博愛主義者×猫又少女 (ファルコン・Σ)
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日常

あけまして おめでとうございます

今年も良い年でありますように

新年最初の投稿です


五十嵐家――――

 

 

「♪~♪~♪~」

 

ハミングしながら真っ白な長い髪を丁寧に整えている少女がいた。

 

 

[五十嵐家長女、五十嵐雪穂]

 

 

「♪~♪~♪~♪~」

 

どうやら相当に機嫌が良い様子である。

とはいえ、好きなものが歌である彼女が歌っていることは珍しいことではないが。

 

と、直後、

 

 

ドガッシャーン!!!!

 

 

「!?」

 

部屋の扉が吹き飛んできた。

比喩ではなく、本当に宙を舞ったのである。

 

「…………………」

 

「……ああ、姉貴。ただいま」

 

 

[五十嵐家三男。五十嵐雷斗]

 

 

「…………雷斗さ~ん!!」

 

先程の機嫌は何処へやら。

激おこである。

 

「ヤベ……」

 

身の危険を察した雷斗は回れ右をして引き返そうと試みるが襟首をわし掴みにされて引き戻された。

 

「貴方は何回物を壊せば気が済むんですか!! 直すのは氷雨兄さんなんですからね!!」

 

「痛い痛い痛い痛い。首、逝ってる逝ってる」

 

ネックブリーカーを決める雪穂。

悲鳴こそ上げていないものの、雷斗の顔は青ざめている。

 

「家のものならまだしも他の人のをものを壊したりもしますよね貴方は!! 一回反省しなさい!!」

 

「姉貴。反省する前に死ぬ。死ぬ」

 

「騒がしいぞ。何やってんだ」

 

と、髪に水色のメッシュが入った青年が部屋に入ってくる。

そして無惨になった扉と二人の様子を見て全て察した。

 

「………またやらかしたか」

 

 

[五十嵐家長男、五十嵐氷雨]

 

 

「氷雨兄さん……申し訳ないのですが……」

 

「ああ、ドアは俺が直しておく。心配するな」

 

「お願いしますね」

 

一度頷くと氷雨は扉の方へ歩いていく。

 

「ああ。それと雪穂」

 

「何でしょうか?」

 

「母さんが呼んでいたぞ。頼みがあるとかで」

 

「あ、はい分かりました」

 

それを聞いて雪穂は雷斗を解放し、部屋から立ち去る。

 

「雷斗さん、少しは反省してくださいよ。それとごめんなさい。痛かったですよね? 後で見てあげます」

 

「……おう」

 

雪穂の姿が見えなくなると氷雨は扉を持ち上げる。

 

「傷も無いな。そう簡単に壊れてもらっても困るが」

 

「………兄貴。悪かった」

 

「それは雪穂に言うべきだな。反省しているなら直すのを手伝ってくれ」

 

「おう……」

 

氷雨から扉を受け取った雷斗は出入口にそれを置いて軸に嵌める。

一方で氷雨は衝突によって凹んだ天井と割れた窓ガラスに近づき、

 

「んっ」

 

まずは窓ガラスに手を翳す。すると飛び散った破片が終結し、元の場所に収まると亀裂が消え、完全に修復された。

続けて天井、此方も手を翳すと凹みが徐々に戻っていく。僅か十秒で元通りに直った。

 

「……よし、修復完了」

 

"時間操作"。氷雨の所有するギフトである。

 

「………兄貴」

 

「気にするな。十六夜さんも俺くらいの歳だと色々壊しまくっていたらしいからな」

 

「ああ……俺もそれは聞いた。最強問題児だと」

 

親友の息子による風評被害である。

 

 

 

一方で雪穂は母親の五十嵐鈴香の元へやってきていた。

 

「お母さん。私に何か用ですか?」

 

「ああ。雪穂、来てくれてありがとう」

 

既に2000年にも及ぶ時を変わらぬ姿で過ごしてきた鈴香。

六児の母となってもそれは変わらず、未だ少女とも呼べる若さだった。

 

「少し頼みがあるのだけど、いいかしら?」

 

「ええ。私に出来ることならば」

 

「そんな畏まる程のことじゃないけど……風音がお使いから帰ってこないのよ」

 

途端、雪穂の顔色が変わる。

 

「か、風音が!? そ、それは何日何時間何分何秒前の話ですか!?」

 

「流石に日は跨いでないわよ……。出てから1時間40分くらいね。普通なら20分くらいで終わるのだけど」

 

