”が惜しくなったのではないかと・・・

 

「そんなこと考えたら、ここで被害を出しまくってくれたボンクラ魔戒騎士と同じになっちまうよ。バグギの動きが過去のどの文献の例が参考にならない手段で来ていることがわかったんだ」

 

カラスキの弁はこうであった。

 

現代社会は電気が至る所に流通しており、バグギにとって電気は自身にとっては身体の一部に等しく馴染みのあるものである為、電気の通うところならば、どこにでも現れることが出来る事は予想ができていたのだが、まさか機械などを使って来るとは思いもよらなかったし、文明の機器を使用し予想だにしない手段で出てくるため、最期の一本である”雷清角”を安易に持ち出すわけにはいかなかったのだ・・・

 

アスナロ市の発展もまたバグギに味方をしており、何処に目があるのか分からず下手に自身を倒しうる”武器”の存在をさらせばどんな手段を取って来るか・・・・・・

 

彼らは知る由もないのだが、バグギは独自に自身を倒しうる”雷清角”の存在を警戒し、ネットなどの情報を駆使し、探索をしていたことを・・・・・・

 

「そういうことか・・・その槍はいずれ使う・・・奴を倒すために」

 

「使われない槍ほど無用なモノはない。こいつは、アンタらが有効に使ってくれ」

 

カラスキは魔道具”雷清角”をバラゴに手渡すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

夜が明け、柔らかな朝日が京極神社を包んでいた・・・

 

昨夜の雨露が反射し初夏がそろそろ近いのか、雨蛙が跳んでいた・・・・・・

 

そんな京極神社の一室からミチルは境内の景色を眺めていた・・・

 

都市部では見られない神社の境内は一種の異世界にも見える。石造りの道に鳥居・・・

 

さらには神様が宿るとされる”本殿の社”と独特の屋根づくりの建築物はミチルにとっては全てが新鮮であった。

 

「・・・・・・どうしたの?ミチル」

 

「ほむらさん・・・ここの景色がなんだか珍しくて・・・・・・」

 

ほむらが隣に座りミチルと同じように京極神社の景色を眺めた。

 

言われてみればこのような”和風”の景色を眺めたことはほむらもほとんどなかった・・・・・・

 

「そうねミチル。ちょっと出てみましょうか?」

 

折角なので二人で神社の境内を散策してみようとほむらは提案する。

 

普段の彼女らしからぬ発言であるが、ある人物の影響を僅かに受けているようだった。

 

その人物はというと・・・・・・

 

「うぅ~~~ん。可愛い女の子がいっぱい・・・うへへへへへへへへ」

 

未だに夢の中の住人となっていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

二人はまずは京極神社の入り口である鳥居の更に先である石段まで行き、そこから”鳥居”を潜り

 

石造りの参道を二人で歩くその脇には”手水舎”

 

さらには過去に戦、飢饉で亡くなった人達の魂を鎮める”石碑”

 

今はほとんど使われていないが”相撲場”も存在していた

 

早朝の境内の空気は冷たく澄んでおり、心地よい冷たさを肌と胸いっぱいに吸い込み二人はさらに奥へ進む。

 

”社務所”を通り過ぎ、さらにはアスナロ市所縁の神様を祭る”境内社”がいくつも存在し、それら一つ一つに二人は立ち寄った。

 

これらの一つ一つの由来は丁寧に看板で説明がされており、その由来を知ることを二人は楽しんでいた。

 

時を遡り、いくつもの時間軸を旅してきた少女 暁美ほむら

 

”和沙 ミチル”の復活を目的とし、人工的に生み出された12人目の少女 ミチル

 

二人の存在は世界の”異物”であるのだが、この場所は”異物”である二人を受け入れていた・・・・・・

 

やがて二人は”本殿”の手前の建物である”拝殿”へとたどり着く・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ほむらにミチルちゃん、朝早くから探検か?」

 

”拝殿”に辿り着くとほむらの”兄”ジンがトレーニングウェアにタオルを首に掛けていた。

 

「ジンお兄ちゃん・・・日課の走り込み?」

 

「ああ、こいつだけはずっと続けていたし・・・気を落ち着かせたかったこともあったしな」

 

彼が早朝に走り込みを日課にしていることをほむらは知っていた。

 

あの頃は”心臓の病”の為に付いていくことは”姉 アスカ”共々叶わなかったが・・・・・・

 

「魔法少女の事は色々大変だったんだろ?まぁ、誰も話を聞かなくてもオレはな・・・馬鹿だからなんでも信じるから大丈夫だぜ」

 

「えっ!?ジンお兄ちゃん・・・もしかして」

 

「あぁ~!!!汗臭いと思ったら、汗かいてるわ!!ちょっとシャワーでも浴びてくるわ!!!」

 

わざとらしき声を上げて立ち去るジンにほむらは、あの頃と全く変わらずに”自分”の兄で居てくれることにほむらは笑った。

 

「ついでに!!!トイレも!!!」

 

「そこまで言わなくていいから!!さっさと行くなら行きなさいよ!!!だからアスカお姉ちゃんに”馬鹿ジン”って呼ばれてたんだよ、ジンお兄ちゃんは!!!!」

 

久しぶりに声を張り上げたのかほむらは珍しく息切れをしていた。魔女やホラーとの戦いで息切れをすることはなかったのだが、まさか自分を苦戦させるのは”兄”であったとは・・・・・・

 

「もぉ~~、少しは格好よくなったと思ったら・・・中身は全然変わってないんだから・・・・・」

 

魔法少女をしている時よりも疲れるのは何故だろうかと思いつつほむらは、軽く溜息を付いた。

 

ふと横を見るとミチルが笑っていた。

 

「なによミチル?何か可笑しい事でもあったの?」

 

「いえ・・・ほむらさんって・・・結構可愛いところあるなって・・・」

 

笑顔のミチルにイラっとしたのか、ほむらは理不尽に彼女の額へ思いっきり強く”デコピン”を行った。

 

静かな神社清々しいほどの弾く音と少女の悲痛な悲鳴が響いた・・・・・・

 

「いたいっ!!!」

 

「ふんっ!!」

 

 

 

 

 

 

「あらら・・・随分と仲の良いことで」

 

シャワーを浴びに行った兄 ジンと入れ替わるようにここの神主 京極 カラスキが居た。

 

彼の服装は黒い神主の衣装であった。昨日はカジュアルな服装であったが・・・

 

「カラスキさん。さっそく仕事ですか?」

 

「そういうこと・・・バグギの件もだけど一応はいつものお勤めを欠かすわけにはいかないからな」

 

「バラゴは、どうしてますか?昨晩からエルダと二人であなたを交えて話していましたけど?」

 

「龍崎さん・・・バラゴさんなら、少しだけ仮眠を取るってさ・・・昨日のダメージが響いているんだって」

 

龍崎駈音はバラゴの偽名であることを改めて知り、訂正する。

 

「そうですか・・・あのバラゴですら・・・・・・」

 

ほむらもまさかバラゴが活動に支障が出るほどの傷を負うとは信じられなかったのだが、相手の”使徒ホラー バグギ”がそれほどまでに強大な力を持っていることを思い知る。

 

「まぁ、なんていうか・・・ほむらちゃんの前ではそういうところは見せたくないみたいだな、あの人」

 

カラスキなりにバラゴをフォローするのだが、

 

「別に心配なんてしてませんよ、私は」

 

そっけなく返事を返すほむらにカラスキは呆気にとられるのだが・・・

 

「後でバラゴの部屋を教えてくれますか?一言、文句を言わないと気が済みませんので・・・」

 

そこまで教えてくれなくてもと思いつつ、ほむらは何だかんだ言ってバラゴが心配なのだと知り苦笑した。

 

「あいあい・・・そこはちゃんと向こうも分かっているだろうさ」

 

「それはそうと・・・誰かが近くに来ていてな・・・少し付き合ってもらえるかい?」

 

カラスキは改めて、京極神社の近くに”魔法少女”の気配が来ていることを告げ、ほむらに同行を願う。

 

言うまでもなく、直接的な戦闘能力を持たない彼では魔法少女の腕力には敵わないのだ。

 

「カラスキさんのその”霊感”ですか・・・凄いですね。怪異もそうですが、魔女や魔法少女も感じることが出来るんですよね」

 

「というよりも何となくわかるって感じだな・・・おいらは・・・」

 

一旦、ミチルには待ってもらい二人は京極神社の近くに逃げてきた”プレイアデス聖団”と遭遇し、彼女らを保護したのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

京極神社 客間

 

保護された”プレイアデス聖団”の魔法少女三人は、カラスキの案内の元、客間に来ていた。

 

「まさか魔法少女を保護することになるとは・・・うちの神社は寺ならぬ駆け込み神社なのかね」

 

重症である浅海サキの看病をすべくカラスキは客間に運び込み、そこに布団を敷き寝かしつけた。

 

「一番ヤバいのはソウルジェムの濁りか・・・確かこの間回収したのが一つ・・・・・・」

 

懐から特殊な木箱に収められている”グリーフシード”を取り出し、彼女のソウルジェムに濁りを浄化する。

 

カラスキの手際のよい行動とさらには魔法少女の事情を知っていたことに御崎海香、牧カオル、宇佐木里美は内心驚くとともに警戒の色を浮かべたが、彼は治療をしてくれ、さらには自分達をこの神社に匿ってくれたこともあり、信用が置けるかどうかもう一度見極めようとした。

 

<ねえ、この人。魔法少女のことを知ってる>

 

<グリーフシードも持っているから、多分他にも・・・>

 

<ここは・・・私達魔法少女にとっても都合がよい場所かもしれないわね>

 

<ちょっと待ってよ、二人とも・・・この人達はわたし達を助けてくれたんだよ。それにここは”神社”だから弁えようよ>

 

物騒な事を話している御崎海香と牧カオルに対し宇佐木里美は、”京極神社”で何かを起こそうと考え出した二人に抗議を行う。

 

常識として”神社”で騒ぎを起こすなど、罰当たりであるということもあるが、彼女にとってはここの神社の境内に”動物を供養”する石碑があり、人間の都合で”殺処分された動物”を悼んで作られたものであり、彼女としても安らかに眠っている”場所”を穢すようなことは許容できなかった。

 

<ごめんね、里美。私達、少し気が立っていたわ・・・・・・>

 

<・・・・・・・・・・>

 

二人は改めて冷静になり、里美に詫びるものの彼女は、少なくとも騒ぎを起こすことはないと考えたが・・・

 

<う・・・うぅ・・・ここは・・・一体?>

 

「どうやら、気が付いたみたいね」

 

自身のテレパシーに応えるかのように暁美ほむらがミチルを連れて入って来たのだった。

 

目覚めたサキは直ぐにほむらに警戒するのだが、今の自分が布団に寝かされていることに気づいた。

 

「おまえは・・・助けてくれたのか?」

 

「えぇ・・・不本意だけど、貴女達でも死んだらミチルが泣くから仕方なくよ」

 

「ほ、ほむらさん・・・わたしは・・・」

 

「おうおう、ほむらよぉ・・・お前ももう少し素直になったらどうなんだ?」

 

「ジンお兄ちゃんは黙ってて・・・」

 

「思いっきりアスカに似てきてんぞ・・・ほむら」

 

サキは、昨夜の襲撃に続いて二度も助けてくれた事に今まで彼女に”敵意”を向けていた自分が情けなくなった。

 

それに彼女・・・暁美ほむらの身内と思われる人たちも自分達を心配してくれており、そんな肉親同士のやり取りに彼女は決して悪い魔法少女ではないと考えた。

 

魔法少女狩りをしていた自分等よりも遥かにマシなのだろう。

 

(・・・みらいが私達から離れたのはそういうことだったんだろうな)

 

自分を慕っていた”彼女”が離れたのは、狭い世界を生きていた”プレイアデス聖団”の枠の外にある”何か”を見つけたからだろうと・・・そして、それはあまりにも身近にあるもので・・・

 

(ミチルが守りたかったモノ・・・”希望”だったんだろう)

 

彼女の”意”に反して、自分達は他の魔法少女へ積極的に攻撃を行い、”希望”を奪ってきた・・・

 

「あの・・・これよろしければ・・・・・・」

 

目の前に湯気が立っている粥を盆に載せたミチルが目の前にいた。

 

自分達の知る彼女のように自身に溢れ、堂々とした態度ではないのだが・・・

 

「あ、ああ・・・いただくとしよう・・・」

 

盆を受け取ると同時に彼女は直ぐに暁美ほむらの後ろに隠れてしまった。

 

ミチルに恐れられている事に内心、落ち込むのだが自分達はそれだけの行為をしたことを改めて思い知った。

 

「二人の昼食は大広間に用意しといたから、行ってきなよ。メイも多分、今になって起き出してる」

 

少し気まずくなった雰囲気にカラスキが助け舟を出す。

 

時間にしてそろそろ昼食の時間なので、そちらに行ってもらうように声を掛けた。

 

カラスキの言葉に従い、二人はそのまま大広間へと出ていった。

 

「ありゃあ、ジン・・・昼飯は大丈夫なのか?」

 

「そこまで腹は減っていないしな」

 

”プレイアデス聖団”に聞きたいことがあるのか、ジンはこの場に残るのだった。

 

「あの・・・すみませんが、サキは・・・」

 

宇佐木里美が、カラスキに声をかける。

 

「魔法少女とはいえ、生身の身体だろうから、ここで暫くは休む方が良いよ」

 

自分達を助けてくれることに安堵した宇佐木里美は、

 

「それじゃあ、わたしは一旦は離れるわ」

 

「何処かへ行くのかい?」

 

「はい・・・ここへ逃がしてくれた”友達”を置いてきてしまったんです。だから、行かないと」

 

「・・・里美・・・お前の友達については・・・すまなかったな」

 

謝って許されることではないが、彼女の”友達”が自分達”プレイアデス聖団”を助けるために犠牲になったのは事実であり、あの白いカラスは度々他のメンバーの元にも顔を出すぐらい人懐っこかった。

 

「あのままにはしておけない・・・ちゃんと送ってあげなくちゃ・・・」

 

悲痛な表情を浮かべつつ里美は、カラスキらに挨拶をして京極神社を去っていった。

 

この時、里美とサキは気が付かなかった。御崎海香と牧カオルの二人の表情に生気がなかった事に・・・

 

瞳の奥に一瞬だけであるが”雷”が走った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

大広間で昼食を取った後に食後のココアをほむらは淹れていた。

 

「ほむらさんのココアって、凄く美味しいんですね」

 

「この味、ジンの淹れる奴と同じだね・・・やっぱり淹れ方が似るって兄妹なのかな」

 

美味しそうにココアを啜るミチルとメイにほむらは苦笑し、保温用のカップに蓋をして一杯のココアを手に取る。

 

「ほむらさん?何処へ行くんですか?」

 

「・・・ちょっとバラゴの所によ」

 

若干不機嫌そうな表情で応えるほむらにミチルは、不思議そうな表情を浮かべる。

 

「あの・・・なんでその態々、不機嫌な思いをしてまでその人の所に?」

 

ミチルから見たバラゴはエルダ以上に”怖い人物”だった・・・いや、人間とは思えない”何か”を感じていた。

 

「それが分かったら・・・どんなに良かった事かしら」

 

ほむらはそのままバラゴの元へと足を進めていった・・・・・・

 

その様子にミチルは付いていきたくなったが、”バラゴ”が恐ろしい為、行くことはできなかった・・・・・・

 

「ほむほむも色々悩んでいるんだね~」

 

「どういうことですか?」

 

「二人とも、何かお互いに思うところがあるってことだよ」

 

何かを察しているメイであったが、ミチルはどういうことなのか見当が全くつかなかった。

 

 

 

 

 

 

京極神社の居住区のさらに奥の部屋へとほむらは足を進めた。

 

そこにバラゴが休んでいるのだ・・・・・・

 

引き戸を引き、部屋の奥で簡単な作りの椅子に深く腰を掛け眠っているバラゴの姿を確認する。

 

黒いフードを目深にかぶり表情を伺うことはできない。

 

手を見るとそこには電熱によって焼けただれた痛々しい手が力なく垂れていた。

 

「貴方は私に言ったわよね。唯一の究極の存在になるって・・・どうして”力”が欲しいの?」

 

ほむらにとってバラゴはまさに”最強”の存在だった。

 

「貴方は・・・こんなにも強いのに・・・」

 

アスナロ市に現れた”バグギ”を除けば、彼以上に強い存在を知らない。そしてバグギを倒しうるのも・・・

 

そんな彼が”さらなる力”を求めている事は何の為であろうか?

 

”野望”の為と応える者がほとんどだろうが、ほむらは限りなく自分に似ている”バラゴ”が何故、力を求めているのか、おおよその検討がついていた・・・・・・

 

「何となくわかるのよ。貴方は過去に大事な人を守り切れなかったんじゃないかって・・・そうじゃないとそこまでにして”力”を求めないものね」

 

”生きていてほしかった人”を死なせてしまった”自分の弱さと力の無さ”を憎み、その心の痛みに抗おうとしていることに・・・・・・

 

眠るバラゴの手をほむらは握り、不得意ながら”回復魔法”を施した。

 

バグギによる”電熱”による攻撃なのだろう・・・火傷の跡が痛々しかった・・・・・・

 

「なんだか私達って似てるんだよね・・・バラゴ・・・・・・」

 

普段ならこのようなことを言う気などないのに、何故か彼が眠っている間しか言えない自分の弱さが恨めしい。

 

「普段ならこんなことを言えるはずもないわね・・・・・・」

 

「ほんとに自分の弱さが嫌になるわ・・・」

 

サイドテーブルに保温用のカップに入れたココアを置き、ほむらは部屋を後にした。

 

ほむらが出ていた後、バラゴは彼女によって治療された手を無言のまま見つめていた・・・・・・

 

彼は直ぐにほむらを追いかけたかったが、自身を気遣って部屋を出ていった事に感謝しつつ、サイドテーブルに置かれているカップに手を付けた・・・・・・

 

「・・・・・・僕もだよ・・・君は知らないだろう。この顔は本当の自分じゃない・・・」

 

フードの奥に存在する”バラゴ”本来の顔に浮かぶ十字傷を隠すべく彼は、龍崎駈音の仮面を被る・・・

 

 

 

 

 

 

京極神社 客間

 

「・・・それでお二人さん。さっきから黙っているけど何かあるのかい?」

 

先ほどから静かである御崎海香 牧カオルの二人が何も喋っていないことにカラスキは改めて二人を見る。

 

見ると顔色が悪いように見えたのだ。少し青白く見える・・・

 

「二人とも体調が悪いのか?カラスキ、オレ、ちょっと温かいモノを持ってくるよ」

 

「あぁ、その方が良いかな・・・」

 

ジンが部屋を出ていき、カラスキは改めて二人に声をかけた。

 

「二人とも・・・どうしたんだ?」

 

「・・・はっ!?!いえ、少し気疲れしていただけです。昨日から理解が及ばない出来事が続いていて・・・」

 

御崎海香はカラスキに声を掛けられたことに今更ながら気が付いたようだった。

 

「・・・二人ともあまり休んでいないようだから、ここで少し休みな。おいらは暫く部屋を離れているよ」

 

プレイアデス聖団の部外者である自分が居ても気が休まらないだろうから、カラスキは一旦部屋から離れて彼女らだけで過ごしてもらうように気を遣うのだった・・・

 

「ここの神主は本当に分け隔てがないな・・・なるだけここには迷惑をかけるようなことはしたくないな」

 

浅海サキは、自分達に気遣ってくれる”京極 カラスキ”に礼を言い、改めて二人に話しかける。

 

「それに・・・12人目・・・いやミチルは私達の知る彼女ではないが・・・確かに”ミチル”かもしれない」

 

少し幼いのだが、傷つけた自分達を助けてくれるように行動をしている事に人を助けようと魔法少女として戦っていた”彼女”を思い出したのだ。

 

「・・・いえ、12人目は記憶があるだけの他人よ・・・ミチルを取り戻すには処分するのよ」

 

「お、おい・・・なにを言っているんだ・・・今の私達は”ミチル”の意に反している。もうこれ以上は・・・」

 

御崎海香の声が妙に抑揚がなく、人間味を感じられないのだ。

 

「か、カオルもなにか・・・」

 

牧カオルに声を掛けるが、やはり彼女の表情は無表情で生気を感じられない。まるで魂が抜け落ちたかのように

 

「・・・・・・キャハハハハハハ!!!今更、真っ当な魔法少女のようなことを言っているのかしら?」

 

彼女のその笑い方と口調は、あの”真須美 巴”と同じだった・・・

 

「ま、まて・・・ど、どういうことだ・・・お前は・・・一体どうやって・・・・・・」

 

まるで何かに取り憑かれ、人が変わったかのような牧カオルに浅海サキは困惑していた。

 

「我が少しばかり”力”を”真須美 巴”に貸してやったのだよ」

 

御崎海香の表情が彼女らしからぬ”悪意”に満ちた笑いを浮かべていた・・・・・・

 

「ふ、二人とも・・・一体どうしたんだ?ま、まさか・・・」

 

「キャハハハハ!!今頃気が付いた?」

 

「我らが知らせてやったのだがな・・・お前には感謝しているぞ、浅海サキ・・・」

 

「お、お前は一体・・・な、何なんだ・・・」

 

御崎海香の声ではなく、”邪悪な何か”は本来の声で語る・・・

 

「覚えいないのか?良いだろう・・・思い出させてやろう。我をこの地に呼び寄せたお前達の”陰我”を」

 

御崎海香の”魔法”である”記憶操作”は浅海サキにある光景を見せた・・・・・

 

それは十数日前に行っていた”魔法少女狩り”の光景であった・・・

 

「ま、まさか・・・私が・・・お前を・・・・・・」

 

「感謝しているぞ・・・お前達の無自覚な”邪心”がゲートとなったのだ」

 

浅海サキは、目の前の御崎海香に取り憑いている”邪悪な何か”の正体を察した。

 

かつて人の世が乱れた時、人々が邪な行いに何も疑問を抱かなくなった時に”雷雲”と共に現れる”雷獣”

 

その”雷獣”を呼ぼ寄せたのは・・・”プレイアデス聖団”であることを・・・・・・

 

自分達の行いが”邪悪な雷獣”を呼び寄せたことに浅海サキのソウルジェムは彼女の”絶望”を表すように濁っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく・・・ほんとに貴女達には世話が焼けるわ・・・」

 

 

 

 

 

 

浅海サキの周りの光景がモノクロの世界に変わる。気が付けば暁美ほむらが彼女の隣りに来ていた。

 

「妙なモノが見えたのよ・・・魔法少女に黒い”何か”が取り憑いているのを・・・」

 

不確定な光景を”魔戒札”が彼女に教えてくれたのだ。エルダもまた京極神社内で何かが起こることを予知していた

 

まずは危害を加えられるであろう浅海サキを助けるために動いた後、時間を解除し部屋の外に居たエルダらと合流を果たす。

 

「・・・・・・貴様、バグギか・・・・・・」

 

エルダは爪を構え、厳しい視線を御崎海香に向ける。正確には彼女の中に居る”バグギ”に・・・・・・

 

「もう一人は・・・」

 

牧カオルの中に居るのは”ホラー”ではない別の”邪悪”な意思を持つ存在であった・・・

 

「キャハハハハハ。ホラーと魔法少女のコラボ♪中々、洒落ているわよね♪」

 

魔法少女に似つかわしくない程”邪悪”に笑う真須美 巴にほむらは、

 

「・・・随分とやりたい放題やっているわね。貴女は・・・・・・」

 

「”さん”ぐらいつけなさいよ・・・プレイアデス聖団共々、礼儀のない後輩が多いわね」

 

牧 カオルの中に居る真須美 巴は、軽く肩をすくめる。

 

ほむらは、牧 カオルとは単なる顔見知り程度の付き合いでしかないのだが、明らかに彼女とは違う”誰か”がその身体を乗っ取っていることが分かった・・・

 

他人に自分の意思を憑依させることが可能なのだろうか?そのような魔法少女も居るかもしれないし、魂である”ソウルジェム”を空となった”別の身体”に近づけることで他人になることとは違い、元々の身体の意思を奪ったうえで自分の”意思”を憑依させ操るとは・・・・・・

 

「まぁ、貴女には昨晩の遊びを邪魔してくれたけど・・・せっかくだから遊びましょ♪」

 

牧 カオルの魔法を上書きするように彼女の固有武器である”腕を変化させたブレード”を作り出した。

 

人間の姿をしながら体の一部を変化させる”ホラー”も存在すると聞いているが、目の前の牧 カオル、いや、真須美 巴はまさにそれであった。

 

「魔法少女にしては邪悪すぎるわよ・・・貴女・・・」

 

ほむらは、自身のソウルジェムが魔女と対峙しているような反応を示しているのだ。

 

真須美 巴の・・・牧カオルのソウルジェムの輝きは”希望”を輝かせる”魔法少女”の魂のそれと違い”異様な輝き”を放っている。

 

こんな輝きを見たこともないし、聞いたこともない。グリーフシードの邪気、瘴気に限りなく近い。

 

「キャハハハハハ!!!!いい子ちゃん揃いの魔法少女と私を一緒にしないで頂戴な♪」

 

真須美 巴は地を蹴り、勢いよくほむら目掛けてブレードを切りつけてきた。

 

ブレードの切れ味は凄まじく後方の壁に深い傷を刻んだのだ。対するほむらも自身の近接用の武器である”鉤爪”を展開させて、これと斬り合った。

 

両腕のブレードを器用に操り、さらには彼女独自のフットワークでほむらを僅かであるが押していた・・・

 

「爪の数は貴女の方が多いけど、手数なら私の方が上ね♪」

 

耳障りな笑い声と共に真須美 巴はさらにほむらへの攻撃の手を強めた。

 

(この魔法少女・・・そうとう厄介だわ。ホラーと手を組むだけでもアレなのに・・・)

 

真須美 巴について、ほむらはその危険性をさらに強めた。言うまでもなく、真須美 巴がもしも”見滝原”に行くようなことになれば、確実に”鹿目まどか”を始め、多くの人達に災いを振りまくことは明白だからだ・・・

 

故にここで倒してしまうことを決意する。問題は、真須美 巴は”牧 カオル”に意識のみが取り憑いている為、直接攻撃することができなかった・・・

 

(ここは一旦・・・時間を停止させて・・・・・・)

 

時間停止させたうえで、反撃の機会を与えずに無力化する方法をほむらは選び、切り結んでいた”鉤爪”に力を込めて、真須美 巴を弾く。弾いた瞬間にほむらは、楯に手を掛けるのだが・・・

 

「キャハハハハハハ!!!!待ってたわよ!!!!貴女が魔法を使う瞬間を!!!」

 

突如、牧 カオルの右目が血飛沫と共に弾けて、中からオレンジ色のソウルジェムが飛び出した。

 

「別のソウルジェム!?!」

 

異様な光景にほむらの手が思わず止まってしまった。この隙を真須美 巴は逃がさなかった。

 

ソウルジェムは蕾が花を咲かすように展開し、異様な輝きを持つ”コア”の輝きより、一筋の光がほむらの胸を抉った。

 

「っ!?!・・・」

 

元々、心臓に病を抱えていた場所を戸惑いもなく攻撃され、、ほむらは意識が白く、遠のくのを感じる。

 

「キャハハハハハ!!!貴女の魔法は”時間を停止すること”よね・・・使われる前に不意を突かせてもらったわ」

 

視線が定まらず、胸が焼け付くように痛み、呼吸が苦しくなっていく・・・

 

(これじゃあ・・・まだ病院へ戻らなくちゃいけないじゃない・・・)

 

かつて味わった”胸の痛み”を感じながら、ほむらの意識は暗転した・・・・・・

 

「・・・ほむら・・・」

 

動こうとするエルダに対し、御崎海香の内に居る”バグギ”が笑う。

 

「これ以上、長引かせては目的が果たせないのでな・・・少しばかり”力”を解放させてもらう」

 

御崎海香の内に居る”バグギ”はその力を思いきり解放した。

 

彼女の周りが光ったと同時に強烈な専攻と雷鳴が響き、一瞬にして周囲を破壊した。

 

間近でそれを受けてしまったエルダは身体の至る所に火傷を負い、目は強烈な閃光により半ば焼かれてしまい開けることも困難であった。

 

エルダは、まさかバグギの一部、分身だけでもこれだけの力を持っていた事は完全に予想外であり、バグギの規格外の”力”を身を持って思い知らされたのだ。

 

「キャハハハハハハ!!!さすがね、バグギ!!!あ、そろそろ退散させてもらうわ」

 

”バグギ”、”真須美 巴”らは一瞬にしてその場から消えた・・・

 

彼らの手に堕ちた”暁美 ほむら”を連れて・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が消えた後に広がっていたのは客間を中心に瓦礫となった周囲であった。

 

異変を察知し、到着したバラゴはこの事態を把握した・・・・・・

 

そのことを理解した彼の胸の内に湧き上がるのは己の不甲斐なさによる怒りだった・・・・・・

 

「申し訳ありません・・・バラゴ様」

 

ほむらが敵の手に落ちてしまったことは彼女の完全な失態であった。

 

だが、バラゴはエルダを責めることはなかった。かつておバラゴならば失敗した下僕、不要となった協力者などは容赦なく切り捨てていたのだが・・・彼は、エルダらに背を向けて何処かへと向かおうとしていた。

 

それが何処なのか、エルダは目が見えなくとも察した。

 

「バラゴ様・・・・・・これは、罠です・・・・・・」

 

エルダはまさか”バグギ”が二人の魔法少女を洗脳し、操っていたことに気が付けなかったことを後悔していた。

 

不確定な”像”しか見えなかった事で、具体性を欠いていた為、主に報告をしなかったことを・・・

 

カラスキもまた”霊感”という強みを生かせず、協力者にあるまじき失態を犯してしまったことに・・・

 

彼もまたバグギの突発的な破壊の余波により傷を負っていた・・・・・・

 

「奴を倒すことは決定していたことだ・・・それが早いか遅いかだけの事だ・・・」

 

バラゴの高ぶる感情に呼応するように顔の十字傷が浮かび、ホラーを思わせる”黄色い目”が怒りに染まる。

 

「エルダ、京極カラスキ、お前たちはここで待機していろ・・・私はバグギ元へ行き、ほむらを取り戻す」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如としてアスナロ市の空を雷が轟いた・・・・・・

 

アスナロ市の都市の中心にあるアスナロ市 第三ドームの上空に突如として発生した黒い雲と共に・・・・・

 

「ハハハハハハ、暗黒騎士。余興は気に入ってもらえたかな?この小娘どもは我も少し手を焼かされておる。早くこちらへ来い、小娘諸共、我が喰ろうてやる」

 

京極神社の空に響く”バグギ”の声・・・

 

「違う!!!バグギ!!!お前を制するのは、私だ!!!!暗黒騎士 呀だ!!!!」

 

バグギの声に応えるようにまた暗黒騎士 呀も吼える。

 

自らの手で”奪われた大切なモノを”取り戻すために・・・・・・

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾壱

 

 

 

 

 




あとがき

バグギがアスナロ市に現れたのは、プレイアデス聖団が魔法少女狩りをしていた時でした。

今作の”プレイアデス聖団”は、色々と厄介なことを引き起こしています(汗)

バグギは、自身の一部をその場にいた”プレイアデス聖団”の中でも特に”陰我”の強い二人に自身の一部を憑依させていました。

まさかほむらが狙われ、バグギの元へ・・・・・・

まさしくさらわれたヒロインを救うべく走り出すバラゴ・・・

ほむらは意外と周りの人に”バラゴ”の事を話しています。

マミのお茶会では大体話すことは”バラゴ”のこと・・・

プレイアデス聖団は生き残れるのか?前門のバグギ、後門の暗黒騎士に挟まれて



次回はバグギとの最終決戦です。

対戦カードは、暗黒騎士 呀VS魔雷ホラー バグギ。

魔法少女側では、ほむらも動きます。

魔法少女喰い 真須美 巴本人との対決(リベンジマッチ)

明良 二樹 バグギに認められる!?!

ホラーが憑依するよりもそのままの方が面白いとのこと・・・

もしかしたら、あのそっくりな人が出てきたり・・・・・・

明良 二樹以外ですが(笑)




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾壱

魔法少女喰い 真須美 巴がほぼ出張っています。

魔法少女でありながら”魔女”と同様に”人”を襲い、その命を喰らうことを好む。

さらには、同族であるはずの”魔法少女”にも手を出し、その”ソウルジェム”が大好物である。

本人の性格は、残忍極まりなく冷酷非情。利用できるものは徹底的に利用しつくす。

こうしてみますと、真須美 巴って”何か”に似ていますよね・・・・・・






アスナロ市 京極神社 

 

バラゴはバグギが潜伏する”アスナロ市 第三ドーム”に向けて歩き出した。

 

彼の胸中に渦巻くのは、”自身の大切な存在”をホラーに奪われた自身の不甲斐なさと使徒ホラー バグギの行動に対しての怒りの感情が渦巻いていた。

 

必ずこの手で”バグギ”を滅ぼすことを誓いながら・・・・・・

 

 

 

 

 

バラゴのあまりの怒りの様子に浅海サキは、彼が”人間”ではない何かというのはソウルジェムで直に感じる。

 

「な、なんなんだ・・・あいつはあの雷獣と同じではないか・・・・・・」

 

「ハハ・・・アッチよりまだ話は通じる方だよ・・・バラゴさんはよ・・・」

 

主に敬称をつけずに”さん”付けする京極カラスキにエルダは視線を鋭くするが、彼は自分と違い下僕ではなく、このアスナロ市における協力者ということを思い出し、視線を緩めた・・・

 

「エルダさんよ・・・バグギの方は分かるんだが、もう一人の方は何なんだ?あの気配は”ホラー”のそれじゃないぞ。魔法少女なのか魔女なのか良くわからん」

 

「さぁな・・・ほむらは”魔戒札”で奇怪なソウルジェムを見たという・・・そのうちの一つであろう」

 

ミチルのグリーフシードとソウルジェムが掛け合わせたものではなく、一見すると一般的な”ソウルジェム”なのだが、蕾のように開き、その中心に異様な輝きを放つコアを持っている今までにないタイプのモノだった・・・

 

「それは、魔法少女喰いだ・・・」

 

浅海サキが二人の疑問に応えた。

 

御崎海香に意識を憑依させ操っていた”バグギ”とは別に牧カオルの身体を乗っ取り操っていたのが”魔法少女喰い 真須美 巴”であることを・・・・・・

 

「魔法少女喰い?なんだ・・・そんなのが居るのか?」

 

カラスキは、あまりに突拍子のない言葉に思わず声を上げてしまった。

 

「あぁ・・・私達魔法少女の間でも噂になっていて・・・魔法少女でありながら魔女と同じように”人間”を襲い、その”命”を喰らう存在が居ると・・・そいつは”魔法少女のソウルジェム”が大好物であると・・・」

 

浅海サキは実際に真須美 巴の食事を見たことがないが、御崎海香と牧カオルはそれを見ており、余りのおぞましさに暫く食事さえ喉を通らなかったという・・・・・・

 

「・・・ここ最近、奇妙な変死体が彼方此方に出ていたのは・・・そいつの仕業だったんかい」

 

カラスキもここ最近、バグギが現れる前に様々な年代の”人間”が干からびた木乃伊になって発見される現象を不審に思っており、犯人はホラーかと思っていたのだが、ホラーの気配はなかった。

 

まさか”魔法少女喰い”なる存在の仕業であることに、彼は・・・・・

 

「正直言わせてもらうと・・・そいつはもう魔法少女じゃなくて、魔女でもないか・・・」

 

「はい・・・真須美 巴はもう”人”ではありません・・・”化け物”以外のなにものでもありません」

 

浅海サキもまさか仲間の牧カオルの身体を操り、自身の魔法を使わせたことに真須美 巴の力は魔法少女の範疇をすでに超えていることを察したのだった・・・

 

「・・・実物を見たわけじゃないが、真須美 巴という魔法少女喰いはもう人間じゃないんだろうな」

 

カラスキは、彼なりに真須美 巴という存在を推察する。

 

「はっきりいえば、あまりにも業を重ねすぎて、色んな怨みを受けて、少しずつ変わっていったんだろうな」

 

”魔女”にはならず、”魔法少女”の形だけをした”怪物”へと・・・・・・

 

そんな”怪物”に魅入られるほど”暗い感情”を持っていたからこそ、牧カオルは乗っ取られたのだろう・・・

 

自分達の行為が”バグギ”や”魔法少女喰い”を呼び寄せてしまったことに浅海サキは、改めて”プレイアデス聖団”が行った”業の深さ”に後悔の念を抱いた・・・

 

「奴が雷を操るのならば・・・私にも・・・」

 

少しでもこの”罪”を清算するためにも彼女は、バグギと戦うべきだと考えるが・・・

 

「そいつは難しいな。同じ”雷”でもバグギとサキちゃんのだと桁が違いすぎる。核の炎とマッチの火ぐらいの差がある」

 

「・・・おいらは、一応はアスナロ市を見張る役割を持っててね・・・無駄死は見過ごせないよ」

 

浅海サキは、俯いた・・・自身のあまりの無力さに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

暁美ほむらが最初に感じたのは冷たいフロアの感触だった。

 

「・・・・・・ここは・・・・・・」

 

何処かのイベント会場なのか、様々な”機械”が展示されており、イベントに協力している企業、団体のロゴが会場全体に存在していた。

 

会場は一部の照明のみが照らされおり、展示物の影が様々な角度に存在しており、開場されれば華やかなイベントとして歓迎される会場もこれでは”不気味”以外の何物でもなかった。

 

特に人型の受け応えする”ロボット”は埃除けなのか白い布が頭から掛けられている姿にほむらは嫌な視線を向けた。

 

「こんなもの・・・掛けたら掛けたで気味が悪いわ・・・」

 

せめてもの抵抗で布を取り去るが、中途半端に笑顔の素顔には影が差している。

 

「・・・どっちでも変わらないのね・・・」

 

ほむらは、布をその辺に捨てて会場を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

会場を歩いているとほむらは、会場に”奇妙な残骸”が足元に落ちていることに気が付いた。

 

「これは・・・ソウルジェム」

 

手に取ってみるとそれは、自分を含めて魔法少女に馴染み深い”ソウルジェム”であった・・・

 

割れているというよりも”なにか”に噛み砕かれて、吐き出されたかのような壊れ方をしていた・・・

 

「ホラー?・・・でもこんな風に人間を食べるのかしら?」

 

人を喰うホラーがどのようにして人間を喰うか方法は様々だが、魔法少女の”ソウルジェム”はどのようにして食べるというのだろうか?

 

ホラーの中には人から魂を抜き出す方法を持つ者もいるようだが・・・

 

魔法少女の場合は、どうなのだろうか?

 

可能性としては・・・”ホラー”とは別の”何か”が魔法少女のソウルジェムを食べていた・・・である。

 

「魔女でもこんなことをしない・・・じゃあ、一体・・・」

 

ほむらは、あとで京極神社でこのソウルジェムを丁重に葬ろうと考え、楯にしまう。

 

薄気味の悪さを感じつつほむらは、改めて足元を注視し目を見開いた・・・

 

足元に・・・会場全体に散らばっている奇妙な残骸は、全て”ソウルジェム”のそれであったからだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらは、弓を手に一層、警戒を強めて会場を捜索していた。

 

”蝶の使い魔”を放ち、辺りを探索もさせていたが、その”使い魔”が何かを見つけたと知らせてきたのだ。

 

そこへ行くとほむらは、俯せに倒れている 牧カオルと御崎海香の二人を見つけた。

 

「この二人は・・・」

 

一瞬、声を掛けるべきか悩んだが、この状況では危険を承知で前に進まなくてはならない為、ほむらは二人を起こす。

 

最初に起こした御崎海香は先ほど見た表情と違い、青白いものではなかったが、牧カオルは、右目が潰れており、先ほどの飛び出した”ソウルジェム”の影響もあったようだった・・・・

 

牧 カオルは先ほどやられたこともあり少し距離を置いてから倒れている御崎海香を起こした。

 

「こ、ここは・・・アスナロ市第三ドーム イベント会場」

 

御崎海香は、今現在自分が居る場所は近日中にイベントが開催される会場であることを察した。

 

自分もオープニングセレモニーに出席の予定だったのだから・・・

 

「どうやら、バグギの意識は今は無いようね」

 

ふと横を見ると京極神社で自分達を保護してくれた”暁美ほむら”が立っていたのだ。

 

「あ、あなた?こ、ここは一体・・・どうして私はこんなところに?」

 

「覚えていないのね・・・貴女は・・・」

 

ほむらは”エルダ”より譲り受けた”魔導火”を点火する。

 

魔導の修行を受けた者にしか扱うことが出来ず、常人ならば一瞬で焼き尽くされる代物であったが、

 

ほむらは、これを”エルダ”の指導により扱うことが可能となり、彼女自身もホラー対策で使用するようになっていた。

 

御崎海香には、ホラー特有の”魔界文字”は浮かび上がらない為、どうやらバグギの意識は彼女より離れているようだった・・・・・・

 

一安心し、ほむらは牧 カオルに近づこうと足を進めた時だった・・・・

 

突如として、会場内に”華やかなBGM”が鳴り響き始めたのだ。

 

会場の至る所からバルーンが飛び出し、さらには照明が華やかな色合いで点滅する。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~い♪真須美 巴でぇ~~す♪」

 

 

 

 

 

真須美 巴がバックスクリーンに映し出したのは”裏表のない目 メビウスの目”だった。

 

ほむらは、過去に訪れたある”時間軸”で”裏表のない目”の紋章を見た。

 

「・・・貴女・・・蓬莱暁美の関係者だったのね」

 

「あら、貴女、蓬莱さんを知っていたの?あなたのような子、見かけたことはないんだけどね~」

 

ほむらの意外な発言に真須美 巴は上機嫌に笑った。

 

「ただ名前を知っているだけよ・・・あまり良い印象は持っていないわ・・・・・・」

 

蓬莱暁美は”インキュベーター”と手を結んでいたが、真須美 巴はさらに最悪で”使徒ホラー”と手を結んでいる。

 

悪辣さならば、話に聞いていた”蓬莱暁美”よりも彼女の方が上であろう・・・

 

「キャハハハハハハ!!!!イベントは二日後なんだけど、今夜は一足も二足も速い前夜祭を始めるわよ!!!」

 

異様なまでに高いテンションにほむらは、内心”ゲンナリ”していたが・・・

 

横に居る御崎海香の真須美 巴を見る目は怯えを含んでいた。

 

「魔法少女喰い・・・」

 

「魔法少女喰い?どういう意味・・・」

 

御崎海香の言葉にほむらは、怪訝な表情を浮かべるのだが、その意味を彼女は直ぐに理解した。

 

「キャハハハハハハ!!!!!早速ですが、昨日作りました”動画”を公開しまぁ~す!!!!」

 

耳障りな笑い声だとほむらは、今更ながら不快感を表した。

 

スクリーンに映し出されたのは、数人の少女達だった・・・・・・

 

「あの子達は!?!」

 

いつの間にか意識を取り戻していた牧 カオルは悲鳴にも近い声を上げていた。

 

「アン!!レン!!!ミドリ!!桜子!!!一葉!!!!」

 

スクリーンに映っていたのは、かつてのサッカーの”チームメイト”達だった。

 

少女達、一人一人が拘束され全員が恐怖で引き攣った表情をしていた。

 

<怖いよ・・・帰してよ>

 

<アンタ・・・何なのよ!!!アタシ達が何をしたっていうのよ!!>

 

撮影者に向かってせめてもの抵抗として声を上げる少女達であったが・・・・

 

<キャハハハハハハ!!!別に・・・貴女達は何もしてないわよ、私がこれから、貴女達に何かするのよ>

 

「やめろ!!!やめろ、やめろ!!!!やったら、許さない!!!絶対に!!!!」

 

牧カオルは、真須美 巴の元へ勢いよく駆け出し、彼女に向かって攻撃を行うのだが・・・

 

「・・・・・・じゃあ、許されないわね・・・これ、今朝撮った動画だから」

 

必死の形相の牧 カオルと違い、真須美 巴はただ端的に言葉を返した。

 

スクリーンでは・・・

 

<きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!>

 

首元にあるソウルジェムが蕾が花を咲かすように割れ、そこから一人の少女から”生気”を吸いとっている真須美 巴の姿があった・・・

 

”生気”を吸い取られた”少女”は木乃伊となり、そのまま倒れ込んでしまった。表情は恐怖で歪んでいた。

 

他の少女達も目の前の光景に青ざめ、必死になって逃げようとするが逃れられるはずもなく・・・

 

<・・・次はどの娘にしようかしら・・・>

 

スクリーンに映る真須美 巴はこれ以上にないほど”邪悪”に笑っていた・・・・・・

 

「う、うわあああああああああああああッ!!!!!!!」

 

牧 カオルは怒りに我を忘れて真須美 巴に殴りかかった。

 

「キャハハハハハ!!!良いわよ、いくらでも相手をしてあげるわ!!!」

 

両腕をブレードに変え、牧 カオルの蹴りを回避し、ブレードを振り下ろすことで切断した。

 

「ああああッ!?」

 

右足を切断されても牧 カオルは攻撃を続けるが、真須美 巴は追撃にさらに右腕を斬りそのまま蹴りを加えてステージから彼女を突き落とした。

 

「キャハハハハハハ!!!良いわねえ、仇を討ちたくても、討てない無力さを怨み死んでいく”人間”の惨めさはこれ以上にないぐらい気分が良いわよ!!!快感だわ!!!キャハハハハハハ!!!!!」

 

耳障りな笑い声とあまりに”性悪”・・・もはやそれすら生ぬるい”害悪”でしかない真須美 巴にほむらは、これ以上にない不快感と怒りを覚えていた。

 

魔法少女喰いの意味は、おそらくそのままの意味である。あの”化け物”は、人間は当然のことながら、”魔法少女”もその餌食にしていた。会場全体に散らばっていたソウルジェムの欠片は全て・・・・・・

 

「これ以上は動かないでね。二人とも♪」

 

御崎海香が牧 カオルに駆け寄る。

 

直ぐに何かが身体中を駆け巡る不快感を感じるが自身の身体が動かなくなってしまった。

 

「こ、これは・・・・・・」

 

御崎海香は自身の手がまるで誰かの意思に支配されている不快感とこれから訪れる”絶望”に表情を歪ませた。

 

(・・・こいつの能力は一体何なの?悪の道を行く魔法少女は居るけど、こいつはもう魔法少女じゃない。もっと別の”何か”よ)

 

ほむらは、目の前にいる脅威 真須美 巴に対し、視線を鋭くした。

 

スクリーンでは、数人の少女達は皆、真須美 巴によって”喰われていた”・・・・・・

 

”恐怖”と”絶望”に満ちた悲鳴が会場全体に響く・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム 入口

 

都市全体が異様な天候と雷鳴が木霊する中、バラゴは誰も居ない”アスナロ市 第三ドーム”へと進む。

 

二日後に開催される”イベント”を知らせるポスターや電子掲示板に様々な情報が表示されるが、彼にはどうでも良いことだった。

 

『ハハハハハハハ。ようこそ、我が根城へ』

 

ドーム全体に呼び掛ける為のスピーカーよりバグギの声が響く。どうでも良いのか、バラゴは歩みを止めることはなかった。

 

イベント会場の至る所に目深に帽子を被ったトレンチコートの大男達が集まっていたのだった。

 

バグギが作り出した”機械人形”達が・・・・・・

 

「いい加減その下らないガラクタには飽き飽きしているんだ。余計な遊びをするつもりはない」

 

普段の彼らしからぬ口調でバラゴは、首元の”魔導具”を掲げ、呀の鎧を召喚する。

 

機械人形らは、その腕に昨夜のバグギ同様に放電を発生させていた。それも全員がである・・・

 

暗黒騎士 呀は無数に存在する”機械人形”の相手をするつもりなどなく、一刻も早くバグギの元へ行くことを考えた・・・・・・

 

一体一体が昨夜のバグギに近い”力”を有しているのだろう・・・・・・

 

ほむらに刻んでいる”束縛の刻印”を感じられないのは、彼女がバグギの領域内に居る為、安否が確認できない。

 

そこで彼は、久しく呼び出していなかった”魔導馬 雷剛”を召喚する。

 

かつてまだ、”魔戒騎士”であった頃に100体のホラーを狩り、その試練を乗り越えた時に得てから数える程しか召喚していなかったが、この”機械人形”を蹂躙し、バグギの元へ突破する為には”雷剛”を駆った方が効率が良い。

 

そう判断したバラゴは、この”魔導馬”を召喚したのだ。

 

漆黒の巨体に孔雀の羽を思わせる尾羽、頭部には五本の角を持ち、巨体を誇るかのように蹄音を鳴らす。

 

暗黒騎士に堕ちてから、今の姿へと変わってしまった・・・・・・

 

雷撃を放ちながら、急接近してくる”機械人形”らの集団目がけて、雷剛はそれらの攻撃を諸ともせずに駆け、去り際にそれらの四肢を四散させた。

 

さらに破壊された残骸を踏みつける。

 

搭乗者の呀に、攻撃の影響はなく雷剛は意思にそうように駆け出した。

 

その行き先は、”バグギ”本体の居るこの領域の中心地であった・・・・・・

 

 

 

 

 

第三ドーム 施設 イベント会場

 

「あら?バグギが暗黒騎士と早速、始めたみたいね」

 

会場全体に鳴り響く”警報”に真須美 巴はどこ吹く風と言わんばかりに涼しげであった。

 

「まぁ、いいわ・・・牧 カオルは十分絶望させたし・・・もう少しだけ熟すのを待ちましょうか」

 

ほむらは、哀れにも真須美 巴にいい様に扱われ、意気消沈している彼女に同情した。

 

「この二人はわたしが”食べる”として・・・暗黒騎士はどうせバグギには敵わないのだから、摘まみ食いぐらいは許してもらえるかしら?キャハハハハハハ!!!!!」

 

笑いながら真須美 巴はほむらに迫ってきた。

 

両手をやはりブレードにして接近して来たため、同じように接近戦用の”鉤爪”を袖から展開させ、これと切り結ぶのだが・・・・・・

 

「キャハハハハ!!!以前と同じとは思わない方がよろしくてよ♪」

 

真須美 巴がほむらの目の前で影が起き上がり”もう一人”の真須美 巴となって飛び出してきたのだ。

 

「っ!?!」

 

同じようにブレードで切り付けてきたが、ほむらはブレードを往なして二人の”真須美 巴”から距離を取る。

 

「「キャハハハハハハ!!!やるじゃないの。普通なら大体が死んでるのに、お姉さんもっともっと張り切っちゃうわ」」

 

耳障りな声が二重に響き不快感がさらに強くなるのだが、ほむらは油断してはならないと目の前の敵に集中する。

 

(こいつに時間停止はおそらく通用しない・・・)

 

”時間停止”どころか、一度見せた技、真須美 巴自身が見た動きなどは完全に読まれてしまっているだろう。

 

「でも・・・我慢比べなら負けない」

 

「「いいわよぉ~~~。ゾクゾクするわ・・・貴女のその澄ました顔を滅茶苦茶にしてあげるわ」」

 

真須美 巴は愛らしい顔に禍々しい笑みを浮かべてさらにほむらへの攻撃の手を強めるのだった・・・・・・

 

ほむらも迫りくる二人の”真須美 巴”らを”鉤爪”を駆使して切り結ぶ。

 

楯を回し”時間停止”の動作をすると”真須美 巴”は笑う。回せるものなら回してみろと言わんばかりに・・・

 

”時間停止”を実行すれば、確実に何かを仕掛けてくることをほむらは、先ほどの”京極神社”での一戦で理解していた。

 

故に時間停止を使わずに戦わなければならなかった。迫ってくる真須美 巴の首のチョーカーに存在する”ソウルジェム”目掛けて思いきり”鉤爪”伸ばし、粉砕する。

 

これが本体ならば決着であるのだが・・・

 

通常”ソウルジェム”が砕かれると魔法少女は即死なのだが、真須美 巴は平然としていた。

 

ソウルジェムを砕かれたもう一人の真須美 巴に至っては笑っている。

 

どうやらもう一方の方が本物のようだったが・・・

 

「キャハハハハハ!!!!彼女達もジッとして居られないわね」

 

”フィンガースナップ”を鳴らし、会場全体に黒い半透明の生気のない表情をした”魔法少女”らが現れた。

 

その光景にほむらは、”魔女の使役する 使い魔”、”ワルプルギスの夜が使役する 影魔法少女”を連想した。

 

それらのどちらとも違う”魔法少女”らから感じられるのは、魔女に似た”邪気”だった・・・

 

「貴女に紹介してあげるわ。暁美ほむらさん・・・この子たちは”プレイアデス聖団”の魔法少女狩りにあって、ソウルジェムと身体の繋がりを断たれていた子達なのよ。それをバグギが小腹が空いたからといって食べちゃって・・・そのまま恨んで死んじゃったから、こんな風になっちゃったの♪」

 

とんでもないことを軽く笑いながら発言する 真須美 巴にほむらは、嫌悪感を抱いた。

 

自分の名前を彼女に告げたことはないのに知っていることについては、どうでもよいことだった。

 

「バグギの影響があるから、私に手を上げることはしないから・・・使い勝手は、二樹に渡した魔号機人以下で正直、居るだけで何の役にも立たないのよねぇ~~」

 

その使徒ホラー バグギに魔法少女を喰わせ、彼女らをこのような目にあわしておきながらとほむらは叫んだ。

 

魔法少女が偶然ホラーと遭遇し、その餌食になってしまう。自身もバラゴの助けがなければ餌食になっていた可能性はあった・・・

 

だが、進んでホラーと結託し、あろうことかおやつ感覚で魔法少女をホラーに喰わせるという最悪な行動にほむらは、真須美 巴の邪悪さは人間のそれではなく”ホラー”のそれ・・・

 

”ホラー”そのものであることを確信した・・・

 

拘束された御崎海香 牧 カオルは何故、あの時、真須美 巴を狩った時に殺さなかったことを今更ながら後悔していた。何かと実験に利用できそうという理由と、極悪人だから何をしてもかまわないという理由で”モルモット”として扱おうとしていた矢先に使徒ホラー バグギの手を借りて脱走し、今では立場が完全に逆転していた。

 

「貴女達二人は、私が後でじっくりと”食べて”あげる。だから、そのままそこに居なさいな」

 

真須美 巴はさらにほむらを追い詰めるべく、バグギに喰わせた”魔法少女”らの”怨みの残留思念”を嗾ける。

 

勝手な思惑で狩られ、さらには死んだ方がマシだと思えるほど惨い境遇に落された”彼女”らに悲痛な思いを抱かずにはいられなかったが、ほむらはここで止まるわけには行かなかった・・・

 

自身の願いの為にもだが、ここで”真須美 巴”だけは絶対に倒しておかなければならなかった。

 

ここで自分が負けてしまえば、真須美 巴は”見滝原”等に向かい、そこでも同様の悪事を働き、ほむらにとって身近な人達に災いを振りまく。

 

兄から話を聞いた”家族”はもちろんの事ながら、”鹿目まどか”、”美樹さやか”、”巴マミ”、”佐倉杏子”達が危険な目に遭うことだけは何が何でも阻止しなければならなかった・・・

 

状況はハッキリ言って最悪である。切り札の時間停止は見破られ、対策されていることから、使うことはできない。

 

この状況でできることは、魔法少女としての”素の力”が最弱である自身の身で戦う以外にないということだった。

 

(・・・・・・時間停止を知られちゃいけない奴に知られるって、これ以上に嫌なことはないわ)

 

かつてのほむらならば、この状況に絶望していたかもしれないが、今の彼女は自身が驚くほど冷静であった。

 

昨夜話をした”メイ・リオン”より語られた過去の魔法少女から彼女に送られた言葉・・・

 

”自分を認め、信じてあげること・・・”

 

自分自身に自己嫌悪を抱く彼女にとっては、ハードルがかなり高いのだが、こんな自分でもやれること・・・いや、やらなければならないのだ・・・・・・

 

”魔法少女の残留思念”が迫り、一人一人の顔は生気がなくほとんどが無表情である。

 

彼女らは一人一人がほむらに訴えていたのだ・・・

 

”・・・・・・コロシテ・・・・・・”

 

”モウコンナのイヤだヨ”

 

”クルシクテ・・・イタイ”

 

ホラーに喰われることは苦痛を伴うと聞いているが、憑依されたら最期、地獄に等しい苦しみを味わうことになると言うが、ホラーの手にかかった者に痛みや苦しみに程度など関係はなかった・・・

 

ほむらは、彼女達の訴えを胸に苦痛を感じつつも進み、一人ひとりに手を掛けた・・・・・・

 

自分自身が正義に程遠いのは良く分かっている。

 

そんな自分でもできることは、彼女らをこの手で葬り、魔法少女としてではなく人間らしい”安らかな眠り”に就かせることと元凶である 真須美 巴を倒すことだ・・・

 

「っ!!真須美 巴っ!!!」

 

「キャハハハハハハ!!!いいわよぉ~~♪その顔、もっともっと歪ませてあげるわ♪」

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市を一人の少女がアスナロ市 第三ドームを目指して走っていた。

 

ほむらと共にいたミチルであった・・・

 

「ほむらさん!!!!直ぐに行くから!!!」

 

彼女は京極神社でほむらが攫われた事を知り、彼女の元へ向かっていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

彼女を追うように数百メートル離れた場所では、

 

「ほむら、ミチルちゃん。無茶しやがって!!!」

 

ジン・シンロンもまたミチルを追っていたのだった。そして、あるものを”バラゴ”に渡す為・・・

 

「あの化け物を倒せる道具を忘れていくって、かなり頭に血が上ってたんだな、龍崎先生」

 

ジンの手には”雷清角”が握られていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾弐

 

 

 

 

 

 




あとがき

真須美 巴のターンですが、正直ここまで邪悪だともう魔女とかそういう次元ではないですね・・・円環の理も絶対にこの女だけはお断りでしょう(汗)

真須美 巴とほむらとの対決。時間停止を知られている為、迂闊に使うとやられてしまうので、彼女自身の”素の力”で戦います。

一応は”魔戒導師見習い”なので、彼女にとってはアスナロ市での”死闘”です。

ミチルは、ほむらを追って、バグギらの待つ拠点へ・・・ジンもまた向かいます。

プレイアデス聖団の二人は、完全に動きを封じられほぼ傍観するしかない状況です。

バグギとバラゴの対決。

バラゴに魔導馬を召喚させました!!公式では魔導馬を召喚の事実はなくOVAのみでの描写です。こちらでは魔導馬を召喚できますが、使うような相手が居なかったので召喚する機会がなかったという具合です。こんな風に書きますと何だか雷剛が不憫(笑)

バラゴ、まさか”雷清角”を忘れていくという渾身のミスを犯す!!!

それだけ頭に血が上っていました・・・・・・

本当ならば、後一話で終わらせようと考えていましたが、二話程で終わらせようと思います。後一話で終わりそうにないので・・・・・・

次回は、・・・バラゴ、ほむららが戦っている間、あの青年もまた・・・








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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾弐

一言申し上げますと今回、バラゴとバグギは出てきません。

その周りと周囲のキャラ達の動きです・・・

どうせ話が長引くのなら、やりたいことをやってしまおうと思う今日この頃です。





アスナロ市 

 

アスナロ市全体は、暗雲が立ち込め冷たい空気が漂っていた・・・

 

これから起こる”嵐”の前兆を表すかのように・・・・・・

 

呼応するかのように様々な場所で”邪気”が発生し、路地裏、人気のない場所などでは”怪異”が発生していた。

 

そんな中、明良 二樹は人気がほとんどないオープンカフェで状況を見守っていた。

 

この天候の原因はおそらくは、”使徒ホラー バグギ”の影響があると察しているが、彼には誘いの連絡は来ていなかった。

 

LINEを送ってもメッセージは既読にならないことから、おそらくは取り込み中なのだろう・・・

 

「なぁ、アンタこんな時になんで此処に居るんだ?」

 

ふと視線を向けるとそこには、自分と同年代の青年が居た。見たところこのカフェの店員のようだが、

 

「こんな時だからかな・・・誘いが来るのを待っているんだよ。家に居てもやることが無くてね」

 

「誘いって、それは一体何なんだ?もしかして、この状況に何か関係があるのか!?!」

 

明良 二樹はこの青年は何を言っているんだと思ったが、このアスナロ市で起こっている異常を察しているようだた。

 

「もしかしてアレかい?伝説の雷獣が出たとか噂のことかい?」

 

その”雷獣”を間近でみたよと言いたくなったが、敢えて堪えた。

 

「そうなんだ!!みんな言っているんだ!!俺達の街に化け物が出たって!!!こんな時にこんなところで何もできないなんて!!!」

 

自らの正義感に従うように熱く語る青年だが、明良 二樹は

 

「それはそうと僕は少し落ち着きたいから、紅茶を頼めるかな」

 

青年の主張等どうでも良いのだが、とりあえずは注文を取りたかった。

 

「ったく!!そうじゃなくて!!!」

 

この青年はどうあっても自分の主張を通したいようだった。こちらを舐めているのかと思いたくなった時だった

 

「やっと見つけたわ」

 

気が付くとそこには、先日自分がお節介で手助けをした女性が立っていた。

 

「あれ?君は・・・そっち方面に流されたはずだよね」

 

明良 二樹は目の前にいる女性が何故、自分の元に来ているのかを一目見て察していた。

 

そう自分が持ってきている”魔号機人”が反応を示しているのだ。

 

「えぇっ、あなたのお陰でね・・・・でも私は・・力を手に入れたのよ!!!」

 

女性の衣装が奇妙な鎧を模した外骨格へと変わったと同時にホラーへと姿を変えた。

 

「な、なんなんだ!!!こ、こいつは!!こいつが、噂の化け物なのか!?!」

 

驚愕する青年に対し、明良 二樹は落ち着いていた。

 

「噂の”雷獣”は、こんな小物じゃないよ」

 

ホラーは夜中に活動を行うのだが、昼間に”ホラー”が出てくることを察するに”バグギ”の邪気の影響が強いのだろうと考える。

 

単体では夜になるまで何もできない”小物ホラー”が、大物ホラーのお零れに群がっているのは滑稽であった。

 

そんな小物ホラーが粋がったところで、明良 二樹が動じる理由にはならなかった。

 

「お、お前は一体?」

 

「さて、魔号機人 凱。そのホラーを殲滅してくれ」

 

『承知しました・・・我が主よ』

 

足元の大柄のトランクが変形し、一体の骸骨人形へと姿を変える。それは、プレイアデス聖団への襲撃に使った”魔号機人”らと違い、一回り大きく、装甲が多く追加されていた。

 

この魔号機人は”量産型”と違い”意思疎通”ができるように改良された上位機種であり、持ち主が命令をせずとも自律活動を行える・・・

 

『アハハ、なによそれ、下等な人間の道具如きに私に通じるとでも思っているのかしら』

 

目の前の魔号機人 凱に対し、ホラーは嘲笑するが・・・

 

「じゃあ、魔号機人 凱に倒されたら君は下等な人間の道具以下ってことになるね・・・」

 

『なんですって・・・』

 

「だってそうじゃないか。ホラーに取り憑かれるのは、本当の意味で性根がどうしようもないぐらい腐っている奴なんだってさ」

 

「お、おいおい。何を言ってるんだよ・・・化け物を怒らせてどうするんだ」

 

青年が横で騒いでいるが、降りかかる火の粉を払う方が優先なので無視した。

 

『下等な人間風情が生意気!!!!』

 

「ハハハハハハ。じゃあ、君は腐った生ごみかな?」

 

迫ってくるホラーに対し、魔号機人 凱は刀を構えて立ちふさがる。

 

『こんな・・・にんぎょ・・・・』

 

白い線が過った瞬間ホラーの視線が左右にずれる。魔号機人 凱がホラーを一刀両断したのだ。

 

そのまま口から魔導の炎を吐き、ホラーを”魔戒騎士”のように殲滅したのだった・・・・・・

 

「ハハハハハハ!!下等な人間の道具に負けるなんて、君は人間を超えたと思ったらそれ以下だったね」

 

笑う明良 二樹に対し魔号機人 凱は刀を鞘に納め主である彼に一礼する。

 

「魔号機人 凱。流石だね・・・これからも頼りにさせてもらうよ」

 

『おそれいります。我が主よ・・・しかしながら、バグギの影響でホラーやその他の怪異の動きが活発になっております』

 

「あぁ~、そういうことか・・・」

 

明良 二樹は”魔号機人 凱”の言葉に彼はこれからどういう状況になるのかを察した。

 

『惧れ多くも我が主は、様々な人間を破滅させていらっしゃいます。そういう者達が”ホラー”に憑依されるのは当然の事かと・・・・・・』

 

「な、お前は!?!このロボットに悪いことをさせているのか!?!」

 

青年は、明良 二樹と”魔号機人 凱”の間に入る。まるで”悪いこと”をさせまいと・・・

 

「魔号機人 凱に善悪の概念はないよ・・・そいつはただの魔導具だ」

 

「なんだと!!こいつには”心”があるじゃないか!?それを・・・・・・」

 

『我が主の言葉に訂正することはない・・・私は”魔導具 魔号機人 凱”。人間でもなければホラーでもないただの”道具”。言葉を交わすこの機能もより効率を高めるために過ぎない』

 

「なっ!?!」

 

『私自身に自身の処遇を決定する能力はない。我が主にとって価値があるのなら、私は全力で”命令”に従い、価値がなくなれば存在理由などありはしない』

 

明良 二樹は”魔号機人 凱”の言葉に笑みを浮かべた。

 

世の中には自分が”悪”でありながら、それを認めようとしない人間が多く”真実”から目を逸らすものが多く、そういった人間を破滅に追いやるのを楽しみに生きてきたが、この”魔号機人 凱”は意思を持ちながら、自身を”道具”として認識し、それを受け入れている。

 

嘘つきな人間にはできない”偉業”に彼は、この”魔号機人 凱”を起動させて良かったと心から思った。

 

ここまでハッキリ自己を確立した存在はそうそうは居ないだろう。”心”を持たない真実を認めて・・・

 

”心”がないのにその”事実”に目を背けている”兄を殺した人形”が滑稽に思えた・・・・・・

 

『我が主よ・・・あの人間は?』

 

”魔号機人 凱”は直ぐ近くに佇んでいる赤黒い髪の蒼い瞳の青年に視線を向けていた。

 

「彼は・・・確か巴ちゃんが攫った”暁美ほむら”の兄だそうだよ」

 

上着の内側から彼は一枚のチラシを取り出した。それは”暁美ほむら”の写真がある探し人のビラだった・・・

 

ジンは、道中とんでもない状況に遭遇してしまったことに内心、焦っていた。

 

(よりによって・・・あの化け物の仲間に出くわしちまった・・・・・)

 

 

 

 

 

 

時間をほんの少しだけ遡る。

 

京極神社に巨大な爆発音が響き、家屋が大きく揺れた瞬間、ジンは咄嗟に近くに居たミチルとメイを降り注ぐ落下物から庇った。

 

「な、なに!?!」

 

メイは突然の出来事に声を上げるが、ジンと同様に彼女もまたミチルを抱きしめ庇っていたのだった。

 

「この感じは雷か?まさか、ここに落ちたとかいうんじゃないだろうな」

 

衝撃と爆発音は”雷”が落下したそれであり、ジンはまさかと思い、ほむら達が居る客間へと向かう。

 

「メイ!!ミチルちゃんを頼む!!オレは、カラスキ達の所に行く!!!」

 

背を向けるジンにメイは

 

「分かったよ、そっちも気を付けて・・・」

 

「あのメイさん・・・一体何が・・・」

 

不安そうに声を上げるミチルにメイは・・・

 

「うぅん、ミチルンは気にしなくていいよ」

 

安心させるようにメイはミチルの頭を撫でる。彼女は内心、京極神社に”嫌なモノ”が来ていたことを察していた。

 

 

 

 

 

 

「おい、カラスキ!!!って、エルダさんも!!!」

 

来てみると家屋が半ば崩壊し、エルダは酷い火傷を負っており、カラスキに至っては浅海サキを庇ったのか木材が肩に突き刺さり、さらには左腕が肘から反対方向に折れていた。

 

直ぐにジンは自身の医術のできる範囲で応急処置を施す。念の為、救急車を呼ぼうとするのだが・・・

 

「ジン・・・悪いが病院は辞めてくれ・・・こっちの事情をあまり知られたくないんだ」

 

今はそういうことを言っている場合じゃないだろうと声を上げるが、カラスキは”呪いの顔”を向ける。

 

「か、神主さん・・・その顔は・・・・・・」

 

浅海サキは、初めて見る京極 カラスキの”呪いの顔”に驚きの声を上げる。

 

「これは、生まれつきだよ・・・おいらの先祖が色々やらかした結果がおいらさ」

 

笑うカラスキに浅海サキは青ざめるが、そんなカラスキにジンは拳骨を当てる。

 

「・・・ジン・・・おいらは怪我人なんだが・・・」

 

「馬鹿野郎、その面は女の子にいきなり見せんなって、言っただろ。初めて見た奴は泣くぞ。殴られても文句は言わせねえよ」

 

「ったく・・・ジンは・・・だからこういうことを知らずに居てほしかったんだけどな・・・」

 

後頭部を描きながら笑うカラスキとジンのやり取りに浅海サキは思わず笑ってしまった。

 

「あん?どうしたの、急に笑って?」

 

”呪いの顔”で問いかけるカラスキの様子に浅海サキは

 

「いえ、貴方達はとても面白い方々なんですね」

 

昨夜は、同族である魔法少女も一般人も”プレイアデス聖団”以外は全て”敵”だと叫んだが、”異形”である京極 カラスキと一般人であるジン・シンロンのやり取りと自分を気に掛けてくれる対応に彼女は、狭い世界ばかりを見てきたのだと感じていた・・・・・・

 

「おいおい、こいつのこの顔は気味悪いが、見ようによっては・・・」

 

「どういうこったい。お前は、おいらをどうしたいんだ?」

 

未だに漫才を続ける二人にエルダは、興味がない様に視線を逸らし自身の治療に集中していた・・・・・・

 

カラスキらから、”バグギ”と”真須美 巴”が御崎海香と牧カオルに意識を憑依させて、この惨状を起こしたことを聞き、さらには、ほむらが連れ出されたことを・・・・・・

 

そのことにジンは、思わず近くの壁に拳を叩きつけて自身の苛立った感情を発散させる。

 

「ちくしょう・・・また情けないところを見せちまったのかよ・・・オレは・・・・・・」

 

妹であるほむらが危険に飛び込んでいることは承知していたが、まさかこのようなことになるのを気づかずにいた自分が情けなかった・・・

 

「そんな・・・ジンさんは・・・」

 

思わず浅海サキはジンをフォローするのだが、彼はそのようなフォローを望んではいなかった・・・

 

「オレが甘かったんだ。あの雷獣の事を何もわかっちゃいなかったんだ」

 

”雷獣”を倒すのはあの”闇色の狼”なのだろうと半ば楽観視していた自分の浅はかさにも原因があった・・・

 

危機が去っていないのに、自分には関係のないところで事態が収束するのではと考えていたことが情けなかった。

 

「それを言うなら、”闇の世界”の住人だなんて思いあがっていたおいらの責任だ・・・ここをあの”雷獣”が襲いかねないことぐらい、少し考えれば予想がついていたのにな」

 

カラスキは直ぐに立ち上がり痛む腕を支えながら、バラゴらが休んでいた仮眠室へと向かっていった。

 

「何処へ行くんだよ?」

 

「ちょっと気になることがあってな・・・」

 

入れ違いで”バグギ”の元へ向かっていった”バラゴ”が気になったのか、カラスキは嫌な予感を覚えていた。

 

「待てよ、オレも付き添う。怪我人が働くんじゃねえ」

 

ジンはカラスキに肩を貸し、浅海サキも続くように二人の後を追った。

 

エルダは自身に治療の”術”を施しているが、火傷は酷く完治するには明日まで掛るであろうと判断し、その判断に内心、舌打ちを鳴らし、この場に居るしかない自身の現状に苛立っていた。

 

カラスキの嫌な予感を的中するように”バラゴ”は、”バグギ”を倒しうる”魔導具”雷清角”を置いて行っており、異常を察して飛び出し、そのまま頭に血が上って行ってしまったのだった・・・

 

さらには、ミチルが飛び出したとメイから

 

「大変だよ!!ミチルンが飛び出した!!!あの子、ほむほむの所に行ったんだ!!!」

 

まさか二人もほむらの所へ行ってしまったことに一同は声を上げてしまったが、直ぐに行動を起こさなければならなかった。

 

「不味いな・・・あの子はかなり不安定だ・・・バグギと魔法少女喰いの所なんかに行ってみろ、あの子自身の身も危ういぞ」

 

カラスキは急いで”雷清角”を手に取り、向かおうとするのだが傷が痛む為、思わずその場に座り込んでしまった。

 

「カラスキ、無茶すんなよ・・・そいつを届けて、ほむらとミチルちゃんを連れて帰ればいいんだな」

 

ジンはカラスキの手から”雷清角”を手に取り、自分が向かうと・・・

 

「ば、馬鹿かジン。これはただの”災害”でも”事件”じゃないんだぞ・・・下手したら、死ぬぞ」

 

「へっ、馬鹿ジンって呼ばれてたのは知ってるだろ。カラスキ、あのホラーって化け物を倒す魔戒騎士や暗黒騎士は最初からいたわけじゃない」

 

懐かしい”馬鹿ジン”にジンはニヤリと笑い、例え特別な力を持たなくても今はやれるかではなくやらなければならない時だと確信し、それをカラスキに告げる、

 

「あの化け物を大昔の人はどうにかしていたんだろ?だったら、オレにできることはこいつを届けて、ほむらとミチルちゃんを連れ戻す」

 

ジンの固い意志にカラスキはこの青年は何を言ったとしても妹の所へ向かうと確信した。

 

正直、これは良い判断ではないが今は、それに賭けるしかなかった・・・・・・

 

「分かった・・・こいつをバラゴさんに・・・龍崎駈音さんに渡してくれ」

 

そしてカラスキは、”バグギ”が居るのは”アスナロ市 第三ドーム”であることを教える。

 

浅海サキも同行を申し出たが、”雷”を力とする”バグギ”の傍に近づけば、それだけで”バグギ”に力を与えてしまう可能性がある為、同行は叶わなかった・・・

 

メイにこの場を任せて、ジン・シンロンは京極神社から駆け出し、バグギが居る”アスナロ市 第三ドーム”へと向かうのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

そして現在、ジンは”浅海サキ”から事前に聞いていた”骸骨人形”、さらにそれを操っているであろう青年とも遭遇したのだった・・・

 

「君って確か・・・このチラシを配ってたよね」

 

明良 二樹は”探し人 暁美ほむら”のチラシをジンに見せる。

 

「君にとって彼女はどういう存在なのかな?」

 

薄笑いを浮かべている明良 二樹に対し、ジンは真っ直ぐに視線を向ける。

 

「ほむらは、オレの”妹”だ・・・今、アイツはいけ好かない化け物に攫われちまった。だから取り返しに行く」

 

明良 二樹はジンの”妹”という言葉に反応を示した。興味深いと言わんばかりに・・・・・・

 

「君たちは、血は繋がっていないよね?どうして”妹”だなんていえるんだい?」

 

見た目はハッキリ言って似ていない為、兄妹と言っても信じられないだろう。

 

「いちいち細かい言い訳なんて用意してねえよ・・・ほむらはオレの妹だ・・・誰がなんと言おうともな」

 

明良 二樹はジン・シンロンの目に自分にはない”純粋”なモノを感じていた。

 

今までに見てきた、関わってきた人間のほとんどが”純粋”とは言い難い、嘘つきな”不純”な人間ばかりを見てきたためか、彼はこのジン・シンロンは自分とは違う”真っ当な人間”であると考えた。

 

この場で既に”空気”になっている青年は”不純”な存在であると明良 二樹は認識している。

 

”バグギ”という脅威の前に”我が身可愛さ”に見捨てることなど仕方がないのに、彼はそこへ行こうとしているのだ

 

「君の妹を押さえている存在はハッキリ言って、どうしようもないぐらいの”化け物”なんだよ。そんな”化け物”を相手にしてまで、血の繋がらない”妹”の為に”命”を投げ出すのかい?」

 

明良 二樹は謎かけをするように問いかけた。

 

「”命”を投げ出す?そんなことをしたらほむらはもっと悲しむだろうが。アイツが無事でもオレが死んだら意味はない。助けるからには絶対に自分の命も守ってほむらを助ける。その覚悟はできているし、諦めるつもりもない」

 

自意識過剰でもなく、できるからではなくやらなければならないこそ行動を起こす。

 

「ハハハハハ・・・そうかい・・・そいつは良い答えだね・・・じゃあ、早く妹さんの所へ行きなよ・・・」

 

明良 二樹は何処か嬉しそうに笑い、ジンに”バグギ”が居るであろう”アスナロ市 第三ドーム”を指さした。

 

ジンは、彼の行動に疑問を感じる。

 

「お前・・・あの化け物とつるんでいたんじゃないのか?」

 

「まさか。ちょっとした顔見知り程度だよ。あの雷獣とはね」

 

成り行きで知り合いになったと明良 二樹は語る。彼らから見たら自分は”バグギ”側の人間なのだろう・・・

 

自分は真須美 巴の”遊び友達”であり、”バグギ”の下僕もしくは仲間になった覚えなどなかった。

 

それは”真須美 巴”も同様であると彼は確信していた。あの化け物は都合がよいから”遊び友達”を助けて自身の陣営に引き込んでいるだけなのだと・・・

 

”真須美 巴”自身も一応は、不利な状況を助けられた分だけの義理を果たしているだけだった。

 

本心では、利用しようと手を差し伸べた”バグギ”を疎んじており、隙あらば寝込みを襲うことはやってのけるだろう。

 

「そっちも色々あるみたいだが、深くは聞かない。オレはほむらが大事だから、このまま行かせてもらうぞ」

 

ジンはそのまま”アスナロ市 第三ドーム”へ向かおうとするのだが・・・

 

「ま、待てっ!!さっきから聞いていれば、お前達は街がどうなっても良いのかっ!?!街の人達のために戦おうとは思わないのか!?!」

 

先ほどからの様子に青年は声を上げて二人に抗議をする。明良 二樹は、空気を読めよと視線を向ける。

 

”自分の街の危機”と騒いでいるが、その実何もしないこの青年は”街の危機”に心を震わせているのではなく”危機を憂う自分”に酔っているだけの単なる”俗物”であると明良 二樹は評価を下した。

 

「オレはそんな大きなことができる人間じゃねえよ。妹が悲しんでいるときに自分の事しか見えていなかった情けない奴だったよ。だから、今度は情けないところを見せるわけには行かねえんだ・・・それに・・・」

 

蒼い目が青年を鋭く睨む。

 

「ほむらの居ない世界なんて、オレは嫌だね」

 

ジンにとっては、例え不幸も何もない理想郷であっても、そこに”大切な人達”が居なければ意味はない。

 

そのまま背を向けてジンは、走り去っていった。その背を青年は

 

「ま、待てっ!!?話はまだ・・・・・・」

 

「君と話すことは何もないよ。正直言って君は不快だ」

 

「な、なんだと!?!」

 

気が付くと青年はそのまま明良 二樹に振り返りざまに殴られ、そのまま伸びてしまった・・・・・・

 

気絶した青年に対し、明良 二樹は改めて笑みを浮かべた。

 

それは、ジンに向けられたものとは程遠い”悪意”に満ちたものだった・・・・・・

 

「ふぅ~ん。貴方って・・・極悪人なのにそういうことをするんだ」

 

明良 二樹の背後のテーブルにいつの間にか聖 カンナが座っていた。

 

「あぁ、君か・・・極悪人でも心を動かすものの一つや二つはあるものさ」

 

「それは、貴方にとって何なの?」

 

聖カンナの問いかけに明良 二樹は少し寂しそうに笑い

 

「僕が愛してやまない・・・失ってしまったモノ・・・それは”兄弟”だよ」

 

自分と同じ日に生まれた半身であり、お互いを誰よりも想っていた唯一の”肉親”・・・・・・

 

明良 二樹という”悪”に遺された最後の”良心”であった・・・・・・

 

「・・・兄さんは帰ってこなかったけど・・・」

 

内心、兄弟が再会できることを柄でもなく祈りつつ彼は、魔号機人 凱に視線を向ける。

 

「やれやれ・・・・・・被害者の会の集合か・・・」

 

明良 二樹はカフェを取り囲む見覚えのある顔をした”ホラー”の群れに対し、

 

「魔号機人 凱・・・・・・”鎧装展開”を命じる」

 

彼の指示に応えるように魔号機人 凱は自身の前方に”円”を描き、そこより”異空間”に秘匿している自身の”鎧”を召喚する。

 

それは”白骨化した狼”を模した”鎧”であった・・・・・・

 

単なる機械人形風情が”魔戒騎士”のように鎧を召喚したことにホラー達は驚きの声を上げるが・・・

 

「・・・単なる自立型 魔導具じゃないよね・・・凱は・・・一言でいうなら、”人造魔戒騎士”だね」

 

彼の言葉通り、魔号機人 凱は一分も掛けずに取り囲むホラーを一刀の元、切り伏せていた・・・・・・

 

せめて明良 二樹だけでもと向かうホラーも居たが、それすらも切り伏せ、一歩たりとも彼に触れさせることはなかった・・・・・・

 

『こ・・・この太刀筋・・・何故、こんな人形が・・・牙狼のモノを・・・・・・』

 

消滅していくホラーは、過去に存在した”最強”と言われた”魔戒騎士”の姿を魔号機人 凱の太刀筋に見た。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ほむらは、真須美 巴との戦いを繰り広げていた・・・

 

イベント会場全体を戦場として、ほむらは”楯”よりサブマシンガンを取り出し迫りくる真須美 巴達に向けて放つ。

 

チョーカーに埋め込まれたソウルジェムを狙って打つのだが、依然として彼らは平然としており、人数も2人からさらに4人、5人と増えていたのだ・・・

 

「キャハハハハ!!!貴女、そういうのも使うのね?奇遇だわ、私もよ!!!」

 

背後の影から”真須美 巴”が飛び出す。その手には銃器が握られており、ほむらに向かって発砲をする。

 

発砲された弾丸は勢いよくほむらへ向かうが、それらをほむらは回避し逆にカウンターで”真須美 巴”を撃破するのだが、依然として真須美 巴は弾丸により、ソウルジェムはもちろんのことながら、頭部の半分を損壊させても口元は相変わらずの笑みを浮かべていた。

 

「昔の私は、ここまで”力”は強くなかったのよ♪そこらで武器を盗んでたのよね~~」

 

その話にほむらは、戦いの最中であったが彼女の発言に若干の”身に覚え”を感じた。

 

(こんどから、そういうところから調達するのは辞めましょう・・・)

 

今の自分には近接用の武器、弓等も持っている為、戦力にこれといった不満はないのだが、真須美 巴の過去等どうでも良いが、彼女の同類にはなりたくないと心から誓うのだった・・・

 

「貴女も多分、能力と魔法で武器を作っていないところから、多分”時間停止”に比重が大きいから、一般の魔法少女よりも”弱い”ってところかしら・・・」

 

いつの間にか目の前に”真須美 巴”が立っており、”鉤爪”を使い、斬る。

 

「だからどうしたの?私のような雑魚は、余裕だと言いたいわけ?貴女は」

 

「キャハハハハハ!!!そういう訳じゃないのよ!!!むしろ魔法少女は”魔法”を誇るから、そういう相手は色々と付け込む隙が大きいから攻略は簡単なのよ・・・貴女の場合は・・・ちょっと厄介なのよね」

 

真須美 巴は、ほむらを褒めているようであるが、ほむらはこれを自分に”時間停止”を使わせようと誘導しているように考えていた。

 

「だったらこのまま、継続させてもらうわ」

 

ほむらの言葉に応えるように迫ってきた真須美 巴達の攻撃を回避するために”中距離用の武器”を取り出す。

 

移動補助用のワイヤーを発射するワイヤーガン型の魔導具を上空に放ち勢いよく上昇することで回避する。

 

移動補助用ではあるが、ワイヤーに魔導火を纏わせることもできる為、武器としての用途も高い。

 

上空に上がり、さらに反動をつけてほむらは移動し、真須美 巴らとは距離を取る。

 

「キャハハハハハ!!!!良いわよ!!!お姉さんは付き合いは良い方なのよ♪」

 

気が付けば真横に真須美 巴が居た。

 

だが、この真須美 巴は自分を攻撃する意思がないのかただ笑っているだけだった。

 

(こいつの能力は・・・一体何?・・・気が付いたら”影”のように・・・直ぐ近くに・・・)

 

ほむらは自身の足元に視線を向けるとイベント会場の展示物やら鉄骨などの影が至る所にできている。

 

そして真須美 巴は自分を視線で追いながら、別の場所にも気を配っていることに気が付いたのだった・・・

 

影魔法少女達を囮にして”何か”をしているのだ・・・

 

(真須美 巴の能力は・・・試してみる価値はあるわね)

 

ならばこの場ではっきりさせなければならなかった。

 

手持ちの閃光手榴弾をすべて楯から放出しそれらをワイヤーで切り付けることで発動させた。

 

会場全体が白に染まるほどの光が弾ける。音と光により御崎海香は思わず目を閉じた。

 

真須美 巴は怯むことなく目の前の光と音に対し・・・

 

「あ~あ、ばれちゃったわね・・・」

 

光により会場全体の影が消えるが、一部の影が残りそれらは一斉に”真須美 巴”の所へ集まり始めたのだ。

 

「貴女の能力はそういうことだったのね」

 

魔法少女の残留思念を嗾けたのは自身の影を操る能力を悟らせない為であった・・・

 

魔法少女の残留思念を”囮”にして、自分の魔法を隠していたのだろう・・・

 

最初は分身、もしくは”水銀”等を操る能力だと考えたが・・・奇妙な違和感を感じ、閃光手榴弾で全てを明るくし、影が真須美 巴に集まるのを確認したのだ。

 

「キャハハハハハハ!!!!随分と頭が回るじゃない!!!私の能力を見破るなんて!!!!」

 

能力が割れたのに、真須美 巴は笑っていた。少なくとも能力を知られた程度で”攻略”される気はないらしい。

 

「・・・お互い様よ・・・」

 

こちらも時間停止を見破られている。何故、時間停止の発想に真須美 巴が至ったのかまでは分かりかねていたが、彼女の能力を知り理解した。

 

昨夜の時に、真須美 巴は影から”時間停止”をする瞬間を見ていたのだ・・・

 

真須美 巴の能力は”影に干渉する”こと・・・

 

”自身の影を分身に見立て、さらに意思の及ぶ範囲で様々な影に干渉、操ることが出来る”

 

このような”相手”では”時間停止”は通用しない・・・

 

「私の魔法”影への干渉”だけど・・なにも影は物理的なモノばかりじゃないのよ。こんな風にね」

 

 

 

 

 

 

牧カオルは突如として身体に何かが・・・ソウルジェムに誰かの意識が入ってくるのを感じたのだ。

 

「キャハハハハハハ!!!!(な、なに?これ・・・私の身体が勝手に!?!)」

 

彼女は自分の身体を操っている存在は”真須美 巴”であることを理解した・・・

 

その範囲は、心に潜む”影”にも干渉することが出来、波長が合えばその人物の身体を乗っ取り自身と同じようにさせることが可能であった・・・・・・

 

「こういうこともできるのよね♪ どうかしら?」

 

得意げに語る真須美 巴にほむらは薄ら寒いモノを感じつつも彼女に向かっていくのだった・・・

 

(この能力だとソウルジェムも体にはなく何処かに隠している可能性が高い)

 

影から影へと本体である”ソウルジェム”を移動させることが可能であるとほむらは、推察した。

 

事実本体である”ソウルジェム”を京極神社”で攻撃の道具として使っていた・・・

 

牧カオルの”影”を通じて”ソウルジェム”を移動させて・・・・・・

 

単なる小心者の”悪”ではなく、自身の命すらも”攻撃”に使う彼女にほむらは改めて”強敵”であることを認識した。

 

”能力”は把握したが、決定打を欠いていた・・・

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハハ!!でも、そろそろ・・・飽きてきたわね」

 

真須美 巴は会場全体の”影”すべてに意識を広げる。魔法少女らの残留思念すらも飲み込んでいく・・・

 

その際に表情を変えることが出来ない”彼女”らが苦痛な視線をほむらに向けていく。

 

会場全体の影がまるで一つの”生き物”のように動き出し、ほむらの”足”を掴んだのだった。

 

「し、しまったっ!?!これじゃあ、”時間停止”も・・・」

 

今更、何を言っているんだとほむらは自嘲する。最初から”時間停止”が通じない相手に何を言っているのだと

 

「キャハハハハハ!!!見えるわよ・・・貴女の心の”影”が・・・貴女はどんな”影”を持っているのかしら?」

 

ほむらは、まるで心臓を掴まれるような不快感が自身の中に入り込もうとしているのを感じ、苦痛に表情を歪ませた・・・・・・

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾参

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

明良 二樹と名もなき青年(笑)のやりとり・・・

新たに起動させた”魔号機人 凱”。この魔号機人は他とは違い、自身の自我を持っていますが、自身を道具として認識し、価値観や善悪に悩む心を持ち合わせていない存在です。騎士が契約している魔道輪のように話せますが、あくまで話す真似事の範囲です。
故に明良 二樹にとってはこれ以上いない”相棒”です。
デッドコピーですが、魔戒騎士のように”鎧”を召喚することが可能。
魔戒騎士としての戦闘技術は”とある騎士”の情報を元に作成されています。
ちなみにこれも”真須美 巴”が彼に渡したモノ。バグギには見せていません・・・

明良 二樹にも若干の”良心”に近い感情が残っています。それは”兄弟愛”という感情です。実を言えば彼は、人を貶めて破滅させることを好みますが、”兄弟”、”姉妹”には手を出さなかったりします。それは自身が”兄弟”であり、双子の兄を失ってしまったことが原因です。

彼は彼でホラー バグギとは顔見知り程度の知り合いで、仲間に等なった覚えはないと公言しています。これは、真須美 巴も同じです。

真須美 巴の能力は”影に干渉する”というモノで、影を操り自身の分身を作り出せるだけではなく、さらには心に”影”があり、相手の思考に近ければ同調し相手を操ることも可能というモノです。

影を通して様々なモノを見ることが可能なので、ほむらの”時間停止”も影を通じて把握していました。

”時間停止”を使った場合、ほむらの影を通じて一瞬で仕留める算段を整えていました。

バグギ側に居る二人ですが、あくまで協力者の立場で居る為”下僕”になった覚えなどなく、隙あらばという具合です。
何故なら二人は”悪”ですので、敵は同じ”悪”なのですから・・・

ほむらの”兄”。ジン・シンロンが主人公していますが、主人公は”バラゴ”なので、決してほむらは兄のヒロインではありません。




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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾参


これ書いているとき、すんごい自己嫌悪に悩まされました・・・

理由は、本編を見て頂ければ・・・・・・




アスナロ市 京極神社

 

バラゴがバグギの元へ向かった前後の出来事だった・・

 

「メイ!!ミチルちゃんを頼む!!オレは、カラスキ達の所に行く!!!」

 

背を向けるジンにメイは

 

「分かったよ、そっちも気を付けて・・・」

 

「あのメイさん・・・一体何が・・・」

 

不安そうに声を上げるミチルにメイは・・・

 

「うぅん、ミチルンは気にしなくていいよ」

 

メイは妹を宥める姉のようにミチルの頭を撫でる。

 

彼女は察していたのだった。この京極神社に昨夜の”雷獣”が現れていたことに・・・・・・

 

ここでミチルを怖がらせてはいけないとメイは自身の恐怖に耐えていた。

 

「・・・なんだろう・・・海香とカオルに嫌なモノが入っている?」

 

ミチルは、”プレイアデス聖団”のメンバーの気配を察することができるのだが、そんな二人に”嫌なモノ”が取り憑いているのを感じていた。その気配は・・・

 

「っ!?!ほむらさんっ!?!」

 

「えっ!?ほむほむがどうしたのミチルン!!?」

 

ミチルはメイの腕から飛び出し、そのまま外へと飛び出していった。

 

彼女は感じていたのだ。二人の”身体”を使って”ほむら”を連れ去ったことを・・・・・・

 

「待ってよ!!!ミチルン!!!!一人で飛び出しちゃ!!!!」

 

背後から聞こえてくるメイの叫びは既に遠くなっていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ほむらは、真須美 巴の”影に干渉する魔法”により拘束されていた。

 

さらには彼女のソウルジェムに奇妙な影が生き物のように這い上がり、包み込む。

 

「キャハハハハ!!!貴女の”心の影”どんな形をしているのかしら♪」

 

真須美 巴は自身の脳裏に映る影を手繰り寄せ、手を伸ばすのだが・・・

 

だが、奇妙な”紋章”が浮かび上がり、それによって弾かれてしまったのだ。

 

「っ!?なぁにぃこれぇ?変な紋章ね・・・しかも魔法じゃない”何か”を感じるわ」

 

浮かび上がった”紋章”とは、バラゴがほむらに施した”束縛の刻印”であった・・・

 

この”刻印”に込められた術は、真須美 巴の干渉を防ぐのだが・・・・・・

 

「これは・・・外からじゃダメなやつね・・・」

 

なにかを察するように真須美 巴は笑った。

 

「外が駄目なら内側からやってみるのも良いわよね・・・」

 

視線をほむらから、拘束されていた御崎海香へ移し、牧カオルを”影”で操ったことと同じように・・・

 

「あっ・・・あぁあああああ・・・・・・っ」

 

御崎海香は、自身の精神に干渉してくる”真須美 巴”に魔法に反抗できずに、彼女の意に反してほむらに向かって彼女自身の”記憶操作の”魔法の光を放った・・・・・・

 

御崎海香を利用することでほむらの精神に干渉し始めたのだった・・・

 

「!?!こ、これはっ!?!な、なに・・・・・・」

 

酷い眩暈とさらには精神に響くような鋭い痛みを感じる。

 

まるで”精神攻撃”を行う”魔女”の攻撃を受けたかのようだった・・・・・・

 

”・・・・で・・・ね・・・・・ちゃ・・・”

 

霧の奥から聞こえてくるような”懐かしい声”が聞こえてきた・・・

 

それが少しずつ鮮明になり・・・

 

”元気でね・・・ほむらちゃん”

 

自身の魔法少女としての始まりであった”鹿目まどか”の死の直前に聞いた声であった・・・・・・

 

決して覆ることのない”死”をみた光景・・・・・・

 

「やめなさいっ!?!やめろっ!?!!私の中に・・・私の心を汚すなっ!!?!」

 

時間も場所も違う”死”の光景が目の前に同時に存在していたことにほむらは、悲鳴を上げた。

 

真須美 巴の耳障りの笑い声すら聞こえないほど、彼女は目の前の”過去”に苦痛を感じていたのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

暗黒騎士 呀は魔導馬 雷剛と共に警報音が鳴り響くアスナロ市 第三ドームの中を疾走していた。

 

大勢の人間の移動を考えられているのかドーム内の通路は広く、様々な施設が存在している。

 

だが人々の娯楽のこの場所も今は忌々しい”魔雷 ホラー バグギ”の影響を受けており、強大な邪気に包まれていた。

 

その影響はアスナロ市にも与えており、昼間であるのに夜に活動を主とする”ホラー”にも力を与える程であった。

 

呀は、施設内の開けたセンターに辿り着く。

 

球場、イベント会場、記念館、屋内遊園地に繋がるターミナルとも呼べるこの場所だった・・・

 

白い眼には、彼の感情など映してはいない。

 

だが、実際の彼は施設内で”暁美ほむら”を自身が彼女に施した”束縛の刻印”の気配を探していた。

 

普段ならば彼女が何処に居ようと直ぐに見つけることが叶うのだが、”バグギ”の影響のあるこの施設では、阻害されており探すことが困難であった。

 

鬱陶しい”バグギ”の邪気に苛立ちを感じながら、亡者のごとく寄ってくる”バグギ”が殺したであろう”人々の残留思念”が生者を恨む亡者のように迫ってきていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

無言のまま呀は、それらを黒炎剣で斬る。ホラーの犠牲者である為”魔戒騎士”であるのならば、悲しみを抱き、ホラー討滅の決意を固くするのだが・・・

 

呀は”魔戒騎士”の逸れ者であるが故に、そのような情を抱くことはない。

 

自分の行く手を邪魔する”バグギ”が殺した人々の”残留思念”の事など、死骸にたかる蠅程度にしか思っていない。

 

彼にとって優先すべきは、この地に囚われているであろう”暁美ほむら”を救うことであり、さらにはこの事態を引き起こしてくれた”バグギ”をこの手で抹殺することにあった・・・・・・

 

その為にどれだけの犠牲を払うことに心を乱すこと等なかった・・・

 

『ハハハハハハッ!!!!意外と早く来たな・・・暗黒騎士!!』

 

視線を向けると百メートル以上はある三本の長大なエスカレーターの頂上にバグギは居た・・・

 

バグギは本来の姿である”金色の雷獣”の姿だった。

 

伝承に伝わる”雷獣”、”鵺”に酷似しており、目は黒一色に染まっている。

 

力が有り余っているのか周囲には紫電が発生していた。

 

「フン・・・下らない絡繰りは良いのか?」

 

『ハハハハハ・・・アレでの遊戯も過ぎれば飽きるというモノよ』

 

呀の挑発ともいえる嘲りに昨夜の戦いは”単なる遊戯”であったとバグギは応えた。

 

「お前の事情などどうでも良い・・・私はお前をこの場で制してくれる」

 

呀は黒炎剣に”紫色”の魔導火を展開させ、バグギに対し構える。

 

『ハハハハハっ!!その構えは確か”黄金騎士”の構えだな!!!暗黒騎士でありながら、未だに黄金騎士の技に縋るとは!!!暗黒騎士よ!!お前は所詮は我にとっての”餌”でしかない!!!』

 

暗黒騎士 呀に対して挑発するバグギ。黒い瞳のない眼が大きく歪むように笑う。

 

「餌?お前が私を喰らうのではない・・・私がお前を喰らうのだ」

 

雷剛に疾走の意思を伝え、呀はバグギに対し攻撃を開始した。

 

呀の先制攻撃を端にして、魔雷ホラー バグギと暗黒騎士 呀との最終決戦は幕を切った・・・・・・

 

それは魔戒騎士とホラーの戦いである”守りし者”のそれではなく、闇を徘徊する”怪物”同士の互いに喰う喰われるの血生臭い闘争であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 その頃、ミチルは道中に発生していた”魔女の使い魔”を倒しながらアスナロ市 第三ドームを目指していた。

 

最初こそは、ぎこちなく自身の”暗い感情”の赴くままに戦っていたのだが、彼女は少しずつ変化をしていた。

 

黒を基調とした魔法使いを思わせる衣装身に着け、先が折れた黒い帽子を被り、その手には十字の刃を備えた槍があった。

 

もしもこの場に”プレイアデス聖団”のメンバーが彼女を見たら”和沙ミチル”と声を揃えて叫んでいたのかもしれない。

 

獣を思わせる荒々しい戦いが非効率であると分かってから、ソウルジェムに意識を向け自身の”魔法”を望むように変化させていく。

 

大きく飛翔しマントを靡かせて高層ビルからビルへと飛び、アスナロ市 第三ドームの敷地内へと入り込んだ。

 

同じようにアスナロ市 第三ドーム直通のモノレールの駅より一人の青年が飛び出した。

 

ジン・シンロンである。彼もまたこの場に来ていたのだった・・・・・・

 

「待ってろよ、ほむら・・・ミチルちゃんも無茶はしても無理はするなよ!!!」

 

若干の息切れをしているが、この際それは関係なかった。一刻も早く”妹”の元へと向かわなければならなかったのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が・・・契約したから・・・・・・」

 

目の前で繰り広げられているこれまでに廻ってきた”時間軸”の出来事にほむらは、言いようのない”絶望”を感じていた。

 

”精神攻撃”を行う魔女が苦手となっていたほむらは、改めて自分が抱えている暗い感情に目を背けていたことに気が付いたのだった・・・

 

暁美 ほむらが魔法少女になったきっかけは・・・”鹿目まどか”の死・・・・・・

 

今の自分が居るのは”鹿目まどかの死”があっての事であり、それを出発点としている限り覆すことはできない。

 

自身が魔法少女である限り”鹿目まどか”の死は避けることのできない確定した”未来”だった・・・

 

「・・・こんなことって・・・私が行ってきたことは・・・結局はまどかの”死”から逃げていただけなの・・」

 

「キャハハハハハっ!!!そういうことだったのね」

 

ほむらの”精神”に干渉し、彼女の真実を知り真須美 巴は笑った。

 

「”時間”を止めるなんて珍しい能力だけど、魔法少女としての”願い”は割と一般的だったわねぇっ!!!」

 

倒れ込んでいるほむらに対し、真須美 巴はその腹に蹴りを入れる。

 

「がはぁっ!?!くっ・・・」

 

意外と強い衝撃を受けほむらは、腹を抑え反撃にでようとするが、”精神攻撃”による影響でその動作が遅れてしまう。

 

「貴女も廻った”時間軸”で・・・見たわよねぇ?所詮は”不相応”な願いに酔っているだけだってね!!!!」

 

さらに髪を掴み、真須美 巴は、その邪悪な笑みを見せつけるように顔を近づける。

 

「貴女のその願いは・・・所詮は、その場しのぎでしかなかったわね。いつかは訪れる”破滅”を避けているだけ・・・良いわぁ・・・こんな澄ました子を絶望させるのは・・・気持ちが良いわぁ」

 

耳障りな笑い声が会場全体に響く。

 

真須美 巴のあまりの邪悪さに”プレイアデス聖団”の二人も青ざめていた。

 

魔法少女は良くも悪くも”個人主義”であるのだが、この真須美 巴の”邪悪”さには及ぶことはないだろう・・・

 

「だからこそ”絶望”して”呪い”を振りまく。素晴らしいわ・・・これこそ、魔法少女のフィナーレとしては最高よ。あぁ、でも、私は”無念”を感じながら滅んでいく様を見る方がもっと好きだわ」

 

自分が目を背けていた”事実”を突き付けられ、自分の戦いがほとんど通用しない真須美 巴に対し暁美ほむらの心は折れかけていた・・・・・・

 

「フィナーレなんかじゃない・・・・・・私が此処に来たから・・・・・・」

 

直接、魔法少女特有の”テレパシー”を通じて彼女は語りてきた・・・

 

真須美 巴は語り掛けてきた彼女の声に少しだけ”覚え”があった・・・確か・・・・・・

 

「アスナロ市に来た時に見かけた娘の声に似てるわね・・・・・・でもあの娘は・・・」

 

不思議なのだ。”彼女”は既に魔法少女としての最期を迎えているはずなのだから・・・

 

そして、その後は・・・

 

「貴女達が作った”和沙ミチル”って、こんな風にしっかりとした自我を持ってたかしら?」

 

”影”を使い、二人の記憶を検索する。この行為は、真須美 巴にとっては気軽にできるものだが、やられている側からすると苦痛極まりなく頭の中をかき混ぜられるような痛みを伴うのだから・・・・・・

 

「ふぅ~~ん、ようするに”和沙ミチル”のリアルな自動人形を作ったわけね・・・そりゃあ、失敗するわよ。こんなモノを”和沙ミチル”なんて名付けられたら当の本人は怒り心頭でしょう」

 

真須美 巴は”プレイアデス聖団”の行っていた”和沙ミチル”の復活に対し、これ以上にないほどの”醜悪さ”を覚えていた。自身のように”悪”であることに背を向けて、魔法少女だからという理由で正当化するようなやり方は何様のつまりだろうかと・・・・・・

 

「繰り返す・・・どんなことがあっても彼女を取り戻すまでは・・・キャハハハハハ!!!本当に愉快だわ」

 

真須美 巴は自身を真面だとは思ってはいない。”最悪”の極悪人であると認識している。

 

それ以外に何者でもない。”奪う”ことをモットーとしているのだから、それに免罪符を求めるなど、自分の”極悪人”としての生き方を否定するほど彼女は愚かではなかったのだから・・・・・・

 

「まぁ、その点は暁美ほむらさん・・・貴女は能力以外は普通の子ね・・・鹿目まどかも随分と残酷なことをしてくれるわね・・・まるで自分から離れないように”呪っている”みたい」

 

「くぅっ!!?貴女なんかにっ!!!まどかをっ!!!」

 

「侮辱しないでって言いたいわけ?本当に健気な子ねぇ~~、約束を守るのは良い事よ。でもね、約束しちゃいけない約束も世の中にはあるのよ!!!!」

 

真須美 巴はほむらの胸に蹴りを入れる。さらに仰向けになった彼女の腹にさらに蹴りを加えた。

 

「ほんとに嫌になるわね~。事実、魔法少女ってオブラートなホラーみたいなものなのに・・・自分が尊い何かと勘違いしている子に振り回されている子を見るのわねぇ~~っ!?!」

 

真須美 巴は会ったことはないが”鹿目まどか”とは絶対にそりが合わないだろうと確信していた。

 

見ているだけで嫌悪感が湧くのだった・・・

 

この”アスナロ市”での事が済んだら、久しぶりに”見滝原”に行ってみるのも悪くはないだろう・・・

 

居るだけで”苛立つ 鹿目まどか”を消すために・・・・・・

 

そんな事を思っていると先ほど、テレパシーで呼び掛けてきた”彼女”が・・・

 

『そこまでにして!!!ほむらさんをこれ以上、傷つけないで!!!』

 

イベント会場の屋根を突き破り、彼女は降り立った・・・・・・

 

「う、うそっ!?」

 

「み、ミチル?ミチルが・・・・・・」

 

御崎海香 牧カオルの二人はこの場に現れた”魔法少女”に対して、”復活”を望んだ彼女だと口々に叫ぶが・・・

 

「私は・・・貴女達のミチルじゃない・・・私は、ほむらさんのミチルだ」

 

黒い帽子を被り、黒を基調としたマントを靡かせ十字の刃の槍の切っ先を真須美 巴に向ける。

 

真須美 巴は”12人目”のミチルの存在を知っており、まさか”プレイアデス聖団”ではなく、”暁美ほむら”を助けに現れたことに愉快なモノを感じていた・・・・・

 

「み・・・ミチル・・・貴女・・・」

 

ほむらは驚くように目を見開いた。まさか、あの弱弱しい”ミチル”が魔法少女の姿になってこの場に現れたことに

 

「キャハハハハハ!!!良いわね、”プレイアデス聖団”が作り出した”人形”が”人間”になるなんてね・・・」

 

「私の事なんてどうでもいい。だから、ほむらさんを・・・・・・虐めるなぁっ!!!!」

 

槍を振るい、真須美 巴をほむらから離すべく割り込むのだが・・・・・・

 

「キャハハハハ!!!私もこの子の事は割と気に入って居るのよ・・・バグギに喰わせるのはちょっともったいないのよねぇ~~~」

 

ほむらを抱えて真須美 巴は飛翔する。彼女の言葉に御崎海香は・・・

 

「貴女は・・・あの雷獣の仲間じゃなかったの?まさか、裏切るつもり?」

 

「あんたぁ、馬鹿じゃないの?魔法少女って、基本的に頭に膿が湧いているお花畑な子しか居ないから、そこは察してほしいわね」

 

御崎海香の言葉に不快感を感じたのか、先ほどまでの笑みが消え無表情で彼女は応えた。

 

彼女は耐えがたい怒りを感じると表情がなくなるようだ・・・・・・

 

「貴女達のせいよ・・・アイツは私を”利用”できそうだから助けたのは分かりきっていたことだわ。そもそもホラーが人間を助けるのは何かと利用できるからよ」

 

当然のことながら助けられたのなら、ある程度の義理を果たさなければならなかった。

 

だが、その義理も大したものではなかった・・・自分の性分は”奪う”こと・・・

 

故にホラーに助けられたからと言って、その力が強いからと言って媚びる気などなかった・・・・・・

 

ホラー化することで”下僕”にしてやるとバグギから言われた時は、言いようのない不快感を抱いていた。

 

「まぁ、その辺りは人間も変わりはないわね・・・アイツらはこっちに来るのに”人間の邪心”が必要だから、”人間”を下等な餌としかみていないのに”人間”が居ないと”形”さえ作れないくせにね・・・・・・」

 

故にホラーに憑依されるようなヘマを犯すことはなかった・・・

 

「話が長くなったわね・・・じゃあ、貴女が魔法少女として戦うのなら私は”悪役”らしく”変身”しないとね」

 

”変身”というあからさまな言葉に一同は疑問符を浮かべる・・・・・・

 

「変身?どういうこと・・・貴女はもう・・・魔法少女に・・・・・・」

 

ほむらは、あり得ない”イレギュラー 魔法少女喰い”に問いかける。

 

「キャハハハハハ・・・そのままの意味よ。私はあと一回・・・一回だけ・・・変身を残しているのよ」

 

人差し指を立て自分には”切り札”があることを一堂に告げた。

 

「たいていの魔法少女は”変身”するまでもなかったんだけどね・・・」

 

真須美 巴は自身のソウルジェムを変化させるその輝きは”グリーフシード”に変化する際に発生する”邪気”に酷似しているが、それ以上になにか悍ましい”思念”の輝きを放っていた・・・

 

「キャハハハハハ!!!ア~ハハハハハハハッ!!!!」

 

黒い影が集まっていき、それらが真須美 巴を中心に”変化”していく。

 

視線がミチルを見下ろすように上がり、巨大な影が彼女を包む・・・

 

その光景に”プレイアデス聖団”の二人はあり得ないモノを見た・・・・・・

 

ほむらも同じだった・・・さらに、彼女が変化したこの”姿”には覚えがあった・・・

 

「この姿・・・私を殺しかけた”あの蜘蛛”そっくりじゃないの・・・・・・」

 

この”時間軸”で初めて遭遇したホラーの姿は蜘蛛と人間の女を掛け合わせたものだった・・・

 

更にセリフを追加するならば、真須美 巴はもはや魔法少女ではなく、また魔女でもない”存在”だ。

 

「「キャハハハハハハ・・・・待たせたわね♪第二ラウンドと行きましょうか?」」

 

上半身には真須美 巴の胴体を有し、巨大な蜘蛛の身体が組み合わさった”異形の魔法少女”の姿があった。

 

下半身には蜘蛛の捕食用の牙と口がそのままではなく、人間の”口”と蜘蛛の”口”が掛け合わさった不気味なモノであった・・・・・・

 

魔力もまた桁違いに上昇しており、ソウルジェムも”魔女”が近くにいるように反応している・・・・・・

 

「「キャハハハハ、ミチルちゃん、暁美ほむらを助けられるかしら?」」

 

二重に響く声は人のそれではなかった・・・

 

蜘蛛のように身体を動かす度に地面が抉れる。巨大の割には移動速度が速くミチルはこれを回避すべく飛翔し、槍を振り回すことで衝撃波で刃を作り、真須美 巴に放つが・・・

 

「「なぁに?これ?」」

 

それらを全く意に介さず、真須美 巴は背部にある八本の脚を構える。

 

先端には”ソウルジェムを思わせる卵型の”器官”が存在し、蕾が花を咲かすように開き、無数の光の線を放つことによりミチルのその身体に容赦なく痛めつけた。

 

「ミチルっ!?!!」

 

魔法少女として駆け付けたが相手があまりにも悪すぎた。

 

真須美 巴は魔法少女としてあまりにも強い、強すぎるのだった・・・

 

かつての時間軸にも”似たような蓬莱暁美”の仲間が居たが、ここまでの”変化”をすることはなかった。

 

傷つくミチルに対し、ほむらは思わず叫び、拘束する真須美 巴の脚を強引に振りほどき彼女の元へ向かうのだが・・・

 

「「うぅ~~ん。良いわねぇ、友情って・・・貴女達は少しだけしまっておきましょうか?」」

 

身体中に穴を空けられた彼女の姿は痛々しく、一部の手足は欠損すらしている。

 

あまりの惨状にほむらは、表情を歪めた。彼女に無茶をさせてしまった自分自身の不甲斐なさを呪う。

 

そんなほむらの事を意に介することなく真須美 巴は自身の影より”結界”を発生させる。

 

それはブラックホールのように周囲のあらゆるものを吸い込み、ミチルとほむらの二人を取り込んでしまったのだった・・・

 

「「お楽しみは後にとっておくのよね♪」」

 

大好物は最後に取っておくのが彼女の”流儀”であった・・・・・・

 

「「貴女達には、色々させられたけど倍返しで復讐を果たさせてもらうわよ」」

 

異形の姿となった真須美 巴の視線は御崎海香 牧カオルらに向けられていた。

 

 

 

 

 

 

影の結界に取り込まれたほむらとミチルは、暗い闇の中に居た・・・

 

異様にまで寒く、自分たち以外に何も感じられない”死”を思わせる静寂だけが存在している。

 

「ここまでね・・・さすがのバラゴもここまではこれないか・・・・・・」

 

ほむらは自嘲するように胸に抱えたミチルの頭を撫でる。気持ちは穏やかなのかは定かではない・・・

 

ソウルジェムが濁っていることから、今の自分は絶望しているかもしれない・・・

 

危機を救ってくれる”白馬の王子様”に憧れる訳ではないのだが・・・

 

今のバラゴも余裕はないだろう。相手はあの”魔雷ホラー バグギ”に手一杯かもしれない・・・

 

命が惜しくば”危険”に飛び込んではいけない・・・かつて”鹿目まどか”に語った話がそのまま自分に返って来るとは・・・これ以上の皮肉と最期はないだろう・・・

 

最期を迎えるにはあまりにも悔しかった・・・・・・

 

魔法少女としての”願い”を否定され、目を背けていた”事実”から逃げていた自分を指摘された。

 

こんな自分の為に駆け付けてくれた”ミチル”を犠牲にしてしまった・・・・・・

 

なんと情けなく不甲斐ないのだろうか?自分は・・・・・・

 

「・・・ほむらさん・・・まだ終わってないよ・・・だって、まだほむらさんは生きているから・・・」

 

「・・・何をいっているのよ・・・魔法少女は死人に近い・・・というよりもゾンビみたいなもの」

 

本体であるソウルジェムには”魂”が納められており、それのない身体は死んでるも同然なのに・・・

 

「ううん・・・だってほむらさんの鼓動が聞こえてくるから・・・ゾンビならこんな心地よい鼓動はしないよ」

 

ミチルの言葉にほむらは”生意気”と言いたくなったが、彼女が傍に居ようとしてくれることがありがたかった。

 

道連れにしてしまうが、最期を二人で迎えられるのなら・・・

 

「私の命は、13人目の”彼女”に宿る・・・だけど、この気持ちは私だけの”想い”だから・・・」

 

突然のミチルの言葉に何を言っているのかと問いかけるが・・・

 

ミチルは自身のソウルジェムをほむらのソウルジェムに近づける。

 

「ミチルっ!?何をするつもりなの!!貴女は生きるんでしょ!!貴女は自分の生きる意味を探すんじゃなかったの?」

 

「うぅん・・・もう見つけたんだ・・・私は”ほむら”さんに会うために・・・生まれてきたんだって」

 

グリーフシードでもある自身のソウルジェムを使い、ほむらのソウルジェムの濁りを浄化する。

 

「馬鹿言ってんじゃないわ!!!私なんかの・・・そもそも私は・・・」

 

「分かっているよ・・・ほむらさんが助けてくれた事には変わりないし、私自身があなたを助けたいと思う程、私の中で大きくなったんだ」

 

優しい笑みを浮かべてミチルは、ほむらに寄り添う。涙を浮かべている彼女の頬に手をやり、それを拭う。

 

「だから・・・泣かないで・・・たとえもう触れられなくなっても・・・声を掛けることができなくなっても、私の”想い”はずっとずっとほむらさんい寄り添っていくよ」

 

濁っていたソウルジェムが浄化されるとともにミチルの身体に皹が入っていく・・・

 

「やめなさい!!!ミチル!!!私なんかの為にそんな事をするんじゃない!!!」

 

何もできない弱く情けない自分の為に”命”を捨てるなとほむらは叫ぶ。だがミチルは・・・・・・

 

「ほむらさんだからだよ・・・最初のミチルが気に掛けていた”プレイアデス聖団”の事は気になっていたけど、私が助けたいのは貴女だけ・・・・・・これは私だけの”モノ”なんだよ」

 

ほむらは、このように自分の為に全てを投げ出そうとするミチルに感情を震わせた・・・

 

故に憎かった・・・彼女を犠牲にしてしまう自分自身の弱さが・・・・・・

 

保護した彼女を護り切ることができない自分自身が許せなかった・・・・・・

 

「ダメだよ・・・そうやってほむらさんは、自分を傷つけるんだから・・・自分を傷つけないように私からお願いしても良いかな・・・」

 

ミチルは、ほむらの細い体を抱きしめる。

 

「13人目は多分、私と違って”ミチル”としての記憶も何もない子なんだ・・・このままあの魔法少女喰いとホラー バグギが居たら、あの子が生まれる場所は”地獄”・・・だから、ほむらさんには護ってもらいたいんだ」

 

「・・・・・何を護ってもらいたいのよ」

 

全てを切り捨て、他の世界から逃げるように背を向けてきた自分に何を護れと願うのか?

