永遠は英雄となりえるのか (リョウタロス)
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Episode:00 プロローグ

――死後の世界はどうなっているのか――

 

これは大抵の人なら誰でも疑問に思い考えることだ

天国や地獄、あと三途の川があるっていうのもあるし死んだら何もないとかって諸説様々ある

まあ、死んだらわかるとあまり深く考えない人も多いが……

 

 

なんでいきなりこんな話してるかって言うと実は俺、さっきバイト帰りに赤信号無視して走ってきたポルシェに轢かれて死んだ筈だからだ

 

筈っていうのはまだ本当に自分が死んでいるか不確定だから。いや、もしかしたら仮死状態の幽体離脱的なものかもしれないし

因みに今俺がどこにいるかと言うと

 

 

どこまでも続くまるで雪国のような真っ白な世界です

 

 

え?なにここ?って思ったね。だって目を覚ましたら一面どころか全面真っ白な何一つないとこなんだもの

頭の中まで一瞬真っ白になっちまったよ

 

それにしてもこういう空間ってよく二次小説とかで見る最初の神様のいるとこだよな。ほんとなんでこんな目がチカチカするようなとこにいんだろ。白しかなくて眼、疲れるよこれ

 

しかし冗談抜きにしても

 

「びっくりするほど何もないな、かの?」

 

「ふぉう!?」

 

いきなり後ろから声をかけられ変な声をあげてしまった。それと同時に前に飛び退いて後ろを見る

そこにいたのは遊戯王の神宣のイラストのじいさん、いや、ちょっと顔がゴツいから神の忠告の方だな。そんな姿のじいさんが胡散臭そうな笑みを浮かべて立っていた。イラストみたいに美人な天使を側に侍らせてないのが残念ってそうじゃねえ!?このじいさん今俺の考えてた台詞をそっくりそのまま言った!?

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、そりゃお前さんの思考を読んどるからのう。次の台詞をよむくらい造作もないわい」

 

 

突然じいさんはそんなとんでもないこと言い放った。読心術か?いやでもまずさっきまでいなかった筈のじいさんがいきなり現れたってところから既におかしい。こんな隠れるところがまったく無い場所じゃいきなり俺の背後に現れるなんてまず無理だ

 

ならテレポートかなんかでも使えるのか?そこまでなら超びっくり人間の超能力者ってことでほんのちょっぴり認められる可能性が存在するかもしれない

 

「それはほぼ認めとらんのと変わらんじゃろ。めんどくさい奴じゃのお前さん」

 

「るっせぇ!勝手に人の心よむんじゃねーよじいさん!プライバシーの侵害だぞその能力!」

 

「お主は考えると長そうな顔しとったから勝手に覗かせてもらったんじゃ。話を早くするために使ったんじゃから許せ」

 

「ほんとかよ……」

 

実際かなり怪しい。だってまずなんか企んでそうな表情してるし、このじいさん読心術使える癖に自分の考えがすぐ顔に出るタイプだな。

 

「ふん、うるさいわい。ところで、お前さん今の自分の状況知りたくはないか?」

 

「っ!マジか、教えてくれ!ここは一体どこで!俺は今生きてるのか死んでるのか!」

 

 

思わずじいさんの両肩を掴んで説明を急かしてしまったが仕方ない。俺だってこの変な出来事の連続に焦っているんだ

 

 

「まずお前の生死はどうなったか。率直に言うがお前さんは死んだ、お前さんの記憶通りポルシェに轢かれてな。だけどすまんな、あれの原因は儂じゃ」

 

「は?」

 

こいつは一体何を言ってるんだ?とゆうかこのじいさん、自分が原因ってどうゆうことだよ

 

「そういや言ってなかったのう。儂は神じゃ。まああまり信仰も力も強いとは言えん中級の神じゃがの」

 

「……その神様が俺が死んだ原因とどう関係してんだよ。小説よろしく書類ミスでもしたのか?」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、実際そうじゃが少し違うのう。神がそんなミスをしても黙っとればなんのお咎めもありゃせんわい。お前さんを殺したのはただのひ ま つ ぶ し じゃ」

 

その言葉と共に自称神の見せた笑みは今まで見た人間のどの表情よりも醜く狂気に満ちた気持ちの悪い笑みだった

 

「暇潰し、だと?俺はあんたの暇潰しで殺されたってのか?」

 

愕然とした。理不尽だと感じた。何故俺が殺されなければならなかったんだ。他にもたくさん人はいるのにその中でなんで俺が

 

「ん?そんなもん適当じゃよ。偶々お前さんの書類が目についたから調度いいかと思ってそのままお前さんの魂の書類を破り本来の運命をねじ曲げ殺した。たまたま儂の目にとまるとはお前さんも運が無いのう」

 

「ふざけんな!」

 

その言葉を聞き終わる前に俺は自称神に殴りかかっていた。憎しみと怒りで頭がいっぱいになり行動に移さなければ頭がどうにかなりそうだった

 

 

 

 

「やかましい」

 

 

 

だが俺の拳は自称神の顔面に届くことはなく全身がまるでセメントで固められたかのようにピクリとも動かせなくなった。

そこから神は人差し指を下に向けて曲げると俺の体は触れられてもいないのに強く床に叩きつけられた

 

 

「ここは神の間、儂ら神が力を存分に使える空間じゃ。この場所でたかが一人の人間の魂で儂に傷がつけられるとでも思うたか。身の程を知れ、人間」

 

 

嘲りと傲慢を含めて俺という存在そのものを見下したその視線は圧倒的強者が弱者を見る目、先程までとは違う底冷えするようなその目に俺は恐怖を感じると同時に深い屈辱と怒りを燃やした

 

憎い!憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!俺を身勝手な理由で殺したこの神が憎い!強者という立ち位置から引きずり降ろし今の自分のように地面に這いつくばらせてやりたい!その俺を見下す目を抉りだし虫けらのように踏み潰してやりたい!

 

 

「おーおー、さっきと比べて一般人にしてはいい具合に殺気だっとるのう。これなら少しは暇を潰せそうじゃ」

 

 

「神っちゅー役職は暇でなあ。娯楽に餓えとるんじゃよ。だから神は人間を使ってその退屈を紛らわせるんじゃ。昔、神秘がもっと濃かった時代はそれこそ地球で超人やら神とのハーフやら人間全体にも儂らが権能を使って試練を与えて楽しんでたんじゃが神秘が薄くなってからはそれも出来ず本当に退屈でのう」

 

「じゃが、最近一人の神が思いつきで適当な人間に特典とゆうオマケを付けて地球があるのとは別の世界に送り出した!それが儂を含めた他の神にウケてのう。次々とめぼしい人間や死んだばかりの気に入った魂を見つけて他の世界に同じように送り出したんじゃよ。それで、今回は儂もやってみようと思ってその時目についたのがお前さんだったってわけじゃ」

 

 

そんなてめえらの事情なんざ知らねえ!俺が望むのは今お前を殺すことだけだ!

 

 

「さすがにもう聞く耳も持たんか。まあ、ええわい。お前さんの特典も行く世界も適当にクジで決めるかのう」

 

神は手元に二つの箱を出すとその両方に片手ずつ突っ込みごそごそと手を動かし中のものを選び始めた。勝手にそんなもんで決めんじゃねえクソ神が!

 

「どれにしようかのう~。よし、これとこれじゃ!」

 

 

神が取り出したのは赤い玉と白い玉、赤い方には『僕のヒーローアカデミア』、白い方には『仮面ライダーエターナル&T2メモリセット』と書かれていた

 

エターナルの方は知っている。俺も特撮ファンとして大ファンだった仮面ライダーWの劇場版において仮面ライダーWを絶体絶命まで追いこんだ悪の仮面ライダーだ。T2メモリはその仮面ライダーエターナルが財団Xと呼ばれる組織から奪い使用していた26本の新世代メモリ、それが俺の特典になるのか?

 

 

だが俺は『僕のヒーローアカデミア』という作品についてはまったく知らない。確か以前ジャンプの表紙にそんな漫画があったからジャンプ漫画だとは思うがここ数年ジャンプ漫画は単行本でしか読んでなかったせいでどんな内容かまったくわからない。くそっ!これじゃあ対策も何も取れやしねえ!

 

 

「最近できたばかりの世界じゃが危険度はまあまあといったところじゃの。特典はそれなりに経ったら渡してやるとするかの」

 

そう言ったと思ったら神は右足で床を軽く蹴ると俺の真下に大穴が開いた

……この神はいつかどんな手を使ってでも殺してやる

 

口も動かせない俺は恨み言一つ発せずそのまま重力に従い落ちるしかなかった

 

 

「特典を渡す時は使いを出してやるからせいぜい儂を楽しませるんじゃぞ~!」

 

 

その言葉を最後に俺の意識はブラックアウトした



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Episode:01 Tが泣いた

この世界に転生してから5年が経った 

 

 

俺が転生したこの世界は簡単に言うなら人類の総人口、その約8割が何らかの特異体質に目覚めた超人世界

特異体質に目覚めた人間の中には怪人のように能力を使い悪事を働く悪人、敵(ヴィラン)がおり、それと同じように能力を使い敵を倒したり人を救う英雄(ヒーロー)という職業が当たり前になった

――超常が日常に、架空が現実になった――

そんな世界だった

 

 

そんな世界に転生、というか前世の記憶を持ちながら新たな生命としてこの世界に産み落とされた俺

今の名前は大道(だいどう) 斗和(とわ)

 

前世の頃の自分に関することは忘れてしまった。いや、正確には忘れさせられたのだろう、あの神に

おかげで前世の頃の様々なものの知識は覚えているが家族構成や自分の顔、思い出、果ては名前すら思い出せなくなってしまっている始末だ

 

 

 

そんな俺だが今は両親と俺の三人家族でそれなりに幸せに暮らしている

母親は両腕から炎を出す個性で昔、バーニングナックラーという名前でヒーローをやってた現専業主婦、父は鉄を吸収して操る個性でアイアンバトラーという名のヒーローをやっている

 

俺自身の個性、というか特典はまだ渡されてすらいない。そのせいか俺にはこれといった能力は何も発現せず何の能力も無い無個性として過ごしている

毎晩あの神への怨みをこめた呪詛を心の中で唱えているせいか?おのれ神め!

この世界は無個性への風当たりが強い。特に学校では限りなく底辺に近くいじめの対象にされるようなこともざらにあるらしい。俺も何か自衛の手段を身につけた方がいいかもしれない

 

そして今日は個性の診断日、だが俺はこのままだと高確率で無個性のままだろう。あの神がピンポイントに個性の診断直前に特典渡すとか考えられないしな

 

 

 

 

 

 

 

 

診断結果は予想通り『無個性』だった

この結果を予想していた俺はあまり気にしなかったが一緒に来ていた母さんはショックが大きかったみたいで医者から結果を聞いた時、表情が暗くなっていた

そして家に帰りその結果を父さんにも報告すると父さんも顔を暗くし俯いてしまった

 

そんな二人の表情を見た瞬間、俺の中で二人にとって自分はいらない存在になってしまったんじゃないかという考えが頭をよぎってしまった

そう考えてしまった途端ネガティブな考えが頭を支配していく

 

虐待されるんじゃないか、捨てられるかもしれない。いやだ、いやだ……“また”一人は、一人になるのはいやだ!

 

気づけば俺は目から涙を流し“ごめんなさい、ごめんなさい"と呟き続けていた。

 

いきなり泣き出した俺に両親は驚きあたふたと混乱してしまう

 

「ど、どうしたんだ、斗和!?いきなり泣き出すなんて。ハッ!まさかさっそく嗅ぎ付けたマスコミや他の子にいじめられたのか!?」

 

「いやいや、今日は私もずっと一緒にいたし他の子やマスコミにも会ってないわ。ハッ、もしかして私がお手洗いに行ってる間にあの医者に何か言われたの!?そうなの!?そうならあのヤブ医者火だるまにしてでもケジメをつけさせないと……!」

 

 

物騒なことをいい始めた両親に違うと伝えようとするが口はうまく回らず首を横に振るしかできない

何度も何度も手で涙を拭いなんとか止めようとするが涙は後から後から溢れだし止まってはくれない。

頭では涙を止めようとしているが心が叫び続けて止まらないのだ

“おいていかないで ひとりにしないで もうひとりはいやだ”

 

 

 

「ヒグッ、いい子するから……えぐっ、言うこともちゃんときくから……僕を、捨てないで、一人にしないで」

 

「「っ!」」

 

俺の言葉を聞いた二人はここで何故俺が泣きだしたのかを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

――無個性だったから――

 

ただそれだけの理由で自分の親から虐待、放置、捨てられるなんて事件はあまり多くは無いがこの世界には確かに存在している。個性が一般的になってから生まれ一向に無くならない厄介であり根絶しなくてはならない問題だ。その中には最悪、自分の子どもを手にかけるという前例さえ存在する

 

両親は俺が泣いていた理由がわかった瞬間、二人共俺の体を抱きしめてくれていた

 

 

「大丈夫だ、斗和!俺達はお前を捨てたりなんてしない!たとえ無個性でもお前は大事な俺達の息子だ!」

 

「そうよ、貴方は私達の大切な子供。他の誰が何と言おうと私達は貴方を見捨てない、ひとりぼっちになんてさせないわ」

 

 

二人の言葉は不思議とそれまで叫び続けていた俺の心にすんなりと入りこみ俺の心を宥めてくれた

 

捨てられるかもしれないという恐怖は消え二人の温もりが安心をくれる。いつの間にかあれほど溢れ出ていた涙は止まり代わりに強烈な眠気が襲ってきた

 

ああ、まだ眠っちゃ駄目だ。せめて……二人にお礼を言わないと。こんな俺を受け入れてくれる二人に

 

 

「父さん、母さん、ありが、とう」

 

眠気に抗いながらなんとかその言葉をいい終え俺の意識は途絶えた

 

 

 

――――――――――――

 

 

「泣き疲れちゃったみたいね。眠っちゃったわ」

 

目を赤くはらし今はすやすやと眠っている我が子を抱え母、火燐は微笑む

 

「しかしまさか斗和があんな風に考えてしまっていたとわな。俺も自分の息子を不安にさせてしまうなんて、ヒーローとしても父親としてもまだまだだな」

 

父、鋼也は人に希望を与える筈のヒーローである自分が家族に、ましてや息子に不安を抱かせてしまったことをヒーローとして、父親として反省している

 

 

「……この子は私達が護らないとね」

 

「ああ、俺達の息子という時点で馬鹿なマスコミや敵は斗和を狙ってくるだろうしな。ましてや無個性だ、そういう輩が予想以上に涌いてくる可能性は大いにある。せめて斗和が小学生になるまでは俺達が護りきってみせよう」

 

 

二人は安心しきった顔ですぅすぅと寝息をたてる斗和を見て新たに決意したのだった




タイトルのTは斗和のTです
気づいたら主人公泣かせてたよなんでだろう……


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Episode:02 Gの使い

Gは別に黒い悪魔ではありません。いや、確かにこのGもどす黒さなら負けてないけど


「んっ、ううん……ここは……そうか、俺、あそこで寝ちゃったのか」

 