「1時間20分も!? ま、まさか何処かの変態ロリコンに誘拐されたんじゃ……!?」

 

五十嵐雪穂。

超が頭に3つ付く程の過保護かつ心配性な長女である。

母親譲りの猫耳と尻尾がビクビクと震えている。

 

「安心しなさい。誘拐なんてされてたらお父さんが真っ先に察知して抹殺しているから。多分お菓子店とかに入り浸ってるだろうから探してきて頂戴」

 

「分かりました!! 五十嵐雪穂。命に変えても愛する妹、風音を連れて帰ります!!」

 

「いや普通にしてて? お願いだから」

 

 

 

雪穂が家を飛び出した丁度その時間。

五十嵐七夕と二人の少年少女が庭にいた。

 

 

[五十嵐家次男。五十嵐日向]

 

[五十嵐家次女。五十嵐深雲]

 

 

「んんっ……オラァ!!」

 

やってること自体はキャッチボール。しかし日向の投げるボールは豪速球を越える爆発速球である。

 

「ぐっ!!」

 

七夕をもってしても捕球に相当に苦労していた。

というのも。

 

「まだよ。日向兄様が尊敬するお父様にはまだ半分にも至ってないわよ」

 

こんな感じで妹の深雲が日向を煽ってくるのである。

 

「チックショー!! もう一発だ!!!」

 

「ひ、日向君……元気なのは良いけど暴走は駄目だよ……?」

 

「七夕叔父ちゃん!! 次!!」

 

「どういう遺伝子経由であの二人からこんな子が生まれたのかな!?」

 

生命の神秘である。

そして再び放たれる爆発速球。必死で受け止める七夕。

そんな光景を発端の張本人。深雲は愉快そうに笑っていた。

 

「フフフ……日向兄様は単純ね……♪」

 

六人の中でもダントツに腹黒いのが彼女である。

好きなものがTRPG(無敗)というのだから徹底している。

 

「おいこらうるさいぞ日向。近所迷惑はやめてくれよ」

 

と、二階の窓から氷雨が顔を出して忠告する。

 

「兄ちゃん! 大丈夫だっての!」

 

「深雲も、あまり七夕さんに迷惑をかけるんじゃないぞ」

 

「ん……分かったわよ兄様」

 

そんな様子を見ていた七夕はというと、

 

「流石は長男。兄さんの若い頃に似てますね」

 

「叔父ちゃん!! もう一発行くぜー!!」

 

「はい。分かりましたよ。遠慮無く来なさい」

 

「おぅりゃああぁぁぁぁぁァァァァァ!!!」

 

 

 

所変わって商店街。

可愛らしいバックを提げて通りをぶらぶら歩く少女がいた。

 

「ん~。此方からも美味しそうな匂いがする~♪」

 

 

[五十嵐家三女、五十嵐風音]

 

 

数刻前に鈴香に頼まれたお使いを済ませた鈴香だったが賑やかで楽しそうな商店街の喧騒を耳にしているうちに興味が湧いてしまっていた。

 

「わ! 白牛のコロッケだ! 美味しそ~」

 

こんな調子でかれこれ1時間以上をこの周辺をさ迷っているのである。

 

「う~。どうしよ~。食べたいけどお金そんなにないし今食べたら夕ご飯大変かなぁ~……」

 

むむむ……と悩む風音。

精肉店の店員はそんな様子を微笑ましそうに見ていた。

 

「風音さん!!」

 

「? あ! 雪穂お姉ちゃん!!」

 

と、此処で探しにきた雪穂が合流。

息を切らしているのを見る限り、相当走り回ったのだろう。

 

「ど、何処で道草を食べてたのですか……?」

 

「えーと、この辺」

 

「もう……心配かけないでください……」

 

ようやく落ち着いたのか、息を整える雪穂。

そして店の人に一礼してから風音と共にその場を離れた。

 

ちなみに「せっかくだから」と店員の好意でコロッケを二つ貰った。

 

「もう日も暮れ始めてます。早めに帰りましょう」

 

「はーい。……あれ?」

 

「どうかしましたか? 風音」

 

「彼処に居るのパパじゃない?」

 

「え!?」

 

見てみると確かにそこにいたのは父、五十嵐五月雨である。

鈴香同様、彼も子を持ってもなお青年の姿を保っていた。

 

「ん? ああ雪穂に風音か。どうしたんだこんなとこで」

 