 

「私のような子に手を差し伸べてくれたのは、ほむらさんだけ・・・だから、この先の未来を生きて・・・もう繰り返されないように、ほむらさんは先に進んで・・・その先に居る”私”のような子に手を差し伸べて・・・」

 

身体が半分崩壊しており、もはや人の形を辛うじて保っているミチルにほむらは・・・・・・

 

「・・・・・・私はもう”繰り返さない”って約束するわ。アイツらは絶対に私が・・・私達が終わらせるから・・・貴女の”妹”が訪れるこの世界を・・・」

 

左手の”楯”に視線を向ける。”やりなおせる”と何処かで甘えていた自分の”弱さ”を此処で終わりにする・・・

 

そして、その先へ進もうと・・・・・・ほむらは決意する・・・・・・

 

”一か月間”の繰り返しを表す”砂時計”に変化が起きる・・・それは中に閉じ込められていた”何か”が抜け出そうとしていた・・・いや、破ろうとしていたのだった・・・

 

「えへへへへ・・・ほむらさん、約束だよ・・・」

 

最後に彼女を安心させたいのか、無理をするように笑う。

 

「なに笑っているのよ・・・ミチル」

 

ミチルはほむらの頬を摘み、いつかほむらにされたことをそのまま・・・・・・

 

「悲しい気持ちで別れたくないなって・・・ほむらさんが笑ってくれないから・・・こうするの」

 

無理やりほむらに笑顔を作ろうとするミチルの行為にほむらは、自分の為に消えようとしている”彼女”の為に笑顔で送り出したかった・・・・・・

 

「ふふふふふ・・・貴女は本当に世話が焼けるったらありゃしないわよ」

 

思いっきり泣きだしたい気持ちを無理やり抑え込んでほむらはミチルに笑いかけた・・・

 

「うん・・・・・・お世話ばかりかけたね・・・だからこういうね・・・お世話になりました」

 

その瞬間、ミチルの身体はガラスが砕けるように光の粒子となって消える・・・・・・

 

ソウルジェムの穢れが浄化された。消えたミチルにほむらは・・・・・・

 

「・・・・・・本当に世話が焼けるのはミチルじゃなくて私なのにね・・・・・・」

 

消えたミチルの感触を思い返すように自身の手を取る。かつて陰気な表情をしていた彼女を姉のように無理やり笑わせた彼女の頬はどんな感じだっただろうか・・・・・・

 

「ミチル・・・貴女は紛れもなく私の”友達”よ・・面と向かって言えなかったことが悔しいわね・・・」

 

ガラスが割れるように砕けて消えたミチルに対し・・・

 

「ミチルは光になって消えた・・・これが”神様”の慈悲なのかしら・・・あの子のことをまるで居ないもののように消して・・・そんなのは貴方の勝手なお節介に過ぎないわ」

 

”許されざる命”として断罪するのならば、自分はその”許されざる命”を護って見せよう・・・

 

例え二度と陽の当たる場所を歩けなくとも”闇”を歩くことで護れるのならば・・・・・・

 

もう止まらない、振り返らない、弱い自分が奮闘したところで取りこぼす”命”は多いだろう。

 

傷つき、絶望に苛まれるだろうが、そんなことは関係はなかった・・・・・・

 

それでも立ち止まってはならない・・・その先にいる”彼女”らを護る為に・・・・・・

 

「だったら、私は叛逆するわ!!!今までの自分に!!!弱かった自分に!!!繰り返す過去じゃなくて、その先に行くために!!!!」

 

彼女の意思に呼応するかのように楯の砂時計に皹が入る・・・そこから膨大な”因果”の糸が漏れ出していた。

 

”因果”の糸は・・・これまで彼女が巡ってきた多くの”時間軸”のモノであった・・・

 

それらは、ほむらの元に集まり一つの形を作り出す。

 

それは、様々な”想い”を飲み込み、特定の色を持たない”黒”に近い・・・混沌の色を持つ”翼”へと・・・

 

翼を広げると共に彼女自身にも変化が現れる・・・ソウルジェムが輝くと共に・・・・・・

 

その輝きは彼女の周囲は愚か、真須美 巴が作り出した”影の結界”を侵食し、破壊した・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!?!ど、どういうこと・・・私の結界から何かが出てきた!!!!」」

 

今まさにプレイアデス聖団の二人 御崎海香と牧カオルを喰らおうとしていた真須美 巴は二人を閉じ込めた”影の結界”が破壊されたことに驚きの声を上げた。

 

この結界は使い捨てではあるが、自分が喰わない限りは絶対に破られることがなかったからだ・・・

 

まるで”卵から孵化”するように黒い翼のようなモノが大きく広げられる。

 

”翼”のようなモノと表現したのは、それ以外に表す言葉が存在しないからだ・・・

 

その”翼”を広げていたのは・・・・・・

 

「何かとは失礼ね・・・魔法少女喰い 真須美 巴・・・」

 

”翼”を広げている存在は、彼女としてはあり得ない存在だった。影の結界は自身と同じく全てを飲み込み、喰らうものである・・・

 

結界に飲み込まれて、例え生きていても生きながらえることなどできるはずもない・・・

 

紫の輝く矢が一斉に自分に向かってくる。自身の魔力を使い防ぐのだが・・・

 

「私はこっちよ・・・突然の事で焦ってるのかしら?貴女らしくもない」

 

すぐ傍から聞こえてきたのは、自身が戦闘不能に追い込んだ”暁美ほむら”の声に酷似したモノだった・・・

 

14歳の彼女と比べると、年齢を重ねたかのように落ち着いた声色である・・・

 

直ぐに声の主、目掛けてブレードを振ったと同時に金属音が響くと同時にブレードは往なされ、強烈な打撃が真須美巴の頬に撃ち込まれか、彼女は声を出すことなくそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

突然の出来事に御崎海香 牧カオルの二人はついていけなかったが、真須美 巴を攻撃した”人物”を見た瞬間、驚愕すると共に目を見開かせた。

 

「「っ!?!!痛いわね・・・私の顔に傷をつけてくれるなんてっ!?!」」

 

顎が若干砕かれてしまった痛みと自身を吹き飛ばしてくれた”相手”を見て彼女もまた驚愕した・・・・・・

 

十字の刃を持った”杖”を槍のように振り下ろす、黒い髪を靡かせている一人の長身の”女性”に・・・・・・

 

首元にダイヤを象った紫色の”ソウルジェム”があり、魔戒法師の”法衣”を思わせる黒を基調としたローブを纏っている”暁美 ほむら”に酷似した人物に・・・・・・

 

「「そ、そんな変化・・・どういうことっ!?」」

 

魔法少女は絶望し、ソウルジェムはグリーフシードへ変化し魔女として”孵化”する以外に変化はないはずだった

 

もしくは自分のような”イレギュラー”な変身を行うこと以外に・・・

 

「そう・・・そんなに変わったかしら?貴女の方が魔法少女からしたら異常よ、真須美 巴・・・」

 

背中に翼を思わせる”混沌の色”を背負っていた・・・

 

暁美 ほむらの変化に真須美 巴だけではなく”プレイアデス聖団”の二人もまた・・・・・・

 

「二段階の変身?真須美 巴みたいに?」

 

「いえ、アレは変身じゃないわ・・・おそらく彼女は変わったのよ・・・」

 

目の前のほむらの変化が信じられない牧カオルに対し、御崎海香は彼女の変化に・・・・・・

 

「・・・・・・もしかしたら、今の彼女こそ”魔法少女システム”への叛逆の答えかもしれない」

 

魔法少女は決して大人になれない・・・

 

暁美ほむらは、魔法少女の”運命”に叛旗を翻していた・・・・・

 

 

 

 

 

続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾肆

 

 

 

 




あとがき

自己嫌悪の原因は12人目のミチルを如何にして”殺そう”かと考えていた件でした。

話数が増えたのも彼女の退場を先延ばしにしようとしていた部分もあったのではと今更ながら思っています。

逆に”プレイアデス聖団”を痛めつけたりする描写にはなんの罪悪感も湧かなかったのが不思議なぐらいでした(笑)

そして、ほむらは叛逆しました(笑)アスナロ市にほむらとバラゴらを行かせたのは、これをやりたかったからです。
見滝原ではできなかったのか?と言われるとある意味、見滝原はほむらの成長を妨げているように感じたので、別の場所に行きそこで経験を積ませたかったからです。

この辺の総括は、最後の一話が終わってから書きたいと思います。

彼女は成長しました・・・魔女にならずに”少女のその先”へ・・・・・・

見た目は20代初めぐらいになり、身長は女性にしては高めの175㎝ほど・・・

プレイアデス聖団が掲げていた”魔法少女システムの否定”の一つの答えです・・・

ある意味”円環の理”を”否定”しています。



最後に真須美 巴・・・彼女はここで”変身”しました

自身をそのままに”魔女”の”力”を扱える”形態”でミチルを圧倒しましたが・・・

”バグギ”に認められる”悪”として良く動いてくれたと思います。

当の本人はバグギを疎んでおり、いつかは排除してやろうと考えています。

プレイアデスもよく捕まえたモノだと思わなくもないです・・・

こちらはこちらで絶対に、まどかとは分かり合えない存在なので、”円環の理”を知ったらしったでそんなところに行くぐらいなら自分の存在を自身の手で抹消してやると言いかねません。


いよいよ次回で、バグギらとの戦いは”最後”になります。

ほむらの変化に”バラゴ”はどう思うのか?犯罪臭は減ると思いますが、どうなることやら・・・・・・

ほむら達魔法少女がメインでしたので、次回はバラゴがメインになります。





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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾肆


今回でバグギとの戦いは終わります・・・

前回の最後が 続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 了としていましたが、思いのほかバグギとの戦いが熱くなってしまいましたので修正しました。







大人の女性の姿となったほむらは、今の自身の身体を確認するように視線を落とす。

 

目線は以前よりも遥かに高くなり、精神的にもかなり落ち着いるのを自覚できる。

 

手に持っているのは”ミチル”が武器として使っていた”十字の刃”を持つ槍に似た”杖”であった・・・

 

見た目は完全に槍そのものであるので、”杖”か”槍”のどちらでも構わなかった。

 

魔法少女の衣装と魔戒導師の法衣を合わせた装いとソウルジェムが首元に存在していることに彼女は純粋な驚きを感じていた・・・・・・

 

(これが・・・今の私・・・・・・もう今までのような”魔法少女”では居られないのね・・・)

 

時間停止を行う為の”楯”は形を変えて左腕に存在していた。防具の籠手の上に存在しており、着物の袖のような法衣から覗いている

 

もはや”少女”としてやり直すことは叶わない。

 

そんな”望み”など、彼女にとってはもう”過去”のことであり、この先必要のないことだ。

 

もう決めたことなのだから・・・

 

「「暁美ほむら・・・貴女・・・一体っ!?何をしたっ!?!」」

 

声の主である真須美 巴に視線を向ける。魔法少女としての姿ではなく異形の”蜘蛛の怪物”としての姿だった。

 

真須美 巴という魔法少女喰いと呼ぶには、あまりにも”怪物”そのものの姿なので、敢えて名付けるのならば

 

(名づけるとしたら、”レディ・スパイダー”とでも呼ぶべきかしら?)

 

もしくは”女郎蜘蛛”の候補が上がるが、名前などどうでも良いだろう。

 

何故なら、この”怪物”がどうのような”名”で呼ばれることに意味はなくなるのだから・・・

 

そう・・・今夜、真須美 巴は・・・

 

「これからするのよ・・・真須美 巴。貴女を此処で討滅させてもらうわ」

 

長い柄の杖の先にある”十字の刃”の切っ先を向ける。その様子に真須美 巴は、複眼のようになった”眼”を怒りに歪ませた。

 

「「たかだか、姿を変えたぐらいで私を倒すなんて、思いあがるのもそこまでにしなさい!!!」」

 

蜘蛛の異形の姿は巨体の割には俊敏に動くことが出来るらしく、大きく飛翔し、背中の脚に存在する”器官”を使い、いくつものレーザーに似た閃光を発射する。

 

さらには影魔法少女、人間体の自身の影分身全てを総動員させる。

 

真須美 巴にとっても、暁美ほむらの変わりようはイレギュラーらしく即時殲滅で終わらせるつもりだった・・・

 

ほむらは、背中の翼を大きく変化させる。羽がある典型的な翼ではなく、奇妙な歪みを持った”翼”の形をした限りなく黒に近い”混沌”は大きくなっていく。

 

真須美 巴は一目でその”混沌”の危険性を理解し、それを回避すべく先手必勝の手を打ったのだ・・・

 

「「キャハハハハハハ!!!!!この数を貴女はどうする!!?時間を止めたって無駄な事よ!!!!」」

 

既にほむらの影も補足している為、”時間停止”も封じている。当然のことながら、負けることなどない・・・

 

無いはずだったが・・・・・・

 

黒い”混沌”は炎が燃え上がるように一気に広がり、真須美 巴が差し向けていた”様々な”攻撃を一瞬にして侵食し、消し飛ばしてしまった。

 

それは”炎”のような熱を持って真須美 巴に強烈な痛みを与える。

 

「「ああああああああっ!!!?あついっ!!!な、なんなの、これはっ!!?!」」

 

気が付けば自身の背中の脚の幾つかが欠けており、さらには”干渉していた影”さえも吹き飛んでいた・・・

 

「私にもわからないわ・・・少なくとも貴女のような”存在”には耐えがたい痛みを与えることはできるみたいね」

 

視線を向けるとほむらがこちらに向かって歩いてきているではないか・・・

 

一歩一歩ゆっくりと進んでくる様子は死刑執行の時間を表しているようだった・・・

 

故に真須美 巴は目の前の存在を恐ろしく思う。僅かに巨体を後退させてしまう。

 

「「わ、わたしが・・・このわたしが・・・”奪う側”に居るわたしが・・・・・・」」

 

「何をもって”奪う側”に居ようとしているのか、知りたくもない・・・貴女はここで終わる」

 

「「終わるって、この程度で調子に乗るのも程ほどにしなさい!!!」」

 

冷静に淡々と語るほむらと対照的に真須美 巴は完全に冷静さをなくしていた。

 

自身がこれまでに遭遇したことにない”イレギュラー”に脅かされるという未だかつてない事態に・・・

 

下半身の大口を開け、迫るがほむらはそれを強化された脚力を持って垂直に飛翔し回避する。

 

上空にて態勢を整えたと同時に自身の得物の一つである”弓”を手に持ち、紫に輝く”矢”に新たに得た”混沌の色”を持つ”炎”を纏わせる。

 

「調子になんか乗っていないわ・・・貴女相手に油断なんてできるはずもないもの」

 

放たれた矢は真須美 巴の額に突き刺さる。そこから、皹が入り連鎖するようにして身体が崩壊していく。

 

「「あ、アケミ・・・ほ、ほむらぁあああああああっ!!!!!!」」

 

崩壊していく身体が燃え上がり、異形の”ソウルジェム”もまた熱により粉々に砕け散った・・・・・・

 

・・・・・・私は常に奪う側に・・・・・・周って・・・・・・

 

黒い異形の蜘蛛の影が熱と共に消え去った・・・・・・

 

 

 

 

 

真須美 巴が倒れ、御崎海香 牧カオルの二人は彼女の”影の干渉”より開放されるのだが、既に暁美ほむらの姿はなく、この場から去っていった・・・・・・

 

二人は、彼女と話がしたいと願うがそれは叶うことはないだろうと察した・・・

 

彼女は自分達”プレイアデス聖団”に興味がなく、この施設に居るであろう”雷獣”の討伐に向かったのだろう。

 

”魔法少女システム”の否定・・・暁美ほむらの協力が得られればと願うが・・・

 

その答えの一つ。大人になった”魔法少女”である彼女は、自分達と交わる意思を持たない・・・・・・

 

この場に居ても、ただ何もできない・・・二人は僅かに濁ったソウルジェムと共にこの場を後にした・・・

 

牧カオルは手足を欠損しており、御崎海香は彼女を背負いながら無言のままこの場を離れた・・・・・・

 

彼女の胸中には”虚しさ”の感情だけが存在していた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム 第一区画

 

第三ドームのガラス戸を割り、ジン・シンロンは中に侵入していた。

 

「イベントが近いってのに・・・人の気配が全くねえ・・・」

 

ジンは普段ならば巡回しているであろう警備員の姿もそうだが、肌に”嫌な寒気”を感じていた・・・

 

友人の京極 カラスキの言葉を借りるならば、”曰く付きの場所”特有の嫌な空気である・・・

 

”伝説の雷獣”の邪気による影響で全体的に嫌な雰囲気なのだ・・・

 

彼は上着の内側に隠している”雷清角”をその感覚だけで確認しながら前に進んだ。

 

カラスキの言うようにこの先は”死に最も近い場所”なのだ・・・

 

人が踏み入ればまず助からないであろう。だが、彼にはそんなことは関係なかった・・・・・・

 

妹とその友達を連れて、そしてこの雷清角を届けるという役目があるのだ。それを果たさなければならなかった。

 

死を覚悟ではない。絶対に生き抜く覚悟を持って・・・直ぐ近くで手に入れた警備用の棒を手に彼は進む。

 

「うん?誰か・・・いや、何かいるのか?」

 

奥より誰かがこちらに歩いてくる足音が聞こえた・・・・・・

 

ここには真面な存在は居ない。ほむら、ミチル、龍崎駈音以外はあのバグギの関係者であるからだ。

 

隠れてやり過ごせそうな相手ではないかもしれない。腹をくくり、ジンは正面の闇を睨みつけた。

 

「ジンお兄ちゃん。私よ・・・ほむらよ。安心して・・・」

 

少し違和感があるが妹であるほむらの声だった。途端に足音が早くなった。

 

そして彼は、変わり果てた自身の妹の姿を見た・・・・・・

 

「ほ、ほんとにほむらなのか?一体、どうしたんだ?その姿は・・・」

 

目の前に居るのは自分と同じ年齢にまで成長した妹の姿があった・・・

 

ほむらは、驚く兄を安心させるように笑いかけた。

 

「そうだよ・・・私の止まっていた・・・止めていた時間がようやく動き出したんだと思う」

 

”止めていた時間”の意味とは、彼女がこれまでに繰り返していた”時間遡行”の事であるとジンは察する。

 

「そうか・・・随分と長い間回ってたんだな」

 

「うん・・・数えるのも億劫になるくらいにね」

 

「そうだっ!?ミチルちゃんもこっちに来てたんだが・・・ま、まさか・・・」

 

”ミチル”という言葉にほむらの表情が悲し気な色を浮かべた。

 

ジンは彼女は既に居なくなってしまったのだと理解してしまった。

 

「ミチルは、私に先に進む”力”を託してくれたよ・・・だから私は前に、先へ行かなくちゃいけない」

 

妹の言葉にジンは、彼女は既に”兄”に甘えるあの小さな少女ではなくなったことを理解した・・・

 

自分が居ない間にこんなにも大きくなっていたことに喜びもあるがそれに伴う寂しさすら感じる。

 

そして妹は、メイ・リオンより聞いた”時間遡行”を行うことはないということを・・・・・・

 

「それで、ジンお兄ちゃんはどうしてここに?私は大丈夫だから、早くこの場から離れて」

 

ほむらはジンが何故、この場に来ているのかと問いかける。

 

彼女の考えでは、兄のことだから自分やミチルを連れ戻そうとしたのだと察していた。

 

「そのことだが、お前とミチルちゃんを連れ戻そうとしたんだが・・・後はな・・・」

 

ジンは周りを警戒するように見渡していた。怪訝に思うほむらだが・・・

 

視線で背後の天井を指す。ほむらはそこにあるであろう”監視カメラ”の存在を察した・・・

 

”バグギ”は”雷の力”を・・・それに近いモノならば”意”のままに操ることが出来る・・・

 

先ほどの”真須美 巴”は、能力こそは違うモノの様々な場所から見ていた・・・

 

故に”バグギ”もまた同じなのだろうと・・・・・・

 

「ジンお兄ちゃん。私の手を取って・・・」

 

「お、おう・・・」

 

暗がりではあるが、成長した”妹”は思わず見とれてしまう程の”美人”である。

 

そんな彼女が間近に迫れば、どんな男も胸をときめかせてしまう。

 

可憐さと凛々しさを備えた整った顔立ちと新雪のように白い肌の美女を間近でみれば猶更であった。

 

此処は”賭け”ではあるが、バグギに真須美 巴が”時間停止”の能力を伝えているか?

 

彼女の言動からして”バグギ”にそれを伝えていない可能性がある・・・それを見越してほむらは

 

「・・・楯を回して・・・」

 

袖の内にある楯を言われるがままにジンは回す。その瞬間、時が止まる・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

バグギと暗黒騎士 呀の戦いは熾烈を極めていた。

 

雷剛が賭けると同時に周囲全体に強大な力を持つ”雷撃”が降り注ぎ、圧倒的な破壊を周囲に齎す。

 

『ハハハハハハハ!!!暗黒騎士!!!その刃を我に届かせてみよ!!!!』

 

魔導火を使い、炎を伴った斬撃を振るうが結界のように降り注ぐ雷により消滅する。

 

内心、呀はバグギの多彩な攻撃手段に舌打ちをするが、それで手詰まりになるようなことはなかった。

 

非常に手間を要する相手であるが、彼は狩ると決めたからには必ずバグギをこの手で喰らうと・・・・・・

 

魔導馬の機動力を持って雷を回避する。

 

通常でも早く動けるのだが、やはり”雷”による攻撃は早く、避けることは困難であり、避けずに受け止めるのは荷が重すぎる攻撃であった。

 

デスメタル製の鎧であっても”金属”には変わりなく、バグギの雷撃を通してしまうのだ。

 

太く逞しい両腕の筋肉が盛り上がると同時に強力な”雷”が轟音と共に集まり、渦を巻く。

 

『シャアアアアアアッ!!!!!』

 

自身もまた雷のようなエネルギー体に姿を変えて、呀へと向かって、突撃を行う。

 

呀は、雷剛の蹄音の力を響かせると同時に黒炎剣を閻魔斬光剣に変え、暴力的なエネルギーの渦と化したバグギを切り払うように大きく振るう。

 

呀の技の威力とバグギの力が互いに衝突することにより周囲一帯が巨大な爆発を発生しドームの区画が崩壊する。

 

巨大な爆発による炎上により第三ドームは一気に燃え上がった。

 

バグギの力はすさまじく、呀はその衝撃により魔導馬を一時的に消失してしまった。

 

鎧こそは消失しなかったが、降り注ぐ瓦礫に巻き込まれるようにして彼の視界が遮られてしまう・・・・・・

 

『やるではないか。我とここまで戦えるとは思ってもいなかったぞ』

 

バグギの声は、呀を讃えているようだが、久々に手応えのある”餌”を相手にできることに喜びを感じていた。

 

視界を邪魔する瓦礫を黒炎剣を振るうことで粉砕する。目の前には腕を組み、いやらしい笑みを浮かべているバグギの姿があった・・・・・・

 

『最近になって編み出した攻撃方法だが、お前には効くのかな?』

 

バグギは近くの鉄骨をまるで粘土を千切るかのようにして手に取り、それを手頃なサイズに丸めてしまう。

 

雷エネルギー・・・電磁エネルギーを作り出し磁力の反発を利用して、鉄の塊となったそれを超加速を持って呀に撃ち込む。

 

所謂、”レールガン(電磁砲)”である。

 

それを黒炎剣で防ぐが、威力は恐ろしく強力であり、剣を持つ手が痺れてしまうほどだった・・・たったの一発である・・・

 

笑みを浮かべながら”バグギ”はレールガンを容赦なく呀へと撃ち込む。

 

一発一発が重く、防戦では降ると悟り、呀は勢いよく大地を蹴り、目にも止まらぬ速さを持ってレールガンを回避し、バグギ目掛けて黒炎剣を突き立てるが・・・・・

 

「っ!?!」

 

『ククククク、ハハハハハハ!!!無駄だ!!!我にその剣は届かぬ!!!』

 

バグギの身体は一瞬にしてエネルギー体となり、呀の黒炎剣をすり抜けてしまったのだ。

 

雷そのものであるが為に実態が存在しないのだ。

 

そして、バグギは大きくその口を開き、呀の鎧に対し、噛みついたと同時に強大なエネルギーの奔流が呀を・・・バラゴの肉体に容赦なく流れていく。

 

「うぉおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

 

ここ数年上げたことのない叫びを上げつつも、呀はその身体に”紫の魔導火”を纏わせる。

 

魔戒騎士でいう”烈火炎装”を使い、自身の防御力と攻撃力を底上げする技術である。

 

炎によりエネルギー体であるバグギは弾き飛ばされた。

 

バグギを弾き飛ばしたモノの肉体へのダメージは無視できるものではなかった。

 

息が荒くなるのを感じつつもバグギに対し、油断することなく見据える。

 

バグギは上空に飛び上がっており、自身の攻撃を防いだ暗黒騎士 呀に視線を向けていた。

 

『ククククク、フハハハハハ。良いぞ、良いではないか・・・だが、そろそろ飽きてきたな』

 

この戦いの間で見慣れているはずのバグギの嫌らしい笑みにこれ以上のない不快感を感じる。

 

『我としては、このままでもお前を喰らうこと等容易い。だが、余興を伴ってお前の最期としよう』

 

バグギは周囲に自身が作り上げた”機械人形”達をいつの間にか呼び寄せていたのだった・・・

 

呀もこの数には警戒色を強めていた。

 

本来ならば物の数ではない”下らない絡繰り”であったが、今の状況で加勢されたら非常に厄介であった。

 

一時撤退も考えるのだが、この暗黒騎士 呀が二度も相手を仕留め損なうなどあってはならないのだ。

 

そして、彼は未だに”彼女”を取り戻していなかった・・・暁美ほむらを・・・・・・

 

故に彼は撤退など選ぶつもりはなかった・・・・・・

 

『余興は派手に行うのが、我の趣向なのだよ。暗黒騎士』

 

バグギの身体が変化していく。雷エネルギーを纏うと同時に変化していく。

 

強烈な光を放つ球体へと変化したと同時に”機械人形”達を取り込み始めたのだ・・・

 

機械人形だけではなかった。第三ドーム全体が大きく揺れたと同時に敷地が・・・

 

第三ドーム施設周辺が重力に逆らい浮き始めたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市では、突然の第三ドーム周辺の土地が浮かび始めた現象に戸惑いの声を上げていた。

 

「な、なんなんだ!?!アレは一体、なんなんだ!!!」

 

「こ、こんなことがっ!?!」

 

人々の前で浮かび上がった第三ドームの土地の上で何かが”産声”を上げるように咆哮を上げる。

 

それは伝説に伝わる”金色の雷獣”の巨大な姿だった・・・・・・

 

巨大な体躯はもはや高層ビルに匹敵しうる体躯を持ち、様々な金属を取り込み、それらを纏めるように電気が走った配線が纏わりついていた。

 

『ハハハハハハハハ!!!!我が名は”バグギ”!!!!伝説に伝わる雷獣とは我の事よ!!!!!』

 

悪意に塗れた”巨大な陰我”がアスナロ市の空に響いた・・・

 

 

 

 

 

 

 

ジンは第三ドームから遠く離れた場所に来ていた。

 

ほむらの話だと、第三ドーム全体が”バグギ”の領域そのものである為、戦いの余波は周囲全体に及ぶらしい。

 

根拠は”魔戒札”による”占い”である。

 

友人の京極 カラスキの話でも”バグギ”はアスナロ市全体の繁栄をそのまま利用している為、非常に厄介な存在と化していることも・・・・・・

 

ほむらの話の通り、まさか第三ドーム全体を浮かび上がらせた挙句の果てに巨大な姿まで見せていた。

 

「・・・あんなのこの世界に居ちゃいけない奴だろ・・・」

 

友人の言う”怪異”の領分を完全に逸れており、はっきり言って”災害”そのものだろうとジンは思った。

 

普通ならば絶望し、この場に居合わせた自身の境遇を嘆くところであるが・・・

 

あの場に向かっていった”妹”が上手くやってくれるとジンは確信していた。

 

その根拠は単純明快で暁美ほむらは、彼の妹だからだ。

 

「ったく・・・随分長い事、旅して・・・あんなことを言うようになるなんてな・・・」

 

姉 アスカと自分に甘えていたあの小さなほむらが自分にこんな事を真正面から言えるようになるとは・・・

 

”ジンお兄ちゃん。私は、これをバラゴの所に持っていく・・・私にしかできないことだから”

 

暗黒騎士 呀ですら苦戦する”強大な雷獣”の元へ行く妹を心配し、思わず声を荒げてしまったが・・・

 

”大丈夫。私はどんなことがあっても必ず生き抜くから・・・だから、カラスキさん達、エルダの所で待ってて”

 

まさか自分の”守る”定義である、自分の命を守り他者を助けることを彼女が理解していたことに・・・

 

妹が”必ず生き抜き、そして帰ってくる”と言ったのだ。

 

ならば兄である自分はそれを信じて待とう・・・

 

それが”兄”というものだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは一体?」

 

”魔戒札”による占いでも見ることが叶わないほど深い”闇”に覆われている”未来”ではあるが、多少ならば少し先を見ることが出来た・・・

 

だが、正確な像を持っておらず、不明確な砂嵐で覆われた十数年以上前の旧型TVの画像のようなものだった。

 

突如として発生した地響きと奇妙な感覚と現在の第三ドームの状況を把握するために、”混沌”の色を持った”翼”を展開させて飛翔する。

 

新たに得た”能力”侵食する”混沌の翼”は敵を攻撃するだけではなく、このようにな飛行することも可能だった。

 

そこでほむらは、見たのだった。

 

第三ドームを含む周辺の施設がすべて地上より浮き上がり、さらにはこの浮遊する大地に立とうとしている”魔雷 ホラー バグギ”の姿を・・・

 

そしてアスナロ市 全体に響く”バグギ”の宣言を聞いた・・・・・・

 

絶望を感じさせるには十分な邪気と力ではあるが、それに臆するという感情をほむらは持ち合わせていなかった。

 

”ミチル”が託してくれ、彼女と約束した”先の未来”に現れるであろう”13人目の彼女”が生きる世界を守ること。

 

その為には、あの”バグギ”の存在を許してはならない。

 

京極 カラスキは”バグギ”という脅威から”アスナロ市”を守る為に、彼は禁忌ともいえる手段に出た。

 

”暗黒騎士 呀”に助力を願うという手段に出だのだった。

 

彼はアスナロ市を見張る役目を負っているのだが、その実は自身の友人達を護りたかったのであって、役目については、ほぼ建前にしか過ぎなかった・・・・・・

 

ほむらは、先ほど再会した”兄”より託された”バグギ”の動きを封じる”雷清角”を持ち、今、バグギと戦っているであろうバラゴの元へと急いだ。

 

巨大な雷獣が吼えると周囲一帯が光に染まり、轟音ととも爆発音が響く。

 

衝撃によりほむらは、さらに上空へと吹き飛ばされてしまった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呀は黒炎剣を再び閻魔斬光剣に変え、それを大地に突き立てることで壁、楯としてバグギの広範囲による攻撃を凌ぐ。

 

元々強大な力を持つホラーであったが時代の変化による要因がさらに恐ろしい存在へと押し上げていたのだ。

 

これまでに戦った”ホラー”の中では群を抜いて強大な存在であるが、ここで彼はバグギを諦めるつもりはなかった

 

閻魔斬光剣を黒炎剣に戻し、呀は巨大な鋼鉄の怪物と化した”バグギ”を見上げる。

 

自身の”雷獣”としての姿を模しつつ、悪趣味なアレンジが加えられている様は見る者を恐怖と嫌悪感を抱かせる。

 

バラゴが抱いた印象は後者であった。

 

「ここまでとは・・・流石は古より伝わる”使徒ホラー”の一体」

 

正直に言えば、厄介極まりないバグギではあったが、バラゴは素直にその”力”を認めていた・・・

 

あの”力”を喰らうことが出来れば自分は、更なる高みへと至るであろう。

 

そのような考えは一瞬だけ過るが、何よりの関心は”暁美 ほむら”にあった・・・・・・

 

”束縛の刻印”との繋がりは、バグギの邪気により妨害されており感じることが出来なかった。

 

『これも防いだか・・・フフフフフフ。良いぞ、それでこそ喰らいがいがあるというモノよ』

 

大口を開けているバグギだが、様々な資材で作り上げた”巨体”はの周りには紫電が走り、その膨大な”力”を持て余していた。だが、バグギはその力をこのまま遊ばせておくつもりはなかった・・・

 

『そろそろ頃合いか・・・』

 

”頃合い”という言葉にバラゴは、バグギが何か企んでいるのではと察していた。

 

ここまでの”力”を見せつけながら、これ以上何を行うというのだろうか?

 

『人間達が目指している”力”を再現しよう思うのだよ・・・魔戒騎士はこれを想像すらできまい・・・』

 

何を言っているとバラゴは疑問符を浮かべるが、”バグギ”が行おうとしていることは恐ろしく”破壊”を伴った何かであることだけは間違いなかった。

 

バグギの身体となっている巨大は電気を帯びており、所謂、物体が電気を帯びている”荷電”の状態にあった。

 

荷電した粒子をバグギは、その力を持って収束させる。

 

巨体そのものが粒子加速器でありその中で電圧を掛け、亜高速までまで加速させて、”力”を”荷電粒子ビーム”を解き放ったのだった。

 

凄まじい熱を放ちながら照射し、周囲の物体を原子崩壊により消滅させた、

 

破壊の余波を間近で受けた呀は、足元の大地が崩れると共にまるで木の葉のように吹き飛ばされてしまった。

 

バグギの放った”荷電粒子ビーム”の威力は広範囲に及び、自身が浮かび上がらせた大地を超えて真下のアスナロ市の都市群を横切るその威力により街の至るところが炎上し、倒壊していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市よりバグギの行動を外部より見ていた青年 明良 二樹はあまりの力に苦笑いを浮かべていた。

 

嵐を過ぎるのを待っていた聖 カンナもまた”雷獣”の力に自らの体が震えるのを感じていたのだった。

 

「アレって確か荷電粒子ビームだよね・・・あんなモノを再現するなんてどんな怪物なんだ」

 

現在の人類が”夢想”する”破壊の力”は、発展した科学をもっても実現までかなりの時間を有すると言われている。

 

何となく存在を知っていたが、アレを再現してしまう”バグギ”は想像を超えた、まさに次元の違う”怪物”である

 

待機している魔号機人 凱は恐れるという”感情”がないのか、命令とあらば討滅に向かうと事前に話していた。

 

だが、魔号機人達を全機投入しても”バグギ”には敵わないであろう。

 

「今は逃げるのが正解だけど・・・事の結果だけは見届けていた方が良いね」

 

明良 二樹は既に退場してしまった”遊び友達”も一緒に居ればと思わなくもなかったが、このまま逃げたらあの”雷獣”に屈したことになる為、せめてもの反抗として、この結末だけは見届けたいと思うのだった。

 

アスナロ市の至る所では、”雷獣”の影響により混乱しており”邪気”が蔓延し、様々な”怪異”もまた活発になっていた。

 

当然のことながら”魔女”や”使い魔”らも動いており、それらを対処するように戦う魔法少女達の姿もあった。

 

プレイアデス聖団を離れ、自らの道を進むことを選択した 若葉 みらい

 

犠牲となった友達を弔うために一時的に離れていた宇佐木 里美

 

二人は魔法少女として魔女と使い魔らと交戦していた。互いに違う場所に居るのだが、目的は同じであった。

 

二人とはさらに別の場所では、

 

「アタシに楯突くなんて!!10年早いんだよっ!!!」

 

二丁のハンドガンを連射させ、向かってくる無数の使い魔を相手取るのはワインレッドのボディスーツを着た魔法少女・・・プレイアデス聖団に復讐を誓っていたユウリであった・・・

 

それぞれの場所で戦いが繰り広げられており、アスナロ市全体はまさに混乱の極みにあった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハハ!!これは愉快愉快!!!この破壊力!!我に相応しい力よ!!!!』

 

自身の”力”である”雷”を超えた巨大な力を得た”バグギ”は”荷電粒子ビーム”に満足していた。

 

”荷電粒子ビーム”を知ったのは、この地に現れ、人の”知恵”の祭典である”科学博”の中にあった”医療用機器”の中にあった癌細胞のみを焼失させるモノを知った時だった・・・

 

古の時代より人の知恵は想像を超えた領域までに発展し、その中にある”武器・兵器”関連の知識は”バグギ”にいつかは人が手に・・・人が手にしてはいけない”荷電粒子ビーム”というモノを齎してしまったのだ。

 

アスナロ市第三ドーム全体、この大地全体が崩れ出した。

 

バグギの放った荷電粒子ビームのあまりの威力により大地全体が崩壊してしまったのだ。

 

崩れた岩、瓦礫、半壊した建造物が真下のアスナロ市へと落下していく・・・・・・

 

呀は、崩れた足場から飛び比較的安定している大地へと移る。バグギの巨体は・・・

 

「その割にはボロボロではないか・・・」

 

荷電粒子ビームの”力”は凄まじく放った”バグギ”自身にも影響しており、精製した”巨体”が崩れていたのだ。

 

呀は鎧の内側で嘲笑する。嘲笑したところで事態が好転する訳ではなかった。

 

バグギは、呀の嘲笑などどこ吹く風と言わんばかりに・・・

 

『ハハハハハハ!!!!この身体は所詮は使い捨てよ!!!あと一発ならば耐えられよう!!!』

 

内心、まだ一発放つことが出来るのかと冷や汗かくが、崩壊した巨体の装甲が一部露出し、眩い輝きを持つ”バグギ”本体の姿を確認できたのは幸いであった・・・

 

装甲が健在であれば”勝機”は薄かったのだが、あのコアとなった”バグギ”を討つことが出来れば、こちらの勝ちである。

 

バグギは呀に僅かな勝機を与える気などなく、荷電粒子ビームの発射態勢に入っていた。

 

この一発で確実に呀を消し飛ばす気であった。暗黒騎士を喰らうという宣言は既に撤回されており、新たに得たこの”力”を存分に振るいたいという欲求だけが”バグギ”に存在していたのだった・・・・・

 

周囲の電気エネルギーが嵐のように吹き荒れ、近づくことすらままならない。

 

『ハハハハハハ!!!暗黒騎士!!!このまま望みを果たせずに消し飛べ!!!!!』

 

チャージされた”荷電粒子ビーム”が発射されたと同時にバグギが作り上げた巨体が溶解し、崩れていく。

 

先ほどの一発は、試射であり、この二発目こそが本番であった。

 

亜高速で放たれた一撃を回避することは、屈強な魔戒騎士であっても困難であった・・・

 

暗黒騎士であっても・・・だが・・・・・・

 

迫りくる光と圧倒的な熱量を感じつつ、呀は屈することなく剣を構えるが・・・・・・

 

「間一髪ね・・・バラゴ」

 

黒炎剣を握る手をか細い手が触れた瞬間、この場の時間が停止したのだった・・・・・・

 

モノクロになった世界にバラゴはこれこそが、ほむらの使う”時間停止”の魔法であると認識した・・・

 

半歩前に歩み出た”ほむら”の姿に彼は驚愕した。

 

(か、母さんっ!?!)

 

少女であるほむらが、大人の姿に成長しており、その姿はかつての母の姿そのものだった・・・

 

黒い長い髪と新雪のような白い肌の美しい女性は、記憶の中にしか存在していないのだ・・・・・・

 

思わず口に出したかったが、戦いの最中は言葉を発することがほとんどない為、幸いにもほむらに己の内を曝け出さずにできた・・・・・・

 

「ジンお兄ちゃんも同じ反応をしていたわ・・・これでアイツを倒せる?」

 

ほむらは、左手にバグギの動きを封じる法具”雷清角”を呀に見せる。

 

「あぁ、それだ・・・うっかりしていたよ。私もまだまだだということか・・・・・・」

 

ほむらが攫われていたことで頭に血が上り、そのまま飛び出してしまったことで”雷清角”を持たずに”バグギ”に挑んでしまった。”雷清角”で動きを封じてしまえば・・・奴はこの黒炎剣からは逃れられないだろう。

 

自らの甘さに自嘲してしまうが、その自嘲もほむらの手に現れた影響で止まってしまう。

 

「くっ!?!手が熱い・・・・・・」

 

呀の鎧はかつてのソウルメタルからデスメタルへと変質しているのだが、その性質は剣や鎧に加工されたモノを女が触れると”身体が砕けてしまう”ところは変わっていないのだ。

 

ほむら自身はバラゴが目を張るほどの成長をしているのだが、デスメタル製の鎧に触れて無事でいられるはずがない。

 

直ぐに彼女の身を案じ、その手を振りほどこうとするのだが・・・

 

「ダメよ!!バラゴ!!!まだ、アイツを倒していない!!!」

 

「それでは、君が・・・」

 

彼らしくもない身を案じる言葉にほむらは、改めてこの暗黒騎士は自分を大切にしている事を察する。

 

だが今は、自分の身よりも果たさなければならないことがある。それは・・・

 

「貴方が直ぐに決着を付ければいいのよ。私がそこまで貴方を導くから・・・」

 

ほむらの手はデスメタルの影響でも砕けることはなかったが、火傷を思わせる傷が広がっていた。

 

彼女の美しい体に傷を付けてしまったこと・・・

 

彼女にここまでさせた”バグギ”、自身の不甲斐なさに怒りを感じたのだった・・・

 

「分かった、ほむら君。バグギの直ぐ近くまで来たら、そのまま離れてくれ」

 

「分かっているわ。自分の無茶はあまり長い時間を掛けられそうにないもの」

 

バラゴの心を落ち着かせるようにほむらは、不安な顔を見せぬように笑いかける。

 

気丈に振舞おうとする姿は、今までの彼女からは考えられなかった。

 

良くも悪くも14歳の少女でしかなかったはずなのに・・・・・・

 

ほむらの導かれるままにバグギの近くに接近し、”雷清角”を突き立てて動きを封じる。

 

まさに”必勝”の手であろう。だが、それで良いのだろうか?

 

これでは、彼女を傷モノにした”自身の弱さ”を認めることになるのではないかと・・・

 

そんな時に浮かんだのが、場違いではあるが迫りくる”荷電粒子ビーム”はあの時に見た”波”によく似ていた。

 

(そうだ。あれは僕がまだ大河の元で修行をしていた頃の事だった・・・)

 

あの日、大河より魔戒騎士の剣で波を斬れという課題を出されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

”ひとつ、お前の腕を見たい。打ち寄せる波を斬ってみろ”

 

”波を斬る?そんな真似をして何になるんです?”

 

”つべこべ言わず、やってみろ。それとも、お前、水が怖いのか?”

 

”怖いものか!ただ僕には分からないのです。魔戒騎士の剣はホラーを葬り去る為のモノ。このソウルメタルはどんなに堅い金属をも貫く。手応えのない液体を斬って何になるのですか?”

 

”水を侮ってはいかん。一滴の水が山の頂より湧き出て河となりやがては広大な海へと注ぐ。その海が無ければ我々は存在しない。すべての生き物は水のおかげで生を受けた。このソウルメタルも塩水で酸化すれば切味は鈍るであろうそれだけではない。打ち寄せる波は長い歳月をかけて岩を侵食し、様々な形状を作り出す。激しい水流を浴びせれば金属だって切断できるのだその水を斬るということが如何に奥深い事なのか、お前にはわからないのか?”

 

 

 

 

 

 

 

 

呀・・・バラゴが思い出したのは、かつての師である黄金騎士 牙狼 冴島 大河との修行の光景だった。

 

 

 

 

 

”とにかくやってみるんだ。お前ほどの魔戒騎士ならば打ち寄せる波など押し戻すぐらい造作もないだろう”

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ・・・このバグギの攻撃は”波”だ・・・打ち寄せてくる波そのものではないか)

 

師である大河の言葉の意味をあの頃は理解が及ばずに、渋々課題をこなすべく挑戦したのだった・・・

 

(あの時、大河に指摘された・・・あの頃、できる限り封印して、忘れたかった忌まわしい記憶を)

 

彼は波を押し戻した。だが、自分の振るった太刀筋に視えたのは自身が心の奥底に封印していた忌まわしい”過去”だった・・・

 

見えたのは、今も憎い”あの男”とその手に掛けられた”愛おしい母”の変わり果てた姿だったのだ・・・

 

過去に目を背けていた自身の弱さに涙したあの頃の自分を大河は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”その過去がお前の太刀を誤らせている。それを乗り越えるんだ。俺はお前を見捨てたりはしない”

 

 

 

 

 

 

 

 

大河のその気遣いすらも自分を苛立たせた。最強の魔戒騎士にすら気遣わせる”自身の弱さ”に・・・・・・

 

それすらも振り切り、メシアの・・・闇からの誘いを受けるに至った・・・・・・

 

ならばこの膨大な熱を含んだ巨大な波をこの一太刀で斬る・・・・・・

 

それこそが、自身の”弱さ”を断ち斬る手段であり、暗黒騎士 呀の勝利であるのだから・・・・・・

 

「・・・・・・ほむら君。手を放してくれ・・・・」

 

「バラゴ・・・何をするつもりなの?雷清角で動きを封じるのが先・・・」

 

呀の鎧はバグギの攻撃により一部が欠損しており、白い眼の部分から装着者であるバラゴ自身の目が自分を見ていたのだ。

 

「奴を斬る・・・雷清角は確実に仕留められる場面で使うべきだろう」

 

切り札は直ぐに使うのではなく、やれることをやってから使うべきだと・・・・・・

 

かつて大河は自分にこう話していた。牙狼剣は時間さえも切り裂くと・・・・

 

牙狼にできることがこの暗黒騎士 呀にできないことはない。

 

呀 黒炎剣を構え、膨大な熱と破壊力を持つ”荷電粒子ビーム”を見据える。

 

ほむらはバラゴの意図を察する。彼が一度きりの勝負に出たことを・・・・・・

 

手を放したと同時に止まっていた時間が動き出し、荷電粒子ビームが暗黒騎士 呀を貫かんと迫る。

 

呀は亜高速で迫る”荷電粒子ビーム”よりも早く黒炎剣を振るう。

 

その太刀筋は正確にバグギを捉えており、”荷電粒子ビーム”を貫き一直線にバグギに必殺の太刀が届いたのだ。

 

『なっ!?!なにがあった?!!我が・・・何より速く、強大な我が・・・たったの一振りで・・・』

 

そのたった一振りの太刀がバグギに致命傷を与えていたのだった・・・・・・

 

消えていく自身の身体に呆然としながら、バグギは自身が一瞬にして暗黒騎士 呀に敗北した事実が信じられなかった・・・・・・

 

呀の一太刀は、膨大な荷電粒子ビームのエネルギーを切り裂き、そのままバグギ本体へと押し戻していた。

 

崩壊する自身とさらには自身が築き上げた巨体、居心地の良かった”寝床”であったアスナロ市 第三ドームもまた運命を共にするように膨大な光と共に消え去る。

 

『認めるか・・・このバグギが・・・こんな結末を・・・・・・』

 

人々に災いを振りまいてきた雷獣の呆気ない最期であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 了

 

 

 





あとがき

アスナロ市編 は次回で完結です。

バラゴが意地になって雷清角を使わないで倒してしまいました。

それに至る流れを作ってくれたほむらは、彼の勝利の女神なのですかね?この場合。

ほむらが傷ついたことで自分の弱さを改めて知って、それを認めてなるものかと言わんばかりのバラゴの意地でした・・・・・・

正直バグギを描いていて、こいつって設定資料を眺めてみると色々できるので正直にこんな奴倒せるのかと思わなくもなかったです(笑)

アスナロ市編では、色々やりすぎてしまった感がありますが、呀 を圧倒できる戦闘能力を持つホラー、強敵としてみれば、これで良かったと思います。

本当に鋼牙は本編でどうやってバグギを倒したのでしょうか?

バグギは多分、この作品では最強格だったのではと今更ながら思います(汗)

荷電粒子ビームなら、不思議金属ソウルメタルも破壊可能かもしれません。

破壊するならするで膨大なエネルギーが必要だと思います。

真須美 巴も今回で退場。二度と魔法少女喰いの脅威が訪れることはないでしょう・・・

思えば、彼女が一番”アスナロ市編”で動いてくれていたと思います。

唯一生き残ったのは、フタツキさん。今後の彼の活躍は如何に?





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呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 了

今回はエピローグ的な話です。

バグギを倒した後の始末記のような話・・・

アスナロ市での人々、魔法少女らのその後です。


 

アスナロ市の何処かに存在するプレイアデス聖団の拠点に白い影が横切った。

 

白い影は、様々なカプセルが並んでいる部屋を通過し、そのまま一直線にある部屋に保管されているファイルを見つけた。

 

「まさか・・・真須美 巴が作り上げたイレギュラーのお陰で目的のファイルが回収できるとは・・・・・・」

 

白い影は魔法少女では馴染みのあるキュウベえであった。

 

彼がアスナロ市で暁美ほむらに回収を依頼していたことだったが、彼女は彼女でアスナロ市での出来事に手一杯だったためにすっかり記憶の中から消去されていた。

 

故にキュウベえ自身が動かなければならなかったが、誰も居なくなったプレイアデス聖団の拠点に侵入し、”蓬莱暁美”のファイルを自身の手で回収を行ったのだ。

 

目的を果たしたのなら、早めに退散するように彼は姿を眩ませた。

 

その部屋には、カプセルに浮かぶ”ミチル”に酷似した幼い少女が浮かんでいたが、彼は興味がなかったのか一瞥すらしなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 京極神社

 

人知を超えた戦いというモノがあるのならば、まさに今夜行われている戦いこそがそれであろう・・・・・・

 

京極 カラスキは神社の敷地より浮遊していた”アスナロ市 第三ドーム”が崩壊していく光景を眺めていた。

 

「やってくれたね・・・バラゴさん・・・これでおいらも安心できるよ」

 

バグギが放っていた異様な邪気が消滅したのを感じる。暗黒騎士 呀は”魔雷ホラー バクギを討滅したのだ。

 

「こ・・・こんな戦いが・・・まさか・・・・・・」

 

浅海サキは、街で起こっていた恐ろしい戦いを遠くではあるが見ていた。あの恐るべき雷獣を伝説を打ち破った存在に畏怖の念すら感じていた。

 

「お前達が相手をしている魔女と魔戒騎士達が狩っているホラーでは、闇の深さが違う・・・特に使徒ホラーとなれば猶更だ」

 

呆然としていた浅海サキにエルダは、彼女なりにではあるがフォローを入れる。

 

使徒ホラーを倒した主であるバラゴの強さもそうだが、彼女が気に掛けていたのは・・・

 

「・・・・・・ほむら、よくぞバラゴ様を奮い立たせてくれた・・・・・・」

 

バグギを倒した主の勝利の傍らに居たのは、成長した”我が弟子”であることを思うとエルダは、誇らしさを感じていた。

 

おそらくは、彼女は自分が思うよりも大きく変わっているであろう。

 

今しがた自身に”魔戒札”が知らせてくれたのだ。主であるバラゴの心を慰撫するだけではなく、その道を進むうえで彼女は・・・きっと・・・・・・

 

無表情のエルダがこの場の誰にも知られずに笑みを浮かべたのは一瞬の事だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊する第三ドームの瓦礫はアスナロ市に降り注ぐが、幸いにも周辺の住宅密集地には落ちることはなく、被害は最小限に抑えられた。

 

バグギの放った荷電粒子ビームの影響は至る所にあり、様々な場所で火災が起きていた。

 

それでも人々は立ち上がる。この状況下でそれぞれのできることを行っていた避難活動、誘導、消火活動、救助活動等、多岐に渡って・・・・・・

 

それらの光景をほむらとバラゴは直ぐ近くの塔にの上から見下ろしていた・・・・・・

 

バラゴは顔を見られたくないのかフードを目深に被っている。

 

「・・・・・・魔戒の者は一般社会の問題に首を突っ込んではいけないか・・・・・・」

 

ほむらは眼下で逞しく活動をしている人達を助けたいという思いに駆られるが、自身の役目は”バラゴ”と共に脅威であった”雷獣”の討滅であり、それが終わったのならこの場から去らねばならないとエルダから教えられていた。

 

「そうだ。もう僕達にできることは何もないさ。目的を果たせたのなら、彼らの事は彼らで行うだろう」

 

「そうかもね。私達のできることはもうないのね」

 

振り返るほむらにバラゴは改めて驚いていた。14歳の少女から大人の女性に成長した姿に・・・・・・

 

「バラゴ・・・少しだけ話を聞いてくれるかしら?」

 

「・・・・・・何を話したいんだい?ほむら君・・・・・・」

 

「えぇ、私は人間というモノはどうしようもなくて救いようのないものだと、ずっとずっと思っていた・・・だけど、今回の事で”人間”は愚かだけど救いようがないわけじゃないって・・・・・・」

 

この時間軸で知った”陰我”。人間の邪心が生み出した”闇”・・・・・・

 

そこから魔界より現れる魔獣ホラーの存在に更に彼女は、人の救いようのなさを思い知るのだが・・・・・・

 

「気が付かなかっただけで、すぐ近くに気にかけてくれる人が居て・・・命を懸けて、こんなどうしようもなかった私に伝えてくれたあの娘が短い間だけど・・・教えてくれたことを・・・・・・」

 

その娘とは、あの人の業の果てに生み出された”彼女”のことであるとバラゴは察した。

 

”彼女”の命を懸けた行いが”ほむら”を変えたというのだろうか?目の前のほむらの姿は未だに信じられなかった。

 

「それに、こんな状況でもこの街の人達は今、あの人たちのやれることをしているわ・・・」

 

思えばこの街の”呪い”、”陰我”を見守っていた京極神社の神主 京極 カラスキもまた現れた”バグギ”に対して、暗黒騎士 呀に助力を願うという禁忌を犯してでも、彼自身の大切な友人達の住まう”世界”を守ろうとしていた。

 

”兄”もまた決め手となるべき”雷清角”を届ける為に自分達の所へ来てくれた。

 

だが、その”雷清角”が在っても最後の最後まで勝機を掴もうと動いてくれていたのは・・・・・・

 

「まさか”雷清角”を使わないで、あの雷獣を一太刀で斬った貴方は本当に強かったのね、バラゴ」

 

暗黒騎士 呀。魔戒騎士の逸れモノである忌まわしい存在であるが、そんな存在でも結果的に”アスナロ市”をバグギの脅威から護ったのだ・・・・・・

 

笑いかけてきたほむらにバラゴは、今まで誰も聞かせてくれなかった言葉を貰っていたのだ・・・・・・

 

”強い”・・・”弱さ”を憎み、ひたすらに”力”を求めてきた彼が求めてやまなかった・・・・・・

 

その言葉を噛みしめるようにフードを目深に被ったバラゴの頬に一筋の涙が流れた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

昨夜の騒動より一夜明けるが、人々は休まずに街の復興を行っていた。

 

手の空いているモノはできることから、瓦礫の撤去から怪我人の看病、さらには炊き出し等・・・・・・

 

そんな中に彼女らは居た。

 

「こっちです!!皆さん、こちらに並んでください!!!」

 

炊き出しを手伝っているのは、若葉 みらいであった。彼女はここで昨夜の”騒動”で自宅に帰れなくなり、もしくは避難してきた人達の支援活動に参加していたのだ。

 

「みらいちゃん。おにぎりできたよ!!」

 

珍しく声を張っていたのは、宇佐木里美だった。

 

彼女もまた魔法少女ではなく、一人の少女として活動していたのだ。

 

「おやっさん!!!次行ってくる!!!」

 

「おいおい、おやっさんはやめろ・・・俺はそんな年齢じゃないんだが・・・・・・」

 

「立花って名字と、喫茶店のマスターって言ったら、そう呼びたくなりますよ」

 

立花 宗一郎がぼやいている傍でジン・シンロンが笑いながら話しかける。

 

「しっかし元気な子ですね・・・あの子、何処かで見たことがあるんだよなぁ~」

 

ジンは炊き出しのおにぎりを皿一杯に載せて駆け出した少女 ユウリの後姿をみて呟く。

 

「そういえば、昨日は何処に行ってた?色々と大変だったんだぞ」

 

昨夜の出来事は未だに信じられない出来事だったが、一晩明けてみれば何事もなかったように事が終わっていたのだから・・・・・・

 

「それよりもお前は良いのか?妹さんのことは?」

 

「それがですね・・・ほむらの奴、オレが思う以上にしっかりしてたんですよ。妹って奴は、兄が少しでも目を離すとあっという間に成長するんもんだなって」

 

立花 宗一郎は、普段持ち歩いている”探し人のチラシ”をジンが持っていないことに改めて気づき、さらには既に妹に出会っていることを察した。

 

「だから・・・ここでオレはオレのやれることをやっておかないといけないんですよ。ほむらがやれることをやったようにね」

 

そう呟きながら休憩に区切りをつけて、ジン・シンロンは瓦礫の撤去作業に入っていった・・・・・・

 

撤去作業場に行くと浅海サキが作業着を着て瓦礫に交じっていたガラス片を金ばさみで回収していた。

 

「サキちゃん。少しは休憩したらどうだ?魔法少女ていっても生身には変わりないんだろ?」

 

「いえ、まだやれます。そもそも私が原因ですから・・・・・・」

 

浅海サキは黙々と作業をしていた理由は言うまでもなく”伝説の雷獣”という”脅威”をアスナロ市に呼び込んでしまったのが自分であったことを彼女は強い自責の念に駆られていたのだ。

 

「あの雷獣はもう居なくなったんだ・・・サキちゃんの行動が呼び込んでしまった事を今も後悔する必要はないだろ」

 

「ですが、私達が・・・あんな事をしていたから、こんな事に・・・・・・」

 

本来ならば自分達が責任を取ってあの”雷獣”を倒さなければならなかったのに・・・それを・・・

 

他の者達に押し付けてしまったことが悔しく、それでいて後悔していたのだった・・・

 

「自分の事しか見えてなくて、みっともないところを見せちまった気持ちは分かるぜ。こんな事を言っても、お前は何を言っているんだと思われかねないけどな」

 

ジンは過去に自身もまた”愛した少女”の死を嘆き、自分の事しか見えずに、支えなければならなかった”妹”を支えることが出来なかったことは、今でも後悔している。

 

その結果、ほむらは魔法少女の契約を結んでしまったのだから・・・・・・

 

もしもあの時、ほむらの事を支えていたら彼女は魔法少女になることはなかったのだろうか?

 

そんな”あり得たかもしれない未来”を考えでも仕方がない。その未来が訪れることはないのだから・・・

 

「今を何とかしてこその”その先”なんだろうよ。ほむらは、オレよりもずっと”先”を見るようになったから、オレはそんなほむらに胸を張れるように”兄”として居たいんだよな、これからはな」

 

普段なら、反発する浅海サキだが、自然とジンの言葉が素直に入ってきた。

 

後悔一つしたことがない”人生”は存在するのだろうか?

 

人は多かれ少なかれ”後悔”を内に秘めながら生きていく。その”後悔”とは、一生向き合わなければならない。

 

無かったモノとして”目を背ける”か”忘れ”ようとするかもしれない。

 

だが、それではふとした切っ掛けでその”後悔”が大きなモノとして自身を覆いつくし、潰されてしまうこともあり得る。

 

「これからですか・・・」

 

浅海サキは、自分達に”希望”を見せようとした”和沙ミチル”にとって、残された”プレイアデス聖団”は胸を張れることをしていただろうかと思い返した。否である。

 

だからこそ、自分達の過ちを知ったからこそ、この先をどのようにして生きていく事こそが残された”プレイアデス聖団”のやるべきことなのだろう。

 

「まぁ、そこはサキちゃんの気持ち次第だと思うぜ。オレは説教とかそういうことをいう柄じゃないしな」

 

「でも、貴方はあのほむらさんにとっては、良いお兄さんだと思いますよ」

 

自身を格好悪い兄だったと語っていたジンに浅海サキは、傍でしか見ていなかったが二人は血こそは繋がっていなかったが良い兄妹であると素直に感じていた。

 

「サンキューな。そう言ってもらえるとオレも嬉しいわ」

 

笑いながら二人はそれぞれの作業に戻っていった・・・

 

「ふぃ~~、久々の肉体労働は結構、肩にくるんだよねぇ~~」

 

赤い髪を揺らしながら、メイ・リオンは重い瓦礫を退かし、一息ついていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 京極神社

 

ほむらは、昨夜バラゴと共に帰還してから、疲れてしまったのかそのまま意識を失い、眠りについてしまった。

 

バラゴもまたバグギとの戦いによる傷と疲労により、彼自身もまたほむらとは別の部屋で治療に努めていた。

 

彼女の傍らではエルダが成長したほむらの姿を見ていた。

 

いつものように無表情であるが、どことなく表情が和らいでいた。

 

魔法少女というよりも彼女の変身は一種の”魔戒の装備”に近く、侵食する”黒い混沌”の翼に至っては、”陰我”に由来するモノを炎のように焼き尽くす”性質”を持っていた。

 

魔戒騎士に近い攻撃力を得ていたのだ。

 

ほむらは、魔法少女というよりも魔戒導師・・・とも呼べず、女でありながら魔戒騎士に限りなく近い存在に変わってしまった。

 

現在はまだ魔法少女のようにソウルジェムに”魂”があり、変身を行うのだが、いずれは”ソウルジェム”の器さえも砕き、自身の”魂”を取り戻すかもしれない・・・・・・

 

故に彼女の”希少性”は、魔戒騎士、法師、番犬所、はては元老院も目を付けるであろう。

 

状況によっては彼女をホラーを倒す為だけの道具に仕立てる可能性も考えられる。

 

または”突然変異”でもある彼女の”血”を使うか、浅ましい感情を抱く”魔戒騎士”も現れるかもしれない。

 

そのことを考えると、何故か怒りに似た不快感を感じる。自身もまたバラゴの下僕であり道具でしかないのに。

 

矛盾したそれでいて身勝手な想いなのだが、エルダは久々に感じる自身の感情が心地よかった。

 

ほむらの役割は主であるバラゴの心を慰撫する”役目”であったのだが、彼女は今やそれすらも超えようとしている

 

そんな彼女を”師”として鍛え上げられたことに”エルダ”はかつて闇に堕ちた時に、捨て去った想いが息を吹き返していたことに気づく・・・・・・

 

(・・・・・・最後の魔戒導師として生きてきたが、まさか闇に堕ちて魔戒導師を継ぐことが出来るお前に出会えるとは、奇妙な縁もあったものだな・・・・・・)

 

エルダはほむらの頬を壊れ物を扱うように触れる。

 

かつて”魔戒導師”として、後継者を育てようと思わなかった訳ではなかったが、魔戒導師の素質を持つ者はほとんどいなかった為、自分が最後の”魔戒導師”になると考えていたのだが・・・

 

そして、暁美ほむらは、魔戒導師として”大成”するであろう・・・

 

故に彼女は、主である バラゴと共に歩むべき存在なのだと・・・・・・

 

彼女は衣装の内側より黒い革製の手袋を取り出し、ほむらの枕元に置く。

 

彼女の手は、呀の鎧を素手で触れてしまったことにより酷い火傷に似た傷で覆われていたのだ。

 

如何なる治癒も癒すことが叶わないほどの”邪気”の傷跡なのだった・・・・・・

 

それだけ”主”である暗黒騎士 呀の”陰我”が強いのだと思い知らされる。

 

その傷跡を隠すためにエルダは、特別に編んだ黒い手袋を彼女に用意したのだ。

 

(・・・今はゆっくり休むがいい。私が倒れたとしてもお前ならば、上手くやれるだろう・・・)

 

明日には見滝原へ戻ることになっている。だが、見滝原で起こる”先の未来”には・・・・・・

 

”バグギ”と同様・・・・・・もしかしたら、それ以上の”何か”が息を潜めているのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

京極 カラスキは境内であるものを作っていた。それは大きな石碑であった。

 

以前より考えていたのだが、実際に作ろうと思うと躊躇してしまい、今の今までお預けになっていたのだが・・・

 

「おいらも何をやっているんだがと思わなくもないんだが・・・ほむらちゃんのお願いだから仕方ないか」

 

カラスキの手元には昨夜戻ってきたほむらから渡された”ソウルジェム”の欠片があった。

 

”供養”してほしいと願われた時に、以前から考えていたことを実行に移すことにしたのだ。

 

「”少女達の祈りの石碑”ってところか・・・」

 

その石碑に特殊な法具を使い、一人の少女の名を刻む。”和沙 ミチル”と・・・・・・

 

さらには、”ミチル”の名をその下に・・・

 

「今のところ分かっている魔法少女の名はこれぐらいか・・・」

 

その石碑は居なくなった”魔法少女”達の名前が刻まれていた・・・・・・

 

望むのならばここには、新たに魔法少女の名を刻むことが出来る。

 

それは、残された者たちが”彼女”達を忘れないという意思と供養を願うための・・・・・・

 

「おっとっ!?忘れてた、お前さんの名前も刻んどくよ。死んだら皆、仏だからね」

 

一瞬、躊躇するのだが、彼女の名前も刻んでおく。”真須美 巴”・・・・・・

 

「しかるべき供養をしないと・・・怪異は何処かで息を吹き返すからな」

 

もはや魔法少女というよりも”ホラー”ではないかと思う彼女であったが、一応は供養しておかないと祟られるかもしれないので念入りに行うのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 第三ドーム跡

 

数日後に開催されるはずだった”科学博”の会場は、その痕跡すらないほど崩壊していた・・・・・

 

様々な施設の残骸が無造作にオブジェのように佇んでいる。その跡地をある青年が見下ろしていた。

 

「バグギは倒されたか・・・良くやったものだよねぇ~~」

 

明良 二樹は、考えうる限りで最も恐ろしい力を持ったバグギが倒された事、それを倒した暗黒騎士に彼なりの賞賛の言葉を贈るのだった。

 

「あぁ~~、ここに居たぁっ!!!もう~~、此処に居るなら居るって言ってよねぇ~」

 

背後から騒がしい声が響いてきた。振り返ると彼よりも少しだけ年齢の若い女性が駆け寄ってきていた。

 

「ごめんね。復興作業でここまで来てたからね、それよりも何故、ここに来たんだい?」

 

この女性と会うのは、今夜遅くの予定だったのだが・・・・・・

 

「それなんだけどね、巴ちゃんが亡くなったってメールが来て、それであの子が残した”魔導具”を大量に納めた倉庫が見つかってね!!それをフタツキに知らせたかったんだ!!!」

 

「そういえば、自分が死んだらこのメールを見ろって言ってたけど、まだ見ていなかったや」

 

”遊び友達”が居なくなったことに彼なりに悲しみを感じていたようであった。

 

「そういう君はあまりショックじゃないんだね・・・そういうもんなのかい?魔戒法師っていうのは・・・」

 

「仲間が死ぬなんて日常茶飯事だよ。私達の場合は・・・ホラーにやられるのも、味方に裏切られるのもね」

 

真須美 巴から聞いた”魔戒法師”像からかなりかけ離れていると明良 二樹は思う。

 

服装も一般人のそれであり、法衣等は身に着けていない・・・

 

このアスナロ市で見た魔戒の術を使う”暁美ほむら”を見ると、彼女はかなり欲望に忠実のようだった・・・

 

「それが君だからかな・・・良いよ・・・早速、巴ちゃんの遺産を見に行こうか」

 

「この香蘭ちゃんが案内するね♪フタツキ♪」

 

二人は、アスナロ市 第三ドーム跡に背を向けるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

早朝のアスナロ市の駅を見滝原へ向かって列車が走り出した・・・・・・

 

走り去る列車をジン・シンロン、メイ・リオン、京極 カラスキらが見送る。

 

軽く抱擁を交わした後、言葉こそはなかったが穏やかな雰囲気であった・・・

 

列車が見えなくなった後、三人はアスナロ市の復興作業へと戻っていくのだった・・・

 

彼女は窓よりここ数日の事を思い返していた・・・・・・

 

(最初は・・・どうしてこんな所にと思わなくもなかったけど・・・今は此処に来てよかった・・・)

 

ほむらは、列車の車窓より離れていくアスナロ市を眺めていた。

 

今この場に居るのは、エルダと自分の二人だけだった。

 

バラゴは、アスナロ市から一旦”東の管轄”へ向かってから、見滝原へ戻ることになっている。

 

彼が何をしているのかは分からないが、少なくとも真っ当な事ではないと彼女も察している。

 

それがどうしたと思う。バラゴが”悪”ならば、自分もまたそうであろう・・・

 

”闇”を歩くことで”誰か”を守れるのならば、自分はそれで構わない・・・・・・

 

例え、世界から、神様から見放されるような子が居ても・・・私が守る・・・・・・

 

同じように生まれつき”呪い”に塗れていた”京極 カラスキ”がそうであったように・・・・・・

 

そんな彼が魔法少女達の”魂”を慰めるべく、また残された人達の心の支えとして作ってくれた”石碑”には感謝の念を感じる、

 

幼少の頃から、兄として自分に接してくれた”ジン・シンロン”とも再会できた。

 

兄は自分を情けない兄と言っていたが、本当に情けないのは妹の自分であった。

 

兄は何も悪くはないのだ・・・悪いのは、拗ねていた自分だったのだから・・・・・・

 

こんな自分を”妹”として迎えてくれることに感謝していた・・・・・・

 

今の自分にはやらなければいけないことがあることは伝えている・・・

 

自分を心配している”家族”については、何とかすると言ってくれるのだから、兄は妹にとって頼りになる存在であることを実感する。

 

これからの事に気づかせてくれたメイ・リオン。

 

”頑張ったね”とこんな自分を褒めてくれ抱きしめてくれた女性・・・

 

明るくそれでいて表裏のない彼女とは、またいつか会いたいモノだった・・・

 

魔法少女の事を知りながら、魔法ではなく自身の”可能性”を信じた人・・・・・

 

そして”ミチル”・・・自身の”魔戒札”による導きで出会った”少女”。

 

短い間ではあったが、まさか求めるだけであった自分が彼女に与えられる存在になっていたことに・・・

 

姉 アスカが自分にしたように彼女と接した時間は、短く儚いモノだった・・・・・・

 

そして守ることが出来ずに・・・命を散らせてしまった・・・

 

彼女が命を懸けてくれたからこそ、今の自分が存在する・・・

 

何時かは現れる”13番目の彼女”に出会う日が来るのだろうか?

 

その彼女には”ミチルの命”が宿る・・・その彼女が何時か生まれる世界を守ってほしい、

 

”約束”を果たすために自分は、繰り返すことを辞め、先に進むことを選んだ・・・・・・

 

これから戻る”見滝原”に居る”鹿目まどか”・・・・・・

 

彼女との出会いがすべての始まりだった・・・

 

”彼女の死”をきっかけに魔法少女と契約をしたことでその未来は変えることが出来ないものになってしまった。

 

自分に手を差し伸べてくれた彼女を守れるようになりたいと願った・・・・・・

 

何度も何度も繰り返した結果に目を背けてきた・・・・・・

 

だが、その先に進むのならば”鹿目まどか”と向き合わなければならなかった・・・・・・

 

繰り返してきた”旅”に結論を出さなければならない・・・その時が今なのだろう・・・

 

「・・・まどか・・・貴女がどんな道を選んでもそれが、貴女の意思ならば私はどんなことでも受け入れるわ」

 

お節介かもしれないが、今まで通りに”見滝原”で動くが、どうなるかはわからない・・・

 

”見滝原”で起こるこれからの”出来事”を”魔戒札”が知らせていた・・・・・・

 

その札の絵柄は”女教皇”・・・・・・

 

「その意味を教えてもらえるかしら?」

 

「暫くは会わないと思っていたけど・・・貴女から居て私はどう映るのかしら?」

 

気が付くと14歳の自分ではない自分が足を組んで座っていた。

 

「そうね・・・私が秩序を乱す”悪魔”とすれば、貴女は・・・目的の為ならば、闇を歩くことも厭わずに、神にさえ弓を引く・・・・・・”堕天使”とでも言っておいた方がいいかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 

 

 

 

 

                        終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使徒ホラー バグギと暗黒騎士 呀との戦いより数か月後のアスナロ市より始まる・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある場所で・・・・・・

 

かつてプレイアデス聖団の拠点であった、その場所で”彼女”は・・・

 

13番目の彼女は目覚めた・・・・・・

 

カプセルの中から彼女は、この世界へ一歩を踏み出す・・・・・・

 

「わたしは・・・・・だれ?どうして・・・ここにいるの?」

 

続くように小さなカプセルより小動物が這い出てきた・・・・・・

 

何処となくインキュベーターを思わせる奇妙な姿をしていた・・・

 

「アレ?おいらは確か・・・まぁ、良いか。今は此処から出ようかな」

 

用済みとして封印されていた自分が何故、目覚めたのかは分からないが目覚めたのなら、自身の役目を果たさなければならない・・・

 

「魔法少女は・・・どこに居るのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市に一人の青年が訪れる・・・・・・

 

「この街に来ていたのか?」

 

「そうだよ、番犬所も元老院も使徒ホラーの脅威を退けたのが”暗黒騎士”だって事は認めたくないからって、この事実をなかったことにしていたらしいよ」

 

青年の耳にあるイヤリング 目玉を模した魔道輪 ギルバが応えていた。

 

「そうか、この街で一番、怪異にホラーに詳しい場所は?」

 

「アスナロ市の東北にある 京極神社だよ。アキラ」

 

五道 アキラはアスナロ市へと足を踏み入れるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続 「夜射刃”YAIBA” 灼熱騎士鎧伝~真夜中の鎖悪戒子(サーカス)~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ちょっとした特別編のような本編のサイドストーリーのような話を描きたいと思って書きました”アスナロ市編”

大人の女性に成長したほむらは、悪魔ほむらからみて”闇の力”に限りなく近い”それ”を宿しながらも、守る為ならば”神”にさえ弓を引くであろう彼女を”堕天使”としてみています。

次回より、見滝原へ戻ります。同時期に活躍していた”風雲騎士一家”が活躍している一方で暫く鳴りを潜めていましたマミさんを中心に暗黒騎士一行も合流の予定です。

また・・・見滝原のホラー化したそっくりさんも(笑)

最後のアレですが、不定期更新でできたらなと以前から温めていたものです。

灼熱騎士が主役のSSってないんだよねと思いつつ、ないのなら自分で書いてしまえと思いかずみマギカとのクロスオーバーのものになります。

明良 二樹はさらに、戦力が充実の予定(笑)








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呀 暗黒騎士異聞 第二部
第弐拾漆話「 回 転 (序)」


久しぶりの見滝原です・・・

まどマギ本編では、さやかが魔女になった辺りですが、早くに決着がつきました。

この時間軸では、ほとんどの子が生き残っています。

イレギュラーであの娘が逆襲を始めます(汗)




数か月前 見滝原

 

彼女 鹿目まどかは、普段通りに学校を終えて、一人帰宅の途に就いていた。

 

突如として訳の分からないまま彼女は、大きな衝撃を受けて鈍い音と共に視界が大きく揺れ、アスファルトの上に鈍い音と共に打ち付けられた。

 

頭を強く打ったためか痛みを感じることなく視界が赤く染まり、見覚えのある制服を着た男子が怯えた表情を浮かべ勢いよく背を向けて駆け出して行った・・・

 

自分がどんなことになっているかなんて考える事すらできずにただぼんやりと意識が深い場所に沈んでいく。

 

それから自分がどうなってしまったのか分からない・・・・・・

 

ただ自分という存在が暗い場所に沈んでいく・・・ただそれだけだった・・・・・・・

 

暗く、冷たい、何もない場所・・・・・

 

もしもこの世の果てというモノが存在するのなら、まさしく此処なんだろうと・・・

 

だって、ここには”命”を”温もり”を感じられない・・・・・・

 

そんな場所からある”世界”が見えた・・・・・・

 

 

 

 

そこが過去なのか未来なのか分からない・・・・・・

 

だけどそれは・・・知らない”誰か”によって”改変”させられた世界・・・・・・

 

希望を見た彼女達の願いを無にしない為に・・・呪いが生まれる前に消し去る・・・

 

儚い存在である”魔法少女”を救うために・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

救うために繰り返す・・・繰り返す・・・・・・

 

一つの願いが生まれ、呪いに変わる前に消し去る為に・・・繰り返す・・・

 

繰り返す・・・繰り返す・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・いつまで私は救いを繰り返せばいいの・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

回る・・・回る・・・・・・同じこと繰り返す・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

くるくると・・・クルクルと・・・狂々狂々と・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

事故から一か月後に鹿目まどかは目覚める・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・病院の天井・・・・・・ほむらちゃんと同じだぁ~」

 

目覚めた時、彼女は自身の発した言葉を覚えていなかった・・・・・・

 

一か月程で、彼女の髪は長く伸び・・・それは”何処かの改変された世界の知らない誰か”の姿によく似ていた

 

光の反射なのかは定かではないが、その瞳は”金色”の輝きを放っていた・・・・・・

 

 

 

 

 

見滝原 中学校 職員室

 

見滝原中学校の職員室は、今までにない重い雰囲気の中にあった・・・

 

このような重い雰囲気を肌で感じたことのあるのは、数年のベテラン教員だけだった・・・

 

「以上が・・・今回の件ですが・・・・・・早乙女先生。何か、今回の事で彼に変わったことは?」

 

五十代前半の教職員が早乙女 和子に問いかける。

 

「いいえ・・・何も聞かされていません。ただ、治るはずのない彼の手が治ったにも関わらず・・・・・・」

 

あまりにも悲痛な事件だった。せっかくの奇跡が理不尽にも踏みにじられたことを・・・

 

「警察から今回の犯人は、柾尾 優太という男とのことですが、彼はこの学校の卒業生だとか・・・」

 

別の教員から今回の議題である”上条 恭介”について話し合われていた。

 

何故なら、彼は昨晩、突如として”亡くなった”と彼の親族から連絡が来たのだから・・・・・・

 

天才的なヴァイオリニストである彼が在校生であることを全面的に宣伝を行っていたのだが、今回の件でどのように学校側から説明を行うかを話しあっていたのだった。

 

早乙女 和子は学校側の対応に内心辟易していた・・・

 

言うまでもなく一度、再起不能な怪我を負った時はアッサリと見捨てた挙句、再起したらしたで手の平を返す等にすり寄る姿勢には、生徒をまるで学校のブランドのように扱っているように見えた・・・

 

同時期に親友の娘であり、生徒である”鹿目まどか”が意識不明の重体に遭った時は、まるで気にすることさえなかったのに・・・

 

今度も一人の女生徒が火事に遭い、現在警察に保護されていることを知っていたが、そのことが会議に上がることはなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

その頃、巴マミは刑事 並河に見送られて自身の自宅に戻っていた・・・・・・

 

幸いにも自宅は玄関の扉が多少焦げていただけで、部屋そのものは無事であった・・・

 

だが向かい側の焼けた扉の跡には”KEEP OUT”の黄色いテープが巻かれており、気味の悪い暗い空間が覗いていたのだった・・・

 

聞けばあの青年は、沢山の女性を自身の”餓え”を満たす為だけに殺していたという・・・・・・

 

人形に”餓え”だけが存在し、生きている人間の命を奪うという悍ましい所業を行っていた。

 

「気味が悪いわ・・・今の今まで・・・向かい側にあんなのが居ることに気が付かなかったなんて・・・」

 

マミは急いで荷物を纏めだした。必要な生活用品とさらには自身と両親が残してくれた遺産を持ちだした・・・

 

彼女はこの場に居たくなかった・・・あのような悍ましい”青年”が居た場所の近くに居たくなかったのだ。

 

リビングを横切ると彼女は視界にかつて”友達”用に用意していたペット用の寝床を見た。

 

自分が魔法少女になる切っ掛けであった”キュウベえ”用のモノであったが・・・

 

今になって分かったが、キュウベえは”友達”という感情はなかった・・・

 

感情などなく、利用価値があるから自分の傍に居ただけだ。そのことを思うとそれに気が付かずに、友達としてみていた自分の浅はかさが嫌になる・・・・・・

 

そんな感情に囚われているだけではないけないと彼女は、何とかして気を紛らわしたかった。

 

ふと冷蔵庫に彼女が作った”アップルパイ”が少しだけ残っていることを思い出したのだ・・・

 

ここ二日の事で食もあまり通らなかったが、幸いにも電気は生きており冷蔵庫も向かい側の火災があったにも関わらず心地よい冷気が頬を刺激する。

 

少しだけ遅いが、朝食に”アップルパイ”を取ってからこの家をマミは出ていく事にしたのだった・・・

 

そして二度と戻らないことを思いながら・・・・・・

 

「・・・そういえば今日暁美さんは、アスナロ市から戻ってくるのよね」

 

もしも彼女が戻ったのならば、一緒に居させて貰おうとマミは考えていた・・・・・・

 

久しぶりに彼女に会えると思うと気持ちが明るくなってきていたが、突如としてその気持ちは打ち切られた。

 

チャイムが鳴り、誰かが扉の向こうで騒いでいる。この騒ぎ方にマミは覚えがあった・・・・・・

 

「・・・・・・また来たのね・・・変なところで鼻は良いのよね・・・・・」

 

両親が残してくれた”遺産”を預けろと度々言ってくる親戚の人達だ・・・

 

警察にお世話になっていたこの二日間も度々訪ねてきていたらしい。

 

刑事の並河さんが気を利かせてくれていたおかげで合わずにすんだのだが

 

会いたくもないのでマミは、魔法少女に変身し、バルコニーより部屋を後にするのだった・・・

 

その間も怒声に近い声だけが彼女の部屋に響いていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、悲しみの中に居た・・・

 

「うぅ・・・どうして・・・どうして・・・こんな理不尽なことが・・・・・・」

 

自宅の屋敷の一室で彼女は、赤く目をはらして泣いていた。

 

昨夜から何度も涙を流し、その都度に悲しい思いが泡のように浮かびあがってくるのだ・・・・・・

 

そして暗い感情もまた・・・

 

「美樹さやか・・・貴女さえ願わなければ・・・こんな事には・・・そもそもどうして私には・・・・・・」

 

奇跡を叶えることが出来ないことに自分自身が憎かった・・・

 

何処にでもいるその辺の少女ですら願いを叶えられるのに自分自身は何もできないことが・・・・・・

 

「可愛そうにねぇ~。君は誰よりも”彼”に想いを寄せていたのに・・・彼は応えてくれなかったんだね」

 

突然、自分以外に誰も居ないはずの部屋に誰かが立っていたのだった・・・

 

立っていたのは白い少年だった。

 

赤い目が特徴的な整った顔立ちをしたおり、浮世離れした雰囲気を持っていた・・・

 

「貴方は・・・一体誰ですの?」

 

普通ならば”不審者”として、声を上げるべきなのだろうが・・・

 

彼は”普通”の人間とは違う何かを感じさせる雰囲気を持っていた・・・

 

「そうだね・・・魔法少女達の望みを叶える存在”キュウベえ”とも呼ばれているね」

 

”キュウベえ”。この意味を知る志筑仁美は知っていた。奇跡を叶える”存在”の名を・・・

 

彼に縋りつ行くように彼女は思いの丈を叫んだ。

 

「貴方は、わたくしにも見えるのですね!!!そうなんですね!!!」

 

”素質”の無いモノは”見る”ことが叶わない存在がはっきりとした形で目の前にいる。

 

この”事実”に志筑仁美は、心が歓喜するのを感じていたのだ。

 

奇跡を叶える事のできる”存在”が目の前に居るのならば、自分にもできることに・・・

 

「わたくしは、叶えたい願いがあるのです!!!あの方にもう一度”人生”をやり直させたいのです!!!!」

 

彼女の望む事は、非業の最期を遂げた”少年”の復活であった・・・・・・

 

「わたくしには、その覚悟はあります!!!さぁ、叶えてください!!!」

 

白い少年こと”カヲル”は、彼女も今まで接してきた”少女”達のように”魔法”を都合の良いモノとしてみていると内心、呆れていたが、それを表情に出すことなく彼はアルカイックスマイルを浮かべる。

 

「そうだね・・・君のその願いを叶えてあげたいけど、難しいかな・・・君の素質だと・・・」

 

「どうしてですのっ!?!美樹さやかも鹿目まどかにはあって、わたくしにはないって!!!こんな理不尽なことがあってよいのですか!!!!」

 

「少しは落ち着きなよ・・・可愛い顔を晴らしたら駄目じゃないか」

 

何を言っているんだと仁美は睨みつけるが、カヲルは言葉を続ける。

 

「彼女達に見えている”キュウベえ”は、白いぬいぐるみみたいな小動物の姿なんだ。これはある程度の素質を持つ子にだけ見えるようにしているんだ」

 

「言うまでもなく”資格”を持つ子を選別する為にね・・・僕らの目的は、敢えて言うのならば大きな目的のために”魔法少女”の祈りのエネルギーが必要なんだ。エネルギーは大きければ大きいほど効率がいいからね」

 

”見えるようにしておきながら、こちらから声を掛けているんだけどね”と付け加える。

 

冷静に聞けば”魔法少女”は、何かの目的のための”道具”が本来の姿のようであるが、仁美にとってはそんな目的などどうでもよかった。

 

自分の”願い”を叶える事の方が彼女にとっては重要だったからだ・・・

 

「教えてください。そもそも魔法少女の”素質”とは一体、何なのですか?」

 

ここまで自分の”願い”を叶えようとする彼女の姿勢に感服しつつ、彼女が蔑む鹿目まどかですら、インキュベーターの真の目的を追求するのに彼女はそれすらしようとしていないことに内心、笑いが込み上げてきた。

 

「簡単に言えば、どれだけ多くの人達に影響を与える”運命”を持っているかかな」

 

仁美は、カヲルの意外な答えに目を丸くして驚く。あまりにも拍子抜けな答えだったからだ・・・・・・

 

「僕らは感情を持つ種族は、その感情が他の者達に影響を与えることを知り、それをエネルギーとして抽出する方法を見つけたんだ。いずれ多くの人達に影響を与えうる”運命”を持つ少女達こそ”魔法少女”なんだ」

 

「例を挙げるのならば、有名どころだと、クレオパトラ、卑弥呼、ジャンヌ・ダルク辺りかな・・・彼女達はあまりにも多くの人達を動かした。ここまで言えば分かるよね」

 

「おっと、どうして少女だけなのかを忘れていたね。少年の”素質”も悪くはない・・・だけど、次世代の命を生み出すであろう少女の方がエネルギーとしては高純度なんだ」

 

カヲルの話を聞き、自分はやはり素質はないのかと・・・再び表情を曇らせるが・・・・・・

 

「ごめんね・・・君を傷つけたくてこんな話をしたんじゃないのにね。だけど、方法がないわけじゃない」

 

”方法がないわけではない”。カヲルの言葉に、仁美は・・・・・・

 

「ま、まさか・・・方法があるのですかっ!?!」

 

「実を言えば、奇跡を起こすためにあることを人間は大昔にしていたんだ・・・」

 

「そ、それは一体!?」

 

カヲルは、改まった態度で禁じられた”忌まわしき行い”の名を告げる・・・

 

「・・・・・・生贄だよ・・・・・・奇跡を起こす為に多くの人達の命を捧げるんだ」

 

あまりの言葉に仁美は震えた・・・

 

奇跡を叶えたければ、自身の手で他人の命を奪えというものだったからだ。

 

「昔の人の迷信だとも呼ばれるけど、人間の感情・・・大きな影響を与えうる運命を持つ人の命を捧げることができたのならば、奇跡は起こせるんだよ」

 

死んだ”想い人”を蘇らせるのならば、”生贄”はより多く必要であろう・・・

 

カヲルは、何も入っていない”空のソウルジェム”を仁美の前に差し出した・・・・・・

 

「君はその願いの為なら、如何なる犠牲も払う覚悟があると言ったよね・・・その選択をすべきだよ」

 

「因果はどれだけ周りに影響を与えうる人物の素質なんだ」

 

「その因果の素質を僕達”インキュベーター”は見てきた・・・」

 

「世の中の英雄と呼ばれる人間はみな、因果を取り込みさらに強大となっていった・・・」

 

「だから君も因果を蓄えた上で”願い”を叶えることだってできる。理不尽な運命を変えるんだ!!!」

 

カヲルの言葉は志筑仁美の心に黒い影と共に沁み込んでいく・・・・・・

 

「もしもこのソウルジェムが因果に満ち、輝くことが出来れば君は、魔法少女になれる」

 

彼女の心に一つの火が灯ったのだ・・・それは、人の世を恨む”鬼火”であった・・・・・・

 

「・・・やってやりますわ。あの方をこの手に取り戻します!!!誰の手も、借りません!!わたくしの手で」

 

光悦した表情で志筑仁美はカオルから渡された”空のソウルジェム”を手に取り、さっそく自身の”因果”を高めるべく、それを実行に移したのだった・・・・・・

 

心に灯った”鬼火”に導かれるままに彼女は・・・・・・

 

「ひ、仁美っ!?!な、なにを!?!!」

 

彼女は光悦とした表情で書斎に居た自身の実父をその手に掛けたのだった・・・・・・

 

「お父様・・・あの方を上条君に期待しながら・・・見捨てた当然の罰ですわ」

 

”空のソウルジェム”を見ると僅かに何かが・・・”因果”が注ぎ込まれたのだった・・・・・・

 

「まだですわ・・・まだ足りませんわ・・・私の手で・・・願いを・・・・・・」

 

いずれ満たされる”空のソウルジェム”を輝かせるために彼女は、歩み出した・・・・・・

 

自身の願いで”奇跡”を起こす為に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「良いよ・・・志筑仁美さん・・・君はきっと良い魔法少女になれると思うよ・・・・・」

 

カヲルは、志筑仁美の行動に穏やかな笑みを浮かべていた・・・・・・

 

「あははははは、ケイル、ベル、ローズ・・・いや、ガルム。君もこのイベントを楽しんでくれるかな」

 

 

 

 

 

 




あとがき

上条恭介くんが亡くなった後の見滝原の様子・・・

過去に交通事故に遭い、昏睡状態だったまどか・・・

彼女の身に何が起こったのか・・・

いよいよ、仁美ちゃんが逆襲を始めました・・・

普通にホラーに取り憑かれるよりもヤバいことを始めました・・・・・・

人型インキュベーター カヲルも何やら企んでいる模様・・・・・・

魔法少女の”素質”について個人的な解釈を入れてみました。

どれだけ人に影響を与えうる”運命”を持っている。それが魔法少女の”素質”である。

少女なのは”命”を生み出すことのできる存在故に感情エネルギーも高純度なモノが抽出回収ができる為。少年のそれは、そこまで純度が高くないので採集するだけコストの無駄なのでスルー(笑)

この解釈に至ったのは、まどマギキャラで最強候補がマミさんなので、彼女の場合、アイドルになるので、アイドルと言えば様々な方面に感情に訴えるものを持っていますので、多くに人間の感情に影響を与えうる素質ということでこの解釈をしています。

マミさんがアイドルになるのは、まどかマギカポータブルですけど(笑)

ネタとしてみれば、割と面白くプレイできます(笑)

そのマミさんは、暫くソロ活動です・・・・・・




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第弐拾漆話「 回 転 (壱)」

アスナロ市より帰ってきた暗黒騎士組・・・

今回、バラゴが何か思いついたようです。




 

見滝原郊外にある古びた屋敷の近くの森の開けたところでほむらは、エルダによる指導・・・訓練を受けていた。

 

一言でいうのならば”修行”であり、基本的には体術の訓練を行い、さらには魔導具の扱いや操作の指導等も組み込まれている。

 

今回は体術を中心とした訓練であり、ほむらは自身の”力”が劇的に上がったことにより”固有武器”を練りだせるようになっていた。十字の刃を持った杖であり、それを使いエルダと模擬戦闘を行っていた。

 

訓練の内容はすさまじく、成人女性となったほむらから繰り出される杖裁きを同じく杖を使い互いに打ち込み合う姿は魔戒法師のそれではなく魔戒騎士のそれであった。

 

(エルダは、流石だわ。私自身の力が上がったとはいえ、技術はまだまだ粗削りだわ)

 

自身の”力”の大きさを理解しつつ、それを扱うにはまだまだ技術が不足していることをほむらは自身のこれからの課題を自覚する。

 

対するエルダは、

 

(以前と違い、随分と落ち着いてきたな)

 

かつてのほむらは、14歳の少女であるが故の焦りと危なっかしさを感じさせていたが、いまの成人女性の姿となった彼女は見た目同様に落ち着いており、自身や周りの事を大きく見られるようになっていた。

 

故にエルダもほむらをもっと鍛え、主と共に歩む”唯一の存在”になれるようにすべく、その指導にも熱が入っていた。

 

互いの心情も熱が入っており、訓練は熾烈を極めるのだった

 

 

 

 

 

 

東の番犬所

 

バラゴはアスナロ市から東の番犬所を訪ねていた。

 

いつものように無言の執事服の男 コダマと三人の白い少女達が跪いていた。

 

ケイル、ベル、ローズの三神官は彼女らの主であり協力者であるバラゴに献上品として”ホラー”が封印された”短剣”を差し出す。12本揃った短剣を受け取る。

 

「バラゴ様、この度の使徒ホラーの討滅、おめでとうございます」

 

「流石でございます」

 

「やはり貴方の進むべき道こそ、我らが未だ見たことのない”覇道”です」

 

三神官の賞賛の言葉をバラゴは以前と違うモノを感じていたのだった・・・・・・

 

言うまでもなく”心”に響かないのだ・・・以前ならば一時的ではあるが気をよくしていたのに・・・・・・

 

使徒ホラー バグギを倒した後、成長した彼女の言葉と比べるのも烏滸がましい・・・

 

”あなたは強かったのね、バラゴ”

 

実の母からも聞かされることのなかった”言葉”・・・

 

誰よりも望んだ”言葉”を掛けてくれた彼女の存在が自分の中であの夜から大きくなっていたのだ・・・・・・

 

「・・・・・・そうか、ではこの短剣はいつも通り貰っていく。この黒炎剣に封じられた”バグギ”を”短剣”に封じてもらおうか」

 

アスナロ市で討滅した”バグギ”は黒炎剣に封じられていた。強大な力を振るっていたホラーであったが、今はその力の全てを失い、何もできない状態にあった・・・

 

かつての力であれば、封じられても強引に破ることも可能であったのだが・・・・・・

 

12本の短剣に封じられた”ホラー”は今までのように喰らうとして、”バグギ”に関しては取り込むよりももっと別の使い方をするべきだと彼は考えていた・・・・・・

 

使徒ホラーに数えられる強大なホラーをただ”力”をモノにするのではなく、その存在を利用するのも悪くはないだろうと・・・・・・・

 

「使徒ホラーで何をなさるつもりですか?」

 

ケイルの疑問にバラゴは応えることなく背を向けて出ていった。

 

その様子に三神官は疑問を抱くのだが、その疑問はバラゴが傍に置いている”存在”にあると考えた・・・

 

「ここ最近のバラゴ様は、あの女に随分と執心のようですが・・・」

 

「アスナロ市での出来事で随分と様変わりしたようですね」

 

「あの女の容姿は、バラゴ様が失われた”存在”に似ております」

 

三神官は、バラゴのここ最近の変わりように胸騒ぎを覚えるのだった・・・・・・

 

「バラゴ様の様子も気がかりですが、見滝原に蒔いた”種”は芽吹くでしょうか?」

 

「ええ、あの感情を持ったカヲルという個体が動いているようです」

 

「そういえばあの小娘が”陰我”に走ったようですが、その原因となった男は確か・・・」

 

「ホラーになっています。当然のことながら」

 

「哀れなモノですね・・・まぁ、今までの退屈な時よりもずっと面白いことになるでしょうね」

 

三神官は、見滝原で起こっている”事態”が彼女らが望むかのように”混沌”が始まろうとしていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原 志筑仁美自宅

 

見滝原市内でも有数の資産家である彼女の自宅は所謂豪邸と呼ばれる程の規模を持っている。

 

その豪邸の中を肉を引きずるような音を立てながら彼女 志筑仁美は地下倉庫へ”それ”・・・彼女の母親だったモノを無造作に放り込んでいた。

 

先ほど自身の手に掛けた父親と重なるようにした。

 

母親の首元には”縄”で締め上げられたかのような跡が付いていた。

 

自身の因果を高めるために”生贄”を・・・他者の命を集めているのだが・・・

 

”空のソウルジェム”に満たされた”因果”はほんの少しだけだった・・・・・・

 

「・・・・・・一向に溜まりませんわね・・・私の親ではこの程度ですか・・・・・・」

 

”彼”を見捨てた罰として自身の因果を高める役に立ってもらったが、注ぎ込まれた因果は微々たるものであった。

 

彼女は”因果”をより効率的に高める為に古今東西に行われた”生贄の儀式”について調べ出した。

 

彼女は古今東西で行われた生贄は”年の若い少年少女”の方がより高い効果を得られると当時の司祭や呪術師は考えていた考察に目を通した・・・

 

家の繁栄を願うべく一部の者は、”シロ”として子供を神の供物として捧げた行為もまた存在している。

 

これはあの白い少年から聞いた”魔法少女”の素質と重なる部分も多い・・・

 

ならば自分の因果を効率よく高めるには・・・・・・

 

「・・・・・・生きるだけで無意味に過ごすぐらいならあの方の才能を蘇らせることの方が有意義ですわ」

 

一瞬、鹿目まどかの姿が浮かんだが彼女に手を掛けるのは近くに魔法少女や魔戒騎士が居る為、リスクが高すぎる。

 

故にリスクを減らし、一般の自身と同年代の”少女”もしくはそれよりも幼い子らの”命”、”因果”を集めることにしたのだった・・・・・・

 

彼女は、本日は学校を”体調不良”を理由に休んでおり、今はここで英気を養い放課後の時間に行動を起こすことにした。

 

それまでは、体力と精神を落ち着ける為に一休みする為にお気に入りのベッドに身を預けるのだった・・・

 

思いのほか、よく眠られるであろうと思いながら・・・・・・

 

枕元には彼女の父を手に掛けた”ナイフ”が鈍い光を放っていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原へ帰還したバラゴを迎えたのは、ほむらとエルダであった。

 

ほむらはエルダに倣って膝を付いていた。少し前は不貞腐れた表情と態度で居たほむらであったが・・・

 

その様子にバラゴは、驚いていた。思わず・・・・・・

 

「ほむら君。その態度はどういう心境の変化なのかい?」

 

顔を上げてほむらは、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる。

 

「ふふふふ、前は貴方の前で子供っぽい態度で居たから、少し大人らしい対応をすべきかと思ったのよ」

 

バラゴの驚いた顔が見られたことが可笑しかったのかほむらは笑っていた。

 

「・・・ほむらよ。バラゴ様をからかうではない・・・お前は普段通りでよい」

 

「今までの私の態度は、あまり褒められたものではないわ、エルダ」

 

「・・・そうだな。今のお前のその姿相応に振舞えればそれでよい・・・」

 

これはかつてのエルダにとっては許しがたい態度であったのだが、エルダの対応は少し呆れているが、穏やかな態度であった。

 

二人の間に漂う穏やかな雰囲気にバラゴは戸惑いながらも彼女らの案内で久しぶりの屋敷の中へと入っていくのだった。

 

黒猫のエイミーもまた以前ほどバラゴやエルダを警戒していなかった。

 

それでも近寄ることはなかったが・・・

 

 

 

 

 

屋敷の大広間でバラゴは、バグギを封印した短剣をテーブルに置き、エルダにこう告げた。

 

「エルダ。私は”バグギ”をその力を利用するよりもその存在を利用することを考えたのだ」

 

「・・・・・・バラゴ様。確かに、魔雷ホラー バグギならば貴方様のお目に適うモノが仕上がるでしょう」

 

二人のやり取りにほむらは、アスナロ市で猛威を振るった”雷獣”の処遇に・・・

 

(・・・存在を利用して”魔導具”にしてしまおうなんて・・・恐ろしいことを思いつくわね)

 

内心、魔導具の枷を破壊して再び蘇るのではないかと危惧するが、過去に討滅され”魔界”に送還されてからも何度も現れていることを考えるとここで”魔導具”にし、その意識を閉じ込めることで、これから先”人間界”に出てくるようなことが無いようにしておく方が、今後の事を思うと最善であるとほむらは考えた。

 

バグギの存在を知り、アスナロ市でそれを見張っていた京極神社の神主やその後の子孫の事を考えると、ここで手を打っておいた方が彼らの為になるであろうと・・・・・・

 

最もバラゴがほむらのような考えを持っているかは定かではないが、結果的にはアスナロ市に今後、バグギが現れることはなくなる・・・・・・

 

魔戒騎士の持つ”魔導具”は、その中に”人間に友好的なホラー”の魂を入れたモノである。

 

魔界と人間界には一定の約定が存在しており、それらを破って”陰我”をゲートにしてこちら側に現れるのが、”プリズンホラー”と呼ばれ、魔戒騎士や法師の討滅対象になっている。

 

魔戒騎士に協力する友好的なホラーが逸れモノである暗黒魔戒騎士に協力してくれること等ないだろう。

 

友好的なホラーでなければ、力で協力を取り付ければよい。

 

”バグギ”を魔導具という器に封じ込め、強引に協力を取り付けるというモノ。

 

