光輝巨人リリカルなのはX (焼き鮭)
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星空の声(A)

 

 新暦64年――次元の海の中心世界『ミッドチルダ』。

 その宇宙空間を――青い光の玉と赤い光の玉が激しく衝突し合いながら高速で横切っている。

 二つの光の玉は火星の公転軌道上を過ぎ、二つの月、そしてミッドチルダ惑星を越え――太陽へと急接近していった。青い玉の方は赤い玉とぶつかりながら、音波に変換したら不気味な笑い声に聞こえるような奇妙な信号を発している。

 だが青い玉は、太陽の表面上で赤い玉により強く激突され、その勢いで灼熱の太陽の中へ転落した。

 その途端に、青い玉が燃料となったかのように、異常なほどの規模のフレアが発生。

 青い玉を突き落とした赤い玉が、そのフレアの中に呑み込まれていった――。

 

 

 

 同時刻のミッドチルダ惑星――。その地表上で暮らす人々が、一様に空を見上げて奇異な表情を浮かべていたり、不安を感じていたりと様々な反応を示していた。

 世界中の空で、昼夜に関係なく、オーロラが発生しているのだ。

 そして、夜の時間帯の都市の一画、工事現場――舗装前の道路の亀裂から、怪光が焚き上がる。

 次の瞬間――。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 工事現場を吹き飛ばし、地中から竜型の巨大生物――宇宙怪獣ベムラーが出現した!

 

 

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「ミィ――――――――イ!」

 

 第3管理世界『ヴァイゼン』では、青い巨大生物と赤い巨大生物――青色発泡怪獣アボラスと赤色火焔怪獣バニラが足元の人々にまるで構わず、取っ組み合いの乱闘を行う。

 

 

 

「ギャアアオオオォォウ!」

 

 第23管理世界『ルヴェラ』では、地中から出現したトゲだらけの巨大生物――地底怪獣マグラーによって、歴史ある門が崩壊してしまった。

 

 

 

「キュ――――――ウ!」

 

 第6管理世界の砂漠地帯では、ヒトデ型の巨大生物――油獣ペスターがエネルギープラントを襲撃している。

 

 

 

「バアアアアアアアア!」

 

 第61管理世界の熱帯地域の沿岸部では、有翼の巨大生物――冷凍怪獣ペギラが降り立ち、一帯を雪国のように氷漬けにしてしまった。

 

 

 

 ――全ては、十五年前の、あの日から始まった。

 太陽のスーパーフレアが引き金となり発生した大規模な次元震によって、次元世界各地で眠っていた謎のロストロギア『スパークドールズ』が実体化し、暴れ始めたのだ。

 年々出現数が増加する、怪獣や異星人に対抗するため、時空管理局が組織した専門防衛部隊――それが『Xio』である。

 

 

 

『星空の声』

 

 

 

 新暦79年――ミッドチルダ郊外の森林地区の中央の開けた平野に、Xioのラボチームがとある実験の用意を進めていた。

 そんな中、仮設テントで一人の青年がヘッドフォンを耳に当て、何かの音に集中して聞き入っていた。目をつむり、穏やかな表情でいる。

 そこに栗毛と緑髪の、眼鏡の女性二人が近寄ってきて青年に呼びかけた。

 

「あー! ダイチくん、またサボってるなぁ!」

「ダイチくん、こっちはスタンバイオッケーよ」

「シャーリーさん、マリーさん」

 

 二人に気づいた青年――ダイチ・オオゾラが目を開き、こう告げた。

 

「山の中だからよく聞こえるんですよね、星の声。――宇宙からは地上に向けて絶えず大量の電子が降り注いでる。それを音に変換して解析すれば……」

「次元世界誕生の謎だって解き明かすことが出来る、でしょ? もう何度も聞いたわよ」

「ホント飽きないよねぇ。電波受信機もすっかりくたびれちゃって」

 

 マリーこと、マリエル・アテンザがダイチの台詞を先取りし、シャーリーことシャリオ・フィニーノが苦笑した。

 

「今はそれより実験よ! 今日こそ成功させなくちゃ!」

「はーい!」

 

 マリエルとシャーリーが先にテントから離れ、ダイチは二人の後に続く前に、側の人形をそっと持ち上げて呼びかけた。

 

「今日こそ頼むぞ、ゴモラ」

 

 ダイチの持つ人形は、正真正銘のロストロギア『スパークドールズ』の一つ、古代怪獣ゴモラのものだった。

 ――そして、実験が開始される。二台のパラボラアンテナのような大型装置が平野の中央を向き、ヘッドギアを被ったダイチがXio隊員用のストレージデバイスでありXioの隊員証代わりでもある『ジオデバイザー』に、『DEVICE GOMORA』と書かれたカードをセットする。

 

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 ジオデバイザーから音声が流れ、アンテナ型装置から青い粒子が放出され出した。

 その粒子は――ゴモラに似た、ロボット型の怪獣の身体を構成していく。

 

 

 

 スパークドールズから復活する超生物『怪獣』の戦闘能力は常軌を逸しており、既存の戦力では一定以上の被害の抑制が困難な状態にある。それに対処するためにダイチ・オオゾラが提唱した新たなデバイスの形……それがデバイス怪獣である。

 次元世界各地から回収されたスパークドールズをXioのラボチームが解析し、デバイス技術を応用して怪獣の姿と能力を再現。それを、目には目を、の理論で怪獣への頼れる戦力にしようというのだ。このデバイス怪獣が成功すれば、怪獣対策の状況の大幅改善が見込まれる。――本来のデバイスはあくまで魔導師の補助装置なので、デバイス自体が戦力のメインとなるデバイス怪獣は厳密には『デバイス』と呼べないかもしれないが、便宜上この名称が使用されている。

 しかしデバイス怪獣は未だ実体化の成功例がない。一日でも早い実用化のためにも、管理局でも指折りのデバイスメカニックであるシャリオ・フィニーノとマリエル・アテンザがXioラボチームに迎えられ、研究と実験が繰り返されているのであった。

 

 

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 両腕に二重の歯車状のスピナーと足裏に並んだ車輪を備えたデバイス怪獣第一号、デバイスゴモラが着々と実体化していく。それにダイチ初め、実験を行っている者たちは歓喜に包まれた。

 

「実体化率65%を超えたわ! いい調子よ! 今日こそは成功を――!」

 

 数値を確認しているマリエルが喜びの声を上げたが――。

 その時にデバイスゴモラの輪郭が崩れ、粒子はそのまま崩壊して消滅してしまった。

 

「あっ……!」

 

 途端に落胆したダイチは、肩を落としたままシャーリーたちの元へ戻る。

 

「……また駄目だったね」

「最終実体化率は67%……まだ改良が必要ね」

 

 マリエルが息を吐いていると、シャーリーはダイチに意見する。

 

「たまには別の怪獣で試してみない? 何か大きな進展があるかも。たとえばこの子でやってみるのとかどう!?」

 

 シャーリーが見せた画像は、第二案のデバイスエレキングの完成予定図だ。

 

「それはシャーリーがやりたいだけでしょ? その怪獣、あなたのお気に入りだものね」

「まぁ、半分はそうですけど」

 

 マリエルに突っ込まれてテヘッとはにかむシャーリー。しかしダイチは譲らなかった。

 

「ゴモラなら絶対成功します! ゴモラと俺は、十五年来の付き合いなんですから」

 

 そう主張したダイチは――十五年前に自身に降りかかった事態を回想した。

 

 

 

 十五年前……初めて次元世界に怪獣が出現した、運命の日。当時五歳だったダイチは、円筒状のケースに入れたゴモラのスパークドールズを抱えた父親とともに、ある場所を目指して走っていた。

 そこは、両親の勤めている宇宙電波研究所。ダイチの両親は当時一切のことが不明だったスパークドールズを研究していたのだ。

 そのちょうど上空には、紫色に怪しく輝くオーロラが掛かっている。

 

「ダイチ! あのオーロラが消えるまで、ゴモラをケースから絶対に出すな!」

 

 父親はゴモラのケースを幼きダイチに預けて指示した。ケースは外部からの影響を遮断する機能があるのだ。ゴモラが十五年前に実体化しなかった理由である。

 

「お父さんは?」

「お母さんを助けに行ってくるから! 絶対にここに戻るから! いいな?」

 

 強く言いつけた父親に、ダイチが首肯すると、父親は急いで研究所に駆け込んでいった。

 両親の帰りを待つダイチであったが――それが叶えられることはなかった。

 突如として研究所全体が発光したかと思うと……建物が粒子化して、空に巻き上げられていったのだ!

 

「お父さーん! お母さーん!」

 

 叫ぶダイチ。だが、両親の返事はなく、建物は全て粒子化して空へ消えていった……。跡には、ぽっかりと開いたクレーターしか残らなかった。

 その時、ダイチの首に掛けてあるヘッドフォン型の電波受信機から奇怪な音が発せられる。不審に思ったダイチが受信機を耳に当てると……。

 

『アハハハハ……アハハハハハ……』

 

 聞こえたのは、不気味な笑い声。それとは別の声音による、悲鳴のような声。

 そしてもう一言――かすかにだが、はっきりとした言葉で聞こえたように思えた――。

 

『ユナイト……』

 

 

 

 こうしてダイチは一瞬にして両親を失い、天涯孤独となってしまった。そこを保護してくれたのが、両親の友人、ゲンヤ・ナカジマとクイント・ナカジマの夫妻。

 それとほぼ同時期にナカジマ家に引き取られた二人の姉妹の四人が、ダイチを本当の家族のように接してくれたので、ダイチは大きな悲劇を経験してもまっすぐに今日まで生きてこられたのであった。

 

 

 

 ――ふと気づくと、ダイチの手の中のゴモラのドールが小刻みに痙攣していた。当然、ダイチが動かしているものではない。

 

「ゴモラ、どうした? 何が言いたい?」

 

 ゴモラの異常を察したダイチは、ドールの足裏をジオデバイザーのセンサーに押し当てる。

 

[ガオディクション、起動します。ゴモラ、解析中]

 

 ジオデバイザーの機能の一つ、ガオディクション。スパークドールズの怪獣の抱いている感情を解析することが出来る。怪獣の気持ちが知りたいと思ったダイチが開発し、ジオデバイザーに搭載したものだ。

 

[解析完了しました]

 

 そして今のゴモラの感情は、以下の通りであった。

 

[脅威。不安。警戒]

 

 この結果に危機感を抱いたダイチの耳に――懐かしい声が聞こえたような気がした。

 

『ユナイト……』

 

 

 

 Xioの実験場から少し離れた山岳部の川辺で、数名の若い男女が水のかけ合いをして遊んでいた。が、その時に一人が異常に気がつく。

 

「な、何か熱くない?」

 

 実際、川の水が突如として火にかけられたかのように沸騰し出した!

 

「熱ぅぅっ!?」

 

 若者たちはあまりの熱量に川の中にいられず、慌てて岸に避難した。

 その直後、山の向こうで赤い怪光が激しく焚かれた。

 

「ギャギャギャギャギャギャ……!」

 

 

 

 オペレーションベースX。誰の洒落っ気かは知らないが、空から見下ろすとX字型の構造となっている建築物がXioの本部だ。

 この施設の中で、青髪の成人一歩手前の少女が友人と通信をしていた。

 

『スバル、先日引き渡した異星人犯罪者――えっと、キル星人だったかしら? それの処置は滞りなく済んだかしら?』

「うん、大丈夫。ティアも大変だよね。犯罪者を逮捕したと思ったら、実は異星人だったなんて」

『全くよ……。これで何度目かしら? こっち(執務官)が異星人犯罪者を逮捕したの。その度、そっちのXioに身柄引き渡しの手間がかかるから大変なのよね。特に今回みたいな私たちと容姿の違いが少ないタイプは、余計見分けがつかないし。怪獣はともかく、異星人まで完全にそっちの管轄なのはどうにかしてもらいたいわ。現場の混乱も少なからずあるし。体制の改善について、いよいよ上に掛け合ってみようかしら……』

 

 ため息交じりに不平不満をこぼす話し相手の栗毛の少女は、次にこう尋ね返した。

 

『ところでスバル、特別救助隊から異動になってよかったの? あんなに希望してたのに。辞令を受けたと聞いた時はちょっと驚いちゃったのよ」

「うん。もちろんそっちを続けてたい気持ちもあったけど、怪獣災害の現場に真っ先に駆けつけるのにはXio隊員でいるのが一番だから。怪獣災害の件数も今年になってから急増してるから、外部の救助隊員のままだと対応しようと思ったら限界があるんだよね」

『確かに、去年と比べたら発生頻度が段違いよね……。今年になってから、何があったのかしら……?』

 

 一瞬考え込んだ栗毛の少女だが、悪戯っぽく笑んで指摘する。

 

『でも理由は他にも、異動先のあのダイチさんがいるからってのもあるんじゃないの? あなた、前々から彼のことを話す時はどこか嬉しそうだものね』

「えぇぇっ!? ち、違うよ! そんな公私混同みたいなことはしないって!」

 

 青髪の少女はあたふたと否定した。

 

『ふふっ、冗談だったんだけど、その様子だともしかするのかしら?』

「だから、違うってばぁ~! 意地悪なこと言わないでよ!」

 

 と二人で賑やかに話し込んでいると、本部の警報が鳴り渡った。

 

『フェイズ2! フェイズ2! エリアS2-5に異常を確認。特捜班のスバル隊員、ワタル隊員、ハヤト隊員はオペレーション本部へ』

 

 それを聞いた途端、青髪の少女の表情が一変し、真剣なものとなった。

 

「ごめん、ティア。また事件みたい。お話しはまたあとでね」

『わかったわ。――スバル、気をつけてね』

 

 友人の忠告にうなずいて通信を切ると、少女――スバル・ナカジマは早足でオペレーション本部へと向かっていった。

 

 

 

 特捜班。実際の怪獣災害や宇宙人犯罪に対して出動する、Xioの実働部隊だ。その性質上、管理局の様々な部署から選りすぐられた有能な人材で構成されている。

 メインメンバーは、まずスバル・ナカジマ一等陸士。四年前にミッドチルダを騒然とさせた悪名高い『JS事件』の解決と収拾の中心役となった『機動六課』の一員であり、六課解散後は特別救助隊で活躍していたが、増加していく怪獣災害に対して最近行われたXioの人員増強の際に、ダイチの推薦もあり特捜班に抜擢された。Xio隊員歴はまだ浅いものの、非常に危険な怪獣災害の現場でも一切ひるむことなく迅速かつ適切に人命救助を行うその手腕には既に多くの命が救われている。

 地上部隊からワタル・カザマ陸曹。不器用だが勇猛果敢な、男らしい隊員。射撃の名手でXioのラグビーチームのエースも務める、特捜班の切り込み隊長だ。

 次元航空部隊からはハヤト・キシマ空曹。ワタルとは対照的に口数少なくストイックな性格で、どんな状況でも冷静に任務遂行する。航空部隊で培った航空機の操縦テクニックはかなりのもの。

 副隊長にはクロノ・ハラオウン。Xio担当の執務官も兼任している。十四歳時点で既に指揮官の経験があるほどの優秀な魔導師で、いくつもの大きな事件を解決に導いた管理局でも屈指のエリート士官だ。

 そして隊長はショウタロウ・カミキ一等陸佐。リンカーコアは持たないが、指揮能力はとても高く、Xio全体を纏め上げる中心的存在。Xioは彼なくしては語れない。

 ダイチ・オオゾラもラボチームだが、この特捜班にも所属している。

 スバルがXioの司令室、オペレーション本部へ到着した際には、デバイス怪獣の実験のため不在のダイチ以外の特捜班が集っていた。全員の集合を確認したクロノがオペレーターのアルト・クラエッタとルキノ・ロウランに問いかける。

 

「状況は?」

 

 それにアルトとルキノが迅速に答える。

 

「現在、エリアS2-4です」

「地底を巨大な熱源が移動中」

 

 それを受けて、カミキ隊長が隊員たちに指示を出した。

 

「ハヤト、ワタルは直ちに出動! 空から熱源を追跡せよ!」

「了解!」

 

 次いで、クロノがスバルへ指示する。

 

「スバルは地上でラボチームと合流し、調査に当たってくれ」

「了解です!」

 

 ハヤト、ワタル、スバルの三名は直ちにオペレーションベースから出動していった。

 

 

 

 ワゴン型のXio専用車両、ジオアラミス。スバルはこれを駆ってラボチームの元へ急行する。

 

「ダイチ隊員、応答して!」

 

 スバルはジオアラミスを走らせながらジオデバイザーに呼びかけるが、ダイチからの応答はない。

 

「ダイチ隊員! ……ダイくん! こんな時に何やってるの!?」

 

 強めに呼びかけると、ダイチからは警告で返答があった。

 

『スバル隊員、ブレーキ!』

 

 スバルが驚いてブレーキを踏むと、アラミスは急停止。――その前方に火炎球が降ってきて、爆発を起こした!

 

「マッハキャリバー!」

[Standby, ready.]

 

 咄嗟にアラミスから降りたスバルは待機状態のマッハキャリバーを出し、バリアジャケットを身に纏う。

 

[Set up.]

 

 スバルがXioの隊員スーツから自前のバリアジャケット姿に変わると、ダイチが駆けつけてきた。

 

「スバル隊員、無事か!?」

「うん……今のは!?」

「ゴモラが教えてくれたんだ……! ここに何かいるって!」

 

 その言葉の直後に二人を大きな地揺れが襲う。ダイチはジオデバイザーで熱源の反応を確認する。

 

「熱源が接近中! 50メートル……40……30!」

「どっちから!?」

「上だっ!」

 

 ダイチとスバルが見上げた先の野山が突如爆散し……その下から大怪獣が出現した!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 怪獣の出現により吹き飛ばされた岩石が二人に降り注いでくる!

 

「危ないっ!」

 

 スバルは瞬時にウィングロードを展開し、ダイチを抱えて退避。一瞬遅れて岩石の雨が地表に突き刺さった。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 額に黄色く光る一本角を生やした怪獣は、ナイフのように反った背びれをいくつも一列に生やした背面から火炎球を噴出し、地上に降らせている。まるで生きた火山だ。

 ダイチはすぐさま本部へ報告した。

 

「怪獣出現! タイプG! 体長約50メートル!」

 

 

 

 オペレーション本部の立体モニターに、カメラの映像が捉えている怪獣出現の様子が映し出されている。

 

「やはり怪獣か」

「ええ。またタイプGですね」

 

 怪獣の威容を目の当たりにしたカミキの言葉にうなずくクロノ。二人に、ルキノが報告する。

 

「南南西2.7キロに市街地」

 

 その距離は、怪獣の歩幅を考えればあってないようなものだ。

 クロノとカミキが指示を飛ばしていく。

 

「住民に緊急避難指示を!」

「了解!」

「警戒レベル・フェイズ3! 都市防衛指令発令! 進行を食い止めろ!」

 

 

 

「了解!」

 

 スバルがウィングロードで空中に駆け上がっていき、怪獣の顔面に向けて砲撃魔法を繰り出す。

 

「ディバインバスター!」

 

 リボルバーナックルから魔力弾を撃ち出す。その攻撃は怪獣の顔の側面に命中するが――怪獣は顔をかいただけであった。

 

「くっ、やっぱり効かない……!」

 

 注意を引きつけることも出来ず、スバルは悔しそうに歯噛みした。

 これが怪獣の一番厄介な要素。一個の生命として異常な耐久力の高さである。個人の魔導師の攻撃では、物にもよるが、魔導師ランクS以上の者のものでようやく通用するかどうかというほどなのだ。このため十五年前の大量出現時には、大勢の魔導師が怪獣たちに蹴散らされて甚大な被害が出た。しかし次元航空艦のような大型兵器は攻撃の範囲が広すぎて、地上の怪獣へ矛先を向けた場合、却って被害を大きくしてしまう。これが怪獣対策におけるジレンマの一つだ。

 

(♪Xio出動!)

 

 しかしそのジレンマを解決する兵器が、空の彼方から現場に飛来してきた。見上げたダイチが叫ぶ。

 

「スカイマスケッティ! ハヤトさん、ワタルさん!」

 

 Xioの対怪獣用航空戦力、ジオマスケッティ。その空戦形態のスカイマスケッティだ。次元航空艦よりはずっと小さく、砲撃の規模も小さいながら火力は申し分ない。更に魔力兵器ではないので、魔導師ランクに関係なく動かせる。その分、運用には厳重な管理体制が敷かれていて、Xio隊員でないと操縦できない仕組みがいくつも施されている。

 実際、スカイマスケッティの砲撃でようやく怪獣は足を止めた。

 

『お待たせ!』

『お熱いねー、お二人さん!』

 

 スカイマスケッティ――正確にはジオアトス――の操縦席からワタルが茶化すと、スバルが頬を赤らめた。

 

「ぜ、全然熱くないよ!」

「いや、熱いっす! 滅茶苦茶熱いっす!」

 

 怪獣の身体を分析したダイチが喚いた。

 

「あいつの体組成は79%が熔けた鉄です!」

「対抗策は!?」

「神経と熱源が集中している頭部の角! そこに攻撃を集中して下さい!」

「角だね!」

 

 ダイチの分析で攻撃目標は決まった。スバルとマスケッティが砲撃の矛先を角に向ける。

 

「もう一発! ディバインバスター!」

「ファントン光子砲、発射!」

 

 二方向からの砲撃が怪獣の角へと飛んでいき、火花を散らす!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 これによって怪獣は咆哮を上げてバタバタもがいた。

 

「よしっ!」

 

 効果があることを実感して喜ぶスバルだったが、

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 怪獣は少しの間停止していただけで、すぐに平気な顔で市街地へ向けて進行を再開した。

 

「弱点を攻撃してもダメなの!?」

「何て奴だ……!」

『ダイチ、どうすればいい!?』

 

 ワタルが問いかけると、ダイチは怪獣を見やりながらつぶやく。

 

「怪獣をスパークドールズに戻すことが出来れば……」

 

 

 

 スバルたちの奮闘も虚しく、怪獣は市街地へとどんどん近づいていく。

 

「エリアS2-7に怪獣接近!」

「市民の避難を急がせるんだ!」

 

 クロノが若干焦った口調で指示した。そこにアルトが告げる。

 

「クロノ副隊長、高町なのは一尉から通信です」

「つなげてくれ」

 

 カミキから少し離れて、通信に出るクロノ。虚空にサイドテールの女性の顔の映像が浮かび上がった。

 

『クロノくん、また怪獣みたいだね。しかも市街地の近くに』

「知っているのか、なのは」

『こっちにも情報が来てね。――わたしに出来ることがあったら、遠慮なく言いつけてね。すぐに飛んでいくから』

 

 女性の申し出に、クロノは小さく苦笑を浮かべた。

 

「気持ちはありがたいけど、先日も君に助けられたばかりだ。いざとなったら僕が出撃するから、君は自分の仕事に専念しててくれ」

『でも……』

「君は、今や一人の小さな女の子を世話している身じゃないか。そう何度も危険な目に遭わせる訳にはいかない。フェイトにも怒られてしまう」

『……わかった。でも、無理はしないでね。クロノくんにもなにかあったら、フェイトちゃんもエイミィさんたちも悲しむからね。――クロノくんも、お父さんなんだからね』

「わかってるよ、ありがとう」

 

 かすかに柔らかな表情で話していたクロノだが、通信を終えて任務に戻った時には既に厳めしい面持ちに戻っていた。

 クロノの女性への気遣いに反して、状況はどんどん悪化をたどっていた。

 

「怪獣、市街地に侵入します!」

 

 

 

 怪獣が市街地の近くに出現したこともあり、避難はまだ半分ほどしか進んでいない状況だ。大勢の市民が必死に走って避難していくのだが、

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 怪獣はとうとう市街地への侵入を果たした。道路を踏み砕き、建物を押し潰して街へと入り込んでいく。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 怪獣は人工の都市に入ったことで興奮したのか、背面から火炎球を連続で発射して街を焼き払う。更には口から熱線を吐き出して大暴れする!

 

「うわぁぁぁぁ――――――――!」

 

 市民はただただ無力に逃げ惑うばかり。このままでは大惨事は免れない!

 

 

 

 ダイチはどうにかこの事態を収拾しようと、懸命に走る。

 そのため――ジオデバイザーからかすかにある音声が発せられていることには、気づいていなかった。

 

『ユナイト……ユナイト……』

 



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星空の声(B)

 
当初Aパートだけ投稿するつもりでしたが、肝心のエックスが出てこなかったのでBパートも完成させて投稿しました。



 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 市街地に侵入した怪獣はますます凶暴になって破壊活動を続ける。そこに飛んでくるスカイマスケッティ。

 

『何としても怪獣を足止めしろ!』

「了解!」

 

 カミキの命令を受けて、ハヤト、ワタルの両名が果敢に怪獣に挑む。

 マスケッティが怪獣の真正面から接近しつつ、レーザーを連射して浴びせかける。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 流石にダメージを負う怪獣の注意が離脱していくマスケッティへと向けられた。

 

 

 

 マスケッティが戦っている間に、ダイチは怪獣のことを調べた結果をカミキらに報告していた。

 

「隊長、あいつはデマーガです!」

『デマーガ……!』

「ミッドチルダの古文書にも記述のある鉄の魔獣です! 「天が妖光を纏いし時 地を燃やす荒ぶる神デマーガ目覚めん 太平の世を焔と共に滅ぼさん」!」

 

 古文書の内容を読み上げるダイチにスバルが尋ねる。

 

「それで、どう戦えば……!?」

「光の巨人が封印したってあるけど……!」

「そんな情報、役に立たないよ!」

 

 古文書の鉄の魔獣――熔鉄怪獣デマーガはどんどんと激しく暴れ、マスケッティを追い詰めていく。遂には口から吐いた熔鉄光線がマスケッティをかすめた!

 その影響により、機体に異常が発生する。ハヤトが叫ぶ。

 

「エマージェンシー! 冷却ファン停止!」

『一旦退くんだ!』

 

 クロノの指示により、マスケッティは高度を下げながらデマーガの前より離脱していく。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 スカイマスケッティを落としたデマーガは、冷めやらぬ興奮をぶつけるかのように地上を再度焼き払い始める! 熔鉄光線が辺り一帯を薙ぎ払う。

 

「うわぁっ!」

 

 デマーガの放つ火災と破壊は、ダイチたちにも襲いかかり出す。

 

『ダイチ、スバル! 退避しろ!』

 

 カミキの指示で二人はその場を離れようとするが、その時に子供の悲鳴が彼らの耳に聞こえた。

 

「えーん! お母さーん!」

「あっ!? 逃げ遅れた子供が……!」

 

 振り返れば、火の手の中に子供が一人取り残されていた。それに気づいたスバルの行動は早かった。

 

「あたしはあの子を安全なところへ連れていく! ダイチは先に行って!」

「う、うん!」

 

 マッハキャリバーで子供の元まで一気に走っていくスバルを見送り、ダイチもその場を離れようとしたが……その時に重大なことに気がついた。

 

「ゴモラがない!」

 

 実験場からそのまま持ってきたゴモラのスパークドールズがなくなっているのだ。

 

「ゴモラ、どこだ! あっ!」

 

 来た方向を振り返ると、ゴモラのドールが瓦礫の間に落ちているのを見つけた。慌てて駆け寄り、無事にゴモラを拾うことは出来たが、

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 引き返したダイチを、デマーガが睨んでいる! 完全に彼を狙っている。

 

「わぁぁっ!」

 

 腰を抜かすダイチ。最早これまでか。

 そう思われた時――ジオデバイザーが振動し、謎の音声が発せられた。

 

『ユナイト……ユナイト……!』

「えっ!? 何だよ、こんな時に!」

 

 ダイチの危機に、子供を抱きかかえて救出したスバルも気づいたが、その時にデマーガが熔鉄光線を吐き出した!

 

「ダイくぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」

 

 走るスバルだが、とても間に合わない。ダイチは思わず顔を背け、せめてもの盾にするかのようにジオデバイザーを突き出す。

 その時、ジオデバイザーからX字の輝きが発せられ、金色の縁が描かれた!

 

「きゃっ……!?」

 

 輝きは辺り一面に広がり、スバルも直視できずに目を閉ざして顔を背けた。

 閃光が収まり、恐る恐る視線を戻すと――。

 

「えっ……!?」

 

 ダイチの姿はいつの間にかなくなっており、その代わりのように銀色と赤の巨人が直立していた――。

 胸には、X状の青い発光体が燦然と輝いている。

 

 

 

 オペレーション本部では、誰にも止められずに大暴れするデマーガの姿を目の当たりにしてクロノがカミキに向き直った。

 

「隊長、こうなれば私が出ます! 出撃許可を――」

 

 そこにアルトが叫ぶ。

 

「新たな怪獣! ……いえ、巨人が出現!」

「――巨人……!?」

 

 モニターに視線を戻すと――彼らも銀と赤の巨人の姿を目の当たりにし、唖然となった。

 

「あの巨人は……!? 一体どこから、何の目的で……?」

「異星人の一種でしょうか……?」

 

 唐突に現れた巨人の正体がわからず、さしものカミキとクロノも戸惑った。

 その肝心の巨人は、何故かその場に恐る恐る腰を落としていく。

 

「……何で腰が引けてるのかしら……」

 

 ルキノが思わずつぶやいた。一方で、アルトが告げる。

 

「デマーガ、巨人に攻撃を仕掛けます!」

 

 

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 デマーガは突如出現した、自分と同等の背丈の巨人を敵とみなしたのか、肉薄して噛みつき攻撃を行う!

 

「ウッ! ウワァッ!」

 

 巨人はデマーガを抑え込もうと抵抗するが、何分腰が引けていることもあって、容易にデマーガに突き飛ばされる。

 更にデマーガは巨人に熔鉄光線をお見舞いした! 巨人が大きく吹っ飛ばされ、背後のビルを巻き添えにしてばったり倒れる。

 

「……ダイくんっ!」

 

 一方でスバルは、デマーガの注意が巨人に向いている間に子供を安全な場所まで逃がしてから、ダイチの消えた現場まで戻ってきていた。消えたダイチを捜すつもりなのだ。

 

「ダイくん、どこ!? 返事してっ! まさか、死んだなんてことは……そんなことないよね!? ダイくんに何かあったら、あたし……!」

 

 必死にダイチを捜すスバルだが、どこにもその姿が見当たらない。スバルはどんどんと焦りを覚える。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 そのために、デマーガが自分に向かって熔鉄光線を吐こうとしていることに気づくのが遅れてしまった。

 

「あぁっ!」

 

 咄嗟に退避しようとするが、デマーガはもう光線を発射した! 間に合わない!

 一瞬覚悟を決めるスバル。だが――。

 

「グゥッ!!」

 

 横から巨人が飛び込んできて、その身を盾にスバルを光線から守ったのだった。

 

「えっ……!? あたしを……守った……?」

 

 巨人の予想外の行動に呆然とするスバル。どうして巨人が身を挺して自分を救ってくれたのか、その理由がわからない。

 一方の巨人だが、光線が直撃したのにさしてダメージを受けている様子はなく、むしろ今ので彼の中の何かが変わったのか、引けていた腰が入っておもむろに起き上がる。

 

「フッ!」

 

 胸の発光体が一層輝くと、勢いよくデマーガに突撃していった!

 

「イィィィィィィッ! シャァァァッ!」

「グバアアアアッ!」

 

 デマーガの胸部へミドルキック! 更にパンチや首筋への膝蹴りを次々入れていって、デマーガと互角にわたり合う。

 

 

 

 急に様子の変わった巨人がデマーガ相手に格闘戦を行っているのを目にし、カミキがつぶやく。

 

「怪獣と……戦ってる……」

『イヤァッ! シェアァッ!』

『グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!』

 

 勢いに乗ってデマーガを追い詰めていっていた巨人だが、デマーガの尻尾の反撃を食らって倒れ込んだところで様子がおかしくなった。

 胸の発光体の色が青から赤に変わり、点滅し始めたのだ。

 

「あれは何だ……?」

 

 クロノが訝しむと、アルトが言う。

 

「危険信号じゃないでしょうか。赤ランプは万国共通ですし」

「そんなことわかるものか」

「でも、大分慌ててるみたいですよ。あっ、点滅が早くなってきた!」

 

 アルトの推測が正しいものであるかのように、巨人は一転してデマーガに追い詰められる。

 と、ここで先に不時着していたハヤトから報告があった。

 

『冷却ファン、復帰!』

 

 それを受け、カミキが問う。

 

「ファントン光子砲は使えるか?」

 

 それに答えたのはワタルだ。

 

『可能です!』

 

 この回答で、カミキは二人へ命令する。

 

「あの巨人を援護しろ」

 

 ワタルとハヤトは流石に戸惑ったが、カミキは語気を強めて繰り返す。

 

「援護だっ!」

『――了解!』

 

 ワタルたちの応答があってから、クロノがカミキに尋ねかけた。

 

「隊長、いいのですか? あの巨人がまだ味方と決まったわけではありません。怪獣を倒したら、我々にも攻撃してくる可能性が否めませんが……」

「その時はその時だ」

 

 カミキは一言答えてから、続けて述べる。

 

「あの巨人は怪獣と戦うだけではない。明白にスバルを、身を挺して助けた」

 

 スバルが巨人に救われた場面は、カミキたちも目撃していた。

 

「戦いを求めるだけの者は、あんな行動には出ない」

「そうですが……」

「それと……巨人は敵意や悪意のある存在ではないと、私の勘が告げている。それでは、不十分か?」

 

 聞き返されたクロノは、静かに頭を振った。

 

「……いえ。相手を倒すのではなく、理解する……その座右の銘の下に幾多もの事件を解決に導いた隊長のご判断でしたら、私にはもう異論はありません」

「ありがとう。――いざとなれば、この身で責任を取る」

 

 カミキは己の勘を、スバルを助けた巨人の行動を信じて、全く見ず知らずの巨人に味方する。一見すると神経を疑うような判断かもしれないが……そういう判断を下せるからこそ、非常に重い責任を背負うXioの隊長を務められるのだ。

 

 

 

 空へ舞い戻ったスカイマスケッティが、巨人に馬乗りになってタコ殴りにしているデマーガへレーザーの連射を食らわせる!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 不意打ちをもらってよろめいたデマーガが巨人から離れる。これで巨人は体勢を立て直した。

 

「シュアッ!」

 

 全身に力を入れ直すと、胸の発光体の赤い点滅が、黄色い輝きに変化した。

 そして巨人は右腕を斜め上に突き上げてから左脚を、弧を描くように後ろへ持っていき腰をひねる。ねじった上半身を戻す勢いに乗せて両腕を交差させると……。

 

「シェアァッ!」

 

 両腕からX状の光線が放たれた!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 光線はデマーガに直撃! 巨人の左足が光線の反動に押されるように道路の舗装をめくれさせるが、それでも光線の発射は止まない。

 光線の照射がピークに達したところで、デマーガは大爆発を起こす! が、すぐに飛び散った光が爆心地に戻ってきて凝縮されていく。

 ――そうしてデマーガは、肉体を圧縮されてスパークドールズの姿に変化した。

 デマーガを見事倒した巨人は、地を蹴って急速に大空へ舞い上がっていく。

 

「シュワッ!」

 

 

 

 巨人が現場から飛び去っていくと、カミキがアルト、ルキノに指示を出す。

 

「監視衛星の映像を! 巨人の行方を捕捉しろ! 何者なのかを確かめなければ……」

 

 だが、

 

「消失しました! 捕捉できません!」

「消えた……!? どういうことだ!? 転移の類か!」

「わ、わかりません……一瞬の内の出来事でした。各種センサーでも、行方は捉えられませんでした。本当に、消えたとしか言いようが……」

 

 嵐のように現れ、怪獣を倒して嵐のように去っていった巨人の一部始終を目撃したカミキとクロノはただ立ち尽くしていた。

 

「……結局、あの巨人は何者だったのでしょうか……?」

「……皆目見当がつかない。だが……敵、ではないことだけは、確かなようだな」

 

 クロノの問いに、カミキはぽつりとつぶやいて答えた。

 

 

 

 スパークドールズになったデマーガは、いつの間にかどこからか戻っていたダイチが拾い上げていた。

 

「あの光線でデマーガをスパークドールズにしたのか……! お前ほんとすごい力を持ってるな!」

 

 ダイチはジオデバイザーにそう呼びかけた。

 ジオデバイザーはストレージデバイス、非人格型AI搭載デバイスだ。それに話しかけるのは何とも奇異な行動だが……よく見れば、デバイザーの外装が先ほどまでと変わっている。縁が金色になっているのだ。

 

『正確には、君と私の力だ』

 

 しかもデバイザーはダイチの呼びかけに返答した。それも、非人格型AIとは思えないほど感情の乗った声。おまけに標準の女性型の音声でもない。

 わずか三分程度の時間で、ダイチのデバイザーに何が起こったのか?

 

「お前となら、怪獣を殺さずに捕獲できるのか!」

『このデバイス、気に入った! ここにいれば、また君とユナイトできる。よろしくな、ダイチ!』

「ああ。……えっ? ずっとここにいるの!? おい! おい! おいっ!」

 

 ダイチが繰り返し呼んでも、変わり果てたデバイザーはそれ以上返事をしなかった。

 

 

 

 その頃、スバルはまだ必死にダイチの姿を捜していた。

 

「ダイくんっ! 返事して! お願いだから……!」

 

 全くダイチを見つけられず、涙目になるスバル。そこに駆けつけたのが、マスケッティから降りてきたワタルとハヤト。

 

「スバル!」

「無事か?」

 

 スバルはうなずいたが、暗い面持ちで二人に告げる。

 

「……それよりダイチが……」

「そ、そんな……!」

 

 ショックを受けるワタルたち。三人は悲しみに覆われるが、

 

「おーい!」

 

 そこに響いたのは、彼らとは反対に明るい声。そちらを見ると……ダイチが何食わぬ顔で走ってくるところだった。

 もちろん三人は驚く。

 

「ダイチお前、無事だったのかよぉ! 驚かせやがって!」

 

 それでもワタルは喜ぶが、スバルはダイチを怒鳴りつけた。

 

「もう、ダイチの馬鹿っ! 無事ならちゃんと返事してよ! ……死んだかと思ったんだよ……! 散々心配させて……!」

「ごめん。でも……助けてくれたんだ、あの巨人が」

 

 ダイチはデマーガのドールを見せながら、そう答えた。あっと驚くワタル。怪獣をスパークドールズに戻す技術は、現在ではどこにもないはずだ。

 

「お前……それどうやって……?」

「あの巨人の力です」

 

 話していると、デバイザーからカミキがダイチに尋ねた。

 

『ダイチ、何者なんだあれは?』

「カテゴライズ不能です。Xioのデータベースにも前例のない、未知の超人ですから」

『未知の、超人……』

 

 ダイチのデバイザーに、その超人の姿が一瞬だけ映った。

 ダイチは超人の名を唱える。

 

「つまり、彼の名は……エックス。ウルトラマン、エックス……!」

 

 

 

 ――突如としてミッドチルダの地に現れ、不可思議な力で怪獣デマーガを退治し、なおかつスパークドールズに封印した超人『ウルトラマンエックス』のニュースは瞬く間に時空管理局の管理世界全土を駆け巡った。様々な学者や知識人がその正体について色々な意見を出したが、結局は誰もはっきりとした答えを出すことは出来なかった。

 この一大ニュースは、ミッドチルダの『高町』という表札の家にも当然ながら届いていた。

 

「見て見て、なのはママ! フェイトママ! どこのチャンネルも『ウルトラマンエックス』って巨人さんのニュースばっかりやってるよ! 7チャンだけアニメやってるけど」

 

 テレビを指し示して興奮気味に言ったのは、金髪で赤と緑のヘテロクロミアの少女。この高町家に暮らすSt.ヒルデ魔法学院初等科四年生になったばかりの娘、高町ヴィヴィオである。

 ヴィヴィオが「ママ」と呼んだ二人の女性は、栗毛のサイドテールの方が高町なのは。金髪の方がフェイト・T・ハラオウン。一見どちらも大人しそうだが、これでも管理局のエースオブエースとの呼び声高い凄腕の魔導師だ。機動六課時代のスバルの上官でもあった。

 なのはの方が、クロノと連絡を取っていた女性だ。

 

「確か、スバルさんとダイチさんがこの巨人さんを間近で見たんだよね?」

「うん、スバルはそう言ってたね」

 

 うなずくフェイト。二人は昔の縁で、スバルから直接ウルトラマンエックスのことを教えてもらったのだった。

 

「すごいなー、エックスさん。あんなに管理局の人たちの手を焼かせてる怪獣を、簡単にやっつけちゃって。でも、どこから来たヒトなのかな? やっぱり宇宙人と同じで、他の星から? ママたちはどう思う?」

 

 ヴィヴィオから聞かれて、なのはが少し考えてから答える。

 

「うーん、それはママたちにもわからないけど……エックスさんが、とても優しいヒトなんだってことだけはわかるよ」

「えっ、何でそう言えるの?」

 

 テレビに映っているのは、ちょうどウルトラマンエックスがデマーガをスパークドールズにする場面であった。

 

「――怪獣をただやっつけるのは、エックスさんには簡単なことなんだろうね。でも、エックスさんはそうしないで、怪獣をスパークドールズに変えた。それはつまり、怪獣もこの世界で問題なく生きられる未来を待てるようにした、ってことじゃないかな……。ママはそう思うな」

 

 なのはの意見にフェイトが相槌を打つ。

 

「うん、私もそう思う。それに、スバルがエックスさんに助けられたって言ってたし。悪いヒトじゃないってことは確かだよ」

「そっかー……。エックスさん、優しいヒトなんだなぁ。わたしも一度会ってみたいなぁ」

 

 キラキラと目を輝かせるヴィヴィオ。彼女はすっかり、人々と怪獣の両方を助けた『ヒーロー』のウルトラマンエックスに夢中になっているようだ。

 それに苦笑したなのはとフェイトが、話を変える。

 

「エックスさんのことはいいとして――ヴィヴィオ、四年生になったよね」

「そーですが?」

 

 ヴィヴィオが肯定すると、なのははこう告げた。

 

「魔法の基礎も大分できてきた……。だからそろそろ、自分のデバイスを持ってもいいんじゃないかなって」

「ほ……ほんとっっ!?」

 

 それまでデバイスの所持を認められていなかったヴィヴィオは、非常に驚いた表情になっていた。

 

 

 

 ――ミッドチルダ都市の路上。

 

『グ、ガッ……!?』

 

 石畳が敷き詰められた歩道で、青い異形の異星人――夜型のスタンデル星人がばたりと倒れた。

 スタンデル星人に正拳を決めて倒したのは――目元をバイザーで覆った少女であった。

 

「……まさか異星人に襲われるなんて。確かに、格闘技能者を狙って誘拐する異星人犯罪者が出没しているという注意は学校で受けたけれど……」

 

 自分が狙われるなんて。何とか倒せたけれど、これからは用心しないといけないかな……と独白する少女。だがすぐに否定する。

 

「いえ……私は立ち止まっていられない。強くなるために、そして……」

 

 自らに言い聞かせながら、バイザーを外す少女。

 

「古代ベルカの列強の王を……聖王と冥王を斃すために……」

 

 その瞳は――青と紫のヘテロクロミアであった。

 

 

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はデマーガだ!」

ダイチ「デマーガは『ウルトラマンX』第一話「星空の声」で登場した完全新規デザインの怪獣なんだ!」

エックス『ウルトラマンエックスの地球での初戦となった相手だな!』

ダイチ「第十二話「虹の行く先」ではダークサンダーエナジーの影響で強化体となったツルギデマーガが登場したんだ」

エックス『ダークサンダーエナジーを浴びた怪獣はザナディウム光線も効かなくなってしまう。そのためエクシードXの力でエナジーを取り除く必要があるんだな』

ダイチ「元々一話はファイヤーゴルザが登場予定だったけれど、監督がせっかくの一話なんだから新怪獣を、と意見してデマーガは作られたんだって」

エックス『そのゴルザは、今度の映画で登場予定だぞ』

ダイチ「ツルギデマーガも登場するみたいだね」

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 巷に起きる、格闘家を狙った連続傷害事件。その犯人は、小さな女の子だった!? ヴィヴィオちゃんみたいなオッドアイの彼女には、どんな秘密があるのだろうか? 次回、『少女に眠る覇王』。


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少女に眠る覇王(A)

 

「あのオーロラが消えるまで、絶対にここを動くな!」

「お父さーん!」

「ゴモラ、どうした?」

「怪獣出現! タイプG! 体長約50メートル!」

「あいつはデマーガです!」

「警戒レベル・フェイズ3! 都市防衛指令発令! 進行を食い止めろ!」

「うわぁぁぁぁ――――――!」

『君と私はユナイトした! 心を一つにすれば、あの怪獣と戦える!』

「『ザナディウム光線!!」』

「彼の名は、ウルトラマンエックス……!」

 

 

 

『少女に眠る覇王』

 

 

 

(♪科特隊のテーマ)

 

 Xioオペレーションベース。新進気鋭のチーム・Xioの基地の見学ツアーにやってきた学生たちを、『Xioへようこそ』と表示されたヴィジョンが迎える。

 興味津々の学生たちを案内するコンパニオンがXioの説明を始めた。

 

「ご存知のように、今から十五年前、太陽の異常爆発、通称『ウルトラ・フレア』が引き起こした次元震によって、次元世界各地に存在していたロストロギア『スパークドールズ』の多くが怪獣化してしまうという大災害が起きました」

 

 歩きながら説明していると、十五年前の映像や被害のデータ、スパークドールズの解説などのヴィジョンが次々空中に表示される。

 

「この非常事態に時空管理局の古代遺物管理部は、不安定のまま各地に散在しているスパークドールズの発見と回収を急務としました。そして今日までスパークドールズを厳重に管理、研究しています」

 

 コンパニオンに案内される学生たちは、Xioのマシンの格納庫へと移っていく。

 

「そして、人類に害を為す怪獣や、ウルトラ・フレアの影響で次元世界に侵入し始めた異星人の犯罪に対する防衛部隊として、管理局は『Xeno invasion outcutters』、『Xio』を設立しました!」

「おお! すげぇ!」

 

 若い学生たちは、格納庫に並ぶジオアトス、ジオアラミス、ジオポルトス、そしてジオマスケッティ等のXioマシンの威容に釘づけとなる。

 ほれぼれと魅了された女生徒が前に出ると……横切ってきたオレンジ色の『何か』にぶつかられて転倒した。

 

「きゃっ!?」

 

 ぶつかってきたのは、カタツムリのように突き出た目とごつごつした肉体、そして大きく裂けた口を持つ怪人だった!

 

「きゃあ――――――――――!?」

 

 思わず悲鳴を上げる女生徒! ……だが。

 

「……ああ、見学に来た学生か」

 

 怪人は一言つぶやいただけで、格納庫を我が物顔で横切っていく。よく見ると、首からXioの職員証を提げていた。

 怪人のことをコンパニオンが説明する。

 

「Xioでは、人類に友好的な宇宙人に、研究活動を手伝ってもらっています。Xioのスーパーテクノロジーの多くは、あのファントン星人グルマン博士のご協力の賜物です!」

 

 そのファントン星人グルマンの元へ、シャーリーとマリエルが駆け寄ってきた。

 

「グルマン博士、こんなところにいた!」

「見学の子たちが驚くからうろうろしないで、って言ったじゃないですか!」

「ふん、どうしてこの私が学生に遠慮しなくちゃならんのだ。私は基地の建設にも関わってる。つまりここは私の家も同然ということだよ?」

 

 マリエルが咎めても、グルマンは平気な顔。呆れたシャーリーたちだが、グルマンにあることを尋ねる。

 

「それで博士、先日のデマーガ出現の時に出てきた巨人のことですが……」

 

 それを聞くと、グルマンはしたり顔でうなずく。

 

「うむ、あれぞまさしくウルトラマン! ウルトラマンは私のいた宇宙でその名を轟かす光の戦士だ。宇宙の平和と秩序は、彼らの手によって築かれていると言っても過言ではない」

「ということは、博士はあのウルトラマン……エックスのことをご存じだったのですか?」

「いや、あのエックスというウルトラマンのことは聞いたことがないな。恐らく、この宇宙のウルトラマンなんだろう。ミッドチルダスペースにもウルトラマンがいたのだな」

 

 ウルトラマンたちの宇宙出身のグルマンは、当然ながら既にウルトラマンのことを知っていた。それに関心を寄せるシャーリーたちだが、

 

「でも博士。事前に知ってたのなら、あの時に教えてくれたらよかったのに」

「そうね。教えてくれてたら、私たちもあんなに戸惑わなくて済んだんですよ」

「いやぁ、あの時はタイミング悪く、食後の昼寝中だったからな」

「もぉ~、その習慣どうにかならないんですかぁ? 結構困る時があるんですよ。肝心な時に寝てたり……」

 

 文句を言うシャーリーだが、グルマンは少しも悪びれなかった。

 

「それは無理な相談だな。これはファントン星の大事な掟のようなものだから」

 

 こういう風に言い訳するグルマンを言い聞かすのは無理なことだと、シャーリーたちは嫌というほどわかっている。故にため息を吐くだけだった。

 一方でグルマンは、次のようにつぶやく。

 

「気になるのは、ウルトラマンエックスはどうして十五年前ではなく、今になって現れたのかということだ。何か、のっぴきならない事情があるのだろうな……」

 

 

 

 見学ツアーを済ませた学生たちは、最後に会議室で隊長カミキと向かい合っていた。

 

「基地内見学を終えた君たちの感想を、聞かせてもらえるかな」

 

 カミキが尋ねかけると、一人の男子学生が勢いよく手を挙げた。

 

「すっげぇカッコです! 俺も怪獣ぶっ倒したいです!」

「……どうして怪獣をぶっ倒したいのかな?」

 

 カミキはおもむろに聞き返す。

 

「だって、正義の味方って、悪者をやっつけないと!」

 

 張り切って答えた学生だったが、カミキは苦笑を浮かべて左脇を手で押さえると、学生たちにこう語り出した。

 

「私たちの生活や命を守る。それは正義かもしれません。けれど、怪獣や異星人たちにも、彼らなりの事情がある。それなのに、こちらが正義で、向こうが悪だと、言い切れるでしょうか。どういう状況なら、怪獣を倒すことが正義と言えるのか……私も、その答えは見つかってません」

 

 カミキ隊長の信念は『敵を倒すのではなく理解する』というものであり、彼はXioを、単に怪獣たちを退治するだけのチームにはしたくないのであった。

 

 

 

 Xioの見学ツアーが行われている頃、ダイチはラボのデスクで、自身のデバイザーと向き合って「会話」をしていた。

 

「……自分をデータ化して、宇宙空間を飛んできたってこと?」

『だから君のデバイスと一体化できた』

 

 非人格型AI搭載のストレージデバイスであるはずのジオデバイザーが、流暢に返答した。

 今の声は、デバイスに本来搭載されているAIの声ではない。デマーガとの戦いの時にデバイスの中に入った、宇宙から飛んできたある「データ」のものだ。

 その名は『ウルトラマンエックス』。そう、突如として現れデマーガをスパークドールズに封印した『ウルトラマン』その人である。

 ダイチは金色の縁が追加された自身のデバイザーをじろじろ観察する。

 

「で、実体に戻るには、これが必要なわけか」

『それと、君自身だ。本来は自力で出来たんだが、十五年前に肉体を失ってしまった』

 

 ウルトラマンエックスは十五年前に、ウルトラフレアを引き起こす原因となった謎の発光体を太陽に落とした張本人であったのだ。だが、ウルトラ・フレアの波動を間近で受けた影響で実体が崩壊してしまい、十五年かけてミッドチルダへと飛んできたのだ。

 先日の戦いで実体化できたのは、ダイチを核とすることで自身のデータを肉体に再構成したからだ。今のエックスは、ダイチという『核』が必要なのであった。

 エックス自身はこの能力を『ユナイト』と呼んでいる。

 

「どうして俺を選んだの?」

『君の命を救おうと咄嗟にね。ただ十五年前からずっと、君自身が持つ周波数に引きつけられていた気がする』

 

 エックスが無事にミッドチルダにたどりつけたのも、それが理由だと自身で考えている。

 

「確かに……どんな生き物も固有の電波を放出している。気が合うとか合わないとか、周波数の特徴なのかな……」

 

 ダイチとエックスが話していると――。

 

「何やってるの、ダイくん?」

「うわっ!?」

 

 後ろからスバルに声をかけられた。振り返ると、彼女だけではない、四人の少女がスバルと一緒にいて自分を不思議そうに見ている。

 

「スゥちゃんに、ノーヴェ、チンク、ウェンディ、ディエチも!」

 

 四人は四年前のJS事件の際に犯人グループの一味として逮捕され、更生プログラムを受けた後にナカジマ家の養子となった元ナンバーズのメンバーたちである。今では『N2R』というユニットを名乗っている。

 彼女たちはXio特捜班のサブメンバーだ。特捜班も人間、いつどこに出現するかわからない怪獣相手に四六時中備えている訳にもいかないし、負傷で行動できなくなるリスクも高い。故に彼女たちのような交代要員が必要なのである。

 N2Rの内のチンクがダイチに尋ねる。

 

「誰かと話してたみたいだが、相手は誰だ? 聞き覚えのない声のようだったが」

「え、えっと、それは……」

「もしかして彼女が出来たっスかぁ?」

「えっ、えぇ!? そうなの、ダイくん!?」

 

 からかうようなウェンディの一言に、スバルが目を丸くする。

 

「い、いや、そのね……」

 

 ダイチはどうにかごまかそうと考えるが、ディエチやノーヴェたちはとんとん拍子で話を進めてしまう。

 

「いや、通信してるようでもなかった。どちらかというと、デバイザーと直接話してたみたいだったけど」

「でも、デバイザーの標準音声じゃなかったよな。それにかなり自然に話してたみたいだし。ストレージデバイスじゃそんなん無理だろ」

「あっ! ダイくん、もしかして……」

 

 じっと目を見つめてくるスバル。ダイチは、エックスのことがバレたのかと内心冷や汗ダラダラになる。

 が、スバルはこう言う。

 

「デバイザー、インテリジェントデバイスに改造したんでしょ! よく見たら金縁になってるし!」

「えっ!? あ、ああ、実はそうなんだ。こいつは、えーと……エクスデバイザーって言うんだ!」

『エックスと呼んでくれ』

 

 咄嗟にスバルの勘違いに乗っかるダイチ。エックスもそれに合わせた。

 

「エックス! もしかしなくても、ウルトラマンエックスからあやかったの?」

「う、うん」

「へぇー! マリーさんたちの手を借りずに、自力でプログラム組んだっスか? やるぅ!」

「ヴィヴィオもこの間、インテリジェントデバイスもらってたな。奇遇だな」

 

 ウェンディ、ノーヴェらN2Rはエクスデバイザーに興味津々だ。

 

『そんなに見つめないでくれ。少し照れる』

「あはは、面白いデバイスっスね」

 

 エックスが四人の相手をしている間に、スバルはダイチにピッと人差し指を突きつける。

 

「でも、デバイザーは一応Xioの支給品なんだから、あんまり勝手に改造しちゃダメでしょ? 次からは気をつけてね」

「う、うん、気をつけるよ……」

 

 どうにかごまかせたようだ。ほっと安堵したダイチは、話題をすり替える。

 

「それで、みんなそろって何の用だったの?」

「ああ、そうそう。さっきギン姉から連絡があって……」

 

 スバルは本来の連絡をダイチに伝えた。

 

「……自称『覇王』イングヴァルトによる連続傷害事件?」

「うん。実際は被害届が出てないから、『事件』じゃないんだけどね」

 

 詳細を説明するスバル。

 

「そのイングヴァルトを名乗る人が格闘系の魔導師に街頭試合を申し込んで、次々倒してるんだって。この前路上で倒れてるところを逮捕した、えーっと……スタンド星人?」

「スタンデル星人」

 

 ディエチが訂正した。

 

「そうそう、スタンデル星人もそのイングヴァルトがやっつけたんだって」

「そうだったの! となると、かなり強い人なんだね……」

「断ったら何もしないみたいだし、現段階じゃ格闘系の魔導師以外の人の前には現れないみたいだからダイくんは心配いらないだろうけど、一応夜道には注意してって言ってた」

「うん、わかった」

 

 うなずくダイチ。N2Rもこの話に混ざる。

 

「聖王戦争時代の古代ベルカの王様の名前を名乗るなんて、一体何者っスかねぇ。ひょっとしたら、イングヴァルトも異星人の一人かもしれないっスよ。この間だって、スタンデル星人とは別に異星人の通り魔が出たじゃないっスか。あたしたちで捕まえたけど」

 

 異星人。グルマンを始めとする、十五年前より管理局からでは観測されていないほど遠く離れた次元の宇宙からミッドチルダなどの管理世界に出没するようになった様々な星の知的生命体の総称だ。ウルトラ・フレアは、遠くの次元と管理世界をつなげてしまうほどの影響も及ぼしたのだった。

 異星人がグルマンのような友好的な者たちばかりならば特に問題にはならないのだが、世の中そう甘くはない。悪心を抱えて管理世界に侵入してくる異星人も少なくなく、彼らの起こす犯罪も社会問題になっているのだった。Xioはそんな異星人犯罪とも戦っているのだ。

 

「仮にそうだったとしたら、またあたしたちで逆ボッコにしてやるぜ。この前のカレー星人みたいにな!」

「カーリー星人だろう、ノーヴェ」

 

 ノーヴェが勇んだが、間違いをチンクにツッコまれてしまった。

 

「わざわざ古代ベルカの王様の名前を使うくらいだから、異星人って可能性は低いだろうけど……何にせよ、みんなも気をつけてね」

「はーい」

 

 スバルの忠告で自称『イングヴァルト』に関する話は終わり、スバルたちはラボから退室していく。その後でエックスがダイチに呼びかけた。

 

『ダイチ、お前結構モテモテなんだな。五人もの女の子に囲まれて』

「い、いや、スゥちゃんたちはそういうのじゃないよ。みんなは家族なんだ」

『家族? だが周波数はダイチに似ていなかったが』

「家族といっても、血のつながった家族じゃないよ。俺の実の両親は、十五年前に……」

 

 自身のデスクの上の写真立てを一瞥するダイチ。そこに飾られているのは、消える前の両親とゴモラと撮った写真。

 

(父さん、母さん……今はどこにいるんだろう。あの時研究所は、どこへ消えていってしまったんだろうか……)

 

 ダイチは、空に吸い込まれて以来行方不明の両親に思いを馳せたのであった。

 

 

 

 ――翌日の夜の当直中のダイチとスバルに、グルマンが話しかける。

 

「ダイチ、デバイス怪獣は動かせそうか?」

「上手く脳波と同調させられれば……。もう一歩なんですよ!」

「だが人間の体細胞の耐久限界値は変わらないだろう」

「ですよね……。でも、どうやらエックスは、肉体をデータに置き換えてるようなんです」

「データに? デバイス怪獣の逆だな」

「はい。その原理を活かすことが出来れば、研究は一気に進むかと……」

「まぁ、理には適ってるが……しかし、ウルトラマンに出来たってお前に出来ないんじゃ意味ないだろう」

「それは、そうですが……」

 

 ダイチの反応を見て、グルマンは肩をすくめる。

 

「やれやれ、デバイス怪獣実用化はまだ困難なようだな。スバル、お前も協力者として思うところはないか?」

「えっ?」

 

 ダイチたちの話が難しくて頭を痛めていたスバルが、いきなり話しかけられて正気に返った。

 

「デバイス怪獣構築のプログラムの元の一つは、お前のマッハキャリバーだぞ。忘れた訳じゃないだろう」

「あっ、はい、そうですけど……」

 

 デバイス怪獣のデータは一から作られているのではない。元となる怪獣の生体データと、既存のインテリジェントデバイスのデータを掛け合わせて構築されている。そしてゴモラが元である『デバイスゴモラ』には、スバルの提供したマッハキャリバーのデータが使用されているのだ。

 聞かれたスバルは、次の通り答える。

 

「あたしも、マッハキャリバーの兄弟ともいえるデバイスゴモラが実際に動くところを見たいですけど……だからって、ダイチに無理をしてもらいたくもないです。その、無理をして倒れられてもいけませんし」

「スバル……」

 

 スバルの意見に、おもむろにうなずくグルマン。

 

「そうだな。何事も身体が資本! 肉体が健康でなければ、いい結果にはつながらんものだ。ダイチ、お前もあんまり研究に没頭しないで、よく食べよく休むことだぞ」

「はい。けど……いつも思いますが、博士とスバルはよく食べ過ぎなんじゃないでしょうか」

 

 チラリと視線を走らせるダイチ。その先には、スバルが当直中に食べた弁当の空箱の山が……。

 

「あっ! ちょっとダイチ、そんな意地悪なこと言わないでよぉ!」

「私はファントン星人だから、あの量が標準だ。ここでおかしいのはスバルの胃袋だけだよ。ミッドチルダ人女性として、少々食べ過ぎではないのかね」

「そ、そんなことないですよ! あたしは日頃から動きますし、戦闘機人でもありますし! ギン姉だって同じくらい食べるんですよ!」

「しかしノーヴェは……」

 

 グルマンと口論しているスバルのマッハキャリバーに着信が入る。

 

「あっ、ちょっとすみません。ノーヴェからです」

 

 噂をすれば何とやらか、ノーヴェからの通信に出るスバル。

 

「はい、スバルです。ノーヴェ、どうかした?」

 

 映像の向こうのノーヴェは、何故か倒れているようだった。

 

『悪ィ、スバル。ちょっと頼まれてくれ。喧嘩で負けて動けねー』

「ええッ!?」

 

 ノーヴェからの報告に、スバルだけでなくダイチ、グルマンも驚く。が、ノーヴェは構わず続けた。

 

『相手は例の襲撃犯。きっちりダメージブチ込んだし蹴りついでにセンサーもくっつけた。今ならすぐに捕捉できる』

 

 スバルとダイチは思わず顔を見合わせる。

 

「例の襲撃犯って言うと……」

「『覇王』イングヴァルト……」

 

 昨日話していたイングヴァルトの正体が、もう掴めるという。果たして一体何者なのだろうか。

 



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少女に眠る覇王(B)

 

 昨晩ノーヴェを負かしたという『覇王イングヴァルト』は、戦いのダメージが響いたのか、路上で倒れているところをスバルが発見し、とりあえず自分の家に運んだ。

 夜が明けると、ダイチ、ノーヴェも『イングヴァルト』から事情を伺うためにスバルの家に集まった。

 キッチンでスバルと一緒に朝食の準備をしながら、ダイチがつぶやく。

 

「でも驚いたよ。まさか『覇王』の正体が……中等生だったなんて」

 

 路上カメラの捉えた写真の中の姿は十六~二十歳ほどの女性のものであったが、それは変化魔法で疑似成長した姿だった。本当の姿が発育途上の女の子だったので、ダイチたちは面食らったものだ。

 キッチンにストレートの栗毛の女性が入ってきて、こう告げる。

 

「しかもヴィヴィオの通ってるSt.ヒルデ魔法学院の子よ。灯台下暗しってこのことかしらね」

「ティアナさん」

 

 彼女の名はティアナ・ランスター。時空管理局本局の執務官だ。スバルの無二の親友であり、機動六課時代は良き相棒でもあった。Xioの協力者の一人でもある。

 ティアナは『イングヴァルト』の学生証を取り出す。コインロッカーに預けてあった彼女の荷物も一緒に回収してきたのだった。

 

「本名はアインハルト・ストラトス。中等科一年。調べたところだと、ストライクアーツを習ってはいるけど、素行には何の問題もない子みたいだけれど……」

「それがどうして『覇王』の名を使って、喧嘩紛いの路上試合をやってたのかな?」

 

 とスバルが疑問に持つ。

 

「それは本人から聞かないとわからないわね。ただ……ヴィヴィオと同じ光彩異色だし、伊達に『覇王』を名乗ってるわけではなさそうね」

 

 答えたティアナが寝室へと足を向ける。気を失っている少女アインハルトは、スバルのベッドに寝かせているのだった。今はノーヴェが様子を見ている。

 

「アインハルトさんもそろそろ目を覚ましてると思うから、一足先に様子を見てくるわね」

「うん。あたしたちも朝食できたら持っていくから」

 

 ティアナが寝室へと移っていくと、エックスが声を出した。

 

『あんな年端もいかない少女が傷害事件の犯人とは……ミッドチルダも物騒な星だな』

「え、エックス!」

 

 ダイチが慌ててエクスデバイザーを抑えて、エックスの発言を遮った。

 

「ん? ダイくん、エックスがどうかしたの?」

「い、いや、何でもないよ。エックスもアインハルトちゃんのことが気になったって」

 

 振り向いたスバルをごまかすと、ダイチはひそひそ声でエックスに注意した。

 

「エックス、ミッドチルダとか星とか、異星人みたいなことは言っちゃダメだよ。君の正体がバレるかもしれないだろ」

『ああ、そうか。すまない。以降気をつける』

 

 エクスデバイザーの中身が、ウルトラマンエックスそのものであることは秘密だ。ウルトラマンの力は神秘の力……エックスとダイチが一心同体であると知られたら、良からぬ者たちに狙われるかもしれない。そう危惧するエックスの意向なのであった。

 ともかく朝食の準備が済み、二人で寝室に運んでいく。そこではアインハルトが実際に目を覚ましていた。

 起きている時の彼女とは初めて会うスバルが告げる。

 

「はじめましてだね、アインハルト。スバル・ナカジマです。事情とか色々あると思うんだけど、まずは朝ごはんでも食べながら――お話聞かせてくれたら嬉しいな」

 

 

 

 ベッドの上のアインハルトのためにテーブルを用意して朝食のトレーを置く。スバル、ティアナ、ダイチはベッドの脇に座って、自分たちの膝の上にトレーを置いた。

 アインハルトの隣に座るノーヴェが紹介する。

 

「んじゃ、一応説明しとくぞ。ここはこいつ……あたしの姉貴スバルの家」

「うん」

「で、その姉貴の親友で本局執務官」

「ティアナ・ランスターです」

「そっちの男はXio隊員の兄貴だ」

「ダイチです。よろしく」

「お前を保護してくれたのはこの三人。感謝しろよ」

 

 紹介が終わると、スバルがノーヴェに諫言する。

 

「でもダメだよノーヴェ。いくら同意の上の喧嘩だからって、こんなちっちゃい子にひどいことしちゃ」

「こっちだって思いっきりやられて全身痛ェんだぞ」

 

 ノーヴェが言い返す一方で、ティアナがアインハルトに尋ねかける。

 

「格闘家相手の連続襲撃犯があなたって言うのは……本当?」

「――はい」

 

 アインハルトは変にごまかさず、素直に認めた。

 

「理由聞いてもいい?」

 

 ティアナの質問に、ノーヴェが代わりに答える。

 

「大昔のベルカの戦争が、こいつの中ではまだ終わってないんだとよ。んで自分の強さを知りたくて……あとはなんだ。聖王と冥王をブッ飛ばしたいんだったか?」

「聖王と冥王を……?」

 

 目を見開いたダイチが、やや険しい表情でアインハルトに問いただす。

 

「アインハルトちゃん……それは本当のことかい?」

 

 それにアインハルトは、次のように返答した。

 

「……少し違います。古きベルカのどの王よりも、覇王のこの身が強くあること。それを証明できればいいだけで」

「聖王家や冥王家に恨みがあるわけではない?」

 

 ティアナが問い返す。

 

「はい」

 

 アインハルトが即答すると、スバルが安堵した表情になった。

 

「そう。なら良かった」

 

 アインハルトが少し意外そうな顔をしていると、ティアナが説明する。

 

「スバルはね、そのふたりと仲良しだから」

「そうなの」

 

 ニコッと微笑むスバル。

 古代ベルカの『聖王』――その血を直接引く少女が、度々話に上がっている高町ヴィヴィオなのである。スバルたちは恩師高町なのはとの縁で、彼女の義理の娘のヴィヴィオと親しいのである。

 そして『冥王』の血を引くのは、イクスヴェリアという名の少女。三年前のある事件の影響で、今はベルカ自治領・聖王教会本部で寝たきりの状態で保護されている。

 ティアナがアインハルトに言う。

 

「あとで近くの署に一緒に行きましょ。被害届は出てないって話だし、もう路上で喧嘩とかしないって約束してくれたら、すぐに帰れるはずだから」

 

 それにノーヴェが告白する。

 

「あの……ティアナ。今回のことについては先に手ェ出したのあたしなんだ」

「あら」

「だからあたしも一緒に行く。喧嘩両成敗ってやつにしてもらおう」

 

 ノーヴェの心遣いに、スバル、ティアナ、ダイチは少し頬を緩めた。

 

「お前もそれでいいな?」

「はい……ありがとうございます」

 

 ノーヴェが確認すると、アインハルトは礼を述べて頭を下げた。

 

 

 

 湾岸第六警防暑。ここでアインハルトへの説諭等の手続きが済まされると、ノーヴェとダイチはベンチに考え詰めた顔で座り込んでいるアインハルトのところへ近寄っていく。

 

「よぅ」

 

 ノーヴェは不意打ち気味に、買ってきた缶ジュースをアインハルトの頬にピタッとくっつけた。

 

「ひゃっ!!」

 

 我に返ったアインハルトは半分パニックになり、あたふたと動揺した。

 

「スキだらけだぜ、覇王様」

「ノーヴェ、あんまりからかっちゃダメだって」

 

 悪戯っぽく笑うノーヴェに肩をすくめるダイチ。そして二人はアインハルトの両隣に腰を下ろした。

 まずはノーヴェが尋ねる。

 

「もうすぐ解放だと思うけど、学校はどーする。今日は休むか?」

「行けるのなら行きます」

「真面目で結構」

 

 次にダイチが口を開いた。

 

「アインハルトちゃん、スバルとティアナは管理局の知り合いが多くてさ、その中には古代ベルカに詳しい専門家もいるんだ。君の言う『ベルカの戦争は終わっていない』という意味はよくわからないけど、古代ベルカで知りたいことがあるなら協力してあげられる。だから……」

「聖王たちに手を出すな……ですか?」

 

 アインハルトが台詞を先読みして問い返した。

 

「あっ、いや、そんな取り引きめいたことじゃなくてね……」

「まぁ手出されても困るけどな」

 

 ノーヴェが後頭部をかいて、アインハルトへ指摘する。

 

「あたしはおまえとガチでやり合ったからなんとなくわかるけど、おまえさ――格闘技(ストライクアーツ)が、好きだろう」

 

 そう言われて、アインハルトは若干驚いた顔を作った。

 

「……違うか? 好きじゃねーか?」

 

 問い返すノーヴェに、アインハルトが答える。

 

「好きとか嫌いとか、そういう気持ちで考えたことがありません。覇王流(カイザーアーツ)は、私の存在理由の全てですから」

 

 とまで言うアインハルトに、ダイチとノーヴェは一瞬目を合わせた。

 

「――聞かせてくんねーかな? カイザーアーツのこと……おまえの国のこと。おまえがこだわってる戦争のこと」

「……私は……」

 

 ノーヴェが問いかけると、アインハルトは自身のことを訥々と語り始めた。

 曰く、彼女は諸国の王による戦いが幾度も繰り広げられた古代ベルカ諸王時代に『覇王』と称されたイングヴァルトの末裔であり、しかも身体的特徴のみならず技と断片的な記憶も受け継いでいるのだという。

 『覇王』の記憶とは、彼の悲願。諸王時代に最強を誇った『聖王』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトに勝利すること。そのためにストライクアーツを学んでおり、路上試合を繰り返し、現代の『聖王』と『冥王』を捜し求めていた、と。

 

「それで時代を超えて再戦……か?」

 

 ノーヴェが問い返すと、アインハルトは思い詰めた表情で述べる。

 

「私の記憶にいる『彼』の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せる、そんな王であること。――弱かったせいで、強くなかったせいで、『彼は彼女を救えなかった』……守れなかったから――。そんな数百年分の後悔が……私の中にあるんです」

 

 ひと筋の涙を流しながらアインハルトが語ると……ダイチが不意に口を開いた。

 

「――強いことだけが、全てじゃない」

「……えっ?」

 

 突然の一言に、アインハルトは思わずそちらへ顔を向けた。

 

「君の中のイングヴァルトが、力及ばなかったことで何らかの無念を抱いてることはわかった。でも……強ければそれでいいというものじゃないと、俺は思う。相手を倒すのではなく、理解する姿勢がなければ」

「理解する……?」

「これはウチの隊長の受け売りなんだけどね。でも、俺もそれに共感してる。――俺はXio隊員として毎日のように怪獣や異星人と戦ってるけど、彼らがいなくなってしまえばいいとは思ってない。彼らの抱えてる気持ちや事情を理解して、共存の道を切り開いていく。その先に、人間の新しい未来があるって思うんだ。――ごめん、急に自分語りになっちゃったけど……出来ればアインハルトちゃんにも、戦ってそれでおしまいじゃなくて、戦う相手のことを理解することをしてほしいな。戦って終わりじゃ、その人と友達になれないしね」

「友達……」

 

 と言われても、アインハルトはピンと来ていない様子だった。

 

「――まぁ何にしたって、とりあえずお前の拳を受け止めてくれる奴ならちゃんといるぜ」

 

 ノーヴェがとりなすように、アインハルトに告げた。

 

「ちゃんとした試合形式の上で手合わせするって約束できるなら、紹介してやるよ」

 

 その申し出に、アインハルトはしばし呆けてから、コクリとうなずいた。

 

 

 

「それじゃあ、俺はそろそろXioに戻るから。アインハルトちゃん、あんまり無理をしないでね」

 

 ノーヴェがアインハルトにヴィヴィオを紹介、次いで彼女との手合わせの場を設ける約束をしてから、ダイチは二人と別れてXioベースへと出勤していった。

 その道中、エックスがダイチに話しかける。

 

『アインハルト……不思議な少女だったな。先祖の遺伝子のみならず、その想いまで受け継いでいるとは』

「うん。先祖の記憶も受け継いで生まれてくる子が稀にいるという話は知ってるけど、あそこまではっきりと記憶してる例は聞いたことがないよ」

『確かギ・ノール星では、肉体的な特徴だけでなく意思も後世に遺伝されると提唱されているらしいが、それがあんな形で現実になるとは、私も驚きだ』

「それにしても、『覇王』とまで称されたイングヴァルトに、弱かったから守れなかったなんて後悔があったなんて意外だな。そういうのとは無縁の人だとばかり思ってた」

『人は誰しも、最初から強かったわけではない。どんな者も、その人なりの人生をたどって力をつけていくわけだ。イングヴァルトという人が覇王となったのも、その想いが出発点だったのではないだろうか』

「最初から強かったわけじゃない……その人なりの人生、か……」

 

 ダイチはふと、己が『怪獣との共存』の道を進んでいるきっかけを思い出した。

 

(俺の場合は、子供の時からゴモラと一緒だったからだ。両親がいなくなってからも、ゴモラだけはずっと一緒だった。だから、怪獣と共に生きられる未来を作ろうと考えて、スパークドールズの研究を行ってる……)

 

 しかしその研究も、まだまだ途中の段階。デバイス怪獣の成功にも至っていない。道はまだ、遠い。

 まだはるか先の未来へもっと進んでいかなければ、と改めて思うダイチであった。

 

 

 

 一週間ほど経ってから、Xioベースでダイチはスバルから、アインハルトのその後を聞いていた。

 

「それじゃ、アインハルトちゃんはヴィヴィオちゃんと友達になったんだ」

「うんっ。最初のスパーではアインハルト、かなり素っ気ない反応だったから少し心配だったけど、無事にね」

 

 あの後、アインハルトは実際にヴィヴィオを紹介してもらい、彼女と手合わせを行った。が、ヴィヴィオの拳は彼女の求めるものとは違っていたようで、途中でやめてしまった。ヴィヴィオへの執着もなくなったようだった。

 しかしヴィヴィオの方が諦められず、一週間後に再戦を行った。すると今度はアインハルトもヴィヴィオの拳に乗せられた想いを認め、謝罪とともに友達の関係を築いたのだという。

 

「何にせよ、アインハルトちゃんとヴィヴィオちゃんが仲良くなれてよかったよ」

 

 とダイチとスバルで話し合っていると、シャーリーがやってきてダイチを呼んだ。

 

「ダイチくん、君にお客さんが見えてるよ」

「え? 俺に、お客?」

「小さな女の子だよ」

「女の子……?」

 

 まさか、とダイチとスバルは顔を合わせた。

 そして二人がロビーに向かうと、そこに件のアインハルトがいるのを見つけた。

 

「アインハルトちゃん!」

「一週間ぶりです、ダイチさん」

 

 ダイチたちとアインハルトはソファに向かい合って腰掛けると、話を始める。

 

「今日はいきなり押しかけてきて、ご迷惑をお掛けします」

「いや、それはいいんだけど……わざわざXioまで、俺に何の用かな?」

 

 ダイチが聞き返すと、アインハルトは確認を取る。

 

「私とヴィヴィオさんのことは、もう伺いましたでしょうか」

「うん。さっきスバルから。でも、それがどうかしたのかな?」

 

 ダイチが首肯したのを見て、アインハルトはこう語る。

 

「――私は初めのスパーリングで、ヴィヴィオさんの拳が趣味と遊びの範囲内であると思いました。彼女は私の求める『聖王』ではない、私とは違う、と……。それでもう彼女には関わらないつもりでしたが……再戦時に、その評価を覆されました」

 

 一旦区切ってから、アインハルトは呆けたような口調となる。

 

「ヴィヴィオさんの拳は、趣味と遊びなどではなかった。とても真剣なものでした。彼女は『覇王』の会いたかった聖王女ではないけれど……『私自身』は、彼女とまた戦いたいと思いました。ヴィヴィオさんのことを、もっと知りたい……理解したい、と」

 

 そこまで語って、アインハルトはダイチの目をまっすぐに見る。

 

「その時に、ダイチさんに言われたことを思い出しました。相手を倒すだけでなく、理解すること……。あの時はその必要性がわかりませんでしたが、今は少しだけわかったつもりです。だから、ダイチさん……相手への『理解』のこと、もっと私に教えてくれないでしょうか」

 

 と頼まれて、ダイチはやや目を見開く。

 

「あの、ダイチさんも忙しいでしょうし、ご迷惑でしたら全然構わないのですが……」

「いや、そんなことはないよ。俺なんかでよければ、いくらでもお相手するよ」

「うんうん。アインハルトがそんなにヴィヴィオのことを知ろうとしてくれてるなんて、あたしも嬉しい! 良ければあたしもお手伝いするよっ」

 

 アインハルトの変わり具合を、ダイチとスバルは満面の笑みで歓迎した。

 しかしここで、ベース内にけたたましいサイレンが鳴り渡った! 途端に顔をはねあげるダイチとスバル。

 

「これは、怪獣出現の警報!」

 

 ダイチの言葉を肯定するように、ベース内放送でアルトの声が響く。

 

『エリアN2-M3の山岳地帯から怪獣出現! タイプB、体長約60メートル!』

 

 ダイチは即座にエクスデバイザーを引っ張り出し、オペレーション本部に要請した。

 

「映像をこっちに回して下さい!」

『了解』

 

 すぐさまデバイザーに、エリアN2-M3の上空を、鉄塔をくわえて横切る赤い鳥型の怪獣の姿が映し出された。

 それを見て、ダイチが冷や汗混じりにつぶやく。

 

「火山怪鳥バードンだ……! こいつは厄介な奴だぞ……!」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はテレビで大活躍したウルトラマンエックスだ!」

エックス『私の紹介みたいで、何だか気恥ずかしいな』

ダイチ「エックスは『新・ウルトラマン列伝』内のドラマ『ウルトラマンX』の主人公! 大空大地とユナイトして、色んな怪獣や宇宙人を相手に戦ったぞ!」

エックス『『ウルトラマンX』は大地とエックスのバディものというコンセプトで撮影されたんだ!』

ダイチ「そのためエックスは前作のウルトラマンギンガやビクトリーと違ってよくしゃべり、大地とコミュニケーションを取ってたんだ」

エックス『一番の特徴は動作や演出にXの字形がふんだんに盛り込まれてることと、必殺技のザナディウム光線だな。これには怪獣をただ倒すのではなく、スパークドールズに変える効果があるんだ!』

ダイチ「『怪獣との共存』が作品のテーマであることを示す能力だね!」

ダイチ「他にもXioの技術と合体してモンスアーマーを身に纏ったり、十二話からエクシードXという形態になったりと、様々な姿をお茶の間に披露してたね!」

エックス『今度の映画では、ベータスパークアーマーという新たなアーマーを見せてくれるぞ!』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 産卵のために、マグマの中から現れた、火山怪鳥バードン。その鋭いクチバシがXioを、そしてウルトラマンエックスを苦しめる! ミッドチルダの魔法技術がエックスの力になる時がやってきた! 次回、『可能性のかたまり』。


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可能性のかたまり

 

「今から十五年前、『ウルトラ・フレア』が引き起こした次元震によって、『スパークドールズ』の多くが怪獣化してしまうという大災害が起きました」

「そして、管理局は『Xeno invasion outcutters』、『Xio』を設立しました!」

「……自称『覇王』イングヴァルトによる連続傷害事件?」

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせていただきたいことが」

「そんな数百年分の後悔が……私の中にあるんです」

「強くなるんだ。どこまでだって!!」

「はじめまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

「だから……相手への『理解』のこと、もっと私に教えてくれないでしょうか」

「火山怪鳥バードンだ……!」

 

 

 

『可能性のかたまり』

 

 

 

 バードン出現の報を受け、Xio特捜班は直ちにエリアN2-M3へ向けて出動。ダイチとスバルはジオアラミスで、ワタルとハヤトはジオアトスで発進した。

 

「ジオマスケッティ、スタンバイ!」

 

 ジオアトスの方で、運転するワタルがマスケッティの発進を要請した。

 Xioベースは要請を承認。それに従い、Xioベースの格納庫でジオマスケッティがベースの屋上へ向けてせり上がっていく。

 

[ジオマスケッティ、オンザウェイ]

 

 XioベースのX字型の屋上は滑走路となっている。マスケッティは無人で滑走路を走り、大空へと発進した。

 

「ジオアトス、ジョイントゥジオマスケッティ!」

 

 マスケッティが飛んでくると、ジオアトスは空中に浮き上がってマスケッティの後方につく。そしてトラクタービームに導かれてマスケッティのジョイント部分に滑り込み、ジョイント。

 

[スカイマスケッティ、コンプリート]

 

 これぞジオマスケッティのハイテクノロジーシステム。通常時のマスケッティに操縦席はなく、Xioベースの承認後にAIの自動判断で飛行する。しかしマスケッティだけでは火器の使用は出来ない。操縦席となるジオアトス等のXio専用車がジョイントして、初めて戦闘機となる。つまりマスケッティを動かすには、車両側とベース側にそれぞれ人員がいなくてはならない。質量兵器であるジオマスケッティを運用する上での二重のセキュリティシステムなのである。

 

 

 

 スカイマスケッティに先んじて発進したジオアラミスが現場に到着。そこでは、バードンがエネルギー中継の鉄塔を引き抜き、クチバシで激しくつついているところだった。

 山間部のエリアN2-M3には、バードンが集めた鉄塔や家屋などで作られたと思しき瓦礫の山が横たわっている。果たしてあれは何なのか。

 アラミスからは怪獣の分析役のラボチーム、つまりダイチ、シャーリーとマリエル、護衛のスバルが降りる。

 

「ダイチ、バードンの能力は?」

「口から高熱火炎……鋭いクチバシと頬袋には毒がある。どれも強力な武器だ!」

 

 スバルの質問に、怪獣の専門家のダイチは迅速に答えた。

 

 

 

 オペレーション本部では、カミキとクロノが命令を下す。

 

「まずは基本通りの追い払いだ。本来の生息地へ戻らせろ!」

「ラボチーム、バードンの生息地は?」

 

 

 

 クロノの問いに、バードンの情報を検索したマリエルとシャーリーが返答する。

 

「火山の地底、マグマの中です!」

「でも、何でいきなり地上に?」

 

 ダイチはバードンへエクスデバイザーのセンサーを向け、生体情報を調べる。するとサーモグラフィーが、バードンの腹部が異様に冷めていることを表示した。

 

「腹部の温度が低い……」

 

 ダイチのひと言に、マリエルが疑問を抱く。

 

「それは変ね……。生息地がマグマの中なら、体温は高温のはずでしょう。熱を放出しやすい末端より身体の中央の方が低温というのも妙だわ」

 

 シャーリーがデバイザーの情報を分析して、ある事実を突き止めた。

 

「卵ですよ……バードンは卵を抱えてる!」

「そうか! 卵を温めるんじゃなくて、反対に冷やして孵すのね!」

 

 とマリエル。火山内という高温の環境で生きる、超生物ならではの常識外の生態であった。

 

「だから地上に出てきた……産卵するために!」

「あの瓦礫の山は、バードンの巣なんですね……」

 

 バードンが瓦礫の山に、曲げた鉄塔を運んでいくのを見やるダイチとスバル。そこに、スカイマスケッティが空の彼方から到着した。

 同時にハヤトがレーダーで、巣の中に熱源がいくつもあることを発見した。熱源は、どれも人の形をしている。そのまま人間だ!

 

「バードンの巣には民間人が閉じ込められてます!」

 

 ハヤトはその事実を本部へ報告した。

 

 

 

 思わずカミキと顔を向き合わせたクロノは、マスケッティへ指示する。

 

「救出方法を見つけるんだ!」

『近づいてみます!』

 

 マスケッティがバードンの巣へ接近していく中、アルトがカミキとクロノに呼びかける。

 

「あの、隊長、副隊長……」

「どうした?」

「あの子のことなんですけど……」

 

 アルトが目で示した先にいるのは、ダイチを訪ねてやってきたアインハルトであった。戸惑いながらも本部の隅にいる。

 

「どうして民間人の子供がここに?」

 

 クロノの問いかけにルキノが答える。

 

「ダイチ隊員のお客さんで、エマージェンシーの際に本部までついてきちゃったみたいで……大人しくしてますけど、やっぱり外に出した方がいいですよね」

「あ、あの!」

 

 その時に、アインハルトが発言した。

 

「わ、私は大人しくしてますから……ここにいさせてもらえませんか?」

「……どうしてだい、お嬢ちゃん」

 

 カミキがアインハルトに目線の高さを合わせながら尋ねた。アインハルトは次の通り返答する。

 

「ダイチさんたちのことが心配で……ダメ、でしょうか……」

「……」

 

 カミキはしばし考えてから、答えた。

 

「騒がずにじっとしていられるのなら、構わないよ」

「! ありがとうございます!」

 

 バッと頭を下げてお礼を言うアインハルト。モニターの前まで戻ってきたカミキに、クロノが囁きかける。

 

「寛容ですね、隊長」

「……子供の要望は、出来る限り叶えてやりたい」

 

 そのカミキのひと言に、クロノはやや気まずそうに目を伏した。

 

『ケエエオオオオオオウ!』

 

 巣への接近を試みるマスケッティだったが、バードンが目敏く火炎を吐いて攻撃してくるので、とても近づけないでいた。生物の本能として、巣を守ろうとしているのだ。その時の生物は特に凶暴だ。

 

「バードンに攻撃を加えれば、囚われてる民間人に危険が……!」

「どうにかバードンの動きを封じる方法はないものか……ラボチーム!」

 

 カミキがラボチームに問いかけると、シャーリーが案を出した。

 

『新開発の怪獣捕獲用粘着剤があります! 動きを封じるなら打ってつけですよ!』

「粘着剤……トリモチのようなものか。なるほど、使えそうだな」

 

 採用するカミキ。どんなに力が強い怪獣とて、ベタベタ身体にくっつく粘着剤を剥がすのはそう簡単にはいかないだろう。

 

『一旦巣から離したところに、粘着剤を召喚して頭から被せるのはどうでしょうか?』

『誘き寄せるのは、光子砲で威嚇射撃するのがいいと思います!』

 

 シャーリーに続いてスバルも意見すると、カミキはおもむろにうなずいた。

 

「よし、ではスバルがバードンを引きつけ、巣から離れたところで粘着剤を被せる。目標が動けない間に民間人を救出せよ! スカイマスケッティは目標を警戒し、万一の時は翼を攻撃して移動を阻止せよ!」

『了解!』

 

 カミキの作戦通りに、特捜班が行動開始した!

 

 

 

(♪ZATマーチ(コーラス付))

 

「こっちは準備オッケーだよ、スバル!」

 

 シャーリーとマリエルが大量の粘着剤の召喚の用意を手早く済ませた。怪獣相手の現場では何が必要となるかわからないので、Xioベースには大量の物資も魔法陣を介して現場に送り込めるシステムが設けられているのだった。

 

「了解! よーし……!」

 

 スバルはアラミスからジオバズーカを引っ張り出すと、姿勢を下ろして照準をバードンの巣の手前に合わせる。

 

「発射!」

 

 引き金を引くと、バズーカから光子弾が放たれた! 威嚇目的なので何もないところで炸裂するが、爆発が巻き起こす閃光と爆音、硝煙はバードンを驚かすのに十分だった。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 攻撃を受けたと思ったバードンは、外敵を排除するために一旦巣から離れ、スバルの方へと飛んでくる。

 

「スバル、隠れて!」

「うん!」

 

 ダイチの呼びかけでスバルはマッハキャリバーで走り、素早く退避。その直後にシャーリーが召喚を行う。

 

「座標をしっかり確認して……今だっ! 特製粘着剤!」

 

 バードンの頭上に大型のミッドチルダ式魔法陣が展開され、その中央からそれこそトリモチのような粘着剤が投下された。粘着剤は綺麗にバードンの脳天に落下し、身体全体に広がってベタベタとくっつく。

 

「ケエエオオオオオオウ!?」

 

 バードンは翼が上手く羽ばたかなくなって飛んでいられなくなり、地上に不時着。身体に貼りついた粘着剤を剥がそうとするも、もがけばもがくほど粘着剤はよりひっついていく。

 

「やった! 成功だ!」

 

 ぐっとガッツポーズを取るダイチ。スバルにはカミキが指示を下す。

 

『今の内だ! スバルは民間人の救助を!』

「了解です!」

 

 バードンが釘付けになっている間にスバルが巣へと走っていく。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 バードンはなおももがいているが、粘着剤を剥がせそうな気配はない。スバルによる救出が完了するまでそうしているように、とダイチは願ったのだが、

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 業を煮やしたのか、バードンは口からの炎を自分に向け、粘着剤を焼き払ってしまった!

 

「ああ!? まずいっ!」

 

 焦るダイチ。巣では、まだスバルが救助活動中なのだ。このままでは彼女が危ない!

 

「攻撃します!」

 

 しかしすかさず攻撃したのはマスケッティ。光子砲を上から翼に浴びせて、巣へ向かわせないようにする。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 結局バードンは飛び上がるが、砲撃されたことで標的をマスケッティに向け、そちらを追跡していく。

 

「俺もバードンを追います!」

「あっ! ダイチくん!」

 

 ダイチもまた、バードンを追いかけてアラミスから離れていった。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「このまま巣から引き離すぞ!」

 

 バードンは火炎弾を乱射してくるが、ハヤトの巧みなターンによりかいくぐることに成功。すれ違いざまに光子砲を叩き込む、ドッグファイトを展開。

 光子砲を浴びたバードンは、背景の山々の上空へと飛び去っていく。

 

「逃げた!」

 

 ワタルはそう言うが、オペレーション本部へ駆けつけたグルマンは否定した。

 

『いや! 産卵間近の鳥が巣を捨てるとは思えん。一旦姿を隠してから、マスケッティに奇襲をかけるつもりだろう』

 

 グルマンの意見により、マスケッティは追撃を行う。

 

『ワタル、バードンは見えるか?』

 

 クロノの問いかけでワタルはバードンの行方を確かめるが、

 

「いえ……レーダーにも反応がありません」

 

 気がつけば、バードンの姿がどこにも見えなくなっていた。あれほどの巨鳥が、どこへ隠れたのだ?

 疑問に思ったその時! バードンは地面を突き破って土中から飛び出してきた!

 

「!? 真下だっ!」

 

 マスケッティは咄嗟に回避行動を取るが間に合わず、真下からのバードンのクチバシによる突き上げを食らってしまった!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 機体を大きく損傷したマスケッティは火を噴きながら墜落していく!

 それを目の当たりにしたダイチが焦る。

 

「まずいっ!」

『ダイチ、ユナイトだ!』

 

 エックスが叫び、ダイチはエクスデバイザーを持ち上げる。

 

「でも俺高いところが……」

『そんなこと言ってる……!』

「場合じゃないよな……!」

『よし……!』

「『行くぞっ!」』

 

 ダイチはエクスデバイザーを前に突き出し、上部のスイッチを押した。するとデバイザーの金縁が開き、X字状になって光の粒子を発生させる!

 光の粒子は一点に集まっていき――ウルトラマンエックスのスパークドールズとなった。それを握り締めたダイチは、デバイザーのリード部分に押し当てる。

 エックスの紋章が生じ、人工音声が唱えた。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

 

 スパークドールズのデータを読み込んだデバイザーを掲げるダイチ!

 

「エックスーっ!!」

 

 X字の閃光がダイチから発せられて、身体がウルトラマンエックスのものへと再構築、巨大化していく!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 変身を果たしたエックスは、急激に落下していくマスケッティをはっしと受け止めた。

 もう駄目だと思っていたワタルとハヤトは、唖然とエックスを見上げる。一方エックスは、ゆっくりとマスケッティを地上に下ろした。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 その背景の空では、マスケッティを排除したバードンが巣へと戻ろうとしていた。

 

 

 

 本部では、何が何でも巣で産卵しようとするバードンの姿を見つめたカミキがつぶやいていた。

 

「卵を抱えた個体を相手にする……今回が初めてだ」

「……有害生物は、まずメスの個体を減らすのがセオリーです」

 

 そう語ったのはクロノ。

 

「よく知ってる。卵を抱えているからこそ……我々はそれを駆除しなければならない」

 

 そう言いながらも、重い表情のカミキとクロノ。

 

「……ダイチさん……」

 

 彼らの言葉を聞いていたアインハルトは、困惑した顔つきで現場を映すモニターを見守っていた。

 

 

 

「大丈夫ですか!? さぁ、掴まって!」

「あ、ありがとう……!」

 

 巣ではスバルがウィングロードを張り巡らせながら、救助活動を行っている真っ最中であった。ロードの上を駆け巡って被害者たちを巣の外へ逃がしているのだが、そこにバードンが降りてくる。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「あっ!」

 

 スバル危うし! だがその時、

 

「セァーッ!」

「ケエエオオオオオオウ!?」

 

 エックスが跳躍し、空中でバードンにタックル! それによりバードンを巣から払いのけ、着地点をそらすことに成功した。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「ヌオッ!」

 

 バードンは新たな邪魔者を排除しようとエックスへ襲いかかる。エックスは相手の頭部を両手で抑え、攻撃を阻止しようと試みる。

 

「ウルトラマンエックス……! ありがとうっ!」

 

 助けられたスバルは、エックスがバードンを抑え込んでいる間に救助を完了させようと、ピッチを速めた。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「ヌゥッ!」

 

 一方でバードンにしがみつくようにして食い止めるエックスだが、バードンは筋力にも優れる強敵怪獣。そのパワーに振り回されてしまう。

 更に、鋭いクチバシによる刺突がエックスに襲いかかる! クチバシには猛毒がある!

 

「ウオッ!」

 

 バードンの火炎に並ぶ最大の武器に、エックスも苦しめられ早くも窮地に立たされる。

 

 

 

 本部では、バードンの攻撃に対処するべくクロノがグルマンに尋ねる。

 

「博士、あのクチバシを封じる方法は!?」

「ない! ……いや、待てよ……エックスは身体をデータ化できるとダイチが言ってたな。ならば……」

 

 一度断言したグルマンだったが、すぐに思い直して近くの端末を操作し出した。その画面には、デバイスゴモラのデータが表示される。

 

「デバイス怪獣にはインテリジェントデバイスのデータを流用している。バリアジャケットも然り……。こうやって手を加えれば……」

 

 素早くデータの一部を書き換えたグルマンは、カミキに問いかけた。

 

「デバイスゴモラとエックスを合体させてもいいか?」

 

 予想外の提案に、カミキも一瞬呆気にとられた。

 

「そんなことが可能なのか!?」

「物は試しだ。マリー、シャーリー!」

 

 

 

 グルマンから送られてきたデータを、シャーリーとマリーが受け取る。

 

「シャーリー、データ転送よ!」

「はい! エックスさーん、受け取ってー!」

 

 シャーリーのジオデバイザーがエックスに向けられ、データが飛ばされた!

 データはエックスの中の、ダイチのエクスデバイザーにしっかりと届いた。デバイスゴモラのカードが実体化し、ダイチが手に取る。

 

『何だ、これ?』

 

 エックスはそれが何かわからなかったが、ダイチは当然理解する。

 

『「……すごいなエックス! デバイス怪獣のデータも受信できるのか」』

『これを、どうしろって?』

『「……俺だけでは無理でも、エックスとなら! やってみるぞエックス!」』

『おいおい! だから何を!』

『「頼むぞ、ゴモラ!」』

 

 デバイスカードをデバイザーに挿入するダイチ。するとデバイザーが読み上げる。

 

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 即座にエックスの身体を、スピナーつきのクローとローラーブーツ、青いラインと黒い胸部、白い肩部の装甲型ジャケットが覆った!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 それは、ウルトラマンサイズのバリアジャケットであった。

 

『「大成功!」』

『ちょっと、何だよこれ!?』

『「ミッドチルダの魔法技術とウルトラマンのコラボ! 名付けてモンスジャケット、ゴモラキャリバー!」』

 

 ゴモラキャリバーを装着したエックスは、改めてバードンに挑む!

 今のエックスの姿を、スバルが一瞬唖然として見つめた。

 

「あのジャケットは……。マッハキャリバー! 君の兄弟のデバイスがエックスに!」

 

 思わず興奮するスバル。そう、グルマンはデバイスゴモラの中のマッハキャリバーのデータを前面に出すことで、デバイスゴモラをバリアジャケット化したのであった。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 バードンはクチバシでエックスに刺突を食らわせるが、ゴモラキャリバーの装甲はバードンの鋭利なクチバシをも弾き返して一切通さない。

 

「セアァッ!」

 

 逆にクローの攻撃がバードンを追い詰めていく。回転するスピナーがパワーを引き上げ、威力は倍増だ!

 

『使えるじゃないか!』

『「ゴモラとマッハキャリバー、いいだろ?」』

『ちょっと重いけどな』

 

 クチバシが効かないなら、とばかりにバードンは火炎を吐いてきた。しかし手甲から発生した魔法障壁が火炎を払いのけた。

 

「ケエエオオオオオオウ!」

 

 手段をなくしていくバードンは大空へ飛び上がって急加速。空からの加速をつけた突進を食らわせるつもりか。

 

「シェアッ!」

 

 するとエックスから、空色の光の道が生じてバードンの前方へと伸びていく。

 スバルの先天魔法ウィングロード。ついでとばかりに入れられたそのデータも、今エックスの武器となっているのだ!

 エックスはブーツの車輪の回転によってウィングロードの上を走っていき、バードンへと自分の方から突っ込んでいく。

 

「ケエエ!?」

 

 バードンは空を走ってくるエックスの姿に目を白黒させた。そこに、エックスがとどめの一撃を繰り出す!

 

『「超振動拳!」』

「イィィィ―――ッ! シャァ――――――――ッ!」

 

 突き出されたクローから強烈な振動波が流し込まれ、バードンは一瞬の内に爆発! そして飛び散った光が集まっていき、バードンはスパークドールズに戻った。

 ウィングロードが消え、着地したエックスからゴモラキャリバーが消失。そしてエックスは大空に飛び立ち、去っていった。

 

 

 

 作戦は終了。民間人は無事に全員救助され、死者は一人も出なかった。事件は見事終息したのであった。

 Xioベースに帰投したダイチの元に、アインハルトが駆けつけた。

 

「ダイチさん!」

「アインハルトちゃん、俺を待っててくれたんだ。ありがとう」

 

 アインハルトは、ダイチの手中にバードンのスパークドールズがあるのを目に留めた。

 

「ダイチさん、それは……」

「バードンさ。エックスはバードンを殺したんじゃなく、この姿に変えたんだよ。この姿でなら、卵と一緒に生きられる。親子一緒に」

 

 と語るダイチだが、アインハルトは疑問を呈する。

 

「でも、人形ですよ。生きてると言えるんですか?」

「確かに、いつまでもこのままって訳にはいかない。でも、いつか元に戻す技術を、共存できる方法も発見する。……豊かな世界なんだ。恵みを分け合える方法はきっとある。俺はそれを探していく。エックスが、時間をくれたんだから」

 

 その言葉を受けて、アインハルトはつぶやく。

 

「倒すのではなく、理解する……その可能性を、ダイチさんは探していくんですね」

「ああ。この世界は可能性のかたまりだからね。俺はそう信じてる」

 

 ダイチの言葉に、アインハルトは思考する。

 

(可能性……私も、本当の強さの可能性を探していこう……ダイチさんみたいに)

 

 アインハルトはダイチの顔を見上げて、己に誓ったのだった。

 

 

 

 エリアT7-Bの、地下道の工事現場。大勢の作業員が開拓中の地下トンネルの中に入っていき、猫車で土砂を運んだりドリルで岩石を砕いたりなどの作業を続けている。

 複数のドリルの振動が合わさり、更に地下深くへと伝わっていく。その先には、ある地底怪獣のスパークドールズ、そして……一個の石碑が埋まっていた。現在の世では、それが何のために作られたのかも忘れられたものだ。

 上から伝わるドリルの振動によって、古ぼけた石碑の表面にひび割れが起こる。

 すると……そのひびから、何か「黒いもの」が、誰にも知られない中、ゆっくりと漏れ出てきた……。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はゴモラだ!」

ダイチ「ゴモラは『ウルトラマン』第二十六、七話「怪獣殿下」から登場した人気怪獣! 大怪獣バトルの主役にも抜擢されたんだ!」

エックス『元々は人畜無害だった怪獣だから、近年では味方の怪獣となることが多いな』

ダイチ「『ウルトラマンX』でも主人公・大地の大切な友達として物語の重要な鍵を握ったんだ。サイバーゴモラというバリエーションも登場したぞ!」

エックス『サイバーゴモラはゴモラアーマーとしてエックスを助けたな!』

ダイチ「第十九話「共に生きる」ではスパークドールズの実体化実験のモニターとして選ばれたけれど、ダークサンダーエナジーとM1号の介入で大変な事態になってしまったんだ……」

エックス『この話は、共存のあり方とその難しさを描き出していたな』

ダイチ「ゴモラは映画でも、その勇姿を見せてくれるのかな」

エックス『うむ、気になるところだ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 地底怪獣テレスドンを操る謎の女……その攻撃に、街から明かりが奪われていく! 暴れ回るテレスドンを倒すために出す、新たなモンスジャケット。それは……。次回、『夜を呼ぶ歌』。


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夜を呼ぶ歌(A)

 

「今から十五年前、ウルトラ・フレアによって、大災害が起きました」

「自分をデータ化して、宇宙空間を飛んできたってこと?」

「どうして俺を選んだの?」

『君自身が持つ周波数に引きつけられていた気がする』

「はじめまして……。アインハルト・ストラトスです」

『エリアN2-M3から怪獣出現!』

「あいつはここに巣を作ってる!」

「ケエエオオオオオオウ!」

「囚われてる民間人に危険が……!」

「デバイスゴモラとエックスを合体させてもいいか?」

「そんなことが可能なのか!?」

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 

 

『夜を呼ぶ歌』

 

 

 

 十五年前――それはウルトラ・フレアの影響により大怪獣災害が発生した年であり、ダイチ・オオゾラの両親が消失してしまった年であり、スバル、ギンガ姉妹がナカジマ家に引き取られた年であり……ダイチとスバルが出逢った年なのだ。

 

 

 

『ダイくん、こんなところにいたんだ』

 

 ある日のこと、公園の片隅で、独りでケース入りのゴモラのスパークドールズを抱えているダイチの元へスバルが近寄ってきた。

 

『また独りでいるんだ……。そんな怪獣の人形を持ち歩いてるから、ダイくん友達が出来ないんだよ。そんなの、管理局に渡しちゃえば?』

 

 この当時は、未曽有の怪獣災害が発生したばかりであったので、人々の怪獣への嫌悪の感情は最も大きかった。そんな中でスパークドールズを片時も離そうとしないダイチが忌み嫌われ、孤独になるのは当然のことであった。普通に会話するのは、スバルたちナカジマ一家くらいのものだった。

 ダイチのことを心配してのスバルの言葉だったが、ダイチは首を横に振った。

 

『ゴモラは、いなくなったお父さんが僕に託したんだ。それに、ゴモラは友達なんだよ。友達を知らない人に渡したりするもんか』

『怪獣が友達って……。みんな、怪獣は人間の敵だって言ってるよ? あんなに大きくて乱暴なのに、友達になんてなれるわけないよ』

『それは違う』

 

 スバルのひと言を、ダイチは険しい表情で否定した。

 

『お父さんが言ってたんだ。同じ世界に生きるもの同士、共存できる道はきっとあるって。大きくなったら、僕がその言葉を……本当にするんだ』

 

 固い決意のこもった言葉だったが、スバルは手がつけられないとでもいう風に肩を落とすだけだった。

 

 

 

 それから十五年の時を経て、ダイチは怪獣の専門家となり、ガオディクションを開発し、Xio隊員として夢の実現のために邁進している。――だが、その実現は、まだまだほど遠いのである。

 

 

 

 オペレーションベースXのラボの一画に設けられた、グルマンの個人スペース。敷き詰めた畳に寝転がって食後の昼寝をしているグルマンの元に、ウェンディとディエチがやってくる。

 

「グルマン博士、起きて下さいっスよ~。対怪獣用の新型カートリッジの件、どうなったっスか?」

 

 ウェンディが寝ているグルマンの身体を揺すって問いかけるが、グルマンは一切目を覚まさないままウェンディの手を払いのけた。

 

「駄目。ファントン星人は、食後の昼寝に入ったらテコでも起きないから」

「はぁ~……ホント、この習慣には困るっスねぇ……」

 

 ディエチのその一言に、ウェンディは大きなため息を吐いたのだった。

 グルマンはそんな風に言われていることなどは露知らずに、すやすやと眠り続けていた。

 

 

 

 ベース内のトレーニング施設では、定期訓練を一通り済ませたスバルが、父親のゲンヤと通信をしていた。

 

『スバル、お前がXioに転属してから結構経つが、もうそっちには慣れたか? 怪獣相手の仕事はかなりきついと聞いてるが』

「うん! みんないい人たちばかりだからね。ノーヴェたちだっているし、ダイくんもね」

 

 スバルがダイチの名前を出すと、ゲンヤは彼のことについて尋ねる。

 

『ダイチが我がナカジマ家を出てからも大分経つな。お前から見て、あいつも元気でやってるか?』

「うん、元気は元気だけど……ちょっと働きすぎなところがあるかなぁ」

『やっぱりそうか。ダイチは昔から一生懸命が過ぎがちだからな。両親のことがずっと気がかりなのか、どこか他人行儀なところが抜けなかったし……どうにも心配だ』

 

 腕を組んで息を吐いたゲンヤは、スバルにこんなことを言う。

 

『名実ともにナカジマ家入りしてくれたら、多少は安心なんだがな。スバル、お前がどうにかしてやってくれないか? ダイチとなら、俺は何の反対もないぞ』

「えっ、えぇぇぇ!?」

 

 途端にスバルは赤面してあたふたする。

 

「もう、やめてよお父さん! あたしは別にダイくんとはそんなんじゃ……」

『ははは、冗談だ。まぁとにかく、ダイチのことをよろしく頼んだぞー』

 

 快活に笑ったゲンヤが通信を終えると、スバルははぁと長く息を吐いて気分を落ち着かせた。

 

「あっ、スゥちゃん」

「うえぇぇっ!?」

 

 だがいきなりダイチから呼びかけられ、思わず声が上ずった。ダイチは面食らう。

 

「ど、どうしたの、スゥちゃん」

「い、いやいや、何でもないよ!? それよりダイくんがど、どうしたの? あたしに何の用かなっ!?」

 

 見るからに動揺するスバルに若干に呆気にとられたダイチだが、気を取り直して抱えてきた荷物をスバルに差し出す。

 

「これ。ラボの荷物に紛れてたから」

「あっ! やっぱり来てたんだ。ありがと!」

 

 受け取った段ボール箱をその場で開封するスバル。中から出てきたのは、

 

「ハイヒール……?」

「へへーん。奮発しちゃったんだぁ。明日のオフに履いてくつもりなの。忘れてないよね? 約束」

「うん。買い物に付き合うって奴でしょ? けど……スゥちゃんがこういうの買うなんて珍しいね」

 

 と言うダイチ。普段のスバルの服装は機能性重視で、ハイヒールを履いている姿は一度も見たことがなかった。

 

「あたしだってこういうお洒落もするよぉ。ふふ、明日は楽しみにしててね」

 

 楽しそうにはにかむスバル。それを見て、ダイチは思う。

 

(ショッピングなら、ティアナさんとかと一緒の方が楽しいと思うけどなぁ)

 

 その時、館内放送が両名の名前を呼んだ。

 

『スバル隊員、ダイチ隊員、オペレーション本部に集合して下さい』

「! また事件かな……」

「かもね……行こう、ダイチ隊員!」

 

 二人はすぐに気持ちを切り換え、本部へと急いでいった。

 

 

 

 本部のモニターには、ミッドチルダの一地区の地図が表示されている。その中にいくつも描かれている赤い円は、『震源地』を示していた。

 それを見つめて、カミキがつぶやく。

 

「またエリアT7-Bか……。局所的な地震が多すぎる」

「ダイチ、君の見解は?」

 

 クロノの質問に、ダイチは次の通り答えた。

 

「電離層の異常が原因かも……。電位数の増減と、活断層の活発化には関係があると言われています」

「かもじゃいかん。情報は正確に。そういうことなので、スバルと一緒に現地調査に向かえ」

「了解!」

 

 クロノの命令で、スバルとダイチの二人は直ちに現場に急行することとなった。

 

 

 

 そして一番新しい震源地の、地下道の工事現場に二人が足を踏み入れていく。

 

「参っちゃいましたよね~。いやそりゃ、地震のせいだっていうのはしょうがないですよ。しょうがないですけど、一個現場を止めちゃえばそれだってただじゃないんですよ。それだってお金かかるんですから……」

「大変ですね……」

「も~、何とかならないかなぁほんとに……。評価下がっちゃうなぁ……」

 

 案内の作業員の愚痴を聞きながら奥へと進んでいくと……ダイチがピタリと足を止めた。

 

「何の音だ……?」

「えっ?」

「ダイチ、どうしたの?」

 

 ダイチは電波受信機の音に集中していた。

 

「宇宙の音に似ている……。でもあんな風に安らぐ感じじゃないんだ。まるで……誰かがすすり泣いてるような……」

 

 ダイチが分析していると、突然現場の照明が一気に、故障したかのように点滅を繰り返した。異様な雰囲気に一行が警戒していると……いつの間にか、進行先に一人の女性が現れていた。地下空間だというのに、サングラスをかけている。

 

「すいませーん! ここは立入禁止区域ですよー!」

 

 作業員が注意するが、女性はそれには一切応えず、胸を広げていきなり叫び始めた。

 

「アァァァァ―――――――――!!」

 

 およそ人の声とは思えないような、不気味な声だった。しかもそれに合わせるように、工事現場全体を震動が襲う!

 ダイチたちが思わずよろめくと、スバルが女性の背後より、巨大な影がせり上がってくるのを見とめた。

 

「あれは!?」

「オオオオウ……!」

 

 人の顔より大きく、爛々と輝く目玉を二つ備えた影。明らかに、怪獣のシルエットだ!

 

「逃げて!」

「うわあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 スバルとダイチは急いで作業員たちを工事現場から地上へと逃がしていく。そして怪獣は、地表の舗装を突き破って夜の街にその全貌を現した!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 全身が蛇腹状で、シャープなクチバシから流線型の輪郭が形成されている怪獣の出現に驚いた市民が一斉に逃げ惑う。

 地上に出たダイチは本部へと報告を行う。

 

「エリアT7-Bに怪獣出現! タイプGです!」

 

 

 

 本部では、カミキが直ちに指令を発する。

 

「フェイズ4! 都市防衛指令発令!」

「スバルはジオポルトスで怪獣の移動を食い止めるんだ! ジオマスケッティ、出動!」

[フェイズ4、都市防衛指令、発令]

 

 クロノの許可により、ジオマスケッティがエリアT7-Bへ向けて発進していった。

 

 

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 怪獣は怪力でビルを倒壊させながら街に侵攻していく。クロノがダイチに指示する。

 

『ダイチ、怪獣の正体を報告しろ』

「体長約50メートル、地底怪獣テレスドンと思われます!」

「ダイチ、ポルトスまで走るよ!」

[Standby, ready. Set up.]

 

 バリアジャケットを展開したスバルが言う。怪獣テレスドンが二人へ向けて溶岩熱線を吐いてきたが、スバルがダイチを抱え上げてマッハキャリバーで急加速したので、回避することが出来た。

 停車してあったジオポルトスに乗り込むスバルとダイチ。スバルがジオデバイザーにポルトスの絵が描かれたカードを挿入する。ジオポルトスの起動キーだ。

 

[ジオポルトス、起動します]

 

 ポルトスのヘッドライトが点灯し、テレスドンへ向けて発進する。

 その途中でマスケッティが駆けつけ、地表すれすれまで降下してきたマスケッティとポルトスが合体する。

 

[ジオポルトス、ジョイントゥ、ジオマスケッティ]

 

 ポルトスの荷台が変形し、レールキャノンが伸びる。更にマスケッティの機首が左右に開き、翼が折り畳まれた。

 

[ランドマスケッティ、コンプリート]

 

 これがジオポルトスと合体した際のホバー戦車形態、ランドマスケッティ。高高度の飛行性能とスピードを犠牲にする代わりに、ファントンレールキャノンからの高威力の砲撃を発射するのだ。

 

「ダイチ、熱源センサーでフォローして!」

「了解!」

 

 スバルが操縦手と砲撃手を担当し、ダイチはセンサーを駆使して照準を合わせる。

 

「十時の方向……。怪獣をロックオン!」

 

 ランドマスケッティがテレスドンの方を向き、キャノンの砲口がピッタリと合う。

 

「ファントンレールキャノン、発射!」

 

 そしてキャノンにエネルギーが充填され、緑色の光弾が発射された!

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 光弾は見事テレスドンに命中し、大爆発を引き起こす! ……が、硝煙が晴れると、テレスドンの姿が影も形もなくなっていた。

 

「あ、あれ? どこ行ったの?」

「後ろだっ!」

 

 ダイチが叫ぶが、その時にはマスケッティの背後の地中からテレスドンが顔を出していた! 地底怪獣テレスドンは、地上よりも地中の方が素早く移動できるのだ!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 背後を取ったテレスドンは、何とマスケッティに食らいついてしまう!

 

「わああぁぁぁぁっ!?」

 

 テレスドンに捕まってしまったマスケッティ。しかもテレスドンはその状態で、溶岩熱線を吐こうとしている。

 至近距離から熱線を食らえば、スバルたちの命はない!

 

「このままじゃまずいよぉ! ダイチ、どうしたらいい!?」

「テレスドンは夜行性の地底怪獣だ! 急激な光の変化に弱い!」

「そうか、照明弾だねっ!」

 

 ダイチの助言により、スバルは即座にマスケッティから照明弾を発射させた。

 複数の照明弾が飛び出し、花火のように夜空をまばゆく照らし出す。

 

「ギャアオオオオオオウ!?」

 

 強い光に驚いたテレスドンはマスケッティを放す。直後に溶岩熱線があらぬ方向に吐き出された。危ないところであった。

 放り出されたマスケッティは道路に激突し、横転する。

 

『ランドマスケッティ、状況を報告せよ! 大丈夫か!?』

「な、何とか……」

 

 クロノの焦った呼びかけに応答するダイチ。スバルはどうにかマスケッティの体勢を立て直したが、

 

「逃げられた……」

 

 その時には、テレスドンは巨体を完全に地中に隠し、マスケッティから逃れていた。

 

 

 

 スバルとダイチが帰投すると、オペレーション本部では工事現場に現れた謎の女の正体解明が行われた。

 

「この女、何者だ……? 明らかにただ者ではない」

 

 モニターに映される女の映像を見つめ、チンクがつぶやく。

 

「今までにも地下鉄の線路内で、何度も目撃情報があったようです」

 

 スバルが隊長らに報告すると、ウェンディが口を開く。

 

「まさか……地底女って奴っスか?」

「何だそれは?」

 

 チンクが振り返って聞き返した。

 

「チンク姉、知らないっスか? 最近流行ってる都市伝説っスよ。地下鉄のホームにいて、見た者を地底に引きずり込んで食べてしまう! って。妖怪みたいなもんっスね」

「馬鹿馬鹿しい。そんなのただの噂話だろ。使い魔とかならともかく、このご時世に妖怪なんて……」

 

 軽くはしゃぐウェンディに、ノーヴェが呆れて肩をすくめた。

 

「何にせよ、この人物と怪獣の関係性を洗い出すのが先決だな」

 

 クロノがつぶやくと、スバルたちに命令する。

 

「過去十日間のT7-Bの全監視カメラ映像にアクセス。ネットのデータも照会するんだ」

「了解!」

 

 スバルたちが調査に取りかかる中、モニターでは女の顔情報の解析が今も続行されていた。

 

 

 

 ラボでは、ダイチがガオディクションでテレスドンの鳴き声の方を分析していた。

 

[ガオディクションを、起動します。テレスドン、解析中]

「……感情ベクトルの大部分は怒りを示してるけど……一部分だけ異なる。この波長は何だ?」

『怒りとは違った感情だな』

 

 ガオディクションの示した情報についてダイチとエックスで話し合う。

 

「……そうか!」

 

 ふと何かに思い当たったダイチは、女の叫びの方にガオディクションを用いる。

 

『なるほど、ガオディクションは怪獣に使えるだけじゃないのか』

[対象音声、解析完了しました]

 

 女の叫びに乗せられた感情とは、

 

「この感情は……悲しみだ。むしろ悲鳴といっていい!」

『テレスドンの波長と一致するな』

「怪獣はこの声の主と同調しているのか……。テレスドンは、仲間のピンチだと誤認したから怒ってたんだ」

 

 怪獣の鳴き声の周波数と同調する……明らかに人間業ではない。果たして、サングラスの女は何者なのだろうか?

 

 

 

 本部では、女の人相と一致する人間が見つけ出されていた。

 

「85%の確率で、骨相が一致しました」

「名前はリョウコ・マブセ。エステサロンの経営者です」

 

 アルトとルキノの報告に、ディエチとチンクが怪訝な顔になる。

 

「エステサロン? 怪獣とはおよそ似つかわしくない……」

「そんな人物が、怪獣とどう関係してるんだ……?」

「潜入して、調べてみる必要がありそうですね」

 

 クロノの言葉にうなずいたカミキが、スバルに目を向ける。

 

「スバル、その役目は君とダイチにやってもらおう」

「えっ? ダイチと……ですか?」

「カップルに扮して、サロンに乗り込むんだ」

 

 カップルと言われ、スバルは一瞬顔が赤らんだ。

 

 

 

 翌日。ダイチとスバルは普段着の姿で、マブセという女のサロンがある区画へと向かった。

 

「あれ? スバル、あのハイヒール履いてきたんだ」

 

 ダイチはふとスバルの履き物に気づいて尋ねた。昨日彼女宛てに送られてきたハイヒールなのだ。

 

「ふふっ。これの方がより普通の女性みたいに見えるでしょ?」

「そうだけど……動きにくくないかな?」

「いざとなったらマッハキャリバーに換えるし、大丈夫だよ。それより……あたしの見た目、どうかな? 変じゃない?」

 

 そっと、耳元の髪をかき上げてダイチに尋ねるスバル。今の彼女は、潜入のためだろうが、メイクをして多少着飾っている。お陰で、普段のボーイッシュな印象は薄れて大人の女性らしさがそこはかとなく漂っている。

 

「……うん、変じゃないよ。むしろ綺麗だよ。これなら向こうも警戒しないだろうね」

「ほんと? えへへ……」

 

 綺麗、と言われて、スバルは頬を朱に染めてはにかんだ。

 サロンから少し離れた地点では、ティアナが二人を待っていた。

 

「あっ、ティア。本当にティアも一緒なんだ」

「ええ。今回は異星人じゃなく、ミッド人による怪獣を利用した犯罪の線もあるから、執務官のあたしも捜査に参加します。……たとえ、相手が死人でも」

 

 死人、という言葉にスバル、ダイチともに険しい顔つきとなった。

 そう……調査の結果、リョウコ・マブセは二ヶ月前に死亡届が出されていたのだ。では、今エステサロンにいる女性は何者なのか? その正体は、まだ明らかになっていない。

 

「ともかく、段取りを確認するわよ」

 

 気を取り直して、ティアナが告げる。

 

「まずは、スバルとダイチさんが客のふりをして女に接触、その間あたしは店の外を見張る。女が抵抗したら捕獲を。万一の場合はあたしを呼んで。いいわね?」

「わかった!」

「それじゃあ、作戦開始といきましょう」

 

 三人がうなずき合うと、ダイチとスバルは若干緊張しながらサロンへと足を向けていった。

 

 

 

 エステサロンの中は完全にカーテンを閉め切り、お香の香りに満たされていた。入店した二人は、椅子に並んで腰掛けて女を待つ。

 やがて、件の女がエステに使うと思しき薬品を乗せた盆を運びながらやってきた。薄暗い室内にも関わらず、やはりサングラスをかけている。

 スバルはまず、テーブルの上の花瓶に活けられた暗い青色の花を話題にして何気ない会話を試みる。

 

「綺麗な、お花ですね……」

「でしょう?」

「お日様に当てなくていいんですか?」

 

 その質問に、女は次のように答える。

 

「植物にはね……太陽光線の他に、闇と冷気が必要なの。今の人間社会には、昼も夜もないでしょう? それが、生き物たちのサイクルを乱してる……」

「そう……ですか」

「世界は偽りの光で覆ってはいけない。人間は傲慢だわ……」

 

 妙に重々しい口振りの女に、スバルは本題に切り込む。

 

「あなたは、誰なんですか……?」

 

 問いかけると、女がゆっくりと振り返った。

 

「本物のリョウコ・マブセさんは、二ヶ月前に事故で亡くなっています。あなたは何者なんですか……?」

 

 すると……女はいきなり怪しい銃を二人に突きつけた!

 スバルは咄嗟にダイチを突き飛ばして射線から逃がし、自身も身を乗り出した。

 女が銃から弾丸でも光弾でもなく、「黒い何か」を撃ったが、スバルの行動でそれは外れる。

 

「マッハキャリバー!」

 

 スバルはマッハキャリバーを取り出してバリアジャケットを展開しようとしたが――。

 履いているハイヒールに横向きの力をかけたため、ヒール部分が床と滑り、バランスを崩してしまった。

 

「あっ!?」

 

 それによりスバルは転倒。マッハキャリバーが手中からこぼれ落ちた。

 女はその隙にスバルへ銃口を向ける――。

 

「スバルっ!」

 

 咄嗟にダイチが女を抑えつけようとしたが、女はダイチに手の平をかざすと、波動のようなものを出した。それを浴びたダイチがたちまちの内に昏倒した。

 

「だ、ダイチっ!」

 

 焦ったスバルはマッハキャリバーを拾い直してバリアジャケットを装着。だがそれを見るや、女はすぐに玄関へ向けて逃走していく。

 

「あはははは……!」

「くっ……!」

 

 一瞬追いかけようとしたスバルだが、ダイチを放ってはおけない。彼を介抱して容態を確かめる。幸い、気絶させられただけで命に別状はないようだ。

 スバルはティアナに連絡を取る。

 

「ティア、被疑者がそっちに逃げた!」

『わかったわ!』

 

 店の外を張っているティアナが応答したが……やがて聞き返してくる。

 

『スバル、本当に外へ逃げたの? 誰も出てこないわよ!』

「えっ!?」

 

 一つしかない出入り口から出ていく女をティアナが見逃すはずがない。だがスバルが店内を調べても、やはり女はどこにもいなかった。転移の痕跡もない。

 

「やられた……!」

 

 どういう手段を用いたかはわからないが、まんまと逃げられたことを悟ったスバルは己のミスを悔やみ、同時にダイチを守れなかったことで自身を責めたのであった。

 



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夜を呼ぶ歌(B)

 

「敵の潜んでいる可能性のある場所に、ヒールの高い靴を履いていくなんて、君らしくないミスじゃないか」

『申し訳ありません……』

 

 マブセに化けている女を逃がした経緯について、通信越しにスバルがクロノに謝罪した。次いで、カミキが指示する。

 

「警戒態勢はフェイズ2を維持。引き続き、逃げた女を追え」

『了解です……』

 

 スバルの声が沈んでいたので、ウェンディとノーヴェがひそひそと言葉を交わす。

 

「スバル、大丈夫っスかね? 大分落ち込んでたみたいっスけど」

「向こうにはダイチとティアナがいるんだし、どうにかしてくれるだろ。多分……」

 

 ノーヴェたちが気を揉んでいると、グルマンがオペレーション本部へと入ってきた。

 

「全く、こう忙しいと一日三度の食事もゆっくり食べられん」

「昼寝の時間はきっかり取るくせに……」

「何か言ったか?」

「何でもないっス」

 

 振り向いたグルマンから、ウェンディは目をそらした。

 

「それはともかく、注文の新型カートリッジが出来上がったぞ」

「おっ! 遂に完成したっスね! 流石っス、博士!」

 

 グルマンがデスクの上に置いた銀と赤のカラーリングのカートリッジに、N2Rの四人は興味津々となる。調子のいいウェンディはグルマンを持ち上げた。

 カートリッジを観察したチンクが指摘する。

 

「このカートリッジの色合い……ウルトラマンに似てますね」

「如何にも! 私がウルトラマンエックスの力を解析して、再現した魔力を込めたものだからな。わかりやすくするために、色取りを似せたのだ」

 

 肯定したグルマンは、カートリッジの名前を告げる。

 

「名付けて、ウルトライザー・カートリッジ! 使用すると、攻撃魔法にウルトラマンの力が上乗せされて威力が格段に跳ね上がる。やっぱり私は天才だな!」

「おぉー! これでマスケッティに乗ってなくても怪獣にダメージを与えられるって訳っスね!」

「ジオマスケッティ、一機しかないものね」

 

 苦笑するディエチ。

 ウルトライザー・カートリッジがあれば、Sランク未満の魔導師が戦力として数えられるようになるということになる。これでXioのますますの活躍が見込めるだろう。

 

 

 

 夕方、回復したダイチはティアナにスバルのことを尋ねていた。

 

「ティアナさん、スバルの様子はどうでしょうか……?」

「結構へこんでますね……。あんなミスしたのを、相当悔やんでるみたいです」

「そうですか……」

 

 スバルを案ずるダイチに、ティアナは呼びかけた。

 

「スバルのこと、ダイチさんが励ましてやって下さい」

「えっ、俺が? そういうことは、親友のティアナさんが一番適してると思いますが……」

「いいからいいから。スバルのこと、お願いしますね」

 

 半ば強引にスバルのところへと突き出されたダイチは、公園のテラスに腰掛けて沈んだ表情をしているスバルに話しかける。

 

「スゥちゃん、さっきは俺、役に立てなくてごめんね。早々にやられちゃって……」

「ううん。あたしの方こそ、あんな初歩的なミスしてダイチを守れなくてごめん。あんなことにならないために、あたしがいるはずだったのに……」

 

 スバルはダイチが目の前でやられたことを気に病んでいるようだった。困ったように一瞬目が泳いだダイチは、話を変える。

 

「ところで、どうして急にハイヒールを履く気分になったの? 今まで興味なんてなさそうだったのに」

 

 すると、スバルはダイチにこう聞き返す。

 

「ねぇダイくん……あたしって、女らしいって思う?」

「えっ? それは……」

「思わないよね。実はあたし、訓練校時代に、同期があたしについて話し合ってるのをたまたま聞いちゃってさ」

 

 自嘲気味にスバルは語った。

 

「スバル・ナカジマは女らしさが全然ない、交際相手にはああいうのはごめんだ、って」

「……それは……」

「あたしだって、これでも女性だから、それが割とショックでさ……。機動六課時代は色々大変だったし、思い出さないようにしてたんだけど、日に日にあの時の言葉が気になってきちゃって……それで背伸びしちゃったんだ。そのせいで大失敗しちゃった訳だけど……」

 

 スバルはチラッとダイチの顔を一瞥した。

 

「ダイくんも、あたしみたいな女らしさのない子は嫌なのかな……?」

 

 そう聞かれて、ダイチは、答えた。

 

「そんなことないよ」

「えっ……」

「スゥちゃんは人の命を助けるために精一杯頑張ってる、素敵な人だよ。女らしいとからしくないとかなんて表面上だけのことは、その前じゃどうだっていいことさ。だからありのままの自分に、もっと自信を持つべきだよ」

 

 ダイチの言葉に、スバルは少し顔を明るくした。

 

「ほ、ほんと? あたしって、そんなに素敵なのかな……?」

「もちろん! いつも一生懸命で何があっても諦めないところ、俺は尊敬してるし、スゥちゃんのそういう点が魅力的だと思うよ」

「魅力的……そう、そうなんだ……。えへへ……」

 

 誉めそやされたスバルは、頬を緩めて柔らかくはにかんだ。その表情からは、暗い陰が消えてなくなっていた。

 だがこの時に、二人を突然の小刻みな地震が襲う。

 

「! 今のは……!」

「スバル! ダイチさん!」

 

 すぐに駆けつけてくるティアナ。ダイチとスバルは彼女にうなずき返し、そろって公園から飛び出していった。

 

 

 

 完全に日が沈んだ時刻になって、ダイチたち三人は街の中央の路上で件の女を発見した。

 

「あそこだ!」

「今度は逃がさないわよ! 大人しく投降しなさい!」

 

 ティアナが己の二丁拳銃型インテリジェントデバイス、クロスミラージュを女に突きつけたが、女は無視するかのように言い放った。

 

「見ろ! この世界を!」

 

 辺りをねめ回す女。周囲の光景にあるのは、いくつもの街灯の輝き、建物の窓から漏れ出る蛍光灯の光。

 

「毒々しく、騒がしい偽りの光だ。人間は我々から夜を奪おうとしている!」

「な、何を言ってるの……?」

 

 女の奇怪な言動に、スバルたちは不気味なものを感じた。

 

「夜の闇こそ美しい! 夜は……我々のものだっ!」

 

 女の宣言に応じるように、背後からテレスドンが道路を突き破って飛び出してきた!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

「ゆけ、テレスドン! 地上の全てを破壊し、夜を取り戻すのだ!」

 

 女の命令で、テレスドンが溶岩熱線を吐き、辺りを無差別に破壊し始める!

 

「やめさせなさい! 撃つわよ!?」

 

 ティアナがクロスミラージュを向け直して脅すが、女は全く応じようとしない。

 

「二度目はないわよ……!」

 

 女を拿捕するため、ティアナが魔力弾を発射。女はすかさずかわそうとしたが、弾丸がサングラスにかすって、サングラスが弾き飛ばされた。

 

「ええっ!?」

 

 その下から出てきた素顔を目の当たりにして、ティアナたち三人は唖然となった。

 女の両目に当たる部分には――。

 

「絆創膏貼って隠してるっ!!」

「それは言っちゃダメでしょ!」

 

 スバルにダイチがツッコんだ。

 もとい、女には眼球がなかった!

 

「ハハハハハハ……!」

「ま、待ちなさい!」

 

 異形を目にしたショックでひるんだ隙に、女が逃げる。追いかけようとするティアナとスバルだったが、テレスドンが立ちはだかったので足を止めざるを得なかった。

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

「くっ……! あたしはどうにか怪獣の足止めをするわ! スバルとダイチさんは市民の避難誘導と救助をお願い!」

「気をつけてね、ティア!」

「スバルはあっちを! 俺は向こう側へ!」

「うんっ!」

 

 三人は迅速に役割を分担し、別れて行動していく。しかしダイチは人の目から外れた場所で、エクスデバイザーを取り出した。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よし、行くぞ!』

 

 デバイザーのスイッチを押し、出てきたエックスのスパークドールズをリードする。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 X字の閃光が発せられ、ダイチはウルトラマンエックスへと変身を果たす!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 巨体のテレスドンに苦戦するティアナの元に、エックスが回転しながら降り立った。

 

「ウルトラマンエックス!」

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 テレスドンは敵意を向ける対象をティアナからエックスに変え、そちらに向けて一直線に走っていく。

 

「シェエアッ! デヤァッ!」

 

 エックスの方もテレスドンへ目掛けていき、チョップや膝蹴り、正拳を見舞っていった。

 

「ギャアオオオオオオウ!」

 

 至近距離での殴り合いでは押されるテレスドンだったが、一旦エックスから離れると、前方に向けてジャンプ。同時に全身を高速できりもみ回転させる!

 まるでドリルさながらの強烈な体当たりに、エックスもはね飛ばされてしまった。

 

「ウワァッ!」

 

 テレスドンはそのまま道路に頭から突っ込み、回転の勢いで穿孔して地中に潜っていった。エックスが起き上がった時には、完全に姿が見えなくなる。

 

『「どこへ行ったんだ……?」』

 

 周囲を警戒するエックス。テレスドンはその背後から飛び出してくる!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

「オワァッ!」

 

 背後からの攻撃で大ダメージを食らうエックス。振り返って反撃しようとするも、テレスドンは再び地中に隠れてしまっていた。

 

『くっ、見た目にそぐわず素早い……! 地中には手出し出来ないぞ!』

『「ゴモラキャリバーも地中に潜れる訳じゃないし……どうすれば……!」』

 

 戸惑うエックスの足元からテレスドンが顔を出し、足を刈って彼を転倒させた。

 

「ウワァッ!」

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 仰向けに倒れたエックスの上にテレスドンが馬乗りになり、容赦なく攻撃を加えていく! エックスのカラータイマーが赤く点滅し出した!

 

「あっ! エックスが危ないっスよ、ディエチ!」

「うん。援護攻撃を行う!」

 

 そこに飛来したスカイマスケッティ。搭乗するのはウェンディとディエチだ。ウェンディが操縦手を、ディエチが砲撃手を務める。

 ファントン光子砲がテレスドンの背に浴びせられたが、テレスドンは動じもしなかった。

 

「か、かったーいっスね……!」

「もっと威力のある攻撃じゃないと効果ないか……!」

 

 その時、ハラハラと戦いを見守るティアナの元に、ジオアラミスが駆けつける。降りてきたシャーリーとマリエルは、ティアナにあるものを差し出した。

 

「ティアナ、カミキ隊長たちからの指示よ! このカートリッジを使って、テレスドンを撃って!」

 

 シャーリーの手にあるのは、グルマンの開発したウルトライザー・カートリッジだ。

 

「これは例の、新兵器……?」

「早くっ!」

「わかりました!」

 

 ティアナは即座に受け取ったカートリッジをクロスミラージュに装填し、銃口をテレスドンへ合わせる。

 

[Charging Ultraman’s power.]

 

 急速にクロスミラージュが光り輝いていく。驚くティアナ。

 

「すごい……! カートリッジ一個を使っただけで、収束型魔法並みのエネルギーが充填されていく……! 攻撃名は……」

[Complete.]

 

 チャージ完了すると、ティアナが意を決して引き金を引いた!

 

「ウルトライト・ブレイカー!!」

 

 クロスミラージュの銃口から青白い光の奔流が解き放たれた! 想像以上の反動の大きさに一瞬照準がずれたが、ティアナは即座に耐えて射線を戻した。

 ウルトライト・ブレイカーが直撃したテレスドンは、エックスの上から豪快に弾き飛ばされた!

 

「ギャアオオオオオオウ!!」

「今の内よ、シャーリー!」

「了解です!」

 

 テレスドンが倒れている間に、シャーリーがジオデバイザーをエックスへ向ける。

 

「エックスさーん! このカードを使って下さい!」

 

 シャーリーは新たなデバイス怪獣のデータをエックスへと送信した。

 エクスデバイザーに、「DEVICE ELEKING」

 

『おい、またお前……何だそれ!?』

『「今度はデバイスエレキングか!」』

『私にも心の準備が……!』

 

 と言うエックスだが、ダイチは構わずカードをデバイザーにセットした。

 

『「頼むぞ……切り札になってくれ!」』

[デバイスエレキング、スタンバイ]

 

 エックスの身体を赤と黒、黄色のバリアジャケットが覆い、両手にはクロスミラージュをそのまま大型化したような二丁拳銃が握られる。そして左肩に、エレキングの頭部型のパーツ。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

 

 これぞモンスジャケット第二段、エレキングミラージュ。ダイチがエックスに尋ねる。

 

『「どんな感じ?」』

『まあ、ゴモラキャリバーよりは軽いが……』

『「エレキングだから、電撃が使えるよ! あとは……」』

 

 ダイチはある作戦をエックスに伝授した。

 シャーリーは興奮気味にティアナに呼びかける。

 

「ほらほら見て、ティアナ! クロスミラージュとエレキングが合体したジャケット! かわいいでしょ~!」

 

 だがティアナの反応は微妙だった。

 

「肩に頭がついてるんですが……」

「そこがいいんじゃなぁいっ!」

「えぇ……」

 

 ティアナとマリエルは思わずシャーリーの顔に目をやった。

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 はね飛ばされたテレスドンだが、三度地中に潜ってエックスから逃れる。そしてまたも足下から飛び出してエックスを攻撃!

 だがテレスドンの爪は、エックスの身体をすり抜けた!

 

「ギャアオッ!?」

『こっちだ!』

 

 エックスの姿は二つあり、テレスドンの攻撃した方はゆらめいてかき消えた。

 これはティアナが習得し、デバイスエレキングにもデータが入れられた幻術魔法。地中からの奇襲を繰り返すテレスドンを、これで幻惑して地上に引きずり出したのだ。

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 翻弄し返されたテレスドンはエックスへ回転攻撃を繰り出す。だがそれは冷静さを欠いた故の悪手であった。

 エックスの握る拳銃から電撃で形成された鞭――まるでエレキングの長大な尾そのもの――が放出され、テレスドンに巻きつく。

 

「ヌゥオッ! シェエエエエアァッ!」

 

 テレスドンを捕らえたエックスは、ハンマーの要領で己の後方に叩きつけた!

 

「ギャアオオオオオオウ……!」

 

 この荒業を食らい、さしものテレスドンもふらふらだ。そこにダイチが謝る。

 

『「ごめんな……ここはお前のいるべき場所じゃないんだ」』

 

 エックスの向けた銃口から、電撃の砲撃が放たれる!

 

『「ヴァリアブル電撃波!」』

「デヤァァッ!」

 

 オレンジ色の電撃を照射され続けたテレスドンは、大爆発! そのままスパークドールズへと圧縮されていった。

 

 

 

 戦いが終わると、ダイチ、スバル、ティアナ、ウェンディ、ディエチはテレスドンの出現地点付近に集合した。スバルとティアナはバリアジャケットを解除している。

 

「スバル、そっちに負傷者は出なかった?」

「うん、どうにか。ダイチの方は?」

「こっちもエックスが守ってくれたよ」

「ティアナ、一番にカートリッジ使えていいなぁ~! あたしが地上に行けばよかったっスよ~!」

「もう、戦いを羨ましがらないの」

 

 それぞれが話していると、ディエチがダイチたちに問いかける。

 

「ところで、例の女はどうしたの?」

「あっ、そういえば……!」

 

 その女は――五人のすぐ近くに音もなく現れていた。

 女はほくそ笑みながら、スバルへ銃を向ける……。

 

「!?」

 

 気取ったスバルが振り向いた時には、黒い弾丸は発射されていた――!

 だがこの瞬間に、酷使されたスバルのヒールがぽっきりと折れ、スバルは転倒。それが幸いして黒い弾丸から逃れられた。

 即座にティアナが魔力弾で反撃。女の銃を弾き飛ばし、女がその場に倒れる。

 ……が、ティアナらが駆け寄った時には、どういうことか女の姿が消え、サングラスとテレスドンのスパークドールズだけがその場に残されていた。

 

「……非殺傷設定だったよね?」

「当然じゃない。でも……消えるなんて……」

 

 ディエチに即答したティアナだったが、これを目にしては戸惑いを隠せなかった。

 

「結局何者だったっスかね? 宇宙人? それとも本当に、地底女……?」

 

 ウェンディも流石に眉をひそめていると、スバルに肩を貸したダイチが告げた。

 

「例の工事現場から、五百年前の石碑が見つかったそうだ。あそこには、何かが封印されていたのかもしれないね……」

 

 結局……その謎は事件終了後も解き明かされることはなかった。

 

 

 

 後日、オペレーションベースXの敷地内の庭園。夜空の星明かりの下、ダイチがスバルに箱を手渡す。

 

「スゥちゃん、どうぞ」

「これは……?」

 

 中身は、修理されたあのハイヒールだった。

 

「靴屋で直してもらったんだ」

「……ダイくん、ありがとう。でも、これはもういいかな」

「えっ、何で?」

「ダイくんの言った通り、これからはありのままの自分に自信を持っていこうって決めたの。それに……ダイくんが魅力的って言ってくれたし……」

 

 最後の方はごにょごにょとしていたので、ダイチは聞き取れなかった。

 

「今何て?」

「な、何でもない! ……ところで、あの地底女の言ってたことだけど……」

 

 スバルは話題を変えるように、消えた女の発言について語る。

 

「あのヒトみたいに、街の明かりを邪魔に思ってる人って他にもいるものなのかな。確かに、街の明かりは星空を隠しちゃうくらいに強いものだけれど……」

 

 夜空を見上げるスバル。本来夜空には満点の星空が瞬いているものだが……街の人工の明かりによって星の大部分は隠され、黒い空に散らばっているようにしか見えない。

 そのことについてダイチは、Xioベースや都市のビル群の明かりを見やりながら言う。

 

「確かにその通りだけれど……でも、あの明かりの一つ一つには頑張っている人がそこにいるって証明なんだ。だから俺は、あれが毒々しく騒がしいものだとは思わないな」

「頑張っている人が……」

「それに光が見えなくても、星はちゃんとそこにある。宇宙の彼方から、いつも俺たちを見下ろしてるんだよ」

『意外とロマンチックなことを言うな、ダイチ』

「意外とって何だよ、意外とって」

 

 茶化したエックスにダイチが口をへの字に曲げた。

 

「……そう言えば、スゥちゃんの名前の由来も、97管理外世界の星から来てるんだよね。その星も、人間のことを見守ってるよ」

「……うん、そうだね。きっとそう……」

 

 ダイチの言葉に、スバルは柔らかく微笑んだ。

 

「ミッドからは見えないけど……その星に恥ずかしくないように、あたしらしく精一杯頑張ろうっと!」

 

 と、スバルはこれからの己の活動に尽力する意気込みを改めて固めたのだった。

 

 

 

 ……どことも知れぬ謎の空間の中、銀色の頭部が胴体と一体化しているような怪人が、燕尾服にシルクハットの怪しい男から何やら人形を受け取っていた。

 

「これが例のものです。確かにお渡ししましたよ」

『うむ。感謝するぞ、ホストよ』

 

 五角形の怪鳥のような人形を観察した、明らかにミッドチルダ人とは異なる怪人は、ホストと呼んだ黒ずくめの男に問いかける。

 

『それで今一度聞くが、我々がこの星、ミッドチルダを滅ぼし侵略したとしても、異論はないな? あとからあれこれと文句をつけられたらたまらん』

 

 それに黒い男はこう答える。

 

「もちろんです。私たちはネットワークと言っても、基本は自由競争。惑星侵略も早い者勝ち、達成できたものに星をいただく権利があります。それが我らが『暗黒星団』の掟」

『それを聞いて安心した。では存分に暴れさせてもらおうか』

「……しかし、あなた方は本当にミッドチルダを侵略できるおつもりですか? 恐らく、あなた方が思っている以上にこの星は手強いですよ。もう星団の構成員も少なくない数がやられてます」

 

 その忠告を、怪人は笑い飛ばす。

 

『我々は既にいくつもの星を滅ぼしてきた。今更、脆弱な種族の支配する星なぞに後れは取らん。それにこの宇宙大怪獣……ベムスターがいれば、負けなどあり得ない! 邪魔なウルトラマンも、ベムスターを使って葬ってくれるぞ! ウワハハハハハハ!』

 

 怪鳥の人形――ベムスターのスパークドールズを握り締めた、二人の怪人――グロテス星人とメシエ星雲人を後ろに控えさせた、銀色の頭の怪人――ザラブ星人が傲然と言い放った。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はテレスドンだ!」

ダイチ「テレスドンは『ウルトラマン』第二十二話「地上破壊工作」に登場した王道地底怪獣! 地上征服を狙う悪い地底人の尖兵として暴れたぞ!」

エックス『初代ウルトラマンは、このテレスドンを投げ技だけで倒したんだ。これは実相寺監督が光線による決まり手を嫌っていたからだと言われている』

ダイチ「『ウルトラマンX』でも地底人をオマージュした地底女に操られて地上を攻撃したんだ」

エックス『身体を回転させて突撃するという新技が描写されて、戦闘シーンを盛り上げたな』

ダイチ「続く第四話「オール・フォー・ワン」ではサイバーテレスドンのカードがスペースマスケッティで使用され、ベムスターに吸い込まれたエックスを救う手立てになったんだ!」

エックス『サイバーカードはマスケッティの武装にも使用できることを示したシーンでもあるな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 エックスが食べられた!? 宇宙大怪獣ベムスターの、何でも吸い込む腹に、俺もエックスも大ピンチだ! 頼みます、ワタルさん、ハヤトさん! スペースマスケッティの力を見せて下さい! 次回、『オール・フォー・ワン』。


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オール・フォー・ワン(A)

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ケエエオオオオオオウ!」

『未知の、超人……』

「ギャアオオオオオオウ!」

「わああぁぁぁぁっ!?」

「あの巨人を援護しろ」

「ウルトラマンエックス!」

「ウルトラマンエックス……!」

「名付けて、ウルトライザー・カートリッジ!」

[Charging Ultraman’s power.]

「ウルトライト・ブレイカー!!」

「援護だっ!」

『頼もしい仲間だな!』

『「俺たちも行くぞ!」』

 

 

 

『オール・フォー・ワン』

 

 

 

「えいっ! たぁっ!」

「せぇいっ!」

 

 その日、Xio隊員は本部備えつきの道場で格闘技能の訓練中であった。特捜班のメインメンバー、サブメンバー双方も全員参加して組手を行う。

 そんな中で、ダイチがノーヴェの拳を受けてばったり倒れた。

 

「うわぁっ! あいったぁ……」

「しっかりしろよ、ダイチ。こんなんじゃ、アマチュアのヴィヴィオやアインハルトたち相手にも五分と持たないぜ?」

「相変わらずダイチは、格闘技能はからっきしっスね~」

 

 ノーヴェが呆れ、ウェンディが肩をすくめた。そうしていると、道場の片隅がにわかに騒がしくなる。

 

「ハヤトお前、やりすぎじゃねぇか!?」

「へっ、お前がぼんやりしてるからだろ」

「何だとこの野郎ぉっ!」

 

 ワタルとハヤトが訓練の枠を越えて、取っ組み合いの喧嘩を始めたのだ。それに巻き込まれそうになった周りが距離を取る。

 

「またっスか? あの二人」

「えっ、えっ? どうしちゃったの?」

「ワタルさんハヤトさん、やめて下さい!」

 

 ウェンディたちが呆れ返る中、スバルは事情が呑み込めていないようで戸惑い、ダイチはワタルたちの喧嘩を止めようとした。だが、

 

「引っ込んでな!」

「邪魔すんな!」

「わぁっ!」

 

 二人に突き飛ばされ、またも畳の上に這いつくばった。

 

「だ、ダイくん!」

「全く……」

 

 スバルが慌てて助け起こす。チンクはワタルとハヤトの間に割って入り、二人をそれぞれ突き飛ばす。

 

「おわっ!」

「いい加減にしろ、お前たち! 毎度毎度喧嘩になるばかりか、今度はダイチにまで八つ当たりして。頭を冷やせ!」

 

 チンクに叱り飛ばされても、ワタルとハヤトは目を怒らせて互いをにらみ合っている。二人の様子に、周りの隊員たちはほとほと参っているようだった。

 

「ね、ねぇ、ワタルさんとハヤトさん、どうしちゃったの?」

「あれ、スバルは知らなかったっスか?」

 

 事情を求めるスバルに、ウェンディとディエチが説明した。

 

「あの二人、コンビを組んでるようでいて、度々ああやって衝突して喧嘩になるっスよ。みんな迷惑してるんスよね~。隊長や副隊長に何回注意されても、全然直る気配がないんっス。今回は特にひどいっスね」

「ワタルさんとハヤトさんはそれぞれ地上部隊と航空部隊からの生え抜き……。「陸」と「海」の仲の悪さが、二人にも影響してるのかも」

「馬っ鹿馬鹿しい。「陸」と「海」の確執を、Xioに来てまで引きずるなっての」

 

 ノーヴェにこきおろされているとも知らず、ワタルとハヤトはガンを飛ばし合っていた。

 と、その時、道場内に事件発生を知らせるサイレンが鳴り響いた。それで特捜班一同は弾かれたように顔を上げ、直ちにオペレーション本部へと移動していった。

 

 

 

 オペレーション本部のメインモニターには、爆破され炎上しているエネルギープラントの様子が映し出されていた。駆けつけた消防隊による消火活動が行われている。

 

「またひどくやられたっスね……」

「犯人グループの姿が監視カメラに映っていた」

 

 クロノの言葉の直後に、その映像がモニターに表示される。

 犯人グループは三人。先頭の銀色の頭部の怪人を始め、全員が異形の姿をしている。

 

「ザラブ星人にグロテス星人、メシエ星雲人か。どれも宇宙でも指折りの凶悪種族だ」

 

 三人の怪人たちを見とめたグルマンが語った。

 

「やはり異星人犯罪者ですか、グルマン博士」

「うむ。それも全員異なる星人であるところを見るに、最近巷を騒がせている犯罪ネットワーク『暗黒星団』の一グループだろう」

 

 カミキの問い返しにグルマンは肯定した。

 

「暗黒星団……。私たちも何度か、その名を名乗る犯罪者を逮捕してます。互いに仲間の顔や活動を認知していないので、一斉検挙できずに手を焼いてますが……」

「そうだろう。聞いた話では、暗黒星団は完全に横のつながり。構成員は必要な時だけ手を組み、ほとんどの場合は好き勝手に活動してるということだ。全容を把握しているのは、ネットワークを取り仕切る『ホスト』と呼ばれる人物だけだという。そいつを捕まえない限りは、撲滅は出来んだろうな」

 

 グルマンが話している一方で、ダイチは映像の中のザラブ星人の手元に注目する。

 

「ザラブ星人、人形のようなものを持っている……。まさかスパークドールズ!?」

 

 その時に、アルトが叫んだ。

 

「テレビ放送のチャンネルが電波ジャックされてます! ザラブ星人の犯行声明です!」

「モニターに出せ!」

 

 カミキの命令により、メインモニターに大きくザラブ星人の顔が現れた。

 

『フッフッフッフッ……私はザラブ星人。我々はこれまで、数々の惑星を破壊してきた。次は、このミッドチルダだ!』

 

 ルキノも叫ぶ。

 

「都市部中央に怪獣出現!」

『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 ザラブ星人の映像の横に、鳥と五芒星を足したような怪獣が都市部で暴れ出す映像が出された。

 

「ベムスターだ! ザラブ星人め、凶暴な奴を連れてきたな」

 

 グルマンが怪獣の名前を唱えた。ベムスターを視認したダイチは、ハッと気づく。

 

「ザラブ星人の持っていたスパークドールズはあれだ……! 先にプラントを爆破したのは、ベムスターにエネルギーを与えて復活させるためだったんだな!」

 

 ハヤトはカミキへ出撃許可を求める。

 

「俺にスカイマスケッティで出撃させて下さい!」

 

 だがそれをさえぎるように、ワタルが前に出た。

 

「いや、今回は俺に行かせて下さい!」

 

 ハヤトはイラッとワタルの肩を掴んで押しのける。

 

「出しゃばるな。空中戦は俺に任せろ」

「俺だって操縦じゃ負けてないぞ!」

「ちょっとぉ! こんな時まで張り合わないでっスよ!」

 

 口論し出すハヤトとワタルをウェンディが押し留める。一方で、カミキはスバルらの方へ顔を向けた。

 

「スバル、ディエチはランドマスケッティで出動! ベムスターを食い止めろ!」

「了解!」

「あっ……!」

 

 スバルとディエチがすぐに本部を離れていって、ハヤトとワタルは置いていかれる形になってしまった。

 

「他の隊員も現場に急行。力を合わせて、侵入を阻止しろ。ダイチはワタルに同行し、怪獣の解析」

「了解!」

「了解……」

 

 カミキの命令でダイチたちも出動していくが、ハヤト、ワタルは不承不承といった返事であった。

 

 

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 都市を我が物顔で蹂躙するベムスター。そこにランドマスケッティが到着し、ベムスターは視界の中で動くそれに気を取られて振り向いた。

 ベムスターを照準に捉え、スバルとディエチは攻撃を開始する。

 

「ディエチ、砲撃は任せるね!」

「うん……ファントンレールキャノン、発射!」

 

 ディエチによる砲撃がベムスターの足元に撃ち込まれ、進撃を阻止する。

 

 

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 ランドマスケッティが戦う中、他の隊員も現場に到着したが、そこでアルトがカミキに報告する。

 

「エリアS-4の薬品工場に、ザラブ星人一派が現れました!」

 

 それを受けて、カミキ、クロノが指示を下す。

 

「ワタル、ハヤト、チンク、ノーヴェは追跡しろ! スバル、ディエチは引き続き、ベムスターの市街地侵入を食い止めろ!」

「ダイチもそのままベムスターの解析を続けろ。ウェンディはダイチの護衛だ」

『了解!』

 

 命令通りにワタルたち四人は薬品工場へ急行し、ダイチはウェンディのライディングボードに同乗して、ベムスターの発する光弾攻撃から逃れながら能力を解析する。

 

 

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 ランドマスケッティからレールキャノンの砲撃が放たれるが、ベムスターの腹部の五角形の口が開くと、砲撃は全てその中に吸い込まれていってしまった。ベムスターにダメージはない。

 

「吸収した……!?」

「ダイチ、あの怪獣の能力は何!?」

 

 スバルがダイチへ問いかける。

 

「ベムスターは腹部のアトラクタースパウトという器官であらゆるものを吸引するんだ! この分だと、ウルトライザー・カートリッジの攻撃も通じないだろう……」

『そんなのに、有効打ってあるの!?』

「ちょっと待って! えっと……」

 

 ダイチはデバイザーでベムスターの状態を分析。その結果、体内にプラントから吸収したエネルギーが多量に渦巻いていることを突き止めた。

 

「体内のエネルギーを引火させることが出来れば、内側からの大ダメージが見込めるはずだ! でも、レールキャノンでもウルトライザーでもそれは不可能だ……。引火させる方法は……」

 

 ダイチは懸命にその方法を模索する。

 

 

 

 ランドマスケッティが戦っている頃、薬品工場でザラブ星人一派と交戦するワタルたち四人は、既にザラブ星人たちを追い詰めていた。

 

「ランブルデトネイター!」

「行くぜ、ジェットエッジ! リボルバー・スパイク!」

 

 チンクのスティンガーの投擲による爆撃が、グロテス星人の発砲を押し切ってグロテス星人を吹っ飛ばし、ノーヴェの回し飛び膝蹴りがメシエ星雲人を蹴り飛ばす。

 そしてザラブ星人のエネルギーバルカンをかわしたワタルとハヤトのジオブラスターの射撃が、ザラブ星人を張り倒した。

 

『ぐわぁッ!』

「よっしゃ俺が……!」

 

 ワタルが仕留めようとしたが、それをハヤトに腹に一発もらって力ずくで止められた。

 

「出しゃばるなよ!」

「お前、そんなに俺が信用できないかよ……!」

 

 二人は敵を前にしてまたも口論を始める。

 

「おい! そんなことしてる場合かっ!」

 

 ノーヴェが怒鳴った時には、ザラブ星人は起爆装置のスイッチを押していた。

 

「しまった! うわぁぁっ!」

 

 ワタルたちの背後で爆発が発生し、二人はその衝撃で転倒する。そこを起き上がったザラブ星人が狙う!

 

『食らえッ!』

「! 危ないっ!」

 

 咄嗟にチンクが飛び出し、その身でワタルたちの盾となる。

 そのために、エネルギーバルカンを浴びて致命的なダメージを食らった!

 

「あぁぁぁっ!」

「チ、チンク!!」

「チンク姉ぇぇぇっ!!」

 

 倒れるチンク。慌てて走ってきたノーヴェが、ワタルとハヤトの胸ぐらを掴んだ。

 

「お前らぁぁぁぁぁっ! お前らの下らない張り合いのせいで、チンク姉がっ!!」

「す、すまん……はっ!」

 

 謝るハヤトたちだったが、我に返った時にはザラブ星人、グロテス星人、メシエ星雲人が一斉に攻撃してくるところだった!

 

「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

『ワタル、ハヤト、ノーヴェ! 応答しろ!』

 

 ワタルたちの窮地はすぐに本部の知るところになった。カミキはウェンディに命ずる。

 

『ウェンディ、すぐにワタルたちの加勢に向かえ! 四人が危ない!』

「えっ、でも……!」

 

 ウェンディは困惑して一瞬ダイチに振り返ったが、ダイチは自らライディングボードから降りた。

 

「すぐに行って! 俺のことは構わないで!」

「……気をつけるっスよ、ダイチ!」

 

 全速力でワタルたちの元へと飛んでいくウェンディ。

 だが、直後にダイチへベムスターの攻撃が迫る!

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「あっ!? うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 どうにか直撃は避けられたが、光弾の引き起こす大爆発にダイチは呑み込まれた。

 目を見張るスバル。

 

「ダイくんっ!!」

「スバル、目を外しちゃ駄目! ああっ!?」

 

 更にスバルがダイチの方へと首を向けてしまったためにランドマスケッティが一瞬停止し、そこをベムスターに撃たれてマスケッティが墜落した!

 

『ダイチ、大丈夫か!?』

「ああ……何とか……!」

 

 一方でダイチは、ギリギリのところで難を逃れていた。しかし、ベムスターが停止したランドマスケッティに近づいていくのを目にして、あっと口を開く。

 

『ダイチ、ユナイトだ!』

「わかった……!」

 

 ユナイトするために立ち上がったダイチだが……その拍子にゴモラが懐から転げ落ちたことには気づかなかった。

 

「ユナイト!」

 

 エクスデバイザーのスイッチを押し、エックスのスパークドールズをリードする。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチがX字の光に包まれ、ウルトラマンエックスへと変貌した!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 都市の中央に降り立ったエックスは、ランドマスケッティを狙っていたベムスターに立ちはだかる。

 

「テヤァーッ!」

 

 駆け出したエックスはビルを踏み台にして跳躍し、ベムスターに腕を斜め上に伸ばす独特な姿勢の飛び蹴りを仕掛けた。

 

「ギアァッ!」

 

 それはベムスターに弾かれたが、ビルの壁を蹴った反動でベムスターへ再度飛びかかっていく。

 

「デュウアッ!」

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 そこから始まる、激しい肉弾戦。エックスの渾身のパンチや膝蹴りなどが次々とベムスターに決まっていくが、ベムスターも「宇宙大怪獣」の異名を冠するほどの強力な怪獣。初めはエックスが善戦するも、脅威のタフネスでエックスの攻撃を受け切り、次第に巻き返していく。

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「グワァッ!」

 

 エックスの巨体がベムスターに投げ飛ばされ、エックスは背中から路面に叩きつけられた。

 

 

 

 ザラブ星人一派によって窮地に立たされていたワタルたちだが、ウェンディの加勢が間に合ってどうにかピンチを脱することは出来た。

 しかし、肝心のザラブ星人一派にはまんまと逃走されてしまったのだった。

 

『すみません、隊長……ザラブ星人たちを取り逃がしました……』

「了解……。直ちにチンクをメディカルルームへ搬送し、事態の収拾に当たれ」

 

 ハヤトからの報告に、カミキは渋い顔をしながらもそうとだけ告げた。

 

「ああっ!? エックスが!!」

 

 そこに、アルトの絶叫が響いた。

 

 

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 ベムスターと正面から取っ組み合っていたエックスだが、ベムスターの腹の口が開いたかと思うと、急激な吸引を開始。その吸引力は空間まで歪め――エックスが腹の中へと吸い込まれていく!

 

「ウッ!? グッ……グワアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

 エックスは抵抗虚しく、完全にベムスターの内部へと吸い込まれていってしまった!

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 エックスを丸々捕食したベムスターは、空高くに飛び上がってそのままミッドチルダ大気圏を突破していった。

 機能停止したランドマスケッティから脱け出たスバルとディエチは、この一部始終を目の当たりにして絶句していた。

 

「エックスが……食べられた……!?」

「そ、そんな……!」

 

 しばらく呆然と立ち尽くした二人は、ベムスターに撃たれたダイチを捜す。

 

「ダイチ! どこ!?」

 

 しかし二人が見つけたのは……路上に転がっていたゴモラのスパークドールズだけだった。

 スバルとディエチは、完全に言葉をなくした。

 

 

 

 オペレーション本部では、ダイチの反応を探したアルトが、途切れ途切れにカミキたちに報告した。

 

「半径100メートル圏内に……ダイチ隊員の、バイタルサインが……ありません……」

「……何ということだ……」

 

 クロノはそうとだけ声を絞り出し、カミキは無言のまま、顔をうつむかせていた。

 

 

 

 ダイチとチンクを欠いた特捜班が帰投すると、カミキが沈んだ表情の彼らへ語って聞かせ出した。

 

「我々個人がどんなに鍛え、強くなろうが……チームワークに勝る力はない。だがお前たちは思い上がり、個人プレーに走った……。その結果、チンクは意識不明の重態、ダイチは生死不明のありさまだ」

 

 チームワークを乱す原因を作ったワタルとハヤトが、責任を感じて顔を強張らせた。

 

「エックスもベムスターに呑み込まれ、宇宙へ連れ去られた。怪獣とザラブ星人一派を倒せるのは、もう我々しかいない。……諸君の何よりも果たさねばならない使命は、この次元世界を守ること。二度と忘れるな」

 

 クロノが強く説いたところで、本部のサイレンが鳴り響く。

 

「エリアS-9に、ザラブ星人一派を発見!」

 

 ルキノが報告し、メインモニターに工場へ堂々と侵入していくザラブ星人たちの後ろ姿が映し出された。

 それを見て、クロノとカミキが特捜班メンバーへ振り向く。

 

「今こそ力を合わせる時だ!」

「ザラブ星人たちの侵略を阻止せよ!」

「了解!!」

 

 目つきが変わったワタルとハヤトを始め、特捜班が力強く応答した。

 そして出動していく一行の前に、二人の修道女と執事服の少女が現れる。

 

「ちょっと待った。このセインさんたちも一緒に連れてってほしいね」

「セイン! オットーにディードも!」

 

 驚きの声を上げるスバル。この三人はただの修道女たちではない。N2Rと同じ元ナンバーズであり、今は聖王教会に在籍する修道騎士見習いたちであった。当然、その能力はN2Rにも引けを取らない。

 

「お前たち、どうしてここに?」

 

 ノーヴェが尋ねると、ディードとオットーが順々に答える。

 

「チンク姉様とダイチさんが倒れられたと聞き、応援を志願して急遽駆けつけました。二人分の戦力の穴は私たちが補います」

「チンク姉様たちの仇も討ちたいと、騎士カリムに訴えかけてね。許可をもらってきたんだ」

「そっちの隊長さんたちにももう許可してもらってるよ!」

 

 セインが言うと、スバルはカミキたちの方に振り返った。カミキは小さく首肯する。

 

「うん、わかった! それじゃあ、一緒に行こう!」

「了解です!」

 

 新たにセインたちもチームに加わると、ワタルが発言する。

 

「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン。ラグビーの合言葉だ。ラグビーは一人じゃ出来ねぇ、チーム全員が互いに助け合い、チームワークを構築しなきゃいけないって意味だが……俺としたことが、こんな基本中の基本をすっかり忘れちまってた。ラグビー選手としても失格だぜ……」

 

 自嘲するワタル。ハヤトもまた、己を恥じた。

 

「けど、二度とそんな無様なことはしねぇ! 俺たちのチームワークで、今度こそ敵をやっつけてミッドを守ろうぜ! ワン・フォー・オール!!」

「オール・フォー・ワン!!」

 

 ワタルの掛け声に全員が応答し、決意を新たにして九人が出動していった。

 



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オール・フォー・ワン(B)

 

(♪MATのテーマ(コーラス付))

 

 エリアS-9に駆けつけた特捜班は、ザラブ星人一派へのリベンジを開始した。

 まずはオットーが工場の敷地に結界を張り巡らし、全員に通達する。

 

「敵異星人三人を結界で分断しました。各個撃破をお願いします。また、工場施設も結界で防護しているので、損害は気にせず存分に戦って下さい」

『了解! ありがとうね、オットー!』

 

 スバルが代表して礼を言い、彼女とワタルとハヤト、ノーヴェとウェンディとディード、ディエチとセインの三チームに分かれてそれぞれ異星人たちとの交戦を行う。

 

 

 

『食らえッ!』

 

 ノーヴェたちの組はグロテス星人と戦う。エアライナーやライディングボード等でグロテス星人への接近を試みる三人だが、グロテス星人は両手の機関銃を乱射して迎撃を図る。

 

「ちっ……!」

 

 弾丸の雨を前にして、三人は回避行動に手一杯でなかなか距離を詰められない。当然ながら、異星人犯罪者の攻撃に非殺傷設定などはない。特にグロテス星人の機関銃の殺傷力はかなりのもの。まともに食らったら致命傷は避けられない。

 

『ウハハハハッ! 何人集まったところで、所詮人間などこのグロテス星人には敵わんわぁッ!』

 

 猛攻を続けながら豪語するグロテス星人。だが、

 

「そいつはどうかな?」

『ぬッ!?』

 

 硝煙が晴れると、グロテス星人は己の背後にウェンディとディードが回り込んでいることに気がついた。いい気になって無数に撃ち続けたので、立ち込めた硝煙が煙幕となって二人の回り込みを隠したのだ。

 だが挟み撃ちの状況に陥っても、グロテス星人は余裕を崩さない。

 

『ふんッ! 後ろを取った程度で、脆弱な人間がグロテス星人に勝てると思ったら大間違いだ! 動いたところで、一人ずつ撃ち抜いてやる!』

 

 グロテス星人はノーヴェたちに対して横向きになり、両手の機関銃をそれぞれノーヴェ、ウェンディとディードに突きつける。三人が少しでも動いたら、即座に発砲できる態勢だ。

 しばしの睨み合い……。そして、ノーヴェが走る!

 

「おおおおおっ!」

 

 それとほぼ同時にディードとウェンディも動いた。それを受け、グロテス星人の機関銃が火を吹く!

 三発の凶弾がまっすぐノーヴェたちに飛んでいく――が、三人は軌道を見切り、すれすれのところで弾丸を避けた! 避けながらノーヴェとディードが前に突き進む。

 

『かわしたか! だがッ!』

 

 しかしグロテス星人もすかさず次弾発射。ノーヴェの足元に撃ち込んで彼女を足止めし、背後から斬りかかってくるディードの眉間に銃口を向けた。発射されたら振りかぶっているディードはかわせない!

 

「はずれっスよ!」

 

 だがディードは斬りかかってこず、代わりのようにウェンディが魔力弾を複数発射した! 迫るノーヴェとディードに気を取られて、ウェンディが発射用意していたことに気づかなかったのだ。

 

『ぐがッ!?』

 

 魔力弾の直撃を受けて体勢を崩されるグロテス星人。発射された弾丸は空に向かって飛んでいった。

 そしてディードが今度こそ光の双剣を交叉する。

 

『ぎゃあああッ!』

「食らえ! チンク姉の分っ!」

 

 のけ反ったグロテス星人の頬に、ノーヴェのガンナックルが突き刺さった!

 

『ばッ、馬鹿なぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 弾けたように殴り飛ばされたグロテス星人。ピクピク痙攣した後に、完全に意識を失ってパタリと力尽きた。

 

「この程度の連携を崩せないようじゃ、自称凡人の足元にも及ばねぇな」

 

 グロテス星人を仕留めたノーヴェがはっきりと言い放った。ウェンディはバインドでグロテス星人を縛り上げてから、他の場所で戦っているメンバーや本部へ報告する。

 

「グロテス星人、確保っス!」

 

 

 

「ブルゥゥゥッ! ブルゥゥゥッ!」

 

 イノーメスカノンを構えるディエチは、メシエ星雲人との砲撃戦を繰り広げている。複数のエネルギー弾を生成して発射するも、メシエ星雲人の額の宝石のような器官から放たれる電磁波光線にほとんどが相殺され、命中するものもさしたる効果がなかった。

 

「うっ……!」

 

 逆に、ディエチが電磁波光線の連射に追い詰められる。防御魔法で直撃を防いではいるものの、光線の威力は高く、今にもバリアが破られそうだ。

 

『フハハハハハハ! お前たちの貧弱な攻撃など、蚊ほどにも効かんッ!』

 

 ディエチの射撃を生身で易々と受け止めるメシエ星雲人が勝ち誇るが、ここであることに気がつく。

 

『ん? 一人いないぞ! どこに行った!?』

 

 ディエチと一緒にいたはずのセインの姿が、いつの間にかなくなっているのだ。しかし周りに隠れられそうなところはどこにもない。セインはどこへ行ったのか?

 

「ここだよ!」

 

 メシエ星雲人の足元の舗装から、水面から顔を出すようにセインが飛び出した! 彼女の固有能力「ディープダイバー」の効果だ。

 

『何ぃッ!? ぐげぇッ!』

 

 完全に虚を突かれたメシエ星雲人は顎を蹴り上げられ、大きくのけ反る。一方飛び出した勢いのまま宙高く舞うセインは、ディエチへと叫ぶ。

 

「ディエチ! いま!」

「了解! ヘヴィバレル!」

 

 ディエチのカノンに、先ほどまでとは比較にならない量のエネルギーが充填され、エネルギー砲撃が放たれた! 砲撃はメシエ星雲人を呑み込む!

 

『うごあぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 この攻撃を耐えることは出来ず、メシエ星雲人は仰向けに倒れて沈黙した。

 

「バッカだねぇ。ディエチがあんたを確実に一撃で倒すためにエネルギーを節約しながら戦ってたのにも気づかないなんて」

 

 倒れたメシエ星雲人を見下ろしながら、呆れて肩をすくめるセイン。ディエチはメシエ星雲人をバインドで捕縛し、仲間たちへ報告する。

 

「メシエ星雲人、確保しました。これであと一人だけですね」

 

 

 

 そしてスバル、ワタル、ハヤトの三名が、ザラブ星人を追い詰める。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

『ぬぐあぁぁッ!』

 

 ワタルとハヤトの射撃に援護されながら、スバルの拳がザラブ星人にクリーンヒットした。吹っ飛ばされるも、ザラブ星人はどうにか持ちこたえる。

 

「もう観念しろ! お前の仲間は二人とも捕らえたぞ!」

「悪あがきはやめて、投降しやがれ!」

 

 ハヤトとワタルが勧告したが、ザラブ星人がそれに応じる気配はなかった。

 

『なめるなぁッ! あんな奴らがいなくとも、私一人で貴様ら全員、踏み潰してやるッ!』

 

 吠えたザラブ星人が、その場で一気に巨大化! 40m以上の巨人へと変貌した。

 

「うわっ! でっかくなりやがって!」

 

 ワタルたちが光弾を浴びせるが、巨大化したことで能力も上昇したザラブ星人には効かなくなっていた。だがこちらも相応の用意というものがある。

 ハヤトがスバルへ呼びかける。

 

「スバル、俺たちが気を引きつけてる間にマスケッティを呼べ!」

「ポルトスでぶっ飛ばしてやれ!」

「任せて! ジオマスケッティ、発進要請!」

 

 スバルが本部へジオマスケッティの出撃を求める。迅速にそれが承認され、マスケッティが格納庫から発進していく。

 

[ジオマスケッティ、オンザウェイ]

 

 飛び立ったマスケッティはジオポルトスと合体。ランドマスケッティとなってスバルの元へと駆けつけた。

 

「ファントンレールキャノン、発射!」

 

 スバルの操縦により、ランドマスケッティがザラブ星人へとレールキャノンの砲撃を食らわせる。さすがにマスケッティの砲撃を防ぐことは出来ない。

 

『くそぉッ!』

 

 しかし黙っている敵でもない。ザラブ星人はランドマスケッティへエネルギーバルカンを降り注がせる。後退して逃れたマスケッティからポルトスが分離し、ジオマスケッティは上昇していく。

 

「ハヤトさん、次は空から狙って!」

「おう!」

 

 スバルが砲撃している間にジオアトスへ乗り込んだハヤトが、マスケッティとジョイントさせる。

 

[スカイマスケッティ、コンプリート]

「ファントン光子砲、発射!」

 

 上空から光子砲の連射がザラブ星人に命中し、ザラブ星人はどんどんとダメージを負っていく。

 

『ええいッ! 貴様らぁ!』

 

 怒るザラブ星人がスカイマスケッティを追いかけるが、その先の工場の屋上へとワタルが先回りしていた。

 

「ワタル、後は任せる」

「よっしゃ!」

 

 ワタルはジオブラスターに、ウルトライザー・カートリッジを装填した。

 

[ウルトラマンの力を、チャージします]

「トラァーイっ!!」

 

 迫り来るザラブ星人へ、青白い光線の砲撃をぶち込んだ!

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!?』

 

 その一撃が決まり手となり、ザラブ星人の巨体が崩壊。元の体格に戻り、ばたりと横たわった。

 

 

 

 異星人犯罪者三名は全員、失神した上にオットーのレイストームで完全に拘束された。

 

「やったな!」

「おうっ!」

「いぇーい! 一網打尽っス!」

 

 ぐっとガッツポーズを取り合うハヤトやワタル、ウェンディたち。と、そこに、

 

「おいおい、まだミッションは完了していないぞ」

 

 グルマンにシャーリー、マリエルのラボチームがジオアラミスで現場にやってきた。

 

「グルマン博士、どうしてここに?」

 

 スバルが聞くと、グルマンは次の通り答える。

 

「先ほど、エックスを連れ去ったベムスターを追撃する手段を完成させた」

「本当ですか!?」

「もちろんだとも。このアラミスを改良して、宇宙戦闘能力を持つ第三の力、スペースマスケッティへとアップデートしたのだ。宇宙へ行って、エックスを救えるぞ!」

 

 エックスを救えると聞き、特捜班一同は喜色満面となった。と、通信越しにクロノが指示を出す。

 

『ワタル、お前が操縦するんだ』

「えっ、俺!?」

『宇宙適性はお前とチンクが最も高かった。チンクが倒れている今、スペースマスケッティの初陣を任せられるのはお前以外にいない』

 

 と告げるクロノだが、さすがのワタルもぶっつけ本番のスペースマスケッティ飛行に緊張で固まっていた。それを見て、ハヤトがため息を吐く。

 

「ビビってんなら俺が代わってやるよ」

「はぁ!? ビビってねぇし!」

 

 強がるワタルとハヤトの背中を、ノーヴェが押し出す。

 

「マスケッティは二人乗りなんだから、二人で行けばいいだろ? ほら、行った行った!」

「エックスのこと、ちゃんと救出してくるっスよ!」

「わ、わかったよ!」

 

 発破をかけられたワタルがハヤトとともにアラミスに乗り込んでいく様子を、スバルたちは微笑みながら見守っていた。

 そしてジオアラミスが上昇していき、宇宙飛行形態に変形するジオマスケッティと合体する。

 

「ジオアラミス、ジョイントゥ、ジオマスケッティ!」

 

 アラミスの屋根が開いて大型のロケットノズルが出現。そしてアラミスがマスケッティと結合し、はるか上空の彼方、宇宙空間を飛行するのに問題ない出力を有したスペースマスケッティとなる。

 

[スペースマスケッティ、コンプリート]

「よし、行くぞ!」

 

 うなずき合ったハヤトとワタルを乗せたスペースマスケッティが、ミッドチルダ惑星の大気圏を脱していった。

 

 

 

 大気圏を突破し、現在ベムスターのいる月面へと直進していくスペースマスケッティの映像は、監視衛星を介して本部やスバルたちの手元に届けられている。

 

「けど、いざ怪獣の元までたどり着いてから、どうやってエックスを救出するの? お腹に腕を突っ込む訳にもいかないでしょ」

 

 セインがもっともな疑問を口にした。スバルが一言ぼやく。

 

「ダイチは、体内のエネルギーに引火させられればって言ってたけど……」

 

 すると、彼女たちの疑問にシャーリーが答えた。

 

「ふふふ、そのことは私たちも聞いてるわ。大丈夫、もうその方法も確立してあるから!」

「アラミスのアップデートと並行して、その手段を開発しておいたの」

「おお! さすがの仕事の速さっスね!」

 

 興奮するウェンディ。そうしていると、スペースマスケッティはもう月面に到着し、横たわっているベムスターの姿を捉えた。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 ベムスターの方もマスケッティの接近を察知し、起き上がった。マスケッティはベムスターにレーザー攻撃を浴びせかける!

 

「気をつけろ! お前らまで吸い込まれたら、もう助けられる奴はいないんだからな!」

『わかってるよ!』

 

 警告するノーヴェに、ワタルがそう答えた。

 

「よし、マスケッティにデバイステレスドンを転送だ!」

「了解です、博士!」

 

 グルマンの指示で、シャーリーがアラミスへデバイス怪獣のカードを転送した。

 

「それをアラミスに読み込ませれば、レーザー砲から溶岩熱線を発射できるようになるわ! 熱線がベムスターの体内のエネルギーと反応して、爆発を起こすという訳!」

「その勢いでエックスを外に出すっていう作戦ね!」

 

 マリエルとシャーリーが説明した。

 

『了解しました! やってやるぜ……!』

 

 早速ワタルがカードをジオデバイザーにセットする。

 

[デバイステレスドン、スタンバイ]

 

 マスケッティは果敢にもベムスターの真正面から挑んでいく。ベムスターは頭頂部の角から光線を撃ってマスケッティを撃ち落とそうとしてくる。

 

「だ、大丈夫かな? あんなストレートに行って……」

 

 はらはらと見守るセインに、スバルが力強く告げた。

 

「大丈夫だよ! あの二人は……やる時はやるんだから!」

 

 光線を抜けたスペースマスケッティが十分に接近し、ワタルが叫ぶ。

 

『溶岩熱線、発射!!』

 

 レーザー砲から放たれた熱線が、綺麗にベムスターの腹部に吸い込まれていった。そして!

 

『イヤァァッ!』

 

 爆発とともに、エックスが腹から飛び出したのだ!

 

「成功よ!」

「やったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エックスの無事な姿を確認し、一同はわっと沸き立った。

 

 

 

 ベムスターの体内からの脱出を果たしたエックスは、すぐにベムスターへのリベンジを開始する!

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 ベムスターの翼のパンチをかわして相手の背後へ抜けると、月面の岩を蹴って反転。跳躍してからの拳打を叩き込む。

 

「デヤァァッ!」

「ギアァッ!」

 

 勢いを乗せた拳にベムスターもひるんだが、すぐに持ち直してエックスと互角の格闘戦を行う。が、エックスはわずかな隙を突いてベムスターの首をふとももで挟み込んだ。

 

「トワァァァーッ!」

「ギアァッ! ギイッ!」

 

 そこからフランケンシュタイナー! ベムスターは土砂を巻き上げながら仰向けに倒れ込む。

 

「シュワッ!」

 

 エックスはベムスターの真上に飛び上がり、全身に赤いエネルギーを纏わせた。

 

『アタッカー……エーックス!』

 

 頭上からの火炎攻撃がベムスターに決まり、X字の爆撃がベムスターを襲った。さすがのベムスターも、この大技で大きくひるむ。

 

『よし、行くぞ!』

『「ああ!」』

 

 着陸したエックスは、ベムスターが体勢を立て直さない内に必殺の一撃をお見舞いする!

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 月面に青い輝きが奔り、X字の特大光線が真空を切り裂く!

