記憶の海 〜Indelible memory〜 (Ar kaeru Na)
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設定資料集
登場人物紹介〜人間編〜(随時更新)


登場人物の紹介です
現在、memory27までに登場したキャラクターとその状況について説明しています

ネタバレ等が嫌な方は、上記話数まで読んでから見てください
大丈夫な方、気にしない方はそのままどうぞ


 

 

(さかえ)ルナ

奄美大島要塞基地に所属している、見た目子供の青年。階級は少尉。

何かが原因で自らの過去の記憶の一切を喪失している。(自分の歳も分からないほど)

性格はいたって真面目であり、目的達成の為には努力を惜しまない。が、テストは嫌いな様子。

よくガンルームに忍び込んでは、CMS(艦娘)用のお菓子を盗み食いしている。

 

よくわからないままに奄美基地に連れてこられ、成り行きで、記憶が戻るまで基地に所属する事になった。基地司令の征原トウは過去を知る人物らしい。

元々軍人だったらしく、深海棲艦絡みの事故で記憶喪失になったのでは?と医者に指摘された。

 

奄美基地のCMS(艦娘)たちと出会い、そのCMS(艦娘)の欠点を見事克服させてみせるなど、多大な指導力を発揮。さらには基地に来襲した深海棲艦部隊も退けたり、トラック泊地を危機から救うなど、その高い指揮力は、中央直々に奄美部隊を実験艦隊に任命するほど。

 

現在は奄美CMS特別部隊指揮官として、奄美のCMS(艦娘)たちの練成、指揮に励んでいる。

 

時折、記憶の断片などによって変な夢を見たり、激しい頭痛に見舞われたりする事もある。

 

 

 

征原(ゆきはら)トウ

奄美大島要塞基地の司令。階級は大佐。大分歳を重ねているのか、髭と白髪頭がよく目立つ。ジョーク好き。

スケベな性格でセクハラ発言をしてはライラに殺されかけている。

 

一見ただのボケ老人に見えるが、基地司令に恥じない観察眼と思考力を持っている。しかし普段はボケ老人を演じて隠している。

中央の総司令とは腐れ縁らしい。

 

『計画』と呼称する何かを、ルナに悟られないように進め、中将や博士と呼ばれたり、兵器開発のスペシャリストと評されたりと、その実態は謎だらけである。

 

 

 

☆ライラ・トイライン=ハム

奄美基地に所属する女性。階級は少佐。金髪の美人だが、性格はキツい。

実質、奄美基地の重要な仕事を取り仕切っている。俗に言う『秘書』のような事も彼女が行っている。

 

奄美基地に所属はしているものの、本来は中央のCMS(艦娘)指揮官。現在は奄美派遣艦隊を指揮する立場にあるようだ。

 

いつも金色の軍刀(サーベル)を帯刀しており、頭に血がのぼると一瞬の内に抜刀する程に剣術に長けているらしい。柄に手を掛けた時の威圧感だけで、CMS(艦娘)たちを下がらせるくらいには怖い。

 

MW技術に詳しく、記憶兵装についての何かで博士号を持っているらしい。

 

 

 

☆整備主任(本名、高城(たかしろ)ムスビ ?)

奄美の整備士たちのリーダー。みんなからは「主任」と呼ばれたりする。整備の範囲は広く、基地内の備品から護衛艦の修理、CMS(艦娘)たちの整備と何でも屋と化している。

 

どことなく江戸前口調でノリが良く、情にアツイ。

最近頼れる助手が欲しいと思っていたら、願いが叶った様子。

 

 

 

☆見張り員(本名、サンタ ?)

1日中、見張りやぐらの上で海を見つめている見張り員。目がとても良く、自分の目で見たものしか信じない主義らしい。

ルナと初めて出会った時は、彼に子供と言って怒らせている。

 

やぐらにこもっているせいか、中々人前に出てこない。

 

 

 

☆Dr.小池(本名、?)

本土にある軍病院の医者。ルナの治療も請け負った。

治療後のアフターケアもしっかりとしてくれる頼れるお医者さん。

医療関係のスペシャリストらしく、難しいとされる脳外科手術も難なくこなす。

 

 

 

☆居酒屋の女将(本名、?)

奄美基地の第二演習場方面の道端にある居酒屋の女将。開いている時間は分からず、入れたらラッキー。

料理がとても美味しいと評判で、足しげく通う人もいるのだとか。

 

薄紅色の着物に紺色の袴、ポニーテール風に髪を後ろでしばっており、おっとりとした顔立ちをしている。そのたたずまいから、少女の様にも大人の女性の様にも見える。

 

勘が鋭く、表情や態度から心の内を読み取ったような発言をしたりする。そのおかげでルナからは「何者だ」と言われている。

 

そんなルナの過去を知っているような独り言をつぶやいているが……?

 

 

 

☆果物屋の親父(本名、ツキタツ?)

奄美の港町で「くだものツキタツ」という果物屋を営む親父。

かなりの偉丈夫で細かい事は気にしない豪快さを併せ持つ。

 

奄美司令の征原トウと面識があるらしく、共に護衛艦に乗り込み佐世保に向かった事もある謎多き人物。

 

 

 

☆食堂の長男(本名、倉稲(うかの)シナ?)

奄美の港町で「ウカノ食堂」という定食屋を営む三兄妹のトンガリ頭が特徴の長男。

調理担当で、その腕前はピカイチ。だが、店の立地の悪さと果物屋の親父のツケのせいで商売上がったり。

 

奄美司令の征原トウと面識があるらしく、共に護衛艦に乗り込み佐世保に向かった事もある謎多き人物。

 

 

 

☆食堂の長女(本名、倉稲(うかの)トヨ?)

「ウカノ食堂」調理補助担当の三兄妹の長女。明るい性格で後先考えないで動く事が多い。立場とかも気にしないで平気で話しかけてくる。

 

 

 

☆食堂の次女(本名、倉稲(うかの)ワク?)

「ウカノ食堂」接客担当の三兄妹の次女。引っ込み思案な性格でいつもビクビクしている。ルナの階級章をひと目見て少尉と判別するなど、そこらへん詳しいらしい。

 

 

 

☆雑貨屋の女店主(本名、建雷(たてがみ)ミツバ?)

奄美の港町で「タテガミ雑貨店」という店を営む女性。どこか花魁を感じさせるたたずまい。

表は様々な雑貨を販売しているが、裏では武器の卸業を行っている。一応基地公認らしい。

 

奄美基地司令の征原トウと面識があるらしく、共に護衛艦に乗り込み佐世保に向かった事もある謎多き人物。

 

 

 

☆金髪の案内人(本名、ヒノン?)

第9回鎮守府会議の際に、案内人を務めていた金髪オールバックの男性。チャラチャラした様子がとても目に付く。

腕時計型のデバイスは通信端末らしく、総司令から連絡が来るなど、身分はそれなりに高いらしい。

 

奄美基地司令の征原トウなど様々な人と面識がある謎多き人物。

 

 

 

瀬織津(せおりつ)タイガ

日本防衛軍統括組織『中央』の司令。日本軍の最高責任者で「総司令」と呼ばれている。

征原トウとは腐れ縁らしく、何かと相談する事も多い。

 

とある日、謎の侵入者によって殺されそうになったが、ポケットの仮死薬を使い何とか生き延びた。

それによって、総司令という立場を失ってしまったが、裏で行動を開始する。

 

 

 

須賀(すが)テンジ

横須賀鎮守府司令。あっけからんとした性格で、少しふざけた様子。

 

 

 

八幡(やはた)タカ

呉鎮守府司令。口数が少なく、頑固で真面目。

 

 

 

☆アラン・エイ

佐世保鎮守府司令。物静かな性格だが、ルナに何故か突っ掛かっていく。その割には奄美にCMS(艦娘)を貸してあげたりと優しい一面を見せたりする。

 

管轄下の奄美基地には手を焼いているらしく、特に征原トウの自己中心的行動には日夜頭を抱えている。

 

 

 

立橋(たてはし)アメノ

舞鶴鎮守府司令。五大鎮守府の中では唯一の女性提督。物腰の柔らかい性格をしている。

 

 

 

☆ユーカラ・コタン・カロ

大湊鎮守府司令。北海道方面一帯を担当している。名前は普段「ユカル・カロ」と略している。

 

 

 

☆謎の侵入者

とある日に総司令を襲撃し、殺害しようとした謎の人物。総司令の瀬織津タイガと瓜二つの容姿を持ち、タイガを殺害(本当は仮死)したあと、工廠の溶鉱炉に投げ捨てた。

 

言っていることは完全に意味不明であり、現在はその容姿を利用して総司令とすり替わっている。それに気付いている者はタイガ本人しかいない。

 

口ぶりから深海棲艦と繋がっている可能性がある。

 

 

 

☆ヨーコ・エイ

天才CMS技師。CMS(艦娘)の艤装の整備などが専門だがそれ以外も出来るらしい。

元々、佐世保で働いていたらしいが、奄美の人手不足の為に人事異動となった。これには整備主任も大喜び。

 

佐世保司令のアラン提督の姉であり、性格は正反対と言っても良い程陽気である。

 

 

 

☆基地の通信士(本名、ミカ?)

奄美基地の通信士。女性でありながらも基地の通信の殆どを担当する程に優秀。通信室からはあまり出てこない。

 

 

 

 

 



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登場人物紹介〜艦娘編〜(随時更新)

登場人物紹介です
現在、memory30までに登場した艦娘の紹介と説明をしています。
読んでいない方はご注意下さい。

大丈夫な方、気にしない方はそのままどうぞ


 

【奄美基地】

 

☆吹雪

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《吹雪型駆逐艦一番艦

奄美部隊の駆逐艦。真面目な性格で部隊内では索敵担当。

部隊内ではみんなの暴走を止める役のようになっており、青葉や島風に振り回されてばかりいる。

 

元々訓練の結果は良かったのだが、実戦になるとカタログスペック以下の力しか発揮出来なかった。しかしルナのおかげで見事克服する事が出来た。

 

時折、激しく取り乱したり、不可解な事を言ったりするが、どうやら本人は覚えていないらしい。

 

 

 

☆天龍

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《天龍型軽巡洋艦一番艦

奄美部隊の軽巡洋艦。男勝りな性格で部隊内では突撃役。

訓練の時はしっかりと顔を出すが、それ以外は姉妹艦の龍田と共に基地内外をウロウロしている。その際、外出許可証を取らないで行く事が多く、ライラの悩みの種である。

 

過去に役立たずだという事を自覚して、実戦に出なくなった。しかしルナの説得(物理)によって再び海に出るようになった。

 

元から実力は折り紙付きである為、訓練では見本となる事もしばしば。

対深海棲艦用近接攻撃モジュールである対艦(ブレード)を愛用している。

 

 

 

☆龍田

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《天龍型軽巡洋艦二番艦

奄美部隊の軽巡洋艦。おっとりとした性格で天龍と共に切り込むのを得意とする。

いつもニコニコと笑っているが、天龍曰く「怒らせるとヤバイ」らしい。

 

天龍が実戦に出なくなってから、色々と説得を試みたものの上手くいかなかったらしい。1人だけにはさせまいと龍田自身も実戦に出なくなったそう。

その為、ルナには陰ながらとても感謝している。

 

天龍と同じく近接モジュールである対艦薙を愛用している。

 

 

 

☆青葉

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《青葉型重巡洋艦一番艦

奄美部隊の重巡洋艦。明るい性格で部隊のムードメーカー。部隊内では航路確認や通信担当。

コテージかルナの部屋にいる事が多く、いつでもネタを探している。

 

かつて航行する事が上手く出来ず、海に出る事ができなかった。しかしルナの訓練のおかげで、今では部隊一操艦が上手い。

 

「青葉新聞」と称する基地の情報紙を制作しており、これが基地の人々にとても好評。張り出されると、掲示板の前に人集りが出来るほど。

しかし、この新聞の内容を巡って、ルナと壮絶な鬼ごっこを繰り広げる事がある。これは基地内で一種の名物となっている。

 

 

 

☆金剛

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《金剛型戦艦一番艦

奄美部隊の戦艦。晴れ晴れした性格で部隊の打撃中核を担う。

戦艦という立場からか部隊内ではお姉さんとして、みんなから慕われている。

 

かつて砲撃の命中がゼロという脅威の結果を出し、実戦に出させてもらえなかった。しかしルナのおかげで原因が解明し、現在ではトップクラスの命中率を誇る。

 

毎朝コテージで紅茶を飲むことを日常としており、金剛の作るスコーンは絶品。実戦では高速戦艦である事を活かして敵に肉薄し、ゼロレンジショットを決めたりと大胆な部分もある。

 

 

 

☆赤城

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《赤城型航空母艦

奄美部隊の航空母艦。優しい性格だが自分には厳しい。部隊内では航空担当。

部隊の打撃も担う為に、金剛と並んで旗艦に任命される事も多い。

 

かつて海に出る事が一種のトラウマとなっており、CMS(艦娘)でありながら海に出る事が出来なかった。しかしルナや他のCMS(艦娘)たちによって、見事トラウマを克服した。

 

普段は弓道場で鍛練を重ねており、どのような事態に陥っても大丈夫なように精神を鍛えている。

だが、食事の事になると大丈夫じゃないようだ。

 

 

 

☆島風

MW《NーⅢ型CMS

型番《 330010001

モデルデータ《島風型駆逐艦

トラック迎撃戦直前に奄美部隊に加わった駆逐艦。部隊内では対空警戒役。

最新型であるNーⅢ型の記憶兵装を搭載しているため、スペックは非常に高い。

 

その為に同型艦が存在せず、以前はそのせいで周りを考えずに行動して他のCMS(艦娘)から煙たがられ孤立していた。

トラック迎撃戦で吹雪に助けられた事をきっかけに、そのような事は無くなった。吹雪は島風にとって初めての友達である。

 

スピードに絶対の自信を持っており、かけっこや競争が大好き。訓練と称して吹雪と訓練場を駆け回っている。

 

 

 

☆加賀

MW《DーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ※数種類存在

《加賀型航空母艦

*《NーⅠ型CMS 101007001?

*《空母棲姫?

トラック迎撃戦後に奄美部隊に加わった航空母艦。その容姿はトラック迎撃戦時に奄美部隊と熾烈な戦いを繰り広げた空母棲姫に酷似している。

DーⅠ型という特殊な記憶兵装に、モデルデータが複数存在するなど謎は尽きない。征原トウはこの加賀について特に言及はしていないが、赤城が最期を看取った、あの空母棲姫であるのは間違いないだろう。

 

現在は赤城と行動を共にし、一航戦の名に恥じぬよう訓練に励んでいる。

 

 

 

☆Uー511

MW《NーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《U-ボートⅨC型潜水艦

トラック迎撃戦時に保護されたドイツの潜水艦。日本のMW技術の提供を受け、独自に開発された2隻のうちの1隻。

ドイツでも日本のように量産を試みたが、戦闘バイオロイドやナノマシン、記憶兵装など技術水準が量産の水準と釣り合わず断念した。

その為、ドイツ技術を集結させたCMSの設計図をUー511に持たせ、潜水艦の隠密性を利用して日本に託そうとした。設計図は無事日本に渡り、中央が建造を行っている。

 

現在はドイツのMW技術が完全な物かを確認するべく、実験艦隊と称した奄美部隊を利用してデータを集めている。

 

物静かな性格でまだ日本に馴染めていない様子。奄美基地に空き部屋がない為、コテージ二階の屋根裏的スペースで寝ている。これが意外と旅行みたいでワクワクして良いのだとか。

 

 

 

☆那珂

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000048003

モデルデータ《川内型軽巡洋艦三番艦

トラック迎撃戦後に奄美部隊に加わった軽巡洋艦。自称艦隊のアイドルというだけあって歌とダンスが上手い。

元々の所属は中央派遣艦隊だが、実験艦隊の件でUー511と共に奄美にやって来た。

 

いつも歌を歌っていて戦闘にはあまり興味を示さないが、その気になれば物凄く強い

 

 

 

【横須賀鎮守府】

 

☆長門

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101001001

モデルデータ《長門型戦艦一番艦

横須賀所属の戦艦娘。武人のような性格をしている。

戦艦を体現するようなその姿から、大規模作戦時には連合艦隊旗艦を務める事も多い。

 

誰とでも同じ様に接し、差別は一切しないが、唯一ちびっ子と駆逐艦娘にだけは甘い。

 

 

 

☆赤城

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101006001

横須賀所属の赤城。トラック迎撃戦では空襲時に奄美部隊の支援をしてくれた。

 

 

 

☆加賀

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101007002

横須賀所属の加賀。個体番号から”2隻目”と思われる。

 

 

 

【佐世保鎮守府】

 

☆白露

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303079001

モデルデータ《白露型駆逐艦一番艦

佐世保所属の駆逐艦娘。トラック迎撃戦にて先遣部隊として参加。

いつも元気で、一番艦であるからか一番にこだわっている。

 

 

 

☆時雨

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303080001

モデルデータ《白露型駆逐艦二番艦

佐世保所属の駆逐艦娘。トラック迎撃戦にて先遣部隊として参加。

どこか達観した性格で、いつでも冷静。

 

 

 

☆飛鷹

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303065001

モデルデータ《飛鷹型航空母艦一番艦

佐世保所属の軽空母艦娘。トラック迎撃戦で奄美部隊に協力してくれた。

姉妹艦の隼鷹にはいつも手を焼いている。

 

 

 

☆隼鷹

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303066001

モデルデータ《飛鷹型航空母艦二番艦

佐世保所属の軽空母艦娘。トラック迎撃戦で奄美部隊に協力してくれた。

お酒が大好きならしく、何かと理由を付けて呑もうとする。

 

 

 

【舞鶴鎮守府】

 

☆吹雪

MW《NーⅠ型CMS

型番《 402011001

舞鶴所属の吹雪。呉鎮守府会議時にルナ達と出会い、ルナ達を驚かせた。

 

 

 

【大湊鎮守府】

 

☆初雪

MW《NーⅠ型CMS

型番《 502013001

モデルデータ《吹雪型駆逐艦三番艦

大湊鎮守府所属の駆逐艦娘。暗い雰囲気の持ち主で何かとすぐに帰ろうとする。

ネガティヴだがやる時はしっかりやる。

 

 

 

☆叢雲

MW《NーⅠ型CMS

型番《 501015001

モデルデータ《吹雪型駆逐艦五番艦

大湊鎮守府所属の駆逐艦。クールな性格でプライドが高く、常に上から目線だが少しツンデレな様子。

そのせいか、やる気のない初雪に、なんだかんだと言いながら世話をしている。

 

 

 

【派遣艦隊】

 

『奄美派遣』

☆伊勢

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000003001

モデルデータ《伊勢型戦艦一番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。楽天的な性格で姉妹艦である日向をよく怒らす。

第一次改装済で航空戦艦になっているが、本人は艦載機よりも砲撃を重視している。

 

 

 

☆日向

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000004001

モデルデータ《伊勢型戦艦二番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。物静かだが、姉妹艦である伊勢に対しては容赦ない。

第一次改装済で航空戦艦になっていて、艦載機を使った空との立体攻撃を重視している。

 

 

 

☆蒼龍

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000008001

モデルデータ《蒼龍型航空母艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。飛龍と共に第二航空戦隊として活躍している。

勢い余って前に出すぎる飛龍をいつも心配している。

 

 

 

☆飛龍

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000009001

モデルデータ《飛龍型航空母艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。蒼龍と共に第二航空戦隊として活躍している。

攻撃は先手必勝を考えており、まれに蒼龍と意見が対立する事がある。

 

 

 

☆五十鈴

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000043001

モデルデータ《長良型軽巡洋艦二番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。普段は駆逐隊を引き連れて、哨戒任務や輸送護衛などを行っている。

 

南一号作戦の時、奄美部隊に助けて貰ったことを感謝しており、困っている時には快く協力してくれる。

 

 

 

『大湊派遣』

☆夕雲

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000133001

モデルデータ《夕雲型駆逐艦一番艦

大湊派遣艦隊のCMS(艦娘)。丁寧な言葉遣いで駆逐艦の割には大人びた雰囲気がある。

夕雲型を主力オブ主力と考えており、常に活躍を望んでいる。

 

 

 

☆長波

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000135001

モデルデータ《夕雲型駆逐艦四番艦

大湊派遣艦隊のCMS(艦娘)。威勢が良く、強気な性格。

輸送作戦よりは戦闘を好んでいるようで、ドラム缶は苦手らしい。

 

 

 

『中央派遣』

☆巻雲

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000134001

モデルデータ《夕雲型駆逐艦二番艦

中央派遣艦隊のCMS(艦娘)。トラック迎撃戦では、先遣部隊として参加。

持っているソナーは自前であり、対潜戦に自信がある。

 

 

 

☆香取

MW《NーⅡ型CMS

型番《 000154001

モデルデータ《香取型練習巡洋艦一番艦

派遣艦隊でも、南方海域を中心に派遣される『南遣艦隊』の旗艦。現在はトラック泊地で司令代理を務めている。

NーⅠ型の改良版である『NーⅡ型』の試作艦でもある。

 

 

 

☆伊ー168

MW《NーⅡ型CMS

型番《 000126001

モデルデータ《海大Ⅵ型潜水艦一番艦

中央第六艦隊のCMS(艦娘)。諜報活動を主任務として、各海域の深海棲艦の状況を調べている。呼び名はイムヤ。

潜水艦娘の中ではリーダー的存在。

 

 

 

☆伊ー58

MW《NーⅡ型CMS

型番《 000127001

モデルデータ《巡潜乙型改二潜水艦三番艦

中央第六艦隊のCMS(艦娘)。諜報活動を主任務として、各海域の深海棲艦の状況を調べている。呼び名はゴーヤ。

「でち」という特徴的な語尾をつけて話す。ソナーの扱いが上手い。

 

 

 

☆伊ー19

MW《NーⅡ型CMS

型番《 000123001

モデルデータ《巡潜乙型潜水艦三番艦

中央第六艦隊のCMS(艦娘)。諜報活動を主任務として、各海域の深海棲艦の状況を調べている。呼び名はイク。

第六艦隊の中では新しく入った潜水艦娘で、軽率な行動をしてしまう事も。

 

 

 

☆川内

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000046001

モデルデータ《川内型軽巡洋艦一番艦

中央派遣艦隊のCMS(艦娘)。現在は横須賀管轄小笠原基地に派遣されている。

夜戦好きで夜は寝ずに昼に寝るという昼夜逆転生活をしている。

 

 

 

☆神通

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000047001

モデルデータ《川内型軽巡洋艦二番艦

中央派遣艦隊のCMS(艦娘)。現在は横須賀管轄小笠原基地に派遣されている。

第二水雷戦隊旗艦を今でも務めており、その戦闘能力は軽巡一とも称される。

 

 

 

【陸軍】

 

☆あきつ丸

MW《NーⅡ型CMS

型番《 不明

モデルデータ《特種船丙型揚陸艦

陸軍が開発した陸上戦闘に特化したCMS(艦娘)。それ以外にも陸戦隊の運搬や輸送を見込んでモデルデータは揚陸艦となっている。

陸軍の歴史が色濃く残るCMS(艦娘)になっていて、性格や態度、口調などに表れている。

 

海上戦闘は苦手なようだ。

 

 

 

☆まるゆ

MW《NーⅡ型CMS

型番《 不明

モデルデータ《三式潜行輸送艇

陸軍が開発した陸上戦闘に特化したCMS(艦娘)。見つからずに敵地に潜入する事を見込んでモデルデータは潜水艇となっている。

少し気弱な所があり、あきつ丸に心配を掛けていないかとても気にしている。

 

潜水艦娘だが、海軍の潜水艦娘たちのようにしっかりと潜行出来ない。

 



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最初の記憶ーープロローグーー
memory1「消えた記憶」


まだ艦これ要素が殆どないです
いわゆる導入です
気長に見てって下さい


 

 

 

 

 

memory1「消えた記憶」

 

 

 

 

 

 

 

『総員、退避ぃぃい!!』

 

 

夜の闇に染まった漆黒の海に、煌々と輝く紅蓮の炎。燃え落ちる(ふね)

 

燃えているのはこの艦だけではない。

艦隊全てが火の手に掛かっていた。

 

その燃え盛る艦の甲板に自分は倒れ伏していた。

 

周りが炎に包まれているのに、自分の身体は酷く冷たい。否、温かいものが流れ出ていると言った方が正しいか。

 

視界がゆっくりと紅に染まっていく。

 

自分の周りに紅の水たまりが広がっていく。

 

ふと見ると、自分の前には誰かが立っていた。

 

そしてその誰かが、黒く鈍い光を放つものをこちらに向けるのが、感覚で分かった。

 

あぁ、俺は死ぬのか…。そう、脳が判断する。

 

動きたくとも動けない。それにもう、動く気も起きなかった。

 

その誰かが引き金に指を掛ける。

 

撃たれる、と思った瞬間、自分とその誰かの間にもう一人の誰かが割り込んだ。

 

自分は一瞬、思考が停止した。何故、コイツがここに居る。無論、自分を助けに来たのだろう。

 

しかし状況は圧倒的に不利。今ここで助けに来たところで何の意味も無い。犬死にするだけだ。

 

ソイツは両手を大きく広げて、自分の前に立っている。自分からでも、脚が震えているのが見て取れた。

 

ソイツとその誰かが何やら会話をしている。

 

暫く話すとその誰かは後ろを向いて歩き去ろうとする。そして、ソイツも誰かについて行こうとする。

 

待て、ついて行くな、戻ってこい。そう言いたいのだが、口からはただ息が漏れるばかり。

 

数歩、歩いたソイツはおもむろに此方を向いた。ソイツは静かに涙を流し、

 

『ーーーーーーーーー、ーーーーー』

 

自分に向かってそう言った。

 

ソイツは振り向きざまにその誰かに向けて銃を放った。しかし、その誰かは読んでいたように銃弾を躱し、逆に銃口を向ける。

 

アレはマズイ。自分は咄嗟に判断した。そして動かない身体を無理に動かした。

 

死力を尽くして、自分はソイツを突き飛ばした。

 

ソイツが一瞬何が起こったのか解らない顔をするが、即座に状況を理解し、驚きの表情を浮かべる。

 

自分は安堵した。一先ずこの危機からコイツを救えたのだから。

 

ソイツは吹っ飛ばされながらも手を伸ばし、涙を流しながら何かを俺に叫んでいる。

 

大丈夫だ、俺の任務(ミッション)はお前を守ることだからな。

 

その誰かが引き金を引く。

 

自分は最期に、ソイツにこう言った。

 

『ーーーーー、ーーーー』

 

 

 

 

もう既に、痛みは感じなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

パチリと目を開ける。

 

白い天井に、白いカーテン。自分はその中の白いベッドに横たわっていた。

 

「ここは……?」

 

辺りを見回す。よくわからない機械類に心拍計や献血の機器がある。

どうやら病院のようだ。

 

先程の事は、どうやら夢だったらしい。かなり現実味を帯びてはいたが。

 

そこでふと思った。何故、自分はこんなところにいるのだろう。

まさか、さっきのは夢じゃなくて、現実だったのか?そうすれば、何故病院にいるのかも説明がつく。それにしては、登場人物が誰一人解らない。夢の中の自分でさえ解らない。

 

頭を抱え、考え込んでいると、一人のナースが病室に入ってきた。

 

「あっ!(さかえ)さま、お目覚めになられましたか?」

 

自分はその言葉に違和感を感じた。

 

(さかえ)さまって…誰ですか?」

 

「それはあなたの事ですよ。寝ぼけているんですね。でも、お目覚めになられて本当に良かったです。一時はどうなることかと」

 

そのナースはクスクスと笑った。

 

おかしい。

 

本来ならばおかしく無いはずなのだろう。

 

でも考えれば考えるほどにおかしくなる。

 

「あの…」

 

「なんですか、栄さま。朝食はもう少々お待ち下さい」

 

「それはいいんですけど……栄って自分ですよね?」

 

「何を当たり前の事を言っているんですか」

 

「名前が……思い出せなくて……」

 

「えっ…!”思い出せない”ですって…!?」

 

ナースが自分の方へ駆け寄ってくる。ひとしきり顔を見たり、目を覗き込んだりしたナースは顔を青くした。

 

「まさか……!スミマセン、直ぐにドクターを呼んできます」

 

ナースは何処かに走り去ってしまった。

 

自分の置かれた状況、ナースの反応の仕方。これらから、自分の身に何が起こったのかを理解した。

 

 

「まさか……記憶喪失……?」

 

 

確かに、思い出そうとしても何も思い出せない。ちょうどその時、白衣に身を包んだのっぽの男性が部屋に入ってきた。さっきナースが呼びに行ったドクターだろう。

 

「やぁ、栄さん。調子は如何ですか?復帰おめでとうございます」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

「私が貴方の手術を担当した、ドクターの小池と申します。早速ですが、栄さん、ご自分の名前を言えますか?」

 

「いえ…それが思い出せなくて…」

 

「今現在の西暦などは?」

 

「それも全く…」

 

Dr.小池は持っていたカルテのようなものに何やら書き込んでいく。

 

「率直に言いますと、栄さん、あなたはご自分の記憶について、一部、或いは全て、喪失してしまっていると思われます」

 

「それは、記憶喪失ということですね?」

 

「まぁ、一般的にはそう呼ばれていますね。恐らく栄さんは外傷による逆向性健忘かと……」

 

「外傷?」

 

Dr.小池はあっとした顔になり、カルテに目を落としながら説明を続ける。

 

「説明をしそびれてしまいましたよ。実はこの病院は軍事病院でしてね。もちろん一般の患者様もご利用可能ですが、軍部の方々もご利用なさるのですよ」

 

「軍……、スミマセン、そこら辺もちょっと…」

 

「思い出せないですか。自分は専門外なので軍の事は答えられないのでスミマセンね……さて、話を戻しますが、栄さんは一週間前に、軍の人達に連れられてここに運び込まれたのですよ」

 

「軍の人達に?」

 

「栄さんも軍の人間だったのでは?そこに置いてある服と帽子も貴方のものですし」

 

ベッドの反対側の机をみると、軍服と軍帽のようなものが置いてあった。これは自分のだったのか。

 

「そんな訳で、軍の人達は『意識が戻らない』といって貴方を運び込みました。そして急遽、手術をしたという訳です。

栄さんは、頭部の神経系が一般の方々と比べて少し特殊でして、恐らくその部分で異常が起き、昏睡したのでしょう。そもそも神経なんて人によって微妙に違うんですから大した問題では無いですけどね」

 

「…となると、自分は軍の人間で、何かがあって昏睡し、ここに運ばれたと」

 

「そんなところでは無いかと思ってますよ」

 

「自分はこれからどうすれば……」

 

「あぁ、そういえば、貴方を運び込んだ人達が、栄さんが目覚めたら渡してくれ、と、封筒を置いていきましたよ」

 

Dr.小池は茶色の封筒を(さかえ)に手渡した。

封筒には軍部とかなんとか書かれていて、大仰に判子が押されていた。

封筒を開き、中身を取り出してみる

中には一通の手紙とそこそこな額のお金が入っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日本国海軍部司令検栄少尉宛

 

 

(さかえ)ルナ少尉へ

治療が終わり次第、以下の番号に一報した後、以下の場所へ来られたし

 

 

差出人

奄美要塞基地司令、征原(ゆきはら)トウ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…………………」

 

手紙にはそんな内容と、電話番号らしきものと地図が書き記してあった。

 

「見た所、軍からの正式な書類のようでしたが、どうでしたか?」

 

Dr.小池がそう聞いてくる。

 

「栄ルナ少尉宛って書いてありましたけど…」

 

その言葉にDr.小池は目を丸くする。

 

「栄さん、少尉だったんですか。少尉というと小隊長クラスですよ。凄いですねぇ。記憶を失う前に何をやってたのか気になりますね」

 

自分はそうなのかと思い、手紙をまじまじと見た。

 

「自分の名前は……『ルナ』って言うんですね……」

 

「そうです。貴方は『栄 ルナ』という名前です。……何か思い出せそうですか?」

 

「スミマセン……」

 

「いえいえ、お気になさらず。…しかし記憶については私もどうしようもないので、自然回復を待つしか無いですね。最悪の場合、戻らない可能性もあります」

 

「……そうですか」

 

「退院後に行く当てはあるのですか?無いのなら、私の知人に軍の関係者がいるので電話を入れておきますが」

 

Dr.小池がそんな事を言う。身元不明の自分にまで気を使ってくれるこのドクターはとても良い人なのだろう。

 

「いえ、手紙に今後の事が書いてあったので、そこの所は大丈夫です」

 

「そうですか。…それでは、私も仕事がありますので今日はこの辺で。退院は3日後を予定しているので御了承を」

 

「わかりました。わざわざありがとうございました」

 

Dr.小池は一礼すると部屋を出て行った。Dr.小池と入れ替わるようにして、さっきのナースが朝食を持ってきた。病院特有の(色んな意味で)体に良さそうな食事だ。

 

考えることは山積みだが、取り敢えず、この如何にもなモノを平らげようとするのであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

3日後、

 

ルナは退院の準備を進めていた。

 

この3日で分かった事は主にこんな事だ。

 

一つ目が、自分の記憶は何一つとして覚えていないこと。正確には手術以前の記憶が思い出せない。

 

二つ目が、その他の記憶も断片的に喪失していること。例えば、国などの地名は覚えているが、世界の情勢などは覚えていない。

 

三つ目が……背が低いということだ。

潜在意識的なもので自分はもう少し背が高かった気がしていた。今の姿を鏡で見ているとかなりサバを読まないと大人には見えない。

いや、大人には見えないな。

 

もしかして自分は元々子供だったのか?

 

そんな事を思うが、子供が軍にいる訳がねぇとその考えを一蹴する。

兎に角、そんなこんなで、服がかなり大きくサイズが合わなかった。

 

黒の長外套(ロングコート)に黒の軍帽、黒の軍服上下、その全てが既にボロボロだった。

 

(自分は、以前に何をやっていたんだ…?)

 

そんな疑問を抱きつつ、Dr.小池に挨拶をし、受付で退院手続きを終了した。

 

 

先ずは、手紙に書かれていた番号に電話をかけてみようと思い、公衆電話から電話をかける。しかし、数回、ベルが鳴ったと思ったら直ぐに切れてしまった。

 

「……?」

 

かけ直そうとするが、今度は『この電話番号は存在しません。もしくは……』と繋がりもしなかった。

 

仕方なく、電話をかけるのを諦め、手紙に記されている場所まで行く事にした。

その場所には、どうやら交通機関を使わないと行けないらしかった。

とはいえ、近くに駅など無い。

そこで、病院の前に止まっていたタクシーで向かう事にした。

 

最初は運転手に『子供はちょっとなぁ…』と断られたが、軍服とそれ相応の金額を見せたら、すぐに乗せてくれた。

 

「いやぁ、最近の軍隊は子供も雇う程、人手不足なのかい」

 

タクシーの運転手がそう言う。

 

「いやだから子供じゃないですって」

 

ルナがそう言うと運転手はケラケラと笑う。

 

「子供はみんなそう言うよ。しっかしまあ、こんなご時世にタクシーを利用する人がまだいるとはなぁ」

 

運転手がしみじみと言う。ルナはその言葉に引っかかるものを感じた。

 

「……タクシーを使う人は少ないのですか?」

 

ルナは思わずそう聞いた。その時、自分は以外とおしゃべりなのか、と気付いた。

 

「そりゃあ、お前さん考えてもみてくれよ。海に怪物が現れるようになってから、日本の経済なんてガタガタよ。なんせ…」

 

「ちょちょちょちょっと待って下さい!『海に怪物が現れる』ってどういうことですか!?ファンタジーか何かですか!?」

 

そこで運転手が怪訝な顔をする。

 

「お前さん……まさか、『深海棲艦』を知らないのか?」

 

ルナは運転手に病院での経緯を話した。

 

「なるほど……記憶喪失かい。そりゃ難儀なこった」

 

「そうなんです。そのせいで世界やこの国の事とかも記憶が無くて……宜しかったら、詳しく教えてくれませんか?」

 

運転手はしばらく無言でハンドルを切る。

 

「もう10年くらいになるかな……怪物が最初に目撃されてから」

 

そんな風に運転手はルナに説明をしてくれた。

 

「当時はUMAじゃないかって騒いでたのよ。それで捕獲を試みた漁業団体の船が沈められたんだよ、その怪物に。それを境に、漁船や輸出入用のタンカーなどがことごとく沈められたのだよ」

 

運転手は、目的地に車を走らせつつ、話を続けた。

 

「そこで当時の海軍……海上自衛隊が事態の収拾に動いたんだが、これも沈められてな。なんと、その怪物が海自の船に向かって砲撃したんだと」

 

「………それ、本当の話ですか?」

 

この事を初めて聞くルナにとっては、信じられない話だった。

 

「それが本当なんだよ。その怪物はその後、至る所に出没しては、船を沈め、ついには世界の海上交通網(シーレーン)を断絶させるまでに至ったんだよ。そのせいで世界経済はめちゃくちゃ。日本も例外じゃないって訳だ」

 

「何故、抵抗しないんですか?」

 

「噂によると、こちらの攻撃が全く効かないらしい。そのせいで、どこの国も一方的にやられたんだと」

 

「そんな……どうしようもないじゃないですか」

 

「それでも最近になって太刀打ち出来るようになったのかな?最近、被害のニュースが少ないからな。……まあそれで、その怪物達は、海の底から出てくるらしい。それでもっていつしかの軍艦並みの攻撃力を持っていて(ふね)を沈めるから『深海棲艦』と呼ばれるようになったのさ」

 

ルナが聞き返そうとした時、ちょうど車が止まった。

 

「さぁお客さん、目的地に着いたよ」

 

着いた先は、小規模な軍の駐屯地だった。

 

ルナは代金を支払い、車を降りた。

 

まさか軍の駐屯地が地図の場所だったとは、と、しばらくポカーンと立ち尽くしていたルナに気付いたのか、門番らしき人がこちらに歩いてきた。

 

「君、どうしたんだ。こんな辺鄙(へんぴ)な所に。子供が来るとこじゃないぞ。早く帰るんだ」

 

「ま……待って下さい!自分はここに来いと言われて…」

 

そういって例の手紙を門番に見せる。それを見た門番が顔を変える。

 

「君が、栄少尉なのか?……たしかに、少し古いが着ているのは正規の服だしな……いや、済まなかった、イメージと違いすぎていてな。連絡は受けているから、中に入ってくれ」

 

門番は綺麗に敬礼をした。ルナも慌てて、見よう見まねで敬礼をし返す。

 

門番に連れられ駐屯地内に入ると、一機のヘリコプターが準備されていた。

 

「栄少尉はこれに乗ってくれ。その後は現地に案内がいるはずだ」

 

門番はそう言うと、仕事に戻っていった。

すると、ヘリコプターの脇から軍の人が出てきて、ワケもわからず、ヘリコプターに乗せられた。

 

(一体、自分は何処へ連れて行かれるんだ……)

 

ルナのそんな気持ちも余所に、ヘリコプターは飛び立って行くのであった。

 

 

《続く》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回まで導入の予定です
世界観を話したいと思います


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memory2「奄美要塞基地」

一話からの続きです。

まだ艦これしません(´・ω・`)しょぼーん
自分の奴は会話文が異常に多い希ガス


 

memory2「奄美要塞基地」

 

 

 

 

 

 

ヘリコプターに乗せられ数十分後、ヘリはとあるポートに着陸した。

 

「少尉、起きてください。基地に着きましたよ。起きてください」

 

「……………ハッ!いや、すみません…」

 

どうやらルナは、ヘリの中で眠っていた様だ。ヘッドホンをしているとはいえ、よくあの音と揺れの中眠れたな、と自分でも不思議に思う。

 

「この道を真っ直ぐ行った所に、基地庁舎がありますので、そこに向かえば良いかと思います。それでは」

 

ヘリに乗っていた人達がそう言うと、ヘリはもう一度飛び立って、元の駐屯地へ帰っていった。

 

「いや、ここどこなんだろ……」

 

とりあえずヘリポートから外に出てみる。

 

すぐそばに海と港が見える。そして周りには貨物コンテナやレンガで作られた倉庫などが乱立していて、その脇にたくさんの屋台らしきものが軒を連ねている。

その屋台らしきものを見て回っているのは、軍の人だけでは無く、一般の人々も見て楽しんでいるように見えた。

 

いや、一般の人の方が多い気がする。

 

売っているものはお好み焼きやりんご飴といった定番のものから、何処ぞの闇市見たいな危ない品まで売っていた。

 

「一体全体、どういうことなんだ…?」

 

記憶を失っているというのもあるが、それにしても現状から今の状況を理解するのは難しかった。

 

分からない事はとりあえず放っておき、ヘリの人に言われた通り、基地庁舎を目指す。

 

「うわぁ……」

 

何処と無く懐かしみを覚える、そんな風に思いながら道を進んで行く。

 

そこでルナはふと、とある屋台を見た。どうやら青果屋のようだ。

吸い込まれるようにしてその屋台の元に行く。

 

「お、らっしゃい!」

 

丸刈りに無精髭の店主が威勢良く声をかける。

 

「この匂いは……」

 

この屋台に入った原因がそれだ。とても良い甘い匂いがしたのだ。それも、チョコレートなどの甘い匂いではなく、花のような自然来の甘い匂いが。

 

「この匂いかい?これは『アイカノカオリ』って言うリンゴの匂いさ。これはあの、あいかの香りの改良種でな?名前に負けないよう香りと甘みをさらにアップさせたんだと。その他にもな………」

 

お、こりゃ藪蛇(やぶへび)だったかなと思うが時すでに遅く、店主は意気揚々とリンゴについて語る。

まぁ、聞いて損は無いなとポジティブに考え、店主の話をそこそこに聞く。

 

「そーいえば、坊ちゃん。ここらじゃ見かけない顔だが、観光かい?」

 

店主がいきなりそう聞いてくる。坊ちゃんて呼ばれるくらいなのか、と若干のショックを受けつつ、曖昧に返答をする。

 

「まぁ……そんなところです」

 

「おーそりゃそりゃ!坊ちゃんもそうだけど、いやぁ、最近は観光客が増えてきて良かったなぁ!深海棲艦どもが現れたせいで一時はどうなるかと思ったんだけどよぉ………」

 

また店主は1人で喋り出す。今度からこの屋台には近付かないようにしよう。話が長すぎる。

 

「よっし!今日は気分がいいな!坊ちゃん!この『アイカノカオリ』をやろう!!」

 

「え?」

 

「だって欲しかったんだろ?このリンゴ。坊ちゃんにくれるよ!」

 

ルナはふと値段を見た。一個1500円と書いてあった。

 

「い………!いや、大丈夫です!そんな高いモノ…」

 

「子供なのに遠慮すんなって!おじさんがあげるっつってるんだから、素直に貰いな!」

 

半ば強引にリンゴを渡されるルナ。

 

「分かりました!分かりましたから!せめてお代は払いますよ!」

 

ルナは店主にお札を突き出すと、全速力で逃げた。

 

「なんだってんだい…?」

 

店主は突き出されたお札を見た。10,000円と書いてある。

 

「おーい!!坊ちゃん!!これ万札だぞぉー!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「恐ろしいおじさんだった……」

 

必死に逃げてきたルナはレンガ倉庫の脇に座り込んでいた。

ただでさえ、コンテナとレンガ倉庫と屋台が乱立していて、初めて来たルナにとっては迷路の様な場所なのに、全力で走ってきたおかげで迷ったのであった。

 

「…………」

 

ルナは思考を放棄し、リンゴを食べ始める。

独特のさわやかな甘い香りと、リンゴとは思えない甘さに舌鼓を打つ。

 

 

「おいチビ助」

 

 

いつの間にか目の前に立っていた人影がそう言う。

 

「俺はチビ助じゃねぇ!!」

 

そう言って立ち上がるとそこには、明らかに異質な者が立っていた。

 

一応、一般客に見えるようコートを羽織ってはいるのだが、紫がかった髪の毛に眼帯をしている。それでいて女性だ。歳は若く、高校生くらいにも見える。

 

これで刀でも持ってたら荒くれ者に見えるな…と言うのが第一印象。

 

「おうおう、威勢の良いチビ助だ。どうした、こんなとこにしゃがみ込んで。親とはぐれたか?」

 

「だから、子供じゃないと…」

 

「うん?そのリンゴ、『アイカノカオリ』じゃねぇか。そんな高いリンゴどうしたんだ?」

 

「これは自分が青果屋で買ったんだよ」

 

「今の御時世、チビ助が買うには高いだろ?」

 

「貴女には関係ないだろ。それに自分は子供じゃない、それじゃ」

 

そう言ってルナは歩き出す。

 

「ん……?おい!お前が着てるそれって軍服か!?」

 

背中越しにそんな声がかかる。無視して走り出そうとすると、目の前に回り込まれた。

 

「っ…!?早…!」

 

歩いて離れたとはいえ、そこそこの距離があったのに、ほぼ一瞬で追いつかれた。

 

「おいおい?無視はないだろー?」

 

ルナは一瞬、たじろぐ。こいつは一体…?

 

「フフフ……怖いか?この、てん……ゴホン、俺を怒らせるともっと怖いぞ?さぁチビ助、早く言ってみろ」

 

「……貴女の言う通りこれは軍服らしい。あと何度も言うが、俺はチビ助じゃない!栄ルナだ!」

 

「ん……(さかえ)?お前が栄少尉なのか?」

 

「んなっ……どうしてそれを……?」

 

まさかの展開になった。どうやらこの荒くれ者の様な女性は軍の関係者のようだ。

 

「まあそこはほっとけ。そうか、お前が少尉か……。お前、庁舎に行かないとマズイんじゃないのか?それとも、もう行った後か?」

 

「いや……それは……」

 

「はは~ん?読めたぞ。お前、道に迷ったんだろ?」

 

「うぐ…」

 

「なんだよ、最初からそう言えよ~!おら、ついて来い。案内してやるよチビ助」

 

果てしない程すごく悔しいが、彼女について行かないと庁舎まで行くのに、また迷うだろう。仕方ないが後をついて行く。

 

「しっかしまぁ、こんなチビ助が少尉とは。軍はどうかしちまったのか?」

 

「オイ、チビチビ言うな。大体、背丈なんて殆ど一緒じゃないか!」

 

確かに背丈は殆ど変わらない。横に並んで立たなければ、どちらが高いかわからないくらいだ。

 

「俺がチビって言ったらチビなんだよ」

 

「なんだその理屈!じゃあ、貴女もチビじゃないか!」

 

「なんだとこのチビ助。俺を怒らせるつもりか」

 

「だからチビ助って言うな!!」

 

ルナとその彼女とでギャーギャーと言い争いをしていると、1人の金髪の女性が此方に歩いてきた。

 

「おい、天龍。こんな所で何をしている?」

 

「お、ライラさん。探してた栄少尉を見つけてきましたよ」

 

ライラと呼ばれた金髪の女性は、白の軍服、軍帽を身につけ、藍色の布地の腕章の様なものを腕につけ、腰には金色に光る軍刀を携えていた。

そして彼女はルナを睨み見た。いや、普通に見ただけだったかもしれないが、ルナにはそう思えた。

 

「おい、子供じゃないか」

 

「でも、このチビ助が自分を栄だと言ったんですよ?」

 

「子供とか、チビ助とか言うな!」

 

ルナは(ふところ)から、例の手紙を出して見せる。それを天龍と呼ばれた少女とライラと呼ばれた金髪の女性が覗き込む。

 

「確かに、この手紙は司令が出したものだな。…で、天龍。コイツは何処で何してたんだ?待てど暮らせど、ちっとも来なかったものを」

 

「向こうの倉庫の方で座ってましたよ。何でも道に迷ったらしく」

 

「オイ何でそんな所にいるんだ貴様は。外のヘリポートからは真っ直ぐ来れば庁舎だろうが」

 

「いや……その……すみません…」

 

さっきの威勢もどこへやら。ルナは小さくなってそう謝った。

 

「まぁいい、その件については後ほど聞こう。ところで天龍、お前は外に出ているが外出許可は取ったのか?」

 

そう聞かれた瞬間、天龍と呼ばれた少女は一目散にその場から走り出した。

 

「オイこら待てっ!」

 

「すみませーん!ライラさん!説教は後で聞きますぅー!!」

 

そのまま彼女は走り去ってしまった。

 

「アイツめ…今日という今日は、それ相応の罰を与えてやろう」

 

ライラという女性はそう呟くとルナのほうを向いた。

 

「さぁ、基地に行くぞ。ついて来い」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ルナはしばらく、ライラという女性の後ろについて歩いて行った。

 

すると、壁と柵に囲まれた、大きな建物がいくつか見えてきた。

二人はその中の如何にも庁舎らしい建物の中に入っていく。

 

階段を登って、3階の廊下の突き当たり。そこにある部屋だけ扉の質が違かった。扉の隣には『提督室』と書かれている。

 

そんな如何にも偉い人がいそうな部屋の扉をノックも無しに勢いよく開けるライラという女性。

 

ルナは後ろから唖然としてそれを見たのだった。

 

「おい司令、例の奴を連れて来てやったぞ」

 

「おお、ライラ君、ご苦労様と言いたいところだが、せめてノックぐらいしてから入室してほしいのぅ…」

 

ルナもぺこりと一礼して入室する。提督室という名前に恥じない、立派な内装の部屋だった。そして、目の前の執務机に向かっている、白髪と白い髭が特徴的な男性が目に映った。

 

「誰が、エロジジイの部屋にノックなんてするものか」

 

「酷い言い様じゃのぅ。まあよい、では……」

 

その男性はルナの方を向いた。ルナは緊張で身体をカチコチにしていた。ええと、こういうときは何て言ったらいいんだ?

 

「ほっほっほ。そんな緊張せんでもよい。ではまず、此方から”2度目の”自己紹介といこうかの。ワシはこの基地、《奄美大島要塞基地》の最高責任者、同時に基地艦隊の司令でもある、『征原(ゆきはら)トウ』じゃ。よろしく頼むぞ、ルナ君」

 

「よ…よろしくお願いします…」

 

「そして今、君を連れてきたのが『ライラ・トイライン=ハム』少佐だ」

 

「ライラ・トイライン=ハムだ。ライラでいい」

 

「はぁ…」

 

「一応、ルナ君の自己紹介もして貰ってよいかの?ライラ君は知らないようなのでの」

 

もう既にこの展開でアップアップなのだが、ここに居る二人は自分より上の者。記憶が無いとは言え、失礼な事はしたくない。なんとかそれっぽい自己紹介をする。

 

「はいっ!えと、栄ルナと言います。階級は少尉……らしいです…。あの、自分実は手術前の記憶が殆ど無くて……」

 

「大丈夫じゃ、ドクターから全て聞いておる。記憶喪失とは……気の毒じゃのぅ」

 

「すみません…」

 

「なぁに、謝る必要は無い。人生なるようにしかならん。それも運命だと受け入れるのじゃ」

 

正に好々爺という笑みを浮かべてそう話す。

 

「しかし、やはり記憶喪失とは困ったことになったのぅ。ルナ君はワシを”覚えて”おるか?」

 

「申し訳無いのですが……」

 

「やはり覚えておらんか。うーむ、まずどこから話せばよいかのぅ」

 

「…話の腰を折る様で申し訳無いのですが、奄美大島要塞基地という名前から、ここは奄美大島でよろしいのでしょうか?」

 

「ん?言ってなかったかの?その通り、此処は九州地方鹿児島の奄美大島に作られた要塞基地じゃ。もともとは先の大戦で作られたものを復元、改造したものになるかの」

 

「成る程、ありがとうございます」

 

「そうじゃ!質問形式にしようかの。そうすれば効率よく話が進められる。ルナ君、何か聞きたい事は無いかね?」

 

「いきなり言われましても……では…、先程の『自分と司令の関係性』について。記憶喪失以前はどの様な関係だったのですか?」

 

「覚悟はしていたものの、こうも真っ直ぐに聞かれるとやはり心苦しいのぅ…」

 

「あっ!いえ!そんなつもりじゃ…」

 

「分かっておる。心配するな。……ありていに言えば、『上官と部下』のようなものかの。かつて君は、ワシの下にいたことがあるのう。それもあって、君を引き取ったというわけじゃ。他にあるかの?」

 

「……自分は何故、入院したのでしょう?」

 

「うむ……ワシも詳しくは知らんのぅ、大怪我を負ったとかなんとか……そんな気がするの」

 

「それは何故……?」

 

「軍関係の大怪我が起きるような事態なんぞ、事故か『深海棲艦』じゃろう?」

 

「深海棲艦………ここに来る途中も、ちらと聞いたのですが、それについて詳しくお聞きしたい」

 

「この世界の事も忘れておるか……いいじゃろう、今一度、ルナ君に人類の敵、『深海棲艦』について詳しく教えてやろうかのぅ。では、今のルナ君はどこまで深海棲艦を知っている?」

 

「ええと……海に出る怪物としか…」

 

「概ねそんな感じでよい。何せ我々もよく分かってないのじゃからな。ヤツらが何の目的で人類を攻撃し、滅ぼそうとするのか、全くの謎じゃ。

ただ、ヤツらは10年程前から日本近海で目撃され、やがて世界の海に現れるようになったのじゃ。ただ、出てくるだけならよかったんじゃが、ヤツら、人類の船という船をことごとく沈めおってのぅ、人類の居住地を占領し始めたのじゃ」

 

「人類の船を沈められて海上交通網(シーレーン)がズタズタとは聞きましたが、まさか、占領まで……」

 

「事実、既に南西諸島方面……オセアニア州などにある小国家は深海棲艦の攻撃によって滅ぼされておる。

もちろん我々は軍を組織し、反撃をしたのじゃが、ヤツらは自分達の周りに強力な力場(エネルギーフィールド)を生み出し殆どの攻撃を無力化してしまってのぅ。当時の日本の海自では、到底太刀打ち出来なかった。

あの太平洋最強と言われたアメリカ海軍ですらも歯が立たなかったというからのぅ。あっと言う間に人類滅亡の危機に陥ったのじゃよ」

 

「その状況を……どうやって……?」

 

「まぁ詳しくは軍の機密事項に触れるから言えんのじゃが、ある時に、日本が深海棲艦の鹵獲に成功したんじゃよ。

誤解が無いように言うと、歯が立たなかったとは言ったが、膨大な戦力を注ぎ込めば倒せない事も無かったのじゃ。

まぁアメリカ海軍の一個大隊丸々潰してやっとの一体という結果だったがの。その時、アメリカは鹵獲を試みたものの、深海棲艦はすぐに沈んで、欠片すら手に入らなかったという。

つまり、やつらは苦労して倒しても鹵獲出来ないということじゃ。

それを日本がやってのけたということじゃな。方法についてはワシの口からは言えんのじゃ、すまんの。

そして、その鹵獲した深海棲艦を徹底的に研究して、何とか対抗策を打ち立てたのじゃ。

そのおかげで2086年現在でも人類は存続しているというわけじゃ」

 

「成る程…………」

 

「因みに当時の海自の基地はそっくりそのまま使われておっての、まぁ多少違う部分はあるが、世界最強海軍の異名を取った世界大戦時の名にあやかり、『横須賀』、『呉』、『舞鶴』、『佐世保』、『大湊』を《鎮守府》……各地方の軍の本部みたいなものじゃな……にして、その管轄下に大小様々な軍事基地がある感じじゃ。

形式上、ここ奄美基地も『佐世保』の管轄下にある。色々あって今は微妙なところじゃがな」

 

「ありがとうございます。大体の現状は分かりました」

 

「他に聞きたいことはあるかの?」

 

「取り敢えずは大丈夫です。また、分からない事があったらよろしくお願いします」

 

「うむ、なんだかんだと長話になってしまったな」

 

トウがそう言うと、ライラが口を挟む。

 

「ホントだよジジイ。もっと手短に話せないのか」

 

「ライラ君……ワシ、一応君の上官なんじゃけどのぅ……」

 

そのやり取りを聞いたルナは、苦笑いしかできなかった。

 

「まあ、話が長くなってしまったが、本土から此処までの移動で、さぞ疲れたろう。今日のところは取り敢えず休んでもらって結構じゃ。記憶の件も心配しなくていいからのぅ。思い出すまでここに居てくれて結構じゃ。また明日、今度はこの基地について説明しようかの。

記憶喪失で何が何やら分からないのは理解できるのじゃが、この基地も忙しくてのぅ。ルナ君にも出来る限りの仕事を任せる事になる。申し訳無いが了承してくれ」

 

「まぁ……ハイ、分かりました」

 

トウは良しと頷くと、幾つかの紙束をルナに手渡した。

 

「それらが一応、軍のルールを記した物になるのう。恐らく忘れておるじゃろう?ザッと目を通しておいてくれ。それじゃ、ライラ君、ルナ君を部屋まで案内してくれるかのぅ?」

 

「全く、自分で出来ない事を押し付ける嫌なジジイだ」

 

「ライラ君……」

 

トウのそんな悲痛のつぶやきに一切動じず、ライラはルナを引っ張って提督室から出で行った。

 

そして、その廊下。

 

「……ルナとか言ったか?私はあのジジイ…もとい、司令に少し用事がある。先に1階のロビーに行って待っててくれ」

 

ライラがルナに向かってそう言う。ルナは「分かりました」と言うと、先に階段を降りていった。

ルナが完全に見えなくなると、ライラは提督室の扉を再度開けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「オイ、ジジイ」

 

「なんじゃねライラ君、そんな言葉使いをしていると名門トイラインの名が泣くぞい?」

 

「うるさいジジイ。そっちこそ兵器開発のスペシャリストが何呑気に提督しているんだ」

 

「それは言わんでおくれ……して、何かようかのぅ?」

 

「ジジイの真似事はよせ」

 

「……もう十分ジジイの域だけどな」

 

トウの雰囲気が好々爺から殺伐としたものに変わる。

 

「それで、何の用だライラ(・・・)

 

「……何故アイツに本当の事を言わない?」

 

「今、”奴”に話して何の意味がある?下手したらこの計画(プロジェクト)自体潰れかねんだろ」

 

「…………」

 

「 気持ちは分かるが今は焦る時じゃない。ひとまず《第一段階》は通過したんだ。段階を追っていこうじゃないか」

 

「……もし途中で何か起きたらどうするつもりだ?」

 

「どうもしない。それを処理出来るか出来ないかに命運が掛かっているといっても過言ではないだろう」

 

「……やはり、待つしかないのだな?」

 

「そうだ」

 

「『急がば回れ』か……よく言ったものだ」

 

「そういうことだ、《第二段階》と”例の件”を頼んだぞトイライン少佐」

 

「分かりましたよ、征原中将(・・)

 

「ここでは大佐と呼ぶんじゃよ?ライラ君(・・・・)

 

ライラはフンっと回れ右をして提督室を出で行った。

 

一人残されたトウは引き出しから一枚の写真を取り出した。そこには三人の白衣を着た人が写っている。

 

 

 

「……運命の歯車は動き出した……この先、どのようになるか…お前には読めるか…?」

 

 

 

……to be continued……

 

 

 

 

物語の記憶(語録説明)

 

・鎮守府

元々は、大日本帝国海軍の根拠地として艦隊の後方の海軍区に置かれ、その統轄や防備を行なっていた機関である。現在は深海棲艦から国を守るための機関として生まれ変わっている。

横須賀、呉、舞鶴、佐世保、大湊の5つがある。

大湊は『警備府』という、鎮守府に準ずる役割を持つ機関として大戦中は存在していたが、その後の海上自衛隊(後の日本海軍)が地方総監部として定めた事から、現在では鎮守府として存在している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、艦娘についてお話ししようと

質問、感想等ドシドシどうぞ!


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memory3「記憶兵器《艦娘》」

やっと艦娘の登場です

しかし、作者の妄想てんこ盛りです

そう言うのがダメな方はブラウザバック推奨です

では、どうぞ!


memory3「記憶兵器《艦娘》」

 

 

 

 

基地庁舎1階ロビーでライラと合流したルナは、庁舎と渡り廊下で繋がっている別館へと移動した。

その別館の2階廊下。他の部屋が沢山あるその廊下の片隅をライラは指差した。

 

「あそこがお前の部屋だ」

 

「スミマセン、凄い嫌な予感しかしないのですが」

 

「それは何故だ?」

 

「他の部屋は全部、木の扉で部屋の番号も付いているのにあの部屋だけ鉄の扉に関係者以外立ち入り禁止と書いてあるからです」

 

「ほう、中々察しがいいな」

 

「否定しないんですか……」

 

「四の五の言ってないでさっさと開けてみろ」

 

ルナが扉を開けるとその中は、今まで倉庫として使われてきたのであろう、大量の荷物の山と(ほこり)と、かなり汚れた部屋であった。

 

「中はこんなになっていたのか」

 

「ライラ少佐も知らなかったんですか……」

 

「少佐はつけなくていい。私はそもそも《宿舎》の方には殆ど来ないからな。とにかくここを好きに使ってくれて構わないとジジイが言っていた」

 

「他の部屋は無かったんですか…」

 

「残念だが、他の部屋は全て埋まっている。ひとまず、居住スペースを確保するだけの荷物は出しておいた。残りの荷物はその内運び出す。それと布団やクローゼット等も最低限は備え付けておいた。また後で呼びに来る。それまで休んでいろ」

 

「はぁ……」

 

「それともう一つ、クローゼットの中に入っている服に着替えておけとのこと。以上だ」

 

それだけいうとライラは足早に庁舎へと戻っていった。一人残されたルナは改めて部屋を見てみる。

 

「……せめて(ほこり)くらい払っておいてくれよ……」

 

仕方なくルナは窓を開け、大雑把に(ほこり)を払い、残された荷物の中にあった雑巾を拝借してそこそこ部屋を掃除した。そのおかげで何とか布団を敷ける程には綺麗になった。しかし、

 

「この部屋、床そのままじゃないか!どうやって布団を敷けというんだ!」

 

倉庫として使われてきた事を考えればしょうがないのだが、部屋として使うのはどうなのだろう。そう考えながら積まれた荷物の山を見ていると、その山の後ろに扉がある事に気が付いた。

興味本位で荷物をどかし、扉を開けるとそこにはもう一つ部屋があり、その中も所狭しと荷物で埋まっていた。

これにはルナも絶句した。

 

「………荷物は出しておいたって言ってたけど、隣の部屋に押し込んだってのが正解だな……」

 

元々はいい感じで倉庫として使っていたのだろう。だが、居住スペースを確保するために、片方の部屋にもう片方の部屋の荷物を押し込んだんだな、とルナは推測した。

 

「そしてこの部屋を見られないためにワザと荷物で扉を塞いだってトコか……我ながら名推理だ」

 

ここでルナは良いことを思い付いた。取り敢えず、荷物部屋(勝手にそう名付けた)の方に全ての荷物を押し込むと、紙書類の入ったダンボール箱などを一箇所に集め、その上に布団を敷いた。

即席の簡易ベッドの出来上がりである。

 

これで床に直接布団を敷くという事態は回避され、ルナはやっとこさひと段落つく事が出来た。

荷物部屋の方に布団を敷いたら、あっちのスッカラカンの部屋は何に使うんだと思ったが、別にどうでもいいかと思考を放棄した。

 

布団を荷物部屋に敷いたはいいが、何せ部屋二つ分の荷物がある為に狭かった。(しかし荷物の上に布団を敷いているのでそうでもない)

ルナは広々した部屋よりは狭い部屋の方が良かったのでそこもあまり気には止めなかった。押し入れがあったらそこに布団を敷いていただろう。

 

そんな事を考えつつ、取り敢えず横になる。

 

「……他の部屋は使ってるって言ってたなあの人。あんな沢山の部屋、一体誰が使ってるんだか」

 

自分をのけ者にしたいだけなのかとも考えたが、それだとわざわざ自分をこの基地に招いた意味が分からなくなる。

そう考えるとやはり、誰かが使っているのだろう。

 

この部屋(倉庫)しか使えないのならここで生活するしかない。幸いなことに好きにして良いと言っていたので、自分の過ごし易いよう改装してやろうと企む。

 

そしてルナは自分の記憶喪失について考え始める。先程のトウの話だと《深海棲艦》関連では無いかと言っていた。

 

そもそもルナには《深海棲艦》がどの様な奴なのかがサッパリ想像が付かない。バケモノと言われるくらいなのだから、おぞましい姿をしているのか。

 

自分は軍にいて、何かしらのアレで深海棲艦により致命傷を負い、あの病院へ…と予想してみる。

 

「……待てよ、それだとあのドクターが言ってた事と矛盾するなぁ」

 

あのドクターは確か、脳の神経がうーたらこーたらと言っていた。その言い分だと、自分はそれ程大きな外傷は負っていないことになる。果たして、脳神経の問題だけで搬送されたのか。それだけなら記憶喪失など起こらない筈だが、実際自分は記憶を失っている。これは何らかのダメージを受けている事の証明にもなる。

 

「…………ダメだ。考えても分かる訳がない。やっぱり思い出すのを待つしかないか……」

 

記憶喪失の原因を考察するには、判断材料が少なすぎるのだ。こればっかりはどうしようもない。

 

ふと、ルナはライラの言葉を思い出した。

 

「服を着替えとけって言ってたなぁ」

 

クローゼットの中に入っていると言っていたが、それらしきものは見当たらない。せいぜい、この掃除用具庫みたいな縦長ロッカーがあるだけだ。

その縦長ロッカーを開けてみると、案の定新しい服が入っていた。

 

取り出してよく見てみると、真っ白な詰襟のようだ。それに、恐らく少尉を表しているのであろう肩章が付いている。

その他には同じく白いズボンと藍色の布地の腕章、剣帯とサーベル型の少し短めの軍刀が入っていた。

 

今現在、ルナが身につけている軍服は真っ黒(で、ボロボロ)なものだが、それとは真反対の真っ白な軍服だった。

明るい色はあまり好まないルナだったが、いつまでもボロボロの服を着ている訳にもいかない。それに一応命令っぽかったので素直にその服へと着替える。サイズが余りにもぴったり過ぎて少し恐怖すら覚えた。

 

「ん…?この剣帯(ベルト)の付け方が分からん……まぁいいか、適当にそれっぽくつけとこう」

 

荷物部屋にあった鏡で自分の姿を確認する。さっきのボロボロで暗い雰囲気とは打って変わって明るくなり、軍人っぽく見えなくもない。

 

そして、本格的にやることが無くなったので、ルナは一眠り付くことにした。

 

ルナが丁度布団に横になった時、その瞬間に基地内にサイレンが鳴り響いた。

 

「っ!?なんだなんだ!?」

 

 

 

 

 

『奄美本島沖哨戒部隊より入電、基地接続海域、エリアC-5に《深海棲艦》小規模艦隊を捕捉。目標はエリアB方面へと移動中。予想針路から、本島が敵艦隊の攻撃圏内に入る事が予測される。防衛隊各員は指定グリッドにて待機せよ。

奄美派遣第一艦隊に通達、各員、戦闘準備を整え直ちに出撃し、目標を撃破せよ。繰り返す………』

 

 

 

 

 

そんな内容の放送が基地内に流れる。

ルナはすぐ様、窓から外の様子を見た。

 

外では、防衛隊と思われる人らが走り回っている。有事に備えて、迎撃準備をするのだろう。

ルナはその中に1人、異質な人影を見かけた。

全体的に紫色の少女、基地に来るまで案内してもらった天龍と呼ばれていた人物だった。

 

「あいつ……防衛隊なのか?」

 

ルナは部屋を飛び出し、彼女の後を追う。彼女は基地の反対側、つまり出撃港がある方面へ走っていった。ルナもその方面に向かうが、直ぐに見失ってしまう。

 

辺りを見回すと少し離れた所に見張りの為の高い(やぐら)のようなものが見えた。

ルナはそこに向かい、上に登る。

 

「……ん?うわっ、なんだお前は!?」

 

見張り櫓の上には案の定見張り員がいた。

 

「子供か?なぜ軍服を着ている?」

 

「子供じゃないって言ってるだろうが!!お前はこの腕章が見えないのか!?」

 

ルナは半ば半狂乱になり見張り員に腕章を見せる。これで何とかなるだろうと踏んだのだ。

 

「し…少尉の階級章…!?こんな子供が…?い……いえ、失礼しました少尉」

 

計画通り、そう心の中で思うと見張り櫓の上からさっきの少女を探す、が、見当たらない。そこで、見張り員に現在の状況を尋ねる。

 

「今どんな状況?」

 

丁寧な言葉の方が良かったかな?と思ったが、今はそんな状況じゃないと割り切り、子供っぽい容姿を使い、子供のような言葉使いにする。

 

「はっ、現在、目標はBエリア方面へと移動中。先程、ここからも視認出来ました」

 

「本当かそれ!スコープ貸して!」

 

ルナは見張り員から双眼鏡を受け取ると、沖合を見る。暫く探していると、真っ青な海面に不自然な物体を見つけた。

 

それは真っ黒で一見するとクジラの様にも見えるのだが、目と思われる部位は緑色に光り、時折見せる口の中には大砲のようなものが見える。

その隣に見えるのは、クジラみたいな奴とは違い、人間の上半身のようなものが見えるが、下半身が異形の物体になっていた。そして、背中の辺りには幾つかの砲が見える。

そんな奴らが他に数体、こちらに向かって来る。

 

「あれが……《深海棲艦》…!」

 

確かに、その姿は怪物と言うに相応しい。あんな奴らがこの海に蔓延(はびこ)っているのか。

 

「こっちに向かって来るぞ!」

 

「はっ、そろそろこちらの砲台の射撃圏内に入ると思われます」

 

見張り員がそう言い終わると同時に、岬の方で幾つかの光が瞬いた。

その後、数秒遅れて砲撃音が聞こえてくる。

 

「射撃圏内に目標が侵入しました……はい、防衛隊の砲撃を開始します。はい…………はい、了解です」

 

見張り員が無線のようなもので誰かと連絡を取っている。

 

ルナは双眼鏡で深海棲艦の方を見る。

暫く経ってその周りに白い水柱が乱立する。

しかし、命中した様子は見られない。

 

「おい!全く当たってないじゃないか!このままだと彼奴らにこちらが砲撃されるぞ!」

 

「大丈夫です少尉、あの砲撃は《艦娘》部隊が駆けつけるまでの目眩ましのようなものです」

 

「《艦娘》……?」

 

「はい、深海棲艦にこちらの兵器は殆ど通用しません。その深海棲艦に唯一対抗出来るのが《艦娘》と呼ばれる存在です」

 

そうこう話している内に低い地響きが鳴り響いた。深海棲艦の砲撃が遂に本島を捉えたのだ。

 

「くっ…!」

 

防衛隊が間髪入れずに砲撃を継続するが、砲弾が深海棲艦を捉えたとしても、直撃の寸前で何かに阻まれるように弾かれる。

 

「本当に大丈夫なのか!?直ぐそこまで来てるぞ!!」

 

「心配なさらず!”もう来ます”!」

 

それまで鳴り響いていた地鳴りが急にピタリと止んだ。

 

ルナが不思議に思い、双眼鏡で深海棲艦の方を見ると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 

「なんだアレは……!?人が海面に”立っている”だと……!!」

 

その人達は紛れもなく、海面に立っていた。

そして、背中に背負っている大砲のような物や、手に持っている砲で深海棲艦を攻撃している。

 

「あれが対深海棲艦の人類最後の切り札、在りし日の艦艇の記憶を持つ船魂の生まれ変わり、《艦娘》です」

 

見張り員がルナにそう言う。

やがて深海棲艦は大きな水柱に包まれて姿を消した。どうやらあの《艦娘》と呼ばれる者たちが倒したようだ。

 

「おい、あいつら《艦娘》って言うのは何なんだ?」

 

ルナは見張り員にそう尋ねる。

 

「私も詳しくは知りません。艦娘については国家レベルにも及ぶ機密事項があると噂されていますので。一般に言われているのは、『第二次世界大戦時の大日本帝国海軍の軍艦の転生した姿』ということです」

 

「『軍艦の生まれ変わり』だって?そんなファンタジーみたいな事があり得るのか?」

 

「本当の事は全く分かりません。誰が何処まで知っているのかも分かりません。少なくとも、私達の間ではそう言われています」

 

ルナはしばし考え込んだ後、見張り櫓を降りて基地庁舎へ向かった。

 

「やっぱり、見張り員程度の奴じゃ情報も制限されてるから意味が無い!征原司令に直接聞いてやる!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

提督室では、トウとライラが書類を見て話し合っていた。

 

「今回侵入してきたのは《駆逐イ級》3隻、《軽巡ホ級》が1隻の計4隻の小規模艦隊だ。これは先程、《中央派遣艦隊》が始末した。本島の損害は軽微、精々崖崩れが起きた程度だ。場所も居住区からは遠く何も問題は無い。報告は以上だ」

 

「うむ、御苦労じゃった。しかし、少し気になるのぅ…」

 

「どうしたジジイ、何時ものボケか?」

 

「最近ワシに厳しくないか?ライラ君?まあ良い、気になるのは、最初に発見された場所じゃ」

 

「哨戒部隊からはエリアCのグリッド5と聞いているが、それがどうした」

 

「この場所の哨戒記録を見ると、他のエリアに比べて少し哨戒頻度が低いのじゃ、なぜならエリアCぐらいなら基地のレーダーで捉えられるからのぅ。しかし、今回の深海棲艦は基地のレーダーには映らなかった。それに、最も哨戒頻度の低い所をピンポイントで侵入されたのじゃ。ライラ君なら、この意味が分かるじゃろ?」

 

「フン……奴らも進化するということか」

 

「こちらも急がねばならんのう…」

 

ちょうどその時、提督室の扉が開け放たれ、勢い込んでルナが飛び込んできた。

 

「征原司令!聞きたいことがあります!」

 

「ルナ君。取り敢えず、ノックしてから入ってきてくれんかのう…」

 

「あっ、スミマセン……つい…」

 

「おい小僧、エロジジイの言うことを間に受けるな。先に扉を開けてからノックするぐらいがちょうど良い」

 

「ライラ君がいるとワシの株が大暴落じゃわい……それで、聞きたい事とは?」

 

「先程の襲撃と艦娘についてです」

 

ルナの口から艦娘という言葉が出ると、トウの表情と雰囲気がほんの少し変わった気がした。

 

「ほう……それを何処で?」

 

「先程、見張り櫓の兵士に聞きました」

 

「ジジイ、どうするんだ?」

 

ライラがトウにそう尋ねる。ルナには何のことだか殆ど分からない。恐らく、ルナに教えるか教えないかの用件だろう。

 

「本当はもうしばらく後にしようと思っとったんじゃが、致し方無い。

ルナ君、艦娘とは、深海棲艦に対抗できる唯一の存在であり、人類の最後の砦とも言える者達じゃ。艦娘とは過去の軍艦の魂、『船魂(ふなだま)』が、この時代に蘇り、人の姿を取った者じゃ。艦娘は当時の軍艦とほぼ同じ性能を持っており、その為、水面に浮くことも出来るのう。例えば、戦艦の船魂が艦娘になれば戦艦並みの攻撃力を兼ね備えた艦娘になるのう。そして、何故か艦娘は全て女の姿で生まれてくるのじゃ。

その他にも、艦娘はどうやって生まれるのか。何故、艦娘の攻撃しか深海棲艦に効果が無いのか。むしろ何故、艦娘の攻撃は通用するのか。その全てが謎に包まれておる」

 

ルナは、側から見ても分かる程落胆した。この基地の最高責任者でさえも《艦娘》については『謎』と言うとは。結局、正体は分からなかった。

 

「そう……ですか…分かりました。ありがとうございます」

 

「今の説明で分かったのかの?」

 

「いえ、さっぱり分かりません。しかし、今の世の中にそんなファンタジーみたいな出来事があったという事は分かりました」

 

「何を言っておる。そんなおとぎ話みたいな事ある訳ないじゃろ?」

 

「………?でも司令自身が『謎』と…」

 

「あれはあくまで『一般の人達の認識』として話しただけじゃ。《艦娘》は決してそんな漫画やアニメみたいな者ではない」

 

トウは机の上にあったお茶を少し飲むと、艦娘の真実について話し始めた。

 

「《艦娘》……軍艦の生まれ変わりの娘と書くがそれはただの一般人を欺く為の名前に過ぎん。

正式名称を『戦闘(Combat)バイオロイド型(bioroid)記憶兵装(Memory-weapon)保存媒体(Storage)』と言い、便宜上では彼女達は『兵器』として扱われる」

 

「ま…待って下さい!バイオロイド?記憶兵装?何ですかそれは!?」

 

「順を追って話そうかの。先ず、艦娘というのは、『生体記憶兵器』とも呼ばれる。《記憶兵器》というのは言葉の通り、記憶を兵器化したモノをそう呼ぶ」

 

「記憶を兵器化……?」

 

「兵器と言うと語弊があるかもしれんの。例えばの話じゃ、凄腕の戦闘機乗りの『記憶をコピー』して、他の人物に『その記憶を写したら』どうなると思うかね?」

 

「まさか……その『他の人物が凄腕の戦闘機乗りと同じ』になるのですか…!?」

 

「大体正解じゃ。つまりエースパイロット等の『記憶をコピー』して、デフォルト状態のクローン達などに『その記憶を写した』としたら、いとも簡単に”最強の戦闘機部隊の完成”じゃ。陸戦のプロの『記憶をコピー』して、大量のクローンなどに『記憶を写せば』これまた簡単に”最強の陸戦部隊”の完成じゃ。仕組みは解ったかの?つまり、『戦闘目的で記憶を操作された人や物』を総じて《記憶兵器》と呼ぶ」

 

「…………」

 

ルナは唖然としてその話を聞いていた。

 

「記憶兵装の使い道はこんな物ではないぞ?年端もいかぬ子供に、銃の仕組み、使い方、射撃方法、それらの”経験”を記憶兵装として搭載すれば、子供だとしても、大人顔負けの狙撃手(スナイパー)になれるじゃろう。そして、どんなに死んでも記憶兵装をバックアップとして使えば、”何度でも蘇る”。記憶をコピーしてあるのじゃからな。本人が死んでもコピーしておいた記憶を新しい素体に移せば蘇ったことになるじゃろ?何故なら、その記憶は本人の記憶じゃからの」

 

「待って下さい……頭の中がこんがらがってきました」

 

「記憶兵器は確かに理解するのは難しいからのう。兎に角、兵器利用で記憶を操作された人や物と考えておいてくれ」

 

「はあ…」

 

「深海棲艦は海に現れるじゃろ?じゃから、艦娘には海上戦闘に最も特化した人類の産物、『軍艦』……特に、太平洋戦争時の日本海軍の軍艦の記憶を与えてある」

 

「……軍艦に記憶なんてあるんですか?」

 

「ほっほっほ、ある訳ないじゃろ。軍艦の記憶と言っても、後世の人間が纏めた艦艇のデータなどを記憶として与えてあるだけじゃ。要するに作り物の記憶じゃ。

艦娘はそうやって海上戦のイロハを記憶として持っておる。それが艦娘が記憶兵器と言われる所以(ゆえん)じゃ」

 

「成る程……少し解りました」

 

「そしてその記憶兵装を《戦闘バイオロイド》に搭載しておる。バイオロイドというのは、人型ロボット……アンドロイドにバイオテクノロジーを用いた、限りなく人間に近い生体機能を持つ『人造人間』の事じゃ。

そして元より戦闘用に造られたのが《戦闘バイオロイド》というわけじゃ。

その他に艦娘は《艤装》という物を装備しておっての、この艤装には鹵獲した深海棲艦のテクノロジーが搭載しておる。そのおかげで海面を自在に移動出来たり、深海棲艦に攻撃が通用したりするのじゃ」

 

「何という……」

 

「今ので大体、艦娘の正体についてわかったかの?要約すると、

軍艦のデータを記憶として持っていて、

深海棲艦のテクノロジーを応用した、それ専用の武器を装備した、

対深海棲艦用に造られた人造人間。

というわけじゃ」

 

「…………………」

 

もうルナは唖然を通り越して、逆に関心してしまった。もう次元が違いすぎる。

 

人造人間を造ること自体が非人道的行為なのに、それに加え『記憶操作』という、下手をすれば自分が人間という補償すら無くす技術を使っているのだ。

ここまでしなければ人類は深海棲艦に太刀打ちすら出来ないのか、と痛感する。

艦娘を開発するまでに多大な犠牲があったのだろうと想像するのも難しくない。

 

「ルナ君も観ていたのじゃろう?先程、基地近海に侵入した深海棲艦とこちらの艦娘との戦いを」

 

「……はい」

 

「そこでルナ君に最初の仕事じゃ。ルナ君にはあの艦娘部隊の司令になってもらおうかの」

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

ーー物語の記憶ーー

 

・艦娘

正式名称を『戦闘(Combat)バイオロイド型(bioroid)記憶兵装(Memory-weapon)保存媒体(Storage)』(略称、CMS(カンムス))といい、深海棲艦に対抗する為に人類が生み出した記憶兵器である。

バイオテクノロジー、クローン技術、記憶操作などの非人道的禁忌技術が多数使われており、この事から、艦娘についての情報は著しく制限されている。

 

・記憶兵器

主に、戦闘に特化した記憶を持ち、軍事目的で兵器として扱われる人や物(稀にAIなどに記憶兵装を積むことがある)を総じて記憶兵器という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




説明、次回にも続きます


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memory4「奄美基地の艦娘事情」

今回からやっと場面に展開が起こると思っとります。
相変わらずの謎展開には目をつぶって下さい。

それでは!