念には念を入れ、”バグギ”の名前も奪い、その”力”を永遠に奪い、バグギが持つ高い知能とその知識を役立てさせるというものだった・・・

 

”名前”を奪うという行為にほむらは、まるで”悪魔”のようだと内心呟いた。

 

”悪魔”という存在は”魔界”と呼ばれる場所に本体があり、人の世に出てくる悪魔自身は分身であり、倒したとしても本体がある限り、世界の何処かで蘇るという話を聞いたことがあった。

 

”悪魔”にとって”名前”とは力と存在を証明しており、それを無くすか奪われてしまうと全てを失ってしまう。

 

ホラーもその姿を見た人から”悪魔”という伝承で伝えられている為、”悪魔”に近い生態を持っていることはある意味当然のことであるかもしれない。

 

エルダは即座に作業に取り掛かっていた。

 

バグギが封じられた”短剣”を既に描いていた魔法陣の中央に配置し、鳥と髑髏を掛け合わせたようなデザインのオブジェを翳す。短剣よりバグギの魂らしき紫電が一瞬走る。

 

魔導具全体に怪しい光が走り、バグギ自身であることを主張するかのように静電気が発生する。

 

戦闘技術や各種の魔導具の扱いを一通りエルダより指導を受けていたほむらであったが、やはりこのような技術を持つエルダは、自身よりも遥かに上に居りその技術を学んでみたいと思うのだった・・・

 

「・・・・・・バラゴ様・・・・・・魔導具いえ、魔導輪完成しました」

 

恭しく頭を下げ、完成した魔道輪をバラゴに渡す。それを受け取り・・・

 

「見事だエルダ。バグギよ、私の声が聞こえるか?」

 

『ああ・・・聞こえるさ、暗黒騎士。我をこのような身に落してくれるとは・・・やってくれるな』

 

無理やり感情を抑え込み、怒りを表さないように振舞っているのが丸わかりであった。

 

「フフフフフフ、お前の力を喰らおうと考えていたが、気が変わったんだよ。使徒ホラーと呼ばれるお前のその高い知能と知識は他のホラーとは比べ物にならない。故に私の役に立ってもらうよ」

 

『・・・・・・我も随分と買われたモノよな・・・まぁ良い。お前のような暗黒騎士に協力する魔獣人と似た感性の連中は居らんからな・・・』

 

魔界に居る人間界に興味のない住人である魔獣人は、自分達のように人間界に行く存在を”下獣”としてみている。

 

奴らの感性は人間のそれに近く、力を存分に振り回し、生殺与奪を力に訴える存在を蔑んでいるのだ。

 

一部のホラーは身体を魔界に置き、魂を”魔導具”に移して魔戒騎士に協力し、

 

さらには、魔天使と呼ばれる人間に友好的なホラーが騎士の鎧を管理している

 

『このまま魔界に戻るのも飽きた・・・ここはお前に付き合ってやるのも悪くはないだろう』

 

魔界に転送されて力を失って過ごすか、バラゴに喰われる事に比べればこのような”形”で存在するのは、ある意味幸運かもしれない。

 

バグギにとっては屈辱であった・・・・・・

 

いうまでもなく”魔雷ホラー”と呼ばれ、魔界でも指折りの強豪であった自身が人間に使役されるなど・・・

 

冷酷非情なホラーではあるが、バグギ自身にも一定の”吟味”は存在している。

 

それは”力こそ正義”というものである。どんなに綺麗ごとを並べても”力”を止めるには”力”でなければ何もできないというモノであった・・・

 

”力ある者”こそが強者であり、あらゆるものを支配する絶対の理なのだと・・・・・・

 

故に敗れた自身は”敗者”であり、勝者である暗黒騎士 呀に何も言うことはできない。

 

圧倒的な力を持って、全てを想いのままにしてきた自身が負けたのならば、勝者に従う以外にないのだ。

 

『良いだろう・・・暗黒騎士。我は既に敗者。伝説の雷獣の名も何の意味も持たない・・・契約をするのならば我に名を与えよ』

 

自身の名すら意味はない。魔雷ホラー バグギと名乗ったところで魔道輪に身を堕とした今の自分には不相応なものであるのだから・・・・・・

 

「そうだな・・・お前に新たな名を与えようお前の名は魔道輪”ギュテク”だ」

 

『ほぉう・・・まさか旧魔戒語で”伝説”を意味する名を我に与えるとは・・・』

 

かつてアスナロ市で恐怖の伝説であった”雷獣 バグギ”であったが、これはバラゴが”伝説”を従えたという意味を持っている。

 

当然のことながらバグギも理解しているが、”従属”などの意味を持つ”旧魔戒語”の名が付けられなかったことは内心感謝していた・・・・・・

 

「これからは我々に協力してもらう。ほむら、君もギュテクに挨拶をしたまえ」

 

「貴方にはいろいろ言いたいこともあるけど、前の事は水に流させてもらうわ、ギュテク」

 

『真須美 巴の言っていた魔法少女か・・・あの時は、気にもかけていなかったが、お前は他の魔法少女達とは、まるで違う存在だな』

 

バグギ改め魔道輪 ギュテクはほむらを興味深そうに見ていた。

 

言うまでもなく彼女は成人した女性である為、魔法少女と呼ぶことはできない。

 

内に秘めた”闇の力”に限りなく近いそれはホラーの天敵である”魔戒騎士”のそれに近いモノを感じられたのだ。

 

『まぁよい。お前の存在は魔戒騎士や法師にとっては、相当希少価値を持つ。用心はしておくんだな』

 

「貴方ってもっと”極悪人”かと思ったけど、わりと親切なのね」

 

『フン・・・我は我だ、どう振舞おうとも我自身であることに変わりはないのだ』

 

少し拗ねてしまったのか魔道輪 ギュテクは少しだけ沈黙するのだが・・・・・・

 

『お前達に一言だけ忠告しておく。メシアに魅入られたモノは例外なくすべて闇に踊らされる駒にすぎないと魔界では伝わっている』

 

「なんだ・・・その忠告は?」

 

今まで聞いたことのないメシアに関する知識にバラゴはギュテクに問いかける。

 

『フン・・・我を従わせるのならば、この意味を自分で解くが良い。その意味が分からぬのであれば、暗黒騎士 呀であっても所詮はその程度でしかないのだ・・・・・・』

 

まるで自分を嘲笑うかのように笑うギュテクの言葉にいずれはと、考えるバラゴであった・・・

 

彼がその意味を身を持って知るのは、ずっと先の事である・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

バグギまさかの魔導具にされてしまうの巻(笑)

バラゴには魔道輪がないという感想を頂き、バラゴ自身が魔道輪を持っているという設定に公式がなくまた暗黒魔戒騎士達と魔道輪の描写がないので、暗黒騎士になった段階で契約を破棄するのかはたまた元々持っていなかったのかが良く分からないんですよね。
持っている暗黒騎士も居ますが、ほとんど”只の魔導具”でしょうという描写でしかなかったり(汗)

新たにホラーを出して、それを魔道具にするよりもいっそのこと使徒ホラーバグギを魔道輪にしてしまおうと思いつきました(笑)
バラゴのお目に適っていて、暗黒騎士に協力(強制?)できそうなのは、このバグギぐらいしか居なかったので・・・・・・
そんなバグギも意外と自身に厳しいな部分もあり敗者は勝者に全てを奪われるという厳格なルールを自身に課していて、今回の敗北はしっかりと認めた上で敗者としてバラゴの魔道輪になりました。
メシアと一体化を図るバラゴに念の為忠告をする。

これは自身を倒したバラゴが始祖であるメシアであっても負けることがあってはならないというバグギ改めギュテクなりの素直じゃない配慮だったりします。

アスナロ市編でまさかのボスをしていたホラーが魔道輪になったので、当然のことながらアスナロ市編でのキャラも見滝原にやってくるかもしれません・・・・・・


どこぞのそっくりさんも・・・・・・


仁美ちゃんは、因果を高めるべくより効率的で若い”命”に標的を定めました・・・

仁美ちゃんが活躍するSSって、意外とないんですよね・・・

ここでの活躍は”陰我”に塗れていますが・・・・・・


エルダとほむらは、色々ありましたが割と仲が良いです(笑)




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第弐拾漆話「 回 転 (弐)」

上条恭介を見送った、さやかのその後・・・・・・

彼女の願った奇跡を踏みにじった柾尾 優太は今も”この世”に”陰我”として留まっています

そして仁美は・・・・・・





 

 

 

上条家

 

痛ましい事件があった上条恭介の家は元通りとは言えなかったが、事件当時よりはマシな状態に戻っていた。

 

しかしながら、この家に住んでいた上条恭介とその母親がこの家で過ごすことはない。

 

何故なら、二人ともこの家に戻ることはなにのだから・・・・・・

 

逝ってしまったのだ・・・・・・妻は、理不尽に命を散らし、息子は絶望の果てに”陰我”に堕ち、消滅した。

 

上条恭介の父は、自宅でそれぞれの遺品の整理をしていた。

 

明日に息子とその妻の”葬式”を見滝原 メモリアで行うことになっていた。

 

その為の連絡も行っており、学校側にも伝えていた。

 

家族が自分一人を残して行ってしまったことに彼の心は暗く沈み、その影響なのか、たった二日ほどで、数年も歳を取ってしまったかのように老け込んでさえもいた。

 

彼は妻のお気に入りだった”花”を数本携え、さらには息子 恭介のヴァイオリンの入ったケースを持ち出した。

 

そしてある人物に連絡を取るのだった。

 

「突然の電話をしてすまないね。さやかちゃん、今から会えるかな?君にどうしても渡したいモノがあってね」

 

彼は愛おしそうに”息子”の形見ともいえる”ヴァイオリン”に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、時刻が放課後になるのを見計らい、外出の準備をしていた。

 

普段の彼女らしからぬパンツルックにさらには、帽子と必要な”道具”をスポーツバッグに詰め込んでいた。

 

詰め込む”道具”の中には・・・・・・

 

「お父様のご友人には、よろしくないお付き合いもあったのですね」

 

もう居なくなってしまった、自身が手に掛けたことに何の罪悪感も抱くことなく仁美は書斎の引き出しにあった一丁の”拳銃”を詰め込んだ。

 

見滝原で大きく顔の効く”志筑”である為に、このような付き合いもそれなりにあったようである・・・・・・

 

「いいですわ。これはわたくしが大切に使わせていただきますわ」

 

少しだけ休めたのか、彼女はこれまでにないぐらい清々しい気持ちを抱いていた・・・

 

”拳銃”を持ち出したのは、万が一”魔法少女”に遭遇した時の為の保険であった。

 

自身の願いを邪魔する可能性がある為、その為の備えに彼女は”戦うため”の準備をしていた・・・・・・

 

彼女が玄関に向かおうとするものの二階の窓より見覚えのある制服を着た男子生徒が自宅に近づいていたのだ。

 

「あら?彼は・・・中沢さんですわね」

 

見たところ、今日休んでいた自分を訪ねてきたようである。理由は言うまでもなくクラス委員長としての仕事で、本日発行されたプリント類や課題を渡しに来たのだろう。

 

本来なら、少年は”因果”を高めるには向かない。だが、ほんの少しだけなら足しになるかもしれない。

 

そう考えた仁美は薄ら笑いを浮かべるが、このような表情を出してはならないと思い、いつものような笑みを浮かべて、迎えるべく玄関に向かうのだった・・・

 

後ろに回した手にナイフを携えて・・・・・・

 

「あら、中沢さん。クラスのお仕事ですか?」

 

「うん、志筑さん。体調は大丈夫?」

 

「ええ、一日休んだら落ち着きましたわ」

 

直ぐに扉の影に迎え入れ、このまま彼を”因果”の足しにしようと行動を移そうとしたが、

 

「おぉ~~い!!ゆうき!!!」

 

いつの間にかクラスメイトの保志が門の所に来ていたのだ。

 

内心、お調子者が邪魔してくれたことに苛立つが、すぐに行動を起こさなかったことに自身は”運命の神様”に愛されていることを彼女は感じた。

 

このまま勢いに任せて行動を起こしていたら、保志に一部始終を見られていたかもしれないのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは、ここ数日の間、自宅に帰らず姉 蓬莱暁美と一緒に暮らしていた”家”に滞在していた。

 

家に帰る気がないというよりも帰っても誰も迎えることもないし、自身もまた迎える気などないので帰ることに意味がないことを知ってしまったからだ。

 

言うまでもなく父 美樹 総一郎が死んだはずの”柾尾 優太”を追っていて、さらには母が行方不明になっていることに何も関心を持っていなかったのだ。

 

そのことで言い合いになり、そのまま喧嘩別れになってしまい今に至る。一応、学校には出ているが・・・

 

父曰く”柾尾 優太”は死んでいないのだそうだ・・・何故なら、死体があの場所で発見されなかったからという理由らしい。

 

父には言えないが”柾尾 優太”は自分が手に掛けている。

 

あの炎と爆発に巻き込まれて生きているはずがないのだ。

 

爆発で粉々になったかもしれないが、奇妙なことに遺体の一部すら見つかっていない。

 

もしもあの人形じみた柾尾 優太が生きている可能性があるのならば・・・・・・

 

「・・・まさかアイツ、恭介と同じようにホラーに取り憑かれたの?」

 

ホラー ミューゼフを討滅したあの後、さやかは魔女や使い魔等を狩りながら、ほぼいつも通りに過ごしていた。

 

杏子とその伯父 風雲騎士 バドらは見滝原にもう一体ホラーが出現していると話していたので、そのもう一体が柾尾 優太がホラー化したものではないかと考えていた。

 

あり得ない話ではないだろう。もしもホラーになっているのならば、自分の願いを踏みにじり、恭介を”陰我”に落すようなことをしてくれたことへの”仕置き”を行わなければならなかった。

 

ソラが魔法少女でも”ホラー”を討滅することのできる”武器”があると言っていたのを思い出し、

 

「ねえ、ソラ。今、暇ぁ~~?」

 

「はい、特に用事はありませんが」

 

さやかは居間で文庫本を読んでいるソラの隣に座ると早速、あの時、聞きそびれたことを改めて尋ねた。

 

「前に伯父様みたいにホラーを倒せる”武器”をお姉ちゃんが持ってた話だけど、実際の所はどうなの?」

 

「はい。ホラーは魔戒騎士らが使う”ソウルメタル製”の武器により討滅が可能ですが、だからと言って、それだけが倒せるというわけではないのです」

 

「それって、どういうことなの?」

 

「魔戒騎士の歴史はかなり長くもしかしたら魔法少女よりも長いかもしれません。さらに騎士よりも古い歴史を持つのが魔戒法師です」

 

「魔戒法師って姐さんが魔法少女と一緒にやってる魔導の力を使った術を使う人たちだよね」

 

「元々は陰我をゲートとして出現するホラーと戦っていたのですが、ホラーは日に日に強さを増し、法師達だけでは対処が難しくなり、ある日ホラーの爪を素材とした鉄を作り上げ、それを選ばれし戦士が矢に括り付けてホラーに当てたところ一撃で粉砕したことにより、それを更に詳細に分析し、鍛えられた”金属”こそが”ソウルメタル”です」

 

ソウルメタルは男のみが使えるモノであることを補足する。

 

「ホラーに対して決定的な攻撃を行うことのできる存在が”魔戒騎士”なのです。ですが、騎士が誕生する以前にもホラーを倒していた存在は居ました。今ではおそらくは居なくなってしまった”竜騎士”がそうです」

 

”竜騎士”については、謎が多く存在そのものを証明することが出来ない為ここでは語られることはない。

 

「ホラーに挑もうとしていたのは魔戒騎士、法師達がほとんどでしたが、彼ら以外にもホラーと戦うために武器を鍛えた方たちも存在していました」

 

ソラの話は、ほとんどが姉 蓬莱暁美によるものであることは間違いないのだが、改めて姉がただモノではなかったと思わずにはいられなかった。今は、それよりも”武器”の存在である。

 

「はい・・・ホラーを倒すためにとある刀匠が自身の命を捧げ、さらにはその刃に屈強な戦士の血と肉を沁み込ませた”霊刀”が一振り存在しています」

 

「屈強な戦士って・・・まさか・・・」

 

「悍ましい話ですが、”経験豊かな魔戒騎士の肉体”を鉄に溶け込ませて鍛えられた故に”ホラー”を斬ることができるのです」

 

”ソウルメタル”と違い、女が使用できるというメリットが存在するのだが、製法があまりにも外道な為に魔戒騎士や法師、番犬所、果ては元老院ですらも”その存在”を闇に葬った”忌まわしき一振り”である・・・

 

現存していようならば、即座に”破壊”されることになっている。

 

だが、それが現存しているのだ・・・・・・

 

「それって・・・今、何処にあるの?」

 

「はい・・・今は、アスナロ市の京極神社に預けられています。早速ですが、数日中にはこちらに届けられます」

 

ソラは、そのような恐ろしい武器をさやかに齎したくはなかったが、いざという時に行動が移せるように準備だけはしておかなければならなかった。

 

出過ぎたことを頭を下げるソラであったが、さやかはソラを責めることはなかった・・・

 

自分の身は自分で守らなければならないのだ、ホラーが襲ってきた時に都合よくそこに騎士や法師が居るとは限らない。

 

自衛の為に備えは万全にしなければならないことを彼女は理解していた。

 

「使わない方がいいと思うけど、いざという時手に届くところに置いておかないと身を守れないかもしれないしね」

 

さやかは、そんな”霊刀”を迎えることに抵抗感を覚え、気が重くなる。

 

突然、自身のスマートフォンが鳴り画面には”上条恭介の父”の名前が表示されていた・・・・・・

 

「もしもし・・・おじ様・・・えっ?今から会えないかって?」

 

”上条恭介の父”からの誘いに息子 恭介を破滅させてしまった原因である自分に何のようがあるのかと”暗い”気持ちになるのだが・・・・

 

『さやかちゃん。君を責めるつもりはないんだ、思い出話をしたくてね』

 

さやかを気遣ってか、無理やり明るい声を出そうとしている様子にさやかは、彼が自分に怨みを持っているわけはなく、どうしても話したいことがあると理解し、放課後に”ミュージックスクールVerite”に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

ミュージックスクールVerite

 

さやかはソラと二人で上条恭介の父が経営する”音楽教室”に来ていた。

 

息子である恭介も生徒であり、さやかも付き添いで何度も足を運んでいる馴染みの場所である。

 

電光掲示板には”CLOSE”と表示されているが、手前のベンチに上条恭介の父親が座っていた。

 

「やぁ、待っていたよ、さやかちゃん」

 

笑顔でさやかを迎える上条恭介の父に彼女はぎこちない笑みで返すのだが・・・

 

「・・・さやかちゃん。君が悪いわけじゃない、馬鹿息子が調子に乗っただけのことだからね」

 

穏やかな笑みを浮かべて自分を気遣ってくれる彼にさやかは、泣きそうになるが・・・

 

「あぁ、泣かないでくれないかい。私は、女の子を泣かす趣味はないんだけどなぁ~~」

 

上条恭介の父は、さやかに戸惑い、何とか泣かないでほしいと願うのだが・・・

 

「あの・・・お二人ともお互いに落ち着いた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

二人の様子を見ていたソラが助け舟を出す。

 

このままでは、二人とも整理の付かない感情のままだと先に進まないからである。

 

とりあえず二人を”ミュージックスクールVerite”の中へ入るように促し、ソラ自身は自販機に行き、”お茶”のペットボトルを二本購入するのだった。

 

 

 

 

 

 

「あの・・・なんだかごめんなさい。アタシ・・・気が動転しちゃって」

 

「わ、私も済まなかった。いやぁ~、格好悪いところを見せたかな・・・」

 

互いに謝る姿にソラは、この二人は似た者同士なのだろうと見ていた。

 

仮にだが、上条恭介がもしも去ることなく、さやかと付き合い、将来結ばれていたらきっと良い関係を得られたのではないかという飛躍しすぎた感想を抱いていた。

 

やはりこのままにしておくと堂々巡りなのでフォローは入れるべきだろうとソラは動いた。

 

「上条さんは、さやかに何かお話があったのでないですか?それを伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、そうだったね。君は・・・」

 

さやかによく似た姿をした少女とは、あの夜に見知っていたが特に話をしたわけではなかった。

 

「ソラと申します。よろしくお願いします、上条さん」

 

お転婆なさやかとは対照的に落ち着いた口調と態度にしっかり者の妹のような印象を受けた。

 

「よろしくね、ソラちゃん。ソラちゃんもさやかちゃんと同じ魔法少女なのかい?」

 

もしも彼女が魔法少女であるのならば、さやかと同じく誰かの為に”奇跡を願い”自分を犠牲にしているのではと言う考えがよぎったが・・・

 

「上条さんが考えているような存在ではありません。敢えて言うのならば”人に非ざる”存在です」

 

「ちょっと、ソラっ!?!」

 

「さやか、上条さんには真実を伝えても構わないと思います。貴女と上条さんは似た者同士ですから」

 

ソラの正体は”インキュベーター”を模した”人工生命体”である為に、そのことで彼女を上条恭介の父に奇妙な目で見られるのではとさやかは、とっさに彼女を庇う。

 

「私の疑問は撤回するよ。何も聞かないでおくよ、そっちのほうがさやかちゃんも安心するし、それに私とさやかちゃんが似た者同士と言ってくれるなんて・・・さやかちゃんのような子が娘だったら、きっと毎日が楽しかったんだろうね」

 

その様子に上条恭介の父は、二人がまるで”姉妹”のような関係であることを察し、それ以上の事を聞かないでおくことともしかしたら”訪れたかもしれない未来”を話してくれたソラに感謝しつつ、彼は本題を切り出した。

 

「すっかり遅くなってしまったけど、さやかちゃんに渡したいモノがあってね・・・」

 

上条恭介の父は、一旦背を向けてから、あるものを取りに行き、それを彼女らの前に出した。

 

「おじさま・・・これって・・・・・・恭介の・・・・・・」

 

「そうだよ。恭介のヴァイオリンだ」

 

事件があった自宅に残されており、それを上条恭介の父が回収していたのだ。

 

「どうして、これをアタシに?」

 

「君に持っていてほしいんだよ。恭介が生きていた証を・・・君が人生を投げ出してまで恭介を思ってくれていた君に」

 

「おじ様。そんなんじゃない・・・そんなんじゃないんだよ・・・アタシは、恭介を救った気で居ただけで、本当に恭介を支えるんなら、魔法じゃなくてもっと別の・・・正しいことをすべきだったんだよ」

 

上条恭介の父の想いに対し、さやかはそれは違うと否定する。

 

彼の失われた”才能”と味わった”絶望”を助けたくて、彼自身ではなく”その一面”だけを見ていただけだった。

 

彼自身が生きているだけでも奇跡で、そこからまた新たに始める事だってできたはずなのだ。

 

”ヴァイオリン”は弾けなくても”作曲”という形で”音楽”をしていたかもしれないし、”リハビリ”を続けて、時間こそは掛かるかもしれないが、彼はヴァイオリンをもう一度弾けるようになったかもしれない。

 

自分は上条恭介を信じることが出来ずに彼に”奇跡”を捧げ、その果てに”陰我”に突き落としてしまったのだ。

 

上条恭介と言う少年を信じられずに、魔法という奇跡に手を出してしまった自分は、彼を裏切ったも同然ではないかと・・・・・・

 

”陰我”に堕ち、ホラーと化した彼が災いを振りまく前に殲滅せざる得なかった・・・・・・

 

それも結局は、風雲騎士 バドに頼まなければならなかった・・・・・・

 

自分は何もできていない・・・自分は、彼を不幸にしてしまっただけなのではと・・・・・・

 

「さやか。私はあの時、貴女に言いましたよね。もしかしたら貴女の独りよがりな部分もあったかもしれませんが、彼を上条恭介を救いたいという気持ちに間違いはないと・・・ですから、貴女は自分を責めないで」

 

「そうだよ、さやかちゃん。私もソラちゃんと同じだよ。恭介を救おうとして、君はあまりにも自分を犠牲にしすぎた。だから、これからは君自身の時間を過ごしてくれないかい?その時間に”恭介”が大好きだった”ヴァイオリン”を時々で良いから弾いてあげてほしい」

 

二人の言葉にさやかは、涙ぐみながらもやはり自分は彼が、上条恭介が大好きだったことを自覚した。

 

そんな彼は”陰我”に堕ち、魂をホラーに喰われたことで真っ当な所に行くことは叶わない。

 

だが、何処かの”時間軸”で呪いに身を堕とした”もう一人の自分”が居てくれたことで、彼自身の魂は救われていた。

 

これからの自分は彼との思い出を胸にしまい、生きていかねばならない。

 

彼が生きていた証、彼が情熱を捧げた”ヴァイオリン”を連れて・・・・・・・

 

さやかは無言で彼の遺品であるヴァイオリンを受け取り、久方ぶりに本体を肩に当て、弓を構える。

 

彼女の様子に上条恭介の父は、少しだけ後ろに下がり、ソラも彼に続く。

 

さやかが弾きたいと思った曲はパッヘルベルの”カノン”であった。

 

弦に指を当て、静かに呼吸をし、さやかは弓を引くことで演奏を始めた・・・・・・

 

ぎこちないながらも彼女の奏でる音色は心地よかった・・・

 

曲を終えた彼女は、普段使わない左腕の指と久しぶりの演奏でいつも以上の疲労感を感じるのだった・・・

 

「どうでしたか?」

 

「うん。やっぱり、君は辞めるべきではなかったよ」

 

久しぶりに聞けたさやかの演奏に上条恭介の父は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

練習用のスタジオで上条恭介の父親は、つい先ほどまで演奏していたさやかの事との話を思い返していた。

 

彼女はもう一度”ヴァイオリン”を始める言ってくれ、その為のレッスンを来週の予定に入れていた。

 

準備として、どの楽譜から始めようかと彼は久しぶりに”楽しい”と感じていた。

 

家族二人が亡くなったことは寂しいが、いつまでも自分が悲しんでいては二人を心配させてしまうと思うと悲しんでばかりではいられなかった・・・

 

きっとさやかもそうであろうと思い、彼女に生きがいを何か希望を与えられないかと考え、息子の形見である”ヴァイオリン”を贈ったのだ。

 

まずは、基礎練習から初めて曲に入ろうかと基礎練習本を数冊、揃えていたのだが・・・・・・

 

”CLOSE”にしていたスタジオの前のエレベーターが点滅する。

 

エレベーターから帽子を目深に被り、スポーツバックを携えた少女が下りる。

 

志筑仁美であった・・・

 

彼女はこれ以上ないほどの憎悪に満ちた目で”ミュージックスクールVerite”の看板を見ていた・・・

 

「息子を見殺しにした罰ですわ」

 

彼の父親と名乗るのも烏滸がましい。

 

息子が殺されることを容認するような肉親など居なくなって当然であると仁美は考えていたのだ。

 

自宅の書斎から持ち出した”拳銃”を試すべく、彼女はスポーツバックより取り出し、そのままスタジオへと足を進めた。

 

「今日はスタジオは休みだよ。志筑さん」

 

上条恭介の父は、自分を尋ねに来た志筑仁美の様子がただ事ではないと察していた。

 

「ええ・・・今日はお休みでしたわね。貴方はもうお休みになってよろしいのでは?」

 

彼女が手に持っているのは、玩具などではないだろうと察したうえで上条恭介の父は・・・

 

「君も恭介を好いているようだが、君のそれは・・・恭介のことなんか何も見ていない。君が見ているのは、君自身の身勝手な”陰我”だけだ」

 

「わたくしの奇跡を叶うためには、必要なことですの。息子さんに詫びてください」

 

容赦なく仁美は、引き金を引いた。その瞬間鈍い音と硝煙が発生すると同時に上条恭介の父の身体が崩れ落ちた。

 

胸に強烈な痛みが走り、意識が彷彿とする中、近づいてくる仁美の足音が止まり再び銃撃による衝撃が襲った。

 

(すまない・・・さやかちゃん。来週のレッスンはお休みだね・・・・・・)

 

彼は見ることは叶わなかったが、志筑仁美は狂ったような笑みを浮かべながら、上条恭介の父をナイフで何度も何度も刺し続けていた・・・・・・

 

差し込んだ夕日に照らされた彼女の影もまた笑い、”空のソウルジェム”もまた因果を蓄え、異様な輝きが灯り始めていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

仁美は、自身の因果を高める為に”多くの生贄”を求め、怨みを晴らすかのように”上条恭介の父”を手に掛けました・・・・・・

さやかは、柾尾 優太がホラーとして今も存在していることをある程度確信し、自身の手で倒せる外道の製法で作られた”霊刀”を得るか迷っています・・・・・・

そして上条恭介の遺品である”ヴァイオリン”を受け取り、彼が残した情熱を思い出にこれから歩むことを誓いました。

もう一度ヴァイオリンを始めようとし、上条恭介の父と約束したにもかかわらず・・・

さやかと仁美の因縁がさらに深くなる予定です。

まどマギ本編では、さやかが割と中心になっていたのでこの辺りも”回転”の軸になります。

中沢君久々に登場しましたが、保志くんのファインプレーで危機を回避しました(笑)
最初は別のクラスメイトが訪ねてそれを仁美が手に掛けるというものでしたが、中沢君だとどういう訳かそういう危機を回避してしまいます。





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第弐拾漆話「 回 転 (参)」

今回は彼女がある少女と出会います・・・

彼女とは、久々のマミさんです。








 

巴 マミは自宅を飛び出してから一人、公園のベンチでボンヤリとしていた。

 

公園では子連れの家族が連れ添い、年配の男女が思い思いに過ごしている光景が視界を過るが、今の彼女にとってはどうでもよい光景でもあった・・・・・・

 

手元に自身の魂である”ソウルジェム”を手に載せて、僅かに濁った輝きはマミの心を僅かであるが苛立たせた。

 

数日前の夜に知った魔法少女の真実・・・

 

”魂”をソウルジェムに移すことで戦いに耐えうる存在へと作り変える・・・

 

願いを叶える対価として”希望”を叶える魔法少女として”呪い”の象徴たる”魔女”と戦わなければならない。

 

自分の願いは・・・どんなものであっただろうか・・・・・・

 

(・・・私はあの日、ママとパパと一緒に出掛けていて・・・)

 

久しぶりに家族で”買い物”に出かける為、車で”東京”まで行くことになっていたあの日・・・・・・

 

突然の事故だった。

 

突如として父親が運転していた車の操作が利かなくなり、そのまま横転し運転席と助手席にいた父と母は即死し、辛うじて生きていた自分は・・・・・・

 

”・・・た、助けて・・・・・・”

 

目の前に居たあの白い小動物に縋り、魔法少女となった・・・

 

自分が最も忌まわしく思う自分自身の為に”奇跡”を願った行い・・・・・・

 

とてもではないが佐倉杏子を責めることなどできない。

 

あの子は元々”父親の話”を聞いてほしいと願い、魔法少女となった。

 

自分が助かりたいが為に願った自分よりも遥かに魔法少女らしく、善人らしい。

 

ある日、自分が願った”奇跡”により家族を失い自分と袂を分かち、互いに反目するようになってしまった。

 

(佐倉さんのことをどうこう言える立場じゃないわね・・・)

 

こんな魔法少女など、何のために居るのだろうとマミは気分が落ち込み、顔を伏せるのだが・・・

 

「ねえ?お姉ちゃん、具合悪いの?」

 

顔を上げると小学校低学年程の少女が自分を心配そうに見ていたのだった・・・・・・

 

「貴女は?」

 

「ゆま♪千歳ゆま♪」

 

「ゆまちゃんね・・・私はマミ」

 

満面な笑みで自己紹介をする少女に対して、マミは先ほど沈んでいた気持ちがほんの少しだけ和らぐのだった。

 

「ゆまちゃんは、どうして私に話しかけたの?」

 

「うん。お姉ちゃんが少し前のゆまみたいだったから・・・」

 

「えっ?少し前の貴女と私が・・・・・・」

 

マミはゆまがかつて実の両親から”虐待”を受けていた事を知り、今は祖父母に引き取られていることを・・・

 

幼い彼女の話にマミは小さな子供を自身の苛立ちのはけ口にしていた顔も分からない”両親”に怒りさえ湧いた。

 

「でもね・・・ゆまはもう大丈夫。辛いことはずっと続かない。だからね、こんどはゆまがお祖母ちゃんたちみたいに辛い目に遭っている人を助ける番なんだ」

 

だからこそ自分なのだろうか?こんな幼い子が、誰よりも辛い目に遭っている子がその小さな手を誰かを助けようと手を伸ばす行為にマミは

 

「えらいわね・・・ゆまちゃんは、何だか格好悪いわね。私は・・・」

 

「大丈夫だよ。マミお姉ちゃんってアイドルみたいに綺麗だから、絶対に格好よくなれるよ」

 

苦痛は永遠ではない・・・いつかは終わる時が来る・・・

 

「ありがとう。ゆまちゃん・・・」

 

本来なら学校に行っている時間であったが、特に何も連絡がなかったのでマミは態々連絡しても、もしかしたら顔も見たくない”親戚”が来ているかもしれないと思い、そんな人達と会うよりもゆまと一緒に過ごす方が有意義であると思い、このまま学校をさぼり彼女と一緒になって公園で穏やかに過ごすのだった・・・・・・

 

二人で笑い、遊ぶ光景は傍から見て”姉妹”のようだった・・・・・・

 

 

 

 

 

夕暮れ時、マミは手を振って千歳 ゆま達を見送る。

 

買い物帰りに彼女を迎えに来た祖父母と軽く話をした後、マミは夕飯の誘いを受けたが、そこまで好意を受ける訳にはいかないので理由を付けて断った。

 

ゆまは残念そうな顔をしたが、今度は一緒にお菓子を食べようと言い頭を撫でて勘弁してもらった。

 

あのような小さな子を守る為に、その傷を癒すために辛い時間を過ごした彼女にこれから楽しい時間を過ごしてもらおうと慈しむ老夫婦にマミは人間は身勝手な人ばかりではないと改めて知った。

 

もしかしたら自分は自身の”正義の味方”という幻想に振り回されていたのかもしれない。

 

自身が助かる為に”奇跡”を願い、両親を見殺しにしてしまった自分を恥じ、それでいて”魔法”を不特定多数の顔も知らない人達を”魔女”とその”使い魔”の脅威から護るという”大義名分”の名のもとに・・・

 

(私は・・・何も持っていない魔法少女だったかもしれないわね・・・)

 

”死”が怖いくせに”死の危険”と隣り合わせの、魔法少女をやっている。

 

矛盾というよりも自分は誰かを護りたいのではなく、戦って”破滅”することを心の何処かで望んでいるのではないかとも思いたくもなる・・・・・・

 

見滝原で自分と共に戦ってくれると言ってくれた”暁美ほむら”も幼馴染の傷を治す為に祈った”美樹さやか”も”佐倉杏子”もひとりよがりかもしれないが、誰かを護りたい、助けたいと願って”奇跡”の対価を払った。

 

その”願い”の名のもとに戦う。

 

”希望”を守る為に・・・・・・

 

自分に人生を投げ出してまでも”助けたい”と願った人が居ただろうか?

 

居ない・・・もう両親も居ない”天涯孤独”の身の上なのだ・・・・・・

 

そんな”守る者”も”願い”すらも持たない自分に差し伸べられた小さな手の温もりをマミは何よりも愛おしく思えた。

 

あの小さな温もりがこれから先、大きな温かさに変わり、何処にでもある人としてのあるべき幸せを掴むのならば自分が魔法少女として戦うことに意味があるのではと・・・・・・

 

「・・・・・・今度、ゆまちゃんに美味しいお菓子を持って行かなくちゃね」

 

ゆまは、見てくれこそは小学生低学年であるが11歳なのだ。

 

実の親の虐待とネグレクトによる影響で他の子よりも発育が遅れている為である。

 

その身勝手な両親は”不可解な事故”で亡くなっているらしいが、ある意味居なくなってくれた方が千歳ゆまにとっては良いだろうとマミは魔法少女らしからぬ考えに内心笑った。

 

少しばかり独りよがりであるが、自分に温もりを与えてくれたあの家族が見滝原に居るのならば、このまま見滝原で魔法少女をやっていくのも悪くはないだろう・・・・・・

 

マミは、近くに魔女の結界の気配を追い、その場を後にするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ミュージックスクールVeriteを後にした志筑仁美はあるマンションの近くに来ていた。

 

このマンションは、一線を引退した年配の人達がセカンドライフと称して、悠々自適な生活を楽しんでいるということで”見滝原”で一度特集が組まれたことがあった。

 

此処に来たとしてもこれと言った”因果”を高められそうにないと仁美は考えていた。

 

身体の弱った年老いた人間を手に掛けるのは容易であるが、これと言った足しにはならないだろうと・・・・・・

 

「そうだねぇ~~。君の考えている通りで大体は合っていると思うよ」

 

気が付けばいつの間にか、あの白い少年が近くの街灯に寄りかかっていた。

 

鼻歌を歌っている姿に若干苛立ちを感じるが、自分に”奇跡”を叶える術を教えてくれた存在なので邪険に扱うことはできなかった。

 

「なんのようですの?そういえば・・・お名前をまだ聞いていませんでしたよね?」

 

”キュウベえ”と呼ばれているが、このような姿を取っているのでおそらくはその名前とは別の名前があるのではと仁美は考えた。

 

「君は賢い子ね。僕はある人に名付けてもらったんだ、カヲルってね」

 

中性的で何処どなく”天使”を思わせる美形である為、”キュウベえ”と呼ぶのは少し酷であるかもしれない。

 

カヲル本人は数あるインキュベーターの端末に過ぎないのだが、他の端末と違い”自我”の意識が強く、”キュウベえ”と呼ばれるのを嫌い、ましてや”インキュベーター”の名前で呼ばれるようなものならば・・・・・・

 

「カヲルさんはとても個性的なんですね。魔法少女と接している”キュウベえ”は、契約を取るだけの営業みたいですわね」

 

「それであってると思うよ。まぁ、奇跡を待つだけの存在よりも奇跡を叶える為に行動する君の方が勇敢で最も尊敬に値する。ここで君に告白したいところだけど、君には想い人が居るから、野暮だね」

 

「うふふふふ。カヲルさんはお世辞がとてもお上手ですわね。貴方のように話の分かる方とこうして会話するのはと有意義ですわ。貴方に一つだけ聞きたいのですが・・・」

 

「なんだい?僕で答えられることだったら」

 

真剣な眼差しで仁美は、人型インキュベーター カヲルにある疑問を告げる。

 

「”因果”をより効率的に高めるには、どうしたらよいでしょうか?このまま”因果”を集めても、この”ソウルジェム”を満たし、輝かせるには時間があまりにも掛かりすぎます」

 

1日で分かった事であるが、”因果”を高めることは容易ではなく、一人の命を生贄に捧げたところで微々たるもので数を重ねたとしても願いを叶えるまでには”時間”が掛かりすぎる・・・

 

このまま”生贄”を得たとしてもその行動はいずれ人の目に止まり、自身は動きが取れなくなるかもしれないのだ。

 

”鹿目まどか”を捧げようと考えたのだが、彼女の場合襲うにはリスクが高すぎた。

 

彼女の周りには”魔法少女”や”魔戒騎士”のような危険な存在も居るのだから・・・

 

仮に自分が上手く隠し通せたとしてもいずれは”真実”に辿り着き、美樹さやか同様に”奇跡”を壊されるという無様な結果になってしまうかもしれない。

 

自分が望む”願い”は、復活させた彼に素晴らしい時間を与える事なのだから・・・・・・

 

彼を支える自分が居なくては、何の意味も持たない。

 

鹿目まどかに対して、キュウベえは積極的に契約を持ち掛けていないということにたんに彼女が願い事をもたないのか、はたまた別の理由があるのかもしれない。

 

「そのことならね・・・鹿目まどかは危なすぎる。だから彼女以外を狙うことをお勧めするよ。例えばね・・・」

 

赤い瞳を爛々と輝かせながら、カヲルはその方法を仁美に告げる・・・・・・

 

「”生贄”に選別されるのは年若い清らかな乙女が好まれた・・・この意味を賢い君なら分かるよね」

 

その意味に仁美は頷いた。それが意味すること”魔法少女候補”である・・・・・・

 

「だから君にそれを教えに来たんだよ。ほら、ちょうどそこを通るよ」

 

カヲルが視線を向けるとそこには、買い物袋を抱えて帰途に就く老夫婦の間で燥ぐ小さな女の子 千歳ゆまが居た

 

 

 

 

 

 

仁美を見送った後、カヲルはこれから面白いことが見られるのではないかと考えていた。

 

「ハハハハハ、奇跡に群がる虫みたいな彼女らと違い、君は本当にすごいと思うよ」

 

カヲルは街灯に灯りに群がる蛾や小さな虫を眺めていた・・・・・・

 

さらにはそれを捕食しようと忍び寄るトカゲの姿があった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

千歳ゆまは、老夫婦の前を歩きつつ

 

「ねえ、おばあちゃん、マミお姉ちゃん。またゆまと遊んでくれるかな?」

 

「そうだね。きっとまたゆまちゃんと遊んでくれるよ」

 

祖母の言葉にゆまは嬉しそうに笑い、祖父もまたその様子を微笑ましく見ていた。

 

だがそんな家族から少し離れつつ視線を向ける人影が・・・・・・

 

志筑仁美であった。目深に被った帽子の奥より目の前の家族の中心に居る”千歳ゆま”に視線を向ける。

 

(あの娘が・・・確かに”生贄”に選ぶのなら、好条件ですわ)

 

かつては家の繁栄を願い、神の供物として育てられた”シロ”もちょうどあのような感じだったと記載されていた。

 

供物として捧げられた”シロ”は一思いに頭を石で割られたと・・・・・・

 

相手は3人であるが、家に付いたら時間を見計らって侵入し、実行しようと考えたが・・・・・・

 

(でも・・・ちょうどこの辺りはそれほど人通りも少ないですし・・・ここで”因果”を高められるのでしたら)

 

目の前にある特上の”因果”に理性が追い付かず、仁美はそのまま駆け出し、スポーツバックからナイフを取り出して最後尾の祖父の首元目掛けてナイフを突き立てるのだった・・・

 

突如として倒れた祖父を千歳ゆまは祖母と共に唖然としていた。

 

祖母が声を上げる前に仁美は行動を起こしており、そのまま祖母の胸をナイフで刺し、目を見開かせた千歳ゆまに仁美は近づくのだった。

 

志筑仁美の行動を彼女が認識できず、逆に千歳ゆまが認識できる存在が見ていた。

 

ぬいぐるみを思わせる”白い小動物”であった・・・・・・

 

「まさか・・・ここまで行うとは・・・魔法少女候補に手を出されるのは困るな・・・」

 

志筑仁美の行動は、キュウベえから見ても目に余るものだった。

 

自身の願いの為に他者の命を奪い、禁忌ともいえる”因果”を高めて”奇跡”を起こそうとする行いこそは興味があるが、それを実際に行うことに戸惑いとも嫌悪とも言えない思考に囚われていた。

 

人型の端末に過ぎない”カヲル”が、東の番犬所の神官の影響を受けてのことだが・・・

 

志筑仁美の行為は、流石に看過できずにこのまま行動を起こすことにしたのだ。

 

かなりの強硬的な手段をもって・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孵化寸前のグリーフシードを勢いよく彼女らの前に放ち、そのまま孵化させるのだった。

 

「こ、この光景はっ!?!い、いけないっ!?!」

 

突如として孵化したグリーフシードと現れる魔女に対し仁美は焦るように直ぐに逃げ出すのだった。

 

千歳ゆまは、この光景に見覚えがあった・・・・・

 

そうあの日両親を殺害した・・・異形の・・・恐ろしい影だった・・・

 

「あっ・・・あ、ああ・・・・・・」

 

目の前には先ほど現れた怖い女によって動かなくなった”家族”が横たわっていた。そこへキュウベえが現れる。

 

「千歳ゆま・・・君の祖父母は残念ながら亡くなったよ。君はこのままだと死ぬよ」

 

祖父母が目の前で殺された事とさらには自身のトラウマである魔女の存在に千歳ゆまの思考は混乱の極みにあった。

 

「だから、僕と契約して・・・この運命を・・・・・・」

 

「その必要はないわ。キュウベえ」

 

キュウベえは聞き覚えのある声と共にリボンにより拘束され身動きが取れなくなってしまった。

 

喋らせたくないのか口元を覆うという徹底ぶりであった。

 

ゆまを安心させるようにマミははすぐ隣に降り立った。

 

「大丈夫よ・・・でも、ごめんね・・・間に合わなくて」

 

直ぐ傍で倒れている昼間親切に接してくれた老夫婦の変わり果てた姿にマミは悲痛な表情を浮かべ、千歳ゆまに詫びる。

 

「ま、マミお姉ちゃんっ!?!駄目だよ!!!あのお化けは!!!!」

 

「あのお化けの相手は私がするわ」

 

落ち着いた口調と共にマミは自身のソウルジェムを輝かせ、魔法少女へと変身を遂げる。

 

「マミお姉ちゃんもあのお姉ちゃんと同じなの?」

 

両親を殺したあの怪物を狩り、自分を救ってくれた少女もまた魔法少女だった・・・

 

現れたのはバイクの部品を組み上げたような姿をした魔女 銀の魔女であった・・・

 

「・・・・・・この魔女。確か攻撃方法は・・・」

 

見た目通りこの魔女は相手に体当たりで粉砕し、またはタイヤに当たる部分で相手をひき殺すという攻撃方法が主でありあの老夫婦が死に至った傷とは合致しない・・・

 

老夫婦は魔女に殺されたと思ったが、どうやら違っていたらしい・・・行ったのは・・・

 

「まさか・・・人間の仕業?なんてタイミングで魔女が現れたの」

 

あまりの事態にマミは、衝撃を受けると共に不幸だった千歳ゆまがようやく幸せになろうとしていた矢先にこのような身勝手な事をしてくれた”殺人犯”に怒りを感じていた。

 

犯人はおそらく、この結界に入ったときにすれ違った一目散に結界の入口へ駆け出した自分と同年代程の少女なのだろう。

 

どうせならば、あそこで顔を見ておくべきだったと今更ながら後悔するのだが、今は目の前の魔女である。

 

「ゆまちゃんの前で残酷な光景は見せたくないから、瞬殺させてもらうわよ」

 

大量のマスケット銃を召喚し、圧倒的な物量と火力をもって魔女を殲滅するのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

逃げ出した志筑仁美は、まさか魔女に遭遇するとは思わなかったのか、表情は焦り、息も絶え絶えになって人気のない場所に来ていた・・・・・・

 

「ま、まさか・・・ここで巴先輩に出会うなんて・・・あの人は、私の邪魔ばかりして・・・」

 

巴 マミ 志筑仁美にとっては美樹さやかに続く忌まわしい人物である。

 

見滝原を拠点とする現役の魔法少女であり、鹿目まどかと美樹さやかに魔法少女としての素質を見出していながら、自身には素質がないとして蔑ろにし、話も聞いてくれなかった。

 

巴マミの存在がさらに仁美を苛立たせたが、まだ人間に範疇にある魔法少女はともかく”魔女”の結界に巻き込まれたら自分はなす術もなくその餌食になってしまっただろう・・・

 

そのことが許せずに仁美は自身の苛立ちを解消すべく近くのフェンスを勢いよく蹴る。

 

志筑家のお嬢様らしからぬ行為ではあったが、今の彼女にそんなことを気にする余裕などなかったのだが・・・

 

『ほっほぉ~~。貴女は随分と変わったことをされていますね』

 

不意に何かが自分の真上に現れたのだ。奇妙な影が自分を覆っていた・・・

 

見上げるとそこには両腕を水平にした”玉乗りをする女道化師”の姿をしていた・・・・・・

 

尖がり帽子を被り、衣装は全体的に鋭利な針を思わせ、両耳には針をそのまま刺した装飾をしている。

 

口調は棒読みに近く、顔は生物と言う感じではなくまるで無機質で感情が抜け落ちたかのようだった・・・

 

左右それぞれに浮かぶ金色の目が自分を見下ろしているのだ。

 

長い髪は風に靡かず・・・細かい金属が互いに当たるような音が僅かであるが響いていた・・・・・・

 

「か、からだが・・・、ま、まさか全て”針”で編まれているのですかっ!?!」

 

自分を見下ろす”女道化師”の身体は小さな針が互いに組み合わさってできていたのだ。

 

これは一体、何なんだと仁美は内心恐怖を感じるが・・・・・・

 

魔法少女が敵対する”魔女”ではない・・・もっと恐ろしい何かとしか思えなかった・・・

 

『そっお~~だぁよ。ワタスは針を使うのさ』

 

関節がないのか組み合わさった針同士を軋ませながら”女道化師”の身体が捩れるというよりも人で不可能な”曲芸”を始めた。

 

乗っている球を身体と共に360度回転させながら、自身の上半身と下半身をそれぞれ稼働し、首もまた回る、回る・・・回る・・・回る・・・

 

あまりの光景に仁美は、先ほどの魔女よりも恐ろしい何かに遭遇してしまったのではと考えた。

 

「あ、アナタは・・・一体っ!?!」

 

無表情な女道化師が笑い顔を作る。その顔は大きな三日月を思わせる空洞のような裂け目のような笑いであった。

 

あまりにも恐ろしい笑みと共に”女道化師”は自身の名を仁美に告げた・・・・・・

 

『ワタスはぁ、みぃんなかぁら、こう呼ばれてるよ・・・魔針ホラー ニドル って』

 

ホラー ・・・改めて仁美は思い出したのだ。上条恭介が破滅する直接的原因である”魔獣”の事を・・・

 

魔女よりも恐ろしい存在であることは間違いなかった・・・・・・

 

『きぃみぃはぁ~面白いかぁら、ちょっとだけ特別扱いしてあげるよ』

 

二ドルは仁美の左目に視線を合わせたと同時に黄金の目より特大の針を勢いよく飛ばした。

 

「きゃ、きゃあああああああああああっ!!?!」

 

突如として破裂した左目の痛みを感じ、仁美の絶叫が人知れず響いた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

マミは千歳 ゆまと出会いました。

僅かではありますが、マミにも変化が訪れようとしています。

マミさんは他の魔法少女と違い”誰か”の為に願ったのではない為、心から護りたいと願う人や想いがなかったかもしれないという考察が少し入っています。

そんな彼女が護ることに意味があるのならばと気づかせてくれた千歳ゆまとその家族。

理不尽にも因果を高める過程で犠牲になりました・・・・・・

こんな風に書くとマミさんが炎の刻印のレオンっぽく見えてきました(笑)

カヲルとキュウベえは、本来なら端末同士なのに別個体のように振舞い、互いに互いにとんでもない行動を行っています。

キュウベえは、魔法少女候補を害させるわけには行かないと思い、仁美の排除に乗り出しました。
排除したついでにゆまを魔法少女にしようともしていましたがマミさんに邪魔されました。

そして仁美は、因果を高めようと行動していたところをあの最後の使徒もどきこと人型インキュベーター カヲルも予想だにしない存在に遭遇・・・

まさかの魔針ホラー 二ドル。

このホラーは牙狼本編未登場ですが、能力はバグギ程ではありませんが相当厄介です。

今作の仁美の行いに興味を持って近づいてきました。

仁美ちゃんの”因果”ならぬ”陰我”が”カヲル、キュウベえ、魔女、使徒ホラーと言った災厄を引き寄せてるようなので完全に負の沼に沈んでいるような気がします。

次回もマミさんがメインの予定です。風雲騎士一家の話に当てようかとも考えています。

仁美は次回も出る予定。全編に渡ってでます(汗)

まどかを襲うのはリスクが高すぎます。仮にまどかを襲ったら、仁美は知らないけどほむらが当然動くし、彼女に入れ込んでいる暗黒騎士や暗黒魔戒導師も動く為、見滝原の魔法少女、魔戒騎士らの全勢力を敵に回します。





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第弐拾漆話「 回 転 (肆)」

マミさんがメインにしいようと言っておきながら・・・冒頭では久々にあの人(笑)

マミさんの関連なのかなあの人も・・・・・・




時刻は少しだけ遡る・・・・

 

「マミちゃん!!!居るんでしょ!!!」

 

人目を憚らずに巴マミの自宅マンションのドアの前で三人ほどの男女が騒いでいた。

 

この三人は彼女の遠い親戚にあたる人物たちであるが、マミとはそれほど親しくしていたわけではなかった。

 

一人暮らしの彼女を心配しているというわけでもなく・・・彼らが心配しているのは・・・

 

「こんなマンションで一人暮らしなんて・・・生意気なことをするからこういうことになるのよ」

 

「それもこれも兄さんの遺産をどうして他人が管理して・・・俺たちが使えないんだ」

 

「警察も警察だ。私達は親戚なのに・・・・・・」

 

口にしているのは”巴マミ”の心配などではなく、彼女の両親が残した遺産の管理についてであり、それを何とかして自分達のモノにしたいという”欲望”だけであった。

 

マミも両親が親戚とは仲が悪いということは良く知っており、元々資産家である彼女の母と父が一緒になったことで浅ましい父方の親戚たちが集って来たのだが、父自身は家族とは仲が悪く高校を卒業し大学入学を機に実家とは縁を切っていたそうだった。

 

両親が事故で亡くなったことを幸いに娘であるマミから遺産の管理と称して奪おうと躍起になっていたのだが、父の友人である税理士が誠実な態度で管理している為、手が出せなかった。

 

今回のマミが事件に巻き込まれたのを好機とし、管理している税理士を糾弾して遺産の管理を自分達の手にしようと躍起になっていたのだ。

 

三人の身勝手な欲望に対して、この場で異論を唱えようとする者は誰一人としていなかった・・・

 

だが・・・向かい側の焼け跡から”白い人の形”をした肉塊が顔をのぞかせていた。

 

『ナニヲサワイデイルンダヨ・・・・・・ウルサクテネラレナイ』

 

焼け跡の奥から現れたのは白い人間と言うよりも・・・人の形をした肉塊としか言いようのないグロテスクな生き物であった。

 

ケロイド状の白い体と顔には凹凸がなく口は唇などなく歯茎が剥き出しであった。

 

「な、なんなんだっ!?!こ、こいつはっ!!!」

 

「ば、化け物っ!?!」

 

「か、顔がないっ!?!」

 

『ウルサイ!!!ウルサイ!!!ウルサイ!!!!』

 

三人に飛び掛かるように白い顔のない怪人は、その恐ろしく強い腕力で瞬く間に三人を引き裂いてしまった。

 

引き裂かれた三人の身体は霧のように顔のない白い怪人”フェイスレス”に溶け込んでいった。

 

『コ、コレハ、ナンナンダ・・・ボクハヤカレタノニ・・・ドウシテイキテイル・・・』

 

本当ならば、自分はこの世界から旅立ち”蓬莱暁美”の元へと行けるはずだったのにと・・・・・・

 

自分をこのような目に遭わせた役立たずの観察対象が非科学的な事をして自分をこのような目に遭わせたのだと苛立ち、白い怪人 フェイスレスこと柾尾 優太は、人間だった頃と変わらぬ生活をかつてのマンション跡で過ごしていた。

 

その柾尾 優太を不思議そうにキュウベえは戸惑うように見ていた・・・・・・

 

「アレは・・・ホラーなのか?まるで人間にもみえなくもない・・・」

 

前例のない奇怪な存在にキュウベえは訳が分からないと言わんばかりに踵を返し、その疑問を聞きに自身の知り合いである”東の番犬所の神官”である”ガルム”・・・今は、ケイル、ベル、ローズと名乗っている存在を訪ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

東の番犬所

 

「久しぶりに来たと思ったら、そんなことを聞きに来たのですか?」

 

「あの男の”陰我”は自身のそれではなく、関わってきた者達の”怨念”によるものです」

 

「そもそもあの男に”魂”など存在しないので”陰我”など発生しようもないのですから・・・」

 

三神官は、キュウベえが理解できないことが面白いのか今まで以上に燥いでいた。

 

若干、苛立ちを感じるのはあの”カヲル”という個体の影響を受けてしまったからなのだろうか?

 

「分かりやすく言えば、あの男は”多く陰我”の繋ぎになっているのです」

 

「繋ぎ?つまりは、あの白いホラーは”群体”のような存在とでもいうのかい?」

 

ある意味自分達”インキュベーター”を指す言葉であるが、あの気味の悪い怪物と自分達が同じにみられたくないのかキュウベえは珍しく否定の意思を示していた。

 

「分かりやすく言えば”突然変異”という言葉ですね。イレギュラーミュータント、予期せぬ変異体とも言えます」

 

「私達が観測する”陰我ホラー”と違い、アレはホラーと人間が混ざった変異体です」

 

「よって、魔戒騎士の持つ魔導輪もその気配を追うことは難しいでしょう。何故ならあれは、ホラーでもあり人間でもある中途半端な存在なのですから・・・」

 

三神官の言葉にキュウベえは・・・・・・

 

「・・・・・・ホラー人間、人間ホラーとでも言えばいいのかい?」

 

確信の持てない事態にキュウベえは、今までにないほど感情的になっていた。というよりも改めて自分達の扱っている”感情エネルギー”の危険性を認識していたのだ。自分達の認識の甘さに対して、恐怖すら覚えていたのだ。

 

人間の感情・・・負の思念がホラーと人間のそれすら歪めてイレギュラーを生み出してしまったことに・・・

 

もしもこれが、鹿目まどかのような途方もない”因果”を持つ少女が途方もない”願い”を叶えようものならば自分達はどうなるのか?

 

おそらくこの時間軸そのものが”改変”され、その後、とんでもない事になるだろうと・・・

 

事実他の平行世界では、それが起こり、認識の甘い自分達が破滅したのだから・・・・・・

 

自分達が破滅するだけなら、まだしも・・・世界、宇宙そのものが完全に崩壊した”事例”も起こっていた・・・

 

その時間軸は確か・・・・・・改変された時間軸がさらに分岐して・・・・・・

 

分岐した時間軸の最期の光景は・・・あの鹿目まどかの可能性の一つが・・・・・・

 

「どうしました?インキュベーター」

 

「顔色が悪いですよ・・・何か恐ろしいモノでも見たような」

 

「貴方、感情がないのにどうして、そんな不安そうな顔をしているのですか?」

 

けらけらと笑う三神官に対し、執事服の男 コダマはいつものように無表情であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、アレからどうやって自宅に戻ったのか覚えていないが自身のベッドの上で左目を押さえていた。

 

言うまでもなく奇怪な女道化師 魔針ホラー 二ドルによる撃ち込まれた針が左目を射抜き、そのまま破裂させたのだ・・・

 

強烈な痛みに悲鳴を上げたが、近くに巴マミが居ることを警戒して自力で自宅まで執念で戻ってきたのだ。

 

生暖かい血の感触は未だに手に残っている。

 

左目は痛み、彼女はあの”化け物”は何を考えて自分を特別扱いしたんだと怒りを覚える。

 

『いたぁみは、ほんの少しだぁよ・・・』

 

「何を他人事のようにっ・・・いつの間にわたくしの家に入り込んだのですかっ!?!」

 

『君がぁ、ワタスを連れてきたんだぁよ。ワタスがぁ、そろそろ見えてくるよぉ』

 

妙に間延びした口調であるが声そのものは無機質で感情がなく、機械が言葉遊びをしているようだった。

 

玉乗りをする女道化師の姿は、部屋にはなかった。

 

声は直ぐ近くというよりも耳元で囁かれるようにハッキリと聞こえる。

 

ずっと感じていた痛みがいつの間にか引いていたのだ・・・・・・

 

乾いた血の跡の感触を感じつつ左目を押さえていた手を放す。

 

変わらぬ左側の視界が健在であった・・・

 

潰されたはずの目が見えるのだ・・・・・・

 

「あの時・・・目は確かに潰されたはずなのでは・・・・・・」

 

確かめるべく仁美は姿見鏡まで移動し、恐る恐る自身の左目を確認すべく鏡を覗き込んだ・・・

 

「っ!?!」

 

そこには信じられない光景があった。自身の左目の中に女道化師が窓から外を眺めるように佇んでいたのだ。

 

『やあッ』

 

手を振り挨拶をする女道化師 魔針ホラー 二ドルに対して仁美は、今更ながら恐ろしさを感じていた。

 

「あ、貴女は・・・わたくしに何をするつもりなのですか?!!こ、こんな・・・」

 

自身の左目を抉ろうとするのだが・・・・・・

 

『だぁめだよぉ・・・せっかくの贈り物なんだからぁ、好意は受けるモノだぁよぉ』

 

抉ろうと伸ばした手が自身の意に反するように止まってしまう。

 

この光景に自身に近づいてきたのは、想像を絶する”怪物”・・・ですら生ぬるい何かではないかと・・・

 

仁美は気が付かなかったが、自身の手の甲に極小の針が刺さっていたことに・・・・・・

 

その小さな針こそが魔針ホラー所以の能力であることも・・・・・・

 

『他のホラーとはぁ違って憑依はしないかぁら、安心して、仁美ちゃんは仁美ちゃんのままで居られるよぉ』

 

憑依とはなんだ?と疑問が浮かんだが、この薄気味の悪い道化師から逃れられないことに仁美の絶望ともつかない絶叫が屋敷全体に響き、空のソウルジェムの因果が僅かに揺らぐのだった・・・・・・

 

仁美の左目の中では女道化師の姿をした魔針ホラー 二ドルが玉乗りの曲芸を行っていた・・・・・・

 

『仁美ちゃんのお手伝いがしたぁいなぁ・・・ワタスも見てみたいなぁ、願いが奇跡を起こすところを見てみたいなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

マミはゆまと共に警察で事情聴取を受けていた。

 

対応してくれたのはここ数日の間で顔なじみとなった並河と言う刑事だった。

 

言うまでもなく通り魔的殺人事件に巻き込まれた千歳ゆまへの事情聴取なのだが、幼い彼女の表情は祖父母が亡くなったことが未だに信じられないのか表情は呆然としていた。

 

偶々通りかかったマミによって保護され、警察へと通報がなされたのだが・・・・・・

 

「並河さん・・・ゆまちゃんが落ち着くまで待っていただけないでしょうか?」

 

「そうだな・・・・・・前にも両親が亡くなった時もそんな感じだったしね」

 

「並河さんは、ゆまちゃんの事を・・・・・・」

 

「前の事情聴取の時に少しね・・・今晩は遅いし、犯人はもしかしたら、未成年の可能性が高いからね」

 

マミより不審な帽子を目深に被った同年代の少女を見たという目撃情報より聞き込みが現在行われていた。

 

「マミちゃん、こんなことを自分が頼むのは違うかもしれないけど・・・ゆまちゃんの傍にいてあげられないかな?」

 

亡くなった祖母を呆然とした表情で見る幼子の様子はあまりにも痛々しく辛いモノだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

無言の千歳ゆまに対し、マミはどうして自分は彼女の近くに居なかったのかと今更ながら後悔していた。

 

魔法少女が守るべき存在である”人間”の悪意によって、ゆまの大切な家族が奪われたのだから・・・・・・

 

これでは何を信じればよいのか分からなくなるが、それでも”希望”を見させてくれた温かい小さな手を持つ彼女をこのままにしてはおけなかった。

 

あの時、自分の手を握ってくれたように自分も・・・

 

「大丈夫だよ。マミお姉ちゃん・・・ゆまはまた一人ぼっちになったけど、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんたちはずっとゆまの中で生きていくんだって・・・だからゆまは、泣いてなんか居られないんだ」

 

目を潤ませ、健気に自分がしっかりしなければと・・・しっかりと前を向こうとしていた。

 

亡くなった家族が安心していられるようにと・・・

 

(なんて強い子なんだろう・・・私はパパやママが亡くなった時、ゆまちゃんのように振舞えていたかしら?)

 

マミはゆまの手を握り、

 

「ゆまちゃんは私に言ってくれたわよね。辛いことは永遠に続かないって・・・あの時辛い思いをしていた私を救ってくれたのは・・・ゆまちゃん。貴女なのよ」

 

「うん・・・ゆまはまた辛いことがあってもこれが続くことはないって分かるから・・・」

 

自分がしっかりしなけばならない・・・だが、彼女はまだ11歳の幼い少女なのだ・・・

 

理性が理解しても感情の高鳴りは抑えることはできない・・・

 

「そう・・・なら、今は思いっきり泣きなさい。一人じゃないんだから、今はね・・・」

 

辛い思いを我慢するのではなく、今はそれを発散するのもよいだろうと・・・

 

「マミお姉ちゃん・・・うぅ・・・うわぁあああああああああんっ!!!!」

 

込み上げてくる悲しみを解放するようにゆまはマミに抱き着き、そのまま泣き続けた・・・・・・

 

マミはゆまの悲しみを少しでも和らげようと彼女の頭を撫でていた・・・・・・

 

(ゆまちゃんが望むのなら、私はずっと傍にいるわ。ゆまちゃんが私を必要としなくなるその日まで・・・)

 

”魔法少女”である自分は、普通の子であるゆまと一緒に歩むことは、難しいだろう・・・

 

時が来ればいつかは別れなければならない・・・それでも今この瞬間だけは・・・・・・

 

彼女はこの小さな”希望”に許される限り、見守り、傍に居続けられればと願う・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

????

 

「マミさん・・・魔法少女の願いはね・・・凄く儚いんだよ」

 

見滝原の女子中学生の制服を着た小柄な少女は、見滝原警察署の前で笑っていた。

 

目元は隠れているがその笑みは、何処か人ならざるモノを感じさせるほど凄みのあるものだった・・・

 

「・・・希望を絶望で終わらせないようにって願っても、願うのが人間だと結局は何も変わらないんだよ・・・」

 

”魔女”が消えたとしても”呪い”や”負の感情”が消えることはなく形を変えて存在し続ける・・・・・・

 

人そのものを”改変”、もしくは”存在”を終わらせない限りは・・・

 

隠れていた目元より金色の瞳が虚無感をそのままにして視線を動かす。

 

視線の先には強張った表情をしたさやかがソラと二人で見滝原警察署に入っていく光景だった。

 

「・・・さやかちゃんも災難だね。上条君は自分の意思で”呪い”を受け入れたから、何も悪くないんだよ」

 

「仁美ちゃんは、魔法少女になりたいみたいだけど・・・どうして”奇跡”なんか欲しいのかな?」

 

警察署の中で会うであろう二人のその後を想像して、少女は踵を返して幻のように消えていった・・・・・・

 

「魔法少女になったら行きつく先は”一つ”だけだよ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 鹿目家

 

「・・・あ、あれ・・・また寝ちゃったのかな?」

 

自室でいつの間にか眠っていたことにまどかは、ここ最近色々とあって疲れていたのかと思いつつ喉の渇きを潤す為に部屋を出るのだった・・・・・・

 

「・・・・・・仁美ちゃん。どうしたんだろ?さやかちゃんも上条君もここ最近学校に来ていなかったし・・・」

 

彼女の”記憶”にこんなことは今までなかったのに・・・・・・

 

翌日、まどかは知ることとなる・・・・・・

 

”上条恭介の死”というこれまでにない事態を・・・・・・

 

そして・・・彼の家族もまた”亡くなった”ことを・・・・・・

 

記憶の中で自分を救おうと時を遡った”暁美ほむら”との出会いもまた近い・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

柾尾 優太さん・・・単なるホラーにならずホラーでもなく人間でもない中途半端な存在と化す。

故に他のホラーのように人間の姿になれず、白い顔のない人型の怪物のまま・・・

ですが、ホラーとしての能力は有しています。



仁美と魔針ホラーとの関係は、彼女にとっては下僕扱いされるよりもおぞましいことになりそうな予感・・・・・・

一体目のバグギとその協力者は内心はともかく表面上はそこそこ良い関係でした。

ゆまちゃんが結構メンタル強い子になってます。

織莉子の本編でもかなり前向きなことですが、マミもそんな彼女に影響されていきます。

原作主人公のまどかも、この時間軸での出来事には戸惑いつつも何やら奇妙な出来事が彼女自身にも起こっているようです・・・・・・

まどかとほむらがおそらく近いうちに出会います。





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第弐拾漆話「 回 転 (伍)」 


今回はさやかの回です。

筆が乗り、割と早く上がりました。

さやかは、かなり書きやすいです。






 

今現在の住まいに戻ったさやかは、上条恭介の父から受け取った”ヴァイオリン”のケースを机に置き、ヴァイオリン本体、弓、肩当、松脂等を確認していた。

 

これらはヴァイオリンの付属品である。

 

四本の弦も予備があり清掃用の布も何枚かあり、かつての持ち主 上条恭介の入れ込み具合が察せられた。

 

さやかは、ヴァイオリンのメンテナンスや弦の交換の方法等もある程度、身に着けていた。

 

ケースの予備の弦を入れているケースに小さな包みと一緒に手紙が添えられているのをさやかは見つけた。

 

「なんだろう?これ・・・」

 

手紙を開くとそこには、上条恭介の父からの言葉が綴られていた。

 

”やあ、さやかちゃん。これを見ているってことは、私からのプレゼントを見つけてくれたってことだね”

 

”魔法少女の君は、これから辛くも苦しい出来事に遭遇するかもしれない。私はできるかぎりさやかちゃんの助けになりたいと思っている。これは偽らざる本心だ”

 

”これから強く前に進んでほしいことを願って、これを贈るよ。意味はもちろん、分かるよね”

 

包みを解くと中から”ff”の髪飾りが出てきたのだ。

 

”ff フォルテッシモ”意味は、きわめて強く・・・・・・

 

上条恭介の父は、さやかに強く前に進んでほしいと願いを込めて、この髪飾りを贈ったのだ・・・

 

「・・・・・・おじ様」

 

自分への気遣いに穏やかな笑みを浮かべ、髪飾りにを改めて机に置き、身に着けようとするのだが・・・

 

突然、スマートフォンが鳴りだす。知り合いの警察関連人物からだった。

 

さやかは、伝えられた内容に目を見開かせた・・・・・・

 

「・・・うそでしょ・・・おじ様が・・・どうして・・・・・・」

 

思わずスマートフォンを落としてしまう程、さやかは今までにないぐらいに動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 警察署

 

さやかは、時間と共に多少なり落ち着き、上条恭介の父が殺されたことで確かめる為に警察署を訪れた。

 

そこで聞かされた内容はあまりにも”残酷な事実”だった。

 

(来週、レッスンの約束をしていたのに・・・・・・どうして・・・一体誰がこんなことを?)

 

自分の大切な人を理不尽に奪った犯人に対して、憎しみの感情が沸々と湧いてくる。

 

「さやか。落ち着いてください、私も正直、このことは・・・」

 

ソラ自身もあの穏やかな人物が何故殺されなければならないのかと疑問を抱く。

 

「・・・・・・ソラ。少しだけ席を外したいんだけど・・・」

 

「私が話を聞いておきます」

 

「迷惑かけるね、ソラ」

 

心情を察してくれるソラにさやかは、感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

席を外したさやかは、少しだけ外の空気を吸いに行こうと足を進めた時だった。

 

「あ、あれ?三年生じゃなくて・・・巴先輩?」

 

目の前より歩いてくる巴マミにさやかは、思わず声を上げてしまった。

 

「あ、あなたは・・・美樹さん。どうしてこんな所に?」

 

意外なところで出会ってしまったことに驚くが、マミは待たせている子が居ると言い、そこで話をしないかと誘われるのだった。

 

マミはベンチで眠っているゆまの頭を優しく膝に乗せる。

 

その光景にさやかは、過去に自分がゆまのように誰かの温もりが傍にあったことを思い出したが、今は感傷に浸っている場合ではなかった。

 

「美樹さん。ここでこういうことを言うのもだけど、アレから大丈夫だった?」

 

「はい。色々ショックでしたけど、何とかやっています」

 

巴マミが佐倉杏子と反目していたことで意味のない反発をしていたさやかであったが、魔法少女の残酷な運命を知った今は無用な反発をするつもりはなかった。

 

「魔法少女は命がけよ。時折、いきなりいなくなる子も居るから・・・もしかしたらと思って・・・」

 

「心配してくれてありがとうございます。アタシこそすみませんでした。話を聞かずに、自分の事だけしか見えていなくて、先輩に嫌な思いをさせて・・・・・」

 

「良いのよ。魔法少女の願いは、その子が必死になって願った事だもの。それを他の人が口を出すこと自体が間違っているんだもの。その為の覚悟もだけど、もう誰のせいにもできない自業自得な存在であることだけは忘れてはならないわ」

 

マミもあの夜の事については、特に何も言う気はなかった。殺人犯とはいえ一人の人間を手に掛けたさやかであったが、今はそれを不思議と責める気にはなれなかった・・・

 

何故なら、マミは少し前に考えていたことをさやかに語る。

 

「美樹さん・・・私も思うことがあるわ」

 

「もしも・・・私が自分の命を投げ出して叶えた奇跡を誰かに理不尽に踏み躙られたら・・・私はその誰かを怒りのまま手に掛けていたかもしれない」

 

マミは眠るゆまに視線を向ける。その様子にさやかは・・・

 

「それは考えるだけにしてくださいよ先輩。アタシは色々とやらかしちゃって、当たり前だったモノがほとんどなくなっちゃたんですから」

 

さやかは、魔法少女となってからの事を思い返していた。

 

想い人である上条恭介の不幸を救う為に”奇跡”を願った・・・

 

だが”奇跡”を叶えられた自分と違い、叶える事のできなかった”親友” 志筑仁美との仲は修正が不可能なほど拗れてしまった・・・・・・

 

そして、奇跡を踏みにじられ、彼は”陰我”へと墜ちていった・・・・・・

 

自分に残ったのは”魔法少女”としての救いのない道だった・・・

 

「魔法少女になって奇跡を叶える覚悟はあるって粋がった結果が今のアタシなんだ・・・もっと別にやれることがあったのに、どうしてって今更ながら思うんだ・・・」

 

「・・・美樹さん。貴女は・・・私よりも多くのモノを見てきたのね」

 

そして”多くのモノ”を失った・・・・・・

 

「そんな格好の良いものじゃないですよ。本当は見えるはずだったのに、それを都合の悪いモノだってアタシは無視して何も見なくて、恭介の一面だけを見て・・・何にも分かっちゃいなかった」

 

もしも時間を巻き戻せるのならば、あの頃の自分に忠告したい。

 

魔法少女になるよりももっとやれることがあると伝えたい。

 

すべてを失ってしまったら、取り返しがつかないのだと・・・・・・

 

だが、それをあの頃の自分が忠告を聞くとは思えない。

 

結局は我が身に降りかからないと理解することなどできないのだ・・・

 

「本当にアタシは馬鹿だった・・・・・・」

 

「それを言うならば私もそうよ。私は自分が助かることだけを考えて、瀕死の両親を見殺しにした大馬鹿者よ」

 

もしもあの時、両親と一緒に助けてほしいと願えば・・・二人は今も健在だったかもしれない・・・

 

自分の事しか見えなかった死に際の自分の本性は、周りを見ることのないただの”子供”でしかなかった。

 

「でも、今の先輩には、その子が居るじゃないですか。決して何もないわけじゃない、アタシと違ってずっと恵まれている」

 

自分には”ソラ”という妹分が居るので十分に恵まれている。だが、マミは・・・

 

自分と違い”守るべき希望”が傍に存在している。

 

「結局は・・・自分自身が痛い目に遭わないと何も分からないのね、私達は・・・」

 

マミは少し悲しそうなに笑う。今まで”自分に護るべき願い”はなかった。

 

だが、今は”千歳ゆま”を支え、護りたいという願いがある。

 

一方的な想いかもしれないが、マミはそうしたかった。

 

さやかは、マミの姿に”守るべき大切な存在”が在ることを察した。

 

自分を支えてくれる妹分の存在は心強いが、もう自分には”守るべき希望や願い”はない・・・

 

その果ての”末路”でしかない自業自得な結果だけ・・・・・・

 

「アタシのようなどうしようもない魔法少女はアタシだけにします。先輩はその子を絶対に守り通してください」

 

さやかは背を向けて二人から去ろうとする。

 

「どうしようもない魔法少女なんて居ないわ。ゆまちゃんが私に言ってくれた言葉を話すわね・・・」

 

小さな暖かな手を差し伸べてくれた”希望”の言葉は・・・・・・

 

「辛いことは永遠に続かない。いつかは、終わるって・・・・・・」

 

ゆまの身の上を語りながら、マミはさやかの背中に語り掛けた。

 

「・・・・・・良い言葉ですね」

 

自分達よりも余程人間が出来ているであろう小さな少女にさやかは振り返りその小さな頭を撫でた。

 

「・・・ありがとう。ゆまちゃん」

 

マミに会釈をして、さやかは背を向けて去っていった・・・・・・

 

その背中をマミは見えなくなるまで見送る・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さやか・・・・・」

 

「ソラ・・・おじ様は一体、誰にやられたの?」

 

結局自分は大切な人を奪った相手をこの手で”決着”を付けたいと願っている。

 

まさかと思うが”ホラーと化したあの柾尾 優太”なのだろうか?

 

死因の一つに”拳銃”で撃たれたことから柾尾 優太が手に持っていた”拳銃”を連想したのだが・・・

 

「さやかの考えている相手ではないと思います。ただ・・・少し気になることがありまして・・・」

 

「うん?気になること?」

 

ソラが何か手掛かりを見つけたようだが、確信にはまだ至っては居ないようだった。

 

「はい・・・上条氏が亡くなってから数時間も経たないうちに通り魔事件があったそうです。拳銃でこそは撃たれてはいませんがナイフで刺されたという点は一致しています」

 

たった一日にも満たない時間でナイフで人を殺害するという事件が同じ市内で起こるであろうか?答えは否であろう・・・・・・

 

「じゃあ、おじ様に怨みを持ってる誰かが殺したってこと?それにゆまちゃんのお祖母ちゃん達もって・・・」

 

さやかは先ほど、マミからゆまの家族が祖父母に通り魔によって殺害されたことを聞いていた。

 

「ちょっとまって・・・ソラ。おじ様とゆまちゃんの家族に手を掛けたのは・・・同じだってこと?」

 

「おそらくは、同一犯の可能性が高いでしょう。最初の上条氏は怨み目的であの子の家族を殺したのは、おそらくは、あの子自身が目的だったと考えられます」

 

「ゆまちゃん自身?まさか・・・」

 

「はい。巴マミが魔法少女であることを考えるに千歳ゆまは魔女と遭遇したのでしょう。そこで巴マミに保護されて今に至ると考えられます」

 

通り魔の現場に魔女が現れたことにさやかは、世の中は思った以上に厳しく優しくなく、それでいて残酷なのだと思う。

 

「それに・・・千歳ゆまは魔法少女の素質があります」

 

「魔法少女の素質っ!?じゃあ、近くにインキュベーターが・・・」

 

「ええ、私達を遠巻きに見ています。一匹捕まえて吐かせれば犯人の事を教えてくれるかもしれません」

 

ソラ自身は言いたくはなかったが、彼女が襲われた理由はあることを犯人が目的としていると説明がついてしまうのだ。

 

「おじ様が怨みを買うなんて信じられないし・・・本命がゆまちゃんなのは・・・・・・・」

 

さやかは改めて幼い少女を狙った事件に過去に経験した”ニルヴァーナ事件”もまた、幼い少女を狙っていたことを思い出していたのだ。

 

「実を言えば・・・魔法少女の素質のある子を狙ったのならばその子を”生贄”にして、”因果”を高めようとしたのではないかと考えられます」

 

ソラは、この世界には”魔獣ホラー”、”魔女”とは別に様々な”怪異”が存在していることを話す。

 

その中の一つに”生贄”を捧げることで自身の”因果”を高めて”奇跡”を叶えようとしていた歴史があったことを

 

通り魔事件の真相が自身の”因果”を高めることにあったのならば、その人物は”魔法少女”の事を知っていて、何かしらの理由で願いを叶えることが出来ず、その願いを叶える為に必要な”因果”を多くの人達を”生贄”にしようとしているということなのだ・・・・・・

 

「な、なによ、それ・・・そんな理由でおじ様とゆまちゃんの家族の命を奪ったの?ふざけんじゃないわよ!」

 

「さやかの怒りは最もです。私も正直、これを行った人間はホラー・・・いえ、それ以下の畜生でしょう」

 

人ではないがソラもまた犯人に対して嫌悪感を抱いていた。

 

顔の分からない犯人に対して怒りの声を上げる二人に小さな白い生き物が足元に近づいた・・・

 

「君たちの悩みだけど、僕も同じ悩みを抱えているんだ」

 

魔法少女にとっては顔なじみの存在 キュウベえである。

 

「君達の目的は上条恭介の父親を殺害した犯人を見つけ出したい。僕達は、魔法少女候補を害する存在を排除したいんだ」

 

現れたキュウベえに対し、二人はこれまでにない冷たい視線を向ける。

 

「・・・・・・ソラ。吐かせる手間が省けたね」

 

「そうですね。こいつらにとって魔法少女は単なる道具で、道具が傷つけられるのが嫌だから私達に声を掛けてきたんでしょうね」

 

「美樹さやかも随分と持ち直したみたいだけど、君は他の魔法少女とは違う気がする。一体何者だい?」

 

興味深そうにキュウベえはソラを観察するが、さやかは不機嫌な表情でキュウベえの視線からソラを隠すように庇う。

 

「私のことはどうでもよいでしょう。私達を態々尋ねるのは魔法少女候補を害している存在を何とかしてほしいからでしょう。インキュベーター」

 

「回りくどいことは良いのよ。アタシ達はアンタのやってることぐらい承知している」

 

ソラとさやかの視線はそれぞれ冷たくキュウベえも若干の居心地の悪さを覚えるのだが、あの志筑仁美を排除できるのはこの二人しか話を聞いてはくれない為、堪えた。

 

「彼女は”魔法少女の素質”が無くてね。それで自身が魔法少女になる為に”因果”を高める為に”生贄”を求めて魔法少女候補を害しようとしている。僕だととてもじゃないけど抑えられないんだ」

 

「抑えられないんじゃなくて、お前達が何か仕出かして、その後始末を私達にさせたいのでは?」

 

ソラは”カヲル”の存在は知らない。

 

今回の件を下手人である”少女”が自力で”因果”を高める方法に行きついたとは考えづらく、インキュベーター側で余計なことをしたが為にこのようなことになったのではないかと考えていた。

 

このように魔法少女に泣きついてくる理由のほとんどがインキュベーター側で何かしらの不手際が発生し、それを自分達で解決ができない為にこのような態度に出てくるのだ。

 

「碌なことしないわね・・・ホントに・・・でも構わないわ。今回だけはアンタ達ロクデナシの話を聞くわ」

 

「っ!?さやかっ!」

 

「良いのソラ。今回の件はアタシ自身でしっかりとケジメを付けたいから・・・・・・」

 

ソラに詫びを入れつつさやかは、今回の犯人が誰なのかをキュウベえに問いただした。

 

「ズバリ言わせてもらうよ。犯人は、美樹さやか、君が良く知る 志筑仁美だよ」

 

さやかは、もしかしたらという考えが何処かにあったのか、これと言って取り乱さずに落ち着けるように生唾を飲み込んだ。

 

キュウベえは二人に志筑仁美の犯行であることを告げ、魔法少女候補を傷つけられたくないので排除を願う。

 

「・・・・・・アンタ達は嘘をつくことはないし、必要性がないことは知っているわ。どうして仁美は”因果”を高めるようなことを始めたの?どうやって、それに行きついたの?」

 

「・・・・・・僕には答えられないかな・・・・・・彼女の考えていることは分からないよ」

 

「おかしいですね。インキュベーターにしては随分と感情的に感じられますが・・・」

 

「ソラ、その辺にしてあげな。こいつらにも都合の悪い事ぐらいはあるわ」

 

敢えてさやかはそれを聞かないで置いた。

 

まずはキュウベえの言っている事が”真実”なのかを確かめなければならなかった。

 

「アタシもアンタ達の全てを鵜呑みにするわけじゃない。だから、仁美の所へ行く・・・」

 

”魔法少女”の事を知り、”素質”がなく、それでいて願いを叶えようとする動機。

 

さらには、ある意味恭介を見殺しにしたともとれる彼の父を恨む感情。

 

それらを考えると彼女が”犯人”の可能性が高い・・・だが、

 

「もしも”真実”でもアタシは、仁美をアンタ達の望むように排除はしない。話し合って、仁美に馬鹿な真似を辞めさせる」

 

それでいて、罪を認めさせ、然るべきところで裁きを受けさせる。

 

一番の”元凶”でもある自分が志筑仁美を説得するなど滑稽ではあるが、彼女は自分とは違い”人間”なのだ・・・

 

故に苦難を極めるかもしれないが、”志筑仁美”・・・親友には人としての”人生”を歩んでほしい。

 

それがさやか自身の”エゴ”でもあることを自覚しつつも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美の元へ向かっていくさやからをキュウベえは、無機質に見ていたが途端に赤い目が”喜色”の色を浮かべたのだ。

 

さやからは気が付かなかったが、キュウベえの首元に極小の”針”が刺さっていたことに・・・・・・

 

そこを通じて、魔針ホラー 二ドルが自身の住まう”結界”の中で笑っていたことに・・・

 

キュウベえ自身もまた気が付いていなかったのだ・・・

 

それが自身の意思なのか・・・はたまた意識に介入する”魔針ホラー 二ドル”のモノなのか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 志筑仁美の自宅

 

「美樹さやか・・・わたくしの邪魔をするつもりですか」

 

キュウベえに刺した”魔針”より、二ドルから知らされた状況に対して仁美は忌々しく表情を歪めた。

 

『でぇもぉさぁ~、少し面白くなってきたと思うよぉ。障害は多ければ多いほどやりがいがあるってものだぁよ』

 

他人事のように面白がる”二ドル”に苛立つが、この”ホラー”が気を利かせてくれたおかげで美樹さやかの動きを知ることが出来たことだけは感謝していた。

 

左目を通じて、”魔針ホラー”の能力の一部が使えることにその有用性を仁美は検証する。

 

今のところ、これといったリスクはないので有効に使わせてもらおうと考えた。

 

だが、美樹さやかが勘づいている事から時間はあまりにも少なくなっている。

 

千歳ゆまを狙うには巴マミを何とかしなければならないのだが、解決策はこれと言って浮かばなかった。

 

「千歳ゆまに拘らなければ・・・他にわたくしの”願い”を”因果”を高める為には・・・・・・」

 

一人一人狩っても”因果”は微々たるものであり、故に大量に”因果”を一気に集める方法を考えなければならない。

 

自室の机には”見滝原中学校のパンフレット”が置かれており、”天才ヴァイオリニスト 上条恭介”も紹介されていたのだが、その後のパンフレットでは名前を削除され、まるで居ないもののように扱い、切り捨てた学校側の対応に怒りを感じていた。

 

「あなた方があの方を切り捨てるのならば、わたくしが切り捨てます」

 

因果を高める為にある計画が閃いたのだ・・・

 

彼女にとっては天啓であり、それ以外の者にとっては災いである・・・・・

 

一人では難しいのだが、”魔針ホラー”の協力があればこそ可能な計画・・・

 

それは”見滝原中学校襲撃計画”であった・・・・・・

 

二ドルに計画の詳細を伝えなければならないが、今は場所を移動しなければならなかった・・・・・・

 

志筑家のグループが企画しているある”場所”へ足を向けることにしたのだ・・・

 

そこならば、魔法少女であっても容易には入ってこられないのだから・・・・・・

 

志筑仁美のこれからの行動が面白くなりそうだと”魔針ホラー 二ドル”は笑う・・・・・・

 

『やっぱぁり、人間界は面白いなぁ~。魔界は何もなくて退屈だから、こっちは飽きないんだぁ~』

 

見滝原市に存在する巨大な”湖”周辺の開発計画としての一環・・・・・・

 

”水上ホテル計画”の為に現在、停泊している巨大船を拠点とすべく志筑仁美は足早に自宅を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

劇場版のまどマギでのさやかの髪飾りが印象的だったので、出したもののとてもじゃないですが書いていて、さやかの苦難は増してばかりだと今更ながら思います。

キュウベえより、犯人の名前が告げられましたが、鵜呑みにするのではなく仁美に会い、真実を確かめてから説得をしようとするさやかは、仁美が罪を認め、自首するのならば親友として支えていくつもりで居ます。

自身の怒りもそうですが、仁美がこのような行動に走ったのは自分が原因だと考えているが故です。

ですが仁美にさやかの想いは届くのでしょうか?彼女の暴走は、いよいよ個人ではなく自分が通う”学校”関係者までに向かい、さらには”魔針ホラー 二ドル”によりとんでもない事になりつつあります。

さやかにホラーを斬ることのできる”霊刀”を届ける役目で京極神社から 京極カラスキが来る予定ですが、見滝原にもアスナロ市編の方々も出そうかと考えています。

新たに敵キャラを出すよりかは既に出ている方々を出した方が話の流れとしては良いかと考えていますので・・・

ちょっとやってみたいのが、そっくりさん対決(笑)

改めてみるとさやかが初期の頃よりも大きく成長したと思います。

守るべき希望も願いはないけど、それでも前に進まなければならない。

こうなったのは全て自分の行いの結果だということを自覚して・・・・・・

このさやかだと、”円環の理”には行きそうにないですね・・・・・・



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第弐拾漆話「 回 転 (陸)」


今回、久々にあのそっくりさんが登場。

チョイ役のつもりが大きく出世したモノです。

前回に続いて、さやかがメインを張ります。




志筑仁美は足早に目立たないようにタクシーを捕まえて、そのまま自宅から離れていった。

 

(・・・・・・遭遇することが無くて良かった。もしも・・・遭遇して居たら・・・)

 

美樹さやかが自分の元へ向かっていることに内心焦ったが、やって来る前に逃げられたことに胸をなでおろす。

 

彼女が動き、さらにはインキュベーターが自分を排除しようとしている為、あまり多くの時間は掛けられない。

 

短期間で結果を出さなくてはならなかった。

 

”目的地”に向かい、そこで計画を練らなければならなかった。

 

「すまないね~~。キュウベえ達は君の事を煩わしく思っているから、排除しようと美樹さやからを仕向けてきたようだね」

 

タクシーの運転手は聞き覚えのある声だった。

 

そう自分に”願い”を”奇跡”を叶える方法を教えてくれたあの白い少年 カヲルだった。

 

バックミラーを寄せて特徴的な赤い目が笑う。

 

「カヲルさん。どうして・・・」

 

「仁美ちゃんに手を貸したかったんだ。大丈夫だよ、このタクシーは魔法少女には感知されないし、ましてやキュウベえにもね・・・」

 

貴方も同じ”インキュベーター”だと言葉を返したかったが、彼はそれを嫌っているのでここで機嫌をそぐわけには行かないので仁美は刺激をしないように抱いていた疑問を投げかけた。

 

「貴方には助けられてばかりですわ。わたくしには覚悟はありますが、今のままでは覚悟はあっても襲い掛かってくる理不尽を払うことができません」

 

なにか自分に”力”があればと願うが、他の魔法少女らと違い直ぐに”契約”ができない自分では”因果”を集めながら逃げ回るしかないのが現状であった。

 

ここで聞かねばならなかった。

 

何故、キュウベえは自分を排除しようとしているのに”カヲル”は助けてくれるのかを?

 

「貴方は私の味方であることは分かります。ですが、どうしてわたくしを助けてくれるのですか?何か目的があるからですか?」

 

仁美の質問にカヲルはいつものようにアルカイックスマイルを浮かべる。

 

「君は本当に賢いよ、魔法少女になれる子のほとんどが都合の良いことだけしかみえなくて考えるということをしないんだ。強いて言えば、君がとても魅力的だからというのはダメかな?」

 

「うふふふ。本当にカヲルさんは・・・ですが・・・わたくしは・・・」

 

「良いよ、気に病むことはないさ。僕は僕がやりたいようにしているだけだから・・・君が僕の好意を受け取らなくても、君自身が幸せになってくれれば、それで良いのさ」

 

カヲルの言葉に仁美は、少しだけ気をよくしたのか微笑んでいた。

 

「君のその左目の件もだけど・・・戦うことを考えるとこの見滝原には仁美ちゃんの幸せをぶち壊しかねない存在が多数いるから、それらを相手にするのはあまりにも大変だよ」

 

美樹さやからを始め、佐倉杏子とその伯父である風雲騎士が存在する。

 

暗黒騎士もまた見滝原の闇に潜んでいるのだ。

 

カヲルは”使徒ホラー 二ドル”について知っているらしく、仁美がその協力を取り付けていることにそれなりの戦力を得たと考えているが、それだけでは足りないかもしれない。

 

”使徒ホラー 二ドル”は味方と言うよりも面白がって近寄って来ただけであり、面白そうだから”力”を貸しているだけで、いつ気まぐれで離れるか分からない。

 

故に少しドライではあるが、ある程度の協力を依頼できる”一団”のことをカヲルは提案する。

 

「その話しぶりですと・・・カヲルさんは多数の邪魔を相手にする”戦力”に心当たりがあるのですね」

 

「そうだよ・・・アスナロ市で最近動き出している”一団”だよ。僕が把握している情報だと、彼らは魔法少女の一団を一蹴したらしい」

 

”魔法少女”ではない”普通の人間”であることを強調する。

 

「そ、それは?本当ですか!?!ならば・・・それ相応の報酬を用意しなければなりませんわね」

 

仁美は直ぐにその”一団”に会うことを了承する。

 

タクシーはそのまま高速へ入り、アスナロ市へと向かっていくのだった・・・

 

「仁美ちゃん。疲れたよね、少しだけ眠ると良いよ。朝には着く予定だから・・・」

 

「毛布も用意しておいたから、それを使うと良いよ」

 

カヲルの気遣いに内心”上条恭介”も自分をみっと見てくれたらと不満を漏らすが、それが彼たる所以だと思いつつ瞼を閉じた。

 

『おまぁえはぁ、インキュベーターだぁね。久しぶりに見たぁよ』

 

自身が最も嫌う”インキュベーター”という言葉をワザと言う魔針ホラー 二ドルにカヲルはムッとするが、適当に話を合わせることにした。

 

「そうだね。僕はあの間抜けなぬいぐるみじゃないよ」

 

あの姿にも成れないことはないのだが、正直好きではなくこの”カヲル”という少年の姿こそが自分の真実の姿であると考えていた。

 

『面白いなぁ~。もっと面白いモノをぉ見せてくれたらぁ、嬉しいなぁ』

 

意識のない仁美の左目から覗く”女道化師”に得体のしれないモノを感じつつカヲルは運転を行うのだが、道路の脇に一瞬ではあるが見知った少女が佇んでいるのを見た・・・・・・

 

(ん?アレは・・・鹿目まどか・・・)

 

この時間軸にやってきた”暁美ほむら”により多くの”因果”が集約する警戒すべき少女が何故と思ったが、その姿は直ぐに消えてしまう。

 

『どぉしたぁ?何か変なモノでもみたのかぁい』

 

お前も変なモノだろうと思わなくもなかったが、それを口に出す程カヲルは軽率ではなかった。

 

「なんでもないよ・・・(気のせいか・・・まさか、僕自身は少し気疲れしているなんてね)」

 

自身の感情的な部分に呆れつつも、喜びを感じながらアスナロ市へと車両を動かすのだった・・・・・・

 

カヲルは気が付かなかった。

 

見間違いと思っていた”鹿目まどか”が認識できないはずのタクシーを金色の瞳で見ていたことに・・・

 

そして、それを”魔針ホラー 二ドル”は彼女のその特異な”存在”と”気配”を察していた、

 

”魔針ホラー二ドル”は、愉快そうに眼を細めて笑う。

 

『・・・面白ことになってきたぁよ。あんな存在をみたぁのは、メシア以来だぁよ』

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある場所に行くとこう尋ねられる・・・

 

”♡貴方の陰我を発散させます♡”

 

それは繁華街にあるとある”bar”にいる年若い店主が”陰我”を晴らしてくれるという・・・

 

”陰我は人の邪心。それを抱え込んだら、身体に悪いし、今後の人生にも悪影響を及ぼすんだよ”

 

”だから、望みを言ってごらん。君の抱えている陰我を・・・”

 

”誰を・・・堕としたいのか教えてほしいな”

 

”ぶっちゃけなよ。誰が憎いんだい?誰の死を望んでいるんだい?”

 

彼は魔戒の力を利用し闇社会で暗躍する”一団”の長である・・・・・・

 

アスナロ市にあるbar ”Heart-to- Heart ”

 

今宵も”陰我”を抱えたお客様をお待ちしております♡

 

 

 

 

 

 

 

さやかとソラは、志筑仁美の自宅である豪邸の前に来ていた。

 

時間も時間なのか灯りはついておらず、庭も含めて豪邸全体が不気味な静けさに包まれていた。

 

「もう寝たのかな?仁美・・・」

 

普段ならば非常識な時間なので明日に出直すべきではあるのだが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。

 

「・・・変ですね。人の気配がまるで感じられません・・・」

 

「ソラ?それって、どういうこと?」

 

「はい・・・本来ならば居るべき”人”。生きている存在を全く感じられないんです」

 

「じゃあ、すぐに行かないと!!もしかしたら!!!」

 

魔法少女に変身し、さやかはその脚力で高い塀を乗り越えた。ソラもさやかに続く。

 

(さやか・・・やはり貴女は・・・)

 

志筑仁美が”犯人”であっても、憎悪を燃やす相手だったとしても、さやかは全力で彼女を助ける意思であった。

 

ソラは、さやかが”友人やその周りの人々”を大切にしていることを改めて認識した。

 

だが、その想いが”友人”に届いているであろうか?

 

(志筑仁美・・・貴女を今も心配している人が居るのですよ。今ならまだ引き返せます)

 

既に幾人もの”命”を自身の願いの為に”犠牲”を強いた彼女が引き返したとしても、その後の人生は苦難を伴うであろう。

 

それでも支えてくれる人が居れば・・・

 

その苦難も歩むことはできるのではないだろうか・・・

 

叶うことならば”さやか”の望むように志筑仁美が過ちを認めてくれればとソラは思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

建物に入ったさやか達は暗い廊下を歩いていた。

 

「相変わらず仁美の家は広いわね・・・仁美の部屋はこの奥だったわ」

 

「流石は見滝原の名士志筑ですか・・・これほどの家柄であれば、彼女自身も感じるプレッシャーも相当なモノですね」

 

さやかもソラの言葉に同意する。

 

様々な習い事をこなしていてるが、遊べなくなった時に寂しそうな表情をしているのを思い出したのだ。

 

「色々大変だなって思っていたけど、口には出さなかったんだよね。仁美は・・・」

 

結局自分には関係ないと何処かで思っていたのかもしれない。

 

一般の庶民と名士のである志築とでは、住んでいる世界が違うとも・・・・・・

 

上条恭介の事もだが、自分は志筑仁美のこともしっかりと見ていなかったもかもしれない・・・

 

「でも今は直接会って話をしないと。全てはそこからよ」

 

さやか達は仁美の部屋へ行き、一応のマナーとしてノックをしてから入るが・・・

 

部屋はもぬけの殻であり、彼女の痕跡はどこにも見当たらなかった・・・・・・

 

「仁美っ!!居るんなら返事をして!!!アタシは、仁美ともう一度話し合いたいんだ!!!」

 

隠れているかもしれない仁美に自身の想いを叫ぶさやかにソラは、彼女の想いが届くことを願った。

 

さやかもまた同じだった・・・

 

(これ以上、もうアタシは失いたくない・・・恭介のように仁美を”陰我”と”呪い”になんかに堕とさせたくない)

 

さやかもまた同じだった・・・だが・・・・・・彼女の想いを嘲笑うかのように・・・・・・

 

部屋にあるクローゼットが内側から開きだし、黒い影が一瞬にしてさやかの前に飛び掛かってきた。

 

メイド服を着た女性が勢いよくさやかに向かっていように発達した爪を振りかぶってきたのだ。

 

「さやかっ!!!」

 

ソラが”薙刀”を出現させて、振るわれた爪を防ぐ。

 

爪は金属を思わせる鋭い音と共に弾かれる。

 

目は夜行性の動物を思わせるかのように白く輝き、獣を思わせる唸り声をあげていた。

 

「この人は・・・」

 

目の前の唸り声をあげている人物にさやかは覚えがあった。

 

そうだ、以前にまどかと仁美と一緒に遊びに来た時に紅茶を淹れてくれた人だった。

 

唸り声をあげて、襲ってくる彼女に対しさやかは戸惑うのだが・・・

 

「さやかっ!?!ここで倒れてはいけません!!ここで確かめることがあるのでしょう!!!」

 

この場で迷いがあろうものならば、志筑仁美に会うことは叶わなくなる。

 

「ソラっ・・・そうだった、でも!!ごめんなさい!!!」

 

さやかはメイドを押しのける様にサーベルを振るう。

 

魔法少女の攻撃は一般人にとっては致命傷を与えかねないほど強力なモノであるが為に壁に叩きつけられたメイドは動かなくなってしまった。

 

一瞬ではあるが耳元から光る何かが落ちるのをソラは見たが、それは煙のように消えてしまった。

 

(・・・・・・何かが操っていた?まさか・・・志筑仁美は・・・)

 

最悪なケースが脳裏に浮かぶが、それを確かめるす術はない・・・

 

「ソラ・・・この人って操られていたんだよね。それも変な感じになって・・・」

 

さやかは傷つけてしまったメイドの女性を”治癒魔法”で癒し、仁美のベッドから掛け布団を拝借してそれを掛ける。

 

彼女もまた”最悪なケース”を想定していたのだ。志筑仁美は・・・・・

 

「まさか・・・恭介だけじゃなくて、仁美まで・・・ホラーに・・・」

 

もしも彼女が”陰我”に堕ちたのならば、もう救うことなどできないではないか・・・

 

絶望しかけるさやかに対し、ソラは

 

「まだです、さやか。ここにホラーを思わせる邪気は感じられません。魔女の気配だってないんです。だから、彼女はホラーに憑依されていません。ですが、操られ、利用されているだけかもしれません」

 

呆然とするさやかに喝を入れるかのように

 

「ですから、しっかりしてください!!!さやか!!!志筑仁美を、友達を助けるんですよね!!!だったら、最期まで諦めてはいけません!!!」

 

物静かなソラが声を荒げて自分を振るい立たせようとするさまにさやかは、

 

「そうだよね。ありがとう、ソラ。さやかちゃんは、こんなことで落ち込んでなんかいられないよね!!」

 

改めてこのしっかりとした妹分が居てくれて良かったとさやかは思うのだった。

 

そして、この妹分を送り出してくれた今は居ない”姉”にも感謝をしていた・・・・・・

 

「・・・さやか。私達の所に集まってきているようですね・・・」

 

先ほどの戦闘で屋敷に居た”メイドや使用人”達が一斉に動き出したようだった・・・・・・

 

「あんまり気持ちは乗らないけど、仁美に会って文句を言うまでは倒れるわけには行かないね」

 

さやかとソラはドアを突き破ってきた二人のメイドをそれぞれの武器で払い、そのまま窓を突き破り庭へと躍り出るのだった。

 

庭には異様に爪を発達させ、獣のように唸り声をあげるメイドや使用人たちが待ち構えており、降りたった二人を取り囲んでいた。

 

互いに背中を合わせて、それらを迎え撃つべく二人は互いの武器を構える。

 

「少々手荒になってしまいましたね。さやか」

 

この屋敷の状況を見る限り志筑仁美が何かしらの行動を起こし、ホラーまでもが関わった可能性が高い。

 

「そうだね。何だか、魔法少女じゃないよね。この展開は・・・」

 

魔法少女はもっとふわふわとしていて、ほのぼのとした穏やかな展開があるべきなのに、さやかが体験した魔法少女の実態は”ダークファンタジー”とも言うべきハードな展開であった。

 

獣のような唸り声をあげて飛びかかって来るメイド達をなるだけ傷つけないようにさやかは、ブレードの刃を落とし、切れないように変化させる。

 

同じくソラは薙刀から武器を長い棒に変えて、メイドらの足をすくい柄でその腹に打ち込む。

 

二人の少女は地を蹴って迫りくるメイドと使用人達を相手に奮闘するのだった・・・・・・

 

すべてのメイド、使用人たちを制した後、傷ついた身体を”治癒魔法”で癒した後に屋敷の中を調べ、地下室に放置されていた”志筑仁美の両親”の変わり果てた姿を見たのだった・・・・・・

 

「・・・仁美・・・どうしてこんなことを・・・・・・」

 

信じていた誰かに裏切られたかのような形相の二人の死に顔にさやかは悲痛な表情を浮かべる。

 

ソラは、地下室の壁に掛けられている奇妙なオブジェに視線を向けた・・・

 

それは幾つもの”針”を使って作られた奇妙なものであった・・・・・・

 

見た目もそうだが、この世のものとは思えない異様な雰囲気を漂わせている。

 

回収して”魔戒騎士”にみせようかとも考えたが、得体のしれないモノに迂闊に触るべきではないと判断し、そのままにしておくのだった・・・・・・

 

後で知ることになるのだが、そのオブジェは志筑家が外国に旅行に行ったときに古美術店で購入したモノだったという・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝 アスナロ市

 

繁華街の奥に存在するそのBARの前に二人の少女と少年が立った。

 

「そこのお二人さん。営業は今日の夜8時からだよ」

 

背後より派手な服装をした女性 香蘭が少しだけ眠そうな表情を浮かべながら話しかけるが・・・

 

左目に眼帯をした少女 志筑仁美を見たとたんに表情を変えた。

 

「ちょっち・・・ここは、”陰我”を抱えた人を専門にしていて、”陰我”に堕ちた人は基本、お断りなんだけどね~~」

 

「香蘭。そう言わずにさ・・・尋ねに来たんだから、それなりに訳ありさ、話は聞くだけ聞こうよ」

 

入り口から一人の青年が顔を出す。

 

人当たりに良さそうな笑みを浮かべて、明良 二樹は声を掛けるのだった・・・・・・

 

「カヲルさん・・・この人が・・・」

 

「そうだよ、魔法少女 真須美 巴の友人にして遊び相手。魔法少女すら撃退できる”力”をもった唯一の人間さ。それこそホラーだってね」

 

明良 二樹は二人が単なる人間ではなく、何か大きなことを行おうとしていることを察していた。

 

(僕の事を知ったのは、多分インキュベーターから聞いたんだろうね。香蘭、警戒するにも、もう少し相手を見てからだよ・・・さっき”紅蜥蜴”も戻ってきたから大丈夫。魔戒法師も安心する”魔戒騎士”が居るから安心しなよ)

 

背後に視線を向けると”ドレッドヘアー”の大柄の筋骨隆々の大男がBARの奥に座っていた。

 

背中に巨大な斧を二本背負っている・・・・・・

 

”紅蜥蜴”と呼ばれる男は、志筑仁美の左目に何か思うことがあるのか視線を険しくする。

 

志筑仁美も”紅蜥蜴”の視線に居心地の悪さを感じるが、明良 二樹が手で制す。

 

「ここに来たからには、僕達が何をしているのかぐらいは分かるよね。早速だけど、ビジネスの話と行こうじゃないか」

 

BARの奥に座る”紅蜥蜴”の隣りにいつの間にか機械仕掛けの骸骨人形が立つ。

 

”魔号機人 凱”である・・・・・

 

香蘭も自身の一団の”最高戦力”が二つも揃ったことに安心し、ほんの少しだけ警戒を解くのであった・・・

 

「そうですわね。わたくしも早速お話を始めたいと思います」

 

笑みを浮かべて志筑仁美は、明良 二樹に応えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

さやかは、仁美を助けたいと願うも仁美は彼女の想いを嘲笑うかのように見滝原市に災いをアスナロ市から呼び寄せようとしています。

人型インキュベーターのカヲルは、仁美を色々とサポートしていますが、彼自身にも目的があって彼女に近づいています。

久々に登場 明良 二樹さん。今回もゲスト出演ですが、色々と仲間が増えてそれなりの所帯になっています。

以前から細々と活動はしていましたが、バグギの戦いの後に本格的に纏まった活動を行うようになりました。

アスナロ市を中心に”魔号機人”等の魔導具をつかったり、さらには、掟に背いて脱走した”魔戒騎士”、欲望に忠実な魔戒法師などの力を”闇社会”で振るっています。

一応はホラーも狩っているので、番犬所もとりあえずは様子見です。

掟に背いて脱走した魔戒騎士こと”紅蜥蜴”。暗黒騎士まで堕ちてはいません。

他にもメンバーが居ますが、魔法少女も含まれています。






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第弐拾漆話「 回 転 (漆)」

冒頭で意外な人がとんでもないことに・・・




見滝原市内 深夜二時前後・・・

 

既にほとんどの人達が眠りについている時間ではあるが、一人の女性が虚ろな視線で今日の会議で纏められた書類に目を通してた。

 

明日、生徒達に”彼の事”を話すことが気が重い。

 

会議の後、放課後に校長と教頭からの責めにも似た言葉が今も脳裏に響く・・・・・・

 

”早乙女先生・・・困りますよ”

 

”本当に何もなかったのかね?彼の突然死は自殺ではないかともいわれている”

 

”幸いにもイジメの事実がなかったことがせめてもの救いだ”

 

”いじめはなくとも、上条君を見捨てたのは私達ではないでしょうか”

 

上司である二人に抗議した。上条恭介が突然死したのは不幸な事件に会ったこともそうだが、彼のことを学校のブランドを高める為の付属品のように扱った自分達にも原因があったのではと・・・

 

だが・・・・・・

 

”それはあんな事になったら仕方がないよ”

 

”そうだ。将来性のなくなった彼をそのままにしていたら、この学校のイメージも悪くなる”

 

結局は、上条恭介自身の死を悼むのではなく、この学校のブランドと名声だけが大事である二人に早乙女和子は終始不快な思いを感じていた。

 

そして、生徒達には”上条恭介の死”については、なるだけ穏便に話すように指示を受けたことが彼女を更に苛立たせた・・・

 

自棄になり、酒を煽るもののそれでも気が晴れず、友人を呼ぼうかとも思ったが彼女は”家庭”を持っている為独り身の自分の都合に付き合わせるわけにはいかなかった。

 

さらには、転校してくるはずだった”暁美ほむら”の失踪もまた彼女の負担となっていたが、彼女の両親はむしろ自分を気遣ってくれていた為、この件に関しては一刻も早く”暁美ほむら”が見つかってほしいと願っていた・・・

 

久方ぶりに指に通した”想い人”の婚約指輪を眺めつつ、彼を殺したであろう”犯人”の目撃者かもしれない”暁美ほむら”に会いたかった・・・

 

想い人のことを思うと、上条恭介を想っていた二人の少女はきっと今も悲しみに暮れているだろう。

 

ここ数日、学校に姿を見せていないことを察すると・・・・・・

 

この暗い気持ちを何とかしたいと思いつつ指輪を再び眺めた時だった・・・

 

『オマエノその気持ち・・・怒りを発散させてはどうだ?』

 

指輪から黒い瘴気と共に、早乙女和子の影と悪魔を思わせる奇妙な影が一瞬にして重なった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校

 

いつもと変わらぬ登校する生徒達に交じって佐倉杏子は若干眠気を感じつつ通学路に視線を向けていた。

 

「変わり映えしない日々ってこういうのを言うのかな・・・」

 

ここ数日、伯父と共に鍛錬とホラー狩りの日々を過ごしつつ、こうやって学校に通う日々をこなしながら杏子はいつものように放課後までの退屈な”日常”を過ごそうかと考えていた。

 

『Everydayはいつもそういうものだよ、杏子』

 

「ったく・・・ナダサ。お前のその変な口調、何とかしろよ』

 

英語と日本語がごっちゃになっている変な言葉遣いに伯父は何故、こんな魔道輪と契約したんだと思う。

 

『HAHAHAHA、MeはこれがUsuallyさ・・・』

 

「なんか微妙に意味がちげえぞ・・・」

 

なにかあった時の為に持たせてくれてる”魔道輪 ナダサ”であるが、杏子はこの変な”魔道輪”には未だになれていなかったのだった・・・・・・

 

変な魔道輪ではあるが、一応は数々の修羅場を潜り抜けてきた”猛者”だと・・・思いたい杏子であった。

 

そんな中、見知った背中が視界に入った。

 

級友であり、最近になって事情を知った”訳あり”の鹿目まどかであった・・・

 

「ナダサ・・・まどかの前では、あまり喋るなよ」

 

『I See』

 

「Understandでも良かったんじゃないか?」

 

そんなどうでも良い会話を心地よく感じながら、杏子はまどかに声を掛けるのだった。

 

「お~い。まどか、今日もよろしくな」

 

「あ、おはよう。杏子ちゃん」

 

いつものように笑みを浮かべて挨拶を返すまどかに杏子もまた笑みを浮かべで返すのだった。

 

「杏子ちゃん・・・ほむらちゃんと最近あった?」

 

「あ、あぁ・・・昨日の夜あったんだけどな・・・用事があるって、そのまま別れたんだよな・・・」

 

まどかが気にする”暁美ほむら”と昨夜、久しぶりにあった杏子であったが、彼女のあまりの変わりようにどうこたえて良いモノか分からなかった・・・・・・

 

「悪いな・・・腕を掴んででも連れてくるって約束したのにな・・・あはははは・・・」

 

(ほむらの奴、アスナロ市で何があった!?!変わりすぎだろ!?!)