 

「ギアァッ!!」

 

 ザナディウム光線の直撃を受けたベムスターは、爆散後にスパークドールズへと圧縮されていった。

 戦いがエックスの逆転勝利で終わると、ワタルが興奮の声を上げた。

 

「すっげぇー! 俺たちエックス助けちゃったよー!」

 

 しかし、隣のハヤトは呆れ声を発した。

 

「無茶しやがって……。いくらなんでも接近しすぎだろ! もう少しで爆発に巻き込まれるところだった」

「チッチッチッ。計算してたさぁ」

「ったく、ほんと調子いいな……」

 

 軽く肩をすくめたハヤトだったが、パシッ! とワタルと手の甲を叩き合って、勝利の喜びを分かち合った。

 

「おーい!」

 

 二人は、エックスともガッツポーズを示し合う。ダイチは二人へ呼びかけた。

 

『「ありがとう、ワタルさん、ハヤトさん」』

『聞こえていないんだろうな』

『「でも伝わるさ!」』

 

 

 

 状況が終了してから、スバルたち特捜班はダイチの消えた地点へと戻ってきた。

 

「……ダイくん……守れなくてごめんね。でも、ダイくんの分もあたしたちは頑張っていくから……。ゴモラとも一緒に……」

 

 スバルはゴモラを手にしながら独白したが……。

 

「あー、その……俺、生きてるんだ……」

 

 瓦礫の陰からひょっこりとダイチが顔を出したので、スバルのみならず全員があっと言葉を失った。

 

「えっと……吹き飛ばされてさ、気を失っていたんだ。……死んだと思わせたみたいで、ごめん……」

 

 苦しい言い訳であったが、ダイチが生きていた喜びが勝ったスバルたちは気にしなかったようだ。

 

「ダイくんっ!」

「うわっ!」

 

 スバルはガバッとダイチに抱きつく。

 

「生きててよかった……! もう、あたしを置いてどっか行っちゃったりなんかしたらダメなんだからね! 昔から危なっかしいんだから……」

「う、うん。心配かけてごめんね」

「ダイチー! この野郎~!」

 

 ワタルたちも駆け寄り、ダイチをポカポカと軽く叩く。

 

「全く、こちとら大変だったのに、ずっと寝てただって? いい身分だぜ」

「でも生きててホントよかったっスね~! ダイチも結構な不死身ぶりっスね!」

「ノーヴェもウェンディもごめん。それと久しぶり、オットー、セイン、ディード。俺の代わりに戦ってくれたみたいでありがとう」

「いえ、お気になさらず。ダイチさんが無事で何よりです」

「あたしは何か埋め合わせしてほしいかな~?」

「セイン姉様」

 

 ダイチたちが話していると、ディエチが本部から受けた報告を皆に伝える。

 

「チンク姉が目を覚ましたって。もう心配はいらないみたい」

「本当か!? じゃあこれからみんなで見舞いに行こうぜ!」

「ワタルとハヤトはチンク姉にちゃんと謝れよ」

「わかってるってぇ、ノーヴェ。俺だってそこらはちゃんと大人だからさぁ~」

「ったく、本当にこいつ、調子いいな……」

 

 全部の心配がなくなった一行は、和気藹々と笑い合いながら本部へと帰投していった。

 

 

 

 ――深夜のミッドチルダ市街の路地裏。街灯の明かりを避けながらコソコソと動く三人分の影があった。

 

「……ふぅ。どうやら誰にも見つからずに脱出することが出来たようだな。危ないところであった……」

「はぁ~……マジでもう終わりだと焦りましたよぉ~……」

 

 キョロキョロと辺りを見回して安全を確認してから、先頭の小太りの中年の男がつぶやいた。その後ろに続く、髪を青く染めた若い男がため息を吐きながらぼやく。それから、金髪のオネェ風の男が中年に告げた。

 

「でもリーダー、ガラオンも円盤も工場に置いてきちゃいましたよ。今頃は押収されてて、取り返すのは無理でしょうねぇ……」

 

 中年は歯ぎしりして小刻みに震える。

 

「うぬぬ……! 小さな町の玩具工場を演じてミッドチルダ人たちの目を欺きながら、全長400mの超巨大ロボで一気に征圧する……完璧な作戦だったはずなのに、侵入した初日に正体を暴かれてしまうとは何たることだ! あるまじき失態だぞ!」

「リーダーがくしゃみの拍子に素顔を晒したからじゃないですか」

 

 オネェに指摘され、中年はごまかすように咳払いした。

 

「……過ぎたことを掘り返しても仕方がない。これからどうするかを考えよう。とりあえずは、ほとぼりが冷めるまでどこかに身を隠すべきだな」

 

 中年のひと言に、青髪が意見する。

 

「それだったら、人のいないところに隠れませんか? 周りに人がいっぱいいたら、また何かの拍子で正体を見られる危険があります」

「なるほど、もっともだな……」

 

 更にオネェも述べた。

 

「せっかくならもっと暖かいところに行きましょうよ。ミッドチルダの気候はアタシたちの肌にはちょっと寒すぎるわぁ」

「うーむ、人がいなくて暖かい土地か。どこかいいところはないだろうか?」

 

 中年は次元世界の観光案内を出して、ペラペラとページをめくる。

 

「よし、ではここにしよう!」

 

 そして一つのページで止めて、人差し指で風景の写真を指し示した。

 

「いざカルナージ!」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はベムスターだ!」

ダイチ「ベムスターは『帰ってきたウルトラマン』第十八話「ウルトラセブン参上!」から登場した宇宙大怪獣! 一番の武器は何でも吸収するお腹の口で、何と宇宙ステーションまで丸呑みしてしまったぞ!」

エックス『この能力にスペシウム光線も効かず、ウルトラマンは一度退却しなければならないほど苦しめられたんだ』

ダイチ「セブンから授けられたウルトラブレスレットで倒すことが出来たんだ。ブレスレットはこのあとも、何度もウルトラマンを助けたんだよ」

エックス『通用しなかったのはたった一度きりと、本当の意味での万能武器だったな!』

ダイチ「『ウルトラマンX』でもベムスターはエックスを苦しませた。空間ごと吸い込むことで、エックスまで呑み込んでしまったんだから驚きだ!」

エックス『この技はゲームが初出だ。いわゆる逆輸入という奴かな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 無人世界カルナージへオフトレ旅行に行くスゥちゃんたち。けど、えっ、俺とチンクも行くんですか? 逃げ込んだミジー星人を捕まえに? 無人世界での思わぬ大バトルだ! 次回、『いざカルナージ!』。


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いざカルナージ!(A)

 

「みなさんのおかげで、ヴィヴィオは今日も元気ですよ……って」

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせていただきたいことが」

「お話聞かせてくれたら嬉しいな」

「――強いことだけが、全てじゃない」

「お前の拳を受け止めてくれる奴ならちゃんといるぜ」

「私が戦うべき『王』ではないし――私とは違う」

「強くなるんだ。どこまでだって!!」

「はじめまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

 

 

 

『いざカルナージ!』

 

 

 

「みんなで旅行、あたしも行きたかったっス~!」

 

 オペレーションベースXのオペレーション本部で、ウェンディが大声を出した。

 

「ノーヴェとスバルだけってズルいっス~!」

「あーうるせーな。お前まだごねてるのか」

 

 ジタジタと暴れて不平を表現するウェンディに、ノーヴェがうんざり顔を作った。

 

「あたしらは遊びに行くんじゃねーんだぞ。オフトレだ。あたしはチビたちの引率もあるしな」

「とかいって、通販で水着とか川遊びセットを買ってるのをおねーちゃんが知らないとでも?」

 

 ディエチの一言に、ノーヴェは一気に顔を赤くした。

 

「な、何で知ってるんだよ!」

「段ボールの発送データに中身書いてあったから」

 

 ノーヴェが恥ずかしがっていると、ダイチがノーヴェとスバルへ告げた。

 

「何はともあれ、二人とも、四日間のオフトレ頑張ってね。エリオくんやキャロちゃんたちによろしく言っておいてね」

「うん。ダイくんも四日の間、ケガしないようにね」

 

 今日から四日間、スバルとノーヴェはヴィヴィオとその家族、アインハルトら友人等とともに無人世界カルナージへオフトレーニング旅行をしに、訓練休暇に入るのであった。これから次元港へと向かう二人を、ダイチたちは見送りしているのだ。

 彼らが話していると、本部にカミキとクロノがやってくる。

 

「あっ、隊長。スバル・ナカジマ隊員並びにノーヴェ・ナカジマ隊員、本日只今より四日間の訓練休暇に入ります!」

 

 スバルとノーヴェが早速敬礼をしながら告げると、カミキはおもむろにうなずいて口を開いた。

 

「うむ、励んでくれたまえ。――だが、そのことなのだが、ダイチ、チンク」

「はい?」

 

 唐突に名前を呼ばれたダイチとチンクは、一瞬虚を突かれた顔になった。

 

「突然だが、お前たちにもカルナージへ向かってもらう」

「えっ、ええええ!? どういうことっスかぁ!?」

 

 一番に反応したのは、羨んでいたウェンディだ。クロノが事情を説明する。

 

「先日、とある玩具工場を摘発したことは覚えているだろう。異星人犯罪者がそこを隠れ家とし、違法なロボット兵器建造を行っていた事件だ」

「ああ、あの件ですね。確か、ジミー星人っていう」

「ミジー星人ね」

 

 名前を間違えたスバルに、ダイチが突っ込んだ。

 

「幸い完成前に摘発できたけれど、駆けつけるのがひと足遅くてミジー星人自体には逃げられたんですよね。それがどうしたんでしょうか?」

「まだ未確定だが、逃亡中のミジー星人がカルナージに逃げ込んだという情報を掴んだんだ。そこで二人にカルナージに赴いて、調査をしてもらいたい。君たちもよく知ってる通り、無人世界にはXio支部がないからな」

 

 Xioは各次元世界に一つずつ支部を置いているが、無人世界には存在しない。そのため、無人世界での活動は今回のように、有人の世界の支部のどこかから派遣された人員が行うのだ。

 その任務にダイチとチンクが選ばれたことに対して、ウェンディが抗議する。

 

「何でその役、あたしじゃないっスかー!? どっちかあたしに代わってよー! あたしが行きたいっスー!」

「諦めろ、隊長命令だぞ」

 

 ダダ……もとい、駄々をこねるウェンディの両脇を、ハヤトとワタルががっちりと捕らえた。

 

「四人が不在になる分、お前にもバリバリ働いてもらうからな」

「まずは俺たちと格闘訓練だ! よかったな、こっちもトレーニング出来るぞ」

「えー!? 嫌っスー! 豊かな自然に囲まれてキャッキャしながら楽しくやりたいんっスー! 男二人に挟まれた汗臭い空間なんて嫌だー!」

「だぁれが汗臭いだ、誰がっ!」

 

 うるさいウェンディをワタルたちが本部から連行していく。それをダイチは冷や汗を垂らして見送った。

 

「……ともかく、言った通りだ。ダイチ、チンク、調査を頼んだぞ」

「り、了解です」

 

 ダイチらが敬礼すると、グルマンが本部にひょっこり顔を出して、ミジー星人について語った。

 

「ミジー星人は戦闘能力の高いタイプではなく、知略派を気取ってる割には抜けているところの多い種族だ。しかし、油断はならんぞ。そういう奴こそ、追い詰められたら何をしでかすかわからんからな。発見しても、くれぐれも警戒を怠るなよ」

「わかりました。ご助言ありがとうございます、博士」

 

 チンクが礼を言うと、ダイチはスバルとノーヴェの方に向き直った。

 

「そういうことで、俺たちもカルナージに行くことになったよ。オフトレに参加する訳じゃないけど……道中よろしくね」

「あっ、うん! こっちこそよろしく、ダイくん」

 

 スバルがどことなく嬉しそうにうなずき返した。

 

 

 

 ダイチは出立前に、カルナージまで同行する高町一家のところへ連絡を入れた。

 

「……そういうことですので、なのはさん、フェイトさん、道中よろしくお願いします」

『わかった、ダイチくん。お仕事頑張ってね。もし何かあったら私たちも協力するから、遠慮なく言ってね』

『何だったら、ダイチくんたちもお仕事後にトレーニングに参加してもいいんだよ?』

 

 ヴィヴィオの二人の母の内、フェイトが申し出、なのははトレーニングに誘ってきた。ダイチは思わず乾いた笑いを浮かべた。

 

「い、いえ、俺じゃあなのはさんたちにはついていけませんから……」

『もう、Xio隊員がそんな消極的じゃあダメだよ? あっ、ちょっと待って。ダイチくんのこと、ヴィヴィオたちにも話すから』

 

 通信が一旦保留になると、エックスがダイチに尋ねかけた。

 

『ヴィヴィオという少女には、母親が二人もいるのか。変わってるな』

「まぁ、二人とも血のつながった親ではないけどね。ヴィヴィオちゃんは出生が特殊で……」

 

 ダイチがヴィヴィオについて軽く説明すると、保留が解かれて空中に再度なのはたちの顔の画が現れた。

 

『お待たせ。今ヴィヴィオのお友達がウチに来てるんだけど、ダイチくんのことお話ししたら、ちょっと代わってほしいって。構わないかな?』

「あっ、はい、大丈夫です」

『ありがと。それじゃあ代わるね。ヴィヴィオー』

 

 なのはたちが画面の外へと引いていき、なのはとフェイトの娘・ヴィヴィオとアインハルト、後二人の女の子が交代で画面に入ってきた。

 

『ダイチさん、お久しぶりですっ! ヴィヴィオです!』

『お久しぶりでーす、ダイチさん!』

「うん、お久しぶり、ヴィヴィオちゃん。リオちゃんとコロナちゃんも」

 

 頭にリボンを一つ結んだ短髪の子がリオ・ウェズリー、ツーテールの子がコロナ・ティミルという名だ。二人はヴィヴィオのクラスメイトで、仲良し三人組として学院内外でよく一緒に行動している。

 

「それから、アインハルトちゃんも」

『こ、こんにちは、ダイチさん』

「はい、こんにちは」

 

 アインハルトはやや照れた様子で挨拶した。それからヴィヴィオが尋ねてくる。

 

『ダイチさんとチンクも一緒にカルナージに来るんですよね。わたしたちのこともよろしくお願いしますっ!』

「こちらこそ。また後で会おうね」

 

 ペコリと頭を下げたヴィヴィオたち。その後で、なのはたちと細々としたことを話してから通信を終えた。

 

『ヴィヴィオとその友人たちも、なかなかに元気のいい子みたいだな』

 

 とエックスが語る。

 

「うん。それから、カルナージに着いたらエリオくんやキャロちゃん、ルーテシアちゃんとも久々に会うな……。みんな元気かな……」

 

 ダイチはまた新たな人の名前を唱え、やや遠くを見ながら思いを馳せた。

 

 

 

 カルナージはミッドチルダの首都クラナガンから臨行次元船で約四時間の航行を必要とした先にある無人世界だ。標準時差は七時間で、気候は年中通して温暖であり、人の手がつけられていない豊かな大自然がどこまでも広がる、穏やかな土地である。

 

「みんな、いらっしゃ~い♪」

「こんにちはー」

「お世話になりまーすっ」

 

 カルナージに到着したダイチらと高町家ご一行を歓迎したのは、ここでホテルを経営するメガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノの母娘。一行はカルナージ滞在中、彼女らの家にご厄介になるのだった。

 なのはやヴィヴィオたちがアルピーノ母娘と挨拶を交わしてから、ダイチもルーテシアと面と向かう。

 

「ルーテシアちゃん、久しぶり。こうして直接会うのは四年ぶりだね」

「はいっ。その節は、どうもご迷惑をお掛けしました」

「構わないよ。……でも、いつも思うけれど……あの頃と大分印象変わったよね、色々と……」

「も、もうダイチさん、それは言わないでって言ってるじゃないですか。当時の自分は軽く黒歴史なんですよー」

 

 若干呆気にとられたダイチの一言に、ルーテシアは少々顔を赤らめた。

 一方で、スバルはメガーヌに尋ねかける。

 

「あれ? エリオとキャロはまだでしたか?」

「ああ、ふたりは今ねぇ」

「おつかれさまでーすっ!」

 

 噂をすれば何とやらか、一同の元に赤毛の少年と小さな飛竜を連れた少女が薪を抱えながらやってきた。

 

「エリオ、キャロ♪」

 

 声を弾ませるフェイト。二人はそれぞれエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエと言い、かつてフェイトが面倒を見た子たちなのだ。ルーテシアとともに十四歳。

 エリオたちのことをフェイトがアインハルトに紹介してから、エリオとキャロがダイチに挨拶する。

 

「ダイチさん、お久しぶりです」

「お久しぶりでーすっ」

「うん、二人とも久しぶりだね」

「ふふっ。こうしてると、機動六課時代のことを思い出すわね」

「うんうん。こうしてダイくんとあたしたちが揃うのは、あの時以来だからね」

 

 エリオたちと並んだティアナとスバルがそうつぶやいた。

 ルーテシアの召喚獣ガリューも現れ、その紹介がされている傍らに、エックスがダイチに問う。

 

『ダイチ、君の知人は結構年齢層がバラバラだな。どういうつながりなんだ?』

「ああ。エリオくんとキャロちゃんは、前にも話したけど、四年前に設置されてあった機動六課っていう部署にスゥちゃんたちともども在籍してたんだ。ルーテシアちゃんはその六課が対応した事件の関係者で、みんなその縁で知り合ってね」

『つまり、あの二人はスバルたちの同僚だった訳か。しかし、四年前ならば彼らはヴィヴィオたち並みの小さな子供だったのだろう。よく管理局の職員になれたものだな』

「能力が高ければ、年齢は関係ないのが管理局、特に航空部隊では当然なんだ。クロノ副隊長やなのはさん、フェイトさんだって、それくらいの年齢からもう活躍してたって話だし」

 

 それぞれ初対面の挨拶が一通り済むと、メガーヌが質問する。

 

「され、お昼前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」

 

 それに答えたのはノーヴェだった。

 

「やっぱりまずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」

「うん!」

「アインハルトもこっち来いな」

「はい」

「わかったわ。それじゃあ、ダイチくんとチンクちゃんはどうするのかしら」

 

 メガーヌは次にダイチらに質問を振った。

 

「俺たちはこの近隣の調査を行います。今追ってる異星人犯罪者は宇宙船とかはないはずですから、全然人の手が入ってない場所には潜伏しないでしょうから」

「調査が一段落して……そうですね、日没までには何かしらの発見の有無に関わらず、一旦Xio本部に帰投しようかと思ってます」

「えー? お二人とも、日帰りしちゃうんですかぁ?」

 

 リオが不満そうな声を上げた。

 

「せっかく来たんだし、ゆっくりしてけばいいのに」

「駄目だよリオ、ダイチさんたちはお仕事で来てるんだから」

 

 口を尖らせるリオを、ヴィヴィオがたしなめた。

 

「あらあら、残念ね。でも、お昼はウチでバーベキューを食べていってちょうだい。二人の分も用意しておくから」

「ありがとうございます、メガーヌさん」

「それじゃあ、長々と引き留めてるのも申し訳ないわね。お仕事、頑張ってちょうだいね」

「ダイチさん、チンク、行ってらっしゃーい!」

 

 手を振るヴィヴィオたち一同に見送られながら、ダイチとチンクは調査のためにすぐ側の森林に入っていった。

 

 

 

 それからカルナージの目ぼしい森林地帯を探索し、お昼時にはメガーヌに誘われた通りにバーベキューのご相伴に預かったりしながら、ダイチたちは調査を続行した。

 そんな中で、チンクがふと発言する。

 

「それにしても、ルーテシアお嬢様は四年前と比べて、すっかり元気になられた。本当に良かった……。ああして皆といるところを見ると、つくづくそう思う」

「そうだね。当たり前だけど、お母さんのことが大きな心労になってたんだろうね。やっぱり元気が一番だ」

 

 相槌を打つダイチ。

 

「それと、ノーヴェも大分気性が柔らかくなった。姉として、ある意味で一番心配だった奴だが、ああして更生できたのは偏にナカジマ家のお陰だ。ダイチ、君にも改めてお礼を言わなくてはいけないな」

「そんな……俺は特に何もしてないよ」

「いや、短い間だったが、ダイチとの接触もノーヴェが変わった要因の一つだと私は思う。……そういえば、あの時はとても迷惑をかけてしまった。ダイチ、すまない」

「改めて謝らなくていいよ。俺はもう、全然怒ってなんていないんだから。君たち姉妹がこうして真っ当な道を歩いてる、それだけで十分だよ」

「そうか……相変わらず、ダイチは優しいな」

 

 ふっ……とチンクは和やかな微笑を浮かべた。

 チンクとの会話が済むと、代わりのようにエックスが問いかけてきた。

 

『ダイチ、何だか大分神妙な話をしていたが、チンクやノーヴェたちと何があったんだ? 皆良い人間じゃないか』

「ああ、それは話せば少し長くなるんだけど……機動六課とそれが対応した事件のことはさっき軽く触れただろう?」

 

 と前置きして、ダイチが説明する。

 

「その事件の首謀者は、ジェイル・スカリエッティっていう違法な科学者だったんだけど……チンクたちは、そのスカリエッティの生み出した『戦闘機人』という人造人間なんだ」

『何と。スバルと同様、普通の肉体じゃないとは思っていたが……そんな経緯だったのか』

「当然チンクたち姉妹はスカリエッティの配下として犯罪行為を重ねてたんだけど、事件解決とともに全員確保。でも特異な出生故に犯罪に手を染めていたのはやむを得ないことだったという弁護で、事件への関与性の薄い者は更生プログラムを受けて社会復帰……いや、初めて社会の中へ足を踏み入れたんだ」

『そうか……。人に歴史あり、だな』

 

 しみじみと納得するエックス。

 

『しかし、チンクたちが君に迷惑をかけたというのは?』

「ああ……実は俺、四年前にチンクたちに誘拐されたんだ。だからみんなのことについて詳しいわけだけど」

『何! そうだったのか!』

 

 その告白には、流石のエックスも驚きを隠せなかった。

 

「スカリエッティは生体というものに普通じゃない執着を抱いてて、人造人間開発の他にも強靭な生命力を持つ怪獣、つまりスパークドールズにも関心を持ってたんだ。エレキングも、元々はスカリエッティが所有してたんだよ。それで研究のために、当時ガオディクションとデバイス怪獣の構想を発表したばかりだった俺に目をつけて、自分の下に連れてくるよう命じたみたいで……。もちろん俺は、自分に手を貸せという奴の要求は突っぱねたんだけど、そのせいで監禁されて。あの時はフェイトさんたちに助け出してもらったんだったなぁ」

 

 四年前を振り返って懐かしむダイチに対して、エックスは呆けた声を出す。

 

『すごい経歴をさらりと語るものだな……。自分をさらった相手に対して好意的に接することといい、ダイチ、お前実はかなりの大物なんじゃないか』

「い、嫌だなぁ。俺なんか、隊長や副隊長みたいな人たちと比べたら全然大したことは……」

 

 エックスと会話していたダイチを、不意に険しい面持ちとなったチンクが呼び止める。

 

「ダイチ、あそこを見ろ」

「えっ……」

 

 チンクが目を向けている先には、三人の男たちがたたずんでいた。小太りの中年と、頭髪を青く染めた若い男、そして大柄なオネェという構成だった。

 その三人組は、ダイチたちに気づくとビクリと身体が跳ね上がり、すぐにビクビクしながらそっぽを向いた。

 

「あの三人、怪しくないか」

「うん……如何にも怪しすぎるね」

 

 わかりやすいくらいに挙動不審な三人組へ近寄った二人は職務質問を開始した。

 

「ちょっといいでしょうか、Xioの者ですが」

「う、うむ!? わ、私たちに一体、何の用かね?」

「あ、アタシたちはここには、観光旅行に来ただけですぅ」

「そうそう!」

 

 聞かれてもいないのにそう語る三人。ますます怪しい。チンクがどんどん質問を投げかける。

 

「どこから来たんだ?」

「み、ミッドチルダだよ、うん!」

「ミッドの、どの地区に住んでいるんだ? 住所は?」

「じ、住所はですねぇ~……何だったかしら~?」

「住所がわからないのか?」

「最近! 最近引っ越したばかりでして……」

「引っ越したばかりでも、住所くらいは覚えてるものだろう」

 

 何ともしどろもどろな返答ばかりする三人。

 と、その時、一陣の風が吹いて周りの木々から花粉が舞った。

 

「は、は……」

 

 それを吸った中年は鼻をむずむずさせ……。

 

「ハクションッ!」

 

 くしゃみと同時に、顔が怪人のものへと変貌した!

 青髪とオネェはあぁっ! と口を押さえ、ダイチとチンクは目を見開いた。

 

「ミジー星人!」

「ダイチ、捕まえるぞ!」

 

 即座に武器を手に取るダイチとチンク。一方、正体を見られたミジー星人たちは慌てて森の奥へと逃亡を図る。

 

「逃がすものか! ランブルデトネイター!」

 

 だがチンクがナイフを投げ飛ばす。ナイフはミジー星人の頭上を越えて、彼らの進行先の地面に突き刺さって炸裂した。

 

「ひぃっ!」

「大人しくしろ! お前たちを質量兵器の密輸入及び不法所持の容疑で逮捕する!」

 

 チンクが投げナイフを、ダイチがジオブラスターを突きつける。対するミジー星人は丸腰だ。青髪とオネェは震え上がった。

 しかし、人間の顔に戻った中年は不敵に笑った。

 

「ふっふっふっ……我々の正体をこうも容易く暴き、追い詰めるとは敵ながら天晴!」

「いや、そっちが勝手に顔を晒したんだろう」

「だが! 我々にはこんな時のための切り札があるのだ! 見ろっ!」

 

 中年が素早く取り出したのは――四本のコイルを背中から生やした怪獣の人形。

 

「スパークドールズ!?」

「如何にも! こんなこともあろうかと、裏ルートで購入しておいたのだ! ダランビアよ、邪魔者を蹴散らすがいいッ!」

 

 ダイチたちが対応するよりも早くミジー星人が指先から発せられた電撃が、スパークドールズに浴びせられる。

 そのショックによりスパークドールズの封印が解かれて巨大化! ミジー星人の背後にそびえ立った!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 超合成獣サンダーダランビアが、緑豊かなカルナージの地に咆哮を轟かせた。

 



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いざカルナージ!(B)

 

「え? ヴィヴィオさんのお母様方も模擬戦に……?」

「はい! ガンガンやってますよー!」

 

 ルーテシアたちがオフトレ用に用意した、レイヤー建造物の模造都市で構築された訓練場へと向かう道すがら、アインハルト、ヴィヴィオ、ノーヴェらが会話をしていた。この三人は、スバルたちの模擬戦を見学しに行くところなのだ。

 しかしアインハルトは、それになのは、フェイトも参加していると聞いて意外に感じた。

 

「おふたりとも家庭的でほのぼのとしたお母様で素敵だと思ったんですが」

 

 アインハルトは頭の中で、今朝見た二人の食卓に立つ平和的な様子を思い返した。

 

「魔法戦にも参加されてるなんて少し驚きました」

 

 と語ると、ノーヴェがブルブルと震えて笑いをこらえた。ヴィヴィオも苦笑を浮かべている。

 

「えと参加というかですね……」

 

 ヴィヴィオが何かを言いかけた時……遠くから雷が落ちたような轟音が発生した!

 

「えっ!?」

「こんな天気がいいのに……落雷!?」

 

 反射的に振り返る三人。その方角の、豊かな森林の真ん中より……大怪獣サンダーダランビアが身体を起こした!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

「か、カルナージに怪獣が!」

「お、大きい……! 生で見るの初めて!」

 

 唖然とするアインハルトとヴィヴィオ。ノーヴェは二人の背中を押しながら言い聞かす。

 

「ヴィヴィオとアインハルトはお嬢一家のロッジへと避難しろ! あたしはチンク姉たちと合流する!」

「ダイチさんたちは無事なんでしょうか……?」

 

 心配して尋ねるアインハルト。

 

「わからねぇ。通信に障害が出てて、連絡が取れないからな」

 

 ノーヴェはサンダーダランビア出現とほぼ同時にダイチたちと連絡を取ろうと試みたのだが、立体映像は砂嵐を映すばかりだった。どうやら膨大な電力をその身に宿すサンダーダランビアの周囲では強力な磁界が発生していて、それが通信障害を引き起こしているようだ。

 

「けどあの二人のことだから、大事には至ってないだろ。それも確認してくるから、お前たちは今は自分の身を守ることを第一に考えろ。いいな?」

「は、はい」

 

 ヴィヴィオたちが返事をすると、ノーヴェはジェットエッジとバリアジャケットを装着してサンダーダランビアの方角へとまっすぐ急行していった。

 

「アインハルトさん、行こう!」

「はい……」

 

 ヴィヴィオに促されて移動しながらも、アインハルトは音信不通のダイチたちの身を案じ続けていた。

 

 

 

「タイプG、ネオダランビア……いや、サンダーダランビア!」

「まずいな……! まさかスパークドールズを用意していたとは……!」

 

 ミジー星人が封印を解いてしまったサンダーダランビアと面前としているダイチとチンクは、怪獣の威容を至近距離から目の当たりにして、迫力とプレッシャーにひるんでいた。サンダーダランビアの全身からは電気エネルギーがスパークしていて、近くにいるだけで危険を感じる。

 

「うははははははッ! どうだ、恐れ入ったかぁ! 我々の知略は完璧なのだぁ!」

 

 ミジー星人のリーダーは二人がたじろいていることに気を良くして高笑い。そしてダイチたちに視線を向けたまま、サンダーダランビアに命令を飛ばす。

 

「サンダーダランビア! まずはそこの連中から薙ぎ払ってやれぃ!」

 

 だが……サンダーダランビアが二人へ攻撃する気配が一向になかった。

 

「ん? どうしたんだ? 何故攻撃しない」

「あ、あの、リーダー……」

 

 オネェがおずおずとリーダーに呼びかける。

 

「何だ、この大事な時に」

「ダランビア……めっちゃアタシたちをにらんでるんですけどぉ~……」

「……へ?」

 

 振り返るリーダー。そして彼も視認する。サンダーダランビアの五つの眼が、全て自分たちへと向けられていることを。しかも穏やかならぬ気配。

 青髪が問いかける。

 

「……そういえばリーダー、購入する時にダランビアの制御方法って聞いたんですか?」

「……あっ」

 

 リーダーが短く発すると、青髪とオネェは途端に慌てふためいた。

 

「ど、どうするんですか~!? まずいっすよこれぇッ!」

「やっぱり無理に値切ったのがいけなかったんですよぉ~!」

「う、うるさぁ~いッ! おのれ、マーキンド星人めぇ~!!」

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 サンダーダランビアは四本のコイルからバチバチと火花を散らし、放電攻撃をミジー星人たちに放った!

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!」

 

 ミジー星人三人はそろって薙ぎ払われた。

 

「うわぁっ!」

「くぅっ!」

 

 放電の勢いは凄まじく、余波の突風がダイチとチンクの身体を大きく煽った。

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 ミジー星人たちを吹き飛ばしたサンダーダランビアは、ドスドスと足音を響かせながら進行を開始した。それを見て叫ぶダイチ。

 

「まずい! 次元港のある方角だ!」

 

 このままではサンダーダランビアが次元港を襲撃し、観光客や職員の命が危ない。しかし通信障害によって、次元港へ危険を伝えることが出来ない。

 そのためダイチはジオブラスターを構えながらチンクに告げる。

 

「俺がどうにか進行を遅らせる! その間にチンクは港に先回りして、民間人を避難させてくれ!」

「大丈夫か!? 今の装備で……!」

 

 ここまでの事態になるとは想定していなかったので、今回は対怪獣用の装備を持ち合わせていない。またカルナージは無人世界なので、いつものようにXio本部からの支援は望めない。マスケッティも、どんなに急いでも一時間以上は掛かる。

 

「でも、やるしかない! チンク、頼む!」

「……わかった! 無茶はするなよ、ダイチ!」

 

 うなずいたチンクが次元港の方角へと急いでいく。それを確認したダイチは、ブラスターからエクスデバイザーへと持ち替えた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 デバイザーのスイッチを押して、エックスのスパークドールズをリードする。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 X字の輝きに包まれるダイチ!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 ダイチから変じた光はサンダーダランビアを飛び越え、その面前にウルトラマンエックスがきりもみ回転しながら着地した!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

「シェアッ!」

 

 突然目の前に降ってきたエックスに驚いたサンダーダランビアは足を止める。そして次元港を背にするエックスは、この先には行かせまいと堂々とした戦闘の構えを取った。

 

 

 

 アルピーノ家の前まで避難してきたヴィヴィオとアインハルトは、そこでリオとコロナと鉢合わせる。

 

「ヴィヴィオ、アインハルトさん!」

「よかった、二人とも無事だったんですね」

「そっちこそ、無事でよかった」

 

 お互いに何ともないことを確認でき、ヴィヴィオたちは胸を撫で下ろした。

 その時にエックスが降り立ち、サンダーダランビアと対峙したのであった。

 

「あぁー! ウルトラマンエックスだぁ!」

「わたしたちを助けに来てくれたんだ……!」

 

 リオとコロナは遠くのエックスの姿に、途端に興奮した声を出した。この四人とも、エックスを直接目にするのは初めてであった。

 

「アインハルトさん見て! エックスさんだよ! すっごく大きい!」

「はい……!」

「エックスさーん! 頑張れー!」

 

 精一杯声を張ってエックスへと声援を発するヴィヴィオ。それに呼応するように、彼女のぬいぐるみ型のデバイス、セイクリッド・ハートがパッパッと手拍子を送った。

 

 

 

 次元港を目指し森の中を全速力で駆けていくチンクの元へエアライナーが伸びてきて、その上をノーヴェが走ってきた。

 

「チンク姉、無事だったか!」

「ノーヴェ!」

 

 更にウィングロードも伸びてきて、スバルも駆けつけてきた。

 

「チンク、ノーヴェ! ダイチは?」

「ダイチは怪獣の足止めに残った。しかしエックスが来たのだから、心配はいらないだろう。私は怪獣の進行先の次元港へ危険を伝えに行くところだ」

「チビたち四人はお嬢ん家に避難させたぜ」

 

 三人は手早く情報を交換し合う。

 

「なのはさんたちは一足先に港の方へ避難誘導しに飛んでった。あたしたちも港へ行って、民間人の安全を確保してからエックスの援護に回ろう!」

「よっしゃ!」

「了解した!」

 

 スバルの指示にノーヴェ、チンクがうなずき、三人はすぐに次元港へと急行していった。

 

 

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

「デヤァッ!」

 

 咆哮を上げるサンダーダランビアへとまっすぐに接近を試みるエックス。だがダランビアの背のコイルから電撃が放たれ、エックスの足元を撃つ。

 

「グッ!」

 

 咄嗟に横跳びでかわしたエックスだが、サンダーダランビアのコイルは四本ある。その一本一本から電撃が不規則に放たれ、エックスを狙う。

 エックスは電撃の連続攻撃を回避するので手一杯で、前に進むことが出来ない。

 

『「サンダーダランビアのコイルをどうにかしないと、ジリ貧だよ!」』

『よぉし、任せろっ!』

 

 ダイチが告げると、エックスは右腕を振りかぶって遠距離攻撃の構えを取った。

 

『Xスラッシュ!』

 

 指先からくさび状の光弾が放たれ、サンダーダランビアのコイルの一本に命中した。

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 攻撃のショックでコイルがスパークし、電撃が途絶える。

 

『「今だ、エックス!」』

『ああ!』

 

 すかさずエックスは地を蹴り、宙を舞って片脚を突き出し、両腕をピンと斜め上に伸ばした。

 

『Xクロスキック!』

 

 足の一点にエネルギーを集中し、強烈な飛び蹴りをサンダーダランビアに見舞った! ダランビアはキックの勢いに押されて後退する。

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

『このまま決めるぞ!』

 

 着地したエックスはザナディウム光線発射の構えを取ろうとする。だが、

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 サンダーダランビアの右腕がムチのように長く伸び、エックスの身体に巻きついて拘束した!

 

『うっ! し、しまった!』

 

 巻きついた腕を通して高電圧の電撃が流し込まれ、エックスを襲う!

 

「ウワアァァァァァッ!」

 

 身動きが取れない状態で電撃を食らい続け、一気に苦しい状況に追い込まれてしまったエックス! カラータイマーも点滅してピンチを知らせる!

 

『「うあぁっ……! こうなったらモンスジャケットを……!」』

 

 ダイチも苦しみながらもデバイス怪獣カードをエクスデバイザーにリードさせようとしたが、デバイザーはエラーを起こし、モンスジャケット展開が出来なかった。

 

『「こ、この電撃の影響か……! このままじゃ、まずい……!」』

 

 モンスジャケットも使用できない。エックス、大ピンチ!

 

 

 

「ああっ! エックスさんが危ない!」

 

 エックスの窮地は、望遠の魔法で戦いを見守っていたヴィヴィオたちの知るところにもなった。ヴィヴィオらは慌てふためく。

 

「ど、どうしよう! わたしたちで何か出来ることはないかな……!」

「お気持ちはわかりますが、私たちではどうにも……」

「わたしのゴーレムをぶつけることでどうにか……!」

「危ないってコロナ! 遠くからコントロールは出来ないでしょ!?」

 

 焦るコロナをリオが押し留めた。と、その時、ヴィヴィオが戦場の空に「人影」を発見した。

 

「あっ、なのはママだ!」

 

 それはバリアジャケットと杖の状態のデバイス・レイジングハートで武装したなのはであった。民間人の避難は完了したようで、上空からサンダーダランビアを見下ろし、レイジングハートの先端を向けている。

 なのはの姿を確かめたアインハルトが大いに慌てふためいた。

 

「えぇっ!? ヴ、ヴィヴィオさんのお母様、あんなところで何を!? バリアジャケットを纏ってても、危険すぎます! 確か、怪獣は魔導師ランクがS以上でないと個人単位ではとても太刀打ちできないとダイチさんが……!」

「あー、そのことなんですが……」

 

 ヴィヴィオが言いかけたところで、なのははカートリッジを消費し、桃色の砲撃を発射する。

 

「エクセリオンッ! バスタ―――ッ!!」

 

 放たれた、膨大な魔力の砲撃がサンダーダランビアの胸部の中央に炸裂した!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 その衝撃でサンダーダランビアは大幅にひるみ、エックスへの電撃攻撃が停止した。

 

「えっ、えぇ!?」

 

 なのはの砲撃で怪獣が悶絶したことに目を見張るアインハルト。ヴィヴィオは言いかけた台詞の続きを告げた。

 

「ママのランクはS+なんです。ジオマスケッティが出来る前までは、対怪獣戦の主力の一人でした」

「そ、そうだったんですか!?」

「ちなみに普段の役職は、航空武装隊の戦技教導官です」

 

 ヴィヴィオから告げられたことに度肝を抜かれたアインハルトは言葉をなくした。

 ダランビアの攻め手を止めたなのはは声を張り上げる。

 

「ウルトラマンエックスの援護作戦、開始!」

「了解っ!!」

 

(♪Take off!! スーパーGUTS(インストゥルメンタル))

 

 なのはの号令に応えたのはウィングロードを走るスバルとティアナ、そして空を駆けるフェイト、飛竜に跨るエリオとキャロであった。

 

「あれはアルザスの飛竜……!?」

 

 アインハルトは飛竜を目にして驚いた。彼女にコロナ、リオ、ヴィヴィオが説明する。

 

「キャロさん竜召喚士なんです」

「エリオさんは竜騎士!」

「フェイトママは空戦魔導師で執務官やってます。ランクもなのはママと同じS+。自慢じゃないですけど、ママたちは管理局屈指のエース、そしてストライカーズ! ママたちが駆けつけたからには、エックスさんはもう大丈夫ですよ!」

 

 熱を込めて語るヴィヴィオの一方で、アインハルトはすっかり驚き果てて口が閉まらなかった。

 サンダーダランビアに立ち向かう魔導師のエースたちの内、フェイトがエックスを縛る触手へと一直線に飛んでいく。

 

「バルディッシュ!」

[Sonic form]

 

 フェイトのバリアジャケットが軽装の真・ソニックフォームと変化し、更にバルディッシュが大剣型のライオットザンバー・カラミティとなると、光の刃をうならせながら触手に振り下ろした!

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 一閃、触手は真っ二つに断たれてエックスは解放される。

 サンダーダランビア本体の方には、スバル、ティアナ、エリオ、キャロが一斉攻撃を仕掛けていく。

 

「ディバインバスタァァ―――!!」

「クロスファイア・フルバーストッッ!!」

「フリード! ブラストレイッ!!」

 

 魔力の砲撃、射撃がサンダーダランビアの眼球付近に直撃していく。さすがになのはほどのダメージはないが、攻撃で視界が隠されるのでサンダーダランビアは足止めを食らう形となる。

 更にそこになのは、フェイトも射撃に加わり、ダランビアの行動を阻止する。

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 ろくに動けなくなって苛立つサンダーダランビアは電撃を彼女らに向けたが、六人は息のぴったりと合ったチームワークで巧みに飛び回ることで、電撃の雨を難なくかわしていった。

 その間にエックスは体勢を立て直すことが出来た。

 

『怪獣を相手にあんな大立ち回りを……。彼女たちはすごいな』

『「ああ……! 俺たちも行くぞ!」』

[デバイスエレキング、スタンバイ]

 

 ダイチが改めてデバイスカードをリードし、モンスジャケットを展開した。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

『「電撃には電撃だ!」』

 

 エレキングミラージュを纏ったエックスは、即座に二丁拳銃からオレンジ色の電撃波を発射する。

 

『「ヴァリアブル電撃波!」』

「シェアァァッ!」

 

 電撃波がサンダーダランビアに直撃する!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 その攻撃は決め手とはならなかった。だが、モンスジャケットの攻撃には魔力が宿っており、しかも莫大なエネルギー量なので、周囲に散布される魔力量は通常の何十倍もある。

 そのため、なのはの代名詞とも言える最強の一撃を放つのに十分すぎるほどの魔力がたった一発で補われたのだった。

 

「スターライト……!」

 

 レイジングハートをブラスターモードに変形したなのはが、それを放つ。『星の光』の名を冠する、収束型の砲撃魔法!

 

「ブレイカァァァ―――――ッッ!!」

 

 極大の魔力砲撃が、サンダーダランビアに決まった!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 一瞬巨体がくの字に折れ曲がったダランビアは、ドズンッ! とその場に両膝を突いて昏倒した。

 

「す、すごい威力……! 怪獣がダウンした……!」

 

 スターライトブレイカーの成果を目の当たりにしたアインハルトが、最早呆気にとられながらつぶやいていた。

 

『「これで終わりにしよう!」』

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 いよいよエックスが勝負を決める時がやってきた。デバイスゴモラのカードをリードして、ゴモラキャリバーを展開。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 ローラーブーツでサンダーダランビアへと直進し、両腕のスピナーを激しく回転させる。

 

『「超振動拳!!」』

「イィィィ―――ッ! シャァ――――――――ッ!」

 

 エックスの突進がサンダーダランビアを貫く。爆散したダランビアの破片が一点に凝縮されていき、スパークドールズへと戻っていった。

 ゴモラキャリバーを解除したエックスは、自身を助けてくれたなのはたちに敬礼する。言葉は通じなくとも、感謝の気持ちは通じると考えて。

 果たして、なのはたちも達成感を湛えた笑顔を浮かべながらエックスに敬礼を返したのであった。

 

 

 

『――了解した。よくやってくれたな、ダイチ、チンク』

 

 事件解決後、ダイチとチンクは回復した通信回線を用いて、Xio本部のカミキへと顛末を報告した。カミキはダイチたちの労をねぎらう。

 

「俺たちだけの力によるものじゃありません。なのはさんたちの助けがあってこそです」

 

 ダイチが言うと、映像の中のカミキはなのはらの方を向く。

 

『うむ。高町戦技教導官らも、ダイチたちへの助力、感謝する』

「いえ、管理局員として当然のことです」

 

 なのははどこか熟練の戦士の風貌を思わせる佇まいで、代表してカミキに答えた。

 

「逮捕したミジー星人とサンダーダランビアのスパークドールズは、これからチンクとともに本部へ護送します」

 

 とダイチが言うと、カミキはそこで意外なことを返した。

 

『いや、護送はチンクだけで問題ないだろう』

「え?」

『ダイチはそちらで一泊してから帰ってくるといい。ちょうどいい機会だ、温泉にでも浸かって骨を休めてくるんだな』

「えっ、えぇ!?」

 

 その言いつけに、ダイチのみならず一同が驚きを見せた。

 

「そ、そんな! 俺だけ遊んで帰るなんて出来ませんよ……!」

『いや、ダイチが一番休暇を取った時間が少ないだろう。一日程度帰りが遅くなっても、誰も文句など言わんさ』

 

 ダイチは特捜班であると同時にラボチームという特殊な立ち位置なので、その役割を引き継ぎできる人員がなかなかいないので休暇日数は最も少ないのだった。それを考慮したカミキの粋な計らいだった。

 戸惑うダイチの背中をチンクも押す。

 

「私に遠慮することはないぞ。ダイチはここ最近、疲労が溜まってるようでもあるしな。むしろここらでリフレッシュするべきだろう」

「でも……」

「わぁ~っ! ダイチさんもここに泊まっていくんですね!」

「せっかくだから、あたしたちにゴモラ貸して下さい! 一緒に遊ぶんです!」

「あらあら、早速ダイチくんの分のおもてなしの用意をしなくっちゃね、ルーテシア」

「任せて、ママ!」

 

 ヴィヴィオらに純真な笑顔を向けられ、アルピーノ母娘の張り切る様子を目の当たりにしたら、さすがに断ることは出来なかった。

 

「り、了解しました。お心遣い、ありがとうございます、隊長」

『うむ。しっかり身体を休めて、また次から一層励んでくれ』

 

 ダイチの件の話が纏まると、ティアナがスバルの肩に手を置いた。

 

「よかったじゃない、スバル。ダイチさんと宿泊できて」

「えぇっ!? べ、別にダイくんと一緒だからって、あたしに嬉しいことなんてないよ?」

 

 素知らぬ顔をするスバルであったが、ヴィヴィオたちに纏わりつかれて苦笑いしているダイチの顔を見つめて、やんわりと顔をほころばせた。

 

 

 

 その夜……ダイチはエリオとともに、アルピーノ家の温泉にその身を浸からせていた。

 

「ふぅ~……隊長が言った時は驚いたけど、実際ここに泊まれてよかったよ。特にこの温泉の湯加減は最高だね」

「そう言ってあげたら、ルーテシアも喜びますよ。この浴場の設計も、温泉掘ったのもルーテシアですから」

「……ルーテシアちゃん、日に日に建築にのめり込んでいくよね。本人はお遊びを自称してるけど、絶対その範疇を超えてるって……」

「ははは……」

 

 ダイチと会話するエリオは苦笑を浮かべた。

 

「エリオくん、自然保護隊の仕事の調子はどう? 君とキャロちゃんにはスパークドールズ発掘でもお世話になってるけど、何か困ったことがあるなら相談に乗るよ」

「いえ、今のところは順調です。お気遣いありがとうございます。ダイチさんの方こそ、例のデバイス怪獣の進展はどうでしょうか」

「それが、どうにも上手いこと行かなくってさ……。特捜班との二足のわらじでなかなか時間が取れないというのもあるけど。でもモンスジャケットというものが出来たし、デバイス怪獣自体もいずれ完成できると思うんだ……」

 

 息を吐きながら語ったダイチは、ふとエリオに頼み込む。

 

「そうだ、エリオくん。ちょうどいい機会だし、あとで君のストラーダのデータを取らせてもらっていいかな。最新のデータが欲しいんだよ」

「構いませんけど……」

 

 側の岩に立てかけているデバイザーから、エックスがダイチに尋ねかける。

 

『ダイチ、また新しいデバイス怪獣カードを作るつもりなのか?』

「ああ。それもモンスジャケット用のをね。今度のはベムスターの能力に主眼を置いて、防御重視のものを……」

 

 言いかけたダイチが、女湯の方で何か異常が起きているのを察知した。

 

「うん? 向こうがさっきから騒がしいね……」

「ほんとですね。どうしたんだろう……」

 

 そのひと言の直後に、垣根の向こうから派手な水飛沫が舞い上がった! ただの悪ふざけの範囲ではなさそうだ。

 

「!? まさか、ミジー星人の仲間か何かが襲撃してきたんじゃ! スゥちゃんたちが危ない!?」

『あっ! おい、ダイチ! 今のは……!』

 

 焦ったダイチはジオブラスターを引っ掴み、エックスが止めるのも聞かずに飛び出していってしまった。

 

「みんな、大丈夫……!」

 

 我を忘れて女湯に突撃したダイチが目にしたものは……!

 

「あっ……」

 

 温泉の水面に浮かぶセインの姿であった。教会から差し入れにやってきた彼女が、皆に悪戯を仕掛けて思い切りこらしめられたのが先ほどの水しぶきの真相だったのだ。

 そして、温泉にはスバルやノーヴェ、ティアナ、ヴィヴィオらが当然ながら裸でいる……。

 

「……きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――っ!!!」

 

 当たり前に、悲鳴の合唱が巻き起こった。

 

「このバカヤロー! さっさと出てけ、変態がー!」

「ダイくんのエッチー!」

「わぁぁぁっ! ご、ゴメ―――――――ンッッ!!」

 

 ノーヴェやスバルに風呂桶などを投げつけられながら、ダイチは慌てて退散していった。

 

『全く、何をやってるんだか……』

 

 彼の悲鳴を聞き止めながら、エックスはデバイザーの中でため息を吐いたのだった。

 

 

 

 真夜中のミッドチルダ市内の、人気のない歩道を三人の男たちが歩いている。その中央の、ジュリ扇を持ったオネェが左右の二人に呼びかけた。

 

「ねっ、ハルキさん、イカリさん。今年のインターミドル・チャンピオンシップの開催が二ヶ月後まで近づいてきたわ。ジークちゃんの晴れ舞台よ! 都市予選から応援に行きましょうね」

 

 ハルキと呼ばれた男の方が、それに肩をすくめた。

 

「別に応援なんて必要ナッシングじゃねぇのか~? ジークの奴、あんだけストロングなんだしよ。応援なんかなくたって、あいつの優勝で決まりだろ」

「もう、冷たいわねぇ! 必要不要関係なしに、みんなでジークちゃんの戦いぶりを見届けましょうよ。同じ星雲荘に暮らす仲間でしょ?」

「うんうん。みんなで盛り上がるの、実にいいんじゃなイカ」

 

 変なイントネーションでしゃべるイカリという男。三人でやいやい話しながら歩いていたら……前方の暗がりから、ぬっ、と怪しい人影が現れた。

 

「……!」

 

 その人影を目の当たりにしたオネェが絶句する。

 人影は奇怪な模様のポンチョを纏い、真っ赤な眼を爛々と輝かせている。額の部分には赤い結晶体。首から下にも赤い半球がポツポツとくっついている。……明らかにミッドチルダ人ではない。

 

『ふッ……まさかこんな辺境の星でお前を見つけるとはな』

「なっ! ナックル星人……! ナクリと同じ……!」

 

 ハルキが怪人の姿を目にして驚愕した。そして、ナクリというオネェの方も、いつの間にか人間の姿から、顔は違えども同様の怪人の姿に変貌していた。

 

「バンデロちゃん……久しぶりね」

「えっ? お知り合イカ?」

「ええ……」

 

 ナクリがイカリにうなずき返すと、バンデロと呼ばれた怪人が告げる。

 

『ちょうどいい。お前にも儲け話に一枚噛ませてやろうじゃないか』

「儲け話?」

『ああ。この星のXioとかいう組織が、スパークドールズを一時別の場所に持っていくという情報を暗黒星団の情報網で掴んだ。そこを襲って、スパークドールズを根こそぎいただこうって計画さ!』

「!!」

 

 バンデロの話したことに、ナクリたちは驚愕する。

 

『スパークドールズは最近価値がうなぎ登りだ。大儲け確実だぜ! 昔のよしみで儲けは山分けにしてやろう。どうだ、久々に組まねぇか?』

 

 バンデロの誘いに……ナクリは毅然とした態度で答える。

 

「バンデロちゃん、ワタシもう悪いことからは足を洗ったのよ」

『あぁ?』

「今はもう、この星で静かに暮らす人間の一人なの。バンデロちゃん……あなたももう戦場を渡り歩いて、争いの種を撒くのはやめにしたらどうかしら」

 

 と、ナクリは説得を試みる。

 

「聞いてるわよ。あなた、例の「彼」に追われてるそうじゃない。あの「彼」からは、いつまでも逃げ切れるものじゃないわ。結局、悪いことって続けられるものじゃないのよ。昔馴染みとして、バンデロちゃんが破滅する姿は見たくない。今からでも遅くないわ、悪事からきっぱりと縁を切ればあなたも……!」

 

 話している途中で……ナクリは膝の皿を、バンデロの銃で撃ち抜かれた。

 

「あぁっ!?」

「な、ナクリ! おいユー! いきなり何しやがる!」

「ひどいじゃなイカ!」

 

 抗議したハルキとイカリにもバンデロは発砲。二人は足をばたつかせて必死にかわす。

 

「おわあぁぁっ!?」

『ガッカリだ! しばらく見ない間に、まさかこんな腑抜けになってたとはなぁ。この俺が破滅するだと? 馬鹿を言えッ!』

 

 バンデロは親指で自身を指し、豪語する。

 

『俺は百戦錬磨のバンデロ様だぞ! 「あの野郎」だって、いずれは排除してやるとも! そしてこの俺の名を、宇宙中に恐怖とともに知れ渡らせてやるのさ! 未来の宇宙の裏社会は、俺が支配するんだ! テメェには愛想が尽きたぜ、いつまでもうずくまってな! あばよぉッ!』

 

 ポンチョを翻したバンデロは、そのままミッドチルダの闇の中へ消えていった。その後で、ハルキとイカリで人間の姿に戻ったナクリに肩を貸す。

 

「ナクリ、大丈夫か? さっきの奴、何なんだよ」

「乱暴な奴だったじゃなイカ」

 

 ナクリは顔をしかめながら、バンデロの消えていった闇を見つめた。

 

「バンデロちゃんは故郷の士官学校の同期よ。訓練じゃ、一度も勝ったことがないんだけれど……。今は宇宙のあちこちで武器や危険な怪獣を売りさばく、死の商人をやってるのよ」

「死の商人……。それでスパークドールズを狙ってるんだな」

「さすがのXioも、今度ばかりは危ないわ。バンデロちゃんはナックル星最強の戦士でもあるのよ。格闘技能だけでも、ジークちゃんにも引けを取らないほどなのよ」

 

 ナクリの説明に、ハルキもイカリも驚く。

 

「そいつはベリーデンジャラスじゃねぇか!」

「ええ。こうしてはいられないわ。ワタシたちの素性は明かせないけど、Xioに危険が迫ってることだけでも伝えないと……」

「でも、その前に傷の手当てするべきじゃなイカ。星雲荘に帰ろう」

 

 ハルキとイカリがナクリを支えながら、三人はひょこひょことその場から離れていった……。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はバードンだ!」

ダイチ「バードンは『ウルトラマンタロウ』第十七話「二大怪獣タロウに迫る!」から登場した鳥型怪獣! 何とタロウ、ゾフィーを立て続けに退け、三話に亘って登場した恐ろしく強い怪獣なんだ!」

エックス『シリーズで初めての三部構成だったな』

ダイチ「元々の予定だと前後編だったけれど、主演の篠田三郎さんが多忙のために、一話分伸ばしたからだというよ」

エックス『そのせいか、タロウは全五十三話と一話分多いんだよな』

ダイチ「『ウルトラマンX』では第二話に早くも登場! ゴモラアーマーの初陣の相手になったんだ」

エックス『初モンスアーマーの相手に相応しい強豪怪獣だった』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 ナックル星人バンデロの手によって、はるか彼方の次元に連れ去られてしまったスバルとアインハルトちゃん。俺とエックスの力だけじゃ、救出に向かうことは出来ない。だがそこへ、俺達も知らないウルトラマンが降り立った! 次回、『イージス光る時』。


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イージス光る時(A)

 

「『ザナディウム光線!!」』

「あの光線でスパークドールズにしたのか……!」

『正確には、君と私の力だ』

「ファントン光子砲、発射!」

「ファントンレールキャノン、発射!」

「名付けて、ウルトライザー・カートリッジ!」

「ウルトライト・ブレイカー!!」

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

[エレキングミラージュ、セットアップ]

「Xioでは、人類に友好的な宇宙人に、研究活動を手伝ってもらっています」

「Xioのスーパーテクノロジーの多くは、あのグルマン博士のご協力の賜物です!」

 

 

 

『イージス光る時』

 

 

 

 オペレーションベースXのラボで、シャーリー、マリエルが、ヴィヴィオたちとある話をしていた。

 

「へぇ~。じゃ、四人ともインターミドルに出場するんだね」

「みんな、その歳ですごいチャレンジ精神ねぇ。確かに出場可能年齢は10歳からだから問題はないけど、実際にその歳で出場しようって子はなかなかいないわよ」

「えへへ」

 

 シャーリーが聞き返し、マリエルは感心したように息を漏らした。ヴィヴィオらはにこにこ笑ってうなずく。

 インターミドル・チャンピオンシップ。DSAA(ディメンション・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション)公式魔法戦競技会の種目の一つで、10歳から19歳までのティーンエイジが限りなく実戦に近いスタイルで格闘技能最強を競い合う、次元世界でも人気の高いスポーツ大会だ。ヴィヴィオたち四人は、その女子の部への参加を表明しているのであった。そして二ヶ月後に控える予選に向けて、ノーヴェからの指導を受けるために最近はXioに足しげく通っているのだった。道場も使わせてもらっていて、隊員たちの格闘訓練にまで混ざったりも。

 

「あの、ところでダイチさんは?」

 

 ふとアインハルトがシャーリーたちに尋ねかけた。

 

「ああ、ダイチくんならあそこで、グルマン博士とお話し中だよ」

 

 シャーリーが示した先、グルマンのスペースで、ダイチがグルマンとちゃぶ台を囲んでいた。

 

「何? 未発見の次元へ移動する方法かね?」

「はい。博士なら何かいい知恵を貸してくれるんじゃないかって思いまして」

 

 ダイチはグルマンにその質問をしていた。彼は十五年前に、どこかへ消えてしまった両親の行方を突き止めることも目標としている。そのために、グルマンに相談を持ちかけたのだった。

 

「ふむ、まずは次元航行の基礎理論を簡単におさらいしよう。いいかね?」

 

 グルマンはちゃぶ台の上に並べてあるパンの一切れと、ナイフをそれぞれ両手に持った。

 

「このパンの一枚が、我々の住んでいる次元世界の一つとする。ナイフが次元航行船だ。そして、こうすることで……」

 

 グルマンはパンの何枚かを、ナイフで一気に貫いて一まとめにした。

 

「次元の壁を通り抜け、一つの世界から別の世界へと移動することが可能となる。これが次元航行の基礎理論だ。現在の航行船は全てこの理論で飛んでいる」

「しかし、博士の元々住んでいた次元は、ミッドの船ではたどり着けないところなんですよね」

「その通りだ。たとえるなら、パンが遠い場所にあって……」

 

 グルマンはパンを刺したナイフから離れたところに一切れのパンを置き、間に皿を一枚立てる。

 

「このようにナイフでは貫けない固い壁があるといったところか。ウルトラ・フレアの影響がなければ、互いの次元がつながることはなかっただろうな」

「でも今なら、そういう遠くの次元世界への移動も決して不可能ではないのでは……」

「いやぁ、無理に行こうとするのはやめた方がいいだろう。危険だ」

 

 グルマンはパンを一つずつ口に放り入れながら警告した。

 

「本来次元渡航は大きな危険が伴う。ましてや、未知の次元に飛び込もうなどというのは自殺行為だ。次元船の耐久値を超えるような過酷な環境に出てしまうことも十分あり得るんだぞ」

「そうですか……」

 

 残念がるダイチ。その時に、スバルがラボにやってきてグルマンに呼びかけた。

 

「博士、そろそろお時間です」

「おお、もうそんな時間か。シャーリー、準備を頼む」

「了解です、博士」

 

 呼ばれたシャーリーがテキパキと、ケース入りのスパークドールズを特殊金属製のトランクに仕舞い込んでいく。

 

「さぁみんな、お出掛けしますよ~」

「スパークドールズをどこに持ってくんですか?」

 

 コロナが質問すると、マリエルが説明する。

 

「ウルトラマンエックスのザナディウム光線には未知の粒子が含まれていて、それが怪獣をスパークドールズに圧縮することが分かったの。つまりスパークドールズを測定器にかければ、付着してるその粒子を検出できるはず。今からその研究に向かうのよ」

 

 リオだけはちょっと理解が追いついていない様子だ。

 

「えっと、要するに……それが応用できれば、Xioの皆さんの力で怪獣をスパークドールズ化できるようになるってことですか?」

「その通りよ」

「わぁ~! すごいですね、それ!」

「うん……」

 

 ヴィヴィオが声を弾ませ、アインハルトも感動を覚えたようにうなずいた。その研究が成功すれば、人間が怪獣を殺すことなく共存する道に一歩近づくことになるのだ。

 スパークドールズが全てトランクに収まると、ラボチームにノーヴェが呼びかけてきた。

 

「こっちの準備は完了しましたよー。早くちび怪獣たちをアラミスに積み込んで下さい」

「ノーヴェも一緒に行くの?」

 

 ヴィヴィオが尋ねかける。

 

「あたしだけじゃないさ。特捜班総出で護送だよ」

「えっ? みんなでですか?」

 

 子供たち四人は意外そうな顔になった。

 

「ああ。怪獣は良くも悪くもあまりに強力な力だ。それを狙う悪い奴が後を絶たねぇ。実際スチール星人とか、Xioのスパークドールズを盗もうとしてきた奴らをもう何人もやっつけてる。それに、匿名だがやばい奴が今回の搬送を狙ってるってタレコミもあった。それで用心って訳さ」

「そうだったんですか……」

 

 ノーヴェからの説明を聞いてヴィヴィオたちは、特にアインハルトが心配した。それを察して、シャーリーが申し出る。

 

「よければ、みんな実験の見学についてくる?」

「えっ、いいんですか!?」

「あのなのはさんの娘さんとそのお友達なら、カミキ隊長も許可してくれるでしょ」

「ちょっ、シャーリーさん!? 本気かよ!?」

 

 ギョッと驚くノーヴェ。道中、本当に危険があるかもしれないのだ。

 

「まぁまぁ、いいじゃない。ノーヴェたちがついてる訳なんだし」

「けどなぁ……」

 

 逡巡するノーヴェだったが、ヴィヴィオたちはもうすっかりとその気になっているので、実に反対しづらかった。

 そういうことで、ヴィヴィオたち四人もスパークドールズの移動に同行することとなった。

 

 

 

 スパークドールズの素粒子研究所への移送が開始された。アラミス、ポルトスの二車両が地上ルートで研究所へ向けて走り、アトスと合体したスカイマスケッティが空から二車両の周辺区域を警戒する。

 

「そっちは異常ないか?」

 

 郊外の未開発エリアに出たところで、アラミスを運転するワタルが、スカイマスケッティのハヤトとディエチに問いかけた。

 

『ああ。天気は快晴、雲ひと……ん?』

「おい、どうした?」

『ちょっと待って……進行先の土中から熱源反応!』

 

 ディエチの報告の直後に、アラミスの前方の切り立った崖が内側から砕け散り、中から漆黒の巨大怪獣が出現した!

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 ワタル及びダイチがすぐに本部へ連絡する。

 

「エリアT-9に怪獣出現! こっちへ向かってきます!」

「怪獣はタイプG、推定……体長55メートル! ブラックキングです!」

 

 怪獣ブラックキングの出現に、本部からカミキとクロノの指令が発せられる。

 

『怪獣の市街地への接近を阻止しろ!』

『ハヤト、ディエチは上空から怪獣を牽制しろ! スバル、ノーヴェは地上から援護、残りはスパークドールズを保護せよ!』

「了解!」

「みんな、しっかり掴まっててね!」

 

 後部座席の子供たちに呼びかけるダイチ。そしてアラミスがブラックキングから離れ、マスケッティが攻撃を開始する。

 

「ファントン光子砲、発射!」

 

 ディエチの射撃で光子砲がうなる。光弾がブラックキングに全弾命中。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 だがブラックキングに応えた様子は全くなく、口から熱線を吐き出してマスケッティに反撃する。すんでのところで回避するマスケッティ。

 

「おわっ!」

「気をつけて! すごい熱量……当たったらひとたまりもない!」

 

 地上付近へ降下したマスケッティは一旦アトスと分離、次いでポルトスがジョイントした。

 

「今度はあたしたちの番だよ!」

「ああ! ファントンレールキャノン、発射!」

 

 ノーヴェがレールキャノンを撃ち込むが、これも効果が見られず、ブラックキングは振り回した尻尾で山を崩し、岩雪崩でランドマスケッティを攻撃した。

 

「うわぁっ!」

 

 マスケッティが回避行動を取っている隙に、ブラックキングは熱線でアラミスを狙う。

 

「くっそぉっ!」

「私たちも応戦せざるを得ないな……!」

「チビっ子たちは外に出ちゃダメっスよ!」

 

 ワタル、チンク、ウェンディ、ダイチの四名がアラミスから降車し、ブラックキングに立ち向かおうとする。

 

「俺は別角度から攻撃します!」

 

 ただ、ダイチだけはそうとだけ言い残してどこかへ走り去っていった。

 

「おい、ダイチ!」

「構ってる暇はない! 来るぞ!」

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブラックキングが徐々にアラミスへ接近してくる。ワタルたちはジオブラスターにウルトライザー・カートリッジを装填して射撃準備をする。

 

[チャージ完了]

「トラーイっ!!」

 

 ワタルの掛け声で三人一斉に光線を発射したが……ブラックキングは交差した腕で完全に防御した。ダメージはない。

 

「これも効かないっスか!?」

「何て奴だ……!」

 

 特捜班が苦戦する一方で、安全のためにポルトスから降ろされていたグルマンが、林の中へと駆けていくダイチの姿を目撃した。

 

「ん? ダイチ?」

 

 直後に、林からウルトラマンエックスが飛び出してブラックキングの前に立ちはだかり、アラミスの盾となった!

 

「シュワッ!」

「おぉ!?」

 

 グルマンはあんぐりと口を開け放った。

 

「グアアアアァァァァ!」

「ヘアァッ!」

 

 ブラックキングは現れたエックスに即座に狙いを移し、エックスも敢然と飛びかかっていく。エックスの飛び蹴りを、ブラックキングが腕を交差して防御。

 

「グアアアアァァァァ!」

「テェイッ!」

 

 そのまま格闘戦を展開するエックスとブラックキング。ブラックキングの前に折れ曲がった黄金色の角が襲いかかるが、エックスはかわしてブラックキングの首を脇に抱え込み、地面に投げ落とす。

 

「グアアアアァァァァ!」

「デヤァァァッ!」

 

 それからエックスはローキック、パンチを次々に見舞い、隙を作ったところで大技を仕掛ける。

 

『Xクロスチョップ!』

 

 エネルギーを集中した手刀をX字に振るい、作り出した光の軌跡を押し出して攻撃!

 

「シェアァッ!」

「グアアアアァァァァ!」

 

 攻撃の勢いで後ずさったブラックキングだが、これでも持ちこたえる。

 

「エェヤッ!」

 

 そこでエックスは、相手の右足に飛びかかってブラックキングを転倒させた。

 

「あいつ、かなりのタフネスっスね……」

「エックス、頑張れ!」

 

 エックスが怪獣に組みついている間は攻撃できない。警戒しながら戦いを見守るウェンディとワタルたちの背後から……何者かの気配がしてチンクが真っ先に振り返った。

 

「誰だっ!」

 

 彼らの背後からは、怪しい模様のポンチョを纏った真っ赤な眼の怪人がおもむろに歩いてきていた。

 

『ほぉう……いい玩具を持ってんなぁ、小僧ども』

「動くな! 出身星と、名前を名乗れ!」

 

 即座にブラスターを突きつけるワタル。チンク、ウェンディもそれぞれの武装を出す。

 

『ナックル星人バンデロ……!』

 

 そう名乗った怪人は、ポンチョに隠した腰のホルスターから銃を抜く。ワタルたちですら反応できないほどの早撃ち!

 

「うわっ!?」

 

 ワタルとチンクは武器をはね飛ばされ、ウェンディはライディングボードから撃ち落とされた!

 

「くそっ!」

 

 武器を失っても肉弾戦を挑むワタルたちだが、三人はそれぞれ一発ずつ腹に拳をもらって宙を舞った。

 

「ぐはぁっ!?」

「ワタルさん!? チンク、ウェンディ!」

「くっ!」

「み、みんな!?」

 

 ワタルたちはたった一撃でダウン。三人が一蹴される姿を見せつけられ、ヴィヴィオたちはシャーリーの制止も聞かずにアラミスから飛び出した。

 

「セイクリッド・ハート! セット・アップ!」

「武装形態!」

「ソル!」

 

 ヴィヴィオ、アインハルト、リオは身体強化魔法で大人モードへと変貌した

 

『ガキどもが一気に大人に? 面白い曲芸だな』

 

 四人が敵意を向けても、ナックル星人バンデロは不敵に笑うばかり。

 

「ふざけないで! スパークドールズは渡さないんだから!」

「ヴィヴィオさん、行きましょう!」

 

 ヴィヴィオとアインハルトが同タイミングで飛び出し、バンデロに拳を突き出す!

 ――しかし、バンデロの差し向けた手の平で二人ともパンチを軽々と止められた!

 

「えっ!?」

「止められた!?」

 

 間髪入れぬバンデロの蹴り上げで、二人とも弾き返される。

 

「うぁっ!」

「ヴィヴィオ! アインハルトさんっ!」

「つ、強い……! 以前の異星人とは、全然違う……!」

 

 ヴィヴィオたちまでも、一発だけで起き上がれなくなる。苦悶しながらのアインハルトのつぶやきで、バンデロが勝ち誇った。

 

『その辺の雑魚と同じにするなよ! 俺は数多の戦場を渡り歩く死の商人! 百戦錬磨のバンデロ様だ!』

「くっ……! ゴライアス!」

 

 コロナの魔法で、巨躯の青いゴーレムが召喚された。ゴーレムマイスターの心強き相棒、ゴライアスだ。

 ゴライアスが巨大な拳を向けても、バンデロは鼻で笑った。

 

『下らねぇ。ブラックキング!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 バンデロに命令で、更に巨大なブラックキングがエックスとの戦いの合間を縫ってゴライアスへ熱線を撃ち込んだ。

 その一撃により、ゴライアスは爆破されてバラバラに砕け散る。

 

「あああぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして爆発の余波で、ヴィヴィオたちは四人とも散り散りに吹き飛ばされた。

 

『ハッハッハッ……人間なんぞ相手にもなんねぇぜ』

 

 ヴィヴィオたちも退けたバンデロは悠々とアラミスに接近する。その前にシャーリーが立ちはだかる。

 

「来ないで!」

『おらッ!』

「きゃあっ!?」

 

 だが彼女も一瞬で殴り飛ばされ、バンデロはアラミスに積まれてあるスパークドールズのトランクを開け放った。

 

『ヒュー! お宝がザックザクだぜ』

「グアアアアァァァァ!」

 

 そのままトランクを奪い取ろうとするバンデロだったが、ブラックキングの咆哮が耳に入って手を止める。

 顔を上げると、ブラックキングはまだエックスと格闘中であった。

 

『ブラックキングめ、あんな野郎に手間取りやがって。仕方ねぇ……』

 

 ポンチョをその場に脱ぎ捨てたバンデロは、一瞬にしてブラックキングと同等クラスに巨大化した!

 にじり寄ってくるバンデロの方へ振り返るエックス。

 

『「お前は誰だ!?」』

『へッ……その質問は聞き飽きた!』

 

 エックスへ襲いかかるバンデロ! 彼の殺人パンチとキックがエックスを襲う!

 

「グゥッ!」

 

 更にバンデロは側の岩を鷲掴みにして、エックスの顔面に投擲した!

 

「グァッ!?」

 

 顔に岩をぶつけられたエックスがひるむと、ここぞとばかりにバンデロが飛びかかる。どうにか持ち直して対抗するエックスだが、打撃は簡単にバンデロに止められる。

 

『でぇあぁぁぁッ!!』

「グハァァッ!」

 

 逆に回し蹴りを胸に食らって、大きく蹴り飛ばされる。

 

『こいつは出来るぞ……! 油断するな、ダイチ!』

『「わかってる!」』

 

 立ち上がるエックスだが、敵はバンデロだけではないのだ。

 背後からブラックキングが上腕に噛みつく!

 

「ウアァァァッ!」

『おらぁぁッ!』

 

 ブラックキングを振り払っても、前からバンデロが殴り掛かってくる。それを押しのけた隙を突かれ、ブラックキングに羽交い絞めにされた。

 

『おらッ! おらッ! おらッ! おぉらぁぁぁぁッ!』

「グアァァァッ!」

 

 動けないのをいいことに散々殴りつけ、強烈な蹴りを入れるバンデロ。倒れたエックスのカラータイマーが赤く鳴り出す。

 

『おらぁぁぁッ!』

 

 バンデロはうつ伏せのエックスを容赦なく踏みにじる。この暴挙に、スバルとノーヴェが怒りを見せる。

 

「やめろぉっ!」

「チンピラ野郎が! 食らえっ!」

 

 レールキャノンが発射されたが、光弾はバンデロの手の甲で弾き返された。

 

『邪魔だぁッ!』

 

 逆に両眼からの怪光線でマスケッティが撃ち抜かれる!

 

「あああああああっ!!」

 

 マスケッティは今度こそ機能停止してしまった。

 二対一の苦境に打ちのめされるエックス。Xioもまた、これまでとは訳の違う強敵に次々倒れた。最早エックスを助ける者はいない……!

 だが、その時! 突如として空の一部に穴が開き……銀色の鎧を纏った光り輝く巨人が猛然と飛び出してきた!

 

「シェアッ!」

 

 ハッとその方向を見上げたバンデロが舌打ちする。

 

『面倒な奴が来やがった……! こんな宇宙の果てまで追ってきやがるとは……』

 

 何事かと起き上がるエックス。彼の目に、大地に降り立った新たなる巨人の姿が映った。

 それは紛れもなく、自身と同じ「ウルトラマン」であった。

 

『ナックル星人バンデロ! やっと見つけたぜ』

 

 鎧を纏った第二のウルトラマンの勇姿を見上げたグルマンが、名を口にする。

 

「あれは噂に名高い、ウルトラマンゼロ!」

『知っているのですか、博士!?』

 

 尋ねたカミキに、グルマンはこう答えた。

 

「ウルトラマンの中でも、特に腕の立つ超一流の戦士だと聞いている!」

『超一流……!?』

 

 バンデロは新たなウルトラマン、ゼロをにらみながら、ブラックキングに命令する。

 

『ブラックキング、やってしまえ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 一直線にゼロへ突撃していくブラックキング。対するゼロは鎧を解除して、それが変じた一対のスラッガーを逆手に持って立ち向かう!

 

「シェアァァァッ!」

 

 ゼロはエックスが散々苦しめられたブラックキングの太い腕からの打撃を難なくいなし、スラッガーで相手を斬りつける。そして後ろ蹴りでひるませたところで、高く跳躍。

 

『ウルトラゼロキーック!』

 

 赤く燃える飛び蹴りが、ブラックキングの角を根元からへし折った!

 

「グアアアアァァァァ!」

『ワイドゼロショット!』

 

 着地して振り返ったゼロは、L字に組んだ腕から光の奔流を放った! ブラックキングは先ほどまでと同じように交差した腕で防御するが……。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 その勢いを抑え切れず、後ろへ吹っ飛ばされて山の岩肌に叩きつけられた!

 

「す、すごい……!」

「ああ、すげぇ強さだ……」

 

 マスケッティから脱出したスバルとノーヴェは、あのブラックキングを圧倒するゼロの戦いぶりに唖然とした。

 だがゼロがブラックキングと戦っている間に、バンデロが怪しい動きを見せる。

 

『ふんッ!』

 

 何もない空に向けて銃を撃つと、弾丸が空間に穴を開けたのだ。

 

『さてと……』

 

 そしてバンデロはアラミス――その中のスパークドールズへ目を落とす。

 それを察知したアインハルトがハッと顔を上げる。

 

「スパークドールズが……ダイチさんの夢が奪われる……!」

 

 たまらずにアインハルトは駆け出し、アラミスにその身を滑り込ませる。

 

「アインハルト!?」

 

 それを目撃したスバルも走る。

 

「おい、スバル! うあっ!?」

 

 ノーヴェも追いかけようとしたが、その前にバンデロの巨大な足が降ってきて足止めを余儀なくされた。

 アインハルトとスバルが逃げる間もなく、バンデロの手がアラミスに伸びる。二人はやむなくアラミスの車内に身を隠した。

 そしてバンデロはアラミスを掴み、空に開けた穴の方へと向かっていく。

 

『や、やめろ……!』

 

 倒れ伏したままのエックスが腕を伸ばすが、バンデロは無視して去っていく。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 主の逃避に合わせて、ブラックキングも戦場から脱け出そうとする。それをゼロはむざむざと見逃したりはしない。

 

『逃がすかよ!』

『待ってくれ!』

 

 バンデロとブラックキングへ光線を放とうとするが、それをやっと起き上がったエックスが押し留める。

 

『車の中に人がいるんだ!』

『何ッ!?』

 

 ゼロが攻撃をためらった隙に、バンデロとブラックキングは穴をくぐり抜けてどこかへと消えていってしまった。空中の穴が閉じ、空が元に戻る。

 

『くッ、放せ!』

 

 ゼロはエックスの手を払うと、再度銀色の鎧を纏って空に飛び立った。

 

『待てぇッ!』

 

 ゼロも空間に穴を開けて、バンデロたちを追いかけていく。

 

『「スバル……アインハルトちゃん……!」』

 

 後に残されたエックスの中で、ダイチが愕然とつぶやいた。

 

 

 

 ――スパークドールズの移送は、異星人犯罪者と怪獣の襲撃により失敗。スパークドールズが全て奪われ、更にはスバルとアインハルトがどこかへと連れさらわれてしまうという最悪の結果になってしまった。

 



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イージス光る時(B)

 

 ナックル星人バンデロの襲撃後、本部へ急ぎ帰投した特捜班は、全力を挙げて奪われたスパークドールズ、及び連れさらわれたスバルとアインハルトの行方を調べていた。

 

「ナックル星人の開けた次元の穴の先の座標が特定できました!」

 

 その結果を、アルトがカミキらに向けて大声で報告した。

 

「教えて下さい! アインハルトさんたちはどこへさらわれたんですか!?」

 

 大事な友人を誘拐されて、ずっと気を揉んでいたヴィヴィオ、リオ、コロナがすがりつくように尋ねかけた。

 

「未発見の次元世界だけど……」

「次元世界だな。すぐに次元艦を手配しよう。Xioの総力を挙げてスパークドールズ奪還と、スバルとアインハルト君の救出を行う!」

「よっしゃあ! 待ってろよスバル、アインハルト!」

 

 クロノが早速指令を発し、ノーヴェが拳で手の平を叩いて意気込んだ。だが、

 

「いえ、それは現状では無理です……」

 

 ルキノが沈んだ声を出す。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

 動揺するダイチ。アルトが理由を告げる。

 

「その次元には……現在の次元船では到着まで最も早くとも六年は掛かるとの計算が出ました」

「ろ、六年!?」

 

 その数字に、全員が衝撃を受ける。

 

「六年も掛かったら、スバルたちがどうなるかわかったもんじゃないっスよ!」

「馬鹿な! そんな遠く離れた世界に、どうやって一瞬で移動したんだよ!」

 

 ワタルの怒号に、グルマンが努めて冷静に告げた。

 

「敵の技術力が、管理局よりもはるかに優れているということだろう。奴の持ってた銃は、世界と世界を直接つなげる機能があるんだ」

「そんな……アインハルトさんにはもう会えないってこと? 嫌だよ、そんなの……」

「一体どうすれば……」

 

 リオとディエチが茫然とつぶやいたところ、ルキノの席の通信装置からか細いがスバルの声が発せられた。

 

『こちらスバル……聞こえますか? 本部、応答願います……』

「スバル!?」

「無事だったのか!」

 

 ハヤトとチンクが思わず叫び、皆がルキノの席へと集まった。ダイチが問う。

 

「スバル、大丈夫か!? アインハルトちゃんは?」

『アインハルトも無事だけど……あんまり大丈夫じゃないよ。相手の隙を見て、どうにかスパークドールズを取り返して逃走してるところなんだけど……どこにも人がいないし、いつまで逃げられるものか……』

 

 顔の見えないスバルの声からは、疲弊の色が見られた。スパークドールズ奪還に、かなりの力を消費したようだ。

 

「でも、この通信はどこから来てるのかしら? いくら何でも、遠く隔てた次元から念波が届くとは考えられないわ」

 

 マリエルが疑問を口にすると、アルトがそれに回答した。

 

「発信源がわかりました! エリアT-9Cです」

「えっ? どうしてそんな場所から……」

「エリアT-9Cって確か……!」

「ダイチ!?」

 

 何かに気がついた風のダイチが、ノーヴェの制止も聞かずに本部から飛び出していった。

 

「とにかくスバル、どうにかこちらで救出の手段を講じる。孤立無援で苦しいとは思うが、それまでスパークドールズと民間人を守っていてくれ」

『了解です……!』

 

 カミキとの応対を最後に、通信が途切れた。それを境に、グルマンが顔を上げる。

 

「こうしてはいられん。シャーリー、マリー、すぐにラボに行くぞ! 一刻も早く救出手段を開発せねば!」

「博士、開発と言っても、どんなものを作るつもりなんですか……?」

 

 シャーリーの質問に、グルマンは一言で答えた。

 

「今の我々に作れるのは、一つしかない」

 

 

 

 Xioベースから飛び出したダイチは、エリアT-9Cへと足を運んでいた。

 

『ここは……』

「かつて母さんの研究所があった場所だ」

 

 ダイチの言った通り、ここは十五年前の怪獣大災害時に消え失せてしまった、宇宙電波研究所の跡地であった。今では何もない、ただの空き地が広がっている。

 

「スバルからの通信は何故この場所から?」

 

 ダイチの疑問に、エックスが答える。

 

『ここは、あらゆる次元世界をつなぐ特異点の一つかもしれないな』

「じゃあここからスバルとアインハルトちゃんを助けに行けるのか!?」

『残念ながらダイチ、我々に超長距離の次元を突破する力はない』

「そんな……」

 

 エックスからの回答に、暗い顔になるダイチ。

 その時、背後から誰かに声を掛けられた。

 

「しけた顔してんなぁ、お二人さん」

「!? あなたは……」

 

 振り返ると、そこにはいつの間にか、青いパーカー姿の青少年が立っていた。

 ダイチは彼の雰囲気が、先ほどのウルトラマンと同じであることを感じ取った……。

 

「ちょっくら、成層圏まで顔貸しな」

 

 青少年は顎をしゃくって、はるか上空を指した。

 

 

 

 変身したエックスは、ミッドチルダの成層圏でウルトラマンゼロと対面する。

 

『お前らがこの世界のウルトラマンか』

『あなたは一体誰なんだ?』

 

 エックスの問いかけにゼロは短く返答する。

 

『俺は、宇宙警備隊のゼロ』

『「宇宙警備隊……?」』

『奴を追って、このミッドチルダに来たのか』

『バンデロは今、惑星ギレルモにいる。あんたの友達の波長でわかった。礼を言うぜ』

 

 それだけ告げて、銀色の鎧――ウルティメイトイージスで『ギレルモ』まで飛んでいこうとするゼロ。それをダイチが呼び止める。

 

『「待ってくれ! スバルを、アインハルトちゃんを……友達を助けたいんだ。一緒に連れてってくれ!」』

 

 と頼むが、ゼロにあえなく断れた。

 

『二万年早いぜ、お前らには。俺に任せな。あばよ!』

 

 すがりつく暇もなく、ゼロは次元の穴を通ってミッドチルダから去っていった。エックスとダイチには、それを追いかける力はないのであった……。

 

 

 

 力のないダイチがラボに戻ると、そこではグルマンたちがある作業に全力で取りかかっていた。

 

「急げ急げぇ……! よぉし、術式のプログラミングはこれでいいだろう。後は……」

「博士、これはどこに置けばいいんですか?」

「量子分析器の隣に頼む」

 

 グルマン、シャーリー、マリエルが何かの術式を構築し、その周りではN2R、ワタル、ハヤトが数々の機材を運んでいる。更に、ヴィヴィオたちがパンケーキの山を持ってきた。

 

「博士ー! パンケーキ焼けましたよー!」

「おお、ありがたい。ちょうど私の脳細胞が糖分を必要としていたところだ」

 

 コロナに口の中にパンケーキを入れてもらっているグルマンに、ダイチが尋ねる。

 

「博士、何を作ってるんですか?」

「戻ったか、ダイチ。私の一世一代の発明だ!」

 

 パンケーキを咀嚼しながらグルマンが答えた。

 

「ウルトラマンゼロの鎧にはナックル星人の銃と同じ、次元の壁を突破する力がある。それを再現するデバイスだ! お前も手伝ってくれ!」

 

 一瞬驚いたダイチだが、すぐに笑みを見せてうなずいた。

 

「はいっ!」

 

 

 

 ミッドチルダから遠く離れた、三つもある太陽が空に輝く次元宇宙の惑星『ギレルモ』。無人の荒野がどこまでも広がる土地に、スバルとアインハルトはいた。しかし、

 

『馬鹿め、逃げ切れるものか。このギレルモにお前らの味方はどこにもいねぇんだよ』

 

 既に追いかけてきたバンデロに追い詰められている状況下にあった。だがスパークドールズを守るために、大人モードのアインハルトが敢然と立ち向かう。

 

「ダイチさんの夢は……あなたなんかには渡さない!」

 

 一瞬の内に距離を詰め、足先から練り上げた力を拳に伝え、一気に振り下ろす!

 

「覇王断空拳!!」

『ふんッ!』

 

 が、バンデロのアッパーと衝突し、押し切られて殴り飛ばされた。

 

「うあっ!!」

「アインハルトっ!」

 

 ボールのように飛ばされたアインハルトを、スバルが受け止めた。

 

「断空拳まで、簡単に破られるなんて……!」

 

 痺れる腕を抑えるアインハルトを嘲笑するバンデロ。

 

『ガキの遊びの拳で、このバンデロ様に勝てるもんかよ』

「遊び……!? わたしの拳が……!?」

 

 格闘と強さに己を捧げるアインハルトにとって、これ以上の侮辱はない。だが手が出ないのも事実なので、アインハルトは悔しそうに歯を食いしばることしか出来なかった。

 

『だがお前ら、筋はいい。戦いと、殺しの才能があるぜ』

「えっ……!?」

 

 バンデロのいきなりの発言に、アインハルトとスバルは一瞬言葉をなくした。

 

『お嬢ちゃんたち、この宇宙にはなぁ、恐ろしければ恐ろしいものほど売れる世界があるんだよ。宇宙に出て戦場を荒らす傭兵をやりゃあ、あんたら巨万の富を得られるぜ。どうだ、俺の下につかねぇか』

 

 と勧誘を掛けるバンデロ。

 

『あんな狭い世界で、遊びで拳を振るうなんて馬鹿らしいぜ。この世界、結局は強い奴が全てを得るんだよ』

 

 そのバンデロの言葉に……アインハルトから手を放し、彼女の前に回ったスバルが返す。

 

「強いことだけが、全てじゃないよ」

 

 ダイチと同じことを話したスバルの後頭部を、アインハルトはハッと見つめた。

 

『何だと?』

「たとえ弱いものでも、命は色んな方向で一生懸命生きてるんだよ。可能性を信じて、努力していく者が明日を作ってる。あたしは命を助ける現場で、それをたくさん見てきたんだ……!」

 

 スバルは熱と力を込めて、語った。

 

「力の強さだけが全てだなんて……聞き分けのない子供が言うことだよ!!」

「スバルさん……!」

 

 アインハルトは感銘を受けたが、バンデロの方は逆上した。

 

『下手に出てればつけ上がりやがって!! テメェらの置かれてる状況、わからせてやるッ!』

 

 こちらへ向かって突っ込んでくるバンデロに、スバルはシューティングアーツの構えを取る。

 

「アインハルト、ケースを持って下がってて! 絶対守るから!」

「は、はい……!」

 

 アインハルトを下がらせると、スバルはバンデロを迎え撃ちに行く!

 

「ナックルダスター!」

 

 魔力で肉体を強化し、リボルバーナックルを突き出すが、バンデロにはいなされる。

 

『おらッ! おらぁッ! ハハハ、消耗した身体でいつまで耐えられるかな!?』

「うっ……!」

 

 逆にバンデロの容赦のない拳の連撃を叩き込まれる。ギリギリ身体の軸をずらして直撃は避けるが、ジリジリと追い詰められていく。

 これにほくそ笑んだバンデロが、銃口をスバルの眉間に合わせた。

 

『死ねぇッ!』

 

 バンデロの指が引き金を引く――!

 それより早く、スバルの膝が銃床を蹴り上げた!

 

『何ッ!?』

 

 弾かれて空を向いた銃口から、弾丸はあらぬ方向へ飛んでいった。

 スバルは反対の足で地を蹴り、動揺して隙を見せたバンデロの顔面へ回し蹴りを入れる!

 

「キャリバーショット!!」

『ぐぼあぁッ!』

 

 バンデロは勢いよく蹴り飛ばされ、土の上を引きずっていった。

 

「これが、命の底力だよ……!」

「スバルさんっ!」

 

 息を切らしながらもバンデロを出し抜いたスバルの姿に、アインハルトは興奮して手を強く握った。

 

『おのれぇぇぇぇッ!!』

 

 だが怒りがヒートアップしたバンデロは巨大化! スバルたちはまともに対抗できなくなってしまった!

 

『このバンデロ様をなめるなよ! 俺は宇宙最強! ちっぽけな貴様らなんぞ、叩き潰して……!』

 

 後ずさるスバルたちに銃を向けたバンデロだが、言葉の途中で空に穴が開いた。そして……。

 

「デヤァッ!」

 

 一直線に飛んできたウルトラマンゼロが、バンデロを殴り飛ばした!

 

『うおあぁぁぁ――――――!?』

 

 吹っ飛んだバンデロは岩山に叩きつけられる。

 

『助けに来たぜ』

 

 着地したゼロは、安心させるようにピースサインを見せた。スバルとアインハルトは、救援の手に喜色を浮かべる。

 一方、強打した頭を押さえるバンデロが叫ぶ。

 

『ブラックキング・ドリルカスタム!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 大地を裂いて、ブラックキングが出現。折られた角が、ドリル兵器に置き換わっている。

 

『いい加減鬱陶しいんだよッ! ここで始末してやる!!』

 

 怒りのボルテージが頂点に達したバンデロが、改造されたブラックキングとともにゼロに襲いかかる!

 

『上等じゃねぇかぁッ! ブラックホールが吹き荒れるぜぇッ!』

 

 相手の勢いに全くひるまないゼロは、敢然と迎え撃つ。正面から迫るブラックキングを抑え、バンデロに後ろ蹴りを浴びせる。

 

『食らえ! ドリルバスター!!』

 

 バンデロの指示でブラックキングのドリルから、螺旋状の光線が発射された! 大地を穿ち引き裂くその威力に、ゼロも回避を余儀なくされる。

 

『おぉらぁッ!』

 

 そこを狙って、横に跳びながら銃の光弾を乱射するバンデロ。だがゼロも横に跳び、額のランプからレーザーを発射。

 

『エメリウムスラッシュ!』

 

 激しい撃ち合いの末、両者は転がりながら着地。ブラックキングはゼロの方へ走って打撃を振るう。

 

「グアアアアァァァァ!」

『おっとぉッ!』

 

 ブラックキングの攻撃を両腕で防ぐゼロ。そこにバンデロが飛び蹴りを仕掛けてくるが、ブラックキングをキックで押し返してから打ち落とした。

 前後から襲ってくる凶悪タッグに、ゼロは互角に渡り合う!

 

 

 

 そして、Xioのラボでは皆の尽力により、肝要のデバイスが完成の時を迎えた。

 

「完成です!」

「やったぁっ!!」

 

 ウルトラマンゼロの絵柄のデバイスカードが出来上がり、ヴィヴィオたちが喜びの声を上げた。

 

「これで次元の壁を越えて、アインハルトさんたちを助けに行けるんですね!」

「でもエネルギー供給の問題で、これは同じウルトラマンであるエックスでないと扱えないの」

 

 シャーリーが仕様を説明した。

 

「それで、どうやってこれをエックスに渡すかだけど……」

「さぁて! 一仕事したし、私たちは飯でも食いに行こう!」

 

 マリエルが言いかけた時、グルマンがそんなことを言って皆を強引に引っ張っていく。

 

「ええ!? この状況で!?」

「いいからいいから! 久しぶりにヨーグルトで一杯やるぞ! 後のことはダイチ、後から来たお前がどうにかしろ」

「えっ!?」

 

 グルマンは去り際に、キーボードを指でタッチする。

 ダイチがエクスデバイザーの反応を感じて引っ張り出すと、そこにゼロのデバイスカードが転送されてきた。ダイチは驚いた顔で、グルマンの去った後を見つめる。

 

「博士……」

 

 

 

 外に出たダイチは、エックスに呼びかける。

 

「ユナイトだ、エックス!」

『よぉし、行くぞ!』

 

 ダイチはすぐさまデバイザーのスイッチを押して、ユナイトを開始。

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 エックスへと変身すると、ゼロのカードをデバイザーにセットした。

 

[ウルティメイトゼロ、スタンバイ]

 

 エックスの右腕に剣が装着され、上半身をあの銀色の鎧――ウルティメイトイージスが覆った。

 

『デェェェヤッ!』

[イージスジャケット、セットアップ]

 

 

 

「グアアアアァァァァ!」

『へへッ、こっちだ!』

 

 ブラックキングの尻尾の横薙ぎを側転でかわしたゼロは、挑発しながら敵をスバルたちより引き離していく。

 

「セヤァァァッ!」

 

 そこに、次元の壁を超越したエックスが飛んできた! ゼロたちが、スバルとアインハルトがエックスを見上げる。

 

「エックス! 来てくれたんだ……!」

「うん! あたしたちのウルトラマンだ!」

『それ俺の……』

 

 エックスの着地の際の風圧で、バンデロとブラックキングは後ろに押される。

 

『何ぃぃぃぃッ!? ここに来てウルトラマンが、二人だと!?』

 

 ゼロはエックスの隣に立って呼びかけた。

 

『よくここまで来られたな』

『二万年も待ってられないんでね』

『へへッ、言うじゃねぇか。そんじゃあ行くぜッ!』

『おおっ!』

 

 二人のウルトラマンは、悪しき宇宙人と怪獣にぶつかっていく!

 

『ちくしょうがッ! 纏めてひねり潰してやるッ!』

『出来るもんならやってみやがれッ!』

 

 エックスの剣がブラックキングのドリルを抑えつける。その間にゼロはバンデロの拳を止め、相手の腹部にキックを入れた。

 ダイチはエックスの鎧を、イージスジャケットからゴモラキャリバーへと切り替える。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 ゴモラキャリバーのクローがブラックキングの体表を切り裂く!

 

「グアアアアァァァァ!」

『「超振動拳!」』

 

 スピナーが猛烈に回転し、クローから振動波が生じる。そしてブラックキングへと飛び込んだエックスが、クローを叩きつけた!

 

「ヘェェェヤッ!」

「グアアアアァァァァ!」

 

 溢れ出る振動波がクレーターを穿つ勢いで、ブラックキングに大きなダメージを与えた!

 ダイチは更にゴモラキャリバーからエレキングミラージュへと鎧を換装。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

 

 二丁の銃から、オレンジ色の電撃を発射!

 

『「ヴァリアブル電撃波!」』

「テェェェェーッ!」

 

 直撃した電撃波が、ブラックキングを中心に爆発を引き起こした!

 エックスがブラックキングを抑えている間に、バンデロと戦うゼロは燃えるように赤い姿へと変身を行った。

 

『ストロングコロナゼロ!』

 

 殴りかかるバンデロだが、ゼロの拳が衝突すると、自身の拳が砕かれ故障してしまう!

 

『ぎゃああああッ!? お、俺の腕がぁぁッ!!』

『ウルトラハリケーン!』

 

 悶えたところをゼロに上体を抱え込まれ、空高くに投げ飛ばされた! その勢いはさながら暴風だ!

 

『ぐはぁぁぁぁッ! おのれぇぇぇ……!』

 

 荒野に真っ逆さまに転落したバンデロだが、まだダウンしていない。無事な方の腕で銃を抜き、ゼロへ銃口を向け、光弾を連射!

 

『ガルネイトバスタァァ―――!』

 

 ゼロはその光弾を、赤く燃える光線で全て相殺した。そして透き通るように青い姿へとまた変貌する。

 

『ルナミラクルゼロ!』

 

 起き上がったバンデロと静かに睨み合うゼロ。両者の間に吹き抜ける一陣の風。そして……。

 

『ミラクルゼロスラッガー!』

 

 バンデロの早撃ちと同時に、分身したスラッガーが奔る。その結果、

 

『……うッ……!』

 

 光弾が脇をかすめたゼロが、その場に片膝を突いた。

 

『フハハハ! 結局は強い者が勝つ! それが宇宙の掟なのだッ!』

 

 勝利を確信したバンデロが豪語し、銃を振り上げる。

 が、自身の身体に違和感を覚え、足元の影を見下ろした。そして絶句。

 

『なッ……!?』

 

 影にはあり得ない位置に細長い穴がいくつも開いている。スラッガーが貫通していたのだ。あまりの切れ味に、「斬られた」ことに気づくのが遅くなっただけであった。

 

『そんな、馬鹿な……!』

「シャッ!」

 

 負傷を自覚したことで動けなくなったバンデロに対し、立ち上がったゼロが自分のカラータイマーにふた振りのゼロスラッガーを接続。そこから超威力の光線を発射する!

 

『ゼロツインシュート!!』

『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――ッ!!』

 

 凄まじい光の奔流に呑まれたバンデロは、たちまちの内に爆散。宇宙中で暴威を振るいいくつもの争いを巻き起こした死の商人の、因果応報の末路であった。

 ゼロの勝利の一方で、エックスも勝負を決めようとしていた。エレキングミラージュを解除して、右腕を力強く振り上げる。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブラックキングがドリルから光線を放ったが、エックスは上半身をひねって光線を回避。そのまま上体を戻す勢いで、とどめの光線を送り返す。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 ザナディウムを食らったブラックキングがとうとう爆発。肉体が圧縮され、スパークドールズへと変化した。

 地面に転がったブラックキングを回収したスバルとアインハルトが、エックスとゼロに向かって手を振る。

 

「エックスー! ウルトラマンゼロっ!」

「ありがとうございます……!」

 

 二人のウルトラマンは、スバルたちにおもむろにうなずき返した。

 

 

 

 戦いを終わらせ、それぞれのウルトラマンが彼らの世界に帰還する時がやってきた。両者イージスを装着すると、ゼロがエックスに呼びかける。

 

『ウルトラマンエックスか……。また次元のどこかで会える日を、楽しみにしてるぜ』

『ああ……私もだ!』

 

 双方、固く握手。そしてゼロと、スバルとアインハルトを手の平の上に乗せたエックスがギレルモから飛び立ち、次元を飛び越えていったのだった。

 

 

 

 エックスたちのミッドチルダへの帰還後、ヴィヴィオら三人はスバルとアインハルトから、ギレルモでの出来事の話を聞いていた。

 三人が一番関心を持ったのは、ゼロの活躍ぶりであった。

 

「へぇ~、そんなに強かったんだ、ゼロさんって。あんなに手強かった異星人と怪獣を同時に相手にしても、物ともしなかったなんて!」

「かっこよかったんだろうな~。あたしもその戦い、生で見たかったなぁ」

「羨んじゃ駄目だよ、コロナ。アインハルトさんたち、大変な目に遭ったんだから」

 

 三人の感想を傍から聞いたダイチが、ふと問いかける。

 

「ねぇ、みんな……エックスより、ウルトラマンゼロの方にこのミッドを守ってもらいたいって思う?」

「え?」

『おい、何を聞くんだダイチ。私に不満でも……』

 

 思わず抗議を入れるエックス。慌ててデバイザーを抑えたダイチは、質問の真意を語る。

 

「ゼロは無敵といってもいいくらいの実力だった。正直、エックス以上だ。だから、やっぱり強い者がいてくれた方が安心じゃないかって……」

 

 ダイチはゼロの強さを認め、敬意を持つ一方で、若干の劣等感を覚えていた。自分とエックスよりも、ゼロにミッドチルダを守ってもらう方がよかったのではないか……と。

 質問に一番に答えたのは、スバルだ。

 

「どっちが上でどっちが下って言うつもりじゃないけれど……あたしは、エックスの方がいいって思うな」

「えっ、何で?」

 

 思わず虚を突かれるダイチ。スバルは続けて言う。

 

「だってエックスとは、今日まで一緒に力を合わせて戦ってきたんだもの。エックスはあたしたちの大事な仲間だよ! 強さとか関係なく、これからも一緒に歩んでいきたいって思う!」

「あっ……」

 

 スバルの後に、アインハルトはこう語った。

 

「私たちを助けてくれるためにダイチさんたちが頑張ってくれたこと、すごく嬉しかったです。あれだけ打ちのめされて、それでも駆けつけてくれたエックスのことも……。だから私も、エックスにいてほしいって思います。スバルさんも、可能性を信じて努力する者が明日を作るって言ってましたし……すごくいい言葉でした」

「そ、そうかなぁ? 咄嗟に口から出たことだけどね」

 

 まっすぐに称賛されたスバルが恥ずかしがる。

 ヴィヴィオたちもスバルらに賛同した。

 

「わたしも、エックスはもうわたしたちの仲間だって思います!」

「エックスももちろんかっこいいよね!」

「次元世界を守ってくれてること、たくさん感謝してます」

 

 わいわいと語るスバルたちの言葉を聞いて、ダイチもエックスも静かに微笑んでいた。

 

「『……ありがとう」』

 

 

 

 ――ミッドチルダ南部の、とある林の中。

 

「おらおらぁッ!」

「ハハハッ、こいつ全然抵抗しねぇぜ!」

「とっととミッドから出てけよ宇宙人ッ!」

 

 軽薄そうな高等科の学生たち数人が、一人の白い服の青年をよってたかってリンチにしていた。無抵抗のままうずくまる彼に、すくった土を浴びせるなどひどい目に遭わせる。

 

「やめて下さいっ!」

 

 そこに短髪の、一見すると男の子と間違えてしまいそうな外見の少女が割って入ってきて、腕を広げ青年をかばった。

 

「どうしてこんなひどいことするんですか! この人がかわいそうです!」

 

 学生たちはあどけない少女だとわかると、見下した視線を向けて底意地の悪い笑みを顔に張りつけた。

 

「君の方こそやめときなよ~。そいつはミッド人じゃねぇんだぜ。俺ら、魔法なしで光ってるとこ見ちゃったんだよ」

「そんなことすんのは宇宙人だぜ! ミッドを侵略に来た悪い奴なんだよ」

「俺らはそれを退治してるだけなのさ。わかる?」

 

 口ではそう言う学生たちだが、青年が無抵抗なのをいいことに、面白半分でいたぶっているだけだというのが明白であった。

 

「そいつかばってたら、君も悪い奴の仲間だって通報しちゃうよ?」

「保護者は一緒じゃないのかな~? 何だったら、そっちにナシつけてもいいんだぜ」

 

 せせら笑う学生たちに背後から、大柄な人影が掛かった。振り返ると、

 

「……私がその子の保護者だが、何か?」

 

 肌が浅黒く、筋骨隆々な大男がそこに立っていた。髪の間からは獣の耳を生やしており、全身から放つ威圧感もまるで猛獣のそれであった。

 学生たちはそのプレッシャーにあっという間に怖気づき、ガタガタ震える。

 

「あ……その……何でもないでぇーすッ!!」

 

 ピューッと、脱兎の如く逃げていく学生たち。その後ろ姿を見やって、大男は鼻を白けさせる。

 

「ふん、どこの世界でもああいう手合いはいるものだな」

「ありがとうございます、師匠。助けていただいて」

 

 少女はペコリと大男に頭を下げてお礼を言った。

 

「ミウラ、お前なら一人でもどうにでもなっただろうが、インターミドルの直前で問題に巻き込ませる訳にもいかないからな。それより、そこの彼のことだが……知り合いか?」

「いいえ、知らない人です。でも、ここ最近、近くの公園にいるところを何度か見てます」

 

 少女は白い服の青年に手を伸ばす。

 

「もう大丈夫ですよ。ボク、ミウラ・リナルディと言います。あなたのお名前は?」

 

 名乗った少女が尋ねかけると、顔を上げた青年は次のように答えた。

 

「……僕はtE-rU。それ以外のことは、思い出せない……」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はエレキングだ!」

ダイチ「エレキングは『ウルトラセブン』第三話「湖のひみつ」から登場した宇宙怪獣! セブンの怪獣では一、二位を争うほどの人気だよ!」

エックス『元々はピット星人が侵略の手段として繰り出した怪獣だ。ピット星人との共演も何度かあるぞ』

ダイチ「再登場の機会もトップクラス。大怪獣バトルシリーズでもゴモラ同様活躍したぞ!」

エックス『しかしタイラントとの戦いで戦死してしまったのは悲しかったな』

ダイチ「『ウルトラマンX』では直接の登場はないけれど、サイバーエレキングアーマーとしてエックスの力になったんだ」

エックス『電撃の攻撃はかなり見栄えが良かったな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 惑星ゴールドから、ミッドにやってきた謎の青年。そして、彼が呼び出した巨大なロボットが、俺とエックスの前に立ち塞がる。待ってくれ! ゴールド星人は他の星を侵略しない、平和な種族のはずだろ!? 次回、『星の記憶を持つ男』。


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星の記憶を持つ男(A)

 

「私たちの生活や命を守る。それは正義かもしれません」

「発射!」

「トラァーイっ!!」

「発射!」

「けれど、怪獣や異星人たちにも、彼らなりの事情がある」

「卵ですよ……バードンは卵を抱えてる!」

『「ごめんな……ここはお前のいるべき場所じゃないんだ」』

「どういう状況なら、怪獣を倒すことが正義と言えるのか……その答えは見つかってません」

「恵みを分け合える方法はきっとある」

『そうだな……可能性はある』

 

 

 

『星の記憶を持つ男』

 

 

 

 ミッドチルダ南部の静かな住宅地に建っている一軒家。アインハルトはノーヴェ、チンクとともにここを訪れていた。

 

「さてそんなわけでー、約束の覇王の愛機が完成したんで、お披露目&お渡し会とゆーことで」

「わー!」

 

 リビングでアインハルトたちと向かい合う、セミロングの髪型の女性が切り出すと、白銀色の髪の少女と赤髪の少女が紙吹雪を散らして場を盛り上げた。

 セミロングの女性はこの家の主人、八神はやて。のほほんとした雰囲気とは裏腹に波乱万丈な半生に揉まれて鍛えられ、今では魔導師ランクが驚異のSSという、管理局のエースオブエースなのだ。四年前にJS事件を解決した機動六課も、彼女が組織したのである。

 二人の少女は一見人間に見えるが、れっきとしたデバイスである。広い次元世界でも滅多に見られない古代ベルカ式ユニゾンデバイス、それぞれ「リインフォース・ツヴァイ」と「アギト」という。

 この家には他に「ヴォルケンリッター」という四人の騎士が同居しているのだが、ここでは紹介を割愛する。

 

「は……はいっ!」

 

 アインハルトはそんなはやてたち相手に畏まった態度。本日彼女は、カルナージの旅行時に依頼した自身のデバイスを受け取りに来たのである。

 ヴィヴィオらとともにインターミドル・チャンピオンシップへの参加を表明したアインハルトであるが、インターミドルの参加条件には「クラス3以上のデバイスを所有して装備する事」とある。真正古代ベルカ式のデバイスを作れる者はそうそういないので、アインハルトはデバイスを持っていなかったのだ。そこでミッドチルダでも特に古代ベルカに精通しているはやてに専用デバイスの制作を頼んだのであった。

 早速デバイスの譲渡が行われる。

 

「アインハルト、開けてみてー」

 

 手元に置かれた箱を、ドキドキとしながら開けるアインハルト。「シュトゥラの雪原豹をモチーフにしたユニゾンデバイス」と称された、その中身は……。

 

「――猫?」

「にゃあ」

 

 セイクリッド・ハートみたいなぬいぐるみ型のデバイスだった。しかも「豹」と銘打たれた割には、どう見ても「猫」だった。鳴き声まで猫。

 しかしアインハルトは気に入り、デバイスに「アスティオン」の名を与えてマスター登録を完了したのであった。

 庭で登録を済ませると、はやてがアインハルトに呼びかける。

 

「さて、ほんならちょこちょこっと調整とかしよか?」

「お願いします!」

 

 ペコリとお辞儀する大人モードのアインハルト。と、その時……。

 

「おや?」

 

 チンクが庭の一画に、見慣れない男性が現れたことに気がついた。

 真っ白い、どこかの民族衣装のような服装を身に纏った、端整な顔立ちにどこか陰を湛えたミステリアスな雰囲気の男性。彼を見やったノーヴェが疑問を抱く。

 

「彼は? あんな人、こちらの家にいましたか?」

 

 男性は先述したヴォルケンリッターの一員ではない。ノーヴェの質問に、はやてが返答する。

 

「ああ、あの人はテルさん。どうも記憶喪失で、自分のこと名前しかわからへんみたいなんや。この前、うちの道場のミウラが見つけてな、路頭に迷ってるそうやから、記憶が戻るまでうちで預かることにしたんやで」

「そうだったんですか」

「あれ? でも、どこかで見たような気が……」

 

 納得するノーヴェだが、チンクは何かを思い出しかけてつぶやいた。

 それを受けてはやては、二人をアインハルトから離してから囁きかける。

 

「こないだ、ネットに「発光する宇宙人」なんてタイトルの動画がアップされたやろ。その動画に映ってた人が、あのテルさんなんや」

「えっ!?」

「ああ……! そう言えば、あの動画の人物とそっくりです」

 

 ノーヴェとチンクは、Xioでその動画が少し問題になっていることを思い出した。チンクは心配そうに尋ねる。

 

「まだ異星人と決まった訳でもありませんが……そんな人物を置いていて、大丈夫なのですか? 仮に危険があったら……」

「いや、そこは心配ないと思うんよ」

 

 はやてがあっけらかんと答えた。

 

「テルさん、攻撃的なところは全然見られへんからな。あんなに穏やかな雰囲気の人は、わたしも滅多に見たことないで。私たちを騙すために仮面被ってる訳でもないみたいやし、当分はそっとしておいても大丈夫やろ」

「そうですか……。八神司令がそう言うなら、異存はありませんが」

 

 チンクとノーヴェはひとまず納得し、もう一度テルという男性を一瞥した。

 テルは、何やら物憂げに空を見上げ、ただただ庭にたたずんでいた。

 

 

 

 アスティオンの調整を終えて、アインハルトたちが帰っていった後で、八神家にボーイッシュな見た目の少女がやってきた。

 

「こんにちは、はやてさーん!」

「あっ、ミウラ、いらっしゃい」

 

 少女の名前はミウラ・リナルディ。幼い外見に反して、八神家の経営する道場の門下生で一、二位を争うほどの実力。彼女がテルを発見したのである。

 

「ミウラ、またテルに会いに来たですか?」

 

 リインフォースの問いに、ミウラは後頭部に手をやりながら肯定した。

 

「えへへ、そうなんですよ。テルさん、どこにいますか?」

「いつもみたいに庭におるよ。記憶は、まだ戻る気配ないなぁ。シャマルの診断やと、外的ショックの一時的なもんらしいから、その内治るってことやけど」

「そうですか……。もちろん早くテルさんの記憶が戻るのがいいんでしょうけど、ボク、ちょっと不安でもあります。記憶が戻ったらテルさん、どこに行っちゃうのか……」

 

 テルに対して懸念するミウラの様子を見て、アギトが指摘する。

 

「ミウラお前、すっかりテルに惚れ込んでるな。そんなに好きになったか?」

「えええぇぇ!?」

 

 瞬間、ミウラの顔が真っ赤になった。

 

「そ、そそ、そんなことないですよぉ!? べ、別にやましい気持ちがある訳じゃっ!」

「隠そうとしなくたっていいだろ。テルの奴、イケメンだし優しいしな。惚れても全然おかしいことじゃないさ」

「う、うぅぅ……」

 

 アギトにからかわれて、ミウラは頭から湯気が出そうになる。そこをはやてが助けた。

 

「こらこら、あんまりいじめたらあかんで。ミウラ、テルさんのとこに行っておいで」

「は、はい。ありがとうございます、はやてさんっ」

 

 庭へと移っていったミウラが、テルの元へと駆け寄った。

 

「テルさーん!」

「ミウラ」

 

 振り返ったテルに、ミウラが尋ねかける。

 

「また空をながめてたんですね」

「ああ。こうしてると、何かを思い出しそうになるんだ」

「そうですか……。早く記憶が戻るといいですね」

 

 本心を隠し、そう告げるミウラ。うなずいたテルは、再び空の彼方へ視線を送る。

 

「確か僕には、何かやるべきことがあったような気がするんだ。大事な何かが……」

 

 とつぶやいた時……テルがいきなり顔をしかめてこめかみを抑えた。

 

「うっ!?」

「て、テルさん!? どうしたんですか!?」

 

 慌てるミウラ。だがテルは彼女に答えず、強烈な頭痛を感じてその場にうずくまった。

 

「くっ、うぅぅ……あぁぁぁぁぁっ!」

「だ、大丈夫ですか!? ちょっと待ってて下さい、すぐはやてさんたちを呼んできますから! はやてさーん!」

 

 自分ではどうしようもないと判じ、ミウラは宅内へと走っていく。彼女の姿が見えなくなってから、テルはハッと頭を上げた。

 

「思い出した……! 僕が何者なのか……何をするべきなのか……!」

 

 テルは記憶を取り戻したのだ。同時に、青い顔で発する。

 

「大変だ……! 時間がない……!」

 

 数分後、ミウラがはやてたちを連れて庭に駆け戻ってきた。だが、その時には、

 

「あれ……? テルさん……?」

 

 テルの姿は、どこにも見えなくなっていたのだ。

 

 

 

 Xio本部では、ダイチがテルの動画の分析結果をカミキらに報告していた。

 

「やはり、動画の撮影データに改竄の痕跡は発見出来ませんでした。また、男性の発光が一切の魔法によるものでもないことも確認されました」

「マジで異星人なのかよ……」

 

 報告を端で聞いていたワタルがつぶやく。

 

「異星人ならば、まず、相手の意図を確認する必要があります」

 

 クロノの進言にうなずくカミキ。

 

「彼は八神二等陸佐の預かりだったな。二佐に、タイプAをここに移してもらうように連絡してくれ」

「了解しました」

 

 クロノがはやての元に直通の通信を入れたが、すぐに声を荒げる。

 

「何だって!? ……隊長、タイプAは二佐の宅から姿を消したとのことです!」

 

 それを受けて、カミキが席を立つ。

 

「Xio、出動!」

 

 ダイチ、スバル、ワタル、ウェンディ、ディエチの五名が直ちにミッドチルダ南部へと出動していった。

 

 

 

 ダイチたちが消えたテルを捜索中に、森林部に入ったところ、空に異常を発見した。

 

「何だ……? 黄金色の、粒子……?」

 

 空を縦断するように黄金に輝く粒子が帯を成しているのを発見したのだ。その光景を見上げて、ワタルが発した。

 

「何だか綺麗っスね……」

「でも、人体に害はないのかな……?」

 

 ウェンディとディエチがつぶやいていると、ダイチはエックスに呼ばれ、一旦四人から離れる。

 

『あの粒子は、惑星ゴールドの大気と同じものだ』

 

 うなずいたダイチは、本部へと報告する。

 

「ミッドのものではない大気を検出しました。データを送ります!」

 

 

 

 本部で黄金色の粒子の光景の映像を目にしたグルマンが告げる。

 

「これは惑星ゴールドの大気に含まれる粒子だ!」

「その星から来たということでしょうか。自星の大気を放出するとは、侵略目的では……」

 

 尋ねるクロノ。だがグルマンは否定した。

 

「ゴールド星人は精神と理性が高度に発達した種族。他の星を侵略しようなんて、野蛮で下等なことは考えないはずだ」

 

 カミキは黙って腕を組んでいると、データを送ってきたダイチが続けて連絡を入れた。

 

『黄金の粒子、追跡します!』

 

 

 

 粒子の発生源を追う五人だが、そこに一人の少女が駆け込んでくる。

 

「あの! ボクも連れてってもらえないでしょうか!」

「君は、はやてさんのところのミウラちゃん!」

 

 ミウラであった。彼女はダイチらに訴えかける。

 

「テルさんは悪い人じゃありません! さっきは頭を痛そうに抑えてました。きっと記憶が戻ったんです! テルさん、やるべきことがあったはずって言ってたから、何か事情があるんです。ボクに話をさせて下さい!」

「はやてさん……」

 

 スバルがはやてに通信を入れる。

 

『ミウラがごめんな。うちで待ってるように言ったんやけど、聞かんで飛び出していってもうて。邪魔やゆうんなら、わたしたちが連れ戻しに行くけど』

「……いえ、それには及びません。カミキ隊長に同行の許可をお願いします」

 

 テルの危険性が薄いことをグルマンから聞いたこともあって、スバルがミウラの同行の許可を申請し、通ったことでミウラに呼びかけた。

 

「いいよ。あたしたちと一緒に、テルさんを迎えに行こう」

「! ありがとうございますっ!」

 

 バッと頭を下げるミウラ。こうして彼女も加わり、六人で粒子の飛んでくる方向へと急いでいった。

 

 

 

 Xio特捜班とは別に、地元の住民からの通報を受けて、巡回中だった警防官が一人、黄金の粒子をたどっていた。

 そして彼は、注連縄が巻かれた岩に手の平から粒子を照射しているテルの姿を発見する。

 

「わあああぁぁっ!?」

 

 魔法によるものではない異様な光景に度肝を抜かれる警防官。その悲鳴を聞き止めたダイチたちが駆け出し、現場へとたどり着く。

 

「何してる!?」

 

 ワタルが一番にテルへ叫んだ。彼らの方へ目を向けたテルは、ひと言告げる。

 

「やるべきことがある……。僕がやらなければ!」

「テルさん……!」

 

 ミウラが呼びかけると、テルは一瞬彼女へ驚いた目を向けたが、それと同時に岩の根本から人形がひとりでに飛び出してきた。

 

「スパークドールズ……?」

 

 つぶやくダイチ。テルは出てきた丸っこい人形に黄金の粒子を浴びせる。

 

「このルディアンをミッドチルダに送ったのは僕の先祖だ。これで……!」

 

 粒子を浴びる人形が振動。それに呼応するかのように、テルの周囲に小石が大量に宙に浮かぶ。

 

「うっ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 それを見た警防官は、未知への恐怖に駆られたあまりに杖から魔力弾を発射した!

 

「よせっ!」

 

 ワタルが止めたが一歩間に合わず、テルは魔力弾の直撃を食らった!

 

「うわぁっ!」

「テルさぁんっ!?」

 

 絶叫するミウラ。ダイチたちがテルに駆け寄ろうとするが、それを敵対行動と受け取ったか、テルは手から光弾を放って反撃してきた。

 

「わっ!」

 

 ダイチたちは咄嗟に回避したが、驚いたミウラが足を滑らせ転倒。後頭部を地面の岩に強打してしまった。

 

「ミウラちゃん!」

 

 ハッと顔が引きつったテルは、ミウラに向けて光を飛ばした。

 

「駄目っ!」

 

 スバルが反射的に自身を盾にしたが、光はスバルの身体を通り抜けて、ミウラに吸い込まれていった。

 

「え……?」

「バインド!」

 

 ディエチがテルを拘束しようとバインドを仕掛けるが、テルは全身からエネルギーを発して瞬時に光の輪を破壊した。

 

「破られた……!?」

 

 テルは間髪入れずに人形に粒子を撃ち込むと、人形は高速で森林の奥へ飛んでいく。そして、怪獣並みに巨大化して森を突き破った!

 

「キュウゥ――――――!」

 

 人形が巨大化した、両腕がガトリングガンになっているロボットを見上げ、ディエチが本部へ報告した。

 

「タイプM出現! タイプAが操ってます!」

 

 ワタルらが対応に走る中、ダイチとスバルはミウラを介抱する。

 

「大丈夫!? 怪我は……」

「ない……?」

 

 ミウラは頭を岩に打ったはずなのに、全く外傷がなかった。ミウラ自身驚いている。

 

「どうなってるの……?」

「さっきの光が、ミウラちゃんを治療したのかもしれない」

「じゃあ、テルさんは……」

 

 市街地へ向けて歩き出したロボット・ルディアンを見上げて呆然とつぶやくスバル。彼女へダイチが言いつける。

 

「スバルはミウラちゃんを安全な場所へ!」

「わかった!」

 

 スバルがミウラを抱えて走っていくと、ダイチはワタルたちに遅れてルディアンを追いかけていった。

 

 

 

 ルディアンの侵入により、ミッドチルダ南部の市街は大混乱に陥っていた。大勢の市民が逃げ惑う中、ルディアンは一直線に「どこか」を目指してひたすら行進する。途中にある建築物は全て薙ぎ倒していく。

 

『各員、ロボットをその場から動かすな!』

「了解!」

 

 カミキの指示で動く特捜班。ワタルはジオアトスに乗車したウェンディ、ディエチへと告げる。

 

「俺は地上から援護する! 二人は空から奴の足を止めてくれ!」

「了解っス!」

 

 アトスは呼び出したジオマスケッティと合体。スカイマスケッティがルディアンめがけ飛んでいく。

 そしてダイチはエックスとのユナイトを行う。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 エクスデバイザーのスイッチを押し、エックスのスパークドールズをリード。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチの身体がウルトラマンエックスへと変貌し、空へ飛び立つ。

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 ルディアンの眼前に着地したエックスは、すかさず身をかがめた姿勢でルディアンの片脚に組みついた。

 

「シュッ! セイヤァッ!」

 

 そして渾身の力で捕らえた脚を持ち上げ、ルディアン本体ごと大きく投げ飛ばす!

 

「キュウゥ――――――!」

 

 ルディアンの巨体が軽々と宙を舞い、市街の中心から開けた場所へと落下した。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 そのルディアンのコックピット内にテルがいるのだが……今の彼は、先ほどのスタン設定の魔力弾が直撃したショックによって、ぐったりと気を失った状態にあった。

 それまではテルがルディアンを操縦していたのだが……彼が失神したことで、ルディアンのシステムがマニュアルモードから、緊急用の自動防衛モードへと勝手に切り替わった。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 再起動して立ち上がったルディアンは、自己防衛のためにエックスへと攻撃を開始する!

 



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星の記憶を持つ男(B)

 

「キュウゥ――――――!」

 

 テルの操縦がなくなったことで自動防衛システムが作動したルディアンは、両腕のガトリングガンを高速回転させてエックスに発砲した!

 

「デヤァァァーッ!」

 

 弾丸の雨を浴びたエックスが、お返しかのように宙を舞って路面に叩きつけられた。

 そこに飛来するスカイマスケッティ。

 

「エックスが危ないっス!」

「攻撃開始!」

 

 エックスの窮地を見たウェンディとディエチにより、ファントン光子砲がルディアンへと浴びせられた。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 攻撃を受けたことでマスケッティも攻撃対象と判じたルディアンがガトリング砲を空に向けるが、立ち上がったエックスがそうはさせまいと詰め寄り、ガトリング砲を蹴飛ばして射線をそらした。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 狙いをエックスに戻したルディアンが砲筒で殴り掛かるが、エックスは頭を下げてかわし、体当たりでルディアンの体勢を崩す。

 

「ヌゥオッ!」

「キュウゥ――――――!」

 

 エックスは両脇にルディアンの両腕を抱え込んで、動きを封じ込めた。その間にダイチがルディアン内のテルへと呼びかける。

 

『「君はミウラちゃんの怪我を治し、撃たれても反撃しなかった! 戦いたい訳じゃないだろ!?」』

 

 だが、気を失っているテルに答えることは出来ないのだ。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 自動で戦っているルディアンは出力を上げ、ガトリング砲を封じているエックスを押し込んでいく。

 

「ウッ……クッ……デュアッ!」

 

 力で押されるエックスだが、ガトリング砲だけは離さない。そうして押し合いになっていると、エックスの視界にルディアンが元々目指していた先にあるものが映った。

 そこは公園。その中央のモニュメントに違和感を抱いたエックスは、透視でその正体を見極めた。

 地上に見えているモニュメントは全体像の半分だけで、土の中に推進エンジンが隠されていた。

 

『あれは宇宙船だ!』

『「公園の立体アートに偽装した宇宙船?」』

『こいつからは、敵意や凶悪さを感じない。何らかの目的があって、あの宇宙船を目指していたのだろう』

 

 エックスがルディアンと組み合っていると、テルが朦朧としながらも意識を取り戻し、うっすらとまぶたを開いた。

 しかしそれを知る由もないディエチたちが、ルディアンの背面に光子砲を撃ち込む。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 そのショックでルディアンは更に力を増し、エックスを振り払った上で殴りつけ、姿勢を崩した。エックスの足が滑り、駐車場の車の列を蹴ってしまって警報が鳴り渡った。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 エックスを押し返したルディアンは、ガトリング砲を持ち上げマスケッティに砲口を向ける。マスケッティがウェンディたちにアラートを知らせる。

 

「ロックされたっス!」

「振り切って!」

 

 ロックオンから逃げようとマスケッティを旋回させるウェンディだが、アラートは消えない!

 

『「よせぇーっ!」』

 

 叫ぶダイチ! そしてガトリングガンが火を吹くかと思われた、その瞬間に、

 

「キュウゥ――――――……」

 

 突然ルディアンの双眸から光が消え、両腕がダラリと垂れ下がる。背面からは白い煙が排出され、ルディアンは機能停止した。

 テルが残っている力を振り絞って、自動防衛システムを停止させたのだ。精魂が尽きたテルは、再度気を失ってうなだれた。

 停止したルディアンは光に包まれて縮小していき、元の人形サイズに戻った。そしてテルともども、芝生の上に投げ出される。

 

『……ジュワッ』

 

 もう危険はないと見たエックスは、ユナイトを解除。ダイチの肉体に戻ると、テルの元へと急いで走っていく。

 ダイチとほぼ同時に、スバルとミウラもテルの元へと駆けつけてきた。倒れ伏しているテルを目にしたミウラが真っ青になった。

 

「テルさん、しっかり!」

「動かしちゃダメ! すぐに手当てを! 医療班、急いで!」

「ここからならXioメディカルが近い!」

 

 スバルたちがXioの医療班を要請している間、ミウラはずっと辛そうに失神したテルの顔を見下ろしていた。

 

 

 

 テルがXioベースに担ぎ込まれると、ベースに更なる来訪者があった。

 

「本局統幕議長、並びに首都防衛長官、入室します」

 

 オペレーション本部に入ってきたのは、首都防衛隊の長官の称号が相応しいような威厳と厳格さに溢れた男性と、それとは反対に統幕議長という重々しい呼び名が似つかわしくないほど穏やかな雰囲気の老婆だった。

 しかしその老婆こそが、管理局黎明期を支え、今や伝説の三提督とまで称されるほどの偉人、ミゼット・クローベルその人であった。通常の異星人犯罪とは趣が大きく異なる今回の事態を受けて、この二名が査察のためにXioに来訪したのである。

 統幕議長と防衛長官に対し敬礼したのは、カミキ隊長とクロノ副隊長、そしてテルの保護者であることでXioに呼び出されたはやてである。

 三人の姿を確かめたミゼットは、にっこり微笑みながらカミキに呼びかける。

 

「こうして直接顔を合わすのは久しぶりねぇ、ショータロー坊や。活躍ぶりは聞いてるわよ」

「は……恐縮です、議長」

 

 ショータロー坊や、と呼ばれたカミキは一瞬戸惑いを見せた。Xioの隊長をそんな風に呼べる人物など、ミゼットくらいのものだろう。

 

「クロノ坊やも、はやてちゃんも久しぶりね。元気だったかしら?」

 

 まるで世間話でもしに来た風のミゼットに、防衛長官が咳払いした。

 

「議長、我々はここに重大な案件の査察に来たのです。私事はどうぞ状況終了後にお願いします」

「あら、ごめんなさい。じゃあカミキ隊長、詳しいお話を聞かせてちょうだい」

 

 気を取り直したミゼットの質問に、カミキは姿勢を正して回答した。

 

「ゴールド星人という異星人を保護してます。宇宙船を小型の隕石に偽装し、地球に飛来していたんです」

 

 その宇宙船が、公園のモニュメントである。モニターには、ラボチームが回収した宇宙船を解析している様子が映し出される。

 

「現場に急行したラボチームが、このタイプAの所持していた機械を調べたところ、偶然にもこういったものが投影され始めました」

 

 モニター画面は、宇宙船に記録されていた映像に切り替わる。

 怪獣と思しき巨大な影が、圧倒的な暴力で一個の都市を破壊し尽くしていくものだった。地表は荒涼とした砂漠が地平線の彼方まで広がり、石に変えられた人間が砂塵の中に埋もれている。

 

「まぁ、恐ろしい……」

「これは、異星人の記憶なのか?」

「恐らくは」

 

 防衛長官の問いかけにクロノが肯定を返した。カミキはテル――改め、ゴールド星人tE-rUについてこう語る。

 

「この映像から類推できるのは、タイプAは侵略者ではなく、宇宙難民、あるいは、亡命者だということです」

「侵略目的ではないと言いたいのか?」

「ロボットが暴れた時、彼は既に魔導師から攻撃され、意識のない状態だったようです」

 

 クロノの言葉を肯定するように、XioメディカルでtE-rUの治療を担当しているシャマル医療班長が通信越しに告げた。

 

『彼の脳内ホルモンの状態も、それを裏打ちしてます』

「ロボットが攻撃を受け、乗っていたあの青年を守るために、自動モードで反撃したのでしょう」

 

 後を継いだカミキに、防衛長官は尋ねる。

 

「それでカミキ君、君はこの異星人をどうしろと言いたい」

「宇宙からの難民を保護する。それが我々の義務です」

「こいつは街を破壊したんだぞ! それを保護だと!?」

「まぁまぁ、そういきり立たないで」

 

 怒鳴った防衛長官をなだめたミゼットは、はやてに尋ねかけた。

 

「八神二佐は、異星人の彼を保護していた期間があるんだったわね。あなたの意見はどうかしら?」

 

 それにはやては次にように答えた。

 

「わたしは、テル自身にはやっぱりミッド攻撃の意思はないと思います。記憶喪失中ではありますが、テルはわたしの保護下にいる間、一切の攻撃性を見せてません。テルは平和的な人物だと、わたしは信じます」

「そう……。八神二佐がそう言うからには、きっとそうなのでしょうね」

 

 ミゼットははやての意見を支持するも、防衛長官は別の疑問を提示する。

 

「だが、記憶喪失の男が、何故いきなりロボットを復活させたりしたんだ」

 

 それには、カミキたちは答えられないでいると、宇宙船の解析を行っていたマリエルから連絡があった。

 

『すみません。この宇宙船、短く単純な信号を繰り返し発信し続けてることがわかりました』

「短く単純な……?」

『恐らくは、SOS信号かと……』

 

 マリエルのひと言に、カミキたちは一瞬目を見開く。

 

「……宇宙船が何かの危機を感知して、SOSを発信した」

「それが、彼の記憶を呼び覚ました、ということでしょうか……」

 

 クロノが推測したところ、本部に警報が鳴り渡った。即座に異常の発生した、Xioメディカルの治療室の映像が現れる。

 

「シャマル!?」

 

 思わず叫ぶはやて。治療室では、覚醒したtE-rUがシャマルを背後から羽交い絞めにしているのだ。

 カミキはすぐに待機中の特捜班へ通信越しに命ずる。

 

「タイプAが医療班長を拘束している! 直ちに治療室に向かえ!」

 

 

 

 治療室では、隙を突かれて羽交い絞めにされながらも、シャマルが冷静な声音でtE-rUへ呼びかけた。

 

「落ち着いて、テルさん。ここにいる人たちは、あなたに危害を加えたりしないわ」

 

 シャマルはtE-rUが気を動転させて、人間を敵視しているものだと考えた。しかし、

 

「そうじゃない……!」

「え……?」

「奴が来るんだ……! 奴がこの星へ……! もう時間がない!」

 

 シャマルには、tE-rUの言っていることがよく理解できなかった。彼の言う「奴」とは誰なのか? tE-rUは何を恐れているのか?

 そこに特捜班とグルマンが駆け込んできた。武器を向ける彼らに、tE-rUはこう要求する。

 

「ルディアンは……ルディアンを返せ!」

「あのロボットでまた暴れるつもりかね?」

 

 グルマンが問いかけると、tE-rUは否定も肯定もせず、ただこれだけ言い放った。

 

「ルディアンしか、ガーゴルゴンは倒せない!」

「ガーゴルゴン……?」

 

 ダイチたちにはその言葉の意味がわからず、訝しんだ。

 その時に、治療室にラボチームの様子の映像が現れた。

 

『宇宙船が、ホログラフを!』

 

 tE-rUの宇宙船が、曲がりくねった角を持つ蛇のような怪物の立体映像を表示したのだった。それを見て、tE-rUがひと言つぶやく。

 

「ガーゴルゴン……!」

 

 ガーゴルゴンとは、蛇型の怪物の名前であるらしい。それを受けて、グルマンが述べる。

 

「ゴルゴン……97管理外世界の神話に出てくる、姿を見た者を石に変えてしまうという怪物の名前かね?」

「何で宇宙の彼方の怪物が、管理外世界の神話になってるんだよ……」

 

 ワタルの疑問に答えるtE-rU。

 

「ガーゴルゴンは宇宙空間と次元世界を行き来して星を襲う、悪魔のような怪獣だ。一つの文明を完全に石に変えて、海に沈めたこともある」

「そんな奴が、どうして今ミッドに……」

「ガーゴルゴンはルディアンの秘めてる、惑星ゴールドのエネルギーを狙っている。あのホログラフが出たということは、奴はもうすぐそこまで……」

 

 そこまで言いかけたtE-rUが、ハッと顔を上げてひと言つぶやいた。

 

「来た……!」

 

 

 

 ミッドチルダ中央区の都心の空に、突如として巨大な空間の裂け目が発生した。宇宙が覗く裂け目から、怪光を放つ光球が地上に落下する。

 光球は一瞬にして、ホログラフの怪物――ガーゴルゴンの姿となった!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 

 

 ガーゴルゴン出現は直ちにXioの知るところとなった。本部で、防衛長官が怒鳴る。

 

「その男を即刻宇宙へ送り返せ! ミッドには何の関係もない話のはずだ!」

 

 カミキはそれに反駁した。

 

「難民を保護せずに、死地に送り出すことなど出来ません!」

「カミキ隊長の言う通りよ」

 

 ミゼットがそれまでの温厚な表情から一転して、威厳に満ちた顔つきで命じた。

 

「Xioは直ちに宇宙怪獣の迎撃を開始なさい」

「了解!」

 

 カミキ、クロノが敬礼。一方で、はやては重々しい顔で映像内のガーゴルゴンに注視していた。

 

 

 

 シャマルを人質に取るtE-rUに、ダイチがルディアンのスパークドールズを突きつけながら要求する。

 

「シャマルさんを放せ。俺が代わりになる!」

「ダイチ!? 本気っスか!?」

 

 ギョッとダイチに顔を向けるウェンディ。だがダイチは構わずにtE-rUに呼びかける。

 

「これが必要なんだろ?」

「……」

 

 tE-rUは警戒しながらも、ゆっくりシャマルを放していき――ワタルたちの方へ突き飛ばしたと同時に、ダイチを代わりに拘束した。

 そしてtE-rUはテレパシーを使い、ダイチにだけ聞こえる声で尋ねかけた。

 

『君の機械に満ちる力はこの星のものじゃない』

『だったら……何?』

『君があの巨人なのか? なら……力を貸してくれ!』

 

 エクスデバイザーから、エックスがそっとダイチに呼びかける。

 

『ダイチ、彼は信じていい』

 

 tE-rUと目を合わせたダイチは、小さくうなずき合う。そうしてtE-rUが念動力で背後の扉を開くと、二人同時に外へ飛び出していった。

 

「ダイチ!?」

 

 特捜班はすぐに追いかけようとしたが、閉まった扉に身体の大きいグルマンが挟まったので、彼が邪魔で外に出られなかった。

 

「博士! そこどいて下さい!」

「痛たたた! 無理に引っ張らないでくれ!」

「何で博士が一番に前に出たっスか!?」

 

 ディエチとウェンディでグルマンをどかそうとする中、スバルはダイチの名前を叫ぶ。

 

「ダイくーんっ!!」

 

 しかしその時には、ダイチたちはもうXioメディカルから脱け出ていた。ダイチがルディアンをtE-rUに渡すと、二人は再度うなずき合う。

 そして二人はそれぞれの力を解放! 光となってガーゴルゴンの出現地点まで急行し、ウルトラマンエックスとルディアンがその眼前に降り立った!

 ルディアンのコックピット内のtE-rUがダイチに告げる。

 

「僕の名前はtE-rU」

『「俺はダイチ。そしてこいつはエックス。ウルトラマンエックス!」』

「よろしくお願いする」

『「ああ!」』

『任せろ!』

 

 エックスとルディアンのコンビが、大怪獣ガーゴルゴンに挑んでいく。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンの方も両肩から生える蛇の口から怪光線を発射して、エックスとルディアンへの攻撃を開始した。

 ミッドチルダとゴールド星、双方の存亡を懸けた戦いに火蓋が切って落とされた!

 

 

 

 ミッドチルダ地上本部の航空隊。ガーゴルゴンの都心部侵入により厳戒態勢が敷かれたこの部隊の中で、指揮官のシグナムがはやてやシャマル、リインフォースとアギト、他二名の男女と通信を取り合っていた。

 

「では主はやて、エックスとともに現れたあのロボットの中に、テルがいるのですね」

 

 映像の中のはやてがうなずく。

 

『間違いないはずや。あれは基本、テルさんの操縦で動くようやから』

「それで、あの怪獣がテルの故郷の仇と……」

『うん。テルさん、故郷の仇討ちのために無理に飛び出していってしもうたんやね』

『テルの奴、大人しい顔して無茶しやがって……』

 

 紅い髪の、女の子と見紛うばかりの体格の管理局員がつぶやいた。浅黒い肌で、髪の間から獣の耳を生やした男性がはやてに尋ねる。

 

『主はやて、ミウラはそちらにいるのでしたよね?』

『そうやで。オペレーション室にはおらんけどな』

『ミウラちゃん、テルさんのことを心配してるでしょうね……』

 

 シャマルがそっと囁いた。

 

 

 

 シャマルの推測通り、Xioの応接室にいるミウラは、エックス、ルディアンとガーゴルゴンの戦いの映像を、不安な面持ちで見つめていた。

 

「テルさん……」

 

 胸の前できゅっと手を握り、小さくtE-rUの名前をつぶやいた。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はルディアンだ!」

ダイチ「ルディアンは『ウルトラマンX』第六話「星の記憶を持つ男」で登場したロボット怪獣! ゴールド星人tE-rUが操縦してたんだぞ」

エックス『ゴールド星の守り神のようなロボットみたいだな』

ダイチ「エックスとともに強敵ガーゴルゴンに挑んだんだ! スーツはリフレクト星人を改造したものなんだよ」

エックス『丸い胴体を見ればそれがよくわかるな』

ダイチ「tE-rUの記憶の中のゴールド星には、ルディアンの首もガトリング砲になってる砲台のようなロボットが複数配備されてる場面もあったね」

エックス『防衛用の固定砲台かもしれないが、詳しいことは不明だ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 ルディアンに秘められた、惑星ゴールドのエネルギーを狙って、石化魔獣ガーゴルゴンが宇宙から襲来する! エックスをも石に変えてしまう力を持つガーゴルゴンが、ミッドに出した猶予は44分! 次回、『星を越えた誓い』。


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星を越えた誓い(A)

 

『あれは宇宙船だ!』

『「公園の立体アートに偽装した宇宙船?」』

「やるべきことがある……。僕がやらなければ!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「よせっ!」

「ゴールド星人は他の星を侵略しようなんて考えないはずだ」

「宇宙難民、あるいは、亡命者だということです」

「ガーゴルゴンは、惑星ゴールドのエネルギーを狙っている」

「シャマル!?」

「来た……!」

『君があの巨人なのか? なら……力を貸してくれ!』

「シュワッ!」

 

 

 

『星を越えた誓い』

 

 

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 エックスとルディアンと対峙したガーゴルゴンは、両肩から生える蛇の口から怪光線を発射! 辺りのビルを巻き込んで次々倒壊させながら、エックスたちに先制攻撃を加える。

 エックスたちとガーゴルゴンの交戦が始まった時に、スカイマスケッティも戦場に駆けつけた。

 

「ガーゴルゴン、捕捉したっス!」

「攻撃、開始します!」

 

 ウェンディがマスケッティを駆り、ディエチの操作でファントン光子砲がガーゴルゴンに浴びせられる。更には、戦場の側の地上部隊支部の建物から三連装式大型魔導砲『アインヘリヤル』がせり上がる。

 アインヘリヤルは前首都防衛長官、故レジアス・ゲイズが運用に向けて推し進めていた地上防衛用兵器だ。レジアス自身は管理局評議会の思惑に翻弄され、道を踏み外した挙句に非業の死を遂げたが、次元世界の平和と正義を願う意志は本物であったと評価されたことと、対怪獣用兵器として有用であるとの判断が下されたことで、彼の死後に実用化に至ったのだ。

 アインヘリヤルの砲撃も加わって、ガーゴルゴンの足止めとなる。

 

「キュウゥ――――――!」

 

 更にルディアンのガトリング砲がうなる。ガーゴルゴンを総攻撃の炸裂が襲い、左の首に火が点いて動きが完全に止まった。

 

「ダイチ今だ!」

『「任せろ! エックス、一気に決めるぞ!」』

 

 tE-rUに呼びかけられたダイチが、デバイザーにデバイスエレキングのカードをセットした。

 

[デバイスエレキング、スタンバイ]

 

 エックスの身体がエレキング+クロスミラージュのモンスジャケットに覆われる。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

 

 二丁拳銃をガーゴルゴンに向けたエックスが、電撃を発射した。

 

『「ヴァリアブル電撃波!」』

「イィィィーッ! シェアァァッ!」

 

 電撃波は見事ガーゴルゴンの正中に直撃!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンはダメージを耐え切れなくなってばったりと横転する。

 

『「よしっ!」』

 

 ぐっと手を握るエックスだが、その時にガーゴルゴンの肩の蛇が伸びて、エックスの足首に噛みついて彼をひっくり返した。

 

「グワァッ!」

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 エックスが倒れている隙に起き上がるガーゴルゴン。あれだけの攻撃を受けながら、まだ力が有り余っているようだ。エックスとルディアンを狙っている。

 

『「やられるものか! 幻影で目くらましだ!」』

 

 エックスはエレキングミラージュの能力で自分とルディアンの幻影を多重に作り出した。二人は幻影と入れ替わることで、その中に姿をくらます。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 だがガーゴルゴンは全く迷わずに二人を怪光線で正確に撃ち抜いた!

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『「うあぁぁぁっ! 一瞬で見破ったっ!?」』

 

 背面から倒れるエックスとルディアン。今のはダイチの失策であった。体表面に眼球がないガーゴルゴンは、視覚がない。レーダーの原理で周囲を視ている。幻影には騙されないのだ!

 今のダメージでエレキングミラージュが解除されてしまう。更にエックスたちは振るわれたガーゴルゴンの二又の尻尾で弾き飛ばされる。

 

「グゥゥッ!」

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 まだ終わらない。肩の蛇がエックスの首筋に噛みつき、持ち上げて宙吊りにする。

 

「グゥッ、オオ……!」

 

 吊り上げられたまま殴られ続けるエックス。一方的に追い詰められ、カラータイマーが鳴り出す。

 

『ダイチ! こいつは今までの怪獣とは格が違うっ!』

『「ああ……!」』

 

 ダイチとエックスの危機を救うべく、tE-rUが動いた。苦痛を抑えながら、ルディアンを操作してガトリングガンの金色の砲口からミサイルを発射!

 

「エックスを放せーっ!」

 

 そしてスカイマスケッティからも光子砲の援護射撃が放たれた。二方向からのショックで、ガーゴルゴンはエックスを手放す。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

「ディエチ! もう一回行くっスよ!」

「オーケー!」

 

 反転したマスケッティから、光子砲の雨がガーゴルゴンへ撃ち込まれる。同時にアインヘリヤルからの砲撃を決まった! ガーゴルゴンの巨体が爆発の硝煙に呑まれる!

 ……が、ガーゴルゴンは何も起きなかったかのように微動だにしなかった。

 

「えっ!? 攻撃が効かなくなった!?」

 

 戸惑うウェンディ。その横のディエチは違和感を覚える。

 

「違う……。ただ効かなくなったんじゃなくて、何かが……」

 

 この時に、それまでずっと閉ざされていたガーゴルゴンの中央の首の口が大きく裂けて開かれた。

 その中には、何ということか! ギョロリと剥かれた眼球が収まっているではないか!

 

「アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンの尻尾の先端がガラガラヘビのように振動し始め、それに合わせて不気味な単眼にエネルギーが集約されていく。狙う先は、ルディアン!

 

「キュウゥ――――――!」

『「tE-rU!」』

 

 咄嗟にエックスが走った。ルディアンの前方に回り、身を挺してその盾に。

 それと前後して、ガーゴルゴンの眼球から極太の光線が放たれた! 地面をなぞりながら、エックスに命中する!

 

「『ぐわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」』

「ダイチぃぃ――――――――!!」

 

 光線を食らったエックスに特に負傷は見受けられないが……代わりに、彼の肉体が足から少しずつ石化していく!

 ガーゴルゴンの最大の武器、それはゴルゴン伝説の基となった、石化光線!

 

「……シェアッ!」

 

 しかしエックスは石化していきながらも、Xスラッシュを飛ばしてガーゴルゴンにせめてもの反撃を加えた。光弾は攻撃後の硬直で身動きが取れないガーゴルゴンの眼球に当たる。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ! キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンはこの攻撃に最も苦しんだ。

 

『ダイチ! ユナイトを解除しろ! 何してる!?』

 

 エックスの警告を聞き入れず、ダイチは彼も石化しながらもガーゴルゴンの状態をデバイザーで解析した。

 

[ガーゴルゴン、解析完了しました。恐怖]

『「tE-rU……あそこが……奴の……急所だっ!」』

 

 最後の力を使って解析の結果を送信。それを最後に、ダイチの全身が完全に石化する。

 そしてエックスもまた、石化してしまった……!

 

「ダイチ……」

 

 エックスを倒した絶好のチャンスにも関わらず、ガーゴルゴンはそれ以上戦闘の意欲を見せず、空間歪曲によって地上から消え失せた。

 

 

 

 オペレーション本部で、アルトとルキノが報告する。

 

「タイプG、ガーゴルゴン消失!」

「タイプM、ルディアンも消失します!」

「スバル、テルさんのところへ急いで!」

『り、了解!』

 

 映像の中で、tE-rUが力を使い果たして倒れ伏したことで、はやてが思わず叫んだ。

 カミキもクロノも、ミゼットも、防衛長官も、皆が石像となったエックスの姿に言葉を失っていた。

 

 

 

 戦闘終了後、Xioは総力を挙げて逃げ失せたガーゴルゴンの行方を捜索。その結果を待つ間、カミキとクロノにノーヴェとチンク、ハヤトからの通信が入る。

 

『隊長、副隊長、ダイチはどうなったんでしょうか!? あいつだけ音信がありませんが……!』

 

 ノーヴェはダイチの身を案じていた。クロノは重い面持ちで答える。

 

「消息不明だ。彼の解析したガーゴルゴンのデータだけはこっちに届いたが……その際に石化光線に巻き込まれたものと思われる」

『そんな……!』

 

 顔面蒼白になる三人をなだめるようにカミキが言い聞かせる。

 

「落ち着け。ダイチが採取してくれたデータによれば、ガーゴルゴンさえ倒せば石化は解ける。死んだ訳ではない」

『隊長、俺たちに出来ることはないでしょうか!? ひと言命令してくれれば、すぐにでもそっちに駆けつけます!』

 

 珍しく感情を露わにするハヤト。

 

「焦るな。お前たちの力が必要な時は、すぐに召集を入れる。それまでは待機!」

『……了解!』

 

 ノーヴェたちから不安は消えなかったが、カミキの指示に応じて通信を終える。その後に、アルトとルキノが報告する。

 

「ガーゴルゴン、捕捉しました!」

「高度約400キロ、ミッドチルダ衛星軌道上に静止しています!」

 

 宇宙空間でじっと動きを見せないガーゴルゴンの姿が映像に現れる。

 

『そうか! 奴は宇宙生物だ。エックスにやられた傷を癒すためにエネルギー消費の少ない大気圏外に逃げたな!』

 

 tE-rUの宇宙船の側、シャーリーとマリエルの元にいるグルマンが推理した。

 

「高周波を発しています!」

 

 ガーゴルゴンの放っている高周波が解析され、ミッドチルダの言語に訳される。

 

[ミッドチルダ人類に告ぐ。直ちに降伏し、惑星ゴールドの王子を差し出せ。猶予はミッドチルダ時間で44分。応じなければ、次元世界の全ての人類を石に変える]

「たった44分!? そんな時間じゃ、民間人の避難もさせられへん……!」

「元から逃げ場所なんてない。奴は次元世界を移動できるんだ……」

 

 戦慄したはやてに、冷や汗を垂らしたクロノが告げた。伝説の提督と謳われたミゼットも流石に固い面持ちである。

 

「舐められたものね……。防衛長官」

 

 ミゼットの呼びかけに応じるように、防衛長官は叫んだ。

 

「フェイズ5! ウルトラマンエックスが敗れた今、次元航行部隊に次元艦隊の出撃を要請する! 奴を宇宙の藻屑にしてくれる……!」

 

 すぐに次元航行部隊の本局と連絡を取る防衛長官と、カミキの視線が合う。

 二人はひと言も発さず、ただじっと目を合わせるのみだった。

 

 

 

「テルさん、大丈夫ですか……!?」

 

 tE-rUはスバルによって救出され、彼女に肩を貸されながらXioベースを目指していた。ガーゴルゴン襲撃の大混乱の中、救護班も呼べない状況なのだ。

 すると、その方角からミウラが走ってきた。

 

「テルさーん! スバルさーん!」

「ミウラ!? ベースで待ってたんじゃ……」

「どうしても、テルさんの無事を直接確かめたくって……。すみません」

 

 バッと頭を下げたミウラは、tE-rUに尋ねかけた。

 

「テルさん、無事だったんですね……。よかった……」

「ああ……。だが、また行かなければいけない。僕の身代わりに石になった、彼を救うためにも……」

 

 tE-rUの見上げた先には、石像と変わり果てたエックス。その姿を視界に入れると、スバルは悲痛な表情になる。

 

「また、戦うんですか……?」

 

 ミウラも悲痛な顔でtE-rUに尋ねた。だがそこにあるのは、主にtE-rUの身の心配。

 今度は、tE-rUが死んでしまうかもしれない。行かせたくない。しかし自分には、彼の戦いに立ち入る権利はない。その葛藤も見受けられた。

 胸が苦しそうなミウラに、tE-rUは努めて微笑みかけた。

 

「大丈夫。必ず戻る」

「……約束ですよ」

 

 念を押すミウラに、tE-rUはコクリとうなずき、スバルとともにXioベースへと向かっていった。

 その背中を、ミウラはじっと立ち尽くして見送った。

 

 

 

 オペレーション本部では、ミゼットが居並ぶ面々に次のことを告げた。

 

「次元航行部隊本局の決定を伝えます。次元艦七隻に搭載したアルカンシェルの同時攻撃により、タイプGを撃滅します」

「全次元艦、ガーゴルゴン包囲完了しました。アルカンシェル発射まで30秒!」

 

 ミッドチルダの衛星軌道上では、七隻の次元艦がガーゴルゴンを等間隔で取り囲み、高威力魔導砲アルカンシェルの砲撃用意を取り進めていた。その威力は、地上兵器のアインヘリヤルの比ではない。

 しかしその時、本部にtE-rUの叫び声が響く。

 

『やめろー! 奴に餌を与えるだけだ!』

 

 tE-rUはグルマンたちの元へ駆け寄り、通信越しに警告を発した。

 

 

 

 tE-rUはグルマンたちを相手に告げる。

 

「奴は相手を石に変えるだけじゃない。そのエネルギーを吸収する力があるんだ!」

「えっ!?」

 

 それを聞き、ディエチがはっと顔を上げた。

 

「そうか! あの時違和感があると思ったら……ガーゴルゴンはマスケッティとアインヘリヤルの砲撃のエネルギーを吸収してたんだ!」

「じゃあまさか、アルカンシェルまで……!?」

 

 だが発射はもう止められない。七隻の次元艦から、アルカンシェルが放たれる!

 

 

 

 宇宙空間では、それぞれ5キロ以上離れた位置からの次元艦から魔力砲が発射された。それを感じ取り、ガーゴルゴンが口を開いて眼球を見せる。

 ガーゴルゴンはそのまま一回転しながら、光線を振りまいてアルカンシェルを相殺する! その上飛び散った魔力が全て、ガーゴルゴンへと吸引されていった。

 

「アルカンシェル、効果なし! ガーゴルゴンに吸収された模様!」

 

 アルトからの報告に、防衛長官は絶句した。

 

「化け物だ……!」

「全艦退避! 戦闘区域から離脱しなさい!」

 

 ガーゴルゴンが反撃の前兆を見せたので、ミゼットが叫んで次元艦を退かせた。

 

 

 

 宇宙船の元にいるスバルたちも、この結果にはショックを隠せなかった。

 

「アルカンシェルまでが通用しないなんて……!」

「アルカンシェルで駄目なら、ミッド式魔法やエネルギー砲撃の一切が効かない、いえ、逆効果ということになるわね……。もう波長と吸収方法を覚えられてしまったはずだわ……」

「でも、ガーゴルゴンを打倒できるような質量兵器なんて用意できませんよ……!」

 

 マリエルとシャーリーの言葉に、ウェンディが頭を抱える。

 

「じゃあどうすればいいっスか!? 残り時間はもう20分を切ってるっスよ!?」

 

 すると、tE-rUが口を開いた。

 

「奴の狙いはルディアンに秘められた、惑星ゴールドのエネルギーだ……。僕が囮になる。その隙に君たちは奴の急所を狙ってくれ。ガーゴルゴンは目玉だけが唯一無防備なんだ!」

 

 ダイチが決死の覚悟で得た情報を語るtE-rU。

 

「あの目玉さえ破壊すれば、エックスもよみがえるはずだ。……彼は僕を信じて共に戦ってくれた。その恩に報いたい」

「でも……囮になるなんて危険すぎますよ! 一歩間違えでもすれば、あなたまでが石に……!」

 

 反対するスバルに、tE-rUは言い返す。

 

「僕一人の犠牲で、この星が救われるなら……僕の命が、ミッドチルダと惑星ゴールドをつなぐ希望になるなら……死など怖くない!」

「――それだと、ミウラとの約束に反しますよ?」

 

 突然、そんな声が響いた。

 tE-rUたちが振り返った方向からは、七人の男女が歩いてきていた。スバルが声を上げる。

 

「はやてさん! リインにアギトも……そしてヴォルケンリッターの皆さん!」

 

 やってきたのははやて、リインフォース、アギト、更にシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの計七名。その内、後者の四人は管理局の制服ではなく、個性豊かな戦闘服を纏っている。

 全員、八神家で暮らす面々だ。彼らにワタルが尋ねる。

 

「どうして八神司令たちがここに……?」

 

 それにはやては、こう答える。

 

「先にミゼット議長からの許可を得てきました。怪獣ガーゴルゴンの撃滅作戦……私たち七人が助力します」

 

 その告白にXio特捜班は驚きを禁じ得ない。

 

「あの英雄、八神司令とあのヴォルケンリッターの皆さんのお力添えをいただけるなんて……!」

「けど、あのアルカンシェルまで食べちゃう化け物に対抗できるっスかね?」

 

 ウェンディの口から出た疑問に、シグナムが不敵に微笑みながら突っ込んだ。

 

「私たち守護騎士を軽んじるなよ、ウェンディ。忘れたのか、私たちの使う術式はミッド式ではない、古代ベルカだ」

 

 それを聞いて、シャーリーがぽんと手を叩く。

 

「そうか! 古代ベルカ式は魔力主体のミッド式と違って、武器や打撃を用いた戦闘術が基本! しかもはやてさんたちだったら、怪獣相手でも互角に戦える! 実績もありますしね!」

 

 古代ベルカ式魔術の攻撃術は、エネルギー攻撃を主としたミッドチルダ式とは異なり、武器や肉体に魔力を宿す、物理攻撃に近いスタイル。これならば、ガーゴルゴンにエネルギーを吸収される恐れはない。

 また、怪獣は基本的に物理衝撃の耐性が、エネルギー攻撃のそれよりも低い。爆撃等はどれだけ食らってもへっちゃらな顔をしているのに、怪獣同士の殴り合いは決着がつくのが早いのはそういう理由のため。だからこそデバイス怪獣の開発が進められているのである訳だ。故に、古代ベルカ式の術者はSランクの一つ下のAAAランクから怪獣相手の戦力に数えられる。

 そしてこの七人の内の主戦力、はやて、シグナム、ヴィータはこの条件を満たしており、実際怪獣戦の経験あり。シャマル、ザフィーラはサポート能力において優れており、連携も抜群。そこに融合型デバイスのリインフォース、アギトまで加われば、ガーゴルゴン相手でも互角に戦える可能性は十分にある!

 

「おぉー! 俄然希望が見えてきたっスよー!」

「ウェンディったら、興奮し過ぎ」

 

 ヒャッホー! とはしゃぐウェンディの姿に、スバルとディエチが苦笑した。

 シグナム、ヴィータがtE-rUに語りかける。

 

「テルよ、私たちヴォルケンリッターは守護を司る騎士。その誇りに懸けて、絶対にお前を犠牲にはしない」

「あたしたちに任せときな。何たって怪物退治は騎士の得意分野だからな!」

 

 tE-rUは若干驚いた表情で尋ね返した。

 

「みんな……どうして僕のために、そこまで……」

 

 彼の疑問に、シャマルが苦笑しながら答えた。

 

「水臭いことは言わないで下さい。私たちは短い期間ながらも、同じ屋根の下で暮らした仲間です」

「我らヴォルケンリッターは、仲間を決して見捨てない」

 

 ザフィーラの言葉の後に、リインフォース、アギトが真剣な顔つきでtE-rUに呼びかけた。

 

「死ぬつもりで戦うのは駄目です。死んだら、あなたのことで悲しい思いをする人が必ずいるです」

「自分を犠牲に勝とうなんて、無責任な奴のすることだよ。目指す場所はいつだって、全員そろっての帰還じゃなきゃいけないんだ!」

 

 二人はデバイスながら、命を尊ぶ心、死を悲しむ感情を知っている。リインフォースは自身の生まれる前に、姉とも言える先代のリインフォースを亡くしたはやての悲しみをよく知っており、アギトはかつての自身の使用者を失っている。そんな悲劇を繰り返させないために、tE-rUを守り抜く決意だ。

 最後に、はやてが言った。

 

「そう、このミッドにテルさんのことで悲しむ人がもういます。私たちと、そして……」

「ミウラ……」

 

 tE-rUのひと言にうなずくはやて。

 

「私たちが全力でお力添えします。だから、ミウラのためにも……死が怖くないなんて言わないであげて下さい」

 

 それにtE-rUは、

 

「……ありがとう。本当に、ありがとう……」

 

 感謝の言葉で応じた。

 

「お礼を言うのは、戦いに勝ってからです」

 

 ニコッと笑うはやてであった。

 ガーゴルゴン討伐に燃えるのははやてたちだけではない。スバルたち特捜班も同じであった。

 

「あたしたちはこれまで何度もエックスに助けてもらった。今度はあたしたちがエックスを助ける番だ!」

「そうっスよ! このまんまじゃ終われないっス!」

「グルマン博士、あたしたちに作戦を授けて下さい。ガーゴルゴンを倒す術を!」

「よぉし、任せておけ! シャーリー、マリー、急ぐぞ。もう時間はあまり残されてない!」

「了解です!」

 

 ディエチの頼みに応じたグルマンが、シャーリーたちとともに作戦を練っていく。

 

「いよっしゃあっ! 人間の底力、怪獣に見せてやろうぜぇっ!」

 

 はりきるワタルの声を合図にするように、ガーゴルゴンに燃える面々は一斉に行動を開始した!

 



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星を越えた誓い(B)

 

 ガーゴルゴンが指定した、44分のタイムリミットがやってきた――。

 

「エリアT9-4、全市民の避難、完了しました」

「作戦開始!」

 

 カミキの号令により、ガーゴルゴン迎撃作戦の幕が切って落とされる!

 

 

 

 エリアT9-4に、tE-rUを乗せたルディアンが巨大化する。

 

「ガーゴルゴン! 僕はここだ! 逃げも隠れもしないぞ!」

 

 ルディアンの出現地点の付近には、はやてとヴォルケンリッター、そしてスバルたち特捜班が配置について待機している。

 

『いいか、トリプルユナイト作戦の最終確認をするぞ』

 

 通信越しに、グルマンがスバルらに呼びかけた。

 

『ガーゴルゴンが現れたら、まずルディアンとヴォルケンリッターが交戦する。そして動きを止めて口を開かせたところで、スバルのウィングロードでぎりぎりまで接近。ワタル、ディエチ、ウェンディの三人が同時にウルトライザーで奴の目玉を狙撃するんだ。いいな、三方向から同時だぞ。三つの力を一つにしないと、奴には効かん。仕損じるんじゃないぞ!』

「言われなくてもわかってますよ!」

「あたしたちに任せて下さいっス!」

「必ず成功させ、エックスを救出します」

 

 念を押すグルマンにワタル、ウェンディ、ディエチが応答した。スバルは石像のエックスを見上げて、表情に力を込める。

 

「待っててね、エックス。絶対に助けるから……!」

『ガーゴルゴン、空間跳躍しました! 来ます!』

 

 アルトからの通信の直後、ガーゴルゴンがT9-4に跳躍してきて、ルディアンの眼前に着地した。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

「出やがったなぁ……!」

「はやてさん! お願いします!」

 

 スバルの通信越しの呼びかけに、力強くうなずくはやて。

 

「任せといて。それじゃみんな、戦闘開始や!」

『了解!!』

 

 既に戦闘態勢のはやてたちヴォルケンリッターがビルの屋上から飛び立ち、ガーゴルゴンへと向かっていく!

 

(♪科学警備隊のテーマ(M-6))

 

「キュウゥ――――――!」

 

 一番に攻撃を行ったのはルディアンだ。両腕のガトリング砲を回転させ、弾丸の連射をガーゴルゴンに浴びせる。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ルディアンの猛攻撃にまるでひるむ様子も見せないガーゴルゴン、両肩の蛇より怪光線を発して反撃する。

 だがその時、ルディアンの正面に丸みを帯びた障壁が発生した。怪光線はシールドの湾曲に沿って軌道を曲げられ、ルディアンから大きく外れた。

 ガーゴルゴンの光線の威力は高く、普通のシールドでは耐え切れない恐れが高い。しかしこうやって受け流せば、耐久力はぐっと増すのだ。

 

「キュウッ!」

 

 これを見たガーゴルゴンは、ルディアンの近くに飛んでいるはやてとシャマルに意識を向けた。彼女ら二人がシールドを張ってルディアンを守ったのだ。

 

「私たちがいる限り、テルさんには指一本手出しさせへんで!」

 

 豪語するはやてとシャマルを先に撃ち落とそうと狙うガーゴルゴン。と、

 

「そしてあたしとシグナムがいる限りは、はやてたちは狙わせねぇっ!」

 

 ヴィータとシグナムの二人が急接近してきて、それぞれハンマー型と剣型のアームドデバイス、グラーフアイゼンとレヴァンティンで肩の蛇を弾いた。

 

「ヴィータ、こいつには生半可な攻撃は無意味だ。最初から全力で行くぞ!」

「オッケー! そういうのは大の得意だ!」

 

 シグナムの呼びかけに応じたヴィータはガーゴルゴンの後方に回り込みながらカートリッジを消費、グラーフアイゼンを超巨大なハンマー、ギガントフォルムへと変貌させる。

 

「轟天爆砕! ギガントシュラークっ!!」

 

 大質量のハンマーの叩きつけがガーゴルゴンの背面に入った! ガーゴルゴンの背筋がエビ反りに曲がる。

 

「行くぞ、アギト!」

「おっしゃあっ!」

 

 シグナムはユニゾンデバイスとしての本来の小さな姿のアギトとユニゾン。シグナムの長い髪が橙の炎の色に染まり、背に四枚の炎の翼を生やしてパワーアップ。

 更にレヴァンティンの刀身を蛇腹剣のような連結刃に変え、果てしなく伸ばす。連なる刃がガーゴルゴンを取り囲み、一斉に斬りかかる!

 

「シュランゲバイセン・アングリフ!!」

 

 アギトとの融合で一層切れ味が増したレヴァンティンは、ガーゴルゴンの全身の体表を切り裂いた。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 一気に畳みかけられるガーゴルゴンだが、流石『魔獣』と謳われるほどの怪獣だけはあり、大威力の連撃もまるで致命傷に至っていない。ヴィータとシグナムに怪光線で反撃しようとする。

 大威力の攻撃は、その分隙がどうしても大きくなる。二人が危ない!

 

「させんっ!」

 

 だがそこを、守護獣本来の蒼い狼の姿のザフィーラがカバーする。地表から長大な光の刃、『鋼の軛』を発してガーゴルゴンの四肢を貫き、動きを封じた。怪光線は照準が合わせられず、空振りする。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 動きを止められたかに見えたガーゴルゴンだが、すぐに軛を力ずくで破壊して自由になった。

 

「むぅっ、流石に一瞬だけ止めるのが精一杯か……」

「一瞬だけで十分だ!」

 

 一瞬だけの隙を突いて、ルディアンが怒濤の砲撃をガーゴルゴンに撃ち込んだ。

 

「キュウゥ――――――!」

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ルディアンとはやてたちヴォルケンリッター、両者の見事な連携により、ガーゴルゴン相手に優位に戦う。

 だがこれに黙っていないのがガーゴルゴン。劣勢に痺れを切らしたか、口を開いて眼球を露出させた。最大の技、石化光線を狙っている!

 

「口が開いた!」

「よし、今だっ!」

 

 しかしそれこそがこちらの狙い。ヴォルケンリッターがその状態での拘束を、特捜班はウィングロードによる接近とウルトライザーの狙撃を用意する。

 が、ガーゴルゴンはただ石化光線を撃とうとしているのではなかった。人間たちが身構えた一瞬の隙を突いて肩の蛇を素早く伸ばし、ルディアンの肩に噛みつかせる。

 

「うわぁっ!?」

 

 そしてルディアンを自身の方へと引き寄せていく!

 

「しまったっ!?」

「あいつ、テルを盾にする気かっ!」

 

 動揺するシグナムたち。ルディアンとtE-rUを盾にされては、眼球を撃ち抜くことが出来ない!

 ――この時に、凛とした声が響いた。

 

「大丈夫やで」

 

 いつの間にか――ガーゴルゴンの半身が凍りついている。蛇も凍り、ルディアンの引き寄せは途中で停止させられた。口も凍りつき、眼球を隠すことも出来ない。

 

「アァオ――――――――ッ!?」

「そう来るのは、読んどったから」

 

 ガーゴルゴンを凍らせたのは、はやてだった。古代ベルカ式の広域凍結魔法、『氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)』。それを用いたのだ。

 はやてはガーゴルゴンが知能の高く、狡猾な怪獣であることを考慮し、追い詰められた際の行動を予測してこの魔法を準備していたのだった。管理局屈指の高ランク魔導師の彼女の実力と、リインフォースとのユニゾンでより高まった魔力は、大怪獣を丸ごと凍りつかせるだけの威力を発揮したのだ。

 

「おぉーっ! すっごいぜ、はやて!」

 

 称賛するヴィータ。はやての方は、スバルたちへと叫ぶ。

 

「今やっ!」

「はい! ウィングロードっ!!」

 

 スバルが三本の空の道を作り出し、ガーゴルゴンの正面へと伸ばした。ガーゴルゴンはなおも力尽きず、氷を破壊しようとしている。ぐずぐずはしていられない。

 

「よぉし行くぜっ! トラァーイっ!!」

 

 全速力でウィングロードの上を駆けていくワタルたち三人。そして有効射程圏内の入り、三人同時に光の砲撃を放つ!

 

「出力最大っ!! トリプルユナイト・シュートォォォっっ!!!」

 

 三つの光の奔流がガーゴルゴンの眼球に突き刺さり、破壊!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ! キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 氷を砕いて激しく苦しむガーゴルゴン。ワタルたちはシグナムらに助けられながら即座に離脱。

 これとともに、エックスの石化の呪いが徐々に解けていく!

 

「やったぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!」

「エックスが……復活したぁっ!!」

 

 大歓声を上げるスバルたち。エックスの石化が解けるとともに、内のダイチの意識も覚醒した。

 

『「みんな……!」』

『流石Xioだ! ウルトラマンの力で、ウルトラマンをよみがえらせるとは!』

『「うん! エックス、ユナイトだ!」』

『とっくにしている! 行くぞ、ダイチ!』

 

 戦いの中で街が夕焼けに染まる中……完全復活したエックスが立ち上がり、全身から強い光の波動を放った!

 

「シュワッ! ヘアァッ!」

 

 エックスは一直線にガーゴルゴンへ飛びかかっていき、フライングクロスチョップを食らわせた!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

「テヤァァァッ!」

 

 エックスは石にされていた鬱憤を晴らすかのような連続打撃を叩き込み、最後にドロップキックでガーゴルゴンを蹴り倒した!

 キックの反動で側転したエックスは、ルディアンの隣に並ぶ。

 

『「tE-rU、待たせた!」』

「ダイチ、行くぞ!」

『「おうっ!」』

 

 起き上がったガーゴルゴンが怪光線を飛ばして攻撃してくる。だがそれは先ほどと同じくはやてとシャマルがガード。そしてエックスとルディアンがXスラッシュ、ガトリングガンで反撃する。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 しかしガーゴルゴンは足元に怪光線を撃ち込んで、巻き上げた土砂で二人の射撃をさえぎった。更にガーゴルゴンの口の中に異変が起こる。

 

「フッ!?」

 

 トリプルユナイトシュートで完全に潰された眼球だが……傷痕が左右に開くと、下から再生した眼球が現れたのだ!

 

「向こうまで復活しました!」

「とことんしぶとい奴やな……。エックス、気ぃつけて!」

 

 冷や汗を垂らすシャマルとはやて。復活した石化光線の脅威に、エックスはどう出るのか?

 

『「とっておきのジャケットを使ってやる!」』

 

 ダイチが出したのは、デバイスベムスターのカード!

 

[デバイスベムスター、スタンバイ]

 

 エックスの身体が赤と紫を基調としたモンスジャケットに覆われ、左手には柄に盾の備わった長大な槍が握り締められた。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

[ベムラーダ、セットアップ]

 

 エックスが一度地面に突き立てた槍を持ち上げ、構える。

 

『ベムスターのジャケット? はっ、そうか!』

『「来るぞっ!」』

 

 再生した眼球にエネルギーを充填したガーゴルゴンが、石化光線を発射してきた!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

『「スピーアスパウト!」』

 

 槍の盾を正面に構えたエックス。そこに命中した石化光線は、全て盾の中心に吸い込まれていった!

 

「シェアァッ! イィ、シャアァ―――――ッ!!」

 

 そしてエックスが槍の穂先をガーゴルゴンへ向けると、光線は黄色く輝きながらガーゴルゴンへ撃ち返された!

 

「キュウオォォ――――――!?」

 

 石化光線をはね返されたガーゴルゴンは、たちまちの内に自分が石像へと変わり果ててしまった。

 ガーゴルゴン最大の弱点、それは自身の最大の武器の石化光線だった。

 

『「とどめをっ!」』

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 tE-rUの叫びとともに、ルディアンのガトリング砲が最後のうなりを発する!

 同時に、はやて、シグナム、ヴィータも最大火力の一撃を叩き込んだ。

 

「響け終焉の笛! ラグナロクっ!!」

「剣閃烈火! 火龍一閃っ!!」

「ツェアシュテールングスハンマーっ!!」

 

 大砲撃魔法、業火の斬撃、巨大ドリルハンマーも押し寄せ、ガーゴルゴンは一瞬にして跡形もなく砕け散った!

 

「キュウゥ――――――!」

 

 真っ赤な夕陽の明かりが照らし出す中、エックスとルディアン、そしてはやてたちが目を合わせ合い、力強くうなずき合った。

 

 

 

 エックスたちの完全勝利により、司令室はすっかりと緊張が解け、皆安堵の息を吐いていた。

 

「ショータロー坊や」

 

 その中で、ミゼットがカミキに呼びかけた。

 

「Xioはいいチームに育ったわね。ねぇ、防衛長官」

「ええ。カミキ君を隊長に推薦した甲斐がありました」

 

 柔らかい微笑を見せた防衛長官が、カミキの前に立つ。

 

「これからもよろしく頼むぞ」

「……はい!」

 

 二人は、固い握手を結び合った。

 

 

 

 陽が沈み、夜のとばりが降りた頃に、ダイチもtE-rUと固く握手していた。

 うなずき合うと、手を放したtE-rUは待っていたはやてたちのところへと向かう。

 

「テルさん、行ってまうんですね」

「うん。ガーゴルゴンを倒したことで、ゴールド星もよみがえったはずだ。僕は故郷の復興のために帰らなくてはいけない」

 

 そう告げるtE-rUに、シグナムたちが語りかけた。

 

「そうか、寂しくなるな」

「短い間だったけどさ、お前と一緒に暮らせて楽しかったぜ!」

「またいつでも、ミッドに遊びに来て下さいね」

「その時は我ら一同、いつでも歓迎しよう」

「私たち、テルさんのこと絶対忘れないですよ!」

「テルもあたしたちのこと、忘れないでくれよ!」

「ああ。みんな……本当にありがとう」

 

 tE-rUが礼を告げると、ミウラが彼の前に出てきた。

 

「テルさん……あなたが撃たれた時、守れなくてごめんなさい……」

 

 落ち込んでいるミウラに、tE-rUは優しく返した。

 

「君が謝ることはない。ミッドチルダ人はとても優しいと、君たちに教えてもらった。だけどきっと、ほとんどの人たちは、恐怖心の方が強いんだろうね。だから傷つけ合おうとする。……大切なのは、恐れないこと」

 

 tE-rUはそれまでずっと首に提げていたゴールド星のペンダントを、ミウラの首に掛けた。

 

「君たちの勇気が、星と星をつなぐ希望なのかもしれない」

 

 ペンダントを残して離れていくtE-rUに、ミウラが最後に呼びかける。

 

「テルさん! また……また、会えますよね!」

 

 振り返ったtE-rUは、にっこりと笑って答えた。

 

「ああ! いつか、必ず!」

 

 約束を交わしたtE-rUの姿が、光とともに消えた。その後に、彼の宇宙船が星空へと向けて飛び上がっていく。

 

「テルさーん! さようならー!」

「またなー! また来るんだぜー!」

「約束ですからねー! テルさーん!!」

 

 宇宙船に向けて精一杯手を振るミウラたち。その光景と、飛び去っていく宇宙船を見つめたダイチは心の中で独白した。

 

(tE-rU、俺はこの星空に誓う。いつかミッドと惑星ゴールドが、心からつながれる日が来るだろう! いつの日か、きっと……!)

 

 流星の瞬きのように去っていった宇宙船を見上げて、ミウラはペンダントをそっと撫でた。

 

 

 

『シェアァッ! イィ、シャアァ―――――ッ!!』

 

 ――どことも知れぬ、薄暗い空間の中。ベムラーダを纏い、ガーゴルゴンの石化光線を撃ち返したエックスの姿を映した映像を、三人の異形の怪人たちが視ていた。

 

『これがこの星のウルトラマン、エックスですか……』

 

 怪人の一人が、丁寧語の口調で言葉を発した。

 

『忌まわしいあの「奴」に比べれば大したことありませんが、それでも膨大な力を秘めたウルトラ戦士であることには違いない。利用価値は十分にあることでしょう』

『このエックスとかいう奴の一番の特徴は、やっぱこれだねぇ~』

 

 丁寧口調の怪人の横に立つ丸っこい怪人は、軽い口調でしゃべる。

 

『何だっけ、この着てるの……モンスジャケットだっけぇ? ただでさえウルトラマンなのに鎧を着るなんて、装飾過多なんじゃないのぉ?』

『状況に合わせて武装を変える。戦術的ではありますね』

 

 二人の怪人の背後の、最後の怪人が低いうなり声を上げた。だがこの三人目は異様に巨体であり、同じ空間に首しか入っていない。

 

『ですがこのモンスジャケットというものは、このウルトラマンの本来の持ち物ではないとか』

『らしいねぇ~。何でもこの星の人間が作ったんだって? 怪獣の力を使った鎧なんて、人間のくせになかなか生意気なことするよねぇ~』

『フッフッフッ……それは使えそうですね。これを利用しない手はありませんよ……』

 

 最初の怪人が、口調は丁寧ながらも邪な感情を語気に乗せる。

 

『そう、私たちの狙いの「奴」は恐ろしく手強い。絶対に倒すには、万全に万全を期す必要があります。そのための手段と労は惜しまない……。いいですね?』

『オッケオッケ~! 「奴」をやっちゃうためなら何だってやっちゃうよ~ん! その時が来るのが今から楽しみだよぉ! アーハハハハハハハッ!』

『ククククク……ハハハハハハハハハッ!』

 

 三人の怪人は、「奴」という誰かを打倒する未来を思い描き、感じた愉悦を哄笑に目一杯に含ませて暗い空間内に響き渡らせた……。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はガーゴルゴンだ!」

ダイチ「ガーゴルゴンは『ウルトラマンX』第六話と第七話「星を越えた誓い」の前後編の敵を務めた大怪獣! 石化光線でエックスを石にしてしまった恐ろしい奴だ!」

エックス『ウルトラマンが石に変えられる展開は、『ウルトラマンA』の頃からの伝統だ』

ダイチ「三つの首に、稲妻状の光線を吐く、ふたまたの尻尾と、東宝怪獣のキングギドラを彷彿とさせる要素も持ってるんだ」

エックス『東宝と円谷の関係はかなり深いぞ。何せ円谷プロの祖は、東宝に勤めていた円谷英二なのだからな』

ダイチ「本放送では七話の後は最初の総集編だったから、エックスの序盤のボスキャラともいえるね」

エックス『総集編は十四話と十五話の間、最終回後の三回があったな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 エックスの新しい力とするために開発された、デバイスゼットンカード! だが、そこに秘められた、悪魔の罠がエックスの動きを封じてしまう! 窮地に陥った俺たちの前に現れたのは……赤いウルトラマン!? 次回、『狙われたX』。


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狙われたX(A)

 

「父さん、母さん……」

『ウルトラ・フレア……その時行方不明になったんだったな?』

『いつも持ち歩いているのか?』

「父さんが遺してくれたものだから」

「今日こそ頼むぞ、ゴモラ」

「シェエアッ!」

「ウルトラマンエックスのザナディウム光線には未知の粒子が含まれていて」

「あの光線でスパークドールズにしたのか……!」

「スパークドールズを測定器にかければ、その粒子を検出できるはず」

「いつか元に戻す技術を、共存できる方法も発見する」

「俺はそう信じてる」

 

 

 

「――ウゥッ!」

 

 エレキングミラージュを纏ったエックスが、吹っ飛ばされて地面の上に倒れ込んだ。

 

「ピポポポポポ……」

 

 エックスを吹っ飛ばしたのは――宇宙恐竜ゼットン。ゼットンは顔面の中央の発光体から火球を飛ばして、辺りを破壊する。

 

「うわあぁぁぁぁっ!」

 

 火球の衝撃は凄まじく、避難している人々が震動に足を取られて転倒した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 そこに駆けつけて助けるスバル。だがゼットンのもたらす被害は大きく、救助のプロの彼女も手が追いついていない、恐るべき事態になっている。

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……!」

 

 ゼットン。広い宇宙の中でも特に優れた戦闘能力を有する、大怪獣の中の大怪獣だ。宇宙の中で普通に繁殖している通常種の怪獣においては最強との呼び声も名高い。エックスもまたこのゼットンを相手にして苦戦している。既にベムラーダも、エレキングミラージュも破られた。

 

『「ゴモラキャリバーなら……!」』

 

 ダイチはエックスのジャケットを、ゴモラキャリバーへと切り替える。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

『「超振動拳!」』

 

 エックスはまっすぐゼットンへと踏み込み、超振動拳を繰り出す。が、ゼットンはその瞬間に己の全身をバリアで覆い、超振動拳を受け止めた。

 強力な振動波が出力全開で流し込まれるが、バリアもびくともしない。反対に、振動波が逆流してエックスの方が弾かれた。

 

「グウゥッ!」

 

 破壊力に特化したゴモラキャリバーの力までもが通じず、エックスは完全に追い詰められてしまった。

 

 

 

『狙われたX』

 

 

 

「……シェエエアッ!」

 

 それでもエックスは諦めずに、果敢にゼットンに立ち向かっていく。キャリバーのクローでゼットンに切りかかるが、ゼットンは易々と防御してエックスを叩きのめす。

 

「ウッ!」

「ピポポポポポ……」

 

 ゼットンは片膝を突いたエックスを蹴りつけ、エックスは地面を滑っていく。

 

「グワアアアアッ!」

「ゼットォーン……!」

 

 更にゼットンの連続パンチが叩き込まれる。ガードするエックスだが、ガードの上から殴り飛ばされた。

 

「ピポポポポポ……」

 

 よろめいたところにゼットンの火球弾が直撃!

 

「グワアァァァァーッ!」

 

 爆発を食らい、エックスはまたも地面に這いつくばった。

 

『スバル! ハヤト、ワタル! ウルトラマンエックスを援護しろ!』

 

 一方的にやられるエックスを助けるべく、カミキが指示を飛ばす。

 

「トラーイっ!」

 

 スカイマスケッティからの砲撃がゼットンの背面に撃ち込まれて、隙を作ったところにウルトライザー・カートリッジをリボルバーナックルに込めたスバルが地上から攻撃する!