 

memory4「奄美基地の艦娘事情」

 

 

 

 

 

 

「は……!?」

 

ルナは素っ頓狂な声を上げた。

 

「ん?聞こえなかったかの?ルナ君には艦娘達を指揮してもらいたいのじゃ」

 

「いや、聞こえてはいたんですけど、なんと言うか、話がマシンガン過ぎて…?」

 

あまりの混乱っぷりに自分でも何を言っているか分からなくなる。

 

「そもそも、征原司令は『司令』と名乗っているんですから、新たにその……艦娘を指揮する人間は必要ないのでは?」

 

「何を言うかねルナ君。ワシは見ての通りガタが来てる老いぼれじゃぞ?書類仕事で手一杯じゃ。それじゃから、艦娘専門で司令をつけた方が、彼女達にとっても良かろう。

ワシじゃと物忘れも激しいのでのう」

 

「それならライラさんとかは……?」

 

「私か?私は《中央派遣艦隊》の指揮で忙しくてな、無理だ」

 

「言い切られるとは……いやそれより、《中央派遣艦隊》って何ですか?」

 

「《中央派遣艦隊》か?それについて話すとなると、軍の構造を喋らんとな……ジジイ、いいか?」

 

ライラがトウに確認を取る。トウはお茶を注ぎながら頷く。

 

「まず、現在の海軍が五つの鎮守府によって統治されているのは知っているな?」

 

「はい、確か、横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊ですよね」

 

「そうだ、そして海軍にはその五つを統括する《中央》と呼ばれる機関が存在する」

 

「《中央》……?」

 

「昔ながらで言うと『大本営』と言ったところか。日本海軍最高責任者がいる場所とでも覚えておけばいい。

《中央》は海軍最大の機関なだけあり、軍備、技術、それらの規模全てにおいて、各鎮守府を遥かに凌駕する。

その《中央》は軍備が整っていない基地や泊地に軍備が整うまで《派遣艦隊》と言われる艦娘部隊を貸しているのだ。

先程の深海棲艦を沈めたのも私が指揮した、派遣艦隊の戦果だ」

 

「成る程……その話だと、奄美基地はまだ軍備が不十分って事ですか?」

 

「ジジイと違って察しがいいなお前は」

 

「ライラ君……サラッとワシを貶めるのは止めてくれんかね……」

 

トウが渋い顔でライラを見るが、当の本人は完全スルーで話を続ける。

 

「つまりだ、この基地は派遣艦隊が来るぐらい軍備が不十分……要するに『艦娘』が育成しきれていない。

それをお前に任せると、ジジイは責任を丸投げしているわけだ」

 

「ライラ君は言い方が悪すぎるのじゃ。責任はちゃんとワシが持つから心配しなくて良いぞ」

 

トウが慌てて弁明する。

そして、今の話で少し気になることがルナにはあった。

 

「スミマセン、質問いいですか?」

 

「なんだ、何かあるのか小僧」

 

「先程の深海棲艦を沈めたのは、あの放送から聞くに『派遣第一艦隊』って言ってましたよね?それ以外にこの基地に艦娘はどれ程存在するのでしょうか?」

 

「派遣艦隊が主力第一から第四、先鋒隊、遠征隊がそれぞれ第五まで、その他諸々と考えると、中央の艦娘だけで70~80体くらいいるんじゃないか?」

 

「凄い……過剰戦力にも思えるんですが」

 

「これでもまだ少ないほうじゃよ。他の所の基地所属艦娘は100をゆうに超えとるじゃろう」

 

これで少ないとか、深海棲艦はどれだけ強いんだよ!と、心の中でルナは叫ぶ。

 

「それでは……この基地所属の艦娘は?」

 

そう切り出すとトウが困ったような顔になる。

 

「実は……この基地に元々いる艦娘は精々10とちょっとくらいじゃ…」

 

ルナには基準が分からないのでそれが軍備不十分な所において多いのか少ないのかは分からない。しかし、話しぶりから少ないのだろうと判断できた。

 

「しかし、基地所属の艦娘達は……少し変わっていての……」

 

「…と言いますと?」

 

ルナがトウに尋ねると、横にいるライラが答えた。

 

「それについては私が説明する。

まず、艦娘というのは簡単に言って、人造人間だ。そして、艦娘の雛型であるバイオロイドを”造る”技術があるのは、中央と直轄の横須賀、呉、佐世保の四ヶ所しか無い。

実際には、中央は各鎮守府とは別格だから三ヶ所になるな。

他の場所では、その三ヶ所から素体を購入するなどして艦娘を”造る”しか無い。

艦娘を手に入れた後は、各基地によって戦闘技能を磨かれ、深海棲艦と対峙していくことになる。

まあ、ある程度の経験値は記憶兵装によってあらかじめ手に入れて(インストールされて)いるけどな」

 

「それでは、基地所属の艦娘達は戦闘技能が足りないということですか?」

 

「いや、恐らく戦闘技能だけで言ったら彼女達も引けを取らないだろう」

 

「……?それでは何が変わっているのですか?」

 

ライラがトウに聞けとばかりに目線をトウに向けるが、トウは何処吹く風とお茶菓子をつまんでいる。

ライラが机にひと蹴り入れると、トウは慌てて喋り出した。

 

「コホン……実は、基地の艦娘達は”素体が違う”のじゃ」

 

「……どういう事ですか?」

 

「ライラ君の話じゃと先述の四ヶ所でしか素体は製造出来ないといっておったじゃろ?

そこで造られる素体は、モデルネームで言うと《N型》と呼ばれる素体じゃ。

しかし、この基地にいる艦娘の素体は《E型》と言う素体で、通常の艦娘の素体とは違うのじゃ」

 

「それは何故ですか?」

 

「済まんが、まだルナ君にそこまでは話せないのじゃ。概要だけ説明すると《N型》は一般汎用性が高いのに比べて、《E型》は局所性が高いとでも言っておこうかの。

そのせいで、基地の艦娘達の技能向上が難しくての……

今は派遣艦隊のおかげで何とか持っているのじゃが、いつまでもそうはいかんじゃろ?

それだから、ルナ君に任せようと思ったのじゃ。

実際の出撃は派遣艦隊が行うから、危険な目に遭う事は無いじゃろう。

どうじゃ?ルナ君の記憶が元に戻るまでと言ってはアレじゃが、中々良い仕事だと思うぞ?」

 

ルナは一先ず考える。

 

「ならジジイがやればいいだろ」とライラ。

 

「最近、物忘れが激しくてのう」とトウ。

 

「一週間先の夕飯のメニューを覚えている奴がよく言えるな?」

 

「さて、此方の攻防戦も白熱した所で、どうじゃ?ルナ君」

 

ルナはゆっくりと頭の中で情報を整理した上で口を開く。

 

「大変名誉ある仕事だとは思うのですが、些か、今の自分には荷が重いと感じるのですが……」

 

「そんなことないぞ!ルナ君なら出来る!ワシが保証しよう」

 

「ジジイの保証なんぞアテにならん。通販の保証の方が信頼出来る」

 

「ライラ君、話の腰を折らんでおくれ」

 

基地司令が此処まで言ってくれているのに断る事なんて出来ない。しかし、自分には到底出来そうにない。

ルナが二つの気持ちの間に挟まれ葛藤する中、トウはこんな提案をしてきた。

 

「そんなに心配なら、最初の頃は『お試し』感覚、研修期間を設けるのはどうじゃ?」

 

「『お試し』……?」

 

「ルナ君は記憶兵器……もとい、艦娘について忘れて(・・・)おるじゃろ?じゃから最初のうちは艦娘に慣れてもらう所から始めて、一ヶ月程指揮を執ってもらうのじゃ。その後、改めて司令になるかならないかを決めてもらう。どうじゃ?」

 

「………自分はかつて、記憶兵器に何かしらの関係があったのですか?」

 

ルナはトウの言った、『忘れて』という言葉を聞き逃しはしなかった。

トウは一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐに表情を戻すと話を続けた。

 

「ルナ君。今、ワシ達がルナ君の過去を話す事も可能といえば可能じゃ。しかし、それによってルナ君が”急に”記憶を思い出すと、脳の神経に負担がかかり、また昏倒してしまう恐れがあるのじゃ。

そんな事を考えると、ルナ君には自然に思い出して貰うのが一番なのじゃ。

さっきのルナ君の質問には答えられん。しかし、記憶を思い出す手掛かりにはなるじゃろう……」

 

ルナはまた、暫し黙り込む。

 

「分かりました。その『お試し』の期間内に是非を決めたいと思います」

 

ルナがそう言うと、トウは心底良かったという顔を浮かべた。

 

「そうかそうか!引き受けてくれるか!それは良かった!

それでは早速、基地の艦娘達に挨拶をして来てほしいのじゃ。

ルナ君が必ず、この仕事を引き受けてくれると思って、既に艦娘達を待機させておる」

 

「準備良すぎじゃないですか!?」

 

どこまで仕組まれたのだろうとルナは不安になる。記憶が此方には無く、彼方にはある事が、さらに拍車をかける。

 

「その場所まではライラ君が案内してくれる。それじゃあ、宜しく頼むぞ!」

 

ルナは何か悪寒を感じつつ、ライラと共に提督室を後にした。

 

まさに嵐のような時間だった、とルナは思いつつ、話された事について情報を整理していた。

 

こちらの武器が殆ど通用しない、突如現れた《深海棲艦》。

 

これに対抗出来るのは、在りし日の軍艦の魂の生まれ変わりである《艦娘》だけ……

 

と、言うのは一般市民達に対する虚偽の情報で、実際には、人の倫理を無視して造られた《記憶兵器》というもの。

 

《艦娘》には《深海棲艦》のテクノロジーが搭載されていて、そのおかげで艦娘の攻撃は深海棲艦に通用する。

 

話をザッと纏めるとこんな感じだろうか。

そこで、ルナはふと思った事をライラに質問する。

 

「ライラさん、ちょっと良いですか?」

 

「何だ」

 

「えっと、あの戦闘なんたら…」

 

「戦闘バイオロイド型記憶兵装保存媒体か?こんな長ったらしい名前なんぞ覚えなくていい。

Combat bioroid Memory-weapon Storage、で、略称はCMS、艦娘だ」

 

「それです。それなんですけど、どうして『保存媒体』って付いているんですか?」

 

「本来、記憶兵装は記憶(それ)自体が兵器になるという……まぁなんだ、難しいから省くが記憶兵装自体は人の身体が無くてもどうとでもなる。

しかし、対深海棲艦用に海上で陸戦の様な動きを作り出す為には人間の身体構造が不可欠だったのだ。

そして、記憶兵装を主に置いているCMSの身体は只の容れ物でしかない。記憶さえあれば、蘇ることも可能だしな。

それらの事から便宜上、名前にstorageと付くのだ」

 

「そんな理由が……」

 

人の身体を只の容れ物として扱う辺り、やはり人道からは逸れた兵器なんだということを実感する。

ルナはもう一つの疑問を口にした。

 

「それでは何故、近代艦艇では無く、第二次世界大戦前後の艦艇データを艦娘の記憶に使ったんですかね?」

 

「そんなこと私が知るか。しかし、予想出来ない事もない。大方、WW2(第二次世界大戦)の艦艇の方が海上戦に長けていたからだろ。それに戦歴もあるしな。

近代の護衛艦なんぞ専守防衛とかで、敵に攻め入る事なんて無かったからな。

まぁ少なからず近代艦艇のデータも持っているだろ」

 

「え、こちら側からも攻め入るんですか?」

 

「いつまでもやられっぱなしという訳にもいかんだろ。それに、真相究明もかかっているからな。一刻も早くこの戦いを終わらせなければ……」

 

ライラはそこまで話すとピタリと足を止めた。

 

「どうしました?」

 

「あのジジイ……何処に艦娘を待機させているか聞いてないぞ……!」

 

「え!?聞いてないんですか!?征原司令はさも知ってる様に言ってましたけど」

 

「小僧、私はちょっとあの老いぼれに喝を入れてくる。また、ロビーで待っていろ」

 

ライラはそう言うと、腰のサーベルに手を掛けながら走り去っていった。

 

ルナは呆気に取られながらも、何とか気を取り直し、ロビーへと向かった。

 

「そう言えば、意外とこの基地広いよなぁ」

 

基地というと、秘密基地みたいなものを思い浮かべていたルナにとって、奄美基地は新鮮だった。

 

そんな事を考えていると、ロビー手前の階段で大量の紙束を抱えた少女を見つけた。

 

(うわ、何だあの書類の量。あんなのを処理するとは、征原司令も大変だな)

 

少女はふらふらしながら階段に差し掛かるも、紙束のバランスは崩れ、紙書類を階段にぶちまけ転んでしまった。

 

目の前で起きる悲劇。見て見ぬ振りは流石に出来るはずも無く、ルナは少女に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?手伝いますよ」

 

「え!?あっ!すみません!ありがとうございます」

 

ルナは少女と共に、散らばった紙書類を集める。

やっとのことで集め終わった紙書類を少女へと渡すルナ。

 

「ご迷惑をお掛けしました!助かりました!」

 

「いえいえ、それじゃ」

 

ルナは人付き合いという物が分からないので、そそくさとその場を立ち去ろうとした。

 

「あのっ…!すみません!」

 

少女の声にルナは足を止めた。

 

「……?何か?」

 

「あの……私と貴方、”何処かでお会いしませんでしたか”?」

 

「何を言って……」

 

ルナが二の句を言おうとすると、ズキリと頭が痛んだ。

咄嗟に頭を抑えると、一瞬の内に沢山の情景が脳裏をよぎった。

 

「……っ!うぐっ……!」

 

大勢の人が整列している風景。

 

一面の海。

 

何処かの港。

 

情景が映し出される度に強烈な頭痛がルナを襲った。

その痛みに耐えられず、ルナは片膝をついた。

 

「だ……大丈夫ですか!?」

 

少女が手に持っていた紙束を投げ捨て駆け寄ってくる。

 

あぁ、また集めなきゃならないじゃないか。

ルナはそう思うと、気を失った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ルナが目を覚ますと、目の前には、心配そうに覗き込む少女の顔があった。

 

「あっ!気が付きましたか!良かったぁ!」

 

ルナはどうやらロビーのソファーに寝かされていたらしい。

 

「やっと起きたか小僧。貴様は何をやっているんだ」

 

反対側に座っていたライラがそう言う。

 

「いや、それが……」

 

ルナは先程起きた出来事をライラに事細かに伝えた。

 

「ほう、それは記憶の再燃現象(フラッシュバック)かもしれんな。

何がトリガーになったのか解らんが、貴様の記憶の一部が脳の表層処理層に大量に送られてきたお陰で気を失ったのだろう。

貴様は、脳神経が常人と異なるのだからそうならないように気をつけていろ」

 

「気をつけろって……そんな無茶な」

 

そこで、側にいた少女が声を掛けてきた。

 

「すみません……私のせいで、栄少尉を危険な目に遭わせてしまうなんて…」

 

ルナはここで「おや?」と疑問を覚えた。自分はこの少女に名前を言った覚えは無い。

ライラの方を見てみるが、ライラは少女に聞けとばかりに顎をしゃくっている。

 

仕方なく少女の方を向く。よくよく見ると着ているのはセーラー服の様で、中学生程にも見える体躯だった。

顔立ちはとても綺麗で整っており、黒髪を後ろで纏めているヘアースタイルだった。

恐らく、美少女と言うのはこの娘みたいなのを言うのだろうとルナは思った。

 

「えと、見た所中学生に見えるけど、何故、俺の名前を?」

 

「なっ…!私は中学生じゃありません!」

 

やばい。開口一言で少女を怒らせてしまった。ということは中学生では無いのか?

 

「この腕章が見えないんですか!?」

 

見ると、その少女もルナと同じ藍色の腕章を腕に付けていた。と言うことは軍人?

ルナが困った顔をしていると、少女はコホンと息をついた。

 

「……すみません、言葉が過ぎました。私は中学生では無く、この奄美基地所属の《艦娘》です!」

 

「!?」

 

流石にこの展開を予測はしていなかったルナは心底驚いた。

アンドロイドだかバイオロイドだかと言っていたので、もっとこうロボットらしいのかと思っていたが、人間そのものじゃ無いのか?と疑いたくなる程だった。

 

(この娘がCMS(艦娘)だと……!?)

 

ルナが驚愕を露わにしている姿を見て、気を良くしたのか少女は続ける。

 

「ふっふーん!驚きましたか?それでは改めまして自己紹介を!

私は特型駆逐艦の『吹雪』と言います!

これからよろしくお願いしますね!栄少尉!」

 

 

 

 

to be continued………

 

 

 

~物語の記憶~

 

・中央

現日本海軍の最高統帥機関である。大本営とも呼ばれる。

どの基地よりも強大な軍備と技術を兼ね備えており、深海棲艦から日本を守る、正に最後の砦とも言える機関である。

また、軍備が不十分な基地等には、軍備が整うまで艦娘部隊を派遣していたりもする。

奄美基地に派遣されている部隊は、第一から第四までの主力艦娘部隊、各第五までの独立部隊(遠征隊や偵察隊など)、その他諸々と総勢80名を超える。

それ程の戦力を普通に派遣する程度には、巨大機関と考えて貰って構わないだろう。

 

 

 

 




質問、意見、感想等お待ちしております!

次回!奄美基地のCMS(艦娘)紹介!


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memory5「奄美の艦娘」

やっと奄美大島要塞基地所属の艦娘の登場です。
今回出るのはまだ一部ですが。

最近本で読んで気付いたのですが、奄美基地の元ネタの奄美大島要塞って陸軍のものでした。テヘペロりーん

そんなこんなで5話です。
それでは!


 

 

memory5「奄美の艦娘」

 

 

 

 

 

「うえええぇぇぇぇえ!?」

 

ルナはそんな謎の叫び声をあげた。

 

この目の前にいる少女がCMS(艦娘)だって?どこからどう見ても只の少女だ。

 

先程、見張り櫓から艦娘を見た時も確かに人が海に立っていたし、トウの話からみても、『人造人間』だとは聞いていたがまさかこれ程とは。

 

ルナもこの『吹雪』と名乗った少女が自らを艦娘だと言うまでは、只の少女だと思い込んでいた程だ。

 

「まぁそういう訳だ小僧、貴様がこいつらを指揮するのだ」

 

「えっと……それじゃあこの()は……」

 

「さっき『宜しくお願いします』と言っていただろうが。聞いていなかったのか?吹雪はこの奄美基地所属のCMSだ」

 

成る程、そういうことか。どうりで此方の名前を知っている訳だ。

 

「まさか、こんな娘が艦娘とは……」

 

ルナがそう呟き吹雪の方を見ると、吹雪が腰に手を当てこう答えた。

 

「失礼ですね、私だって立派な艦娘です。むしろ私の方が驚いてますよ。私達の新しい司令官が思ってたよりも若いんですもん」

 

一応、言葉を選んだつもりのようだが、ルナの事を暗に子供と言ってる事が筒抜けだった。

 

「各自、細かいことは後にしろ。他の奴等が待っているからさっさと移動するぞ」

 

ライラが立ち上がってそう促す。

まだ頭痛が引かないルナだったが、仕方なく立ち上がる。

吹雪と名乗った少女も、例の紙束を抱え立ち上がる。

 

「え?その紙書類持ってくのか?」

 

ルナが吹雪に尋ねる。

 

「これは元々、ライラ少佐に渡す為の物なので」

 

吹雪は素っ気なく言うと、スタスタと歩いていってしまった。

やはり、さっきの事を怒っているのだろうか。

 

 

それよりも、何故さっき彼女は「何処かで会ったか」なんて聞いたのだろうか。

自分が記憶を失う前に何処かで面識があったのだろうか。

しかし、あの吹雪という少女の反応を見る限り、お互い初対面のようだった。

ルナは頭を傾げつつ、ライラと共に吹雪の後を追う。

 

「そういえば、ライラさん」

 

「なんだ小僧、言いたいことがあるならさっさと言え」

 

「す…すみません…。あの『吹雪』って言った少女……《駆逐艦》とか言ってましたけど、それはどういう事ですか?」

 

「話してなかったか。基本は、記憶兵装としてインストールされている軍艦のデータの事だ。あのCMS『吹雪』は、大日本帝国海軍の駆逐艦、吹雪のデータがインストールされている。

軍艦のデータ=記憶、人格と考えて貰っていいだろう。だからCMSは皆、自分の事を軍艦の様に言うのだ。分かったか?」

 

「分かったような……分からないような……?」

 

「察しがいいのに、頭が固いな貴様は」

 

そんな話を交えながら暫く歩くと、宿舎とはまた別の建物に着いた。

しかし、ほかの建物とは違って、まるで掘っ建て小屋のような、簡素なコテージのような、そんな建物だった。

第一印象はぼろっちいと言ったところか。

 

「着きましたよ。少佐、少尉」

 

吹雪の案内で中に入ると、そこには艦娘と思わしき、腕に藍色の腕章をした少女達が数人程いた。

 

そこには、基地に来るまで案内をしてくれた天龍と呼ばれていた少女の姿もあった。

 

「おっ、さっきのチビ助じゃん」

 

「あらー?あの子がさっき天龍ちゃんが言ってた子?」

 

天龍ともう一人の紫色のワンピースに身を包んだ少女が、こちらに気づき声を掛けてくる。

 

「チビ助じゃねぇっつってんだろ!」

 

ルナは反射的にそう怒鳴っていた。

 

 

「ヘーイ!フブキー!何やってたデスカー?少し遅かったデスよ?」

 

「そうですよ吹雪さん、ちょっと遅すぎやしませんかね?」

 

若干言葉がカタコトの巫女装束のような服を着ている少女と、藤色の髪の毛とセーラー服が特徴の少女が吹雪に声を掛ける。

 

「いや…それは…その…」

 

「まあまあ、吹雪ちゃんにも色々と事情があったのよね?」

 

朱色の袴に白の道着のような服装の黒髪の少女が吹雪のフォローに入る。

 

部屋がガヤガヤしてきた所でライラが手を叩き皆の注目を集める。

 

「全員、横一列!!」

 

ライラがそう一喝すると、艦娘達は素早い動きでライラとルナの前に横一列に並んだ。

 

「以前に話したとは思うが、お前達の専属司令とも言える、新たな司令を紹介する。

栄ルナ少尉だ。少尉はこれより1ヶ月と少しの期間、お前達の指揮をすることになる。正式な辞令は、期間内の様子を見て、その後に発表される」

 

ライラはそう言うとルナの背中をダンッと叩いて一歩前に出させた。

これは、自己紹介をしろってことなのか?

 

「えと……ライラ少佐からご紹介に預かりました、栄ルナと言います。聞いているかは分かりませんが、自分は記憶喪失で殆ど記憶がありません」

 

ルナがそう言うと、部屋の中が少しだけざわつく。

 

「そういうことなのでよろしくお願いします」

 

そう自己紹介をして一歩下がる。ライラが「この下手くそめ」と顔で語っていたが、見なかったことにしよう。

 

「それでは、吹雪の方から順にお前達も自己紹介をしてくれ」

 

ライラがそう促すと、吹雪が一歩前に出て自己紹介を始める。

 

「先程も名乗りましたが改めて…。

元大日本帝国海軍、連合艦隊第一艦隊直第三水雷戦隊第十一駆逐隊所属、特Ⅰ型駆逐艦、吹雪型一番艦の『吹雪』です!改めてよろしくお願いします!」

 

「次は俺だな……同じく、元大日本帝国海軍、連合艦隊第四艦隊直第十八戦隊所属、天龍型軽巡洋艦一番艦、『天龍』だ。フフフ……どうだ?怖いだろ?まぁ、宜しくな」

 

「同じく、元第十八戦隊所属、天龍型軽巡洋艦二番艦の『龍田』だよ~。天龍ちゃんとは姉妹になるわね~。それじゃあよろしくね~」

 

「ども、恐縮です!元大日本帝国海軍、連合艦隊第一艦隊直第六戦隊所属、青葉型重巡洋艦一番艦、『青葉』ですぅ!少尉、後で一言よろしくお願いしますね!」

 

「次は私デース!英国、ヴィッカース社で建造された、元大日本帝国海軍、連合艦隊第一艦隊直第三戦隊所属の金剛型戦艦一番艦の『金剛』デース!ヨロシクオネガイシマース!」

 

「最後は私ですね。元大日本帝国海軍、連合艦隊第一航空艦隊直第一航空戦隊所属、赤城型航空母艦一番艦、『赤城』です。よろしくお願いしますね、少尉」

 

「と、言うわけだ。覚えたか?小僧」

 

流石にそれは無理だ。何か凄いごちゃごちゃとみんな自己紹介してくれたが、ルナには何が何やらさっぱり分からない。

今の一回で覚えるのは、初対面のルナには無理がある。

取り敢えず、苦笑いで誤魔化しておく。

 

「まあ名前はさっさと覚えてやるんだな。ごちゃごちゃ言ってはいたが、全て昔の経歴だ。今は全員《奄美艦隊》所属だ」

 

「はあ……」

 

「よし、それでは現時刻を以って奄美艦隊の指揮権限をお前に譲渡する。異論ある奴はいるか?いないな?それじゃあ上手くやれよ小僧」

 

「えっ…!ちょ…!」

 

ルナが引き止めるヒマもなくライラはコテージを出て行ってしまった。

 

唖然とするルナ。艦娘達の方を見ると「まあいつも通りかな」みたいな顔をされた。

 

上手くやれよとは言うが、何をすればいいか全く分からない、記憶喪失の輩を放置するか普通?と、頭を抱えたくなった。

 

「で?どーするんだよチビ助……じゃない少尉。今日はもう解散でいいんじゃねぇか?もう夕暮れだし」

 

そう天龍に言われて外を見てみると、ちょうど日が暮れはじめている所だった。

 

「確かに……時間もあれだし、細かい事は明日話そうかな」

 

「おう、分かった。それじゃあな」

 

「…………え?」

 

ルナが言うだけ言うと、天龍はさっさとコテージを出て行ってしまった。龍田もその後に続く。

 

ポカーンとしていたルナだったが、ハッと我に帰り、急いで後を追う。

 

「おい!待て!明日の集合時間とか決めてないだろうが!」

 

そう言って、天龍を引きとめようと肩に手を伸ばす。

 

その瞬間、恐ろしいまでの殺気を感じた。

 

本能的に伸ばしかけた手を引っ込めた。その判断が命拾いになる。隣にいた龍田が、目にも留まらぬ速さで両手を大上段に構えると、その手にはいつの間にか薙刀(なぎなた)が握られており、一瞬で天龍とルナの間へ振り下ろした。

正に刹那の時。完全に手を伸ばしていたら斬り落とされていただろう。

 

(コイツ…!何処からこんな長モノを…!?それに、今のは本気だった…!)

 

恐怖はそれだけでは終わらない。

振り下ろされた薙刀は、返す刃でルナを斜め下から斬りかかる。

 

ルナは慌てて後ろへステップでその凶刃を躱す。

 

当の龍田は少しだけニヤリと笑うと、振り上げた勢いを利用して一回転し、ルナ目掛けて鋭い突きを繰り出してきた。

 

もう一度追撃が来る事を読んでいたルナは、咄嗟に腰のサーベルを抜き放ち、迫る薙刀をサーベルで防ぎ、薙刀の軌道を逸らした。

 

顔面を目掛けて突き出された薙刀は、かろうじて頬を掠める程度で済んだ。

 

それに龍田は、少し驚いた様子を一瞬だけ見せ、薙刀の柄でルナの足元をかすめ取る。

 

「うおっ!?」

 

体勢を崩した所に、横一文字に薙刀を振るう龍田。避けられる筈もなく、ルナはサーベルで受け止めようとする。

しかし、サーベルと薙刀が打ち合った瞬間、ルナの持っていたサーベルの刃が宙に舞った。

 

「なっ…!?」

 

サーベルの刃が龍田の薙刀に折られたのだ。いや、正確には斬り落とされたと言うべきか。

 

ルナは迫り来る薙刀を、地面に倒れ込む形で何とか避けた。

 

ルナが起き上がろうとすると、目前に薙刀の切っ先が突き出されていた。

そして、すぐ真横に斬られたサーベルの刃がストンと突き刺さる。

 

ルナはこの事態に唾を飲みながら、何とか声を出した。

 

「なっ……!何をするんだ!」

 

「あなた、天龍ちゃんに触れようとしたでしょ~?殺されたいのかしらぁ?」

 

切っ先がズイッとルナに迫る。

 

「よせ、龍田。やり過ぎだ」

 

天龍が止めに入ると、龍田はやっと薙刀を下ろした。

すると薙刀は、その形状を崩し、細かな粒子となって龍田の手のひらの中に収まった。

 

「この件については、少尉の自由で処分してもらって結構ですよ~?除籍でも解体でも好きにしていいですからね?」

 

「龍田の処分は俺も受ける。俺の妹だからな、連帯責任だ。それじゃあな」

 

天龍と龍田はルナに背を向け歩き出す。

 

「くっ…!この!自分の話を聞け!明日は8時に集合だ!分かったな!?」

 

去りゆく二人に、ルナはそう声を張り上げる。

これに天龍は右手をひらひらと振って返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あのなぁ龍田。確かに『からかってやれ』とは言ったが、『殺せ』と言った覚えは無いぞ?」

 

ルナからそこそこ離れた所で、天龍は龍田に声をかける。

 

「あら~?天龍ちゃんだってあの少尉の事、認めてないんでしょう?」

 

「まぁな……俺らがいくら”役立たず”だとはいえ、新しい司令がチビ助とは……上は何を考えてやがる」

 

「……愛想を尽かしたのかもしれないわねぇ……」

 

「…………」

 

暫く二人は押し黙る。

 

「そんなことより龍田、一応だが、上司にあんな事して大丈夫なのか?本当に解体処分になったら洒落にならないぞ?」

 

「そんなこと言ったら天龍ちゃんだって、私と同じ処分を受けることになっちゃったじゃない」

 

「龍田が居なくなったら、俺は俺じゃ無くなるからな。今度は一緒だ」

 

「天龍ちゃんったら……」

 

「……それにしても、あのチビ助、意外とやるな。たかが支給品の軍刀(サーベル)で龍田の対艦薙刀を躱すとは」

 

「う~ん……普通の人には、サーベルの腹で突きの軌道を逸らすなんて芸当出来ないわよ~?」

 

「……案外、俺らが思ってる以上なのかもしれないな」

 

「うふふ、そうかもね~」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「くそっ!なんだアイツ!」

 

ルナは手に持っていた、折れたサーベルを地面に叩きつけた。

 

「大丈夫ですか!?少尉!」

 

吹雪達がコテージから飛び出してくる。

 

「何なんだアイツらは!?仮にもこっちは司令だぞ!危うく殺されるとこだったじゃないか!」

 

「まぁまぁ落ち着いて下さいよ少尉。それより、龍田さんとやり合ってみてどうでした?この青葉に一言お願いします!」

 

「記者かお前は…」

 

「あっ、それあながち間違ってないですよ」

 

「まじか」

 

ルナはハァと溜息をつくと、叩きつけたサーベルと折れた刃を拾い上げ、鞘の中に突っ込んだ。もう使い物にならないとはいえ、捨て置く訳にもいかない。

 

「ショーイもsmallなのに意外とやるデスねー!私、感動シマシタ!」

 

青葉の隣りにいた金剛がそう言う。

もう、チビ発言にもつっこむ気力が無かったルナはもう一度溜息をついた。

 

「天龍さんも龍田さんも……昔はああでは無かったのですけれど……」

 

「……?それはどういう…?」

 

赤城の発言に疑問を抱いたルナは、咄嗟に聞き返す。

 

「昔は、どんな人でも思いやって、どんなことでもこなせる、艦娘の中の艦娘って言うくらい凄い人達でした……」

 

吹雪がしみじみとそう話す。

 

「じゃあなんで……今はあんな不良みたいになっちゃったんだ?」

 

ルナの問いに、一同は黙り込んでしまった。

やがて、吹雪が重々しく口を開く。

 

 

「それは……私たちが今では必要とされない存在……『役立たず』になってしまったからですよ……」

 

 

 

 

to be continued…

 

 

ー物語の記憶ー

 

・吹雪(ルナ談

吹雪型駆逐艦『吹雪』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

何となく真面目な印象を受ける

 

・天龍(ルナ談

天龍型軽巡洋艦『天龍』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

眼帯をしていて、ぱっと見、不良に見える。

 

・龍田(ルナ談

天龍型軽巡洋艦『龍田』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

イキナリ斬りかかってきた。笑顔が逆に怖い。

 

・青葉(ルナ談

青葉型重巡洋艦『青葉』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

記者の素質というか気がある。

 

・金剛(ルナ談

金剛型戦艦『金剛』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

話し方と髪形が凄い特徴的。

 

・赤城(ルナ談

赤城型航空母艦『赤城』のデータを記憶兵装として搭載したCMS。

お淑やかで思慮深く見える。

 

 

 

 

 




艦娘達の元の所属の件ですが、太平洋戦争開戦時のもので統一されています。

例)第三十一駆逐隊=睦月、如月、弥生、望月。
本来であれば如月がウェーク島攻略作戦で沈没し、変わりに卯月が入っています。

今後もそうなることですので御容赦下さい。


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1つ目の記憶ーー役立たずーー
memory6「その理由」


やっとプロローグが終わり第2章です。

役立たずと言われた艦娘達がどの様になるのか。
そこらへんにスポットを当てていきたいと思います。
毎度の事ながら、話の展開がオカシイです。スミマセン

それでは!


 

memory6「その理由」

 

 

 

 

やばい、時間に間に合わない。

 

男は廊下を走っていた。廊下を走るな、なんて守る奴はそうそういないだろう。男もそうだった。

 

今日は大事な日。しかも男が主役なのに、自分自身が寝坊するとは。実に笑えてくる。

 

時間はギリギリ。間に合うか、間に合わないかの瀬戸際だった。

しかし、何とか間に合うかもしれない。何故なら目的地は目の前だったからだ。

 

警備員に身分証を見せる……ハズだったのだが、身分証が見当たらない。

 

男は焦った。家を出るときには、確かに所持していたハズ。つまり、ここまで来る時に落としたのかもしれない。

 

今から探していたら、確実に間に合わない。

もう駄目だと諦めかけた時、後ろから1人の女性が駆けてきた。

 

年齢は男と同じくらいだろうか。何処か幼さ残る顔立ちと、黒い髪が印象的だ。

 

女性は男の下まで来ると、息を切らしながら、男の身分証を差し出した。

 

『これ……落としましたよ?』

 

女性は、はにかみながらそう言った。

 

その笑顔に、男は惹かれたのかもしれない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ルナはパチリと目を開けた。そしてのそりと段ボールベッドから身を起こす。

 

窓の外はまだ暗い。時計を見ると、まだ午前4時くらいだった。

 

何か夢を見ていた気がするが思い出せない。

しかもそのせいで目が冴えてしまった、

 

二度寝をするつもりも無かったルナはぼんやりと昨日の出来事を思い出していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『それは……私たちが今では必要とされない存在……『役立たず』になってしまったからですよ……』

 

『役立たず……?』

 

艦娘達はまた黙り込んでしまった。

 

『あー、いや、辛いことを聞いちゃったみたいだな。明日は朝8時に集合だから、よろしくね』

 

ルナはそう言って立ち去ろうとする。

 

『待ってください少尉』

 

そんなルナを赤城が引き止める。

 

『私達が話し始めたことです。これからの為にも、聞いてください』

 

『……分かった。無理しなくていいからな?』

 

赤城はコクリと頷くと、静かに話し始めた。

 

『まず少尉は、私達が普通の艦娘……CMSとは違うというのをご存知ですか?』

 

『あぁ、なんか征原司令に聞いたぞ。確か……(モデル)が違うんだっけ?』

 

『そうです。 対深海棲艦用に開発されたCMSですが、現在、一般的に活動している《N型》の他に、幾つかの種類がかつてはありました』

 

『”かつては”ってことは今は無いのか?』

 

『はい。かつてのCMSは全て何かに特化した《S型(特化タイプ)》か試作機ばかりでした。それらの良いところだけを残し、平均化、汎用化させたのが《N型》です』

 

『あれ?君らは確か、《E型》とか呼ばれてなかったか?《S型》とは違うのか?』

 

『私達《E型》のCMSは《S型》を更に特化させた(モデル)だと聞いています。詳しいことはあまりよくわかりません。《E型》の建造数はとても少ないらしく、存在自体がとても貴重らしいので』

 

『ほう、そうなのか。じゃあ、君らは凄い特別ってことじゃないか』

 

『そうなのですが……特化してる故か、ここにいる全員が何かしらの欠点を抱えているのです。そのせいで、私達は出撃すらままならない状態になってしまい、『役立たず』の烙印を押されてしまったのです……』

 

『いや、でも特化してる部分があるんだから、そこを伸ばしていけば欠点なんてカバー出来るさ!』

 

『ですが……』

 

『まずは何が出来て、何が出来ないか知る事が大切だな!明日からは早速、訓練をしようじゃないか!』

 

『少尉!?ちょっと待って……』

 

吹雪達の声が届く前に、ルナは宿舎に戻って行くのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふわぁぁ~」

 

ルナは大きなあくびをしながら段ボールベッドから降りた。

かと言って、何をするわけでも無く、窓から外を眺めていた。

 

すると、外で吹雪がランニングをしているのが見えた。

 

「こんな時間からランニングとは……熱心だな…」

 

ルナは部屋を出て、外に向かった。

 

 

「おーい!」

 

「えっ!?少尉!?」

 

吹雪は足を止めてこちらを振り向くと、また走って戻ってきた。

 

「早朝からランニングとは熱心だな」

 

「少尉こそ、こんな早くにどうしました?」

 

「んー、なんか夢を見ていた気がするんだが……まぁ、目が覚めたのさ。吹雪は何故ランニングを?」

 

そうルナが言うと、吹雪は少しだけ恥ずかし気にこう答えた。

 

「私……艦娘なのにあまり海上戦闘が上手くなくて……だから、せめてもの事でこうやって基礎体力をつけようとしてるんです」

 

「成る程な……良い心掛けだと思うぞ」

 

「ありがとうございます。それではまた後で」

 

「あぁ、邪魔したね」

 

そう言うと、吹雪はまた何処かへ走っていった。

『役立たず』と言われて喜ぶ奴はいない。やはり、悔しいのだろう。吹雪のその姿からも見て取れた。

 

「……今日の訓練は、海上訓練がいいかな…」

 

ルナはそう言うと、訓練の仕方を聞くためにライラの元へ向かうことにした。

 

 

 

「…しまった、ライラさんってどこに居るんだろう?」

 

提督室はもちろん征原司令がいるとこだし、普段、あの人は何をやっているんだろうとルナは思っていた。

 

考えても答えが出る筈もなく、ルナは取り敢えず提督室を訪ねた。

 

 

「おぉ、ルナ君じゃないか。こんな時間にどうしたんじゃ?」

 

あいも変わらず、椅子に腰かけていたトウがルナを迎え入れる。

 

「征原司令も起きていらしてたんですか」

 

「歳をとると早くに目覚めてしまってのぅ……ところで何用かの?」

 

「ライラさんはどこに居るかをお聞きしたくて……」

 

「うむ、ライラ君は大体、執務室におるぞ。執務室が自室みたいなもんになっておる」

 

「あっ、そうなんですか。ありがとうございます」

 

「うむ……ところで、ここの艦娘達はどうかね?上手くやれそうかの?」

 

トウはルナにそんなことを聞いた。

そしてルナは龍田に殺されかけたことを思い出す。

 

「まぁ……えぇ、まぁまぁやっていけるじゃ……うん…アハハ…」

 

ルナは苦笑いしながらそう答えた。

 

「確かに、個性が強過ぎる娘ばかりじゃが……ルナ君になら出来るじゃろう、頑張るんじゃぞ」

 

「どうも……ありがとうございます」

 

 

そうしてルナは部屋を出た。

ルナはどうしても引っかかる事が一つあった。何故、征原司令はルナに、自分の艦娘達を託したのだろうか。

征原司令は自分では指揮出来ないと言う様な事を言っていたが、どうも、ルナに艦娘達を預ける為の口実に過ぎない気がしてならない。

 

ここら辺もまた機会があれば聞こうと思いつつ、提督室を後にし、執務室へ向かった。

 

執務室のドアをノックすると、中から「入れ」というライラの声が聞こえてきた。

 

「こんな時間に何だ?折角、仕事がひと段落ついたと言うのに」

 

「す…すみません……実は今日、艦娘達を海上訓練させたいと思いまして。如何すればいいか分からないもので聞きに参りました」

 

「海上訓練か……人数も少ないし、私の《派遣艦隊》のCMS達も訓練させたいからな……お前達は第三訓練場を使え」

 

「第三訓練場ですか、分かりました」

 

「海上訓練をするなら、CMSのスペック表が必要だろ。丁度良いことに纏めた奴がここにある」

 

ライラはそう言うと、分厚い紙束をルナに渡した。

 

「これ全部ですか……」

 

「そうだ。なんてことないだろ?」

 

無茶言うなと内心思いつつ、ルナは礼を言って退出しようとした。

 

「オイ、小僧。お前、何時から始めるつもりだ?」

 

「えっと、一応8時からですけど……」

 

「そうか、では私も見学するとしよう」

 

「まじですか」

 

「実は、私も奄美の奴らの実力を見た事が無いんだ。丁度良い機会だからな。お前の対応も見られることだしな」

 

ライラの不敵な笑みに背筋を凍らしながら、ルナは執務室を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

AM 08:00

 

 

例のコテージ前に集まった艦娘達に向かって、ルナは今日の活動内容を発表する。

 

「今日は、皆んなの実力を測るということで、海上訓練を行おうと思う。訓練はライラさんも見てるらしいから、気を抜かないように」

 

「oh!初日から海上訓練デスカ!これはウデがなりマスネー!」

 

金剛がそう言って、腕を掲げてみせる。

 

「そういえば、天龍と龍田は?」

 

ルナが見た所、その二人がこの場に居なかった。

 

「まぁ、大方サボりでしょうねぇ」

 

青葉がそう言うと吹雪が「サボっ……!青葉さんがサボっ……!」と震えていたがよくわからなかったのでスルーした。

というか、あの二人め。初日からすっぽかすとは中々の根性だ。

 

「……仕方ない、今のメンバーで実力検査するしかないな。では、各自準備を整えて第三訓練場に集まる事。それじゃあよろしく」

 

「お前は訓練場の場所が分かるのか?」

 

いつの間にか後ろにいたライラがルナに問いかける。

 

「……………案内お願いします」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ルナとライラが訓練場に着いた時には、艦娘達は皆、準備を整えて待っていた。

 

「うわ、凄い。何を装備してるんだ?」

 

「これが《艤装》と呼ばれる物ですよ少尉。これのおかげで私達は深海棲艦と戦えるんです!」

 

吹雪がそう自信満々に答える。

 

吹雪は、軍艦の煙突のような背部艤装を身につけ、手には砲塔を、脚には魚雷発射菅のような物を装備していた。

 

青葉も吹雪と似たような装備をしている。しかし、重巡洋艦と呼ばれるだけあり、吹雪のそれよりも一回り以上も大きかった。

 

それよりも目を引くのが、金剛と赤城の艤装。

 

金剛の艤装は巨大な砲塔と一体化した背部艤装を装備しており、一方の赤城は、身の丈程の和弓と矢筒を身につけている。正に弓道そのものだった。

 

「CMSによって装備する艤装は異なるからな、大体は元になった軍艦の装備を模した、CMS専用の武装が施されている。お前も良い機会だから、よおく見ておけ」

 

ライラがそう説明する。

そしてルナは訓練開始の指示を出した。

 

先ずは吹雪。

艤装を稼働させ、桟橋から海上に出る。

吹雪の体は海に沈むこと無く、海上に浮かび立った。

 

「改めて目の当たりにするとすごいなコレ。本当に海面に立ってる……どういう仕組みなんだろ?」

 

「お前、今朝渡したその手に持ってる紙束に書いてあったろうが。

艤装の動力は【融合炉】だ。太陽とかと同じ核融合の力を使った炉だな。そして融合炉で得られたエネルギーを使って、艤装内で電力を生み出す。

その電力を体内の【ナノマシン】を通して脚部艤装に伝達する。

脚部艤装に伝達された電力の一部は【荷電粒子】に変換され、脚部艤装に搭載されたY(イットリウム)系極伝導体から発生する電磁力場に誘導され脚部艤装等から海面に放出される。

後は、荷電粒子の反発やら作用、反作用やらで海面に立つことが可能という訳だ。

わかったか小僧?」

 

「あとで紙束見返しておきます……というか、艦娘の身体に【ナノマシン】が使われてるとか初耳ですよ?」

 

「言って無かったか?CMSの素体には特別なナノマシンが使われていてな。大体は細胞と一体化して存在しているが、強力なエネルギー等で活性化すると、その素体の身体能力を極限まで引き上げることが出来る。その為、CMS…艦娘達は、ちっとやそっとのことじゃくたばらないというわけだ。極端な話、銃弾くらいなら避けられるくらいにはなるな」

 

「まじですか」

 

「其れ程じゃなきゃ、深海棲艦は倒せないだろ?ほら、吹雪の奴がスタートするぞ」

 

見ると吹雪が丁度海上を疾走し始めた所だった。

 

海上の障害物を避けながら、まるで滑るように海面を疾く。

 

コースアウトしながらも何とか操艦を済ますと、次は手に持っている砲塔を構えた。

 

「いっけぇ!」

 

吹雪が砲を放つ。その大きさからは考えられない程の爆音を出しつつ放たれた砲弾は、目標の的の遥か遠くに着弾した。

 

弾切れになるまで砲撃したが、結局命中弾は十数発程度だった。

 

「ふむ、操艦、砲撃共に平均値を大きく下回っているな。記憶のロードが少し遅いんじゃないのか?」

 

訓練結果をデータと見比べながら、ライラがそう言う。

 

 

続いて青葉。

 

まずは攻撃対象を確認する。

 

「索敵は自信ありますよ!ひぃ、ふぅ、みぃ……いっ!?」

 

索敵に気を取られ過ぎて危うく、障害物にぶつかりそうになる。

その後も何度かぶつかりかけ、最終的には正面衝突を起こした。

 

「うわお」

 

ルナはそんな風に声を上げる。

 

「アイツは操艦がまるでなってないな。基本中の基本だぞ」

 

ライラがそう評価する。

 

 

 

続いて金剛。

 

金剛は操艦はかなり上手かったのだが、問題は砲撃。

 

「撃ちます!fire!」

 

ドォォンと低い地鳴りを伴いながら砲弾が放たれる。

 

「やはり、戦艦は迫力が凄いな……って、金剛のやつドコに撃ってるんだ?」

 

ルナから見ても、とんでもない方向に砲弾は飛んでいく。

その後、砲弾は的外れの方向にばかり飛んでいき、遂に命中弾は無かった。

 

「sit!何で当たらないネー!!」

 

 

「アイツ……狙って撃ってるのか?」

 

ライラは呆れ気味にそう呟いた。

 

 

最後に赤城。

 

しかし、赤城の場合、様子が変だった。

途中のスタート地点まで行くのは良かったのだが、沖合に出ると、ピタリと足を止めてしまった。

 

『どうした、赤城?調子でも悪いのか?』

 

ルナが無線で連絡を取る。しかし、赤城からの返答は無い。

 

「マズイネー。アカギ、トラウマスイッチが入っちゃってるネ」

 

「トラウマスイッチ?金剛、何だそれは?」

 

ルナが金剛に問い返す。

 

「アカギはかつての軍艦時代の記憶が色濃く残ってるネ。特に《例の作戦》時の出来事がトラウマのようになっていて、海上に出ると何時もあんなカンジに……」

 

「………仕方ない、吹雪、青葉、ちょっと助けに行ってくれ」

 

「了解です、少尉!」

 

「青葉、了解しました!」

 

吹雪と青葉が海上に飛び出していく。

 

 

「これじゃあ、訓練にもならんな。どうするんだ小僧?」

 

ライラがそうルナに聞く。

 

「どうしましょうかね………」

 

ルナも流石にこれ程とは思っては無かったので、衝撃が大きかった。

 

ルナは頭を抱えたくなったのであった。

 

 

 

 

そんな様子を離れた場所で、トウが見ていた。

 

 

「あの艦娘たちをどう育てていくのか……見ものじゃな……」

 

 

 

to be continued…

 

 

ー物語の記憶ー

 

・艤装

艦娘達が装備する、対深海棲艦用の武装。これのおかげで、海上に立つことが出来たり、深海棲艦に有効打を与えることが出来る。

攻撃用艤装や航行用艤装等、種類は様々。

 

(登場人物)ー人間編ー

 

(さかえ)ルナ

現在、奄美基地で生活している、見た目少年の軍人。何らかの理由で過去の記憶を失っている。

 

征原(ゆきはら)トウ

奄美基地の司令。いつも椅子に座っていて、何をしているのか不明。いつもライラに痛いトコを突かれている。

 

・ライラ・トイライン=ハム

形式上、トウの秘書に当たるかもしれない女性。《派遣艦隊》指揮官も担当している。性格はかなり冷たく、ビシバシ物を言う。

 

 

 

 




艦娘が海上に浮かぶ辺りの説明は、作者の妄想です。
そこそこ、それっぽく言ってはいますが、
本気にしないで下さいね(^^;;


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memory7「欠点」


遅くなってスミマセン。16冬イベにうつつを抜かしてました。
この話は先週分なので、今週分はまた後日投稿します。
さて、私事ではありますが、艦これ改を買いました。かなり面白いと思いますね。あとE3ラストダンスが抜けられません。助けてください。

それでは!


 

 

memory7「欠点」

 

 

 

「これじゃあ、訓練にもならんな。どうするんだ小僧?」

 

「どうしましょうかね…………」

 

 

初めての海上訓練。

ルナとしてはここで彼女らの実力などなどを計りたかったのだが、どうやらそれ以前の問題のようだ。

 

ルナが頭を抱えたくなっている中、救助に向かった吹雪と青葉が、赤城を連れて戻ってきた。

 

「戻りました、少尉」

 

「あっ…と、ご苦労様。おーい、赤城、大丈夫か?」

 

ルナはそう赤城に声を掛ける。しかし、当の赤城は、その場に座り込むと、俯いたまま何かをブツブツと呟いている。

 

「赤城ー?」

 

「………………」

 

「赤城ってば!!」

 

「ハッ……!?少尉……私ったら、また……すみません少尉……面目次第もございません…」

 

「いや、事前に確認をしなかった自分も悪い。みんな、すまないが今日の訓練は中止にしよう。各自、身体を休めて明日に備えるようにしてくれ」

 

ルナがそう言うと艦娘達は皆、落ち込んだ雰囲気を残しつつ「了解」の意を示すと、宿舎に戻っていった。

 

 

「ふむ……今のは中々良い判断だな。あの状態、状況で訓練を続行しても何の意味もない。必要なのはこの状況を考える時間だ」

 

隣りに立っていたライラがルナにそう言うと、幾つかの紙束を渡してきた。

 

「……これは?」

 

「アイツらのここ数回の訓練結果だ。今までは私が《派遣艦隊》指揮と兼任していたのでな。見てみろ」

 

ルナが紙束に目を落とすと、そこには先程ライラが呟いた事と殆ど同じ内容が書き記されていた。

 

「アイツらは進歩が無いというか、上達しないというか、とにかく訓練では総じて同じ結果を残している」

 

 

訓練データ曰く、

 

 

吹雪は、カタログスペック上は問題ないのだが、実戦に出るとスペックの半分も出せていないのが現状だった。

 

青葉は、加速、減速、転舵など自身の移動たる操艦に問題があった。なお、艤装自体に問題は見当たらないらしい。

 

金剛は、一見問題が無さそうに見えるのだが、砲撃に極めて難有りと書かれている。過去の訓練では、一度も命中弾を出していなかった。

 

赤城は、実戦においてもスペック上は問題無いはずと書かれているが、特記事項に海上に出ると一種のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が表れてしまうと書いてあった。

 

 

「……おぅ」

 

大体合ってる。いや、ライラの言う通りいつも同じ結果になるのだろう。

 

「私がいくら指導してやってもそこだけはどうにもならなくてな。その他は何とかなったんだがな……」

 

「うーん……難しいですね…」

 

ふとルナはその訓練データに、天龍と龍田のデータが無いことに気づいた。

 

「何故、天龍と龍田のデータは無いんですか?」

 

「あの二人か……奴等は訓練自体に殆ど参加しなくてな。いつだったか、私の権限を使って強制させた事があったが、その時は全くもって真面目にやらなかったな」

 

あの二人、ライラさんにまで……と、心の中で思ったルナは、改めてこの仕事の難しさを実感した。

 

「何回も訓練を行なってこの結果となると、一筋縄ではいかなさそうですね」

 

「その一筋縄でいかないのをどうにかするんだ」

 

「……そうは言いますけれど、実際ライラさんも匙を投げたんですよね?」

 

「さて、私からアドバイス出来るとすれば”創意工夫”だ。色んな方法を試すといい。事実、私も数多の訓練方法を試した。その紙束に大体は書いてある」

 

「逃げないで下さいライラさん」

 

「おっと、そろそろ急用が出来そうだ」

 

「急用ってゲームイベントみたいに起こる物でしたっけ!?」

 

「急に出来る用事だから急用なんだろ。指揮権はお前にある。好きにやって頑張れ。それじゃあな」

 

それだけ言い残すとライラはどこかへ立ち去ってしまった。

 

一人残されたルナは、取り敢えず空を仰いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

忘我状態からなんとか立ち直ったルナは、一先ず部屋に戻ってライラから貰った訓練データの紙束を見ていた。

 

「しっかし、あんな状態だと、やたらめったらに訓練しても効果は薄いのかなぁ……一人ずつにあった訓練を用意しないと意味がない気がする……」

 

確かに、訓練はやった分だけ力になるとは、ルナも思う。

しかしその訓練も訓練として成り立っているものじゃないと効果が薄いとも思っている。

 

それに、海上訓練は艤装を使うだけあってその分のコストもかかる。

艦娘達のモチベーション等も考えると『質より量』の方式では難しい気がしてならなかった。

 

どうしたものかと悩んでいると、コンコンコンとノックの音が聞こえた。

 

自室兼倉庫を出て、何も無い部屋の扉を開けると、そこには吹雪が幾つかの書類を持って立っていた。

 

「失礼します少尉。ライラさんから届け物を預かって参りました」

 

「あぁ、ありがとう吹雪」

 

「ライラさんが『役立ててくれ』と仰ってましたけど……」

 

ルナは受け取った書類をパラパラと見てみる。

 

「おぅ、これは確かに……」

 

「どうですか?」

 

「『駆逐艦吹雪。ワシントン条約下において、大本営からの無茶な要求に見事応じ造られた、重武装かつ凌波性に優れた画期的な駆逐艦。本艦の登場によって当時の列強海軍に衝撃を与えた。主に南方戦線に従事し、第二次ツラギ夜戦にて沈没。』だと。

そうなのか吹雪?」

 

「確かに軍艦時代の私の戦歴はその通りですけど……その書類に?」

 

「うん、奄美艦隊全員の軍艦の時の情報が書かれてるよ。成る程、これを見て学べということか……」

 

今を変える為にはまず、過去を振り返ってみる。そんなことなのだろう、吹雪から渡された情報には先程の様な軍艦時代の艦娘のデータが書き記されていた。

 

軽いさわりから細かい事まで網羅されており、読破するのは容易な事では無さそうだった。

 

「流石ライラさん。伊達に派遣艦隊指揮官をやってるだけはあるな」

 

「そうですね。それでは少尉、私はこれで…」

 

そう言って吹雪は部屋を出て行こうとする。その姿にズキリと頭が痛んだルナは咄嗟に「ちょっと待ってくれ」と呼び止めてしまった。

 

当の吹雪は「?」という表情でこちらを振り向く。

 

(しまった……!何か呼び止めてしまったけども……えぇとえぇと……)

 

「その……手に持っている本はナンナンダロナーと思ってだな……」

 

内心で焦りつつもそう答える。実際、持っている本も今気づいたのだが。

 

「これですか?これは駆逐艦の兵法を纏めた本になりますね」

 

吹雪が本を開いて中を見せてくれるが、漢字とカタカナのみで書かれており、どうも古くさい。

 

「えと、この本いつのだ?」

 

「これは……大東亜戦争時代の海軍の兵本の写本ですね。私ってば、カタログ上と軍艦時代では高性能駆逐艦って持て囃されてますけど、今の状態では海上に出ると全然ダメなので……せめて基本的な事だけでも覚えておこうと……」

 

「そうなのか……引き止めて済まんかったな。頑張ってくれ」

 

「ハイ、失礼します」

 

吹雪が再度部屋を出て行こうとするが、ここでルナは一つの疑問を覚えた。

 

「ちょっ……ちょっとスマン」

 

ルナはもう一度、吹雪を呼び止めた。

 

「……何でしょう、少尉?」

 

「あ、いや、何度もゴメンナサイ。でも、確か、君達CMS(艦娘)は《記憶兵装》を搭載しているんだよな?」

 

「そうですけど……それがどうかしましたか?」

 

「艦娘の記憶兵装には、かつての軍艦時代の記憶(データ)とそれらの戦闘に関する情報があるんだろ?それなら、今更、兵法を覚える必要なんてないんじゃないのか?」

 

そこで吹雪はハッとした顔になって手を口元に当て、うーんと悩みこんでしまった。

 

「確かに……私達、艦娘の基本概念として『軍艦の記憶と海上戦の基本を記憶として持っている』とされているのに……」

 

「されているのに……どうかしたのか?」

 

ルナがそう聞き返すと、吹雪は驚きの真実を伝えてきた。

 

「私には、海上戦の基本と呼べる記憶情報が余りにも少ない気がします……!」

 

「いや、それでも海上訓練ではしっかりやっていたじゃないか?何か問題があるのか?」

 

「実は……戦闘の基本は全てライラさんから教授されたものなんです。その前は海上に浮かんで移動する。身につけた装備を動かせる程度でした……」

 

「なっ……!それは、吹雪以外の艦娘達もそうなのか?」

 

「少なくともE型のCMS……天龍さん、龍田さん、青葉さん、金剛さん、赤城さんはそうだったと思います。N型のCMSは、全然そんなこと無く、直ぐに出撃しても充分戦闘が成り立ってますし」

 

この事実にルナは驚愕した。もしこの事が本当だとすると、E型のCMSは戦闘技術を殆ど付与されていないという事になる。

 

逆に、それならばこれまでの訓練成果があんまりなのも頷ける。

他の艦娘は戦闘技術をもともと持っていたのに対し、吹雪達は知らなかったようなものなのだから。

 

「今から、戦闘技術を《記憶》として搭載するのは無理なのか?」

 

「いや……出来ないことはないとおもいますけど……厳しいですね」

 

まぁ流石にこれは無茶だと思っていたが。

 

「成る程、みんなの海上訓練の成績があまり良くないのは、この事が要因の一つと見て良さそうだな。だけど、そうと分かれば、幾つか打つ手が見えてきたぞ」

 

「本当ですか!?少尉!」

 

「うん、本当だよ。そうなると……まずは自分が『知る』必要があるな……

吹雪!その本があった場所にちょっと案内してくれ」

 

「あっ、ハイ!了解です!こちらです!」

 

吹雪はビシッと敬礼をすると、駆け足で廊下を歩いていく。ルナもその後に続いていく。

 

 

少しづつ、少しづつだが、解決策が見えてきた気がした。

 

 

 

to be continued…

 

 

ー物語の記憶ー

 

 

 

・PTSD

 

正式名を『心的外傷後ストレス障害』

命の安全が脅かされるような出来事等によって、強い精神的衝撃が心的外傷、つまりトラウマとなって生活に支障が出るストレス障害。

 

 

 

 

 

・第二次ツラギ沖夜戦

 

後の世では『サボ島沖夜戦』とも言われる。

ソロモン諸島の戦いの一つであり、1942年10月11日に勃発。

 

南方戦線の輸送等の活動を安定させる為、南方の米航空基地、ヘンダーソン基地飛行場への艦砲射撃作戦を立案した日本軍は、金剛型戦艦を中心とした【第二次挺身隊】を作戦に投入することにした。

 

それに先駆け、青葉、衣笠、古鷹、吹雪、初雪、叢雲で構成された【第六戦隊】が飛行場砲撃の先兵を任される事となった。

 

同時期、アメリカでは日本の鼠輸送を止める為、サンフランシスコ、ソルトレイクシティを中心とした【第64任務部隊】が南方戦線に展開していた。

 

本隊よりも先に出撃した【第六戦隊】は途中スコールに見舞われ、予定の航路を変更し進軍。スピードは変更しなかった為、予定より早く作戦海域に到着した。

 

スコールが去った後の夜、青葉がガダルカナル島手前に艦影を発見。

この艦影は通商破壊に出ていた米の【第64任務部隊】だった。

 

しかし、青葉はこの艦影を味方輸送船団と誤認する。艦影の中に味方艦らしき物が見えた為、同士撃ちの危険を懸念したのだ。

 

進路そのままに【第六戦隊】は【第64任務部隊】に接近し、味方識別灯を点灯させる。

 

もしもの時の為に、同航戦を取るため右回頭を始めるが、時すでに遅く、米【第64任務部隊】の集中放火を浴びる。この時、米艦隊は丁字戦法を取っていた。

 

この時青葉は自らが同士討ちされていることを疑わず「ワレアオバ、ワレアオバ」との発光信号を送るが、後に敵艦隊と断定、煙幕を展張しながら緊急離脱を図った。

 

旗艦青葉の左前方距離3,000mに展開していた『吹雪』は味方識別の為【第64任務部隊】に接近。サンフランシスコからの探照灯照射により米艦隊から集中放火を受けた。右急速回頭を行い、撤退を図るものの、弾薬庫を撃ち抜かれ爆沈した。

 

旗艦青葉後続の『古鷹』は、放火に晒されながらも、何とか進路転換に成功し、撤退を始めた。

しかし、旗艦青葉に砲撃が集中しているのを見て、青葉と米艦隊の間に割り込むよう進路を取り、青葉を砲撃から庇った。古鷹の奮戦により青葉は撤退に成功するが、古鷹は甚大な損害を受け航行不能、後に沈没した。

 

殿を務めていた『衣笠』と『初雪』は、後続に着いていた為、砲撃を受けず、反航戦を取る形で米艦隊へ砲撃を与えている。

 

この夜戦後、古鷹の乗員救助に駆けつけた『叢雲』が米航空機によって戦闘不能の大打撃を受ける。そしてこれを助けに来た『夏雲』が米航空機によって轟沈。叢雲放棄を決定した第十一駆主計士官により、叢雲は初雪に雷撃処分された。

 

 

 

 

 

 

 

 




サボ島沖夜戦説明の叢雲雷撃処分の部分ですが、処分したのは「初雪」と書いてありますが、「白雪」という説もあります。
しかし、自分が図書館等で調べた文献には「初雪」と書かれていましたし、叢雲艦長の記録でも「初雪」となっているのでそう書かせていただきました。それと、なるべく分かりやすくしたかった為、一部説明におかしな所がありますが、御理解の程を宜しくお願いします。


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memory8「青葉の特訓」

大変長らくお待たせしました!第8話です。

一週間近く間が空いてしまって申し訳ありませんでした。国家資格試験やら期末考査やらで小説を書くどころの話じゃ無くなってしまったのが現実的です。
今回から投稿ペースも戻す予定です。それと、遅れた分はいつか取り戻すので御安心を。
今回は少々ボリュームアップでお届けします(内容が良いとは言ってない(^^;;
拙い作品ですが、どうぞよろしく!

あ、あと私事ではありますが、艦これ16冬イベは見事、全甲クリアし、国家資格である、乙種第四類危険物取扱者もなんとか合格し、成績も上がりました事を報告致します。

それでは!


 

 

memory8「青葉の特訓」

 

 

 

 

 

「おーい、吹雪ぃ?おーい?」

 

ルナは本に囲まれ寝ている吹雪の肩を揺する。

 

吹雪に案内され、たどり着いた『資料室』でルナと吹雪は文献やらなんやらを漁っていた。

眠る事も忘れ、情報集めに没頭した結果、日付が変わり、夜が明け、朝日が差し込んでいたのであった。

 

「うーん、ムニャムニャ……」

 

「駄目だ、完全に寝入っておる…」

 

確かに無理もない。夜通しで本を読んでいたのだ。そりゃ眠くなる。

取り敢えず、肩を揺すっても起きなさそうなので、頬を突いてみる。

 

「ツンツン」

 

「zzz…」

 

もう少し強く突いてみる。

 

「ツンツン」

 

「zzz…」

 

更に強く突いてみる。

 

「ドスドス」

 

「zzz…」

 

「起きろッ!吹雪ッ!」

 

手元にあった本でスコーンと頭を引っ叩く。(勿論、本気では無いが)

 

「うーん……あ、少尉……?ハッ!スミマセン!私ってば、寝てしまって……」

 

「本を読んでて寝てしまうとは、艦娘とは言え、まだまだだな」

 

「…………そう言う少尉こそ、頬っぺたに本の跡が付いてますけど?」

 

「気のせいだ。やはり一晩中調べたかいもあって、かなりの情報を得ることが出来たな」

 

「そうですね。ですが、調べていたのはどれもこれも過去の軍艦とかの物ですよ?