 

乾いた声で笑う杏子を不審そうに見るまどかであったが、その様子を久しぶりに登校してきたさやかが不思議そうに見ていた・・・

 

「姐さん・・・何かあったのかな?」

 

本来ならば仁美を探さなくてはならないのだが、見滝原市内には居ない可能性があり、彼女を探すためにソラが動いている。

 

動いてくれる妹分には感謝しつつあることをさやかは彼女に告げていた。

 

”絶対に怪しい奴から声を掛けられても絶対に応えちゃだめだよ、ソラ”

 

主にキュウベえと言っている辺り、さやかのキュウベえに対する感情はすこぶる悪い・・・・・・

 

久しぶりにさやかが登校したのは、学生をする為ではなく、姐さんこと杏子とその伯父の力を借りる為であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昨夜 見滝原市内

 

見滝原の高い鉄塔の先端に黒い髪を靡かせる女性が見滝原市内を見下ろしていた。

 

『・・・見滝原か・・・思っていたよりも中々の街ではないか・・・』

 

「そう・・・ギュテク・・・貴方も貴方で器用な真似ができるのね」

 

鉄塔の先端に立つ女性 暁美ほむらは自身の腕につけられているギュテクに話しかける。

 

魔導輪 ギュテク・・・使徒ホラーの一体である バグギを魔道輪に封じ込めた存在である。

 

現在は、暗黒騎士 呀 バラゴと契約を結んでいるのだが、このギュテクは元のホラーがホラーだけにその力は他の魔道輪以上の能力を持っている。

 

それは、現在ほむらの腕輪はバラゴが付けているギュテク本人ではなく”複製”なのだ・・・

 

ギュテクの能力の一つに自身と全く同じ能力と思考を持った”複製”を作り上げることが出来る。

 

”複製”を行う瞬間は、見るに耐えない光景だったが・・・・・・

 

インキュベーターのように意思を共有化していない。だが、互いに”感覚”だけは共有はしていた。

 

ほむらに”ギュテク”の複製が与えられたのは・・・・・・

 

『当然だろう・・・だが、ほむらよ。今宵はお前は、一人でホラーを狩るようにエルダに言われていたな』

 

自分の事はどうでもよいだろうと言わんばかりにギュテクは今夜、ほむらに課せられた試練を話す。

 

「ええ・・・いつまでもバラゴとエルダの影に隠れているわけにはいかないものね」

 

今夜ほむらは、見滝原に現れたあるホラーを一人で”討滅”する為にこの場に来ていたのだった。

 

エルダから、今夜現れるホラーをその”力”で討滅せよと・・・

 

眼下の都市に視線を向け、高層ビルの間に吹き荒れる風の感触を肌で感じつつ現れた”ホラー”の気配を探す。

 

吹き荒れる風に影響を受けずに”魔戒札”が展開し、その中の”一枚”に視線を向けた後、塔を蹴り眼下の広がる夜の見滝原へと降りる。

 

肌に感じる夜の空気と眼下に広がる夜景を横目に真っ直ぐに”ホラー”の居る場所へと降り立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市内を一組の男女 黒いコートを着た男性と赤髪の少女が人目に付かないように動いていた。

 

「ナダサ・・・こっちで間違いないのか?」

 

『AH、すぐ近くにSTAYしてるよ』

 

「ってかナダサ・・・その言葉遣い何とかならないのかよ」

 

自分の腕にある”魔道輪 ナダサ”の口調に中々慣れない杏子は、少しだけうんざりしていた。

 

「まあまあ、杏子ちゃん。ナダサはナダサで頼りになるぞ」

 

伯父の言葉に杏子は少し納得のいかない表情を浮かべていた。

 

「でもさぁ~~、マミんとこに出たホラーじゃないんだよな。今回の奴も・・・」

 

杏子は、ホラー”フェイスレス”こと柾尾 優太が何処にいるか分からない事に不満を漏らす。

 

あれから彼が住んでいた部屋にも行ってみたが、不思議なことに誰かが生活をしていた跡があった。

 

焼けて廃墟と化した部屋で・・・

 

「それに関しては俺にも思うことがあるな・・・」

 

ふと横に視線を向けると古い劇場で”レイトショー”を行っており、そこにはラバーマスクを被った大柄の怪人が描かれた古い映画のポスターが飾られていた。

 

「人間も度が過ぎるとホラーに憑依されなくても”怪物”になることもあるのだろうな。ホラーに憑依されなくとも”陰我”は形を変えて現れるのかもしれない」

 

伯父の言葉にそれは、”魔女”なのだろうかとも考えたが、”ホラー”や”魔女”以外にもそういう”怪異”は無数に存在強いているとのことだ・・・・・・

 

『そうだね、ホラー映画の怪人、ジェイソン、フレディ、マイケル・マイヤーズ、レザーフェイスは、”陰我”の違うホラー達だね』

 

あの作品の怪人たちは、最初こそは人間であったがシリーズを重ねるごとに”人間離れ”した荒唐無稽な怪人と化しており、ある意味”コメディ映画”だろうとも思ったが、見方を変えると”陰我”によりホラーに憑依されることなく怪物と化した存在なのかもしれない・・・

 

「陰我にも色々あるかって・・・ナダサ!!!お前、普通に喋れるじゃねえか!!!

 

『Pardon?Repeatしてくれる?杏子』

 

「この野郎・・・ふざけやがって・・・」

 

杏子は、この魔道輪に青筋を立てるが、

 

「杏子ちゃん。ナダサはそういう奴だ・・・俺も若い時分は、声を荒げていたな」

 

杏子とナダサの様子は、風雲騎士バドの称号を得たばかりの頃の懐かしい光景そのものだった。

 

長い付き合いで”魔道輪 ナダサ”との付き合いは慣れたが、時折気が抜けれしまうことがあるのか、いい加減そろそろ改善しなくてはと考えていた。

 

『WHAT?誰かが既に戦っているね』

 

魔導輪 ナダサは、今夜討滅の命が下っていた”クリムゾンネイル”に誰かが交戦を始めているのを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市内の人気のない路地を一人の女性が男から逃げていた。

 

途中途中で助けを求めようと建物の扉を叩くもののほとんどが閉店しており、応えてくれるものは存在しなかった。

 

次第に追い詰められ、行き止まりの壁に当たり彼女は覚えて表情で男に叫んだ。

 

「い、いや・・、こ、こないでっ!?!」

 

その男は、二十代後半の柄のあまり良くない格好をしており下卑た笑みを女性に向けていた。

 

「いいね・・その表情・・・」

 

下卑た笑みを浮かべて自身の腕力をもって目の前の女性を自分の思うままにできると確信し、一歩足を踏み出すのだが・・・・・・

 

「・・・・・・気持ちの良い光景ではないわね」

 

背後を振り返ると黒髪の長身の女性が立っていたのだ。

 

「おおっ!!」

 

男は現れた女性に興奮したかのように声を上げた。

 

今自分が蹂躙しようとしている女性よりも遥かに美しい女性が現れたのだ。

 

幸いにも自分達以外に誰も居ない。下卑た感情を黒い服の女性に向ける。

 

「それよりも早くこの場から逃げなさい・・・死にたくなかったら」

 

男の不快な視線を感じつつも女性は黒い皮手袋をした手に”鈴”を持ち、それを鳴らす。

 

綺麗な音色が辺りに響いたと同時に背後の怯えていた女性の目に”魔戒文字”が浮かび上がったのだった。

 

「なに?お姉ちゃん、それ?教えてくんない?」

 

どういう状況なのか分からないのかと言わんばかりの冷たい視線を向けるが、男はこの視線を”怯え”に変えたいという願望が芽生えるのだが・・・

 

”ぐちゅ・・グチュ・・・グチュチュ・・”

 

背後より肉が潰れるというよりも何かが捻じれているような気味の悪い音が響く。

 

「あぁっ!?」

 

振り返るとそこには奇妙な角度で曲がった腕、首、異常身までに膨れ上がった腹と頭・・・・

 

「な、なんだ!?!これはっ!?!」

 

人間の面影のない醜悪な肉塊があり、弾け飛ぶように赤い異形の”悪魔”が現れた。

 

「あ、ああああ・・・ば、化け物っ!?!」

 

「だから言ったでしょ。死にたくなかったら、この場から逃げなさいって」

 

「ひ、ひいいいいいいっ!?!!」

 

涙声で男は、先ほどまでの”強気”な態度を捨て、そのまま勢いよくこの場から逃げ出したのだった。

 

『貴様・・・魔戒法師か?』

 

ホラー クリムゾンネイルは、ほむらの纏っている衣装は魔戒法師が着る”法衣”である為、彼女が魔戒法師であることと認識する。

 

だが、魔戒法師程度ならばホラーである自身の敵ではないと判断するが・・・

 

『ほむら、このクリムゾンネイルは近接戦闘を得意としている。今のお前にはちょうど良い相手であろう』

 

魔導輪 ギュテクは黒い服の女性 暁美ほむらにホラーの情報を伝える。

 

「そうね・・・今までは弓や銃器による遠距離の攻撃手段を用いてきたけど、これからはこちらを使わなければならないわね」

 

ほむらは、自身の魔力により”十字の刃”を持った杖を召喚する。

 

『クククク・・・クリムゾンネイルよ。この暁美ほむらは、魔戒騎士でも法師でもない”存在”故に、お前は、他のホラーが知らぬ”脅威”を目の当たりにするが良い』

 

無言のほむらに変わるように魔道輪 ギュテクがホラー クリムゾンネイルを挑発する。

 

『魔戒法師ごときが・・・大きな口を叩くのはそこまでだ』

 

エフェクトのかかった声を発しているのは、口元が中世欧州の鎧を思わせるマスクをしているからだろう。

 

俊敏な動きで縦横無尽に建物の壁から壁へと移動し、両腕の赤い鎌をほむらに向かって振るう。

 

これをほむらは、十字の刃で防ぐと同時に長い柄でホラー クリムゾンネイルの攻撃をすべて裁いた上でカウンターとして強烈な打撃を首元に打ち込んだ。

 

打ち込んだ上でその首を刎ねるべく十字の刃を振るうのだが、クリムゾンネイルもまた尾をまるで蠍が尾を掲げて毒針を刺すようにほむらに向けるのだが・・・

 

攻撃が右耳を掠めた瞬間にイヤリングを鳴らしたと同時に十数枚の”魔戒札”がほむらを守護するように展開し、その勢いに任せてクリムゾンネイルの巨体を吹き飛ばしてしまった。

 

『その攻撃は・・・まさか法師ではなく・・・魔戒導師とでもいうのか』

 

ここ最近、数そのものが少なくなり最後の一人も既に亡くなったとホラーの間では通っていたのだが・・・

 

「そうね。魔戒導師の占いは、星があってこそだけど、見滝原もアスナロ市も街そのものが明るくて、星を見るのも苦労するわ」

 

『良く言うモノだな。別に何処に居ようとも星は見上げればそこにあるだろう』

 

「でも、場所と時間で星の位置は変化するわと。ギュテク」

 

ほむらは、そのまま自身のソウルジェムを輝かせると同時に自身の”力”を纏う。

 

法衣がさらに変化し、背中には限りなく闇に近い”混沌”の翼が現れる。

 

『き、貴様・・・一体、何なんだっ!!?!』

 

魔戒導師であることにも驚いたが、それは些細な事であった。

 

だが、目の前の魔戒導師が背中に背負う”翼”からは、”魔戒騎士”にも劣らぬ力を感じられたのだった。

 

こんな魔戒導師の存在など聞いたことがないと言わんばかりに口元のマスクを外し、吼える。

 

「口を大きくして吼えるのね、こいつは・・・」

 

『お前も言うようになったな。ほむらよ・・・』

 

「貴方の影響もあるかもしれないわね」

 

黒い翼の力を十字の刃に纏わせると同時に”炎”のように燃え上がり、刃と共にホラー クリムゾンネイルに振るう。

 

『っ!!?!』

 

その攻撃は、ホラーに強烈な熱さを感じさせ、切り付けられた右腕が上がらなくなってしまった。

 

『うわああああああああああっ!!!!!』

 

自身を奮い立てるように吼え、クリムゾンネイルは背中の翼で飛翔し、落下の勢いを伴ってほむらへと向かていく。

 

冷静に向かってくるクリムゾンネイルに対して、”黒い翼”の”混沌”が更に濃くなり、炎のように燃え上がる。

 

ほむらはその黒い翼の力と血を蹴って、向かってくるホラークリムゾンネイルを十字の刃に纏わせたを振るわれる赤い鎌と交差させる。

 

交差させた同時にホラークリムゾンネイルへ侵食し、その身体を跡形もなく消し去る・・・

 

黒い翼で羽ばたかせて、地上へと降り立つと同時に十字の刃の付いた杖を振るった。

 

『クククク。ほむらよお前の力は既に一介の魔戒騎士以上だろう。故にお前の味方は少ないと思え』

 

魔戒騎士のように戦える”異能の力”は、番犬所、元老院、はたまた邪な感情を持つ堕ちた魔戒の者達からすれば興味深いモノであろう・・・・・

 

「・・・そんなこと言われるまでもないわよ・・・でも、この街に居る間は事を荒立てたくはないわ」

 

視線を向けると呆然とした様子で自分を見る佐倉杏子とその伯父である 風雲騎士 バドが居た。

 

「久しぶりですね。佐倉さん」

 

微笑むほむらに対し、杏子は

 

「え~と、何処かで会ったことあるの?アタシ達」

 

「・・・・・・君はほむらちゃんのお姉さんかな?まさかと思うが、それとも・・・」

 

伯父の発言に杏子は、ほむらも魔戒導師の術を使う為、そういう姉の存在が居るのではと考える。

 

しかしながら、伯父の言葉は少しだけ自信がないというよりも戸惑いを感じていた。

 

「ええ、数日前にアスナロ市に行って来るって言ったばかりよ。佐倉杏子さんとその伯父さん」

 

二人の反応が少しばかり愉快なのかほむらは、笑い声すら漏らしていた。

 

「君は・・・ほむらちゃん本人だね・・・随分と変わったね」

 

長い事”魔戒騎士”をやっていて、このように変わった存在を見るのは初めてだった。

 

「お前っ!?!ほむらぁああっ!?!一体何があったんだ!!!」

 

思わず杏子は絶叫してしまった・・・・・・

 

「人は3日会わなければ刮目せよというべきかしら?」

 

「だとしても、お前は変わりすぎだ!!!」

 

自分を見上げる佐倉杏子が微笑ましいの暁美ほむらは、思わず頭を撫でたくなったがそこはぐっとこらえるのだった。

 

杏子の伯父こと、バドは・・・・・・

 

(・・・随分と様変わりしたな・・・これは杏子ちゃんが言っていた彼女の”時間遡行”の願いに変化があったのだろうか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在、杏子は昨夜再会した暁美ほむらの事をどう言ったものかと悩んでしまった。

 

たった数日で少女から大人になりましたと正直にいうべきだろうか・・・・・・

 

「それで、ほむらちゃんは、今何処に!?!」

 

問いただしてくるまどかの押しに戸惑いつつ、杏子は

 

「今は修行中って言ってたから・・・そのうち、ひょっこり顔を出すんじゃないのか」

 

近いうちに会えると言っておいた方が無難であろうと思う杏子であった。

 

あの暁美ほむらは”魔戒導師見習い”から立派な”魔戒導師”に成長しており、単独でホラーを”魔戒騎士”のように討滅するほどに”力”を見につけていた。

 

伯父から、ほむらの事は、あまり言いふらさない方がよいと釘を刺されている。

 

魔戒騎士並みの戦闘能力を持つほむらの存在はかなり”希少”であり、場合によっては”番犬所”から捕獲命令が下ることもあり得るのだ。

 

その”力”の秘密を解明しようとされるか場合によっては”人型魔導具”に仕立てられることもあり得る。

 

伯父もほむらの事は報告するつもりもないらしく、通りすがりの魔戒法師に殲滅されたと言うつもりだった

 

一応は、頼もしくなってアスナロ市から帰ってきてくれたことを喜ぶべきなのかと悩む杏子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻が正午を回った頃、志筑仁美はカヲルを伴って見滝原の湖の船乗り場に来ていた。

 

仁美を迎えるように志筑家の人達、関連企業の人間たちが彼女らを迎える。

 

だが、その表情に生気はなく虚ろな表情と首の後ろに突き刺さった”針”からは奇妙な”瘴気”が漂っていた・・・

 

「フタツキさん達を迎える準備をしなくてはいけませんね。早速ですが、歓迎会の準備を・・・」

 

使用人たちが仁美の指示に従い、今夜この船に乗船する”明良 二樹”達を迎える為に準備を始めるのだった。

 

「僕も同席しても良いかな?」

 

カヲルも歓迎会に参加の意思を示し、仁美は笑顔でそれに応えるのだった・・・・・・

 

そんな二人をキュウベえは、感情のない赤い瞳で見ていた。

 

それに気づいたのかカヲルは手を振ってこたえる、キュウベえの表情が変わることはなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

前回よりアスナロ市から見滝原に帰ってきた仁美ちゃんとカヲル君。


次回で”回転”が終わります。1話程の番外編を経て、見滝原中学校での決戦に移りたいと思います・・・


番外編で決まっているのは”アスナロ市”からくる”フタツキ一行”を中心とした話の予定です。

上条君の周囲は、彼自身を”陰我”に追い詰める要因が多数存在していたようです。

そして・・・その”陰我”は、さらなる”陰我”を呼びます・・・・・・

久々の風雲騎士一家登場。魔道輪 ナダサに振り回される杏子(笑)

ほむらも数日ぶりに杏子と再会しますが、姿が変わりすぎてしまいました(笑)

魔導輪 ギュテクはザルバのように自身の一部を吐き出すのではなく、そのまま自身の”複製”を生み出すことが可能・・・

元使徒ホラーなのでこれぐらいはできるかと思います。

ほむらはほむらで単独でホラーを狩れるほどになりましたが、逆に番犬所や魔戒騎士を警戒しなくてはならなくなり、ある意味バラゴと一緒に居たほうが安全な状況になりました。




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第弐拾漆話「 回 転 (捌)」

今回は、フタツキ達の様子を少しと見滝原中学校での出来事・・・




見滝原中学校

 

「おっす、まどか!!」

 

昇降口でまどかと杏子の二人にさやかは手を上げて挨拶を行った。

 

「えっ!?さ、さやかちゃんっ!?お、おはよう・・・」

 

ここ三日程姿を見ていなかった幼馴染の姿にまどかは、驚きの声をあげた。

 

それでも戸惑いがちに挨拶を返したが・・・

 

「?まどか・・・アタシ、何かまどかにした?まるで幽霊を見たかのようにアタシを見て・・・」

 

不思議そうにまどかを見るさやかに、杏子は”まどかが知る未来”において”さやか”は・・・

 

(まぁ、幽霊を見たっていうのも遠からずなんだよな・・・)

 

杏子は、魔法少女になったさやかは、最終的に破滅する”未来”にあるとまどかから知らされていた。

 

ただ、どのようにして”破滅”するかまでは聞いてはおらず、まどかも”魔法少女の破滅”については、話すことができない。

 

口に出すのもおぞましい最期であることには間違いないであろう・・・

 

それを知るであろう”暁美ほむら”に”魔法少女”の”真実”を聞ければよかったのだが、昨日の彼女の変貌があまりにも衝撃的だったために何も聞くことはできなかった・・・

 

「な、なんでもないよ・・・さやかちゃん。ここずっと学校に来ていなかったけど・・・」

 

彼女の指に嵌る指輪となった”ソウルジェム”にまどかは視線を向ける。

 

「・・・まあね。色々あったんだ・・・さぁ、早く教室へ行こうよ。まどか、姐さん!!!」

 

いつものように元気に声を上げるが、傍目で見ている生徒ならばいつもの”美樹さやか”のように映るであろう・・・

 

だが、彼女と付き合いの深い、まどかと杏子はどこか無理をしているようにも見えたのだった。

 

佐倉杏子はその理由を察しており、”幼馴染の少年”が”陰我”に堕ちてしまったことにより、この世から去ってしまったことを・・・・・・

 

三人の背中をクラス委員長である中沢 ゆうきは、少し複雑そうな表情で見ていた。

 

今は関係者以外、誰一人として知らないが”上条恭介が突然死”したということを彼は知っていた・・・

 

(美樹さん無茶をしてるな・・・志筑さんが来なかったのはそういうことだったのか・・・)

 

体調不良でここ数日欠席している志筑仁美は、彼の死にショックを受けて体調を崩したのかもしれない。

 

「おいっ!!ゆうき!!!今日は、どうしたっ!!!朝から表情が暗いぞ!!!」

 

自分の憂鬱な気持ちを敢えて無視しているのか、友人の保志が挨拶もなしに遠慮のないいつもの態度で話しかけてきた。

 

「ああ・・・今日はちょっとクラスで暗い話があるかもと思ってな・・・」

 

ゆうきの言葉に保志は、何となくではあるが”上条恭介”の事ではないかと察したが、それ以上に恐ろしい事にも気が付いていた。

 

というよりも、もう少しで目の前の友人が居なくなってしまうかもしれない現場に遭遇してしまったのだ。

 

「もしかして・・・志筑さんのことかな・・・まだ何も言ってないよな・・・」

 

「うん?なんで、そこで志筑さんがでるんだ?保志・・・確かに彼女の具合も・・・」

 

「・・・ゆうき、お前まさか気が付いていなかったのか?あの時の志筑さん普通じゃなかったぞ」

 

あの日、付き添いで欠席していた志筑仁美の家に行った時に見てしまったのだ。

 

志筑仁美の目を・・・表情こそはいつものようににこやかであったが、目が笑っておらず、何か恐ろしい事をしようとしている、いや、既にしていたのかもしれない・・・・・

 

「それ・・・考えすぎだろ。確かに昨日、通り魔で死んだ人が居たって朝のニュースで・・・・・・」

 

まさかと思うが、保志は突拍子のないことを考えているのではと中沢ゆうきは思うが、彼はいつものようなお調子者ではなく真剣な表情で・・・

 

「志筑さんと同じ目をした奴を昔見たことがあるんだ。そいつも実際にとんでもないことをしでかしていた」

 

保志のいう同じ目をした人間と言うのは、あの”ニルヴァーナ事件”を起こした者達であろう・・・

 

”ニルヴァーナ”の名前を口に出せないのは、今も彼が心に深い傷を負っているからである。

 

そんな彼が”志筑仁美”の異常に気が付き、声を上げて呼び止めたことで中沢ゆうきは事なきを得たのだ。

 

保志自身ももしかしたら考えすぎと今朝までは考えていたが、上条恭介の父が経営する音楽教室、その近くで老夫婦が通り魔により殺害されたことに・・・

 

あの時の志筑仁美が行動を起こしたからではと考えていた・・・・・・

 

「・・・俺のいつもみたいにイタイ妄想だったら笑ってほしいな・・・その時は・・・」

 

「あぁ、その時は思いっきり笑ってやるよ」

 

二人は、軽く雑談をしながら教室へと向かっていく・・・

 

そんな生徒達を遠目から教員 早乙女 和子は眺めていた。

 

普段の彼女と違い、今日はどことなく気が重いのかその表情は憂鬱であった・・・・・・

 

瞳に一瞬であるが、”魔戒文字”が浮かび上がった・・・・・・

 

「・・・・・・上条君がこんな事になったのはある意味私達のせいだったかも知れないわね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各々がそれぞれのグループに分かれて雑談をしている中、始業を告げるチャイムが鳴る。

 

それを合図に生徒達は、席に着き担任の到着を待つ。

 

普段のように過ごす生徒達の中で何人かは普段と様子が違っていたが、それを気にする者は居ない。

 

担任である 早乙女 和子が教室の扉を開けて教壇に立ち、普段と違い暗い表情で話し始めた。

 

佐倉杏子は、担任が普段と違うのではと若干ながら睨むような視線を向けていた。

 

「皆さん・・・おはようございます。今日は、皆さんに悲しい事を伝えなければなりません」

 

早乙女先生の様子に生徒達は、いつものように”恋人”に振られたのかと思うのだが・・・・・・

 

「二日前に・・・上条君が亡くなりました。突然のことだったそうです」

 

クラス全体で息を呑む音がした。

 

初めて聞いた生徒は純粋に驚き、既に事情を知っている生徒は改めて事実であったと思い知らされる。

 

「せ、先生・・・ど、どうして上条君が・・・」

 

意外にも声を上げたのは、鹿目まどかだった。

 

特に彼とは親しい訳ではなかったが、このような事は今までになかったはずなのだ・・・・・・

 

純粋に今までになかった事に”動揺”していたのだった・・・・・・

 

「はい。詳しい事情は分かりかねますが、事件に会ってその後、精神的なショックを受けて亡くなったそうです」

 

学校へ彼が亡くなった事を父親はそのように伝えていたが、その”父親”も昨日亡くなっていた。

 

上条恭介に起こった”奇跡”とそこからの”不幸”にクラス全体がショックを受け、全員がなんと言えばよいのか分からなかった・・・

 

そんな中、さやかは沈黙するクラスの中では、彼の”最期”を見たこともあり、思考は冷静であった。

 

もう座ることのない”上条恭介”の席、今は何処で何をしているのか分からない”志筑仁美”の席に視線を向けていた。

 

落ち着いているさやかの様子に中沢ゆうきは疑問を感じていた。

 

何故、彼女は何も言わないのだろうと・・・・・・

 

上条恭介の事を好いており、彼に献身的に見舞いに行き、支えようとしていた彼女が何故と・・・・・・

 

彼の視線を感じたのか、さやかは中沢ゆうきに振り返り、口を動かした・・・

 

”・・・何も聞かないで・・・”と

 

視線もまた放っておいてくれと言わんばかりの視線であり、中沢ゆうきは何も言えなくなってしまった。

 

その後はとてもではないが授業をする気にもなれず、”自習”が指示されたが、突然死した”上条恭介”のことを思うとそれぞれが暗い気持ちのまま、ただ開いた教科書を眺めていただけだった・・・

 

普段騒がしい保志もまた何もする気にはなれず、無断ではあるがそのまま”早退する”と言って教室から出て行ってしまった・・・・・・

 

彼に続くようにさやかも荷物を纏めて教室から出ていこうとしていた。

 

”おい・・・さやか。何処へ行くんだ?”

 

テレパシーで杏子がさやかに話しかける。

 

”姐さん。こんな雰囲気だと気が滅入るから、アタシはちょっとソラの所に帰ります”

 

”そうかい・・・色々とあったからな。ここ最近は・・・後でアタシんとこに来なよ”

 

”話が早いですね・・・放課後にまた・・・・・・”

 

杏子に軽く会釈をした後に、さやかはそのまま教室を後にするが、まどかが彼女を追いかけるように

 

「さ、さやかちゃん!!!待って!!!」

 

そのまま教室を飛び出して行ってしまった。

 

「アタシは別に勉強をしなくても困らないんだけど、しっかり授業は受けておいた方がいいよ。まどか」

 

「そうじゃなくて・・・一体何があったの?上条君が・・・・・・」

 

「恭介の事もだけど、聞いておきたいことがあるけどいいかな?」

 

何を自分に聞こうと言うのかと、まどかは疑問に思う。

 

「まどかはさ・・・魔法少女になりたいって、今でも思ってたりする?」

 

さやかの視線が少しだけ厳しくなる。今までにない”親友”の視線に少しだけ怯えを感じる。

 

「・・・良く分からないよ。叶えたい願いがあるわけでもないし、魔法少女になったら、少しは格好よくなれるかなと思ったこともあったけど、そうなることはないんじゃないかって今は思うんだ」

 

魔法が使えることに自信を得たとしてもそれは結局のところ、調子に乗っただけなのかもしれない・・・

 

「奇跡を願う前にやれることを考えた方がずっと良いよ。奇跡を願い、希望を謳う魔法少女になるよりもずっと健全だよ・・・そっちの方が・・・・・・」

 

さやかは、まどかの肩に手を置き・・・

 

「まどか・・・アンタが今の生活と家族、友達が大切なら、絶対に”奇跡”なんかに手を出しちゃいけない。そうなったら、もう戻ることもできないし、何もかも失ってしまうんだから・・・」

 

「さ・・・さやかちゃん・・・」

 

まるで”暁美ほむら”のように話すさやかにまどかは、彼女の変わりように戸惑う。

 

「誰のせいにもできない。自業自得な後悔だけは、もう誰にもさせたくないんだ」

 

さやかの意思は、まどかに魔法少女になるなと告げていた。自分は”沢山のモノ”を失ってしまった・・・

 

この親友にだけは、そんな選択を・・・過酷な運命に足を踏み入れてほしくなかった・・・

 

一人の親友は、”陰我”の道を歩みだし、自分自身が決着を付けなくてはならないかもしれない・・・

 

志筑仁美を自身の手で止めなくてはならない・・・

 

そうなれば、自分は鹿目まどかとはもう”親友”ではいられないだろう・・・

 

「そう言えば、仁美ちゃんは?仁美ちゃんはどうしたの?」

 

「・・・・・・仁美の事はアタシが何とかする・・・だけど、もしもアタシだけが帰ってきたら、まどかはアタシを絶対に許さないかもね」

 

さやかの口振りから、志筑仁美が何か恐ろしい事になっていることを察するが、さやかはそれ以上の事は言わずに背を向けて去っていった・・・・・・

 

「例え誰にも理解されなくても・・・恨まれても・・・こんな思いをするのはアタシだけで終わらせる。他の誰にもこんな思いはさせない」

 

ましてや、親友のまどかに自分のような想いをしてほしくなかった・・・

 

追いかけるべきなのかもしれないが・・・

 

まどかは、去っていくさやかの背中を追いかけることが出来なかった・・・

 

自分の知らない間に手を伸ばしても届かない場所へと言ってしまった彼女を・・・・

 

「・・・・・・こっちのさやかちゃんは、凄いな。私の所の”鞄持ち”だったさやかちゃんは、何もかも耐えられずに絶望したのに・・・・・・そうだよね。どうして、私はあんなことを願ったのかな?」

 

去っていくさやかを見送るまどかの目は、金色の瞳に変わっていた・・・・・・

 

「・・・奇跡を願う魔法少女に絶望したんだ。だから、あんなことを願ったんだね。さやかちゃん、仁美ちゃんはもう止まらないよ・・・」

 

金色の瞳が僅かに笑ったと同時に一瞬であるが、彼女の背後に”異形”の何かが重なった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を変えて、見滝原から離れた都市 アスナロ市・・・・・・

 

BAR ”Heart- to- Heart ”

 

内装はおしゃれな”JAZZ BAR”であり、青い革張りのソファーがいくつかと床には赤いカーペットが敷き詰められていた。

 

中央には”ステージ”があり、間接照明により演出された雰囲気に志筑仁美は、これが大人の嗜みなのだろうと少しだけ察するのだった・・・

 

カウンター席の奥から人当たりの良さそうな青年 明良 二樹が志筑仁美とカヲルの正面のソファーに座る

 

「見滝原からよく来たね。志筑仁美ちゃんにカヲル君・・・ここを知っているからには、何かをお願いが、晴らしたい”陰我”があるのかな?」

 

「”陰我”を晴らすというのはある意味正解ですが、わたくしは”因果”を高めて、”奇跡”を起こしたいのです。その”奇跡”はあまりに儚く、誰かの邪魔が入れば脆くも崩れてしまいます」

 

”因果”を高めるという言葉にBARに居る”紅蜥蜴”といつの間にか来ていた魔法少女 聖カンナが反応する。

 

二人に対して、香蘭は良いことを聞いたと言わんばかりに笑う。

 

「・・・ねえ、紅蜥蜴さん。なんで香蘭は笑っているんですか?」

 

「・・・アイツが笑うと大抵ろくでもない事を思いついたのだろうよ。こういう時は、離れるのが一番なんだが・・・・・・」

 

ドレッドヘアーの大男 紅蜥蜴は、魔戒法師 香蘭が何やらロクでもないことを思いついたのではないかと察するが、この場に”強大な力”をもつホラーを志筑仁美が引きつれており、明良 二樹から離れるわけにはいかなかった・・・

 

とは言っても、最高戦力の一つである”魔号機人 凱”が傍に控えている為、不測の事態には対処できるだろうが、魔号機人 凱が守るのは明良 二樹だけであり、この場に居る聖 カンナに危険が及んだ場合、護れるのは自分だけなのだ・・・

 

さらには・・・

 

「紅蜥蜴さんにカンナちゃん。モーニングコーヒー飲みます?」

 

奥の厨房から、線の細い”半ぐれ”然とした容姿の青年がエプロンのままコーヒーを運んできた。

 

「ああ・・・貰っておく。それと火車・・・カンナを連れて少しだけ外に出ていろ。何も言わずにな」

 

”半ぐれ”然とした青年の名は”火車”という。

 

「そうっすか?フタツキさんから、来客用のジュースを持ってくるようにって・・・」

 

「それは俺が持っていく。お前達はあの小娘が此処から出ていくまでの間、少しでも遠くに居ろ。それが一番安全だ」

 

聖 カンナにもこの場から出ていくように促す。

 

カンナも”紅蜥蜴”がこのように言うのだから、相手は余程恐ろしい事情を持っていると察し、言われるように一杯コーヒーを飲み、そのまま裏口から出ていった。

 

”紅蜥蜴”は柄ではないが、来客用のジュースをトレイに載せて明良 二樹らの席へと向かうのだが

 

「紅蜥蜴くん・・・なに、似合わないことしちゃってんの?二人を逃がしといて、香蘭ちゃんは、助けてくれないの?」

 

「・・・お前は不幸な事故で消えてもらった方が世の為、人の為だ・・・俺はここでお前に不幸が起こることを願っている」

 

「紅蜥蜴くん・・・冷たい。香蘭ちゃん、悲しくなっちゃう・・・」

 

ワザとらしい泣きまねをする香蘭に紅蜥蜴の視線は冷ややかであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕達の”力”借りたいのならば、それなりの報酬は払ってもらうけど、僕達には一つだけ絶対に守ってもらいたいルールがあるんだ。それだけは、しっかりと守ってもらうよ」

 

明良 二樹はにこやかな笑みを辞め、真剣な眼差しで二人を見据えた。

 

それは、まさしく”闇の世界”に生きる住人のもつそれであった・・・・・・

 

「僕達は特定の顧客は持たない。仕事は基本的に一回だけしか受けない。二回目はない」

 

特定の顧客を持った方がよほど利益になるのではと、仁美は声を上げようとするが・・・

 

「普通に考えたら、そう思う方が得なんだけど。僕達は単なる金儲けをしたいわけじゃない。それに魔法少女の契約、ホラーに憑依される事は人生で一回きりで二度目はない・・・それらの力を貸すのも当然のことだけど”一回きり”なんだ・・・」

 

明良 二樹は自身の持つ”力”の”価値”を深く理解していた。

 

この”力”で遊び、人生を楽しむ事こそが最大の目的ではあるが、この”力”で”仕事”を行うのならばそれ相応の”価値”を”顧客”に理解してもらわなければならないのだ・・・

 

「・・・そうですか。チャンスは一度きり・・・確かに貴方達がそのようなルールを課すのは当然ですわ。ですから、わたくしは一度きりの”依頼”をお願いします」

 

志筑仁美は自身の”願い”を叶えるに達する”因果”を溜めた後におそらくはそれを壊しに来るであろう”邪魔者”から護ってくれるように依頼する。

 

詳しい”商談”に入るのだが、その合間に紅蜥蜴は来客用のジュースをテーブルに置き、すぐ近くのソファーに座り、事の成り行きを見守るのだった・・・

 

そんな中、香蘭だけは興味深そうに見ており、彼女が”ホラー”の力を借りて行おうとしている事に・・・

 

「フタツキー!!仕事とは別で香蘭ちゃんが個人的に”力”を貸すのはあり?」

 

「うん?別に構わないよ・・・僕らに関わるのは一度きりのルールだけど、一人だけというのはルールにはないからね」

 

「やったーっ!!香蘭ちゃんはね、見滝原に”正義の味方”を派遣したいと思います!!!」

 

「最近、香蘭が力を貸した”アレ”か・・・まぁ、最近はチンピラ相手にくすぶってたから、ちょうど良いかもね」

 

二樹の脳裏に先日、殴り飛ばした”名もなき青年”の姿が過った。

 

あの後、香蘭に”陰我”を問われ、付け込まれて、”正義の味方”に至っている。

 

仁美は、まさかの突然の申し出に頬が緩んでしまった。

 

これで、”因果”を高める効率は、上がるであろう。

 

不安を感じていた”戦力”が手に入ったのだから・・・・・・

 

仁美の横でカヲルは、二人の言う”正義の味方”とは一体、何者なのだろうと疑問を浮かべる。

 

”紅蜥蜴”の表情が若干、ゲンナリしている様子を見るに”ロクでもない”ことには違いないだろうと察するのだった・・・

 

商談を終えた後、仁美達はそのまま見滝原へと戻っていった・・・

 

「さぁ~て、今回はそれなりに人手が必要になるな」

 

明良 二樹は、自身の”仲間”達に召集を掛けるべく動き出す。

 

「楽しくなりそうだね~フタツキ~~~」

 

香蘭もまた愉快そうに笑うのだった・・・・・・

 

”紅蜥蜴”はその様子に頭痛を感じるも、外に出てもらった火車と聖カンナを呼びに出ていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

上条恭介が亡くなったことをクラスに伝え、昼休みに人気のないところへ行く早乙女先生。

 

午前中も色々あり、精神的に気を張っていた為に疲労感を感じていたのだった。

 

昨夜の”出来事”から、明るい場所よりも暗い場所の方が落ち着くのでそちらに足を運んでいたのだ。

 

「昨日・・・夢でも見たのかしら、悪魔のような黒い影が私に入ってきたような・・・」

 

職場のストレスから、深夜に自棄酒を煽っていた時に黒い悪魔のような何かが自分に話しかけ、重なったのを覚えているが、悪魔にまで欲求不満を感じているのなら自分は、相当疲れているかもしれないと・・・

 

「先生・・・こんなところでなにをしてるんだ?」

 

振り返るといつの間にか生徒である 佐倉杏子が居たのだ。

 

手元には校則で引っ掛かりそうな”独特なデザイン”のアクセサリーが付けられていた。

 

魔導輪 ナダサを鳴らすと同時に早乙女和子の目に”魔戒文字”が浮かび上がった・・・・・・

 

「先生・・・アンタ・・・ホラーだろ」

 

「?佐倉さん?私は、私ですけど・・・ホラーってなに?」

 

「ホラーっていつもながら、こういう見え透いた誤魔化しをするから厄介なんだよな」

 

杏子は手元の”魔道筆”をいつでも振れるように力を込めるが・・・

 

『うん?杏子、ホラーは憑依しているけど、その意志は彼女からは感じられない』

 

「はっ?どういうことだよ」

 

「ええぇっ!!?!さ、佐倉さん、あなた、何ですか、そ、それは!?!喋ってる!?!」

 

アクセサリーが意志をもって喋り出した光景に早乙女和子は腰を抜かしていた・・・・・・

 

「なぁ、これって・・・ホラーの演技とかそういうのじゃないよな・・・」

 

『時々、居るんだよね・・・ホラーに憑依されたもののホラーが弱すぎるのか、偶にいる”我”の強い人間にそのまま取り込まれてしまう現象がね・・・』

 

とりあえず事情は説明すべきだろうとナダサは杏子に話し出した。

 

杏子はホラーが憑依しているのならば、討滅すべきではと考えるが・・・

 

『人間を害さないのならば、それなりに共存できる方法はあるさ。Meだって、ホラーだしね。実際に杏子とは上手くやっていると思うよ』

 

自分もまたホラーである為、ここは穏便に済ませようと話すナダサに杏子は、内心”普通に喋れる”と憤りを感じつつも、例え相手に悪意がなければホラーであっても穏便に事を修めようとする姿勢に少しだけであるが表情を柔らかくしていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校の人気のない屋上から、空を見上げる少女が一人・・・・・・

 

鹿目まどかであった。彼女の目は”金色の瞳”となっており、

 

なにかを想うところがあるのか、笑っていた・・・・・・

 

「さやかちゃん、杏子ちゃん、マミさん、ゆまちゃんの事は直ぐに分かったのに、ほむらちゃんの事だけはどうしてもすぐに分からないんだよね・・・どうしてかな・・・」

 

自分に分からないことがあることにまどかは、何処となく嬉しく思っていた・・・

 

「後で杏子ちゃんに話を聞いちゃおうかな・・・うん・・・それがいいよね・・・」

 

空に手を伸ばし、何かを回すようなしぐさを始める・・・・・・

 

くるくると回す・・・

 

くるくると・・・クルクルと・・・・・・くるくると・・・クルクルと・・・狂々狂々と・・・・・・

 

全てを巻き込むかのように”運命”が回り始める・・・・・・

 

”オワリノハジマリ”へと至る・・・・・・

 

 

 

 

 

 




あとがき

魔戒騎士くずれの紅蜥蜴さん・・・ドレッドヘアーの見た目明らかにヤバいのに、普通に見えるフタツキと香蘭の方がぶっ飛んでいる為、一団の苦労人(笑)

魔法少女のメンバーに聖 カンナが居ます。そして、一般人の方までと・・・

本編の前に番外編を入れるつもりです。

ナダサは普通に喋れます(笑)

早乙女先生はなんだか、とんでもないことになってしまいました・・・・・・

まさかの”妖刀”の侍のような展開に・・・・・・

早乙女先生は、かなり我が強いのでホラーも取り込んでしまうのかもしれません。

お付き合いした方々が逃げるのは彼女の”我の強さ”が原因だったりとか(汗)






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第弐拾捌話「 転 廻 (序)」

番外編を経てと言いながら、こちらの方が先に上がりました。

仁美ちゃんの元に正義の味方が!?!

番外編「明良 二樹という男」は、今月中には上げる予定です。




数日前 アスナロ市

 

彼はその夜、確かに聞いた・・・夜空に響く”悪意に満ちた”声を・・・・・・

 

”我が名はバグギ!!!伝説の雷獣とは我の事よ!!!”

 

その声に彼は、街がとんでもない事になっていることに衝撃を受けた。

 

単なる迷信の類でしかない”雷獣”が実在していたことに・・・

 

その雷獣が自分の街を蹂躙しようとしていたことを・・・・・・

 

「くそっ!!!俺は、俺の街を護ることが出来ないのか!!!!」

 

気が付いたら、自分を殴った青年は居らず、自分が”正義”を持って説得するはずの”ロボット”も・・・

 

人知を超えた雷獣の力はすさまじく彼は、知らなかったが強大な力を持つ”荷電粒子ビーム”の光が夜空を走り、街を焼く。

 

あまりの現実感のない光景に彼は、呆然としていた。

 

一部の人達は、この危機に立ちあがっていたのだが、彼はただ呆けていただけだった・・・・・・

 

強大な力の前に彼はただ、”力”に呆然自失となり、自身の”正義”を叫ぶこともその胸に抱くこともなかった・・・

 

だが、その”雷獣”は突如として崩壊した。巨大な波を押し戻すかのように一瞬のうちに・・・

 

彼は崩壊する雷獣の住処から、一組の男女がアスナロ市に降りるのを見た・・・

 

黒い闇の翼を持つ女性と闇色の狼を模した鎧を着た男を・・・・・・

 

「だ、誰なんだ!!!!お前達はっ!!!!俺の街で何をしやがったっ!!!!」

 

自分の知らないところで”雷獣”と戦ったであろう二人に対し、彼は声を上げて叫んだ。

 

だが、その声は届くことなく二人は姿を眩ましてしまった。

 

彼の中にあったのは、自分にはできないことをした二人への”嫉妬”であった・・・

 

二人の後を追うために一晩中、アスナロ市を徘徊したが結局は見つかることはなかった・・・

 

偶然、二日後の朝、アスナロ市の中央駅で闇色の翼を持つ女を目撃し、問い詰めようとしたが、人混みに阻まれと問い詰めることはできなかった。

 

女の付き添いだった三人組には、顔を合わせることが出来たのだが・・・

 

「おいっ!!!この間の騒動は、お前達が原因なんだろ!!!」

 

三人 ジン・シンロン、メイ・リオン、京極 カラスキらは何のことだろうと目前の彼を見ていた。

 

「お前、確かこの間、アイツに殴られた・・・」

 

ジンは、オープンカフェで遭遇した明良 二樹によって殴られた”名前を知らない青年”であったことを思い出していた。

 

あの時、何か言われたような気がしたのだが、これと言った印象には残っていなかった。

 

「ジン・・・アイツって?」

 

「あぁ、あの化け物と一緒に居た男が居たろ。アイツだよ、メイは・・・見ていなかったか」

 

「まぁ、僕は男に興味はないかな・・・」

 

「そのセリフは聞く人が聞いたらあらぬ誤解をって・・・メイは自分に正直だから構わないか・・・」

 

”可愛い女の子”が大好きな彼女にジンは、今更ながらと思いつつ苦笑した。

 

「でも・・・ほむほむは綺麗だったな~~~」

 

「・・・・・・とりあえず、兄であるオレの前でいうセリフじゃないよな」

 

「おいっ!!!!無視するなっ!!!俺は、この街で何をしたのかを聞いているんだ!!!お前達が、余所者を此処に呼んだからだろ!!!」

 

二人に殴りかからんと近づいてくる”彼”に対して、京極 カラスキが間に入った。

 

「・・・確かに二人はアスナロ市とは別の所に住んでいる。今回の件は、二人じゃないとあの”雷獣”はどうにもならなかった。ただそれだけだよ」

 

それ以上は聞かないでくれと”彼”を諭すのだが・・・

 

「だったら!!!どうして、俺を呼ばなかったんだ!!!俺は誰よりもこの街を大切に思っている!!!!余所者なんかにはない!!!!」

 

ジンとメイは、妙なのに絡まれたと内心辟易するが、京極 カラスキは・・・

 

「・・・・・・お前がどんなに正義感が強かろうと”雷獣”を倒せる”力”がなけりゃ、意味はないんだよ。おいらが頼りたかったのは、例え”悪”でもあの”雷獣”から、おいらの親しい人を護ってくれるのなら、それで良かったんだ。お前の言う余所者でもな・・・」

 

一瞬にして京極 カラスキはその表情を”呪いの顔”に変化させる。

 

「な、なんだ・・・お前はっ!?!ば、化け物っ!!!」

 

”呪いの顔”を見せるカラスキにも非があるかもしれないが、ジンは友人を”化け物”呼ばわりする”彼”に憤りを感じるが、堪えた。

 

「ああそうさ・・・おいらは、お前達でいう呪いに塗れた化け物さ・・・だけど、そんな化け物でも守らなくちゃいけないものはたくさんあってね・・・・・・」

 

耳まで裂けた口が笑い、鮫の目を思わせる黒く澱んだ眼とその下にある毒々しい隈が歪む・・・

 

「アスナロ市は・・・そういう土地なんだ・・・お前はそれを知らないただの一般人さ、羨ましいことにね・・・」

 

目の前の”呪いの顔”に驚きと恐怖を覚えた”彼”にもう何も言うことはないのか、カラスキは普通の人の顔に戻り・・・二人を連れてその場を後にした。

 

「カラスキよぉ~、そういうのは、オレ達の前だけにしてくれ」

 

「そうだよ。カラやんが嫌な思いをするのは僕達だって嫌なんだからね」

 

「へへへへ、今度からが気を付けるよ。二人とも・・・・・・」

 

カラスキの行動にジンとメイは苦言する。そんな苦言もカラスキには心地よく感じた。

 

だが、”彼”は、自分の”街”が余所者に頼らないと守れないことに憤りを覚えていた。

 

「くそっ!!!俺の街で!!!俺の生まれた街で勝手なことをするなっ!!!!」

 

勢いよくその場を飛び出した彼の背中をある女性が視線を向けていた・・・・・・

 

「香蘭ちゃんって、本当にめぐりあわせが良いんだね~~~。玩具みぃ~つけたっ♪」

 

香蘭は、”彼”の後を付けていくと同時に手元にあるガラスの瓶に視線を向けた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺にあの化け物を倒す力が・・・・・・」

 

数日後、彼はある場所で”魔獣ホラー”と遭遇したのだった。

 

そのホラーに喰われそうになった時、派手な衣装を着た女が彼を不思議な術で助けた。

 

彼女は自分にこう言ったのだ・・・・・・

 

「あの化け物は”ホラー”って言ってね。人間の邪心に惹かれて憑依するんだ。憑依されるのは、悪人ってことかな~~」

 

「な、なんだって、それは本当なのかっ!?!でも・・・俺は・・・」

 

アスナロ市を自分の街だと公言するほど愛着を持っているのだが、危機を憂いても目の前の脅威に対して何もできない事に自分は所詮はこの程度だと意気消沈するのだが・・・

 

「その辺はね・・・実を言えば、これが君を求めているんだよ・・・」

 

派手な衣装を着た女こと香蘭はガラス瓶に似た容器を目の前で見せる。

 

ガラス瓶の容器の中には”奇怪な虫に似た生き物”が赤い目を光らせていた。

 

「さ・・・さそり・・・それともカニか・・・それは?」

 

気味の悪い”生物”に顔が引きつるが、香蘭は瓶からそれを取り出し手に載せてしまった。

 

「お、お前・・・よくそんなモノを平気で触れるな・・・」

 

実を言えば”彼”は、虫やその類のモノが大の苦手であり、触るのも嫌いであった。

 

その生き物は蠍と蟹を掛け合わせたかのような姿をしており、蟹のような体に蠍を思わせる節を持った尾をがあり、毒針もまた存在していた。

 

顔は蟹ではなく蠍のそれである。

 

「これが君を求めている・・・さぁ、君が正義を求めるのなら、応えるといいよ」

 

見た目は苦手であるが、香蘭が言うように自分の求める”力”を・・・

 

正義を実行できる”力”を得られるのならばと・・・彼はその”奇怪な生き物”を・・・

 

「俺は・・・正義を求める!!!俺の街を護る為に!!!」

 

香蘭制作の”生体型魔導具 鋼殻装甲”を受け入れたのだった・・・・・・

 

”生体魔導具 鋼殻装甲”は、”彼”の腕に飛びつくと同時に八本の脚で掴み、そのまま尾をの針を突き刺すことにより彼の身体を鋼を思わせる”鎧”が装着される。

 

それは人の形をした”甲殻類”といったものであるが、弁髪を思わせる飾りは蠍の尾を模していた。

 

「な、なんだ・・・ち、力が湧いてくるぞ。よし・・・行くぞ、ホラー!!!!」

 

自信が得た力を確信した”彼”は、目の前に居る黒い悪魔を思わせるホラーに勢いよく向かい、その鋼の拳でその顔面を叩きつけた。

 

ホラーはその拳の威力により、勢いよく吹き飛ぶ。

 

その光景に気をよくした”彼”は、魔道具”鋼殻装甲”が教えてくれる必殺技を出すべく右腕を剣に変えて、そのままホラーの胸に突き刺すことで打ち滅ぼしたのだった・・・・・・

 

戦いを終えたと同時に”鋼殻装甲”の鎧が解除され、右腕には蠍と蟹を思わせる生き物が描かれた紋章が浮かび上がったが、そのまま消えていった・・・

 

「戦う時には、ちゃんと紋章が浮かび上がって鎧を召喚できる。まぁ、頑張ってね、正義の味方さん」

 

”正義の味方”・・・彼にとって、憧れであり、理想とする自身の姿だった・・・

 

今自分は、理想の自分になることが出来たのだ・・・

 

この”力”を与えてくれた人に認められた。

 

「これで、俺は俺の街を護ることが出来る!!!余所者になんか頼らないで!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香蘭は背を向けてそのまま”彼”の目の前から去っていった・・・

 

その時の香蘭は思いっきり笑いたいのをこれ以上にないぐらい我慢していた。

 

「香蘭、楽しそうだね」

 

明良 二樹が香蘭に声を掛けていた。

 

いつの間にか来たのか香蘭は、自身の笑いを我慢することに精一杯であった為、彼が近づくのを気が付かなかったのだ・・・

 

「だって、前から試してみたかった魔導具の実験ができちゃったんだから、それをアイツったら、自分を正義の味方って!!!魔戒騎士と違って一般人はこれだから、笑えるわ!!!!」

 

明良 二樹に会えたことと話したことで笑いをこらえることが出来なかったのだが、とうとう吹き出してしまった。

 

「あの薄気味悪い魔道具って・・・寄生する奴だったよね・・・人間に」

 

「そうそう・・・あの”鋼殻装甲”は、”生体型 魔導具”なんだけど、普通の魔導具と違って、アレは魔導具が人間を使うのよ」

 

「確かソウルメタルみたいに使えるよう鍛えるんじゃなくて、魔導具自身が使用者を使うんだよね。それに対応できるように体を作り変えて・・・」

 

明良 二樹は察していた。香蘭が”彼”を利用して”実験”をしていることに・・・

 

「そういえば、毒虫をモチーフにしてるけど意味はあるの?」

 

「ちゃんと意味はあるわよ。時間が経てば経つほど毒が回っていくわよ。”鋼殻装甲”の思いのままに」

 

笑う香蘭に明良 二樹もまた楽しみが増えたと笑い返すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市 水上ホテル 「NAMIKAMI」

 

志筑グループによる都市開発計画の一環であり、地方都市の活性化に伴う観光業関連の事業として建造された大型客船を”見滝原湖”に浮かばせ、夜の夜景を楽しむというコンセプトである。

 

本格的なオープンは今年の秋を予定としており、オープニングセレモニーには志筑家所縁の企業グループや親族が招かれることになっているのだが・・・・・・

 

現在の水上ホテルは、志筑仁美の拠点と化しており、自身を追っている美樹さやからから身を隠すためにこの船を利用していた。

 

水平線の向こうに見える見滝原の街並みを見ながら、志筑仁美は、空のソウルジェムに満たされた”因果”を満足そうに眺めつつ、一気に”因果”を高める為の計画を推し進めようとしていた。

 

計画を進めるにあたって”障害”を如何にして排除するかを考えなくてはならなかった・・・

 

「一番の邪魔は美樹さやかですが、本当の意味で厄介なのは佐倉杏子とその伯父ですわ・・・」

 

想い人を直接手に掛けたのは、魔戒騎士なる杏子の伯父である。

 

美樹さやかも憎いが、佐倉杏子の伯父もまた仁美にとっては憎しみの対象であった。

 

性質の悪いことに魔戒騎士と言う”怪異”と戦う役目持つ戦士であることが、仁美にとっては最大の障害ではないかと考えていた。

 

美樹さやかは佐倉杏子との関係は良好であり、当然のことながら彼女らに協力を要請していることも十分に考えられる。

 

既に協力を取り付けようと動いているとみて、考えたほうが良いであろう・・・・・・

 

佐倉杏子の伯父である魔戒騎士の対策は”アスナロ市”からの協力で何とかさせる。

 

彼らへの依頼は”奇跡を達成させる”までの護衛である。

 

その条件は、邪魔者を完全に排除させたうえで・・・・・・

 

「・・・・・・佐倉杏子にも動かれたら危ないですわ。彼女には少しだけ眠ってもらうのが一番ですわ」

 

”因果”を高める為には直接場に行かなければならないのだが、奇跡を叶える為には必要な事なのは仁美も納得している。

 

だが・・・準備に関しては、使徒ホラー 二ドルの協力と亡き父の”黒い繋がり”のお陰で十分にそれでいて迅速に行動ができていた・・・・・・

 

二ドルの”魔針”により、自身の想いのままに動く”操り人形”に仁美は笑っていた。

 

その表情は、かつてまどかとさやからと共に穏やかに日常を過ごしていた少女の面影はなく、ただ自身の”陰我に満ちたものであった・・・・・

 

彼女の”陰我”に呼応するように”魔針ホラー 二ドル”もまた笑っていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市 通学路 路地裏・・・

 

「ちょ・・・ちょっと、な、何なの!?!アンタ達はっ!?!」

 

見滝原中学の女子生徒らは突如自分を取り囲む黒服の男らに怯えていた。

 

通報しようにもスマートフォンなどは取り上げられ彼らの手元にあった。

 

声を上げようとするが、人気のない場所に連れていかれそのまま彼女は取り押さえられ・・・・・・

 

極小の”魔針”が撃ち込まれる。その瞬間・・・彼女の体の自由が利かなくなり・・・・・・

 

制服を脱がされたと同時に身体に”あるモノ”を巻かれ始めていた・・・

 

「っ!!!!!!!!」

 

それは、彼女らにとっては”非日常”のモノであり、”フィクション”の世界でしか目にすることのないものだった・・・・・・

 

四角形の物体にはいくつもの電線が巻かれており、それらは・・・”爆発物”であった・・・

 

さらには起爆スイッチを持たさると同時に彼女の意思は、そのまま暗転した。

 

暗転したと同時に今までに聞いたことのないクラスメイトの邪悪な笑い声が聞こえてきた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははは、もうすぐですわ。わたくしが奇跡を起こす瞬間がやってきますわ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市

 

とある場所でその”影”は蠢いていた・・・

 

「や、やめてくれ!!!俺たちは・・・」

 

『お前は罪もない人を傷つけた。だから、ここで制裁する!!!』

 

アスナロ市の廃棄された開発地区に居た世間では”不良”と呼ばれる集団達に容赦なく拳を叩きつけていたのは、甲殻類を模した鎧を付けた影であった。

 

足元には徹底的に痛めつけられた不良達が横たわっており、甲殻類の戦士はその不良目掛けて勢い良く拳を振るったのだった・・・

 

『俺の街を汚す奴らめ・・・お前達が居るから不幸になる人が出てくるんだ・・・』

 

”彼”はあの日から授かった”力”でこの”アスナロ市”を守ると誓ったあの日から・・・

 

彼は、”力”・・・”鋼殻装甲”を振るう為に様々な場所へと足を運び戦った・・・

 

ホラー・・・魔女・・・汚職警官・・・議員・・・半ぐれ・・・不良等、怪異だけではなく人にすら手を上げたのだった・・・

 

全ては、弱い人を護り自分の生まれた街を”守る”為に必要な事だったのだから・・・・・・

 

そして彼は”正義の味方”として、アスナロ市を徘徊し始めた・・・・・・

 

不意に新聞記事が足元に落ちてきた。それは、”見滝原中学校での生徒の突然死”を報じるものだった。

 

『・・・なんだ、だらしない。またいじめか・・・学校は何をやっているんだ』

 

彼は最近になって報じられる陰惨な事件に憤りを感じ、ある決意をする・・・・

 

『そうだ・・・見滝原へ行こう。一人の生徒を見捨てたことを償わせるんだ』

 

鎧を解除して、その足で彼は”見滝原”へ向かうべくアスナロ市の中央駅へと向かう。

 

足元に捨てられた記事が意志のある生き物のように動き出し、廃墟の物陰に潜んでいた香蘭の手の中に落ちる。

 

「正義の味方さぁ~~ん。見滝原で思いっきり暴れてくださいね」

 

香蘭は、見滝原に居る志筑仁美へ個人的にLINEよりメッセージを送り、数分経たぬうちに”既読”と表示された・・・・・・

 

「順調に馴染んできてるわ。この調子なら、鋼殻装甲は”最終形態”まで馴染むか・・・面白いデータが取れそうね。仁美ちゃん、正義の味方をちゃんと使ってあげてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、香蘭からの連絡に気をよくしたのか表情が和らいでいた。

 

「香蘭さんには、色々と良くしていただけて感謝していますわ」

 

今回の件で彼女に色々と援助をしてもらっており、戦力としての”正義の味方”・・・

 

「仁美ちゃん。正義の味方は正直不安だけど・・・それを聞いて安心したよ」

 

人型インキュベーター カヲルはテーブルの上に置かれている”奇怪なアクセサリー”に視線を向けた。

 

「香蘭さん曰く・・・少し落ち着きがないのですが、これで制御可能と話を聞いていますわ」

 

「仁美ちゃん、僕が紹介しておいてなんだけど・・・香蘭は善意で助けてくれるわけじゃなさそうだよね」

 

カヲルは、香蘭の今回の行動は単に自分の作った”魔導具”で実験をしたかったのではと考えた。

 

実際に”鋼殻装甲”以外にも、志筑仁美に渡されたモノがいくつか存在していた。

 

「・・・人間なんてそんなものですわ。何か見返りを持って行動するんですもの・・・」

 

仁美は、何かを悟ったかのようにある小瓶を手に取った・・・

 

「他はともかく・・・その秘薬だけはまともだよね・・・」

 

「そうですわ・・・わたくしを探している美樹さやかの目をごまかす為にも姿を変えなければなりません」

 

秘薬を口に含み、志筑仁美の顔が変化する。彼女の顔は、別人のモノとなった・・・・・・

 

 

 

 

 

 




あとがき

仁美サイドのお話・・・レギュラーが略というか出ていない話・・・・・・

魔戒法師 香蘭 作成の”生体型(寄生型)魔導具 鋼殻装甲”

魔獣装甲とは違い、男女が使え、さらには解除ができる鎧。

特別な訓練なしで使える鎧ですが、魔導具が寄生した人間、使用者を操る代物であり、魔導具が都合の良い様に使用者の肉体と精神を作り変えてしまう様子は”毒”に似ています・・・

ホラーも倒せる力を得ることが出来ますが代償もまた存在します。

”彼”は自身の正義の赴くままにその”力”を振るい、その対象は正義にそぐわない者達を容赦なく制裁しています。自身に意見しようものならば、誰にでも容赦しません。

”彼”は自身の”正義”に誓ってと意識していますが、”魔獣装甲”により精神が変質していることに気が付いていません・・・・・・

彼の”正義”はこれよりもっと深く掘り下げるつもりですが、どうなるのかは、見滝原にて・・・・・・

彼が知らない事実”鋼殻装甲”を制御、操作する為の”魔導具”の存在・・・

彼はともかく、そんなモノを渡した香蘭は相当性格がアレです(汗)

仁美は、いよいよ後戻りのできない”計画”を実行に移します。




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第弐拾捌話「 転 廻 (壱)」

アスナロ市編でのキャラが見滝原にやってきました。






巴マミは、千歳ゆまと共に見滝原中央駅にてある人物を待っていた。

 

両親の古い友人である”税理士”から、暫くの間、面倒を見てくれる人物を紹介されたためであった。

 

両親の友人の名は”巴 タケシ”といい、同じ名字なのだが、血縁関係があるわけではなかった。

 

親類や家族と良好な関係ではなかった”父”と同じ名字であることと、お互いに気が合ったことで意気投合し、両親とは身内のように付き合っていた。

 

ここ最近は”病”に侵されており、入院生活を余儀なくされていてもマミの事を気に掛けてくれていた。

 

マミ自身も”巴 タケシ”の事は信用しており、時折、アスナロ市の病院で入院している彼の事を尋ねに行くことがある。

 

”マミ”が事件に巻き込まれた事と小さな女の子を保護したことを警察より伝えられ、二人を引き取りたい気持ちもあったのだが、病によりそれが叶わず、両親に変わって生活費などの支援もそうだが、二人のケアをできる人物にお願いすることにしたのだった・・・

 

『すまないね・・・僕が病気じゃなかったらマミちゃん達を迎えられるのにね』

 

「いえ、タケシさんが私の事を気遣ってくれるだけでも感謝しています」

 

両親が事故に遭い、一人生き残ってしまった時、唯一手を差し伸べてくれた人だった。

 

だが、浅ましい親戚達の妨害により嫌がらせなども受けていたが、それでも励ましてくれたりとまたは親代わりにもなってくれた人物であった。

 

『それと今一緒に居るゆまちゃんのことだけど、僕はマミちゃんが助けたいと思うのなら、援助は惜しまないつもりだよ』

 

巴 タケシは、親友の娘の為ならば、どんな援助も惜しむことなくするつもりであった。

 

「ありがとうございます。今度、ゆまちゃんと一緒に会いに行きます」

 

『楽しみにしているよ。だけど、それだったら、すぐにこっちに来ても構わないんだよ』

 

今回の件で巴 タケシはマミたちをアスナロ市に招こうと考えていたが、マミはマミで見滝原でやらなければならないことがある為にその話を断っていた。

 

「お話はいつもありがとうございます。ですが、私もまだやらなければならないことが残っています。それが終わってから改めて、ゆまちゃんと一緒に会いに行きます」

 

『楽しみにしているよ。そろそろ、看護師さん達が来る時間だ。また電話するよ』

 

「はい。連絡を待っています。ゆまちゃんもタケシさんと少しだけお話しする?」

 

「うん!!こんどは、ゆまともおはなししようね!!」

 

『はははは。元気がいいね、今度は僕とたくさん、お話をしよう、ゆまちゃん』

 

そのまま電話での会話を終え、二人は互いに顔を見合わせて笑った。

 

「ゆまちゃん、落ち着いたら、一緒にタケシさんの所へ遊びに行こうか」

 

「うんっ!!!」

 

笑い合う二人に赤い髪の異国の女性が近づいてきた。

 

「やぁ、君がマミちゃんでそっちの子がゆまちゃんかな?」

 

赤い髪の異国の女性の名は、メイ・リオン。

 

フレンドリーに日本語で話しかけてきた異国の女性にマミとゆまは驚いていた。

 

「見た目はこんな感じだけど、僕の中には日本の血が流れているんだよ。育ちもこっちだしね」

 

笑いながら二人の緊張をほぐす気遣いを察し、マミは

 

「驚いてすみません。改めてですが、巴マミです。この子はゆまちゃん」

 

「僕は、メイ・リオン。アスナロ市で大学生をやっていて、こっちには仕事も兼ねて君達の事を巴さんから頼まれてきたよ」

 

「タケシさんとは・・・どういう関係ですか?」

 

「巴さんとは親戚関係だよ。僕も何度かお世話になっていたんだ」

 

”巴 タケシ”とは親戚関係であった。所謂、従姉妹である。

 

「二人とも夕飯はまだだよね♪今晩は、親睦も兼ねてぱぁ~っと豪華に行こうか!!!」

 

メイはすぐ近くの商業施設の最上階にある”レストラン”を指さした。

 

「ゆまちゃんもマミちゃん、好きなのを頼んでいいから!!!いくよぉ~~!!!」

 

「いくぅ~~~!!!」

 

底抜けに明るいメイの勢いに乗るようにゆまも両手を上げて同意し、その様子にマミは笑みを浮かべて久しぶりに”楽しい”と感じていた。

 

「マミちゃんも行こうか♪」

 

「はい」

 

歩き出した三人は、傍目から見ると”仲の良い三人の姉妹”であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミたちとは別に紫の布で包んだ長生き箱を抱えた青年が見滝原駅から市内へと入っていった。

 

アスナロ市の京極神社の神主 京極カラスキである。

 

「見滝原においらが来ることになるとはねぇ~~、メイはメイで会う人と仕事があるって言ってたな」

 

「今の今まで来なかったのかよ?お祓いとかで他の地域にも行ってたって聞いたよ。アタシは・・・」

 

隣りを一人の少女が歩いていた。金髪にツインテールの少女 ユウリである。

 

「あぁ。ここは、”天女伝説”が在ってな・・・正直に言えば、近寄りたくなかったんだよ」

 

更に言えば、見滝原から依頼があっても適当な理由をでっちあげて、断ってさえも居た。

 

「天女?アスナロ市の”雷獣”と同じ奴かよ?」

 

ユウリの脳裏に数日前に”アスナロ市”を襲った”雷獣 バグギ”の姿が浮かんだ。

 

伝説が真実であったように”天女”もまた実在するのではと考えていた。

 

だが、”雷獣 バグギ”対策で動いていた彼が近寄ろうともしないことに違和感を覚える。

 

「下手したら、使徒ホラーよりも恐ろしい。そもそも今の見滝原に住んでいる人はその”伝説”すらもしらないからなぁ~」

 

「それってどういうことだよ?」

 

「好奇心が強いのは結構・・・だが、”呪い”や”怪異”には近づかない方がいい。近づいたら連れていかれるからな・・・って、ユウリちゃんはどうして、おいらと一緒に来たのよ?」

 

「そりゃあ、神主さんの護衛だよ。見滝原は物騒だって聞いてるし、それに・・・神主さんが作ってくれた石碑には感謝しているんだ」

 

ユウリが語るのは、京極カラスキが神社の境内に作った”魔法少女達の魂の鎮魂”を願った石碑であった。

 

その石碑は、”少女達の祈りの石碑”といい、居なくなった魔法少女達の名前を刻むモノである。

 

存在を知ったユウリは、京極神社へ赴き、その石碑に”飛鳥 ユウリ”の名を刻んだ。

 

その神社には復讐を誓った”プレイアデス聖団”のメンバーであった若葉未来、宇佐木里美、浅海サキが居た。彼女らは京極神社で魔法少女の傍ら、巫女として神社で働いている。

 

彼女達を一度攻撃した負い目こそは感じたが、若葉未来より自分達が恨まれる理由はしっかりと自覚していると聞かされたことと京極神社では、魔法少女同士の戦いは絶対に行ってはならないという”ルール”があった。

 

”少女達の祈りの石碑”の噂を聞きつけた多くの魔法少女達が訪れることとなった。

 

さらには近くに”絵馬”を掲げる”絵馬かけ所”まで設けられていた。

 

名前もそうだが、何かしらの決意表明もあってもよいのではと神主が考えたことによる。

 

「別に感謝されたいからやったわけじゃないんだがな・・・」

 

元々は魔法少女については若干批判的な考えを持っていたのだが、親友の妹である”暁美ほむら”の存在があったからこそ、彼はその石碑を作り上げたのだった。

 

もしも暁美ほむらが魔法少女でなかったら、アスナロ市に来ることが無かったら彼は、その石碑を作ることはなかったかもしれない。

 

「気休めと拠り所になってくれればと思っただけなんだがな~」

 

「それがアタシ達魔法少女にとっては、”救い”なんだよ」

 

魔法少女の運命は過酷であり、その最後は自業自得な結末でしかない・・・

 

そうなる結末を選んだのは奇跡を願った”自分自身”なのだから・・・・・・

 

そこに自分達が彼女達が居たことを刻む事こそが、人知れず消えていく”魔法少女”の救いかもしれない。

 

「そんな大層な事をした覚えはないんだよな・・・とりあえずはユウリちゃん。今晩はホテルに部屋を取るから、そこで一晩を過ごしてから明日、依頼人にこれを渡す」

 

「今晩じゃだめなのか?」

 

「見滝原の夜は思いのほか濃くってね・・・とてもじゃないが暗い時間に出歩きたくはないんだ」

 

聞けば京極神社から持ち出した”ソレ”はかなり危ないものなので、万が一のことを考えて、明るいうちに行動をするつもりであった。

 

”ソレ”に怪異が寄って来るかもしれないのだ・・・

 

ユウリもカラスキの言葉に従い、予約していたホテルへと向かう・・・・・

 

見滝原の空は夕暮れに染まり、道行く人たちの黒い影が交差していく・・・・・・

 

その影の間に巨大な”異形の影”が笑う・・・

 

「・・・・・・救い?魔法少女に救いなんてないのに・・・そんな何も力の無いモノに縋るの?」

 

影から双方の黄金の瞳が覗く・・・・・・

 

「ほむらちゃんの知り合い?私が知らない人達がいっぱいいるんだね、ほむらちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時の見滝原のビルの間をさやかとソラの二人が駆け抜けていた。

 

「姐さん達と会うって約束しているのに・・・まさか魔女に遭遇するなんて」

 

「それは仕方がありません。あの魔女を放っておくほうが問題ですし、さやかは放っておくつもりはなかったんでしょう」

 

「わかってるじゃない、ソラ。でも、仁美の手掛かりは何処にもなかった」

 

「はい・・・ここまで痕跡がないとなると既にこの見滝原から出ていった可能性があります」

 

さやかは、仁美が見滝原以外に行きそうな場所に心当たりがなかった。

 

「もしも見滝原以外で何かしてからだと遅いよ・・・」

 

「はい。少なくとも彼女がホラーに利用されているのなら、猶更、向こうに先手を取られるでしょう」

 

仁美がホラーに憑依されているとは言わず、利用されていると話すソラに自分を気遣ってくれていることにさやかは胸の内で感謝した。

 

「せめて・・・何か手掛かりとかを占いとかそういう不思議な力で何とかならないかな~」

 

魔法少女ならそういうことが出来そうなのだが、実際にはできないことにさやかは、夢見ていた魔法少女は案外現実的なのだと改めて思うのだった。

 

「そんな能力を持つ者は中々居ませんしね・・・せめて、魔戒法師・・・でそういうことが出来る方が居れば・・・」

 

ソラの”魔戒法師”という言葉にさやかは、ふとある人物がそれに該当することに気が付いた。

 

「そうだ!!!ほむらだ!!!ほむらは魔戒導師で占うことが出来るって言ってた!!!」

 

改めて魔法少女の事情を知っていて、魔戒導師の力を持つ少女の存在を思い出したのだ。

 

数日前にアスナロ市に行っていて、昨晩には戻っていると杏子から聞いていた。

 

だが杏子の表情が少しだけ引きつっていたのは何故だろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ほむらは屋敷のテラスから見滝原市を眺めていた。

 

ここ最近、見滝原で妙な気配を感じており、さらには”魔戒札”による”占い”をエルダと共に行い、近々大きなことが起こるらしいのだ・・・

 

「エルダの”占い”でも見えなかった・・・まるでアスナロ市で感じたモノと・・・」

 

ほむらの脳裏に今は魔導具となったギュテク、かつての姿であったバグギと同じ使徒ホラーがここ見滝原にも現れているようだった・・・

 

『ほむらよ、お前やエルダの不安を煽るつもりはないが・・・使徒ホラーが現れたとみて間違いないだろう。おそらくは”二ドル”・・・アイツは正直性格が厄介だ』

 

「ホラーの性格に厄介でないものがあるの?」

 

『これは痛いところを突くな。魔獣人ども以外の下獣の性格のほとんどが人間からすれば好ましくないのは当然だろうな。だが、二ドルはその中でも特に厄介だ。一言でいわば”愉快犯”とでもいっておこう』

 

ほとんどのホラーが”人を喰う為”にこちらの世界に来ていることを考えると二ドルは”楽しむ為”に人間界に現れている。

 

「愉快犯・・・何をしでかすか分からないと言ったところかしら?」

 

『そうだ・・・奴は楽しみの為ならば、どんなことでもやってのける。例え自身の身を滅ぼすことになっても笑う』

 

ホラーとしての記憶の中でも”二ドル”は異質であった・・・

 

他のホラーから見ても何を考えているか分からない存在だった・・・・・・むろんバグギもそう見ていた。

 

「自分の身が滅んでも快楽に身を任せる・・・非常に厄介ね。ギュテク、あなたのいうように・・・』

 

『そういうことだ・・・やはり今夜も行くか・・・二ドルが何処に潜んでいるか分からぬ。油断だけはするな。奴の”魔針”による傀儡が既に居ると思え』

 

ほむらはテラスより飛び降り、見滝原市へと向かうのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらが出て行ったあと、バラゴがその後姿を見ていた。

 

『クククク。バラゴよ、ほむらがそんなにも気がかりなのか?』

 

バラゴの指に嵌る魔導輪 ギュテク本体が話しかける。

 

意識こそは共有していないが、感覚だけは共有している。

 

ほむらの持っている自身の複製は彼女に対して対応が甘いとしか言いようがなかった。

 

意識こそはないが、傍で見ていると良く分かるが”複製”は彼女に対し適切な助言を行っている。

 

あれではまるで魔戒騎士と協力する”魔導輪”そのものではないかと・・・

 

「今のほむら君はここ見滝原での目的を果たすために動いている。僕が出るのは、大物が出た時だ」

 

暁美ほむらの目的を知っているからこそ、彼女の思うようにさせている。

 

ここ見滝原にも”使徒ホラー”が現れたのだ・・・

 

『二ドル以外にもなにやら蠢いているようだが・・・そちらにも気を付けておけよ。敵は何時、何処から湧いてくるかわからぬからな・・・』

 

ギュテクはバラゴに対し、挑発的な態度を取っていた。

 

「助言はしっかりと胸に留めておくとしよう」

 

ギュテクの態度に苦笑しつつバラゴもまた屋敷を後にする。

 

今夜は今夜でやらなければならないことがあった。

 

『バラゴよ。そんなにもあの女が大事ならば、何故精神を支配しない?お前ならば容易であろうに、”束縛の刻印”に我の”複製”を与えたのも全てはあの女の所在を常時把握する為なのだろう?えっ?』

 

「・・・・・・彼女の目的の為に動くところは嫌いではないからな・・・・・・」

 

『クククククク・・・お前も随分と甘いものだ。まぁいい、お前達のその関係を我はゆっくりと見物させてもらおう。我がお前に力を貸すのは当然として、お前達は我を楽しませるが良い』

 

バラゴとほむらの二人の奇妙な関係に魔導輪 ギュテクは笑う。

 

バラゴは無言でギュテクを見るが特に何の感慨のない視線であった。

 

見滝原を包む夕暮れが街を赤く染めていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の街を一人の少女が自身の姿が写り込んだショップのウインドウを見た。

 

「本当に姿が違うのですね・・・」

 

その少女は志筑仁美であった。だがその姿は、彼女のモノではなく全くの別人のものに変わっていた。

 

これはアスナロ市からの協力者から手渡された”秘薬”の効果によるものである。

 

途中同級生らとすれ違ったが、自分に全く気が付いていなかった事に思わず笑いが込み上げてきたが、ここで笑って目立つのもどうかと考え抑える。

 

暫くして、今の自分の姿は”志筑仁美”ではないことに気が付き、全く存在しない”人間の姿”になっていることを考えて、普段はできない行動を取っても良かったのではと少しだけ後悔した・・・・・・

 

派手な蠍を模した奇妙な腕輪と髑髏を模した奇怪な魔導具を手に取る。

 

「このあたりですわね・・・美樹さやかが魔女と戦っていたのは・・・・・・」

 

仁美は人混みから外れて路地裏に入ると同時に黒いローブを纏った数人の男らが彼女に寄り添うように集まる。

 

黒いローブの男たちの浮遊し移動する様は幽霊を思わせるものだった・・・

 

「まだそう遠くには行っていませんね。ここであの佐倉杏子らと接触されても厄介ですし・・・先に潰しておきましょうか」

 

魔道具からの指示により黒いローブの男達は壁を散会し、美樹さやかとソラの後を追うのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市の雑踏を歩いていたほむらは、何か妙な気配が近くを移動していることを感じた。

 

「ギュテク・・・近くにホラーの気配は?」

 

『いや、ホラーではない。おそらくは人型魔導具のものだ。珍しいことにこの時代に”死体”を加工したモノを使うとは・・・むっ・・・この話題は、ほむらには・・・』

 

「構わないわ、ギュテク。私はもう自分自身を憐れむつもりはない。インキュベーター以外に気分の悪いことをする誰かが見滝原に居るようね」

 

ギュテクは、ほむら達魔法少女の事情を知っている。

 

故に口が過ぎたと話すが、ほむら自身は変えようのない事実なので特に気にすることはなかった。

 

彼女の関心はそのような”魔導具”を制作した誰かとそれを使う誰かだった・・・

 

「気配は追えるかしら?ギュテク」

 

『当然だ。他の魔導輪なら無理だが、我ならば可能だ。奴らはどうやら魔法少女を襲うようだ』

 

「・・・アスナロ市でも魔導具を使ってた人が居たけど・・・何か関係があるのかしら?」

 

ほむらの脳裏に”プレイアデス聖団”を攻撃した人型魔道具”魔号機人”の姿が浮かぶ。

 

『お前の考えている事は大まか分かる。気配は魔号機人程は強くはない・・・だが、あの真須美 巴をお前が討滅したことで奴が持っていた”魔導具”が流出した可能性は十分にある』

 

かつてのギュテクが自身の手駒として手を組んでいた”真須美 巴”が多数の”魔導具”を持っていたことを知っていたが、その全てを知っているわけではなかった。

 

また彼女の抱えていた人脈も・・・・・・

 

「そういうことね。あの女もただでは転ぶとは思えなかったし・・・猶更、見滝原でそんな事をさせるわけにはいかなないわね」

 

これ以上のイレギュラーの介入は好ましくないが、今の自分自身もまた”イレギュラー”であろう・・・

 

ならばやることは決まっている。このまま迎え撃つのみだ・・・・・・

 

相手が何であろうと邪魔をするならば排除するまで・・・・・・

 

『ほむらよ・・・こういう小言を言うのは我の性分ではないが、あの暗黒騎士・・・バラゴに思考が似てきているのではないか?』

 

「ふふふふ。元々よギュテク・・・バラゴと私は似た者同士よ・・・以前の私は”同族嫌悪”と”親しみ”の相反する気持ちを彼に抱いていたわ」

 

『そうなのか?今も同じなのか』

 

「分からないわね・・・バラゴの事をどう思っているかは今度改めて話すわ。ギュテク」

 

今は、見滝原で暗躍する”誰か”を知らなければならない。

 

ほむらは、ギュテクの案内に従い、魔法少女を強襲しようと動いている”人型魔道具”の元へと急ぐのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ほむらとギュテク複製は、わりと良い関係です。

ギュテクは、元が使徒ホラーの為か、ホラー以外の存在も感知可能。

バラゴとギュテク本体との関係は・・・お察しの通り(汗)

本体と複製ですが、複製は本体から見ると対応が非常に甘いので、これが自分の複製?と少しだけ戸惑っています。

マミさんの知り合い”巴 タケシ”は分かる人には分かるネタです(笑)

最近になって読み直していたら、同じ名字だと思い、マミさんの両親の税理士さんが出ていないなと思い、出してみました。

さやか、杏子、ほむらが動いている中、マミさんはゆまちゃんとお食事です。

マミさんはゆまちゃんの傍に居たいということもあるので、少しだけお休みです。




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第弐拾捌話「 転 廻 (弐)」

8月に入ってから急に忙しくなりましたが、更新は続けていきます。




 

見滝原市

 

志筑仁美は、骸骨のアクセサリーに似た魔導具を弄びながら自分の手で魔法少女を攻撃できることに喜色の笑みを浮かべていた。

 

まだ魔女に対して攻撃を行ってはいないのだが、いずれ戦力の確認も兼ねて”魔女狩り”を行っても良いだろうと考えていた。

 

少し前は魔女や魔法少女と遭遇すれば、無様に逃げるしかなかった自分が今や攻勢に出ることが出来る。

 

そう思うだけで愉快だった。

 

彼女に”想い”に応えるように、物言わぬ”人型魔導具”らが、幽霊のようにビルの間を駆け抜けていく。

 

夕暮れに照らされたビル街の影に紛れるように進む”黒いローブ”の男達の存在を誰も気が付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

髑髏にも似た白い仮面に存在する黒い眼窩がビルの間を進む二人の魔法少女を映し出した。

 

その光景は黒いローブの男たちの主である”志筑仁美”にもしっかりと見えていた。

 

「さぁっ!!!行きなさい!!!!わたくしの願いを踏みにじった忌々しい美樹さやかに相応しい罰を与えなさい!!!」

 

”想い人”を死に追いやった”元凶”には同じ惨めな”死”を持って償わせる。

 

未来ある”彼”を絶望に堕とした彼女が行く先は”地獄”以外にないと志筑仁美は考えていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

さやかの隣りを移動していたソラは不意に自分達に近づいてくる”何”かに気が付いた。

 

「さやかっ!!!何かが私達の直ぐ近くまで来ています!!!」

 

「なにっ!?また、あの変な針に操られた人達!?」

 

「いえ・・・これは、人間でも怪異でもない別の何かです」

 

「それって・・・って、言ってる傍から、アタシ達、囲まれてるっ!?!」

 

ビルの影より、ある者は屋上を飛び越えて、二人を黒いローブの男たちが取り囲んできた。

 

一人の黒いローブの男が勢いよくさやかに近づき、ローブの中から肘から下が無骨な”大剣”と化した腕を勢いよく振るってきた。

 

幽霊のような動きに反比例して、その攻撃の威力はすさまじく、避けることが出来たが足元のビルの屋上に大きな傷を付ける程のものだった。

 

「なに?こいつら!?人間じゃないよねっ!?!」

 

さやかの驚愕の叫びを合図に黒いローブの男らは一斉に攻撃を開始した。

 

幽霊のように浮遊しながら高速で移動する男らの異形の腕から繰り出される攻撃を持ち前の素早さでさやかは回避しつつ、顔面に蹴りを加えるがこれと言って痛がる素振りも見せなかった。

 

背中合わせにソラと二人で互いの武器で攻撃を往なし、それぞれ反対側に抜けることで距離を置く。

 

「・・・もしかしてこれは・・・魔導具なのでしょうか?」

 

知識としてはソラも知っていたが、このような人型魔導具を見るのは彼女もまた初めて出会った。

 

刃を突き付けてくる攻撃を薙刀の刃で返し、そのまま抜けるようにして足を切断すべく払うが・・・

 

「っ!?!」

 

金属音と共に刃が弾かれてしまい、そらは黒い男の突進を諸に受けてしまい、そのままビルの間へ落ちていく。

 

切り裂かれた足元のローブからは、人の脚ではなく馬の脚を思わせる蹄行性の生き物のソレであった・・・

 

「ソラっ!!!」

 

突然襲いかかってきた黒いローブの男達の攻撃を受けながらもさやかは攻撃を受け、ビルの谷間に落ちそうになる妹分の名を叫んだ。

 

黒いローブの男たちの幽霊のような動きと仮面をつけている為か表情は読めない。

 

腕そのものが武器と化しており、叩きつけるように振るわれ、その一撃により近くの巨大な電子掲示板をショートさせる。

 

この攻撃をさやかは避けるが、ソラを助けることに意識を取られてしまい、真上からくる黒いローブの男の存在への反応は遅れてしまった。

 

「さやかっ!!!危ない!!!」

 

このことに気が付いたソラがさやかの身を案じて叫ぶが肝心のさやかはこのままでは攻撃を受けてしまう。

 

黒いローブの男の真横より十字の刃を持った杖が勢いよく飛び出し、そのまますぐ近くのビルの壁に縫いつけてしまった。

 

「っ!?!!」

 

二人が十字の刃が飛び出してきた方向を見ると黒い翼を背中に背負った女性の姿があった。

 

ビルの間に吹く風に黒い髪を靡かせ、紫がかった黒い瞳が見下ろす。

 

彼女が立つ鉄塔が夕日と影により、”傾いた十字架”のようにも見えた・・・

 

「こいつらね・・・ギュテク・・・」

 

『ああ、遠慮はいらん。所詮は単なる操り人形、存分に力を振るってやれ』

 

鉄塔を思いっきり蹴り、ほむらは自身が放った杖の元に飛び、再び手に掴むと同時に背後に迫ってきた黒いローブの男・・・

 

人型魔道具を両断すると同時に離れた上半身を思いっきり突き上げ、魔導力を流し込んで爆発させた。

 

さやかからほむらに標的を変えて迫ってきた別の人型魔導具に対して杖の刃の部分の反対側である石突をその頭部に突き立て、勢いよく吹きと飛ばす。

 

「美樹さんっ!!!」

 

黒髪の女性の声に応えるようにさやかは、吹き飛ばされる人型魔導具の胴体を勢いに任せるようにしてサーベルを両手で持ち、

 

「やぁあああああああああああああっ!!!!」

 

人型魔導具を両断する下半身と上半身に分かれ、上半身はビルの屋上の壁面にほむらの放った杖によって縫い付けられてしまった。

 

人型魔導具からは、人間の血のように赤く生臭いものとではなく死臭が漂う紫色の血が飛び散った。

 

「こいつら・・・やっぱり人間じゃなかったの?こんなやつらよりも・・・ソラっ!!」

 

自分達を襲ってきた”存在”も気になるが、妹分はどうなったのかとそちらに意識を向ける、

 

「大丈夫です。あちらに居る彼女のお陰です」

 

すぐ近くに降り立つ背中に”黒い翼”を背負った女性を見た。

 

自分達を助けてくれた存在であるのだが、若干ソラは警戒していた。

 

そんなソラにさやかは、

 

「ねえ、ソラ・・・気のせいかもしれないけど、アタシ見覚えがあるんだよねあの人」

 

「えっ!?さやか・・・魔戒騎士以外で知り合いが・・・」

 

ソラから見てもあの黒い翼を持った女性の存在は今まで見たこともないし、その存在すらも聞いたことがなかったのだ・・・

 

さやかは何処かで会ったかもしれないと言うが・・・そもそも一体何処でと疑問が浮かぶ。

 

ほむらは、昨夜の佐倉杏子と同じ反応をしていることに内心、苦笑するが、今は・・・

 

「ギュテク・・・魔導具を操作している人を追えるかしら?」

 

『すまん・・・操作していた奴は、普通の人間と変わらないところまでは分かったが、人混みに紛れ込まれて気配が追えなくなってしまった・・・』

 

「気にしないでギュテク・・・とりあえずは、美樹さん達を助けられたし、魔導具を使っていたのは法師や騎士の類じゃないことが分かっただけでも収穫よ」

 

もしかしたら法師や騎士がこちらに来たのではと考えていたが、魔導具を何らかの事情で手に入れた”一般人”であるとギュテクが教えてくれたことだけでも十分だとほむらは応えた。

 

『そうか・・・しかし、お前も随分と我に気を許しているな』

 

「アスナロ市での事?ギュテク、あなたはあの”バグギ”ではなく、今は私と契約している”魔導輪 ギュテク”よ。それにあなたは自分の課したルールを破ることはしないんでしょ」

 

自信を気遣ってくれるほむらに、ギュテクは彼女があまりにも気を許しすぎているのではと思ったが、彼女自身もその辺りは自覚している。

 

ギュテク自身が課しているルールを守る姿勢に信頼を置いていた。

 

『その通りだ。だが、今はあの二人に事情を聞かなくてはならんな』

 

「・・・そうね。今回の件もそうだけど、私が離れている間に見滝原では今までになかった事が起きているのだから・・・」

 

昨夜聞いた佐倉杏子からの話によると”上条恭介”のホラー化という、今までの時間軸では経験したことのない事が起こっていた。

 

此処に来るまでの間に見聞きしたニュースなどでもそのことは報じられていたのだ。

 

”上条恭介”の最期を見届けた彼女 美樹さやかは、どんな想いを抱いてこの場に居るのだろうとほむらは突き立てていた杖を引き抜いた。

 

「美樹さん。そんなに警戒しないで・・・少し前に一緒に戦ったのを忘れたのかしら?」

 

振り向きざまに自身の”変身”を解き、さやかに声を掛けた。

 

さやかの傍にいるよく似た顔立ちの和装の魔法少女がソラであろう・・・

 

(・・・人工的に生み出されたインキュベーターでありながら、魔法少女・・・まるでミチルね・・・)

 

彼女の事も既に聞いていた。話を聞いたときは、アスナロ市での事を思い出し少し気分が落ち込んだが、実際に見てみると懐かしさとも寂しさにも似た感情を覚えた。

 

自分が守り切れずに”犠牲”になった”ミチル”に似た彼女と共にいるさやかをほんの少しだけだが、羨望の想いを抱く。

 

「ふぇ?少し前に一緒にって・・・」

 

女性の声と顔が早く会いたいと思っていた”魔法少女 暁美ほむら”がさやかの中で重なった。

 

「えぇええええええええええっ!!!!ほむらぁ!!!!!!」

 

(・・・みんなこういう反応をするのね。バラゴ、ジンお兄ちゃんやメイ、カラスキさんはそこまで驚いてはいなかったけど・・・家族に会った時が少し気が重くなるわね・・・)

 

エルダに至っては、”魔戒札”による”占い”で見えていたらしく、いつものように無表情だった。

 

「ちょっとぉおおおお!!!一体、何があったの!!!!!どうして、大人になってんのよ!!!」

 

あまりのほむらの変わりようにさやかは、失礼にも彼女を指さしてしまった。

 

「さ、さやか、落ち着いてください。ここで騒ぐとまた敵に気づかれてしまいます。それと人を指さすのは失礼です」

 

「あ、ごめん。ソラ・・・じゃなくて、ほむら・・・さん?」

 

「いえ、ほむらで構わないわ。美樹さん、私の変わりようは魔法少女であることを除いても、驚かれるのも無理はないから気にしていないわ」

 

「そ、そうなんだ・・・じゃあ、ほむらって呼ぶね・・・」

 

戸惑い気味にさやかは、ほむらに近づく。ソラは、敵に襲来を気にしているのか周囲に気を配っていた。

 

「大丈夫よ・・・ギュテクの話だと相手はもうこの近くから離れたわ」

 

「ギュテク?」

 

聞きなれない単語にソラは疑問符を浮かべる。

 

『我の事だ・・・小娘・・・ではなかったな。お前があの佐倉杏子の言っていた”ソラ”で相違ないな?』

 

ほむらの皮手袋を付けた右手首につけられた鳥と骸骨でデザインされたアクセサリーが話していた。

 

「はい・・・私の事もあなた方は、知っているのですか?」

 

『ああ、昨夜、佐倉杏子と風雲騎士に大まかな事は聞いている』

 

「話は聞いているけど、お互いに会うのは初めてね。美樹さんとは数日ぶりになるけど・・・」

 

「それは、そうだけど?ほむら、一体、どうして大人になったの?魔法少女は、最終的に魔女になるしかないのに・・・」

 

さやかの発言にほむらは、彼女が既に魔法少女の秘密を知っていることにここで気が付いた。

 

「美樹さん・・・どうしてそのことを?誰も信じられなかったのに・・・」

 

「まぁ、そうだよね・・・アタシもソラと出会わなければ・・・もう一人のアタシの末路を見なければ、今も心の何処かで自分は関係ないって思っていたんだろうね」

 

明日は我が身とは、よく言ったものである。自分も今後どのような最期を迎えるかは正直分からない。

 

今となっては”守るべき願い”など、とうの昔に砕け散ってしまったのだから・・・

 

「もう一人の美樹さん?それは・・・まさか・・・」

 

上条恭介がホラー化した際に人魚に似た魔女が現れたと佐倉杏子から聞いており、さらにはその人魚は上条恭介に好意を抱き、さらにその使い魔の中には志筑仁美に似たモノも存在していたと・・・

 

それは美樹さやかが”魔女化”した存在である”人魚の魔女”である。

 

いくつもの廻った”時間軸”では嫌という程見てきた存在なので、話を聞くだけで容易に思い浮かべることが出来るのだが・・・美樹さやかが健在なのに、”人魚の魔女”が何故現れたのか?

 

単純に似ている”使い魔”ではとも考えたが、さやかは、その人魚の魔女を”もう一人の自分”と認識している・・・

 

話を聞いたときは、正直ほむらも信じられなかったし、佐倉杏子自身もその正体は良く分からないと言っていた。

 

「うん・・・多分、近い未来から来たというか迷い込んできたアタシなのかもしれない。こんな事をいうのもおかしいかもしれないけどね」

 

さやかも自分の言葉が到底信じられるものではないと自覚しているが、話さずにはいられなかった。

 

(これは・・・今夜。杏子、美樹さんに私自身の事を打ち明けなければならないかもしれない・・・)

 

「アタシの事よりもほむら、ここに来るまでに仁美を見ていない?」

 

「さやか、彼女は志筑仁美の事は・・・」

 

「志筑さんのことなら知っているけど?どうして、彼女の名前が出てくるのかしら?」

 

ほむらは、この場で出てきた意外な人物の名前に眉を寄せるが、さやかの言葉に驚愕する。

 

「多分、こいつらをアタシ達に寄こしたのも、ここ数日の間の殺人事件を起こしているのは仁美なんだ」

 

「それはどういうこと?志筑さんが・・・まさか・・・」

 

何故、志筑仁美が出てくるのだと?ほむらは、意外な人物のイレギュラーな行動に驚きの声を上げる。

 

さやかは、視線を仰向けに倒れた黒いローブの男に視線を落とす。

 

そこには、青白い顔をした死人そのものの”素顔”をさらした”人型魔道具”の姿が・・・・・・

 

「・・・・・・ほむら・・・全ては、アタシの独りよがりの想いが原因なんだよ・・・・・・」

 

さやかは、ここ数日の間に自身の身に起きたことをほむらに語るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、人混みに紛れるように歩きながらパーカーのフードを被る。

 

(まさか・・・あのような存在が居るなんて・・・どうしてこうもわたくしの邪魔ばかりする存在が多くいるのでしょうか?)

 

先ほど、死体を使った”人型魔道具”で美樹さやからを襲撃し、そのまま亡き者にしようとしていたが、突如として乱入してきた黒い翼を背負った女性により妨害されたことに若干の苛立ちを仁美は覚えていた。

 

(そういえば、カヲルさんが言っていましたわ。見滝原には魔戒騎士の逸れモノ暗黒騎士がいると・・・)

 

協力者のカヲルが言っていたことを不意に思い出した。

 

見滝原には佐倉杏子とその伯父である魔戒騎士以外にも別のグループが存在していると・・・

 

そちらは佐倉杏子とその伯父である風雲騎士と比べるとかなり厄介らしく、話し合いに応じてくれるとは思えないそうだ。

 

厄介な部分は、ホラーや魔女などの怪異を自身の”糧”として喰らうのだと・・・

 

その”ホラーやその他の怪異を喰らう”という部分に仁美は恐ろしさを感じていた・・・

 

暗黒騎士の傍に”堕天使”を思わせる黒い翼を持った女性が居ることも・・・

 

暗黒騎士はその女性を大切にしており、傷つけようものならば容赦なく傷つけた者に死ぬことよりも恐ろしい制裁を加えられると・・・

 

さっきの”女性”がそれだったのだろう・・・

 

(カヲルさんが何故、アスナロ市の明良さん達をわたくしに紹介したのはこういうことも想定していたのですね)

 

”堕天使”を思わせる女性の存在は確認できたが、最大の脅威となる”暗黒騎士”の姿が見えないことに不安を覚える。

 

顔こそを秘薬で変えているということに慢心してしまうことと万が一ということにも警戒し、彼女はすぐに別の場所で展開させている”戦力”の様子を確認する。

 

髑髏のオブジェの魔導具を仕舞い、蠍の形をしたアクセサリーを周りに気づかれないように起動させる。

 

(フフフフフフ・・・正義の味方は動いているようですわね)

 

魔導具を通じて、”正義の味方”を名乗る青年の視界が映り込み、そこには何となく知っている日曜の朝8時ぐらいに放送されているヒーロー番組のコスチュームを着ている人物が怯えている見知ったクラスメイトを庇っている光景が映った。

 

(保志くんですわね?あの時は余計な邪魔をしてくれたせいで・・・まぁいいですわ。正義の味方さん。そんな偽物を屠って下さい。目撃したその子もあの人が非業の死を遂げられたのに気ままに生きているような人も生きていてもこの先何も発展もないですし・・・)

 

仁美は薄ら笑いを浮かべて、鋼殻装甲を展開した青年のこれからの行動に心を震わせた。

 

虚構のヒーローなど都合の良いシナリオでしか存在しない。

 

それを”本物の力”を持った”正義の味方”が現実を見せる為に制裁するというのは、なんと素晴らしい事なのだろうかと・・・

 

彼女自身気が付いていないのかもしれない。傍から見ると彼女はここ数日で変わっていた。

 

かつては人の痛みを理解し、気遣うことも出来ていた心優しい少女であったのだが・・・

 

今は、人を傷つけ、刃で刺し殺し、果ては縄で首を絞め、怨みのままに憎い相手に銃弾を浴びせる。

 

通りすがりの老夫婦の命をこの手で奪ったことにたとえようのない戦慄と喜びさえも覚えていた。

 

今まで当たり前と思っていた”日常”を自身の手で壊すことにさえも・・・

 

彼女は気づかない。彼女の心が既に”壊れている”ことに・・・・・・

 

それを正そうとする気さえなく、様々な手段を用いて”人”の命を自身の”願い”の為に犠牲にすることに何の罪悪感も抱かず、業を重ねていく・・・・・・

 

そこには、かつての日常に居た心優しい少女は居らず、少女の姿をした”陰我”が存在していた・・・

 

何処で間違えてしまったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「な、何なんだよ!?こいつ・・・」

 

保志は目の前に現れた恐ろしい蟹とも蠍にも見えるグロテスクな怪人物に怯えに似た表情を浮かべていた

 

「分からないな・・・こんなグロテスクな奴。朝のテレビには、絶対に出せないだろう」

 

朝の特撮番組である”仮面騎士 ゼロナイン”の撮影現場に突如として現れた謎の”怪人物”に番組の主役である”ゼロナイン”の衣装を着たスーツアクターは、知り合いである保志を庇うようにして怪人物の前に立った。

 

『お前を俺は知っているぞ。昔、ガラの悪い連中と付き合っていたことを、そんな奴がヒーローを名乗るなんて許せない!!!本当の正義がお前の過去の罪を裁いてやる!!!』

 

「なにを、言ってんだ!!この化け物!!!兄ちゃんは!!!!」

 

保志が蠍の怪人物に声を荒げるが・・・

 

『化け物?お前には、”正義”が見えないのか?正義とは、悪を制裁することなんだ!!!』

 

蠍の目に似た三つの目が感情の昂ぶりに応えるように赤く光る。

 

「リン・・・俺が昔、ヤンチャしてたのは変えようのない過去で色んな人に迷惑をかけたのも真実だ。だけど、俺はレンカが死んで、守れなかったこととアイツが大好きだった”ヒーロー”になろうと思って今がある。どんなに足掻いても過去を清算なんでできない。お前のような血に飢えた怪物に言われなくても分かっているんだ!!!」

 

ゼロナインのスーツを脱ぐことなく、前に進み出るように保志が”兄”とよぶ彼は構えを取る。

 

『何を言っているんだ。俺が血に飢えた怪物?力の無い弱い人たちを傲慢な存在から護る正義に』

 

「これの何処が正義だ!!この現場には沢山の人達の想いが夢があったんだ!!!みんな、毎日が辛くてもそれを叶えようと頑張っていたのに、お前がそれを滅茶苦茶にしたんだ!!!人の夢を想いを踏みにじる正義なんかない!!お前は、自分の正義の為に血を見るのが好きなただの怪物だ!!!」

 

『嘘つきの正義に、力の無い正義に存在価値はない。お前は後悔しながら死ぬんだ』

 

赤茶けた拳を握り、”正義”を名乗る蠍の怪人物が一歩を踏み出す。

 

その姿に保志は、尋常ではない力を持つ怪人物に恐怖を覚えるが、対照的にゼロナインは引くことなく一歩を踏み出した。

 

「に、兄ちゃん!?何やっているんだよ!!あいつは、ヤバいって、殺されるって!!」

 

騒ぐ保志に対し、ゼロナインは彼を安心させるように肩に手をやる。

 

「リン・・・ヒーローに強敵は付き物じゃないか・・・」

 

『悪の癖に俺を怪人呼ばわりか?偽物の・・・作り物の癖に・・・』

 

「ハンっ!こういう挑発に腹を立てるなんて、自分でもわかっているんじゃないのか?正義の味方じゃなくて、血に飢えた怪人だってな」

 

『煩い!!その生意気な口を叩けないようにしてやるっ!!!』

 

自身の正義を貫こうとする”蠍”の怪人と白いスーツを着た虚構のヒーローゼロナインの影が互いに交差した・・・・・・

 

その光景を佐倉杏子とその伯父が傍から見ていた。

 

「危ない!!伯父さん!!!早く行かないと!!!」

 

杏子は、ホラーや魔女に近い気配を放つ”鋼殻装甲”に向かおうとするが・・・

 

「杏子ちゃん、ここはオレが行くべきかもしれないが、今回はあの白いヒーローの方が良い線を言っていると思うよ」

 

「なにって・・・ええっ!?!」

 

『ふふ、杏子、Justice will win。正義は勝つんだよ』

 

ナダサの言葉を証明するようにゼロナインは見事な投げ技で、”鋼殻装甲”を纏った彼を思いっきりアスファルトの地面に叩きつけていたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ほむらの戦闘スタイルは完全に黒曜騎士っぽくなっています(笑)

仁美は仁美で闇堕ちした自分に満足しています。

仮面騎士 ゼロナイン。

この時間軸における朝のヒーロー番組。子供らからは絶大な支持を得ています。

ゼロナインの主演兼スーツアクターは、保志くんの従兄弟のお兄ちゃん。

なんだか格好の良い役柄で出てきていますが、ゲストキャラです。

正義も味方(笑)ヒーロー番組にクレームを入れるけど・・・・・・

次回はバド伯父さんと杏子ちゃんが見守る中、正義の味方の本性が思いっきり出ます。





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幕間 「正 義 (前編)」


八月に更新すると言いながら、久々の更新。

正義の味方さんが活躍?します。

タイトルを変えてみました。

ほぼ番外編に近いです。






 

 

 

「・・・今更だけど、お前、昔見滝原中学校に通ってたアイツか?もしかして・・・」

 

ゼロナインスーツを纏ったアクター兼番組の主役である 勝巳 ゲキは、かつて通っていた見滝原中学でクラスメイトだったある少年を思い出していた。

 

妙に気取っていて、捻くれた目つきをしていた目立たなかったクラスメイトの朧げな姿を・・・

 

『そうだ!!!お前が!!イジメていたあの娘の事を忘れたとは言わせないぞ!!!!』

 

「っ・・・・・・あぁ、俺はいつも幼馴染のアイツを・・・リン。お前の姉ちゃんをいつも泣かせてたな」

 

嫌な過去を抉ってくる変わり果てた目の前の同級生に対して 勝巳 ゲキは改めて過去は決して消し去ることはできないものだと起こってしまったことを変えることはできない事実を痛感する・・・

 

「ちょっと待てよ!!怪物!!!兄ちゃんはっ!!!姉ちゃんをイジメてなんか!!!」

 

「傍から見ればそうだったかもしれない・・・否定はしないさ。意地を張らないでミドリの所に素直に謝りに行けば・・・ずっと後悔をすることなんてなかったんだろうな」

 

 

 

 

 

 

もしもあの時ミドリの所に行けば、保志 リンという少年は今も姉の傍に居たのではないかと思う時がある。

 

そして何よりも”幼馴染で初恋”の彼女をあの”ニルヴァーナ”に攫われるようなことはなかったかもしれない。

 

幼馴染の彼女 保志 ミドリは、女子でありながら”正義の味方”が大好きな変わり者だった。

 

いつかは憧れたTVの正義の味方になりたいと言っていた。

 

”おいおい・・・ミドリ、俺らそろそろ良い年齢だぜ。いつまでもヒーロー番組をみるのもなぁ~”

 

”だって、好きなモノは仕方ないじゃない。それに、みんなに笑顔を与えられる仕事が将来になったら、それはそれで素敵じゃない”

 

”玩具会社の宣伝だろ?大半は・・・この間もパワーアップツールでてたよな”

 

”そういうゲキだって見てるじゃん。でもね本当にすごいのは、精一杯頑張っているアクターのみんななんだよ!!!”