 

「ウルトライト・バスターっ!!」

 

 ウルトラマンの力を宿したバスターが射出されたが、ゼットンはすかさず腕を持ち上げてバスターを受け止めた。

 

「くっ……もう一発!」

[Charging Ultraman’s power.]

 

 スバルは二つ目のカートリッジをリロードして、再度バスターを発射。

 

「ウルトライト・バスター!!」

 

 しかし今度は、ゼットンは防御もしなかった。その上でダメージなし!

 

「ピポポポポポ……」

 

 エックス、Xio双方の攻撃をことごとく寄せつけないゼットン。ゆっくりとエックスに迫っていく。エックス、絶体絶命!

 

「クゥッ……!」

 

 さしものエックスも万策尽き、自らの終わりを覚悟するほどの状況になる。

 

「ピポポポポポ……」

 

 しかし……ここにまで至って、ゼットンの様子がおかしくなった。最早いつでもとどめを刺せるにも関わらず、直立したまま。

 しかも急に背を向けたかと思うと、一瞬にしてその姿をかき消した。

 

「!?」

 

 エックスも驚愕して腰を浮かした。それまで大暴れしていたのに、ゼットンは急に静かになってどこへ消えたのだろうか?

 だが、いつまで経ってもゼットンが再出現することはなかった。

 

 

 

 その日の晩、ダイチはラボのデスクに向かって、一心不乱にゼットンの能力分析、及び対抗策の開発に取りかかっていた。そこへ呼びかけるエックス。

 

『ダイチ、少し休んだ方がいいな。帰ってからずっと、働き詰めじゃないか』

 

 それにダイチは言い返す。

 

「何の成果も出さないで、手を止められないよ。いつまたゼットンが出現するかわからないんだから!」

 

 必死なダイチの元に、スバルとノーヴェが紙袋片手にやってきた。

 

「ダイくん、これ差し入れ」

「ありがとう」

「ダイチお前、何も食べてないって聞いたぜ。頑張るのはいいけど、身体は大丈夫なのか?」

 

 尋ねるノーヴェたちに、ダイチはこう返した。

 

「あの力に対抗できるジャケットを早く開発して、ウルトラマンエックスをサポートしないと! 二人だって、ゼットンから街の人たちを守りたいだろう?」

「そうだけど……」

 

 気を張り詰めているダイチを案ずるスバルの一方で、ノーヴェがダイチに告げる。

 

「そのことだけど、朗報だぜ。隊長たちが言ってたんだが、ゼットン対策に一案があるっていうスパークドールズの研究家が名乗り出たんだって。明日、ここを訪れて力を貸してくれるそうだぜ!」

「えっ? 一案……?」

 

 それを聞いて、ダイチは驚いた顔で振り返った。

 

 

 

 翌日、その研究家という人物がXioベースにやってきた。クロノがダイチらラボチームと居合わせるスバル、ノーヴェに紹介する。

 

「みんな、この方はトウマ博士。スパークドールズの研究者だ。昨日現れたゼットン対策に、私たちに力を貸してくれることとなった」

 

 クロノの紹介を受け、スーツの男が口を開く。

 

「どーもぉ、Xioの皆さん! 私がトウマ博士です。まぁそう固くならないで。君たちとは歳も離れてないし、気さくに接してくれていいからね♪」

 

 格好とは裏腹の明るい口調と雰囲気に、一同は一瞬面食らった。

 

「何か、博士という割には軽い人だな……」

 

 ノーヴェがそっとスバルに囁きかける。

 

「まぁ、天才の人って変わり種が多いって聞くし……」

「うーん……まぁ役に立ってくれたらそれでいいか」

 

 スバルたちが話す一方で、トウマに同行していた二人の少年少女がダイチの前に立つ。

 エリオとキャロだ。

 

「ご無沙汰してます、ダイチさん」

「エリオくん、キャロちゃん! 君たちも来てたのか」

「はい。今回はトウマ博士の警護と、このスパークドールズの護送役で」

 

 エリオとキャロは自然保護隊と同時に、各次元世界で発見されるスパークドールズの輸送等の役目も担っているのだ。

 

「スパークドールズ? 何のでしょうか」

「すぐお見せするよぉ~。驚かないでね?」

 

 エリオがテーブルの上に置いたケースを、トウマが開く。そこに収められていたのは……。

 何と、ゼットンのスパークドールズ!

 

「!? どうしてこのスパークドールズを!?」

「どこでこれを?」

 

 驚愕するダイチとマリエル。その理由を、トウマは語る。

 

「いつかゼットンが出現すると考えて、前々から管理局に協力を申し出てたのさ。今こそ私の持ってたスパークドールズが役立つ時! と考えて持ってきたの。これを使って、新しいジャケットを共同開発しよう! ダイチ・オオゾラ君!」

 

 呼びかけたダイチに対して、トウマはこんなことを告げた。

 

「このスパークドールズは、タカシ・オオゾラ博士と一緒に解析してたものなんだよ」

 

 タカシ・オオゾラ。ダイチの父親の名前である。

 

「えっ!? 父と!?」

「私は今でも博士を尊敬し、目標として今日まで研究を続けてきたんだよ」

「父の話を聞かせてもらえますか!?」

 

 行方不明の父親のことを聞いて、ダイチは興奮を覚える。

 

「もっちろん! でも、今はジャケット開発が先だねぇ。開発には、君たちの知識が必要不可欠だ! どーぞ、よろしくお願いしますっ!」

「はいっ!」

 

 ラボチームはトウマを迎え、早速ゼットンのモンスジャケット開発に取りかかった。

 

「まずは、ジャケットの素体となるデバイスの選考からですが……」

「ゼットンは元から多彩な超能力を持つ怪獣。その力を最大限引き出すには、デバイス側は出来るだけ単純なものがいいだろうねっ」

「それじゃあ、ブーストデバイスが最適でしょうね。あたしたちの周りでブーストといえば……」

「キャロちゃん、君のケリュケイオンのデータを使用させてもらっていいかな?」

「はい、もちろんです!」

 

 キャロに協力を頼むダイチ。どことなく嬉しそうに作業する彼の様子をながめて、スバルとノーヴェはそっと微笑んだ。

 

 

 

「……っていうことだったの」

 

 その後二人は、トウマのことをウェンディ、ディエチ、チンクに話した。ウェンディが吐息を漏らす。

 

「へぇ~、まさかダイチのお父さんと働いてた人だったなんてねぇ。世間って狭いっスね」

「でも、スパークドールズの研究者ならつながりがあっても何も不思議じゃないよ。ダイチのお父さん、その道の第一人者だったそうだから」

「ダイくん、お父さんを知ってる人と出会えて嬉しそうだったなぁ。あんなに張り切っちゃって!」

 

 スバルはニコニコ笑っているが、チンクは対照的に眉間に皺を寄せていた。

 

「チンク姉? そんな難しい顔してどうしたんだ?」

 

 不審に思ったノーヴェが尋ねると、チンクはこう述べる。

 

「……皆も私たちの父上から、ダイチの父君の話は聞いたことはあるよな?」

「そうっスよ。パパりん、ダイチのお父さんとお友達だったそうっスからね。でも、それが何か?」

「その中に、トウマ博士のような人物が彼と共同研究をしていたなんて気配はどこにも見受けられない。トウマ博士は、本当にダイチの父君と働いてたのか?」

 

 疑問を呈したチンクを、スバルらは不思議そうな顔で見返した。

 

「そういえば……それらしい話、一個もないね」

「でもそれって、ダイチの親父さんがトウマ博士のことを話さなかっただけじゃないか? 友達だからって、何でもかんでも話す訳じゃないだろ」

 

 ノーヴェはそう言うものの、チンクは怪訝な顔のままだ。

 

「そうだろうか……。あんな特徴的な人物を少しも話題にしないものだろうか? そもそも、彼がゼットンのスパークドールズを所有してたということ、少し話が出来過ぎてるような気もする」

「考えすぎっスよ、チンク姉。トウマ博士からしたら、ダイチに嘘吐く理由なんてないじゃないっスか」

「うん。仮に敵だったしても、あたしたちに塩を送るような真似をするとも思えないし」

 

 チンクの疑いをウェンディとディエチが笑って流した。

 しかし、チンクの心はすっきりとしなかった。

 

 

 

 ラボの方では、ゼットンのモンスジャケット開発が着々と進行していた。

 

「ダイチ君、ジャケットのパワーを最大限引き出すためには、術式のこの部分はどうしたらいいと思うかな?」

 

 トウマからの質問に、ダイチは術式の構築で答える。

 

「これで、どうですか?」

「なぉるほど! 流石はオオゾラ博士の息子さんだね、グッジョブ!」

 

 称賛されてはにかむダイチだが、マリエルが術式に対して異を挟んだ。

 

「でも、これじゃパワーが上がりすぎてしまうんじゃないかしら? ジャケット自体と、これを装着するエックスへの負荷も許容範囲を超えてしまうんじゃ……。そうでなくても、ゼットンのパワーは未知数なんだから、もう少し抑えた方がいいと思うわ」

「確かにそうかもしれませんね……」

 

 シャーリーは同意したものの、ダイチは席を立って反論した。

 

「でも、他のジャケットよりパワーを上げないと作る意味がないんですよ!」

「だけど、安全も考慮しないと……!」

 

 言い争いになりかけたところに、トウマが割って入る。

 

「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて~! 喧嘩になるのはダメだよ~。どんな時も、職場には笑顔が溢れてなくっちゃ♪」

 

 トウマが取り成したことで、ダイチたちはクールダウンする。

 それからトウマはダイチに語りかけた。

 

「確かに君のお父さんも、スパークドールズの解析にはとても慎重だったよ。悪用されないかと常に心配してた。だけど……誰かの役に立つと信じて、慎重でありながらも、時には大胆なところがあった」

「誰かの、役に……?」

「大丈夫! 君ならきっと完璧な術式を構築できるさ! 父親の解析したデータを、息子が受け継ぐ。これほど素敵なことはないよ!」

 

 トウマの言葉で、ダイチは一層のやる気を出す。

 

「はい! ウルトラマンエックスを助けるために、最高のジャケットを一緒に作りましょう!」

 

 

 

 作業の合間の休憩中に、エリオとキャロがダイチの元に来て話しかけた。

 

「ダイチさん、作業は大丈夫でしょうか? さっき、大声がそちらから聞こえましたが……」

 

 若干心配そうな二人に、ダイチは安心させるように笑いかける。

 

「大丈夫だよ。開発は順調だし、トウマ博士が場を和ませてくれてる。こんなに気分が和らぎながら作業するのも初めてかもしれない」

「トウマ博士、とてもいい人なんですね。わたしたちはちょっと会話したくらいだから、よく知らないんですが」

 

 キャロの問い返しに大きくうなずくダイチ。

 

「ああ。心は広いし、俺たちのやる気を引き出すのがお上手だ。特に父さんのことを教えてくれて、俺を励ましてくれる」

「博士、ダイチさんのお父さんについてどんなことを話したんでしょうか?」

「父さんは、誰かの役に立つことを信じてスパークドールズを研究してたって……。それを聞いて、父さんはやっぱり偉い人だったんだって思ったよ。俺も、父さんに負けないように頑張って完璧なジャケットを完成させないと!」

 

 父親を思い、瞳をキラキラと輝かせるダイチに、エリオとキャロは表情をほころばせた。

 

「ダイチさん、頑張って下さい!」

「あたしたちも応援してます!」

「ありがとう、二人とも!」

 

 エリオたちの応援に、ダイチは力強くうなずいて応じた。

 

 

 

 その後もダイチたちは、苦心を重ねながらも協力して全力で開発を進めた。その甲斐あり、ゼットンのジャケットはみるみる内に完成に近づいていった。

 

「デバイスゼットンカード、魔力粒子定着率、70%……80%……90%!」

 

 そしてスバルたちやエリオたちが固唾を呑んで見守る中、ゼットンのカードがだんだんと形成されていった。やがて、

 

「100%! 完成しました!」

「やったぁぁぁーっ!!」

 

 カードが完全に実体化して、スバルたちが大歓声を上げた。トウマはダイチに片手を差し出す。

 

「遂に完成したね!」

「ありがとうございます!」

 

 ダイチはその手を取り、固い握手を交わした。

 

 

 

 Xioベースにけたたましい警報が鳴り渡った。

 

『エリアT-8にゼットン出現!』

 

 立体映像内に、街の中心で破壊活動を行うゼットンの姿が映し出された。それを受けて、ラボも色めき立つ。

 

「遂に現れましたね……!」

「ジャケットが間に合ってよかったわ!」

 

 どうにか完成が先になったことにシャーリーとマリエルは安堵する。しかし、ここから先が本番なのだ。

 

「ワタルさんとハヤトさんは先にマスケッティで向かったって!」

「よぉし、あたしたちも現場に急行だ!」

 

 スバルら特捜班が真っ先に飛び出していき、その後にトウマに促されたラボチームが続く。

 

「私たちも行こう!」

「はいっ!」

「博士が行くなら、僕たちも!」

 

 エリオも同行するが、キャロはジャケット開発のために使用したゼットンのスパークドールズの方を向いて、足を止めた。

 

「あれ? こっちのゼットンは?」

 

 データ採取のために円筒状のケースに入れられていたのだが、いつの間にかその中からゼットンがなくなっていた。首を傾げるキャロだが、

 

「キャロ! 置いてかれるよ!」

「あっ、今行く!」

 

 エリオに急かされ、慌ててその背を追いかけていった。

 

 

 

 エリアT-8では、先行したスカイマスケッティがゼットンと交戦している。しかしやはりゼットンは手強く、マスケッティではダメージを与えられている気配がない。

 ダイチは現場に到着すると、皆の間から密かに抜け、エックスとユナイトしようとする。

 

「行くぞエックス!」

『ユナイトだ!』

「今度こそ……!」

 

 デバイザーのスイッチを押し、エックスのスパークドールズをリード。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 全身が光に包まれ、ウルトラマンエックスの肉体へと変身!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 巨大化したエックスはゼットンの前に着地。おもむろに振り返るゼットン。

 

「ヘアァッ!」

「ピポポポポポ……」

 

 すぐにゼットンへとぶつかっていくエックス。だがゼットンは相変わらずの強さであり、格闘でエックスを圧倒。

 

「ヘアァッ! テヤァッ!」

 

 それでもエックスは食い下がり、マスケッティの援護も加わってどうにかゼットンと渡り合う。

 

「早く避難して下さい! こっちです!」

「私たちは準備を!」

 

 地上ではスバルたちが市民の避難を誘導し、トウマとラボチームはエックスに完成したばかりのゼットンのカードを送る用意を執り行った。

 

「これでカードの転送できます!」

 

 マリエルの言葉にうなずいたトウマが、エックスの名を呼んだ。

 

「ウルトラマンエックス! 新しいジャケットを使ってちょー!」

 

 トウマの元から転送されたデバイスゼットンのカードが、エクスデバイザーの元に届いた。

 

『「エックス! 俺たちの新しい力だ!」』

 

 早速ダイチはカードをデバイザーにセットした。

 

[デバイスゼットン、スタンバイ]

 

 エックスの身体が、黒と黄、ピンク色のジャケットに包まれる。両手には黒と青の、ゼットンの手を模したブーストデバイスが装着される。

 

『ピポポポポポ……』

[ゼットンケイオン、セットアップ]

 

 新たなモンスジャケット、ゼットンケイオンを纏ったエックスの勇姿を、エリオとキャロが見上げた。

 

「あれがダイチさんたちの作った、キャロのケリュケイオンとゼットンを組み合わせたジャケット!」

「エックスさーん! 頑張ってー!」

 

 キャロが応援の言葉を叫んだ、その時のことであった。

 ゼットンケイオンの胸部の黄色い発光体が、突然紫に変色したかと思うと、エックスの様子が俄然おかしくなる。

 

「グッ……!?」

『「どうしたエックス!?」』

 

 エックスの身体が、見えないバインドに縛りつけられたかのように立ったまま抑えつけられ、その場から一歩も動けなくなってしまったのだ!

 

『おかしい……身体の自由が……このジャケットに奪われた!』

『「何だって!?」』

 

 エックスは苦しみながらその場に膝を突く。

 その間にもゼットンは、火球を辺りに振りまいて街を破壊していく。

 ダイチはやむなくゼットンケイオンを解除しようとするが……。

 

『「駄目だ……ジャケットが外せない!」』

 

 ゼットンケイオンは、デバイザーからの一切のコントロールを受けつけないのだ!

 エックスの肉体の自由が効かなくなったことに、地上のスバルたちは愕然としていた。

 

「ど、どうなってるの!? あれを纏ってから……エックスが一歩も動けなくなった!」

「一体どういうことなんですか、これは!?」

 

 泡を食って問うノーヴェに、シャーリーとマリエルが異常の正体を大慌てで調べながら答える。

 

「どこかに問題があるのは間違いないんだけど……!」

「やっぱり出力を上げ過ぎたんじゃ……! パワーが抑え切れなくて術式にバグが生じたのかも……!」

「私が確認してみよう!」

 

 トウマがそう言って、ゼットンケイオンの術式に触れようとした。

 その時、

 

「その男を信用するなっ!」

「!?」

 

 どこからか飛んできた光弾がトウマへと迫る!

 咄嗟に間に入ったエリオが障壁で光弾を防いだ。スバルたちは一斉に飛んできた方向へとデバイスを向ける。

 

「えっ……!?」

 

 だがその瞬間に唖然となり、光弾の射手とトウマの顔を見比べた。

 光弾を撃ったのは、赤い光線銃を構え、赤を基調としたどこかの組織のものらしい隊員服を身に纏った……トウマと全く同じ顔の人間だったのだ!

 



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狙われたX(B)

 

 スバルたちは、銃を構えている男がトウマと全く同じ顔であることに激しく混乱していた。

 

「ど、どうなってるの? 博士が、二人!?」

「双子か何かっスか!?」

「まさか! 変身してるのか? でも、何のために?」

 

 ノーヴェらは動揺を隠せない。一方、銃を下げた男はトウマに向かって言い放った。

 

「下手な芝居はそこまでだ! シャマー星人ヴェイラ!」

「シャマー星人!?」

 

 一斉にトウマの方を振り返るスバルたち。そのトウマは、銃の男ただ一人を見つめて歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「よぉ~やく姿を現したねぇ~、トウマ・カイト……いや、ウルトラマンマックス!』

 

 トウマの姿が陽炎のように揺らいだかと思うと……一瞬にして青い肌の、おとぎ話に出てくるランプの魔神さながらの容貌に変化した!

 

『ア―――――ハハハハハハハァ―――ッ!』

「!!? 異星人だったのかっ!」

「変身してたのはこっちだったの!?」

 

 これを見たエリオ、キャロらは一気に正体を現した異星人――シャマー星人ヴェイラから離れた。

 

『ククク……我々はあなたが現れるのを待ってたんですよ』

 

 更には新たな声がどこからか発せられ、何か人型のものが恐ろしい速度でこの場に出現した。光沢のある紫色の、どことなく機械的な趣の虫型怪人だ。

 

「もう一人、異星人が!」

「スラン星人クワイラ!」

 

 トウマ・カイトと称された男が、二人目の異星人をそう呼んだ。

 

『この状況を止めることが出来るのはあなただけですよ、ウルトラマンマックス』

「! あの人が、ウルトラマンって……!」

「マックス……!?」

 

 スバルたちはこの急転直下の状況についていけていない。それには構わず、スラン星人クワイラはゼットンへ向けて命じた。

 

『さぁゼットン! もっともっと暴れなさいッ! ヒャーハハハァーッ!』

 

 クワイラの命令により、ゼットンは火球を発してますます街を破壊する。

 そして爆破した建物の瓦礫が、避難中の母娘へと落下していく!

 

「あっ!!」

 

 咄嗟に走るスバル、エリオ。

 だがトウマ・カイトが彼らをも上回る速度で飛び出した! 更に金色の模様の棒状のものを己の左前腕に装着する。

 トウマ・カイトの全身が左腕を中心にまばゆい光に包まれ――光の巨人へと変身した!

 巨人は母娘をそっと掴むと、すんでのところで瓦礫から逃がした。解放された母娘が見上げたその姿は――。

 

「うわぁぁぁ……!」

 

 真紅のボディに羽ばたく鳥の翼のような形状のプロテクター、その中央に青く輝くパワータイマーを備えた――まさしくウルトラマン!

 

「シェアッ!」

 

 新たなウルトラマンは暴れるゼットンに飛び蹴りを仕掛け、格闘戦に持ち込んで街の破壊を阻止した。

 

 

 

 オペレーション本部では、グルマンが新たなウルトラマンの名を叫んでいた。

「あれは! ウルトラマンマックス!」

 

 

 

 ゼットンを蹴り飛ばしたマックスは、身動きの取れないエックスの元へ走り寄ってゼットンケイオンを剥がそうと試みる。

 

『「赤いウルトラマン……!?」』

 

 ダイチも、マックスの登場に驚きを禁じ得なかった。

 

「ゼットーン……!」

 

 だが一方で、ゼットンはスカイマスケッティに向けて火球を発射。これがかすったマスケッティは、高度を維持できなくなって墜落していく。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁっ!」

「ジュッ!?」

 

 ゼットンが落ちていくマスケッティを破壊しようと狙っているので、マックスはやむなくエックスから離れてゼットンに背後から飛びかかり、攻撃を防いだ。

 そして放置されたエックスの方は……やおら様子がおかしくなる……。

 

「ピポポポポポ……」

「ジュワァッ!」

 

 ゼットンのパンチを食らって殴り飛ばされたマックスの背後にエックスが立ち、その身体を受け止めた。

 

「フッ!」

 

 マックスはうなずいて再度ゼットンに向かっていこうとしたが……エックスが羽交い絞めにしたまま離そうとしない!

 

「フッ!?」

『「何をしてるエックス!?」』

 

 まさかの行動に驚愕するダイチに、エックスが告げた。

 

『駄目だ……! ジャケットに操られている……!』

 

 拘束されてしまったマックスに、ゼットンがチョップの連打をお見舞いして大きく吹っ飛ばした。

 

「ジュワァッ!」

 

 完全に身体の自由を奪われたエックスは、マックスに貫手を振り下ろす。前転して回避したマックスだが、その先に待ち受けていたゼットンが襲いかかる。

 マックスはゼットンを食い止めるも、後ろから迫ったエックスと挟み撃ちにされ、叩きのめされる。流石にウルトラマンといえども、同じウルトラマンとゼットンを同時に相手にするのはきつすぎる!

 マックスの苦戦を見上げて、ヴェイラとクワイラは狂喜していた。

 

『アーハハハハハァッ! いいぞーッ! マックスを袋叩きだぁーッ!』

『この時! この瞬間を待ちわびましたよ!』

 

 この二人を取り囲む特捜班。スバルが問いかける。

 

「あなたたちの狙いはミッド征服なの!?」

 

 振り返ったクワイラたちはこう答えた。

 

『こんな星には興味がありませんねぇ。狙いは飽くまでウルトラマンマックスのみ! 我々はかつてマックスにやられた同胞の仇を狙う者同士で結束したのです』

『そのためにエックスを利用させてもらったって訳ぇ~! ウルトラマンエックスのパワー、プラスゼットンのパワー! イコール最強の戦士が誕生するって計算式さぁー!』

「そういうことだったのか……!」

 

 舌打ちするチンク。事前にこのことを見抜いているべきだったと自省する。

 シャーリーは異星人たちに向けて叫ぶ。

 

「だからあたしたちを使ってジャケットを作らせたの!?」

 

 ヴェイラはそれに、このように返した。

 

『時空管理局のことも、Xioのことも色々と調べさせてもらったよぉ~。それでダイチ・オオゾラの父親のことを知った時に、これは使える! とビビッと来たのさぁ! 案の定、ちょーっと名前を出して持ち上げたらコロリと信用した! あんなに扱いやすい馬鹿は初めてだったよぉ~! 笑いをこらえるのが大変だったねーッ! ア―――ハハハハハハハハァ――――――ッ!!』

「……絶対に許さないっ!」

 

 スバルを始めとした一同は深い怒りに包まれる。

 

「こんの野郎どもっ! 覚悟しやがれぇっ!」

 

 ノーヴェが衝撃波を飛ばしたのを皮切りに、特捜班は一斉攻撃を放った。

 が、クワイラは高速移動で全てかわし切り、ヴェイラに至っては全ての攻撃が肉体をすり抜けた!

 

「なっ……!?」

『フッフッフッ……ゴドレイ星人ファンラ!』

 

 クワイラが叫ぶと、ビルの間から頭部が三角錐状で、顔面の部分に発光体が縦に三つ並んだ奇怪な赤い巨体の異星人が出現した!

 

「三人目がいたの!?」

『そっちは任せましたよ! 我々は余計なことをされないよう、あなた方をきっちり片づけさせてもらいます』

『アハハハハハハハ――――――ッ! アタシたちのために頑張ってくれて、ご苦労シャマー星人ッ!! アッヒャヒャヒャヒャ!』

 

 クワイラとヴェイラは特捜班に自分たちから襲いかかる!

 そしてゴドレイ星人ファンラはマックスへの攻撃に加わり、三人がかりで更にマックスを叩きのめす。

 

「ジュワァァッ!」

 

 操られるエックスの中では、ダイチが己の軽挙妄動を激しく後悔していた。

 

『「俺が騙されたばっかりに……担ぎ上げられて、冷静さを欠いたばっかりに……! すまないエックス!!」』

 

 そのダイチに、エックスが途切れ途切れに呼びかけた。

 

『ダイチ……私の意識は……』

『「どうしたエックス!?」』

『私の意識は……間もなく、完全に取り込まれる……!』

『「! そんなことはさせない! 俺が何とかする!」』

『君を……信じている……!』

 

 その言葉を最後に、ダイチを囲む電脳空間の輝きが停止した。エックスの意識が失われたのだ。

 

『「エックス……エックスっ!!」』

 

 絶叫するダイチ。しかしただ叫んでいるだけでは駄目だと、デバイスゼットンの術式プログラムを開いた。

 

『「……これかっ!」』

 

 その中から、自分たちが組んだ時にはなかった術式を発見した。ヴェイラたちが後から密かに仕込んだ、悪性プログラムである。

 

『「これを削除すれば……!」』

 

 すぐに記述の削除に取りかかるダイチだが、すぐにエラーが生じた。

 こうなることを見越して、デバイザーからの修正は出来ないように手が加えられているのだ。

 

『「駄目なのか……!」』

 

 こうしている間にも、マックスがゼットン、ファンラ、そしてエックスによってますます追い込まれていく。もうこれまでなのか……ダイチが絶望しかけた、その時、

 

「――黒き炎の大地の守護者! 竜騎招来、天地轟鳴! 来よ、ヴォルテール!!」

 

 キャロの詠唱の叫びが聞こえ、同時に巨大な魔法陣から黒く赤い、たくましい巨大竜が召喚された。竜はオオオオオッ! と力強い雄叫びを上げると、ゼットンとファンラに突進をかましてマックスへの攻撃を妨害した。

 

『「あれは、キャロちゃんの竜騎……!」』

 

 乱入してマックスを救った巨竜ヴォルテールに、エックスが殴りかかる。エックスを攻撃する訳にはいかず、ヴォルテールは打撃を受け止めるに留めた。

 ヴォルテールを召喚したキャロは叫ぶ。

 

「エックスさん、聞こえてますか!? わたしたちがあなたを助けますっ! だから、あきらめないで下さい!!」

 

 ゼットンはマックスに味方するヴォルテールから先に倒そうとそちらへ向かっていく。

 

「ピポポポポポ……」

 

 ヴォルテールはゴウッ! と灼熱の魔力砲撃を放った。しかしゼットンはそれを胸部で吸収。光波のエネルギーに変えて撃ち返す!

 反撃をまともに食らったヴォルテールがどうっ! と倒れた。アルザスの大地を守護する巨竜といえども、大宇宙の恐竜ゼットンはあまりに荷が重い。

 しかしヴォルテールは、腕が震えながらもあきらめずに起き上がる。

 キャロがヴォルテールへ叫んだ。

 

「頑張って、ヴォルテール! 今エックスさんを助けられるのは、あなただけなの! わたしたちも戦うから、立ち上がって!」

 

 ヴォルテールを激励するキャロを、ヴェイラが狙う!

 

『あら~! マックスを助けちゃダメよ~!!』

 

 キャロへ向けて、指先から光波を放つ!

 だが、スバルがキャロの盾となって障壁で光波を防いだ。

 

『あらぁ!?』

「キャロには絶対に手出しさせないっ!」

 

 スバル、チンク、ディエチでヴェイラに集中攻撃を繰り出した。だが衝撃波も、投げナイフも、魔力弾もヴェイラの身体を通り抜けてしまう。

 

「全く通用しない……!」

「多分、今見えてる姿は幻影だよ! ティアのと感じが似てるから……! 別の場所から攻撃を操作してるだけ!」

「でもそれなら、本体はどこに……!?」

 

 シャーリーとマリエルが必死にヴェイラの本体の位置を探るが、まるで掴めていなかった。

 

「戦況を正確に把握してるから、近くにはいるはずなんだけど……!」

「全てのセンサーに全く引っ掛からないなんて! どんなトリックを使ってるの……!?」

『ア――――ハハハハハハッ! 無駄無駄ぁ! 何やっても無駄だよぉ~!』

 

 嘲るヴェイラに、スバルは毅然と言い返した。

 

「無駄なんかじゃないっ! あきらめずに戦い抜くことが、勝利につながるって……信じてるっ!」

 

 クワイラの方には、ノーヴェとウェンディが二人がかりで挑んでいる。だがクワイラのスピードは二人を大きく突き放しており、攻撃がかすりもしない。

 

「くそっ、速すぎる……!」

「動きについていけないっス……!」

『フハハハハ! 死になさいッ!』

 

 いつの間にか二人の背後に回り込んだクワイラが、光弾を撃ち込もうと構える!

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 しかしそこに横からエリオが電光の速度で飛び込んできて、ストラーダで刺突してきた。クワイラは咄嗟に攻撃を取りやめて槍の一撃をガードした。

 

『何ッ!? この私のスピードについてくるとは……!』

 

 エリオは異星人たちに向けて、深い怒りの感情を示していた。

 

「キャロのケリュケイオンを悪用して! ダイチさんのお父さんへの想いまで、自分たちのいいように利用するなんて! 絶対に許されないことだ! 引導を渡してやるっ!」

『小生意気な小僧め! いいでしょう、スピード勝負ですッ! スラン星人にミッドチルダ人なぞは追いつけぬこと、教えてやりましょう!!』

 

 クワイラは恐ろしいことに更に速度を上げて動き回る。だがエリオもまた挙動の鋭さを増して、クワイラを追いかけていく。

 

「僕は負けない! ダイチさんのためにも! 負けてなるものかぁっ!」

 

 仲間たちの戦いを目にして、ダイチの胸の内が熱くなってきた。

 

『「みんな……! 俺も、勝手に絶望してられないっ!」』

 

 気力が再燃したダイチは、最後の手を思いつき、実行に移した。デバイスエレキングのデータをデバイスゼットンのデータの横に浮かび上がらせた。

 

『「頼むぞ……!」』

 

 そしてデバイスエレキングから、電撃を引き出してデバイスゼットンの術式に浴びせる! 電気信号によって、悪性プログラムを力ずくで破損させる荒業だ!

 しかしこんな無理矢理な手段に、危険がないはずがない。溢れた電撃が、ダイチ自身の身体を襲う!

 

『「うわあああぁぁぁぁぁっ!」』

 

 だがダイチは根を上げない。あきらめないことを、仲間たちから授かったから。

 

『「俺がエックスを元に戻してみせるっ!!」』

 

 マックスの方は、ヴォルテールの救援があってもまだ劣勢。ゼットンとエックスの二対一により、未だに追い詰められたまま。

 そしてヴォルテールの方は、既にゼットンに満身創痍にされてしまっていた。それでもなお立ち上がろうとするが、そこにファンラがとどめを刺そうとしている。

 

「ヴォルテールっ!!」

 

 絶叫するキャロ。ファンラの胸部が強く輝いて光線を放とうとしているのだが、弱り切っているヴォルテールはかわすことも出来そうにない。

 

『「ああああああああああああっ!!」』

 

 今にもヴォルテールが撃たれそうなその時に……エックスの首がかすかに動いた。

 とうとうファンラから紫色の光線が放たれる! 殺人光線は容赦なくヴォルテールへと……!

 

「フゥゥゥゥアッ!」

 

 直撃することはなかった。エックスがヴォルテールの前に回り込み、バリアを展開して光線を受け止めたのだ! 光線は反射されて、ファンラ自身に命中する。

 

「ジュッ!?」

 

 ゼットンケイオンの胸部の色が、紫から黄色に戻った。ダイチの捨て身の作戦が功を奏し、悪性プログラムが除去されたのだ!

 

『ダイチ……!』

『「お帰りエックス……!」』

 

 エックスはヴォルテールを助け起こす。

 

『ありがとう、ヴォルテール。私はもう大丈夫だ』

「エックスさん! 元に戻ったんですね……! ヴォルテールも、ありがとう……!」

 

 涙を目尻に浮かべながら喜んだキャロは、傷ついたヴォルテールを労わりながらアルザスの地に還した。

 マックスは単独になったゼットンを突き飛ばし、エックスの隣に並ぶ。二人は顔を合わせ、うなずき合った。

 そして、マックスがファンラへと、エックスがゼットンへと一対一で挑んでいく!

 

『あぁーッ!? ウルトラマンエックスが、元に戻っちゃったよぉー!?』

『ば、馬鹿なッ! どうしてそんなことが……!』

 

 この事態に動揺しているのはヴェイラとクワイラだ。彼らに、スバルとエリオがはっきりと告げる。

 

「言ったでしょ? 無駄なんかじゃないって!」

「これでウルトラマンは大丈夫だ! 後は、お前たちだけだっ!」

『きぃぃぃ――――――ッ! むかつくぅぅぅぅ――――――――ッ!』

『なめるなぁッ! 人間風情がぁぁぁぁッ!』

 

 憤怒したヴェイラとクワイラは攻勢を強める。一方で、シャーリーとマリエルの元に突如何らかのデータが送信されてきた。

 

「えっ、これって……シャマー星人のデータ!?」

「送信主は……ウルトラマンマックス!!」

 

 それを見た二人は唖然。

 

「そ、そういうことだったんだ……」

「よぉーし、だったら……!」

 

 二人は素早く何かの術式を、この場で構築していった。

 スバル、チンク、ディエチは辛抱強くヴェイラと交戦するが、やはりこちらからの攻撃は相手の身体を通り抜けて通用しない。反対に向こうからの光波をこちらは食らうので、徐々に追い詰められていく。

 

『ハァンッ! ウルトラマンが助かっても、お前らが俺に勝てることにはならないだろ!?』

「くっ、一体どこに隠れてるんだ……!」

 

 歯噛みするチンク。ヴェイラ本体のいる可能性がある場所もあらかた攻撃を飛ばしたが、手応えはまるでなかった。まさか肉体が気体で出来ているのでもないだろうが、だとしたらどんな仕掛けがあるのか。

 

「二人とも、頑張って! シャーリーさんたちも頑張ってくれてる! あきらめなければ、きっと逆転の糸口は掴めるよ!」

 

 焦るチンクとディエチを励ますスバル。

 と、その時に、彼らの頭上に魔法陣が瞬いた。そして黒い障壁がカーテンのように辺りに広がっていき、一帯をすっぽりと覆い込んだ。これにより、障壁の内側だけ夜が来たように暗くなる。

 

「? これは……?」

『あぁぁ――――――――!? 暗くなっちゃった! 暗くなっちゃったよぉーッ!』

 

 一体何事かとキョロキョロするスバルたちの一方で、ヴェイラは何故か異常に動揺した。

 かと思えば、その姿がスゥッと消えていった。

 

「消えた……?」

「マックスからのデータ通りだ!」

「即席の遮光魔法、成功ね」

 

 呆然とするスバルたちの元に、してやったりという顔のシャーリー、マリエルが寄ってきた。

 

「シャーリーさん、マリーさん、どういうことですか?」

 

 尋ねたスバルに説明する二人。

 

「シャマー星人の幻影は、光の屈折率を操作して作られるものなんだって。要は蜃気楼の原理の応用だね」

「だからこうやって光を遮れば、幻影は維持できなくなるという訳なの」

「なるほど……。しかし、肝心の本体は結局どこに?」

 

 チンクの問いに、シャーリーはヴェイラの幻影の立っていた場所を指した。

 

「えっ?」

 

 幻影が消えてから、よくよく見てみると――。

 

『うわーッ! 見つかったぁー!』

 

 豆粒ほどの大きさのヴェイラが逃げようとして、こけて倒れた。

 

「……ちっちゃ!!」

 

 そう、シャマー星人の本体は、身長たったの15cmなのだ! センサーで探知できなかったのは、想定を超えた小ささなので反応しなかっただけだったのだ。

 ディエチが逃げようとするヴェイラを捕まえ、小箱の中に入れて蓋をした。

 

『な、何をする! 俺は天才だぞ!? 出せーッ!』

 

 たったこれだけでヴェイラは無力化した。

 

「やったぁっ!」

 

 ヴェイラを攻略したスバルたちは互いにタッチして、健闘を称え合った。

 

(♪DASHのテーマ)

 

 ヴェイラは呆気なさすぎる終わり方だったが、クワイラはエリオと音速に迫るほどの超高速戦を展開していた。

 

「グウオオオオオ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 クワイラの手の甲の刃とエリオの振り回すストラーダが何度もぶつかり合い、激しい火花を飛び散らせる。

 その中で、エリオはノーヴェと視線を一瞬合わせた。高速戦闘の合間の本当に一瞬であったが、二人は確かにうなずき合った。

 エリオはストラーダを構え直し、ロケット噴射を生じさせてまっすぐクワイラへ突っ込んでいく!

 

「スピーアアングリフ!」

 

 突撃が決まるかと思われたが、クワイラは残像を残しながら横にそれ、かわした。

 

『馬鹿め! これで終わりだッ!』

 

 クワイラは無防備なエリオの背に光弾を叩き込もうとする。

 だがその瞬間にエリオの前方にエアライナーが伸びてきて、エリオはそれに足を乗せて三角跳び! 宙返りしながらクワイラの光弾を跳び越えた!

 

『な、何ッ!?』

「一閃必中!!」

 

 攻撃後の隙を突き返したエリオが、電撃を纏わせたストラーダを振り下ろす!

 

『ギャアアアアア――――――――――!!』

 

 ストラーダの刃が、クワイラの胴体を切り裂く!

 

『ぐぅッ! こうなればお前たちだけでもぉぉぉぉッ!』

 

 しかしクワイラはしぶとく、やられながらも光弾をノーヴェとウェンディに飛ばした!

 

「あっ!?」

 

 不意を突かれた二人は回避できない――。

 が、そこにジオブラスターの弾が飛んできて、クワイラの光弾を破裂させた。

 

『なッ……!』

「俺たちの活躍が残っててよかったぜ!」

 

 今の弾丸は、駆けつけたワタルとハヤトが撃ったものであった。

 最後のあがきにも失敗したクワイラに、追撃に迫るエリオが拳を固く握り締める。

 

「紫電! 一閃っ!!」

 

 電撃を纏った拳が、怒りを乗せてクワイラの頬を打つ!

 

『ぐぼあぁぁッ!!』

 

 殴り飛ばされ地面に叩きつけられたクワイラは、完全に沈黙。それ以上動くことはなかった。

 クワイラを仕留めたエリオは肩で息をしながらも、ノーヴェやワタルたちにぐっとサムズアップを見せた。ワタルたちもそれにサムズアップで応えた。

 

「セヤァッ!」

 

 人間たちの決着がついたように、ウルトラマンたちの決着の時もまた近づいていた。マックスは一対一だとファンラを圧倒。相手の反撃も許さぬ勢いのラッシュによりファンラを押し込み、頭頂部より宇宙ブーメラン、マクシウムソードを飛ばしてファンラの鉤爪状の腕を斬りつける。

 ファンラの腕はすぐに傷口がふさがって再生したが、この時にマクシウムソードが地中に潜り込んだ。

 ファンラは胸部から光線を乱射してマックスを狙う。だがマックスは回転するバリア、スパークシールドで光線を全て弾き飛ばした。

 

「ジュワッ!」

 

 そしてファンラが光線を撃っているところに、マクシウムソードをその足元から飛び出させた! ソードがファンラの胴体を深々と切り裂く。

 

「シュッ!」

 

 相手が大きくひるんだところで、マックスは空に向けて右手を掲げ、光の波を発した。するとそれに呼応して、光り輝く鳥のような武器が虚空から召喚されてマックスの右腕に装着された。

 これぞマックス最大の切り札、マックスギャラクシーだ!

 

「シュワァァァッ!」

 

 マックスギャラクシーの発光部が虹色に輝くと、先端部から剣の形の必殺光線、ギャラクシーカノンが放たれた! 腕を交差してガードしようとしたファンラだが、ギャラクシーカノンはガードをぶち抜いてファンラを穿つ!

 ファンラはこの一撃に耐えられず、背中から倒れて大爆発した。

 

「ピポポポポポ……」

「セェアァッ!」

 

 エックスの方もゼットンとの熾烈な火球とバリアの応酬の果てに、必殺の一撃を繰り出す構えを見せた。

 

『「俺たちが開発した、本当のジャケットの力を見せてやる!」』

『一気に行くぞ!』

 

 エックスが両腕を顔面の前で交差すると、全身が多角錐型のバリアに覆われ、その状態で高速回転!

 

『「ブーステッドトルネード!!」』

 

 そのまま飛び上がり、ゼットン目掛け突貫! ゼットンはバリアを展開するが、ドリルそのものとなったエックスの突撃は強固なバリアも粉砕した!

 

『「うあああああああああああああっ!!」』

「イィィィッ! シュワァァァッ!」

 

 ゼットンをはね飛ばしたエックスはゼットンケイオンを解除しながら空中で停止。空中に光を走らせ、とどめの光線を発射!

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 直撃を受けたゼットンは爆発、後に肉体を圧縮されて本当にスパークドールズとなったのであった。

 

 

 

 戦いが終わり、街が夕焼けに染まる中、ダイチは「トウマ・カイト」という姿のウルトラマンマックスと向かい合っていた。

 

「あなたは……?」

「私の名前はウルトラマンマックス。かつて共に戦い、未来をその手に掴み取った青年の姿を借りている」

 

 マックスは今の姿をそう説明した。

 

「私のせいで迷惑を掛けてしまった。申し訳ない」

『いえ……助けようとしてくれたこと、感謝してます』

 

 謝罪するマックスに、エックスはそう返した。

 次いでマックスは、ダイチに語りかけた。

 

「君は信じることの難しさを知ったはずだ。しかしどんな時でも、誰かを信じる気持ちを持ち続けてほしい。信じ貫く気持ちこそが本当の力になってくれる。今の君と彼のように」

 

 ダイチはそっとエクスデバイザーに目を落とした。

 

「この星の文明を守るのに必要なら私の力を使ってくれ。私を信じてくれるなら……!」

 

 マックスは手にしたマックススパークから、エクスデバイザーに力を送った。その力は、ウルトラマンマックス自身のカードに変化する。

 ダイチが顔を戻した時には、マックスは本来の姿で空の彼方へ飛び去っていくところであった。

 

『ありがとう、ウルトラマンマックス!』

 

 エックスはミッドチルダを去っていくマックスに、そう呼びかけたのだった。

 

 

 

 マックスとの対話後、ダイチはキャロに対して頭を下げていた。

 

「キャロちゃん、本当にごめん。俺が浅はかだったせいで、君のケリュケイオンを利用されてしまった……」

 

 魔導師が相棒ともいえるデバイスを悪用されるのは、精神的に大きなショックを受けるもの。ダイチはキャロの自分を信頼してくれた気持ちを傷つけてしまったと悔やんでいるのであった。

 しかしそのことについて、キャロは少しも気にしていなかった。

 

「顔を上げて下さい、ダイチさん。ダイチさんに悪気なんてなかったこと、むしろ街を守るために真剣だったってこと、よくわかってます。それに、ケリュケイオンの兄弟を悪い人たちから解放してくれたのはダイチさんなんですよね?」

「あっ、それは……俺のせいだから。褒められたことなんて何も……」

「いいえ。ケリュケイオンの兄弟のために、あきらめずに尽力してくれたことが、わたしには嬉しいんです。これからもその気持ちを持ち続けて、Xioでのお役目を頑張って下さい!」

 

 反対にダイチを励ますキャロに、エリオも同意する。

 

「たくさんの人たちのために一生懸命なダイチさんはとても立派です。今回みたいなことなんかにはめげないで、今後のご活躍を期待してます!」

 

 今のダイチにはまぶしいほどの笑顔の二人に、ダイチは力を込めて首肯した。

 

「……うん! 二人に約束するよ! ありがとう、エリオくん、キャロちゃん!」

 

 どこまでも応援してくれる二人に感謝して、ダイチは己の使命への意気込みを一層強くするのであった。

 

 

 

『……ほぉう。この星には、かなりの量のエネルギーが存在しているようだな』

 

 ミッドチルダと別の次元の「狭間」。「空間」と「空間」の間の「空間」。そうとしか形容できない世界で、緑色の複眼を持った何者かが次々表示されるミッドチルダと次元世界のデータを検分していた。

 ――これらのデータは、時空管理局のデータベース『無限書庫』から、当然無許可で引き出しているものである。この者は今、管理局に不正アクセスを仕掛けているのだ。

 

『近頃宇宙人の間でにわかに騒がれるだけのことはある。――しかし、宇宙の帝王の封印を解くためには、清流よりも澄んだ質のエネルギーでないといかん』

 

 複眼の何者かは、ミッドチルダの情報を調べながら独りごつ。

 

『万一の事態に備え、ビクトリウムコアの代替となるエネルギーを確保する、この重大な任務に妥協は許されない。この星に、ビクトリウムの代わりになれるだけのエネルギーが存在するものか、しかと見極めねば……』

 

 と言っていると、四年前の事件を纏めたデータの、ある部分に目を留めた。

 

『む? これは……ふふふ、これはよさそうだ』

 

 データの内容に詳しく目を通した何者かは、それが大分気に召したのかおどろおどろしい声に愉悦をたっぷり含ませた。

 

『ではこの娘を、我が主ヤプールに捧げるとしよう。待っているといい――この世によみがえった『聖王』とやら!!』

 

 正体の見えない何者かが目をつけたデータとは――四年前の一番の大事件、JS事件の終盤に浮上した『聖王のゆりかご』と、その核であった『現代の聖王』……現在の『高町ヴィヴィオ』のものであった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はゼットンだ!」

ダイチ「ゼットンは言わずと知れた『ウルトラマン』最終回「さらばウルトラマン」で初登場した、『ウルトラマン』最後の怪獣! それまで無敵といってもよかったウルトラマンを倒すという衝撃的な展開を作り出したんだ!」

エックス『ウルトラマンが倒されて番組が終わるなんて、誰も夢にも思っていなかったことだろう』

ダイチ「そのインパクトから、放送から五十年近くも経った今でも最強の怪獣の呼び声が高いんだ」

エックス『怪獣の人気投票でも上位の常連だ』

ダイチ「『ウルトラマンX』でももちろん強敵だった。その力から作られたゼットンアーマーには当初策略も仕込まれてて、とことんエックスを苦しめたんだ」

エックス『その分、味方につけば心強かったけどな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 遂に始まったインターミドル・チャンピオンシップ! だけど時同じくしてヴィヴィオちゃんを狙う怪しい影が見え隠れする。お前の正体は何者だ! ヴィヴィオちゃんをお前の思うようにはさせないぞ! 次回、『インターミドル防衛指令』。


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インターミドル防衛指令(A)

 

「全管理世界から集まった若い魔導師たちが魔法戦で覇を競う、インターミドル・チャンピオンシップ」

「公式試合のステージで――アインハルトさんと戦いたいです!」

「インターミドル……私も挑戦させていただきたいと思います」

「そこまで行って優勝できれば――文句無しに「次元世界最強の10代女子」だな」

「インターミドル……今の私たちじゃ通用しない――!」

「特訓の目的はただひとつ! 「特技の徹底強化」だ!!」

「お願いしますッ!」

「強くなろう。今よりもっと、今日よりずっと――!」

 

 

 

『インターミドル防衛指令』

 

 

 

 次元世界でも屈指の規模と人気を誇る、格闘競技者志向の若者たちの一大祭典、インターミドル・チャンピオンシップ。その第27回の出場選手選考会の開催日がとうとうやってきた。ヴィヴィオたち四人は、このインターミドルに向けて今日まで厳しい特訓を積み重ねてきたのだ。

 ミッドチルダ地区選考会の第一会場前で、そのヴィヴィオたちが特訓をつけてくれ、セコンドも務めるノーヴェらを待っている。

 

「あっ、ノーヴェ来たよ!」

「ノーヴェさーん、こっちですー!」

 

 ノーヴェの姿を発見したヴィヴィオが告げると、コロナはこちらに近づいてくる五人分の人影へと手を振った。

 一人はノーヴェ、二人目はディエチ。もう二人はコロナとリオのセコンド役のオットー、ディードの双子姉妹だ。そして五人目は……。

 

「あれ……ダイチさんもご一緒なんですね」

 

 アインハルトが少々驚いた。ダイチも来るということは、何も聞いていなかった。

 

「ダイチさんも、あたしたちの応援に来てくれたんですか?」

 

 リオが尋ねかけると、ダイチはこう答える。

 

「それもあるけれど、これもXioの仕事の一つでね。会場の警備に来たんだ。これはノーヴェとディエチも同じだよ」

「えっ、警備がXioの仕事の一つ、ですか?」

 

 聞き返したアインハルトに、ノーヴェが説明を入れる。

 

「そういえば話してなかったけど、ウルトラ・フレアでミッドに異星人が来訪するようになってから、インターミドルみたいな格闘大会にその趣旨を理解してないアホが乱入して問題を起こす事態が相次いでな。それを防止するのもXioの役割なんだよ。去年も、ケットル星人って奴をお縄につけたんだぜ」

「そうだったんですか……」

「まぁ物々しい格好だと出場者に逆にプレッシャーを与えてしまうから、こうして私服で一般人に混ざるんだけどね。ちなみにスバルやウェンディ、チンク姉は別の会場に、ワタルとハヤトは万一の事態に備えてマスケッティを出せるように本部で待機してるんだよ」

 

 補足するディエチ。アインハルトはダイチらに向き直る。

 

「私たちが安心してインターミドルに出られるのは、ダイチさんたちのお陰なんですね……。ありがとうございます」

「いやぁ、これが仕事なんだしわざわざお礼を言われることでもないよ。ただ……今日はまだ選考会だから、問題が起きる可能性は低いだろうけど……今年はみんなも各自で気をつけててね」

 

 とのダイチの警告に、ヴィヴィオは何やらただならぬものを感じて尋ね返す。

 

「何かあったんでしょうか……?」

 

 ノーヴェたちは互いに目を合わせてから、告げた。

 

「あんまり試合前に不吉なことは言いたくないんだが……実は昨日、無限書庫が外部からの不正アクセスを受けてな。非公開情報がいくつか盗まれちまったんだ」

「えっ!? 無限書庫が……!?」

 

 驚きを隠せないヴィヴィオたち。無限書庫は管理局のデータベース。当然、セキュリティも並々ならぬレベル。特に司書長は管理局でも屈指の実力の魔導師で、書庫の守りの要である。それが突破されたとは、彼を知るヴィヴィオにはかなりの衝撃であった。

 

「犯人はわからないんですか!?」

「それが、途中までは逆探知できたそうなんだが、そこから先がパッタリと途絶えてて、どうやってもアクセス元を突き止められないってことなんだよ。まるでこことは決定的に違う世界からハッキングされたみたいだ、なんて言ってたな。……その手口から察するに、これも異星人の仕業の線が大きい」

 

 ノーヴェからの話に、ヴィヴィオたちは不安を覚える。するとノーヴェが察して、あえて明るめに言い聞かせた。

 

「まっ、その件がインターミドルに直接つながってる訳でもねーさ! ただ、タイミングがタイミングだから、もしかしたらその危険があるかもってだけの話だよ。これは話半分くらいに受け取ってくれ。それより、お前たちは目先の試合に集中するんだぜ」

「は、はいっ!」

 

 ノーヴェからの言葉に、ヴィヴィオたちは気分を切り換えた。

 

「それと今のは他言無用で頼むぞ。事が事だけに、箝口令が敷かれてるからな」

「はい、わかりました」

「それじゃ、雑談はここまでだ! そろそろ開会式だし、先に受付に行ってゼッケンを受け取ってこい」

「はい!!」

 

 いよいよ本番が始まるのだ。それを感じて張り切って返事をしたヴィヴィオたちが会場の受付へと向かってから、ダイチがぼそりとつぶやく。

 

「……インターミドルにはつながってなくとも、ヴィヴィオちゃんには関係してるんだけどね……」

「ああ……。犯人の狙いがヴィヴィオだってんなら、それだけは何としてでも阻止しなくちゃなんねぇな」

 

 ノーヴェのひと言に、他三人も固い表情でうなずいた。

 先ほどはあえて伝えなかったが……漏洩した非公開情報には、四年前のJS事件の全容が含まれていたのだ。当然、その中心にいたヴィヴィオの情報も然り。それでヴィヴィオの身が危ないかもしれないということで、本来なら警備には参加しない予定だったダイチもこの第一会場に回されたのであった。

 また、もしもの時のための「切り札」も待機している。ヴィヴィオには秘密裏で、万全の警戒態勢を用意しているのだ。

 

「まぁ何事も起きてくれないのが一番なんだけどな」

「うん。じゃあ、俺たちも会場に入ろう」

 

 ある程度話を済ませると、ダイチたちもヴィヴィオらの後を追うように会場施設の中へ入っていった。

 

 

 

 ヴィヴィオたちの受付後、参加選手によるセレモニーが始まる。ミッドチルダ第一会場では、選手代表が挨拶を行った。

 

「エルス・タスミンです。年に一度のインターミドル、皆さん練習の成果を十分に出して全力で試合に臨んでいきましょう。――私も頑張ります! みんなも全力でがんばりましょう! えいえい!」

「おー!!」

 

 セレモニーはつつがなく終了し、選考試合の開始を待つ。それまでの間に、ダイチとノーヴェの元にある男性が近寄ってきた。

 

「ノーヴェ、ダイチ」

「ああ旦那!」

「ザフィーラさん」

 

 ザフィーラである。ダイチは彼に向けて頭を下げる。

 

「ザフィーラさん、以前のガーゴルゴン戦ではご協力ありがとうございました。俺もはやてさんたちのところの皆さんに助けられまして」

「構うことはない。こちらとしても、テルとミウラのために戦わなければいけなかった、それだけのことだ」

「旦那はそのミウラのセコンドか?」

 

 ノーヴェの問いにうなずいて、顎をしゃくるザフィーラ。

 

「ああ。ちょうどあそこで、ヴィヴィオと話している」

 

 ザフィーラの視線の先で、ヴィヴィオがミウラとはしゃぎ合いながら会話していた。

 ミウラの首に提げられた星形のペンダント――tE-rUから授かった、惑星ゴールドのアクセサリーを目にして、ダイチは微笑みを浮かべた。

 顔を戻したザフィーラは、ダイチたちに告げた。

 

「……例の無限書庫の件は聞いている。今日、ヴィヴィオの身に何かあれば、私も戦いに加わろう。守護獣の矜持にかけて、私のいるところではヴィヴィオに手出しはさせない」

「ザフィーラさんもまた協力してくれるんですね? とても心強いです!」

「知らぬ仲でもないからな」

「昔はヴィヴィオの奴、旦那によく懐いてたそうだしな」

 

 フフッと笑ったノーヴェは、それからこうも言った。

 

「まぁでもヴィヴィオ自身、そうそう簡単にはどうこうされないさ。あいつ自体の実力も相当なものになったからな」

「大した自身だな。よほど鍛えてきたのか?」

 

 ザフィーラの問いかけに、ノーヴェは自信を持って答えた。

 

「ああ、一緒に鍛えてきた。強いよ、うちのチビたちは」

 

 その言葉の直後に、ヴィヴィオとミウラをアナウンスが呼ぶ。

 

『ゼッケン367・554の選手、Cリングに向かってください。続いて1066・1084の選手、Eリングに向かってください』

「お、次はヴィヴィオだな。行くぞヴィヴィオ」

「はーいっ」

 

 それぞれノーヴェ、ザフィーラを伴ってリングに向かうヴィヴィオたちを、ダイチが応援する。

 

「二人とも、頑張ってねー!」

「はいっ! ありがとうございます!」

「見ててください、ダイチさん!」

 

 ミウラとヴィヴィオはダイチに手を振って、リングに上がっていった。

 

 

 

 選考試合の結果は、ヴィヴィオたち四人『チームナカジマ』とミウラとも快勝。後は選考結果を待つだけとなった。

 ダイチはそのことでノーヴェと言葉を交わす。

 

「みんな、いいスタートを切れてよかったね」

「ああ。この結果なら、スーパーノービスクラス入りは確実だな」

 

 そこへ、本部で待機中のワタルとハヤトから通信が入った。

 

『おー、ダイチ、ノーヴェ。選考会も直に終わりだな。そっちの様子はどうだ?』

「ワタルさん、ハヤトさん。こっちは異常なしです」

『そっか。じゃあ今日はもう何もなしってことかな! やれやれ、安心だぜ』

『まだそう決めつけるのは早いだろ。気を抜くな』

 

 肩をすくめるワタルに、ハヤトが突っ込んだ。

 それから、ワタルを中心に四人は雑談する。

 

『まぁそれにしても、テレビで見てたが、今年の初参加選手はレベルが高い奴が多いな。そっちのちびっ子たちもすごかったじゃねぇか。みんな相手を瞬殺してよ』

「へへっ、だろ? 存分に手塩にかけたからな」

 

 得意げにはにかむノーヴェ。ダイチはこう語る。

 

「ホントに、インターミドルの選手はレベル高いですよね。管理局の魔導師顔負けの子も少なからずですよ」

「けどスポーツの格闘と実戦はやっぱり違うから、ホントに実戦で通用するってもんでもないけどな」

 

 とつぶやいたノーヴェは、つけ加えて言う。

 

「まぁチャンピオンのジークリンデ・エレミアだけは別だけどな。あいつだけは、スポーツ実戦関係なく強い。正面切っての戦いなら、勝てる奴はあまり思いつかないほどだ」

 

 すると何故かワタルが得意げになった。

 

『だろう? ジークの奴、最初に会った時からこいつは他とは一線を画するって感じてたんだよ』

「ん!? その口振り……ワタルお前、まさかジークリンデを知ってるのか!?」

 

 ノーヴェたちのみならず、ハヤトも驚いてワタルに振り返っていた。

 

『実はそうなんだぜ。俺が地上部隊の時代に、野宿してたあいつを補導したことがあってな。それからあいつが優勝する度にお祝いのメッセージを送ったりしてるんだよ。弟のイサムも知り合いなんだぜ』

「だからお前、去年はケットル星人が逃げた先に偶然いたジークリンデに、そいつを捕まえてくれーなんて馬鹿なこと言ったのか。あの時は本気で焦ったが、ホントにジークリンデがボコしたから更に驚いたぜ」

『おい、馬鹿って何だ馬鹿って!』

 

 怒るワタルにダイチが苦笑いしていると、急にエックスが呼びかけてきた。

 

『ダイチ……!』

「ん? どうしたの、エックス?」

 

 エックスは若干不安そうに告げた。

 

『どうも、誰かに見られてる気配がする……』

「え……? どこから?」

『それがわからないんだ。ここは人が多すぎる。少し、人の少ない場所へ行ってくれ』

「わかった……!」

 

 ダイチがその場を離れようとすると、ノーヴェが振り返った。

 

「ダイチ、どうかしたか?」

「いや、ちょっとお手洗いに……」

 

 適当にごまかしてから会場を離れ、人気のない施設の通路へと移る。

 

「ここでいい?」

『ああ。ここなら感覚を研ぎ澄ませられる……』

 

 と答えたエックスは、不意に鋭い声を発した。

 

『むっ! 誰だ! 空間の狭間に潜んでるな! 姿を見せろっ!』

 

 その直後に、ダイチの目の前の何もない空間が、いきなり音を立てて「割れた」!

 

「えっ!? 空中が……!?」

『フハハハハハハハ! 流石はウルトラ戦士といったところだな! 異次元にいる私の存在に気がつくとは!』

 

 割れた空間の内部の、赤く歪む背景の中には、緑色の複眼と頭部を覆う派手なヒレ、ハサミ状の両手を持った怪人がいる。

 

『だがこのギロン人の邪魔はさせんぞ! 「聖王」と呼ばれる少女に眠る特殊なエネルギーは、必ず我が主ヤプールに捧げるのだ!』

 

 「ヤプール」と聞いたエックスが声を張り上げる。

 

『ヤプールだと!? あの異次元の悪魔の手先かっ!』

「エックス、どういうこと?」

『ひと言で言えば、奴は非常に危険だ! ダイチ、奴のたくらみは阻止せねばならない!』

「ああ、わかった!」

 

 ダイチはユナイトしようとエクスデバイザーを構えるが、それより早くギロン人が動く。

 

『そうはいかん! 最早この私は止められんぞ!』

 

 割れた空間が、映像の巻き戻しのように破片が戻って閉ざされたのだ。後には何事もなかったように、空間がそこにあるだけ。

 

「消えた……!?」

『ヴィヴィオの元に向かったに違いない! ダイチ、すぐに追いかけるんだ!』

「うん!」

 

 走ろうとしたダイチだが、突然防災用隔壁が勝手に動作し、固く閉ざされて通路が前も後ろも遮断されてしまった。ダイチは閉じ込められる形となる。

 

「あっ、しまった!」

『この会場のシステムは既に奴に乗っ取られてたのか……! ダイチ、デバイザーでここの管理コンピューターにアクセスして、システムを奪い返すんだ!』

「わかった! あと、ノーヴェたちにもこのことを伝えないと!」

 

 ダイチは即座に行動に移りながら、同時にノーヴェの元に通信を掛けた。

 

 

 

 会場の方では、選考結果発表を待つ期待した雰囲気が一転して、騒然となっていた。突如全ての隔壁が閉ざされて、会場の人間は全員閉じ込められる形になったからだ。

 

『会場の皆さま、どうか落ち着いて下さい! ただいま異常の原因を調査しております。管理システムの復旧まで、騒がずにお待ち下さい』

 

 会場内には、不安に駆られる人々を落ち着かせるアナウンスが絶え間なく響く。そんな中で、ノーヴェたちは自分のところの子を側に呼び寄せていた。

 

「お前たち、無事だな。……ヴィヴィオとミウラは?」

 

 しかしその中にミウラと、肝心のヴィヴィオの姿がない。そのことについてコロナとリオが答える。

 

「それが、二人とも発表までにお手洗いを済ませてくるって……」

「多分、外に閉じ込められてるんじゃ……」

「何!? くそっ、あたしたちから離れるとこを狙われたってとこか……!」

 

 くっと舌打ちするノーヴェ。アインハルトは焦燥した表情を浮かべる。

 

「ヴィヴィオさん……」

 

 そこに、ノーヴェにダイチからの通信が入った。

 

『ノーヴェ!』

「ダイチ! そっちは今何やってる!?」

『犯人を発見したけど、出し抜かれた! 相手の狙いはヴィヴィオちゃんだ! ヴィヴィオちゃんは?』

「通路に閉じ込められてるみたいだ! こっちからの連絡は……駄目だ、妨害されてる!」

『そうか……! 俺もしばらく身動きが取れそうにない! そっちでヴィヴィオちゃんの救出を頼む!』

「了解したぜ!」

 

 通信を切ったノーヴェは、ディエチとオットー、ディードへと振り向く。

 

「そういうことだ! すぐヴィヴィオたちのところに向かうぞ!」

「うん!」「ええ!」

 

 ディエチらがうなずいていると、アインハルトが不安げにノーヴェに尋ねた。

 

「ノーヴェさん、今それが出来るのでしょうか……? 厚い隔壁が閉ざされてて、ここから一歩も動けそうにありませんが……」

 

 それにノーヴェは安心させるように告げた。

 

「なーに、心配はいらねぇさ。なぁ旦那」

「ああ……我々大人に任せておけ……!」

 

 ノーヴェの呼びかけに、ザフィーラが腕の筋肉を浮き上がらせながら応じた。

 

 

 

 そして肝心のヴィヴィオとミウラは、リオの言った通りに通路の中で身動きが取れない状態にあった。外部からの連絡も絶たれた二人は、自分たちの置かれている状況を把握することが出来ないでいる。

 

「ヴィ、ヴィヴィオさん……! 何だか大変なことになっちゃってますよ……! ボクたち、一体どうしたらいいんでしょう……!?」

「ミウラさん、落ち着いて」

 

 あわあわと動揺するミウラをなだめるヴィヴィオ。

 

「大丈夫。きっと会場にいるノーヴェやダイチさんたちが、すぐにこの異常を解決してくれますよ。それまで慌てず騒がずに待ってるだけでいいんです」

「は、はい……ヴィヴィオさん、何だか肝が据わってますね……」

「まぁ、こういう普通じゃないことの経験も一度や二度じゃないので」

 

 苦笑するヴィヴィオ。彼女に感心するミウラの胸元で、星のペンダントが揺れる。

 すると……。

 

『ほう……? それは惑星ゴールド製のペンダント。ということは、お前はあのゴールド星人と関わりがあるのか?』

 

 突然、聞き慣れない声が聞こえたので、ミウラは変な顔になった。

 

「え? 今の、ヴィヴィオさんですか?」

「いいえ……」

「ですよね……。じゃあ誰が……」

 

 キョロキョロ辺りを見回すミウラの背後で……。

 

『ならば、お前も連れていこうかッ!』

 

 空間が割れ、ギロン人が身を乗り出した!

 

「っ!!?」

「ミウラさんっ!!」

 

 ギョッと振り向くミウラへと飛びかかるヴィヴィオ。彼女に突き飛ばされたことで、ミウラは危ないところでギロン人の手から逃れられた。

 

『チッ。いい反応をしている……』

「あ、あわわわわっ! 空が割れて……異星人がっ!」

「クリスっ!」

 

 割れた空から半身を覗かせるギロン人の姿に仰天しているミウラの一方で、ヴィヴィオは即座にセイクリッド・ハートとユニゾンし、大人モードとなった。

 ヴィヴィオは魔力を込めた拳をギロン人に突き出すが、空間が閉じてギロン人の姿が消えると、拳は何もない空間を切っただけで終わった。

 

「消えた……!」

『だが無駄なあがきだ! お前たちはたとえるなら生け簀の中の魚と同じ! 異次元にいる私には、人間風情では手も足も出せんのだッ!』

 

 声はすれども気配は全くない。ミウラは狼狽しながら周囲を見回す。

 格闘の世界では、戦う相手をよく見て、そして動きを感じることが勝利に必要不可欠。しかし今の相手は、姿も見えないし気配も微塵も感じられない。どう考えても圧倒的に不利の状態である。

 

「どこから現れるか、まるで察知できません……! 見えも触れもしない相手に、一体どうしたら……!?」

「ミウラさん」

 

 動揺しているミウラに、ヴィヴィオがこの状況で落ち着いた声を向けた。

 

「ジタバタしてても仕方ありません。しばらく、じっとしてて下さい」

「えっ……? は、はい……」

 

 構えを取ったまま微動だにしないヴィヴィオの異様な雰囲気に呑まれ、ミウラは彼女の言葉に従った。

 

(ヴィヴィオさん、一体何を……)

 

 ヴィヴィオの考えが読めないミウラ。一方で、ギロン人は動きを見せないヴィヴィオに狙いをつけたようである。

 

『クハハ、観念して捕まる気になったか? それともまだ刃向かおうというつもりか? まだあきらめていないというのならば……それが愚かしいことだと教えてやらねばなぁッ!』

 

 ヴィヴィオの背後の空間が割れ、ギロン人がハサミを伸ばしてくる! ミウラがあっと声を上げて駆け出すが、敵の一連の動きはあまりに速く、ヴィヴィオを助けるのはどうやっても間に合わない!

 

「アクセル――」

 

 ――しかし、ヴィヴィオは空間が割れるまさに同時に身体が動いていた。傾けた上半身は、ハサミを紙一重でかわす。

 

「スマッシュッ!!」

 

 そして振り向きざまの風をうならせる鉄拳が、ギロン人の顔面に刺さった!

 

『うごぉあぁぁッ!?』

「!!?」

 

 完全に想定外の反撃をもらい、顔を抑えて悶絶するギロン人。ミウラはこれを見て目をいっぱいに開いた。

 

(す、すごい! ヴィヴィオさんがカウンターヒッターなのは選考試合でわかったけど、見えない相手の攻撃にまで反応するなんて!)

 

 自分を落ち着かせたのは、敵が空間を割って攻撃してくる瞬間を察知するため。異次元に潜む相手に攻撃を当てるには、その瞬間に合わせてカウンターを打つしかない。

 しかし口で言うのは簡単だが、実行するのは恐ろしく難度が高いはずだ。

 

(それをやってのけるなんて……ボクはこういう人とインターミドルで戦うんだ……!)

 

 ミウラは感心と感嘆を覚えると同時に、胸にこみ上げる熱いものを感じた。

 だがそのためには目の前のギロン人をどうにかしなければいけない。ギロン人は反撃を受けて動きを止めていたが、ヴィヴィオが追撃しようとした時には別の空間を割ってそちらに逃れた。

 

『おのれぇッ! ガキが生意気なッ! このギロン人の本気を見せてやる! 最悪、生きてればそれでいいのだからなッ! 四肢の一本や二本無くなるのは覚悟しろぉ!!』

 

 激昂するギロン人の、ヴィヴィオたちに向けられたハサミの内側が発光する。攻撃が来ると見て、ヴィヴィオとミウラは身構えるが、

 

「ヴィヴィオーっ!」

「ミウラ!」

 

 その時、二人の背後の隔壁がこじ開けられ、ノーヴェとザフィーラたちがこの場に乗り込んできた。二人が隔壁を力ずくで開いてここまでたどり着いたのだ。

 

「ノーヴェ! ザフィーラ!」

「師匠!」

 

 振り返って喜びの声を上げるヴィヴィオたち。そして反対側の隔壁も自動で開き、ダイチが足を踏み入れてきた。システムの奪還が完了したのだ。

 

「そこまでだっ! 俺たちが来たからには、もうヴィヴィオちゃんたちには手出しさせない!」

 

 ギロン人へジオブラスターを向けるダイチ。ギロン人の方は、彼らを見てハサミを閉ざす。

 

『ちぃッ! 少し手間取りすぎたか……! だがまだ負けた訳ではない! こうなれば、我が主より預かった切り札を見せてくれるッ!』

 

 そう言い残して、ギロン人の潜む空間が閉ざされた。

 

「切り札……?」

「異星人がそういうこと言い出すのは、ろくなことしねぇ合図だ。すぐにここから離れるぞ!」

 

 ヴィヴィオたちの救出には成功したが、ギロン人が何をしてくるか。ノーヴェらは急いで二人を連れて、会場に集った人々を避難させるべく駆け出した。

 

 

 

 果たして選考会場の外の空が突如として砕け散って、赤く歪んだ空間が覗いた。ギロン人が開けた穴の何倍もある大きさ。地上の人たちはこれに一様に仰天する。

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 そしてこの穴を通って、濃紺の巨体に赤い突起を無数に生やした大怪獣がミッドチルダに侵入してきた。

 異次元の悪魔が生み出した恐るべき怪獣兵器、ミサイル超獣ベロクロンだ!

 



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インターミドル防衛指令(B)

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 異次元よりミッドチルダに侵入してきたベロクロンは、着地と同時に選考会場へまっすぐと迫りくる。これを映像で見たダイチは慌てて本部へ連絡を取った。

 

「タイプG、ミッド地区第一会場前に出現! 体長約55メートル! 今にも会場に攻撃しそうです!」

『都市防衛指令発令!』

 

 指令を発したカミキからダイチに伝えられる。

 

『マスケッティ到着まで時間が掛かる! それまでどうにかそちらでタイプGを足止めしてくれ!』

「了解!」

 

 指示を受けたダイチはノーヴェらの方に振り向いた。

 

「ノーヴェたちは会場の人たちの避難誘導を! 大至急!」

「分かった!」

「わたしたちも手伝います!」

 

 先ほどまで全ての隔壁が閉ざされていたこともあって、会場には大勢の人たちが残っている。ノーヴェたちは一刻も早く彼らの安全を図るために、即座に行動に移った。その後にヴィヴィオたちが続いていく。

 

「私は怪獣の足止め役に回る! 先に行くぞ!」

 

 ザフィーラは有無を言わさぬ内に守護獣形態に変化して外へと飛び出していった。何せ時間の猶予が全くないのだ。

 彼を追いかけるように駆け出すダイチは、無人の通路でエクスデバイザーを構えた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よし、行くぞ!』

 

 走りながらデバイザーのスイッチを押し、ユナイトを行う。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 全身が光に包まれ、ウルトラマンエックスの肉体へと変身!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 エックスは一旦光に変化し、施設の壁を抜けて一直線に外へ飛び出していく。

 

 

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 先にザフィーラが向かっていったが、彼の到着すら間に合わない。ベロクロンは太い脚を振り上げ、第一会場を踏み潰そうとしている!

 しかしその寸前、ギリギリのところで会場から飛び出てきたエックスがベロクロンに飛びついた。

 

「シェアァァッ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 

 エックスはベロクロンを押し倒し、もつれ合いながら広場に倒れ込む。危ないところで、会場を踏み潰されるのは阻止できた。

 

「ウルトラマンエックス……! 助けに来てくれたのか……!」

 

 その時に駆けつけるザフィーラ。すんでのところでエックスが助けてくれたのだと悟り、安堵と共に彼に感謝した。

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 だが勝負はここから。起き上がったベロクロンは標的をエックスの方に移し、先に彼を排除してしまおうと襲いかかる。

 

「トアァッ!」

 

 当然それを迎え撃つエックス。両者は取っ組み合って、激しい押し合いとなる。

 エックスの戦う姿を目の当たりにして、黄色い歓声を上げる者がいた。

 

「きゃあーっ!! ミッドに彗星の如く現れた未知の超人、ウルトラマンエックス! その彼が、こんな間近にいるなんてー! ぜ、是非とも写真を……!」

 

 参加セレモニーで選手代表を務めたエルスであった。鼻息を荒くしてエックスの戦う姿を撮影しようとするのを、隣の少女、昨年度の都市本戦5位のハリー・トライベッカが呆れた視線を向けた。

 

「お前、意外とああいうの好きなのか? アホのエルス」

「誰がアホですかっ! それにいいじゃないですか、別に!」

 

 エルスが言い返していると、一昨年の世界戦優勝者、『チャンピオン』の呼び声を欲しいままにしているジークリンデ・エレミアその人がぼそっとつぶやく。

 

「そんなことより、ウチらも避難せんとエックスにも迷惑かかるんちゃう?」

「そうですわね。流石にあんな大きな怪獣相手には格闘戦なんて申し込めませんし」

 

 同意したのは昨年度都市本戦3位のヴィクトーリア・ダールグリュン。二人の言葉を聞いてエルスは我に返る。

 

「そ、そうでした! でも、せめて一枚くらい写真を撮ってから……」

「つべこべ言ってねーでとっとと行くぞ。お前らそっち持て」

「うっす」

 

 やっぱり我に返っていなかったエルスを、ハリーが取り巻きの三人と一緒に抱え上げて連行していく。

 

「ちょっ、離して下さい! 自分で歩けますから!」

 

 暴れるエルスをそのまま運んでいくハリーたちの構図に呆れたように苦笑しながら、ジークリンデとヴィクトーリアがその背中を追いかけていった。

 

「デュアッ!」

 

 一方のエックスはベロクロンを突き飛ばすと同時に水平チョップを入れ、後退させる。こうしながら会場から引き離すのが狙いだ。

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 だがベロクロンはエックスへ両腕を伸ばしたかと思うと、そこや全身の赤い突起から大量にミサイルを発射した!

 

「怪獣が質量兵器を!?」

 

 驚愕するザフィーラ。ウルトラ・フレア発生から十五年の間に様々な種類の怪獣が出現したが、人工物を体内から発射する怪獣など聞いたことがなかった。

 

「ヌッ!? シェアッ!」

 

 自身の背後を一瞥したエックスは、Xバリアウォールを展開してミサイル攻撃を防ぐ。ここでかわしたりしたら、まだたくさんの人が残っている会場にミサイルが降り注いでしまう!

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 しかしベロクロンは絶え間なくミサイルを飛ばしてきて、バリアも押し切られてしまいそうだ。進退窮まるエックス!

 だが、突如として地面から生えた光の刃がミサイル群を貫き、空中で誘爆させた。

 

「グロオオオオオオオオ!?」

 

 エックスが向けた視線の先には、古代ベルカ式魔法陣を展開させるザフィーラの姿。

 

「エックス、私が援護する! 会場の安全は任せろ!」

「フッ!」

 

 ザフィーラの呼びかけにうなずいたエックスは、ベロクロンへと間合いを詰めて肉弾戦を仕掛ける。接近戦ならば、ミサイル攻撃も封じられるはずだ。

 

「デェアッ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 

 ザフィーラの援護もあって戦いを有利に進めるエックス。だが敵は他にいることを忘れていないだろうか。

 

「キュウーキューキュッ!」

 

 そう、ギロン人が巨大化してこの場に出現したのだ!

 

『「ギロン人っ!」』

『ウルトラマン! 貴様ら邪魔者を排除してから、ゆっくりと娘どもを捕まえてくれる! 覚悟しろぉッ!』

 

 ギロン人はベロクロンと戦っていて無防備のエックスの背中に針状の光線を浴びせる!

 

「グワァァッ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 

 ひるんだエックスを、ベロクロンが怪力で張り倒す。仰向けに倒れたエックスに、ベロクロンとギロン人が押し寄せて二人掛かりで踏みつけ出す。

 

「グゥゥッ!」

 

 さしものエックスも、二体に押しつけられてそれをはねのけるほどのパワーは持っていなかった。為す術なく蹂躙され、カラータイマーも点滅を始める。

 しかし、モンスジャケットによるパワーアップも見込めない状態にある。

 

『「抑えつけられてたら、ジャケットが装着できない……!」』

 

 ダイチはデバイザーにデバイスゴモラのカードを収めたが、エックスの身体が抑え込まれているので、ジャケットが展開できずエラーが出るだけであった。

 

「やめろっ!」

 

 ザフィーラが助けようとするも、伸ばした鎖は呆気なく振り払われる。ガーゴルゴン戦ではヴォルケンリッター総掛かりで渡り合ったが、流石に彼単独では負担が大きすぎるのだ。

 このままではエックスが危ない! この状況を立体モニターで確認したディードとオットーが焦った様子でノーヴェへと振り返る。

 

「ノーヴェ姉様、ウルトラマンエックスの窮地です!」

「僕たちの誰かが応援に回るべきでは!」

 

 だが、ノーヴェはこの状況で不敵に微笑んだ。

 

「いいや。ちょうど、心強い味方が駆けつけてくれたところだぜ!」

 

 ギロン人とともにエックスを抑え込んでいたベロクロンは少し離れ、口から大型ミサイルを発射する。エックスにとどめを刺すつもりだ!

 

「グロオオオオオオオオ!」

 

 だが――その時に空の彼方から急行してきた飛行物体が放った光弾が、ミサイルを撃ち落とした。

 スカイマスケッティだ!

 

「お前らー! 質量兵器の持ち込みは犯罪だぞー!」

「法を破るから犯罪者なんだけどな!」

 

 冗談めかしたことを発したワタルとハヤトのコンビが、ファントン光子砲を連射してベロクロンとギロン人をはね飛ばした。それによりエックスは解放される。

 

「キューキュキュキュッ!」

 

 即座に起き上がったギロン人はハサミをマスケッティに向ける。針状光線で撃墜するつもりだ。

 だが、駆けつけた味方とはマスケッティだけではなかったのだ。

 

「――エクセリオンバスター!!」

 

 ギロン人の構えた腕を、桃色の魔力砲撃の直撃が弾いた。

 

「ッ!?」

 

 ギロン人が振り返った先に、空中に漂う白いバリアジャケットの勇壮な女性――。

 誰であろう、高町なのはである。彼女は愛娘が何者かに付け狙われている恐れがあると聞き、緊急時の救援役に志願したのだ。「切り札」とは、まさになのはのことであった。

 なのはは通信でザフィーラに呼びかける。

 

「ザフィーラ、ありがとう。ここからはわたしとXioに任せて!」

 

 そう言って、マスケッティとのタッグでギロン人に果敢に挑んでいく!

 

「ハヤト隊員、ワタル隊員! 準備はいい? 攻撃開始だよっ!」

「了解です! 高町一尉っ!」

 

(♪TACのテーマ(コーラス付))

 

「キュウーキューキュッ!」

 

 ギロン人は己の攻撃を妨害したなのはへと迫り、ハサミで叩き落とそうとする。しかしそこにターンしたマスケッティが砲撃。

 

「ファントン光子砲、発射!」

 

 光子砲がギロン人の頭部に炸裂。衝撃で身体がのけ反るギロン人。

 

「キューキュキュキュッ!」

 

 ギロン人の眼前をマスケッティが横切っていく。ギロン人はそれを反射的に目で追う。

 その目が離れた隙に、なのははギロン人の膝裏へと素早く回り込んだ。

 

[Photon smasher]

「ファイア!」

 

 砲撃が膝裏に直撃し、ギロン人は耐え切れず姿勢を崩してその場に膝を突いた。

 

「キュウーキューキュッ!」

 

 なのはを狙って振り向くギロン人だが、なのははその動きに合わせて旋回、相手の背後の位置をキープしながら螺旋を描くように上昇していく。

 

[Sacred cluster]

 

 そして顔面へと拡散射撃魔法を浴びせた! 射撃魔法では巨大宇宙人にダメージを与えられる威力は出ないが、硝煙が目くらましとなる。

 

「トラーイっ!」

 

 ギロン人の視界がふさがっているところに、マスケッティが光子砲の雨を食らわせる!

 

「キューキュキュキュッ!」

 

 なのはとマスケッティを駆るワタルとハヤト。身体は小さくとも巧みな連携、そして大きな勇気を以て巨大なギロン人に互角以上に渡り合う。

 そしてなのはたちがギロン人を引きつけているお陰でベロクロンとの一対一になったエックスも、ダイチの助けを得て大火力を誇る超獣相手に雄々しく立ち向かう。

 

[デバイスベムスター、スタンバイ]

 

 改めてデバイザーにデバイスベムスターのカードをセットして、ベムラーダを展開。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

[ベムラーダ、セットアップ]

 

 ジャケットを装着したエックスめがけ、ベロクロンはミサイルを全弾発射。

 

「グロオオオオオオオオ!」

「フッ!」

 

 エックスはベムラーダのシールドを構えてミサイルを受ける。シールドはミサイル全弾を防ぎ切り、エックスへのダメージを防いだ。

 

「グロオオオオオオオオ!?」

『「ベムスターアングリフ!」』

 

 エックスは槍を構え直して穂先をベロクロンに向けた。その穂先からロケット噴射が生じ、エックスが突撃していく!

 

「デアァァァッ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 

 エックスにはね飛ばされたベロクロンはきりきり舞いしながら横転した。それでもすぐに起き上がり、エックスに肉薄していく。

 一方、ダイチはベムラーダから別のジャケットへと切り替える。

 

[デバイスゼットン、スタンバイ]

 

 ベムラーダを解除して、ゼットンケイオンをエックスに纏わせた。

 

『ピポポポポポ……』

[ゼットンケイオン、セットアップ]

 

 エックスはゼットンケイオンのグローブでベロクロンの爪をガード。反撃に連続パンチをお見舞いする。

 

「セェェェアッ!」

「グロオオオオオオオオ!」

 

 ゼットンの超パワーを宿したゼットンケイオンのパンチは強烈。超獣のベロクロンもたちまちグロッキーになって後ずさった。

 エックスがモンスジャケットの力で善戦する他方で、なのはは遂に動きをギロン人に捕捉されてしまった。飛行するなのはにぴったりと合わせてハサミが向けられる。

 いくらエースオブエースといえども一人の人間。巨大宇宙人からの攻撃を受けるのは非常に危険だ!

 

「今っ!」

 

 が、しかし、なのはが急上昇したとともに、その背後の陰に隠れる形となっていたはるか遠くのマスケッティから光子砲の一点集中砲火がギロン人へ放たれた!

 

「キュウーキューキュッ!」

 

 一直線に飛んできた光子砲をまともに食らい、動きが停止するギロン人。その隙を逃さずに、なのはがカートリッジを消費した極大の砲撃を撃ち込む!

 

「ストライク・スターズ!!」

 

 レイジングハートからの砲撃に、なのはの周囲に浮かんだ複数の魔力球からのレーザーが合わさって大威力の一撃となる。これをギロン人は胸の中央の一点に食らった!

 なのはたちからの集中攻撃には耐えられず、ギロン人は仰向けに倒れ込み、そのまま立ち上がらなくなった。完全にノックアウトだ。

 エックスの方もまた、いいところまで弱らせたベロクロンにいよいよとどめの一撃を繰り出す。

 

『「ブラスト火炎弾!!」』

 

 胸部の前に両腕を水平に置くと、指先の間に膨大な熱量の火球弾が発生。腕を前に伸ばすとともに、それを発射する!

 

「イィィィ―――ッ! シャァ―――――ッ!」

「グロオオオオオオオオ!!」

 

 火球弾の直撃を食らったベロクロンは大爆発! 次いで肉体を圧縮され、スパークドールズとなって芝生の上に転がった。

 

「いよっしゃあぁぁぁっ!」

「やりましたね、高町一尉!」

 

 アトスの助手席で歓声を上げるワタル。ハヤトはなのはへと敬礼を向け、それを視認したなのはも敬礼を返した。

 エックスとXio、なのはの完全勝利……そう見えたが、ここでダウンしたはずのギロン人が起き上がった!

 

「ヘァッ!」

 

 警戒してギロン人へ向き直るエックス。ワタルたちも気を引き締め直す。

 

「ヤロー……まだ戦おうってのか!?」

 

 ワタルはすぐに攻撃を再開しようとしたが、それをなのはが呼び止めた。

 

「待って! 何だか様子が変……」

 

 なのはの言う通り、ギロン人は立ったまま攻撃を行う様子がなかった。果たして、ギロン人はエックスに向けてこんなことを告げていた。

 

『最早これまでか……。しかし、これで勝ったと思うなよ! 我が主ヤプールは、私の補助などなくとも必ずや、宇宙全土に恐怖とともにその名を知らしめた宇宙の帝王を復活なさる!』

『宇宙の帝王だと!?』

 

 唐突に発せられた言葉に驚きを見せるエックス。

 

『宇宙の帝王の復活が果たされた時、全宇宙は恐怖と破壊のどん底に突き落とされるのだ……。この星とて例外ではないッ!』

 

 ギロン人は両腕を振り上げて脅し文句を堂々と宣告する。

 

『この星が破壊し尽くされ、お前たちが宇宙の帝王の軍団に抹殺されるその時を、ひと足先に地獄から待っているぞ! クハハハハハッ!』

『! 何をするつもりだ!』

 

 エックスが止めようとした時には、もう遅かった。胸の前で両腕を組んだギロン人は……何の前触れもなく爆発四散した!

 

「えっ!?」

「じ、自爆した!?」

 

 なのはたち、引いてはこの現場を目にしていた者たち全員が、ギロン人の末路に唖然とした。今まで異星人犯罪者は数いれども、目的に失敗したからといって自ら死を選んだ者はいないからだ。

 エックスもまた、ギロン人の自決を目の当たりにして、手を伸ばしかけた姿勢で固まっていた。

 

『「……エックス、ギロン人が最期に言い残した「宇宙の帝王」というのは、どういうことなの?」』

 

 ダイチの質問に、エックスは回答することが出来なかった。

 

『私にも分からない。しかし恐らくは、どこか別の宇宙にそう呼ばれるほどの強大な存在が封じられていて、奴らはその封印を解いて利用しようと目論んでいたのだろう。そのための手段として、ヴィヴィオを狙った。そういうことだったのだろう』

『「でもあいつの口振りからだと、黒幕は他にいるみたいだ。そいつをどうにかしないことにはまたヴィヴィオちゃんが狙われるかもしれないし……そうでなくとも、ミッドを危機に陥れるような奴が復活してしまうんじゃ!?」』

 

 ダイチはそのことを危惧する。

 

『ダイチ、お前の言うことはもっともだ。しかし……我々では、その「宇宙の帝王」というものがどこの宇宙に存在しているのか、それすら突き止めることは出来ないんだ。つまり、手の打ちようがない』

『「そんな……」』

 

 ミッドチルダスペース以外の宇宙など、それこそ無数に存在する。ウルティメイトゼロジャケットで探しに行こうにも、その中から手掛かりもなしに一つの宇宙を見つけ出すことなど、それこそ砂漠に落とした米粒を探すようなものだ。

 その手掛かりも、ギロン人が自爆した今、完全に失われてしまった。最早「宇宙の帝王」の所在を暴き出すのは不可能である。

 この場の戦いには勝利したが……ギロン人の遺言は、エックスたちの心に大きな不安を残す結果となったのであった。

 

 

 

 ……ミッドチルダスペースからは遠く離れた、ある一つの宇宙。そこに浮かぶ荒廃した惑星、グア。

 ここの地表上で、宇宙の命運を巡るほどのある大きな戦いが行われていた。戦っている勢力の片方は、ギロン人の親玉である異次元の悪魔――異次元超人巨大ヤプール率いる超獣軍団。そしてもう片方は――四人のウルトラマン!

 

「ギギャアアアアアアアア!」

「ギョロロロロロロロロ!」

 

 一角超獣バキシムと蛾超獣ドラゴリーが、角ミサイルと口からの赤黒い電撃光線を放つ。それを跳び越えた真紅のウルトラマン兄弟が、二体の超獣に燃え上がる飛び蹴りを仕掛ける!

 

「デヤアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

 二人の飛び蹴りはバキシムとドラゴリーの胴体を貫通。二体はそろって爆散する。

 

「パオ――――――――!」

 

 別の地点では、変身超獣ブロッケンが二本の触手から怪光線を空へ向けて発射。しかし空を飛ぶ両性風のウルトラマンは怪光線をかいくぐり、ひねりをつけながらブロッケンの背後へと回り込む。

 

「トアァァァッ!」

 

 土煙を巻き上げて着地したウルトラマンはピンと伸ばした両腕を上下に開いた勢いで、巨大光刃を放った。

 

「テッ! トワァァッ!」

 

 光刃はブロッケンの肉体を真っ二つに切り裂き、爆発四散させた。

 そして最後の――特に強い力の波動を全身から発する、赤と銀と黒の体色に青とオレンジのV字のクリスタルを全身の各所に有したウルトラマンの内部の超空間で、ある若者が左腕に装着したブレスのターンテーブルを回してスイッチを押した。

 

『ヂャッ!』『デヤッ!』『デュワッ!』『フアッ!』『シェアッ!』『シュアッ!』『セアッ!』『テェェェェアッ!』

 

 すると八人ものウルトラマンの胸像のビジョン――内の二人はゼロとマックス――が次々現れ、ブレスが黄金に輝く。

 光のエネルギーが充填されていき、二人の若者がポーズを取ると、彼らを宿すウルトラマンが八人のウルトラマンのビジョンを取り込んで腕を十字に組んだ。

 

『「「ウルトラフュージョンシュート!!」」』

 

 放たれた光の膨大な奔流を、巨大ヤプールが食らう!

 

『ギェアアアアアァァァァァァァァァァ―――――――――――――ッッ!!!』

 

 ヤプールがこの凄まじい一撃に耐えられるはずもなく、実体を維持できなくなって肉体が激しく揺らぐ。

 

『ヘッヘッヘッヘッヘッ……ウッハッハッハッハッ!!』

 

 そんな消滅間際の状態でありながら、ヤプールは不気味な哄笑を上げる。

 

『これで勝ったと思うなよ……! もう帝王復活は止められん! 全宇宙は、終わりを告げるのだぁッ!!』

 

 捨て台詞を残して爆発するヤプール。――だが、爆発と同時に三つの黒い怨念のエネルギーが上空に飛び上がっていき、空に開いた空間の穴――次元の歪みの中へ吸い込まれていった。

 

『フハハハッハッハッハッハッ……!』

 

 その怨念のエネルギーによって、歪みの中から悪鬼そのものの怪人の姿が浮かび上がる!

 

『「帝王が復活する……!」』

『「間に合わなかったっていうのか……!」』

 

 これを目の当たりにして、ウルトラマンの中の二人の若者が冷や汗とともにつぶやいた。

 歪みの中の怪人は、くすんだ黄金の鎧の姿の、二本角を生やした骸骨の魔王の如き容貌を完全に現した!

 

『我が名は帝王、ジュダ・スペクター! 我は数万年ぶりによみがえった!』

 

 宇宙の帝王、ジュダ・スペクターは地上へ向けてエネルギー波を放つ。地上に降ったエネルギー波は、ジュダ・スペクターの体色のようなくすんだ黄金色の大怪獣へと変貌する。

 

「グルウウウウ……グワアアアァァァァァァァァ!!」

『全てを破壊せよ! スーパーグランドキング・スペクター!!』

 

 ジュダ・スペクターの作り出した恐るべき大怪獣が、ウルトラマンたちに牙を剥く!

 ……だが、ウルトラマンは負けないのだ! どんな絶望が立ちふさがろうとも、どれだけ強大な闇の力が敵だったとしても、彼らの胸の輝きに宿る希望の光が、絶望を打ち砕いて未来の世界を宇宙に作り出すのだ!!

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はブラックキングだ!」

ダイチ「ブラックキングは『帰ってきたウルトラマン』第三十七話「ウルトラマン夕陽に死す」から登場した怪獣。全五十一話の中で、唯一ウルトラブレスレットの攻撃が効かなかったとんでもない強敵怪獣だったんだ!」

エックス『そのために、帰ってきたウルトラマンの怪獣の中では、ゼットンを抑えて最強と称されることもあるんだ』

ダイチ「主人のナックル星人の方はとことん卑怯な作戦を張り巡らせた。謀略と力を兼ね備えたこのコンビはジャックを徹底的に追い詰めたぞ!」

エックス『初代ウルトラマンとセブンも助けに駆けつけたりと、一番盛り上がった回の一つだな』

ダイチ「『ウルトラマンX』では第五話にナックル星人バンデロに引き連れられて登場! 頭部の角をドリルに換装したドリルカスタムという形態も披露したんだ」

エックス『ブラックキングとナックル星人のコンビ再来は実に44年ぶりの実現だったぞ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 ヴィヴィオちゃんたちはエレミアの手記を求めて、無限書庫の探索ツアーを行うことになった。けれど、彼女たちにまたも魔の手が忍び寄る! みんなを連れていかせたりなんかさせない! エックス、今すぐ助けに行こう! 次回、『魔法少女採集』。


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魔法少女採集(A)

 

「だからインターミドルは楽しい――。思いもよらない所で君のような強敵に出逢える」

「ボクの全部ぶつけさせていただきますっ!」

「あともう少しみんなと同じ目線で、同じ速度で歩いていきたくて」

「だから怖くない――! 前に出るんだ!」

「チームのみんなで約束したんです! 負けちゃったチームメイトの夢は残った人が叶えるんだって!」

「いつかの約束どおり全力でブッ潰す!」

「私は自分のためにここにいて――自分の意志で闘うだけです!」

「君の闘いは痛々しすぎる」

『チャンピオン勝――利ッ!』

 

 

 

『魔法少女採集』

 

 

 

 選考会にギロン人の襲撃を受けながらも、インターミドル・チャンピオンシップはどうにか無事に進行。既に予選四回戦が終了した。

 この時点で、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルトの『チームナカジマ』は全員が敗退した。ヴィヴィオ、コロナ、リオは三回戦でそれぞれミウラ、アインハルトとの同門対決、ハリーに敗れ、アインハルトは四回戦でジークリンデに負けを喫した。四人とも真剣に実力を磨いていたのだが、やはりインターミドルの壁は険しかったのだ。

 しかしそのことは置いておく。アインハルトとジークリンデの対決の翌日に行われた、『無限書庫探索ツアー』が今回の主題である。

 

 

 

「おー! やっぱりすげーな、本局内部は」

「局内がもうひとつの町ですもんねぇ」

 

 無限書庫の建物がある管理局本局内部の渡し廊下を移動しながら、感心したようにつぶやいたハリーに、彼女の取り巻きの一人・ミアが相槌を打った。

 昨日の四回戦終了後、会場にやってきたはやてによってヴィヴィオら十何人かのインターミドル出場者たちの晩餐会が開かれた。その晩餐会は、戦乱時代を生きた古代ベルカの王たちの末裔が同じ時に集まっていることがまた何かの問題を招くのではとはやてが気に掛けたことを理由に、ベルカ諸王時代で起きたことを確かめる席であった。

 その中でジークリンデの先祖『ヴィルフリッド・エレミア』のことが話題に上がった時、ヴィヴィオが無限書庫の未整理区画のどこかに「エレミアの手記」が眠っているということを思い出した。これにより、ヴィヴィオたち当事者と晩餐会に同席し、探索にもまた同行を申し出た少女たちによる、「エレミアの手記」を求める探索ツアーが決行されることとなった。

 しかし心配なのは、やはりギロン人の件。あれは明らかにヴィヴィオを――古代ベルカ王族の血を狙って来襲した。ギロン人自体は自爆したが、別の異星人が同じ目的で襲ってくる危険は十分に考えられる。ベルカの王の子孫が何人も同じ場所に集まるのならばなおさらだ。

 そのためヴィヴィオたちの護衛に、発案者のはやてのみならず、ダイチ、スバル、ノーヴェがついていくこととなった。特にダイチはベルカ文字が読めるし検索魔法も扱えるので、探索の手伝いも行う。

 さて、一行は無限書庫の一般開放区画に入ると、未整理区画へとつながる転移ゲートの前までやってきた。そこで無限書庫の司書資格を持つヴィヴィオがアナウンスする。

 

「書庫の中は無重力ですので、慣れていないと気分が悪くなる方もいらっしゃいます。そういう時はすぐにお伝えくださいね!」

「はーいっっ!!」

 

 ツアー参加者たちが元気良く返事をしてから、はやても注意事項を伝える。

 

「わたしからも一つ。無限書庫は警備網も厳重やから心配はいらんと思うけど、もし異星人犯罪者が目の前に現れたら、自分らで立ち向かおうとはせずに、すぐにわたしたちに知らせて、自分たちは逃げに徹してな」

 

 それに異論を挟んだのはハリー。

 

「お言葉ですが、オレたちの半分ぐらいはインターミドルの上位入賞者ですよ? 逃げなくたって、自分の身ぐらい自分で守れますよ」

 

 するとヴィクトーリアが呆れたように肩をすくめた。

 

「これだから不良娘は、思考が粗野かつ短慮で困りますわ」

「んだとぉ!?」

 

 ムッと目くじらを立てたハリーをいさめるように、ノーヴェが少女たちに言い聞かせる。

 

「犯罪者が正々堂々と勝負してくれるんだったらそれでもいい。問題は、『勝負をしない』輩の場合だ」

 

 『勝負をしない』と聞いて、ハリーたちは一瞬虚を突かれた顔になった。

 

「元々法を破る犯罪者だし、厳正なルールに則って行われる試合じゃないんだ。相手はどんな反則技もためらわずに使ってくる。そんな時は、腕っ節の強さだけじゃどうにもならない。そういうことだから、相手がどんなに弱く見えたって決して油断せず、なるべく自ら戦うことは避けてくれ。それが約束できないなら、残念だがこのツアーには参加させられないな」

 

 そうまで言われては、ハリーも従う他なかった。その他の者たちも同意する。

 はやてたちの忠告が済むと、いよいよ一行は未整理区画へ移動する。

 

「それでは古代ベルカ区画に……ゲート・オープン!」

 

 ヴィヴィオが立体パネルを操作すると、転送ゲート内に入った一行がまばゆい光に包まれ――無数の本棚が壁を形成している不可思議な空間の中に放り出された。

 

「おおー!」

 

 ここが無限書庫の未整理区画。無重力の世界で、自分たちが完全に宙に浮いていることにジークリンデが興奮の声を上げた。

 

「わわわっ!」

 

 ミウラは無重力の中で身体のバランスを崩し、回転しそうになるのをヴィヴィオに抱き止められた。

 

「あっと……! 大丈夫ですか?」

「す、すみません!」

「わはは、どーした抜剣娘! 体幹バランスがなってねーぞ!」

「リ……リーダーもわりとダメな感じに!」

 

 ミウラをからかいつつも自分が回転しているハリーに、取り巻きのルカが突っ込んだ。

 

「普段飛び慣れてない子は、無重力はちょうキツいかなー」

「ですわね」

 

 はやてのひと言に同意するヴィクトーリア。この辺りは、流石に姿勢を保っている。

 他に無重力に慣れないのはジークリンデ。彼女はアインハルトにサポートされる。そして……。

 

「う、うわぁっ……!」

 

 ダイチがぐるぐる回っていた。

 

「ダイチ……」

「ダイチお前、男なのに情けねーぞ」

 

 スバルとノーヴェに冷ややかな視線を送られ、少女たちからもくすくす苦笑されたダイチは恥ずかしさで赤面した。

 

「い、いや、飛行魔法ってほんと久しぶりだから、ちょっとコツが……」

「そういえばダイチ、滅多なことでは飛ばないよね。高いところ嫌いだって言って」

「全く。同じ男でも、空を自由に飛び回るウルトラマンエックスとは大違いだな」

 

 そのエックスは自分です、とは言えないダイチだった。

 

「こんなことなら、ハヤト辺りを連れてきた方がよかったか?」

「ち、ちょっと待ってよ。すぐ勘を戻すから……ふぅ、これでよし」

 

 呆れられていたままではいられぬ、とダイチは姿勢を安定させることに成功した。

 

「では目的のエリアに向かいま~すッ!」

 

 全員が落ち着いたところで、ヴィヴィオが皆を先導する。たどり着いた先は、華美な装飾が彫り込まれた巨大な扉。コロナとリオが説明を入れる。

 

「B009254G未整理区画――どこかの王家が所蔵していた書物庫らしいですよ」

「本だけじゃなくて書物庫ごと納まってるんですね」

「それはまたダイナミックな……」

 

 エルスが衝撃を受けた。

 

「それじゃあ扉を開きますねー!」

 

 ヴィヴィオの魔法により、扉が音を立てて開いていく。その先は、至るところに本棚が敷き詰められた迷宮であった。

 目的の「エレミアの手記」がありそうな地点は十箇所に絞り込まれ、数人のグループに分かれての探索が決定する。はやて、スバル、ノーヴェは入り口に待機だ。

 

「さー! それでは調査に入りましょうっ!」

「おー!」

 

 ヴィヴィオたちが意気込んで迷宮に足、いや頭から内部へ踏み入っていくと、その後からダイチも入っていく。

 

「それじゃあ、俺も行きます」

「何か異常なもんを察知したら、その都度連絡してなー」

 

 ダイチは探索と同時に、迷宮内の安全を監視する役割だ。

 総勢十三名の少女たちは、五つのグループに分かれてそれぞれ別の地点へと飛んでいく。

 

「ん? そういやオレ、ベルカ文字はよくわかんねーな」

「大丈夫ですよ、私がわかりますから」

「エルスさん、お世話になるッス……」

 

 ハリーと取り巻きのリンダ、ルカ、ミアにエルスの五名。

 

「なんだかちょっとワクワクしますねぇー」

「ほんとに!」

 

 ミウラとヴィヴィオの二人。

 

「あら……あなたはこっちでいいの?」

「はい! ご案内します!」

 

 ヴィクトーリアとコロナ。

 

「上手く見つかるといいんだけどね」

「あたしたちで見つけましょう~!」

 

 ミカヤ・シェベルとリオ。

 

「すごいなぁー……どのへんの国のなんやろ?」

「少なくとも、シュトゥラのものではないようですね。ああいった華美な調度品はシュトゥラでは好まれませんでしたから」

「そーなんやー」

 

 そしてジークリンデとアインハルトの二人のグループだ。

 しばらくは何事も起こらず、ごくごく平和的に探索が進んでいった。が……。

 

 

 

 迷宮の入り口で待機している中で、ノーヴェがふとはやてに尋ねかけた。

 

「ところで八神司令……異星人犯罪者とは別に、昨日の食事会を窃視していたという魔導師の件はどうなったんでしょうか?」

 

 実は昨日の晩餐会の際、ベルカ諸王時代にまつわる話が窃視、盗聴されていた反応があったのだ。しかしその手段に魔法が使用されていた痕跡があるので、犯人は異星人ではないとしてXioの管轄ではなくなった。

 

「ああ、それはるー子に任せてるんよ」

「お嬢に!」

 

 はやての方に振り返るノーヴェとスバル。

 

「うん。犯人はわたしたちが無限書庫に来ることを掴んだはずやから、乗り込んできたところを押さえようってことで、るー子も待機しとるんやで」

「そうだったんですか」

「ルーテシアもいてくれるなら心強いですね! でも、その盗聴犯は一体どんな目的で古代ベルカの話を盗み聞きしてたんだろう……」

 

 とスバルがつぶやいたその時、無限書庫司書長から緊急の通信が入った。

 

『みんな、大変だ!』

「ユーノ司書長! 何事や?」

 

 司書長の重々しい声音に、一瞬にしてはやてたちに緊張が走る。そして司書長は告げた。

 

『今しがた、今君たちがいる未整理区画のセキュリティが強引に突破された! 手口からして異星人犯罪者だ!』

「何やて!」

『しかも生体反応は数十……かなりの集団だ。ヴィヴィオたちが危ない!』

 

 それを聞き、はやてたち三人は互いに目を合わせ、うなずき合った。

 

『僕はこれ以上の侵入がないようにセキュリティを修復、強化する。そっちはヴィヴィオたちの救助を頼む!』

「了解や! スバル、ノーヴェ、出動やで!」

「はいっ!」

 

 通信を終え、スバルはまず迷宮内のダイチとの連絡を図った。

 

「ダイチ、応答して! そっちに異星人犯罪者の集団が侵入した!」

 

 しかし、立体モニターは真っ暗なまま反応を示さない。ヴィヴィオたちに向けて通信しても同じであった。

 

「デバイザーでも駄目だ……通信は完全に妨害されてるぞ!」

 

 と告げるノーヴェ。ならば自分たちが直接迷宮に乗り込もうとするが、見えない壁があるかのように一定の場所から先へ進めない。このことをはやてが分析する。

 

「空間が隔絶されとるな……。しかもこれは魔法の仕業や」

「となると、盗聴犯と異星人たちは共犯?」

「まだ断定は出来ひんけど、そうなるとちょう厄介やな……」

 

 言いながら、はやては足元にベルカ式魔法陣を展開した。

 

「子供たちの安全には変えられへん。少し手荒になるけど、ここは――力ずくで進んでいこか!」

 

 はやてと、彼女の言葉に呼応したスバル、ノーヴェがそれぞれのデバイスを手に取った。

 

 

 

 司書長の報告通り、迷宮内には大勢の異星人が侵入を果たしていた。そしてその魔の手は、既に少女たちに伸びていたのだ……。

 

「ん? そういやルカたちはどこいった?」

「あら、そういえば」

 

 通路を移動中のハリーとエルスは、いつの間にか一緒に行動していたルカたち三人の姿がなくなっていることに気がついた。

 

「どこか途中ではぐれたんでしょうか?」

 

 とエルスがつぶやいた、その時……ハリーが前方の角をきつくにらんだ。

 

「……いや、待て。向こうから怪しい気配を感じるぜ。隠れろ!」

 

 ハリーとエルスは通路の横の扉を開け放ち、その陰に身を潜めた。直後に、通路の角から見慣れない人影がぬっと現れる。

 

「キキッ」

 

 明らかにミッドチルダ人ではない異形。首から下はそうかけ離れてもいないが、首はカラスそっくりであり、双眸は黄色く爛々と輝いている。手にはライフル型の光線銃を構えていて、何かを探すように辺りを見回しながら無重力空間を移動していた。

 

「異星人……!」

「どうやら侵入者みてーだな。もしかしたら、ルカたちはあいつにやられて……?」

 

 早合点したハリーが目尻を吊り上げた。

 

「だったら許せねーぜ! 番長のオレが仇を討ってやる!」

「ま、待って下さい!」

 

 今にも飛び出していきそうなハリーを慌てて制止したエルスが諭す。

 

「ツアー前の注意を忘れたんですか? 異星人相手に無闇に突っ込んでくのは危険です! 相手は見るからに武装してますし……。幸い、向こうはこっちに気づいてません。このまま通り過ぎるのを待って、八神司令に連絡を取りましょう」

「ちっ……しょうがねぇな」

 

 舌打ちするハリーだが、エルスの言には従った。二人は息を押し殺して、カラス人間の通り過ぎるのを静かに待つ。――が、

 

「キキィィッ!」

「!?」

 

 背後からも鳴き声が起こり、振り向くと別のカラス人間がそこにいた。カラス人間は既に光線銃を構えている。

 ハリーとエルスは咄嗟に防御の態勢を取った。

 

 

 

 ミカヤとリオの方には、カラス人間とは別の怪人が出現していた。

 

「ダ―――ダ―――!」

 

 全身が白黒の縞模様で覆われた怪人に追われる二人は、他の仲間たちと連絡を取ろうとするが、こちらも通信も念話も使用できなかった。

 

「やっぱり駄目だ……。通信の類は全て妨害されてるみたいだ」

「入り口まで逃げるしかないみたいですね……。ノーヴェさんたちと合流できれば!」

 

 話しながら逃げる二人だが……その行く手に、先ほどの奴とは違う顔の怪人が待ち構えていた!

 

「ダ―――ダ―――!」

「っ!」

 

 相手が光線銃を撃つより早く抜刀で攻撃するミカヤだが、その瞬間に怪人の姿が消え失せる。

 

「消えた……!」

「ダ―――ダ―――!」

 

 直後に別の場所から、更に違う顔の怪人が出現。そちらにはリオが電撃を飛ばしたが、これもテレポートでかわされた。

 

「どうやら相手は三人以上いるみたいだ。油断するな、リオちゃん!」

「はいっ!」

 

 二人はそう判断したが、実際の怪人は一人だけなのだ。三つの顔を使い分けることで三人いると誤認させて撹乱するのが怪人ダダの得意技なのだ。

 そうとは知らずに無駄に辺りを警戒して足が止まる二人に、ダダが姿を現したと同時に光線を発射する!

 

「!!」

 

 

 

「キキキィッ!」

「うあっ!」

 

 アインハルトとジークリンデは、自分たちを取り囲んだカラス人間の集団が発射した光線をかわし切れずに浴び、次の瞬間には網目模様の全く異なる空間に放り出されていた。

 

「ここは……?」

「強制転移で檻の中に入れられたってとこやろうか……。けど、こんなものなら!」

 

 ジークリンデは即座に壁に殲拳を入れ、檻を粉々に破壊した。そして二人が目にした光景は――。

 

「えっ……!?」

 

 自分たちを見下ろす、カラス人間の集団。しかしいつの間にかとんでもなく巨大化している。

 ……いや、そうではない。背景の無限書庫の書架や書物まで巨大化している。これは、向こうが大きくなったのではなくて……。

 

「ウチらが小さくなってもうたの!?」

『その通りだ!』

 

 ジークリンデの絶叫を、他とは違う赤い眼のカラス人間が肯定した。リーダー格のようだ。

 カラス人間のリーダーは、二人を手の平でそれぞれ握り締める。覇王の末裔とチャンピオンといえども、この体格差では抵抗のしようがない。

 

「うあっ……!」

『フハハッ! どんなに力のある奴であろうと、この通り小さくしてしまえばかわいいものよ!』

 

 なす術なく捕らえられたアインハルトたちを手に、カラス人間は勝ち誇って哄笑を上げた。

 

 

 

 未整理区画内を徘徊して獲物を探すカラス人間たちの様子を、小さな人影が物陰に潜みながら観察をしていた。

 黒装束で箒を持ち、頭にちょこんと三角帽子を乗せた、昨今のミッドチルダでは珍しい古典的な『魔女』の格好の、年端もいかない少女だった。

 

「……変な集団がいる」

 

 少女はカラス人間を観察してつぶやいた。彼女の傍らには、顔と羽、尻尾だけのコウモリ型の生物や悪魔型の小動物などのこちらも変な生き物が控えている。

 

「けど、関係ない。私の目的は一つ、『エレミアの手記』。奪って私のものにする。――オリヴィエとエレミア、それからイングヴァルト。あの三人への復讐は、クロゼルグの血脈に課せられた使命」

 

 独りごちた少女は、カラス人間たちの姿が見えなくなってから行動を開始した。

 

 

 

 異星人たちが無限書庫に侵入してきた直後、一人検索を行っていたダイチにエックスが呼びかける。

 

『ダイチ! 妙な気配が複数出現したのを感知した! どうやら侵入者のようだ!』

「えっ!? スバル! ノーヴェ! 八神司令!」

 

 ダイチは反射的にスバルたちに連絡を入れようとしたが、当然こちらからも彼女らとの通信は行えなかった。

 

「駄目か……!」

『敵はかなりの集団だぞ。気をつけろ、ダイチ!』

「ああ……! みんな、無事でいてくれよ……!」

 

 ダイチはジオブラスターを抜き、単独で少女たちを救助しようと飛んでいく。

 が、すぐに彼の元にもカラス人間の群れが現れる。

 

「キキィッ!」

「あいつらは! 奴らが侵入者か!」

『奴らは悪名高いレイビーク星人!』

 

 すぐに正体を看破したエックスが、ダイチに警告する。

 

『奴らの撃つ光線には当たるな! 生物の身体を豆粒のように小さくして無力化する縮小光線だ!』

「何だって!? そんな恐ろしいものを……!」

 

 レイビーク星人の集団が一斉にダイチに光線を撃ってくる。ダイチは横に飛びながらブラスターで反撃するが、多勢に無勢。それにダイチの飛行スピードでは、空中戦は土台無理だ。

 

「くっ、やられるのは時間の問題だ……。こうなったら、エックス!」

『ああ! ユナイトだ、ダイチ!』

 

 ブラスターからエクスデバイザーに持ち替えたダイチが、即座に上部スイッチを押した。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

 

 エックスのスパークドールズをリードして、デバイザーから溢れ出た光に包まれるダイチ。その身体が、エックスのものに変化する。

 

「トワッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 光の粒子が四散し、ダイチは等身大のエックスへの変身を遂げた。

 

「キキィッ!?」

 

 これを見たレイビーク星人たちは一瞬動揺したが、瞬時に正気に返ってエックスに銃口を向ける。

 

「シェアァッ!」

 

 押し寄せてくる縮小光線を、エックスは前に飛び出すことで全て回避。ダイチの時とは比べものにならない飛行速度で、レイビーク星人たちに突撃していく。

 無限書庫で幕が切って落とされた、エックスと異星人の軍団との魔法少女たちを懸けた勝負。果たしてエックスは、縮小させられて囚われた彼女らを無事に救出することが出来るか。

 



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魔法少女採集(B)

 

「くっそー……ほとんど全員捕まっちまったのか……」

 

 レイビーク星人やダダの光線によって縮小化され、半透明のベルトで拘束された状態で箱の中に閉じ込められた魔法少女たち。悪態を吐いたハリーは、首を横に向ける。

 

「おい、ヘンテコお嬢様。人のことを粗野だの短慮だの言ってくれたが、あんたも捕まってんじゃねーか」

「うるさいですわよ、ポンコツ不良娘」

 

 ヴィクトーリアとコロナもまた、同じように磔にされて捕まっていた。

 

「わたくしたちは、大量の使い魔に囲まれて身動きが取れなくなり、仕方なく応戦しているところを背後から撃たれてしまいましたの。あの状況ではどうしようもありませんでしたわ」

「使い魔? ってことは異星人ども、どっかの魔導師と組んでるってのか?」

「いえ、仲間という様子ではありませんでしたが……。お互い牽制し合ってましたし」

 

 ハリーとヴィクトーリアとは別に、リオ、コロナ、アインハルトが話し合う。

 

「あたしたちの中でまだ捕まってないのは、ヴィヴィオとミウラさんだけか……。二人は無事だといいんだけど……」

「ノーヴェさんたちは、この事態に気づいてくれてるかな……」

「ダイチさんも無事でしょうか……。まさかあんなにも大勢の敵が侵入してくるなんて……」

 

 それぞれが危惧していると、箱の蓋のガラス窓から、レイビーク星人のボスが魔法少女たちの様子を見下ろしてきた。

 

『ククク、ご機嫌は如何かな? かわいらしいお嬢さんたち』

「いいわけあるかっ! オレたちを解放しやがれ! さもなきゃただじゃ済まさねーぞ!」

 

 吠えるハリーだが、ボスは嘲笑を返すだけだった。

 

『ハッハッハッ! 格闘大会では上位選手でも、今のお前たちは人形と同じなのだ! 強がったところで無駄だ』

「ちっくしょう……!」

 

 悔しさを噛み締めるハリーの隣で、エルスがボスに問いかける。

 

「私たちをこんな姿にして捕まえて、どうするつもりですか!」

 

 それにボスは、次の通り答える。

 

『我々は人身売買を専門としているグループだ! お前たちのように外見が良く、なおかつ腕っ節も強い少女というのは高く売れる。しかも集団! これは相当な金になると、お前たちを捕らえるチャンスをずっと狙っていたのだ。この閉鎖された空間はまさに捕獲に打ってつけ。この機を逃す手はないと、行動に移したという訳だ』

「じゃあ、ウチらをどこかよその星に売っ払おうってわけなん!? そんなぁ!」

 

 ジークリンデが悲痛な声を出したが、ボスは当然ながら同情などしない。

 

『嫌がったところでもう遅い! 残り二人も捕獲したら、すぐにでも撤退する。それまで、せめて最後の故郷の景色を目に焼きつけてでもおくんだな』

「はてさて、それはどうかな?」

 

 唐突に、ボスの背後から少女の声が発せられた。レイビーク星人たちは一斉に振り返る。

 

『ぬッ!? 貴様は!』

 

 そこに現れていたのは、セイクリッド・ハートとアスティオンを連れたルーテシアだった。

 

「わたしもインターミドルの選手だけど、本業は時空管理局嘱託魔導師のルーテシア・アルピーノ! あなたたちは未成年者略取の現行犯だねー。とりあえず、その子たちはこっちに返してもらうよ」

『ちッ、お前のような奴が紛れ込んでいたとは』

 

 舌打ちするボスだが、特に動じた様子はなく部下たちに手振りで指示を出す。

 

『だが一人で何が出来るものか! 貴様も我々の商品の一つにしてくれるわ!』

 

 多数の縮小光線銃を向けられるルーテシアだが、こちらも動揺を見せない。

 

「やれやれ。素直に言うこと聞くくらいなら、初めからこんなことしないか」

 

 ぼやきながら、セイクリッド・ハートとアスティオンを自分から離れさせる。

 

「クリスはヴィヴィオのところに行ってあげて! ティオはわたしがご主人様を取り返すまで、安全なところまで下がってね」

「にゃっ!」

 

 レイビーク星人たちが一斉に光線を撃ってきた! ――が、ルーテシアは軌道だけを残すほどの超スピードで難なく光線から逃れた。

 

『何だと!?』

「相手を小さくして無力化……食らえば確かに恐ろしいけど、時代はスピードなんだよね」

 

 瞬く間にレイビーク星人たちとの距離を詰めたルーテシアは、魔力弾の攻撃で片っ端から敵を吹き飛ばしていく。

 

「キキキィィッ!!」

「このまま全員無力化させてもらうよ」

 

 ルーテシアの動きにまるでついていけず、次々薙ぎ払われるレイビーク星人。それを見て舌打ちするボス。

 

『なるほど、流石にやるものだ。――が、こちらとて想定外の事態の用意がない訳ではないぞ! 出番だ、ケムール人ッ!』

 

 ボスが呼び声を発すると、この場に新たな怪人が出現してルーテシアの前に立ちはだかった。頭頂部にチョウチンアンコウのものに似た触角を生やした、三つの眼球が円筒状の頭部に歪な位置についている異様な外見だ。

 

「フォフォフォフォッフォッフォーッフォ――ッフォ―――ッ!」

「っ!」

『スピードならばこいつも負けていないぞ! やれ、ケムール人!』

 

 虚空を走り出すケムール人。ゆっくり足を動かしているように見えるのに、不思議なことにルーテシアの速度にぴったりとついてくる! ルーテシアが射撃魔法を放っても、レイビーク星人と違って回避する。

 

「速い……! こんな奴もいたなんて!」

「フォフォフォフォッフォッフォーッフォ――ッフォ―――ッ!」

 

 ルーテシアを追いかけながら、ケムール人は触覚からドバァッ! と液体を放出した。

 飛び散った液体の飛沫に、ルーテシアの肘が当たってしまう。

 

「あっ……!」

 

 その瞬間に、ルーテシアは声もなく消失してしまった! 目を見張る魔法少女たち。

 

『ハハハハハ! ケムール人の消去エネルギー源は相変わらず恐ろしい威力だな。触れただけでアウトなのだからな』

「そ、そんな……ルーちゃんまで……」

 

 助けの手が消されてしまい、コロナたちは絶望感を覚える。

 一方で気を良くしたボスは、箱をケムール人に託してこの場から離れていく。

 

『私は残りの二人を探して捕らえてくる。お前はそれまでそいつらの見張りをしていろ。邪魔立てする奴は誰であろうと消してしまえ! さっきの小娘のようにな!』

「フォフォフォフォッフォッフォーッフォ――ッフォ―――ッ!」

 

 引き受けたとばかりにドンと胸を叩くケムール人を残して、ボスは光線銃を抱えてこの場から立ち去っていった。

 

「にゃっ……!」

 

 この一部始終を見ていたアスティオンは、こっそりどこかへと姿をくらましていた。

 

 

 

「シェアァァッ!」

 

 ダイチから変身したエックスは、無重力空間の中を自在に飛行してレイビーク星人を翻弄。元々飛行能力のないレイビーク星人はエックスの動きに対応できず、狼狽えるばかり。

 

「デアァーッ!」

 

 エックスは突進しながら突き出した拳でレイビーク星人を一挙に殴り飛ばした。

 

「キキィ――――――ッ!!」

『よし、ここの敵は倒したな』

『「エックス、急ごう! 子供たちのみんなが今どうなってるのか、心配だ。早くしないと手遅れになるかもしれない!」』

『うむ、心得た!』

 

 魔法少女たちの行方を捜すべく飛んでいくエックスだが、その行く手に次々とレイビーク星人たちが現れ立ちはだかる。

 

「キキキィッ!」

『何が何でも私たちを行かせまいというつもりのようだな。いちいち相手にしていたら、エネルギーが持たないぞ』

『「ああ。ここはパワーで一気に突破だ!」』

 

 ダイチはデバイザーにデバイスゴモラのカードをセット。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 モンスジャケットを装着し、ウィングロードをレイビーク星人の向こう側まで一気に伸ばす。そしてその上を走っていき、

 

「シャアァ―――――――ッ!」

 

 レイビーク星人たちをボウリングよろしくはね飛ばした。

 敵の陣を突破し、先に進むエックス。だがその前に、これまでとは様子の異なる者が現れる。

 

『む?』

 

 ふと顔を上げた先に、箒に乗った『魔女』の格好の小さな少女がいるのだ。向こうもまた、こちらをじっと見つめ返している。

 

『「あの子は確か、インターミドル選手のファビア・クロゼルグ。どうしてこんなところに?」』

 

 ダイチがつぶやいた時、ファビア・クロゼルグはエックスの視線を敵意と見て取ったか、口を開いて言った。

 

「ウルトラマン……何者であろうと、私の邪魔はさせない」

 

 差し出した手の平の上には、コウモリ型の使い魔。その瞳がエックスを凝視する。

 

「ウルトラマンエックス――これを見て」

「?」

『「! 駄目だエックス!」』

 

 ダイチが警告したが、遅かった。使い魔は突然巨大化し、大口を開いてエックスを呑み込もうと飛びかかってくる!

 

「フッ!」

 

 ――が、エックスはクローで使い魔の口を受け止めた。

 

「!?」

「デェェェェェイッ!」

 

 そのまま捕らえ返した使い魔を振り回し、壁に叩きつけた。使い魔はショックで目を回し、元の大きさに戻っていく。

 エックスはファビアに視線を戻す。ファビアは一瞬ビクリと震えたが、術が通用しなかったことで分が悪いと見たか、あっという間に横道にそれて飛び去っていく。その後を使い魔が追いかけていった。

 逃走しながら彼女は、こうつぶやいた。

 

「……ウルトラマンエックスが名前じゃないの?」

 

 一方、ダイチはエックスの中で安堵の息を吐く。

 

『「危なかった……。さっきのは相手の真名を呼んで術をかける、古典魔術の一種だよ。嵌まってたらどうなってたことか」』

『そうだったか……。ウルトラマンエックスは私の本名ではないから、術が通らなかったのだな』

 

 ファビアのことは気がかりではあるが、今は子供たちの安全の確認が急務だ。エックスはファビアとは別方向にウィングロードを伸ばし、走っていく。

 

『「……そういえば、エックスの本名は何て言うの?」』

『教えてもいいが、ミッド人には発音できないぞ』

 

 走行しながら、ダイチとエックスはそう言葉を交わした。

 

 

 

(♪Theme of GUTS(M-23))

 

「たぁぁぁっ!」

「おりゃあっ!」

「キキキィ―――――ッ!!」

 

 エックスとは別の場所では、スバルとノーヴェの姉妹コンビがレイビーク星人の軍団を相手に大立ち回りを演じていた。入り口の隔絶を力ずくで突破してから、機動力に優れる二人がはやてから先行して迷宮内を突き進み、子供たちを捜索しながら異星人たちと戦っているのだ。

 ウィングロードとエアライナーで宙を自在に駆け回り、ぴったりと息の合った連携で一分の隙も見せない二人の連撃を前に、所詮雑兵のレイビーク星人たちは相手にならず、次々吹っ飛ばされていく。

 

「ダ―――ダ―――!」

 

 そこに現れたのは神出鬼没のダダ。出現してすぐにノーヴェに向けて縮小光線を発射する。

 

「ノーヴェっ!」

 

 背を向けているノーヴェに代わり、スバルが回り込んで障壁を展開。光線はそれに阻まれて二人まで届かない。

 

「ダダッ!?」

 

 驚くダダ。スバルたちは敵が特殊な光線を使用していることを悟ると、こちらも特殊カートリッジを使用したのだ。

 ラボチーム謹製の、あらゆる波長の光線を通さない特製プロテクション・カートリッジ。如何なる効果があろうとも破壊力のない光線では、これの前に全て封殺される。

 

「ダ―――ダ―――――!」

 

 正面からでは攻撃が通用しないと見て取ったダダは、テレポートと顔面の取り換えを駆使して撹乱を図る。

 

「三人いる!?」

「いや、よく見ろ。この状況で三人同時に現れない理由がねぇ! 顔を変えてるだけのまやかしだ!」

 

 しかし鋭い洞察眼を見せたノーヴェにタネを見破られてしまった。落ち着きを取り戻した二人は、テレポートした直後を狙ってすかさず回し飛び膝蹴りを仕掛ける!

 

「ダブル・リボルバースパイクっ!」

「ダダァ――――――ッ!!」

 

 二人の膝が顔にめり込んだダダは、迷宮の奥深くまで綺麗に吹っ飛んでいった。

 ダダとレイビーク星人を退けたスバルたちは、そのまま先へと突き進んでいった。

 

 

 

 並み居る敵を蹴散らしながら、エックスはとうとう魔法少女たちが閉じ込められている箱のある部屋にまでたどり着いた。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

「シェアァッ!」

 

 ジャケットを取り替えたエックスが、箱を見張るケムール人へと颯爽と飛びかかっていく。

 

「フォフォフォフォッフォッフォーッフォ――ッフォ―――ッ!」

 

 だがケムール人は高速移動でエックスの飛びかかりをかわし、消去エネルギー源を発して反撃。エックスまで消されてしまう!

 しかし、液体を浴びたエックスの姿がかき消えた。幻影だったのだ。

 

「フォオッ!?」

 

 ケムール人が動揺したところに、本体のエックスが飛び出してきて銃口を向ける。

 

『「ヴァリアブル電撃波!」』

「シェエアァッ!」

 

 二丁拳銃からうなる電撃波がケムール人に直撃した!

 

「フォ―――――――――――――ッ!!」

 

 感電したケムール人はポーンッ! とロケットのようにぶっ飛んでいった。

 

「にゃっ!」

 

 エックスの肩に乗っているアスティオンがひと声鳴いた。アスティオンはエックスをここへ導くとともに、ケムール人の情報を事前に伝えていたのだ。

 ケムール人がどこかへ消えるとともに、ルーテシアが虚空から放り出されて帰ってくる。

 

「あたっ! ここは元の場所……?」

 

 頭を振りながら身体を起こすルーテシアは、ジャケットを解除して箱を抱え上げたエックスの姿を目にしてギョッと驚く。

 

「ウルトラマンエックス! えっ!? その大きさは……!?」

 

 エックスは何も答えず、箱を持って無限書庫の入り口へと向かう。ルーテシアは慌ててその背中を追いかけていった。

 

 

 

 辺りを索敵しながらも、迅速に先へ進んでいくスバルとノーヴェ。と、いきなりスバルが停止してつぶやいた。

 

「……ウルトラマンエックスだ……」

「へっ!?」

 

 ノーヴェ、咄嗟に上を見上げたが、そこにあるのは天井ばかり。

 視線を前に戻すと――その先から、箱を抱えたエックスがアスティオン、ルーテシアを連れてこちらへと飛んでくるところだった。

 ノーヴェは思わず自分の目をこすった。スバルもぽかんと呆けている。

 

「フッ!」

 

 エックスはやはり何も答えず、スバルに箱とアスティオンを託した。反射的に受け取るスバル。

 

「あ、ありがとう、エックス……」

「お、お嬢……これどういうこと?」

「さぁ、私にもよくわかんない……」

 

 呆気にとられている三人だが、エックスが顎をしゃくってここを離れるようジェスチャーすると、我に返って少女たちを入り口まで運んでいく。

 

『むっ!』

 

 スバルたちを逃がしてから、エックスは背後に気配を感じて振り向く。そこに現れたのは、レイビーク星人のボス。

 

『貴様、余計なことをぉ……!』

 

 ヴィヴィオとミウラを捕らえに行ったボスだが、異常を察知して舞い戻ってきたのだ。

 魔法少女たちを取り返されて怒り心頭のボスは、光線銃を早撃ちしてエックスに浴びせかける。

 

「ウッ!?」

 

 途端に縮小されたエックスは、銃の内部へと吸い込まれてしまった!

 

「ムッ! トワァァァッ!」

 

 だがウルトラマンは伸縮自在なのだ。エックスが力を込めて右腕を振り上げると、急激に巨大化して銃を内側から破壊! 元の大きさまで戻る。

 

『ぎゃああッ! おのれぇぇぇぇッ!』

 

 光線銃を失ったボスはますます激昂して、エックスに殴りかかってくる。

 

「テヤァッ!」

 

 立ち向かうエックスだが、流石はボスだけあって一兵士とは異なり、格闘技能はなかなかのもの。エックスと互角の勝負を見せ、エックスを手の平で突き飛ばす。

 

『カァァァッ!』

 

 更にボスは赤い両眼から針状の光線を放ってきた! エックスは前転して回避するが、執拗に狙ってくる。

 この時、ダイチはデバイスベムスターのカードをセットする。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

[ベムラーダ、セットアップ]

 

 相手が光線を撃ってきた瞬間、エックスは槍の盾でそれを受け止めて吸収。穂先をボスに向けて光線を撃ち返した。

 

「イィッ! シャア―――――!」

『ぐぎゃああああッ! くそ、覚えてろよぉッ!』

 

 自分の光線を食らったボスは、最早ここまでと見たか、テレポート装置でこの場から離脱した。

 それを見たダイチ、ジャケットを取り替える。

 

『ピポポポポポ……』

[ゼットンケイオン、セットアップ]

 

 

 

 巻き返すのは不可能と判断したレイビーク星人のボスは逃走を図っていた。ドーム型の円盤に乗り込むと、部下たちを見捨てて自分だけで無限書庫、管理局本部から脱出する。

 円盤は次元の間の超空間を、全速力で飛んで逃げていく。その中でボスが吠える。

 

『このままでは済まさんぞ! 戦力を整えたらまた戻ってきて、今度こそ娘どもを手に入れてやるッ!』

 

 ボスはまだ諦めておらず、エックスたちに復讐するつもりであった。

 だが――その時に円盤自体を大きな揺れが襲う。

 

『な、何ぃッ!?』

 

 モニターを見れば、円盤の上に巨大化したエックスが仁王立ちしている。

 

『何だとぉぉぉぉぉ――――――――――!?』

 

 このまま魔法少女拉致を狙うグループの主犯を逃してはならない。エックスはゼットンケイオンのテレポート能力で円盤に追いついてきたのだ。

 

「シェアアァァァァ―――――ッ!!」

 

 エックスは円盤に貫手を突き刺し、装甲を突き破った!

 その一撃により、円盤は爆散!

 

『ギィィィヤアアアアァァァァァァァァァ―――――――――――――――ッッ!!!』

 

 レイビーク星人のボスの絶叫が超空間にこだました。

 

 

 

 ウルトラマンエックスの大活躍により、魔法少女誘拐は未然に防がれた。レイビーク星人はボスから手下に至るまで一網打尽にされたが、ダダとケムール人は恐ろしい逃げ足の速さを見せ、追跡をまいてしまった。もっとも、主犯を捕らえた以上はもうヴィヴィオたちを狙うことはあるまい。

 異星人たちの犯行が、古代ベルカ王族の血脈が目的化と一時は疑われたが、レイビーク星人はそのことに関して何も存じていなかった。ただ、インターミドルの選手だからというだけで付け狙っていたようだ。これでヴィヴィオらの出生が異星人に広まっていないことが明らかとなり、スバルたちはほっと胸を撫で下ろした。

 もう一つ、ファビアの方はエックスが戦っている間に、ヴィヴィオを中心として解決がされていた。彼女もまた古代ベルカ王族の関係者の子孫であり、先祖の復讐を図ってヴィヴィオたちを狙ったということなのだが、そのことについては色々と錯綜しているものがあるようで、根本的な解決には諸王時代の真実が必要となるようであった。

 その真実を紐解くガギ、ではなく鍵となる『エレミアの手記』なのだが――。

 

「じゃーん! 多分これが、お探しの『エレミアの手記』だと思いますっ!」

 

 何とリオが発見していた。事件がひと段落を見せた頃合いに、偶然見つけたのだという。

 何はともあれ早速手記を読み出すヴィヴィオたち。その様子を、異星人犯罪者たちの連行のために場を離れるノーヴェが一瞥し、一瞬顔をしかめた。

 

「ん? ノーヴェ、どうかしたの?」

 

 それに気がついたスバルとダイチが振り返る。

 

「いや……ちょっと、アインハルトのことが気がかりでさ」

 

 ノーヴェの視線はアインハルトに注がれていた。

 

「あいつ、ジークリンデとの試合で、過去にこだわるあまりに突っ走っちまったことを気に病んでるんだよ。別に何も悪いことじゃねぇけど、あいつああいう性格だからな……。根を詰めて、ヴィヴィオたちから距離を取ろうとすんじゃないかって心配なんだ」

 

 アインハルトのことを案じて目を伏せるノーヴェに、ダイチは告げた。

 

「――多分、大丈夫だと思うよ。何たって、ヴィヴィオちゃんたちがいるんだから」

「ダイチ?」

「ヴィヴィオちゃんたちは優しくて、仲間想いで、何より強い子たちだ。アインハルトちゃんだって同じ。だからどんな経緯があったとしても、ヴィヴィオちゃんたちが歩み寄った時にはその想いに応えてくれるはず。俺たちはそれを信じて、見守ってるだけで十分さ」

 

 ダイチの言にスバルがうなずく。

 

「そうそう。ノーヴェはあの子たちの指導者でしょ? ノーヴェが育てた子たちは、とっても立派な子たちだよ。だから他ならぬノーヴェが、あの子たちのことを誰よりも信じてあげなよ」

 

 二人の言葉で、ノーヴェの表情が明るいものとなる。

 

「――そうだよな。あたしが信じないで、誰が信じるってんだ。……ありがとな、ダイチ、スバル」

「ふふっ、お構いなく」

 

 ノーヴェや、手記に熱心なヴィヴィオたちをながめ、ダイチたちは微笑えんだ。

 

 

 

 ……管理局の手から逃れたダダとケムール人は、ある暗闇に覆われた空間にいた。

 

『お馬鹿たちッ! このババルウ様のお断りもなしに、勝手に別のグループに協力するなど勝手が過ぎるねぇ! 二度とこんな真似しないよう、しっかり反省なさいッ!』

 

 二人を叱っているのは、ギラギラと光る悪趣味なスーツを纏ったケムール人似の一つ目の怪人。その名はゼットン星人。あのゼットンの出生地の民族である。

 ゼットン星人が「ババルウ様」と呼んだのは、鬼のような二本角を生やした鈍い金色の怪人。そのままババルウ星人だ。

 

『ああ、全く! 俺たちの本来の目的を忘れて小遣い稼ぎとは、いい身分じゃねぇか! 今度やったら、ただじゃあ済まさないからな!』

 

 散々怒られて、ダダとケムール人はしょんぼりと肩を落とした。

 説教をしているババルウ星人の後ろでは、燕尾服にシルクハットの男が幾枚の写真を手にながめている。それは――ヴィヴィオやアインハルトの写真であった。

 

「この娘たちが、レイビーク星人の狙っていた標的ですか。確かヤプールの配下も目をつけてましたね。ふむ……」

 

 何やら考え込んで顎を撫でる黒ずくめの男に、ババルウ星人が振り返る。

 

『おい、さっきから何やってるんだ?』

「いえ、レイビーク星人の標的ですが、この娘たちは――」

 

 言いかけたところで、黒ずくめの男は思い直し、写真を収めて隠した。

 

「いえ、何でもありません。こちらの私事です」

『何だぁ? おかしな奴だな。まぁそんなことより、例の奴の居場所は特定できたか?』

 

 ババルウ星人の問いかけに、黒い男はこう答える。

 

「詳細なところまではまだ。しかし、この星に逃げ込んだことだけは確実ですよ」

 

 それを聞いたババルウ星人は上機嫌に肩を揺する。

 

『そうかそうか! 今度こそ奴を捕まえてやるぞ! 何せ、あれはこの星のチンケな人間なんかよりもずっと価値があるからなぁ! 必ず俺たちのものにしてやる! サメクジラッ!!』

 

 豪語して高笑いするババルウ星人の背中に、黒い男は冷笑を向けた。

 

「ふふ……果たしてそうですかねぇ……」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はスラン星人だ!」

ダイチ「スラン星人は『ウルトラマンマックス』第四話「無限の侵略者」に登場した、マックス初の宇宙人! 環境破壊を口実に、地球を侵略しようと狙ったんだ!」

エックス『一番の特徴は高速移動能力。残像が分身として残るほどで、マックスもてこずらされたぞ』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではマックスへの復讐のために、ゼットンを引き連れて暗躍を進めた。その罠にエックスも一時は陥ってしまったんだ!」

エックス『この時は事前情報なしのサプライズ出演だった。正体を現す段階で驚いた人も多いだろう』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 素性を隠し、ミッドで暮らしていた三人の宇宙人。バルキー、イカルス、ナックル。彼らの下に悪の集団、暗黒星団が迫り来る。お互いの意地とプライドを懸けて、勝負するその方法は……えっ? ラグビー!? 次回、『われら星雲!』。


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われら星雲!(A)

 

「ファントン光子砲、発射!」

「トラァーイっ!!」

「……諸君の使命は、この次元世界を守ること」

「君は信じることの難しさを知ったはずだ。しかしどんな時でも、誰かを信じる気持ちを持ち続けてほしい。信じ貫く気持ちこそが本当の力になってくれる」

「我々個人がどんなに鍛え、強くなろうが……チームワークに勝る力はない」

「今こそ力を合わせる時だ!」

「ワン・フォー・オール!!」

「オール・フォー・ワン!!」

「Xio、出動!」

 

 

 

『われら星雲!』

 

 

 

 スタジアムに、ホイッスルの音が鳴り渡った。

 両チームの選手が組んでいるスクラムの下からラグビーボールが取り出され、パスが回される。ボールを取ったのは白いユニフォームの方のチーム。

 今日は大学ラグビーの大会の予選、その試合の日だ。

 

「うおおーっ!」

「行け、行け、行けっ!」

「そこだそこっ! 走れぇーっ!」

 

 観客席からは、試合の観戦に集った来客からの、それぞれのチームへの応援の声が飛ぶ。その中にはワタルの姿もあった。

 ワタルだけではない。ダイチとスバルも、休暇を利用して観客席にいる。

 

「誰がワタルさんの弟さん?」

「10番の選手がそうだよ」

 

 スバルの質問に答えるダイチ。現在ボールを抱えている10番の選手の名は、イサム・カザマ。ワタルの弟である。兄の背中を追いかけて、大学のラグビー部に入ったのだ。

 イサムはボールを抱えたままダッシュ。相手の選手を次々抜いていき、ゴール領域へのトライに成功した。

 

「よぉーしっ!」

 

 イサムが得点を入れたことで沸き立つワタルたち。その後もボールをキックしてゴールに蹴り入れたりなどの活躍を見せる。

 しかし相手チームの実力も高く、試合は拮抗。終了直前にイサムはボールを持って敵ゴールへと駆けていくが、その前から三人の屈強な相手選手たちが迫ってくる。

 それを見たイサム、思わず怖気づいてしまい、咄嗟に横へパスを流した。が、このパスは失敗。ボールを相手チームに奪われ、そのままトライを決め返されてしまったのだ。

 

「トライ!」

 

 これが決め手となり、イサムのチームは敗北したのであった。

 

「あぁ……」

 

 落胆するワタルたち。だが、最も落ち込んでいるのは失態を犯したイサム自身。彼はその場に膝と手を突き、力なくうなだれたのだった。

 

 

 

 試合後、イサムは普段着の格好で町中をトボトボとあてもなく歩いていた。と、そこに、フードで顔を隠してジョギングをしている少女がイサムとすれ違う。

 すると彼女は振り返り、フードを外してイサムへ呼びかけた。

 

「イサ兄ぃ、こんなとこで何してるん?」

「えっ……? ジークちゃん!?」

 

 イサムの名を呼んだのはジークリンデであった。イサムは彼女と顔を合わせて、驚きを見せる。

 それから二人は道端のベンチに腰を下ろし、言葉を交わす。

 

「久しぶりだね、ジークちゃん。インターミドルは相変わらず好調に勝ち進んでるみたいだね」

「いやいや、それほど好調ってほどでもないよ。イサ兄ぃは大学でラグビー部に入ったんやったっけ」

「そうだったんだけど……今はもう違うんだよ」

 

 と語るイサムの顔に目を向けるジークリンデ。

 

「何かあったん?」

「……俺はジークちゃんとは反対さ。肝心な場面で怖くなって、逃げ出しちまって、そのせいでチームを負けさせちゃったんだよ。こんな情けない俺が、この先ラグビーを続けられるはずがない。だから、ラグビー部はもう辞めたんだよ……」

「そんな……何も辞めんでも。失敗くらい、誰にでもあるやろ」

「いや、駄目なんだよ……。俺はもう、ラグビーできない……。やっぱり、俺は兄貴とは違うんだ……」

 

 イサムの落ち込み具合は半端ではなかった。ジークリンデは自分の手に余ると判断し、困り果てる。

 

「……でも、これから住むところはどうしよう。部活と一緒に大学の寮も飛び出してきちゃったんだけど、他に行くアテがないんだよな。かと言って、実家は大学から遠いし……」

 

 イサムは転居先を見つけられずに途方に暮れていたようだ。するとジークリンデは考えた末に、イサムにこう告げた。

 

「それやったらイサ兄ぃ、ウチが今お世話になってるシェアハウスに来うへん? ちょうど入居者募集中なんよ!」

「えっ? ジークちゃん……今シェアハウスに住んでるの?」

 

 若干驚くイサム。ワタルからの伝聞なので詳しいことは知らないが、知り合った当時のジークリンデは、事情があって人里から離れたところでテント生活をしていたはずだが……。

 しかし、渡りに船とはこのこと。イサムはジークリンデの案内で、そのシェアハウスというところに連れていってもらった。

 見た目はやや古びた平屋で、表札には「星雲荘」とある。その軒先から、団扇を煽っているオネェ風の男性が現れる。

 

「あらぁ~、ジークちゃんお帰りなさぁい。……あら? そちらのお方は?」

「ナクリん! この人はね……」

 

 ジークは男性に、イサムのことを紹介する。

 

 

 

 オネェ風の男性は、ジークリンデと星雲荘で共同生活をしているナクリという者ということだった。ナクリは星雲荘に上げたイサムに、シェアハウスの説明をする。

 

「家賃は一律一万五千! あと、管理費として、五百いただいてま~す! ああこれ、ワタシの宝物。触っちゃダメよ?」

 

 ハンガーに掛けてある種々のドレスやジュリ扇について注意したナクリは、他の住人の紹介を行う。

 庭ではのほほんとした雰囲気の男性が鉢植えの花を手入れしている。

 

「こちら、イカリさーん。近所のコンビニに勤めてるの」

「イカにも、我輩イカリです。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 イサムは礼儀正しく頭を垂れた。

 テレビの前では、茶髪で若干軽い感じの男性が電子ゲームをしている。

 

「こちら、ハルキさん。職人さんなの」

「よろしくお願いします」

 

 イサムはハルキにも挨拶したが、ハルキは彼を叱る。

 

「シャラップ! 今ミッドを攻撃中なんだよ!」

「ああ、気にしないで。ハルキさん、ゲーム中は怒りっぽいんだから。あっ、改めてワタシ、ナクリ。ジークちゃんともども、これからよろしくね!」

「よろしゅうな、イサ兄ぃ!」

「よろしくお願いします」

 

 この三名がジークリンデの同居人、星雲荘の住人なのであった。

 

 

 

 その日の晩、星雲荘ではイサムの歓迎会が行われる。と言ってもまるで華やかなものではなく、酒類やジュース、つまみで乾杯しているだけだ。

 

「ハルキん、ちょい飲みすぎちゃう? お酒はほどほどにせんとあかんでー」

「固いこと言うなよ~。せっかくの歓迎会なんだぜ~?」

「ほれほれキミ、イカを食べなさいイカを」

「ありがとうございます」

 

 何のダジャレか、イカリにイカを勧められるイサムに、ハルキが質問する。

 

「ところでユー、なかなかいい身体してるけど、何かスポーツでもやってたのか?」

「やってたのか?」

 

 それでイサムとジークリンデはドキリとする。

 

「いやいや、僕のことはいいじゃないですか」

 

 はぐらかそうとするイサムだが、ナクリがうなる。

 

「でもあなた、どっかで見たことあるのよね~。ジークちゃんのお友達だし、ストライクアーツの選手だったりして」

「そ、そうではないですけど……」

 

 冷や汗を垂らすイサム。と、ここでジークリンデが助け舟を出した。

 

「あっ、もうこんな遅い時間やな。イサ兄ぃも明日早いやろ? 今日はもう寝た方がええんやない?」

「そ、そうだね。それじゃあ、すいませんがこれで失礼させていただきます」

 

 イサムは少し焦った様子で席を立った。それにジークリンデも続く。

 

「ハルキん、イカリん、ナクリん、おやすみー」

「おやすみなさい」

「おう、グッドナイト!」

「おやすみ~」

「これからよろしくね~」

 

 それぞれの個室へ移っていくジークリンデとイサム。それを見送ったハルキたち……。

 二人が離れたのを確認すると……三人はボフンと白い煙を発し、次の瞬間にはそれぞれ異なる怪人の姿に変わり果てていた!

 

「あー! 疲れたぁ~! 相変わらず、人間の皮を被ってんのはハードだぜぇ~!」

 

 どっとため息を吐いたハルキ――バルキー星人。イカリ――イカルス星人はイサムに関して評する。

 

「新しい住居者が性格良さそうな青年で、良かったじゃなイカ~!」

 

 だがバルキー星人はこう語る。

 

「それより、大丈夫なのかぁ? ミーたちのグレイト! な秘密基地に、人間なんかを二人も住まわせてよぉー!」

 

 バルキー星人の発言にナクリ――ナックル星人が呆れる。

 

「何が秘密基地よ。こうでもしないと、この星雲荘の家賃払えないじゃないの。いつまでもジークちゃんに頼ってる訳にもいかないでしょ?」

「オップス……」

 

 やり込められて息を漏らすバルキー星人。一方、ナックル星人は未だにイサムのことを気にしていた。

 

「それにしても、やっぱりあの子、どっかで見た覚えあるのよね~……。あっ、そうだ!」

 

 何かを思い出して、一冊の雑誌を探し当ててくる。その中の「イケメンラグビー大学生特集」というコーナーのページを開く。

 そこにはイサムの写真が載っていた。

 

「ワオ! こいつで間違いナッシング!」

「ホントじゃなイカぁ! 彼の心境やイカに!」

 

 イサムがラグビー選手だということを知った三人は、それがどうしてジークリンデに連れられて星雲荘に住まうことにしたのかと気に掛けた。

 

 

 

 その頃、Xioにはとある監視カメラの映像が上がってきていた。

 

「湾岸地区の倉庫街、監視映像を拡大したものです」

 

 アルトがモニターに映像を映す。その中には、倉庫から脱け出てくる四人の宇宙人の集団の姿があった。

 四人の内の二名は、ダダとケムール人だ。ノーヴェが指摘する。

 

「こいつら、この前の無限書庫に侵入してきた奴らじゃねぇか!」

「後の二人はババルウ星人とゼットン星人か。厄介な連中だな……」

 

 ハヤトの言葉の後に、グルマンが発言した。

 

「これまで捕まえた犯罪者の供述によると、あのババルウ星人が暗黒星団の創設者だという。それが自ら行動をしているとは、何を企んでいるのやら……」

 

 Xioの面々は今のグルマンの台詞で、ババルウ星人たちの動きに警戒心を抱いた。

 

 

 

 イサムが星雲荘で暮らし始めてから、早くも数日が経過した……。

 

「……おかしい。ジークちゃん以外の、ここの人たち……」

 

 イサムはハルキ、イカリ、ナクリの三人に対して、ある疑念を持つようになっていた。それは……「三人が宇宙人ではないのか?」ということ。

 イサムの事情を知った三人は、ジークリンデと同じように彼を励まし元気づけてくれた。それがいいのだが……度々、彼らの周りで変なことが起こるのだ。イカリの頭にロバみたいな耳が生えていたり、鏡に映るハルキの姿が明らかに人外のものだったり……。

 そして遂にイサムは、決定的な場面を目撃した。庭で鉢植えを囲んでいる三人の様子を密かに監視すると……彼らが真の姿を晒していたのだ!

 

「宇宙人だ……! Xioに連絡しないと……!」

 

 すぐさまイサムはXioに通報しようとした。

 が、空間モニターを開こうとするイサムの手を、ジークリンデが掴んで止めた。

 

「待って、イサ兄ぃ。通報したらあかん」

「ジークちゃん!? どうして……!」

 

 三人の宇宙人に気づかれないよう、小声でジークリンデに問いかける。

 

「ジークちゃんはこのこと知ってたのか? でも、それなら何で彼らをかばうんだ。正体を隠して、ミッドに潜り込んでる宇宙人なのに……」

 

 それにジークリンデは、こう答える。

 

「みんなは悪い宇宙人なんかやないからや」

「えっ?」

「ほら、見て」

 

 ジークリンデが指し示すと、ちょうど道路を見ていたバルキー星人がイカルス星人、ナックル星人に呼びかけた。

 

「おいぃー! 財布が、落ちてるぞー!」

「えぇー!?」

 

 三人は人間に化け直して、大急ぎで道路へ走っていき、財布を拾い上げた。

 

「じ、十万もあるじゃないかぁー!」

 

 興奮する三人。そのまま横領するかと思われたが……。

 警防官が通りがかると、彼らは財布を差し出したのだ。

 

「お巡りさん、待って! ……財布が落ちてます」

「あっ、ご協力感謝します」

 

 この一部始終を見ていたジークリンデは、イサムに語りかける。

 

「ウチも初めは驚いたけど、すぐにみんながええ人たちで、悪いことする気なんかこれっぽっちもないってわかったんや。イサ兄ぃ、このウチに免じて、みんなのことを見逃してあげて」

 

 頼まれたイサムは、一旦手元に目を落としたが……。

 

 

 

 その後、星雲荘の五人は机を囲んで温泉まんじゅうに舌鼓を打っていた。

 

「あーあ。あのマネーがあれば、来月の家賃も大丈夫だったのにな!」

「でも、落とした人も喜んでいたし、お礼のおまんじゅうも美味しいし、まぁいいんじゃなイカ?」

 

 まんじゅうをぱくつきながら、ハルキ、イカリ、ナクリが話す。

 

「ワタシ、温泉町で働こっかなぁ」

「ここを出てくってのか!?」

「えー!? ナクリんがどっか行っちゃうのは嫌やでー!」

 

 ジークリンデも、彼らが宇宙人と知ってなお自然に話に混ざる。

 

「しかし、俺たちいつになったら、安心してここで暮らせるんだろうなぁ~」

「何や、そんなこと。お財布のことと言い、家賃ならいつでもウチが何とかしてあげるのに」

「そういう訳にはいかないわよ~。大の大人が三人して、女の子のお世話になりっぱなしだなんて体裁悪いわぁ」

「甘えてばかりなのもイカがなものか」

 

 そう話していたら……唐突に外からまばゆい光が差し込んできた。

 

「あ?」

 

 ハルキが開け放している窓から外を覗き見たところ……。

 ドカ―――――ンッ! と轟音を立てて何かが星雲荘に飛び込んできた。

 

 

 

 Xioベースのレーダーが、その落下物を捕捉した。

 

「エリアT-7に、隕石らしきものが落下!」

「ワタルとスバル、ダイチは至急調査に向かってくれ」

「了解!」

 

 クロノの指令で、三名が席を立った。

 

 

 

 星雲荘の居間は、落下物によりもうもうと土煙が立ち込めていた。

 

「イサ兄ぃ、大丈夫やった?」

「あ、ああ、ありがとう……」

 

 イサムは咄嗟にジークリンデがかばったことで何ともなかった。

 

「けれど、今のは一体何が……」

 

 土煙が収まると、視界がはっきりとしてくる。居間は滅茶苦茶となっており、宇宙人たちはショックで変身が解けている。そして、落下物の正体は……。

 

「キイィィーッ!」

 

 50cmほどの、水色の足が生えた魚のような生物。鼻先は角になっている。

 これを目にしたバルキー星人が叫ぶ。

 

「ジョリー……? ジョリーじゃないかぁーっ!」

「ジョリー?」

 

 聞き返すイカルス星人とナックル星人。

 

「ミーがバルキー星に残してきた、ペットのサメクジラだよぉー! まさかお前、ミーを慕ってこんな遠い星までぇ!」

「げげっ!?」

 

 バルキー星人は感激してサメクジラのジョリーに頬ずりするが、イサムとジークリンデに見られていることに気がついたイカルス星人が二人に呼びかける。

 

「あ、あのみんな。ところで我輩たち、人間に化けないとイカんのではなイカ……?」

「……オーマイゴーッド!」

 

 思わず立ち上がった三人は、ごまかしようがないと思ったのか、イサムたちに素直に謝罪する。

 

「黙ってて、ごめんなさーい……」「ごめんなさーい」「ソーリー……」

「ワタシたち……宇宙人なの」「なの」「イエス……」

 

 ばつが悪そうな三人に、イサムが告げる。

 

「知ってましたよ……」

「……ホントに?」

「うん。というか、あれで隠し通せてると思ってた方がむしろ驚きや」

「ええっ、そうなのぉ!?」

 

 ショックを受けるイカルス星人。一方でバルキー星人は、開き直ったかのように言った。

 

「ばれちまったら仕方ねぇ……ずらかるぞぉ!」

「あっ、ちょっと!」

 

 脱兎の如く星雲荘を飛び出していく宇宙人たち。イサムとジークリンデは、慌ててその後を追いかけていった。

 

 

 

 高架下まで走って逃げてきた星雲荘の宇宙人たちだが、そこに駆けつけたワタルら三人が立ちはだかった。

 

「動くなぁっ!」

 

 ワタルにジオブラスターを突きつけられて、宇宙人たちはピタリと立ち止まる。

 

「ああ~……」

「何をするつもりだ」

 

 ワタルとスバル、ダイチは宇宙人を確保しようと身構えるが、そこにイサムとジークリンデが追いついた。

 

「待ってくれ、兄貴!」

「ダイチさんとスバルさんも待って!」

「イサム!」

「ジークリンデちゃんまで!? 何でこんなところに……」

 

 この二人が宇宙人をかばうので、ワタルたちは思い切り面食らった。

 

「あなた、Xio隊員の弟だったの?」

「イサム! ジーク! 異星人から離れろ!」

 

 ワタルはイサムたちをどかそうとするも、二人は従わない。

 

「この人たちは悪い宇宙人じゃないんだ!」

「ウチも保証するで!」

「どうしてそんなことがわかるんだ!」

 

 ワタルの問い詰めに答えるイサム。

 

「一緒に暮らしてて、わかったんだよ!」「そうだよ」

「はっ!? 一緒に、暮らしてたぁ!?」

 

 ナックル星人が弁解する。

 

「ワタシたち、侵略なんてしないわ! このミッドで、地味に暮らしたいだけなの」「なの!」

「……ダイチ、どうしよう……?」

「うぅん……」

 

 処断に迷うスバルとダイチ。だが、しかし……。

 突然側からスパークが発生し、煙とともに近くの滑り台に新たな宇宙人の集団が出現した! ゼットン星人だけひどく咳き込んだが、ハッと気づいて格好つける。

 

「あっ! あいつらは、監視映像の……!」

 

 ババルウ星人、ゼットン星人、ダダ、ケムール人。更に十一人のレイビーク星人が控えて光線銃を構えているので、スバルたちも容易に手が出せない。

 集団のリーダー格であるババルウ星人が、バルキー星人――正確にはその腕の中のジョリーを指差した。

 

『やっと見つけたぞ、サメクジラぁッ!』

「サメクジラ?」

 

 ダイチたちもジョリーに視線を向けた。ババルウ星人はサメクジラについて語る。

 

『そいつは宇宙でも指折りの怪獣兵器。大きく育てば、欲しがる奴はいくらでもいるッ!』

『さっさと僕たちに、渡してもらおう』

 

 一方的な要求を突きつけるゼットン星人。当然ながら、バルキー星人が聞き入れるはずがない。

 

「渡すかぁっ!」

「い、異星人ども! ミッドで勝手な真似は、許さん!」

 

 ワタルはどっちに銃口を向けたらいいものかとすっかり迷っている。

 ババルウ星人はワタルに構わず、バルキー星人に問いかける。

 

『面白い! 勝負する気かぁ? 武器を選ぶがいい。光線技か? 素手で来るか!? この数相手にやってみるかぁ!?』

 

 数の差にたじろいだバルキー星人は、ふとイサムを一瞥すると、何を思ったかこんなことを言い放った。

 

「じ、じゃあ……ラグビーで勝負だぁ!」

「はっ!?」

 

 唖然とするイサム。

 

『ラグビー……? お馬鹿ッ!』

 

 当然受け入れられない……かと思いきや、ゼットン星人がババルウ星人を指して意外なことを言う。

 

『この方を誰だと思っている! 宇宙ラグビーリーグ連続優勝、暗黒星雲伝説の八番、ババルウ様だぁーッ!!』

 

 ダダの手の平の上に、トロフィーを掲げたババルウ星人の立体映像が現れた。

 スバルたちはこれに唖然。

 

「う、宇宙にラグビーってあるの……?」

「さ、さぁ……」

 

 一方の星雲荘組は、まさかの展開に激しく動揺していた。

 

「ま、マジかぁ……」

「イカんぞこりゃ」

 

 するとナックル星人がイサムを引き寄せながら言い返した。

 

「こっちにだってねぇ、ミッドの大学のつよーいナンバーテンがいるのよっ!」

「えぇっ!? ちょっと、待って下さい!」

 

 狼狽えるイサムだが、ババルウ星人は勝手に話を進めてしまう。

 

『よぉし! ラグビーは一チーム十五人。お前たちはそこの小僧と小娘を入れて五人。勝負は三日後だ! それまでに残り十人集めてこいッ! 逃げるなよぉ!? ハッハッハッハッハッ! ハーハッハッハッハッハァッ! あッバイな』

 

 ババルウ星人たち暗黒星団は、現れた時と同じように煙とともにこの場から消えていった。

 バルキー星人はイサムに向き直り、頼み込んだ。

 

「おい……ミーたちに、ラグビーを教えてくれぇ!」

 

 それでイサムは大弱り。

 

「勘弁して下さい! 俺……ラグビーは辞めたんです」

「そんなぁ~、殺生なぁ!」

「この通りじゃなイカー!」

 

 イカルス星人を初めとして、星雲荘組は土下座してお願いした。

 

「プリーズ! プリーズプリーズ! お前も一緒に、ティーチミー!」

「キイィィーッ!」

「頼むぅ」

「イサ兄ぃ、ウチからもお願い! みんなを助けてあげて!」

「そ、そんなこと言われたって……」

 

 弱り果てたイサムは思わずこの場から離れようとしたが……その前にワタルが仁王立ちしていた。

 

「お前また逃げんのかよ」

「えっ……」

「事情はよく分かんねぇけど、こいつら一緒に住んでる仲間なんだろ」

「仲間じゃなイカ……」

 

 イカルス星人たちは潤んだ視線を向けている。

 

「見捨てんのか? それでいいのか?」「いいの?」

 

 ワタルに諭され、イサムの出した答えは――。

 

「俺は……」「俺は?」

「……俺は!」「俺は?」

「……俺は……!」「俺は?」

 



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われら星雲!(B)

 

 異星人間の争いを、スポーツという平和的な手段で解決することはXioに歓迎された。そういうことで、今回のラグビー対決はXioの全面協力及び監視の元に決行されることとなったのであった。

 そして三日後の勝負のために、星雲荘の面々はイサム指導の特訓を行っている真っ最中だった。

 

「えぇーいっ!」

 

 公園の一画を借りての特訓中、ナックル星人がタックルバッグへ目掛けて行ったタックルをイサムがダメ出しする。

 

「腰が入ってません! もっと腰の部分に力を入れて! それから、ぶつかっていくのを恐がってちゃダメです! 気持ちを前に出していって下さい!」

「は、はいコーチ!」

 

 腐っても大学ラグビーの元エース選手。その指導は厳しく、人間より断然体力があるはずの異星人三人もひぃひぃ息を切らすほどだった。

 

「こ、これはベリーハードだぜぇ……」

「でも、根を上げてはいられないんじゃなイカ」

「ええ。あいつらには負けられないわ……!」

 

 苦しみながらも特訓を続行する三人。ジークリンデもまた特訓を受けているのだが、途中でイサムにあることを尋ねかけた。

 

「そういえばイサ兄ぃ、残りの選手十人のことだけど……心当たりある?」

「そ、それは……」

 

 途端にばつが悪そうになるイサム。

 

「……やっぱり、イサ兄ぃのいたラグビー部に助っ人は頼められへん?」

 

 念のために問いかけると、イサムはコクリとうなずいた。

 

「勝手に辞めて迷惑掛けた手前、そんな虫のいいことは頼めないよ……」

「そっか……」

「ああ、でも、そしたら選手はどうしよう。あと三日で、残り十人もどこから……」

 

 イサムが困り果てたその時、彼らの元にザッと大勢の足音が。

 

「それなら心配いりません! わたしたちが助太刀致します!」

「! 君たちは……!」

 

 振り返るとそこにいたのは、ヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、ミウラ、ミカヤ、エルス、ハリー、リンダ、ルカ、ミア、そしてヴィクトーリアの計12名。

 

「まぁ~、かわいらしい女の子たちがこんなに! ジークちゃんのお友達ねぇ!」

 

 彼女らの存在にナックル星人らも気づいた。ヴィヴィオが代表して、彼らに告げる。

 

「話はダイチさんから聞いてます。ジークさんの同居人さんのペットを守るために、わたしたちがお力になります!」

「おぉー! ミーのジョリーのために、こんなたくさん集まってくれるなんて~! サンキューベリーマーッチ!」

「とっても嬉しいじゃなイカ~!」

 

 感激して声を張り上げるバルキー星人とイカルス星人。だがイサムは若干気が引けている様子。

 

「本当にいいのかい……? まだインターミドルに出場中の子も何人かいるのに」

 

 三日間だけとはいえ、未だ試合を控えている人たちの時間を割いてもらうのは心苦しいところ。それにヴィクトーリアが告げる。

 

「ご心配には及びませんわ。わたくしたちには優秀なマネージャーもいますもの。スケジュール調整には何の問題もありませんわ」

「はい、お任せ下さい!」

 

 キラリと眼鏡を光らせるエルス。また、ヴィクトーリアの従者のエドガーも彼女の後方でペコリと一礼した。

 

「第一、ジークだってその出場中の一人だしな」

 

 指摘するハリー。そのジークリンデは、集ってくれた友人たちに向けて礼を述べる。

 

「みんな……ほんとにありがとうっ!」

「へへっ、お礼は試合後まで取っておけよ。それより、早速オレたちにもラグビー教えてくれ!」

「この勝負、絶対勝ちましょう!」

 

 ヴィヴィオたちが見せた熱意に、イサムも心を動かされた。

 

「わかった! それじゃあ君たちも特訓に混ざってくれ!」

「はーいっ!」

 

(♪MAC出撃せよ!)

 

 かくして、試合のメンバーはそろった。一同は三日後までの短い時間に出来ることをなるべく全部やれるように、熱心に特訓を行う。

 ある時はパス回し。

 

「よーし、行くぜー!」

「リーダー! だからボールは前に投げちゃいけないんですって!」

 

 ある時はタックル。

 

「断空の原理を応用すれば、何者も止められないタックルが出来上がるはずです」

「そ、それは今からじゃみんなが習得するのは無理があるんじゃないでしょうか」

 

 ある時は相手をかわすステップ。

 

「ラグビーじゃ、相手を避けて走ることも重要なんですね」

「それは私たちに向いていそうだね、ミウラちゃん」

 

 他にも様々。ヴィヴィオたちはそれらを全て、短い時間の間ながらしっかり積み重ねていく。

 

「せいうーん! ファイッ!」

「ファイっ!」

「せいうーん! ファイっ!!

「ファイっ!」

 

 夕焼けに染まる空の下、掛け声を発しながら沈みゆく太陽へと駆けていくイサムたち。それをながめながらヤカンの水を飲んでいたジークリンデに、ヴィクトーリアが話しかける。

 

「あの方たちが、ジーク、あなたがお世話になっている同居者ですのね」

「ヴィクター」

「異星人だったなんて驚きましたけど……それくらい普通でない人たちでないと、あなたが一緒に暮らそうなんて思わないのかもしれませんわね」

 

 ふぅ、とため息を吐くヴィクトーリア。

 

「シェアハウスで暮らし始めた、と連絡をもらった時は本当に驚きましたのよ。一体どういう風の吹き回しか、とね」

「あはは、そうやろなぁ」

 

 自分のことだが、同意して苦笑するジークリンデ。

 彼女は、星雲荘の三人と出会った時のことを思い返した……。

 

 

 

 まず初めに出会ったのはナクリ――ナックル星人だった。

 戦闘に長けたエレミア一族の記憶を受け継いだ子孫であるジークリンデは、圧倒的な格闘技能を生まれながらにして持つ代わりに、一度スイッチが入れば見境なく暴走する危険を抱えている。これが原因で、ミカヤの手を粉砕するなど周りの人を危ない目に遭わせることもあった。そのためもあり、かつての彼女は人のいない場所に居を構えながら流転する風来坊生活を送っていたのだが……そんな中で、ナクリと偶然出会ったのである。

 彼はジークリンデの生活を知ると、こう言ったのだった。

 

『ダメよぉ~、女の子が野宿なんかしちゃ。お肌の健康に悪いわぁ! 女の子は、自分を大切にしなくっちゃ! そうだ、ウチに来ないかしら? ワタシの家、シェアハウスなのよ!』

 

 もちろん遠慮したが、ナクリは押しが強く、半ば強引に星雲荘に住まうこととなってしまった。初めは機を見て去ろうかと思っていたが……すぐに同居の三人が異星人であることを知った。

 初めこそ驚いたものの、彼らに邪気はなく、ミッドチルダで静かに平和に暮らしたいだけだとすぐに分かった。が、お人好しの彼らの経済力は自分以上に低く、その生活は相当不安定。危なっかしくて見ていられず、つい手助けしてズルズル留まる日々が続いていた。

 しかし、自分のことを考えればいつまでもこうしていられない。それで意を決し、本当のことを打ち明けることにした。これを知れば、彼らも自分から距離を置こうとするだろう、と……。

 だが意外にも、三人は自分の危険性すら受け入れた。

 

『なぁんだ、そんなことだったの。大丈夫よ、ワタシたちもこう見えて、結構な問題児だったんだから。だから、お互いの素性や身の上とかは気にしないの』

『人間、生きてれば他人に迷惑かけることなんていくらでもあるじゃなイカ。いちいち気に病むのはイカんよ。何かあっても、その時はその時じゃなイカ』

『そうそう! そもそも、その程度は宇宙じゃよくあることだぜ!』

 

 ハルキが「宇宙」と口を滑らしたことで他二人は慌てていたが……ジークリンデは三人が、見ず知らずも同然だった自分をこうまで受け入れてくれることが……嬉しかった。

 気がついた頃には、すっかりと星雲荘に馴染んでいた。家賃の支払いのために、貯金も始めた。優しいけどどこか頼りない三人には、自分がついてやらないと駄目だという思いから。彼らの生活を守りたいがために。――彼らと一緒の生活をしたいがために。

 いつまで、こんな生活が出来るのかは分からない。もしかしたら、自分が彼らを傷つけてしまう時が来てしまうのかもしれない。でも、それでも、今この時だけは――。

 

 

 

 そんなこんなで、試合当日がやってきた。

 スタジアム一個を貸し切り、万一の事態に備えてXioが監視する中、ラグビー対決が行われようとしている。

 出場するのは星雲荘の五人に合わせ、コロナとエルスを除いた十人。その二人はマネージャー兼応援としてベンチで試合を見守っている。

 対峙する暗黒星団チームは、ババルウ星人、ゼットン星人、ダダ、ケムール人、他は全員レイビーク星人だ。

 

『ユニオンルールの異星人ラグビー。暗黒星団ババルウチームと、ミッド人混成の星雲チーム、試合開始の時が迫っております』

 

 実況席には実況、解説が入っており、かなり本格的だ。

 

『この試合の勝者には、宇宙生物サメクジラが与えられます』

 

 ジョリーは観客席のダイチが膝に乗せている。

 ババルウ星人は居並んだ星雲チームのメンバーを見渡して嘲笑を浮かべた。

 

『はははッ! 誰を連れてくるかと思えば、小娘ばかりじゃねぇか! こりゃ勝負は決まったも同然だな!』

 

 馬鹿にしてくるババルウ星人にハリーが言い返す。

 

「オレたちをなめんじゃねーぞ! 無限書庫での分、キチッとお返ししてやるから覚悟しな!」

 

 しかしババルウ星人は下に見る態度を崩さない。

 

『ふッ……そっちこそ、宇宙ラグビーの恐ろしさを思い知らせてやるぜ』

 

 ババルウ星人のいやに余裕のある態度に、ヴィヴィオたちは警戒を覚える。

 そんな中、ジークリンデがイサムの袖を引いた。

 

「イサ兄ぃ、あれ見て」

「えっ?」

 

 ジークリンデが指した先は、スタジアムの出入り口。

 そこに、イサムの大学ラグビー部のチームメイトや監督が集まっていた。彼らは緊張した面持ちでこちらを見つめている。

 

「きっと、イサ兄ぃのことが心配でみんな駆けつけてくれたんよ」

「みんな……!」

 

 勝負から逃げた挙句、勝手な振る舞いをしたのに。それでも仲間たちが自分の試合を見てくれていると知り、イサムの心に一層熱い気持ちが宿った。

 

 

 

「フェイトちゃん、いよいよ試合が始まるね」

「うん、なのは」

 

 観客席にはなのはとフェイトの姿もあった。もちろん、愛娘のヴィヴィオの試合を見守るためだ。

 なのはは異星人間の勝負について語る。

 

「暗黒星団チームは犯罪者だけれど、スポーツで平和的に争い事を解決しようというのは立派だね。お互い、いい勝負をしてくれるといいな」

「うん……」

 

 話ながら歩いていたら、フェイトが席に着いている人に膝をぶつけた。

 

「あっ、ご、ごめんなさい」

「いえ、お構いなく。麗しいお嬢さん」

 

 相手はやんわりと返した。日差しが照りつける中、シルクハットに黒い燕尾服という格好だ。フェイトはこの人物に見覚えがなかった。万が一の時のために、関係者以外の観戦は断られているはずだが……。

 

「すみませんが、あなたはどの選手の関係者でしょうか?」

 

 と尋ねるフェイト。少女たちの誰かの親族だろうか、と思ったが、シルクハットの男性はこう答える。

 

「私は異星人の一人の友人でしてね。今回の試合の行方が気になりまして、見届けに来たのです」

「そうでしたか」

 

 異星人、ということは星雲荘の三人の誰かだろう、と判断するフェイトだった。

 

「フェイトちゃーん、こっちこっち」

 

 話していたら、先に席に着いたなのはが手招きしてきた。

 

「あっ、今行く。それじゃあ、これで失礼します」

 

 ペコリと一礼して男性から離れるフェイト。しかし彼女は気がついていなかった。男性の視線は異星人の方ではなく、ヴィヴィオやアインハルトらの方に注がれていることに。

 

「ふふ……」

 

 

 

 いよいよ試合開始の時間がやってきた。アクマニヤ星人レフリーがピーッ! とホイッスルを鳴らして合図を出す。

 試合はイサムのキックから始まった。遠く飛んでいくボールは、ゼットン星人がキャッチ。それをババルウ星人、レイビーク星人たちとパスでつないでいき、ケムール人の手に渡る。

 

「フォフォフォフォッフォッフォーッフォ――ッフォ―――ッ!」

 

 するとケムール人が、残像が残るほどの超スピードで駆け出した!

 

「は、速いっ!」

 

 リオやルカ、リンダが守備しようとするが、ケムール人の速度についていけず翻弄されるばかり。ケムール人はバルキー星人の前でボールを突き出して挑発までするが、バルキー星人が手を伸ばした時にはもう星雲チームのゴールラインを越えてボールをタッチダウンしていた。

 

『ケムール人がトライに成功! 暗黒星団5点先取!』

「くぅっ、先に点取られてもうたか……!」

「まだまだ! 試合は始まったばかりだ!」

 

 悔しがるジークリンデ。イサムは皆に励ましの言葉を掛けたが……。

 

『はぁッ!』

 

 トライに続くコンバージョンキックで、ババルウ星人がボールをゴールポストの間に蹴り入れ、2点が追加された。

 

「くそーっ!」

『ラクショー』

 

 頭を抱えるバルキー星人。一方でババルウ星人は格好つけて挑発。星雲チームはますます悔しさを募らせる。

 そして試合は続き、暗黒星団のペナルティによるスクラム。イサムが選手で出来たトンネルの間にボールを投げ入れる。

 

「せぇぇぇぇいっ!」

 

 アインハルト、ハリー、ヴィクトーリアらのパワーで相手側を押し返し、回り込んだイサムがボールを拾い上げた。だがそこにケムール人がボールを奪いに走ってくる。

 

『パスパスッ!』

「バルキーさんっ!」

 

 バルキー星人が呼びかけるので、イサムはケムール人がタックルしてくる前にボールを投げ渡した。

 

『マイボール!』

 

 しかしキャッチしたバルキー星人は、自陣のゴールへと駆け出す!

 

「おい!? どっちに走ってんだよ!」

 

 唖然とする星雲チーム。その時、イサムの脇を『バルキー星人』が駆け抜けて『バルキー星人』を追いかけていった。

 

「そいつはミーじゃねぇーっ!」

『変身解除ーッ!』

 

 ボールを抱えている方のバルキー星人の姿が変わった。ババルウ星人の変身だったのだ。

 

「ずるいじゃなイカ! 変身能力を使うなんてー!」

 

 イカルス星人が非難したが、ババルウ星人は構わずタッチダウン。

 

『変身が禁止なんて、ルールブックには書いてないぜぇ!』

「ルール以前の問題ですわ!」

「おいレフリー! あれいいのかよっ!」

 

 ヴィクトーリアが怒り、ハリーがアクマニヤ星人へ抗議。が、アクマニヤ星人はそれを却下。

 

『ハッハッハッ! 試合じゃレフリーが絶対だぜ!』

「ぬぅぅ~……!」

 

 得意げに勝ち誇るババルウ星人に、星雲チームは納得のいかない様子。

 

「……何だか、様子が変だね……」

「うん……」

 

 この一部始終を見ていたなのはとフェイトが表情を曇らせた。

 その後も星雲チームは苦戦の連続。ナックル星人がゼットン星人のタックルを食らって倒され、ボールを奪ったゼットン星人がそのままトライ。

 

『フゥーッ!』

 

 イサムがゴール目掛け突っ走るも、レイビーク星人たちに飛びかかられてトライに失敗。

 

「くぅっ……!」

 

 ボールがダダに回ると、ダダはテレポートの連発で星雲チームを翻弄し、テレポートでタッチダウン。

 

「ダッダッダッダッ……!」

「レフリー! テレポートもありなのかよ!」

 

 ハリーがまた抗議したが、アクマニヤ星人はやはり受けつけなかった。

 

『はッ! 弱すぎて話にならねーな!』

 

 またもトライを決めたババルウ星人が露骨に挑発してくるのを、星雲チームは悔しさを噛み締めて聞いているしかなかった。

 

「ワタルさん……!」

 

 星雲チームの大苦戦に、ダイチは不安げにワタルに顔を向けたが、ワタルも難しい顔で腕を組むだけだった。

 そうこうして試合開始から40分が経過。ホイッスルが鳴り響く。

 

『前半戦が終了。試合は51‐0。チーム星雲は暗黒星団に大差をつけられてます!』

 

 一点も入れられることが出来ず、チーム星雲は苦い表情。

 

「くっそー……やっぱ、ストライクアーツと同じようにはいかねーぜ……!」

「付け焼き刃のあたしたちじゃ、どうしようもないのかな……」

 

 リオを始めとして、チームの間に不安が広がる。

 だが、そこにイサムの激が飛んだ。

 

「諦めるな! みんななら大丈夫だ! 特訓を思い出すんだ!」

 

 それを受けて、ジークリンデも仲間に呼びかける。

 

「試合はまだ半分あるんよ! 星雲、ファイトやでっ!」

「! 星雲、ファイトーっ!!」

 

 二人の呼びかけにより、チーム全体に気力が戻る。そして迎える後半戦。

 

『弾丸ババルウキーック!』

 

 ババルウ星人のキックしたボールはまさしく弾丸のように飛び、ナックル星人をはね飛ばす!

 

「きゃあーっ!!」

「ナクリんっ!」

 

 ナックル星人は悶絶して倒れたが、ボールはどうにか止められた。それをキャッチしたバルキー星人。

 だが……走るバルキー星人に、ケムール人が激突してきた。

 

「あいたーっ!」

 

 更に倒れ込んだバルキー星人の周りにレイビーク星人たちが集まり、何と殴る蹴るの暴行を加え出した!

 

「ギャーっ!」

「ハルキんっ!?」

「やめろぉっ!」

 

 慌てて止めに走るハリーたち。イサムはアクマニヤ星人へ叫ぶ。

 

「レフリー! いくら何でもこれは反則だろ!!」

 

 しかし、アクマニヤ星人はわざとらしくそっぽを向いて無視した!

 

「あぁっ!?」

『暗黒星団の明らかな反則! ですが……レフリーは何も見ていないのか!?』

 

 実況も叫ぶ。試合を見守る観客たちも一斉に騒然となった。

 

「そういうことかよ……! 何が宇宙ラグビーだ! 汚ねー手を使いやがって!」

 

 買収の確信を得たハリーが怒り心頭し、暗黒星団に突っかかろうとするのをヴィクトーリアが制止する。

 

「おやめなさい、不良娘! 退場にでもなったら余計に相手の思うつぼですわよ!」

「けど……!」

 

 ボールはどうにかイカルス星人が拾った。必死にゴールへと走っていくが、

 

『ババルウビームッ!』

「イカーっ!!」

「イカリーんっ!」

 

 背後からババルウ星人に光線で撃たれ、ボールを投げ出して転倒した。

 

「いい加減にしろーっ! 卑怯だぞっ!」

「みんなに、こんなひどいことして……!」

 

 リオやジークリンデらも激怒する反則の数々。が……一番怒りを爆発させたのは、

 

「俺の仲間に……汚い真似は許さぁ―――――んっ!!」

「イサ兄ぃ……!?」

 

 イサムは烈火の勢いで突撃。その正面からゼットン星人、ダダ、ケムール人が向かってくるが……イサムはスピードを落とさない。むしろ加速した!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

『あああぁぁッ!?』

 

 イサムのタックルを食らって、ゼットン星人たちはボウリングのピンよろしくはね飛ばされた!