今の私達は艦娘なんですから、過去の軍艦とは全く違うんですよ?それと、やっぱり寝てましたよね?」

 

「確かに、軍艦と艦娘が別物だという事は分かってる。それも考えてるから大丈夫だ。あと、この跡は寝てて付いたんじゃない。なんかこう、自然に付いたんだ」

 

「考えがあるならいいですけど……

それで、今日はどうするんですか?それで、絶対寝てましたよね」

 

「今日から、奄美の艦娘達一人一人に特別訓練を設ける。勿論、自分が専属に就く。そうすれば細かい所まで指示が出来るからね。それに、自分は仮眠を取ったまでだ」

 

「やっぱり寝てたんじゃないですか」

 

「吹雪みたいに、舟漕ぎながら頭を机にぶつけつつ寝落ちしてないからセーフ」

 

「本を枕代わりに寝るのもどうかと思いますけどね」

 

「今日の夜はちゃんと寝る事だな。さて、記念すべき初の特別訓練は『青葉』からだ」

 

「青葉さんからですか、でも何故?」

 

「青葉は『操艦に難あり』とあってな、ちょうど良い資料があったから試してみようと。それに昨日、あの海上移動の仕方を見てたら思い付いた事があって、それも試しに」

 

「なるほど、そうですか」

 

「あ、あと特別訓練中、吹雪はずっと側でその様子を見て学ぶこと」

 

ルナがそう言うと、吹雪は驚きの表情でこちらを見た。

 

「えぇっ!?なんでですか!?」

 

「なんでもヘチマも無いだろ。吹雪は全体的にスペック以下判定されてるから……他の人の色々な訓練を見て、全体を学ぶことが良いと思うんだよな」

 

「ぐぅ……言い返せない……」

 

「吹雪はそういう事でな。それじゃ、コテージに行くか」

 

ルナがそう言い、数冊の本を持って資料室を出る。

吹雪も散らかしていた本を慌てて片付け、その後を追うのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

コテージに着くと、既に青葉と金剛がおり、二人でお茶していた。

 

「ヘーイ!ショーイ!フブキも一緒デスカ?good morning!」

 

「あ、おはようございますぅ!朝早いですね!」

 

「おはようございます!」と吹雪。

 

「おはよう、それにしても朝っぱらからティータイムか」とルナ。

 

「tea timeは大事にしないとネー!ショーイも一杯、如何デス?」

 

ルナは自分が新参なのにめっちゃフレンドリーだなー、と思いつつ「それじゃあ頂こう」と答えた。

 

「金剛さんは、いつもここで紅茶を飲んでますからね」

 

青葉がルナにそう言う。

 

「青葉も一緒にか?」

 

「いえいえ!今日は偶々ですよ。昨日、予定を聞きそびれてしまいましたからね。ここに居れば少尉が来るんじゃないかなーと」

 

「そういえば、昨日は解散してそのままだったなぁ。スマンスマン」

 

「ところでお訊きしたい事があるんですけど、何故、少尉は吹雪さんと?まさか、吹雪さんを連れ込んであんなことやこんなことを……」

 

「ちょっ!青葉さん!?」

 

吹雪が動揺したように声を詰まらす。

 

「し・て・ね・え・よ!!!どうしたらそんな発想に至るんだ!一緒に本を探して貰ってただけだ!」

 

「ま、まさか、その本ってば……!」

 

「ちげぇよ!資料だよ!資料!」

 

「まだ何も言ってないんですけど」

 

「解体処分を御所望か?」

 

ちょうどそこにティーカップを持った金剛が来てくれた。

 

「お待たセー!フブキもどーぞ召し上がれー!」

 

ルナと吹雪の前に、金剛の淹れてくれた紅茶が置かれる。

 

「うん、とてもいい香りだね」

 

「美味しいです金剛さん!」

 

「thanks!喜んで貰えて何よりネ!」

 

一息ついたところで、今ある現状について聞いてみる。

 

「天龍と龍田と赤城の姿が見えないんだが……どうしたんだ?」

 

「天龍さんと龍田さんはサボりじゃないですかね?赤城さんは気分が優れないとのことで書類を預かってます。どうぞ」

 

青葉から赤城の休欠届けを貰う。

 

「確かに受け取った。まぁ、昨日の今日だしなぁ……無理させちゃったし、しょうがないな」

 

「ところでショーイ、今日は何をするんデスカー?また海上訓練?」

 

既に一服ついた金剛がそう尋ねてくる。

 

「いや、このまま何も対策もせず訓練をしていても効果は薄いと判断した。だから、今日からは特別訓練と称して、君達一人ずつに訓練を行っていく。君達の『欠点』とされている部分を改善する為にだ。

まず最初は青葉、君からだ」

 

青葉は紅茶を飲むのを止め、キョトンとした様子で此方を見ている。

 

「あえ?私からですか?」

 

「そうだ。青葉は操艦が上手くいってないだけだからな。自分の思ってる通りなら、すぐ克服出来るんじゃないかな?」

 

「そうですかぁ?そうなら良いんですけども。ともかく、これはメモ必須ですね!『新人上司からの一対一、特別訓練!!』みたいな見出しで報告書を書きましょう!」

 

「それは色々と誤解を生みそうだからヤメろ。それじゃ先に運動場だっけ?に行ってくれ」

 

「あれ?海に出ないんですか?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「そうですか……青葉、了解しました!」

 

「ショーイ!私はどうするネー?」

 

「あーっと、すっかり忘れてた……取り敢えず、青葉の訓練が終わるまでは、休暇扱いで良いけども」

 

「でも、それだと退屈で死んじゃいマース。私も青葉の訓練見てていいデスカ?」

 

「うん、いいよ。金剛は操艦大丈夫だけど、色々と参考になるとは思うから」

 

「コレは楽しくなりそうデスネー!」

 

「それとお願いなんだが、赤城と天龍と龍田にも、訓練の旨を伝えておいてくれないか?」

 

「of course!OKデス!まぁ、天龍型シスターズには言っても言わなくても変わらない気がするネ……」

 

これにはルナも苦笑いで返す他無かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ー『重巡洋艦青葉、改古鷹型として再設計された青葉型一番艦。開戦初期は主に後方支援に徹し、中盤以降作戦部隊として、中部太平洋、南方作戦に従事する。大破と修理を繰り返し、呉空襲で着底。戦後解体される』ー

 

ーー数十分後、

 

吹雪、青葉、金剛の三人は基地内の運動場でルナを待っていた。

 

「……少尉、来ませんね」

 

「吹雪さんの言う通りです。流石に遅過ぎやしませんかね」

 

「一体、どこで油売ってるネー!」

 

艦娘三人がそう言っていると、やっとルナが姿を見せた。何やら大きめのダンボール箱を抱えている。

 

「お 待 た せ」

 

「待たせ過ぎですよ~。それで、何を持ってきたんですか?」

 

青葉がルナの抱えているダンボールを指差す。

 

「これか?これはな……ほら!」

 

ルナはダンボールの中から何やらブーツの様なモノを取り出す。

しかしそれには車輪が付いている。

 

「ひょっとして……ローラースケートですか?」

 

吹雪がそう尋ねる。

 

「御名答、その通りローラースケートだ。何かあの倉庫……もとい、自室に置いてあったんだよ」

 

ルナが持ってきたのはローラースケートだった。ブーツみたいな靴に四輪が付いた形状の一般的なローラースケートだ。

 

「えっ……?ソレを使うんですか?」

 

「じゃなきゃ持ってこないだろ?青葉、取り敢えずコレで滑れるまでやってみよう」

 

「いや、いくら操艦が下手だからといってもローラースケートは……」

 

「以外と難しいんだぞ?ローラースケート。取り敢えず履いてみ?」

 

「少尉は艦娘というものを舐めてますねぇ。このくらい青葉には何てことないです!」

 

そう言って青葉はローラースケートを履き始める。

履き終わり立ち上がろうとするも、

 

「あっ……あれ?以外にもバランスが……うおっとぉ!?」

 

派手にすっ転んだ。

 

「ほらな言った通りだろ?以外にもローラースケートって安定しないんだよなぁ」

 

「くぅ~~、青葉、一生の不覚!」

 

「青葉さん、そんなに悔しいんですか……」

 

「でも、面白そうネ!ショーイ!もう一足無いんデスカー?」

 

「そう言うと思って、吹雪と金剛の分も持ってきてある」

 

「wow!準備がイイネ、ショーイ!」

 

「私、ローラースケートは初めてです!」

 

「自分の重心をどこに置くのかがポイントだと思うぞ。取り敢えず、安定して立てるようになるまでだな」

 

艦娘達はローラースケートを履き、滑れるようになるまで練習をする。

 

最初はみんなして上手く立てず、派手にすっ転んだりしていたが、数分も経てば、安定して立つことはみんな出来るようになった。

流石、艦娘といったところか。

 

「た……立てましたよ少尉、次はどうするんです?」

 

「じゃあ、そのまま壁伝いに滑ってみよう」

 

「わ、解りました」

 

青葉達は、運動場の脇の小屋の壁に手を付きながら滑る。

始めは滑るというよりも歩くという表現の方が合っていたが、これも数分と経てば出来るようになった。

 

「大丈夫そうだな?それじゃ、手を離して滑ってみてくれ」

 

「ショーイ、手を離したらどうやって進んだらいいノー?」

 

「そんなの、片足で地面を蹴る様にすればいいんじゃないか?」

 

「片足で……蹴る様に……」

 

吹雪が早速実践してみると、上手いことスイーと滑る事が出来た。

当の本人は大喜びしている。

 

「少尉!出来ましたよ!進みましたよ!」

 

「吹雪は飲み込みが早いなぁ」

 

と、ルナがつぶやくと、

 

「アオバ!私達も負けていられマセンよ!」

 

「かつての僚艦に先を越されては、旗艦の名が廃ります!いきましょう!」

 

青葉と金剛も負けじと滑り始める。

 

「あいつら……これが訓練の一環ってこと忘れてそうだな……」

 

まぁ、自分がそう仕掛けたのだから仕方ないのだが。

これも先程よりは時間が掛かったが、ものの十数分で、運動場の端から端まで往復できるようになった。

 

「少尉!曲がるにはどうすれば良いんですか?」

 

かなり真っ直ぐに滑れるようになった青葉がそうルナに問いかける。

 

「いい質問だな!上手いこと言えないけども、曲がりたい方向に重心を移動させるんだ。後はもう感覚でそれを覚えてくれ」

 

「全然アドバイスになってないんですけど……まぁやってみます」

 

青葉はスイーと滑っていくと、途中で身体を傾け重心を移動させようとする。

が、案の定上手くいかず転んでしまう。

 

「大丈夫ですか?青葉さん?」

 

後ろから吹雪がゆっくりと滑ってくる。

 

「あはは~やっぱり上手くいきませんねぇ」

 

立ち上がり服に着いた汚れを払っている青葉の隣を金剛が滑り抜けてゆく。

 

「ヘーイ!アオバ!フブキ!私、コツが分かっちゃったネー!」

 

そう言う金剛は、いつの間にかスイスイとローラースケートを使いこなしていた。

 

「わぁ!金剛さんいつの間に!」

 

「ぐぬぬ……あの高速戦艦め、意外にもやりますね……こうしてはいられません!」

 

再度、青葉はローラースケートの練習を始めた。

 

流石にスイスイと滑れるようになるまでは艦娘といえども困難だったらしく数時間を要した。

 

既に時刻は昼を回ったのだが、誰も止める素振りすら見せずに訓練は継続した。

 

「よし、もう大分滑れるようになったな。それじゃ……」

 

ルナはそういうと、ダンボールから取り出した幾つかの空き缶を等間隔に並べ始めた。

 

その等間隔に並べた空き缶の続きに、更に空き缶で曲がりくねった道を作る。

 

「この空き缶を倒さないように、この間を滑ってもらおう」

 

「いきなり難易度ハネ上がってません?」

 

青葉が「うへぇ」と言いつつ、さも嫌そうな顔をする。

 

「スラロームからの空き缶の道コースですか?」

 

「そうだ、これが出来たら今日の所は終わりかな」

 

「これくらいなら楽勝ネー!」

 

先程、誰よりも早くスイスイと滑れていた金剛が、これに挑戦する。

 

金剛は勢いよく滑りだすと、空き缶スラロームを見事な足捌きですり抜けていく。

 

その後の空き缶ロードも、缶と缶のど真ん中を滑って突破する。

 

「うわ、一発で抜けおったな」

 

ルナが純粋に驚く。

 

「凄いですね……!」

 

「マジですか……あの人、本当に戦艦なんですかね……」

 

吹雪と青葉も驚愕している様子だった。

 

「さぁ、青葉もやってみよう!」

 

「軽く言ってくれますね……この青葉、受けて立ちましょう!」

 

青葉も空き缶の試練に向かって勢いよく滑ってゆくのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

数時間後、

 

「あぁーもぅ!どうして出来ないんですか、私のバカ~!」

 

「お…落ち着いて下さい!青葉さん!」

 

青葉が空き缶の試練に挑戦し始めてから数時間が経つが、未だ成功の兆しは見えない。

 

「青葉はコーナーのターンの部分で大きくなり過ぎだ。もうちょっと内側を回るんだ」

 

「分かってます……分かってますけど……!」

 

青葉は立ち上がると、再度空き缶のコースに突っ込んでいく。

 

「青葉さん……」

 

「フブキ、手出しはNoネ。これはアオバ自身の戦いネ……!」

 

ルナも、決して声は出さないが、心の中で頑張れ、頑張れ!と声援を送る。

これが出来るようになれば、君は一歩前に進める、と信じて。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さらに数時間が経った。

 

青葉がコーナーを大きく回り過ぎ、空き缶にぶつかり派手に転ぶ。

 

転ぶ光景を見るのも何度目になるだろうか。

あれから休みも取らず、一心不乱に滑っている青葉だったが、中々上手くいかない。

 

転びまくったお陰で、服は泥だらけになり身体のあちこちに擦り傷が出来ている。

 

「くぅっ……!」

 

立ち上がろうとした青葉だったが、バランスを崩してドシャっと倒れ込んでしまう。

 

「青葉さんっ!」

 

吹雪が駆け寄って青葉を抱き起こす。

 

「大丈夫ですか!?気をしっかり!」

 

「吹雪さん……あれ……?チカラが、入らな……」

 

「青葉さん…少しは休んで下さい…!」

 

「アオバ……少し落ち着くデース」

 

「…………はは」

 

青葉は無言で空を仰ぎ、疲れたように笑う。

 

「やっぱり私には出来ない……何も出来ない……」

 

「青葉さん……」

 

「昔だってそうです……終戦まで生き残ったとは言え、出撃しては大破、直しては大破……結局は『役立たず』だったんですよ……」

 

「アオバ、自分を卑下するのは止めるネ」

 

「だって本当じゃないですか!いつも……あの夜だって……私は吹雪さんと古鷹を……!」

 

「青葉さん、落ち着いて下さい!」

 

青葉は過去の軍艦(自分)と今の自分を重ねて見ているようだった。

時折、肩を震わせながら青葉は俯いている。

 

吹雪と金剛が何かを言おうとするものも、声を掛けることが出来ず、静かな時が訪れた。

 

 

 

 

 

「『「風荒れ雨はくるうじも、草木は空にもえ出でて、

やがて青葉にいろどられ、真夏の苦熱如何あらん。

ますらたけおの胸の血は、青葉の如くもゆるなり』」

 

 

 

 

 

そんな(うた)を謳いながら、ルナが静寂を破る。

 

青葉が俯いた顔を上げ、不思議な表情でこちらを見る。

 

「少尉……その詩は……」

 

「知ってるか?青葉。君の軍艦時代が書かれた本を偶然、資料室で見つけてね。そこの最後のページに書かれていたんだ。この詩は過去の青葉(きみ)を謳ったものだよ」

 

 

ーー風荒れ雨は狂うじも、

 

青葉は幾度となく大破したり、沢山の苦難に見舞われたりしたが、

 

ーー草木は空に萌え出て、

 

その中でも強く生き続けて、

 

ーーやがて青葉にいろどられ、

 

そこには沢山の仲間が集い、

 

ーー真夏の苦熱如何あらん。

 

どんな困難に直面しても乗り越えることができた。

 

ーーますらたけおの胸の血は、

 

乗員達の心は、

 

ーー青葉の如く萌ゆるなり。

 

どんなときでも青々しく茂る葉っぱのように萌えていたのだろう。

 

 

「詩の意味としてはこんなところだろうな。資料の本によれば、

『終戦後、呉市に作られた旧呉海軍基地、現長迫公園の海軍慰霊碑の中の重巡洋艦青葉戦没者慰霊碑にひっそりと刻まれている。』

だってさ。今の君も、軍艦時代の記憶はあるんだろ?」

 

かつての青葉の乗員達は、どんな困難に出くわそうと、自分達の(青葉)を信じて生き抜いたのだろう。その信頼が、その想いが、文面からでも力強く伝わってきた。

 

「そうだ……私は……」

 

(青葉)はのちに建造された巡洋艦に比べれば優秀な艦では無かったかもしれない。

その上、沢山損害を被ったし、守るべき仲間を守ることが出来ず、救うべき仲間を救う事が出来ず、自分の判断ミスで味方を危機に晒した事もあった。

そんな中でも、乗員のみんなは希望を捨てず、生きる意志を最後まで持ち続けていた。

 

ソロモンの戦いでは『オオカミ』と揶揄されるくらいに奮戦した。

 

大破しても、乗員達は諦めず奔走し、無事に内地まで回航した。

 

艦隊司令部に見捨てられそうになった時もあったが、乗員達は「自分達の(ふね)を見捨てるわけにはいかない」と乗員達が司令部に直談判した時もあった。

 

もはや半分沈んだものを、多大な努力でサルベージしたときもあった。

 

修理出来ない大損害を受け、防空砲台として放置されたとしても、自分達の乗員は最期まで艦を降りなかった。

 

 

「どれだけ、どんなに失敗しても、『最期まで諦めない』それが君なんだろ?」

 

ルナがふっと笑みを浮かべながら青葉にそう言う。

 

 

そうだ。

 

私は、

 

私達は、

 

 

「……そうでした。すっかり忘れてましたよ……忘れてはいけない事を」

 

青葉は吹雪の助けを借りつつ、その場から立ち上がった。

 

「ありがとうございます、吹雪さん。もう大丈夫です。情けないところを見せましたね」

 

「いえ……でも良かったです。あのままだったら衣笠さんに笑われちゃいますもんね」

 

「衣笠にですか……それだけは勘弁ですね。私が笑う側なので」

 

「アオバ~?もう大丈夫そうネ?」

 

「えぇ、お陰様でなんとかなりましたよ」

 

先程の弱い姿はもう無く、青葉の顔はいつもの明るい顔に戻っていた。

 

「もうイケるな?青葉?」

 

ルナがそう訊くと、青葉は力強く頷いた。

 

青葉の特訓は陽が落ちるまで続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日、

 

今度は陸の運動場ではなく、海上演習場に来ていた。

 

「少尉、何で今日は海上訓練なんですか?昨日のローラースケート、青葉はまだクリアしてませんよ?」

 

昨日、陽が落ちるまでローラースケートに挑んでいた青葉だったのだが、遂に空き缶の試練をクリアする事は出来なかったのである。

 

「いや、大丈夫だ。昨日はああ言ったが、アレはクリアする必要は無い。どちらかと言えばローラースケートに慣れてもらう方に意味があったんだ」

 

「青葉には意味が分かりませんよぉ?」

 

「海上訓練をやればすぐわかるさ。早速海上に出てくれないか?」

 

「了解です!」

 

青葉はその場で艤装を装着し始め、海上に出るための桟橋へと向かう。

 

「確かに、昨日のローラースケートが何の役に立つのかが全然解らないですね」

 

「ショーイは中々ミステリアスデース!」

 

共に青葉の訓練を見に来ていた吹雪と金剛がそう言っている。

 

「まぁ見てれば分かるってば。さて、青葉!準備はいいか!」

 

「準備万端です。それではいきますね」

 

青葉が艤装を稼働させる。

ゴウン、と低く音が響くと同時に海面に降りる。例の如く、身体は海中に沈まず、海面に立っている。

 

「あれ……?」

 

「どうした青葉?何か不調が?」

 

「いえ、そういうのでは無く……何というか、普段より浮かぶのが安定している気がして」

 

「ふっふっふ、やはりか」

 

「え?」

 

「いや、じゃあちょっと航行してみてくれ。多分驚くぞ」

 

青葉は頭に「?」を浮かべながらも脚部艤装の機関を稼働させ、航行を始める。

 

青葉はすぐに以前との違いに気づいた。

 

「うわぁ、何だこれ!航行が凄い安定してます!以前みたいにふらつく事が無くなってます!」

 

青葉はスイスイと海面を滑走する。

 

「少尉、これは一体どういうことですか?」

 

思わず吹雪がルナに理由を訊く。

 

「これがローラースケートの効果さ。最初の海上訓練を見た後、みんなの動きを分析したんだけど、青葉は他のみんなに比べてバランスが取れてなかった気がしたんだ。

艦娘だから、みんな当たり前の様に航行できると思ってたんだけど、個々の技量に左右されるんじゃないかと推測したんだよ。

つまり、青葉は操艦が下手なワケじゃなくて、バランス感覚……『体幹』とでもいうのかな?がちょっとだけ劣っていたから、上手くやろうとしてもダメだったんだよ」

 

「な……成る程……!」

 

「でも、何でローラースケートだったんデスカー?バランス感覚を鍛えるならもっと色々有ったデショウにー?」

 

「いや、そりゃ、ローラースケートが何と無く艦娘の海上航行に似てたからに決まってるだろう?」

 

「そんな事だろうと思ったデース」

 

ルナはゴホンと咳をすると青葉に向かって声を掛ける。

 

「調子はどうだ、青葉!」

 

「凄いですよ少尉、今までが嘘みたいです!今なら目を瞑ってでも障害物が避けられそうです!」

 

青葉は目を閉じ、海上を疾駆して見せる。まるで、その言葉が嘘では無いと見せつけるよう、優雅に海面を駆け抜けてゆく。

 

「凄いですね青葉さん、あんなに綺麗に走れるなんて……!」

 

「Yes!バランス一つであそこまで変わる物なんデスネ!凄いデース!……オヤ?あのコース、少しマズくないデスカー?」

 

青葉は依然、目を瞑ったまま航行している。その航行コースの先には、岩礁が突き出ていた。

 

「青葉さん!危ない!」

 

「ふぇ?」

 

吹雪がそう叫び、青葉が目を開けると、目の前に迫る岩礁があった。

 

「うわわわわ!急には止まれませんよ~~!」

 

青葉がパニックに陥る。その時、ルナは青葉に向かってこう叫んだ。

 

「青葉!機関最大、両舷後進取り舵一杯!!

 

「えぇっ!機関最大ですか!?」

 

「いいから早く!衝突したいのか!?」

 

青葉は調子に乗ってかなりの速度を出していた。この勢いでぶつかれば確実に医務室行きだろう。

 

「りょ、了解!両舷後進一杯!!」

 

青葉は機関最大に後進を掛ける。それと同時に左に舵を切る。

 

するとスピードが急激に失速し、岩礁ギリギリの所で止まる事が出来た。

 

「ふぅぅ……助かりました……」

 

船というものは、舵を切ると水の抵抗が増す事になるので、どうしても速度が落ちる。それを利用し速度を減速すると共に、機関を最大にし、逆転に進行速を入れることによって、急失速する事が出来たのだ。

 

「操艦は大丈夫そうだが、操舵がダメなようだな青葉よ。ここんとこをしっかり訓練するぞ!」

 

「は、はいっ!青葉、了解です!」

 

 

ルナの後ろでその様子を見ていた吹雪と金剛は笑顔で答える青葉を見て、

 

「青葉さん、嬉しそうですね」

 

「今のアオバは過去最高にbrilliantネ!」

 

と話している。

 

 

青葉は今まで、自分がダメな艦だと決めつけていた。それで「今」と向き合う事が出来ないでいた。

しかし、今回の訓練で忘れていた事に気づく事が出来た。

 

(どれだけ失敗しても、諦めずにいれば必ず役に立てる時が来る。確かに過去、(青葉)が助けられなかった出来事は多い……だけど、乗員のみんなはその中でも私を信じてくれた……私はこの期待に応える!『軍艦青葉』の記憶を持つ『艦娘』として…!)

 

青葉はそう心に決め、ルナの指示を聞きながら訓練を再開する。

 

 

 

 

 

 

「よぉーし、青葉、頑張っちゃうぞ!」

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつか長迫公園行きたいですね……
青葉のエピソードを調べている時、冗談抜きで作者は泣きましたよ(^^;;


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memory9「金剛の砲撃」

ちょっと遅れました。(いつも言ってる気がする(^^;;

前回と比べ文字数は少ないですが、地味に重要な事を言ってたりする回ですw

艦娘たちのことを書くのはとても楽しいです!これからも楽しんで書きたいですね(なに言ってんだw

それでは、どうぞ!


 

 

 

memory9「金剛の砲撃」

 

 

 

 

青葉の訓練を始めて数日。

 

日に日に青葉の操艦、操舵技術は上がっていき、遂には、一番最初の海上訓練でつまずいていた障害物のコースも難無く突破出来るほどに成長した。

 

「青葉さん、見違えましたね!」

 

ルナの隣にいた吹雪がそう言う。

 

「あぁ、青葉はもう問題なさそうだな。青葉には訓練を続けさせるとして、次は金剛の訓練に入るとしよう」

 

「金剛さんは砲撃がからっきしでしたね」

 

「吹雪もあんま言えないけどな、砲撃スキル。金剛の場合はなんというか……勘というか運とかの問題な気もしなくも無い」

 

「運……ですか?」

 

「動いているならまだしも、止まっている目標に命中ゼロとは……砲身が曲がってるんじゃないかと疑いたくなるな」

 

「でも……艤装のメンテナンスは完璧だってライラさんが仰ってましたよ?」

 

「うーん、そうかぁ……まぁ取り敢えず始めてみるか」

 

そう言うとルナは、手に持っていた書類を読み始める。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ー『戦艦金剛、巡洋戦艦として英国で建造され、後に戦艦となった金剛型一番艦。度重なる改装を受け、第一次、第二次両大戦に参加した数少ない艦の一隻である。レイテ沖海戦後、本土へ帰還中に米潜水艦の魚雷攻撃を受け沈没する』ー

 

 

例の如く金剛はコテージに居た。どうやらキッチンで料理をしていたようだ。

 

「oh!ショーイ!フブキ!丁度スコーンが出来上がったところネ!是非食べるデース!」

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

吹雪が嬉しそうにスコーンに飛びつく。

 

「……?スコーンって何なんだ?」

 

「ショーイは御存知無かったデスカー?簡単に言えば、イギリスで食べられているお菓子デース!パンみたいな物ネ!」

 

「へぇ、そうなのか。小腹がすいてきた頃だったから、いただこうかな」

 

吹雪と共に席に着いたルナは、金剛の作ってくれたスコーンと淹れてくれた紅茶で一服する。

ルナは初めて食べるスコーンに舌鼓をうちながら、金剛に訓練のことを伝えた。

 

「遂にワタシの出番デスネー!」

 

「出番というかなんと言うか……まぁ金剛の番には違いないな」

 

「あのアオバをあそこまで鍛え上げたショーイのtechnic!期待してマース!」

 

「お、おう」

 

金剛の気合い(?)に気圧されながらもルナは苦笑いで返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーのどかな陽の光が差し込む第三訓練海域(第三訓練場)。その水面に金剛が降り立つ。

海の遠くの方には標的が設置されているが、金剛からはちっぽけに見える。

 

「よぉーし、金剛。砲撃訓練開始だ!手始めに何時も通りに砲撃を行ってくれ」

 

金剛はそれに頷いて答えると、背中の艤装に装備された砲塔を、標的に向けて指向する。

 

「全砲門!fire!」

 

ドォォンと凄まじい音を立て、金剛が砲を放つ。砲撃の衝撃で金剛の周りの海面がへこんだ様にも見えた。

 

砲弾は綺麗な弧を描き飛び、着弾した瞬間、大きな水柱を上げた。

 

「弾着確認しました。一斉射目、標的右遠です」

 

双眼鏡(メガネ)を覗いて、金剛の弾着を確認していた吹雪がルナにそう告げる。

 

「金剛、標的右遠に弾着だ。修正してもう一度だ」

 

「了解ネー!少し左にズラしてッと……テェーーッ!」

 

再度、金剛が砲を放つ。しかし、砲弾は的外れの場所に飛んでいく。

 

「弾着確認しました。二斉射目、標的……左極遠です」

 

「おい!金剛!さっきよりも離れてるぞ!ちょっとだけでいいんだちょっとだけで!」

 

「オカシイですネ……?少しだけのつもりが……もう一度、テェーーッ!」

 

先程の結果を受けて右にずらしたのだろう。砲弾は標的から遥か右にずれた所に着弾した。

 

「もぉーーぅ!何で当たらないネーー!」

 

金剛が癇癪(かんしゃく)を起こしてジタバタしている。ルナは思わず手でこめかみの辺りを押さえた。この先を思うと頭が痛い。

 

「これは……相当かかりそうですね……」

 

「金剛の感覚だけの問題なのか……?いや、そんな事は無い筈だ……何か……何か問題がある筈……」

 

結局、この日の訓練では、演習用の砲弾を持ってきた分、全て撃ち尽くしたのだが命中弾は一つも無かった。

 

後々、ライラに「アレだけ持ってっておいて一つも当たらないんじゃ、砲弾代が勿体無い」と嫌味を叩きつけられたことは言うまでもない。

 

 

 

次の日、無駄だとは思うが、金剛の艤装の再点検をして貰った。

しかし、目立った問題が見つかる訳もなく、ハード、システム、どちらの面でも異常は見つからなかった。

砲身の磨耗も疑ったが、砲身を取り替えたのはつい最近の事らしく、この短期間で磨耗するのはあり得ないと整備員に一蹴された。

 

これでルナが思っていた『艤装の所為』という選択肢は消えて無くなった。

 

ルナは金剛に引き続き砲撃訓練を行わせたが、結果は何も変わらなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

次の日。

 

早くに目が覚めたルナは、金剛の砲撃について考えがてら、朝の散歩をしていた。

 

(昨日の再点検から分かる通り、金剛の艤装自体に目立った不具合は一切無い……つまり、あの的外れの砲撃が艤装の所為ではないという事……だとすると、やはり金剛の腕の所為なのかな……?)

 

そう自分の中で結論付けるものの、何かが金剛に足りない気も否めなかった。

他の艦娘達の砲撃と比べて何かが違う。そんな感じだった。

 

朝の清々しい中をモヤモヤした気分で歩いていると、低い地鳴りの様な音がどこからか聞こえてきた。

 

「この音は……砲撃音?こんな朝っぱらか一体だれが…?」

 

ルナは音の聞こえてくる方へ歩き始める。どうやら第二訓練場から聞こえてくる様だ。

 

第二訓練場は、第三訓練場に比べて広く、艦隊同士の対抗演習にも使える広さを誇る訓練場だった。

その中で、ぽつんと、一人の艦娘が砲撃演習を行っている。

 

一瞬、金剛かと思ったルナだったが、服装が違った。

巫女服のような金剛と比べ、訓練場にいる艦娘は赤の刺繍が入った白の道着のような上着に、黄土色に近い飴色の袴をはいている。

 

それに金剛は、艦橋砲塔一体横一直線型の艤装を装備していたが、例の艦娘は背部に艦橋型艤装を背負い、そこからクロス型に砲塔が装備されていた。

 

その艦娘は手に持っていた盾の様なものを空に掲げた。すると、そこから何かが射出され、空高く舞い上がっていく。

 

(あれは……艦載機?)

 

何となく物陰に隠れつつルナは様子を見ていた。

恐らく、放たれた物体は艦載機(飛行機)であろう。

 

艦載機は上空で8の字を描くように飛んでいる。

その艦娘は軽く腰を落とすと、装備していた四門の主砲の内、二門を斉射した。

 

放たれた砲弾は、ちょうど目標を挟み込むようにして着弾する。狭叉(きょうさ)だ。

 

それを確認してか、残った砲門も斉射する。

砲弾は吸い込まれるようにして標的に命中し、どデカイ水柱を上げた。

 

(資料室の本で読んだことがあるぞ、あれは確か、空中観測型の射弾観測射撃……!)

 

空中に飛ばした艦載機から、着弾点を観測し、その位置情報を元に、射撃コースを修正する為、砲撃の命中率を高める事が出来る、射撃法の一種だ。

 

その光景に観入ってしまったせいか、背後に近づく人影に、ルナは気づかなかった。

 

「わっ!!」

 

「うひゃぁあ!?」

 

背後から大きな声で背中を押された為、ルナは思いっきり驚き飛び跳ねる。

 

ルナが急いで振り向くとそこには、海上にいる艦娘と同じ服装をした女性が立っていた。

 

「いやぁ、ゴメンゴメン。まさかそんなに驚くとは思ってなくてさー。朝早くから見慣れない人がいるなーって思ったから、ちょっとした好奇心ってやつ?」

 

その女性は片手を拝むように前に出しつつそんなことを言う。

海上にいた艦娘と同じ服装をしているということは、この女性も艦娘ということなのか。

 

「えっ…と、あなたは……?」

 

「あたし?あたしは派遣第一艦隊所属の航空戦艦『伊勢』よ!宜しくね」

 

どうやらルナの予想は当たったようだ。

 

「あなたは何て言うの?」

 

「自分は今、仮的に奄美艦隊を請け負っている、栄ルナと言います」

 

「あっ!あなたが少佐の言ってた栄少尉なのね!思ったより小さかったから、そうは思わなかったわ」

 

「ほっといてください」

 

「ところでなんでこんな所に?」

 

伊勢と名乗った艦娘が不思議そうに聞いてくる。

 

「朝の散歩をしていたら砲撃音が聞こえたもので、つい来てしまったのですよ」

 

「あっ、そうなんだ。……確かに朝っぱらから砲撃音がしたら気になっちゃうよね~、だから、もうちょっとしたらやろうって言ったのに日向ってば……ぶつぶつ」

 

伊勢は何やらぶつぶつと愚痴を言い始めた。ルナは「はぁ…」と適当に相槌を打ちながら、それを聞いていた。

 

「………で、そんな時は全主砲斉射で決まりじゃん?それをあいつってば艦載機による空と海の立体的なんたらとか言い始めて……」

 

「伊勢」

 

そう名前を呼ばれて伊勢はビクッと肩を震わす。

ふと見てみると、先程、海上で砲撃演習をしていた艦娘がそこに立っていた。

 

「ひ…日向…もうあがったの?早いじゃん?」

 

「艤装の調子を確かめるだけと言っただろう?ところで何の話をしていたんだ?」

 

「い……いやぁ、今日は朝からいい天気だから散歩日和ですね~っていう世間話よ」

 

「ふーん、じゃあ後でじっくりと世間話をしようか」

 

伊勢は「ひぃ~」と身震いをして数歩後ずさる。

その日向と呼ばれた艦娘は、ルナに目を向けると声を掛けてきた。

 

「与太話に付き合わせてしまってすまないな。君は確か……栄少尉か?」

 

「その通りだけど……」

 

「そうか、なら良かった。私は、派遣第一艦隊所属の伊勢型二番艦『日向』だ。宜しく頼む」

 

日向はそう言うと、伊勢をがっしりと掴み、

 

「朝早くから迷惑を掛けたな。私は伊勢と話したい事があるからここで失礼する」

 

と、言って伊勢を力強くに引っ張っていく。

 

ルナはその背中に「ちょっと待ってくれ!」と声を掛け呼び止めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「「砲撃が当たらない?」」

 

伊勢と日向は声を揃えてそう言った。

二人に今までの金剛の事を話し、何かアドバイスを貰えないものかとルナは声をかけたのであった。

 

「いざ、そう言われると難しいよね~。なんか、『撃てっ!』って思ったら撃てるもんね」

 

「艦娘の砲撃ってそんなもんなのか……?」

 

「伊勢はもっと勉強した方が良い。艦娘の行動は『生体同期機能(バイオフィードバックシステム)』で艤装に反映されているんだ」

 

「『生体同期機能(バイオフィードバックシステム)』?」

 

ルナは聞きなれない単語に、思わず聞き返す。

その反応を見た日向が説明してくれる。

 

「少尉は私達CMS(艦娘)が戦闘用に造られたバイオロイドということは知ってるか?」

 

ルナはこくりと頷く。

 

「え!?何それ!あたし初耳!」

 

「伊勢は静かにしてくれ。じゃあ、その素体にナノマシンが使われているのも知ってるな?」

 

「うん、ライラさんから聞いたよ」

 

「艤装を装着して起動させると、体内のナノマシンが艤装からのエネルギーを受け取って覚醒状態になる。

この状態になると私達は、常人ではあり得ない程の力を発揮出来るようになる。

それと同時に、体内のナノマシンから艤装へと、生体情報や神経情報がリンクされる。

これが『生体同期機能(バイオフィードバックシステム)』と言うものだ。

生体情報と神経情報がリンクしてるから、後は、私達自身が『進め』とか『撃て』とかを思うだけで動作するというわけだ」

 

「へぇー、そんな仕組みとシステムで艦娘達は海上で行動出来るというわけか」

 

確かに、吹雪のような手に持つタイプの砲などは説明が付くが、金剛とかはどうやって砲撃しているかが地味に謎だったのだが、タネが解れば成る程、関心する。

 

「まぁつまり、砲撃はそういう仕組みだ。それで砲撃が当たらないとなると……やはり練度の問題じゃないだろうか?」

 

「やっぱりそうなのかなぁ」

 

ここで、今まで日向に「静かにしろ宣言」をされて、つまらなそうに傍観していた伊勢が口を挟む。

 

「あとアレじゃない!アレ!FCS!」

 

「FCS?」

 

今日はルナの知らない単語がよく出る日だ。またもや聞き返す。

 

「伊勢がその言葉を知ってるとは意外だな」と日向。

 

「へっへぇーん、どうよ日向、驚いた?あたしだってアホの子じゃないんだから。

というわけでそれについてはあたしが説明してあげるわ」

 

伊勢はドヤッと勿体つけると、ルナに説明を始める。

 

「FCS……Fire・Control・System、つまり『火器管制装置』のことよ」

 

「あっ、それなら小耳に挟んだ事があるかな」

 

火器管制装置。

主に銃などの兵器を正確に射撃する為、兵器を管制、つまり制御する装置やシステムの総称だ。

 

「正式には射撃管制で、海軍では射撃指揮とか、色んな呼び名があるわ。

もちろん、あたし達の主砲とかの攻撃兵装にも搭載されていて、これを使うと、指定した目標を、砲が自動で照準してくれるわ。

さらに、観測した位置情報をリンクすると、その値を元に、計算、誤差を修正してくれる優れものよ」

 

そんな伊勢の言葉を聞いて、ルナはハッとした。

 

(まさか、金剛のやつ……射撃管制無しで砲撃を……?いや、まさか…)

 

ふと、そんなことを思ったが、思えば思うほど不安になってくる。

 

「まぁ、実際は無意識的にみんなやってるから、あんまり意識する必要は無い……ってちょっとぉ!」

 

伊勢の説明の途中でルナは走り出す。去りゆく間際に「ありがとう!」と一声掛けて走り去る。

 

「まだ説明は終わってないぞぉーー!って、行っちゃった……」

 

「きっと伊勢の説明で何か気がついたんだろう。良かったじゃないか」

 

「そう?そうかぁ~!そうだよね~!」

 

日向にそう言われニヤニヤする伊勢。日向はふぅとため息をつくとガシリと伊勢の腕を掴んだ。

 

「それじゃあ、先程の世間話の続きでもしようか」

 

伊勢は一転、にやけ顔を真っ青に変えるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

コテージに急いで戻ると、いつものように金剛が紅茶を飲んでいた。

しかし、いつになくテンションが低い気がする。

 

「はぁ~~、どうして砲撃が当たらないんでショウ……」

 

「練習してれば当たるようになりますよ!頑張りましょう?ほら!少尉も来たことですし」

 

あからさま、へこんでいる金剛に「FCSって使ってるか?火器管制装置って言うんだけど」と聞くと、「FCS?何ですかソレ?」という答えが返ってきた。

 

これでルナは確信する。金剛は決して砲撃スキルが無いのではないと。射撃管制無しで砲撃していたらそりゃ命中しないわけだ。

 

そして早速、砲撃訓練を始める事にした。

 

 

「それじゃ、砲撃ってば、そのFCSで砲を照準するのネ?てっきり、自分自ら動いて狙うと思ってマシタ!」

 

「そりゃ、どうやったって当たらないわけだ……身体を動かして照準するとなると、微調整に限界があるからなぁ」

 

どうやら金剛は今まで、砲塔を動かして照準するのでは無く、自らが動いて照準していたらしい。

微調整が効かない以上、例えば、自分では少し右にずらしただけでも、目標に届く頃には、とんでもなく右にずれている、という事態が起こってしまうのだ。

 

「ところでショーイ、FCSってどうやって起動するんですカー?」

 

「さっき話した通り、君達には生体同期のシステムがあるんだから、それで何とかなるだろ」

 

「ウーン……テキトー過ぎるネ……取り敢えず、訓練スタートするヨ!」

 

金剛は、意識を砲に集中させる。すると、今までよりも砲塔が身近に感じられるような気がした。まるで自分の手のような感覚。

 

「……射撃管制システム、起動completeネ……!一番から四番、順に撃てェー!」

 

ドドドドと続けざまに主砲を連続発射する。飛んでいった砲弾も、連続して着弾し、テンポ良く水柱を連ねる。

 

「弾着確認しました。第一射目、右遠、右遠、右至近弾、右近です」

 

観測担当の吹雪がそう告げる。

 

「だそうだ金剛。修正してもう一度だ」

 

「OK!FCSに位置データをリンクするネ!」

 

生体同期機能(バイオフィードバックシステム)のおかげでリンク作業も間髪いれずに完了する。

すると気持ち、砲塔が稼働した。誤差を修正したのだろう。

 

「リロードOK!もう一度、順にテェーー!!」

 

先程と同じように順番に主砲を発射する。すると第一射よりも近い位置に砲弾が着弾した。

 

「弾着確認です。第二射目、第一陣、右近、左近、第二陣、目標狭叉です!」

 

遂に金剛が狭叉を出した。狭叉は、標的を挟んで着弾しているということなので、後は運次第だ。

 

「あともう一息だ!イケるぞ金剛!」

 

「今こそ積年の恨みを晴らしてやるデース!全主砲、fire!!」

 

金剛は狙いそのままに全主砲を斉射する。魂のこもったその砲弾達は、金剛の狙い通りに標的を貫き、どでかい水柱を上げた。

 

「目標命中です!」

 

「よっしゃああああ!!」

 

「ヨッシャアアア!!やったデース!!」

 

初めて金剛は命中弾を出したのだ。ここで喜ばずにいつ喜ぶ、といった具合に、嬉しさ余って、海上で飛び跳ねている。

 

これには、ルナもガッツポーズをとって雄叫びをあげるくらいには喜んだ。

 

「よし!金剛!この感覚を忘れない内にもう一度だ!」

 

「望む所ネ!今のワタシならどんな標的も撃ち抜いて見せるネ!」

 

金剛も、すっかり自信を取り戻して、その目は輝いているようにも見える。

 

 

なんだかんだ言っても、金剛は今の今まで、当たらないと分かっていても砲を放つのを止めなかったのだ。

それらは決して無駄では無かったことが証明された。射撃管制を行って無かった所為だとしても、偏に、金剛の努力の成果でもあっ

た。

 

(これで、私も『戦艦金剛』として、胸を張って海に出られマース!妹達に姉の威厳を見せる為にも、更に頑張らなければ……!)

 

金剛はそう胸に決め、新たな標的に向けて砲を放つ。

 

 

 

 

 

「撃ちます!fireーー!!」

 

 

 

 

 

砲弾は綺麗な弧を描いて、飛翔するのであった。

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・スコーン

元々はスコットランド方面発祥のパンのような食べ物。イギリス全土で食べられている馴染み深い、ポピュラーな物である。

金剛の作るスコーンは絶品と評判。

 

・砲撃訓練

目標となる標的を定め、それに砲撃し、命中させるという訓練。主に砲撃精度の向上の為用いられる。

使われる言葉の意味は「遠」が「目標を飛び越している」。「近」が「目標に届いていない」という意味である。

極がつくと「極めて飛び越しているor届いていない」という意味になる。

 

・狭叉

放った砲弾が、目標を挟み込むように着弾することを言う。狭叉が出るということは照準が的確である事を表しており、あとはそのまま撃てば命中を望むことができる。

 

・射弾観測射撃

弾着観測射撃とも言われる。

放った砲弾の着弾点から目標との誤差を計算等で割り出し、修正して砲撃する射撃法の一種。

航空機による空中観測や、電探によるレーダー観測など様々な種類がある。

 

・生体同期機能

B(バイオ)F(フィードバック)S(システム)とも言われる。

CMSの素体の中にあるナノマシンを通して、CMS自信の生体情報や神経情報をリアルタイムで同期し、艤装に反映するというシステム。

これによりCMSは思考するだけで艤装を稼働させる事が出来る。

 

・火器管制装置

F(ファイア)C(コントロール)S(システム)とも言われる。

兵器による正確な射撃をするため、火器を制御するための、計算などを行う装置やシステムを指す。

CMSにはシステムとして搭載されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回と次次回は感動作に出来れば良いなぁと妄想。
果たして、自分の頭足らずで書けるのか……乞うご期待!
残る艦娘はあと4人ですね!
次回もお楽しみに!


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memory10「赤城の決意」

大変長らくお待たせしました。
今回は赤城さんの回です。
ちょっと長めの、感動出来るかは読者の皆様によりますが、そんな感じのお話です。最後の方が良い感じじゃないかな?(自画自賛

それではでは!


memory10「赤城の決意」

 

 

『いやはや、まさか此れだけの戦力を揃えるとは流石ですな。やはり我々の勝利は約束されたようなモノですな』

 

『されたようなものではない。約束されているのだ。この戦力を以って、大海令第18号にあった通り、AFとAOを攻略し、米空母を誘引し、米国の航空戦力を撃滅するのだ』

 

『確か、米軍の空母はホーネット、エンタープライズの二隻でしたか』

 

『それに対し、此方は一航戦、二航戦の計4隻もの航空母艦。更に、第三、第八、第十戦隊に加え、あの第一艦隊も作戦に参加する。勝てないわけが無いだろう』

 

『そうですな!はっはっは!やはり大日本帝国は素晴らしい!』

 

『戦争も案外、早くに終わるかもしれんな』

 

 

 

ーー「……………」ーー

 

 

 

『基地攻撃隊より入電、飛行場の空襲に成功したとのことです!』

 

『ここまでは順調だな』

 

『ただ、報告によると、飛行場はもぬけの殻のように飛行機が少なかったと……』

 

『……やはり、敵索敵機を撃墜出来なかったお陰で奇襲効果は半減だな』

 

『しかし、先程の敵攻撃隊は戦闘機の直掩も無しに突っ込んで来ました』

 

『相手がヤケクソなのか、それとも本当に空母がいないのか……何方にせよ、飛行機が飛んでくるということは、まだ飛行場は生きている。第二次攻撃の要有り、との通信も入っているしな。

各艦待機中の攻撃隊に、第二次攻撃隊を編成させ、兵装を爆装に変換し待機。と通知せよ』

 

『了解、直ちに』

 

 

 

ーー「……………」ーー

 

 

 

『上空に敵雷撃機!』

 

『直ちに零戦を直掩にあげろ!』

 

『空母がいると思って無かったとは言わないが、やはりな……!』

 

『敵攻撃隊が来ます!』

 

『直掩隊を低空に下げて迎撃しろ!

 

『お前ら雷撃機なんぞ、零戦の敵では無いわぁ!』

 

『気を付けろ!敵戦闘機が妙な戦法を使ってきやがる!』

 

『報告します!我が艦の索敵機より、敵空母三隻を補足!内一隻は珊瑚海海戦で損傷したヨークタウン!』

 

『何だと!?空母は二隻じゃないのか!?それに何故ヨークタウンが出撃しているんだ!?』

 

『敵、急降下!!加賀と蒼龍が被弾!!』

 

『なっ…!』

 

『直上から爆撃だとっ…!?』

 

『直掩隊は!?』

 

『敵雷撃機との交戦で…』

 

『甲板に出てる零戦を緊急発進(スクランブル)させるんだ!』

 

『我が艦、直上に敵爆撃隊です!』

 

『対空砲火!』

 

『駄目です!間に合いません!』

 

『うわあああああああ!!!』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………っはぁ!!」

 

ハァハァと荒い息をつきながら赤城は飛び起きた。

 

 

「夢……か……」

 

 

記憶が存在そのものであるCMS(艦娘)であるが為、忘れたくとも忘れられない、忌まわしい記憶。

 

とりあえず、汗に濡れた寝間着の着物から普段着に着替える。

 

「皆さんはどうしているでしょうか……?」

 

赤城はそう呟くと、ここ最近、毎日通っている場所へ向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「全砲門、fireーー!!」

 

金剛が装備していた35.6cm連装砲四基八門を一斉射する。

 

「吹雪さんっ!回避を!」

 

「了解です!」

 

 

日差しのどかな第三訓練海域。

 

この日は金剛vs青葉&吹雪小隊に別れて、ミニミニ対抗演習を行っていた。

 

(青葉と金剛の問題は解決したし、ここいらで実戦に似せた訓練も織り混ぜていかないとな)

 

ルナはそう思いつつ、海上で訓練を行っている艦娘達に目を向けた。

 

 

「oh!アオバ!回避が上手いネー!」

 

「そういう金剛さんこそ、砲撃精度上がってますよ?危うくバイタル抜かれるとこだったんですけど」

 

「これがワタシのTrainingの成果デース!もう一度、テェーー!!」

 

「くっ、そう何度も喰らいませんよ!両舷後進面舵一杯!」

 

青葉は急減速し右に舵を切った。元々の航行コースの場所に狙いよく金剛の砲弾が降り注ぐ。

転進をしなかったら間違いなく撃ち抜かれていただろう。

 

「そんなの、無駄無駄ネー!ワタシはまだ、第三、第四主砲を残しているネ!

射撃管制システムに位置データリンク!誤差偏差修正、撃てェ!」

 

転進して速力が落ちている青葉を的確に捉える。

青葉は避けられないと踏んだのか防御兵装を起動させる。

 

「『粒子装甲防壁』展開!」

 

飛んできた砲弾が青葉の頭上で、見えない壁の様なモノに阻まれ、弾かれる。

 

「バリアーデスカ。でも所詮、重巡の装甲ネ、直ぐに撃ち抜いてあげマース!」

 

金剛はそう言うと、再装填した砲を、次から次へと絶え間なく射撃する。

 

流石にこの砲撃下では、青葉の装甲も耐えられる筈も無く、幾度目かの砲撃で遂に青葉の装甲(バリアー)は破られ、直撃弾をくらった。

 

「くぅっ!」

 

今、使用しているのは演習用の模擬弾なので実被害は一切無いが、青葉の艤装からは『大破』を示す赤い煙が上がっている。

 

「次でfinishネー!」

 

金剛がそう言い、青葉に狙いを定める。

 

「それはどうでしょうか?金剛さん」

 

青葉は、金剛の言葉にそう答えると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「………?」

 

訝しげに思った瞬間、金剛の短距離レーダーが、青葉では無い艦を補足した。

 

「一番、二番魚雷発射菅、照準良し!一斉発射!」

 

そんな元気ハツラツとした吹雪の声が後ろから聞こえる。

急いで振り向くと、当の吹雪は反転離脱を決め込み、煙幕を展張している。

 

「what's!?なぜフブキが後ろに!?」

 

そうこうしてる合間にも魚雷が金剛に迫る。到達時間を予測しても、およそ3,000を切る距離で放たれたのは間違いないだろう。

そんな近距離まで吹雪の接近に気付けないとは、と金剛は戦慄した。

 

魚雷は第一陣が広角、第二陣が狭角に投下されており、第一陣の魚雷の合間をすり抜けても、正確に放たれた第二陣が確実に当たるよう計算されて放たれていた。

 

(フブキったら、ドコでこんなtechnicを……!?)

 

金剛が魚雷に接触する。

本物とは違い、爆発は起きないが、金剛の艤装からは轟沈を示す青い煙が上がった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「みんな、お疲れ様。今日は中々良い動きしてたぞ」

 

「ありがとうございます!少尉!」

 

「とりあえず、艤装を整備班に預けてきてからコテージに集まってくれ」

 

艦娘達は、各々頷くと足早に工廠に駆けて行った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

コテージに再度集まったルナと艦娘達は、先程の対抗演習についての反省会を行なっていた。

 

「青葉も金剛も、最初の海上訓練の時と比べると、恐ろしい程に成長したなぁ」

 

ルナが指揮を始めてから半月が経っていた。

正式な辞令が出るまで、残すところ半分だ。

 

「ですよねー少尉。これも少尉あってのものですよ。青葉、感激しました!よっ、流石少尉!」

 

「な、なんだイキナリ。まぁ悪い気はしないな、わっはっはっは!」

 

「今がチャーンス!シューティング!」

 

青葉は(ふところ)から、カメラを取り出すとルナに向けてシャッターを切る。

 

「舐めるなぁ!予測済みだ!」

 

ルナは手に持っていたファイルで顔を隠して、青葉の攻撃を防ぐ。

 

「くっ……しくじりましたか……!」

 

青葉に変な写真を撮られでもすれば、後々の弱みになる可能性もあるし、何より、事実無根の新聞記事を書かれて、ばら撒かれるのがかなり怖い。

 

「コントもここまでにして、青葉、君はかなり操艦が板についてきたが、速度の増減による操艦がまだまだのようだな。今回も、急失速した所為で金剛に狙い撃ちにされていたしな」

 

「むぅ~、精進しますぅ」と青葉。

 

「金剛は殆ど文句無しだな。FCSの扱いも慣れてきてると思うし、事実、砲撃の命中率がここ最近で凄い伸びてる」

 

「それは良いんだけどサー、少尉。いつの間に、フブキに雷撃を教えていたのデスカ!?

そんなの聞いてないデース!!」

 

金剛が人差し指を突きつけながら、ルナに迫る。

 

「いや、待ってくれ。自分は吹雪に雷撃を教えた覚えはないし、吹雪はまだ特別訓練してないぞ?」

 

「え、どーゆーことデスカ?」

 

金剛が吹雪の方を向き、そう尋ねる。

 

「いえ、その……私だけ皆さんの訓練を見ているだけっていうのは嫌だったので、資料室で兵法の本を読んで、自主的に訓練を……」

 

「Really?だとしたらフブキ、メチャメチャ凄いデース!ワタシも対フブキ訓練をしなけれバ……!」

 

「どういうことですか!金剛さん~!」

 

そんなこんなで反省会が終わり、艦娘達が雑談をしている中、ルナは書類とにらめっこをしていた。

 

「どうしたんですか、少尉?何か悩み事でも?」

 

金剛からの会話攻撃を避けるように此方へ逃れてきた吹雪がそう言う。

 

「いや……まぁ、悩み事と言えば悩み事になるかもしれないけども……そろそろ、他のメンバーをどうにかしないとなって思って」

 

「あぁ…成る程」

 

「そういえば、赤城の休欠届にいつまでかが書いてなかったんだよなぁ。今どこに居るか知らないか?」

 

「赤城さんなら多分、弓道場ではないですかね?」

 

「弓道場だって?そんなもんがここにはあったのか…知らなかったな……」

 

確かに、最初の海上訓練の時に道着の様なものを着て、弓矢を持っていたなと思い出す。

 

「御存知無いようでしたら私が案内しますよ!」

 

そう吹雪が自信満々に言う。

 

「それじゃ、案内してもらおうかな」

 

「お任せ下さい!」

 

こうしてルナは、吹雪の案内で宿舎裏手側にあるという弓道場に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ーーここに立つと気持ちが静かになる。

 

 

赤城はそう思っていた。

 

焦燥や不安、夢にまで出る忌まわしい記憶も、ここに立っている時だけは忘れられる。

 

赤城は大きく深呼吸をすると、矢筒から矢を一本、スッと取り出し弓の弦に引っ掛け、大きく引きしぼった。

 

数秒間、そのままの体勢で狙いを定めると、引きしぼっていた弦を離し矢を放った。

 

放たれた矢は少し山なりに飛んでいくと、的の中心部より僅かに逸れた所を射止めた。

 

そこで赤城は構えを解き、フーっと息をついた。

 

すると後ろからパチパチと拍手が聞こえてきた。赤城は驚いて振り向く。

 

「凄いじゃないか赤城。ほぼ真ん中だぞアレ」

 

「少尉……それに吹雪ちゃんも……」

 

「稽古中に申し訳無いとは思うけど、休欠届に期限が書いてなくてね。こちらからすると、そろそろ訓練に出て欲しいんだけども…」

 

そう言うと赤城は、自分の体を抱きしめるように身を竦めてしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

「……怖いんです、海が」

 

赤城はポツリとそう言った。

 

「軍艦の記憶を持つ兵器……CMSなのにおかしいですよね。でも……怖いんです」

 

 

それを聞いて、ルナも複雑な心境になる。

 

 

書類上は確かに兵器なのかもしれない彼女達CMSだが、彼女達にも感情や感覚がある。彼女達は生きている。

その上で彼女達は、死と隣り合わせの戦場に駆り出されるのだ。

そう思えるのも当たり前だと思った。

 

 

「やっぱり……死ぬかもしれないというのが怖いのか?」

 

「もちろんそれもあるんですが、そんな事を言ったら、私の素体よりも肉体年齢が低い娘たちに格好がつきません。吹雪ちゃんとかにね」

 

「それじゃあ……一体……?」

 

 

ルナがそう尋ね、赤城が口を開きかけた時、何者かが弓道場に入ってきた。

 

 

「それじゃ、多く的に当てて、より中心に近い矢が多い方が勝ちね!」

 

「望む所よ!負けたら特大パフェよ。分かってるわね?」

 

「もちろんよ、まぁ今日も勝たせてもらうけどね」

 

そんな話し声を聞くや否や、赤城が慌てて弓道場を出ていこうとする。

 

「オイ待て赤城!!話は終わってないぞ!!」

 

ルナの制止も聞かず赤城は飛び出していく。

 

すると入ってきた何者かが赤城に気付いたのか声を掛ける。

 

「あ、赤城さん」

 

「…………っ!」

 

赤城はそれにも応えずに弓道場を出て行く。

 

「赤城さん……」

 

声を掛けたのは2人の少女達だった。背丈は赤城と同じくらいか?

常盤(ときわ)緑の道着みたいな服を着た、ツインテールの少女と山吹色の道着みたいな服を着た、サイドテール風の髪型をした少女だった。

 

「アレっ?見慣れない人がいるよ?」

 

山吹色の少女がそう言う。常盤色の少女も訝しげにこちらを見ている。

そこでルナは2人に近づいて行き、自己紹介をした。

 

「あぁ~!あなたが例の新人さんなのね!」

 

「そんな言い方失礼でしょ、私は派遣艦隊の航空母艦『蒼龍』」

 

「同じく、空母の『飛龍』、よろしくね」

 

「こちらこそよろしく……ところで、蒼龍、飛龍って言うと『二航戦』の?」

 

「さっすが少尉!よく知ってますね!」

 

 

第二次大戦当時、日本が所持していた、初めから大型の航空母艦として建造されたのが、第二航空戦隊に属していた『蒼龍』と『飛龍』だった。

 

 

「でも何で少尉がこんなところに?」

 

そう2人が聞いてくるので、ルナはカクカクシカジカと今までの経緯をかいつまんで説明した。

二航戦の2人はマルマルウマウマと納得してくれた。

 

「……ってな理由で赤城が何でああなってしまったか知らないか?」

 

そうルナが尋ねると2人は顔を見合わせた。

 

「赤城さんで……となると…」

 

「多分アレだよね…」

 

空母艦娘2人の表情に影が差す。

 

「アレって何なんだ?よかったら教えてくれないかな」

 

蒼龍と飛龍はもう一度顔を見合わせると、ルナに向かってこう言った。

 

「「ミッドウェー海戦」」

 

「ミッドウェーというと確か、日本の空母の大部分が失われて第二次大戦のターニングポイントになったと言われる海戦……」

 

「そう、そしてこの時の攻撃部隊は一航戦と私達二航戦を基幹とした『南雲機動部隊』……」

 

「その機動部隊の司令部……つまり旗艦だったのが赤城さんなんです……」

 

 

ここでやっとルナにも分かった。部隊旗艦、司令部という重荷、仲間の喪失、作戦失敗の責任、その後の戦況に影響を与える自分達の結果、それら全てが重圧(プレッシャー)となって赤城にのしかかっているのだろう。

普段は平静を装っていても、胸の内にはいつもそれらが渦巻いており、海に出るとフラッシュバックしてしまうのだろう。

 

「成る程……そういうことか……」

 

「赤城さん、その所為もあってか私達に会うとすぐにどっかに行っちゃうんです」

 

「多分、責任を感じてるんじゃないかな…私達は大丈夫なのに…」

 

蒼龍と飛龍はそういうと俯いてしまった。

そんな2人にルナは詰め寄る。

 

「お願いがある。蒼龍飛龍、自分にミッドウェー海戦について詳しく教えてくれないか?自分は記憶喪失というのもあるんだけど、あまりにも知らなさ過ぎる……だからまずは知りたいんだ。知る事によって見えてくる世界というのもあると思うんだ。だから頼む…!」

 

蒼龍と飛龍は頷くと、静かに語り出した。

運命の分岐点、ミッドウェー海戦を。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーー次の日。

弓道場には赤城の姿があった。

 

しかし、どうも憂鬱な表情を浮かべている。

 

(昨日、二航戦のあの娘達に会ったからかしら……どうも気持ちが落ち着かない……)

 

 

その時、赤城以外誰もいない筈の弓道場に声が響き渡った。

 

 

「ミッドウェー海戦、1942年6月5日に起こった、日米両空母機動部隊による海戦」

 

赤城は驚いて辺りを見回すが誰もいない。

 

(今の声は少尉…!?それにミッドウェーって…!)

 

「攻撃部隊、旗艦は赤城、以下、加賀の一航戦、二航戦と続いた。目的は米空母艦隊の撃滅。

この時、日本軍は勝利を信じて疑わなかった」

 

赤城の脳裏に蘇る記憶。連戦連勝に酔いしれて驕っていた多くの人々。

 

「ミッドウェー島への第一次攻撃は成功した。敵航空隊からの反撃も殆どが損害無しで切り抜けた」

 

「……やめて」

 

「現地時間10時10分、敵雷撃機部隊が襲いかかる。機動部隊は直掩の零戦隊でこれに応戦、迎撃する」

 

「もう……やめて……」

 

「その約10分後、艦隊上空から艦爆隊が迫る。機動部隊は、海上の雷撃隊との戦闘で上空の艦爆隊に対応出来なかった。

これにより、飛龍を除く3空母は大打撃を被り戦闘能力を喪失。飛龍もその後の空襲で同じく喪失。

結果、4空母は全て沈んだ。海戦は敗北し、日本は航空戦力の大部分を失い、その後の戦いの主導権を失う事になる」

 

 

「もうやめて!!」

 

 

赤城はそう叫ぶと、手で顔を覆ってその場に崩れ落ちた。

 

 

上空からの奇襲とも言える爆撃。

 

目の前で直撃し、燃え落ちる仲間。

 

緊急発進(スクランブル)した一機の零戦(ゼロ)

 

その直後だったーー

 

 

赤城の頭にかつての、自らの最期の時が鮮明に映し出される。

 

ルナは赤城の前に姿を現わすと更に続けた。

 

「敗北の原因は多々あると言われている。

司令部の慢心、情報漏洩、連戦による乗員の疲労、情報共有、索敵不足、装備換装。

そして、その前に勃発したセイロン沖、珊瑚海海戦の反省点を生かせなかった、生かさなかった事」

 

「…………」

 

赤城はユラリと立ち上がると、ルナに向かって弓を構えた。

 

「……逆上か?赤城」

 

赤城が弦を引きしぼる。

 

「……あなたに、何が分かるんですか……」

 

赤城は、そうポツリと言うとルナを睨みつける。

 

「あの戦争を経験していないあなたに!!私の何が分かるんですか!!」

 

赤城はルナにそう叫んだ。

 

「……確かに、自分は赤城の事なんて殆ど知らないに等しいだろう。だけどな、赤城自身にも分かってない事が自分には分かる。

お前さんは現実から逃げている」

 

赤城がルナをキッと睨む。

ルナはそれを正面から受け止め、臆する事なく続ける。

 

「過去の出来事がトラウマだからって、壁を作って遮断して、本当の自分からも目を背ける。それはただの逃げだ。何の解決にもならない」

 

「…………!」

 

「ちゃんと自分と向き合うんだ、赤城」

 

赤城はギリリと歯を食いしばり、弓をさらに引く。

 

「今を見ろ!過去から目をそらすな!自分の生き様を、記憶を、忘れてはいけない!」

 

「ーーーー!」

 

赤城はその瞬間、矢を放った。

 

空を切って飛ぶ矢。それはルナ目掛けて飛んでいく。

 

しかし、ルナは避けようとしない。

 

矢はルナの頬を掠めると、小気味良い音を立て、ルナの後ろの木壁にに突き刺さった。

 

赤城がカランと弓を手放し、床に落とす。

 

「私だって本当は分かってたんです……現実から逃げてるって事くらい……でも、どうしようもないじゃないですか……!」

 

赤城は再度崩れ落ち、肩を震わせ涙をこぼす。

 

「そんなことはないさ」

 

ルナは静かにそう言った。

 

「確かに、どんなに悔やんでも過去は変えられない。起きてしまった事を無かったことには出来ない。それは事実だよ。どうしようもない」

 

「…………」

 

「でも、『これから』は変えられる。自分達で作っていける。大事なのはそういうことじゃないかな?」

 

赤城が涙で濡れてクシャクシャになった顔でこちらを見上げる。

 

「過去を遮断して無かったことにしてはいけない。だからと言って、過去に捕らわれてもいけない。本当に大事なのは、その過去の過ちを素直に受け入れ、未来に向けて一歩踏み出す為の糧に出来るかだよ。

軍艦時代の赤城が過去だとしたら、今の赤城は艦娘だ。そして、君の未来は君自身が作って歩んでいくんだ」

 

「…………!」

 

「それに、クヨクヨしてるのは君らしくない。赤城って言ったら、もっとこう……凛とシャンとしてるって感じだから……上手く言えないけど、自信に満ち溢れてる赤城の方がカッコイイと思うんだ」

 

赤城は一度上げた顔をもう一度落とした。何かを考えている様だ。

 

しばらく、両者無言の時が過ぎる。やがて赤城がボソッと喋り始めた。

 

「……少尉は、そう言いますけど……そうやって私が海に出たら……また、あの時みたいに……失態をして……仲間が……沈んでしまうかもしれない……そんなのは……」

 

 

「「そんなこと無い!!」」

 

 

勢いよく弓道場の扉が開け放たれ、飛び込んできたのは蒼龍と飛龍だった。

 

「蒼龍……!飛龍……!」

 

赤城は何故ここに、という驚きを顔に浮かべる。

 

「少尉!約束通りに連れてきましたよ」

 

その2人の後ろからひょっこりと吹雪が顔を出す。

 

「ありがとう吹雪、ナイスタイミングだよ」

 

蒼龍と飛龍が赤城に駆け寄る。

 

「赤城さんが悪いわけじゃないよ!」

 

「そんなに責任を感じないで!」

 

蒼龍と飛龍が口々にそう言う。

 

「……だけど、私の所為でみんなが…」

 

「違う!赤城さんの所為だけじゃない!」

 

「みんな……みんな悪かったんだよ」

 

赤城は蒼龍の言葉にキョトンとする。

 

「赤城さんだけじゃないって事よ。私も、飛龍も、艦隊のみんなの責任。赤城さんが1人自分を責め続けるのは筋違いよ」

 

「そう!だから心配しないで!多分、多聞丸も加賀さんもそう言ってる!」

 

赤城はハッと顔を上げる。

 

「赤城さんがそんなんだったら、僚艦の加賀さんは心配で寝込んじゃうよ」

 

「かつて戦ったみんなの為にも!赤城さん、行こう!」

 

蒼龍と飛龍が手を差し伸べる。

赤城は躊躇して、2人に問いかける。

 

「私はもう一度……海に出ても良いの?」

 

「何、変な事言ってるの赤城さん。私達は軍艦の生まれ変わり、艦娘でしょ!海に出ないでどうするの!」

 

「船は海で活躍するもんよ!また一緒に行きましょ!」

 

蒼龍と飛龍は赤城の手を強引に掴むと、勢いよく引っ張った。

 

 

 

赤城の顔は涙で濡れていた。

 

 

だけど、さっきの涙とは違う涙。

 

 

 

「ありがとう……!!」

 

 

 

赤城は精一杯の気持ちを蒼龍と飛龍に伝えた。

空母艦娘3人の顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

「もう大丈夫みたいですね、赤城さん」

 

「だな」

 

少し離れた場所でルナと吹雪が頷き合う。

 

 

 

 

過去がトラウマで、過去を、自分を、否定していた。

 

だけど、それだけじゃ何も変わらない。

 

未来は、これからの自分。

 

今、自分がどう変われるかで、これからが変わる。

 

かつて戦って散った仲間の為にも、そして自分の為にも、

 

過去を、今を、未来を、自分を変える為にも、

 

この空と海が続いている限り、嘗ての僚艦(加賀さん)も何処かで応援していると信じて、

 

私は今、一歩を踏み出す。

 

 

 

赤城はそう、決意した。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・粒子装甲防壁

通称、装甲、バリアー。

CMSが海上に浮かぶ原理を応用した防御機構。

海上に浮かぶ為の極荷電粒子を艤装を通じて空気中に放出させ、荷電粒子自体と空気粒子自身が持つエネルギーで局地的力場を発生させ、そのエネルギーフィールドによって、攻撃を防ぐ。

耐久度は艦種によって様々。

防ぐと言うよりは弾く、逸らすと言った方が正しいかもしれない。

 

・ミッドウェー海戦

日本が米機動部隊を誘引、撃滅するため、ミッドウェー島に進出。これを米国が迎え撃つ形で勃発した海戦。

日本は戦力的優位にも関わらず、様々な要因が重なり空母4隻を喪失するという痛手を受けた。

この海戦が第二次大戦のターニングポイントという説は今尚根強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
赤城はkaeruが幼少期に大和の次に知った軍艦という事で思い入れが強いです。はい(^^;;

冒頭部分ですが、kaeruの妄想です。間に受けないで下さい。戦闘中にヨークタウンを確認出来たかどうかなんて分かりません。演出と思って下さい。

ミッドウェーについてはkaeruの適当かつ曖昧な主観でのメスを入れてます。間に受けないで下さい。
あと、初見さんにも受け入れてもらえる様、色々簡略してます。ご了承の程を。
出来る事なら評価、感想の方も宜しくです。

次回、例の姉妹と大ゲンカ!!


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memory11「天龍、龍田の意地」

毎度遅くなって申し訳ありません。kaeruです。
今週から活動を本格的に再開致します。

それと今話から1タイトルで5,000文字を超えそうな場合、1、2、3……と5,000文字前後で区切って投稿することに致しました(前話等が長くて読み疲れるとの意見が有りました故)

また何かあったらご指摘の程よろしくお願い申し上げます

それではでは!


 

 

 

memory11「天龍、龍田の意地」

 

 

 

 

「艦載機、発艦始め!」

 

いつもの第三訓練海域に声が響き渡る。

 

赤城の放った矢は勢いよく飛び、ある程度の所で光の粒となって霧散したかと思えば、光の粒は、第二次大戦期の飛行機の形に集まり、次の瞬間にはラジコン程の大きさの本物の飛行機になっていた。

 

その後も赤城は次々と矢を放ち飛行機へと変えていく。

 

「3時の方向!敵機影!」

 

吹雪の指差す先にゴマ粒のように敵機の姿が見えた。

 

「さすが、二航戦のお二方……いつの間にこちらを捕捉したのでしょう……?」

 

青葉がそう呟く。

 

「ゴチャゴチャ言っても始まらないデース。全艦、アカギを中心に対空陣形にchangeするネ!」

 

奄美の艦娘達は、赤城の周辺へと移動し対空陣形を構築する。

 

「敵攻撃隊、来ます!」

 

「上空の敵艦爆は私の艦戦隊で迎撃します。吹雪ちゃんは観測を続けて!海面付近の敵艦攻はお任せします!」

 

「青葉りょーかーい!対空戦闘、始め!」

 

「FCS、targetは敵艦攻機ネ!対空砲起動、fireー!」

 

艦隊上空で激しい攻防戦が繰り広げられる。

赤城は自らの放った九六式艦上戦闘機で、対空砲の届かない高度の敵機を迎撃し、他の艦娘達は各々の対空砲で、迫り来る敵機を迎撃していた。

しかし、機銃の作り出す弾幕をすり抜け、何機かの敵艦攻機が攻撃態勢に入る。

 

「赤城さん!5時方向、敵艦攻!」

 

「くっ……!」

 

艦攻機から投下される魚雷は、艦艇搭載の魚雷より速度は遅いものの、小回り等のきく飛行機から投下される為、艦艇魚雷よりも被雷率が高かった。

それに、今回は完璧な対空陣形を組む為の艦娘の数が、奄美の方は足りていなかった。その為、防御網は穴だらけだったのだ。

 

「各艦、回避運動始め!」

 

いよいよを持って、敵機が突入を掛けてきた。

赤城は周りの艦娘に回避指示を出す。艦娘達は各々で弾幕を展開しつつ回避行動を開始する。

 

その時、前方に出ていた青葉の短距離レーダーが数機の敵艦攻隊を捉えた。

 

「そんな……!?私達の回避が読まれてる!」

 

即座に機銃を向け、撃墜しようとするが、海面スレスレを飛ぶ艦攻機に弾が全く当たらない。

遂に、一機も堕とせぬまま防御網を突破されてしまった。

 

「気を付けて赤城さん!その艦攻機、普通のとは違いますよ!」

 

「流石、飛龍と蒼龍ね。あの高さで突入させるとは、真珠湾の時よりも腕を上げてるわね」

 

赤城は魚雷が投下されると同時に、進行方向を迫り来る魚雷の方へ向けた。

第一陣、二陣と放たれた魚雷の間をすり抜けるように避けていく。

 

そして見事、魚雷群を避け切った。しかし攻撃はまだ終わらない。

もう1つの艦攻隊が赤城に迫る。

 

ちょうど艦攻隊は赤城の正面から向かって来ており、回避はそれ程難しくないように思えた。

しかし、その艦攻隊は魚雷を投下せずに突っ込んでくる。そして、いきなり機首を上げた。

そこで赤城も気付いた。

 

「まさか!?爆撃機!?」

 

真正面から迫り来る機体は、航空魚雷装備の雷撃機では無く、対艦爆弾をひっさげた爆撃機だったのだ。

 

艦爆機は赤城の頭上を飛び越す前、ある程度の所で爆弾を投下した。水平爆撃だ。

 

水平爆撃は、急降下爆撃よりも威力や命中率が劣るのだが、雷撃を予想していた赤城にとっては、完全な不意打ちとなった。

一斉に投下された爆弾のうち、1発の爆弾が直撃する。

赤城の艤装から【小破】を示す黄色の煙が上がる。

 

「装甲損傷率28%……運が良かったわ」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ええ、心配しないで」

 

先程の攻撃が最後だったのか、敵の飛行機達が引き上げていく。

 

「何とかなりましたね……」と吹雪が呟く。

 

「今度はコッチのturnネ!アカギ!」

 

「もちろん、第一次攻撃隊、全機発艦!」

 

総数30機程の飛行機を、赤城は大空へと放つ。

赤城の顔はいきいきとしていて、飛んで行った飛行機を見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「今日は派遣艦隊の二航戦と対抗演習をしたわけだけど……まぁ、予想通りだね」

 

結果から言うと、演習は敗北していた。無理も無い。

訓練しかしていないCMSと実戦に参加しているCMSとでは、経験値に差があり過ぎるからだ。

 

「でもサー、空母1対空母2はキツイと思うネー」

 

金剛がそう愚痴をこぼす。

 

「だけど、人数で言えば2対4だし、艦載機の搭載数は赤城に合わせて同じにしてあるんだぞ?」

 

そうルナが答えると、金剛は口を尖らせて黙り込んでしまった。

 

「そう言えば、何故、機体が九六艦戦なのですか?」

 

「いや、ライラさんに掛け合ったんだけど、訓練に回せる機体がそれしか無くて…」

 

「そうですか……あの機体はやっぱり零戦(ゼロ)に慣れてしまった後だと使い勝手が違いますね」

 

「まぁ、そう言わないで……飛龍と蒼龍も今日はありがとう。いい訓練になったよ」

 

「いえいえ!こちらこそです!」

 

「私達はこれで戻りますけど、また声掛けて下さいね」

 

そう言い残すと、2人は基地庁舎に戻っていった。

その後、奄美の艦娘達も解散になったが、ルナは気になっていることを赤城に聞いていた。

 

「なぁなぁ、どうして矢が艦載機になるんだ?もしかして魔法?」

 

「魔法とかでは無いですけど……進んだ科学は時に魔法と言いますし、あながち間違いでも無いかもしれませんね」

 

赤城は矢を一本取って見せた。

 

「この矢には私達CMSにも使われている『記憶兵器技術』……通称【MW技術】が使われています。

矢にはMW技術による、エンコード&デコードプログラムが組んであって、この『飛行甲板艤装』にセットして矢を起動してから放つと、矢の分子構造……一部、原子構造まですげ替えてヒコーキになるみたいですよ?

戻ってきたヒコーキ……矢はデコードプログラムによって元に戻るという仕組みらしいです」

 

「ちょ……すげ替えるって?」

 

「えっと……なんか、この矢とかの『物』全般、物体(マテリアル)にも生物と同じく『記憶』があるらしくて、その『記憶』をすげ替えるというか、書き換えるらしくて。

例えば、この矢は、矢という物体、物質自体が『矢』という記憶を持って自覚しているから今、ここに矢として存在しているのであって、その記憶を別のモノ……ヒコーキに変えてしまえば、この矢はヒコーキになってしまう……みたいな感じですかね?

私自身もあんまりよく解らなくて……」

 

「えぇ……そんなことあり得るのか……まぁ現にあり得ているんだけども」

 

ルナは改めて記憶兵器の凄さと恐ろしさを実感していた。

この技術を悪用すれば、まさにその対象の存在を歴史の帯から抹消出来てしまう可能性もあるし、物の価値などのバランスが崩れる可能性もある。

やはり絶対不可侵領域(アンタッチャブル)の技術だと思っていた。

 

「でも……物体が分子構造から変わるとは、にわかには信じられないな……いやさっき目の前で見たけどさ。

でもそーゆー『事象』って誰かが見てないと決まらないんじゃ無かったっけ?」

 

「第三観測による決定、所謂『シュレーディンガーの猫』だな」

 

突然、背後から掛かった声にルナが振り向くと、そこにはライラが立っていた。

 

「ど……どうも」

 

「航空演習をすると言うから観に来たのだが、どうやら後の祭りのようだな。時に貴様はシュレーディンガーの猫を知っているか?」

 

「まぁ……さわり程度には」

 

「こんな子供まで知っているとは。本当に日本はシュレーディンガー好きだな」

 

 

シュレーディンガーの猫。

 

ある確率(50%)で毒ガスの出る箱に猫を入れ、フタを閉める。

勿論、毒ガスが出てしまえば中の猫は死んでしまうが、毒ガスは出ないかもしれない。

 

確率が半々である為、毒ガスの有無はまさに運だ。

 

次にフタを開ける時に、中にいる猫は死んでいるか死んでいないかという思考実験だ。

 

普通に考えると、フタを開けてみるまで中の猫が死んでいるか死んでいないかは判らない。

 

物理的に考えるならば、フタを開けてみるまで自分達には予想がつかないだけであって、箱の中の猫は生きているか死んでいるのかは、はっきりしている筈である。

 

しかし、『量子力学』では箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が ”同時に” 起こっていると考える。

 

これが所謂、『重ね合わせの状態』であり、2つ以上の事象が同時に存在しているという、量子力学で語るに外せない物になる。

 

そして、フタを開けて見る事によって、やっと猫が生きているか死んでいるかーーー『事象』が決定するというものだ。

 

 

「つまりお前は、矢の記憶が変わって艦載機になっていたとしても、誰かが観測しないとその変化の事象は成立しないと言いたいんだろう?」

 

「そ……その通りですけども」

 

「残念だが、これは成立する。何故なら、存在確率を決定するのが『記憶』であって、記憶が全ての事象の、世界のモトだからだ。

世界は確率で成り立っている、とかなんとかの突き詰めるとコペンハーゲン解釈まで飛躍するアレの確率を決める存在は『記憶』だ。

よって記憶を変える=デコヒーレンス=事象の決定という事になる」

 

「さっぱり解りません」

 

「要するにだな……滅茶苦茶凄いステキ技術だ」

 

「うわあすごいよくわかりましたよ」

 

「はぁ……まぁ、細かいところはまた詳しく解るまで教えよう。それでは私は戻るとするか。目当ての演習をやっていないんじゃ骨折り損だ」

 

そうぶつくさといいながらライラは戻っていった。

 

「あの人、一体何者なんだ……」

 

ルナは本心からそう思っていた。

 

「えーと、解って頂けましたか?少尉?」

 

赤城の困り気味の言葉に苦笑いでルナは返した。

 

「そうだなぁ、他に分かりやすそうなものは無いか?」

 

「この矢意外でですか。そうですね、龍田さんの対艦薙(たいかんなぎ)とかもそうじゃないですかね?」

 

ルナは着任当時を思い出す。

軍刀を折られ、目の前に刃を突きつけられたあの時を。

 

「確かにあの時、どこからともなく薙刀が現れたし、その後、光の粒みたいなのになって龍田の手の中に集まってたな」

 

「恐らくあれもMW技術の産物でしょう。普段は薙刀の記憶を別の何かにしてしまってるんでしょう」

 

「はぁ~成る程ね……てっきり、転送とかテレポートとか、召喚とかかと」

 

そう言ってルナは言葉を切る。

 

「……どうしました?」

 

「いや、そういえばあの2人をそろそろどうにかしないとなって思って」

 

そうなのだ。青葉、金剛、赤城と次々に問題を解決してきたルナだったが、最後の難関とも言えるべき艦娘が残っている。

 

「あの2人はなぁ……うーん……まぁ考えたって始まらないか。取り敢えず会ってみないと……って、あいつらいつも何処にいるんだ?」

 

「さ、さぁ……?」

 

ルナは大きくため息をつくのであった。

 

 

 

 

【2に続く】

 

 

 




続きます


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memory11ー2

前回の続きです


 

 

memory11ー2

 

 

 

 

基地の敷地内をぐるっと見て回ったのだが、天龍と龍田の姿は何処にも見当たらない。

基地庁舎とCMS宿舎内も見て回ったが、やはり、姿を見つける事は出来なかった。

 

「全く、どこに行っちゃったんだ?まさか……基地の外か?」

 

確か、天龍と初めて出会ったときも基地の外、かつ、外出許可を貰っていなかったとかなんとかでライラさんに怒られていた気がする。

 

早速、正門に出向き、衛兵に尋ねてみた。が、今日は誰も外へは出ていないと衛兵は言い切った。

 

いよいよを持って八方ふさがりになったルナは、取り敢えず自室に戻り、あの2人がいるであろう場所を考える事にした。

 

「あいつらの部屋も行ったがいないし、外にも出てないって言うし、どうしたものか……」

 

そう言いながらしばらくポーっと外を眺めていた。ふと、気がつくと何やら外が騒がしい。

ツナギの作業着を着た人や軍服を着た人達が走り回っている。

気になったルナは、外に出て事情を聴いてみる事にした。

 

再び外に出たルナは、その場をを仕切っているらしい作業着の人物に話し掛ける。

 

「どうしたんですか?」

 

「ん……?あぁ!誰かと思えば少尉さんかい!」

 

「あっ……えっと、艤装整備の主任さんでしたか。いつも、お世話になってます」

 

「いーってことよ!それよりちょうど良かった。お前さん、天龍の娘っ子どもの行方を知らねーか?」

 

「いえ……自分も探しているんですが、何かあったんですか?」

 

「それがなぁ、あの娘っ子どもの《メインアーマー》……よーするに、機関部艤装とか諸々が【工廠】から無くなってたんだよ」

 

「ほ……本当ですか!?」

 

「あぁ、一応、CMSの艤装は特級極秘レベルの産物だからな。もし何かあったら……」

 

「成る程、そういう事ですか……」

 

「そーゆーワケだ。少尉さん、何かあったらよろしく頼むよ」

 

そう言い残すと、整備主任は部下達に指示を出す為に戻っていってしまった。

 

ルナもいい事を聞いたと思い、捜索を再開する。艤装が無くなったという事は間違いなく彼女達の仕業だろう。それ以外に考えられないし、整備主任もそう見当をつけていた。

 

そして、持ちだしたということは彼女らは海にいるはずだ。

先程の衛兵の話から、基地の外はあり得ない。

つまり、基地内の海上演習場のどこかにいることになる。

 

ルナは考えた。第三訓練海域は先程自分達が使っていたのであり得ない。

第一訓練海域も、特別な許可が降りない限り、派遣艦隊が独占使用しているので入る事が出来ない。

そうなると残るは第二訓練海域。

 

ルナは駆け足でそこに向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

第二演習場、第二訓練海域に着いたルナだったが、案の定と言うべきか、そこに天龍と龍田の姿は無かった。

 

「くっ……一体全体どこにいるんだ……ん?」

 

ふと耳を澄ましてみると、どこからか低い地鳴りのような音がかすかに聞こえてくる。これは、砲撃音…?