気がついた俺の視界に映ったのは見慣れた天井

どうやら両親は眠ってしまった俺をベッドに寝かせてくれたらしい

 

時刻を見ると今は午前0時、帰ってきた時が17時頃だったから7時間くらい眠ってしまっていたようだ

おかげで眠気もほとんど無い

 

「遅いお目覚めですね。てっきり夜明けまで起きないのかと思いましたよ」

 

「!!」

 

突然枕元の方からした声に俺はベッドから飛び起き床に転がりながら声の主から距離を取る

 

俺が寝ていたベッドのすぐそばにいたのはカソックを着丸眼鏡をかけた長身痩躯の黒髪の男だった。片手には銀色のアタッシュケースを持ち5歳児である俺の行動に驚きもせずこちらを見ている

 

 

「誰だあんた。いつどうやってこの部屋に入ってきた」

 

「いつ入ってきたかと問われればつい今しがたと言ったところでしょうか。まあ、あなたが起きるまで別の場所からあなたのことを見ていましたが。それで、私が何者か、でしたね。それは“あの老害の使い”と言えばわかりますか?」

 

「あのクソ神の部下か!」

 

老害という単語だけでこの男がどこの奴か把握できた。俺には他にも老人の知り合いはいるが基本はいい人ばかりだ。俺が知ってる中で老害という単語が唯一似合うのはあのクソ神しかいない

 

 

「5年以上何も接触してこなかった癖にいきなり何のようだ」

 

「こちらからの介入でやることなど簡単に想像がつくでしょう?貴方の特典を届けに来たんですよ」

 

「解せないな。なんでわざわざ個性の診断を終えた今日にしたんだ。もっと前に渡してくれてもよかっただろ。あのクソ神が何の個性もない子供の育成記録をただ見てるだけなんて暇潰しにもならないことする筈がねえ。何か裏でもあるんじゃないのか?」

 

「はぁ、面倒ですね。5年間貴方と接触出来なかったのはあの老害の命令ですよ。今日、貴方の個性診断が終わるまでこの世界への介入を禁じるとね。こんな私にとって何のメリットも無い仕事などさっさと終わらせたかったんですが一応上司の命令ということで今日まで接触しなかったんです」

 

「つまりあんたもなんで奴が5年間もこの世界への介入を禁止にしたのか知らないってことか」

 

俺の言葉に男はため息をつきながら頷き懐から一通の手紙を取り出す

 

 

「あの神から渡してこいと言われた手紙です。恐らくそれに全て書かれているでしょう」

 

 

俺は差し出された手紙を受け取り封を開き取り出し開くとその手紙は謝罪でも挨拶でもなく予想外の言葉から始まっていた

 

 

 

 

 

「おい……なんだこれは?」

 

「どうしました?そんな鳩が濃硫酸かけられたような顔をして。子供が言うような幼稚な罵倒でも書き連ねてありましたか?」

 

 

 

 

男に手紙を手渡すとそれを読んだ男は呆れたようにため息を吐き「またこっちの仕事増やすような真似しやがってあのクソじじい」とぶつぶつ愚痴を呟き始めた

 

書かれていた内容はこうだ

 

『 以下の条件を破った場合お主の特典は失われる

 

・雄英高校入学試験まで他者に変身を見られるべからず

 

・雄英高校入学試験まで正体をばらすべからず

 

・他者に変身させるべからず

 

・雄英高校 ヒーロー科に入学すること

 

・オール・フォー・ワンに味方するべからず』

 

 

 

 

手紙に書かれていたのはメッセージでも能力の詳しい説明でもなかった

書かれていた言葉は『誓約書』、神から恩恵と共に与えられるのはルールという名の楔。聖書の神でももうちょい色々教えてくれるぞ

 

しかしこのルールもかなり面倒だ

3つ目と4つ目の2つはまだいい。俺も他人に変身させる気なんて元から無いし進学先を決められてもまだ小学校にすら入っていない今なら問題視するほどのことでもない

だが上2つは厄介だ。誰にも見られず正体がバレるわけにもいかない。それは目の前で見られるだけでなくこちらが気づかずに見られること等も含まれているのだろう。変身する時と解除する時に毎回必ず周囲に人はいないか確認しないといけないのはでかいデメリットだ。緊急の場合にそんなことしていたら間に合わなくなる可能性だってある

あとオール・フォー・ワンて誰だ

 

「あのクソ神、ふざけたルール押しつけやがって」

 

「まったくです。これどうせ特典が失われるとか言いながら回収するの私達部下の仕事になるんですから……」

 

そう呟く男の顔にはもう諦めたような哀愁が浮かんでいた。典型的な上司に恵まれなかったタイプの人かこの人

 

 

「……あんたも苦労してんだな」

 

「いえ、もう慣れましたから……」

 

自嘲めいた笑みを浮かべたこの人の顔見てたらもうこの人がクソ神の部下というどうでもよくなってただ自分と同じあの神の被害者なんだという仲間意識のようなものが湧き始めていた。とりあえずこの人?には優しくしよう。同じ神の被害者なんだ。同じような被害者の人が他にもいたら被害者の会でも作ろうか

 

 

 

「遅くなりましたね、それでは貴方に力を与えましょう」

 

男がアタッシュケースを開くと中には俺の特典であるロストドライバーとT2ガイアメモリ一式、エターナルエッジが入っていた

 

それをそのまま手渡されると思っていた俺は受け取ろうと手を出すが男はアタッシュケースをこちらに渡さない

不思議に思い男に顔を向けるが男は何かに気づいたように苦笑いをした

 

 

「ああ、そうでした。貴方には力の譲渡の仕方を教えていませんでしたね」

 

男がそう言った瞬間アタッシュケースの中身は一瞬でカラフルな液体に変わり空中で集まると一つの液状の球体になった

 

 

俺がその光景に呆然としていると男は球体を手のひらに乗せこちらに差し出してきた

 

 

「飲んでください」

 

「え」

 

 

え、この色んな絵の具水混ぜ合わせまくったような水飲まなきゃだめなの?そのまま渡されて普通にベルトを持ち歩いてるのじゃだめなの?

 

「こ、この液体の塊をか?」

 

「はい」

 

「絶対に?」

 

「絶対にです」

 

 

「ど、どうしても飲まなきゃだめなのか?普通に持ち歩くのは……」

 

「すいません、この世界でこの力を使うには個性として世界に認識させ馴染ませなければならないんです。同情はしますがこれ以外の方法だと注射で臀部から注入するしか「喜んで飲ませていただきます!」

 

 

とは言ったものの……。この球体、元が元だからか大きさはバスケットボール程とけっこう大きい。今の身体だとこれを飲みきれるかも怪しいぞ

 

 

「それじゃ口を開けてください。一気にいきますよ」

 

「えっ、ちょっと、まっ――

 

まさかと言おうとした瞬間俺の口の中に大量の液体が入ってきた

その液体の勢いとあまりの味に俺の意識はまっくらになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、気を失ってしまいましたか」

 

 

男は倒れこみそうになった斗和の身体を支えるとその身体を抱えるとベットに寝かせる

そして自分の仕事が終わった男は帰ろうと思ったがふと昼間の斗和に感じた違和感を思い出した

 

 

(そういえば、昼間、彼は転生者にしては珍しく自分の感情をコントロールも理解できていませんでしたね。少し失礼して、見させてもらいますか)

 

 

男は気を失っている斗和の額に指を当てると地球の言語ではない言葉を呟く

 

 

(……やはり、転生前の記憶を封印されていますね。これもあの老害の仕業ですね。いきなり封印を解いたら脳に負荷がかかりすぎますし少しずつ解けるようにしておきましょう。その間に少しだけ覗かせてもらいますよ)

 

 

一時間程、作業を続けた男は指を離すと深々とため息をつく

 

 

「はぁ、本当にあれは人が悪い。わざわざトラウマを抉るように再現させるとは。なんであんなのが神なんてやっているのか、絶対におかしいですよ」

 

男はそう呟くと斗和に向かって微笑を浮かべ再び何かを唱える

 

 

「運気を上げる呪文です。貴方の第二の人生に幸あらんことを」

 

そう言い残すと今度こそ男は部屋から姿を消した




タイトルのGはgodのGでした
まだまだ原作には入れなさそうです
エターナルに早く変身させたいな……
因みにカソックの人は仮面ライダーキバの中間管理職の苦労人、ビショップさんがモデルです


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Episode:03 Gを泣かすな

更新遅れまして誠に申し訳ありません。ちょっと新年明けてすぐにショック過ぎることがあったりレポートに忙殺されたりしてました。パトラッシュのように天使に連行されそうです


翌日、俺は気がつくとベットの上で寝ていた

昨日の特典をもらったのは夢だったのだろうか……

 

ふとベットの隣の机の上を見ると折りたたまれた紙を見つける

紙には丁寧な筆跡で特典の出しかたやしまいかたが分かりやすく書かれていた

おそらく昨日の特典を届けてくれた男が書いておいてくれたのだろう。上司と違って気配りができるあたり本当に好感が持てる。いや、あの神を反面教師にしてるのだろう。老害とも言ってたし

 

「名前は、ザスティエル、ねえ。熾天使っぽい名前だしそれなりに偉いのか?」

 

とりあえず手紙に書いてあることを試してみよう。変身は母さん達に気づかれる可能性があるがメモリやベルトを出すだけなら問題ないだろ

 

 

「えーと、頭の中で出したいアイテムを思い浮かべ、出ろと念じると出現します。出現させたい場所は自分の身体の周りならどこでも出せ特に希望がない場合はロストドライバーは腰に装着された状態でその他は手元に出現します、と」

 

 

 

書かれている通りに頭の中に右にだけメモリを挿すスロットがある赤と銀、黒を基調とした変身ベルト、ロストドライバーを思い浮かべ、出ろ、と念じるとまるでクウガのアークルのように俺の腰にロストドライバーが現れ装着された

 

 

「ほんとに出た……。なんか少し興奮っていうか感動に近いもんがあるな」

 

 

特撮ファンとして本物の変身できる力というのは悲願の一つだ。それが叶ったと思うと感慨深いものがあるな

そしてうまくロストドライバーが出せたからかここで俺の中で変身してみたいという欲望が出てきた

 

 

(こうなったらこのまま変身までしてみるか)

 

幸いまだ時間は日ものぼりきっていない早朝、両親も寝ている時間だ

そこまで大きな音をたてなければバレることはない筈だ

俺は周りにバレないようにカーテンを閉めドアに鍵をかける

エターナルメモリを出し左手に持つとまずはちゃんと作動するか確認する為にボタンを押し地球の声、ガイアウィスパーを聞く

 

 

カチ

 

 

 

 

 

………あれ?

 

おかしい、ボタンを何度押しても声が出ない

まさか元から壊れているような欠陥能力でも与えられたか?

 

 

 

 

数分後

 

 

全てのT2ガイアメモリを試したがまったく反応を示さないのはエターナルだけ、他の25本のメモリは正常に作動した

なんでこいつだけが動かないんだ?

あの神の話だと変身できるのはエターナルメモリでだけ

このままでは特典が宝の持ち腐れになってしまう

 

試しにロストドライバーに挿そうとしてもまるで磁石の同極同士のように反発し入ってはくれない

これは……俺がエターナルメモリに拒絶されているのか?

 

 

「俺がまだ認めてもらえてないってことなのか」

 

 

幸い他のメモリは機能している。暫くはエターナルエッジを主軸に使い方をマスターしていくか

 

もう隠す必用は無いのでカーテンを開けるとうちから少し離れた家に何かが入っていくのが見えた

 

 

「今の……」

 

机の中から双眼鏡を取りだし何かが入っていった家を見ると窓から蜘蛛のような顔の男が出てきてその右手には糸だろうか白いロープのようなものを持っている

 

 

(泥棒か?周りに人はいねーみたいだし気づいてるのは俺だけか)

 

片手にゾーンメモリを持ちいつでも発動できるようにし蜘蛛男を観察していると糸の先に何が縛られているのが見えた

 

 

(女の子、しかも俺と同年代かよ……)

 

女の子は意識はあるようだが口も縛られ話せないようになっている。流石に大声で助けを呼べるような状態にはしていないようだ

 

だがこの時点で俺があの蜘蛛男を見逃す可能性は0になった

金目的だろうが身体目的だろうが関係ない。幼い子供の誘拐した時点でもう奴は俺にとって許せない存在になった

 

 

(移動し始めたか。あいつが向かった方で見通しがいい建物は……あれだな)

『Zone Maximum Drive!』

 

俺は双眼鏡を持ったままゾーンメモリをロストドライバーの横にあるスロット、マキシマムスロットに挿すと蜘蛛男が向かった方向にあるマンションの屋上に地帯の記憶であるゾーンメモリの力を使いワープする

 

 

それを何度か繰り返し蜘蛛男を追っていると蜘蛛男は町外れの廃工場に入っていった

 

(ここがアジトか?)

 

 

ひとまず廃工場の近くにワープし物音をたてず窓から中を覗くと木箱やドラム缶が乱雑に置かれている中で年期の入ったソファーに蜘蛛男はドカリと座りその前の床に女の子を座らせていた

 

 

「ケヒヒヒヒ、無事誰にも見つかることなくガキを拐えるなんて俺も運がいいぜ」

 

「あの家の電話番号は調べはついてるからな。これで暫く遊べる金が手に入るぜ。にしてもこのガキもなかなか上玉だよなぁ」

 

蜘蛛男は女の子にいやらしい視線を向けると女の子に近づいていく

 

「まだ電話する予定の時刻には時間があるし、ちょっとばかしつまみ食いしても問題ないよなぁ」

 

(まさかあの野郎、あの女の子を!)

 

「ン゛ーー!ン゛ーーー!!」

 

女の子は必死に男から離れようとするが足首に巻かれた糸のせいでうまく動けていない

近づいてくる男に怯えた女の子の涙を見た瞬間、俺の中で我慢が切れた

 

(行くしかねえ。ここで行かずに傍観していたら俺は、俺自身が永遠に許せなくなる!)