 

「だぁぁぁっ!」

 

 そしてゴールポストを抜け、トライ!

 

「イサ兄ぃ! やった!」

「イサム! イサム!」

 

 興奮するジークリンデとワタル。遂に星雲チームに得点が入ったのだ。

 

「やったぁーっ!!」

 

 大歓喜する魔法少女たち。一方で、暗黒星団は愕然としている。

 

『なッ、マジか……!』

 

 ババルウ星人を始めとして明らかにたじろいでいる。それで星雲チームはますます活気づいた。

 

「見ろ、あいつらビビってるぜ!」

「流れがこっちに傾き始めましたね!」

 

 確信するハリーとミウラ。実際、ここから星雲チームの猛反撃が開始された。

 

「うらあぁぁぁぁ―――――――っ!」

「トライっ!」

 

 ハリー、アインハルト、ヴィクトーリア、そしてジークリンデのパワー型選手たちは暗黒星団の防御など寄せつけずに次々トライ成功。ミカヤとミウラも相手選手をことごとくかわし、タッチダウンを決める。異星人三人もぴったり息の合ったパスで、暗黒星団を翻弄し返す。

 スタジアムの掲示板に、星雲側のスコアがどんどん加算されていく。

 

『チーム星雲、まさに怒濤の反撃! 得点差を縮めています!』

 

 反対に暗黒星団の攻撃は、超反応を見せるヴィヴィオを中心とした守備に全てさえぎられて、得点を入れられない。

 素人ばかりのチーム星雲であったが、この試合の中でコツを学び、急速に成長することで暗黒星団との力量差を覆していったのだ。

 そうして試合終了間際には、得点はとうとう51‐50の一点差にまでなった。

 ジークリンデが決めたトライのコンバージョンキックを務めるのは、イサムだ。

 

『このゴールキックが入れば、チーム星雲の逆転勝利となります』

 

 イサムの放ったキックは、見事クロスバーを飛び越えた。

 

『試合終了! ノーサイドでーす!』

 

 2点追加で51‐52。チーム星雲の逆転だ!

 

「やったぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!」

 

 チーム星雲は全員集まって円陣を組み、跳びはねながら勝利を喜ぶ。更にイサムのチームメイトたちも駆け寄ってきて、その輪に混ざった。

 

『ま、負けた……。この伝説の八番が、あんな素人どもに……』

 

 一方の暗黒星団は力尽きて死屍累々のありさまだ。ババルウ星人が膝を突いていると、イサムが彼に手を差し出す。

 

『何のつもりだ……』

「試合が終わればノーサイドだ」

 

 と握手を求めるイサムだったが……ババルウ星人はその手を払いのけた!

 

『ノーサイドだと!? 宇宙に右サイドも左サイドも上も下もないんだよッ! なめやがってッ! 暗黒星団の恐ろしさ、思い知るがいいーッ!!』

 

 ババルウ星人の脇にゼットン星人、ダダ、ケムール人が集まり……巨大化を行った!

 

「!?」

『サメクジラを寄越せぇぇぇぇーッ!』

 

 逆上して実力行使に出るババルウ星人たち。チーム星雲や観客たちは慌てて避難に走る。

 

「大変です! あなたも早く避難を……!」

 

 フェイトは先ほどの男性を逃がそうとしたが……そちらを見やると、無人の席があるだけだった。

 

「あれ……?」

 

 まるで初めから誰もいなかったよう。フェイトは思わず首をひねった。

 最初の取り決めを無視して暴れ出すババルウ星人たちだが、その凶行をダイチとエックスが見逃すはずがない。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 人目のつかないところですぐにユナイト。ウルトラマンエックスが飛び出していく!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 スタジアムに降り立ったエックスの勇姿を人々が見上げる。

 

「あっ、エックスだぁ!」

「きゃあぁーっ! ウルトラマンエックスー!!」

 

 黄色い声を発するエルス。エックスは一番にババルウ星人にタックルを決め、人々への暴行を阻止した。

 

『邪魔しやがってぇぇぇぇーッ! 行くぞお前らぁッ!』

 

 ババルウ星人はケムール人、ダダ、ゼットン星人を引き連れて四人がかりで攻撃するが、エックスは巧みに攻撃をさばき、次々打撃を入れて返り討ちにしていく。

 

『うぬあぁぁぁッ!』

「フォオ――――――ッ!」

「ダダ―――――!」

『ちょっとぉ! しっかりしなさいよぉッ!』

 

 更にダイチはエクスデバイザーにデバイスゴモラカードをセットし、エックスをパワーアップ。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ゴモラキャリバー、セットアップ]

 

 コロナがエックスを指して言う。

 

「見て下さい! まるでショルダーパッドみたいです!」

「それじゃアメフトやろ」

 

 ジークリンデが突っ込んだ。

 それはともかく、エックスはゼットン星人、ダダ、ケムール人とスクラムを組んだ。

 

『ぬぅぅぅぅッ!』

「ダ―――ダ―――!」

「フォフォフォフォフォ!」

『押せぇー! お前らもっと押せぇー!』

 

 三人の後ろからババルウ星人が踏ん張って押し込もうとするも、

 

『「超振動拳!」』

「イィィィーッ! シャア――――――ッ!」

『おわぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッ!!』

 

 超振動拳の衝撃により、ゼットン星人たちは空の彼方まで吹っ飛ばされてキラーン、と星になった。

 

『げぇぇぇぇぇッ!?』

 

 一人になったババルウ星人はたまらず回れ右して逃走を図るが、

 

「ちょっと待った」

『ぬわッ!?』

 

 その先に変身したなのはが浮いていて、ババルウ星人は思わず立ち止まった。

 

『お、女ぁ! そこどけぇッ!』

 

 ババルウ星人は命令したが――無表情のなのはから発せられる異様なプレッシャーに思わず口を閉ざした。

 

「いけないなぁ……スポーツでの対決に承諾しておきながら、反則を連発しただけに飽き足らず、負けたら暴力に物を言わせようとするなんて……」

『ひッ!?』

「――少し、頭冷やそうか」

[Excellion Buster]

 

 なのはの憤怒の砲撃が、ババルウ星人に炸裂!

 

『いぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!』

 

 哀れババルウ星人は、卑怯な真似を取り続けたために真っ黒焦げにされたのであった。

 その様子を、エックスが若干呆気にとられながら見届けた。

 

 

 

 ババルウ星人連行後、ジョリーを返してもらったバルキー星人は仲間たちに呼びかける。

 

「ミーたち、最高のチームだったよなー!」

「うむ!」

 

 満面の笑みでうなずく仲間たち。

 

「勝ったのはみんなの力です。それとウルトラマン」

 

 と語るイサムに、ナックル星人は告げる。

 

「いいえ。勝ったのはあなたのお陰よ、イサム」

「うん。イサ兄ぃがいなかったら、最後の逆転もきっと無理やったよ」

 

 ジークリンデの言に少女たちは次々うなずいた。

 称賛されてはにかむイサムの元に、ワタルが駆けつけてきた。

 

「やったなイサムー!」

「兄貴! 応援ありがとう!」

 

 更にラグビー部の仲間と、監督もやってくる。

 

「ナイストライ、ナイスゴールだったぞ」

「ありがとうございます!」

「……戻ってこいよ。お前なら世界を目指せる」

「……はい!」

「よかったなイサムー!」

 

 イサムが承諾したことでチームメイトたちが集まり、彼をもみくちゃにし出す。

 少女たちはそれをほほえましげにながめていたが……ジークリンデだけ、星雲荘の三人がこの場からそっと離れていくのに気がついた。

 

 

 

「イサムの奴、チームに戻れてほんとよかったなぁ~」

「うむ。これでひと安心じゃなイカ」

「イサムはもうここには戻らないわね。そして、ワタシたちも……」

 

 バルキー星人、イカルス星人、ナックル星人は星雲荘に帰ると……荷物を畳んでいた。と、そこに、

 

「みんな、ウチに内緒でどこに行くん?」

「ジーク(ちゃん)!?」

 

 ジークリンデが引き戸の陰から姿を出す。彼女にナックル星人たちは説明する。

 

「ワタシたち、ここを引き払うことにしたの。ラグビーでの勝利と、ワタシたちが異星人だって明かされたのは別だもの」

「ミーたち、このこと大家に内緒だったからなー。このままいたら、迷惑かけちまうぜ」

「大家さんまで巻き込むのは流石にイカんもの。どこか別のところへイカんと」

「そして、名残惜しいけど、ジークちゃんともお別れね……」

 

 ナックル星人のその言葉に、ジークリンデは小首を傾げる。

 

「どうして?」

「えっ?」

「ウチも、みんなと一緒に行くんよ!」

 

 ジークリンデの言葉に三人は目を見張った。

 

「ジークちゃん、本気!? で、でも……」

「それはイカんじゃなイカ。宇宙人の我輩たちといたら、ジークにも迷惑かかるじゃなイカ」

「あはは、そんなん今更やで」

「えっそれどういう意味なの」

 

 ジークリンデは何でもないことのように笑う。

 

「ウチはそんなこと、ぜーんぜん気にならないで。それにエレミアは元々流浪の一族。ウチも一箇所に留まるより、色んなところを転々とする方が性に合ってるんよ」

「けど……」

「――なら、こう考えるのはどうや? みんなが行くところに、たまたまウチも行く。それだけのことや!」

 

 ジークリンデの言うことに三人はどうしようかと顔を寄せ合い――そして笑った。

 

「そーだな! ミーたちにお前がたまたま来るのを止める権利はナッシング! それじゃあしょうがねぇよな~!」

「みんなでお引越ししようじゃなイカ!」

「とりあえず、初めは温泉に行きましょうよ! 試合の疲れを癒しましょ~う」

「おっ、ええなー……!」

 

 異星人三人に人間一人を交えた四人は、朗らかに談笑し合いながら星雲荘を発っていったのだった……。

 

 

 

 サカネ村。それは昔、97管理外世界『地球』の国家の一つ、日本からミッドチルダへ移住してきた一団が地方に築いた小さな集落。いわば「日本村」みたいなものだ。

 

「うわああぁぁぁぁぁ―――――――!」

「きゃあ――――――――!」

 

 普段はのどかで静かなこの村だが、その日は村の住人たちの悲鳴があちこちから轟いていた。村人たちは一斉に避難をしている。

 何故なら……村に小山ほどの大きさがある怪獣が突如として出現したからだ!

 

「怪獣だー!」

「早く逃げろー!」

 

 踏み潰されたり食べられたりしたら大変、とほうほうの体で逃げる村の人々。

 しかし――やがてどうも様子がおかしいことにチラホラと気がつく人が現れて、そんな人たちは怪獣の近くに舞い戻ってきた。

 そして彼らは怪獣を見上げ、口をそろえて言った。

 

「何で動かないんだ……?」

 

 怪獣は出現してからずっと、微動だにしないのだ――。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はザラブ星人だ!」

ダイチ「ザラブ星人は『ウルトラマン』第十八話「遊星から来た兄弟」に登場! 初めは友好的な宇宙人を装っていたけど、本当は地球侵略を狙う凶悪宇宙人だったんだ!」

エックス『にせウルトラマンに変身して、ウルトラマンを悪者に仕立て上げようともしたんだ。これが後のシリーズの伝統となる、ウルトラマンの偽物の第一号だぞ』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではベムスターを手下にして地球を狙ったんだ! この時、ウルトラマンに化けるといった変身能力は見せなかったぞ」

エックス『何故ベムスターにザラブかと言うと、ベムスターの腹の口の形とザラブ星人の口が似ているから、そのつながりだという。そんな馬鹿な』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 サカネ村に衰弱した怪獣、ホオリンガが出現した! 村の人たちは、敵意のないホオリンガを村興しの目玉にする、なんて騒いでるけど……。とにかく、弱ってる怪獣を放ってはおけない。ホオリンガ治療作戦の開始だ! 次回、『怪獣は動かない』。


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怪獣は動かない(A)

 

「ゼットォーン……ピポポポポポ……」

「ミッドのものではない大気を検出しました」

「自星の大気を放出するとは、侵略目的では……」

「卵を抱えた個体を相手にする……今回が初めてだ」

「ケエエオオオオオオウ!」

「だから地上に出てきた……産卵するために!」

「何としても、Xを助けるんだ!」

「溶岩熱線、発射!!」

「怪獣出現! 体長約50メートル!」

「フェイズ4! 都市防衛指令発令!」

「怪獣の市街地への接近を阻止しろ!」

 

 

 

『怪獣は動かない』

 

 

 

 サカネ村の片隅にある神社、その物置に一人の幼い少女がいる。彼女はじっと突っ立ったまま、壁に掛けられた額を見上げている。

 

「ハナちゃーん!」

 

 そこに妙齢の女性がやってきて、少女をハナと呼んだ。

 

「お家に帰りましょう?」

 

 女性はそう呼びかけたが、ハナは絵巻から目を離さずに無言で首を左右に振った。

 

「お父さん待つん!」

 

 ハナの返事に、女性は若干肩をすくめた。

 

「……来月に帰ってくるから。今日は……ね?」

 

 女性はハナの頭を撫でて諭した。

 その時に、神社を震動が襲う。

 

「きゃっ!?」

 

 外に出た二人は――村の真ん中にそびえ立つ、一体の怪獣を見やった。今の震動は、怪獣が身動きをした際に生じたものであった。

 ハナは怪獣に目をやりながら、笑って言った。

 

「ホオリンガ!」

 

 

 

「一ヶ月前、Y3-M1エリア、サカネ村に怪獣が出現。Xioが出動しました」

 

 Xioベースで、ラボチームが特捜班を前にしてサカネ村の怪獣に関しての報告を行っていた。ダイチが怪獣の情報を振り返って解説する。

 

「調査の結果、攻撃性は認められず、動くこともありません。使っていない畑で眠るだけ。大人しい怪獣です。光合成をして排泄をしない、まるで植物そのもの。そこで、サカネ村と協議をし、保護下に置いてモニタリングを行うことが決まりました。――これが昨日の様子です」

 

 モニターに一ヶ月前と昨日の怪獣の映像が同時に表示された。怪獣はその場から全く移動していないのだが、一ヶ月前は青い触手をまだ大きく動かしているのに、昨日の映像の中ではその動き幅が小さくなっている。

 

「弱ってる……?」

 

 動きの違いを見比べて、スバルがつぶやく。

 

「諸君、これを見てくれ」

 

 グルマンが片腕を挙げると、モニターの映像に怪獣の内部解析データが追加された。シャーリーが続けて語る。

 

「これが一ヶ月前の栄養状態です。そして、こっちが昨日の栄養状態」

 

 怪獣の生体反応は、明確に弱くなっていることが比較で分かる。

 

「脳波も弱く、ガオディクションでの解析も出来ません」

「栄養失調ってこと?」

 

 スバルやウェンディは怪獣に対して心配そうな表情になった。

 カミキはダイチに問いかける。

 

「……サカネ村の意向は?」

「怪獣との共生を望んでおり、治療をしてほしいと」

 

 それを受けて、カミキは決定を下した。

 

「ラボチームの提案を受諾。怪獣を、治療の対象に指定する。Xio、出動!」

「了解!」

 

 特捜班が席を立ち、怪獣治療の作戦が開始された。

 

 

 

 サカネ村。ほんの一ヶ月前までは、日本村であるということ以外特に取り立てる要素もない静かな田舎町であったが、まだ名前もない怪獣が出現してから、すっかりと様変わりした。

 

「怪獣せんべい、お一つ如何ですかー?」

「怪獣の銘柄の酒を作ったんです。是非ともサカネ村のお土産に」

「このシャツの絵柄、怪獣を擬人化したものなんですよぉ。かわいいでしょ?」

 

 村の公民館の前にはいくつもの出店が立ち並び、怪獣にちなんだ土産品をたくさん売っている。そのお土産を観光客が買っていく。

 攻撃性がなく、その場から一歩も動かない怪獣は次元世界中の興味の的となり、サカネ村には珍しい怪獣をひと目見ようと大勢の観光客が集まるようになっていた。その合計人数は、例年の村の観光客数をとっくに上回って記録更新中である。これをサカネ村の自治体が見逃さないはずがない。総力を挙げて、怪獣を観光名所ならぬ観光名獣に仕立てて、村の財政を潤しているのであった。

 

「うわぁ~、たくさんの人が集まってるね!」

 

 ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルトの四人も、サカネ村の怪獣を見にやってきていた。それからオットーとディード、同じく修道騎士のシャンテ・アピニオンも一緒にいる。

 

「怪獣といえば悪者みたいに言われてるけど、サカネ村の人たちはとても好意的だね!」

「ま~動かなければ危険なんてないしね~」

 

 リオのひと言にシャンテがニッと笑って相槌を打った。

 

「ダイチさんが人間と怪獣の共生を目指してるけれど、このサカネ村がそのきっかけになってくれるといいですね」

 

 コロナは何気なくそう言ったのだが、アインハルトはそれを耳に入れて、かすかに眉間に皺を寄せた。

 

「ん? どうしたの、そんな難しい顔して」

 

 見とめたシャンテが尋ねかけると、アインハルトは辺りを見渡しながら口を開いた。

 

「……本当にこの光景が、ダイチさんの目指す人間と怪獣の共生なんでしょうか……」

 

 周囲にあふれているのは、怪獣の姿を嬉々として写真に収めていく観光客や、ひたすら商売に熱を入れる村民。村中が浮かれた空気にある。

 

「怪獣はそこにいるだけなのに、まるで見世物小屋みたいじゃないですか」

 

 アインハルトのその言葉に、一同も複雑な表情になった。

 

「……確かに、たとえばイクスが同じような扱いされたら、ちょっとなぁって思うね……」

「そのような人たちには丁重にお帰りいただきます」

 

 シャンテのつぶやきに、ディードが厳めしい顔で語った。

 微妙な雰囲気になっていると、ヴィヴィオがふと前方に目をやって言葉を発した。

 

「あっ、ダイチさんだ」

 

 彼女の視線の先では、ダイチがサカネ村の村長と話をしているところだった。

 

「怪獣を元気にして下さるそうで、ありがとうございます! 毎日がお祭り騒ぎ! あの怪獣は、今や人気者です。それが栄養失調なんて、かわいそうでね」

 

 村長は話しながらカメラ機能の立体モニターを起動した。

 

「ちょっと失礼! 写真、サカネ村のブログにアップしてもよろしいですかな?」

「あっ……は、はい」

「ありがとうございます!」

 

 ダイチとのツーショット写真を撮る村長。そこにサカネ村の村役場の役員が駆け寄ってきた。

 

「そんちょーう! 大変です!」

「あっ!? どうした?」

「か、怪獣……怪獣が……」

 

 役員の言葉に、ダイチに緊張が走った。が、

 

「どうした?」

「名前です! サカネッシーとヤマゴン、こん二つで意見が割れて!」

 

 それでダイチから力が抜けた。

 

「馬鹿! サカネ村のサカネッシー、こっち方がクールじゃあゆうに」

「それが、ヤマゴンの方がロハスじゃあゆうて!」

「村興しの目玉にそんな古臭い名前がつけられるか! わしが説得する。それじゃ先生、怪獣のこと、よろしくお願いします」

 

 村長はダイチに頭を下げて頼み込むと、役員とともにこの場から離れていく。

 

「どこじゃあ!」

「村長、こちらです!」

 

 その後で、ヴィヴィオたちがダイチの元へと近寄る。

 

「ダイチさーん」

「ヴィヴィオちゃん。みんなも来てたんだ」

 

 ヴィヴィオらの方に振り返ったダイチ。すると、シャンテが腕に提げているバスケットから、何かがピョコッと出てきた。

 

「あっ、君は……」

 

 セイクリッド・ハートと同等のサイズの、妖精のような少女だった。彼女が服の裾を軽く持ち上げてお辞儀したので、ダイチも釣られてお辞儀する。

 

「スバルから聞いてるよ。その子がイクスヴェリアちゃんなんだね」

「はいっ。ずっと眠ってたイクスに色んなところを見せてあげようと思って、今話題のここに連れてきたんです」

 

 小さな少女の名はイクスヴェリア。ヴィヴィオやアインハルトとは異なり、古代ベルカで『冥王』と呼ばれ畏怖されたガレアの王。それが一年前の『マリアージュ事件』で現代の世に覚醒し、紆余曲折あって今になっても続く昏睡状態にあるのである。

 しかしつい最近に彼女から分身体が生じたのだ。それがここにいるイクスヴェリア。本体は未だ聖王教会で眠っているが、この分身が五感を兼ね備えている。イクスヴェリアと関わりを持つヴィヴィオは、彼女のために今回の観光を企画したのだった。

 

「ところでダイチさん、先ほど村長さんと話をしてましたが、怪獣が栄養失調なんてことが聞こえたんですが……」

 

 アインハルトが質問すると、ダイチはうなずいて肯定する。

 

「そうなんだ。あの怪獣は日に日に身体の栄養が失われていってて。Xioはその治療に来たんだ」

「そうだったんですか……」

 

 ヴィヴィオと教会組は怪獣にイクスヴェリアを重ね、特に心配そうな顔つきとなる。

 

「ダイチさん、絶対怪獣を元気にしてあげて下さい!」

「もちろんだ。俺たちに任せておいてくれ!」

 

 ヴィヴィオの頼みに、ダイチは力強く応じた。

 

 

 

 そして、怪獣の治療作戦が決行される時刻となった。

 

「スカイマスケッティ、ジオポルトス、スタンバイオーケー」

 

 オペレーション本部でルキノの報告を受け、カミキが指令を発する。

 

「これより、怪獣治療作戦を開始する! スカイマスケッティが怪獣の上空から注意を引き、その隙を狙って、ランドマスケッティにバトンタッチせよ!」

『了解!』

 

(♪ワンダバチームEYES)

 

 カミキの指示通り、ワタルとウェンディを乗せたスカイマスケッティが怪獣に接近。眼前で急上昇する。

 

「キュウウゥゥ……!」

 

 マスケッティに気を引きつけられた怪獣はそちらを見上げ触手を伸ばすが、スカイマスケッティは速度を上げて振り切る。

 

「マスケッティ、リジェクトっス!」

 

 ウェンディがマスケッティからアトスを切り離し、代わりにスバルとディエチを乗せたポルトスが収まる。

 

[ランドマスケッティ、コンプリート]

 

 ランドマスケッティがホオリンガの前方に降り立つ様子を、村の体育館からモニター越しにラボチームと村長たちが見守っている。

 

「この! このマシンで、薬を飲ませる訳ですか?」

「ええ。薬を仕込んだアンプル弾を撃ち込むんです」

 

 マリエルが解説した。作戦の進行具合を体育館の出入り口から、ヴィヴィオたちが固唾を呑んで見つめている。

 と、その時、彼女らの脇を幼い少女が駆け抜けていった。

 

「? あの子は……?」

 

 少女がラボチームの輪の中に割って入ると、村長が目を丸くした。

 

「ハナどうした?」

 

 少女は村長の腕を掴んで、訴えかけた。

 

「おじいちゃん、ダメ! ダメなの! シーってして!」

 

 呆気にとられる一同。その中からダイチが進み出て、少女に呼びかける。

 

「怪獣さんに注射をするんだ。そしたら静かにするね」

 

 しかし少女はより騒ぎ立てる。

 

「お注射? もっとダメ! 絶対ダメ!」

「あぁ、いた!」

 

 そこにまた一人、妙齢の女性が駆けつけてきた。

 

「村長さん、すみません! 急に飛び出して……」

「ああそうか。ハナ、チヅルちゃんと一緒に、安全な場所で待っていてな。な?」

 

 村長が少女、ハナに優しく言いつけるも、少女は訴えを繰り返すばかり。

 

「お注射ダメ! ダメなの!」

「大丈夫。痛くない注射なんだ」

 

 ダイチはそう説いたが、ハナの言いたいことはそうではなかった。

 

「ホオリンガは病気じゃない!」

「ホオリンガ? ……あの怪獣のことかな?」

 

 聞き返すと、ハナはうなずいた。

 

「ハナちゃんは、あの怪獣のこと何か知ってるの?」

 

 ダイチが尋ね返そうとしたその時、シャーリーが告げる。

 

「ランドマスケッティから、発射用意良しだって」

「あっ、ちょっと待――!」

 

 止めようとしたダイチだったが、一歩遅かった。

 

「発射!」

 

 ディエチが発射ボタンを押し、レールガンから発射されたアンプル弾は、怪獣に命中。

 

「キュウウゥゥ!」

 

 すると――怪獣の身動きが一瞬完全に停止した。

 

「怪獣の栄養値、低下が止まったわ!」

「よしっ!」

 

 データの変動を見たマリエルの報告で、村長は喜んだものの――直後に激しい揺れが発生して、彼らはつんのめった。

 

「何だ!?」

 

 動揺するダイチ。マリエルはデータを見直して、唖然となった。

 

「おかしいわ……怪獣の栄養値が……上昇し続けて止まらないっ!」

 

 アンプル弾を撃ち込まれた怪獣は――それまで大人しかったのが嘘かのように触手を振り上げ、ドスンドスンと激しく地響きを起こし始めた!

 

「キョオオオオオォォォォォ!」

 

 地中から怪獣の触手が突き上げ、出店を破壊。怪獣が突然暴れ出したことに観光客や村民たちは仰天し、一斉に逃げ惑い始めた。

 ラボチームもこの事態に騒然となる。そんな中、ハナが一人駆け出して、体育館から飛び出していった。

 

「ハナ!」

「ハナちゃん!?」

 

 咄嗟に追いかけるヴィヴィオたちにダイチたち。ハナは潰された出店跡のところで立ち止まり、遠景で触手を激しくうならせる怪獣を見上げた。

 

「キョオオオオオォォォォォ!」

「ホオリンガ……ごめんね……」

 

 怪獣に謝るハナの背中を、ダイチやヴィヴィオたちが不思議そうに見つめた。

 

 

 

 サカネ村の怪獣が暴れ出した事態を収めるために、Xioでは緊急に対策が講じられていた。

 

「現在、栄養値は上昇を続け、怪獣が活性化。根っこが地上に這い出し、グングン伸びておる」

 

 状況を説明するグルマン。クロノは険しい顔でカミキに告げる。

 

「二十四時間後には村全体に広がると推測されます……。被害が拡大する前に、何か手を打たねば!」

「申し訳ありません……。きっと、私が栄養剤の調合量を間違えたんです……!」

 

 栄養剤を担当したシャマルが青い顔で謝罪したが、グルマンが否定する。

 

「いやぁ、事前のデータからの計算に間違いはなかった。怪獣の生体情報に何か大きな見落としがあったのか……それで薬が効きすぎたのかな……」

「薬を中和……もしくは、排出することは出来ないか?」

 

 シャマルに問いかけるクロノだが、シャマルは目を伏したままだ。

 

「万が一の時のために、解毒剤は用意してますが……身体から薬を出し切るのには、最低でも二日は掛かります」

「二日か……その時間をどう稼ぐかが問題だな……」

 

 カミキはどう対処するべきかと、腕を組んでうなりを上げた。

 

 

 

 現場でも、一旦集合したダイチたちが通信越しに対策会議に加わっている。

 

「根っこを切ればいいんじゃないんですか?」

 

 ワタルが提案したが、シャーリーが首を横に振った。

 

「根っこは再生力が高いから無駄です。それに痛がって余計暴れるかもしれないし」

 

 ダイチはカミキたちにあることを報告する。

 

「あの怪獣は、病気ではない……。ハナちゃんって女の子が言ってたんです。気になって調べてみたんですが、怪獣の眠る地面から、大量の植物ホルモンが検出されました」

 

 それが、怪獣から失われた栄養の行き場であったのだった。

 

「たとえば、怪獣が地面に栄養を与えていたとか」

『怪獣が? 何のために……?』

「その理由が分かれば、いい解決方法が見つかるかもしれません。それに……あの子の言ってたことがただの偶然とは思えないんです!」

 

 ダイチの言を受けて、カミキは決定を下す。

 

『よし……ラボチームは調査を続けてくれ。防衛部隊は引き続き、厳戒態勢で怪獣とその根を警戒』

「了解!」

 

 事態解決のために行動を始めるダイチたちを、ヴィヴィオたちが遠巻きに見守る。

 

「イクスに平和な怪獣を見せるだけのつもりだったのに、大変なことになっちゃったね……」

「怪獣は、どうなっちゃうんだろう……」

 

 気を揉むリオとコロナ。一方で、ヴィヴィオはこんなことを発する。

 

「ダイチさんの言った通り、さっきのハナちゃんって子が何か知ってるんだと思う。あの子はどこ行ったのかな?」

「捜しましょう」

 

 アインハルトの提案で、一行はハナを捜索し出した。

 

 

 

 村長には、スバルたちが怪獣の処分についての案を説明していた。

 

「怪獣を移動させる?」

「はい。まず怪獣を民家のない地点まで遠ざけ、そこで解毒剤を投与します。これなら効果が出るまで時間を稼げます」

 

 スバルが地図でその地点を指したが、すると村長が反対をした。

 

「いやいや! この原っぱは、村の外れの、更に外れにあります! 観光客が怪獣を見に来るのに遠すぎます!」

「遠いからこそ時間稼ぎになるんです!」

「怪獣は村の大事な観光資源! 動かすのは許しません!」

「これ以上村への被害を広げないためにも……!」

 

 粘り強く説得するスバルだが、村長は聞き入れない。

 

「そもそも、あんたたちが変なものを打ち込んだからこんなことになったんじゃないか! お陰でこっちは大損害だ! その弁償を、Xioがしてくれるとでも!?」

「……そっちから治療を頼んだくせに」

「ウェンディ! 聞こえるぞ」

 

 唇を尖らせてぼそっと不平を垂れたウェンディを、ワタルが肘で小突いて諌めた。

 

「薬が効くのに丸二日でしたっけ? それくらい我慢しますよ」

 

 姿勢を崩さない村長だったが、その時にルキノからの緊急通信が入った。

 

『本部より報告! 根っこで展望台が崩壊!』

「村長が作った展望台!」

 

 役員がそう言った。続いて、アルトからの通信。

 

『本部より報告! サカネ大橋が通行不能!』

「村長の作った橋だ!」

『本部より報告! サカネ公園の銅像が倒れました!』

「村長の銅像ー!」

「もうやめてー!!」

 

 絶叫した村長がスバルに泣きつく。

 

「お願いします! 怪獣を移動させて下さい!」

「現金っスねー……」

「ウェンディ!」

 

 ワタルがまた小突いた。

 スバルは本部へ告げる。

 

「村長の許可が出ました。これより、怪獣移動作戦を開始します!」

 

 

 

「ダイチさーん、こっちですー!」

 

 その頃、ダイチはハナを捜し当てたヴィヴィオたちに連れられ、その場所までやって来ていた。そこでは、ハナの手前でオットー、ディードがチヅルから話を聞いていた。

 

「ダイチさん、たった今チヅルさんから、ハナさんの言っていた『ホオリンガ』という言葉の意味を伺っていたところです」

「チヅルさん、ダイチさんにもお教え下さい」

 

 オットーに頼まれ、チヅルが『ホオリンガ』の意味を話し始めた。

 

「ホオリンガぁゆうのは、カミンガの名前です」

「カミンガ?」

「この村の言葉で、神様。私たちのご先祖が移住する前の土地での方言が、そのまま伝わったんです」

 

 説明を受けたダイチがうなずく。

 

「ホオリ様で、ホオリンガ、ということですね……」

「元の土地での言い伝えに出てくる、土地を豊かにしてくれる神様です」

「でもハナちゃんは、どうしてあの怪獣をホオリ様と? ホオリ様の姿が、あの怪獣に似ているとか?」

「姿は分からんのです。この話自体、ほとんどが忘れられとって。……でも、ハナちゃんのお父さんが、昔話の学者さんなんです! 今は次元世界を回ってるんですけど、何か教えてもらったんかもしれません」

 

 ハナの後ろ姿を見やるダイチ。ハナは、土の中から少しだけ出ている怪獣の触手の先端を撫でていた。

 



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怪獣は動かない(B)

 

 ヴィヴィオたちに見守られながら、ダイチはハナに近寄っていく。

 

「仲いいんだね」

 

 ダイチはそう切り出して話しかけると、触手を撫でていたハナは振り返る。

 

「ホオリンガに、注射ごめんねって言いたいんだ」

 

 続けて告げると、ハナは何も言わずにダイチの手を引っ張り、怪獣の触手の先端に乗せた。

 

「えっと……ごめんなさい」

 

 ダイチが謝ると、ハナはそれでいいのだ、という風にうなずき、触手を撫でる。

 

「クルルルル……」

 

 遠景で、怪獣が触手を振り上げた。

 それを見たハナが、ダイチに告げる。

 

「いいって!」

 

 それを受けてはにかんだダイチが、怪獣へ向けてもう一度謝る。

 

「ごめんね!」

 

 怪獣はその謝罪を受け入れたかのように、穏やかに立ち続けた。

 ダイチとハナのやり取りをながめて、アインハルトがつぶやく。

 

「何だか、不思議な女の子ですね……。彼女には、あの怪獣の感情が分かる能力があるんでしょうか?」

 

 とアインハルトは考えたが、ヴィヴィオは首を横に振った。

 

「そうじゃないと思います。側にいることで、言葉はなくとも、気持ちは通じ合う……そういうことじゃないでしょうか」

 

 語りながら、ヴィヴィオはセイクリッド・ハートの頭を撫でた。ハナが怪獣の触手を撫でるように。

 自分をじっと見上げるイクスヴェリアにもニコッと微笑む。

 

「それはきっと、特別なものじゃないですよ。みんな忘れてるけれど、誰しもが持ってる当たり前なもの……なんじゃないでしょうか」

「皆が忘れてるけれど、皆が持ってる……」

 

 ヴィヴィオの言葉を復唱したアインハルトは、抱えたアスティオンをじっと見つめる。

 

「にゃっ」

 

 アスティオンは小さく鳴き声を出して、優しく笑った。

 一方でダイチは、ハナに肝心なことを尋ねかける。

 

「ハナちゃんは、ホオリンガは病気じゃないって思うんだね。どうしてかな?」

 

 しかしハナは、次のように答える。

 

「内緒なの。お父さんと、ハナの内緒」

「……そっか……」

 

 ハナはまた触手を撫でる……が、ふと空を見上げて立ち上がった。

 

「あっ!」

 

 彼女の視線の先、怪獣の頭上の座標に、スカイマスケッティが飛んできたのだ。

 

「スカイマスケッティ、トラッピングスタンバイ、オッケーっス!」

 

 マスケッティを怪獣の頭上でホバリングさせたウェンディが報告する。

 地上では、アラミスが怪獣の前方まで走ってきて停止。

 

「ジオアラミス、レビテーションスタンバイ、オーケー!」

 

 ウェンディとディエチからの合図を受けて、カミキが作戦開始を告げた。

 

『怪獣輸送、開始!』

「了解(っス)!」

 

 スカイマスケッティの下部とアラミスの砲塔から、キャプチャー光線が放たれて怪獣の巨体を捕らえた。空と地上の二方向から怪獣を引っ張って、人里離れた場所まで連れていく作戦である。

 

「キュウウゥゥ……!」

 

 キャプチャー光線に引っ張られ、怪獣の足が地面から離れて持ち上がっていく。

 これを見たハナ、ダイチの腕を揺さぶった。

 

「どっか連れてく? そんなのダメ!」

「このままじゃ、村がもっと大変なことになっちゃうんだ」

 

 と説得したダイチだが、ハナは言い返した。

 

「ホオリンガ、あそこにいたいって! あそこがいいって!」

 

 ハナの言葉を肯定するように、怪獣は地面に張った根でキャプチャー光線に抵抗する。

 それでも徐々に持ち上げられていくので、ハナの側の触手が引っ込んだ。

 するとハナは、ダイチに告げた。

 

「あのね! 見てほしいのがね! あるの!」

 

 そう言うと、有無を言わさずダイチを神社の物置へと連れていく。ヴィヴィオたちは一瞬顔を見合わせた後、ダイチの後を追いかけていった。

 物置の中に入ると、ハナは壁の一画を指差す。

 

「あれ!」

 

 壁に掛けられてあるのは、額縁に収められた、古びた古文書であった。そしてその中に……。

 

「あっ!? あの怪獣が描いてある!」

「古文書に、怪獣の姿が……?」

 

 リオとコロナが思わず言葉を発した。額縁の中の古文書には、現在出現している怪獣そっくりの絵が描かれているのだ。

 

「これは……ホオリンガ?」

 

 ダイチも呆気にとられていると、ハナが衝撃の事実を明かす。

 

「お父さんが言ってたの。ホオリンガはずっと昔もここに来たの」

 

 そしてハナが差し出したのは、父親のレポート冊子だった。それをめくったダイチは、ヴィヴィオたちにも聞こえるよう中身を読み上げる。

 

「『サカネ村の土地から発掘された古文書には、どこからともなく現れて山となる巨大生物が描かれていた。自らを自然物に変貌させる生物は他に聞いた覚えがない。それは神の領域であろう。そのため私はこの生物を、我々の祖先が暮らしていた土地の神の名から取って、ホオリンガと名付ける』」

 

 それが、サカネッシーでも、ヤマゴンでもない、ホオリンガに与えられた名前であった。そして古文書には、ホオリンガが山に変化していく様が描かれているのだ。

 ハナはダイチを外へ連れ出すと、サカネ村の風景にそびえる山を指し示した。

 

「あれがお父さん。あれがおじいちゃん」

 

 ハナの話を耳にしたヴィヴィオたちは、サカネ村を囲む山をながめて呆気にとられた。

 

「山となって、土地の一部となる怪獣……」

「な、何て言うか……すっごい幻想的な話だね……」

 

 シャンテはそうつぶやくのがやっとであった。

 アインハルトは語る。

 

「確かにホオリンガは、病気なんかじゃなかった……。身体から栄養を地面に与えて、自分も山となるのがホオリンガの生態……。私たちは、自分たちの常識に当てはめて考えて、それに気づきもしなかった……」

「……ホオリンガは、この村で山になるためにやってきたの?」

 

 ダイチの問いに、ハナはゆっくりうなずく。

 

「みんなと一緒にいたいの!」

 

 一方、マスケッティとアラミスに引っ張り上げられようとしていたホオリンガは、とうとう怒りが発露したようであった。真ん丸の青い双眸が赤く染め上がり、全身から大量の黄色い粉が噴出され始める。

 

「ダメ! 動かさんといて!」

「作戦を中止して下さ……」

 

 ハナの頼みを受けて、ダイチがワタルたちに通信しようとしたところ、黄色い粉が彼らの元まで漂ってくる。

 

「何、これ……?」

 

 訝しんで辺りをキョロキョロ見回すヴィヴィオたち。そしてマスケッティとアラミスの方も粉を被っていた。

 

「ちょっ! 前が見えないっスよぉ!」

「ウェンディ! 持ちこたえろよ!」

「む、無理っス! 粉がエンジンにまで詰まって……出力がどんどん低下していってるっスぅ~!」

 

 マスケッティはホバリングを保っていられなくなり、キャプチャー光線も途切れて消え去る。

 

「アラミスだけじゃ支え切れないっ!」

 

 マスケッティ側の支えがなくなったことでアラミスに耐久値を超えた負荷がかかり、こちら側のキャプチャー光線も消滅した。それでホオリンガは地上に戻るが、怒りは収まらないようで、黄色い粉を絶え間なく噴出していく。

 

「キュウウゥゥゥイ!」

 

 

 

 アルトがホオリンガの異常を知らせる。

 

「怪獣、意思を持って粒子を放出!」

「いかん! あれは、人間に一番効く攻撃だ!」

 

 グルマンの言葉に、目を見開いて振り向くカミキ。

 

「まさか……!」

「花粉だよ!」

 

 

 

「は……は……はっくしゅんっ!」

「くしゅんっ! くしゅんっ!」

「はっくちっ! く、くしゃみが止まらないよぉ~!」

「目がかゆいです~!」

 

 ホオリンガの花粉を浴びるダイチやヴィヴィオたちがくしゃみし続けたり、涙を流したりと苦しめられる。

 たかが花粉、と侮るなかれ。微小な粒子は空気に混ざって飛んでくるので、プロテクションでは防ぐことは出来ない。更に目や喉の器官を攻撃されては普通に立っていることすらままならなくなる。精神衛生にも悪い。

 

「ハナちゃん! っくしゅっ!」

 

 チヅルがハナを逃がそうと慌てて駆けつけるが、ハナはホオリンガを見つめて叫んだ。

 

「ホオリンガ、怒ってる!」

 

 

 

「村から離れたくないと、抵抗している……?」

 

 クロノがつぶやいた時、シャーリーとマリエルからの緊急通信が入った。

 

『現地より報告! ……くしゅっ!』

『怪獣がこのまま、っくしゅ! 放出し続けたら……へぷしっ!』

『人が住めない状況にまで花粉だらけ! っくしょんっ!』

『何とかして……下さぁいっ!』

 

 村長がくしゃみとともに泣きついた。

 

「スバル、ディエチ、ウェンディ、ワタルは住民の避難誘導に当たれ!」

『花粉で視界が完全に覆われてて、動けません!』

『こっちもです~!』

 

 カミキが指示するも、ディエチとワタルがそう返した。

 

『あたしが行きますっ! ……はっ、はっ……』

 

 それでもスバルは走ろうとアラミスから飛び出したが、すぐに花粉に鼻をくすぐられて、

 

『はぁっくしょぉーんっ!!』

 

 身体を折り曲げて大きなくしゃみを発した。

 スバルさえ機能できない状況に、カミキは苦悶の表情を浮かべる。更に、

 

「花粉第二波、来ます!」

 

 ホオリンガはますます花粉を発するのだ。

 

 

 

「キュウウゥゥゥイ!」

「ダメ! ホオリンガー! ダメー!」

 

 ハナがホオリンガへ向けて懸命に叫ぶも、ホオリンガは完全に怒りで我を忘れており、その声が届かない。

 

「……みんなは出来るだけホオリンガから遠ざかって!」

 

 ダイチはヴィヴィオたち皆に避難を指示して、自分はホオリンガの方へと駆けていく。と、その途中でエクスデバイザーを取り出した。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『スパークドールズにするのか?』

「違う! ホオリンガの身体を清めたい! ……しゅっ!」

『薬を身体から出すんだな』

「ああまでしてここにいたがってる。それに……」

 

 ダイチの耳に、今もハナの必死な叫びが聞こえる。

 

「ホオリンガ! 大人しくして! ダメー!」

「……ハナちゃんの想いを大切にしたいんだ!」

『君らしいな』

 

 デバイザーの中で苦笑するエックス。

 

『よし、ユナイトだ!』

 

 エックスの同意を得て、ダイチはデバイザーのスイッチを押してユナイトを開始する。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチの肉体が変化し、ウルトラマンエックスが飛び出していく!

 

「イィィィーッ! トワァッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 エックスがホオリンガの面前に姿を現すと、ホオリンガは警戒して一瞬動きを止めた。

 

「あぁー! ウルトラマンエックスだぁー! かぁっこいいー!」

 

 エックスの登場に歓喜の声を上げるシャンテは、イクスヴェリアにも促した。

 

「ほら見てイクス! ちょっと花粉で見づらいけど……あれが噂の超人、エックスだよ!」

 

 イクスヴェリアは初めてお目にかかるエックスの勇姿に、ピョンピョン飛び跳ねて喜びを全身で表した。

 

『ダイチ、行くぞ!』

『「ああ! まずは村への花粉被害を抑える!」』

 

 エックスは早速ホオリンガを止めようと、立ち向かい出す。

 

「キュウウゥゥゥイ!」

 

 ホオリンガの伸ばす触手をかいくぐりながら懐に飛び込み、抑え込もうとする。

 が、横薙ぎに振るわれた触手に太ももを叩かれ、足をすくわれて転倒した。

 

「キュウウゥゥゥイ!」

「グッ!」

 

 触手に対抗するだけで、ホオリンガを攻撃しようとはしないエックス。倒すことが目的ではないので、なるべく非暴力で抑えようとしているのだ。

 

「キュウウゥゥゥイ!」

 

 触手をバク転で回避すると、ホオリンガは再び花粉を噴出し始めた。それを見たエックス、天に向けてまっすぐ人差し指を伸ばす。

 

『Xバリアドーム!』

 

 放たれた光線がホオリンガの頭上で弾け、光のドームとなってエックスとホオリンガを覆い込んだ。これにより、花粉はドームに閉じ込められて外へ拡散しないようになった。

 

「あっ、花粉が途切れた!」

 

 花粉の増加が止まったことで、村はくしゃみ地獄から解放された。マスケッティとアラミスも機能回復するが、肝心のエックスとホオリンガはドームの中で、外からは内部の様子が全く見えない。

 

「中はどうなってるんだろう……?」

「今回あたしたちは、戦いに加勢することはできないみたいだね……」

 

 こうなったからには、ホオリンガのことはエックスに任せるしかない。代わりにスバルらは、花粉によって重篤な被害に遭っている人がいないかと村の捜索を開始した。

 

 

 

 Xバリアドームの内部では、エックスがホオリンガの怒りを鎮めようと奮闘している最中であった。

 

「キュウウゥゥゥイ!」

「シュッ!」

 

 ホオリンガが振り回す触手を、縄跳びの要領で跳び越えるエックス。だがその隙を突かれ、別の触手が首に巻きついた。

 

「ウッ!」

 

 更にホオリンガは花弁の中央から花粉を噴き出し、エックスの呼吸器を苛ませる。

 

「ジュッ……!」

「キュウウゥゥゥイ!」

 

 動きが鈍るエックスの腰にまた触手が巻きつき、エックスは強く締めつけられる。

 

「グゥゥゥッ……!」

 

 その上宙吊りにされて、ますます締め上げられる。エックスは本気になれないこともあり、追いつめられる一方だ。

 

「シュッ……! フウアァァッ!」

 

 だがこのままやられっぱなしでもいなかった。エックスは両手を輝かせると、身体をスパークさせて触手伝いに電撃を流す!

 

「キュウウゥゥゥイ!」

 

 電気ショックを食らったホオリンガはたまらずエックスを離した。着地したエックスは、ホオリンガに突き刺さったままのアンプル弾を見やり、手の平を前に伸ばす。

 

「『ピュリファイウェーブ!」』

 

 発せられたのは、鎮静効果のある光の波動。これを浴びたホオリンガは暴走をやめ、アンプル弾も身体から抜け落ちた。

 

「クルルルル……」

 

 過剰な栄養が抜かれ、ホオリンガの目の色が元に戻ったのであった。

 光のドームが解除され、エックスとホオリンガの姿が外に晒される。

 

「あっ、出てきた!」

「よかった……ホオリンガは大人しくなったみたいですね」

 

 胸を撫で下ろすアインハルトであった。

 そして、皆が見ている中で……ホオリンガに「その時」がやってきた。

 その場にうずくまったホオリンガの全身が、淡い光に覆われる。そして……緑が生い茂る、一つの野山に変身を遂げたのだ。

 

「怪獣が、山に……!」

 

 その様子を見届けたシャーリーたち。村長は思わずその場にがっくり膝をついた。

 

「ああ、村の観光資源がなくなってしもうた……」

 

 落胆する村長に、シャーリーは告げた。

 

「あの怪獣……ホオリンガは最初から、観光資源なんかじゃなかったんですよ。村にとって……人にとっても、もっと大事なものを届けにやってきたんです」

「ええ。村長さん、これを見て下さい」

 

 マリエルが調べたところ、ホオリンガが山となって自然の一部となったことで、村の土壌は以前よりもはるかに栄養素が溢れた、豊かなものとなっていた。

 

「ホオリンガのお陰で、村にはいっぱいの作物が実ります。森も山も生い茂ります。そして豊かな自然の中で……これからの子供たちは、健やかに育まれるんじゃないでしょうか」

 

 その言葉を聞いて、村長は顔を上げた。

 

「そんな話を、息子から聞いたことがある……。そうじゃ、村に伝わる神様の伝説の話じゃ。すっかり忘れとったが……そうか……怪獣、ホオリンガは神様じゃったか……。こうするのが一番良かったんじゃな……」

 

 村長の瞳には、希望の光が戻っていた。

 

「そうじゃ……。一時のお金よりも、子供が健やかに育つような、豊かな自然の方がずっと大事じゃあ。ホオリンガはきっと、それをわしらに教えに来たんじゃな……」

 

 ホオリンガが本来の生態を成し遂げたことを見届けたエックスは、空に飛び立って帰還していった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 ダイチはスバルやヴィヴィオたちとともに、ハナを囲んでホオリンガが変化した山を見つめる。

 

「ホオリンガ……綺麗だね」

 

 ダイチが言うと、ハナはサカネ村の山々を指しながら皆に教えた。

 

「お父さんとね、おじいちゃんとね、ひいひいおじいちゃんと……みんなといるの!」

「うん……。家族みんなと一緒にいるから、ホオリンガはとっても綺麗なんだね。嬉しい、ってことだもの」

 

 語るヴィヴィオ。皆が微笑んでホオリンガの山をながめていると、

 

「おーい、ハナ!」

 

 村長がハナを呼びながらやってきた。

 

「お父さんが、帰ってきたぞ!」

「ほんと!?」

「ああ!」

 

 チヅルがハナに呼びかける。

 

「あの怪獣のこと、話してあげましょう」

「うん!」

「あっ……どうも、お世話になりました」

 

 一礼して、ハナたちはこの場から離れていく。最後にハナはダイチに振り返って、告げた。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 ダイチたちはにっこり笑って、ハナたちの背中を見送った。

 

 

 

「怪獣の恵みに潤う村……素敵な話だったね」

 

 サカネ村からの帰り際、電車の中でコロナが口にした。ヴィヴィオ、リオ、アインハルトはうなずいて同意する。

 アインハルトはこう言った。

 

「一つ、学んだことがあります。共に生きるということは、自分の価値を押しつけることじゃない。相手の事情を鑑みて、尊重して……相手のありのままを認める、ということなんですね」

 

 それは、アインハルトにとって大きな学習であった。彼女は初め、ヴィヴィオらが自分とは違う性質の人間であるから距離を置こうと思っていたし、最近もインターミドルの件がきっかけとなって、自分は側にいるべきではないと再び離れようとしていた。しかし、その度にヴィヴィオとの対話の末に思い直して、今もともに行動をしているのだ。

 そして今回の件で、他者との共生とはどういうものなのか、ということを確かに学んだ。アインハルトはもう、他者を遠ざけようとすることはないだろう。

 と、この時に、リオがふとつぶやいた。

 

「共生といえば……ダイチさん、デバイス怪獣の件はどうなってるのかな? 作り始めてからもう大分経ったはずだけど、まだ完成には至ってないのかな」

「え?」

「ほら、デバイス怪獣って、エックスのジャケットが元々の目的じゃないでしょ? 本来は、怪獣をデバイスの形で実体化させることだって」

 

 リオの言う通り、デバイス怪獣とはその名の通り、デバイス型での独立した実体化が完成形。モンスジャケットは本来、グルマンの発案による亜流でしかない。

 

「そういえば、そっちはどうなってるんだろうね。最近はそっちの話、あんまり聞かないけど……」

 

 うーん、とうなるヴィヴィオ。

 

「……ダイチさん……」

 

 アインハルトもまた、ダイチがどうなっているのかと案じたのであった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はホオリンガだ!」

ダイチ「ホオリンガは『ウルトラマンX』第十話「怪獣は動かない」に登場した植物怪獣。サブタイトルの通り、その場から動こうとしないことが特徴だったんだ」

エックス『この動こうとしない理由が、作中の一番重要な部分だったな』

ダイチ「長い根っこの部分も身体に含んでるからか、身長42メートルに対して体重は10万3千トンとかなり重いぞ。参考に、着ぐるみの改造前のペジネラは同じ身長に対して体重4万トンだ」

エックス『20万トンのスカイドンほどではないが、このサイズだと破格の重さだな』

ダイチ「ちなみにさりげなく、作中の村興しのシーンでホオリンガの擬人化の絵が出てきてるよ」

エックス『こ、これが時代というものか……。まぁかわいいからいいか』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 繰り返されるデバイスゴモラのシンクロ実験。でも、ゴモラは俺たちのコントロールを受けつけようとしない……。デバイス怪獣とつながるために必要なもの、俺に足りないものとは一体何なんだ!? 次回、『未知なる友人』。


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未知なる友人(A)

 

「ゴモラがない!」

「ゴモラ、どこだ! あっ!」

「心配すべき点があるとすれば、ダイチの若さですかね」

「天才故の過信か……」

「ゴモラなら絶対成功します!」

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

「デバイス怪獣は動かせそうか?」

「上手く脳波と同調させられれば……。もう一歩なんですよ!」

「ゴモラ、どうした? 何が言いたい?」

 

 

 

『未知なる友人』

 

 

 

 四年前。当時デバイス怪獣構築術式のプログラミングに取りかかったばかりであったダイチは、突如として謎の女性たちに拉致され、人が寄りつかない森林地の奥深くの洞窟内に設けられた秘密基地に連れていかれた。

 そこは、後年にJS事件の首謀者として悪名を轟かすことになるジェイル・スカリエッティの隠れ家。ダイチを捕らえたのは、この時はまだスカリエッティの配下の戦闘機人であったN2Rの四人だった。

 

『ようこそ我がラボへ、ダイチ・オオゾラ君! 手荒な招待になってすまないが、何せこちらは招待状もまともに送れない身の上なのでね、どうかご勘弁願いたい!』

 

 そのスカリエッティが、ふざけたようなことを言いながら腕を広げた。しかし後ろ手を拘束されているダイチは取り合わず、スカリエッティをきつくにらみつけた。

 

『ゴモラを返せ!』

 

 スカリエッティの手元の台には、カプセルに入れられているエレキングのスパークドールズと、ダイチから奪い取ったゴモラが置かれている。

 ダイチから射殺すような視線をもらっても、スカリエッティは微塵も動じなかった。

 

『ふふふ、君が私の研究に協力してくれると誓ってくれたのなら、これはいくらでも返してあげるとも』

『……!? 俺に、お前の協力をだって!?』

『私も怪獣という摩訶不思議な能力を持った生物には大いに興味がある。しかし、流石に戦闘機人開発との同時進行では、なかなか思うように研究が進まない現状なんだ。そこで、スパークドールズ研究の第一人者である君の手を貸していただきたい』

『そのために、俺をこうして捕まえたのか……!』

 

 誘いを掛けられたダイチは、捕らえられた状態でありながら毅然と拒絶した。

 

『断る! どうして犯罪者のお前なんかに協力しなければならないんだ!』

『まぁそう焦らないでおくれ。何も、君に何のメリットもない話じゃあないんだ』

 

 スカリエッティの差し出した手の平の上に、ある構築中の術式のコードが浮かび上がった。ダイチはひと目でそれが何なのか分かった。自分が作っている最中だったものだからだ。

 

『デバイス怪獣の術式……!』

『私の娘たちに君を連れてきてもらうと同時に、君の研究を少しばかり拝借させてもらったよ。これを見るに、デバイス怪獣はまだ骨子も出来上がってない状態のようだね。無理もないことだ。全くゼロの状態から、怪獣の膨大な生体データをデバイスに落とし込もうとするのだから』

 

 術式コードの横に、小さなゴモラのホログラムも現れた。

 

『しかし、これに私がこうやって手を加えたら……』

 

 スカリエッティはノーヴェのジェットエッジのデータを呼び出すと、それに手を加えてデバイス怪獣の術式に組み込んだ。すると、ゴモラのホログラムがメカニカルなものに変貌する。

 現在の時間で開発中のデバイスゴモラによく似た姿であった。

 

『どうかね? 私の手が加わっただけで術式構築が一気に前進した。私と君が協力すれば、完成も遠い日のことではないということだよ』

 

 それでも、ダイチはスカリエッティの誘惑には乗らない。

 

『けど、お前は出来上がったデバイス怪獣を自分の道具にするつもりだろう!』

『それは当然のことじゃないか。研究の成果は、何よりもまず自分のためにならなければ』

『それは違う! 俺はデバイス怪獣を、人間と怪獣の共生の一歩として開発してるんだ!』

 

 ダイチの言葉にスカリエッティは大いに笑った。

 

『ははは! おかしなことを言うねぇ。そんなことをするのが、一体何のためになると言うのかな?』

『何のためとかじゃない! 人間と怪獣の共生する世界は父の悲願で……俺自身の願いなんだっ!』

 

 ダイチは毅然と言って、スカリエッティに手を貸すことを頑として拒否し続けたのだった。

 

 

 

 ある日のこと、チームナカジマの四人は日課のトレーニングのためにXioベースに向かう道中、通り掛かった雑木林に目を向けた。

 

「そういえば、ここでダイチさんが、デバイス怪獣の実験をしてるんだってね。ちょうど今やってるはずだよ」

 

 と言うヴィヴィオ。四人はサカネ村からの帰りの際の会話を思い出し、実験の進捗を気に掛けた。それでアインハルトが切り出す。

 

「……少しだけ、見学させてもらってもいいでしょうか」

「はい! どうせだからみんなで寄っていこー!」

「久しぶりだね!」

 

 リオの提案により、四人は林の中へと寄り道していく。

 するとちょうどその時、林の中心から青い光が発せられ、サイバーチックな外見の怪獣がそびえ立った!

 

「! あれは……!」

「デバイス怪獣! デバイスゴモラです!」

 

 興奮気味に告げるコロナ。あのゴモラキャリバーと同じ特徴を持つ怪獣こそが、ダイチの開発中のデバイス怪獣、その第一号であるデバイスゴモラである。

 しかも、以前に一度実験を見学させてもらった時には実体化に至る前に消失してしまっていたが、今出現したデバイスゴモラは輪郭がはっきりとしていて、完全に実体化している。この事実に沸き立つヴィヴィオたち。

 

「実体化に成功したんだ! やった!」

「ダイチさん……!」

 

 ヴィヴィオは自分のことのように喜び、アインハルトもぐっと手を握った。

 が、

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 デバイスゴモラの実体は、すぐに崩壊を起こして消え失せた。

 

「あっ……」

 

 ヴィヴィオたちは一気に熱が冷め、落胆した。

 実験場にたどり着くと、実験の片付けをしているところにシャーリーとマリエルを捕まえる。

 

「シャーリーさん、マリーさん」

「あぁみんな、見学に来たのね。と言っても、今日の実験はもう終わりだけど……」

「見させてもらいました。……まだ、成功はしてないんですね」

 

 アインハルトの問いに首肯する二人。

 

「魔力粒子の定着率は、ちょっと前から100%に達するようになったんだけどね……コントロールしようとすると、すぐに粒子崩壊を起こしてしまうの。動かせないんじゃ、実戦投入はとてもじゃないけど出来ない」

「本当、何がいけないのかしら……。ダイチくんも落胆が大きいでしょうね……」

 

 脳波コントロール用のヘッドギアを被って立ち尽くしているダイチの後ろ姿を見やるヴィヴィオたち。その背中には哀愁が漂っていた。

 

「ダイチさん……」

 

 アインハルトが小さくつぶやいた。

 

 

 

 その日の晩、当直のスバルとノーヴェはラボのダイチのところへ差し入れを持っていく道すがら、デバイス怪獣実験について話をしていた。

 

「そっか……また実験は失敗だったのか」

「うん……。これでもう26回目だって、シャーリーさんが」

「実体化はもう完全なんだろ? なのにコントロールできないなんてなぁ……」

 

 ジェットエッジを片手にして、見つめるノーヴェ。

 

「普通のデバイスなら、相当特殊なもんでもなけりゃコントロール不可なんてことはないよな。やっぱ、心は怪獣のそれだから、簡単にはいかねぇもんなのかな」

「あたしは、ゴモラがダイくんに心を開いてくれないなんてことはないとは思わないけどなぁ……」

 

 スバルは難しい表情を作ってぼやいた。

 

「だって、ゴモラはダイくんが子供の時からずぅっと一緒にいたんだよ。それなのに、ゴモラがダイチを拒んでるなんて……そうだったら寂しすぎるよ」

「つっても、相手は怪獣だぜ? 言葉を交わせる訳でもねぇしさ。それが出来れば、話は全然違うんだろうになぁ~……」

 

 頭を悩ませながらラボに到着する二人。

 

「ダイくーん、差し入れ持ってきたよ……」

 

 スバルが呼びかけたが、言葉が途中ですぼんでいく。

 ダイチはデスクに向かいながら、手にしたゴモラのスパークドールズに小さく呼びかけていた。

 

「どうして答えてくれないんだ、ゴモラ……」

 

 真剣でどこか痛ましい様子に、スバルたちは声掛けが出来ずに目を伏した。

 

 

 

 翌日、ヴィヴィオたちは息せき切ってグルマンに詰め寄った。

 

「グルマン博士! ダイチさんが倒れたって聞きましたが!?」

「ああそうだ。デバイス怪獣の実験中にな。全く、だから無理をするなとあれほど……」

「大丈夫なんでしょうか……!?」

 

 青い顔のアインハルトに、グルマンは落ち着かせるように説く。

 

「何、少し脳に負担が掛かって気を失っただけだ。しばらくしたら無事に目を覚ます」

「そうですか……」

「よかったぁ。でも、どうしてデバイス怪獣の実験で倒れるんですか?」

 

 リオの質問に答えるグルマン。

 

「デバイス怪獣は脳波シンクロによってコントロールするのだが、元々全く異なる生物同士で同調させるのは無理が大きい。その負荷は、怪獣の方はともかく、生体的に弱い人間が連続して受けていいものではない。だが、最近のダイチは焦りすぎ……いや、実験に執着しすぎだった。なまじ成功が見えてきたからだろうな」

「何でダイチさん、そこまでして……」

 

 つぶやくコロナ。いくら実験の主導者とはいえ、あの穏やかなダイチがそこまで躍起になるものだろうか。

 その理由についてグルマンは語る。

 

「あいつの父親、タカシ博士のこともあるだろう」

「ダイチさんのお父さん……?」

「前にダイチ自身が言ってたことだが、デバイス怪獣の発想自体は元々、戦闘目的ではない。人間と怪獣という異なる生物同士で理解し合うための架け橋を、デバイスという形にするものだという。つまり、ダイチは消えた父の悲願を果たそうと焦ってしまってるんだな」

 

 それを聞いて、アインハルトは何かを考えてうつむいた。

 

 

 

 その後目を覚ましたダイチは、オペレーション本部で彼を諭すカミキと軽い口論になっていた。

 

「幼い頃からゴモラとずっと一緒でした! ゴモラのことは誰よりも知っています!」

 

 と主張して実験続行を訴えるダイチに、カミキは言い聞かす。

 

「……身近な存在だから何でも知ってるとは限らない。たとえ家族の間柄でも、知らないことはたくさんある」

「……失礼します」

 

 ダイチはその言葉を理解したのかしていないのか、そのまま本部を後にしていった。

 

「ダイチの奴、あんな調子で大丈夫なのか? また倒れたりしねぇだろうな……」

「随分と冷静さを欠いてしまっている……。あれがまた悪い結果につながらないといいんだが……」

 

 ダイチのことを案じてつぶやくワタルとチンク。と、そこにクロノが居並んだ特捜班に呼びかける。

 

「こんな時だが、君たちには知っていてもらわなければならないことがある。全員、静聴するように」

 

 特捜班の面々が姿勢を正して向き直ると、クロノはカミキに頭を下げた。

 

「隊長、お願いします」

「うむ。皆、これから伝えることは非常に重要なことだ」

 

 カミキが片手を挙げると、アルトがメインモニターにいくつもの写真を表示させた。

 その全てに、同一タイプの円盤が写っている。

 

「これは……!」

「これらの写真はこの数日の間に、次元世界各所で撮影されたものだ。それも、全て管理局の重要施設上空でだ。――宇宙船は、管理局と次元世界の調査を行っているものと見ていいだろう」

 

 ただならぬ説明に、特捜班は一様に緊張を深めた。

 

「諸君も知っている通り、これまで異星人犯罪者の宇宙船は数え切れない数が次元世界に侵入、ないし侵入未遂を起こしている。だが今までは、基本的に個々が異なる種族ということで宇宙船のタイプも多種多様だった。つまり、今回の件は今までの異星人犯罪者の傾向とは大きく違うということだ。同一の種族が次元世界を綿密に調査している……仮にそれが侵略目的のためであるならば、その侵略の規模もこれまでにないほど大きなものとなる」

「これまでのテロリズムめいたものとは比べものにならないヤマになるってことですか……?」

 

 恐る恐る尋ね返すワタル。これまでの異星人犯罪者には単純な侵略目的のものも少なくなかったが、元々が犯罪者なので、活動は大体が個人単位かそれを少し上回る程度のものであった。だが、今度の件は全く違う。写真の数を見るに、もっと大きな集団……あるいは一つの種族そのものが、次元世界を狙っているということになる。

 そういうことだと、カミキは肯定した。

 

「これは最早、犯罪の規模を越えた、我らが管理局と異星との星間戦争に発展するかもしれない危険がある」

「せ、戦争……!」

 

 特捜班の間にも動揺が隠せなかった。様々な異星人と戦い続け、それ以前にも色んな事件に身を投じていたXio隊員といえども、流石に戦争の経験は一度もないのだ。

 これがその負の経験の始まりとなってしまうかもしれないと考えれば、落ち着きを失うのも当然のことだ。

 

「まだそうと決まった訳でもないが……少なくとも、これまでと同じようなケースにはならないだろう。そのため、しばらくの間は平常時でも警戒レベル・フェイズ1を維持する。君たちにも負担を掛けるが、安全が確認されるまで気を緩めることのないように。以上」

「了解!」

 

 ピッとカミキに敬礼する特捜班。その中で、スバルはこんな状況下でダイチが平常でない状態であることを気に病んだ。

 

(ダイくん、大丈夫かな……)

 

 

 

『デバイスゴモラはゴモラの分身……いや、ゴモラ自身だ。心でつながらない限り、君に応えてくれないんじゃないか』

 

 その頃、格納庫ではダイチがエックスからも意見を受けていた。それでダイチは、ゴモラをガウリンガルに掛けることにする。

 

「教えてくれ……お前の本当の気持ちを!」

 

 スパークドールズをエクスデバイザーでリードする。

 

[ゴモラ、解析中]

 

 解析は順調に進んだに見えた。が、

 

[解析できません]

 

 出てきた結果は、エラーであった。

 

「えっ? 出来ない? 何で……?」

『ゴモラは心を閉ざしているんだ。君に思考を読まれまいとして……』

 

 エックスの指摘を受け入れられないダイチ。

 

「そんな訳ないだろ! ゴモラ、どうしたんだよ!」

 

 何度もゴモラをデバイザーに押し当てる。

 

『こらっ! 無理にやっても駄目だ!』

「ゴモラ……ゴモラ……!」

『ダイチっ!』

 

 その時、必死になっているダイチの名を呼ぶ声。

 

「ダイチさん!」

「……アインハルトちゃん?」

 

 ダイチが振り返ると、彼が気づかない内にアインハルトが側にまで来ていた。

 

「どうして格納庫なんかに……?」

「……ダイチさんを捜してました。少し、お話しがしたくて」

「俺に話? 一体何かな、改まって……」

 

 一旦落ち着きを取り戻したダイチに、アインハルトはこう語り出す。

 

「私と最初に会った時のこと、覚えてるでしょうか。あの時の私は、聖王と冥王との勝負を求めて街頭試合をしてました」

「ああ、うん。忘れる訳ないよ」

「……あの時は、カイザーアーツの強さを証明すること、覇王イングヴァルトの無念を晴らすことしか頭にありませんでした。ヴィヴィオさんたちとも、二度も距離を置こうとしました。けど、ダイチさんの言葉や私の周りに集まってくれたみんなとの触れ合いを通して、私の考えが一方的であったこと、他者を『理解』していなかったことを知り、自分を改めました。――ダイチさんが教えてくれた『理解』が、ようやく分かるようになってきたんです」

 

 そこまで語ったアインハルトは、ダイチの目をじっと覗き込む。

 

「……今のダイチさんは、以前の私と同じようになってると思います」

「えっ……」

「怪獣との共生、そのために日々努力なさってるのは立派なことだとは思います。ですが……『理解』とは、自分の気持ちを相手に押しつけて、無理につながろうとすることじゃないですよね。今のダイチさんは、デバイス怪獣の目的がお父さんの悲願の達成にすり替わってるんじゃないでしょうか。ちょうど、かつての私のように」

 

 アインハルトはダイチの目をまっすぐ見つめたまま、言った。

 

「今のダイチさんは……ゴモラの立場になって、ゴモラの気持ちを考えてるんですか?」

 

 ダイチは愕然と固まり、何も言い返すことが出来ない。

 ダイチからの返事がないまま、格納庫に緊急警報が鳴り渡った。

 

『フェイズ2。未確認飛行物体接近中。各隊員はオペレーション本部へ』

「未確認飛行物体……!?」

「……ごめん、行かなくちゃ!」

 

 ダイチは回答を出さないまま、格納庫から走り去っていく。アインハルトは心配した表情でそれを見送った。

 

 

 

 ハヤトとディエチを乗せて発進したスカイマスケッティは、地上本部周辺の空域で宇宙から飛来してきた円盤群を発見した。

 

『宇宙船四機を確認!』

 

 円盤は形状がどれもバラバラだが、機体が鈍い金色という点は共通していた。それがまっすぐ地上本部を目指すのを、マスケッティが追跡する。

 クロノがアルトとルキノに問う。

 

「宇宙船から交信は?」

「確認できません!」

「生命反応もなし!」

「どれも、写真の宇宙船とは違う種類だな……」

 

 カミキのひと言の後にグルマンが付け足す。

 

「だが、使用されている金属は同じだ。しかもこれは……ペダニウム合金! まさか、ペダン星人か!」

「ペダン星人……!?」

「よりによって、あのペダン星人に目をつけられたとは……。これは非常にまずい事態だぞ!」

 

 グルマンはいつになく強張った声音で告げた。

 

 

 

 編隊を組んで飛行していた四機の円盤だが、不意にUターンすると追跡するマスケッティに光線を照射する! マスケッティはすんでのところで回避した。

 

「うわっ! 攻撃してきやがった!」

「隊長、応戦許可を!」

 

 要求するディエチ。向こうが無人機で、交信にも一切応じないとなると、交渉は不可能だ。円盤を止めるには、戦うしかない。

 

『やむを得ん。応戦を許可する! これ以上の宇宙船の侵攻を阻止せよ!』

「了解!」

 

(♪ウルトラ警備隊のテーマ)

 

 カミキの許可を得て、マスケッティが迎撃を開始した。

 

「ファントン光子砲、発射!」

 

 光子砲をうならせながら円盤群とのドッグファイトを始めるマスケッティ。円盤四機は一斉に光線を発射してくるが、マスケッティはハヤトの操縦により機体を巧みに傾けることで光線の間を縫って飛ぶ。そして光子砲を円盤に浴びせた。

 だが、光子砲はペダニウム合金の装甲にあっさりと弾かれる。

 

「光子砲、効果ありません!」

 

 ディエチの報告。これを受けて、グルマンが通信で伝えた。

 

『これより、宇宙船に効果があると思われるデバイス怪獣カードを送る!』

 

 転送を待つ間、マスケッティは円盤四機と激しく戦う。ローリングすることで相手の光線から逃れ、円盤の編隊の間に飛び込んで撹乱。転送完了までの時間を稼ぐ。

 相手四機に対してマスケッティはたった一機だが、ハヤトとディエチの力で互角の戦闘となっていた。

 そしてデバイス怪獣カードの転送も終了した。デバイスサンダーダランビアのカードだ!

 

「サンダーダランビア……!」

「機械には電気を、ってことか。ともかくディエチ、頼んだぞ!」

「うん……!」

 

 まずは一撃が最も効果を発揮できる状況を作るのがハヤトの役割。マスケッティは相手からの光線をかわすとともに急な角度で一気に上昇。円盤は置いていかれる。

 しかしこんなものでは終わらない。円盤群の上を取ると、垂直降下でぐんぐん円盤に向かっていく。

 

「今だ、ディエチ!」

「うん! ダランビア電磁砲、発射!」

 

 サンダーダランビアの能力が反映された、電磁砲がうなりを上げて発射!

 そして電磁砲は、円盤四機を貫いて強力な電撃を食らわせた。ハヤトは一発の攻撃が四機全部を貫けるように、敵が一直線に並ぶように角度を調整したのだった。

 今の攻撃の影響か、高度を下げていく円盤群。ハヤトたちは一瞬喜んだが……それにはまだ早かった。

 高度自体はどんどん下げていく円盤四機だが、地上までの途中でそれぞれがジョイントし合い、異様な人型の状態となって着地したのだ。

 

「あれは……!」

「変な形してるとは思ったが、ロボットのパーツを兼ねてたのか……!」

 

 あれこそが円盤四機の真の姿。ペダン星人の誇るスーパーロボット兵器、キングジョーである!

 



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未知なる友人(B)

 

 グワアッシ……グワアッシ……。

 合体したキングジョーは駆動音を鳴らしながら、地上本部へ向けてまっすぐ進撃を開始した。ビルなどの進路上の障害物は、両目から放たれる怪光線で全て薙ぎ払う。

 ウゥーウゥーと非常サイレンの鳴り響く地上本部前の路面から、三基のアインヘリヤルがせり上がってきた。砲口がキングジョーへ向き、魔力砲撃を撃ち込む。

 大怪獣ガーゴルゴンにもダメージを与えた絶大な砲撃。……だが、キングジョーは微動だにもせずに進み続ける!

 

「ダランビア電磁砲!」

 

 駆けつけたマスケッティから再び電磁砲が発射され、キングジョーに直撃。

 が、これすら通用している様子がない!

 

「効かなくなった……!?」

「伊達に合体した訳じゃないってことか……!」

 

 キングジョーの怪光線が反撃として繰り出された。咄嗟に回避行動を取るマスケッティだが、想定以上の威力の光線は当たらなくともマスケッティの機体に重大な損傷を与えた。

 スカイマスケッティが黒煙を上げ、みるみる高度を落としていく。

 

「エマージェンシー! メインエンジンにトラブル!」

『不時着するんだ!』

 

 クロノからの指示により、マスケッティは開けた地点に緊急胴体着陸した。

 グワアッシ……グワアッシ……。

 キングジョーはマスケッティを確実に潰すつもりか、そちらへと進む方向を変えた。

 

『ハヤト! ディエチ! 早く脱出しろ!』

 

 カミキが叫ぶも、マスケッティはディエチの操作を受けつけない。

 

「緊急脱出装置に異常! アトス、リジェクト出来ません!」

 

 

 

 ハヤトとディエチの危機に、現場のスバルとノーヴェが動く。

 

「あたしたちで強制リジェクトさせよう!」

「ああ! 早くポルトスへ!」

 

 ジオポルトスへと駆け出そうとする二人だったが、そこに何者かが突然空間転移してきた。

 

『動くなッ!』

「!?」

 

 濃い青を基調としたボディアーマーに、顔をフルフェイスヘルメットで隠した兵士の二人が、ライフル型の光線銃をスバルたちに突きつけてきたのだ。スバルとノーヴェは足を止めさせられる。

 

「あなたたちは……!」

『我々はペダン星人。この惑星ミッドチルダ及びミッドチルダ人は、我々が壊滅させる!』

 

 姿を現したペダン星人は、早々にスバルたちに恐ろしいことを宣言した。

 

 

 

 身動きの取れないマスケッティに、キングジョーが地上部隊の援護攻撃を物ともせず着実に迫る。

 この重大な危機にダイチは、無言でエクスデバイザーを構えた。

 

『おい、ダイチ!』

「無茶するなって言いたいんだろ? 分かってる! でも今助けられるのは俺たちだけだ!」

『しょうがない奴だ……。よし、ユナイトだ!』

 

 エックスの了承を得て、ダイチはユナイトを行った。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチが光に包まれ、エックスへ変身!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

 

 飛び出していったエックスはその勢いのままに、マスケッティを撃ち抜こうとしているキングジョーにきりもみキック!

 強烈な一撃をもらったキングジョーは前のめりに倒れた。

 

[エックス、ユナイテッド]

 

 キングジョーを蹴ってはね返ったエックスは街の中央に華麗に着地した。

 

「助かった……ありがとう、エックス!」

「サンキュー、エックス!」

 

 あわやというところを救われたディエチとハヤトはエックスへ礼を告げた。

 しかし戦いは開始したばかりだ。キングジョーはエックスの飛び蹴りでもさしたるダメージを受けていない様子で、すぐに起き上がって狙いをエックスに固定した。

 

「ジュワッ!」

 

 エックスは迫り来る鋼鉄の大怪物相手に敢然と立ち向かう。自ら接近していって、ジャンプからのパンチを食らわせた!

 エックスとキングジョーの激しい殴り合いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 ペダン星人の片方が、キングジョーと戦い出したエックスを見上げた。

 

『ミッドチルダを守護するウルトラマンか……。だが、奴のデータも既に取得済みだ。我らのキングジョーによってウルトラマンを排除し、この星を滅ぼしてくれる!』

 

 と語るペダン星人に、スバルが問いを投げかけた。

 

「どうしてミッドを、あたしたちをそんなに敵視するの!?」

 

 それに回答するペダン星人。

 

『この星と居住民族のお前たちのデータと歴史を調べ上げさせてもらった。非常に危険な星だッ!』

 

 いきなり言い切られ、スバルとノーヴェは思い切り面食らった。

 

『たった二十年足らずの間に次元を揺るがすほどの事象が三度も発生している! 他にも危険レベルの高い物品が数え切れないほど存在! しかも、それを所有しているお前たちミッドチルダ人は時空管理局なる組織の名の下に、複数の次元に自分たちの価値観を押しつけて抵抗力を奪い、支配及び監視している! これは明白な侵略だ! 放っておけば、我らのペダン星も貴様らの毒牙にかかるやもしれん!』

 

 ペダン星人は、管理局が推し進める質量兵器廃絶と魔法文明の普及を、侵略行為と捉えているようであった。

 

「侵略だなんて、あたしたちはそんなつもりじゃ……!」

『黙れッ! その手には乗らんぞ!』

 

 反論しようとするスバルだが、ペダン星人は聞く耳すら持たなかった。

 

『我々はその前に、危険なミッドチルダ人を根絶やしにすることを決定したのだ! 既にこの星へ向けて、我らペダン軍の大宇宙艦隊が発進している! 艦隊が到着次第、このミッドチルダと時空管理局に連なる次元を総攻撃するのだ!!』

 

 銃とともに宣戦布告を突きつけられ、スバルとノーヴェは顔面蒼白となった。

 

 

 

 スバルたちとの通信越しにペダン星人の目的を耳にしたグルマンがつぶやく。

 

「ペダン星人に何を言っても無駄だ。傲慢で、独善的……! 同じような言いがかり同然の口実で、奴らは七つの星を滅ぼしている!」

 

 カミキとクロノの方は、大宇宙艦隊の総攻撃と聞いて焦りの色を浮かべていた。

 

「あのタイプMは、尖兵と同時に我々の目を地上へ引きつける囮でもあったか……!」

「管理局本部へ通達! 直ちにミッド衛星軌道上に次元艦隊を召集し、敵船団への迎撃態勢を取るように!」

 

 クロノの命令で、アルトとルキノが慌ただしく各方面への連絡を執り行う。

 危惧していた星間戦争の可能性が俄然濃厚となっていき、流石のカミキとクロノも動揺を隠せなかった。

 

 

 

 ペダン星人は更に、管理局とミッドチルダ人を滅ぼした後のことを述べる。

 

『残された資源と文明の遺産は、我々が管理し有効利用させてもらう』

「何だそりゃあ! お前らのやってることが侵略じゃねぇか!」

 

 ノーヴェがいきり立って非難するが、ペダン星人はやはり聞き入れようともしない。

 

『我らペダン星人は、お前たちなど足元にも及ばん科学力を持った宇宙一の種族! 野蛮なお前たちよりも、我々に支配される方がこの星も幸福なのだ! スパークドールズの怪獣たちもなッ!』

「……それは間違ってるっ!」

 

 ペダン星人の言葉を、スバルが力を込めて否定した。

 

「力の強さだけじゃ、心は動かせないっ! 心と心がつながらなくちゃ!」

『心とつながるだと? 怪獣の? 馬鹿馬鹿しい!』

 

 ダイチの掲げる理想を、ペダン星人は一笑に付した。

 

『獰猛で理性なぞない、力しか利用価値のない怪獣の心とつながるなど、出来るはずがないわッ!』

「……!」

 

 傲然とした物言いに、スバルとノーヴェは眉間に深い皺を刻んだ。

 

 

 

 キングジョーと激戦を繰り広げるエックスだが、相手の強固すぎる装甲の前に押され気味であった。こちらの打撃が、少しよろめくだけでまるで通じていないのである。

 

『こいつの装甲は、簡単には破れないぞ!』

『「だったらこれだ!」』

 

 状況打破のためにダイチが選んだのは、デバイスゼットン。

 

『ピポポポポポ……』

[ゼットンケイオン、セットアップ]

 

 ゼットンケイオンを装着するエックス。怪獣の中でもとりわけ優れた破壊力を持つゼットンのパワーを受け継ぐこのジャケットならば、キングジョーの防御も打ち崩せるはずだ。

 

『「ブラスト火炎弾!」』

「シェアッ!」

 

 胸部に灯した火炎弾を、まっすぐキングジョーへ発射!

 ――が、キングジョーはその瞬間に円盤形態に分離。火炎弾を回避した。

 

『「えっ!?」』

 

 円盤は素早くエックスの背後に回り込み、再合体。振り返ったエックスの胸ぐらを鷲掴みにする。

 

「グゥッ!?」

 

 掴まれたゼットンケイオンがミシミシと嫌な音を立てて軋んでいく。とんでもない握力である!

 

『「しまった! ジャケットの耐久値を超える……!」』

 

 キングジョーの握力にゼットンケイオンは耐え切れず、光の粒子となって霧散してしまった。

 これこそがキングジョーの真の恐ろしさ。ロボット形態では驚異的なパワーと耐久を誇るが動作が鈍い。円盤形態では耐久力が落ちる代わりに機動性が大幅に増す。この二つの形態を使い分けることで、弱点を解消しているのだ。ペダン星人が七つもの星を滅ぼせたのもうなずける、戦闘兵器として非常に優れた性能である。

 

『ダイチ、次こそ決めるぞ!』

『「ああ!」』

 

 エックスとダイチは負けじと、次なる必殺技を繰り出す。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 だがこれも、キングジョーは分離することでかわした。光線は空振りに終わる。

 

『何て奴だ!』

『「俺たちの攻撃が完全に読まれてる!」』

 

 キングジョーは事前にペダン星人が採取したデータにより、エックスの手の内を完璧に見切っていた。

 そして四機の円盤がエックスの周囲を高速で飛び回り、翻弄しながら怪光線の集中攻撃を叩き込む。

 

「グワァッ!」

 

 足を止められたエックスに、合体したキングジョーが飛びかかってのしかかる! エックスは背後のビルを巻き込んで地面に押し潰された。

 マウントポジションからエックスを繰り返し殴りつけるキングジョー。

 

『ダイチ! このままでは、二人ともやられるぞっ!』

『「くっ……!」』

 

 押さえつけられたエックスは身動きが取れず、されるままにキングジョーに叩きのめされる!

 

「エックスが危ないっ!」

 

 叫ぶスバルに、ノーヴェが呼びかけた。

 

「スバル! ここはあたしが引きつける! エックスの援護に行け!」

「ノーヴェ! ……うんっ!」

 

 ノーヴェの心意気を買ったスバルは、マッハキャリバーをうならせてエックスの方角へと走り出す。

 

『行かせるものかッ!』

 

 当然ペダン星人が見逃さないが、スバルへ発射された光弾はノーヴェが発したエアライナーに弾かれた。

 

『何ッ!』

「エアライナーにはこういう使い方もあるのさ。……スバルの邪魔はさせねぇぜ!」

『小癪なッ……!』

 

 スバルの背中を守るため、ノーヴェは単身ペダン星人へと肉薄していった。

 そしてスバルは、キングジョーを射程範囲内に収めるとウルトライザー・カートリッジを装填、エネルギーチャージする。

 

[Charging Ultraman’s power.]

「ウルトライト・バスターっ!!」

 

 放たれたバスターはキングジョーの顔面を捉えた。流石に何ともないとはいかず、キングジョーはのけぞる。

 

「フアッ!」

 

 その隙を突いてエックスはキングジョーを蹴り飛ばし、やっと攻撃から逃れることが出来たが、消耗が大きくてカラータイマーが点滅し始めた。

 一方のキングジョーは、エックスではなくスバルへと怪光線を放った!

 

「あっ……!」

 

 ウルトライト・バスターの反動を受けたスバルはかわせない!

 

『「スゥちゃんっ!!」』

 

 ダイチは咄嗟に身を乗り出し――エックスがスバルの盾となって、怪光線を食らった。

 

「グアアアァァァァァーッ!!」

「エックスーっ!!」

 

 キングジョーは容赦なくエックスに怪光線を浴びせ続けた。大ダメージを受けたエックスはその場に倒れ伏す。

 

『「うあああぁぁぁぁぁーっ!!」』

 

 エックスのダメージはダイチにフィードバックする。ダイチが絶叫を上げた、その時、

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ダイチは確かに、よく聞き覚えのある咆哮を耳にした。

 

『「この声……ゴモラ?」』

 

 それがゴモラのものだと理解したダイチは、アインハルトに言われたことを思い出し、自らを恥じた。

 

『「アインハルトちゃんの言った通りだ……。俺は、お前の気持ちを何も分かろうとしてなかった。目的を見失って、いつしかお前を、戦いの道具にしようとしてたんだ……。あの時否定した、スカリエッティと同じことを……」』

 

 目尻に涙を浮かべるダイチ。

 

『「ゴモラ……ごめん……!」』

 

 深い謝罪の気持ちを心に宿すダイチ。すると、

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 再度ゴモラの鳴き声。そして――デバイザーに勝手に、デバイスゴモラのカードが収まった。

 そのカードから伝わるものを、エックスがダイチに知らせた。

 

『ダイチ! ゴモラの意思が、君とつながろうとしている!』

 

 デバイザーからまばゆい光が放たれ――ダイチは気がつけば、エックスの中から異なる電脳空間へと居場所を移していた。

 そしてダイチの目の前に現れたのは――十五年前のビジョン。両親が消えた時の自分の姿。

 

『お父さーん! お母さーん!』

 

 それから、デバイス怪獣の実験を行う現代の自分の姿となる。

 

『今日こそ頼むぞ、ゴモラ』

『「これは……ゴモラの記憶……?」』

 

 今見ているのは、ゴモラから見えていた自分の姿だということにダイチは気づいた。つまり、この映像はゴモラの記憶。ということは、この場所は――。

 

『「……そうか!」』

 

 そうしてダイチは、ゴモラの気持ちを理解した。

 

『「ゴモラ、お前がつながるのを拒んでたのは……酷使される俺の身を心配して……!」』

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ダイチの前に、デバイスゴモラのビジョンが現れる。ゴモラの気持ちを知ったことで、ダイチの心には、感謝と自信が満ち溢れた。

 

『「ありがとう……。けど俺なら大丈夫だ! 俺がやらなきゃ多くの命が失われる……」』

 

 そしてダイチは、ゴモラに願う。

 

『「お願いだ……。力を貸してくれ!」』

 

 

 

 ダイチは、元のエックス内の電脳空間に戻ってきた。

 

『「よし!」』

 

 そしてデバイザーから、ゴモラのスパークドールズが現出した。――いや、少し違う。それは『デバイスゴモラ』のものであった。

 ダイチはそれを手に取ると、力いっぱいにデバイザーにリードさせた。

 

[リアライズ!]

 

 

 

 戦場に魔力粒子が降り注ぎ、それらが固着して一つの形をなしていく。

 裏にローラーを備えた力強い足。長い尾。腕には鋭いクローと二重のスピナー。黄色い双眸が輝きを放ち、『それ』は雄叫びを上げた。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 デバイスゴモラ――。モンスジャケットのゴモラキャリバーではない、単独で実体化したデバイスゴモラが、本当の意味で実体となったのだ!

 

「デバイスゴモラ……!」

 

 あっと驚いてデバイスゴモラを見上げたスバルは、それがどういうことかを理解して笑顔となった。

 

「ダイくん……! 遂にやったんだ……!」

 

 

 

『な、何だあれは!?』

 

 ノーヴェと戦っていたペダン星人は、事前データにないデバイスゴモラの出現に驚愕し切っていた。そんな彼らに、ノーヴェは言ってのける。

 

「あいつは、怪獣の力と心を宿したあたしたちの味方さ! ダイチとゴモラの心がつながった証拠だよ!」

『ば、馬鹿な! 怪獣の意思とシンクロするなど……怪獣の心と通じ合うなど、ありえんッ! 我らペダン星人に不可能なことが、貴様ら如きに……!』

 

 完全に混乱したペダン星人は、半ば自棄になってノーヴェに銃を向けた。

 

『き、危険だッ! 貴様らは排除しなければならんッ!』

 

 泡を食った態度に、ノーヴェは失笑を見せた。

 

「理解できねーもんは拒まないと気持ちの平静が保てないのかよ。さもしい連中だぜっ!」

 

 駆け出すノーヴェに光弾を乱射するペダン星人たちだが、心を乱した射撃がノーヴェの動きを捉えられるはずがない。ノーヴェは光弾をかわしつつ距離を詰め、リボルバー・スパイクで二人まとめて蹴り飛ばした。

 

「うらぁっ!」

『ぐはぁぁッ! お、おのれぇぇぇぇッ!』

 

 ペダン星人は最早分が悪いと見て、空間転移でこの場から消え去った。

 

「あっ逃げやがった!」

 

 舌打ちしたノーヴェだが、それ以上ペダン星人を追跡しようとはせず、並び立ったエックスとデバイスゴモラの方を見やる。

 

「さてと……ここで決めなきゃ嘘ってもんだぜ、ダイチ」

 

 

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「シェエアッ!」

『「行くぞゴモラっ!」』

 

 心を重ね合わせたダイチとゴモラ、エックスがキングジョーへと向かっていく!

 

「ヘェアッ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 エックスとデバイスゴモラのパンチがキングジョーのボディを叩く。キングジョーの超パワーも、ゴモラと同等の力を受け継ぐデバイスゴモラに抑え込まれて反撃に移れない。

 

「テェヤァッ!」

 

 そこに、ゴモラを支えにしたエックスのキックがヒットしてキングジョーはよろめいた。

 

「ヘアァッ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 そこからもエックスとデバイスゴモラの巧みな連携により、先ほどまでとは一転してキングジョーを追いつめていく。特にスピナーをうならせるデバイスゴモラの打撃の威力はすさまじく、キングジョーのボディから激しい火花が散った。

 徐々に押されていくキングジョーは、エックスを仕留めようと怪光線を発射!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 しかし横から割って入ったデバイスゴモラが両腕を盾にすると、巨大プロテクションが出現。通常の何倍もの強度の盾は、怪光線を完全に遮断した。

 ここでキングジョーはまたも円盤形態に分離し、四方八方からの光線連射で反撃しようとする。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 するとデバイスゴモラの足元からウィングロードが伸び、ゴモラはローラーでその上を駆け回る。そうして円盤を全て空中から叩き落とした。

 円盤形態も封じられたキングジョーは、エックスとゴモラのダブルパンチを食らって全身から火花を噴出する。

 

『「ゴモラ! 超振動拳っ!!」』

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ダイチが叫ぶと、デバイスゴモラは両腕のスピナーを超高速回転させ、キングジョーへと一直線に突進していった。そしてクローと鼻先の角が突き立てられる!

 ――スバルのインヒューテントスキル『振動破砕』。発せられる振動波が物体の分子に共振現象を引き起こし、破壊するというもの。それとゴモラの能力「超振動波」と合わさった『超振動拳』は、相手が強固なほど絶大な威力を発揮する!

 キングジョーの何物も受けつけなかった装甲が、遂に音を立てて砕けた!

 

『ダイチ! 今だ!』

『「マックスにもらったこの力で決めるっ!」』

 

 ダイチはウルトラマンマックスのカードをデバイザーにセットした。

 

[ウルトラマンマックス、スタンバイ]

 

 エックスの掲げた右腕に、マックスギャラクシーが装着される。

 

[マックスギャラクシー、セットアップ]

 

 エックスはマックスギャラクシーを、キングジョーに向けて突き出す。

 

『ギャラクシィィィー! カノンッ!!』

 

 発射されたギャラクシーカノンが、キングジョーの砕かれた胸部に命中した!

 キングジョーは直立した姿勢となって背後に倒れ込み、そのままバラバラになるまで爆発四散した。

 キングジョーが撃破された直後、市街の中心からステルス状態で隠れていたペダン星人の円盤が浮上した。内部のペダン星人が喚く。

 

『駄目だぁ……! ミッドチルダ攻撃は一旦中止しよう!』

 

 逃走を図る円盤だが、エックスの目はそれをしっかりと捉えていた。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 最後のとどめのザナディウム光線が、円盤に直撃!

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!?』

 

 動力を破壊された円盤は、ふらふらとよろめきながら落下。無人の空き地に墜落したのだった。

 

 

 

 先遣部隊とキングジョーが敗れたことで、ミッドチルダに迫っていたペダン星人の宇宙艦隊は次元航行艦隊との会敵直前に急遽撤退。後に捕縛されたペダン星人の部隊の解放を交換条件に、時空管理局とペダン星の間で不可侵条約が締結された。星間戦争の危機は、エックスたちの奮闘によって無事回避されたのであった。

 

 

 

 キングジョー撃退後、オペレーション本部から退室したダイチにヴィヴィオたち四人が駆け寄ってくる。

 

「ダイチさん!」

「みんな。ハハ、勝手にデバイスゴモラを出したことで隊長と副隊長にこってりとお説教されちゃったよ」

「そのデバイスゴモラ、見てましたよー! とぉってもカッコよかったですっ!」

 

 リオやコロナが興奮気味に告げた。

 

「あの土壇場で成功させるなんて、まるでドラマみたいでした!」

「おめでとうございます、ダイチさん!」

「俺だけの力によるものじゃないさ。ゴモラが俺と心を重ねてくれたから出来たんだ」

 

 ヴィヴィオに祝福されたダイチに、アインハルトが謝罪の言葉を掛ける。

 

「ダイチさん、ごめんなさい。先ほどは分かった風なことを言って……」

 

 頭を下げたアインハルトに、ダイチは首を横に振った。

 

「いや、アインハルトちゃんの言葉で目を覚ませたんだ。俺の方が、ありがとうとお礼を言わなくちゃいけない。君のお陰で、ゴモラの気持ちに気づけたんだから」

 

 ダイチが見せたのはゴモラのスパークドールズ。

 

「……ゴモラは、本当にXioの、ダイチさんの仲間になってくれたんですよね」

「ああ」

 

 アインハルトはおずおずと、ゴモラに触れて告げた。

 

「ゴモラさん……これからもXioのこと、私たち人間のこと、よろしくお願いします」

 

 と話すのを見て、ヴィヴィオたちも微笑んで同じようにゴモラに呼びかけた。

 

「ゴモラ! わたしのことも、どうかよろしくお願いね!」

「あたしのこともよろしくーっ!」

「いつか、あなた自身の身体でお会いできる日を楽しみにしてます!」

 

 少女たちの温かい言葉に微笑むダイチ。彼の手の中のゴモラも、どことなく嬉しそうに見えた。

 

 実験開始から二十八回目、デバイスゴモラはXioの新たな仲間に加わった。

 デバイス怪獣を動かすのは、卓越したテクノロジーではない。人間の脳波でもない。未知なる友人を理解しようとする心……すなわち、つながる心である。

 

 

 

 ――ミッドチルダの未開発地区の山岳地。古代遺物管理部の一団がこの一画に立ち入って、洞窟の地下から発見されたスパークドールズの一体を発掘、移送しようとしていた。

 しかし、それは叶わなかった――。

 

「ぐああぁぁっ!」

 

 発掘を担当していた古代遺物管理部の部隊の最後の一人が、攻撃を受けてその場に崩れ落ちた。攻撃の正体は、風を切り裂くしなやかな鞭の一撃であった。

 

「ふッ、他愛もない」

 

 鞭の操り手は、見た目は人間の女性。だが次元世界のどこにもないような奇抜な戦闘服で身を固めている。そして彼女の周りには、遺物管理部の局員たちが死屍累々と横たわっている。全員、彼女一人で無力化したのだ。

 

「うふふ……」

 

 邪魔者を排除した怪しい女は、発掘されたザラガスのスパークドールズを奪取する。

 

「まずは一つ。戦力は多いに越したことはない。この調子で、得られるものは全て我らのしもべとする。そして……」

 

 洞窟から悠々と脱け出た女は、空を――いや、そのはるか『先』を見上げて薄く笑む。

 

「宇宙の彼方から感じられる、あの闇の波動も我らの力にしてくれる。そうして、今度こその全宇宙の支配と――弟の仇討ちを成し遂げてみせる! フフフフフフ……!」

 

 女は何らかのたくらみを抱いて、独りごちて冷たい笑いを顔に張りつけたのだった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はサイバーゴモラだ!」

ダイチ「サイバーゴモラは『ウルトラマンX』で登場した、ゴモラの新しいバリエーション。X世界の地球の技術とゴモラの力が合わさって誕生したものだ!」

エックス『存在は最初から語られたが、本当の意味で物語上に登場したのは十一話からだったな』

ダイチ「サイバーゴモラはXのテーマである、心のつながりの象徴といえる。『未知なる友人』は、このサイバーゴモラの存在自体が話の中心だった」

エックス『最初にシンクロしたのはもちろん大地だが、以降はもっぱらアスナがその役目を担ってたな』

ダイチ「『共に生きる』では、そのことが話の重要な肝になってたね」

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 謎の女戦士に、闇の力を植えつけられたデマーガ。その強大な力の前に、エックスは最大のピンチに陥ってしまう! でもその時、十五年前に見た虹の光が、俺とエックスを新たなステージに導いた! 次回、『虹の行く先』。


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虹の行く先(A)

 

「未発見の次元へ移動する方法かね?」

「いいかね? このパンの一枚が、我々の住んでいる次元世界の一つとする」

「こうすることで……次元の壁を通り抜け、別の世界へと移動することが出来る」

「今なら、遠くの次元世界への移動も決して不可能ではないのでは……」

『ここは……』

「かつて母さんの研究所があった場所だ」

『ここは、あらゆる次元世界をつなぐ特異点の一つかもしれないな』

「父さん、母さん……」

「きっといつか、会えるよね」

 

 

 

『虹の行く先』

 

 

 

 オペレーションベースXのラボ。ダイチは自分のデスクで、電波受信機を耳に当て瞑目していた。

 

(十五年前……父さんと母さんは、研究所と一緒に消えた)

 

 彼は当時のことを振り返る。研究所が消えた時のこと。その時に空に見えた、オーロラのような虹色の光を思い返す。

 

(あの虹色の光は一体何だったのか? 研究をもっと進めて、二人の居場所を早く突き止めないと……!)

 

 写真立てに飾った家族の写真に目をやり、その思いを一層強める。

 

(父さん、母さん……今どこにいるの?)

 

 一人考えているダイチの元へ、スバルがやってきた。

 

「ダイくん、隊長の召集が掛かったよ。……多分、例の事件の話だと思う」

「あっ、うん。すぐ行くよ」

 

 スバルに振り向いたダイチは受信機を外し、彼女の後を追ってオペレーション本部へ向かっていった。

 

 

 

 オペレーション本部に集められた特捜班の面々に対して、カミキが用件を伝え始めた。

 

「諸君も既に耳に入れているだろうが、昨日ミッド山岳地でスパークドールズ発掘を行っていた古代遺物管理部が、何者かの襲撃を受けてスパークドールズを奪取される事件が発生した。発掘班には死者も出ている、極めて重い被害だ」

 

 カミキの言葉に、特捜班は思わず息を呑んだ。スパークドールズ発掘は、強奪を狙う異星人犯罪者の襲撃を度々受ける危険な任務であるが、死者まで出たというのは近年ではほぼ例のない事態であった。

 

「生存者の証言では、襲撃犯は単独だったという」

「たった一人でベテランの発掘班を壊滅させたんですか!?」

 

 驚きの声を発するワタル。スパークドールズ発掘を担当するチームは、危険があることは承知の上なので、護衛として戦闘専門の魔導師が複数人参加していたはずだ。それが破られるとは……犯人は一体如何ほどの実力なのだろうか。

 

「犯人はやはり異星人犯罪者なのでしょうか」

 

 チンクの質問に、クロノが返答した。

 

「現時点では不明だ。少なくとも外見は女性のヒューマノイドタイプだったとのこと。しかし同時に、正体不明の力を使用していたという」

「襲撃犯の写真を表示します」

 

 アルトがメインモニターに、襲われた古代遺物管理部が撮影した襲撃犯の姿を映し出した。胸の中央にコブラの飾りを備えた軽鎧を纏った女で、ムチを振るって魔導師たちを攻撃していた。

 

「けったいな格好っスね……。いつの時代の人間なんスか……」

「まるで古代からよみがえったかのよう……」

 

 女の服装に着目したウェンディとディエチがそうつぶやいた。

 

「この襲撃犯の目的がスパークドールズそのものならば、この基地にも侵入してくる危険が高い。当分の間、警戒態勢を強化する。皆もそのつもりでいるように」

「了解!」

 

 カミキの言葉に、特捜班が敬礼で答える。

 

「それともう一つ、襲撃犯の人種がミッド人と異星人、現状ではどちらか不明であることにより、本件の捜査は陸士隊との共同で行うことが決定した。派遣された捜査官は現在、素粒子研究所でザナディウム粒子の実用化研究を行っているシャーリーの警護についてもらっている」

 

 以前、ザナディウム光線に含まれる怪獣をスパークドールズに圧縮する粒子の研究のためにスパークドールズを搬送する計画があったが、その研究もいよいよ完成間近に迫っていたのだった。現在、シャーリーがエレキングのスパークドールズを連れて研究所に赴いており、最終段階の調整を行っている。

 

「その捜査官はどなたなんでしょうか?」

『私よ、スバル』

 

 宙に映像通信が開かれ、捜査官当人がスバルに答えた。

 スバルとダイチが声をそろえる。

 

「ギン姉!」

 

 映像の中の顔は、スバルの実姉であるギンガ・ナカジマ陸曹のものであった。スバルとダイチはどことなく嬉しそうだ。

 カミキがスバルとノーヴェに向けて告げる。

 

「シャーリーが戻り次第、スバルとノーヴェの両名がギンガ陸曹とともに強奪事件の現場に向かい、犯人捜査を開始するように」

『よろしくね、二人とも』

「了解です――」

 

 その指示にスバルとノーヴェが敬礼する――その瞬間に、基地に緊急サイレンが鳴り渡った!

 

「フェイズ2! エリアS2-7に急激な地殻変動を確認!」

 

 アルトが発生した異常を知らせた。彼女の言葉を受けて、スバルがダイチに首を向ける。

 

「そこって確か、デマーガが現れた場所じゃ……」

「ああ、そうだ……」

 

 デマーガが出現し、ダイチが初めてエックスとユナイトした場所……。ダイチにとって忘れられない一件だ。

 モニターがエリアS2-7の現在の状況を映した。山間部から、莫大な炎と黒煙が噴き上がっている。

 

「S2-7地下から地殻変動、急速に上昇中!」

 

 ルキノの報告の直後に、街の地面が突然裂け、地表を砕いて巨大怪獣が出現する!

 

『グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!』

「デマーガ!」

 

 それは間違いなく、あの時エックスによってスパークドールズにされたデマーガと同種であった。

 

「別個体がいたのか……!」

 

 この事態により、カミキとクロノが迅速に指示を出す。

 

「ハヤト、ワタル、スカイマスケッティで現場に急行!」

「他はアラミスとポルトスで現場へ。マスケッティの支援と市民の避難誘導を」

「街への被害を最小限に抑えろ!」

「了解!」

 

 特捜班八名が直ちに出動し、怪獣出現の現場へと向かっていった。

 

 

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 あの時の再現かのように都市の中心を我が物顔で練り歩くデマーガの元に、スカイマスケッティが早くも到着した。すぐさまデマーガへ攻撃を仕掛ける。

 

「ファントン光子砲、発射!」

 

 光子砲が火を噴き、弾幕を食らったデマーガの動きが停止した。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「ここで足止めさせてもらうぞ!」

 

 マスケッティがデマーガの侵攻を食い止めている間に、スバルたちはまだ大勢逃げ遅れている市民を避難させていく。

 

「こっちです! 焦らないで下さい!」

「俺はデマーガの解析をしてくる!」

 

 そんな中でダイチは理由をつけて一人離れ、適当な場所でエクスデバイザーを取り出した。

 

「エックス、ユナイトするよ!」

『よし、行くぞ!』

 

 いつものようにダイチがスイッチを押して、ユナイトを開始。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチの肉体がウルトラマンエックスのものとなり、一気に巨大化!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 一旦空高くに飛び出したエックスは、斜め下へ一直線に降下し、その勢いでデマーガに飛び蹴りを仕掛ける!

 

『Xクロスキック!』

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 不意打ちで強烈な一発をもらったデマーガは耐えられるはずがなく、激しく横転した。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 すぐに立ち上がったデマーガは熔鉄光線を吐き出すが、エックスはクロスした腕で防御しながら光線を押し返して前進。

 

「シェアッ!」

 

 間合いを詰めたところでデマーガの一本角を強打してひるませた。

 エックスがデマーガと交戦を始めたことにより、マスケッティは砲撃を一旦止めて様子を見守る。

 

「エックス、あのデマーガもスパークドールズにするんだな」

「出現がもうちょっと後、研究が終わってからだったなら、俺たちでも出来たんだけどな」

 

 デマーガはもうエックスが倒したことのある怪獣。ハヤトとワタルは、勝負の結果は既に決定しているとばかりに楽に構えていた。

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「ヘアッ! デッ!」

 

 抵抗するデマーガに対してエックスは優勢に格闘戦を運んでいく。――が、この戦いの様子を、そう遠くない地点から例の女――古代遺物管理部を襲ったあの女が観察していることには、誰も気づいていなかった。

 しかも女は、途中から視線をエックスたちの頭上――空へと移したのだった。

 

 

 

 エックス登場により、このままつつがなくデマーガが撃退されると思われた状況。だが、オペレーション本部に突然異常事態を知らせるアラートが鳴り響いたのである。

 

「何が起きた!?」

 

 カミキが問うと、アルトが原因を報告する。

 

「監視衛星が、宇宙から未知のエネルギー反応を確認!」

「何だって!? 未知の、エネルギー……!?」

「間もなくミッドに到達します! 落下予測地点は……S2-7です!」

 

 それを聞いて、カミキとクロノは目を見開いた。一体何事が起きていて、何が起こるというのか。

 

 

 

 デマーガと格闘中のエックスが、宇宙の彼方から急速に迫り来るエネルギーを感知してダイチに警告した。

 

『ダイチ、気をつけろ! 空から何か来るっ!』

『「えっ……!?」』

 

 晴れ渡っている青空が突然黒く染まったかと思うと、漆黒の稲妻のようなものがまっすぐ地表へ――エックスとデマーガの間に降ってきた!

 

「ウゥッ!?」

『「うわぁぁぁぁぁっ!」』

 

 黒い稲妻の落下の衝撃により、エックスは投げ出されて地面に叩きつけられた。一方でデマーガは……。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 双眸が充血よりも更に真っ赤に染め上がり、両肩と両腕に巨大で禍々しい刃が生えたのだった! 突然の変貌に特捜班はギョッと驚愕したが、怪しい女だけは満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「デッ!」

 

 姿が変わり果てたデマーガに直進していくエックスだが、デマーガは腕に生えた刃を振るってエックスの身体を斬りつけた! その動きは、先ほどとは比べものにならないほどの速度であった。

 

「急に強くなった……!?」

「い、一体何が起こってるっスかぁー!?」

 

 チンクが息を呑み、ウェンディは雷が落ちたのを機に逆転した戦況にあわあわと狼狽した。

 そしてデマーガが急激に強くなったことには、エックスも焦りを抱いていた。

 

『このままではまずい! 一気に決めるぞ!』

『「分かった……!」』

 

 戦いが長引いては不利だと、エックスはザナディウム光線の構えを取る。同時に地を蹴って、空中から光線を叩き込む。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 光線は見事にデマーガに命中! ――だが!

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 デマーガはスパークドールズに圧縮されず、健在! エックスもこれには動揺を禁じ得なかった。

 デマーガは反撃とばかりに口から熔鉄光線を発射。それの威力も段違いに上がっており、エックスは吹っ飛ばされて空中から叩き落とされた。

 

「デアアァァァァァァッ!!」

『「くっ、まずい……! こうなったらモンスジャケットだ!」』

 

 エックスの窮地に、ダイチはモンスジャケットで支援することを決める。まずはベムラーダの防御性能でデマーガの攻撃を防ぐことを狙う。

 だが、カードをデバイザーに挿入した結果は、エラーの表示であった。

 

『「エラー!? ど、どうして!?」』

 

 

 

「エックスが、急に弱くなった……?」

 

 ラボでは、グルマンの見解をマリエルが復唱していた。

 

「デマーガが強くなったということでしょうか?」

「恐らく両方だろう」

 

 グルマンは黒い稲妻と現在のデマーガとエックスのデータを分析し、そう答えた。

 

「先ほどの宇宙からのエネルギーはデマーガの肉体に吸収され、大幅に変質させた。パワーと凶暴性が急激に上がり、剣が生えた個体……いわばツルギデマーガといったところか。一方でエネルギーはエックスのものとは反発するものであった。故にエネルギーを撃ち込まれたエックスは、身体が内側から破壊されていって力を落としているんだ」

 

 

 

 エックスはなす術なく、ツルギデマーガの斬撃に嬲られる。

 

「やめろーっ!」

 

 マスケッティが光子砲を放ってツルギデマーガの暴虐を止めようとするが、デマーガは振り向きもしなかった。

 エックスの中では、ダイチにもダメージの影響が及んで彼がもがき苦しむ。

 

『「何が起きてるんだ!?」』

『未知のエネルギーに侵され……身体が、分解されているっ!』

『「何だって!?」』

 

 モンスジャケットにエラーが出るのも、今のエックスがジャケットを装着できないような状態にまでなっているからであった。

 

『ユナイトを解除しなければ……ダイチも私も、身体が消滅してしまうだろう……!』

『「そんな……どうしたら……!」』

 

 エックスはデマーガにやられ続けながらも、ダイチへ告げた。

 

『助かる方法は一つ……! ユナイトを強制解除して、君だけでもっ……!』

『「駄目だ! そんなことをしたらエックスが――!」』

『もう時間がない! お別れだ……!』

『「やめるんだエックスーっ!」』

「デュワァッ!」

 

 ダイチが止める間もなく、ユナイトが強制解除された。ダイチの身体はエックスから離れ、地面の上に飛ばされて投げ出される。

 そしてダイチと分離したエックスは、肉体を保てなくなり――その身体が、粒子となって霧散していってしまった……。

 

「ウルトラマンエックスが……!」

 

 エックスが消え失せてしまったことに、特捜班は言葉を失った。ただ一人だけ、ハヤトが本部へ事実を伝える。

 

「――消失しました……!」

 

 

 

「実験結果は良好」

 

 戦いの一部始終を観察し終えた女が、満足げにひと言発した。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 ツルギデマーガが路面を穿って地中に姿を消していくのを背景にして、女はどこかへと立ち去っていった。

 

 

 

「ダイチ!?」

 

 地面に倒れたまま気を失ったダイチは、スバルとノーヴェに発見された。二人は慌てて駆け寄る。

 

「おいダイチ、しっかりしろ! ダイチぃっ!」

「ダイくんっ!!」

 

 懸命な呼びかけでもダイチは目を覚まさず、Xioメディカルへと緊急搬送されていったのだった……。

 

 

 

 Xioメディカルの治療室で、青ざめた顔のスバルがシャマルに尋ねかけた。

 

「シャマル先生、ダイチの容態は……!?」

 

 案ずるスバルと特捜班の面々に対して、シャマルは安心させるように答えた。

 

「大丈夫、一時的に気を失ってるだけだわ。脳波も安定してるし、いずれ目を覚ますでしょう」

 

 それを聞いてスバルたちはほっと胸を撫で下ろした。

 

「では私は、他の患者の手当てがありますので、これで」

「うむ、ありがとう」

 

 シャマルが別の部屋へと移っていった後、カミキが特捜班へ向き直って呼びかけた。

 

「ダイチのことは、グルマン博士に任せよう。我々は、他にすべきことがあるはずだ」

 

 皆が固い面持ちでうなずくと、カミキは新たな指令をそれぞれに発した。

 

「スバルとノーヴェは、デマーガの出現地点でシャーリーたちと合流し、他の個体が存在しないか調査。それ以外はエリアS2-7を警戒とともに、消失したエックスの行方を捜索してくれ」

「了解!」

 

 スバルたちが敬礼し、治療室から離れて再度出動していった。ダイチの元にはグルマンだけが残り、彼の容態を見守る。

 ベッドに横たわるダイチの方は、過去の夢を見ていた……。

 

 

 

 ダイチの両親がどこかへ消失する以前の時のことを、夢に見ていた。三人でピクニックに行った日のことを。

 ダイチの父は、空の一画を指し示した。

 

『ダイチ、見てみろ。虹が現れてる』

『ホントだぁ!』

 

 雨上がりの空に虹が掛かり、雲の切れ間から差し込む陽射しに輝いていた。

 

『知ってる、父さん? 本で読んだんだけど、虹って、高いところから見ると、丸く見える時があるんだって!』

『へぇ~。詳しいな、ダイチは。勉強熱心でよろしい!』

 

 父は知識を披露したダイチの頭をくしゃくしゃと撫で、そう褒めた。そして母は、こんな話をした。

 

『じゃあこれは知ってる? 虹の根っこには――幸せや大切なものが埋まってると言われてるの!』

『大切なものって、何?』

『ふふっ。それはねぇ――』

 

 答える前に――父母の姿が光とともに、消えていく――。

 

 

 

 この瞬間、ダイチは目を覚まして飛び起きた。

 自らの置かれた状況を振り返ったダイチは、開口一番に言った。

 

「――エックスのデータを捜しに行かなきゃ!」

「起きたか!」

 

 グルマンへと振り返ったダイチは、彼に頼みごとをする。

 

「グルマン博士、俺とデバイザーをつないで下さい!」

「えっ、何? つなぐ!?」

 

 突然のことにグルマンは思いっきり面食らった。

 

「消えたエックスのデータを回収しないと……。きっと、電脳世界にエックスはいると思うんです!」

「ふむ、なるほど! つまり、デバイザーの転送システムを使って、電脳空間に入ろうってことか!」

 

 流石は頭の良いグルマン。話が早い。

 

「そう! そういうことです!」

「うむ!」

 

 早速二人はそのための準備に取り掛かるため、ラボに移動していった。

 

 

 

「ごめんね、エレキング。帰るのはもうちょっと待っててね」

 

 その頃、シャーリーとギンガと合流したスバル、ノーヴェは、デマーガの出現地点にあった洞窟の中へと足を踏み入れていた。

 

「前に出現したデマーガも、ここで眠ってたみたいだね」

「でも、二体目はどうして今になって活動を開始したんでしょうか?」

 

 疑問を口に出すノーヴェ。

 

「そこまでは、まだ何とも……」

 

 シャーリーが言いかけたそ時――ギンガが怪しい物音と殺気をいち早く感知した。

 

「危ないっ!」

 

 三人の前に飛び出し、左手用のリボルバーナックルを突き出し、音速で飛んできたムチを弾き返した。

 

「きゃっ!?」

 

 シャーリーは驚いてエレキングのカプセルを抱え直し、スバルとノーヴェはギンガの左右に並んで攻撃が来た方向へ警戒を向ける。

 

「ほぉう、昨日の連中よりは出来るみたいだな」

 

 洞窟の暗闇からは現れたのは――襲撃事件の犯人を写した写真の女、そのものであった。スバルたちは一瞬驚き、より警戒を強める。

 

「こんな場所に現れるなんて……!」

「どうやらデマーガも、あいつが糸を引いてるみてーだな」

「あなたは何者ですか? 何の目的で怪獣を?」

 

 ギンガが問いかけると、ムチを自在に扱う女は余裕たっぷりの態度で答えた。

 

「この地に降り注ぐエネルギーを使い、狙うは全宇宙の支配といったところかしら。さっきの怪獣はその実験……」

「宇宙支配だ? 派手なのは見た目だけにしろよ」

 

 ノーヴェが挑発したが、女は構わずにシャーリーへ向けて命令した。

 

「お前が抱えている怪獣を、このギナ・スペクターに差し出せ。怪獣は我がグア軍団の兵士とする。刃向かうのならば殺す!」

「グア軍団……?」

 

 何のことか分からずに眉をひそめるスバルたちだが、ギナ・スペクターと名乗った女が悪しき目的でエレキングも奪い取ろうと目論んでいることは確かであった。

 

「そんなことはさせない! シャーリーさんはもっと後ろに」

「う、うん。お願い、三人とも!」

 

 エレキングをかばうシャーリーを下がらせて、スバルたち姉妹はギナと交戦を開始する。

 

「リボルバーシュート!」

 

 スバルとノーヴェが射撃を放って先制するが、ギナはムチを目に留まらぬほどの速度で振り回して射撃魔法を打ち消した。

 

「ただのムチで魔法を!?」

「いや、待って!」

 

 目をこらしてギナをよく確かめるスバル。ギナの全身からは、魔力よりずっとおどろおどろしい怪しいオーラが放たれていて、それがギナの底知れぬ力となっているようである。

 

「少なくとも、普通の人間ではないみたいね……。三人とも、十分気をつけて!」

「うん!」「ああ!」

 

 未知の力を振るうギナに対して、三人が警戒を深めながらも敢然と立ち向かっていく!

 

 

 

 ダイチはグルマンの手を借りて、意識を電脳空間に移すベッド型の装置の用意を整えた。

 

「電脳世界を行き来するのは、人間には危険だぞ。分かってるだろうな?」

「覚悟は出来ています……!」

 

 警告したグルマンに、大地は力を込めた声で応じた。

 

「俺は……いや俺たちは! 何度もエックスに助けられました……。だから今度は俺が!」

「よーしよし。転送の準備が出来た。無事に戻ってくるんだぞ、ダイチ」

「はい……ありがとうございます!」

 

 ダイチの覚悟を確認したグルマンが、いよいよ装置の起動を行おうとする。ダイチは目をつむり、自身の精神が電脳空間に移動する時を待った。

 

(もう誰も消えさせない……。絶対にエックスを救ってみせる!)

 



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虹の行く先(B)

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 ダイチが電脳世界へのアクセスを開始した頃、ツルギデマーガが地中から飛び出し再び地上への攻撃を開始していた!

 そこに駆けつけたのはスカイマスケッティ。駆るのはハヤトとワタル。

 

「出たな……! リベンジ戦だ!」

「今度はさっきみたいには行かないぜぇっ!」

 

 地上ではチンクがジオアラミスを走らせ、デマーガの気を引きつける囮役を務めている。離れた地点には、デマーガを左右から挟む形でウェンディとディエチが待機している。

 

「エックスが倒れても、ミッドは私たちが守る!」

「エックスの仇討ちもしてやるっス!」

 

 ディエチは上空の一点を見上げて口を開いた。

 

「お願いします……副隊長!」

 

 マスケッティとともに空に浮き上がっているのは、クロノ。普段はXioの頭脳として司令室から指示を出している彼だが、エックスが倒れた今、恐るべき大怪獣となってしまったツルギデマーガの侵攻を何としてでも阻止するべく、前線に出てきたのだった。

 以上の現在出動できる戦力の全てを用いて、ツルギデマーガを迎え撃つ構えだ。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 デマーガはビルの上層を砕いてアラミスに瓦礫を降り注がせる。だがチンクは右に左にハンドルを切って瓦礫をかわし切った。

 そうしてアラミスがデマーガを所定の地点まで誘導すると、ビルの影に潜んでいたクロノが飛び出して攻撃を繰り出す。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ! 凍てつけ! エターナルコフィンっ!!」

 

 氷結の杖デュランダルを使用した凍結魔法が発動。一瞬にして、ツルギデマーガの全身が氷の内に閉じ込められた。

 

「今だっ!」

 

 クロノの指令により、マスケッティと

 

「ファントン光子砲っ!」

「トラァーイっ!!」

「ウルトライザー・シュートっ!!」

 

 光子砲と光の砲撃が凍ったツルギデマーガに押し寄せ、大爆発の中にその姿を消した。

 

『副隊長、やりましたっ!』

「ああ、よくやった」

 

 興奮するワタルに称賛を向けるクロノ。

 だが、

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 デマーガは硝煙の中から悠々と出てきた。凍らされたところに集中砲火を食らったというのに、ダメージが見られない!

 

「ぜ、全然効いてないっス!」

 

 連携攻撃が全く通用しなかったことに、Xioの一同は衝撃を受ける。謎のエネルギーの影響を受けたツルギデマーガは、ただの怪獣の域をとっくに突き抜けていたのだ。

 

「流石エックスが太刀打ちできなかった相手ってことか……!」

「弱音を吐くなっ! エックスの助けがなくてもやるんだよっ!」

 

 ワタルがハヤトを叱咤し、ツルギデマーガへの攻撃を継続する。その後に続き、他のメンバーもあきらめずに攻撃を再開した。

 

 

 

 洞窟の方では、スバル、ノーヴェ、ギンガの三姉妹が未だギナという女と交戦していた。洞窟内にはウィングロードとエアライナーが張り巡らされ、三人はギナの周囲を駆け回って連携攻撃を仕掛ける。

 

「ナックルダスター!」

「リボルバーシュート!」

 

 ノーヴェ、スバルの攻撃をギナは手で受け止めて弾き返し、またムチを振るって彼女らを空中から叩き落とそうと狙う。

 恐ろしいのは、スバルたちはアームドデバイスを装着した腕で殴り掛かっているのに、ギナはその拳を素手でさばいているのだ。そんなことは、並大抵の魔導師では到底出来っこない。やはり見た目通りのただの人間ではないし、その辺の異星人の戦闘レベルでもないとスバルたちは判断した。

 

「はッ!」

「うぁっ!」

 

 ギナの手の平より闇の波動が放たれ、スバルたち三人を纏めて弾き飛ばした。ギナが構えを取ると、シャアアアと蛇のうなり声のような音が発せられる。

 

「スパークドールズを寄越しなさい!」

 

 ギナはムチをまっすぐシャーリーへと飛ばした。シャーリーが危ない!

 

「ナックルバンカー!」

 

 そこに素早く回り込んだのはギンガ。ムチの先端に拳を突き出すと、そこから発せられた障壁がムチをはね返し、利き腕を引っ張られたギナはボディががら空きになる。

 

「何ッ!?」

「ダブルリボルバーキャノンっ!」

 

 その隙を突いて、スバルとノーヴェが衝撃波を乗せたナックルを撃ち込んだ!

 

「ぐあッ!」

 

 吹っ飛ばされたギナだが、綺麗に着地。向こうも闇の障壁で身体を包んで防御したのだ。

 

「三人掛かりとはいえ、存外にやるものだな」

 

 スバルたちをねめ回してそう評したギナは、ムチから懐より取り出した「あるモノ」に持ち替える。

 

「では、こいつの相手でもしてもらいましょうか」

「それは……スパークドールズ!」

 

 一瞬固まるスバルたち。それはまぎれもなく、古代遺物管理部から奪われたものであった!

 

「行け、ザラガス!」

 

 ギナの瞳が真っ赤に染まり、全身から溢れ出た闇のエネルギーがスパークドールズに注入される。

 

「ガアアアアアアアア!」

 

 スパークドールズは巨大化。頭部や背面を黒い甲殻で覆った巨大怪獣、ザラガスが出現した!

 ギナに操られてこちらへ向かってくるザラガスを前に、洞窟を出たスバルはすぐにXioの仲間たちへ通信を入れた。

 

「怪獣出現! 応援願います!」

 

 しかし、クロノから承諾されなかった。

 

『現在こちらも交戦中! とても応援に向かえる余裕はない!』

「くっ、マジか……!」

 

 舌打ちするノーヴェ。大型怪獣と相性の悪い陸戦魔導師だけでは、怪獣と応戦するのは厳しすぎる。

 するとグルマンからの指示が入った。

 

『スバル、デバイスゴモラを使え!』

「えっ、あたしがゴモラを……!?」

『半身がマッハキャリバーのデータで構築されているデバイスゴモラの力を最も引き出せるのは、スバル、お前以外にいないのだ!』

「ザナディウム粒子は既に搭載に成功してるから、ゴモラでスパークドールズ化できるよ!」

 

 シャーリーがすかさずデバイス怪獣とのシンクロを行うヘッドギアをスバルに被せた。

 

『迷っている時間はないぞ! デバイスゴモラ、転送!』

 

 スバルのジオデバイザーに、デバイスゴモラのカードが召喚された。スバルがそれをデバイザーにセットすると、デバイスゴモラのスパークドールズが構築される。

 

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 スパークドールズを手に取ったスバルは、ノーヴェらの見守る中、ゴモラへ呼びかける。

 

「ゴモラ……ダイくんは今、大変なことになってるの。あたしがダイくんの代わりになる訳じゃないけど……あなたと一緒に戦いたい! お願い! あたしにあなたの力を貸して!」

 

 ザラガスが刻一刻と迫る中、スバルは意を決してスパークドールズをリードした!

 

[リアライズ!]

 

 スバルたちの目前まで迫っていたザラガスの目の前に魔力粒子が降り注ぎ、デバイスゴモラが実体化した!

 

「ガアアアアアアアア!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 デバイスゴモラの出現に驚いて後ずさったザラガスに、ゴモラは咆哮を発して威嚇する。

 

「スバルがゴモラとつながった!」

「スバル、やったわね!」

「うんっ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 称えるギンガの声に、スバルは満面の笑みでうなずいた。ゴモラもその動作を反映して首を振る。

 

「ガアアアアアアアア!」

 

 初めは動揺していたザラガスだが、落ち着くとゴモラへと襲い掛かってくる。それを真正面から迎え撃つデバイスゴモラ。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 両腕のスピナーがうなり、衝撃波を乗せたクローがザラガスへ叩き込まれる。

 

「ガアアアアアアアア!」

 

 デバイスゴモラのあまりの破壊力によろめくザラガスだが、踏みとどまって頭突きを繰り出す。硬い甲殻で覆われた頭蓋からの一撃はデバイスゴモラでも危ないだろう。

 

「ウィングロード!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 しかしゴモラはウィングロードを駆使して素早くザラガスの背後へと回り込んだ。

 

「ナックルダスター!」

 

 そして攻撃が空振りして隙が生じたザラガスの横面に、強烈な打撃を入れる!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「ガアアアアアアアア!」

 

 それが決まり、ザラガスは大きく横に倒れて口から赤い煙をもうもうと吐き出す。

 

「やったぁっ!」

 

 ザラガスが倒れたことに喜ぶスバル、ノーヴェだが、ギンガは警戒を解かなかった。

 

「いえ、様子が妙だわ!」

 

 倒れたザラガスがむくりと起き上がり、身体を揺すって甲殻を自ら脱ぎ捨てた。その下からは、筒状の突起がびっしりと生えた皮膚が現れる。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「ガアアアアアアアア!」

 

 デバイスゴモラが起き上がったゴモラに衝撃波を食らわせるが、先ほどまでとは一転、ザラガスは少しも動じなくなった!

 シャーリーがザラガスの情報をスバルに伝える。

 

「ザラガスは刺激を受けると急激に肉体の組成を変質させて、抵抗力を得るの! つまり、一度でも与えた攻撃はどんどん効かなくなっていくんだよ!」

「一筋縄じゃいかないってことですか……!」

 

 思った以上の強敵であることを知り、スバルのこめかみに冷や汗が垂れた。

 

 

 

 皆が戦っている一方、ダイチはエックスのデータを捜すために、遂に精神を電脳世界内に突入させていた。

 ダイチは無数のキューブ状のデータが360度全てに漂う電脳の海の中を泳ぎながら一心不乱にエックスを捜すものの、一向に発見することは出来ていなかった。

 

「データが膨大で見つからない……。どこにいるんだよ……!」

 

 その内に、片手が発光してボロボロと指先から崩れ出した。人間の精神をデジタルの世界に入れるのは、グルマンの言った通り大変危険なこと。ダイチの精神が電脳世界の影響を受けてデジタル化を起こしているのだ。このまま進行すると、廃人化の恐れもある。

 

「早くしないと……まずい……!」

 

 焦るダイチだが、それとは裏腹にエックスは見つけられず、時間ばかり過ぎていく。

 

 

 

「ガアアアアアアアア!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ザラガスの背面に並んだ突起から激しい閃光が焚かれ、デバイスゴモラは熱と衝撃を食らってよろめく。そのダメージはシンクロしているスバルにも伝わる。

 

「つぅっ……!」

「スバル、大丈夫……!?」

「うん……!」

 

 案ずるギンガに首肯するスバルだが、戦えば戦うほどにデバイスゴモラは追いつめられていく。

 

「このままじゃジリ貧になるだけだぜ……! シャーリーさん、何かいい手はないんでしょうか!?」

 

 ノーヴェが問うと、シャーリーは次の通り答えた。

 

「ザラガスは新しい攻撃に対して肉体を変化させる一瞬だけ、すごくもろくなるの。そこが唯一の弱点なんだけど……」

「何だ、そういうことは早く言って下さいよ。スバル!」

 

 ノーヴェが呼びかけると、スバルはそれだけで理解し、うなずいてみせた。ノーヴェはウルトライザー・カートリッジをナックルに装填しながらザラガスの方向へ走り出す。

 

「ち、ちょっと!? ホントに一瞬だよ!? あんまり無茶なことは……!」

 

 慌てて呼び止めようとするシャーリーを、ギンガがその肩に手を置いて制止した。

 

「大丈夫です。私の妹たちのコンビネーション、見てて下さい」

 

 駆けていくノーヴェがザラガスの側方に回り込み、射程範囲に収めた。ザラガスはデバイスゴモラに注意が向いており、ノーヴェには気づいていない。

 

「よし、行くぜっ!」

[Charging Ultraman’s Power.]

 

 ノーヴェはザラガスの頭部に照準を合わせ、エネルギーを集中したナックルを突き出す。

 

「食らえ! ウルトライト・バスターっ!!」

 

 発せられた砲撃がまっすぐ飛んでいき、ザラガスの側頭部に直撃した!

 

「ガアアアアアアアア!」

 

 強烈な一撃をもらったザラガスだが、その瞬間に肉体の組織が急速に変化し、ウルトラマンの力にも耐性を持つ肉体へと変身していく。

 

「ゴモラっ!」

 

 しかし離れていてもノーヴェと呼吸を合わせていたスバルが、ノーヴェの攻撃に合わせてデバイスゴモラを走らせていたのだ。

 

「超振動拳っ!!」

『ギャオオオオオオオオ!!』

 

 ザラガスへと一直線に走っていったゴモラがクローと角の三点を相手に突き刺し、振動波を一挙に流し込む!

 

「ガアアアアアアアア!!」

 

 肉体が変化中のところに必殺攻撃を食らったことで、ザラガスの体組織は崩壊。そして肉体が圧縮され、スパークドールズへと戻された。

 

「やったぁっ!」

 

 ザラガスを倒したことで皆が喜ぶのもつかの間、スバルはツルギデマーガと交戦中の仲間へ連絡する。

 

「こちらスバル、すぐそちらにゴモラと向かいます……!」

 

 しかしそれをシャーリーに止められる。

 

「駄目だよスバル! これ以上のシンクロは危険だから!」

「けど……!」

 

 実際、スバルの脳神経には多大な負荷が掛かっていて、スバルは肩で息をしていた。それでもシンクロを続行しようとするスバルだったが、

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴモラが勝手に実体化を解いて、魔力粒子が宙に消えていった。

 

「……! ありがとう、ゴモラ……」

 

 それを見たスバルは、手中のスパークドールズにひと言告げたのだった。

 

 

 

 ダイチの精神のデジタル化は、既に危険な領域にまで達していた。しかし、ダイチは捜索をやめようとしない。

 

「まだだ……エックスを見つけるまで、あきらめる訳には……!」

 

 ギリギリの一瞬まであきらめない覚悟のダイチの前に、突然――電脳世界にも関わらず、虹が架かった。

 

「虹……!?」

 

 呆気にとられたダイチだが、それを目にした瞬間、母の言葉が脳裏によみがえった。

 

『虹の根っこには――幸せや大切なものが埋まってると言われてるの!』

「……そうか!」

 

 ダイチは電脳世界の虹の根本まで泳いでいき、そこへ手を突っ込んだ。

 指が確かな感触を得る。何かを握り締めて、腕を抜くと――。

 

「これは……?」

 

 虹色の剣――とでも形容すべき形状の、ダイチも見たことのない謎の物体が手の中にあった。

 そして虹の剣を手に入れた瞬間に、電脳の海に散らばっていたデータがデバイザーに集まり始めた!

 

「エックスのデータが……エックスっ!」

『ヘアァッ!』

 

 データはどんどん集まっていき……デバイザーから金色の光がX字に溢れ出た!

 

 

 

 三次元世界では、ダイチの精神が戻らないことにグルマンが焦り出していた。

 

「もう時間がない……! ダイチっ!」

 

 このままではダイチの命が危ない。グルマンはやむなくダイチの電脳世界へのダイブを強制終了させようと振り返ったが、

 

「……あら?」

 

 装置の上から、ダイチの姿が消えてなくなっていた。

 

 

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 延々と攻撃を浴び続けても全く勢いが衰える様子のないツルギデマーガを前に、Xio特捜班もいよいよ疲労困憊の色が強まってきていた。

 

「このまんまじゃやばいっスよ……!」

『あきらめるな! 現在ヴォルケンリッターがこちらに加勢に向かっている。それまでの辛抱だ!』

 

 汗だくのウェンディをクロノが鼓舞するが、今のままでは彼らの到着までに街が破壊し尽くされてしまう。

 

「止まれぇーっ!」

 

 どうにかしようとマスケッティがデマーガに接近して砲撃を浴びせるが、それにクロノが警告を発する。

 

「ハヤト、ワタル! 前に出過ぎだっ!」

「グバアアアアアア!」

 

 しかし一歩遅く、デマーガの尻尾がマスケッティに叩きつけられようとする! クロノたちは息を呑む!

 

「――ヘアッ!」

 

 だがマスケッティは落ちなかった。――横から飛び込んできた巨人が、尻尾を受け止めたからだ。

 

「エックス……!?」

「エックスだっ!」

「エックスが……帰ってきたっ!」

 

 特捜班は驚き、そして歓喜に染まった。尻尾を引っ張ってデマーガを転倒させた巨人――まぎれもないウルトラマンエックスだ!

 エックスは、再びユナイトしたダイチに呼びかける。

 

『今度は、ダイチに助けられたな……』

『「心配したんだぞ! この剣が導いてくれなかったら……今頃どうなってたか」』

 

 ダイチの右手には、電脳世界にあった剣がそのまま残っていた。

 

『不思議だ……。前よりもずっと、ダイチを近くに感じる……』

『「俺もエックスを近くに感じる……」』

『今の私たちならもっと、更なる強い力でユナイトできる! ついてこられるか、ダイチ?』

『「もちろん! 俺たちはずっと一緒だ! お前を離さないっ!」』

 

 ダイチは剣の側面の、虹色のラインを指で下から上になぞり、柄のトリガーを引いた。

 

「『行くぞっ!!」』

 

 そして剣をX字に振るうと、虹色の軌道が残り――ダイチとエックスは更なる一体化。同時にエックスの肉体が銀色の新しいものに変身し、額に虹の剣が装着された。

 

「セアァッ!」

 

 エックスの変身に、特捜班は一斉に驚愕。

 

「虹色の……巨人!?」

「おぉぉ……!」

「エックスが、進化した……!」

「超ど派手っス!」

 

 ハヤト、ワタル、チンク、ウェンディがそれぞれ息を漏らした。

 ラボからは、状況を見守っているグルマンが声を発する。

 

「苦難を超えて進化した……! まさに、エクシードX!」

 

 エックスの新たなる領域、エクシードXは起き上がったツルギデマーガに威風堂々と向かっていく!

 

「セイヤァッ!」

 

 側転で相手の懐に飛び込み、前蹴りを食らわす。デマーガの振るう剣は手刀で受け止めて弾き、袈裟斬りの要領で両手のチョップを打ち込んだ。

 エックスの猛攻に、ツルギデマーガは一戦目と反対に押し込まれる。

 

「イィィィーッ! ショアァーッ!」

 

 そしてエックスは相手の腰を捕らえ、背後へ大きく投げ飛ばした!

 

「テヤァーッ!」

 

 それで終わらない。デマーガの落下地点まで走り、再度投げ飛ばす!

 

「すごい……!」

 

 ディエチたちは、新しいエックスのすさまじい実力に圧倒されていた。

 デマーガが倒れている間に、エックスは自身の額に右手を添えた。すると剣が頭部から分離し、右手の中に移る。

 

「セイッ!」

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 剣を構えて駆けるエックス。デマーガは迎え撃とうとするも、エックスの方が早く、バク転の勢いによる斬撃が決まった。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 ダメージが蓄積していくデマーガは一発逆転しようと、膨大な熱量の熔鉄光線を発射。

 

「ヘアァッ!」

 

 しかしエックスはそれをも切り払った。真っ二つになった熔鉄光線はあえなく霧散。

 

『今度こそ食い止めるっ!』

 

 ダイチは剣の虹色のラインを三回なぞり、柄頭のスイッチを叩いた。エックスもその動きと連動し、剣のスイッチを叩く。

 そうすると剣の下部の刃がスライドして伸び、膨大な虹色の光が発せられてエックスとデマーガを包み込む!

 

「グバアアアアアア!  ギャギャギャギャギャギャ!」

「セアァッ!」

 

 エックスは光のロードを一直線に飛び、ツルギデマーガにすれ違いざまの斬撃を浴びせた! 更に引き返す際に、もう一撃!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 するとどうだろう。ツルギデマーガの刃の部分が消滅し、元のデマーガの姿に戻ったではないか。

 エクシードXもまた、剣を頭部に戻すと元のエックスの状態に戻り、改めてカラータイマーを黄色く輝かせて振りかぶる。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 放たれたザナディウム光線が命中し、デマーガは一瞬にしてスパークドールズに圧縮されたのだった。

 

「シュワッチ!」

 

 飛び立って現場を去っていくエックスの中で、ダイチの持つ剣が光り、エクシードXのスパークドールズに変化した。

 

『「小さい頃の思い出が、俺を助けてくれた。これが、俺たちの新しい力……!」』

『不思議な剣だな……。名前はあるのか?』

『「分からない。でも……」』

 

 電脳世界で発見し、自分たちの力となったが、正体は全く不明な虹の剣。それを、ダイチはこう名付けた。

 

『「輪郭がフェイトさんのバルディッシュに似てるから、エックスと合わせて……エクスディッシュとでも呼ぼう!」』

『エクスディッシュか……。悪くないな』

 

 エックスは剣の名前を評価した。

 

 

 

 ラボに戻ってきたダイチは、グルマンが背を向けている間にこっそりと装置の上に横になった。

 

「ダイチ……これは私の責任問題じゃあ……」

 

 グルマンが気づかずに呆然としているところに、帰投してきたワタルたちが駆けつけてきた。

 

「ダイチっ!」

「……えっ、ダイチ!?」

 

 ダイチはたった今起きたという風を装って身を起こした。

 

「あれ、さっきまで……いつの間に……」

「デマーガ、どうなったんですか!?」

「お前が寝てる間に助けに来てくれて……」

「虹色の姿にパワーアップしたんだよ!」

「そうですか……エックス、生きてたんですね。俺はグルマン博士の看病のお陰で、この通り元気です!」

 

 白々しく述べるダイチ。しかしふと、この場に人が足りないことに気づいた。

 

「あれ? スバルとノーヴェは……まだ戻ってないんですか?」

 

 問いかけると、ワタルたちは気まずそうに顔を見合わせた。

 

「えっ……まさか、二人に何かあったんじゃ!?」

「いや、その二人にではない」

 

 チンクが重々しい表情で答える。

 

「だが……いいか、心して聞いてくれ……」

 

 

 

 復活したエックスがデマーガを撃破した直後のこと。スバルたちもその様子を、通信映像越しに見ていた。

 

「エックス……よかった、生きてたんだ……」

 

 スバルは感極まった様子で安堵したが、一方でギンガは用心深く周囲に目を走らせる。

 

「ところで……さっきの女性はどこへ……」

 

 そのひと言の直後に、シャーリーの身体にムチが巻きついた!

 

「あっ!」

「しまった! 油断したっ!」

 

 ムチの操り手はもちろんギナ。シャーリーは引っ張られてギナに捕まる。

 

「きゃああっ!」

「やってくれたものだな。なおさらスパークドールズをいただかなければならなくなった!」

 

 ギンガたちはギナを取り押さえようと身を乗り出したが、そこをギナに脅迫される。

 

「動くな! さもなくば、捕らえたこの女の命は保証できないわよ」

 

 冷笑するギナだったが……ギンガに笑みを返された。

 

「いいえ。捕まったのはあなたの方よ」

「何?」

 

 突然、ギナの身体をバインドがきつく縛り上げた!

 

「な、何だとッ!?」

 

 それはギンガの仕掛けたトラップだった。先ほどシャーリーの肩に手を置いた際に仕掛けていて、ギナがシャーリーを捕まえたらバインドが発動できるようにしておいたのだ。

 ギナが束縛されたことで、シャーリーは解放された。

 

「今よっ! 確保を!」

「よっしゃ!」

 

 疲労の残るスバルを置いて、ギンガとノーヴェでギナを完全に取り押さえようとしたが、しかし、

 

「くッ、こんなところで捕まる訳にはいかないわ……! やむを得ないッ!」

 

 ギナの目がまたも怪しく輝くと……空に『歪み』と表現すべきような黒い穴が開いたのだ!

 

「な、何だありゃあ!?」

「シャーリーさんっ!」

 

 危険を感じたギンガが、シャーリーだけでも安全なところへ連れていこうと走る。が、少し遅く、『歪み』から闇の波動が発せられ、それを開いたギナ本人と、シャーリーと接近したギンガに当たる。

 

「えっ……!?」

 

 『歪み』を中心に逆巻く旋風とともに、この三人の身体が浮き上がり……穴に吸い込まれていくのだ!

 

「きゃあああああああっ!!」

「ギン姉!! シャーリーさん!!」

「お、おい待てスバルっ! お前まで吸い込まれるぞ!」

 

 スバルが慌てて助けようと飛び出したが、彼女まで穴に呑まれるのを危惧したノーヴェに引き止められる。

 

「放してノーヴェ! あぁっ!!」

 

 ノーヴェを振り払おうとするスバルだが、その間にギンガたちは瞬く間に『歪み』の中に吸い込まれていって、完全に姿が見えなくなった。

 三人を吸い込んだ『歪み』はあっという間に閉じ、何事もなかったように空は元通りになる。

 

「ギン姉ぇぇぇぇぇ―――――――――――――っ!!」

 

 スバルの絶叫は、青い空に響くだけであった。

 

 

 

 ――ミッドチルダからはるか遠く離れた、『ある世界』。そこのとある街の中に、突如として怪巨人が地鳴りとともに降り立った。くすんだ黄金色の鎧に身を固めた、骸骨の怪物か悪鬼羅刹かを思わせるような凶悪な面構えだ。

 巨人は街中の人間に向けて恫喝する。

 

『よく聞けぇッ! この地にビクトリーという名の者がいるはずだ! 我が前に出てこぉいッ! さもなくば、この街を破壊し尽くしてくれようぞッ!!』

 

 巨人はその言葉の通りに、振りかざした戦斧を振るい、街のビルを粉々に破壊し始めた!

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はザラガスだ!」

ダイチ「ザラガスは『ウルトラマン』第三十六話「射つな!アラシ」に登場! 変身怪獣の肩書きを持っていて、攻撃を受けると身体の作りを変えて、同じ攻撃が効かなくなってしまうとんでもない能力を持ってるんだ!」

エックス『これのせいで科特隊は迂闊な攻撃が出来ず、大苦戦を強いられたんだ』

ダイチ「『ウルトラマン』では第二形態までだったけど、『ウルトラマンギンガ』で身体からトゲを生やした第三形態がお披露目されたぞ!」

エックス『第三形態も、元々最初の時点で検討されていたということだ』

ダイチ「そして『ウルトラマンX』ではサイバーゴモラと対戦をしたんだ!」

エックス『ザラガスの着ぐるみはゴモラの改造だから、そのつながりだな。『大怪獣バトル』の映画でもこの対戦があったぞ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 巨大な闇のパワーを秘めた敵、モルド・スペクターが現れた! 俺がエクシードXの力を使いこなさなければ、この強敵に勝つことは出来ない。そんな俺の前に駆けつけてくれたのは……ウルトラマンビクトリー! 次回、『勝利への剣』。


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勝利への剣(A)

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「宇宙から未知のエネルギー反応を確認!」

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

『未知のエネルギーに侵され……身体が、分解されているっ!』

「実験結果は良好」

「消えたエックスのデータを回収しないと……」

「電脳空間に入ろうってことか!」

『虹の根っこには――幸せや大切なものが埋まってると言われてるの!』

「虹の光が、俺たちを守ってくれた」

「苦難を超えて進化した……!」

「エクシードX!」

 

 

 

 ――第97管理外世界『ではない』地球。日本の雫が丘。

 

『ぬぅぅぅあッ!』

「トリャアッ! オリャアッ!」

 

 この町の中央で今、二人の巨人が争い合っていた。一方は骸骨が鎧を纏ったような姿で、もう一方はV字の発光体が各所に埋め込まれた身体の――ウルトラマン。

 骸骨型の巨人は、得物の戦斧を操って攻撃を加えながら、ウルトラマンに恨みの言葉を向けた。

 

『憎いッ! 貴様が憎いッ! 我が弟ジュダの仇ぃぃぃッ!』

『「弟だと!? お前……まさか!」』

 

 ウルトラマンの中にいる、赤い棒状のアイテムを手にしたオレンジのユニフォームの青年が驚きの声を上げる。

 ウルトラマンは怨念を込めた戦斧を振るってくる巨人に反撃。頭部のV字から熱線が発せられた。

 

『「ビクトリウムバーン!」』

 

 だがそれは巨人の斧によって防がれる。

 この戦いを小高い丘から、青年と同じユニフォームの妙齢の女性が見ていて、通信機を取り出してどこかへ報告を行った。

 

「こちらアリサ! ビクトリーが巨大な宇宙人と交戦中! 至急、応援願います!」

『了解! ヒカル、すぐにアリサの元へと向かえ!』

 

 応答した中年男性の声が、町を駆ける別の青年に指示を下した。

 

「ガレット!」

 

 青年が女性のところまで急ぐ中も、ウルトラマンは巨人と激しい格闘戦を繰り広げる。が、巨人は相当な実力のようで、ウルトラマンの方がジリジリと押されていく。

 

『痛快痛快! 貴様もジュダと同じ苦しみを味わえッ! いやぁぁぁぁッ!』

「ウアァァッ!」

 

 戦斧の逆袈裟がウルトラマンを襲った! 痛恨の一撃をもらい、動きが鈍るウルトラマン。

 その時……時空の彼方より、巨人に念話が届いた。

 

『兄上……! 今ですッ!』

『来たかッ!』

 

 同時に、巨人の頭上の空に空間の歪みが生じた。すると巨人はウルトラマンを背後から首に腕を回して捕らえる。

 

『さぁぁ貴様も来るんだぁぁぁッ!』

 

 独特な形状の銃を構えてウルトラマンを援護しようとしていた女性は、巨人の怪しい行動に一瞬動じた。

 その直後、歪みを中心に闇の波動が広がった! 波動は巨人と捕まったウルトラマン、そして見晴らしの良い場所にいた女性に当たる。

 

「きゃああっ!?」

 

 闇の波動が当たった者全員が、歪みの中へ吸い込まれていった! 青年が駆けつけた時には一歩遅く、ちょうどウルトラマンも女性も消えたところであった。

 

「……どうなってるんだ……!?」

 

 ウルトラマンたちが一瞬にして消失してしまった町の景色を前に、青年はそうつぶやくだけしか出来なかった。

 

 

 

『勝利への剣』

 

 

 

 ――次元世界の中心、ミッドチルダ。Xioでは、エックスとデマーガの戦闘時に降ってきた黒い稲妻のような光線の調査・分析が行われているところだった。

 

「この不思議な光線は、一体何だったんだ……?」

 

 カミキの疑問に、グルマンが回答する。

 

「まだ詳しいことは分からないが、あの光線のエネルギーによって怪獣が凶暴化したことには間違いないようだ」

 

 映像には、黒い稲妻を浴びたデマーガがツルギデマーガに変貌するところが余さず記録されている。

 

「光線の波長はマイナスエネルギー……闇の魔力に酷似している。すなわち、ダークサンダーエナジーとでも呼ぶべきか」

 

 ダークサンダーエナジーの解析が行われる一方で、スバルは椅子に腰を落としてうなだれていた。彼女は力なくつぶやく。

 

「ギン姉……シャーリーさん……どこに連れてかれちゃったの……?」

 

 スバルの傍らで、ダイチも重い表情でいた。

 二人はギナという女が開いた空間の歪みの中に吸い込まれていってしまったギンガとシャーリーの身を心配していた。スバル、アインハルトが惑星ギレルモに拉致された時とは違い、ギンガたちからの連絡は一切届いていないので、なおさらであった。

 スバルは、ギンガがこのまま帰ってこないことを特に恐れていた。

 

「嫌だよ、ギン姉がまたあたしの前からいなくなっちゃうなんてこと……。ギン姉、今どこにいるの……?」

 

 N2Rの四人は、昔のことを思い出してかなり気まずそうな顔をしていた。

 こんな様子を見かねたワタル、ハヤトがスバルを励ます。

 

「そんなに思い詰めるな、スバル。あのギンガ陸曹が、そう簡単にやられるもんかよ」

「ワタルさん……」

「状況から言って、あのコスプレ女が陸曹とシャーリーさんを連れ去ったのは予定外のことのはずだ。前のお前のように、敵の手から逃れてる可能性は十分にある。お前の姉さんなんだろ、信じてやりな」

「ハヤトさん……はいっ!」

 

 スバルの心は完全に晴れた訳ではなかったが、それでも少しは元気が戻ってある程度は表情が回復した。

 

 

 

 その頃、ミッドチルダ郊外の未開発区の空に、空間の歪みが発生していた。それを見上げているのはギナと、彼女の背後に控える二人の異星人、マグマ星人とシャプレー星人。マグマ星人は身体の半身を機械化した、改造マグマ星人となっていた。

 この二名は暗黒星団の構成員であったが、最近にギナの配下へ下って忠誠を誓った身なのであった。

 この三人の怪人たちの前に、雫が丘に現れた巨人が歪みの中から現れ、大地を揺るがしながら着地した。

 

「兄上!」

 

 小走りで巨人へ近づいていくギナ。一方でマグマ星人とシャプレー星人は、巨人を見上げて軽くおののいていた。

 

『おお、あの方が……!』

『ギナ様の兄君にして暗黒宇宙の大王、モルド様……!』

 

 モルドと呼ばれた巨人が、ギナを見下ろして告げた。

 

『我が妹よ、ここに三兄弟が揃わぬことが残念でならん』

「ジュダの仇は何としても我々で討つしかありません!」

 

 モルドとギナの目には、ジュダという者に関する憎悪がたぎっていた。

 

 

 

 モルドが通った空間の歪みの波長は、すぐにXioに感知された。

 

「エリアC6-7に、異常な数値反応が観測されました!」

 

 カミキが席を立って、直ちに指示を下す。

 

「ラボチームはデータを解析!」

「はい!」

「他の隊員たちは全員、直ちに現場に向かってくれ!」

「了解!」

 

 特捜班がカミキの命令に従い、駆け足でオペレーション本部から出動していった。

 

 

 

 ギナはモルドに、ミッドチルダに関しての報告を行う。

 

「しかし問題が一つ……この世界にも我々の邪魔をするウルトラマンがいるということです!」

『ジュダを倒した憎き奴らか……! 許さん、許さんぞぉッ!』

 

 モルドはギリギリと戦斧を握り締め、風を切って振り下ろした。

 

『奴らを倒し、我がグア軍団が全宇宙を支配するのだぁッ!』

『ははッ!』

 

 斧を高々と掲げて宣言するモルドに、ギナたちは敬礼し頭を垂れた。

 次いでモルドは、左腕に握っている「もの」に目を落とす。

 

『しかしこいつだけは特別だ……。最後までゆっくりといたぶってから始末してやるわッ!』

 

 モルドが「それ」を地面に投げ落とす。

 

「うぅっ……!」

 

 苦しそうに転がったのは……レザーマスクで口を封じられた、ウルトラマンの中にいた青年であった。

 

 

 

 その頃……巨人に引っ張られる形で空間の歪みに呑まれた女性が目を覚まし、地面の上から起き上がった。

 

「ここは……?」

 

 周りを見回すが、未開発区の森林の中央なので、今自分が置かれている状況は呑み込めない。ただ、自分がどこか別の場所に移動させられたことだけは理解した。

 そして女性は、近くに青年が持っていた赤いアイテムが転がっているのに気がついた。

 

「ショウ……!」

 

 アイテムを拾い上げた女性は、青年の姿を求めて移動を開始する。

 ――そのすぐ近くを、調査にやってきたXio特捜班のメンバーがひと塊になって探索を行っていた。

 そうして両者は、ばったりと邂逅を果たした。

 特捜班はまるで見慣れない格好の女性に対して思わず身構えた。それは女性の方も同じで、彼女は特捜班を警戒して問いかけた。

 

「誰……? あなたたちは誰!?」

「人に名前を尋ねる時は、まず自分が名乗るのが筋だろ!」

 

 状況が状況なのでピリピリしているワタルがきつく返すと、女性は名前を名乗った。

 

「私は杉田アリサ……。地球を守る防衛隊、UPGの隊員よ」

「え……?」

 

 女性の自己紹介に、ダイチたちは怪訝な顔となった。

 

「97管理外世界に、そんな名前の組織あったっけ?」

「いや、聞いたことないけど……」

 

 ノーヴェの問いかけにダイチが答える傍らで、スバルが女性――アリサに名乗り返した。

 

「あたしたちは時空管理局直属の特殊生物専門防衛部隊Xioの隊員。ここは第1管理世界ミッドチルダです。……分かりますか?」

「時空管理局!? ミッドチルダ!?」

 

 一瞬唖然としたアリサは、周囲の景色や特捜班の格好を注意深く観察した後、ひと言つぶやいた。

 

「どうやらここは、別世界のようね……」

「あなたは、ここで何を?」

 

 続くスバルの質問に、アリサは答える。

 

「私は、仲間を捜してるの。名前はショウ。凶悪な宇宙人を追って、彼もこの別世界に来ているはず……」

 

 アリサの言動がとんちんかんなように感じて、特捜班は若干戸惑った。しかし、次の言葉で驚愕させられる。

 

「彼はウルト……光の巨人となって戦う戦士よ」

「光の巨人……? まさか、ウルトラマンのことですか!?」

「ウルトラマンを知ってるの!?」

 

 アリサが「ウルトラマン」の名を唱えたことで、ウェンディたちはどよめいた。

 

「どういうことっスか? 管理外世界に怪獣やウルトラマンの情報は行ってないはずなのに……」

「どうも話がおかしいな……。しかし、何かの冗談にも思えない。これは一体……」

 

 チンクが顎に手を当てる一方で、ダイチはアリサの話に興奮を覚えた。

 

「俺たちにも、ウルトラマンエックスって仲間――」

『ダイチ!』

 

 口を滑らしかけたダイチを、エックスが咎めた。ダイチが口をつむぐと、ディエチがふと顔を上げる。

 

「ちょっと待って。それって……人間がウルトラマンに変身するということ……?」

「人間っていうか……地底人……」

 

 アリサのひと言に目を丸くするダイチたち。

 

「地底人?」

「ああもう、何か頭がこんがらがってきた」

 

 ノーヴェが軽く天を仰いだ。

 

「とにかく、私はショウを捜してるだけなの!」

 

 と言うアリサに、ダイチが申し出る。

 

「だったら、俺たちも協力しますよ!」

「いいの?」

「ええ。だってウルトラマンの仲間だし! ねぇ?」

 

 ダイチの呼びかけに、ハヤトとノーヴェがうなずいた。

 

「そうだな……」

「ほっとく訳にもいかないしな」

 

 ある程度話が纏まると、スバルが前に進み出てアリサに手を差し出した。

 

「あたしはスバル・ナカジマと言います。よろしくお願いします」

「……こちらこそよろしく」

 

 アリサが手を取り、二人は固い握手を交わした。

 

 

 

 縄で拘束され転がされた青年――アリサの捜すショウは、隠し持っていたクリスタルのようなペンダントを使って後ろ手の縄を少しずつ削っていた。

 

『遂に我々も、グア軍団の仲間入りだな』

『ふッ……モルド様、ギナ様とともに宇宙を支配してやる!』

 

 話に夢中になっている見張りのシャプレー星人たちはそれに気づかない。ショウが縄を切断して立ち上がってからようやく振り返った。

 

『なッ!? き、貴様ッ!』

「んっ!」

『ぐわぁーッ!』

 

 ショウの手の平から波動が飛び、シャプレー星人とマグマ星人は大きく吹っ飛ばされた。

 

 

 

 アリサのことは、すぐにXio本部へと伝達された。

 

『了解した。各自くれぐれも気をつけて、アリサ隊員に協力するんだ』

 

 細かい事情はひとまず置いて、カミキは各隊員にそのように命令した。

 

「了解!」

「そのショウという方が、近くにいるといいんだが……」

 

 二人組に分散した内のダイチとチンクの元に、早速逃げ出してきたショウが飛び出した。

 

「誰!?」

「ダイチ、あの服装……!」

「もしかして……ショウさんですか?」

 

 ふらついているショウだが、ダイチの問いにうなずいて答えた。

 

「よかった! 無事だったんですね!」

 

 安堵するダイチたちに、ショウは身振り手振りで何かを伝えようとする。

 だがダイチはそれを変な風に受け取った。

 

「そうか……地底人だから言葉が通じないか……!」

 

 と解釈して、自分も大袈裟な身振りを交えてコミュニケーションを取り出す。

 

「私は! ミッド! 人です!」

「んんー!」

 

 ショウはそうじゃない、とばかりに頭を抱えたが、その気持ちは伝わらなかった。

 

「分かりません? じゃあ、もっかい行きますね! 私は! ミッド!」

「んんんー!!」

「……ダイチ、何か違うみたいだぞ」

 

 チンクが半目になって突っ込んだ。

 

 

 

『おのれぇ! どこに行ったぁ!』

 

 ショウにまんまと逃げられたマグマ星人たちは、大急ぎで追跡に出ていた。

 すると、スバルとアリサの二人と鉢合わせになる。アリサは咄嗟にチャージガンを構える。

 

「異星人!」

『何だ貴様らぁ?』

「もしかしてあなたたちがショウを? ショウはどこなの!」

 

 チャージガンを突きつけて問い詰めるアリサだが、シャプレー星人たちは余裕の態度で構えた。

 

『ふッ……』

 

 いきなりスバルとアリサに襲いかかってきた! スバルたちは反射的に身構え、応戦の態勢を取った。

 

 

 

 Xio本部に緊急サイレンが鳴り渡る。

 

「再び宇宙に、巨大なエネルギー反応をキャッチ! ミッドに向かって接近中です!」

「またあのエナジーか……! こんな時に……!」

 

 ダークサンダーエナジー落下の予兆であった。カミキたちの表情が深刻なものとなる。

 

「落下予測地点の映像出ます」

 

 モニターに表れた映像の中に映っているものに、カミキらは驚愕した。

 落下予測地点に向けて……モルドが向かっていっているのだ!

 

 

 

「兄上、ここです!」

 

 モルドの手の平の上のギナが告げる。モルドのはるか上空に、黒い閃光が走った。

 

『へあッ!』

 

 モルドが斧を掲げると、ダークサンダーエナジーがそれに向かって降ってきた!

 

 

 

 冷静になったダイチはショウの口を覆うマスクの組成の分析に移っていた。

 

「未知の物質で出来ている……」

 

 そこに、カミキからの緊急通信回線が開かれた。

 

『総員気をつけろ! ダークサンダーエナジーがそのエリアに降ってくる!』

「えっ!?」

『そして落下地点に、未知のタイプAが出現した! 例の襲撃犯もタイプAの手の平に……!』

 

 カミキが言い切る前に、ダークサンダーエナジー落下の衝撃が地面を震撼させた。

 

「これは近いぞ……! ダイチ!」

「ああ!」

 

 ダイチとチンクはショウを連れて、エナジー落下地点へと向かっていく。

 山間を抜けて目にしたのは、モルドがダークサンダーエナジーを吸収している姿であった。

 

『これは、かつてないほどのパワーがみなぎってくるわッ!』

 

 それを見たチンクは危険を感じ取り、ダイチに顔を向ける。

 

「ダイチ、彼を安全なところへ!」

「分かった!」

 

 ショウを連れてチンクの元から離れるダイチ。一方のショウは懐に手を突っ込んだが、目当てのものがないのか焦りを見せた。

 ショウの様子をながめたダイチが呼びかける。

 

「ショウさん……あなたもウルトラマンなんですね。だったら……このこと内緒にして下さいね!」

 

 ショウの目の前で、ダイチはエクスデバイザーを取り出し、スイッチを押し込んだ。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 エックスのスパークドールズをリードし、光が溢れるデバイザーを掲げる。

 ダイチの肉体が、ウルトラマンエックスのものに変身した!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 飛び出していったエックスは、モルドの面前に着地。構えを取って、モルドに戦いを挑む姿勢を見せる。

 巨大なエックスの背中を、ショウはじっと見上げた。

 

 

 

 ――雫が丘。ショウとアリサを吸い込んで閉ざされた空間の歪みのあった真下の地点に、アリサの元へ駆けつけようとしていた青年が一人でたたずんでいた。

 彼のスマートシーバーに、エネルギーの波長を表したデータが表示される。同時に、同年代くらいと思しき男性の声が発せられた。

 

『――以上のデータの通りの波長を歪みの跡に照射すれば、歪みをこちらから開くことが出来るはずです。別の次元に逃れていった敵を追跡し、二人の救出に向かえるという訳です』

「分かったぜ! サンキュー、友也!」

 

 青年は通信の相手に感謝の言葉を述べた。

 

『お礼にはまだ早いですよ。空間の歪みを無理矢理開くのには、膨大なエネルギーが必要。これを行えばギンガもエネルギーが空っぽとなり、しばらくはライブ出来なくなるでしょう。歪みを抜けた先がどんな場所なのか分からない状態でそうなるのは大変危険ですよ』

 

 との警告を受けても、青年は恐れの色を見せなかった。

 

「危険は承知の上だぜ。そこからは俺自身でどうにかするさ。任せておいてくれ」

『ふふっ、あなたらしいですね。それでは二人のこと、よろしく頼みます、礼堂君』

 

 その言葉の後に、老いも若いも入り混じった複数の人の呼びかけがスマートシーバーから発せられた。

 

『お前ならこの困難な任務、必ず達成できると信じてるぞ』

『アリサとショウのこと、頼んだぜヒカル!』

『必ず三人で帰ってきて下さい!』

『お前の帰りを待っているぞ』

「隊長、ゴウキさん、サクヤ、マナ……」

 

 それぞれの呼び名を唱えた青年が、口の端に笑みを湛えてうなずいた。

 

「ガレット! ショウとアリサさんの救出に行ってきます!」

 

 力強く応じて通信を終えた青年は、懐から取り出した、短剣のようにも見える白銀色のアイテムに持ち替えた。

 青年はそのアイテムを誇らしげに、天高く掲げた。

 

「よしっ! ――行くぜギンガ!!」

 



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勝利への剣(B)

 

 ――地平線の果てまで荒野が広がる世界。変わっているといえば荒野に四方形の岩が柱のように積み重ねられたようなものが点在しているということくらいで、どこまでも無味乾燥な景色が続いている。

 ここは惑星グア。ミッドチルダからははるか遠く離れた次元の宇宙に存在する惑星で、ギナやモルドらが本拠地としている星である。

 そしてこの星に、ギンガとシャーリーは迷い込んでいたのであった。

 

「……どうですか? シャーリーさん」

「……駄目。やっぱり、何度試しても本部と通信がつながらないよ」

 

 石の柱の陰に隠れているギンガとシャーリーは、もう何度目かになるXio本部との連絡の試行に失敗していた。

 ギナが開いた空間の歪みに引きずり込まれた二人は、この惑星の地表に放り出されていた。ギナも歪みを緊急に開いたため、二人は敵の手に落ちることなく逃げおおせたのだが、ミッドチルダに帰還する術は今のところ見つかっていない。

 落胆したシャーリーは、自分の抱えるカプセルの中のエレキングのスパークドールズに呼びかける。

 

「ごめんね、エレキング。私たちの巻き添えで、こんな恐ろしいところに連れてきちゃって……」

「追っ手はまだこの辺りまでは来ていないみたいですが……いつまで安心していられるかは分かりませんね……」

 

 柱の陰から少しだけ顔を出したギンガが、用心深く周囲を見回した。

 ギンガたちがこんなにコソコソしているのは、惑星グアにはギナたちの配下となる巨大異星人が大勢おり、それらが闖入者の二人を捕獲しようと追いかけてくるからであった。現在の二人の装備では、巨大異星人に立ち向かうのはほぼ不可能。そのため、逃げ回ることしか出来ないのである。

 しかしそれも、いつまで続けられるものか……。補給が利かない現状、闇雲に逃げていても消耗していくばかりだ。

 

「あの女の人は、ほぼ間違いなく空間に歪みを作ってこことミッドを行き来してる。また空間の歪みが生じたら、そこに飛び込むことで帰還できるんだろうけど……」

 

 というのがシャーリーの推理。しかしそれを成し遂げるには、敵の監視を突破しなければならないという問題がある。

 

「どうにかして、監視をかいくぐる方法を考えないといけませんね……」

 

 嘆息したギンガは……不意に誰かが近づいてくる気配を感じ取り、一気に警戒を強めた。

 

「ギンガ?」

 

 シャーリーに静かにするよう合図したギンガは、リボルバーナックルを脇に構えながら、柱に張りついて息を殺す。

 そして近づいてくる気配が陰から飛び出してきた瞬間に、自らも飛び出してナックルを向けた!

 

「!?」

 

 ギンガも相手から、銃口を突きつけられる。が……互いに相手の姿を確認し、双方呆気にとられた。

 ギンガの前に出てきたのは、ギナたちとは大分様子も雰囲気も異なる青年であった。オレンジ色のジャケットを羽織り、左胸付近には流星を象ったようなエンブレムがある。

 

「あなたたちは……グア軍団じゃないみたいだな」

 

 相手の青年の方もギンガたちの格好を観察すると、そうつぶやいてチャージガンを下ろした。

 

「グア軍団?」

「この星をうろついてる連中のことさ。俺はどうにか奴らの目を逃れてここまで来た」

 

 シャーリーの疑問に答えた青年に、ギンガが告げる。

 

「私たちは故あってここに迷い込んだ人間です。名前はギンガ・ナカジマ。そちらはシャリオ・フィニーノです」

「ギンガ? へぇ……」

 

 青年はギンガの名前を耳にした途端、意味ありげに目を見開いた。

 

「私の名前が何か?」

「あぁ、いや、奇遇だなって思ってさ。俺の一番大事な仲間の名前もギンガって言うんだ」

 

 と答えた青年が我に返り、ギンガたちに対して告げた。

 

「こっちはまだ名乗ってなかったな。――俺はUPGの礼堂ヒカル。よろしく!」

 

 青年は爽やかな笑顔を浮かべてそう頼んだのであった。

 

 

 

「テェヤッ!」

『むんッ! でぇやッ!』

 

 エックスはまっすぐにモルドへ向かって駆けていく。モルドも前へと踏み出し、エックスを迎え撃つ。

 

『へぇやッ! でぇいッ!』

 

 モルドが横薙ぎに振るう戦斧をかわしたエックス。ミドルキックを打ち込むが、モルドは斧を盾にガードする。

 

『えぁッ!』

「グッ!?」

 

 モルドの拳が腹部に入った。あまりの威力に、エックスは悶絶。

 

『でやぁぁッ!』

「グアァッ!」

 

 そこに斧の斬撃を叩き込まれる。エックスはかなりのダメージを食らって後ずさった。

 

『へやあぁぁッ!』

 

 しかしモルドの攻撃は止まらない。斧を投げ飛ばすと、それが自在に宙を飛んでエックスに襲い掛かってくる!

 

「ウアアァァッ!」

 

 空飛ぶ斧に身体を斬られ、エックスはたちまち追いつめられてしまった。

 モルドはダークサンダーエナジーを全身で吸収した。その分加算されたパワーは、エックスをはるかに上回っていたのだった。

 

『強い……! ダイチ、我々もエクスディッシュを使うんだ!』

 

 このままでは勝ち目がないと判断したエックスがダイチへ促した。

 

『「よしっ!」』

 

 了承したダイチが前に伸ばした手の中に、エクシードXのスパークドールズが現れる。

 ダイチがそれをエクスデバイザーに押し当てると、スパークドールズはエクスディッシュの形状へと変化した。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 ダイチはエクスディッシュのタッチパネルを一回なぞり、トリガーを引く。するとエクスディッシュの虹の刀身が輝く。

 

「『行くぞっ! エクシード、エーックスっ!!」』

 

 ダイチがエクスディッシュをX字に振るうことで、虹色の光の軌道が生じ、ダイチとエックスは更なる一体化。そしてエックスの身体がエクシードXのものへと変化を遂げた!

 エクシードXは頭部のエクスディッシュを右手に移し、掲げたポーズを取る。

 

「『エクスディッシュ!」』

 

 パワーアップを果たしたエックスは、再び猛然とモルドへ駆けていった。

 

「ヘアァッ!」

 

 モルドが振り下ろす斧を、エックスはエクスディッシュで受け止める。

 

『でぇぇやぁッ!』

 

 激しく斬り結ぶエックスとモルド。……だが、モルドの振るった斧にエクスディッシュを握る腕が弾かれた。

 

『へあッ! えぇぇやッ!』

「ウアァッ!」

 

 横薙ぎの一閃がエックスに入り、更に斧で足を刈り上げてエックスを地面に叩きつける。

 

『痛快、痛快、痛快! 最強の力を手に入れた今、ウルトラマンなど、相手にならぬわぁぁぁぁッ!!』

 

 モルドはエックスに馬乗りになり、顔面に向けて斧を振り下ろす。エックスは咄嗟にエクスディッシュを盾にしたが、相手のパワーにじりじり押されていく。

 エックスはダイチを叱咤。

 

『しっかりしろダイチ! 身体がついてきていないぞ!』

『「そんなこと言ったって……!」』

 

 エクシードXになったことで、確かにエックスの能力値は上昇した。……しかしユナイトしているダイチの能力がそれに追いついていないため、エクスディッシュの力を使いこなせていないのだ!

 エックス、大ピンチ!

 

 

 

 ギンガとシャーリーの前に現れた青年、礼堂ヒカル。二人は彼と、互いの世界について情報交換を行った。

 

「そうか、君たちはミッドチルダっていう別世界の人間なんだ」

「あなたこそ、私たちとは別の世界の人なんですね。しかもそれが……私たちが知ってるのとは別の『地球』だなんて……」

 

 呆気にとられるギンガ。いくら次元世界の住人とはいえ、「第97管理外世界と同じだが異なる世界」という話はにわかには信じがたい。

 シャーリーに目配せすると、彼女はヒカルの話を肯定した。

 

「少なくとも、彼の持ってるスマートシーバーとかチャージガンとかの道具は、地球の技術の延長でありながら、同時に次元世界のどの技術体系とも異なるテクノロジーが加えられて出来てるみたい。信用していいかも」

 

 さすがは技術者だけあり、少し見ただけでそのようなことが分かるようだ。

 

「いわゆる平行世界って奴さ。俺も詳しいことを知ってる訳じゃないんだけどさ」

 

 ヒカルは似て非なる世界のことを、ひと言で説明した。

 

「ヒカルくんは、平行世界に理解があるんだね」

「平行世界と関わるのはこれが初めてじゃないですからね。その辺は話すとちょっと長くなるんですけど」

 

 シャーリーの質問に答えたヒカルに、ギンガが尋ね直す。

 

「それで、ヒカルさんはグア軍団に連れさらわれた仲間を救出するために、この世界に突入を果たしたんですね」

「ああ。ショウとアリサっていう名前の二人なんだけど、君たちは知らないかな?」

 

 ヒカルの問い返しに、ギンガたちはそろって首を横に振った。

 

「ごめんなさい、知らないです」

「そうか……となると、ショウたちはここじゃなくて君たちの世界の方に連れてかれたってことかな……。二人とも無事だといいんだけど……」

 

 つぶやいたヒカルに、シャーリーがもう一つ質問。

 

「ところで、ヒカルくんはどうやって次元を越えてこの世界にやってきたの? それらしい装備は持ってないみたいだけど……」

「ギンガの力を借りて、空間の歪みを開いたんです。あっ、ここで言うギンガは、もちろん俺の仲間の方のことです」

 

 ヒカルはそう回答した。

 

「そのギンガさんは、今どこに?」

「今は力を使い果たして休んでます。でも、回復したらすぐにまた空間を越えるつもりです。その時にはもちろん、二人も連れていって元の世界に帰してあげますよ」

 

 ヒカルの申し出に、帰還する手段に悩んでいたギンガとシャーリーは一気に顔を輝かせた。

 

「ありがとうございます! それじゃあ、後はこのまま敵に見つからずにやり過ごせば――」

 

 と言いかけたギンガだが、皮肉なことに、ちょうどその時に三人は敵に発見されてしまった!

 

「ビョウンビョウンビョウンビョウンビョウン!」

「!!」

 

 三人がハッと顔を上げると、自分たちに向かって巨大サイボーグ怪人が地響きを鳴らして迫っているところであった。左腕はギザギザの鋼鉄製のハサミ、右腕には三本のクローが鈍く光る。

 グア軍団の恐るべきファイティングベム、メカバルタン!

 

「いけない、見つかった! 二人とも、早く逃げて――」

 

 ギンガが咄嗟にシャーリーとヒカルを逃がそうとしたが、それより早く、メカバルタンのクローの中央から光弾が発射される。

 

「きゃあああああっ!!」

 

 爆発によって三人は吹っ飛ばされる。地面の上を転がったヒカルは懐から短剣のようなアイテムを取り出すが、

 

「……やっぱり、まだエネルギーは戻ってないか……!」

 

 クッと歯を噛み締めたヒカルの視界に入り込んだのは、シャーリーの元から投げ出されて、カプセルから飛び出たエレキングのスパークドールズだった。

 

「! スパークドールズ……!」

 

 それを見たヒカルは、すぐさま駆け寄ってエレキングを拾い上げると、ギンガと助け起こされたシャーリーに首を向けた。

 

「ちょっと、君たちの仲間の力を借りるぜ!」

「えっ?」

 

 言葉の意味が分からず呆けるギンガたち。二人が見ている先で、ギンガは短剣型のアイテムの先端を、エレキングの足裏に押し当てた。

 

[ウルトライブ! エレキング!]

 

 するとヒカルを中心にまばゆい閃光が発せられ……エレキングが、グンッグンッグンッ! と巨大化していく!

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 右腕を天高く掲げたエレキングが、メカバルタンの前に立ちはだかった!

 

「えぇぇぇっ!? エレキングが、実体化した!?」

 

 ギョッと目を丸くしてエレキングを見上げるシャーリー。一方ギンガは、エレキング登場と入れ替わるようにヒカルの姿が消えたことに気づく。

 その直前までの行動を鑑みて……ギンガはまさか、とエレキングを見やった。

 

「エレキングと一体化したの!?」

 

 果たしてその通り。今ヒカルは、エレキングの内部にいてその肉体を動かしているのだった。

 

『「よぉしっ! 行くぜ、エレキング!」』

 

 アイテムを握り締める腕を突き出したヒカルの意思により、エレキングは動いてメカバルタンに攻撃を仕掛けていく。

 

「キイイイイイイイイ!」

「ビョウンビョウンビョウンビョウン!」

 

 ぶつかり合って格闘戦を繰り広げるエレキングとメカバルタン。メカバルタンはクローとハサミを振り回して攻撃するが、エレキングは身をかがめてかわすと、そのままぶちかましを決めてメカバルタンの体勢を崩した。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 更にきりもみ回転チョップが入り、メカバルタンはよろめいて後退。

 

「ビョウンビョウンビョウンビョウン!」

 

 メカバルタンが離れた位置から光弾を発射しようと構える。しかしそれより早くエレキングの口からカッター状の電撃光線が放たれた。

 

「ビョウンビョウンッ!」

 

 直撃を受けたメカバルタンの機械部分に電撃が走り、感電。

 

『「今だっ!」』

 

 ヒカルはその隙を見逃さず、エレキングの長い尻尾を伸ばした。尻尾はメカバルタンに巻きついて拘束する。

 

「キイイイイイイイイ!」

 

 そこから必殺の高圧電流が尻尾から流し込まれた。メカバルタンは全身がスパーク、尻尾が解かれるとその場に崩れ落ちて爆発四散した。

 

「た、倒した……!」

「人間と怪獣が一体化するなんて……!」

 

 驚き呆けるギンガとシャーリー。

 

『「やったぜ!」』

 

 勝利したヒカルはエレキングと分離しようとしたが……。

 

『シャアッ!』

 

 そこに迫るふた振りのサーベル! エレキングは咄嗟に頭を下げて攻撃をかわした。

 

『「何だ!?」』

 

 慌ててアイテムを構え直したヒカルとエレキングの前に、マグマ星人が二人も現れる。今の戦いを嗅ぎつけてきたに違いない。

 

『新手か! しかも二人だなんて……!』

『我々は、ギナ様のお側にいる兄者と合わせてマグマ星人三兄弟!』

『侵入者め! お前たちは我ら兄弟が仕留め、ギナ様とモルド様に献上してくれるわ!』

 

 マグマ星人の兄弟がサーベルを構え、ジリジリとエレキングを狙う。

 連戦の気配に、ヒカルはエレキングの中で冷や汗を垂らした。

 

 

 

 マグマ星人三兄弟の長兄、改造マグマ星人はスバルと戦闘を繰り広げていた。

 

『むぅんッ!』

「せぇぇいっ!」

 

 マグマ星人のサーベルとスバルのリボルバーナックルが打ち合う。

 

『ふんッ!』

「えぇあっ!」

 

 アリサはシャプレー星人と格闘戦を展開する。

 

「ヘアァッ!」

 

 ちょうどその時に、エックスがモルドを押し返して体勢を立て直した。

 それを見上げたマグマ星人はシャプレー星人に顔を向ける。

 

『シャプレー、後は任せたぞ!』

 

 ひと言告げ、巨大化しながらエックスとモルドの戦いに乱入。背後からエックスに斬りかかる!

 

『うおらぁぁぁぁッ!』

「ウアァッ!」

 

 ただでさえ劣勢なのに、マグマ星人が加わったことでエックスはますます追いつめられていく。

 

「エックスっ!」

『お前たちの相手は、私だッ!』

 

 叫ぶスバルとアリサに、シャプレー星人が光線銃を連射してきた。

 

「きゃあぁっ!」

 

 激しい爆発が襲い掛かり、スバルとアリサはその場で足止めを食らう。

 そしてエックスに、モルドとマグマ星人の同時斬撃が叩き込まれた!

 

「グアァーッ! ジュアッ! グァッ……!」

 

 倒れるエックス。カラータイマーが激しく点滅して危険を示す。

 危機に陥っているのはスバルたちもであった。シャプレー星人が二人を撃ち抜こうと構える。

 

『とどめだッ!』

 

 しかしそこに魔力弾が飛んできて、シャプレー星人を弾き飛ばした。

 

『ぬあぁッ!?』

「スバル、大丈夫か!」

 

 助太刀に入ったのはハヤトとワタル。そして彼らとともに駆けつけたショウを見たアリサが、懐から赤いアイテムを取り出した。

 

「ショウっ!」

 

 投げ渡されたアイテムをすかさずキャッチしたショウは、アイテムを拳銃型に可動させると、更に怪獣の人形を取り出す。――スパークドールズ。

 

[ウルトライブ・ゴー! EXレッドキング!]

『ピッギャ――ゴオオオウ!!』

 

 ショウはスパークドールズをリードさせて、銃からエネルギーを発射。EXレッドキング型のエネルギー弾がモルドとマグマ星人に直撃し、大爆発を浴びせた。

 

『ぐわあああッ!?』

 

 この隙にエックスは立ち上がったが、もう残り時間が少ない。これ以上の戦闘続行は不可能だった。

 

『ダイチ、悔しいがここは、一時退却だ!』

 

 エックスは敵が止まっている間に撤退。Xioもまた、態勢を整えるために撤収していった。

 

 

 

 惑星グアでもまた、ヒカルがピンチの状態にあった。

 

『うらあぁぁぁッ!』

『ぬぅぅんッ!』

「キイイイイイイイイ!」

 

 マグマ星人Aの鎖つき鉄球がエレキングの首に巻きついて動きを封じ、その間にマグマ星人Bがサーベルで攻撃する。二対一の不利を前に、エレキングはなす術なくやられていた。

 

「あぁっ! エレキング!」

「ヒカルさん……!」

 

 焦燥するシャーリーとギンガ。だが、今の二人にヒカルとエレキングを助け出せるだけの持ち合わせはないのだ。

 

『「くっ、さすがに連戦はきついか……!」』

 

 エレキングがダメージを食らう毎に、リンクしているヒカルもまた苦しめられる。

 だが、どれだけ痛めつけられようとも、ヒカルは決して戦いをあきらめようとしなかった。

 

『「けど、俺の後ろには守るべき人たちがいる! これくらいのことで……やられてたまるかぁぁぁっ!」』

 

 熱い想いを乗せて叫び、アイテムを握る手にも力がこもる。

 するとその時! アイテム――ギンガスパークのブレードが開き、あるウルトラマンのスパークドールズが飛び出した!