 

そう思いつつ、音のする方向へ向かう。すると岸の端のフェンスに草に隠れるようにして、人ひとりが通り抜けられそうな穴が空いてるのを見つけた。

しかし、フェンスの先は草木が鬱蒼と生い茂る森だ。不安を胸に抱きながらも、ルナは穴をくぐり森の中へ入っていった。

 

森の中は、背の高い草とあいまって独特な雰囲気を出しており迷いそうだったのだが、何者かが通ったらしき跡があり、ルナはそれを辿るように歩いた。しばらくすると、樹木が少なくなり視界が開けた。

 

目の前には、海と砂浜。

 

信じられない事に、演習場外の森を抜けた先には、秘境とも呼べるビーチが広がっていた。

 

その光景にしばし見とれていたルナだったが、沖合に誰かが立っているのに気がついた。

天龍と龍田だ。

 

二人とも盗み出したのであろう艤装を装着し、海の上で相対している。

 

おもむろに龍田が砲を放った。天龍はそれを横にサッと移動して軽々躱す。それを合図に両者の間で砲撃戦が展開される。どちらも正確無比な砲撃を繰り出しているが、命中弾は無い。どちらも巧みな舵さばきで砲撃を躱している。

 

しばらくそんな撃ち合いが続いたが、遂に弾切れを起こした。

龍田は弾が切れた瞬間、保っていた天龍との距離を瞬時に詰め、天龍の左側面に回り込むと共に、右手を横に突き出した。

 

すると一瞬の内に薙刀が現れ、龍田はそれを掴むと大きく薙ぎ払うように天龍の背後から薙刀を振るった。

 

天龍はそれを読んでいたかのように、しゃがんで避ける。そして、いつの間にか右手に握られていた(ブレード)を斜め下から上へと、斜に斬りこむ。

龍田は薙刀の柄の部分を立ててそれを防ぐ。

その状態で数秒間、ガチガチと音を立てて鍔迫り合いが起こる。

一度ブレイクし、もう一度、また一度と何度も何度も打ち合う。

 

そんな一進一退の攻防が繰り広げられる。

天龍と龍田の戦闘は日が落ちる頃まで続いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

2人が海から上がったのは、もう夜と言っても差し支えがない程、日が傾いた頃だった。

 

ルナは行く手を阻む様にして、2人の前に躍り出る。

これには流石の2人も驚いたように見えた。

 

「なんだよ、誰かと思えばチビ助か。よくこの場所が分かったな。それで?何用だ?」

 

「もしかして、私の処分が決まったのかしら~?」

 

「処分の話はまた後でいい。そんなことより……いつまでも訓練をサボってなんかいないで、そろそろ参加してくれないか?」

 

天龍は暫く考える素振りをすると、キッパリとした声で「やなこった」と言い放った。

 

「……理由を聞いても良いかな」

 

「理由なんて大層なもんはねーよ。訓練をしたトコで何の意味もないってだけだ」

 

「自分達の努力は無駄だって言いたいのか」

 

「考えてみろよ。俺らE型のCMSは、N型の ”試作型(プロトタイプ)” みたいな立ち位置のCMSだぞ」

 

「……それは初耳だな。自分はN型と違って局所性が高い、と聞いていたんだが」

 

「どっちもおんなじもんだろ。古い道具はどれだけ頑張っても、新しい道具を上回ることは無い。新しい道具が出れば、古い道具は捨てられる。不要って言われてな」

 

天龍は興味無さげにそう言った。

 

「そうは言うけどな、さっきの君達の動きは並大抵のものじゃなかったと思うぞ。その技量があれば……」

 

「どれだけの技量があろうと、素体が古いんならどうしようもねーよ。本物の天龍型軽巡洋艦だって、最初期に建造された。

その後に建造された新型の軽巡洋艦と比べれば、どちらを戦線投入されたか、戦線投入するかなんて言わなくても解るだろ」

 

「…………」

 

天龍はルナの横をすり抜けて、森の中へと消えていった。

ルナは天龍の言葉に、形容しがたい、悲愴感のようなものと、今の言葉の重みを感じ取っていた。

否、感じ取れてしまったからこそ、何も言い返すことができなかったのだ。

 

天龍に続くように、龍田もその場を後にしようとする。

 

「ーーーーーー」

 

「…………っ!?」

 

龍田はルナの横を通る際、聞こえるか聞こえないかという声でそう言った。

龍田の背中が森の中へ消える。

 

「どういうことだ………?」

 

1人残されたルナは、天龍と龍田が消えていった方を見つめながら、龍田の言葉を頭の中で反芻させていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

しばらくして、ルナもビーチから戻る事にした。取り敢えず庁舎に戻らなければ何も出来ない。

 

森を抜け、穴のあいたフェンスをくぐり、第二演習場から、庁舎へ戻る道すがら、ルナは妙な建物を見つけた。

 

こちらへ来るときは只の備品倉庫に見えた建物に、赤い提灯と暖簾(のれん)が出ている。

まるで、どこかの屋台か居酒屋のようだ。

 

「何だコレ……?」

 

扉に手をかける。鍵はかかっていなかった。

中に入ってみると、ちょっとした座敷にカウンターバーのある、結構しっかりとした内装だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

突然そんな声が聞こえると、カウンターの奥から、1人の女性が出てきた。

 

薄紅色の着物に紺色の袴を身につけ、ポニーテール風に結った髪に、おっとりとした顔立ちが特徴的だ。そして少女のようにも、大人の女性のようにも見える。

 

「あら、見かけない顔ですね。ここに来るのは初めて?」

 

「あ……いや、スミマセン……ちょっと道に迷いまして~……アハハ……それでは失礼しましたぁ~……」

 

ルナは何となくその場を立ち去ろうとしたのだが、そこに女性の声が掛かる。

 

「貴方が、栄ルナさんですね」

 

「…………!どうしてそれを!?初対面のハズじゃ……」

 

女性はニコニコしながらルナの腕章を指差す。

 

「少尉ともあろうお方を、おもてなしもせずに返すのでは私の心情が納得出来ません。どうぞこちらへ。何かお飲み物でもお持ちしますね」

 

「いやでも自分、今はお金を持ち合わせてなくて」

 

「ふふふ、ここは基地内の食堂と同じ様な、基地関係者なら誰でも利用できる所なんですよ。だから、お代は頂きません」

 

女性はそう言うと、奥へ引っ込み、直ぐに戻ってきた。

ルナは勧められるままにカウンターの席に着く。

 

「はい、どうぞ」

 

差し出されたのは、黄蘗色(きはだいろ)で、炭酸が効いていそうな飲み物だった。ルナは一口、それを飲んでみる。

 

「…………!……美味しい!」

 

「それは良かったわぁ。少尉さんのお口に合わなかったらどうしようかと」

 

女性は手を合わせながら微笑んだ。

 

「多分コレ、ジンジャーエール系の飲み物ですよね?」

 

「そう、ジンジャーエールをベースに ”貴方好み” に少しアレンジしてあります。気に入って頂けて何よりです」

 

「へぇ~、自分、ジンジャーエール好きなんですよね……」

 

そう言いながら飲んでいると、コトンと小皿に盛られたふろふき大根が差し出された。

 

「飲み物と季節には合わないけれど、良かったらどうぞ」

 

ルナは「ありがとうございます」と礼を言って箸を入れる。中までしっかりと火が通っており、すんなりと箸が入る。

食べると、芯まで出汁が良く染み込んでいて、これはどんな物とでも相性抜群だ、と思う程美味しかった。

 

そんな風に舌鼓を打っていると、女性が「今日はどうかされたのですか?顔色が優れませんよ?」と聞いてきた。

 

人前では心境を表情に出さないようにしてるんだけど、顔に出てたのか。

ルナはそう思いつつも「何もありませんよ。ただ散歩してただけです」と答えた。

 

「もしかして、天龍さんと龍田さん……ですか?」

 

「うぐっ……!?」

 

ルナはビックリして大根を喉に詰まらせる。

 

「ゴホッ……ゴホッ……あなた一体……?」

 

「あら?当たっちゃいましたか?さっきここの前をあの2人が歩いて行った後にあなたが来たから、ひょっとしたらって思ったのだけれど。……良ければお話を聞いても宜しいですか?」

 

この女性相手には何を言っても無駄であろうと悟ったルナは、これまでの経緯をかいつまんで説明した。

 

「成る程、だから落ち込んでいらっしゃったのですね」

 

「落ち込んでいた訳じゃ無いですけど……ただあの時、何も言えなかったんです」

 

天龍のあの声音、あれは自分の限界を知り、諦めてしまった者の声だった。

 

「あいつらは多分、自分達の ”自信” を失くしているんだと思います。何とかしてそれを取り戻すことが出来れば……」

 

女性はそんなルナの言葉を聞いて、静かに微笑んだ。

 

「優しいのですね」

 

「え?」

 

「自分じゃない他人の為に、そこまで考えているなんて、優しいのですね」

 

「い……いや、ただ、あいつらをどうにかしないと、いつまで経っても訓練が進まないからですよ……アハハ……」

 

「あら、そうなんですか」

 

そう言いながらも女性はニコニコしながらルナを見ている。

 

「と……とにかく、問題はどうやってその自信を取り戻させるかなんですよ」

 

「お得意の説得はどうなのですか?」

 

「いや、お得意でもなんでもないですけど……というより、何ですかそれは?」

 

「あら、貴方の評判は私の耳にも届いていますよ。青葉さん、金剛さん、赤城さんに的確なアドバイスや、挫けていた心を立ち直らせたりしたこと」

 

「あぁ、成る程……ですが、あの2人に説得は通用しませんよ多分……」

 

天龍と龍田は他の艦娘と違って、自尊心が高いとルナは見ていた。自尊心が高い者の心は、折れてしまったり、砕けてしまった場合、立ち直らせることは容易ではない。

それでもってあの性格ときた。言葉でどうこうするのは無理に近いだろう。

 

「なら、違う方法を試しては?」

 

「それが中々思いつかないんですよ……うーん……」

 

「言葉を使わないで交渉まで持っていけば良いのですよ」

 

「言葉を使わないで説得とか交渉とかって、矛盾してますよそれ…………ん?」

 

ここでルナはある悪魔的考えをひらめいた。確かに、人を説得し、心を動かすには言葉が必要不可欠だが、それに至るまでなら、天龍、龍田相手ならば必要ないかもしれない。

 

ただし、ルナの考えた方法はあまりにもハイリスク。上手くいく保証が全くを持って無かった。

 

「何か思いついたんですか?」

 

「思いついたは思いついたんですけど、あまりにも無謀なので、流石にちょっと……」

 

「試してみても良いのでは?」

 

「…………?」

 

「多分、彼女らには ”その方法” が一番良いと思います。確かに、それは貴方と彼女達に深い溝を作ってしまうかもしれません。

でも、貴方ならそうならないように出来るはずです。

それに、あの娘達もその程度で折れる程やわじゃ無いはずですよ?」

 

女性はニコニコしながらルナの心の内を読み取ったかのように、そう話した。

ルナは焦燥を女性に気取られないように気をつけながら、逆に問いかける。

 

「貴女は一体、何者なんだ?自分の何を知っているんだ?」

 

「ふふふ、私は只の勘と察しが良いだけのしがない居酒屋の女将ですよ。

あの娘達を宜しくお願いしますね」

 

「…………」

 

まるでこちらの何もかもがお見通しの様にルナには思えた。

これ以上ここにいたら疑心暗鬼に駆られそうだと感じたルナは、女将に礼を言うと居酒屋を出た。

 

「本当、何なんだあの人は……だけど、あいつらをどうにかする策は出来た。後は、その場の展開次第、か……」

 

ルナは既に日の落ちた夜道を、一人歩いて戻った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「……帰っちゃいましたか」

 

居酒屋の女将と名乗った女性は、後片付けを始めながらそう呟いた。

 

「あの人がセツカちゃんの………中々良い人じゃないですか。そう思いません?

ねぇ、提督……」

 

 

 

 

 

【3に続く】

 

 

 




更に続きます


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memory11ー3

長くなってしまったので4まで分けます。
モウシワケゴザイマセン
続けて投稿するのでどうぞよろしくお願いします。


 

 

memory11ー3

 

 

 

 

 

翌日。

 

吹雪はいつも通りにコテージへと向かっていた。

コテージへと向かう中、吹雪はこんな事を考えていた。

 

最近は毎日が楽しくなった気がしますね。

 

CMSの力を持ちながらも、『役立たず』と判断され相手にもされなかった昔とは変わり、今では同じ仲間と共に訓練に励む毎日だからかな。

 

これもあの少尉のおかげですね。望むことなら、このままずっと私達の部隊に居てくれれば良いんですけど……。

 

コテージに着いた吹雪が中に入ると、同じ部隊の仲間達がガヤガヤしていた。

 

「あ、吹雪さん!おはようございますぅ!」

 

待ち構えていたかのように青葉が飛び出してくる。

 

「お…おはようございます。……何かあったんですか?」

 

何やらいつもと皆の雰囲気が違う気がした吹雪は、飛びついてきた青葉にそう聞いた。

 

「あぁ、その件ですと、先程少尉が来てですね、『今日は個人的に用事があるから、訓練は中止!』って、それだけ言ってどっかいっちゃったんですよ」

 

「ショーイが訓練をほっぽり出すなんて珍しいネ。今日はholidayネー!」

 

「少尉がいないと艤装も借りられませんからね。今日は大人しくしていましょう」

 

金剛と赤城も口を揃えてそう言う中、青葉だけは違った。

 

「い~や!少尉が訓練を中止するなんでよっぽどの事ですよ!これは大事件ですよ!

とゆーわけで吹雪さん!少尉を探しに行きますよっ!」

 

「え?っえ!うええぇぇえ!!?」

 

吹雪は青葉に腕を掴まれると、とんでもない勢いで青葉に連れ去られていった。

 

赤城と金剛は、2人顔を見合わせると、手を合わせて吹雪の無事を祈った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「少尉~~!少尉ってば~!」

 

青葉は別館(CMS(艦娘)宿舎)2階のルナの部屋の扉をドンドンと叩いていた。

 

「これだけやっても出てこないってことは部屋にはいないんじゃ……」

 

「いーや、中で引きこもって籠城してる可能性があります!コラー、少尉ー、観念して出てきなさーい!」

 

青葉が扉を叩きまくり、ドアノブをガチャガチャしているとバキッという嫌な音がして鍵が外れた。

 

「あ」

 

「あ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「壊れ……ましたね……」

 

「物騒な事言わないで下さい吹雪さん。これは壊れたんじゃなくて、開けたんです」

 

そう言って部屋の中に入る。最初の部屋の方は壁際に掃除ロッカーのようなものがあるだけで殆どすっからかんだった。

当然、ルナの姿は見当たらない。

 

隣の部屋も覗いて見ようとしたが、流石にプライベートな方はマズイと吹雪が止めにかかった。

ノックをしてみるも反応は無い。

 

「いませんねぇ~。訓練をほったらかしてどこに行ったのやら」

 

「もう捜すの止めません?」

 

吹雪の制止の声も青葉の耳に届くことはなく、青葉は部屋の中をくまなくチェックしている。

 

吹雪がため息をつきながら外を眺めていると、白の軍服をまとった青年が、半ば駆け足で移動しているのを見た。

 

「あっ!少尉!」

 

「どこっ!?どこどこ?どこですか吹雪さん!!」

 

青葉が吹雪の声に反応して一瞬で窓の所まで来た。しかし、既にルナの姿は無い。

 

「どの方向に行ったか分かりますか吹雪さん!」

 

「えっ……と……多分、第二演習場方面?」

 

「第二演習場……やっぱり何かありそうな予感です!行きますよ!」

 

ここでもやはりとんでもない勢いで、吹雪は

青葉に引きずられていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「あれぇ、いませんよ吹雪さん?」

 

「……?おかしいですね……あの方向で少尉が行きそうな所なんてここくらいと思ったんですけど……」

 

第二演習場、第二訓練海域の岸辺まで来たのだがここにもルナの姿は無かった。

 

「あのおチビ少尉め……青葉の目を欺くとは、見かけによらず中々やりますね……」

 

いや、青葉さんや金剛さんや赤城さんを実戦レベルまで動けるようにしてるんですから、結構な人ですよね?と吹雪は内心思っていた。

 

「もう帰りましょうよ青葉さ~ん」

 

「待って、これを見て」

 

青葉が指差す先の地面には、何者かの足跡がかすかについていた。

 

「ココはコンクリートの地面ですけど、ここに来るまでのどこかで湿ったトコでも歩いたんでしょうね。これを辿っていくと……」

 

青葉は岸の端のフェンスの草をかき分ける。するとぽっかりとフェンスに穴が開いていた。

 

「少尉はここに入っていったに違いありません!」

 

(何でこういう時の青葉さんはこんなにも生き生きしてるんだろう……)

 

吹雪は半分呆れながらも青葉の後をついていく。そしてフェンスの先の森を2人は歩いていく。

 

「青葉さんてば~、ここ基地の敷地外なんじゃないですか?戻った方が良いですって」

 

「大丈夫、大丈夫~。ほら、森を抜けますよ」

 

青葉と吹雪が森を抜けかける時、先のビーチに誰かがいるのに気がついた。

 

「あっ、少尉……」

 

「待って吹雪さん」

 

青葉は吹雪を引っ張り、近くの木陰に隠れた。

 

「痛い!痛いですよ、青葉さん!」

 

「しーっ、静かに、吹雪さん」

 

青葉は吹雪にそう言うと、静かにビーチの方を指差した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「まーた来たのか。懲りねえヤツだな」

 

「…………」

 

例のビーチにやって来たルナは、天龍と対面していた。龍田は少し離れた所に立っている。

 

「何度来たって訓練には参加しねぇぞ」

 

「そう言うと思ったよ」

 

ルナは大きくため息をついて言った。

 

「そんなことを言いに来たんじゃない」

 

「あん?じゃあ何しに来たんだよ」

 

「別にィ~?何をしに来たわけでも。強いて言うなら、からかいに」

 

「ハッ、昨日何も言い返せなかったからってか。考えることがチビ助だな。行くぞ龍田」

 

そう言って天龍は背を向ける。

 

「まぁーた ”逃げる” んだ」

 

「…………あ?」

 

「そうやってまたオレから距離を取るんだろ?実は訓練に参加しないんじゃなくて、お前の性格とかの所為で参加出来ないんじゃないの?」

 

天龍は足を止め、ルナに背を向けたままルナの言葉を聞いている。

 

「他の皆がお前よりも優秀になっちゃったから、今更顔出せない~。とかか?これだから、真面目に物事を取り組まない奴は。大口叩いておいて大した事ねーなー天龍さんよォ!」

 

天龍はその場を動かない。龍田も少し離れた所で無表情で立っている。

ルナの心臓はバクバクと波打っていた。

 

「あ、そっかぁ!天龍型は旧式艦だからかぁ!自分でも言ってたもんな。世界水準超えてるくせに情けないったらありゃしないね。旧式艦で役立たずの(ふね)なんてスクラップがお似合いだね!さっさと解体でもされたらどうだ!?」

 

ルナは一層声を張り上げてそう言った。

自尊心、プライドが高い奴ならこれくらいでもちょっと言えば……

 

「オイ、テメェ。それは俺を怒らそうとして言ってんのか?」

 

天龍は普段と何ら変わりない声音でそう聞いた。

 

「だったらどうするんだよ?」

 

ルナがそう答えると天龍は、くるりとこちらを向き、ゆっくりと歩いて来た。そして、ルナの目の前に立った。

 

「別によ?俺がスクラップだの何だの言われても全くムカつかないんだよ。怒らそうとしてるんだったら残念だったな」

 

「…………」

 

「ただな……」

 

天龍はそう言うと少し俯いた。怪訝に思ったルナだったが、次の瞬間ーー

 

 

 

「 ”天龍型軽巡洋艦” をバカにする奴だけはゼッテェに許さねぇッ!!」

 

 

 

ルナの顔面に天龍の拳が突き刺さる。その勢いは並大抵の物では無く、殴られた勢いだけで後ろに吹っ飛ばされた。

 

「…………行くぞ、龍田」

 

天龍はそう言って、その場を後にしようとする。

だが、そんな天龍の背中に、尋常じゃない衝撃が襲った。

 

「ガッ………!?」

 

天龍はそのままつんのめるように前から砂浜にダイブした。急いで起き上がると、そこには先程ブン殴ったルナが立っていた。

殴った頬が早くも赤くなっており、口からは血を流している。

 

どうやら天龍を蹴り飛ばしたようだ。

 

「……テメェ……!!」

 

「一発は……一発だ……」

 

ルナのその言葉に天龍のタガが吹っ飛んだ。

 

「おもしれぇ、トコトン付き合ってやるよ!!!」

 

天龍はルナに向かって駆け出した。

 

「今更、後悔しても遅いぞ!!天龍!!」

 

「コッチの台詞だ!オラァァァア!!」

 

ルナは内心、安堵していた。良かった、挑発に乗ってくれた、と。

先日、居酒屋で思いついた事、それは『喧嘩』だ。

言葉で言っても通じない時は、拳をかわすのが一番だと思ったからだ。

しかし、逆にルナの挑発で相手の心を折ってしまうと殴り合いには発展しない。ルナにとっての一番はそれだった。

どの道、身体的にも精神的にもダメージを負うこの方法。失敗は出来なかった。

 

突っ込んで来た天龍の初撃は真っ直ぐだったので、横にステップするだけでかわす事が出来たのだが、勢いそのままに天龍は後ろ回し蹴りをルナに叩き込む。

 

「……ごふッ…!」

 

幸いにも、みぞおちには当たらなかったので、ルナの動きを止めるまではいかなかった。

 

(CMSとはいえ、艤装を着けてなきゃ只の運動神経がいいちょっと強い女の子だ。早いとこ決めてやる!)

 

天龍が体勢を立て直す前に、ルナは天龍の軸足目掛けてキックを決めた。

天龍は仰向けになるように地面に転がった。

 

(まずは……動きを止める!)

 

そのまま組み伏せようと思ったのだが、天龍はバク転の要領で、起き上がり際にサマーソルトキックを繰り出した。

これを予想だにしなかったルナは、天龍の蹴りをアゴにモロに食らった。

 

更に天龍はタックルでルナのバランスを崩しにかかる。

ルナはよろめいたが、バランスまでは崩さない。アゴにモロに食らった蹴りだったが、横から食らうよりは幾分かはマシだったからだ。

 

天龍が上体を起こすのに合わせて、ルナも渾身の拳を叩き込む。

この際、女の子だからとかそんな悠長なことは言ってられない。手加減無しで殴り飛ばす。

 

「ぐッ……!」

 

ルナはちらと龍田の方を盗み見たが、龍田はこちらを見てニコニコしている。参戦する気は無いように見えた。

 

(あいつ……どういうつもりなんだ?)

 

「余所見してんじゃねぇぞ!!」

 

見ると、渾身の力でブッ飛ばしたはずの天龍が、既に体勢を立て直し、ルナに躍りかかって来ていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「(あわわわわ……なんか殴り合いが始まっちゃいましたよ!)」

 

「(成る程、少尉はあのお二人を説得するために訓練を中止したんですか。これは納得です)」

 

「(何を冷静に分析してるんですか青葉さん~!)」

 

木陰から、突如始まった殴り合いを観戦していた青葉と吹雪は、見つからないようにヒソヒソと話していた。

 

「(でも実際問題、我々がどうこう出来る事じゃ無いです。これは少尉とあの2人の問題です)」

 

「(そうですけど……)」

 

「(ここは、大人しく結末を見届けましょう)」

 

「(……わかりました)」

 

そうは言ったものの、吹雪の頭の片隅では、何処か違和感のようなものを感じていた。

 

(何だろう、この違和感……いや、既視感?……気持ちが落ち着かない……)

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

天龍とルナの攻防戦は、かなりの間続いた。

殴っては殴り返し、防いでは殴り返し、蹴られては蹴り返すといったように、両者一歩も退かずに戦闘を続けていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……へっ、チビ助の割には……中々やるじゃねぇか……」

 

流石の2人も体力が底をつきかけており、肩で息をして互いの距離を測っている。

 

「天龍……お前が訓練に参加すると言うまで……この闘いは終わらないぞ…………!」

 

「テメェを潰して否が応でも終わりにしてやるよッ!!」

 

天龍のフックを腕で受け、キックを貰い、腹にパンチを決め、両者クロスカウンターで互いに後ろにぶっ飛ばされる。

 

「………ぐッ……ふッ……!」

 

(クソッ!何なんだこのチビ助は!?)

 

もう既にボロボロな2人だったが、未だに戦意は衰えない。

 

「何でだ……何でそんなに俺に突っかかるんだ!」

 

「ほっとけないからに決まってるだろッ!」

 

今度はルナの方から仕掛ける。ルナの拳は天龍にクリーンヒットし、天龍は砂浜に転がった。

 

「……余計な御世話だ……!俺に構うんじゃねぇ……弱い役立たずは、使われなくなるさだめなんだよッ!」

 

「それが、ほっとけない理由なんだよ!解らないのか!!?」

 

ルナはもう一度パンチを繰り出すが、逆に脇腹に回し蹴りを食らってしまった。

 

「ぐぅぅッ……!」

 

しかしルナはそのまま天龍の脚を掴むと、顔面にむけて掌底を叩き込んだ。

 

「ガハッ……!」

 

天龍もタダでやられることは無く、掴まれていた脚を力任せに振るい、ルナの上体を蹴り飛ばした。

 

想像以上に長引く闘いに、2人の限界はとっくに超えていた。

 

「………この……手段だけは……使いたくなかったが……しょうがない、覚悟しろッ!」

 

「………ッ!?」

 

天龍は力を溜める仕草をすると、次の瞬間、一足飛びでルナとの距離を詰めた。比喩はない。まさに ”一足” でルナとの距離を詰めたのだ。

 

反応する間も無く、ルナの顔面に正拳突きが炸裂する。

 

「…………何…だ、今の……!」

 

先程とはうって変わった動きに危険を感じたルナは、ぶっ飛ばされた勢いそのままに、即座に距離を取った。

が、いつの間にか後ろに回り込んでいた天龍に回し蹴りを食らう。

 

(この動きは……間違いなくCMSの覚醒時の動き……!だけど……体内のナノマシンを起動させるためには……)

 

「艤装が必要なハズなのに、何故CMSの力を……って顔してんな」

 

「……………」

 

「教えてやるよ、艤装を装着していなくても20分程度なら、体内にある予備エネルギーでナノマシンを起動する事が出来んだよッ!」

 

またもや、常人ではあり得ない速さで距離を詰め、ルナに乱打を浴びせる天龍。ルナは防御すら出来ずにいた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「(天龍さん、ナノマシンを……!)」

 

「(ただの人間相手に……殺す気ですか!?)」

 

傍観していた吹雪と青葉も、天龍が体内のナノマシンを起動させた事はすぐに分かった。

 

目の前では、ルナがなす術なく天龍にやられている。

その光景を見ていた吹雪は、遂に我慢が出来なくなり、木陰から飛び出していった。

 

「あっ、ちょっ、吹雪さん!」

 

青葉も吹雪の後を追いかける。

 

「もう止めて……止めてください!!」

 

「吹雪さん!危ない!」

 

吹雪が飛び出していった矢先、あと一歩前のところに何かが凄まじい勢いで飛んできて、砂浜に突き刺さった。龍田の対艦薙だ。

 

「あら~、邪魔しないで貰えるかしら?」

 

「龍田さん…… ”ルナ” を殺す気ですか!?」

 

吹雪が龍田に対してそう叫ぶ。龍田はポカンとした顔で「そんな訳あるハズがないでしょ?」と答えた。

 

「あの少尉なら大丈夫よ~。あの人なら、必ず天龍ちゃんを『治して』くれるハズよ」

 

「…………龍田さん、詳しく話を聞かせて頂いても宜しいですかね?」

 

青葉が真剣な態度で龍田にそう訊ねる。

 

「ええ、いいわよ。だけど、あの2人を見てたら自ずと分かるんじゃないかしら?」

 

「…………!」

 

青葉と吹雪と龍田は再び、例の2人に目を向けた。

 

 

 

【4へ続く】

 

 




同時に投稿した4をどうぞ


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memory11ー4

memory11完結です


 

memory11ー4

 

 

 

 

 

 

ルナは血だらけだった。意識も朦朧としてきた。

 

(やばいなぁ、まさか体内ナノマシンを起動出来るとは……完全に読み違いだ)

 

「怖くて声も出ねぇかぁ?オラオラァ!」

 

相変わらず天龍は人ならざる動きでルナに打撃を浴びせ続ける。

 

避けることもままならないルナは、防御の姿勢のまま、天龍の打撃を受け続ける。

 

(さっき、艤装無しで起動出来る時間は、20分程度と言ってたな……それまで耐え続ければ……ッ)

 

ルナは天龍の拳をひたすら受け続ける。

とても軽いとは言えない天龍のラッシュだが、持ち堪える事は可能だと判断できた。

 

ただし、此方は常時防御の構え、反撃は出来なかった。

 

「持久戦に持ち込むつもりかぁ!?チビ助よ、ソイツは悪手だったなぁ!!」

 

天龍は一旦退くと、走りのスピードに身体の回転を存分に加えたハイキックに似た回し蹴りをルナに叩き込んだ。

 

「…………ッ!?」

 

ルナは左腕を立てて蹴りを防いだ。

 

……のだが、スピードと回転の遠心力が掛かった回し蹴りは今までのどの攻撃よりも重く、防御の姿勢を取っていたルナを軽々しく吹き飛ばした。

 

「うぐぅぅっ!」

 

左腕に尋常じゃない痛みが響く。

これは軽く見ても、骨にヒビは入っているだろう。

 

「分かったかチビ助。もうテメェに防御(ガード)は出来ねぇぞ」

 

防御破壊(ガードブレイク)。天龍の一撃はそう呼ぶのに相応しかった。

 

「しっかしまぁ、ナノマシンを起動させたオレの蹴りを喰らって倒れなかった奴はテメェが初めてだよ。これに免じて、今そこで倒れればトドメは刺さないでやる」

 

天龍の言葉が終わるや否や、ルナは駆け出す。

 

「よっぽど死にたいらしいなァッ!!」

 

天龍は軽くいなすと、ルナのみぞおちに膝蹴りを繰り出し、うずくまったところに肘鉄をお見舞いした。

 

「……ッ……ガッ……!」

 

天龍の足元に倒れ伏すルナ。今度はピクリとも動かない。

 

「…………ふん」

 

その場を立ち去ろうと歩き出した天龍。だが、ルナは天龍の足をガシッと掴み転ばす。

 

「まだくたばって無かったかチビ助!」

 

天龍はルナの首を掴み放り投げる。体内ナノマシンの起動で身体強化されているとはいえ、とんでもない腕力だ。

 

「ぐふっ………がぁ………!」

 

CMSでも何でもない、ただの人間であるルナの身体はもうボロボロだった。

 

「もうヤメろ、チビ助。これ以上は死ぬぞ」

 

「…………」

 

しかし、ルナは立ち上がる。膝に手をつき、肩で息をしながら。

白い制服はところどころ血に染まり、赤くなっている。

 

「テメェ………!何故そこまで……!」

 

「……お前を……『救う』為……!」

 

ルナは最後の力を振り絞って駆け出す。

 

(天龍……!何が何でもお前を……!)

 

ウオオオオと雄叫びをあげ、天龍に突っ込む。

 

「この野郎がァッ!!」

 

天龍は向かってくるルナを返り討ちにしようと、カウンターパンチを繰り出す。

 

「!?」

 

しかし、天龍のカウンターパンチが当たる前にルナの姿が消えた。

 

(下ッ!?)

 

ルナは間一髪、天龍のカウンターをしゃがんで躱していた。

 

(バカなっ!CMSの力を使ったパンチだぞ!?ボロボロの一般人……しかもパンチのスピードとカウンターのタイミングから、躱せるワケがない!!

マグレ避け……もしくは先に此方の攻撃を読み切っただとォ!?)

 

下から天龍を見上げるルナの目は、殴られ、血を流したからか紅く染まって、鋭い眼光で天龍を射抜いていた。

 

この時、初めて天龍の背筋に悪寒が走った。

 

ルナは渾身最後の力でアッパーを繰り出す。

 

鋭く放たれたルナのアッパーは、天龍の顎を的確に捉えーー

 

 

「ッ!!」

 

 

ーーる事は無く、天龍の前髪を掠める。

 

天龍は逆にその腕を掴み、ルナの懐に潜り込み、当て身一発をお見舞いした後、背負い投げで放り投げた。

 

受け身をする余裕なんてサラサラ無いルナは、投げられた体勢のまま砂浜に落ちた。

 

「ぐっ………アァ……!」

 

天龍は肩で息をしながら、ルナの姿を見ていた。が、もう立ち上がりはしなかった。

 

(危ねぇ……最後のアッパーの時、アイツがバランスを崩さなければ、やられていたのは俺の方だった……!)

 

天龍もがっくりとその場に膝をつく。

満身創痍だった。

 

「ふ……ははは……はっはっは……」

 

その時、夕暮れが迫るビーチにルナの笑い声が響いた。

 

天龍はキッとルナを睨むや否や、踊りかかり襟首を掴んで引き起こし、拳を振り上げる。

 

「テメェ!!何が可笑しいッ!!」

 

ルナはゴホゴホと咳込むと天龍に言った。

 

「この……嘘っぱち天龍が………ゴホッ……何処が弱いんだよ……」

 

「…………何?」

 

「……お前は、こんなにも……強いし……それに見合う……優しい心も持ってるじゃないか……」

 

「…………」

 

「その気になれば……一般人の自分なんて……すぐ殺せるだろう……?それなのに……わざと手加減して……本気の一撃だって、絶対に急所は外してたろ…………ご丁寧に、『もうヤメろ、死ぬぞ』なんていう忠告までして………」

 

天龍は、襟首を掴み、拳を振り上げたままで黙って話を聴いている。

 

「がはっ……ごふっ………本当に解体……処分を望んでんのなら、今ここで自分を殺して…………

なのに、それもしない……つまりまだお前は………口では色々言ってたが、まだ諦めて無いんだろ?

自分が馬鹿にされても…… ”天龍型軽巡洋艦” を馬鹿にする事は許さない……お前の『信念』がその……証拠だ……」

 

ルナはそう言って激しく咳込む。

 

 

天龍は掴んでいた襟首を離した。

 

 

「興が削がれた。……行くぞ、龍田」

 

「あらぁ~もういいの?天龍ちゃん?」

 

龍田は砂浜に突き刺さっていた対艦薙を手に取ると、天龍の後を追って、森の奥へ消えていった。

 

 

弾かれた様に、青葉と吹雪はルナのもとへ駆け寄る。

 

「ルナっ!ルナっ!しっかりして、ルナぁ!!」

 

「落ち着いて吹雪さん!とりあえず応急処置だけでも……!」

 

「……吹雪に……青葉………何故ここに……」

 

「少尉は黙ってて下さい。吹雪さん、今すぐに救急班の手配を!私は少尉を運んで行きますから!」

 

「嫌ぁっ!死なないでっ!死んじゃだめっ!ルナぁっ!」

 

「……落ち着け……吹雪…………ただのケンカで、死ぬわけ……ないだろ」

 

そう言ってルナは意識を失った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

それからルナが意識を取り戻したのは、その日の夜、病室のベッドの上だった。

 

「あ、目が覚めましたか少尉!」

 

「大丈夫ですか!?少尉、気分は如何ですか?」

 

「青葉に吹雪……自分は……?」

 

全身包帯グルグル巻きのマミー状態。

右脚は捻挫、左腕の骨にはヒビ、打撲、その他怪我は数知れず。結構危ないとこだったと基地の医者は言っていたらしい。

 

あの後、青葉がここまで運んできたらしく、吹雪は落ち着きを取り戻した後、無理を言って、医者の手伝いをしていたらしい。

 

「あの時の吹雪さんの取り乱しっぷりには、青葉も驚きましたよ」

 

「すみません少尉……私どうにかしてたみたいで………あんまり覚えて無いんですが……」

 

「大丈夫だ。ありがとう2人とも。ところで天龍達は……?」

 

「あぁ……いつも通りにどっか行っちゃってますよ。今回はコレがあるんで、捜索隊まで出して探してますけど」

 

「後でライラさんか征原司令に、あの2人は無関係だからって伝えておいてくれ……」

 

「………了解致しました。不肖青葉、少尉の伝言、責任を持ってお伝え致します。

それでは少尉、お大事に~!」

 

青葉はそう言うと病室を出て行った。吹雪はまだ出て行こうとしない。

 

「少尉……私……」

 

「大丈夫だ、吹雪。心配するなよ。そう簡単にはくたばらないよ、自分は。

今日はもう遅いから、吹雪も休んでくれ」

 

その言葉に吹雪はコクンと頷くと「それでは少尉、おやすみなさい」と言って病室を出て行った。

 

ルナも今日は疲れたと、そのまま眠りについた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

次の日は念のため1日安静を取り、その次の日、ルナはいつものコテージに顔を出した。

 

「wow!?ショーイ!?もう動いて大丈夫なんデスカー?」

 

「やぁ、金剛。心配してくれてありがとうな。ご覧の通り大丈夫だ」

 

「全然大丈夫に見えないのですが……」

 

赤城がルナの姿を見てそう言う。

 

当の本人は、松葉杖に、右足、左腕、首にギプスをつけ、いたるところにまだ包帯を巻いている。

 

「訓練の指示を出すだけなら問題ないからな……ところで天龍と龍田は……」

 

「いえ、来てないですけど……」と赤城。

 

ルナは一言、「そうか」と呟いた。

 

「それじゃあ、今日は海上訓練から始めるぞ~。艤装使用許可は取ってあるから、工廠で借りてきたら第三演習場に集合だ」

 

ルナがそう指示を出していると、バァンと扉が開け放たれた。

 

全員ビックリして振り向くと、其処には天龍と龍田が立っていた。

 

「天龍……龍田……」

 

「よぉ、ご無沙汰だな。俺も訓練に混ぜて貰おうか」

 

その天龍の言葉に一同がどよめき立つ。

 

「…………何だ?やっぱり不満か?だったら別にいいけどよ」

 

「いっ、いえ!そんな事ないです!」

 

「むしろ大歓迎ネー!」

 

「これで、6人揃って訓練が出来ます!」

 

ワァーッと奄美の艦娘達が騒ぎ出す。

 

「天龍……お前……」

 

「おっと、勘違いするなよ。俺は俺の気分で参加するだけだ。指示を素直に聞くとは言ってねーからな」

 

天龍はルナを指差しながらそう言う。

 

「それに、俺は絶対に謝らないからな!」

 

「あぁ、別にいいけども……」

 

「…………だけど、感謝はしてる……ありがとな」

 

天龍はそっぽを向いて、ボソッとそう言う。よっぽど恥ずかしかったのか、顔を赤くしている。

 

ルナは意外な言葉に面食らったが、すぐにニヤニヤ顔で天龍を見返す。

 

「おろ~?どったのかな天龍ちゃ~ん?お顔が真っ赤だよぉ~?」

 

「前言撤回だ!やっぱり殺す!!」

 

暴れ出そうとした天龍を、青葉が羽交い締めにする。天龍は手足をバタバタとするばかり。

 

その格好が面白くて、誰からと言わず笑いが溢れた。

ルナの側に龍田が近づく。

 

「ありがとう、天龍ちゃんを元に戻してくれて」

 

「いまやっとあの時の言葉の意味が解ったよ」

 

天龍と龍田を見つけた日、龍田がすれ違い様に言った言葉。

 

ーー『期待してるわ』ーー

 

「私がどうこう言っても天龍ちゃんは治らなかったわ。つまり、そーゆー事」

 

「……なるほどねぇ、おかげさまで自分は重体と」

 

「でも、成果は比べ物にならない……でしょう~?」

 

龍田はニコニコとそう言う。ルナも「そうだね」と答え、奄美の艦娘達を見回す。

 

「オイっ!何時までこうしてるつもりだよ!」

 

天龍がルナに向かってそう言う。

 

「さっさと行こうぜ、 ”少尉” !」

 

「………よぉし、奄美部隊!訓練場に移動だぁー!!」

 

奄美の艦娘達はワァーッとコテージを飛び出していく。

 

 

 

「へっ……見せてやるぜ俺様の実力を……何たって、世界水準軽く超えてんだからなぁ!!」

 

 

 

以前とは違う、天龍の明るい声が基地内に響き渡った。

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・水平爆撃

爆撃可能飛行機の爆撃法の1つ。

通常飛行のコース、同高度から爆弾を投下する方法。

航空機は比較的安全に爆撃を行う事が出来るが、命中率は低い

 

 

・九六式艦上戦闘機

当時海軍では初となる、全金属製単葉翼の艦上戦闘機である。

後継機の「零戦」が登場するまで艦戦の主役を飾った。

 

 

・記憶兵器技術

通称「MW技術」

記憶兵装をあらゆる兵器に搭載するという技術全般を指す。

記憶という不確定原理に干渉する技術なだけあって、搭載した兵器は様々な能力を有するようになる。

 

 

・シュレーディンガーの猫

1935年、オーストリア出身の論理物理学者「エルヴィーン・シュレーディンガー」によって提唱された思考実験の1つ。パラドックスでもある。

簡略的に説明すると、

 

箱の中にネコと、50%で毒ガスが出る装置を一緒に入れる。

 

箱のフタを開けた時、中のネコは生きているか死んでいるか?

 

というもの。

普通に考えるならば、箱の中は、予想が出来ないだけで、ネコが死んでいるか生きているかは、フタを開ける前に決まっているはずである。

しかし、量子力学では箱のフタを開けてみるまで、箱の中のネコは「生きていて死んでいる」という矛盾した状態(重ね合わせの状態という)になっていて、フタを開けて見る事によって初めて結果が決まると考える。

 

この思考実験によって、今日では量子力学の基本となっている「重ね合わせの原理」と「観測による事象の決定」が確立された。

 

 

・デコヒーレンス

上記の重ね合わせの状態が崩壊し、事象が決定する事を言う。

 

 

・工廠

軍直轄の軍需工場のことである。

陸海空の兵器は勿論、CMSの艤装を整備、改装する場としても活用されている。

 

 

・対深海棲艦用近接モジュール

通称「対艦(武器名)」

深海棲艦を近接攻撃する為に開発された、攻撃用モジュール。

深海棲艦のエネルギーフィールドと装甲を破る事が出来るようMW技術が搭載されている。

 

例として、龍田の持っている薙刀や天龍の持っている刀などが挙げられる。

 

 

 




なんだかんだでmemory11だけで伏線5つくらい張ってます(^^;;

次回、奄美部隊、出撃せよ!!


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memory12「汚名返上」

やっと作者の好きなシーン「海戦」シーンが書けそうです(^^;;

それと祝!朝潮改二!これで別の朝潮型なら泣きます。

それではどーぞ!


 

 

memory12「汚名返上」

 

 

 

 

 

 

「よぉーし!訓練中断!休憩してくれー!」

 

桟橋に立っていたルナが、沖合に出ている艦娘達にメガホンでそう指示する。

 

今日はいつもの第三訓練海域では無く、それよりも少し広い第二訓練海域で、艦隊陣形の訓練をしていた。

 

「あぁ~やっと休憩だぁ~」

 

「流石に今日は疲れたネ~」

 

桟橋にいち早く着いた青葉と金剛がそう言いながら陸に上がる。

 

「確かに、今日の訓練はいつもより繊細なテクニックが求められるものでしたからね」

 

続いて赤城がやって来て、桟橋に腰掛けた。

 

海上戦闘において、仲間との連携は最重要事項の1つとなる。

その中でも重要視されるのが『陣形』だ。

仲間と陣形を組むことによって、単艦では成し得ない、攻撃や戦略を生み出す事が出来る。

 

今回訓練していた陣形は、艦隊陣形の基本である『単縦陣』を始め、護衛、対空戦闘に特化した『輪形陣』、また、各艦の航行技量が問われる『単横陣』などだった。

 

「繊細なテクニックだのなんだのより、要は気合いってこったろ?天下の重巡様がこんなんでへばるとは情けねぇなぁ」

 

そう言いながら天龍と龍田も戻ってきた。

数日前、ルナとの死闘の果てに更生して訓練に参加している天龍。

最初は「てめーの命令なんぞ聞くか」とブツブツ言っていた天龍だったが、いざ訓練が始まると、誰よりも真面目に取り組み、並ではない結果を出していた。

最近では、誰よりも早く演習場にいることも少なくない。

 

「ぐぅ……!言わせておけば……今度天龍さんのあーんなことや、こーんなとこを新聞にして掲示板に貼っつけちゃいますよ!」

 

「ハッ!この俺に恥ずかしい事なんて1つもない……」

 

「(この前、お風呂場の体重計に乗って顔真っ青にしてたのはどこの誰ですかね?)」

 

青葉が小さな声でボソボソっと言う。

 

「っ!?お前どこでそれを!?あんときは龍田と俺しか………」

 

そこまで言って天龍もハッとする。くるりと後ろを向くと、龍田がニコニコ顔で立っていた。

 

「いやぁ~だってね天龍ちゃん。間宮の羊羹を渡されちゃったらもうどうしようもないじゃない?それに、面白そうだったから~」

 

「ふ・ざ・け・ん・なぁー!!羊羹くらいで釣られんじゃねーよ!ってか面白そうって何だよ!オカシイだろ!」

 

「あっ、まだ残してあるから天龍ちゃんにもあげるわね」

 

「そういう問題じゃねー!!………こんの、ストーカーヤロウがぁ~!」

 

先程の疲れはどこへやら。青葉は天龍から全速力で逃げ出した。天龍も右手に(対艦ブレード)を持って追いかける。

 

龍田はその場でクスクスと笑っている。ある意味、龍田が一番おっかないかもしれない。

 

「楽しそうで何よりですね!少尉!」

 

「……まぁ、楽しそうだしいいか。喧嘩するほど仲が良い、と言うし」

 

ルナの近くに戻ってきた吹雪が、捕まったら即死の鬼ごっこを見てそう言う。

 

「それにしても、みんな最初の時とは比べ物にならないくらい上手になったよね。凄いもんだ」

 

「いえいえ!これもそれも全部少尉のお陰ですよ!」

 

始めてここに来た時は、本当に大丈夫かこの部隊、と思った程にヒドイ有り様だった。

 

カタログスペック以下の性能、不安定な航行、命中弾無し、海へのトラウマ、訓練不参加と様々な問題があった。

 

それが今では、艦隊陣形の訓練が出来るほどまでに成長した事は、物凄いことである。

 

「そんな事は無いさ。こっちはただ、アレやれコレやれと指示を出してただけに過ぎない。みんなの努力の成果が、結果として出ているんだよ」

 

「だとしても、少尉抜きではここまで来られませんでした。だから、少尉のお陰ですよ!」

 

「そうなのか?まぁ、それなら良かったかな」

 

そう言って、会話が途切れる。ルナの後ろでは青葉が天龍に捕まって、今まさに裁きを受けようとしていた。

 

「ですから、その……このままこの部隊に居てくれるといいなぁって吹雪は思うのですが……」

 

「ん?あぁ、そうだなぁ。この仕事、結構自分に合ってると思うから、出来れば続けていきたいな」

 

「本当ですか?やったぁ!」

 

吹雪は傍目でも分かるぐらいウッキャーと喜んでいる。

 

「そうなの~?だとしたら、そろそろじゃないかしら?」

 

「何がだ?龍田?」

 

「そろそろ期限の1ヶ月が経つんじゃないかしらぁ~?」

 

龍田の言葉にルナが固まる。

 

そう言えばそうだった。確かにそんなのがあったなと、今更ながらに思い出す。

 

恐らくは自分の意思で継続かそうで無いかを決められるとは思うが、初めての紹介の時、ライラが『正式な辞令は、期間内の様子を見て』と言っていたことから察するに、ルナが、この基地の部隊の指揮官として、上層部に認められなければ、この仕事を継続することは出来ないのであろう。

 

「そうか……だとすると何だ?何で是非が問われる?訓練か?演習か?派遣艦隊の方と対抗演習という可能性も…………」

 

ルナは頭を抱えてブツブツと何かを言い始めた。

 

「そんなに心配する事も無いと思うけど~?」

 

龍田の声はルナには届かない。完全に思考の世界に行ってしまったようだ。

吹雪も苦笑いでその様子を見ていた。

 

そんな、訓練と訓練の合間のゆったりとした時間に、突如としてサイレンが鳴り響いた。

サイレンの音は、ルナを思考の海から連れ戻すのに充分過ぎる音量で鳴らされた。

 

「な……なんだ……?」

 

「何事ですかっ!?」

 

奄美の艦娘達とルナは突然のサイレンに驚き戸惑う。

そしてスピーカーから、アナウンスが聞こえてきた。

 

 

 

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。

基地接続海域、エリアB付近に深海棲艦の中規模艦隊を突如補足。

現在、哨戒に出ていた基地哨戒艦と、遠征帰還途中の艦娘部隊、派遣第二遠征艦隊が敵艦隊と交戦中。

交戦報告から、敵艦隊には『航空母艦』を伴う模様。

防衛隊各員は、至急持ち場へ付き、援護射撃を敢行せよ。また、防衛艦隊は全艦出撃し、攻撃を受けている哨戒艦、及び艦娘部隊の撤退を援護せよ。

尚、基地所属の階級『少尉』以上の者は、直ちに作戦会議室(ブリーフィングルーム)に集合して下さい。

繰り返す…………』

 

 

 

スピーカーからはそんなアナウンスが聞こえてきた。

 

「エリアBだとっ!?何でそんなトコまで奴等の侵入を許しているんだ!?」

 

天龍がそう叫ぶのも無理は無い。

エリアBというと、『基地近海海域』と基地の『絶対海域』(商業用船舶等が停泊している、港湾を含めた海域)とを結ぶ『接続海域』と呼ばれる海域の中層部分を指す。

 

絶対海域に近い方からA、B、Cと区切られており、実質、近海海域で敵の侵攻が迎撃出来なかった場合の ”最終防衛線(ボーダーライン)” が接続海域となる。

 

その海域の中層にあたるエリアBに『空母』が侵入したと言うのだ。恐怖を感じない方がおかしい。

 

「基地レーダーに引っかからないという事は恐らく『軽空母』でしょうけど、危険なことに変わりありませんね」

 

赤城が冷静に現状を分析する。

 

「とにかく、君達は艤装を工廠に預けてコテージで待機。自分は召集がかかってるから庁舎に戻る」

 

艦娘達は「了解!」と返事するとテキパキと動き始めた。

ルナも駆け足で庁舎へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「栄ルナ、入ります!」

 

作戦会議室に着いたルナは一言、扉の前でそう言うと中に入った。

 

中には、10人にも満たないであろう人達が無線で連絡をとっていたり、紙書類などを渡しあったりしていた。部屋の真ん中の机には、基地周辺の地図が広げてある。

 

「ライラだ。入る」

 

ルナの後にライラが入ってきた。表情はさえない。

 

「おい、レーダー!Bまで攻め込まれて探知出来ないとはどういう事だ!」

 

「申し訳有りません少佐。どうやら奴等はECM(電波ジャミング)をしているらしく、基地のレーダー、及び一般無線の使用が著しく困難な状態に陥っています」

 

「ジャミングだと?彼奴らめ、ココを本気で落としにかかって来たか」

 

ライラがチッと舌打ちをしていると、トウが入ってきた。

 

「ワシだ。状況は?」

 

部屋の中の全員がトウに敬礼する。トウは手で制すと情報部に話を促した。

 

「はい。現在の状況を報告致しますと、まず、現在侵攻中の敵部隊は『空母ヌ級』2隻、『重巡リ級』1隻、『駆逐ロ級』が2隻、計5隻の前衛艦隊と思われます」

 

「前衛艦隊だと?本隊がいるのか」

 

「現在、深海棲艦による電波妨害が激しく、詳しくは分かりませんが、基地レーダーと哨戒艦とのクロスチェックで、本隊なるものの影を捉えたとの情報があります」

 

「ふむ……交戦状況は?」

 

「はい、始めに哨戒艦が敵艦隊を発見。情報を打電したところを気付かれ、戦闘に発展したものと見られます。哨戒艦は、駆逐級の砲撃を艦尾に受け、航行不能となっています。

現在は、運良くその場に居合わせた艦娘部隊の派遣第二遠征艦隊が交戦中であります」

 

机の上に広げられた地図に、船の駒などを置いて現状を示していく。

 

「ただし、遠征帰還途中であることも重なり、かなりの苦戦を強いられている模様。現在は哨戒艦を曳航、護衛しつつ、距離を取るようにして交戦しながら撤退を始めているとの事です」

 

情報部の人が話終わると、次は防衛班が話を引き継いだ。

 

「この事態に対し、防衛班は第一から第二の全ての艦に出撃を命令。それとともに、基地砲台からの援護射撃を敢行しています。

正直、ただの改造型護衛艦が深海棲艦相手にどこまで戦えるかは分かりませんが……」

 

「構わんよ、乗員の命を第一に事に当たってくれ。ライラ君、艦娘部隊の方はどうかね?」

 

「派遣第一艦隊と第二艦隊は知っての通り、佐世保で重要物資の受け取りに行ったままだ。第三艦隊は鹿屋方面に出ている。

第四艦隊は動かせるには動かせるが、前回の沖ノ島でのダメージがまだ残っていて、艤装は未だ【小破】状態だ。

それに加え、航空戦力が不足している。

現在は出撃可能な艦娘を召集して、艦隊を再編成している」

 

「むぅ……状況がかなり悪いのう」

 

派遣第一艦隊と第二艦隊の留守を狙うようにして、突如現れた深海棲艦部隊。

しかもジャミングの所為で、やすやすと侵攻を許したおかげで状況は悪いとしか言いようが無かった。

 

一刻も早くこの状況を打破しないと、交戦中の味方部隊の壊滅はおろか、絶対海域まで攻め込まれてしまう。

それに、今攻めてきているのが『前衛』だとするならば、『本隊』が来た時に奄美大島は地獄と化すだろう。

 

何としても食い止めねば。

 

「意見具申、よろしいでしょうか?」

 

「何じゃねルナ君?何か良い案が?」

 

「奄美艦娘部隊の出撃を提案します」

 

この発言に部屋の中がざわついた。バカな、あの部隊は動かせないだの、実験艦隊ではだの、実戦経験がなんだのと動揺が広がる。

 

「ルナ君、確かに今は緊急事態だが、それは了承しかねるのぅ」

 

「何故ですか!動かせる部隊が無くて追い詰められているんでしょう!?手段を選んでいる暇はありません!」

 

ルナがそう言うと、上層部の人間達から言葉が飛んでくる。

 

「バカを言え!無駄死にするだけだ!」

 

「実戦経験が無いのだろう?ここは、派遣艦隊に任せるべきだ」

 

「出撃をさせたことで、逆に戦場が混乱する可能性がある」

 

上層部の人間達はやいのやいのと否定の声を上げる。

 

「ルナ君、上層部の言うこと以外にも、今、あの娘達を出すべきでは無いのじゃ」

 

トウが静かにルナにそう宣告する。

 

「しかしっ……!」

 

だが、ルナもそう簡単には引き下がらない。

トウに言われてなおも進言するルナに誰かの一言が突っかかった。

 

「CMSは1体生産するのに、莫大な費用がかかるのであろう?無駄に出撃させ沈んだら、あらゆるコストが水の泡になってしまう。それだけは避けねば」

 

「…………は?」

 

この一言がルナの琴線に触れた。

 

「CMSを……艦娘を……金銭換算で考えるだと……!!」

 

ルナの脳裏に今までの記憶が思い出される。

今まで艦娘達と過ごした時間が。

 

「艦娘はなぁ……!あいつらは ”生きている” っ!!それをカネで考えるとはどう言う了見だぁッ!!」

 

ルナは咆える。自身の存在を賭けるかの如く。

 

「そうは言うけどな、CMS(艦娘)とは《兵器》だ。逆にその考えが無いと話が進まない」

 

また、他の誰かがそう言う。

 

「兵器だぁ?ふざけるな!ただの兵器が自分達は役立たずだからって落ち込んだり、それを挽回しようと努力するか!!?

艦娘はただ人間に扱われるだけの《兵器》じゃねぇッ!!」

 

ルナの脳裏には尚も映像が流れてくる。

 

とある船の上。

 

1体のCMS。

 

「おい小僧、落ち着け。仮にも貴様よりも階級が上の人達だ。言葉に気をつけろ」

 

ライラかそう制すもののルナは聞く耳を持たない。

 

 

 

「自分はっ!俺はッ!艦娘をただの『モノ』扱いする奴らの言葉なんて絶対に聞かねぇぞッ!!」

 

 

 

ルナの絶叫は部屋に響き渡り、静寂が場を支配する。

 

「だっ……誰かソイツを摘み出せっ!」

 

「言われなくてもっ!こっちから出て行ってやる!!」

 

ルナは自ら部屋を出て行こうとする。トウの横を通り過ぎる時、一言こう言った。

 

「征原司令。俺は、俺のやり方で証明してみせます」

 

「ルナ……君……」

 

バタンと扉が閉まる。

部屋の中は再びざわつき始めた。

 

「くっ……!あのガキめ……!司令、今すぐあのガキを懲罰房へブチ込んでくる」

 

「その必要は無かろうて」

 

「………?どういう事だジジイ?」

 

「この事態は暫く後、収束に向かうじゃろう。大きく事を構える必要は無い」

 

「大佐……それはどういう……?」

 

防衛班の人が疑問を口にする。

 

「問題ないって事じゃ、それでは緊急召集を解く。問題ないとは言え、油断出来ない状態が続いている。総員、第一種防衛配置。深海棲艦を陸に近づけるな!!」

 

「「了解ッ!!」」

 

バタバタと部屋から人達が出て行く。

部屋には、トウとライラが残された。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、先ほどの真意をお聴かせ願えますかね?征原 ”中将” ?」

 

「これも《計画》のうちと言う事だ。ライラ少佐」

 

「それは……【方舟】の方では無い……な?」

 

「あぁ、【E】の方だ」

 

「……………」

 

「いい頃合いだ……着実に《計画》は進んでいる。ライラ少佐、【方舟】の件、《中央》に報告しといてくれ。それと、第一、第二艦隊も……な?」

 

「…………了解」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ルナはコテージの扉を蹴り飛ばす様にして開ける。

 

「wow!ショーイ!どうしたデスカー?」

 

「おい、チビ助!それで状況はどうだったんだ?」

 

艦娘が口々にルナの名を呼ぶ。

 

ルナは手を挙げ、皆を制した。

 

そして、静かに告げる。

 

 

 

 

 

「奄美艦娘部隊、出撃用意……!!」

 

 

 

 

 

【2へ続く】

 




続きます


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memory12ー2

前回パートの続きです


「すみません整備主任。無理を言ってしまって……」

 

「あん?あぁ、こっちは大丈夫だが、少尉さんの方は大丈夫なのかい?」

 

 

奄美要塞基地、出撃港内。

 

ルナは上層部の意向を無視して、奄美の艦娘達を出撃させようとしていた。

 

「……動ける部隊が自分達以外いない以上、ここを守る為にはこうするほかありません。責任は全て自分が負います」

 

「チビっこいのにとんでもねぇ事を言うじゃねぇか。まぁ、確かに今ココを落とされるワケにゃいかねぇ。

やっとこさ、本土防衛ラインを構築して、CMSの一般配備で、深海棲艦からの攻撃に耐え得る準備が出来た矢先に、南西ライン方面が陥落しました〜ってこっちゃ話にならねぇ」

 

整備主任は艦娘の艤装をガチャガチャと弄りながら話を続ける。

 

「攻め入る敵を、指くわえて見てろってそんなこと出来るわけがねぇ。

しかし、そんな事を言ってもオレはしがない整備士。船を直したり、改装したり、そんなことしか出来ねぇ。

だが、少尉さん。アンタは違う。アンタには、アンタのもとには、ココを救う事が出来るチカラがある。

例え、上の連中がぎゃーてー言ったってな、ココを救う為に立ち上がったアンタを支える事が出来なきゃあ、整備士の名が廃れるってもんよ」

 

「主任……ありがとうございます」

 

「あと2分待ってくれ、最高の状態で出撃させてやるぜ」

 

整備主任は、油に塗れた手をルナに向かってヒラヒラと振った。

ルナは整備主任に敬礼すると、出撃港内にいる艦娘達の元へ向かった。

 

「君達は大丈夫か?体調が優れない者はいるか?」

 

「no problem!conditionはサイコーネ!!」

 

「何時でも出撃出来ますよー!」

 

「何チンタラしてんだチビ助!さっさと出撃させろ!」

 

奄美の艦娘達は出撃の時を今か今かと待っていた。

艦娘達の記憶の根底にある物は『軍艦』。戦闘目的で作られた船の記憶(データ)を持っている彼女達からすると、戦場で輝ける事が、彼女達の存在理由の1つなのかもしれない。

 

金剛はさも嬉しそうに踊り、

 

青葉はワクワク顔で辺りを見回し、

 

赤城は静かに目を閉じ佇み、

 

天龍は手に持った刀をもてあそび、

 

龍田は天龍の隣にニコニコしながら立っている。

 

そんな中、吹雪の顔だけが暗く沈んでいた。

 

「どうした吹雪?具合でも悪いのか?」

 

「いっ…いえ、そんなことは無いのですが…………私が海に出た時にちゃんと動けるか不安で……」

 

「吹雪なら大丈夫さ、心配することは無い」

 

「ですが……私自身は青葉さんみたいな特別訓練も何も受けてないんですよ?

金剛さんみたいに艤装のせいでもありませんし、赤城さん、天龍さん、龍田さんみたいに、もともと上手なワケでも無いんです……だから……」

 

吹雪は顔を下に向けて俯いてしまった。

 

確かに、緊張しないほうが有り得ない今この状況。自分達の活躍次第で、奄美基地の、さらには日本の、世界の命運が決まってしまうかもしれない。

 

不安を抱くのも仕方のない事だった。

一見、はしゃいでいるように見える金剛達も、心の底では不安と緊張でいっぱいなのであろう。

しかしそこは大型艦のプライド。時化(しけ)た雰囲気を作らない為にも、明るく努めているのだろう。

 

ルナは吹雪の前にしゃがみ込むと、ガシッと吹雪の肩を掴んだ。

驚いて吹雪が顔を上げる。

 

 

「お前は ”強い”!!」

 

 

ルナが吹雪の顔を見てそう宣言する。

 

 

「お前なら ”出来る”!!」

 

 

ドクンと、吹雪の鼓動が跳ねる。

 

「どんな時も近くで他の者の訓練を見ていたのは吹雪自身だろ?それに、1人で自主訓練もしていたんだろ?

なら、”大丈夫” だ!心配することは無い」

 

「少尉……」

 

「『俺はお前を信じてる』」

 

ドクンと、さらに吹雪の鼓動が跳ねる。

体の内から、何か熱いモノがこみ上げてくる感じが吹雪にはあった。

それに今の言葉……何処かで同じ言葉を言われた気がしていた。

軍艦時代かもしれない、思い出せないながらも、確かに同じ言葉で今のように勇気付けられた事があった気がする。

 

「………はいっ!」

 

まだ多少なりとも不安は残るものの、先程までとは違う何かが、吹雪の心の内を満たしていた。

 

『少尉さんよ!準備完了したぜ!』

 

港内のスピーカーから整備主任の声がした。

 

「よしっ」

 

ルナは奄美の艦娘達を見回した。

 

 

「これより、栄ルナの名の下に、独断で奄美要塞基地、及び南西諸島防衛戦……『南一号作戦』を展開するッ!!

現在、基地接続海域エリアBで我が軍が敵深海棲艦と交戦している!

先程、改造護衛艦隊も支援の為に出撃したが、現代艦の攻撃が深海棲艦に効かない事は君達もよく知っているだろう。壊滅も時間の問題だ。

よって君達は戦闘海域に急行し、戦闘で損傷した艦の撤退の援護、敵部隊を撃滅せよ!

旗艦は金剛、戦場での指揮は一任する。

尚、敵に此方の動きは筒抜けの可能性がある。よって無線封鎖は無しとする。

全責任は自分が負う!何としても、深海棲艦を近付けるな!

以上だッ!!」

 

 

「「「「「「了解ッ!!」」」」」」

 

 

艦娘達は「1」から「6」と番号が振ってある場所に並ぶ。

 

『ドック注水開始。CMS、所定位置確認。艤装、着装開始』

 

背後にあったシャッターが上がり、中からは備え付けのクレーンに吊るされた機関部艤装が艦娘達の元へと移動し、艦娘達の背中へと装着される。

 

その間に足下からは、マシンアームで脚部艤装が装着される。

 

『艤装装着。缶、正常に作動を確認。生体同期機能(バイオフィードバックシステム)動作良好(オールグリーン)。メモリーカードの読み込み、及び、攻撃モジュールの記憶領域の反映、着装開始』

 

頭上にあるクレーンや、足下にあるマシンアームによって、艦娘達の攻撃用装備が装着されていく。

装着された瞬間、生体同期機能によって艤装のデータがCMSに反映される。

 

「え?」

 

「この装備は……!」

 

艦娘達が驚きの声を上げる。

 

『ちっと扱い辛いかもしれんが、ただ倉庫の肥やしにしちまうのも勿体無いからなぁ……嬢ちゃん達なら上手く使えるだろう?上手くやってくれや』

 

港内に整備主任の声が響き渡る。

どうやら、通常装備ではない装備を持ってきてくれたようだ。

 

機関部艤装にカードゲームのカードのような物がセットされる。

 

『システムチェックコンプリート。対深海棲艦戦闘補助プログラム起動。データバンクアクセス、コネクト。CMS全工程終了、ドック注水完了、出撃準備完了』

 

ルナが出撃準備が完了した艦娘達に告げる。

 

 

「必ず!!生きて戻って来るように!!

全艦、出撃せよッ!!」

 

 

『各艦の健闘を祈ります。出撃して下さい』

 

ブザーが鳴り、出撃港正面のゲートが開く。

 

「全艦、両舷前進微速。奄美部隊、出撃するネ!follow me!皆さん、ついてきて下さいネー!」

 

「慢心してはダメ……全力で参りましょう!」

 

「青葉取材……いえ、出撃しまーす!」

 

「行くぞ龍田!出撃するぜ!」

 

「ふふっ、天龍ちゃんたら〜」

 

「駆逐艦吹雪!出撃します!」

 

奄美の艦娘達が港から海原へと、滑るように海面を航行していく。

 

ーーーーーーーーーー

 

「全艦、単縦陣!第三戦速!」

 

港を抜けると即座に速度を上げる。

この戦いは時間との勝負と言っても過言ではない。

 

前線で戦っている仲間達がやられてしまえば、本格的に打つ手が無くなってしまう。

 

「アオバ!enemyはドコデスカー!?」

 

「このまま大島海峡を抜けて、皆津崎の南方、距離およそ7,000!!」

 

「艦隊!進路、1ー3ー0!」

 

「進路1ー3ー0、よーそろー!」

 

奄美の艦娘達は敵のいる方向へと進路を取る。

 

「金剛さん!味方部隊を右前方に視認!」

 

吹雪が前方を指差す。そこには、一足先に向かった護衛艦隊や、一番初めに敵を発見した哨戒艦がいた。

 

「流石フブキー!目が良いネー!」

 

どうやら動けなくなった哨戒艦を曳航しつつ撤退をしている様子だったが、そこに派遣艦隊の艦娘達の姿は無かった。

 

金剛は発光信号で護衛艦の一隻と連絡を試みる。

 

タ・ス・ケ・ニ・キ・タ。ジョ・ウ・キョ・ウ・シ・ラ・セ

 

 

ーーカ・ン・シャ・ス・ル。カ・ン・ム・ス・タ・チ・イ・マ・ダ・コ・ウ・セ・ン・チュ・ウーー

 

 

なんて事だ。恐らく、派遣艦隊の艦娘達は航行不能になった哨戒艦の曳航を護衛艦隊に任せ、自分達は深海棲艦を食い止める為にその場に残ったのであろう。

 

金剛は再び発光信号で、退避する旨を伝えると赤城の方を振り向いた。

 

赤城は全てを了承した様に頷くと、矢筒から矢をスッと引き抜いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

派遣艦隊、第二遠征部隊旗艦『五十鈴』は苦戦を強いられていた。

 

「くっ……このっ!」

 

五十鈴は通常装備である対空機銃で敵艦載機を迎撃する。

しかし、記憶兵装でグレードアップすらしていない機銃では全くもって歯が立たない。

 

五十鈴のすぐ近くに爆弾が投下される。

炸裂した爆風に五十鈴は煽られる。

 

「きゃあぁっ!?」

 

危うくバランスを崩すところだったが、何とかもちこたえた。しかし、直撃が無いとはいえ、多数の至近弾を喰らい続けたせいか、装甲の耐久力は既に半分を切っていた。

 

「五十鈴さん!我々も撤退しましょう!」

 

とある駆逐艦娘がそう進言する。

 

「バカ言わないで!私達が撤退したら、誰が前線を支えるの!?それこそ基地が落ちるわよ!増援が来るまで何としても時間を稼ぐのよ!」

 

そうは言うものの、遠征部隊は満身創痍といって差し支えが無いほどだった。

 

元々、遠征からの帰還途中で燃料なんて殆ど残っていないのだ。それに疲労もある。ましてや、対空兵装なんて積んでいるはずも無い。

 

「第二次攻撃、来ます!!」

 

「考える暇も与えてくれないのね。各艦!回避運動続行!なるべく敵を撹乱させて!」

 

遠征部隊はバラバラに回避運動をとる。五十鈴だけでなく、他の艦娘達も直撃こそ無いものの、至近弾等で相当傷ついている。

直撃なんて喰らったら、一瞬で御陀仏だ。

 

敵機が攻撃を開始する。爆弾や魚雷、機銃掃射などが遠征部隊を襲う。

 

艦娘達は持てる火力全てを空に向け、あらん限りの弾幕を展開しつつ、回避運動を続けた。

 

巧みな操艦で敵機の攻撃を避けていくが、如何せん数が多すぎる。

 

ついに五十鈴の背中に一発の爆弾が命中した。

 

「ーーッ!!」

 

声を上げる間もなく、爆発によって五十鈴は吹っ飛ばされる。

 

「………機関部に被弾……航行不能……か…」

 

爆弾は不運にも五十鈴の艤装の機関部を直撃しており、そのせいで機関の動作が止まってしまっていた。

 

「不味い!」

 

「五十鈴さん!」

 

駆逐艦娘が五十鈴の事態に気づき、助けようとするが、敵の攻撃で思う様に動けない。

 

そんな五十鈴を狙って、敵艦載機が数機、海面近くに降りて魚雷を投下しようとしてきた。

 

即座に機銃を向け発射しようとするが、弾は出ず、ただカシン、カシンと乾いた音が響くだけだった。

 

(そんな!?こんなときに弾切れなんて……!)

 

五十鈴は自らの運命を悟った。

 

敵機がさらに高度を下げ、投下体制に入る。

 

その時だった。

高らかにプロペラ音を轟かせながら、五十鈴の真横を白い何かが高速で通り抜ける。

 

敵機とすれ違うと、敵の艦載機は全て火を噴き、海へと墜落していった。

 

「あれは……!零式艦戦ニ一型(ニイイチ)!?」

 

「大丈夫デスカー!?生きてマスカー!?」

 

五十鈴の背後から声が掛かる。

振り向いてみると、金剛達が手を振っている。

 

「増援……!助かったわ……でもなんで奄美のE型が?戦闘出来ないんじゃないの?」

 

「その言葉、今のお前にそっくりそのままお返しするぜ。いいから俺たちに任せておけ」

 

側にやってきた天龍が五十鈴に肩を貸して立ち上がる。

 

「でも……敵は彼奴らだけじゃないわ。ヤツらの背後に本隊が控えてる。あなた達だけでどうにかなるとは……」

 

「うるせぇ!大破した軽巡がゴチャゴチャ言うな!さっさと駆逐共とこの海域を離脱しな。こっからは俺たちのショーだ」

 

五十鈴は天龍の顔を見ると、ふっと笑った。

 

「あなた、変わったわね」

 

「だーかーらー!さっさと逃げろっつってんだろ!」

 

「……了解したわ。第二遠征部隊はこの海域を離脱します。後は頼んだわ。くれぐれも無茶しないでよね」

 

「誰にモノを言ってんだ。お前こそ、撤退途中で沈むなよ」

 

五十鈴を遠征部隊の駆逐艦娘に引き渡すと、天龍は踵を返し、砲弾を装填する。

 

「派遣第二遠征艦隊は全艦、損傷はあれども離脱を始めたわ〜。私達はどうするのかな〜?」

 

龍田が金剛に状況を報告し、指示を仰ぐ。

 

「決まってるデース!敵艦隊を撃破シマース!」

 

「了解したわ〜。死にたい(ふね)は何処かしら〜?」

 

「吹雪!俺について来い!敵空母の周りにいるヤツらを潰すぞ!」

 

「了解ですっ!」

 

天龍、龍田、吹雪が速度を上げ、敵艦隊目掛けて突っ込んでいく。

 

「チョっ…!チョットぉ!旗艦は私なのにぃ〜!」

 

金剛が先走って行ってしまった天龍達にそう言う。

 

「しょうがないデース……アカギ、彼女らに直掩機を出してあげて下サーイ」

 

「了解、行くわよ零戦(ゼロ)……!」

 

赤城が矢を射る。風を切って飛んでいく矢が光に包まれると、次の瞬間には白い戦闘機になっていた。

 

零式艦戦ニ一型。

整備主任が赤城に渡した艦載機は、九六艦戦ではなく零戦だったのだ。

 

そうこうしてる合間にも、先に放った零戦が敵の艦載機を次々と撃墜していく。

 

「続けて、艦爆隊、艦攻隊!発艦始めっ!」

 

矢継ぎ早とは正にこの事。とてつもないスピードで赤城は矢を放ち続ける。

 

放った矢は『九九式艦上爆撃機』と『九七式艦上攻撃機』となって大空へと飛びだっていった。

 

「制空権確保は確実ですねっ!」

 

青葉が嬉々として飛び跳ねている。

 

「青葉さん、慢心は駄目ですよ。引き続き、対空警戒をお願いします」

 

「青葉、了解でーす!」

 

「これは私も負けていられないネー!艦隊、第五戦速!敵に突っ込むヨ!」

 

金剛達は機関を唸らせ、敵艦隊に突っ込んでいった。

 

 

 

【3に続く】

 

 

 

 




またまた続きます(^^;;


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memory12ー3

続きです


「相対方位0-3-0、距離5,000に『駆逐ロ級』!さらに後方『重巡リ級』確認しました!」

 

吹雪がそう天龍と龍田に報告する。

 

「天龍ちゃん、リ級の射程にバッチリ入っちゃってるわよ〜?」

 

「そんなこと百も承知だ。龍田と吹雪は前のザコを頼む。俺はアイツとタイマン張ってくるわ」

 

「わかったわ〜」

 

「リ級!発砲しました!」

 

低い地鳴りのような音が響き、リ級の砲門が煌めく。

 

「行動開始だぁッ!」

 

「吹雪ちゃん?遅れちゃ駄目よ〜?」

 

リ級の砲弾が3人の進路に着弾する。それと同時に、左右に分かれるようにして天龍と龍田、吹雪は転舵する。

 

「全砲門、開け」

 

龍田が駆逐ロ級に狙いをつけつつそう宣言する。後ろに続く吹雪も、手に持っていた12.7cm連装砲に砲弾を装填する。

 

「主砲、斉射!」

 

龍田の14cm単装砲と吹雪の12.7cm連装砲が咆哮する。

放たれた砲弾は吸い込まれるように駆逐ロ級へと飛んでいき、派手な爆炎を上げて命中した。

 

「初弾命中……!流石です、龍田さん!」

 

「ふふっ、吹雪ちゃんも訓練の成果が出ているじゃない?」

 

龍田と吹雪は砲の再装填をしつつ駆逐ロ級に距離を詰めていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「オラオラァ!天龍様の御通りだッ!」

 

天龍は重巡リ級へ、最短距離の針路を取っていた。

 

勿論リ級は主砲を天龍に向けて放っている。しかし天龍はそれを軽々と避けてみせる。

 

「この距離なら……ハズさねぇ!」

 

既に装填済みの14cm単装砲二門を重巡リ級に向けて放つ。

砲弾はリ級に命中したものの、有効打には至らなかった。

 

(ちっ、腐っても重巡か。もう25は切るんだけどな……こうなりゃ、至近戦だ!)