 

そう思ったと同時にいきなり俺の身体からエターナルメモリが飛びだし一人でにロストドライバーへと挿しこまれた

 

 

「これは……少しは認めてくれたということか」

 

 

「変身」

『Eternal!』

 

ロストドライバーの右側だけに存在するスロットを傾ける。するといくらやっても鳴らなかったエターナルメモリのガイアウィスパーと共に俺の身体は成人男性の伸長まで大きくなり白い装甲が俺の身体に纏われていく

窓ガラスに映った俺は人の姿ではなく頭にEを横倒しにしたような触覚、∞のような形の黄色い複眼、白を基調とした姿の仮面ライダー、エターナルとなっていた

だが、原作の大道 克己が変身したエターナルと違い両腕の炎の刻印は赤くエターナルローブや25個のマキシマムスロットを持ったコンバットベルトは装備されていなかった

 

 

「レッドフレアか、ブルーフレアじゃないのはちと残念だが今の俺には調度いい。憤怒の赤い炎がなぁ!!」

 

 

俺が壁を蹴ると人一人が余裕で通れるような大穴が開きその音と衝撃に驚いた蜘蛛男と女の子がこちらを見て目を見開いていた

 

「な、なんだお前は!そんなとこから入って来やがってどういうつもりだ!」

 

「ちと、頭にくることがあってな。お前の邪魔しに来た」

 

狼狽えながら質問してくる蜘蛛男に中に入りながら返答する。何故だかわからないがあの女の子の涙を見ただけで俺の怒りはグツグツと煮えたぎっている

だがその激情はまだ表に出さない。女の子の近くに奴がまだいる今激情に身を任せては悪手どころか愚策だ

 

 

「なんだと?俺の邪魔をしに来たぁ?ふざけんな!顔も名前も知らねえてめえなんかに邪魔される謂れはねえんだよ!」

 

「あるさ。女の子が泣いていた、ただそれだけで十分だ」

 

俺の理由に蜘蛛男は身体をプルプルと震わせ口元をひくつかせている。既に爆発寸前といったところか。短気な奴だ

 

「へー、そうかい。じゃあそんなキザで下らない理由を掲げて、死ねやぁ!」

 

「お前がなぁ!」

『Violence Maximum Drive!』

 

「ぐばぁ!?」

 

 

飛びかかってきた蜘蛛男に既に持っていたバイオレンスメモリのマキシマムドライブのアッパーカットをカウンター気味に奴の顎におみまいしてやった

蜘蛛男は廃工場の反対の壁まで吹き飛び今のうちに俺は女の子を縛っていた糸をエターナルエッジで斬っていく

 

「もう大丈夫だ。ここは危ないからひとまず外に出ていてくれ」

 

俺の言葉に女の子は泣きそうになりながらも頷き小走りで俺が入ってきた穴から外へ出ていく

 

それを見送り蜘蛛男の吹っ飛んでいった方向を向くと俺の右腕にロープのように太い糸が飛んできて右腕を覆ってしまった

 

「粘着性の糸か」

 

「ケヒッ!ケヒヒヒヒ!いてえじゃねぇかぁ。俺が異形型じゃなかったら死んでたぜえ?このお礼はたっぷり返さないとなあ!」

 

 

蜘蛛男は口から糸を出すタイプらしく俺の腕に付いている糸は奴の口から繋がっている。蜘蛛男は力一杯口から伸びた糸を引っ張り俺を引き寄せようとするが好都合だ

 

俺は自分から蜘蛛男の方へと跳び左手にヒートメモリを出しマキシマムスロットに挿す

 

『Heat Maximum Drive!』

「俺の怒りはかなり熱いぞ?」

 

「なっ、ぎゃっちゃあああああああ!?」

 

ヒートメモリの炎を纏い赤く燃え上がった俺の右腕は糸を焼き切りそのまま慣性の法則に従い固まっていた蜘蛛男の顔面に突き刺さった

あまりの熱量に蜘蛛男は顔面が焼けただれその痛みで床をのたうちまわる

 

 

「立て、まだ俺は怒りたりねーんだ」

 

「ひいっ!?ひいいいいいい!?」

 

のたうちまわる蜘蛛男を無理矢理立たせると首根っこを掴み腹や顔を何度も殴る 殴る 殴る

 

 

 

 

 

 

気がつけば蜘蛛男の顔面は原形が残らない程にまでぼこぼこになっていた。涙を流しながら気を失っている蜘蛛男を床に放り捨てるがピクリとも動かない。息はしているから問題ないが何かロープのようなもので縛らなきゃな

 

『Gene Maximum Drive!』

 

 

とりあえずジーンメモリでロープ状にした木箱で縛って近くの木に吊るしたら蜘蛛男の持っていたケータイで警察に連絡しておいた

ヒーローじゃない俺が直接警察と会ったら面倒なことになるのはわかりきってるし最悪もう変身できなくなっちまうからな。あの女の子にも捜索依頼が出てるだろうしこれから警察が来ることだけでも教えて警察に保護してもらおう

 

 

廃工場の外に出ると近くの茂みからあの女の子がおずおずと出てきた

 

「あ、あの人は?」

 

「もう大丈夫だ、あいつは俺が倒した。直にお巡りさん達もここに来るからそれまでここで待ってるんだよ」

 

しゃがんで女の子と同じ目線で伝えるべきことを伝えると女の子もやっと恐怖から解放されたからか目に大粒の涙を浮かべながら頷く

と思ったらいきなり女の子が俺に向かって抱きついてきた!?

 

「うわあああああああん!!怖かったよおおおお!」

 

 

……そうか、そりゃそうだ。この歳の子があんな体験してしまったんだ。怖くてしょうがなかっただろう。むしろよくここまで泣かなかったもんだ

 

「大丈夫、もう大丈夫だ。よく頑張ったな。もうあいつはいないから安心して泣け。泣き止むまで一緒にいてやる」

 

 

泣き続ける女の子の頭を撫で思いっきり気持ちを吐露させてやる。こんな幼い子供に無理に我慢なんてさせちゃいけない。少しでもあんなトラウマになりそうなことを思いっきり気持ちを出して忘れさせてやることが大切なんだ

それにしても、この感じ、懐かしいな。まるで妹でもあやしてるような……転生前の俺には妹がいたのか?

 

 

 

 

 

数分間泣き続けると落ち着いたのか女の子は俺から離れお礼を言ってくれた

 

「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんのおかげであたし助かった……」

 

「どういたしまして、お嬢ちゃんもかわいいんだからこれからはもっと気をつけろよ」

 

「う、うん…」

 

 

あれ?すごい顔赤くしちゃったけど俺フラグ建ててないよね?子供がちょっと照れてるだけだよね?恋情じゃなくて憧れ的なあれだよね?どうかそうであってください俺は犯罪者になりたくないです

 

そんなことをしているパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。俺もそろそろ行かなくちゃいけないな

 

 

「お巡りさんが来たようだ。俺ももう行かなくちゃならない」

 

「え……」

 

そんなすごいガッカリした顔しないで!罪悪感すごいから!

 

「悪いが俺にも事情があるんだ。わかってくれ」

 

「じゃ、じゃあせめて名前……名前を、聞かせて」

 

「エターナル、仮面ライダー エターナルだ。それじゃあな、お嬢ちゃん」

『Zone Maximum Drive!』

 

 

俺はそう言い残すとゾーンメモリでワープしその場を後にした

 

 

 

 

自分の部屋に戻ってきた俺は変身を解除してベルトとメモリを消すと途端にとてつもないだるさに襲われ床の上に倒れる

 

「はあっ、はあっ、そりゃ、何も鍛えてない五歳児の身体で、いきなりあんだけやりゃあ、はあっ、こうなるよなぁ……」

 

スペックだよりの戦い方だったからな、こいつは色々、鍛えていかないと駄目か……

なんとかベッドに潜り込めた俺はそこで意識を落とした




やっと主人公変身できました。でもまだ原作に入るにはかかりそう……

あと別に主人公はロリコンではありません
某アタランテさんと同じように子供は守る対象として見ているだけです。これには転生前の人生も関わっていますが詳しいことはまだ言えません
え、斗和がzeroのキャスターと龍之介を見たら?確実に抹殺対象ですね。すぐ駆逐しに行くでしょう

因みに今回のタイトルのGはgirlのGです


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episode:04 Zは苦労する

一ヶ月も更新できず申し訳ありません。就活、ゼミ関係が忙しかったもので……
今回はあの中間管理職の方が再登場です


なんだか身体が軽い

 

さっきまで感じていた身体のダルさが嘘みたいだ……

不思議に思った俺が瞼を開けるとそこは転生する前に来た辺り一面真っ白な世界だった

 

「ここは、まさか……俺はまた、死んだのか?」

 

「いいえ、貴方はまだ死んでいませんよ」

 

いきなり後方から声をかけられ振り返るとそこには昨晩俺に特典を渡してくれたカソック姿の男、ザスティエルが立っていた

 

「あんたは確か、ザスティエル…だったか」

 

「ええ、実は昨晩伝えられていなかったことがあったので、申し訳ありませんが貴方の意識だけをこちらに連れてこさせてもらいました」

 

「伝えられていなかったこと?あの最初変身できなかったことのか?」

 

「それもありますが他にも数点……私も最初聞かされていなかったことがあったもので」

 

 

ザスティエルは申し訳なさそうな顔をしているが、聞かされていなかったということはまたあの神の仕業だろう。それも故意の

 

 

「その様子から見るにまた神の仕業なんだろ?あんたが気に病む必要はないって」

 

「いえ、それでも直属の上司が原因ですから……」

 

 

 

屑な上司の失態を自分から尻拭いにいくなんてあの屑神には勿体なさ過ぎるいい部下だろ!

ほんとこの人の爪の垢でも煎じて屑神に飲ましてやりたいよ

 

「ああ、それ以前何度か試しましたけど残念ながら効果ありませんでしたよ」

 

「ナチュラルに思考読まないでほしいっていうか試したのか!?」

 

「まあ、そんなおふざけはここまでにして本題に入りましょうか」

 

おおう、急に真面目な顔になったな。いい人だけどけっこうテンションの移り変わりが激しいぞこの人

 

 

 

「お察しの通り今回話すのは貴方の能力のデメリットについてです。まず、変身した状態とガイアメモリのマキシマムドライブについてですがあれらは本来高校生の身体能力で使われることを前提としたものであるため、まだ5歳児の平均的身体能力しか持たない貴方の身体にあれだけの負荷がかけられたんです」

 

「つまり、俺の身体のスペックが低すぎるからこうなった、と」

 

「ざっくり言ってしまえばそうなりますね」

 

「ということは、だ。逆を言えば俺のスペックが想定されてるスペックより高くなれば高校生になる前に問題なく使えるってことだよな?」

 

「それは勿論。あの誓約書に書いてあった通り雄英高校の入学試験までは変身を見られるか正体がバレなければ問題ありませんからね。それ以外なら特に誓約は無いわけですからどう使っても構いません」

 

 

よし、それならまだ手のうちようはある。もしこれで年齢的な制限で入学試験まで変身する度に負荷がかかるなんてことだったら今以上に神を恨んでたな

 

 

「次に、エターナルメモリが微弱ながら意思を持っているということです。最初、エターナルメモリだけ反応しなかったでしょう。あれは、老害いわくエターナルメモリ自身が貴方を認めておらず使われることを拒否したらしいです」

 

「なるほど、じゃ俺が工場でエターナルメモリを使えるようになったのは……」

 

「ええ、エターナルメモリが貴方を認めたためです。まあ、まだ通常のレッドフレアにしか変身できないようですから完全に認められたわけではないようですが」

 

「じゃあ完全に認められたら俺もブルーフレアに変身できるようになるのか?」

 

「確実に、とは言いきれませんが可能性は高いでしょう。ただ完全に自分を認めさせる気なら覚悟しておいた方がいいですよ。まだ貴方は少しだけ手を貸してもいい程度にしか認められていません。生半可な気持ちでは認められるどころか逆に見限られてしまいますよ」

 

 

逆に見限られる、か。そうならない為にもエターナルだけに頼らず心身共に鍛えなきゃな

 

 

「それと誓約に関してですが、雄英高校の入学試験まで正体をばらしてはいけないというものがありましたね。それの詳しい部分も聞いてきましたよ」

 

「ああ、あれか。ばらすべからずって書いてたし自分からばらさなきゃセーフだと思いたいが、違うだろう?」

 

あの神がそんなこっちにとって優しい条件なんて出すわけないしな。むしろ鬼畜ルール出してこっちの苦い顔を嬉々として見てるだろう

 

「ええ、お察しの通り自分からばらすだけでなく他人にばれた時点でゲームオーバー。しかも感づかれた時点で勝手に誓約が発動するというオマケ付きですよ」

 

つまり誰かがエターナルの正体を俺だと気付いた時点で特典が失われるのかよ。俺が気付いてなくてもいきなり特典が失われるとかヤバすぎるだろ

 

「……予想はしてたがひでえな。あの神やっぱり正体は邪神か何かの類いじゃないか?俺のSAN値減らそうとしてるようにしか思えねえよ」

 

「それだとあれの眷属である私はダゴンか何かですよ?私からもSAN値減らされたいんですか?」

 

あのマーブル色の特典を飲まされた時にごっそり減らされたよちくしょう

 

「既に特典を飲まされた時点で減らされてるよ。で、他に何かデメリットや伝えてないことはあるのか?」

 

 

ザスティエルは首を横に振るとこれで今伝えておきたいことは無いという

すると俺の身体はまるで空気に溶けるように足の先から消えはじめた

 

 

「これは……俺の意識が身体に戻るってことか?」

 

「ええ、伝えることは伝えましたしこれ以上貴方をこちらに引き留める理由はありませんから。それに、実感できないかもしれませんが現実での時間は意外と経ってますから早めに戻した方がいいと思いましてね」

 

「え、それって現実だとどのくらい経ってるんだ?」

 

身体が消えていくスピードは意外と早くもう胸まで消えてる。早く答えてくれ!

 

「そうですね、大体――

 

だが俺の思いとは裏腹にザスティエルの言葉を最後まで聞く前に俺の視界はブラックアウトした

 

 

 

「あれ、もう戻っちゃいましたか。転送の時間設定少し速くし過ぎましたかね。ま、仕事もまだありますし監視でもしながらやりますか」

 

 

 

 

 

 

 

さっきと違って身体が重い……、瞼を開くと視界に飛び込んできたのは見覚えのない白い天井だった

一瞬まだ身体に戻っていないのかとも思ったが感じるダルさが肉体があるということを教えている

 

周りを見回すとここは病院の個室らしく自分の腕には点滴の針が刺されていた

とりあえず壁にかけられていた時計を見ると15時を過ぎている。だがその時計の下の日めくりカレンダーを見ると俺が変身した日の次の日の日にちが描かれていた

 

……確かに意外と経ってるって言ってたけど丸一日寝てたのかよ。でもなんで病院なんだ?うちの親は確かに親バカな所も少しあるがわざわざ病院の個室までとるか?

 

まあ、一人でいつまでも考えていてもしょうがない。ひとまず起きたことを知らせる為にナースコールを押そう

 

 

 

「斗和ああああああ!!目を覚ましたのかああああ!!」

 

「大道さん!病院ではお静かに願います!」

 

 

数分すると勢いよく扉を開け父さんと母さんが部屋に飛び込んできてそれを注意しながらナースのお姉さんも入ってきた

 

 

「父さん母さん、僕どうしてここn「斗和!気分は悪くないか!?身体は大丈夫か!?食欲はあるか!?」

 

「大道さん!お子さんも混乱してますから落ち着いてください!」

 

 

父さんは大声で俺に心配の声をかけてくる。心配してくれてるのはわかったけどあんまり肩掴んで揺さぶらないで頭ガクンガクンするからほんとに気分悪くなっちゃうから

 

 

一旦落ち着いた父さん達から事情を聞くと俺は個性診断の日に意識を失ってからずっと意識を取り戻さずしかも昨日の朝には高熱も出していたらしい。それに驚いた二人がすぐさま救急車を呼んだらしい

 

エターナルに変身した副作用のせいか眠っているだけじゃなく高熱まで出ていたのか。俺も把握していなかったとはいえ二人にも余計な心配をかけてしまったな……

 

 

「斗和!」

 

「うぷっ、か、母さん?」

 

父さんが話をし終えるといきなり母さんが泣きながら抱きついてきた

 

「よかった、ほんとに、ほんとに斗和が無事に目を覚ましてくれて……」

 

「母さん……」

 

 

泣いている母さんの顔を見た瞬間頭の中にノイズと共に色褪せたビジョンが流れる

 

――よかっ――あなただ―でも、無―で――

 

髪の長い女性が俺へと手を伸ばして安堵の表情を浮かべ涙を流している

だけどその姿は血まみれで今にも命の灯火が消えてしまいそうな程弱っている

 

見覚えは無い筈なのに懐かしく感じる……俺はこの人を知っているのか?