 それを目にしたヒカルは、一転して満面の笑みとなる。

 

『「待ってたぜギンガ!」』

 

 スパークドールズを手に取ったヒカルは、勢いよくギンガスパークに押し当てた。

 

[ウルトラーイブ! ウルトラマンギンガ!!]

 

 エレキングの姿が発光し、たちまち別のものへと変化。その勢いでマグマ星人兄弟ははね飛ばされた。

 

『ぬあぁッ!?』

『な、何だ!?』

 

 同時にエレキングのスパークドールズがポーンッと飛ばされ、シャーリーの胸元へ。シャーリーは反射的にキャッチ。

 

「きゃっ!」

「あれは……!」

 

 エレキングに代わって現れたのは……額とカラータイマーの周りの胸部、肩と手足に水色のクリスタルを備えた……。

 

「ウルトラマン……!」

 

 紛れもないウルトラマン――!

 彼こそがヒカルの話していた、ギンガと同じ名を持つ仲間――ウルトラマンギンガだ!

 

「全身から半端じゃないパワーを感じる……!」

 

 輝くウルトラマンギンガの立ち姿を、ギンガは見惚れるように見上げた。

 

『貴様もウルトラマンだとぉ!?』

『おのれ、こしゃくなぁッ!』

 

 マグマ星人兄弟はいきり立ってウルトラマンギンガに襲い掛かる。それを少しもひるまず、堂々と迎え撃つウルトラマンギンガ!

 

「ショオラッ!」

 

 マグマ星人Aの鉄球をはたき落とし、Bのサーベルをついとかわすと肘打ちを入れて弾き飛ばした。

 

『うぎゃあッ!』

 

 再び鉄球が飛んできたが、今度は鎖をキャッチし、マグマ星人ごと引っ張って地面に放り飛ばす。

 

『おあぁぁッ!?』

 

 先ほどまで追いつめられていたのが一転、マグマ星人兄弟をまるで子供扱いでもするようにひねり投げていく。

 

「すごい……!」

 

 ギンガとシャーリーは、ウルトラマンギンガの圧倒的実力にすっかり見入っていた。

 

『ちくしょうめぇぇッ! このままやられては、マグマ星人の名折れだぁッ!』

 

 激昂したマグマ星人Aは鉄球からサーベルへと得物を変え、ウルトラマンギンガへと遮二無二斬りかかっていく。

 対してウルトラマンギンガのクリスタルが白く輝くと、右腕のクリスタルから光の切っ先が発せられ、そこから刀身が完成した。

 

『「ヤキ入れてやるぜ!」』

 

 正面から突っ込んでくるマグマ星人を見据えたウルトラマンギンガは光剣を振り上げ――地面に向けて突き刺した!

 

『「ギンガセイバー!!」』

 

 光剣から斬撃がまっすぐ伸び、大地が真っ二つに割かれる! その裂け目からマグマが猛烈な勢いで噴出!

 

『ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 マグマの柱の中に呑まれたマグマ星人Aは、全身を焼き尽くされて爆散!

 

『あ、兄者ぁぁッ!!』

 

 兄を撃破され、単独となったマグマ星人Bはウルトラマンギンガにおののき、後ずさった。自分一人では到底勝ち目がない。

 

『おのれぇぇぇぇ……! だがッ!』

 

 しかし、マグマ星人Bはにやりとほくそ笑む。

 

『俺たちが戦ってる間に、グア軍団のファイティングベムが勢ぞろいしたぜ!』

 

 その言葉とともに、ウルトラマンギンガの前に新たなる敵が次々と出現してきた。

 ダクミラン、バゼリア、シズルン、ザビデン、エドラス、他グア軍団兵士もぞろぞろと……。恐ろしい数だ!

 

『ワハハハハハハ! いくら何でも、この数には敵うまい!』

 

 マグマ星人Bは数の優位に立って高笑いを上げた。

 だが、それでもヒカルには恐れの色が少しもなかった!

 

『「そいつはどうかな。俺とギンガの実力と戦いぶり、お前ら悪党どもにたっぷり見せてやるぜ!」』

 

 この状況下にも関わらず、むしろますます戦意をかき立てたヒカル。彼に合わせるようにウルトラマンギンガが構え直し、グア軍団を真正面から迎え撃つ姿勢を見せた!

 



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勝利への剣(C)

 

 撤退を果たしたダイチたちは、ショウとアリサをXioベースへと連れてきていた。

 

「よし、これでもう大丈夫だ」

 

 グルマンの手によって、ショウの発声を封じ込んでいたマスクが取り外された。椅子から立ち上がったショウは、いきなりダイチの胸ぐらに掴みかかる。

 

「何だあのみっともない戦いは!?」

「ちょ、ちょっ!?」

 

 慌てふためいたダイチは咄嗟にショウの口を抑え込んだ。

 

「っていうか、言葉通じるんですね……」

「当たり前だ」

 

 きっぱりと言うショウ。まぁそうだろうな、とチンクがうなずいていた。

 ショウが話せるようになったことで、カミキが質問を投げかけた。

 

「君は、奴らの正体を知ってるのか?」

 

 それに首肯するショウ。

 

「ああ。奴らは帝王ジュダ・スペクターの兄弟だ」

「帝王ジュダ・スペクター?」

「帝王って、どっかで聞いたような……」

「ほら、ダイチの報告書にあった奴。インターミドル選考会を襲ったギロン人が、ヤプールとか宇宙の帝王がどうとか話してたって」

 

 首をひねったウェンディに、ディエチが指摘した。

 

「こっちの世界にもヤプールの配下が現れてたのか」

「どういうことでしょうか? ジュダ・スペクターって何者ですか?」

 

 スバルが聞き返すとショウは、以前彼が巻き込まれた、そして今起きている事態に関連している事件について説明し出す。

 

「ジュダ・スペクターとは数万年に一度よみがえる宇宙の悪魔だ。異次元人ヤプールはその力を利用するため暗躍し、封印を解いたんだ」

「あの事件に、そんな裏があったのか……」

 

 肝心な部分が未解決のまま終わった事件の真実が意外なところで判明し、うなるノーヴェ。

 

「俺はヤプール、そしてジュダを仲間と一緒に倒した。しかし……宇宙の帝王は三兄弟だったんだ。そのジュダの兄と姉が、あのモルド・スペクターとギナ・スペクターだ。奴らは全宇宙の制覇を狙い、この世界で軍団の強化を狙っている」

 

 ショウからもたらされた話に、Xioメンバーは戦々恐々とした。

 

「じゃあ、奴らはミッドも征服するつもりなのかよ……?」

「ミッドだけじゃなく、次元世界全部もだな」

 

 尋ねたワタルにハヤトが断言した。ノーヴェがバシンッ、と拳で手の平を叩く。

 

「そんな勝手なこと、許せる訳ねぇぜ!」

「隊長、早急に対策を講じなければなりませんね」

「うむ。管理局本部とも連携を取る必要があるかもしれない」

 

 クロノとカミキが相談する一方で、ショウはダイチの腕を掴んで外へと引っ張っていく。

 

「来いっ!」

「ちょっ!?」

「行くぞ!」

「なっ、何ですか!?」

「早くっ!」

 

 突然のことで、それを呆然と見送る一同。スバルがつぶやく。

 

「ショウさん、ダイチに一体何の用が……?」

「……彼には彼なりの考えがあるということだろう」

 

 グルマンだけは察しがついたようであった。

 

「だ、大丈夫ですよ? 多分……」

 

 アリサが皆に向かって言って、場を取り成した。

 

 

 

 Xioベースの外の雑木林まで連れてこられたダイチは、そこで解放される。

 

「お前とエックスのことはゼロから聞いていた。どんな奴かと思っていたが……どうやら大したことないようだな」

 

 ショウから下に見られたダイチがムッとする。

 

「そんな言い方しないで下さいよ! 俺だって……」

「お前はまだあの剣の力を使いこなせていない」

 

 ショウはきっぱりと告げてダイチを黙らせる。

 

「ウルトラマンエックスに変身した時、お前自身の力が、エックスの力に比例する。たとえあの剣があっても、お前が剣術を磨かない限り、エックスとしてあの剣を使いこなすことは出来ない」

「そんな……じゃあどうすれば?」

「俺が鍛えてやる」

 

 ショウの申し出に、ダイチは一瞬面食らった。そんな彼にショウは不敵に微笑む。

 

「覚悟しておけ。俺はゼロより厳しいぞ」

 

 

 

 ダイチたちに逃げられたモルドらグア軍団も、未開発区の奥深くの隠れ家に身を隠していた。そこでギナ・スペクターはマグマ星人、シャプレー星人をムチでひっぱたいた。

 

「逃げられただと? 一体何をやっていたのだッ!」

『申し訳ありません……!』

『まさか邪魔者がいたとは……』

「お黙り! 言い訳など聞く耳を持たぬ」

 

 更なる処罰を与えようとしたギナを、横穴を覗き込む形となっているモルド・スペクターがなだめた。

 

『まぁよい。心配せずとも、既に次の策は練っておるわ』

「と、言いますと?」

『我らの星に待機させているグア軍団を、この惑星に呼び寄せ、一気にあのエネルギーを浴びせるのだ!』

 

 モルドはファイティングベムを一斉に強化させた後、ミッドチルダ全土をその力でねじ伏せるつもりであった!

 

 

 

 ショウはダイチに木刀を持たせると、自身も木刀を握って模擬戦闘を強いていた。

 

「くっ……!」

「とぅあっ!」

 

 必死に剣を振るってショウの剣戟を防ぐダイチだが、相手の攻め手の激しさに押される一方。そして隙が出来たところに脛を打たれ、転倒させられる。

 

「あっ!!」

「どうした! そんなことじゃあの剣を使いこなすことは出来ない」

 

 苦悶の表情を見せるダイチを見下ろして、ショウは厳しく叱咤する。

 

「ち、ちょっと待って下さいよ……!」

『がんばれダイチ! お前なら、やれば出来る!』

 

 ふらふら立ち上がるダイチを、木の根元に置かれたデバイザーからエックスが応援した。

 

「他人事みたいに言わないでよ……」

 

 ぼやくダイチだが、ショウは容赦なく次の攻撃を仕掛けてきた。回転しながらの殴打を、慌てて剣で防ぐダイチ。

 ショウはダイチを攻め立てながら、剣術の極意を文字通りダイチの身体に叩き込んでいく。

 

「相手の動きに集中して、呼吸を読み取り、そして懐に飛び込めっ! 強い自分をイメージしろっ!」

 

 ダイチの剣を上に弾くことでのけ反らせ、がら空きになったボディに横薙ぎを打ち込んだ。

 

「ふっ!!」

「あぐっ!!」

 

 剣を振り抜くと、ダイチの身体は思いっきり吹っ飛ばされた。

 苦痛にあえいで倒れたダイチへ剣を向けるショウ。

 

「立てダイチっ! お前にも守りたい人や、仲間たちがいるだろう?」

 

 その問いかけで、ダイチは周りの人たちやこれまでたどってきた日々を思い返した。

 

「守りたい人や……仲間……」

 

 目標とする両親、スバルたちナカジマ家の家族、Xioの仲間、ヴィヴィオやアインハルト、他にもたくさんの人たち……そしてゴモラたち怪獣。

 彼らの顔を思い出すと、ダイチの全身に力が宿った。

 

「そうだ……! 俺にも……守るべき人たちがいるっ!」

 

 立ち上がって構え直したダイチを相手に、ショウは剣戟を再開。

 

「行くぞっ!」

 

 ショウとつばぜり合いになったダイチは、先ほどの教えを思い出す。

 

(相手の動きに集中して、呼吸を読み取り、そして一気に懐に飛び込むっ!)

 

 ショウがやったように剣ごと相手の腕を上に弾き、開いたボディに一撃を見舞った!

 

「うっ!!」

 

 今度はショウが吹っ飛ぶ番であった。

 

「やったっ!!」

『いいぞダイチ!』

「それでいい、ダイチ」

 

 起き上がったショウは、ダイチに向けて拳を突き出す。

 ダイチも拳を突き出し、二人の握り拳がバシッと重ね合った。

 

 

 

「そう……あなたのお姉さん、グア軍団に連れさらわれてしまったの……」

「はい……。アリサさんとは、すれ違いになったみたいですね……」

 

 Xio本部では、スバルがアリサに、ギンガとシャーリーのことを尋ねていた。彼女らの安否が分かるかもと期待を掛けていたが、アリサが存じなかったので落胆した。

 一方、アリサはこんなことをつぶやく。

 

「それにしても、お姉さんの名前がギンガだなんて……奇遇というか、何というか」

「アリサさんのお知り合いの誰かに、ギンガって名前の人がいるんですか?」

 

 スバルが顔を上げて尋ね返した。

 

「ええ。もう一人のウルトラマンの名前がそうなのよ」

「えっ!? アリサさんの世界には、ウルトラマンが二人なんですか!」

「そうよ。ギンガと、ショウのビクトリー。二人は何度も私たちを命がけで助けてくれたの……」

 

 アリサは遠い目をして、彼女が経験してきた戦いを思い返した。超合体怪獣、強化され復活した闇の支配者、時空を股にかける魔神……恐ろしい敵ばかりであったが、二人のウルトラマンは力を合わせ、どんな敵も打ち破って世界を守ったのであった。

 

「ギンガ――ヒカルもきっと、私たちを助けようとがんばってくれてると思うわ。ヒカルもここにやってきたら、あんな悪者たちなんてぶっ飛ばしてくれる! スバルのお姉さんもきっと助けてくれるわ。だからあんまり思い詰めないで」

「……はい、ありがとうございます!」

 

 アリサに励まされ、スバルは笑顔を作った。

 その時、Xioベースに警報が発せられた。アルトがレーダーのキャッチしたグア軍団の動きを報じた。

 

「エリアD-7に、次元の歪みが出現!」

 

 カミキはアリサと目が合った。アリサが小さく首を振ると、カミキもまたうなずいた。

 

「Xio、出動!」

「了解!」

「ガレット!」

 

 カミキの号令により特捜班と、アリサが出動していく。

 

 

 

 エリアD-7では、モルドたちが一帯を乗っ取り、空に次元の歪みを開いていた。

 

『さぁ、これでいつでもグア軍団を受け入れる準備が整ったぞ!』

 

 ミッドチルダ侵攻の用意が進められるところに、スカイマスケッティが飛来!

 

「ファントン光子砲、発射!」

「トラーイっ!」

 

 ハヤトとワタルが、モルドと巨大化マグマ星人に光子砲の連射を浴びせる。

 

「そうはさせるかっ!」

 

 マスケッティがモルドたちの悪行を阻止しようと奮闘する中、ショウとダイチも報せを受けて、現場に駆けつけてきた。

 

「行くぞダイチ!」

「はいっ!」

 

 ショウが赤いアイテム――ビクトリーランサーをランサーモードに切り替え、前に突き出す。ダイチはエクスデバイザーを手にし、スイッチを押し込んだ。

 ビクトリーランサーとエクスデバイザーからそれぞれのウルトラマンのスパークドールズが出てきて、ダイチとショウはそれをリードする。

 

「エックスーっ!!」

[ウルトライブ! ウルトラマンビクトリー! ビクトリー! ビクトリー!

 

 XとV型の閃光の中から、二人のウルトラマンがグンッグンッグンッ! と飛び出していく。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

「セヤァッ!」

 

 そうしてモルドとマグマ星人の前に降り立ったのは、ウルトラマンエックス、そしてショウの変身した――ウルトラマンビクトリー!

 

『今度こそ貴様らの最期だッ!』

 

 モルドは二人のウルトラマンに対して戦斧を突きつけ、恫喝した。だがエックスとビクトリーはそんな言葉を恐れはしない。

 

『「行くぞっ!」』

 

 ショウの合図で駆け出すエックスとビクトリー。それぞれモルドと両手サーベルになったマグマ星人に飛びかかっていく。

 エックスがモルドと格闘を始める一方、ビクトリーは振るわれたマグマ星人のサーベルを左脇に挟み込んで止め、同時に相手の肩の上に地面と水平の姿勢で飛び乗った。マグマ星人はビクトリーの体重が身体にのしかかったことでふらふらと回転。

 

「テヤァッ! ドリャアッ!」

 

 ビクトリーはその勢いを利用してマグマ星人を投げ飛ばす。おたおたとつんのめるマグマ星人。

 

『ぬぅッ! やってくれるッ!』

 

 ひと足遅れて現場に到着したスバルたちはエックスと、ビクトリーの戦う姿をまざまざと見上げた。

 

「あれが、地底のウルトラマン……!」

「これまたかっくいーっスね~!」

 

 ディエチ、ウェンディに続いてアリサがつぶやく。

 

「ショウ……!」

 

 その直後、チンクが警戒を呼び掛けた。

 

「皆、来るぞ!」

「ふうぅぅぅぅぅッ!」

 

 彼女らにも、ギナとシャプレー星人が襲い掛かってきたのだ!

 

『むぅんッ!』

「テヤッ!」

 

 マグマ星人は両手サーベルの連続刺突を繰り出すが、ビクトリーは素手でその攻撃をいなして鉄拳で反撃、機械化されたボディをものともせずにマグマ星人を押していく。

 鋭いローキックを相手の脚に叩き込むビクトリー。たまらず片膝を突いたマグマ星人の首を膝の裏で引っ掛け、仰向けに引き倒した。

 

「ウゥッ!」

『ぐわぁッ!?』

 

 すかさずビクトリーの強烈な拳が顔面に入れられた。マグマ星人は悶絶。

 

『でやぁッ!』

 

 モルドと組み合っているエックスは、モルドの振るった斧を受け止め、次いでの拳打を相手の斧でガードした。が、間髪入れぬ肘打ちを斧ごと腹部に食らう。

 

「クッ!」

 

 一瞬ひるんだがすぐに放たれた斧の一閃をくぐり、ミドルキックのお返しを決めた!

 

「セイヤァッ!」

『ぐあッ!?』

 

 キックは綺麗に決まり、モルドはうめき声を発した。

 

『「ビクトリウムスラッシュ!」』

 

 ビクトリーの方は回し蹴りを行う勢いで脚のV字の発光部から光弾の連発を発射、至近距離からマグマ星人に浴びせる。

 

『ぐうあぁッ!』

 

 猛攻で隙を作ったところで、ビクトリーの右腕に巨大な銃器が構築された。

 

[ウルトランス! キングジョー・ランチャー!]

「トオリャッ!」

 

 ランチャーを構えたビクトリーが光弾を連続発射! 全弾マグマ星人に命中!

 

『うがああぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 後ろへ吹っ飛んだマグマ星人が切り立った崖の岩肌に激突。これはかなり効いているはずだ。

 そしてスバルたちもまた、ギナたちとの交戦を開始していた。

 

「ランブルデトネイター!」

「イノーメスカノン!」

「エリアルショット!」

『ふぅんッ!』

 

 チンク、ディエチ、ウェンディはそれぞれの武装を駆使してシャプレー星人と戦う。シャプレー星人は二丁拳銃で三人を纏めて相手取っている。

 そしてスバル、ノーヴェ、アリサはギナと戦いを繰り広げていた。

 

「くっ!」

 

 ギナからの一撃をもらってスバルがゴロゴロ転がっていく一方で、ノーヴェはギナのムチを掴み取って使用できない状態にしたまま、殴り合いを演じる。

 

「放せッ!」

「放すもんか、馬鹿ッ!」

 

 闇の力が込められたキックを叩き込まれてもノーヴェは手を放さずに、こちらもキックで応戦した。

 

「たぁぁぁっ!」

 

 立ち上がったスバルがリボルバーをうならせて加勢するも、ギナは二人の打撃を的確にさばくほどの格闘能力を見せる。

 

「くぅっ……!」

 

 ムチを掴んでいる都合上、ノーヴェが引き寄せられてより攻撃を食らう。ギナは彼女に闇の波動を食らわせようと構えるが、

 

「させないわっ!」

 

 そこにアリサがチャージガンの銃撃を撃ち込み、波動攻撃を阻止した。

 

「ぬぅッ!」

 

 乱戦の中でもアリサの正確な援護射撃によって、ギナにのみ光弾はヒットする。想うように攻撃を繰り出せず、ギナは腹立たしそうに歯ぎしりした。

 

「ノーヴェっ!」

 

 その間にスバルがノーヴェの元へ駆けつけ、ムチを掴んで役割を交代した。

 

「急造トリオだけど、なかなかいいチームワークだな」

「ええ。この調子で行きましょう!」

「なめるなッ! 人間ども!」

 

 うなずき合ったノーヴェとアリサの言葉に、ギナは激昂して牙を剥いた。

 

『ぬぅぅッ!』

「セヤッ!」

 

 モルドがエックスの足首を狙って斧を振るったが、エックスは相手の頭上を跳び越えて回避。更に岩肌を蹴って舞い戻りながら、エネルギーを溜めたチョップを振るう。

 

『Xクロスチョップっ!』

『ぐあぁぁッ!』

 

 クロスチョップが決まり、モルドに大きなダメージを与えることに成功した!

 着地し踵を返したエックスに、ショウが呼びかける。

 

『「ダイチ、今こそ特訓の成果だ! 見せてやろうぜ!」』

『「はい!」』

 

 ダイチの手の中にエクシードXのスパークドールズが現れ、すかさずリード。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 そしてエクスディッシュのタッチパネルをスライドし、トリガーを引いた。

 

「『行くぞっ! エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エックスが、再びエクシードXへと変身した!

 

「『エクスディッシュ!」』

 

 一方ショウの方は、クリスタル状のウルトラ戦士のスパークドールズをビクトリーランサーでリードした。

 

[ウルトランス! ウルトラマンヒカリ!]

 

 スパークドールズは青い聖剣――ナイトティンバーに変化。笛のティンバーモードからソードモードへと変形させて天高くかざすと、ビクトリーの身体が青いクリスタルの輝きに包まれて青い新たなる姿へと変化した!

 

[放て! 聖なる力!!]

 

 エクシードXと並び立ったビクトリーの新形態。それがビクトリーナイトだ!

 

『おのれ小癪なぁッ!』

 

 モルドは二人のウルトラマンの変身に負けじと、マグマ星人を引き連れて猛然と斬りかかっていく。エックスとビクトリーも前に駆け出し、闇の刃との斬り結びを行った。

 

「ヘヤァッ! デッ! ヘアッ!」

 

 エックスの虹の軌道を描く剣技が、モルドの戦斧を弾く!

 

『何だと!? この太刀筋……さっきとは別人のようだ! どういうことだぁ!?』

 

 先ほどは剣と能力に振り回されて、モルドにまともに太刀打ち出来なかったエックス。――しかしショウに稽古をつけられたことで急激な成長を遂げ、エクスディッシュの与える力を使いこなせるようになったのであった。

 

「イィッ! シェアッ! デュウワッ!」

『うぐわぁッ!』

 

 エックスの連続斬撃が斧をはね返し、モルド本体に叩き込まれる。

 

『「もっとだ! もっとこの剣を扱いこなすんだ!」』

 

 しかしダイチはショウのアドバイス通りに、更に強い己の姿をイメージする。

 そのイメージの元は……エクスディッシュの名前の由来となった、バルディッシュを駆るフェイトの勇姿。彼女の美しくも鋭い戦闘スタイルは管理局でも名高く、ダイチも見る度感心させられる。

 バルディッシュを片手に空を駆けるフェイトのイメージを自身に投影した、その時……エクスディッシュにも変化が起こった。

 全体が虹色の光に包まれると、急激に変形! グリップ部分が長い柄となりタッチパネルとトリガーはそちらに移る。スイッチは上部に行き、刃部分の比率も変わって下半分の方が長くなった。

 それはちょうど、バルディッシュそのものに酷似した形状であった。この形態、エクスディッシュ・アサルトとでも言うべきだろうか。

 

『「うわっ!? 変形した!」』

 

 突然のことに面食らうダイチ。しかし今は戦闘中だ。いちいち気にかけている時間はない。

 マグマ星人を切り払ったビクトリーが合図した。

 

『「よし、今だっ!」』

 

 エクスディッシュ・アサルトを両手に構え直したエックスが、まっすぐにモルドへと突撃していく!

 

「デュワッ!」

『「うああぁぁぁぁぁぁ―――――!」』

 

 エックスの上段斬りを、モルドが斧で受け止めた。その瞬間、ショウとの特訓のように斧を弾き返してがら空きになったボディに、エクスディッシュの一閃を入れる!

 

『ぐぅぅッ!?』

 

 リーチが伸びたことで遠心力が掛かり、一撃の重さもまた増していた。モルドはくの字に折れ曲がってうめいた。

 しかしそれで終わりではない。ダイチはタッチパネルを二回スライドし、トリガーを引いて必殺技を発動!

 

「『エクシードスラーッシュっ!!」』

 

 あまりにも太刀筋が速く、まるでエクスディッシュが増えたかのように見える乱撃がモルドに叩き込まれた!

 

『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ッッ!!?』

 

 モルドは踏ん張ることも出来ずに吹っ飛ばされ、岩山に激突した。そのまま突っ伏して立ち上がらなくなる。

 

『「やったな、ダイチ」』

『「はいっ!」』

 

 ショウの称賛に勢いよくうなずくダイチ。

 

『おのれぇ! よくもモルド様をッ!』

 

 そこに憤怒したマグマ星人が襲い来る。それを迎え撃つのはビクトリーナイトだ。

 ハンドグリップを一回前後に動かすポンプアクション後にスイッチを押し込み、こちらも必殺技を発動!

 

[ワン! ナイトビクトリウムフラッシュ!]

『「ナイトビクトリウムフラッシュ!」』

 

 空を滑空したビクトリーが高速回転! そのまま回転斬りをマグマ星人に見舞った!

 

「トゥリャッ!」

『ぐあぁぁッ!?』

 

 斬撃と超高速回転による摩擦で、機械のボディは深々とえぐられてスパークを起こし始めた。着地したビクトリーは、更なる追撃を行う!

 ポンプアクション三回により、とどめの攻撃が発動する!

 

[スリー! ナイトビクトリウムシュート!]

『「これで決めるっ!」』

 

 激しく輝く刀身を立て、ピンと伸ばした左手を柄に添えた。そのポーズ、ウルトラ戦士特有の光線発射の姿勢だ!

 

『「ナイトビクトリウムシュートっ!!」』

 

 左手でスイッチを押し込み、刀身からすさまじい光線がほとばしった! 光線はマグマ星人の全身を呑み込む!

 

『うぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』

 

 それが決め手となって、マグマ星人は跡形もなく爆散し消滅した。

 

『「やったっ!」』

 

 ビクトリーの堂々たる勝利に、ダイチは手をぐっと握り締めて喜びを見せた。

 この時に、ようやくモルドが立ち上がった。

 

『ぐぅぅ……だが時既に遅し! グア軍団はもうそこまで来ておるわぁ!』

 

 空の歪みを見上げるモルド。歪みの中より、強い力の気配がどんどんと近づいているのを感じ取ったのだ。

 エックスとビクトリーも武器を構え直して、新たなる敵の来襲に備える。

 ――しかし、歪みから飛び出したのはモルドの想像したファイティングベムの姿ではなかった。

 

『「ギンガファイヤーボール!」』

 

 身体のクリスタルを赤く輝かせたウルトラ戦士が、空から隕石弾を降り注がせる!

 

『ぬッ!? ぬおぉッ! ぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 隕石弾を食らったモルドが爆炎の中に呑まれた。

 

「あ、兄上!?」

 

 ギナたちも、スバルらも驚愕して戦いの手を止めた。一体何が起こったのか!

 ミッドチルダの大地に降り立ったウルトラ戦士は、手の平から二人の人間を降ろした。その二人とは……。

 

「ギン姉っ! シャーリーさんも!」

 

 弾んだ声を発したスバル。そう、空間の歪みに吸い込まれて消息不明となっていたギンガたちだ!

 上体を起こしたウルトラ戦士の中の青年――ヒカルが、モルドに告げた。

 

『「お前が待ってる奴らは、俺が全部倒したぜ!」』

『何だとぉ!?』

 

 そのウルトラ戦士に振り向いたショウとアリサが発した。

 

『「ヒカル!」』

「ヒカル……!」

 

 スバルは改めて、ギンガたちを助けたウルトラ戦士を見上げた。

 

「じゃあ、あのウルトラマンがアリサさんの言った……ウルトラマンギンガ……!」

「ショウラッ!」

 

 ウルトラマンギンガは、右腕を前に伸ばした構えでモルドに向き合った。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はツルギデマーガだ!」

ダイチ「ツルギデマーガは『ウルトラマンX』第十二話「虹の行く先」で登場したデマーガの強化形態! ダークサンダーエナジーが当たったことでこの姿に変貌したんだ!」

エックス『劇中初めての、ダークサンダーエナジーを浴びた怪獣だ』

ダイチ「ダークサンダーエナジーの影響を受けた怪獣はより強く、より凶暴となるんだ! しかもザナディウム光線まで効かなくなってしまうぞ!」

エックス『そのため、ダークサンダーエナジーを取り払う力を持ったエクシードXになる必要があるんだな』

ダイチ「ツルギデマーガは映画『きたぞ!われらのウルトラマン』にも登場。どの場面で出てくるかは実際に確かめてね!」

エックス『結構終盤だから気をつけてくれ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 グア軍団の総攻撃! 奴らの狙いはXioに保管されてるスパークドールズだ! 怪獣たちを悪に利用させる訳にはいかない! エックス、ギンガ、ビクトリー。三大ウルトラマンが迎え撃つ! 次回『光る大空、繋がる大地』。


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光る大空、繋がる大地(A)

 

『許さんぞッ!』

『我が弟ジュダの仇ぃぃぃッ!』

「……どうなってるんだ……!?」

「兄上!」

「どうやらここは、別世界のようね……」

「私は、仲間を捜してるの」

「光の巨人となって戦う戦士よ」

「まさか――!?」

「この世界にも我々の邪魔をするウルトラマンがいるということです!」

「お前とエックスのことはゼロから聞いていた」

「俺が鍛えてやる」

「俺はゼロより厳しいぞ」

『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――ッッ!!?』

「シェアッ!」「フッ!」

 

 

 

『光る大空、繋がる大地』

 

 

 

「ショウラッ!」

 

 空間の歪みを抜けてミッドチルダにやってきた三人目のウルトラマン――ギンガの左に、ビクトリーとエックスが駆け寄った。ショウはギンガの中の青年――ヒカルに呼びかける。

 

『「やっと来たか」』

『「待たせたな!」』

 

 次いでヒカルはエックスの中のダイチへと声を掛けた。

 

『「あんたがこの世界のウルトラマンか。一緒にこいつ倒そうぜ!」』

『「はい!」』

 

 ギンガの手中に、ギンガスパークが槍となった武器、ギンガスパークランスが現れた。そして三人のウルトラマンはそれぞれの得物を手に、モルドへと猛然と向かっていく!

 

『ぬあぁぁぁッ! でぇやッ!』

「シュワッ!」「エアッ!」「セエヤッ!」

 

 モルドは一番に飛びかかってきたギンガの刺突を斧で防御、それに続くエックスの斬撃も防いでビクトリーに斧を振るうがかわされた。エックスとビクトリーが勢いのままモルドの背後に回り込む一方でギンガは正面から一回転してランスを薙ぎ払う。

 

「ショウラッ!」

『でやぁぁッ!』

 

 モルドはランスを止めつつ後ろから接近してきたエックスに蹴りを仕掛けた。エックスはエクスディッシュ・アサルトの長い柄で防御。

 エックスに気が向いているところにギンガが再度槍を振るうも弾き返し、振り返りざまにビクトリーを斧で斬りつけた。

 

「タッ!」

『ぬぅッ!』

 

 後ずさるビクトリーだがギンガが連続で突きを繰り出す。それと激しく斬り結ぶモルドだが横からエックスが飛び込んできて、すり抜けざまにエクスディッシュの横薙ぎを叩き込んだ。

 

『ぐッ!?』

「エェェヤッ!」

 

 ひるんだところに、ギンガの一撃も綺麗に入った!

 

『ぐわぁぁッ!』

「デヤァッ!」

 

 モルドはどうにかこらえて斧を背に回し、エクスディッシュの振り下ろしを受け止めた。が、ナイトティンバーに片足を刈り上げられて宙を舞う。

 

「テヤッ!」

『うああぁぁッ!』

 

 その瞬間、ギンガがスパークランスを支えにしながら跳躍し、身体のクリスタルを桃色に輝かせる。

 

『「ギンガサンシャイン!」』

 

 腕から放たれた光のエネルギーがモルドを撃った!

 

『ぐああぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!』

 

 闇を祓う力のあるギンガサンシャインは、闇の存在のモルドには特効であった。モルドは絶叫を上げて地面に落下した。

 スバルたちと戦闘を繰り広げていたギナ・スペクターはモルドへと叫ぶ。

 

「兄上! 流石に分が悪すぎます! 一旦退きましょう!」

 

 三人ものウルトラマンを単騎で相手取るのは闇の大王モルドといえども無理があった。モルドはギナの言葉に従い、斧を地面に叩きつけて闇の大波をウルトラマンたちに放つ。

 

『てぇぇいッ!』

 

 その攻撃はギンガがギンガハイパーバリアーで防いだが、元より闇のエネルギーで視界を覆い隠すことが目的であった。攻撃が途絶えた時には、モルドの姿は忽然と消えていた。

 ギナとシャプレー星人も闇の波動で姿を覆い隠した隙に、この場より離脱していった。

 

「くっそ! 逃げられたか……!」

 

 闇の波動をプロテクションで防御したノーヴェが悪態を吐いた。

 しかしモルドたちの姿がなくなっても、空に開いた空間の歪みは拡大していく一方であった。

 

『「歪みが広がり続けている!」』

『何とかして閉じないと!』

 

 焦るダイチとエックス。このまま空間が歪んでいけば、次元世界にどんな悪影響が出るか分かったものではない。

 その方法についてショウが告げた。

 

『「邪気を鎮めれば……あの歪みは閉じることが出来る」』

『「俺もやります!」』

 

 かくして、三人のウルトラマンは空間の歪みを閉じるための行動に出た。

 ギンガはクリスタルを緑色に輝かせ、エックスはエクシードXの形態を解く。ビクトリーはナイトティンバーを笛のティンバーモードに変形させて奏で出す。

 

『「ギンガコンフォート!」』

「『ピュリファイウェーブ!」』

 

 三人から発せられた浄化の力は空の歪みに達し、見事邪気は鎮められて歪みは閉じられたのであった。

 

「よかった……」

 

 ほっと安心するスバルたちの元に、ギンガ・ナカジマとシャーリーの二人が駆けつけてきた。

 

「みんな! ごめんなさい、遅くなっちゃったわ」

「ギン姉! シャーリーさん! 無事でよかった! 心配したんだよ!」

 

 スバルは表情を輝かせてギンガの胸の中に飛びついた。苦笑してスバルを受け止めるギンガ。

 

「みんな、あの――ウルトラマンギンガのお陰よ」

 

 スバルたちが見上げた先で、三人のウルトラマンは空に飛び立って何処かへと去っていった。

 

 

 

 一方、退却を余儀なくされたグア軍団は山中に身を隠しながら、先ほどの敗走についての苛立ちを露わにしていた。

 

『ええいッ! 忌々しいウルトラマンが増えるとはッ!』

「歪みが閉じられた今、我々には新たな兵隊が必要です……!」

 

 改造マグマ星人が倒され、ファイティングベムも全て失ったグア軍団の今の戦力は、この場にいる三人だけ。とてもウルトラマンたちとXioを相手に出来るものではない。

 

『ここにグランドキングがいればよいのだが……』

「しかし兄上、グランドキングは既にジュダとともに葬られてしまいました」

『うむ。何か別の戦力を探し出さねばならん』

 

 悩むギナは、シャプレー星人に向けて詰問した。

 

「いい考えはないの!?」

『お任せを!』

 

 シャプレー星人は敬礼すると、頭を下げてそのまま後ろへ下がっていった……。

 

 

 

 新たにミッドチルダにやってきたヒカルは、ショウ、アリサとともにXioベースへと通されていた。

 

「君も……彼と同じウルトラマンだというのか?」

「はい」

 

 カミキの質問に、ヒカルはうなずいて答えた。

 

「では、君にシャーリーとギンガ陸曹が助けられたという訳か。そのことについて、私からもお礼を言おう。ありがとう」

「いえ、全然大したことじゃないですよ」

 

 謙遜するヒカルだが、そこでシャーリーがしゃしゃり出てくる。

 

「いやいや、すっごい大活躍だったんですよ、ヒカル君! 敵の大軍団を一気に蹴散らして! もう大迫力でしたよっ!」

 

 シャーリーは興奮気味に惑星グアでのことを皆に伝えた。

 

 

 

 押し寄せたファイティングベム軍団を相手に、ウルトラマンギンガは最大の必殺技を以て迎え撃ったのだった。

 

『「ギンガエスペシャリー!!」』

『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!』

 

 全身のクリスタルが七色に輝いて、放たれた銀河状の光線がファイティングベムを薙ぎ払い、一気に勝負を決めたのであった。

 

 

 

 それを聞いて特捜班はほぉ~、と一様に感心。

 

「やはり非常に高い実力があるんだな、ウルトラマンというのは」

「いいないいなー! ウルトラマンと一体だなんて! 羨ましいっス~!」

 

 チンクとウェンディの言葉に、ヒカルはちょっと照れくさそうにはにかんだ。

 ここでクロノからの質問。

 

「君たちは地球人で、間違いないんだね?」

「もちろんです。何て言うか、あなたたちの知ってるのとは別の次元の地球人ですけど」

「その件に関して、私から詳しく説明しようじゃないか」

 

 本部にグルマンがひょっこりとやってきて、次元についての解説を始めた。

 

「まず、次元宇宙にはマルチバースと総称される段階と言うべきものがある。普段夜空を見上げて見える宇宙空間がレベル1バース。次にその宇宙の壁を越えた先にある複数の宇宙、これがレベル2バース。俗に言う次元世界もこのレベル2に分類される。……しかしもう一つ上のレベルのバースもある。それがレベル3バースで、いわゆる平行世界がこれに当たる。つまり、一つの世界に酷似しているがどこかが異なっている世界だ。彼らはそこからやってきたということだ」

「平行世界って、本当に存在してたんですね」

 

 つぶやくディエチ。

 

「そして何を隠そう、この私自身もレベル3バースからの来訪者である」

「えー!? そうだったんですか博士!」

 

 突然のグルマンの告白にワタルが大声を上げた。

 

「いやぁ、いきなり全部を話すと理解が追いつかなくなるだろうと思って、君たち平の隊員には内緒にしてたのだ。騙すようで悪かったな」

「もっと早くに教えてくれてもよかったのに。博士も人が悪いな」

 

 唇を尖らすハヤトの一方で、ウェンディがふとつぶやいた。

 

「平行世界が実在するなら……あたしたちが実際の戦いじゃなくて、それっぽいゲームに入れ込んでるような世界もあるんスかね。そこではノーヴェの性格が180度違ったりして」

「ははは、何だよその突飛な発想は」

 

 ノーヴェが肩をすくめて笑い飛ばした。

 

「話を戻すが、君たちがそれぞれのウルトラマンに変身しているということか」

 

 ヒカルに対して確認を取るカミキ。

 

「まぁ、そんなところです。俺たちはいくつもの戦いを経て強い絆で結ばれて、今も一緒に戦ってます」

「簡単に言うと……ウルトラマンは君たちの仲間なのか?」

 

 ワタルが問い返すと、ヒカルは当たり前かのようにうなずいた。

 

「はい。ギンガとビクトリーだけじゃなく、ウルトラマンは俺たちの仲間です」

 

 その言葉にチンクとスバルが興味を示す。

 

「羨ましいな。君たちは、ウルトラマンとそんなに深い関係を築いてるとは。私たちは、何だかんだでエックスのことを何も知らないのに」

「エックスが普段どこにいるのかさえ、あたしたちは知らないからね……。エックスはあたしたちのこと、どう思ってるんだろ」

 

 ダイチが若干気まずそうに目をそらした。

 それを見て、ヒカルとショウがXioに告げる。

 

「大丈夫。エックスだって、皆さんのことを仲間だと思ってますよ。同じウルトラマンとして分かります」

「いずれ向こうが話そうと思う時が来たら、必ずあなたたちにどこの誰なのかを打ち明けてもらえるさ」

「……その時が、早く来るといいな」

 

 とスバルが願った時……数人の女性たちがゾロゾロとオペレーション本部に駆け込んできた。

 

「カミキ隊長! ここにウルトラマンに変身する人がいるって聞いたんですが! あっ、そこの人たちがそうですか!?」

「な、なのはさん! フェイトさんにはやてさんに、ヴォルケンリッターまで!」

 

 なのは、はやて、リインフォース、アギト、ヴィータ、シャマル、シグナムがまるで子供のようにヒカルとショウの周りに駆け寄って質問攻めにする。

 

「ねぇねぇ、あなたたち本当にウルトラマンなの? わぁ~何だか感激!」

「ほんまやなぁ! 記念に一緒に写真撮らせてもらってもいい?」

「魔法の力が全然ないのに、あんな大きな人が普通の人間になってるなんて不思議です!」

「逆かもしれねーぜ。普通の人が超人に変身するんじゃ」

「なぁなぁ、ウルトラマンってどんなもの食べるんだ?」

「ちょっとだけあなたたちの生体データ取らせてもらってもいいかしら?」

「後で少しばかり手合わせを願えないか?」

「ち、ちょっとみんな、落ち着いて。ほら困ってるよ」

「すみません、騒がしくしてしまいまして……」

 

 目を白黒させるヒカルたちをもみくちゃにするなのはたちをフェイトがなだめようとして、ザフィーラがカミキらに向かって謝罪した。特捜班は困惑した苦笑を浮かべる。

 

「どうしてなのはさんたちがXioに?」

 

 スバルが尋ねると、クロノが次のように答えた。

 

「グア軍団への対処のための応援を要請した結果、彼女たちとの共同戦線が決定した。しかし、二人のウルトラマンの加勢を得られた今、必要なかったかもしれないが」

「いや、奴らが次にどんな手段で攻めてくるか分からない。戦力は多いに越したことはない」

 

 クロノの言葉に、なのはたちから解放されたショウが意見した。

 なのはたちも我に返り、Xioとヒカルたちに対して呼びかけた。

 

「次元世界を、悪い人たちの好きにさせてはいけません。ともに力を合わせ、必ずやグア軍団を撃退しましょう!」

「はい!」

 

 ダイチたちが瞳に力を込めて、うなずき返した。

 

 

 

 その後、ダイチはヒカルとショウと、怪獣の共存についての話を行った。その結果をエックスと話し合う。

 

「……他の宇宙には、俺たちがまだ到達していない怪獣と共に生きる世界を実現させてるところもあるんだね」

『ああ。ウルトラマンコスモス、ウルトラセブン、そして彼ら……。世界とは私の想像をも上回る広さだったんだな』

 

 ヒカルとショウは、ダイチに人間と怪獣の理想郷を築いた勇者や怪獣と力を合わせる戦士のことを教えてもらった。自分の目指す場所は、決してたどり着けない世界ではない……それを知ったダイチは、己の目標へ向けて更なる意欲にたぎったのであった。

 ここでエックスがダイチに呼びかける。

 

『ところで、エクスディッシュのことで少し話があるんだが』

「エクスディッシュの? そういえば、戦いの最中にいきなり変形したよね」

 

 ダイチはエクスディッシュ・アサルトのことを思い出した。

 

「まるでフェイトさんのバルディッシュそのままの形状だった。でも不思議だね。エクスディッシュって名前は俺が勝手につけたものなのに、本当にそっくりになるなんて。こんな偶然ってあるのかな」

『……私は、それは偶然ではないと思うぞ』

 

 と述べるエックス。

 

「どういうこと?」

『多分、エクスディッシュには使用者の想像を具現化するような能力があるのではないだろうか』

「えっ……剣に、そんな力が?」

『剣と呼ぶのも、私たちが形から連想したからだ。本当は全く違う道具なのかもしれない。エクスディッシュがダークサンダーエナジーを祓うことが出来るのも、エクスディッシュ本来の機能ではなく、ダイチがそう望んだからじゃないだろうか』

「俺が、そう望んだから……」

 

 確かに、電脳世界でたまたま発見したものが、都合よくダークサンダーエナジーに対抗できる力を持っていたと考えるより、その方が自然なのかもしれない。

 けど、とダイチは疑問を呈する。

 

「想いをそのまま現実化するなんてすごい道具、聞いたことがないよ。たとえロストロギアでも」

 

 想ったことをそのまま形にするというのは、魔法のある種の究極形ともいえるだろう。無論、それが出来るのなら誰も苦労していない。

 

「そもそも、そんなすごいのがどうして電脳空間に?」

『そこまでは分からない。エクスディッシュには、まだ大きな秘密が隠されてる気がするな……』

 

 考察すればするほど謎が深まるエクスディッシュ。その答えはどこにあるのだろうか。

 

 

 

 グア軍団への用意を進めていたXioだが、グア軍団の方もこのまま黙ってはいなかった。戦力不足に陥ったギナたちの元に、ある異星人が通されたのだ。

 

『かなりの値が張りますが、超お買い得な道具を用意しましたよぉ』

 

 昆虫型の宇宙人が、ギナにあるスパークドールズを差し出す。

 スパークドールズを取り扱う闇の武器商人、マーキンド星人だ。シャプレー星人が暗黒星団時代のツテによって呼び寄せたのである。

 ギナはスパークドールズを手に取って満足げに告げた。

 

「使えそうね、これ」

『サロメ星人謹製の戦闘兵器です。仕入には苦労しましたとも』

「面白くなりそう」

 

 ニヤリ、とほくそ笑むギナ。

 

『今ならこの星の防衛組織に御用の方には、色々とサービスしますよぉ』

 

 マーキンド星人は更に、生物的なものとメカニカルなものの二つのカプセルを手に取って見せる。

 

『それではお代金の7億ガネーのお支払い方法ですが……』

「代金はこいつからもらって」

『あぁそうですか』

 

 ギナが指差したシャプレー星人の方に振り向くマーキンド星人。

 その目に映ったのは、銃口だった。

 ガァンッ!

 銃弾に貫かれ、倒れたマーキンド星人の手中からギナは生物的なカプセルをもぎ取った。カプセルを起動させると、虚空にとある施設――オペレーションベースXの位置情報や間取りなどのデータが浮かび上がる。

 マーキンド星人がXioを狙う者に売りつけるためにかき集めた、Xioの情報の数々であった。

 

 

 

 ミッドチルダの地上本部前――。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 ここに突如として怪獣が現れ、街や大勢の局員を攻撃しながら進撃を開始した!

 

「地上本部区域内に、ゴモラらしき個体が出現!」

 

 その事態はすぐさまXioに伝達され、メインモニターに現場の映像が映し出された。

 

「これがゴモラ……!?」

 

 映像の中のゴモラらしき怪獣は、全身が金属で覆われていた。唖然とするダイチ。

 

「生命反応がありません! 怪獣型の質量兵器です!」

「メカゴモラという訳か!」

 

 グルマンの言った通り、地上本部を襲う怪獣はギナが送り出した恐るべきロボット怪獣、メカゴモラであった!

 

「あれもグア軍団の兵器だろうか……?」

「あいつら、先にミッドの征服をするつもりなのかよ!」

 

 チンクが眉間に皺を寄せ、ノーヴェは忌々しそうに舌打ちした。

 メカゴモラはアインヘリヤルによる迎撃も物ともせず、地上本部の本棟に向けて進撃していく。このままでは地上部隊が壊滅してしまうと、カミキはXio出撃指令を発した。

 

「ハヤト、ワタルはスカイマスケッティで出動! メカゴモラの侵攻を食い止めろ!」

「了解!」

 

 ハヤトとワタルは直ちに格納庫へ走っていった。

 

「N2Rとギンガ陸曹は地上からの援護! ダイチスバルは非戦闘員の避難誘導を頼む!」

「了解!」

 

 ダイチたちもまた出動していく中で、ヒカルたち三人がカミキに向かって告げた。

 

「俺たちも行きます!」

「力を貸してくれるのか?」

「もちろんです!」

 

 アリサの返答に、固くうなずくカミキ。

 

「Xioのメンバーに合流してくれ!」

「ガレット!」

 

 ヒカルたちも特捜班の後を追いかけていった。

 

「カミキ隊長、わたしたちは……」

 

 なのはたちに対しては、カミキはこう答えた。

 

「……どうも嫌な予感がする。君たちはしばし待機していてくれ」

 

 

 

 真っ先に地上本部区域に飛来したスカイマスケッティは、早速メカゴモラへの攻撃を開始した。

 

「ファントン光子砲!」

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 だが光子砲もメカゴモラに歯が立たない。

 

「装甲が硬すぎる!」

「だったらこいつだ!」

 

 ワタルはキングジョー相手に使用された、デバイスダランビアのカードをセットした。

 

「ダランビア電磁砲! トラーイっ!」

 

 マスケッティから電磁砲がうなりを上げた。――が、これを受けてもメカゴモラに効いている様子はなかった。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

「何だと!? くっそ!」

 

 電磁砲の存在は既に露見している。メカゴモラには対策として耐電機能が施されていたのだった。

 マスケッティの苦戦を見上げたヒカルとショウは目を合わせ、うなずき合った。

 

「ショウ! 行くぜ!」

「ああ!」

 

 二人はそれぞれギンガスパークとビクトリーランサーを取り出す――が、そこにシャプレー星人の銃撃が襲い掛かった!

 

「うわぁっ!」

 

 爆撃によって吹っ飛ばされる二人。そして起き上がったショウに、背後からギナがムチを巻きつけて首を絞めてきた!

 

「うぅっ!」

「くっ、邪魔をする気か……!」

 

 ギナとシャプレー星人に襲撃されて変身が出来ないヒカルとショウ。そこにN2Rとギンガが駆けつけた。

 

「やめなさいっ! あなたたちの相手は、私たちがするわ!」

 

 しかし五人を見やったギナは冷笑を浮かべた。

 

「ふっ、そうはいかないわ。お前たちは、この玩具に遊んでもらえッ!」

 

 ギナが片手を挙げると、道路の複数箇所が盛り上がって次々と機械兵器が出現、ギンガたちの前に立ちはだかった。

 兵器群を見たノーヴェたちが驚愕する。

 

「こいつら……ドクターが使ってたガジェットドローンじゃねぇか!」

 

 それらは四年前に、スカリエッティが兵士として運用していたガジェットドローンだった。スカリエッティ逮捕後は解体処分されたはずであったが、一部をマーキンド星人が密かに回収し、機械兵士として商品にしていた。もう一つのカプセルの中身である。

 かつてはノーヴェたちも使用していたガジェットドローンが、今は敵として立ちはだかる。

 

「何だか複雑な気分だが……邪魔すんのなら容赦しねぇぜ!」

「みんな、行くわよっ!」

 

 触手状のコードを振り回して攻撃してくるガジェットドローン軍団に、ギンガたち五人が立ち向かうが、ドローンは異星人の科学により改造され、大幅に性能が上げられていた。数量差もあり、その鉄の壁をなかなか越えることが出来ない。

 

 

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 避難誘導を進めていたダイチ、スバル、アリサだが、ウルトラマンギンガとビクトリーが一向に現れないことを訝しんでいた。

 

「何やってるのよあの二人は……!」

「俺が様子を見に行ってきます!」

 

 ダイチがヒカルたちの元へと向かっていく。一方でスバルは、これ以上のメカゴモラの暴虐を阻止するためにジオデバイザーを取り出す。

 

「あたしがメカゴモラを止めます!」

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 デバイスゴモラのスパークドールズを実体化させ、リード。

 

「お願い、ゴモラ!」

[リアライズ!]

 

 スバルによって呼び出されたデバイスゴモラが、メカゴモラの前に降り立った!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 ミッドチルダの魔法技術によるゴモラと、異星の科学による鋼鉄のゴモラが正面衝突した!

 

 

 

 地上本部前で繰り広げられる激闘。しかし同時に、Xio本部にも危機が迫っていた!

 

『むぅんッ!』

 

 モルドが本部前に降ってきて、闇の波動を基地に放ったのだ!

 

「うおっ!?」

 

 波動の影響により、基地全体が震動に襲われる。

 

「突如出現したモルド・スペクターが、未知のエネルギーを基地に照射中!」

「本当の狙いはこの基地か……地上本部は囮だったか!」

 

 カミキの唱えた通り、グア軍団の目的はXioベースに保管されているスパークドールズだった!

 

『ここに眠るスパークドールズを蘇らせて、新たなグア軍団を作り上げるッ!』

 

 モルドの闇のエネルギーによって、ラボのスパークドールズが激しく震え始めた。

 

『このままだと、スパークドールズが全て元に戻ってしまいます!』

「障壁を張るんだ!」

 

 カミキがラボチームに指示して、Xioベース全体が巨大な魔法防壁に覆われた。これにより闇の波動は遮断される。

 

『小賢しい真似を……ぬぅあッ!』

 

 モルドは斧を突き立てて障壁を破ろうとする。ここでなのはたちが動いた。

 

「わたしたちで基地を防衛します!」

「頼む!」

 

 直ちになのは、フェイト、はやて、ヴォルケンリッターが変身して外に飛び出していき、モルドを取り囲んで一斉に魔法弾を浴びせた!

 

『ぬぅんッ?』

「モルド・スペクター! あなたを拘束します!」

『羽虫どもがふざけたことを抜かしおる! この宇宙の大王に楯突く愚かしさ、その身に叩き込んでくれるわぁッ!!』

 

 モルドは斧の刃先をなのはたちに向け直した!

 ミッドチルダ存亡を懸けた闇の軍勢との一大対決の火蓋が、切って落とされた!

 



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光る大空、繋がる大地(B)

 

 地上本部区域では、ギナ率いる軍団とXio+UPGが激闘を繰り広げている最中であった。

 

「はぁぁぁぁっ!」

「でやぁぁっ!」

 

 ガジェットドローンが発射してくるミサイルをチンク、ウェンディ、ディエチが撃ち落とし、熱線をかいくぐったギンガ、ノーヴェが正拳、回し蹴りでⅢ型、Ⅰ型を粉砕した。五人の巧みなチームワークで大群相手にも引けを取らず次々撃破していくが、ガジェットドローンも物量に物を言わせて対抗し、彼女らを先に通さない。

 

『ぬぇぇぇいッ!』

「はっ!」

 

 一方で、ヒカルはシャプレー星人と一対一で戦っていた。ヒカルはブレードの開いたギンガスパークを武器にし、シャプレー星人の銃撃を防ぎながら前進。

 

『きえええッ!』

「ふっ! はっ!」

 

 接近戦に切り替え殴り掛かってくるシャプレー星人に、ヒカルは格闘戦で迎え撃った。相手の殴打を受け止めながら、一瞬の隙を突いて連続パンチを胴体に打ち込む!

 

「うおおおおおっ!」

『ぬおぉッ!』

 

 更に背負い投げを決め、シャプレー星人に手痛いダメージを加えた。

 

「ふぅぅぅっ! ふっ! はっ!」

「ふんっ!」

 

 ショウはムチの拘束から逃れ、そのままギナと格闘していた。ギナの闇の波動の威力を、ビクトリウムの聖なる輝きで打ち消して無力化することで互角の戦いを演じる。

 ショウがギナの猛攻をさばいているところに、ギンガたちの反対側からダイチが駆けつけてきた。

 

「あぁっ!」

 

 現状を目の当たりにしたダイチはすぐさまショウへの加勢に走り、ギナの腕を払いのけてショウを助けようとする。

 しかし素の格闘技能が低いダイチではこの戦いのレベルにはついていけない。案の定ギナの回し蹴りを食らいそうになった危ない瞬間を、ショウに引っ張られることで助けられた。

 とはいえダイチの介入でギナの注意が一瞬それた。ショウはそれを見逃さず、ガンモードのビクトリーランサーとキングジョーカスタムのスパークドールズを素早く取り出す。

 

『ぬッ!?』

 

 そのショウの動きにシャプレー星人が気づいた。

 

[ウルトライブ・ゴー! キングジョー!]

『離せッ!』

 

 取っ組み合っていたヒカルを振り払って短距離テレポート。ショウが放ったモンスシューターがギナへとまっすぐに飛ぶ中、ギナの真正面に現れてその身を盾にした!

 

「何っ!」

『ギナ様ぁ――――!!』

 

 モンスシューターの直撃を食らったシャプレー星人は爆発四散。ギナは唖然と口を開き切った。

 シャプレー星人が倒れたことでヒカルがショウとダイチの元へ駆けつけた。ギナは三人に対し激情を露わにする。

 

「貴様らぁぁぁ……!」

 

 だがギナはその身を翻すと、どこかへ向けて全速力で逃げていく。

 

「待てっ!」

 

 ギナを追いかけるヒカル、ショウ、ダイチ。ガジェットドローンの一機が三人の背に熱線を撃とうとしたが、横から突っ込んできたノーヴェに側面を殴られ、くの字に折れ曲がって爆散した。

 

「やらせるかよっ!」

 

 ノーヴェたちが残るガジェットドローンを相手取ることで、ダイチたち三人はそのままギナを追跡することが出来た。

 

 

 

(♪チームライトニング出撃!)

 

「超振動バスター!」

 

 スバルの指示でデバイスゴモラが振動波を発射する構えを取ったが、メカゴモラも胸部の発光部から振動波を放った。

 

『[ギャオオオオオオオオ!』]

 

 振動波同士が衝突し、相殺された。デバイスゴモラとメカゴモラの戦闘能力は互角で、戦況は拮抗状態となっている。

 これを打破すべく、スバルはアリサにあるものを手渡した。

 

「アリサさん、これを使って下さい!」

 

 ウルトライザー・カートリッジを装填したジオブラスターであった。こんな事態に備えて、アリサのために持ってきていたのだ。

 

「コンビネーションを!」

「いい銃ね。射撃なら任せて!」

 

 ブラスターを構えるアリサ。銃口はメカゴモラに対してピッタリと合わされる。

 

[ウルトラマンの力を、チャージします]

「ゴモラ! 超振動拳っ!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 スバルが叫ぶと、デバイスゴモラはウィングロードをメカゴモラへ伸ばしてその上を高速で走っていく。ウィングロードのデータは持ち合わせていないメカゴモラは、その動きに対応できない。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 デバイスゴモラが正面から角とクローを突き立て、強烈な振動波を流し込む。だがメカゴモラの装甲はあまりにも強固であるため、振動波でも破壊することが出来ない。

 だが同時にアリサの発射したウルトライザーシュートが炸裂! メカゴモラはダメージが耐久値を越えたことで、轟音を立てて粉砕された!

 アリサは驚きの目でジオブラスターを見つめた。

 

「ウルトラマンの力を再現って……すごい技術力ね」

「でしょ? Xioの頼れる仲間が作ってくれたものなんですよ!」

 

 笑顔でうなずいたスバルは、すぐにギンガたちの加勢に回った。マスケッティの方は機首をXioベースの方角に向け、防衛へと飛んでいった。

 

 

 

『ぬぅぅあぁッ!』

「散開っ!」

 

 Xioベース前では、なのはたちがモルド相手に大奮戦していた。モルドが斧を振り下ろして闇の波動を飛ばしてくるが、はやての指揮によりなのはたちは相手の攻撃をかわし切る。

 

「エクセリオンバスター!!」

「プラズマスマッシャー!!」

「シュツルムファルケン!!」

「コメートフリーゲン!!」

 

 そして波状攻撃をモルドに浴びせ続ける。恐ろしい闇の巨人だけあって管理局のエースたちの総攻撃でも致命的なダメージにはならないが、この場に縫いつけられてXioの基地には全く手出し出来ない状態になっていた。

 

『おのれッ、鬱陶しい!』

 

 悪態を吐くモルドだが、ふとはやてに目をつけると、訝しげに目を細めた。

 

『ぬ? 小娘、貴様の身体から濃厚な闇の力の残滓を感じるぞ。人間が闇の力を宿したことがあるとはな』

「えっ……!?」

 

 動揺して一瞬固まるはやて。モルドの言った通り、はやては幼少期に夜天の書の前身の呪われた「闇の書」の宿主に選ばれたことで、次元世界を揺るがすような大事件の渦中に置かれていた。それをひと目で見抜くとは、闇の種族故に通じるものがあるのだろうか。

 そしてモルドはニヤリと悪しきたくらみを着想した。

 

『面白い! 貴様の魂の奥底に刻まれた闇の力を復活させ、我が手駒にしてくれるわぁッ!』

 

 モルドの手の平から放たれた闇の波動がはやてに降りかかり、彼女が大きく身をよじって苦しみ出した!

 

「きゃああああああああっ! あぁっ、うぅぅっ!」

「はやてちゃんっ!!」

 

 仰天し焦りを浮かべるなのはたち。はやては瞳が赤く染まり、身体から負の気が発散されるようになる。

 

「まさか、夜天の書が闇の書に戻ってしまうということか!? 主はやての魂も、闇に塗り潰される……!?」

「そんなの嫌だっ! はやてぇぇぇぇ――――――――!!」

「はやてちゃんっ!!」

「主はやて!!」

 

 絶叫するヴォルケンリッター。はやては闇の書によって深く苦しみ、傷つき、悲しい別れも経験した末に、やっと平穏な時間を得られるようになったのだ。そんな彼女がまた闇に染まるなんてことは、あってはならない!

 はやては闇の力に蝕まれてもがき苦しむ。――だが、

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 はやては気合いの叫びとともに、闇の影響を弾き飛ばした!

 

「はやてぇっ!! やったっ!」

『何だとぉ!? 人間風情が、我が魔力をはねのけようとは!』

 

 一気に歓喜の声を発したヴィータたちとは反対に、愕然とするモルド。はやては彼に言ってのけた。

 

「わたしは二度と闇には呑まれへん! あの時、わたしを救うために必死になってくれた仲間たち、それにあの子の最期の想いと願いのためにやっ!」

『はいです! わたしたちは、闇の力にだけは絶対に屈しませんっ!』

 

 リインフォースもまた豪語した。モルドはプライドを傷つけられて歯噛みする。

 

『おのれぇぇぇぇ……!』

 

 その時のことであった。ダイチたちの前から逃走したギナが現れ、モルドを見上げて叫んだ。

 

「兄上ッ! 今こそ我ら三兄弟の力を一つに! もう他に手段はありませぬッ!」

 

 振り返ったモルドが聞き返す。

 

『いいのか? 魂を融合させたらもう元には戻らんぞ!』

 

 しかしギナの考えは変わらなかった。

 

「私は、兄上の中で生き続けます!」

 

 その言葉により、モルドも決心する。

 

『ギナよ……ともに我らの敵を全て倒し、宇宙を征服するぞッ!』

 

 ヴィータたちはただならぬ様子と言動に不安を覚えた。

 

「な、何するつもりだ? 魂を融合?」

「思い通りにさせたらあかんっ!」

 

 はやてが叫んだが、もう遅かった。跳躍したギナが、モルドの胸部の赤い発光体の中に溶け込んで消え去った!

 

『ぬああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 同時に、モルドの全身から膨大な闇が溢れ出て、周囲一帯を覆い隠した!

 

「きゃああっ!」

「な、何事!?」

 

 視界が晴れると、モルドの左手には巨大な剣が新たに収まっていた! それはジュダの使用していた大剣である。

 

『ギナ……感じる、感じるぞお前の魂をッ!』

 

 モルドが目を落とした剣の柄の一面には、ギナの顔のレリーフが刻み込まれていた。

 更に剣をひっくり返すと、反対側には別の者の顔があった。

 

『ジュダよ、お前もわしに力を貸してくれるのか!』

 

 それは闇の三兄弟の末弟、先にウルトラマンたちに倒されていた闇の帝王ジュダ・スペクターのものであった。

 モルドにギナの魂が宿ったことにより、モルドは三兄弟全員分の力を手に入れたのであった!

 

『我こそはグア・スペクター! 我ら三兄弟の恨みを晴らすッ! 新たなグア軍団を誕生させるッ!!』』

 

 モルドの声にギナの声が重なった。モルドは兄弟の魂が一体となったことで、魂が三つに分かれる前の彼らの本来の姿、グア・スペクターへと変貌したのだった!

 

「みんな、気をつけて! 敵の力が急激に上昇しとるっ!」

 

 はやてが警告を発したが、グア・スペクターは既に攻撃の構えを取っていた。

 

『『ぬあぁぁッ!!』』

 

 グアが剣と斧を交差状に振るうと、先ほどとは比較にならないほどの闇の波動が放たれ、なのはたちを纏めて吹き飛ばした!

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その上、一撃でXioベースの障壁を破壊してしまう!

 

「うおおおぉぉぉぉぉっ!」

 

 激しい震動に絶叫するカミキら。ラボでは、闇の力の影響によってスパークドールズが不安定な状態になっていく。グルマンたちが必死で食い止めようとするものの、一向に成果は出ない。

 

「このままだとまずいぞ!」

 

 恐ろしく強大化したグア・スペクターは、結集したなのはたちの力さえ凌駕するようになっていた。グアはそのままXioベースそのものに危害を加えようとする。

 

「やめろーっ!!」

 

 そこに駆けつけたのはマスケッティ。空から光子砲を連射してグアの攻撃を阻止しようとする。

 しかしグアには光子砲も、豆鉄砲ほどにも効いていなかった!

 

『『うるさいハエめッ!』』

 

 振るった剣から斬撃が飛び、マスケッティの機体に重大な損傷を与える。

 

「し、しまったっ!」

「メインエンジン停止! 不時着しますっ!」

 

 マスケッティも背景の中に消えていった。次元世界はこのままグア・スペクターの闇に呑まれてしまうのか?

 いや、闇に打ち克つのは光だ。地上では、ダイチ、ヒカル、ショウの三人がこの場に到着していた!

 

「ここで決める……!」

「ああ……! 行くぜ、後輩!」

「はい……! スパークドールズを悪に利用させないっ!」

 

 三人の勇士が、光への変身を行う!

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

[ウルトラーイブ!]

[ウルトライブ!]

 

 ダイチがエックスのスパークドールズをリード、ヒカルはギンガのスパークドールズとギンガスパークでS字状を描いて、ショウはビクトリーだ。

 

「エックスーっ!!」

「ギンガーっ!!」

 

 三人が、それぞれのウルトラマンに変身を遂げた!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」[エックス、ユナイテッド]

[ウルトラマンギンガ!!]「ショオラッ!」

[ウルトラマンビクトリー! ビクトリー! ビクトリー!]「セヤァッ!」

 

 エックス、ギンガ、ビクトリーの三大ウルトラマンがXioベース前に降り立ち、グア・スペクターに立ちはだかった!

 ウルトラマンたちへ振り返ったグアは、暗黒の怨念をその身に湛え、剣と斧を振り上げて突進していく!

 

『『はぁぁぁぁ―――――ッ!』』

「ヘアアァァッ!」

 

 それを堂々と正面から迎え撃つエックス、ビクトリー。ギンガは地を蹴って宙に飛び上がる。

 グアは左右から掛かってきたエックスとビクトリーを両手の得物でいなす。しかしそこを狙って、ギンガが攻撃を繰り出した。

 

『「ギンガサンダーボルト!!」』

 

 クリスタルを黄色く光らせ、銀河状の雷撃を斜め下に飛ばした。グアに直撃!

 

『『ぐううぅぅッ!』』

 

 ショウはエレキングのスパークドールズをビクトリーランサーでリード。

 

[ウルトランス! エレキング・テイル!]

 

 ウルトランスが発動し、ビクトリーの右腕がエレキングの尻尾に変化した。それをムチのようにしならせ、グアに巻きつけ電圧攻撃を浴びせる!

 

『『ぬうあぁッ!』』

 

 電撃のムチを振り払うグアだが、その間にダイチがデバイスエレキングのカードをエクスデバイザーにセットしていた。

 

[エレキングミラージュ、セットアップ]

『「ヴァリアブル電撃波!!」』

 

 拳銃から発射された電撃波がグアにクリーンヒットした!

 

『『ぬあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』』

 

 怒濤の集中電撃攻撃を食らい、さしものグアもかなりのダメージを受けたようであった。

 しかし闇の力の勢いは留まるところを知らない!

 

『『この程度の力でやられるものかッ!』』

 

 駆けてきたギンガのスライディングキックをかわし、ビクトリーの浴びせ蹴りをさばき、エックスの飛び蹴りを防ぐ。三人ものウルトラマンを同時に相手しながら、全く引けを取っていない。

 

「シェアッ!」

 

 エックスがグアに正面から飛び込み、凶器を手にする相手にも恐れず格闘戦を仕掛ける。その一方で、ギンガはクリスタルを紫に輝かせた。

 

『「ギンガスラッシュ!!」』

 

 エックスが退くと、頭部の三叉状のクリスタルから光弾を発射。だがグアは斧でそれを砕いた。

 

「エアァッ!」

 

 直後に飛び込んできたビクトリーの回し蹴りを剣で打ち払った。

 ウルトラマンたちは一列に並び、同時に必殺光線発射の態勢を取る。

 

『「ギンガクロスシュート!!」』

『「ビクトリウムシュート!!」』

「『ザナディウム光線!!」』

 

 三人の力を結集した光線が撃ち込まれた! ……が、グアは交差した剣と斧を振り払って、光線を破った!

 

『『痛快痛快! 地獄へ落ちて身の程を知れぇッ!!』』

 

 グアの斬撃が、ギンガとビクトリーに襲いかかる!

 

『「うあああぁぁぁぁっ!」』

 

 倒れる二人に追撃を掛けようとするグア。だが横から飛び込んできたエックスが、剣と斧を抑え込んでギンガたちを助けた。

 

『「スパークドールズの怪獣たちを、お前の好きにはさせないっ!」』

 

 叫ぶダイチだが、グアの膂力はすさまじく、必死で抗ってもじりじりと押し込まれていく。

 

『「くっ……!」』

『『愚か者めがぁッ! 我ら兄弟の絆の力の前には、貴様らなど敵ではないわぁッ!!』』

 

 豪語するグア。その時……ギンガとビクトリーがよろよろと立ち上がる。

 

『「兄弟の絆の力か……敵ながら天晴なもんだ」』

 

 言いながら、ヒカルは左腕に嵌めている青い腕輪――ウルトラフュージョンブレスを掲げた。

 

『「だがっ! 絆の力なら俺たちも負けてないぜ! ショウ!」』

『「ああ!」』

 

 ショウもまた、ビクトリーランサーを掲げる。

 

『「「見せてやるぜ! 俺たちの絆っ!!」」』

 

 ヒカルがブレスの、ウルトラマンの横顔を模した黄金色のレリーフを横に回すと、ブレスのリード部が強く発光。

 

『「「ウルトラターッチ!!」」』

 

 そしてヒカルとショウが前転しながら跳躍し、ブレスとランサーを重ね合わせた。すると二人の超空間が一つになる!

 

『「ギンガーっ!」』

『「ビクトリーっ!」』

 

 ブレスとランサー、二人のウルトラマンが発した神秘の輝きの中より……一人のウルトラマンが飛び出してきた!

 

『「「ギンガビクトリー!!」」』

 

 そうしてミッドチルダの地に降臨したのは……新たなウルトラマン! その姿は、ギンガとビクトリーの特徴を重ね合わせたものであった。

 これぞウルトラフュージョンブレスの力と、ヒカルとショウの絆によって誕生した超戦士! ウルトラマンギンガビクトリー!!

 

「ウルトラマンも、合体した!」

 

 ギンガビクトリーの威容を見上げたなのはたちがあっと驚く。

 

「ショウラッ!!」

 

 ギンガビクトリーはエックスを押し込んでいたグアの剣と斧を、拳の突き上げではねのけた。二人のウルトラマンが一人になったことで、光のパワーはグアにも負けないほどに跳ね上がったのだ!

 

「シュアッ!!」

 

 更に正拳突きが、グアを殴り飛ばす!

 

『『ぐおぅッ!?』』

 

 自由になったエックスも、パワーアップを行う!

 

「『行くぞっ! エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エクスディッシュで虹色のXの輝きを作り、エックスがエクシードXに変身した!

 そして額のエクスディッシュを手に取り、同時にアサルトフォームに変形させた。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!」』

 

 ダイチがタッチパネルを三回なぞり、トリガーを引く。するとエクスディッシュ・アサルトの周囲に無数の三日月状の光刃が生成された。

 

「『エクシードセイバー!!」』

 

 放たれた光刃が回転しながら飛んでいき、四方からグアに襲いかかり、その身体を切り刻んだ!

 

『『ぬぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』』

 

 エックスの猛攻を食らったグアはその場に片膝を突いた。

 そしてギンガビクトリーの中のヒカルは、ブレスのターンテーブルを回す。テーブルにはウルトラ戦士の顔が描かれていて、その内にマックスのところで止めてスイッチを押した。

 

『「「ウルトラマンマックスの力よ!!」」』

『シュアッ!』

 

 ギンガビクトリーが左腕を天高く掲げると、その隣にマックスのビジョンが現れた。そしてマックスの動きと連動して、ギンガビクトリーの腕に光のエネルギーが集まっていく。

 

『「「マクシウムカノン!!」」』

 

 発射された必殺光線がグアの斧に命中して、一瞬にして爆砕した!

 

『『お、おのれぇぇぇぇッ!』』

 

 しかしグアの戦意は消えず、残った剣でウルトラマンたちに斬りかかろうとする。

 その時、なのは、フェイト、はやてが今一度の攻撃を仕掛ける!

 

「あの剣を狙うんや!」

「うんっ!」

 

 三人は残っている魔力を全て注ぎ込み、砲撃の構えを取った。

 

「スターライト……!」

「プラズマザンバー……!」

「ラグナロクっ!」

「「「ブレイカぁぁぁ――――――――――!!!」」」

 

 三人の同時砲撃が剣の刃の一点に直撃! その結果――。

 

『『ぬぐあぁぁッ!?』』

 

 剣もまた砕け散ったのだ!

 

『『何だとッ!? おおお、ジュダぁぁぁぁッ!』』

 

 ジュダの力の象徴たる剣が砕かれたことで、グアに大きな動揺が見られた。

 ギンガビクトリー、なのはたちに続き、エックスもまた攻撃の態勢を取る。

 

『「エクスディッシュが想いを現実にするのなら……!」』

 

 タッチパネルを三回なぞり、スイッチを叩くとエクスディッシュ・アサルトの刃が伸び、エックスは石突を地面に着く。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 エクスディッシュから虹色の光が溢れ出て、グアを覆い込む光の道を作り出した!

 

「ヘアァッ!」

 

 エックスが光のロードの中を一直線に飛び、グアの身体を二回切り裂いた!

 

『『ぐあああぁぁぁぁぁッ!!』』

 

 それにより、グアの闇の力が霧散していく。

 更にエックスは告げた。

 

『これで貴様は、二度とよみがえることが出来ないっ!』

 

 エクスディッシュの能力により、グア・スペクターの復活の特性を封印したのだ。そうすることにより、未来の宇宙がグア軍団の闇の脅威に苛まれることもなくなった。

 ダイチはいよいよとどめの姿勢を取った。エクスディッシュ・アサルトを垂直に構え直すと、タッチパネルを上から下になぞり、トリガーを引く。

 エクスディッシュの刃部分に全エネルギーが集中し、水平に倒して先端をグアにぴったりと合わせた。

 

「『エクシードスマッシャーっ!!」』

 

 ヒカルはテーブルを回し、ゼロの顔のところでスイッチを押す。

 

『「「ウルトラマンゼロの力よ!!」」』

『テェェェェアッ!』

 

 マックスと同じようにゼロのビジョンが現れ、左腕を横にまっすぐ伸ばしてから両腕をL字に組む。

 

『「「ワイドゼロショット!!」」』

 

 エクスディッシュとギンガビクトリーから、極大の光線が発射! グア・スペクターを撃つ!

 

『『うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』

 

 光の超エネルギーをその身に浴びたグアの全身が崩壊を起こしていく。

 

『妹よぉぉぉぉッ!』

『兄上ぇぇッ!』

 

 モルドとギナの断末魔を最後に、グア・スペクターは大爆発。光の中に、闇は消え去ったのだった。

 同時にスパークドールズを覆っていた影響もなくなり、元の安定した状態に戻った。

 

「やった……!」

「よくぞスパークドールズを守り切ったな!」

 

 シャーリーとマリエルは緊張の糸が切れてその場にどっかと座り込んだ。

 カミキやクロノ、ワタルハヤト、なのはたちも安堵してそれぞれ笑顔を浮かべていた。

 

「いぇーいっ!」

 

 ガジェットドローンを全て片づけたギンガたちは、ハイタッチを交わして勝利を喜ぶ。スバルはアリサに微笑を向けて、こう告げた。

 

「お別れの時ですね、アリサさん……」

「うん。短い間だったけれど、色々と助けてくれて本当にありがとう、スバル」

 

 うなずき合った二人は手と手を取り、固い握手を交わしたのであった。

 

 

 

 ヒカルたちが元の世界に帰る直前、ダイチがこの三人と言葉を交わしていた。

 

「Xioのみんなによろしくね」

「お前の夢、叶えろよ」

「遠い場所からだけども、応援してるぜ」

 

 アリサ、ショウ、ヒカルが順番にダイチにそう告げた。

 

「ありがとうございます。あなたたちと出会えて、ともに戦えて、本当によかった……。俺たちも、ユナイトしてるんですよね」

「ああ。俺たちは、どんなに遠く離れてても、この空で繋がってるんだ」

 

 ヒカルが空を指差して、そう語った。ショウはダイチに一つ言いつける。

 

「練習さぼるんじゃねーぞ」

「はい!」

「また会おうぜ」

 

 ヒカルが拳を前に出すと、ダイチは笑顔で自分の拳をバシッと合わせた。

 彼らとの絆、繋がりの象徴のタッチであった。

 

『――さぁ、行きましょう。あなたたちの世界へ!』

 

 ――そしてウルティメイトゼロジャケットを装着したエックスが、ウルトラマンギンガとビクトリーを誘導する。

 

「ガレット!」

 

 ギンガの手の平の上のアリサが敬礼した。

 そうして別世界の地球からやってきたウルトラマンたちは、彼らの世界へと帰還していったのだった。

 

 

 

 ――ミッドチルダ星系の太陽付近。当然人間が一秒でも生存できるようなものではない過酷な空間の中に、何とシルクハットと燕尾服という、およそ宇宙に出る格好ではない人間が漂っていた。

 常人からすれば、これだけでも驚くべき光景。――だが、この燕尾服の男自身は、もっと他のことに驚愕の表情を浮かべていた。

 

「こ……これは……!!」

 

 燕尾服の男の視線の先にあるもの。それは――。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はメカゴモラだ!」

ダイチ「メカゴモラはOV『ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロ』に登場した、ゴモラを模したロボット怪獣だ! サロメ星人が別次元のレイさんのゴモラのデータを基に造り上げたんだぞ!」

エックス『戦闘能力はオリジナルのゴモラ以上で、レイも非常に苦しめられたな』

ダイチ「しかもサロメ星人に造反したダークロプスゼロに支配下に置かれ、タッグでゴモラを更に追いつめたんだ……!」

エックス『だがウルトラマンゼロの加勢と、二人のレイが力を合わせることで打ち倒すことに成功したんだぞ!』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではマーキンド星人がグア軍団に渡したロボットとして登場。サイバーゴモラと正面衝突したんだ!」

エックス『宇宙人のゴモラと地球人のゴモラ、夢の対決といったところだな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 今日はヴィヴィオちゃんたちの学院の楽しい学院祭! でもそこに現れたのは……グア軍団の生き残り!? 八つ当たりはやめろ! またまた俺たちが大バトルをしなきゃいけないみたいだね、エックス。次回、『怪獣学院祭』。


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怪獣学院祭(A)

 

「イクスが目を覚ましたって本当!?」

「専門家の話では視覚とか聴覚を本体に送信するための……」

「つまりはこの子も「イクス自身」ってことで間違いない?」

「改めてみんなに紹介します! イクスさんで~す!」

「ずっと眠ってたイクスに色んなところを見せてあげようと思って」

「試験が終わったらまた楽しいことあるでしょ? 年に一度の「学院祭」!」

「学校全部でやるお祭りなの」

「今年もみんなをご招待しなきゃ~!」

 

 

 

『怪獣学院祭』

 

 

 

「む~……」

 

 Xioベースのオペレーション本部にて、半目のスバルがうなり声を発していた。それをワタルとハヤトが見咎める。

 

「おいどうしたスバル。珍しく難しい顔してさ」

 

 ワタルが尋ねかけると、振り返ったスバルはこう答えた。

 

「実は、ダイくんのことなんですけど……」

「ダイチの?」

 

 スバルが見ていた先では、ダイチがデスクに向かってエクシードXの記録映像を確認しながら、戦闘データを纏める作業をしていた。

 

「何だダイチの奴、何やってんだ?」

「どうも、エックスの戦い方を研究してるみたいです」

「エックスの? どうして今になって」

「理由はよく分かんないんですけど……近頃のダイくん、妙に戦闘訓練に対して張り切ってるんですよね。どうもシグナムさんに個人的に稽古をつけてもらってるみたいだし……」

 

 スバルはシグナムから聞いた話を脳内で振り返った。

 

 

 

「はっ! たぁっ!」

「ふむ、なかなかいい踏み込みだ」

 

 管理局の訓練施設内の道場で、ダイチとシグナムが竹刀を交えていた。稽古がひと段落すると、シグナムがダイチに尋ねる。

 

「しかしダイチ、どういう風の吹き回しだ? 急に私に剣の稽古につき合ってほしいと頼んでくるとは。いささか驚かされたぞ」

「あっ、えーとそれは……ミッドにダークサンダーエナジーなんてものが降るようになって、ますます物騒になってきたじゃないですか! それで戦闘訓練に力を入れようかなって思いまして……」

 

 適当に理由をつけてごまかすダイチ。真の理由は、ショウにも言いつけられた、エクシードXの力を使いこなす訓練のためである。

 

「そうか。まぁ、自らを鍛えようとするのはいいことだ。お前はこれまで、戦闘訓練には消極的だったと聞いてるからな。いい変化だと思うぞ」

「あ、ありがとうございます」

「それにしても、お前の太刀筋はウルトラマンエックスと大分似ているな。もしや、彼を参考にしてるのか?」

「えっ!? あ、あぁ、そうなんですよ! 流石シグナムさん、そういうこと分かるんですね!」

 

 エックスの中で剣を振っている本人なのだから当たり前、とは言えないダイチだった。

 

 

 

「他にも、フェイトさんから直接戦闘データをもらってたそうですし……」

 

 

 

「これでいいかな? ダイチくん」

「はい、ありがとうございます!」

 

 フェイトがバルディッシュからエクスデバイザーへ、彼女の戦闘データの記録を送信した。それが済むと、ダイチに質問する。

 

「でも、何で私の戦いの記録が必要なのかな? また新しいモンスジャケットを開発するの?」

「あっ、そ、そういう訳じゃなくてですね……ほら、エックスがフェイトさんのバルディッシュみたいな武器を使うようになったじゃないですか。それでフェイトさんの戦い方を送信して教えてあげたら、エックスも助かるんじゃないかって思いましてね……」

 

 と答えたダイチだが、もちろん自分自身で参考にするためである。

 

「そういえばそうだね。私もあれには驚かされちゃった。エックスがバルディッシュそっくりの武器を使うなんて! 攻撃技まで似てるのがあるし! すごい偶然だよね!」

「あ、あはは……エックスも、フェイトさんの技を真似たんじゃないですかね?」

「いやいや、いくら何でもそれはないよ。あの大きなエックスが、こんな小さい私一人のことをそんなに観察してるなんてことは」

 

 肩をすくめて笑ったフェイトの背中に、ダイチはそっと囁いた。

 

「フェイトさん……勝手に技を借りてごめんなさい……!」

「ん? ダイチくん、何か言った?」

「な、何でもないです!」

 

 振り向いたフェイトの前から、ダイチはすたこらと下がっていったのであった。

 

 

 

「へぇ~……ダイチの奴が、そんなことまでねぇ……」

 

 スバルからの話を聞いたワタルたちは吐息を漏らした。

 

「けど、別に気にするようなことでもないだろ。強くなろうとするのは、実際悪いことでも何でもないだろ?」

「そうですけど……何だか腑に落ちないんですよ……」

 

 眉間に皺を寄せたスバルを見つめて、ワタルはニヤッと笑った。

 

「そうかそうか。お前、ダイチが他の女に構ってばっかりだからやきもち焼いてるんだな?」

 

 ワタルがからかうと、スバルは途端にカァーッと赤面した。

 

「な、なななな! 何を言うんですか! そんなんじゃないですよ! 邪推しないで下さい!」

「いやいや、照れなくたっていいんだぜぇ? お前たちは幼馴染なんだろ? 幼馴染同士での熱い恋愛事情! いいじゃないかぁ」

「だから、違いますって! もう、ワタルさんったらすぐに色恋沙汰につなげようとするんだから!」

「こいつ、こんな顔して恋愛もの大好きだからな」

「顔は関係ねーだろ、顔はっ!」

 

 ハヤトの混ぜっ返しに、ワタルが口を尖らせて抗議した。

 

「もう、そういうのじゃないって……」

 

 ぷりぷり怒ったスバルはダイチに視線を戻すと、また眉間を寄せた。

 

「でも……何だかダイくん、この頃変な感じがするんだよなぁ。上手くは説明できないけど……だんだんと、遠いところに行っちゃってるような……」

 

 スバルが顔をしかめていると、後ろの方からウェンディの叫び声が聞こえてきた。

 

「あ~んもうっ! 何でまたあたしがお留守番なんスか~!? あたしも学院祭に行きたいっス~!」

「あーもううるせーなこいつはホントに。くじで公平に決めたじゃねーか。恨むなら、自分のくじ運の悪さを恨めよな」

 

 駄々をこねるウェンディに、ノーヴェが呆れ返っていた。

 明日はヴィヴィオたちの通うSt.ヒルデ魔法学院の学院祭の日であった。ダイチたちもヴィヴィオたちから招待されており、ダイチ、スバル、ノーヴェ、ディエチの四人が遊びに行くこととなったのだ。この中に入れなかったウェンディがごねているのであった。

 

「いつまでも嘆くな、ウェンディ。この姉が一緒にいるから」

「お土産いっぱい持って帰るから、機嫌直して」

「う~、でも~……」

 

 チンクとディエチがいじけるウェンディを慰める。ノーヴェは彼女を放置して、カミキとクロノに尋ねかけた。

 

「でも、四人も休みを取ってホントにいいんでしょうか? ダークサンダーエナジーの謎は一向に解けないってのに……」

 

 ノーヴェはダークサンダーエナジーの被害がまた出ることを危惧していた。グア軍団は倒したが、ダークサンダーエナジーはどうも彼らが降らせていたものではないことが判明したのだ。だがそれならどこから、どうして降ってくるのかということは、少しも解明されていない。何も分からないこと故に、Xioには言い知れぬ不安がのしかかっているのだった。

 そのことについて、カミキとクロノが語る。

 

「いや、ずっと気を張り詰めている方がかえって効率が悪い。ここしばらくはダークサンダーエナジーも落下していないし、休める内に休んでおくべきだ」

「せっかくのお祭りだ。遠慮せずに楽しんでくるといい」

「……ありがとうございますっ! そのお言葉に、甘えさせていただきます」

 

 ピッ、と敬礼するノーヴェ。一方でスバルは、ダイチの肩を後ろから叩いた。

 

「ほら、ダイくん。ずっと画面とにらめっこしてないで、明日の学院祭でどこ回るか、一緒に決めようよ」

「あっ、うん。そうだね」

 

 集中していたダイチは、ここでようやくスバルへと振り返った。

 スバルはこのダイチの様子に、かすかに不安げに顔をしかめた。

 

 

 

 その日の晩。町外れの寂しい空き地に、人目から隠れるようにしながらふらふらとうろついている怪しい影があった。

 

『はぁ……何でこんなことになっちまったんだ……』

 

 どっかと腰を落として深く重いため息を吐いているのは、黒い肌の怪人。頭部には髪の間から尖った耳が突き出て、顔は口元以外仮面で覆っている。前腕と臀部は金属製の防具で覆われた……マグマ星人! ――だが、その首には何故か古めかしいがま口が提げられていた。

 

『くそッ、ウルトラマンの野郎ども……! よくもモルド様とギナ様をやりやがったな……! お陰で俺は、この通り根無し草じゃねぇか……!』

 

 独り悪態を吐くマグマ星人。彼はグア軍団に加わったマグマ三兄弟の三男。グア軍団壊滅後も、こうして生き残っていたのだった。

 彼は初め、惑星グアでヒカルたちを襲撃した。だがヒカルがウルトラマンギンガになったことで逆転され、次男が倒された。その直後にファイティングベムが集結したのだが、結局それもやっつけられた。

 この時マグマ星人は、ファイティングベムの背後にいたので、ギンガエスペシャリーの直撃を食らわなかったのだ。しかし壮絶な爆風によって遠くまで吹き飛ばされていた。どうにか次元の歪みを通ってミッドチルダに移ることは出来たが、そこで力尽きて長いこと気絶していた。

 そして目を覚ました時には、

 

『妹よぉぉぉぉッ!』

『兄上ぇぇッ!』

 

 ……モルドとギナが討たれ、グア軍団は壊滅してしまった。

 

『せっかく加入したグア軍団だったのに……。おまけに、暗黒星団からも弾き出されちまった……』

 

 なくなってしまったものは仕方ない。暗黒星団に出戻りしようとしたマグマ星人だったが、そこでも問題に直面した。

 ギナがマーキンド星人から騙し取ったメカゴモラ等の七億ガネーもの代金の請求が、軍団の唯一の生き残りであるマグマ星人に来たのであった。支払いが完了するまで暗黒星団に戻ることは許さない、とホストに告げられた。

 もちろん今のマグマ星人に、そんな莫大な金が支払える訳がなかった。こうして彼は、行くあてをなくしてミッドチルダをさまよい続けているのだった。

 

『くっそぉ……栄光のグア軍団入りをして、これからの人生薔薇色だと思ってたのに、まさかこんなまっさかさまに転落しちまうなんて……』

 

 がっくり肩を落としたマグマ星人だが、顔を上げた時には目に憎悪をたぎらせていた。

 

『それもこれも、ウルトラマンとXioの奴らのせいだ……! この怨み、晴らさずにはいられねぇぞ……! 必ず思い知らせてやる……!』

 

 復讐を誓うマグマ星人だが、ちょうどその時にぐぅぅぅ、と腹の虫が鳴いた。

 

『……その前に腹ごしらえしねぇとな……。貯金はあとどんだけ残ってたっけ……』

 

 がま口を開いて残金を確かめる。

 

『うわッ、もうこんだけかよ! ほとんどおっ被らされた借金の取り立てで持ってかれちまったからなぁ……。くっそぉ、これもウルトラマンどものせいだッ!』

 

 哀れマグマ星人は、今日の食事にも困るほど貧窮する身の上になり果てていた。

 

 

 

 St.ヒルデ魔法学院の学院祭当日。色とりどりの花で飾られた門をくぐった先は、たくさんの出店や店員の学院の生徒、大勢の来客で賑わっていた。

 

「今年もすごい盛況ぶりだね」

「ほらほらイクス、これがみんなの学院のお祭りだよ」

 

 学院祭の様子をざっと見渡したディエチがつぶやき、スバルは連れてきたイクスヴェリアに周りの光景を見せていた。イクスヴェリアはきゃっきゃとはしゃいで楽しそうであった。

 ダイチはエックスに問いかける。

 

「エックスも学院祭を見るのは初めてだよね」

『もちろん。しかし、学生主導の割にはかなり本格的なんだな』

「ヒルデは大きいところで、予算にも余裕があるからね」

 

 ダイチたち四人が正門の辺りを歩いていると、ノーヴェがある二人組の姿を人ごみの間から見つける。

 

「あ! なのはさん! フェイトさん!」

「ノーヴェ。みんなも、今来たところなの?」

「はい。この通り、イクスを連れてくるのに教会に寄ってましたので」

 

 なのはとフェイト。ヴィヴィオの親である二人も、もちろん今日の学院祭に遊びに来ていたのだった。

 なのははダイチの顔を確かめると、悪戯っ子めいた笑みを浮かべた。

 

「ダイチくん、聞いたよ? 最近戦闘訓練に力入れてるみたいじゃない」

「あっ、はい……」

「水臭いなぁ。そういうのわたしに言ってくれたら、いくらでも協力してあげるのに」

 

 そのなのはの言葉に、ダイチは若干顔が引きつった。

 

「い、いえ。何もなのはさんにまでご迷惑を掛けるほどのことではありませんので……」

「えー? フェイトちゃんやシグナムさんには協力してもらってるのに、わたしはダメなのー?」

「そ、それはぁ~……」

「もう。これでも戦技教導官なんだから、無茶はさせないよ? ダイチくん、何だかわたしに変なイメージ持ってない?」

 

 かわいく問い詰められてタジタジになっているダイチに、スバルたちは苦笑した。

 

「なのは、あんまりいじめてあげないで」

「あっ、うん。じゃ、せっかくだからみんな一緒に行こっか!」

「はいっ!」

 

 なのはの提案で、一行は纏まって行動していった。

 

「はやてちゃんやインターミドル参加者の子たちも、もう来てるはずだよ」

「ヴィヴィオたちの出し物のところ辺りに行けば会えますかね」

 

 会話するなのはとノーヴェを先頭にして、六人はそのままヴィヴィオのクラスの教室へと向かっていった。

 

 

 

 ……それから少しの時間が経ってから、一人の冴えない男がアルバイトの求人雑誌を片手に、学院周辺に差し掛かっていた。

 これはマグマ星人の変身であった。人間に化けて、ミッドチルダに溶け込もうとしているのだ。

 

「ちッ、これもダメだったぜ……。身分証明書なんて、出せる訳ねぇよ……」

 

 ぶつくさ言いながら学院に近づいていくと、そこの賑やかな空気に気づく。

 

「あん? 妙に騒がしいじゃねぇか……」

 

 顔を上げたマグマ星人は、目の前で学院祭が行われていることを知った。

 

「何だぁ? 人間の学校で催し物か。まぁ楽しそうにしやがって……」

 

 学院を行き交う人たちの楽しそうな顔と、自分のみじめな現状を見比べたマグマ星人は、腹の底からふつふつと妬み嫉みが沸き上がってきた。

 

「くそッ、俺はこんなにも不幸だってのに、あいつら幸せそうな面並べやがって……気に入らねぇぜ……!」

 

 顔を歪ませたマグマ星人はズンズンと学院に近づいていき、敷地内に入る。

 その途端、手近な出店の台を思いきり蹴りつけた!

 

「おらぁッ! つまんねーことやってんじゃねぇよッ!」

「きゃっ!?」

 

 突然の激しい音に周囲が唖然とする。だがマグマ星人は構うことなく、それどころかどんどん周りの人たちに迷惑を掛けていく。

 

「おらおら! 道のど真ん中でたむろってんじゃねぇ!」

「うわっ!」

「な、何するんですか!」

「うるせー! 黙って道開けろってんだッ!」

 

 がなり立てながら、マグマ星人はヴィヴィオの教室がある方へと進んでいった。

 

 

 

 ヴィヴィオたちのクラス、4年A組の出し物は「魔法喫茶」。コロナを始めとした操作魔法が得意な者たちのセッティングしたおもちゃのゴーレムのダンスが特に人気を集めていた。

 

「アインハルトちゃん、その格好かわいいね。よく似合ってるよ」

「えっ、そ、そうでしょうか……」

 

 ダイチたちと同じように、A組に遊びに来ていたアインハルトのフリフリな衣装を、ダイチが褒めた。

 

「うん。いつもの清楚な感じも似合ってるけど、アインハルトちゃんかわいいからね。そういう服装もいいと思うよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 赤くなって照れるアインハルト。そうしているとディエチがダイチを茶化した。

 

「ダイチ、今になってアインハルトをナンパ?」

「中等生に手ぇ出そうってのか。そんな奴だとは思わなかったぜ」

 

 ノーヴェに冷たい視線を向けられ、ダイチは途端に慌てふためいた。

 

「そ、そんなんじゃないよ! ちょっとやめてよ、変な誤解されるかもしれないだろ!?」

 

 ダイチの様子になのはらが笑った。息を吐いたダイチは、話を切り換えるようにヴィヴィオに呼びかける。

 

「ヴィヴィオちゃんは、さっきのブロッキングすごかったね。一人もクリアさせないなんて」

「えへへ、ありがとうございます!」

 

 誇らしげに胸を張るヴィヴィオ。彼女は先ほどまで隣のクラスの的当てゲーム「ストライクデビル」のキーパーの応援をしていたのだが、ヴィヴィオの反応があまりに良すぎるので、彼女相手に的を射抜けた者はいなかった。

 

「あれは悔しかったですわ……」

「また何かの機会で再挑戦したいね」

 

 ヴィクトーリアとルーテシアがぼやいた、その時……。

 

「あれ? 何だか外が妙に騒がしくないでしょうか?」

 

 ミウラが廊下の異常に気づいて振り返った。そして人間に化けたマグマ星人が、A組の教室の中に入ってきた。

 

「何だぁ~? このふざけたとこはよぉ~! 客を舐めてんのかぁ~!?」

「きゃあっ! や、やめて下さいっ!」

 

 マグマ星人が言いがかりをつけて席を蹴っ飛ばすと、近くの生徒や客が悲鳴を上げた。

 

「何なに? 変な人が入ってきちゃったよ」

「困るね、ああいうのは。すごい迷惑だ」

 

 リオが冷や汗を垂らし、ミカヤは半目になってマグマ星人をにらんだ。

 

「オレぁああいう輩が調子づいてんのは我慢ならねーんだ。ちょっくら話しつけてやる」

「珍しく気が合いますね。バシッと注意してやりましょう」

 

 気分を害されたハリーとエルスが席を立ってマグマ星人に向かっていこうとしたが、それをダイチが制止した。

 

「待って、二人とも。ああいう人は逆上したら何するかわからないから危険だ。ここは大人に任せてくれ」

「私は先生呼んできます!」

 

 コロナが教師を呼びに行っている間に、スバルやなのはらでマグマ星人の化けている男に注意しに行った。

 

「そこのあなた、乱暴はやめて下さい。ここは学校ですよ」

「これ以上するのなら、署でお話しを伺うことになりますよ」

「あ~? 何だお前らは……」

 

 フェイトが警告すると、マグマ星人がそちらへ振り返った。そして顔を見て、目を見開く。

 

「あぁぁッ! お前ら、モルド様とギナ様をやった連中!!」

「!? その言い方は……!」

 

 咄嗟に身構えるスバルたち。一方でマグマ星人の表情が、一気に憤怒で染まった。

 

「こんなとこで出くわすとはな……。願ってもねぇ! 食らえッ!」

 

 男の腕にサーベルが現れ、即座にビームを発射してきた!

 

「!」

 

 なのはが咄嗟にプロテクションを張り、ビームを防ぐ。

 

「ここで会ったが百年目! モルド様たちに兄者たちの仇と、俺の恨みを晴らしてやるぜぇぇッ!』

 

 マグマ星人は豪語しながら、人間の化けの皮を脱いで真の姿を現した!

 



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怪獣学院祭(B)

 

「マグマ星人っ!」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 正体を晒したマグマ星人に、ダイチが叫ぶ。周囲の客や生徒たちは、凶器を持った異星人が現れたことでパニックに陥った。

 

「落ち着いて下さい! 順番に避難を!」

 

 スバルが迅速に周囲の人々を教室から逃がしていく。アインハルトはディエチからイクスヴェリアを託され、連れて逃げる。

 一方でなのはたちは即座にバリアジャケットを身に纏い、マグマ星人に対峙した。

 

「グア軍団の生き残りか! ……そのがま口は何だ?」

『ほっとけ! 色々あったんだよ!』

 

 ノーヴェの指摘に、がま口を首に掛けたままのマグマ星人は逆ギレした。

 

『よくもグア軍団を潰してくれやがったなぁ! お陰で俺様はどん底だぞ! この恨みと怒り、思い知らせなきゃ気分が収まらねぇぜッ!』

「黙れ! 全部お前らの自業自得じゃねぇか!」

「大人しく投降して下さい。これ以上の悪事を働かないのなら、穏便に署へ連れていきます」

 

 バルディッシュを構えながら勧告するフェイト。他になのは、はやて、ダイチたちもいて、対するマグマ星人はたった一人。いくら何でも、マグマ星人が勝てる道理はない。

 しかしマグマ星人は拒否した。

 

『宇宙人なめんじゃねーよ! マグマ星人の恐ろしさ、見せつけてくれるぜッ!』

 

 掲げたサーベルの尖端が発光する。ビーム発射の前準備だ。なのはたちは障壁の展開用意をした。

 だがマグマ星人は彼女たちにではなく、逃げ遅れている人たちに向けてビームを放った! この場で無関係な人間を狙うとは、何たる卑怯な行い!

 

「あっ!?」

「くっ、間に合えっ!」

 

 裏をかかれたなのはたち。スバルが咄嗟に床を蹴って走るが、

 誰よりも早く反応したヴィヴィオがそれより早く人々の前に回り込み、強固なプロテクションでビームを防いだ!

 

『何だとッ!?』

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 助けた人たちににっこり笑いかけるヴィヴィオ。彼らはスバルによって無事に教室外へ逃がされた。

 

「あ、改めてすごい反応速度だ……」

『的当てで一度も負けなしだっただけはあるな』

 

 ダイチとエックスが若干呆気にとられながら評した。

 ノーヴェたちはキッとマグマ星人をにらみつけた。

 

「何が恐ろしさだ、汚ねー真似しやがって! もう勘弁ならねぇぜ!」

『ちッ……だがまだこれからが本番だッ!』

 

 取り押さえようとしたノーヴェたちだが、マグマ星人は一瞬にして煙幕を張って視界から逃れると、その隙を突いて窓に飛び込み、ガラスを突き破って外へ逃げ出した。

 

「待ちなさいっ!」

 

 もちろん追いかけて、同じように窓をくぐるなのはたち。ダイチは廊下へ出て、別方向からマグマ星人を追っていった。

 

 

 

 マグマ星人は校舎を出てすぐのところで、なのはたちに追いつかれて包囲された。前方になのは、フェイト、はやて、後方をノーヴェ、ディエチにふさがれる。

 

「もう逃げられないよ。大人しく投降して」

 

 なのはが再度呼びかけたが、マグマ星人はやはり応じなかった。

 

『ふんッ、さっきの聞いてなかったか? これからが本番だぜぇ!?』

「馬鹿言ってんじゃねーよ! お前なんかがなのはさんたちに敵うもんか」

 

 と言いつけるノーヴェ。三人ものエース相手であれば、マグマ星人が巨大化したところで結果は同じだ。

 

『甘めぇぜッ! 俺にはこんな時のための切り札があるんだよぉッ!』

 

 だがマグマ星人が取り出したのは、両手にムチを持った怪獣のスパークドールズであった!

 

「スパークドールズ!?」

『万が一の時に備えて保管してあった奴を持ってきたのさ! 苦労して借金取りから隠し通した甲斐があったぜ! こいつを復活させて、ここで暴れさせてやる! どれだけの被害が出るかなぁ~!?』

 

 そんなことはさせない、となのはたちはマグマ星人を拘束しようと構えた。

 が、ちょうどその時に、空に暗雲が渦巻き黒い閃光が走った。ディエチが叫ぶ。

 

「ダークサンダーエナジーの予兆!? こんな時にっ!」

『こいつはちょうどいいぜぇ! さぁ、闇の力を受けてもっと強くなれ! 何もかもぶっ壊してやれ、グドンッ!』

 

 マグマ星人が頭上に掲げたスパークドールズに、ダークサンダーエナジーが落下した!

 学院のすぐ横に、両手がムチになって全身にトゲを生やした怪獣、グドンが出現した!

 

「グオオオオオオ!!」

「いけないっ!」

 

 まだ避難は全然完了していない。ここで暴れられては、たくさんの人の命が失われてしまう。なのは、フェイト、はやては飛翔し、グドンに攻撃を繰り出す。

 

「エクセリオンバスター!!」

「プラズマスマッシャー!!」

「フレースヴェルグ!!」

 

 三人の砲撃がグドンに命中!

 

「……グオオオオオオ!!」

 

 だが、グドンにはダメージを与えられている様子がまるで見られなかった。

 

「効いてない……!?」

 

 流石に動揺する三人。グドンは元より頑強な肉体を持つ怪獣だが、なのはだけでもサンダーダランビアをひるませるほどの威力だった砲撃をまともに食らって小揺るぎもしないとは。これがダークサンダーエナジーの恐るべき効果か。

 グドンは片手のムチを振り上げて、学院の校舎に叩きつけようとしている。樹の陰からそれを見上げたダイチは、エクスデバイザーを取り出した。

 

「エックス! ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 ダイチはデバイザーのスイッチを押し込み、素早くユナイトを行う。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 飛び出していったエックスがその勢いのままグドンに組みつき、突き飛ばすことで学院を救った。

 

「グオオオオオオ!!」

「ジュワッ!」

 

 もんどり打って倒れたグドンに、エックスは戦闘の構えを取って学院の盾となった。

 

「エックス!」

「ウルトラマンエックスだ!」

「きゃあ―――――っ! エックスぅぅぅ―――――っ!!」

「ほらアホメガネ、立ち止まってたら迷惑だろ。早く行くぞ」

 

 どこかでエルスが黄色い声を上げ、呆れたハリーに引っ張られていった。

 

「グオオオオオオ!!」

「ヘアッ!」

 

 起き上がったグドンにエックスは飛びかかってチョップを繰り出そうとしたが、

 

「グオオオオオオ!!」

 

 それを制してグドンのムチがしなり、音速に達するほどの速度で襲いかかってきた!

 

「グアッ!」

 

 息を吐かせぬほどのムチの連撃を浴びせられ、エックスは返り討ちにされる。

 

『「何てスピードの攻撃だ……!」』

『やはりダークサンダーエナジーは怪獣の戦闘力を大幅に引き上げる……気をつけろ、ダイチ!』

 

 グドンと向き合って脇を締め直すエックスだったが……そこに背後から、巨大化したマグマ星人が斬りかかってきた!

 

「グオォッ!」

 

 不意打ちを食らって肩口を斬りつけられたエックスがうめく。

 

『ハハハッ! 一番の仇はお前だ、ウルトラマンめッ! この俺の手でズタズタにしてくれるッ!』

 

 ダークサンダーエナジーで強化されたグドンに加え、マグマ星人との二対一ではあまりにエックスが不利。このままでは非常にまずい。

 しかし、エックスの側にも味方はいるのであった。

 

「ディバインバスター!!」

『ぬぐあッ!?』

 

 横からマグマ星人になのはの砲撃が突き刺さり、巨体が浮き上がって吹っ飛ばされたマグマ星人はエックスから引き離された。

 エックスを助けたなのはたちは、彼に呼びかける。

 

「異星人はわたしたちが対処します! 怪獣の方をどうかお願いします!」

「……フッ!」

 

 エックスは親指を立てることで了承の意を示した。

 

『ちっくしょう、どこまでも邪魔しやがって! こうなりゃとことんやってやるぜぇぇぇぇッ!』

 

 マグマ星人もなのはたちへサーベルの切っ先を向ける。一方ではやてに、ノーヴェとディエチからの通信が入った。

 

『八神司令! あたしたちも加勢しましょうか?』

「ううん、私たちだけで十分やで。二人は、スバルの応援に行ったって」

『了解しました!』

 

 ノーヴェたちに指示を出し、はやてたちはマグマ星人との交戦を開始する。かくして、エックス対グドン、なのは・フェイト・はやて対マグマ星人の二つの戦闘が始まったのだった。

 

 

 

「オーマイガーッ! 学院祭を宇宙人が襲撃するなんてーっ!」

「全く迷惑な話じゃなイカ」

「もうっ! 宇宙人って、どうしてこう自分勝手なのかしら!」

「ほら三人とも、ぼやぼやしてないで早く避難して。イサ兄ぃはもう先に行ってるんよ」

 

 大勢の人たちを背にしながら、エックスは闘争心を剥き出しにしているグドンに立ち向かう。

 

『ここでは学院に近すぎる!』

『「まずはグドンを校舎から引き離さないといけないな!」』

 

 と判断したダイチは、デバイザーにデバイスエレキングのカードをセットした。

 

[デバイスエレキング、スタンバイ]

 

 エックスの身体がたちまちエレキングミラージュのジャケットに包まれた。

 

『キイイイイイイイイ!』

[エレキングミラージュ、セットアップ]

「シェアッ!」

 

 グドンの注意を引きつけながら、背後に回り込むように動くエックスにグドンがムチを飛ばしてきた。

 

「グオオオオオオ!!」

「デヤァッ!」

 

 ムチに対抗するにはムチ。エックスは銃から電撃のムチを放ち、グドンのそれに絡みつかせた。そのままグドンを引っ張っていこうとする。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 だがグドンが上腕の筋肉を盛り上がらせると、エックスの方が引っ張られて宙を舞い、電撃のムチが千切られて地面に放り出された。

 

「オワァッ!」

『「くっ!? すごいパワーだ……!」』

 

 苦悶の表情を浮かべるダイチ。ダークサンダーエナジーによって強化された怪獣の能力の程を、改めてその身に教えられた。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 グドンが再度ムチを振り上げて攻撃しようとしてくる。それに対しエックスは、エレキングミラージュの幻影魔法を発動した。

 

「シュッ!」

「グオオオオオオ!!?」

 

 大量のエックスの虚像が現れて、グドンを幻惑。しかし、

 

「グオオオオオオ!!」

 

 グドンは何と両腕のムチを倍以上に伸ばし、それを辺り一面に振り回してきた! ダークサンダーエナジーによる体質変化だ!

 リーチが伸びたムチの猛攻撃はエックスの虚像の全てを余すところなく叩き、本体にも直撃する。

 

「グゥワァッ!」

 

 強烈な一撃をもらい、エレキングミラージュが解除されてしまった。

 

『「くあぁっ! 幻影までものともしないなんて……!」』

 

 ダイチにも重いダメージが反映される。グドンのすさまじい攻勢に、エックスはどんどんと追い込まれていた。

 他方で、なのはたちも三人がかりでありながら、マグマ星人にてこずっていた。

 

「アクセルシューター!」

『ふんッ!』

 

 なのはが誘導射撃魔法を放ってマグマ星人を牽制しようとしたが、マグマ星人はサーベルを走らせて全弾切り払った。

 

「ハーケンセイバー!」

 

 なのはの反対側からフェイトも魔力刃を飛ばしたが、返す刃によってこれも破砕された。

 

「アーテム・デス・アイセス!」

 

 はやてが凍結魔法を発動。マグマ星人の足元を凍りつかせ、動きを封じ込もうとした。

 

『はぁッ!』

 

 が、マグマ星人は巨体に似合わぬほどの軽やかな身のこなしで跳躍。凍結魔法を回避して着地した。

 

「素早い……! 今までの異星人犯罪者の動きとは一線を画すわ」

 

 マグマ星人の戦闘能力をそう評するはやて。悪魔のグア軍団への加入を許されただけはあり、マグマ星人は落ちぶれてなお高い実力を見せて、なのはたちと互角に戦ってみせている。

 

『おぉらッ!』

 

 マグマ星人はサーベルをスライドさせるように振り払った。なのはたちは、障壁ではガードし切れないと即座に判断、すんでのところで剣の軌道から逃れた。

 

「相手の間合いに気をつけて!」

 

 フェイトが他の二人に警告を飛ばした。

 なのはたちが手をこまねいている間にも、エックスはグドンのムチの猛撃によってどんどん追いつめられていた。

 

「グオオオオオオ!!」

「グアァァッ!」

 

 また一撃が入り、エックスは仰向けに張り倒された。うめきながらもどうにか起き上がる。

 

『くぅッ、大分やられたな……!』

『「うん……けど、学院から引き離すことには成功したよ!」』

 

 ダイチの言った通り、エックスの捨て身の奮闘により、グドンはいつの間にか学院の校舎から距離を取らされていた。これでももう気兼ねすることはなくなった。

 

『よし、ここからが本当の勝負だ! 行くぞダイチっ!』

『「ああ!」』

 

 立ち上がったエックスが気合いを入れ直し、カラータイマーが黄色く輝いた。エックスとダイチの心がよりユナイトした証拠だ。

 そしてダイチは、デバイザーよりエクシードXのスパークドールズを出現させてリードする。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 スパークドールズがエクスディッシュに変化し、それのパネルをスライドしてトリガーを引くダイチ。

 

「『行くぞっ! エクシード、エーックスっ!!」』

 

 X字に振るわれたエクスディッシュの虹色の軌道の中で、エックスはエクシードXに姿を変えた!

 

「グオオオオオオ!!」

「デヤッ!」

 

 グドンはエックスにムチを大振りに振り下ろすが、エックスは跳ね上がったスピードで前進。ムチを避けながらグドンの懐に入り込んだ。

 

「セェェヤァァァッ!」

 

 グドンの身体をむんずと掴み、高々と持ち上げて投げ飛ばした!

 

「グオオオオオオ!!」

 

 それまでとは逆にグドンが地面へ投げ出され、叩きつけられた。

 そしてエックスは額のエクスディッシュを手に取り、パネルを一回スライドしスイッチを叩くことでアサルトフォームに変形させた。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!」』

 

 武器を構えたエクシードXに対し、起き上がったグドンは両腕のムチを音速でしならせ、連撃を繰り出す。

 だがダイチはそれを読んでいて、パネルを二回スライドしてトリガーを引いていた。

 

「『エクシードスラッシュ!!」』

 

 エックスの振るったエクスディッシュの乱撃が、ムチの攻撃を全て切り払った! これにより、グドンのムチはボロボロになる。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 流石のグドンも、自慢のムチが破られたことに激しく動揺した。

 エックスが押し返し始めたのと同様に、なのはたちとマグマ星人の戦いにも変化が訪れていた。

 

『おらおらおらぁッ!』

 

 マグマ星人はサーベルのラッシュを容赦なくなのはたちに繰り出す。三人はなす術なく逃げ回っているように見えたが……。

 

「今っ!」

 

 マグマ星人が片足を浮かしかけたその時、その足になのはが仕掛けたバインドが絡みついた。

 巨大化した異星人を一人のバインドで拘束することは不可能。――だが、身体の一部の動きを一時的に制限することは出来る。

 

『うおッ!?』

 

 浮かしかけた足を無理矢理止められたマグマ星人は、バランスを崩して倒れかけた。

 しかしそこは簡単にはいかない。マグマ星人はすぐに体幹をまっすぐに直して、足を突いて踏みとどまった。

 だがそれも作戦の内だった。

 

「石化の槍、ミストルティン!!」

 

 はやてが魔法陣から放った二本の槍が、マグマ星人の両脚に命中。するとどうだろうか。マグマ星人の脚は負傷こそなかったが、代わりに一瞬にして石化して、身動きを封じてしまった。

 

『な、何だこりゃあッ!?』

 

 これぞ古代ベルカの禁断の魔法、ミストルティンの効果だ。

 

『よくもやってくれたなぁッ! 死ねぇぇぇぇッ!』

 

 だがマグマ星人も黙ってはいない。狼狽したのは一瞬だけで、なのはとはやてが間合いにいる内に風を切り裂くサーベルを振るった。二人が危ない!

 この瞬間にフェイトはソニックフォームに変身。超高速機動でサーベルへ飛び込み、二刀を一つにしたライオットザンバー・カラミティを叩き込んだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 フェイトの一閃が、サーベルを半ばから切除。リーチが足りなくなったサーベルは空振りに終わった。

 

『なぁぁぁぁぁにいいいいぃぃぃぃぃぃぃッ!?』

 

 そしてマグマ星人がこれまで切り払ってきた魔法の残滓がなのはのレイジングハートを中心に集まり、彼女の代名詞の極大砲撃の発射準備が整ったのだった。

 

「スターライトブレイカ―――――っ!!」

 

 桃色の輝きの一撃がマグマ星人に直撃した!

 

『ぬぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッッ!!』

 

 それが決め手となり、マグマ星人は爆発して等身大の姿に戻り、土の上に突っ伏した。

 

『け、結局、何もかもダメだった……ガクッ』

 

 マグマ星人はそのまま力尽きて、気を失ったのだった。

 エックスもまた、グドンに対してとどめの攻撃を仕掛けていた。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 エクスディッシュ・アサルトより虹色のロードを発生させて、突貫したエックスがグドンに二連撃を入れた! ダークサンダーエナジーが除去される!

 

「グオオオオオオ!」

 

 グドンの真っ赤に染まっていた眼球に、白目が戻った。正気に戻った証拠だ。

 エクシードXの状態を解いたエックスを中心にして、ザナディウム光線発射前の閃光がX字に走る。その輝きの一部は学院を包んだ。

 

「わぁ~……!」

 

 人々はまぶしくも温かい閃光を、感嘆して見上げた。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 そして遂に、グドンにザナディウム光線が命中!

 

「グオオオオオオ!」

 

 爆発を起こしたグドンは身体を圧縮され、スパークドールズの姿に戻ったのだった。

 

「やったぁーっ!」

「うおーっ! いいぞー!」

「ありがとう、エックスーっ!」

「きゃああぁぁぁぁぁエックスぅぅぅっ! あっ! 今私の方見ましたよねぇっ!」

「ちょっと興奮しすぎだぞオイ」

 

 助けられた人たちは一斉に歓声を上げ、エックスへと大きく手を振った。

 エックスは彼らに対して少し恥ずかしそうに手を振り返し、なのたたちに感謝の念を込めてうなずくと、大空に飛び立って学院前より去っていったのだった。

 

「シュワッチ!」

 

 なのはたちは敬礼してエックスを見送った。

 

 

 

 ウルトラマンエックスたちの尽力によって、怪獣・異星人による被害は奇跡的にゼロに抑えられた。マグマ星人はXioに逮捕されていき、学院祭は無事に再開されたのだった。

 そして終演のセレモニー。全生徒が校庭で魔法の聖火を囲み、聖歌斉唱する姿を、ダイチたちは遠巻きにながめている。

 

「今年も素敵だね~」

「うん♪」

 

 なのはとフェイトが言葉を交わすと、ダイチが次のことをつぶやいた。

 

「こうして無事に終われてよかった。あんな風にみんなの楽しそうな顔を見てると、がんばった甲斐があるっていつも思うよ」

「何カッコつけたこと言ってんだよ、こいつは~」

 

 ノーヴェがふざけ半分にダイチのこめかみをぐりぐりした。

 

「お前今回何もしてないだろうが。全くいっつも肝心な時に役に立たないで、男として恥ずかしくないのかぁ?」

「ああっちょっとやめてよっ!」

 

 ダイチが悲鳴を上げ、なのはたちに軽く笑われる中、イクスヴェリアがスバルに囁きかけた。

 

「ん……そうだね、イクス。みんなすごく綺麗だね!!」

 

 ヴィヴィオたちの楽しげな様子にスバルがそう言うと、イクスヴェリアは満足そうにうなずいたのであった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はグア三兄弟だ!」

ダイチ「モルド、ギナ、ジュダの三兄弟は、『アンドロメロス』の悪役! 様々なファイティングベムを引き連れ、物語全体を通してアンドロ超戦士たちと激闘を繰り広げたぞ!」

エックス『三人の魂が合体したものが、ボスのグアの正体だったんだ。そのグア自体の活躍は……うん……』

ダイチ「その後ジュダは、『ウルトラマン物語』の悪役としてまさかの抜擢! 数万年に一度復活する宇宙の悪魔として設定を一新されたんだ」

エックス『この時一緒に生まれたのが、あのグランドキングだ』

ダイチ「そして長い時を経て『ウルトラファイトビクトリー』と『ウルトラマンX』でまさかの三人とも復活! 設定は『アンドロメロス』と『ウルトラマン物語』の両方を足したように変化していたぞ」

エックス『まさかの復活に、昔からのファンの方々も驚いたことだろうな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 娘の幸せと平和への責任。カミキ隊長にとって、どちらも捨てられない大切なもののはずだ。俺たちXioは、その思いを守るために全力を尽くす! 行って下さい隊長! 怪獣は俺たちが止めてみせます! 次回、『戦士の背中』。


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戦士の背中(A)

 

「十五年前、ウルトラ・フレアによって、次元世界各地に怪獣が出現するようになった。それを退治しなければ、皆さんの生活や命が危ない。だからこそ、私たちXioがいて……」

「あの巨人を援護しろ」

「援護だっ!」

「果たして、私たちの活動が正義といえるのだろうか……」

「二度と忘れるな」

「ゴモラのことは誰よりも知っています!」

「たとえ家族の間柄でも」

「身近な存在だから何でも知ってるとは限らない」

「フェイズ4! 攻撃開始!」

 

 

 

『戦士の背中』

 

 

 

 夜の帳に包まれているミッドチルダ郊外部。その野山の合間の平野が急に揺れ、直後に地面が弾けて地中から巨大生物が這い出てきた。

 

『アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!』

 

 古代怪獣ゴメス、それの大型。ゴメスは咆哮を上げて近くの町に侵入し、民家を踏み潰して町を荒々しく横断していく。

 ――それが、Xioのオペレーション本部のメインモニターに映し出された映像の一部始終だ。

 

「本日午前4時13分、エリアT4-7の映像です」

 

 町の定点カメラが捉えたゴメスの姿を、特捜班が神妙な面持ちで見つめた。

 

「その後近郊で、異常な局所地震が観測されており、怪獣は地下を移動している可能性が高いと考えられます」

 

 アルトの報告が完了すると、カミキは部下たちに振り返った。

 

「ダイチ、至急この怪獣を分析してくれ。各隊員は、移動している震源の情報を収集!」

「了解!」

 

 特捜班が行動を開始する中、Xioの一般局員が作戦本部に入室してきた。

 

「失礼します。隊長に速達です」

「ありがとう。お疲れさま」

 

 カミキが受け取った封筒の裏には、二人分の名前が記されている。

 その内の一方は、「ヒロミ・カミキ」とあった。

 カミキが封を開いて手紙を広げると……その中身は、結婚式の招待状であった。

 そして出欠席の確認の用紙には、「暇なら来てください。」という付箋が貼ってあった。

 手紙を読み、左脇を押さえたカミキの様子に、クロノが気づいた。

 

 

 

 特捜班は着々とゴメスの情報の収集、分析を進めていた。

 

「ところでノーヴェ、さっきヴィヴィオちゃんたちが来てたけど」

 

 その途中で、ダイチがふとノーヴェに呼びかけた。

 

「ああ、そうか。でも今日はあいつらの監督はしてやれねーな。この通りだからな」

 

 ノーヴェが返答した一方で、ワタルが不意にため息を吐いた。

 

「あの高町一尉の娘さんたちを見ると、毎度子供っていいなぁって思うんだよなぁ。俺も早く結婚して、自分の子供が欲しいぜ」

「急に何言ってんだよ」

 

 ハヤトに突っ込まれると、ワタルは軽く肩をすくめた。

 

「いやさ、さっき副隊長にお子さんのビデオメールを見せてもらってさ」

「それで意識してんのか」

「……そういえば、隊長にはお子さんっているのか? そういう話、一度も聞いたことないけどよ」

 

 ワタルのふとした疑問に、ダイチたちは思わず顔を見合わせた。

 

「……さぁ。俺も隊長から、自分の家庭の話を聞いたことないです。スバルはどう?」

「あたしも」

 

 他の皆も同じであった。ノーヴェが眉間を寄せる。

 

「思えば、隊長の私生活って謎だよな。この基地に住んでんじゃないかってくらい、いっつもここにいるし。今はいないけどさ。隊長、どこ行ったんだ? さっき出てったきり戻らねぇけど」

 

 ノーヴェの問いにディエチが答えた。

 

「外出したみたいだよ」

「え? 外出? あの人が、この状況で? 珍しいこともあるもんだ」

「そういえば、さっき手紙を受け取ってたけど……」

 

 ダイチたち全員が不思議そうな顔をしていると、カミキと同様に退出していたクロノが戻ってきた。

 

「あっ、副隊長。隊長が外出したって聞きましたけど、何かあったんですか?」

 

 ワタルが早速尋ねかけると、クロノは神妙な顔で答えた。

 

「……隊長は、娘さんに会いに行かれた。明日、娘さんの結婚式があるから」

「えっ……!?」

 

 途端に一同、騒然となった。

 

「そ、そんなおっきな娘さんいたんですか? いや、いてもおかしくないお歳ですけど」

「全然知らなかった……」

 

 つぶやくワタル、スバル。ハヤトはクロノに聞き返す。

 

「何で隠してたんですか?」

「……別に隠してた訳じゃないだろう。ただ……話したくとも、出来なかったんじゃないかと思う……」

「どういう……ことですか?」

 

 ダイチの問い直しに、クロノはカミキのことについて説明を始めた。

 

「カミキ隊長は……娘のヒロミさんと、まともに口も利いていないと聞いてる。十一年前、奥さんが病死されて、隊長が奥さんの最期を看取れなかった時からずっと」

 

 奥さんが病死、と聞いて、ダイチたちは思わず息を呑んだ。

 

「看取れなかったって、どうして……」

「十一年前は、まだ怪獣災害のピーク時だった。隊長はその時分でも三等陸佐。怪獣災害が発生したら、とてもじゃないが出向かない訳にはいかない立場だった。奥さんの危篤時にも、怪獣が出現してしまい……病院に駆けつけた時には、もう遅かったと聞いてる。それ以来、ヒロミさんとの仲はこじれたままだそうだ……」

「隊長……そうだったんですか……」

 

 スバルたちは伏し目がちになって、各々顔を見合わせた。

 

 

 

 その頃なのはは、管理局の訓練施設を目指して市街の中を車で移動中だった。

 しかしその道中で、自動車店の軒先で見知った人物が若い女性と話をしているのを目に留めた。

 

「あれは……」

 

 その人物は、外出中のカミキだった。話している相手は、娘のヒロミだ。

 

「――ほんと、あたしのことは気にしなくていいから」

 

 ヒロミは父に対してそう告げると、自らの職場である店舗内に早足で引っ込んでいった。カミキはそれを制止しようとしたが、手は途中で止まった。

 力なく踵を返してその場を立ち去ろうとするカミキに、この店に立ち寄ったなのはが呼びかける。

 

「カミキ隊長さん」

「高町一尉……」

「今、そこを通りがかりまして……すみませんが、見させてもらいました」

 

 なのはは店内のヒロミの姿をじっと見やる。

 

「クロノくんから話は聞いてます。……彼女が、隊長の娘さんなんですね」

「ああ……」

「何でも、明日彼女の結婚式だそうで……」

「そこまで聞いてたか……」

 

 深いため息を漏らしたカミキは、自嘲を始める。

 

「普通、娘の結婚というものは、交際相手が娘の父に許可をもらいに来るものだろう。他にも、相手の両親と顔を合わせたり、式の内容、段取りを相談したり……。だが、私は今日初めて結婚のことを知らされた。結婚相手は、顔も知らん……。ヒロミは何もかもを、私抜きで進めたということだ。……こんな情けない父親が他にいるだろうか」

「隊長さん……」

「仕事の上では、怪獣災害ピーク時に八面六臂の活躍をした英雄ともてはやされることもあるが……これが英雄の素顔だ。さっき娘に、私の役目は頭では理解していても、辛いと言われてしまったよ……。私事においては、一番身近な人を救うことが出来ない……全く、私は駄目な男だ……」

 

 顔を伏せるカミキを、なのはが懸命な表情で励ます。

 

「そんなことはありません! 隊長さんは、いつも誰よりも頑張ってるじゃないですか! クロノくんから聞いていて、そのことがよく分かります」

「高町一尉……」

「確かに戦士の仕事は、帰りを待つ人には分かってもらいがたいものです。でも……一生懸命な気持ちは、どんな立場の違いがあっても、必ず人に伝わるものだってわたしは思います。ヒロミさんだって、本当にあなたを嫌ってるのなら、結婚の話自体をしないはずです」

 

 なのはは同じく娘を持つ身として、カミキに対して自分のことのように熱心になっていた。

 

「今からでも遅くはありません。いえ、家族の間で遅いことなんてないはずです。隊長さんの思う気持ちが本物なら、ヒロミさんと仲直りが出来るはずです……!」

「……」

 

 なのはの話すことを静かに聞いていたカミキだが、彼のジオデバイザーに緊急通信が入った。それに出たカミキに、アルトが開口一番に報告した。

 

『ゴメスがエリアS2-6に出現しました!』

 

 カミキは即座に隊長としての顔になった。

 

「了解! 全員、出撃態勢は整ってるか?」

『現在各隊員が、出撃準備中』

「完了次第出撃! すぐ戻る」

 

 通信を終えたカミキはなのはに黙礼した後、すぐにその場から離れていった。その後ろ姿を、店内からヒロミが見つめていた。

 

「……」

 

 そんなカミキとヒロミの姿を見比べたなのはは、何かを思案する顔となった。

 

 

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

「落ち着いて避難して下さい!」

 

 ゴメスは都市部に侵入し、被害を出し続けていた。たくさんの市民がゴメスから逃げていく中、Xio特捜班は必死にゴメスに立ち向かう。

 

「最大出力! 発射っ!」

[ウルトラマンの力を、チャージします]

「食らえーっ!」

 

 ディエチのイノーメスカノンの最大出力や、ウルトライザー・シュートがゴメスに浴びせられる。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 だがゴメスの勢いは一向に衰える様子を見せない。

 

「何て頑丈……!」

 

 抗うディエチたちの額に冷や汗が浮かんだ。

 その頃、オペレーション本部にカミキが戻った。

 

「すまなかった。状況は?」

 

 カミキはクロノに問いかける。

 

「劣勢です。こちらの攻撃の効果が上がりません」

 

 迫るゴメスにディエチたちが危ない状態になりつつあるのを見て、カミキが指示を下す。

 

「一時撤退! 防衛線を下げて、態勢を立て直せ!」

 

 

 

 ダイチは人の気配のないところへ行くと、エックスに呼びかけた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よし、行くぞ!』

 

 素早くエクスデバイザーを起動し、ユナイトを行う。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 変身を遂げたエックスは、飛び込む勢いできりもみ回転キックをゴメスに食らわせた。

 

「ヘァッ!」

「アアオオウ!」

 

 流石にその一撃は耐えられず、ゴメスはその場に倒れ込む。

 着地したエックスはすぐさま地を蹴って、ゴメスに向かっていって格闘戦を開始した。

 

「ヘアァッ! テヤッ!」

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 ストレートパンチやミドルキックを浴びせてゴメスを弱らせようとするエックス。だがゴメスのタフネスはかなりのもので、一向に攻撃の効果は出ずにエックスに掴みかかってくる。

 その手を受け止めたエックスだが、ゴメスから伝わってくるあまりのパワーにダイチは苦悶の顔となった。

 

『「何て力だ……!」』

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 尻尾を横薙ぎに振るってくるゴメス。その一撃を食らったエックスが思い切り吹っ飛ばされる!

 

「グワァッ!」

 

 ビルに激突してようやく停止する。ビルは衝撃で外壁がひび割れて傾いてしまった。

 ゴメスの凄まじい怪力に対抗するため、ダイチはモンスジャケットを使用することにした。

 

『「ベムラーダだ!」』

 

 破壊力の高いゴメスと渡り合うには、防御が肝心。そう判断して、ベムラーダを展開する。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

[ベムラーダ、セットアップ]

 

 だがゴメスの尻尾の強打は、シールドつきの槍で受け止めてもエックスが押されるほどであった。

 

「グッ!」

 

 槍の穂先を地面に突き立てることでどうにか減速、停止する。槍をゴメスへ構え直して、反撃の用意を固めた。

 

『「ベムスターアングリフ!」』

「セアッ!」

 

 ロケット噴射によって突撃していくエックス。ゴメスは猛烈な速度のエックスにはね飛ばされて横転した。

 

『「一気に行くぞ!」』

『ああ!』

 

 エックスはベムラーダを解除するとともにザナディウム光線の構えを取った。

 

「アアオオウ! アアオオウ!」

 

 しかし後少しで発射できるというところで、ゴメスはバタフライのような腕の動きで道路を砕き土をかき分け、地中に潜っていく。

 

「テッ!?」

 

 たちまちの内にゴメスの巨体が土中に隠れてしまい、エックスもそれ以上手出しすることが出来なくなってしまった。

 

 

 

 その日の夜遅くになっても、ゴメスは地上に上がってくることはなかった。

 

「現在、エリアS2-9に停止中です」

 

 モニターの映像の中に、レーダー上のゴメスの反応が表されていた。ゴメスを示す光点は、元の場所から少しも動いていなかった。

 

「地上からの生体反応は微弱です」

「了解」

 

 ルキノの報告で、ワタルが飄々とつぶやく。

 

「かなりダメージを受けたはずだから、当分動けないんじゃないかな」

 

 カミキを安心させようと思ってのひと言だったが、逆にカミキにたしなめられる結果となった。

 

「油断は禁物だ。交代で監視に当たれ」

「了解」

 

 ダイチは席に着いて、レーダー上のゴメスの監視を始める。

 しかしふと顔を上げ、神妙な面持ちのカミキへと目をやり、重い顔つきになって顔を伏せた。

 

 

 

 翌朝。ダイチは基地の屋上にカミキを呼び出して、言葉をぶつけた。

 

「隊長……俺……理解できません、隊長と娘さんのこと。近くにいるのに何年も会わないなんて……」

 

 家族を失った身のダイチは、カミキの娘との関係を、自分のことのように案じていたのだった。

 

「行って下さい、結婚式……!」

 

 頼み込むダイチに、カミキは重々しい表情で返答する。

 

「……ダイチ、お前の気持ちはありがたいが、私は十一年前にも人を守ることを選んだ。今更、この仕事を投げ出す訳には……」

「そのご心配なら無用です、カミキ隊長さん」

 

 不意に会話に割り込む声。振り向くと、屋上の出入り口から特捜班のメンバーを引き連れて、なのはとはやてが近づいてきていた。

 

「なのはさん! はやてさんも!」

「……君たち、どうしてここに?」

 

 カミキの問いかけに、はやてが敬礼しながら答える。

 

「カミキ一佐。本日一日に限り、Xioの指揮をわたし、八神はやて二等陸佐が代行致します」

「何?」

「統幕議長より特別に許可を頂いてきました」

 

 ミゼットの署名が入った許可書を見せて証明するはやて。カミキはなのはの方に目を向ける。

 

「……高町一尉、君の根回しか」

「流石、お鋭いですね」

 

 苦笑したなのはが、毅然とした顔でカミキに告げた。

 

「娘の結婚式は人生で一度の、大事なイベントです。父親が欠席なんてことは、あってはいけません。父親の代わりが出来る人なんて、世界のどこを捜してもいないんですから。――万が一の場合に備えて、わたしも待機してます。だからこの場はわたしたちに任せて、どうぞ気兼ねなく出席なさって下さい」

 

 なのはだけでなく、チンク、ハヤト、ウェンディ、スバルらも結婚式への出席を勧める。

 

「怪獣の監視は私たち全員で、責任を以て行います」

「娘さんの花嫁姿、見に行ってあげて下さい」

「見逃したら一生の損っスよ!」

「後のことはあたしたちに任せて下さい!」

 

 クロノもまた、カミキを送り出そうとする。

 

「隊長、私も皆についてます。どうぞご心配なく」

 

 皆がカミキのために働きかける様子に、ダイチは表情を輝かせた。

 そしてカミキもまた、微笑みを浮かべてうなずいた。

 

「これだけ言われて、なおも断るのは最早無礼だな……。全く私は、存外の幸せ者だ……」

「隊長、じゃあ!」

「式に出席してくる。――皆、本当にありがとう……!」

 

 その返事に、ダイチたちは全員静かな歓喜を表情に表した。

 

 

 

 こうしてカミキは荷物を片手に、Xioベースから外へ出てヒロミの結婚式が行われる教会へ向けて足を運び始めた。

 ――しかしその道中には、言い知れぬ不穏な雰囲気の風が終始吹いていた。

 



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戦士の背中(B)

 

 カミキを送り出した後、特捜班と隊長代理のはやてたちは総出でゴメスの動向を監視していた。

 

「ゴメス、S2-9地下に潜伏したまま活動の兆候を見せません」

「頼むから、そのまま大人しくしといてくれよ……」

 

 ノーヴェが天と、ゴメスに対して祈った。

 皆が緊張を持続させている中、ダイチはそっとなのはに話しかける。

 

「なのはさん、ありがとうございます。カミキ隊長のために、ここまでしてくれて……」

 

 なのははカミキとの会話後、親友のはやてを始めとした様々な人たちに協力を仰ぎ、カミキが結婚式に出られるように、彼の役割をはやてに担ってもらうようにしたのであった。

 

「ううん、お礼を言われることじゃないよ。わたしが、隊長さんに自己投影しただけだから」

 

 なのはは少し遠い目をしながら、己の心境を語り始める。

 

「隊長さんの苦悩は、わたしにとっても他人事じゃない。わたしも、今は家事を優先できてるけど、この先怪獣災害がひどくなったり、他に大事件が発生したりしたとしたら……同じようにヴィヴィオが辛い時に、側にいてあげられないかもしれない……」

「なのはさん……」

「だから、自由に出来る内に子供の側にいてあげるべきって思うの。隊長さんも、昔出来なかったことを取り返してもらいたい。それに、やっぱり娘の結婚式にお父さんがいないなんてダメだからね」

 

 クスッと微笑んだなのはは、申し訳なさそうに告げる。

 

「本当ならフェイトちゃんたちにも来てもらった方が安心させられたと思うけど、流石に一日じゃそこまで根回しできなくて。ごめんね、力不足で」

「い、いいえ! そんなことは全然! なのはさんとはやてさんがいてくれるだけで、もう十分心強いですよ!」

「ふふ、ありがと。――わたしたちで絶対に、隊長さんの代わりにミッドを守り抜こうね」

「はいっ!」

「もっとも、このまま何事も起こらないのが一番なんだけど……」

 

 と願いなのはだが……はやてはS2-9の現場の映像を、若干険しい目つきで見つめていた。

 

「何だか空模様が嫌な感じやね……。はっきりしない天気っていうか」

「そうでしょうか?」

 

 ディエチにははやての言うことがよく分からなかったが、はやては現場のデータを注視して、弾かれたようにアルトとルキノへ振り返った。

 

「エリア上空の電離層を調べてっ!」

「えっ?」

「この予感……外れてほしいんやけど……」

 

 だが残念なことに、そうはいかなかった。エリアS2-9の上空に暗雲が急激に立ち込め、渦巻き出したのだ。

 直後にダークサンダーエナジーが落下し、ゴメスが地上に飛び出してきた! その瞳は真っ赤に染まっている。

 

「ゴメスが再び現れましたっ!」

「嘘だろ!? よりによってこんな時にっ!」

 

 悲鳴を上げるワタル。はやては即座に叫んだ。

 

「都市防衛指令発令! 何としてでも取り押さえるんや!」

「了解!」

 

 特捜班と、なのはが直ちに出動していく。

 なのはは目つきに力を込め、固い意志を抱えて駆けていった。

 

 

 

「ピギャ――――――! シャウシャ――――――!」

 

 ダークサンダーエナジーで強化されたゴメスは、一歩進むだけで街を踏み砕き、爆炎を巻き起こす。

 この怪獣災害の現場に、特捜班が到着した。なのはが全員に向けて呼びかける。

 

「隊長さんはわたしたちを信じて結婚式に向かった! その信頼に、絶対報いるんだよ!」

「はいっ!!」

 

 特捜班は総動員でゴメスに立ち向かう。スカイマスケッティの光子砲が、ウルトライザーが、レイジングハートが、各隊員の武装が全てゴメスに向けられた。

 

「ウルトライザー・シュート!!」

「トラァーイっ!!」

「エクセリオンバスターっ!!」

 

 全火力を結集した集中砲火がゴメスに直撃した! 通常の怪獣なら三体は纏めて薙ぎ倒せるだけの威力!

 

「アアオオウ! アアオオウ! ピギャ――――――!!」

 

 ……だが、ゴメスには一瞬だけ動きを止める程度の効果しか上げなかった!

 

『ちくしょう……! これで駄目なのか!?』

「あきらめるなぁっ! 隊長に顔向けできねぇぞっ!」

 

 マスケッティ内のハヤトの泣き言に、ワタルが叱咤を飛ばした。

 ダイチはゴメスへ向かって走りながら、エクスデバイザーを構えた。

 

「エックス、今度こそあいつを止めるぞ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 ダイチは再びエックスとユナイト。ゴメスの前に着地する。

 

『ダイチ、捕まるなよ! 力勝負じゃ敵わない!』

『「ああ! 速攻で決めるぞ!」』

 

 ダイチは早速エクシードXへの変身を行おうと、スパークドールズを取り出そうとする。

 

「ピギャ――――――!!」

 

 だがその瞬間に、ゴメスの背びれが怪しく発光。そしてゴメスの口からすさまじい熱量の熱線が放たれた!

 

「ウワァァッ!?」

『「うわああああああっ!!」』

 

 ゴメスに本来備わっていない能力の攻撃を見切ることは出来なかった。熱線の直撃がエックスに重大なダメージを与え、ダイチはエクシードXへの変身を行えなかった。

 

「アアオオウ! アアオオウ! ピギャ――――――!!」

 

 膝を突いたエックスにゴメスが飛びかかり、鋭い爪を振るって猛攻撃を加える。エックスは相手の更に強まった超怪力に叩きのめされる。

 

「テヤァッ!」

 

 エックスは懸命にこらえて反撃のパンチを入れるが、ゴメスには蚊ほども効いている様子がない。逆に踏みつけを食らって地にねじ伏せられた。

 

「やめろぉぉぉ―――――っ!!」

 

 ノーヴェたちがウルトライザー・カートリッジをこの一戦で全部使い切ってしまうほどの勢いで消費し、ゴメスに砲撃を浴びせるのだが、ゴメスは振り返りもせずにエックスを攻撃し続けた。なのはもまた砲撃を放ち続けるも、結果は同じだった。

 全体の指揮を執っているはやてが、スバルに指示を出した。

 

『スバル、デバイスゴモラを出すんや!』

「了解!」

「俺がカバーする!」

 

 スバルがデバイスゴモラを召喚するまでの間、ワタルがウルトライザー・シュートでゴメスを射抜いて隙を作ろうとした。

 

「ピギャ――――――!!」

 

 だがそれが裏目に出た。ゴメスは突然首を上げ、砲撃が飛んでくる方向全部に熱線を振りまき出したのだ。

 

「あっ――」

 

 熱線がスバルとワタルの方に向かってきて――轟音とともに爆発が発生した。

 

 

 

 カミキはその頃、駅の前までやって来ていた。今の時間ならば、式が始まるまでには十分間に合う。

 しかし街頭テレビで、怪獣出現とXioの交戦開始の緊急速報、交通整理の案内を目の当たりにしたことにより彼の足取りが止まった。

 

「……」

 

 少し考えた後、カミキはアルトに通信を入れた。

 

『あっ! た、隊長!? どうしたんでしょうか?』

「怪獣が再出現したようだな。皆は大丈夫なのか」

 

 アルトは思わずルキノと目を合わせた。はっきり言ってしまえば、状況は良くない。

 しかしアルトは、カミキには逆の内容を伝えた。

 

『ご心配なさらないで下さい、隊長。みんなよく戦ってますよ。直に作戦完了するでしょうから、隊長はどうぞ気にせずに式へ――』

 

 この瞬間が、スバルとワタルの反応が途絶えた時であった。

 

『スバル!! ワタル!! ち、直撃したんじゃないだろうな!?』

『ノーヴェ、すぐに二人の救助をっ!!』

『は、はいっ!!』

 

 クロノ、はやてらの怒号が通信に混ざり込んだ。

 

『……だ、大丈夫ですので! それではっ!』

 

 アルトは慌てて通信を切った。

 

「……」

 

 カミキは神妙な面持ちで、自身の左脇を押さえた。

 ――上着を開いて、そこから一枚の紙を取り出し、開いた。

 

 

 

 十一年前、妻の危篤時に怪獣が出現し、カミキは現場指揮を執ることを選んだ。

 状況が終了してすぐに病院に舞い戻ったのだが……その時には、病室にはベッドに横たわっていた妻も、その側にいた幼き日のヒロミもいなくなっていた。

 代わりに、ヒロミの描いたものと思われる絵だけが置かれていた。

 ――二人分の、目だけの顔が泣いている絵であった。

 

 

 

 カミキはその絵を開いた。あの日以来、自戒の意味で常に服の下に忍ばせ、何か悩んだり決断に迷ったりした時には、服の上からこれに触れていた。

 この絵に目を落としたカミキは、何かを決心した顔つきとなり、絵を畳んで戻すと踵を返した。

 

 

 

 特捜班はひたすらゴメスに攻撃をし続け、魔力もカートリッジもほとんど底を尽かせていた。

 それでもなおゴメスの勢いに衰えはなかった。

 

「グゥ……!」

「ピギャ――――――!!」

 

 エックスを掴んで抑え込んでいるゴメスは、口から一瞬熱線を吐き出してそのエネルギーを逆行させた。

 すると全身にエネルギーが駆け巡り、途方もない破壊力の衝撃波が発せられた!

 

「グワァァァ―――――――――!!」

 

 吹っ飛ばされ、地に倒れるエックス。カラータイマーが赤く点滅し、危機を知らせる。

 

「エックスっ! くぅっ……!」

 

 なのはもまた魔力が切れかかっていたが、それまでの攻撃で周囲に散らばった魔力の全てをレイジングハートにかき集め、最後の一撃の発射準備を整えた。

 照準をゴメスに合わせ、残った力全部を注ぎ込んだ、全力全開の砲撃を発射!

 

「スターライトっ!! ブレイカァァァ―――――っ!!」

 

 桃色の極大砲撃が宙を焼き焦がしながら飛び、ゴメスに迫る!

 

「ピギャ――――――!!」

 

 ――だが、ゴメスがすかさず振るった爪により、スターライトブレイカーはあえなく切り裂かれてしまった。

 

「そ、そんな……!」

 

 愕然となるなのは。流石の彼女にも、もうこれ以上の攻撃を続けるだけの体力は残っていなかった。

 

「アアオオウ! アアオオウ! ピギャ――――――!!」

 

 なのはたちの抗戦をはねのけ切ったゴメスは、いよいよエックスにとどめを刺そうとにじり寄っていく。

 

 

 

 なのはのスターライトブレイカーまで破られたのを見たはやては、険しい表情で踵を返した。

 

「クロノ副隊長! 指揮お願いっ!」

 

 はやては自ら現場に打って出て、ゴメスに挑んでいくつもりであった。だが彼女の力を以てしても、今のゴメスを止められるだろうか。

 ――はやてがオペレーション本部を飛び出していこうとしたその時、青い尻尾がゴメスに叩きつけられて、エックスから弾き飛ばした。

 

「え……!?」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴメスを弾いた尻尾の持ち主は、デバイスゴモラだった。

 

「デバイスゴモラ……!? まさかスバル!?」

 

 はやてたちは一瞬そう思ったが、スバルはちょうどノーヴェに瓦礫の下から、ワタルとともに助け出されたところだった。

 

「じゃあ誰が……?」

 

 本部のモニターが、デバイスゴモラの後方から、おもむろに歩いてくる男の姿を捉えた。

 見間違えるはずもない、カミキであった。

 

「……カミキ隊長、戻ってきてもうたんですか……」

 

 はやてたちは沈痛の面持ちとなり、目を伏せた。

 

 

 

 ――教会では、ウェディングドレス姿のヒロミがスタッフに連れられて、礼拝堂の入り口前まで来ていた。

 彼女は振り返り、空を見上げた。

 

 

 

 ――遠い空の下では、カミキがボクシングを彷彿とさせる拳の構えを取った。デバイスゴモラがその動きに連動して、クローつきの両腕を中段に構えた。

 

(♪結婚行進曲)

 

 ゴメスの熱線がデバイスゴモラへ向けて放たれる。ゴモラはカミキのコントロールにより、熱線をかいくぐりながら前に出てゴメスに接近していく。

 ――礼拝堂の扉が開かれた。花束を両手にしたヒロミを、万雷の拍手が迎える。

 ゴモラは熱線をかわし切り、ゴメスの懐に潜り込んだ。そこから右のクローの一打を、ゴメスの頬に叩き込む。

 

「ピギャ――――――!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 カミキのジャブの動きに合わせて、ゴモラのクローがゴメスに的確に入れられていく。魔導師ではないカミキではマッハキャリバー由来の能力は発動できないが、持ち前の戦闘テクニックを駆使してゴメスに対等に渡り合う。

 

「アアオオウ! アアオオウ!」

 

 ゴメスが反撃に出て、ゴモラにぶちかましを浴びせた。ダメージはデバイスゴモラを通してカミキにも伝えられ、カミキは一瞬ひるむ。

 

「ピギャ――――――!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 それでも二度目の体当たりは、かわすことに成功した。

 ――ヒロミは一歩一歩、バージンロードを進んでいく。

 

「ピギャ――――――!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴメスと激しく殴り合うゴモラ。それを操縦するカミキの額に、徐々に脂汗が浮かんでくる。

 やはり即興のシンクロでは波長が合わないのか、戦いが長引くに連れてゴモラの方が劣勢になっていた。カミキにも疲労とダメージが溜まっていく。

 ゴメスの爪がボディに入り、ゴモラはその場に倒れた。

 ――ヒロミは拍手の中、バージンロードの中ほどまで進んだ。

 救出されたスバルとワタルは負傷も押して地上に降りたなのはの元まで行き、瓦礫に埋まっていてまだ使っていなかった分のウルトライザー・カートリッジを分け与えた。

 

「なのはさん、これを!」

「ありがとう! 二人とも行くよ!」

 

 三人から光線が放たれ、ゴモラに迫っていたゴメスを撃ち抜いてその足を止めた。

 ――少しずつ新郎の元へ近づいていくヒロミ。

 なのはたちがゴメスを止めてくれたお陰でカミキはゴモラを立て直すことが出来、ゴモラはクローを構え直した。

 回復したのはカミキだけではなかった。エックスも立ち上がり、ダイチは今度こそエクシードXへの変身を行う。

 

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エックスはカミキと目が合うと、うなずき合い、エクスディッシュ・アサルトを手にゴメスに斬りかかっていく。

 

「アアオオウ! ピギャ――――――!!」

「セヤァッ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 エックスに一撃もらいながらも彼を突き飛ばすゴメス。そこにゴモラが掴みかかるが、反対に投げ飛ばした。

 

「デヤァッ!」

 

 エックスの振るう斬撃を、ゴメスは爪で受け止めて抗う。そこに横からゴモラが突進してきて角がぶち当たった。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 よろめいたゴメスに、渾身のエクスディッシュの振り下ろしが入った。

 

「デヤァーッ!」

「ピギャ――――――!!」

 

 その一打はゴメスに通り、ゴメスは後ずさりして大きな隙を作った。それを逃さず、ダイチはとどめの攻撃を発動。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 虹のロードがゴメスを包み込み、飛んでいくエックスがゴメスの身体を音速で斬りつけた。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 ダークサンダーエナジーが消え、元に戻るゴメス。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 エックスはエクシードXを解除。ザナディウム光線の構えを取る中、デバイスゴモラはエネルギーチャージしてゴメスに突っ込んでいった。

 

「あああああああああああああっ!!」

 

 叫ぶカミキ。ゴモラの角がゴメスに突き立てられる。

 

「超振動拳っっ!!」

「『ザナディウム光線っ!!」』

 

 ゴモラにかち上げられて宙に舞い上がったゴメスにザナディウム光線が命中。ゴメスは空中で爆発を起こす。

 火花が飛び散り、ゴメスの身体が圧縮されていく輝きを背にして、カミキは走り出した。

 

 

 

 結婚式場へ向かって走っていくカミキの元に、一台の車が急停止した。

 なのはが回した車だった。

 

「乗って下さい! 早く!」

「すまないっ!」

 

 運転席から叫んだなのはの言葉に従い、助手席に乗り込むカミキ。彼を収めると、車は式場に向かって発進した。

 

 

 

 カミキを乗せた車が教会の前に到着。直ちに降りたカミキは階段を駆け上がっていき、式場の扉を開け放った。

 ――誰もいなかった。

 

「そんな……」

 

 カミキの後を追ってきたなのはが遠くから中の様子を目にして、愕然と立ち尽くした。

 カミキはその場で、左の脇腹を手で押さえる。

 ――彼の左腕に通される、純白の腕があった。

 振り返ったカミキの顔を、純白のウェディングドレスのヒロミが見上げた。

 

「……お父さん……!」

 

 見つめ合う親子。カミキは無言で小さくうなずくと、二人はバージンロードを進み始めた。

 ――なのはは目尻に浮かんだ涙を指でぬぐい、二人に拍手を送る。

 なのはの瞳は、祭壇に向かって歩いていく花嫁の背中と、彼女を送る戦士の背中を見つめていた。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はゴメスだ!」

ダイチ「ゴメスは『ウルトラQ』第一話「ゴメスを倒せ!」に登場! 記念すべきシリーズ最初の怪獣となったんだ!」

エックス『着ぐるみはゴジラの改造。一緒に登場したリトラはラドンの人形の型から作られたんだ』

ダイチ「『ウルトラギャラクシー大怪獣バトルNEO』では大型のゴメス(S)として再登場。以降はこのSが基本となったね」

エックス『SとはSpecialの頭文字らしいぞ』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではダークサンダーエナジーの影響で大暴れして、エックスとXioをとことん苦しめたぞ!」

エックス『本放送日が11月3日だったから、元々の着ぐるみの改造元を意識した演出が数多かったな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 頻発する怪獣災害! 悪質宇宙人による犯罪ネットワーク! そんな脅威から、人々を守るXioの裏側に、カメラが独占初潜入! これを見れば、Xioの全てが分かる! 次回、『激撮!Xio密着24時』!


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激撮!Xio密着24時(A)

 

「警戒レベル、フェイズ3」

「Xio、出動!」

「了解!」

「ジオマスケッティ、出動!」

[ジオアトス、ジョイントゥジオマスケッティ]

「ファントン光子砲、発射!」

「油断は禁物だ」

「我々の任務に特別な一日はない」

「都市防衛指令発令!」

「必ず助けに行く!」

「何よりも果たさねばならない使命は、この次元世界を守ることだ」

 

 

 

 ――今、ミッドは狙われている!

 いつ襲ってくるか分からない怪獣災害!

 悪質異星人による犯罪ネットワーク!

 今夜の『ワイド・ミッドチルダ』は、続発する怪獣災害や異星人の侵略から市民の安全を守る、特殊防衛部隊Xio! その知られざる活動に完全密着する!

 題して!

 

 

 

『激撮!Xio密着24時』

 

 

 

(ナレーター:ハリー・カネコ)

 

 クラナガン郊外にそびえるXioの基地。周辺設備も含めて、2700人の人員が働く。対怪獣活動の一大拠点だ。

 ショウタロウ・カミキ隊長率いるXio特捜班は全チーム合わせて総勢12人。怪獣や宇宙人と最前線で渡り合う精鋭部隊だ。

 

 

『若手Xio隊員・その素顔とは?』

 

 

 特捜班メインメンバーのスバル・ナカジマ隊員。四年前のJS事件を解決した機動六課の元隊員であり、高い実力を評価されて特捜班に迎えられた。

 

(Xioベースの食堂。スバルのトレーに料理が山積みされている)

 

 ――この量を一人で召し上がられるのですか?

 

(スバル)「もちろんですよ! 現場は何よりも体力勝負ですからね。いっぱい食べて力をつけて、大勢の人を助けられるようにバリバリ働くんです!」

(スバル)「テレビの前の君も、たくさん食べて大きくなるんだぞ!」

 

 

 サブメンバーの四人はスバル隊員の姉妹。訓練生として入隊後、優秀な成績で特捜班に昇格した。

 

 ――もしXioに入隊していなかったら?

 

(ノーヴェ)「うーん。あんまり意識したことはないですけど、やっぱり管理局のどこかしらの部署には志願してたと思います」

(ウェンディ)「ノーヴェはストライクアーツの有段者で、ちびっ子たちのコーチもやってるんスよ!」

(ノーヴェ)「お、おい! 今それ関係ないだろ!?」

(チンク)「ノーヴェの受け持つ『チームナカジマ』は今年のインターミドルにも出場したんです」

(ノーヴェ)「チンク姉まで!」

(ウェンディ)「テレビの前の皆さん、どうかノーヴェと『チームナカジマ』をよろしくお願いするっス~!」

(ディエチ)「よろしく」

(ノーヴェ)「あーもうっ! そういう番組じゃないだろ!?」

 

 

『Xio精鋭隊員!ふたりのエース』

 

 

 ワタル・カザマ隊員。高等生時代、ラグビーのミッド代表にも選ばれたスポーツ青年。隊員歴六年になる猛者である。

 ハヤト・キシマ隊員。スカイマスケッティを操る、Xio特捜班の切り込み隊長だ。

 

 ――休日の過ごし方は?

 

(ワタル)「映画とか観てますかね……」

 

(苦笑するハヤト)

 

(ワタル)「何笑ってんだよ」

(ハヤト)「こんな顔して、恋愛ものが好きなんですよ」

(ワタル)「――一番ですか? 『ベルカの休日』ですかね」

(ワタル)「別の国の王女と王子の恋愛の話なんですけど……恋愛くらい普通にさせてあげたらいいのになーとか思って……」

(ワタル)「後はー……スポーツとか……あっちょっちょっ、すいません……!」

 

(急に席を立つワタル)

 

(ワタル)「ハヤト、そばの話ししてて……!」

(ハヤト)「――熱い男なんですよ、あいつ」

 

 

『初公開!スパークドールズ研究の最前線』

 

 

 何故怪獣はこうも頻繁に出現するのか? ラボチームのダイチ・オオゾラ隊員に話を聞いた。

 

(ダイチ)「こちらが、Xioミッド支部のラボです」

 

(カメラをラボに通すダイチ)

 

(ダイチ)「スパークドールズのほとんどは、ここミッドで確認されてるんですよ。他の世界での発見数の平均と比べると、実に87倍です」

(ダイチ)「そもそもスパークドールズは元々ミッドが発祥で、長年の次元間交流の中で一部が別の次元に散逸したという説が現在の主流です」

 

 我々は、これまで撮影されたことのないエリアの取材を許された!

 

(ダイチ)「ここでスパークドールズの怪獣の研究をしています」

 

(スパークドールズが種々の水槽に入れられている)

(水辺を模した水槽の中のスパークドールズを撫でるダイチ)

 

(ダイチ)「エレキング~気持ちよさそうだな~!」

 

(鳥の巣の中のスパークドールズを示すダイチ)

 

(ダイチ)「うちのバードンは、お腹の中に子供がいるので一番大変なんですよ」

(ダイチ)「……あっ、ちょっと今動きましたよ!」

 

(石のアーチの中のスパークドールズを紹介するダイチ)

 

(ダイチ)「一番仲のいいゴモラです」

(ダイチ)「こっち見てゴモラ? ……ゴモラ緊張していますね」

 

 ――これが巨大化して怪獣になるんですよね?

 

(ダイチ)「はい」

 

 ――こんな扱いでいいんですか?

 

(ダイチ)「と言うと?」

 

 ――遊んでいるようにしか見えませんが。

 

(ダイチ)「いいえ! これはれっきとした研究です。このように、本来の生息環境に似た場所に置いてあげることで、かなり感情が安定することがわかったんです!」

 

 ――怪獣に感情があるんですか?

 

(ダイチ)「はい、もちろん」

 

(デバイザーで怪獣の鳴き声を拾うダイチ)

 

(ダイチ)「ほら、楽しそうでしょう?」

 

 

『Xio隊員の兄 ハラオウン副隊長の素顔』

 

 

 クロノ・ハラオウン副隊長。カミキ隊長の右腕となって、情報分析、作戦立案を担当するベテランだ。

 

 ――副隊長としての部下との接し方は?

 

(クロノ)「世界を守ろうという熱意がすごいのですが、ともすれば熱意が一人走りする時があります。その熱意を大切にしつつ、私や隊長が冷静に判断できるように見守っていきたいと考えています」

 

 ――怪獣と向き合う時の判断基準は?

 

(クロノ)「スパークドールズから巨大化した怪獣が、まずは攻撃的な性質なのかを確認してから、次に……」

 

(鳴り響く警報)

 

 その時! 一本の通報が本部にもたらされた!

 

 

『女子大生を襲う魔の手! 悪質異星人出現?』

 

 

(アルト)「正体不明の異星人が出現!? わかりました、ありがとうございます」

(アルト)「エリアT9-6に正体不明の異星人が出現との通報がありました!」

(クロノ)「チンクとノーヴェはアトスで現場に急行。ダイチとスバルは至急現場の保全と鑑識活動に移れ」

(四名)「了解!」

 

 通報したのは大学生のAさん(仮名)。授業が終わり、部屋に戻ったところ、異星人と出くわしたという。

 

(アラミスの車内で被害者Aから事情聴取するスバル)

 

(A)「……奇妙に感じながら、部屋に入ってみたんです。そしたら……扉の陰に……真っ黒な宇宙人がっ!!」

(スバル)「特徴とか覚えてないかな?」

(A)「わからないです……!」

(スバル)「目はいくつあった?」

(A)「怖くて……よく見えなかったです……」

 

 Aさんの叫び声に、異星人は何も盗らずに逃げたという。

 

 

『悪質異星人を追え! 深夜のカーチェイス』

 

 

 犯人はまだ遠くへは行っていないはずだ。チンク、ノーヴェ両隊員は姿なき異星人を追う!

 その時! ノーヴェ隊員の目が何かを捉えた!

 

(ノーヴェ)「チンク姉! あいつ怪しくないか?」

 

(進行方向先に不審人物)

 

(チンク)「確かに怪しいな……。勘が告げている」

(ノーヴェ)「よっし、行こう行こう!」

 

(アトスを不審人物の横に停め、降車する二人)

 

(ノーヴェ)「お兄さん、ちょっといいか? あたしたちXioの隊員なんだけど」

(不審人物)「え?」

(ノーヴェ)「これからどこ行くんだ?」

(不審人物)「えっ……せ、銭湯に行くんです」

(チンク)「銭湯って、この辺にあるのか?」

(不審人物)「あっちに銭湯があるんです!」

(ノーヴェ)「へぇ?」

 

 怪しい……! この男の受け答えからは、悪のシグナルがにじみ出ている!

 

(不審人物)「あっちに住んでるんです!」

(ノーヴェ)「あっちってどっちだよ」

(チンク)「自分の住所がわからないのか?」

(不審人物)「四丁目……五丁目だよ」

(チンク)「はっきりしないな」

(ノーヴェ)「その袋の中見せて」

(不審人物)「いや、お銭湯行くから……!」

(ノーヴェ)「銭湯関係ないから」

(チンク)「早く見せるんだ」

(不審人物)「銭湯に行くんだって!」

 

 この後、男はとんでもない行動に出る!

 

(不審人物)「あぁーッ!」

 

(ノーヴェを突き飛ばした男がケムール人に変身する)

 

(ケムール人)「フォーフォ――フォ―――!」

(チンク)「乗れノーヴェ!」

(ノーヴェ)「合点!」

 

(逃走するケムール人を追いかけるアトス)

 

(チンク)「こちらジオアトス。逃走中の異星人を発見、現在追跡中!」

(クロノ)『こちら本部、了解。自傷事故防止に配慮するんだ。スバルとダイチも合流させる』

(チンク)「了解!」

(ノーヴェ)「緊急車両通ります! この先の交差点を左折します!」

(ノーヴェ)「そこの異星人! 止まれっ!」

 

 異星人は依然として狭い路地を逃げ続ける!

 

 

『このあと……

 浮かび上がる異星人犯罪組織! その恐怖の実態とは?』

 

 

 

(CM)

『ジオブラスターで攻撃!』(※イメージです)

『カートリッジを装填して、ウルトライザーモードに!

 [ウルトラマンの力を、チャージします]』

『ウルトラマンの光線を発射せよ!』

『DXジオブラスター!』

 

 

 

『悪質異星人を追え! 深夜の追跡劇』

 

 

 Xioの追跡は続く!

 

(デバイザー)『ダイチ! 逃走している宇宙人の動きを察知した! その階段を下りろ!』

(ダイチ)「わかった!」

(スバル)「あっ、ダイチ!」

(ダイチ)「すいません! すいません失礼します!」

 

(地下鉄駅の階段を駆け下りるダイチとスバル)

 

(デバイザー)『ここでストップ! 隠れろ!』

(ダイチ)「えっ!?」

(デバイザー)『3、2、1で飛び出すぞ!』

(ダイチ)「ちょっと待って、息が……!」

 

(ケムール人が近くまで走ってくる)

 

(デバイザー)『3、2……1!』

 

(飛び出したダイチがケムール人と激突)

 

(ダイチ)「うわっ!」

 

(転倒したケムール人を取り押さえるスバル)

 

(スバル)「待てっ!」

(ダイチ)「スバル早くっ!」

 

 ダイチ隊員の機転により、犯人は御用となった!

 

(スバル)「20時41分! 公務執行妨害で逮捕っ!」

 

(アトスに乗せられるのに抵抗するケムール人)

 

(ノーヴェ)「暴れるなこの野郎! チンク姉出してくれ!」

 

(ケムール人を押し込み、走り去るアトス)

 

〈ケムール人、逮捕!〉

 

 

『異星人犯罪の全貌解明!』

 

 

 平和な日常生活に侵入したケムール人。その目的は何なのか……。

 調べが進むにつれ、とんでもない事実が明らかになった!

 

(ケムール人の袋の中から銃らしきものが出てくる)

 

(グルマン)「これは……! 厄介なものが出てきたな」

(ダイチ)「なんですか、これ?」

(グルマン)「小型の物質縮小機だ!」

(グルマン)「恐らく奴は女子大生を縮小させ、誘拐するつもりだったのだ」

 

(袋には女子大生の写真が何枚も入っている)

 

(ダイチ)「なぜそんなことを?」

(グルマン)「人間標本を作るためさ」

(ダイチ)「人間標本!?」

 

 グルマン博士の言う人間標本とは何か?

 

 

『悪質異星人を取り調べ ホトケのカミキの人情捜査』

 

 

 ケムール人に対する取り調べは連日、長時間に亘って行われた。

 

(ノーヴェ)「いい加減何か言ったらどうなんだぁ!?」

 

(机を叩くノーヴェだが、ケムール人は無視)

(取調室でカミキに経緯を報告するクロノ)

 

(クロノ)「ダメです。完全黙秘ですね」

(カミキ)「……私が代わろう」

(クロノ)「失礼します」

 

(クロノとノーヴェに立ち代わり取調室に入るカミキ。ケムール人にカツ丼を差し出す)

 

(カミキ)「腹減ってんだろ。食えよ」

 

(カミキ)「おふくろさんは元気か」

 

(うなずくケムール人)

 

(カミキ)「最近連絡もとってないんだろう? いかんなぁ……」

(カミキ)「たまには、手紙の一つでも書いてやれよ……」

 

 待つこと6時間……。

 

(取調室から出てくるカミキ)

 

(カミキ)「自供したよ」

(クロノ)「完オチですか!? どうやって……」

(カミキ)「いやなに……彼の故郷の話を聴いてやっただけだ」

 

 ショウタロウ・カミキ隊長……。その柔和な笑顔の陰に、プロフェッショナルな誇りが見える!

 

 ――隊長として心がけていることは?

 

(カミキ)「我々の仕事は、ただ怪獣を倒したり、異星人を捕まえたりするだけじゃないですからね」

(カミキ)「『自分たちが正義』という考えで固まっちゃうと、かえって本質が見えなくなることもあるんですよ」

 

 

『白昼の逮捕劇! 人間標本製造工場を摘発せよ!』

 

 

(不審な工場)

 

 ここは、アラル港の外れ。ケムール人の自供によると、ここに人間標本製造組織のアジトがあるというのだが……。

 

(工場周囲を見張る特捜班)

 

 張り込み開始から、2時間が経過した……。

 

(スバル)「……誰か出てきた!」

 

(怪しい女が裏口から出てくる)

 

 果たして、この女の正体とは!

 



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激撮!Xio密着24時(B)

 

(怪しい女が工場の裏手に回る)

 

(スバル)『こっちで追跡します!』

(ハヤト)「了解」

 

(女の後を追うダイチとスバル)

 

 女は赤いレインコート……。どうも様子がおかしい。頻りに辺りを見回している。

 

(茂みの陰に隠れながら女を追うダイチたち)

 

(女は木の前で立ち止まると、口から口吻を出し、それを木の幹に突き刺し始める)

 

(スバル)「な、何やってるのあれ?」

(ダイチ)「樹液を吸っているみたいだ」

(スバル)「やっぱり異星人なのかな……」

 

(樹液を吸った女は工場に戻っていく)

 

 気づかれると証拠隠滅の恐れがある……。隊員たちに緊張の色が走った!

 

(女が工場の中に入ると、スバルが報告を行う)

 

(スバル)「女性がアジトに戻りました!」

 

(時刻を確認するワタルとハヤト)

 

(ハヤト)「15時30分突入でいこう」

(ワタル)「了解」

 

『15時30分 作戦決行』

 

(変装したスバルが工場の裏口に向かっていく)

(扉をノックする)

 

(スバル)「すみませーん」

 

(扉から、先ほどの女が出てくる)

 

(女)「あんた誰や?」

(スバル)「(ピ――)に聞いて来ました。ここで高額のバイトがあるって」

 

(女はスバルの背格好を確かめる)

 

(女)「……入り」

 

(女が背を向けた瞬間、スバルはドアノブを掴んで扉を全開にした)

 

(スバル)「突入!」

(ワタル)「突入ーっ!」

 

(特捜班が一斉に工場内に駆け込んでいく)

 

(ハヤト)「動くな! Xioだ!」

(ワタル)「おとなしくしろー!」

(女)「あんたらなんや!?」

 

(バインドを掛けられる女)

 

(女)「はなせ!」

(ハヤト)「黒幕はどこだ!」

(女)「うちは何も知らんがな!」

(女)「はなせ! この(ピ――――)!」

 

(バインドから脱け出た女、カツラが取れてセミのような顔が現れる)

 

(ダイチ)「セミ女だったのか!」

(ワタル)「逃がすな逃がすな逃がすな!」

 

(逃げるセミ女を追って地下に下りる特捜班)

 

(ワタル)「もう終わりだ! 観念しろ!」

(ダイチ)「ダダもいた!」

 

(地下にいたダダ、光線銃で銃撃してくる)

 

(ワタル)「ハヤト追え追え追え追え! 追えー!」

 

(銃撃戦をしながら逃げるダダを追いかけるワタルとハヤト)

 

(女性)「助けてください!」

 

(縮小されてカプセルに入れられている女性が悲鳴を上げる)

 

(ダイチ)「救助に来ました! もう安心してください!」

 

(ワタルとハヤトの銃撃がダダに命中)

(スバルの拳がセミ女を昏倒)

(倒れたダダを捕らえるワタル)

 

(ワタル)「15時40分! 質量兵器取締法で逮捕ーっ! しゃあーっ!」

 

(セミ女をバインドで拘束するスバル)

 

(スバル)「15時40分、公務執行妨害で逮捕」

 

(Xioの鑑識到着後、セミ女とダダが連行されていく)

 

(ハヤト)「おとなしくしろ!」

 

(ダイチとスバルは女性を入れたカプセルをゆっくりケースに入れていく)

 

 三面怪人ダダに囚われていた女性たちが、解放されたのは言うまでもない。

 

 

『容疑者の語る恐怖の予言 ダークサンダーエナジーとは?』

 

 

(ダダを取り調べするワタルたち)

 

(ハヤト)「次元世界が滅びる?」

(ダダ)『そうだ、人類は絶滅する。その前にせめてかわいい女の子だけでも、サンプルを残してやろうという計画だ』

(ダダ)『私はこう見えても、人間が好きだからな』

(ワタル)「ふざけんなっ!」

 

(机のものを弾き飛ばすワタル)

(ダダは動じず、ダイチに問いかける)

 

(ダダ)『おい、お前は知っているだろう?』

(ダダ)『ある日突然、地上に暗黒の稲妻が落ちてくる。稲妻に打たれた怪獣たちは凶暴化し、すべてを破壊するようになる』

(ダイチ)「君はダークサンダーエナジーの正体を知っているのか?」

(ダダ)『そこまでは知らないさ。だが、このままでは確実に世界は滅ぶ。我々暗黒星団のホストがそう言っていたのだ』

(ワタル)「……ホストがそう言っていただとぉ? この三面記事ヤロォーっ!」

 

(興奮したワタルがダダの頭に掴みかかるのを制止するダイチ)

 

(ダイチ)「ワタルさん! ワタルさん、落ち着いてください!」

 

(ダイチとハヤトでワタルを抑える)

 

〈ダダ、逮捕!〉

(写真撮影時に顔を切り換えるダダ)

(ノーヴェ)「顔変えんなお前!」

 

 

『このあと……

 ついに大怪獣出現! 鮮魚市場大パニック!』

 

 

 

(CM)

『Xioの翼、スカイマスケッティ!』(※イメージです)

『更に、二台の車と合体してツーモードに変形!』

『DXスカイマスケッティ、DXジオアラミス&ジオポルトスセット!』

『Xio隊員メカ!』

 

 

 

『ついに大怪獣出現! 鮮魚市場大パニック!』

 

 

(アラル港湾地区付近の市街)

 

(ウェンディ)「どーもーお茶の間の皆さーん! ウェンディ・ナカジマっスー!」

(ディエチ)「ウェンディ、今はシャーリーさんとマリーさんの時間」

 

(カメラの前からウェンディを押しのけるディエチ。代わりにシャーリーとマリエルがカメラの前に出る)

 

(マリエル)「マリエル・アテンザです」(ウェンディ「えー!? ちょっとくらいいいじゃないっスかー! もっとテレビに出たいっスー!」)

(シャーリー)「シャリオ・フィニーノです! 私たちが最近頻発している謎の放電現象、ダークサンダーエナジーについて説明します!」(ディエチ「ダメ」)

(マリエル)「まず、ダークサンダーエナジー発生時には前兆として、急激な天候の悪化が起こりまして……」(ウェンディ「でもでも、あたしまだ全然カメラに映してもらってないっスよ! スバルやノーヴェばっかり……」)

 

(説明の途中で急激に暗雲が立ち込め、ダークサンダーエナジーが背景に落下する)

 

(シャーリー)「きゃあっ!? い、今のがダークサンダーエナジーです!」

(ウェンディ)「キター目立つチャンス! 見に行ってみましょうっ!」

(ディエチ)「あっちょっ、ウェンディ!?」

 

(落下地点へ走るウェンディだが、その目の前の地面を突き破って巨大なドリルが飛び出てくる)

 

(ウェンディ)「ひゃあー!? か、怪獣っスー!」

(ディエチ)「逃げて! 早く逃げてください!」

 

(一同、全速力でドリルから逃げていく)

 

(Xio本部に警報)

 

(ルキノ)「T-3BにタイプF出現!」

(ルキノ)「推定体長55メートル! 深海怪獣グビラと思われます!」

 

(モニターに街を侵攻するグビラの姿が映し出されている)

 

(カミキ)「フェイズ4発令!」

(クロノ)「ハヤトとワタルは怪獣を牽制、被害を最小限に食い止めること! スバルは逃げ遅れた人たちの避難誘導、ダイチは怪獣の分析!」

(四人)「了解!」

(アルト)「現場に居合わせたウェンディ、ディエチ両隊員は既に応戦を開始してます」

(ワタル)「運がいいんだか悪いんだか……」

 

(出動していく四人を追いかけるカメラ)

 

(スカイマスケッティが空から、ウェンディとディエチが地上から攻撃するが、グビラに効果はない)

 

(ウェンディ)「うあー! ウルトライザー全然効かないっスよー!?」

 

 ――グビラってどんな怪獣なんですか!?

 

(ダイチ)「すみません! 危険ですから下がってください!」

(ダイチ)「下がって、早く!」

 

 ――あの怪獣、めちゃくちゃ怒ってますよ!?

 

(ダイチ)「ダークサンダーエナジーで凶暴化しているんです!」

(スバル)「ここは危険ですから、早く避難してください!」

 

(スバルがスタッフを避難させようとしたが、カメラは物陰へ走るダイチに気がついた)

 

(ダイチ)「エックス、ユナイトだ!」

(デバイザー)『よし、行くぞダイチ――』

 

 ――ユナイトってなんですか!?

 

(ダイチ)「えっ!? ユ……ゆかないと、って言ったんですよ!」

 

 ――いや、ユナイトって……!

 

(ダイチ)「い、いいから下がって!」

(ウェンディ)「カメラさーん!」

 

(ウェンディがカメラを自分の方に向ける)

 

(ウェンディ)「そっちじゃなくて、あたしたちの戦うとこを撮ってっス!」

 

 ――ちょっとカメラ掴まないで……! あぁーっ!?

 

(ほとばしる閃光)

(カメラが振り返った先に、ウルトラマンエックスが現れる)

 

(エックス)「テッ!」

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

 

(グビラに掴みかかるエックスだが、グビラはドリルを回転させながらエックスを振り払う)

 

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

(エックス)「セアッ!」

 

(突進してくるグビラを跳び箱のように跳び越えるエックス)

 

(エックス)「ジュワッ!」

 

(エックスの全身が虹色の輝き、エクシードXに変身)

『お天気カメラ アラル港湾

 気温18.2℃ 湿度65% 風速2.3m/s』

 

(ウェンディ)「……ほらカメラさん、あたしと一緒に撮って! あれがエクシードXっスよぉ~キンキラでしょ!?」

(ディエチ)「ウェンディ! すみません……!」

 

(ウェンディの肩を引っ張るディエチ)

 

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

 

(潮を吹くグビラを定点カメラが捉える)

 

(エックス)「テヤァーッ!」

 

(グビラに拳を叩きつけるエックス。振り上げられるドリルをかわす)

 

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

(エックス)「テェヤッ!」

 

(のしかかってくるグビラを支え、倒れ込みながら地面に叩きつける)

 

(エックス)「デッ! ムゥッ……!」

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

 

(横倒れになったグビラを高々と持ち上げるエックス)

 

(エックス)「テヤァァァーッ!」

 

(鮮魚市場の屋根の上にグビラを置く)

 

(グビラ)「グビャ――――――――!!」

(エックス)「ジュッ!」

 

(グビラが動けない内に、エクスディッシュを手に取るエックス)

 

(エックス)「セヤァッ!」

 

(エクスディッシュから虹色の光を放ち、飛行しながらグビラを往復で二回斬りつける)

 

(グビラ)「グビャ――――――――!」

 

(グビラの眼の色が赤から元に戻る)

 

(エックス)「フッ!」

 

(エクシードXから元に戻ったエックス、大きく腰をねじる)

 

(エックス)「シェアァッ!」

 

(エックスからザナディウム光線が発射)

『お天気カメラ アラル港湾

 気温18.2℃ 湿度65% 風速2.3m/s』

 

(グビラに命中し、グビラは爆発してスパークドールズに圧縮された)

 

 

『ついにウルトラマンXにインタビュー敢行!』

 

 

(エックスが飛び立つ前に、レポーターがエックスにマイクを向ける)

 

 ――Xさん! インタビューいいですか!?

 

(エックス)「フッ!?」

 

 ――視聴者の皆さんになにか一言お願いします!

 

(エックスは戸惑った様子)

 

 ――Xさん、最後に一言だけ!

 

(エックス)「……シェア」

 

(手で×印を作るエックス)

 

(エックス)「シュワァッ!」

 

(飛び去っていくエックス)

 

 ――Xさーん!

 

 怪獣を凶暴化させるダークサンダーエナジーとは何なのか。ダダの予言、人類滅亡の真相とは? 現在もなお、捜査は続行中である。

 

(空を飛んでいくエックス)

『お天気カメラ アラル港湾

 気温18.2℃ 湿度65% 風速2.3m/s』

 

 

 ――座右の銘は?

 

(カミキ)「……一言で言うと……愛ですかね」

 

 

『Xioの戦いはこれからも続く』

 

 

(夕焼けのオペレーション本部に集うXio隊員)

 

 青く美しい次元世界。今日もこの世界のどこかで、悪質異星人の陰謀や巨大怪獣が蠢く。

 人々の平和と安全を守るXioに休息の時はない。昨日から今日、今日から明日へ……! 彼らの戦いは続く!