 

天龍は機関出力を更に上げ、リ級との距離を詰める。

しかし、距離が近くなるという事は被弾するする可能性が高くなるというもの。

重巡リ級もただただ距離を詰めさせていたわけではない。

お互いの姿が望遠鏡無しでハッキリと識別できる程の至近距離で、リ級は主砲を発砲した。

 

転舵のしようがない距離で放たれた砲弾は、天龍を爆炎で包み込んだ。

 

リ級はニヤリと笑うと、遠くにいる龍田と吹雪に狙いをつけようと、砲門を指向する。

 

「オイ、どこ見てんだテメェ」

 

煙の中から聞こえてきた声にリ級はギョッとした様子で振り向く。

その隙を逃すまいと、天龍は煙の中から躍り出ると、リ級の首を掌で掴み、締め上げた。

 

「R……GYAa……RrrrGAAAAaaaAA!!」

 

リ級が言葉になっていない、不協和音のような叫び声を上げ、天龍の手から抜け出そうともがく。

 

「待ってろ、今ラクにしてやる」

 

リ級の胴体に砲身を突きつけると、怒号一発、天龍は砲を撃ち放った。

 

人型の胴体(バイタルパート)を確実に貫いた一撃は、そこに風穴を開けた。重油とも見て取れる液体が溢れ出てくる。

煙が風に流されると、風穴の開いたリ級は海中へと没していった。

 

「ハッ!もっと装甲の防御と被害軽減処置(ダメージコントロール)を学んだ方がいいぜ」

 

そうリ級の沈んだ跡に言い捨てると、背後から龍田と吹雪がやってきた。

 

「天龍ちゃ〜ん、大丈夫〜?砲弾直撃してたみたいだけど」

 

「アレくらい何ともねぇよ。装甲の展開角度をズラして衝撃を殆ど受け流したからな。そっちはどうだ?」

 

「敵駆逐級は全て撃沈したわ。吹雪ちゃん、絶好調よ」

 

「そうか、良くやったぞ吹雪」

 

「いえ……そんな……」

 

言葉ではそう言うものの、吹雪は嬉しそうに笑って見せた。

 

「あとは……空母だな」

 

遠く海の先を睨む天龍。その視線の先には、何かの生物の頭部部分にも見える胴体から手足が生えたような外見の深海棲艦【軽母ヌ級】が2隻、口のようなところから甲殻類に似た形の艦載機を発艦している。

 

発艦した敵艦載機の半分がこちらに、もう半分が金剛達の方へと飛んでいく。

 

「天龍ちゃん、早く戻らないとマズイわよ?」

 

「そうだな、早いとこ戻ろう……あのハエどもを潰しながらな」

 

敵艦載機が攻撃態勢に入り、此方へと突っ込んでくる。

 

「対空戦闘用意!一発も当たるんじゃねぇぞッ!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「来ましたヨ、対空射撃はじめ!」

 

金剛、赤城、青葉の下にも低い音を轟かせ、ヌ級の放った漆黒の艦載機が迫り来る。

 

「全く、天龍さん達は何をやっているのやら!青葉が手柄全部持ってっちゃいますよ!」

 

青葉が艤装に取り付けられていた、四角い沢山の穴の開いた箱のような物を空中に向ける。

 

「噴進砲、発射!」

 

青葉が叫ぶと同時、その箱のよう物の穴の部分からシュシュシュと音を立て、ロケット花火の様な弾が空中へすっ飛んでいった。

 

12cm30連装噴進砲。

整備主任が青葉に託した、対空兵装の1つである。

放たれた12cmロサ弾(ロケット弾)は一定距離を飛翔すると炸裂し、空中に焼霰弾子をばらまいた。

 

一瞬の内に空中に炎の網が形成され、その網の中に敵艦載機が突っ込んでいく。

 

瞬く間に敵機の数は減り、最終的に攻撃を仕掛けて来たのは半分にも満たなかった。

 

その残り僅かな敵機も、赤城の放った零式艦上戦闘機に撃墜されていく。

 

「これで敵空母はもう攻撃隊を出せない……!今です、赤城さん!金剛さん!」

 

「ありがとう青葉さん!攻撃隊、突撃!」

 

赤城が空中で待機していた九七式艦攻と九九式艦爆に突撃の合図を出す。

ヌ級は、自分を守る直掩機もろくに出せないまま、赤城の攻撃を受ける。

 

爆撃機と雷撃機による、雷爆同時攻撃。このダブルアタックには流石のヌ級も避けられなかったようで、派手な爆炎と水柱を上げ、2隻のうちの1隻を撃沈した。

 

「くっ…!あと1隻……!」

 

仕留め損ねたもう1隻のヌ級は仲間が全滅したのを見て、慌てて撤退を始めている。

 

「ふっふっふ……!battleshipの主砲を舐めてもらっては困りますヨー!」

 

金剛が海上に仁王立ちしたまま、背中の主砲を旋回させる。

 

「いくら遠くに離れたところで、この『電探』がある限りワタシの主砲からは逃げられないデース!」

 

金剛は通常装備の電波探信儀(レーダー)の他にもう1つ、別の電探を装備していた。

 

22号対水上電探。

この装備のお陰で、金剛はより正確な射撃を可能としていた。

 

「狙い良し!全砲門、fireーーッ!」

 

35.6cm連装砲から放たれた榴弾は、風を切って綺麗な弧を描き飛び、ヌ級の頭上に降り注いだ。

一瞬の内に敵の姿が視界から消え失せる。

 

 

 

 

「や……!」

 

「やぁ……!」

 

「「やぁったぁあーーっ!!」」

 

 

 

 

奄美の艦娘達は飛び跳ねるようにして喜ぶ。

 

「凄い……!私達、本当にやっつけたんだ……!」

 

「私達が島を……国を守った……!」

 

吹雪と青葉がキャーキャー言いながらお互い手を取り合ってクルクルと回っている。

 

「全く、雑魚を倒したくらいではしゃぎやがって……」

 

「天龍ちゃんだってはしゃいでいいのよ?」

 

「何バカな事を言ってんだ。だがまぁ、多少はな?」

 

天龍と龍田が、はしゃぐ2人を見てそんな事を言っている。

赤城は発艦させた艦載機を回収している。

艦載機が、赤城の肩辺りにある飛行甲板艤装の上に着艦すると、艦載機は再び矢に戻った。

 

その様子を満足気に眺めていた金剛の無線に突如通信が入った。

 

『………えるか………応…しろ……金剛……!』

 

未だ深海棲艦のジャミングが酷いらしく、ノイズだらけで通信が途切れ途切れだったが、聞こえてきた声はルナのものだった。

 

「ヘーイ!こちら金剛デース!って言うかショーイ、通信室に入れたんデスカー?」

 

『無理……に入……だ………れより…今す……こを離…しろ……』

 

「ノイズが酷くて何言ってるか分からないネ」

 

『基地レー……に新…な………を補足………域ポイント……4………とに…く…………』

 

それきり、ザーッというノイズ音だけになり通信は途絶した。

何を言っているのかほぼ聞き取れなかったのだが、ルナの切羽詰まったような声音に金剛は不安を抱いていた。

 

「途切れ途切れに聞こえてきた声……まさか……!」

 

金剛の悪い予感が的中したかのように艦載機を収容していた赤城が「何ですって!?」という悲鳴にも近い声を上げた。

 

「帰還途中の零戦から緊急入電!!基地近海エリア1-4-4方面から新たな敵艦隊が接近中!」

 

赤城のその言葉に、その場の艦娘全員が驚く。だが、不思議と恐怖はしていない様子だった。

 

「先程と同じようにやれば、必ず勝てますよ!行きましょう金剛さん!」

 

「次は手強い相手がいいわね〜」

 

「確かに、またここで新たな敵を見過ごしては、基地や本土防衛ラインに被害がでマス。ヤツらを止められるのは、私達しかいマセン!」

 

金剛のその言葉に、一同は力強く頷く。

 

「行きますよ皆サーン…………!?」

 

その時だった。

金剛の言葉をかき消すように、海の彼方から、この世に生きる生物では無いような叫声が聞こえてきた。

 

 

「RuuuUUYyyyiiiGyyyYYYyyaaaaAAAAAAaaaaaa!!!!」

 

 

その両手には大盾のようにも見える巨大な砲塔が。

そして、その姿は駆逐級のような非人間型(アンヒューマノイド)でも、巡洋艦級のような半人間型(セミヒューマノイド)でもない、完全な人間型(ヒューマノイド)

 

その名はーー

 

 

 

「戦艦……ル級……!!」

 

 

 

「戦艦級だとッ!?何でこんなところに……!?」

 

「これを見過ごしたら、防衛ライン崩壊は必至ねぇ……」

 

「金剛さんッ!早く指示をッ!」

 

金剛はハッと正気に返ると、焦った口調で指示を出していく。

 

「フブキ、煙幕展張!ル級に此方を狙わせないようにッ!艦隊、複縦陣で最大戦速!!」

 

「オイっ!逃げるのかよ金剛!」

 

「人聞き悪い言い方しないで下サイよテンリュー!このまま距離を保ったまま反航戦に持ち込みマス!」

 

金剛達は機関を唸らせ、敵艦隊の背後に回り込むような反航戦を取りつつ移動を開始した。

 

吹雪が艦隊の戦闘に立ち、煙幕をモクモクと出しながら艦隊の行方を眩ましているが、ル級はそんなの御構い無しに主砲を発射する。

 

当然ながら、的はずれの射撃が当たるワケが無いのだが、その着弾したところの水柱の大きさが尋常では無い。

艦娘達に恐怖を植え付けるのには充分だった。

 

「あ……あんなのが当たったら一発でサヨナラですよぉぉ〜!」

 

「青葉、重巡が弱音はかないの〜」

 

龍田が青葉にそんなことを言うが、龍田の顔にも焦りの色が見えていた。

 

「アカギ!艦載機の方はどうデスカー!?」

 

「損傷機の応急修理とエネルギー供給がまだ……!あと10分……いや、5分お願いします!」

 

「金剛さん!発煙停止まで残り10秒!」

 

「くっ……!止むを得まセン……全艦、統制射撃用意!!」

 

金剛から送られてきた位置データをもとに、各々が主砲をル級へと指向する。

 

そして吹雪の発煙が止まり、煙の中から出た直後、金剛は統制射撃を敢行した。

 

「全艦、()ェーーッ!!」

 

主砲を持たない赤城と、射程が足りない吹雪以外の全艦は主砲を斉射する。

 

ル級にその内の数発が命中したが、結界の様なエネルギーフィールドに阻まれ、ダメージは無かった。

 

「駄目だ!俺と龍田の14cm単装砲じゃ撃ち抜けねぇ!」

 

「私の20.3cm連装砲でも怪しいですよ!あの装甲は!」

 

「となると……ワタシの主砲じゃないと渡り合えないというコトデスカ……!」

 

金剛達が驚愕している合間にも、ル級は手に持っている16inch三連装砲二基六門を乱射してくる。

心なしか、ル級が歓喜しているようにも見える。自分の手で艦娘達を葬る事が出来ると喜んでいるのだろうか。

 

「皆サーン、燃料、残弾どれくらいデスカー?」

 

「私と天龍ちゃんと吹雪ちゃんは、さっき突撃を掛けたから戦闘燃料、残弾共に7割くらいかしら?」

 

「それだけあれば充分デス。この戦闘は持ちそうデスネ」

 

「……何か作戦が?」

 

「このまま相手を牽制し続けても、援軍が来る可能性が無い私達のジリ貧は目に見えてマース。となれば、取るべき道は1つデス」

 

「殴って逃げるってことか。かつ、その一撃で相手を沈めると」

 

「流石テンリュー、解ってマスネ」

 

金剛がニヤッと笑うと、艦隊に指示を出した。

 

「全艦、これより攻撃を開始するネ!アカギは艦載機の発艦準備が整うまで後方で待機、フブキは護衛について下サイ。他のみんなはワタシがル級に肉薄するまで援護をお願いしマス!」

 

全員が命令を了承すると、赤城と吹雪は後方へ退避し、残りの4人は敵艦隊の下へと舵を取った。

 

 

(ここで何としても、ル級を沈める……!じゃないと、基地が……本土が……!)

 

 

奄美の艦娘達は、目の前に突然現れた恐怖に臆することなく向かって行く。

その胸に強い意志を宿して。

 

 

【4に続く】




次回で第2章完結です


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memory12ー4

前回の後書きで次回で二部完結と言ったな?
アレは嘘だ。

とかなんとかいってすみません、予想以上に文字数増えたのでもうちょい続きます(^^;;

次回で!二部!完結に!します!


ー前回のあらすじ的なー

基地に迫り来る深海棲艦を迎撃する為に出撃した奄美部隊。
しかし、撃破した敵部隊はただの前衛で、本隊ではなかった!
新たに現れた『戦艦ル級』率いる敵部隊を迎え撃つ為、奄美部隊は、臆する事なく立ち向かっていく……



 

 

memory12-4

 

 

「針路3-0-0、速度そのまま!」

 

金剛達は、ル級率いる敵艦隊の左舷側をすれ違うように進路を取る。

 

「敵艦種確認、戦艦ル級1、雷巡チ級2、軽巡ヘ級1、駆逐ロ級2です!」

 

「雷巡とは……先手を打たれると厄介だな」

 

「出来ればル級と一対一が望ましいのデスが……」

 

「なら、私達はル級以外をひきつければいいわね~?」

 

龍田がそう言うのと同時に、チ級が2隻、艦隊から離別して違う方向へと向かって行く。

 

「不味い……!あの方向は、赤城さんと吹雪ちゃんの……!」

 

青葉がそう声を上げる。恐らく赤城は修理と補給を終え、今まさに発艦作業へと移っている頃だろう。

その発艦間際の時に雷巡による無数の雷撃をくらえば、かなりの装甲を持つ赤城とはいえ、ひとたまりも無い。

それに2隻ともなると、護衛についている吹雪だけでは対処が出来ない。

 

「くっ……マズイぞ……!」

 

「天龍さん、龍田さん、ここはこの青葉に任せて、早く!」

 

「お前、何言ってんだ!俺らが抜けたら、お前ら2人で4隻相手だぞッ!ランチェスターで言ったら確実に死ぬぞ!」

 

「それ単純な計算の場合ですよね?重巡の力、今こそ見せてやりますよ。ほら、さっさと行った行った!」

 

「ちっ……!しょうがねぇ、龍田!」

 

「沈んじゃ駄目よ~?」

 

2人はそう言い残すと、チ級を追って艦隊を離脱した。

 

「……アオバ、旗艦はワタシデスヨ?」

 

「あっ、いやぁ、スミマセン……でも、大見得切った手前、ちゃんと御守りしますよ!」

 

「まぁ、どの道そうするつもりでしたケド。それでは、行きますヨ!」

 

金剛と青葉は、ル級目掛けて突撃をかける。

護衛についていた駆逐ロ級と軽巡ヘ級が、速射性を活かした砲撃で、雨のような砲弾を金剛と青葉に浴びせる。

 

ル級の砲撃ならいざ知らず、駆逐級や軽巡級の砲撃など、戦艦や重巡の装甲を撃ち破る程の攻撃力は無い。それこそ至近距離で撃たれない限りは。

 

金剛と青葉は粒子装甲防壁(バリアー)を展開し、雨のような砲撃を防ぐ。

 

「これくらいなら至近距離で撃たれてもバイタルは抜かれませんね」

 

「確かに、砲撃では致命傷は受けマセンが、奴らは魚雷を持ってマース。迂闊に近付けマセン」

 

金剛が駆逐ロ級に向けて副砲の15.2cm単装砲を速射する。瞬く間にロ級は炎に包まれ爆沈していった。

しかし、ロ級は置土産とでも言うように、沈没直前に魚雷を発射していた。

 

「sit!取舵回避!」

 

金剛は左に舵を切って魚雷の合間をすり抜ける形で魚雷を回避しようとする。

青葉もそれに続こうと取舵を掛けた時、青葉の右側に白い航跡(ウェーキ)が見えた。

 

「魚雷っ!?そんな、どこから!?」

 

見ると航跡の元、敵艦隊から後方に離れた所に軽巡ヘ級が、此方を嘲笑うように見ていた。

 

現在の距離で駆逐ロ級の雷撃を受けた場合、回避する為には魚雷と並走するしか方法は無い。

そして、並走状態に入ってしまうと、魚雷が通り過ぎるまでは舵が取れなくなる。

 

敵艦隊はそれを狙って、ル級を囮にし、ロ級からの雷撃で、狙い通りのコースに金剛と青葉を誘導させ、あらかじめ後方に待機させていたヘ級に雷撃による狙撃を敢行させたのだ。

 

深海棲艦の魚雷は不思議な物で、艦娘に直撃しなくても的確にダメージの入る範囲で爆発する。

 

その為、ダメージを最小限に抑える為には、粒子装甲防壁(バリアー)を最大範囲に展開し、できる限り衝撃を軽減するしかない。

 

ヘ級の魚雷が青葉に到達し、水柱を上げる。

 

「ーーッ!アオバーーッ!」

 

「……そんなに叫ばないで下さいよ金剛さん。損傷軽微(カスダメ)ですよ」

 

被雷した青葉だったが、幸いな事に浸水も無く作戦続行が可能だった。

 

「ふふん、重巡の対魚雷防御をなめてはいけませんよ。榴弾装填、一番、発射!!」

 

青葉は手に持っていた20.3cm連装砲(一番主砲)をヘ級に向けて発射する。

 

放たれた2つの砲弾はヘ級を挟み込むように着弾した。

 

「弾着確認、狙いそのまま、二番、テェーーッ!」

 

青葉は続けて射撃を行う。一発目が狭叉(きょうさ)したこともあって二発目はへ級に直撃した。

 

通常弾よりも炸薬が多い榴弾を使ったかいもあって、へ級は大炎上を起こした。戦闘力を喪失したへ級の沈没も時間の問題であろう。

 

「huu~♪やりますねアオバ!」

 

「いや~それ程でも~って、金剛さん、前!前!」

 

金剛が前を振り向くと、その進路の先にはル級が砲塔を此方へ向けて睨みつけていた。

 

反航戦状態から敵艦隊のいる方向に舵を取ったため、丁字戦不利の状態で金剛は敵艦隊に接近していたのだった。

 

漆黒の砲口が金剛に狙いを定める。

 

「金剛さんっ!危ない!!」

 

ル級の16inch三連装砲が煌めいたのはその直後だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ちぃッ!あの雷巡速いぞ!」

 

天龍と龍田は、赤城を狙って艦隊から離別した雷巡チ級2隻を追っていた。

 

雷巡ーー重雷装巡洋艦とは、その名の通りその身体に大量の魚雷を装備した艦の事を言う。

 

時として、戦艦すら一撃で沈める事がある魚雷を、通常艦艇の数倍以上も載せているのだ。

 

すると、2隻の内の1隻がくるりと此方を向き、天龍と龍田へ攻撃態勢をとった。

 

「おっ、やっこさん、やる気らしいぜ」

 

「よほど死にたいのねぇ~」

 

チ級が、装備している5inch単装高射砲を天龍と龍田に向けて発砲する。

 

「龍田!挟み込むぞ!」

 

「分かったわ~!」

 

天龍が右、龍田が左に分かれる形でチ級を挟み打つ。

 

チ級は龍田を砲撃で牽制しながら、天龍に向かって大量の魚雷をばら撒いた。

 

「そんな狙わずの魚雷なんて、幾ら撃っても無駄だ!」

 

天龍は迫り来る無数の魚雷を、スイスイと避けていく。

 

(おかしい……いくら考えが読めない深海棲艦でも、こんな適当に魚雷をばら撒く筈がない。何が目的だ?時間稼ぎか?)

 

そんな事を思いながらも、魚雷群を避けつつ、14cm単装砲をチ級に向けて撃つ。

 

数発がチ級に命中したが、魚雷発射能力を奪うまではいかなかった。

 

その時だった。天龍の背後に凄まじい衝撃と共に水柱が立った。

その衝撃に天龍の身体が宙に浮く。

 

「うおぉッ!?何だ!?」

 

振り返ると、数えられない程の白い航跡がこちらへと向かってきていた。

 

「魚雷!?まさか、交差攻撃(クロスファイア)だと!?」

 

この魚雷群は間違いなく、天龍と交戦していた個体とは別の、もう1隻のチ級から放たれたものだった。

 

つまり、挟み打ちをしようと思っていたこちらが逆に挟み打ちを受けてしまったのだ。

 

「やってくれるじゃねぇか……!」

 

天龍は魚雷群を振り切ろうと舵をとるが、とても避けきれる数では無い。

 

天龍は砲を海面に向けたまま、白い航跡から逃れるように突っ走っていたが、数秒後、無数の巨大な水柱に包まれ、姿が見えなくなった。

 

「そんな、天龍ちゃん……!」

 

小破したチ級からの5inch単装高射砲の砲撃を受けつつ、天龍の様子を見守っていた龍田は、天龍が被雷したと悟ると、憤怒の眼差しをチ級へと向けた。

 

「よくも……天龍ちゃんを……!!」

 

龍田が両手を前に突き出すと、その手にはいつの間にか対艦薙が握られていた。

 

龍田はチ級の方へ進路を取る。そして、驚異の射撃力で砲弾をチ級へと叩き込んでいく。

 

チ級はエネルギーフィールドで砲撃を防いでいるが、先のダメージと重なって防御能力は飽和状態に陥っているようだった。

 

「やああぁぁぁああッ!!」

 

龍田は舵による旋回と己の薙刀を振るう遠心力を使い、渾身の力でチ級へと斬りかかった。

 

既に防御能力が消えかかっていたチ級のエネルギーフィールドは完全に粉砕され、深海棲艦用に造られた龍田の対艦薙が、チ級の胴体を一刀の下に両断した。

 

残った魚雷が誘爆し、チ級は大爆発を起こして爆沈する。

 

爆風の煽りを受け、龍田も多少のダメージを負ったが、龍田の気はそこには無い。

 

「天龍ちゃんっ!無事なら返事して!」

 

「おうおう、ここにいるぜ~」

 

ハッと声のした方を見ると、天龍がプカプカと海面を漂っていた。

 

「天龍ちゃん、無事だったのね」

 

「あの程度で沈む訳無いだろ?ただまぁ、かなり装甲を消費しちまったのと、幾つか装備が持ってかれたな」

 

背中の艤装をクイっと親指で指差す。見ると、14cm単装砲がひしゃげて使い物にならなくなっている。

 

「でも、あの魚雷群をどうやって?」

 

「あぁ、先頭の魚雷を主砲で撃ち抜いて誘爆させてやったのさ。被雷する前にな。しかし、結構爆風が効いたんで、装甲の損傷率は4割超えてる。もうちょいで中破判定だったな」

 

天龍はへらへらと話しているが、姿を見る限り相当堪えたようだ。

 

「俺を嵌めるとは中々やるじゃねぇか。御礼詣りに行かなくちゃあな……ところで龍田、もう1隻は?」

 

「っ!しまったわ、もう赤城達を攻撃できる距離に……!」

 

「吹雪と一対一か。急ぐぞ龍田!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「…………来ましたね」

 

赤城が、矢を肩に装備している飛行甲板艤装に矢をセットしながらポツリと呟く。

 

飛行甲板艤装にセットされた矢は、暫くの後に、鮮やかに輝き始めた。

 

「あと、発艦準備が終わってない矢は8本……ギリギリ間に合わないわね」

 

このままでは、敵からの攻撃が始まってしまい、安全に艦載機を発艦させる事が困難になってしまう。

 

「こんな時の為に、私がいるんです!」

 

吹雪が赤城の前にシャキンと立つ。その視線は雷巡チ級を捉えていた。

 

「ごめんなさい吹雪ちゃん……発艦準備が整うまで、あの深海棲艦を近づけさせないで!」

 

「了解です!吹雪、行きます!」

 

吹雪はチ級に向かって突撃を掛けた。

 

「TtttiiiyyyYYYyyyaaaaAAAAaaaa!!!」

 

チ級が雄叫びのような声を上げ、砲撃を開始する。

 

重雷装に改装されていても、相手は巡洋艦級。砲のサイズがほぼ同じとはいえ、射撃管制装置の差で射程距離は駆逐艦の吹雪よりも長い。

 

頭上から降り注ぐ砲弾を、駆逐艦特有の軽々しい操舵でかわしていく。

 

砲撃が当たらない事にイラついたのか、チ級はもう一度雄叫びを上げると、大量の魚雷を吹雪目掛けて発射した。

 

「面舵っ!」

 

吹雪も予想していただけあって、発射された瞬間に舵を切って、即座に射線から逃れる。

 

しかし、重雷装の名は伊達では無く、駆逐艦のスピードを持ってしても、数の暴力からは逃れられない。

1本の魚雷が、吹雪をギリギリ捉えるコースにあった。

 

「後進一杯!!」

 

吹雪は後進を掛け、急減速を図る。そのおかげで、吹雪の目の前を魚雷が通り過ぎていく。

 

吹雪がホッと胸を撫で下ろそうとした時、その魚雷が何故か勝手に爆発した。

 

「っ!?」

 

その爆圧に吹っ飛ばされ、吹雪は海面を転がった。

そして、不運にも転がった先には雷巡チ級がこちらに魚雷発射菅を向けていた。

 

モロに爆圧を受けた為にロクな受け身も取れずに海面を転がった吹雪。立ち直るには数秒の時間を必要とした。

 

しかし、チ級はそんな事御構い無しだ。魚雷発射菅を稼動させ狙いを定める。

 

復帰が間に合わない。吹雪は戦慄した。

 

ズガシュッ、とそんな風に音がした。

 

吹雪は魚雷が発射された音だと思い、咄嗟に目を瞑ってしまったが、いくら待てども魚雷はやって来ない。

 

恐る恐る目を開けて見ると、チ級の胸の辺りから、トゲのような物が突き出ている。

よくよく見てみるとどうやら対艦ブレードのようだ。

 

「油断が一番の敵だぜ、チ級よ。最後の最後で油断したな」

 

チ級の背後から声が聞こえ、対艦ブレードがチ級の身体から引き抜かれる。

 

チ級はそのまま倒れるようにして沈んでいき、その場には対艦ブレードを携えた天龍が立っていた。

 

「天龍さん!救援に来て下さったんですね!」

 

「私もいるわよ~」

 

龍田が赤城と共に現れる。赤城も発艦準備が整ったらしく、矢の全てが新品同様に光輝いていた。

 

「本当に助かりました。ありがとうございます!」

 

「おぅ、大丈夫だ。そして、ひと段落したところ申し訳ないが、今度はウチの旗艦様が危険な状況だ」

 

金剛の方は、青葉がいるだけであって、とても危険な状態だった。それでいて、ル級を含めた4隻と交戦しているのだ。

 

「本来なら俺がすぐさまトンボ返りしたいんだが、さっきチ級に喰らった魚雷が堪えてな。速度が出せないし、主砲も御釈迦(オシャカ)だ。よって吹雪、船速が一番速いお前が金剛の支援に向かってくれ」

 

「は、はい!了解しました!」

 

「いいか吹雪。相手に一番デカイダメージを与える方法はいつの世も奇襲に限る。お前は駆逐艦だから、相手に気付かれにくい。相手の至近距離から ”ソイツ” をお見舞いしてやれ」

 

天龍は吹雪の太もも辺りに装備されている物を指差す。戦況をひっくり返せる、海戦の切り札(ジョーカー)を吹雪は持っていた。

 

「私も艦載機で吹雪ちゃんをサポートするわ」

 

吹雪は赤城達に礼を言うと、機関一杯に金剛の下へと疾駆した。

 

 

 

【5に続く】

 

 

 




次回!決着!(本当か?


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memory12ー5

第2章完結です!

〜前回までのあらすじ〜
突如現れた戦艦ル級率いる深海棲艦の艦隊。
発艦準備中の赤城に向かった雷巡チ級を撃破する為、天龍、龍田が奮戦する。そして吹雪は、ル級と戦う金剛と青葉を助けに向かった。
そんな中、旗艦金剛にル級の凶弾が襲いかかる!


「金剛さんっ!危ないっ!」

 

青葉が悲鳴にも近い叫び声をあげるとほぼ同時、ル級の砲門が煌めいた。

 

近距離帯で放たれた砲弾を避けられるはずも無く、金剛は被弾した。

 

「ぐうぅぅッ!」

 

運が良かったのか、機関部やバイタルパートに被害は無かったのだが、装甲(バリアー)に過負荷が掛かり、飽和直前だった。

 

(助かりマシタ……でも、装甲損傷率は72%も……16inchのど真ん中直撃で一発轟沈しないだけ重畳デスが、あと一撃喰らえば、装甲は維持出来ずに崩壊しマスネ……!)

 

金剛は一度距離を置こうと、後退しつつ砲撃を敢行する。

 

幸いにも、攻撃兵装に目立った被害は無く、戦闘力の低下は見られなかった。

 

しかし、砲撃1つで金剛の粒子装甲防壁の耐久値の3分の2以上を減らすル級の砲は、恐怖以外の何物でもなかった。

 

ル級から距離を取ろうとする金剛に対し、ル級は距離を詰めようと接近してくる。

 

高速戦艦である金剛のほうが速力が高いのだが、ル級の砲撃を避ける為、之字(のじ)運動を行っていて速力が落ちているので、実質的な速力は両者同じくらいだった。

 

「このぉ〜!私だって居るんですよっ!」

 

周りの敵を蹴散らした青葉が加勢に入る。

 

効かないと分かっていても、金剛から注意をそらす事が出来ればと、主砲を発射する。

 

ル級はそれを軽く弾くと、砲塔の1つを青葉に向け、砲を放つ。

一瞬のうちに青葉の周りに水柱が乱立する。

 

「うわぁぁああ!!」

 

直撃弾無し。至近弾を数発喰らったに過ぎないのに、青葉の装甲システムは『小破』の判定を下している。

 

「駄目だ……!とてもじゃないけど接近出来ない……!」

 

青葉は一度、距離を取るようにル級から離れる。

 

ル級は青葉を一瞥すると、再び砲塔を金剛へと向けた。

 

対する金剛もル級に主砲を向けている。

 

「今度は此方のターンネ、fireーーッ!」

 

金剛が体勢を立て直し、ル級に一番、二番主砲を発射する。

 

しかし、放たれた砲弾はル級の手前に着弾し、大きな水柱を立てただけだった。

 

ル級はニヤリと微笑むと、自身も砲撃を行おうとする。

 

水柱が崩れ落ち、視界が開いてくると、ル級にとって予想外の一撃が降ってきた。

 

ル級の装甲(エネルギーフィールド)と金剛の放った砲弾が火花を上げて競り合う。が、砲弾は弾かれてしまった。

 

「shit!当たりどころが悪かったネ……!」

 

ル級はギロリと金剛を睨む。見ると、金剛の三番、四番主砲が煙を吐いている。

 

金剛は第一射を目眩しに使い、第二射を確実に当てようとしたのだ。

 

「RrrruuuUUUyyiiGgaaaaaAAAaaa!!!」

 

ル級は言葉になっていない叫声を上げると、金剛に向け、砲を乱射する。

 

「アララ……怒っちゃいマシタ?」

 

金剛の周りに幾つかの砲弾が降り注ぐ。現在の粒子装甲防壁では、至近弾でも破壊(システムダウン)される可能性があった。

 

(とにかく、テンリュー達が戻って来るまで……今は引き撃ちしか無いデス)

 

金剛は日々の猛特訓で培った操艦技術をもって、ル級の砲撃をかわしつつ、自らも砲撃を行う。

 

「金剛さんっ!大丈夫ですか!?」

 

「no problem!アオバはル級の射程外に退避していて下サイ!」

 

金剛はそう答えるものの、ル級の攻撃は一層激しくなり、じりじりと追い詰められている事は明白だった。

 

(今の旗艦直掩は私だけ……自分が守られるとは、何という不覚……天龍さん達にも言ったじゃない……旗艦を守れずして、何が旗艦直掩か……!)

 

青葉はぐっと拳を握り締めると、最大戦速、進路をル級に向けた。

 

「驕るなっ!私よ(重巡青葉)ッ!!」

 

ル級は、自ら向かってくる青葉に気付くと、ニヤリと笑い、砲塔をそちらへ向ける。

 

「アオバ!?何やってるんデスカ!早く退避を!!」

 

青葉は金剛の制止を聞かずに、更に速力を上げ、ル級との距離を一気に詰める。

 

ル級は、確実に砲撃を当てる為に砲を微調整している。

 

青葉は砲門が此方へ向いているのを知りながら、尚も真っ直ぐに距離を詰めていく。

 

そして遂に、ル級が砲を放った。

 

「……っ!」

 

自分の身体を貫こうと飛んできたル級の砲弾を、青葉は装甲を展開し防ごうとするが、容易く貫通され、青葉の後方に着弾する。

 

「あぁッ!」

 

その後方からの衝撃で、青葉は前方ーール級の目の前ーーに飛ばされた。

 

その距離、およそ1,000m。

 

全ての艦において、外す事が無い、必中の距離。

 

この距離で、戦艦クラスの主砲に撃たれたのなら、言うまでもなく、消し飛ばされるだろう。

 

しかし、青葉は笑った。

 

「この時を待っていました!!」

 

ル級に16inch三連装砲を向けられ、絶体絶命の中、青葉はその背中の艤装に取り付けられた兵装を、ル級に向け返す。

 

「再装填は完了済みです!噴進砲、発射ッ!!」

 

12cm30連装噴進砲から射出された12cmロサ弾が、白煙の尾を引いてル級へと飛んでいく。

 

しかし、もともと対空武器である12cm30連装噴進砲を、深海棲艦でも最高クラスであるル級の装甲、どころかダメージを与えることすら出来ない。

 

「Ru……ッ!?」

 

ダメージが無い事に安心したル級だったが、自らの周りを見て驚愕した。

 

ル級に向かって飛んできた12cmロサ弾の白煙や炸裂した時の煙で、ル級の周りは煙幕に包まれたようになっていた。

 

つまり、視界がほぼゼロ、金剛と青葉を見失っ(ロストし)たのだった。

 

「金剛さん!!今ですッ!!」

 

何処からか青葉の声が響く。

 

その声に混乱から脱したル級が、砲撃の風圧で煙を吹き飛ばそうとした時だった。

 

「うおおおおぉぉぉぉおおおおっ!!!」

 

ル級の真横から飛び出した金剛、その拳がル級の顔に突き刺さった。

 

間髪入れずに金剛は追撃を掛ける(蹴りかかる)

 

しかしその追撃は、大楯のような主砲塔に防がれた。

 

防いだ勢いのまま、ル級は金剛を跳ね飛ばす。

 

再度、砲口を金剛へ向け、消し炭にしようと試みるが、金剛は逃げるどころか、距離を詰めてきた。

 

ル級は顔を歪ませる。手の届くような至近距離で主砲を放てば、その衝撃で自らも少なからず被害を受けるだろう。

 

逆に言えば、金剛にとってはル級の(ふところ)こそが、この戦場での唯一の安全圏なのだ。

 

しかしそれは「砲撃」に限った事である。

 

「ル級よ……近距離格闘(インファイト)でバトルデース!」

 

殴り合いの距離までくると、両者とも砲撃が出来ない。自然的に格闘戦となる事は必至だった。

 

「RuuuuGiiiiiaaaaAAAaaa!!!」

 

ル級も両手に持っていた主砲塔の1つを海に捨てると、金剛の拳を避け、フックを仕掛ける。

 

金剛は、艤装を身に付け、体内ナノマシンを覚醒状態にしている身、そのフックを超動体視力で完全に見切ると、空いたル級の脇腹に鋭い横蹴りを叩き込んだ。

 

「その様子じゃ、格闘戦は不慣れなようデスネ。ニッポンのカラテを得と味わうデース!」

 

金剛はル級に次々と打撃を叩き込んでいく。

 

「はぁぁああ……ッ!!」

 

金剛の裂帛の気合いと共に、鋭いパンチがル級にクリーンヒットする。

 

ル級がよろめいて後ろに下がる。

 

「これで終わりネ!」

 

金剛が、加速の勢いと共にル級に拳を繰り出す。

 

「rrRuuuuGyaaaAAAAAAaaaaaa!!」

 

しかし、金剛の拳はル級には届かない。ル級に届く寸前で金剛の拳が止まっていた。

 

「エネルギーフィールド……!ル級の装甲……デスカ……!?」

 

金剛は押し切られまいと力を振り絞るが、ル級のエネルギーフィールドが大きく展開され、金剛は逆に吹っ飛ばされ、海面に転がる。

 

「まさか……装甲の展開の仕方で……こんな方法があるトハ……!」

 

金剛は既にル級の砲撃を喰らって、装甲はボロボロ。そしてここにきてエネルギーフィールドの展開によって吹っ飛ばされる。

 

正直、金剛もボロボロだった。今現在向けられている16inch三連装砲を避ける事は、多分無理だろう。

 

ル級が何度目になるか分からない微笑みを金剛へ向ける。

 

今度こそ追い詰められた金剛だったが、狼狽えた様子は無い。

 

それどころか逆に微笑さえ浮かべている。

 

「それで勝利したつもりデスカー?戦いは最後の最後まで油断してはいけないト、教わりマセンでしたカー?」

 

ル級は、金剛の態度と言葉に疑念を抱きつつも、勝ちを確信した表情で再び砲口を向ける。

 

金剛はフゥーと溜め息をつくとル級に向け言葉を投げ掛ける。

 

「アナタのような強大な戦艦クラスでも、一撃で沈めることのある『魚雷』というものを御存知デスカ?」

 

ル級は怪訝な表情で手を止めた。

 

「特に大日本帝国海軍の使用した魚雷は、他の国の魚雷と比べて、速度、威力は桁違いに高く、かつ、推進燃料に酸素を使っている為、本来見える筈の航跡が見えないのデスヨ。だから日本の魚雷は『酸素魚雷』と呼ばれたのデース」

 

ル級は怪訝な表情を一転させ、顔面を蒼白にする。

 

「気付きマシタカ、いつからワタシが1人だと錯覚していたのデース?」

 

ル級はハッと背後を振り向く。そこには、身体は小さくとも、その身に宿る信念は誰よりも強いーー駆逐艦の少女が、こちらを見つめていた。

 

「金剛さん!!助けに来ましたよ!!」

 

「フブキ!行くのデース!!」

 

「ru……rU……RUUuuuGYAAAaaaaaaAAAaaaッ!!」

 

ル級は吹雪を認めるや否や、その主砲を放つ。

 

しかし、吹雪はそれを軽々と避けると、その脚に装備された必殺の武器を放つ。

 

 

「酸素魚雷、一斉発射よ!いっけぇー!!」

 

 

九三式61cm酸素魚雷。

 

かの大日本帝国海軍が当時、世界で初めて実用化に成功した、最強の槍。

 

ル級は発射される魚雷を見て、回避行動を取ろうとするが、その魚雷が見当たらない。

 

「忘れたのデスカー?酸素魚雷は推進燃料に酸素を使用している為、航跡が見えないと言ったのを」

 

ル級は戦慄する。蒼き悪魔、長槍(ロングランス)と呼ばれた最高の魚雷が、ル級の目に見えないまま、足元へと迫っているのだ。

 

しかも発射された距離は必中の間合い。

 

 

「最後の最後で油断しましたね。チェックメイトデス、ル級。ワタシ達の勝ちデース」

 

 

ル級は、言葉にならない悲鳴と水柱を上げつつ暗い海の底へと消えていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「艦隊集合。各艦、被害報告」

 

戦闘が終了した後、金剛は艦隊収集をかけ、被害を確認していた。

 

「俺は大丈夫って言いたいところだが、主砲は使いモンになんねぇし、装甲損傷率も中々のもんだ」

 

「私は大した被害は無いわ〜」

 

「私もです」

 

「私もです。吹雪ちゃんが決めてくれたおかげで、艦載機の消耗も無かったです」

 

「こっちもですねー。ただ、噴進砲の残弾はもう無いです。結構高いらしいのに……」

 

「そんな事より金剛さんの方が酷いんじゃ……」

 

見ると、奄美艦隊の中で一番の被害を被っているのは金剛のように見えた。

 

「まぁ、ル級と殴り合って良く沈まなかったモノデス……自分でも怖いデス……」

 

「ま、まぁ、勝てたんですしいいじゃ無いですか。それより、ル級を倒した事でジャミングが解除されてる筈です。基地と連絡を取りましょう」

 

赤城の言葉に頷くと、早速無線機を取り出し、基地と連絡を取る。

 

「Hello、こちら奄美艦隊旗艦、金剛デース。奄美基地、応答願いマース」

 

『……っ!金剛か!?心配したぞ!』

 

「あぁーその声はショーイデスカ。戦果報告するデース。敵本隊の撃滅を完了、ワタシ達の作戦はall completeデース!!」

 

『そうか!良くやってくれた。埠頭で待ってるから、早く帰投してくれ』

 

「了解デース」

 

そんな短いやり取りをした後、金剛は艦隊のみんなを見る。

 

「それでは帰りましょうカ」

 

全員が安堵の表情を浮かべ、帰路に着こうとしたその時だった。

 

「……ん?なんだ、早期警戒電探(ピケットレーダー)に感有り。6時の方向、総数は不明」

 

「どう言う事?天龍ちゃん?」

 

そこで、赤城が何かに気付いたように空を見上げる。

そこにはゴマ粒のように見える、黒い無数の点が見えた。

 

「アレは……敵艦載機っ!?」

 

黒い点はあっという間に奄美艦隊の上空を埋め尽くし、金剛達に攻撃を仕掛ける。

 

「何で敵艦載機がっ……空母は沈めたハズでは……!?」

 

「こっ、金剛さん!!敵艦隊視認!相手は……空母ヲ級ですっ!」

 

「そんな……まさか……!?戦艦ル級の艦隊は囮で……こちらが、敵本隊……!?」

 

動揺する奄美の艦娘達。そんなことを知るよしも無く、敵艦載機は、艦娘達に攻撃を仕掛けてくる。

 

「全艦単縦陣!!全速でこの海域から離脱するデース!!」

 

「おい待て!俺たちが逃げたら今度こそ、基地は壊滅だぞ!!」

 

「そんな事、百も承知デース!しかし、今は一回体勢を立て直す必要がありマス!全艦、ありったけ出すデース!!」

 

奄美の艦娘達は、取り乱しながらも退避を試みる。しかし、敵艦載機がそれを許さない。

 

(やはり、燃料をほぼ使い果たしていて、かつ先の戦闘でのダメージと相まって、逃げ切るのは不可能のようデスネ)

 

「ならば……対空戦闘用意!」

 

各艦は持ちうる限りの対空火器を空に向ける。

 

「うちーかたー始め!絶対に生き残るんデース!!」

 

「くぅ!こんな事になるなら、噴進砲の弾をもっと持ってくるべきでした」

 

襲いくる艦載機を、既にボロボロな艦娘達は全力で迎撃する。

 

赤城も隙を見て零戦を発艦させるが、瞬く間に撃墜されてしまう。

 

「そんな……ニイイチでは敵わないと言うの……!」

 

天龍と龍田も、標準搭載の機銃を艦載機に向けて放つ。しかし、通常兵装の武器では全く役に立たない。

 

「チィっ!こいつら、結構厄介だぞ!」

 

「突撃を掛けようにも、燃料弾薬共に残り僅か。万事休すかしらぁ〜」

 

降り注ぐ爆弾や、迫り来る魚雷を吹雪はギリギリでかわしていく。

 

「ここで私達がやられるわけにはいきません!!」

 

しかし、いくら迎撃しても敵機の数は減らない。それどころか数を増して、より激しい攻撃を仕掛けてくる。

 

「マズイ……!もう装甲が持たないデース!」

 

「くっそぉ!燃料がすっからかんだ!」

 

「こっちも弾薬が尽きました!」

 

もはやこれまで、奄美の艦娘達が絶望に飲み込まれる直前、一陣の風が吹き抜けた。

 

 

 

そして次の瞬間には、敵機は爆発四散し、みるみるうちに数を減じていく。

 

「……何が起こっているの?」

 

それに応えるように、無線機から声が聞こえてきた。

 

『二航戦、推参ッ!』

 

『赤城さーん、助けに来ましたよ!』

 

「その声は……飛龍と蒼龍!?」

 

空に二航戦の2人が放ったのであろう零式艦上戦闘機五二型が、瞬く間に敵機を駆逐していく。

 

『航空戦艦伊勢、只今参上!ヲ級は任せといて!』

 

『援護に来た。奄美部隊は速やかに戦闘から離脱してくれ。深海棲艦よ、航空戦艦の真の力、思い知るがいい』

 

「イセ……それにヒュウガも!」

 

「た……助かった……」

 

思いがけない援軍のおかげで、奄美部隊は窮地から脱する事ができ、敵本隊も撃破する事が出来た。

 

今度こそ、奄美部隊は作戦を完了し、基地を深海棲艦から守り抜いた。

 

艦娘達が帰投すると、基地の人々が、手を振って出迎えてきてくれた。

 

しかし、その中にルナの姿は見当たらなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一週間後。

 

奄美の艦娘達はいつものコテージに集まっていた。

 

「少尉、帰ってきませんね……」

 

吹雪が寂しそうにそう言う。

 

「確かに、島を守る為とは言え、明らかな越権行為でしたからね……」

 

青葉がうんうんと相槌をうつ。

 

「良くて謹慎、悪くて左遷か解雇かしらね〜?」

 

「龍田、それなかなかに洒落になってねーぞ」

 

「ワタシ達の指揮官、変わってしまうのデショウカ……」

 

金剛の言葉に、皆黙り込んでしまう。

 

「あれから一週間、そろそろ何かあっても良い頃ですけど……」

 

赤城のその言葉の後に、コテージの扉が勢いよく開け放たれた。

 

見るとそこにはライラが立っていた。

 

「ライラさん……!」

 

「総員整列!!」

 

ライラの掛け声に、艦娘達は横一列に並ぶ。

 

「まず始めに、先日の基地及び本島防衛戦、奮戦御苦労だった。お前達のおかげで平和は守られた」

 

口ではそんな事を言うライラだったが、言葉とは裏腹に表情は硬い。

 

「しかし、だ 、貴様らの行った行動は明らかな越権行為、つまり違反だ。本来なら軍特権持ちのCMSの貴様らにも何かしらの処罰が下るのだが………」

 

「だが……?」

 

「貴様らの ”元” 指揮官がその全責任を負うと進言した。よって処罰は取り消されたという事を伝えに来た」

 

ライラのその言葉に、艦娘達全員に衝撃が走る。

 

「なんですって……!?」

 

「ショーイが……っ!?」

 

「それに元って……」

 

吹雪が一歩前に出て、ライラに質問をする。

 

「一体、少尉に何を……!」

 

ライラは吹雪を見据えると、瞳を伏せ、冷たい声で言い放つ。

 

「栄ルナ少尉は、本件の全責任を負い、その階級と権限の全てを剥奪。本土送りの禁固刑、というのが『中央』の判断だ」

 

「そん…な…!」

 

権限の総剥奪。それが行われれば、ルナは二度と軍人として活動する事は出来なくなる。

 

「てめぇ……仮にもアイツはこの基地を救ってんだぞ!それが『中央』のやり方かッ!!」

 

「話はそれだけか?こっちも時間が押してるんでな、次の題に行くぞ」

 

ライラは天龍の恫喝をさらりと流し話を進めようとする。

 

「少佐が取り合わないと言うならば、然るべき対応をさせて貰いますよ〜?」

 

龍田がその手に対艦薙を握り、その刃をライラへと向ける。

 

「ほう、それは脅しか?本気でやり合うとするならば、覚悟は出来ているのだろうな?」

 

ライラがサーベルの柄に手を掛ける。それと同時、形容出来ない威圧感と殺気がライラから溢れ出る。

それは龍田のみならず、艦娘全員を後ずさりさせるのには充分だった。

 

「ふん……話を進めるぞ。指揮官不在の中、貴様らの活動を行う事は難しい。よって、新たな指揮官を連れて来た。これに異論は?無いな、では、入れ!」

 

ライラがそう言うと、扉を開け、新たな指揮官が入ってきた。しかし、その影は見覚えのあるもので……

 

「「「…………え?」」」

 

艦娘達が揃って疑問符を頭に浮かべる中、その新たな指揮官は、いつもと変わらない様子で自己紹介を始める。

 

「おー君達、元気だったか?改めて自己紹介するけど、 ”正式に” 奄美要塞基地所属、『奄美CMS特別部隊』指揮を任された、栄ルナ少尉です。また宜しくな!」

 

「しょ……少尉!?」

 

「hey、ライラ!これは一体ドユコトデスカー!?」

 

「どうもこうも、そういう事だ」

 

「意味が分かりません!だって少尉は、責任を負って処罰を受けるハズでは……」

 

「勿論。但し、先程の内容は『中央』のモノだ。ソイツの身柄は我が奄美基地が押さえていた、よってジジイ自ら『中央』と直談判して、処分の内容を我々が決められる様にとケリを付けてきたのだ」

 

「まさか……その処分の内容って……」

 

ライラがそれまでの硬い表情を止め、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「『栄ルナ少尉の奄美基地への無条件所属、及び基地新設部隊指揮官への強制任命』だよ。全く、あのジジイも粋な事をする」

 

「まぁ、そんな訳で禁固刑は免れた次第だ。また訓練に明け暮れる日々が続くと思うから、覚悟しろ……ってうわぁ!!?」

 

ルナの言葉を遮り、吹雪がルナへと抱きつく。

 

「本当に良かった……良かったよぅ……!」

 

「あの、吹雪サン?その……気持ちはとっても有り難いんですが、少々行動が大胆過ぎると言うか、いや嬉しいんだけどあのですね」

 

「成る程成る程、少尉はこういうのに弱いんですか?無頓着かと思ったら、やっぱり少尉も人の子ですねぇ」

 

いつの間にか近づいてきた青葉が、肩に手を掛けつつ背中に抱きつく。

 

吹雪もそうだが、抱きつくという事は密着しているという事に他ならない為、何とは言わないが、その柔らかさを物凄く、否が応でも感じることになる。

 

「お、おい!こら青葉離れろ!」

 

「えぇ〜?吹雪さんがよくて私が駄目ってコト無いでしょうに〜」

 

「ズルいデスヨ!フブキ、アオバ!ワタシもショーイに抱きつくデース!!」

 

金剛がそう言って、ルナのもとに飛んでくる。

比喩は無い。飛びつくとはまさにこの事。

 

「待て待て待て待て待て待てうわあああああああああああああああ!!!」

 

ルナはそんな悲鳴を上げつつ、艦娘3人の下敷きとなったのであった。

 

「全く……」

 

ライラはギャーギャーとうるさくなったコテージを後にした。

 

外にはトウが待っていた。

 

「やはり、賑やかなのは良い事じゃの」

 

「あれはうるさいと言うんだジジイ。耳と頭も悪いらしいな」

 

「相変わらず毒舌が冴えきってるのうライラ君。して、『中央』の方はどうなっとる?」

 

「ジジイの無理難題のお陰様で、大量のラブレターが届いたよ、全部ジジイ宛てにな」

 

「こりゃこりゃ、返信で忙しくなるのう」

 

「それと、第一、第二艦隊が戻ってきている。頼まれていた物も一緒に置いてある」

 

「流石、手際が良いのライラ君。《計画》は順調じゃ。何とか《第二段階》もクリア出来たしのぅ。いやぁ〜、奴を言いくるめるのが一番の仕事じゃったな」

 

「ふん……総司令相手によくやるもんだ」

 

「ワシはな、期待しているんじゃよ」

 

「…………あの素体の可能性(ポテンシャル)にか?」

 

「いいやそれよりも、あの心の内に秘める熱き魂の輝きにな」

 

 

トウはコテージの方を見つめる。

コテージからは楽しげな声と嬉々とした叫び声が、いつまでも聴こえてくるのであった。

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・ECM

電波ジャミングの事。深海棲艦のいる海域では電波が通じない事があり、通常通信が出来なくなる時がある。

 

・防衛班

奄美要塞基地の主部隊。近海に迫り来る脅威から人々を守る。

主な物として、多目的汎用型の改造護衛艦8隻と固定砲台多数がある。

 

・バイタルパート

艦で言う、重要防御区画のこと。艦娘だと、生体の胴体、頭部分が該当する。

 

・ランチェスターの法則

1914年、イギリスのフレデリック・ランチェスターによって発表された、戦闘の数理的なモデルのこと。

最も簡単に例えると、戦力が同じなA軍5人とB軍3人が戦闘を行った場合、A軍が勝利し、2人生き残る、というように、戦闘を数学的にモデリングする事が可能になる。

 

・酸素魚雷

大日本帝国海軍が使用した、世界最高峰の魚雷。推進燃料に酸素系の物を利用する為、本来、二酸化炭素として排出される魚雷特有の泡の航跡が、海水に溶けて泡が見えなくなり、結果、航跡が見えなかった。

主に、九三式や九五式などがある。

 

 

 

 

 

 

 




長かった第2章がやっと終わりました。疲れた(^^;;
ルナ「作者がそんな事言うんじゃない」
あ、途中の青葉の台詞は某ツンデレ重巡のをお借りしました。
ルナ「そんな事どうでもいいだろ!次回からは幕間と称して、ほのぼの系を少し入れてく予定だ。次回も宜しく!」


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ー幕間ー
memory13「ライラ先生のよく解る軍講座」


大説明回です。

ー前回までのあらすじー
記憶喪失で過去の出来事が全く思い出せない「栄ルナ」は一通の手紙を頼りに「奄美基地」で生体兵器「CMSー艦娘ー」の指揮を代理で務める事になった。
しかし、ルナの担当する艦娘達は皆、役立たずの烙印を押された落ちこぼれだった。
様々な困難を乗り越え、基地に襲い掛かってきた深海棲艦を退けた艦娘達は、その部隊を軍に正式に認められ、ルナも奄美基地に正式に所属する事になった。





 

 

memory13「ライラ先生のよく解る軍講座」

 

 

 

「くうぅ…………勉強したくねぇ…………!!」

 

「何を言っているんだ貴様は。本来は軍学校に入り、そこの卒業者が、鎮守府または基地に配属され、その中でもエリート中のエリートのみが指揮官になる事を許されるんだぞ。

それを貴様は、ジジイのお陰で、記憶がぱっぱらぱーにも関わらず指揮官になったんだ。

逆に有り難く思え」

 

 

南西諸島方面からの敵深海棲艦部隊の本土侵攻迎撃戦ーー公式作戦名『南一号作戦』ーーから、数日経ったある日のこと。

 

奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナ少尉は、中央派遣、ライラ・トイライン=ハム少佐に拉致され、学習室にて、半ば強制的にペーパーテストを強いられていた。

 

「指揮官という立場になったからには、今後、多方面で活動せねばならないだろう。それこそ、他の鎮守府、基地と連携した作戦を展開する事もある。

そんな中、貴様だけ無知では話にならないだろう?」

 

「記憶を失くす前の自分も、勉強が大っ嫌いだったに違いない……今、こんなにも嫌なのだから……っ!」

 

「口を動かす前にペンを動かせ、ペンを」

 

正しい事を言うなら、なにも勉強が嫌いな訳では無い。

このペーパーテストというものが嫌いというのが正しいだろう。

 

小一時間ほどの、拷問に等しい時間をかけ、何とかやり遂げたペーパーテストをライラがその場でチェックしていく。

 

「ふむ……基礎的な学力自体は平凡だな。面白い記憶喪失をしたな」

 

「面白いとか言わないで下さい。結構悩んでるんですから」

 

ルナは記憶喪失に陥っており、過去の出来事という記憶全てを失くしている。

専門医によると、外傷的なものらしく、記憶が戻る確率は半々だという。

 

「まぁいい、学力が平凡なら手間が省ける。さらっと本題にいくぞ」

 

「平凡って……まぁそうですけど、本題とは何ですか?」

 

ライラはルナの机の上にドサッと紙の束を置いた。

 

「……これは?」

 

「今からこの私が、貴様に特別授業を開いてやる。授業内容は全てA級機密事項モノだから、軍関係者といえど他言は無用だ」

 

「ちょちょちょ、ちょっとお待ちを!授業とは一体全体どういう事ですか!?ちゃんと説明して下さい!」

 

ライラは首を傾げると「洒落を効かせたつもりだったんだがな」と言いつつ、ルナに今回の主旨を説明する。

 

ライラ曰く、今日は指揮官に必要な知識を身につけて貰うという事らしい。

 

いつだったか、ざっくりと説明を受けた事は覚えているが、今回はそれ以上に踏み込んだ話をしてくれるらしい。

 

それもこれも、ルナが正式に奄美大島要塞基地所属になり、かつ奄美CMS特別部隊指揮官になったかららしい。

 

「それにしてもライラさんが講師とは、なんか不思議な気持ちがしますね」

 

「何を言う。これでも私はMW技術を用いた攻撃モジュールについてで博士号を持っているんだぞ。青臭いチビに講釈を垂れる事なぞ朝飯前だ」

 

「それは初耳です。それじゃあ宜しくお願いしますよ、ライラ先生」

 

「よろしい。では先ず、貴様は今が何年か理解しているな?」

 

「えーと……2086年でしたっけ?」

 

「そうだ、では深海棲艦が現れ始めたのは?」

 

「確か10年前辺りからと……」

 

「深海棲艦が我々人間に害を為すようになったのは大体2076年くらいだ。恐らく、それ以前にも出現報告はあったのだろうが、大したことも無かったため中央に情報は上がらなかった。

それでも、都市伝説やらでそんな存在が確認されていたのは事実だ」

 

ライラはホワイトボードに深海棲艦についてのレポートを貼っていく。

 

「深海棲艦の特徴は大きく分けて3つある。

1つ目は『人間を襲う』

2つ目は『通常兵器がほぼ効かない』

3つ目は『意思疎通が不可能である』

という事だな。順を追って説明しよう。

 

1つ目の『人間を襲う』これは我々が敵対している事からみても言わずもがな、というものだな。

奴らは無条件で、人類文明に対して破壊行動を行う。

さっき渡した資料の最初の部分を見てみろ」

 

ルナは言われた通りに資料を開く。そこには世界地図と赤い円が幾つも書かれていた。

 

「この赤い円は……?」

 

「その赤い円の部分は、深海棲艦に占領された部分を示している」

 

ルナは改めて世界地図を見る。太平洋の殆どの海域、インド洋、大西洋と海の部分は殆ど赤い円で埋め尽くされており、一部の大陸、つまりは陸上までにも赤い円がかかっている場所があった。

 

「それを見て分かる通り、地球上の殆どの海域及びオーストラリア大陸やアメリカ大陸沿岸などの一部の陸上が深海棲艦の手に落ちている」

 

「これ程に深海棲艦の侵略が……」

 

「うむ、たったの10年でこの有様だ。深海棲艦の海域封鎖によって海上交通網(シーレーン)は壊滅状態、これにより各国間の輸出入がストップし、物理的にも経済的にも大打撃を受けた。

今では、超高高度を飛行する高速輸送機でしか物資の輸送は不可能だ。しかしこれも、一回飛ばすのに莫大なコストが掛かる為、そう容易に飛ばす事は出来ない。

結果的に、各国は孤立状態となり人類文明崩壊の危機に陥っているという訳だ。

それでは次だ」

 

ライラは、次に駆逐級や戦艦級の深海棲艦の画像をホワイトボードに貼っていく。

 

「これ程までに攻撃を受けているのに、何故人類は反撃しないのか。否、反撃出来ないのか。

それは深海棲艦に『通常兵器が効かない』からだ」

 

「エネルギーフィールド……ですか」

 

「その通り、奴らは自らの周辺に特殊なエネルギーフィールドを生み出し、殆どの物理攻撃を弾き返して無効化してしまう。これを我々は深海棲艦の【装甲】と呼んでいる」

 

更にライラが、深海棲艦の画像に補足説明の紙を貼っていく。

 

「この装甲が中々に厄介で、対艦ミサイルさえも奴らにダメージを与える事は出来ない。恐らく、荷電粒子を利用した電磁の力場ではと考えられているが、真相はわかっていない。もしかしたら、人類がまだ発見していない技術かもしれないな。

これは深海棲艦の攻撃においても同様だ。駆逐級でも全長は数mか10数m、戦艦級……例えばル級などは、其れこそ人の背丈程しか無いのに何故、大型タンカー船を撃沈出来る程の攻撃力を持っているのか。大きな謎だな」

 

「確かに……言われてみれば不思議ですね」

 

「だろう?最後の『意思疎通が不可能』……これが出来ればここまで苦労することは無いだろうな。今のところ、人語を解する深海棲艦はいないとされている。かつて南方、オセアニア方面で人語を話す、巨大な深海棲艦が現れたという情報もあるにはあるが、中央は詳しい情報を開示していない。

いずれにせよ、理解し合うのは難しいな。

ここまでで質問はあるか?」

 

「では先程、通常兵器は効かないと言ってましたけど、以前の話だと、大量の火力を注ぎ込めば倒せると。そこの所はどうなんですか?」

 

「確かに、通常兵器は『ほぼ』効かないという訳であって、完全に効かない訳では無い。しかし、深海棲艦の中でも最低クラスの駆逐艦でさえも、米軍の一個大隊と相討ち出来る戦闘能力がある。流石にリスクが大き過ぎる。

核兵器で一網打尽に、というプランもあったが、完全に深海棲艦を根絶やしに出来る訳でもなく、逆に人類側の被害の方が大きくなるとの事で却下された。

そもそも、深海棲艦がどの様にして現れ、どのようにして増えるのかが解明されない以上、大量破壊兵器は使いたくても使えないな。使ってもらわれては困るがな」

 

「成る程……でも、日本はその深海棲艦を鹵獲してテクノロジーを奪取したんですよね?それがCMSだと……」

 

「その部分はA++級、又はS級極秘事項になる。流石の私と言えども話す事は出来ない。…………軍関係者でもその事を知っているのは多くないが、後で差し支えない程度で説明してやる。

それでは次、現在の日本についてだ」

 

ライラは別の資料を机の上に広げて、講義を続ける。

 

「先に言った通り、深海棲艦の登場によって海洋国家である日本は特に大打撃を受けた。そして深海棲艦とは意思疎通不可能……この事態では専守防衛は完全に無意味。わかってるとは思うが、相手は正体不明で、無条件に人類を攻撃してくるのだからな。

そこで日本の自衛隊は、再び完全な意味での『軍隊』となったのだ。まぁ、人類を守る『防衛隊』と言った所だな。

 

日本の要は海、言わなくても解るな。だから海軍力が最も強化されていった。

今の日本軍は【中央】と呼ばれる最高組織が陸海空を仕切る形で動いている。

陸と空は省くが、海軍はその組織力を地方に分散させ、もしもの時の大侵攻に備えている」

 

「それが、【鎮守府】という訳ですか」

 

「そうだ。首都部を守る【横須賀鎮守府】、北海道方面を守る【大湊鎮守府】、日本海側を守る【舞鶴鎮守府】、瀬戸内等の日本の工業地帯を守る【呉鎮守府】、九州方面を守る【佐世保鎮守府】の計5つの鎮守府がある。

第二次大戦時の呼び名を使っているのと大湊が警備府じゃないのは前に話したな」

 

「そうですね、あと鎮守府の下に更に【基地】があると」

 

「我々のいるこの奄美基地、正式には奄美大島要塞基地は現在、佐世保の管轄下にある。佐世保は他にも鹿屋基地と岩川基地を管轄下に置いているな」

 

「質問ですけど、沖縄方面に基地とかはあるんですか?やはり、かつての在日米軍の基地とかですか?」

 

「いい質問だな。結論を言うならば、沖縄方面に海軍の基地は無い。ここで言う『基地』とは深海棲艦に対抗し得る戦力を持っている事が条件だからな。

70年代までは深海棲艦も今程ではなかったので、研究目的で南方海域方面にも基地や泊地といった海軍の施設はあったのだが、80年を過ぎると爆発的にその数を増した深海棲艦によって南方の基地泊地はその殆どが壊滅した。

今でも使用しているのは【パラオ泊地】と【トラック泊地】のみだ。

この両泊地は戦いの最前線にして、深海棲艦の謎を解き明かす為の研究に関しても最先端を行っている」

 

「そうなのですか。本土の方が研究とかは進んでるイメージがあるんですけど……」

 

「南方海域方面では、未だ中央が把握していない、未知の深海棲艦が出現したりする。それに対抗する為に様々な研究をし、その結果を受けて本土の方で対抗策を立てる。こんな感じだな。一応、日本以外の国にも技術協力を要請してはいるが……状況が状況だ、あまり期待は出来ないだろう」

 

「成る程……」

 

「それでは次、そんな人類の天敵に唯一対抗出来る最後の希望、【CMS】についてだ。CMSが何の略称かは前に教えたな?」

 

「えーっと……コンバット……?」

 

「Combat bioroid-Memory weapon Storage、戦闘バイオロイド型記憶兵装保存媒体、略して【CMS】、俗称は【艦娘(CMS)】だ」

 

CMSについては色々と細かいからな、とライラは言いながら、資料をホワイトボードに貼り付けていく。

 

「艦娘、CMSとは現在、深海棲艦に対抗出来る唯一の存在だ。

彼女らは皆、人間ではない。『戦闘バイオロイド』という全般的戦闘能力に特化する様に造られた人造人間……とでも言っておくか。

このバイオロイドというのは言葉から分かる通り、バイオテクノロジーの粋を集めて造られた人造人間だ。人造人間とは言うものの、その生体機構は人間とほぼ同じ…………非武装状態なら人間との区別なんてつかないだろう」

 

「人造人間………」

 

「そしてこのバイオロイドには、多量の『ナノマシン』が投与されている。このナノマシンはバイオロイドの体組織と融合、同化し、取り付いた素体の身体能力を飛躍的に向上させる。

さらに、このナノマシンは寄生増殖する。つまり、『周囲の環境に適合し、その環境状態と全く同じモノを作り出し増殖する』ということだ。CMSの異常なまでの戦闘能力と回復力はこのナノマシンのお陰だな」

 

ルナは天龍と殴り合いをした時を思い出す。

確かに、人とは思えないパワーで見事に吹き飛ばされた。

 

「バイオロイドもそうですけど、よくナノマシンの開発に成功しましたね。ナノマシンもひと昔前まではファンタジーだのなんだの言われてましたけど」

 

「実のところを言うとな、我々もこのナノマシンの実態が解っていない」

 

「え?そうなんですか?」

 

「そうだ。そもそもこのナノマシンは開発したのではなく、偶然発見したんだ。2030年代頃、小笠原諸島でな。

当初は新種の細菌として発見され、研究が進められた。しかし、研究が進むにつれ、その細菌の体細胞内に解明不能の特殊な働きをする…………敢えて言うなら『機巧』のような存在が確認された。因みに現在でもこの機巧部分は観測不可領域(ブラックボックス)として扱われている。

そしてこの細菌は寄生した物質の内部エネルギーを任意に抽出し、寄生した物質と同じ特性を持つようになる。

更に、特定値以上のエネルギーを受け取ると覚醒状態とも呼べる状態になり、活動が活発化する。

よってオリジナルの純粋なその細菌を特定環境下で培養し、増殖した分をナノマシンとして使用しているというのが現状だ。

まぁ、この特異な特性が注目を集め、今日ではナノマシンシステムだとか言われて使われているという訳だ」

 

「細菌……なんですか?」

 

「そこの所も未だ判明していない。しいて言うなら細菌というだけの、細菌に近い、未知の物質だ。機械なのか生命体なのかも今の科学力では判別出来ていない。こんなものを人類が生み出したとは思えんな。『神の悪戯か、悪魔の罠か』とはよく言ったものだ」

 

「はぁ……」

 

「話を戻すぞ。そのナノマシンが投与された戦闘バイオロイドに【MW技術】によって第二次大戦時の大日本帝国海軍の艦艇のデータを記憶として与えることで、艦娘、CMSが完成する。

何故、第二次大戦時の艦艇かという事も前にちらと言ったな?

では次に、CMSの装備について説明しよう。資料を見ろ」

 

ルナは慌ててページをぺらぺらとめくり、艦娘の絵と装備の絵が描かれているページを開いた。

 

「CMSの装備は【艤装】と呼ばれる。そして、艤装は大きく分けて2種類ある。【機関部艤装】と【攻撃艤装】の2種類だ。

機関部艤装はCMSが戦闘行動を行う為のエネルギーを作り出したり、海上航行を可能にする艤装だ。

メインの機関部艤装には小型核融合炉が内蔵されており、ここで生み出されるエネルギーが全ての元になる。

生み出されたエネルギーは、先ず体内ナノマシンに送られる。ここで体内ナノマシンは覚醒状態になり、CMSは尋常じゃないパワーを発揮出来るようになる。

その後エネルギーは、航行用艤装に送られる。

ここでは、そのエネルギーを使って通常荷電粒子とは異なる【極荷電粒子】を生み出す。

この極荷電粒子は、CMSの体表面を覆い、ちょっとした防御膜のようになる。

さらに、海面に放射することで、局所的な力場を発生させ、そこから発生する反発力や作用反作用などにより、CMSは海上航行を可能とする。ここまでは良いか?」

 

「え?えぇ……と……」

 

「良いな?さらに体表面の極荷電粒子はCMSが任意に空気中に放出できる。

すると、その放出した範囲に力場が生じ、物理的な境界を生み出し、深海棲艦の攻撃を弾いて身を守る事ができる。これを【粒子装甲防壁】と呼ぶ。そしてこれがCMSの防御手段【装甲(バリアー)システム】だ。

しかし、この装甲には耐久値のようなものが存在する。防御の際のCMSに掛かる過負荷、バックファイアを避けるためにな。耐久値を上回るダメージを受けると、このシステムはダウンして粒子装甲防壁が展開出来なくなる。つまり無防備な状態になってしまう。

そうだな……機関部艤装の目立った機能はこんなものか」

 

「もう理解が追いついてないのですが……」

 

「追いつけ。次にもう1つの【攻撃艤装】の説明をする。

攻撃艤装はそのまんま、深海棲艦に攻撃を加える為の艤装だ。CMSが手に持っていたり、身につけていたりする砲塔などが該当する。

この艤装にもMW技術が使われており、記憶という第三観測によって対象の特性および事象を改変する。

これにより深海棲艦の装甲相手でも、効果的にダメージを与えることが出来る」

 

「はぁ……成る程……」

 

「では最後に、CMSの種類について説明して一区切りにしよう。

現在、最も多く普及しているのが『N-I 型CMS』と言われるものだ。さらにコイツを強化した『N-II 型CMS』『N-III 型CMS』がある。

N型はバランスタイプというべきモデルで、その実、汎用性は最も高い。

過去には能力を特化させた『P-S 型CMS』というものも開発された。ただ、コイツは特化タイプが故に対応力が低く、実戦配備はされなかった。

E型は……少し特殊なCMS、としか今は言えない。まだ貴様に説明できるアレではないのでな。知りたければそれなりの努力をするんだな。

一先ずこんなところか」

 

「はあぁ~~やっとですか。後半殆ど分かりませんでしたよ」

 

「何?それはいかんな。もう少し補足説明を……」

 

「いやいやいや!もうたくさんです!お腹一杯です!」

 

「何を言う。貴様には1人の指揮官として立派になって貰わんと困るのだ。

なので今日は、私の出題する問題に、連続全問正解するまでは、この部屋からは帰さないぞ」

 

「なん……ですと……!?」

 

「まぁ少し待て、パパッとペーパーテストを作ってやる。その間に資料でも見て覚えていろ」

 

「う……うわあああぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

基地中にルナの悲鳴が響きわたり、その声を聞いた者は皆、両手を合わせて南無と唱えた。

 

その後、ルナの姿が確認出来たのは、その日の真夜中だったと言う……。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 




ルナ「し、死ぬかと思った…」
ライラ「何をあれしき。まだあるぞ?」
ルナ「勘弁して下さい!」
kaeru「大変そうだね」
ルナ「元はと言えば作者のお前が説明回なんて作るから……!」
kaeru「そんなわけで、分からない点、疑問に思う点がありましたら、どしどしコメントを」



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memory14「青葉の密着取材」

コメディ回です。

それと私事ですが、作中に登場するCMSと、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(ラージハドロンコライダー、通称LHC)内の、汎用素粒子検出器『CMS検出器』のCMSとは一切関係がありません。

あっちは「Compact Muon Solenoid」
こっちは「Combat-bioroid Memory weapon Storage」
です。

期待してた読者の方々には申し訳ないです

それではどうぞ


 

 

memory14「青葉の密着取材」

 

 

 

どうも!皆さんこんにちは!

重巡洋艦青葉と申します!

 

今日は天下の休日ということで、いつもの訓練も無く、とても退屈な1日になりそうなので、独占密着取材と称して、栄少尉の休日を皆さまにお届けしたいと思います!

 

休日は休んだ方が良いとは言いますが、私達は艦娘!月月火水木金金なのですよ!

決して、少尉の弱みを握って、訓練後にデザートとかを奢って貰おうなどとは思ってませんよ?

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、0600(マルロクマルマル)

 

少尉の部屋の前にやって来ました。

少尉の部屋は私達と同じ、基地庁舎別館、艦娘宿舎の二階の端っこにあります。

 

もともとは唯の用具置き場兼倉庫だったんですけど、空き部屋も無かったので泣く泣くあそこを使ってるって小耳に挟みました。

 

以前まではしっかりと鍵が掛かってましたけど、いつしか私が抉じ開けてそのまんまらしいので、すんなりと中に入れます。

 

少尉の部屋は……からっぽです。何にもありません。

せいぜい、部屋の隅に掃除用具ロッカーみたいのがあるだけです。少尉も居ません。

 

実はこの少尉の部屋(倉庫)、2つあるんです!

 

すっからかんの部屋、入って左手に不思議な扉があって、少尉は主に此方の部屋を使ってるらしいです。

 

それじゃ、おじゃましまうー。

 

隣の部屋は、すっからかん部屋と打って変わり、もうゴチャゴチャです。元々、2つの倉庫に分けて保管していた様々な用具が、今ではこちら側の部屋に詰め込まれている状況らしいですねコレ。

 

当然と言っていい程、しっかりとした家具は何一つありません。段ボールが関の山です。

 

そんなこんなで、少尉ってば、段ボール箱をズラッと並べた上に布団を敷いて、そこで寝ているらしいのです。とんでもない貧乏生活ですね。

 

それでは、少尉の寝顔を拝見したいと思います!

 

 

……こうして見ると、ただの子供にしか見えないんですよね~。どうしてこんな小さいのに軍に入れたのでしょうか?少尉の謎が深まるばかりです。

 

取り敢えず、脅し……もとい証拠資料として写真を数枚パシャリと頂きます!

 

 

写真を撮り終わった直後、部屋にテケリリリリ!とやかましい音が鳴り響きます。

これは……目覚まし時計!?

 

そんなバカな!?忙しい人の休日と言えば、お昼頃まで寝ているというのが普通じゃないんですか!?

そんなことより、青葉最大のピンチです……!早い所トンズラせねば……!

 

今、目覚まし時計を止めたところで恐らく少尉は起きてしまうでしょう。

となればここは三十六計を決め込むに限るのですが、私がこの部屋と向こうの部屋を出る前に姿を見られてまうのもマズイです……。

 

よってここは、ロッカーの中に隠れます!

 

寝起き直後には、目を覚ます為に、この部屋から出て下の階の水道で顔を洗いに行くハズ……その隙に私は脱出してしまいましょう!

 

ちょうど私がロッカーに隠れた時、鳴っていた目覚まし時計の音が止みました。

 

ロッカーの隙間から外の様子を確認してみます。

 

中々少尉が起きて来ないので、まさか二度寝したか?と思ったのですが、物置部屋の扉がガチャリと開き、少尉が起きてきました。

 

……なんかまだ眠そうですね。眠たいのならこんな早くに起きなければ良いのに。

 

窓を開けて、背伸びとかしてますね。なんとも清々しい朝です。私も朝の時間が一番好きですけども。

 

あっ、少尉が部屋から出て行きました!きっと顔を洗いに行ったのでしょう。

タイミングを見計らって、ロッカーから出て、さっさと撤退しましょう。

 

それにしても、休日に早く起きるなんて誤算でした。今度からは気をつけましょう。

 

ガチャリ

 

ガチャリ

 

「…………およ?」

 

「………ん?」

 

ちょうど私がロッカーから出た時、少尉が何故か部屋に戻ってきました。

 

「…………これは夢か?ロッカーから青葉が出てきたんだが……」

 

「あ、あれぇーおかしーなー?部屋のドアを開けたら何故かこんな所に繋がってしまったぞ~あはは……」

 

「ってンな事無いだろ何でそんな所から出てくるんだ青葉ァーー!!」

 

「ひぃ!これはマズイです!くらえ煙幕!」

 

こんなこともあろうかと、今日の私はニンジャ御用達の煙玉を持ってきていたのです!

即座に床に投げつけて、部屋を煙で満たします!

 

「ぐわっ、ゴホッゴホッ、何だこれ!?」

 

「ふはははー!アデュー、少尉!」

 

少尉が怯んでいる隙に、ここから逃げます!

 

「し、しまったぁー!煙で何処が扉か分からないっ!」

 

なんと…!青葉最大の誤算です……!まさか、ここまで煙が出て、視界が奪われるとは思っていませんでした!

あの、港町の雑貨屋め……恐ろしいトコ!

 

そんなことより脱出です。取り敢えず壁つたいに行けば扉まで辿り着くハズ。

 

早速そうやって探し回ると、明らかに壁とは違う感触が!