 

目を輝かせて力説するミドリにまた発作が始まったと思い、この話をさっさと切り上げるべく、今も・・

 

どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと後悔する言葉を言ってしまったのだった・・・・・・

 

”ああ、凄いよ。アクターの動きは・・・どんくさいミドリの運動神経じゃ務まらねえよな”

 

”なんだよ!!!そんなこというなんて!!!!私だって、これでも頑張っているんだから!!!”

 

”未だに逆上がりもできない、金づちのお前が何を言ってるんだよ”

 

できることならば、過去の自分の口を塞いでしまいたかった・・・

 

”もう知らない!!!ゲキの馬鹿!!!!”

 

涙目で背を向けてしまった幼馴染にゲキは頬を掻き・・・

 

”また・・・やっちまった・・・本当はお前がヒーローのアクターになろうって頑張っているのを知ってたんだけどな・・・どうして、こんな事しか言えないのかな・・・”

 

本当は夢を応援したいし、素直に頑張れと言いたい。

 

だけど・・・変に意地になった心がそれを阻んでしまう・・・・・・

 

何故か冷たく当たってしまうことに後になって気分が悪くなる・・・

 

明日もいつものように不機嫌な幼馴染の顔を見つつ、ふとしたきっかけでいつものような毎日が始まるんだろうと・・・そう考えていた・・・・・・

 

だが、ミドリは家に帰らなかった・・・

 

ミドリを知らないかと彼女の両親から電話が掛かってきた時ほど恐怖を感じたことはなかった・・・

 

それと同時に罪悪感が芽生え、気が付けば家を飛び出し、居なくなった幼馴染を一晩中探した。

 

探しに行った父親もなぜか行方不明になり、そのまま何も出来ずにミドリが戻ってくるのを待つしかなかった・・・

 

もう子供じゃないと粋がっていたが、結局は子供でしかなかったと思い知らされた・・・・・・

 

数日後、幼馴染は変わり果てた姿で戻ってきた・・・

 

遺体は無残な姿であり、肉親ですらも直視することすらできないほど損傷がひどかった・・・

 

このような仕打ちを行ったのは”ニルヴァーナ”というカルト組織だった・・・

 

その話を聞いたとき、言いようのない怒りを感じた・・・どうしてあの時、ミドリの後を追わなかったと

 

当時、危険と分かっていた”カルト組織”が徘徊していた状況を甘く見ていた馬鹿だった自分が許せなかった・・・

 

自分がついていれば、ミドリを庇い逃がすことだって出来たかもしれないのに・・・

 

犯人である”ニルヴァーナ”よりもあの時、幼馴染を傷つけた自分が憎かった・・・

 

夢を笑い、傷つけたのは自分だと何度も責めた。あんなことになったのは自分のせいだと・・・

 

自身を責め続けた果てに自分自身の否定すらも考えるようになった・・・

 

自分さえいなければ、ミドリは夢を笑われずに、傷つくこともなかったと・・・

 

”ニルヴァーナ”が壊滅しても、心は晴れなかった。無気力に日々を無為に過ごしていた・・・

 

そんなある日、ミドリの母が彼女の遺品である手紙を持ってきてくれた・・・

 

それは、あの後にミドリが自分に当てた気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

”ゲキへ・・・

 

なんでいつも酷いことをいうのかなと思うけど、私が夢を見ているだけでそれを叶える為の力がまだまだ足りないって言ってくれているのに、私もついムキになって毎日喧嘩ばかりだよね。私達って・・・

 

ごめんね。ゲキは、きついことを言うけど私の好きなことに文句は言うけど付き合ってくれてたよね・・・

 

私のわがままでいつもゲキを怒らせて・・・

 

・・・私、子供たちに夢を与えられたらなっていつも思っているんだ。今の時代は、正直に言ってあまり良くないし、変な噂や怖いカルトだっているどうしようもない現実だけど、せめて少しの間だけでもそんな怖い現実を消してしまえるような希望を見せられたらなって思っているんだ。

 

私がヒーローになりたいって願ったのは、実を言えばゲキが昔、見せてくれたあのヒーロー番組がきっかけだって覚えてる?覚えてないかもしれないけど、私はあんなふうにゲキが目を輝かせていたのに感激して、ヒーローになりたいって思ったんだよ。覚えてないなら、思い出させてあげるからね!!!

 

だから私ね。絶対に子供たちに夢と希望を与えるヒーローになりたいんだ。

 

でも、まだまだ力不足だし、これからも私の幼馴染で居てくれたら、嬉しいな”

 

 

 

 

 

 

”・・・俺かよ・・・お前をそんな風にしたのは・・・その俺は覚えてもいなかった”

 

手紙を読んだ後に久しぶりに頬が緩む。気が付けば、起き上がる気さえなかったのに、今では既に立ち上がっていた。

 

”・・・ミドリ・・・俺は、こんな所で腐っている暇なんてないんだ・・・”

 

夢と希望を与える存在になれずに亡くなった幼馴染をこのままにしておけない・・・

 

だったら、自分がその夢と希望を引き継ぐ・・・

 

暗い世の中だけど、ほんの少しの夢を見させられるような”存在”に・・・・・

 

”・・・・・・ミドリ・・・俺は、やるよ。お前のやりたかった将来を俺が代わりに叶える。もしも、天国にいるのなら見ていてくれ。お前の幼馴染はヒーローだってことを自慢できるように・・・”

 

それからは真摯にトレーニングに打ち込み、中学、高校を卒業後に、とあるプロダクションに就職した。

 

 

 

 

 

 

そして数年後、彼は特撮ヒーロー番組”仮面騎士 ゼロナイン”の主役兼アクターに抜擢された・・・

 

 

 

 

 

 

 

現在、まさか同級生が”怪人”になって、再会するというあり得ない事態に至っていた。

 

撮影現場に突如現れるやいなや、スタッフ達に対して訳の分からない言葉を叫びながら”力”を振るい、現場を混乱させた。

 

撮影スタッフを庇う為に、勝巳 ゲキは既に着込んでいたスーツのまま飛び出し、目の前に現れた”怪人”に呆然とする幼馴染の弟であり、従姉妹の保志少年を庇うように立ったのだった。

 

”怪人”こと、彼は遠巻きに自分の事を見ていて、何度も幼馴染を泣かせていたことを”いじめ”を行っていたと思い込んでいたのだろう。

 

正義の味方が大好きだったミドリと同じように”彼”も”正義の味方”と言わんばかりに自意識過剰な正義感を振り回していた。

 

若干、痛い発言をしていた夢見がちな少年ならまだしも、とにかくトラブルが絶えなかった。

 

ミドリは、”彼”について勝巳 ゲキにこう語っていた。

 

”あの人・・・正義の味方じゃなくて、誰かを攻撃する口実として正義を求めているだけで、正義の味方でも何でもないよ”

 

てっきり、気が合うかとその時は考えていたが、ミドリは”彼”の事を苦手と言うよりも半ば嫌っていた。

 

ミドリの言葉は的を射ており、”彼”の本質は”正義の味方”ではなく・・・

 

「お前は、正義の味方でも何でもないだろうが、ただの血に飢えた怪人だ」

 

あの頃と本質は変わっていないのだろう・・・

 

むしろ訳の分からない非現実的な”異能の力”を得て、それを振りかざしているのだから性質の悪さは、あの頃以上だ・・・

 

クラスメイトの蓬莱が亡くなった時、確か”マサオ”という同級生を何故か犯人扱いして”制裁”を加えていた時は、思わず庇い、彼を殴ってしまったが、担任の早乙女先生からは、今度からは先生を呼ぶようにと小言を貰うだけで済んだが、”彼”は厳重注意と反省文を書かされたと聞いたが、それを不服だと言ってそのあと”不登校”になり、今の今まで会うことはなかった・・・

 

ゼロナインを演じるに至ってプロダクションの社長から聞かされた話は・・・

 

”正義の味方は、鋼の道徳心、倫理観がなければ務まらない”

 

自分の小さな欲の為に力を使うようになっては、正義の味方でも何でもない・・・

 

・・・強い力に対して、誰よりも厳しく向き合わなければならないというもので、特に主役を演じるのだから、それをしっかりと理解し、表現してほしいと・・・

 

”ゼロナイン”の設定そのものは、”アンドロイド戦士”でありながら、人間と同じ感情を持つ存在である

 

”重力エネルギー”を操り、一切の武器を持たずに”徒手空拳”のみで戦うという一番のスポンサーである”玩具メーカー”泣かせのものであった。

 

派手なエフェクトを使ったシーンは少ないモノの様々な強敵に対し、何度も傷つき倒れながらも決して諦めない姿は、当初こそは地味であると酷評されたが、回を重なるごとに多くの子供達から支持を得るに至った。

 

憧れの目でTVの前に座る子供らの話を聞くたびに、勝巳 ゲキは自身の演じる”役”に責任と誇りをより強くしていった・・・

 

自分に夢と希望の視線を向けてくる子供らを裏切ってはいけないと・・・

 

ヒーロー”ゼロナイン”の役である以上、目の前の理不尽な暴力に屈してはいけないと・・・

 

蟹とも蠍の鋏にも見える腕を勢いよく、殺すつもりで放ってきた。

 

だが、勝巳 ゲキは”力”こそは強力ではあるが、目の前の”怪人”自身がその”力”を扱いきれず、まるで振り回されているように見えた。

 

アクターとして、危険なスタントに耐えうるトレーニングと平行して殺陣をこなす為に道場などで指導を受けてきたが故に目の前の怪人は力と見た目こそはインパクトはあるが、冷静に見てみると素人そのものの動きにしか見えなかったのだ・・・・・・

 

そして、懐に入りこむと同時に勢いよく腕を掴み、背負い投げを掛けるにいたった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ!?なんでだっ!!!俺がこんな無様に飛ばされるなんて!!!』

 

今までの相手は、この姿に恐れ、何も出来ずに”力”によって倒されるはずだった。

 

それなのに目の前の”偽物”は、怯むこともなく自分の懐に入り、このような醜態をさらさせた。

 

”彼”は、このような恥をかかせてくれた”偽物”に激しい怒りを抱いた。

 

『お前っ!!!偽物の癖に!!!正義の味方である俺に恥をかかせるなんてっ!!!』

 

華麗に優雅に圧倒的に相手を一方的に倒すはずなのに、それを否定した”偽物”を非難する。

 

白いスーツを纏った勝巳 ゲキは、目の前のかつてのクラスメイトだった”正義の味方”に対し・・・

 

「恥をかかせた?お前のやっていることは正義でも何でもないって自分で認めているぞ。その台詞は」

 

『なんだとっ!!!おまえぇ!!ただの一般人の癖して、正義の味方であるはずの俺にっ!!!』

 

蠍とも蟹とも言えないグロテスクな顔が醜く歪む。

 

「ただの一般人じゃないさ・・・今の俺は勝巳 ゲキじゃない」

 

後ろに居る幼馴染の弟である少年の視線を感じつつ、この”役”を精一杯全うすべく、勝巳 ゲキは

 

「俺は、仮面騎士 ゼロワンだっ!!!」

 

勇ましく名乗りを上げ、切れのある動きで構えを取った。

 

子供達に”夢と希望を与えるヒーロー”になると幼馴染に誓い、その願いを叶えられる立ち位置に居るのならば、今の自分は決して逃げ出してはならない。

 

”ゼロワン”は、特別強い華やかなヒーローではないが、彼は”どんな困難を目の前にしても、どんなに傷ついても倒れても立ち上がり何度でも向かっていく不屈の心をもった戦士”なのだ・・・

 

そのゼロワンを演じるのならば、自分はゼロワンを否定するようなことはしてはいけない。

 

勇ましく目の前の”怪人”を見据えるゼロワンに対し、彼は思わず足を引いてしまった・・・

 

『な、なんだよ・・・てめぇ・・・そんな子供だましのただのお遊戯の偽物を真面目にやるなんて馬鹿じゃねえの?どうせ、碌な生活をしてないんだろ』

 

様々な人やまた、異形の怪物である”ホラー”すらも倒せる力を得たのに、何故か怯えすら感じる目の前の”ゼロワン”の存在が理解できないのか、彼は嘲笑う。

 

「言ったはずだろう。俺は仮面騎士 ゼロワンだ。それ以外の何物でもない・・・もう勝負はついた」

 

『はぁっ!?なに、言っちゃてんの?俺がお前に負けた!?!』

 

”彼”にしてみれば、いきなり訳の分からない事を言い出したゼロワンに声を上げた。

 

「そうだ。お前は既に足を引いている。お前の信念はたったの一回の背負い投げで砕けるぐらいの脆いモノだったんだよ」

 

口には出さないが、自分の事を馬鹿にしたように罵りだしたのも彼自身のショックがあまりにも強かったためなのだろう・・・

 

「俺は、子供たちに夢と希望を見せる為にこの役を授かった。だから、相手がどんな相手だろうとも引く気はないし、負けるつもりはない」

 

『な、なにを言っているんだよ・・・まるでお前・・・』

 

彼は、目の前に居るのは、彼自身が憧れた”正義の味方”そのものではないかと感じるのだが、それを認めることはできなかった・・・

 

認めたら自分は”正義の味方”ではないと認めなくてはならないのだから

 

「これ以上何も言うな。勝負がついたなら、これ以上、俺はお前に何も言う気はないし、何もする気はない。だから、このまま見滝原から出ていけ、そして、その力を捨てて真っ当な道に戻るんだ」

 

”力”を捨てて、真っ当に生きろ・・・・・・

 

『ふ、フザケルナ!!!そんなこと認めてたまるか!!!!正義を否定する存在!!!お前は悪だ!!!』

 

”彼”は、もしかしたら、引き返せるかもしれない選択肢を出されたのだが、それを否定した。

 

力ある者が悪を倒す。それこそが正義の味方であると・・・

 

激昂し、勢いよく向かってくる怪人となり果てた”正義の味方”を名乗るかつてのクラスメイトに・・・

 

「馬鹿野郎!!!誰かを傷つけることに正義なんてないのに、何故それが分からない!!!」

 

特別な力こそはないが、ゼロナインは彼の攻撃を往なし、急所である顎に掌底を当てると同時に”彼”は勢いよく吹き飛んでしまった。

 

白いヒーローと蟹と蠍を掛け合わせたような人型の怪人が戦う光景であり、白いヒーローにより怪人は堅いアスファルトの上に倒れてしまうのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「す・・・すげえよ、兄ちゃん・・・」

 

保志少年は、振り返ることなく背を見せる従兄弟に対して尊敬の視線を向けていた。

 

凄い冒険をいつかはと求める気持ちはあるが、姉の夢を引き継ぎ叶えようとする彼は、偽物はない、本物の”ヒーロー”だと思うのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

かつての彼は、ある街の”王子様”だった・・・・・・

 

顔の知らない祖父から代々受け継がれてきた”街”に彼は誰よりも愛着を持っていた。

 

自分はこの”街”を受け継ぐ”特別な存在”であると・・・

 

周りもまた自分を”特別”だと認めてくれていた・・・・・・

 

両親が受け継いだように自分もまたこの街を継ぐのだと確信していた・・・

 

この街で自分を知らない者など誰もいない。

 

その為か、彼はこの街を・・自分の街を護らなければならないといつの頃から思うようになった。

 

故に彼は自分の”街”で悪事を、汚すような真似をする存在が許せなかった・・・

 

幼心にも感じていた不快感・・・自分の利益の為に”悪事”に手を染める存在に対して・・・

 

子供の頃は”親”の威光もあり、自身が悪ふざけをする”他人”に手上げても誰も咎めることはなかった。

 

彼は”正しい”のだからこそ、誰も自分に反論することはないと当然のように考えていた。

 

自分達がこうして居られるのも”正しい”からこそであり、多くの人達の支持を得て、この街のトップの立場に立っている”父親”の背も強い憧れと確かな”正しさ”を感じていた。

 

そして、”悪”は決して許してはならないことを学び、彼自身もまた”正しく”あろうとしていた。

 

彼らは正しくあったはずだったのだが・・・

 

・・・彼の父親がある汚職事件に関わり、破滅したことで彼は”王子様”から只の”彼”になった。

 

今まで自分を特別な存在としてみていた人々が手のひらを返したように自分を見ることがなくなった・・・

 

あろうことか自身の”正しさ”すら”間違い”であると反論されることもあった・・・・・・

 

自身が嫌悪をしていた”悪”が自分を不幸に落としたことに激しい怒りを覚えていた。

 

正しい自分が何故、不幸な目に遭わなければならないのか?

 

どうして、父親は悪に加担するようなことをしたのか?

 

悪への誘惑から救うべき英雄は何をしていたのか?

 

”英雄”は何故、何もしてくれなかったのかと、彼は存在するはずのない”誰か”を求め、責めた・・・

 

彼は待った・・・自分が何時かまた”王子様”に戻れる時を・・・自分を助けてくれる”英雄”の存在を・・

 

だが、彼を救ってくれる”英雄”は彼の元に訪れなかった・・・

 

訪れることのない”英雄”を待つ無為な時間だけが過ぎていき、”街”の姿は大きく変わっていく。

 

住んでいた家を追われ、一家は離散し彼は、名ばかりの親戚の間をたらいまわしにされながら、少年から青年へと変わっていくが、その心の内には、特別であったかつての少年だった彼が存在していた。

 

その少年は、街が変わっていく事を嫌った・・・自分が取り残されることを恐れたからだ・・・

 

自分の知っている”王国”であった”アスナロ市”が変わってしまったことに彼は強く叫んだ。

 

”余所者が俺の街を勝手に変えるな!!!”

 

彼はいつか自分が知っている美しい記憶の中の王国に帰ることを望む・・・

 

そして、自分が”英雄”に・・・”正義の味方”になることを心に誓った・・・

 

”王国”に帰れることを信じて・・・

 

”力”こそはなかったが、彼は目につく不正、悪事にはとことん首を突っ込んだ。

 

彼の行いに、迷惑だけを感じるものが大半でほとんどが感謝することはなかった・・・

 

自身の”正義感”のままにと彼は考えていたが、傍から見ればそれは、自身に酔っているだけであった。

 

”正義の行い”を積んでいけば、いつかは本当の”正義の味方”になれると信じて・・・

 

その本心・・・誰もが自分を”特別”に見ていた”あの頃”へ戻りたいということに気づくことなく・・・

 

戻ることのできない事への苛立ちを他者にぶつけていた・・・

 

何時かなれると信じていた”正義の味方”になる為の力を彼は手に入れた・・・・・・

 

圧倒的な力だった・・・どんなに相手が地位を持とうが純粋な”力”の前には無力だった・・・

 

”正義は勝つ”・・・この言葉は正しかった。だからこそ自分は”力”を手にすることができたのだった。

 

そして、今、目の前で過去に悪事を行っていた”悪”が正義の味方に扮するという許せない行いをしている・・・

 

目の前に居る白いヒーロースーツに身を包んだ”悪”を”正義”の名の元に下すはずだったのだが・・・

 

気が付けば奇妙な無重力感と共に視界が流れ、背中に鈍い衝撃を感じていたのだった・・・・・・

 

自身よりも堂々とした姿があまりにも眩しくそれでいて、自分を諭そうとする行動が許せなかった。

 

正義の味方である自分を否定するその”ヒーロー”の存在が・・・・・・

 

またもや自分を無様な醜態を晒させたことにさらなる怒りを覚えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「伯父さん。あの白い奴って、魔戒騎士か法師だったりする?」

 

杏子からみて白いヒーローの一般人とは思えない切れのある動きは魔戒騎士や法師らと特色がなかった。

 

「いや、ここには俺たち以外には居ないさ。彼は魔戒とは関係のない人物だろうね」

 

まさか”魔導具”を纏った人間を制するほどの技量を持っていることに素直にバドは感心する。

 

「というよりもあの魔導具 鋼殻装甲を使っている人間は一般人以下でしかないんだろな。一番の理由は」

 

白いヒーロースーツを纏った人物の技量は大したものである。縁こそあれば、彼は魔戒騎士か法師に成れたかもしれない。

 

対する 魔導具 鋼殻装甲を使っている人間は一般人以下の技量しかない。

 

力は結局のところ”魔導具”に依存しており、それ以外に何もないただの一般人以下の人間でしかない。

 

最近になって後輩である影の部隊を率いる騎士より齎された情報にある逃亡した魔戒法師 香蘭があの青年に絡んでいるとバドは睨んだ・・・

 

故にあの魔導具の入手経路と魔戒法師 香蘭の事を聞かなければならないと考え、物陰より足を進める。

 

『WHAT!!!あの女、やっぱりやりやがった!!!』

 

杏子が持っている魔導輪 ナダサが”鋼殻装甲”が変化していると同時にホラーが出現する”ゲート”の存在を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアああああああ!!!!な、なんなんだっ!!!俺が、く、喰われる!!!いやだ!!!俺は、こんなところで死にたくない!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

”鋼殻装甲”がいつの間にか解け、腕の模様が”彼”の身体を侵食し、その身体を喰らい始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市内から離れて人が誰も載っていないモノレールの車両に一人 彼女 志筑仁美は座っていた。

 

「・・・・・・この方って本当に頼りになりませんわね。何もできない、何の力もない虚構の子供番組の役者に負けるなんて・・・つまらないを通り越して、呆れてしまいますわ・・・」

 

志筑仁美は、美樹さやからを葬ることが出来なかったことの憂さ晴らしにと正義の味方による行いを見守っていたのだが、期待外れの光景であったため、酷く落胆していた・・・

 

「香蘭さんは、つまらなくなったらこれを覚醒させると面白いと仰っていましたわね」

 

好奇心の赴くままに蠍を模した腕輪の中央をスライドさせ、そこにある鍵穴にキーを刺し回した・・・

 

「あはははははは。正義の味方は確か自己犠牲を厭わないのですよね・・・でしたら、あなたは私の傷ついた心を慰撫する為にそのまま”陰我”に堕ちてください」

 

 

 

 

 

 




あとがき

正義の味方さんの活躍ですが、後編で終わります。

柾尾 優太本人は出てないけど、正義の味方さんは一時的に見滝原に居た時期があり、クラスメイトでした。

ゲストキャラ 勝巳 ゲキは柾尾 優太が”正義も味方”に理不尽な暴力にさらされているのを庇ったことがありますが、とうの柾尾 優太は彼の事を覚えておりません。

次回より、杏子ら風雲騎士一家が出張ります。

魔導具を持ったとはいえ、むやみに人を傷つけることができないこともあり、正義の味方さんにお灸を据えられそうなヒーローに任せても良いんじゃないかと思ったのですが、まさか魔導具に”陰我”のゲートになりうる”オブジェ”を仕込まれていたという予想外の事態・・・・・・





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幕間 「正 義 (後編)」


番外編的な正義の味方さんの結末・・・

今更ながらですが、彼の不幸は一時の感情の勢いに任せてしまった事だと思います。

踏みとどまっていれば、このような結末にはならなかったでしょう。

それは彼女にも言えることです。どんな結末になるかは彼女次第ですが・・・




 

こんなはずじゃなかった・・・

 

魔導具 鋼殻装甲の宿主である”彼”は、今更ながら嘆いていた。

 

自分の生まれた街の為に育った街の為に立ち上がることも出来ず、余所者に好き勝手されたことが許せなかった・・・

 

それを解消してくれたはずの与えてくれた”正義をなす為”の力を”偽物”が圧倒することが認められなくて・・・

 

自分のしていることが間違っていることに向き合うことが出来なかった・・・・・・

 

結局のところ自分は、”正義の味方”と煽てられて、体よく利用されただけの”道化”でしかなかった

 

一時の感情の勢いに任せて、”人生を棒に振って”しまったことを・・・

 

もう少し冷静になっていればと・・・目の前の現実を受け入れていればと・・・

 

やり直しができないことになってしまったことに今更ながら気づいたのだった・・・・・・

 

そして・・・自身の破滅を知らず知らずに歩んでいたことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアああああああ!!!!な、なんなんだっ!!!俺が、く、喰われる!!!いやだ!!!俺は、こんなところで死にたくない!!!!』

 

 

 

 

 

 

彼は自身の身体を黒い模様が侵食し、それが音を立てて肉体を喰らう感触を直に感じていた。

 

肉が千切られ、神経が凄まじい痛みを直接脳に伝える。あまりの衝撃に狂ったように叫んでいた。

 

喰われた腕が甲殻類の生物的な殻ではなく、金属を思わせる無機質なモノへと変化し、さらには下半身が弾けるように吹き飛び巨大な節足動物の脚が現れる。

 

『あぁああああああっ!!!!お、俺の姿が!!!これじゃ、正義の味方じゃなくて、化け物じゃねえか!!!!』

 

顔も”鋼殻装甲”を鎧のように纏う普段のプロセスではなく、頭の内側より何かが飛び出してくるような衝撃が襲い、人の頭部が中心よりずれていき、別の生き物の頭部が取って代わるように中心になっていく。

 

『お、俺の・・・身体が・・・うわぁああああああああっ!!!!!!!』

 

波打つように肉体が変化していった。

 

10メートル近くまでに巨大化し、かつての人の面影がない醜悪な怪物の姿がそこにはあった・・・

 

突然の様子にゼロナインの衣装をまとった勝巳 ゲキは・・・

 

「・・・訳の分からないモノに安易に手を出したからだ。本当にどうしようもない奴だよお前は・・・」

 

特別親しかったわけではなかったが、良く分からない力に振り回されて、結局はその力に喰われるという自業自得な末路に僅かながら同情の念を抱いた・・・

 

さらに胸より黒い悪魔の顔を模した紋章が浮きあがってきたと同時に・・・・・・

 

勝巳 ゲキが知ることはないが、黒い悪魔の顔の紋章は、陰我ホラーのそれであり、魔導具 鋼殻装甲が内に陰我のゲートを開き、現れたホラーを取り込んだ証であった・・・

 

『ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・』

 

激痛に悶えていた彼の意識が黒い何かに侵されるようにして削り取られるようにして消滅した・・・・・・

 

彼の身体と魂を喰らい、”魔導具 鋼殻装甲”は内に秘めた”陰我”と”ホラー”の力を持って、その真の姿を現すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市

 

「”鋼殻装甲”のアレは、真実だったのか・・・」

 

バドは、目の前で異様な姿へと変わっていった青年の姿に舌打ちをした。

 

影の魔戒騎士の話によると魔導具”鋼殻装甲”は寄生したら、宿主が”鋼殻装甲”自身に食われるまで解除することはできないとのことだった。

 

故にホラーと同じであり、逃亡した魔戒法師の作品故に寄生された”宿主”を見つけたら、ホラーに憑依されたモノとして扱い、斬るように厳命されている。

 

「伯父さん・・・アレ一体、何なんだよ?あんな魔導具、噂の魔獣装甲って奴じゃないのか」

 

「確かにあれに似ているが、アレはソウルメタル製の鎧と違い、女でも使える。だが、鍛錬が不足していたり実力が伴わないと喰われてしまう。その点、鋼殻装甲は魔導具自身が宿主をそれに適するように作り変えてしまうから、喰われることはない。意図的に操作をしないかぎりはな・・・」

 

宿主の素質が優れていれば優れる程、力は増すが、その素質が平凡であれば大した力は得られないだろう。

 

それでも訓練なしで低級ホラーを倒せるまでのモノを宿主に齎す点は脅威である。

 

だが、その実態はホラーに憑依されるのと同じであり、魔導具が宿主を作りかえるが、鎧を解除するなど切り替えができ、制御が利くことは魔獣装甲よりも良いのだが、奏者の指示により宿主を喰らってしまうところは魔獣装甲よりも性質が悪い。

 

ホラーと戦う法師や騎士の数が限られている為、ホラーに怨みを持つ一般人を”道具”として使う意図であることが明白であった・・・

 

ホラーを倒す為に”陰我”のゲートを内に秘め、そのホラーをさらに内に取り込む事でその力を発揮するのである。

 

ホラーを取り込み”力”とする”魔導具”故に寄生されたら憑依されたも同然・・・

 

伯父の口から語られる鋼殻装甲の実態に杏子は憤った。

 

「なんてもんを作ったんだよ。その魔戒法師は!!!」

 

訳の分からないモノが身体を作りかえ、それでいて意図的に”駒”のように扱う魔導具に対して杏子は声を上げた。

 

『杏子、COME DOWN。限りなくホラーに近い魔導具との戦いだ。冷静さを欠いちゃだめだよ』

 

普段の怪しい言葉遣いをしつつも、冷静になるように伝えるナダサに対し杏子は

 

「ったく、ナダサ。いつもそんなんだったら、アタシもイラつかないんだけどな・・・」

 

『そう言わずに、MEだって、場面場面弁えているよ。そこんとこは分かってるよね、伯父さん』

 

「お前とはそれなりに長い付き合いだが、こういう場面だと頼もしく感じるな。ナダサ」

 

笑みを浮かべると同時にバドは二振りの風雲剣を取り、杏子は魔戒筆を構えた。

 

普段ならば身体能力の底上げの為に”魔法少女”に変身するのだが、今回は変身を控えることにした。

 

出し惜しみをしているのではなく、クラスメイトの保志の存在が理由である。

 

後で聞いた話ではあるが、彼は痛い言動を発する年頃の少年である。だが、魔法少女関連が大の苦手と言うよりも一種の”トラウマ”になっている。

 

”魔法少女”を趣味としていた”ニルヴァーナ事件”の教祖の件があったからだ・・・

 

魔法少女として割り込んで、下手に彼を錯乱させるわけにもいかない為、ここは法師として伯父の援護と支援に回ることにするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 BAR Heart-to-Heart 

 

営業時間まで一時間前の店内に一人の女性が瓶に閉じ込められた奇怪な生き物を覗き込んでいた。

 

女性の名は、アスナロ市に身を潜める魔戒法師 香蘭。

 

とある理由で、元老院から逃げ出し、追われている身の上の法師である。

 

「いつ見ても惚れ惚れするわね・・・この”鋼殻装甲”・・・仁美ちゃんも楽しんでくれればいいんだけどね」

 

瓶の中に居るのは、かつて”正義の味方”に憧れていた”青年”に渡したそれに酷似した生き物であった。

 

「それって、生き物じゃなくて、魔導具って奴なんでしょ」

 

気が付けば、背後に魔法少女 聖カンナが立っていた。カンナは、魔導具に興味こそはあったが、それ以上近づくことはなかった。

 

魔導具を近くで見てみたいという気持ちはあったが、近づきたくない理由は魔戒法師 香蘭の傍に寄りたくなかったからである。

 

「カンナちゃん♪そんなところに立ってないで、隣に座ったらどう?」

 

にこやかに笑う気さくな女性にこそ見えるが、実態は人の好さそうな外見とは真逆の”本性”であることを聖カンナはよく知っていた。

 

「このままで構わない・・・その魔導具の効果は一体なんなの?」

 

聖カンナの表情は、これ以上にないくらい強張っていた。言うまでもなく目の前の女性 魔戒法師があまりにも恐ろしかったからだ。

 

ありとあらゆるものを楽しむ明良 二樹もどうしようもない程の”悪”には違いないが、”悪”としての分別がある程度ついている為、付き合うことはできる。

 

香蘭は違う。香蘭の場合は、”魔戒法師”・・・

 

”守りしもの”の家系に生まれながら、人を人と思わない性格であり、その思考は”悪”と呼ぶには生温い程のどす黒いモノを内に抱えていたのだから・・・・・・

 

「これね・・・魔戒騎士も法師もこう言っちゃ悪いんだけど、どいつもこいつも命を奪うことに大義を求めて”守りし者”を気取っている・・・私としては自分達の所業があまりにも後ろめたいからそう名乗って、もしくは他者に認めてもらいたいのかしらね~~」

 

上機嫌に話す香蘭の姿は、人のそれではなく”獣”のそれであった・・・

 

「魔戒騎士とホラーの戦いは、ある意味終わりのないマラソンみたいなものね。ホラーが強力になって行く度により強力な戦士を武器を、魔導具を求めていったわ。此度は、魔戒法師も低級ホラーなら倒せる号竜が完成されたわ」

 

魔戒法師に大きな戦力を齎した発明に法師達は大いに沸いた。魔戒騎士と肩を並べられると・・・

 

そしていつかはこう願うだろう・・・

 

魔戒騎士が生まれる前の魔戒法師が守りし者として戦っていた古の時代を蘇らせようと・・・

 

あの天才とは顔を何度か合わせたが、良いとこの坊ちゃんという印象しかなかった・・・

 

「守りし者?そんなもの只の言い訳に過ぎないわ。武器も騎士も魔導具も人がホラーと言う脅威を倒すために生まれたのよ。だから私は、人を護るのではなく、あらゆる脅威を”殺す為”だけに”魔導具”を作って来たわ。敵対するのならば法師も騎士もホラーも関係なくよ」

 

故に元老院に召集されながらも、その危険な思想故に処罰を受けるに至った。

 

(・・・・・・紅蜥蜴が言っていたわね。この女は作った魔導具の性能を試す為だけに、意図的にホラーを人間に憑依させて実験に使ったって・・・・・・)

 

彼女 香蘭作成の魔導具は強力で有用であったが、どれも禍々しく殺傷能力が高い為に元老院の神官よりその全ての使用が禁じられ、ほとんどの魔導具は封印ではなく抹消された・・・

 

だが、香蘭の天才的な頭脳は貴重な為、それのみを生かすために脳だけが生かされることになったが、寸前に脱走。そのまま行方を晦ませてしまったのだった・・・

 

「鋼殻装甲は、人手が足りない騎士や法師を補助する為に・・・と言いたいけど、即席の戦力にする為に魔導具が扱えるように体を作り変える代物よ・・・ソウルメタルや他の魔導具はそれなりの鍛錬と長い時間が必要だから、その時間があまりにも惜しいのよね・・・」

 

寄生型魔導具 鋼殻装甲の本質は、ホラーと戦う為の”力”を年単位の鍛錬抜きで、それを得ることが出来るというモノであった。

 

寄生した宿主の素質に依存する為、素質がなければ、大した力を得ることはできない。

 

あの”正義の味方”はそこそこの素質があった為か”低級ホラー”程度ならば、戦えるぐらいの力を得ていた。

 

とはいっても”鋼殻装甲”は対ホラー用に人間を作り変えてしまう魔導具故に魔戒騎士やそれなりに腕の立つ人間相手では、そこそこの素質では少々荷が重く待ってしまう。

 

故に”鋼殻装甲”には、最後の切り札として宿主を喰らい、”魔導具”自身が直接戦う為の形態に姿を変える機能を付けていた。

 

これは宿主には伝えておらず、鋼殻装甲を”駒”とする奏者により発動させることが出来るのだ。

 

志筑仁美は、鋼殻装甲の”真の姿”を発動させているであろう・・・

 

遠く離れたアスナロ市ではあるが、何となくではあるが分かるのだ・・・

 

おそらくは愉快なことになっていることを・・・

 

そう思うと見滝原に無理にでも足を運んでいればと今更ながら後悔の念が浮かぶのだった・・・・・・

 

だが、あの見滝原には自分を追っている影の騎士達所縁のモノが居ると聞く為、迂闊な事は出来なかった。

 

それでも少しだけでも愉快な気分を味わいたかった・・・・・・

 

その様子に聖カンナは改めてではあるが、紅蜥蜴の言うようにこの女は何らかの事故で居なくなってくれたほうが世の中の為になると心の中で彼に同意するのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真の姿を見せた鋼殻装甲の姿に、元は人型であった頃の面影はなかった・・・

 

『KUUUUUUU・・・・・・』

 

下半身が蠍か蟹のそれであり、長大な尾を擡げる姿を見上げ、勝巳 ゲキは

 

「言葉までなくしたのか・・・お前はそんなになってまで・・・いや、こんな事になるなんて考えても居なかったんだろうな」

 

痩せ型だった体格は骨格そのものが膨れ上がり筋骨隆々に相応しいものへと変化しており、頭部は人間のそれではなく、蟹と蠍の顔を掛け合わせたようなモノへと変わっていた。

 

胸元には不要として除けられてしまった”彼”の顔がへばり付いていた。

 

世の中どう変わるか分からない・・・

 

ありふれた日常と言うモノは案外脆いモノではないだろうか・・・

 

かつての自分が幼馴染の死を後悔したように・・・

 

特別誰かが不幸な目に遭うわけではなく誰にでも起こりうることなのかもしれない・・・

 

ただ、その崩壊が”彼”はあまりにも惨く、それでいて悲惨なものであった・・・

 

「に、兄ちゃん・・・・・・」

 

保志少年は、目の前に現れた”非日常”の怪物に対し、目を見開かせていた。

 

「大丈夫だ。こういうピンチはいつもの事だ、心配するな」

 

逃げなければ危うい状況なのだが、まだ逃げきれていない気絶したスタッフも居る為、勝巳 ゲキはせめて従兄弟だけでもこの場からと考えていた。

 

「でも、アイツは、兄ちゃんの演じているゼロナインと戦う相手とは違うんだよ!!!こんなことって!!!」

 

「そうだな・・・だけど、こういう時こそ冷静にならなくちゃいけない。一時の感情の迷いと勢いに任せてしまったら取り返しのつかないことになってしまう」

 

こういう時こそ、落ち着かなければならないと従兄弟を諭す。

 

どうやって切り抜けるかは、正直分かりかねるが・・・

 

目の前の非常事態から目を逸らし、喚いていたら、それこそ終わってしまう。

 

こんな状況でどうするんだと保志は、声を上げようとするのだが・・・

 

「その通りだぜ、保志ぃ。頭に血が上った時はこれでも食って落ち着いとけよ」

 

気が付くと見知ったクラスメイト佐倉杏子が隣りに立っていたのだった・・・

 

「こういう状況は、誰だって錯乱するものだが、やはりヒーローは違いますね」

 

黒いコートを靡かせた男が三人を庇うように立った。男ことバドは、笑みを浮かべていた。

 

取り乱しても仕方がない状況であるのに冷静に振舞、誰かを気遣っているヒーロー衣装を着た

 

「あ、あなたは・・・待ってください。アレは、普通じゃない悍ましい何かです!!」

 

撮影用の小道具ではない二振りの剣を持っていることを察するにあのおぞましい怪物と戦うつもりのようだった。故に止めなければと声を上げる。

 

「心配ご無用ですよ。仮面騎士 ゼロナイン、アレは俺達の狩るべき存在です。ですから、専門家にここは任せてください」

 

「そういうこったよ、兄ちゃん。伯父さんがあんな不味そうな蟹モドキに負ける事なんざあり得ねえよ」

 

杏子の視線の先には、鋼殻装甲に向かって駆け出していく風雲騎士の姿があった・・・

 

 

 

 

 

 

 

吼える鋼殻装甲に対して、バドは二振りの風雲剣で斬りかかる。

 

巨大な体躯を持ったホラー相手に対して、まず最初に攻撃すべき個所はその体躯を支える脚である。

 

10メートルの体躯から繰り出される攻撃は脅威ではあるが、二振りの剣と術による手数による攻撃と身軽さでそれぞれの脚を傷つける度にホラーを思わせる黒い血を吹き出す。

 

口より強烈な酸を吐き出すが、それは術により発生した風により弾かれてしまった。

 

巨体を生かした攻撃も圧倒的な速さを持って制するバドとは相性があまりにも悪い。

 

一般の魔戒騎士ならば、それなりに苦戦する鋼殻装甲であったが、風雲騎士バドの相手としては不足であり鎧を召喚するまでもなく、二振りの風雲剣によりその身体は十字に両断されてしまうのだった・・・

 

 

 

 

 

「ほらな。いった通りだろ」

 

崩壊しホラーのように消滅していく鋼殻装甲と最期まで油断せずに佇む伯父の姿に杏子は笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・アイツとは分かり合う事なんてなかったけど。正義って多分、みんなが思っている以上に凄く個人的な欲求なんだろうな・・・」

 

「兄ちゃん、それって・・・・・・」

 

「リン、俺の単なる呟きだ。聞き流してくれていい・・・俺はミドリの夢を代わりに叶えたくてこの道に入った。それが俺がアイツにできる正義なんだと思う・・・」

 

勧善懲悪のヒーローを演じている者としては、あまりにも個人的な”正義”であるが、誰かの為に行動することこそが”正義”ではないだろうかと勝巳 ゲキは思う・・・

 

異形と化した彼もまた”正義の味方”を名乗っていたが、彼の”正義”は彼だけの欲求を満たすモノであった・・・

 

その為に平然と誰かを傷つける行いをすることに”正義”はない・・・

 

もしかしたら、自分も気づかないところで誰かを傷つけているかもしれない。

 

過去の自分のように・・・・・・

 

だが、夢を追えずに叶えられなかった幼馴染の望みを実現するためには、立ち止まってはならないのだ。

 

自身が完全無欠の正義など名乗るつもりはないが、時がたてば後の誰かが判断をしてくれればそれで構わない。

 

その評価を自分は、ありのままに受け入れよう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の何処かで・・・

 

「・・・・・・意外と役に立たなかったですわ。もっと面白いモノを見せてくれると思ったのですが」

 

内心、何処かでイラつかせてくれたクラスメイトが健在であった事に志筑仁美は不満そうにつぶやいた。

 

鋼殻装甲を操作する蠍の腕輪に変化が起こった。

 

「こういうものは、操作するモノが壊れると一緒に壊れるものかと思いましたが、そうでもないんですね」

 

皹が割れるどころか、鋼殻装甲の髑髏を思わせる口より小さな”幼虫”が一匹吐き出された・・・

 

それは、映像を早送りするかのように成長していき、一人の”少年”の姿へと変わった・・・・・・

 

顔立ちこそは幼いが”彼”によく似ていた・・・・・・

 

「これは・・・中々愉快なモノですわね」

 

目を開けた少年は、目の前で笑う志筑仁美に対し、怯えを含んだ視線を向けていた・・・

 

 

 

 

 

 

「なんで・・・俺・・・死んだんじゃなかったの?あぁ・・・・・・」

 

 

志筑仁美は蠍の腕輪を少年に翳す・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

”彼”の”嘆き”は続いていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

魔導具 鋼殻装甲

 

操作する腕輪が”核”であり、寄生した宿主の魂を取り込む。

 

”核”が破壊されない限り宿主の魂は、永遠に魔導具 鋼殻装甲に囚われ続ける・・・

 

宿主が肉体を失ってもまた、新たに”陰我”と共に囚われた魂を削り取りながら再生する・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

なんというか、正義の味方さんは魔法少女相手ならそこそこ善戦できたきた思いますが、バド伯父さんが相手だとこうなってしまいました(汗)

上条君のホラー化も書いていて、苦戦せずに勝ってしまい、第三者の横やりを入れないと生存できませんでした・・・

やっぱり、見滝原の魔戒騎士は強すぎます。公式最強の暗黒騎士は言うまでもなく

苦戦させそうなのは”使徒ホラー”クラスのホラーか、かなり狡猾な手段を取る人間ぐらいでしょうね。

魔戒法師 香蘭は、明良 二樹のグループにおける”マッドサイエンティスト”の役割を担っています。

魔号機人らの整備や改修、さらには自身の魔導具製作などによる戦力の増強をしています。

追われた理由は、かの閃光騎士の家系の兄弟に比類する天才でありながら、あまりにも自分の欲求に正直であったことと自分以外の人間は実験動物としか見ていない”外道”だったため・・・

明良 二樹には友好的に接しているように見えて、単に彼と一緒に居る方が面白そうだからと身を隠すにはちょうど良いという理由で居るので何時、裏切るか分かりません。

ちなみに明良 二樹は、裏切りは誰にでもあるから気にするだけ無駄といって、自然体で接しています。

今は亡き 魔法少女喰い 真須美 巴とも友人だったこともあり、こういう癖の強い”悪女”らとは、上手い事付き合えるのでコミュ力はかなり高いです。

鋼牙らの時代には、白海法師、絶心法師のような存在も居たので、兄のシグマ以外にレオと対になるような存在がもしかしたらいたんじゃないかと思い香蘭はこのような設定になりました。

実際レオの対となるのは、兄のシグマだと思いますが、シグマの存在は元老院や番犬所では話題になっていなかったので、レオと違い認知されていなかったかもしれません。

元老院や番犬所に認知され、レオと肩を並べられながら、守りし者としての心を持たなかった外道 魔戒法師が香蘭です。

シグマはシグマで守りし者としての在り方を間違えてしまった事とMAKAISENKIは、第一期と違い魔戒騎士と法師の内輪揉めだったので、世間一般には、そこまで実害はなかったと思います。

GAROシリーズで世間一般に実害が大きかったのは”闇を照らす者””炎の刻印”辺りではと思います。前者は都市全体、後者は国が壊滅寸前という事態に陥っていますし・・・

メンドーサは、守るべき人々の身勝手さに嫌気がさしたことと自身の優れた才能に自惚れていた感もあり、こちらもこちらでまだ理解はできます。

香蘭は、最初からそう言った心を持たない一種の”サイコパス”なので、シグマやメンドーサとは違う感じにしたいと思います。

VERSUS ROADも様々な人達を巻き込んだところを考えるとこっちもこっちで一般社会に大きな傷を残していますね・・・

最後ですが、正義の味方さんの悪夢はまだ続きます・・・





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番外編「明良 二樹と言う男」(前編)


八月には番外編として”明良 二樹”を中心とした話を書こうと言っておきながら、一か月程遅れてしまいました。



アスナロ市の繁華街に存在するとあるBARにて・・・

 

奥のステージでは今夜の”JAZZ LIVE”が行われており、

 

落ち着いた曲調に耳を傾けながら思い思いにそれぞれが過ごしていた・・・・・・

 

「ねぇ、おにいさぁん。こんな噂、知ってる?」

 

カウンター席で一人の女性がバーテンダーである男性に話しかける。

 

気分が良いのか口調も明るかった。

 

「なにかしらの怖い話かな?僕も結構知っているつもりなんだけど・・・聞いても良いかな?」

 

バーテンダーの男性・・・明良 二樹は人の好さそうな笑みを浮かべる。

 

彼自身の容姿は一言でいうのならば、ハンサムでありバーテンダーファッションも様になっている。

 

ファッション雑誌の読者モデルと名乗っても納得である。

 

「うん・・・アスナロ市にねぇ、不思議なBARがあるって噂」

 

「へぇ~~、それは流行りなのかい?」

 

女性の話に明良 二樹は内心、彼女の言う”噂のBAR”を察するが・・・

 

「なんでも、怪物になった人達を破滅させる人を紹介してくれるって噂なんだ」

 

カウンターテーブルに置かれたアロマキャンドルの火が僅かに揺らめいた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある場所に行くとこう尋ねられる・・・

 

 

 

”♡貴方の陰我を発散させます♡”

 

 

 

それは繁華街にあるとある”bar”にいる年若い店主が”陰我”を晴らしてくれるという・・・

 

 

 

”陰我は人の邪心。それを抱え込んだら、身体に悪いし、今後の人生にも悪影響を及ぼすんだよ”

 

 

 

”だから、望みを言ってごらん。君の抱えている陰我を・・・”

 

 

 

”誰を・・・堕としたいのか教えてほしいな”

 

 

 

”ぶっちゃけなよ。誰が憎いんだい?誰の死を望んでいるんだい?”

 

 

 

彼は魔戒の力を利用し闇社会で暗躍する”一団”の長である・・・・・・

 

 

 

アスナロ市にあるbar ”Heart-to- Heart ”

 

 

 

今宵も”陰我”を抱えたお客様をお待ちしております♡

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!!?!なんで、あんなことになったんだ!!!!」

 

アスナロ市の人混みを外れて、その青年は先ほどまであった出来事を振り返っていた。

 

彼はアスナロ市の企業に勤める会社員であったが、ここ最近は会社の不正を告発する活動を行っていた。

 

彼が務める企業は”アスナロ市”の中でもトップ企業に名を連ねる大企業ではあるが、ここ最近の会社の方針は、大きく変わってきていた。

 

ここ最近、ある会社役員の”不正”が陰で横行しており、本来ならば罰せなければならない立場にある”懲罰委員会”もまたそれを見て見ぬふりをしていたのだから・・・・・・

 

会社の不正を告発することは、確かに企業の浄化するうえで重要な事ではあるが・・・

 

”告発”を行ったとしてもそれをしっかりと聞いてくれる組織なり、人達が居なければならない。

 

だが、この国の人間の悪い性癖でもある”厄介ごと”には関わらない。

 

もしくは”得になることはしない”ということで”告発”の在り方が成り立っていないこともある。

 

例え不正が行われていても、自身が危機に陥らなければ動くこともない。

 

幸いにも社内の志を同じくする”同僚”達と協力し、不正の真実を暴いた。

 

企業の資金の一部が不正に使われていたのだ。

 

それを証明する”記録”は改竄されていたが、一部のログは残っており糾弾するには十分だった。

 

不正を行っていた役員を糾弾し、不穏分子を放逐し、企業は浄化されるはずだったのだが・・・・・・

 

だが・・・追い詰められた役員に信じられない事が起こったのだ。

 

前日までは、不正を糾弾され青ざめていたのだが・・・

 

当日になっていきなり強気になり・・・・・・

 

”常務!!!今回の件は、然るべきところに提出させていただきます!!!”

 

”・・・・・・やれるのかね?君なんかが強気になったところで・・・”

 

放心した様子から、自棄になったのか分からないが、落ち着いていた・・・

 

”今日であなたは、終わりです!!!あなたのしてきたことを全て!!!!”

 

”終わりだって?いや、終わるのは君たちの方だよ・・・この人間がっ・・・・・・”

 

常務の表情が人ではなく、何か獣を思わせる何かに変化していく・・・・・・

 

それは身体を突き破ると同時に巨大な肉塊を思わせる”両生類”にも似た奇怪な”怪物”であった。

 

”う、うわああああっ!!!!”

 

”あはははは!!!!私は、人間を超えたのだ!!!!こんなところで終わる私じゃないんだ!!!”

 

巨大な口を開けると同時に告発に協力してくれた”同僚”が舌によって捕らえられ、そのまま食われてしまった・・・・・・

 

あまりの光景に呆然としていたが、すぐに他の同僚たちと逃げ出すものの怪物と化した常務によってほとんどの社員が・・・他の役員も喰われてしまった・・・・・・

 

唯一、生き残れたのが自分であった・・・

 

あまりの事に暫く自宅マンションに引きこもってしまったが、それを咎める連絡はなくあろうことか常務が社長に就任したという知らせを聞いた時、彼の中に怒りとも虚しさとも言えない感情が渦巻いた。

 

その時、社内の女性社員が話していた奇妙な噂話を思い出した。

 

今の今まで気にも留めなかった単なる”噂話”の内容が何故か鮮明に脳裏に響いた。

 

”知ってる人間の邪な感情に憑依する化け物の話?”

 

”なにそれ?私の姪も奇妙な化け物が時々出るって噂してたけど・・・同じ話?”

 

”そっちじゃなくて、こっちは何でも悪魔みたいな黒い怪物が行き過ぎた欲に惹かれてやってきて、その人を魂ごと食べちゃって、そのままなり変わってしまうのよ”

 

”うわぁ、なにそれ?それって、取り憑かれるよりもヤバいじゃん。うちの常務とかその内・・・というか既になっちゃってたりして”

 

”化け物の嫌な所は、その人になり変わったまま人を食べること。だけど、そんな化け物に怨みを持つ人の望みを叶えてくれる場所があるんだって"

 

この”無念”を晴らすためにある噂のBARに向かうのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日間、噂のBARを求めてアスナロ市中を訪ねたが、それらしいBARは何処にも存在しなかった・・・

 

噂は噂でしかないというのだろうか・・・

 

彼は、数日前の”怪異”を思い出しつつも何もできないでいる自分自身に怒りすら抱いていた・・・

 

昨日まで普通の人間だった人物が怪物に変化するという、”フィクション”も目にすることがほとんどなくなっているモノを現実に目の当たりにしたことに”彼”は自身の常識が崩壊する様と誰にも”真実”を知らせる事もできない事に強い孤独感を感じていた。

 

自分が居なくなったことについて”連絡”が来ることはなく、何をしても無駄であると言わんとしているようにも見えた・・・

 

あまりにも悔しかった・・・

 

怪物に身を堕とし、今も人を喰らいながら、自身の欲望を叶えている存在をどうすることもできない自分が・・・

 

噂のBARを求める過程で様々な怪異に関する噂話を耳にした・・・

 

人の邪心・・・”陰我”に憑依する怪物が居り、それを討伐する”鎧を纏った騎士”が居ると・・・

 

常務の身に起こったあれは間違いなく”陰我”のそれであり、それを狩る”騎士”というのは、もしかしたら自分のように理不尽な出来事に何もできない自身への怒りとあり得ない”希望”の産物なのかもしれない

 

現実に怪物を見ても誰も信じてくれないし、現実の怪物は人の皮を被って大手を振って人前に出ている。

 

何もできない自身の無念を力強い騎士に投影し、それが滅ぼされることを夢想することしかできないことに悔しさだけが募っていく。

 

「・・・・・・どうしたの?何か怖いものでも見たの?」

 

顔を上げると目の前に少女が立っていた。

 

「その怖いものを何とかしたいのなら、私から紹介するよ」

 

”Heart-to- Heart ”へ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのBARは繁華街の奥まった場所に存在しており、少女 聖 カンナに導かれてBARの年若い店主明良 二樹に出会うことになる。

 

BARの奥の席は、異質な空間でありJAZZの演奏が行われているがそれすらも聞こえてこない。

 

まるでその場所だけが切り取られているかのように・・・・・・

 

僅かに聞こえてくるのは壁際に配置されたアクアリウムの水槽に浮き上がるエアポンプとエアーストーンによるエアースレーション・・・所謂ブクブクの音が微かに聞こえてくるだけだった。

 

「やあやあ、お疲れ様、カンナちゃん。下がっていいよ」

 

人の好さそうな笑みを浮かべるバーテンダー風の青年 明良 二樹は少女 聖カンナを下がらせる。

 

「ここから先は大人の話になるからね。通常業務に戻ってかまわないよ」

 

男は、一瞬未成年の少女をこのような店で働かせていることに疑問符を浮かべるが、あの少女のことよりもここが噂のBARであることを確かめることが重要であった。

 

「カンナちゃんは訳ありでね。魔法少女はこういうところに来ることはないから、身を隠すにはちょうど良いんだよ」

 

「魔法少女?」

 

男は、そんなファンシーなモノが存在するのだろうかと疑問に思うのだが、あの常務が変化した怪物の事を考えると存在するのではと不思議と納得してしまった・・・・・・

 

魔法少女が他の魔法少女から身を隠しているというのも気にはなるが、そこは今は気にするところではないだろう・・・・・・

 

「ここには色んな人間が集まって来るんだよ、お客さん・・・」

 

笑いながら明良 二樹は男に問いかける・・・・・・

 

「お客さんもそうじゃないのかい?」

 

「えっと・・・それは・・・・・・」

 

気さくに話しかけてくる若い店主に戸惑うが、彼の事情に構う素振りはなかった。

 

「あははははは。良いんだよ・・・遠慮しなくて、ここは敢えてこう言うよ・・・」

 

明良 二樹は人の好さそうな笑みを”悪意”を前面に押し出したそれに変える。

 

「本音を話そう・・・お客さんの望みを言いなよ」

 

それは、”依頼”というよりも何かを代償にして”望み”を叶える”悪魔”との契約ともとれる問いかけだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の席を少し離れたところから聖カンナは様子を伺っている。

 

業務に戻るように言われたのだが、あの男が明良 二樹とどうのような話をするのか純粋に興味があったからだった。

 

「何をしている?好奇心旺盛なのは結構だが過ぎると碌でもない目に遭うぞ」

 

「紅蜥蜴さん。二樹に街で見かけたら声を掛けろって頼まれたから・・・」

 

聖カンナは、何故、明良 二樹があの男を此処に連れてくるように頼まれた理由を把握しかねていた。

 

ドレッドヘアーの男 紅蜥蜴は明良 二樹がまた何かしらの・・・彼の言葉にするのならば”面白い”事を嗅ぎつけたのだろうと察した。

 

「ここ数日前にホラーが出たそうだ。しかもまだ討伐されていないときた・・・」

 

紅蜥蜴は、聖カンナにここ数日の間に現れたホラーについて語る。

 

「現れたホラーは、ガマール。カエルに似たホラーでな・・・人を丸のみにして喰うのもそうだが、人を自身の身体に取り込みそのまま魂を抜き出してしまう存在だ」

 

「人を身体に取り込む?」

 

「言い方が少し違ったな・・・カエルの卵はチュウーブに似た膜に覆われているだろうアレに似たモノを持っている。そこに人間を押し込み、好きな時に喰らう」

 

カンナは改めてだが、実物を見ないうちに今回の件には関わらないようにしようと考えた。理由は言うまでもなく、女子として”カエル”に似たホラーと関わりたくなかったからだった・・・

 

「少し悪趣味な話になったな。すまない・・・」

 

紅蜥蜴は、女の子の苦手なモノのトップに入る嫌いな生き物に”カエル”であったことを思い出し、そんな話をしてしまった事を素直に詫びるのだった・・・

 

「・・・今回は関わらないから、別に気にしていないわ。だけど、この集まりっていつものことながら思うんだけど・・・こんなんで良いの?」

 

「そこは、うちはうち、よそはよそで良いだろう。役割が違うだけで、この団体には上下関係がなく、全員が平等だ。嫌なら断っても構わん。それがここでの唯一のルールだ」

 

紅蜥蜴は、ドレッドヘアーの強面の男ではあるが、この一団の中では聖カンナが知る限りでは、一番真面な存在である。

 

ある意味酷すぎる上に性質に悪い魔戒法師 香蘭の存在がさらに紅蜥蜴の真面さを際立たせる。

 

この一団は名前などなく、明良 二樹を中心に色々と訳ありな人間が集まっており、それぞれが自分達の思い思いに過ごしており、明良 二樹が何かしらの提案をすると集まってきて、やるかやらないかで”依頼”をこなすというものである。

 

組織としては、いい加減にも見えるが、やりたい奴はやっていいし、やりたくないのならやらなくていいという方針は、中心人物である明良 二樹の性格もあり、彼自身が誰かに干渉されたり、命令されるのを嫌っていることからきている。

 

”自分がされて嫌なことを人にするのはよくないよ”

 

と腑に落ちない事を言った時は、思わずお前が言うなと心の内で言ってしまった。

 

あの男 明良 二樹は人の好さそうな顔をしているが、本性は純粋なまでの悪であることは、彼を知る者達の共通の認識であった・・・

 

「前から聞きたかったんだけど、紅蜥蜴さんは、どうして二樹と一緒に居るの?」

 

魔戒騎士の逸れモノと聞いているが、彼女から見た紅蜥蜴は至極真っ当であり、どうしてこのような人物が明良 二樹と一緒に居るのか疑問が浮かぶのだ。

 

「そうだな・・・俺自身に魔戒騎士の誇り、守りし者の心があると言われれば、そんなものは、俺には荷が重すぎた。だから、相応の振舞をするのにアイツと一緒に行動する方が何かと都合がいいからと言っておこう、カンナ」

 

紅蜥蜴にどんな過去があったかは知らないが、彼自身は今の自分自身に満足しているし、個人的な理由で明良 二樹と一緒に居るであろうと彼女なりに察するのだった。

 

「あまり人の過去を詮索はしない事だ・・・カンナも知られたくないことの一つや二つはあるだろう」

 

「そうね・・・分かったわ。ここに集まるのは、物好きってことで納得しておくわ」

 

紅蜥蜴の横を過ぎ、カンナは普段の日課であるアクアリウムの魚たちに餌をやるべくスタッフルームへと向かうのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の席では、明良 二樹が男の体験した”怪異”を聞き、それをどうしたいのか、問いかけるのだった・・・

 

「・・・一度だけだよ。僕達が”依頼”を受けるのは・・・一度きりのチャンスをどうする?」

 

「お・・・俺は・・・・・・」

 

男の望みを聞き、明良 二樹は”ニンマリ”と笑う・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

明良 二樹を中心とした勢力をメインの話を上げました!!!

時期としては、”アスナロ市編”の手前ぐらいだったりします。

彼の勢力は、それぞれの役割が違うだけで、明確な上下関係は存在しません。

一種のサークル活動に近いです。

例外は彼自身が使う”魔号機人”達です(上下関が存在するとすれば)

彼が面白そうな事を提案し、それに参加するかしないかはそれぞれの自由であり、場合によっては、明良 二樹だけのケースも存在します(笑)

時期によっては、真須美 巴も居るので彼女が付き合ってくれます(笑)

前、中、後編で行うつもりです。

中編を投稿するタイミングで、キャラ募集を行う予定です。

後日、活動報告で募集する予定です。










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番外編「明良 二樹と言う男」(中編)

あれから色々あり、中編が遅くなってしまいました。




アスナロ市のとあるオフィスビルの最上階フロア全体に異様な光景が広がっていた。

 

かつては上層部のオフィスやプライベートルーム会議室があったのだが、下の階と違い昼間であるのに薄暗く、人の気配すら感じられなかった。

 

ホラー ガマールの巣があり、自身の同族が複数集まっている。

 

"陰我”のゲートから、まるで沼知から這い出るカエルのように次から次へと出現していく。

 

フロア全体に広がっているカエルの産卵場所のように広がるチューブ状の膜が広がっている。

 

ガマールの姿は擬人化したカエル・・・というよりも二足歩行のカエルであった。

 

”鳥獣戯画”に描かれるカエルを思わせるが、普通のカエルと違い、皮膚の至る所に吹き出物があり、目は大きく見開いており見ようによっては愛嬌のある面であるが、見る人によっては生理的嫌悪感を抱かせる姿をしている。

 

膨れあがった白い腹に奇妙なバランスで立っている姿は不気味以外の何物でもなかった・・・・・・

 

このビルの最上階の会長室では、ホラー ガマール達の長であるかつての常務が太陽の光を一身に浴び、日光浴を楽しんでいた。

 

ホラーの本領は夜であるが、人に憑依した為に”ホラー”としての能力こそは制限されていても、一般人のそれよりも強い力を振るうことが出来る上に”魔界”では、目に掛ることのない太陽の光を”ガマール2は楽しんでいた。

 

闇に潜むモノ、もしくは影の仕事に従事する者は明るい場所に姿を現すことを晒すことを嫌うのだが、ガマールにそれは当てはまらなかった・・・

 

ガマールは自分は”ホラー”として何一つ間違ったことをしていないのだと考えていたからだ。

 

何一つ間違ったことをしていないのに何故、光を恐れ、嫌わなければならないのだと逆に問いかけたいとさえ思っている。

 

今自身が憑依している”常務”もまた同じだった。

 

彼は自身の為に”様々な事”をしてきた。金を稼ぐため、より良い成績を上げる為、出世の為に・・・

 

多くの競争相手を蹴落としてこの地位にまで上り詰めることが出来た。

 

当然のことながら自身の手を汚してきた。故にそのことに対して弁明をする気もなかったのだが・・・

 

自身もそうだが、満たされると更に多くのモノを望むのが人間である。故に彼は、世間では”不正”とされることにさえ手を伸ばし、更なる”地位”を手に入れるに至った・・・

 

だが、それを”告発”という形で自身から”地位”を奪おうとする”存在”も現れた。

 

言い逃れのできない”証拠”を突き付けられたが、それもあの日自身が受け入れた”力”により解決した。

 

あの若造が何故、”内部告発”をしたかについては、”正義感”からとうものではないと今では理解している。

 

彼自身長年、様々な修羅場や経験を経ている為、対人関係でのその人のなりを察する”嗅覚”は非常に鋭かった。

 

告発者たちの目的は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAR ”Heart- to- Heart ”

 

「俺は・・・会社の不正を・・・然るべきところに・・・」

 

なにかを隠すように言葉を選ぶ彼に明良 二樹は頬を歪める。

 

普段の人の好い笑顔ではなく、悪意に満ちており、まるで”悪魔”のようであった。

 

「内部告発なんて、やる意味が分からないよ。誰も得なんてしないし、やっても損するだけだよ」

 

内部告発というものは、上手く立ち回らないと告発者が破滅することもある上に、海外ならともかくこの国の倫理観や風俗を考えるとやらないで居たほうが良いというのが、明良 二樹の考えであった。

 

むしろ告発者の会社の事を考えると確かに”不正”ではあるものの特に一般の人には”被害”や”迷惑”は掛かっておらず、むしろ、告発者の方が会社の在り方もそうだが、関係のない人に迷惑をかけているのではと思うところがあった・・・

 

「だからかな~~。僕は問いかけるよ・・・君にとって内部告発は単なる建前で本当の目的は別にあったんじゃないのかな?相手は、人間じゃなくなってるから遠慮はいらないよ」

 

明良 二樹は、告発者の内に抱く本当の目的を察していた。ここは”陰我”を晴らす者達が訪れる場所なのだから・・・

 

「・・・・・・そうさ。俺は出世したかったんだ。だけど、まともに働いても上は馴れ合いばかりで全く評価なんてしてくれなかった・・・だから、あの”不正”を見つけた時はチャンスだと思ったんだ」

 

告発者の本音は、長い事勤務しているたが、ここ最近の不景気もあり、解雇こそはされなかったものの必死に働いても、成果を上げてもそれを評価されることがなかった事に暗い感情を募らせていた。

 

いつしか”出世”して周りを見返してやると思い続けるようになっていた・・・

 

そして、その機会が巡ってきたことに彼はこの”機会”を最大限に利用することにしたのだった。

 

慎重に証拠を固めて、自身が不正を正す者として表舞台に上がり、そのまま誰もが認める地位に上り詰める為に・・・・・・

 

だが、それは一晩の内に砕かれてしまった。訳の分からない怪物と化した”常務”により、自身と同じく志を持つ者、または自身の目的の為に煽った者達を含めた全てを・・・覆されてしまった・・・

 

「ハハハハハ。良いよ、それでいいんだよ・・・ここでは、何も隠すことなんてないんだからね」

 

明良 二樹の肯定に告発者は、言われてみればここは真っ当な人間の来るところではないと今更ながら、思い当たるのだった。

 

今にして思えば、あの怪物に殺された仲間達の件も自身が出世した後の障害になることは間違いなかっただろう。

 

故に自身だけが生き残ったこの状況はある意味好都合とも言うべきだろう。

 

後はあの化け物と化した邪魔者の始末だけを行えれば、それで良いのだから・・・・・・

 

先ほどまでの真面目な好青年と言った告発者の表情は、どこか下卑たモノへと変化していた・・・

 

その表情を見て明良 二樹は改めて思うのだった。

 

(・・・・・・人間ってやっぱり嘘つきなんだよね・・・・・・)

 

こういう自分を真っ当な人間であると自身に嘘をついている人間の本性を暴くことに彼は、心地よさを感じていた・・・

 

そして、このような人間をどのように料理すべきかと思案するのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッフルームでは、聖 カンナはあの二人は何を話しているのだろうとアレコレ考えていた。

 

「カンナちゃん。あんまり此処に来る人の事を詮索しない方がいいっすよ。大抵、二樹さんに注目されるような人のほとんどがロクデナシしかいないんっすから」

 

気が付くとカンナの座る長机にジュースが置かれていた。ジュースを置いてくれたのは”半グレ”然とした青年であった。

 

名を”火車”と言うが、これは本名ではなく”偽名”であることをカンナは本人から聞いていた。

 

「火車もそう思うの?二樹って、悪人には違いないんだけど、分別はちゃんとしているのよね」

 

そうなのだ。明良 二樹は悪人であるが、手を出す人間を選別している。

 

それは・・・

 

「まぁ、世間のロクデナシの本性を暴いて、それでいて思いっきり玩具にするって奴っすよね。俺っちもそこそこロクデナシだから、いつかはそういう目に遭うかわからないっすしね」

 

火車は愉快そうに笑った。彼自身の出自は、彼から聞いた話によると・・・

 

とある地方に居たのだが、ある日、都会に出ていった先輩から”仕事”の話を持ち掛けられて、地元に居ても仕事も何もすることがなかったために、その話に乗ったことが”事の始まり”だったという・・・

 

その”仕事”というのは、世間を騒がしている”特殊詐欺”の類であり、火車は”受け子”をやらされていた。

 

一番リスクの高い仕事ではあったが、彼自身の持ち前のフットワークで何とか警察に捕まることはなかったが、ある日、先輩がヘマをやらかし、上納するはずだった”金”が上納できなくなり、火車を人身御供に差し出したのだった。

 

当然のことながら”火車”は、追われる身になり、とにかく逃げれるだけ逃げ出した。

 

「だからこそ、二樹さんに出会って・・・ここに居るわけっすよ」

 

愉快そうに笑う火車に、聖カンナはその人達を恨んでいないのかと言わんばかりに視線を向けるが・・・

 

「自分が何にも考えずに流された結果が今なんすよ。正直、あの時も自分の将来に希望もなければ、やりたいことも何もなかったしね・・・」

 

ハッキリ言えば、自分の身の丈など正直知れていて、誰かに認められたいとも何かを成し遂げたいとも考えたことなどなかった。

 

「だから・・・良い話に流されたんすよ。あの後、先輩は聞いた話だと、またヘマをやらかして、怖いお兄さん達を怒らせて、二度と人目に付かないようにされたって・・・」

 

半ば”ざまぁみろ”と思う自分は、ロクデナシであると火車は思うのだった・・・

 

「俺っちみたいなのは、人から後ろ指をさされて、悪く言われるんだろうけど、世の中はもっと酷くて表を真っ当な生き方をしている振りをするロクデナシが五万と居る訳っすよ」

 

あの告発者は、まさにロクデナシ以外の何物でもない。自分と同じなのだ・・・

 

故に明良 二樹は飽きることがないのだ・・・

 

玩具はそこら中にあるし、壊れたらまた何処からか調達すればよいだけなのだから・・・

 

「真っ当な人間ってのは、ちゃんとした家族が居て友達が居る奴の事だとおもっているんすよ。俺っちは」

 

「それだったら、火車も私からすれば、この一団の中では紅蜥蜴さんと同じように真面だと思うわ」

 

火車は、世間から見ればいわゆる犯罪者の類である。だが、そんな火車もこの”一団”の中では比較的真面に見える程、他のメンバーは我が強くそれでいて強烈であった・・・

 

「ここが運よく来れたというべきか、不幸かどうかは俺っちには何とも言えないっすよ」

 

自身が真っ当な人間であるとは思えない火車は、カンナに差し出したジュースに合うお菓子を棚から取り出すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

意気揚々とBARから出ていく”告発者”の背に呆れにも似た視線を向ける者が居た。

 

ドレッドヘアーが特徴的な筋骨隆々の逞しい男 紅蜥蜴だった。

 

「・・・・・・フン・・・あんな奴でもホラーから護らなければならないとは・・・”護りし者”の在り方等、考えても理解などできんし、したくもない」

 

紅蜥蜴は、自身もまたかつては”魔戒騎士”として生きようとしたが、世の中はホラーの陰我以上の薄汚れたモノばかりであり、護るに値しない存在だけが幅を利かせている有様だった。

 

ホラーが関わらない限り、陰我が現れ、犠牲が出てから初めて本腰を入れる魔戒騎士の在り方に疑問を抱いていた。

 

故にホラーの陰我が憑依される前の”人間”に手を掛けたことで番犬所に追われることになった。

 

自身の信じるやり方でホラーと対峙することを決めたのだった。

 

ホラーに憑依されそうな存在は、災いを振り向く前に斬ると・・・

 

その過程で明良 二樹と出会い、行動を共にするに至った・・・

 

彼こそ、陰我に憑依されるのではと考えたが、そのようなことはなく、むしろ陰我に屈することのない清々しいまでの”悪”の在り方に紅蜥蜴は、口にこそは出さないが、感嘆の念を抱いていた。

 

「悪を持って、何かをなせるのなら・・・それこそが俺の生き方なんだろうな・・・」

 

魔戒騎士もまたホラー狩りを生業とする”影の仕事人”であり、自分はその”影の仕事人”から落第した単なる”狂人”である。

 

悪を持って何かをなそうと考える・・・

 

”外道”極まりない香蘭の事をどうこう言える立場ではないと自嘲するのだった・・・

 

「紅蜥蜴、ホラーについて教えてもらえる?カンナちゃんに聞いたら嫌な顔されてさぁ~~」

 

明良 二樹が紅蜥蜴の背後より話かけた。

 

少し前にホラーの事を話していたことを察していたらしいが、聖カンナ自身が蛙を苦手としている為、進んで話をしたくないのだと察するのだった・・・

 

「・・・女の子の嫌いな生き物は、カエルと言うからな・・・」

 

彼女に嫌なことを言わせるわけにはいかないので、紅蜥蜴は明良 二樹にホラー ガマールについて話すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・なるほど・・・人手が居るね・・・・・・じゃあ、久々に皆を呼ぼうか♪」

 

 

 

 

 

 

 

明良 二樹は自身のスマートフォンに登録されたLINEのグループにコメントを投稿するのだった・・・

 

 

 

 

 

 

”カエルの姿をした害獣が大量に出たよ。人で求む”

 

 

 

 

 

 

既読が1、2とカウントされていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

明良 二樹の仲間である”紅蜥蜴”と”火車”についての軽い紹介になりました・・・

二人の軽い紹介になりましたが、本編で割と暗躍している香蘭については特に言うこともないので・・・

二人については割と事情持ちですが、自身の在り方については特に弁明するつもりも何もないのでどうこう言う気はないのです。

以前からやってみたかった、キャラ募集についてですが本格的にやりたいと思います。

詳細は活動報告にて・・・・・・


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幕間「キャラクター設定集(明良 二樹の一団)


簡単な三人の設定集を出してみました。

自身のキャラクター設定を纏めてみたかったというのもあります。

三人とは、香蘭、紅蜥蜴、火車の三人です。

明良 二樹と聖 カンナらは別の機会に思います。





 

 

魔戒法師 香蘭(こうらん)

 

 

性別 女性 

 

 

年齢(22歳)

 

 

経歴とその性格

 

魔戒法師としては、かの阿門法師に比類するほどの”天才的な頭脳”と”才覚”を元老院に見出され、若くして元老院付きに迎えられた。

 

しかしながら、彼女の思想は危険極まりなく、相手を殺す為なら如何なる手段をも取るというモノであり、また自分以外の人間を”実験動物”としか見ていないという性格破綻者であった。

 

魔戒騎士や法師の在り方については、元々理解しておらず、自身の好奇心の赴くままに魔導具を作成してきた。

 

号竜を開発した布道 レオとも顔を合わせており、レオ自身は彼女の才覚を評価し、守りし者の在り方について彼に説かれたが、そのことについて理解を示すどころか、魔戒騎士や法師について嫌悪感を抱くようになる。

 

布道 レオについては、良いとこのお坊ちゃんという印象を抱いており、これといって魅力を感じなかった

 

魔導具こそは、凄まじい威力のあるモノを次から次へと生み出していったが、どれも殺傷能力があまりにも高すぎるということと人を道具とする性質の悪いモノが多い。

 

 

 

 

例 寄生型生体魔導具 鋼殻装甲

 

取り憑いた人間の肉体と魂を喰らい、ホラーと戦う為に宿主の身体を作り変える。

 

 

 

 

危険思想故に元老院より処罰が下され、彼女の制作した魔導具等の研究はすべて破棄され、彼女自身はその天才的な頭脳を有効活用するという目的で脳のみを取り出され、利用されるということになった。

 

寸前の所で脱走。明良 二樹と知り合った経緯は、”遊び友達”であった”真須美 巴”の紹介。

 

明良 二樹と真須美 巴と関わったのは、身を隠すのに都合がよいということと色々と利用ができると考えたからであり、都合が悪くなれば何時でも裏切る気でいる。

 

明良 二樹も、彼女がいつでも裏切る気で居るのは承知しており、香蘭とは良い人間関係を築くように日々の努力を心掛けているらしい(笑)

 

彼の号竜、魔号機人等の整備は彼女が行っている、号竜、魔号機人の出どころは、真須美 巴。

 

他のメンバーからは、危険人物扱いされており基本的に信用されておらず、油断がならないと警戒されている。実際に酷い目にあわされたモノも居る。

 

聖カンナからは、限りなく怖い人物で何をやらかすか分からないとのこと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

魔戒騎士 紅蜥蜴 (べにとかげ)

 

性別 男性 

 

年齢 (25歳)

 

使用武器 二振りの斧

 

経歴とその性格

 

容姿はドレッドヘアーの筋骨隆々の大男である。身長は195㎝ほど・・・

 

魔戒騎士ではあるが、番犬所から逃亡した逸れモノである。

 

元々魔戒騎士を祖に持つ普通の家庭で育っていたが、両親が事故で他界した後に魔戒騎士の親戚筋に引き取られ、そこで魔戒騎士としての修行を積む。

 

”紅蜥蜴”の名は、引き取られた時に改名した、

 

魔戒騎士としての心構え、”守りし者”についても教わるが、少年期を”現代社会”で過ごしてきた為、その在り方に疑問を抱く。

 

両親は慈善家であったが、周りには碌な人間しかおらず、両親も慈善事業を行ているが、これが正しい事なのかと自問自答しているところを何度も見ていた為・・・

 

また、ホラーに憑依されたとはいえ、元が人間であった存在を討滅することにも・・・

 

ホラーに憑依されることは苦痛が伴う事は理解できるが、そもそもそのような存在を呼び込むような世界は自分が知らないだけであまりにも穢れていることを改めて知った。

 

またホラーが憑依した後で”討滅する”やり方にも疑問を感じ、ホラーに憑依される”陰我”を持つ存在は最初から人々に害を齎す存在ならば、悲劇が起こる前にそれを防がなければならないと考え、ホラーに憑依される前の人間を斬った。

 

この行いは掟に反したが、紅蜥蜴は魔戒騎士自身もホラーに憑依されたとはいえ人を殺める行いを生業としていることから、結果として、人を殺すことに変わりないと自身の考えを変えることなく、そのまま番犬所から逃亡する。追手の魔戒騎士も当然のことながら斬った。

 

人を殺めてしまった時点でもう自分は、真面な生き方をすることはできないと考え、そのまま逸れ魔戒騎士として自身の”思想”に従ってホラーとそれに関わる人間を斬り続けるようになった。

 

彼自身は、暗黒騎士や闇に堕ちた法師らと違い、自身の都合で殺めてしまった人達とその罪と向き合う為にホラーやそれに関わる”陰我”を斬り続けることを誓っている。

 

魔戒騎士からも一般人からも”悪”とみなされるのならば、それを持って”陰我”を斬ると・・・

 

明良 二樹との出会いは、ホラーと遭遇した彼を助けたことがきっかけであった。

 

明良 二樹が”悪”であることは出会った当初より分かっていたが、彼が”玩具”にしていたのは、善人の振りをする”ロクデナシ”であり、また真っ当な人には手を出さない事に奇妙な親近感を覚え、行動を共にするようになった。

 

フタツキからみた紅蜥蜴は、魔戒騎士にならなければ真っ当な一般人として平凡に過ごせたと見ている。

 

色々と損な生き方をしていると・・・

 

性格は、一団の中ではかなり真面であり、色々と気遣いもできるので、他のメンバーからは割と信頼されている。

 

危険が迫れば率先して、非力な聖カンナや火車などのメンバーを護る。

 

一部、関わり合いたくないメンバーも居る。破滅主義な者や香蘭等・・・

 

強さも一団の中では、最高戦力に数えられている。

 

聖カンナからは、この一団では最も頼りになり、見た目は怖いが一番真面な存在として見られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火車 (かしゃ)

 

性別 男性 

 

年齢 (19歳)

 

経歴とその性格

 

その容姿は、半グレ然とした青年である。

 

火車と言う名前は”偽名”であり、本名は意味のないモノだから、名乗る必要がないとのこと・・・

 

とある地方の出で、上京した地元の先輩より”仕事”の話を持ち掛けられ、地元を飛び出す。

 

その”仕事”は、使い捨ての”犯罪の人手”であった。所謂”特殊詐欺”の類。

 

受け子であり最もリスクの高い役割に回されたが、彼自身のフットワークの軽さで警察などに捕まることはなかった。だが、ある時、グループのリーダーである”先輩”が上納する金が用意できなくなり、人身御供として差し出され、そのまま逃げだす。

 

身内に裏切られ、とにかく逃げれるだけ逃げて、勢い余ってそのまま海外のボランティア活動をする団体に紛れ込むことで国外逃亡を果たした。

 

ボランティア団体で出会った”ある人物”と仲良くなる、途中で別の地域に移動することで別れ、日本へと引き返す。

 

日本へ帰ってみれば、グループリーダーである”先輩”はまたもやヘマをやらかし、怖いお兄さん達に二度と人目に触れられない目に遭わされたと知る。

 

元々、自身の将来にも何も希望を抱くことがなく、犯罪に対して罪の意識を感じることもなかった為、その後も様々な犯罪組織やグループを歩き、裏切りに遭いながらも逃げ続けていた時に偶々BARのスタッフを募集していた明良 二樹と出会い、そのまま彼の仲間となる。

 

一般人で一団に所属するメンバーの中では最も非力であるが、全体の連絡係や様々な情報を仕入れるなどバックでのサポートに徹している。

 

BARの管理や運営は彼が行っている。オーナーは”明良 二樹”である。

 

メンバーの中に海外で仲良くなった人物と再会したときは互いに驚いていた。

 

両親は健在であり、特に犯罪を犯していたリはしていない。だが、あの先輩の裏切りにより色々と迷惑を掛けたため、今では疎遠となっている・・・

 

妹が居るらしいが、せめて自分みたいに何も希望を抱くことのない人生だけは歩んでほしくないと考えている・・・

 

カンナとはよく絡むし世話も焼きます。彼自身、カンナの事情も知っており、会うことのない妹の事を重ねているかもしれない。

 

明良 二樹曰く。普通の人よりも断然優秀である。

 

聖カンナからは、色々と話しやすい事と、何となくではあるが”兄”と言うモノが居たらこんな感じではと考えています。

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

活動報告にもありますが、明良 二樹の仲間である三人の設定集を載せてみました。

三人のキャラクターなどを固めていきたいと思いましたので・・・

一番の”邪悪”は”香蘭”だと改めて思いました(笑)





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第弐拾捌話「 転 廻 (参)」

11月に上げたかったのですが、色々あり12月になってしまいました。

次回より、募集したキャラを出す予定です。

この場をお借りしまして、唐揚ちきんさん、ありがとうございます!!!





「ほんとうに・・・アタシって馬鹿だな・・・こんな誰も望まない事になるなんてを考えもしなかったんだから・・・」

 

さやかの話にほむらは、言いようのない”哀しみ”を感じていた。

 

上条恭介の為に奇跡を願い、それを第三者に・・・魔女でもないただの人間に踏みにじられ、魔法少女にあるまじき行為に及んだこと・・・

 

自身の暗い怒りの感情の赴くままに”奇跡”を台無しにしてくれた”青年”を手に掛けたこと・・・

 

そして、自身の願った奇跡は上条恭介に絶望を齎し、彼に”甘美”な奇跡の味の虜にしてしまったことにより、魔獣 ホラーに憑依されてしまった・・・

 

思えば、自分の彼の為にと願った”奇跡”は本当に上条恭介の為になったのだろうか?

 

いや、上条恭介の不幸は世の中で一番の不幸ではなかった。

 

誰にでも起こりうるものであり、彼自身がそのような目に遭ったのは特別な事ではなかった・・・

 

それをさやかは・・・日常を平凡に生きていた彼女は上条恭介を悲劇の物語の登場人物としてみていた・・・

 

悲劇を何とかする為に”魔法”という後戻りできない”禁断の手段”に手を伸ばしてしまった・・・

 

上条恭介は、魔法で何とかしてあげなければならないほど駄目な少年だったのだろうか?

 

彼を甘やかし、取り返しのつかない結末に導いてしまったのは、美樹さやかの無知と傲慢な・・・身勝手な彼への想いだった・・・

 

上条恭介を”陰我”に堕としてしまった自分は、これ以上彼を不幸にさせない為に、ホラーとして”討滅”を友人の伯父である魔戒騎士に願わなければならないほど不甲斐なかった・・・

 

それなりに折り合いこそ付けられたが、彼女の行為を”断罪”するかのように”志筑仁美”が”陰我”の道を歩み始めたのだった・・・

 

誰にでも優しく、いつも隣で笑い合っていた彼女が、実の親ですら手に掛け、さらには幼い子供の命をも手に掛けようとするほど残忍な姿に変わってしまった・・・

 

心に再び暗い影が差す。ソラは、そんなさやかに言葉を掛けようとするが・・・

 

「美樹さん・・・私は正直言って自分を立派とは言えない人間だけど、これだけは言えるわ」

 

気が付くとほむらがさやかに目線を合わすように目の前で屈んでいた。

 

「取り返しのつかない事をしてしまったからと言って必要以上に自分を責めては駄目よ。結果は望むものではなかったけど、貴方が上条恭介を救いたいと願った事に間違いはなかったわ。ただ、あまりにも間が悪かったのよ」

 

話を聞けば、柾尾優太という青年が土足で踏み込んでこなければ、このような事にはならなかったとほむらは思っていた。

 

奇跡を受け取った”上条恭介”には思うところはあるが、ここで言う必要もないだろう。

 

ましてや居なくなった人間に厳しい言葉を掛けても意味などないのだから・・・

 

「でもさ・・・ほむら。仁美とアタシがこんな風になっちゃったのは、アタシが安易に奇跡を願ったから」

 

「志筑さんの件は、美樹さんに責任はないわ。魔法少女の素質がないにも関わらず、奇跡を強く望んだ彼女が自分自身で決めたことのよ。忠告をしてくれた人の話も聞かずに・・・」

 

上条恭介の件については、様々な不幸が重なり合っただけだが、志筑仁美の場合は、彼女自身が望んで行っているのだ。

 

彼女自身が選んだのだから、美樹さやかがそれに対して責任を感じる必要はないとほむらは応える。

 

「美樹さんは、上条くんの最期をしっかりと見届けたわ。貴女は、自分自身の過ちに向き合い、精一杯の貴女自身の誠意をもってケジメを付けたわ」

 

「ほ、ほむら・・・」

 

「さやか、以前にも話しましたが、彼を救いたいと願ったあなたの気持ちに間違いなんてありません。私達の望む結果ではありませんでしたが、上条恭介にこれ以上の苦しみを・・・罪を犯させないためにあの夜、私達は、彼を”もう一人の貴女”と一緒に行かせたのでしょう・・・」

 

「二人とも・・・・・・」

 

ほむらとさやかは、責めるわけでもなく励ましているわけでもないが、さやか自身の在り方を肯定していた。

 

「美樹さん・・・貴女がもしも上条恭介のことを今も想うのなら、彼の事をずっと忘れずに居てあげることは貴方にしかできない事だと思うわ」

 

「そうです。ですから気持ちをもっと強く持たなければなりませんね。あの時付け損ねたこれを・・・」

 

ソラは、さやかの髪にフォルテッシモ ffの髪飾りを付ける。

 

その意味は極めて強く。

 

譜面における音の強弱記号であり、劇的な場面において強く奏でよという意味である。

 

「そうだね・・・ここで暗くなっちゃいけないね。仁美を探して、馬鹿な事を辞めさせるまで、止まるわけにはいかないんだから」

 

自身を鼓舞するさやかの様子にほむらは、彼女は根本的に自分等よりもずっと”まっすぐで強い人”であると改めて思うのだった。

 

子供だった頃の自分は、そんな彼女の真っ直ぐな所を素直に認められなかったが、今はそんな感情はなく、純粋に今は、美樹さやかの手助けがしたかった・・・

 

「志筑さんの件もそうだけど、今、見滝原に大きな”陰我”が現れている事をこの場で伝えておくわ。それに志筑さんも深くかかわっていることも・・・」

 

ほむらは、志筑仁美の件と見滝原に現れた”使徒ホラー 二ドル”が深くかかわっている事を告げるのだった。

 

今夜、佐倉杏子とその伯父である風雲騎士と見滝原の魔法少女である 巴マミと合流する為、ほむらは自身の使い魔である”蝶”を見滝原の空に舞わせるのだった・・・

 

「大きな”陰我”って・・・ホラーよりも?」

 

志筑仁美の邸宅で見た奇妙な針で操られた人達に関わりのあるものではないかとさやかは考えるが、ほむらの言葉に事態が自身の想像以上に恐ろしいことになっていることを知るのだった・・・

 

「ただのホラーじゃないわ、最凶と名高い使徒ホラーの一体よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、自身の拠点である船の一室より水平線の奥に見える見滝原を眺めていた。

 

左目は眼帯をしており、彼女の手元には僅かな”因果”に満たされた空の”ソウルジェム”があった。

 

自身の願いを完全な形で叶える為に必要な”計画”は実行するのみまで来ていた・・・

 

”邪魔者”を早急に排除こそはできなかったが、排除するための”刺客”は既に配置させてある。

 

「ここまで来たのですから、後には引きませんわ。素質があるからこそ夢見た貴女達とは違い、わたくしは現実を・・・辛酸を舐め、這いつくばりながらここまで来ました」

 

不幸により悲劇的な最期を遂げた”彼”に人生をもう一度与えるという”奇跡”を起こす為に彼女は明日、それを決行するつもりで居た・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽が沈んだ閑静な住宅街の屋根を飛び越えてほむらは、さやかとソラの二人をある屋敷へと案内していた。

 

それは今や無人となった美国織莉子の住居跡だった・・・

 

現在は無人の為、荒れているかと思いきや、意外と外見や庭には手入れが行き届いていた。

 

この住居を含む土地を管理しているほむらの父 暁美 シンジによるものであることを彼女は知らない。

 

かつて父と美国織莉子の父が旧知の間柄であった”時間軸”も存在していたが、今回も同じなのであろう。

 

「ほむら・・・ここは・・・」

 

無人となった屋敷の庭に入ることに戸惑いながら、ここがどういう場所なのかさやかは尋ねた。

 

「少し前に見送った人が住んでいたところよ。ここなら志筑さんも考えつかないでしょう・・・」

 

”見送った”という言葉にさやかは、かつてここに居た人物は、既に亡くなっており、その最後を看取ったのがほむらであることを察するのだった。

 

ソラは、この邸宅に覚えがあった。

 

自身の情報として記憶されている蓬莱暁美の協力者であった”美国光一”の自宅であることを・・・

 

生み出された時には、健在であったが、”過去”に色々とやらかしてくれた魔法少女と彼女を唆したとある少年によって、”汚職議員”に貶められ、そのまま謎の自殺を遂げたとのこと・・・

 

その謎の自殺については、”怪異”が関わっているのだが、ここで語るようなものではない。

 

ほむらがさやからをこの場所に案内したのは、この邸宅にはまだエルダに師事し、習いたてではあったが”陰我”のゲートとなるオブジェを徹底的に封印したこともあり、ホラーや魔女のような怪異が現れることがないからだ・・・

 

ここで眠っているであろう”彼女”達には、断りを入れておかなければならない。

 

「織莉子・・・今晩少しだけこの場を貸してほしい。突然、押しかけて来たのは悪いと思っているわ」

 

途中で購入したケーキとさらにはCDを庭のガーデンテーブルに供える。

 

「意外だよね。ほむらがそういうのを聞くなんて・・・」

 

さやかは、途中で立ち寄ったレコード店でほむらが真っ先に向かったコーナーが”ロック”であったことを素直に驚いていた。

 

レコード店に入る際に”上条恭介”の事を思い出したが、いつまでも引きずるわけにはいかないと思い切って足を踏み入れた。

 

クラシック、姉の影響でJAZZ等、それなりに聞いているさやかだったが、ロックに関しては未知の世界だった。

 

ほむらが手に取ったのは、7人の青年達によるグループ”ワイルド セブン”のニューシングルだった。

 

「私は、KAWADAが押しなんだけど、織莉子はシュウヤさん押しなのよね」

 

ほむらが推すドラム担当のKAWADAは、レスラーのような体系の髪を短く切り込んだ厳つい男であった。

 

織莉子押しのシュウヤは、アイドルと言っても良い程ルックスが整っており、心の底から”音楽”を楽しんでいる表情をしていた。まるでかつての”上条恭介”のように・・・

 

「アタシもさぁ~、KAWADAはないと思うよ。シュウヤくんも良いけど、アタシはこっちのヒロキかな」

 

渋みを感じさせる長身のベース担当のヒロキをさやかは押す。

 

「ヒロキね。彼って寡黙でシャイなんだけど、実は物凄く熱いハートを胸に秘めているわ」

 

「あれぇ?ほむら、この人達と会ったことあるの?知っているような口ぶりだけど・・・」

 

「えぇ、少し前に”ライブ”に連れて行ってもらったのよ。彼女は魔法少女になりそうだったんだけど、シュウヤさん達、”ワイルド セブン”の曲を偶然聞いて、思い止まったそうよ」

 

魔法少女の契約をまさか歌を聞いて辞めたという事実にさやかは、

 

「なにそれぇ?確かにワイルドセブンの曲って聞いてて、気分が良くなるのは分かるけど・・・」

 

実際にほむらに勧められて聞いてみると、激しいイメージの”ロック”のようでもあるが、何かこう真っ直ぐに生きようと訴えるものがあった。

 

さやかが聞いたのは大切な幼馴染を亡くしたものの、カッコいい幼馴染に恥じないように生きようと歌ったヒロキメインの曲だった。

 

とてもではないが、他人事とは思えない歌詞の内容とそれを必死でシュウヤと共に歌うヒロキに思わず胸を熱くした。CDこそは買わなかったが、スマホでダウンロードしたのは当然の事だった。

 

「シュウヤさんのお父さんなんだけど、汚職弁護士として世間では叩かれていて、それでも自分は自分であると歌って真っ直ぐに生きようとするエネルギーを感じたとか言ってたわね。彼は、そんな感じの人で裏表なんてまるでなかったわね」

 

かつて”予知の魔法”を武器とした彼女は、魔法ではなく”ギター”を手に取ったのだ・・・

 

”ほむらちゃん、私もシュウヤさんみたいに強く生きたい!!!”

 

偶然気まぐれに付けたラジオで聞き、そのままライブまで行き、美国織莉子の素性を知りながらも”応援”していると言葉を貰い、彼女は”ロック”に目覚めたという・・・

 

織莉子の”ロック”によりあの時間軸でどれだけ迷惑を被られただろう・・・

 

それも過ぎてしまえば、意外と充実していたと思えた・・・

 

「・・・恭介にも聞かせてあげたほうが良かったかな・・・」

 

クラシック音楽を専ら演奏していた上条恭介であったが、ワイルドセブンの曲を聞かせたとしたら、どんな風に変わったのだろうか?CDを上げたモノのそのまま聞かなかったかもしれない・・・

 

上条恭介がなついていた姉 蓬莱暁美 お気に入りのJAZZすら手を付けなかったのだから・・・

 

「無理にでも聞いてみると聞いてみてよかったって思えるわよ、私がそうだったから・・・」

 

あの病院へ上条恭介の病室に訪れた時、拗ねてベットに蹲った彼の姿には呆れしかなかったが、CDの山の中に”ワイルドセブン”のアルバムCDを入れておいたのだが、聞かなかった事は間違いないだろう。

 

「彼女にはいろいろと振り回されて、いつの間にか私もおっかけになっちゃったのよね」

 

面白そうにほむらは笑った。

 

あの時間軸での”思い出”は今も息づいていて、思い出す度に温かさを与えてくれる。

 

ジャンルは違うが、音楽好きの知人に振り回されていたほむらに親近感を抱いたのか、さやかは

 

「ほむらはさ・・・その人とはもう会ってないの?」

 

自分とは違い、その人は今も居るのならば、会いに行ってあげればよいのにとさやかは思った。

 

もう会えない自分と違って、会いに行けるのならば、それはそれで幸福なことなのだから・・・

 

「・・・・・・色々あって別れなければならなかったわ・・・こんな可能性がある事を知りながら、この時間軸での彼女を助けることが出来なかった」

 

美国織莉子を魔法少女にしない為に、彼女には”ワイルドセブン”の存在を教えるのがベストであると知り、彼女の存在を確認した際には必ず、自分が布教しようと思っていた。

 

だが、この時間軸に存在する”ホラー”によって、彼女はその爪と牙に掛けられてしまった・・・

 

「”この時間軸”?」

 

ほむらの”時間軸”という言葉にソラは思わず聞き返してしまった。この言葉の意味・・・

 

可能性の世界に想定される”存在”。もしも、魔法少女の願いに”過去改変”を望む者が居たら・・・

 

最も考えられる”願い”でありながら、それを願った魔法少女を確認することは叶わなかった・・・

 

何故なら、彼女らは既に”旅立って”しまったのだから・・・

 

「ほむらさん・・・まさか貴女が別れた彼女というのは、この時間軸に存在していた美国織莉子の可能性の一つなのですか?」

 

「ちょっと、ソラ。じゃあ、今ほむらが話していた人って・・・この世界だともう死んでいるってこと?」

 

さやかもほむらの過去の話に色々思うところはあったが、まさかの展開に思わず声を上げてしまった。

 

彼女の過去は、自分達にとっては先の未来のことなのだ・・・・・・

 

「ここって、あの美国光一議員が住んでたところなんだ。何処かで見たような気がしたけど・・・」

 

数週間前のニュースで見たのだが、僅か数日で記憶の片隅に追いやられていた。

 

魔法少女にならなかった美国織莉子の未来を知っている暁美 ほむらの素性は・・・・・・

 

「じゃあ・・・ほむらは・・・未来から来たの?」

 

人魚の魔女がもしも魔女になってしまった”未来の自分”の可能性だとすれば・・・

 

未来から過去に迷い込んだのが魔女だけではなく、魔法少女もいるのなら・・・

 

「えぇ、私は一か月後の未来から過去へ戻ってきたわ」

 

真っ直ぐにさやかを見据えてほむらは応えた。

 

誰も信じられなかったのに、まどかでさえも死に際にようやく認めてくれた自分の真実をさやかは、否定することなく受け入れた。

 

「じゃあさ、ほむら・・・言わなくても分かってくれると思うけど、アタシは・・・さやかちゃんって、凄く迷惑というか、みんなを振り回しちゃったよね」

 

”魔法少女の真実”を知り、知らせてくれたであろう彼女に対し、おそらく自分はろくなことをしていないとさやかは察し、ほむらの真実を受け入れると同時にどうしようもないほどの罪悪感を覚えてしまった。

 

「そうね・・・色々とやってくれたけど、少なくとも今の美樹さんは、私が見てきた美樹さやかとはまるで違うわ。というよりもこの時間軸そのものが今までとは勝手が違うのよ」

 

自分がこのような姿になったのも、この時間軸が初めてであった・・・

 

魔女以外の”怪異”、魔獣ホラー、魔戒騎士、暗黒魔戒騎士、プレイアデス聖団、魔法少女喰い真須美 巴、使徒ホラー バグギ等、これまでに考えられない存在が多数存在していた・・・

 

ほむらの言葉にさやかも、もしかしたらの可能性を察した。

 

別の時間軸の自分には、今隣りに居るソラは居らず、さらには姉であった蓬莱暁美も居なかったかもしれないと・・・

 

「じゃあ、この先どうなるか分からないってことだよね・・・一つだけ未来を知っているほむらに聞いても良いかな?」

 

さやかは、今自身が最も気になっていることをほむらに問いかけるのだった・・・

 

「今までに・・・仁美が人を殺したことってあった?」

 

さやかの問いにほむらは首を横に振るのだった。

 

彼女は魔法少女の事も知ることはなかったし、関わることもなかった。

 

この先、何がどうなるか分からない・・・それだけは確かであった・・・・・・

 

「よぉ!!先に来ていたか、ほむら、さやかにソラ!!!」

 

気が付くと黒いコートを靡かせた佐倉杏子が伯父である風雲騎士 バドを伴ってこちらに近づいてくるのだった。

 

『フン、ようやく来たか風雲騎士達』

 

『そう言うなよ、ギュテク。ME達は、この辺りにはまだ足を運んでいなかったしね』

 

ほむらの契約魔導輪 ギュテクが風雲騎士が契約する魔導輪 ナダサに慇懃無礼な態度で迎える。

 

『気やすく呼ぶではない。お前達に我らが手を貸すことをありがたく思うんだな』

 

元使徒ホラーの一体である為か複製とはいえ、魔戒騎士に対してその態度は頑なであった。

 

ほむらと話している時は、魔導輪らしく、さやかやソラともそれなりに話せているのだが、風雲騎士 バドと杏子に対しては、このような態度を取る。

 

「ほむら、ほんとにその魔導輪、大丈夫かよ?聞けばホラーの中でも一番性質の悪い奴の一体でアスナロ市で散々悪さした奴だろ?」

 

ナダサと比べたら、変な言葉遣いをしない分マシではあるが、元が凶悪な使徒ホラーであるからか、佐倉杏子も一抹の不安を抱くのだった。

 

何時か裏切るのではないかと・・・

 

『杏子、そう心配することじゃないさ。バグギも最凶のホラーに違いないが他の使徒ホラーと比べたら、まだましな方さ。愉快犯の二ドルと比べたらね』

 

「ナダサの言葉の通り信じよう杏子ちゃん。奴は、奴なりに自分の吟味に従っている。そうだろう、ギュテク、お前のホラーとしての誇りを自身で穢すようなことはしないんだろう」

 

風雲騎士 バドがほむらの手首に存在するギュテクに視線を向ける。

 

『フン・・・言われなくともな。お前達に言っておこう、ここ見滝原に”使徒ホラー”が現れた、ナダサよ。お前に同意するのは不本意だが、奴の破綻した性格は敵に回すと相当厄介だ』

 

使徒ホラー 二ドル・・・その名は、恐るべき脅威の襲来であった・・・・・・

 

「・・・ほむら。使徒ホラーも今まで居なかったんだよね。じゃあ、一か月後には何が来るの?」

 

今の状況でさえも恐ろしいのに、一か月後にはそれに等しい脅威が襲来するという・・・

 

「街一つを破壊する威力を持った最大の魔女”ワルプルギスの夜”よ・・・」

 

さやかの問いにほむらは、その脅威である大物魔女の名を告げた。

 

隣りのソラは、ここ最近観測されているスーパーセルの件が”ワルプルギスの夜”出現の前兆であることを知っていたが、見滝原に一か月後に襲来することに頭を痛めるのだった・・・

 

(まさか・・・ワルプルギスの夜まで・・・使徒ホラーの脅威と同等の存在・・・)

 

使徒ホラー達の能力も厄介だが、純粋は破壊の力ならば、それらと十分に張り合えるのが”ワルプルギスの夜”である・・・・・・

 

「やっぱり来るのかよ。ワルプルギスの夜も相当厄介だけど、使徒ホラーっていうと、一体倒すだけでも相当な犠牲が出たって話の奴だろ」

 

杏子曰く、RPGのゲームでラスボスが ”ワルプルギスの夜”だとすれば、使徒ホラーはある条件を満たしたら出現する”隠しボス”と言ったところだろう・・・

 

「そんでもって・・・ほむら。お前さぁ・・・ちょっと聞きたいことが・・・」

 

杏子は、ここでほむらと腹を割って話すつもりで居た。伯父と一緒に彼女が”時間遡行者”であることを前提に話し合おうと考えていたのだった・・・・・・

 

「お前さぁ・・・アイツ・・・あれっ?」

 

「伯父さん、アタシ達、ほむらの事を誰かから聞いたっけ?」

 

「俺は杏子ちゃんから聞いていたんだが、その子の名前は確かに聞いた、なんだ・・・思い出せない?」

 

二人の様子にほむらは怪訝な表情を浮かべ、さやかもソラもいつもと違う歯切れの悪い二人に困惑した表情を浮かべていた。

 

杏子は、ある人物から”暁美ほむらの真実”を聞いていたのだが、その人物の事が思い出せないで居た。

 

”今度、ほむらに会ったら腕を掴んででも×××の元に連れてくるからさ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティヒヒヒヒヒ・・・駄目だよ、杏子ちゃん。勝手にネタバレしたら、盛り上がらなくなるから、話しちゃだめだよ」

 

美国織莉子の邸宅の庭を見下ろすように彼女は、雲の陰に隠れて居た。

 

黄金の瞳は、大人の姿になった”暁美ほむら”に視線を向けると喜色の色を浮かべた・・・

 

「やっとみつけたよ・・・ほむらちゃん。でも・・・ずるいなぁ」

 

喜色の色を浮かべた黄金の瞳に嫉妬と僅かな怒りの色が刺した・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人だけ大人になるなんて・・・ずるいよ・・・ほむらちゃん・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

今作でのさやかと仁美ですが、かなり対照的です。

本当の意味で幼いながらも恭介くんの事を見ていたのはさやかであり、自身の願いに振り回してしまったことのケジメは付けています。

ですが仁美に至っては、自身が手にすることのできない”魔法”と”奇跡”への憧れが強すぎて何も見えずに暴走している有様です。

自身を省みたさやかと違い、何も見えておりません。彼女の行く末は・・・

話を少し逸らしまして、ほむらがファンのロックグループ ワイルドセブン

シュウヤ、KAWADA、ヒロキ、シン、ユタカ、クニヨシ、keita の7人からなるグループです。元ネタは”バトルロワイアル”です。

布教と言う名の洗脳をほむらに施したのは、とある時間軸の”三國織莉子”

ライブハウスで腕を上げて燥ぐ彼女の姿に、ほむらはかつての三國織莉子とは全く違うことに困惑していました(笑)

仁美&二ドルとは別に何者かが暗躍し始めており、その存在に誰も気づいておりません。

仁美は、いよいよ後戻りできない行動に出ようとしており、見滝原には既に”刺客”が入り込んでいるようです・・・

ほむらの押しはどういう訳か、厳つい顔のマッチョマンです(笑)


できれば、今月中には話を進めたいところです。




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番外編「明良 二樹と言う男」(後編 壱)


活動報告にて募集したキャラが今回より出てきます。

ちょっと長くなりましたので壱と弐で分けました。

どなたが出てくるかは、本編にて・・・・・・


 

「こういう環境団体ってさぁ~~、哺乳類とか、割とかわいい生き物は保護しようと考えているけど、カエルとか容姿が悪いと絶滅に瀕しても保護しようとは言わないんだよねぇ~~」

 

明良 二樹は、紅蜥蜴より教わった”ホラー ガマール”が蛙に似ていることに対して、カエル図鑑を開いていた。

 

様々な色鮮やかなカエルの写真は、見る人が見れば神秘的ではあるが・・・

 

「・・・そんなモノを広げないでよ」

 

カエルが苦手なカンナは、明良 二樹の話を聞きたくないと言わんばかりに表情を歪めた。

 

二人が居るのは、BARの執務室であり普段は”火車”が色々と仕事をしているが、彼は今現在、他のメンバーへの呼びかけの為、BARを出ていた。

 

スマホ等の携帯端末を持っているメンバーは、明良 二樹の呼びかけを知っているが、中にはスマホなどの連絡用の端末を持たない者の居り、所在が不明なことも多い。

 

”面白そうだから”と言う理由で、声を掛けた”メンバー”は、彼の呼びかけに応じる時もあれば応じないこともある。

 

故にメンバーがどれだけ存在しているか、正確な人数を聖 カンナは把握しかねていた。

 

メンバー間での顔を知らないか、会ったこともない者も存在する。

 

全てのメンバーの詳細を知っているのは、明良 二樹か実務をこなしている”火車”ぐらいであろう。

 

普段は、ふらふらしていて、BARのオーナーでありながら気が向いたときに仕事をする明良 二樹に対して”火車”はBARの運営やら、様々な情報を扱っている。

 

このBAR以外にも拠点は存在しており、そこも火車が管理しているとのこと・・・

 

火車の情報網は深く、所在が不特定なメンバーも正確に探し当てることができる。

 

元々、様々な犯罪組織やグループを渡り歩いていた経歴であるが、彼自身が”仲間”を裏切ったことはないとのこと・・・

 

意外ではあるが、火車自身は元々自身の将来や境遇に希望を抱かない故に誰かを裏切ってまで自身の利益を求めようとは思わないのだ。

 

ほんとんどの裏切りは彼の”優秀さ”に対する妬みであり、嵌められることがほとんどであった。

 

大抵は仕事を期待以上にこなしてくれる為、彼が所属していた”グループ”や”犯罪組織”からは覚えはよかった為、コネクションを持つことが出来た。

 

裏切りを行った者達は当然のことながら”制裁”を受けるに至っている。

 

裏社会の事なら19歳の若さでほとんどを知ることが出来、さらに上を目指せるのだが、彼はそうしようとは思わなかった。

 

目の前の現状に満足している口なので、より大きな利益を求めようとする欲求が存在しないし、湧くこともないのだ。

 

そんな彼だからこそ”明良 二樹”は仲間として、友人として接している。

 

決して裏切らない空虚な人間”火車”。十分に役立つし、その能力は誰もが欲しがるほど優秀である。

 

見た目は、半グレ然とした線の細い青年であるが、そのスタイルなのは、単純に他のスタイルにするのが面倒なだけだからそうだ・・・

 

(こいつは、いつもふらふらして遊んでばかり・・・)

 

執務室で両生類の本を無邪気に広げて眺めている明良 二樹に対し、聖カンナは厳しい視線を向けた。

 

ホラー ガマールが蛙に似ているということもあり”カエル”等の両生類に好奇心が抱いたのか、執務室を使用で使うのは彼曰く、オーナー権限だそうだ。

 

(火車に色々働かせておいて・・・火車も火車でどうしてあんな風に自分を蔑ろにするの?)