「ママにお使い頼まれたのー。ちょっと寄り道しちゃった♪」

 

「私はお母さんに頼まれて風音を探しに……お父さんはどうして此処に?」

 

甘えてくる風音の頭を撫でながら五月雨は答える。

 

「ギフトゲームを終わらせて帰るところだよ。あと今日は夜に逆廻家が来るからそれの話をしてた」

 

「え!! じゃあ鈴華さんも!?」

 

「来ると思うぞ。というか連れて来いと行っといた」

 

「ヤッター!!」

 

「風音っ。公衆の場で大声は駄目ですよっ」

 

大好きな人に会えるというのだから気分が高揚するのも無理はないが。

 

「はは。さてと、さっさと帰るか。でないと鈴香の小言だからな」

 

「はーい」

 

「分かりました。お父さん」

 

 

 

一方で五十嵐家でも、

 

「飛鳥? ええ私よ? ……そう。今夜ね? 来るのは全員? ………焔君達も? 分かったわ。じゃあ待ってるわね」

 

と、鈴香が久遠飛鳥からの電話を受けていた。

 

「おふくろ……十六夜さん達が来るのか?」

 

「雷斗。ええそうよ。大きなギフトゲームを終わらせたお祝いだって」

 

「………へえ」

 

雷斗の表情が緩む。風音と同じ理由である。

 

「お母様。夕飯を作るのを手伝うわ」

 

「ありがとう深雲。雷斗は今のことを氷雨に伝えてくれるかしら?」

 

「分かった」

 

 

 

その後、五月雨達が家に帰り、鈴香の手伝いをする。

 

「昔は本当に一部の料理しかできなかったのにね」

 

「鈴香っ!! そういうこと言うなよな!」

 

「え!? 父さんそうだったのか!?」

 

「氷雨さん知らなかったんですか? カレーとかしか作れなかったと私は聞いてましたよ」

 

「フフ……私も聞きましたよ。氷雨兄様」

 

「鈴香~…。人の過去をバラすなよ」

 

不満そうな顔をする五月雨に鈴香はクスクスと笑う。

 

「お! うまそうな唐揚げ!! 頂き~!」

 

「兄貴。それ夕飯用」

 

「こらお兄ちゃん!! 駄目だよ! が~ま~ん~!!」

 

後ろで聞こえるそんな声を聞きながら、夕飯を作りつつ来客を待つ。

 

「うーん……このくらいで良いかな。量としては」

 

「念のためということで作っといて良かったですね。大釜鍋」

 

現在使用されている大鍋。

これは『物質の形状を変化させる』ギフトを所有する雪穂によって製作されたものである。

 

「雪穂が居なかったら今頃大変だったな。ありがとう」

 

「い、いえ…。別に大したことじゃないですし……」

 

氷雨の言葉に思わず顔を赤くする雪穂。

そんな二人を両親は暖かそうに見つめ、深雲は面白そうに微笑む。

 

「さてと………あと少しだし。早めに全部仕上げるか」

 

 

 

数刻後。

 

「まだかな~。もうすぐかな~♪」

 

「風音。時間は変わらないんだから落ち着いて待ってろ」

 

「はーい」

 

氷雨が風音を指摘する一方で日向は昼のことを五月雨に話していた。

 

「そんでな! 俺の全力も七夕叔父ちゃんは受けとめちまったんだ!! やっぱ強ェなあ!」

 

「はは。そりゃ七夕だって伊達に戦場を生き抜いてきた訳じゃないしな」

 

「父様。私達の家に七夕様や六華様は住まないのかしら?」

 

「まあな。七夕も六華も多忙だし、都合もあるだろうからな」

 

「そう。残念ね」

 

「まあ会えないなんてことは無いからさ」

 

出会いや別れを多く経験していた彼はそういうところも悟っているような感じである。

 

「お母さ~ん♪」

 

「はいはい。風音は甘えん坊ね」

 

「風音……ずるい」

 

「早い者勝ちです~♪」

 

「ほら二人とも、喧嘩は駄目よ」

 

末子二人は鈴香に甘えている。

氷雨と雪穂は勉強中。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「集中するのはいいけど十六夜達が来たら中断しろよ?」

 

 

ピンポーン

 

 

「と、噂をすればだ」

 

「はいはーい。今出るわ~。風音、ちょっと離れてね」

 

さて、楽しい夕飯が始まる。




続きを書くかはノリと勢い次第


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