ヨシキタ!とそこの部分を両手で押そうとすると、不思議な事にそこには何もありませんでした。

 

「アレ?」

 

そのままバランスを崩して倒れ込むと、床が無い。そして浮遊感。

 

「あっ、あれ、まさか扉じゃなく窓!?」

 

そんな思考も一瞬、地上2階、頭から地面に真っ逆さまに落ちていきます。

 

「ひぃぁぁあああああああ!!!」

 

とまぁ、こんな感じで朝の時間は過ぎていきました。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「し…死ぬかと思った……体内ナノマシンを起動出来ていなかったら、確実に一巻の終わりでした……私はまだ二巻、三巻と続きますよ……!」

 

時刻、0700(マルナナマルマル)

 

何とか一命を取り留めた私は、少尉の姿を探します。

流石にもう部屋に侵入は出来ないので、廊下で少尉を待ち伏せします。

 

そろそろ、朝食とかに行っても良い頃……

 

「ヘーイ!アオバー!朝から何やってるデスカー?」

 

「わー!わー!わー!金剛さん、しーっ!しーっ!」

 

「言ってるアオバがしーっデース……それで、何やってるデスカ?」

 

「うむ、実はカクカクシカジカ……」

 

「それが通じるのはマンガとかだけデース」

 

仕方ないので、突然やってきた金剛さんに独占密着取材の話をします。

 

「ナルホド!そーゆーことならワタシにまっかせてくだサーイ!」

 

「何か良い案が?」

 

「要するにショーイをあの部屋から引きずり出せばイイデスネ?」

 

「うわお!曲解にして極論過ぎます!もっと穏便に隠密に……って金剛さーん!?」

 

金剛さんは私の話を聞かずに、少尉の部屋の前で拳を握りしめます。

 

とても嫌な予感が……!

 

「バァァ二ングゥゥ……」

 

「うわわわわストップストップストップ!」

 

「ラアアァァァアアヴ!!」

 

掛け声と共に金剛さんが、扉に向けて拳を振るいます。

CMSのパンチを受けた扉は物凄い音と共にひしゃげ、部屋の奥へとすっ飛んでいきます。

 

扉が粉砕する音に加え「ぎゃああああ!!」という少尉の悲鳴が聞こえた気がしますけど、私は何もやってません。金剛さん、後は宜しく。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、0800(マルハチマルマル)

 

あの後、鬼の勢いで金剛さんを怒りまくり、部屋の片付けをさせた少尉は食堂に向かっています。やっと朝食のようです。

 

「全く……何で休日の朝からこんなに疲れるんだ……」

 

少尉はそんな事をボヤきつつ、食堂に到着しました。

因みに私たち艦娘は、一般人とは違う食堂、通称『ガンルーム』という場所で食事をします。

え?何故別々なのかって?

 

身分をハッキリと分けるという意味もありますが、一番は食べるモノに違いがあります。

 

艦娘の食事には、体内ナノマシン用の燃料や素材が含まれています。

艤装からのエネルギーで覚醒状態になる体内ナノマシンですが、その活動にはナノマシン内のエネルギーを消費します。

 

つまり、体内ナノマシンを起動させると、自ずとナノマシン内の燃料が消費されるということです。

 

それに、治癒の為の増殖も、モトとなる素材をナノマシンが取り込み、それから増殖するので、いずれにせよナノマシンが活動を行う為には、体内ナノマシンへの燃料補給が必要不可欠なのです。

 

よって、艦娘は生命活動を維持する為の、一般的な食事と一緒に、体内ナノマシンの燃料補給も行っているという訳なのです。

 

そんな訳で、あそこのガンルームにあるお菓子とかも、普通のお菓子とは違い、微粒子レベルの特殊な燃料や鋼材といった素材が入ってたりするので、一般人は食べないように……

 

ってアレ?ガンルーム?何故少尉がガンルームに?まだ寝ぼけてるなんて訳無いですよね?

 

「艦娘は……いないな。前からここにあるお菓子、気になってたんだよなぁ……」

 

あぁ、ヤバイですね。アレ絶対に食べる気ですよ。いや食べますよ。

 

この決定的瞬間はしっかりとこの青葉が捉えておきましょう。

 

そんなことより、艦娘用のお菓子を食べようと……あ、食べた。

 

コレ絶対後で「ウッ!オナカガ!」ってなるパターンですよ。艦娘用の食べ物にはアレをコーしたナニカとか、ソレをアアヤッテ分解した例のヤツとかが含まれているのに、一般人の少尉が食べて大丈夫なんですかね?

 

いや、艦娘用のお菓子に手を伸ばすという点では、もう駄目みたいですね。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、0900(マルキューマルマル)

 

朝食を済ませた後、少尉は資料室にいます。

 

何やら古びた書物を引っ張り出してメモを取っていますね。

何のメモを取っているかは、私の所からは見えないですが……。

 

でも先日「ライラ少佐に物凄い程のペーパーテストをやらされた」とグチを垂れていましたね。まさか追試とかの為に勉強とか?

 

「あら青葉さん、おはようございます。こんなところで一体何を?」

 

「あ、赤城さん。どうもです。それはマルマルウマウマ……」

 

「それが通じるのはフィクションの中だけですよ」

 

通じなかったようなので、赤城さんにも独占密着取材の話をします。

 

「そうですか、そういう事なら私が聞いてきてあげますよ」

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

赤城さんは「任せて」というと、少尉の方へ向かっていきます。

 

「おはようございます少尉。朝から勉強ですか?」

 

「ん?赤城か、おはよう。いや、勉強というよりは調べ物かなぁ」

 

「この本は……『帝国海軍艦艇目録図』?私たち艦娘の元の艦艇が載っていますけど、何についての調べ物ですか?」

 

「そりゃ勿論、君たちの過去の戦歴や建造経緯とか、細かい情報だよ。指揮官になったからには、部下の事は良く知っておかないと、と思ってね」

 

「成る程、そうでしたか」

 

はぁ~、そういうことでしたか。なんだかんだで凄い生真面目なんですね。

中学校か高校なら、結構出来る青年としてチヤホヤされそうです。

 

「そもそも、ライラさんのくれた資料は艦娘としての資料が主だったから………結構、歴史とか知らなかったりして」

 

「ほう?それは聞き捨てならないな」

 

な、なんと!?

少尉の声を遮るようにして、資料室の奥からライラ少佐が現れました!

これは嵐の予感です……!

 

「ラ、ライラさん!?何故ここに!?」

 

「貴様より先に資料室に来ていた。それだけの事。それよりも貴様はそんなに私の講義が恋しいのか。そうかそうか、では今からみっちりと貴様に歴史の講義をしてやろう」

 

「いえ!遠慮させて頂きます!」

 

「貴様に拒否権は与えられていない!さぁ、学習室に行くぞ!」

 

「にやあああ!!助けてくれ赤城ぃ!」

 

「すみません少尉……この後二航戦の娘たちと弓の稽古が」

 

少尉がライラ少佐に首根っこ掴まれていますね……。少尉は少尉で「裏切ったな赤城!」とか言ってますけど。

 

「ほう、そうか。なら、そこに隠れている奴はどうだ?」

 

え?隠れている奴って青葉の事ですか?

もしかしなくてもバレちゃってます!?

ここはコッソリコソコソと、この資料室から退散しましょう。少尉、御愁傷様です。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、1400(ヒトヨンマルマル)

 

お昼抜きでぶっ続け5時間近く絞られた少尉が、やっと学習室から出てきました。

 

いやもう死にかけですね。足取りも何だかおぼつかない様子ですし。

 

「死ぬかと思った……いや、死んだな、精神的に……少し外に出て潮風にでも当たってこよう……」

 

どうやら外に行くようですね。

行き先からして第二演習場。天龍さんと龍田さんのいた秘密のビーチですかね。

 

確かにあそこは綺麗な場所ですし、ゆったりとくつろぐにはちょうどいいかもしれませんね。

 

少尉に見つからないように、後ろから尾行し何とかビーチまでやってきました。私は茂みに隠れて様子を伺います。

 

まだ、昼時とあって暑いですね。やはりビーチは夕暮れ時と相場が決まっているのですが……

まぁ、精神が極限まで削られた少尉にとっては時間など関係ないかもしれませんね。

 

砂浜に座り込んで、水平線を見つめる少尉。

……そんなにライラ少佐の講義が凄まじかったんでしょうか?

 

「んあ?なんでチビ助がこんなとこに居んだよ?」

 

「その声は……天龍か。別に自分がどこに居ようと勝手だろう?」

 

あら、もしやと思ってましたがやっぱり来ましたね天龍さん。

まぁ、もともと天龍さんと龍田さんが見つけた場所ですから、当たり前と言ってはその通りですが。

それにしても、こんな時に鉢合わせするなんて……

 

「ふざけんじゃねぇぞチビ助。そこは俺の場所だ」

 

「どーゆー事だよコノヤロー。こんなに広い砂浜だぞ。あっちに行ってろよ」

 

「んだと?チビ助がむこうに行け。それとも何だ?また俺とやろうってのか?」

 

何だか……だんだんと剣呑な雰囲気になってきましたね……

少尉の精神的疲労が拍車を掛けてます。

 

「分かった分かった、向こうに行きゃいいんだろ」

 

「…………」

 

げしっ

 

「うわっぷ!」

 

て、天龍さんが立ち上がろうとした少尉に足を掛けました!

言うまでもなく、少尉の顔面は砂の中です!

 

「何すんだお前ーー!」

 

「いや、なんとなく」

 

天龍さんが挑発するように少尉を見ていますね。どうみてもチンピラの所業です。

 

「くっこの、最初からそう言えよツンデレ天龍」

 

「今の言葉がチビ助の遺言だな?」

 

両者共に半身に手を出しファインディングポーズ。また、例のケンカみたいになってしまう……

 

「ルールは組手、打撃無し、決められたら負け、天龍はナノマシン起動なしで良いな?」

 

「おう、いいぜ」

 

……どうやら今回はケンカでは無いようですね。なんかルール範囲の広い柔道みたいですかね?

 

2人ともジリジリと間合いを詰めて、取っ組み合いがスタートします。

投げては投げかえし、押さえ込まれる前に立ち上がり、その繰り返し……

 

これは長引きそうですね……

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、1800(ヒトハチマルマル)

 

あれから数時間、取っ組み合いはまだ続いています。何なんですかあの人たち。

 

「あーもうやめやめ。日も結構落ちたし今日はもう帰るぞ」

 

ふと少尉が構えを解いてそんな事を言います。

 

「あ?馬鹿も休み休み言え!そう言って前も逃げたろうが!今日こそ決着を付けっぞ!」

 

「あの時、天龍が自分に勝った。それだけで充分だろ?ハイこの話しゅーりょー」

 

「なっ、あの時はナノマシンを起動させたからノーカンだ!」

 

「それじゃあな~、暗くなる前に戻れよ~」

 

「オイコラ待てチビ助!」

 

あ、逃げましたね。青葉も追いかけましょう。

それにしても、さっきの話ぶりだと、あのケンカ事件から何回か今みたいに手合わせをしているらしいですね。

 

まぁ、いずれも少尉がトンズラしてるっぽいですがね。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、1830(ヒトハチサンマル)

 

今度は埠頭に腰掛けています。

もう夕暮れですが、思っていた以上に少尉の休日はスクープに欠けますね。

 

いや待て、逆にスクープだらけな気もしますね……

もしかすると、この後にもっと凄い事が起こるかもしれません!少尉が海に落ちるとか。

 

「あれ、少尉?こんなところで何をしているんですか?」

 

おろ、今度は吹雪さんが現れましたね。

いつもの制服ではなく、動きやすそうな体操服を着ています。

 

「吹雪か?吹雪こそ、夕暮れ時に何を?」

 

「あっ、私は体力強化の為に走り込みを……」

 

「そーなのかー?休みの日くらいゆっくりしてればいいじゃないか」

 

「そ、そうですけど、こういうのは続けていくのが力になると思いまして」

 

「確かにそうだね。まぁほどほどにしっかり頑張って、休憩もちゃんとするんだぞ?」

 

「了解しました!」

 

少尉はビシッと敬礼する吹雪さんを見て苦笑すると再び視線を海へと向けます。

 

「…………少尉」

 

「……ん?どうかしたか吹雪?」

 

「……お隣……宜しいでしょうか?」

 

「うぇ?……あ、あぁ、大丈夫だ」

 

吹雪さんが少尉の隣に座りましたよ!これはアレですか!?フラグイベントですかね?

 

少し薄暗い中、2人座って海を見る。

何処ぞのゲームだったら何か起こる状況ですが、少尉がアレですからねぇ。望み薄です。

 

「……そ、そういえば、この前の南一号作戦、ル級にトドメを刺したのは吹雪だったって話じゃないか。よくやったな」

 

「えっ!?いえ、あれはみんなの力があってこそのものですよ。私1人の功績ではないですよ。それに最後だって、二航戦の御2人や伊勢さん日向さんが来なかったらと思うと……」

 

「あぁ、それか。あれは何かライラさんがやってくれたらしいんだ。編成出撃がギリギリ間に合ったとかって言ってたな……

まぁその後こっぴどく絞られたけどね。ハハハ……」

 

「そうですか……少尉、ありがとうございます」

 

「自分は何もやってないぞ?深海棲艦と実際に戦ったのは吹雪たちだ。礼を言うのはこっちの方だ」

 

「それでも!……それでも言わせて下さい、ありがとうございます」

 

「…………っ」

 

あらら~少尉ってば、吹雪さんの笑顔を直視出来ないようですねぇ。

でもあの笑顔は、流石の私も直視出来ないですね。直視したら襲い掛かってしまいそうです。

その後、しばらくは無言の時が続きましたが、少尉がチラチラと吹雪さんの方を見てますね。

 

「……なんですか少尉?吹雪の顔に何か付いてますか?」

 

「あっ、いや、そのだな……その体操着、サイズは合ってるのか?」

 

「……?一応、ピッタリですけど……」

 

「もう一回り大きいのにした方がいいぞ。そのサイズだと……身体がな……」

 

身体?イキナリのセクハラ発言ですか?

と、思って吹雪さんの体操着をよくよく見てみると……成る程、ピッタリ過ぎて身体のラインがハッキリと分かりますね。

こちら側からは見えませんが、胸部装甲とかハッキリなんでしょうね。

 

吹雪さんが自らの事実に気付き、こちらからでも分かるほど狼狽えています。

 

「なっ……!ななっ……!何をいい言いだすんですかっ!?」

 

そう言って吹雪さんが少尉を突き飛ばします。

因みに私たちの素体は戦闘用に強化されたバイオロイド。

小さい吹雪さんと言えど、その事に変わりはありません。

……つまりそういう事です。

 

「ぐぼっ!がはっ!ブクブクブク……」

 

「わああああ!!すみません少尉!」

 

バシャーンと音を立てて、少尉が海に落っこちます。

この瞬間は間違いなくスクープですね。写真を撮っておきましょう!

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「………寒い」

 

時刻、1930(ヒトキューサンマル)

 

少尉は濡れた服にタオルを被って、廊下を歩いています。

奄美は暖かいとは言え、海に落ちて夜風に吹かれれば、それなりに寒くもなるでしょう。

 

「今日は早めに風呂に入ろう……」

 

そう言いつつ、宿舎の小風呂に入っていきます。

 

宿舎には、艦娘用の大浴場と小さなお風呂の2種類があって、少尉は小さい方のお風呂を使っているのですが……

今日の少尉はトコトンついてないのでここでも何かが起こる予感が……

 

「うわわわわわわ待て待てコレは不可効力……あああああああ!!!」

 

それ見た事か。

扉がズドーンと吹き飛び、転がるように出てきた少尉。

その後ろには、バスタオル一枚を身体に巻いただけの龍田さん。

勿論、手には対艦薙が握られています。

 

「少尉は扉の張り紙が見えなかったのかしらぁ~?

今日は、大浴場が修理で使えないから2000(フタマルマルマル)までは艦娘が使用するって張り紙が」

 

「い、いやぁ気づかなかったなぁ……だからその手の長物をしまって落ち着いてくれ」

 

「私は落ち着いてるわよ~?だからこうして少尉に薙刀を振るっているんじゃないですかぁ」

 

「いや待て龍田、いや龍田さん。確かに負は完全にこちらにある。ちゃんと謝るし然るべき措置も正当に」

 

「然るべき措置は、私に真っ二つにされることです♪」

 

「え?ちょっ……待っ……うわああああああああ!!!」

 

あぁ……あれはもう助かりませんね。

もう少尉は駄目みたいなので、今日の独占密着取材はこれくらいにしましょう。

いやぁ、少尉の周りでは話題に事欠きませんね~。また今度の休日にでも、取材をしましょうかね。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「と、まぁこんな訳で、『青葉新聞』と称しまして、基地内新聞を」

 

「却下だ」

 

ルナの前には、新聞を抱えた青葉が立っている。

 

「そんな、まだ何も言ってないじゃないですか」

 

「うるさい!ってか、いつの間にこんな事してたんだお前は!」

 

「青葉の情報収集能力を甘く見てもらっては困りますよ~」

 

「いいからその新聞を寄越せ!文字通り消し炭にしてやる!」

 

「そうはいきません!くらえ煙幕!」

 

青葉が懐から煙玉を取り出し、床に投げつける。

 

「ゴホッゴホッ!またコレか!!」

 

「既に、提督と少佐には許可を取り付けています!少尉1人なんてことは無いのですよ!

それではアデュー少尉!」

 

「青葉ァ!お前、覚えておけよぉ!!ゴホッゴホッ!」

 

 

 

画して、基地内に掲載することになった『青葉新聞』は、予想に反して大変な人気を博し、れっきとした基地掲示物として認知されるようになり、ルナも容易に撤回出来なくなったとさ。

 

めでたし、めでたし。

 

 

to be continued……

 

 

 




ルナ「どうしてこんなことに…」
kaeru「でも実際、一部の海軍艦艇には艦内新聞があったっていうし」
ルナ「それとこれとは話が別だ!」
kaeru「それでは、次回も宜しくです」


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memory15「休日の買い物」

お買い物回です。

kaeruセンス爆発してます。読み辛いのはごめんなさいorz


 

 

memory15「休日の買い物」

 

 

 

「買い物に行くぞ」

 

「「「え?」」」

 

とある日のコテージ。

奄美CMS特別部隊指揮官のルナは、いつも通り訓練内容を言うように、そう宣言した。

 

「少尉、買い物とは?」

 

赤城が挙手をし、そう質問する。

 

「そのまんまだよ。今日はみんなで港町に買い物に行こう。

いつまでも、この折れた軍刀を腰に下げてる訳にもいかないしなぁ。かと言って、同じヤツだとまた龍田に斬られるから、丈夫そうなのを探しに行く」

 

「少尉はまた私と斬り合うつもりなのねぇ~?」

 

「念とうどんと駄目は良く押した方がいいって言うしね。備えあれば何とやらだ龍田」

 

「でも、外出許可証を取らなければ……」

 

吹雪がそんな事を言う。ルナはふふんと自慢げに外出許可証を見せてみせた。

 

「もう人数分用意してある。今度また、大きな仕事がありそうって征原司令が言ってたから、休養も兼ねてだとさ」

 

艦娘たちは、目に見える程に喜びを露わにする。港町に出掛けると分かれば、艦娘たちはワイワイと騒ぎ始める。

「港町なんて久しぶりです!」とか「屋台でなんか食べようぜ」とか「服とか買いましょうか?」とかとか。

この光景を見ると、艦娘ではなく、年相応の女の子にしか見えなかった。

 

「少尉は軍刀の他に何か買うのですか?」

 

「あぁうん、自分のあの部屋すっからかんだからなぁ、少し家具でも買おうと。

あと、どこかの誰かさん達のせいで扉が粉砕してるからなぁー?」

 

ルナが鋭い眼差しを青葉と金剛に向ける。

例によって2人は、口笛を吹きながら視線を逸らした。

 

「それじゃあ行こうか。みんなくれぐれもハメを外し過ぎないように」

 

「「「りょーかーい!」」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

深海棲艦が海に跋扈し、人類は衰退の一途を辿っているにも関わらず、奄美基地外の港町は賑わってた。

 

港町と言っても、基地備品の大倉庫やコンテナが乱立している合間に人々が集まり住み着き、出店のような屋台や、小さな工場などが集まって出来ている状態だ。

さながら、昔、外国で行われていた祭りのようだ。

 

「天龍とかはよく脱走してるから、港に詳しいってライラさんが言ってたが本当なのか?」

 

「脱走とはひでぇなあの人も。……まぁ詳しいのは間違ってないと思うぜ。

ほら、あそこの屋台の焼きトウモロコシは絶品だ」

 

「確かに、美味しいですね~」

 

「wow!アカギいつの間ニッ!?」

 

道の両側には屋台やお店、小さな工場が所狭しと並んでいる。

 

艦娘たちは屋台に目移りしながら(既に赤城は両手一杯に食べ物を持っている)ルナの後を続いて歩く。

 

ルナが歩く先は、どんな人混みでも道が開く。ルナとしては、目立つ事があまり好きでは無かったのだが、軍所属の肩書きは小さくないようだ。

 

立ち寄ったリンゴ飴の屋台でも「御偉方から代金は頂きませんよ!」と言われる程だ。

勿論、キッチリとお金を渡すルナだったが。

 

「いやぁ~ここに来るのは久しぶりですからね~!新しいお店とかがあるかもしれませんね!」

 

青葉がカメラ片手にはしゃぎまくっている。確かに、ルナ自身もここに来るのは、基地に初めて来た時以来であったので、何だかんだでルナの内心もワクワク状態だった。

 

「あの時は、何が何だか全く解ってない時だったからなぁ……今日は楽しんでいくかな」

 

「少尉少尉!アレ、綿あめじゃないですか!?吹雪、買ってきますね!」

 

吹雪が目を輝かせて屋台の方にすっ飛んで行く。ルナは苦笑いしながらも、吹雪が戻ってくるのを待ってから、本命の店探しを始めた。

 

「さっきはああ言ったけど、ここに家具屋的なのはあるのか?見た所、祭り屋台とか出店みたいのしか無いぞ?」

 

「それはね、海に近いからだよ~。内地の方に進めばあるんじゃないかしら?」

 

龍田がルナの横からそう言う。ルナは「そうなのか?」と返事しながら、歩を進める。

 

それにしても、”軍属は金持ちで良い客”という謎の風潮があるらしく、店の前を通るたびに声を掛けられ引き止められそうになる。

 

ルナとしても、無駄な買い物はしない主義なので、丁重に断って店を後にする。

こうなると分かっていたなら私服で来た方が、とも思ったが、そもそも私服を持っていないことに気付いたので、さほど意味は無いなと結論を出した。

 

港側から内地側へと向かう途中、ルナの目の前に見覚えのある人物が立ちふさがった。

 

「よっ!坊ちゃん、探してたぞ~!」

 

「ゲッ!いつしかの果物屋のおっちゃん!?」

 

ルナの行く手を塞いだのは、ルナが基地に初めて来た時に出会った果物屋のおっちゃんだった。

 

「お?何だチビ助、ツキタツの親父と知り合いだったのか?」

 

「は?何を言ってるんだ?ツキタツ?」

 

ルナは丸刈り無精ひげのおっちゃんの顔を見る。

 

「俺はそこで『くだものツキタツ』って店を出してるからな。ここらじゃツキタツで通ってるのよ。まぁそれが名前なんだがな!」

 

ここでルナも一般常識を欠いていたことに気付き、ツキタツの親父に自己紹介をする。

 

「申し遅れました。自分は奄美基地所属、栄ルナです」

 

「栄……ルナ……」

 

ツキタツの親父は一瞬だけ顔をしかめたが、ニカッと笑うとルナの背中をバンバンと叩いた。

 

「いやぁ~!こんなチビっこいのに軍属か!信じられねーなぁ!でも、この服と腕章は本物っぽいなぁ!」

 

「痛っ、痛い!ぽいじゃなくて本物ですから!背中叩かないで下さい!」

 

ツキタツの親父は「おおスマンスマン」と言いながらガッハッハと笑う。

 

「天龍ちゃんも久しぶりだな?最近どうしたんだよ、突然来なくなったからおっちゃん心配しちゃったぞ?」

 

「漫画みたいに不良からヒーローに転職したんだよ。ツキタツの親父こそ、くたばってないか心配してたぜ」

 

「ガッハッハ!そーかそーか!そーだったか!さしずめ、そこの坊ちゃんにやられたんだろ?」

 

天龍は顔を赤らめると「んなワケねぇだろ!」と言いながらそっぽを向いてしまった。とても分かりやすい。

 

「まぁ、みんなウチに来いよ。美味しいフルーツが一杯だぜ?」

 

そのツキタツの親父の一言に間髪入れずに「行きます!」と即答した赤城を筆頭に、一同は『くだものツキタツ』へ向かった。

 

店には結構な人だかりが出来ていた。

 

「大繁盛してマース!凄いデスネ!」

 

「奄美の気候だと、色んな果物が採れるのよ!……でも深海棲艦の所為でかなり気候変動の影響を受けてるなぁ。これでも今年は不作だよ」

 

「これで……ですか……」

 

吹雪が驚くのも無理は無い。屋台には南国のお店並みにフルーツが並んでいたのだった。

 

「そうだ坊ちゃん、コレ、前の時のお釣りだ」

 

そう言ってツキタツの親父はルナに8,500円を手渡した。

 

「あぁ、わざわざありがとうございます」

 

「取りに来なかったらどうしようかと思ってたよ!これでスッキリしたぜ!さぁ何か買ってくかい?」

 

ツキタツの親父も例に漏れず、流石商売人という流れで、ルナ達に果物を勧めてくる。

 

この流れでは買わない訳にいかない。

 

「じゃあ……普通のリンゴを」

 

「私はそっちのスターフルーツをお願いします」

 

ルナと赤城がお金を支払い果物を買う。

 

「へい!まいどありー!あれなら、そこで食べてきな!」

 

ツキタツの親父が店の奥を指差す。そこには小さいながらも休憩スペースがあった。

 

「ショーイ!ワタシ向こうのお店を見てくるネー!」

 

「あっ、私も一緒に!」

 

金剛と吹雪がそういって斜向かいの店に行った。どうやら、女の子向けの服を専門に売っている店のようだ。

 

天龍と龍田はツキタツの親父の店のフルーツを品定めしていた。

「コイツはどうだ?」「いや、こっちの方が良いわよ~」などと、より新鮮なフルーツを選んでいるようだった。

 

青葉はツキタツの親父を取材している。ツキタツの親父もノリノリで質問に答えている。

 

「少尉、そろそろお腹が空きませんか?」

 

「なっ……お前、さっきから食べてばっかだろ!!まだ食べるつもりか!?」

 

「お昼は別腹ですッ!!」

 

赤城の裂帛の気合いに押し切られ、昼食を取ることになったルナ達は、ツキタツの親父に良いところはないかと聞いてみた。

 

「それなら知り合いの良い店があるぞ!丁度、俺も腹が減ってるからな、案内してやろう!」

 

金剛と吹雪が戻ってくるのを待ち、ツキタツの親父は他の店員に店を任せ、路地の方へ向かった。

 

すると、古ぼけたトタン板に汚いペンキ文字で『ウカノ』と書かれた掘っ建て小屋を見つけた。

 

「……オイ親父。ここが店とかぬかすなよ?」

 

天龍は、若干顔をひきつらせながら、ツキタツの親父にそう言った。

 

「残念ながらここが俺の知り合いの店だ。外観については皆からも何か言ってくれ」

 

ツキタツの親父はそう言って戸をガラガラと開けて中に入る。

 

外観とはうって変わり、中は老舗の食堂を彷彿とさせる机席が幾つかに、厨房と対面したカウンター席のある造りだった。

 

「いらっしゃーい!……ってアレ?ツキタツさんじゃーん!久しぶりー!」

 

割烹着っぽいエプロンを身にまとい、厨房で雑誌を読んでいた女性が、ツキタツの親父に気付き声を掛ける。

 

「おう、メシ食いに来たぞ」

 

「ってアレアレ!?何その後ろの人たち!?何処の大所帯!?何処のコスプレ集団!?」

 

「何デスカー?あの人、失礼じゃないデスカー?」

 

金剛が女性の反応に少しムッとした感じでそう呟く。

 

「オイオイ、トヨちゃん気を付けなー?ここにいる人達は皆、軍の人だぞー?解ったらさっさとアニキを叩き起こして来い!」

 

「え?アレ?ウソ!ホント!?に、にいちゃーんっ!!大変だぁーー!!」

 

その女性はドタバタと慌てて厨房の奥に引っ込む。

暫くすると、ドタバタ音が増えて戻ってき、トンガリ頭の男性が姿を現した。

 

「ん……!んん~~!?マジか!オイ、ツキタツ!これはどーゆー事だッ!!」

 

「どーもこーもねぇだろバカ。こっちは客だぞ!さっさとしろよバカ!」

 

「バカバカ言うなっ!……いやスミマセンお客さん。オイっ!ワク!早く!」

 

トンガリ頭の男性の背後でビクビクしていた、ウェイトレス姿の小柄な女性が前に出て来た。

 

「い……いらっしゃいませ……ようこそ『ウカノ食堂』へ……お客様は何名様でしょうか……?」

 

「ひのふのみ……8人だ」

 

「は、8人……!?どうしよ、にぃちゃん……席が無いよ……!」

 

「スミマセンお客さん、カウンターとテーブルに分かれてもらっても大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。君たちは適当に分かれてくれ」

 

「私たちはカウンターでいいわよ~?」

 

結局、ツキタツの親父とルナ、天龍、龍田がカウンターに座り、他の皆はテーブルに分かれた。

 

「お客さん、ご注文は何にします?」

 

トンガリ頭の男性が頭に手ぬぐいを巻きながら、そう訊ねる。

 

「自分は醤油ラーメンで」

 

「俺らはどーする、龍田?」

 

「ランチ定食でいいんじゃない?」

 

「ワタシも醤油ラーメンにするネー!」

 

「私はチャーハン大盛りをお願いします」

 

「青葉は普通のチャーハンを!」

 

「私もチャーハンにしようかな……」

 

「えーと、醤油ラーメン2つに、ランチ定食2つ、チャーハン3つの内1つが大盛りと。以上で?」

 

「俺はいつもの!」

 

「テメェのは言われなくても分かってんよ!!それでは、暫くお待ち下さい」

 

トンガリ頭の男性と、最初にいたエプロンの女性が厨房で料理を作り始める。

 

「お……お冷になります……」

 

ウェイトレスの女性が冷たい水をルナたちに配る。

 

「あの……失礼を承知で言いますけど、このお店の外観は流石にアレだと思うんですけど……」

 

外観がアレだと、お客さんもあまり来ないだろうと思い、少し言ってみるルナ。

 

「す……すみません!色々と事情があって……だからあんまり言っちゃ駄目だよ、ぼく?」

 

このウェイトレスの女性の完全な子供扱いの言葉にカチーンときてしまったルナは、声を荒げて言い返す。

 

「子供扱いするなぁ!この腕章が見えないのか!?」

 

あまり自分の地位を利用するのは好まないルナだったが、子供扱いされたときだけ、話は別だ。

 

「ひぅ……!少尉の階級章……!大変申し訳ございませんでしたぁ~~!」

 

ウェイトレスの女性はぴゅーっと店の奥に引っ込んでしまった。

 

「……ん?普通の人って階級章の区別つくのか、龍田?」

 

「どうかしらね~?でも、いつの時代にも詳しい人はいると思うわよ?」

 

ルナが、そんなもんなのか?と首を傾げていると、中華鍋を振るいながらトンガリ頭の男性が話に割って入る。

 

「あー!はっはっは!スミマセンお客さん!ウチの妹が御無礼を……そこのおじさんの餃子をオマケするから、許して下さい」

 

「オイバカ、何で俺のを!新しく作れ!」

 

「だっまーれ穀潰し!……それにしてもかなりお若いのに士官だなんて凄いですねぇ。歳はおいくつなんですか?」

 

「えっ……と……」

 

ルナは答えようとして言葉に詰まる。

 

「青葉、自分って何歳なんだ?」

 

「え、なんで青葉に聞くんですか。知りませんよ少尉の歳なんて」

 

「いや青葉なら知ってそうだなと思って」

 

ルナはうーんと頭を抱えて悩みまくる。

 

「あーっと!無理に言いませんから!スミマセンね!」

 

トンガリ頭の男性がそうフォローする。それでもルナの心のモヤモヤは晴れなかった。

 

そんなやいのやいのと騒いでいる内に、料理が出来上がった。

 

「へい、お待ちどー!」

 

「おぉ……!」

 

「これは中々……!」

 

出された料理はどれもこれも、今まで食べてきたものとはまた違った存在感を放っていた。

 

「それじゃ、いただきます!」

 

皆が一斉に箸を取って食べ始める。

そして、声を揃えて「う、美味い!!」と感嘆の声を上げる。

 

「あぁ、良かった。口に合わなかったらどうしようかと。腰のサーベルで斬られるんじゃないかと」

 

「お昼食べに来ただけなのに、そんなことしませんよ。そもそもこの軍刀、折れてますし」

 

すると、いつの間にか厨房からこちら側にきていた、エプロンの女性が勝手にサーベルを引き抜く。

 

「あちゃー、本当に折れてますねー」

 

「あっ、コラ」

 

「大丈夫、少尉!すぐそこに良いお店があるから後で教えてあげる!」

 

「オラァ!トヨ!御偉い様に何てこと!!スミマセン、またウチの妹が……」

 

「い、いえ、お気になさらず……」

 

ルナは、あまりにもナチュラルに接してきた、エプロンの女性に面食らいながらも、醤油ラーメンを食べる。

 

ルナはペロリと完食し、スープまで飲み干してしまった。

 

他の皆もそうだった。赤城と金剛に関しては、おかわりを注文するほどだった。

 

「ごちそうさまでした。凄い美味しかったです」

 

「こちらこそどうも!これでウチも箔付きですよ」

 

「……いや、外観を変えないと駄目ですよ」

 

ルナは、艦娘たちの分のお代も支払い、エプロンの女性から、先程のオススメの店の地図を受け取った。

 

エプロンの女性から「『ウカノ食堂』からって言えば、色々とサービス付きますよ?」というアドバイスを貰い、店を出た。

 

ツキタツの親父は、トンガリ頭の男性と、

 

「スマンな、またツケといてくれ」

 

「お前ふざけんじゃねぇぞ!!お前の所為でこっちの商売上がったりなんだよ!!」

 

という会話を繰り広げた後、達者でなといって自分の店に戻っていった。

 

「それじゃ、今度は自分の買い物に付き合ってもらうぞ」

 

「えっと……少尉の軍刀ですよね。このお店に売ってるんでしょうか?」

 

先程貰った地図を受け取り、一同の案内をする吹雪がそう疑問を口にする。

 

「と言ってもなぁ、他にアテも無いしなぁ。天龍は良い店知らないのか?」

 

「ん?ここらで武器を売ってる奴に真っ当な奴はいねぇよ。まぁ、基地の検閲は入ってると思うけどな」

 

「それ以外は闇市になるわね~」

 

天龍と龍田がサラッと怖いことを言ったので、適当に相槌を打ち、道を急ぐ。

 

通りから外れた、倉庫やコンテナの間の路地を数分歩くと、結構しっかりとした造りの店に辿り着いた。

看板には『タテガミ雑貨店』と書かれている。

 

「真っ当なお店だと良いデスネ」

 

金剛も不穏な事を言い始めるので、その不安を振り払うように扉を開ける。

 

昼間だというのに店内は薄暗く、雑貨店の名に恥じない様々な物が置かれていた。

 

しかし、そのどこにも軍刀らしき物は置いていない。

 

「吹雪、店を間違えたか?」

 

「えっでも、地図だとここになってますよ?」

 

頭を悩ませていると、店の奥から店主らしき女性が姿を見せた。

 

「あら、いらっしゃい。まぁまぁ、沢山女の子を引き連れて、随分とプレイボーイな坊やなのね?」

 

どことなく花魁風な気配を持つその女性は、ルナたちを見てそう言う。

 

ルナは先程の食堂のようにいい返そうとしたが、子供扱いされる事に怒っていては、人生この先が持たないと思い、ぐっとこらえ、女性に話し掛ける。

 

「奄美基地の者ですが、ウカノ食堂の紹介で来たんですけども……」

 

「つれないのね……貴方が軍の人っていうのは服で分かるわ。それで、ウカノ食堂の紹介で来たのね?御用件は何かしら?」

 

「新しい軍刀が欲しいんです。支給品は脆すぎるので」

 

「そう言う事なら、こちらへいらっしゃい」

 

花魁風の女性は店の奥にルナたちを案内する。すると奥にはもう1つ大きな部屋があった。そこには……

 

「な……んだ、ココ?」

 

壁やショーケース一杯に様々な武器が並んでいる。刃物系から銃火器まで、たくさんの種類があった。

 

後ろからついてきた艦娘たちも部屋を見るなり驚きの声を上げる。

 

「ウチってば、軍関係に武器を卸す仕事が主なのよ。そのツテで武器屋も営んでるの。勿論、そこの基地の許可は取ってあるわよ」

 

「おぉ……これはスゲェな……」

 

天龍が目をキラキラさせて壁の剣を見ている。

 

「壊さないでくれれば手にとってもらっても構わないわ。ウカノ食堂とはお友達だから、今日は全品半額で売ってあげるわ。決まったら教えてね」

 

女性はそう言うと、雑貨店の方へ戻っていった。ルナは早速品定めに掛かる。

 

「はぁ~~基地の方ってば、こんな店も許可しちゃってるんですかぁ~。ちょっと怖いですよね」

 

「アオバの言う通り、チョットだけコワイデスネ。でも許可は取ってあるって言ってマシタし、心配しなくても大丈夫デショウ」

 

青葉と金剛がそんな話をしつつ、ショーケース内の拳銃を眺めている。

 

「サーベルにスピアー、青龍刀に日本刀……本当に何でもありますね……流石に弓は無いようですけど」

 

赤城が壁に飾ってある刀の類いを見て、そう呟く。

 

「確かに、いろんな武器があるなぁ……なんだこのバズーカ砲みたいの。買う人いるのか?」

 

「それはパンツァーファウストだな。買うんだったらカールグスタフをオススメするぜ」

 

「なんだそれ……いや、買わないよ天龍……目的は新しい軍刀だ」

 

「生半可な剣じゃあすぐに折れちゃうから、ここはやっぱり日本刀かしらね?」

 

龍田が幾つかの日本刀を持ってきて手渡す。ルナは一振り一振り抜いて確かめるが、しっくりくるのが今ひとつ無かった。

 

「使う時なんてそうそう無いんですし、手頃なのでいいじゃ無いですかぁー?」

 

「何を言うんだ青葉。たまにしか使わないからこそ、ちゃんとしたのを選んでいるんだ」

 

「そうだぜ、刀は持ち主の写し鏡って言うし、ここはチビ助にぴったりな奴を選んで貰わなきゃな!」

 

「……何で天龍さんがそんな張り切ってるんですか……」

 

天龍に手伝ってもらいながらありとあらゆる日本刀を確かめたが、やはりしっくりくるのが無い。

 

「うーむ、これもイマイチ……」

 

「おいチビ助、そいつが最後だぞ?」

 

「何だって?結局良いのが無かったぞ?」

 

ルナは腕を組んで悩む。ここは少し妥協して、多少手頃なのを選ぶべきか。

 

「まぁ、自分に合った刀を探すのは難しいって言いますし、違うお店を探してみますか?」

 

「そうだなぁ……赤城の言う通り違う店に行ってみるか……」

 

「少尉!これはどうですか?」

 

ルナが諦めかけた時、吹雪が布に包まれた一振りの刀を持ってきた。

 

「……?これどこにあったんだ?」

 

「一番奥のショーケースに……」

 

ルナは早速布を取ってその刀を確認してみる。

 

今の時代では携帯面を考慮し、鞘の部分は炭素系の強化素材が使われているのに対し、吹雪の持ってきた刀は、鞘の部分に木材が使われていた。

 

「こいつは珍しいな。真っ黒な木の鞘の打刀拵か……表面は、漆っぽいな」

 

「確かにレトロ感が漂ってくるな……にしてもコイツ日本刀にしては少し短くないか?」

 

「俺もあんまり詳しくねぇけど、日本刀にはたくさん種類があんだよ。直刀とか太刀とか、聞いたことぐらいあるだろ?

そん中で言うとコイツは脇差の部類に入るんじゃねぇか?

一般の脇差よりはちょいと長いが、大方、中~大脇差って言ったところか?」

 

ルナはほうほうと相槌を打ち、鞘から刀身を引き抜いた。

 

「何だこの刀……?」

 

その刀は普通の刀とは違い、中程までは片刃の一般的な刀の造りを。そして切っ先から少しの部分だけが、両刃になっていた。

そして鞘と同じく、刀身は光り輝く白銀では無く、光を飲み込むような漆黒の刀身だった。

 

「本当にふざけた刀だな。黒い刀身の小烏丸造りか……」

 

天龍がさも珍しそうにその刀を眺める。

 

「この刀身……純鉄じゃないわね?天龍ちゃん」

 

龍田の問い掛けに天龍は首を縦に振って応える。

 

「私もそんな刀は初めて見ましたね……武道者として、時に刀を持ちますけど、今まで見たことのない種類です……」

 

「赤城さんが刀って、全然想像つきませんけどね!」

 

赤城の言葉に青葉がそう言うと、赤城は「みんなそう言いますよ」と笑って返した。

 

「…………」

 

ルナは無言でその刀を自分の剣帯(ベルト)差し、居合のように刀を引き抜く。

 

「wow……!ショーイ、coolネー!!」

 

金剛がルナの姿を見て黄色い声を上げる中、ルナは「よし!決めた!」と言って、その刀を持ち抱えた。

 

「そのヘンテコ面白刀にするのかチビ助?」

 

「うん、コイツにする。何かコイツが一番しっくりきたからね」

 

ルナはそのヘンテコ面白刀を抱えて雑貨店の方へ戻ると、女性にその刀を差し出した。

 

「この刀を下さい」

 

「あら……?この刀、何処で見つけたの?」

 

「何処でって……ショーケースの中に入ってましたよ?布に包まれて」

 

「あらら、しまい忘れてたのね……ごめんなさい坊や、この刀は非売品で売ってないのよ」

 

「えぇっ!?そんなぁ!!ま、待って下さい!そこを何とか!」

 

その刀を抱えて、奥に引っ込もうとする女性をすんでのところで引き止めた。

 

「待って下さい!その刀じゃないと駄目なんです!どうか自分に譲って下さい!お願いします!」

 

「そうは言ってもね……この刀はねぇ……」

 

ルナのあまりの剣幕に、女性も困った顏でため息をつく。

 

「少尉、別にアレに拘らなくても……」

 

「だーかーら言ったろ青葉?刀は持ち主の写し鏡!チビ助にはアレじゃないと駄目なんだよ」

 

「……ですから何でそこで天龍さんが……」

 

花魁風の女性は、ルナと同じ背丈になるくらいにしゃがむと、目線を合わせてルナに語りかける。

 

「あのねぇ坊や。この刀は、売り物じゃなくて一時的に預かっているもので、よその人のものなの。だから売ることは出来ないの。申し訳ないけど、諦めて別のにしてくれるかな?」

 

「じゃ、じゃあ、その持ち主の人と連絡を取って下さい!」

 

「…………困ったわね~」

 

女性はルナの顔を見て再度ため息をつくが、ふと何かに気が付いたように、

 

「……坊やのお名前は何て言うのかしら?」

 

と訊いた。

その言葉に少し驚いたルナだったが、別段何があるわけでもなく、素直に名乗る事にした。

 

「栄ルナ……ですけど……?」

 

「…………少し待っててね」

 

女性は刀を抱えたまま、店の奥に行ってしまった。

 

唖然としていたルナだったが、もしや、このまま戻ってこないつもりでは?と思い、慌てて後を追いかけようとすると、女性はすぐに戻ってきた。

 

「坊や、今日は特別サービスで、この刀を譲ってあげるわ」

 

「え?……えぇ!?どういう風の吹き回しですか!?それに、持ち主がいるって……!」

 

「持ち主にはあたしから連絡しといてあげるわ。それ以上とやかく言うなら譲ってあげないわよ?」

 

「わ、分かりました……それでお代は……」

 

「それも今は良いわ。持ち主とのお話が済んだら、ね?」

 

「い、良いんですか?」

 

「いらないの~?」

 

「いります!欲しいです!」

 

「はい、どうぞ。毎度ありがとう♪」

 

ルナは女性からヘンテコ面白刀を受け取る。

 

「おお!やったじゃねぇかチビ助!良かったなあ!」

 

「お、おう…!やっぱり頼んでみるもんだね……!」

 

「何を刀一振り如きに熱くなるのか、青葉にはサッパリですね」

 

「「如きとは何だ!!?」」

 

天龍とルナは声を揃えて、青葉に迫る。当の青葉はあまりの迫力に「ひぃ!」と言って店から逃げ出した。

 

天龍はすぐさま後を追い、それにつられて龍田や赤城、金剛が飛び出して行く。

 

ぽつんと残ったルナと吹雪。ハッと今の事態に気付くと、女性に「あ、ありがとうございました!後日ちゃんと御礼を!」といって、ルナと吹雪も飛び出して行く。

 

「…………嵐……みたいだったわね」

 

女性も、今まででこんな経験はあまりないわね……と思いつつ、タバコの様な物をふかし始める。

 

「よぉ、邪魔するぜ」

 

扉がガチャリと開き、丸刈り無精髭の男性が入ってくる。

 

「あら、また珍しいお客さんだこと。何をお探しで?」

 

「茶化すなよ建雷(たてがみ)。お前がいくらべっびんさんでも俺はつれねぇぜ?」

 

「もぉ~苗字で呼ぶのはやめてって言ったでしょう?ミツバって呼んで♪」

 

「死んでも言わねぇよ。ところでさっき、チビっこい坊ちゃんと女の子たちがゾロゾロ来たろ?」

 

「あら?あの子たちってばツキタツの知り合いだったの?気づかなかったわ~」

 

「アホ抜かせ。ウカノ食堂からって言ってたろうが」

 

「そんな怖い顔しないで~。分かってたわよ、あの子たちが倉稲(うかの)三兄妹に会ってたことぐらい」

 

「………あの刀、渡したのか?」

 

「勿論、”返した”わよ。あの子がムスビの言ってた子でしょう?」

 

「まぁそうなんだが……やっぱり信じられねぇなぁ……」

 

「そもそも、私たちにはまだ情報が回ってないでしょう?焦らず待ちましょう?」

 

「それもそうだな………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後、逃走を謀った青葉はあえなく御用となり、ルナと天龍から刀のロマンを延々と聴く羽目になったのは言うまでもない。

 

その後、内地方面にあった家具屋で買い物を済ませたルナたちは夕暮れ時になるまで休日を満喫した。

 

「今日はとっても楽しかったネー!」

 

「本当ですね!ありがとうございます、少尉!」

 

「たまには息抜きしないとな?これで明日からまた頑張れるなぁ?」

 

「あぁーまた少尉が良からぬ事を企んでますよ……」

 

「何か言ったか、青葉?」

 

「いいえ~なーんにもー?」

 

そんなくだらないような会話を楽しみながら、ルナは譲り受けた刀を抱えて、基地への帰り道を急ぐのであった。

 

 

 

to be continued………

 

 

ー物語の記憶ー

 

・小烏丸造り

奈良時代~平安時代付近に造られたといわれる、鋒両刃(きっさきもろは)造の刀。

切るよりも突くことに特化したという説もある。

 

 

 

 




天龍「ホントにいい買い物をしたなチビ助」
ルナ「こんないいモノはお目に掛かれないぞ」
kaeru「何かロマンあるよな。こーゆー刀」
青葉「ホント、良く分からないですね……」

天龍・ルナ・kaeru
「「「お前にはもう少し説明が必要だな?」」」

青葉「ひぃぃ〜〜!じ、次回も宜しくです!」


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memory16「鎮守府会議」

嵐の前の静けさ回です。

全然静かじゃないですけど


 

memory16「鎮守府会議」

 

 

 

いつものように奄美の艦娘たちの訓練を指導していた栄ルナは、突然、奄美基地司令である征原トウに呼び出された。

 

「失礼します。栄ルナ、只今参りました」

 

「うむ、入っとくれ」

 

ルナはガチャリと扉を開け、提督室に入る。

 

「ほっほっほ、顔つきが良くなったなルナ君。大分、一部隊指揮官としての貫禄がついてきたの」

 

「いえ、そんな、自分はまだまだです。……それで、要件とは?」

 

「そうじゃな……早速本題に入るとしようか」

 

トウは机の引き出しから、通知書のようなものを取り出し、ルナに手渡す。

 

「……鎮守府定例会議?」

 

手渡された紙には、そう題が振られ、細かい日程や内容がびっしりと書かれていた。

 

「ルナ君にはワシの代わりに奄美基地司令代理として、その会議に出席してもらいたい」

 

「じ、自分が……ですか?」

 

トウはニッコリと笑い、コクコクと首を縦にふる。

 

「……了解しました」

 

「かなりの心配顔じゃな?大丈夫、テキトーに話を聞き流しているだけで良い。銘打っているようにその集まりは『鎮守府』のものじゃ。一基地風情が口出し出来るハズも無い」

 

「……?それでは、なぜ奄美基地も出席するのですか?」

 

「まぁ、話すと長くなるので簡略するが、中央総司令官……この国の軍を取り仕切るヤツと腐れ縁でな」

 

「………は?」

 

「要するに総司令は、イッツマイフレンドじゃ」

 

「そ……そうだったんですか!?」

 

「そうだったんじゃ。そんなこんなで関係の無い我が基地をいつも巻き込むのじゃ。まじやめてほしーのぅ」

 

トウは窓の外を眺め、ふわぁーと大きなため息をついた。

 

「それと、今回の鎮守府会議は特別じゃ。この前ルナ君が指揮を執った『南一号作戦』についての話もあるそうじゃ。

なので、老いぼれのワシが出向くより、ルナ君が行った方が良かろう。ワシはその日、佐世保に用事があっての。

まぁ良い経験になるじゃろう?」

 

トウはそう言って、ほっほっほと笑い声を上げた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「ーーという事があってだな、君たち奄美部隊は自分と一緒に今回の会議場所である『呉鎮守府』まで同行する事になった」

 

ルナは自主訓練をしていた艦娘たちをコテージに集め、トウから聞いた話を伝えた。

 

「呉……ですか?」

 

「そう、呉だ。広島県の」

 

「あぁ~懐かしいですねぇ。終戦間際の転属で、呉には最期まで居ましたからね~」

 

青葉は過去の思い出に想いを馳せながら、うわ言のようにそう言った。

 

「そうか、青葉はこの中でだと終戦まで生き残ってたのか。なら、呉の事にも詳しいのか?それなら助かるんだが」

 

「昔と今じゃ違いまくりですよ。それに、艦艇時代なんて港かドックなんですから、分かるわけないですよぉ」

 

「ま、そーだよね」

 

他の面々も一度や二度程、呉を訪れたことがあるというだけで、結果、誰も呉に詳しい者はいなかった。

 

「まぁ自分達は何もやる事無いらしいから、旅行気分で行ってこよう」

 

「少尉……そんなユルユルで良いんですか?」

 

「気にし過ぎるのが悪いトコだぞ赤城。もっと気楽にいこう。

話が逸れたが、概要を説明するぞ。

日時は明日、0400(マルヨンマルマル)。奄美防衛隊の多目的汎用護衛艦『かざばな』でまず、鹿屋基地に向かう。

そこからはヘリに乗り換えて呉に直行だ。

移動行路の制海権、制空権は共に我々が取っているが、万が一に備えて、君達には鹿屋基地に向かう間、護衛任務に就いてもらう。

これに異存は?」

 

艦娘たちは異存無しという表情でルナの目を見る。

 

「それじゃ、今日は少し早いが訓練は終了だ。各自艤装を綿密にチェックして整備班に渡しておいてくれ。

分かってると思うが、寝坊はするなよー?」

 

ルナの言葉に艦娘たちは敬礼して答えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ー次の日、

 

奄美部隊は海路と空路から呉鎮守府を目指した。

万が一に備えた艦娘たちの護衛も、特に何が起こるわけでも無し、無事に鹿屋基地まで辿り着いた。

そこからヘリに乗り換え、空の旅をすること数時間、ルナたちは呉鎮守府に到着した。

 

「ここが……呉鎮守府……」

 

鎮守府庁舎はとても立派なもので、奄美基地のそれとは比べ物にならない。

庁舎の周りには様々な建物が建っており、横須賀、佐世保と共に第二次大戦中、重要拠点としていた事が窺えた。

 

「あー意外にも変わってないものですね」

 

後ろに立っていた青葉が周りを見回しながらそう言う。

 

「取り敢えず、中に入りましょうか?」

 

「うん、そうだね」

 

赤城の言葉に頷くと、ルナたちは呉鎮守府庁舎の中に入っていく。

庁舎の中、エントランスは、まるで国会議事堂のように造られており、様々な物が飾ってあった。そして、鎮守府の関係者らしき人々が忙しなく行き交っていた。

 

すると、ルナたちの前に1人の男性がやって来た。格好は軍装を軽く着崩し、髪型は金髪のオールバックと、この場に全くもって相応しくない人物だった。

 

「何だ、お前らは?何処の誰だ?」

 

「……奄美大島要塞基地司令代理、奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナ少尉です」

 

「奄美……栄………あぁ、ちょっと待ってな」

 

金髪の男性は腕時計型のデバイスを起動させると、どこかの誰かと電話をし始めた。

しばらくして、会話が終わると、ルナの腕をとり腕章を確認し始めた。

 

「ふーん……藍色の布地に少尉の階級章……本物っぽいな……」

 

「本物ですよ?貴方は誰なんですか?」

 

失礼極まりない態度に苛立ちを覚えていたルナだが、相手が誰か分からない以上、失礼な事は出来ない。

 

「ん?俺はただの案内人さぁ。てっきりジイさんが来ると思ってたからびっくりしたぜ。さぁ、ついてきな」

 

言われるままに金髪の男性の後をついていくルナたち一行。二階へ上がる前に金髪の男性は思い出したかのように、振り向いて言う。

 

「こっから先、同行出来る艦娘は3人まで、会議室に同行出来るのは1人だ。取り敢えず残り3人は向こうの部屋で待機してくれ」

 

艦娘たちは顔を見合わせ、その後ルナを見る。

ルナはうーんと少しの間考える。

一先ず、会議室内に連れて行くのは、大きい艦娘である、金剛か赤城かのどちらかだろう。

少ない人数に絞るのは、警備面を考慮しての事。外部からの侵入者に対抗でき、内部に敵がいた場合にも容易に抑え込める人数。それが3人というわけか、とルナは考えた。

 

そう考えるならと、ルナは赤城、青葉、吹雪の3人を同行者に選んだ。

 

理由として、赤城は正規空母であり、かつ、冷静に物事を判断出来ると買ったから。

青葉は艦娘的にバランスの良い重巡洋艦で、艦艇時代に呉にいた事を評価した。

吹雪は駆逐艦であるから、どんなことにも駆り出せる汎用さがあるから。

 

正直な事を言うと、金剛、天龍、龍田は何かのアレで人様に迷惑が掛かるのを避けたのだが。

 

しかし、ルナはわざわざそんな事を説明しない。それに艦娘たちが、いつも基地に居るように振る舞ったりしない事は分かっている。

 

艦娘たちもその事が分かっているからこそ、ルナの選択にいちゃもんをつける事なく、素直に従う。

 

(こういう所じゃ、みんな真面目になるんだよなぁ……天龍でさえ「少尉」って呼ぶし、もしかして普段の自分はナメられてるのか?)

 

とも思ったが、それを考えるのは後にしようと、金髪の男性の後を付いていく。

 

2階へ上がり、少し廊下を歩いた所で、金髪の男性は立ち止まる。

 

「じゃあ奄美はここで少し待っていてくれ。俺はちょっと色々やってくるんで」

 

そう言うと、金髪の男性はルナたちをその場へ残し、今来た道を戻っていってしまった。

 

「……まぁ自分達に何が出来るわけでもないし、大人しく待ってるか」

 

ルナがそう言うと赤城は「そうですね」と相槌を打った。そしてルナたちはしばらくその場で待つ事になった。

 

といっても、場所は唯の廊下で、座る所もない。座る場所があったとしても座る事は無いと思うが。

少しすると、一緒に立っていた吹雪が、そわそわし始めた。

 

「……どうしたんだ吹雪?」

 

突然声を掛けられた事にビックリしつつ、吹雪は若干、顔を赤らめながら言う。

 

「あの……その……お手洗いに行っても宜しいでしょうか……?」

 

「……ん!あ、うん。無理しないで行ってくるんだ。場所は大丈夫か?」

 

「大丈夫だと思います。スミマセン、失礼します!」

 

そう言うと吹雪は、少し駆け足になりつつ、廊下を戻っていった。

 

「……やっぱり緊張するよね?」

 

ルナは隣に立っている赤城と青葉に問いかける。やる事が無くひたすら待つというのは暇なものだ。少しでも気を紛らわそうとして話し掛ける。

 

「はい、それは勿論。……しかし少尉、この場ではあまり私語は慎むべきかと……」

 

「そ、それもそうだ。すまない」

 

今の自分は征原司令の代理だという事を思い出す。待てと言われたのなら待っているのが軍人というもの、と気持ちを引き締め直し、再び無言の時を待つ。

 

しばらくすると、手洗いに行っていた吹雪が戻ってきた。

 

しかし吹雪はルナたちの前で立ち止まり、ビシッと敬礼をすると、そそくさと通り過ぎようとした。

 

「おい!吹雪、どこに行くんだ?」

 

ルナが声を掛けると、ビックリしたように吹雪は振り返る。

 

「ふ、吹雪に何か御用でしょうか!?」

 

「御用も何も……トイレに行って戻ってきたんじゃないのか?」

 

「………???私はそんな事……」

 

会話が成り立たない事に混乱するルナのもとに、なんともう1人、吹雪がやってきた。

 

「スミマセン少尉、遅くなりました」

 

そしてルナの前で2人の吹雪が顔を合わす。

 

「わ……私が……!?」

 

「もう1人……!?」

 

2人の吹雪は、揃ってあわわあわわと慌て始める。ルナは思考が停止しそうなのを、すんでの所で踏ん張り、この状況を理解しようとする。

 

見ると、会話がかみ合わなかった吹雪が付けている腕章の布地の色が『緑色』だった。

 

「君、所属と型名を言ってもらえるか?」

 

あわわとしていた吹雪が「は、はいっ」と未だ慌てたままに敬礼し、ルナの質問に答える。

 

「まっ……!『舞鶴鎮守府』所属、《NーI 型CMS、402011001》吹雪ですっ!」

 

あぁ、と、ここでルナも理解する。

ここにいる2人の吹雪は、同じだが別人なのだ。舞鶴所属と名乗った吹雪の記憶兵装は《N型》で、《E型》の吹雪とは『中身』が違うのだ。

 

「舞鶴の吹雪か。すまない、ウチの基地にも吹雪がいてね、一瞬区別が出来なかった。許してくれ。

自分は奄美の司令代理、栄ルナだ。よろしく」

 

「いっ、いえ!こちらこそよろしくお願い致します!」

 

2人の吹雪も冷静さを取り戻し、お互いの自己紹介をする。

 

「失礼しました、奄美の吹雪です!今後ともよろしくお願いします!」

 

「舞鶴の吹雪です!こちらこそよろしくお願いします!」

 

握手をする姿を見てルナは、腕章が無かったら本当にどっちがどっちだか分からないな、と思っていた。

 

「すみません、そういえば私急いでいるんでした!失礼致します、奄美司令代理。また後ほど」

 

「引き止めて悪かったね。また後で」

 

舞鶴の吹雪はもう一度敬礼をすると、スタスタと廊下を歩いていった。

 

「いやぁ、びっくりしました……ドッペルゲンガーかと思いましたよ……!」

 

「いやホント、自分も驚いたよ」

 

隣に立っていた赤城と青葉も驚いていたらしく、

 

「頭では理解していましたが、目の当たりにすると、やはり驚くものですね」

 

「艦娘はいっぱいいるんだから、1人や2人、自分と同じ艦娘がいてもおかしくないですからね~」

 

と、口々にそう言った。

 

そうしていると、廊下の向こうから、黒いスーツのような服を着た、年配の男性が歩いてきた。

軍の敷地内では、あまり見かけない格好である。

 

ゆったりとした足取りでこちらへ歩いて来るのだが、一歩、また一歩とこちらへ近づく度に、形容し難い不安感と恐怖感が波のように押し寄せてくる。

 

(……!!何だ……!?)

 

艦娘たちもそれを感じ取っているらしく、皆、冷や汗を流している。

 

一歩、また一歩。年配の男性は近づいてくる。

 

ルナは知らず知らずのうちに、さりげなく、片足を半歩後ろに引き、左手で腰の日本刀の鯉口を切っていた。

 

吹雪は直立不動で動かない。否、動けないらしい。赤城と青葉は、自然に見えるように、その男性とルナの間に入るように動く。

 

その男性がルナたちの手前で歩みを止める。

 

その男性が放つ負のオーラは最高点に達し、ルナたちは今すぐにでもここから逃げ出したい感情に駆られた。

 

「……そこの少尉の君」

 

年配の男性が突然口を開く。ルナは迫り来る負のオーラに耐えながら、臨戦態勢のまま耳を傾ける。

 

「昨日は良く眠れたかな?」

 

「…………は?」

 

「目が ”紅く” なってるぞ?」

 

男性はニコッと笑うとそう言った。その言葉のおかげか判らないが、負のオーラはいつの間にか消え去り、何の変哲もない世界に戻っていた。

 

「赤城、自分の目は赤いか?」

 

「え、えぇ、でも少しだけですから別に大丈夫ですよ?」

 

ルナの反応を見た男性は突然、ハッハッハと哄笑を上げると、先ほどとは比べ物にならないくらい、あっけからんとした口調で話し掛ける。

 

その佇まいから、ルナは即座に自分よりも立場が上の人だと悟った。

 

「いや、スマンスマン。見慣れない者たちがいるからつい、な。

腕章から見て、佐世保管轄奄美だな?今日は征原は来ていないのか?」

 

「は、はい。今回、征原司令は諸用で来られないとの事なので、今回は、征原司令の代理として自分が。

申し遅れました、自分は、司令代理の栄ルナ少尉です」

 

ルナは敬礼をして、目の前の男性にそう名乗る。

男性は、ほぉ~と言うと、ルナの目を覗き込むようにして息をつく。

 

「君が……栄か……。私は日本防衛軍統括組織、中央司令の『瀬織津(せおりつ)タイガ』だ。宜しく頼むぞ」

 

その言葉にルナは息をのむ。

 

「あ、貴方が……総司令!?たっ、大変失礼を致しました!」

 

「気にしなくてもいい。今回君に来て欲しいと征原に頼んだのは私だ。………まさかアイツが来ないとは思っていなかったがね。

取り敢えず、そろそろ会議を始めるから、私についてきたまえ」

 

その男性ーー総司令のタイガはそう言うと、ルナたちを案内する。

 

大きな部屋に入ると、10人程度の艦娘と思われる少女たちが、タイガとルナに向かって敬礼をした。

タイガはそれを手で制し、休んでいてよいと指示を出した。

 

「栄、ここから先に同行出来る艦娘は1隻までだ。2隻はここで、有事に備え待機してもらう」

 

ルナは了解の意を示すと、赤城を連れ、タイガとともに奥の部屋に入る。

 

部屋は窓のない密室で、部屋の中央には大きな長机が置いてあり、周りを取り囲むようにして、軍服を身にまとった人達が座っていた。

 

その背後には、艦娘たちが直立不動で立っている。

 

タイガが入るなり、全員が一斉に立ち上がる。

 

「ではこれより、9回目の定例会議を始める」

 

タイガがそう宣言すると一同は席に着いた。

 

「総司令、その子供は何です?」

 

赤色の腕章をつけた男性がタイガにそう訊く。

 

「おい呉、お前は目が見えないのか。青系藍色の腕章なんだから、どうみても奄美だろ」

 

黄色の腕章をつけた男性がその問いに対してそう言う。赤の腕章の男性は表情を歪ませ、不満を露わにする。

 

タイガは2人を諌めるように言う。

 

「落ち着け、今紹介する。今回、私が征原に頼んで呼んだ、栄ルナ少尉だ」

 

「奄美基地司令代理の栄ルナです。宜しくお願いします」

 

「栄ルナ………?」

 

ルナがそう自己紹介をすると、青色の腕章をつけた男性がそう問い返した。

 

「どうかしたのか、佐世保?」

 

「いや………何でもない」

 

青色の腕章をつけた男性は、ふいとルナから顔を背けた。

 

「色々と言いたい事はあるだろうが、栄は征原の代理だ。皆も簡潔に自己紹介を」

 

黄色の腕章をつけた男性はルナの顔をまじまじと見、それからニヤリを笑った。

 

「ほぉ、こいつが爺様の代理ねぇ……どうみても子供だが。

俺は『須賀(すが)テンジ』横須賀って呼んでくれ」

 

次に、未だに表情を歪ませている赤色の腕章をつけた男性が名乗る。

 

「呉の『八幡(やはた)タカ』だ」

 

その後に、不審そうな眼差しを向けてくる青色の腕章の男性がボソッと言う。

 

「……アラン・エイ、佐世保だ」

 

その後、今まで口を開いていなかった緑色の腕章をつけた女性と、白色の腕章をつけた男性が自己紹介をする。

 

「私は舞鶴の『立橋(たてはし)アメノ』って言います。宜しくね、ルナ君」

 

「大湊の『ユーカラ・コタン・カロ』長いから『ユカル・カロ』と普段は略している。お前の噂は北の海まで聞こえているぞ」

 

「宜しくお願いします」

 

ルナはもう一度頭を下げ、皆に挨拶をする。

 

「自己紹介が済んだところで、早速話を始めよう」

 

タイガは幾つかの書類を取り出し、それを読みながら話し始める。

 

「今回、普段よりも早く皆を呼び集めたのは他でもない。今まで穏やかだった深海棲艦の活動の活発化が確認された」

 

その言葉に一同は騒然とする。

 

「何………!?」

 

「活発化……2年前と同じか」

 

タイガは重々しく頷くと言葉を続ける。

 

「我々がCMSを開発し、深海棲艦と戦争状態に突入した2年前、南方海域のソロモン諸島で深海棲艦の活発化、大規模な侵攻作戦が行われたのは覚えているだろう。

 

今回、その時と同じ兆候が見られた。

南方海域へ向かう輸送船団への攻撃、南方海域から、比較的小規模な敵部隊の不自然な撤退。

この事から予測するに、深海棲艦は中部太平洋海域に戦力を集中させ、我が国の東部もしくは南部戦線を叩くつもりだろう」

 

一同の顔は青ざめている。ルナには分からないが、2年前のソロモンの戦いがそれ程にも過酷であったという事は、想像に難くなかった。

 

「しかし総司令、確証はあるのですか?」

 

舞鶴のアメノが小さく挙手をし、タイガに訊ね返す。

 

「現在、第六艦隊を偵察に向かわせている。何か動きかあれば連絡をよこすハズだ」

 

「潜水艦隊ですか。偵察にはもってこいですね」

 

「ってかそれしか手が無いからだろ?他に何かあるのか総司令?」

 

横須賀のテンジが茶々を入れつつ更に訊く。

 

「もう1つ。先日の南西諸島方面からの敵侵攻だ。

幸いにもこの敵部隊は奄美……ここにいる栄が指揮するCMS部隊が撃退してくれた」

 

「あぁ、『南一号作戦』とか言ったか。こちらにも報告は届いている」

 

呉のタカが手元の資料を見ながら頷く。

 

「その敵侵攻は不自然極まりない点が幾つもある。

本土侵攻を目論むには、戦力が足りない。

しかし、空母や戦艦といった大型艦を使用している。

そして、戦力が手薄の南西諸島方面からの侵攻。

 

これから察するに深海棲艦どもは、この侵攻作戦を陽動に使っている可能性がある。

これで我々が、南西諸島方面の戦力を整えている間に、南方の海上交通路(シーレーン)あたりを狙ってくるだろう。

さすれば、我々の戦線も縮小せざるを得ないからな」

 

「成る程、筋は通る。それで、俺たちは何をすれば良い?」

 

大湊のカロが、身を乗り出してタイガに訊ねる。

 

「敵の侵攻作戦が開始される可能性が高いため、各鎮守府、いつでも作戦行動が開始出来るように各々準備を進めてくれ。

私からの特別報告事項は以上だ。あとは通常通り、各自の報告を頼む」

 

その後、各提督たちが鎮守府の現状を事細かに報告する。CMSの配備状況、ドック、工廠の設備について、貯蓄資材などなど。

 

それら全ての報告が終わると、第9回鎮守府定例会議は幕を閉じた。

 

大体は席を立ち、部屋を出て行くのだが、佐世保のアランだけがルナの下にやって来た。

 

「…………」

 

「……自分に何か御用でしょうか?佐世保司令」

 

「……奄美は俺の管轄だが、お前のような者が着任したというのは聞いていないのだが」

 

「と、言われましても……征原司令に訊ねるのが一番だと思いますが……」

 

「………そうか」

 

アランはそう言い残すと、足早に部屋を出て行った。

後ろをついていく重巡艦娘らしき少女が、申し訳無さそうに頭を下げていく。

 

「……何だったんだ?」

 

赤城も「さぁ?」という顔で首を傾げる。

 

そんなルナの下に、今度はタイガがやってくる。

 

「栄、今日は御苦労だった。それと南一号作戦での戦果も見事だった」

 

「恐縮です。しかし、南一号作戦は艦娘たちのおかげですので」

 

「艦娘たちのおかげか……。まぁ、どっちみち戦果を挙げたのは間違いない。

そこで突然だが、奄美基地に新たなCMSを1隻贈ることが中央の意思として決定している」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「あぁ、佐世保から奄美に回航することになっている。これには戦果報酬という意味の他に、奄美基地の戦力増強も兼ねている。

栄に託すのは、N型CMS。その中でも最新型のNーⅢ型のものだ。

詳しくは征原に訊くと良い。それでは、今後の戦果に期待しているよ」

 

タイガはルナにそう話すと部屋を出て行った。

 

ルナと赤城も部屋を出て、もう一度、呉司令のタカに挨拶をすると、待たせていた艦娘たちと合流し、呉鎮守府を後にした。

 

ヘリで鹿屋基地まで戻り、待機していた『かざばな』に乗って帰途につく。

 

「俺らがついてった意味あったのか?ただ部屋で待たされてただけだぜ?」

 

「そうよね~、懐かしい顔ぶれに出会っただけだったわねぇ」

 

「ワタシは良かったデスヨー!呉の妹達も元気そうで良かったデス!」

 

艦の甲板の上で、待機組だった天龍、龍田、金剛がそう話している。

 

「まぁ何事も無かったですけど、それでも良かったですよね!」

 

「はいっ!モデルは違うけれど、十一駆のみんなにも会えましたし!」

 

青葉と吹雪が、ワイワイと昔話に花を咲かせる。

 

「そういえば、あの会議に出席してた艦娘って、誰なんだ?」

 

「えぇと……横須賀が長門さん、呉が大淀さん、佐世保が妙高さん、大湊が木曽さん、舞鶴は多分能代さんじゃないでしょうか?」

 

「うっ……戦艦の長門くらいしか分からない……これは、帰ったら覚えとかないとなぁ……今後こういう事があるかもしれないし」

 

ルナはやるべき事を考えながら、夕焼けに染まりつつある海を眺める。

こんなに綺麗な海も、今は深海棲艦の手に落ちているのだ。

近々、大規模な作戦行動があるかもしれない。参加するしないは別にして、自分も頑張らなきゃな、とルナは思うのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「遅いお帰りだな、司令官、姉さん」

 

佐世保鎮守府に戻ったアランと妙高を、妙高型重巡洋艦2番艦である那智が出迎える。

 

「あぁ、留守番御苦労だった」

 

「帰ったばっかで悪いが、客が来ているぞ」

 

「お客様?那智、あなた失礼なことはしてないでしょうね?」

 

「するわけないでしょう、心配し過ぎです」

 

「いい、どうせあの人だろ」

 

「ふむ、司令官はいつの間に読心術を使えるようになったんだ?」

 

アランは足早に提督室に向かっていく。バン!と扉を開けると、白髪と白い髭が特徴的な男性がいた。

 

「遅かったのぅ、アラン君」

 

「会議をサボったくせして偉そうですね、征原博士」

 

「その呼び方はやめろと言っておろうに」

 

トウは窓から外の様子を眺めつつ、アランに振り返る。

 

「でも、おかげで良い物が見られたじゃろ?」

 

トウの一言にアランの顔つきが変わる。

 

「博士……『アレ』は何です?」

 

「流石、奴の息子なだけあるの。一目で見抜くとは……ワシの最終型(ラストモデル)だ。詳しくはまた説明する」

 

アランはため息を吐きつつ、執務机に座り、引き出しから書物の入った袋をドサッと出す。

 

「訊きたいことは山ほどありますが、貴方の目的はこれでしょう?『方舟計画』のデータ」

 

「話が早くて助かるのぅ。有り難く頂くよ。………して、進捗はどうじゃ?」

 

「全体の70%が完了、今は姉さんに任せてますよ」

 

「そうか……もうそこまで来たのか……」

 

トウが書物を確認していると、提督室に電話の音が鳴り響く。

アランが受話器をとって電話に出る。

 

「佐世保です………はい……」

 

アランは一言二言話すと受話器をトウに寄越した。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

『よく佐世保にいると分かったのぅ、タイガ』

 

「馬鹿を言うな。あんなものを寄越しといて良くシラが切れるな」

 

中央総司令のタイガは、直通秘匿回線で佐世保のトウに電話をかけていた。

 

『うーん、お主にもバレておったか。ワシとしては最高の出来なんじゃがな……』

 

「R型の高周波音にガッツリ反応していたぞ?あれも新しい能力か?」

 

『お主の察しが良すぎるから秘密じゃ』

 

タイガがぐっ…と閉口すると、受話器から声が聞こえてくる。

 

『それを言う為に電話を掛けてきたのではなかろう?』

 

「お前の察しも大概だぞ」

 

タイガは、はぁーとため息を吐くと諦めたように、しかし、その声音に緊張を含みつつ、話し始める。

 

「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」

 

『じゃあ良いニュースからじゃ』

 

「お前の基地に新たなCMSを贈っといた。NーⅢ型330010001だ」

 

『ほぅ、Ⅲ型の010番を寄越すとは。しかも初期配属か。その理由が悪いニュースかの?』

 

「思考力は鈍ってないようだな。そうだ、中部太平洋海域に偵察に出していた第六艦隊旗艦、伊168から先程、暗号電信が入った。

マリアナ諸島東1260海里、ウェーク島付近で、深海棲艦の大艦隊を補足した。

中には、2年前と同様の戦艦級のイレギュラー個体の他、空母型の新しいイレギュラー個体も補足された。

この大艦隊は南に進路を取っているようだ」

 

『何じゃと……イレギュラー個体が2種類だと……?』

 

「いやそうとは限らない。第六艦隊はその後、敵のハンターキラーチームに追撃を受けたようだが、その折、戦艦級のイレギュラー個体を上回る反応も感知している」

 

『【戦艦棲姫】を上回るイレギュラー個体だと……!?それが、ウェーク島から南下じゃと……まさか、敵の狙いは……!』

 

「そう、恐らく『トラック諸島』だ。空母型イレギュラー個体を含むという事は、トラック泊地への空襲が懸念される」

 

『……間違いなく、来るじゃろうな』

 

タイガは大きく深呼吸をすると、覚悟に満ちた声でこう宣言する。

 

 

 

「我々、日本海軍は【トラック泊地空襲迎撃作戦】を展開する………!!」

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・多目的汎用護衛艦『かざばな』

旧海上自衛隊の護衛艦をモデルに造られた、様々な役割を果たす艦艇。

奄美基地が所有する8隻のうちの1隻。

 

瀬織津(せおりつ)タイガ

日本軍を統括する組織、『中央』の司令官。

総司令と呼ばれている。征原トウとは腐れ縁らしい。

 

 




ルナ「何か沢山人が出てきたな。こんなに出して大丈夫なのか?」
kaeru「いっぱいいた方が楽しいでしょう?」
ルナ「まぁ賑やかなのは良いことだが……」
kaeru「今後更にいっぱいの艦娘やら人物やらが出ますので、期待して待ってて下さい」
ルナ「次回、迎撃!トラック泊地空襲!編、お楽しみに」


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2つ目の記憶ーー迎撃!トラック泊地強襲ーー
memory17「作戦発動直前」


2日遅れスミマセンでした…

気を取り直して、今回から15冬イベ編です。
楽しんで見てくれれば嬉しいです。
それと今回は作戦概要の説明なので文字数少なめ(4600文字強)です。ご了承の程を。

それではでは!