 

 

 

「……」

 

 ――『ワイド・ミッドチルダ』の特集『激撮!Xio密着24時』を観終えたスバルは、憮然とした様子で頬を膨らませた。そして口を開いて、

 

「……何であたしへのインタビューで使われたのが、ご飯食べてるところだけだったの? 他にも機動六課時代のこととか人命救助の心得とか、いいこといっぱい言ったのに! あれじゃあたしが食べることしか頭にないみたいじゃないっ!」

 

 ムカー! と怒鳴ったスバルに続いて、ダイチも不満をぶちまける。

 

「それを言うなら、俺だって! ちゃんとした研究なのにあれじゃ子供が遊んでるみたいですよ!」

 

 ワタルやウェンディたちも言う。

 

「大体な、俺のインタビュー何だよ!? あんなところ使いやがって!」

「やっぱりあたし、ほとんど画面に出てなかったじゃないっスかー!」

「俺なんかほとんどしゃべってなかったぞ……!」

「あたしも……」

「それはいつもだろ」

 

 ハヤトとディエチにノーヴェが突っ込んだ。

 それぞれがやいのやいのと編集の不平不満を並べていると、ノーヴェに通信が入る。

 

「あれっ、チビたちからだ」

 

 空間モニターを開くと、ヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナの四人の顔がどアップで映った。

 

『ノーヴェー! テレビ観たよー! カッコよかったよー!』

「うわっ!? お、お前たち……!」

 

 ヴィヴィオたちの大きな声に不意を突かれるノーヴェ。

 

『ダイチさんのスパークドールズ研究も、とてもよかったです……。勉強になりました』

「そ、そうかな?」

 

 控えめなアインハルトの言葉に、ダイチは恥ずかしそうにはにかんだ。

 コロナとリオはノーヴェに呼びかける。

 

『私たちの宣伝までしてくれて、ありがとうございますコーチ』

「いやぁ別に、あれはウェンディが勝手に言っただけで……」

『テレビ出演記念に、どこかお店で打ち上げしましょーよー!』

「おいおい、そう言ってあたしにおごらせるつもりだろ」

 

 楽しげに盛り上がるノーヴェたちだが、そこにチンクが咳払いした。

 

「歓談中すまないが、そこに副隊長がいるぞ。仕事はどうした?」

「あっ、そうだった! 後でまた!」

 

 慌てて通信を終え、姿勢を正す一同。しかし、

 

「……あれ?」

 

 クロノはこっちに背中を向けていた。何をしているのかとダイチたちが覗き込むと……。

 

『クロノくーん、放送観たよ! すごくよかった!』

『おとーさーん! かっこよかったー!』

「ああ、ありがとう」

 

 妻子と通信していた。クロノには珍しい、満面の笑顔。

 

「……!?」

 

 家族との会話を終えたところでようやく気配に気がつき、ハッと振り返ると、ダイチたちがニヤニヤ笑っていた。

 

「……何笑ってるんだ! エリアO-2の電離層の調査はどうした!」

「はい! すぐやりまーす!」

 

 恥ずかしまぎれのクロノに怒鳴られ、散っていった特捜班は自分たちの仕事、自分たちの役目に戻ったのであった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はケムール人だ!」

ダイチ「ケムール人は『ウルトラQ』第十九話「2020年の挑戦」に登場! 未来の時間に存在する星の人間で、老衰した肉体を捨て地球人の若い肉体を奪うために地球人の誘拐を行ってたんだ!」

エックス『衰えたと言っても、自動車が追いつけないほどのスピードで走ることが可能なんだ』

ダイチ「スーツのマスクは『ウルトラマン』最終回に、前後逆にしてゼットン星人のものとして使用されたんだ」

エックス『今ではゼットン星人の方は若干細めのマスクにして差別化してるな』

ダイチ「『ウルトラマンX』では九話と十六話の二回登場! 暗黒星団チームでラグビーしたり、女子大生を誘拐しようとしたりしたぞ」

エックス『見た目が見た目だから、いかがわしい所業がよく似合うな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 ファビアちゃんが出会った小さな怪獣、ピグモン。人知れず、友情が育まれていく。でも、街中に姿を見せたピグモンに、人々は大騒ぎ。その時、キングゲスラが街を襲う! 行くぞエックス、あの子たちの未来を守るために! 次回、『ともだちは怪獣』。


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ともだちは怪獣(A)

 
 ファビアについて現在提示されている情報が少ないので、多分に勝手な設定を入れていることを断っておきます。



 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「スパークドールズのほとんどは、ここミッドで確認されてるんですよ」

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「被害が拡大する前に、何か手を打たなければ!」

「他の世界での発見数の平均と比べると、実に87倍です」

「直ちに民間人を救出。被害を未然に防ぐぞ!」

『「ごめんな……ここはお前のいるべき場所じゃないんだ」』

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

 

 

 

『ともだちは怪獣』

 

 

 

 Xioベースのオペレーション本部に、スバルたちが無数のカプセル入りのアタッシュケースを運び入れた。一つ一つのカプセルの中には、スパークドールズが収められている。

 

「これで新たに回収された分は全部です」

「このスパークドールズもかなり不安定だな……」

 

 ケースを開いてスパークドールズの状態を確認したクロノがつぶやいた。

 

「それもダークサンダーエナジーの影響だと思われます」

「発見が遅れて実体化していたら、また多くの犠牲が出るところでしたね……」

 

 ワタルが戦々恐々と語る。ケースを閉じたクロノはその言葉にうなずいてため息を吐く。

 

「せめて到達点が予測できれば……」

「ダークサンダーエナジーの発生座標は特定できないのか?」

 

 チンクの問いかけに、ダイチは残念そうに返した。

 

「あらゆる観測機器を使用して調査してるんだけど……漠然とした方角までは絞れるんだけど、どういう訳かそこから先がどうやっても特定できないんだ。宇宙空間から発生してることは間違いないんだけど……」

 

 ダークサンダーエナジーが最初に落下してから、管理局は当然どこから、何から発生しているのかを現在に至るまで調査している。だがその甲斐虚しく、未だにその答えは出せていないのだった。

 

「不気味っスね……。ダークサンダーエナジーの正体って、何なんだろ……」

 

 思わず身震いするウェンディ。管理局は今日まで幾度も大事件を経験しているが、こんなに分からないことだらけの事件は前例のないことだった。その『未知』が、隊員たちの心理に不安とかすかな恐怖を呼んでいる。

 クロノは若干うつむいて、小さく独白した。

 

「ダークサンダーエナジー……黒き稲妻か……。騎士カリムの預言が、いよいよ現実のものとなろうとしてるのか……」

 

 

 

 その頃カミキは、聖王教会本部を訪問してとある人物と面会していた。

 

「お久しぶりです、カリム・グラシア少将」

「そんなに畏まらないで下さい、カミキ隊長。少将と言っても、あくまで名目上だけのことですから。どうぞ普段通りになさって下さい。あなたの方が年上なのですから」

 

 カミキに敬礼された修道女は、カリム・グラシア。聖王教会騎士団の騎士であると同時に、古代ベルカ式のあるレアスキルを所有しているため、教会と管理局双方にとってその身柄は大きな意味を持っている。

 そのレアスキルとは、数年先までの未来に起こる事件を予言する『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』。予言の的中率は事件の規模に比例して高まり、かのJS事件の内容もこのスキルは言い当てていた。

 『預言者の著書』による予言は、年に一度書き出される。カミキとカリムは、今年の予言について話し合い始めた。

 

「今年の預言の内容を確かめた時には、それはもう驚きました。いつもは複数の解釈が出来る長大で難解な文章なのに、今年のそれは例になく端的で、かつこれ以上ないほど恐ろしい内容を示唆したものでしたから……。JS事件の時も、管理局崩壊という大きなものでしたが、それをも優に超えてます」

「うむ……聞いてるよ。私も初めて聞かされた時には、今度ばかりは何かの間違いではないかと半信半疑だったが……」

 

 カリムが自身のスキルによって作られた、短冊ほどのサイズの預言書を出して、その内容を読み上げる。

 

「天より黒き稲妻が降り、それに導かれて滅びが来たりて、世界は消滅する……。たったこれだけの内容が、世界の滅亡を予知してます。そして、『黒き稲妻』の部分は現実のものとなりましたね……」

「ああ。ダークサンダーエナジーだ……」

 

 天より降ってくる黒き稲妻……ダークサンダーエナジーのことに相違あるまい。最初の部分が当たったからには、このままでは以降の箇所も遠からず実現してしまうだろう。

 

「ダークサンダーエナジー落下後に、グア軍団という異星人たちがミッドを襲ったが……」

「恐らく、『滅び』はグア軍団のことではないでしょう。この預言にはセットで、世界滅亡を回避する手段と思しき文章がありますが、グア軍団撃退の戦いの内容とは一致してません」

 

 カリムはもう一つの、回避の予言を朗読する。

 

「光の巨人が虹の光と、八つの、数多の命を伴いし時、滅びは消え去る……。光の巨人とは、間違いなくウルトラマンのこと」

「虹の光とは、エックスのあの武器、エクスディッシュのことだろう」

「ですが、後の『八つの、数多の命』の部分が不明のままです。戦闘に参加した人間のこと、とするのはどうもしっくりと来ません。『八つ』をわざわざ強調してるからには、その数字には何か特別な意味があるはずです」

「それにダークサンダーエナジーは今もなお降り続けている……。やはり『滅び』をグア軍団とするのは誤りか……」

 

 そう断定したカミキは、話を先に進める。

 

「回避の預言の『命』の部分はひとまず置いておくとして、では『滅び』の正体とは何だろうか。それに『世界は消滅する』と言うが、それは具体的にどういう意味なのだろうか? 人間が絶滅してしまうのか、それとも次元崩壊が起きるのか……『世界』とは次元世界全体のことなのか?」

「その辺りも、まだ何とも言えません。が……カミキ隊長は、十五年前のウルトラ・フレア発生後に発見された、三つの不自然な無人世界のことをご存じでしょうか?」

 

 カリムの問いに首肯するカミキ。

 

「もちろんだ。無人世界は通常、人間がいないだけで他の生物は存在する世界か、もしくは生物が生存できないような環境の世界かのどっちかだが……発見された三つはどれも当てはまらなかった。……生物が発生するのに十分な条件の環境がありながら――一切の生物が世界のどこにも存在していなかった……。こんなことは、管理局の記録上初めてのことだった……」

「ええ。それも一つだけならまだしも、同時に発見された三つ全部が……。これは明らかな異常ですが、それらの無人世界に何が起こったのかは不明のままでした」

 そこまで語って、カリムは深刻な顔つきとなる。

「ですが……これは私の憶測でしかないのですが……今の議論の材料である預言と、その三つの無人世界には……関係があるのではないか、と思うのです……」

「生物のいない……いや、いなくなった世界、と言うべきか……」

 

 カミキもまた眉間に皺を寄せる。

 

「……私たちの生きるこの世界を、絶対にそんな世界にしてはならない」

「ええ……。回避手段は示唆されていますが、絶対とは言えません。あくまでその預言に頼らない方向で、滅びを防ぐように努めましょう」

 

 二人はそのように結論を出して、滅びの預言とダークサンダーエナジーの対策を今後より強化していく方針を決めていった。

 

 

 

 ――突然だが時間は巻き戻り、新暦79年の春先。ミッドチルダの一地方の、町外れにある野山の中に、人の目から隠れるように建つ屋敷に、一人の女の子が越してきていた。

 

「プチデビルズ、ここが今日から私たちの新しい住居だよ」

 

 ゲッゲッゲッと怪しい笑い声を上げる使い魔を複数連れた、魔女風の少女。

 彼女はファビア・クロゼルグ。現在のミッドチルダでは珍しい、正真正銘の魔女であり、ヴィヴィオやアインハルトの先祖の『聖王』『覇王』と関わりのあったシュトゥラの森の魔女「クロゼルグ」の子孫の一人であった。

 クロゼルグの血脈は古代ベルカ全土を巻き込んだ大戦により故郷の森を失ってしまい、それ以来現在に至るまで定住の地を持たない一族となった。ファビアは一族の決まりにより、まだ幼い身でありながら一族の元を離れ、「魔女」として独り立ちの時を迎えようとしていたのだ。

 ファビアはプチデビルズを使って荷物を屋敷の中に運び込んでいく。……しかしその最中に、視界の端にあるものが映った。

 

「?」

 

 屋敷の軒先に、花の束が置かれているのだ。地面から生えているものではなく、明らかに誰かに摘まれてここに持ってこられたもののようだ。

 

「誰が……」

 

 怪訝に思うファビア。プチデビルズに花を摘んでくるよう命じた覚えはないし、この付近は「赤いオバケが出る」という噂が流れていて、人はあまり寄りつかないという。人づき合いが苦手なファビアは、それだからこそこの場所を選んだのだが……ならば誰が花をここに置いたというのか。

 キョロキョロ辺りを見回して犯人を捜していると……建物の陰に怪しいものを発見した。

 真っ赤なひだひだのようなものが、ふりふり揺れ動いている。

 

「……?」

 

 ますます訝しんだファビアが、プチデビルズを連れながらその赤いものに近づいていき……全貌が明らかとなった。

 

「ホアーッ」

 

 自分とほぼ同等の身長の、見たことのない生き物だった。ひだに覆われた赤い胴体から、白い手と足、尻尾がちょこんと生えている。首は胴体と一体化していて、表情はとぼけているようにも、どことなく愛嬌があるようにも見えた。

 

「……何、この生き物?」

 

 小首を傾げるファビア。魔女である彼女も、その正体に見当がつかないほどのおかしな見た目の生物だった。

 

「キュッ、キュッ、キュウッ」

 

 赤い生き物はちょこちょこと飛び跳ねるように歩きながらファビアに近寄ろうとするが、するとプチデビルズがジャキンッ! と槍を向けて威嚇をした。

 

「ホアッ!?」

 

 赤い生き物はそれに怯え、顔を手で隠してガタガタと震えた。ファビアは直感的に、生き物から敵意や害意、危険がないことを感じ取って、プチデビルズを諌めた。

 

「大丈夫。武器を収めて」

 

 槍を下げさせると、自分から赤い生き物に近寄って声を掛けた。

 

「ねぇ、あなた」

「キュウ?」

 

 赤い生き物は恐る恐る顔を上げた。

 

「あなたはこの土地に住んでるの?」

「キュウウゥッ」

 

 ファビアが尋ねると、赤い生き物は肯定するように鳴き声を上げた。

 

「そう。今日から私もここに住むの。これからよろしく」

「キュウッ!」

 

 ファビアは赤い生き物の手、と言うよりは指を取り、握手を交わした。

 これがファビアと赤い生き物――ピグモンとの出会いだった。

 

 

 

 その夜、ファビアは早速ピグモンについて調べ始めた。正体を知ったのは、Xioの公開している怪獣データベースにアクセスしてからだった。

 

「ピグモン……」

 

 名前を知ると同時に、ピグモンが怪獣であることを知った。

 

「……」

 

 怪獣は十五年前より何度も大規模な被害、大勢の犠牲を出し続けているため、世界中の人間から良く思われていない。ピグモンももし存在を人に知られてしまったら、どうなってしまうものか。

 この時ファビアはXioに通報することも出来たが……それはせずに、データベースを閉じた。

 ファビアは元々、一族以外の人間とはあまり関わらないで生きてきた。そのため怪獣に対する嫌悪感は持ち合わせていなかった。彼女にとってピグモンは、予想外の隣人、それ以外の意味はないのだった。

 

 

 

 それからファビアとピグモンの日々は始まったのだった。ファビアは最初、ピグモンには無頓着であったが、ピグモンは毎日のようにファビアの屋敷の現れ、彼女に対してアプローチを見せた。

 何度も顔を見ていれば、愛着も湧く。いつしかファビアはピグモンにつき合うようになっていき、ともに遊ぶことも珍しくなくなっていった。

 

「はい……出来たよ」

「ホアー! キュウウゥッ!」

 

 ファビアが手作りの花の冠をピグモンに被せてあげる。二人の周りをプチデビルズが飛び回って、場を盛り上げていた。

 

 

 

 しかしピグモンにつき合っている時間は、インターミドル……その席で一族が恨みを抱える『聖王』と『覇王』の子孫の存在を知り、彼女らと無限書庫で一戦交えてから、少なくなっていった。

 ヴィヴィオたちとの対話により、一族の誤解が解けたのはいいのだが、ファビアはヴィヴィオたちを攻撃した件で保護観察処分を受けることになったのだ。

 ピグモンは怪獣……管理局に存在を知られたら、どんな目に遭ってしまうか。それを危惧したファビアは、観察の目がある内はピグモンを自分の周りから遠ざけた。

 

「キュッキュウッ!」

「ピグモン……しばらくは、私の側に出てきたらダメ。管理局に見られちゃうから……」

 

 屋敷まで会いに来てしまったピグモンを、ファビアは説得する。だがピグモンは聞こうとしない。

 

「……プチデビルズ」

 

 やむなく、ファビアは実力行使に出た。プチデビルズたちにピグモンを押させ、山の奥へと追い返していく。

 

「ホアーッ!」

「ん? 今何か変な音がしたような……」

 

 ファビアの保護観察役のルーテシアがこっちに向かって歩いてくる気配がした。振り返ったファビアはそちらに出向いていき、ごまかす。

 

「ファビア、今何やってたの?」

「特に、何も……」

 

 木々の向こうへ押しやられたピグモンは、寂しそうに屋敷を見つめた。

 

 

 

 保護観察が解かれてからもファビアは、魔女の知識を広く後世に残すために、管理局の嘱託魔導師の進路を選んだ。管理局の役職や勉強に時間を割き、ピグモンと会っている時間はますます少なくなっていった。

 

「キュウ……」

 

 夜遅く、ピグモンは山の奥深くのねぐらに一人寂しく帰ってきた。

 ねぐらにはボールや熊のぬいぐるみなど、古ぼけた玩具がいっぱい転がっていた。ピグモンはその中で岩肌に背を預けて座り込み、そのまま眠り込んだ。

 

 

 

 翌朝、ピグモンは出掛けようとしていたファビアの前にひょっこりと現れた。

 

「キュウウゥッ!」

 

 しかし今日もファビアはピグモンを歓迎しなかった。

 

「ピグモン……今日は街に買い物に出かけるの。あなたとは遊んでられない」

「ホアーッ! キュウッ、キュウッ!」

 

 しかし今日に限って、ピグモンはファビアにぴったりついてこようとする。それをプチデビルズに押し戻させるファビア。

 

「ついてきちゃダメ。人がいっぱいいるところに行くんだから……あなたが来たら、大騒ぎになっちゃう」

「ファビアー、いるー?」

 

 ルーテシアの呼ぶ声がした。ファビアは慌ててピグモンに言いつける。

 

「また今度遊んであげるから。だから、ついてきちゃダメだからね。いい?」

 

 そう言い残して、ファビアはルーテシアの待つ方へと向かっていった。

 ファビアの去っていった方向を見つめるピグモン。……だが、その先の上空に黒い影が差したのを、ピグモンは見て取っていた。

 

「ホアーッ!?」

 

 驚愕の色を浮かべたピグモンは、ファビアの後に視線を戻すと――そちらへと駆け出し始めた。

 

 

 

 ファビアとルーテシアの二人は連れ立って、付近の街のショッピングモールに到着した。

 

「さてと、今日買うのはあれとこれと……そういえば、ファビアって会う度大体同じ服装じゃない? 他に持ってないんでしょ。ついでだから、かわいくてお洒落なの買っていきましょうよ~」

「……別に、お洒落なんていい」

「そんなつれないこと言わないでさぁ。今度ヴィヴィオたちに会う時にでも着たら? 女の子同士友達になるなら、お洒落の話題はきっと必ず出るわよ」

 

 ヴィヴィオの名前が出てきて、ファビアは一瞬目を白黒させた。

 

「……あの子たちと友達なんて……そんなに馴れ合うつもりはないから」

「そう? ご先祖さまは仲良しだったんだから、あなたたちも仲良しになれると思うんだけどな~」

 

 からかうルーテシアからそっぽを向くファビア。すると、視線の先に平穏な街の景色とは相反するような、瓦礫の山となっている一画があるのに気がついた。

 

「あそこは……」

「ああ、あそこ?」

 

 ファビアの視線を追ったルーテシアは、廃墟を見つめて眉をひそめた。

 

「……この前、巨大怪獣が出現したからね。その復旧がまだ取りかかられてないみたいね」

「怪獣……」

「今のミッドには、ああいった場所はあちこちにあるよ。怪獣が街中に出現したら、どうしても建物の被害は出ちゃうからねぇ……。怪獣をやっつけることが必ずしも善だとは私も言わないけど、現実として怪獣が出ると少なくない人が迷惑するんだよね」

 

 ファビアは怪獣と聞いて、ピグモンのことを思い出した。今は大人しく、自分の帰りを待っているだろうか。

 

 

 

 しかしピグモンはその時、同じショッピングモールに来ていたのだった。

 

「ん、あれ……? あれは何だ?」

 

 ショッピングモールの客たちは、視界の端に見えたピグモンの姿を怪訝に感じる。

 

「あれは、生き物なのか? 見たことのないような奴だけど……」

「どっかの魔導師の使い魔かペットが脱走したのかな?」

「まさか」

「待てよ……あの生き物……」

 

 誰かがピグモンの情報を検索し、種族に行き当たってしまう。

 

「か、怪獣だぁっ!」

「えっ!? 怪獣!?」

 

 怪獣に対する生々しい恐怖の記憶を刻んだばかりの人々は、その叫び声に一気に騒然となった。その声が連鎖的にパニックを呼び、ショッピングモールはたちまち阿鼻叫喚の図に陥る。

 

 

 

 パニックの声は、もちろんファビアたちの元にも届いた。

 

「何なに? 急にどうしたんだろ?」

「怪獣だー! 怪獣が出たぞー!」

 

 振り返った二人の耳に、誰かが叫んだ「怪獣」の言葉が入る。

 

「怪獣? そんなのどこにも……」

 

 ルーテシアが思わず辺りを見上げている一方で、ファビアは顔色がさっと青くなった。

 

「まさか……!」

「あっ、ファビア!?」

 

 駆け出すファビア。その足はすぐに混乱の中心地、つまりピグモンのところへとたどり着いた。

 

「ホアーッ!」

「やっぱり、ピグモン! ついてきちゃダメって言ったのに、どうして……!?」

 

 ピグモンはファビアの姿を確かめると、彼女へ駆け寄ってピョンピョン飛び跳ねる。

 

「ホアーッ! ホア、ホア、ホアーッ!」

「騒がないで……! 大人しくしてて……」

 

 ファビアはピグモンをなだめようとその手に触れるが、その行動を周りの人たちに誤解された。

 

「あぁっ! 子供を襲ってるぞ!」

「大変! 食べられちゃうわ!」

「Xioはまだなのか!?」

「えっ!? ち、ちが……!」

 

 慌てて訂正しようとするファビア。だが言い切る前に、ピグモンがバインドを掛けられて拘束された。

 

「キュウウゥッ!」

「ピグモン!」

「皆さん、落ち着いて下さい。大丈夫、私は管理局の魔導師です」

 

 バインドを掛けたのはルーテシアだった。人ごみをかき分け、混乱を鎮めながら近づいてきた彼女にファビアは訴えかけようとする。

 

「あの、これは違うの……!」

 

 しかしルーテシアはファビアを制止して、分かっているという風にうなずいた。

 

「何か事情があるんでしょ? でもね……こうでもしないと、周りの人たちの混乱は収まらないの」

「えっ……」

「たとえ小さくても、怪獣が自由に動き回ってると、みんな怖がってまともに話も出来なくなるから……。とりあえず、Xioのみんなが来るまで我慢して」

 

 ファビアは周囲を囲む人たちへと目を走らせた。皆が一様に、ピグモンに対して恐怖と警戒の目を向けている。

 

「怖いわ……あんなに小さくても、怪獣なんて……」

「あんまり近づくな。火を吐くかもしれないぞ」

「バインドを破って、暴れ出したりしたら大変だぞ。もっと離れた方がいいんじゃないか」

「Xioおせぇな……とっととアレ、どっかにやってくれよ」

 

 そんな声もする。ファビアは周りの人たちの、ピグモンに対する反応に、大きな戸惑いを覚えた。

 



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ともだちは怪獣(B)

 

 ピグモンが捕縛されてから、通報を受けてXio特捜班がショッピングモールに駆けつけてきた。

 

「おい、さっさとそいつ処分してくれよ!」

「怪獣なんて、いるだけで迷惑なんだよ!」

「皆さん、落ち着いて! 落ち着いて下さい!」

 

 ピグモンの処分を訴える市民の集団を、スバルたちが必死になだめている。その様子を遠巻きにながめたファビアは、悲しげに顔をしかめる。

 そこにルーテシアが話しかけてきた。

 

「あの怪獣、あなたのお友達なんだ」

 

 それにコクリとうなずくファビア。

 

「それでかばったのね。でも、どうして怪獣の友達がいるってこと、話してくれなかったの?」

「それは……」

「私たちが問答無用であの子を退治しちゃう……そう考えたんでしょ」

「……」

 

 ファビアの無言が、肯定を示していた。

 

「そっかぁ。ちょっぴり信用されてなかったんだなぁ。それはちょっとショックかなぁ」

 

 ルーテシアの言葉に、ファビアはバツの悪そうな顔を作った。

 

「なんてね。誰かを思いやるばかりに、一人で思い詰めちゃうことってあるよね。私もそういう経験あるよ。だから責めるつもりはない。これからどうするかを考えなくちゃね」

 

 冗談めかして笑いかけたルーテシアは、ファビアに尋ねかける。

 

「友達は大事?」

「……大事だとかそうじゃないとか、よく分からないけど……ひどい目には遭ってほしくない。それだけ……」

「それが大事ってことよ。その気持ちは、人にとって大切なものなの」

 

 軽く空を見上げたルーテシアは、自分の過去のことを振り返る。

 

「私は昔、すごく苦しい思いをした時があったんだけど、ガリューやアギト、それからあの子たち……私の友達のお陰で乗り越えられたんだ。友達の存在って、苦しい時にこそ勇気をくれるんだよ。だから、ファビアも友達を大切にする気持ち、ずっと忘れないでいてね」

「……」

「そのためにも、ファビアのお友達を助けるために私がひと肌脱いじゃう! ファビアがあの子といられるように、色んな人に働きかけてあげるから! 大丈夫、みんな優しい人だから、分かってくれるわよ」

 

 ルーテシアはウィンクしてファビアに約束した。

 

「……ありがとう」

 

 ファビアは少し控えめではあるものの、素直にお礼の言葉を告げた。

 

 

 

 ダイチの方は、エックスからある質問を投げかけられていた。

 

『ダイチ、人間は何故あんな無害な怪獣まで怖がるんだ? あの怪獣は何もしてないじゃないか』

 

 それにダイチは、しかめ面をして答える。

 

「自分たちと違うものを簡単に受け入れられないんだよ。一度恐怖の対象として見たものは、何もしてなくても近いものまで怖がってしまうものなんだ」

『では、Xioで保護するのか?』

「まずは生息域に戻すことが基本だよ。でも……」

 

 ダイチはルーテシアと話しているファビアの方へ振り返って視線を送った。

 

「彼女と一緒にいるのがいいかも。だって……二人の心はつながってるんだ」

『しかし……人間と怪獣は本当に友達になれるのか? 自分たちの役に立つかどうかで、共存する生き物を選ぶだろう?』

 

 エックスはデバイザーの中から、次元世界の人間のありさまを見てきた。人間以外に使い魔もいるが、それも魔導師の役に立つように手を加えられた生き物である。真の意味で異なる種族と共存しているケースは、見当たらなかった。

 それでも、ダイチは宣言した。

 

「俺は、全ての命と共存できる道を探す。この世界は、人間だけのものじゃないから」

 

 しかしその時、それまで大人しかったピグモンが激しく騒ぎ始めた!

 

「ホアーッ! ホア、ホアッ! ホアーッ!」

「うわあああぁぁぁぁっ!?」

 

 それに驚いて再度パニックになる市民たち。スバルらは咄嗟に彼らを下がらせてピグモンから距離を取らせる。

 

「ピグモン! どうしたの!?」

「待って! 落ち着いて!」

 

 ファビアはピグモンの元に駆け寄ろうとしたが、ルーテシアに腕を掴まれて引き止められた。

 

「どうしていきなり……!」

 

 人垣をかき分けて前に出てきたダイチは、ガオディクションでピグモンの鳴き声を分析した。その結果は、

 

[恐怖、脅威]

「野生動物はいきなり攻撃的になるってことっスか!?」

 

 ウェンディの問いかけにダイチは否定を返した。

 

「違う……! この子は守ろうとしてるのかも……!」

「守ろうって何を、誰からっスか!?」

 

 その時、興奮した一人の中年男性がいきなりピグモンを殴りつけた。

 

「怪獣は出ていけー!」

「ちょっと!? やめて下さい! 乱暴しないで!」

「やめて下さいっ!」

 

 すぐにスバルとワタルが取り押さえ、ピグモンから引き離した。

 

「ホ、ホアーッ!」

 

 不意に空を見上げるピグモン。その視線の先で黒雲が渦巻き――ダークサンダーエナジーがショッピングモールの真ん中に落下した!

 

「ウアァァァッ!! ウアァァァッ!!」

 

 直後に地面を突き破って、トゲを生やした爬虫類型の怪獣が地上に現れる!

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 地上は更なる大パニックになり、人々は一斉にショッピングモールから逃げ出していく。

 ダイチは怪獣を見上げて叫んだ。

 

「怪獣出現! ゲスラ? いや違う、キングゲスラだっ!」

 

 キングゲスラはショッピングモールを抜け出て、ビルを次々薙ぎ倒しながら街を侵攻し始める。

 

「ウアァァァッ!!」

 

 チンクはキングゲスラの出現により、ピグモンの行動の意図を理解した。

 

「そうか! あの怪獣ピグモンはこれを察知して、皆を遠ざけようとしていたのか!」

「皆さん、早く避難を! こっちです!」

 

 特捜班やルーテシアは、大急ぎで市民の誘導を行う。だがすぐ間近に怪獣が出現したため、総掛かりでも全員を逃がすのには追いつかないほどだった。

 

「ピグモンも、こっちに!」

 

 ファビアはバインドを破って、ピグモンの手を引っ張って逃げようとする。が、

 

「ウアァァァッ!!」

 

 キングゲスラが砕いたビルの破片が雪崩となって、先ほどの男性に降りかかろうとしていた!

 

「あぁ――――――――っ!!」

 

 絶叫する男性。それを聞き止めたピグモンが走る!

 

「ホアーッ!」

「ピグモン!?」

 

 ピグモンの予想外の行動に、ファビアは反応が遅れた。ルーテシアは彼女とピグモンへ首を向ける。

 そしてピグモンは男性にタックルして突き飛ばした。押し出された男性は瓦礫の真下から逃れられたが……。

 ドズゥゥンッ! と轟音を立ててピグモンのいるところに瓦礫が落下し、ピグモンの姿が見えなくなった。

 

「あぁっ……!?」

「ピグモンっ!!」

 

 唖然とする男性。ファビアは絶叫を上げ、キッとキングゲスラをにらむ。

 

「よくも……!」

 

 デバイスである箒を出してキングゲスラに攻撃しようとしたところを、スバルが後ろから取り押さえた。

 

「だ、ダメだよ! 敵いっこない!」

「放してっ! ピグモンの仇を……!」

 

 暴れるファビアを、スバルは抱きかかえて無理矢理連れていった。

 ダイチは市民を逃がし終えると、エクスデバイザーを構える。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 デバイザーのスイッチを押して、ユナイトを開始。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 X字の閃光の中からウルトラマンエックスが飛び出す。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 変身したエックスはそのまま宙を滑空し、スバルとファビアを追いかけているキングゲスラに突撃していった。

 

「ウアァァァッ!!」

「フッ!」

 

 エックスの体当たりがキングゲスラを突き飛ばし、スバルたちを救った。

 

「セヤァッ!」

 

 戦闘の構えを取ったエックスの勇姿を、スバルとファビアが見上げる。

 

「エックス……!」

『「後は任せろ!」』

 

 エックスの中から、ダイチがスバルたちに向けて告げた。

 

「ウアァァァッ!!」

 

 起き上がったキングゲスラはお返しとばかりに、エックスへと一直線に突進してくる。それを迎え撃つエックス。

 

「セイヤッ!」

 

 頭部にかかと落としや飛び膝蹴りなどの強烈な蹴り技を仕掛けるも、キングゲスラに効いている様子はない。反対にキングゲスラの身体に触れたエックスに毒々しい色のショックが走り、途端にひどく苦しみ出す。

 

「グゥアァァァッ!?」

 

 ゲスラの一番の武器である、全身から生えたトゲに含まれた猛毒の攻撃だ! ウルトラマンも生物、毒を打たれて無事では済まない。

 

「ウワァァァァッ!」

 

 一瞬で形勢は逆転し、エックスはキングゲスラに弾き飛ばされる。更にキングゲスラは背面のトゲを光らせ、怪しい動きを見せた。

 立ち上がったエックスに対して、身体からトゲを乱射する!

 

「グワアアアァァァァァァァァッ!」

 

 毒で弱っているエックスは、その攻撃をもろに食らった。キングゲスラは続けざまにトゲを発射しようとしている。

 

『「くっ……!」』

 

 次に食らうのはまずい。ダイチは毒に蝕まれる身体を押して、デバイザーにデバイスベムスターのカードをセットした。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

[ベムラーダ、セットアップ]

 

 ベムラーダの盾でトゲを防御しようと構えた。が、

 

「ウアァァァッ!!」

 

 キングゲスラから飛ばされたトゲは盾を徐々に砕いていき、とうとう槍ごと破砕されてしまった!

 

「ウワアアアアア―――――――!!」

 

 防御に優れるベムラーダすら役に立たないほどのキングゲスラの猛攻に苦しめられ、エックスはとうとうその場に片膝を突いた。

 

『「キングゲスラがこんなに強いなんて……!」』

『ダークサンダーエナジーのせいだ……!』

 

 キングゲスラに追いつめられるエックスを援護するために、チンクたちが動く。

 

「エックスが危ない! ラボチーム、あの怪獣の弱点は分かりますか!?」

『背中のヒレだよ! そこを攻撃されると弱いの!』

 

 キングゲスラの弱点を突き止めたシャーリーが報告する。

 

「了解!」

「よし、行くぞチンク!」

 

 チンクとハヤトはアラミスを駆り、ウェンディとワタルはスカイマスケッティで空陸の両方からの砲撃を敢行する。

 

「トラーイっ!」

 

 だが全弾背びれに命中したにも関わらず、キングゲスラはびくともしなかった。

 

「ウアァァァッ!!」

 

 スカイマスケッティにトゲの反撃が飛んできたので、ウェンディたちは慌てて旋回して回避する。

 

「き、効いてないじゃないっスかぁーっ!」

「背びれまで強化されてるんだ!」

 

 しかしキングゲスラの注意がマスケッティに向いている間に、ダイチはエクシードXのスパークドールズをデバイザーから出していた。

 

『「エックス、反撃開始だ!」』

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 スパークドールズをエクスディッシュに変え、二段変身を行う。

 

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 虹色に光によって、エックスの身体がエクシードXに変化。振り返って突進してきたキングゲスラを、キックによって逆に弾き飛ばした。

 

「ジュワァッ!」

「ウアァァァッ!!」

 

 宙を舞ったキングゲスラは、三度トゲを飛ばす攻撃の構えを取る。

 

「ジュワアァァァァァッ!」

 

 放たれたトゲに対しエックスは両腕を振り回すことでエネルギーを発射。トゲを相殺した。

 

「ウアァァァッ!! ウアァァァッ!!」

 

 攻撃を防がれたキングゲスラはひるんだように見えた。エックスはその隙に、頭部のエクスディッシュを右手に移す。

 

「『エクスディッシュ!!」』

 

 ダイチは素早くタッチパネルを三回スライド。柄頭のスイッチを叩いて刃を伸ばす。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 虹の光のロードを発し、エクシードエクスラッシュをキングゲスラに決めた!

 

「ウアァァァッ!」

 

 キングゲスラからダークサンダーエナジーが抜け、瞳の色が元に戻った。

 エックスはエクシードエクスラッシュから飛び込み前転で着地しつつ、振り返りざまに腰をひねってエネルギーチャージ。足元から走る閃光が十字路を駆けていった。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 発射された光線が綺麗にキングゲスラに命中!

 

「ウアァァァッ!」

 

 キングゲスラは爆発後、肉体を圧縮されてスパークドールズの状態へと戻ったのだった。

 

「シュワッ!」

 

 キングゲスラから街を守ったエックスはその場から飛び立つと、変身を解いてダイチの姿に戻る。ダイチはそのままピグモンに瓦礫が降ってきた場所へと駆けつける。

 

「ピグモン……!」

 

 そこでは、ファビアが墓標のように突き立っているビルの破片の前で膝を突き、涙をこぼしていた。

 先ほどまでピグモンを恐れていた市民たちも、その様子を遠巻きに囲んで悲痛な面持ちになっていた。

 

「すまなかったな……」

 

 ピグモンに助けられた男性が、自分たちの心情を吐露した。

 

「……」

 

 ダイチたち特捜班も、重い表情で沈黙していた。

 そこにルーテシアが駆けつけてきて、彼らに頼み込んだ。

 

「皆さん、救護班呼んで下さい! ちょっと頭を強く打ってて……!」

「え? ルーテシアが?」

 

 不思議そうに聞き返すスバル。その割にはルーテシアは元気そうだ。

 

「いや、私じゃなくって……」

 

 

 

 翌日、男性たち市民らは山の中のピグモンの住処まで足を運び、せめてもの罪滅ぼしで掃除をしていた。

 ピグモンの巣に転がっている玩具にこびりついた泥を男性が払い、綺麗にして並べる。

 ダイチはピグモンのことを調査した結果を語る。

 

「十五年前のウルトラ・フレアで目覚めたピグモンは、ずっと子供たちの友達だった。でも子供は大人になり、ピグモンのことを忘れていった。忘れられた記憶がいつしか、赤いオバケの噂になっていたんだ。

 彼らが去って、また一人ぼっちになっても、ずっとここで友達を待っていたんだ……」

 

 

 

 ファビアはとぼとぼと力なく、自分の屋敷までの道を歩いていた。プチデビルズが彼女を慰めようとしておろおろ飛び回っている。

 しかし屋敷の前まで着いたところで、ファビアは驚いて顔を上げた。屋敷の入り口前にアラミスが停まっていて――ダイチとスバル、ルーテシアが彼女を待っていたのだ。

 

「ファビア、教えるのが遅くなってごめんね。でも実際元気なところを見せた方が、話が早いと思って」

 

 ルーテシアがその場からどくと――。

 

「キュウウゥ」

 

 頭に包帯を巻いたピグモンがひと声鳴いたのだ。

 

「ピグモン……!? どうして……!」

 

 驚愕するファビア。それにルーテシアが告げる。

 

「実はね――」

 

 

 

 ピグモンが瓦礫に押し潰される、その寸前――ルーテシアが限界ギリギリの超スピードで横から飛び込み、ピグモンを抱きかかえてかっさらったのだった。

 

『とぁ―――――――っ!』

 

 しかし勢いが突き過ぎたためビルの合間の細道に突っ込み、ゴミ袋の山にぶつかってようやく停止した。

 

『あたた……危ないところだった……。って、あぁっ!』

 

 頭をさすって起き上がるルーテシアだが、ピグモンの方は目を回していた。

 

『ご、ごめん! 大丈夫? ……って!』

 

 ピグモンの安否を心配するルーテシアだが、自分たちを囲むビルがキングゲスラに破壊されて崩壊を始めたので、慌てふためく。

 

『わああぁぁーっ! ガリュー早く来てぇー!』

 

 危ないところでガリューを召喚し、ピグモンを抱えさせて一緒にキングゲスラの足元から逃避していったのだった。

 

 

 

「――でも怪我も大したことなかったし、もう安心だよ」

「ピグモンに危険がないことも証明した。これからもここにいられるよ」

 

 ルーテシアとダイチの説明を聞きながら、ファビアは恐る恐るピグモンに近寄る。

 

「ピグモン……ほんとにピグモンだよね?」

「ホアーッ」

「……ピグモンっ……!」

 

 ばっとピグモンに抱きつくファビア。抱きしめ返すピグモン。二人の周りで、プチデビルズが楽しそうに紙吹雪を撒いて祝福した。

 

「これからも一緒だよ……私のおともだち」

「キュキュッ」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はピグモンだ!」

ダイチ「ピグモンは『ウルトラマン』第八話「怪獣無法地帯」で登場した、人間に友好的な小怪獣! 怪獣だらけの土地になってしまった多々良島で、遭難者を助けていたんだ」

エックス『しかし、レッドキングの囮となって死亡してしまうという悲劇的や末路だったな……』

ダイチ「その後の第三十七話「小さな英雄」ではジェロニモンの力で蘇生して再登場。この時に自分の存在意義に迷っていたイデ隊員の目を覚まさせるきっかけとなったんだ」

エックス『この話は、ウルトラマンに活躍を奪われがちな防衛隊の存在理由を確固たるものとした名エピソードだな』

ダイチ「ちなみにピグモンは隕石怪獣ガラモンにそっくりだけど、実際着ぐるみを足だけ長くしたものをそのまま使用したんだ」

エックス『ガラモンのスーツアクターはすごく小柄だったのが、残っているスチール写真で分かるぞ』

ダイチ「『ウルトラマンX』では少女サクラと交流して、友達になったんだ」

エックス『平和な怪獣という役どころがよく似合うよな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 えっ!? ハヤトさんとワタルさんが恋のライバルに!? そんな時に現れた、宇宙化猫ムー。こいつがやってきた理由は、一体何だ!? 更にレッドキングまで現れて、もうどうなっちゃうんだ!? 次回『ワタルの恋』。


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ワタルの恋(A)

 

『お熱いねー、お二人さん!』

「異星人ども! ミッドで勝手な真似は、許さん!」

「ワン・フォー・オール!!」

「ワタル、後は任せる」

「よっしゃ!」

「トラぁーイっ!!」

『溶岩熱線、発射!!』

「俺たちエックス助けちゃったよー!」

「おーい!」

 

 

 

 ――四年前、ダイチがスカリエッティに誘拐された時のこと。彼の協力を断ったダイチは、隠れ家の奥深くの牢屋に収容された。スカリエッティは自分の申し出を呑むまでは一歩たりとも出さないと脅迫してきたが、ダイチはやはりそれには屈しない心積もりであった。

 

『……ダイチ・オオゾラって言ったっけ? お前、いつまで強情張り続けるつもりだよ』

 

 牢屋の中でじっと座ったままでいるダイチに、鉄格子越しに話しかける者が現れた。スカリエッティよりダイチの監視を申しつけられたナンバーズの一人、ノーヴェであった。

 

『意地になってたところで何も始まらねーぜ? ドクターの許しがない限り、お前がそこから出られる可能性は万に一つもないんだ。ここだけの話、もう後数日もしたら管理局崩壊の作戦が始まるんだ。こっちの準備は万端、管理局側には勝ち目なんて一つもない。つまりお前を助け出す奴なんて、いくら待ってたって現れねーんだよ。それを期待してるんだったら、悪いことは言わねぇ、すっぱりと諦めるんだな』

 

 と忠告するノーヴェだが、ダイチの気持ちが変わることはなかった。

 

『助けを待ってるとか、そんなんじゃないよ。仮に管理局が負けてスカリエッティが実権を握ったとしても、俺は奴への協力なんて絶対にしない』

『おいおい……どうしてそこまでして』

『――俺がデバイス怪獣の研究をしてるのは、消えた両親の願い……俺自身の、人間と怪獣が共に生きる世界を作るという、大切な願いのためだ。我が身かわいさでスカリエッティの要求を呑んだら、俺は両親を、自分自身を裏切ることになる。そんなことは、絶対にしたくないんだ』

 

 ダイチの言葉に、ノーヴェは困ったように頭をかいた。

 

『願いねぇ……あたしにはそういうのよく分かんねーけど……まぁ、ちょっとでも心変わりしたんなら、その時はあたしに言いな。あたしからドクターに口添えしてあげるからさ』

 

 ノーヴェのその発言で、ダイチはこんなことを言い返した。

 

『君は優しいんだね』

『は……はぁっ!? あたしが、優しいだってぇ!?』

 

 ノーヴェはギョッと目を剥いて、ダイチに振り返った。

 

『ば、馬鹿言うなよ! あたしはナンバーズでも一番のはねっ返りだぜ!? そんくらい自分でも自覚してるさ! そんなあたしが優しいなんて……そんなことあるもんかよ!』

『いいや。俺のことを心配して、口添えするなんてことを言ってくれたんだよ』

『それは、ドクターの欲求を叶えようと思ってのことだよ! 別にお前のことを考えてとか、そんなことは全然ないんだからなっ!』

 

 少々顔を赤らめたノーヴェに、ダイチはふと尋ねかけた。

 

『優しいって言われたの、もしかして初めて?』

『……ああ。あたしは戦闘機人で、稼働期間も短いからな。身内以外の人間とまともに会話したことなんてないんだ。ドクターだって姉妹だって、そんなことは言ったことねーよ』

『つまり、外の世界を知らないのか……』

 

 ダイチは眉をひそめる。

 

『それはもったいないよ、広い世界を知らないまま生きるなんて。どんな命も、自由に生きる権利があるんだ。君は、自由に生きたいって思ったことはないの?』

『自由に……? そんなん、考えたこともなかったぜ……。第一、こんなあたしが外でまともに生きられる訳ねーだろ。戦闘機人だぜ?』

『そんなの関係ないさ。俺は、君と同じような身の上だけど真っ当に生きていけてる子を知ってるんだから』

『お前の義理の姉妹の、タイプゼロたちのことか』

 

 ノーヴェは一瞬、自分が普通の人のような生活をしている様子を想像したが、すぐにかき消した。

 

『……やっぱ出来っこないぜ、そんなの。あたしが普通に生きてる姿なんて、想像つかないから』

 

 とノーヴェは語るも、ダイチは首を横に振った。

 

『いいや。誰だって、自由に生きるなんて当たり前のことは出来るさ。君は案外、面倒見がいい人間になれると俺は思うよ』

『まさか。あたしに限ってそんなことは……』

 

 肩をすくめるノーヴェ。この時の彼女は、未来の自分のたどる道なんて全く予測できなかったのだった。

 

 

 

『ワタルの恋』

 

 

 

「~♪」

 

 ミッドチルダ中央区の、何の変哲もない一般居住区の中を、鼻歌まじりに進む一人の男がいた。何を隠そう、我らがXio特捜班のワタルであった。

 今日は私服姿で、いやにご機嫌そうだ。歩きながら度々変な動きをしており、道端の車に目を留めるとそれのミラーで髪型をチェックする。

 そうしてたどり着いた先は、「喫茶りんどん」という小さな喫茶店。ワタルがその店の中に入ると、ウェイトレスの若い女性が振り返る。

 

「いらっしゃい!」

「……ああ」

 

 ウェイトレスの笑顔を目にしたワタルは、それまで馬鹿に浮かれていたのが一気に落ち着きながらも、そわそわとした様子でテーブルに着いた。

 ワタルの元にウェイトレスがお冷を運んでくる。

 

「はい」

「コーヒー……」

「マスター、コーヒー一つ」

「はい」

 

 ワタルからのオーダーを受けると、ウェイトレスはそのまま彼の向かいの席に腰を下ろした。

 

「ねぇ……好き?」

「えっ……!?」

 

 ウェイトレスがいきなりそう言うと、ワタルは一瞬硬直した。しかし、

 

「お稲荷さん!」

 

 と言われて、今度は別の意味で固まった。

 

「……え?」

「ワタル君、初等科の頃好きだったでしょ? まだ好き?」

「……ああ」

「よかったー! 明日の試合に作ってくからね」

 

 そう告げて席から立ち上がるウェイトレス。ワタルは彼女が背中を向けている間に、変な顔になっていた。

 ウェイトレスはそんなワタルに振り返って言った。

 

「ワタル君。ありがとね、ここのバイト紹介してくれて」

「あ、ああ……」

 

 はにかみ合う二人。ワタルの方は、ウェイトレスよりもずっと楽しそうな様子であった。

 ところが新たに入店してきた二人組の顔を見て、言葉を失う。

 

「あっ、いたいた」

「ワタルー、捜したっスよ~」

 

 ハヤトとウェンディであった。二人はワタルを詰めさせて、隣の席に陣取る。

 

「お前ら、何でここに!」

「スバルからここにいるって聞いてさ」

「ワタル、最近ここに通ってるみたいじゃないっスか~。そんなに気に行ったっスか?」

「近い! 近いぞウェンディ!」

「ちょっとぉ、そんなに嫌がらなくてもいいでしょぉ?」

 

 ハヤトとウェンディが話しかけていると、ウェイトレスがテーブルを拭きにやってきた。彼女の顔を見上げたハヤトが、ふと目を大きく開く。

 

「新しい子?」

「……ナナコ、俺の幼馴染。こいつらはハヤトとウェンディ。前に話した同僚」

 

 ワタルはそれぞれに軽く紹介した。ハヤトはウェイトレス、ナナコに微笑みかける。

 

「……初めまして」

 

 ハヤトに笑顔を返したナナコは、手を滑らせてお冷をこぼしてしまった。

 

「きゃっ!?」

「わっ冷たっ!?」

 

 こぼれたお冷がワタルとウェンディの膝に掛かって、二人は思わず飛び上がった。

 

「ごめんなさいっ!」

「ナナコ~!」

「すいません……! 洋服濡れなかったですか?」

 

 ナナコはハヤトに向かって尋ねかける。

 

「大丈夫」

「すいません……」

 

 テーブルを拭くのを手伝うハヤトの顔を、ナナコはじっと見つめる。そのナナコを、ワタルが口を半開きにして見つめていた。

 そのワタルの様子を、ウェンディが怪訝な顔で覗いた。

 

 

 

 翌日、ワタルはXioのチームを引き連れてラグビーの試合に臨んでいた。

 

「ブルーライオン対チームXioの試合を始めます!」

 

 審判の前に整列する両選手たち。

 

「礼!」

「お願いしまーす!」

 

 礼をして選手たちが散っていく中、ワタルは観客の方に振り向いて手を振った。

 その先のナナコが、応援の団扇をワタルに振り返す。

 そして始まる試合。ワタルは出だしからチームXioのエースとして目覚ましい活躍を見せ、トライを決めて先制点をもぎ取った。

 

「イェー……!」

 

 ワタルは調子良さそうにナナコの方へ人差し指を向けたが……笑顔が途中で凍りついた。

 

「ワタルー! 応援に来てあげたっスよー!」

「何とか間に合ったな」

 

 観客席には、新たにウェンディとノーヴェが駆けつけていた。が、ワタルの視線はその隣の方にだけ向いていた。

 

「ハヤトさん!」

 

 ナナコの隣にハヤトが腰掛けたのだ。ナナコは明るい顔をハヤトに向けている。

 

「……」

 

 舌打ちしたワタルだが、試合に戻ると鮮やかなコンバージョンキックを決めた。ワタルはポーズを決めて振り返ったが、

 

「いいぞワタルー!」

「流石やるじゃねーか!」

 

 ウェンディとノーヴェは歓声を上げているものの、ナナコは稲荷寿司をハヤトに食べさせていてワタルを見ていなかった。

 

「美味しい!」

「ホント?」

 

 それでたちまち不機嫌な顔となり、試合の最中にも関わらず集中力を切らして頭をかいた。

 

「おい、何やってんだよ!?」

 

 ノーヴェが怒鳴った時にワタルの元へボールが飛んできて、全く見ていなかったワタルは驚いた様子でキャッチ。

 

「……うわぁーっ!!」

 

 奇声を上げて、勢い任せに敵陣へ突っ込んでいく。その動きは、先ほどの洗練されたトライが嘘だったかのような杜撰なものだった。

 案の定、あっさり止められて地面の上に倒された。

 

「おい、どうしちまったんだあいつ? いきなりプレイが雑になった」

「……」

 

 訝しむノーヴェの一方で、ウェンディは今のワタルと、ハヤトと談笑するナナコを見比べた。

 ――この時、空から巨大な赤い火の玉が降ってきた!

 

「ニャ――――――――!」

 

 火の玉はまっすぐ地上へと落下し、市街地の真ん中に轟音を立てて突っ込んだ!

 落下地点からは、火の玉の正体……黒い真ん丸とした身体に大きな一つ目と細い触手という異形のボディから、それと丸で不釣り合いな猫みたいな耳や尻尾がちょこんと生えた変な見た目の巨大怪獣が立ち上がった!

 

「ムー!」

 

 そして怪獣出現を皮切りとするように、地上に異常な量のダークサンダーエナジーが降り注ぎ出した!

 

「怪獣だ!」

「みんな、すぐに避難を!」

 

 Xio隊員たちはすぐさま周りの市民たちを避難誘導していく。ワタルは荷物の元へ駆け寄って、ジオデバイザーで基地と連絡を取ろうとしたが、

 

「あれ? デバイザーが動かねぇ!」

「こっちもジェットエッジが変だ! 応答しねぇ!」

「立体ビジョンも不通っスよ!」

 

 ノーヴェとウェンディの方も基地との通信が取れなかった。致し方なく、彼らも怪獣から逃走していく。

 そんな中、ワタルはハヤトがナナコを誘導していくところを見咎めていた。

 

 

 

 ワタルたちはその足でオペレーション本部へと駆けつけた。

 

「すいません、遅れました!」

「デバイザーその他全部が動作不良で……」

 

 作戦室の照明も、異常な明滅を繰り返していた。クロノが理由を語る。

 

「電磁波に邪魔されて、予備動力への切り替えも支障が出ている」

「タイプA、怪獣の映像を出します」

 

 アルトがメインモニターに怪獣の姿を映し出そうとしたが……。

 

『むがむが』

 

 出てきたのは山のように積んだ肉まんを頬張っているグルマンだった。

 

「す、すみませんっ!」

 

 赤面したアルトが映像を切り換えると、

 

『にゃあ~』

 

 ごろごろと寝転んでいるアスティオンが出てきた。

 

『もぉ~、さっきから全魔力回路が滅茶苦茶ですよぉ!』

 

 ラボからシャーリーがぼやいたところ、ようやくモニターに怪獣の姿が表示された。

 

『あっ直った。……このムーから出てる電磁波が基地の許容範囲まで超えてまして、それでこんなことに』

「ムー?」

 

 何のことかと聞き返すワタル。

 

『私が名前つけました。ムーって鳴くから』

『ムー!』

『ほら』

「まぁ確かに……」

『ちょっと待ってて下さい。今基地の機能を修復してますから……』

 

 シャーリーとマリエルが基地のメインシステムに手を加えたことで、作戦室の照明がようやく安定した。

 

「怪獣はエリアT-1を移動中です」

「ジオマスケッティはまだ使えないのか」

『すみません、まだです!』

 

 カミキの問いにマリエルが申し訳なさそうに答えた。

 

「了解……。ハヤト、ノーヴェはアトス、ワタルとウェンディはアラミスで出動。ポルトスで出動したダイチとスバルと合流、三方から取り囲んで動きを封じるんだ!」

「了解!」

 

 命令を受けたワタルたちが出動していく。

 

 

 

 エリアT-1では、信号の色が滅茶苦茶に切り替わって、交通網が完全に麻痺していた。車に乗っていた市民はやむなく乗車を捨てて避難していっている。

 

「うあー、至るところ無茶苦茶なありさまっスね……」

「早いとこ何とかしないとな」

 

 アラミスが作戦ポイントにたどり着くと、降車したワタルとウェンディはムーの巨体を見上げる。

 

「ニャーア」

「あんたくらいに迷惑な奴は初めてっスよ! 食らえーっ!」

 

 二人はムーに射撃を仕掛ける。しかし、魔力弾はムーの手前で拡散してあらぬ方向に飛び散っていった。

 

「あれ?」

『それは電磁波の影響だ! 怪獣の周りにあまりに強力な磁界が発生しているので、魔力弾が反発されて怪獣まで届かないのだ!』

 

 どういうことかグルマンが伝えた。

 

「マスケッティは飛ばない、魔法も弾かれるんじゃ、どうしたらいいっスか!?」

 

 ウェンディはそう問い返したが、彼らがそれ以上何もしない内に、ムーの方に動きがあった。

 

「ムー!」

 

 何故か宙に飛び上がって、そのまま空の彼方へ飛び去っていったのだ。

 

「……何だあいつ?」

 

 ワタルのひと言に、ウェンディも首を傾げた。

 

 

 

 その後、ムーは一向に再出現する気配を見せなかったため、Xioは一旦警戒を解除した。ムーに対する情報分析が完了するまで、特捜班は英気を養う一時の休息を取ることとなった。

 ワタルはそれを利用し、口笛を吹きながら喫茶りんどんへと向かう。……だが、店の窓から店内を覗き込んだことで、楽しそうな顔が一気に驚愕に染まった。

 何と先にハヤトが店に来ていて、ナナコと楽しそうにおしゃべりしているのだ!

 ワタルは大ショックを受けた表情を、窓ガラスに息が掛かるほど近づけた。するとナナコがワタルの存在に気がつき、無邪気に手を振ってきた。

 動揺を隠せないワタル。その様子にナナコとハヤトは怪訝な顔となった。

 一方でワタルは突然腕で×印を作ったかと思うと、両腕をぶらぶらさせてカカシのようなひと昔前のイメージのロボットのようなカクカクした動きを見せる。

 

「何だあいつ?」

「あんな人だっけ、ワタル君?」

 

 ワタルの奇行に、ハヤトとナナコは疑問が口から突いて出た。

 ワタルの方は急に敬礼したかと思うと、エスカレーターのパントマイムで窓から離れていった。ハヤトたちは、はてなマークが頭の上にずっと浮かんでいた。

 

「うぅ~……!」

 

 そしてワタルはハヤトたちから見えない角度で、その場にうずくまってうなっていた。

 この一連の行動を、遠くからノーヴェとウェンディがながめていた。

 

「何やってんだあいつ」

「……」

 

 ノーヴェは呆気にとられていたが、ウェンディは妙な感じに黙りこくっていた。

 

 

 

 ムーの情報の解析が完了し、本部に特捜班の総員が集められた。彼らを相手に、シャーリーとマリエルが解析結果を発表する。

 

「ムーの出現と同時に、ダークサンダーエナジーが降り注いだでしょう。あれは私たちの予想以上に大変なことだということが判明したんです!」

「ムーがいる時には、ダークサンダーエナジーの発生が2.16倍にも増えてることが分かりました!」

「それって、ムーがダークサンダーエナジーを操ったってこと?」

 

 つぶやくディエチ。

 

「そんな恐ろしい能力があるのか?」

「操ってると言うよりは、ムーから発生してる強力な磁界がダークサンダーエナジーを引き寄せていると言うのが正しいでしょう」

 

 クロノの問い返しに、マリエルが訂正しながら回答した。

 

「それだけ電磁波が膨大ということです」

「その力を利用して、スパークドールズを実体化しようとしている黒幕がいるのかもしれないな」

「これも異星人犯罪者の陰謀でしょうか……」

 

 カミキとクロノが懸念していると、モニターにグルマンの顔が表示された。

 

『そろそろ作戦会議を終了したらどうだ。電磁波が増え始めているぞ』

「またムーが来るのか!」

 

 チンクが発すると、カミキが部下たちに指示を下す。

 

「ワタル、ウェンディはスカイマスケッティで偵察。他は警戒態勢を強化させろ!」

 

 

 

 ワタルとウェンディが先行し、格納庫のアトスに乗り込む。と、助手席のワタルがバックミラーにお守りが吊るしてあるのに気がついた。

 

「あれ? こんなのあったか?」

「ああそれ。ハヤトがナナコさんからもらってここに吊るしたんっスよ」

 

 ウェンディのひと言に、ワタルは驚愕。

 

「えっ!? いつ!?」

「さっき」

 

 ワタルはしばし呆然としたかと思うと、深く長いため息を吐いた。そんなワタルの様子をながめたウェンディが、彼に問いかけた。

 

「ナナコさんのこと、好きな訳っスか?」

 

 それで噴き出すワタル。

 

「ばっ!? お前、何を……! ナナコはた、ただの幼馴染だよ……!」

「強がらなくてもいいっスよ。そうでなきゃ、ハヤトがナナコさんと仲良くしてるのを見て、あんなみょうちくりんな振る舞いする訳ないじゃないっスか」

「げっ!? お前見てたのか!?」

「そりゃあもうばっちりと」

 

 見られていたと知って、ワタルはずーん……と落ち込んだ。そこに続けてウェンディは語る。

 

「悪いことは言わないから、さっさと諦めつけた方がいいっスよ。そもそも、ナナコさんにはあんたへの脈はこれっぽっちもないっスよ」

「は、はぁ~!? 何でお前にそんなこと分かるんだよ……!」

「そりゃああたしだって女の子っスからね。見てればそれくらいの気持ちは分かるっス。そもそも、ワタルにちょっとでも気があるんだったら、会ったばかりのハヤトに簡単になびいたりしないっスよ。そう思わない?」

 

 聞き返されたワタルは、顔色を何度も白黒させながらうんうんうなった末に、がっくりうなだれた。

 

「はぁ~……どうしてなんだ、ナナコぉ……」

「まぁそう落ち込まないで。思い通りにならないのが恋愛ってものじゃないっスか」

「くそっ、ウェンディのくせに知った風な口利きやがって……!」

「何スかその言い草。ほら、そろそろ気持ち切り替えるっスよ。出動するっス」

「うぅ……ちっくしょお~っ!」

 

 ワタルの悲痛な叫び声を車内にこだまさせて、アトスは基地から発進。マスケッティとジョイントし、電磁波の発声ポイントへ向けて飛翔していった。

 

 

 

 スカイマスケッティが到着した市街地には、ちょうどダークサンダーエナジーが連続で落下していた!

 

「ムーの姿は確認できないっスけど、電磁波がどんどん強くなっていって……わぁっ!」

 

 報告の途中で、マスケッティを激しい揺れが襲った。機体のバランスが崩れているのだ。

 

「コントロールまでおかしくなってきたっス……!」

「ムーだっ!」

 

 叫ぶワタル。アトスのフロントガラスの前を、空から下りてきたムーが横切る。

 

「ムー!」

 

 ムーはそのまま地上に着地した。その身体から発せられる電磁波により、周辺の建物から火花が散る。

 

「ニャーア!」

「エリアT-3にムー出現!」

「スカイマスケッティ、機体が安定しないっス!」

『着陸は出来るか!?』

「駄目っス! 着陸態勢も取れないっス!」

 

 ウェンディがカミキに返している中で、ワタルはムーの挙動を視認した。

 

「ニャアー」

 

 ムーはその場から動かず、周辺に一つだけの目を走らせている。

 

「あいつ……何か探してるのか……?」

 

 ワタルはそんな風に感じた。

 他のメンバーも現場に到着。ダイチはガオディクションでムーの感情を読み取ろうとするが、

 

「何だ!?」

「どうしたの!?」

 

 スバルがデバイザーの画面を覗き込むと、ガオディクションの画面が激しく乱れていた。

 

「ガオディクションもおかしくなってる……! これじゃムーの感情が分からない……!」

 

 Xioベースのラボでは、保管されているスパークドールズが次々降り注ぐダークサンダーエナジーの影響によって不安定な状態になりつつあった。

 

「危険な状態だわ……!」

「このままじゃ、スパークドールズが実体化しちゃう!」

 

 ウェンディは必死にハンドルを操作してマスケッティの姿勢を保とうとする。――その前方の空で黒雲が渦巻き、ひと際強いダークサンダーエナジーが地上に降った!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 その地点から怪獣が地上に出現!

 

「レッドキングです! 埋まっていたスパークドールズが実体化したようです!」

 

 ダイチは怪獣の分析をしながら走る。

 

「やっぱり、これが目的だったってことっスか!?」

 

 焦燥するウェンディ。マスケッティはまだ出力が不安定で、攻撃に移ることは出来ない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「ニャッ! ニャッ!」

 

 レッドキングは特に暴れん坊な怪獣だ。自分の周りのビルを手当たり次第に倒壊させる。ムーはレッドキングを前にして驚いたようで、文字通り目を丸くして立ち尽くしている。

 ダイチはレッドキングの暴行を止めるべく、エクスデバイザーを構えた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 スイッチを押して、ユナイトを開始!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 変身を遂げたエックスが、ムーとレッドキングの前に颯爽と登場したのであった!

 



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ワタルの恋(B)

 

「セヤァッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 エックスが出現するとすぐに、好戦的なレッドキングはそちらに振り返って威嚇する。エックスも戦闘の構えを取って戦意満々の様子だ。

 ここからエックスとレッドキングの激しい決闘が開始される!

 

「ニャ――――――ッ!」

「グワッ!?」

 

 ……と思いきや、いきなり横からムーがエックスに飛びつき、エックスは身動きが取れなくなってしまった。

 

「ニャッ! ニャッ!」

「グゥゥゥッ!」

 

 ムーの触手が絡みついてにっちもさっちも行かないエックス。引き剥がそうとするもムーはべったりエックスにくっついて全然離れない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ……?」

 

 これにレッドキングは立ち尽くして唖然とする。が、長くじっとしていられないのがこの怪獣、急に思い立ったように背後のビルを腕力で粉砕した。

 

「くっ! やっぱりムーはミッドを狙う黒幕の手先なんスか!? だからエックスの邪魔をっ!」

 

 険しい表情となって、マスケッティの立て直しを急ぐウェンディ。しかしその一方で、ワタルは何かに思い至ったようにムーを見つめた。

 エックスにベタベタ絡みつくムーと、バックミラーに吊るしてあるお守りを見比べて……いきなり笑い出した。

 

「あはははははは!」

「どうしたっスか、こんな時に! 何がおかしいっスか!?」

 

 ウェンディが流石に苛立って詰問すると、ワタルはあっけらかんと告げた。

 

「ムーは何もたくらんでないよ。黒幕もいない!」

「はぁ? 何でそんなことが分かるっスか」

 

 突然のワタルの言動に唖然とするウェンディに、ワタルは続けて言い切った。

 

「ムーは……エックスに恋をしてるんだ!」

「へ? 恋!? ラブ!? 怪獣がウルトラマンに?」

 

 予想外の言葉に開いた口がふさがらないウェンディ。

 

「そんな馬鹿なこと……」

「いいや、きっとそうだ。俺には分かるぜ……」

 

 ウェンディには呆れられたが、ワタルはムーを自身と重ね合わせることで、その確信を得ていた。あの態度、あの様子、あの行動……恋をしている者特有のものだと。

 

「グッ……トォッ!」

「ニャー!」

 

 一方、当事者のエックスはどうにか力ずくでムーを剥がし、押し飛ばした。が、ムーは触手の爪をビルに引っ掛けることで停止した。

 

「ムー!」

 

 エックスは改めてレッドキングと対峙する。

 

『来い、レッドキング! 私が相手だ!』

「ニャア――――――――!」

 

 勇んだエックスだが、またもムーが飛びついて絡みついてきた。こんな調子では戦いにならない。

 ダイチはムーの様子から、薄々事実に勘付く。

 

『「エックスに、懐いてるみたいだね……」』

 

 しかしエックスはムーに対して困惑気味。

 

『でも、私はこんな奴……見たこともないぞ!』

 

 エックスがてんやわんやしていたら、結果的に放っておかれていたレッドキングがとうとう痺れを切らして怒り出した。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 自分からエックスの方へ向かっていく。するとムーが向き直り、レッドキングに威嚇して体当たりしていった。

 

「ニャッ! ニャア―――――ッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 だがレッドキングのパンチ一発で弾き飛ばされてしまった。ムーは超強力な電磁波を放出する能力がある反面、素の身体能力は筋肉の塊のレッドキングには遠く及ばないのだった。

 

「ニャーッ!!」

 

 街のど真ん中に墜落するムー。それを目の当たりにして、迷惑していたとはいえエックスが義憤を見せる。

 

『何てひどいことを! 許さんぞっ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングに飛び込み拳打を見舞う。が、レッドキングの筋骨は鋼鉄のようであり易々と受け止める。反対にぶちかましを食らって大きくよろめいた。

 

『すさまじい怪力だ……!』

『「ゴメスにも負けないくらいだ!」』

 

 レッドキングは更にエックスの身体を肩の上に担ぎ上げ、背後へ叩き落とす。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「グアッ!」

 

 続いて近くのビルの屋上にある丸い給水タンクを掴み、それを鈍器に殴りかかってきた。

 

「フッ!」

 

 しかしエックスもレッドキングのパワーに対応してきた。腕を差し込んで殴打を止め、タンクを奪い返して元の場所に戻した。

 

「ジュワッ! ヘァッ!」

 

 そしてレッドキングの顔面に肘鉄を決めてひるませると、首を捉えて背負い投げ!

 

「セアァッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 仰向けに倒れたレッドキングの顔を、先ほどの恨みかムーが触手でペチペチ殴る。

 

「ニャア―――ッ!」

『どいてろっ!』

 

 しかしこれは危険だ。エックスの警告も虚しく、ムーはガバッと起き上がったレッドキングに丸い胴体を掴まれた。

 

「ニャアッ!?」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ムーが逃れようともがくが……その時にムーの電磁波に引き寄せられて、新たにダークサンダーエナジーが落下した!

 ダークサンダーエナジーはレッドキングに命中する!

 

「ニャアーッ!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 ムーは弾かれたが、レッドキングの方は巨体と筋肉が更に膨れ上がり、赤黒い皮膚と胴体に対して大きすぎる豪腕を持ったEXレッドキングへと変貌した!

 

「ヘアッ!?」

「アワアワアワ……!」

「うわぁっ! レッドキングが、パワーアップしたっス!」

 

 一斉に驚愕するエックスたち。彼らの視線を集めるEXレッドキングはますます凶暴になり、左右の豪腕を頭上に高々と振り上げる。

 

「な、何だかやべー雰囲気だぞ……!」

「全員後退だっ! 近くにいたらまずいっ!」

 

 ノーヴェがおののき、焦るチンクの呼びかけで地上の特捜班は急いでレッドキングから離れていく。

 そしてレッドキングが両腕を地面に振り下ろすと、ズドォォンッ!! とものすごい轟音とともにエリアT-3全域が激しく震動した。

 

「ウゥッ!?」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 エックスでさえバランスを崩す震動。ノーヴェたちは漏れなくその場に転倒した。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 レッドキングは再度地面を殴って震動を巻き起こす。周囲の建築物は衝撃で窓ガラスが全て叩き割られた。

 

「た、立っていられない……!」

 

 EXレッドキングの桁外れのパワーの衝撃に、スバルたちは起き上がることも出来ない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 そしてレッドキングはエックスに肥大した豪腕の拳をぶち込む!

 

「グワアァァァァァッ!」

 

 エックスは耐えられるはずもなく、殴り飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「ニャアーッ!」

 

 ムーが口から電磁波光線を吐いて攻撃するも、レッドキングは片腕で完全にガード。しかも狙いをムーの方に移す。

 

「ニャニャアッ!?」

 

 仰天して後ずさるムー。その華奢なボディに今のレッドキングの攻撃を一発でも食らったらひとたまりもないぞ! ムー危うし!

 しかしここで、ずっと不調だったスカイマスケッティの機能が一気に回復し出した。

 

「おっ、調子が上がってきたっス! 電磁波の量が減ったからっスかね」

 

 ムーが光線を吐いた直後から、一帯の電磁波が弱まったのだ。どうやら電磁波を一点に集中して放出すると、その後しばらくは放出量が減少するようだ。

 

「よぉしっ! それじゃあ俺たちの攻撃のターンと行こうぜぇ!」

「オッケー!」

 

 それまでふらついていることしか出来なかった鬱憤を晴らすように、マスケッティが猛然とレッドキングへ向かっていった!

 

(♪ワンダバUGM)

 

「トラーイっ!」

 

 ワタルの発射したファントン光子砲が、今まさにムーに殴りかかろうとしていたレッドキングの顔面に全弾命中。ダメージは見られないが、弾幕でひるませることには成功する。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

「ニャアーッ!」

 

 その間にムーは退避することが出来た。一方のレッドキングは、邪魔をしたマスケッティに敵意を向けてそれを追いかける。

 

「おっとぉっ!」

 

 丸太のような豪腕が振るわれるが、ウェンディの巧みな操縦によってマスケッティは難なくかいくぐった。

 

「筋肉つけ過ぎて、ノロマになっちゃったんじゃないっスかぁ? 減量した方がいいっスよ」

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 ウェンディの挑発が聞こえているのでもないだろうが、レッドキングは苛立って地面を殴りつけた。だがいくら地面を揺らそうと、飛行するマスケッティに影響はない。

 そしてマスケッティがレッドキングの気を引きつけている間に、エックスは体勢を立て直した。

 

『こっちも行くぞ!』

 

 エックスの内部で、ダイチがエクスディッシュを召喚する。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 虹色の輝きにより、エックスの身体がエクシードXのものに変身した。

 エックスは額のエクスディッシュを手に取り、アサルトフォームに変形させる。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!!」』

 

 レッドキングはエックスの変身に釣られてそちらに向き返り、パンチを繰り出す。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

「ジュワッ!」

 

 だがエックスはエクスディッシュ・アサルトの柄を盾にして、パンチを受け切った。

 ここでウェンディが告げる。

 

「あれやるっスよ! フォーメーション・ヤマト!」

「ヤマトをか!? この状況でいけるのか?」

 

 フォーメーション・ヤマトとは、怪獣災害ピーク時にヤマトという管理局員が考案した、二人以上がひと組となって行う対怪獣用の攻撃フォーメーションである。まず先行する囮が怪獣の面前で急上昇することで怪獣の注意を引きつつ、首を上に向かせることで無防備にする。そこにすかさず本命の後続ががら空きのボディに攻撃を叩き込むという連携だ。非常に効果的であり、これによって倒された怪獣も数多いが、囮役にはもちろん危険が大きいので相当熟練した腕前がないと不可能な、難易度の高いフォーメーションである。

 しかしウェンディには実行できる自信があった。

 

「任せるっスよー! それじゃ、レッツゴー!」

 

 マスケッティのエンジンが火を噴き、宙返りしてエックスの背後からその脇を通り抜けていく。

 その中でウェンディはエックスにぐっと親指を立てた。

 

「ジュッ!」

 

 ジェスチャーが伝わり、エックスは固くうなずいてエクスディッシュを構えた。

 

「ワタル! 今っス!」

「おう! トラァーイっ!!」

 

 レッドキングに向けて直進していくマスケッティから光子砲の連射が放たれ、レッドキングに直撃。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 レッドキングは怒り心頭してマスケッティを叩き落とそうとするが、マスケッティはスピードを落とさないまま急激に上昇。レッドキングは見事に釣られて目でマスケッティを追った。

 この瞬間、エックスが仕掛ける!

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 一直線に飛ぶエックスの斬撃がEXレッドキングに入り、肥大化した肉体が縮んで元のレッドキングのものに戻った。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 エクシードXは側転しながらの着地とともに二段変身を解き、腕をX字に組んで光線を発射!

 

「『ザナディウム光線!!」』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 隙のない連撃がレッドキングに決まり、レッドキングは爆発を起こしてスパークドールズに圧縮されていった。

 

「やったっ!」

「スパークドールズを回収します!」

 

 ぐっと拳を握って歓喜に沸く地上の特捜班。スバルはレッドキングの元へと単独で走っていった。

 

「やったーっ! フォーメーション・ヤマト大成功っスー!」

「ああ、見事なもんだったぜ」

 

 マスケッティのコックピットではウェンディが大歓声を発していた。そしてワタルと手の甲をぶつけ合い、機嫌を良くしてはにかんだ。

 エックスの方は、ムーに近づいて頬(らしきところ)を撫でる。

 

『大丈夫か?』

「ニャアッ♪」

 

 目をハートマークにしたムーだが……その瞬間に、臀部(らしきところ)からピンク色のガスを噴出した。

 

「ニャッ!?」

 

 途端に動揺を見せるムー。放たれたガスは風に乗って広がっていき……エックスとスパークドールズを回収したスバルを覆った。

 

「……?」

 

 するとどうだろうか、エックスの様子が不意におかしくなった。前後不覚に陥ったかのように周囲を見回し、ムーに向き直るとはたと動きが止まる。

 

『この怪獣は何だ?』

『「見たことのない怪獣だね」』

『いつの間に現れたんだ?』

 

 スバルの方も、キョトンとして辺りを見回したかと思うと、ムーを見上げて本部に通信をつなぐ。

 

「エリアT-3に怪獣出現! タイプA! 未知の怪獣です!」

 

 オペレーション本部のカミキたちは、スバルの奇妙な言動に戸惑う。

 

「スバル、何を言ってるんだ? ムーはさっきからいるだろう!」

『ムー? ムーって何ですか?』

「スバル、一体どうしたんだ!? 大丈夫か!?」

 

 クロノは意味不明な発言を重ねるスバルが心配になったが、グルマンがこれは何事が起きたのかをずばり言い当てた。

 

「分かった! さっきのガスは忘却物質だったんじゃないかな?」

「忘却物質!?」

「浴びた生物は直前までの出来事……ムーのことを綺麗さっぱり忘れてしまうのだ!」

 

 グルマンの言葉の通り、エックスとダイチ、スバルはムーのおならに含まれる忘却成分により、ムーのことを完全に忘れ去ってしまったのだ。

 エックスはムーから発せられている電磁波を警戒する。

 

『この怪獣、ものすごい電磁波を放っているぞ!』

『「凶暴な奴じゃないみたいだけど……この電磁波はこのままにはしておけないよ!」』

 

 エックスはムーの身体を鷲掴みにして頼み込む。

 

『おい、ミッドから立ち去ってくれ!』

「ムー!」

 

 スパークするムーの身体を掴んだので、電流がダイチのところにまで流れる。

 

『「うわっ! 電磁波が……!」』

 

 エックスは強引にムーを空高くへ向けて投げ飛ばした。

 

『宇宙へ……帰れー!』

 

 ムーが地上から離れたことで、マスケッティの機能は完全に正常となる。

 

「コントロールが完璧戻ったっス! 着陸!」

 

 ウェンディはマスケッティからアトスを切り離し、着陸。その近くに、避難中のナナコが通りがかる。

 

「あっ、ナナコ!」

 

 ワタルは大きく手を振るナナコに喜色を浮かべて手を振り返した。対するナナコは叫ぶ。

 

「ハヤトさーん!」

 

 ハヤトの名前を。

 

「大丈夫だった?」

 

 ワタルの横を通り過ぎていったハヤトはナナコの元に駆け寄り、彼女を気遣う。

 ワタルは手を挙げた姿勢のまま凍りついていた。ウェンディはそんな彼の肩をポンポンと叩いて慰めた。

 

「ムー!」

 

 一方で投げ飛ばされたように見えたムーだが、そのまま引き返してきてエックスに飛びついた。

 

『「戻ってきた!」』

『悪いが、お前がいると迷惑なんだ……! 頼むから帰ってくれ!』

 

 エックスはムーをグイグイと押しやり、宇宙へ追い返そうと必死になる。

 すると……立ち尽くすワタルのブーツに、空から水滴が落ちた。

 間を置かずして、ワタルとウェンディの頭に水がどしゃ降りに降りかかる。

 

「えっ、雨……!?」

 

 ウェンディが頭上を見上げると……それが雨でないのが判明した。

 

「ニャア――――――――!」

 

 エックスに拒絶されて、ムーの大きな一つ目から飛び散る大量の涙が正体だった。

 ワタルは腕を広げて、ムーの涙を受け止める。

 

「そうだムー、泣け……! その涙で、俺の恋を洗い流してくれ……!」

 

 ムーの涙はワタルの恋を洗い流す他にも、エックスにある影響を与えていた。

 

「……!」

 

 エックスの脳裏に、ある映像がよみがえる……。

 

 

 

『キャア――――ッ!』

 

 十五年前、宇宙の彼方の小惑星上で、怪獣ドラコがムーを散々踏みつけていた。ムーは過去にドラコに狙われていじめられていたのだった。

 

『おいっ! 何をやっている!』

『キャア――――ッ!』

 

 そこに通りがかったのがエックス。彼はドラコの羽を掴んで振り向かせると、逆上して襲いかかってきたドラコを返り討ちにしてムーを助けた。

 

『大丈夫か?』

 

 エックスは、ムーと出会っていたのだ。だがエックスは今回と同じようにムーを忘れ、ムーは自分を追いかけてミッドチルダへとたどり着いた……。

 

 

 

『はっ……!』

 

 涙によって忘却物質が洗い流され、消えていた記憶が全て戻ったエックスは、ハッとしてムーに向き直った。

 

『ムー! 思い出したよ! 久しぶりだなぁ! 元気だったか?』

 

 先ほどまでとは打って変わって、親しく呼びかけたエックスだが、

 

「……ムー!」

 

 今度はムーが急にエックスへの興味を失い、宇宙へ向けて飛び去っていった。

 

『ムー!? おい、どうしたんだよ!』

 

 エックスはポカンとしたまま、それを見上げていた……。

 

 

 

 ムーの涙は、エックスの失った記憶を呼び戻した。

 しかし、その代わりに……自分の記憶を失ったのかもしれない……。

 エックスへの恋を失って……ムーはもう、惑わない……。

 

 

 

「~♪」

 

 ムーの一連の騒動が終わった後、ウェンディはXioベースで鼻歌混じりに手鏡で髪型をチェックしていた。そこにノーヴェが後ろから話しかける。

 

「ウェンディ、やけにご機嫌みたいだな」

「あっ、ノーヴェ? いやいや、そんなことないっスよ~?」

 

 とか言いながら、ウェンディは見るからに上機嫌だった。それにノーヴェは白い目を向ける。

 

「これからワタルの奴をカフェに誘うんだろ? ……人の失恋を喜ぶなんて、性格わりー奴だなオイ」

「だから、別に喜んでなんかいないっスよ~。何であたしが、ワタルの恋路なんかを気にかけたりしなきゃいけないっスかぁ。気のせいっスよ、気のせい」

 

 適当に話を打ち切って、ウェンディはトレーニングルームへと向かっていく。

 

「うおおおぉぉぉぉぉっ!」

 

 そこで奇声を上げて射撃訓練に打ち込んでいたワタルを捕まえる。

 

「ワタルー! もうお昼休憩の時間っスよー! 今日はあたしにつき合うっス!」

「ウェンディ!? な、何だよ急に!」

「いいからいいから~! 今度はあたしのお気にのカフェを教えてあげるっスよ! さぁほら早く来て! 休憩終わっちゃうっスよ!」

 

 ワタルを引っ張って連れていくウェンディ。そのウキウキとした後ろ姿を呆れたように見送ったノーヴェだが……不意に寂しげに顔をしかめた。

 

「お前はいいよな、ウェンディ……」

 

 踵を返してラボに向かっていくノーヴェ。そこでダイチの姿を認めると、少しだけ顔を輝かせて近寄ろうとした。

 だが……すぐに足が止まってまた表情が曇った。

 

「はぁ~……昨日は何だか散々だったよ。地面揺らされてすっ転んだり、記憶を失って隊長たちから変な顔されたり……」

 

 ダイチは、スバルと会話をしているところだった。

 

「あはは、お疲れさまスゥちゃん。まぁでも過ぎたことは気にしないで、気分を切り換えていこうよ。そうだ、今日のお昼は外に食べに行かない? 美味しいお店見つけたんだ」

「ほんと、ダイくん!? うん、行く行く!」

 

 ダイチとスバルは談笑して笑い合っている。その様子を見て、ノーヴェはダイチに向けて挙げかけた手を下ろした。

 

「……あれ? ノーヴェ?」

 

 そこでダイチたちはノーヴェの存在に気がついた。スバルがノーヴェに尋ねる。

 

「ノーヴェ、どうかしたの? そんなところで突っ立って」

「……何でもねーよ。たまたま通りがかっただけだ」

「ふーん?」

 

 ダイチは何か閃いたように、ノーヴェに誘いかけた。

 

「ノーヴェ、これから俺たち外食しに行くんだけど、よかったら一緒に来ない? それとも予定あるかな」

 

 ノーヴェはダイチと、スバルの顔を見比べると、目を伏した。

 

「……まぁな。そういうのは、またの機会にしてくれ」

「そうか、残念だな。じゃあノーヴェ、また後でね」

 

 ダイチとスバルは連れ立って、ノーヴェの元から立ち去っていく。

 

「……」

 

 ノーヴェは二人並んで歩く後ろ姿をじっと見つめ……やがて、力ない様子で背を向けたのだった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はキングゲスラだ!」

ダイチ「ゲスラは『ウルトラマン』第六話「沿岸警備命令」に登場した怪獣だ! 元々は小さなトカゲだったんだけど、東京湾の汚水によって突然変異して巨大怪獣になってしまったんだ! 人間の環境破壊の犠牲者だったんだね」

エックス『着ぐるみは当初幼虫モスラの改造にする予定だった。劇中の台詞にも、それを前提とした内容のものがあるぞ』

ダイチ「そして『大決戦!超ウルトラ8兄弟』で強化体のキングゲスラとして登場! 横浜の赤レンガ倉庫でウルトラマンメビウスと戦ったぞ!」

エックス『その後ギガキマイラのパーツの一部になっていたな。大分大きな部分をゲスラの顔が占めていた』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではダークサンダーエナジーに打たれてショッピングモールの真ん中に出現してしまい、街を大混乱に陥れたぞ!」

エックス『弱点の背びれが取れなくなっていたり、毒のトゲを飛ばしたりと大幅なパワーアップを果たしていたな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 スパークドールズの実体化実験……。俺たちは遂に、ゴモラの実体化に成功する! でもその時、ダークサンダーエナジーが降り注ぎ、ゴモラは凶暴な姿になって暴れ出してしまった! これをたくらんだのは、人工生命? 一体お前は何者なんだ! 次回、『共に生きる』。


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共に生きる(A)

 

「ゴモラがない!」

「ゴモラ、どこだ!」

「幼い頃からゴモラとずっと一緒でした! ゴモラのことは誰よりも知っています!」

「人間と怪獣の共生する世界は父の悲願で……俺自身の願いなんだっ!」

「今のダイチさんは……ゴモラの立場になって、ゴモラの気持ちを考えてるんですか?」

『「俺は、お前の気持ちを何も分かろうとしてなかった……」』

「ゴモラ……あなたと一緒に戦いたい!」

「お願い! あたしにあなたの力を貸して!」

 

 

 

 ――惑星ミッドチルダの衛星軌道上に、類人猿のような生命体が漂っている。

 その生命体は、眼下に広がる青いミッドチルダの大地の一点を、じっと見つめている――。

 

 

 

 ミッドチルダの片隅、民間人の無許可の立ち入りを許されていない自然保護区において、クロノがカミキに向けて告げた。

 

「この実験に、隊長が許可されるとは思いませんでした。――スパークドールズの実体化実験を……」

「我々の理想は、自然環境の保護だ。そして怪獣もまた、自然の一部だ。ならば……いつかは通らなければならない道だ」

「しかし……危険な実験です。何も、ダークサンダーエナジーの落下数も増加していってる現状でやらなくとも……」

 

 危惧するクロノに、グルマンが語る。

 

「危険を伴わない進化はないぞ。理想があるなら、まず恐れず初めの一歩を踏み出すことだ。一向に正体の掴めないダークサンダーエナジーを怖がってずるずる先延ばしにしているような心持ちでは、『いつか』なんてものは永遠に来ない。管理局だって、そうして今日まで発展してきた。違うかね?」

「その通りではありますが……」

 

 グルマンの指摘を認めるクロノだが、それでも不安な様子。そのためカミキがのたまう。

 

「だが……事故は絶対に許されない! 万全の配慮を再度確認してくれ!」

 

 指示するカミキにグルマンは自信を持って返した。

 

「我がラボに出来ることは全てやっとる。ということは地上で出来る最大の配慮がなされているということだ」

 

 グルマンに続いてマリエル、シャーリーが説明する。

 

「無限書庫司書長にも協力してもらってパワーアップした障壁は、計算上ダークサンダーエナジーが百発落ちたとしても破られない強度です!」

「空はもちろん地上もカバーしてるので、万が一ゴモラが逃げるということも起こり得ませんよ!」

 

 ――Xioは本日、総出でゴモラを対象とした初のスパークドールズ実体化実験を執り行うのだ。

 山間部に設けられた実験施設で着々と準備を進めているXio隊員たちの様子を、見学のヴィヴィオたちチームナカジマに合わせ、アインハルトのクラスのクラス委員であるユミナ・アンクレイヴがそわそわした様子で見守っていた。

 

「とうとう来るんだね、人間が怪獣を実体化させる時が!」

「わたしたち、歴史の立会人になるってことだね……!」

「何だかドキドキするなぁ~! 早く始まらないかな?」

 

 ワクワクを抑え切れずに実験開始を待ちわびるヴィヴィオたちの一方で、アインハルトは遠くのダイチの後ろ姿を見やった。

 

「ダイチさん……遂に、夢の実現への大きな一歩を踏み出すんですね……!」

 

 期待を眼差しに乗せて、アインハルトは柔らかに微笑んだ。

 

 

 

『共に生きる』

 

 

 

 カミキがグルマンに問いかける。

 

「ゴモラの実体化時間は?」

「三分! その後はスパークドールズに戻る」

 

 うなずいたカミキは、居並んだ特捜班のメンバーに言い聞かせる。

 

「短い時間だが、何が起こるか分からない。万が一の場合……最悪ゴモラは駆除の対象」

 

 そのひと言に、特捜班に緊張が走った。

 カミキはダイチと向き合う。

 

「ダイチ……もう一度聞く。覚悟は出来てるか?」

 

 無言で首肯するダイチ。

 

「覚悟の上で実験の申請を出しました」

 

 と言って、カプセルに入れられたゴモラのスパークドールズを両手で持つ。

 

「俺は……ゴモラを信じます!」

 

 ダイチの後に、スバルも言った。

 

「あたしも信じます! ゴモラはダイチと心でつながっている……だから、何があってもきっと大丈夫です。ねっ、ゴモラ?」

 

 カプセルの中のゴモラを覗き込んで呼びかけると、ダイチと目を合わせうなずき合った。

 ダイチの覚悟を確認して、カミキは実験開始を宣言した。

 

「博士、実験を始めてくれ!」

「うむ! マリー、障壁展開だ!」

 

 マリエルの操作により、実験場を巨大な障壁が覆い込んだ。

 

「防御障壁、起動確認しました!」

「よし! ダイチ、ゴモラのスパークドールズを!」

「はい!」

 

 ダイチがカプセルを開けて、取り出したゴモラのスパークドールズを実験場の中央、実体化の光線が照射される地点まで持っていく。そこに設置する寸前、ゴモラに呼びかけた。

 

「頼んだぞ、ゴモラ!」

 

 実体化装置の上にスパークドールズを置き、下がるダイチ。そしてグルマンが言い放つ。

 

「リアライズビーム、照射開始!」

「はい! 照射開始します!」

 

 四隅のアンテナ型の魔導装置から光線が照射され、一点に集中。ゴモラのスパークドールズに浴びせられる。

 

「来た来た来た! 始まったよっ!」

 

 途端に興奮が高まるヴィヴィオたち。特捜班は固唾を呑んで、実験の推移を見守る。

 光線を浴びるスパークドールズが、宙に浮き始めた。

 

「スパークドールズが、光の粒子を取り込んでいます!」

「ゴモラの時が……動き始めたんだ……!」

 

 徐々に質量が増加していくスパークドールズ。初め手の平で包めるサイズだったのが、既に人間の身長を軽く凌駕している。

 

「完全実体化まで、後……5、4、3、2、1! ゼロ!」

 

 スパークドールズの巨大化が限界に達すると――ゴモラは己の肉体を自由に動かし、己の喉から鳴き声を発した!

 

「ギャオオオオオオオオ!」

「――やった……!」

 

 興奮がピークになり、逆に静かになるヴィヴィオたち。ダイチたちもまた、それぞれ喜びと興奮の色を浮かべている。

 

「完全実体化に、成功しましたっ!」

 

 マリエルの宣言を合図として、タイマーは三分のカウントダウンを開始した。

 

「あれがゴモラ……」

 

 怪獣を見慣れていないユミナは一瞬怯えてたじろいだが、それをアインハルトがなだめる。

 

「大丈夫です、ゴモラはダイチさんの親友ですから。ほら」

 

 ダイチはたまらなくなってゴモラの元へと駆け寄っていく。

 

「ゴモラっ! 俺だよ! 分かるか!?」

 

 ダイチの呼びかけに、ゴモラは大きく鼻息を鳴らす。

 

「いいぞ! 座ってごらん!」

 

 と言うと、ゴモラはその通りにその場に座り込んだ。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 これにスバルたちが大きくどよめく。

 

「ダイくんの言ってること……ちゃんと分かってるんだ!」

「すっごーい! 賢いっスねー!」

「何だか感動するぜ……!」

「ああ……私たちは、遂にやったんだ……!」

 

 この場に居合わせた者たちは、各自感動を噛み締めていた。

 ゴモラはダイチの前で座ったまま、甘えたような鳴き声を出した。それでリオが黄色い声を上げる。

 

「わぁ~! おっきいけど、かわいい~♪」

 

 グルマンも見惚れていたが、タイマーのカウントダウンの音で我に返った。

 

「ってダイチ、時間は限られている! 意思疎通の実験を続けよう!」

 

 グルマンへうなずいたダイチは、ゴモラに向き直って言った。

 

「ゴモラ、手を挙げてごらん! 出来る?」

 

 しかしゴモラはよく分かっていないかのように、微動だにしない。それでダイチは己の両腕を横にいっぱいに開いた。ボディランゲージだ。

 ゴモラはその動きに合わせて、同じように自分の腕をいっぱいに開いた。

 

「わぁぁ……!」

 

 周りの者たちが一様に見惚れている中、クロノはカミキに尋ねかけた。

 

「ダイチと気持ちがつながっている……そういうことですか?」

「ああ……。人間と怪獣の共存への大きな第一歩だ」

 

 ゴモラはダイチに自分の顔を近づける。ダイチはその鼻先を優しく撫でた。

 

「あ~! ダイチさんいいな~!」

「にゃあ~♪」

 

 ゴモラとの戯れを羨ましがるヴィヴィオたち。一方でスバルがダイチとゴモラの元へ駆け寄り、ダイチの隣に並んだ。

 

「ゴモラ!」

 

 スバルがサムズアップを見せると、ゴモラも同じポーズを取った。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 ヴィヴィオたちはゴモラにすっかり釘づけ。そしてアインハルトは、ダイチへ向けて小さくつぶやいた。

 

「よかったですね、ダイチさん……」

 

 ――だがこの時に、Xio本部ではけたたましい警報が鳴り響いていた。

 アルトがカミキに連絡をつなぐ。

 

「実験場上空から、ダークサンダーエナジーが発生!」

 

 報告を受けたカミキが空を見上げると、実際に黒雲が渦巻いてダークサンダーエナジーがゴモラに向けて落下してきた!

 

「わああっ!」

 

 悲鳴を上げるヴィヴィオたち。しかしダークサンダーエナジーは障壁によってさえぎられて、ゴモラには当たらなかった。

 

「……すごいですね、バリア!」

 

 ワタルが興奮気味に告げると、ラボチームは得意げになった。

 ――だが、ダークサンダーエナジーは一発だけに終わらず、次から次へと落下してくる。カミキは訝しげな顔になった。

 

「……こんなに続くのは初めてじゃないか?」

「ええ……。どうして今日に限って、こんな一度に大量に……」

 

 クロノは同意して、異常を前に不安の色を見せた。

 なおもダークサンダーエナジーは障壁に落下し続ける。タイマーのカウントはまだ数十秒残っているので、ゴモラをカプセルに戻すことは出来ない。

 不安はリオたちにも伝わり出した。

 

「ほ、本当に百発落ちそうな勢いだよ……!?」

「だ、大丈夫だよね……?」

 

 戸惑うヴィヴィオ。シャーリーとマリエルは、障壁のエネルギー値を確認しておののいた。

 

「障壁の耐久値がみるみる低下していってる……!」

「お願い、持ちこたえて……!」

 

 カウントは残り17秒。それまで障壁が耐えることを切に願う。

 ――だが願い虚しく、それまでとは比較にならないエネルギー量のダークサンダーエナジーが障壁に直撃したのだ!

 これにより障壁はとうとう耐久に限界が来て、突き破られてしまった!

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 衝撃で吹っ飛ばされるダイチたち。ダークサンダーエナジーはそのままゴモラに落下する!

 

「ギャオオオオオオオオ――!!」

「ゴモラっ!!」

 

 膨大なダークサンダーエナジーを浴びたゴモラは、その姿が武骨で禍々しいEXゴモラのものに変貌してしまった!

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 EXゴモラはまるで狂ったかのようにその場でのた打ち回り、暴れる。巨体を地面に叩きつける衝撃がヴィヴィオたちの方にも降りかかった。

 

「きゃああっ!」

「危ない! 下がれっ!」

 

 ノーヴェは子供たち五人をEXゴモラから遠ざける。セイクリッド・ハートとアスティオンは今のゴモラの様子にガクガクと震えていた。

 ラボチームは直ちに障壁の復旧を行おうとしたが、発生装置はダークサンダーエナジー落下により完全に壊れてしまっていた。

 

「障壁、再展開不可能ですっ!」

「ゴモラを実験場から出すな!!」

「了解っ!」

 

 カミキの命令でワタルたちはすぐにゴモラを取り押さえようと駆け出したが――その瞬間にゴモラが腹部から超振動波を発射し、正面の山を一撃で粉々に粉砕した。

 

「うわあああっ!!」

 

 その際の余波が特捜班を襲い、彼らはその場に倒れる。

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 その間にゴモラは鋭くとがった爪で地面を掘り返し、地中に潜っていく。

 

「ま、待てゴモラ! 行っちゃ駄目だっ!!」

 

 ダイチが慌ててゴモラの方向へ走るが、ゴモラは止まらずに姿を穴の中に消してしまった。

 それでも走るダイチの姿も、立ち込める土煙の中に消えていった。

 

「ダイくんっ!」

「ダイチ―――――っ!」

 

 スバルたちの制止も振り切り、ダイチはエクスデバイザーを取り出す。

 

「エックス、ユナイトだっ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 走りながらデバイザーのスイッチを押し込むダイチ。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!」

 

 ダイチが変身したウルトラマンエックスが、ゴモラを追いかけて飛び出していく。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 ゴモラが実験場から逃げ出したことにより、実験場のXioは大混乱に陥っていた。それを収めるカミキ。

 

「総員直ちに基地へ帰投! ゴモラの行方を調べるんだっ!」

「り、了解!」

 

 全隊員が大急ぎで引き上げの用意を行っている中で、ヴィヴィオたちがスバルを捕まえた。

 

「スバルさん! ゴモラは元に戻るんですか!?」

「……本当に……殺してしまうなんてことにはならないですよね……?」

 

 青ざめて尋ねるコロナ。スバルは彼女たちを安心させようと、努めて笑顔を作った。

 

「大丈夫。あたしたちにはエックスもついてくれてるんだし、ゴモラは問題なく助けられるよ。あたしたちに任せといて!」

 

 と告げるスバルに、アインハルトが念押しして頼み込む。

 

「ゴモラは、ダイチさんの親友……! ダイチさんの夢の第一歩です……! 絶対、ゴモラを助けてあげて下さい……よろしくお願いします……!」

「……うんっ!」

 

 アインハルトに固く約束し、スバルは仲間たちとともに基地へ帰投していった。

 

 

 

 実験場から消えたゴモラは地中を通り、湾岸の工業地帯に出現した。

 

「グギャアアアアッ!!」

「怪獣だー!」

「逃げろー!」

 

 突然の怪獣の出現に、工場の作業員たちは大混乱。死にもの狂いで避難していく。

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 工業地帯を破壊しようとするEXゴモラの面前に、追いかけてきたエックスが着地した。

 

「フゥッ……!」

「グギャアアアアッ!!」

 

 エックスはなだめるように首を振るが、ゴモラはまるで構うことなくエックスに突進してくる。

 

「グッ……!」

 

 それを受け止めたエックスの中から、ダイチが懸命にゴモラへ呼びかける。

 

『「ゴモラ、落ち着け! 落ち着くんだ! ゴモラっ!」』

 

 しかしゴモラの勢いが収まる様子は、一向になかった。

 

 

 

 ちょうどその頃に、特捜班はオペレーション本部に帰投した。

 

「エリアK-5に、ゴモラに続いてウルトラマンエックスも出現!」

「ワタルハヤトはスカイマスケッティでエックスを援護! 他全員は民間人の避難誘導だ!」

『了解!』

 

 カミキの迅速な指示により、既に格納庫で待機していたスバルたちがK-5に向かって急発進していった。

 

 

 

「グギャアアアアッ!!」

「グッ!」

 

 ゴモラはダイチの呼びかけに一向に応じず、容赦なくエックスに太い腕を振り回す。エックスは反撃することもせず、攻撃を受け流して耐えるのみ。

 

「グハァッ!」

 

 だがゴモラのパワーはダークサンダーエナジーによって尋常ではなく膨れ上がっている。とても耐え切れるものではない。

 

「セッ! セアァッ!」

 

 背中に飛び乗って抑え込もうとするも、力ずくで振り払われた。エックスはダイチに告げる。

 

『ダイチ、今のゴモラを説得するのは無理だ! 精神が完全にダークサンダーエナジーに侵されている! エクスディッシュ以外に方法はない!』

 

 ダイチはうなずき、それに続けて言う。

 

『「ザナディウム光線を使おう……! ゴモラをスパークドールズに戻す!」』

『――それがお前の考える共存か?』

 

 いきなり、聞き慣れない声が電脳空間に響いた。

 

『「えっ……? 今の、エックス?」』

『わ、私は何も言ってないぞ? 誰だ、今の声はっ! どこにいる!?』

 

 エックスも戸惑っている様子。声の主を捜して辺りを見回していると――。

 突然、何の前触れもなく、エックスの姿がかき消えてしまったのだ!

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 エックスが消えたことでゴモラの振るった爪は空振りした。この現場にスカイマスケッティが到着し、ワタルとハヤトは唖然と口を開いた。

 

「エックスが、消えた……!?」

「いつもの消え方じゃなかったぞ……! エックスはどうなったんだ!?」

 

 混乱するワタルたちの元に、マリエルからの通信があった。

 

『一瞬だったけど、大型の転移魔法の反応があったわ! エックスはそれによって、どこかへ強制転移されたみたい!』

「ま、魔法!? じゃあ今のは、人間がやったってことですか!?」

 

 驚愕するワタルたち。それは予想外にも程があることであった。

 だが、身長45メートルものエックスを強制転移させるほどの強力な魔法を、誰が行使できるというのだ? そして、何の目的でエックスをこの場から連れ去ったのだ?

 

 

 

 一方、強制的に空間転移させられたエックスは――三角フラスコの中に閉じ込められていた。巨人のエックスが、フラスコの中に!

 そしてフラスコは、実験室を思わせるかのようにビーカーや試験管が並べられた机の上に置かれていた。

 

『「ここはどこだ!?」』

 

 ありえない状況に大きく動揺するエックスとダイチ。――その背後から、類人猿のような生物が虫眼鏡でエックスをジロジロ観察していた。

 

『「誰だ!?」』

 

 類人猿はエックスよりもはるかに巨大……いや、今のエックスが小人サイズに縮小されているのだろうか?

 類人猿は虫眼鏡を机の上に置くと、己の正体を語り出した。

 

「私はM1号……。五十年前、プロジェクトFの前身である研究計画によって作られ……宇宙に捨てられた人工生命……」

『「人工生命!?」』

 

 ダイチは目の前の類人猿のような生命体が、ミッドチルダの人類によって造られた命だということに驚愕を覚えた。

 

(五十年前……聞いたことがある。当時使い魔を超える生物として新開発された人造生命体のサンプルが、搬送中の超特急の事故により消息不明となった事件があったと……。直後の法の改正によって人造生命体の研究は中止となり、その消えた生命体も二度と現れなかったから、遺体も残さず死亡したものと処理されたそうだけど……)

 

 しかし本当は五十年前から現在に至るまでの半世紀もの時間を、宇宙空間で生き延びていたのだ! 何という生命力!

 だが、その人工生命が何の目的でエックスを閉じ込めたというのか!

 



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共に生きる(B)

 

 人工生命M1号を前にして、エックスはダイチに呼びかける。

 

『ダイチ、今はこいつを相手にしている時間はない! ウルトラマンゼロの力で、ここから脱出しよう!』

『「分かった!」』

 

 言われた通りに、ダイチはウルトラマンゼロのデバイスカードをデバイザーにセット。

 しかし、デバイザーは反応すらしなかった!

 

『「えっ!? どうして……!?」』

「ここでは、そのようなものは通用しない!」

 

 動揺するダイチにM1号が断言した。

 

「フッ! フッ!」

 

 エックスは自分を閉じ込めるフラスコを殴るが、ひびすら入らない。エックスの超能力までが封じられている。

 

『駄目だ……! 奴が我々の力を封印しているのか!』

 

 M1号は、生まれてからたった数十分の内に三歳児レベルの知能まで発育をしたという。仮にそのままの速度で五十年間成長、発達を続けたとしたのなら……魔力も計り知れないほど膨大になっているということになる! その力で自分たちの力の発露を妨害しているのか、とダイチは考察した。

 一方のM1号は、宙に浮き上がって巨大な空間モニターを作り出した。

 

「ゴモラは、やっと自分の身体を取り戻したのだ。なのに……何故自由を奪う?」

 

 映し出されたのは、現在のゴモラの姿であった。

 

 

 

 地上では、消えたエックスに代わりXioがゴモラの暴走を止めようと応戦しているところだった。

 

『スカイマスケッティはファントン光子砲で威嚇攻撃! ゴモラを制御しろ!』

「了解!」

 

 マスケッティを駆るワタルとハヤトが、カミキの命令に応答した。

 スバルたちの方は、避難誘導を完了させて本部に報告する。

 

「エリアK-5、市民の避難、終了しました!」

 

 市民を全員退避させて、マスケッティの攻撃が始まる。EXゴモラの足元に光子砲が撃ち込まれ、驚いたゴモラは足を止めて前を横切るマスケッティを目で追いかけた。

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 ゴモラは咆哮を発してマスケッティを追いかけ出す。

 

「あたしたちも行こう! 絶対にゴモラを止めるんだ!」

「了解!」

 

 スバルとN2Rの五人はアラミスとポルトスに分かれ、ゴモラの背中を追って走り始めた。

 

 

 

 ダイチはM1号に訴えかける。

 

『「おい、俺たちを早く地上に!」』

「戻ってどうする? ゴモラを退治するのか?」

 

 振り返って問い返すM1号。

 

『「違う! 守るんだ!」』

 

 そのダイチの言葉を、M1号は一笑に付す。ビジョンの中のEXゴモラは、尻尾を振り下ろして工業地帯の倉庫を叩き潰した。

 

「ゴモラは怪獣だぞ。あんな姿を見て、まだ本気で共存できると?」

 

 問いを重ねるM1号に、ダイチは言い返す。

 

『「あれは本当のゴモラじゃない……! ゴモラはダークサンダーエナジーで誰かに操られてる! ……まさか、お前が怪獣たちを操ってる黒幕なのか!?」』

 

 ダイチの疑いに、M1号は見下すように返答した。

 

「人間らしい考え方だな。都合の悪いことが起こると、誰かが悪意を以てやっていると考える。自分たちがいつもそうしているからだ。私はそのようなことはしない」

 

 M1号の言葉には棘があるが、要するに違うようである。

 

『「……ともかく、あれはゴモラの本当の姿じゃないんだ! 間違ってるものなんだ!」』

 

 懸命に訴えかけるダイチ。

 だが、M1号はそんな彼に対して、はっきりと告げた。

 

「いいや。あれが怪獣の本来の有り様なのだ。知らないとは言わせん。あの姿を否定するということは、口では共存と綺麗事を唱えながら、実際は自分たちの都合を相手に押しつけ、怪獣のありのままの生き方の尊厳を認めないということに他ならない」

『「えっ――!?」』

 

 M1号の言葉に、ダイチは絶句した。心の底から衝撃を受けた。

 自分はこれまでダイチ・オオゾラとして、ウルトラマンエックスとして、正しいことを行っていると信じていた。その行為が、怪獣の尊厳を奪うということになるなどということなど……考えたこともなかった。

 

 

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 スバルたちはどうにかゴモラの暴走を食い止めようと、自分たちの取れるあらゆる手を尽くす。……が、EXゴモラの猛威はすさまじく、怪獣用のバインド、ケージ、結界など全ての捕獲術を破ってしまった。威嚇攻撃も最早効果が上がらない。

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 ゴモラは腹部から超振動波を辺り一面に放ち、エリアK-5全域を火の海に変える。スバルの顔の焦燥の色が濃くなっていく。

 

「くぅっ……! 被害がどんどん拡大していく……!」

「まずいぞ! もう別エリアの手前まで来ている!」

 

 ゴモラを追いかけて、チンクたちはエリアK-6の目前まで来ていた。

 

「K-6は避難が完了してない……! 侵入されたら大惨事に……!」

「ち、超やばいっスよぉ! どうするっスかぁ!?」

 

 ディエチもウェンディも激しく狼狽する。Xioは完全に追い込まれてしまった。

 その時に、カミキが重々しく唱えた。

 

『やむを得ん……! 総員に、非殺傷設定の解除を命じる!』

「!? 隊長、それって……!」

 

 色めくスバルたち。非殺傷設定の解除――ウルトラマンエックスがミッドチルダに現れてからは、一度も発動しなかった命令だ。それの意味するところは――。

 

『ゴモラの駆除を命ずるっ!』

「……!!」

 

 駆除。ゴモラを、殺害せよということだ。

 

『ワタル、キングジョーのカードを使え。キングジョーデストロイ砲で、ゴモラを駆除せよ!』

 

 カミキは空のワタルに、命令を下す。

 

「ワタル……」

「……了解!」

 

 ワタルはしばし無言だったが、やがて声を絞り出して応答した。

 更にカミキは、スバルとノーヴェに命令する。

 

『スバルとノーヴェはウルトライザーでワタルを援護』

「……了解……!」

 

 ノーヴェは固く目をつむりながら返答したが、スバルは無言のままだった。

 

『スバルっ!』

「――了解っ!」

 

 呼びつけられ、スバルは何かを振り切るかのように叫んだ。

 走り出す直前、ノーヴェが表情に影を落としながらスバルに告げる。

 

「チビたちと……ダイチには、あたしから謝るよ……」

「……」

 

 くっ、と歯を食いしばって駆け出していくスバルたち。チンクらはその背中を、沈痛の表情で見送った。

 マスケッティとスバル、ノーヴェがゴモラの前方に回り込んだ。スバルたちはナックルにカートリッジを装填。

 

[Charging Ultraman’s power.]

 

 ワタルはデバイスキングジョーのカードをセット。

 

[デバイスキングジョー、スタンバイ]

 

 破壊力がありすぎる上に、非殺傷設定を受けつけないために今まで使用されることのなかった禁断のカード。その封を破り、照準がゴモラに向けられる。

 

 

 

 ゴモラが殺害されそうになっている現実に、ダイチが絶叫する。

 

『「やめろぉぉーっ!!」』

「これが、人間だ。共存などと言いながら、都合が悪くなれば平気で排除する。人間はいつもそうだ」

 

 M1号が、侮蔑するように語る。

 

「私は五十年間、ここから人間の活動、人間の作った時空管理局などというものを監視してきた。――あらゆる世界に自分たちの都合を押しつけ、染まらぬものは拒絶する。今起こっていることが、その縮図だ! 世界の管理など、欺瞞!!」

 

 吐き捨て、ダイチに向けて言い放つ。

 

「思い知れ! 人間は他者と共存など、出来ぬ!」

 

 

 

「すまない! ゴモラぁっ!」

 

 とうとう、マスケッティからキングジョーデストロイ砲が放たれた。

 紅の電撃光線が、ゴモラを直撃する。

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 ゴモラが弾き飛ばされ、苦悶の声を発して地面に倒れ込んだ。

 

「っ!」

 

 それを見たスバルが、武器を下ろしてゴモラへと走り出した!

 

「スバル!? お、おい待てっ!」

 

 目を剥いてスバルを追いかけるノーヴェ。次弾を発射してとどめを刺そうとしていたワタルはハヤトに制止される。

 

「待てワタルっ! スバルがゴモラの前に飛び出しましたっ!」

 

 ハヤトの報告にチンクたちも、本部も驚愕した。

 そしてスバルはゴモラの眼前まで来ると、精一杯叫んでゴモラに呼びかける。

 

「ゴモラっ! ゴモラ、もうやめて! あたしだよ、スバルだよ!」

「やめろスバル! 危険すぎるっ!」

 

 ノーヴェが羽交い絞めしてでもスバルを下がらせようとしたが、スバルはそれを振り払った。

 

「放してっ! ここで、ここで止めないと、ゴモラが……死んじゃうんだよっ!?」

「グギャアアアアッ!!」

 

 起き上がったゴモラは爪を振り下ろし、衝撃でスバルたちを吹き飛ばした。

 

「うあぁっ!」

 

 宙に投げ出され、激しく地面に叩きつけられる

 

 

 

 ダイチはスバルに攻撃したゴモラへ向けて叫ぶ。

 

『「ゴモラ、やめろ! やめてくれ! その子はスバルだぞっ!」』

 

 だがその叫びは、地上には届かないのだ。

 ビジョンの中で、立ち上がったスバルがゴモラの正面に回って、腕を広げた。

 

「何だ、この茶番は? 自己犠牲のつもりか?」

 

 M1号はスバルの行動を嘲る。

 

 

 

 スバルは力の限り声を張り上げて、ゴモラへ叫んだ。

 

「ゴモラ、あたしたちは敵じゃないよ! 本当は分かるでしょう!? あたしたちは、仲間なんだよ……!」

「グギャアアアアッ!!」

 

 ゴモラはスバルへと足を振り下ろす。マッハキャリバーが自己判断でスバルを下がらせなければ、スバルは踏み潰されていた。

 それでもスバルは、何度転げさせられても、その都度立ち上がって叫び続けた。

 

「ゴモラ、あなたを殺したくないっ! あたしは、夢を終わらせるためにXioに来たんじゃないよっ!」

「あなたはあたしとつながった! 一緒に戦った! 心が通じ合ったんだよ! あたしたちは共に生きられるんだって、とても大事なことを……あなたが教えてくれたんだよっ!」

「それなのに、こんな訳の分からないまま終わってしまうなんてこと……悲しすぎるよっ!!」

 

 スバルの元にノーヴェのみならず、ウェンディたちも駆け寄ってきた。

 

「スバル、無茶しないで逃げてっ! 本当に死んじゃうっスよ!!」

 

 だがスバルは、ゴモラを見据えたままその場を動こうとしなかった。

 

「ううん、あたしは逃げない……! ゴモラのことを……この先に未来があるってことを、信じてるっ!」

 

 

 

『あたし、苦しい思いはいっぱいしてきた! くじけそうになったことも何度もあった! でもあきらめなかった! あきらめなかったから、今のあたしがここにいるの! あきらめなければ……この道の先に未来が続いてるんだって信じてるっ!!』

 

 M1号の見ている前に、今日までのミッドチルダの観察の記録――スバルがゴモラと共に戦った日、訓練を乗り越えた先の機動六課での日々、打ちのめされても立ち上がった瞬間、姉を乗り越えて助けた瞬間、夢を叶えた姿などのビジョンが現れる。

 なのは、ティアナ、エリオやキャロや、ギンガやダイチや、ノーヴェたち――かつて敵だった相手とも笑い合って、共に生きている姿が、M1号の眼に映った。

 

「……むぅ……」

 

 

 

「グギャアアアアッ!!」

 

 ゴモラは超振動波を溜め、放とうとしている。それでもスバルは逃げようとはしない。

 

「……みんなは避難して。このあたしのエゴに、つき合うことなんてないんだから」

 

 スバルのその言葉に、ノーヴェたちはクスッと微笑して答えた。

 

「いいや……ここにいるよ。あたしも、お前の言う未来を信じたくなっちまったよ」

「あたしもっス」

「私もだ」

「私も」

 

 スバルは彼女らに微笑を返すと、ゴモラへ向けて力強くサムズアップを向けた。

 超振動波が頂点に達し、ゴモラの身体が激しく光る。

 

 

 

『「スゥちゃんっ!! うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――っっ!!!」』

 

 ダイチが慟哭した瞬間、M1号はパチンと指を鳴らした。

 同時にフラスコが砕け散り、解放されたエックスがこの空間から一瞬にして消えた。

 

 

 

「グギャアアアアッ!!」

「――フゥゥゥゥッ!」

 

 ゴモラから超振動波が放たれたその時、スバルたちとの間にエックスが現れ、バリアで超振動波を受け止めた。

 

「エックス……!」

「ヌォォォォォ……オォッ!」

 

 エックスは超振動波を防ぎ切ってスバルたちを守り、エクシードXへの変身を行う。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

「『エクシード、エックスっ!!」』

 

 エクシードXになるとエクスディッシュを握り締め、エクシードエクスラッシュを発動。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

「グギャアアアアッ!!」

 

 虹色の光に乗り、EXゴモラの身体を斬りつけてダークサンダーエナジーを払った。

 エクスディッシュを額に戻してエクシードXを解くと、元の姿に戻ったゴモラに振り返る。

 

「……ギャオオオオオオオオ!」

 

 元に戻ったゴモラは辺りを見回す。――周囲は先ほどまで振りまき続けていた破壊により、余すところなく破壊し尽くされ、見る影もないほど無惨になっていた。

 ゴモラはスバルたちの方にも振り返った。彼女らもまた、全身傷だらけになっていた。

 

「……」

 

 エックスはやるせないような様子で、手の平を握り締める。

 

『「ゴモラ……」』

 

 ゴモラは静かに、エックスに向けて両腕を広げた。何かを待ち構えるように。

 ダイチは己の感情を押し殺しながら、エックスとともにザナディウム光線の構えを取っていく。

 

「ゴモラ……!」

 

 エックスがゴモラに光線を撃とうとするのを、スバルたちは様々な感情が入り混じった表情でただ見ていた。

 

『「ザナディウム……光線……!」』

 

 腕を振りかぶり、光線が発射しようとするその瞬間、ゴモラの身体が淡く光り出す。

 ダイチはあっと驚いて思わず手を止めた。

 そしてゴモラの身体は、勝手にスパークドールズへと圧縮されていった。

 

『「ゴモラ……!」』

 

 ダイチが、スバルたちが、皆がそれを静かに見届けた。

 

 

 

 実験場に残っていたグルマンたちは、倒れたタイマーに目を向ける。

 壊れたタイマーは依然として残り5秒を示していた。

 

 

 

 地面に転がったゴモラのスパークドールズを、スバルが拾い上げた。

 

「……」

 

 スパークドールズを胸の中に抱え込むと――ポロポロと涙をこぼす。

 彼女を無言で見下ろしているエックスとダイチの脳裏に、M1号の声が響いてきた。

 

『共存か、破滅か……。お前たちの未来を、私は監視する』

 

 空を――M1号のいる宇宙空間を見上げるエックス。

 

 

 

 M1号は衛星軌道上から地上を見下ろし、宇宙に漂い続けている。

 

「人間に作られ……人間を監視し続けて五十年……。未だに答えにたどり着けず……」

 

 M1号はスペースデブリとともに、ミッドチルダの上を回っていく――。

 

「私はカモメ……空高く飛翔し、思考し続ける……私はカモメ……私は……」

 

 

 

 ――Xioベースのラボ。カプセルに収められたゴモラのスパークドールズを持ち上げたダイチが、ゴモラに告げた。

 

「いつか……また会おう……」

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はレッドキングだ!」

ダイチ「レッドキングは『ウルトラマン』第八話「怪獣無法地帯」から登場した、ゴモラに並ぶ人気怪獣! 多々良島で他の怪獣を圧倒して、島の王者のように振る舞っていたんだ!」

エックス『身体が黄色いのにレッドキングなのには諸説あるな』

ダイチ「その後第二十五話「怪彗星ツイフォン」で再登場したのを皮切りに、『ザ☆ウルトラマン』、『ウルトラマン80』、『ウルトラマンマックス』などたくさんの作品に登場しているんだ!」

エックス『もう常連といってもいいかもしれないな』

ダイチ「『ウルトラマンX』ではムーが引き寄せてしまったダークサンダーエナジーによって実体化! EXレッドキングにまでなって大暴れしたぞ!」

エックス『暴れん坊ではあるが、やはりどこか抜けているような感じはしたな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 俺は分からなくなっていた……。怪獣との共存、それは俺の押しつけでしかないのか? 道に迷う俺は、なのはさんから彼女の故郷へと誘われた! なのはさんは、俺に何を言おうとしているのか……。次回、『なまえをよぶ』。


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なまえをよぶ(A)

 

「ゴモラと俺は、十五年来の付き合いなんですから」

「相手を倒すのではなく、理解する……」

「豊かな世界なんだ。恵みを分け合える方法はきっとある」

「お父さんが言ってたんだ。共存できる道はきっとあるって」

「人間と怪獣の共生する世界は父の悲願で……俺自身の願いなんだっ!」

『「お願いだ……。力を貸してくれ!」』

「いいや。あれが怪獣の本来の有り様なのだ」

「あの姿を否定するということは、自分たちの都合を相手に押しつけ、怪獣のありのままの生き方の尊厳を認めないということに他ならない」

『「えっ――!?」』

 

 

 

 Xioベースのラボの、スパークドールズの保管室の一画。ここにはダイチの「本来の生息環境に似た場所に置くことで、怪獣の感情が安定する」という研究結果により設けられた、それぞれのスパークドールズの怪獣の生息環境を模した水槽が並べられている。

 このスペースを見学しているヴィヴィオたちが、水槽が汚れていることに気がついた。

 

「あれっ。ダイチさん、テレスドンとゴメスの水槽に汚れついてますよ。拭いておきますね!」

「エレキングのに張ってる水も淀んでます。交換しないと」

「も~、ダイチさん。忙しくても掃除はちゃんとしないと、みんながかわいそうですよ?」

 

 コロナが水を取り替えている横で、リオが苦笑交じりに告げると、ダイチがハッとして彼女たちのところに寄ってきた。

 

「あ、ああ、ごめん。みんなにさせちゃって。後は俺がするから……」

 

 スパークドールズたちの水槽を掃除しようとしたダイチだが、その寸前で手がピタリと止まった。

 

「……? どうかしたんですか?」

 

 ユミナが訝しんで尋ねかけると、ダイチはぼそりとつぶやいた。

 

「……こんなのは、みんな偽物だ……」

「え……?」

 

 アインハルトらの視線がダイチに集まる。

 

「自由に動ける身体を奪っておいて、作り物の環境で感情を慰めようなんて……傲慢だ。前にリポーターが言った通り、ただの子供騙しのお遊びだ……! こんなもので怪獣に取り入ることが、俺の目指す共存なのか……!」

「ち、ちょっと、どうしたんですかダイチさん? 今日は何だかおかしいですよ?」

 

 戸惑ってダイチを案じるヴィヴィオ。我に返ったダイチは伏し目がちになった。

 

「ごめん、いきなり変なことをぶちまけて……。でも最近、悩むことが多くなったんだ。人間と怪獣の共存って、何なんだろうって……」

「え……」

「先日、ある人から言われたんだ。俺たちの……いや、俺のやってることは、こっちの都合を怪獣に押しつけて、怪獣の尊厳を認めないことだって……」

 

 それは、M1号によって閉じ込められた超空間の中で、M1号から突きつけられた言葉である。

 

「そんな……。ダイチさんは心から共存を考えて、怪獣のことを考えて行動してるじゃないですか! こっちの都合を押しつけて、尊厳を認めないだなんて、そんなひどいことがあるはずが……」

 

 アインハルトがM1号の言葉を否定するも、ダイチは首を横に振る。

 

「いや……考えの念頭にあるのは、常に人間側の都合だ。どうやって今の人間の社会を維持したまま、怪獣が生きる世界を作るか……。怪獣のことを二の次にしておいて、それは本当に怪獣の立場を考えてるということになるだろうか?」

「でも、それは仕方ないことじゃないですか」

「ううん、仕方ないで済ませていいことじゃないと思うんだ……。思考の時点で妥協してたら……理想からどんどん外れていく。そんな気がする……」

 

 真剣に怪獣との共存を望むダイチだからこそ、M1号の言葉は心に深く突き刺さったのである。その楔が、ダイチに今までにない迷いを招いている。

 

「人形にして、人間に害がないように仕立て上げてから解放して……。自覚してなかっただけで、俺は殺すよりもひどいことをしてたんじゃないのか? でも、他に俺が出来ることって何だ……」

「……」

 

 思考の泥沼に嵌まり、意気消沈していくダイチの背中を見つめて、ヴィヴィオたちは困惑して互いに目を合わせた。

 

 

 

 その後、ヴィヴィオたちはダイチが思い悩んでいることをカミキたちに相談した。が、

 

「ああ……ダイチのことは、こちらも把握している」

 

 カミキはそう前置きしてから、大きなため息を吐いた。

 

「しかし、我々としても今のあいつにどうしてやるのがいいのか、分かりかねているんだ。気休めを言ったところで、今のダイチには何の効果もないだろう」

「怪獣との共存について、一番考えてきたのがダイチだからなぁ……。俺たちにアドバイスなんて出来るのか」

「俺たちが思いつくようなことなんて、とっくに考えてるだろうな」

 

 ワタルとハヤトもため息を吐いて肩を落とした。

 

「安易な答えに走らず、悩みを持つのも大事なことではあります。ですが……」

 

 クロノがカミキに意見する。

 

「現在の我々を取り巻く状況下で、任務に支障が生じるほど悩まれるのは危険です。何か重大なミスをされたらと、私は心配でなりません」

「言いたいことは分かる。が、心の問題も簡単なものではない。上から言いつけても、どれだけ効果があるか」

「場合によっては、ダイチを我々の任務から外さざるを得なくなりますが……」

「そんな……!」

 

 その言葉にショックを受けるヴィヴィオたち。カミキが否定しなかったことで、また動揺を覚えた。

 ヴィヴィオはチラッとノーヴェに目配せしたが、彼女も目を閉ざして首を振るだけだった。チンクやウェンディ、ディエチ、シャーリーたち、スバルでさえもひと言も発さず、重い空気に包まれている。

 最後にすがるようにグルマンへ視線を向けたが、彼も申し訳なさそうに返した。

 

「この天才の頭脳でも、解決案は思い浮かばん。それほどまでに難しい問題に、ダイチは直面しているんだ」

 

 ダイチの行く先に漂う暗雲が晴れる気配がなく、ヴィヴィオたちもまた表情に落とす影を濃くした。

 

 

 

 その晩、帰宅したヴィヴィオになのはが尋ねかけた。

 

「ヴィヴィオー、今度はルーフェンに特訓ツアーに行くんだって? 一生懸命なのはママも嬉しいけど、ヴィヴィオが構ってくれる時間が少なくなるのはちょっと寂しいな~」

「……」

 

 冗談めかして話しかけるが、当のヴィヴィオは未だ暗い顔。それでなのはの表情も一変する。

 

「……何かあったの?」

「ママ、それが……」

 

 ヴィヴィオはXioでのダイチの様子、それにまつわる事柄をなのはに打ち明けた。

 

「なるほどね。ダイチくんが、そんなことに……。それでダイチくんのことが心配なんだね?」

「うん……」

「……他人のことに親身になれるのはいいことだけど、それで自分のことが疎かになったらいけないよ?」

「うん……。わたしが悩んでもしょうがないってことも分かってるけど、でも……」

 

 思い詰めるヴィヴィオ。セイクリッド・ハートも困った顔になっている。

 それでなのははしばし考え込んだ後に、ヴィヴィオに告げた。

 

「よしっ! それじゃ、ダイチくんのことはわたしに任せて! 考えがあるの。きっと、何とかしてみせるから!」

「えっ、なのはママが?」

 

 ヴィヴィオは虚を突かれた顔でなのはを見上げた。

 

 

 

『なまえをよぶ』

 

 

 

 数日後、ヴィヴィオたちがルーフェンに出発する日。ダイチはラボでエックスに話しかけられていた。

 

『ダイチ、少し思い詰めすぎだ。仕事の能率も落ちる一方じゃないか』

「分かってる。でも……どうしても、あの言葉が頭から離れないんだ……」

 

 エックスに諭されても、ダイチの気分は晴れなかった。

 

「ヒカルさんたちの言ってた、怪獣との共存に成功した人たちは、どんな風に考えて答えを出したんだろうか……。それが聞ければいいんだけど……」

『……』

 

 相も変わらぬダイチの様子に、エックスも参ったように押し黙った。するとそこに、ダイチの元に通信が入る。アルトからだ。

 

『ダイチ隊員、あなたにお客様がいらしてます。オペレーション本部まで来て下さい』

「えっ? 俺に、お客さん?」

 

 ダイチは呆気にとられて、席を立った。

 

 

 

 オペレーション本部でダイチを待っていたのは、なのはであった。

 

「やっ。こんにちは、ダイチくん」

「なのはさん? 今日はどうしたんですか?」

 

 いささか驚きを見せるダイチ。何か事件が発生したという情報は聞いていない。

 何事かと思っているダイチに、なのははこう告げた。

 

「急で悪いんだけど、これからダイチくんをわたしの故郷、97管理外世界の海鳴市に招待したいの!」

「えっ!?」

「もう隊長さんに、一日ダイチくんを貸してもらう許可はもらってるからね」

 

 ダイチは思わずカミキに顔を向けた。

 

「隊長、いいんでしょうか?」

「ああ。ダイチ、お前は最近考え事が多いだろう。そういう時には気晴らしが必要だ。任務から離れた場所で、気分転換してくるといい」

「いや、でも俺……」

 

 突然の話で逡巡するダイチの手を、なのはが取る。

 

「まぁまぁ、細かいことはいいから。必要な荷物はこっちで用意してるからね。それじゃ、しゅっぱーつ!」

「えっ、えっ? ちょっ、なのはさん!?」

 

 強引ななのはのなすがままにされ、ダイチは引っ張られていく。

 

「いってらっしゃーい、ダイくん。なのはさん、ダイくんをよろしくお願いします!」

「私の家族に会ったら、クロノは元気でやっていると伝えておいてくれ」

 

 スバルやクロノたちが元気にダイチたちを見送る。どうやらダイチがいない間に、なのはが皆に話を通したようだ。

 こうしてダイチは、なのはに連れられて第97管理外世界『地球』へ旅立っていった。

 

 

 

 地球に連れてこられたダイチは、まず海鳴市全域を一望できる高台から、町の光景を見渡す。

 

「ここが地球……なのはさんの故郷ですか……。俺とスバルのご先祖が、かつて暮らしてた世界でもある……」

「ダイチくん、地球に来たのは初めて?」

「はい。管理外世界にスパークドールズは発見されてませんし」

 

 うなずいたダイチがなのはに向き直った。

 

「でもなのはさん、どうしてわざわざ俺をここに……?」

 

 と問いかけるが、なのはは今は答えなかった。

 

「悪いけれど、その話はもうちょっと待ってね。先に、この海鳴市をダイチくんに案内するから。ついてきて!」

「あっ、待って下さいよなのはさん!」

 

 元気に歩み出すなのはの後を、ダイチが慌てて追いかけていく。

 

 

 

 それからダイチは、なのはの実家が経営する喫茶店を始めとした、彼女がおススメする海鳴市の見どころのスポットを紹介されていった。

 そして、なのはが小学生時代に通っていた学校の前までやってきた。

 

「ここが聖祥大学附属小学校。こっちでの親友のアリサちゃん、すずかちゃんと初めて会ったところなんだ。懐かしいなぁ……もう十六年も前になるんだ」

「はぁ……」

「でも初めから仲が良かった訳じゃなかったんだ。特にアリサちゃんとはちょっとしたことで大喧嘩しちゃってね。でも、それがきっかけで『友達』になれたんだよ」

「『友達』……?」

 

 なのはがその部分をそれとなく強調したので、ダイチは思わず復唱した。

 

「次はこっち。ついてきて!」

 

 次になのはが連れていった先は、何の変哲もない住宅街の中の一本の道路。ここでなのははレイジングハートを手にしながら語る。

 

「ここが、ユーノくんからこのレイジングハートを授かって初めてバリアジャケットを装着した場所。わたしの魔導師デビューの場所と言ってもいいかな」

「魔導師デビュー……なのはさんは元々地球の一般市民で、ジュエルシード事件に関わったことで魔導師になったんでしたよね」

「うん。ユーノくんとレイジングハートと出会ったことで、わたしの何もかもが変わったんだよ」

 

 少し遠い目をするなのは。ジュエルシード事件当時のことを振り返っているのだろうか。

 魔導師になるきっかけとなった一件だ。自分には想像もつかないような様々な思いを抱いているのだろう、とダイチは感じた。

 次に訪れたのは、なのはの友達のすずかの家である、月村邸の門前。

 

「このすずかちゃんの家のお庭にジュエルシードの一つがあって、そこでフェイトちゃんと初めて会ったんだ」

「ここが、なのはさんの無二の親友の、フェイトさんとの出会いの場所……」

「でもフェイトちゃんとは最初、ジュエルシードを取り合うライバルみたいな関係だったんだよ。友達、とは言えなかったな」

 

 なのはのひと言に思わず振り返るダイチ。

 

「そうなんですか!? ……いえ、大体のところは聞いてましたが、今のお二人の姿からはちょっと想像できません……」

「あはは。それに、最初はわたし、フェイトちゃんには全然敵わなくって。二回も完敗しちゃったんだよね」

「それも意外です……。今のなのはさんは、あんなにお強いのに」

 

 少し唖然とするダイチに、なのはは苦笑を浮かべた。

 

「誰だって、最初から強かったり、上手くやれたり出来る訳じゃないんだよ。フェイトちゃんとの関係もそうだった……。わたしはフェイトちゃんとお話しして、色んなことを教えてもらいたいと思ってたんだけれど、当時のフェイトちゃんはお母さんのことだけが全てで、わたしの話は全然聞いてもらえなかった。だから、わたしたちは何度もぶつかり合った」

 

 話しながら、二人は河口に掛かる橋の上にたどり着いた。

 

「フェイトちゃんとの決戦、フェイトちゃんのお母さんとの戦いを経て、この場所でわたしたちはようやく友達になれたの。長くて大変な道のりだったけど……その分、嬉しさもひとしおだったよ」

 

 ダイチはその話から、なのはとフェイトの絆の強さは、ジュエルシードを巡る幾度の戦いと互いの思いのぶつかり合いによって鍛えられたものなのだということを感じ取った。

 

「次の出会いは、はやてちゃんとヴォルケンリッターのみんな。出会い方はかなり過激で、ヴィータちゃんにいきなり襲われたんだよね。あの時はほんと驚いたなぁ……。今では当たり前みたいになってるカートリッジシステムも、当時は全然知られてなかった技術で、それを持ってたヴィータちゃん相手にやっぱり手痛い負けを経験したんだよ」

 

 大学病院がある方角を見やりながら話すなのは。闇の書事件のことだと、ダイチは心の中でつぶやく。

 

「それから助けに来てくれたフェイトちゃんと一緒に頑張って強くなって、ヴィータちゃんたちはやっぱり話に応じてくれなくて、だから激突して……。でも最後には、はやてちゃんたちみんなと分かり合うことが出来て、一緒に戦って闇の書に打ち勝つことが出来たの」

「それで、はやてさんとも友達になれた、ということですね……」

「うん。たくさん苦労したり、痛い目見たりしたけど、その全部が今となってはいい思い出だよ」

 

 そこまで語ったなのはは、ダイチと面と向き合って、次のように告げた。

 

「分かった? 誰かとお友達になるというのは、簡単じゃない時もあるの。最初は分かり合えない、話を聞いてもらえないことだってあるし、いっぱい苦労を重ねなければいけないこともある。でも……あきらめずに、自分の純粋な想いを臆せずに正面からぶつけていけば、友達になれないなんてことはないとわたしは思うの。――たとえ、それが怪獣相手だとしても」

「……!」

 

 ダイチはここで、なのはが自分を海鳴市に連れてきた理由を理解した。

 

「まっすぐな思いは、あらゆる垣根を越えて、必ず相手の心に届く。わたしは、そう信じてる」

 

 なのはの力強い言葉とともに、二人の間に、何かを変えるような風が吹き抜けていった。

 



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なまえをよぶ(B)

 

 ダイチがなのはに連れられて海鳴市にいる頃、ヴィヴィオたちチームナカジマはリオの故郷『ルーフェン』を訪れていた。そしてリオの実家である春光拳道場の伝統的な練武場「三岩窟」に挑戦している真っ最中だった。

 三岩窟はその名の通り、「技」「力」「心」を試す三つのルートがあり、アインハルトとリオはその内の「力」のルートの最奥部まで到着した。

 

「はぁぁっ!」

 

 最後の試練として、ゴール地点に立ちはだかる堅牢な扉二枚をリオ、アインハルトの順に攻撃。壮大な轟音と衝撃とともに扉は破壊され、その奥に鎮座してあった宝箱を発見する。

 

「力ルートの宝発見だ!」

「おたから~! 中身は?」

 

 リオが宝箱を開くと、中身は、

 

「最新型の魔力負荷バンドだ! 春光拳道場でも有段者だけが使える本格仕様だってさ! キッツイぞ~」

「いいですね!」

「にゃあ!」

 

 ノーヴェの説明にアインハルトは嬉しそうにしたが、リオは引きつった苦笑い顔だった。

 

「嬉しくないことはないんですが……」

「まぁ喜びづらくはあるかも……」

 

 リオとユミナが微妙な顔をしていたその時、後方からゴトッ、と乾いた音がした。

 

「ん? 何だろ?」

 

 振り返った四人が扉の跡を踏み越えて鍾乳洞の広間に戻ると、先ほどまではなかった宝箱を発見した。

 

「宝箱……? もう一個あったんですか?」

「いや、そんな話は聞いてないけど……」

 

 呆気にとられるノーヴェ。新しく出てきた宝箱は、魔力負荷バンドを入れてあったものとは違ってかなり古ぼけていた。

 洞窟の天井を見上げると、宝箱のちょうど真上が裂けていた。

 

「どうやら、さっきの衝撃で上から落ちてきたみたいだな。随分古いものみたいだし、ずっと昔に運び込まれたまま忘れ去られてたものか……?」

「ってことは、本物の春光拳のお宝ってことですか!? すごーい、大発見っ!」

 

 つい先ほどとは打って変わってテンションを上げたリオが宝箱に飛びつく。

 

「あっ、ちょっと待ってリオちゃん。こっちに紙も落ちてる。宝箱の説明かも」

 

 ユミナが地面に落ちてあった紙を拾い、書かれている文を読み上げた。

 

「何なに……『危険。開けるべからず』。……え?」

 

 ユミナ、アインハルト、ノーヴェがリオの方に振り向いたが、その時には既に遅く、リオは蓋を開いていた。

 

「えっ……!? こ、これって……」

 

 当のリオは、唖然とした顔で宝箱の中身を両手で持ち上げた。

 

「どう見ても……スパークドールズだよね……?」

 

 リオの手にしているもの。それは真っ赤な体色の、首の左右にそれぞれ目とクチバシのついた怪獣の人形であった。

 アインハルトたちは一瞬硬直し、次いでノーヴェがXio隊員の顔になってリオに言いつける。

 

「リオ、そいつを宝箱の中に戻して蓋を閉じろ! ゆっくりとだ! いいな、ゆっくりとだぞ!」

「ご、ごめんなさ~い!」

 

 しかしリオは何故か謝る。その理由は、

 

「もう遅いみたいです~! ドクドク脈打って、ちょっとずつ大きくなってます~!」

「!!?」

 

 ノーヴェは即座に変身。アインハルト、ユミナ、リオを一気に抱え上げてその場から全速力で離れていく。

 

「オットー! ミカヤちゃん! 緊急事態だぁーっ!!」

 

 他の二つのルートのチームに緊急連絡を入れるノーヴェの背後で、宝箱の中に落下したスパークドールズの手足が、内側から箱を突き破ってどんどん大きくなっていく。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 

 

 なのははダイチに向かって、話を続ける。

 

「ダイチくんの目指そうとしているところ……怪獣との共存。怪獣と友達になること……それはわたしの場合よりもずっと難しいことだよね。わたしなんかよりもずっと苦労しなくちゃいけない、すごく大変なこと……。でも、ダイチくんの想いは紛れもない本物だって、わたしが保証する。その気持ちと、どんなことにもあきらめない心があれば、どんな辛い道のりも乗り越えて、共存を実現できる……怪獣と友達になれるよ。友達になるってことは、自分の都合の押しつけなんてことじゃ絶対にない」

 

 確信を持ってダイチに説くなのは。しかしダイチにはまだ迷いがあった。

 

「でも、俺が目指すところというのは、結局は怪獣に本来の生き方をさせないことなんですよ……。それを強いておいて友達だなんて、厚かましいことなんじゃ……」

 

 その言葉に、なのはは静かに首を横に振った。

 

「確かに、怪獣に生き方を変えさせなくちゃいけなくはなるだろうね。でも、仮に怪獣を本当に自由にさせたら街に、人間に大きな被害が出ちゃうんだよ。怪獣にばかり負担を掛けさせるのも共存とは違うけど、人間が一方的に苦しまなくちゃいけないのも、共存として間違ってるよね?」

「あっ……!」

 

 ダイチは、なのはの指摘に得心させられて思わず声が出た。M1号に言われたことが頭を占めるばかりに、その点を完全に忘却していた。

 なのはは今の話に続けて、己の考えを述べる。

 

「人間の都合を怪獣に押しつけるのでもなく、怪獣の好きなようにばかりさせるのでもなく……お互いが一緒にいられるのに一番いい世界を模索して、新しく作っていくことが共存だと、わたしは思う。だって、嬉しい時も苦しい時も寄り添い合って、分かり合っていくのが友達だもの。わたしは、ずっとそうしてきた」

「世界を、新しく作っていく……?」

「そう。人間と怪獣の共存は、この世界のどこにも未だ来てないものなんだから。だから、これから探していくんだよ! 途中で何度も苦しんで、傷ついて、時には泣いたりしたっていいの。それでも折れずに未来を探し続ければきっと……ううん、必ず答えは見つかるよ!」

 

 ぐっ、と手を握って力強く言い切るなのはの語ったことに、ダイチはいつの間にか目が覚めるような気持ちになっていた。

 思えば、M1号の言ったこともあくまで見解の一つでしかないのに、衝撃的だったあまりにそれに振り回され過ぎていたのかもしれない。なのはの言った通りに、これから作っていくものに対しての回答を、過程をすっ飛ばして求めようというのがそもそもの誤りだったのではないか。焦らずに、一歩一歩着実に探している未来に近づいていく……。この地道な道のり以外に、未来への一番近い道なんてあるはずがない。

 しかし、ダイチにはまだ一つだけ、不安なことがあった。

 

「でも、怪獣と友達になると言っても、怪獣は俺のことを「友達」と思ってくれるでしょうか。思い返せば、まぁある意味では当然のことではありますが、働きかけるのはこっちばかりで、向こうが俺をどう思ってるのか確かめたことはほとんどありませんでした……」

 

 それについてはなのはも少し悩む。

 

「うーん、難しいことだね。相手が自分を友達と思ってるのかどうかということに確証を持つのは不可能だからね。相手の頭の中が覗き込める訳じゃないんだから……。だから、そんな時には――」

 

 一旦言葉を区切って、なのはは告げる。

 

「相手を信じる。わたしはそうしてるよ」

「信じる――」

「まずは、名前を呼ぶこと。そこから始めて、一緒にお話しをしていって……相手を信じて続けていけば、いつか見えない絆が感じられる時が来るよ」

 

 そこまでのなのはの話を受けて――ダイチの顔つきは、ここ最近のものからはすっかり様変わりしていた。晴ればれとしたものになっていた。

 

「なのはさん、ありがとうございます。お陰で、見失ってた進むべき道を見つけ出すことが出来ました」

 

 なのはに向かい合って、深々とお辞儀して感謝の意を表す。

 

「うん、元気が戻ったみたいだね。わたしがお役に立てて、本当によかったよ。これからもがんばって! わたしはいつでも応援してるし、また何かあった時はいつでも相談に乗るからね♪」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ダイチがもう一度お礼を言ったその時、エックスがいきなり声を張り上げた。

 

『ダイチ! ルーフェンで大変なことが起きているぞ!』

「えっ、ルーフェンで?」

 

 突然の話に、ダイチもなのはも目を丸くした。

 

『ノーヴェからXio本部への通信をキャッチした。詳しくはこれを見てくれ!』

 

 デバイザーに、現在のルーフェンの三岩窟の状況が表示された。

 

『ガガァッ! ガガァッ!』

 

 洞窟を内側から突き破って、真っ赤な双頭の怪獣が出現。左右のクチバシを開いて、辺り一面に火炎を振りまいている。

 

「双頭怪獣パンドンっ!」

 

 思わず叫ぶダイチ。しかもパンドンと火の海に追われている集団の姿が、ダイチたちの目に入る。

 ヴィヴィオたちである。どうにかパンドンが実体化し切る前に洞窟内から脱出することは出来たが、パンドンに追い回されているのだ。

 

「ノーヴェっ! みんなっ!!」

「ヴィヴィオ!!」

 

 仰天する二人に、エックスは続けて告げた。

 

『ルーフェン支部のXioが出動したが、到着まで半刻は掛かるだろう……。今のままでは彼女たちが危ないっ!』

 

 ジオマスケッティがあるのはミッドチルダのXio本部だけ。支部の機動力では、今まさに襲われているヴィヴィオたちを助けるのが間に合うかどうか。

 それを受けて、ダイチは決心を固めた目つきでなのはへ顔を上げた。

 

「なのはさん、今日は本当にありがとうございました。――俺、行きます!」

「行く? 行くってどこに?」

 

 一瞬唖然とするなのは。普通に考えれば、別次元にいるダイチがルーフェンの現場に今から向かって間に合うなんてこと、どう考えても不可能だ。

 

「――このままじっとしてることは、出来ないんです!」

 

 重要な点ははぐらかして告げたダイチに、なのはは少しの間呆気にとられてから、固くうなずいた。

 

「よく分からないけど……何か大切なことをするんだね。分かった、わたしに遠慮しないで行っておいで」

「ありがとうございます! それではっ!」

 

 橋の上から駆け出して、町の中へと消えていくダイチ。それを見送ったなのはの表情が……不意に驚愕に彩られた。

 ダイチの向かっていった方角から、ほんの一瞬の間だけだったが、ウルティメイトゼロジャケットを纏ったウルトラマンエックスが空へと飛び上がるのが見えたからだ。

 エックスは次元を跳躍してすぐに消えた。が、なのははしっかりと彼の姿を捉えていた。

 

「レイジングハート……今の、エックスだったよね?」

[It’s all correct.(間違いありません)]

 

 レイジングハートも認めた。なのはは、呆然としながらつぶやく。

 

「まさか……ダイチくん……」

 

 

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 パンドンは辺りの森林に容赦なく火を放ち、瞬く間に火炎地獄に変えていく。ヴィヴィオたちはたちまち四方に逃げ場を失い、火災に巻かれて立ち往生する。その上パンドン本体も迫ってくる。

 

「熱っ! 熱いっ! 灼熱地獄だよぉ~!!」

「怪獣こっちに来る~! 死んじゃうぅぅぅぅ~!!」

「うるさいですわっ! 仮にも武道家の端くれなら、取り乱すんじゃありませんっ!」

 

 パニックになって絶叫するイェン・ランカイとシュエ・ローゼンをアイリン・ハーディンが叱り飛ばしたが、彼女も内心では非常に焦っていた。ルーフェン在住の彼女たちは、怪獣を生で見ることなど初めてだからだ。

 ノーヴェは徐々に近づいてくるパンドンを見上げると、次いで皆に振り返った。

 

「あたしが怪獣の気を引きつける! みんなはその間に避難してくれ!」

「ノーヴェ! 一人では危険だ!」

「私たちも協力します!」

 

 オットーとディードはそう申し出たが、ノーヴェは断る。

 

「囮役なんて一人で十分だ。お前たちはちびっ子たちを安全に避難させろ! いいな!?」

 

 それだけ言い残して、ノーヴェは火炎を突っ切ってパンドンの方へ走っていった。

 

「そ、そんな無茶な!」

「危険すぎるよ、ノーヴェちゃんっ!」

 

 タオ・ライカクとリンナ・タンドラがノーヴェを止めようとしたが、それをヴィヴィオが制した。

 

「いえ、ノーヴェがああ言った以上は任せてあげて下さい。わたしたちはノーヴェの負担にならないように、素早く避難しましょう!」

「ここはノーヴェ先生のことをよく知るヴィヴィオ嬢ちゃんの言う通りにしようではないか」

 

 レイ・タンドラがヴィヴィオに賛同すると、正拳突きの風圧で火炎を吹き飛ばし、火災の中に一本道を作った。

 

「ほれ、今の内じゃ。脱出するぞ」

「わぁっ! すごいです総師範!」

 

 冷静沈着に避難を進めるユミナたちの姿に、イェンとシュエは大分呆然とする。

 

「リ、リオお嬢……お嬢のお友達って、この状況で随分落ち着いてますね……」

「まぁこういうことにも慣れてるからねー」

「流石ミッド民……」

 

 ヴィヴィオたちが逃げていく一方で、ノーヴェはパンドンの顔面めがけて魔力弾を当てて挑発する。

 

「おらっ! こっちに来い! 出来るもんなら、あたしを捕まえてみなっ!」

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 パンドンは挑発に引っ掛かって、エアライナーでヴィヴィオたちとは別方向に走るノーヴェを追いかけ出す。

 ここまでは狙い通りだが、ルーフェンにはプライベートで来たので、ウルトライザー・カートリッジも何もない。Xioルーフェン支部が到着するまで、無事に時間を稼げればよいのだが……。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

「くっ……!」

 

 しかしパンドンの放つ火炎放射は、二つの口から発せられることもあって範囲が広く、あっという間にノーヴェを取り囲んでいく。逃げても逃げても、ノーヴェは火の手に囲まれていく。

 やがて、火炎がノーヴェにまっすぐ飛んできた! 回避は出来ない。

 

「っ!」

 

 防御を全力で固めるノーヴェだが、その時――。

 

「トアァァァァァッ!」

 

 次元の壁を越えて駆けつけてきたエックスが、パンドンに飛びついたのだ! パンドンがもつれ合って倒れたことで火炎はノーヴェからそれる。

 

「エックス!!」

 

 目を見張るノーヴェ。彼女の見上げる先で、エックスは堂々と立ち上がって戦いの構えを取った。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 起き上がったパンドンは即座に狙いをエックスに移し、火炎攻撃を繰り出す。エックスはそれを腕で打ち払いながら距離を詰める。

 

「デヤッ!」

 

 パンドンにぶちかましを食らわせてひるませるエックス。パンドンは右腕を振るって反撃するが、エックスはその腕を止めて首筋に水平チョップ。

 

「セイヤァァァァァッ!」

 

 そしてパンドンの身体をがっしり掴んで、高々と投げ飛ばした!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 地面にまっさかさまに叩きつけられるパンドン。エックスは上半身を振りかぶってザナディウム光線の構えを取ろうとしたが……。

 

「グッ……!?」

 

 途中でその動きが止まった。

 

「どうしたんだ、エックス……?」

 

 ノーヴェは様子のおかしいエックスを、怪訝な顔で見上げた。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 その隙に置き上がったパンドンがエックスに火炎放射を命中させる。

 

「グゥッ!」

 

 うめいたエックスに突進し、頭突きをぶち込んだ。

 

「グワァァッ!」

 

 突き飛ばされるエックス。その中のダイチが、パンドンに向かって呼びかけた。

 

『「やめてくれ! 暴れないでくれ!」』

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 だが怪獣に言葉が通じるはずもない。パンドンはダイチの頼みとは裏腹に、ますます凶暴になって火を吐き続ける。

 エックスはダイチに告げる。

 

『ダイチ! 今のままでは言うことを聞かせるなんてとても無理だ! そのためには、一度スパークドールズにする必要がある』

『「……」』

『いいな?』

 

 エックスは高く跳躍してパンドンの頭上を取り、手足をX字に伸ばす。

 

『アタッカー! エーックス!』

 

 火炎攻撃がパンドンの脳天に炸裂し、更に爆風が辺りの火災を吹き飛ばして鎮火。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 エックスが動きの止まったパンドンの正面に着地すると、ダイチは応じた。

 

『「――ああ! やろうっ!」』

 

 エックスのカラータイマーが黄色く輝いた!

 

「シェアッ!」

 

 そして右腕を斜め上に突き上げ、左脚と腰を後ろへ回して上半身をねじった。光が周囲にほとばしる。

 ダイチはパンドンへと告げた。

 

『「ごめんな……。けど俺は――君と話がしたいっ!」』

 

 エックスはひねった上半身を戻す勢いで、両腕をX状に組んだ。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 放たれるザナディウム光線! それがパンドンに突き刺さった!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 パンドンの身体が爆発。飛び散った光が一点に集まっていき、圧縮されたパンドンのスパークドールズが焼け野原の上に転がった。

 

「……シュワッ!」

 

 パンドンをスパークドールズに戻したエックスは、両腕を空高く伸ばして、ルーフェンの地から飛び去っていった。

 

 

 

 ――なのはに海鳴市に連れていってもらい、ルーフェンでパンドンを倒したその日の晩。

 

「これでよし……っと」

 

 ダイチはラボの一角で、回収されたパンドンも含めて、Xioベースにある全てのスパークドールズを己の前に並べた。

 

「相手を信じる……。まずは、名前を呼ぶこと、か……」

 

 なのはから言われたことを繰り返したダイチは、ガウリンガルを起動して、口を開く。

 

「ゴモラ。エレキング。ベムスター。ゼットン……」

 

 自分の前に並べたスパークドールズの怪獣の名前を、端から呼んでいく。

 

「デマーガ。バードン。テレスドン……」

 

 全部の怪獣の名前を呼び終えてから、今度は自分の名前を告げる。

 

「改めて、俺はダイチ・オオゾラだ。……こうやってみんなと向かい合うのは、これが初めてだね。本当はもっと早くにこうするべきだったかもしれないね……。でも今更だけど、俺のこと、俺の目指してる夢を、みんなに聞いてほしいんだ」

 

 ダイチは己の抱えているものを、怪獣たちに語っていく。

 

「俺の夢は、みんなと俺たち人間が共に生きる世界を作ること。この夢の始まりは、十五年前、俺が君たちのことを知ってからで……」

 

 ――怪獣は言葉を発しないので、ダイチの語ることがどれほど受け止められているものか、知りようがない。

 しかし、ガウリンガルからは怪獣たちの鳴き声が、まるでダイチに応じるかのように発せられた。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回はM1号だ!」

ダイチ「M1号は『ウルトラQ』第十話「地底超特急西へ」に登場した人工生命! ひょんなことからいまづま号の車内で誕生してしまい、大事故を引き起こしてしまったんだぞ!」

エックス『M1号の発した「私はカモメ」という台詞は、元々は宇宙飛行士テレシコワの名言のパロディだ』

ダイチ「その後長らく出番はなかったんだけど、四十五年後の『ウルトラゾーン』で久々に再登場を果たしたぞ」

エックス『コントコーナーで、主にボケで活躍してたな』

ダイチ「ひょうきんなイメージのM1号だったけど、『ウルトラマンX』ではそのイメージを丸きり覆すようなキャラクターになって登場した! 作品のテーマそのものに疑問を投げかけるシリアスな役どころで活躍したんだ!」

エックス『宇宙人ではなく、まぎれもない地球の生物で、それも人の作った生命体が共存に異を唱えるというところが重要なんだろうな』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 突然現れた凶暴な怪物、スペースビースト! 同じ時、海鳴市に住むクロノ副隊長の家族に、怪獣ベムラーが迫る! 絶体絶命の状況の中、光とともに、銀色の巨人が舞い降りた! あのウルトラマンは一体……? 次回、『絆 -Unite-』。


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絆 -Unite-(A)

 

「ケエエオオオオオオウ!」

「卵ですよ……バードンは卵を抱えてる!」

「……有害生物は、まずメスの個体を減らすのがセオリーです」

「我々はそれを駆除しなければならない」

「私たちはいつだって家族を犠牲にしてきました。自分たちの任務の重要さを押しつけて……」

「本当にそれでいいのでしょうか?」

「副隊長は怪獣と向き合う時、どういう基準でこれは正しいとお決めになりますか?」

「犠牲者を出さない。判断の基準はその一点だ」

 

 

 

 三年前、次元の狭間の超空間内――。

 JS事件を終え、当時管理局の航行部隊に所属していたクロノが艦長を務めていた次元艦クラウディアは――半壊。墜落の危機に陥っていた。

 クラウディアはSOS信号を頼りに不審な次元艦を発見、何事が起きたか調べるために接近したところ――次元艦を突き破って出現した怪獣ゴグランの強襲を受けたのだ。恐らく、次元艦が違法に発掘したスパークドールズが運搬中に実体化し、乗組員がSOSを発信したのだろう。

 ゴグランはクラウディアに張りつき、クラウディアをも破壊しようとしてきた。艦の武装は金属をも喰らうゴグランによって早々に破壊され、クロノたちは白兵戦を余儀なくされた。死闘の末にゴグランを撃破することは出来たものの、クラウディアは航行不能、クロノ含む乗員は一人残らず満身創痍。

 しかしその状態で、クロノは傷ついた身体を押して艦内を駆け回っていた。自力で脱出艇の元まで移動できず、取り残された部下を自ら助けに行ったのだ。

 

『艦長、その身体ではやはり無茶です! 救出任務は誰か他の者に……!』

「重傷を負っていない者などいないではないか……。何、艦長の底力を甘く見るんじゃない」

 

 案ずる副官の通信を切断し、意識を失っている隊員を発見。彼を連れて引き返していく。

 

「しっかりしろ……! もう少しで助かるからな!」

「うぅ……」

 

 呼びかけながら艦の通路を進んでいくクロノだったが、途中で通路の酸素濃度が低下していっていることをデバイスが警告した。

 

「何……!? どこかで空気が漏れているのか!? 急がなければ……!」

 

 とつぶやいたクロノだが、ふと横の通路に目をやったことで、もっと恐ろしい事態が進行していることを知ることになった。

 

「なっ……!? あれは……!」

 

 通路に下りている防災用シャッターに、幼虫型の小怪獣が張りついて食い破ろうとしているのだ! ゴグランの幼虫!

 

「しまった……! 卵を植えつけていたのか……! いつの間に……!」

 

 その卵は危険を察して急速に孵化。幼虫はクラウディアを虫食んで成長しようとしている。既にシャッターにはかすかな穴が開いていた。そこから空気が外へ漏れ出しているのだ。

 すぐに駆除しなければ……。そう考えたクロノだが、自分が支えている隊員に目をやって悩む。今の自分に残された力はわずか。今は小さい幼虫を駆除するのさえ、ここからでは無理なほどに。そしてゴグランを駆除するのに魔力を消耗したら、その場で倒れてしまうかもしれない。倒れたら酸素が欠乏して、最悪窒息死する。命懸けで戦ってようやく助かったというのに、こんなところで息絶えてしまっていいのか……?

 自分はもう十分戦った。ここは見なかったことにして、命の安全を確保してもいいのではないか。この隊員もいるし……どうせすぐに他の艦が駆けつける。よしんば成虫まで育っても、彼らが退治してくれるだろう。ここで見逃しても、犠牲者が出ると決まった訳ではないのだ。自分がわざわざ身体を張る必要なんてない……。そんな考えが浮かんでも致し方ないことだろう。

 だがクロノはそうしなかった! 隊員を一旦その場に下ろすと、シャッターを下ろして自分とゴグランを隔離し、ゴグランに気取られぬようゆっくりと近づいていく。声も発してはいけないので事前に救援も呼べない、生死を分ける緊張の一瞬……。

 

(この距離なら……!)

 

 デュランダルを構え、残ったかすかな魔力を振り絞って凍結魔法を飛ばした。

 ゴグランは鳴き声を発する間もなく全身凍りつき、そのまま砕け散った。

 

「よし、後は彼とともに皆の元まで……うっ!」

 

 振り返ったクロノは、やはり無理が祟ったために力尽き、その場に倒れ込んでしまった。

 

「くっ……早く、救援を……!」

 

 しかし目がかすみ、指も動かない。おまけに酸素は減り続け、意識も薄れていく。

 クロノはこのまま死んでしまうのだろうか。だが最期の瞬間まで管理局員としても、己にも恥じない生き方を遂げた。死んだとしても、その名は皆の心の中に生き続ける――。

 

(……いやっ!!)

 

 やはり、ここで死ぬことは出来ない。何故なら、家族が……妻と、まだ幼い子供たちが帰りを待っているからだ。そのために自分はまだ、死ねない!

 

(僕は……あきらめないっ!!)

 

 心に強く念じ、虚空に手を伸ばした、その時――。

 ――夢か幻か……クロノの手は、飛行機械を模したような石像に触れたのだ。

 

 

 

『絆 -Unite-』

 

 

 

「――はっ!?」

 

 クロノはXioオペレーション本部の自分のデスクで、はっと目を覚ました。

 

「夢か……。あの時の夢を……」

 

 頭を振りながらぼんやりつぶやくと、ふと思い立って『地球』に暮らす自分の子供たちの元に通信を掛けた。

 

『あっ、お父さん! 元気?』

 

 通信に出たのは、クロノと同じ瞳の色と妻エイミィと同じ髪の色をした少年。

 

「ああ。カレル、そっちはどうだ? リエラも元気にしてるか?」

 

 尋ねかけると、ヴィジョンに少年とよく似た少女がひょっこり首を突っ込んできた。この二人がクロノの子供の双子、カレルとリエラだ。

 

『元気だよ! あのね、今お母さんたちと一緒にキャンプに来てるの!』

「そうか、楽しそうだな……」

『お父さんも来られたら最高なのに』

 

 カレルのひと言に微笑むクロノ。

 

「そうだな。出来るなら、そっちに飛んでいきたいんだけどな……」

『もう行くね。お父さん、怪我しちゃダメだからね』

「二人も気をつけてな」

『大丈夫! こっちは全然怪獣出ないから! じゃあね!』

 

 手を振るリエラとカレルを最後に、通信が切れる。――そこにたまたま通りがかったダイチが尋ねた。

 

「お子さんとでしたか?」

 

 顔を上げたクロノが、父親の顔から副隊長の顔に戻った。

 

「今朝落下した隕石の分析、まだやっていたのか?」

「ええ。……副隊長のご家族、先日お会いしました。なのはさんに連れていってもらった際に」

「そうだったか。みんな、元気でやってたか?」

「はい。でも……あんまり副隊長と直接お会い出来ないこと、残念がってましたよ」

「そうか……」

 

 どことなく寂しげに微笑むクロノ。するとダイチが問いかける。

 

「Xioの副隊長でなければ、一緒に暮らしてましたか?」

「……いや。元々私は執務官だし、艦長職もやっていた。ミッドを離れることは出来なかったさ」

「そういえば、副隊長はそうでしたね。三年前、例の事件のすぐ後にXioへの異動を志願したと聞きました」

 

 怪獣ゴグランのクラウディア襲撃事件。絶体絶命の状況下で、一人の犠牲者も出さずに怪獣を打ち倒し、なおかつ酸素濃度の薄れた空間内で意識を失いながらも救援信号を発し、己も死の淵から生還したクロノの手腕と生命力にはあらゆる人間に驚嘆と感動を覚えさせた。

 

「どうしてXioへ異動しようと思われたんですか? 怪獣と直接戦ったことで、何か怪獣に対して思うことが出来たんでしょうか」

 

 そのダイチの質問に、クロノは神妙な顔になって答えた。

 

「それが……自分でもよく分からないんだ。気がついた時には、異動届を出していた」

「えっ? よく分からないって……」

「変なことを言っているとは私も思うが……そうしなければいけないような気がしたんだ。あの時、生還してから……」

 

 どこかを見つめて語るクロノの横顔を、ダイチは不思議そうにながめた。

 

 

 

 翌日、Xioに緊急の警報がけたたましく鳴り渡った。

 

「エリアT-1地下駐車場に、未確認生命が溢れています!」

 

 メインモニターに映し出された地図の地下駐車場部分に、無数の赤い光点が表示された。

 

「未確認生命は二種類、体長二メートルから十メートル前後。民間人を手当たり次第に襲っているとのことです!」

 

 ルキノの報告に、カミキは直ちに特捜班全員に指示を下す。

 

「フェイズ2! ダイチ、現場に出て未確認生命の分析。他隊員は分析を待って、必要ならこれを攻撃!」

「了解!」

 

 特捜班が敬礼すると、クロノがカミキに進言する。

 

「今回は私も出動し、駐車場全域を封鎖して未確認生命の外部への逃走を防ぎます!」

「頼む」

 

 カミキが承諾すると、クロノも交えて特捜班がエリアT-1に急行していった。

 

 

 

 現場に到着すると、まずクロノが駐車場全周を氷の隔壁で閉ざした。それから各隊員が分散して、未確認生命の探索と民間人の救助に向かっていった。

 辺りを警戒しながら慎重に進んでいくダイチが、その未確認生命二種を発見する。

 

「ウギャアアア……!」

「キィィィィ――――!」

 

 片方は人と虫を混ぜ合わせたような形態。もう片方はナメクジかウミウシを思わせる生命体だった。どちらも生理的嫌悪感を呼び起こすような、グロテスクさがある。

 駐車場の陰に身を潜めながら分析するダイチは、双方の生命反応が酷似しており、本質的には同種の生物であることを見抜いた。

 

「ミッドの生き物じゃないな……。かと言って、普通の怪獣とも違うみたいだ……」

『宇宙から飛来してきたのか?』

「ミッドの何があいつらを引き寄せたんだろう?」

 

 何かを探すように周囲を見回している未確認生命を警戒しながら分析を続けるダイチに、エックスが告げる。

 

『生命体の恐怖を餌にする、スペースビーストの話を聞いたことがある。恐らく、昨日の隕石とともにミッドに入り込み、増殖しながら地中を掘り進んで人の多いこの都市部に侵入したのだろう』

「スペースビースト?」

『もしそうなら、非常に危険だぞ。放っておくと異常な食欲と繁殖力で、瞬く間に一つの星を滅ぼしてしまうそうだ……』

 

 説明していたエックスが、急に声を荒げた。

 

『ダイチっ!』

「ウギャアアア――――――ッ!」

 

 スペースビースト――バグバズンブルードがこちらに気がついて走ってきているのだ! それに続いてペドレオン・クラインも突進してくる。

 

「うわぁっ!」

 

 思わず身構えたダイチの前にスバルが回り込んで、スペースビーストたちに攻撃を加える。

 

「リボルバーシュート!」

「キィィ――――――――ッ!!」

 

 衝撃波が二体を纏めて吹っ飛ばし、倒れたところをスバルはバグバズンブルードをバインド、ペドレオンをケージで捕獲した。

 

「大丈夫?」

「いつもごめん……」

「ううん。それで、この生き物たちは保護するの? ……出来るの?」

 

 スバルにしては珍しい台詞。彼女も本能的に、スペースビーストの危険性を感じ取っているのだろう。

 ダイチはガウリンガルによってスペースビーストの感情を探知。その結果に目を見張る。

 

「感情に攻撃と捕食しかない……!」

 

 怪獣も獰猛なものは数多いが、ここまで極端な精神構造の生物は見たことがなかった。スペースビーストには、他者に対して滅ぼす感情しか存在していないのだ!

 捕獲されてなおもがき続け、こちらに襲いかかってきそうなスペースビーストを見て、ダイチは結論を出す。

 

「仕方ない……」

 

 スバルと視線を合わすと、うなずいたスバルが本部へ報告する。

 

「ダイチから駆除判断が出ました!」

『了解。全隊員に非殺傷設定解除を命ずる。一匹たりとも外に出すな!』

 

 カミキの命令により、スペースビーストの掃討作戦が開始された。

 

 

 

(♪ナイトレイダー -Scramble-)

 

 地下駐車場の各所に散らばるスペースビーストを、特捜班が各個撃破していく。

 

「キィィィィ――――!」

 

 獲物を求めて這いずり回るペドレオンの一体を、物陰に身を潜めながらワタルが撃った。ペドレオンは体内の可燃性ガスに引火して爆散。別の場所では、ハヤトがバグバズンブルードを撃ち抜く。

 

「うりゃあああっ!」

 

 ノーヴェのナックルがバグバズンブルードの甲殻を粉砕。チンクはナイフをペドレオン数体に突き刺し、ランブルデトネイターで一気に爆破させた。

 

「ウギャアアアアッ!」

「キィィィィ――――!」

 

 一部のスペースビーストは駐車場から地上に上がろうとしたが、外への道は全てクロノの氷壁で閉ざされている。爪も火球も、厚く張った氷を破ることは出来なかった。

 

「逃げようなんて許さないっスよー!」

 

 そこに駆けつけたウェンディとディエチの射撃で、脱走を図る個体は撃滅された。

 駐車場内に取り残されている市民は、スバルが一時的に氷の壁に道を作って逃がしていった。

 

「こっちです! 足元滑るので気をつけて!」

「ありがとうございます……!」

 

 特捜班は目覚ましい活躍でスペースビーストを倒していくが……スペースビーストが絶えず発している一定の周波数の『意味』には気がついていなかった。

 

「キィィィィ……!」

 

 

 

 クロノもまた、スペースビーストを索敵しながら駐車場内を捜索して回っている。

 

「うぅぅ……!」

 

 その中で、若い女性がうつ伏せに倒れているのを見つけた。足に怪我をして、血を流している。

 

「民間人発見。保護に向かいます」

 

 クロノはすぐに女性の側に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか? すぐ応急手当します」

 

 と声を掛けたが、顔を上げた女性はこう返した。

 

「に、逃げてっ! これは罠ですっ!」

「えっ――」

 

 その瞬間に天井が崩落! 真上の階に潜んでいたバグバズンブルードが破壊したのだ!

 

「ウギャアアアアア――――!」

「何ぃ!!?」

「キィィィィ――――!」

 

 更に隠れていたペドレオンが飛び出してきて、クロノに火球を撃ち込む!

 

「ぐわああああっ!」

 

 咄嗟に女性をかばったクロノは火球の爆発の直撃を受ける。その上、二人に瓦礫が降ってきて下敷きにされてしまった。

 

「ぐあぁっ! し、しまった……! 奴ら、学習能力があったのか……!」

 

 クロノは、スペースビーストが仲間内で情報をやり取りし、学習をしていることに気がついた。

 スペースビーストは「ビースト振動波」という周波数を用いて個体間で情報伝達し、外敵を分析して抹殺する手段を講じていく。特捜班は人間に近づくと一瞬警戒を解くのを知り、女性をわざと生かしてクロノを油断させる餌とした待ち伏せを仕掛けていたのだ。

 

「見かけに騙された……! 知能レベル自体は、かなり高いぞ……!」

「キィィィィィィィッ!」

 

 己の迂闊さを悔いているクロノに、バグバズンブルードとペドレオンが襲い来る。

 

「ぐぅっ……!」

 

 苦痛をこらえながら、魔力弾を飛ばして反撃。ギリギリのところで爆散させられたが、すぐそこまで接近されたバグバズンブルードの爪がデュランダルに当たって、手中より弾き飛ばされた。

 

「デバイスが……!」

 

 思わず手を伸ばしかけた時、ジオデバイザーにリエラの顔がいっぱいに映し出された。

 

「リエラ……? 今は話せないんだ……!」

『話せなかったら、お兄ちゃんが死んじゃうよぉ!』

「えっ――!?」

 

 泣きじゃくるリエラの奥から、かすかだが巨大なものが動く鈍い音が聞こえてくる。

 

『怪獣……! 湖から怪獣が出てきて……! ボートが飛んできて、お兄ちゃんに……わたしをかばって頭に当たって……!』

 

 しゃがみ込んでいるリエラの横で、カレルが気を失って倒れていた。

 流石のクロノも顔面蒼白になる。

 

「お母さんは!?」

『お買いものに行ってていないの……! 通信もつながらなくて……!』

 

 怪獣出現による磁場の乱れで、通常の通信は機能停止していた。

 

「カレルは、息はしてるか!?」

 

 リエラにカレルの呼吸を確認させるクロノ。

 

『してる……!』

「なら、吐いたりしても息が出来るように、顔を右に向けてあげるんだ……!」

「うん……!」

 

 リエラに指示しながら、デュランダルを引き寄せようとするクロノ。が、

 

『ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!』

『きゃあああああっ!!』

 

 怪獣の鳴き声と爆音、リエラの悲鳴で注意がビジョンに戻る。

 リエラたちのいるキャンプ場に出現したのはベムラー。それが放った熱線が湖面に爆発を引き起こしたのだ。

 

「リエラ!? どうしたんだ、リエラ! 返事をしてくれっ!」

 

 必死に呼ぶクロノの方にも、危機が迫っていた。

 

「キィィィィ――――!」

 

 駐車場の奥から新たなペドレオンが現れたのだ。クロノはすぐにデュランダルを引き寄せようとしたが、デュランダルは何かの足に踏みつけられて動かなくされる。

 

「ウギャアアアアアアッ!」

 

 バグバズンブルードが踏みつけたのだ。裂けた口からダラダラよだれを垂らして、クロノを見下ろしている。

 

『怪獣、こっちに来るっ! お父さぁぁんっ!』

『ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!』

 

 リエラたちにもベムラーが接近していた。

 

「……来るなっ! 来るんじゃないっ! やめろぉぉぉっ!」

 

 クロノはプロテクションを張り巡らして女性も守りながら、スペースビーストとデバイザー越しのベムラーにも叫ぶ。

 だが、それで止まるはずがない。バグバズンブルードはプロテクションを突き破ろうと鋭い爪を突き立てる。最早子供たちどころか、クロノの命も風前の灯火。

 しかしこんな絶望的な状況下になろうとも、クロノは抗うことをやめなかった。あきらめずに、力を振り絞り続ける。

 

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――っ!!」

 

 叫びながら伸ばした手の中に……光が生じて、短刀状の物体を指が握り締めた!

 

「!!?」

 

 一瞬驚愕したクロノだが――自然と身体が動き、物体を鞘から引き抜いた!

 

「副隊長っ!」

「副隊長、ご無事ですか――!」

 

 瓦礫が落下した轟音と、クロノとの連絡が途絶えたことで何かあったことに気づいたノーヴェとチンクが駆けつけてきた。――しかし、二人が目にしたのはクロノの姿ではなかった。

 

「キィィィッ!!」

 

 バグバズンブルードとペドレオンを上から叩き潰した、巨大な拳だった!

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 度肝を抜かれる二人。拳が上に抜かれていくと、天井に開いた大きな穴から地上を見上げる。

 そこには――胸の中央にV字状の赤い発光体を持った、銀色の巨人が立っていた。

 

「あれは……!」

「ウルトラマン……!?」

 

 見たことのないウルトラマンは二人の近くに、右手の平に乗せていた女性をそっと降ろす。

 

「――シュアッ!」

 

 呆然と見上げるノーヴェたちを置いて、ウルトラマンは一気に大空へ向かって飛び上がった。雲を突き抜けながら銀色の肉体が発光すると、空間が波打つ水面のように揺らめき、ウルトラマンは一瞬にして消失した――。

 

 

 

「カレル! リエラ!!」

「二人とも無事かっ!?」

 

 キャンプ場に異常を察知したエイミィとフェイトの使い魔、アルフが大急ぎで舞い戻ってきた。だが二人が目撃したのは、今まさにベムラーに熱線を撃たれそうな子供たちの姿。

 エイミィとアルフは咄嗟に駆け出すが、とても間に合わない――。

 

「ヘアァッ!」

 

 その瞬間に湖に飛び込んできたウルトラマンがベムラーに飛びつき、頭を押さえこんで熱線を湖面にそらした。

 

「……ウルトラマン……!?」

 

 ウルトラマンは一瞬にして、ミッドチルダから遠く次元を隔てたこの場所まで飛んできたのだ!

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

「シュアッ!」

 

 ウルトラマンはベムラーを押さえ込みながら、リエラたちより遠ざけていく。

 その間に、エイミィとアルフはカレルを介抱する。

 

「カレル!」

「お母さん! アルフ! お兄ちゃんが……」

「大丈夫だ。すぐに目を覚ますからな」

 

 アルフの気つけにより、カレルはゆっくりとまぶたを開いた。

 

「お母さん……」

「カレル! よかった……!」

 

 安堵してカレルに抱きつくエイミィ。

 

「すぐにここから離れよう!」

 

 アルフはエイミィたち親子を安全な場所へ誘導しようとする。カレルを抱き上げるエイミィに、カレルは言う。

 

「ずっとお父さんの声が聞こえてた気がする……」

「うん……。もう大丈夫だからね」

 

 避難する直前、エイミィたちはベムラーと戦うウルトラマンを見上げた。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

「ヘアッ!」

 

 ベムラーを投げ飛ばしたウルトラマンと、彼女たちの目が合う。

 エイミィはその瞳から、何かを感じ取った。

 

「……クロノくん……」

 

 ゆっくりとうなずいたウルトラマンは、ベムラーに向き直って戦いに戻っていった。

 



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絆 -Unite-(B)

 

 スペースビースト掃討作戦完了後、本部に帰投した特捜班は、作戦中に突如現れた謎のウルトラマンの記録映像を確認していた。

 

「もう一度再生します」

 

 モニターの中で、ウルトラマンが地表から高空へ向けて飛び立ち、ミッドチルダから消失する様子が流された。

 

「巨人はこの後、97管理外世界でベムラーを倒して消え去ったようです」

「まさか、管理外世界に怪獣が現れるとはな……」

 

 深刻な表情になるカミキ。その事例は、実に初めてのことであった。

 アルトは管理局の調査結果を報告した。

 

「97管理外世界は何度か複数の管理世界との交流を行っており、その中でスパークドールズが紛れ込んだものと推察されます。古代遺物管理部は、他にも管理外世界にスパークドールズが存在しないか、過去の交流記録をさかのぼりながら調査を行ってます」

「うむ……。二度とこんなことがあってはならない。調査を徹底するようにと管理部に伝えておいてくれ」

「それはいいんですけど」

 

 ワタルがモニターのウルトラマンを見つめながらつぶやく。

 

「巨人は、何でいきなりそんな場所に……?」

「私が未熟だからだ」

 

 その直後に、本部にクロノが姿を現した。

 

「副隊長! ずっと姿が見えなくて、心配しましたよ」

「今までどこ行ってたんです?」

 

 チンクとノーヴェの質問に答えず、クロノはカミキに面と向かう。

 

「処分して下さい。副隊長の立場でありながら、作戦中に命ぜられた現場を離れ、自分の子の元へ向かいました」

 

 そう告げると、カミキのデスクの上にXio並びに管理局のライセンスを置く。

 

「待て……。話が見えない」

 

 カミキがどういうことか問いただすと、クロノはモニターのウルトラマンへ振り返って告白した。

 

「あの巨人は……私です」

 

 皆が驚きを露わにして、当惑の表情を浮かべた。

 

「副隊長がウルトラマンに変身した……!?」

「マジで……?」

「だからいきなりいなくなったのか……」

「選ばれたのか……!」

 

 クロノは己をウルトラマンに変えた短刀状のアイテム――エボルトラスターを取り出す。彼が手をかざすと、エボルトラスターの発光部が仄かに輝いた。

 グルマンが言う。

 

「その光……まさしくウルトラマンの波長のもの!」

「じゃあ、本当に……!」

「おっどろいた~……」

 

 ディエチ、ウェンディたちが見ている前で、クロノはエボルトラスターに目を落としたまま口を開く。

 

「……ヒカルやショウ、トウマ・カイト……彼らの世界では彼らがウルトラマンに変身していた。それと同様に、このミッドにもどこかにエックスに変身して戦ってくれている者がいる。それは分かっていました。……ですが、私がウルトラマンに変身する日が来るなんてことは、考えたこともありませんでした……!」

 

 ぐっと眉間に皺を寄せ、頭を振るクロノ。

 

「……いえ、これに触れたことで思い出しました。三年前のクラウディア、あの時に私は一度ウルトラマンに助けられていた! 力を使い果たし意識を失った私の代わりに救援信号を発してくれた! そして私はウルトラマンの意志に沿い、ここへ来た……! 恐らく、今日この日に現れるあの未確認生命を倒すために……」

「それじゃあ、副隊長が副隊長になったのは、自分の意志じゃなかったってこと……」

 

 言いかけたウェンディが、チンクとノーヴェに口をふさがれた。

 

「……そして今日、窮地に陥った私の前にウルトラマンは再び現れ、私は彼に変身し……」

「自分の子供を助けるために飛んだという訳か……」

「はい……」

 

 カミキへと顔を上げたクロノには、自責の感情が表情に出ていた。

 

「任務遂行中に独断で現場を離れるなど、許されない命令違反です!」

「待って下さい! お子さんは助かったんですか?」

 

 思わず話に割り込んだダイチに、首肯するクロノ。

 

「副隊長と一緒にいた女性も一命を取り留めました。俺たちも全員無事です。なら何が問題なんですか?」

 

 ワタルとウェンディはダイチの言葉にうなずくものの、彼らにカミキが説く。

 

「次に同じことが起こっても、同じことをする……! 次の結果が同じとは限らない……。そう言いたいんだ」

 

 カミキの言葉を、クロノは無言で肯定。握り締めた手が震える。

 

「恐らく……次も……その次も……私は命令よりも己の子供を優先し……! 今は……副隊長の職務を全う出来ません! 失礼します……!」

 

 カミキに頭を下げ、クロノは早足でオペレーション本部から離れていった。

 

「副隊長!」

「副隊長、待って……!」

 

 それを引き止めようとしたスバルたちをカミキが制止。

 

「何も言うな!」

「でも、クロノさんほどのベテランが……!」

「ベテランだからこそ……! 自分の行動に動揺してるんだ。今はそっとしておいてやれ」

 

 カミキはそう言ったが、ダイチはクロノの去った後をじっと見つめていた。

 

 

 

 オペレーション本部から飛び出したクロノは、基地の屋上で一人空を見上げ、何をするでもなくたたずんでいた。

 そこに立体モニターが開き、フェイトの顔が空中に表示された。

 

『クロノお兄ちゃん』

「フェイトか……」

『アルフとスバルから話は聞いたよ。ウルトラマンになったこと……カミキ隊長に処分をお願いしたってこと』

 

 フェイトの言葉に、クロノは大きくため息を吐いた。

 

「恥ずかしいことを知られてしまったな……。幻滅しただろう。あれほど規律にうるさかった僕が、独断行動に走ったなんて」

『そんなことは……。アルフとエイミィも感謝してたよ。お陰でカレルたちは助かったって。自分の子供でも、人の命を助けることが恥ずかしいなんてこと、あるはずないよ』

「どんな理由があろうとも、規則違反は規則違反だ」

 

 クロノの返しに苦笑するフェイト。

 

『相変わらず真面目だね。私たちのわがままはあんなに叶えてくれてたのに、自分のわがままは一つも許せないなんて』

「僕のような立場の者がいるから、君たちを自由にさせてあげられたんだ。僕が勝手なことをしては、大勢の人間が迷惑を被る。そんなことはあってはならないから、自分を律してたというのに……」

『そうだけど……でも、だからって副隊長を辞めたりはしないで。そんなこと、誰も望んではいないんだから』

 

 思い悩んでいるクロノを説得するフェイト。

 

『ウルトラマンがお兄ちゃんを助けて、自分に変身する相手として選んだのは……きっと、クロノにヒーローの資格を見出したからだよ。ウルトラマンに選ばれた人が副隊長失格だなんてことは、私には信じられないな』

「フェイト……」

『――とにかく元気を出して、いつものように若い子たちをビシバシ指導してやって下さい! みんなそれを待ってますよ、クロノ副隊長!』

「ああ……ありがとう、フェイト執務官」

 

 互いに敬礼し合うと、通信が切れてフェイトの顔が消え去った。

 その後にダイチが屋上に上がってきて、クロノに尋ねかける。

 

「ウルトラマンになった時……どんな気持ちでしたか?」

 

 ダイチに振り返ったクロノは、彼の問いにこう答えた。

 

「やるべきことがある……出来ることがある。そんな確信と使命が、自分の中に流れ込んできたような気がする」

「……」

「ウルトラマンになるということは、その使命を背負うことなのかもしれないな」

 

 クロノの言葉を真剣な面持ちで受け止めているダイチに、クロノは不意に口元を緩めた。

 

「しかし、それは今までの管理局員としての人生でも同じことだった。……いや、人間誰しもが何らかの使命を背負っている。ウルトラマンだからと特別なことではないのだと思う」

「……!」

「何……命を救ったこと、それ自体には何の後悔もないさ。私は、人としては正しいことをした。それだけは確信を持って言える」

 

 ダイチに告げたクロノの元に、彼の家族からの通信が入った。

 

『お父さーん!』

『クロノくん、カレルはもう元気になったよ。安心して』

『うん! もう大丈夫!』

「そうか、よかった……」

 

 安堵の息を吐いたクロノは、ダイチに顔を向けて断りを入れる。

 

「すまない、少し席を外させてもらう」

 

 クロノが離れていくと、エックスがダイチに向けて告げた。

 

『君に戦いを強いたのは私だ……。君には、辛いことの連続だったな……』

「ううん」

 

 自責するエックスに、首を横に振ったダイチは告げ返す。

 

「君のお陰で、怪獣との共存という夢を向き合えたんだ」

 

 

 

 ――翌日、エリアT-1のスペースビーストが出没した地下駐車場に、ダークサンダーエナジーが落下した!