 

聖カンナ自身、火車には良くしてもらっているが彼の自身への希望の無さに対する姿勢だけは受け入れることが出来なかった。

 

 

 

 

 

明良 二樹は火車が動いている事を素直に感謝していた。

 

(本当に火車の存在はありがたいな、僕一人だと色々と面倒な事をこなさなくちゃいけなかったんだけど彼って色々とこなせるし、要領よく覚えるんだよね)

 

明良 二樹は火車の実務能力を高く買っており、自身が”遊び”をより良く楽しめるのも彼の存在があってのことだ。

 

 

 

 

 

火車は、アスナロ市の開発地区にまで足を延ばしていた。

 

ここは都市開発計画の一環で住民の大半が退去している廃屋がほとんどであるが、こんな所にではあるが人は住んでいる。

 

「相変わらずっすね~~。ここは、本来ならホームレスや不良が居るんすけど・・・あの人が”彼女”の為に動いているってことで間違いないんすよね」

 

路上生活者の痕跡が至る所に点在しているが、人の気配は存在していなかった。

 

右手にはビニールの手提げ袋を持っており、中には差し入れの弁当が入っている。

 

廃屋の中でも一際古い年代の古い日本家屋へと足を踏み入れた。

 

「牙樹丸さん。ここに居るんでしょ、とりあえず知らせたいことがあったんで来たっすよ」

 

火車の声に呼応するように奥の荒れた居間に横になっていた男が起き上がった。

 

「おおっ!!居た居た、ご飯、彼女さんは食べてて牙樹丸さんは、まだなんでしょ」

 

居間の入り口に立つ火車を牙樹丸と呼ばれた男は、片目だけが隠れた長い髪を揺らしながら顔を向けた。

 

「ああ・・・君か、火車。いつもすまないね・・・今日は機嫌が良くってね・・・彼女は・・・」

 

”彼女”という言葉に呼応するように木々が風によって騒めくような音が室内に響いてくる。

 

木々などないのにそのような音が聞こえてくるのは、明らかに不自然ではあるが、火車はその原因を知っていた。

 

「貢ぐのは男の甲斐性って奴っすから、冷めないうちにどうぞ」

 

ビニール袋から取り出されたのは保温用のBOXに入っている弁当箱と魔法瓶に入れられた味噌汁であった

 

「悪いね・・・私は人間はみな、クソくらえだと思っているけど、君は私が彼女と一緒になる前から、仲良くしてもらえたから、君だけは別だよ」

 

火車とこの廃屋の住人である植原 牙樹丸は、アスナロ市に来る前からの知り合いであった・・・

 

 

 

 

 

 

海外へのボランティア活動で出会い、お互いに意気投合したことだった。。

 

当時の植原 牙樹丸は、海外に積極的にボランティア活動に行く慈善家であったが、小悪党であった火車とは意外と話が合い、行動を共にしていた。

 

植原 牙樹丸自身は、若干人間嫌いに気があったのだが、それは自身が住まう国に居たくなかった為にボランティア活動をしているとのことだった。

 

人間は嫌いだが、何もしないよりはマシだと言うのが彼の本音であった。

 

火車に至っては、ヤバいところに出入りしていた先輩に売られたため、ここまで逃げてきたと正直に話した

 

慈善活動については、全く興味こそはなかったが、ここまで来て何もしない方が悪いと言ってボランティア活動を成り行きで火車は行っていた。

 

お互いに不純ではあるが、何もしないよりはマシだという気持ちは共通していた。

 

ある日、火車が日本へ戻ることになり、一旦別れることになった。

 

その後、別の国へ行くのだが、突如として内乱が勃発し、巻き込まれることにより瀕死の重傷を負うに至った。生死の境をさまよっていた時に彼は、奇妙な声を聴いた・・・

 

木々の騒めきの様な声を・・・まるで自分を心配するかのような雰囲気を持った声を聞いたのだった。

 

声と共にイメージが広がっていく・・・それは、黒く大きな木だった。

 

風により木の枝が騒めくように笑いながら、彼に迫ってきた。

 

不思議な夢ともつかぬ光景の後、彼はある診療所で目を覚ました。

 

一命こそは取り留める。自身が住まう国は豊かではあったが、人の心と言うモノは最悪であった。

 

誰も彼もが自身の利益を求め、他人が困っていても見て見ぬふりをし、取り返しのつかない事になったら互いに責任を押し付け合う光景に嫌悪していた。

 

故に植原 牙樹丸は、自身の生まれた国から離れたのだが、ここでも同じく人は自身の利益しか求めていなかった。

 

人と言うモノは、臭く汚いものが詰まった”クソ袋”でしかないのだと・・・

 

帰国した後、”彼女”の為に尽くしていた時に、明良 二樹と出会い、彼の一団というよりもグループに誘われたのだが、そこで”火車”と再会した時は互いに驚いてしまった。

 

 

 

 

 

「クソくらえっすか。今度もクソみたいな依頼人から依頼が来たんすっよ。彼女さんも気に入ると思うっすよ」

 

あの依頼人は火車から見ても、相当なロクデナシでしかなかった。

 

真っ当な言い訳をしているが、その実自分の欲望に忠実な所は、まだ悪いことをしていると自覚している犯罪者の方がマシだと思う程に・・・

 

火車はある企業のパンフレットを取り出した。それを見た牙樹丸は興味深そうにそれでいて心底嬉しそうに笑うのだった・・・

 

彼に呼応するように長い髪に隠れた片目から植物の枝のようなものが伸びてくる・・・

 

「俺っちは、彼女さんの為に色々と頑張るのは良いことだと思うっすよ」

 

「ははは、君の事は本当に感謝しているよ。フタツキに伝えてくれ、今晩、そちらに顔を出すとね」

 

今回の依頼は、火車曰くクソみたいな依頼人らしいものであり、今回の事実を容認した者を全て処分しろと言うモノだった・・・

 

植原 牙樹丸にとっては、自身が尽くすべき”彼女”の為に参加の意思を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある漫画喫茶にて・・・

 

今話題の少年漫画の単行本を読んでいた。

 

「いいなぁ~~、格好いいなぁ~~。でも可哀そう、苦しい記憶なのに・・・などかがこの世界に行ったら真っ先にみんなの嫌な事を忘れさせてあげるのになぁ・・・」

 

濃いマゼンタカラーの長めのツインテイルヘアーの少女 鼎 などかは、最近映画が公開され、話題になっているコミックに自身が介入するという光景をイメージしていた。

 

特に主人公である少年は、物語のラスボスにより家族を失い、さらには妹を異形の存在に変えられるという過酷な境遇であった。

 

異形に変えられた妹は人間であることを望み、人と異形との間で揺れ動いている。

 

少女が注目したのは、人と異形との間で揺れ動いている部分であり、彼女の苦悩を自身の魔法で消してあげたいと・・・

 

彼女は自分を人を苦悩から救う”魔法少女”であるからこそ思うのだった・・・

 

などかは、ここ最近不慮な事故で亡くなった少年少女が”異世界”もしくは”創作の世界”に転生するモノを愛読しており、自身が少し前に見た小説投稿サイトでみた”スター☆リン”の作品がお気に入りであった。

 

ハッキリ言えば、テンプレートそのものの内容だが、やたらと姉の死を回避するという内容に力が入っており、この作者は現実で”姉”を亡くしている嫌な記憶があるのではと察していた・・・

 

嫌な記憶を都合の良い妄想で和らげようとしている姿を想像して彼女は、そんなに嫌な記憶なら忘れさせてあげるよと実際に言ってあげたかった・・・

 

「さすがにこの世界が嫌だからと言って向こうに行かせることはできないけどね」

 

彼女の持論は、嫌な事は忘れるに限るである。事実、彼女は両親の事など覚えても居らず、また探そうともしていないことからお互いに”嫌な存在”だったからこそ忘れているのだろうと思っている。

 

実際は、彼女の”魔法”を使用したことが理由であるが、そのことを覚えてはいない。

 

言うまでもなく”忘れた”からであった・・・

 

そのことに彼女は後悔もしていないし、どうも思っていなかった。

 

数時間前に明良 二樹より誘いのラインが着ていたのだが、相手は自分の能力が通じない”ホラー”のようなので今回は見送ろうと考えていた。

 

「・・・でもお仕事は別に着ているんだよね。えぇ~~、邪魔者は消したいけど、罪の記憶は持ちたくないから記憶を何とかしてほしい?」

 

別の件で個別のラインで”火車”よりメッセージが着ていた。

 

それは、依頼人が自身の依頼に後ろめたさを感じており、それを何とかしてほしいと相談してきたのだそうだ。

 

今回の件は、依頼人がホラーを駆除し、それでいてそれを許容する人間たちの処分も含めておりその件でホラーはともかく他の人間の処分に対して今更ながら、罪悪感が湧き、かといって止めることも出来ない為、無責任に今回の件の罪悪感を消してしまおうと図々しくも依頼してきたのだ。

 

「う~~ん。めんどうくさいなぁ~~、まぁ、いいか、忘れたいことは忘れちゃっても良いよね。えへへへへへ」

 

怪しく目を輝かせ、鼎 などかは笑いながら再びコミックに手を伸ばした。

 

仕事よりも今は、漫画を読むことの方が彼女にとっては大事な事であったからだ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

メッセージが既読になったことを確認した火車は、今回の依頼人が改めて”クソ”であると思うのだった。

 

”陰我”を抱える人間は、ほとんどがロクデナシであるが今回の依頼人は輪に掛けてクソであると・・・

 

「何もかも忘れて、新しい人生って奴っすか・・・本当に何考えてるだか・・・」

 

色々考えているからこそと依頼人は反論するだろうが、そんな反論を聞く気もないので火車は、鼎 などかが居るであろう漫画喫茶の入り口の前に立っていた。

 

「ここ最近は、物騒だけど・・・などかちゃんなら、まあ何とかなるかな~~」

 

お願いをする為にとりあえず手土産を持ってなどかに会う火車であった。

 

 

 

 

 

 

BAR Heart-to- Heart

 

「やるとしたら、今夜かな・・・数は多いしホラーだから魔法少女組は今回はスルーかな」

 

奥の休憩室のソファーに横になりながら明良 二樹はスマートフォンを弄っていた。

 

此処は他の従業員等も利用するのだが、オーナーと言う地位にも関わらず、安物ではあるがそれなりに心地が良く、寛げればなんでもよいらしい。

 

「あぁ・・・そういえばあの子は参加してくれそうだね。後は・・・”斬刃”辺りかな・・・」

 

ホラーは通常一体がほとんどであるが、群れるホラーなら、彼なら喜んで参加するだろう・・・

 

明良 二樹が脳裏に浮かべた魔法少女の画像をスマホの画面に映し出す・・・

 

「ハハハハハ。似てると思ったらやっぱり母親似だよね、この子は・・・僕に近づいてきたのはそういう理由なんだろうね」

 

本名こそは名乗ってはいないが、特に聞き出したりする気もなかった・・・

 

言うまでもなくそちらの方が楽しめると明良 二樹は考えているからだ。

 

自身の身を滅ぼす要因であっても、それをギリギリのスリルで楽しむ事こそが彼の”人生”の醍醐味であるからだ。

 

「巴ちゃんもあちこちで怨みを買いつつも、それを楽しんでいた口だったしね・・・」

 

ここ最近、見かけなくなっており、何処かに行ったであろう”遊び友達 真須美 巴”の事を思いつつ、明良 二樹は今夜に供えてとりあえず一眠りすべく瞼を閉じるのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

”フタツキは地獄行って言われたらどう思うかしら?”

 

”どうだろうね~~。考えたこともないよ、行ったところで今までと変わらないともうよ”

 

”私も同じよ。むしろアッチには悪人しか居ないから、人目を気にせず色々できると思うから、むしろ楽しみね”

 

 

”へぇ~~、地獄って生前の行いの悪い人を罰するところじゃないって言いたいわけ?巴ちゃん?”

 

”キャハハ!!そうよ、私達の様な存在にとっては、最期のご褒美よ。悪人しかいないっていうことは、そういう意味なのよ。気兼ねなく死後の世界を楽しめって事よ♪”

 

 

 

 

 

 

「・・・ふふふふふ。兄さんも今頃楽しんでいるかな。もう暫く待っててよ。僕はもう少し遊んでから行くつもりだからね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

唐揚ちきんさんより頂きました植原 牙樹丸さん、魔法少女 鼎 などかちゃんが登場しました。

火車さんは、明良 二樹の参謀のような立ち位置に居ます。

頭脳面だったら、彼とほぼ同等ですが、自分の利益を求めることがないので、火車は絶対に明良 二樹を裏切ることはないのです。

ラストで募集を頂きました二人の存在が明良 二樹より語られましたが、残りのメンバーは次回にて・・・

時期としてはバラゴらがアスナロ市に来る前であり、真須美 巴はプレイアデス聖団に不意打ちにより拘束されています。

次回からは、明良 二樹達がホラーに攻撃を仕掛ける予定です。

そんでもって久々に回想ですが、真須美 巴の登場。思えば、彼女が明良 二樹をこちらの世界に連れてきたようなものです・・・

アスナロ市編では、本当によく働いてくれたと思います。






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番外編「明良 二樹と言う男」(後編 弐)

前編、中編、後編の三部の予定でしたが、ボリュームが出来てしまい、後編を二つからさらに分けることになりました。

今回はある魔法少女が久しぶりに登場。

彼女の事は、個人的には気に入って居るんですけど・・・



アスナロ市の何処か・・・・・・

 

とある施設の中にある部屋らしいのだが、そこは既にかつての管理している者の手から離れており、誰も居るはずのない場所であった・・・

 

その誰も居るはずのない場所に”彼女”、香蘭は居た。

 

黄色い魔導火を証明として照らされた空間は、香蘭の心情、精神をよく表していた・・・・

 

一言で言うならば”混沌”。

 

魔戒法師らが使う魔導具や古い書物は、魔戒法師の工房を思わせるが、それらとは正反対の現代の最新技術を注ぎ込んだPC機器を始めとしたタブレット端末等がデスクに置かれており、さらには座り心地の良い”ゲーミングチェアー”に香蘭は座っていた。

 

全く正反対の価値あるものが混在しているが、それらの不釣り合いは不思議と調和し融合している。

 

矛盾だらけの部屋の主、香蘭は魔戒法師に似つかわしくないスマートフォンのメッセージに目を通していた。

 

心地よい”ゲーミングチェアー”に背を預けながら、香蘭は笑みを浮かべた。

 

「フタツキも色々と探してくれて、香蘭ちゃんは退屈しないから毎日が楽しいな~」

 

陽気に笑うが、彼女の”本性”を知る人間からすれば、もしもフタツキがこのように誘いのメッセージを飛ばさなかったら、確実に彼、明良 二樹を裏切ると考えられている。

 

事実、香蘭も明良 二樹と一緒に居るうちは楽しめる事を評価しており、楽しめなくなれば”用済み”と彼女は考えている。

 

しかしながら、明良 二樹との繋がりは彼女にとっても色々とメリットがある。

 

”魔号機人”を始めとする”赤い仮面の男”との繋がりである。

 

彼女としては、一度は会ってみたいのだが、相手側が拒否しているらしいのだ。

 

おそらくは自身の事を元老院などから聞いているのだろうと察していた。

 

元老院に追われている自分と接触することで何かしらの不都合があると考えているのだろう。

 

「あ~あ、せっかくだから、この間作ったアレを試してみようかなぁ~~、香蘭ちゃんも偶には身体を動かさないと」

 

にこやかに笑いながら部屋の中央にある螺旋階段の下の部屋に足を進めていく。

 

そこには、彼女が制作した”魔導具”が大量に保管されており、”鋼殻装甲”がガラスケースに大量に存在しており、さらには素体ホラーを閉じ込め、それを標本のように保存されたカプセルもいくつか点在していた。

 

「ちょっと嵩張るけど、これにしようかなぁ~~」

 

彼女が手に取ったのは、小型携帯火器の一つである”スティンガー”を思わせる筒状のモノであった。

 

その魔導具の名が”飛頭砲(ひとうほう)”。アルものを弾として直接ホラーを攻撃する武器である。

 

「大量に殺されたってことだから、あちこちに残留思念か、成仏できない魂だらけらしいから、これを使っちゃおうかな♪」

 

その魔導具は、人の魂を取り込み、それを弾として攻撃する代物であった。

 

直接殺しても構わないし、そこが”怨念”が渦巻く曰く付きの場所ならば、それらは無限の弾数として機能させることが出来る。

 

「でも・・・弾が不足するかもしれないから調子に乗るのは良くないよね。命は大事に使いに限るね。う~~~~ん、香蘭ちゃん、えらい!!!」

 

自身の言葉を自画自賛しているが、やっていることは限りなく人の尊厳、命を冒涜しているのだが、彼女にとってはそのような事は些細なことでしかなかった。

 

魔戒法師 香蘭にとって自身や興味の対象ではない”命”など、単なる消耗品でしかない。

 

絶えず需要と供給を繰り返す自身の興味の範囲外で生産されるものでしかなかった・・・

 

「フタツキは本当に香蘭ちゃんを楽しませてくれるなぁ~。楽しませてくれると言えば、香蘭ちゃんに声を掛けてくれたアイツもそれなりに楽しませてくれてるよね」

 

香蘭は街中を歩いて際に自身に声を掛けてきた逸れ魔戒騎士の姿を思い浮かべた。

 

普段は意識などしないのだが、今日に限って機嫌が良いのか彼女はその日の事を思い出すのだった・・・

 

その逸れ魔戒騎士の名は 不知火 リュウジ・・・

 

 

 

 

 

 

 

香蘭はその日、気分が良かったのか街に繰り出して遊んでいた。

 

魔戒法師である彼女は法衣があるのだが、その法衣を身に着けておらず俗世の若い女性が好む派手な格好をしていた。

 

彼女は茶髪にショートカットの可愛らしい顔立ちをしており、男女ともに親しみやすい容姿をしている。

 

書店に赴いて彼女は、いくつかの書籍を購入しブックカフェでお気に入りの紅茶を飲みながら、専門書に目を通していた。

 

彼女が読んでいるのは”生物学”から”宗教学”と様々な分野の書籍であり、ここ最近の論文や発見を記したモノであった。

 

魔戒法師としてもそうだが、生来の気質なのか香蘭の好奇心は強く様々なモノを知りたがる。

 

魔導具やホラー、ここ最近では現代社会の学問にさえ興味を抱いている。

 

元老院や番犬所を始めとする組織は、国家とはそれなりに繋がっているのだが文化や伝統を重んじているところは中世の頃から何も変わっていない。

 

法師ならば、それぞれの技術の継承や魔戒騎士ならば鎧や称号の継承等と伝統に重きを置いていて、現代社会には興味すら抱かない。

 

かの天才魔戒法師でさえも文明の機器に興味を抱くどころか、魔導具よりもその価値を低く見ていた。

 

彼女はそれは”傲慢”であると考えている。ホラーの”陰我”は、古の時代から現代に至るまで変化を続けており、いつかは魔戒騎士ですら太刀打ちが出来なくなる可能性すら考えられる。

 

その為にはより強力な武器を製作せねばならないし、何よりも時代の流れを見なくてはならない。

 

時代の流れを無視した結果如何に強かろうともいつかは”淘汰”され、ホラーとの生存競争に敗れるかもしれない。もしくは新たに現れた”ホラー”と敵対する競合相手に後れを取るということもあり得るのだ。

 

香蘭のお気に入りは”生物学”であり、自然淘汰の理屈は面白く、生物多様性による種の繁栄については興味深い考察が多い。

 

過去の生物を研究する”古生物学”についても、過去に存在したであろう強力な捕食者ですらも時代の流れの変化に対応できずに滅び、対応できた種が繁栄した。

 

その後の頂点捕食者の”ニッチ”を埋めるように機会を逃さなかった”種”が頂点に立った。

 

自然淘汰の理屈、種の繁栄について香蘭はある”存在”を思い出したのか、バックより神浜市で数日後に開催されるイベント”ヴァリアンテ国 サンタ・バルド展”のチラシを取り出した。

 

欧州に存在した国であり、御伽噺である”光の騎士の伝説”を追うドキュメンタリーでもあった。

 

中世欧州の暗黒時代の中で平和を謳歌した”王国”に伝わる”伝説”と真実の歴史・・・

 

この国は、かつて強大なホラーアニマを番犬所の礎を築いた魔戒騎士や法師達が封印した地である。

 

そして魔戒法師 メンドーサによる反乱とその顛末を知る者はほとんど存在しないだろう・・・

 

魔戒法師 メンドーサ

 

その優れた才覚に溺れ、”元老院”より追放され、”堕落者の烙印”を押され、自身の行為を省みずに魔戒騎士、法師に憎悪を燃やし、己の為だけに様々人達を死に追いやった人外に堕ちた存在・・・

 

香蘭もメンドーサの事は知っていた。魔戒騎士、法師の間では、もはや風化した存在でしかない・・・

 

「この人の失敗って、母と子の繋がりを侮ったからなんだよね・・・今も魔戒で燃やされていたりするのかな~~。助けてあげても良いけど、香蘭ちゃんに何かしそうだし、辞めておいた方が良いよね」

 

自身の興味対象外の”命”を消耗品としてしか見ていないのに矛盾している言動ではあるが、彼女は大真面目であった。

 

メンドーサについては、その執念こそは尊敬するが、結局のところ彼は自身の高すぎる自尊心を満たすことが全てであり彼自身が見下していた”俗物”と何ら変わりはないというのが彼女の彼に対する評価であった。

 

”堕落の烙印”が子に受け継がれたことで我が子を手に掛けるような男を助けたところで”恩を仇で返す”という行動以外にでることはないだろう。

 

彼女自身にも目的があり、それをなす為ならば”如何なる犠牲”を払うことに戸惑いはなかった。

 

香蘭が何を目指しているのかは、ここで語られることはないが、いずれ明らかになるであろう。

 

何時かは叶えるであろう自身の目的を想像し、良い気分に浸っているときだった・・・

 

「ねえ、そこの彼女ぉ~~、そんなところで難しそうな本なんか読んじゃって、俺にもちょっと教えてくれない?」

 

良い気分で居たところを邪魔されたのか、香蘭は聞こえないように舌打ちをし自身の至福の時間に土足で上がり込んできた邪魔者に視線を向ける。

 

「だったら読めばいいんじゃないの?本の感想は人それぞれだし」

 

にこやかに笑う香蘭と彼女に声を掛けてきた男 不知火 リュウジの二人を偶然見ていた男が居た。

 

「ば、馬鹿かアイツは・・・よりによってあの女に声を掛けるなんて、どういう神経してんだ?」

 

顔に三本の傷が走る長身の男は、香蘭の様子に柄ではない冷や汗をかいていた。

 

本来ならば自身はそういう”性格”ではないのだが、あの男は明らかにヤバい女に声を掛けている。

 

長い付き合いではないが、あの笑いを浮かべている香蘭は明らかに怒っている。

 

笑顔は、本来”攻撃的な意思”を示すと何処かで聞いたことがあるが、香蘭のそれは攻撃の意思と呼ぶには、生温い・・・”殺意”を持っている。

 

本来ならばあの頭の悪そうな茶髪のナンパ男を殴ってやってもよいのだが、機嫌の悪い香蘭のとばっちりに巻き込まれるため、彼は何でこんな所に出くわしてしまったのだと今更ながら後悔していた。

 

「ったくあのドレッドヘアー、なんでこんな所に来てたんだよ」

 

そして似合わないのに書店にやってきた”紅蜥蜴”の事を激しく罵ったのであった。

 

長身の男 斬刃もまた魔戒騎士の逸れモノである・・・

 

彼が”紅蜥蜴”の後を付けたのは、彼と戦う為であった・・・

 

 

 

 

 

 

斬刃が追っていた男 紅蜥蜴は彼が所属する”グループ”のメンバーであるが、このグループは特別な仲良しの集まりでもなければ、一個人に奉仕する集まりでもない。

 

それぞれの思惑のままに集まっている。当然のことながら、仲間意識は希薄であり、時折”共食い”に似た内部でのメンバー同士の”殺し合い”すらも起こる。

 

紅蜥蜴という男は、斬刃よりも目線が更に高い長身であり、痩せ型の彼とは対照的に”アメフトの選手”のように筋骨隆々の逞しい体格である。

 

斬刃が紅蜥蜴を追っていたのは、ここ最近”退屈”していた為、”紅蜥蜴”との戦いを楽しもうと考えたからであった。

 

斬刃と言う男は、魔戒騎士である。

 

だが、彼は己の戦闘意欲に身を任せ、只管”闘争”を求めるが故に魔戒騎士の掟を破り、脱走した存在でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

斬刃は、魔戒騎士の家に生を受けたが、称号持ちの家系ではなく一般のその他大勢の”魔戒騎士”の一族であった。

 

ホラーより人々を守る”守りし者”としての使命を師でもあった”父”より教わったのだが、彼はその教え以上に”戦うこと”に異常なまでの執着を持っていた。

 

幼い頃より、周りとの争いが絶えずその度に彼は自身の”闘争心”の赴くままに拳を振るった。

 

やがて成人し、ホラーとの戦いに身を投じることでさらにその”闘争心”は強くなり、”麻薬”のように彼の神経を冒していった。

 

獰猛な魔獣でありながら狡猾な知性を持った油断ならない存在との戦いは、彼にとってこれ以上にない”遊戯”であり、自身の”生”を実感できる瞬間だった。

 

「ハハハハ。ヒリヒリしてきたぜ・・・どっちが強いかこれで、ハッキリさせようぜ」

 

自身の鎧・・・一般の魔戒騎士の鎧である”鋼の鎧”を召喚し、大太刀の魔戒剣をホラーに対して構え、振り下ろすことで飛び散る黒い血潮と断末魔の声・・・

 

「いいじゃねえか・・・だが、まだ足りないぜ。あぁ?お前、ホラーの血を浴びたか?だったら、暫く俺に付き合え・・・」

 

戦いに巻き込まれた人がホラーに血を浴びたことを憂うこともなく、己の”闘争心”を満たす為だけに利用し、ホラーに最高の”餌”として喰わした後に戦いを楽しむのだった。

 

彼のその行動により番犬所からは魔戒騎士の鎧を剥奪されかけ、さらには師でもあった父に刃を向けられたが、これもまた斬刃の”闘争心”を刺激し、父と刃を交わし、その命を奪い、そのまま番犬所より脱走した。

 

この時、彼はホラーとの戦いで”闘争心”を満足させていたが、さらなる刺激を求めるようになった。

 

それは”魔戒騎士”との戦いであった。

 

自身を戒めようと剣を振るった実の父の想いは届かず、彼をさらなる魔道への一歩を踏み出させた・・・

 

称号持ちの魔戒騎士、もしくは脱走した魔戒騎士を処刑する存在と一戦交えたいと考えるようになる。

 

魔戒騎士同士の戦いは”掟”により禁じられているが、斬刃には歯牙に掛けるに値しない戯言であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱走し、各地を放浪しアスナロ市で彼はある魔戒騎士と出会うに至った・・・

 

誰かがホラーと戦っていた・・・一つの街に魔戒騎士は二人も居ない・・・

 

アスナロ市に来たのは、数週間前であったがその間に魔戒騎士の存在は感じられなかった・・・

 

存在しなかった魔戒騎士が居るということは自分を追ってきた存在であろうと斬刃は解釈し、その存在の元へと走ったのだった。

 

そこにはホラーの中でも最も強固な装甲を持つホラー ハンプティが居た。

 

その強固な装甲は魔戒剣ですら傷つけることは難しい・・・

 

現れたハンプティは、一般に知られているハンプティとは様子が違っていた。

 

元々強固であった装甲がさらに追加されており、より高い防御力をえた”個体”であった・・・

 

対する魔戒騎士は、ドレッドヘアースタイルの二振りの斧を構えた斬刃よりも背が高い、筋骨隆々の逞しい男であった。

 

自身よりも大きく、一般の魔戒騎士でも倒すのが容易ではないハンプティに魔戒斧による強力な斬撃と持ち前の強力で振るわれた爪を弾くように押しのけ、懐にアメフト選手のような強力なタックルを魔戒斧を伴ってホラーに浴びせる。

 

斬刃は、その様子に思わず笑みを浮かべていた。

 

あの風変わりな魔戒騎士は自分を追って来たであろう称号持ちの魔戒騎士であると・・・

 

何故なら、彼は鎧を召喚せず、魔戒斧のみを本来の姿であろう巨大な斧に変化させてそのままハンプティを両断したのだから・・・

 

強固なハンプティの装甲を断ち斬るほどの剛力とその技術の高さを持つドレッドヘアーの魔戒騎士は紛れもない”強者”だと・・・

 

「・・・・・・ヒリヒリしてきたぜ!!!おい!!!お前!!!次は俺が相手になるぜ!!!!」

 

追手の魔戒騎士ならば逃げなくてはならないのだが、彼にそのような考えはなかった。

 

大太刀を振り上げながら、斬刃は魔戒騎士 紅蜥蜴の元へと向かっていった。

 

振るわれた刃を左手に持った一振りの斧でそれを受け止める。

 

「いいぞ!!俺の剣を片手で受け止めるのか!!!俺はお前みたいな奴と戦ってみたかったんだ!!!」

 

三本の傷が走る顔を歪ませながら、紅蜥蜴と刃を交えた。

 

「・・・誰だ?・・・番犬所もとうとう狂犬を放つようになったか」

 

ドレッドヘアーを揺らしながら紅蜥蜴は、獰猛な笑みを浮かべる斬刃を見ながら片手で彼の魔戒剣を持つ手を掴みそのまま勢いよく放り投げた。

 

目の前の戦いに異常なまでの”闘争心”を燃やす斬刃は、相手を斬ることしか見えていない為、防御がおざなりになっていた事に紅蜥蜴は気が付いていた。

 

故にもう片方の斧で彼の両手を斬ることも叶うのだが、それを行うのも少し手間な為、斧を手放しそのまま掴んだ。

 

見た目に相応しい強力な握力に痛みを感じた瞬間に宙を舞い、背中からくる衝撃の後に冷たいアスファルトの上に倒れていた。

 

「おいおい・・・流石は騎士様って奴か。俺みたいな逃げ出した逸れ魔戒騎士にも温情をかけてくれるのかよ」

 

(さっきから何を言っている?まさか、こいつも俺と同じ脱走した魔戒騎士か・・・)

 

紅蜥蜴は、目の前の斬刃は魔戒騎士の逸れモノであり、異常なまでの闘争心と戦闘欲を抱えた人物であると察した。

 

相手が強ければ強い程、喜びを感じる”バトルジャンキー”とでも言うべきかもしれない。

 

何をどう思って自分を真っ当な魔戒騎士と勘違いできるのだろうと紅蜥蜴は斬刃に呆れに似た感情を抱いた。

 

相手を殺すのは容易であるが、殺さずに制すのは容易ではない。自分はあのまま自覚のないまま斬られていたのかもしれない。

 

だからこそ、この魔戒騎士との戦いを楽しまなければならない・・・

 

生身で戦うのも良いが、相手は自分よりも強い。故に彼の本気が見たかった。

 

鎧を召喚し、相手にもまた鎧を召喚させ、全力の相手と戦いたかった。

 

斬刃はここで”鎧”を召喚しようと大太刀を掲げた時だった・・・

 

「そこまでだよ・・・紅蜥蜴、後は僕と魔号機人達に任せてもらえるかな?」

 

自分を取り囲むように金属製の骸骨人形達が突如現れた第三者の声と共に現れた。

 

骸骨人形 魔号機人らは魔戒法師のように黒い衣装という姿だった。

 

「だ、誰だ!!!法師か!!!ジャマすんじゃねえ!!!!」

 

戦いに水を差されたことに憤り、骸骨人形らに斬りかかる。排除しようとするが、骸骨人形達は意外なほど強く、一般の魔戒騎士と互角の力量とさらにはそれらを操っているであろう存在の巧みさにより、斬刃は次第に追い詰められていった、

 

「こんな人形じゃなくて、こっちで来いよ!!法師じゃ、こんな玩具に頼らないと戦えないのか!!!」

 

紅蜥蜴は興味がないのか第三者が居るであろう場所に視線を向けている。

 

そのことが余計に腹立たしく思えた。鎧を召喚し、この場を切り抜けようと考えたが・・・

 

「キャハハハハハハ!!!!魔戒騎士の割には短気ねぇ~~。フタツキ~♪私が拘束しちゃっても良いかしら♪」

 

耳障りな笑い声と共に自身の影から誰かの影が入り込み、そのまま斬刃は身動きが取れなくなってしまった

 

「な、なんだ?俺の影に何かが・・・どういうことだ?」

 

このような術は聞いたこともない。さらには、骸骨人形 魔号機人の存在もまた・・・

 

「巴ちゃんの”能力”と僕と魔号機人の相性は抜群のようだね」

 

黒髪のアイドルのように愛らしくも美しい少女と青年がいつの間にか斬刃の前に立っていた・・・

 

「誰だ・・・てめぇら・・・邪魔しやがって・・・」

 

現れた二人に対し、斬刃は怒りに視線を向ける。魔戒騎士の睨みは、一般人を震え上がらせるには十分な殺気が込められているのだが、二人はこれと言って気にしていないようだった。

 

「キャハハハハハ♪そう怒らないでよ。私としてはあまり騒がしくしてほしくなかったのよねぇ~~フタツキぃ~~久しぶりに魔戒騎士が獲物で掛かったけど、このままどうする?香蘭の所にでも送っておく?」

 

黒髪の少女 真須美 巴は笑いながら、斬刃にとっては聞き捨てならない”人物の名前”を言っていた。

 

「なっ!?!てめえら、何者だ!!なんで、あのヤバい女の事を知っているんだ!?!」

 

香蘭の噂は、斬刃も耳にしたことがあった。

 

元老院に迎えられながらもその危険思想と行動故に処罰されかけるも脱走した外道 魔戒法師の存在を・・

 

番犬所のさらに上位機関である元老院の追撃から今も逃れている危険な存在を・・・

 

「いやいや、巴ちゃん。香蘭の所に送ったら、それこそ地獄に逃げる方がマシな目に遭わされると思うよ、ここは・・・彼は面白そうだから誘ってみるのも良いかもね」

 

青年 明良 二樹は逸れ魔戒騎士 斬刃を自身のグループに誘うのだった・・・

 

「君ってさぁ、スリルを求めているんだよね。僕も同じさ♪」

 

「だったら、さっきの騎士と俺をもう一度戦わせろ」

 

「紅蜥蜴に、今の君じゃ正直言って勝てないと思うよ」

 

「そんなこと、分かっている。だからこそ、戦いたいんだ。相手が強ければそれでいい」

 

身動きこそは取れないが、斬刃の抱えているモノに明良 二樹は愉快だと言わんばかりに笑い、真須美 巴は珍しい玩具を手に入れたと言わんばかりに笑う。

 

「キャハハハハ!!!あなた、フタツキ一緒に来なさいな。もっと面白い事があるかもしれないわよ」

 

「誘ったからには楽しませてあげるよ。退屈だったら、紅蜥蜴に挑戦しても良いよ♪」

 

二人の様子に斬刃は、てっきり服従しろと要求してくるかと身構えていたが・・・一緒に来て遊ぼうと言わんばかりの誘いに戸惑ってしまった。

 

「お前達・・・頭、おかしいんじゃないのか?」

 

「ハハハハハ、それはお互い様だよ。紅蜥蜴は、割と真面だけどね。僕らと比べたらね~~」

 

「ねぇ~~~♪」

 

斬刃は、明良 二樹の誘いに応じることになった。その間、紅蜥蜴は別の用事が出来たため、その場を後にしていた・・・

 

彼が紅蜥蜴と話を交わし、彼もまた斬刃と同じく逸れ魔戒騎士であることを知るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

明良 二樹と関わるようになってから、様々な依頼や彼自身が見つけてきた”遊び”は斬刃の”戦闘意欲”を満足させた。

 

その過程で剣の腕を磨き、先日になって強くなった己の力量を思う存分に振るいたくなったのだった。

 

明良 二樹のグループの中で最も強いのは、彼が操る意思を持つ魔号機人 凱と紅蜥蜴である。

 

魔戒法師である香蘭もまた実力者であるが、魔号機人 凱と魔戒騎士である紅蜥蜴に比べると直接的な戦闘では敵わないが、頭脳面で二人に比類する強さを持っている。

 

強い力を振るうのならば、紅蜥蜴相手の方が存分に振るえると考え、再戦を申し込もうとしていたら自身が警戒する香蘭に絡む頭の悪そうな茶髪の青年を目撃してしまったのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「うん?あいつ・・・あの服装は魔戒騎士の・・・・・・」

 

「そうだよ。彼、魔戒騎士みたいなんだけど」

 

気が付くといくつかの文庫本を抱えた明良 二樹が斬刃の隣りにいつの間にか立っていた。

 

「二樹・・・お前もなんでこんな所に居るんだよ。紅蜥蜴もなんでまた・・・」

 

「紅蜥蜴と戦いたい割には彼の事をあまり知らないんだね。彼の趣味は読書だよ・・・結構な読書家だよ」

 

噂をすれば影であり紅蜥蜴は足早に予約していた”本”を受け取り、書店を後にしていた。

 

途中で斬刃の存在に気づき、そのまま撒いたのだった・・・

 

「けっ!!俺には分からねえよ、あの男も魔戒騎士なら少しは楽しめるか・・・そうでもないか」

 

斬刃は、男の力量はおそらく自分以下であり、一般の魔戒騎士の力量でしかないと察した。

 

やる気がなくなったのか、そのまま帰ろうかと背を向けようとするのだが・・・

 

「まぁ、待ちなよ。ここはちょっとだけ付き合ってよ、大丈夫、香蘭のことは僕に任せてよ」

 

正直、香蘭に関わると碌な目に遭わないのだが、明良 二樹と一緒に居れば、厄介ごとから回避されるのでこのまま背を向けて逃げたら、後で何をされるか分からないと斬刃は考えを改めた。

 

今の明良 二樹はどこか楽しそうにしている。

 

こういう時の彼は、何か楽しいことを思いついたときなのだ。

 

今まで彼の誘いで外れはなかったので今回も少しは楽しめるだろうかと思いつつ、斬刃は明良 二樹に続くのだった・・・

 

 

 

 

 

香蘭に話しかけている茶髪の魔戒騎士こと 不知火 リュウジは軽い態度でなれなれしく彼女に話しかけていた。

 

「そんなに素っ気なくしないでよ、俺さぁ、結構こういう難しい事、わかんないけど興味というか好奇心が旺盛で色々と教えてくれたら、うれしいなって」

 

よくある軟派であり、彼女を何処かに誘おうとしているようだった・・・

 

「ちょっとそこの人、香蘭が困っているじゃないか」

 

「あっ、フタツキ・・・それに斬刃くんも・・・」

 

口調は若干不機嫌であり、斬刃は少し居心地が悪そうに表情を歪めるが、明良 二樹は何時ものようにさわやかな笑みを浮かべていた。

 

不知火リュウジは、斬刃の顔の傷に覚えがあるのか一瞬ではあるが、視線を厳しくした・・・

 

その一瞬を明良 二樹は見逃さなかった・・・これはまた面白いことになると考えるのだった・・・

 

 

 

 

 

 

(・・・こいつは、青の番犬所から逃亡した斬刃だ。なんで、こんな所に・・・それにこの男は一体だれだ?香蘭に仲間が居るなんて情報は・・・・・・)

 

彼はある思惑を胸に香蘭に近づいたのだが、彼女の周りに居る”イレギュラー”の存在を今になって知るのだった・・・

 

 

 

 

 

不知火 リュウジ  彼は影に属する魔戒騎士である・・・・・・

 

その任務は、元老院より香蘭を逮捕することであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

この時間軸では、過去に”炎の刻印”の出来事があったということになっています。

さらには、神浜市もまた存在しています。

今回唐揚ちきんさんより頂きました二人の魔戒騎士が登場しました。

斬刃と不知火リュウジの二人です。

斬刃は、香蘭が苦手であり余程の事がない限り関わりたくないそうです(笑)

紅蜥蜴は、かなり強めです。

パワーファイターでありながら、戦闘技術も洗練されているといった具合です。

香蘭も警戒する仁美が連れてきた使徒ホラー 二ドルの剣でも彼女からそれなりに信頼された戦闘力を持っているのでハンプティの強化型 ハンプティマグナを鎧召喚無で倒せます。

斬刃は、強い相手とひたすら戦いたいバトルジャンキーとして描いています。

そんな相手に絡まれる紅蜥蜴さんは、色々と苦労しています。

久々の登場の真須美 巴。彼女は、明良 二樹のグループには所属せず、遊び相手として時折、顔を出していました。

彼女とフタツキのコンビの相性はばっちりであり、組んだらそれこそかなりの戦力になります。




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番外編「志筑 仁美」


志筑 仁美メインの話です。

ここ最近、オリキャラの話ばかり書いていましたので、仁美の話が書きたくなりました。

とはいってもこの時間軸の仁美ですが、改めて見直すとこのSSの裏の主人公かもしれません(汗)




 

 

 

何も知らない事が幸せだった・・・

 

それは知ってはいけない事を知ってしまった事に対する後悔の言葉だ・・・

 

 

 

少し前の見滝原中学校 入学式

 

桜並木の通学路を一人の女生徒が歩いていた。そこへ二人の同じ制服を着た少女達が駆け寄ってきた。

 

”おっはよう!!仁美!!!”

 

”おはよう、仁美ちゃん”

 

小学校の頃より知り合っていた二人の友人・・・親友ともいえる二人に志筑仁美は微笑みながら

 

”おはようございます。さやかさん、まどかさん”

 

 

 

 

 

”やった!!同じクラスだよ!!仁美!!!まどか!!!”

 

”うぇひひひひ、良かったね、一緒だよ!!!”

 

二人と同じで嬉しかった。同じ教室で学び、季節を巡り、何気ない日常の中で笑い、時には喧嘩したりしてもいつもの様な平穏な日々が・・・

 

ずっと友達で居られる日々が続いていくと思っていた・・・

 

 

 

 

 

平穏の中に生きていた少女達に”異物”が紛れ込む・・・

 

それは二人の少女の関係に暗い影を落とした・・・

 

”持つ者”と”持たざる者”の関係に変えてしまった・・・・・・

 

 

 

 

 

それは”魔法”という名の”奇跡”を手にする資格・・・

 

叶えたい願いがあるのにそれを叶えることが出来ず、近しいモノがそれを叶えて事があまりにも悔しく、それでいて妬ましかった・・・

 

 

 

 

 

 

資格がないのなれば、それを手にすればよいと・・・

 

彼女は資格を手にする為に、願いを・・・奇跡を叶える為に・・・

 

平穏だった日常とかつての親友とも呼べる二人の少女達に背を向けた・・・

 

”因果”を得る為に”望み”を果たす為に”奇跡”に辿り着く為に多くの人達の”日常”を奪い、その屍で自身の進むべき道を作り始める・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市 水上ホテル NAMIKAMI

 

夜間、停泊場につけられた巨大な豪華客船の一室で志筑仁美は寝息を立てていた。

 

少し前にアスナロ市からの協力者である”明良 二樹”らと打ち合わせをし、今現在は用意した船内の客室で過ごさせている。

 

彼女が居るのはVIPルームであり、その表情は魘されており、苦しそうにしていた。

 

今・・・彼女が見ている夢は・・・

 

 

 

 

 

(何故・・・わたくしの夢に貴女達がでてくるのですか!!!あなた達なんて、あの方の為に命を捧げてもらうだけなのに、わたくしに何かを言うなんて図々しいにもほどがありますわ!!!)

 

彼女の周りには、ここ数日の間に手を掛けた”人間”達が・・・青白く生気のない顔で迫ってくるという夢だった。

 

彼の為に・・・上条恭介の為に正しい行為をしているはずなのに何故責めなければならないのかと・・・

 

生気のない人間たち・・・亡霊たちは、憎悪のこもった視線を向ける。

 

お前の悪事を忘れない・・・お前のしたことを忘れてなるものかと・・・

 

”地獄”へ落ちろと叫んでいるようにも・・・・・・

 

あまりの不快さに意識が覚醒し、少し前に見慣れた白亜の天井が志筑仁美の視界に映った・・・

 

 

 

 

 

 

生前の行いの悪いモノは、地獄に落ち生前の悪事を清算しなければならない。

 

神に殉じたモノは死後、楽園へと魂は辿り着く。

 

古今東西様々な”死後の世界”を聞かされてきたが、今の彼女はそんなものはないと断じる。

 

”死後の世界”とは生きている人間が他者を死ぬまで絞りつくす為の方便であると・・・

 

死んだら何も意味をなさなくなるのだと・・・

 

 

 

 

 

 

『仁美ちゃぁん。随分と悩んでいるねぇ~ワタスで良ければはぁなぁしを聞くよぉ』

 

数日と経たないが自身と行動を共にする”二ドル”の声に半ば鬱陶しさを感じつつ額の汗を拭った。

 

「・・・・・・悩んでませんわ。彼を救う為なのに・・・何故、死んで当然の方たちがわたくしの夢に現れるのですか?全くもって不愉快ですわ」

 

先ほど見た”夢”は自身を罵る”両親”、”上条恭介の父”、”千歳ゆまの祖父母”の姿があった。

 

誰もが自分を恨めしそうな目で見ており、聞くに堪えない亡霊達の声が耳に今も残っている。

 

 

 

 

 

 

 

”仁美、なんてことを!!!”

 

”そんな風に貴女を育てた覚えなんてない!!!”

 

”君と恭介の仲を認めてなるものか!!!”

 

”何故、わしらを殺した!!!”

 

”恨めしぃ・・・お前が恨めしい・・・”

 

 

 

 

 

 

 

誰もが・・・両親に至っては自分が見たこともないような恐ろしい顔をしていた。

 

怨みの念を抱いた怨霊というものは、まさにあれの事をいうのだろうと・・・

 

だが彼女は、その中に”上条恭介”の姿がなかった事に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「彼だけは、わたくしを恨んでいない・・・わたくしの事を認めてくれていて、その時を待って・・・救いの手が差し伸べられるのを待っているのですもの」

 

自分を罵る亡霊のほとんどが無駄な意味のない生を消費するだけの”存在”でしかない。

 

そんな”存在”を生かしておいても無駄でしかないし、生きていても何の役にも立たないであろう。

 

真っ当に生きて往生するのは、何も出来ずに終わる俗物以外に何物でもない・・・

 

光悦とした表情で笑いながら、志筑仁美は自身の理想とする”奇跡”を叶える為に計画を練る・・・

 

『そうだね~、ワタスはその辺の所は疎いから何とも言えないけど、とりあえずワタスも何もしないのは悪いからちょっとした”知恵”と”仕掛け”で良かったの?』

 

「それで構いませんわ。最初は貴方の事は正直信用がならないし、邪魔だと思っていましたが、あのカヲルさんも割と抜けているみたいでしたから、今は貴方が居て良かったと思っています」

 

仁美は自身の”因果”を高め、奇跡を起こす方法を教えてくれたが、その方法で上条恭介が完全な状態で戻るかどうかが疑問であった。

 

いくら調べてもそのような方法こそ記されていても、その後の”結果”について何も残されていなかったのだ。

 

世の中には、様々な方法・・・例えば、美容、金儲けの手段を記した書籍や情報は錯乱としているが、具体的に成功したという話は意外と少ない・・・

 

それは、それだけの人が”上手くいっていない”ことの証明であるということでもあるらしい・・・

 

実際の所、自身の成功は飯のタネである為、簡単に明かすものではないのだ・・・

 

ここで仁美は考えた。

 

カヲルの言うように”因果”を高め、自身のソウルジェムの輝きを完成させた時に奇跡は自身の望むような結果をもたらすであろうかと・・・

 

その疑問についてはカヲル自身も死者を復活させることについてはあまりに情報が少ないと答えを貰ったが、それは彼自身がそのような願いを叶えられる確証を持っていなかったと察した。

 

おそらくはインキュベーターでは”死者を蘇らせる”ことは叶わないと・・・

 

自分は魔法少女のように誰かに叶えてもらうような甘い存在ではない。

 

誰かに与えられるような奇跡では、誰も救えないし、望みを果たすことはできない・・・

 

その疑問に応えたのは使徒ホラー 二ドルだった。

 

アスナロ市より戻ってから、計画の要を見直していた時から生じた疑問を・・・・・・

 

”死者の完全な復活について・・・”

 

『死者をふっかつさせるのはぁ、ホラーでも無理だと思うよぉ?カルマぁの奴も心の望みを映してそれっぼく見せていただけだしぃ~~、最近は見ていないけど、エリスの奴もそぉんな感じだったぁなぁ~~』

 

得体のしれない魔物であるが、それなりの”力”と”知識”を持っている事に素直に感心する。

 

『死者をこっちにぃ迎えるとぉ~世界の因果が崩壊して、全ての未来が消えるかもねぇ~~』

 

死者を復活させるのは大事であるらしいが、そんな事は構わなかった。

 

どうせ生きていても何の価値もない大勢の命の未来が消えたとしても”彼”が・・・

 

上条恭介が再び未来を得られるのならばそれで構わなかった・・・

 

(・・・上条さんもそれをワタクシに望んでいますわ・・・)

 

消えてしまった彼は、自身のあまりの境遇に嘆いているだろう・・・

 

それを救わなければならないと志筑仁美は使命感を抱く・・・

 

『魔界で燃やされてたメンなんとかがそんな事をやっていたぁよぉ。まぁ、ワタスも見様見真似でつくってぇ、みぃたぁけぇど・・・やったのは、メン何とかじゃなくて、ニグラ・ヴェヌスだっけぇ?』

 

二ドルは見様見真似で死者を召喚する魔導具を退屈を紛らわすために作っていたことがあり、仁美はそれを使うことを計画に組み込んだ・・・

 

実際に二ドルが”不可視の結界”を張り、湖の至る所には巨大な”魔針”が配置されていた・・・

 

その存在を知る者は、見滝原には今は居ない・・・・・・

 

やはり多くの”生贄”が必要であることと・・・

 

”幼い無垢な命”を発動の鍵として捧げなければならない。

 

本来ならば、”魔戒騎士の家系”であるのだが、そこは”因果を持つ少女”。

 

魔法少女の素質を持つ少女を代替えとして使用すればよいと・・・

 

「・・・あの時、仕留められなくて悔しい思いをしましたけど・・・今はこれでよかったと思いますわ」

 

志筑仁美はテーブルの上にある一枚の写真を手に取る。

 

写っていたのは”千歳 ゆま”であった・・・

 

「彼女のことは、あの方たち”フタツキ”さん達にお任せするとして・・・フタツキさん達もいつかは邪魔になりますわね・・・」

 

今は協力してもらっているが自身の行いに気づき、復讐しようと彼らに依頼する存在が現れるかもしれない。

 

そうなる前に復讐者から手段を取り上げなければならない・・・

 

用が済めば、明良 二樹達も処分しなければならないのだ・・・

 

あの”一団”はあまりにも危険すぎる為、この社会に存在してはならない・・・

 

「美樹さやか・・・佐倉杏子とあの魔戒騎士・・・明良 二樹さん達をぶつけて共倒れになってくれた方が理想ですわ」

 

”彼”を復活させるために志筑仁美は・・・望む未来を叶える為に不要な”現在”の存在の抹殺を望む・・・

 

「何かを得る為には相応の対価を払わなければなりません。ワタクシはその覚悟もあります。対価は今生きていてもどうしようもない方々ですわ」

 

口には出さないが、二ドルもまた不要な存在である。この魔物の処分は、魔戒騎士にやってもらおう。

 

彼女の思考こそには意識を通してはいないが、二ドルは志筑仁美は何を思っているのか、自分をどうしたいのかを把握していた。

 

”・・・・ワタスは仁美ちゃんに何も言わないよぉ~~、仁美ちゃんがそぉしたいのなら、そっちの方が面白いんだよねぇ”

 

使徒ホラー 二ドルは他のホラーが人を喰らう為に人間界に来たわけではなかった・・・

 

アスナロ市に現れた同じ使徒ホラー バグギのように力を振るう為に来たわけでも・・・

 

”人間界”に来たのは単純に言えば”退屈”だったからだった・・・

 

”魔界”に居ても”退屈な日々”だけであった為、”人間界”で面白い事があればというそんな理由だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタクシは奇跡を奇跡を起こして見せますわ・・・美樹さやかでは到底叶える事のできない奇跡を!!」

 

掌に空のソウルジェムを掲げる。淡い緑色の光が輝く・・・

 

これを満たし、輝かせた時・・・彼女は・・・志筑仁美は・・・

 

 

 

 

 

 

 

「奇跡と魔法は誰かに叶えてもらうのではありません。この手で叶えてこそ価値があるのです!!」

 

 

 

 

 

 

自身の理想とする奇跡と願いの象徴・・・魔法少女へと至る為に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

改めてみると志筑 仁美は割と賢い娘だと思います。

こういう賢い娘は、キュウベえは案外やり辛いので手を出さなかったし、彼女には見えないようにしていたのかもと考察したりもしましたが、魔法少女の資格を持つ子にはキュウベえが見えるそうなので、見えていない為、本当に”素質”がないのが真実かもしれません。

そういう手間のかかることはキュウベえはしないと思いますし・・・

公式でも魔法少女となる展開もないので・・・この先もおそらくはないでしょうね。

明良 二樹に対しても将来的に自分に復讐しようとする輩の依頼を受けることを考えて処分しようと考えている辺り、彼女自身無意識で今の行いは”間違っている”と気がついていますが、それに目を背けています。

そういう事にも考えが行くのに、最悪な場面で発揮されています。

第二の使徒ホラー 二ドルはバグギと違い、かなり得体のしれない存在で何を考えているのか良く分からない不気味な存在です。

手先が器用なのでメンドーサの件を同じ使徒ホラー仲間であるニグラ・ヴェヌスから聞いていて、見よう見まねで作ったりしていました。

二ドルは他の使徒ホラーとは、そこそこコミュニケーションが取れるという具合にしています。カルマやベビル、ニグラ・ヴェヌス等とは話していますが、バグギは話しかけてもバグギ自身が鬱陶しがるため会話が続かない(笑)

ここは香蘭が作って提供とも考えましたが、あのような大規模な目立つ魔道具を元老院から追われてる香蘭が用意できるかと思い、二ドルが見よう見まねで作ったという具合にしました。

気力が持つのならば、後一話分を今年中に投稿したいところです。



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番外編「明良 二樹と言う男」(後編 惨)

ちょい長くなってしまった為、分割しました。

明良 二樹の周りがどういう感じなのかを描きたかったこともあり、色々とやってみたかったというのが本音です。

次回で明良 二樹と言う男は終わる予定です。




元老院

 

各地の魔戒騎士、法師らを束ねる”番犬所”を統括する最高機関。

 

その存在は、一般社会では”秘匿”とされ、限られた者でしかその存在を知る者はいない。

 

影の存在である”魔戒騎士”の更に暗部に存在する一団が存在する。

 

”影の魔戒騎士”・・・隠密の魔戒騎士なる存在である・・・

 

 

 

 

 

その”隠密の魔戒騎士”に身を置く不知火 リュウジはここ最近になって生活の一部と化した”スマートフォン”を手に発信されたメッセージを怒りに似た視線を向けていた。

 

「ホラーに憑依された奴もそうだが、依頼する奴もホラーと同じぐらい性質が悪いじゃないか」

 

今回、明良 二樹が持ってきた話は、魔戒騎士である彼からすれば腹立たしいこの上なかった。

 

彼が居るのは、アスナロ市の外れである共同墓地である。

 

多くの移民が住まう場所である為か、共同墓地なる場所が存在する。

 

彼は、元老院より”魔戒法師 香蘭の逮捕”を命じられ、ここアスナロ市に来ていた。

 

色々あって、明良 二樹と関わっているがあの”外道”には、憤りしか感じられず、何故このような存在がホラーに憑依されることなく”悪事”を堂々と行っていることに納得がいかなかった・・・

 

「・・・・・・お前が納得がいかないのは、まだまだお前が人の業の深さを陰我の深淵を見たことがないからだ」

 

振り返るとそこには、ドレッドヘアーの大男 紅蜥蜴が不知火 リュウジを見ていた。

 

「・・・紅蜥蜴。あんた、今日もここで・・・・・・」

 

「あぁ、俺が犯した”罪”と向き合う為に此処に来た・・・また此処で罪を犯すことを告白しにな・・・」

 

不知火 リュウジには、もう一つだけ納得が出来ないことがあった。

 

それは、目の前の魔戒騎士があの外道ら、明良 二樹、香蘭、斬刃と肩を並べていることだった・・・

 

 

 

 

 

彼が明良 二樹らと関わり始めたのは、香蘭逮捕の為に彼女に近づいたのは数週間前の事である・・・

 

 

 

 

 

呆れたように不知火リュウジを見る斬刃であるが、不知火リュウジは内心、逸れモノである斬刃に対し厳しい視線一瞬だけ向け、その胸の内は憤りを感じていた。

 

斬刃・・・元青の管轄の魔戒騎士であり、ホラーと戦うことに異常な執着をし、助ける人々を助けず、むしろホラーへ生贄として喜んで差し出したという魔戒騎士にあるまじき逸れモノ。

 

自らの”闘争心”を増長させ、師であり父親をも斬り、さらなる”血生臭い戦闘”を好むようになった。

 

その噂は、影の魔戒騎士達の間では、各地を転々としては他の魔戒騎士に勝負を仕掛け、そのまま斬るという通り魔のような行為を繰り返しているというモノ・・・

 

だが近頃になって、その消息が途絶えていた。おそらくは強い大物ホラーに遭遇し、そのまま喰われたのではないかと噂が囁かれていたが・・・

 

元老院の”斬刃”の評価は、常軌を逸した”闘争心と戦闘欲”を持った人物である。剣の腕こそは平均的な魔戒騎士を上回ってこそはいるが、称号を得た魔戒騎士らと比べると二歩も三歩の遅れているというものであった。

 

抑えの効かない存在でもある為、放っておいても自らの力以上の存在に手を出し返り討ちにあってそのまま命を落とすであろうと元老院の神官より語られている。

 

斬刃が仮に暗黒騎士 呀と遭遇などすればその場で斬られるか、喰われてしまうかのどちらかあるいは両方かもしれない・・・

 

元老院が最も関心を寄せ、追っている存在である”魔戒法師 香蘭”と比べれば”斬刃”は放っておいてもそのまま破滅するだけの野良犬に過ぎなかった・・・

 

行方が途絶えたという話が聞こえてから、影の魔戒騎士達はそういう結末に至ったかと納得してしまい、自己完結してしまった。

 

不知火 リュウジもそのように思っていた。だが、行方不明の逸れ魔戒騎士が目の前に居り、香蘭の直ぐ近くに居る。

 

(・・・香蘭に近づいたと思ったら、斬刃まで居るとは・・・それにこいつは、ただの一般人なのか?)

 

不知火 リュウジは香蘭にまさか協力者がいるとは思わなかった。

 

居たとしても香蘭が”隠れ蓑”として利用するなどの悪辣非道な手段で無理やり協力を取りつけたとしか考えられない。

 

斬刃はともかく、明良 二樹は単なる一般人なので無視しても良いのではと考えた。

 

「あれっ!?もしかして、斬刃さんだったりします!?俺、知ってますよ!!」

 

一瞬にして馴れ馴れしい笑顔を浮かべて自身の名前を呼ぶ不知火 リュウジに対し、斬刃は戸惑いよりも不快感を抱いた。

 

「なんだ、てめぇ・・・俺の事を知ってんのかよ?」

 

斬刃自身は、この頭の悪そうな魔戒騎士は自身の追っ手かと思ったが、だとしたら期待外れも良いところだった。自身が望むのは強い”魔戒騎士”、称号持ちの魔戒騎士のような存在である。

 

見たところ自身と同じその他大勢の”鋼の鎧”の魔戒騎士であろう・・・

 

称号持ちに憧れを持たなかったわけではなかったが、自身が手に入れられたのは”鋼の鎧”であり、これを使う以外にないのが歯がゆい思いではあるが、自身の”闘争心”を満たし、刺激するのならば、自身よりも相手が強い魔戒騎士ならばそれでよかった・・・

 

「ははっ!!知ってますよ、堅苦しい番犬所から、飛び出した魔戒騎士だって、俺からしたら、そういう魔戒騎士って反抗的でまさしく戦士って感じでカッコいいって思ってますよ!!」

 

斬刃に憧れるような発言をする不知火 リュウジに対し彼は、

 

(・・・こいつ・・・やっぱり考えなしの馬鹿かよ・・・多分、人間社会に一切触れずに育った魔戒騎士の家系に育ったんだろうな・・・)

 

斬刃曰く、幼い頃から良い年齢に達するまで”閑岱”のようなある意味閉ざされた世界に居たのではないかと・・・そして、外の世界の刺激に触れて、そのまま番犬所を離れたのではと考えた。

 

魔戒騎士や法師の一部は未だに中世の頃と変わらない生活をしている者達も居るという。

 

現代でも文明社会を拒絶し昔ながらの生活を送る”村”が海外に存在するが、それと事情は同じなのかもしれない。

 

当然のことながら、外の世界に強い憧れを抱き、そのまま村を出ていこうとする者も居る。

 

彼は、そういう口なのではと斬刃は考えた。要するに単なる田舎魔戒騎士でしかないと・・・

 

「はんっ!!俺はそんな馬鹿が憧れるクソ野郎じゃねえよ!!俺を斬るつもりがないんならさっさと、目の前から失せるんだな」

 

斬刃の不快感は強く、香蘭の前であることを忘れて頭に血が上っているという有様だった。

 

その光景に香蘭は、不知火リュウジの様子に思うところはあるが、過去に自分に”守りし者”の在り方を説いたあのお坊ちゃんな魔戒法師の事を思い出す。

 

(斬刃くんも随分、気が立っているなぁ~。香蘭ちゃんは思うんだよね・・・フタツキを無視するところはやっぱり、そこらの雑魚魔戒騎士でしかないかもねぇ~~)

 

少しだけ機嫌が良くなったのか香蘭は、表情を和らげたが、至福の時間を邪魔してくれた不知火リュウジに対しての殺意はおさまっていなかった・・・

 

「斬刃くんも落ち着きなよ。ここはブックカフェだから、静かにしないといけないよ」

 

香蘭の発言に斬刃は、改めて

 

(やべえ!!この女が居るのを忘れてた!?!くそぉ、この馬鹿のせいで・・・)

 

自身の頭に血が上りやすいことと、要警戒人物を忘れていたことに冷や汗をかいていた。

 

「あっ!?!そう言えば、ここはブックカフェだった!!俺、忘れてたよ。可愛い子に声を掛けるのに夢中で」

 

気が付けば周りから冷たい視線が集まっていたが、不知火 リュウジが謝罪したことでその場は一旦事なきを得るが・・・

 

「香蘭ちゃんが可愛いのは・・・いつものことだけど・・・愛らしくて憧れる容姿をしているのは、真須美 巴ちゃんかなぁ~~。最近、またどこかに行ったのかなぁ~~」

 

香蘭の脳裏に人でありながら”限りなくホラー”に近い存在となった真須美 巴の姿を浮かべる。

 

「巴ちゃんのことなら、あまり心配はいらないと思うよ。危ない橋を渡っても何だかんだで切り抜けてしまうからね」

 

明良 二樹は真須美 巴の強運といざという時の狡猾さと機転の良さを知っている為、心配する素振りこそは見せていなかったが、内心連絡がないことに”遊び友達”が自分の知らない場所で遊んでいるのなら、自分も誘ってくれれば良いのにと少しだけではあるが寂しがっていた。

 

(・・・まぁでも、こいつは少し訳アリみたいだね。斬刃のような・・・ではないかな・・・)

 

明良 二樹は、不知火リュウジが何らかの意図をもって香蘭に近づいてきたと察していた。

 

今の彼の態度は良い感じではあるが、”演技”でしかないだろう・・・良い役者である・・・

 

この場に居ない”火車”と会わせてみて、答え合わせをしてみる方が良いだろうと考えた。

 

斬刃から聞いたが、香蘭の噂は他の魔戒騎士や法師からすればもはやホラーとしか言いようのない程、おぞましい内容で伝わっており、戦闘狂である斬刃も遭遇したくないと考えていたほどだった。

 

その香蘭を知らないで近づいてきたというのは、顔を知らなかったというのはそれなりに納得できる。

 

もしくは香蘭の事を知らないほどの下っ端の可能性も否定できない・・・・・・

 

その香蘭は機嫌を直したかのように見えるが、抱いた殺意をおさめるつもりはなかった。

 

「へぇ~~、香蘭ちゃんって言うんだ。良い名前だね」

 

不知火 リュウジの言葉に斬刃は

 

(本当に馬鹿かこいつは!?!香蘭の名前を知らないのか!!?)

 

斬刃は、魔戒騎士の間で噂になっている”最恐の魔戒法師”こと”香蘭”の事を知らない事に呆れとも言えない声を胸の内で上げた。

 

「もしかして・・・魔戒法師だったりする?俺も魔戒騎士でさぁ~」

 

(・・・おい。魔戒法師 香蘭って言ったら一人しか居ねえだろ・・・)

 

自身が魔戒騎士であることをステータスのように語る不知火 リュウジに斬刃は白い目を向ける。

 

「へぇ~~。そうなんだ・・・魔戒騎士・・・斬刃くんと同じだねぇ~~」

 

(お、おい・・・俺に話を振るなよ・・・くそぉ、あの女の腹いせに巻き込まれるの確定じゃねえか)

 

「まぁ、そうだねぇ。香蘭、最近ホラーで困ったことがあるって言ってたよね。最近になってあの廃ビルに住み着いた厄介なのが出たって・・」

 

ここで明良 二樹が話題を切り出した。その話に斬刃は初耳だと言わんばかりに視線を向ける。

 

「そうなんだよねぇ~。魔戒騎士ってすごく強いから、そこのところをお願いしても良いかな♪」

 

「さっそく、腕試しか・・・良いよ、今夜その場所に行ってホラーを倒してくるよ、香蘭ちゃん」

 

「それと斬刃さんも俺が強いってところを認めてくれますよね」

 

不知火 リュウジはいつの間にかそのホラーが現れる場所を記した廃ビルの地図を持った明良 二樹より手渡され、背を向けてその場から去るのだった・・・

 

「おい・・・フタツキ。あのバカは何処に行くんだ?」

 

ここ最近、ホラーの気配も噂も聞いていないと斬刃は声を上げたが・・・

 

「ホラーには違いないけど・・・ちょっと訳ありだったよね。香蘭・・・」

 

香蘭にホラーの事情を尋ねる明良 二樹に対し、斬刃は思わず振り返って香蘭を見た。

 

彼が見た香蘭の表情は、人の笑みと言うよりも・・・何かに満足する”獣”のそれに近かった・・・

 

「フタツキ・・・あのバカが言った場所は南にあるあの廃ビルか?」

 

「そうだよ。あそこ以外のどこでもないよ」

 

明良 二樹よりその場所を聞いた斬刃は・・・

 

(あの廃ビルは香蘭がホラーに何かしていた曰く付きの場所じゃねえか・・・)

 

香蘭が用意した悍ましい何かが潜んでいると察し、それに遭遇したら最早、命はないだろう・・・

 

「今夜は楽しみが出来た。香蘭は当然として、斬刃も来るよね」

 

「おぉ、どうせ暇だし、あのバカの最期を看取ってやるぐらいの事はしてやるか・・・」

 

香蘭が何かをしていた場所には行きたくなどなかったが、ここで行かなかったら後が怖かった・・・

 

「フタツキ~~、香蘭ちゃんは当然というのは、なしだよぉ~~」

 

「香蘭は行かないのかい?イベントとしてはそこそこ盛り上がりそうだよ」

 

「ん~~~気を遣ってくれるのは嬉しいけど、あんなのの最期を態々見に行くのもあれだから適当にその魔導具で撮影しといて、気が向いたら見るから」

 

気になるタイトルの番組をとりあえず録画をお願いするかのように話す香蘭に苦笑する明良 二樹であったが、斬刃は香蘭のあまりの関心の無さに対し薄ら寒いモノを感じていた。

 

(あのバカ・・・フタツキの事をただの一般人にしか見ていなかったから無視していやがったのか・・・まさかと思うが、こいつもこいつで香蘭と同じぐらいヤバいことに気が付かないことが不幸ってことか)

 

斬刃は、明良 二樹の”邪悪さ”さは香蘭のそれと大差ない事を知っており、魔戒騎士や法師特有の何の力もない一般人への過小評価について柄でもない溜息を付くのだった・・・

 

そして・・・・・・

 

(フタツキの奴も奴で、あの野郎に少しムカついたから、少し痛い目に遭わせたいって考えているんだろうな・・・まぁ、頑張ってくれよ、馬鹿・・・死んじまっても誰もお前の事なんか覚えちゃいねえだろうな)

 

長い付き合いというわけではないが、ふとしたきっかけで何が起こるか分からないのが、明良 二樹の周りである・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

不知火リュウジは、自身の任務である”脱走した魔戒法師 香蘭の逮捕”の事を改めて考えていた。

 

(香蘭は、いつか元老院や番犬所に反乱を企てるつもりで居るのだろうか?)

 

消息を絶っていた逸れ魔戒騎士 斬刃が居たことを見るに彼を配下かもしくは利害が一致している為、行動を共にしているのではと・・・・・・

 

”フタツキ”と言う男は、あの二人に利用されている単なる”小間使い”であろうと・・・

 

(何を考えているかは分からないが、今は香蘭の周りがどうなっているのかを調べなければ、その為には信頼を得て近づかなければ・・・)

 

他にも誰かが居るかもしれない。行方不明になった”逸れ魔戒騎士、法師”の可能性も・・・

 

「アスナロ市か・・・噂では過去に”使徒ホラー バグギ”が何度もこの地に現れたと聞いていたが、少し変わった土地のようだ・・・」

 

日々発展しているこの都市の影にある”異様な陰我”を感じつつ、不知火 リュウジは少しだけ傾いた太陽に視線を向けながら南の存在する”廃ビル”へと向かうのだった・・・

 

今まで目立った功績を上げていなかった自分に課せられた”任務”を不知火 リョウジは最大の誉れと考えていた。

 

自身が憧れる”邪骨騎士”の称号を持つ隠密の魔戒騎士のような立派な魔戒騎士に近づく為に・・・

 

 

 

 

 

 

 

その頃、斬刃が再戦を求める逸れ魔戒騎士 紅蜥蜴はとある異空間に来ていた。

 

『おぉ~~来たかぁ~~、新刊を持ってきてくれたかぁ~~』

 

豪華なソファーにだらしなく座る白い女性が緩み切った表情で”紅蜥蜴”を迎えていた。

 

「あぁ・・・約束のモノだ・・・それと浄化を願いたい」

 

『そんな堅苦しいやり取りはお前と私の間にはないだろう~~適当にやっとけばいいぞぉ~』

 

白い女性 神官 ガラムは紅蜥蜴より渡されたここ最近話題になっている文庫本のページをめくり出した。

 

「しかしお前も変わり者だな。俺の様な”狂人”を抱えるとは・・・番犬所も一枚岩ではないと言う事か」

 

『お互いに利害が一致してるだろう・・・魔戒騎士もある意味”必要悪”に近いけど、ほとんどが掟で雁字搦め・・・掟に背いてでもやらなければならないことが増えてきてるからな』

 

「それで俺を抱え込んでいるわけか。まぁいい・・・俺にとっても都合がいいし、お前にとっても都合が良いのだから、これ以上に望ましい関係はないか」

 

『そういうことだな。逃げた魔戒法師 香蘭についてだけど元老院も馬鹿な対応をしてくれたもんだよ』

 

自身の上位機関である”元老院”に無礼ともいえる発言をするが、紅蜥蜴も元老院を敬ってはいない為、咎める気もなかった。

 

「ホラーとの戦いは多くの血に塗れた忌まわしい歴史でしかない。その歴史が続く限りそういうことが続いていくことは当然のことだ」

 

『ホラーを狩る為には仕方がないと言えば仕方がないと言われてもな・・・それは魔戒騎士、法師の言い分で他の者達には関係のないことだからな』

 

紅蜥蜴と神官 ガラムは、互いに気が知れた会話を続けていた。

 

ガラムが紅蜥蜴を抱えている理由は、ホラーに憑依される前に犠牲を最小限にする為に彼を利用しているに過ぎない。それを紅蜥蜴も承知している。

 

過去の時代ならともかく今の時代は、古から続く魔戒騎士の掟では対処が難しくなってきている場面が多く、ホラーに憑依されてからだと後の祭りであることが多くなってきている。

 

騎士達に掟破りをさせるわけにもいかず、悩んでいた時に”紅蜥蜴”の存在を知り、彼と同盟を結ぶに至った。

 

とある国で膨大な陰我を抱えた権力者にホラーが憑依される前に”紅蜥蜴”は掟を破ってその権力者を斬ったのだった・・・

 

当然のことながら追手を差し向けられたが、その追手さえも斬り、独自に”陰我”を討滅する逸れ魔戒騎士として活動していた紅蜥蜴の存在は神官 ガラムにとってはあまりにも都合が良かった。

 

極秘で紅蜥蜴はこのガラムの番犬所に出入りするようになり、ガラム個人の依頼を受けつつ、自身もまた活動していた。番犬所からは、正規に活動する魔戒騎士と同じように支援も受けていた。

 

「それで今更、香蘭の事を話題に出した。言っておくが、今、あの女を斬る時期ではない」

 

紅蜥蜴の思想に沿うのならば”香蘭”は斬らねばならなかったが、斬ることは容易ではあるがその後が問題である為、手が出せなかった。

 

『それは分かっているさ。香蘭を斬ったとなれば、番犬所もあ奴の優秀な脳を利用できなくなるから色々と不味いだろう・・・だから今回、隠密の魔戒騎士が一人アスナロ市に来たようだよ』

 

「当然のことながら追手も来たか・・・隠密の魔戒騎士・・・」

 

『どうした?隠密の魔戒騎士に思う事でもあったのか?』

 

「何もない・・・今、アイツにあったら俺達は互いの立場故に斬り合うしかないと思っただけだ』

 

かつて駆け出しだった頃に共に肩を並べて戦った”邪骨騎士”の称号を持つ男の事を紅蜥蜴は思い出していた。

 

魔戒騎士の”才覚”を見出され”元老院”へ召集されて以来、会うことはなかったが・・・

 

自分の近況等、既に把握しているのは間違いないであろうと・・・そしていつか互いに対峙することも

 

アスナロ市にやってきた”隠密の魔戒騎士”はもしやと思いつつ紅蜥蜴は番犬所より背を向けて去っていった。

 

『色んな魔戒騎士を長いこと見てきたが、アイツは闇に堕ちたわけではなく、掟に疑問を抱いたが故に袂を分かった魔戒騎士・・・いや兄弟のようなものか』

 

あの男と一緒に居る時は掟の事を気にせずで居られることにガラムは気を良くするのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は既に陽が沈んでいた。

 

アスナロ市の南に存在する”廃ビル”の前に不知火 リュウジは立っていた。

 

「陰我の気配・・・にしては妙だ。何かがあるのだろうか?」

 

香蘭が手を焼いている存在が居る廃ビルへと進む。

 

その背後を気づかれないように明良 二樹と斬刃が見ていた。

 

「やっぱり此処か、おい・・・この間、香蘭がここでカクテルを作ったって言ってたが、何のカクテルか実際に見たくなかったが、そう思っても見ちまうもんだな」

 

”廃ビル”にホラーが出た情報を入手し、香蘭がそこへ行ってから奇妙な噂が立つようになったことから、その場所でホラーに何かをしたのではと斬刃は考えていた。

 

「そういうことだね・・・”カクテル”か・・・色々と考えてみるもんだけど、一番は考えたのならば実際にやってみる事なんだね」

 

明良 二樹は香蘭が行った事について何となく察したのか、気づかれないように細心の注意をするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

改めて、唐揚ちきんさんより頂きました不知火リュウジメインでの話ですが、斬刃の方がわりと出張っているような気がしないでもないです(笑)

紅蜥蜴さんは、内緒で番犬所に出入りしています。

番犬所にとっても色々と都合がよろしい存在だったりします。

次回はもう少し早く上げられるようにしたいと思います。

紅蜥蜴はあの邪骨騎士とは、過去に何かあったようです・・・



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番外編「明良 二樹と言う男」(後編 終)

募集して戴いたキャラを描いてみるというお目標を立てて自分なりに立てていましたが、それなりに満足のいく感じに描かせていただきました。

今回で明良 二樹らの番外編は完結です。

ただし本編に出てきますので、彼らの出番は続きます。


数日前・・・

 

廃ビルに現れたホラーと対峙しているのは、香蘭である。

 

「う~ん。ホラーとしては下級で大したことのない雑魚かぁ~~、」

 

『なんだと?貴様ぁ・・・人間ごときが我を侮辱するか』

 

素体ホラーの面影を残した緑色の”鬼”を思わせるホラーは、香蘭に対し爪を剥き出し襲い掛かるとするが

 

「勢いだけで大したことないね。やっぱり・・・違うか、香蘭ちゃんが凄いからかな」

 

魔導筆を振り、結界の円を描くと共にホラーを拘束するのだった。

 

強固な捕縛術により自由を奪われてもなお吼えるが、香蘭は気にすることなく歩み寄り特殊な術で加工した瓶を取り出した。

 

その中には”小さくされたホラー”が存在していた。

 

『何故だ!?一体、どういう術なのだ!?!』

 

「香蘭ちゃんのオリジナルの術式♪この術に掛ったら、対象を小さくすることが出来るんだよ♪」

 

小さくされたホラーは何とか抜け出そうと足掻いているが何もすることが出来ない。

 

その様子を香蘭は生理的嫌悪感を刺激する笑みを浮かべ一歩、また一歩ホラーに近づく。

 

『ぐぅううっ!!!?』

 

目の前の女の得体の知れなさにホラーにあるまじき恐怖を覚えていた。

 

「ホラーって適合する”陰我”に憑依して実体化するって言われてるけど、既に実体化したホラーとホラーの陰我を合わせたら・・・どんな結果になるのかなぁ~」

 

自身の知的好奇心を満たす為にある実験をこのホラーに対して行うことにした・・・

 

廃ビルからこの世のモノとは思えない悍ましい叫びが響いたのは、数十秒後の事だった・・・

 

 

 

 

 

 

数日後の廃ビルに足を踏み入れた不知火 リュウジは自身の勘がこの先に居る”何か”に対し、警鐘を鳴らしているのを感じていた。

 

(・・・なんだ?ここは陰我のオブジェがあったのは間違いない。普通なら・・・俺でも何とかなるホラーが居るんだろうけど・・・今までにない気味の悪さを感じる)

 

得物である穂先が三又に分かれた魔戒槍を構えながら進む。廃墟はかつて工場だったのか、面影こそは残すが赤い錆と苔に覆われた製造用機械にさらには割れたガラスなどが至る所に散乱していた。

 

当時の名残なのか色褪せ、文字が消えかかった計画表が壁に貼られている。

 

奥へ進むごとにその異様な”気配”は強くなっていく・・・

 

「何が居る?香蘭が・・・困っている存在・・・」

 

彼女に近づく為に提案に乗ったのだが、もしかしたら軽率な判断だったかもしれないと今更ながら考えてしまった。

 

香蘭は魔戒騎士や法師の間での評判は”最恐”であり、ある意味”ホラー”よりも苛烈であったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

曰く、殺傷能力の高い魔導具の性能を試す為にわざとホラーを人に憑依させて斬った・・・

 

曰く、咎めに現れた闇斬師を返り討ちにした・・・

 

曰く、強い肉体を持つ戦士を創造するために魔戒騎士を拘束し、人体実験を行った・・・

 

人をホラーのように怪物に変える”寄生型魔導具”を町全体にばら撒いた・・・

 

元老院に召集される程の才を持ちながら、人が本来持つべき”心”を持たない”怪物”であると・・・

 

 

 

 

 

 

 

そんな人物の逮捕を命じられた時は、不謹慎ではあったが自身に”大仕事”が回ってきたと気持ちが高揚したのを今でも覚えている。その時に尊敬する先輩騎士からは・・・

 

”厳しく、辛い任務になるがしっかりとやれよ”

 

出立の際に激励され、この任務を必ず完遂してみせると心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

多くの魔戒騎士、法師、元老院からも警戒される人物であるから何をしでかすか分からない。

 

不知火リュウジは廃墟の奥に存在する”それ”を目の当たりにし、香蘭が”最恐”であるが所以を知ることになる・・・

 

 

 

 

 

 

 

『『ああああああっ・・・・おぉおおおおおおッ』』

 

そこに居たのは今までに見たことも聞いたこともない”ホラー”・・・のような何かだった・・・

 

「な、なんだ?こ、こいつは・・・二つの陰我が・・・混ざり合っている?」

 

魔戒騎士は、ホラーの陰我を個人差こそはあれ、ある程度は感じることが出来る。

 

不知火リュウジは特にその感受性が鋭く、陰我の強さを正確に見抜くことができるのだが、目の前に居る存在は複数に”陰我”が混ざり合っており、互いの陰我がお互いに食い合っているという有様だった。

 

『『ああ、あのオンナぁあ・・・我らにこのような仕打ち・・・必ずや・・・』』

 

二つの異なる声が怨嗟の念を上げており、奇妙な肉塊が蠢きそれはゆっくりと不知火 リュウジに向かって振り向いた。

 

それは二つの顔が融合した奇形であり、異形の怪物ホラーを更に悍ましい姿をしていた。

 

魔獣ホラーというよりも陰我に塗れた醜悪な肉塊でしかない・・・

 

『『貴様ぁ・・・魔戒騎士かぁ・・・あのオンナは何処に行ったぁ!!!』』

 

吼えながら飛び掛かろうとしたが、寸前に捕縛の結界が発動しその動きを封じる。

 

不知火 リュウジは身構えたが、相手が動けないことに安堵の息を漏らした。

 

この結界はこの悍ましい怪物を監禁する為に掛けられたもののようだ。

 

悍ましい異形が自由に動けるのならば、こんな場所には居らず、元凶である香蘭を探している。

 

「・・・悪趣味なモノを・・・」

 

嫌悪感を感じつつもホラー同士を強制的に融合させる術とこのように完全に捕縛する術を操る香蘭の恐ろしさと逮捕と言う任務の過酷さを改めて思い知るのだが・・・

 

「んっ!?」

 

完全に異形のホラーを捉えていた結界が突如として解かれた。

 

『『・・・?・・・どういうことだ?』』

 

ホラーも自身の力を持ってしても破ることのできなかった結界が解かれたことに戸惑っている。

 

その様子に不知火 リョウジは内心”やられた”と胸の内で叫んだ。

 

香蘭は此処に来るように自分を支持した。

 

そして、ここには彼女がホラー同士を合成させるという実験をしており、その実験体を監禁していた・・・

 

それを解放したということは・・・香蘭が意図的に結界を解いたということである・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「カクテルって・・・そういう意味かよ。ホラー同士を混ぜるなんざ・・・あの女ならやりかねないか」

 

廃墟の屋上から見下ろすように斬刃は嫌なモノを見たと言わんかりの視線を向けていた。

 

「陰我と陰我を合わせたらどうなるかか・・・カクテルっいうのも納得だよね」

 

香蘭より撮影を頼まれているのか、明良 二樹は斬刃に応えながらカメラを回していた。

 

「ったく・・・酒の何処が良いんだ。俺ぁ、強い奴と戦う方がずっといいね」

 

「斬刃は、お酒飲めないんだったよね。飲むと倒れるんだっけ?」

 

「そこまでは弱くねえよ・・・意識してりゃあなんとかできらぁ」

 

斬刃は、酒を嗜むことが出来ない・・・彼は所謂、下戸であった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『『ぐぅうううう・・・結界が消えた?そんな事はどうでもいい・・・まずは、貴様を喰らい、力をつけ、あの女を八つ裂きにしてくれるわっ!!』』

 

合成されたホラーの意思と陰我はこのような目に遭わした魔戒法師 香蘭への復讐で一致しており、二つの陰我を持った異形のホラーがその牙を魔戒騎士 不知火 リュウジに向けるのだった。

 

魔戒槍を構え、振り下ろされた爪を刃で弾く。

 

一般的な下級ホラーのような爪による接近戦ならば不知火 リュウジも殲滅が可能であった。

 

しかしながら目の前に居る異形は奇怪な魔法陣を正面に出現させると同時にその魔法陣に腕を勢いよく突っ込んだと同時に不知火リュウジの背後よりホラーの腕が爪を伴って現れたのだった。

 

「なにっ!?!こいつ、こんな能力を持っているのか!?!」

 

限定的に空間を捻じ曲げる能力を持ったホラーも存在している。

 

空間を捻じ曲げるのならば、結界から逃れることもできたのではと考えたが、単純に考えれば、香蘭の掛けた術がホラーの能力を上回っていただけである。

 

かなり厄介な為、短期決戦で殲滅すると判断し、不知火 リュウジは魔戒槍を掲げると同時に円を描き、自身の鎧を召喚する。

 

魔界のゲートより眩い光と共にソウルメタル独特の金属音と共に不知火リュウジの身体を包み込んだ。

 

それは、鋼色の鎧であった・・・

 

鋼の鎧を纏い、不知火リュウジは、合成ホラー目掛けて、勢いよく飛び出し切っ先を勢いよくホラーの額に付きつけそのまま振り下ろすことによって頭部を切断する。

 

「近づいてしまえば・・・大したことは・・・」

 

ホラーの急所を間違いなく斬ったはずだった。

 

だが、切断された頭部と頭部を失った身体は消えることなく気味の悪い音を立てながら二体のホラーとして立ち上がった・・・

 

「な・・・分裂能力?こいつ・・・まさか攻撃すればするほど・・・」

 

不知火リュウジの不安を表すようにさらに噴出した黒い血からも這い出るように素体ホラーが出現し始めたのだった。

 

「くっ!?!なんなんだ!?!こいつは!!?!」

 

明らかに普通のホラーではなかった。

 

ソウルメタルによる一撃を受けたのならばホラーの身体は爆発四散するはずなのに、このホラーはソウルメタルの攻撃を受けても爆発四散せず、流した血と斬られた肉塊からさらに増えていく・・・

 

ホラー同士を掛け合わせたとしてもこのような能力は持てない。

 

おそらくはホラーを混ぜる際に香蘭が何かをしたことは明白であった・・・

 

迫り来るホラーの群れに不知火リュウジは追い詰められ、強い衝撃を受けたと同時に魔戒槍を手放してしまい、鋼の鎧が解除されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋼の鎧か・・・ちょっと色は違うけど魔戒騎士の鎧はあんな感じなのかな」

 

明良 二樹は鋼の鎧を見慣れたように呟いた。

 

斬刃の召喚する鎧もまた”鋼の鎧”である。大多数の魔戒騎士が鋼の鎧を纏う・・・

 

一部の腕の立つ魔戒騎士は、称号を名乗ることが許されているが、それらは少数派である。

 

「称号持ちは少数派だからな。継承されていない鎧と称号もあるらしい」

 

斬刃は、感情を感じさせない口調で応えた。彼自身も称号持ちに憧れを・・・

 

黄金騎士 牙狼の称号に羨望をかつては抱いていたが、自身の父はと家系は称号持ちになり得なかったその他大勢の魔戒騎士でしかなく、伝手もなかった。

 

「俺には・・・関係もない話か・・・あの馬鹿、少しはマシな面になったみたいだが、やっぱり剣の腕は平均より少し下ってところだな」

 

自分に憧れたと言った割には、剣の腕は残念だと判断し斬刃は背を向けた。

 

「どうしたんだい?斬刃?最後まで見ないの?」

 

「分かりきった勝負なんざ見ても面白くねえだろ」

 

「まぁ、そういわないでよ。最初はつまらなくても見ていると盛り上がってくるかもしれないよ」

 

「あぁん、どういう・・・」

 

彼ら二人を横切るように一人の男が不知火リュウジの元へと飛び降りたのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

異常な細胞分裂と斬った肉片、流した血が個別のホラーに変貌していく様に不知火 リュウジは追い詰められていた。

 

思わず槍を手放してしまい複数のホラーによる攻撃を受けてしまい、四肢につけられた傷から血が流れる。

 

冷たいフロアを埃を上げながら転がりながら、彼はこの状況に諦めていなかった。

 

だが決定的な手段がなく、この合成ホラーは攻撃すればするほど、また肉片を散らしてしまえばそこからまた分裂する”プラナリア”の如く増えてしまうところが厄介であった。

 

数体のホラー達が吼えながら迫ってくる姿に自身の最期を感じながらも手放してしまった魔戒槍に向かう。

 

「うおおおおおおおおっ!!!!」

 

自身を鼓舞し突き進むが鎧は既に解除されてしまっている。

 

せめて一太刀、報いるべく自身を振るいだたせる。

 

突如として巨大な”魔戒斧”が不知火 リュウジの前に振り下ろされるように飛び込み、数体のホラーを切り裂くと同時に消し飛ばした。

 

まるで不知火リュウジをホラーから護るように・・・・・・

 

それは、赤い装飾をされた黒い刃の”魔戒斧”であり、その大きさが桁違いである。

 

魔戒剣が変化した斬馬剣を思わせる程巨大なモノだった・・・

 

「な、なんだ・・・この巨大な斧は・・・」

 

戸惑いの声を上げる不知火 リュウジの前にその男は降り立った。

 

「心を乱すな・・・今この場で冷静でなければ、この化け物に命を奪われるぞ」

 

筋骨隆々の逞しい体躯の特徴的なドレッドヘアーの男が一振りの斧を構えながら、細胞分裂により巨大化していくホラーに視線を向けていた。

 

「この化け物・・・香蘭が何かしたとして間違いないか。不本意だが、預かっているモノの力を借りなければならないか」

 

『ようやく”鎧”を使ってくれるか、紅蜥蜴よ。さぁ、主が授かった”力”を召喚するのだ』

 

年季の入った老人の声が紅蜥蜴の腕より響く。口調は何処となく喜色の念を載せている。

 

「・・・授けた?お前達が俺にすり寄って来ただけだろう。まぁいい、こいつを手際よく片付けるには、預かっているこれを借りるぞ」

 

紅蜥蜴は自身の意思により魔戒斧を手元に手繰り寄せる。巨岩を思わせる斧が意志を持つかのように紅蜥蜴の元に向かっていく光景に不知火リュウジは・・・

 

(だ、だれだ?この騎士は?こんな騎士が居るなんて知らないぞ。紅蜥蜴と言う名は、何処かで・・・)

 

彼の戸惑いを払うように紅蜥蜴は二振りの斧を掲げると同時に魔界のゲートを開き、鎧を召喚する。

 

眩い光と共にソウルメタル独特の金属音を響かせたと同時に不知火リュウジの鋼の色ではない、本来は”赤”であるはずの色が所々黒く塗りつぶされた口元の牙を隠した鋭利な突起を両肘に供えた魔戒騎士が立っていた。

 

両肩には斧が楯のように具えられており。腕を交差すると同時にそれらを獲物として両手に取り、構えた。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ~~、久しぶりに見たよ、紅蜥蜴の鎧を着た姿」

 

上機嫌に感嘆の声を上げる明良 二樹に対し、斬刃は初めて見た紅蜥蜴の”鎧姿”に目を奪われていた。

 

「な、あいつ!?!称号を持っていたのかよ!?!」

 

「いや、紅蜥蜴は称号持ちを名乗ってはいないよ。アレは単に預かっているだけで必要があれば借りているだけだってさ」

 

「な、なんだとっ!?」

 

斬刃は、紅蜥蜴と共闘することもあったが彼が鎧を召喚するところをこれまで見たことがなかった。

 

ハンプティですら鎧召喚無しで殲滅してしまう程の強さを持つが故に鎧を必要とする場面に巡り合わなかったのだ。

 

明良 二樹の言葉を証明するかのように本来は赤く輝くはずの鎧が所々黒く塗りつぶされているのは、彼がその称号を受け入れず、名乗っていない為であるからである。

 

「最初はつまらなくても最後まで展開を見てみるものだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬られるたびに分裂、流した血からも数を増す合成ホラーに対し、紅蜥蜴は魔戒斧を巨大化させ横一線に斬るというよりも圧倒的な力で肉片、血すらも残さずに消し飛ばす。

 

再生能力と分裂能力をも上回る威力に不知火リュウジはもちろんのことながら、影で見ていた斬刃もまた驚いていた。

 

そして、紅蜥蜴との戦いは自身が思う以上に”最高のモノである”の再び認識するのだった。

 

『『な、なんなんだ?我らの身体を消し飛ばすとは・・・法術ではない』』

 

純粋な武器を振るう器量が圧倒的であるが為にできる芸当である。

 

限定的に空間を演じ曲げる能力を使い、奇襲を掛けようとするが・・・

 

「そこか・・・」

 

真上から現れた合成ホラーを二振りの斧を交差させて切り裂くと同時に消し飛ばした。

 

鎧を解除したと同時に紅蜥蜴は不知火 リュウジに視線を向けた。

 

不知火 リュウジは目の前の魔戒騎士の強さにただ圧倒されていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を明良 二樹に渡していた魔導具を通じてみていた香蘭は残念そうに溜息を付いていた。

 

「あっちゃ~~。紅蜥蜴君が来ちゃったか・・・まぁいいか、とりあえず痛い目に遭わせたからこのぐらいにしてあげようかな」

 

本来はあの実験体に喰わせる予定だったが、それも大いに狂ってしまった。

 

そのことに怒りを抱く程の執着もなかったので、目の前にあるモニターの映像を切り香蘭は部屋を後にするのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから紅蜥蜴が明良 二樹がまとめ役であり香蘭も斬刃もその仲間である事を知る。

 

そして多くの”陰我”を・・・それに近いモノを抱えた存在が集まっていることを・・・・・・

 

魔戒とは無関係でありながら、それらを知り、悪事を働く明良 二樹と最恐と名高い魔戒法師 香蘭、血なまぐさい戦闘狂 逸れ魔戒騎士 斬刃とは表面上は仲間として接していたが、その心の内はこのような外道達が大手を振るっているのが納得が出来なかった。

 

さらには、逸れ魔戒騎士 紅蜥蜴の件もだった・・・

 

彼は他のメンバーと違い、真面すぎるのだった。彼は彼で”陰我”と対峙し、それらから人々を”悪”を持って斬ると話してくれた・・・

 

だからこそ納得が出来なかった・・・彼の様な強く、それでいて真面目な騎士がどうしてこのような一団に身を置いているのかと・・・

 

事実彼は、明良 二樹に依頼されてホラーを斬ることはあるが、被害を最小限に食い止めるべく動いている。

 

表面では自分は、軽薄で軟派な頭の悪い男で通しているが、紅蜥蜴は自分を隠密の魔戒騎士であることを見抜いていた。

 

紅蜥蜴はそのことを特に明良 二樹に告げることもなく、香蘭の気を引こうとする軽薄な青年を今も演じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ホラー ガマール討伐の為に呼び掛けに応じたメンバーが bar ”Heart-to- Heart ”に集まっていた。営業時間は既に過ぎており、彼ら以外誰も居ない。

 

「やぁ、みんなよく集まってくれたね。」

 

明良 二樹は集まったメンバーに笑いかける。

 

「大量にホラーが出たんだろ。雑魚には違いないが、俺は強くならなくちゃいけないしな」

 

斬刃は壁にもたれかかる紅蜥蜴に視線を向ける。あの日、紅蜥蜴の力を目の当たりにし、あの力と全力で戦いたいと強く思うようになっていた。

 

今のままでは、紅蜥蜴と互角に戦うことはできない為、強くなるため様々な実戦を積んで剣の腕を上げる魂胆であった。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

片目を隠した長髪の青年 植原 牙樹丸は距離おいて俯きがちでカウンター席に座っている。

 

傍では香蘭に不知火 リュウジが話しかけていて、それを香蘭が相手にしないといういつもの光景があった。

 

火車はその様子に不知火リュウジが抱えている事情を察して苦笑する。

 

聖 カンナはなんでまた香蘭なんかに惚れるのだろうと疑問符を浮かべるが、鼎 などかより

 

「嫌な目を忘れさせるぐらい好きってことじゃないかな。えへへへへ」

 

こんな時間にBARに何故いるのかと思うところがあるが、今夜の依頼の件もあり一晩だけ、寝床を火車が提供していたのだった。

 

各々が思い思いに過ごしている雰囲気を変えるように明良 二樹が声を上げた。

 

「さぁ~~てと、人を食い物にしているブラック企業を潰しに行きますか」

 

彼の言葉を一部の者は”お前がそれを言うか”と反論するが・・・

 

「陰我に塗れているのは僕自身も認めているさ・・・だからかな、お前達が人の命を使ってせっせと積み上げたモノを壊したくなるのさ・・・ホラーだから殺されても文句は言えないだろう」

 

自分の”性分”は”悪”以外の何物でもない。故にその”悪”に従って生きている。

 

これ以上に幸福な事はないと明良 二樹は考えている。

 

人生を最も幸福に生きることに”自己肯定”がある。

 

人が最も否定しないものは自分自身であり、自己肯定は非常に難しい事なのだ・・・

 

自分の周りにはそういう”悪”が多く集まっている。

 

「人間って言うのは自分に正直で居る方が心と体の健康に良いんだよ、じゃあ、行きますか」

 

獲物であるホラーを狩るべく 動き出した一団を火車と聖カンナ 鼎 などかが見送る。

 

「貴女・・・依頼主の記憶を操作するんじゃなかったの?」

 

「えへへへへ。そのことなんだけど、忘れていいって言われちゃった」

 

一緒に行くはずの鼎などかが行かない事に聖 カンナは声を上げるが・・・

 

「あの人・・・今回の奴は調子に乗りすぎて、余計なモノを引き寄せちゃったらしいんすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある場所

 

自身が務めていたオフィスビルを見上げながら、男はこれまでにない高揚感を感じていた。

 

いよいよあの化け物となった常務を排除し、自身がその権力に近い場所に立つことが出来ることに・・・

 

笑いが込み上げてくる。権力の座に就いたら・・・自分は・・・と暗い欲望の影が差したと時・・・

 

彼の影より西洋の悪魔を思わせる”何か”が浮き上がろとしていた。

 

気分が高揚している彼は、そのことに気が付かない・・・

 

影より現れたホラーは彼に語り掛けようとするが・・・何者かがそのまま両断したのだった・・・

 

彼もろともに・・・・・・

 

「・・・やはりこういうことになったか。お前を野放しにして置いたら、ホラー ガマールの件以上の被害になる。故に斬らせてもらったぞ」

 

血だまりに沈む彼を一瞥した後に、下手人 紅蜥蜴は離れていた明良 二樹らと合流するのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜 アスナロ市のあるオフィスビルで怪現象ともいえる不可解な事件が起こった・・・

 

最上階に居た常務が行方不明になり、さらには集まっていた親族もであった・・・

 

獣が暴れたような痕跡と刀によって傷つけられた跡等が残っていたという奇妙なモノ・・・・・・

 

最も奇妙なのは、内部告発に動いていた”社員”が何者かに殺害されたという”事件”もまた発生しており、繋がりがあるのか、ないのか良く分からない事件だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

bar ”Heart-to- Heart ”

 

カウンターで女性客はスマホの画面にその事件の記事を表示しながら明良 二樹と話し込んでいた。

 

「私の友達がそこに勤めていてさぁ~。常務もだけどあの社員も何かと野心が強すぎて、ついていけなかったんだよね。もしかしたらって、考えているんだって」

 

女性の話を聞きながら、明良 二樹は微笑みながら

 

「まぁ、世の中の真実って、荒唐無稽な事が現実的だったりするかもしれないね。ただ関わるとただじゃすまなくなるし、これまで通りに生活することは難しくなっちゃうかもね」

 

「そんな噂のBARがある方が怖いよ。絶対に関わっちゃいけない何かが居たりするよ」

 

「じゃあ、関わらないように夜道には気を付けてお帰りなさい。いつどこで巻き込まれるか分かったもんじゃないからね」

 

レジ会計を済ませ、女性客を見送った後、明良 二樹は奥の部屋へと歩みを進めた。

 

「火車・・・後の仕事を頼めるかな?」

 

奥で調理をしている火車に声を掛けてから、明良 二樹は奥の部屋のソファーに座る人に笑いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市のとある場所に行くとこう尋ねられる・・・

 

 

 

 

 

 

”♡貴方の陰我を発散させます♡”

 

 

 

 

 

 

それは繁華街にあるとある”bar”にいる年若い店主が”陰我”を晴らしてくれるという・・・

 

 

 

 

 

 

 

”陰我は人の邪心。それを抱え込んだら、身体に悪いし、今後の人生にも悪影響を及ぼすんだよ”

 

 

 

 

 

 

 

”だから、望みを言ってごらん。君の抱えている陰我を・・・”

 

 

 

 

 

 

 

”誰を・・・堕としたいのか教えてほしいな”

 

 

 

 

 

 

 

”ぶっちゃけなよ。誰が憎いんだい?誰の死を望んでいるんだい?”