 

 

 

 

「斗和、斗和?どうしたの?まだ具合が悪いの?」

 

「はっ、い、いや大丈夫だよ母さん。少しボーッとしてただけだから」

 

 

頭に流れたビジョンに気をとられボーッとしていると母さん達にまた心配されてしまった

このまま心配させ続けるわけにもいかないし話を変える必要があるかな

 

俺は父さんの方へと上半身を向けると真剣な顔に変える

父さんは俺が急に表情を真剣なものに変えたことに重要な話だと察し自分も表情を真剣なものへと変える

 

 

「父さん、お願いがあるんだ」

 

「……言ってみなさい」

 

「僕に、いや俺に戦い方を教えてください」

 

俺の言葉に父さんは腕を組んで考えこむように目をつむると俺に“どうしてだ”と理由を聞いてきた

 

「俺は父さんと母さん、すごいヒーローである二人の息子だ。だけど俺には個性が無い。今の俺じゃあ面汚しだって父さん達の顔に泥を塗ることになる」

 

「斗和、お母さん達は大丈夫だから。別に斗和がそこまで気に病む必要は無いのよ?」

 

「俺は!俺は…俺のせいで父さん達にまで迷惑がかけるのが嫌なんだ!俺が父さん達を守れるくらい強くなればそんなことも無くなる!俺だって!父さん達に守られてばかりは嫌なんだよ……。だから、俺に戦い方を教えてください…!」

 

これは俺の本心だ。確かにエターナルを使いこなすという狙いもあるが今言った理由も俺が心から感じていることだ

無個性だとわかってもこんなに俺を愛し心配してくれる両親を俺のせいで傷つけるわけにはいかねえ!

 

 

「誰かを傷つけたり、仕返しをしたくて戦い方をしりたいわけではないんだな?」

 

 

父さんは厳しい目つきで俺の真意を探るように質問してくる。俺はそれに頷き返事を返す

 

 

「俺は守る為に力が欲しい。自分を守る為にもいつか父さん達や他の人達を守る為にも……」

 

 

俺の言葉にしばらく厳しい目つきを続けていた父さんだけど急に目を閉じると口角を上げ笑い始める

 

「ふふふ、はっはっはっはっは!自分だけじゃなく俺達や他人も守るときたか!斗和!無個性でその道のりを進むのは厳しいぞ!それでもお前はその道を行きたいのか!」

 

「勿論!!」

 

「ふっ、やはりヒーローの息子はヒーローを目指すか。いいだろう、斗和、お前に戦い方を教えよう。だが俺の訓練は厳しいぞ?後で泣き言を言っても聞かんからな」

 

「父さん…ありがとう!」

 

 

強くならなきゃならない、いや、なるんだ。俺の為にも、父さん達の為にも……

 




タイトルのZはザスティエルのZでした。因みにこれから彼の出番はほぼありません

ザスティエル「えっ」
神「m9(^Д^)プギャー」
お前もだよ神
神「Σ(゜Д゜)なん…だと…」

次回か次々回から多分原作に入れると思います
にしてもこの主人公よく気絶するなあ


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episode:05 Mは出会った

今回は時間がけっこう飛びます。
まだ原作には入れませんが原作キャラの視点です


僕は緑谷 出久、今日から中学生の12歳!

憧れのオールマイトや他の皆のような個性は無いけれど、今日から中学デビューで新しい自分になっていこう!と、思ってたんだけど……

 

「おい、1年生君よお。俺達今金が無いんだよ。少しでいいから貸してくれねえかなあ?」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんといつか返すからさ。いつか」

 

「あ、あの、えと……」

 

絶賛校舎裏でリーゼントとモヒカンのいかにもな不良二人にカツアゲされてます!誰か助けて!

 

そうやって僕が心の中で祈っていると願いが通じたのか後ろの方から声をかけられた

 

「おい、あんたら何やってんだ?」

 

 

これが僕と、僕の変わるきっかけをくれた彼との出会いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

茶髪に一本の青いメッシュが入った彼は制服の前を全開にして目の前の二人程露骨じゃないけどちょっと不良っぽい

 

「あ゛ぁ゛?なんだてめえ?」

 

「こっちは新入生とのスキンシップの途中なんだよ。邪魔すんじゃ、ん?お前も新入生か?ならちょうどいい、お前もこっち来て混ざれよ」

 

 

彼は僕と同じ1年生のようでこの二人の先輩とも初対面みたいだ。

だけどその表情には怯えてる様子は一切無くて、それどころかまるで物を動かしたらそこから黒いGが出てきた時のような、そんな嫌悪感丸出しの表情をしてるっ!

絡まれてる僕が言うのもなんだけどそこまで露骨に顔に出さなくてもいいと思うなぁ……

 

「うーわ、ちょっと怪しそうだったから尾けてみたらカツアゲ現場かよ。だせえことしてんなあ。てゆうか今時不良が髪型リーゼントとモヒカンでカツアゲするって古すぎない?何時の時代の不良だよ」

 

顔だけに留まらず口からもぶっこんだぁぁぁ!?先輩達の顔が今の君の言葉ですごいことになってるよ!青筋が今にもはち切れそうだよ!

 

 

「てめえ俺達がだせえだとぉ!?」

 

「調子乗った1年はここで教育してやる必要があんなぁ!先輩に逆らったらどうなるかってことをよぉ!」

 

 

ほらやっぱりキレちゃったぁ!?でも先輩達も沸点低すぎるよぉ!!

 

 

「わー、セリフも序盤ボスどころか三下のそれ。まるで息するようにそんなセリフ吐けるなんてある意味尊敬できますよー(笑)」

 

更に燃料投下したぁぁぁぁぁぁ!?もう油どころかガソリン注いだよ!?あの人本当に大丈夫!?

 

 

「「……ブッコロス!!」」

 

 

完全にキレた先輩達はそれぞれ個性を発動させた。リーゼント先輩は舌を触手のように伸ばし自由自在に動かして、モヒカン先輩の方は両手の爪を熊手のように伸ばす

 

 

「しゃらあ!!」

 

先ずはモヒカン先輩の方が彼に向かって長く伸びた爪を降り下ろそうとする

だけど彼は何も個性を発動しようとしない。このままじゃ彼がやられる!?

 

「危ない!」

 

 

「大丈夫だよ、このくらい」

 

「へ?どぼぐぁ!?」

 

 

彼は、爪が降り下ろされる前に流れるようにモヒカン先輩の振り上げた方の腕を掴み綺麗な背負い投げをかました

そのあまりにも綺麗に決められた背負い投げに僕もリーゼント先輩も呆気に取られ口を開けて見てるしかなかった

 

 

「そーら、オマケだ」

 

「ふがっ!?あ…ぁ……zzz」

 

更に彼は素早くポケットから何かのスプレーを取り出すとモヒカン先輩の顔に吹き付ける。するとすぐにモヒカン先輩は意識を失い寝てしまった

……催眠スプレーなんてなんで持ち歩いてるの?

 

 

「やろう、よくも鉤雄を!」

 

「こっちは舌か、直接触りたくねえな」

 

 

今度はリーゼント先輩が舌を伸ばして彼に何度も突きを放った

だけど彼は余裕そうにその舌の突きを避けていく。しかも挑発する為なのか避けながらポケットからグローブを両手にはめている始末だ

 

 

「じゃあ時間もあんまりねえし、そろそろ終わらせるか」

 

「んだとぉ!」

 

グローブをはめた彼がそう言うとリーゼント先輩は更に頭に血が登ったのか怒りで顔を赤くしながら彼の顔面目掛けて舌の突きを繰り出したけど……

 

パシッ

「捕まえた」

 

「はぁ!?」

 

彼は難なく自分へと突き出された舌を掴みとっていた

僕はその光景に驚く反面、さっきまでの攻防を見ていたからか当然かという思いも持っていた

 

「そぅら!」

 

「ぐえっ!?」

 

舌を掴んだ彼がそのままリーゼント先輩の舌を力強く引っ張ると先輩の身体は引き倒されて地面に倒れるとその身体を彼は片足で踏みつけ起き上がれないようにした

 

「くほぉ、ははひやはれ」

 

「却下、ところでこのグローブ、特別製でな。強く握ると指先部分から俺特製のエキスが出るんだ。ちょっとそれの実験台になってくれよ」

 

彼の言葉で先輩の顔が青くなる。首を必死に横に振り実験台にされるのを避けようとしているけどもう手遅れだろう

 

 

「や、やめへ…」

 

「答えは聞いてない」

 

鬼だ、鬼畜だこの人

 

 

 

 

「あひゃああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、舌に直接塗ったからか即効性は強いが一気に気を失ったか。もう少し苦味を抑えて辛味を増やすか」

 

舌にエキスを塗りたくられた先輩は悲鳴をあげると白眼を剥いて気絶してしまった。それほど酷い味だったんだろう

彼は彼でグローブを外して手帳にエキスについての考察を書いていた。本当に実験だったんだ……

っと、それよりお礼言わないと!

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

手帳から顔を上げた彼は“ああ、そういえばいたな”と思い出した風に僕を見る

 

「助けてくれてありがとうございましたっ!!」

 

「ああ、気にするなよ。こっちも自作エキスの実験が自分で試さずにできたから。ところで、お前どうして自分の個性使わなかったんだ?いくら変な個性だとしても相手の虚を突くぐらいできるだろ?」

 

「っ」

 

彼の質問に僕は身体が強張ってしまった。彼は僕のことを知らないから悪気も何もないのに……

 

「僕は……無個性です、から」

 

言った、言ってしまった。すぐにバレてしまうだろうから嘘をついたりごまかしても意味は無いってこともわかる。けど、それ以上に見返りも求めずにヒーローみたいに僕を助けてくれた彼に嘘はつきたくなかった

見下してくるかな、馬鹿にしてくるかな

今まで僕が出会った人はほとんどがそうだった。個性がわかるまで普通に接してくれてた人も僕が無個性だとわかった瞬間、その態度を一変させてきた

彼もそんな一人じゃないかと彼の返事を待っていると

 

 

「あー、なんだ、お前もか」

 

「へ?」

 

「無個性なんだよ、俺も」

 

返ってきたのは予想外の言葉だった

 

「え、ちょっと待って。じゃあ君は、無個性なのに僕を助けてくれたの?」

 

「ああ、流石に見ちまったのをそのまま放っておくのも気が引けたしな」

 

ありえない。無個性なのに個性持ちに迷いなく挑むなんて、無個性なのに…まるで……ヒーローみたいに人を助けられるなんて

 

 

「なんで……なんでそんな、見ず知らずの他人なのに…無個性で、負けるかもしれないのに……」

 

「なんでって言われてもな。そもそも、困ってる奴助けんのに理由なんているのか?」

 

「っ!」

 

「強いて言うならそうだなー、俺が助けたいから助けた。ただそんだけだ。だからお前もそこまで気にすんなよ」

 

 

そうだ、僕は彼がどうして僕を助けたかわからなかったんじゃない。自分から気づこうとしなかったんだ。自分と同じ無個性の彼が、ヒーローのようなことをしていたから

彼は強いから、自分とは違うからって言い訳して自分にできないことをやれてる彼に嫉妬していただけなんだ

 

「なあ、お前強くなりたいか?」

 

「え?」

 

俯いていた僕に彼は質問を投げかけてきた

強くなりたいか……僕が昔、オールマイトの動画を観た時から持ち続けて自分に個性が無いと知った時に諦めた僕の望みの1つ

確かに強くなりたい、でも

 

「方法を、教えて」

 

「なに?」

 

「確かに僕も強くなりたい。なってヒーローになりたいけど、いくら強くなってもその方法が非人道的なものだったりしたら僕は自分のことを胸を張ってヒーローだって言えない。だからその強くなるための方法を教えて」

 

「……その要求は、俺から強くなる為の方法だけ聞きだしてそれを利用する風にも取れるが?」

 

「大丈夫だよ、どうせ僕がそれを知ったところで僕一人じゃ君に不利益なんてほとんど与えられない。それにその方法も僕だけじゃできないものだろうし」

 

 

最初は訝しげだった彼も僕の要求の説明を聞くと少しだけ口角を上げて笑った

 

「OK、いいだろう。方法を教えてやる。いくら俺が助けたと言ってもお前からしたら俺は初対面の他人だからな。信用できなくて当然だ。むしろこんな変な提案自体無視される方がまともな反応だからな」

 

「で、強くなる方法だが……簡単なことだ。プロのヒーローに鍛えてもらうんだよ」

 

「ええ!?」

 

 

僕の予想の中にも誰かに鍛えてもらうというのはあったけどプロヒーローは予想外過ぎる!

 

「そ、そんなのどうやって?いくら知り合いにヒーローがいたとしても向こうだって仕事があるからそう簡単にはできない筈なんじゃ……」

 

「そこら辺は安心しろ。なにせ、俺は両親がプロヒーローだからな」

 

「誰の両親が?」

 

「俺の両親が」

 

「へー、だからかぁ…ってえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇぇぇ!?」

 

両親がプロヒーロー!?すごい!っていうか頭フリーズして聞き返しちゃった!

 

「ぼ、僕、両親がプロヒーローの人なんて初めて会ったよ」

 

「まあ、普通はそうだろう。まず自分からは言わない奴は多いからな。下手に吹聴すれば人質として敵に狙われる可能性も高まるし何よりそのヒーローの個人情報が簡単にばれちまう。自分からヒーローの子供ですなんて名乗る子供はそうそういねえよ」

 

「じゃ、じゃあこんな簡単に僕にばらしてよかったの?」

 

「お前さっき自分で言っただろ、お前一人だけじゃ俺に不利益なんてほとんど与えられないってよ。それに、今まで何人もの無個性に同じ質問をしてきたが先に方法を聞いてきたのはお前が初めてだったからな。他の奴らは俺の提案に何の疑いもせずすぐ乗った癖にすぐ音を上げちまう奴ばっかりだった」

 

僕の他にも何人もの人が誘われてたのか。でもすぐ音を上げたってことはそんなにヤバイ訓練なのかな、プロヒーローから受ける訓練って……。いやでもプロヒーローから直々に訓練してもらうならそれでもお釣りがくるほど貴重なことだし……

 

 

 

「そういえば自己紹介もしていなかったな、俺は大道 斗和。今の所の目標はこの学校の最強になることだ!」

 

「僕は!緑谷 出久!夢はヒーローになることです!」

 

大道君の目標を聞いてつい自分の夢まで言ってしまったけど笑われちゃうかな…

今まで、僕の夢を聞いた人は皆本気にはしてくれなかった。子供の戯言、現実を見れてない馬鹿、そんな風に嘲笑され続けてきたヒーローになるってゆう僕の夢

 

「いい夢じゃねーか。俺は応援するぜ」

 

彼は、嘲笑するでもなく哀れむでもなくそう言った。僕の夢を初めて認めてくれた。お前には無理だと、僕の夢を嗤わないでくれた

僕は……諦めなくてもいいんだ…!ヒーローを目指してもいいんだ…!