 

「ウギィ――――――!」

 

 そして路面を吹き飛ばし、巨大化して両肩に角を生やしたバグバズンブルードが地上へ飛び上がってきた! 悲鳴を上げて逃避を始める大衆を見回すと、彼らを追いかけ出す。

 

「キィィィィ――――! グワアアアアッ!」

 

 更に同じ穴から、クラインがダークサンダーエナジーによって急激に成長、肥大化したペドレオン・グロースも這い出てきた。バグバズンと同様に市民を狙い、活動を開始する。

 二体の巨大化したスペースビーストに、駆けつけたスカイマスケッティと特捜班が攻撃を加えて牽制を図る。

 

『ダイチ! 昨日の生き残りだっ!』

 

 現場に駆けてきたダイチはエクスデバイザーを持ち上げ、エックスに呼びかけた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 ダイチは迅速にユナイトを行い、ウルトラマンエックスに変身する。

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 街の中に降り立ったエックスだが、そこにいきなりバグバズンが飛びかかってきた!

 

「ウギャアア―――――ッ!」

「ヌァッ!」

 

 エックスに張りついて滅茶苦茶に爪を振るってくるバグバズン。エックスは反撃の暇もなくひたすらに押される。

 

「エックスが危ないっ!」

「援護射撃!」

 

 ウェンディとディエチが魔力弾を発射してバグバズンをひるませる。

 

「ウギギィィィッ!」

「テアッ!」

 

 その隙にエックスはキックを入れてバグバズンを蹴り飛ばしたが、追撃を掛けようとしたところに今度はペドレオンの飛ばした火球を肩に食らう。

 

「グアァァッ!」

「キィィィィ――――!」

 

 エックスを狙うペドレオンにはノーヴェが衝撃波を放ち、注意を引きつけた。

 

「お前の相手はこっちだ、ナメクジ野郎! ぶっ潰してやるっ!」

 

 啖呵を切るノーヴェだが、そこをチンクが制する。

 

「ノーヴェ、奴を下手に刺激するのはまずい!」

「えっ!?」

「解析の結果、奴の体内の可燃物も増加して、ギッシリ詰まってることが判明した。避難が完了してない状態で爆発されたら大惨事だ!」

「くっそ! 厄介な性質してやがるな……!」

 

 ノーヴェたちがペドレオンの相手にてこずっている間に、バグバズンが再びエックスに襲いかかった。

 

「ウギィィ―――――ッ!」

「デアァッ!」

 

 エックスの脚を捕らえ、ビルごとエックスを押し倒した。マウントポジションから鋭い爪をボディに叩きつける。

 

「ウッ! グッ!」

 

 エックスは自分の上からバグバズンを突き飛ばすと、立ち上がって密着態勢からの膝蹴りを見舞う。が、足を刈られて地面に叩き伏せられた。

 

「ウギィィィィィィッ!」

「グアァッ!」

 

 

 

 エックスの苦戦を本部で目撃したクロノ。彼は横に立つカミキに告げた。

 

「やはり私は謹慎です……! また任務を離れますっ!」

 

 それだけ言い残し、クロノは駆け出していく。

 

「クロノぉっ!」

 

 カミキの制止も振り切って、クロノは本部を飛び出していった。

 

 

 

「キィィィィィィィッ!」

 

 バグバズンはエックスに馬乗りになり、腹部に爪を何度も突き刺す。

 

「グアァァァッ! グウウゥゥッ!」

 

 傷口から光の粒子が漏れ出てもがき苦しむエックス。カラータイマーが点滅して危険を知らせる。

 特捜班が引きつけているペドレオンの方は、打倒手段の用意が整った。

 

「凍結準備完了! 奴を凍りつかせたら、スバル、デバイスゴモラで粉砕するんだ!」

「うん! そしてエックスの援護を……!」

 

 チンクにうなずいたスバルがデバイスゴモラをリアライズしようとする。しかしその時、

 

「キィィィィ――――!」

 

 ペドレオンが肉体から二本の触手を伸ばし、それぞれに逃げ遅れている市民を捕獲した。

 

「うわあああ―――――――!?」

「助けてぇぇぇぇ―――――――!」

「グワアアアアッ!」

 

 そして彼らをスバルたちの方に突き出して、己の盾にした!

 

「なっ!? 市民を人質に……!」

「卑怯なっ……!」

 

 スペースビーストは昨日、特捜班が人間を攻撃できないことも学習していたのだ。

 

 

 

 基地の屋上まで駆け上ったクロノは、エボルトラスターを鞘から抜いて掲げる。

 エボルトラスターから光が溢れ出て、クロノの身体をウルトラマンのものへと変貌させた!

 

「ジュアッ!」

 

 クロノの変身したウルトラマンは、左腕に備えたブレード状の武装を輝かせる。

 

「シェアッ!」

 

 するとその銀色の身体が赤く染まる――アンファンスからジュネッスの形態へと二段変身したのだ。

 そしてウルトラマンは、エックスたちが戦っている現場へと一直線に飛んでいく。曇り空に赤い軌道が線となって残った。

 

 

 

「ウギィィィィ―――――ッ!」

「グッ……デアァッ!」

 

 エックスはどうにかバグバズンの隙を見つけ、腹に足の裏を押し当てて力ずくで蹴り上げた。バグバズンは高々と宙を舞ったが、高層ビルの屋上に着地する。

 

「ウギャアアアアッ!」

 

 エックスが見上げる先で、四点着地したバグバズンの肉体に変化が発生した。

 甲殻に突然上下にひび割れが走ったのだ!

 

「ヌッ!?」

 

 バグバズンの甲殻が左右にパックリ割れて――その下から、虫に近づいた細長い身体のビーストが現れた! 首から三本の角が生え、両手はカマ状になっている。

 

「ウギャアァァァ――――!」

『「変態した!?」』

 

 驚愕するダイチ。バグバズンブルードはダークサンダーエナジーによって体組織が急激に変化し、上位種のバグバズングローラーへと変貌を遂げたのであった!

 

『脱皮したことでより力を増したはずだ! 気をつけろ、ダイチ!』

 

 警告するエックス。そしてバグバズングローラーが羽を広げて屋上から飛び立ち、エックスに飛びかかってくる!

 

「ウギャアァァァ――――!」

「ジェアァァァッ!」

 

 ――そこに横から飛び込んできた、クロノの変身したウルトラマンが飛び蹴りを仕掛け、バグバズンを弾き飛ばしてエックスを救った。

 

「ウギャアァァァ――――!!」

『「副隊長!?」』

 

 道路上に倒れ込むバグバズン。一方、着地したウルトラマンはペドレオンに捕らわれている市民に向けて光の帯を飛ばす。

 

「シェアッ!」

 

 光の帯は触手から市民二人をもぎ取り、ウルトラマンの手中に移した。人の命を救う光、セービングビュート!

 

「キィィィィ――――!?」

 

 ウルトラマンは更にセービングビュートで助け出した市民をスバルたちの元へと下ろした。スバルらは即座に二名を避難させていく。

 

「大丈夫ですか!? こちらへ!」

「は、はいっ……!」

 

 スバルはウルトラマンを見上げて、静かに頭を下げた。

 

「キィィィィ――――! グワアアアアッ!」

「ウギャアァァァ――――!」

 

 ペドレオンは起き上がったバグバズンとともにエックスとウルトラマンを警戒。

 

「シュアッ!」

 

 するとウルトラマンは右腕を立てた左腕の武装に重ね合わせる。握り締めた右手に光が宿ると、ウルトラマンは右腕を水平に回していき、宿った光を天高く射出した。

 

「ヘアァーッ!」

 

 空に向かって伸びていった光は途中で傘のように拡散して、ウルトラマンたちとスペースビーストを覆い込む光のドームと化していく。

 

『「これは……?」』

 

 エックスとスペースビーストが戸惑っていると、光のドームは完成と同時に彼らの姿を地上から完全に消し去った。

 

「消えた!?」

「どこへ行ったんだ……!?」

 

 唖然と辺りを見回すワタルとハヤトに、ラボからシャーリーが答えを伝えた。

 

『別位相にウルトラマンと未確認生命の反応をキャッチ! 隔離空間を作り出して、自分ごと未確認生命を閉じ込めたみたいです!』

「別位相ぉ!? 広域結界みたいなもんスか!?」

「そんなことも出来るのか、あのウルトラマンは……!」

 

 それがクロノの変身したウルトラマン固有の能力、フェーズシフトウェーブ。周囲に被害が及ばないように独自の空間――メタフィールドを作り、その中で凶悪な敵と戦うのだ!

 

 

 

「ヘアァッ!」

 

 まさにメタフィールド内では、二人のウルトラマンがバグバズンとペドレオンに突進していって戦闘を続行していた。

 

「シェアッ!」

「ヘアァッ!」

 

 ウルトラマンはスライディングでペドレオンのバランスを崩し、転倒させる。エックスはバグバズンに飛びついて抑え込みながら打撃を見舞う。

 

「キィィィィ――――!」

「ウギャアァァァ――――!」

 

 倒れたところに連続パンチをもらうペドレオン。バグバズンは両手のカマを振り回してエックスを振り払い、羽を広げて上から飛びかかろうとしたが、そこにウルトラマンがすかさず光の刃、パーティクル・フェザーを繰り出して羽を切断した。

 

「シェアァッ!」

「セアッ!」

 

 飛び立てずに落下したバグバズンに、エックスが空中回し蹴りを頭部に叩き込んだ。

 

「グワアアアアッ!」

 

 ペドレオンが起き上がって無防備なウルトラマンの背中に火球を撃とうとしたが、すかさずエックスがタックルして妨害。バグバズンはカマをウルトラマンに突き出すもいなされ、カウンターのキックで吹っ飛ばされた。

 

「キィィィィ――――!」

「シェアァァァッ!」

 

 ペドレオンはなおも火球を放とうとしていたが、そこにウルトラマンが青色の光線を命中させた。するとみるみる内にペドレオンの体表が凍り、体温低下で火球が放てなくなる。

 

「キィィィィ――――!!」

 

 ウルトラマンは自分に変身したクロノの使用する凍結魔法を光線化して、ペドレオンに照射したのだ。更にエックスが全力のXスラッシュを食らわせた!

 

「テヤァァァーッ!」

「ヘアッ!」

 

 ウルトラマンは再度パーティクル・フェザーを放ってバグバズンをひるませると、続くエックスの渾身のミドルキックがクリーンヒットした。

 

「キィィィィ――――!」

「ウギャアァァァ――――!」

 

 ペドレオン、バグバズンが順番にメタフィールドの地面に土砂を巻き上げて倒れ込んだ。

 ここでダイチがエクシードXのスパークドールズをリードする。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エックスはエクシードXに二段変身すると、ダイチがエクスディッシュ・アサルトのタッチパネルを上から下になぞり、トリガーを引いた。

 刃部分にエネルギーが集中し、エックスは照準をスペースビーストに合わせる。

 

「シェアッ!」

 

 ウルトラマンは両腕の武装をクロスして重ね合わせて垂直に立てると、両腕の間にスパークがほとばしった。腕を肩の上へ伸ばすとスパークが最高潮になり、そして腕でL字を組む。

 

「『エクシードスマッシャーっ!!」』

 

 発射された虹色の光線とウルトラマンの必殺光線オーバーレイ・シュトロームが、バグバズンとペドレオンに直撃した!

 

「ウギャアァァァ――――!!」

「キィィィィ――――!!」

 

 スペースビーストは超破壊エネルギーに耐えられるはずもなく、一瞬にして爆裂。その跡に、細胞が崩壊して生じた青い光の粒子が宙に分散して消滅していった。

 うなずき合うエックスとウルトラマン。そしてウルトラマンの全身が発光するとともに、メタフィールドが解除されていった。

 

 

 

 元の世界に帰ってきたダイチは、陸橋にたたずむクロノの元へ駆け寄っていった。

 

「副隊長! 大丈夫ですか?」

 

 ダイチに向き直ったクロノは、呆然とした面持ちのまま彼に告げる。

 

「あきらめるな……」

「え?」

 

 そして、クロノの握っていたエボルトラスターが光に包まれて、手中から消え失せていった。

 クロノは顔を上げて、ダイチに続けて言う。

 

「あのウルトラマンが、君に伝えろと……そう言っていた気がする」

「俺に……ですか?」

「いきなりすまない。ただ……私はウルトラマンとつながりを持った。短い時間ではあったが……彼との絆は確かに存在したし、疎遠になっていた家族ともつながっているということも教えてもらった。だから……」

「俺も……怪獣たちとつながってるということでしょうか。それに父さんと母さんとのつながりも、消えていないと……」

「ああ……そういうことじゃないだろうか」

 

 クロノから受けた伝言で、ダイチは苦笑を浮かべた。

 

「何か、ウルトラマンに励まされてる気がします」

「その通りさ。何せ、たった一日だけだったが、この私がウルトラマンだったんだから。――今までの人生、裏方でいることが多かったが……ヒーローになってるのも悪い気分ではなかったな」

 

 おかしそうに笑い合ったクロノとダイチ。ダイチはふとつぶやく。

 

「名前……何て言うんでしょうか。あのウルトラマン……」

「そうだな……」

 

 クロノは少し考えてから、言った。

 

「絆……ネクサス。今頭をよぎった」

「ウルトラマン、ネクサス……」

 

 その時、ダイチはエクスデバイザーから音がするのに気づき、手に取った。

 デバイザーにはいつの間にか、ウルトラマンネクサスのカードが現れていたのだった。

 

 

 

 オペレーション本部に帰投したクロノは、皆の見ている前でカミキに深々と頭を下げ、謝罪をした。

 

「二度に亘る独断行動……弁明のしようもありません。隊長、どうぞ厳格な処罰をお願いします」

「隊長! 副隊長は……!」

 

 ダイチが思わずクロノをかばおうとしたが、カミキに視線で制されて反射的に口を閉ざした。

 そしてカミキは咳払いすると、頭を下げたままのクロノに向けて言い放った。

 

「独断行動? 一体何のことを言ってるんだ」

「は……?」

 

 クロノ、予想外の返事に呆気にとられて顔を上げた。

 

「あの時私は、君に出動命令を下したはずだが。まさか聞いていなかったのか?」

「! 隊長、それって……!」

 

 呆然とするクロノに反し、ダイチたちは一辺に喜色を浮かべた。

 

「た、隊長! それでは皆への示しが……!」

 

 クロノの反論をさえぎって、カミキは言い聞かせる。

 

「部下への手本となる副隊長ともあろうものが、上司の命令を聞き逃したというのはまことにけしからんな! クロノ・ハラオウン、君には反省文を提出してもらおう」

「……!」

「何をぼやぼやしている。副隊長にはやることが山積みなんだ、さっさと書き上げて早く仕事に戻れ」

「……了解です」

 

 苦笑したクロノは、カミキに敬礼して踵を返した。その周りにワタルたちが群がる。

 

「よかったですね副隊長! 反省文で許していただけて」

「も~、隊長の言うことはきちんと聞いてないとダメっスよ~?」

 

 ウェンディが冗談を飛ばすと、クロノは彼女たちを一喝する。

 

「上司をからかうな! お前たちは自分のやることを片づけろ! 今回の事件の報告書はまだなのか?」

「はーいっ! すぐに作成します!」

 

 ダイチたちは安堵した顔で笑い合いながら、散らばって各々の仕事に戻っていった。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「今回の怪獣はベムラーだ!」

ダイチ「ベムラーは『ウルトラマン』第一話「ウルトラ作戦第一号」に登場した、長きに亘るシリーズで最初にウルトラマンと戦った怪獣! まさに『ウルトラマン』という作品の始まりを告げた記念すべき怪獣だ!」

エックス『最初の怪獣でまだ設定が固まってなかったのか、怪獣なのに囚人などの特異な設定が多く見受けられるぞ』

ダイチ「『ウルトラマンX』でも、映像の中で最初にスパークドールズから実体化した怪獣に選ばれたんだ」

エックス『この個体がどうなったのかは描かれなかったな』

ダイチ「また、別個体がカナダに出現して橘副隊長の娘を襲ったんだ。こっちはネクサスに倒されたと説明があったぞ」

エックス『ベムラーだったのは、最初のスペースビーストのザ・ワン・レプティリアのデザインモチーフがベムラーだからだそうだ』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんが、暗黒星団のホストに誘拐された! ホストは二人に、自分と一緒に宇宙へ来ることを要求する。それに対してのヴィヴィオちゃんと、アインハルトちゃんの答えは……。次回、『少女の選ぶ道』。


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少女の選ぶ道(A)

 

「強くなるんだ。どこまでだって!!」

「はじめまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

「新しい戦いがあると聞いて、まだ見ぬ強い相手がいると知って、心が沸き立つのを止められない」

「強くなろう。今よりもっと、今日よりずっと――!」

「刻んで続けます……。わたしはこの道で強くなる!」

「確かめよう! わたしとノーヴェのストライクアーツを!」

「あなたと遊ぶのもいいかもしれませんね。今を生きてる今のわたしたちとして」

「みなさんのおかげで、ヴィヴィオは今日も元気ですよ……って」

 

 

 

 夕暮れに差し掛かる空の下、Xioベースの屋上にダイチは木製のリクライニングチェアと宇宙電波受信機を用意し、受信機のヘッドフォンを手にした。彼の傍らにあるエクスデバイザーからエックスが尋ねる。

 

『ダイチ、このところこうして宇宙の電波を拾うことが多いな』

「うん。最近は色々忙しくてご無沙汰だったけど、久々に宇宙の声を聞きたくなって。それに……」

 

 うなずいたダイチは次のように述べる。

 

「この前、ウルトラマンからの伝言を伝えてくれた副隊長が言ってただろ。俺と両親のつながりは、まだ消えてないって」

『君の両親の行方の手掛かりが、宇宙からの電波の中にあるかもしれないということか?』

「ああ。父さんと母さんは空に……宇宙に消えていった。二人からのメッセージがあるとしたら、宇宙からの電波の中だと思う」

『そうだな……。届くといいな、両親からのメッセージ』

「うん……」

 

 ダイチはヘッドフォンを頭にセットすると、チェアの上に寝そべった。そのまま宇宙の声に耳を傾けている内に、まぶたが下りて眠りに落ちていった……。

 

 

 

『少女の選ぶ道』

 

 

 

『……イチ。起きろ、ダイチ!』

 

 ――空がまだ真っ暗い中、ダイチはエックスの呼び声によって覚醒。何か事件かと慌ててチェアから飛び起きた。

 

「怪獣!? 異星人!?」

『そうじゃない。これを聞いてみろ。たった今キャッチしたものだ』

 

 エックスの操作により、宇宙電波受信機の録音装置が再生された。ダイチは音量のダイヤルを回して、音を大きくする。

 普通の人にはただのノイズにしか聞こえない音が流れたが、そこは専門家のダイチ。違いを聞き分ける。

 

「普通の宇宙電波じゃなさそうだ……」

『解析してみたらどうだ?』

「だね」

 

 ダイチは録音機をラボまで持っていき、配線を端末につないで解析作業を開始した。

 

[解析中です]

 

 だがその直後に、ラボに警報が鳴り響いた!

 

「! また事件か……!」

『急ごう、ダイチ!』

「ああ!」

 

 ダイチはデバイザーを腰に提げると、端末の解析を自動で任せたままにして、オペレーション本部へ向けて走っていった。

 

 

 

 ダイチが電波の解析作業を始めたのより少し前の時間。インターミドルチャンピオンシップのミッドチルダ地区予選決勝戦を観戦に来ていたヴィヴィオ、アインハルトたちは、試合終了後に選手の更衣室を訪れていた。決勝戦まで駒を進めたミウラの応援に来ていたのだった。ミウラはかなりの接戦だったが、見事勝利。他にルーテシア、ハリー、ヴィクトーリア、ジークリンデらが都市本戦出場の権利を手に入れたのであった。

 さて更衣室では、リオがエルスたちにこんなことを告げた。

 

「試合は決まってないですけど、ヴィヴィオはお母さんと戦うんですよ~」

「お母様?」

「ん? なんだ親子喧嘩なのか?」

 

 ハリーが聞き返すと、ヴィヴィオが補足説明する。

 

「母は管理局員なんで、戦技披露会でエキシビションマッチをやるんです!」

「その前にボクともやるんですよー」

 

 管理局では年に一度、局員の魔導師たちの実力の程を世間に披露するイベントが開催される。そのエキシビションマッチに、航空教導隊第五班のチーフ・なのはの娘、ヴィヴィオとサブチーフ・ヴィータの弟子、ミウラの試合が企画されたのだが、ヴィヴィオは試合で勝利した場合は更に教導隊の一人と試合することを望み、その指名した人物が誰であろう高町なのはなのであった。

 ヴィヴィオは尊敬する母との勝負に、今から意欲バリバリであった。

 

「遊んであげる、なんてつもりだったら、その隙を撃ち抜いちゃいますけど!」

 

 ヴィヴィオが決意を表明している傍らで、アインハルトのクラスメイトたちがミウラに話しかけている。

 

「ミウラちゃん、さっきはすごい試合だったね!」

「結果がどうなるか全然わかんなくって、ハラハラして見守ってたよ~。勝ててよかったね!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ミウラがお辞儀していると、アインハルトとヴィヴィオが彼女に振り返って告げた。

 

「ええ、実にいい試合でした」

「わたしもまずはミウラさんに負けないように頑張らないとって気持ちが強くなりましたよ!」

 

 友達と談笑し合っているこの二人の脳裏に――いきなり怪しい声が響いた。

 

『ヴィヴィオくん、アインハルトくん。伝説の聖王と覇王の後継者ともあろう者が、あの程度の試合で感心しているようではいけないな』

「え……? 今の、誰が言ったんですか?」

「男の人の声……?」

 

 ヴィヴィオとアインハルトは面食らって周りを見回すが、周囲の仲間たちは逆にそんな二人に呆気にとられていた。

 

「? 一体どうしたんですか、二人とも?」

「男の人の声なんて、どこからも聞こえなかったよ?」

 

 コロナとリオはそう言った。ヴィヴィオとアインハルトは思わず顔を見合わせる。

 

「わたしたちにだけ向けられた念話……? でも、そんなの誰が」

「聞いたことのない声色でしたね」

 

 二人にのみ聞こえる声は、戸惑うヴィヴィオたちに構わず続けた。

 

『強い者が勝つのは当たり前のことだ。全く面白いことではない。私は、弱い者を今すぐに強くしてみせよう』

「えっ? 弱い者を強くするって……?」

 

 ヴィヴィオのつぶやきの直後に、更衣室が突然地響きに襲われる。

 

「きゃっ!? 今の揺れは……?」

 

 更に外からは、人々の悲鳴が湧き上がっていた。

 

「まさか、怪獣の出現!?」

「そんな! こんな都市部のど真ん中に、何の前兆もなしに……!」

「とにかく、外を確認してみましょう!」

 

 アインハルトの呼びかけで、一行は直ちに会場の外へと飛び出していく。

 

「なっ……!?」

 

 そして一斉に息を呑んだ。会場の外にいたのは、リボンでポニーテールを結んだ少女。

 ただし身長が四十メートルもある!

 

「なっ、何だありゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? あれは一体全体どうなってんだぁぁぁぁ!?」

 

 度肝を抜かれたハリーが絶叫。ミウラは少女の後ろ姿から、ハッと気がつく。

 

「あの人……ボクが戦ったニーナ選手ですよ!」

「えぇっ!? マジかよ! あんなビッグサイズじゃなかったよな!?」

「当たり前ですよっ! 人間があんなに大きいなんて、ありえません!」

 

 突っ込むエルス。

 

「じゃあ、今オレたちの前にいるあいつは何なんだよ! 幻覚か!?」

 

 ハリーが言った直後、巨大ニーナ選手は虚ろな表情で腕を振り上げ、決勝戦の会場に振り下ろした。殴られた会場の屋根の一部が砕け、悲鳴の声が大きくなった。

 

「いやっ! ありゃ実体だぞ! マジで大きくされてるんだ!」

「で、でも誰がそんなことを……どんな技術で……?」

「こういうぶっ飛んだことは、大抵異星人の仕業やで……」

 

 異星人と暮らしていて、常識外の出来事に慣れているジークリンデが推測した。

 巨大ニーナ選手は正気ではない顔で、ドスンドスン地面を揺らしながら移動している。一行は身の危険を感じた。

 

「とにかく避難しよ!」

「はいっ! アインハルトさん、行こう――」

 

 ユミナがアインハルトの方へ振り返ったが……先ほどまでそこにいたはずのアインハルトの姿が、なくなっていた。

 

「あれ!? アインハルトさんがいないっ!」

「あっ! よく見たら、ヴィヴィオもいなくなってるっ!!」

 

 叫ぶリオ。ヴィヴィオとアインハルトが忽然といなくなったことで、一同は騒然となった。あの二人が、自分たちを置いて勝手に逃げるはずがない。ではどこへ行ってしまったのだ?

 

「ヴィヴィオ―――――! どこ行ったのー!?」

「アインハルトさーん! いるなら返事してー!」

 

 ユミナたちは懸命に叫んで二人の行方を捜したが……見つけることは叶わなかった。

 

 

 

 巨大ニーナ選手に対してXio、武装隊の双方が出動し、夜を徹して事態の収拾、解決に当たった。何せ巨大ニーナ選手は民間人の少女が巨大化したものであるため迂闊に攻撃することが出来ない一方で麻酔も効かず、怪獣並みの怪力ですぐに拘束を破壊してしまうので、鎮圧するのにひどくてこずったのだ。

 それでも太陽が昇った頃にようやく捕獲し、Xioのラボチームと医療班両方の手によって元の姿に戻すことに成功したのであった。

 

「ふ~……やーっと事態収拾までこぎつげたわね~……。久々にハードな夜だったわ……」

「でも巨大化させられた子、無事に元に戻れてよかった」

 

 会場周辺の事件現場でルーテシアがその場に腰を下ろして深々と息を吐くとキャロがそう言い、エリオがうなずいた。三人は決勝戦出場選手とそのセコンドとして現場に居合わせ、そのままXioと武装隊の作戦に参加したのであった。

 他方では、この前代未聞の大事件を担当する執務官に選ばれたフェイトとティアナ、そして捜査官のギンガが、ニーナの治療を担当したシャマルたちに通信越しに質問している。

 

「それで、ニーナという子が巨大化した原因は分かったんでしょうか?」

 

 ギンガの問いかけに、シャマルとグルマンが回答した。

 

『ええ。患者の血中より、未知のナノマシンが検出されたの』

『解析の結果、そいつには遺伝子の発現形質を変化させ、生物を急激に巨大化させる機能があることが判明した。いつ、どこでそんなものを注入されたのかは不明だが……ナノマシンは次元世界には存在しない金属元素で作られていた』

 

 次元世界外の元素、という言葉にティアナはフェイトと顔を見合わせた。

 

「それじゃあ、この事件はほぼ確実に異星人の犯行……!」

「だとは思うけど、まだ断定は出来ないよ。犯行声明らしきものは、どこにも届いてないんだから」

 

 Xioの特捜班は、今回の事件のことを話し合っている。

 

「どこのどいつの仕業かは知らねぇが、全くふざけた真似をする奴がいたもんだ……!」

「ホントっスね。女の子をあんなにでっかくしちゃうなんて、どんな趣味してるんだか」

 

 ワタルとウェンディが憤っていると、ダイチたちの元にコロナたちが駆け寄ってきた。

 

「Xioと管理局の皆さーん! 大変でーす!」

「みんな、一体どうしたんだい?」

「あれ? ヴィヴィオとアインハルトは一緒じゃないのか?」

 

 ノーヴェが尋ねかけると、リオが息せき切って答えた。

 

「それが二人は、でかいニーナ選手が現れた直後に、消えちゃったんです!」

「えぇぇっ!?」

 

 一気に騒然となる現場。フェイトたちやルーテシアたちも、驚愕した顔で振り返る。

 

「夜からずっと捜したんですが、どこにも見つからなくって……!」

「でも周りは大騒動だから、今まで通報も出来ずに……」

「分かった。ヴィヴィオたちのことはあたしたちに任せろ!」

 

 ノーヴェがすぐに応じると、スバルがコロナたちに問い返す。

 

「ヴィヴィオとアインハルトが消えた時の状況を詳しく教えて。周りに怪しい人はいなかった?」

「そうは言われても、周りはすごい混乱でしたから……。それに、わたしたちが目を離してたのはほんのわずかな時間だけでした」

「会場から出るまでは、確かに傍にいたんだけど……」

「……大丈夫。あたしたちが絶対に二人を見つけ出すからね!」

 

 不安に襲われるリオたちを励ます後ろで、ハヤトが顎に指を掛ける。

 

「二人が消えたのは、今度の事件と関係があるのか……?」

「よもや、巨大化された選手は目くらましで、本命はヴィヴィオとアインハルトだったのでは……」

 

 チンクのつぶやきに、ノーヴェは拳で手の平を叩いて苛立ちを露わにした。

 

「何だっていい! あの二人を誘拐した奴がいるんなら、許しておけねぇぜっ!」

 

 ティアナはフェイトに尋ねかける。

 

「ヴィヴィオたちの誘拐は本当に同一犯でしょうか。それとも、別の誰かが混乱に乗じて行ったことでしょうか……」

「今は何も分からない……。私、なのはにこのこと連絡するね!」

 

 そしてダイチには、エックスが呼びかけていた。

 

『ダイチ、覚えてるか? 以前にもヴィヴィオの身を狙った者がいたことを』

「ギロン人のこと? でもあれにまつわる事件は、グア軍団の壊滅で終わったんじゃ……!」

『いや、他にも彼女たちの資質に目をつけた奴がいたのかもしれない。そいつが今度の犯行を行ったのでは……』

 

 考え込んだエックスは、一つの結論を出す。

 

『ともかく、今度の事件の犯人は一筋縄ではいかない奴だと私の勘が告げている。十分に警戒しなければいけないだろう』

「ああ……。でもなるべく早くヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんの行方を突き止めなければ!」

 

 ダイチのその意志は、この場の他の者たちも同じであった。

 

 

 

 問題のヴィヴィオとアインハルト、この二人は今、どことも知れない怪しい部屋の床の上に倒れていた。すると二人に、どこからか男の声が掛けられる。

 

『起きなさい、ヴィヴィオくん、アインハルトくん。さぁ、立つのだ』

 

 それによりヴィヴィオたちは目を覚まし、おもむろに起き上がった。

 

「こ、ここはどこ……? 確か、会場の外に大きなニーナ選手が現れて……そこからどうなったんだっけ……」

「私たちに呼びかけてるのは、どなたですか」

 

 まだ意識が曖昧なヴィヴィオの一方で、アインハルトは周囲全域に警戒をしながら問いかけた。そうすると、二人の背後から答えが返ってくる。

 

「この私だ」

 

 ヴィヴィオたちが振り返ると、部屋の一角に明かりが灯り、シルクハットに燕尾服で身を固めた見知らぬ男の姿が明らかとなった。

 

「! あなたは……!?」

「その格好……確か、フェイトママがラグビーの試合の時にいた男の人のもの……! 異星人の友人だと名乗ったって……」

「その通り。もっとも、星雲荘チームではなく暗黒星団側のババルウ星人のだけどね」

 

 男は話しながら、部屋の柱の後ろへ回っていく。そして出てきた時には――着ていた服のように真っ黒い身体に青い両眼を輝かせる怪人の姿となっていた!

 

『種族はメフィラス星人。暗黒星団のまとめ役、つまりホストを務めている者だ』

「っ!」

 

 ヴィヴィオとアインハルトはセイクリッド・ハートとアスティオンとユニゾンしようとしたが……両者とも、くったりとしたまま反応がなかった。

 

「え……!?」

『君たちのデバイスの機能は停止させてもらった。暴れられても困るからね』

「何てひどい……!」

 

 二人にとってセイクリッド・ハートとアスティオンは単なるデバイスに留まらない、大事な相棒だ。それを停止されたとあっては、メフィラス星人への警戒をより強くする。

 メフィラス星人はそんな二人をなだめるように言い聞かせた。

 

『落ち着きたまえ。君たちに危害を加えようというつもりではないのだ』

 

 そしてメフィラス星人は、ヴィヴィオたちをこの場所に連れてきた理由を話し始める。

 

『さて、私はこのミッドチルダで活動をする中で、君たちのことを知った。そして君たちに広い宇宙でも稀に見る、特別な資質があるということを知り……君たちがどうしても欲しくなった』

「……!?」

『安心したまえ。そのことは、他の者には一切口外していない。物の価値がろくに分からないその辺の馬鹿どもにくれてやるのには惜しいからね』

 

 メフィラス星人の口調は丁寧で落ち着いたもののようであるが、その裏には他者を見下す傲慢な精神があることをヴィヴィオたちは見て取った。

 

『しかし、私自身は暴力で物事を解決するのは嫌いでね。私の星でも紳士というのは、礼儀正しいものだ。そこで、君たちの了承を得ようと思う。どうだね? 悪いようにはしない。たったひと言だけでいいから、私のものになると言ってくれないかね』

 

 メフィラス星人の要求に、ヴィヴィオとアインハルトは相当な憤りを表して言い放った。

 

「ふざけないで下さい! 誰がそんなこと!」

「あなたのものになるだなんて……冗談もほどほどにして下さいっ!」

 

 だがメフィラス星人はその回答を想定していたようで、落ち着き払っていた。

 

『そうだろうね。いきなり人のものになれと言われて、了承する人間がいるはずがない。しかし……これをご覧』

 

 メフィラス星人の眼が光ると、部屋が暗黒に包まれていき、無数の光点が全方位に散りばめられた光景がヴィヴィオたちの前に広がった。

 

「これは……宇宙?」

 

 それはまさしく、夜になると空に見える宇宙の光景。しかしそれだけではなく、二人の前に様々な惑星の景色が現れては消えていく。

 あの宇宙恐竜ゼットンが何体も生息する星。キングジョーを製造するほど科学の発展したペダン星。小惑星上では宇宙剣豪が無数の敵を相手に激しく心を引き込まれるほどの迫力がある戦いを演じ、それとは反対に全生物が惑星と一つになり、一切の争いがない星もヴィヴィオたちの目に映し出された。

 

『宇宙は無限に広く、しかも素晴らしい。君たちの常識をはるかに超えた力を持った生命が存在する星や、恒久平和を実現し何百年何千年も生きていける天国のような星がいくつもある』

 

 メフィラス星人はヴィヴィオとアインハルトを見据える。

 

『君たちは格闘選手だ。私とともに大宇宙に進出すれば、ミッドチルダの低俗な試合など比べものにならないほど充実した戦いを経験できるし、君たちの才能をちっぽけな人間の限界の何倍、何百倍も引き伸ばすことも出来る。他の望みも何だって思うがままだ。私にはそれを実現できるだけの力がある。――どうだね、こんな狭い星は捨てて、宇宙で人間を超越した崇高な存在になりたくはないかね』

 

 メフィラス星人の誘惑に、ヴィヴィオとアインハルトは――声をそろえて回答した。

 

「お断りします!」

 

 ――宇宙の光景が消え、部屋は元の状態に戻った。一方で、メフィラス星人の声に不機嫌の色が見え始める。

 

『聞き分けのない子たちだ。どうして私とともに宇宙に出る、たったそれだけのことが言えないのだ。全ての望みが叶うのだぞ。君たちが望みさえすれば、一つの星の支配者にだってなれる。先祖の意志を継いで、本物の王になれるのだぞ。それでも嫌だというのか』

 

 メフィラス星人の問いかけに、まずはヴィヴィオが答える。

 

「わたしの技は、わたしだけのものじゃありません。ノーヴェがわたしの才能を見出して、鍛え上げてくれたもの……。わたしが格闘家の道は、二人の夢なんです。――ノーヴェがいない場所で夢を叶えても、何の意味もありません」

 

 ヴィヴィオはノーヴェとの出会いから始まった、今日までの道のりを思い返した。――ノーヴェと出会うことがなければ、今の自分は絶対になかった。隣のアインハルトと巡り会うことも。

 

「それだけじゃなく……わたしには目指してる人がいます。どんな逆境も跳ね返す勇気を持った人と、誰よりも鋭くて優しい人……。あの人たちに育ててもらった自分の心と身体だけで強くなりたい。誰かから与えられた力なんかで強くなっても――それはわたしを育ててくれたあの人たちを、何より自分自身を裏切るということ。それだけは絶対に出来ません」

 

 ヴィヴィオは正直なところ、格闘選手に向いた素質を持っていない。それでも辛い道を歩いているのは、この二つの理由があるからこそであった。

 ヴィヴィオに続き、アインハルトが語った。

 

「私はずっと覇王流と、覇王から受け継いだこの身の強さを証明するために戦ってきました。けれどその強さは、大切な人を守れる強さ……! 私の大切な人たちは、このミッドにいるたくさんの人たちです……!」

 

 アインハルトの脳裏に浮かぶのは、隣のヴィヴィオや、リオ、コロナ、ノーヴェや、インターミドルを通して出会った戦友たち、共存と理解を教えてくれたダイチたちXioの面々、ユミナたちクラスメイトに、他にも色んな人たちの顔。

 

「宇宙にどんな戦いが待っていようとも、どんな力を得られて何千年と生きられようとも……! そこに皆がいないのだったら、『私』には価値がありません!」

 

 ヴィヴィオとアインハルト。二人の思いの丈を受けたメフィラス星人は、

 

『――ほざくなッ!!』

 

 逆上し、一瞬にして二人を消し去った。ヴィヴィオとアインハルトは無重力の部屋に移され、空中に固定されて監禁された。

 

『身の程知らずどもめ……! この私を本気にさせたな? 私は欲しいものは全て手に入れてきた! あらゆる相手を屈服させてきた! どんな手を使ってでもなッ!』

 

 メフィラス星人は怒気をまき散らしながら、部屋の中央に立体のビジョンを浮かび上がらせる。

 

『そのことを、たっぷりと教えてやろう……ウワハハハハハハハ……!』

 

 暗い哄笑を上げるメフィラス星人の見下ろす先のビジョンは――事件の調査を行っているダイチたちの姿であった。

 



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少女の選ぶ道(B)

 

 フェイトからの連絡を受け、なのはが会場前の現場に駆けつけてきた。車から降りるとすぐにフェイトの元へ走り寄る。

 

「フェイトちゃん! ヴィヴィオが誘拐されたって本当!?」

「うん……! アインハルトさんも一緒に……」

 

 くっ、と険しい表情で奥歯を噛み締めるなのは。当然ながら、愛娘をかどわかされたという事実は、彼女にとってそれほどまでに重大な事態であった。

 

「それで、犯人の手掛かりは……?」

「残念だけど、まだ発見できてない。犯行声明も出てないし……」

 

 フェイトが答えたところで、特捜班の方にアルトからの報告が舞い込んだ。

 

『エリアM7-8、未開発区の山間部に不審なエネルギー反応を感知しました! 未確認の宇宙船と思われます!』

「宇宙船!?」

 

 それを聞き止め、特捜班の周囲になのはたちが集まる。

 

「それが一連の事件と関係してるのかな?」

「とりあえず、すぐそっちに行って宇宙船を検挙して、持ち主から洗いざらい聞き出しましょう!」

 

 ノーヴェが今にも駆け出しそうであったが、そこにメフィラス星人の声が響き出す。

 

『その必要はない。その宇宙船の所有者であるこの私が、ミッドチルダ人の娘を巨大化し、かつ諸君の捜している娘たちを連れ去った者です』

「!!」

 

 一同は、声だけをこの場に届かせているメフィラス星人に警戒して周囲に目を走らせた。

 

「何者!? 姿を見せなさいっ!」

 

 ギンガが叫んだが、メフィラス星人はその要求には応じなかった。

 

『諸君には見えなくとも、私には諸君の姿が見えています。それで十分』

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞテメェっ! 何様のつもりだっ!」

 

 神経を逆撫でされたノーヴェが怒声を発すると――周辺のビルの間に、突如として巨大な宇宙人が出現した!

 

「あっ!? あいつはザラブ星人!」

 

 叫ぶワタルとハヤト。それは以前にXioがやっつけたはずのザラブ星人だった。

 そして別の方角に、異なる宇宙人の姿が現れる。

 

「ナックル星人!」

 

 今度はスバルが声を上げた。

 ザラブ星人、ナックル星人に続いて、ケムール人がビルの間に巨体を現す。

 

「ケムール人も!」

 

 ルーテシアの言葉の後で、メフィラス星人が自慢げに告げた。

 

『如何ですかな? 私は暗黒星団のホスト。ザラブも、ナックルも、ケムール人も! 皆私の命令一つで動かすことが出来る! 私が少し唱えるだけで、諸君は宇宙人の軍団に囲まれて叩き潰されることにもなり得るのですよ』

「私たちを脅すつもりなのか……!?」

 

 チンクが目を吊り上げていると、なのはがメフィラス星人に向かって言い放った。

 

「たとえどれだけの異星人を送り込んでこようとも、わたしたちは決して屈したりはしません!」

「そうだそうだー! それにこいつらみんなやっつけたっスよ!」

 

 ウェンディが言い返すと、メフィラス星人は思い切り笑い飛ばした。

 

『ハッハッハッハッハッ! あなた方は所詮、広い世界の一部分を少し見ただけで全てを理解したつもりになっている、井戸の中のカエルです。自分たちの力を過信してはいけませんねぇ。宇宙には、諸君の想像を優に超える力を持ったものなどいくらでもいるのです! 私の元まで来て、邪魔をしようというのでしたら、諸君に宇宙とのレベルの差というものを教えなければいけませんね』

「……一体、何の目的でヴィヴィオとアインハルトさんの二人をさらったというの!?」

 

 フェイトの問いかけに、メフィラス星人は正直に答えた。

 

『私の目的は、あの娘たち自身! 二人の心を我が物とすることです!』

「二人の心を……!?」

『もう間もなく、二人は我が手に落ちます。それまでは邪魔をしないでいただきたい』

 

 と求めるメフィラス星人にノーヴェが怒鳴り返した。

 

「勝手なことばっか抜かすんじゃねぇ! テメーなんかにヴィヴィオとアインハルトを渡すなんてこと、あってたまるかっ! ぜってー取り返してやるから、そっちが覚悟しやがれっ!」

『あくまで逆らおうというつもりですか。自分たちの命がどうなってもいいのですか?』

 

 メフィラス星人の最後通告に、なのはが毅然と返す。

 

「どんな力を振りかざそうとも、わたしたちは絶対に降伏しません! 最後まで戦い抜いてヴィヴィオたちを取り返す、それだけです!」

『よろしい。ではお望み通り、宇宙の驚異の一端を見せてあげましょう!』

 

 メフィラス星人の宣言を合図とするように、三人の宇宙人の姿が忽然と消える。

 

「えっ? わざわざ出しておいて、何もなしに引っ込めたっスか? とんだこけおどしじゃないっスか」

 

 ウェンディが冷笑を浮かべたが……すぐに彼らの代わりのように、巨大ロボットがこの場に転移してきた!

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 武骨な鈍色のボディに、両肩が砲門、顔面部分が三連装ガトリングガンになったロボットの出現に、一同は声もなく驚く。

 

 

 

 オペレーション本部で、巨大ロボットの容貌を目にしたグルマンが叫んだ。

 

「あれはインペライザーだ!」

「インペライザー!?」

 

 聞き返すカミキとクロノ。

 

「恐ろしい大量破壊ロボット兵器だぞ! まさかあんなものまで所有していたとは……!」

 

 モニターの中でインペライザーが行動を開始。両肩の砲門から赤い光弾を発射し、正面のビルを数棟纏めて爆破した!

 

「!!」

 

 カミキは即座に叫んだ。

 

「都市防衛指令発令! タイプMの破壊活動を食い止めろっ!」

 

 

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

「攻撃開始ーっ!」

 

 先の戦闘でまだ現場に残留していた武装隊が直ちに魔法攻撃を繰り出し、インペライザーに集中砲火を浴びせる。だがインペライザーの鋼鉄の機体には傷一つつかない。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーは上半身を屈めて、武装隊へ砲門を向ける。

 

「うっ、うわぁぁぁっ!?」

 

 今にも光弾を撃ち込まれそうであった武装隊を救ったのは、ディエチの発射した砲撃だった。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 ディエチの方に振り向こうとするインペライザーに、ウェンディとチンクが続けざまに攻撃を加えて撹乱を狙う。

 

「やっぱりロボットだけあって、とんでもない硬さっスね……! さっきから傷一つない……!」

「だがどんな機械も完全無欠ではないはずだ。あきらめずに攻撃し続けるぞ!」

 

 インペライザーを足止めしている間に、カミキはスバルに命令を出す。

 

『スバルはエリアM7-8に向かい、誘拐された二名を救出せよ!』

「この現場を離れて、ですか!?」

『タイプMは時間稼ぎかもしれん。一刻も早い救出が必要だ!』

「スバル、わたしの代わりにヴィヴィオをお願い! アインハルトさんも!」

「あたしからも、二人を頼む! スバル!」

 

 インペライザーと戦わなければいけないなのはとノーヴェもスバルに頼み、スバルはうなずいた。

 

「分かりました! すぐに向かいます!」

 

 命令を受けたスバルにフェイトが告げる。

 

「いくら何でも一人では危険だよ。ティアナ、エリオ、キャロ! あなたたちもスバルと一緒に行って!」

「はいっ!」

 

 ワタルとハヤトもスバルに向けて言った。

 

「急ぐんだろ? ならマスケッティを使いな! そしたらすぐだぜ!」

「えっ!? でもマスケッティがなかったら……」

「何、こっちはエースオブエースが二人もいるんだ。あんな鉄屑ロボットに負けるもんかよ」

 

 ハヤトの軽口に、スバルは目に力を込めてうなずいた。

 

「ありがとうございます! マスケッティ、使わせてもらいます!」

 

 スバルたち四人は直ちにアラミスへ駆けていこうとしたが、その時になのはがダイチに振り向いて言った。

 

「ダイチくんも、スバルたちと行って」

「えっ……!? 俺もスバルもここから離れたら、誰がデバイスゴモラを……」

 

 一瞬面食らったダイチを、なのはは変に神妙な顔つきで制した。

 

「きっと、ダイチくんの力が必要になると思う」

「なのはさん……?」

「カミキ隊長さん、いいですよね」

『……君がそう言うのならば、何か考えがあってのことなのだろう。ダイチ、高町一尉の言う通りにせよ』

「り、了解!」

 

 カミキの命令もあっては逆らう訳にはいかない。反射的に返答したダイチは、スバルたちの後に続いてアラミスへと走っていった。

 その中でスバルたち四人を見つめ、ポツリとつぶやく。

 

「ストライカーが勢ぞろいか……。みんながいれば、きっと大丈夫だ!」

『ダイチ、こんな時だが、そのストライカーとは何だ?』

 

 エックスの質問にダイチは手短に答えた。

 

「エースと一緒で優秀な魔導師を意味するけど、同時にどんな困難な状況も打破してくれるという期待と信頼を寄せられた呼び名だ。なのはさんたちは、スバルたちをそんな魔導師になるように指導してたんだ」

 

 ダイチが最後にアラミスに乗り込むと、アラミスは飛来してきたマスケッティとジョイント。

 

[スペースマスケッティ、コンプリート]

 

 大型ブースターによる急加速で、一直線にエリアM7-8に向かって飛んでいった。

 

 

 

 カミキはギンガに向けて告げる。

 

『デバイスゴモラはギンガ陸曹、君が操作してくれ!』

「了解しました!」

 

 借り受けたジオデバイザーでデバイスゴモラのスパークドールズをリードし、デバイスゴモラをこの場に召喚する。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「ゴモラ! ダイチとスバルのためにも、お願い、私にあなたの力を貸してちょうだい!」

 

 更にルーテシアが究極召喚を行い、彼女の最強の召喚獣、白天王をゴモラの隣に呼び出した。

 

「わたしと白天王も一緒に戦います!」

「ありがとう! ……来るよっ!」

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーが攻撃目標をデバイスゴモラと白天王に移し、こちらに接近してきた。ギンガとルーテシアはゴモラと白天王とシンクロし、それを迎え撃たせる!

 

(♪Run through! ~ワンダバ「CREW GUYS」~)

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーが前進しながら両肩のビーム砲より光弾を連射してくる。ゴモラと白天王はその猛攻をかいくぐりながらインペライザーに肉薄。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 間合いを詰めたところでゴモラのクローと白天王の鉄拳がインペライザーのボディに叩き込まれる。……が、インペライザーはこれでもびくともしない。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 至近距離からゴモラたちに光弾を浴びせようとするインペライザー。だがそこに背後からなのはたちが攻撃。

 

「エクセリオンバスター!」

「ウルトライザーシュート!」

 

 同時の砲撃の衝撃によってインペライザーの動きが止まる。そこにスピナーをうならせたゴモラの一撃が右肩に決まる。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 叩き込まれた衝撃波がインペライザーの肩を粉砕!

 

「やった!」

 

 一瞬喜んだなのはたちだが……インペライザーの破損は瞬時に再生して、傷跡一つ残らなかった!

 

「えっ!?」

「再生した!?」

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーはその場で上半身だけを高速回転。そして全方位に無差別に光弾を乱射し出す!

 

「わあああっ!?」

「危ないっ!」

 

 周囲のビルが次々破壊されていく! ウェンディたちに飛んできた光弾はフェイトが両断した。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴモラと白天王も後退を余儀なくされる。すると回転を止めたインペライザーが、今度はガトリングガンを回転させて破壊光線を発射!

 ゴモラが両腕よりプロテクションを発して防御しようとしたが、貫かれる!

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「あああぁぁっ!」

 

 ゴモラとシンクロしているギンガが倒れかけたのを、ノーヴェが受け止めて支えた。

 

「しっかり! ヴィヴィオたちを助けるためにも、ギンガ、あんたは倒れちゃいけねぇんだ!」

「……ええ! もちろん、負けていられないわ!」

 

 ノーヴェの激励で発奮したギンガが持ち直す。ゴモラは白天王に助け起こされた。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーが追撃を掛けてこようとしたが、その隙を突いてソニックフォームとなったフェイトが横から飛び込んできて、左前腕を関節から切り落とした。

 

「はぁっ!」

 

 しかし切断された左腕は剣の形に変化して本体と接合する。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 フェイトに迫るインペライザーの剣を、ゴモラがクローで受け止めて助けた。

 

「あれじゃあ、いくら攻撃しても効果なしだ……!」

 

 ノーヴェが舌打ちした時、この場の皆にシャーリーからの報告が届く。

 

『分析結果出ました! インペライザーは両肩に再生装置を備えてます!』

「再生装置!」

『それを同時に破壊すれば、もう再生はしません!』

 

 それを聞いて、なのはとフェイトが即座にアイコンタクトを取った。

 

「フェイトちゃん、一気に決めよう!」

「うんっ!」

 

 ゴモラと白天王がインペライザーを押さえつけている間に、なのはたちはその左右に分かれて周囲に散った魔力をデバイスの一点に集中していく。

 

「スターライトっ!」

「プラズマザンバーっ!」

「ブレイカァァァァ――――――っっ!!」

 

 見事息の揃った砲撃がインペライザーの両肩に同時に命中し、再生装置を完全に粉砕した。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

 

 インペライザーの動きが極端に鈍る。そこにゴモラと白天王がとどめの一撃を繰り出す。

 

「ゴモラ! 超振動バスター!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 振動波と魔力光線が叩き込まれて、インペライザーは粉々に吹き飛んだ。

 

「やったぁぁぁぁぁっ!!」

 

 皆が勝利に沸き立ち、ノーヴェもぐっと拳を握り締めた。被害は大きいが、敵からの刺客をどうにか倒すことが出来た。

 そう、思われたが。

 

「グイイイイイィィィィィ……!」

「えっ――!?」

 

 直後に新たなインペライザーが、しかも二体が! 彼女らを挟み込むように召喚されてきたのだ!

 

「い、一機だけじゃなかったのか!」

 

 全員の力を合わせてやっと一体倒せたのに。一同は流石に戦慄を覚えた。

 

 

 

 メフィラス星人は戦場のビジョンを見下ろしてほくそ笑む。

 

『愚か者どもめ。どんなに抗戦したところで、インペライザーはいくらでもいる! 奪い合いに勝ち、暗黒大皇帝の遺産を相続した私に勝てるはずがない!』

 

 独白すると、無重力部屋に閉じ込めたヴィヴィオとアインハルトに向けて告げた。

 

『どうだね。あの人間たちの命運も、君たちの返事に掛かっているのだぞ。それでもまだ私の誘いを拒むと言うのかね。彼らを見捨ててもいいと言うのか?』

 

 なのはたちの命を盾にした脅迫をするメフィラス星人。

 それでも、ヴィヴィオとアインハルトは屈しなかった。

 

「ママたちはいつも、どんな状況でもあきらめない! だからわたしたちも、最後まであきらめることはしません!」

『……何と強情な……! 私は他ならぬ君たちの命も握っている! その気になれば今すぐにでも窒息死させることだって出来るのだ! 死んでもいいのか!? 何がそこまでさせるというのだッ!』

 

 しつこく揺さぶりを掛けてくるメフィラス星人に、アインハルトは静かに告げ返した。

 

「……あなたは寂しい人ですね」

『なッ……何だと!?』

 

 予想外の言葉に、メフィラス星人に一瞬動揺が見られた。

 

「人の心とは自分のものに出来るようなものではないのに、力を見せつけて、脅迫をして無理矢理手に入れようとするなんて……。一度でも誰かのことを考えたことがあるのなら、そんなことはしないはずです。――本当に大事なことを、何も分かってない……!」

 

 アインハルトは、生死を握られている状況にも関わらず、全く物怖じせずにはっきりと言った。

 

「あなたにどんな力があろうとも、どんなことが出来ようとも……あなたはひとりぼっちです! 心が、誰ともつながってないっ!」

『――黙れぇぇッ!』

 

 メフィラス星人は逆上し、二人を本当に殺してしまおうと円盤のコントロール装置のボタンに指を伸ばす――。

 その寸前に円盤のどこかで轟音が鳴り響き、部屋全体が揺れる。

 

『何ッ!?』

 

 モニターで船内を確認すると、マスケッティで駆けつけたダイチたち五人が円盤の内部に侵入してきているのを発見した。ヴィヴィオたちに構いすぎて、注意が疎かになって気がつかなかったのだ。

 

『ぐッ、おのれぇ……!』

 

 メフィラス星人は何をしようというのか、別の部屋へと逃げていく。

 その後に部屋の扉が外から破砕され、スバルを先頭に五人がこの場にたどり着いた。

 

「ヴィヴィオ! アインハルト!」

 

 スバルたちは窓で隔てられた無重力部屋に囚われているヴィヴィオとアインハルトを発見。ダイチがコントロール装置にデバイザーを接続することで、二人をこちらに転送させた。

 

「二人とも無事だった!? よかった……!」

「皆さん、わたしたちを助けに来てくれたんですね……。ありがとうございます……!」

 

 無事を喜んだスバルが、感極まってヴィヴィオたちを抱きしめる。しかし安心してはいられなかった。

 円盤内にいきなりアラートが鳴り始め、激しい揺れとともに崩落が始まったのだ。

 

「宇宙船を自爆させようとしてるみたいだ!」

「大変! 早く脱出しましょう!」

 

 ティアナの呼びかけで脱出を図る一同。スバル、エリオ、キャロでヴィヴィオたち二人を安全に誘導し、最後にダイチが部屋から脱しようとしたが――その瞬間に瓦礫が降ってきて出入り口をふさいでしまった!

 

「うわっ!」

「ダイチ!」

 

 スバルが駆け戻ってダイチを救出しようとするも、ダイチに止められる。

 

「もう時間がない! スバルはヴィヴィオちゃんたちの安全を優先して!」

「で、でも!」

「俺なら大丈夫だ! 信じてくれ!」

 

 ダイチの力のある呼びかけで、スバルは躊躇いながらも己の使命を取って離れていく。

 スバルが去ると、ダイチはエクスデバイザーを構えた――。

 

 

 

 ヴィヴィオとアインハルトを連れて、円盤から脱出したスバルたち。山林の中まで退避すると、メフィラス星人の円盤が自爆して木端微塵になる。

 

「ダイくぅぅぅぅぅんっ!!」

 

 思わず絶叫するスバル。だがそれとは裏腹に、彼女らが望んでいない者が爆散した円盤の跡に現れた。

 巨大化したメフィラス星人! しかも青白い鎧で武装している。アーマードメフィラスだ!

 

「っ!!」

 

 こちらに接近してくるアーマードメフィラスにスバルたちは息を呑み、四人がヴィヴィオたちをかばいながら身構える。

 だがその時に、キャロが空を指して叫んだ。

 

「あっ! ウルトラマンエックスです!」

 

 エックスが高空から降下してきていた。ダイチはユナイトして円盤から脱出に成功していたのだ。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 エックスは空中でエクシードXに変身。メフィラス星人の正面に着地して、ヴィヴィオたちを背にかばった。

 

『メフィラス星人! さっさと自分の星へ帰れ!』

『偽善者がッ!』

 

 エックスが忠告したが、メフィラス星人は聞く耳を持たずに吐き捨てて右腕のアームから直接伸びた剣を構えた。エックスもエクスディッシュ・アサルトを手に構える。

 

「ムゥンッ!」

「ジュワッ!」

 

 互いに一瞬で距離を詰め、エクスディッシュと剣が火花を散らしながら鍔迫り合いする。

 

「セアァッ!」

 

 エックスはメフィラス星人の剣を弾いて一回転し、遠心力を乗せた一打を叩き込もうとする。が、メフィラス星人は即座に剣を差し込んで防御。

 

「フゥゥーンッ!」

 

 間髪入れずにエックスの腹部に膝蹴りを入れた。

 

「グアッ!」

 

 一瞬よろめいたエックスだがこらえて踏みとどまり、ダイチがタッチパネルを二回スライド。

 

「『エクシードスラッシュ!!」』

 

 エクスディッシュの乱撃が叩き込まれる。メフィラス星人は剣で防ぎ切れないが、代わりに鎧で持ちこたえる。

 

「シェアッ!」

 

 最後の切り上げがメフィラス星人を宙に弾き飛ばした。ダイチはすかさずパネルを三回スライド。

 

「『エクシードセイバー!!」』

 

 複数の光刃がメフィラス星人に飛んでいくが、メフィラス星人も剣の切っ先から光線を発射した。

 

「ムアァッ!」

 

 光線がエクシードセイバーを破砕。残った分は剣で切り払われる。

 

「デェェェーイッ!」

 

 メフィラス星人は剣をエックスへ突き立てると、弾丸のようにまっすぐ突撃していく。

 エックスはエクスディッシュを振るい、メフィラス星人の突進を刃で受け止めた。

 

「デッ! グゥッ……! トアァァァッ!」

 

 一瞬押されたエックスだが、渾身の力を振り絞って弾き返した。

 着地したメフィラス星人は再度剣をエックスに向け、今度は刀身にほとばしるエネルギーを纏わせた。光線発射の構えだ。

 ダイチもまたパネルを逆向きにスライドして、エクスディッシュの穂先をメフィラス星人へ合わせる。エクシードスマッシャー発射の用意が整った。

 エックスとメフィラス星人はにらみ合い、互いに隙を窺う。どちらが先に発射するか……。

 ――そう思われたが、メフィラス星人が不意に剣を下ろした。

 

『よそう……。この戦いは無意味です』

 

 メフィラス星人が武器を下げたので、エックスもエクスディッシュを下ろした。

 メフィラス星人はエックスに告げる。

 

『私は既に、あの少女たちに負けました。星を滅ぼすほどの力があっても、小さな子供の折れない心、たったそれだけのものに完敗を喫しました……。こうなった以上は、一からやり直すことにします。暗黒星団は、今日限りで解散です』

 

 訥々と宣言したメフィラス星人は、これ以上の悪行は働かずに退散しようとする。エックスも、戦意をなくした者とこれ以上事を構えようとはしなかった。

 しかし消える寸前にメフィラス星人は、次のことを告げたのだった。

 

『最後に教えておきましょう。私は宇宙で、この星に“滅び”がやってくるのを発見しました。『アレ』がこの地に到達するのも、もう間もなく。だから行動に出たのです』

『滅びだと!?』

 

 一瞬動揺を見せるエックス。

 

『私の目からすれば、滅亡は絶対に避けられぬ運命。ですがあなたたちのあきらめない精神が運命を覆すことが出来るかどうか……宇宙の果てから見させてもらいますよ』

 

 それだけ言い残して、メフィラス星人は足の先から頭頂部へ上っていくようにスゥッと消えていった。

 

「……ジュワッ!」

 

 エックスはしばらく唖然と立ち尽くしていたが……やがて空を見上げてこの場より飛び去っていった。

 

 

 

 メフィラス星人のミッドチルダからの退散とともに、インペライザーもまた地上から消え失せた。ヴィヴィオとアインハルトの精神が、メフィラス星人の侵略を打ち破ったのである。

 救出された二人に、ダイチが呼びかける。

 

「よかった、二人が無事に助かって」

「ダイチさんこそ、ご無事で何よりです」

 

 と返したヴィヴィオは、彼に対して語った。

 

「ほんとはとても怖かったです……。相手の気分次第でいつ殺されてもおかしくない状況で、心の底では震えが止まりませんでした。――でも、これまで築き上げてきたものを、なかったことには絶対に出来ない。その思いで耐えることが出来ました」

「私も、少し前までの自分だったらきっと恐怖に屈してたと思います。けど、たくさんの人からもらったものが、私を最後まで支えてくれました」

「そうか……。二人とも、強くなったんだね」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの言葉に、安堵の微笑を見せるダイチ。そして二人と分かれた後に、エックスに呼びかけた。

 

「ところで、メフィラス星人が最後に話してた“滅び”って何だろうね。やっぱり、ダークサンダーエナジーのことかな。彼はその発生源の正体を確かめたのだろうか……」

『……』

 

 だが、エックスは黙したまま返事をしなかった。

 

「エックス?」

『あ、あぁ、すまない。少し考え事をしてたんだ』

 

 ダイチがもう一度呼びかけたことで、エックスは我に返った。それから小さな声で、ポツリとつぶやく。

 

『……まさか……』

 

 

 

 Xioベースラボのダイチのデスク。ダイチが緊急出動する直前に行っていた、宇宙電波のノイズの解析は、そのまま自動で続行されていた。

 やがてその作業が完了する時がやってきた。

 

[ノイズの解析を終了しました。再生します]

 

 解析結果が、無人のラボの中に流れる。

 

『ダイチ……お母さんの声が聞こえますか……? ダイチ……ダイチ……お母さんの声が聞こえますか……』

 

 ダイチがラボに帰ってきた――。

 

 

 

『ダイチの怪獣ラボ!』

 

ダイチ「このコーナーは今回で最終回! 最後の紹介はエクシードXだ!」

エックス『とうとう終わりが来たのか。少し寂しいな』

ダイチ「エクシードXはウルトラマンエックスのパワーアップ形態! 電脳空間で発見されたエクスラッガーの力で変身するんだ!」

エックス『能力が底上げされただけじゃなく、怪獣からダークサンダーエナジーを取り除く能力を持っているぞ!』

ダイチ「けれど通常時の光線技は引き継がれないから、ザナディウム光線を使用するには元のエックスに戻る必要があるんだ」

エックス『これは形態を使い分けさせるために、あえてそうしたとのことだ』

ダイチ「エックスをパワーアップさせるエクスラッガーがどうして電脳空間にあったのか、その答えは最終回で明かされたぞ!」

エックス『その経緯は必見だ!』

ダイチ&エックス「『次回も見てくれよな!」』

 




 十五年前、エックスが太陽に突き落とした宇宙の脅威。その悪夢の存在が復活、ミッドに襲来した! 生命を無に帰す強敵を前にXio、そして世界が、最大の危機に直面する! 次回、『美しき終焉』。


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美しき終焉(A)

 

『ある日突然、地上に暗黒の稲妻が落ちてくる』

『稲妻に打たれた怪獣たちは凶暴化し、すべてを破壊するようになる』

「ダークサンダーエナジーとでも呼ぶべきか」

『このままでは確実に世界は滅ぶ』

「お父さーん!」

(あの虹色の光は一体何だったのか?)

「お母さーん!」

「虹色の光が俺たちを守ってくれた……!」

「父さんと母さんとのつながりも、消えていないと……」

「どこかであの光に守られて生きているかも!」

『ダイチ……お母さんの声が聞こえますか……? ダイチ……』

 

 

 

『美しき終焉』

 

 

 

 エリアT-9Cにポルトスでやってきたスバルの目が、宇宙電波研究所跡の真ん中で宇宙電波受信機を設置しているダイチの姿を捉えた。

 スバルはやや難しい顔をしながら、差し入れの紙袋を手に提げてダイチの元まで歩み寄っていく。

 

「……ひと息入れない? もう三日も、ろくに寝てないんでしょ?」

「……ありがとう、スゥちゃん」

 

 差し入れのコーヒーを受け取りながらも、ダイチは作業を続行する。

 スバルは短く息を吐きながら、ダイチに尋ねかけた。

 

「お母さんの声……ほんとにここから発信されたの?」

 

 ダイチはうなずいて語り出した。

 

「ここは、次元の特異点なんだと思う。だからウルトラ・フレアの時も、ここだけ別の次元に飛ばされた……」

「特異点……」

「母さんはずっと、宇宙の電波の中には、未来から飛んできたものがあるって研究をしてたんだ」

「それって未来が分かるってこと?」

「化石の発掘みたいに、断面を見つけてはそれを解析してたみたいだけど……。それに、父さんはこの場所で何か大昔の遺物を発見した。その場所に宇宙電波の研究所を建てたんだ。……変だと思わない?」

「確かに……」

 

 同意するスバル。地中から掘り返された物品と、空の向こうから降り注ぐ電波。一見すると全くの無関係だ。

 

「その二つには、何か関係があったってこと?」

「多分。それが何なのかまでは、まだ分からないけど……」

 

 受信機とデバイザーを接続したダイチは、居場所も分からない母に向けて呼びかけ始めた。

 

「母さん、聞こえる? 俺だよ、ダイチだよ!」

 

 懸命なダイチだが、スバルは止めようとする。

 

「ダイくん……少し休もう? お父さんもギン姉も、心配してるんだよ」

 

 しかしダイチに聞き入れる様子はなかった。

 

「ここには絶対何かあるんだ……! 母さんと父さんが、一緒にここで未来に関わる研究をしていた! その母さんが、今俺に何か伝えようとしてる。……母さん、聞こえますか!? 父さん、俺の声聞こえる!?」

 

 ダイチは何度も呼ぶが、両親からの応答がある気配はなかった。

 

 

 

 その頃の、ミッドチルダ惑星の片方の衛星の200km上空を、スペースマスケッティが飛行していた。搭乗しているのはチンクとマリエル。

 チンクがマリエルに尋ねる。

 

「このマスケッティは新型ということですが、一号機と比べてどこが変わったのですか?」

 

 現在二人が駆るマスケッティは今までのものとは異なる。念願の二号機なのであった。

 マリエルは自信満々に答える。

 

「この二号機には空間エネルギー測定機が標準装備されてるの。空間エネルギー量の変化を測定することで、今までどうしても観測できなかったダークサンダーエナジーの発生源の正確な位置が突き止められるって訳! すごいでしょ?」

「それはすごいですが、それ以外のスペックに変化はないのですか? 強力な新兵器が搭載されているとか」

「特に変わりないけど」

 

 チンクが若干白けた様子を見せたので、マリエルはジトッと横目を向けた。

 

「あっ、今ガッカリしたでしょ! すぐ強い武器を欲しがろうとするのは、私嫌いよ。どんなに力が強くとも、それだけじゃ平和を守ることは出来ないんだから」

「それでは、マリエル技官は防衛には何が必要だとお考えなんですか?」

「そうねぇ……」

 

 ミッドチルダ星系の惑星の陰から太陽が見えた。そのまばゆい光を浴びながら、マリエルは答える。

 

「みんなの活躍を見てきた私の経験上から言わせてもらえば……やっぱり、愛じゃないかしら」

 

 

 

 チンクとマリエルのやり取りを通信機越しに聞いたルキノが苦笑すると、ワタルとハヤトが寄ってきた。

 

「チンクたちから何か報告が?」

「そうじゃないんだけど、マリーさんが平和を守るためには愛が必要だって」

「ははっ、何だそれ」

 

 ワタルの背後からウェンディが飛びつき、彼の首に腕を回した。

 

「愛といえばワタルっスよね~! こないだ一緒に観た恋愛映画、何てタイトルだったっけ」

「おい!? そのことは話すなって……!」

「えっ、いつの間にそんな関係になってたの」

 

 ディエチが目を見開いて振り返った。

 

「い、いや、そんなんじゃねぇからな!? ただこいつが、何かお勧めの映画見せろってしつこいから……!」

「何だ、水臭いな。変にごまかしたりしないで、つき合ってるならそう言えばいいじゃないか」

「このことお父さんに報告しないと」

「ご挨拶の言葉、今の内に考えておいた方がいいわよ」

「いつ結婚するとかは考えてる?」

 

 ハヤト、ディエチ、ルキノ、アルトまで混ざってニヤニヤしながらワタルをからかう。

 

「あーもうっ! だから言うの嫌だったんだ!」

 

 ワタルが声を荒げる他方では、ノーヴェがカミキとクロノにある相談をしていた。

 

「はい……。ヴィヴィオたちはもう大分実力を上げてきたから、あいつらの指導するのにXioとの二足のわらじじゃ厳しくなってきたんです」

「それで、彼女たちのコーチの方に専念したいということか」

「もちろん、現在の状況で辞められる訳ないってのは分かってますが……」

「何、若い才能を伸ばすのも立派なことだ。ダークサンダーエナジー対策にある程度目途がついたら、君のことを検討しよう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ノーヴェはバッとカミキに頭を下げて感謝の意を示した。

 

 

 

 ミッドチルダ南部の、ミウラがいつもトレーニングをしている砂浜。ここでミウラは今、tE-rUからもらったペンダントをギュッと握り締めて空を見上げていた。

 

「テルのこと考えてんのか、ミウラ」

 

 そこにヴィータとザフィーラがやってきて尋ねかけた。ミウラは二人にうなずき返す。

 

「はい。あれからもう大分経つんだなぁって思って……。テルさん、今頃故郷の星でどうしてるでしょうか」

「あいつのことだ、一日でも早く復興するよう毎日努力していることだろう。ミウラ、お前も負けないように頑張らないといけないな」

「まずはヴィヴィオとの勝負だな。同門になる前の最後の勝負、悔いが残らないように力いっぱい挑むんだぜ」

「はい! 勝つにしろ負けるにしろ、遠くで頑張ってるテルさんにも恥ずかしくないようにいい勝負にしますっ!」

 

 ペンダントを片手に、ミウラはそう約束したのであった。

 

 

 

 時空管理局本局で、休憩中のティアナとフェイトが会話をしていた。

 

「フェイトさん、昨晩もなのはさんの自主トレにつき合ってたんですか?」

「うん、そうだけど」

「なのはさんも、よくやりますねぇ……。戦技披露会ってまだ二か月くらい先の話じゃないですか。それに今から準備してるなんて……」

「まぁ、今年はヴィヴィオとの勝負があるからね。それで張り切ってるんだよ」

 

 苦笑するフェイト。自主トレ、と言えばかわいく聞こえるかもしれないが、実態はレイヤー建造物の模擬都市を一個丸ごと、まるで怪獣が暴れ回ったかのようにボロボロにするほどの超ハードなもの。単なる自主トレーニングでここまでやる人間は、次元世界中のエリートが集まる管理局においてもなのはくらいのものだろう。

 

「……何事にも全力なのがなのはさんのいいところですが、愛娘相手でも容赦なしなんですね……」

「愛娘だからこそ、だろうね。念願の一戦、最高の勝負にしたいんだよ。ヴィヴィオの方も毎日頑張ってるんだよ」

「似たもの母娘ですねぇ」

 

 おかしそうに笑ったティアナが、しみじみとつぶやく。

 

「なのはさんとヴィヴィオの対決、いい試合になるといいですね」

「なるよ、絶対。あの二人の勝負なんだもの」

 

 フェイトはそんな確信を抱いて、二か月後の披露会に思いを馳せた。

 

 

 

 その頃ヴィヴィオは、アインハルト、コロナ、リオ、ユミナとともにXioベースのラボで、シャーリーとグルマンと話をしていた。

 

「ダイチさん、今日も出かけてるんですね。あの、ご両親が消えたという研究所の跡に」

「確か、お母さんからのメッセージを受信したと聞きましたが……」

 

 アインハルトのひと言に肯定するシャーリー。

 

「うん、三日前にね。それから時間を作っては、研究所跡で交信を試みてるの」

「お母さんからのメッセージが届いたって……それまで、ダイチさんのご両親の行方の手掛かりって全然なかったんだよね」

 

 リオの問いにコロナがうなずいた。

 

「そう聞いてる。それが遂に見つかったってことになるね」

「ってことは、ご両親がどこに行ったのかが分かる日も近づいてるってことなのかな?」

「そうかもしれんな」

 

 グルマンが口を開いて語る。

 

「ダイチの親からの電波が今頃になって発信されてきたのには、それなりの理由があるのは確かだろう。ダイチもそう考えてるはずだ。それまでずっと捜してたのだから、初めて手掛かりを得て熱心になる気持ちも当然のものだろう」

「けれど、私は少し心配です……」

 

 アインハルトが小さくつぶやく。

 

「ダイチさん、根を詰める性質じゃないですか。それでまた無理してるんじゃないかって」

「うーん、実際そうなんだけどね。あたしやマリーさんも、再三気を張り詰め過ぎないように言ってるんだけど」

 

 シャーリーが認めたので、アインハルトはますます気を揉んだ。それを見て、ユミナが告げる。

 

「大丈夫だよ、アインハルトさん。ダイチさんが戻ってきたら、わたしが特別に効くマッサージをしてあげるから! ダイチさんの疲れを一辺に取り除いてあげちゃう!」

「おおっ、それはいいですねー! ユミナさんのマッサージはすごい効きますからね! ダイチさんもリフレッシュすること間違いなしですよ!」

 

 ユミナの提案にリオがはしゃいだ声を上げた。

 

「ダイチさん、早くご両親のことが分かって、肩の荷が下りるといいですね」

「はい……」

 

 ヴィヴィオ、アインハルトたちのダイチを慮る様子をながめ、グルマンが苦笑した。

 

「こんな多くの子たちから慕われているとは、全くダイチは幸せな奴だな」

 

 一同がそんな話をしていたら、突然ルーテシアの声がラボに響いた。

 

「あれ、ヴィヴィオたちもいたんだ」

「ルールー! それに……」

 

 振り返ると、ルーテシアがエリオ、キャロとともにラボに入ってくるところだった。更にもう一人……。

 

「うっ……どうしてあなたたちが、ここに……」

「クロ?」

 

 ファビアがヴィヴィオたちの顔を確認して、少し顔を引きつらせた。

 

「わたしたちはコーチがXioの隊員をやってる関係で、よくここに来るんですよ。クロこそどうしてXioに?」

 

 ヴィヴィオが尋ねると、ファビアの代わりにルーテシアとエリオが答えた。

 

「それがクロったら、ピグモンのことを調べてる内にXioの活動に興味を持ったみたいでね。それで一度見学させてもらおうってことになって」

「スパークドールズのことで話があった僕たちのついでに、一緒に連れてきたんだ」

 

 ファビアは恥ずかしいのか、頬を赤らめてそっぽを向いていた。が、ヴィヴィオたちは興味津々になってファビアを取り囲む。

 

「そうだったんですかー! じゃあ、わたしたちとも色々とお話ししましょうよ!」

「私たち、ここのことはちょっと詳しいんですよ。きっと有意義な話が出来ると思います」

「あ、あなたたちには関係ないことだから」

「えー? そんなツレないこと言わないで下さいよー」

「わたしたち、きっと仲良くできると思うんです」

 

 リオ、コロナらにも囲まれて、ファビアはかなり気恥ずかしそうであるが、満更でもなさそうだった。それにルーテシアがにっこり微笑む。

 

「いやー、クロにもいっぱいお友達が出来てよかった」

「シャーリーさん、グルマン博士。僕たちはスパークドールズの話を」

「ミッド東部の保管施設のスパークドールズの一部をこっちに搬送する計画のことで、少し打ち合わせをしたいと思いまして……」

 

 ファビアを中心に盛り上がっている少女たちの一方で、エリオとキャロは仕事の話を進める。

 

 

 

 しばし仕事を忘れて談笑をしていた特捜班だが、オペレーション本部に通信の報せが入ると、皆表情が一変して緊張が顔に表れた。

 アルトとルキノがオペレーター席に着いて、カミキたちに報告する。

 

「管理局本局からです。ダークサンダーエナジーの最新データが来ました」

 

 メインモニターに、ミッドチルダ星系の星図が表示される。その上に、大雑把な軌道が描かれる。本局が可能な限り調査した、ダークサンダーエナジーの発生源の進路だ。

 

「未だ発生源は特定できていないようですが、最初にダークサンダーエナジーが発生した際は太陽表面、最新の発生は第二惑星付近からのようです」

「……ミッドに近づいてきている……?」

 

 つぶやくカミキ。星図上の発生源の進路は、太陽から惑星をたどるように続いているのだ。

 クロノがアルトたちに指示する。

 

「チンクたちに報せろ。二人の現在位置からなら、もっと厳密な座標が特定できるはずだ」

 

 その言葉を耳にして、ウェンディがワタルに囁きかけた。

 

「いよいよ、ダークサンダーエナジーの発生源の正体が分かるっスかね……」

「みたいだな。さぁて、一体どんな奴なのか……」

 

 

 

 指令を受けたマリエルが、本部に応答した。

 

「了解。では、数値のチェックを開始します」

 

 チンクへ顔を向けたマリエルが指示を出す。

 

「そこのメーターで、空間エネルギー量を確かめて」

「了解。……現在の空間エネルギー量は、3になっています」

 

 メーターの表示に目をやったチンクのひと言に、マリエルは失笑した。

 

「珍しく変な冗談言うのね」

「変な冗談?」

「空間エネルギー量は、理論的に絶対レベル5以下にはならないのよ。どんな空間にも、必要最低限のエネルギーは存在してるんだから」

 

 マリエルのその言葉に、チンクは目をパチクリさせた。

 

「え? しかし、たった今2になりましたが……」

「もう、冗談も繰り返すと面白くなくなるわよ……」

 

 肩をすくめるマリエルだったが……自分の目で、チンクの言うことが冗談でも何かの間違いでもないことを知って絶句した。

 メーターの数値は、2からコンマ以下の数字がどんどんと減少していっている。

 

「え……? う、嘘……!? 作ったばかりなのに故障かしら……!?」

 

 マリエルは信じられずに機器の動作をつぶさに確認したが、どこにも異常は見られなかった。そうしている間にも数値は減り続け……1を下回り、遂には完全な0になった。

 

「……な、何か大変なことが起きてる……! 常識では考えられないような、何かが……!」

 

 マリエルはそう唱えるだけで精一杯であった。

 そしてチンクとともにフロントガラスから前方を見やると――マスケッティの進路上に、いつの間にか『光り輝く何か』が現れていることに気がついた。

 

「……何だ、あれは……!?」

 

 チンクは動物的本能で――『それ』が限りなく危険なものだと感じ取った。

 

 

 

 光り輝く『もの』は、本部にいる者たちもモニター越しに視認した。

 

「……綺麗……」

 

 アルトが思わずつぶやいたが、通信からはマリエルの焦燥した声が届けられた。

 

『スペースマスケッティより本部! 正体不明の発光体が出現! こ、こっちに近づいてく――!!』

 

 その通信がいきなり途切れた。カミキたちは色めき立つ。

 

「通信途絶! スペースマスケッティ、レーダーから消えましたっ!」

 

 

 

 マスケッティからの通信が途絶したのは、ダイチが宇宙電波に乗せられた母からのメッセージを再度キャッチし、それがいきなり消えたのと同時であった。

 

「母さん!? 一体どうしたの!? 母さんっ!」

「ど、どうしたのダイくん――」

 

 ダイチを案ずるスバルだったが、そこに本部からの連絡が入ってくる。内容はもちろんマスケッティの――マリエルとチンクの反応の消滅だ。

 

「えぇっ!? ……り、了解! すぐに戻りますっ!」

 

 目を見張って応答したスバルが、ダイチへ振り返る。

 

「ダイチ、すぐに帰投するよ! 何か異常なことが起きてるっ!」

「う、うん!」

 

 二人は急いでポルトスまで走っていった。

 

 

 

「マリーさん! チンク姉! チンク姉返事してくれっ!! な……何が起きたんだよ、おい……!?」

「チンク……! くそぉっ! こんなことになるんだったら、やっぱり俺が行っとくべきだった……!」

 

 突然の事態にノーヴェやワタルが青ざめているオペレーション本部に、緊急連絡を受けたシャーリーとグルマンが駆け込んできた。

 

「マリーさんたちの反応が消えたって!?」

「通信映像を再生してくれ!」

「了解!」

 

 モニターに、反応の消えたマスケッティから最後に送られてきた、発光体の映像が表示される。それを見て何かに勘づくシャーリー。

 

「探してたダークサンダーエナジーの発生源、これに違いないよ! 博士っ!」

「なるほど……! どんなに手を尽くしても、正確な座標を特定できない訳だ!」

 

 グルマンの言葉に皆の注目が集まり、そしてグルマンは言い放った。

 

「ダークサンダーエナジーの発生源は、存在しないのだ!」

「存在しない……!?」

 

 カミキたちは驚愕で言葉をなくした。

 

「な、何言ってるっスか博士。あれがそうなんじゃないんスか!?」

「いや。空間エネルギー量が0ってことは、スペースマスケッティの前には文字通り、何もなかったということだ。こいつは全くの無なんだ! 情報のないものを脳は処理できない。その穴を埋めるために脳内で無理に視覚化されたのが、あのキラキラの正体だっ!」

 

 グルマンの説明の直後に、クロノがルキノに指示を下した。

 

「あの発光体がダークサンダーエナジーの発生源だと、本局に伝達を!」

「了解!」

 

 カミキは部下たちに命令する。

 

「月面基地、全監視衛星を駆使して、スペースマスケッティと発光体の行方を追えっ!」

「了解!!」

 

 特捜班は即座に追跡作業に取り掛かった。

 

 

 

 月面基地と衛星が監視する中、発光体はミッドチルダ東部の砂漠地帯に落下していく。その砂漠の中央には、スパークドールズの大保管施設が建造されている。

 発光体はその上に落下。すると――周囲のもの全てが、ぽっかりと開いた穴に水が流れ込んでいくかのように、発光体へと吸引されて『消えて』いった。

 

 

 

「発光体、東部スパークドールズ保管施設を直撃! 半径一キロが消滅!!」

「監視衛星の映像来ましたっ!」

 

 モニターに表示される、監視衛星の捉えた映像。

 更地になった保管施設跡の真ん中で、発光体から変じた怪しい人型の『それ』が、ゆらゆらと蠢いていた。

 

『フェッフェッフェッフェッフェッ……』

 

 

 

 監視衛星の映像は、スバルたちの元にも届けられていた。

 

「な、何なの、これ……!?」

 

 怪獣とも異星人ともつかない異様な姿と動きに、スバルも息を呑んでいる。すると……。

 

『グリーザだ……!』

 

 エックスが唐突にそう発した。

 

「え!?」

『ダイチ、緊急事態だ! 私から直接、Xioのみんなに話すっ!』

 

 エックスのいきなりの発言に、ダイチは面食らう。

 

「ち、直接!?」

「ダイチ、どうしたの!? エクスデバイザーがどうかした?」

 

 ダイチの様子にスバルが尋ねたが、その時に、ポルトスにコネクトしているスバルのジオデバイザーが着信を知らせた。

 通信の主は――エックスだ。

 

 

 

 スバルだけでなく、Xioの全員分のデバイザーにエックスは通信を掛けていた。

 

『Xioの皆さん、聞こえてますか。あなたたちに今すぐに伝えなければならないことがあります』

 

 エックスの発した声に、ウェンディがディエチと顔を見合わせる。

 

「これって、ダイチのインテリジェントの声じゃ……」

『私はデバイスではありません』

 

 エックスは否定し、ここで己の正体を明かした。

 

『私がウルトラマンエックスです! 今日までずっと、デバイザーの中からあなたたちの活動を見ていました』

「えぇっ!? エクスデバイザーは……エックスそのものだったっスか!?」

「……それが本当なら、じゃあダイチは……!」

 

 特捜班に動揺が走るが、カミキがそれを制するようにエックスに聞き返した。

 

「それを今明かしたということは、よほどの非常事態ということですか?」

 

 エックスは言外に肯定する。

 

『保管施設を襲ったのはグリーザです! グリーザはあらゆる生命体のエネルギーを狙い、全てを無へと変換します』

「……生き物を、消し去るということですか……?」

 

 クロノが、三つの生命が存在しない世界のことを思い出しながら、声を絞り出した。

 

『ええ。三つもの生命豊かな世界を滅ぼしたグリーザを追って、私はミッド星系までやってきたんです。――ミッドを狙うグリーザを、私は太陽に突き落として倒しました。十五年前のことです……!』

「それがウルトラ・フレアの原因か!」

 

 グルマンが指摘した。

 エックスは声が震える。

 

『しかし……倒したはずのグリーザが復活してきた! 私が十五年かけてミッドにたどり着いたように……奴も十五年かけて太陽から這い出てきたんだ!!』

 

 

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……―

 

 保管施設跡地から、グリーザがふらふらと定まらない挙動で飛び上がり、西へ向けて移動を始めた。

 ――オペレーションベースXのある方角へと。

 



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美しき終焉(B)

 

 エックスの説明の途中で、アルトが報告する。

 

「グリーザ、西に向けて飛行を開始!」

 

 モニターに監視衛星が捉えた、東部から海洋の上空を猛スピードで横断してくるグリーザの姿が映し出される。

 

『奴は生体エネルギーの強いものから消していきます。ミッドの場合は……怪獣! つまりスパークドールズです!』

「だから真っ先に保管施設を消した……!」

 

 クロノの後に、シャーリーが青ざめた顔でつぶやく。

 

「なら、次に襲われるのは……」

 

 オペレーションベースX以外にあり得ない。

 

『そう。次に狙われるのは、Xioミッド本部です』

「そして奴は最終的に、次元世界全ての生命を消滅させようとしている訳か」

 

 グルマンのひと言に、各隊員は急に突きつけられた最悪の未来に戦慄を覚えた。

 

『グリーザは……今までの怪獣たちとは格が違う。十五年前もあらゆる攻撃が効かず、太陽に沈めることでようやく倒せた相手です。私だけでは、もう倒せないかもしれない。だから私とあなた方と管理局と、皆の力を合わせて基地を守り抜き、奴を倒しましょう!』

 

 エックスの申し出に、カミキは固くうなずく。

 

「分かりました……! 副隊長!」

 

 クロノへ向くと、彼に告げた。

 

「非常事態宣言だ! 管理局にフェイズ5発令要請! 同時にこの基地を中心とする半径20キロの住民に、緊急避難指示発令! 基地内の非戦闘員も総員退避!」

「了解!」

 

 指令を受けたクロノが、迅速に行動していく。カミキはグルマンの方に向き直る。

 

「博士、シールド最大出力で基地全体を覆ってくれ」

「最大出力でも足りん! シャーリー、パワーアップだ! よぉし、行くぞっ!」

 

 シャーリーは、マリエルたちが消息不明になったことに対する動揺が収まり切っていなかったが、それでも自分のすべきことは見失わなかった。

 

「……了解ですっ!」

 

 勢いよく応答すると、グルマンの後に続いてラボに急いでいった。

 

「ワタルとハヤトはスカイマスケッティで迎撃!」

「了解!」

「チンクたちの仇討ちだ……!」

「ノーヴェ、ウェンディ、ディエチは基地最終防衛システムの準備だ!」

「了解!!」

 

 迫り来る史上最大の脅威に対して、全隊員が全力で対抗するために動き始めた。

 

 

 

 エックスが通信を終えると、スバルがダイチに言葉を詰まらせながらも尋ねかける。

 

「ダイチ……そ、その……エクスデバイザーが、エックス本人ってことは……」

「……今は、時間がない。とにかく急いで基地まで」

「――う、うん……」

 

 スバルはそれ以上追及せず、ポルトスを基地へ急行させていった。

 

 

 

 Xioベース全体に、非戦闘員の緊急退避を宣告する警報が鳴り渡る。

 

『総員退避命令! 総員退避命令!』

「退避命令だ! 総員退避っ! 早く! 早くっ!」

 

 二千人を超える数の人間が駆け足で基地を脱出していく中、ヴィヴィオたち五人はエリオとキャロの制止を振り切ってオペレーション本部のカミキのところに駆け込んできた。

 

「君たち、まだいたのか……」

「隊長さん! わたしたちにも何かお手伝いさせて下さいっ! 邪魔はしませんから!」

「世界が滅ぶかどうかの瀬戸際なんですよね!? そんな時にただ逃げるだけなんて、出来ませんっ!」

 

 必死に訴えるヴィヴィオたち。その瞳は鬼気迫りながらもまっすぐで、真剣に世界を守ろうという強い意志が見て取れた。

 だがカミキは訴えを却下する。

 

「今まで君たちの色んな要望に応えてきた。だが今度ばかりは駄目だ! 皆と一緒に、早く避難しなさい」

「今度ばかりは危険すぎるんだ! 後のことはあたしたちに任せて、お前たちはあたしらの勝利を祈っててくれ。それで十分だ」

 

 ノーヴェも説得に加わるが、ヴィヴィオたちは納得できなかった。

 

「でもっ!」

「――ヴィヴィオ、隊長さんたちをあまり困らさないであげて」

 

 そこに凛とした声が響く。ヴィヴィオが振り向くと、なのはがフェイト、ティアナ、はやてらとともにオペレーション本部に入室してきた。

 

「なのはママ……!」

「カミキ隊長。わたし、高町なのは一尉とフェイト・ハラオウン、ティアナ・ランスター両執務官、八神はやて二佐、並びにヴォルケンリッター四名、基地防衛に参加します」

 

 カミキに対して敬礼すると、なのはとフェイトでヴィヴィオたちを説得する。

 

「大丈夫。ママたちは三度も世界の危機を防いだんだから。今回はエックスさんって頼もしい味方もいてくれてる。これだけの人、これだけの力がそろって、打ち破れない敵なんかいないから。だから安心して、ママたちを信じて」

「みんなも避難して。もしみんなが危ない目に遭ったら、私たちはみんなのご家族に顔向け出来ない」

 

 なのはの言葉で、ヴィヴィオも遂に受け入れた。

 

「……分かった。でもママ、必ず勝って、みんな無事に帰ってきてね。約束だよ」

「うん。約束」

 

 なのははヴィヴィオと指切りをして、約束を交わした。

 ティアナは駆けつけた整備班長にヴィヴィオたちを託す。

 

「子供たちをお願いします」

「分かりました。さぁみんな、こっちだ」

 

 ルーテシア、エリオ、キャロはヴィヴィオたちと一緒に、ファビアも避難させようとする。

 

「クロ、あなたもみんなと一緒に行って」

「君もここにいさせる訳にはいかない」

「わたしたちは、絶対に負けないから!」

「うん……」

 

 ファビアは不安が拭い切れない様子だったが、それでもルーテシアたちの言葉に従い、ヴィヴィオたちの後について避難していった。

 その後にアルトが報告する。

 

「次元航行艦隊、洋上のグリーザにアルカンシェルを発射! 交戦を開始しました!」

 

 

 

 ミッドチルダ大洋の高空に並んだ幾隻もの次元艦から一斉にアルカンシェルが放たれ、猛然と迫るグリーザに叩き込まれていく。

 だが、グリーザに効いている様子は全くなかった。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザはアルカンシェルの雨を物ともせずに、ダークサンダーエナジーによる破壊光線を前方一面に掃射。

 次元艦は光線の攻撃によって、片っ端から撃墜されていった。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザは艦隊の防衛ラインを突破し、Xioベース目掛け一直線に飛び去っていった。

 

 

 

 クロノとフェイトは一時、地球のエイミィ、アルフと通信をしていた。

 

「カレルとリエラは今、学校か」

『うん。……クロノくん、そっちはすごく大変なことになってるみたいだね……』

「ああ……。だが心配はいらないよ。僕たちは絶対に勝利する。いつだってそうしてきたんだから。――正月にはそっちに行くから、楽しみに待っててくれ」

『うん、約束だよ……!』

『クロノ、帰ってこなかったら承知しないからね! エイミィたちを悲しませたら、あの世に行ったって追いかけてぶん殴ってやるからね!』

「それは恐ろしいな……。肝に銘じておくよ」

 

 アルフの脅し文句に苦笑するクロノ。

 

『フェイトも、絶対無事に帰ってきてね。フェイトだけじゃなく、誰一人として欠かすことなく……!』

「うん。アルフ、私頑張るからね。応援しててね」

 

 通信を終えてカミキの隣に戻ってきたクロノに対して、カミキは指摘する。

 

「副隊長、顔色が悪いな」

「……はい。カリム・グラシア少将の預言……『黒き稲妻に導かれる滅び』が、そのままの意味だとは流石に思っていませんでしたので」

「やはり、不安は拭い切れないか?」

 

 カミキの言葉を肯定するように、クロノは語った。

 

「……今まで私たちは、様々な大事件を解決してきました。ジュエルシード、闇の書、スカリエッティなど……敵と呼べるものの全てを、最終的に倒して勝利を収めた。だから今こうしています。……ですが……」

 

 カミキに面と向かったクロノの額には、脂汗が滝のように流れていた。

 

「無を倒すことが――いえ……『倒す』という概念が通用するのでしょうか……?」

「……」

 

 流石のカミキも黙ってしまう。だが、

 

「――それでも、わたしたちはやるしかない」

 

 なのはがそう発言したので、周囲の注目が彼女に集まった。

 

「ここでわたしたちが負けたら……世界中の全ての命が消されてしまう。今日まで積み上げてきたものも……管理局も、管理外の世界も、わたしたちの友人も……家族も……!」

 

 声を絞り出すと、前を見つめる視線に力が宿る。

 

「二か月後には、ヴィヴィオがミウラさんと再戦して、わたしにもぶつかってきてくれる。その未来と……ヴィヴィオと出会って、娘に迎えた過去。スバルたちを育てた機動六課時代、はやてちゃんたちとの戦ってばかりだったけど大切な思い出、そしてフェイトちゃんとお友達になったこと……レイジングハートと巡り会った、わたしの全ての始まり……!」

「なのは……」

「なのはちゃん……」

 

 フェイトとはやてがなのはの決心を宿した横顔を見つめた。

 

「その全部を、『無かったこと』になんてさせない……!」

 

 なのはの言葉に、集まった面々はグリーザを打倒する意志を一層強く固めたのだった。

 

 

 

「グリーザか……。ダークサンダーエナジーの発生源が、ここまで常識を超えたものだとは流石に思わなかった」

 

 基地の障壁強化の作業中、グルマンがシャーリーを相手にポツリと漏らした。

 

「我々はこれまで、ダークサンダーエナジーは何者かが怪獣を利用する目的で降らせているものとばかり考えていた。だが……実際はグリーザが生体エネルギーを探すためのもので、怪獣のパワー増強や凶暴化はただの副作用に過ぎなかった! 全く以て不条理の塊……『存在する無』『生きていない生命体』などという矛盾そのものだ!」

「……博士、そんな矛盾が現実になったようなのに、みんなは勝てるのかな……」

 

 シャーリーもまた、内心は不安でいっぱいだった。

 

「あたし、ここまで次元が違う相手は聞いたこともないよ……。存在する次元が違うんじゃ、勝ち目なんてものは……」

「……いやっ! この世に『絶対』なんてもんはないはずだ。どんなに完璧に見えるものでも、どこかに泣きどころがあるもの! ともかく、私たちは私たちの出来ることを精一杯にやるだけだ」

 

 新しい防壁は、グルマンたちの手によって凄まじい速度で構築されていった。

 

 

 

 Xioベースの最終防衛システムが機動していく中、ポルトスは基地の目前までたどり着いた。カミキがスバルに指示を下す。

 

『スバル、基地に戻り次第デバイスゴモラでグリーザを迎え撃て!』

「了解!」

 

 だがちょうどその時に、基地上空に妖しい輝きが発生し、笑い声に聞こえる怪音波が発せられた。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザだ! ダイチはそれを確認して叫ぶ。

 

「もう来てる! 間に合わないっ!」

『行こう、ダイチ!』

 

 エックスの呼びかけにうなずくダイチ。

 

「スバル、止めて!」

「えっ……!?」

「早くっ!」

 

 ダイチの鋭い声に、スバルは思わずブレーキを踏んだ。ポルトスが停車すると、ダイチは即座に降りる。

 

「ダイチ! 待って!」

 

 スバルが追いすがると、ダイチは基地に迫るグリーザを見上げて、スバルに振り返った。

 

「――スゥちゃん、今まで黙っててごめん。俺とエックスで……あいつを止めてみせるっ!」

 

 そう言い残して、ダイチはグリーザに向かって駆け出した。

 

「だ、ダイくんっ!!」

 

 スバルの呼び止めようとする声も振り切り、ダイチはデバイザーを構えた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 デバイザーのスイッチを押し込むダイチ。

 

「エックスーっ!!」

 

 彼の全身が黄金色のX字の輝きに包まれ――ウルトラマンエックスがグリーザ目掛けて一直線に飛んでいく。

 呆然とそれを見上げたスバルに、クロノからの通信が掛かる。

 

『スバル、急げ!』

「――ダイチが……!」

『ダイチがどうした!?』

 

 スバルは本部に報告する。

 

「ダイチは、グリーザ迎撃に向かいました! ――ダイチがエックスだったんです!!」

 

 

 

 スバルから伝えられた真実に、本部の者たちは一様に絶句していた。

 ただ一人だけ、なのはが小さくつぶやく。

 

「ダイチくん……やっぱり、そうだったんだ……!」

 

 それを聞き止めたフェイトが振り向いた。

 

「なのはは知ってたの?」

「確証はなかったんだけど……」

 

 なのはは顔つきを変え、戦士の表情をカミキに向けた。

 

「エックスを――ダイチ隊員を援護しますっ!」

「了解! ……ダイチを、どうか頼む……!」

 

 なのははカミキに固くうなずいて、フェイトたち仲間とともに基地から急いで出動していった。

 

 

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 十五年前に自分を太陽に突き落としたエックスが現れて、グリーザは一瞬だけ退いたが、すぐに基地への進撃を再開する。

 

「デヤァッ!」

 

 エックスもグリーザに向かっていく速度を落とさないまま、エクシードXに変身。グリーザと真正面から衝突した!

 空に電脳の光子と闇の稲妻が弾け、爆炎が生じる。エックスがグリーザの進行を止めた間に、スバルは作戦ポイントに到着した。

 

「――一緒に戦おう、ダイチ!」

[デバイスゴモラ、ロードします]

 

 デバイザーにデバイスゴモラのカードを差し込んで召喚の用意をしていると、爆炎の中からエックスがグリーザと取っ組み合って飛び出してきて、スバルの頭上を越えていった。

 

「デアァッ!」

―フェッフェッフェッ……!―

 

 スバルはスパークドールズをリードしてデバイスゴモラを召喚。

 

[リアライズ!]

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 スバルとシンクロして出現したデバイスゴモラが咆哮を上げる。

 

「トゥアァァッ!」

 

 一方エックスは組み合っていたグリーザを自分ごと地面に叩き落とした。エックスは転がっていくが、グリーザは物理法則を無視した挙動で起き上がる。

 

―フェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザの身体に実体はなく、目に見える姿は脳が作った錯覚なので、その全体像は常に揺らぎ、歪んでいる。基地から飛び出していったなのはたちは、肉眼で確認したグリーザの異様さに改めて戦慄を覚えた。

 

「あれがグリーザ……!」

「何て不気味な姿……いや、『姿』なんてものはないんだったね……」

「それでいて生き物なんだから、全く以て不条理な存在ですね……」

 

 つぶやくフェイトとティアナ。一方でヴィータは胸の内の不安、恐怖を振り払うように皮肉げに笑んだ。

 

「怪物退治は騎士の十八番だけど、まさか無なんてもんと戦う日が来るなんてな」

「でもこの勝負、絶対に負けられないわ……!」

 

 シャマルの言葉にザフィーラがうなずく。

 はやてとシグナムは、それぞれにユニゾンしているリインフォースとアギトに呼びかけた。

 

「リイン、厳しい戦いになるやろうけど、最後までよろしゅう頼むで」

「アギトも、しっかりと私についてきてくれ」

『はいですっ!』

『おうよ! 無だろうが何だろうが、どーんと来やがれってんだ!』

 

 エリオはキャロとルーテシアに忠告をした。

 

「ヴォルテールと白天王は召喚しない方がいい。あれに『食われて』しまうかもしれないから……」

「うん、分かった……!」

「白天王たちがいなくても、やれることの全てを尽くすだけだね」

 

 オペレーション本部からはカミキがグルマンに指示する。

 

「博士! シールドを!」

 

 グルマンとシャーリーはギリギリにところで基地を覆う障壁の強化を完成させた。

 

「出来たぁっ!」

「ハイパーシールド、起動!!」

 

 Xioベース全体が魔導障壁で覆われると、スカイマスケッティがエックスとデバイスゴモラの間に飛んでくる。ハヤトとワタルがノーヴェたちに呼びかける。

 

『正念場だな……!』

『チンクの分まで、俺たちが戦わなくっちゃな!』

「そうっスね……! ここは何が何でも譲れないっス……!」

「チンク姉……どうか見ていて……!」

「……チンク姉たちはもうどうしようもないけど……チビたちの、世界中の人たちの未来は守り抜くっ!」

 

 スバルはデバイスゴモラ越しに、エックスに対してうなずいた。

 

「ダイくん……ずっとあたしたちを助けてくれてたんだね……! その想いを無にしないよう、あたしも力の限り戦うからっ!」

 

 スバルの声はダイチにまで届き、エックスとともにうなずき返した。

 

「『よし……行くぞっ!」』

 

 ここにそろった大勢の勇士たちと相対するのは、グリーザ単体。だがその底はまるで見通せない。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……! アーハッハッハッハッ……!―

 

 そして遂に世界の存亡を懸けた戦いの幕が開く。クロノによる全体指揮の下、一番に狼煙を上げたのはマスケッティのファントン光子砲だ。

 

―アーハッハッハッハッ!―

 

 光子砲の連射が全弾グリーザに叩き込まれ――外れる。間髪入れずにエックスのストレートパンチがうなり――グリーザはエックスの背後に。ゴモラのクローと反転したエックスのパンチと、ティアナ、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチのウルトライザーの射撃があらゆる角度から放たれるも、ぐねぐねと動くグリーザをまるで捉えられない。シャマルの拘束もザフィーラの楔もグリーザはすり抜ける。「ギガントシュラーク!!」「シュランゲバイセン・アングリフ!!」巨大ハンマーと長大な蛇腹剣が同時にグリーザに直撃――かわしながらエックスのキックを弾くグリーザに光子砲となのは、はやて、ルーテシアの砲撃、フリードリヒのブレスが押し寄せ――効かない。『ギャオオオオオオオオ!』「ジェットザンバー!!」「ツェアシュテールングスハンマー!!」「火龍一閃!!」「メッサー・アングリフ!!」ゴモラの突進、大剣のバルディッシュ、ドリルハンマー、炎のレヴァンティン、稲妻のストラーダ、ガリューの刃のことごとくをグリーザは弾き返し、なのはたちの空と地上両方からの援護射撃とともに飛び込んだエックスも揺らめきながらかわす。「超振動拳!!」ウィングロードを駆けるゴモラの突撃はあっさり止められ、叩き落とされた。エックスが打撃を繰り出すとともにフェイトたちも再度飛びかかっていったが、グリーザは動作の過程をそっくりくり抜いたような挙動で全て弾き飛ばした。―アッハッハッハッハッ!―そしてグリーザボルテックスとグリーザダブルへリックスがエックスとゴモラに襲い掛かり、両者ともはね飛ばされた。―ヒャーハッハッハッハッ!―暗黒の光線はとめどなく放たれ続け、なのはたちは必死に回避するも遂にマスケッティが被弾した。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――っ!!」

 

 マスケッティは一撃で大破、撃墜される。

 

「ハヤトさん!!」

「ワタルーっ!!」

 

 絶叫するスバル、ウェンディ。マスケッティは背景の山の向こうに墜落していった。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザからの光線は止まらない。黒い稲妻がエックスに襲い掛かる。

 

『「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」』

 

 執拗な攻撃を受け、倒れるエックス。彼だけでなく、ティアナ、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチ、ルーテシア、ガリュー、エリオ、キャロ、ザフィーラ、シグナム、ヴィータ……全力で防御しても光線を防ぎ切れず片っ端から叩き落とされていく。

 

「きゃああああああああああっ!!」

 

 シャマルが汗だくになって懸命に回復を図るも、被害が大きすぎてとても追いつかない。

 

「みんなぁぁぁぁっ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 スバルの感情に呼応するようにゴモラがグリーザに突撃していくが、背面からのグリーザダークライトニングがゴモラを貫いた。

 

『ギャオオオオオオオオ!!』

「ああああああああっ!!」

 

 デバイスゴモラの身体が崩壊を起こし、スバルにも重大なダメージが流れ込んで彼女も倒れてしまった。

 まだ辛うじて無事なのはなのは、フェイト、はやての三人。彼女たちは周囲の魔力を全てかき集める。

 

「スターライト!!」「プラズマザンバー!!」「ラグナロク!!」

「ブレイカぁぁぁぁぁぁ――――――――――っっっ!!!」

 

 エースオブエース、断金の交わりの三人による全力全開の砲撃が放たれた!

 ……砲撃はグリーザの胸部に吸い込まれ――全くの無反応だった。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザはゆらゆらと蠢きながら、鐘の音に聞こえる衝撃波を全方位に発し始める。

 

「グワアアアアアッ!?」

 

 エックスまでもが頭を抱えて苦しむ攻撃。周囲がたたで済むはずがなく、シールドで覆われているはずの基地が震動し、動力に異常が生じる。

 

「ああああああ――――――――!?」

 

 そしてなのはたちも頭を抱え、地上に墜落していった。回復を務めていたシャマルまでもが、とうとう倒れ伏す。

 

―ヒャーハハハハハハッ!―

 

 衝撃波を止めたグリーザは、すぐにグリーザダークライトニングをエックスに照射。

 

「グワアアア―――――ッ!」

 

 エクシードXの能力を以てしても、怒濤の攻撃に耐え切れず片膝を突く。カラータイマーはとっくに点滅していた。

 倒れ伏したままのなのはは、かすかに顔を上げると、震えた声で言った。

 

「どうして……!? わたしたちの全力……わたしたちみんなの懸命な想いが……少しも届かないっ……!!」

 

 あれだけいた勇士たちが、たった一体の相手を前に全て倒れ、絶体絶命の状態。そんな中で、エックスはダイチに呼びかけた。

 

『ダイチ……! 君と一緒に戦えてよかった……!』

 

 まるで遺言のようなエックスの言葉に、ダイチは言い返す。

 

『「これが最後みたいに言うなよ……! 今出来ること……やるべきことがあるっ!」』

 

 エクスディッシュを構えたダイチは、至る場所に倒れている仲間たちを見渡した。――彼らの奮闘、彼らの尽力……彼らの未来を、無駄にはさせられない。

 

『君は強くなった……!』

『「エックスのお陰だよ! ――行くぞっ!」』

『ああっ!!』

 

 ダイチの力を借りて、エックスは立ち上がった。最後の力を振り絞り、エクスディッシュを手にする。

 

「『エクスディッシュ!!」』

 

 パネルを三回スライドしてボタンを叩き、エクシードエクスラッシュを発動!

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 虹の光とともにグリーザへと一直線に飛んでいくエックス!

 対してグリーザは己の前に光の盾を展開――『初めて』防御らしい防御を行った。

 盾に激突するエックス。あらん限りの力を全て使い切る勢いで、突き破ろうとする。

 

『「あああああ――!!」』

 

 グリーザの能力の影響によりエックスの、ダイチの身体が粒子となって分解を起こしていく! だが二人は止まらない!

 

「オオオオオ――!!」

 

 そして遂には――エックスの全身が粒子となり、グリーザに全て吸い込まれていった。

 

「――あぁっ……!?」

 

 よろめきながらも立ち上がっていた仲間たちが、それを目の当たりにして絶句する。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 エックスを呑み込んでしまったグリーザ。だが次の瞬間、そのゆらめき方が大きく変わる。

 

―アッハッハッハッハッ!?―

 

 グリーザの各部が明滅を繰り返し、また膨れ上がり、どんどん歪みが大きくなっていく。そして、

 

―アァ――――ハッハッハッハッハッハッ!!――

 

 大爆発を起こした。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 凄絶な爆風がスバルたちの身体を煽った。硝煙が晴れ、彼女たちが顔を上げると――。

 基地の正面に、エックスのカラータイマー『だけ』が突き刺さっていた。

 

「――なっ……あっ……!」

 

 カミキが、クロノが、アルトとルキノが、グルマンが、シャーリーが、それを目にして言葉を失った。

 それはルーテシアたちも同様だった。

 

「あ、あれってエックスの……!」

「む、胸についてるの、だよね……」

 

 ガリューに肩を貸されて起き上がったルーテシアとキャロの言葉に、エリオが青ざめた顔で首肯した。

 ヴォルケンリッターが口々に唱える。

 

「それだけが残っているとは……」

「しかも、光ってねぇ……!」

「あれの輝きは、命の輝きを示すものだと……」

「前に、そう、言っとったよな……シャマル……?」

「ええ……。そうだと確認してるわ……」

 

 はやての問いかけに、シャマルは唖然とうなずく。

 

「つまり、エックスは……ダイチさんは……!」

 

 声が恐怖で震えるティアナ。フェイトは口を手で覆う。

 なのはも、長らく浮かべたことのなかった、『絶望』の色を顔に張りつけていた。

 

「……ヴィヴィオと、約束したのに……! みんな無事に、帰るって……!」

 

 墜落したマスケッティから脱出したワタルは、感情を抑え切れずに地面を殴りつけた。

 

「ちくしょう……こんなのありかよぉぉ―――――っ!!」

 

 ワタルの横で、ハヤトは呆然と立ち尽くしている。

 

「う、嘘だ……嘘だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ノーヴェっ!!」

 

 ノーヴェは頭を抱えて慟哭し、取り乱したのをウェンディとディエチに抑えられる。

 

「ダイくん……」

 

 そしてスバルは、輝きを失ったカラータイマーへと、衝動的に走っていった。

 

「ダイくぅぅぅぅぅぅぅぅんっっ!!!」

 




 




次回、『昴を臨む大地』。







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昴を臨む大地(A)

 

「こいつは全くの無なんだ!」

「何か大変なことが起きてる……!」

「通信途絶! スペースマスケッティ、レーダーから消えましたっ!」

「探してた発生源、これに違いないよ!」

「あの発光体がダークサンダーエナジーの発生源だと、本局に伝達を!」

「東部スパークドールズ保管施設を直撃! 半径一キロが消滅!」

『奴は生体エネルギーの強いものから消していきます』

『次に狙われるのは、Xioミッド本部です』

「間に合わないっ!」

「今まで黙っててごめん。俺とエックスで……あいつを止めてみせるっ!」

「ダイチがエックスだったんです!!」

「ダイくん……」

「ダイくぅぅぅぅぅぅぅぅんっっ!!!」

 

 

 

『昴を臨む大地』

 

 

 

 聖王教会で、シャンテとオットー、ディードが避難所のヴィヴィオと通信している。

 

「――じゃあ、基地の方が今どうなってるかはそっちも分からないんだ」

『うん……。ずっと通信がつながらなくって……』

 

 ヴィヴィオが返答すると、シャンテは双子の方に目をやった。しかし二人とも残念そうに首を振る。

 

「こっちも、誰とも通信がつながらない」

「恐らく、それどころではないのでしょう」

『ママたち……大丈夫なのかな……』

 

 現場の情報が入ってこないことで、ヴィヴィオも流石に不安そうであった。シャンテはそんな彼女を励ます。

 

「だーい丈夫だって! 何度も世界を救った人たちが勢ぞろいしてるんでしょ? どんなにヤバそうに見えたって、最後にはみんなけろりとした顔で帰ってくるに決まってるよ! だから元気出しなって。暗い顔してたら、逆に心配されちゃうぞ」

『うん……ありがとう、シャンテ』

 

 ヴィヴィオのお礼を最後に通信を終えると――シャンテの表情が一変して、オットーとディードに不安の眼差しを向けた。本当は、シャンテも心配でならないのだ。

 

「……陛下にはああ言ったけど、実際のところどうなのかな……? いくら何でも、今度の相手は別次元なんでしょ……?」

 

 それに対する明確な答えを、オットーたちは持っていなかった。

 

「一応、滅亡を回避する預言もあるけれど、結局意味は解明されなかったからね……」

「八つの命と、数多の命……。それがどういう意味で、どんな働きをするのか……。最早私たちには知りようがありません。出来るのは……姉さまたちの武運を祈ることくらいでしょう」

 

 ディードの言葉に応じるように、イクスヴェリアが小さな手と手を握り合わせて、天に向けて懸命に祈りを捧げた。

 

 

 

 グリーザと、エックスの消滅後、戦闘に加わっていた者たちはスバルを除き、全員一箇所に集結した。その誰もが満身創痍の状態で、治癒するシャマルもまたダメージが響いてよろめいたので、ザフィーラに受け止められた。

 

「大丈夫か」

「シャマル、無理したらあかんよ。シャマルもボロボロやない」

 

 はやてもシャマルの身体を気遣う。

 

「ありがとう。でも、他に治せる人がこの場にはいないんだから、私が頑張らないと……」

 

 それでも無理を押すシャマルの一方で、ノーヴェは絶望し切った表情でうなだれていた。

 

「ダイチが……こんな……こんな結末ってありかよ……。何であいつが……」

 

 他の特捜班のメンバーも沈黙し、悲嘆に暮れていた。そこになのはがつぶやく。

 

「……力の限り頑張れば、必ず最良の結果を得られるほど世界は甘くない。時には、悲しいお別れをしなければいけない時もある……」

 

 語りながら、基地の前に刺さったエックスのカラータイマーを呆然と見やった。

 

「でも……今回は悲しすぎだよ……。お別れの言葉を言う時間すらなかった……」

「なのは……」

 

 覇気のないなのはの横顔を見つめたフェイトは、頭を振ってティアナに尋ねかけた。

 

「スバルはどうしてるか、知ってる?」

「あのエックスの発光体のところへ走っていきました。……流石に、まだ現実を受け止め切れてないんだと思います」

「そっか……」

 

 一同がダイチとエックスの犠牲で重苦しい空気に包まれていると、そのスバルからの通信回線が全員の元に開かれた。

 

「スバル……?」

『隊長、みんな!』

 

 スバルは息せき切った声で告げた。

 

『エックスは……ダイチは生きてますっ!』

「えっ――!?」

 

 今のひと言で、一同は一気に騒然となる。

 

『発光体から鼓動が聞こえるんです! 聞いて下さいっ!』

 

 通信回線にトクン、トクンとかすかだがはっきりとした心拍のような音が流れた。それはスバルがカラータイマーから拾った音であった。

 

 

 

 カミキはモニター越しに、スバルが密着しているカラータイマーを見つめた。

 

「あの中に、ダイチが……!」

「何か、救う方法を!」

 

 クロノの言葉に、オペレーション本部に来たグルマンが告げる。

 

「以前エックスを救うため、ダイチを電脳空間に転送したことがあった。あの時のシステムを応用する! 誰かをエックスの中に転送すれば、ダイチを連れ戻すことが出来るかもしれん!」

 

 信じられないという風に聞き返すカミキ。

 

「本当にそんなことが……!?」

「理論上はな。上手くいけばエックス自身の復活も見込めるが、大きな危険も伴う」

 

 グルマンの提示した方法に対して、クロノがカミキに申し出た。

 

「私が行きます! 今の状況で最適なのは、負傷のない私です!」

『いえ……』

 

 だがスバルがそこに割って入った。

 

『あたしに行かせて下さい!』

「スバル……!」

『元レスキュー隊員の誇りに懸けて、あたしが必ず救い出しますっ!』

 

 スバルは己の全存在を賭す覚悟で、そう宣言した。

 

 

 

 長々と時間を掛けている訳にはいかない。スバルはラボで、以前ダイチが使った電脳空間転送装置の上に横たわった。その様を、仲間たちが固唾を呑んで見守っている。

 師であるなのはが、スバルに呼びかけた。

 

「無理だけはしないでね、スバル。……わたしたちとしても、犠牲者を増やす訳にはいかないから……」

「なのはさん……。分かりました」

 

 グルマンとシャーリーが脳波のモニターを見せながらスバルに告げる。

 

「このアルファX波が限界を超えたら、命の危機だ。お前の身体でも耐えられない」

「最悪の場合は、あたしが外から強制解除するからね。それだけは了承して」

「はい……。シャーリーさん、ありがとうございます」

 

 そしてノーヴェがスバルの元に立ち、彼女の手をギュッと握り締めた。

 

「スバル……ダイチのこと……頼んだぜ。きっと……きっと、連れ戻してくれよな……」

「ノーヴェ……」

 

 ノーヴェが離れると、グルマンが最後に尋ねる。

 

「準備はいいか?」

「はい……お願いします!」

「転送開始!」

 

 装置のスイッチが入れられ、スバルは目をつむる。

 ――目を開けると、彼女の意識は電子的な光に満ち溢れた、不可思議な空間の中に移っていた。その空間こそが、カラータイマーの内部――ユナイトしたダイチが存在していた世界だ。

 

『「ここが……エックスの中……!」』

 

 だが今は、ダイチの姿はどこにも見えない。スバルは覚悟を決めると、ダイチの姿を求めて電脳空間の中を駆け回り始めた。

 

『「ダイくん! 返事して、ダイくん!」』

 

 しかし電脳空間は限りがなく、その世界においてスバルの存在はあまりにちっぽけなものであった。

 

 

 

 その頃、ダイチは暗闇に閉ざされた、寂しい世界の中を放浪していた。

 ダイチがエクスデバイザーを手に取ると――金縁が消え、元のジオデバイザーに戻っていた。

 

『エックス!? おい、返事をしてくれっ!』

 

 懸命に呼びかけたダイチだが、ふと気づくと、周囲の光景が一変して何かの施設の放送室のような場所になっていた。

 そしてこの場所で、一人の女性が撮影器具をセットして己を映す用意をしていた。彼女の顔をひと目見たダイチの顔が驚愕に染まる。

 

『母さん!?』

 

 それはまさしく、ずっと捜していた母の顔。そして今の場所が、かつて両親が勤めていて、オーロラに消えた電波研究所の内装であることに気がついた。

 

『これは……あの夜……!』

 

 ダイチの母がカメラに向かって、話し始めた。

 

『私の研究では、十五年後の世界には生命の発する電波がなかった。全ての生き物が消滅しているとしか思えませんでした。――しかし、このロストロギアを手に入れて以来……かすかに、未来の音を受信できたんです!』

 

 母が傍らのガラスケースを抱えた。その中に収められているのは――。

 

『エクスディッシュ……!?』

 

 母はエクスディッシュを抱えたまま熱弁を振るう。

 

『やはりこれは、未来に影響しています! そして――!』

 

 その途中で、ダイチの父が放送室に駆け込んできた。――あの時、ダイチを置いて研究所へ母を捜しに行った父の姿だ。

 

『何してる!? 急ぐんだ!』

 

 父は避難を促すが、母は従わずにエクスディッシュを父に見せた。

 

『これを見て! 今日になって、これが光り出したの! 未来の音が、今までで一番はっきり聞こえた!』

『……何が聞こえたんだ?』

 

 父の問いかけに、母は答えた。

 

『多分……ダイチの声……!』

 

 その時に、外から幼少時のダイチの叫びが聞こえる。

 

『お父さーん! お母さーん!』

 

 ――研究所が光に分解され、宇宙に消え始めたのだ。

 現に放送室も――父と母の二人も分解されていく。

 

『この光が、希望……!』

 

 それでも二人は、待ち受ける未来に恐れた様子を見せず――エクスディッシュとともに未来の希望を抱いていた。

 

『母さん……! 父さん……!』

 

 ダイチの視界からも、両親の姿が消えていく――。

 

 

 

 基地に非常警報が鳴り響き、ルキノが非常に焦った声を発した。

 

「隊長! グリーザが……再生を始めましたっ!!」

 

 基地の外で怪しい光が一点に集まっていき――グリーザが再び出現した!

 その様子を立体モニターで目の当たりにしたなのはたちも息を呑む。ノーヴェはギリッと奥歯を軋ませた。

 

「テメェが復活すんじゃねぇよ……!」

 

 カミキは即座に命令を下す。

 

「ハイパーシールド再起動! 全魔力を回してラボを守れっ!」

「了解!!」

 

 グリーザが胸部から怪光線を発射するが、ギリギリのところでシールドが基地を覆って防御した。

 しかし強化された障壁を以てしても、光線の衝撃で基地全体が激しく揺れる。

 

「これはまずいぞっ!」

 

 叫ぶグルマン。グリーザは光線を連続発射してシールドを破ろうとする。

 オペレーション本部も強い震動が襲い、倒れかけたカミキが命令した。

 

「デバイスゴモラを機動しろ! 私が動かす! 行くぞ副隊長っ!」

「了解!」

 

 カミキとクロノが飛び出そうとしていくところに、ノーヴェが駆けつけて言った。

 

「隊長! あたしにやらせて下さい!」

「ノーヴェ……! しかしその身体では……」

「スバルと……ダイチを守りたいんですっ!」

 

 ノーヴェはまっすぐな瞳をカミキたちに向けた。

 

 

 

 スバルは今も電脳空間内を捜索し続けている。

 

『「ダイくんっ! お願い、応えてっ!」』

 

 何の手掛かりもなしに、果てのない空間の中をさまよい続ける。最早無謀な挑戦といってもいい。

 だがしかし、スバルの心は決して折れない。

 

『「あたし、あきらめない……! 大切な人を絶対にあきらめないって、四年前からそう決めたんだから!!」』

 

 スバルが目一杯の気持ちを込めて叫んだ、その時。

 彼女の視線の先にまばゆい輝きが生じ……その中に、エクスディッシュが浮かんでいた。

 

『「これは……!」』

 

 スバルは手を伸ばし、エクスディッシュのグリップを握った。

 

 

 

 ダイチもまた、暗黒の空間をさまよっていた。

 

『どこに行っちゃったんだ、エックス……』

 

 暗黒の空間には熱がなく、ダイチは時間が経つ毎にエネルギーを奪われ続けていく。しかも、身体が透け始める。

 やがてダイチは力を失い、倒れてしまった……。

 

 

 

 復活したグリーザを食い止めるため、ノーヴェがデバイスゴモラを召喚した。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「ゴモラ! あたしに力を貸してくれぇっ!」

 

 ゴモラはうなずき、基地に接近していくグリーザに向かっていく。それにクロノも続く。

 

「こんな時に、見ているだけだとは……!」

 

 シグナムが歯を食いしばり、ともすれば飛び出していきそうなのをアギトが制止した。

 

「駄目だシグナム! さっきので魔力使い果たしちまったろ! ダメージも抜け切ってない……次やられたら、ほんとに死んじまうかもしれねぇぞ!」

 

 それは他の者たちも同じだった。彼女たちは基地の命運を、ノーヴェとゴモラ、クロノに任せるしか出来ないのだった。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「うおおおおっ!」

 

 ゴモラとクロノはクローとスティンガーブレイドをひたすらグリーザに撃ち込むが、やはりグリーザに応えた様子は微塵も見られない。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 逆にゴモラはグリーザの打撃によってどんどんと叩きのめされていく。

 

「ああっ……! やっぱり、無理なんですか……!?」

 

 リインフォースを始めとして、居並んだ面々は顔が青ざめる。

 しかしその中ではやては、グリーザの様子を見上げて怪訝な表情をした。

 

「何や……? さっきとは、何かが違うような……。何が違うんや?」

 

 はやての疑問の答えが出る前に、グリーザは胸部から五つの光球を飛ばした。それらから光のムチが伸び、ゴモラとクロノに襲いかかった!

 

『ギャオオオオオオオオ!!』

「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!」

 

 ゴモラは四肢がズタズタに切り裂かれて、ノーヴェもダメージを受ける。クロノは空から叩き落とされ、フリードリヒとガリューが慌てて受け止めた。

 そしてグリーザは暗黒の破壊光線を発射し、デバイスゴモラにとどめを刺すと同時に基地のシールドも穿つ!

 とうとうシールドが破壊されてしまった!

 

「きゃあああああ―――――――!!」

 

 ラボが耐え切れなくなって倒壊を起こし、シャーリーが悲鳴を発した。

 

「シャーリー! スバルを連れて逃げろっ!」

「でもっ!」

「ここは私に任せろ! いいかっ! 何があってもスバルを――!」

 

 グルマンは言葉の途中で、ダークサンダーエナジーの攻撃に呑まれて姿を消してしまった。

 

「博士ぇぇぇぇぇ――――――――――!!」

 

 ラボで発生した爆発が連鎖反応を起こし、Xioベースが爆破されていく。それを目の当たりにしたワタルとハヤトが声を絞り出した。

 

「Xioの基地が……! 俺たちの城が……!」

「崩れてく……!」

 

 そしてダークサンダーエナジーによって実体化したEXゴモラ、EXレッドキング、ツルギデマーガが地下から飛び出してきた。

 

「グギャアアアアッ!!」

「ピッギャ――ゴオオオウ!!」

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 ゴモラはグリーザにEX超振動波を放ったが、グリーザはそれを胸部のコアに吸収。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 そのコア不気味な白い手のような光が伸び、保管されているスパークドールズを片っ端から奪い取ってコアの中に引き込んでいく!

 

「か、怪獣たちが……!!」

「やめてぇぇぇ――――――――!!」

 

 キャロが耐えられずに叫んだが、グリーザの腕はむしろ加速する。

 

―アッハッハッハッハッハッ! アーハッハッハッハッハッハッハッ!―

 

 スパークドールズの全てを呑み込み、ツルギデマーガ、レッドキングも捕らえて引き込み――最後にゴモラを引きずり込んだ。

 

「ゴモラあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 特捜班が絶叫を上げた。ゴモラがグリーザのコアの中へ消えていく――。

 

―アァ――――ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!―

 

 全ての怪獣を食らったグリーザが、いきなり爆発!

 そして――煙の中から、より巨大に、より非人間的に、より禍々しく歪んだ姿となって現れた。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……! エッヘッヘッヘッヘッ……!―

 

 新たな姿と化したグリーザを目にして、なのはたちは唖然と立ち尽くす。

 そこにシャーリーが、スバルを転送装置ごと連れて崩壊した基地から脱出してきた。

 

「みんなぁっ!」

「シャーリーさん! グルマン博士は……!?」

 

 ディエチが問うたが、シャーリーがうつむいて何も答えないので、息を呑んだ。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 しかしそのことに何か唱えている暇もなかった。グリーザが、エックスのカラータイマーの方へ進み始めたのだ。

 

「今度はエックスを消すつもりかっ!」

「そんなことされたら、スバルも……!」

 

 ティアナが青ざめたその時、三条のウルトライザーシュートがグリーザの正面から撃ち込まれた。

 それを撃ったのは、アルトとルキノ、そしてカミキだった。

 

「隊長!!」

「スバルが必ずダイチを連れ帰る! 我々が最後の砦だっ!」

「カートリッジをありったけ全部持ってきました! みんな、手を貸して!」

 

 アルトとルキノで大量のウルトライザー・カートリッジをなのはたちに分け与えた。彼女たちが断るはずがない。

 

「もうこれ以上先へは、行かせないっ!」

 

 ノーヴェもクロノも立ち上がり、全員でグリーザに対する徹底抗戦を開始した。

 

 

 

 電脳空間の中、スバルが叫ぶ。

 

『「聞いて、ダイくん!」』

 

 姿の見えないダイチに向けて、呼びかけ始めた。

 

『「ダイくんはいつも危なっかしいし、あたしが守ってあげなくちゃって思ってたけど……本当は、あたしの方が守られてたんだね!? あの時も、あの時も……!」』

 

 スバルの脳裏に、デマーガの攻撃から自分をかばったエックス、自分に向けられたEXゴモラの攻撃を防いだエックス、数々の怪獣や宇宙人と戦ったエックスの姿がよみがえる。あれらは全て、ダイチの姿でもあったのだ。

 

『「ずっとエックスと戦ってたんだ……。気づいてあげられなくてごめん……。もっと早くに気づいてたら、人知れず頑張ってたダイくんの力になれてたかもしれないのに……!」』

 

 スバルの言葉は、かすかにだが暗黒の世界で倒れているダイチの元に届いた。

 

『……スゥちゃん……?』

 

 力尽きていたダイチの唇が、わずかに開いた。

 

 

 

 外の世界では、なのはたちが惜しみなくウルトライザーを使用して、グリーザの進行を阻止しようと攻撃し続けている。

 そんな中で電脳世界転送装置が、スバルのバイタリティが危険な領域に入ったことを知らせた。

 

「!! スバル……!」

 

 傍についているシャーリーが、額に汗の噴き出ているスバルの顔を見つめて迷いを見せた。

 

 

 

 スバルはダイチに向け、告白した。

 

『「ずっと黙ってたけど、あたし……ダイくんの夢の、怪獣との共生……実は……出来っこないって思ってた! 人間とは何もかもが全然違うんだから、そんなこと不可能だって……」』

 

 ぐっと目をつむってから、顔を上げるスバル。

 

『「でも、あたしが人の命を救う自分になるって夢を抱いて……なのはさんや、ティアたちと一緒に頑張って……自分の夢を叶えた時に、思い直した! 叶えられない夢はないんだって! Xioに来たのは、あたしよりもずっと大きくて困難な夢に向かって、めげずに突き進んでるダイくんの後押しをして、叶えさせてあげたいっていう理由もあったの!」』

 

 スバルの呼ぶ声に、ダイチは力を振り絞って立ち上がった。

 

『「ダイくんの夢は、やっと始まったばっかりじゃないっ! それだけじゃない……ヴィヴィオたちの夢、あたしたちの未来、世界中の人たちの明日……! それがいきなり終わって、消えて無くなっちゃうなんて絶対に嫌だよぉっ! だから戻ってきてダイくんっ! 今立ち上がらないと……夢の続きが見られないっ!!」』

 

 

 

 スバルの脳波はいよいよ臨界点に達しようとしていた。

 

「もう限界……! スバルが死んじゃう……!」

 

 それまで躊躇していたシャーリーは、装置の強制終了を決断してスイッチに指を伸ばす。

 

「ごめんね、スバル……!」

 

 謝罪して、装置を止めようとする――。

 その手を、スバルの手が掴んで止めた。

 

「えっ……!?」

 

 

 

 スバルは最後に、自分の目一杯の気持ちを乗せて叫んだ。

 

『「帰ってきてよぉっ! ダイくぅんっ!!」』

 

 ギュッと握り締めたエクスディッシュが――虹色に発光した。

 それとともに、ダイチがスバルの目の前に召喚されたのだった。

 

『「――スゥちゃん!?」』

『「……ダイくんっ!」』

 

 スバルはダイチと、正面から向かい合う。

 

『「……ありがとう、スゥちゃん。君の想いが、俺を呼び戻してくれた……!」』

『「うん……! お帰り、ダイくん……!」』

 

 スバルは目尻の涙をぬぐい、ダイチに満面の笑顔を向けた。

 

 

 

 スバルの帰還を信じて必死で抗い続けていたなのはたちであったが、それでもグリーザの侵攻は止まらなかった。どれだけ撃ち込んでも、エネルギーが全て呑み込まれていくのだ。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザは胸の前に暗黒の光球を作り出し、カラータイマーに発射しようとする。それを止めることが出来ず、ティアナが絶叫する。

 

「スバルぅぅーっ!!」

「も、もう駄目っス……!」

 

 ウェンディがとうとう泣き言を吐いた、その時、

 

(♪Xio出動!)

 

『あきらめるなっ!』

 

 ジオデバイザーから、聞き慣れた声が発せられた。――ノーヴェたち姉妹が目を見張る。

 

「今の声! ――チンク姉っ!!」

 

 直後に空の彼方からスペースマスケッティが飛来してきた! 搭乗しているのは――チンクとマリエル!

 

「マスケッティ、リジェクトぉーっ!!」

 

 チンクはアラミスを切り離し、ジオマスケッティをそのままグリーザ目掛けてぶつけさせた!

 

―フェッフェッフェッ……!―

 

 光球はマスケッティごと爆散し、カラータイマーへの攻撃は見事阻止された!

 

「せっかく作った二号機がぁぁっ!?」

「あっはっはっ! 三号機を作ればいいじゃないですか!!」

 

 愉快そうに大笑いしたチンクを、ハヤトが叱りつける。

 

「おいこらっ! 今までどこで何してた! 心配させやがって!」

『すまんっ! どうにか逃げられたはいいが、エンジンが停止してずっと月の裏側で修理してたんだ!』

「うおおおぉぉ―――――んっ! 生きててよかったなぁぁぁっ!」

 

 思わず吠えて号泣するワタル。ノーヴェたちも嬉しさのあまり涙ぐんでいた。

 アラミスが緊急着地し、チンクたちが合流すると同時に、エリオがカラータイマーの青い発光に気がついた。

 

「見て下さい! スバルさんとダイチさんが……帰ってきますっ!」

「本当かっ!」

「スバル……! ダイチくん……!」

 

 クロノとなのはが歓喜の色を浮かべる。

 そして至近距離からの爆発によろめいたグリーザを見上げていたはやてが唐突に叫んだ。

 

「あっ分かったっ!」

「何がですか!?」

 

 ルーテシアが聞き返すと、はやては皆に向けて告げた。

 

「グリーザ、実体になりつつあるんやないかな!?」

「えぇっ!?」

「よお見て! さっきは姿が常に揺らいでておぼろげだったのに、再生してからははっきり見えるよね! 攻撃も外れることがなくなっとるし!」

「言われてみれば、確かに……!」

 

 呆気にとられながらもうなずくヴィータ。

 

「きっとエックスに一度四散させられて、再生した時に性質に変化が起きたんや! そして完全に実体になれば……!」

「倒すことも可能になるっ!」

 

 フェイトのその言葉に、皆の心に希望が灯った。

 カミキがカラータイマーを見やってから指示を飛ばす。

 

「あの光を守り抜くぞ! 胸のコアに攻撃を集中っ!」

「了解!!」

 

 全員が応答し、グリーザのコアに一斉射撃を加えた!

 

 

 

 ダイチのデバイザーが黄金色の光を放ち始める。それを目にしたダイチが、ハッと気がついた。

 

『「そうか! エックスもずっとここにいる……! 俺の想いとともに!」』

 

 ダイチはスバルに向き直って、まっすぐに告げた。

 

『「見ていてくれ、スゥちゃん。俺とエックスが――未来を切り開くっ!」』

『「うん……!」』

 

 スバルが力強くうなずき、エクスディッシュをダイチに渡した。

 そして電脳世界に、虹色の光が満ち溢れていった――。

 



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昴を臨む大地(B)

 ――スバルは転送装置の上で、ハッと目を開いた。

 

「スバル! よかった、無事で……!」

 

 シャーリーがほっと安堵しているのにも構わず、スバルはヘッドギアを取り外して飛び起き、カミキたちの元へと駆けていく。

 

「隊長ーっ! ダイチが帰ってきますっ!」

「スバル!!」

 

 スバルの声に応えるように、カラータイマーの発光が強くなっていき、遂には完全に青く点灯した。

 シャマルとなのはがつぶやく。

 

「エックスの……命の光が戻った……!」

「――ダイチくん……!」

 

 

 

 ダイチはジオデバイザーに向けて叫ぶ。

 

『「エックス! 帰ってきてくれ! もう一度つながろう!」』

 

 ダイチの脳裏によみがえるのは、エックスとユナイトしてきた日々。運命的な出逢いを果たし、いくつもの戦いや危機を乗り越え、時に苦難にぶつかり、より深くつながるようになって……今日まで駆け抜けてきた。

 そしてその日々を、ダイチは未来へとつなげようとしている。

 

『「もう一度……俺とユナイトしてくれぇっ!」』

 

 その呼び声により――ジオデバイザーが輝き、エクスデバイザーへと戻ったのだった!

 デバイザーの画面にエックスの胸像が表れ、エックスは完全に意識を取り戻す!

 

『「エックス!」』

『ダイチ! 君たちの記憶が、想いの強さが! 私をよみがえらせてくれた! ありがとう……!』

『「よし……行くぞエックス!」』

『行こう、ダイチっ!』

 

 ダイチとエックスは声をそろえる。

 

「『ユナイトだっ!!」』

 

 ダイチはデバイザーを前に突き出し、右手でスイッチを強く押し込んだ。

 エックスのスパークドールズが現れ、ダイチはそれをリード。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

『「エックスーっ!」』

 

 X字に閃光の中から、ウルトラマンエックスが飛び出していく!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 カラータイマーから肉体が再構築されていったエックスが、ミッドチルダに再降臨した!

 ワタルとハヤトが大興奮して絶叫した。

 

「エェェェェ―――――ックスぅぅぅぅぅ――――――――!! 待ってたぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「よっしゃあぁぁぁっ!! やってくれたな、ダイチっ!!」

 

 他の面々も一斉に沸き立ち、フェイトは反射的になのはと手をつないだ。

 

「なのは! 二人とも、帰ってきたよっ!!」

「うん……!!」

 

 ダイチはすかさずスバルから託されたエクスディッシュで、エクシードXへの二段変身を行った。

 

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エクシードXは額のエクスディッシュを手に取ってアサルトフォームに変形させる。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!!」』

 

 エックスは即座にグリーザへ向けて飛び出していくが、グリーザも彼に対して攻撃を繰り出した。

 

―キイイイイイイイイ!―

 

 両腕から電撃のムチが伸びて、エックスを襲う!

 

「ヘアッ!」

 

 電撃のムチを切り払うエックスだが、グリーザは次いで腕を地面に向けて、マグマエネルギーを放出。

 

―ピッギャ――ゴオオオウ!―

 

 マグマエネルギーが衝撃を伴って地面を這っていく。足元を崩されたエックスがよろめく。

 

「グアァッ!」

 

 更にグリーザは胸部から火炎弾を噴火のように乱射する。

 

―グバアアアア!―

 

 大量の火炎弾が降り注ぎ、爆発の連続がエックスに襲いかかった。

 

「グワァァァァッ!」

 

 グリーザからの猛攻に、さしものエクシードXも一気に追いつめられてしまった。

 はやてが愕然とつぶやいた。

 

「あの攻撃……怪獣たちの能力や……!」

「ちくしょう! 何の嫌がらせだよっ!」

 

 毒づくノーヴェ。カミキが全員に命令する。

 

「エックスを援護しろっ!」

「了解!!」

 

 全員がウルトライザー・カートリッジを消費して光のエネルギーをチャージ。

 

「てぇーっ!!」

 

 一斉に砲撃を放ったが、グリーザはそれをあっさりと弾いてダークサンダーエナジーで反撃してきた。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 カミキたちは後退を余儀なくされ、その間にグリーザがエックスに襲い掛かる。

 

―ギャオオオオオオオオ!―

 

 背面の四本の剣状の突起から腕へと超振動波を流し、エックスのボディに叩き込んだ。

 

「グワアアアァァァァァ――――――!」

 

 強烈な一撃に大きく吹っ飛ばされるエックス。

 

―ピポポポポポ……―

 

 グリーザは高熱火球を発射して追撃。エックスの姿が爆炎の中に隠れる。

 

「『――エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 しかしエックスもやられてばかりではなく、黒煙を突っ切ってエクシードエクスラッシュで反撃する。

 グリーザはそれに片腕を差し出して――エックスの突撃を止め、はね返した!

 

「グワァッ!」

 

 地面の上に叩きつけられるエックス。手からこぼれ落ちたエクスディッシュ・アサルトが地面に刺さり、通常形態に逆戻りした。

 

「ダイチーっ!!」

 

 絶叫するスバル。はやては青い顔でグリーザを見上げた。

 

「エックスの必殺技が効かなくなっとる……! 実体になりつつあることで、力が上がってるん!?」

「奴にも有利に働いてるということか……!」

 

 クロノが忌々しそうに舌打ちした。

 

―ギャオオオオオオオオ!―

 

 グリーザはエックスの前に立つと、彼の胸に両腕を突き立てて超振動波で攻撃し始める!

 

「ウワアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 エックスの悲鳴が轟く。ウェンディたちは大いに焦った。

 

「このままじゃまたやられちゃうっスよ!?」

「でも、どうすれば……!」

 

 ディエチが狼狽したその時のことだった。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「えっ!? 今のはグリーザからじゃない……!」

 

 突然、スバルのすぐ近くでゴモラの鳴き声が聞こえたのだ。スバルは思わず辺りを見回し、鳴き声の発生源が足元からだということに気づいた。

 

「まさか――マッハキャリバー! 今の、君から!?」

[Yes.]

 

 返答するマッハキャリバー。しかもそれだけではなかった。

 

『キイイイイイイイイ!』

「きゃっ!? クロスミラージュからも鳴き声が!」

『ギアァッ! ギギギィッ!』

「ストラーダからも!」

『ピポポポポポ……』

「ケリュケイオンからもです!」

 

 ティアナ、エリオ、キャロも声を上げた。この事態にヴィータが目を丸くする。

 

「どうなってんだ!? 何でグリーザに食われた怪獣たちの声が、スバルたちのデバイスから……」

 

 その疑問にマリエルがハッと気がついて回答した。

 

「聞こえる声は、デバイスが提供したデータから作ったモンスジャケットの怪獣のものだわ! 怪獣たちは、モンスジャケットを通して元のデバイスとつながりを持ってる。そのつながりを通して、グリーザの中からスバルたちに向けて呼びかけてるのよ!」

 

 スバルはゴモラの鳴き声を聞き止めると、ある考えが天啓のように浮かんで、マッハキャリバーに問いかけた。

 

「マッハキャリバー! ゴモラたちがどこから声を発してるか、突き止められない!?」

 

 返答は立体モニターによってだった。その中に現在のグリーザの全体像が表示され、胸部のコアの中心が赤く光っていた。そこから声が届いているのだ。

 ティアナたちにも同じ結果が現れると、スバルは三人に向かって告げた。

 

「これをダイチに知らせようっ!」

「ええ!」

 

 四人は直ちに、デバイスたちがもたらした情報をエクスデバイザーへ発信した。

 

 

 

『「うぅぅ……!」』

 

 エックスの中で、ダイチも超振動波に苦しめられている。その面前に四つのビジョンが浮かんだ。スバルたちの送った怪獣たちの居場所だ。

 更にスバルたち自身がダイチに呼びかけた。

 

『ダイくん、聞こえる!? ゴモラたちの声がっ!』

『ギャオオオオオオオオ!』

『みんな、あなたに助けてもらいたいって言ってるわ! その気持ちが伝わってくるの!』

『キイイイイイイイイ!』

『ダイチさんの想いが、怪獣たちにも届いてたんです!』

『ギアァッ! ギギギィッ!』

『立って下さい! そしてみんなを救い出してっ!』

『ピポポポポポ……』

 

 ダイチは八つの声に、目を見開いた。

 

『「みんな……!」』

 

 ダイチは、怪獣たちと友達になろうと重ねた努力を思い出した。それによって――ダイチに強い力が宿る。

 

『「ありがとう! みんな――共に生きようっ!」』

 

 ダイチの発奮はエックスにも伝わり、エックスはグリーザを突き飛ばすとエクスディッシュに手を伸ばして拾い上げ、素早く懐に潜り込み――もたらされた情報を元に、コアの一点にエクスディッシュを突き刺した!

 

「デェヤッ!」

 

 突き刺されたコアがスパークし――デバイザーに直接ゴモラの鳴き声が届いた。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

『「ゴモラっ!」』

『応えてるんだ! ダイチの声にっ!』

 

 エクシードXが解かれて元のエックスの姿に戻り、エクスディッシュが――グリーザの体内に入り込んでいった。

 すると――グリーザのコアから膨大な光が噴出し、その光の奔流に乗って奪われたスパークドールズが解き放たれていく。

 

「やったぁぁぁーっ!」

「成功だわ……!」

 

 そして解放されたスパークドールズは全て、エックスのカラータイマーの中に入っていった。

 

「テェェェアッ!」

 

 エックスの中に入ったスパークドールズはデバイスカードに変化して、ダイチの周りを囲んで輪を成した。

 

『怪獣たち……私に力を貸してくれるのか!?』

『ギャオオオオオオオオ!』『キイイイイイイイイ!』『ギアァッ! ギギギィッ!』『ピポポポポポ……』

『グバアアアア!』『ケエエオオオオオオウ!』『ギャアオオオオオオウ!』『グワアァァァ! ピィ――――!』『グアアアアァァァァ!』『グロオオオオオオオオ!』『ガアアアアアアアア!』『グバアアアア!』『グオオオオオオ!』『アアオオウ! アアオオウ!』『グビャ――――――――!』『ウアァァァッ!』『ピッギャ――ゴオオオウ!』『ガガァッ! ガガァッ!』

 

 怪獣たちの声に囲まれるダイチ。そしてなのはたち人間の仲間は、ダイチとエックスに期待と信頼の眼差しを向けていた。

 ダイチは顔を輝かせながら唱えた。

 

『「……みんなで終焉を打破しよう! 一緒にユナイトだっ!!」』

 

 エクスデバイザーに怪獣たちのカードが集まり、一斉にリード。それによってエックスの身体が新たなるジャケットに包まれていく。

 右肩と胴体部はゴモラキャリバー、左肩はエレキングミラージュのパーツに覆われた。左手はベムラーダの槍を握り締め、右腕はゼットンケイオンのアームに包まれ、その手でエクスディッシュを掴んだ。そうして完成したのが!

 

「『ストライカーズジャケット!! セットアップ!!」』

 

 なのはたちはエックスのジャケット姿に驚き、ほれぼれと見上げた。そしてカミキが口を開く。

 

「そうか……! 預言の『八つの、数多の命を伴いし時』とは、これを指し示していたのかっ!」

「『八つの命』は、ダイチとエックスを導いたスバルたちと四体の怪獣のこと……! 『数多の命』は、あのジャケットを作り上げた怪獣たち……!」

 

 クロノがカミキの後を継いで語った。

 

―フェッフェッフェッフェッフェッ……!―

 

 グリーザは全身から無数の光弾を放ち、エックスを取り囲ませて一気に攻撃を加える。だが今のエックスは、最早何事にも揺るぎはしない。

 

「テェェェェェアッ!」

 

 超振動波、電撃、ベムラーダ、ゼットンケイオンの腕が握るエクスディッシュ。持てる武器を全て振るって次々光弾を打ち消していく。

 なのはが仲間たちに振り返って告げた。

 

「『数多の命』は、わたしたちもだよ! 最後の力を出し切って、エックスを援護しよう!」

 

 カミキがうなずいて命令する。

 

「総員、グリーザの攻撃を狙え! 全て撃ち落とすぞっ!」

「了解!!」

 

 皆が文字通り残された力を振り絞る。はやてとシグナムも今一度リインフォースとアギトとユニゾンし、光弾目掛けて皆が攻撃を繰り出した。

 

「ディバインバスター!!」

「ヴァリアブルシュート!!」

「ブラストレイ!!」

「スティンガーブレイド!!」

「コメートフリーゲン!!」

「シュツルムファルケン!!」

「フレースヴェルグ!!」

「プラズマスマッシャー!!」

「エクセリオンバスタぁぁぁ―――――っ!!」

 

 様々な魔法攻撃、カートリッジを使い切るまでのウルトライザーシュートの末に、数え切れない量があった光弾は全てかき消された。

 

「シェアァッ!」

 

 そして辺り一面に散布された魔力は、ジャケットを光り輝かせたエックスへと引き寄せられて集まっていく!

 それを見てなのはとスバルが感極まったようにつぶやいた。

 

「わたしたちの力も、エックスと一つになる……!」

「あたしたちも、ユナイトする……!」

 

 叫ぶダイチ。

 

『「行くぞみんなっ!!」』

 

 エックスが虹の輝きとともに振りかぶっていき、エネルギーを最大にチャージ!

 

「『ウルティメイトザナディウムっ!! ブレイカァァァァァ――――――――っっ!!」』

 

 ジャケットの中央から、X状の集束砲撃が一直線に放たれた!

 超々エネルギーの極大光線が、グリーザを撃つ!

 

―ア……アハハハハ……ハハハハハハ……!」

 

 光線を浴びせられるグリーザがガクガク揺れる。

 

『いけるぞ、ダイチっ!』

『「ああ! そしてこの一投で、未来を切り開くっ!!」』

 

 エックスはその場で一回転しながら、右手のエクスディッシュを、

 

「『エクスラッガーっっ!!」』

 

 グリーザに投擲した!

 投げ飛ばされたエクスディッシュがグリーザを貫いた!

 

「ハハハハハッ――!!」

 

 グリーザは一瞬姿がはっきりと固定されると、すぐに一点に圧縮されていき――そのまま大爆発を起こした!

 凄まじい爆炎が立ち昇り――無になっていた空間が元通りになり、二度と虚無にはならなかった。

 

「やぁっっっっったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 エックスの勝利を見届けたなのはたちは大歓声を上げ、跳びはねたり互いに抱きついたりしながら喜びを分かち合った。スバルはエックスを見つめて、満足げにうなずいていた。

 エックスの身体からストライカーズジャケットが解除される。そしてダイチの手の中には、ゴモラのスパークドールズが戻っていた。

 

『「ゴモラ……!」』

 

 またダイチの周囲に、カードから戻ったスパークドールズたちが漂っている。

 

『やったな、ダイチ!』

『「ああ……!」』

 

 エックスに首肯したダイチは、怪獣たちに胸いっぱいの気持ちを告げた。

 

『「みんな……ありがとう……!」』

 

 そしてダイチの目の前に現れたのは――。

 

『「父さん……? 母さん……!」』

 

 懐かしき、両親の姿であった。

 

『よくがんばったね、ダイチ!』

『いい仲間を持ったな』

 

 両親の言葉にダイチは笑顔でうなずき、ユナイトを解除していった――。

 

 

 

 状況が終了すると、なのはの元にヴィヴィオからの通信が入った。

 

『やっとつながった! なのはママっ!』

「ヴィヴィオ……!」

『なのはママ……戦いは、どうなったの……?』

 

 恐る恐る尋ねたヴィヴィオに、なのはは微笑んで告げた。

 

「――戦技披露会での勝負、負けないからねっ!」

『!! ――うんっ! こっちこそ!』

 

 ヴィヴィオは感涙を浮かべながらも、力いっぱいにうなずき返した。

 半壊したXioベースの瓦礫の山が、かすかに動く。

 そして瓦礫が下から押しのけられ、グルマンが飛び出てきた!

 

「ぶっはぁーっ! 死ぬかと思ったっ!」

「博士ー!! 生きてたんですねー!」

 

 そこにシャーリーが駆け寄っていき、思い切り飛びついた。その後にマリエルも歩いてくる。

 

「よかったぁ……!」

「わっはっはっ、この天才はそう簡単にはくたばらんさ! ――おおマリー、帰ってたのか」

「はい、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

「なぁーに構わん構わん! ……ん?」

 

 グルマンがふと振り返ると、その方向からダイチが歩いてきた。

 

「ダイチっ!」

「あっ! ダイチだ!」

「ダイチさん!」

 

 スバルが気づくと、他の面々もダイチの元まで駆け寄っていった。

 ダイチは彼らの顔を見渡して、口を開いた。

 

「スバル……みんな……ありがとう。みんなのお陰で最後まで――」

 

 しかし話の途中でスバルにエクスデバイザーをひったくられた。

 

「もぉ~ビックリしたよぉエックス。まさか本物のエックスだったなんて」

 

 次いでハヤトがデバイザーを横取りする。

 

「この野郎、何で俺じゃなくてダイチなんだよ」

「それを言うなら俺だって選んでほしかったぜ!」

 

 ワタルがぶーたれていると、チンクが首を傾げた。

 

「さっきから疑問だったが、みんな何の話をしてるんだ?」

「ああ、チンク姉は知らなかったんだっけ」

「後でゆっくり教えてあげるね」

 

 ノーヴェとディエチが苦笑し、ウェンディはハヤトからデバイザーを取り上げた。

 

「エックスー! お次はあたしとユナイトするっスよー!」

『是非とも!』

「えー!? いいんだ! 羨ましいな!」

「わたしともユナイトして下さい、エックスさん!」

 

 エリオが驚き、キャロが手を挙げて主張した。それに便乗するルーテシア。

 

「だったら私ともお願い!」

「リインともしてほしいですー!」

「だったらわたしともっ!」

「なのは!?」

「なのはさん、案外そういうの好きだったんですか……!?」

 

 なのはまで加わるので、フェイトやティアナが唖然とした。

 自分を置いて皆で勝手に盛り上がっているので、ダイチがウェンディからデバイザーを取り返した。

 

「ちょっと! みんな俺の話聞いてよ!」

 

 しかしカミキとクロノに叱りつけられてしまう。

 

「ダイチ! お前はまた勝手な行動を取り、チームに多大な迷惑を掛けた! おまけにずっとエックスのことを黙秘していたとは実にけしからん!」

「エックスと出会ってから今までのこと、今日中に全て報告書にして提出するように」

「す、全てぇ!?」

 

 ショックを受けて天を仰いだダイチをスバルが慰める。

 

「元気出して。あたしが手伝ってあげるから」

 

 そんな風に話していると、不意にエックスが全員に呼びかけた。

 

『皆さん。こんなダイチですが、これからもお手柔らかに頼みます』

 

 スバルたちはそれに、朗らかに微笑んでうなずいたのだった。

 

「よし! Xio総員、基地の損害状況の把握と……後片付けだ」

 

 カミキの指示にウェンディがギョッとした。

 

「えー!? 休憩しましょうよ隊長ー! もうクタクタっスー!」

「文句言うな。基地機能は早く回復しなければならないんだ」

 

 クロノにたしなめられて、ウェンディはとほほと肩を落とした。それで周りが苦笑する。

 

「よし、行くぞ!」

「了解!」

 

 Xioの隊員たちは半壊した基地に引き返していく。はやてはカミキを追いかけて申し出た。

 

「どうせだから基地の片付け、わたしたちも手伝います」

「何から何まですまないな。感謝する」

 

 アギトはシグナムにからかい混じりに呼びかけた。

 

「ところでシグナム、お前ダイチがエックスだってこと、剣の稽古までつけておいて気がつかなかったんだな」

「むぅ……太刀筋で人を見抜けないとは、私も修行が足りないだろうか……」

 

 シャマルはヴィータ、ザフィーラと話す。

 

「一番に必要なのはメディカルルームの復旧ね。みんなちゃんと手当てしないと。二人とも、お手伝いしてちょうだい」

「オッケー」

「ああ、了解だ」

 

 ルーテシアはエリオとキャロ相手にこう言っていた。

 

「さて、私はまたインターミドル頑張らないとね。全く休む暇もないわー」

「わたしもまた今晩からトレーニングしなきゃ!」

「もう早速そっちに戻るの?」

「なのはさんはいつだって平常運転ですね」

 

 苦笑するフェイトとティアナ。こんな風に皆で談笑していることに、空間モニター越しにアインハルトとヴィヴィオが微笑んだ。

 

『私たちの未来は、まだまだ続いていくんですね』

『はい! わたしたちも基地のお片付けに参加しましょう!』

 

 そしてダイチは、エックスに対して告げた。

 

「エックス、最高のユナイトだったね!」

 

 エックスはダイチにこう返す。

 

『ダイチ……空を見てみろ』

 

 ダイチが空を見上げると――オペレーションベースXの空に丸虹が架かっていた。

 虹の輝きは彼らの行く先をまばゆく照らしているようであった――。

 

 

 

 ――基地の後片付けの後、スバルにも手伝ってもらってどうにか報告書を纏め上げたダイチは、彼女と基地の屋上に上がって星空を見上げていた。

 

「ところでダイくん、あたし一つだけ気になってることがあるんだけど」

 

 スバルがふと尋ねかける。

 

「何? スゥちゃん」

「エクスディッシュのこと。エクスディッシュがダイくんのお母さんが発掘したものだったってのは分かったけど……あんなにすごいもの、そもそもどこの誰が作ったのかな?」

 

 スバルはエクスディッシュの能力と、起こしてきた奇跡の数々を振り返ってそんな疑問を抱いていた。

 

「無を有に変えるなんて、本当の意味での魔法のような力……いくらロストロギアでも、人間が作ったものとは思えない。しかもそれがミッドから発掘されて、ダイくんたちの手に届いたのは、あたしには偶然じゃなくて運命だったように感じられるの。エクスディッシュを作ったヒトって、もしかしてこうなることが分かって作ったんじゃないのかな?」

「……エクスディッシュに纏わる事実は、もう解き明かすことは出来ないだろう。母さんの研究結果は、虹の彼方に行ってしまったからね」

 

 ダイチはスバルの疑問に答える。

 

「ただ、これは何の根拠もないことなんだけど……はるか昔にも、エックスみたいなたくさんの人や世界の平和を愛する存在がいたんじゃないかな。その誰かが、母さんみたいに未来からの電波から、未来の危機を知り……俺たちの未来を導くエクスディッシュを用意してくれた。……そんな風に思えてならないんだ」

『ダイチ、私もその意見に概ね同意だ。エクスディッシュには、誰かの優しさと慈しみがこもっている……。私にもそう感じられたんだ』

 

 エックスがダイチの意見を支持した。

 

「エックスもそう思うんだね。だったらきっと、本当のことだね」

「未来……あたしたちの未来、か……」

 

 スバルがつぶやき、ダイチに呼びかける。

 

「ダイくん、前に言ってたよね。星はいつも人間を見守ってるって」

「ああ」

「……未来の向こうでは、人間ははるか彼方の星にも行けるくらいに進歩してるかな」

「してるさ。俺たちがつないだ未来なんだから……!」

 

 ダイチは熱を込めて、断言した。

 

「そうだよね……! あたしたちの未来、今よりももっとすごい、素敵なものにしていこうねっ!」

「ああ……!」

 

 ――広大な宇宙を挟んで臨み合う星と大地のように、スバルとダイチは向き合って約束し合うと、まだ見ぬ明日に想いを馳せて星空を見上げた――。

 

 

 

 

 

光輝巨人リリカルなのはX

 

 

 

 

 

 

 

 




 Xioの仲間たち、管理局のみんな、そしてエックス。俺、みんなと一緒に戦えてよかったよ! でもまだ終わりじゃない。俺たちの可能性は、未来にどこまでも続いていくんだ!





次回、番外編『侵略者現る!なの』







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番外編
侵略者現る!なの


 

 虚空怪獣グリーザが撃退され、次元世界の明日が取り戻された運命の日の、翌日。激戦を終えて日常に帰ってきたなのはは、無限書庫を訪問していた。

 その司書長室で、なのははある人物と対面する。

 

「お帰り、なのは。こうしてまた会えることが出来て、本当によかったよ」

「ただいま、ユーノくん。わたしも、これまでの積み重ねと、今この時間が無くならなくてよかったって思ってる」

 

 丸眼鏡を掛け、長い後ろ髪を束ねた好青年。無限書庫の司書長であるユーノ・スクライアである。

 そしてこのユーノこそが、十四年前のロストロギア、ジュエルシードを巡る事件の中で、当時次元世界のことを何も知らない地球の一般人だったなのはを見出し、エースオブエースの尊称で呼ばれる魔導師になるきっかけを作ったその人なのである。今ではお互い別の道に進んでいるが、なのはにとっては現在でも、フェイトやはやてと並ぶ、最も信頼している仲間であり心からの親友の一人なのだ。

 ユーノがお茶を出し、面と向かって椅子に腰を落とすと、ユーノが口を開いた。

 

「それにしても、ウルトラマンエックスか……。彼がミッドに来てくれなかったら、次元世界は間違いなく滅亡してただろうね。僕たち人間の力だけでは、『虚無』を倒すことなんてとても出来なかった……。あれこそ奇跡だ」

「うん……。エックスさんにはこれまでも何度も助けてもらった。ダイチくんの進む道の先も見せてくれた。光の巨人って、よく言ったものだよね。まさしく、たくさんの人の未来に光を射す英雄……」

 

 お茶に口をつけて喉を潤したなのはが、少し遠い目をしながらつぶやく。

 

「ウルトラマンか……。――その存在は、現実のものだったんだね。エックスさんが初めてわたしたちの前に現れた時、それを知ってすごく驚いたの」

「なのはは『あの時のこと』、夢だと思ってた?」

「そういう訳でもないけど、内心では半信半疑だったんだよね。何せあれからもう十四年も経ってたし……『あのウルトラマン』は、あれきり二度と姿を見せなかったんだもの」

「ああ、そうだね。実を言うと僕も、時間が経つ内に、『あの出来事』は現実のことだったのか、自信がなくなってたんだよ」

 

 ユーノも宙を見つめて、過去の記憶に思いを馳せた。

 

「……わたしたちが十四年前にウルトラマンに会ってたって言っても、誰も心から信じないだろうね。フェイトちゃんだって」

「ああ。『彼』に会ったのは、僕となのはとレイジングハートだけだものね。公式非公式問わず、『彼』がいたという証拠は記録には全くない。今となっては、僕たちの記憶の中にしかその姿がないウルトラマン……」

「エックスさんの他にも何人かのウルトラマンがミッドにやってきたけど、『あの人』はいなかった……。『あの人』は今、どこにいるんだろうね?」

「宇宙はどこまでも広いんだ。きっと、僕たちが知らないどこかの世界を飛んでるんだろうね」

「……また、会えるかな。『あの時』のお礼が言いたいんだけど……」

「……どうだろう。会えるといいんだけど……」

 

 なのはもユーノも願う。十四年前、自分たちが出会った『ウルトラマン』と、再会する時がやってくることを……。

 

 

 

 

 

光輝巨人リリカルなのはX 番外編

 

『侵略者現る!なの』

 

 

 

 

 

 ――新暦で言うところの65年、十月末。当時ヴィヴィオとほぼ変わりない年頃であった高町なのはは、激動のジュエルシードを巡る戦い、いわゆるPT事件を終え、地球の海鳴市で平穏な生活に戻っていた。――もう一か月強ほどしたら、今度は闇の書を巡る戦いに巻き込まれることになるとは、この時の彼女は思いもしていなかった。

 それはともかく、この時点のなのはは、度重なる激突の末に友情を結んだフェイト・テスタロッサと再び会える時が来ることを信じて、今朝も魔法の練習に勤しんでいた。

 

「――ディバインシューター、シュート!」

 

 早朝の無人の高台の公園で、宙に放り投げた空き缶に連続で誘導式魔力弾を連続で当て、落とさないようコントロールする練習を行うなのは。……しかし途中までは上手く行っていたのだが、

 

[Fifty-five. Sixty. Sixty-four――]

 

 レイジングハートのカウントが64まで来たところで、空き缶を弾き損ねて地面に落としてしまった。

 

「あっ……! うーん、これ難しいなぁ……」

 

 失敗してやや落ち込むなのは。それをユーノが慰める。

 

『気にしないで、なのは。誰だって最初から上手く出来るものじゃないよ。特に誘導制御はつまずく人が多いし。練習を重ねていけばいいだけさ』

「ありがとう、ユーノくん」

 

 なのはが受け答えしたユーノは――人間ではなくフェレット型の生物の姿だった。

 ユーノは地球に初めてやって来た際に、暴走したジュエルシードの攻撃によって重傷を負い、生命力の大半を喪失したために魔力消耗の少ない小動物の姿になり、その状態でなのはと出会ったのだった。それからなのはの側についているために高町家に滞在する都合上、海鳴市の土地では動物の姿で過ごすようにしているのである。

 本日の朝の練習を終わらせ、空き缶をゴミ箱に捨てたなのはが、ユーノに尋ねかける。

 

「フェイトちゃんの最終公判って、十二月の頭だったっけ」

『うん。でもあと二週間とちょっとしたら、僕も証人として出廷するために本局に行くから。しばらく留守にすることになるね』

「そっかぁ。ユーノくんもいなくなると、ちょっと寂しくなるね……」

『なに、またすぐに会えるよ。裁判もほぼ勝訴で決まってるし、帰ってくる時にはきっとフェイトも一緒だよ』

「ほんと!? 待ち遠しいな。早く会いたいなぁ、フェイトちゃん……」

 

 今は遠く、管理局本局にいるフェイトを想って、青空を見上げるなのは。しかしふとあることを思い出して、話題を変えた。

 

「――そういえば、昨日やってたテレビ覚えてる? 宇宙人特集っていうの」

 

 昨晩点けたテレビで、なのははたまたま放送していた『宇宙人は既に地球に来てるのか!? その謎に迫る!』という特番を目にしていた。

 

「魔法が本当にあったんだから、宇宙人も実在するのかな。それとも、魔法とはまた別の話だからいないのかな。ユーノくんはどう思う?」

『いるよ、宇宙人』

「そっかぁいるんだぁ。――えぇっ!?」

 

 ユーノが当たり前のように答えたので一瞬流しそうになったが、なのはは驚愕して振り返った。

 

「いるの!? 確定なの!? ど、どうしてそう言い切れるの!? まさか、ミッドには宇宙人がいるのも当たり前だったり!?」

『ちょっと、落ち着いてなのは。説明するから』

 

 興奮して顔をアップにするなのはに苦笑いしたユーノが、短い前足を振って落ち着かせた。

 

『まぁ話すとちょっと長い話になるんだけどね。まず、ほんの一年前に、ミッドを中心にウルトラ・フレアという次元をまたいだ大事件が起きて……』

「ウルトラ・フレア?」

 

 ユーノは語った。一年前、ウルトラ・フレアを引き金としてロストロギア、スパークドールズから超巨大未確認生命体「怪獣」が次元世界中で実体化して、大混乱が発生したこと。そしてウルトラ・フレアによって次元の壁が不安定になったことで、様々な宇宙人がミッドチルダを始めとした次元世界に飛来するようになったことを。

 これを聞いたなのはは、ポカンと口を開いて驚き呆れた。

 

「……たった一年前に、そんな大きなことが起こってたなんて……」

『知らないのも無理はないよ。怪獣は管理外世界には出現してないから。まぁそれが不幸中の幸いだったね。管理世界だけでも、管理局は鎮圧で手一杯だったんだ。管理外世界にまで現れてたら、下手したら管理局存亡の危機だったかもしれない』

「そうだったんだ……」

 

 なのはは、自分の知らないところで大勢の人たちが苦しんでいたということを知って胸を痛めた。それを察して慰めるユーノ。

 

『なのはが気に病むことじゃないよ。それより話を戻すけれど、そういうことで異星の人間に当たる種族、いわゆる宇宙人の存在が確認され、管理局は彼らと接触、対話を行うようになったんだよ』

「なるほどぉ。実在する宇宙人かぁ……一度でいいから会ってみたいな」

 

 まだ見ぬ宇宙人に興味を駆り立てられたなのはは、彼らがどんな存在なのか想像を働かせた。

 

「宇宙人って、普段どんなことをして過ごしてるんだろう。テレビでやってたみたいに、キャトルミューティレーションしたりとかミステリーサークル作ったりとかするのかな」

 

 そうだったらちょっと怖いかなぁ、とつぶやいていると、ユーノはまた苦笑した。

 

『いやいや、そんなのはテレビの中だけの話だよ。宇宙人とは言っても、彼らの精神性は僕たちと大差ないよ』

「えっ、そうなの?」

『うん。いい人もいるし、反対に悪い犯罪者もいる。だけど僕たちの理解を超えたような、不条理な行動や思考をする種族は確認されてないよ』

「なぁんだ。ほっとしたような、ガッカリなような、ちょっと複雑な気分」

『現実ってそういうものさ。ミッドチルダだって、『魔法』という言葉を使ってはいるけど、実態はメルヘンの国なんかじゃなくて、社会制度なんかはこの世界とほぼ変わりないしね』

 

 すっかり話し込んでいることに気づいたユーノが、雑談を打ち切る。

 

『それじゃ、そろそろ帰ろうか』

「うん」

 

 だが帰り支度をしようとしたその時、レイジングハートがいきなりなのはに告げた。

 

[My master, I picked up a distress signal.(マスター、救難信号を受信しました)]

「えっ!? 救難信号!?」

 

 なのなとユーノ、双方とも突然の報告に目を丸くして、レイジングハートへと駆け寄る。

 

『発信者は!? レイジングハートがキャッチしたってことは、管理局の次元船かい?』

[I can’t discern.(識別できません)]

『識別できない……!? 番号未登録の船か……?』

「ゆ、ユーノくん、その船に乗ってる人、危ない目に遭ってるの……? だったら早く助けないと……!」

 

 いきなりの事態に動揺しているなのはを落ち着かせるユーノ。

 

『待って、なのは。未登録ってことは、次元犯罪者の船かもしれない。とりあえず、発信源の座標を確かめよう。レイジングハート、頼んだよ』

[All right.]

『座標が分かったら管理局に通報して、後のことは彼らに――』

 

 ユーノがなのはに伝えている途中で、座標の特定をしていたレイジングハートが報せた。

 

[Caution. Emergency.(警告。緊急事態です)]

「えっ――」

 

 反応したその瞬間、なのはとユーノ、レイジングハートは高台の公園から、一瞬にしてかき消えた。

 

 

 

 そしてなのはたちは気がつくと、薄暗い部屋の中にいた。壁も天井も無機質な金属製で、見たことのない場所であった。

 

「ふえっ!? ここどこ!?」

『どうやら僕たちは、強制転移されたみたいだ……』

 

 目を見張って辺りを見回したなのはに、肩の上まで駆け上がったユーノが冷静に分析して答えた。

 そのなのはは機械の台の上に乗っている。

 

『これが転移装置みたいだ。恐らく、救難信号をキャッチしたことに反応して、僕たちを無理矢理ここに連れてきたんだ。強引なことするなぁ……』

「ということは、ここは船の中?」

『だろうね。でも、どこの誰の船なのかまでは分からない。どんな危険が待ち受けているのかも……』

 

 危惧したユーノは、なのはに注意を促した。

 

『気をつけて、なのは。ここからはバリアジャケットを装着して進もう』

「分かった。レイジングハート!」

 

 なのはがレイジングハートを手の平の上に掲げる。

 

[Stand by, ready. Set up.]

 

 レイジングハートが輝くと、なのはは桃色の魔力光に包まれ、着用している服が消えるとともにバリアジャケットが構築された。レイジングハートも待機状態から、杖のような形状へと変化して、なのはに握られる。

 変身を完了すると、なのはとユーノは部屋の扉を開けて外の通路に出た。周囲には動くものの気配はどこにもなく、不気味な静寂が辺りを包んでいた。

 なのはたちはそれでも警戒を怠らずに、ゆっくりと通路の先へ進んでいった。その道中で、壁や天井の内装を観察したユーノが述べる。

 

『見たことのない様式の建造だ。これはもしかしたら、ミッドどころか次元世界の文明による船ではないのかもしれない』

「えっ? それって……」

『要するに全く異なる文明……異星人の宇宙船の可能性が高いということだよ』

「宇宙船!?」

 

 ユーノの言葉に、流石のなのはも驚きを隠せなかった。一方でユーノは考え込む。

 

『けれど仮にそうだとしたら、どうして管理外世界にいるのか……。そして救難信号を発した理由は何なのか……。調べるために、船の操舵室を探そう。そこなら船のメモリーにアクセスできるはずだ』

「うん」

 

 しばらく探し回っている内に、なのはたちはそれらしい場所へとたどり着いた。天井から鎖が垂れ下がる中に一つの回転椅子があり、宇宙船なのに古典的な操舵輪に面している。

 

「ここが操舵室みたいだね……」

『ああ……。なのは! 気をつけて!』

 

 突然警告するユーノ。なのはの目の前にある椅子が音を立ててゆっくりと回転し、明らかに人間とは異なる容姿の怪人が彼女たちの前に現れた。

 

「う、宇宙人っ!」

 

 生まれて初めてお目に掛かる宇宙人になのはは一瞬驚愕し、我に返るとレイジングハートを構えて警戒を深めた。相手が攻撃してくるかもしれない。

 しかしここでユーノが告げる。

 

『待った、様子がおかしい。……あの異星人から、生体反応が感じられない……?』

 

 魔法で椅子に座ったままぴくりともしない宇宙人のバイタルを確認したユーノは、結論づけた。

 

『残念だけど、既に事切れてる。何があったかは知らないけど……僕たちは間に合わなかったみたいだね』

「……お亡くなりだったんだ……」

 

 死体だったことを知り、なのははレイジングハートを下ろして黙祷を捧げた。それから操舵室のメインモニターの前に立つ。

 

『これがこの宇宙船のコントロールパネルか。ここで何が起きたのか、分かるといいんだけど……』

 

 コンソールらしきパネルの上に飛び乗ったユーノは、注意深くいじりながら操作を試みる。するとモニターに光が灯って、荒廃した大地の景色が映し出された。

 

「これは?」

『宇宙船の外の光景……つまり今の僕たちがいる場所の映像みたいだ。けれど……何てことだ……!』

 

 外の大地にクレーターがいくつも見られることに、ユーノが冷や汗を垂らした。

 

『ここは地球じゃないぞ。宇宙船は月面の上にいる。僕たちは、月まで飛ばされてきてしまったんだ!』

「えぇーっ!?」

 

 ギョッと目を丸くするなのは。

 

「こ、ここって月だったのぉ!? そんなところに来ちゃって、わたしたち帰れる!?」

『宇宙船を動かすことが出来れば……最悪、管理局に連絡して救助船を回してもらおう。とりあえず次は、この宇宙船に何が起こったかだ』

 

 ユーノが更にパネルを操作すると、モニターの映像が切り替わり、文字の羅列が次々表示された。

 

「今度は何?」

『航行日誌みたいだね。これを解読すれば、きっとこの船の情報が得られるよ。使用されてる文字は……よかった、汎宇宙語だ。これなら解読可能だ』

 

 ユーノが文章の内容を解読し、なのはにも分かるように読み上げていく。

 

『シルバック歴74617。本船はシルバック星を旅立つ。積荷はシルバック鉱石。これより太陽系を経由して、新ラセスタ星を目指す……。この宇宙船は普通の輸送船だったみたいだね。その輸送の途中で、太陽系を通りがかった……そこで何か不測の事態が起きた、ということかな』

「太陽系で何か起きたって……わたしたちの宇宙で、そんな危険なことが起こるの?」

『どうだろう。日誌は、しばらくは至って平凡な内容だ。最後の方まで飛ばそう……』

 

 ユーノが文章を飛ばしていって、最後の段落のところで止めた。

 

『太陽系第三番惑星宙域にて緊急事態発生。本船は外敵の襲撃を受ける。襲撃!?』

 

 ユーノとなのはが同時に驚愕に染まった。

 

『振り切れない。もう駄目だ。バルタン星人だ。……日誌はここで終わってる』

「バルタン星人?」

『僕にも分からない。けれどどうやらその襲撃者の攻撃で宇宙船が月面に墜落して、僕たちが救難信号を拾ったというのが真相みたいだ……』

「待って、ユーノくん。ということは……そのバルタン星人というのは、まだどこかにいるってことなんじゃ……。ひょっとしたら、この船の中に……」

 

 二人の顔色が一気に青ざめた。――その瞬間に、レイジングハートが声を発した。

 

[Caution.]