 

 

 

 

 

 

 

彼は魔戒の力を利用し闇社会で暗躍する”一団”の長である・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市にあるbar ”Heart-to- Heart ”

 

 

 

 

 

 

 

今宵も”陰我”を抱えたお客様をお待ちしておりますよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしながら、お客様・・・だからと言って調子に乗ってはいけませんよ・・・・・・

 

 

”陰我”を増長させたら、お客様自身が誰かの手でこの世から消えてしまうかもしれませんよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

  番外編「明良 二樹と言う男」 終幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

三話程で終わらせようかと想定していましたが、予想よりも長くなってしまいました。

本編で、見滝原に彼らは襲来の予定です。

頂いた最後の魔法少女が出ておりませんが、彼女は本編で出てくる予定ですよ。

意外な人物との絡む予定です。

不知火 リュウジの苦難は今も続いております。香蘭の悪辣さもですが、紅蜥蜴が強すぎるのではないかと思わなくもないのですが、牙狼を模して造られた魔号機人 凱と共にグループ内では最高戦力として数えられているので、これぐらいでも良いかなと思うようにしています。

紅蜥蜴の鎧は本来は赤いんですが、”闇を照らす者”の流牙の牙狼のように一部の輝きが黒く塗りつぶされています。

このグループらは志筑仁美と合流し、見滝原の魔法少女、魔戒騎士、暗黒騎士一行とぶつかる予定です。

次回は、本編に行きたいと思います。



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第弐拾捌話「 転 廻 (肆)」


本編に番外編の方々が本格的に絡みます。




 

 

 

巴マミと千歳ゆまは、アスナロ市よりきた。メイ・リオンの誘いと提案により、見滝原のホテル最上階のレストランで会話と食事を楽しんでいた。

 

「それでさぁ~~、一緒になってガツンと言ってやったんだよね♪詢子さんと」

 

メイは二か月前にシステムの導入の為、見滝原に訪れており、その際に頭の寂しくなった親父を鹿目詢子という営業職の社員と一緒になって目にモノを見せてやったことを痛快に話していた。

 

「そういうのって、なんだかスカッとしますね。今も昔もやり方を変えない偏屈親父の焦る姿は、不謹慎ですけど思わず、にやけちゃいますね」

 

マミは少し愉快そうに笑った。物騒な話とかではなく、軽く仕返しをした話は久々だった・・・

 

その頭の寂しくなった鹿目詢子の上司は、今では新しいやり方を素直に学んでおり、かつての様な嫌な偏屈親父ではなくなっているとのこと・・・

 

「メイお姉ちゃんって、すごいんだね」

 

ゆまは年が年なのでメイが何をしたのか、完全には理解できなかったが、メイが大学生でありながら既に自身の会社を立ち上げていたこと(社員は彼女一人であり、社長職も兼ねている)ゆまが知らないことを色々と知っている事に素直に感心していた。

 

「ゆまちゃん、もっと褒めて褒めて♪マミちゃんも褒めても良いよ♪」

 

「本当に凄いですね。メイさんは・・・それに何だかカッコいい」

 

マミは素直にメイ・リオンが、自身の力でしっかりと生活基盤を作っている事と自分の居場所は自分で作る努力をしていることに感心していた。

 

「そういってくれると嬉しいかな。ボクは、ボクなりにやりたいことをやっているだけなんだけどね」

 

メイの生い立ちは、過去に交通事故で両親を亡くし、その後祖父母に引き取られたが、謎の死を遂げたことにより一人になったと聞かされた。

 

「だからかなぁ~、マミちゃんとゆまちゃんはボクとしては他人とはどうしても思えないんだよね~」

 

少し寂しそうな表情を見せるモノの直ぐに明るく笑い、

 

「今日は!!思いっきり、楽しもう!!!一度しかない人生は、楽しんでなんぼだよ♪」

 

「そうですね。ゆまちゃんも一緒に今夜は楽しんじゃおうか」

 

「うん!!!」

 

笑顔で楽しんでいる三人の様子を青く輝く蝶がその様子を見ていたが、すぐに離れた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

使い魔が巴マミの現在の様子を主である 暁美ほむらへと伝える。

 

「メイがこっちに来ていたなんて・・・巴さんと千歳ゆまが一緒に居るなんて珍しいわね」

 

アスナロ市で色々と気を遣ってくれた彼女が一緒ならば、巴マミと千歳ゆまも大丈夫であろうと思う。

 

自身もまた彼女との交流があって今があるのだから・・・

 

それに三人が楽しんでいることろを邪魔したくないという気持ちが強かった為、三人をそっとしておくことにするのだった・・・

 

「ほむら、マミの奴はどうしたんだ?」

 

「巴さんは、私の知り合いと一緒に居ます。小さな女の子も・・・・・・」

 

「あ、その小さな女の子ってゆまちゃんだね。ほむらの知り合いと一緒って、なんだか不思議な気持ちだよね」

 

「なんだよ・・・今夜はマミはお楽しみかよ・・・まぁ、大変だったみたいだから、時々休んでも良いよな」

 

ほむらとさやかから、マミの近況を聞き、彼女も彼女で”守るべき希望”が傍にあることを杏子は知り、物騒な集まりに誘う事に戸惑い、明日学校で顔を合わせた時に話をしようと思うのだった・・・

 

(ジンお兄ちゃんも来ていて、両親のところに・・・メイがこっちに来ているから、まさか、カラスキさんも来ていたりなんてことは・・・)

 

まさか、アスナロ市で世話になった京極神社の神主こと京極 カラスキが明日、美樹さやかと接触することになるとは思ってもいなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、見滝原の街に一人の青年が降り立った・・・

 

パーカーのフードを目深に被り、周囲を品定めをするように視線を巡らす。

 

いつもの聞きなれた木々の騒めく音が耳に入るが、彼 植原 牙樹丸は穏やかに笑みを浮かべる。

 

「慌てないでよ。沢山食べられるから・・・あのお嬢様が食べていいって言ってくれたからね」

 

手元には先日、支給された”スマートフォン”が存在しており、その画面には”見滝原中学校襲撃計画”のタイトルが記載されていた。

 

この連絡用に渡された”スマートフォン”に記録されたデータを読む度に彼、植原 牙樹丸は普段の物静かな様子ではなく、これまでになく気分が高揚していた。

 

沢山の人間を”彼女”に捧げてきたが、今回は若くて瑞々しい少年少女の魂と肉体を好きなだけ捧げてよいというこれまでにない好条件であったからだった・・・

 

襲撃メンバーに真っ先に植原 牙樹丸は志願した。

 

普段ならば人嫌いであり、街に出たら出たで気分が酷くなり吐き気すらするのだが、今回だけは人混みに出ても平気なほど、気を良くしていたのだった。

 

明日には、決行されることになっており、合図が上がり次第”無差別攻撃”を仕掛けろと言うのが、依頼者からの希望であった・・・

 

「二樹も良い仕事を回してくれるじゃないかぁ~。あぁ、改めて彼の誘いに乗ってよかったと思うよ」

 

奇妙な、発作の様な笑いを上げる彼を怪訝な視線を周囲は向けるが、彼は気にすることなく目的地へと向かう。

 

「仕事もしないといけないな・・・依頼人の希望にはしっかりと添えられるようにしないと・・・」

 

スマートフォンの画面に記載された文章化された”希望”を見ながら、植原 牙樹丸は準備を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、依頼者である志筑仁美は上機嫌な様子で自身の計画した”見滝原中学校襲撃計画”の概要を見直していた。

 

アスナロ市より来客用のヘリを使い、協力者である”明良 二樹”らとその仲間達を迎え入れ、ささやかなではあるが歓迎会を開き、交流を深めた後、今に至っている。

 

まとめ役の明良 二樹はもちろん、逸れ魔戒騎士の斬刃、不知火 リュウジ、鼎 などかという魔法少女が来ている。

 

既に見滝原に入っているメンバーが二人居り、訳ありの一般人と魔法少女が一人とのことだった。

 

来ていないメンバーも居り、その中に香蘭と紅蜥蜴の名前があった。

 

香蘭は魔戒騎士や法師、番犬所に追われている為、今回はバックアップとして魔導具等の提供を行うことになっている。

 

紅蜥蜴は最高戦力ではあるが自身を否定するような視線と物言いが気に入らず、今回の件は志筑仁美の希望で外している。だが、何か行動を起こすかもしれない為、香蘭にその監視をお願いし、万が一の邪魔を阻止すると同時に同士討ちをしてくれれば、彼女としては望む限りであった・・・

 

将来的には、明良 二樹もまた志筑仁美にとっては邪魔な存在になる為であるからである・・・

 

「いよいよですわ・・・わたくしが奇跡を叶える時が・・・」

 

彼を切り捨てた俗物への制裁と奇跡を叶える為の”因果”を爆発的に高める為の生贄として志筑仁美は、自身の通う学校関係者を生贄とするつもりであった・・・

 

盛大に狼煙を上げたと同時に、アスナロ市からの”協力者”と自身の戦力を動員して一気に、そこにある命を刈り取る。

 

空のソウルジェムが満たされ、輝いた時が楽しみで仕方がなかった・・・

 

まるで収穫祭ではないかと志筑仁美は笑うが、収穫されるのはこの先生きていても無駄に生を浪費するだけのただ、息をするだけで何も為さない存在である。

 

「その先には何もありませんわ・・・だったらここでわたくしの役に立ってくれた方が有意義というものです」

 

志筑仁美は、クラスの集合写真を取り出すとそれをライターで火をつけた。

 

燃え上がる光景に志筑仁美は静かに笑った・・・

 

燃えてしまえ、彼を否定した世界などきれいさっぱり消えてしまえと・・・

 

自分を否定した”魔法少女”達も・・・希望ではなく絶望を見せた貴女達には・・・

 

偽りの”奇跡”ではなく、本物をこの手で起こして見せると・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・僕も色々と手を貸してみたけど、ちょっとばかり抜けてたことは流石に謝るよ」

 

物陰から志筑仁美の姿を確認し、人型 インキュベーター カヲルはインキュベーターでも死者の蘇生が叶わないことを今更ながら知ることになった。

 

上条恭介を復活させても肉体こそは、復活させても完全な蘇生は叶わないとのこと・・・

 

それを知った時、内心冷や冷やしたが、あの魔針ホラー 二ドルがある”魔導具”を彼女に提供することでそれすらもクリアされるとのことだった・・・

 

「これからどうなるか見ものだね・・・正義の味方は不死身とはよく言ったモノだよ」

 

カヲルは中性的で優し気な顔に似つかわしくない下卑た笑みを浮かべた。

 

”正義の味方”を名乗り、無様に消滅した”彼”もまた、攻撃隊に加わることとなっていた・・・

 

見滝原中学付近で蠍とも蟹とも人ともつかぬ怪人が目撃されることとなるのだが、それは一時の噂話でしかなかった・・・・・・

 

怪人の噂話と前後して白い”顔のない”怪物の姿の噂もあったが、この噂はすぐに立ち消えてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市に存在する高級住宅が並ぶ一等地は、既に陽が落ち夜の闇に包まれていた。

 

その夜の闇に紛れるように進む影が一つ・・・黒いローブを目深に被った男は、一軒の豪邸に真っ直ぐに向かっていく。

 

『・・・二ドルめ。ここに現れていたか』

 

男の指に嵌る”魔導輪 ギュテク”は、一軒の豪邸 志筑仁美の自宅から感じられる気配の残り香を察知していた。

 

「すでにここには居ないのか?奴は何処に居る」

 

ギュテクとの契約者バラゴは見滝原に現れた使徒ホラー 二ドル。

 

アスナロ市に現れた魔雷ホラー バグギに続く二体目の使徒ホラーである。

 

『この様子だと気配を遮断し、何処かに身を隠しているな。結界を張ってな』

 

「奴の結界はそれほどのものなのか?」

 

『魔針ホラーとはよく言ったものだが、奴自身の能力である”魔針”を使い結界を作ることが出来る。こいつが思いのほか厄介だ。如何なる方法でも捜索することが出来ない。唯一見つける方法は、目で探る以外にない」

 

「目で探る?」

 

誰にも捜索が出来ない結界が目で見えるということにバラゴは疑問符を浮かべた。結界としては、あまりにも奇妙だからだ。

 

『言葉のままだ。奴は敢えて堂々と人前に現れる。こそこそ隠れて魔戒騎士や法師の目を逃れようとはせず、敢えて目立つことで目を背けさせる』

 

ギュテクの言葉にバラゴは、二ドルがアスナロ市での魔雷ホラー バグギと相違ない程、厄介であることを察した。

 

その結界は、堂々と晒されているのだから、何かしらのアクセサリーかまたは今目の前にある豪邸の様な建築物であることの考えられるのだ。

 

『ここに現れたということは・・・奴はこの家の関係者も当然見ていたな・・・』

 

ギュテクは、二ドルが面白がって近づきそうな存在が居れば、おそらくはこの家の関係者に何かしたのではと察する。

 

「分かるか?ギュテク」

 

バラゴは、素直にギュテクのその能力の高さに関心をする。

 

『奴の残り香を調べれば何を見ていたかを察することぐらい容易だ。お前もホラーの出現した場所・・・陰我が現れた場所ならば見えるのではなかったのか?』

 

「その通りだ。どのように現れ、何をしたか見ることはできる」

 

ギュテクの言葉をバラゴも肯定する。

 

彼もまたホラーが現れた場所に意識を向けることにより、その場所で起こったことを知覚することができる。

 

バラゴが近くできたのは、志筑家の人達が海外旅行の際に購入した奇妙な面が二ドル出現のエレメント、ゲートになったことである。その後は・・・

 

「なんだ・・・こいつはインキュベーター?」

 

『これは随分と愉快ではないか。クククク、ホラーに憑依されるわけでも下僕にされるわけでもなく、自ら”陰我”に塗れるとはな』

 

二ドルが見ていたと思われる光景は、志筑仁美が白い少年より”因果”を高める方法を教わり、実行に移し、自らの両親をその手に掛けたこと・・・

 

出かけて暫くしてから、二ドルが志筑仁美の左目を潰しそこに自らの結界を作り上げた光景がバラゴの正面に存在していた。

 

そのまま志筑仁美は何処かへ行ってしまった。

 

タクシーに乗り込んだと同時に二ドルの気配は消えてしまう。

 

『小賢しい。遮断結界など張って追跡を逃れるとはな・・・』

 

ギュテクは自身が知りえないインキュベーターの技術による遮断結界により、その行方を追うことはできなかった。

 

結界を張った二ドルが志筑仁美と一緒に居る事は分かった。だが、その居場所は分からなかった。

 

元々が感知が略できない結界にさらに結界が重ねられた為である。

 

バラゴは、無言ではあるが僅かに怒りの念を抱いていた。

 

志筑仁美と関わった二ドルは、間違いなく彼女・・・暁美ほむらと遭遇することに・・・

 

『ほむらに手を出したら、お前の怒りを買うことになる・・・既に買っているか二ドルよ』

 

内心、二ドルの行く末が決まったことに同情したが、相手は戦闘能力以外でも相当厄介な性格をしている為、一筋縄ではいかないであろう・・・

 

ギュテクも二ドルの事は本質的に嫌っている為、周りに居るだけでも鬱陶しいので排除する意思であった。

 

「使徒ホラーは最凶と聞いているが、二ドルはどうなのだ?」

 

『アイツはホラーの中でも群を抜いて気が狂っているというか、いかれている。魔界でも他のホラーも関わり合いを持ちたいとは思わなかったな』

 

ギュテクより語られる二ドルの能力、その性格の性質の悪さにバラゴは早急に自身の手で斬ることを誓うのだった・・・

 

「・・・・・・これ以上、彼女を傷つけられるわけにはいかない・・・・・・」

 

『今夜は風雲騎士らと一緒に居るようだが・・・やはり二ドルとの関わりは避けられそうにないな』

 

自身の複製の会話は聞こえており、志筑仁美の行方を追うらしい・・・

 

事の発端は、美樹さやかが上条恭介の為に願った事であり、その後様々な出来事を経て今に至っている。

 

ほむら自身の境遇をさやかに話していた。

 

志筑仁美に近づけば、当然のことながら二ドルとの衝突は避けられない・・・

 

バラゴは、内心”暁美ほむら”は様々な事件に巻き込まれる運命にあることを嘆いた。

 

魔法少女と魔女に始まり、さらにはホラー等と言ったモノと遭遇する運命に・・・

 

一番は早急にバラゴが二ドルを見つけ、討滅することであるが、使徒ホラーの一体である為苦戦は免れないだろう・・・

 

不本意ではあるが、風雲騎士も目的は同じである為、今回ばかりは共闘も視野に入れておくべきかと考えをめぐらす。

 

以前の暗黒騎士 呀らしからぬ発想であるが、彼の優先すべき事にほむらの身の安全である為に、その為ならばいかなる手段をも取るつもりだった。

 

彼自身も僅かではあるが、少しずつかつての彼とは違ってきていた。

 

『二ドルの事だから至る所に仕込みを入れているだろうから、手数は多ければ多い方が良い。アスナロ市と違って戦える戦力もそれなりにあるだろう』

 

ギュテクもバラゴの考えを察しているのか、自身の複製を通じて風雲騎士がほむらと協力関係を築こうとしている事を把握しつつ、確実に二ドルを倒す算段を巡らせた。

 

『それはそうと・・・あの魔戒導師は何をしている?我をこのような姿にしたことと同じように何かをしているようだが?』

 

「ほむら君に関わることだそうだ。詳しくは私も分かりかねる・・・」

 

エルダによる”占い”によると見滝原に何らかの”勢力”が襲来するらしく、それに備えてほむらの為に彼女と縁のある”魂”と”契約”を結ぶとのことだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

暁美家では、ジン・シンロンがアスカの遺影に話しかけていた。

 

先日、アスナロ市での復興作業が落ち着いたため、心配してくれた暁美家に顔を見せに見滝原に来ていたのだ。

 

「ほむらの事だが、色々と頑張っているぜ。アスカ・・・お前も俺達の妹の為に何かするんだろ」

 

叶う事ならば安らかに眠っていてほしかったが、あのお転婆娘であり、誰よりもほむらを気に掛けていた少女がほむらの現在の事情を知れば、居ても立っても居られないだろう・・・

 

「・・・バラゴさん達を見てたら、アスカはあの人たちに願うんだろうな」

 

ほんの少し苦笑しながら、ジンはココアを供えて部屋を後にした。

 

かつてキュウベぇが見ていた半透明の少女は知っていたのだった・・・

 

死後、自身の妹分が自ら苦難の渦へと飛び込んでいたことに・・・

 

そして何もできない、伝えることが出来ないことを嘆いていた。

 

故に彼女は、生前は人として最期を迎えたが・・・今夜・・・・・・

 

”・・・私は、引き返せないかもしれない。ジン、アンタとはもう会うことはできなくなるけど、それでもアタシは妹の所に行くわ。アンタがほむらの兄でいるように・・・”

 

半透明の赤毛の少女は、青年の背を見送った後、名残惜しそうにではあるが部屋を見渡す。

 

”おばさま、おじさま。アタシ、アスカはほむらの元へ行きます。必ず、ほむらを此処に帰します”

 

駆け出すように部屋を飛び出し、青年とすれ違った・・・・・・

 

すれ違い様にジンは、最期に見た”ほむらの姉”の後姿を見た・・・

 

「・・・・・・アスカ。行ってこい、どんなになってもオレはお前の事をずっと想い続けていくよ」

 

一瞬の後姿を視界におさめた後、佇む。そこへ、ほむらの母である れいがジンの前に現れた。

 

「ジン君、気のせいかもしれないけど、もしかしてさっきのアスカちゃん?」

 

「アスカですよ・・・アイツ、ほむらの事を探しに出ていったみたいです」

 

「まあ・・・やっぱり、あの子の事が心配なのね」

 

二階から聞こえてきた足音に聞き覚えがあったのか、れいは懐かしそうに今も傍に居る”彼女”の姿を思い返すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

エルダは、ある魂と出会っていた。

 

特殊な結界で周囲を覆い、中央の祭壇には”魔戒獣”の亡骸が安置されていた・・・

 

一枚の魔戒札を掲げる・・・・・・

 

「自らの魂を・・・ほむらの為に捧げるか・・・」

 

本来ならば許されない”儀式”であろう・・・だが・・・

 

この先に現れる脅威・・・使徒ホラー 二ドル。さらにその先に存在する”死と救済”の化身・・・

 

エルダの前に赤毛の青い目の少女は、決意を秘めた視線を向ける。

 

「私は、あの子の為に一匹の獣になる」

 

全ては・・・かつて”死”をいう絶望を見せてしまった不甲斐ない”姉”にできる精一杯の”償い”だった

 

そして、それは・・・暁美ほむらに更なる力を齎す・・・彼女はそれを手にすることができるだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あとがき

アスナロ市編の方々が本格的に参入し始めました。

志筑仁美による”見滝原中学校襲撃計画”・・・

おりこ☆マギカで織莉子が行ったそれよりも性質の悪いモノになります・・・

さやか、マミ、杏子、ほむらにとっても最悪な事態が迫っているという具合です。

さやかは、次回より京極カラスキよりかつての姉”蓬莱暁美”の切り札を受け取ることになり、ほむらはほむらで自身の知らないところで彼女の為に”姉”が動きました。

バラゴもバラゴで早急に二ドルを討滅すべく動いており、場合によっては風雲騎士と手を組むことも選択肢に入れている辺り、変わってきています。

明良 二樹組では、見滝原に来ていないメンツは、火車、香蘭、紅蜥蜴が着おりません。香蘭は香蘭で割と用心深いので”風雲騎士”の事を警戒し、今回は身を隠しています。それでも性質の悪い”発明品”が出てきますが・・・

紅蜥蜴は、仁美に意見した為、外され、さらには香蘭より監視されることになりましたが、この二人が仁美の思惑通りになるかはお察しの通り・・・

仁美の船に居ますが、その辺りの様子は後々描いていく予定です。






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第弐拾捌話「 転 廻 (伍)」


志筑仁美は、とうとう来るところまで突き進みました・・・


夜の色が残った空に明るい太陽の色が混じり、紫とも青とも言えない光景が頭上に続いている。

 

ほんの僅かな時間ではあるが、星や月すらもはっきりと肉眼で確認ができる。

 

空気は冷たく、肌寒く見滝原の中心部の湖にから志筑仁美は空を見上げていた。

 

その表情は何かを決意した表情にも見えるが、薄く笑い、彼女の仁美はこれ以上にない”狂気”の色を映していた。

 

首元に下げた”空のソウルジェム”も僅かに溜まった”因果”を揺らめかせ輝く・・・

 

未だに十分な量ではないが、これを満たすことが彼女の望みであった・・・

 

数日の間に様々な出来事が脳裏によぎったが、あのまま泣き寝入りし、無様に何も出来ずにこの先を生きていく事と比べれば今の自分はこれ以上にないぐらい充実していると志筑仁美は思うのだった・・・

 

「仁美ちゃん、随分早起きだね。今日が決行するんだったよね」

 

仁美の背後より、アスナロ市より”助っ人”として協力してくれる”明良 二樹”が声を掛けてきた。

 

「えぇ・・・行動は迅速ですわ。効率的に・・・」

 

彼女の言動は、真面な思考とは思えなかった。自分の様な”悪”とは違い”正義”であると信じ、死んだ人間を救おうと突き進む純然たる”狂気”がそこにあった・・・

 

彼からしてみれば、志筑仁美は少なくとも人並みの情緒を持ち合わせていると察しているが、彼女は自身の”正義”の為に思考を停止しているとしか思えなかった・・・

 

現実に合法的に罪人を裁く”警察”もまた、自身の正義を行う為に思考を鈍くしていると何処かで聞いたことがあるがまさにその通りであると・・・・・・

 

「そうかい、じゃあ僕達はここで待機しているけど、”香蘭”の武器を渡しておくよ。何かと役に立つかもしれないから」

 

大きめのスポーツバックを手渡し、明良 二樹は手を振って、志筑仁美から離れた。その表情は呆れにも似たなんと言えないものであった。

 

(傍で見る分には面白いけど、アレは・・・正直言って、僕の事をついでに消そうなんて考えているみたいだけど・・・火車の言うとおりだったね)

 

アスナロ市に控えている”火車”曰く、志筑仁美は確実にこちらを裏切るとのこと、もしくは邪魔者として混乱に紛れて何か仕掛けてくると・・・

 

裏切りならば、香蘭辺りも油断ならないが、あちらはあちらで時期を見据えているが、志筑仁美は根拠もなく自分達を始末できると考えている・・・

 

見滝原に姿を現さないのも自身の身の安全の為であった。

 

志筑仁美は狂気に身を任せているが、その実単なる”子供”でしかないと改めて思うと不謹慎であるが笑いが込み上げてくるのだった・・・

 

「依頼された仕事はきっちりとやるよ。そっちがその気なら、こっちも容赦はしない」

 

明良 二樹の正面には二体の”魔号機人”が控えており、彼の”悪意”に呼応するようにその目を赤く輝かせるのだった・・・

 

純然たる狂気・・・自身の願いの為ならば、親を、他人を・・・友人も・・・さらには自身の住まう街にすら火を放つことを厭わない少女の行く末は・・・

 

「僕みたいな悪人は、生前と変わらぬ日々を”地獄”で過ごすんだろうけど、彼女は何処に行くんだろうね」

 

何時かは行くであろう”地獄”という楽しみを先に満喫しているであろう”兄”と”遊び友達”の笑いを想像するのは容易であった・・・・・・

 

志筑仁美の後姿は既に小さくなっていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

『仁美ちゃぁん。今日は盛大に盛り上がりそうだねぇ~』

 

左目の眼帯の奥に存在する女道化師の姿をした”二ドル”が仁美に話しかける。

 

「そうですわね。二ドル、貴女の退屈も解消されますわ」

 

二ドルもまた、志筑仁美に協力しており、彼女の指示に従う方が面白いと考え、自身も能力である”魔針”を最大限に活用するつもりであった・・・

 

『そうだねぇ~~、仕込みはしっかり根付かせたから・・・彼らの動きは、良く分かるよぉ~~』

 

魔針により、見滝原には”二ドル”の情報、監視網が張られており、人間、動物等が手駒として動かしていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子をカヲルは上のデッキから見下ろしていた。

 

興味津々と言わんばかりであり、この状況を楽しんでいる。

 

「色々と面白いモノが見られるね。死者がこの世に帰ってきた時、どれほどの結果が齎されるんだろうね」

 

赤い瞳に喜色の色を浮かべて、笑うカヲルはまるで楽しみにしていた”映画”を見るかのように笑っている。

 

「君は自分のしたことがどれだけ重大な事か、分かっているのかい?」

 

カヲルのすぐ傍に白い小動物 キュウベえが現れる。口調はいつも以上に感情が感じられ、人型ではあるが同じインキュベーターを問い詰めているようにさえも見える。

 

「重大?僕はインキュベーターらしく有意義な時間の使い方をしているだけだよ。まぁ、色々とイレギュラーはあるけど危険と言う程じゃないね」

 

「有意義な時間?君は、世界の因果律を捻じ曲げ、混乱を齎そうとしいている。これは、宇宙の・・・世界の崩壊に直結しかねない」

 

これまでのカヲルの行動はキュウベえから見ても目に余るものだった。

 

感情が存在しない自身が朧気ではあるが抱くモノの正体は・・・おそらくは・・・・・・

 

(・・・これが怒りと言うモノか・・・)

 

これまでの一連の出来事を遡っていくとカヲルの行動が元凶とも言ってよい・・・

 

上条恭介の不幸を齎した柾尾 優太を唆し・・・

 

さらには、上条恭介をホラー化させる事態・・・

 

そして今は志筑仁美に”狂気”を植え付けた・・・

 

使徒ホラー 二ドルとの遭遇、さらにはアスナロ市に居た”明良 二樹”らのような無法者達・・・

 

これらの行動の根本は、この精神疾患者ともいえる目の前の存在に齎されたモノだった・・・

 

時間遡行者である”暁美ほむら”とその影響を受け”因果”が集中し、破格の素質を持つ鹿目まどかの方が許容できる。

 

こちらは、手を出さなければ・・・

 

もしくは一方的に敵視さえしなければ、お互いに歩み寄れる余地があったかもしれない。

 

しかし、美樹さやかが姉と慕う蓬莱暁美より、教わったことがあった・・・

 

自分自身の身の丈に合わないモノを得ようとしたところで何かを得るどころか、破滅以外に訪れることはないと・・・・・・

 

「ハハハハハ。大袈裟だね。別にたかだか感情に振り回される二本足の猿が喚いたところで何かが変わるわけでもないさ。大昔からそうやってきて、何かが変わったとでもいうのかい?ハッキリ言ってあげるよ。何も変わらない・・・今も、これから先もね」

 

志筑仁美に協力していたのは、あの二ドルが”退屈”を紛らわせるのとは違い、カヲルは単純に考えなしに行動をし、状況を混乱させるという最悪の結果を齎す。

 

目的もなければ、何かをなそうとする気もなく自身の手を汚さずに高みの見物と洒落こむ・・・

 

その様子にキュウベえは何も言う気がなくなり、その場をあとにするのだった・・・

 

背後から自身を嘲笑うカヲルの声が聞こえてきたが、特に何も返す気にはなれなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伯父さん。行ってきます!!」

 

「あぁ、行ってらっしゃい、杏子ちゃん」

 

早朝、姪である杏子の登校を見送ったバドは、振り返る。来客が入れ違いに現れたのだ。

 

「あの子が貴方の姪ですか・・・貴女によく似ている」

 

「そういってもらえると嬉しいね。エイジ・・・久しぶりだな」

 

「貴方こそお変わりなく健在で何よりです。師父様」

 

バドを師父と呼び、一礼する青年は魔戒騎士であり、かつて彼が指導した”元老院付の魔戒騎士”である。

 

名を 毒島エイジ・・・隠密の魔戒騎士に所属している。

 

「隠密の魔戒騎士が此処に来たということは・・・やはり香蘭の件か?それとも、お前が探している例の逸れ魔戒騎士のことか?」

 

「香蘭の件は、既に潜入させている者に一任しています。彼ならば、立派に成し遂げられるでしょう。私がこの場に来たのは、師父様の察しの通り、私と肩を並べた紅蜥蜴が見滝原に現れると私に連絡を入れてきたのです」

 

「?どういうことだ・・・紅蜥蜴は・・・」

 

「はい・・・師父様の”ザルバ”であった、鋼の魔戒騎士の息子であった斬刃とは違い、紅蜥蜴は闇に堕ちている騎士ではありません。彼が私に連絡を入れたということはこの見滝原で何か大きなことがあると言う事でしょう」

 

紅蜥蜴の噂は、バドも知っており逸れ魔戒騎士ではあるが、自身の思想に沿ってホラーを斬る存在であると・・・堕ちた魔戒騎士でもない為、”闇斬師”もその対応には困惑している。

 

魔戒騎士、法師の掟の背いてでもやらなければならない汚れ仕事・・・所謂”暗殺者”の立ち位置に居るという奇妙な男である。

 

事実番犬所の神官、元老院でもその存在を半ば目を瞑って非公式ではあるが認めている。

 

エイジは、その紅蜥蜴と過去に共闘し、お互いに友人ともいえる程、気が知れている。

 

逸れ魔戒騎士でこそはあるが、彼は今も毒島エイジにとっては”ザルバ”である。

 

「使徒ホラー 二ドルも関わっている以上にか・・・」

 

バドは改めてではあるが、この見滝原にかつてない程、恐ろしいことが起きようとしていることを感じるのだった・・・

 

彼の懸念が現実化するのは、これから数時間後のことであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

学生らは朝のホームルームの時間を過ぎ、あと少しで三限目になる時間帯であるが、さやかはソラ、ほむら、彼女の師であるエルダを伴ってある場所に向かっていた。

 

その場所は見滝原中学校の裏の山にある古びた寺である。

 

昨夜、”霊刀”を受けとることをほむらに話しており、その”霊刀”を持ってくる人物の名を聞いたほむらが同行を願った。

 

持参する人物”京極 カラスキ”はアスナロ市でほむらが世話になった人物であることと自身の兄の友人であり幼少時にも面識があったと・・・

 

「まさか・・・ほむらの昔馴染みなんて・・・世の中って案外狭いんだね」

 

さやかは、ほむらの交友関係の広さに驚いているが、ほむら自身はそこまで交友関係は広くはないと内心反論した。

 

「そうね・・・カラスキさん辺りなら志筑さんを唆した怪異を探ることが出来るかもしれないし、何かしらの協力が得られれば心強いことはないわ」

 

「いや、既に心強いよ。アスナロ市に魔法少女の事を忘れない為の石碑を作ってくれたんでしょ。アタシ達って自業自得な存在だけど忘れないって言ってくれるだけでアタシ達には救いだよ」

 

ほむらより聞いたアスナロ市 京極神社 神主 京極カラスキは、本物の霊能力者であり、様々な怪異を感じることが出来る鋭い霊感を持っている。

 

使徒ホラー二ドルの件は、別行動のバラゴのギュテクと同じ説明を既に複製ギュテクより聞いていたが、志筑仁美に”因果”を高める方法を教えた存在が”怪異”、もしくはそれに近い存在であると。

 

本体のギュテクより複製ギュテクも”人型インキュベーター カヲル”の存在は知っており、カラスキもインキュベーターを見ることが出来るらしい。

 

霊感が本当にあるのならば、見ることが出来るらしい。

 

ほむらは、その話を聞き、キュウベえは宇宙人などではなく、宇宙人を語る何かの怪異ではないかと考えてしまった。

 

さやかもキュウベえことインキュベーターを得体のしれない生き物と認識しており、ソラはソラで宇宙における”ホラーのような存在”として見ていた。

 

エルダはアスナロ市における協力者に再び協力を乞うということには、ほむらと同じく賛成していた。

 

彼女を見たさやかとソラは、青白く無表情な彼女を見て”魔女”ではと思ったが、ほむらは、エルダがこう言う態度なのはいつもの事であると取りなすことで、彼女の存在も戸惑いこそはあるが受け入れられている

 

ほむらとエルダの間には何かしらの繋がりがあり、お互いに認め合っている雰囲気が存在していた。

 

やはり彼女は、この場に来てから何も喋ることはなく、終始無言であった・・・

 

(ほむらの師匠って、変わってるなぁ~)

 

(普通の魔戒導師ではなさそうですね。暁美ほむら・・・彼女の背後には、恐ろしい何かが控えているかもしれません)

 

暁美ほむらの異端さは、警戒すべきではあったがさやかに危害を加える雰囲気はなく、むしろ歩み寄ってきている為、彼女の背後に居る恐ろしい何かは、暁美ほむらに危害が及ばなければ大人しくしていると推測した。

 

ソラが暁美ほむらについて考えている間にも目的地に既に来ており、古びた寺の前には、京極カラスキと魔法少女 ユウリが来ていた。

 

「あら、随分と早い再会になったな。こりゃあ」

 

「あの黒い髪の女の人・・・本当にあの時の魔法少女なんだよな?」

 

ほむらの姿を見て、カラスキは数日前の事を懐かしく思い、ユウリはあの夜、真須美 巴と一緒になって”プレイアデス聖団”を攻撃した時に介入してきた魔法少女の大きく変化した様に驚きの声を上げていた

 

アスナロ市での件とユウリは、魔法少女達を悼む石碑を作る切っ掛けを作ってくれたほむらに感謝の言葉を告げた。

 

「作ったのは、カラスキさんであって私ではないわ」

 

「でも神主さんは、アンタが来なかったら作ることはなかったって言ってた。だから、アンタのお陰でアタシ達は”救い”が出来たんだ。ありがとう」

 

少女達の祈りの石碑は、彼女達がこの世界に居たことを忘れないで居る為の残された人達の精一杯の供養であった・・・

 

(そうだよね・・・恭介の事を忘れないで居ることがアタシにできる精一杯のことなんだ・・・)

 

失われた命は二度と戻らない・・・故に戻らない人達にできることは、彼らの事を忘れずにいることであると・・・故に、失われた命を取り戻すために、かけがえのない人々の命を脅かし、手に掛ける志筑仁美を止めなければならなかった・・・

 

ほむらから現在の状況を聞き、その上で手助けをしてほしいと乞われた。

 

「こっちでも厄介な使徒ホラーがでやがったか・・・まぁ、これも何かの縁だ。おいらにできることは、あまりないかもしれないけどな」

 

魔雷ホラーが魔導輪にされてしまった事にも驚いたが、ここは友人の家族が住まう街である。

 

直接戦闘に役立つわけではないが、自分のできることがあるのならばと・・・

 

カラスキはユウリに向かって振り返り

 

「と言う訳で、おいらは少しだけ見滝原でほむら達のことを手伝おうと思うんだが、その間おいらの護衛もだけど、ほむら達の助けになってくれないか?」

 

「・・・そんなこと言われなくてもそうするよ。アタシの力が必要なら、遠慮なく手を貸すぜ」

 

勝気な笑みを浮かべるユウリに、さやかは思いがけない味方を得ることが出来た。

 

この場にもし、ほむら達が来ていなかったら・・・協力を取り付けることはできなかったかもしれない。

 

話が逸れてしまったが、カラスキは見滝原にやってきた目的を果たすべく、さやかと向き合う。

 

「気を悪くしたらしたで構わない。これを受け取ることだけじゃなくて・・・人ならざる力を得ることについて、おいらはこの言葉を必ず言うよ」

 

カラスキは紫の布を解き、木箱の蓋に手を当てた。

 

「それは?」

 

かつてほむらもアスナロ市でカラスキより聞かされた言葉であり、それが改めてここ見滝原で聞かされることとなった。

 

「どんな理由があるにせよ人ならざる力に手を出した時点で、これから先、人並みの幸せを得ることはできない・・・」

 

希望を見て奇跡を魔法を得た魔法少女からしてみれば、耳の痛い言葉ではあるが・・・さやかは・・・

 

「・・・・・・神主さん。アタシはもう決めてるんだ、どうしようもない魔法少女はアタシ一人で良いって・・・だからアタシはアタシ自身の不幸を嘆くことはしない」

 

さやかは、京極カラスキより木箱が開けられ”霊刀”がその姿を現す・・・・・・

 

赤い鞘に納められた一振りの刀を・・・さやかはその手に取るのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校 二年教室

 

時刻は三限目の授業が終わり、各々が休み時間を過ごしている。

 

(マミの奴はまだ来てないか・・・)

 

杏子は登校と同時に早速、マミと話をすべく三年生の教室に向かったが彼女は居らず、担任の先生に聞いてみるとマミは少し遅れてくるとのことだった・・・

 

どれぐらいになるかは分からないが昼前までには来るとのこと・・・

 

教室を見渡すといくつかの席が空いており、事情を知っている美樹さやか 志筑仁美、保志の席である。

 

意外にも何故か、本日欠席している生徒の中には、中沢 ユウキも居た。

 

「なぁ・・・なんで、アイツ、休んでんだ?」

 

近くに居るクラスメイトの女子に話しかける。

 

「さぁ、あの真面目が取り柄の中沢が無断欠席なんて・・・珍しいこともあるもんだね」

 

「ふぅ~~ん。まぁ、そういう時もあるんだろうな」

 

「そう!!その珍しい事があったんです!!!あの中沢君に彼女が居たのを見たんです!!!」

 

「えっ!?!アイツに?このクラスでか」

 

杏子は周りを見渡すが、間違っても今、行方を追っている志筑仁美ではないと思う・・・

 

「そうじゃなくて、この学校の生徒じゃないんだ!!昨日の夕方、仲が良さそうに一緒に歩いているのを」

 

隠し撮りしたと思われる画像をスマートフォンに表示する。

 

あまり褒められた行いではないが、確かにそこには中沢ユウキと紫のポニーテールの少女が仲が良さそうに歩いている姿があった・・・

 

(うん?こいつ・・・何処かで見たような・・・何処だったけ?)

 

中沢ユウキと一緒に居る少女 ”綾目 しきみ”の姿に既視感を杏子は覚えていた・・・

 

周りの女子たちは、今日の無断欠席はもしやという話題で盛大に盛り上がっていた。

 

ゴシップ好きというか、こういう男女の話は年頃の女子達にとっては興味を大きく引くモノであった。

 

杏子はそういう話題についていけないのか、静かにその場から去るのだった。

 

教室を出るとクラスメイトの女子が自分を何やら怯えるように見ていた。

 

何故かカーディガンを着ている。

 

「どうしたんだよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

胸元を押さえ、見ていて明らかに様子がおかしかった。

 

息は荒く、目は瞳孔が見開いており、目に分かるほど汗を掻いており髪すらも濡れている。

 

彼女は背を向けて杏子から走り去った。

 

「お、おい!?!ま、待てよ!!!」

 

彼女を追いかけて杏子も駆け出した。その様子を影より金色の瞳を輝かせた少女が見ていた・・・

 

 

 

 

 

 

屋上に辿り着いた杏子は、女生徒と向き合うように前に出た。

 

「なぁ、どうしたんだよ?なにかあったのか」

 

聞き出そうとした瞬間、彼女はカーディガンを脱ぎ自身の身体に大量に巻き付いている”爆発物”であり、その手には起爆装置と思われるものを持っていた。

 

「ふぅ・・・っ!?!ふぅ・・・っ!?!」

 

歯を鳴らしながら怯えるように自身の手元を見ており、明らかに自身の意思ではない行動に怯えの表情を浮かべていた。

 

「お、おいっ!!!やめろ!!!」

 

『杏子!!!彼女は二ドルの魔針に操られている!!!』

 

「だったら、猶更何とかするしかないだろ!!!」

 

魔導輪 ナダサが目の前の女生徒が使徒ホラー 二ドルにより操られていることを看破する。

 

杏子は一瞬にして魔法少女に変身し、彼女を抑えようと駆けだすが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”わたくしに絶望を見せた貴女達魔法少女に鉄槌を”

 

 

 

 

 

 

 

目の前の少女の口から、昨日より追っている少女 志筑仁美の声が発せられたと同時に起爆装置が押され、女生徒の身体に巻き付けられた爆発物が閃光と共に巨大な爆炎と轟音を見滝原中学校全体に・・・見滝原市に響くのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

とうとう始まった「見滝原中学校襲撃計画」。開戦の狼煙は上げられ、彼女はいよいよ後戻りのできない第一歩を踏み出しました。

彼女の計画は始まりましたが、知らないところで紅蜥蜴が行動を起こしており、監視を依頼された香蘭もどうやら仁美の思惑より離れています・・・

以前からゲスト出演を決めていた邪骨騎士こと 毒島エイジ。若き頃の太師です。

バドより指導を受け”師父様”と慕っており、紅蜥蜴とは盟友です。

この作品では、エイジはバドの弟子になります。

キャラ公募の時に斬刃を破門された弟子と言うアイディアを頂きましたが、斬刃が返り討ちにし、殺害した魔戒騎士がバドの友人と言う具合にしてみました。

さやかは、とうとう”霊刀”を手に入れました。彼女も彼女で後戻りが出来ないというよりもする気はなく、前に只管進む覚悟です。

中沢君、まさかの魔法少女となにやら関係が・・・こちらは、襲撃事件が起きた前日までに遡る予定です。

ほむらを通じてアスナロ市より”ユウリ”が参戦。魔法少女として、見滝原で奮闘の予定です。

プレイアデス聖団からももしかしたら、助っ人としてくるかもしれません。

ちなみにさやかが霊刀を受け取った学校の裏山にある古寺は、スピンオフ作品 見滝原アンチマテリアルズで五人が肝試しに行った場所です。

最後の使徒もどきこと、人型インキュベーター カヲル・・・

よくよく考えてみたら、こいつの行動がこれまでの騒動の根本的な原因だと思います。

しかも考えなしに、なんとなくやらかしてしまうので、作中では香蘭に続いてある意味最も性質の悪い存在ではないかと改めて思いました・・・


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第弐拾玖話「 監 獄 (序)」

見滝原中学校襲撃編がいよいよ開始です。

志筑仁美の現在のスタイルですが、左目が二ドルに潰され、眼帯をしています。

今更ではありますが・・・・・・

左目は二ドルの居住スペースです。






見滝原中学校の屋上より上がった爆炎と轟音は、その一撃を持って”日常”を破壊した。

 

爆発により屋上の一部が倒壊し、それらの残骸が校庭に降り注ぎ、窓ガラスを割り、多くの生徒達の悲鳴と混乱の声が学園全体に広がる。

 

今回、志筑仁美が使った爆薬は、たった一握りで大型航空機を破壊することが出来る代物である。

 

それを女生徒の身体中に大量に巻き付けることによりその威力は凶悪なモノに変化し、

 

その威力は学園の屋上を破壊するに至った。

 

教師らも突然の事態にパニックを起こし、ある者は我先にと逃げ出し、またある者は生徒の身を案じて落ち着かせようと声上げる。

 

校門から逃げようと多くの生徒達が駆けていくが、入り口を中心に奇妙な模様が浮かび上がり学校全体を覆っていく。

 

それは”結界”であり、生徒たちは、学園の中に閉じ込められてしまい、見えない壁に殺到するが一部の生徒がパニックを起こした者達により転倒し、踏みつけられ、圧死してしまった。

 

結界が張られる前に学園にいつの間に来ていた志筑仁美はその様子を嘲笑った。

 

彼女が居るのは、野球部のベンチであり、そこで無様に悲鳴を上げる生徒達に対し・・・

 

「ふふふふふふふ・・・無様です・・・・・・ちょっとしたことで、慌てふためくなんて・・・もう少し落ち着いたらどうなんでしょうか?」

 

遠目から見ると、普段は周りよりも身体が大きく運動ができるということで威張り散らしていた生徒もいたが、この状況に涙目になって怯えていた。

 

首から下げている”空のソウルジェム”に”因果”が満ち、輝きが強くなっていく・・・

 

「ふふふふふふ。皆さん、盛大にやっちゃってください」

 

人間味を無くした狂気の色を浮かべた笑みと単眼となった瞳を学園の責任者が居るであろう”校長室”へ足を進める。

 

彼女は、誰一人としてこの学園に存在するモノを生かしておくつもりはなかった・・・

 

全てが”憎悪”の対象であり、自身を”絶望”の淵に堕としてくれた・・・・・・

 

彼を利用するだけ利用し、価値がなくなったら容赦なく捨てたこの”見滝原中学校”も絶望を彼に見せた。

 

故に彼女は、この学園そのものを”生贄”として捧げる・・・

 

一方的で唐突な通告であった・・・

 

突然の一個人の”狂気”により、この場に居る多くの命が犠牲となっていく・・・

 

『仁美ちゃぁん。ワタスも遊んでいいかなぁ~~』

 

眼帯の奥に存在する使徒ホラー 二ドルがこれまでにない喜色の表情を浮かべていた。

 

この惨状を”遊び”と発言する二ドルの神経は人から見ても・・・ホラーからしても異常なモノであった。

 

「いいですよ・・・佐倉杏子が死んでいなくても直ぐには動けませんわ」

 

二ドルの力を借りるまでもなく、香蘭より譲り受けた幾つもの”魔導具”もあり、護衛としての人型魔導具もこの瞬間に侍らせている。

 

二ドルは、このまま遊ばせても良いだろうと判断し、自由行動を仁美は了承する・・・

 

学園全体を”檻”にすることができたのは、二ドルの能力の賜物であるため、褒美は与えるという考えからであった・・・

 

志筑仁美の意図を内心笑いながら、二ドルは玉に乗った女道化師の姿となって学園の校門へと降り立った。

 

現れた奇怪な道化師に青ざめる生徒達だったが、彼らの事を意に介することなく二ドルは・・・

 

『いただきまぁ~~す♪』

 

一筋の光すら差さない黒い穴が開くと同時に十数人いた生徒たちの姿が一瞬にして消え去ってしまった。

 

咀嚼し、軽くゲップをした後、二ドルは満足そうに再び笑う・・・・・・

 

『ほほほほほほほほほほほほ♪もっと、もっと・・・楽しくなりそうだね。やっぱり、人間界は楽しくて飽きないんだな、楽しくなりそうじゃなくて、楽しいんだな。本当に・・・』

 

使徒ホラーに数えられる二ドルではあるが、二ドル自身は”使徒ホラー”の名に興味も誇りもなく、自分が他のホラーよりも強いのは、元々である故に、それを特別だとも思ったことはなかった。

 

昼間ではあるが、結界を作り上げることにより”夜”と同じように本来の力が発揮できる。

 

『仁美ちゃんの助っ人だけじゃ、少し手が足りないかもねぇ~。ワタスも助っ人を呼んじゃおう』

 

二ドルは、魔針の能力を発動させると同時に”陰我”のゲートを幾つも開くと同時に魔界より素体ホラーを召喚したと同時にそれらに”魔針”を撃ち込むことにより、完全に自身の手中に収めた。

 

『き、貴様っ!?!二ドル!?!』

 

『奴の開いたゲートだったのか!?!じょ、冗談じゃない!?!』

 

素体ホラー達は二ドルの姿を確認するやいなや、先ほどの生徒らのように逃げ出そうとするが、二ドルの”魔針”を撃ち込まれたことにより、激痛と共にその意志を消され、二ドルの忠実な操り人形となる。

 

『そこまで嫌わなくても良いのに・・・ワタスの話を聞いてくれたら・・・人間を沢山食べさせてあげるよ』

 

二ドルの魔針から逃れた数体の素体ホラー達は”ホラー喰い”とも呼ばれる”二ドル”に従う事がこの場でできる最善の判断であると察するのだった。

 

仮に”適合”する”陰我”があり、憑依したとしても二ドルに”力”で勝つこと等できないのだから・・・

 

満足そうに笑う女道化師の声が学園の校庭に響き渡る・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まるで監獄だ・・・・・・」

 

つい先ほど爆炎と轟音が響いたが、見滝原中学校の光景は”いつも”の日常であった。

 

一瞬だけ”非日常”の光景が映るのだが、すぐに”二ドル”の結界により、覆いつくされ誰もが普通と思う”日常”の光景を映し出している。

 

この”結界”は非常に面白い性質をしている。

 

外からならば誰でも入ることが出来るのだが、中からは決して出られないというモノである。

 

中からは外の様子が見られるが、外側からは中の様子は見えず、いつも通りの日常として認識されるというモノ・・・

 

過去にここではないが、自分も学校に通っていた頃があったと回想するが、決して懐かしくも思わず、ただ単に記憶を思い起こしただけであった・・・

 

あの頃の”植原 牙樹丸”にとって、学校は監獄以外の何物でもなかった・・・

 

”義務教育”の過程で過ごした少年時代は決して輝かしいモノではなく、”日陰者”として過ごしていた。

 

「・・・・・・お祖父ちゃんは、戦場カメラマンだったんだよな・・・・・・」

 

カメラを構える仕草をし、植原 牙樹丸はシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

”どうして祖父ちゃんの写真っていつも、祖父ちゃんがビビってるのばっかり写ってんの?”

 

”あぁ、それはな。祖父ちゃんにとって、怖い場所だからだよ”

 

笑いながら、建物の影に隠れ小さくする姿だった。

 

”怖いのにそんなところに行ったんだよ?怖かったら行かなきゃいいじゃん”

 

”ハハハ。お前の言うとおりだな。こういう怖いところだってことを伝える人が居ないと、何も知らないままで変わることなんてありえない”

 

戦場カメラマンとして、紛争地の現状を伝える為に赴き、その凄惨を語るなど講演活動をしていた。

 

”お前にだけ言うけど、祖父ちゃんはな・・・人の死を覗くことが好きでな。伝えなければならない使命感もあるが、一番の理由はそれだ”

 

祖父は、かつて”第二次世界大戦”を幼い頃に経験し、その時の光景が今も忘れられなかった。

 

恐ろしい光景ではあったが、それと同時にこれ以上にない”スぺクタル”を後になって感じたと聞かされた

 

”恐ろしいところで勇ましくできるなんて、誰も出来やしないさ。わたしのように人の死を覗くの好きであると同時に人よりも臆病であるからね”

 

そんな恐ろしい場所で使命感に燃えて”英雄的”な働きをできる人が居るのならば、いかれた狂人以外の何者でもない。

 

植原 牙樹丸は、祖父という人間が好きだったし、何よりも正直にありのままを伝えようとする姿勢を尊敬していた。

 

歴史の学校で過去の”独裁者”を本人が居ないということを前提に”度を越えた悪口”を並び立て、叫ぶ品のない教師やそれに同調して、心無い言葉を”感想”として書き出し、それを”教育”とする行いを心底彼は嫌い、人間と言うモノに嫌悪感を抱くようになった・・・

 

育った環境、国によって人の考え方は違い、一つの価値観で裁くことは一方的な押し付けであると穏やかに語ってくれた。

 

そんな祖父がある日、戦場で亡くなったと聞かされた・・・

 

悲しみに暮れる中、彼が嫌悪する教師は”自業自得の死”であると罵り、臆病者の癖に不相応な事をした馬鹿な爺と大勢の生徒達の前で語り出した・・・

 

”臆病者の癖によくやったもんだよ。この祖父さんは、本当に馬鹿な祖父さんと言うのはこういうのを言うんだぞ、お前達”

 

あまりの言い草に植原 牙樹丸はその教師に飛び掛かり、殴りつけたが、大人の腕力に叶わず、結局彼は問題児として白い目で見られ、日陰者として過ごすこととなった・・・

 

”祖父も祖父なら、アレもアレですね”

 

”臆病者の身内だ!!怯えろよ、お前の爺みたいによ!!”

 

あそこは、まるで”監獄”のような・・・というよりも人間とは名ばかりの喋る礼儀も何もない”猿”を閉じ込めておく檻だった・・・

 

そんな喋る猿が卒業し、真面目な一般人らしく振舞う光景に反吐が出た。

 

酒が入れば暴れ、子供の方がまだマシと思えるぐらい騒ぎ立てる。

 

だからこそ”この国”が嫌になり、海外へ、まるで祖父の足跡を辿るかのように海外での支援活動をボランティア活動を行うようになった。その過程で、講演活動も必要ならばこなした。

 

かつて自分を、祖父を侮辱した教師らはそのことを忘れており、恥知らずにも”立派な卒業生”として講演を依頼されたが、当時の事を覚えているかと問いかけた時、青ざめた表情をしたときは良い気味だと内心笑った・・・

 

去り際に・・・

 

”君に言ったことは、謝りたい・・・だから、水に流してもらえないか?”

 

自分の・・・学校の品位を傷つけたくないから、歩み寄ろうとしており謝罪も形だけであった。

 

祖父の死を笑いものにしたことを謝罪をしておらず、そのことを覚えてすらいなかった・・・

 

まだ”猿”の方がマシだと思う程だった・・・人間とは”猿以下”の獣だと考えるようになった・・・

 

彼は増々、”人間”が嫌いに・・・憎悪と嫌悪を抱くようになる・・・

 

無駄に数だけが多く世界中どこにでもいる人間は、共通して身勝手であり、自分の為ならば、獣の方がマシとも思える下劣な行為に及ぶ・・・・・・

 

そして、彼はとある国での紛争に巻き込まれ、死の狭間である存在に助けられた・・・

 

木々が騒めくように、そして笑う女の嘲笑に似た声で語りかけてきた・・・

 

『ワタシ、ニンゲンヲ・・・タベタイ・・・テダスケヲシテホシイ』

 

それは、人を捕食する”上位”の存在だった・・・

 

無駄に数が多く、抑制する存在が居ないだけにやりたい放題な嫌悪すべき人間を抑止する”魔界樹”の存在を受け入れ、その手伝いができることを彼、植原 牙樹丸は今までの人生で感じたことのない幸福感を得た。

 

魔界樹をその身体に宿し、”彼女”に奉仕することこそが、最も尊い行為であると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここに居るのも礼儀も何もない喚くだけの喋る猿だけか・・・」

 

志筑仁美のいうように、この先無駄に生きてただ息をするだけの何の価値もない存在・・・

 

植原 牙樹丸は、大いに彼女の”考え”に同意する。

 

現に今も聞くに堪えない悲鳴だけが聞こえ、とてもではないが人の叫びとは思いたくはなかった・・・

 

目の前に生徒を放り出して逃げ出そうとしている教師が目の前に駆け込んできた。

 

「よ、よかった!!!た、助けてくれ!!!」

 

植原 牙樹丸は裏口から学校へと侵入すると同時に飛び出してきた教職員に対し、腕を鞭に変えてそのまま締め上げるように、息の根を断つのだった・・・

 

締め上げとと同時に教職員の身体が持ち上がり、徐々にその姿がひび割れ、干からびていく・・・・・・

 

植原 牙樹丸より笑う女の様な木々の騒めきにも似た声が辺りに響き渡るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

校内に入り込んだ志筑仁美は、足元に転がるジャージ姿の教員の姿を視界に映した。

 

教員は既に息絶えており、何か恐ろしいモノに出会ったのか顔は恐怖で引き攣っている。

 

至る所が鋭い何かで切り裂かれており、足元には血だまりが広がっており、子供が水溜で水遊びをするように彼女は少しだけ、燥ぐようにステップを踏む。

 

匂いは少々刺激的ではあるが、血が弾ける光景は、ここ最近の彼女にとっては楽しみとなっていた・・・

 

「あはははははははは。こんなにも楽しいなんて!!!!今までのわたくしは何を遠慮していたのでしょうか!!!!」

 

狂ったように笑い、志筑仁美は今の自分自身を心地よく感じていた。

 

名士の出であるが故に人目を気にしていたこれまでの自分はなんと滑稽だったのだろうと・・・

 

実の父親をその手に掛けた時のあの凶器が肉の身体に沈む感触が忘れられない・・・・・・

 

母に関しては”絞殺”で手に掛けたが、物足りなさを感じた・・・

 

”因果”を直接集めるのならば、この手で・・・

 

ここ最近手に馴染んできた”ナイフ”を取り、ゆっくりと進む。

 

「今のわたくしでは、一般人程度でしかありません。因果を高め、このソウルジェムに輝きを満たした時が本当に楽しみですわ」

 

彼の復活もそうだが、自身が”力”を得ることにもまた心を昂らせる。

 

「わたくしを止めたいと願う愚かな美樹さやかをこの手で絶望させるのも悪くないですわ」

 

未だに自分の事を友達だと言っている愚か者には現実を見せると志筑仁美は歪んだ願望を抱く・・・

 

持ってきた蠍と髑髏を掛け合わせた魔導具が反応する。

 

「あの正義も味方さんも仕事をしてくれてますわね・・・」

 

頭上を巨大な蟲を思わせる何かが過った。それは、先日の”鋼殻装甲”と酷似した異形であった・・・

 

 

 

 

 

 

 

『オレは・・・オレは・・・この力で、彼女をカナシマセタこの場所をコワスンダ!!!』

 

校内で遭遇した生徒らを無差別に攻撃する異形は人の顔の内側から、蠍を思わせる生き物が飛び出したかのようなグロテスクな容貌をしており、上半身は人、下半身は蠍の思わせる胴体と8本の脚を忙しなく動かしていた・・・

 

かつて、身を滅ぼされたがその魂は”魔導具 鋼殻装甲”に取り込まれ、望まぬ生に縛られていた。

 

だが、彼の不幸はさらに苛烈を極め、志筑仁美と二ドルによりその意識を都合の良い様に改変され、支離滅裂な発言を繰り返す”操り人形”に仕立てられた・・・

 

彼の思考は既に改変させられ、志筑仁美と言う悲劇のヒロインを悲しませた悪の拠点に攻め込む正義の味方と思い・・・思いこまされていた・・・

 

校内を徘徊する”正義の味方”を名乗る怪物に、見滝原中学校は悲鳴がまた響き渡るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

遅くに登校した巴マミは、門を潜ると同時に先ほどまで見えていた光景とは違う惨状を目の当たりにした。

 

「・・・・・・これは一体、何があったというの・・・・・・」

 

目の前に広がる惨状に巴マミは目を見開いた・・・

 

半壊した校舎と施設、むせ返るような血の匂いが至る所から発せられている・・・

 

口元を抑えつつ、校門の周りには奇妙な角度で倒れている数人の生徒達に近づき、その首元に手を当てる。

 

「!?!亡くなってる・・・これは、魔女や使い魔の仕業じゃない・・・」

 

白、ベージュを基調とした生徒らの制服には無数の踏みつけられた跡があった・・・

 

「まさか・・・ここから逃げようとして・・・」

 

マミは確認するように学園の外から出ようと門を潜るが、見えない壁に当たり、外に出ることが出来なかった。

 

魔女の結界と違い、学園全体を覆った結界は一度は行ったら、二度と出られない仕様であると・・・

 

パニックに陥った生徒達は、押し寄せたが逃げることは叶わず・・・

 

何人かの生徒らは転倒し、混乱する生徒らにより踏みつけられ、そのまま命を落としてしまった・・・

 

「この結界は魔法少女のものじゃない・・・一体なにが・・・」

 

魔女以上に性質の悪い・・・それ以上に強大な力を持った恐ろしい存在が現れたと察する・・・

 

「アスナロ市に”雷獣”が出たって話があったけど、見滝原にも似たような何かが出たというの?」

 

数日前にアスナロ市を襲った未曽有の大災害は、公式では違法な兵器を持ち込まれたことによる事件であったと公表されているが、人の口に戸は立てられず・・・

 

雷雲と共に恐ろしい声を聴いたという話が伝えられている・・・

 

マミもネットのニュースなどでも見たが、違法な兵器の暴走による事件とは思えなかった。

 

アスナロ市に出向いた暁美ほむらが厄介な存在が現れたと語っていたことから、”伝説の雷獣”が実在し、それが猛威を振るったと・・・

 

「なんてことなの・・・ワルプルギスの夜が来る前にこんな事になるなんて・・・」

 

あまりの状況にマミは声を上げるが、すぐにこの状況を把握しなければと魔法少女としてテレパシーを送る。

 

『佐倉さん。聞こえる、今、何処に居るの?』

 

先に来ているであろう佐倉杏子へマミはテレパシーを飛ばす。

 

かつては、魔法少女としての在り方を巡って対立し、敵対すらしたのだが、今はそのような事に囚われている場合ではないと・・・

 

すでにマミには、佐倉杏子を拒絶する理由はなかった・・・

 

『・・・・・・その声、マミか・・・学校に今更来やがって・・・来ない方が良かったんじゃねえのか』

 

苦しそうにしている佐倉杏子の声にマミは

 

『そうかもね。でも、すぐに合流するから今、何処に居るの?』

 

『屋上だ。あぃててて・・・・』

 

屋上に視線を向けると僅かに炎が上がり、特徴的なオブジェのほとんどが半壊しているという有様だった。

 

『そこね。すぐに行く』

 

マミは魔法少女に姿を変えると同時にその脚力を持って屋上へ向かうのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上

 

『杏子・・・大丈夫かい?』

 

ナダサの声に杏子は、

 

「あぁ、ちょっと身体が痛いけど・・・」

 

後頭部にコブがあるのを確認しする。

 

「ひどいな・・・あの野郎、どんな爆薬を使ったんだ」

 

目の前の惨状に杏子は、流石にあれの爆発を近くで受けてしまったら無事では済まないと考えるが・・・

 

「なぁ、ナダサ・・・お前が守ってくれたのか?」

 

『咄嗟にね・・・突然だったけど、杏子をPROTECTするのが精一杯さ』

 

ナダサの一部が僅かであるが、皹が入っていた。許容量を超える力を発揮した為であった・・・

 

「お前なぁ・・・そういう喋りはこんな時は自重しろよ」

 

自分の身体は後方の壁に打ち付けられて痛むが、目立った傷がないのは魔導輪 ナダサが守ってくれたからである・・・

 

「それにしても・・・志筑仁美の奴・・・ここまでやるのかよ」

 

あまりの所業に杏子は怒りの声を上げる。

 

「さやかがお前の事をどんなに心配しているのか分かっているのかよ・・・お前は、さやかがどんな思いで探して、止めようとしていたのに・・・」

 

もはや、さやかの事をどんなに思っているのかさえ分からないほど、変わってしまった志筑仁美に対し、杏子は・・・・

 

「少し前までは・・・普通にアタシ達、クラスメイトで友達だったのに・・・・・・」

 

脳裏に転校したばかりの志筑仁美の様子が浮かぶ・・・

 

少し変わっていたが、気遣いができ、心優しい少女だった彼女が今や残忍極まりないホラーと変わらない存在となっていた・・・

 

「佐倉さん、無事と言ってよいのかしら?この状況・・・」

 

「そうだな・・・この有り様には、不謹慎かもしれねえ」

 

魔法少女姿のマミを一瞥した後、杏子は屋上から見える惨状に更に表情を歪めた・・・・・・

 

続くようにマミも

 

「佐倉さん。これは一体、何があったの?」

 

「あぁ、ヤバいホラーが出てきたんだが、もっとヤバい奴が学園の中に居る・・・」

 

苦々しい表情で杏子は・・・

 

「ったく、魔女やホラーよりも一番、性質が悪い奴が何の特別な力もない人間だって言ったら、マミはどう思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長室

 

血飛沫が舞い、勢いよく振り下ろしたナイフを引き抜き志筑仁美は笑った・・・

 

「酷い匂いですわ・・・やはり貪るだけの害虫とはこんなにも醜いものですのね」

 

足元の教頭の遺体を横切り、志筑仁美は部屋を後にするのだった。

 

遺されたのは、胸元を血で染めた見滝原中学校の学園長の姿であった・・・・・・

 

「もうすぐですわ・・・もうすぐでわたくしの望みが叶う時が来ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさにその通りだと思うわ。佐倉さん。実際に私も魔女の様な怪異よりも恐ろしいのは、人間だってことをここ最近で思い知らされたのだから・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

見滝原中学校を襲撃したメンバー 


志筑仁美

使徒ホラー 二ドル

植原 牙樹丸

正義の味方(再生怪人)

無数の素体ホラー

人型魔導具数体


といった具合です。学園に張られている結界は誰であろうが自由に入ることが出来ますが、出ることはできないというモノ・・・使徒ホラー二ドルを倒さない限り・・・

二ドルの能力ですが、特殊な針を使い生物を操るというモノが公式に記載されています。

この作品では、様々な特殊な能力を持っており、針を使い結界を作ったり、さらには陰我のゲートを開くことが可能です。人間だけではなく、ホラーすらも針を使い、操ることが可能です。

素体ホラーを同じ使徒ホラーである ベビルが使役していたので、こちらは非常食兼下僕とありました。

使徒ホラーは他のホラーを力づくで従わせることがあるので、特殊能力で操るというのもありえると思います。

性格も快楽主義で己の楽しみの為ならば、あらゆることを行うという非常に悪質であり厄介なモノです。

牙樹丸の過去を少し掘り下げて描いてみました。何故、発展途上国、戦地に近い場所に行ったことと人間を嫌悪するようになったかを・・・

そして・・・再生怪人として、正義の味方さんが再び・・・

意識は二ドルと志筑仁美によって、狂わされています・・・



マミさんと杏子が中心に学園で動きます。

周りは素体ホラーが多く、杏子が魔戒法師兼魔法少女ですので、協力すれば二ドル以外は何とかできる可能性も・・・






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第弐拾玖話「 監 獄 (壱)」

杏子とマミが中心に動いています。

今回、唐揚ちきんさんよりいただきましたあの娘も登場します。


見滝原中学校は、使徒ホラー 二ドルの”魔針”による結界で覆われており、快晴だった空の青さは澱んでおり、敷地内全体を瘴気や邪気が蔓延していた。

 

「酷い状況ね・・・まるで紛争地帯に来てしまったとしか言えないわ」

 

マミは周囲を改めて見渡し、一部崩れた校舎、そして至る所から漂ってくる死臭と血の匂いに表情を歪める。

 

過去に報道番組や時折、雑誌などで紹介される紛争地帯の話のままの光景であった。

 

魔女の結界の方が、不気味ではあるがこの見滝原中学校の状況に比べればマシだと思う程に・・・・・・

 

「まったくだ・・・人が死ぬ光景ってのは、いつ見ても嫌なもんだな」

 

杏子はマミに同意するように爆発の中心であった場所に視線を向けた。

 

先ほどまで居た女生徒の身体は、判別がつかないほどに木っ端微塵に吹き飛んでおり、目を凝らすと若干ながら細かく飛ばされた肉片や血の跡が屋上の至る所に存在している。

 

「・・・・・・そうね。佐倉さん、早速で悪いんだけど、一体何がどうなっているの?」

 

”死”という言葉にマミは、背筋が寒くなる感覚を覚えるが、今は自身が最も恐怖する”死”よりも目の前の状況を聞かなければならない。

 

この状況を説明せねばとマミと向かい合うが、彼女と改めて向かい合うとこれまでの”険悪”ともいえる関係が脳裏を過った。

 

「あぁ・・・マミ・・・」

 

不安そうな表情を浮かべる杏子にマミは、その心情を察し・・・

 

「今までの事は、もう水に流しましょう。私が一方的な価値観で貴女を責めて、それでいて身勝手な感情で傷つけてしまった事を謝らなけらばならないのは私の方よ、佐倉さん」

 

杏子は、これまでのマミとの確執に臆していたが、マミは杏子がそのことに責任を感じることはないと笑顔で返した。

 

「いや、でも・・・マミは正しく魔法を使おうとしていたんだろ。それに引き換え、アタシは・・・」

 

自分の為だけに魔法を使おうと過去に提案し、そのことでお互いの意見が合わなくなり、別れ、互いに牽制し、会えば一触即発ともいえる関係に至った・・・

 

「正しい事ね・・・確かに皆が理想とする”都合の良い魔法少女”を私は求めていたわ・・・でも、それが本当に正しかったのかといえば、そうとは思えなくなってしまったのよね」

 

マミの意外な発言に杏子は思わず、目を丸くするが、構わずマミは続ける。

 

「元々私は、願いも持たなかった空っぽの魔法少女だったのよ。佐倉さんと美樹さんのように誰かの為に願ったのではなく、自分自身の命惜しさに両親を見殺しにして、生きながらえたわ」

 

マミの願いがどのようなものかを聞いたことがなかったのか、彼女の意外な告白に息を呑む。

 

「何もなかったからこそ、都合の良い魔法少女を理想として、誰かの為に戦う”正義の魔法少女”を心掛けてきたわ。笑顔で私に憧れを抱く視線を向けてくれる子も居たし、魔法少女であることにやりがいも感じてはいたのだけれど・・・」

 

「だけど?なんだってんだよ」

 

「いつも虚しさと空虚を胸の内に感じていたわ。理想であろうとするたびに・・・そう、私には迎えてくれる家族が居なかった・・・当り前よね・・・私が見殺しにしたのだから」

 

故に同じ志を持つ魔法少女を仲間として求めた・・・

 

だが、理想に反すれば対立し袂を分かってしまった。

 

「・・・・・・本当に今までの私は、なにも見ずにただの絵空事の都合の良い理想ばかりを見ていた」

 

佐倉杏子と美樹さやかのように奇跡を願ったモノのそれを理不尽に失って、奪われて、壊されてしまった彼女達の心情を察することができなかった・・・

 

暁美ほむらもまた彼女達と同じであっただろうと察せられる・・・

 

彼女もまた話してくれたのだ。自身もまた大切な人を亡くしたと・・・・・・

 

絵空事の現実すらも焼き尽くしてしまうあまりに救いようのない”世界”の”真実”に一時は、自暴自棄になり、誰かの為に奇跡を掲げ、怪異から人々を救うことに意味を見出せなくなってしまった・・・

 

「だけど・・・そんな救いようのない世界でも懸命に前に進もうとする子が居た。あの子の小さな手の温もりが大きくなるのならば、何もない私にもできることがあると気づいたわ」

 

マミの表情は、決意を秘めながらも何処か穏やかなものであった。

 

「マミ・・・お前、守りたいモノができたのか?」

 

「そんな大層な事を言うつもりはないわ。ただあの子・・・ゆまちゃんがいつか大きくなって、幸せになるまでは寄り添っていきたい・・・私を必要としなくなるその日までは・・・」

 

あの日、出会った小さな手の温もりを今でも忘れられない。あの手は、自分だけではなく、これから多くの人達に差し伸べられる温もりなのだから・・・

 

その時までは自分が守り抜こうと・・・

 

あの小さな手に救われた自分が千歳ゆまにできる精一杯の事なのだと・・・

 

「そうか・・・じゃあ、早くこの場を切り上げて帰らないとな・・・待ってるんだろ、マミの帰りを」

 

昨夜、マミは小さな女の子と一緒に過ごしていると聞き、その時間を邪魔してはならないとほむらとさやかが言っていた意味を杏子は改めて知るのだった・・・

 

巴 マミには”帰る場所”と”希望”が傍にあることを・・・・・・

 

「そうね・・・この事態を引き起こしてくれた存在がこれで収まるとは到底思えない」

 

マミは、既にこの見滝原中学校を襲撃した存在はいずれ、ゆまに危害を加えると考えていた。

 

その前にここで決着をつけるべきだと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界に誰かが入って来たようですわ」

 

志筑仁美は、二ドルの魔針を通じて結界の状況をほぼ把握することが出来る。

 

何処に誰が居るのか、また結界の内側、外側を逐一確認することが・・・・・・

 

侵入してきた人物は、三年生の巴 マミであった。

 

彼女が把握する”魔法少女”の一人である・・・

 

「巴マミ・・・わたくしを蔑ろにした傲慢な魔法少女・・・それに佐倉杏子と・・・」

 

特別に手配した爆薬による衝撃にも拘らず、佐倉杏子が無事であったことに舌打ちを鳴らすが、さらに苛立たせる光景がそこにあった。

 

数日前までは、一触即発に似た険悪な雰囲気であった二人が互いに気遣っていることに・・・

 

互いに険悪のままであれば、巴マミの事も少しは許容しても構わないとさえ考えていたが、新鮮な”因果”を得ようとした際に邪魔をしてくれたことを改めて思い出す。

 

「わたくしの奇跡を邪魔するのであれば容赦しませんわ」

 

人間味を無くした瞳に狂気の色を浮かべ、首元にある”空のソウルジェム”は既に八割近く満たされており、緑色の輝きを鈍く放っていた。

 

「こちらも一人追加させてもらいますわ・・・鼎 などかさん・・・出番です」

 

『えぇ~~、途中参加なの~?てっきり、忘れられたかと思ったよぉ~~』

 

間延びし、やる気の無さそうな声を上げている”魔法少女”に対し志筑仁美は、協力者ではある彼女に対して、さらに苛立つのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

鼎 などかは見滝原中学校の通学路の近くに佇んでいた。視線の先には、同じ魔法少女である紫の髪の少女 綾目 しきみが居り、通りから離れたベンチに一人の少年を寝かしつけていた。

 

「しきみちゃん。本当に良いの?久しぶりに会った幼馴染なんでしょう?」

 

「良いんだ・・・ゆうちゃんとはもう一緒の世界には居られないから・・・少しだけだけど、楽しかったかな」

 

綾目 しきみが”ゆうちゃん”と呼ぶ少年 中沢 ユウキに対し、普段の彼女らしからぬ様子に鼎 などかもまた普段の彼女らしからぬ戸惑いを覚えていた。

 

普段の綾目 しきみの様子は冷酷非情をそのまま言葉にした振舞であり、目元も鋭く何かと”明良 二樹”に絡むし、お馬鹿な”不知火 リュウジ”には問答無用の蹴りを入れる。

 

逆に鼎 などかは自身の魔法である”忘却”を相手が戸惑っていても問答無用で行うのだが・・・

 

「などかは、憧れちゃうな。幼馴染でしきみちゃんの事を守ってくれたなんて、漫画でしか見たことのないというよりも漫画やアニメでしか存在しないと思っていたのに・・・実際にあるものなんだね。羨ましいぞ!!しきみちゃん!!!」

 

彼女もまた、綾目 しきみと中沢 ユウキの関係を羨ましいと思った。

 

自身の過去など既に欠片も覚えていない鼎 などかであるが、傍に誰かが居てくれたら、今とは違う人生を過ごしていたのではと考えてしまう・・・

 

「でも、勿体ないよね・・・まぁ、あのお嬢様のやることに巻き込まないようにする為にはこうする他に手はないかな~~」

 

志筑仁美発案の”見滝原中学校襲撃計画”について、鼎などかは特に何も思う事はなかったが、綾目 しきみだけは焦ったように見滝原に一足早く向かっていった。

 

そのことに少しだけではあるが気になり、見滝原で彼女と合流し、今に至っている。

 

「あのお嬢様絶対に、などか達の事を用済みになったら裏切るよ。火車さんがそう言っているから、ほぼ間違いないと思う」

 

「一般人を大勢・・・大量虐殺を企てて実行に移す人間なんてそんなものじゃないの」

 

自身の奇跡の為ならば、理不尽に他人を傷つけて・・・欲望を叶えようとする姿は・・・

 

(まるで・・・アイツだ・・・私がこの手で制裁すべきはずだった私を産んだあの女と同じだ)

 

綾目 しきみの脳裏に既に亡くなった・・・

 

用済みとばかりに理不尽に父と自分を捨てて何処かへ行き、自身の思うがままに振舞う憎むべき実の母の事を思い出していたのだった・・・

 

「しみちゃんがそれで良いのなら、などかは何も言わないよ・・・」

 

嫌な事は忘れるに限る鼎 などかであるが、綾目 しきみとは特別親しいと言うわけではないが互いに思うところがあるのか、一緒になると行動を共にする。

 

鼎 などかは良い意味でいい加減な性格をしており、人の事情を他人にアレコレ吹聴することはない。

 

その時に話してくれた綾目 しきみの母親についてだが・・・

 

(正直に言って自分勝手というかDQNなんだよね~~。しきみちゃん自身も苦労してて・・・お父さんは、DQNな母親の作った借金の返済を押し付けられて・・・その犠牲になったんだよね)

 

自身も碌な存在ではないとある程度自覚している鼎 などかも話を聞くだけで関わりたくないと思える人物だった・・・

 

なんとなくどんな母親であるか調べてみると、自身の美貌を武器に様々な男を渡り歩き、自身の欲望を叶える為に利用し、用済みとなれば捨てるというものであった・・・

 

しきみの話によると父親違いの姉妹も居るとのこと・・・

 

彼女自身は直接会ったことはないが、一人が病気であり、姉がつきっきりで看病をしており、匿名でしきみは、医療費を振り込むことで援助している。

 

様々な権力者に取り入り、甘い蜜を吸い続けた女にも因果応報が巡り、明良 二樹により”自殺”に追い込まれて、見るも無残な最期を遂げることになった。

 

綾目 しきみがその事を知ったのは、身元確認の為に警察に知らされてからのことだった・・・

 

元々、母親を憎み、何れ自分の手で始末をつけると誓ったものの誰かにそれを横から掠め取られたことに激し怒りを感じ、その誰かに”復讐”する為に、魔法少女の契約を結ぶに至った・・・

 

”魔法少女”については、過去にアスナロ市で助けられたこともあり、そういう力を得られるということを既に知っていたこともあり、幸いにも”素質”があった為に契約を結んだ。

 

そして知ることになる。”明良 二樹”の存在を・・・この男こそが自身の復讐すべき相手を掠め取り、自身が抱く怒りをぶつけるべき相手であることを・・・

 

(逆恨みっていう人も居るけど、しきみちゃんにとっては、それが全てだったんだよね。だからこそ、取り上げたフタツキの事が憎くて仕方がないんだろうね・・・殺したいほどに・・・)

 

鼎 などか自身は明良 二樹を殺したいほどの憎しみを抱いてはいない。

 

彼が居なくなったら、それはそれで寂しいとは思っていた・・・

 

『こちらも一人追加します・・・鼎 などかさん出番です』

 

今回の依頼主である志筑仁美の呼びかけに鼎 などかはこのまま忘れててほしかったと言わんばかりに、

 

「えぇ~~、途中参加なの~?てっきり、忘れられたかと思ったよぉ~~」

 

もう少し綾目 しきみとその幼馴染である中沢 ユウキの様子を見ていたかったが、呼び掛けられたのならば行かなければならなかった・・・

 

「しきみちゃん。などか、ちょっと行ってくるから、そのまま依頼を忘れてても良いよ」

 

「などか・・・」

 

自身の魔法である”忘却”を使い、綾目 しきみより今回の”依頼”を忘れさせた・・・・・・

 

「あれ?などか・・・どうしてここに居るの」

 

不思議そうに周りを見渡し、いつどこで合流したか分からない顔なじみの魔法少女に声を掛けた。

 

「なんでだろうねぇ~~。今日は、幼馴染君に久々に会いに来たんじゃないの?昨日はお楽しみだったんじゃないの?」

 

「ちょ、などか!?!」

 

何時になくおちょくる口調で話しかける鼎 などかに声を上げるが、彼女は背負向けて・・・

 

「見かけたから声を掛けただけだよ、などかは・・・などかと、この先、会うことがなければ忘れても良いからね~~」

 

手を振りながら、鼎 などかは去っていった・・・

 

その様子に綾目 しきみは自分は、昨日に幼馴染と再会し、楽しい時間を過ごし・・・何かから護ろうと考えていた・・・

 

それが何かを彼女が思い出すことはできなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「牙樹丸さんは、既に来ているし・・・しきみちゃんにこういう仕事をさせないのに限るかな」

 

鼎 などかは自身の濃いマゼンタカラーのソウルジェムを輝かせると同時に魔法少女に変身し、そのまま勢いよく見滝原中学校の敷地内へ飛び込むのだった・・・

 

「しきみちゃん、幼馴染くんの傍にしっかりと居てあげてね」

 

結界に飛び込むと何やら怯えている生徒の姿が視界に入り・・・

 

「えへへへへ。この状況が嫌なんだね・・・だったら、などかが忘れさせて上げるよ」

 

生徒に近づくと同時に恐怖で歪んだ生徒を視界に移すと同時にその意識に介入するのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう怖い思いはしないよ・・・だって、怖い事を忘れさせたからね・・・えへへへへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎を進んでいくが、至る所に死の香りが立ち込めており、倒れている生徒達が疎らに存在していた。

 

その様子に先日授業で習ったかつての”ニルヴァーナ事件”を杏子は思い出し、苦々しい表情を浮かべる。

 

「佐倉さん・・・これが志筑仁美が求めているモノの為に払った犠牲だというの」

 

「あぁ・・・昨日のさやか達の話の通りだと”因果”を高めて”奇跡”を起こすつもりらしいぜ」

 

”因果”を高める方法が”生贄”を捧げるという行いであると話すほうも気分が悪いが、聞かされた巴マミは嫌悪感を露わにしていた。

 

『ん?杏子、マミちゃん。何かがこっちに近づいてくる』

 

ナダサが頭上より何かが近づいてくるのを感じ、二人に警告を促す。

 

マミはマミで”ソウルジェム”が”魔女”に似た何かが近づいている反応を示していることに気が付いていた。

 

生徒達が休み時間に利用する”レクリエーションルーム”に来ており、ここは放課後も生徒らのクラブ活動、特別授業を行う。

 

一種の体育館のような規模があり、雨の日はスポーツなどもできる。

 

そのホール天井から異形が下りてきた・・・それは・・・

 

「こいつ・・・昨日の・・・伯父さんの話のままだ・・・」

 

蠍と人を掛け合わしたかのような姿をした”異形の怪物”・・・

 

魔導具 鋼殻装甲に寄生されたとある”青年”の成れの果てである・・・

 

昨日倒された姿とは少しだけだが違っているが、指摘する程ではなかった・・・

 

「佐倉さん。この怪物は一体?」

 

魔女もグロテスクでな姿をしているが、この鋼殻装甲は”生理的嫌悪感”を抱かせるほど醜悪なモノであった。

 

「なんて言ったら良いか・・・」

 

『言いにくいならMeが説明するよ、杏子』

 

「ナダサ、お前はアタシを庇って傷ついてんだろ」

 

屋上での爆破から”力”を解放し、杏子の身を護ってくれていることにマミは、少しだけ不謹慎ではあるが表情を穏やかにする。

 

『NO Problem。説明だけなら、特に力まなくても良いからね』

 

一部が欠けているナダサは、少しでも緊張を和らげるべく声色は非常に優しいモノだった。

 

(良い相棒が居るのね。少し妬けちゃうわ)

 

ナダサの事は、道中自己紹介もあり、マミも驚いたが、しっかりと杏子の事を気遣っている事に僅かではあるが羨望を抱いた。

 

かつては友達とも思っていたキュウベえにナダサと同じ感情を抱いていたが・・・

 

今では、見かければ嫌悪感を抱いている。思えば、自分が危機に陥った時に助けてくれたことなど一度もなかった。

 

例え非力でも大切な仲間であるのならば、精一杯の意思で危機に立ち向かうだろう・・・

 

キュウベえにはその意思はなく、ただ契約ができれば、それで良いという腹立たしいことこの上ないものである。

 

魔法少女候補を傷つけられたくないという理由で千歳 ゆまを助けたが、善意ではなく外敵を排除したうえで上で契約に持ち込もうとしていたのだったから、悪質なことこの上なかった。

 

(今はキュウベえ・・・あのロクデナシよりも目の前のこいつね)

 

この異常事態にキュウベえは、何をしているのだろうかと考えが過るが、学校内の魔法少女候補に契約を迫っているかもしれない。

 

もしくは・・・この状況に巻き込まれて何処かに隠れていて、嵐が過ぎるのを待っているのだろうか?

 

『魔導具 鋼殻装甲に寄生された人間のなれの果て・・・ああなってしまったらホラーと大差ない呪いを振りまき、災いを齎す』

 

「まるで・・・魔女ね。こんなモノがこの世界に存在していたなんて・・・知らないことがあまりにも多すぎるわ」

 

魔法少女が倒すべき相手である”魔女”を思わせる、元が人間であったことも・・・・・・

 

(そういえば・・・佐倉さんは魔女が元魔法少女だってことを知っているのかしら?)

 

今の状況でこのことを言うべきではないと判断し、思考を切り替える。

 

昨夜、アスナロ市から来たメイ・リオンは、元魔法少女候補であったが契約をしなかった身の内をマミは、彼女から聞かされていた。魔法少女が認められない”残酷な真実を”

 

数日前のアスナロ市での騒動とそこで出会った暁美ほむらとの出会いも・・・・・・

 

魔法少女が絶望し、呪いを振りまく時、ソウルジェムはグリーフシードへと変化する話を聞いたときは軽く眩暈を起こしたが、今はまだ自分は絶望をしていない事と自分を慕ってくれる千歳ゆまと気にかけてくれるメイ・リオンの存在に巴マミは・・・・・・

 

(私は絶対に生き抜く。ゆまちゃん達を守り抜くために・・・どんなことがあってもね)

 

もしも千歳ゆまと出会わなければ、人知れず”絶望”し、”呪い”を振りまいていたかもしれない。

 

「・・・・・・性質の悪いモノがこの世にはあるのね・・・これも志筑仁美が用意したのかしら?」

 

「さやかの話だと・・・人型魔導具まで使って襲われたってよ」

 

ゆまの祖父母を殺害したのは、志筑仁美であるとマミは確信していた。

 

故に魔法少女に憧れ、その奇跡を手にすべく様々なモノを生贄に捧げる姿に・・・

 

「まったく絵空事ばかりみて・・・何を思って奇跡に縋るのかしら」

 

魔法少女の事を知りたいと懇願してきたのを覚えているが、魔法少女の素質がないのならば、危険な事に関わるべきではないと厳しく接した。

 

あの時の彼女への対応は傍から見れば冷たいモノに見えたかもしれないが、魔法少女は命懸けであり、安易になって良いモノではないという考えと経験からのモノであった・・・

 

鹿目まどかと一時的に行動をしていた頃は、素質のある子には積極的に勧誘するという矛盾した自身の行動を省みると呆れるしかなかった。

 

志筑仁美から見て巴マミは、傲慢な魔法少女に写っているだろう・・・

 

「さて・・・どうするよ。こいつ、アタシらを目の敵にしているぜ」

 

鋼殻装甲の頭部は人の目と蠍の目がそれぞれ存在しており、杏子とマミの姿を映し出した。

 

『うわぁあああああああっ!!!!』

 

尾節を大きく振り上げ、蠍の尾の毒針を思わせる針を二人の間に勢いよく振り下ろした。

 

攻撃力は意外と強く床を破壊し、細かい破片が飛び散るが二人は勢いよく回避する。

 

「ったく、こいつ、昨日よりも化け物っぽくなってるぞ。吹っ切れたのか?」

 

『そこは、分からないね。鋼殻装甲に囚われた魂は、核を破壊されない限り、魂を削り再生される。しかも魂は補修はされずに削られ、細かくなっていく』

 

「って・・・アイツは昨日の奴と違い色々と削られているのか?」

 

『他にも理由はありそうだけど・・・鋼殻装甲に囚われた魂は最終的には、さらに細かく削られ最終的には原始的な本能だけの存在になる』

 

「原始的な本能?ナダサさん・・・それは一体?」

 

『人間を捕食し始めるんだよ・・・生物の原始的な本能にして行動、”捕食活動”だよ』

 

あまりの残酷な真実に最終的には、人としての尊厳もなくただの怪物に・・・それも蟲の様な存在として永遠に存在し続ける・・・魔導具の核を破壊されない限り・・・・・

 

仮に破壊してもその魂は破損しており、鋼殻装甲が破壊されると同時に消滅する。

 

あまりにも救いのない結末である。かつては、親より体と命を名前を貰ったのに、今のその悍ましい姿は何だ巴 マミは目の前の”異形”に問う。

 

(貴方も私と同じく人として生まれたのに・・・その様はなんなの?)

 

異形は答えることはできないだろう・・・

 

いうまでもなく、人としての生を捨て、”力”を求め、なるべくしてなったのだから・・・

 

「そういうことならば、私たちのやるべきことは、この人をここで倒して人として眠りにつかせてあげることね」

 

「マミ・・・ここは、アタシ達が・・・」

 

元が人である存在を討滅する業にマミを巻き込みたくはなかったが・・・

 

「何を言っているの・・・お互いに協力をしないといけない状況よ。前の私みたいにそっちの価値観で私を除け者するなんてなしよ。佐倉さん」

 

マスケット銃を構え、笑みを浮かべるマミに杏子は

 

「ったく・・・前は危なっかしかったのに、見ないうちにすっかり逞しくなりやがって」

 

見た目も変わったほむらもそうだが、マミも会わない間にその内面は大きく変わっていた。

 

「久しぶりね。二人で戦うなんて・・・」

 

まさかこのような日が再び来るとは思わなかった。

 

「あぁ、逞しくなったな。マミ。そんじゃ、よろしく頼むぜ」

 

槍を構えマミのマスケット銃と交差させ、互いの”意思”を汲む。

 

「じゃあ、行くぞ!!マミ!!!」

 

「ええ!!!佐倉さん!!!!」

 

二人は互いに駆け出し、杏子も槍を構えて向かっていき、マミはマスケット銃を後方に展開させ、それらを一斉に”鋼殻装甲”へと放った。

 

甲殻類を思わせる外骨格で巴マミの砲撃を抑えるが、一斉に放たれた衝撃を抑えることは難しく、僅かに体制を崩してしまった・・・

 

『!?!うぅわああああ!!!!』

 

蠍を思わせる口部より赤い溶解液をマミに向って放つ。

 

「あまり良い見た目の攻撃手段ではないわね。でも、時間をかけられないから一気に行かせてもらうわよ」

 

マミはリボンを収束させて最高火力を持って鋼殻装甲の攻撃を防ぐとともに、強烈な一撃を加える。

 

「ティロ・フィナーレ!!!!」

 

最大火力を持った放たれた一撃は開かれた口部に真っすぐ向かい、衝撃とともに頭部を含んだ胸から上を吹き飛ばしてしまった。

 

「相変わらずの威力・・・前よりもパワーアップしていないかマミ?」

 

以前にコンビを組んでいた時も巴マミの必殺技である”ティロ・フィナーレ”の威力は良く知っているが、今までに見た中での最大の一撃であった。

 

『鋼殻装甲はホラーではないから、ダメージは十分に通るみたいだね。だけど、再生能力は健在のようだね』

 

失った上半身を再生させようと蠢いているが、これを逃すつもりはなく佐倉杏子は魔導筆を持って再生途中のその体に術を持って魔導力を打ち込むことで内側より崩壊していった・・・

 

昨日叔父より対処方法を聞かされており、鋼殻装甲の強さは寄生された人間の素質に大きく依存され、また魔導具が依り代になる人間を作り替え、操るため、魔戒法師の術の心得があれば十分に対処ができるし、また一般人であっても、チャンスがあれば十分に撃退が可能であることも・・・

 

「魔法少女よりも今のアタシは、こっちのほうが好きかな」

 

魔導筆を構えて、誇らしげに笑う佐倉杏子であった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

巴マミ覚醒。というよりも完全に覚悟を決めました。

カットしたんですが、アスナロ市よりやってきた元魔法少女候補 メイ・リオンより、色々と話しを聞き、彼女より魔法少女のことを聞かされて、ゆまと一緒に”家族”になろうと提案されています。

メイ・リオンも天涯孤独の身の上であり、マミとゆまの事を放っておけないという少し一人よがりではありますが、二人に手を差し伸べ、受け入れるということがありました

そして、最後に綾目しきみが登場。まさかの中沢君と・・・・

お楽しみでした(笑)今回、見滝原にやってきたのは”彼”を志筑仁美の凶行から遠ざけるためでした。

明良 二樹に恨みを抱き、制裁する機会をうかがっています。結構屈折したキャラになってしまいましたが、こういう感じでよろしかったでしょうか?

なのかとは、割とよく話しますし、なのかもなのかでしきみに対しては、割りと優しいです。

遊びの設定として、環 いろはの父親違いの姉というモノがあります。

公式での両親もいるんですが、この時間軸では綾目 しきみの母親がとんでもない女ですので、いろはは、父親が再婚して、今の過程に至ったという具合です。

しきみの容姿は忌み嫌う母親と容姿が瓜二つなので環 いろはの前には現れず、妹であるういの治療費を援助しています。

いろはもいろはで、実の母親を嫌っています。もしかしたら、二人はどこか出会うかもしれません・・・・・・


改めて、唐揚ちきんさん、ありがとうございました!!!




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第弐拾玖話「 監 獄 (弐)」

志筑仁美による”見滝原中学校”襲撃は、おりこ☆マギカの三国織莉子に近い行動を取っていますが、二人は似ているようで、あまり似ていません。

前書きですが、暗黒騎士異聞のほむらは、魔法少女になる前の三国織莉子とは分かり合えているという設定です。

ある時間軸では、ほむらの協力者兼相談相手として動いていたこともあります。

三国織莉子ですが、公式の外伝のみに出てくるので本編 TVアニメでは出てこないことと本編の魔法少女らが存在しない時間軸での活躍もあるので、居たり居なかったりという具合です。

居たらほむらは、織莉子のもとに行って彼女を魔法少女にしないように動きます。

こんな風に書きますとほむらが、割と良い感じのキャラになっています。これにも一応理由があり、TV本編と劇場版は似ているけど実は別の世界線の話と聞いたことがあり、暗黒騎士異聞のほむらは、廻った時間軸が先の二つとは異なっており、さらには姉 アスカ、兄 ジンの存在が居ることでそれなりにコミュニケーションが取れます。

バラゴと一緒にいることもあり知らず知らずのうちにカウンセリングも受けていました。





鋼殻装甲が佐倉杏子と巴マミの二人により倒されたことに志筑仁美は舌打をした。

 

「相も変わらず役に立たない道具ですわ・・・」

 

せめて一人ぐらいは邪魔者を排除してほしかったが、鍛えた一般人程度に翻弄され、無様な醜態をさらす”彼”には、元々期待はせず、上手くいけばという考えが甘かった。

 

巴マミと佐倉杏子の二人の戦闘能力の高さは、自身の優位性を覆しかねないほどだった・・・

 

ホラーに対しての有効打を持つ魔戒法師兼魔法少女 佐倉杏子と見滝原を長く縄張りとしていた巴マミの魔法少女としての火力、広い魔法の応用性・・・

 

見滝原を縄張りにしていたのだから、それなりの実力を持っているとは考えていたが、自身の手駒である魔法少女らよりも強いかもしれないと・・・

 

香蘭から提供された魔導具と明良 二樹が紹介してくれたメンバーでも危うい・・・

 

自身の望みを叶える為に必要であるからこそ依頼している身だが、内心彼らは単なる烏合の衆でしかないと志筑仁美は明良 二樹を評価していた。

 

最高戦力ならば使徒ホラー 二ドルが存在するのだが、二ドルの気まぐれな性格を考えるとつまらないことをさせると機嫌を損ね、自身に危害を加える可能性もあり得るので当てにはできなかった・・・

 

「手に持っているこの魔導具の核さえあれば、彼は不滅なのですのよね」

 

蠍と髑髏を掛け合わせた不気味な腕輪型の魔導具の眼窩が輝き、口より一匹の蠍が吐き出された。

 

蠍は動画を早送りするかのように変化し、一人の少年へと姿になる・・・

 

「うわあああああああっ!!!!俺が、俺が!!!!!」

 

恐慌状態に陥り、頭を抱え絶叫する。

 

再生された彼は、先ほどの光景と記憶があり、殺された瞬間を覚えており、その時の感情が爆発していた。

 

苦しむように頭を抱えている”彼”を志筑仁美は冷たく、無機質な視線を向けていた。

 

それは道具を手にし、役に立つかを思案するかのように・・・・・・・

 

「・・・・・・一体ではどうにもならなそうですが・・・複数ならば・・・どうでしょうか?」

 

それは鋼殻装甲の実態を知っていれば、あまりにも悍ましい考えであった・・・

 

一人の人間の魂を取り込み、それを削り、倒されても再生させる”魔導具”に命じる。

 

「数を揃えなければなりませんわね・・・一匹の力が小さくても集団になれば・・・それは、それで大きな力になるでしょう」

 

海外では蝗の集団による”蝗害”もまた、数㎝ほどの蝗が集団になることで”災害”となる・・・

 

志筑仁美は、この蠍のような化け物の出来損ないを大量に発生させることでその力を大きくしようと考えたのだった。

 

戦いは数であると歴史の授業で習った。質の悪い兵器でも数さえ揃えれば、優秀な兵器が相手でも勝利することは可能であると・・・

 

見滝原中学校に派遣した戦力は、使徒ホラー 二ドル、植原 牙樹丸、魔法少女 鼎などかが中心ではあるが、二ドルがケートを開き召喚した”素体ホラー”達・・・・・・

 

ここで質こそは悪いが、鋼殻装甲を大量に発生させて、佐倉杏子と巴マミに対し、物量戦を仕掛け、消耗したところに植原 牙樹丸か素体ホラー達の餌として差し出して息の根を止めてしまえばよいと・・・

 

「二ドルが召喚したホラー・・・消費はしたくないですわね。彼らに対処するためにも・・・・・・」

 

志筑仁美は、この騒動に彼ら”魔戒騎士”が現れることを考えており、そのためにホラーを配置していた。

 

素体ホラーたちではあるが、すでに”陰我”を抱えたモノ、もしくは人間に憑依しているモノが複数・・・

 

これらは、校庭などに配置させ”二ドル”の”魔針”を駆使することで操作することが可能である。

 

恐ろしいホラーを強引に従わせる能力を持つ”二ドル”が面白がって協力してくれることに半ば不安さえも覚えていた・・・

 

その為には、二ドルを飽きさせないように”イベント”を開催しなければならない。

 

この”見滝原中学校襲撃”もイベントの一つに過ぎない・・・

 

「この先にも楽しいことはまだまだたくさんありますから・・・」

 

自身も成功に至るプロセスを確認しながら、ほくそ笑みつつも危険な・・・禁忌を犯している状況に高揚していた。

 

「ふふふふふふふふ・・・もうすぐですわ。もうすぐ助けてあげますわ・・・上条さん・・・」

 

魔導具 鋼殻装甲の核を弄びながらその内に取り込んだ”魂”を利用し、可能な限り数を出せと命じた。

 

鋼殻装甲の口より大量のサソリが吐き出されたと同時に、顔も背丈もそっくりな少年へと変わっていく。

 

悲鳴とも嘆きにも似た声が一体に響き渡るのだった・・・・・・

 

志筑仁美が背を向けた後には、同じ顔をしたサソリでもない人間でもない異形の少年たちが蠢いていた・・・

 

「「「「「「「あああああああああああああああっ」」」」」」」

 

吐き出されるたびに人間としての魂を削られ、人としての形すらも崩れていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははは・・・・・・あははははははははははは!!!!!」

 

人としての尊厳をなくし獣の・・・虫以下の下等生物・・・生き物ですらなくなった”存在”の行く末に愉悦を感じ、志筑仁美は笑った。

 

美樹さやかや暁美ほむらが知っている”彼女”の年相応なものではなく、あらゆる負の感情を弾けさせた”呪詛”にも似た禍々しいものだった・・・

 

昨晩、夢見が悪かったのか顔色は少しだけ青ざめており単眼となった瞳は揺れずに彼女の暗い”感情”に染められていた・・・

 

この世の全てを呪わずにはいられないほどの感情を秘めて・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校の教室では、数人の生徒らが一部の教師達と一緒に身を隠していた。

 

その生徒たちの中に鹿目 まどかの姿があった。

 

(一体・・・何があったの?まさか・・・三国織莉子・・・でも彼女は・・・)

 

ここではない別の”時間軸”の存在した未来を予知することができる白い魔法少女・・・

 

自身の生きる意味を模索し、その果てに世界に何れ”災い”を齎す”最悪の魔女”へ至る自分の抹殺を図った。

 

殺された”記憶”を見た時は、気が狂うかと思った。

 

故に彼女の存在に恐怖を覚えたがその三国織莉子は何故かこの”時間軸”ではすでに死亡していた

 

新聞のほんの小さな記事ではあったが、三国織莉子が自身を狙ってくることはないと安堵した・・・

 

原因は分からなかったが、敵対していた暁美ほむらと何かあったのではとも考えていた。

 

だが、暁美ほむらは別の時間軸での”三国織莉子”とは良い関係を築いており、それ以来、彼女が”魔法少女”にならないように事前に動くようになっていた。

 

ほとんどが、よくわからない”ロックバンド”の音楽を聞かせてファンにするという方法だった・・・

 

何かと”身の丈に合わない大きなことを成し遂げよう”と出しゃばる自分・・・

 

鹿目まどかと違って、三国織莉子は暁美ほむらの忠告を聞き入れ、彼女を悲しませることはなかった。

 

彼女は魔法少女に興味を抱くことはなかったのだ・・・

 

抱いても聡明な彼女は魔法少女の危うさを理解し、契約することはなかった・・・・・・

 

暁美ほむらと友好的になった三国織莉子は、彼女と良い関係を築くが暁美ほむらは、”鹿目まどか”を救うために別れを告げて”次の時間軸”へと去っていく。

 

三国織莉子を一人残して・・・

 

(結局私のあの言葉が・・・無責任な後悔がほむらちゃんを今も縛っているのかな)

 

自身を救うために時間遡行し、魔法少女の真実を伝えても自分を含めてほとんどの魔法少女は自身の”理想”の現実の姿を直視することが出来ずに彼女の言葉を信じなかった・・・

 

自身が身をもって知るまで・・・そして・・・あの約束を・・・呪いとして暁美ほむらにさせてしまった。

 

”わたし・・・魔女になんかなりたくない・・・だからキュウベえに騙される前の馬鹿な私を助けてくれないかな”

 

”あなたを救うためなら何度だって繰り返す!!!かならず!!!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の爆発と魔女を思わせる嫌な気配が立ち込め、あっという間に学校は悲惨な現状に陥っていた。

 

先ほどまでいた杏子の姿がなかった。教室から出て行ってから、間もなくして、異変が起こったのだ・・・

 

(こんな時でも私は・・・魔法少女になろうと考え始めている)

 

もしも他の魔法少女が相手ならば、自身も力を得て立ち迎えるかもしれない。

 

その為には自分がここで立ち上がって、何とかしなければと・・・真っ先に浮かんだのが”魔法少女になる”という選択肢であった・・・

 

(でも・・・今何かをしなくちゃ・・・)

 

周りの同年代の子らは皆俯いており、表情は暗い。

 

みな怯えており、特に先ほどたどり着いた数人の生徒達の表情は酷く、大きく体を震わせていた。

 

何か恐ろしいものを見たのだが、それを口にすることができないほどの恐怖を覚えていた。

 

この状況はキュウベエにとっても契約するなら好都合ではないかとまどかは、不謹慎であると自覚しつつも考えてしまった。

 

様子を伺っているであろうキュウベエの姿を探すが、何処にもその存在を見ることはかなわなかった・・・

 

”魔法少女の契約”を真っ先に考えてしまうあたり、自分を含めて”記憶の中の鹿目まどか”は魔法少女に対し強い憧れを抱いているのだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

”だからいったでしょ。どんなに頑張っても魔法少女じゃない貴女にはなにもできないって”

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある知らない誰かの・・・会いたくない誰かの声がはっきりと聞こえてきた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、落ち着いて・・・きっと助けは来ます。それまで頑張って」

 

早乙女和子は異様な雰囲気に包まれている状況に不安を抱いている生徒らの緊張をほぐそうと声をかける。

 

(この状況・・・何かの事件・・・でも何のために・・・)

 

以前、カルト集団が別のカルト集団の施設に殴り込みをかけるという事件を聞いたことがあるが、この状況に得体のしれない”目的”があるのではと早乙女 和子は考えていた。

 

ここ最近の事件も一個人が起こしたにしては被害が大きく凄惨なものが多い・・・

 

学生時代、学園にテロリストが現れたらということを想像したこともあるが、実際に現れたら最悪以外の何物でもない・・・

 

今は少しでも生徒達の不安を和らげなければならない。

 

この異状な事態に強いストレスを感じ体調不良を訴える者も居る。一部の生徒は気分を悪くし吐き気すら覚えていた。

 

体育教師も居るが普段の勇ましい姿はなく、頭を抱えて蹲っていた。

 

彼もまたこの教室に逃げ込んできた者の一人であり、道中恐ろしい光景を目の当たりにしていた。

 

それは、宙に浮いた玉乗りをする奇妙な女道化師が人を喰らうという恐ろしいものだった。

 

さらには、校舎内を徘徊するサソリとも人間とも付かぬ”化け物”

 

人を絞め殺した木と人間のような怪人物など・・・

 

黒い西洋の悪魔すら徘徊していた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げこんできた生徒の一人に”魔針”が撃ち込まれており、それを介して志筑仁美が様子を見ていた。

 

「そこに居たのですか、まどかさん。貴女はこの状況になっても何もしないのですね」

 

”素質”を持ちながらそれを生かそうともしないかつての友人を軽蔑しながら、仁美は呟いた。

 

せめてこの状況に対して、皆の役に立つため”魔法少女”になって戦うべきではないかと鹿目まどかに厳しい意見を抱く・・・

 

自分に自信のない何処にでもいる気弱な夢見がちな少女 鹿目まどかは、何もできない意気地のない存在であり、どうせ生きていても役に立たないと評した。

 

だったら自分の願い、奇跡の為に”役立つべき”だと考え、自身の手で”生贄”に捧げる・・・

 

あの甘ったれな少女が今の自分を見てどんな風に表情を歪めるかと思うと愉快な気さえしてきた。

 

さらには、自分を救おうと考えているであろう美樹さやかに自分は、お前の知る志筑仁美ではないと知らしめる為に見せしめとして首を見せるのも悪くはないと・・・・・・

 

まどか達が隠れる教室に一歩ずつ近づく志筑仁美であったが・・・

 

「ちょっと待つのです。となぎさは言ってみるのです」

 

振り返ると見慣れない・・・この学園では、特別な行事がなければ居るはずのない小学生低学年程の少女がいつの間にか背後に立っていたのだ。

 

護衛の人型魔導具らも反応を示さなかった・・・

 

それに二ドルの結界内にこのような少女は今までいなかった。

 

「貴女は・・・いったい誰です?今まで貴女の存在はこの場にはいなかったはず」

 

警戒を強め、人型魔導具らに攻撃をいつでも行えるように指示を出す。

 

「う~~~ん。なぎさは、何でもないんですけど、まどかに手を出すのはやめてほしいと言いたいのです」

 

「・・・鹿目まどかの友人ですか?それとも・・・」

 

まさか、彼女を救いに来た存在とてもいうのだろうか?予想もしない邪魔者に舌打ちをするのだが・・・

 

「友人というよりもなぎさ達にとっては、とても大事な存在なのです。傷つけられたらとても困るのです」

 

「ますます分かりませんね。素質こそはあっても今の状況で何もしようとしない意気地なしにそんな価値があるとは・・・・・・」

 

鹿目まどかを庇う”なぎさ”という少女に対し、志筑仁美はこの得体のしれない少女に警戒心を強めた。

 

素質がずば抜けて居る為キュウベえは契約を持ち掛けるべきである。

 

だが、キュウベえはそれを行おうとはしていない。カヲルでさえも何が起こるかわからないと言っていた。

 

あんな意気地なしに大それたことができるとは思えなかった。

 

「・・・暁美ほむらの言葉を借りると”この時間軸”の鹿目まどかは、色々と都合がよかったと言います」

 

「この時間軸?暁美ほむら?・・・暁美ほむら・・・確か佐倉杏子と同じく転校してくるはずだった」

 

転校する前に入院先の病院から突如として姿を消し、今は行方不明となっている少女の名前である。

 

「なぜか、暁美ほむらがまどかの前に現れないのです。でも、すぐに会えると思うのです。二人の存在を中心に回ってきたのですから、そろそろ舞台が回ってほしいと願っています」

 

「舞台が回る?ワタクシの邪魔をするというのですか?だったら、容赦はしませんわ」

 

志筑仁美は侍らせている人型魔導具らに攻撃を行うように指示を出した。

 

それぞれの腕そのものの大剣を大きく振りかぶり、少女を叩き潰そうと迫るが・・・

 

「そんなに気を立てないでほしいのです。なぎさは、志筑仁美と戦う意思はないのですから」

 

ケラケラと笑いながら彼女の顔が少女の顔から、コミカルではあるが人ならざるモノへと変わっていくのだった。

 

赤と青のオッドアイを見開き、口を大きく開けたと同時に二体の人型魔導具に食らいつき、そのまま嚙み砕いてしまった。

 

それはかつて、現れた”お菓子の魔女”の姿に酷似していた。

 

首と頭部が別の生き物のように動く姿に志筑仁美は、こいつは一体何なんだと目を見開いた。

 

魔法少女のようだが、それにしてはあまりにも”怪物”染みたその姿を見て、自身の判断が早計過ぎたと反省するが・・・

 

「う~~ん。なんとも言えない味です。やっぱりなぎさは、チーズが食べたいのです。志筑仁美は昨日、いろんな人を招いてパーティーをやっていましたよね。なぎさも連れて行ってほしいのです」

 

元の幼い少女の姿に戻ると”チーズが食べたい”と言い出す姿に、なぎさという少女は人間ではない、ホラーでもない何か”異質な存在”であると志筑仁美は見ていた。

 

そんな異質な存在が鹿目まどかを求めている。

 

自身の楽しみもそうだが、そのために自身の望みを潰すようなことはあってはならなかった。

 

「・・・・・・わかりました。鹿目まどかには危害を加えません。ですが・・・傷つけない範囲で彼女には協力してもらいます」

 

彼女の意図を察したのか、なぎさは

 

「良いですよ。傷つけなければ・・・何かあるとせっかくのやり直しが出来なくなります」

 

「なぎさは、ありがとうというのです。”円環”の望みが果たせないとそれこそ一大事なのです」

 

自分の周りを得体のしれない何かが動いていたことに背筋を寒くするが、自身の望みを阻むことはないと考え、志筑仁美は自身から歩み寄るのだった・・・

 

「私から手を出したことは謝罪しましょう。なぎささん・・・厚かましい願いですが、わたくしに協力をしていただけますか?」

 

「なぎさはチーズが食べられるのでしたら、それでよいのですよ」

 

人ではないコミカルではあるが、人外の顔・・・魔法少女でありながら”魔女”の力を一部解放させて志筑仁美に笑いかけるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間を遡り、見滝原中学校 裏山・・・

 

「なにっ!?!今の!?!」

 

「近くで・・・すぐ傍で何かが・・・いえ、誰かが爆発させたようです」

 

驚くさやかが振り返るが、見滝原市に一瞬響いた爆発の中心地を探すがそれらしい場所はなかった。

 

ソラはそれが、事故ではなく誰かが意図的に起こしたものであると察した。

 

そして自分たちの目と鼻の先の距離でそれが起こっていることを・・・

 

「美樹さん・・・志筑さん・・・いえ、この場ではあえて志筑仁美と呼びましょう」

 

ほむらは、昨夜見滝原中学校で何かが起こることをエルダとともに占ったが、かつてのアスナロ市同様に使徒ホラーの持つ強大な邪気により先を見通すことが困難であった・・・

 

「まさか・・・仁美。アンタ、そんなことをしてまで”願い”を叶える気なの!?!」

 

見滝原中学校を志筑仁美が使徒ホラーとともに襲撃したことにさやかは、悲鳴にも似た声を上げた。

 

「恭介がそんなことを望まないってなんでわからないの!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の見滝原中学校は、普段と変わらない光景であったが、二ドルの結界が張られている為であった。

 

二ドルの能力も予め、ほむらの契約する”魔導輪 ギュテク”より聞いていた。

 

「魔法少女となった三国織莉子は・・・結果としては最悪の魔女の誕生を防いだ・・・だけど志筑仁美のこの行いは・・・」

 

見滝原中学校を襲撃するという事態にかつての白い魔法少女 三国織莉子を思わせる今回の志筑仁美の行いだが、彼女は自身の私利私欲の為に多くを生贄に捧げようとしている。

 

”上条恭介の復活”という、暁美ほむらが知る”不可能な願い”を求めて・・・

 

アスナロ市でも思い知らされた”死んだ人間”は帰ってこないことを・・・

 

”プレイアデス聖団”もまた死者の復活を願い、その願いにより生まれた”許されざる存在”。

 

見滝原でも同じことが繰り返されていることに・・・

 

人の業の深さは何処であろうとも変わらない・・・

 

三国織莉子は結果的に”世界を破滅から救う”という自身の正義に従っていたが、さらに突き詰めれば彼女は”メシア症候群”に陥っていたかもしれない。

 

魔法少女 三国 織莉子とは語らうことはなかったのでその真意は永遠に知ることはない。

 

「おいおい・・・プレイアデスのあいつ等が見たら精神的にキツイだろ・・・」

 

アスナロ市から来た魔法少女 ユウリも今でこそはアスナロ市のプレイアデス聖団のメンバーとは、和解しており、彼女達をここに誘わなくてよかったと思うのだった・・・

 

『何かを得るには何かを犠牲にしなくてならないとは言ったものだが・・・小娘の行いにしては、度が過ぎているな』

 

魔導輪 ギュテクが年端もいかない少女の行動に驚きの声を上げる。

 

魔法による奇跡は人の心を大きく変えることに・・・

 

少女達の抱える”陰我”の深さは、ホラーのそれと変わらないものであると・・・

 

『こちらもそうだが・・・バラゴのほうも何かあったようだな・・・』

 

「ギュテク。まだ、何かあるというの?」

 

『ほむらよ・・・志筑仁美は大きく動いているようだ。先日の保護した幼子にまた手を出しているようだ』

 

「まさか・・・千歳 ゆまを!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 見滝原市 ビジネス街 屋上

 

「この太刀筋・・・何故、ただの絡繰り人形風情が・・・牙狼の太刀筋を・・・」

 

『魔号機人か・・・このタイプは我も初めて見る・・・それにこやつの太刀筋は・・・牙狼の中でも最強と言われたあの”男”のものだ』

 

バラゴの正面には牙狼の太刀筋を振るう骸骨の機械人形 魔号機人 凱の姿があった・・・

 

魔号機人 凱の振るう剣の型にバラゴもまた、この機械人形が誰を模したのかを理解したが、認めたくはなかった・・・

 

『・・・まさか先代 黄金騎士 牙狼 冴島 大河の剣を振るうとは・・・魔戒法師の技術は侮れんな。バラゴよ・・・』

 

驚愕ともバラゴへの嘲りにも似た魔導輪 ギュテクの言葉が響く・・・

 

魔号機人 凱の背後には、人型の号竜人が控えており、その脇には千歳 ゆまが抱えられていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

次回あたりでさやからが、見滝原中学校へ突入します。

メンバーは、ほむら、エルダとさらにはアスナロ市からのユウリです。

既に戦闘中のマミさんと杏子を含めれば、仁美らの戦力を上回るのですが、一番厄介な使徒ホラー 二ドルが居るので苦戦は必須です。

加えて学園内には他の勢力も来ているようです。

新劇の新キャラ 百江 なぎさが登場。志筑仁美と一時的に協力します。

同時進行でバラゴは、明良 二樹の放った魔号機人 凱と交戦しています。

魔号機人 凱は、冴島 大河のデータを用いられて制作されているという、バラゴにとっては許しがたい相手です。

バラゴに限らず鋼牙もまた魔号機人 凱は許せない存在でしょう。

魔戒騎士組ですが、バドとギルの両名もバラゴの近くにいます。

戦う相手は・・・察しの通りです。


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幕間「変 化」




とうとうこの拙作も通算90話になりました。

あと10話で100話になります。

90話ということもあり、最近ご無沙汰だった主人公が久しぶりに登場(笑)





 

 

 

 

バラゴは自身の表の顔である”龍崎 駈音”の姿で見滝原市のとある場所に来ていた。

 

そこは志筑仁美らの一族が運営する巨大製薬会社のオフィスであった。

 

「先日から志筑仁美さんが行方が分からなくなっていると私の知人が訴えておりまして、何かご存知でしたらお話を聞きたいのですが」

 

バラゴのいう知人とは、彼女のことを知っている暁美ほむらである。

 

彼女が志筑仁美のことを気にしているので嘘は言っていない。

 

彼の目的は・・・・・・

 

「いえ、そのようなことはわたくし共ではお答えしかねます」

 

アポイントを取って正式に面会しているのだが、彼らの答えは歯切れが悪い。

 

表情は明らかに都合の悪いことを聞きに来たと言わんばかりの苦虫を潰したかのようなものだったからだ。

 

昨夜の事件・・・志筑仁美の両親が何者かに殺害され、その娘である彼女は行方を晦ませていることは既に警察組織も把握し捜査が行われている。

 

だが、その事件は見滝原市では報道されておらず、規制がかかっていた。

 

言うまでもなく志筑家の者達が隠蔽工作をしたためであった。

 

警察上層部に働きかけ事件を極秘の内に解決を図ろうという魂胆であろう。

 

「・・・彼女の自宅で殺人事件があったことを報道しないのは何故ですか?こんな恐ろしい事件に年端もいかない女の子が巻き込まれているかもしれないのに」

 

事件を隠蔽している理由は、犯人がすでに分かっているからであろうとバラゴは察していた。

 

バラゴが察した通り、志筑仁美による犯行である決定的な証拠も幾つか見つかっていたのだから・・・

 

彼女が自身の両親を殺めたという事件と真相が明るみに出れば志筑の一族の地位は一気に没落する。

 

そのことを恐れているのだ。極秘の内に事件を解決し、有耶無耶にしてしまおうと考えている。

 

「そのことについてはお答えしかねます。これは私たち一族にとって一大事なのです。無関係であるあなたには分からないでしょうね」

 

尊大な態度を取りつつ、自身にプレシャーを与えようとしているがバラゴには何の感慨も抱かなかった。

 

自分を見下し自身の権力の強大さを見せつけようとしている目の前の志筑の一族に対し、バラゴはこの一族の底が知れていることと志筑仁美が”陰我”の道に走った土台は既に存在していたと考えるのだった。

 

「あなた達のお上の都合など分かりたくもありませんよ。一人の女の子が行方不明になっているのに心配もせず、いかに目立たずに処分しようと考えている身なりこそは綺麗だが、内面は浅ましいことこの上ないあなた達の事情なんてね」

 

「きさまっ!?!無礼が過ぎるぞ!!口を慎みたまえ!!!」

 

バラゴの嘲りに冷や汗をかきつつも自身の権力をもってすればと声を上げるが・・・

 

「さすがに私も言いすぎましたことは謝罪しましょう。ですが、あなた達が事件を隠蔽していることについては私も黙って見過ごすことはできません」

 

「なんだと?お前は分かっているのか・・・警察も私たちの意を酌んでいるんだ。お前が何をしようとも無駄なことだ」

 

男に対しバラゴは、これ以上何を言っても無駄であると察し、また無駄足であったことに軽く舌打ちをするのだった・・・

 

「私としてはあなた達のしていることのほうが無駄だと思いますよ。嘘は根付かない・・・いずれにせよ真実は白日の下に晒される。それも近いうちに・・・・・・」

 

男を笑いながらバラゴはこの部屋を後にするのだった。

 

壁に最近できたばかりの大型客船と見滝原湖が映った写真が飾られているのを一瞥する・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ・・・面倒なことを・・・」

 

「余計なことを話される前に何とかしなければ・・・」

 

「そうだな・・・私達の手のものに極秘の内に対応させよう。大丈夫だ・・・この見滝原に居る限りはどうにでもできる」

 

早速スマートフォンに電話をかけ、志筑家とつながる黒い団体に連絡を取るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『ふん・・・人の世は来るたびに様変わりするから飽きないが、権力に魅入られた人間というものは何時の時代も変わらぬものだな』

 

バラゴの右腕に収まる魔導輪 ギュテクは先ほどの志筑家の者達に対し嘲笑う。

 

「ああ・・・何かしらの手がかりがあるかと来てみたが、なにもなかった」

 

無駄足であったとバラゴは吐き捨てた。

 

身なりこそは上等であるが、その心情はあまりにも醜悪であり人を人と思わぬというよりも食い物にすることを当然とする獣そのものであった。

 

バラゴが志筑一族の企業を訪ねたのは、志筑仁美の痕跡を探る為であった。

 

エルダによる”占い”でも使徒ホラー 二ドルの強大な邪気によりその先を見通すことが出来なかった。

 

アスナロ市でもバグギが自身の寝床にバラゴを誘い出したことでその所在が割れるまで、後手の対応になってしまった。

 

そのことを反省したのか、二ドルと一緒にいる志筑仁美の周りを探ることで潜伏先を見つけ出そうと動いていたのだった・・・

 

『変わらぬものもあれば変わるものもあるものだな。バラゴよ』

 

「何が言いたい?ギュテク」

 

『クククク・・・お前の変わりようだ。短い付き合いではあるが、我とかつて戦っていた頃は我を喰らいその力を得ようと貪欲なまでの獣心を抱いておったのにな・・・』

 

「・・・・・・僕は変わったつもりはないが」

 

『噂に聞く暗黒騎士 呀は、噂のようなおぞましい存在から離れつつあると言っておこう。お前にとっては不服かもしれんが、事実なのだから言わせてもらおうか』

 

心底愉快そうにバラゴをいじるギュテクに彼の瞳にわずかな怒気の色が浮かぶが、それはかつての彼が抱いていた禍々しい殺気を含んだものではなかった・・・

 

『少しからかいすぎたか・・・我も少し調子に乗りすぎた。だが、奴・・・二ドルの潜伏先については把握できた』

 

「ただ黙っていただけではなかったのか?」

 

『我をその辺の三流魔導輪と一緒にするなよ・・・少しだけ奴らの端末を借りた。あの距離だ・・・直接触れずとも操ることはできる』

 

かつての”雷”を操る使徒ホラーの能力は健在であり、これを応用し先ほどの男のスマートフォンからネットワークに侵入し、そこからリモートコントロールを行い志筑家に関連する施設近辺の防犯用監視カメラをあたったのだった。

 

秋にオーブンする水上ホテル NAMIKAMIで昨日誰かが動かした形跡があり、その近くで志筑仁美の姿をギュテクは確認したのだ。

 

『壁に豪華客船と湖の写真が飾られていた。おそらくはそこを拠点としているのだろうな』

 

バラゴは素直に魔導輪 ギュテクの能力の高さに感心する。

 

魔導輪は魔戒騎士への助言と戦闘における補助を行うのだが、このように情報収集を行い、的確に相手を探るなど自身が知る黄金騎士 牙狼の持つ魔導輪ザルバでもできない芸当だからだった。

 

「さすがだな・・・そこに奴は・・・二ドルは居るのか?」

 

『さぁな。おそらく今は拠点を後にしているだろう。今朝捉えた画像を確認する限りあの小娘の左目には間違いなく二ドルが巣くっている。今は、何処かに足を向けているのだろう』

 

「今、そこに行っても二ドルは狩れないか・・・」

 

『そうでもないな。あの小娘が二ドルの力の恩恵を得ているのならば、やることは決まっているだろう』

 

快楽の為ならばあらゆることを行う使徒ホラー 二ドルと自身の願いの為多くの人々を犠牲にし、奇跡を起こそうとする少女の行先は・・・・・・

 

「・・・・・・まさかこんな時間に襲撃をかけるつもりか?」

 

『奴の結界ならば可能だろう。外側は何の変哲もない光景だが内側は想像を絶する惨劇になっているだろうな』

 

志筑仁美のあまりのやり方にバラゴも烏滸がましいかもしれないが嫌悪に近い感情を抱いた。

 

自身がまともであるとは言わないが、本人を目の前にしたらそこまでするのかと声を上げていたかもしれない・・・

 

(思えば・・・あの時美樹さやかを止めていれば・・・・・・)

 

自身に関係のない事として切り捨て、見捨てた美樹さやかの魔法少女としての契約さえさせなければこのようなことは起こらず、ほむらを見滝原で使徒ホラー二ドルという驚異に晒させることはなかったかもしれない。

 

今回の二ドルの件は、アスナロ市のように”伝説の雷獣”と語られていた”使徒ホラー バグギ”所縁の呪われた土地ではなく、美樹さやかの祈りから始まった不幸に不幸が重なった結果であった。

 

志筑仁美が凶行を起こさなければ二ドルも現れなかったかもしれない。

 

そんな可能性を考えていた・・・

 

これは母の面影たる彼女に執着し、その周りを疎かにしたつけなのかもしれない。

 

ほむらのことを気に掛ける自身が抱く甘さに怒りとも苛立ちにも似た感情を抱く。

 

だがその一方で、ほむらのことを考えると自然と心が穏やかになっていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

”どうしてあなたは力を求めるの?こんなにも強いのに・・・”

 

”なんとなくわかるのよ。貴方は過去に大事な人を守り切れなかったんじゃないかって・・・そうじゃないとそこまでにして”力”を求めないものね”

 

”大切な人を失ったことへの心の痛みに抗って・・・それでいて自分の弱さが憎くてたまらないんだよね”

 

”ほんとに自分の弱さが嫌になるわね”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ・・・僕と君はよく似ているんだ。自分の弱さが憎くて、それでいて誰かを不安にさせることが)

 

故に力を求めた・・・誰もが成しえなかった誰もたどり着けなかった頂に達するために・・・

 

(母さんに似て居ながら君は僕とよく似ている。だけど、君はそんな僕に・・・強いと言ってくれた)

 

 

 

 

 

 

 

 

”あなたは本当に強かったのね。バラゴ”

 

 

 

 

 

 

 

誰も”強い”という言葉をかけてくれなかった。母も・・・そして複雑な感情を抱く冴島 大河も・・・

 

自分を見捨てないと気遣ってくれたことに感謝すらしていたが、自身の弱さを認められず反発し闇の道へと進んでしまった・・・

 

今の自分を見て大河もほむらと同じ言葉をかけてくれるだろうか?