 

「これからよろしくな!ってなんで泣いてんだ緑谷?まさかさっきの奴らに怪我でも負わされてたのか?それとも俺が傷つけるようなこと言っちまったのか?」

 

大道君の言葉で僕の涙腺はいつのまにか崩壊していたらしい。もうこういう個性なんじゃないかってくらい涙が溢れ出てくる

僕はぶんぶんと首を横に振ってオロオロしている大道君に大丈夫だと伝えると涙を拭いてなんとか笑顔を浮かべる

 

「うん!こちらこそよろしく!!」

 

 

 

これが僕のヒーローを目指す最初の一歩

ここから僕のヒーローを目指す道は始まった




タイトルのMは緑谷のMです
とゆうわけで今回は原作主人公、デクこと緑谷君の視点でした
斗和は緑谷や爆豪達と同じ中学です。
やったね!これで原作前に緑谷強化ができるよ!
まあ、既に緑谷君の感の良さは少しばかり強化されてますがこれ何も知らない立場からしたら斗和は怪しすぎるよなぁ。まるでブレイドの伊坂のようだ。いや、藻は使いませんけどね?

ついでに斗和の勧誘の犠牲となったオリキャラの不良二人についても紹介しときます(もう出てこないキャラだから)

モヒカン 爪木 鉤雄(つまき かぎお)個性:爪伸ばし
リーゼント 長井 舌汰(ながい ぜつた)個性:舌伸ばし
猫系とカエル、カメレオン系の個性の下位互換みたいなもんです。煙草吸ってるようなのがいた中学だし不良も普通にいたんじゃねと考えて出しました

因みに途中、斗和が言っていたヒーローの子供は自分からヒーローの子供だとばらさない発言ですが、あれに対して原作を読んだ方なら疑問を覚えるでしょう。雄英入学後に飯田君や轟君達普通に自分の家族がヒーローだってことばらしてますもんね。でもあれはもう高校生でしかもヒーローを目指す子が集まる雄英高校だったからだと俺は考えてます。高校生になれば自衛はできないことはないですし雄英高校ならヒーローを目指す理由で家族がヒーローだと話しても違和感無いですし。とゆうか中学生以下が自分はヒーローの子供だとか言ってたら人質にしてくださいと言ってるようなもんですよ

そして前回、次回か次々回に原作入ると言いましたがすいません!次回は緑谷君も入れた修行回になると思うのでまだ原作突入できません!本当にごめんなさいぃぃぃ!!


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Episode:06 Nで鍛える

前回の更新から一ヶ月以上経ってしまいまして申し訳ありません。今年に入って恩師に続き3月に祖父も亡くなり就活でまいってる精神に更なるダメージがきて筆を取れませんでした
それはさておき今回は前話の数日後の話です


緑谷を助けた数日後

 

俺は数日前に緑谷に教えた集合場所に来ていた。

伝えた時間までは後5分、そろそろ来てもおかしくないな

 

「おーい!大道くーん!」

 

呼ばれた方向を見るとこちらに向かって走り寄ってくるもじゃもじゃヘアーの少年、緑谷 出久の姿が見えた

 

「おう、来たか緑谷……その目元の隈、どうした?」

 

緑谷の目元にはくっきりと黒い隈ができていて目も少し充血している。はっきり言うと少し不気味に思えてしまう

 

「あ、これ?実はプロのヒーローに鍛えてもらうなんて考えてたらワクワクし過ぎて眠れなくて……」

 

「遠足前の小学生か!?ったく、楽しみなのはわかるがそれで途中で気ぃ失うなよ?」

 

幸先不安だが大丈夫か、これ?

まあ、そんなこんなでうちの親父達が所属しているヒーロー事務所に俺達は移動した

 

 

 

 

 

 

 

うちの親父達のヒーロー事務所は外観はどこにでもあるようなそこそこでかい普通のビルだ。特徴があるならば屋上に置いてあるでかい輸送機くらいか。遠い場所に出動する場合はあれで移動するらしいがここ数年動いてる所はまだ見たことがない

 

 

「ここが大道君のお父さん達が所属してる事務所……」

 

「そう、ここがうちの両親が所属してるNEVERヒーロー事務所だ。なかなか癖の強い人ばっかだから驚き過ぎて気絶するなよ?」

 

「う、うん、なるべく気絶しないよう頑張るよ」

 

 

受付にはもう今日緑谷を連れてくることは事前に伝えておいたしなによりもう何年もここに通っている俺は顔パスで事務所内へ入っていく

そして階段を下り地下の訓練場へ入る

 

 

「うわー、広い!地下にこんな広い場所があったんだ!」

 

「この訓練場はこの事務所の創立の時からあってな。なんでもこの辺り一帯の地下部分を買い取って作ったらしい」

 

訓練場は端から端までの長さが約100m程の正方形の形をしている。広さとしてはわかりやすく言うなら野球場くらいだ

 

「向こうの方に更衣室があるから着替えてこいよ。俺はこっちで準備しとくから」

 

俺がそう言いながら訓練場の奥の方にある更衣室の扉を指差すと緑谷はわかったよ、と返事をして更衣室へ向かった

さて、重りやら器具を出すとするか

 

隣の器具室へ入ろうとすると今緑谷が入ったばかりの更衣室の扉が勢いよく開かれ緑谷がこっちに全力疾走してきた

 

「だだだだだ大道君!こ、更衣室に変なおじさんが魔法少女でポージングしてて!?」

 

あー、最初にあの人に出会っちまったのか。よりによって一番インパクトの強い人に

 

「落ち着け緑谷、言いたいことはなんとなくわかるがまともな言葉になってないから」

 

 

緑谷を落ち着けていると開いている更衣室の出入口から緑谷がこんなにも錯乱した原因であろう人が出てきた

黄色でフリフリがいくつも付いてる魔法少女みたいな格好で……

 

「んも~、人を見ていきなり逃げ出すなんて失礼じゃない?ハッ!まさか私の魅力にあてられて照れて逃げちゃったの!?可愛い所あるじゃない!嫌いじゃないわ!」

 

「月下さん、勝手に一人で妄想しないでくださいよ。誰だって初対面で貴方といきなり出くわしたら逃げますよ」

 

「ちょっと斗和ちゃん、それどういう意味!」

 

この魔法少女のような格好をしたおっさんは月下 伸夫(つきした のぶお)、ヒーロー名はミラージュ・ルナ

うちの両親の同僚でこのNEVERヒーロー事務所一の変人だ

元々はオラオラ系のヤーさんのような人だったらしいがいつの間にかオカマキャラになってしまったらしい

個性は変幻自在(ルナティックボディ)、身体中をどんな構造にも変えられる個性だ。よく使ってるのは両腕を伸縮自在の触手のようにして相手(主に男性)を絡めとる攻撃だ

 

 

「も、もしかしてミラージュ・ルナさんですか?あのある意味18禁ヒーローの」

 

「あら、私のこと知ってるの?嬉しいわね、何かサービスしてあげようか・し・ら」

 

「い、いえ、大丈夫です……」

 

この人はこの姿と性格のせいで特に男の方から関わりたくない方の18禁ヒーローとして有名なのだ。ヒーロー紹介でも男(特にイケメン)はこの人を見かけたらまず逃げろとまで書かれている程だ。ただそのせいか一部の腐った方々からはある一定の根強い人気を貰っている

 

 

「月下、あまり客人を困らせるな」

 

「んもう!巌ちゃんまで!私は純粋にこの子と友好を深めようとしただけじゃない!」

 

次に出てきた月下さんを注意した黒に赤い線が入ったジャケットを着た男性は狩原 巌(かりはら がん)

ヒーロー名はサイレントリガー

いつも寡黙でクールに仕事をこなしていくイケメンだ。因みに妻子持ちでそのお陰か月下さんにセクハラはされていない(月下さん曰くNTRは趣味じゃないとか)

個性は手銃(ハンド・ガン)、手を銃に変えられる個性だ。マシンガンにライフル、RPG-7、はたまたサイコガンと銃ならなんでも再現できる。ただ弾は自分の血液を凝固させたものの為撃ちすぎると貧血で倒れてしまう

そのデメリットの為に一撃で相手を仕留められるライフル系を好んで使っている

 

 

「緑谷 出久、だったな。斗和から話は聞いている。俺は狩原 巌、こっちのオカマは月下 伸夫だ。よろしく」

 

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

「オカマ!?巌ちゃん、あなたレディの紹介にオカマってなによ!あと私のフルネームを教えるのはやめてって言ってるでしょう!」

 

狩原さんが差し出した手をおずおずと掴みペコペコと頭を下げまくっている緑谷。そして自分の紹介のされ方に怒る月下さん

このまま放置しておくと話が進まないので口を挟ませてもらうか

 

「この二人が今日の俺達のコーチだ。生憎うちの両親は今日はちょうどパトロールだからいないけど狩原さん達もかなり優秀なヒーローだから期待しとけよ」

 

「う、うん!」

 

 

 

そんな感じで訓練開始!

まずはランニング

 

「はあ、はあ、きつっ、はあ、はあ」

 

「ほらほら、まだたったの3kmよ。こんなんで泣き言言うんだったら後で私の部屋でみっちりねっちょり朝まで特別コースよ!」

 

「ひいいいいいいいい!?」

 

 

後ろから右腕を鞭状にした月下さんに追いかけられながら5km!因みに俺の方は狩原さんに追いかけられながらその倍の10kmだ。スピードを緩めたり気を抜くと撃たれそうになるが数年もやっているからもう慣れたものだ

 

 

走り終えたら少しの休憩を挟んで組手

 

「そんなへっぴり腰じゃパンチ一つまとも打てないわよ!もっと腹に力こめなさい!腹に!」

 

「は、はいぃ!」

 

 

闘い方を知らない緑谷はまず、基礎をみっちり叩きこむ。サンドバッグを殴らせたり受け身を教えたりと月下さんに手取り足取り教えこまれている

俺はその間、狩原さんと延々と組手だ。素手、棍、刃引きされたナイフや刀と様々な武器をボクシング、柔道、棒術等の様々なスタイルと組み合わせて使い個性を使わない状態の狩原さんと戦い続ける。一つの種類につき3分と時間を決め組手を続けるが集中力を維持し続けるのが辛い

個性を使っていないとはいえプロのヒーロー相手の組手をしているんだ。相手の一挙一動に気をつけていなければすぐにやられて一本取られてしまう

 

 

組手を終えラストのメニューは筋トレだ。疲労した身体を更に苛めぬく。既に緑谷はかなりグロッキーだが耐えれるか?

 

「さあ、ラストスパートよ!上がらなくなるまで腕立て伏せをしなさい!筋トレは限界を超えてからが本番なの!リミットブレイクを目指すのよ!」

 

「は、はいぃ…」

 

 

返事も弱々しくなって顔にも疲労感がかなり表れているがまだその目を死んではいない。初日からここまで追いこまれているのにいい根性してるな

 

「斗和、向こうを気にしている余裕があるならまだいけるな。ベンチプレス回数追加だ」

 

「うおおおおお!!」

 

叫ばなきゃもう腕上がらねえなちくしょう!!

 

 

30分後

訓練場には床に沈んだ緑谷と俺の姿があった

 

「も、もう一歩も動けない…。大道君っていつもこんな訓練してるの?」

 

「まあな、だけど俺も数年間師事してもらってようやくこのレベルの訓練にしてもらえたんだ。最初は俺も今日緑谷がやったような基礎練ばっかだったけどそのうち色々と教えてもらったりしてな」

 

「凄いね、こんなキツイ訓練を何年もやってるなんて。あれ?っていうか大道君何歳からやってるのこの訓練」

 

「5歳からだな」

 

「5歳!?そんな小さい時から!?」

 

「ああ、自分が無個性ってわかった数日後にな」

 

「な、なんでそんなすぐに鍛えようと思ったの?」

 

「…俺はさ、うちの両親を誇りに思ってるんだよ。ヒーローの仕事で忙しいのにこんな俺の我儘をきいてくれて、無個性である俺を受け入れて愛してくれている俺なんかにはもったいないくらいいい両親だ。だからこそ、無個性の俺のせいで父さん達に迷惑をかけたくないんだ」

 

 

両親が一般人だったならここまで悩むことじゃなかっただろう。だがヒーローであるということは人々から注目されることでもある。それもヒーロー同士の結婚というなら尚更だ。しかしその子供が無個性だったら?