 

 背後からガタンッ、と物音がして、なのはたちが咄嗟に振り返ると――物言わぬはずのシルバック星人の死体が、椅子から立ち上がってなのはの方に迫ってきた。

 

「アァァァァァァイィィィィィィ……!」

「ひっ!?」

『なのは! 攻撃だ!』

 

 促すユーノだが、なのはは犠牲者の死体を撃っていいものかと一瞬躊躇った。そのためユーノは急かす。

 

『遠慮するな! 嫌な予感がするんだ!』

「……ディバインシューター!」

 

 決心したなのはが複数の魔力弾を放ち、シルバック星人に浴びせた。攻撃を食らったシルバック星人の死体は弾き飛ばされ、椅子の上に戻された。

 なのはが後味の悪さを感じて黙っていると、ユーノが辺り一帯に向かって叫んだ。

 

『今の死体を動かしてた奴がいるんだろう! 隠れてないで出てこい!』

 

 すると魔力弾の直撃を受けたはずのシルバック星人が、再び椅子から立ち上がった。

 なのははレイジングハートを向け直したが――シルバック星人はすぐにその場にバタリと倒れ、その身体から抜け出たかのように、別の姿をした宇宙人が代わりに立っていた。

 

「フォフォフォフォフォフォ……!」

 

 セミのような口吻が顔の中央にあり、節足動物と人間を混ぜ合わせたかのような奇怪な姿形。だが一番目立つのは、両手の部分にある巨大なハサミだ。

 この宇宙人が、なのはたちに向かって淡々と告げた。

 

『我々は……バルタン星人……!』

 




 




次回、『やってきた光の巨人なの』







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やってきた光の巨人なの

 

『いるよ、宇宙人』

「実在する宇宙人かぁ……一度でいいから会ってみたいな」

「救難信号!?」

『どうやら僕たちは、強制転移されたみたいだ……』

「う、宇宙人っ!」

『僕たちは、月まで飛ばされてきてしまったんだ!』

『もう駄目だ。バルタン星人だ』

「フォフォフォフォフォフォ……!」

『我々は……バルタン星人……!』

 

 

 

 

 

光輝巨人リリカルなのはX 番外編

 

『やってきた光の巨人なの』

 

 

 

 

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォ……!」

 

 バルタン星人と名乗った、人間とは全てが異なる外見の宇宙人は、両腕のハサミを垂直に立てて小刻みに上下に動かす。

 

「……!」

 

 なのはは冷や汗を垂らしながら、レイジングハートを握り締めてバルタン星人を警戒していた。……シルバック星人の日誌が正しいのならば、目の前にいるのは彼らを襲撃し、殺害した危険な宇宙人ということになる。なのははバルタン星人の異様な外見も相まって、内心恐れを抱いていた。

 するとなのはの方の上から一瞬閃光が焚かれ――なのはをかばうように少年の姿、本当の姿に変わったユーノが前に立った。彼もまたバルタン星人を警戒し、もしもの場合は全力で応戦できるようにしたのだ。

 ユーノは開口一番に問いかける。

 

「バルタン星人……あなた方が地球の近くまで来た目的は何だ?」

 

 質問を受けつけるつもりすらないかもしれないと危惧したが、バルタン星人は意外にも丁寧に質問に答え始めた。

 

『我々は、母星を失った流浪の種族』

「母星を失った?」

『母星は、発狂した個体の核実験によって爆発、消滅した。爆発から逃れた我々は、それ以来生存できるような天体を探して宇宙を巡っている。その末に、君たちが地球と呼ぶM240惑星宙域へとやってきた』

 

 故郷を無くした、と語ったバルタン星人に、なのはは同情の念を覚えた。帰る場所を失い、あてもなくさまよい続ける日々……。それはどんなに苦しい思いなのか、自分には想像することも出来ないと感じた。

 しかしユーノは続けて、こう尋ねかけた。

 

「だったらどうしてこの宇宙船を襲ったんだ? この船の日誌には、あなたたちに襲われたとあった」

 

 その言葉になのははハッと我に返り、バルタン星人を改めて警戒した。本当にシルバック星人を襲撃したというのなら……ただの放浪者ではないということになる。

 これに対するバルタン星人の返答は以下の通りだ。

 

『この宙域にまで来た際、我々の宇宙船の重力バランスが崩れて修理しなければならなくなった。そのため、修理に必要なダイオードをこの宇宙船から回収した』

「回収……奪ったのか!? 力づくで!?」

『必要だったからだ』

 

 ユーノは床の上に転がっているシルバック星人の遺体を一瞥すると、バルタン星人に憤りの目を向けた。

 

「百歩譲って強盗を良しとしても……何もこの船の人たちの生命まで奪うことはなかったんじゃないのか!?」

 

 そう非難すると……バルタン星人はまるで感情のない声音で答えた。

 

『生命。分からない。生命とは何か』

「え……!?」

 

 ユーノもなのはも、バルタン星人が何を言ったのか一瞬理解できなかった。

 

「生命が分からない……? あなたたちには、命の概念、生死の概念がないのか!?」

 

 バルタン星人は無言のまま。その沈黙が、肯定を示していた。

 冗談や酔狂で言っているのではないことは簡単に見て取れた。バルタン星人は……本気で「命」の意味が理解できないのだ。

 

「ユ、ユーノくん、どういうこと……? 命が何なのか分からないって、どんな考え方をしてるの……?」

「ぼ、僕にも分からない……。想像がつかない……! まさか、生命の意味を理解していない種族がこの世に存在するなんて……」

 

 なのはたちは、たたずんでいるだけのバルタン星人に言い知れぬ恐怖の感情を抱いた。――人は、理解の範疇を超えたものに恐怖を感じるのだ。

 しかもバルタン星人はこんなことを言い出した。

 

『我々の旅はこれで終わりだ』

「えっ、終わりって……」

『地球は我々にとって住み良い星であることが分かった。これより我ら、二十億三千万のバルタン星人は地球に移り住む』

「二十億三千万!?」

 

 あまりにもぶっ飛んだ人数を提示され、なのはたちは目玉が飛び出しそうな思いがした。

 

「そ、そんなデタラメな! どんな大きさの宇宙船なら、それだけの人数を収容できるんだ!」

『宇宙船の中では、バクテリア程度の大きさに縮小している。しかし地球に移り住む際には、全員元の大きさに戻す』

「そんなことされたら、地球は大パニックだよ!」

 

 なのはは十桁もの人数のバルタン星人が地球に降り立つ光景を想像して、思わず怖気が走った。しかもバルタン星人は生死の違いを理解できないような種族だ。そんなのが大挙してやってきたら、地球はどうなってしまうのか……考えたくもない。

 するとユーノがバルタン星人を制止するように呼びかけた。

 

「待った! 地球に移住するのはやめてほしい。代わりに、地球によく似た環境の世界を一つ紹介しよう! あなたたちの身体に環境が適すれば、地球じゃなくてもいいはずだ」

 

 なのははユーノの横顔に振り返る。

 

「ユーノくん、そんなこと言っちゃっていいの……?」

「次元世界には、自然豊かでも元々人間がいない世界もある。そういうところなら、バルタン星人も迎えられるはずだ。もちろん管理局と交渉する必要があるけど……」

 

 それは不可能ではない、とユーノは思っていた。そうすれば地球は救われ、バルタン星人側も土地を得られて万事解決だ。

 

「あなたたちが次元世界の法を遵守できるのなら、共存は十分に出来ます」

 

 なのはの故郷たる世界のために、熱心に説得するユーノ。

 が、

 

『共存。分からない』

「えっ……」

『種は強いものが栄え、弱いものを淘汰する。強いものが全てを独占する。それが世界の掟。他の種と共に存在する、そこに価値はない』

 

 バルタン星人の言葉に、なのはは青い顔になって反論しようとした。

 

「そ、それは違います! どうかわたしたちのお話しを聞いて……」

「駄目だ、なのは……!」

 

 だがユーノにさえぎられた。ユーノは冷や汗を垂らしながら告げる。

 

「いくら言っても無駄だ……! 「話」は通じても、「気持ち」が通じない……! そのために必要な「心」が、相手にないっ!」

 

 バルタン星人は、これで言いたいことは全て言ったという風に、最後に宣言した。

 

『我々はこれより全ての原住民を淘汰し、地球をもらい受ける』

 

 そしてこれ以上は話をするつもりはないとばかりに、なのはたちに背を向けた。するとユーノの手が動く。

 

「やむを得ない! 実力行使だっ! バインド!」

 

 手の平を差し向けて魔法陣を展開すると、バルタン星人の身体を魔力の鎖で縛りつけて身動きを取れなくした。

 

「ユーノくん!」

「地球には行かせないぞ! このままここで足止めをして、その間に管理局に通報を……!」

 

 そのようにしようとしたユーノだったが、その場で半回転して振り返ったバルタン星人は怪しい笑い声のような声を発すると、

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォ……!」

 

 その身体が左右に二つに分かれた。バインドもすり抜け、二体に増えたバルタン星人が自由になる。

 

「えぇっ!?」

「分裂した!? いや、分身か!? でも、バインドをすり抜けるなんて……!」

「フォッフォッフォッフォッフォッ……!」

 

 バルタン星人はそれで終わらない。二体が三体、三体が四体という風に瞬く間に数を増やしていく。増えたバルタン星人は青く半透明の姿でなのはたちの周りをグルグル歩くことで取り囲む。

 

「えっ!? えっ!? えぇぇ!? ユ、ユーノくん、これどうなってるの!?」

 

 あっという間に一人から数え切れない人数に増えてみせたバルタン星人を前に、なのはは混乱に陥っている。ユーノは必死でバルタン星人の分身の正体を暴こうと解析するが、

 

「わ、分からない! 増えた分は分身でありながら、全部に本体の反応がある! 虚像でありながら、同時に実体の反応もある! 駄目だ……術の正体が掴めないっ!」

 

 バルタン星人は邪魔をしてくるなのはたちを先に始末すると決めたようで、包囲している分身がハサミから光弾を発射して攻撃してきた。

 

「ひゃあっ!?」

「くっ……!」

 

 ユーノとレイジングハートでシールドを張ったことで、ギリギリ光弾を防ぐことが出来た。しかし防戦では、数の差で押し切られてしまうことだろう。

 そう判断したユーノがなのはに指示する。

 

「なのは、攻撃を!」

「で、でも……!」

「ここで僕たちがどうにかしないと、地球が危ういんだ!」

 

 説得され、なのはは躊躇いながらもバルタン星人に攻撃を加えた。

 

「ディバインシューター!」

 

 レイジングハートより数発の射撃魔法が放たれた。宙を切って飛んでいった魔力弾は無数のバルタン星人の一人に命中し、その一人がその場に倒れる。

 と思いきや、脱皮したかのように倒れた身体から新たなバルタン星人が立ち上がり、まるで効いている様子を見せなかった。

 

「フォフォフォフォフォフォ……!」

「えぇっ!?」

「攻撃も駄目か……!」

 

 自分たちの理解を超えた現象で捕獲も攻撃も無効化するバルタン星人に、なのはとユーノはすっかり追いつめられてしまっていた。

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォ!」

 

 そしてバルタン星人が再度光弾を発射してくる。

 

「危ないっ!」

 

 必死に防御を固めるユーノ。すると弾かれた光弾が宇宙船のコントロールパネルに命中し、コンピューターがショートを起こして激しく火花を噴出した。

 

「あっ……! ま、まずい……!」

 

 嫌な予感を覚えるユーノ。その予感は的中した。

 コントロールパネルが爆発。それが引き金となったか、宇宙船自体も自爆を起こした。

 

 

 

「きゃああぁっ!」

「なのはっ!」

 

 宇宙船がバラバラに吹っ飛び、なのはは月面に投げ出されそうになったが、ユーノが咄嗟に展開した宇宙用の特殊結界に守られ、命拾いした。

 

「ゆ、ユーノくん! わたしたち、宇宙空間にいるよ!」

「うん……。やってしまった……」

 

 二人は月面上、宇宙船の残骸の上に立っている形になった。結界がなかったら、一秒たりとも生存は出来ないという危機的状況に置かれる。

 しかも元々の危機は終わっていなかった。二人の目前のクレーターの中から、四十メートル級の巨人にまで巨大化したバルタン星人がぬっと立ち上がったのだ!

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォ……!」

「ひっ……!?」

 

 流石にひるむなのは。しかしバルタン星人は反対に身動きの取れなくなったなのはたちにはもう相手にしようとはしなかった。

 代わりに、頭上に浮かぶ青い惑星――地球に向かって飛び立っていく。

 

「!! ま、待って! 行かないでっ!」

「だ、駄目だなのは! 結界から出たら死んでしまう!」

 

 思わず追いすがろうとしたなのはをユーノが後ろから引き留めた。バルタン星人はなのはの叫びが耳に入っていないかのように、まっすぐ地球へ飛んでいく。

 

「やめてぇ! 地球を、わたしたちの町を……フェイトちゃんも帰ってくる場所を、滅茶苦茶にしないでぇっ!!」

 

 必死に願うなのは。頭上に青く輝くあの星には、自分の大切な人たちがたくさんいる。両親に兄と姉、友達、その家族、知り合った大勢の人たち、まだ知らないけれど友達になるだろう誰か……。そんな場所を壊されるなんて耐えられない。

 だが、なのはの願いも虚しくバルタン星人は止まらない。自分たちにはもうどうすることも出来ない。そのため、なのはは思わず叫んでいた。

 

「誰か、助けてぇぇぇっ!!」

 

 ――その時、ユーノがふと宇宙空間の一点を見上げて、そちらに視線を奪われた。

 

「何だ、あれは……赤い球が近づいてくる? 隕石か……?」

 

 なのはも同じ方向を見上げると――赤い球、としか言い表せないようなものが、流星よろしくこちらに近づいてくるのが見えた。――いや、正確には地球に向かいつつあるバルタン星人の方向へ接近していっている。

 そしてぐんぐん近づいてきた赤い球は、バルタン星人に衝突! 月面に叩き落とした!

 

「うわぁっ!」

 

 驚愕するなのはたち。二人の見ている先で立ち上がったバルタン星人の正面に、同じくらいの大きさの赤い球が降下してきた。

 バルタン星人は初めて感情らしきものを声音に宿らせた。

 

『ウルトラマン……!』

「……ウルトラマン?」

 

 赤い球がスゥッと消えていき――その中から、バルタン星人に負けぬ体格の巨人が現れた。

 全身が銀と赤の彩り。仏を連想させる柔和な顔つきでありながら、凛々しく力強い眼差し。そして胸に輝く青い発光体が、なのはとユーノの目を一番引きつけた。

 

「……光の巨人?」

 

 なのはたちは思わずそうつぶやいていた。

 

「――シェアッ!」

 

 ウルトラマンと呼ばれた巨人は、やや前傾になったファイティングポーズを取ると、バルタン星人めがけ一直線に走り出した。

 バルタン星人はたちまちの内に、先ほどのように無数に分身。ウルトラマンはその内の向かってくる一体に飛びかかる。

 

「フォッフォッフォッフォッフォッ……!」

「ヘアッ!」

 

 ハサミの刺突をヒラリと回避したウルトラマンは、間髪入れずに襲い掛かってきた二体のハサミの振り下ろしを受け止め、押し返した。

 両腕を胸の前で水平に構えるウルトラマン。すると右手にギザギザの刃が生えた光輪が出現し、オーバースローの要領で一体に投げつけた。

 

「ジェアッ!」

 

 光輪を受けたバルタン星人は、綺麗に両断されて爆散、消滅した。

 

「――強い……!」

 

 驚いてつぶやくなのはたち。ウルトラマンは、自分たちには何が起きているのかさえ掴めなかったバルタン星人を簡単に粉砕した。

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォ……!」

 

 だがバルタン星人は無数におり、しかも分身を繰り返している。そのバルタン星人がウルトラマンを取り囲み、襲い掛かる。しかしウルトラマンも負けじと、一番近いバルタン星人にチョップを叩き込んで張り倒し、残りも一挙に相手してみせる。

 なのはとユーノは、とてもこの世のものとは思えない、おとぎ話から抜け出てきたような巨人と巨人の戦いを唖然と見上げていた。

 

「シェアッ!」

 

 ウルトラマンは押し寄せるバルタン星人をぶちかましで迎え撃ち、端からチョップの連打でバッタバッタと薙ぎ倒していく。だが流石に多勢相手にたった一人では苦しいか、押されているように見えた。

 そのためなのはの口から、感情のほとばしるままに叫び声が飛び出た。

 

「がんばって! ウルトラマンっ!」

 

 すると――ウルトラマンは胸を張り、一層の力がみなぎったように見えた。

 

「ヘァッ!」

 

 バルタン星人が放った光弾を、手で輪郭を描くことで現れた光の壁で遮断。接近してくるバルタン星人をその都度チョップ、キックのお見舞いでねじ伏せる。

 そして最後に、右手を縦に、左手を横にして十字を作ると――右手の手刀より青白い光線がほとばしり、ウルトラマンはそれで全方位を薙ぎ払う。

 バルタン星人はその光線を食らうと一瞬にして爆散。そして数え切れないほどいたバルタン星人が全て爆破され、月面からただの一人もいなくなったのだった。

 

「――か、勝った……!」

 

 すさまじい強さでバルタン星人を粉砕したウルトラマンを、なのはたちは呆然と見つめた。だがウルトラマンの活躍はこれで終わりではなく、宙の一点を見上げると両目から光線を発した。

 その光線に当てられて、一隻の円盤が宇宙の暗黒の中から照らし出された。

 

「あれは……!」

「バルタン星人の宇宙船か!」

 

 あれをどうにかしないことには、地球は本当に救われたことにはならない。

 宇宙船の姿を暴き出したウルトラマンは、次いでなのはたちを見下ろした。――ウルトラマンが何者なのかを全く知らない二人は一瞬たじろぐ。

 

「シェアッ」

 

 ウルトラマンは腕をまっすぐに伸ばすと、なのはたちにも光線を照射した。

 

「うわぁぁっ!」

 

 反射的に悲鳴を上げた二人だが――その姿が瞬時に月面上から消え去った。

 ウルトラマンはおもむろにうなずくと、月面を蹴って空中に飛び上がった。そしてバルタン星人の円盤を掴み、そのまま押していって宇宙の果てまで運び去っていったのだった。

 

 

 

「……ふにゃ?」

 

 なのはが目を開くと、自分が元の公園のベンチに腰掛けていることに気がついた。

 

「あ、あれ……? 地球だ……。バルタン星人は!? ウルトラマンはどうなったの!?」

 

 バッと腰を浮かすなのは。自分の傍らでは、いつの間にか小動物形態に戻っているユーノと待機形態のレイジングハートが覚醒した。

 

「ユーノくん、わたしたち地球に戻ってきてるよ! どうなってるのかな?」

 

 ユーノは少し考えてから、なのはに答えた。

 

『最後にウルトラマンが僕たちに浴びせた光線……あの効果で僕たちを元の場所に転送させたのかもしれない。確認してみよう。レイジングハート、さっきまでの記録を再生して』

 

 とレイジングハートに頼んだユーノだったが、

 

[No data.]

「えっ!?」

 

 何と、レイジングハートの記録には救難信号をキャッチしてから、月面での戦いまでの記録が綺麗さっぱりなくなっていた。記憶にはあるが記録は一切ないという不可解な状態に、レイジングハート自身も戸惑いを覚えていた。

 更に時刻を確認してみると――強制転移されてからあれだけのことがあったのに、何とたったの三分しか経っていないということが明らかになった。なのはたちはもう訳が分からなかった。

 

「ど、どうなってるのかな……。わたしたち、もしかして夢でも見てたの?」

『いや、複数人が同じ夢を見るなんてあり得ないよ……。でも、まるで理解が出来ない……。一体僕たちに、何が起きたんだろう……』

 

 聡明なユーノにとっても、全く理解を超えていた。なのはたちはこの不思議な体験について終始首をひねっていたが、帰らないと家族が心配する時間がやってきたのでその場はそのまま帰宅していったのだった。

 

 

 

 その後判明したことだが、月面にもやはり巨人たちの激闘の跡などは全く確認されなかった。ウルトラマンが痕跡を消していったのか、はたまたやはりあれは夢か幻だったのか。あるいは一時的に、時間と空間がねじれにねじれたアンバランスゾーンの中に迷い込んでいたのか……。なのはたちにはどうにも判別がつかなかったので、この出来事に関しては自ずと胸の内に仕舞い込んで、今日まで月日が経過したのだった。

 それでもなのはの心の底には、ある想いが宿っていた。それは、自分の助けを求める声に応じるかのように颯爽と現れ、地球の窮地を救っていった、ヒーローそのもののようであったウルトラマンに対する憧憬の念――。自分もあんなヒーローのようになりたいという願いを無意識の内に抱いて、色んな人と触れ合い、助ける人生を歩むようになった。

 時が経ち、あのウルトラマン本人ではないが――『ウルトラマン』という存在が今度ははっきりと自分の目の前に現れると、内心かなりの興奮を覚えていた。故に『ウルトラマン』と接触した際には、十四年前の童心に帰ったかのようにはしゃいだりもした。

 そうして、なのはの胸の内には一つの願いが宿った。

 あの時のウルトラマンに、もう一度会いたい。あの時は言えなかった、助けてくれたことのお礼が言いたい、と――。

 




 




「総員に告ぐ!」



「三体のウルトラマンと連携し、怪獣たちを撃滅せよっ!」






「とっとと地獄に帰りやがれぇっ!」

「超振動バスターっ!!」


「後は頼んだぜ……!」


「全ての始まり、光の巨人!」


「フェイズ5発令! 各世界のXioに緊急通報!」

「五つの世界で、ウルトラマンと怪獣が交戦開始!」


「行くぞエックス!」



次回、特別編

『きたよ!わたしたちのウルトラマン』







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特別編『きたよ!わたしたちのウルトラマン』
ルヴェラ遺跡の異変


 

 

 

 

 

 ――宇宙には、一つの伝説がある。

 

 ――全ての始まり、光の巨人――。

 

 彼は、宇宙のバランスを保つため、様々な世界で戦い続けている――。

 

 

 

「……世界中の神話や伝説には、人智を超えた巨人や天使、あるいは神の存在が登場する。それらのルーツが、光の巨人――ウルトラマンだというのが私の自説だ。つまり、次元世界にも過去にウルトラマンが降臨していたということになる!」

「なるほど~……」

「夢のある話ですね!」

 

 グルマンの語った内容に、リオやコロナが関心を示した。

 オペレーションベースXのラボで、グルマンがヴィヴィオたちチームナカジマに対して、光の巨人『ウルトラマン』の話をしていたのだ。……しかしグルマンは、シャーリーとマリエルの方に振り向いて怒鳴った。

 

「……っておい、そこ! 人の話を聞け!」

 

 二人はグルマンの話を聞き流しながら作業していたのだ。シャーリーは肩をすくめてグルマンに言い返す。

 

「その話、あたしたちはもう何度も聞いてますよ。もう耳にたこです」

「――だが始まりの巨人、ウルトラマンを召喚するベーターカプセルを完成させた、というのは初耳だろう?」

 

 その言葉にはシャーリーたちも手を止めて振り返った。

 

「えっ!? 出来たんですか!?」

 

 ヴィヴィオたちも俄然興味が沸く。

 

「すごーいっ! ウルトラマンを呼び出せるんですか!?」

「早速やってみて下さい……!」

 

 目を輝かせるアインハルトたちに急かされ、グルマンは手にしているペンライト型の装置を皆に見せつけた。

 

「よしよし。私が幼い頃に見た光の巨人はこうして……」

 

 カプセルを天高く掲げるグルマン。

 

「ジュワッ!」

 

 

 

 ドッガアアアアアアアァァァァァァァァァァンッッ!!!

 

 

 

 ――煙が晴れると、一同は黒焦げになっていた。

 

「……まだ改良が必要みたいですね……」

 

 マリエルがけほっ、と煙を吐き出しながらぼやいた。

 

 

 

 

 

光輝巨人リリカルなのはX 特別編

 

『きたよ!わたしたちのウルトラマン』

 

 

 

 

 

「――乾ぱーいっ!!」

 

 新暦81年。オペレーション本部では、視察に出ていたダイチの帰りを祝うパーティが開催されていた。

 

「ダイチ、出張お疲れー!」

「スプールスの怪獣共生区はどうだった?」

 

 ワタルとハヤトの問いかけに、ダイチは施設の写真を空間モニターに表示しながら答えた。

 

「管理局の一大実験だけあって、すごい広さと設備でした」

 

 写真の中には、パンドラやリドリアスなどの比較的温厚な怪獣が実体化され、共生区内で保護観察されている様子が写されていた。いずれは全ての怪獣を実体化し、怪獣と人間が共生できる環境を作り上げることが理想であり、最終目的である。

 

「でもまだ、反発が根強いらしいです」

 

 ダイチのその言葉にうなずくカミキ。

 

「道のりは遠いな……。だが着実に前に進んでいる」

「もう二年前までとは違いますものね」

 

 とディエチがつぶやいた。

 ウルトラ・フレアの原因であり、次元世界中の生命を消し去ろうとしていたグリーザが倒されて以降、その影響が消えたためか、世界各地に眠るスパークドールズは一気に安定し、実体化の件数がぐっと減った。今では三か月連続で、怪獣災害の発生0件を記録している。

 また、異星人犯罪者の元締めであった暗黒星団が解散されたことで、異星人犯罪の件数と規模も減少していった。異星人犯罪が紙面を賑やかしていたのも、既に過去になりつつある。

 これらのことにワタルが苦笑を浮かべた。

 

「ホント、二年前まですげぇ忙しかったのが嘘みたいに暇になったよな~」

「お陰でノーヴェもXioを抜けて、ジム経営できるようになったからな。あいつ髪まで伸ばしちゃって、すっかり大人の女になったもんだ」

 

 ハヤトが空中に、ノーヴェが設立したナカジマジムの門前で撮影されたチームナカジマの写真を表示した。

 チームナカジマは今ではすっかりと世界レベルの選手たちに育ち、ヴィヴィオたちはチームのスポンサーであるXioのイメージガールもこなしているのだった。

 

「いずれは我々Xioの役割も、怪獣保護や共生区の運営のような平和的なものへとシフトしていくことだろう」

「ダイチ、ちょっとずつでも夢のゴールが見えてきてるね! この調子で頑張ろう!」

「ああ!」

 

 カミキの言葉にスバルがダイチに笑いかけ、ダイチも力強く応えた。

 一方でウェンディはクッキーに舌鼓を打っている。

 

「いや~、隊長の娘さんの手作りっていうこれ、美味しいっスね~。もう一つもらいま~っス」

 

 すると――デスクの上のエクスデバイザーから声が発せられた。

 

『ウェンディ、その食物に含まれる糖質は48%、脂肪は18グラムだ。君はダイエットしてると言ってただろう。なら……』

 

 台詞の途中で、ウェンディにデバイザーをひっくり返された。

 

『おい! 表にしてくれ! 何も見えないっ!』

 

 パニックになって喚くエックスに苦笑する一同。するとチンクがふとこんなことをつぶやいた。

 

「ところで、エックスはいつまでその状態なのだろうな」

「その状態って?」

 

 デバイザーを表にしてあげたダイチがキョトンとして聞き返す。

 

「デバイザーの中ということだ。元々は自分の肉体があったのだろう?」

 

 あっ……と口を半開きにするダイチ。アルトは告げる。

 

「シャーリーさんたちの話だと、今のミッドの技術じゃ、エックスの肉体の再構築は不可能だって」

『ウルトラマンの肉体には莫大な光のエネルギーが必要だ。その確保は並大抵で出来るものじゃない。まぁ、機会が来るのを気長に待つさ』

 

 エックスの言葉に、ダイチは複雑そうな表情を浮かべた。

 ――その背後ではクロノが険しい顔をしている。

 

「お取込み中のところ悪いが……作戦デスクの上で物を食べてはいけないと、何度言ったら分かるんだっ!!」

「了解!?」

 

 ダイチたちは慌ててデスクの上からクッキーやコーヒーのカップをどかす。カミキは気まずそうに、にらんでくるクロノから顔をそらした。

 

「全く、隊長までそんなことでは困りますね……。特に今は見習いの隊員がいるというのに、そんな調子では示しがつきません」

 

 クロノの斜め後ろには、ファビアが無言でたたずんでいた。――Xioの制服を着用して。

 ファビアはピグモンと一緒に、Xioの入隊を志願。そうして見習いという形だが、ノーヴェと入れ替わるように特捜班の仲間入りを果たしたのだった。今ではピグモンともども、Xioのマスコットのようになって可愛がられている。

 

「キュッキュウッ」

 

 ファビアとピグモンにウェンディが絡む。

 

「もう、副隊長殿はいちいちうるさくて窮屈っスね~クロ」

「別に……」

「ウェンディ!」

「ひぃっ! すいませーん!」

 

 クロノに目敏く叱りつけられ、ウェンディはたちまち身を引っ込めた。

 カミキは話をすり替えるように、咳払いして皆にこう呼びかけた。

 

「……怪獣災害や異星人犯罪は減少の一途をたどってるが、だからと世界が平和になっているとは言い難い。管理局はまた別の重大な問題に直面しているからな」

「……エクリプスウィルスのことですね」

 

 ダイチのひと言に、険しい顔つきでうなずき返すカミキ。

 エクリプスウィルスは近年になって存在が明らかになった、恐るべき性質を持った病原菌である。これに感染した者は身体能力、自己治癒速度の飛躍的向上等の症状が見られるが、問題なのが定期的に殺人衝動の発作を起こすことだ。このウィルスの感染者による犠牲が増加の一途をたどっている。更にはエクリプスウィルスの感染者で構成された犯罪組織「フッケバイン」が各地で被害を出しており、これらに対処する部署「特務六課」が新たに設立されたのだった。

 

「エクリプスウィルスは出所不明の病原菌故、Xioも近い内に特務六課に合流して対応することが予定されている。ある意味では怪獣災害、異星人犯罪よりも危険で困難な案件となるだろう。皆、心しておくように」

 

 カミキの警告に、隊員たちは重い面持ちで了解した。

 だがその時に静けさを破るようにアラートが鳴り響き、アルトがオペレーター席に着いて報告を行った。

 

「第23管理世界ルヴェラの文化保護区で異常電磁波と未知の強力な生体反応が検知されました!」

 

 メインモニターにルヴェラの地図が表示され、異常電磁波と生体反応の発信源が光点で示された。ダイチが言う。

 

「あそこには、旧暦時代からの遺跡がありますね」

「Xioルヴェラ支部から、応援の要請が届いてます」

「確かに、ルヴェラ支部の設備では対処できないだろうな」

 

 ルキノからの報告を受け、カミキはダイチとスバルに命じた。

 

「ダイチとスバルは現場に急行。異常電磁波の原因と生体反応の正体を調査してくれ」

「了解!」

 

 二人は直ちにスペースマスケッティによって、ルヴェラに出発していった。

 

 

 

 ルヴェラの文化保護区に到着したダイチとスバルは、鉱山地区の真ん中にひっそりと建っている古代遺跡を見上げていた。

 

「やはり、ここが異常の中心だな」

 

 ダイチがデバイザーの画面と見比べながら断定した。しかし遺跡の出入り口は全て瓦礫で塞がれている。

 

「崩落でもあったのかな……。これじゃ中に入れないね」

「でもおかしいな。いくら普段人の寄りつかない場所だからって、こんな大規模な崩落に気づいた人がいないなんて……」

 

 ダイチたちが立ち往生していると、後ろからザッと誰かの足音がした。二人が振り向くと、そこにいたのは、

 

「スゥちゃん? ダイ兄?」

「えっ? トーマ!?」

 

 十代半ばほどの年齢の、栗毛の少年がいた。スバルは彼のことを親しげに呼び返す。

 彼の名はトーマ・アヴェニール。第3管理世界ヴァイゼンの七年前の鉱山事故により天涯孤独になり、独り生活していたところにスバルが出会い、一時期面倒を見ていた子だ。

 ダイチとスバルは顔を輝かせて、トーマの元に駆け寄った。

 

「トーマじゃないか! 久しぶり! スティードも」

[お久しぶりです、ダイチ、スバル]

 

 トーマのデバイスのスティードが宙に浮き上がって返答した。

 

「二人はXioの仕事でここに?」

「そうなの。トーマはまた宝探しで?」

「うん。人があまり立ち寄らない遺跡なら、きっと珍しいものがあると思って」

 

 トーマと立ち話していると、更にもう一人、紺色のサイドテールの、トーマと同年代程度の少女がこの場にやってくる。

 

「あれ、トーマ。その人たち誰?」

 

 少女の顔を見やったスバルが、ニヤニヤしてトーマに振り向いた。

 

「あれ~? トーマ、旅行中に彼女なんて作ってたの? 手紙にはそんなこと全然書いてなかったけど」

「い、いや、違うよ! 彼女はアイシス。ちょっとした行きがかりで、たまたま同行してるだけなんだ。アイシス、こっちの二人はさっき話した、スゥちゃんとダイ兄」

「あっ、そうなの。初めまして! アイシスって言います」

 

 少女アイシスは溌溂と自己紹介した。

 

「いつもは町の方で露店商やってるんですけど、ある人に道案内させられてここまで……」

「ある人?」

 

 スバルが聞き返した時、遺跡の方からドカーンッ! と大きな爆音と硝煙が発生して、一同面食らった。

 

「な、何事!?」

「カルロスさんっ!」

 

 トーマが慌てて爆発のあった方へ走っていき、ダイチたちもそれを追いかけていく。

 

「よぉ~しっ! 掴みは完璧だぁ~!」

 

 爆発のあった場所では、遺跡の壁に大きな穴が開いていた。その前では、前時代の冒険者風の格好をした男性が、撮影機材を持った数人の集団の前でテンション高く声を張っている。

 トーマはその男性に食って掛かった。

 

「カルロスさん、どういうことですか! 遺跡の壁を爆破するなんて乱暴すぎます!」

 

 しかしカルロスと呼ばれた男性は、少しも悪びれた様子がなかった。

 

「おやおやトーマくん。オムレツが食べたきゃ、卵を割らないとねぇ。君も私みたいな有名な冒険者になりたいんだったら、こういう大胆さを身につけるべきだよぉ!」

「……何? あの変な人」

 

 スバルがヒソヒソとアイシスに尋ねかけた。

 

「自称有名な冒険家のカルロスさん。情熱はあるんですけど、行き過ぎてかなり自分勝手な性格で……。あたしもトーマも無理矢理連れ回されて、迷惑してるんです」

「そういえばトーマからの手紙に、たまたま知り合った人に勝手に助手にされて困ってるってあったっけ……」

 

 ぼやくダイチ。トーマはまだ抗議していたが、カルロスは取り合わずに話を進めてしまう。

 

「いざ行かん、ロマンの旅へぇ! よし行くぞっ!」

「ちょっと、カルロスさん!? 危険ですよ! 内部は脆くなってるかもしれないのに、調べもしないで……!」

 

 止めようとするトーマだが、カルロスはお構いなく撮影スタッフを連れて遺跡に立ち入っていく。仕方なくダイチたちも、カルロスの後を追いかけていった。

 

 

 

 ――壁を爆破して開けた穴から遺跡に入ろうとしているダイチたちの姿を、その遺跡の中から、隠しカメラで監視している者たちがいた。白衣を纏っていて、研究者風の装いである。

 

「主任、Xioの隊員は遺跡に入ってきてしまいました」

「分かってる。全く、この辺鄙な土地を買収する奇特な奴が現れて、引き払おうとしていた矢先にどうしてこんな災難が舞い込んでくるのか……」

 

 最も歳のいった男がため息を吐く。

 

「ともかく『研究施設』までの道は全て封鎖し、警備の兵には存在を気取られるなと伝えろ。間違っても、『シュトロゼック』のいるところには踏み込まれるなよ」

「了解しました」

 

 

 

 遺跡内に踏み入ったカルロスは、先ほどの爆破で床に開いた穴を指差した。

 

「見ろ! ここは人の入った痕跡がない。きっと今まで誰も見つけたことのない隠し階段だっ! 大発見だぞぉ~!」

 

 穴から覗く階段を、無遠慮に下りていくカルロスを呼び止めようとするトーマ。

 

「待って下さいカルロスさん! ここには地獄が封じられてるという言い伝えもあるんです! どんな危険があるか……うっ!?」

 

 だが話している最中に、いきなり頭を押さえて膝を突いた。

 

「と、トーマ、大丈夫!?」

 

 驚くスバルたちに対して、トーマは告げた。

 

「急に頭痛が……それと、念話みたいな声が聞こえた……」

[念話? 私には何も]

 

 スティードが言うが、トーマはそのまま続ける。

 

「この遺跡の奥から、助けてって聞こえた……!」

「えっ……!?」

 

 スバルが身を強張らせたが、地下に向かうカルロスたちの方も放ってはおけない。迷っていると、察したダイチが申し出る。

 

「カルロスさんの方は俺が。スバルはトーマと、トーマが聞いたっていう念話の主の方を」

「ありがとう、ダイチ! 気をつけてね」

「そっちこそ」

 

 ダイチとアイシスはカルロスを追いかけて、その後でスバルはトーマを助け起こした。

 

「トーマは待ってて。あたしが捜してくるから」

 

 しかし遺跡の奥に進もうとしたところで、通路の陰からこちらを監視している兵士たちの存在に気がついた。しかも彼らは自動小銃を手にしている。

 

「しまったッ!」

「!? そこのあなたたち、違法兵器なんて持って何をしてるの!」

 

 銃弾を撃ってきながら逃げる兵士たちを、瞬時に変身して追いかけていくスバル。

 しかし彼女が去っていってから、トーマはこっそりと別ルートで遺跡の奥に進んでいこうとした。

 

[トーマ、あなたまさか]

「……俺にだけ聞こえたってことは、正確にたどり着けるのは俺だけだ」

 

 トーマの返答に、スティードはやれやれとコードをすくめた。

 

[仕方ありませんね。ただ、あなたが怪我でもすると私が怒られますので]

「オーライ、バディ。上手くやるさ」

 

 怪しい集団の目がスバルの方に引きつけられている間に、トーマは監視を逃れながら遺跡の奥に踏み込んでいった。

 

 

 

 勝手にずんずん進んでいくカルロスたちを、トーマに代わってアイシスが制止しようと呼びかける。

 

「カルロスさん、止まって下さい! もう、どうしてあなたはそう……きゃっ!?」

 

 だが追いかけている最中に、何かにつまずいて前のめりに倒れた。

 

「大丈夫!?」

「あたた……何とか。ありがとうございます」

 

 アイシスが自分のつまずいたものに目を向けると――地面から甲虫型の怪獣と恐竜型の怪獣の人形が半分覗いていた。

 

「スパークドールズだ! アントラーとファイヤーゴルザ!」

 

 ダイチは直ちにスパークドールズを慎重に掘り出して、実体化を防ぐ特殊ケージに収めて回収した。

 

「これでよし。無事に回収できてよかった」

 

 ほっと息を吐くダイチの一方で、カルロスは肩をすくめた。

 

「ふぅん。スパークドールズなんて今時珍しくも何ともない。もっと私の番組の目玉に相応しいような新発見はないものか」

 

 そう唱えながら地下空間の先に進んでいくと……。

 

「おおー!? 何だあれはーっ!!」

 

 急にカルロスが大声を上げたので、ダイチとアイシスはすぐに駆けつけた。そして二人も、ライトに照らし出された『もの』を目の当たりにして目を見張る。

 上半身だけが地面から出ている巨大な石像……しかもその顔立ちは、ウルトラマンのものであった!

 

「ウルトラマンだー! すごい、大発見じゃないか!!」

 

 カルロスが興奮している中、エックスが声を発する。

 

『あの姿は……古の巨人、ティガの像か!? こんな場所にあるとは……』

「古の巨人、ティガ!? 俺も無限書庫の古文書で名前を見たことがあるよ。でもウルトラマンだったなんて……」

『太古の昔に、この地を訪れていたのかもしれない』

 

 ダイチがふと目線を横にやると、そちらに古代文字が刻まれた石板と、青い石がポツンと安置されているのを発見した。ダイチはデバイザーの解読機能を使い、石板の内容を読み上げる。

 

「碧石によりて、天の光、地の光は結ばれん」

「碧石?」

「あの青い石のことだろう。……結びの光が蘇りし時、闇は闇に還りたり。結びの光を持つ者に、この石を託さん……」

「結びの光を持つ者っていうのは……」

「この石を、私に託すということさ!」

 

 いきなりカルロスが話に割り込んできて、石を取ろうとした。その手を慌てて止めるアイシス。

 

「待って下さい! きっとこの石は、遺跡の重要なものです! 地獄が封じられてるなんて言われる遺跡のそれを勝手に取ったら、どんなことが起こるか……!」

 

 しかしカルロスはアイシスの手を振り払った。

 

「この土地は我が社が買収した! 出土されるものは全て私に所有権がある!」

 

 そう言って有無を言わさぬ内に青い石を手に取り、立ち上がる。

 

「……ほら見ろ。別に何ともないじゃ……」

 

 カルロスは得意げに言いかけたが……徐々に遺跡の全体を小刻みな揺れが覆い始めた。

 

「な、何だかやばい雰囲気……。だから言ったのに!」

「危険でなければ冒険とは呼ばんよ! このカルロス・クローザー、いつ如何なる時でも、毅然として……」

 

 だが震動が一気に大きくなり、遺跡の地下が崩落を始めた!

 

「逃げろぉーっ!」

 

 カルロスは前言をあっさり撤回、我先にと逃走を始める。慌てて後についていく撮影班。

 

「あぁーもうっ! あのおっさんはぁ―――――っ!!」

「アイシスさんも退避して! 足元に気をつけてっ!」

 

 ガーッ! と怒鳴るアイシス。そんな彼女をダイチが連れて、脱出を図った。

 

 

 

 遺跡の兵士たちを相手に交戦していたスバルは、大きくなる震動に目を見張っていた。

 

「な、何が起きてるの!?」

「うわあぁぁぁぁ――――――――!?」

 

 次の瞬間、兵士たちの足元がいきなり吹っ飛び、下から何か巨大なものがせり上がってきた。

 

「えっ……!?」

 

 スバルの視点からでは、毒々しく青い有機質な壁にしか見えなかった。しかしそれでも分かることは……それが生物の「肌」だということだ。

 

 

 

 別の場所にいる白衣の研究者たちも、突然の震動に動揺していた。

 

「な、何が起きた!? シュトロゼックに侵入者の一人が接触したかと思えば……今度は地震か!?」

 

 そう思った時、彼らの前の床が弾け飛んで、真っ赤な鬼のような角を生やした異形の大怪物の顔面が現れ、彼らを一列に並んだ黄色い眼球の数々でにらんだ。

 

「グギャアアァァァァ――――――!!」

「ひぃっ!?」

 

 突然のことに恐怖で引きつる研究者たち。

 

「ガハハハハハ……!」

 

 怪物は大きく裂けた口から、低い笑い声のような鳴き声を発し――部屋を裂き、棍棒状になっている右腕を振り上げた。

 

「うッ……うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!?」

 

 

 

「何だ!?」

 

 トーマは遺跡の奥部の、隔離された部屋で辺りを見回していた。彼の側には、先ほどはどこにもいなかった少女がいる。

 彼女はこの部屋で、どういう訳か磔にされていたのだ。それをトーマが助けたと思えば、この事態だ。

 そしていきなり部屋の天井が吹き飛んだかと思うと、鬼のような形相の大怪物がトーマたちを見下ろす。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「怪獣!?」

 

 大怪獣は右腕を振り上げ、棍棒を彼らに叩きつけようとする。

 

「手伝えスティード!」

[オーライ、トーマ]

 

 トーマは咄嗟に自分と少女の周りを、全力のプロテクションで覆い込んだ。しかし怪獣相手に、人間の防御で防ぎ切れるものか。少女は怪獣の威圧感に怯える。

 

「大丈夫」

 

 トーマは彼女を落ち着かせるように呼びかけた。

 

「きっと助けるから」

 

 そう言いながらも余裕のないトーマの横顔を見つめ、少女は何か決心した顔になると、急にトーマの右手首を握り、指先に口づけした。

 

『エンゲージ』

 

 怪獣が棍棒を振り下ろした瞬間――すさまじい光の奔流が、怪獣に激突した。

 

 

 

 遺跡から脱出したダイチたちは、光の奔流によって吹き飛んだ遺跡に振り返って唖然とした。

 

「今のは砲撃!? けどすごい威力だ……! 誰があんなもの……」

「きゃあっ!」

 

 ダイチたちの元に、吹っ飛んできたスバルが受け身を取りながらもゴロゴロと転がる。

 

「スバル! 大丈夫か!?」

「な、何とか……」

 

 ダイチとアイシスに助け起こされたスバルは、ダイチに問われる。

 

「トーマを知らないか!? 連絡が取れないんだ!」

「えっ!? 一緒に脱出したんじゃないの!? まさか……!」

 

 弾かれたように瓦礫の山と化した遺跡に振り返るスバル。

 その瓦礫を更に吹き飛ばして、巨大生物が彼らの視界に姿を現す!

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「あいつは……!?」

 

 ――棍棒のようになっている右腕。毒々しい青と赤の地肌。ノコギリ状の尻尾。頭部から伸びた真っ赤な二本角。背面には無数のトゲが生え、黄色い眼は一列の複眼になっている、巨大怪獣がおどろおどろしい咆哮を発した。

 



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地獄獣復活!

 

 ダイチは怪獣の出現を視認すると、直ちにデバイザーで本部に報告した。

 

「遺跡から怪獣出現! タイプG、体長約60メートル!」

『フェイズ3! 近隣住民に緊急避難指示!』

 

 ダイチたちが目を向ける先で、怪獣は咆哮を発しながら地響きを鳴らし、前進を開始した。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「! 見て下さい、あそこっ!」

 

 アイシスが指を差す。その先では……トーマが少女を背負って、怪獣に追われていた!

 

「トーマぁっ!!」

「あっ、待って!」

 

 思わず飛び出していくアイシス。ダイチはスバルに顔を向けて告げた。

 

「俺とエックスで食い止める! スバルはその間にトーマたちを頼む!」

「分かった!」

 

 駆け出すダイチ。一方で追いかけられているトーマは、怪獣の眼から放たれた赤い光を浴びせられる。

 

「うわぁっ!」

 

 思わず身構えたトーマだが……意外にも身体に何かが起きた様子は全くなかった。

 

「あれ……?」

 

 どういうことか、と思う間もなく、怪獣が足を振り上げてトーマと少女を踏み潰そうとしてきた。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 トーマたちの危機。だがその時に、ダイチはエクスデバイザーを手にユナイトの構えを取っていた。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞっ!』

 

 デバイザーのスイッチを押し、エックスのスパークドールズをリード。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ダイチの身体がX字の閃光に包まれ、ウルトラマンエックスへと変身!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 飛び出していったエックスが怪獣に体当たりして、踏み潰しを阻止した。

 

「ウルトラマンエックス……!」

 

 間一髪救われたトーマと少女がエックスを見上げた。そこにアイシスとスバルが駆けつける。

 

「トーマ! 大丈夫だった!?」

『「スバル! 早くトーマたちを安全な……!」』

 

 スバルに呼びかけるダイチだが、そこに怪獣の棍棒がエックスに振るわれる。

 

「グワァッ!」

 

 エックスはその一撃で宙に吹っ飛ばされ、鉱山の山肌に叩きつけられた。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 よろよろと起き上がったエックスは、拳で地面を叩いて怪獣に向かっていく。

 

「フアアァァッ!」

 

 怪獣の頭を抑え込んで首元に膝蹴りを打ち込んだが、急所を打たれて怪獣は少しも応えた様子がない。エックスが何度殴っても蹴っても、まるで巨岩を叩いているように揺らがなかった。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「グワアアアアッ!」

 

 反対にエックスは怪獣の打撃で吹っ飛び、散々翻弄される。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 怪獣の棍棒攻撃にエックスは腕でガードを固めるも、ガードの上から叩き潰されて地に這いつくばらされる。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「グゥッ! グアァァッ!」

 

 背面に何度も棍棒を振り下ろされるエックス。猛打を食らいながらもどうにか脱け出して、体勢を立て直した。

 

『ぐっ……凄まじいパワーだ! 並大抵の怪獣じゃないぞ!』

『「全力で行くしかないな……!」』

 

 ダイチはエクシードXのスパークドールズを呼び出して、それをリード。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 エクスディッシュのタッチパネルを一回スライドして、X字に振るう。

 

「『エクシード、エーックスっ!!」』

 

 エックスの身体がエクシードXのものに変化し、そしてエクスディッシュを手に取ってアサルトフォームに変形させた。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!!」』

 

 エクスディッシュで怪獣の棍棒と切り結ぶが、エクシードXの膂力を以てしても押される!

 

『この状態でも向こうの方が上だとは……!』

『「だったらっ!」』

 

 エックスは一旦怪獣から距離を取り、ダイチがパネルを三回スライドしてボタンを叩いた。

 

「『エクシード! エクスラッシュっ!!」』

 

 エクスディッシュから発せられた虹の光のロードが怪獣を覆う。

 

「ジュウワッ!」

 

 光のロードの中を一直線に飛んでいくエックスだが……怪獣は尻尾を振り回してエクスディッシュの刃を受け止め、エックスをも弾き返した!

 

「ウワアァァッ!?」

 

 エックスが地面に倒れ伏すと、怪獣は背面のトゲを赤くスパークさせて、口に血のように真っ赤な閃光を湛えた。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 そして吐き出した膨大な破壊光線を、エックスに放つ!

 

「ウワアアアアァァァァァァ――――――――!!」

 

 赤い光に呑まれ、連続爆発を食らったエックスは身体を維持できなくなり、弾け飛ぶ。ダイチはユナイトを強制解除され、地面に向かって放り出された。

 

『ダイチー!!』

 

 エックスは最後に残された力でウルトラ念力を発動し、ダイチを地面にゆっくり下ろすことに成功した。その後にエクスデバイザーが落下して、乾いた音を立てる。

 トーマたちを安全なところまで逃がしたスバルは、その場に急いで駆けつけた。

 

「ダイくん! 大丈夫!? しっかりしてっ!」

 

 ダイチを助け起こしたスバル。二人が顔を上げた先で、怪獣は光線を己の足元に向けて発した。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 すると地面が血の池のように赤くドロドロに溶け、怪獣はその中に沈んでいく。

 唖然としたダイチの目が、地面の上に転がっているデバイザーを捉えた。

 

「エックスっ!」

 

 すぐに拾い上げたダイチだが……デバイザーの縁はボロボロに腐食し、画面はブラックアウトしていた。

 

「エックス……エックス! 返事をしてくれエックス!!」

 

 ダイチがいくら呼びかけても、エックスは返答を寄越さなかった。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 エックスを撃破してしまった怪獣は飛沫を上げながら血の池に潜り、完全に姿を消した。

 それを見やったトーマが、呆然とつぶやく。

 

「地獄が、目覚めてしまった……!」

 

 

 

 状況終了後、ダイチとスバルはトーマたち三人を連れて、スペースマスケッティでミッドチルダのXio本部を目指す。

 次元間飛行中に、スバルはトーマを叱りつけた。

 

「トーマ……あなたの旅行を許した時、無茶はするなって言ったでしょ!? 本当に心配したんだから……!」

「ごめん、スゥちゃん……」

「スティードも、ちゃんと止めてくれないと困るよ」

[申し訳ありません、スバル]

 

 スバルに怒られ、トーマは力なくうなだれた。その彼に、助手席のダイチが尋ねかける。

 

「ところでトーマ、その女の子は誰だい?」

「それあたしも気になってた! この子、どうしたの?」

 

 皆の注目が、遺跡に入る前はどこにもいなかった少女に集まった。すると少女自身が名乗る。

 

『わたしはリリィ・シュトロゼックです。トーマはわたしを助けてくれたんです』

 

 音を介さず、脳に直接伝わってくる言葉に、スバルが面食らった。

 

「この声、念話? いや違う、精神感応……?」

「声が出せないのかい?」

 

 ダイチの問いかけに、小さくうなずく少女リリィ。

 トーマがダイチたちに打ち明ける。

 

「リリィのことは、俺にもよく分からないんだ。ただ、あの遺跡の中にあった研究施設みたいなところに閉じ込められてて……助けたと思ったら、怪獣が追いかけてきて」

「そうか……。それで、右腕の腕輪は? そんなもの、さっきはしてなかっただろう」

 

 ダイチはトーマの右腕に嵌まっている、銀色の腕輪に目をつけた。どういう訳かつなぎ目がなく、どうなって嵌められたのか不明だ。

 そして同じものをリリィも左腕にしている。

 

「これもよく分からない。気がついたら腕にあって……」

「そうか……。とにかく、詳しいことは帰投してから調べてもらおう」

 

 スペースマスケッティがミッドチルダの空に出て、まっすぐオペレーションベースXに飛んでいった。

 

 

 

 トーマとリリィは医療班に回され、Xioはルヴェラ遺跡から出現した怪獣の情報を得るために無限書庫のユーノ・スクライア司書長に依頼し、怪獣のことが書かれた文献を探してもらった。

 その結果を、ユーノが通信越しにカミキに報告する。

 

『カミキ隊長、大変なことが分かりました!』

「怪獣の正体が分かったのですか」

 

 カミキの問い返しにうなずいたユーノは、一冊の古文書を手にしながら説明を開始する。

 

『怪獣の名は、地獄獣ザイゴーグ。古文書には、世界がまだ高熱に煮えたぎっている、地獄のような環境だった時から生きている生物で、次元世界に人間が現れてからも地獄の軍団を率いて脅かしていたとあります。そこへ光の巨人が降臨し……』

「ザイゴーグを地底深くに封印した」

 

 クロノのひと言にユーノは首肯する。

 

『その封印は解かれてしまいました。復活したザイゴーグは間違いなく、次元世界中を己の世界、地獄に塗り替えるために行動するでしょう。何としても止めなければなりません』

「ごめんなさい、あたしがカルロスさんを止められなかったから……」

 

 オペレーション本部で同席しているアイシスが謝罪した。

 

「いや、君が責任を感じることではない。それよりも今は、対ザイゴーグ作戦の立案を急ごう」

「ザイゴーグはエックスをも一蹴した恐るべき怪獣です。生半可な対応策は通用しないでしょう」

 

 カミキとクロノの言葉に、ダイチが持ち帰った石板の内容をユーノが読み上げた。

 

『碧石によりて、天の光、地の光は結ばれん。結びの光が蘇りし時、闇は闇に還りたり。ザイゴーグ封印のヒントでしょう』

 

 作戦の内容について話し合っているところに、カミキの元にシャマルとグルマンからの緊急通信が舞い込んだ。

 

『カミキ隊長、大変です!!』

「どうした」

『今しがた検査したのですが、トーマ・アヴェニール君は……エクリプスウィルスに感染してますっ!』

 

 その報告に、本部が一気にざわついた。

 

「本当か!」

『間違いありません……! 既に発症もしてます!』

「そ、そんな……トーマが……!?」

 

 流石に動揺を隠せずよろめくスバル。彼女をウェンディたちが慌てて受け止めた。

 

『リリィという少女は、EC兵器の生体型リアクトプラグだ。彼女と接触したことで感染したのだろう』

「でも、リリィはそういうこと何も知らないみたいでしたよ!?」

 

 リリィについて報告したグルマンにアイシスが反論した。

 

『恐らく、何らかの精神的ショックで失語症とともに自分が何者かの記憶も失ってしまったのだろう。ともかく、このままでは極めてまずい』

 

 とグルマンは言うが、カミキとクロノは目を合わせて相談する。

 

「……エクリプス感染者も重大ではあるが、今はザイゴーグの対策をしなければならん」

「発症したとしても、殺人衝動はすぐに起こるものではありません。ひとまずは、目先の危機であるザイゴーグから対応すべきかと」

「うむ。特捜班は直ちに消えたザイゴーグの行方を捜索せよ!」

「了解!」

 

 カミキの命令により、特捜班はあらゆる次元レーダーを駆使してザイゴーグの捜索を開始した。

 しかしその最中で、スバルはトーマのことを案じて宙を見つめた。

 

「トーマ……」

 

 

 

 その頃ラボでは、ダイチが腐食して機能停止してしまったエクスデバイザーの中のエックスと交信するため、自身のデスクで作業に取り掛かっていた。そこにヴィヴィオとアインハルトが駆け込んでくる。

 

「ダイチさん、エックスさんが意識不明って本当ですか!?」

「ヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃん。ちょうど今、エックスを呼び起こそうとしてるところだ」

 

 ボロボロになってしまったデバイザーを、痛々しそうに見つめるアインハルト。

 

「ひどい……。エックスさんは無事なんでしょうか……」

「これから確かめる。よし、これで……」

 

 ダイチはデバイザーの左右にはんだごてを当て、電気ショックを与えた。

 

『あぁっぢっ!? びっくりしたぁ……』

 

 電気ショックは成功して、画面にエックスの顔が映る。

 

「エックス、無事だったんだね!」

『何とかな……』

「よかった、エックスさんがご無事で……」

 

 エックスの返答を聞けて、ダイチ、ヴィヴィオ、アインハルトは一様に安堵した。

 ダイチはデバイザーを手にして、カバーに付着した毒々しい液体に目を落とす。

 

「この固形化した液体、デバイザー自体を腐食させてるみたいなんだ」

 

 ザイゴーグに掛けられた毒液によって、デバイザーは全機能を阻害されていた。復活した画面にも、絶えずノイズが走っている。

 

『現状では君とユナイトできない……。このまま腐食が進んだら、私自身もアウトだ』

「そんなこと言わないで下さい……!」

 

 エックスのことを深く心配するアインハルト。ヴィヴィオはダイチに頼み込む。

 

「ダイチさん、デバイザーを直してエックスさんを助けてあげて下さい!」

「もちろんだ。ラボの力でどうにかしよう」

 

 ダイチはすぐにデバイザーの修理を始める。

 

 

 

 ザイゴーグ対策に取り掛かっている間は、いたずらに不安にさせないためにトーマとリリィにはエクリプスウィルスのことは秘密にしておくことになった。

 理由をつけてXioベースに留まらせている間、トーマたちは時間潰しにと、シャーリーにラボを案内される。

 

「ここがXioの誇るラボでーす!」

「わぁ……! ここでXioの兵器の数々やデバイス怪獣が作られたんですね」

 

 トーマとリリィは興味深そうにラボの内装を見渡した。

 

「そしてこの人が、ラボの主任のファントン星人グルマン博士」

 

 シャーリーが紹介すると、背を向けていたグルマンはクルリと振り返って笑いかけた。

 

「ニカァッ!」

「!!?」

 

 しかしあまりの大口と人間からかけ離れた大きな顔面にリリィが仰天のあまり、失神してフラリと崩れそうになった。それを慌てて受け止めるトーマ。

 

「ああっリリィ!」

「えぇー……」

 

 唖然とするグルマンをシャーリーが責める。

 

「もう博士ったら驚かさないであげて下さいよ! 迫力ある顔どアップにして!」

「迫力ある顔って! これでもファントン星ではイケメンなんだぞ!」

 

 スティードがリリィの気つけをしている合間に、マリエルがグルマンに呼びかけた。

 

「博士、画像が出ます」

「おお!」

 

 マリエルが空中のモニターに出した画面に、ティガの像の映像が現れた。

 

「んん……これが遺跡の地下で発見された石像か」

「ダイチくんの話だと、ティガという名前だと」

「なるほど、興味深い」

 

 グルマンが意味深にティガの像を見つめているので、マリエルがまさかと問いかける。

 

「もしかして博士、このティガのカードも作るつもりですか?」

「もちろんだとも!」

 

 トーマが興味を示して質問する。

 

「カード? 何のお話しですか?」

「いい質問だな!」

 

 グルマンは五枚のデバイスカードを召喚し、トーマたちに披露した。

 

「マックス、ギンガ、ビクトリー、ゼロ、ネクサスの力が込められた、ウルトラマンカード! 彼らとつないだ絆の象徴でもある、我々の宝物だ。ここで見たことは内緒だぞ」

「ウルトラマンの力が……! すごいですね!」

 

 トーマとリリィがウルトラマンカードに目を奪われていると、スティードがトーマに申し出る。

 

[トーマも、これまで発掘したお宝を見せてあげたらどうでしょうか]

「お宝?」

[トーマは遺跡での宝探しが趣味なんです]

「いや、そんな大したお宝なんてありませんよ。素人の道楽ですから」

 

 スティードの説明に、トーマは謙遜して後頭部をかく。

 

「いやいや、是非とも見せてくれたまえ。次元世界の出土品も面白そうだ」

「そうですか? じゃあ、どれもつまらないものですが……」

 

 グルマンに促されて、トーマはバッグからいくつか各地の遺跡で発見したものをテーブルに並べていった。

 

「これはカルナログの遺跡にあった銅鏡。これはキャロの故郷で見つけた古代の釣り針。他には……」

「へぇ~。結構色んなところに行ってるんだね」

「ほほう、若いのに大したもんじゃないか。……むっ!?」

 

 グルマンは今トーマが取り出した、棒のような形の石器に目を留めた。

 

「ああ、これですか? これだけ何なのか分からないんですよ。他に似たようなものがなくって」

「これは……!」

 

 トーマから用途不明の石器を受け取るグルマン。

 

「……ちょっと、借りていいか!?」

「いいですけど……」

 

 奇妙な反応を見せるグルマンに、一同は怪訝な顔になった。

 

 

 

 ザイゴーグの行方を追っていたルキノが、カミキたちに報告した。

 

「ミッド、ルヴェラ間より、異常電磁波を観測! 非常に大きな熱源がミッドに接近してます!」

「熱源!? まさか……!」

 

 息を呑む特捜班。クロノは眉間に皺を刻みながら指示する。

 

「熱源をモニターに表示しろ」

「了解……!」

 

 モニターに現れたのは、サーモグラフィーで捉えられたザイゴーグの影だった。

 

「ザイゴーグ……!」

「次元の狭間を泳いで、ミッドに近づいてきてるの!?」

 

 驚くディエチ。ザイゴーグ接近について、ユーノが述べる。

 

『青い石を追いかけてきてるのではないでしょうか……! 青い石を破壊すれば、ザイゴーグを止めるものはなくなるから……』

「青い石が怪獣を封印できると?」

『現在ある可能性は、古からの言い伝えだけです。石を動かしたことでザイゴーグが目覚めたのなら、眠りに就かせるのもまた青い石でしょう』

 

 ユーノの推測を受け、クロノがカミキに告げる。

 

「その石を解析する必要がありますね」

 

 うなずくカミキ。

 

「問題の石は、今どこに?」

「たった今、カルロス・クローザーのウェブテレビに出されてるっス! カルロスコミュニケーションズ本社ビルっス!」

「カルロスコミュニケーションズ、エリアT-2です」

 

 ウェンディが答え、ルキノがクラナガンの地図をモニターに出した。ハヤトが顔をしかめる。

 

「首都圏のど真ん中だ!」

「推定到達時間は?」

 

 クロノの問いに回答するアルト。

 

「約一時間」

「時間がない! スバル、大至急青い石を回収しろ!」

「了解!」

 

 カミキの命令で本部から駆けていくスバル。するとアイシスがカミキに頼んだ。

 

「あたしにも行かせて下さい!」

「君は民間人だ。ここにいた方がいい」

「いえ、やっぱりあたしがちゃんと止めてたら、こんなことにはならなかったんだから……自分で責任を取りたいんです!」

 

 アイシスの強い訴えかけに、カミキは折れる。

 

「分かった。ただしスバル隊員の指示には必ず従うように」

「ありがとうございます!」

 

 アイシスがスバルを追いかけていくと、カミキが指令を発する。

 

「フェイズ4! 都市防衛指令発令! ハヤト、ワタルはスカイマスケッティ、チンク、ディエチはランドマスケッティ、空陸同時攻撃でザイゴーグを迎え撃て!」

「了解!」

「ウェンディはダイチとともに、現地で迎撃作戦のバックアップだ!」

「了解っス!」

 

 刻一刻と迫り来るザイゴーグに対して、特捜班が迅速に出動を開始した。

 

 

 

 ラボでエクスデバイザー修理中のダイチに、カミキからの指令が入った。

 

『ダイチ、出動だ!』

「けどエックスがまだ!」

 

 動かないダイチに、グルマンが告げる。

 

「デバイザーの修理は私たちに任せておけ!」

「でも!」

 

 それでも迷いを見せるダイチを、エックス自身が説得した。

 

『今のままでは、私には何も出来ない。しかし、君には出来ることがあるはずだ』

「修理が出来たら、すぐにわたしとシャーリーさんで届けるから」

 

 ファビアが申し出て、ピグモンがコクコクうなずいた。

 

「……そうだね。行ってくるよ!」

「頑張って下さい、ダイチさん!」

「ご武運を……!」

 

 出動していくダイチを見送るヴィヴィオ、アインハルト。最後にトーマがダイチに呼びかける。

 

「ダイ兄……!」

「トーマ……」

 

 感染のことはダイチも聞き及んでいた。ダイチは一瞬固い表情を見せたが、すぐにトーマに力強く笑いかけた。

 

「すぐにザイゴーグを再封印して帰ってくるよ。トーマはそれまで待っててくれ」

 

 そう言い残して去っていくダイチ。トーマはそれでも、不安げな視線をダイチの背中に向けていた。

 

 

 

 Xioベースから発進していくアトス、アラミス、ポルトスの三台。更に屋上の滑走路から、ジオマスケッティ三号機と四号機が飛び立った。

 

「ジオアトス、ジョイントゥジオマスケッティ!」

「ジオポルトス、ジョイントゥジオマスケッティ!」

 

 アトスとポルトスはそれぞれ三号機と四号機とジョイントし、一体化。

 

[スカイマスケッティ、アンドランドマスケッティ、コンプリート]

 

 アラミスと二機のマスケッティがエリアT-2、カルロスコミュニケーションズビル前に向けて出撃していった。

 

 

 

 ダイチたちが出動していってから、デバイザー修理を進めるグルマンの元に駆け込んでくる人物がいた。

 

「グルマン博士!」

「なのはママ!」

 

 なのはであった。ヴィヴィオが驚いた顔になる。

 

「高町一尉、作戦現場で直接防衛線に加わるのではなかったのかね?」

 

 聞き返したグルマンに、なのははこう返した。

 

「ティガという方のデバイスカードと……『ウルトラマン』という方のカードを急遽制作中と聞きました」

「ああ、そうだ。青い石とともにあった石像のウルトラマンと、『始まりの巨人』。その力はきっとザイゴーグを倒す助けになると考えてな」

「そのカードに……」

 

 なのははレイジングハートをグルマンに差し出した。

 

「この子のデータを使って下さい」

「何?」

「レイジングハートも、きっとお力になるはずです……!」

 

 なのはの訴えに、グルマンは大きくうなずいた。

 

「術式構築の手間も省ける。ありがたく使わせてもらおう。データをコピーしたらすぐに返すからな」

「お願いします」

 

 どことなく、いつもよりも熱意を宿しているように見えるなのはの横顔に、ヴィヴィオは小首を傾げた。

 



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進撃する地獄の軍団

 

 エリアT-2、カルロスコミュニケーションズビル前の市民公園は避難指示が出され、完全封鎖。Xio及び管理局による防衛線が敷かれた。

 スカイマスケッティ、ランドマスケッティの他、特務六課の魔導師たちも緊急招集されザイゴーグ迎撃作戦に参加、それぞれ所定の位置についた。

 次元間を泳いでミッドチルダに接近してくるザイゴーグに対して、次元航行艦隊による攻撃は行われない。その理由は、

 

『ザイゴーグの体組織は天然のディバイダー構造をしてます。そのため通常の魔力攻撃は通用しません』

 

 分析から判明したザイゴーグの性質について、マリエルが作戦に臨む前線の戦士たちに伝えた。

 エクリプスウィルス感染者は『ECディバイダー』という魔導兵器を得る。これの最大の特徴は、魔力エネルギーの結合分断「ゼロエフェクト」を引き起こす能力を持つことで、これ故にEC兵器は「魔導殺し」の異名を持つ。ザイゴーグは言うならば、全身がこのECディバイダーなのだ。流石に完全に結合分断される訳ではないが、効果は極めて薄い。

 このために有効なのはXioのメカニック、対ECディバイダー兵器として設計された第五世代デバイス、AEC武装……。

 

「そして、試作のMXカスタムデバイスか……」

 

 ティアナが手中のクロスミラージュを見下ろしてつぶやいた。

 デバイス怪獣の能力はそれまでジオデバイザーとXioマシンでないと使用できなかったのだが、技術向上により、専用カスタマイズを施したデバイスで使用可能となったのだ。それがMXカスタム。現在実用段階のMXデバイスは、モンスジャケットのデータ元にもなった、マッハキャリバー、クロスミラージュ、ストラーダ、ケリュケイオンの四種。

 また市民公園の一角に、ザイゴーグ捕獲用の大型シールド発生パラボラ塔が二基設置された。これを操作するのは、防御魔法を扱わせたら右に出るものはいないユーノ。彼とXioが共同開発した新型シールドが今回の作戦の要だ。

 

「シールド発生装置セット完了。いつでもチェックインできます」

「デバイスゴモラ、起動準備できました!」

 

 ユーノの側のダイチが本部に報告した。

 チンクの運転するランドマスケッティだが、所定位置から左に外れて停止する。

 

「チンク姉、ちょっとずれてる」

「そうか……? すまない、ランドマスケッティの扱いはどうにも慣れなくてな」

「スバルは青い石の回収に行ってるしね……。こんな時、ノーヴェがいればよかったんだけど」

『だったら代わってやろうじゃんか、あたしが』

 

 急に車内にノーヴェの声が響いた。チンクとディエチが面食らって車外を見下ろすと、ランドマスケッティの横にノーヴェが立っている。

 

「ノーヴェ! 来てたのか!」

『ああ。こんなお祭り騒ぎ、元特捜班として見逃す訳にはいかねーからさ』

 

 隊員服にも久々に袖を通しているノーヴェは本部と通信を開くと、カミキに敬礼する。

 

「カミキ隊長、作戦参加の許可をいただきたく存じます!」

『願ってもない。ではノーヴェはチンクと交代して、ランドマスケッティ操縦を担当せよ! チンクはバックアップに回れ』

「了解!」

 

 チンクとうなずき合ったノーヴェがポルトスの運転席に入り、チンクはダイチたちを護衛しているウェンディの元へ走っていった。

 作戦の準備が着々と進められる中、スカイマスケッティ機内でワタルがふとつぶやいた。

 

「ところで、ちょっと気になってることがあるんだけどよ」

「何だ?」

「古文書には、ザイゴーグは地獄の軍団を率いてたってあったって話だったじゃんか。でも今のザイゴーグは一体だけだろ? その軍団ってのはどこ行ったんだ?」

 

 ハヤトはそれに失笑した。

 

「そんなのがいるんだったら、一緒に出現してるはずさ。ただの言い伝えか、もしくはもういないかのどっちかだよ。いちいち気にすることじゃねぇだろ」

「そいつもそうだな」

 

 ワタルはそれ以上深く考えずに、意識を作戦に集中した。

 

 

 

「チアーズ!」

「チアーズ!!」

 

 ザイゴーグに狙われている青い石がある問題のカルロスコミュニケーションズビルでは、カルロスたちが避難もせずにウェブテレビの打ち上げパーティを行っていた。

 出演者たちからの拍手を浴びたカルロスは、秘書の女性に尋ねかける。

 

「どうだ? 私の番組は。ヒット数の、記録更新か?」

 

 ヒット数を調べた秘書は、こう答える。

 

「……残念ですが、『フーカのウラカンチャンネル』に負けてます」

 

 さっと顔色が変わるカルロス。その後ろでは、出演者の女性三人がそのチャンネルを観て黄色い声を上げた。

 

「かわいい!」

「わぁーかわいい!」

『にゃあ~♪』

 

 アスティオンと同型のデバイスがゴロゴロ転がっている動画にショックを受けるカルロス。

 

「何でデバイスなんかに負けるんだ!? ロマンはどこへ行った? 嘆かわしい~!」

「嘆かわしいのはあなたですよ!」

 

 スバルとともにパーティ会場に到着したアイシスが、きつい顔つきでカルロスに言い放った。しかしカルロスは気にした様子もなく、飄々としながら二人を迎える。

 

「ようこそカルロスタワーへ! 愛らしいご婦人がお二方もいらっしゃるとは。何かドリンクでも如何ですか?」

 

 だがスバルの方も取り合わず、カルロスに宣告した。

 

「結構です。あたしたちはあの青い石の接収に来ました」

「石は返してもらいますよ!」

「返す? 誰に? あの石は私のものだが?」

 

 とぼけるカルロスに、スバルは真剣に告げる。

 

「怪獣があの石を目指して来ています!」

「だから動かしちゃいけなかったんですよ!」

「避難指示が出ています! すぐに退避して下さい!」

 

 パーティ会場中に勧告するスバルだったが、カルロスがさえぎるように言い放った。

 

「私はXioと管理局を信頼している! 怪獣が来るなら、さっさとやっつけて下さいよ! ねぇみんなぁ!」

 

 パーティの客たちはカルロスにうなずき返し、動こうとしない。あまりののんきさに、スバルは流石に焦りを見せた。

 

「危険なんです! 早く退避を……!」

 

 しかしそこに、本部からの連絡。

 

『ザイゴーグ接近中! あと三十秒で市民公園に到達します!』

 

 

 

 ザイゴーグ接近を受けて、カミキが作戦開始を宣言した。

 

『ザイゴーグ要撃作戦、インフェルノ三号開始!』

 

 すかさずダイチがデバイスゴモラの実体化を実行。

 

「デバイスゴモラ、リアライズ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 公園の中心にその姿を現すデバイスゴモラ。

 更にキャロとルーテシアが召喚魔法を唱えた。

 

「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者。竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルテール!」

「究極召喚! 白天王!」

 

 ゴモラの左右に召喚されるヴォルテールと白天王。三体の巨獣たちはうなずき合い、そして次元の狭間より接近してくるザイゴーグの方を見上げた。

 

「次元間のザイゴーグにロックオン!」

『コンタクトまで、5、4、3、2、1……!』

 

 アルトがカウントし、ダイチが叫ぶ。

 

「超振動バスター!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 デバイスゴモラから放たれた振動波が空間に衝撃を与え、それによって虚空に水面のような揺らめきが発生した。

 

『ザイゴーグに命中!』

『来るぞっ!』

 

 揺らめく空間が一気に赤黒く染まり、空中の血の池を突き破って、ザイゴーグがミッドチルダに踏み込んできた!

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 姿を現したザイゴーグに対して、ゴモラ、ヴォルテール、白天王が戦いの構えを取った。対峙する巨獣たち。

 

「あいつがザイゴーグか……。エックスとダイチの分の礼はたっぷりとしてやるぜ!」

 

 ノーヴェは舌打ちすると、デバイザーにデバイスインペライザーのカードをセットする。

 

[デバイスインペライザー、スタンバイ]

「行くぜディエチ!」

「うん……!」

 

 ワタルもデバイスキングジョーのカードをデバイザーに挿入。

 

「こっちも準備オッケーだ!」

「カウント3で行くぞ!」

[デバイスキングジョー、スタンバイ]

 

 ランドマスケッティ、スカイマスケッティが砲撃の用意を整えた。

 

「キングジョーデストロイ砲!」

「インペライザーガトリングキャノン!」

 

 ゴモラやヴォルテール、白天王、他の面々も一斉攻撃の姿勢を取る。

 

「3! 2! 発射っ!」

 

 発射された種々の砲撃や振動波、魔力変換エネルギーがザイゴーグに集中した。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 怒濤に押し寄せる攻撃に押され、さしものザイゴーグも動きが停止した。その瞬間に振り向くダイチ。

 

「ユーノさん、今です!」

「了解!」

 

 ユーノがパラボラ塔とつながっているデバイザーに、デバイスサンダーダランビアのカードを挿し込んだ。

 

[デバイスサンダーダランビア、スタンバイ]『グワアァァァ! ピィ――――!』

「ダランビア亜空間シールド、起動!」

 

 二基のパラボラから電撃光線が放たれ、ザイゴーグに纏わりつく。電撃は障壁を形作って、ザイゴーグの全周を覆い込んだ。

 これが作戦の要、ダランビア亜空間シールド。ダランビアの亜空間バリヤーと障壁魔法を緻密に組み合わせることで、従来のシールドの比ではない強度を実現したのだ。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 シールドの中に閉じ込められたザイゴーグはその場から一歩も動けなくなった。

 

「やった! 流石ユーノ!」

「あとはスバルが石を回収して、封印手段を確立するまでこれを維持すれば……!」

 

 ザイゴーグの閉じ込めが成功したことで、フェイトとはやてがぐっと手を握った。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 だがザイゴーグは内側からシールドを棍棒状の右腕で殴り、シールドを揺らした。

 

「何と! あのシールドに損傷を与えるとは……!」

「想定以上のパワーだわ……!」

 

 驚愕に染まるザフィーラとシャマル。なのははユーノを心配して呼びかけた。

 

「ユーノくん、大丈夫!?」

『大丈夫だ……! いくら損傷を加えたって、その都度修復すれば問題は……』

『俺も手伝います!』

 

 ユーノは絶え間なくシールドを修復することにより、ザイゴーグを絶対に逃がさない構えだ。ダイチも手を貸そうとしたが――。

 

「ガハハハハハ……!」

 

 ザイゴーグの肩に生えているトゲがおもむろに前を向き、ヴォルテールと白天王に尖端が合わされた。

 

「!? 危ないっ!」

 

 危険を察知したダイチがゴモラを操作し、ヴォルテールたちを突き飛ばした。

 次の瞬間にトゲが発射された。弾丸のような勢いのトゲはシールドを突き破って飛び出し、デバイスゴモラの胴体を貫通した。

 

『ギャオオオオオオオオ!!』

「うわああああっ!!」

 

 魔力粒子を破壊されて弾け飛び消滅するデバイスゴモラ。ダメージがフィードバックしたダイチが倒れたところに、キャロとルーテシア、シャマルが慌てて駆けつけた。

 

「大丈夫ですか、ダイチさん!?」

「白天王たちを助けるために……ごめんなさい!」

「お、俺は大丈夫だ……! 君たちの召喚獣が無事でよかった……」

 

 ダイチを回復するシャマル。しかしゴモラが身代わりになったことで、ヴォルテールたちは無傷だ。シールドに開いた穴も、すぐにユーノがふさぐ。

 

「そんなことをしても、僕がシールドを破らせないぞ……!」

 

 ――だが、発射されたトゲが着弾し発生した爆炎の中から、怪獣が二体出現した!

 

「キャ――――――――オォォウ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

「えっ!!?」

 

 戦場の全員が、愕然と振り返った。

 

 

 

 本部で叫ぶルキノ。

 

「新たにファイヤーゴルザ、アントラーが出現っ!」

『嘘!? その子たちはここにいますよ!?』

 

 ラボからシャーリーが混乱した様子で告げた。彼女の向いた先に、カプセルに入れられたアントラーとファイヤーゴルザのスパークドールズ。ダイチが回収したものだ。

 すると二体の怪獣の分析を行ったグルマンが述べた。

 

『いや! あの怪獣たちの組成はザイゴーグと同一のものだ! 恐らくあいつらは、怪獣の生体情報を元にザイゴーグが作り出した分身体だっ!』

「分身だと……!?」

 

 カミキもクロノもまさかの事態に唖然となる。

 

 

 

「キャ――――――――オォォウ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 赤いアントラー、ゴーグアントラーと青いゴルザ、ゴーグファイヤーゴルザは磁力光線と超音波光線を発射し、シールド発生装置を撃ち抜いた。

 

「し、しまった!!」

 

 動揺するユーノ。パラボラは大破してしまい、亜空間シールドは維持できなくなって消滅する。ザイゴーグが自由になってしまった!

 

「いけない! すぐに退避を!」

 

 ダイチたちは後退して怪獣たちから距離を取る。その退避をヴォルテールと白天王が守る。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「キャ――――――――オォォウ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 日が傾き、夕焼けが街を染める中、アントラーとゴルザはザイゴーグの両翼に回り込み、三体の巨大怪獣が守護獣二体と向かい合った。怪獣たちは、人間の抗戦を嘲笑うかのように咆哮を上げる。

 カミキとクロノは防衛線のメンバーに指示を飛ばす。

 

『フロント及びセンターは直ちに怪獣を攻撃! その場から動かすな!』

『バックはカルロスタワーまで後退! ダイチはスバルと合流して青い石を確保!』

「了解!」

 

 二体の怪獣を従えるザイゴーグを見上げたダイチがつぶやく。

 

「地獄の軍団ってこういう意味だったのか……! あいつはトゲから怪獣を生み出すことが出来たんだ!」

「あの背中に生えてるの全部怪獣になるってことっスか!? そんなことされたらホントに地獄絵図っスよ!」

 

 ザイゴーグの背面にびっしり生えるトゲを確かめ、ウェンディが戦慄した。

 

「とにかく行こう……!」

「っス!」

「ユーノさん、こちらへ……!」

「ありがとう……!」

 

 ユーノを誘導するチンク。キャロ、ルーテシア、シャマルも続く。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「キャ――――――――オォォウ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 街を夕闇が包み出す中、進撃を再開するザイゴーグの軍勢。ヴォルテールと白天王が阻止しようと正面からぶつかっていくが、敵は三体。数の差で押されてしまう。

 

「私たちも迎撃だ! 臆するなっ!」

「こっから先には一歩たりとも通さねぇーっ!!」

 

 鬨の声を上げるシグナムとヴィータ。二人の勢いに押される形で、他の前衛メンバーも怪獣たちに抗戦する。

 ……しかし、皆が巨大な怪獣たちに目を引きつけられたので、飛ばされたトゲの先端が切り離されて欠片となっていたこと――その欠片が変形して、カルロスタワーに向かって進み出したことには誰も気がつかなかった。

 

 

 

「きゃああ――――――――っ!!」

 

 窓から見える三体の怪獣の姿に、パーティの参加者たちは恐怖を感じてパニックに陥っていた。スバルは懸命に彼らを避難誘導する。

 

「玄関の方へ避難して下さい! まっすぐ! 慌てないで、落ち着いて避難して下さい! ……きゃっ!」

 

 その中で、怪獣たちが起こした震動がビルにも伝わって、アイシスが体勢を崩して転倒した。

 大勢の人が一斉に出口へ逃げていくが、カルロスは番組のカメラマンからカメラをひったくった。

 

「逃げるんならカメラ寄越せ! 私が撮る!」

 

 カルロスが手にしたカメラが捉えた、スバルやアイシスの姿がウェブテレビに流された。

 

 

 

「スゥちゃん! アイシス!」

 

 ラボでは、カルロスの番組越しにトーマがアイシスの倒れたところを目撃して叫んでいた。そしてどこかに立ち去っていこうとするのを、シャーリーたちが慌てて押しとどめた。

 

「ま、待って! どこ行くの!?」

「スゥちゃんたちが危ないんです! じっとしてなんかいられません!」

「お、落ち着いて下さい! トーマさんまで危ない目に遭うだけです!」

「あなたが行っても、どうしようもないですよ!」

 

 説得するヴィヴィオにアインハルトだが、トーマは聞き入れない。リリィはどうしていいのか分からず狼狽えている。

 

「もう大事なものを失うのは嫌なんだ! アイシスだって、短い時間だけだけど友達だ! みんなのピンチに、見てるだけなんて俺には出来ないっ!」

「駄目ですったら……!」

 

 今にも飛び出していってしまうそうなトーマを必死で制止するヴィヴィオたち。

 すると、トーマの叫び声に呼応したかのように、グルマンの手元の石器が強く光り始めた。

 

「これは……!?」

 

 突然の光に、トーマたちも思わず目を奪われた。

 

 

 

 カルロスコミュニケーションズでは、同時に青い石が光り輝き出したのを秘書が見とめた。

 

「社長! 石が光ってます!」

「そう来なくちゃ! これが、神秘の光だぁ!」

 

 すかさず駆けつけたカルロスが、石の発光をカメラに収めた。

 

 

 

 グルマンたちは、石器と青い石の光の明滅が全く同じ周期であることに、目の前の現物と映像を見比べて気がついた。

 

「これって……!?」

 

 目を見張るマリエルに、トーマは頼み込んだ。

 

「お願いです、行かせて下さい! 何も出来ないかもしれないけど……それでも、スゥちゃんたちを助けたいんだっ!」

 

 その言葉を引き金とするように、石器の発光が頂点に達する。

 

『博士、この光は……!?』

 

 エックスの問いに答えるグルマン。

 

「トーマ少年の想いに反応しているようだ」

『ティガの像の碑文の通り、青い石が、天と地の光をユナイトさせるとすれば……恐らく……!』

「……っておい! お前さんも光ってるぞ!?」

 

 仰天するグルマン。エクスデバイザーも石器と青い石に同調して輝き出したのだ。

 

『これは……!』

 

 それに気がついたエックスはファビアとシャーリーの二人に頼み込んだ。

 

『クロ、シャーリー! 私をダイチのところに連れていってくれ!』

「でも、修理はまだ……!」

 

 ファビアたちが戸惑っていると、グルマンが言いつける。

 

「ここは私とマリーだけで大丈夫だ! トーマ少年とエックスをみんなのところへ連れていけ!」

「きっとトーマくんとその石器が必要なのよ!」

 

 グルマンとマリーの言葉に、シャーリーたちは決心して敬礼した。

 

「了解です!」

「了解」

 

 石器をバッグに入れたトーマを先導していくシャーリーとファビアを、ヴィヴィオたちが応援しながら見送る。

 

「トーマさんのこと、どうかお願いします!」

「クロ、頼みました!」

「キュウッ!」

 

 ヴィヴィオたちにうなずき返すファビアとシャーリー。トーマには、リリィがおずおずと呼びかけた。

 

『トーマ……無事に帰ってきてね……』

「……ああ! 分かった!」

 

 心配そうなリリィを置いて、トーマはシャーリーたちとともにスペースマスケッティでエリアT-2へと飛び立っていった。

 

 

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「キャ――――――――オォォウ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 戦闘メンバーは怪獣軍団に総攻撃を続けているが、ザイゴーグたちの肉体は恐ろしく堅牢であり、進行を遅らせるので精一杯であった。

 

「白天王っ!」

 

 ルーテシアの呼びかけにより、白天王が上空から怪獣たちに飛びかかっていこうとする。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 しかしアントラーの背面の甲殻がパックリと開くと――下から昆虫の翅が伸び、高速で羽ばたくことでアントラーが飛び上がった!

 

「飛んだ!?」

 

 アントラーは白天王に急接近し、大顎で相手の腰を挟み込み、地上に引きずり落とす。

 

「っ!!」

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 白天王が背中から地面に叩きつけられた。

 ヴォルテールはザイゴーグに殴りかかっていこうとしたが、それに反応してゴルザが前に飛び込む。

 

「グガアアアア!」

 

 そのまま身体を丸めて球状になり、ヴォルテールに激突。ビルを巻き込んで押し倒す。

 

「ヴォルテールっ!!」

 

 絶叫するキャロ。守護獣が抑え込まれている間に、ザイゴーグがまっすぐにカルロスタワーへ向かい出した。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「待ちなさいっ!」

「そっち行くんじゃねぇーっ!」

 

 ザイゴーグの頭上からスカイマスケッティとなのはたち空戦魔導師、背後からはランドマスケッティとティアナが攻撃を仕掛けようとしたが、ザイゴーグは新たにトゲを二本、上と下に飛ばした。

 

「キャア――――!」

 

 上に飛ばされたトゲは雲を下から突き抜けると、白いドラコ、ゴーグドラコの姿で急降下してきて、なのはたちに襲いかかった。

 

「きゃあああっ!」

 

 ドラコが間を突き抜けていった際に起こした突風に、なのはたちは煽られて散り散りにされる。

 

「グギュウウウウウウウウ!」

 

 下に撃たれたトゲは地中に消えると、黒いシルバゴン、ゴーグシルバゴンが路面を裂いて出現し、ランドマスケッティとティアナの砲撃をその身で受け止めた。

 

「ちくしょう! 増やすんじゃねぇよっ!」

 

 毒づくノーヴェ。ドラコとシルバゴンにさえぎられて、ザイゴーグがノーマークになってしまった。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「こっち来るなっスーっ!」

 

 タワーにどんどん接近してくるザイゴーグにダイチ、チンク、ウェンディがウルトライザーシュートを浴びせるも、ザイゴーグは全く効いた様子を見せなかった。

 

 

 

 ザイゴーグの接近により震動が強まり、テーブルが傾いて乗せられていた青い石が転げ落ちた。

 

「あぁーっ!?」

 

 思わず叫ぶカルロス。石は逃げる女性に蹴飛ばされて転がっていき、スバルが追いかけて手を伸ばしたが、後ろから秘書が組みついてスバルを邪魔した。

 

「あれは社長のものだっ!」

「何するんですか! 離して下さいっ!」

 

 スバルが秘書と争っている間に、青い石はアイシスが拾い上げた。

 

「おぉー! 拾ってくれてありがとうアイシスくん! さぁこっちに……」

「渡すもんですかっ!」

 

 アイシスはカルロスに背を向けて、石を持ったまま出口に走っていく。

 

「あっ! 待て泥棒ーっ!」

 

 それを追いかけていくカルロス。秘書を振り払ったスバルも、秘書もカルロスの背中を追って走っていった。

 

 

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 ザイゴーグはウルトライザーシュートを放つダイチたちに向けて光線を吐き出そうとする。戦慄するダイチたち。

 しかしその時、空の彼方からスペースマスケッティが猛スピードで飛んできた!

 

「間に合ったーっ! クロ!」

「うん……!」

 

 ファビアがスイッチを押し、スペースマスケッティからピンク色の光線が発射され、ザイゴーグの口の中に命中。

 すると口内が花でいっぱいに満たされ、光線の攻撃は阻止された。ファビアの扱う魔女の古典魔法を増幅し射出した花束光線だ。

 

「!?」

「やったぁ! 大成功っ!」

 

 ガッツポーズを取るシャーリーとファビア。ファビアの使い魔たちはわいわいと紙吹雪を散らした。

 

「今の内にっ!」

 

 操縦しているシャーリーがマスケッティからアラミスを切り離して、ダイチたちの前に着地させた。ファビアはすぐに降車してダイチへ駆け寄った。

 

「ダイチ隊員! エックス!」

「ありがとう!」

 

 エクスデバイザーを手渡すファビア。ダイチは即座にエックスに呼びかける。

 

「エックス、大丈夫か!?」

『残念ながらユナイトはまだ無理だ!』

「そうか……あっ、トーマ!?」

 

 ダイチが顔を上げると、トーマが単身カルロスタワーへ駆け込んでいく後ろ姿を発見して驚愕した。

 

「ちょっ、トーマくん!」

「トーマのことは俺が! シャーリーさんたちはバックと合流を!」

 

 追いかけようとしたシャーリーを止めたダイチが、代わりにトーマを追って走っていった。シャーリーはチンクとウェンディに振り返る。

 

「チンク、ウェンディ! マスケッティ交代!」

「了解! ウェンディ、乗るぞ!」

「りょーかいっス!」

 

 チンクとウェンディがアラミスに駆け込み、ウェンディがマスケッティを呼ぶ。

 

「カモーン! マスケッティ!」

 

 アラミスが飛び上がって、マスケッティと再度ジョイント。

 

[スペースマスケッティ、コンプリート]

 

 チンクとウェンディを乗せたスペースマスケッティが新たに乱戦に加わっていった。

 

 

 

 トーマを追って無人のカルロスタワーのエントランスに入ったダイチに、エックスが告げた。

 

『トーマが持ってる石器の波動は、青い石にシンクロしている!』

「それって、闇を闇に還す力? ザイゴーグを封印する力か!」

 

 ダイチがそう言った時、ドォォンッ! と突然上階の方から壁が砕け散るような耳をつんざく轟音が発生した。

 

「何の音だ!? 怪獣の攻撃の音じゃない……!」

 

 驚かされたダイチに、エックスが焦燥した声を出した。

 

『まずいぞ! タワー内に、ザイゴーグと同じ反応を持つ人型の動体を捉えた!』

「何だって!? しまった、怪獣の他に小型の分身がいたのかっ!」

『急ごう、ダイチ!』

「ああ!」

 

 ダイチは全速力でタワーの非常階段を駆け上がって、青い石を回収に行ったスバルとアイシス、その二人のところへ向かっていったトーマを目指していった。

 

 

 

 青い石を持って階段を駆け下りていくアイシスがタワーの中ほどの階に差し掛かると、ちょうど上ってきたトーマと鉢合わせた。

 

「アイシス! よかった、無事で!」

「トーマ!? どうしてここに……!」

「アイシスたちが心配で、いてもたってもいられなくなって……! 石も回収できたんだな!」

[二人とも、すぐに脱出しましょう。外の戦況は芳しくありません]

 

 呼びかけたスティードだが、すぐに警告を発した。

 

[いえ、伏せてっ!]

「えっ!?」

 

 突然二人の近くの床が下から突き破られ、トーマとアイシスは爆風に煽られてよろめおいた。

 

「うわぁぁっ!」

「何が起きたの――えっ!?」

 

 顔を上げたアイシスが目を見張った。その視線の先にいるのは――。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 トーマと瓜二つの顔と、甲冑のような防護服、剣と一体化した腕を持った人間。しかし肌には赤黒い血脈のような模様が走り、眼は黄色く爛々と光っていて、口からはザイゴーグと酷似した笑い声が発せられた。

 ザイゴーグがトーマの生体情報を写し取って作り出した、三番目の分身、閻魔分身獣人ゴーグトーマが青い石を狙って現れたのだ!

 



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天と地を結ぶ光

 

 出現したゴーグトーマの姿に、トーマもアイシスも驚愕を露わにした。

 

「えっ!? 俺!?」

「ト、トーマが二人!?」

 

 アイシスを追いかけて階段を下りてきたカルロスも、彼の後に続いてきたスバルも秘書も唖然とする。

 

「えぇっ!? トーマが二人いる!?」

「トーマくん、君は双子だったのか!?」

「いやそんな訳ないでしょ!」

 

 トーマが突っ込んでいると、下の階から上がってきたダイチがゴーグトーマを見とめ、皆に警告した。

 

「気をつけて! そいつは怪獣の分身体だっ! 青い石が狙いだ!」

「怪獣の!?」

 

 トーマがハッと思い出す。ルヴェラでザイゴーグから逃げていた際、ザイゴーグに光を浴びせられたのを。その時は何も起こらなかったと思ったが……。

 

「あの時に……!」

 

 敵と知ったスバルが即座にバリアジャケットを見に纏い、トーマたちの前に回ってゴーグトーマに立ちふさがった。それにジオブラスターを抜いたダイチも続く。

 

「トーマたちは避難してっ!」

「で、でも……!」

「早くっ!」

 

 躊躇うトーマを急かしたスバルだが、彼らを逃がすより早くゴーグトーマが動く。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 右腕と一体化している銃剣を持ち上げ、階段に向けて怪光弾を発射。

 

「うわぁぁっ!」

 

 その一撃で階段は崩落を起こし、下の階へと続く道が瓦礫で埋められた。

 

「しまった! 逃げ道をふさがれた……!」

「ガハハハハハハハ!」

 

 ゴーグトーマが黄色い眼を獰猛に光らせ、青い石を持つアイシスに向かっていこうとする。その前に立ちふさがって、リボルバーナックルを打ち込むスバル。

 

「たぁぁっ!」

 

 ダイチもゴーグトーマの左方に回り込みながら援護射撃を繰り出す。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 しかしゴーグトーマはスバルのナックルを剣で受け止め、彼女をあっさり押し返した。ブラスターの弾丸は、ゴーグトーマの皮膚を貫くことが出来ない。

 

「うっ! 何て力……!」

「トーマの姿をしてても、身体の作りはザイゴーグと同じなんだ! それも当然だ……!」

「スゥちゃん! ダイ兄!」

 

 旗色の悪いスバルとダイチを案じるトーマだが、スバルは少しだけ顔を向けると、安心させるように微笑みかけた。

 

「大丈夫。お姉ちゃんたちに任せて!」

 

 次いでダイチとアイコンタクトを取る。

 

「同時に行くよ! ダイチ!」

「オッケー! スバル!」

 

 ウルトライザー・カートリッジを装填するダイチ。スバルも左手のAEC兵器を起動させた。

 

[ウルトラマンの力をチャージします]

 

 この走り回ることが出来ない狭い空間では、力と防御に優れたゴーグトーマの方が有利。時間を掛けるほど、トーマたちの身も危険になる。そこで短期決戦に臨むつもりだ。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 両腕の刃を振り上げて迫り来るゴーグトーマ。それを見て、スバルの方もゴーグトーマへと飛び込んでいった。

 

「ソードっ!」

 

 右腕の剣が自分に一気に振り下ろされる――その機先を制して、左手で刃を掴んだ!

 

「ブレイクっ!!」

「ウルトライザーシュートっ!!」

 

 左腕に備えられたソード・ブレイカーが剣を粉砕し、左腕の刃もウルトライザーシュートで弾け飛んだ!

 

「やったぁっ!!」

 

 歓声を上げるアイシスたち。両腕の武器を破壊されたゴーグトーマはのけ反る――。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 だが首を戻すと同時に口から腐食光線を吐き出し、スバルとダイチの両方に食らわせた!

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 突然のことにトーマたちは驚愕。ダイチは光線から脱け出すも、

 

「しまった、ブラスターが……!」

 

 ジオブラスターがボロボロに腐食して、使い物にならなくなってしまっていた。

 スバルの被害はそれを超えていた。

 

「あああぁっ!」

 

 ソードブレイカー、マッハキャリバーのみならず、自身の身体も腐食してしまい、全身錆に覆われて倒れ込んだ。

 

「スゥちゃんっ!!」

 

 ダイチとトーマの絶叫がそろった。

 

 

 

 完全に日が落ち、街が夜の暗黒に覆われた中、カルロスタワーの外では、地獄の軍団の前に防衛線メンバーは大いに苦戦を強いられていた。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 ザイゴーグを止めようと飛びかかろうとした白天王をアントラーが磁力光線で引き寄せ、大顎で身体を挟み込んで投げ飛ばす。

 

「グギュウウウウウウウウ!」

 

 シルバゴンは剛力でヴォルテールを押し切り、殴り飛ばした。

 

「キャア――――!」

 

 ドラコは空を音速で飛び回って、航空部隊の攻撃を妨害。ソニックフォームになったフェイトの後を追いかけ、カマを光らせる。

 

「振り切れないっ……!」

 

 自分にピッタリとついてくるドラコに、フェイトは苦悶の表情を見せた。

 

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 地上部隊の攻撃はゴルザの肉体に阻まれ、超音波光線の反撃によって逆に後退を余儀なくされる。

 

「やべぇっ! ザイゴーグがタワーに……!」

 

 うめくノーヴェ。四体の怪獣に守られるザイゴーグが、遂にカルロスタワーの目前までたどり着いてしまったのだ。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 タワーを攻撃しようとするザイゴーグを目にして、ユーノが再度デバイザーにデバイスサンダーダランビアのカードをセット。タワー全体を亜空間シールドで覆った。

 そこにザイゴーグの棍棒が叩きつけられ、伝わってきた衝撃でユーノが絶叫を上げた。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「無茶ですっ! 直接亜空間シールドを展開し続けようなんて……!」

 

 シャーリーが仰天して叫んだが、ユーノはデバイザーから指を離さなかった。

 

「ここで踏みとどまらなくちゃ、青い石だけじゃなくダイチくんたちも潰されてしまう……! 無茶でもやらなくては……!」

 

 そう言いながらもザイゴーグの一撃でひどく消耗するユーノの身体を、後ろからキャロが支えた。

 

「わたしも手伝います! 一人では無茶でも、二人なら……!」

「二人よりも三人がいいに決まってるよ!」

「私たちも!」

 

 はやて、シャマル、ザフィーラ、ルーテシア、ファビアまで加わって、魔力を注ぎ込んで亜空間シールドを維持する。

 それだけの人数が加わっても、シールドはザイゴーグの打撃によって激しく揺らされる。

 

「くぅぅぅぅっ……!」

 

 ザイゴーグの攻撃の度に、七人は衝撃に必死に耐えながらシールドを支えた。

 

 

 

 防衛線メンバーがギリギリまで追い込まれながらも懸命に抗戦しているが、タワー内部でも関節が全く動かなくなったスバルに危機が迫っていた。

 

「ガハハハハハハハハ!」

 

 ゴーグトーマが砕かれた右腕を変形させ、棍棒の形で再生させてスバルに叩きつけようと振り上げる。動くことの出来ないスバルは脂汗を噴き出すことしか出来ない。

 

「やめろぉぉぉぉぉっ!」

[Start up]

 

 遂にたまらなくなったトーマが銃剣型のECディバイダー、シュトロゼック・リアクテッドを出し、戦闘装備姿に変身して飛び出した。

 

[Silver Barrett]

 

 シュトロゼックの銃口からエネルギー弾を発射したが、ゴーグトーマのボディには傷一つつかない。

 

「ガハハハハハハハ!」

「くっ!」

 

 射撃が効かないと見たトーマはスバルの前に回り込んで、振り下ろされた棍棒をシュトロゼックの刃で受け止めた。

 だがトーマは不完全な状態でのリアクト。対してゴーグトーマは彼の潜在能力を発揮した姿を先取りして再現された個体で、かつ怪獣のパワーもプラスされている。オリジナルのはずのトーマはすぐに押されて、その場に片膝を突いた。

 

「うぐぅっ……!」

「トーマっ!!」

 

 トーマを助けようとダイチが飛びかかったが、得物を失った彼は片腕だけで振り払われた。

 

「うわぁっ!」

「ブラックパフュームNo.5! ランブリングスパロー!」

 

 アイシスが黒い鳥型の爆薬を飛ばしてゴーグトーマに爆発を食らわせるも、やはりゴーグトーマには通用していない。何事もなかったようにトーマを押し続ける。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 汗が顔中に噴き出ているトーマに、スバルがかすれた声を出した。

 

「トーマ……あたしのことはいいから、逃げて……!」

「嫌だっ!」

 

 トーマは自分を抑えつける棍棒に必死に耐えながらも、即座に断った。

 

「スゥちゃんは俺に手を差し伸べてくれた人だ! 俺はもう、大事な人を誰一人として失いたくないっ……!!」

 

 歯を食いしばり続けていたトーマの瞳が、一瞬強く決意に輝く。

 

「俺が、守るんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 口から飛び出た絶叫に合わせて、ゴーグトーマがものすごい勢いで押し返されていき、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた!

 

「ガハァッ!!」

「!? トーマ、今の力は……!」

 

 己から生じたすさまじいパワーに、トーマ自身が驚愕していた。

 しかし懐から光が仄かに漏れ出ていることに気づいて、その「光」を引っ張り出す。

 持ってきていた石器が強く光り輝いている。更にひびが走り――表面を覆っていた石が剥がれ、翼を象ったようなスティック状のアイテムが真の姿を現した。

 

「……!」

 

 アイテムの光を浴びて、アイシスの手の中の青い石も同じほどに発光した。

 それだけでなく、エクスデバイザーも発光する。立ち上がったダイチがデバイザーを手にした。

 

「これは……まさか、これが結びの光……!?」

 

 唖然としていた皆だが、その時に大きな揺れがタワーを襲い、ダイチたちはつんのめった。

 

「うわぁぁっ!」

 

 

 

 シールドがとうとう破られてしまい、ザイゴーグの棍棒がタワーの外壁を破砕したのだ。

 

「わぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!」

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 弾かれて倒れるユーノたち。タワーにとどめを刺そうとザイゴーグが右腕を振り上げるが、そこにどうにかアントラーとシルバゴンを振り切ってきたヴォルテールと白天王が背後から羽交い絞めにして、タワーから力ずくで引き剥がした。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 しかしすぐに振りほどかれて張り倒され、ザイゴーグが先に二体へ破壊光線を吐こうとする。

 

「ヴォルテールっ!」

「白天王ぉーっ!」

 

 キャロとルーテシアが絶叫。更にアントラーがタワーに向かって突進していく!

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 アントラーが激突すればタワーの崩壊は確実だが、止められる者はいない! 全員が声にならない悲鳴を発した。

 

 

 

 破砕された壁から、迫り来るアントラーの姿が見えた。カルロスは絶望して頭を抱えた。

 

「もう駄目だぁーっ!」

 

 更にアントラーとともに、ゴーグトーマがトーマに棍棒を振り上げ飛びかかっていく。

 

「ガハハハハハハハ!」

 

 押し寄せる分身獣を前にして――トーマは銃剣から持ち替えたアイテムを、光に導かれるようにそれを掲げた。

 

「おおおぉぉ―――――――っ!」

 

 アイテムの翼の部分が開き――トーマ自身から光が溢れ出した!

 

「ガハハ――!」

 

 閃光に当てられたゴーグトーマは――輝く拳と衝突し、塵となって砕け散った。

 更にアントラーは輝く手に顎を掴まれ、タワーに激突する寸前で突進を止められた。

 

「キャ――――――――オォォウ……!?」

 

 これと同時に閃光に照らされたスバルと、エクスデバイザーの錆が吹き飛んで元の姿が戻った。

 

「身体が、治った……!?」

『ダイチ! 行けるぞ! ユナイトだ!』

 

 エックスはすかさずダイチにユナイトを呼びかける。

 

「よし! 行くぞエックス!」

『おうっ!』

 

 ダイチは即座に応じ、ユナイトを敢行!

 

「イィィィーッ! サァ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 変身したウルトラマンエックスは、守護獣たちにとどめを刺す直前だったザイゴーグにきりもみキックを浴びせて蹴り倒し、光線発射を阻止した。

 

「グギャアアァァァァ――――――!」

 

 ゴルザ、ドラコ、シルバゴンはエックスの登場に驚いたかのように振り返って動きを止める。

 スバルたちはタワーのエントランスから外に飛び出し、ちょうど起き上がったユーノたちとともに、アントラーを押し返した銀と赤と紫色の巨人の立ち姿を見上げる。

 スバルとアイシスが言った。

 

「トーマ……!」

「トーマが、ウルトラマンに……!」

 

 その巨人こそ、トーマが石器の本当の姿――スパークレンスによって光を開放し、変身した古の巨人、ウルトラマンティガであった――。

 ティガを見上げて、スバルがつぶやいた。

 

「トーマ……まだまだ子供だと思ってたけど……いつの間にか、大きくなって……!」

 

 ティガの隣に並び、彼と顔を向き合わせたエックスが唱える。

 

『そうか、そういうことだったんだ……!』

『「どういうこと?」』

『人が人を想い、つながり合おうとする心。その絆が天と地とをつなぐ光なんだ。その光とユナイトするからこそ、私たちは、光の巨人と呼ばれるんだ――!』

 

 エックスとティガに向けて、ゴルザが額から超音波光線を発する。

 

「グガアアアア!」

 

 その瞬間、アイシスが手にしていた青い石が発光して空中に一気に飛び上がり――赤い球となって膨れ上がった。その赤い球が超音波光線を受け止める。

 

「!? あの赤い輝きは……!」

 

 なのはとユーノが、赤い球に思わず目を奪われた。かつての記憶が呼び起こされて。

 巨大化した赤い球がエックスとティガの前に降りてきて――赤と銀の巨人の姿に変化した。

 

 

 

 ラボから戦場の状況を見守っていたヴィヴィオたちもまた、唖然と目を奪われていた。

 

「博士っ!」

 

 マリエルが振り返ると、グルマンがおもむろにうなずいて言った。

 

「全ての始まり、光の巨人!」

 

 

 

「あれは……!」

 

 なのはが咄嗟にユーノへと空間モニターをつないだ。

 

『なのは!』

「ユーノくん!」

 

 ユーノに向かって告げるなのは。

 

「きたよ! わたしたちのウルトラマン!!」

 

 その巨人は、二人が子供時代に見た、巨大なヒーローの姿と寸分も違わなかった――。

 ――三人のウルトラマンの面前で、ザイゴーグが巨体を起こした。その左右にドラコ、ゴルザとアントラー、シルバゴンが並ぶ。

 

「キャア――――!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

「キャ――――――――オォォウ!」

「グギュウウウウウウウウ!」

 

 三人のウルトラマンたちの元にはヴォルテールと白天王が並び、三機のマスケッティと魔導師たち総員も集った。スバル、ティアナ、エリオ、キャロはMXデバイスの機能を始動。

 

「シェアッ!」

「フゥゥゥゥッ!」

「ヂャッ!」

 

 ミッドチルダの大地の上で、地獄の怪獣軍団に、ウルトラマンと魔導師たちが対峙した――。

 

 

 

「総員に告ぐ!」

 

 本部からカミキが命じた。

 

「三体のウルトラマンと連携し、怪獣たちを撃滅せよっ!」

 

 

 

「了解っ!!」

 

 魔導師たちの応答を合図とするように、両陣営が正面衝突して激闘の火蓋を切って落とした!

 一番にゴルザに向かっていったウルトラマンが前蹴りを浴びせて押し返し、続く白天王がドラコの横面を裏拳で殴りつけた。スカイマスケッティとスペースマスケッティの砲撃の連射を浴びるザイゴーグとアントラーにエックスとティガがぶつかっていき、ヴォルテールが下顎を抑えたシルバゴンにランドマスケッティのレールキャノンが決まる。エックスに殴りかかろうとするザイゴーグにはスバルからの振動波とティアナからの電撃波がうなり、首筋にヒットしてひるんだところをエックスが頭部を抑えつける。守護獣と取っ組み合うドラコとシルバゴンには新たにキャロを乗せたフリードリヒから、エリオからのビームとキャロからの火球が命中して守護獣を援護。エックスを振り払ったザイゴーグが棍棒を振るうが、はやてたちバックの重ねた五重の障壁がクッションとなってエックスを助けた。ウルトラマンたちと格闘中の怪獣の頭上からフェイト、シグナム、ヴィータが飛びかかってバルディッシュ、レヴァンティンとグラディエーター、ウォーハンマーを叩き込んで離脱し、更になのはがフォートレスとストライクカノンからの砲撃を、スカイ・スペースマスケッティとともに各種怪獣に浴びせる。空からの攻撃に首を上げたアントラーとドラコが羽を広げて上空に飛び上がり、なのはたちを狙うもそれをさせまいとティガがスカイタイプに変身して飛翔、白天王も飛び立ってドラコを追跡する。スバルたちとエリオ、キャロの攻撃によりゴルザがひるんだことでウルトラマンは、エックスが棍棒を掴んでいるザイゴーグに背後から飛びかかって左腕を捕らえ、そこにランドマスケッティの砲撃がザイゴーグの正面に命中した。ウルトラマンたちに向かっていこうとするゴルザにヴォルテールが掴みかかって引き戻し、その間にウルトラマン、エックスがザイゴーグにチョップとハイキックを見舞う。シルバゴンがエックスの背後から迫るも鋭く察知したエックスが回し蹴りを入れて迎撃した背景の空では白天王、フェイト、シグナム、ヴィータがドラコと交差し、ティガと編隊を組むマスケッティ二機がアントラーの背面に砲撃を放った。なのはとスバルたちストライカーズがシルバゴンを足止めしている間にゴルザがヴォルテールに超音波光線を撃ち込むも割り込んだエックスがバリアで防ぎ、ヴォルテールとうなずき合う。ウルトラマンと格闘しているザイゴーグにはやてたちが大型のバインドを引っかけて一瞬動きを止め、その隙にエックスとウルトラマンが立ち位置を換えてザイゴーグとゴルザに掴みかかっていき、なのはたちの集中射撃を振り切ったシルバゴンにはヴォルテールがぶちかましを食らわせた。地上の乱闘の間をアントラーと、追いかけるティガたちが通り抜けていく。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

「タッ! デヤッ!」

 

 月明かりの下にティガがランバルト光弾を連続発射するが左右に揺れるアントラーに回避された。アントラーは急速旋回してティガの下方を抜けていき、ティガもターンして追跡を続行する。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 空中を猛スピードで飛び回って戦場をかき回すアントラーにマスケッティ二機やなのはの砲撃、フェイト、シグナム、ヴィータの武器が何発も何発も叩き込まれるも、アントラーの強固な甲殻の前に全て弾き返されてしまう。

 

「――ワタル、覚悟はいいか?」

「当ったり前よぉっ!」

 

 これを打破すべく、ハヤトがデバイスバードンのカードに手を伸ばして、デバイザーにセットした。

 

「ウェンディ、私たちもやるぞ!」

「了解っス! いつでもどうぞ!」

 

 スペースマスケッティでも、チンクがテレスドンのカードをセットする。

 

[デバイスバードン、スタンバイ]『ケエエオオオオオオウ!』

[デバイステレスドン、スタンバイ]『ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!』

 

 だがこれだけでは終わらない。

 

「デバイス怪獣、リミッター解除!」

[リミッター解除します]

『待って下さい! リミッター解除はあまりにも危険です!』

 

 ルキノが声を荒げて警告したが、ハヤトたちは振り切った。

 

「もうこの手しかないっ!」

 

 スカイマスケッティが灼熱の火炎に覆われ、スペースマスケッティも赤熱化する。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 だがそこにアントラーが身の危険を感じたか、二機のマスケッティに磁力光線を放った!

 

「間に合わないっ!」

 

 磁力光線が迫り来るマスケッティ――その前にフリードリヒが回り込んできて、エリオがベムスターのカードをストラーダに読み込ませる。

 

[Limit break.]『ギアァッ! ギギギィッ!』

「スピーアスパウトぉっ!!」

 

 突き出されたストラーダの穂先を中心に五角形のシールドが生じ、磁力光線がその中に吸収されていった。

 マスケッティがフリードリヒを飛び越え、スカイマスケッティがアントラーに猛然と突っ込んでいく。

 

「バードンフェニックスアターックっ!!」

「テレスドンフルパワー熱線っ!!」

 

 灼熱のスカイマスケッティと業火の熱線がアントラーにぶつかり――翅が一瞬にして炭化して弾け飛んだ。

 

「キャ――――――――オォォウ!!」

 

 浮力を失ったアントラーは真っ逆さまに転落していき、地上に頭から激突した。

 着地したティガはパワータイプに変身。見上げた先で、オーバーヒートを起こしたマスケッティたちが滑空して戦場を離脱していく。

 

「後は頼んだぜ……!」

 

 敬礼して不時着していくハヤトたちに、ティガが力を込めてうなずいた。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

「ヂャッ!」

 

 アントラーはまだ戦闘不能にはなっておらず、立ち上がってティガに肉薄していく。それを迎え撃つため前に出たティガがストレートパンチを相手の体幹に打ち込む。

 

「キャ――――――――オォォウ!」

 

 パワータイプの腕力に押されながらも大顎を振るおうとするアントラーだが、駆けつけたシグナムとヴィータの剣とハンマーが叩き込まれ、右側の顎が半ばからへし折られた。

 

「四人の命懸けの奮戦、騎士の誇りに懸けて無駄にはせんっ!」

「来いよ怪獣! 地獄に叩き返してやるっ!」

「タァーッ!」

 

 シグナム、ヴィータ、ティガの打撃に押されてよろめいたアントラーをティガが肩の上に担ぎ上げ、そのまま地面に強く叩きつけた。

 ウルトラマンはゴルザに水平チョップや膝蹴りの猛襲を入れてどんどんと追いつめていく。

 

「ヘアァッ! ジェアッ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 流れるような連撃に動作の緩慢なゴルザはついていけない――と思われたが、ゴルザは身体を丸めて球状になり、猛然と転がってウルトラマンに激突する。

 

「ウワァァッ!」

 

 重量級のゴルザに全体重が乗った一撃に、さしものウルトラマンも吹っ飛ばされて背後のビルに叩きつけられてしまう。ビルはウルトラマンの重みで崩れ落ちた。

 ゴルザは球状になったまま体当たりを繰り返して、ウルトラマンを苦しめる。

 

「ウワァッ!」

 

 逆にウルトラマンが追いつめられているところに、スバル、ランドマスケッティが駆けつける。

 

「こっちも最後の手段だ! 準備いいかディエチっ!」

「うん……!」

[デバイスレッドキング、スタンバイ]『ピッギャ――ゴオオオウ!』

 

 ノーヴェはレッドキングのカードをセットし、スバルとそれぞれゴモラのカードを手にする。

 

「力を貸して、ゴモラ!」

 

 カードをマッハキャリバーに読み込ませて、リミッターを解除。

 

[Limit break.]『ギャオオオオオオオオ!』

「とっとと地獄に帰りやがれぇっ!」

 

 そしてゴルザがウルトラマンに激突する寸前のタイミングを計って、ランドマスケッティとスバルより、エネルギー弾と振動波が放たれた!

 

「レッドキング超徹甲弾っ!!」

「超振動バスターっ!!」

 

 二種の砲撃が見事ゴルザに命中。弾き飛ばされたゴルザは球状を解かれ、地面に打ち据えられた。

 

「グガアアアア!!」

 

 スバルたちの援護により、ウルトラマンは復活して立ち上がる!

 

「シェアッ!」

「グガアアアア! ギャアアアアアアアア!」

 

 立ち上がったゴルザが超音波光線を撃った瞬間にウルトラマンは放った八つ裂き光輪を縦にして防御。超音波光線が途切れるとゴルザに飛ばして胸部に突き立て、すかさずスペシウム光線を発射!

 

「ヘアッ!」

「グガアアアア……!!」

 

 深々と開いた傷口にスペシウム光線の直撃をもらったゴルザの眼から光が消え、バッタリと倒れると、肉体が崩壊してドロドロに溶けていった。

 遂に怪獣軍団の一体を打ち倒したウルトラマン。だがそこに頭上からドラコが急速に接近してカマを振り上げる。

 

「キャア――――!」

 

 顔を上げたウルトラマンだが、ドラコにはなのはが発したエネルギー弾が集中して撃ち込まれた。

 

「ヴァリアブルレイドっ!!」

「キャア――――!」

 

 エネルギー弾の炸裂で弾かれたドラコのカマはウルトラマンから外れる。攻撃を妨害されたドラコは再浮上して、矛先をなのはに向け直した。

 

「キャア――――!」

 

 猛スピードでなのはへ飛んでいくドラコだが、なのははまるで動じずにフォートレスとストライクカノンの照準をぴったりと合わせた。

 彼女からの事前の指示により、更に上空から白天王が、ビルの屋上に上がったティアナが、同じくドラコを狙っている。ティアナはエレキングのカードをクロスミラージュに読み込ませた。

 

「お願い、エレキング!」

[Limit break.]『キイイイイイイイイ!』

 

 そして三人がタイミングを合わせ、砲撃を放つ!

 

「ヴァリアブル電撃波っ!!」

「エクサランスカノン、フルバーストぉっ!!」

 

 三方向からのエネルギー波が同時に直撃し、ドラコは一瞬にして声もなく弾け飛んだ!

 その肉体が爆ぜた赤い霧が、なのはを吹き抜けていった。

 

「……」

 

 ドラコを撃破して、なのははウルトラマンを見下ろす。すると――ウルトラマンは何かを察したかのように、彼女に重々しくうなずいてみせた。

 なのははウルトラマンの気持ちを感じ取り、少女時代を思わせる天真爛漫な笑顔を咲かせた。

 

「グギュウウウウウウウウ!」

 

 アントラーの片方だけの顎を掴んでボディにパンチを入れているティガの背後から、シルバゴンが接近していく。しかしその前方にヴォルテールとフリードリヒが回り込む。

 エリオの後方のキャロが呼びかける。

 

「ヴォルテール、ゼットン! 行くよっ!」

[Limit break.]『ピポポポポポ……』

 

 シルバゴンが猛然と走ってくるが、キャロとヴォルテールはひるまずにエネルギーチャージ。そして、

 

「ブラスト火炎弾っ!!」

 

 灼熱のエネルギーを真正面からシルバゴンにぶつけた!

 

「グギュウウウウウウウウ!!」

 

 全身が火だるまになるシルバゴン。更にその真上からフェイトがバルディッシュを振り上げて急速に落下してきた。

 

「はぁぁぁっ! ジェットザンバァ―――っ!!」

 

 バルディッシュの刃が焼け焦げたシルバゴンの身体を真っ二つに切り裂き、シルバゴンは溶けながら崩れ落ちていった。

 そしてアントラーには、急接近していくシグナムとヴィータが剣とハンマーの全力攻撃をぶち込む。

 

「煌竜っ!!」

「うおおおおっ! プラズマパイルっ!!」

 

 二人の渾身の一撃がアントラーの胴体を撃ち、甲殻が砕け散った!

 

「キャ――――――――オォォウ……!」

 

 たちまち力を失うアントラーに向けて、マルチタイプに戻ったティガが胸の前でまっすぐ伸ばした両腕を左右に開いていく。それに合わせて光の軌道が生じ……。

 

「ハァッ!」

 

 L字に組み直された腕からゼペリオン光線が照射! 甲殻のアントラーを撃ち、瞬時に爆散させた。落下した破片は溶けて消滅していく。

 四体の怪獣を撃破してヴィータがぐっと手を握り締めた。

 

「やったぜ……! これで分身どもは全滅だ!」

「ああ……。しかし、AEC兵器はもう使い物にならなくなってしまった」

 

 己の得物に目を落とすシグナム。グラディエーターは何度も怪獣たちに叩きつけたことでひび割れており、レヴァンティンのAECコーティングも先ほどの攻撃で完全に剥げていた。

 

「やはり、急ごしらえでは無理があったな……」

 

 他の面々の持つAEC武装も同様の状態で、酷使に耐えられずにボロボロになっていた。マスケッティもMXデバイスも、リミッター解除によるオーバーヒートで機能停止している。もう戦闘続行することは不可能だ。

 ヴォルテールと白天王も、何時間も怪獣を身一つで食い止めていたことで体力に限界が来ていた。

 

「ありがとう、ヴォルテール……!」

「お疲れさま、白天王」

 

 キャロとルーテシアがヴォルテールたちを送り返した。ランドマスケッティを降りたノーヴェはスバルの元へ駆け寄って尋ねかける。

 

「まだ辛うじてでも戦えるのは高町一尉とフェイト執務官、八神司令に……」

「ダイくんとエックスだね……!」

 

 スバルたちは最後に残った地獄の軍団の本体、ザイゴーグと戦い続けているエックスを見上げて、望みを託した。

 



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絆で一つになる世界

 

「グギャアアァァァァ――――――!」

 

 ザイゴーグがエックスに向けて破壊光線を吐き出す。それをはやてたちが重ね合わせたシールドで防いでエックスをサポートする。

 

「ガハハハハハ……!」

 

 だがザイゴーグは背面のトゲをミサイルにして飛ばし、シールドを破ってエックスにも攻撃する。

 

「デアァッ!」

 

 しかしエックスも負けじと、手刀でトゲミサイルを叩き落とした。そしてすかさず回し蹴りをザイゴーグに決める。

 

「ヘェェェアッ!」

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 動じずに棍棒でエックスを殴り返すザイゴーグ。だがエックスは殴られた勢いに乗って跳びながらXスラッシュの反撃をお見舞いした。

 

「テヤァーッ!」

「もうあとひと踏ん張りよ! 頑張って!」

 

 シャマルの応援の言葉に応じるように、エックスが上半身を振りかぶってザナディウム光線の構えを取った。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 だがザイゴーグの方も胸部がバックリと開き、その中に禍々しいエネルギーを充填する。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 そして放たれたザナディウム光線と、ザイゴーグの破壊光線が正面衝突した。ザナディウム光線はザイゴーグの途轍もないパワーに押される。

 

「グゥッ……!」

 

 窮地のエックスだが、この時なのは、フェイト、はやての三人が最後の砲撃を繰り出した。

 

「スターライト!!」「プラズマザンバー!!」「ラグナロク!!」

「ブレイカぁぁぁぁぁぁ――――――――――っっっ!!!」

 

 エックスの左右についた三人からの極大砲撃がザナディウム光線と重なり、ザイゴーグの光線を一気に押し返してザナディウム光線をザイゴーグに直撃させた。

 

「グギャアアァァァァ――――――!!」

 

 ザイゴーグの全身が凄絶な爆炎の中に呑まれた。

 

「よっしゃあっ!!」

 

 マスケッティから脱出したワタルたちがぐっと拳を握ったが、それをチンクが諭す。

 

「いや、まだ油断は出来ん」

 

 何十、何百発もの攻撃を受けて平然と動き続けたザイゴーグが今ので倒れたのか、まだ安心は出来なかった。立ち込める硝煙によってザイゴーグの様子は見えない。

 ウルトラマンとティガがエックスの元まで駆け寄り、なのはたちも一緒にザイゴーグへの警戒を続ける……。

 その刹那、煙の中から五本の蔓のような触手が飛んできた! 触手はそれぞれティガとウルトラマンの首、なのはとフェイトとはやての身体の巻きつく!

 

「ウワァッ!」

「シェアッ!?」

「きゃああっ!?」

「はやて!!?」

 

 突然の事態に驚愕するエックス、ヴィータたち。

 

「ガハハハハハ!!」

 

 触手の元は、やはり健在であったザイゴーグだった。触手が不気味に光り出すと、なのはたちは途端に危険な絶叫を上げた。

 

「あああああああああっ!?」

 

 

 

 ラボでグルマンが青ざめて叫んだ。

 

「いかんっ! 彼らのエネルギーを吸い取っている!!」

「えぇっ!?」

「な、なのはママ! フェイトママぁっ!!」

 

 ヴィヴィオが甲高い悲鳴を発した。

 

 

 

「ヂャアッ……!」

「ダァッ……!」

 

 エネルギーを奪われるティガとウルトラマンのカラータイマーが点滅を始めた。エックスは彼らに巻きつく触手をほどこうとするも、きつく締まっていて全く緩まらない。

 

「主ぃ―――――!!」

「なのはたちを離せぇっ! 変態怪獣め!!」

 

 ザフィーラ、ヴィータ、シグナムがたまらず飛び出して、はやて、なのは、フェイトを捕らえる触手をどうにか切断しようとするも、出来なかった。

 

『駄目だシグナム! 全然刃が立たねぇよ!』

「くっ……! AECコーティングが持っていれば……!」

 

 はやてとユニゾンしているリインフォースも急速に魔力を吸い上げられ、苦悶の声を上げていた。

 

『うああぁっ……! ザ、ザイゴーグの生体活動が活発化してるです……! これは、まさか……!』

 

 五人からエネルギーを奪うザイゴーグの背面から、トゲが新たに五本伸びた。

 

「ガハハハハハ……!」

 

 そのトゲが勢いよく射出され、エックスをはね飛ばした!

 

「グハァァッ!」

「エックスぅっ!!」

「ダイチぃぃぃぃ――――――!!」

 

 背中から倒れ込んでカラータイマーが赤く点滅するエックスに、仲間たちが絶叫を発した。

 エックスを弾き飛ばしたトゲは秒速30キロもの豪速で飛んでいき、次元の壁を突き破って別世界へと飛び去っていった。

 これを受けたカミキが顔色を変えて叫んだ。

 

「フェイズ5発令! 各世界のXioに緊急通報!」

 

 

 

 ルーフェンの夜空を駆けるひと筋の赤い輝きを、イェンとシュエが見上げた。

 

「あれ、何だろ? 流れ星かな?」

「達人になりたい達人になりたい達人になりたい……!」

 

 シュエが願い事を早口で唱えたが、流れ星と思われたものは、背景の山の裏に落下していって轟音と激しい揺れを引き起こした。

 

「ひゃあっ!?」

 

 そして山の裏より、ツルギデマーガが出現して咆哮を轟かせた!

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「ぎゃあぁ―――――!? 怪獣だぁぁぁ――――――――!!」

「逃げろぉ―――――――――――!!」

 

 辺り一面に熔鉄光線を吐いて暴れ始めるツルギデマーガから慌てて逃げ出す二人。

 ツルギデマーガは次元を越えて飛んできたザイゴーグのトゲが変形した、新たな閻魔分身獣であった!

 

 

 

 ルーフェンに落下したトゲは一本。他の四本はそれぞれ別の世界に飛んでいっていた。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 第3世界『ヴァイゼン』の首都のど真ん中に落下したトゲから生まれたツルギデマーガが鳴き声で大気を震わせ、恐怖に駆られたヴァイゼンの人々が大慌てで逃避していく。

 

 

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 第16管理世界『リベルタ』に現れたツルギデマーガは、腕の刃を振るってヴァンデイン・コーポレーション本社を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 第18管理外世界『イスタ』の湿地帯に出現したツルギデマーガは、一斉に逃げる現地の村の住民たちを追いかけ始める。

 

 

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 五本目のトゲは第97管理外世界『地球』の海洋に落下し、ツルギデマーガに変じて海鳴市街へとまっすぐに向かっていく。

 

 

 

 五つの世界の大事態をアルト、ルキノが慌ただしく報告した。

 

「ザイゴーグが発射したトゲから、デマーガらしき怪獣が出現!」

「各世界のXio、次元航行隊が緊急出動中!」

 

 戦慄するカミキとクロノ。

 

「このままでは、次元世界全てが怪獣地獄に……!」

 

 

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 ザイゴーグはなおもウルトラマンたちからエネルギーを奪い続ける。

 

「あ……あ……ああ……!」

 

 なのはたち三人は瞳孔が開き切っていた。全魔力を吸い尽くされてもエネルギーの吸収が止まらず、生命力までも根こそぎ奪われようとしているのだ。

 

「やめろぉぉぉぉぉ――――――――!!」

 

 ヴィータたちはなりふり構わずにザイゴーグに飛びかかっていくが、棍棒の風圧だけで蹴散らされてしまった。

 

「うわああああああっ!!」

 

 エックスはトゲのダメージが大きすぎて、倒れたまま起き上がることが出来ない。

 そんな絶体絶命の状況下、カルロスが思わず叫んだ。

 

「がんばれ……がんばれ、ウルトラマーン!」

 

 それに触発されたように、ワタル、ハヤトも力の限りに叫ぶ。

 

「そうだ! 行け! ダイチぃぃー!!」

「立て! ウルトラマンエックス!!」

「がんばれぇー!! エックス! ダイチぃー!」

 

 他の仲間たちも口々にエックスたちを応援する。必死に呼びかけるスバル。

 

「ダイチ! トーマ! あきらめないで!!」

「そうだあきらめるな! 希望だけが、絶望と戦う光になるんだっ! そして、人と人とのつながる力がぁ……!」

「全部あなたのせいでしょうがっ!」

 

 カルロスを突き飛ばしたアイシスがティガへ叫ぶ。

 

「がんばってトーマ! 負けないで!!」

 

 

 

 ラボでもヴィヴィオとアインハルトがエックスに向けて応援の言葉を叫んでいる。

 

「エックスさん! ダイチさん! がんばってー!」

「立って下さい! ダイチさんっ!!」

 

 そして二人の、仲間たちの声が、一つとなる――。

 

「がんばれ! ウルトラマンっ!!」

 

 ――その瞬間、グルマンとマリエルの面前に、二枚の光り輝くデバイスカードが出現した。

 

「は、博士! これって……!」

「お、おおお……! これはっ!!」

 

 二枚のカードに、ウルトラマンとティガの姿が描かれた。それに気づいたヴィヴィオたちとリリィも驚愕する。

 グルマンはすかさずシャーリーに通信をつなげた。

 

「シャーリー! 新カード完成だ! 転送するっ! ジュワッ!」

 

 グルマンが送り出したカードが、光に乗ってシャーリーの元に飛んでいった。

 

 

 

 シャーリーは皆に見守られる中、デバイザーをエックスに向けた。

 

「エックス! ダイチくん! 新しいカード、受け取ってっ!!」

 

 送られてきたカードをエックスに向かって飛ばす。カードはエックスのカラータイマーの中に入り、ダイチの手元にまで届けられた。

 ダイチの掲げたエクスデバイザーに、ウルトラマンとティガのカードが入り込む。

 

『ヘアッ!』

『ヂャッ!』

 

 そしてデバイザーから、カードが変化したエクスベータカプセルとエクスパークレンスが現れる。

 時同じくして、なのはのレイジングハートが一瞬光り――ベータカプセルとスパークレンスの間にレイジングハートのビジョンが現れ、この三つが温かい光とともに融合。

 そうしてベータカプセルとスパークレンスの意匠で象られた、魔導師の杖が完成した。

 

『「これが、ティガとウルトラマンの力……! それをつなぐ、なのはさんから託された光への願いっ!!」』

 

 光に満ちた杖を握り締めるダイチ――。

 

『そしてこの世界の希望の力だっ!!』

 

 エックスの左右に、ティガとウルトラマンのビジョンが出現。

 

『ヘッ!』

『シェアッ!』

 

 二人のビジョンは胸部の模様を象った肩部の装甲となり、エックスがエクシードXに変身、更に身体が白と銀色のバリアジャケットで覆われ、その手に光の杖が握り締められた!

 デバイザーがこの希望の姿の名を称する――。

 

[ベータスパークハート、セットアップ]

 

 そして額のエクスディッシュが閃光を放つと、その影響で杖が変形して巨大な光の刃が現出、大剣と化した――!

 

「『ベータスパークザンバー!!」』

 

 ――エックスの振り上げたベータスパークザンバーが、ザイゴーグの触手を纏めて切断した!

 

「シェアッ!」

「グギャアアァァァァ――――――!? ガハハハハハ……!」

「あうっ……!」

 

 ウルトラマンとティガ、なのはたちが解放される。なのはとフェイトとはやてはヴィータたちに受け止められて、カルロスタワー前のスバルらの元へ連れられていく。

 

「はやて! フェイト! なのはっ! 大丈夫か!? シャマル、すぐに回復をっ!」

「……あれは……」

 

 なのはは息も絶え絶えな状態ながら、エックスの纏ったバリアジャケットと手にする剣、それらを構成する力の源を知って、にっこりと微笑んだ。

 

 

 

 ウルトラマンとティガのカードだけではなく、ラボでは五枚のウルトラマンカードも活発に飛び回っていた。

 

「こりゃすごい!!」

「みんな、わたしたちのために力を貸してくれるんですねっ!」

 

 グルマンやヴィヴィオたちは興奮し切っている。そして五枚のカードは一気にラボから飛び出していった。

 

「行けっ! がんばれぇー!」

「皆さん、世界をどうかお願いしますっ!!」

「キュウッ! キュウーッ!」

 

 アインハルトたちが大きく手を振ってカードの出発を元気に送り出した。

 ――その内の一枚、ウルトラマンネクサスのカードはクロノの手元に飛び込み、エボルトラスターに姿を変えた。

 

「これはっ……!」

 

 それを見たカミキが即座に命じた。

 

「クロノ・ハラオウン、出撃せよっ!」

「――了解っ!」

 

 クロノは迷うことなく、エボルトラスターを鞘から引き抜いて天高く掲げた――!

 

 

 

「――セアッ!」

 

 ルーフェンで大暴れするツルギデマーガへと空の彼方から急接近する燃える流れ星。それはウルトラマンゼロだ!

 

『おぉぉらぁッ!』

 

 ウルトラゼロキックの直撃がデマーガを思いきりぶっ倒した。

 

「う、ウルトラマンが助けに来てくれたー!」

「きゃあ~! カッコいい―――――っ!」

「ほほう、見事な飛び蹴り」

 

 イェンとシュエはゼロに黄色い声を上げ、レイはキックのフォームの完成度に感心していた。

 

『へへッ、待たせちまったなぁ!』

 

 ゼロは彼らにぐっとサムズアップすると、一気にデマーガに飛びかかっていった。

 

 

 

「シェアッ! シュアァッ!」

 

 イスタではウルトラマンマックスが人々を背にしてマクシウムソードを投擲し、ツルギデマーガの身体を斬りつける。

 イスタの人間たちはマックスの雄大な背中に勇士を見て、何人かは掌を合わせて拝んでいた。

 

 

 

「ヘアァーッ!」

 

 大混乱に陥る海鳴市に迫っていたツルギデマーガの前に降り立ったウルトラマンネクサス・ジュネッスはフェーズシフトウェーブを発し、街に被害を及ぼさないメタフィールドを展開していく。

 ネクサスの後ろ姿を目にしたエイミィたち親子とアルフが顔を輝かせた。

 

「クロノくん……!」

「お父さーん! がんばれー!!」

「クロノー! 頼んだよー!」

 

 メタフィールドが完成すると、ネクサスはその中でデマーガに飛びかかってパンチを浴びせた。

 

「シェアァッ!」

 

 

 

「トリャアッ! テアッ!」

 

 リベルタ市街の高層ビルの窓ガラスに、ツルギデマーガに蹴り技の連撃を入れるウルトラマンビクトリーの姿が映った。

 

 

 

 そしてヴァイゼンのツルギデマーガの面前に、超スピードで降ってきたウルトラマンギンガが着地した。

 

『「こいつらは俺たちに任せろ!」』

 

 ――ヒカルからの次元を越えたテレパシーをキャッチしたエックスがうなずいていた。

 

 

 

 アルトとルキノがカミキに報告する。

 

「五つの世界で、ウルトラマンと怪獣が交戦開始!」

「Xioと次元航行隊と共闘しています!」

「八人のウルトラマンが……人類のために……!」

 

 

 

「ヘアァッ!」

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

 

 エックスはザイゴーグとの戦闘を再開。エックスの振るうベータスパークザンバーの斬撃は、ザイゴーグの棍棒をことごとく弾き返し、ザイゴーグは勢いに押されてどんどんと下がっていく。

 

「テヤァッ!」

 

 ザンバーの刃は、それまでどんな攻撃をも寄せつけなかったザイゴーグの体表を切り裂いていく!

 エックスの大奮闘に、仲間たちはあらん限りの力を込めて声援を送っていた。

 

「がんばれ! がんばれ! がんばれぇー!」

「行け! エックスー!」

「がんばれダイチー!!」

 

 彼らの声がエックスとダイチの背中をぐいぐい押し、更なる勢いを与えているのだ。

 

「イィッ! シェアァッ!」

 

 エックスの兜割りを食らったザイゴーグがよろめいていくが、力を溜めて棍棒を構える。

 

「グギャアアァァァァ――――――! ガハハハハハ……!」

『来るぞ! ダイチ!』

『「ああ!」』

 

 エックスの呼びかけでベータスパークザンバーを構え直すダイチ。そうしてザイゴーグが棍棒を突き出してくるタイミングに合わせて、思い切り振り下ろす!

 

「セアアァァッ!」

 

 ザンバーが棍棒を一刀両断した! ザイゴーグは自慢の武器を失って大きく後ずさる。

 

「シェアッ!」

「ヂャッ!」

 

 エックスの両脇に力を取り戻したウルトラマンとティガが並んで戦列に戻った。だがザイゴーグの方もエネルギーを全身に充満させて、全力の破壊光線とトゲミサイル全弾を撃ちまくる!

 エックスたちを紅蓮の爆炎が呑み込む――が、三人は大空高くに飛び上がって爆炎から脱した。

 

 

 

 グルマンたちもまた、モニター越しにエックスたちを力いっぱい応援していた。

 

「いけるぞ! その調子だぁっ!」

「がんばってエックス!」

「ダイチさん、ファイトですっ!」

「ウルトラマンさんもティガさんもがんばれー!」

 

 リリィもまた、画面越しのティガの姿に向けて口を開き――。

 

「がんばれ、トーマぁっ!」

「!? リリィさん、今しゃべって……!」

 

 アインハルトたちが目を真ん丸にして振り向いた。

 

 

 

「ヘアッ!」「ハッ!」

 

 リリィが声を発したと同時に、ウルトラマンとティガが身体を交差させ、ウルトラの星を作ってベータスパークハートと一体化した。

 

「シェアァッ!」

 

 一層光り輝いたエックスの背中から、天使の如き光の翼が生じる。その翼から光のエネルギーの結晶が飛び立ち、次元を越えて各ウルトラマンたちの元へと向かっていった。

 

 

 

 光の結晶はゼロ、マックス、ネクサス、ビクトリー、ギンガのカラータイマーに宿って彼らのエネルギーを最高潮に引き上げた。

 

『来た来たぁ! フルパワー充電だ! みんな、一気に行くぜぇ!!』

 

 五人のウルトラマンが放つ、必殺の光線!

 

「ハァッ!」

「シェアァッ!」

「テヤァッ!」

「エェッ!」

「ジャッ!」

 

 ワイドゼロショット、マクシウムカノン、オーバーレイ・シュトローム、ビクトリウムシュート、ギンガクロスシュートが全てのツルギデマーガを粉砕した。

 ヒカルはテレパシーでエックスに呼びかけた。

 

『「ダイチ! エックス! 後は任せたぜ!」』

 

 

 

 うなずいたエックスが翼を収め、地表に降り立つ。

 

「グギャアアァァァァ――――――……!!」

 

 ザイゴーグもいよいよ決着をつける時が来たことを感じ取ったか、先ほど以上の計り知れないエネルギーを全身にたぎらせて、最大威力の光線を放つ準備をしている。

 

『行くぞ! ダイチ!!』

『「ああ!!」』

 

 それに対してダイチは、ベータスパークザンバーを杖に戻し、更に砲撃用のブラスターモードに変形させてザイゴーグにピタリと向ける。

 ベータスパークハート・ブラスターモードを中心として巨大魔法陣が開き、その中央に虹色の光の球が生じた。

 するとスバルたち全員の身体から「光」が溢れ出し、虹色の光に集まっていく!

 

「これは、私たちの魔力……?」

 

 シャマルのつぶやきに、ユーノが首を振った。

 

「いや……これが僕たちの光なんだ……!」

 

 スバルは立てるまでに回復し、同じように光を発しているなのはに振り向いた。

 

「なのはさん……あたしたちみんな、一つになってるんですね……!」

「うん……! みんなが、ウルトラマンとユナイトしてるんだよ……!」

 

 仲間たちの光を集めて、虹色の光はどんどんと膨れ上がっていく。

 

「グギャアアァァァァ――――――!! ガハハハハハ!!」

 

 その時にザイゴーグから最大の破壊光線が放たれ、エックスへと迫っていく!

 ……が、虹色の光の輝きによって赤黒い光線はたちまち霧散していった!

 

「!!?」

 

 今度はエックスとダイチが、皆の光を集めた砲撃を解き放つ!

 

「『ベータスパークライトっ! ブレイカぁぁぁぁぁ――――――――――っっ!!」』

 

 極彩色のX字の光線が大気――世界そのものを震わせて進んでいき、ザイゴーグの胴体を貫通した――!

 

「ガ……ガハッ……!!」

 

 ザイゴーグの全身が一瞬強く光り――途方もない規模の大爆発を引き起こして、跡形もなく燃え尽きていった。

 杖を構えたエックスの立ち姿が、残心を見せていた――。

 



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さらばエックス

 

「――やったぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――っっ!!!」

 

 遂にザイゴーグが打倒され、仲間たちは手放しで大喜びして歓声を巻き起こした。

 

「よしっ……!」

 

 カミキもぐっとガッツポーズ。その隣に、光に包まれてクロノが帰ってきた。

 

「よーしやったぞー! シュワッチ!」

「やりましたぁー! みんなの大勝利ですっ!!」

「ホアーッ! キュウッ!」

 

 グルマンたちも歓喜し、ヴィヴィオやアインハルトやリリィ、ピグモンと手と手を取り合ってピョンピョン飛び跳ねた。

 ベータスパークハートが解除されると、エックスの両隣にウルトラマンとティガが立った。エックスは二人と固くうなずき合う。

 更にそこに、空の彼方から救援に駆けつけてくれた五人のウルトラマンが飛んできて、エックスの前に着地。エックスは彼らに感謝の気持ちを伝える。

 

『みんな……ありがとう!』

 

 ヒカルはエックスとダイチに告げる。

 

『「君たちの希望の光が、俺たちをここへ呼んだんだ」』

 

 ゼロはエックスの胸を軽く叩く。

 

『いい面になったなぁ、エックス、ダイチ』

『「修行、頑張ったみたいだな」』

 

 ショウが満足げにつぶやく。

 

『へへッ、また会おうぜ!』

 

 ゼロがひと言言い残して、五人はひと足先にそれぞれ自分たちの世界へと帰還していった。

 それからティガが光に包まれ、トーマの姿に戻ってスバルたちの前に横たわった。その側にダイチも降り立つ。

 

「トーマ!」

 

 トーマに駆け寄ったスバルとアイシスが抱き起こす。目を覚ましたトーマは、スバルに尋ねかける。

 

「スゥちゃん……俺、みんなを守れたかな……?」

「……うん。立派だったよ……!」

 

 スバルはトーマを、ひし、と抱き締めた。

 それに微笑んだダイチがふと顔を上げ――エックスがこちらを見下ろしているのを目の当たりにして言葉をなくす。

 

「えっ……?」

 

 ハッと気がついてエクスデバイザーを取り出すと――金縁が消えて、元のジオデバイザーに戻った。

 

「エックス、これは……!?」

 

 ダイチが問いかけると、エックスは次のように答えた。

 

『ダイチ、しばらくみんなとはさよならだ』

「ど、どういうこと?」

『君たちの希望の光のお陰で、私は本来の肉体を取り戻すことが出来た。私は、自分の任務に戻らなければいけない』

「任務?」

 

 話の途中で、ウルトラマンがエックスの肩を叩いて飛び去っていこうとする。

 

「――待って!」

 

 それを呼び止めたのが、前に出たなのはとユーノだった。ウルトラマンが目を落とすと、二人は声を張って呼びかけた。

 

「ウルトラマン! 十六年前は、わたしたちを助けてくれてありがとう! ずっと……ずっと、そのお礼が言いたかったんです!」

「僕たちのこと、覚えてくれてますか!?」

 

 なのはとユーノの声を受けたウルトラマンは――。

 人差し指と中指を立てた敬礼で、二人に応えた。

 

「……!」

 

 なのはたちは心の底から喜んだ笑顔を浮かべて、ウルトラマンに敬礼を返した。

 

「――シェアッ!」

 

 そうして宇宙へ向けて飛び立っていくウルトラマン。なのはたちが彼を見送った後で、エックスがダイチたちに話を続けた。

 

『我々ウルトラマンの任務は、宇宙のバランスを保つこと。どこかでバランスが乱れれば、この世界にも影響が現れる』

 

 エックスの言葉で、ノーヴェがポツリとつぶやいた。

 

「……エックス、行かなきゃいけないんだな」

「でも、こんな急に行かなくたって……!」

 

 ウェンディやダイチが悲しげに目を伏せると、エックスが諭した。

 

『傍にいなくても、姿が見えなくても、私たちはユナイトし続けている! そのことだけは……』

「忘れないよ……絶対に!」

 

 約束したダイチ。エックスも一つの約束を残す。

 

『再び世界に危機が訪れる時、私は必ず帰ってくる!』

 

 約束の後、ディエチとチンクがエックスに向けて叫んだ。

 

「エックス、今までありがとう!」

「たくさん世話になったな!」

 

 ハヤトとワタルもエックスに告げる。

 

「一緒に戦えてよかったぜー!」

「こっちは俺たちに、任せとけぇっ!」

「さよなら、エックス!」

「さようならーっ!!」

「どうか、お元気でー!!」

 

 スバルを始めとして、共に戦ったたくさんの仲間たちが、エックスへ大きく手を振る。

 ラボではヴィヴィオとアインハルトがエックスに声を届ける。

 

「エックスさん、今まで本当にありがとうございました!」

「あなたのこと、ずっとずっと忘れません!」

 

 カミキも本部から、エックスに呼びかけた。

 

「あなたと共に戦い、友情を分かち合えたことは、我々の誇りです! 感謝します!」

『こちらこそ……ありがとう!』

 

 エックスはミッドチルダで出会った大勢の仲間にそう応えて、大空に向かって飛び立った。

 

「シュワッチ!」

 

 はるか彼方の宇宙へ向かって小さくなっていくエックスの後ろ姿に、ダイチは最後にひと言告げた。

 

「また会おう、エックス……!」

 

 

 

 ――三日後。ヴィヴィオたちチームナカジマの面々が、差し入れを手にしてXioを訪問した。

 

「皆さん、いつもお仕事お疲れさまです! パンケーキ焼いたのでどうぞ食べて下さいっ」

「おおー、ありがたい! 君たちのパンケーキは絶品だ!」

 

 グルマンが喜んで早速パンケーキを大きな口の中に放った。

 

「他にも甘いものをいくつか見繕ってきたんです。どうぞ」

「ありがとう。いただくよ」

 

 アインハルトたちからスイーツを受け取ったダイチたちだが、作戦デスクの上に置いて食べているところにクロノがやってきて固まった。

 ……しかし、クロノはしばし黙していたものの、何も言わずにビスケットを口に運んで、背を向けたのでダイチたちは拍子抜けした。

 一方でノーヴェがスバルに尋ねかける。

 

「それでトーマのことなんだが、あれから……」

 

 聞かれたスバルは――明るい顔で答えた。

 

「エクリプス抗体の培養は順調だって! あと一ヶ月以内に完全培養を成功させて、エクリプス治療を完遂させるんだってシャマル先生張り切ってたよ」

 

 ――ティガへの変身を行ったトーマは、その後の検査で血中からエクリプスウィルスの自己治癒機能の正常化と殺人衝動の抑制を行う光の因子が発見されたのだ。ティガが残していったものに違いない。

 このエクリプスウィルスの抗体により、一気にエクリプス感染者を救う目途が立てられた。近い内にフッケバインと交渉して、この抗体を投与する手筈となっている。殺人衝動が解消されれば、犯罪組織の彼らとて救うことが出来る。

 またカルロス・クローザーによりエクリプス感染者治療の基金が新たに設立された。それが治療活動を後押ししている。……もっとも、カルロスはこの基金を自らの番組の宣言に使ったり、遺跡調査にトーマたちをしつこく誘ったりと良くも悪くもぶれない姿勢を見せている。これにはトーマたちも苦笑いであった。

 

「地獄獣の退治に成功して、エクリプスの問題も解決に進んで、いいことが続きますね。平和が戻りそうで安心です」

 

 コロナが胸を撫で下ろしていたが、リオは若干眉を寄せてボソリとつぶやいた。

 

「でも……エックスさんがいないと、何だかみんな寂しそうですね」

 

 そのひと言を耳にして、スバルも明るい表情が一転して寂しげに目を伏せた。ウェンディは肩をすくめて、ワッフルに手を伸ばす。

 

「その通りっスよ。今となっては、人の食生活にいちいち口を挟むお節介ぶりも懐かしく思えて……」

『そのスイーツに含まれる糖分は全体の54%。栄養のバランスを考えた食事が、美容の秘訣だぞ』

 

 ウェンディは思わずワッフルを喉に詰まらせて咳き込んだ。

 皆が仰天して視線をダイチのジオデバイザーに向けると、エクスデバイザーに変化してエックスの顔が画面に表示された。

 

「エックス!?」

「宇宙の彼方に行ったんじゃないのか!?」

 

 一同は驚いてデバイザーの周りに集まった。するとエックスはこんなことを言い放った。

 

『ケンタウルス星近辺で、デザストロという怪獣がワームホールに逃げ込み、ミッドに向かってる!』

「えっ、それってまさか……」

「また大怪獣!?」

 

 シャーリーとマリエルが顔を見合わせた直後に、オペレーション本部にアラートが鳴り響いた。

 

「次元レーダーに反応! 巨大なエネルギー体がミッドに接近中!」

「ミッド次元の突入時刻は?」

 

 クロノがすかさず尋ね返した。

 

「約十三分後! 予測到達地点はエリアT! タイプは不明です!」

 

 それを聞いて、ワタルが意欲満々になって声を上げた。

 

「よし! こっちからお出迎えと行きますか!」

「腕が鳴るっスねー!」

「全く、この間に大乱闘があったばかりだというのにな」

「怪獣にそんなこと言ってもしょうがないよ」

 

 ウェンディ、チンク、ディエチもノリノリとなる。ハヤトはノーヴェに問いかけた。

 

「ついでだから、ノーヴェも作戦に加わってくか?」

「またか。これじゃあ退役したのかしてないのかわかんねーな」

 

 と言いながらも、ノーヴェも満更ではなさそうだった。

 スバルは呆気にとられながらつぶやく。

 

「世界の危機ってすぐ来るんだ……」

「意外と仲良く出来る奴かもよ?」

「はい! 今度はお話しできたらいいですね!」

 

 ヴィヴィオが笑顔でダイチに同意した。

 

「クロも頑張って下さい!」

「キュッキュッキュウッ!」

「ん」

 

 ユミナたちに応援されて、ファビアが小さくうなずいた。

 

「隊長」

 

 クロノに呼びかけられたカミキが、部下たちに指令を発する。

 

「Xio、出動!」

「了解!」

 

 一斉に出動していくXio隊員たちを、グルマンとアインハルトたちが景気よく見送る。

 

「よーし、行ってこい!」

「皆さん、お気をつけて!」

 

 ダイチは手にしたデバイザーの中のエックスにひと声呼びかける。

 

「行くぞエックス!」

『おう!』

 

 そして、彼らの未来は続いていく――。

 

 

 

 

 

光輝巨人リリカルなのはX 特別編

『きたよ!わたしたちのウルトラマン』

 

 

 

 

 

 

 

 




 




次回予告!



――グルマンの実験が大暴走!

グルマン「いかん! スパークドールズの怪獣が人間になってしまったぞ!」
シャーリーマリー「な、なんだってー!?」

――ダイチの前に現れたのは、人間に変身したゴモラ!

ゴモラちゃん「ダイチー♪ ボク人間になったよー♪」
ダイチ「ええ!? ゴモラって女の子だったの!?」

――スバルとの三角関係勃発! ……と思いきや、ゴモラはそっちのケもあった!?

ゴモラちゃん「スバルって結構胸おっきいねー」
スバル「あっ……やんっ……! そんな風に揉んじゃおかしな気分に……あうんっ!」
ダイチ「(鼻血)」

――ティアナの前にはエレキングが!

エレキングさん「どうかしら、おまピト」
ティアナ「はぁはぁ……男同士の友情、なかなかいいわね……」
ディエチ「ティアナ、そっち行っちゃダメ……!」

――なのはは憧れのウルトラマンに変身!?

なのは「しゅわっち!」
ヴィヴィオ「なのはママ、スプーン掲げて何やってるの?」

――フェイトが地底女に捕まり、手先に改造されてしまう!

フェイト・テレスドンッサ「ぎゃ……ぎゃおー……///」(恥ずかしい)
エリオキャロ「かわいい!!」

――ヴォルケンリッターをつけ狙う謎の影!

ミステラー星人「きみたちいいからだしてるね。宇宙戦士にならない?」
はやて「帰り」

――カミキとクロノの確執!

カミキ「世界で最も美しいのは私の娘だ!」
クロノ「いいえ、エイミィとリエラこそが……!」
チンク「自重して下さい親馬鹿ども」

――Xio正規隊員の座を狙うファビアの暗躍!

ワタル「お、俺たちのデバイザーが……!」
ハヤト「花束になってる……!」
ファビア「(にやり)」

――チャンピオンになったアインハルトに史上最強の挑戦者が!

すもう小僧「ねぇ、すもうを取ろうよ!」
アインハルト「よりによってあなた!!」

――大暴れするフッケバインファミリー!

ヴェイロン「俺たちの出番が欠片もなかったぞおらぁーっ!」
トーマ「逆ギレだぁー!」

――グリーザが復活し、逆襲に現れる!

グリーザ「私の戦闘力は、580000です」
ウェンディ「フ○ーザだこれー!?」

――ザイゴーグとの熾烈なじゃんけん対決!

ザイゴーグ「グーしか出せん……!」
ノーヴェ「左手使えよ」

――そして、ダイチとエックスはウルトラマンオーブの世界へ……!

ダイチ「エックス、ユナイトだ!」
エックス『よぉし、行くぞっ!』

乞うご期待!



※この次回予告は全くの嘘偽りです。






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おまけ
VS魔王獣


 
おまけは拙作『THE ULTRAM@STER ORB』とリンクした内容です。



 

 ――ミッドチルダ西部郊外。普段はのどかながらも大勢の人間の生活の息遣いが営まれる町に、今は人の影はどこにも見られなかった。この町に暮らす人々は全員、避難命令によって別の場所に離れているのだ。

 そして町の中央には、異常な規模の巨大竜巻が吹き荒れている――が、その竜巻は不意に揺らめいて風速が落ちていく。そして霧散するように消滅すると、中から現れたのは――鳥型の巨大怪獣であった。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ―――――!」

 

 宇宙から飛来し、ミッドチルダを襲い出した七体の怪獣の一体、風ノ魔王獣マガバッサー。それに同等の体躯のサイバーチックな怪獣が取っ組み合ってグルグル円を描くように回転している。

 

『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 デバイスベムスター。第一号であるデバイスゴモラに続いて近年誕生した、ベムスターのデータと意識を基にしたデバイス怪獣である。

 それとユナイトしてコントロールしているのは、フリードリヒに跨って大空を駆っているエリオだ。

 

「今だベムスター! 撃ち落とせ!」

『ギアァッ!』

 

 エリオの指示でベムスターは頭部の角からビームを放ち、マガバッサーの翼のつけ根を撃った。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ―――――!」

 

 ビームを撃たれたマガバッサーがふらふらと高度を下げていき、ベムスターとエリオがそれを追っていく。

 

 

 

 同時刻、東部の貯水池周辺では、同じくデバイス怪獣のデバイスエレキングが周囲に首を振って何かを探していた。

 

『キイイイイイイイイ!』

 

 その背後の景色が揺らめき――透明になっていた水ノ魔王獣マガジャッパが姿を現しながらエレキングに飛び掛かる!

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 しかし掴みかかると同時にデバイスエレキングの姿がかき消え、マガジャッパの腕は空を切った。

 

「グワアアアァァァァァ!?」

『キイイイイイイイイ!』

 

 エレキングはマガジャッパの背後を更に取っている。今のは幻影だったのだ。欺いたつもりのマガジャッパだったが、逆に欺かれていたのであった。

 そして幻影を作るよう指示していたティアナが新たに攻撃を指示する。

 

「ヴァリアブル電撃波――!」

『キイイイイイイイイ!』

 

 エレキングの口から飛ぶ電撃がマガジャッパを捉える。

 

「ジャパッパッ!!」

 

 感電してガクガク震えるマガジャッパを見やりながら、ティアナは鼻を抑えた。

 

「ひどい臭いね……。あんなのを水に入れるなんて絶対させないわ。行くわよエレキング!」

『キイイイイイイイイ!』

 

 エレキングがティアナに応じるように首を振り上げた。

 

 

 

 また南部では、市街地の上空に出現して熱波を振りまく巨大火球に、ヴォルテールが全身を魔力の膜に包んで防御を固めながら突貫。火の玉の中に全身を突っ込ませて入り込んだ。

 そして火球が内側からボコボコと歪んで、破裂。中からヴォルテールが火ノ魔王獣マガパンドンの下半身を捕らえて、地上に引きずり下ろした。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 ヴォルテールは地表に叩きつけたマガパンドンに馬乗りになって、その双頭を交互に殴りつける。

 

「ピポポポポポ……」

『ピポポポポポ……』

 

 その背景では、光ノ魔王獣マガゼットンとデバイスゼットンが激しく殴り合っている。

 ヴォルテールとデバイスゼットンの二体を指揮するキャロがエールを送る。

 

「ヴォルテールもゼットンも、頑張って! ミッドを守って!」

 

 

 

 ミッドチルダ海洋の真ん中では、ルーテシアの召喚した白天王に、闇ノ魔王獣マガタノゾーアの触手が巻きついて苦しめていた。

 

「プオオォォォォ――――――――!」

 

 しかし白天王の四肢を封じ込める触手を、フェイトやヴォルケンリッターを初めとした魔導師部隊の攻撃が切断する。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 自由になった白天王は魔力砲を放ち、地雷王たちの電撃、マスケッティの砲撃とともにマガタノゾーアに集中攻撃を浴びせる。

 

「プオオォォォォ――――――――!」

 

 それでもひるまないマガタノゾーアに一部の魔導師たちはたじろぐも、それを指揮官のはやてが鼓舞する。

 

「あれが地上に上がったら大惨事や! みんな、大勢の人命を守るためにもここで食い止めるんやで!」

 

 そして彼らの士気を上げるように、ストライクカノンを展開しているなのはが全力の砲撃を繰り出す。

 

「エクサランスカノン、フルバーストっ!!」

 

 なのはの海を割るような勢いの砲撃が、マガタノゾーアの顔面に突き刺さった。

 

 

 

 ミッドチルダ北部自然区域の、新たに設けられた怪獣共生区に震動が走り、バードンの親子が飛び上がって逃げ出す。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 共生区を荒らすのは土ノ魔王獣マガグランドキング。その暴虐によって瀕死の状態になっていた二体のデマーガをかばって対峙するのは、元祖デバイス怪獣のデバイスゴモラ。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 ゴモラはウィングロードの上を走ってマガグランドキングの光線をかわしながら接近し、振動波を纏いながら突撃する。

 

「超振動拳っ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 スバルの声とともに繰り出された一撃が、マガグランドキングの装甲にひびを入れる。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 よろめくマガグランドキングから目を離さずに、スバルはゴモラへ呼びかけた。

 

「この調子だよ、ゴモラ! 一緒にダイくんの夢を守り抜こう!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 

 

 そしてミッドチルダ中央部では、地上本部前でウルトラマンエックスが魔王獣たちのボスと決闘を繰り広げていた。

 

「イィィィーッ! シェアァッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 大魔王獣マガオロチ! マガオロチはXスラッシュをものともせずに口から電撃光線を放ち続け、エックスを激しく攻め立てる。

 

「ウゥッ!? グアァァァッ!」

 

 マガオロチの光線の尋常ではない破壊力に、さしものエックスも防戦一方であった。そして凄絶な爆発がエックスを呑み込む!

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 勝ち誇るように咆哮を轟かせるマガオロチであったが――立ち込める硝煙から飛び出す影がある!

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

「ジュワァァァーッ!」

 

 エクシードXがエクスディッシュを前に突き出して電撃光線を切り払いながら、マガオロチへと突撃していった!

 

 

 

 ――モンスター銀河からミッドチルダに侵入し、星の全てを破壊し尽くそうとした魔王獣の軍団であるが、管理局とXio、そしてエックスの共同戦線の前に撃退された。危機は未然に防がれたのである。

 

「エックス、また力を貸してくれてありがとう。お陰で地上本部も無傷で済んだよ!」

 

 オペレーションベースXで、スバルがエクスデバイザーの中のエックスに礼を告げた。

 

『いや、六ヶ所に同時に出現した怪獣を私一人で抑えるのは不可能だった。ミッドを守ったのは私だけの力ではなく、スバルたちの勇気もあってのことだ』

「ふふっ、そうだね。あたしたちみんなで守ったんだよね!」

 

 スバルがエックスと笑い合うが、一方でダイチが眉間に皺を寄せていた。

 

「ダイくん、どうしたの? 状況は終了したのに、何か心配事が?」

 

 スバルに聞かれると、ダイチは今考えていたことを打ち明ける。

 

「ミッドの心配じゃないんだ。けど、この前俺たちが行った別世界の地球……律子ちゃんたちの世界がどうなってるかって考えてて……」

「ああ、あそこの……」

 

 スバルは、スパークドールズを持ってレベル3バースの地球に逃げ込んだ異星人犯罪者を追って、大怪獣とともに戦った地球人たち……765プロのアイドルとウルトラマンオーブのことを思い返した。

 

「今回出現した怪獣たちは、あそこの地球のデータにも存在してた……。つまり、あの大怪獣も向こうでも現れる、いやもう現れた後かもしれない。あれは相当な強さだった……」

『そうだな……。エクシードXでもかなりてこずらされた』

 

 相槌を打つエックス。ダイチはますます皺を眉間に刻む。

 

「向こうの地球には、ミッドほどの戦力はない。だから、向こうではあの怪獣を相手に無事で済むのかって不安になって……。ちょっと様子を見に行った方がいいんじゃないかな」

『ううむ……』

 

 懸念するダイチとエックスだったが、そこにスバルが言う。

 

「あたしは、大丈夫だって思うよ」

「え?」

 

 その根拠を口にするスバル。

 

「だって、あたしたちが出会ったあの子たち……魔法の力はなくても、眼差しにはなのはさんたちやあたしたち、そしてダイくんと同じで、まっすぐな希望の光があったから! ウルトラマンの本当の力になるのは、そういう強い心の光だって、あたしはエックスとダイくんから教えてもらったんだよ!」

 

 スバルの言葉に、ダイチは表情を和らげる。

 

「ああ、そうだね……。彼女たちの希望とウルトラマンの力が合わされば、きっとどんな危機も乗り越えられる。俺たちがそうしてきたように……!」

『人間の光は無限大、未知数だ! 私も君たちからそれを教わったよ』

 

 と話しているダイチたちの元に、突然エマージェンシーコールが入る。

 

『エリアT-9上空に未知の魔法陣が出現、未確認の巨大ロボットが出現しました! 特捜班は直ちに現場へ急行して下さい!』

「! また次の事件か……。行こうダイチ!」

「ああ!」

 

 スバルとダイチはすぐに表情を引き締め、エリアT-9に向かって出動していった――。

 



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VSギャラクトロン

 

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

「イィィィーッ! サ―――ッ!」

 

 ミッドチルダ中央区の一画。いつもは大勢の人で賑わっている都市の中心が、今日は見る影もなく荒れ果て、そしてゴモラキャリバーを纏ったエックスと一機の白い巨大ロボットが激戦を繰り広げていた。

 七体の魔王獣が撃退された後に、未知の魔法陣を介してミッドチルダに前触れなく現れたこのロボット――ある次元宇宙の地球で「ギャラクトロン」と名づけられたものである――は、初めは何の動きも見せずに静止していたので、しばらくはXioの監視下に置かれるだけで特に問題はなかったのだが、一日が経過してからロボットは豹変。極論を振りかざして見境のない破壊行為を始めたため、Xioとエックスがその暴挙を止めるべく抗戦しているのだった。

 ロボットは脅威的なまでの戦闘能力を有していたが、それでも数々の激闘を経験してきたエックスにとっては勝てない相手ではなかった。ましてやXioの援護もあり、エックスは優位に戦いを進めていた。

 

「『超振動バスター!!」』

 

 エックスが放った振動波がロボットの剣状の左腕に命中し、破砕。片腕を失ったロボットは、その衝撃のために一瞬動きが鈍った。

 この間にエックスがダイチに呼びかける。

 

『ダイチ、奴を止めるには破壊するしかない!』

『「やるしかないか……! よし、超振動拳だ!」』

 

 覚悟を決め、ロボットにとどめの一撃を繰り出そうと構えるエックス。

 しかしその時、ロボットの頭上に怪しいものが出現した!

 

『ん!? 何だあれは!?』

『「円盤……!?」』

 

 まるで洋館とシャンデリアが合体したかのような、そんな奇怪な飛行物体がロボットの頭上に陣取ったのだ。唐突な事態にエックスも思わず面食らう。

 

『宇宙船なのか? 何とも悪趣味な……』

『「あのロボットと関係があるのか?」』

 

 謎の円盤を警戒するエックス。だが円盤はエックスの方には何もせず――ロボットに光を照射した。

 するとどういう訳か、ロボットは一枚のカードにまで圧縮され、円盤に吸い込まれていったのである。

 

『「えっ!?」』

 

 そして円盤はそのまま消えてしまった。エックスはぽかんと、円盤とロボットが消えた跡を見つめるのみ。

 

『い、一体何だったんだ? あれは……』

『「分からない……。何か、おかしな事態の前兆とかじゃなければいいんだけど……」』

 

 エックスもダイチも、あまりの状況の変遷ぶりに戸惑うばかりであった。

 

 

 

 このように巨大ロボット事件は、理解不能の事態によって歯切れの悪い幕切れを迎えた。ダイチたちは、あのロボットを回収していった円盤を警戒して行方の調査を行ったのだが、足取りは全く掴めず、そして何事か起こる気配もなかったため、しばらくして調査は打ち切られた。

 だがその記憶が薄れかけていた数か月後に、円盤は再び姿を現した。今度は、悪性異星人を何人も引き連れて――。

 

 

 

「ショオラッ!」

「テヤッ!」

「イィィィッ! シェアッ!」

 

 次元世界の片隅に浮かぶ無人世界。――ここはある理由によって、一般人の立ち入りが厳しく制限されている。普段は滅びた文明の名残が荒野にポツポツと転がっているだけの寂しい土地なのだが――現在は、Xioと管理局、そしてウルトラ戦士の共同戦線と、謎の異星人犯罪者の集団が正面衝突して激しい戦火を飛び散らせていた。

 

「『Xスラッシュ!」』

 

 エックスが相手にしている敵にXスラッシュを放ったが、相手――分身宇宙人ガッツ星人は六体に分身してかわすと同時にエックスを取り囲んで翻弄する。

 

『分身した!』

『「しかも幻影とかじゃない……全部に実体があるぞ! 何て奴だ……!」』

 

 ガッツ星人の能力を分析したダイチがおののく。分身は普通、どれか一人だけが本体。しかしガッツ星人のそれは全てが本体という、ミッドチルダの技術をも超えている恐るべき能力なのだ。

 この戦場にはウルトラ戦士がエックスの他にも、異星人集団を追って応援に駆けつけたギンガとビクトリーの二名がいる。しかし彼らも別の異星人にてこずっていた。

 

『「くっそ、なかなかやるな……!」』

『「こいつら、相当手強いぞ……! 気をつけろ、ヒカル!」』

 

 ヒカルとショウがそれぞれ吐き捨てる。そんな二人と拮抗した戦いをしているのは、テンペラー星人とスーパーヒッポリト星人。どちらも肉体、特殊能力ともに高い水準を誇る、強豪侵略者である。

 敵勢力にはそれ以外にも多種多様な異星人がおり、それらはミッドチルダの魔導師部隊と交戦していた。中には巨大化して襲い掛かってくる者もいるが、管理局のエースたちが力を合わせて各個撃破していく。

 

「来よ、氷結の息吹!」

 

 液体状の肉体であらゆる攻撃を透過し魔導師たちを苦しめていたサーペント星人だが、はやての広域凍結魔法によってみるみる凍らされていく。

 

「グッ!? グオオオオオッ!」

 

 必死にもがくサーペント星人だが最早どうにもならず、すぐに完全な氷像に変わって無力化された。

 

「ジェットザンバーっ!」

「エクサランスカノン、フルバーストっ!」

「グワアアアァァァァ――――ッ!」

 

 ガルキメスにはフェイト、なのはの同時攻撃が決まり、ガルキメスは仰向けに吹っ飛ばされて倒れ込んだ。

 

「はぁぁぁっ! リボルバーキャノン!」

 

 見渡す限りで乱戦が展開している戦場の中を、スバルがウィングロードで駆け回り、リボルバーナックルを叩き込んでクカラッチ星人、セミ女などを次々と殴り倒していった。

 

「あの円盤を抑えられれば……!」

 

 スバルの目は、荒野の中に一つだけ大きく鎮座している岩山に接近していく例の円盤に向いた。異星人たちはあの円盤を守るように行動しているので、あれが敵の本営に違いない。それに狙いをつけるスバルだったが――。

 

『ハッハァーッ!』

「!」

 

 突然、横から半身が骸骨状の機械の鎧に覆われた異星人が剣を構えて飛び込んできたので、咄嗟にプロテクションで斬撃をガードした。しかしそのために円盤への進行を止められる。

 

『お嬢ちゃん強いねぇー! 今度は僕のお相手をしてくれよぉッ!』

 

 宙に浮かびながら随分となれなれしい口調でそう言い放った異星人と対峙するスバルに、ティアナが警告を飛ばす。

 

「気をつけてスバル! そいつの実力は飛び抜けてるわ! かなりの人数がそいつにやられてる!」

「分かった!」

 

 より警戒を深めたスバルが相手の出方を窺いながら問いかける。

 

「見ない顔だね……。出身星と名前は?」

『おっと、これは名乗り遅れちゃったかな? 僕はガピヤ星人サデスって言うのさぁ! 短い間になるだろうけどよろしくねッ!』

 

 叫ぶように名乗ったガピヤ星人サデスに、一旦ギンガから距離を取ったテンペラー星人が怒鳴る。

 

『おいッ! 何を遊んでるのだ! 貴様も巨大化して戦えッ!』

 

 するとサデスは大仰に肩をすくめる。

 

『まぁーったく君たちは無粋だよねぇー。戦いは相手と同じ土俵じゃないと楽しくないでしょお!?』

 

 などと口走るサデスに、スバルは内心、他の異星人とは大分違うタイプみたい、と考えた。

 そしてサデスの言動には、円盤の中に潜んでいる、異星人たちのボスとも言うべき女が歯ぎしりを立てていた。

 

「あいつ、本物の馬鹿ね……!」

 

 と吐き捨てると、視線を岩山の方へ向ける。

 

「まぁいいわ。目的はいよいよ目の前……! この私が、封印を解いてあげるわ!」

 

 そう言いながら、女は青い怪獣の描かれたカードと、黒いリングをそれぞれ手にした。そしてカードを、リングの間に通す。

 

[ザイゴーグ!]

「行けぇっ!」

 

 リングからカードが撃ち出され、円盤を抜けて岩山に突き刺さる。すると岩山と、それ全体に施されていた封印術式が木端微塵に吹っ飛び――その下から、山と同じほどの体躯の怪獣が現れた。

 怪獣は生物のようではあるが、半身が機械の鎧で覆われていた。また鎧からは無数の砲身が突き出ていて、両腕もキャノンと機関銃のようになっている。つまり機械化改造が成されているのだ。

 

「し、しまったっ!」

「封印が解かれてしまった!!」

 

 怪獣の出現に、魔導師たちが一斉に動揺する。

 一方で岩山を破壊して怪獣を解き放った女は、高笑いしながら叫んだ。

 

「遂に手に入れたわ! 禁断の怪獣兵器……デアボリックぅ――――――!!」

 

 そして女は握っているリングから暗黒の波動を放ち、怪獣に向ける。

 

「さぁデアボリック、まずは目覚めの祝砲よ! 派手にぶちかまして、あなたの実力を見せてちょうだい!」

 

 デアボリックと呼ばれた怪獣の両眼に獰猛な光が宿り、鈍い音を立てながら全身を動かし始める。

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 デアボリックの全身から突き出ている砲口の全てが持ち上がり――一斉砲火を始めて無数の弾薬を魔導師たちやウルトラ戦士たち全員に浴びせ始めた!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 文字通りの弾丸の集中豪雨に襲われ、戦場は一気に地獄絵図と化す。雨あられと飛んでくるデアボリックの砲撃に襲われる魔導師部隊を、はやてやなのはたちが広範囲結界でどうにか守っていた。

 

「総員退避! 退避やぁっ!」

 

 焦った調子で指示を叫ぶはやて。デアボリックの砲撃は止む気配がなく、このまま受け続けていたら全滅は必至だ。

 

「グッ! ウオオォォッ!」

 

 エックスも防御を固めながら、その身を盾にして魔導師たちをかばっていた。――しかしそんな彼を、円盤の女が狙う。

 

「一番の目的のウルトラマンジュエリー……ここで手に入れさせてもらうわ!」

 

 女がパチンと指を鳴らすと、エックスの前に例の突然消えた白いロボットが現れ、腹部の発光体にエネルギーを集中してエックスに目をつけた。

 

『「危ないエックスっ!」』

 

 それを察知したギンガとビクトリーが飛び込んで、エックスを突き飛ばして彼を助けた。

 しかし代わりに二人がロボットから放たれた光線を浴びてしまう!

 

『「「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!?」」』

『「ショウさんっ! ヒカルさんっ!」』

 

 光線の中に消えるギンガとビクトリーに目を見張るダイチ。しかし二人がどうなったのか確かめる暇もなく、事態は変化していく。

 

「おほほ! 動作テストも完了したし、もう長居は無用ね。おさらばするわよっ!」

 

 女が唱えながら、黄金色の怪人のカードを黒いリングに通した。

 

[エタルガー!]

 

 すると円盤を中心に空間に渦巻きのような穴が開き、異星人たちは次々にその中へ飛び込んでいく。デアボリックとロボットもその中へ吸い込まれていった。

 スバルと交戦していたサデスは、その場で小躍りする。

 

『ワーオ! いよいよ彼のいる星に行くのかぁ! たーのしみだなぁ~! ガイ君との再会ッ!』

「えっ!?」

 

 聞き覚えのある名前に一瞬反応したスバルだが、サデスは彼女を置いて他の異星人同様に空間の穴に飛び込んでいった。

 そしてエックスまでも――。

 

「ウッ! ウオオオオオッ!?」

 

 空間の歪みから発せられたエネルギーをその身に浴びたエックスの身体が分解され、ユナイトが強制解除されてしまった。ダイチが宙に投げ出される。

 

「うわあぁぁぁぁ! エ、エックス……!」

 

 ダイチは咄嗟にエクスデバイザーを放り投げ、エックスの光をその中に緊急避難させた。しかしそのダイチも空間の歪みに引っ張られて、吸い込まれていってしまう。

 

「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!」

「ダイくんっ!」

 

 スバルがウィングロードを駆け上がり、エクスデバイザーをキャッチした。だがそのために、彼女まで空間の歪みの吸引に捕まる。

 

「あああぁぁぁぁぁぁ――――――――――!?」

「す、スバルっ!!」

 

 ティアナたちが叫んで助けようとしたが、もう間に合わなかった。空間の穴はスバルとエックスを吸い込んだのを最後に完全に閉じ、追いかけることは出来なくなってしまったのだ。

 

 

 

 謎の異星人の集団によって、別の世界へと引きずり込まれていったダイチたち。その行き先とは――。

 



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怪獣を盗む男

 

 丑三つ時のミッドチルダ首都クラナガン、旧カルロスタワー前。かつて管理局とXio、そして三人のウルトラマンが地獄獣ザイゴーグと決戦を行った場所である。

 この地で今、ローブを目深に被った男が一本の小さなカプセルを掲げていた。

 

「……」

 

 男が口の中で、ミッドチルダ式でもベルカ式でもない何らかの呪文を唱えると、地面から巨大な霊体が浮かび上がってきた。

 

『グギャアアァァァァ――――! ガハハハハハ……!』

 

 地面に染みついていた、ザイゴーグの残留思念である。それがカプセルの中に全て吸い込まれていき、表面が白紙だったカプセルにザイゴーグの絵柄が刻み込まれる。

 男はザイゴーグのカプセルを、手持ちの不気味な紋様の箱の中に無造作に放り込んだ。箱の中には他にもゴモラやレッドキングなど、無数の怪獣のカプセルが収められていて、男はそれらをかき混ぜながらほくそ笑む。

 

「フフフ……これだけあれば怖いものなしだ」

 

 ローブの男の背後に控える二人の異星人、バド星人とゴドラ星人が呼びかけた。

 

『素晴らしい成果ですね、殿下』

『一つの星でこれだけの量の怪獣カプセルが作れるとは!』

「それもこの星の怪獣保護政策のお陰だ」

 

 ローブの男はニヤリと口の端を吊り上げながら答えた。

 

「あれだけの怪獣を、利用もせずに放牧してるだけとは……。度し難い連中だな」

『まことおっしゃる通りですな!』

『ですがお陰で我々は大助かりです、殿下!』

 

 三人が肩を揺すりながら嗤い合っていると――突然四方から照明が当てられ、夜闇に紛れていた三人の姿が浮き彫りにさせられた。

 

「!」

「そこまでだ! 全員武器を捨てて手を挙げろ!」

 

 男たちを包囲しているのは、チンク、ウェンディ、ノーヴェのN2Rの三人。既に武装して、男たちが怪しい動きを見せれば即座に攻撃できる構えだ。

 

「とうとう尻尾を掴んだぞ。怪獣たちからエネルギーを奪っていく不審な集団め! 大人しく投降しろ! でないと攻撃する!」

『殿下!』

 

 勧告するチンクから盾となるように男の前に回るバド星人とゴドラ星人。しかし男は興味がなさそうに踵を返した。

 

「構うな。この星での用は済ました、行くぞ」

「動くなっ! 警告したぞ!」

 

 脅すチンクだが、男はまるで聞き入れずにローブを翻した。

 

「撃てぇっ!」

 

 チンクの号令で、三人は一斉攻撃を浴びせるが――ローブが翻したと同時に発生した闇のカーテンが男たちを覆い隠し、チンクたちの魔法をはね返した。

 しかも闇が消えると、男たちの姿は忽然と消えていた。

 

「いない!」

「逃げたっス!」

「すぐに転移先の特定だ! 急げ!」

 

 ローブの男たちの逃走先を追跡し出したチンクたちであったが……未知の魔法技術による空間転移のようであり、残念ながら特定は不可能だという結論で終わったのであった。

 

 

 

 翌日の早朝、ミッドチルダ北部の怪獣共生区にダイチとスバルが訪れ、保護されている怪獣たちの容態を確かめて回っていた。

 

「ダイチ、みんなの調子はどう?」

「ゴモラたちの方はもう回復してるけど、エレキングとネロンガはまだ良くないな……。この二体は、襲われてからまだ日が浅いからね……」

 

 スバルの問いに、診察を終えたダイチが眉間を寄せながら答えた。彼らの背景では、エレキングとネロンガがぐったりと地に伏せっている。

 

「キイイイイイイイイ……」

「ゲエエゴオオオオオオウ……」

 

 力をなくしている怪獣たちを心配するスバル。

 

「かわいそう……。でもどこの誰が、何のために怪獣のエネルギーを奪ってるんだろう」

「昨晩、チンクたちが遂に追いつめることに成功したけど、結局逃げられたそうだ。ウェンディが悔しがってたよ」

 

 二人が話しているところに、ダイチのデバイザーにエックスからの通信が入る。

 

『ダイチ、スバル』

「エックス、そっちはどう?」

『すまないが、こっちでも犯人の逃走先は追跡できなかった。力になれなくて残念だ……』

「そうか……。ありがとう、エックス」

 

 エックスの報告に、ダイチたちは落胆を隠せなかった。

 この数日、時空管理局によって保護されている怪獣たちが、次々に何者かから生体エネルギーを奪い取られるという事件が発生していた。これまでにも怪獣を悪しき目的のために利用しようと密猟をたくらむ犯罪者は少なからず現れているが、それらはXio、もしくは怪獣自身の力によって全員逮捕されていた。しかし今回は、怪獣が直接狙われた訳ではないので発覚が遅れてしまったのだ。

 

『物事にはどんなものにでも、良い面と悪い面がある。ダイチの怪獣との共生という夢は素晴らしいものだが、今回のように邪な者どもを引きつけてしまうことにもなる。今後は一層警戒を厳しくしないといけないだろう』

「ああ……気をつけないと」

 

 ダイチたちが気を引き締めていると、通信に第三者が割り込んでくる。

 

『よっと! ちょっとお邪魔するぜぇ』

『うわっ!?』

 

 デバイザーの画面のエックスが右半分へ押しやられ、もう半分に映り込んだのはウルトラマンゼロであった。驚くダイチたち。

 

「ゼロ! 久しぶり!」

『ああ、久しぶりだな! だがいい報せを持ってきたんじゃねぇんだ』

 

 ゼロは真剣な口調でダイチたちに告げた。

 

『ミッドじゃ怪獣泥棒が出没してるって話だったが、こっちの宇宙でも似たような事件が発生してるんだ』

「えっ……ゼロの宇宙でも?」

『ああ。バンダ星やサーリン星とかの星々で廃棄予定だったロボット怪獣が盗難に遭い、怪獣墓場でも墓荒らしが出やがった。現場の痕跡から見て、同一犯のようだ。恐らくミッドの事件の奴もそうだろう』

 

 宇宙を股に掛けた犯行。あまりにスケールの大きい犯罪に、ダイチたちはますます警戒心を強める。

 

『色んな星で怪獣の力をかき集めてる。黒幕は相当やばいことをしでかそうとしてやがるみたいだな。全く、ようやくベリアルとのケリがついた矢先にこれとは、休む暇もないぜ』

『宇宙警備隊も捜査に乗り出しているのか?』

 

 ため息を吐いたゼロにエックスが尋ねた。

 

『もちろんだ。だが全部の次元宇宙を俺たちだけで見張るってのは、残念ながら不可能でな。俺は各宇宙のウルトラ戦士に協力を呼び掛けて回ってる。あいつのとこにも連絡に戻る必要があるな』

『あいつ?』

『新人のウルトラ戦士だ。機会があったら、お前たちにも紹介してやるぜ! まぁ結構な強面なんで、最初は驚くかもしれねぇけどな!』

 

 強面のウルトラマン……と言われても、ゼロ以上にきつい顔のウルトラマンなんてものは、ダイチとスバルにはあまり想像できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――光の国からも、ミッドチルダからも遠く離れた次元のレベル3バース。太陽の周りを周回し続ける緑の星、地球に、バド星のフリスビー状の円盤が接近していく。

 ――その後尾から、別の宇宙船が円盤を追って飛んでいた。機体の前後に球体のある、金属製のカヌーのような形状の宇宙船だ。

 追われている円盤から、何か巨大なものが闇を纏いながら出現し、宇宙船に立ちはだかった。一方で宇宙船からも赤い光が飛び出したかと思うと、光が一人の巨躯のウルトラ戦士へと変化していく。

 

「ショアッ!」

 

 赤と黒の体色に、大きく吊り上がった青い眼のウルトラマンが、獸のように指を広げた右手を前に伸ばして、暗闇を纏うものに飛び掛かっていった――。

 




 
『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』に続きます。


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