 

らしくもない自身の心情に穏やかでありながら呆れにも似た複雑な感情を抱くと同時にバラゴは、ほむらとエルダが向かった見滝原中学校へと足を向ける。

 

志筑仁美と二ドルもそこに現れると考えてのことだった・・・

 

久方ぶりに思い出したかつての師 冴島大河のことで気になることがあった。

 

ここ最近奇妙なことが起こっていた・・・

 

それは、冴島大河の墓が何者かに暴かれたというものだった・・・

 

そのことを聞いたバラゴは当初気にも留めていなかったが、ここ最近は妙に胸騒ぎを覚えていた。

 

なぜなら、それと前後してポートシティで噂の外道魔戒法師 香蘭の目撃情報があったからだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 とある場所

 

 

 志筑仁美達が見滝原中学校を襲撃している頃、アスナロ市のとある場所では香蘭が自身の魔導具を通じて見滝原での様子を見ていた。

 

 

 

「志筑ちゃんも頑張るね~~。香蘭ちゃん達が特に入れ知恵をしたわけでもないのにここまで頑張るなんてね」

 

 

 

彼女としては珍しく一般人に近い感想を志筑仁美に抱いていた、

 

 

 

魔法少女になる殆どのものが”心優しい”、”儚い”存在であると誰かが評していたが香蘭はそうは思わなかった。

 

 

 

”希望”=”欲望”である結論を抱いており、その為ならばあらゆる手段を用いて達成しようとする事が人間として当然の行いであることを・・・

 

 

 

「そこは香蘭ちゃんも変わらないかな。香蘭ちゃんが編み出した”この術”を教えても良かったけど、志筑ちゃんの望みには添えなかったかもしれないね~~」

 

 

 

彼女の編み出した術・・・それは、”記憶”の再生である・・・

 

 

 

”記憶”の再生とは、その人物の持っている”技能”、”技術””知識”なども含まれている。

 

 

 

香蘭の編み出した術は、個人であってもその人物の所縁の品、遺体の一部さえあれば”記憶”を再生させることが可能である。

 

 

 

再生させた人物は、知識、経験、生前の記憶を持ってはいるが、”感情”が抜けているという結果を見せた。

 

 

見た目だけならば完全に蘇っているのだが・・・・・・

 

 

これについては、香蘭もある一つの結論を出した。

 

 

いかなる方法を持っても”死者”を蘇らせることは不可能であるということだった・・・

 

 

だが、”交霊”という現象や死者の言葉を語る技能を持つ者・・・

 

 

また魔戒法師の術、サバックの優勝者が入ることが許される”死者の間”なる存在・・・

 

 

それらを組み合わせた時、”死者”の復活はかなうだろうか?

 

 

死後の世界が存在していることは、牙狼の一族における”英霊”達の存在が証明している。

 

 

生きている者たちの世界である”現世”と死後の世界では、法則が存在しており、両方の世界が混ざり合ったら因果律が乱れ世界が崩壊する。

 

特殊な条件が重なれば、不確かな”奇跡”としか言いようのない現象により、死後の世界の住人が現世の者たちに影響を及ぼすことも・・・・・・

 

牙狼の”英霊”はその最もな例の一つである・・・

 

 

”牙狼”の一族を調べていた際に名高い黄金騎士の墓を見つけ、その遺体の一部を回収できたのは香蘭にとっては幸運であった。

 

その遺体の一部を核として”記憶再生の術”を駆使することで魔号機人 凱を作り上げた。

 

 

彼女は”死者の復活”については、特に興味もないが自身の求める”モノ”の過程でやらなければならなかった為に”記憶再生の術”を編み出した。

 

 

上条恭介の記憶を再生させることで彼に似た人物を作り出すことは可能である。

 

 

これを提案すれば志筑仁美を喜ばせることもできたが、彼女の”上条恭介の復活”は既に建前でしかないのではと、香蘭は邪推していた。

 

 

魔法少女の存在を知ったのならば、彼女は”魔法少女となり奇跡を叶える”事に執着していると・・・

 

上条恭介の復活は、単なる理由付けでしかない・・・

 

「何が起こるかまでは分からないけど。香蘭ちゃんも時期を見計らって見滝原に行ってみるのもいいかもしれないね。君たちも偶には体を動かしたいよね」

 

背後を振り返るといくつもの棺が置かれており、そのうちの二つの扉が内側から開くのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

バラゴさんの心境に変化があります。当初は割と怖い方だったんですが、ほんの少しではありますが穏やかになっています。

アスナロ市での戦いでは、ほむらの心境に変化があったようにバラゴもまた変わっています。

バラゴについていますギュテク本体が書いていてすごく働いてくれます(汗)

電子機器を通じて色々とできます。現代社会での情報収集能力はかなり有効です。

前回の最後で魔号機人 凱は冴島大河の情報を元に作られ、如何にして作り上げたのかを今回最後のほうで出してみました。

活動報告にも書いていましたが、魔号機人のカスタム機達を募集します。





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番外編「前 夜 祭(魔号機人)」


モチベーションを上げるために現在募集しています魔号機人達を早速描いてみました。

応募していただきました唐揚ちきんさん、ありがとうございます。


 

志筑仁美による見滝原中学校襲撃より 前日・・・・・・

 

 

 

 

志筑仁美の指示により明良 二樹達の一団はいくつかの班に分かれて行動することになった。

 

彼女が用意した拠点である”大型水上ホテル NAMIKAMI”のパーティー会場でメンバーがこれから展開する作戦を詰めていた。

 

「仁美ちゃん、使徒ホラーと一緒に見滝原中学校を襲撃する班は牙樹丸となどかちゃん・・・って、寝ちゃったか」

 

所属する魔法少女 鼎 などかは、いつの間にか椅子を連ねて簡易ベッドを作って寝息を立てていた。

 

他にも参加する予定の魔法少女が他にも居るのだが、この場には来ておらず単独行動を取っている。

 

「ったくよぉ~~。あのお嬢様の依頼だが正直張り合いが無さすぎだぜ」

 

長身の顔に三本傷を走らせた男 斬刃は自身が担当する作戦に不満の声を上げていた。

 

「まぁそういわないでさ・・・この街には例の暗黒騎士が居る。もしかしたら出会えるかもしれないよ」

 

”例の暗黒騎士”の言葉に斬刃が反応した。

 

「そういえばそうだった。ホラー食いの暗黒魔戒騎士の話は有名だったな、あの女と同じで」

 

この場に来ていない魔戒法師 香蘭のことを差しつつ、あちらは元老院に追われており、処刑ではなく捕縛と”影の魔戒騎士”達に命じられている。

 

そのことについては、元老院も色々と抱えているであろうことは斬刃も理解していた。

 

ホラーを狩る為、”守りし者”を名乗ってはいるが、その実態はあまりにも血に塗れている。

 

”守りし者”の在り方に興味など一片もない斬刃であるが、彼の興味は”スリル”であった。

 

今回は何時こちらを裏切るかわからない爆弾お嬢様と最凶と名高い使徒ホラーが同じ戦列に立っている。

 

相対するは見滝原の魔法少女もだが、称号持ちの風雲騎士にさらには、噂の暗黒魔戒騎士・・・

 

「それにさ・・・今回、紅蜥蜴は志筑さんの意向で参加はできていない。この意味が分かるかな」

 

何か面白いものを見つけた子供のような純粋な目で明良 二樹は斬刃に問いかけた。

 

「フタツキ・・・お前ってほんとに自分の欲求に正直だな・・・紅蜥蜴が邪魔しに来るって言いたいのか?」

 

「はははははは。まさかのそれだよ。今回の使徒ホラーの件もだけど、紅蜥蜴は見滝原市でことを起こることを半ば嫌っていたみたいというよりもここにある何かを知っているみたいなんだよね~~」

 

「あのドレッドヘアー・・・いろいろと分けありなのは知っていたけどよ。あの野郎みたいな変わり種はあいつ以外いないぜ」

 

斬刃が知る限り、紅蜥蜴のように奇妙な立ち位置にいる逸れ魔戒騎士は彼以外に存在しない。

 

彼の場合、ホラーに憑依する前でも陰我を災いをもたらす前に斬る。

 

さらには、過去に忌々しい邪悪なホラーが封じられた土地などを開発しようとする不届き者も依頼を受け暗殺する。

 

魔戒騎士、法師、番犬所を抱える元老院であっても人間社会に干渉することはできない。

 

出来ることといえばホラーと魔戒騎士達の存在を秘匿するように政府と密約を交わすことである。

 

そんな元老院や番犬所も紅蜥蜴の”悪をもって陰我を斬る”という信条を利用し、将来封印が解かれないように近づく者の抹殺、魔戒騎士やホラーを知り、利用する者の暗殺などを彼に行わせている。

 

直接、紅蜥蜴から聞いたわけではないが、以前BARで偶々香蘭と一緒になって話していた時に彼女の口から聞いた。

 

”紅蜥蜴君って・・・ある意味魔戒騎士よりも怖いよ。だって、彼のしていることすべてが打算的なんだよ。必要があれば卑劣な相手の仲間のふりだってするし、例え体を重ねた女の人だって容赦なく斬るんだからね”

 

香蘭曰く、近くに居るだけで恐ろしいとのこと。

 

名前のごとく容赦を知らない爬虫類と同じような目をしているのだから・・・

 

その紅蜥蜴が”敵”に回るかもしれない。

 

ある意味脅威ではあるが、斬刃にとっては良い機会だと考えていた。

 

自身が求めるのは”生か死のスリル”であり”最高の相手との殺し合い”なのだ。

 

『ハハハハハハハハ。この一団に相応しい限りではないのか!!!ここに集まった者たちは皆そうではないか、敵を滅ぼし、他者を犠牲にし、街を一つ地獄に変えても足りぬ。自身の身に、噛みつき、自らの血を啜る!!!それこそが明良 二樹様に見いだされた者達の本質なのだ』

 

突如ステージに舞台役者のように濃い紫のローブを纏った二本の角を持つ鋭い牙が存在する黒い骸骨・・・

 

黒い魔号機人が立っていた。仕草も芝居がかかっており他の魔号機人達と違い、生きた人間のように笑っていた。

 

黒い魔号機人を明良 二樹の傍で待機している魔号機人 凱が沈黙したまま視線を向けていた。

 

黒い魔号機人こと魔号機人 瞑”メイ”は、ローブを翻しながら、舞台から彼らに近づく。

 

鼎 などかは変わらずにやけた寝顔を見せている。

 

魔号機人 瞑への反応はそれぞれだった。牙樹丸は興味がないと言わんばかりに俯いて離れた席で一人酒を煽っていた。

 

斬刃は、機械的な魔号機人 凱と違い機械のはずなのに人間の感情を表現するこの魔導具が気味悪いことこの上なかった。

 

強さならば、悔しいが自身を上回っていることを知っている。

 

意思を持つ魔導具の存在を知らないわけではないが、この魔号機人 瞑の意思は作り物であり、元となった人物の記憶を参考にそう振舞っているだけなのだ。

 

「てめぇ、機械のくせによくもまあ、人間みたいに振舞えるんだな」

 

相手が自分よりも強いといって媚びるようなことを斬刃の吟味がそれを拒む。

 

『機械のくせに?これは、これは!!!アハハハハ!!!愉快!!!!愉快!!!機械が優秀なのを知っていながら、何故人間は価値を下とみるのだ?』

 

笑いながら斬刃との距離を詰めながら魔号機人 瞑は近づく。

 

笑ってはいるが内心、斬刃への怒りを内に秘めているかもしれない。

 

機械にそんな感情が存在するのだろうか?

 

『お前たちのような脆いボディを持つ不安定な人間の方が理解に苦しむ。戦力としてはないよりはましだがな。いや、量産型 魔号機人で戦力は十分だ』

 

「てめぇ・・・やるのか?」

 

『私を不快にさせたのはそちらだろう。お前という人間を私は不快と認識している』

 

二人の様子に明良 二樹は”やれやれ”と肩をすくめるが、彼の意を酌み、魔号機人 凱が動いた。

 

『そこまでにしておけ、魔号機人 瞑。斬刃も貴重な戦力だ。今回は昼間に動かなくてはならぬ故に生身の体を持つメンバーが必要だ。斬刃、魔号機人 瞑の無礼については私が謝罪しよう』

 

魔号機人 瞑と比べて大柄な体躯を持つ魔号機人 凱の言葉に斬刃もクールダウンし、魔号機人 瞑も

 

『お前がそう判断するのならば間違いではないな・・・生身の人間にもそれなりの使い道があるというわけか』

 

生身の人間である斬刃を見下すような尊大な態度を取る魔号機人 瞑であったが同じ魔導具のいうこともあり、今回は矛を収める。

 

斬刃はこの黒い魔号機人を心底気に入らなかった。

 

人間を明らかに嫌悪する言動とその尊大な態度が・・・

 

過去に存在した騎士たちの”亡霊”ともいえる存在が・・・

 

『斬刃と不知火 リュウジがメインになるのだ。これは依頼者からの指示でもある』

 

魔号機人 凱が明良 二樹に変わって説明する。主である 明良 二樹はこの状況を楽しみながら眺めていた。

 

「ったくわかったよ。ようするに餓鬼一人攫ってくればいいんだろ」

 

斬刃は、さっさと依頼を終わらせて噂の暗黒魔戒騎士、この見滝原に居る風雲騎士を探し戦おうと考えたが、やはり彼が関心を寄せる”紅蜥蜴”との遭遇を楽しみにしていた。

 

『今回の依頼の条件だ。あとは、依頼者の障害となる者達を抹殺。だが、依頼者が紅蜥蜴を戦列から外したことは明らかな失策であり、我らにとっては脅威だ』

 

魔号機人 凱も逸れ魔戒騎士 紅蜥蜴を脅威として見ていた。勝率は略五分である。

 

『人間の考えることは不合理だ。まぁ紅蜥蜴が敵に回ることは確かに脅威だ、故に惜しいものだよ。あの強さと冷酷非情な判断と性格は、人間であることが惜しいぐらいだ』

 

魔号機人 瞑は紅蜥蜴は人間にしておくには、惜しいと考えていた。

 

もしも死ぬようなことになるのならば、その遺体の一部を回収し、香蘭に新たな魔号機人として”記憶”を復活させるのもアリではと考えるのだった。

 

この場で若干表情を強張らせながら、不知火 リュウジは人間のように振舞う骸骨人形たちを見ていた。

 

魔導輪達、人間との共存を考えるホラーの意思を封じ込めたものと違い、彼らの意思は元となった”生体情報”を再生させているだけであり、本当の意味での自我は持っていない。

 

魔号機人 凱はかつて多くの魔戒騎士達から尊敬を集めた黄金騎士 牙狼 冴島大河の生体情報が使われている。

 

まさに機械人形といった性格であるが、元となった人物の”記憶”の影響か、このように場を収めたりするなど、黄金騎士 牙狼を思わせる威厳すらも感じられる。

 

魔号機人 瞑は凱と違い明らかに主人である明良 二樹以外の人間を嫌悪しており、性格は尊大で同じ魔号機人であるはずなのに感情を大きく表す。

 

これは元となった”記憶”の影響であった過去に存在した今は途絶えてしまった称号持ちの騎士の・・・

 

異国の魔戒騎士であったが、過去にあった事件で人間に絶望し、暗黒騎士に堕ちた存在と聞いている。

 

故に情緒が不安定な部分もあり、尊大な態度と高圧的な姿勢、さらには時折笑い、人間を嫌悪する所は暗黒騎士に堕ちた騎士の”生体情報”によるものであろうか・・・

 

古の魔戒騎士達の技術と知識を持つ人型魔導具達・・・

 

過去に偉業を成し遂げた”戦士”を現世に再び呼び戻すことができれば、”守りし者”にとっては心強い。

 

番犬所、元老院にしても戦力の確保という意味では上位型 魔号機人を手に入れたい。

 

しかし、不知火リュウジは上位型 魔号機人の存在をあってはならないものと考えていた。

 

他の魔戒騎士達も同じ思いを抱くであろう・・・

 

(俺達よりもずっと前に守りし者として戦い、その使命を果たし眠りについた”英霊”の記憶をいかなり理由があっても道具として使い、蘇らせるなんて・・・あってはならない)

 

過去の騎士たちは次の世代に後のことを託し、その時代時代の役目を果たした。

 

役目を終えた騎士達の眠りを・・・神聖な墓所を荒らすようなことなどあってはならないと・・・

 

墓所もあの香蘭にとっては”生きている人間にとっては何の役にも立たない単なるオブジェ”でしかなく、だからこそ、騎士たちの墓所を荒らし、その記憶すらも利用している・・・

 

『主に変わってこの魔号機人 凱が指示を出そう。主の護衛は魔号機人 瞑が行い、さらには量産型 魔号機人たちでここを守護する。私は、斬刃、不知火リュウジと号竜人を伴い、見滝原市の中心へ向かう』

 

メインは斬刃と不知火リュウジが動き、号竜人が続き、魔号機人 凱は遊撃として介入してきた存在の排除を行う。

 

これについては異存はなかった。見滝原市での目標については、既に使徒ホラー 二ドルが補足していた。

 

「まさか餓鬼を攫う羽目になるとは・・・もう少しスリルを味わいたかったんだがな」

 

テーブルに置かれていたのは、ある少女を映した写真であった・・・

 

写っていた少女は・・・千歳ゆま・・・

 

 

 

 

 

 

明日の計画である見滝原中学校への襲撃、さらには千歳ゆま拉致計画を確認した後に一同はパーティー会場を後にした。

 

明良 二樹も用意された部屋に足を向け、他の面々もそれぞれの部屋へと向かっていく。

 

一同より遅れて魔号機人 凱は寝入っている鼎 などかを起こさぬように抱きかかえ、彼女に用意された部屋のベッドに寝かしつけた。

 

その動作はなれたモノであり、まるで子を持つ父親のようにも見える。

 

部屋を出るとそこには、魔号機人 瞑が迎えるように立っていた。

 

『あんな小娘には過ぎた行いだな。それに魔法少女は少々雑に扱っても壊れはしないだろう』

 

鼎 などかに対しても人間である為、嫌悪感を隠すことなく告げる。

 

『あのままにしておくわけにはいかなかった』

 

魔号機人 凱の言葉に魔号機人 瞑はおそらく機体に使われた”黄金騎士”の生体情報の記憶がそうさせたと判断した。

 

自身の人間に対する嫌悪感は、自身に使われた”翠瞑騎士ゼクス”の生体情報の記憶が齎したものだ。

 

『ハハハハハ。だからこそ、お前は人間ともそれなりにうまく付き合えるのだな。私には難しい限りだ」

 

突然笑い出した魔号機人 瞑に対し魔号機人 凱は・・・

 

『魔号機人 瞑よ。我らの本質は”魔導具”だ。主が必要だからこそ今、こうしているのであって不要であれば存在意義などない』

 

使用者がそう望むのならば、あらゆることを叶えるのが自身の存在意義である。

 

『そうだったな・・・明良 二樹様に必要とされるゆえにこの場にいるというわけか』

 

嫌悪する人間に使われる事への反発を魔号機人 瞑は抱いていなかった。

 

この人型魔導具もまた自身が”道具”でしかないことを自覚している。

 

だが、自身が持つ生体情報が人間の醜さ、浅ましさを伝える。

 

『お前はお前の道具としての役目を果たせばよい。我らの意思は生体情報の記憶に齎されたものだ。人間のそれとは違う』

 

道具としての存在意義に魔号機人 瞑も納得するかのように頷いた。

 

『我らに確固たる意志はない。故に主の望むままにだ・・・』

 

二体の魔号機人達は、それぞれの役目に就く。

 

魔号機人 凱は明日の千歳ゆま拉致計画の為に・・・

 

魔号機人 瞑は自身の主 明良 二樹の守護の為に・・・

 

 

 

 

 

明良 二樹は彼の元へ参じた魔号機人 瞑と語らっていた。

 

「今回の件は色々と物騒だけどスリルを味わえるからね・・・楽しみだよ」

 

『それはよろしゅうございます。ですが、依頼主がいずれ裏切ることへの対策と紅蜥蜴への対策も考えなければならないとは・・・』

 

「君は言ったじゃないか。僕が見出した者たちの本質を・・・敵を滅ぼし、他者を犠牲にし、街一つを地獄に変えてもなお自らに噛みつき、血を啜るって・・・はっきり言えば”狂気”以外の何物でもないよ」

 

『ハハハ、そうでしたな。狂っていなければこの魔号機人 瞑もまた存在はしていなかった。私もまた人の持つ”陰我”の先にある更なる”狂気”によって生み出されたのだ』

 

主である 明良 二樹の言葉に道具らしからぬ笑みを浮かべる。

 

薄笑いを浮かべたような骸骨の貌であるが、本当に笑っているようにも見える。

 

(人の心なんて不確かなものさ。世の中心ある振りをしている空っぽで退屈でそれでいて醜い人間で溢れている。生体情報を再生しているけど、個性がある魔号機人達の方が人間よりもずっと感情的にみえるよ)

 

心を求めている兄の仇の”青年”を今更ながら思い出した。

 

「そうだ、魔号機人 瞑。アレは今、何処で何をしている?」

 

『アレについては、既に魔号機人 蓮”レン”が補足しています。いつでも葬れますが・・・』

 

「そのままでいいよ。特に手を出す必要はないさ。アレはアレで僕が始末をつけないといけないんだよ」

 

以前、兄の仇を討とうと見滝原に来たことがあったが、その時は殺したとしても得るものがなかった為に姿を確認するだけで何もしなかった。

 

『なるほど・・・つまり美味しく頂くために時を待っていたということですな。酒が美味くなるまでには時間が必要であり、収穫の時は必ず来ると!!!』

 

彼の”狂気”にも似た思いに刺激されたように魔号機人 瞑が声高に叫ぶ。

 

「その通りだよ。今はこっちを楽しみたいからね・・・僕の周りはそういうことさ、昨日までの仲間が笑いながら互いに殺しあうんだから・・・こんなに愉快な一団はないよ」

 

良い気持ちだと言わんばかりに、少し仮眠を取るために魔号機人 瞑を退室させる。

 

「志筑仁美ちゃんは、なんだかんだ言って良い子ちゃんだからどこかで罪悪感を感じているけど見ないようにしているから、寝不足にならないことを祈るよ」

 

有名な映画のタイトルに”悪い奴ほどよく眠る”とはまさにその通りであると思った・・・

 

意味は、本当に悪い奴は表に自分が浮かび上がるようなことはしない。人の目の届かぬところでのうのうと枕を高くして寝ていると・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市の闇の中を白い影が降り立つ。

 

それは忍者を思わせる姿をしており、口元をフェイスガードで覆っている。

 

眼窩の奥に黄色の瞳を遠くの家の中にいる”ホラー フェイスレス”に向けられていた。

 

魔号機人 蓮・・・その目的は主に明良 二樹の命のままに暗殺や貴重な品の強奪・・・・・・

 

奇妙なことにこの魔号機人は、暗殺以外で人を殺めることはない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市の香蘭の住まい兼研究所・・・・・・

 

彼女の前には見滝原で起こっている様々な出来事が記録映像として展開されていた。

 

志筑仁美に渡した魔導具の中に周囲を探ることができる者が存在している。

 

それが香蘭に見滝原の現状を伝えている。

 

映像の中で香蘭が特に興味を引いている映像があった・・・

 

「う~~ん。魔戒騎士並みに強い堕天使か・・・鬼とか竜騎士なんてのも居たみたいだけど、黒髪で綺麗な人ってなんだかあこがれちゃうな~~」

 

香蘭が見ているのは、人型魔導具らを十字の刃で切り伏せる暁美ほむらの姿があった・・・

 

「この力どうやって発現したのかな?突然変異?それとも誰かの意思を受け継いで、自らを昇華させたのどちらかな?」

 

普段のようなにこやかな笑みを消し、真剣な眼差しで混沌とした黒い翼の魔戒導師に視線を向ける。

 

それは、香蘭の探究者としてのものだった・・・・・・

 

彼女の容姿に何を思ったのか香蘭は背後にあるいくつもの棺の中の一つに手を添える・・・

 

「・・・君のオリジナルが生きていたあの時代では、身分の差もあって淡い思いをサラ王女に抱いていたけど、叶わないものだった。でもこの時代はそんなこともないよ・・・君は彼女を見てどう思うかな?」

 

棺に記載された魔戒文字・・・魔号機人 曜・・・

 

 

 

 

『私は守りし者・・・たとえ肉体は滅びようとも魂はここにある・・・サラ様、貴女が再びこの世に戻ってくるのを心待ちにしております・・・』

 

 

『私はお前のような外道の人形ではない、香蘭』

 

 

 

 

 

 

 

 

魔号機人の噂話・・・・・・

 

上位型 魔号機人は合わせて12体存在する・・・・・・

 

魔号機人の中には、自分を生まれ変わりと錯覚している機体が存在する・・・・

 

曰く・・・生体情報による記憶ではない意思を持ったゆえに封印された機体が存在する・・・

 

 

 

 

ある男に仕える四体の上位型 魔号機人達

 

 

 

黄金騎士 牙狼の記憶を持つ機械人形・・・

 

今は途絶えた”翠瞑騎士ゼクス”の亡霊の記憶を嫌悪する黒い機械人形・・・

 

貴族の生まれでありながら盗賊に身を落とした白蓮の矜持をもつ白い機械人形・・・

 

危機に陥った救国の赤い騎士の誇りを宿した赤い機械人形・・・

 

 

 

 

創造主である女に仕える今は姿を見せない上位型 魔号機人達

 

 

守りし者としてたった一人に執着した黒い騎士・・・

 

魑魅魍魎が蠢く古の京都の闇をかけた陰陽師・・・

 

 

 

 

 

 

 

自身の生体情報に刻まれた炎の記憶を見つめる封印されし”黄金の騎士”・・・

 

 

 

 

 

 

次 話「前 夜 祭(魔法少女)」

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

活動報告にも記載した通り、募集して頂いた魔号機人は随時描いていきます。

時系列は少し過去になりますが、見滝原は思った以上にカオスになりつつあります。

志筑仁美と使徒ホラー二ドル、アスナロ市からの明良 二樹らのグループ。

さらには、独自に動いているであろう逸れ魔戒騎士 紅蜥蜴・・・

元老院より見滝原にやってきた影の魔戒騎士 毒島 英二・・・

見滝原の魔法少女達、風雲騎士一家 バラゴ、ほむら、エルダの三人組。

それらとは別に動いている”存在”・・・

次回は、彼とあの少女を中心に描きたいと思います。

並行して本編も執筆中です。

魔号機人の募集は5/11まで行っています。




ある噂話・・・

封印された炎の記憶を持つ黄金の騎士をある少女が目覚めさせた・・・

自分に変わって”妹”を守るように使命を与えて・・・・・・

「私に変わってあの子を守って」

少女は見る機械仕掛けの守りし者を・・・神浜の地で・・・・・・





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第弐拾玖話「 監 獄 (惨)」

四か月ぶりの投稿です。ここ最近、色々ありました。

モチベーションを上げつつ、ちょくちょく上げていきたいと思います。




見滝原中学校 校舎内

 

「えへへへへへへ。みんな、この状況が嫌なのかな?だったら、早く終わらせないといけないよ」

 

鼎 などかは、怯えている一人の生徒の頭を掴みその記憶に干渉する・・・

 

「嫌なことを終わらせる方法を教えてあげる。志筑仁美の邪魔をする二人を排除してほしいんだよ・・・二人は正義の魔法少女だから、あなた達を攻撃なんてできない」

 

虚ろな目で見上げる生徒になどかは、満足そうに笑みを浮かべた。

 

「こうやって見ると結構すごい光景だよね・・・これは・・・・・・」

 

現在 鼎 などかが居る場所は校舎の三階であり、学園全体が大きな瘴気に覆われ校庭には黒い西洋の悪魔を思わせる素体ホラーが無数に存在している。

 

魔女の結界を思わせる瘴気と邪気が蔓延し、至る所から濃い死の気配が漂っている。

 

「アニメだと、こういう光景は最終決戦間近の回だよね」

 

自身はラスボスの前に主人公の前に立つ幹部なのではとも考えたが、それでは普通に倒される嫌な役目だと思い大きく首を振るのだった。

 

「じゃあ、みんな。そろそろ行こうか・・・」

 

などかの声に応えるように十数人の生徒たちが立ち上がる。

 

「よーし!!!じゃあ、魔法少女がなんぼのもんじゃい!!!みんなで戦えば怖くなんかない!!!」

 

などかの指示に従い覚束ない足取りで生徒らは歩き出すのだった・・・・・・

 

「あっ・・・でもこれって、志筑仁美と一緒にいる二ドルって奴にもできることだよね・・・あっちと違って、頭を直接いじってるからなどかのほうがすごいよね♪」

 

などかの魔法は相手の意識に触れ、その特定の記憶に干渉するというものである。

 

応用すれば相手の自我意識そのものを破壊し、自身の思うままに操ることさえもできる。

 

一番嫌いな存在を”自身”だと思い込ませれば、単なる生きた屍となる。

 

彼女の使うそれは、完全に自我を破壊する為、二度と”元の人格”を取り戻すことはない。

 

「あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・」

 

虚ろな目で自身が何者かも分からなくなった生徒達は鼎 などかの場違いな明るい声に従うのだった。

 

その様子を近くに隠れていた数人の女生徒が見ていた。

 

「な、なんなのよ。あの子は・・・いったい何が起こっているの?」

 

震える声でこの状況を理解しようと努めるが内側から湧き上がる恐怖によりままならなかった。

 

「分からないよ。何かが私達の学校に攻めてきたのは間違いない。誰よ、私達をこんなことに巻き込んだのは・・・」

 

「じゃあ最近の見滝原の噂は本当だったてこと?人を襲う怪物が出るって話が?」

 

「そうとしか考えられないよ。さっきの子は此処に襲撃してきた側だよ」

 

「ちょっと待ってよ。あの女の子は怪物を倒す側じゃないの?」

 

校舎を徘徊していた人と蠍を合わせたかのような化け物、さらには黒い西洋の悪魔の群れは明らかに人間を害する存在である。

 

事実、蠍の怪物に大勢の生徒、教師たちが切り裂かれ、命を奪われていた。

 

「・・・もしかしたらあの女の子は見た目は人間だけど正体はあいつらと同じ怪物かもしれない」

 

「じゃあ、怪物と戦う正義の味方はどうしてるのよ!!!私達をこんなことに巻き込むなんて!!!」

 

「私に怒らないでよ!!!どっちもどっちよ!!!正義の味方も怪物も!!!」

 

互いに罵り合い始めた二人に対し、数人の内”ニドル”が仕込んでいた魔針がその光景を志筑仁美に伝えていた。

 

 

 

 

 

 

『いい感じに盛り上がっているよ。仁美ちゃぁん』

 

「・・・そうですわね。巻き込まれた側にとっては、たまったものではありませんわ」

 

感情のこもらない声で志筑仁美は彼女たちの心情を察した。

 

「上条さんの不幸は美樹さやかの身勝手な願いから始まりました。魔法なんていう不確かなものを彼に押し付けた結果が取り返しに付かないことに・・・」

 

思い返すたびに自身の中の”憎悪”が強く燃え上がる。絶対に忘れるなと・・・

 

彼を不幸に突き落とした”魔法少女”を許すなと・・・

 

「思えば、巴先輩が美樹さやかに素質があると言って関わってきたから愚かな美樹さやかは、縋ってしまった」

 

魔法少女の世界は、本来ならば関わってはならないものかもしれない。巴マミが二人を勧誘しに来た時、佐倉杏子は反対の意思を示していた。

 

巴マミもまた”上条恭介の不幸”の遠因だった・・・

 

関わってはいけない”地獄”に誘ってきた彼女も自身の手で始末をつけなければならない。

 

魔法少女を希望の象徴と驕る彼女には、これ以上にない絶望と身の程をわきまえるよう思い知らせる必要があるだろう。

 

「資格があるから?魔法少女だから守る?誰もそんなことを頼んでもいませんし、望んでもいませんわ」

 

志筑仁美は、巴マミを追い詰めるために一手を打つ。これは希望の象徴である魔法少女にとってはこれ以上にない苦痛であろうと・・・

 

希望が絶望に歪む光景を想像し彼女は、禍々しい邪悪な笑みを浮かべるのだった・・・

 

かつての年端のいかない心優しい少女の面影はなかった・・・

 

 

 

 

 

巴マミと佐倉杏子の二人は、学園を探索しつつ志筑仁美を追っていた。

 

「何処にいるんだ?ナダサ、居るのは間違いないんだよな」

 

『そうだね。因果を高めるのならば自分自身も近くに居ないといけないからね』

 

「直接相手の命を奪うことで・・・なんてことを・・・」

 

マミは志筑仁美の行いにハッキリと嫌悪感を示した。

 

言うまでもなく、彼女の行いは最悪以外の何物でもなかったからだ。

 

誰かに唆された、脅されたとも思えない。仮にそうだとしてもマミは情けをかけるつもりはなかった。

 

「なぁ、マミ。仁美はさやかの友達なんだ。なるだけ手荒なことはと思うんだが・・・」

 

マミの表情を見る限りそういうわけにもいかなかった・・・

 

「・・・そうね。美樹さんのことを考えると・・・だけど今の志筑仁美に情けをかけるべきではないわ。こっちが付け入る隙を見せれば間違いなく付け込んでくる」

 

今の志築仁美は、例え泥をすする羽目になっても目的達成の為ならばいかなることもするだろう・・・

 

「前に美樹さんには嫌われたけど・・・今回も嫌われ役に徹したほうが良いもしれないわね」

 

自分は志筑仁美に手をかける。さすがにその命を奪うことまではしたくはない。

 

二度とこのようなことができない身体にさせてもらう。

 

「ったく・・・そういう風に一人で抱え込むな、マミ。とりあえずは殴って分からせてやればいいんだよ」

 

マミは一人で何もかも背負いがちである。そのことにため息をつきつつ自身も手荒なことをせざる得ないと彼女をフォローする。

 

「ふふふふ、ありがとう佐倉さん。ほんと私って駄目だな・・・」

 

「何言ってんだよ。駄目じゃなかったら、魔法少女なんかになっていないっての」

 

「それもそうね。佐倉さん」

 

この状況であるのに二人はお互いに軽口をたたきながら進んでいく。

 

先日までは会えば一触即発だったのだが、今は長い事コンビを組んでいたかのように二人の心は通じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

和やかな二人の雰囲気を断ち切るようにその知らせは唐突に学園全体に発せられた。

 

『学園の皆さんにお伝えしたいことがあります。今、この学園は恐るべき事態に面しています。

 

この場であえて説明するまでもないでしょう。

 

見たことも聞いたこともない怪物が現れました。これは、本来ならば私達の日常の外に居た世界の存在です。

 

この存在をこの学園に、私達の日常にこれらを連れ込んだ元凶、二人をこの場で告げます』

 

 

「志筑仁美?あいつ何をするつもりだ」

 

「っ!?!佐倉さん、最悪な展開よ。アレを見て」

 

頭上から響く志筑仁美の声に警戒を強める杏子。マミは、すぐ近くの学園に備え付けられている液晶掲示板に表示された画像に表情を歪めていた。

 

「なにって・・・アタシ達の顔じゃねえか!?」

 

掲示板に表示されていたのは、佐倉杏子と巴マミの二人の顔の画像であった。

 

さらに追い込みをかけるように、

 

『この学園に紛れ込んでいた異分子、佐倉杏子 巴マミ。この二人はあの怪物達と戦う為に存在する魔法少女です。二人は怪物らと戦う正義の味方にこそ見えますが、事実は違います。

本来怪物たちは、人に関わらないようにひっそりとしていました。それを自身の糧の為に狩るという野蛮な行いを人知れず行い、とうとう怪物たちの怒りを買い、彼らは強硬手段に出ました。それが今の学園の真相なのです』

 

「おいおい・・・何を言ってるんだ」

 

『不味いね・・・杏子、マミちゃん。この状況は・・・』

 

杏子とナダサは、事態の急変に声を上げる。

 

マミは周囲に息を潜めていた気配が濃くなっているのを感じる。

 

『怪物たちは自分の生活を脅かす脅威を排除したいだけなのです。彼らは自分達の平穏を取り戻すためになりふり構ってはいられないだけです。私は彼らの悲痛な声を聞き入れ、望みを叶えるために協力することにしました。そう、彼らはこの二人を排除できたならば、ここから撤退します』

 

志筑仁美の訴えに呼応するかのように息を潜めていた人達の敵意のようなものが強く濃くなっていく。

 

『私達のすべきことはただ一つ、魔法少女を語る二人の異端をこの手で制裁することです。私達の中から出てしまった膿は私たち自身の手で解決しなければならないのです!!!

 

さあ、みなさん!!!立ち上がってください!!!皆さんの平穏を奪った二人をその手で打ち倒すのです!!!!』

 

志筑仁美の訴えに呼応するかのように息を潜めていた生徒達、教師たちは各々武器になるものを携えて液晶掲示板が示す二人の場所へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

放送室を二ドルの助力を得て操作し、二人を追い込むために行った自身の一世一代の演説に満足したのか穏やかな笑みを浮かべた。

 

「本当に自分のことしか考えていないのですね。やはり無駄に貴重な生を消費するだけで何も生み出さない無駄な存在でしかありませんわね」

 

上条恭介を利用するだけ利用して、絶望の淵に居た彼を切り捨てたこの見滝原中学校の実態は、まったくもって愚か者の集まりでしかなかった

 

「君の言うとおりだよ。人間は無駄に数が多いだけの愚かな存在だ」

 

仁美の目の前に協力者である植原 牙樹丸が立っていた。

 

「植原さん、どうですか?調子は」

 

「・・・あぁ、楽しませてもらったよ。久々に沢山食べられてご満悦だ、若く新鮮な肉体は滅多に口にできないからね」

 

普段の陰鬱とした表情とは打って変わって晴れ晴れとした表情で植原 牙樹丸は志筑仁美に応えた。

 

その様子に志筑仁美も微笑み返す。

 

「それは誘った甲斐がありましたわ。お礼は弾ませなければなりませんね。わたくしも・・・」

 

気分が良いのか志筑仁美も自身の”因果”を収めるソウルジェムを見せる。

 

緑色の光にを放ち、これまでの行為により因果が彼女の”ソウルジェム”を満たし、あと少しで”奇跡”を叶えるところまで来ていたのだ。

 

「いいよ。ここまでしてくれたんだから、俺も”彼女”もこれ以上は望まないよ」

 

植原 牙樹丸の言葉に志筑仁美は穏やかに微笑む。

 

「腹ごなしに運動をしないといけないな・・・彼女も体型を気にしているからさ」

 

気味の悪い笑みを浮かべ、植原 牙樹丸はこの結界の中の敵対者へと向かう。

 

「食後の運動は結構ですが、もう少し後にした方がよろしいのでは?急激な運動は体に毒ですわ。その前に

 

志筑仁美は怪しく笑う。

 

「二人の魔法少女がどうこの状況を切り抜けるのかを見届けた後にしてもよろしいのではないでしょうか」

 

「そうだね・・・魔法少女は意外と厄介だから確実に倒せるようにしないと」

 

植原 牙樹丸も笑い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

校舎内では多くの生徒や教師たちがそれぞれ得物を持ってある場所へ殺到していた。

 

この事態を終わらせるために、二人の少女を手にかける気でいる。

 

「お前たちのせいで!!!僕たちは!!!」

 

「私達を巻き込まないでよ!!!!」

 

「あの子が死んだ!!!あんた達が殺したんだ!!!!」

 

負の感情を露わにし、暴徒と化した彼らが罵っているのは、佐倉杏子と巴マミだった。

 

「この魔女め!!!人間のふりしてとんでもない事をしてくれたな!!!」

 

身長の高い男子生徒が血走った目で部活で使う金属製のバットを大きく振りかぶる。

 

「ちっ、待てよ!!あたし達は・・・」

 

この光景が妙に杏子には辛く感じられた。

 

言うまでもなくかつての自分に対して、決別の意思を示し、家族と一家心中をした父親と皆が同じ顔をしていたのだ。

 

「佐倉さん・・・こうなってしまった以上、説得はできないわ。生き残るために目の前のことしか見えていない。人間は死を間近にすれば周りのことなんか見えなくなるのよ」

 

かつて交通事故に遭った自身もまた死を強く感じ、助かりたいがために救いを求めて、キュウベえと契約を結んでしまった。

 

今の暴徒たちの心情もそれと同じなのだろうと察した。

 

「ったく、気分のいいもんじゃないな。古傷を抉られるみたいで・・・」

 

「彼女が私達の事情を知っててやっているのか、それとも私達が精神的に追い詰められると考えてやっているのか分からないけど・・・今の彼女は相当性質が悪いわよ」

 

杏子とマミは内心、この場に”時間停止”の魔法を持つ暁美ほむらの助力を強く願った。彼女もおそらくはこの事態に気づき、駆け付けてくれることを・・・

 

「マミ・・・随分と冷静じゃないか。こういう場面は精神的にくるんじゃないのか?」

 

「そうね・・・少し前の私ならこの状況に動揺し、錯乱していたのかもしれない。今は、何が何でも生き抜いてゆまちゃんとメイさんのところに帰らなくちゃいけない。それが私の望みよ」

 

「おいおい・・・正義の味方のマミさんはどうした?自分の願望の為かよ」

 

「ふふふ、そうね。それが意外と周りにもほんの少しだけ良い影響になっているかもしれないわよ、佐倉さん」

 

 

 

 

「さっきから何を言っているんだ!!!魔女たちめ!!!!!」

 

「うわああああああっ!!!!!!」

 

 

 

生き残るために必死なのか、目の前の二人を制裁すべく取り囲んだ暴徒達は荒波のように押し寄せてきた。

 

皆が皆、人が助かりたい一心で自身の感情を暴発させていく。統率はなくただ只管向かっていくだけだった

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉さん!!!一般人だからと言って気を緩めないで!!!」

 

「分かってるよ!!!ったく、仁美の奴、あいつホラーに取りつかれてるんじゃないのかっての!!!」

 

荒波のように押し寄せてくる暴徒達を背中合わせに二人は見据えていた。

 

 

 

 

 

 

「もぉ~~~。こういうのは、などかの役目なのに、どうしてこういうことするのかな~~」

 

暴徒達が去った後、液晶掲示板に表示された二人の画像を横目に天井のスピーカーを鼎 などかは睨みつけるように見上げた。

 

「お嬢様もやるな~~~、よぉ~~し。滅茶苦茶な人達よりもみんなの方がずっと優秀だよ、なんだって、などかの魔法がかかっているんだからね♪」

 

虚ろな表情で続く集団の先頭に軽くステップを踏んで立った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

改めてみますと志筑仁美がここまで出張るまどマギSSも珍しいのではと思います(汗

臨機応変に対応しており、作中の敵役の中でも割とかなり厄介な存在と化しています。

現存する敵対勢力では、明良 二樹は依頼を受けて行動するが、話せば味方にできなくもない。

フェイスレスは、本能のままに動く獣にそのもの・・・

改めてみますと、明確に自身の野望を果たそうと行動している彼女は最も黒い存在になってしまいました。

こういう行動を起こせるのならば、何故上条君の時にと思わなくもないのですが。

杏子とマミさんは、ホラーや魔女ではなく暴徒と化した生徒や教師を相手にしなければならなくなりました。

志筑仁美の手に踊らされており、学園全体が敵に回ってしまいました。

増援は彼女らですが、どのタイミングで現れるのか?







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第弐拾玖話「 監 獄 (肆)」


筆が載ってきたので早めに投稿しました。




 

 見滝原中学校で志筑仁美の煽りにより暴徒と化した見滝原中学校の生徒、一部の教員達はこの騒ぎの元凶とされた佐倉杏子、巴マミの両名に向かっていった。

 

気が高ぶり、目の前の二人に対し殺気を向けて得物を振り下ろす。

 

「おっと!!意外といい感じに振り下ろすな」

 

杏子は魔法少女の強靭な身体をもってしても集団によるリンチを受けいれる気はなく避け、カウンターとして飛び上がり鋭い蹴りを浴びせる。

 

普段の彼女の蹴りは、法師として鍛えられている為、一般人には致命傷を与えかねないが手心を加え、多少の痛みを与える程度に済ませていた。

 

一人を倒してもすぐに群がってくるため、息をつく暇がない。暴徒ではあるが、志筑仁美に煽られているだけでさらにはこの事態に巻き込まれているだけなのだ。

 

『杏子。一般人には手を上げるなとは言わないよ。YOUの身をしっかり守ることを優先するんだ』

 

「おう、ナダサ。魔戒法師としてこういう状況はどうなんだよ?」

 

『君の伯父は多少手荒な手段はだったけど、SPEEDYに済ませていたよ』

 

杏子の脳裏に伯父が得意とする瞬間移動の術を思い浮かべる。他の術を使えば暴徒達を傷つけることなく抑えられることも・・・

 

アレなら一瞬でこの場を切り抜けられるだろう。

 

伯父に稽古をつけてもらっているが、彼の得意とする風、水、雷の術に未だに基礎すら習得できていない。

 

術の習得については、それなりに長い修行の期間が必要である為、まだ一か月にも満たない自分が得られるものではないのは分かっていた。

 

だが、今その術が使えればと杏子は強く願った。

 

『杏子、無いモノを強請っても仕方がないさ。少しだけMEをTRUSTしてくれないかい?』

 

「あぁん・・・ナダサ、お前ならなんとかできるってかい?」

 

『杏子へのANSWERはYESさ♪魔導輪は元々ホラーさ。人間に後れを取るつもりはないよ』

 

この状況に対しナダサも僅かではあるが怒りを持っていた。英語と日本語が混ざった変な言葉遣いのお調子者の魔導輪ではあるが、杏子を様々な能力で助けており、少し前の爆発からも身を守ってくれた。

 

『EveryOneには、少しRestしてもらうよ』

 

ナダサは杏子に自身を頭上に掲げるように指示を出し、頭上に掲げられたナダサは目を輝かせたと同時に咥内より一筋の光を発したと同時に暴徒達は一斉に崩れ落ちた。

 

「お、おい・・・」

 

『大丈夫さ。殺しちゃいないよ・・・MEは、無暗に命を奪うつもりはないからね』

 

ウインクで杏子にナダサは応えた。

 

手前に倒れている人に触れると静かに寝息を立てていた。

 

「ナダサ・・・あんたこんな力を持っていたのか?」

 

『ナダサを名乗っているけど、かつては眠りのホラー バクーと呼ばれていたからね。相手の意識を眠らせることとその夢を覗くことが出来たんだよ』

 

「ホラーとしての能力は健在かよ、でも助かった。ありがとうよ」

 

『どういたしましてさ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

マミは既に暴徒を鎮圧させており、そのほとんどがリボンで拘束されていた。

 

彼女自身が驚くほど冷静に・・・単純な作業をこなすかのように・・・

 

やろうと思えば意外と簡単にできるものだと感心すらしていた。

 

少し前の理想に妄信していた自分ならば取り乱し、不覚を取っていたかもしれない。

 

「おい・・・巴・・・お前は、そんな力を持っていて・・・俺たちを今まで馬鹿にしていたのか?」

 

見知った顔が自分を睨み上げていた。クラスでよく見かける同級生の男子だった。

 

「・・・別に何も思っていないわ。普通にこの学校で過ごしていただけ」

 

「じゃあ、なんでだよ!!!お前がへまをしたからこんなことになったんだろ!!!くそっ!!俺たちの平穏を滅茶苦茶にしやがって!!!糞女!!!」

 

「そうね。私が彼女に魔法なんて教えてしまったから・・・こんなことになってしまったのね」

 

彼の言うように志筑仁美を”狂気”に導いてしまった”遠因”は自分かもしれない・・・

 

美樹さやかは、魔法少女を知り、契約し願いを、奇跡を起こした。

 

その奇跡の恩恵を受けた少年は、理不尽な運命により絶望に突き落とされ更なる闇へと・・・身を沈めてしまった。

 

志筑仁美を凶行へと進ませたのは・・・美樹さやかに不幸を運んでしまったのは、もしかしたら自分ではないかとさえ思えてしまう。

 

美樹さやかの件を佐倉杏子より聞いた時、自分自身の軽はずみな勧誘が”原因”ではないかと・・・

 

「なんだよ!!お前がなにかやったのかよ!!なんなんだよ!!!むぐぅ!?!・・・」

 

口元をリボンで押さえられた。

 

「それだけの元気があるのなら、もう少し頑張りなさい。私なんかを罵る暇があるなら生き残ることを考えなさい」

 

何を言っているのかと自身に自重しながら背を向けた。背から感じられるのは自身に対する敵意の視線。

 

ここで志筑仁美の件を伝えても今度は彼女を標的にして暴徒と化す。彼女と同じ轍を踏みたくなかった。

 

彼らが首謀者である志筑仁美に対し立ち上がったとしても犠牲が増えるだけである。

 

(・・・・・・思えば、暁美さんの言うように魔法少女を増やすことは地獄へ道連れにすることだった。ほんの些細なことがこんな大事になってしまうなんて・・・)

 

美樹さやかと志筑仁美の二人をこのような”運命”に導いてしまったのは・・・

 

(私もキュウベえと対して変わらないじゃない。むしろ同類ね)

 

二人の日常に異物を持ち込んだのは巴マミという 浅はかな魔法少女だった。

 

(でも私は、これだけのことを起こした原因であるにも関わらずゆまちゃんと一緒に居たいと願っている。そうね。魔法少女が自身の望みの為にあるのならば、私は私の望みのままに生きるわ。その後で地獄に堕ちて、それまでのことを清算してやるわ)

 

今回の事態は、美樹さやか自身も自責の念から率先して動くであろう。だが、これは自分の手で決着を付けなければならない。

 

(待っていなさい。志筑仁美。私が貴女に持ったらしてしまった”陰我”をこの手で粉砕してあげるわ)

 

無言のまま先に進むマミに何かを感じたのか杏子は、鎮圧した暴徒らから離れて暫くたってから

 

「マミ。この事態がもしかしたら自分が原因だって考えているのか?」

 

彼女に問いかけた。この事態には杏子も思うところがあるようだった。

 

「・・・えぇ、佐倉さん。志筑仁美のこの行動は、魔法少女という存在と契約することによって得られる奇跡を知ってしまったからでしょう」

 

”素質”がないという理由で彼女に対し冷たい態度を取ってしまったことに間違いはなかった。

 

命のやり取りという現実をその身をもって味わってしまってからでは手遅れになるからだ・・・

 

「・・・・・・マミがさやかとまどかを勧誘しようとしたからは間違いないかもしれない。アタシも魔法少女の力を晒しちまった。本来なら忘れるように言うべきだったんだよ。それこそ、関わるなって強くいうべきだった」

 

マミが勧誘しなくとも魔法少女の存在を何処かで知るか、

 

「私達が関わらなくともキュウベえが契約を持ちかけてきたでしょうね」

 

何かしらの絶望を感じ、それを打開する方法として契約を持ち掛けるだろう。

 

マミ自身が死を間近にして縋り、契約してしまったのだから・・・

 

少なくとも素質の無いモノに知られるという失態をキュウベえは犯さないであろう。自分達のように・・・

 

言うまでもなく自分達がこの学園における惨状の原因は、志筑仁美の言うようにある意味正しかった。

 

「ったく、今回の件は考えれば考えるほど気が滅入る」

 

杏子は気怠そうにため息をついた。

 

「そうね。でも今は余計なことを考えている暇はないわ。志筑仁美の件はこの惨状を何とかした後に考えましょう」

 

マミも罪悪感を感じなかったわけではない。

 

二人の親友をこのように対立させ、後戻りのできない凶行に走らせてしまったことと二人の日常を壊してしまったことを思うと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~~~二人とも嫌な思いをしながら戦っているんだねぇ~~~~」

 

廊下の奥より間延びした少女の声が聞こえてきた。その声に二人は警戒の色を浮かべる。

 

「ホラーか?」

 

「いえ、この反応は私達が良く知る・・・魔法少女よ、佐倉さん」

 

現れたのはマゼンタの長い髪をした暗い目をした笑顔の魔法少女 鼎 などかだった。

 

「えへへへへ。二人とも嫌なことがあるんなら、などかに言ってよ。などかが気持ちよくしてあげるから」

 

無邪気に見える顔立ちの少女であるが、目は暗く光はなく、とてもではないが正気とは思えなかった。

 

「なんだお前・・・ここで何をしていやがる」

 

槍の切っ先を向け杏子はなどかに問う。返答次第では・・・

 

「えぇ~~。それを聞くの~~?う~~ん、分かっているとは思っていたけど、分かっていないんだね

~」

 

不快感を感じさせる笑みを浮かべ、勝ち誇るように笑う様子に杏子は槍を持つ手に力を籠める。

 

「てめぇ・・・って、マミ?」

 

気が立っている杏子を制するようにマミが前に進み出た。

 

「ほとんど正解かもしれないけど、貴女は志筑仁美に依頼をされたかのかしら?”忘れ屋”さん」

 

「えぇ~~。などかのことを知ってるの!?!」

 

マミはやはりかと思い、視線を鋭くさせ、などかは自身の素性を言い当てられたことに驚いていた。

 

「マミ、”忘れ屋”って、どういうことだ」

 

「少し前に・・・と言っても二か月前にクラスメイトが一人自我が崩壊して、人として壊れてしまったことがあったわ。彼女からは魔法の気配がしたから、もしかしたら記憶に干渉する魔法少女の仕業かと思って調べてみたら、彼女は”忘れ屋”というサイトでそれを依頼したのよ」

 

信じたくはなかったが、別のクラスの人間にいじめられて、辛い思いをしたくないと言ってそのことを忘れようとした為に魔法により自我が壊されてしまった。

 

これ幸いと学校側はイジメの事実を隠蔽したのだ。この行いにマミも学園側に嫌悪感を抱いた。

 

イジメの主犯は厳重注意とされ何事もなかったかのように学園生活を過ごしていたが・・・

 

「そういえば、少し前に見滝原に出張したことがあったよ~な。どうだったけ?」

 

なんとなく覚えているという態度を取る鼎 などかの背後より彼女が自我を壊した生徒らが続いてきた。

 

「・・・あなた達も忘れ屋に忘れさせられたのね・・・因果応報とはよく言ったものだわ」

 

鼎 などかの背後に現れたのは”忘れ屋”に縋るまでに傷つけたイジメの主犯たちだった・・・

 

「「「「あ・・・あっぁ・・・あああああ・・・・・・」」」

 

人一人を楽しみの為に傷つけ、のうのうと過ごしていたことに腹を立てなかったわけではないが、一般人であることと主犯たちが悔い改めてくれる時が来ると希望すら抱いていたが・・・

 

「なんだよ・・・この学園は色々とヤバイじゃねえか。上条の件もだけど、マミの住んでるマンションが火事になった時も話題にすらしなかったらしいからな」

 

さやかも上条恭介を見滝原中学校のブランドを上げる道具のように扱う姿勢に怒りを覚えていた。

 

志筑仁美は自身の目的と一緒に怒りを覚えるこの学園への復讐を同時に行っている。

 

「それは初耳だわ。佐倉さん。こんなことになったから、ちょうどいい機会ね。ゆまちゃん達と一緒にこの街から出ていくのもいいかもしれないわね」

 

「・・・ここまで大事になったらアタシももう普通に通えないしな。どこか適当なところに転校かな」

 

見滝原より遠い土地で新しく暮らすのも悪くないかもしれない。

 

「そうね。”神浜”なんていいかもしれないわ。あそこのラーメン食べてみたかったのよ」

 

「アスナロ市はやめておこうぜ。あそこは、ほむらが言うには色々とヤバイ土地っだって言ってたぜ」

 

「むぅ~~~~~。楽しいことを考えないでよ・・・などかがせっかく嫌なことを忘れさえようと思ったのに・・・」

 

薄ら笑いを浮かべていた鼎 などかが目に見えて不機嫌な表情へと変わる。

 

「意外と沸点が低いんだな。”忘れ屋”さんよ」

 

「嫌なことから逃げて自分を誤魔化してきた子よ。逃げても自分のやってきた行いからは逃れられないわ」

 

鼎 などかの様子に杏子とマミはあえて余裕を感じさせるように振舞った。

 

「知ったような口をたたくな!!!などかのことを何も知らないくせに!!!」

 

そのことが気に入らないのか、鼎 などかはブレードが付いたトンファーを展開させた。

 

自ら消してしまった”自分自身の過去”が目の前にあらわることへの可能性を指摘されたことが、この上なく腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美の言葉に呼応するかのように多くの生徒らのほとんどが暴徒と化していたが、一つの教室では・・・

 

授業用の液晶ディスプレイに表示された佐倉杏子と巴マミの画像と学園中に宣言された志筑仁美の言葉に対し・・・

 

「あの二人が原因なの?じゃあ・・・」

 

一人が声を上げようとした時だった。

 

「みんな!!待ってよ。杏子ちゃんとマミさんはこんなことをしないよ!!!」

 

「なんだよ、鹿目・・・お前、二人のことを知っていたのか?」

 

男子生徒が二人を庇う鹿目 まどかに対し胸ぐらを掴み問い詰める。

 

「知ってたよ。二人が魔女と戦っているのを見たこともあるよ」

 

「じゃあ、二人じゃないなら誰なんだよ!!こんなことをしたのは!!!」

 

「待ちなよ!!!鹿目っちは、二人がこの件の犯人じゃないって言ってくれたんだ」

 

「鹿目さんの言う通りなら、二人に向かっていくことは襲撃者の思うつぼだってことじゃん」

 

二人の女子生徒がまどかを庇い、少し大柄の男子生徒が掴みかかっていた生徒を引き離す。

 

「というか、なんで志筑さんはこんなことを言ったの?って、これやらかしたのって」

 

情報を歪め、都合のいいように生徒らを二人に嗾けようとしている様は・・・

 

まどかの脳裏に少し前にさやかのあの言葉が響いた・・・

 

”仁美の事はアタシが何とかする。だけど、もしもアタシだけが帰ってきたら、まどかはアタシを絶対に許さないかもね”

 

”例え誰にも理解されなくても・・・恨まれても・・・こんな思いをするのはアタシだけで終わらせる。他の誰にもこんな思いはさせない”

 

「じゃあ・・・さやかちゃんは・・・仁美ちゃんとずっと・・・」

 

まどかは、膝をつくように倒れこんでしまった。理解が追い付かなかった。

 

こんなことは、今までになかったのだ・・・何故、友達がこんなことを・・・

 

「鹿目っち、志筑さんは多分脅されているだけだって。犯人は、校庭に現れたっていう変なピエロだよ、絶対に」

 

呆然とするまどかを励ますようにお調子者のクラスの女生徒が元気づける。だが・・・

 

「二ドルには協力してもらっていますわ。いい加減に現実を受け入れてはどうですか?皆さん」

 

いつの間にか教室の扉が開いており、そこには眼帯をした志筑仁美が立っていた・・・

 

「仁美ちゃんなの?」

 

思わずまどかが問いかけるほど彼女は変わっていた。

 

どことなく青白い肌と暗く淀んだ絶望に染まった単眼の少女は、かつての志筑仁美ではなかった・・・・・

 

「ほかにだれが居るというのですか?現実を受け入れてください」

 

禍々しく微笑むとともに彼女は拳銃を取り出し、まどかを元気づけていた女生徒目がけて引き金を引いた。

 

銃声とともに彼女の眼前で血が弾けると同時に鈍い音を立てて女生徒が倒れる・・・

 

その様子にまどかは驚愕に目を見開いた・・・・・・

 

あまりにも現実感のない光景であり一瞬、何が起こったのか分からなかった・・・

 

目の前で起こったことを理解した時、鹿目まどかは悲鳴を上げた・・・・・・

 

「人一人死んだくらいで叫ばないでください。鹿目 まどか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

杏子とマミさん、今回の件はある意味自分達が発端ではないかと考えています。

魔法少女のことを志筑仁美が知るきっかけを作り、さらには美樹さやかとの間に修復不可能までの対立、彼女らの日常に異物を持ち込んでしまったことに対し・・・

今回の見滝原襲撃もその果てに起こってしまった惨劇です。

さやかは、二人については恨みはなく、むしろ上条君のことを信じられずに、奇跡を押し付けてしまった自分自身の罪に対する罰だと考えています。

仁美は、素質のある魔法少女らを逆恨みし、自分ならもっとうまくやれるという根拠のない自信故の行動です。

鼎 などかの”忘れ屋”は意外と魔法少女の間では知られています。

他の魔法少女の縄張りに現れては、性質の悪い魔法を使っていることも。

まどかと仁美が対面。あまりにも変わり果てた彼女は・・・・・・





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番外編「前 夜 祭(魔法少女)」


アスナロ市に潜む彼女らに”何かが”干渉しているようです・・・





 

 

 

アスナロ市より見滝原市直行の電車に一人の少女が座席に座っていた。

 

各駅停車ではなく直行便の為か、人は疎らであり、学生、サラリーマン、OL等の乗客が思い思いに過ごしている。

 

少女の名は綾目 しきみ。彼女はある目的の為に見滝原に向かっていた。

 

(・・・ゆうちゃん。待っててね。今、助けに行くから)

 

彼女は今、アスナロ市から見滝原へ向かっている”外道”達よりも早くいかなければならなかった。

 

見滝原にあの”伝説の雷獣”の同類が現れ、さらにはその同類と一緒になって大量虐殺を行う為に、明良 二樹・・・フタツキ達を呼び寄せたのだから・・・

 

大量虐殺を行う場所が問題だった。その場所は見滝原中学校・・・

 

幼馴染である少年 中沢 ゆうきが通う場所だったからだ・・・

 

彼を助けに行くこの行動は、傍から見れば”良い話”となるかもしれない。

 

彼女はそれは自身のエゴであることを・・・

 

一人を助けるために多数を見殺しにこれからしようとしているのだから・・・

 

それらを全て認めたうえで彼女は、見滝原市に居る少年の元へ行く・・・・・・

 

彼を危険から遠ざけるために・・・・・・

 

自身のエゴに過ぎない行動に自嘲する。その気持ちに呼応するようにソウルジェムが僅かに濁り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 とある場所・・・

 

アスナロ市のある場所に二人の影が数人に作業の指示を出していた。作業を行っていたのは骸骨人形 魔号機人らであり運んでいるのは少女達が収められているカプセルであった。

 

並んでいるカプセルを慎重に取り外し表に止めているトラックのコンテナに積み込んでいた。

 

少女達は肉体的に死んでいるが、その魂はあの世に逝っておらずある器”ソウルジェム”に封じられていた。

 

ソウルジェムは中央の白いテーブルに纏めておかれており、様々な輝きを持つソウルジェムの一つ一つには魔法少女の魂が収められており、現在は肉体との繋がりを絶たれている。

 

『趣味の悪いことこの上ないね・・・人の魂を肉体から切り離して宝石に収めるなんて・・・』

 

薄紫色の陰陽師の衣装を纏った陶磁器のような皮膚を・・・陶磁器に似た素材で作られた顔の女は、嫌悪感を表すようにソウルジェムを覗き込む。

 

一目だと人間の女性だが、人間の声ではなく機械音声の物であり、長い藤色の髪を揺らしながら施設を見ていた。

 

『これを行ったのはホラーじゃなくて、魔法を手に入れた小娘達か・・・何を考えているんだか』

 

『それを考えるのが重要ですよ。魔号機人 聖”ヒジリ”』

 

『なんだい?アンタとうちのご主人様の命令でここに来てみれば・・・ホラーと大差ない事をしていた連中の寝床を荒らすことに何の意味があるんだい』

 

右半分の天使を思わせる美しい白い顔に穏やかな笑みを浮かべつつ、左側の悪魔を思わせる黒い悪魔の表情は醜悪に歪ませている魔号機人 聖と同じ人型 魔導具 ”魔号機人 刈”。

 

『ふふふふふふふふ。荒らすなどと人聞きが悪い。私達は捨てられた彼女達を迎えに来たのですよ。捨てる神あれば拾う神ありというではないですか』

 

『だったら逃がした方がいいよ。こんなにいっぱい、うちはそこまで余裕があるとは思えないね。むしろ家計は火の車じゃないの』

 

魔号機人 聖は魔法少女達に利用価値があるとは思えないと抗議するが、魔号機人 刈は

 

『いえ、これは大変貴重な素材・・・現代の言葉にするならばサンプルなのです。魔法少女を見かけて、捕えてもすぐにソウルジェムを穢し、魔女になってしまうので、このままの方が都合が良い』

 

ここにいる魔法少女らを魔号機人 刈は自身の行う研究対象に使おうとしているらしい。

 

『アンタは確か大昔に色々やらかして封印された奴を参考にされて作られたんだろ?その割には、人間臭くないかい?』

 

『フフフフフフフ。貴女も十分人間臭いですよ・・・やはり魔戒法師 星明は我がそれなりに強かったようですから・・・生体情報もかなり濃い』

 

『気持ち悪い。アタシもアンタらの観察対象って奴かい』

 

『そう思いたいのなら、そう思いなさいな。ふふふふふふ、香蘭も魔法少女については色々と知りたそうですし。私としてはワルプルギスの夜の存在を知らなければなりません』

 

魔号機人 聖は、魔号機人 刈の言動に強い違和感を覚える。

 

魔号機人は人型 魔導具であり、自分を含む上位 魔号機人はその発展型である。

 

号竜と同じく魔戒法師をサポートするためにある魔戒法師が制作した事が起源であった。

 

魔号機人を香蘭に齎したのは一人の魔法少女・・・魔法少女喰い 麻須美 巴。

 

彼女が齎した人型魔導具は確かに優秀な発明であったが、戦闘力の面では魔戒騎士には、称号持ちの彼らには遠く及ばなかった。

 

故に香蘭は考えた。自身の手駒となる戦力を一から仕立てるには手間と膨大な時間を要する。

 

称号持ちの騎士の能力を有した人型魔導具・・・人造魔戒騎士ともいえる戦士の創造を・・・

 

元老院から逃走した彼女は追手から自らを守護し、敵を撃退する戦力が必要だった・・・

 

人の持つ知識や記憶、技術等を術によって取り出し、それを”核”とし、魔導具に定着させる。

 

号竜も自律行動はある程度は可能であるが、より高度な戦闘での駆け引き、思考能力を有し、人の持つ”生体情報”を組み込んだ機械仕掛けの戦士 上位型 魔号機人が制作された。

 

組み込んだ”生体情報”を基本としている為、高度な知能を持ち、人間が犯しがちなヒューマンエラー、視野が狭まるといったこともない機械の正確さと人間の持つ柔軟さを掛け合わせられた。

 

”生体情報”により上位型 魔号機人の個性、人工の人格は依存するため様々なタイプが存在している。

 

生きているわけではなくモデルとなった騎士や法師の”思念”を人格の基本としているが、”思念”こそはあれど”命”を持たない為か、機械的な性格を持った存在、もしくは”思念”が強い”恨み”や”怒り”を抱いていれば感情的に振舞う。

 

(こいつは・・・いったい何なんだい?他の魔号機人達とは明らかに違う。フタツキに付いている魔号機人瞑からは、人間の気配が濃すぎるって)

 

以前、他の魔号機人と顔を合わせた時に魔号機人 瞑と情報交換を行ったときに”魔号機人 刈”を信用するなと告げられた。

 

試作 上位型 魔号機人 刈は、意思を持った魔号機人であり、法師としての技量や術を機械でありながら発現することが可能な存在として香蘭によって製作された。

 

事実、魔号機人 刈は様々な闇の術を使いこなす。

 

誕生の経緯については謎が多く、壱号である魔号機人 凱は”魔導具”らしく機械的であり、人の柔軟さと機械の冷徹さを持った”理想的な人型魔導具”である。

 

だが魔号機人 刈はあまりにも人間臭く、他の魔号機人を観察する視線は人間の気配があまりにも濃い・・・

 

零号こと魔号機人 刈のモデルについては、闇の魔戒法師 翡刈とされているが、もしかしたら”本人”の思念がそのまま”核”となっているのではと、魔号機人 瞑は推測していた。

 

古の闇の魔戒法師が現代まで生きていられるのかと疑問を投げかけたが、魔号機人 瞑は

 

”肉体は滅んでも思念は健在だったかもしれない”

 

と推測している。魔号機人 刈の事情は今は気にしていても仕方がないため、気になっていることを魔号機人 聖は・・・

 

『話は変わるけど、うちのご主人様が二体 上位型を見滝原に送り込んだけど、フタツキにはなんていうつもりだい?』

 

『そのことでしたら、志筑仁美の依頼にあった紅蜥蜴対策で送り込みました。紅蜥蜴は計画の詳細を知りませんし、早々にアスナロ市から姿を消し行方がつかめなかったのですが・・・西の番犬所に現れました』

 

『あの変わった髪の逸れ魔戒騎士か・・・油断ならないね。うちのご主人様も警戒している』

 

『不穏な動きをするようならば、容赦はしない。フフフ・・・香蘭が闇の頂に・・・真理を得るまでは誰にも殺させません。たかが、魔戒騎士風情になど』

 

『随分とご主人様を大事にしているんだね・・・まるで身内みたいにさ』

 

『フフフフフフ。仕える者ならば当然のこと、別に不思議なことではない』

 

魔号機人 刈の言葉に疑問を抱きつつ、魔号機人 聖はそれ以上の追及はしなかった。

 

『ワルプルギスの夜は、私も噂こそは聴けど実物はまだこの目にしてはいない。魔女の集合体と言われるが本当に魔女を集合させ、一つの”呪い”として形になるのか・・・それを証明しなければならない』

 

『その好奇心・・・あんたのそれは魔導具のそれじゃない、人間のそれじゃないのかい?』

 

『そうかもしれません。フフフフフフフフフフフフ』

 

これからの研究が愉快なのか、魔号機人 刈は左右の天使と悪魔の顔を歪ませながら笑う。

 

その光景に魔号機人 聖は、呆れつつも作業指示を量産型 魔号機人らに出す。

 

魔号機人 聖は、刈を好いてはおらず、むしろ嫌っている。自身の製作者と同じく・・・

 

だが、聖にはやらなければならないことがあった。以前の任務で大破した 魔号機人 雷の修復であった。

 

自身では、魔号機人・・・上位型 魔号機人を修復することは叶わない為、主人である香蘭に尽くすことでその望みを叶えようとしていた。

 

聖もまた”天才魔戒法師”を元に制作されているが、開発などの技術面では香蘭には遠く及ばなかった。

 

それは魔号機人 刈も同じである。

 

自身の好奇心を満たそうとしている魔号機人 刈と大破した仲間の修復を望む魔号機人 聖達に突如として怒声が響き渡った。

 

声は機械的なエフェクトがかかっており、二体と同じ上位型 魔号機人の物であった。

 

『貴様ら、こんなところで何をしている?俺を何故、見滝原に行かせなかった!!!』

 

魔号機人の中では、魔号機人 凱と同等の体格を誇る大柄な黒ずんだ骸骨の貌をもった魔号機人 兇が作業中の魔号機人を押しのけて聖と刈に詰め寄った。

 

『なんだい?アンタが行ったら依頼が滅茶苦茶になるんだよ。この間の依頼の時もアンタのせいで魔号機人 雷が大破したんだ』

 

魔号機人 聖はこの黒ずんだ骸骨型魔導具に嫌悪感に似たモノを抱いている。

 

『フン!!奴は自らの甘さで身を滅ぼしたのだ。倒すべき敵よりも護衛に現を抜かした愚かな欠陥品だ』

 

『はぁ~~欠陥品なのは、アンタじゃないの。任務も碌に理解しないし、勝手な行動でアタシらにどれだけ迷惑をかけているのかわかってんのかい?』

 

『貴様、この俺を侮辱するのか?たかが下働きの分際で・・・ならば身体に覚えこませてやろうか』

 

あえて剣を抜かずに自身の鋼鉄の拳を掲げる。その様子に魔号機人 刈は・・・

 

『そこまでにしなさいな。見滝原には魅力的な獲物が多い・・・今回の志筑仁美と行動を共にしているニドルに暗黒騎士も、今回は暗黒騎士を相手にしなければならない場面になる可能性が高い』

 

『ならば、何故俺を行かせない!!俺ならば・・・』

 

『魔号機人 兇、見滝原には魔号機人 凱とその補佐についている魔号機人 瞑を中心とした布陣で臨む。さらには、魔号機人 蓮も・・・本来ならば魔号機人 紅も加わるはずだったが、何故加われないか、その理由がわかりますか?』

 

魔号機人 凱の名を出したとたんに目に見えて不機嫌になり、まるで憎い仇をみるような視線を向ける。

 

『お前のその暴走に似た行動で魔号機人 紅は現在修復中。魔号機人 雷に至っては損傷が酷く、もはや破棄も検討しなければならない程の傷を負った。今回の依頼も踏まえるとお前の派遣はこちらとして望ましくない』

 

『ならば圧倒的な力でねじ伏せてしまえばよい。その為に、この俺を強化すればよい!!!』

 

自身の行動を反省するどころか、人型魔導具である自身の強化を望むが・・・

 

『残念ながら我々上位型 魔号機人は改造することはできない。お前もわかっているだろう』

 

上位型 魔号機人は改造によって強くはなれない。

 

魔号機人は機体に”生体情報”を積んだ核とは別に”人格などの思考”を司る”自我機関”、戦闘などの技術を司る”闘争機関”が存在している。

 

”自我機関”と”闘争機関”が連動している為、どちらかを強化改造するとバランスが崩れ、大幅に弱体化してしまう。

 

だが、”自我機関”が学習し、精神などの人格が洗練されるとそれに付随する形で”闘争機関”が強化されることで戦闘能力が上がっていく・・・

 

上位型 魔号機人達は、魔導具でありながら人と同じように学習し鍛えることでその能力を高めることができる。

 

『香蘭め!!!何故だ!!!答えろ!!!魔号機人 刈!!!』

 

『我らが主 香蘭が望んだのは戦闘能力の高い人型 魔導具にあらず・・・人の可能性を内包し自らを高め続けられる人型魔導具 魔号機人なのです』

 

『くだらんな。俺が惰弱な人間の可能性を持っている?下らんな、ならば貴様らを破壊し、香蘭に無理やりにでも・・・』

 

魔号機人 刈の言葉に納得がいかないのか魔号機人 兇は剣を抜こうとするが・・・

 

「香蘭ちゃんに不満があるのは結構だよ・・・でもね・・・兇、君は少しだけ大人しくしてもらうよ」

 

魔号機人 兇の背後にいつの間にか製作者である香蘭がおり、魔導筆により特殊な”術”をかける。

 

その”術”は魔号機人達を強制的に拘束させるものであり、魔号機人 兇は魔戒文字が交差し回転する円から”棺”が現れる。

 

『き、貴様!!香蘭んん・・・』

 

強制的に棺の中に捕えられ、そのまま棺は”転移の術”によりこの場から消えた・・・・・・

 

「みんな、やってる?兇がどういうわけか勝手に出てきたから追ってきたんだけど、よくわからないことが起こっているんだよね」

 

作業の進捗具合の確認もだが、香蘭らしからぬ言葉に魔号機人 聖が眉を寄せる。

 

『なんだい、ご主人様。天才魔戒法師らしからぬせりふじゃないか』

 

「あはははは、天才だからこそだよ。知らないことが多いことをどれだけ知っているかが大事だよ。昔の人は言ったよ、人を知れば知るほど己が無知であることを思い知らされるって・・・香蘭ちゃんを飽きさせないものでまだまだ世界には溢れているってことなんだよ」

 

『不吉だね。アタシら魔号機人は基本は魔導具だから待機している時は基本動くことはできないはずじゃ』

 

事実待機状態にされたら動くことは叶わない。

 

使用者が指示を出さない限りは・・・・・・

 

それなのに魔号機人 兇は自力で動いた・・・

 

「それなんだよね。香蘭ちゃんの術式はそれなりに強力だって分かってるよね。兇が動いたのは、香蘭ちゃんの術式よりもさらに強い力が働いていたんだよ。何かのね♪」

 

面白いものを見つけたかのように気色の色を浮かべる香蘭に聖は狂っていると感じ、魔号機人 刈は香蘭と同じ狂気の笑みを浮かべていた・・・・・・

 

『ワルプルギスの夜が呪いと絶望の集約ならば・・・希望の集約たる可能性もまた存在するかもしれませんね』

 

何かを察したのか魔号機人 刈は見滝原市への方角へ視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

棺の中に強制的に動きを封じられた魔号機人 兇は自身に組み込まれた”生体情報”が齎す強い怒りと苛立ちを覚えていた。

 

『おのれ・・・俺をこのような目に合わせおって・・・香蘭め、いつか貴様もこの手で・・・』

 

優れた能力と強靭な身体を持つが故に惰弱な人間に扱われることに強い反発を覚えていた・・・

 

”・・・あなたの望みはなに?私に言ってくれたら叶えてあげる。私の望みを聞いてくれる?”

 

かつて自力で香蘭の術から解放してくれた少女の声が響いてきた。

 

幼い少女にこのようなことはできない。一体何だというのだろうか?

 

魔号機人 兇の棺の前に光り輝く存在が立ち、手をかざすのだった・・・

 

その様子を黒いカソックを身にまとった鮮血を思わせる赤い髑髏の魔号機人 宗は神に祈る神父のように膝をついていた。

 

『おお・・・神よ・・・我ら”作られしモノ”にさえも役目を与えてくださるのですか』

 

棺の中より黒い魔号機人 の手を引く輝く少女の姿は”宗教画”を思わせた・・・・・・

 

”私はあの娘に会いたい。だけど、黒い狼が邪魔をしているの。それを討滅してくれるなら、貴方たちに自由を・・・私の望みの為に・・・力を貸してください”

 

『この血塗られた私に神にお仕えせよと・・・作られしモノとして命を持たぬゆえに道具として求められた私に、この魔号機人 宗を・・・・・・』

 

魔号機人 兇は赤い骸骨こと魔号機人 宗の態度に違和感をに似た戸惑いを覚えるが自身が自由を得られるのならば、この得体のしれない”神”に就く方が自身の望みを果たせると・・・・・・

 

『香蘭やあのフタツキの言われるがままに従うよりも、意思を持つ我らは我らの意思で動かせてもらう』

 

創造主に対し決別の意思を示し、二体の魔号機人がアスナロ市から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 一人の少女が少年と再会した。

 

「ゆうちゃん!!」

 

「しきちゃん!!」

 

人目等気にすることなく二人は互いの再開を喜ぶ。

 

二人の名は中沢 ゆうきと綾目しきみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あとがき

魔法少女と言いながら魔号機人らがやたら目立つ話になりました。

魔号機人 刈が暗躍する何かに気づいたようです。

魔号機人 宗と兇の二体が”神”を感じさせる何かに引き込まれました・・・・・・・

中沢君にとって彼女はとてもかけがえのない存在のようです。






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第弐拾玖話「 監 獄 (伍)」

今回は戦闘なしですが、原作主人公が出張ります!!!

思えば、彼女の出番ってそんなになかったような・・・・・・




見滝原湖に浮かぶ客船に待機する志筑仁美の協力者 明良 二樹の一団はある知らせを受けていた。

 

『どういうことだ?兇と宗が行方不明とは・・・何があった?』

 

二本の角が特徴的な黒い魔号機人 瞑は、アスナロ市に居る魔号機人 聖より重大ともいえる報告に驚愕していた。

 

待機していた二体の魔号機人が失踪し、アスナロ市内から完全に姿を消したというのだ。

 

痕跡はなく、いかなる手段で脱走したか全くの謎であった。

 

『さぁね。アタシも何がなんだか分からないんだ。ご主人様が言うには、途方もない大きな力を持った”何か”が干渉したんじゃないかっていうんだよ。それもアタシらに気づかれずにさ』

 

『兇はともかく、宗まで行方が分からないとはただ事ではないぞ。あの宗は、凱と並ぶ我ら上位型 魔号機人の中でも特に任務に忠実であった存在だ。それが任務外で動き出すなど・・・』

 

『そのことでさ・・・二体送った内の一体が元々のやらかしたことを考えると不安だからさ、魔号機人 紅の修復を急がせている。場合によっちゃ、見滝原から離れた方が良いかもしれないよ』

 

聖より、戦力を増援すると連絡があり魔号機人 瞑は万が一のことを考え、さらに戦力を追加せねばと思考を巡らす。

 

戦力の増援にはもう一つも意味があった。それは、上位型 魔号機人からさらなる離反者、裏切るモノが現れることへの懸念であった。

 

『我が主の安全を考えると”見滝原”は”アスナロ市”以上に”陰我”が深いかもしれん。だが我が主が望みならば、それを叶えねばなるまい。早急に魔号機人 道”タオ”を派遣してほしい。奴の法師としての技術は正直ほしいところだ』

 

『アンタはアンタで曲者が多い上位型の中では、一番まともだよ。それこそが魔導具としての在り方としては正しいんだろうね』

 

聖は魔号機人 瞑の使用者への誠意に対し感嘆の声を上げた。内心、使用者であり創造主である香蘭を疎んじている自分には、あまりにも眩しいものだった。

 

『戦力は多い方がいいかもしれないけど、既にそっちには五体以上の上位型を投入しているからさ。紅を派遣すれば何とかできるんじゃないのかい?』

 

『確かにな・・・だが、兇と宗を引き込んだであろう”何か”が見滝原で今も動いている以上、こちらも警戒すべきだろう。それとだが、あの魔号機人 刈はこの件について何か言っていたか?』

 

魔号機人 刈の名を出す 魔号機人 瞑の声は嫌悪感に満ちていた。

 

『何も言ってないさ。ただ、何かに勘づいたみたいに笑っていたよ』

 

『・・・そうか。ならば奴の言動を逐一こちらに報告しろ。奴が何か知っているのならば聞き出してほしい』

 

『それができたらこっちも苦労はしないさ。ただアタシの生体情報にある記憶なんだけど、見滝原は昔、”天女伝説”があった土地だよ。ただ、この伝説相当危険な内容なんだ』

 

『天女伝説?なんだそれは・・・』

 

『一応伝えると・・・昔、絶望と悲劇から多くの人々を救おうとして、一人の女の子が天女への道を行くお伽話さ・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

魔号機人 聖から見滝原に存在する”天女伝説”を聞き、魔号機人 瞑は考え込むように船上のデッキから見滝原市に視線を向けた。

 

『忘れ去られた何かが目覚めたとでもいうのか?天女だと・・・私の知らないホラーが存在するとでも』

 

かつてのサンタバルド地中深くに封印された”巨大ホラー アニマ”に似た何かが見滝原に今も存在しているとでもいうのだろうか?

 

「瞑。君も”天女伝説”を知っているのかい?やっぱり、ここには何かがあるようだね。それも僕らのすぐ傍で何かが動き出したようだよ」

 

考え込んでいる魔号機人 瞑に対し明良 二樹が”天女伝説”を口にした。

 

『我が主。貴方も見滝原に存在したとされる”天女伝説”をご存知で・・・』

 

驚くような態度を示す魔号機人 瞑の様子を普段なら微笑ましく思うのだが、今回ばかりは彼にとっても気楽に構えることはできなかった。

 

「知ってるも何も僕の兄さんは、神社に忍び込んで盗んだモノの中に”天女伝説”に関する書物を持ち出して、確かめに行って見滝原で死んだんだよ」

 

『なんと・・・兄君が見滝原へ向かったのはそのような経緯が・・・ですが、天女伝説は切欠で単なる偶然なのでは?』

 

事実、見滝原に過去に存在した蓬莱暁美との”遊戯”そして・・・今は、ホラー人間と化したあの青年の手によって殺された・・・だが、明良 二樹はこれまでにないほど険しい表情を見せる。

 

「普通はそうだよね。だけど、兄さんが持ち出した書物はどこにも見つからなかった。なにより、あの後正義の魔法少女ちゃんとは会ったんだけど・・・事の真実を話し終えた途端に全身から血を噴き出して死んだんだよ。ソウルジェムはそのままで中の魂はきれいさっぱりなくなっていたよ」

 

魔法少女の死に方でも異常であり得ないだろと問いかけるのだった・・・

 

 

 

 

 

見滝原中学校 

 

鹿目まどかが通う教室の前では、幼い容姿をした魔法少女 百江 なぎさが倒れている生徒のカバンより大好物の匂いの元を取り出し頬張っていた。

 

「う~~ん。チーズ味なのは嬉しいけど、やっぱりなぎさはちゃんとしたチーズが食べたいのです」

 

チーズ味のうまい棒に不満をぼやいていると、さらに銃声が二発、教室より響くのだった。

 

「志筑仁美も良くやりやがるのです。まどかだけは絶対に傷つけないといいのですが・・・」

 

今更ながら不安になったのか身を低くして教室を覗き込む。

 

万が一、鹿目まどかが命を落としてしまうようなことになってしまったら・・・

 

「そうなったら、また待たなくてはならないのです。腹いせに巻き込まれたら、なぎさは存在すらできなくなってしまうのです」

 

志筑仁美が約束を守ることを祈りつつ、百江なぎさは志筑仁美が花て散る魔法少女への加勢に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れた女生徒の姿に騒然とし、目の前の信じられない光景を作り出した張本人 志筑仁美に視線が向けられる。

 

恐れ、軽蔑などの負の感情か向けられ、慣れていなければほとんどの人間が僅かに動揺するのだが、志筑仁美は笑うだけで全くもって動揺することもなかった。

 

心拍数などを図る機械を用いたとしても変化を確認することはできないであろう。

 

「志筑仁美がそんなことをするはずがないから、安心して?ですか・・・本当にここは愚か者しかいないんですね」

 

暗く濁った視線をクラスメイト達に向ける。単眼となったことで圧が増したのか誰も声を発することはできなかった。

 

ただ一人、このクラスを管理する担任を除いて・・・・・・

 

「志筑さん。あまりのことに理解が追い付かないのですが、本当に貴女は変わってしまったのですね。一体、何が貴女をそこまで変えたのですか?」

 

担任の早乙女 和子は教え子の凶行について改めて問いただす。何故、これほどの事態を引き起こすまでの力を手に入れたのか?そして、何を望むのかを・・・

 

「ここにきて説教ではないのは、早乙女先生は流石ですわ。ほとんどの人が間違っているなど、正気に戻れなど自分が助かる為に感情の赴くままに品のない言葉しか出さなかったのですから」

 

更に禍々しく笑い凄味が増し雰囲気が邪悪に濃くなっていく。

 

何かに取りつかれたと本心では思いたかったが・・・取りつかれたのではなく何かに魅入られたのでは早乙女和子は考えた。

 

人はほんの些細な切欠で心変わりするものだから・・・

 

あの聡明で心優しい教え子の心を変えてしまう程の何かを知りたかった。

 

「ちょっと待てよ!!!お前が間違っているのは本当の事だろ!!!志筑!!!お前は俺たちをどうする気だ!!!」

 

「待ちなさい!!!元康くん!!!落ち着きなさい!!!」

 

この事態に焦燥感が特に強かった男子生徒が声を上げて、志筑仁美に罵声を浴びせる、

 

早乙女和子は、刺激してはならないと注意をするのだが・・・・・・

 

またもや銃声が響き男子生徒の頭部がまるで果物を割るかのように弾け重心が不安定となり、不出来なマリオネットのように不規則な動きとともに倒れてしまった。

 

志筑仁美は、煩わしいと感じればまるで単純作業をこなすかのように何の感慨もなくその命を奪った。

 

教室全体が息をのむように全員の表情が強張る。

 

一瞬ではあるが、早乙女和子の瞳に魔戒文字が感情の高鳴りに呼応するかのように浮き出る。

 

それを目聡く志筑仁美は逃さず、彼女がもはや普通の人間ではなくなっていることを認識する。

 

「あぁ!!!志筑さん、なんてことを・・・元康くんは、パニックになっていただけで、私とあなたとの会話に支障はなかったはず・・・」

 

「だから邪魔なんですよ。その男の喚きは煩わしかったんですわ。上条さんのヴァイオリンを聞くに堪えない下品な音で例えていたのですから・・・」

 

内心目の前の教師が実は”ホラー化”していたことを盛大に明かしてやろうかと思うが、理性的な会話を求めてくるのならばそれに応えても良いのではと思い、視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

何か気に障ることをしてしまえば、命を奪われる。誰もが余計なことをするなと心の内で祈った。

 

しかしながら彼女に問いかけずにはいられない人物がいた。彼女は涙目になりながら、一歩進み出た。

 

「仁美ちゃん。仁美ちゃんがこんな酷いことをするのは、上条くんを生き返らせたいからなの?」

 

先ほど彼女が口にした上条恭介の名。もしも志筑仁美が魔法少女になる手段を見つけ、その必要な行いが今の状況なのではと考えてのことだった。

 

何を言っているんだという視線を鹿目まどかに向けられるが、今は誰かの目など気にしてはならない。気にしていては、肝心な時に何もできないのは・・・

 

それに目の前の友達がこんなことになってしまったことが悲しくて仕方がなかった。

 

「・・・・・・そうですわ。わたくしは奇跡をこの手で起こすために動いているのです。不運な最期を遂げた上条さんにもう一度未来を齎すために」

 

確信をついてきた愚図な元親友に内心苛立ちを覚えなかったわけではないが、まどかには素直に答えた方が後々面倒にはならないと考えてのことだった。

 

首元からソウルジェムを取り出す。緑色の輝きを放ち、既に空の器をほぼ満たしていたのだった。

 

「ひ、仁美ちゃん。それ、ソウルジェムなの?なんで・・・」

 

彼女には魔法少女としての素質などなかったはず、それが何故、そのようなものを持っており、その中の輝きは彼女自身の”魂”ではないのだろう・・・なら、器に注がれているその輝きは・・・

 

「契約の資格がなくとも先人たちは素晴らしい叡智を後世に残して頂きました。それを愚かな愚者は闇に葬ろうとしましたが、わたくしは先人達の偉業があるからこそ、希望を持てたのです」

 

彼女が言う先人の叡智とは、決して後の世に残してはいけない所業なのだろう。まどかは、完全ではないがそれだけは、理解していた。そのようなおぞましい所業に手を出した親友の姿がさらに痛ましく見えた。

 

「仁美ちゃんが何を言っているのか分からないよ。まさか、仁美ちゃんの持っているそれに注がれているのは、そういうことなの?さやかちゃんは・・・それを止めようとしていて・・・」

 

クラスメイト達は、二人の会話の内容が半分も理解できなかった。

 

だが、魔法少女を知っているという鹿目まどかと志筑仁美の二人に視線がそれぞれ向けられる。

 

「全ての元凶たる美樹さやかの愚かさは、理解していますわ。あの方を不幸に落としただけに飽き足らず、その命を奪うように魔戒騎士に依頼したのですから・・・」

 

「その時の上条君は、上条君じゃなかったんでしょ。私はホラーがどういうものかよく分からないけど杏子ちゃんは絶対に関わるなというから、それになってしまった上条君はもうそうする以外に方法がなかったんじゃないかな。さやかちゃんだって、すごく苦しんでいたんだよ。あんなに大好きだった人をそれ以上の不幸にしない為に辛い選択をしたんだよ!!!」

 

上条恭介を亡くしてからのさやかは、強がってこそは居るが今も苦しんでいて後悔をしていた。

 

それでも魔女にならずにいるのは、上条恭介を不幸にしてしまったことへの罪と責任に向き合っているからだ。

 

ただ絶望し感情の赴くままに”呪い”を振りまく存在なってしまった方が楽であっただろう。

 

そんな安易な道を選ぶことをさやか自身が許さないのだから・・・

 

「仁美ちゃんのやっていることは八つ当たりだよ!!!上条君のことが好きだなんて言っているけど、一度もお見舞いに来なかったじゃない!!!!」

 

甘いかもしれないがまどかは、考え直すように志筑仁美にあえて厳しい言葉を選ぶ。だが・・・

 

「何を言っているのですか?わたくしはずっと前からあの方を好いていたのです。美樹さやかのように関心を得ようと浅ましく積極的にかまう事を指標にしないでいただけます」

 

銃の引き金こそは引かないが、先ほどよりも殺気が強くなっていた。

 

「殺すなとは言われていますが、少々痛い目を見てもらいましょうか?人を好きになったこともない貴女に説教などされたくもないですわ。資格があるくせに何もしない愚図のくせに」

 

口調を荒げ、肩を撃ちぬいて痛い目を見てもらおうかと考え、志筑仁美は引き金を引くのだったが・・・

 

銃弾は彼女に当たらず、飛び出した早乙女和子により防がれたのだった。

 

だが彼女は倒れず、赤い血ではなく黒い体液のようなものが身体から噴き出た。

 

「せ、先生!?!」

 

心臓に当たり急所だというのに平然と立っている様子に一同が騒然とする。

 

「気づいていなかったのですか?早乙女先生の今の状態は人ではなくホラーですよ。ちゃんと自意識だってあるのに・・・」

 

そんなことにも気づかないのかと志筑仁美は呆れるが、早乙女和子は

 

「何処で気が付いたのかは分かりませんが、私の今の状態は佐倉さん曰く例外です。本来ホラーとなったものは人を襲い、喰らうと聞いております」

 

人を喰う怪物と聞き、緊張が走る。だが、彼女は人を襲わない例外だという・・・

 

上条恭介も怪物と化したが、彼は人を喰らう怪物になり果てた・・・・・・

 

「鹿目さんの言葉と被りますが、志筑さんの行いは、上条君の為だと言っていますが単なる八つ当たりでしかありません。大切な人を失くしてしまったことから目を背けているだけですよ」

 

二人は志筑仁美に考え直すように説得を試みていたのだが・・・

 

「言いたいことはそれだけですか?こちらが大人しく話を聞いていれば・・・言いたい放題ですわね。わたくしがそんな陳腐な言葉に絆されるとでも思っていたのですか?」

 

志筑仁美の声色こそは変わらないが、目は殺気と怒気を含んでいた。

 

「フフフフフフフ、まあ良いですわ。そろそろソウルジェムの”因果”も満たされています。あとは願うだけですが・・・もっと劇的に演出をしなければなりませんわ」

 

「何をするつもりなの?仁美ちゃん」

 

まどかの声に志筑仁美はさらに薄く笑う。

 

『仁美ちゃぁあん。放っていた魔法少女がやられそうになっているよ。一応、飛び入りの子も加勢してくれてはいるけどさぁ~。あと、外から美樹さやかを含めた数人が結界の前まで来たみたいだぁよ』

 

「意外と早かったですわね、ニドル。他の方々もですが、あなたの傀儡をいつでも戦闘が出来る状態にしておいてください」

 

突如として第三者の声が響いた。その声は訛りこそは酷いが、何かを楽しんでいるかのように弾んでいる感じが背筋を寒くさせた。

 

「紹介が遅くなりましたわね。ニドルを紹介しますわ」

 

左目にした眼帯を手に取り外された瞬間、驚愕の表情を浮かべるクラスメイトを見て志筑仁美はほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

何かが現れ肉を鋭い針で突き刺すかのような音が響いた後に静寂が訪れた・・・

 

二つの十字架のようなオブジェに張り付けられた鹿目まどかと早乙女和子の二人をニドルが浮かばせながら教室から出ていくのだった。

 

教室で何が起こったのか?いわれるまでもなく、二人以外ニドルに喰われたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ひどいよ・・・仁美ちゃん・・・どうして・・・みんなを・・・嫌だよ。そんな仁美ちゃんの姿見たくなかった」

 

十字架のオブジェに張り付けられまどかは、先ほどの光景に恐怖を覚えつつも涙を流した。

 

当たり前だった日常が同じクラスメイトに壊され、命を奪われた。

 

それを行った志筑仁美の変わりように・・・・・・

 

「今度は泣き言ですか?資格がありながら何もできない、何もしない貴女には永遠に理解は・・・いえ、理解してもらおうとは思いませんわ。元凶たる美樹さやかにも見送ってくれる友人は多い方が良いですわ」

 

「どうしてまたそんな風に人を傷つけられるの」

 

「わたくしは上条さんの望みを叶えているのです。あの方はお優しいですから、例え元凶たる美樹さやかでも慈悲はあるでしょう。感謝こそはされても恨まれる筋合いはありませんわ」

 

「理解できないよ・・・仁美ちゃんが何を言っているのか。何を望んでいるのかも・・・」

 

「理解してもらおうなど思いませんわ。まどかさんにはこのまま餌として役に立ってもらいます。美樹さやかの親友としてその最後をしっかりと見届けてください。少々過激になりますから泣き出してくれてもかまいませんわ」

 

嘲笑うように志筑仁美は学園で最大規模の施設を誇る体育館へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

”いつまでも泣いているのは仁美ちゃんじゃないの?”

 

 

 

 

 

 

「うん?何か言いましたか」

 

妙に聞き覚えのある声がまるで頭に直接語り掛けてくるように聞こえてきたが、単なる気の迷いと判断し背を向けた。

 

だが、志筑仁美は気づいていなかった。鹿目まどかの姿が反射した窓に映った彼女の目が黄金の輝きを持っていたことに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

明良 二樹陣営では原因のわからない混乱があり、何かが見滝原に居ることを察しているようです。

彼の兄が亡くなったことと何故、見滝原にやってきたのかが語られました。

あの彼ですらも警戒しています。見滝原に何かがあることを作中で知っているのは、京極 カラスキ、紅蜥蜴の両名。

紅蜥蜴は見滝原でことを起こされたくない様子で京極 カラスキに至っては余程のことがない限り近づくことさえしておりませんでした。

まどかが仁美と再会。ですが結局、声は届かず、これまでにない痛ましい姿に心を痛めています。

さらにさやかと仁美の二人が互いに争うという辛い展開が後に控えています。

とりあえずバラゴの出番というか、別で行動していた魔号機人 凱と遭遇し戦う展開が控えています。魔戒騎士の男たちの出番は次話と同時に投稿の予定です。






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