周りの評価は火を見るより明らかだろう、俺だけへの被害で二人の面汚しと言われるならまだいいがそれだけで止まらないのが世の中だ。マスコミはこういう話題に脚色や尾ひれを付けるだろうし親戚連中からは実際に俺含めうちの家族を冷ややかな見下したような目で見られたこともある

あの時はあの見下した視線につい本気でキレそうになったがその場で暴れたら更に父さん達の立場が悪くなると必至に堪えたな

 

「だから俺は強くなる、俺の家族を傷つけさせない為に、誰にも文句を言わせないくらいにな」

 

「……そうなんだ。すごいね、大道君は。僕は自分のことばっかり考えてた。なんで僕には個性が無いのか、僕にもオールマイトみたいな個性があったらってそんなことばっかり考えてて母さん達のことなんてまったく考えてなかったな」

 

 

緑谷の言葉に俺の胸が罪悪感でズキリと痛む

 

(ごめんな、緑谷。俺は嘘つきだ。本当は力を持っているのにそれを隠して無個性のふりをしている。俺が家族のことを考えられたのは自分には力があるのを知っているからなんだ。お前の、無個性の苦しみを…俺は本当の意味で理解してなんかないんだ……)

 

エターナルの力を手放さない為には周りに嘘をつき続けなければいけない。普通の連中に嘘をつくのはもう慣れたが、こんな純粋な所がある奴には……やっぱり罪悪感が少しばかり涌いてくるな

 

 

「ほーらあんた達、プロテイン淹れてきてやったわよ。たっぷり飲みなさい。そして筋肉を回復させて、美しい身体を目指すのよ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます、月下さん。でも美しさは別にいらないです」

 

「相変わらずつれないわねえ、斗和ちゃん。でも嫌いじゃないわ!」

 

俺が罪悪感に駆られていると月下さんが気をきかせてプロテインを差し入れしてくれた。こういう気遣いもできるからいい人ではあるんだが如何せんキャラのせいで常識人から外れちゃうんだよなあ

 

 

 

 

 

 

その後身体が動かない緑谷は狩原さんに車で送ってもらった。残った俺は訓練場の機具を片付け訓練着から着替えていると気配もなくぬるっと月下さんが後ろから近づいてきた

 

「もう、今日の訓練は終わってるんだからそんな慌てて逃げることないじゃない」

 

なら、気配を消していきなり後ろから近づいてくるのはやめてほしい。瞬時に後ろを向きながら距離を取った俺は悪くない

 

 

「心臓に悪いんでいきなり来るのはやめてくださいよ。戦場で後ろを取られたら死ぬって教えたのは月下さん本人なんですから」

 

だから別に尻に危険を感じたからじゃないよ、うん

 

「んふふ、そうだったわねえ。なら、斗和ちゃん今一回死んだわよ?私程度に後ろを取られるようじゃまだまだね」

 

「ならかなりのヒーローや敵がまだまだってことになりますよ。それより、月下さんから見て緑谷の奴はどうでした?」

 

「――そうね、基礎体力,筋力はE、貴方が過去に連れてきた無個性達の中でも断トツのビリね。記憶力や発想力は戦い方の基礎を教えただけでも中々いいのを持ってるのがわかったわ。でも、一番評価するのはあの目よ。あの子、散々ビビったりバテたりしてたけど目だけは死んでなかったわ」

 

「今までの無個性達はどいつもこいつも自分から自分の可能性を諦めて捨てた死んだ魚以下の目をした腑抜け共ばかりだったけどあの子は違う。あの子はまだ可能性を捨ててなかった、藁だろうが蜘蛛の糸だろうが縋ってでも上へ行こうとする挑戦者(チャレンジャー)の目よ。ああいう我武者羅な目をする子はわりと大成するの。ああいうの、私の好きなタイプじゃないけど、嫌いじゃないわ。嫌いじゃないわ!」

 

 

月下さんの返答を聞いて俺も少し安堵する

今まで同じようにここへ連れてきた無個性の人は同級生に限らず歳下も歳上も関係なく何人もいた

だけど誰も長くは続かなかった

訓練がキツくて逃げ出した奴、言い訳ばかりで訓練を真面目にやらず父さん達から追い出された奴、月下さんを見て逃げて二度と来なかったのもいたな。そいつは結局月下さんに捕まったらしいが

 

願うなら緑谷には、長く続けて強くなってほしい

辛い現実の中で希望を完璧には失わなかったあいつはまだまだ上にいける奴なんだ

あいつをここで埋もれさせる訳にはいかない

 

俺の贖罪の為にも…




題名のNはNeverのNです
因みに今回出ていないNEVERヒーロー事務所のエース兼所長のNEVERは自分又は他人の一時的に強化を得意とする女性のヒーローです

そして新キャラである月下 伸夫と狩原 巌、モデルは勿論皆大好き京水さんとクールな銃撃手 芦原 賢さんです。何気に月下さん書いてる時が一番楽しかったですね

次回はようやく原作突入!2年数ヶ月で緑谷をどこまで強化できるかな!


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episode:07 Rは別れた

祝お気に入り120人突破!
純粋に嬉しいですね。これもヒロアカのアニメの影響もあるんでしょうか

そして遅ればせながら高評価を付けてくださった
月平さん、鍋やんさん、吉井明久さん、ポルメロさん本当にありがとうございます!

今回からやっと原作に突入です!


あれから2年の時が過ぎた

今でも僕は斗和君とNEVERヒーロー事務所に通い訓練を受けている

死ぬかと思うような地獄の訓練のおかげで体力も筋力も戦闘技術も中学に入ってきたばかりの時とは見違えるようについた

今では中学生相手ならよほど強力な個性を持つ相手でなければ押さえこめるまでになれるなんて昔の僕じゃ想像もしてなかったことだ

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「ん?」

 

ふと聞こえた怒声の方へ視線を向けると高架線の線路の上で暴れる巨大な敵とそれに対応している何人ものヒーローの姿が目に入った

 

「うわっ、でっけー敵!」

 

 

「それにしても怪物化とかすげー個性。何やらかしたん?」

 

「ひったくり、追い詰められて暴れてんだと」

 

「あの個性でひったくりって…」

 

 

現場の近くへ人混みをかき分けながら聞き耳をたてているとどうやらあの巨大敵は怪物化系の優れた個性のわりに小心者のようだ。あの個性ならもっと活かせることがたくさんあるだろうに

 

 

それに対し戦っている相手は身体から樹木を生やし戦うヒーロー、シンリンカムイだ。敵の豪腕を腕から生やした樹木を自由自在に使い軽々と躱していく

 

「漆鎖牢!」

 

シンリンカムイが敵の目の前で片腕を何本もの樹木に変え相手の視界を覆いながら捕らえようとする目眩まし兼捕縛用の技、漆鎖牢をくりだした

 

「キャニオンカノン!」

 

『!?』

 

だが漆鎖牢が決まる前に敵は横合いからの巨人の蹴りに吹き飛ばされた

だがその女性の巨人ヒーローの様子がおかしい。せっかく敵を蹴り飛ばしたというのにそちらへ向かわず蹴った方の足を押さえうずくまっている

 

「いったぁ~、何あの敵、個性は怪物化だけじゃないの?」

 

 

その台詞を聞き蹴り飛ばされた敵をみると身体の蹴られた付近がまるでハリセンボンのように刺だらけのマフラーのようなものが巻きついていた

 

 

「助かったぜ兄貴、あのままくらってたら危なかった」

 

敵がそう刺に話しかけると刺だらけのマフラーのようなものがもぞもぞと動き一人の針ネズミのような人間が姿を現した

 

「気にするなよぉ、弟。お前がやられたら俺もヤバいんだぁ。それより早くずらかるぞぉ、いつまでもここにいるのはまずいぃ」

 

どうやらあの敵は二人一組の兄弟コンビで針ネズミ敵は怪物敵の首裏に隠れていたようだ。さっきの巨人ヒーローは刺が足にわりと深く刺さってしまったようでうまく動けない。シンリンカムイが逃すまいと樹木を伸ばすが針ネズミ敵が飛ばしてくる刺が樹木を貫き他のヒーロー達と一緒に刺から一般人を守るのに手一杯になってしまっている

 

 

「このまま逃げきるぞぉ、弟!」

 

「おうよ、兄貴!」

 

 

針ネズミ敵は怪物敵の肩に乗りそのまま怪物敵はヒーロー達とは反対側に向け走りだす

だが兄弟敵の目の前に突然なんの前触れもなく現れた白い影が怪物敵の腹を殴ったことで兄弟敵の逃走は妨害された

 

「いい個性だ、感動的だな、だが無意味だ」

 

「かっ、はっ!?」

 

「お、弟ぉ!?」

 

その腹パン一発で怪物敵は白目を剥き気絶してしまった

地面に降りた針ネズミ敵は怪物敵が完全に延びてしまったことを確認すると自分の相方を一撃で倒した相手を見て驚愕する

 

 

「エ、エターナルゥ!?なんでこんな奴が出てくんだよぉ!ちくしょおぉ!」

 

『うおおおお!エターナルだ!』

 

「やっべ本物かよ!写メ!写メ撮っとけ!」

 

「キャアァァァァ!エターナルゥゥ!!」

 

白い影の正体は非公式ヒーロー、仮面ライダーエターナルだった。数年前に突如として現れた彼はヒーロー事務所に登録された公認されたヒーローではなく個人的に個性を使いヒーロー活動をしている存在だ。だけどいくらヒーローと同じ活動をしていても法として個人的な個性の使用は禁止されているから彼はあくまで敵を倒す敵という扱いだ。敵にもヒーローにも狙われる彼だが彼の正体は未だわからずその能力の全容も掴みきれていない

 

そんな彼だがそれでも彼のファンは少なくない

単純に彼に助けられた人や彼に憧れる人、非公式であることをいいことに個人でグッズを造る人までいる程だ

かくいう僕も彼のファンの一人だからあまり人のことは言えないけど…

 

 

『Metal Maximum Drive!』

 

「は、針が刺さらねえぇ…どんな身体してんだよぉ!」

 

「お前も寝ておけ」

 

針ネズミ敵はエターナルに刺を発射し続けたがシンリンカムイの樹木を貫いた刺は一発もエターナルには刺さらず弾かれている

エターナルは針を物ともせずに針ネズミ敵に走り寄ると赤い炎の意匠が描かれた右拳を針ネズミ敵の腹にめりこませた

 

 

「がっ、ぁ……」

 

針ネズミ敵は怪物敵と同じようにその一撃で地面に沈みエターナルは用は済んだとばかりにこちらに背を向け去ろうとする

 

「ま、待ちやがれ!」

 

「今度こそお前もお縄につきやがれ、エターナル!」

 

「断る」

 

『Zone Maximum Drive!』

 

それまで茫然としていたヒーロー達が我に帰りエターナルを捕まえようと動きだしたがその時にはもうエターナルの影も形もなくどこかへ行ってしまった後だった

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

あーー、今さらながらもう本当に面倒だ

なんで助っ人に入ったら俺までヒーローに追われるんだか。いや、俺自身やってることは違法なことだしヒーロー達の活躍を横から掠め取ってる立派な営業妨害だってことは自覚してるさ。だけど同じような人助けしてんだからここまで犯罪者扱いしなくてもいいだろ!

あー、これもあれだ、俺が一度でも正体をばらせないっていうのが絡んでるな。学生ってわかってるならまだヒーローに憧れてやった行動ってことで注意とかだけで終わるだろう。だがエターナルの正体は不明、しかも身長は成人男性のそれで声もくぐもってるからまず学生とは思われない。成人男性でこんなことをやっているとしたらまずヒーローになれなかった個性持ちが個性を持て余し自己満足で擬似ヒーロー活動をしているとかそんな感じだよなあ

うん、確かに本職のヒーローからしたらさっさと排除したい商売泥棒だわ

 

そんなエターナルになってから何百回と思考したことを考えながら俺は机に突っ伏してSHRを受けている

 

 

「えー、お前らも3年ということで!!本格的に将来を考えていく時期だ!!今から進路希望のプリントを配るが皆!!大体ヒーロー科志望だよね」

 

先生、確かにそうだがプリントをばらまくな。拾うの面倒だろ。あと周りの奴らも一斉に個性使うな。うちのクラス体面積を物理的に増やす個性多いんだから前が見れなくなるだろ。すげー邪魔だし

 

「うんうん、皆良い個性だ。でも校内で個性発動は原則禁止な!」

 

ならもうちょっとちゃんと注意してくれ。視界がうるさくてしょうがない

 

 

「せんせー、俺をこいつら没個性共と一緒にしないでくれ。無個性にボロ負けするこいつらより俺は上なんだ」

 

先生の言葉に睨みながら反論する出久ほどじゃないが爆発したような頭の悪人顔、爆豪 勝己。個性という面で見ればこのクラス1の才能の持ち主だ

 

「そりゃねーだろカツキ!」

 

「お前だって大道に負けただろ!」

 

「大道どころかデクにもボロ負けたモブがうっせえ」

 

他の生徒達が爆豪にブーイングを送るが当の爆豪は不機嫌そうに出久を睨んでる

そしてこのクラスメイト達の言葉通り俺と出久はこの2年間、このクラスどころか学校中の個性持ち達と試合や喧嘩をしてそのほとんどを勝ち続けてきたのだ。黒星をつけられたのは出久が爆豪と戦った時くらいだったか

 

 

「あー確か爆豪は雄英高志望だったな」

 

先生の言葉に皆ざわつきだす。まあ、雄英はヒーロー科がある学校としてもエリート中のエリート、そこを希望するなら当然だろう

 

「俺は底辺で燻ってるつもりはねえ。ヒーローになって駆け上がっててっぺんまで昇りつめてみせる。その為にゃ雄英行くくらい出来て当然なんだよ」

 

野心をギラギラと燃やした目とは裏腹にごく当たり前のように雄英に合格すると言う。俺に負けてからほんと反骨精神の塊みたいになったよな、爆豪は。いや、以前の調子のってた時よりは全然マシだけど

 

「そういや大道と緑谷も雄英志望だったな」

 

先生の発言で再び教室内がざわつく。大方自分達に勝ったとはいえ無個性二人が合格できるのか?といったところだろう

 

「面白え、雄英で今度こそ完膚なきまでにぶっ潰してやる」

 

ざわつくクラスメイト達の中で唯一爆豪は狂暴な笑みを浮かべる。あいつの中では俺達ももう合格したも同然ということなんだろうか

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

今日の学校も終わり放課後に

俺は日直だった為、訓練もない今日は緑谷には先に帰ってもらった

そんな一人で帰る途中、ふと空を見上げると青い空に白い雲に紛れて遠くで何かが飛んでるのが見えた

 

(敵か?)

 

かばんから敵発見用にいつも持っている双眼鏡を覗きこむと、やたらムキムキのあきらかに画風が違う大男、恐らくオールマイトとオールマイトにしがみつく先程先に帰った筈の出久の姿が見えた

 

「なんだ、ただのオールマイトと出久か……オールマイトと出久ぅ!?」

 

Why!?なんで!?オールマイトはこの街にいるのは驚いたがヒーロー活動してるからまだわかるとしてなんで出久がくっついてんだ!?

考えてても仕方ない!とりあえず追いかけるか!

 

 

数分後

 

 

完全に見失った……。思った以上にオールマイトの飛行スピードが速かったせいでどこに降りたかもわからない

探し物の場所を知れるキーメモリを使いたいが変身してない時にメモリなんて使ったらバレる元だしこれ以上の追跡は無理か

 

 

追跡を諦め再び帰ろうとすると商店街の方から大きな爆発音が聞こえた。しかも商店街の方を見ると火の手が上がり明らかにただ事ではない雰囲気だ

 

「まったく、日に2度も近所で起きるとか。今日は厄日か……」

 

気づいてしまったのはしょうがない。とりあえず被害状況見て助太刀するかどうか判断するか

 

 

―――――――――

 

 

 

現場の上空に変身した状態でバードメモリを使って飛んで来ると商店街ではヘドロのような流体系の敵が一人の中学生を半ばまで取り込み暴れまくっていた

その流体系の身体は完全に物理攻撃を無効化し人質の個性も相まってヒーロー達は完全に攻めあぐねていた

 

 

「ヒーロー何で棒立ちぃ?」

 

「中学生が捕まってんだと」

 

……まさか捕まってる中学生が爆豪とはな。あいつの個性は爆破。掌から出る汗で爆発させる強力で危険な個性だ。そりゃここまで火災が酷くなる筈だ

 

(今いるヒーロー達だけじゃあのヘドロの対処と爆豪の救出は無理だ。俺も助太刀するか)

 

そう考え上空から強襲しようとした瞬間、野次馬の中から見覚えのありすぎる奴が飛び出した

 

(出久!?)

 

何でまたお前が!?さっきオールマイトと一緒に飛んでた筈だろ!