 

 

memory17「作戦発動直前」

 

 

呉の鎮守府会議の翌日。

 

ルナは物凄い困惑した顔で、目の前に立っている艦娘を見つめている。

 

ルナの後ろにはライラもいたのだが、こちらもやれやれといった表情をしている。

 

立っている艦娘の足元には蹴破られたコテージの扉。

つい数分前、ライラとともにコテージに赴いたルナは、扉を蹴破って出てきた艦娘と盛大に衝突したのであった。

 

「…………ライラさん、この艦娘ですか?」

 

「…………残念ながらその通りだ」

 

昨晩、2人には、今日基地に戻る予定のトウから「中央より新たなCMSが贈られてくる。配属部隊はルナ君のトコロにするからヨロシク」という電文を佐世保経由で受け取っていた。

 

「色々と訊きたいけど、先ずは名前から教えてもらおうか」

 

目の前に立つ、金髪掛かったクリーム色の様な長い髪に、ウサギの耳の形のリボンの付いたカチューシャを身に付けた艦娘は、形だけの敬礼をすると、自らの名を名乗る。

 

「島風型駆逐艦一番艦、『島風』です。いくら何でも待たせ過ぎじゃないですかぁ~?」

 

島風と名乗った艦娘は、その不機嫌さを隠す事なく不満を露わにする。

 

「待たせ過ぎ……いや、定刻通りだろ!」

 

「遅いったら遅いんです!もっと早く来て下さいよ!」

 

島風はワーッと愚痴を連ねる。ルナは耳を両手で塞ぎつつ、渋面を作った。

 

「……奄美のみんな以上にクセの強い娘が来ましたね」

 

「全くもってその通りだが、積まれているMWはNーⅢ型、性能は折り紙付きだ」

 

ライラも困惑顔を崩す事なくルナにそう言う。

 

「でもまぁ、仮にも貴様の指揮官に当たる者に対面早々愚痴を吐き出すのはどうかと思うぞ、島風」

 

ライラが、そう島風をたしなめると島風は驚いた顔をし、

 

「まさかとは思ってましたけど、この小さい人が本当に指揮官なんですか?信じられなーい!」

 

と、またもやワーッと喚き始める。

ルナは顔を引きつらせながらも、島風に言う。

 

「君が配属された部隊、奄美部隊指揮官の栄ルナだ。何か御不満でも?」

 

「それはありまくりです」

 

「こ……んの、言わせて置けばこの減らず口が……!」

 

ルナは腰の剣帯(ベルト)に不格好に付けられている、ヘンテコ面白刀の鯉口を切り、柄を握る。

 

「落ち着け小僧。新戦力を(おか)で斬り捨てるつもりか」

 

「………冗談ですよ」

 

「冗談には見えない気迫だったがな」

 

「でもたとえ抜刀しても、島風なら軽く避けられるんじゃないですかね?」

 

島風は大戦当時、諸説あるものの最高速度40ノット以上を出したと言われる駆逐艦だ。

当時の艦艇の特徴を引き継ぐ現代のCMSなら、この島風も機動力が秀でているのであろう。

 

「もっちろん!島風は速いんだよ!そんななまっちぃ斬撃なんて簡単に避けられるもん」

 

「言うじゃないか」

 

ライラがそう言って島風を見る。ライラも島風のカタログスペックには目を見張るものがあったのか、戦闘能力面では一目置いていた。

 

「少佐も”そこそこ”速いっぽいけど、島風ほどじゃないね。ざーんねん」

 

「良し、其処に直れ小娘。私が直々に引導を渡してやる」

 

ライラは一息の間も無くサーベルを抜き放ち構える。

ルナも慌ててライラの腕に組みつき、必死に止める。

 

「落ち着いて下さい、ライラさん!」

 

「………冗談だ」

 

「絶対本気でしたよね今の」

 

ライラはコホンと咳払いをすると、島風に向き直り、真剣な表情で語りかける。

 

「島風、貴様が何と言おうと拒否権は無い。何故なら貴様は『兵器』だからだ。兵器は必要とされなければ廃棄される。その事を忘れるな」

 

この言葉には流石の島風も堪えたのか、俯いて押し黙ってしまった。

 

一時、その場が静寂に包まれる。

 

「ライラさん、前も言ったと思いますけど、艦娘は分類上は兵器かもしれませんが、自分はそうは思いません。ですから、自分の前ではそう言わないで下さい。たとえライラさんでも許しませんから」

 

この言葉にライラは少し驚いた顔をすると「そうか」と言い、用事が済んだら埠頭に来いとだけ言ってその場を去った。

 

ルナとしては、良くて嫌味、悪くて懲罰を食らうと思っていたので、何とも言えない気分だった。

 

ルナと島風がその場に残される。そしてルナは島風に、

 

「とりあえず、島風の最初の任務は扉を直して、始末書を書く事だな」

 

と言った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

奄美基地に扉の予備なんて物がある訳がなく、一先ず、島風が蹴破った扉をそのまま付けておいた。

新しい扉は、また港町に買いに行かないと駄目だからだ。

 

ルナの収集で集まった奄美の艦娘たちも、穴の開いたコテージの扉を見て、口々に「一体何が……」と言って唖然としていた。

 

奄美のみんなに新たな仲間である島風を紹介した後、ルナはライラと共に埠頭へと向かった。

 

別件の用事で佐世保に行っていたトウが帰ってくるからだ。

 

基地の埠頭に、奄美が所有する改造護衛艦の1隻『ずいせつ』が入ってくる。

 

降りてきたトウに対し、ルナとライラは敬礼で出迎える。

 

「出迎え御苦労、ライラ君、ルナ君。帰ってきて早々で悪いが、上層部を集めてくれ。緊急会議を行いたい。

済まないが、ルナ君も会議に出席してくれ」

 

「その様子だと、何かあったようだなジジイ」

 

トウは無言で頷くと、足早に庁舎へと向かう。

ルナとライラもトウの後を追い、作戦会議室(ブリーフィングルーム)へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

すぐに上層部の人達が部屋に集まり、緊張感が漂う中、会議が始まった。

 

「諸君、突然の収集申し訳無い。しかし、悠長に事を構えていられなくなった」

 

「司令……まさか……!」

 

防衛班が、トウの言わんとしている事を察して声を上げる。

 

「……深海棲艦どもの活動の活発化に伴い、敵の一大侵攻作戦の予兆が見られた」

 

その言葉を聴いた部屋の人達がざわつき始める。

ルナもトウの言葉に驚きを隠せないでいた。

先日の呉鎮守府会議で、南方で深海棲艦の活動が活発化しているという事は聴いていたが、こんなにも早く、敵が侵攻をしてくるとは思っていなかったからだ。

 

「敵の侵攻予測地点は、南方海域『トラック諸島』、及び同島の泊地だと思われる」

 

トウは壁の地図を指しながら続ける。

 

「皆も知っての通り、2年前の侵攻により『ショートランド泊地』『ブイン基地』『ラバウル基地』を失った我が方にすれば、トラック泊地は、南方戦線の最前線であると同時に、南方海域の拠点、要でもある。

 

もし仮に、今回の侵攻によってトラックの泊地機能に甚大な被害、最悪の想定として、陥落し占領された場合、我々は南方海域での作戦行動をとることがほぼ出来なくなる。

そうなった場合、深海棲艦はトラックを足場にし、連続してパラオ泊地に攻撃を仕掛けてくる可能性も否定出来ない。

南方での活動拠点を完全に喪失すれば、我々はこの戦争に勝つ事は出来なくなるじゃろう。

 

よって中央の下した決断は、トラック泊地を襲撃する敵艦隊を迎え撃ち、撃滅することじゃ」

 

「迎撃作戦か……それで、参加するのは?」

 

「ここは定石通り、横須賀、呉、佐世保が迎撃に、舞鶴と大湊が万が一に備え本土待機じゃ」

 

トウはライラの問いに、地図の各鎮守府を指差しながらそう説明した。

 

「それで司令、我々は今作戦ではどのような行動をとるのですか?」

 

幕僚の1人がトウにそう問いかける。

 

「そう、それなんじゃが……」

 

トウは歯切れが悪そうにそう言い、髭を撫でる。

 

「……今回、我が基地には中央から出撃要請がきている」

 

「それは、我々の護衛艦で輸送を担当するという意味でしょうか?」

 

「いや……出撃要請がきているのは、ルナ君、君のCMS部隊だ」

 

部屋の中がざわっとなり、上層部の人々がルナに目線を向ける。

 

「じ、自分ですか!?」

 

ルナは突然の話の変わりように追い付けないで狼狽していた。

そんなルナの驚きようを予想していたかのようにトウは概要を説明し始める。

 

「そうじゃ、先日の南一号作戦がよほど評価されたのぅ。実に嬉しい限りなのじゃが……。

中央の意向として君の部隊には、トラック周辺の対潜掃討、敵先攻部隊の迎撃、連合艦隊が出撃するための橋頭堡を確保してもらいたいそうじゃ。

よーするにこちらの先遣隊を担ってもらいたいってことじゃな」

 

「先遣隊って……かなり重要じゃないですか」

 

「まぁそうなるのぅ。戦力に関しては中央の派遣艦隊も出すそうじゃから問題は無い。

後は、ルナ君次第じゃな……タイガの奴もルナ君を気遣ってくれたから、命令じゃなく要請なのじゃろう。無理そうなら断って良いのだぞ?」

 

ルナはしばし思考すると、トウの目を見据えて答えた。

 

「断る理由が無いですね。是非ともやらせて下さい」

 

ルナのその答えに、一部の上層部の人々からは懸念の声が多少なりとも上がったものの、全会一致で奄美基地は迎撃作戦の先遣隊を担う事となった。

 

一基地がこのような大作戦に参加することは稀であり、基本的には本土防衛の任に当たる。

そんな中、奄美基地は作戦参加を要請されたのだ。ここで戦果を上げられれば、奄美基地としても得るものがあるだろう。

 

そのような理由もあってか、会議後の基地の中は、ほどほどの活気と緊張感で満ちていた。

 

早速ルナもコテージに向かい、艦娘たちにこの事を話すことにしたのだが……。

 

「一体これはどういう状況なんだ……誰か説明してくれ」

 

コテージの中では、島風と吹雪がお互いに背中を向け、腕組みをし、頬を膨らませて立っていた。

 

「まぁ少尉がそーなるのも分かりますけど、少尉もこちらがどーなったのか分かるんじゃないですか?」

 

青葉がにへへ~と変な笑いを浮かべながらルナにそう言う。

 

ルナにも大体の事は分かっていた。何分、ルナが身をもって島風の性格を体感している。

真面目で一生懸命な吹雪とは噛み合わない事があった事は容易に想像出来た。

 

「突然やって来て言いたい放題言われては、特型駆逐艦の名が黙っていませんよ!」

 

「特型って言ってもさぁ、そりゃ当時の話でしょ~?最新型の島風には敵いっこないよ」

 

「スピードだけが取り柄のくせに良く言いますね?」

 

吹雪と島風は振り向き睨み合う。今にも飛びかからん勢いだ。

 

「……なんで誰も止めようとしないのさ」

 

「何でって、駆逐艦どうしのケンカ程面白いものは無いからな」

 

「いつも冷静なフブキの珍しい姿が見られるデス!」

 

天龍と金剛がニヤニヤしながらそう言った。

 

駆逐艦娘には、駆逐艦魂とも言えるプライドを持っている者が多くいるらしく、その駆逐艦らしい短気っぷりによって、しばしば小競り合いが起こるのだそうだ。

 

他の艦娘たちは、それを話の種や酒の肴にするのだと言う。

 

「作戦発動直前だっていうのに、困ったモンだな……」

 

ルナはポリポリと頭を掻くのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

深く暗い水底。

 

天上から降り注ぐ月の光。

 

気が付けばここにいた。そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。

 

酷く気分が悪い。そのはずなのに頭は冴え渡っている。

 

目的はただ1つ。自分達の敵を闇に葬り去る、ただそれだけ。

 

だけども、それを思う度に頭の中で何かが叫ぶ。しかしそれが何かは分からない。分かろうともしない。

 

そんな事の繰り返し。

 

この思考に終わりは来るのだろうか。終わるとしたらこの命が尽きる時だろうか。

 

それでも、命果てるまでに伝えなければならない事がある。

 

しかし思い出せない。

 

やはりこれに終わりは無いのかもしれない。

 

いつの世も自分達は戦い争うだけ……。

 

 

 

その『彼女』は、多数の仲間を引き連れ、ゆっくりと南に進んでいった。

 

 

 

to be continued……

 

 




ルナ「何で15冬イベなんだ?」
kaeru「自分が初めて参加したイベントだから、印象が強いんですね」
ルナ「成る程ね〜」
kaeru「次回Eー1、泊地周辺の敵潜を叩け!お楽しみに」


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memory18「敵潜を叩け」

15冬イベEー1編です。色々変更してる点はありますが(^^;;
それでは!

〜前回までのあらすじ〜
記憶喪失の栄ルナは、正式に奄美基地所属になり、艦娘達と訓練の日々を過ごしていた。
そんな中、中部太平洋にある『トラック泊地』に敵艦隊の侵攻が予測され、中央は迎撃作戦を開始した。
ルナの所属する奄美基地も、先遣隊として作戦に参加することになったのであった。


 

memory18「敵潜を叩け」

 

 

 

「おっそーいっ!日が暮れちゃうよー!!」

 

「こら、島風ちゃん!隊列を乱さないで!」

 

先走る島風に向かって、吹雪がそう注意する。

 

「別に急ぐ必要は無いわ。それに速度を上げたら自分のタービン音とかで水中の音が聞こえないでしょ?」

 

「五十鈴さん……」

 

トラック環礁北側の海域。

 

派遣艦隊所属の五十鈴を旗艦にして、同じく派遣艦隊の巻雲、佐世保の白露、時雨、そして奄美の吹雪と島風は『先遣対潜部隊』としてトラック環礁周辺の敵潜水艦掃討戦を展開していた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

数時間前。

 

横須賀、呉主体の連合艦隊本隊に先立って奄美と中央派遣の先遣隊はパラオ泊地にいた。勿論、指揮官の身としてルナも、奄美の所有する汎用護衛艦『りっか』に乗ってパラオに来ていた。

 

先遣隊の面々はXデーの数日前にパラオ泊地に待機し、作戦発動同時に攻撃を仕掛けられるように準備していた。

 

「そんな訳で、奄美艦娘部隊の君達には先遣隊として、トラック周辺の敵戦力……まぁ本隊の脅威となり得るのは潜水艦だから、まず対潜掃討を行ってもらう。その後、周辺の敵戦力を叩くことになる」

 

ルナたちはパラオ泊地庁舎の一室を借りて、作戦概要を説明していた。

 

「今回は佐世保も、横須賀、呉のサポートに回るとの事らしいので、君達は主に中央派遣と佐世保と連携しつつ、敵トラック周辺戦力の無力化の任に当たってもらう」

 

ルナは壁に広げたトラック環礁周辺の海域地図を指し示しながら説明を続ける。

 

「君達はトラック環礁北側の海域を掃討しつつ、一般航路に使われている西水道から、西水道錨地を経由し、木曜島に向かってくれ。

東、南部は佐世保が請け負うといってたからね。我々はパラオからトラックまでの航路の安全を確保することが目的だ。

次に艦隊編成なんだけど……」

 

海中に潜む潜水艦に攻撃を加えるには『爆雷』という水中で爆発する専用の装備を持っている艦娘か、航空機による対潜攻撃しかない。

 

しかし肝心の爆雷を装備し、対潜攻撃を行うことの出来るのは駆逐艦娘と軽巡洋艦娘、そして一部の空母艦娘だけだ。

 

奄美部隊には駆逐艦である吹雪、島風、軽巡洋艦である天龍、龍田の4人しか攻撃できる艦娘はいなかった。

 

空母である赤城は、対潜攻撃の出来ない空母なので人数に数えてはいない。

 

「奄美部隊からは吹雪と島風を出撃させる。天龍と龍田は待機していてくれ」

 

ルナがそう言うと、吹雪と島風が声を揃えて「えーっ!?」と不満を口にする。

 

「何で島風ちゃんと一緒で、天龍さんと龍田さんは待機なんですか?島風ちゃんだと連携行動に問題があると思います」

 

「ちょっと吹雪!問題があるのはそっちでしょー!」

 

吹雪と島風はうぎぎぎと睨み合う。

ルナはため息を吐きながら理由を説明する。

 

「えっとだねー、まず一回目の出撃は偵察も兼ねる。ここで奄美の戦力を注ぎ込むのは得策じゃない。今回は中央派遣と佐世保が協力してくれるから、その恩恵を十二分に使うべきだと思うんだ。

それでも人数は限られてくる。それならなるべく、戦力は温存しといた方がいいだろ?万が一っていう事もあるからね」

 

吹雪が「ですけど……」と言いかけたのを遮るようにルナは続ける。

 

「編成は、艦隊旗艦を中央派遣の『五十鈴』に。僚艦は五十鈴と同じ中央派遣の『巻雲』佐世保の『白露』と『時雨』を。

ここに吹雪と島風を加えた、計6隻の水雷戦隊を対潜部隊として出撃させる」

 

艦娘の部隊は基本、6隻以下で構成される。

どの様な理屈かは解らないが、6隻を超えて部隊を編成すると、途端に深海棲艦からの発見率が高くなり、隠蔽性が失われてしまうからだ。

 

その為、6隻を超過する部隊を編成するのは、敵に居場所を知られているなりの理由で、隠蔽する必要が無い場合か、隠蔽性を捨て、こちらの最高戦力を持って挑む艦隊決戦の場合しか無い。

 

「ふーん、アイツが旗艦か」

 

天龍が腕組みをしつつそう呟く。

 

中央派遣の五十鈴は、先日奄美に侵攻してきた深海棲艦を、遠征帰還途中で装備や燃料が不足している中、それでも敵部隊を引き止めていた艦娘だ。

それ程の技量の持ち主ならば安心だろうと思って、天龍はそう呟いたのであろう。

 

「五十鈴がな、奄美も作戦に参加するって聞いたら、助けてもらった恩返しにって言って、立候補してくれたんだとさ」

 

そんな話を聞いては吹雪と島風も黙らずにはいられなく、2人とも実にしぶしぶといった形で了承したのであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「巻雲、時雨、ソナーに反応は?」

 

「今のところは大丈夫ですぅ」

 

薄い桃色がかった髪とだぶだぶの袖、眼鏡が特徴的な夕雲型駆逐艦二番艦、巻雲が自前の『三式水中探信儀(アクティブソナー)』の画面を見てそう答える。

 

「こちらも問題は無いね」

 

黒髪に、同じ黒い制服を着た白露型駆逐艦二番艦、時雨もヘッドホンの様なものを押さえながらそう答える。

時雨は巻雲と違って『九三式水中聴音機(パッシブソナー)』という、三式よりも旧式のソナーを装備していた。

 

「そう、なら丁度良いわ。今から改めて作戦内容を確認するわ」

 

旗艦五十鈴のその声に、一同は緊張の面持ちで耳を傾ける。

 

「トラック迎撃戦、1段階目は同泊地周辺の敵潜を叩く事よ。

大本営からは『重要根拠地であるトラック泊地周辺に展開しつつある敵潜水艦を捕捉し、これを掃討せよ』とのお達しだわ。

私達は、海域エリアEー1北西方面の敵潜を叩きつつ、トラック環境西水道から西水道錨地を経由し、環礁内の木曜島を目指すわ」

 

突発的に出現する深海棲艦は、現在のように、時として大艦隊を編成し、一大攻勢作戦に出る事がある。

そのような時、敵が多数集まっている海域を『E(エネミー)海域』と言って、通常海域と区別する。

 

「しっつもーん!島に着いた後はどうするのー?」

 

元気よく手を挙げ質問をしたのは、白露型駆逐艦一番艦、白露だ。

潜水艦を発見するためのソナーは装備していないが、潜水艦を攻撃するための『九四式爆雷』を大量に積んでいた。

 

「ひとまずは、目標の木曜島まで集中して。取り敢えずその後は、春島錨地を目指して、トラック泊地庁舎に行く事になってるわ」

 

「了解しました!」

 

五十鈴は頷くと、声を張り上げ、こう宣言した。

 

「これより戦闘海域に突入するわ!対潜警戒を厳として、ソナー艦はどんな些細な事も見逃したり聞き逃したりしないで!

他の艦は対潜攻撃がすぐに出来るように準備!水上艦が現れても慌てず対処するのよ!」

 

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

斯くして、戦闘海域に突入した対潜部隊は、巡航速よりも速度を落とし、ソナー感度を高め潜水艦に備える。

 

「流石、中部太平洋最大規模の環礁……!あちらこちらに珊瑚礁が突出してます……

ソナー画面ばっか見てたら座礁しちゃいますぅ……」

 

「うん、気を付けてね。巻雲ちゃん」

 

「はわわわわっ!?ふ、吹雪さんに心配はさせませんので大丈夫ですっ!お気遣い感謝致しますっ!」

 

「そ、そんなにかしこまらなくても……」

 

「いえ!吹雪さんは巻雲よりも先輩ですし、この間の作戦の時も、駆逐艦の(かがみ)のような戦いっぷりだったと聞いています!

かしこまらないワケが無いですよ!」

 

吹雪は巻雲の勢いに圧倒され、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

「…………ふんっ」

 

少し離れた場所でそのやり取りを見ていた島風は、面白くなさそうに顔を背けると、自らの後ろについて来ている砲塔のようなものに話し掛ける。

 

「連装砲ちゃん、調子は大丈夫?」

 

島風に『連装砲ちゃん』と呼ばれたものは、手のような部分をパタパタさせ「キュー!」と声を上げ答える。

 

島風の装備は特別中の特別であり、『連装砲ちゃん』と呼ばれる、12.7cm連装砲に海上航行ユニットと自立演算装置、MW技術を人工知能として搭載した自立型CMS支援機体、端的に言うならばロボットが大中小の3機、通常装備となっている。

 

島風の命令通りに動くことは勿論の事、自立演算装置とAI(人工知能)を搭載しているため、自らが考え、(あるじ)である島風のサポートを自動(オート)で行う。

 

その為、本来では難しい多重攻撃(マルチアタック)を島風1人で行うことが出来、敵が1隻ならば、確実に相手の防御を飽和させる事が出来る。

 

島風は連装砲ちゃんが大丈夫そうなのを確認すると、ニコリと笑って前を向く。

 

しばらくはゆったりとした時間が過ぎ、南洋特有の青い空と澄み切った海に心を癒されていた。

 

しかし、そんな時間は長く続かない。

 

「……!ソナーに感有り!2時の方向、敵潜ですっ!」

 

ソナー画面を見ていた巻雲がそう声を上げる。

もう1人のソナー艦である時雨も聴音機を向ける。

 

「敵潜、魚雷発射菅注水音を確認!」

 

「機関第二戦速!!斉六!!」

 

五十鈴は巻雲と時雨を報告を聞くや否や、速度変更と右60度一斉回頭を指示し、敵潜水艦に対して単縦陣から単横陣へと陣形を変更する。

 

「五十鈴さん!正面、潜望鏡です!」

 

吹雪が指差す海面に、細長い潜望鏡がスッと飛び出ている。

吹雪がそれを見つけると同時、白い航跡が扇状に広がりながらこちらへと向かってくる。

 

「魚雷よ!各艦、回避運動!」

 

五十鈴たちは先程の回頭で潜水艦に対して、真横一列に並ぶ『単横陣』という陣形をとっている。

 

この陣形は、被雷面積を少なくすると同時に、爆雷による面制圧が最も効果的な対潜陣形だ。

 

そのおかげもあり、魚雷は各々の間を通り過ぎていく。

 

「今度はこっちの番だぁー!」

 

白露が猛然と突き進み、艤装に装備した九四式爆雷を用意する。

 

敵潜は魚雷が命中しなかったのを見て、慌てて水中に潜ろうとする。

だが、もう遅い。

 

潜望鏡のあった位置に白露が爆雷を投下する。

しばらくは、白い水泡がブクブクとしていたが、水面が盛り上がったと思った次の瞬間、爆音を立てて水柱が立ち上がる。

 

その水柱の中に、黒い髪の毛の様なものや、金属片などが混じっている。

 

「やったぁ!撃破確実だ!」

 

「白露、敵潜は1隻なわけがない。油断禁物だよ」

 

時雨が喜ぶ白露にそう言ってたしなめる。

そして、時雨の言葉を肯定するように白露に向かって魚雷が迫る。

 

「くっそー!当たるもんかー!」

 

白露はその巧みな操艦で、迫っていた魚雷4本をかわしてみせる。

 

「全艦、周辺警戒!巻雲、時雨、なんとしても敵潜を探し当てて!」

 

「了解です!」

 

「わかった」

 

巻雲と時雨は再び速度を落とす。すると、自らの航行音で聞こえなかった音が聞こえてくる。

 

「……9時方向、注水音!」

 

「こちらでも捉えました!深度20、なおも潜行中!」

 

「私が行くわ!みんなは予定進路を!」

 

巻雲から送られてきたポイントに、五十鈴が戦速を上げて向かう。魚雷を発射する兆候は無い。相手は逃げに徹するようだ。

 

「深度調整……良し!爆雷投射!」

 

潜水艦が潜り込んだポイントに、五十鈴は爆雷を叩き込む。

 

数秒の間を空け、巨大な水柱が上がる。

収まった後には、粉々になった金属片や重油らしきものが浮かんでいた。

 

五十鈴は撃破を確認し、部隊へ戻ろうとする。

しかし、その行く手を阻むように何処からか砲弾が飛来し、五十鈴の前方に着弾する。

 

「……っ!水上艦ね!?」

 

五十鈴が、手持ちの双眼望遠鏡(メガネ)で砲弾が飛んで来た方向を見る。

 

「………敵編成は駆逐2に……輸送艦?」

 

普通の深海棲艦とは違って、丸く大きな身体、深海棲艦の輸送、補給、揚陸を担う『ワ級』と呼ばれる個体が、そこに混じっていた。

 

「てことは、あの敵部隊は、ここらに展開する潜水艦隊の補給、支援部隊ってトコね。それにしてはさっきの砲撃の威力が違いすぎるわ……。

この距離なら駆逐級程度の砲なら射程外のハズ……」

 

五十鈴がそう迷ったのも一瞬、先程の砲撃の主がワ級の背後から現れた。

それは、砲塔に人間の上半身を組み合わせたような半人間型(セミヒューマノイドタイプ)の深海棲艦、軽巡ホ級だった。

しかし、普通のホ級とは様子が違う。

その身体からは赤い煙のような、(オーラ)のようなものが立ち上り、身体を覆っている。

 

「軽巡ホ級……elite(エリート)!」

 

通常の深海棲艦よりも戦闘能力が高く、精鋭(エリート)級と呼ばれる、特殊な深海棲艦がそこにいた。

 

ホ級は雄叫びを上げると、五十鈴目掛けて砲を放つ。

 

しかしまだ多少の距離があるため、五十鈴は飛んで来た砲弾を軽々しくかわしていく。

 

「こちら五十鈴。吹雪、そっちの様子はどう?」

 

五十鈴は無線で、先行している吹雪に連絡を取る。

 

『こちら吹雪です。新たに潜水カ級を2隻捕捉、白露ちゃんが攻撃にあたってます』

 

「わかった。こっちにイ級2、ワ級1、ホ級elite1が現れたわ。これから後退を装って、そちらに向かうから、吹雪と島風の2人で挟みうちにしてちょうだい」

 

『了解です』

 

五十鈴は現在、3つの記憶領域(装備スロット)をソナー1、爆雷2で埋めているため、対水上艦装備を積んできていない。

 

通常装備では、敵に被害を与える事が難しい。イ級程度なら何とかなるかもしれないか、elite級がいる以上、五十鈴1人では分が悪いと踏んだのだ。

 

五十鈴はさらに速度を上げ、その場からの逃走を図る。

 

ホ級は、合流される前に沈めたいらしく、躍起になって砲を撃ってくる。

 

「バカね、どこを撃ってるのかしら!」

 

乱立する水柱の間をすり抜けるように避けていく。五十鈴は相手の照準をずらすために之字運動をしながら航行する。

 

その為、相手よりも五十鈴の速度は遅く、遂に横に駆逐イ級が並ぶほどになった。

 

イ級2隻とホ級eliteが示し合わせたように、一斉に魚雷を発射する。

 

後方と横方向から幾筋かの雷跡が五十鈴に迫る。

 

「十字雷撃とは、やってくれるじゃない!」

 

五十鈴は即座に取り舵を切り、魚雷の群れから逃れようとする。

 

しかし、巧妙に放たれた魚雷は五十鈴を絡め止めようと迫り来る。

 

(マズイ、避けきれないっ!それなら、なるべく被雷する本数を少なく……!)

 

五十鈴は舵で自らの位置を調整し、被害を最小限にとどめようとする。

 

そして、一本の魚雷が五十鈴の足に命中する。

爆音を轟かせ、巨大な水柱が上がるが、五十鈴はそれを間一髪で逃れる。

しかし、後方で爆発した衝撃で前方に飛ばされかけ、脚につけている航行用艤装の一部が故障した。

 

「ダメージコントロール!急いで!」

 

五十鈴は応急修理システムでその故障を直し始める。だが、直し終わるのを深海棲艦は待ってくれない。

 

ここが仕留め時だと言わんばかりに、砲を乱射してくる。

 

イ級が砲を放つ……前にそのイ級が砲弾を受け爆発を起こし海に沈んでいく。

 

「五十鈴さん、お待たせしました!」

 

「もう、五十鈴ったらおっそーい!」

 

吹雪が砲を構え、島風が連装砲ちゃんを従えて敵を挟み込むようにやって来る。

 

「助かったわ。応急修理が完了したら、私も加勢する!」

 

「いや……五十鈴が来るのを待ってられるワケないじゃん!私が全滅させてあげる!!」

 

島風は機関出力を大きく上げる。足元の波が大きくなり、島風の速度がどんどん速くなっていく。

 

「し、島風ちゃん!敵部隊のど真ん中で突出すると危ないよっ!!」

 

「うるさいなぁー、それなら止めてみればいいでしょー?」

 

吹雪も、危険覚悟で機関出力を目一杯まで上げ島風に追いつこうとするが、吹雪との距離は開くばかり。

 

(だめっ……!追いつけない!!)

 

向かってくる島風を迎え撃つ形で、イ級が再装填した魚雷をばら撒いてくる。

 

「そんなものっ!連装砲ちゃん、お願い!」

 

島風が自慢のスピードで魚雷の射線を突っ切りながら、連装砲ちゃんを突撃させる。

 

魚雷が島風の後方に全て流れる。

それと同時、連装砲ちゃんが砲を放つ。

3体が一斉に、かつ3方向から攻撃を加える。

 

その攻撃にイ級は耐えることが出来ず、装甲は崩壊し、命中弾を喰らって海に消えた。

 

「次っ!アイツ!」

 

島風の目線の先にはホ級elite。ホ級は雄叫びを上げ、島風から逃げるように進路を取る。

 

「私からは逃げられないよっ!連装砲ちゃん、一緒に行くよ!」

 

島風は連装砲ちゃんと共に更に突撃を掛ける。

いくら精鋭(エリート)級とはいえ、島風のスピードから逃れられる事は出来ず、徐々にその距離は縮まっていく。

 

「追いついた……砲撃始め!」

 

3体の連装砲ちゃんが一斉に砲撃を開始する。

ホ級は装甲を展開し、砲撃を防いでいるが、ダメージが少しずつ蓄積されている。

 

ホ級が連装砲ちゃんたちに気を取られているうちに、島風はホ級に対し有利な位置に移動する。

 

「四連装酸素魚雷、発射!!」

 

島風が背中に装着されていた、魚雷発射管を指向し、発射する。

 

圧搾空気に押し出され、勢いよく発射された魚雷は、狙い違わずホ級へと向かって命中し、大きな水柱を上げた。

 

その水柱が収まった時、そこにホ級eliteの姿は無かった。

 

「ふふん、やっぱね。島風には誰も追いつけないのよ!」

 

島風が、敵部隊を殲滅したことに喜んでいると、吹雪の鋭い声が島風の耳を叩いた。

 

「島風ちゃん!雷跡!」

 

はっとして、島風が海面を見やると、白い筋がこちらにサーッと向かってくるのが見えた。

それも1本や2本では無い。無数の白い航跡が、島風の逃げ道をふさぐようにして迫り来る。

 

「そんな……いつの間にっ!?」

 

「島風ちゃん!止まっちゃ駄目!!」

 

恐怖が押し寄せる島風の耳に、吹雪の声がかろうじて届く。

 

島風は魚雷群を振り切ろうと速度を上げるが、それすらも予測済みとでも言うかのように、魚雷の網は島風を絡め取ろうと迫り来る。

 

幾本を避けても、進む先、進む先に魚雷が迫って来る。

 

(こんな事になるなんて!あのホ級……私を潜水艦隊が潜むポイントに誘導させたの……!?)

 

魚雷の数からみても2、3隻という規模ではない。

確実に、ここには潜水艦の大部隊が存在している!

 

ついに魚雷が島風を捉える。下手に転舵すると速度が落ち、無数の魚雷が襲いかかる危険がある為、舵を切る事は出来ない。

 

「駄目っ!逃げられない!」

 

その時「キュー!」と可愛らしい声を上げ、連装砲ちゃんたちが魚雷と島風の間に割って入る。

 

「連装砲ちゃ……!」

 

島風が呼びかける間もなく、連装砲ちゃんが巨大な水柱に包まれ消える。

 

島風が悲しむ暇もなく、新たな魚雷が島風に迫る。

 

(もう……だめ……っ!)

 

島風が諦めかけたその時、島風の視界外から進む方向とは別の方向に、何かが飛び出していく。

 

深い青色の襟とスカート、白いセーラー服、後ろ髪を小さく束ねたその姿。

 

「……吹雪……?」

 

そう呟く一瞬、吹雪の後ろ姿が白い水柱に消える。

 

その衝撃で島風も吹き飛ばされ、水面を転がる。

 

「そ……んな、吹雪……吹雪ーーッ!!!」

 

水煙が立ち込める水面(みなも)、そこに崩れ落ちる吹雪の背中に、島風はそう叫んだ。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・トラック環礁

東経150度、北緯7度に位置する、珊瑚礁に囲まれた場所。

第二次大戦当時、大日本帝国が本土以外に持つ泊地では最大。

中部太平洋の要衝、太平洋のジブラルタルとも呼ばれる。

 

↓トラック環礁手描き略図

 

【挿絵表示】

 

 

・爆雷

水中で爆発する爆弾のようなもので、水上から水中の潜水艦などを攻撃する為に用いる兵装。

現代では、探信音誘導式の対潜水艦魚雷を使うが、CMSでは記憶的繋がりが深いこちらが使用される。

 

・九三式水中聴音機

相手の発する音を聞いて、水中に潜む潜水艦などを探知するソナーの一種。

相手の音を聞く、パッシブソナーであるが、大まかな位置と方向が分かる程度である。

 

・三式水中探信儀

探信音と呼ばれる音を出し、その反射音を捉えて水中に潜む潜水艦などを探知するソナーの一種。

こちらから音を出すアクティブソナーであり、パッシブソナーと違い、目標までの深度や距離がそこそこ分かる。

しかし、自ら音を出す為に、敵に自分の位置が知られる危険がある。

 

・連装砲ちゃん

島風が装備する、自立型CMS支援機体の愛称。

この機体には、矛盾論理(パラドックスロジック)も高速で打開する高性能な演算装置と、MW技術を用いたAI(人工知能)を合わせた複合プロセッサが搭載されており、自らの主の行動をサポートする。

姿は、12.7cm連装砲の砲塔基部に、浮き輪のような航行用艤装とフィンスタビライザーに見立てた手と愛くるしい顔がある。

大、中、小の3体がいる。

 

・多重攻撃

マルチアタック。大勢で畳み掛けるようにして、飽和攻撃を仕掛ける方法。

 

・精鋭級

深海棲艦の呼称。elite(エリート)と呼ばれる。通常の深海棲艦よりも戦闘能力が高く、その身体から赤色のオーラのようなものが立ち上っているのが特徴。

 

・記憶領域

装備スロットとも呼ばれる。CMSが装備する攻撃用艤装のメモリーカードをセットする部分。

攻撃用艤装を装備し、メモリーカードをセット、ロードすることによって、CMSは記憶武器を使う事が出来る。

 

・十字雷撃

2方向から十字に雷撃を仕掛ける攻撃方法。

左右どちらに避けても、魚雷が横に来るように迫り来るので、避けるのは困難。

 

 

 

 




kaeru「Eー1です」
ルナ「ブリーフィングのところが難しいかもしれない?」
kaeru「わざとそんな風に書いて雰囲気出してるのでご了承下さい」
ルナ「それと最後の語録の所に、作者手描きのトラック環礁略図があるな」
kaeru「頑張って図書館とか行って調べたんですけど、あの程度の情報量しか見当たりませんでした。スミマセン>_<
尚、電子情報と紙情報のクロスチェックで見つけたものしか描いてありません。ごめんなさい。
少しでも小説の情景を思い浮かべて貰えれば幸いです」
ルナ「ってそれより本編の話!」
kaeru「吹雪は、島風は、一体どうなるのか!?次回、対潜掃討戦、続きます」


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memory19「夜の対潜戦」

投稿が毎度遅くてスミマセン……
いつこの小説を完結出来るかと悩む今日この頃です。
それではッ!

ー前回までのあらすじー
トラック迎撃作戦に参加したルナたちは、先遣隊としてパラオからトラックまでの対潜掃討戦を展開していた。
しかし、島風が独断で先行。その結果、深海棲艦の罠にはまってしまう。
そんな島風を、吹雪は魚雷からかばい、海の上に崩れ落ちたのだった。


 

memory19「夜の対潜戦」

 

 

「被害は?」

 

「島風が小破、吹雪が大破で、他全艦損傷軽微です」

 

「そうか……全員生きて戻ってきてくれてよかったよ」

 

「しかし、敵潜水艦隊の中核を叩く事が出来ませんでした」

 

「……生きて戻ってくれば、何度でも挑戦出来る。五十鈴、君もドックに入ってくれ。今は、休む事が任務だよ」

 

「……了解です」

 

五十鈴はそう言って、部屋を出ていく。

 

 

パラオ泊地。

敵潜水艦の魚雷攻撃によって多大な被害を被った先遣対潜部隊は、旗艦五十鈴が『撤退』の判断を下した為に、パラオ泊地に戻っていた。

 

庁舎の一室を借りているルナは、五十鈴からの報告書を手に取った。

 

(島風は、生体に被害はあまり無いものも、通常装備である支援機体が重大な損害。修理には一晩かかる見込み。

吹雪の方は、島風を庇い、魚雷の直撃を受けた為に、機関部艤装、航行用艤装どちらも大破。生体も重傷を負い、CMS傷病療養施設(ドック)入り。意識は戻っていない)

 

「…………」

 

ルナはもう1つの書類を手に取る。艦娘の入渠書類だ。

艤装の修理に必要な資材、生体の怪我を治すために稼働するナノマシンが必要とするエネルギーなど、様々な情報が書いてある。

 

「………こんなところで、仲間を死なせる訳にはいかない」

 

ルナは書類の【高速修復材使用許可】の欄にサインをした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

CMS傷病療養施設。通称ドック。

 

この施設内の各部屋には、特殊な治療用ナノマシンが充満しており、部屋の中にいるだけで戦闘で負った怪我などの治りが早くなる。

 

その中の第一号ドックに入渠していた島風は、膝を抱えてじっとしていた。

 

視線の先には、大きな破損を未だ修復している連装砲ちゃんの姿があった。

 

「………ごめんね、連装砲ちゃん。私が話を聞かないばっかりに……」

 

連装砲ちゃんは答えない。修復中で稼働停止している為だ。

 

島風も、自分の失敗に気付いていない訳では無い。吹雪の注意が正しいことも分かっていた。

 

「…………」

 

島風は再び黙り込む。部屋を静寂が包み込む。

何もしないでじっとしているというのは、案外辛いものだ。どうせ、完全修復までこの部屋からは出られないのだ。島風は、横になって寝ようとする。

 

すると、バンッと扉が開き、2人の人物が部屋に入って来た。

 

「天龍……龍田……」

 

入って来たのは天龍と龍田だった。2人の表情は、怒り顔でも笑い顔でも無い、ただの無表情。

しかし島風は逆に、その無表情に恐怖を覚えた。

駆逐艦娘にとって軽巡洋艦娘は厳しい先生のようなものだ。水雷戦隊の(おさ)として、駆逐艦娘を率いて敵の懐に殴り込む。

その為に過酷な訓練を、軽巡洋艦娘は時として駆逐艦娘に強いる。

 

それに加え、天龍と龍田だ。新入りの島風の耳にも、天龍と龍田がかなりの曲者だという事は風の噂で届いている。

その為、島風は奄美に着任してから、天龍と龍田を避けるようにして過ごしていた。

 

「よぉ、島風。まぁまぁ元気そうだな」

 

「え……?うん……」

 

天龍がぶっきらぼうにそう言い、龍田が島風に近寄ってくる。

 

龍田はしゃがむと、島風に向かって手を出した。

 

ぶたれると思い、とっさに目をつぶった島風だったがそんなことは無く、ただポンと頭に手を置かれただけだった。

 

「多少の経験値はMW技術で与えられているとはいえ、初陣良く頑張ったわね」

 

「え……?……あぅ……」

 

「eliteも1人で倒しちゃったんでしょう?さすが島風ね」

 

「あぁすげーよな。俺も……連装砲ちゃんだっけ?装備してみてーな」

 

天龍と龍田は、そう言って笑い合う。

 

「まぁ怪我も大した事無さそうだし、俺らが来るまでもなかったな」

 

「そうね~、それじゃあ島風ちゃん、お大事に」

 

2人がそう言って部屋を出ていこうとする。島風は耐え切れずに2人の背中に「何で!?」と叫んだ。

2人が振り返って島風を見る。

 

「何で私を怒らないの!?」

 

「え、怒られたいのか?変わった奴だなお前」

 

「そういうんじゃない!前の出撃は、私が五十鈴や吹雪の話を聞かなかったから失敗したんだよ!?その事で怒りに来たんじゃないの!?」

 

島風は目元を潤ませながらそう叫ぶ。それに天龍はポリポリと頭をかき、龍田はニコニコと笑っている。

 

「ちっ、何だよ。ちゃんと分かってんじゃねぇか」

 

「え?」

 

「お前がちゃんと分かってるんだから、俺らがとやかく言う必要は無いよな、龍田?」

 

「そうね~、私たちは生きているもの。失敗するのは当然の出来事だわ。

それを反省してるのなら、私たちは何も言わないわ~」

 

「……でもっ!だったら……!」

 

「そんなにアレならチビ助にでも相談したらどうだ?」

 

「……え?」

 

天龍が親指で背後の扉を指差す。

すると、ガチャリと扉が開きルナが姿を見せた。

 

「気付いてたのか」

 

「おう、悪いなチビ助。お前の”仕事”はもう終わっちまったぜ」

 

「そうみたいだね」

 

ルナはそう相槌を打つと、島風を見てこう言った。

 

「ま、そこの怖~いお姉さんの言った通りだよ。

生きている以上、失敗はつきものだ。偉大なる先人たちは失敗から物事を学んだって言うしね。

報告書を読ませてもらったけど、今回の作戦が失敗した理由は、島風が一番良くわかっているだろう?

なら、その失敗を糧に、今度失敗しない為には次どうすればいいのかを考えて、それを実践するんだ。

その事が仲間に対する一番の償いだな。終わってしまった事はいくら悔やんでもやり直せない。だから、同じ過ちを繰り返さないように、それを反省し、次に活かすのが大切だぞ」

 

「要するに、『悪い事は忘れろ!』って事かしらね~」

 

「悪い事を忘れた結果、取り返しの付かない失敗をした場合はどーするんだ?ミッドウェーとか」

 

「あーもぅ、せっかくいい話で締めようとしてたのに、どうして君たちはいつもそうなんだ」

 

ルナは天龍型2人の茶々にがっくしと肩を落とす。当の2人はニヤニヤしている。

 

「それにしても、少尉はその考え好きですね~。赤城の説得の時にも言ってたとか聞いたわよ?」

 

「うん、その通りだ龍田。だから何千回何万回も言うぞ。『クヨクヨするな、前を向け』ってね」

 

島風はルナの話をじっと聞いていた。ルナが話し終わると、小さな声でルナに尋ねた。

 

「………なら、どうして吹雪は私を(かば)ったの?」

 

「何だよお前、そんなことも分かんねぇのか?それはな……むぐっ」

 

言いかけた天龍の口をルナが押さえる。

ルナは島風に振り返る。

 

「じゃあ、その答えを聞きに行こうか。島風も入渠時間はもういいだろうし」

 

島風はポカンと口を開け、ルナを見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

第二号ドック。

こちらにはかなりの損害を受けた吹雪が入渠していた。

 

入渠といっても、島風のように部屋内で怪我が治るまで過ごすのではなく、吹雪の場合はアイソレーションタンクのような治療用ポッドの中に入っていた。

 

「あ、栄少尉」

 

ルナたちが部屋に入ると中には五十鈴がいた。

吹雪が横たわっているポッドを覗き込んでいたようだ。

 

「五十鈴、もう入渠が終わったのか?」

 

「あんなのただのかすり傷よ。ドックに入らなくてもお風呂で治るわ」

 

ルナたちもポッドを覗き込む。吹雪は病院の患者服のようなものを着て、中で横になっている。傍目(はため)には眠っているようにも見える。

だが、備え付きのモニターは、吹雪の状態が睡眠ではなく昏睡であることを示していた。

 

「まだ意識は戻らないのか」

 

「そうみたいね。いくら私たちCMSでも艤装をはずせば常人よりも頑丈なだけだし。

生体の造りも人間とほぼ同じだから、目を覚ますかは分からないわね」

 

「そうか……。先遣部隊だからこれ以上の増員は無いだろうし、吹雪が目覚めないと作戦の続行は不可能だ。だから……」

 

ルナは吹雪の入渠の書類を出してみせた。

 

「【高速修復材】を使う」

 

高速修復材とはその名の通り、CMSに使えば瀕死(ひんし)の重体でもたちまち元どおりになるという特殊な資材だ。

また、艤装に使っても同じ効果を発揮する。

 

その原料は、CMSなどに使われているナノマシンのオリジナルを純粋増殖させたものである。

その為に、使用すると純粋ナノマシンが、対象の記憶を頼りに欠損した部分を補うように取り付いていき、最終的には元どおりになるという事らしい。

 

高速修復材(バケツ)を使うの?でもそれは数が少ないんじゃ……」

 

「うん。今回、自分たちに支給されたのはたったの20個だ。だけど、初動作戦すら完遂出来なくては、トラックを失って、我々はこの戦争に負ける」

 

ルナがそう言うと、五十鈴はそれ以上何も言わなかった。

ルナはポッドのモニターを操作して高速修復材を使用する。

するとポッド内に黄緑色の液体が注入され、中が満ちていく。

すると、目に見えて分かるほどに吹雪に生気が戻っていき、修復材が無くなる頃にはモニター上のバイタルも正常値に戻っていた。

 

ピーッと音が鳴りポッドが開放される。

吹雪はゆっくりと目を開けると、ハッとしたように起き上がる。

 

「………おっ、おはようございます、少尉!」

 

「おはよう吹雪、といっても今は夜だけどね。まだ楽にしているんだ」

 

「はい……それで作戦の方は……?」

 

「私の判断で撤退させてもらったわ」

 

ルナの隣にいた五十鈴が吹雪にそう伝える。

 

「そうでしたか……スミマセン……」

 

吹雪がそう言うと、後ろにいた島風が「あーもー!!」と大声を上げて吹雪の目の前に出てくる。

 

「吹雪が被雷したのは私のせいで、作戦に失敗したのも私のせいでしょ!?それに、どーして私を(かば)ったのよ!?」

 

吹雪は「えー……」と言葉を濁すと、小さめの声でボソッと理由を話す。

 

「それは……特型の私より、最新型の島風ちゃんの方が戦力となり得るからです」

 

「なーに恥ずかしがってんだよ。素直に『友達だから!』って言えよ」

 

天龍がニマニマしながらそう言うと、吹雪はぷいっとそっぽを向いてしまった。

顔が赤くなっているのは、病み上がりという訳でも無さそうだ。

 

「ま、そーゆーことだ島風。いくら喧嘩したって、君は大切な仲間なんだから」

 

ルナの一言に島風は顔を下に向ける。しばらくして、顔を上げた島風は吹雪に背を向けた。

 

「………ふんっ、私より足が遅いのにカッコつけるからそうなるのよ」

 

「なっ……仮にも助けた相手にその言い方ってー!」

 

「でも……ありがと」

 

島風の顔は後ろからでも分かる程に真っ赤に染まっている。

一瞬だけ部屋に静寂が訪れた後、皆はドッと笑った。島風は更に顔を赤くしていた。

 

「盛り上がってるトコに水を差すようで悪いんだけど、次の出撃の話をしたいんだ。

我々の初動作戦が成功しないと、連合艦隊はトラックに辿り着けない。要するにモタモタしていたらトラックが陥落してしまう可能性がある。

だから次は、日の出とともに攻撃を掛けるぞ。何か意見はあるかな?」

 

ルナがそう言うと、五十鈴がスッと手を挙げた。

 

「何か良い案が?」

 

「半分は賭けですが、1つだけ案があります」

 

五十鈴は自分の考えをルナに話し始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「と、いってもさぁー、夜に潜水艦を迎撃するのはムリがあると思うんだよね~」

 

「うるさいわね白露は。あんまりゴチャゴチャ言ってると、佐世保に帰らせないわよ」

 

夜の海。

先遣部隊は、2度目の対潜出撃を行なっていた。

 

五十鈴がルナに話した作戦、それは夜に出撃し、魚雷を放とうと海面近くまで上がってきた敵潜水艦を叩こうというものだった。

 

夜の海は昼間と違って、目視がほとんど通用しない。夜中の暗闇は、あらゆるものの姿を隠してしまう。

その中で、ただでさえ隠蔽性の高い潜水艦を叩こうというのだ。

 

「夜なら、普通に考えれば水上艦の私たちより潜水艦の方が有利だわ。だから奴らは必ず、海面まで浮上して必中の距離から魚雷を放つハズよ。

私たちは、そう油断して上がってきた敵潜を叩く!」

 

「上手くいくといいですけど……」

 

巻雲が三式ソナーを操りながら、五十鈴の言葉にそう答える。

 

目視がほとんど通用しない夜間は、ソナーやレーダーだけが頼りだ。

しかし、それでも不安は残る。

 

「……作戦が100%成功することはあり得ない。だから僕たちは成功する確率を高めるように行動するんだ。

つまり五十鈴……」

 

「えぇ、時雨の想像通りよ。敵潜をおびき寄せる為に……(おとり)を使うわ」

 

五十鈴の一言に、一同の中に緊張が走った。

この暗闇の中、囮になるということは潜水艦の(まと)になるということと同意義である。

 

それにこの囮作戦で敵中核を叩けなければ、味方の損害だけが増える事になる。潜水艦が潜む夜の海を、損害艦を抱えて撤退することは簡単な事では無いのは明白だ。

 

「吹雪、お願いできるかしら」

 

それら全てを承知した上で、五十鈴は吹雪にそう告げた。

吹雪もそう言われるのがわかっていたかのように(うなず)く。

 

「了解です。艦隊から落伍(らくご)したように見せかけて離れれば良いですか?」

 

「さすが、分かってるわね。くれぐれも無茶はしないで」

 

吹雪は「了解です!」と短く答えると、少しずつ速度を落とし艦隊から離れ始めた。

 

その様子を島風はずっと見つめていた。

姿が暗闇に溶け、航行灯だけがチカチカと見える程になっても目を離さなかった。

 

一方、吹雪は10ノットを切る程の速度で、何も見えない海の上を航行する。

 

敵潜水艦がこちらを既に見つけているなら、優位な位置に移動して魚雷を発射する準備をしているところだろう。

 

吹雪は聴音機(ソナー)に耳をすます。

静かな海にしばし耳をすましていると、そんな海に似合うはずもない音が聞こえてきた。

 

ボコボコ、ベコンとやかましい音、潜水艦が浮上するために海水を排出している音だ。

 

吹雪は即座に信号灯で敵発見の報告をする。

無線で報告しないのは、無線が傍受され、吹雪が潜水艦に気づいたことがバレて、囮作戦が失敗する可能性がある為だ。

 

(テ・テ・テ……ウ・ロ・ク……)

 

吹雪はカシャカシャと信号灯でモールスを前方にいる艦隊に報告する。

 

すると吹雪の左前方に黒い塊が見えた。

目視に自信がある吹雪が目を凝らして見ると、それは海上に浮上した潜水艦だった。

 

「あの姿は……潜水ソ級!」

 

深海棲艦の潜水艦級の中でも、トップクラスの性能をもっている奴だ。あのソ級がここらの潜水艦隊の中核、旗艦であることは間違いない。

 

奴を沈めれば、敵潜水艦隊は統率を失い、残存戦力を大幅に削る事が出来る。上手くいけば、撤退させることも出来るかもしれない。

 

しかし吹雪はすぐに攻撃しなかった。

なぜ、旗艦であるソ級がわざわざ浮上し、姿を見せる必要があったのか。

 

冷静な吹雪はすぐに事態に気付く。

 

恐らく、ソ級はこちらの作戦を”読んでいた”。

誰か1隻が囮になって、浮上したところを攻撃する事を読んでいたに違いない。

 

だから、深海棲艦側も囮を使った。大胆にもそれは旗艦であるソ級。

ソ級自らが囮になれば、囮の1隻はソ級を撃沈しようと向かって行くだろう。そこを魚雷網で絡め取ろうとしているのだ。

 

そして、浮上し囮の1隻が発光信号を送っている事を確認すれば、他の潜水艦たちによって、引き返してくるであろう艦娘の艦隊も狙い撃ちに出来る。

 

(くっ…!ハメられた!多分、今の発光信号も敵にバレてる……!)

 

吹雪は信号灯で「チ・カ・ヅ・ク・ナ」とモールスを送る。

それと同時、聴音機(ソナー)からゴパァといった注水音が聞こえてくる。

 

「発射管注水音!?来るっ!」

 

吹雪の右舷からサーッと白い航跡を引き魚雷が迫ってくる。

 

吹雪は意を決して、海上に浮上しているソ級に向けて進路を取りつつ魚雷を回避する。

 

こうなればもうあのソ級を沈めるしかない。吹雪は機関の出力を上げる。

自分のタービン音のせいでもうソナーは役に立たない。暗闇の中、目視で魚雷を回避するしかない。

 

ソ級と吹雪との距離が迫る。それでもソ級は潜行しようとしない。それどころか、勝ち誇るような余裕な雰囲気が感じられる。

 

「この……!海上にいれば砲で撃沈することだって……!」

 

吹雪は主砲を発射しようとする。しかしその時、前方から扇状に広がりながら魚雷が迫っている事に気付いた。

 

吹雪は慌てて魚雷の射線上から逸れ、魚雷と魚雷の間に入るように回避する。

 

だが、そうする事を予想してたかのように左舷から無数の魚雷が迫る。十字雷撃だ。

 

「ダメだ、避けられない……!?」

 

左舷から迫る魚雷は、速度を落としても、逆に目いっぱい上げても命中するコースにあった。

 

それでも吹雪は諦めずに、速度を上げてソ級に迫る。

しかし魚雷は無情にも、吹雪の進路を捉えている。

 

吹雪は自らの運命を悟った。

 

(ごめんなさいみんな……!こんなところで……!)

 

吹雪は歯を食いしばり、込み上げる涙をこらえようとする。シャーッと音を立て魚雷が迫る。

 

その時だった。背後から、こんな絶望的な状況にそぐわない声が聞こえてきたのだ。

 

「もうっ!吹雪ったら、おっそーーっい!!」

 

島風が背後から猛烈なスピードで吹雪に迫り、吹雪の手をとって引っ張る。

 

「し、島風ちゃん!?どうして……!?」

 

「黙ってて、舌噛むよ!」

 

島風は更に速度を上げる。しかし、吹雪を引っ張る形で航行している為、思うように速度が上がらない。

 

「離して島風ちゃん!このままじゃ2人とも……!」

 

「うるさい!うるさーい!」

 

島風は大声で吹雪の言葉をかき消す。島風はちらっと吹雪の顔を見ると言った。

 

 

「仲間を……”友達”を見捨てる駆逐艦なんていないんだよっ!!」

 

 

島風は無理にでも機関出力を上げる。航行用艤装が異音をあげるが、そんなことお構いなしに。

 

「島風を……舐めるなあぁぁァァアッ!!」

 

吹雪は驚愕した。速度が上がっている。もちろん吹雪も全速を出しているが、それでも速度は38ノット程度が限界のハズ。

今の2人はその限界を超えて海上を疾駆していた。

 

吹雪を絡め取ろうとしていた魚雷たちが、2人の後方に流れていく。

 

「どうだ……!」

 

島風は恐るべきスピードを出しながらそう言った。

 

「……!?危ないっ!」

 

吹雪が覆いかぶさるようにして、無理矢理進路を変える。2人の隣を1本魚雷が通り過ぎていく。

 

吹雪と島風は顔を見合わせた。そして笑い、浮上しているソ級を睨む。

 

「私には、そんなスピードは出せない…」

 

「私は、吹雪みたいに冷静じゃないし、そんなに上手く戦えない…」

 

「うん、だけど……」

 

「1人で駄目なら……」

 

 

 

「「2人一緒でッ!!」」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

その時、ソ級は目の前の光景を信じられないでいた。

 

今まさに、魚雷の網にかかりそうになっていた駆逐艦がとんでもないスピードでこちらに向かって来ている。

 

あれはどうみても、従来の駆逐艦が出せる速度を超えている。

 

早く潜行しなければ。だがそれよりも早く目の前に駆逐艦が。

 

「「やああぁぁァァァアああッ!!」」

 

吹雪と島風は勢いそのままに、ソ級の頭部を蹴り抜いた。

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・CMS傷病療養施設

通称ドック。出撃で損傷したCMSや艤装を修理する施設。艤装部分は同施設内、専用スペースで。生体は、治療用ナノマシンが空気中に散布された特殊な部屋内で修復される。

 

 

・アイソレーションタンク

フローティングタンクとも呼ばれる、感覚を遮断する為の装置。一般のタンクでは、中に高濃度の塩水があり、そこに浮かぶことで、皮膚感覚や重力感覚を軽減する。

心的療法やリラックスに使われる事が多い。

 

 

・治療用ポッド

アイソレーションタンクをもとにした、CMSを集中的に治療するポッド。

主にCMS生体に重大な損害を負った時のみ使用される。

 

 

・高速修復材

CMSに使われている体内ナノマシンのオリジナルを純粋培養したもの。

当然の事に、CMSとの親和性が非常に高く、使用すると損失した部分を対象の記憶を頼りに修復する。

便利な資材だが、純粋培養の為、数を揃えるのにかなりの時間を要する。なので貴重と言える。

入ってる容器の見た目から、一部の者には『バケツ』と呼ばれている。

 

 

 

 

 

 




ルナ「現実でも、曳航したまま38kt以上って出せたのか?」
kaeru「さすがに無理だと……フィクションって事で許して下さい」
ルナ「次回、トラックに敵艦載機が!」
kaeru「お楽しみに」


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memory20「トラック泊地」

今回からたくさん艦娘を出していきたいと思います。
わいわいと楽しいけど、書いてるこっちは大変です(^^;;
それでは!


 

memory20「トラック泊地」

 

 

 

「ここが……トラック泊地……」

 

遥か先の水平線から真っ赤な太陽が顔を出し、長い夜が明けた。

 

先遣対潜部隊の面々はトラック環礁内、(デュブロン)島に上陸していた。

 

吹雪と島風の活躍により、トラック環礁を取り巻いていた敵潜水艦隊の中核、『潜水ソ級』を沈めた事によって、敵潜水艦隊は統率を失い、行動は沈黙しつつあった。

 

ソ級撃沈後も対潜部隊は、何隻かの敵潜水艦を撃沈ないしは行動不能にした。

初動作戦は無事、成功したのだ。

 

「みなさん、お疲れ様です」

 

埠頭には1人の艦娘が出迎えに来ていた。

クリーム色の髪に眼鏡を掛け、大人びた印象を受ける。

 

「中央南遣艦隊旗艦、練習巡洋艦の『香取』です。現在は泊地の全体指揮を任されています」

 

「御出迎え感謝します」

 

五十鈴は香取にそう言いつつ答礼をする。

 

「夜間の対潜掃討、お疲れ様でした。ひとまずみなさん艤装を預けてお風呂の方へ。今ならドックも空いてますよ」

 

「助かるわ、香取。幸いにも大きな被害は無いからお風呂で十分だわ」

 

「分かりました。五十鈴さん、巻雲さんの2人は疲れが取れましたら庁舎の作戦会議室(ブリーフィングルーム)に来て下さい。

佐世保の2人は暫く待機を。奄美の2人は、あと3時間程で栄少尉がこちらに来るそうなので、指示を(あお)いで下さい」

 

「少尉が来る?どーやって?」

 

島風がキョトンとした様子で質問する。

 

余談だが、パラオからトラックまでは1900km近くの距離がある。

CMS(艦娘)の場合、長距離の出撃の時は途中まで専用の高速輸送艦で運んでもらい、そこから戦闘海域を目指して自力で航行する。

 

今回の場合だと、行き帰りで1日と言ったところだろう。

 

「機材のほとんどはこちらにありますので、奄美部隊のみなさんと一緒に高速輸送機で来るそうですよ」

 

香取は島風の質問へそう答えた。

 

「今回の作戦、本番はこれからですので休める時にしっかりと休んで下さいね」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

3時間弱後。

 

夏島の滑走路に一機の飛行機が降り立つ。

中からは夏服(第二種軍装)に身を包んだルナと、奄美のCMS(艦娘)たちが降りてくる。

 

「なんだここ……暑過ぎる……」

 

「パラオだって同じ感じでしたよ?」

 

「向こうは冷房があったから……まぁ同じか」

 

ルナと赤城がそう言いながら、滑走路へと降り立つ。その後ろから天龍と龍田、青葉と金剛が降りてくる。

 

「トラックデスカ、変わったようで変わっていませんネ」

 

「やはり、中部太平洋のジブラルタルと言われるだけありますね!海と空の青がとても綺麗です!」

 

金剛と青葉がそう言いながら海を眺めている。

滑走路には吹雪と島風、香取が来ていた。

 

「お疲れ様です、栄少尉」

 

香取が見事な敬礼でルナたちを出迎える。

 

「君が泊地司令代理の香取か。奄美基地CMS特別部隊指揮官、栄ルナです。よろしく香取」

 

「こちらこそよろしくお願い致します。早速ですが栄少尉、通信室にお越し頂けますか?

佐世保の提督から先程呼び出しがありました」

 

「佐世保……アラン提督から?」

 

「恐らく今後の作戦展開についてだと思いますが……」

 

「分かった。ありがとう香取」

 

ルナは香取に連れられ、通信室へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

通常の電波通信だと、深海棲艦に傍受される恐れがある為、本土との通信は海底ケーブルを通した直通回線で通信をする。

 

「回線、開きます」

 

赤い髪に、淡く緑掛かった鼠色のセーラー服のCMS(艦娘)がそう言って、ルナにヘッドホンを手渡す。

 

少しの間ノイズの音が聞こえたが、すぐに繋がった。

 

「こちらトラック泊地の栄です」

 

『………進捗(しんちょく)はどうだ?』

 

佐世保のアランは無愛想に、挨拶をすっ飛ばしてそう訊く。

ルナは相変わらずの態度だなーと思いながらも、これまでの事を報告する。

 

「初動作戦である海域エリアEー1の敵潜水艦隊の中核、潜水ソ級を撃沈。現在は敵潜の活動は目に見えて沈静化しています」

 

『そうか。CMSの方はどうだ?』

 

艦娘(CMS)ですか?佐世保のみんなも、中央のみんなも損害軽微で問題はありません」

 

『………分かった。そちらにいる佐世保のやつらには、引き続き対潜警戒を続けさせろ。

連合艦隊本隊は、現地時間で明日には到着予定だと、横須賀と呉が言っていた。

連合艦隊は横須賀、呉が指揮を()るので口出しは無用だ。

お前は連合艦隊のサポートをメインに、不足の事態が起こった時に指揮を執れ。分かったか?』

 

「了解しました」

 

『…………』

 

「……?まだ何か?」

 

『…………何でも無い、切るぞ』

 

アランのそっけない一言を最後に通信が切断される。

 

「まぁ、なんだかなぁ……」

 

何でかアランと会話していると、変な空気になるなぁと思いつつ、ルナは通信室を後にする。

 

ひとまず、全体指揮の香取に通信の内容を伝えるとルナは外に出た。

 

中央と佐世保のCMS(艦娘)たちは香取が、連合艦隊は横須賀、呉が指揮を執る為、正直なところルナに出来る事はほとんど無い。

 

とりあえず休める時には休もうと思い、海の方へ向かう。

 

トラックに降り立った時に青葉が言っていたが、本当に空の青と海の青が鮮やかだ。空に浮かぶ白い雲と、所々エメラルドグリーンに輝く珊瑚礁の海が、それを更に美しく見せている。

 

ビーチには何人かの子供たち……と思いきや駆逐艦の娘たちがワイワイとはしゃいでいる。

 

彼女たちも来るべき戦いに備えて、英気を養っているのだろう。

 

ルナもトラックの美しい景色に目を奪われていると、背後からドタバタワーッと駆逐艦と思われる少女達が駆けてきて、ルナの背後に隠れるようにしがみついてきた。

 

「わっ!?何だ君たちは!」

 

「助けて下さい!」

 

「追われてるんです!」

 

駆逐艦の少女たちは、ルナにそんな事を言いながらギャーギャーと騒いでいる。

 

「もーっ!何で逃げるのかなー?」

 

駆逐艦娘たちがビクッとして声のする方を見る。駆逐艦娘たちの視線の先には、(だいだい)色の服を着た艦娘らしき少女がこちらへと走ってきていた。

 

「那珂ちゃんはー、みんなに私の歌を聴いてもらいたいだけなんだけどなー?」

 

その少女がそう言うと、駆逐艦娘たちとルナを強引に引っ張っていく。

駆逐艦娘たちは「海で遊びたいのにー!」とか「部屋でゆっくりする予定が……」とか何とか言ってワーワーと騒ぐが、そんな事お構い無しに引っ張っていく。

ルナもされるがままに、その少女に拉致されていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「艦隊のアイドルー!那珂ちゃんだよー!みんな、よっろしくぅ!」

 

いかにも手作りといったようなステージ(?)に『那珂』と名乗った艦娘が、どこにも繋がっていないマイクを手に持って、こちらに手を振る。

 

(なか)ば強制的に観客にされた数人の駆逐艦娘たちは元気のない声で「わー」と言う。

 

ルナはというと、この展開に追いついていけずにポカーンとしていたが、ハッと意識を取り戻し、ステージ上の艦娘を見る。

 

(那珂……那珂……前に艦艇目録図で見かけたなぁ……確か、4本煙突が特徴的な川内(せんだい)型軽巡洋艦で、第四水雷戦隊の旗艦を務めていた……)

 

ルナはそう思い出しながら「こらー元気が無いぞー?」と呼びかける那珂を見る。

 

「これからこのトラックに、わる~い深海棲艦がやって来るけど、落ち込んでちゃ駄目だよ!那珂ちゃんの歌で、みんなに元気を分けてあげるから、盛り上がっていってねー!」

 

那珂はそう言うと、置いてあったラジカセのような物のスイッチを入れる。ポップなメロディが流れ出し、那珂がステージ上で踊り、歌い始める。

 

駆逐艦娘たちを見ると、また始まったみたいな顔をして、大人しく歌を聴いている。

ルナの視線に気付いたのか、1人の駆逐艦娘がコソコソっとルナに話し掛ける。

 

「静かに聴いていた方がいいよ。那珂さんは怒ると怖いから」

 

「お……うん……」

 

その忠告に鬼気迫るものを感じたルナは、言われた通りに那珂の歌を静かに聴く事にした。

 

「アナタのココロに出撃しちゃうかーらー♪」

 

那珂は気持ち良さそうに歌って踊っている。

声は結構なもので、ルナは素直に上手いなぁと思いながら聴いていた。

 

ふと、肩を誰かに叩かれる。

振り返ると、吹雪が怪訝(けげん)な表情で立っていた。

 

「どうしたんですか少尉?アイドル好きだったんですか?」

 

「いや別に……というか、彼女はアイドルじゃないだろうに」

 

「まぁそれはいいんですけど、香取さんが何か訊きたい事があると……」

 

「おん?そうか。じゃあ行くかな」

 

「え、歌は聴いてなくていいんですか?」

 

「大丈夫、多分」

 

ルナと吹雪はそろ~りとその場を抜け出す。しかし那珂は「あーーー!!」と言って、2人を指差す。

 

「ちょっとぉ!どこ行くのー!」

 

「走れ吹雪ッ!」

 

「何で私まで~!」

 

ルナと吹雪は全力で走り出す。その後ろを那珂が「待てーー!」と言って追いかける。

残された駆逐艦娘たちは、しばし呆然としていたが、揃ってホッとため息をついた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

作戦会議室(ブリーフィングルーム)

 

「急にお呼び出して申し訳ありません、栄少尉。ところでその……一体何が……?」

 

香取がそう言うのも無理は無い。ルナと吹雪は膝に手をつき、肩で息をしながら、ゼイゼイと荒い呼吸でやって来たからだ。

 

「いや……大丈夫。それで、話って何かな?」

 

「あ、はい。実は先程、早期警戒(ピケット)役の佐世保の娘から通信がありまして。泊地から南東の方角、距離約70,000で深海棲艦の小規模艦隊と少数の攻撃機を確認したと……」

 

「南東?パプアニューギニア方面かい?確か敵の機動部隊は北西にいるって言ってたと思うんだけど……」

 

「その通りです。深海棲艦の侵攻艦隊は中央第六艦隊、潜水艦の娘たちが補足し続けています」

 

「となると……ここで補足された深海棲艦は、何が目的だ……?」

 

ルナはうーんと首を傾げる。

 

「こちらの偵察……という訳でも無さそうだしなぁ。本気で偵察の意思があるのなら、偵察機を泊地上空に飛ばせば事足りるし、空襲するにしては敵機が少な過ぎる。

香取、確認されたのは偵察機じゃなくて攻撃機なんだね?」

 

「通信によれば、爆弾を装備していたのでほぼ間違いないかと」

 

ルナは腕を組み考える。しばらく沈黙すると、顔を上げて、香取に言う。

 

「威力偵察を出そう。こういう事態の時に動くのが、我々奄美だからね。いいだろう香取?」

 

「はい、助かります」

 

香取はそう言って頷く。ルナはポケットから手帳とペンを取り出し、サラサラと出撃の情報を書き込んでいく。

 

「この場合は素早い行動が求められるからなぁ。敵機がいるということは、敵には空母がいるから、旗艦、赤城に、吹雪、島風。砲撃戦を想定して青葉。

不測の事態に備えて、天龍、龍田、金剛は手元に残して置きたいから………うーん、あと1人……香取、現在出撃可能な艦娘で1人こちらに回してくれないか?」

 

「了解です。現在出撃可能な人は……」

 

香取がそう言って確認をとっていると、部屋のドアがバァン!と開いて、1人のCMS(艦娘)が入ってきた。

 

「見つけたよー!逃げ出したお兄さんッ!」

 

軽巡の那珂だ。那珂はルナに歩み寄るとぐわしっと肩を掴んでブンブンと前後に揺さぶる。

 

「何で途中でどっかに行っちゃうのかなぁ!」

 

「わぶっ!あわわわばばわ」

 

CMS(艦娘)の力でブンブンと揺さぶられるルナは、首をガクンガクンさせながら変な悲鳴を上げる。

 

「こらっ!那珂さん!栄少尉に何て事を!」

 

「え?少尉?」

 

那珂はグデングデンになっているルナをまじまじと見る。そして腕に着けている腕章に気付くとパッと手を離した。

 

「なぁ~んだぁ!キミ、少尉さんだったんだぁ!てっきり那珂ちゃんのファンのお兄さんかと思ったよー!」

 

「………香取、コイツを連れてく。大丈夫か?」

 

「大丈夫ですね。那珂さんならトラック周辺にも詳しいですし、頼りになるでしょう」

 

「え?那珂ちゃんロケに出るの?じゃあメイクしなきゃね!準備してきまーす!」

 

那珂はそう言うと部屋を颯爽(さっそう)と出て行く。

 

この切り替えの速さにルナは怒りを通り越して呆れるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

()くして編成された威力偵察部隊ーー赤城、青葉、吹雪、島風、那珂の5隻は、通信にあったポイントへと向かっていた。

 

「そろそろポイントですかね?」

 

旗艦である赤城が那珂にそう訊ねる。しかし那珂は鼻歌を歌っていて話を聞いていない。

 

「……那珂さん!」

 

「ふふふーん♪……え?なになに?」

 

「話はちゃんと聞いていて下さい……そろそろポイントですか?」

 

「うーん……そうだね、そろそろだよ。あと、私の事は『那珂ちゃん』って呼んでね!」

 

那珂の発言に赤城は苦笑いで返す。青葉はため息をつきながら、

 

「艦艇時代の那珂さんはああじゃなかったのに、CMSになって一体何があったんですかね?」

 

と呟いていた。

 

しばらく航行していると、水平線の彼方に黒いゴマ粒のようなモノが見えた。

 

「赤城さん!敵艦載機です!」

 

「了解、吹雪ちゃん。艦載機、発艦始めっ!」

 

赤城が素早く数本の矢を放つ。

合成風力によって、空高く飛んで行った矢は、一瞬のうちに『零戦五二型』となって敵機へと向かって行く。

 

「報告通り、敵機は攻撃機だけのようですね……でも一体何故……?」

 

赤城がそう疑問を口にすると同時に、敵攻撃機が海に爆弾らしきものを投下し始めた。

 

「ねぇ吹雪、あの飛行機は何してるの?」

 

「爆弾を投下してるように見えるけど……」

 

島風と吹雪がそう言うと、那珂が「あーあれはねー」と話に割って入る。

 

「あれは対潜弾だよ。海中の潜水艦を攻撃するための爆弾。あの敵機は対潜弾を投下してるんだよ。最前線のトラックだと良く見かけるからね~」

 

「………!じゃあ、あそこには……!」

 

青葉が驚いて赤城の方を振り向く。

赤城は深く頷いて、青葉の言わんとしている事を悟った。

 

「あそこに、味方の潜水艦がいる……!」

 

「でも、第六艦隊の皆さんはこっちにはいないはずですよ?」

 

「だとしても、深海棲艦が攻撃を掛けているということは、あの場にいるのは味方の潜水艦!吹雪ちゃん、短距離無線通信で信号を。他の皆さんは戦闘用意を!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

その頃、赤城の艦載機が、敵機と接触した。零戦五二型は、その濃緑色の機体を素早い旋回で翻し、一瞬のうちに敵機の背後に移動する。

 

ギンギンギンと金属音を奏で、20mm機関砲2門が火を噴く。

瞬く間に敵機から火の手が上がり海へと()ちていく。

 

爆弾を投下し、軽くなった攻撃機でも、戦闘機に掛かれば何て事は無い。

赤城たちが、その場にたどり着く頃には、敵機の姿は一機も無かった。

 

「那珂ちゃんの目には、敵艦隊は見えないよ~?」

 

「短距離電探(レーダー)にも敵影無いです。どうやら、逃げたようですねぇ」

 

周辺警戒を終了した那珂と青葉が、赤城にそう報告する。

 

「吹雪ちゃん、無線の方は?」

 

「はい、先程から繰り返し広域通信帯で呼び掛けているんですけど、応答ありません……」

 

「もしかして、撃沈されちゃった……?」

 

島風がそう呟く。しばし沈黙した赤城は「もう少し捜索を継続しましょう」と言った。

その時だった。

 

赤城たちの近くの海面に、ブクブクと泡が出てきたのだ。

 

すぐさま艦隊は泡の所へと向かう。ゴポゴポと音を立てて何かが水中から水面へと姿を現した。

 

「………っ!?潜水艦娘!?」

 

青葉は驚きの声を上げた。水中から姿を現したのは、潜水艦は潜水艦でも、潜水艦のCMS(艦娘)だったのだ。

 

赤城はそのCMS(艦娘)に近寄る。

するとそのCMS(艦娘)は形だけの砲を赤城に向ける。

 

「……し、深海棲艦……!」

 

「違うわ、私たちは貴女と同じCMSよ。貴女を攻撃していた深海棲艦は私たちが追い払ったわ。安心して」

 

赤城がそう言うと、その潜水艦娘は安堵の表情を浮かべ水面に倒れ込んだ。

 

「救助!!急いでッ!!」

 

赤城の掛け声に、吹雪と島風がその潜水艦娘を抱えて起こす。

ボロボロにやられ、今にも浮力を失って沈んでしまいそうな状態だった。

 

「赤城さん……この娘……」

 

「ええ、日本のCMSじゃないわね」

 

その潜水艦娘は、日本の潜水艦、伊号潜水艦とは全く違う艤装を身につけていた。

 

「何はともあれ、今は救助が最優先よ。この娘をトラックまで曳航します」

 

「はいはーい!那珂ちゃんが引っ張って行きまーす!こういう事も、アイドルには必要だからね」

 

那珂はその潜水艦娘を背中に背負った。

 

赤城たちはトラックへと(きびす)を返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「一体奴らは何時になったら動き出すのね?」

 

「ちょっとイク、静かにして。ここで見つかったらここまでの努力が水の泡よ」

 

トラック泊地北西方向の海。中央第六艦隊ーー潜水艦隊のメンバーは、深海棲艦の大艦隊への触接を続けていた。

 

伊号第十九潜水艦、イクが愚痴を口にする。

 

「この海域に停泊して早数日、敵艦隊はまだ動き出さないのね……ひたすら潜って監視し続けるのもそろそろ疲れてきたのね」

 

「まぁまぁイク。もう少しの辛抱でち」

 

ソナーを耳に当てて海上の動きを探っている伊号第五十八潜水艦、ゴーヤがそうイクをなだめる。

 

その会話を聞いて、第六艦隊旗艦、伊号第百六十八潜水艦、イムヤが「確かに……」と呟く。

 

「これだけの戦力があれば、今すぐトラックに攻撃を掛けることは問題無いはず……それなのに、未だここから動こうとしない。

時間を与えれば、こちらは戦力をトラックに集結させてしまうのに……何故……?」

 

イムヤがそう考えていると、ゴーヤが突然顔の色を変えて驚きの声を上げる。

 

「何これ……!?イムヤ大変でち!新たな大規模艦隊がこっちに向かって来てるでち!」

 

「何ですって!?………そうか、この艦隊も新たな戦力を待っていたのね。

そうだとしたら、いよいよトラックが戦場になるわね……!」

 

「ど……どうするのね?」

 

「決まってるでしょ、イク。このままやり過ごしたら、浮上して本土に情報を伝えるわよ。

この戦い……負けるわけにはいかないんだから」

 

「負ければトラックが陥落してしまう……それだけは阻止するでち!」

 

「そーいうこと。それじゃあ、もう少し潜行するわよ。私たちのアドバンテージは、見つからない事にあるんだから」

 

「了解なのね!」

 

「了解でち!」

 

潜水艦隊は、さらに深い水中へと身をひそめる。

 

 

戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 




ルナ「どうして那珂はあーなってしまったんだ?」
kaeru「自分に聞かれても……。日本の擬人化文化だと思って諦めてくれい」
ルナ「〇〇 擬人化で検索すれば大体何でも出てくるからなぁ……」
kaeru「話がそれてるぞ。次回、E2編!」
ルナ「お楽しみに」


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memory21「トラック空襲」

投稿が遅くなって申し訳ナイノデス。
ペースを戻せるように頑張ります

それでは!