 

「馬鹿ヤローー!!止まれ!!止まれ!!!」

 

制止するヒーローの声も聞かず出久はリュックから護身用に持たせている俺特製の催涙スプレーを取りだしヘドロ敵へと吹きかけ視界を潰すとヘドロ敵に取り込まれている爆豪へと手を伸ばす

 

「かっちゃん!」

 

「何で!てめぇが!」

 

出久が爆豪の身体を掴もうとするがヘドロの身体には虚しく空振る

俺もバードメモリをベルトから抜き上空から落下しながら別のメモリを取り出す

 

 

「足が勝手に!何でって…わかんないけど!!」

 

「君が、助けを求める顔してた」

 

出久、お前って奴はほんと、ヒーローよりヒーローらしいこと言ってくれるぜ!

 

『Cyclone Maximum Drive!』

 

俺の左腕に風が纏われ落下しながら殴る体勢にする

それと同時に気づくといつの間にかオールマイトが出久と爆豪の片腕を掴んでいた

速い!だが俺ももう技を解除はできない。タイミングを合わせるしかないか!

 

「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!」

 

「プロはいつだって命懸け!!!!」

 

『DETROIT SMASH!!!!!』

 

「サイクロンブロー!!」

 

 

オールマイトの拳と風を纏った俺の拳が同時にヘドロ敵を吹き飛ばした。同時攻撃の威力は凄まじく空中でバランスの取れなかった俺の身体は思い切り吹き飛ばされ近くの建物の屋根の上まで飛ばされてしまった

にしても、やり過ぎたなこれは。はっきり言ってオールマイトの一撃でもあれは充分過ぎる威力だったのにそこへ俺の追加ダメージだ。完全にオーバーキル、まあ、俺の知り合いに手を出した報いだと考えれば上等か

身体が吹き飛ばされても死ぬタイプの敵じゃなさそうだし問題もないだろう

見つかる前に退散しようとするとオールマイトの声が俺を呼び止めた

 

「エターナル!助太刀は感謝するが待ちたまえ!あまり敵から市民を守ろうとする者を捕まえたくはないが、私もヒーローとして個性を違法使用する君を捕まえる義務がある!」

 

そりゃそんな簡単に見逃してはくれないか……。こちらへと顔を向けているオールマイトに俺も屋根の上から顔を出して返事を返す

 

「お前がいるなら俺の助太刀は必要無かったな、オールマイト。悪いが俺はまだ捕まるわけにはいかないんだ。ここの後片付けは任せたぞ」

 

『Zone Maximum Drive!』

 

「待てと、言っているだろう!」

 

 

オールマイトの拳が当たるより一瞬速くゾーンメモリが起動し俺は近くの路地裏にワープできた

危ねえ、今のもう少し遅かったらぶっ飛ばされて捕獲待ったなしコースだったよあれ。No.1ヒーローの拳とか絶対受けたくねえよ。ガチで死ねるだろうから

まあ、いいや。終わったことだし出久も爆豪も大丈夫だろう。俺も変身解いてとっとと帰ろう

 

 

 

―――――――――――

 

 

翌日

 

元々訓練の予定だった今日、NEVERヒーロー事務所にはNEVERさんを筆頭にこのヒーロー事務所所属の4人のヒーローと俺と出久の他に、昨日見たばかりのオールマイトが来ていた

オールマイトはどうやら出久の引き抜きというか自分が出久をみっちりと鍛えたいからという理由で来たようだ

今はNEVERさんと二人で何か話し合っている

 

 

「斗和君、ごめんね。斗和君が誘ってくれて2年も一緒にやってきたのに突然こんな風に辞めちゃって」

 

「いいさ、俺達は学校でも会えるんだ。それに子供の頃から憧れてたオールマイトに鍛えてもらえるんだろう?一生に一度あるかどうかもわからないこのチャンス、絶対活かせよ。俺達は一緒に雄英行ってヒーローになるんだからよ」

 

「っ~!うんっ!!」

 

 

出久は涙が溢れそうな目を擦り笑顔で頷く

ほんとこの泣き癖は治らないな、出久は

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆さん、本当にありがとうございました!」

 

「またいつでも訓練に来いよ!」

 

「私の抱擁ならいつでもしてあげるわよ!」

 

「月下、それはやめてやれ。緑谷、困った時があったら言え。なるべく力になるぞ」

 

「オールマイトの訓練が物足りなければまたこちらで訓練してあげますからね」

 

 

激励を受けながら父さん達に頭を下げ出久はオールマイトと共に去っていった

こうして出久はNEVERヒーロー事務所を離れ、俺達の歩む道は離れた。だがまたすぐに交わるだろう、なにせ俺達の目指す場所は同じなのだから

 

 




タイトルのRはroad、ここで斗和と緑谷の道は一旦別れたということです
とりあえずシンリンカムイ、Mt.レディを始めとしたヒーロー達のファンの方、本当にすみません。彼らにはかませ役になってもらいました。特にMt.レディごめん、君デビュー戦だったのに

えー、原作との違いはわかりやすいですが緑谷の身体能力、戦闘技能、持ち物の強化。爆豪の性格の早めの凶暴化、怪物敵の相方のオリジナル敵ですね。あ、あとクラスメイト達からの印象とかもか
原作の10ヵ月であれだけ鍛えた緑谷君ですからね。2年も費やしたら学校のNo.3くらいなれますよ。因みにこの緑谷君なら海浜公園のあのゴミを5,6ヵ月で片付けられます

オールマイト「HAHAHA!能力早く渡せちゃうなこれ」

爆豪はヘドロの前に敗北を知ったおかげで雄英入学前に原作の雄英入学後のような性格になりました。そのせいで目付きの悪さが更にひどく…

次回は雄英入試試験!ようやく煩わしい誓約が複数外れる斗和はどう立ち回るのか!


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episode:08 Yを目指せ

お気に入り200人突破!前回の更新から80人もお気に入りが増えた……。ほんと感謝感激です!


パフェ配れさん、kurageさん高評価ありがとうございます!励みになります!
青坂さん、指摘と評価ありがとうございます。評価以上の作品になれるよう頑張ります!

今回は雄英入学試験!斗和と出久は試験を突破できるのか!


8/8 最後の方だけ書き直しました


出久がNEVERヒーロー事務所を離れ10ヵ月が経ち季節は冬に、雄英の入学試験は当日となった!

 

 

もうすぐ春だと言ってもまだまだ寒い冬空の下、俺と出久は雄英の門をくぐり試験の説明会場へと足を進めていた

 

「いよいよだね、斗和君!」

 

「ああ、ようやくだな。今日、ここで俺達のこれからが決まるんだ」

 

(そう、漸く今日、あのクソ神からの誓約のうちの2つが消えたんだ。変身を見られるのも正体がバレるのも問題は無くなった。だがこの雄英のヒーロー科に入れなければ俺は本当にエターナルの力を失う……!)

 

今朝、確認の為にこのエターナルの力と一緒に渡されたあの忌々しい誓約書を久しぶりに見たら『雄英高校入学試験まで他者に変身を見られるべからず』『雄英高校入学試験まで正体をばらすべからず』の2つの文章が消えていた。

このことから一番厄介な誓約2つは解けたことがわかったが、まだ問題がある

 

それはこの試験中にエターナルに変身するか否かだ

ここでエターナルに変身することでのメリットは実技試験は軽く突破できるであろうこと、これ以上正体を隠す必要がなくなるということの二点だ。それに対しデメリットは正体を晒した場合の自分、周りの扱いだ。最悪少年院送りで雄英に入学できるかも絶望的になる可能性や父さん達、NEVERヒーロー事務所の皆にも迷惑をかける可能性もある

はっきり言ってメリットに対してデメリットが大きすぎる。俺個人だけの問題ならまだしもエターナルは10年前から活動していたのだ、NEVERさん達はともかく父さんと母さんには何故気づけなかった、教育が悪かったのではないかという形で非難の声が浴びせられるだろう

 

(やっぱりエターナルを使わずにやるしかないか……)

 

「―――和君、斗和君」

 

「あ、ああ、なんだ出久?」

 

「大丈夫?なんかボーッとしてたけど。緊張、してるの?」

 

どうやら考え過ぎて上の空だったようだ。出久にも心配されてしまった

 

「大丈夫だ、ちょっと考え事しててな」

 

「ならいいけど。あー、緊張するなー!」

 

「ま、あんま力み過ぎんなって。お前ならやれるって信じてるからよ」

 

「うん、斗和君も余裕過ぎるからって油断しないようにね」

 

「ハっ、言うじゃねーか。負けねーぞ、出久」

 

「こっちこそ!」

 

 

こうして俺達の雄英高校入学試験は幕を開けたのだった

 

―――――――――

 

雄英高等学校ヒーロー科入学試験会場

演習場C

 

実技試験の会場であるここは雄英が所持している模擬市街地の1つだ。1つの街をまるごと持ってきたかのようなこの会場はA~Gまでありこの中で実技試験は行われる

試験内容は簡単だ。10分という制限時間内で会場中に現れる1~3P(ポイント)の三種類の仮想敵、そいつらを壊しP(ポイント)を得る。個性を使ってもよし、物を持ち込んで使ってもよし、他の試験者を妨害するなどアンチヒーローな行動をしなければ問題ないというルールだ

 

出久や同じく受験を受けている爆豪は別の会場で試験を受ける。同じ学校の友人と協力させない為の措置だろう

 

俺はいつもの訓練着姿に腰にナイフ二挺、懐に投げ用ナイフ20梃、背中に父さんに作ってもらった両端を収納して長さを調節できる鉄の鉄棍を装備している

他の受験者がほとんど丸腰で動きやすい格好をしている分武器を装備している俺の姿を見てひそひそ話してる奴もちらほらいる

 

『ハイ、スタートー!』

 

そうやって周りの奴らを見ているとこの試験の説明の司会をしていたボイスヒーロー、プレゼントマイクのよく通る声で試験開始の声が出された

 

周りが呆気に取られている間に俺は会場内に走り仮想敵を探す

 

 

『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』

 

その通りだ、実戦じゃ敵はいつ出てくるかなんてわからない。だから―――

 

『標的捕捉!!ブッコロス!!』

 

―――いつ来ても倒せないとなあ!

 

いきなり横路時から飛び出てきた両腕に大きく1と書かれた1Pの仮想敵の首めがけ鉄棍を振るう

見た目の割に脆い仮想敵の首の半ばより上は簡単に吹き飛び仮想敵は機能を停止する

 

プレゼントマイクの急かす声が響きようやく他の受験者達も動きだしたようで駆けてくる音がし始める

 

 

「さあ、祭りの始まりだ」

 

 

 

 

――――――――――――

同演習場B

 

 

 

SMASH!!

 

「これで―――56P!」

 

こちらでは、オールマイトから受け継いだ個性『ワン・フォー・オール』を使って出久が次々と仮想敵を倒していく

 

ただ単純に殴る、ただそれだけの攻撃で自分よりも二回りも大きい仮想敵の体が近くのビルに叩きつけられ機能を停止する

 

この数ヵ月、出久は『ワン・フォー・オール』を使いこなすことだけに力を注ぎ続けた。その結果、0か100%しか出せず何度も身体を(物理的に)壊したこの個性も自分が今出しても問題ない5%の力までは安全に使えるようになった

たかが5%かとも思うが侮ってはいけない。5%は5%でもオールマイトの力の5%だ。大人の全力と子供の全力が違うように『ワン・フォー・オール』を受け継いだ出久の5%は充分普通の人間では出せない程の力を発揮している

 

その証明のように、出久は出てくる仮想敵達を倒し着実にPを稼いでいた

 

 

(もうすぐ制限時間だ!でもあの説明会で言われてた0Pの敵がまだ出てきてないから油断は出来ない……)

 

 

そうして残りの制限時間も2分を切った時、全ての演習場にそれは現れた

 

ビルを越える程の巨躯、移動するだけで周りを破壊していくそれはこの試験での災害のような扱いをされている0Pの巨大仮想敵

並の個性では短時間での破壊も足止めも難しいそれは残り少ない制限時間も相まって正に受験者にとっての邪魔者

倒すのも面倒、倒してもメリットが無い、そんな物の相手をする者は勿論のこと誰もおらず皆、巨大仮想敵とは逆方向に逃げていく

 

 

同じように出久もこの場を離れ更にPを稼ごうとした。だが走りだす前に見てしまった。巨大仮想敵の足下の瓦礫に脚を挟まれ動けなくなっている少女を

その瞬間出久は足を止め巨大仮想敵へと走りだした

この試験の評価を忘れ目の前の少女を助ける為に

 

 

 

 

(今の5%じゃあの仮想敵を倒せないしあの子の所までたどり着かない!なら!身体が壊れる覚悟で!)

 

 

安全策(5%)では無理だと判断した出久はセーフティを外した。自分の限界の力(ワン・フォー・オール)の全力を出し地を蹴り巨大仮想敵の目の前まで跳んだ

 

 

「う、おおおおおおおおお!!」

『SMASH!!!!!』

 

出久の100%の拳が巨大仮想敵の顔面を粉砕し吹き飛ばす

巨大仮想敵は殴られた勢いのまま仰向けに倒れ完全に沈黙する

 

「ぐっ、痛っ~~~!?」

 

だが大きな力には大きなリスクが伴うのが世の常。身に余る力を使った反動でとてつもない痛みを感じながら跳び上がった際の両足、殴った右腕は筋肉や骨がズタズタに壊れ使い物にならなくなる

しかも跳んだ高さは巨大仮想敵の顔の高さ。つまりビルよりも高い場所からの紐無しバンジー、周りに掴める物も何も無い。これで四肢が全部イカれていたら本当に終わっていたがまだ出久には左腕が残っている

このまま、左腕で5%の力で地面を殴ればなんとか生き残れるかもしれないがそれでも充分賭けだ。タイミングを一瞬でも間違えたならば地面に落ちたザクロのように出久の頭は潰れるだろう

 

 

(落ち着け、落ち着け、チャンスは一瞬。左腕に5%の力を出せるよう集中して……)

 

 

だが出久の心配は意外な形で杞憂となった。左腕に力を込め繰り出そうとする数秒前に右の頬を先程助けた少女に思い切りはたかれたのだ

 

「!!?」

 

その瞬間、出久の落下スピードがほぼ0になり3Pの仮想敵の千切れた頭に乗って浮いていた少女と共にゆっくりと地面に着地した

 

「解、除…」

 

個性を解除した少女はキツそうでぐったりとしているが急に「うっ!?」と口を押さえ口からリバースしてしまった

すぐにお礼を言おうとした出久も流石にその状態の少女に話しかけるわけにもいかずとりあえず少女の尊厳の為にも見ないことにした

 

(ただ助けるつもりが逆に助けられちゃったな……。でも良かった、とりあえず怪我は無いみたいだ)

 

「あっ、時間が!くっそ、せめてもう少しPを!」

 

出久が左腕で身体を引きずり少しでもPを増やしにいこうとする中、無慈悲にプレゼント・マイクの声が響いてきた

 

 

『試験終了~~!!』

 

「あ……」

 

終わってしまった、まだいける筈だった。出久は自分を投げ打ってあの子を助けたことに後悔はない、後悔はないが……それでも悔しかった。あの人(オールマイト)なら笑ってあの子を笑いながらノーリスクで助けだせた

身体の痛みがオールマイトと自分の差を否が応にも教えてくる。こんなんじゃ駄目だ。もっと上にいかなきゃ、今のまま(5%)で満足なんてしてられない。更に強く目指さなければ……自分の親友(斗和君)に誇れるくらい尊敬する人(オールマイト)に誇れるくらい上にいかなきゃ(Plus Ultra)

 

挫折を乗り越えた少年は再び高みを目指す。自分に力をくれた師に、自分を上へと向かわせてくれた親友に誇れるようにと!

 




タイトルのYは雄英のY
ですちょっと尺が長くなりそうなんで出久の方だけで切らせていただきました

出久は身体が既に鍛えられてたからぶっちゃけ入学前から原作ヒーロー殺し戦の時並にまで個性使えてます。しかも技も色々と二年間教えられているから原作より総合的に強化されてるという。これじゃただでさえ少ないリカバリーガールの出番が更に減っちゃうなー(棒)
でもまだ斗和や家族には教えてない為、斗和とは嘘をついてつかれてな関係に…。二人共に嘘をつかれてる状況の爆豪がヤバイな

校門での麗日さんとのフラグは斗和と一緒にいるせいで無くなりました。でも0Pの仮想敵でのフラグは建てたから希望を捨てるなよ、出久!お前達を(BL的に)腐らせたりはしないからな!

次回は斗和サイド、斗和が高速で駆け抜けるぞ!


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Episode:09 Eを見つけた

2カ月以上更新もできずに本当に申し訳ありませんでした。しかも新しい話ではなく書き直し。元の話では完全に作者の中で行き詰まってしまった為書き直しました。本当に申し訳ありません
あと前話の最後の部分も書き直したので出来ればそちらからお読みください

JokerKoutaさん、F/U駄文製造機さん、タブーさん高評価ありがとうございます!励みになります!

ガバガバクラスターさん評価ありがとうございます。評価以上の作品にできるよう頑張ります

今回は色々と違和感やツッコミ所があるかもしれませんが、斗和sideです。演習場Cでは何があったのか!


時は少し遡り演習場C

 

こちらでは試験開始の時と同様に斗和が手持ちの装備を使い他の受験者達と同じように仮想敵を倒している

 

「ふっ!」

 

腰のナイフを3Pの仮想敵の顔に突き刺し倒すとすぐに引き抜き別の仮想敵を狙いにいく

ただでさえ直接棍で殴るかナイフで刺すとか、物理で一体一体ちまちまと倒さなければならないのだ。しかもこの混戦状態、1Pでも多くPを得る為に獲物の奪い合いも起きているのだから自分を狙ってきた奴だけなんて悠長なことは言ってられない。見敵必殺、サーチ&デストロイだ

 

だがそれも試験ラストスパート、残り2分というところで中断させられた。こちらにもあの0Pの巨大仮想敵が現れたからだ

先程までうじゃうじゃといた1~3Pの仮想敵も巻き込まれまいといち早く逃げだしこの場には受験者、巨大仮想敵、そして倒された仮想敵の残骸だけとなっていた

 

 

「あんなのにかまってられるか!俺は逃げるぞ!」

 

「いくらおじゃま敵だとしてもでかすぎぃ!」

 

「逃げるんだ……勝てるわけがない!」

 

 

受験者達も我先にとその場から離れ迫り来る巨大仮想敵から逃げだしていく

 

(俺もこの装備だけじゃあの相手は無理だからとっとと逃げねえと)

 

そう考え仮想敵とは逆方向に走りだそうとする中、後ろを振り向くと最後尾を走る水色の長い髪の少女と巨大仮想敵が壊したであろうビルの瓦礫が少女へ降ってきているのが見えてしまった

 

(あの瓦礫のでかさじゃ強化型や異形型じゃなきゃ即死コース!しかもあのスピードじゃ避けようとしても完璧な回避は無理だ!)

 

 

この雄英高校には対象者の身体の治癒力を一時的に活性化させ対象者の傷を癒せる個性を持つヒーロー、リカバリーガールという老婆がいる。だからもしこの試験で大怪我を負っても大抵の傷ならば癒せる

だがそんな個性も対象者が死んでいたら意味がない。あくまで彼女の個性は治癒力の活性化、治癒力も何もない死体では某狂ったダイヤモンドと同じように手遅れなのだ

 

(100%じゃないとはいえ、死ぬ可能性のある奴を見捨てられるかよお!)

 

 

悲劇の可能性を見てしまった斗和は1秒にも満たない一瞬でそれまで考えていた自分にかかるリスクやこれからのこと、余計なことを考えるのをやめ、ロストドライバーとNの文字が描かれたメモリを出した

 

『Nasca!』

「間に合え!」

 

 

――――――――――――――

 

 

私の名前は追田 華隠(おった かおん)

ある目的の為にヒーローを目指し、ヒーローになる為に雄英高校の入試を現在進行形で受けている中学生です

 

実技試験の途中まで私は個性を活かし順調に進めていました

そう、あの0Pの仮想敵が出てくるまでは……

 

 

(ああ、今日の朝の占いハズレ過ぎですよ)

 

それが自分の目の前に現れた仮想敵を見た時の感想だった

もう数歩足を進めていれば吹きとばされていたであろう距離で巨大な仮想敵が現れ吹きとばされなかったのは幸運というべきか不運というべきか迷いますが少なくとも私は自分の運勢が最高だった朝の占いを信じるのはやめました。衝撃的な出会いがあるかもってありましたけどこんな出会いは求めてません!!

 

私の個性はここまで巨大な相手には意味がなく増強系でもない為逃げきるにも自分の脚力だけが頼り。はっきり言って絶体絶命です。救いは0P敵の足が遅いことですね、私の足でも追いつかれません。それを補うかのように破壊範囲が広いから今にも巻き込まれそうですけど

 

 

そして危惧していた事態が起きました。0P敵の壊したビルの瓦礫が私目掛けて降ってきたんです

避けようにも降ってくる私1人くらい簡単に押し潰せそうな大きい瓦礫を見た瞬間、身体が硬直してしまって動きません

ああ、私ここで死ぬんですね。お父さん、お母さんごめんなさい。最後に1度だけ、あの方に会いたかったなぁ

……

 

 

 

そんな風に死を覚悟して目を閉じると同時に10年前のあの日と同じ声の電子音声が耳に飛び込んできた

 

『Nasca Maximum Drive!』

 

いつまで経っても痛みがこないのを不思議に思い目を開けると私はいつの間にか知らない男の子にお姫様抱っこの状態で抱き抱えられていました

もうこの時点で私の頭はフリーズしています。開いた口が閉じません。そして肝心の私を抱き抱えている方を見るとその焦燥した顔で必死に私を助けてくれたと判断できました

 

(確か試験前から色々と武装していた方、でしたよね?)

 

個性が自由に使えるこの試験で殆どの人が丸腰なのに彼だけはナイフや鉄棍と色々装備していたからなんとなくだが覚えている

だけど何故でしょうか、さっきの電子音声もそうですがこの人に抱かれているとなんだか懐かしい気持ちになってあの方(仮面ライダーエターナル)を思い出します

そんな思考をしながら私の脳内でとりあえずあの朝の占いは信じることに決めました

 

 

 

――――――――――――――

 

 

(危なかった、もう少しで本当にこの子が死ぬところだった……)

 

両脚から翼を生やした俺は走りながら少女を抱き抱えた状態で冷や汗をかいていた

 

 

さっきロストドライバーを腰に出現させた俺はそれとほぼ同時に高速移動と飛行の能力を兼ね備えたナスカ文明の記憶を収めたメモリ、ナスカメモリを腰のマキシマムスロットに挿した

その能力で脚にナスカの地上絵のハチドリの翼を模したエネルギー状のナスカウイングを生やし瓦礫が落ちるよりも速く少女を回収し逃げたのだ

 

はっきり言って後ほんの少し遅ければナスカの高速移動でも間に合わなかった。本当にぎりぎりだ

とりあえず巨大仮想敵が襲ってこない位置までこの子を運ぼう。これからのことはそれからだ

 

 

ところでなんでこの子はこんなにじっと俺の顔を見てるんだ……

いや、別に助けてくれた人の顔を見るのは不思議でもなんでもないんだろうけどここまでガン見されてるとなんかなぁ

お姫様抱っこも初めてだからこの子を意識して力緩めると落としそうで不安だし早く巨大仮想敵から離れてこの子降ろそう

 

 

 

とりあえず人気の少ない方へ向かって来たからロストドライバーやメモリの目撃者は少ないとは思うが、そこら辺は祈るしかないな

巨大仮想敵から充分に離れた俺はスピードを緩めロストドライバーとメモリを消し少女を地面へ降ろす

だが少女はまっすぐに立てず腰が抜けたように尻餅をついてしまった

 

「あ、す、すいません。腰が抜けてしまって……」

 

「大丈夫か?悪かったな、雑な助け方したうえにこんな離れた場所まで連れてきちまって」

 

「い、いえ!助けてくれて本当にありがとうございました!私の個性ではあのまま助からなかったでしょうから……」

 

手を貸して立ちあがらせると彼女は脚が少し震えてるが立って俺の謝罪に驚きながらお礼を言ってくれた

 

 

「そう言ってもらえるとこっちとしても助けた甲斐があるよ。怪我とかはしてないか?なにせこっちも必死だったから」

 

「あ、それは大丈夫です。幸い瓦礫も当たりませんでしたし貴方がしっかりと落とさないでくれましたから。あっ、それより制限時間は!」

 

「あ『試験終了~~~!!』終わっちまったか……」

 

 

まさかこんな形で終わってしまうとはなんともしまらない。まあ、人を助けての結果だから悔いはないが

 

「あ、あああ、すいません!すいません!私を助けたせいで貴方の試験までこんな形で!」

 

「いいっていいって、仮にもヒーロー志望の為にここに入学しようとしてるんだ。妨害とかならまだしも人助けでやったんだから後悔はないさ。それより、入り口の方へ戻ろう。移動のバスにまた乗らなきゃいけないからな」

 

そう言って一歩踏み出すと脚の筋肉がうずくような激しい痛みを訴える

 

「っ~~~!?」

(やっぱ生身でナスカのマキシマムドライブを1分以上も使い続けたのは無理があったか。筋肉疲労がかなり来てるわ……)

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫、問題ないさ」

 

とりあえず、入り口の所まで久し振りの我慢祭りだな……

 

 

雄英高校 説明会場前

 

あの後バスに乗って説明会場まで戻ってきたがこういう事態の際に出張治療で出てくるリカバリーガールは俺達がバスに着く頃には既に他の会場に行ってしまったようで俺達はそのままバスに乗り説明会場に戻ってこれからの連絡を受けた

 

(出来ればリカバリーガールにこの筋肉疲労を治してほしかったけど仕方ない。自分の回復力に任せて我慢するか……)

 

そう考え荷物を持って出久と一緒に帰ろうと思うといきなり後ろから声をかけられた

 

「君、少し歩き方がぎこちないが……怪我をしているのか?」

 

「貴方は……」

 

「コンクリートを操る市街地ヒーロー、セメントス!」

 

声をかけてきたのは妖怪のぬりかべのような風貌のヒーロー、セメントス。そういえばこの人もこの学校の教員だって雄英のHPに載ってたな

あと出久、見た瞬間そのヒーローの情報を言える辺り流石ヒーローオタクだな

 

「はい、実戦試験でいつも以上に張り切ってしまって筋肉疲労が少し」

 

「えっ、大丈夫、斗和君。リカバリーガールが演習場に来なかったの?」

 

「いや、来てくれたみたいなんだが俺がバスに着いた頃にはもう行っちまった後らしくてな。ちょうど会えなかったんだ」

 

「ふむ、リカバリーガールとは会えなかったのか。あの人なら今はもう保健室にいるだろうし案内しよう」

 

「え、いいんですか」

 

「ああ、うちの受験で身体を痛めたなら君をそのまま帰してはうちの沽券に関わるしね。それに、怪我をしている子供を放っておくのはヒーローとしても人としても出来ないさ」

 

セメントスさんの誘いはこちらとしてもありがたい。リカバリーガールの治療は余程の重体でなければすぐ治せるらしいしな。ベルトとメモリを見られた可能性は高いが……出久が隣にいるこの状況で変に遠慮しても向こうにも出久にも変に思われるし乗っておいた方がいいか

 

 

「それじゃあ、すいません、お願いします」

 

「ああ、着いてきてくれ。そっちの君は帰ってもいいけれど、どうする?」

 

「あ、僕は……」

 

「いや、いいよ。出久は帰りな、そっちも今日は疲れてるんだし早めに休んだ方がいいだろ」

 

「……うん、わかった。リカバリーガールの治療なら早く済むだろうけどお言葉に甘えさせてもらうね」

 

出久はリュックを背負い直すとまた学校で、と言って帰っていった

 

「それじゃ、行こうか」

 

「はい、お願いします」

 

 

数分後 保健室前

 

「ここだ。リカバリーガールは中にいる筈だから事情を話せば治療してくれるよ」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

セメントスさんにお礼を言って失礼します、と言いながらガラリと保健室のドアを開けるとドアの近くの椅子に腰かけている小さい白衣の背中が見えた

恐らくこの人がリカバリーガールだろう

 

「すいません、試験で張り切り過ぎて筋肉疲労を起こしてしまったんですけど治療してもらえますか?」

 

質問しながら保健室に足を踏み入れると同時に甘い臭いと強烈な眠気に襲われる

 

「!?これ……は……さい……みんガ……ス…………」

 

呼吸を止めようとしてももう遅かった。保健室の扉のすぐ間近に隠れていたミッドナイトの眠り香、それを高濃度で嗅がされてしまった俺の意識はすぐに途切れてしまった

 

――――――――――

 

「本当は、こんな手を使いたくなかったんだけどねえ」

 

「仕方ないですよ、リカバリーガール。この子が試験中に使ったのはエターナルと同じ力、瞬間移動もできるかもしれないこの子を捕まえるには今回のこれが一番成功率が高かったんですから」

 

「とりあえず、彼を連れていきましょう。校長先生達も待ってますし」

 

 

セメントスが斗和を抱き抱えリカバリーガール、ミッドナイトと共に移動を始める

斗和が本当にエターナルなのか確かめる為に、彼の正体を知る為に




タイトルのEはエターナルのEです
書き直し前との大きな違いはエターナルに変身したか否か。とりあえずこれで大々的な身バレは防げました
雄英教師陣にバレるのはしょうがないけどね!
因みに0P敵は破壊されてません。あくまで華隠ちゃんを救うのが目的だったので0P敵を倒すのは必要でも無かったからです

今回出したオリキャラの華隠ちゃんは今後も出ます。ずっと出したかったんですこの子。別に名字が追田でも仮面ライダードライブのゲンパチは関係ありません。彼女の個性についてはまた後日



次回は教師陣との面談だ!斗和は正直に話すのか?
次回は早く更新できるよう頑張ります!


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