 

memory21「トラック空襲」

 

 

 

トラック泊地へと戻ってきた威力偵察部隊は、ルナに事情を説明し、所属不明の潜水艦娘をドックへ入渠させていた。

 

「つまり、早期警戒(ピケット)の娘が発見した敵艦隊は、この潜水艦娘を追い掛けていた対潜部隊(ハンターキラーチーム)だったって訳か」

 

「恐らくそう思われます。なので、敵トラック侵攻艦隊とは無関係だと判断して、このCMSの確保を優先しました」

 

「上出来だよ赤城。良い判断だ。もしこの娘が日本以外の国で生まれた艦娘だとすると、この閉ざされた世界で、日本の他に深海棲艦に対抗出来る国が在る証明になる」

 

ルナは治療用ポッドの中に横たわっている潜水艦娘を見た。

色白の肌に、色の薄い髪の毛。見た目だけでも外国人のような雰囲気がある。

 

「前にライラさんが、他国にも技術協力をナントカカントカって言ってたな……具体的にはどこの国に頼んだんだ?」

 

「さぁ……多分、当時の主要国全てにだと思いますけど……」

 

歯切れの悪そうに赤城が答える。やはり、このような問題は機密事項になっているのだろう。

 

「とにかく、このままこの娘をドックに入れておく訳にもいかない。本格的に戦闘が起きれば、ローテーションで効率的にドックを使うようになるからね。いつまでもドック1つを占領していては迷惑だ」

 

ルナはモニターを操作し、高速修復材(バケツ)を投入する。

 

見る見るうちに顔に生気が戻っていく。モニター上のバイタルも正常値に回復している。

だが、未だ目覚める気配は無かった。

 

「やはり、深海棲艦が支配する海を長距離移動してきたからでしょうか……?」

 

「多分そうだろうね。金剛、この娘を部屋に寝かせてきてくれないか?」

 

「ok!任せるネ!」

 

金剛はその潜水艦娘を軽々と抱きかかえると、ドックから出て行った。

 

そして金剛と入れ替わる様に香取が入ってくる。

 

「栄少尉、宜しいでしょうか?」

 

心なしか、香取の顔には緊張の色が見られた。

それを感じ取ったルナは、香取が言わんとしている事を察した。

 

「動いたのか?」

 

「御察しの通りです。6時間前、敵トラック侵攻艦隊の本隊と思われる深海棲艦群が、トラックに向けて南下し始めたとの通信を先程、第六艦隊本土経由で受け取りました」

 

予想していた事だったが、改めて言葉にされるとその事態の重さに背筋が凍る。

 

「……あとどれくらいで空襲圏内に?」

 

「巡航速なら4時間、早ければあと3時間程です」

 

「猶予は殆ど無いか……連合艦隊の方は?」

 

「予定では明日の朝です。勿論の事、急いでもらう様に要請はしましたが、今日の空襲には間に合わないでしょう」

 

香取は冷静に今の状況を分析していた。これで、今日中に来襲するであろう敵艦載機群はトラック泊地の戦力のみで迎撃しなくてはならなくなった。

 

「……ここが我々の天王山か。時間からみても敵の空襲は1回が限度のハズ。今日の空襲を防ぎきれば、後は連合艦隊がやってくれる」

 

ルナの言葉に一同が頷く。

 

奄美のCMS(艦娘)を一度、部屋に帰し、ルナと香取は作戦会議室(ブリーフィングルーム)に移動する。

 

空襲迎撃の為の作戦会議が始まった。

 

「まずは中央の派遣艦隊を強襲偵察に出します。敵部隊の情報を得るとともに、少しでも奴らの足を止めます」

 

「なるほど。自分の考えとしては、戦力の差からみても防戦一方ではジリ貧だと思う。奄美で敵の先鋒を叩いて、本隊を止めたい。どうだろう?」

 

「……悪くない考えです。ただ、出来ますか?」

 

「出来る出来ないじゃない、やるんだよ。あいつらなら、やってくれる」

 

「……どちらにせよ、こちらが打てる手は限られています。守りに徹すればすり潰されるのは明白。お願い致します」

 

「了解したよ。上手くいけば、トラックに空襲する敵機をこちらに吸引出来るかもしれないからね。ところで、こちらの航空戦力は?」

 

「すべての空母艦娘を泊地防衛にあてても無傷とはいかないでしょう。正規空母も何隻かはいますが、いずれも練成途中で本来の力は出せないと思います」

 

「そうか……こちらも空母は赤城1人。敵先鋒を叩くのにあと1人か2人空母が欲しいんだが……しょうがないか……」

 

「……いえ、佐世保の軽空母艦娘を2人、そちらへ付けましょう」

 

「……!?佐世保の艦娘を……!?アラン提督に許可を求めなくて大丈夫なのか!?」

 

「非常事態です。なりふり構ってはいられません」

 

「……助かるよ。ありがとう」

 

「ここで終わらせる訳にはいきません。必ず勝ちます」

 

「そうだね」

 

こうして編成された部隊は5部隊。

 

敵部隊への強襲偵察隊。

 

敵先鋒を叩く為の奄美部隊。

 

奄美を支援するための陽動隊。

 

泊地外周の空襲迎撃部隊。

 

環礁内の最終防衛隊。

 

泊地内の一般船、商船、民間人は、泊地に配備されていた気持ちだけの哨戒船を護衛に付け、パラオ泊地へと向かわせた。

 

空襲の危険はあるが、軍の下の方が安全と判断し、トラック泊地に残る者もいた。

 

「いいか、君たち。奄美部隊のやるべき事は1つ。敵先鋒である機動部隊を攻撃し、敵本隊がトラックに来襲するまでの時間を稼ぐこと」

 

ルナの前に立つ6隻のCMS(艦娘)

追い詰められた中でも、皆の視線は鋭く、自信に満ちている。

 

「ここが自分たちの正念場だ!頼んだぞ!」

 

ルナの激励を受け、奄美部隊が出撃する。

 

「すまないわね、飛鷹、隼鷹。佐世保の貴女たちに迷惑を掛けて」

 

赤城が自らの後ろをついて来る、2人の軽空母艦娘に声を掛ける。

 

「大丈夫よ。みんなが頑張ってるのに、佐世保だけ仲間外れなんて寂しいじゃない」

 

「そうだぜ!ササっと片付けて、早く祝杯を挙げようぜ!」

 

商船改造型空母の飛鷹と隼鷹。奄美部隊には軽空母であるこの2隻が配属されていた。

 

軽空母と言えども、制空能力は非常に高く、実戦経験も豊富な頼れるCMS(艦娘)だ。

 

赤城を旗艦として、佐世保の飛鷹、隼鷹、3隻の空母艦娘を中核にして、金剛、青葉、島風を含めた6隻で部隊は編成されていた。

 

「……吹雪たちは大丈夫かな?」

 

「そんな心配しなくても大丈夫ネ!向こうには、テンリューとタツタもいるデース!」

 

天龍、龍田、吹雪は奄美部隊を支援するための陽動隊に参加していた。

 

陽動隊の役目は、敵戦力を分散させる事。

これによって、奄美部隊を敵前衛にぶつける事無く、先鋒中核に直接対峙させようというのだ。

 

中核(ボス)戦までの戦闘数が少なければ、燃料、弾薬、体力を温存出来る。

 

「赤城さん、強襲偵察に出た部隊から広域通信です!敵機動部隊先鋒と接触に成功。空母ヲ級改flagship(フラグシップ)、戦艦タ級を含む………ここまでです」

 

「改flagship(フラグシップ)?聞いた事がないクラスですね。ヲ級なら分かりますけど」

 

青葉からの報告に赤城が首をひねる中、飛鷹だけが顔を白くしていた。

 

「改flagshipですって……!?そんな……」

 

「知ってるんですか飛鷹さん?」

 

「奄美の貴女たちもトラックに来る前にelite級と戦ったでしょ?」

 

「勿論ネ、アイツは赤いオーラみたいなのをまとってたデース」

 

「簡単に言うとソイツの強化版の強化版よ。攻撃力、回避力、継戦能力、全てにおいて従来の深海棲艦を凌駕(りょうが)するわ」

 

「改flagship級は一部のイレギュラー個体を上回る強さがあるからなぁ」

 

隼鷹がうんうんと頷きながら飛鷹の話を肯定する。

 

「でも……ここで負けたら……」

 

「えぇ、この世界は終わりますね」

 

「まぁ私達は一度でも負ければおしまいだけどな!あっはっはー!」

 

「笑い事じゃないのよ隼鷹!ちゃんとしてよもう!」

 

奄美部隊は海上を猛然と進んでいく。

開きっぱなしにしている無線には、様々な怒号が飛び交っている。

 

今回使用している回線は、一般用の広域帯だ。一般用の広域通信で交信するには理由がある。

そもそも、相手にはこちらの位置がバレている。この時点で無線封鎖は無意味である。

 

そして、全通信を1つの回線に統一することで、味方の動きを素早く知る事ができ、回線を切り替えるという手間を省く事が出来る。

 

普段なら、情報が交錯するために回線を統一するのは極力避けているのだが、今回の作戦は、各部隊が臨機応変に事態に対応する事が求められる為にこのようになっている。

 

「艦隊、0-6-0に転針」

 

「それにしても、本当に敵艦隊に出くわさないね……」

 

赤城の変針命令に舵を切りながら、島風はそう呟く。

 

「恐らく、吹雪さんたちが上手くやってくれているのでしょう。このまま何も無く中核まで辿り着ければ良いですけど」

 

奄美部隊だけは無線を発信していない。5つの部隊でこの部隊だけは、敵に見つかる訳にはいかない為、受信のみに使用している。

 

「アカギ、ポイントEー2ーIに入るネ」

 

「はい、そろそろ戦闘海域に突入しますね。飛鷹、隼鷹、索敵機の用意を」

 

「分かったわ」

 

「りょーかい!」

 

飛鷹と隼鷹は巻物を模した飛行甲板艤装を展開する。

すると2人の手に『勅令(ちょくれい)』と描かれた光が灯る。

そして、紙の似た素材の人形(ヒトガタ)を取り出すと、巻物の上に飛ばし始める。

 

巻物上を通った人形(ヒトガタ)は、その姿を赤城たちが扱う艦載機と同じ姿に変え、大空へと飛び去っていく。

 

「飛鷹と隼鷹は、赤城みたいに弓矢を使わないんだ……」

 

島風がその目を輝かせながら、飛鷹と隼鷹の発艦作業を見ている。

 

「oh!まるでオンミョージみたいネー!」

 

「そうですね……では、私もいきます」

 

赤城が空に向け弓に矢をつがえる。

空を切って放たれた矢は、通常の飛行機とは異なる機体に姿を変える。

 

スッキリとしたボディに細身の翼、その割には大きなプロペラが付けられた機体。

 

高速艦上偵察機『彩雲』だ。

 

戦闘機や爆装を外した攻撃機を偵察に出すのでは無く、偵察専用の機体を赤城は装備してきていた。

 

しかし、与えられたメモリーは1つだけ。

赤城はその1つの彩雲を、搭載数最少のスロットに装備していた。

 

「念には念を入れて、二段階索敵を行います。彩雲の後を飛鷹、隼鷹の偵察機を。お願いします」

 

偵察機を発艦し終わり、艦隊は警戒態勢に入る。

 

「強襲偵察隊からの通信だと、敵中核は第一波を放ったようですね。狙いは泊地で間違いないようです。

偵察隊や陽動隊には、他の敵艦隊が攻撃しているらしく、敵中核の艦載機群はノーマークっぽいですね……」

 

「マズイわね……早く敵中核を叩かないと私達が出撃した意味が無くなっちゃうわ」

 

通信を拾っている青葉の言葉に、飛鷹は焦ったように反応する。

 

偵察機からの敵艦隊発見の報告はまだ無い。

 

「索敵の範囲を広げるかい?」

 

隼鷹が赤城にそう具申する。

しかし赤城の目は、敵艦隊を既に捉えているようだった。

 

「その必要はありません。全艦、輪形陣に変更。飛鷹、隼鷹は第一次攻撃隊発艦準備。その他は対空警戒を厳とせよ」

 

「第一次攻撃隊を?まだ敵が見つかっていないのに?」

 

「必ず、彩雲が見つけてくれます。艦隊直掩は後で良いので、攻撃隊とその直掩だけ発艦準備を」

 

飛鷹は赤城の命令を不思議に思いながらも、攻撃隊に爆装準備を進める。

 

その他のCMS(艦娘)も赤城の命令通りに輪形陣へと陣形を変更する。

艦隊前方を金剛、左後方を島風、右後方を青葉がカバーするという特殊な輪形陣を組みながら艦隊は進む。

 

「空母全艦、準備が出来次第、攻撃隊発艦始め!」

 

未だ敵艦隊は発見していないが、空母の3隻は次々と攻撃隊を発艦させていく。

発艦させた攻撃隊は、索敵機の後に続くように空に飛び去っていった。

 

「いやぁ、面白い戦い方をするねぇ。さすが一航戦だ!」

 

隼鷹があっはっはーと笑いながらそう言う。

飛鷹がそんな妹を注意するが、飛鷹本人も赤城が何をやっているのか理解していない様子だった。

 

赤城の作戦は一種の賭けだった。この賭けが外れれば、敵の艦載機が泊地に殺到する事になり、赤城たちが出撃した意味はほほ無くなる。

 

赤城も焦ってはいたのだが、確信にも思える何かを感じていた。

 

そして遂に、索敵機から通信が入った。

 

『敵艦隊見ユ。ヲ級改、タ級ヲ含ム』

 

「来たっ!」

 

「全攻撃隊、準備の整った部隊から五月雨式に攻撃開始!艦隊、第四戦速に増速!」

 

艦隊は速度を上げて、敵艦隊の発見されたポイントへと向かう。

 

「ヘーイアカギー!敵艦隊に近づいちゃっても良いんデスカー?」

 

「今回の作戦は速攻が重要だと思っています。攻撃隊を五月雨式に突入させ、敵空母に新たな艦載機を発艦させる隙を奪います。

その間に金剛さんたちは敵艦隊に攻撃をお願いします」

 

「でも赤城さん。その方法だと、艦載機の損傷が激しくなるのでは?」

 

青葉が赤城にそう訊ねる。

五月雨式に攻撃させるということは、敵艦隊に瞬間的に迫る艦載機数が少ないという事になる。

 

時間を引き延ばして攻撃を行う事は可能だが、瞬間火力に劣る上、数が少ない為に容易に迎撃されてしまう恐れがある。

 

「承知の上です。ですから先に攻撃隊を発艦させ、敵が行動を起こす前に仕掛けます。

これで不意打ちが成功すれば、かなりの時間稼ぎになると思います」

 

赤城の考えを聞いた飛鷹が納得をした様に頷く。

 

「そういう事だったのね……でも索敵機と一緒に攻撃隊を出したのはどういう事?敵艦隊がその方向に居なかったら燃料と時間の無駄使いになっていたのよ?

まさか勘だなんて言わないでよ?」

 

「そのまさかですけど?」

 

飛鷹はポカーンと口を開け驚愕する。

 

「まっ……!あ、赤城さん、それ、しくじったら取り返しがつきませんよ!!」

 

「索敵をしてから攻撃隊発艦では私達は間に合いません。博打を打つしか無かったんです」

 

「いーじゃねーかよ飛鷹!結果オーライなんだからさ!」

 

隼鷹にそう言われ、飛鷹はため息混じりに口をつぐんだ。

 

ちょうどその時無線から、泊地に敵機襲来したとの情報が入った。しかし、予想していた数よりも少ないらしい。

 

「どうやら上手くいったようですね」

 

「えぇ、泊地空襲隊の一部をこちらに誘引出来たのは確実でしょう。あとは、あの先鋒をたたくのみ!」

 

赤城が水平線を指差す。まだ敵部隊を目視することは出来ないが、索敵機は触接を継続しているらしく、赤城に正確な座標を送ってくる。

 

「皆さんに情報をリンクします」

 

「このrangeなら……充分撃てマース!アオバもイケるんじゃないデスカー?」

 

「はい!青葉も撃てますよ!」

 

「そろそろ第一次攻撃隊の攻撃が終わる頃です。敵に反撃の隙を与えてはいけません!」

 

「ok!一番、二番主砲、交互打ち方始め!」

 

爆音を轟かせ、金剛と青葉が砲撃を開始する。

 

まずは連装砲のうち、片門だけを使う『交互打ち方』という射法で狙いを定めていく。

 

「第一次攻撃隊が帰ってきたよ!」

 

「金剛さんと青葉さんは射撃続行!島風ちゃんは周辺警戒!着艦準備!」

 

部隊の下へと攻撃隊が帰還する。しかし損傷率は思っていた通り酷いものだった。

 

「飛鷹、隼鷹、稼働機の残存確認、出来次第、第二次攻撃隊を送り出すわ!」

 

「了解……でもこの様子じゃ、あと2回できるかできないかと言うところね……」

 

飛鷹と隼鷹は、赤城と比べると搭載できる艦載機の総数が少ない。

よって多大な損害を(こうむ)ると、攻撃の手立てを失ってしまう。

 

「そうですか……ならば、次の1回に全力をかけましょう」

 

着艦が完了し、第二次攻撃隊の準備を始めた頃に島風が叫ぶ。

 

「敵先鋒中核部隊、視認!10時の方角!」

 

水平線にポツポツと黒い点のようなものが見え始めた。

 

クラゲの様にも見えなくもない不思議なモノを頭にかぶり、杖らしきものを持っている空母ヲ級。

 

しかし通常個体とは異なり、その身体からは黄色のオーラが揺らめき、片方の眼には蒼い炎が灯っている。

 

「あれがヲ級改flagship……!」

 

「見た所、あまり被害は与えられてないですね……」

 

こちらは軽空母2隻に正規空母1隻、制空権は確保、悪くても優勢のハズなのだが、ヲ級改は少ししかダメージを受けていないようだった。

 

するとヲ級改の背後から戦艦タ級が姿を現し、こちらに向けて砲を放ってくる。

 

「全艦取り舵!」

 

赤城は即座にO方(左100度方向転換)を命じ、艦隊はタ級の砲撃予測地点から逸れる。

 

敵弾が着弾し、大きな水柱を生み出す。

 

「敵の狙いが正確過ぎマース!あれはレーダー射撃デスカ!?」

 

「恐らくそうでしょう。やはりこの勝負、長引かせては不利……次の突入でケリをつけます!」

 

奄美部隊は相手に対して丁字戦法を取る。

 

その時、ヲ級改が雄叫びを上げ、そのクラゲの様な頭のかぶり物から艦載機を放ち始めた。

 

「攻撃隊発艦準備中止!直掩上げ!」

 

空母の3隻は攻撃隊の準備を取り止め、既に準備が完了していた戦闘機隊を発艦し始める。

 

しばらくの後、敵の艦載機群が頭上へと迫る。

 

「対空砲火、始めー!」

 

金剛、青葉、島風が己の砲を空に向けて撃ち始める。

 

それでも敵の艦載機は巧みな動きで海面スレスレまで下降し、対空砲火を物ともしない。

 

「これはマズイですよ……!敵機を捉えられない!」

 

青葉がそう叫びながらも、必死に対空砲を撃ち続ける。

 

金剛、青葉、島風の対空砲火で敵機の3割程を減らしたが、対空砲を切り抜けた敵機が輪形陣内側の赤城たちに迫る。

 

「……赤城っ!」

 

「大丈夫よ島風ちゃん、私達にはまだ『あの子』たちがいる……!」

 

頭上から赤城を狙おうとしていた敵の艦爆が突如爆散した。

 

戸惑っていた別の艦爆も上からの弾幕に包まれ、火を噴いて海に墜ちていく。

 

零戦と比べてコンパクトなボディ、しかし翼に取り付けられている武装は零戦の2倍。

4枚羽のプロペラを持った濃緑色の戦闘機。

 

「『紫電改二』!敵機を迎撃して!」

 

紫電改二は敵機の上空から、その翼にある4(てい)の機銃が銃弾をはき出す。

 

被弾した敵機はくるくると回りながら海に消えていく。

 

赤城、飛鷹、隼鷹が搭載していた戦闘機は『紫電改二』と呼ばれる強力な戦闘機だったのだ。

 

トラック泊地にあったこの兵装を、ルナは香取に頼んで赤城たちに装備させていたのだ。

 

そんな強力な紫電改二だが、敵戦闘機とのドッグファイトで少なからず損傷を受け、撃墜されている機体もあった。

 

対空網を抜けた敵機が、赤城たちに攻撃を仕掛ける。

 

赤城たちは必死に回避を試みるも、雷爆混合の攻撃に完全に避けきる事が出来なかった。

 

「きゃあっ!!」

 

赤城のすぐ側に爆弾が落ち、その爆発の衝撃で赤城は吹き飛ばされる。

 

「赤城!大丈夫かい!?」

 

隼鷹が赤城の手を取って態勢を立て直してくれる。

 

「えぇ、至近弾です。艤装の損害判定は小破ですが大丈夫です」

 

空襲が一段落つき、艦隊に集合を掛ける。

たった1回の空襲だったのだが、敵機は空母に猛攻を仕掛けてきた為、赤城、飛鷹、隼鷹の損害が目立った。

 

特に飛鷹は、敵の爆撃をもろに受け、飛行甲板艤装である巻物が燃え落ち、機関部艤装にも損傷を負っていた。

 

「すまないわね……雷撃回避に集中し過ぎて、上空警戒を怠ったわ……」

 

「じっとしてろ飛鷹……あとは私に任せときな」

 

隼鷹が飛鷹に肩を貸して曳航する。

赤城が再度、第二次攻撃隊を発艦させようとしていたとき、島風が悲鳴に近い叫び声を上げる。

 

「6時の方向!敵機!」

 

泊地空襲の敵艦載機群が戻ってきていたのだった。

紫電改二の直掩隊は、先程の迎撃戦で弾薬が尽きかけている。

 

「ここで……こんな所で、立ち止まっている訳にはいかないんです……!」

 

赤城は弓を構えて無理矢理に航空隊を発艦させようとする。

 

「待って下さい赤城さん!直掩が望めない今、艦載機を出すのは危険ですよ!」

 

青葉が隣りからそう声を掛ける。

分かっている。分かっているのだが時間が無い。

ここで二の足を踏んでいては、敵の本隊が来るまでに間に合わない。

この場で何としてもあの先鋒部隊を退ける必要があった。

 

なす術が無いまま、奄美部隊に敵の艦載機が迫る。

 

かと思いきや、敵機群は艦隊の手前で進行方向を変え、別の艦載機群と見られる集団と衝突した。

 

「まさか……他の敵機と空中集合を!?」

 

「いや島風さん、そうじゃ無さそうですよ?

様子が変です」

 

青葉が双眼鏡(メガネ)でその空を見る。

 

「あ、あれは……!味方の戦闘機ですよ!!」

 

青葉の言葉に一同は驚いて同じく空を見る。

確かに、敵機と衝突した別の艦載機群は、深海棲艦のそれとは違い、プロペラに翼のついたCMS(艦娘)の艦載機だった。

 

「……!そうか、連合艦隊ね!連合艦隊自体はこの戦闘に間に合わなくても、艦載機だけなら充分間に合うわ!」

 

隼鷹に身を預けていた飛鷹がそう言った。

 

敵の艦載機は、突如現れたCMS(艦娘)の艦載機への反応が僅かに遅れ、徐々にその数を減らしていった。

 

「そうだ!敵艦隊は!?」

 

そうハッと気付いて振り向くと、敵艦隊は撤退を開始していた。

 

突然の形勢逆転に敵わないと見たか、その姿は段々と小さくなっていく。

 

さすが旗艦(flagship)級と称されるだけあり、状況判断が冷静で的確であり素早い。

 

「逃しません……!追撃戦に移行します!金剛さん!青葉さん!島風ちゃん!」

 

「分かってるヨッ!」

 

金剛、青葉、島風の3隻が機関出力を最大まで上げて、敵艦隊を追い掛ける。

 

「フブキやシマカゼばっかり出撃して、この私をおいてけぼりにするなんテ……私だって負けないデスヨ!!」

 

「勝負ですか?島風は負けませんよ?」

 

「フフ〜ん、高速戦艦の実力を見せてあげるデース!」

 

「ちょっと〜!青葉を忘れちゃ困りますよー!」

 

金剛達は主砲を放つ。その圧倒的火力の前では、駆逐イ級も軽巡ホ級も目では無い。

 

赤城たちも最後に一矢報いるべく、第二次攻撃隊を発艦させていた。

 

「第二次攻撃隊、発艦!」

 

「ここで全力で叩くのさ!いっけぇ!」

 

赤城と隼鷹が艦載機を放つ。

矢と式紙はその姿を新たな航空機へと変える。

 

「『彗星』!後は頼んだわ!」

 

「『天山』!飛鷹の分までやっちまえー!」

 

彗星艦爆と天山艦攻は、そのプロペラ音を海原へ轟かせヲ級改へと殺到する。

 

九九艦爆と九七艦攻より性能が優れている彗星と天山は、乱れぬ動きで雷爆攻撃をヲ級改へと仕掛ける。

 

しかし、投下された爆弾や魚雷は、随伴艦であるタ級に命中した。恐らく、旗艦であるヲ級改をかばったのだろう。

 

だが、もうこれで攻撃を阻む者はいない。

 

ヲ級改へと、残った彗星と天山が接近する。

 

爆弾を、魚雷を投下しようと軌道に乗った直後、彗星と天山は真上から降り注いだ機銃弾に貫かれ火を噴いた。

 

「……what!?」

 

金剛が驚くのも無理は無い。今まさに攻撃態勢を取った彗星と天山が一瞬の内にやられたのだ。

 

赤城たちが、何が起きたのかを気付く前に、その海上に不気味な声が響き渡った。

 

 

 

 

『ナンドデモ、ナンドデモ……シズンデイケ…………!!』

 

 

 

 

遥か彼方で発せられた声のハズが、耳元で聞こえる。まるでテレパシーの様に、頭に直接語りかけてくる様な。

 

短距離電探(レーダー)で捉えた影の方に顔を向けると、水平線の向こうから、声の主がゆっくりと姿を見せる。

 

通常の深海棲艦とは明らかに違うその姿。

純白な身体に、同じく真っ白な長い髪の毛。

その髪の毛の片方をサイドテールの様にしばっている。

 

それとは対称的な真っ黒な服を身にまとい、形容し難い、おぞましい、鮫の口の様な、生物なのかも解らないモノをその足元に引き連れている。

 

その姿を見て、CMS(艦娘)たちは身体が動かなくなる。

 

「あ……あれは……まさか……!!」

 

「…………『空母棲鬼』………!?」

 

飛鷹と隼鷹がそう呟くと同時、空母棲鬼はニヤリと笑い、笑い声にも似た、叫び声を上げる。

 

 

 

『フフ……ハハハ……アハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 

その声を聞いて、CMS(艦娘)たちは反射的にその身を翻していた。

 

「な、何でこんな所にイレギュラー個体が居るんですか!?」

 

「知りマセンよそんな事!!今の私達には分が悪いデース!!」

 

「とにかく、泊地に通信を入れて!隼鷹早く逃げて!」

 

「分かってるさ!飛鷹、お前さんダイエットしろよ!」

 

艦隊の皆が即座に逃げ出す中、旗艦の赤城だけがその場に立ち尽くしていた。

 

「赤城さん!早く!」

 

青葉が呼び掛けるも反応は無い。

 

「もーっ!おっそーい!」

 

島風が反転して赤城の下へ向かう。

 

「何やってるの赤城!早く逃げるよ!」

 

手を引っ張っても、身体を揺さぶっても赤城は呆然としてその場に立ち尽くしている。

 

「赤城!ねぇ赤城ってばっ!!」

 

島風の呼びかけに応じず、赤城は空母棲鬼を見つめている。

 

 

 

「…………加賀さん……?」

 

 

 

赤城は小さな声で、そう呟いていた。

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

旗艦(flagship)

通常個体の強化個体で、elite級の上位互換にあたる。

その身体から黄色のオーラの様なものが立ち昇っているのが特徴で、戦闘能力は従来の個体を遥かに凌駕する。

 

・改flagship

flagship級の改造個体。片方の目から蒼い炎の様なものが灯っているのが特徴。

一部のイレギュラー個体を上回る程の戦闘能力を持つ。

 

・紫電改二

第二次世界大戦当時に開発された局地戦闘機「紫電改」をCMS用に造り替えたもの。

零戦の倍にあたる、20mm機銃を4挺装備している。

 

 




ルナ「今回、いつもと比べて長くないか?」
kaeru「先週投稿出来なかったので、文字数が当社比2倍となっております」
ルナ「半分に分けて先週あげるという考えは無かったのか」
kaeru「善処します……」
ルナ「では次回」
kaeru「決戦!トラック泊地。お楽しみに」


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memory22「決戦前夜」

前書きは特にありません(真顔

それでは!


 

 

memory22「決戦前夜」

 

 

トラック泊地。

 

「貴様が泊地司令代理の香取か。よく今まで持ち堪えてくれた」

 

「いえ……長門さんこそ、ありがとうございました」

 

「なに、戦艦は戦う(ふね)だ」

 

横須賀、呉の連合艦隊、旗艦の長門が作戦会議室(ブリーフィングルーム)に挨拶に来ていた。

 

「久しぶりだな、奄美の青年少尉よ」

 

長門はルナの方にも挨拶に来る。

ルナははて?と一瞬思ったが、すぐに思い出し握手を求める。

 

「この間の呉会議以来だけどね。連合艦隊が来てくれたのならもう自分の出番は無いな」

 

「何を言う。貴様にはまだまだ働いてもらうぞ。このトラックが持ち堪えられたのも、奄美のおかげだと既に聞き及んでいるからな。

あぁ、謙遜は無駄だ。素直に認めろ」

 

ルナは苦笑混じりに握手を交わす。

 

「少尉、香取、早速で悪いが……」

 

香取は「分かっていますよ」と机の上の地図を指し示す。

 

「つい数時間前に、敵本隊の前衛と見られる先鋒部隊が、トラック泊地に攻撃を仕掛けて来ました。

ですが、奄美の皆さんや連合艦隊の航空支援のおかけで損害は非常に軽微な形で空襲は終了しました」

 

香取の話を引き継ぐように、次にルナが作戦の状況について話をする。

 

「あーっと……この襲撃に対して、奄美部隊は敵中核への直接攻撃を敢行した。中核を撤退出来れば、本隊がトラックに来るまでの時間を稼げると思ってね。

作戦は無事成功。中核部隊は撤退し、予測時間として丸1日時間を稼げたと判断するな」

 

長門は「成る程」とつぶやき、詳細資料を手に取る。それを読みながら、香取とルナにこちらの状況を話し始める。

 

「ふむ……確かに、丸1日稼げたと見るのが妥当だな。こちらも日没直前に航空偵察を行ったが、敵艦隊の哨戒線がかなり後退しているのを確認した。

それと、奄美が迎撃してくれた敵先鋒艦隊も、我々連合艦隊が始末しておいた。まさか、新種のイレギュラー個体がいるとは思っていなかったがな」

 

「イレギュラー個体……」

 

ルナは資料でしかその存在を知らない。

イレギュラー個体は、通常の深海棲艦とは似て非なるモノであり、どれも戦闘能力に特化している。

 

「あぁ、今回のは『軽巡棲鬼』と命名されたのだが、あのしぶとさは絶対に軽巡級では無いぞ」

 

「そういえば奄美の艦娘たちが、撤退途中に『空母棲鬼』に遭遇したと……」

 

ルナの言葉に香取が小さく挙手をして応じる。

 

「私も報告書を読んで気になっていました」

 

「空母棲鬼か……連合艦隊の航空偵察では敵本隊に含まれるイレギュラー個体は『戦艦棲姫』と新たな戦艦級の2種類だったぞ?

泊地空襲はヲ級改が担うとすると、別働隊か?」

 

「長門の言う通り、別働隊である可能性も否定出来ない。

とにかく、見た本人から聞いた方が早いだろうし、ドックに行ってみないか?

艦娘たちも心配だしね」

 

ルナがそう言うと、長門は腕組みをして「うーむ」と言いながら顔を近づける。

 

「な……何か?」

 

「いやなに、ただ珍しい人間だなと思っただけだ。

………提督や軍上層部の人間がいないから言うが、軍人は我々CMSを兵器として見るからな。

心配だから様子を見に行く指揮官など、数えるほどしかいないのだよ。

『戦う為だけの兵器の様子が心配だから見に行く』なんて、武器マニアか変人しかいないだろう?」

 

「それは暗に自分を変人と言いたいのか?」

 

「変人という訳では無い。珍種だなと思っただけだ」

 

「完全にバカにしてるよそれ!」

 

ルナがそう叫ぶと長門は面白そうにくっくっくと笑いを堪えている。

 

「だってさ、艦娘は兵器だとしても生きているじゃないか。中身が違っていても人間と同じじゃん」

 

「その考えが既にズレているな。お前の様な考えを持っている奴は舞鶴と大湊の提督だけだ。

さぁ、ドックに向かうとするぞ」

 

「こなくそー、一応こんな(なり)でも軍の人なんだけどなぁ?」

 

「そういえばそうだったな。上層部にバレては困るから、この件は内密に頼むぞ」

 

長門は尚も笑いを噛み殺しながらニヤニヤとそう言う。ルナは何故だかとても負けた気分になりつつも長門、香取とともにドックへと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドックの中はCMS(艦娘)たちでいっぱいだった。

 

と言っても、入渠しているのはみんな奄美部隊の娘たちだった。

 

「……奄美部隊は、赤城が小破に佐世保の飛鷹が中破。陽動隊は全員が何かしらの損害か」

 

「まぁ大事を取って、全員に高速修復材を使ったけどね」

 

「……やはり貴様はズレてるな」

 

陽動隊が活躍してくれたおかげで、奄美部隊はそれ程の被害を負わなかったが、当の陽動隊は敵艦隊を盛大に撹乱させ、代償として全員が小中破するという事態になった。

 

「やっぱり高速修復材(バケツ)を使う必要は無かったのでは……?」

 

椅子に座っていた吹雪がルナに向かってそう言う。

 

「バカ言え。自分が怪我を負った君たちを放っておくワケないだろ。

頑張ってくれているのは君たちだ。自分は何も出来ないんだから、これくらいやらせてくれてもいいだろ?」

 

「でも……」

 

「あーもういい、どの道使う使わないは自分が決める事。指揮官が使うって決めたら使うの!」

 

そんなやり取りを聞いていた長門と香取は、先程と同じ様に笑っている。

ルナはため息をつくと、吹雪に赤城の居場所を訊く。

 

「それで、赤城はどこにいるんだ?入渠は終わってるハズだけど」

 

「赤城さんですか?多分部屋の方に戻ってると思いますけど……」

 

「もう部屋に戻ってるのか。ありがとう吹雪、ゆっくり休んでくれよ」

 

ルナ達がドックを出ようとすると、外に天龍と龍田が待っていた。

 

「天龍、龍田、どうかしたのかい?」

 

「あぁ、どうかしたからわざわざ来てるんだ。

前に救出した潜水艦娘の目が覚めたぞ。今、青葉が様子を見てる」

 

「ちょーっとだけ手こずってる様だから、これは呼びに行った方がいいかしらね〜と思って」

 

ルナと香取、長門は顔を見合わせると、急いで泊地庁舎に戻った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「えーっとだからですね。出来るならその手紙を見せて欲しいのですが……」

 

「だめ、これ親書。偉い人にって」

 

「じゃあ所属と型名を……」

 

「だめ、教えられない」

 

「あーもー!この潜水艦娘っばぁー!」

 

「まぁまぁ落ち着いて青葉ちゃん!じゃあ、あのお兄さんがくるまで、那珂ちゃんの歌を聴いててもらおう!」

 

「いや、事態の収拾がつかなくなるのでやめてください」

 

「………何やってるんだ君らは」

 

天龍と龍田から聞いてやって来たルナが、青葉に向かってそう言う。

 

「た、助かりました少尉!ちょっとこの娘どうにかして下さい!青葉じゃ手に負えませんよ!あとそっちの軽巡も!」

 

とりあえず疲れている様子の青葉を自室に戻らせ、その場で歌い始めようとした那珂を天龍と龍田が拉致して、部屋の中にはルナと長門、香取、そして例の潜水艦娘だけが残った。

 

「えーとその、身体の調子はどうだい?」

 

無表情の潜水艦娘にルナはそう声を掛ける。すると潜水艦娘はコクリと頷いた。

 

In Ordnung(大丈夫)、問題無い」

 

「そうか、なら良かった。自分は栄ルナ、階級は少尉だ。良ければ、君の名前を教えて貰えるかな?」

 

潜水艦娘は少しの間、考える様な仕草を取るとルナにこう訊ねた。

 

「あなたは……偉い人?」

 

実に返答に困る質問だった。

正直なところ、ルナも自分自身がよく分かっていない(記憶喪失のせい)事もあり、軍の中で自分がどの地位にいるのかもちゃんと理解はしていなかった。

 

(征原司令に言われるがままにここまでやってきたからなぁ〜。軍の階級で、どっからが偉い人なんて知らないぞ!)

 

ルナは心でそう思いながら、助けを求める様に香取と長門の方を見た。

 

空気を読んで察してくれた2隻は小さく頷くと、話を合わせてくれた。

 

「そうです。この方は本土で有名なCMS部隊を指揮する偉い人です」

 

「その通り。先日この泊地が深海棲艦に攻撃された時も、この青年……もとい少尉が指揮した艦隊が見事、敵艦隊を退けたのだ」

 

嘘はついていない。どちらも嘘はついていないのだが、誇張し過ぎだと、ルナはそう思い赤面していた。

しょうがない事とはいえ、他人に言われるととても恥ずかしい。

 

「Leutnant……」

 

潜水艦娘はそう呟くと、スックと立ち上がって綺麗な敬礼をルナたちにして見せた。

 

「ドイツ海軍所属、Ⅸ C型Uボート『Uー511』です。よろしくお願い致します……」

 

潜水艦娘は自らを『Uー511』と名乗った。

それを聞き、ルナたちは驚きを(あら)わにする。

 

「ドイツ……!」

 

「ドイツのUボートか……!」

 

ドイツ。その国の名は知っていた。だが、誰もその国が存続しているかを知らなかった。

しかし、目の前の潜水艦娘はそのドイツから遠路はるばるここまでやって来たという。

 

「本国からの(めい)で、日本を目指して少し遠出してきました」

 

「少し遠出って、少しどこの騒ぎじゃないぞそれ……」

 

ルナはそう言いつつも、この潜水艦娘の言うもう1つの事実に気付いた。

 

「本国の命で……て事は、まだドイツは存続しているんだな!?」

 

「うん」

 

「ヨーロッパの他の国は?」

 

「幾つかの国はやられちゃったけど、ヨーロッパは無事……です」

 

「そう……か」

 

香取と長門もその事実に気付き、驚きの声を上げる。

 

今日では、深海棲艦による海上封鎖と電波妨害(ジャミング)により、高高度高速輸送機を使える技術力と工業力が残っている国しか他国との交流は出来ない状態だった。

 

例としては、沿岸部を侵略されても、未だ膨大な土地を持っていて、かつ技術力と工業力を持ち合わせているアメリカ、ロシア、中国等しかいなかった。

 

それがUー511の存在により、かつての列強国の集まりであるヨーロッパの無事が確認されたのだ。

 

しかもドイツには日本と同じく、CMS(艦娘)を造る技術があるのだ。

 

この事実は、人類が深海棲艦に反抗する為の大きな希望となる。

 

「私は横須賀呉連合艦隊旗艦、長門だ。Uー511、何故お前は日本を目指して来たんだ?」

 

「ナガト……知ってる、ビッグセブンのナガト。本国でも有名」

 

「そ、そうか。照れるな。それで何故?」

 

「これを……日本に」

 

Uー511は1通の手紙と封筒、そしてメモリーカードを取り出した。

 

「数年前の日本のCMS技術提供。それを受けて、本国でもCMS開発に着手した。

だけどCMSを造るのは難しすぎたの。

戦闘型バイオロイドを造るのは勿論、記憶兵装の開発が全然上手くいかなかった……」

 

ルナたちもこれには納得した。常識的に考えて、記憶を兵器として使うなんて事、普通思いつかないし、思いついても実現しない。

一部の物理法則さえも捻じ曲げる技術。それがMW技術の記憶兵装だ。

 

「それでも、ヨーロッパの国々が協力してなんとか、ユーともう1人、CMSの開発に成功したんです。

でも、本国では1隻や2隻ならともかく、たくさん量産できる技術力は既に無かった……だから……」

 

Uー511は改めて手紙と封筒とメモリーカードを差し出す。

 

「このメモリーカードと封筒に、本国が考案したCMSの設計データが入ってる。

これをベースに日本の技術力で、このCMSをなんとか創り出して欲しい」

 

「成る程、そういう事か……」

 

Uー511が日本を目指して来た理由は分かった。

 

そして彼女の続く話によると、早い段階で日本に設計データを渡す事は決まったが、沿岸部を深海棲艦が占領しており、海上から届けるのは無理に近かったようだ。

なので潜水艦娘である彼女が抜擢され、深海棲艦の目を盗み、海中を航行してきたという事らしい。

 

深海棲艦の追撃を避け続け、西方海域を経由して太平洋南方海域に辿り着いた。

そこを運悪く敵航空機に見つかってしまい、攻撃を受けていた所を、奄美部隊が救出したという経緯だった。

 

「ヨーロッパの無事も確認出来たし、自分たちの未来に希望が見えたな!」

 

「そうは言うけどな青年少尉、まずはこの修羅場を勝ち抜かないと、未来の希望どころか明日から滅亡の道が見えるぞ」

 

「そうです少尉、なんとしても敵本隊を撃滅しないといけません」

 

ルナは長門と香取の言葉に頷く。

ここで負ければ、日本も、ヨーロッパ、ドイツの託した希望も、文字通り水泡に帰してしまう。

 

ルナはUー511に現在の事情を説明し、この戦闘が終わるまで庁舎で待機していてもらう事にし、ひとまず、ドイツからの手紙等は一時的にルナが預かる事になった。

 

香取は泊地の指揮に、長門は自らの部屋に戻り、1人になったルナは赤城の部屋に向かう。

 

「おーい赤城、中にいるかー?栄だけど入ってもいいかー?」

 

ルナがそう声を掛けると、部屋の中から「どうぞー」と赤城の声がしたので扉を開けて中に入る。

 

中に入ると驚いた事に、赤城が2人、見知らぬ青色の袴、赤城と似た服装の女性がいた。

 

一瞬面食らったルナだったが、同じ様な事を呉鎮守府会議の時にも経験している。

 

見ると一方の赤城と青色の袴の女性が付けている腕章の色は『黄色』だった。

 

「黄色……という事は横須賀の艦娘?」

 

「栄少尉、驚かせてすみません。私は、NーⅠ型CMS 101006001、横須賀の赤城です。そしてこちらは……」

 

「NーⅠ型CMS 101007002、航空母艦『加賀』です」

 

「中核を叩く際に助けて頂いたお礼をと思って、お招きしたんです」

 

赤城がそう言ってルナに説明する。

 

「横須賀の赤城と加賀か。自分は奄美の栄ルナだ。よろしくね」

 

「存じ上げてます。奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナ少尉。南一号作戦や今前段作戦においての華々しい活躍は既に周知の事実です」

 

「く、詳しいし情報が早いな……」

 

「当然です」

 

「でもまぁ、華々しい活躍ってのは間違いだな。活躍したのは艦娘のみんなだからね」

 

この発言に加賀は怪訝な表情をする。

ルナは苦笑いをしながらも、赤城の方へ顔を向ける。

 

「今は茶飲話をしに来たんじゃなくてね、赤城たちが見た『空母棲鬼』の話を聞きたくてね」

 

ルナがそう切り出すと、CMS(艦娘)の3隻は顔を見合わせた。

 

「ちょうど今、私たちもその事について話していました」

 

横須賀の赤城がそうルナに言う。

 

「そもそもで悪いんだが、空母棲鬼ってのはどんな奴なんだ?」

 

「深海棲艦の中でも一際特異な個体、通称『イレギュラー個体』と言われる個体の一種で、名前の通り航空母艦の能力を持っています。

しかし、通常の航空母艦タイプであるヲ級等とは桁違いに戦闘能力が特化しています」

 

「加賀さんの言う事に付け足すと、耐久力は従来の個体と比べて数倍、制空能力も空母棲鬼1隻で空母CMS数隻と渡り合う程です」

 

横須賀の加賀と赤城がそう説明をしてくれる。

この少しの話だけで空母棲鬼がどれほどのものか、ルナも理解が出来た。

 

そんな話の最中、赤城がうつむきがちに静かにつぶやく。

 

「あれは……あの空母棲鬼は、加賀さんです」

 

「え、加賀?」

 

ルナは訳が分からず横須賀の加賀を見る。

横須賀の加賀は少しムッとした様子にルナを見返す。

 

「ゴメン、少し言っている事が分からないんだが……」

 

「すみません、自分でも何を言ってるのか……けれど、何故かあの個体を見た時にそう思ったんです」

 

ルナが困惑して頭を悩ませている中、横須賀の赤城が考え込むように言う。

 

「少し奄美の私とは違いますが、私にもそのような経験はありますね。

戦闘が終わった後とかに自分では無い”何か”が頭の中で囁くんです。慢心してはいけない、とか、索敵や先制を大事に、とか」

 

「私にも同じ事がありました。確か、翔鶴や瑞鶴も同じ事を言っていたわね」

 

横須賀の加賀も、赤城の話を肯定する。

この話を聞いて、ルナには思い当たる節があった。

 

「……ふとひらめいたが、君たち艦娘にそう共通した出来事が起こる……それはもしかすると、艦艇時代の君たちの記憶じゃないのか?」

 

かつての赤城も、過去の出来事、ミッドウェー海戦での出来事がトラウマとなり、海に出る事が出来なかった。

過去の出来事が記憶として持っているCMS(艦娘)なら、この現象にも合点がいく。

 

「しかし、私たちCMSの記憶は、当時の人々や後々の人がまとめたデータでしかありません。

そのような私たちに、人間の深層心理のような現象が起きるでしょうか?」

 

横須賀の加賀が澄ました顔でそう言う。

その通りと言えばその通りなのだが、ルナは何故か違和感を覚えてしまう。

 

「でも、使い込まれた物とか大事にされた物って意思が宿るって言うじゃないか。付喪神みたいな?

君たちも元々は船という鉄の塊だったとしても、そういう人々の想いを受け取って、意思が宿って、それを記憶として持っていると考えればいいんじゃないか?」

 

「少々理解に苦しみますが……そんなことあり得るのでしょうか?」

 

「いや、それに近いことを体現してる君が言うなよ……」

 

「とにかく、私たちCMSにはそのような現象が共通して起きるって事でいいですよね?」

 

横須賀の赤城が簡潔にその様に言いまとめる。

一同は頷いてそれを了承する。

 

「ではその現象で奄美の私が、その空母棲鬼を加賀さんだと思った事にどの様な意味があるのでしょう?」

 

横須賀の赤城の問いに、すぐに答える者はいなかった。

しばらくの沈黙の後、赤城がふとこんな事を言った。

 

「……そういえば巷では、深海棲艦の事を過去に沈んだ艦艇の無念が具現化したバケモノ、という都市伝説がありましたよね?」

 

ルナは聞いた事が無かったが、他のCMS(艦娘)たちはウンウンと頷いている。

 

「もしかして奄美の赤城さんは、あの空母棲鬼は艦艇時代の私の無念が宿っていると考えているのですか?」

 

赤城はコクリと首肯する。

しかしこれにルナは異を唱える。

 

「いやちょっとまって。そもそも深海棲艦の正体は未だに解っていないんだろ?

最初からそう考えるのはさすがに無理があるんじゃないか?」

 

「………しかし栄少尉、あながち間違いでは無いかもしれません」

 

「どういう事だ、横須賀の赤城?」

 

「……かつて南方で、深海棲艦の一大侵攻作戦がありました」

 

「あぁ、呉鎮守府会議の時も瀬織津(せおりつ)総司令がそんな事言ってたなぁ」

 

「その時、私たちCMSも多くの者が撃沈され、犠牲になっていきました……。

もしかすると、過去の艦艇の無念だけではなく、CMSの無念も含まれているとしたら……」

 

「そ、そんな事言っても……そんなファンタジーみたいな事、あり得るハズが……」

 

「言い出したのは栄少尉ですよ」

 

横須賀の加賀が鋭く的確なツッコミをルナに入れる。

 

「と、とにかく!明日の朝に最終作戦の概要が香取と長門から発表されるハズだから、それまでに心身共に休めておくんだ。いいね?」

 

「少尉……逃げましたね」

 

「確かに逃げましたね」

 

「さすが栄少尉、見事な逃げです」

 

「おい待て君たち、赤城2人は百歩譲って良いとしても横須賀の加賀、君は許されないぞ!」

 

空母艦娘3隻はクスクスと笑っている。

ルナはため息をつくと赤城の部屋を後にした。

 

 

決戦は明日。

各々は多少の不安を胸に抱きつつも、最終決戦に備えて想いを固め、英気を養い、その夜を過ごすのであった。

 

 

to be continued……

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・イレギュラー個体

通常の深海棲艦とは異なる、従来の個体を遥かに凌ぐ戦闘能力を持った深海棲艦の通称。

出現頻度は少ないのだが、今までに様々な種類が確認されており、種類ごとに特化している能力が異なる。

個体の戦闘能力によって『鬼級』と『姫級』と『水鬼級』などに区別される。

 

 

 



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memory23「敵機動部隊を捕捉せよ」

家庭の事情で投稿が1日遅れて申し訳在りませんでした……

今回は怒涛の18,000文字超え!!
なので半分に分けて2話連続投稿致します。
そして今回でトラック泊地編完結です!

それでは!


 

 

memory23「敵機動部隊を捕捉せよ」

 

 

 

まだ夜が明け切らない時間、トラック泊地は既に慌ただしく動いていた。

 

「全艦、準備が整いしだい出撃ポートに集合しろ!夜明けと共に出撃だ!」

 

連合艦隊旗艦の長門が、連合艦隊所属の他のCMS(艦娘)に指示を飛ばしている。

 

いよいよ、トラック泊地の命運を賭けた決戦が始まろうとしているのだ。

 

敵本隊にはイレギュラー個体『戦艦棲姫』の新上位個体、公式名称『戦艦水鬼』が含まれているのが事前偵察で分かっている。

 

一騎当千の長門たち連合艦隊の戦艦勢でも二の足を踏む『戦艦棲姫』の上位個体。

苦戦は必至、だが負けるわけにはいかない。

勝率を少しでも上げる為に、連合艦隊の面々は残された時間を過ごしていた。

 

静かに待つ者、装備を確認する者、直前まで訓練をする者、腹が減っては何とやらと食事をとる者。

 

奄美部隊も例外ではない。

一同は香取に連れられ、装備などが保管されている工廠に来ていた。

 

「昨日の海域エリアEー2方面での戦闘……奄美部隊が偶然遭遇したイレギュラー個体『空母棲鬼』の動向が気になります。

奄美部隊の皆さんには連合艦隊とは別方面への出撃をお願いしたいのですが……」

 

「それはつまり威力偵察ってことか?」

 

奄美CMS特別部隊指揮官であるルナが香取にそう問う。

 

「威力偵察よりは遊撃偵察に近いですね。泊地部隊も展開しますが、連合艦隊不在の時を空母棲鬼などの強力な個体に襲われては、泊地が壊滅するのは明らか。

なので連合艦隊出撃と同時、先日空母棲鬼が確認されたエリアEー2の深部、エリアEー4方面に向かっていただきたいのです」

 

「文字通り遊撃隊って事か。君たちはどうする?」

 

ルナは自らの後ろを見てそう言う。

後ろに立っていた奄美部隊のCMS(艦娘)たちは「そんな事決まっているだろう?」といった眼差しをルナに向ける。

 

「……分かった。それじゃあ奄美部隊はEー4に出撃させる。目標は空母棲鬼で良いのか?」

 

「はい。空母棲鬼率いる敵艦隊は恐らく、敵本隊とは別の攻略部隊だと睨んでいます。

だとすれば、連合艦隊が出撃したのを見計らい泊地に攻撃を仕掛けに来るハズです」

 

「了解したよ。………だけど、奄美部隊だけでイレギュラー個体である空母棲鬼をどうにかするのは難しいと思うぞ?

他の艦娘も連合艦隊の支援艦隊や泊地防衛で、こちらにまで回す事は出来ないだろう?」

 

「承知しています。なので奄美部隊の皆さんには2つ程こちらから託したいものがあります」

 

「託したいもの?」

 

奄美の全員が頭の上にハテナマークを浮かべる中、香取はそこそこの厚さの書類をルナに手渡す。

 

「香取、これは?」

 

「奄美の皆さんの”第一次改装”案です」

 

「第一次改装?」

 

「つまりは艤装の改造です。今使用している機関部艤装に手を加え、従来スペック以上の性能を引き出します。これによって今まで以上の戦闘能力を発揮する事が出来ると思います。

本来なら第一次改装時には、それまで行ってきた艤装の小さな改修部分を全て取っ払ってから改造を行うので、改造直後の艤装性能は以前よりも落ちてしまうのですが、今回は必要分の近代化改修も同時に行います」

 

「よーするに前より強くなれんだな!?」

 

話を聞いていた天龍が、身を乗り出してそう言う。

 

「いやぁ、カッコイイじゃねぇか!第一次改装、改造って!そう思わねぇか龍田!」

 

「ふふ、そうね〜。今まで以上に強くなれるなら素敵ねぇ」

 

天龍と龍田の言葉に他のCMS(艦娘)たちも声を上げる。

 

「良いデスネー!これで他のbattleshipにも負けないデース!」

 

「島風がもっともっと速くなっちゃうって事ね!楽しみ〜!」

 

「成る程ね、それが言っていた1つか。じゃあもう1つは?」

 

ルナがそう訊ねると香取は一同を工廠奥へと連れていった。

工廠奥には何やら大きな布で覆われた物がいくつかあった。

香取はその中の1つの布を取り外す。

 

「これは……!」

 

赤城が声を上げる。布の下にあった物はラジコン程の大きさの濃緑色の機体、CMS(艦娘)用の艦載機だった。

 

あまり知識の無いルナはこの機体を見てもイマイチピンと来なかったのだが、空母艦娘である赤城にはどうやら分かった様だった。

 

「これはまさか……『烈風』!?」

 

香取はコクリと頷き首肯する。

 

「赤城さんの言う通り、その機体は『烈風』。過去の大戦では零戦の後継機として開発され、ついに実戦配備されなかった幻の機体です。

しかもその機体はただの烈風ではありません。

かつて帝国海軍航空隊でも随一と謳われた『第六〇一航空隊』の記憶を搭載した機体です」

 

 

第六〇一航空隊。

ミッドウェー海戦で沈没した赤城、加賀たち一航戦の跡を継いだ翔鶴や瑞鶴、大鳳、雲龍型空母所属になり、当時の最新鋭機体が配備され、パイロットたちの技量も総じて高く、海軍最強とも称される母艦航空隊。

 

 

「勿論、過去の大戦時には烈風も完成していませんし、六〇一空の所属する空母起動部隊も、マリアナ沖海戦後再建されていませんので、この装備は『もし空母起動部隊が再建され、六〇一航空隊に最新鋭機体烈風が配備されたら』という完全な”if装備”となります」

 

赤城は烈風六〇一空をまじまじと見ている。

 

以前にライラも言っていたが、最前線であるトラックでは対深海棲艦の研究が本土よりも進んでいる。

この烈風六〇一空もその過程で生み出された産物だと言う。

 

「それにしてもif装備か……しかも当時未完成の烈風に六〇一航空隊の記憶を上乗せしてるなんて……」

 

「えぇ、本来MW技術による記憶は実際に歴史に刻まれている物の方が効力が強いのです。

実際に起こった出来事ですからね、その記憶を持つ物も、その事象を確認することは容易でしょう。

しかし、ifの記憶は実際には存在しない記憶の為にかなり不安定なのです。なので、使用した場合、予期せぬトラブルや、思わぬ被害を被ることがあります。

勿論、そうならないようにこちらでも善処しているつもりなのですが……

それでも良ければ、その機体を赤城さんに託します」

 

赤城は暫し沈黙し、烈風六〇一空を見つめた後、覚悟を決めた顔で香取に言う。

 

「この(烈風)なら、あの空母棲鬼とも互角に戦えるかもしれない……!

香取さん、ありがたく受け取ります!」

 

「分かりました。それでは皆さんの艤装の第一次改装も始めてしまいます。

連合艦隊が出撃するまでには仕上げますので、それまで、最後の休息を」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「連合艦隊、この長門に続け!!」

 

暁の水平線に長門の怒号が響き渡る。

トラック泊地の出撃ポートから、連合艦隊が出撃する。

彼女らはこのトラック泊地に攻撃を仕掛けた深海棲艦の本隊に勝負を掛けるのだ。

 

そんな雄大な出撃の光景とは裏腹に、別の場所、通常の埠頭から奄美部隊は出撃していた。

 

奄美部隊の目的は、別の敵攻略部隊を捕捉するため、連合艦隊とは別方面への遊撃偵察を行うというものだった。

 

編成は旗艦赤城、金剛、青葉、島風、吹雪の奄美のCMS(艦娘)に泊地の那珂を加えた6隻。

 

天龍、龍田がリーダーとして、泊地の駆逐艦娘を率い、赤城たちを支援する前衛支援艦隊。

 

この2つの艦隊が遊撃偵察へと赴く事になった。

 

「今回も先日の戦いと同じように、敵の哨戒部隊をすり抜けてEー4深部を目指します。

飛鷹、隼鷹、聴こえる?」

 

『艦隊無線感度良好。聴こえてるわ』

 

『おーぅ!バッチリ聴こえてるぜー!』

 

「索敵機を発艦させて下さい。なるべく広範囲に展開させるように。敵艦隊を発見したら即座に報告、索敵機を引き返させて下さい」

 

『了解!』『おーけー!』

 

前方を先行する前衛支援艦隊から艦載機が飛び立つのが確認出来る。

 

「天龍さん、龍田さん」

 

『なぁに〜?艦隊旗艦?』

 

『聴こえてるぜ』

 

「今作戦では私たち遊撃部隊主力の戦力を低下させる事なく最終(ボス)戦まで到達するのが重要です。ですから申し訳無いのですが……」

 

『分かってるわ。ザコは私と天龍ちゃん、駆逐艦のみんなに任せておいて』

 

『龍田の言う通り百も承知だ。心配すんな』

 

天龍と龍田は頼もしくそう言う。

赤城は少しはにかむと、自分の後ろを航行する艦隊の皆に指示を出す。

 

「空母棲鬼と会敵し戦闘に突入した場合、我々は漸減(ぜんげん)攻撃を行います」

 

「ぜんげん……って何?」

 

「艦隊決戦の前に、予め敵戦力を削っておいて、艦隊決戦を有利に進めようっていう戦法だよ」

 

島風の質問に、隣を並航していた吹雪がそう答える。

 

「じゃあ、赤城さんの航空攻撃、水雷戦隊の突撃、最後は金剛さんの砲撃で敵に攻撃を?」

 

漸減攻撃は最後の、戦艦などの戦力の大きい艦艇どうしの殴り合い、艦隊決戦までに、航空攻撃や特殊潜航艇の雷撃、水雷戦隊の突撃などで敵戦力を削る事が重要となってくる。

 

「いえ、今回は長射程の攻撃から順に……つまり、私、金剛さん、青葉さん、最後に那珂さんと吹雪ちゃん、島風ちゃんが肉薄して雷撃をお願いします」

 

「つまり那珂ちゃんが大トリって事だね!やったぁ!吹雪ちゃん、島風ちゃん!バックダンスは任せたからね!」

 

「バックダンスって何ですか……」

 

今回、奄美部隊に泊地の那珂がいるのは、以前Uー511を救出した時のように、トラック周辺に詳しいからだ。

那珂なら、敵艦隊が潜んでいそうな所を知っているので、先手を取る事ができ、大きなアドバンテージとなる。

 

『索敵機より入電、12時方向、距離200,000に敵艦隊。速力15でこちらに向かって来ています』

 

「艦隊、0-2-0に転針。索敵機は敵艦隊に発見されないように帰還させて下さい」

 

こうして奄美部隊は敵の前線部隊を避けながら進軍していく。

そして幾度かの転針の後、奄美部隊に不思議な現象が起きる。

 

「あっ……れぇ……?おかしい……?」

 

「青葉さん、どうかしましたか?」

 

「羅針盤が……正確な方角を示さない!」

 

青葉の持っていた方角を示す羅針盤の針がグルグルと回って正確な方位を示さなくなっていた。

 

「他の機器はどうですか?」

 

「軒並みダメですね……位置や方位の機器やシステム類だけ異常(エラー)を出してます……」

 

青葉だけではなく他のCMS(艦娘)もそうだった。位置システムなど、自分たちがどこにいるのかを示す機器類が全て狂っていた。

 

「これは一体……!?」

 

「あー……これは深海棲艦の支配海域に入ると起きる現象だねー」

 

那珂がグルグルと回る羅針盤を見てそう呟く。

 

「制海権を深海棲艦に奪われている海域に突入すると毎回決まってこうなるんだよ。

本土の方や泊地周辺はコッチの海だからこんな事にならないんだけど」

 

「……深海棲艦側の妨害工作ですか」

 

「それで那珂さん、この状況を打破する為にはどうしたらいいのですか?」

 

「それはねー、勘と運!」

 

「方法は無いって事ですか……」

 

太陽の向きから方角を割り出そうとしても、空には暗雲が立ち込めている。

 

「ナカはここがどこらへんか分からないのデスカー?」

 

「さすがの那珂ちゃんもこーなっちゃうとお手上げだねー」

 

「それついて来た意味……」

 

島風がボソッとそう言う。吹雪が慌てて島風の口を塞ぐが那珂には聞こえていたようだ。

 

「むー!一応オカルトだけど方法はあるんだよ!」

 

那珂は羅針盤の針を思い切り弾いた。針が今まで以上にグルグルと回る。

しばらくすると、針は速度を落としてピタリと止まった。

 

「羅針盤の針を回すと、何故かこう、ピタッと止まるんだよ。どの羅針盤でやっても多分同じ所に止まると思う。ちょっとやってみて!」

 

赤城たちも自らの羅針盤の針を回すと、皆同じ方向に針は静止した。

 

「どういうことなんでしょうね?」

 

「わかんないけど、迷った時はこの針の方に進むって泊地では言われてるよ?」

 

吹雪が首をかしげて羅針盤を見ている。

しかし今は、今までの航行状況から位置を推測するのが精一杯。ある程度方角を絞り込むと羅針盤が示す方向へと舵を取る。

 

『おい赤城、こんなんで本当にいいのか?』

 

艦隊無線から天龍の声が聞こえてくる。

 

「位置情報を示す計器が狂ってしまった以上、ここは天命を任すしかありません」

 

『それもそうね〜、飛鷹と隼鷹には引き続き索敵を続けさせるわ』

 

その後も敵の少数部隊を避けつつ羅針盤の針が示す方向に向かっていく。羅針盤が狂えば針を回し、指し示した方向へ進軍する。

 

天気も悪い方にに向かっているらしく、進むにつれて暗くなっていく。

 

「これ、方角は合ってても潮流とかで流されてる可能性ありますよね?」

 

「……そうですね」

 

青葉の問いに赤城がそう答える。心なしか2人とも声が小さくなっている。

 

「本当にこっちであってるのかな……?」

 

島風も不安そうに呟く。その時、広域無線に通信が入った。どうやら連合艦隊が敵本隊を捕捉、交戦に入ったようだった。

 

「あー!もう向こうは始まっちゃったの?那珂ちゃんも活躍したいのになー」

 

赤城は通信を聴き終わると、暫し考え込み、艦隊無線を開いた。

 

「飛鷹、隼鷹、作戦を変更します。索敵機の高度を下げて、更に広範囲に拡大します。私も艦載機を出しますので。

お願い出来ますか?」

 

『了解。じゃあ私達は右舷側を担当するわ。隼鷹、後方は頼んだわ』

 

『はいよ〜』

 

赤城も索敵機を発艦させようと矢筒から艦載機用の矢を引き抜いた時、事態は急変した。

 

「3時方向上空!敵機!」

 

突如吹雪がそう叫ぶ。赤城は即座に全艦対空警戒の命令を出す。

 

「どこ!?吹雪ちゃん!?」

 

「雲の中に入られました。恐らく敵の偵察機、島風ちゃんも見てたよね」

 

「うん、3機飛んでたと思う」

 

赤城は小さく声を漏らすと、索敵機ではなく戦闘機を発艦させる。

 

「艦隊、第二戦速。三方(左30度方向転換)

 

奄美部隊が針路を変え、左に舵を切った時、艦隊の真上から低いエンジン音と風切り音が聞こえてきた。

 

「……!? 敵機直上!!」

 

敵の艦爆機が艦隊上空の雲間から急降下してくる。奄美部隊は咄嗟に回避行動を取り、爆撃の直撃を免れる。

 

しかし至近弾を幾つか喰らい、CMS(艦娘)たちは海水を頭から被った。

 

「もぉー!メイクが落ちちゃうでしょー!」

 

「バカな事言ってないで被害確認して下さい!」

 

那珂と青葉が滝の様な海水を浴びながら、隊列を組み直す。

 

「そうか……!攻撃隊を雲の上に待機させて、奇襲を狙ったんデスネ!」

 

「敵の母艦はどこですか!?」

 

「敵空母、4時方向距離およそ5,000!」

 

吹雪の声につられ赤城がその方向を向くと、赤いオーラをまとった空母ヲ級が艦載機を発艦させていた。

 

「ヲ級eliteですか……なら私の戦闘機隊で……!」

 

「赤城!ヲ級eliteが敵艦隊後方にもう1隻!」

 

島風が指差す先には、旗艦であろうヲ級eliteの陰に隠れて、もう1隻のヲ級eliteが見て取れた。

 

「ヲ級eliteが2隻デスカ……!」

 

「いえ金剛さん、随伴艦も一部精鋭(elite)級です。重巡1駆逐2……計5隻ですかね」

 

青葉が双眼鏡(メガネ)を覗きながらそう報告する。

 

「ヲ級elite2隻でも制空権は取れますが……艦載機の消耗がこちらとしては痛手です。

痛手ですが……致し方ありません」

 

赤城が上空で空中集合を終えた戦闘機隊に突撃の命令を掛けようとした時、艦隊無線から天龍と龍田の声が聞こえてきた。

 

『おい赤城!こいつらは俺たちに任せろ!』

 

『ここで貴方たちを消耗させる訳にはいかないわ〜。ここは私達が食い止めるから、先に行って頂戴』

 

「ですが……!ヲ級eliteが2隻もいるんですよ!?」

 

『ちょっと赤城、私たちがいるのを忘れないでよ』

 

『商船改造型を舐めてくれるなよぉ!』

 

飛鷹と隼鷹も声を上げる。赤城は迷ったがそれも一瞬、麾下(きか)CMS(艦娘)に通信を入れる。

 

「天龍さんたち前衛支援艦隊の皆さん、そちらの敵部隊はお任せします!

奄美部隊、Q斉回H(左45度一斉回頭之字運動H法)!」

 

奄美部隊は一斉に敵部隊に背を向ける。それと同時、天龍の怒号と共に前衛支援艦隊が敵部隊へと突っ込んでいく。

 

「天龍さん、龍田さん……どうか御無事で」

 

「少尉の手を焼かせる2人ですからね!そう簡単にはやられませんよ!」

 

奄美部隊は尚も追いすがる敵艦載機を迎撃しながら、敵部隊から距離を取るように離れていく。

 

「もぉー!この艦載機、何処まで付いてくるの!」

 

島風がそう愚痴を言いながら、自らの機銃を空に向けて乱射する。

 

艦載機はCMS(艦娘)の弾幕をすり抜けて、爆弾や魚雷を投下する。

 

だがCMS(艦娘)たちはそれらを難なく避ける。伊達に基地で毎日訓練を行っているわけでは無い。

 

しばらくすると敵の艦載機も少なくなり、奄美部隊に静寂が訪れた。

 

「……どうやら逃げ切れたようですね」

 

「そのようね……」

 

赤城は船脚を止めると、現在位置の確認をする。

敵の部隊と会敵し、咄嗟に反転退避したため元々予定していた航路から外れている事は明らかだった。

そもそも、羅針盤などの計器が狂っているために予定の航路を進んでいたのかも分からないが。

 

「……やはりもう、自分たちが何処にいるかを正確に知る事は出来ないようですね」

 

「やっぱり羅針盤を回すしかないんデショウカ?」

 

「立ち止まるよりは余程良いでしょう」

 

赤城が羅針盤を取り出し、針を回そうとした時、空を切る甲高い音が何処からか聞こえてくる。

 

「………何?」

 

赤城がふと真上を見上げると、そこには爆弾を抱えた敵の艦載機が急降下を掛けている所だった。

 

「そんなっ!?」

 

恐らく敵機は雲の中か上で触接しながら機会を窺っていたのだろう。

 

今の止まっている状態から動こうとしても、赤城のような大型艦は動き始めるまでに多少の時間を要する。

 

直撃を免れても、その爆圧で被害を受けるのは必至。

 

赤城が呆然と立ち尽くす。爆弾が投下され赤城に命中する一瞬の間に、吹雪は動いていた。

 

「赤城さんッ!危ないッ!」

 

吹雪は機関全力に赤城を突き飛ばす。

 

そして爆弾は吹雪に命中した。

 

轟音を立て、真っ赤な火炎と黒い煙が同時に周囲を包む。

 

一瞬何が起きたか理解出来なかった赤城も、即座に我を取り戻す。

 

「吹雪ちゃん……?吹雪ちゃん!!」

 

吹雪はその場に崩れ落ちる。

寸前で那珂が抱きとめるものの、吹雪は力を無くしたようにぐったりとしている。

 

「吹雪ちゃん!しっかり!」

 

那珂が身体を揺すっても目覚める気配は無い。

 

「そんな……まさか……!」

 

「大丈夫だよ島風ちゃん、死んでは無い。

だけど……多分損害判定は大破、粒子装甲防壁(バリアー)で弾き切れなかったダメージを受けてる。

艤装の一部や衣服がクラッシャブルシステムで肩代わりしてくれてるとは言え、危険な状態には変わり無いよ」

 

那珂がいつもとは違う真剣な顔でそう伝える。

 

「赤城さん……」

 

青葉が指示を求める様に赤城を見る。

赤城は無線封鎖を解除し、泊地に向けて回線を開いた。

 

 

 

 




続きます


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memory23ー2

続きです


 

 

 

 

「………そう…か。君たちの今の状況は分かったよ」

 

トラック泊地の指揮室に、香取と状況を整理していたルナが無線機の前でそう答える。

 

『吹雪ちゃんは大破、生体(バイタル)も危険な状態です』

 

ルナは暑さからくるものでは無い汗をたらしつつ、ノイズ混じりの赤城の声を聴く。

 

『少尉……【進撃】か【撤退】か、判断をお願いします』

 

ルナに得も言われぬ重圧が襲い掛かる。

 

ここで進撃すれば吹雪が沈むかもしれない。

しかし撤退すれば泊地は危険に晒され、最悪の場合陥落するかもしれない。

 

少女の命と世界の未来、それを天秤に掛ける。

 

掛けられるハズも無い。ハズが無い。

 

選べる訳が無い、だが選ばなくてはならない。

 

自分のたった一言で、今まで共に過ごして来た者がいなくなるかもしれない。

 

(これが……指揮官というものか……っ!)

 

今にもこの重圧で押し潰されてしまいそうだ。

 

ポタリと汗が頬を伝い机に落ちる。

 

香取もルナの隣で何も言わずに立っている。

 

無情に時計の針の音だけが部屋に響き渡る。

 

時間は残されていない。こうしている間にも敵の攻略部隊は泊地を目指して侵攻しているのだから。

 

分かっている。分かっているのだが、何も考えられない。声が出せない。思考がまとまらず、空白の時間が過ぎていく。

 

『少尉……』

 

赤城の苦しそうな声が無線機から聴こえる。

その時、無線機から赤城では無い声が聴こえてきた。

 

『少尉……!私はまだやれます……!』

 

『フブキ!大人しくしてるネー!』

 

『私は……まだ……!』

 

無線機から響く吹雪の声が自らの傷の深さを物語っていたが、それ以上に、吹雪の言葉には信念が感じられた。

 

『こんなところで……終わりはしません……!ですから……進軍を……!』

 

「そんなに苦しそうなのに何を言ってるんだよ!……生きて帰れば、まだ打つ手は有る」

 

『いえ……間に合いません……ここで空母棲鬼を叩かなければ、泊地に被害が出ます……!』

 

「分かってる!だけど進撃したら、吹雪が沈むかもしれないんだぞ!」

 

吹雪は少しの間、言葉を切る。

 

『少尉……正直に言うと今、物凄く苦しいです。物凄く痛いです。今すぐに撤退してドックに入りたいです……。

ですけど、今ここで撤退してしまったら、今よりもっと苦しい……もっと痛い……。

絶対に後悔する事になるんです………だから、やらない後悔よりも私は、やる後悔を選びたいんです!!』

 

ルナの頭にズキンとした鈍い痛みが広がる。

それと同時、不思議な感覚をルナは一瞬だけ感じた。

 

「やらない後悔よりも、やる後悔か……

赤城、艦隊旗艦の君はどう思うんだ?」

 

『……私もかつてミッドウェーでやらない後悔というモノを知りました。ですから吹雪さんの気持ちは良く分かります。

そして、あの空母棲鬼を放って置くことも出来ません。

あの空母棲鬼は加賀さん……いえ、”私と共に一航戦を担い、共に戦った“加賀かもしれないのです。だから……』

 

「……他のみんなは?」

 

『……大丈夫とは言えない、吹雪が心配だけど……大丈夫。だってアイツら、私よりも遅いもん。

吹雪は私を助けてくれた。なら今度は私が助ける番よ!』

 

『そうです!島風さんの言う通り、私たちで守ればいいんです!

私もサボ島沖で、吹雪さんには申し訳無い事をしました……もう二度と、悲劇を繰り返しはしません!』

 

『wow!シマカゼもアオバも気合い入ってマスネー!これは戦艦のワタシとはいえ引けそうにアリマセンネ!!』

 

『那珂ちゃんは後悔なんてしないよー?後悔する事なんて、私の歌で吹き飛ばしてあげるんだからね!』

 

全員の意見を聴き終えたルナは吹雪に今一度問い掛ける。

 

「吹雪……やれるんだね?」

 

『やれます!!』

 

「………分かった、【進撃】を許可する。ただし、1つ命令するぞ」

 

ルナは一呼吸を置くと、命令を伝える。

 

「《絶対に全員、生きて戻ってくる》。いいか?これは命令だ!破ることは許されない!負けてもいい……全員、生きて帰ってこいッ!!」

 

『『『了解ッ!』』』

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「吹雪さん、ああは言ったものの無理はしないで下さいよ?」

 

「分かってますよ青葉さん」

 

奄美部隊は再び動き出す。吹雪も機関部艤装自体は多少の損害でこと済んだので、それなりの速度は出せる様だった。

 

しかし粒子装甲防壁(バリアー)の耐久値は既に2桁を切っている。

それに受け切れなかったダメージを肩代わりしたせいか、攻撃用艤装はその殆どがボロボロだった。

 

「皆さん、空母棲鬼と会敵した時は私に関わらず攻撃を優先して下さい……」

 

「何言ってるデスカー?ワタシたちは艦隊、teamデース!助け合いspiritで一緒に頑張るデスヨ!!」

 

「………はいっ!」

 

その時だった。

 

空気の色が、気配が変わった。

 

 

 

『シズメ………シズメ………』

 

 

 

頭の中に直接響く様な、エコー掛かったおぞましい声が。

 

「空母棲鬼……!」

 

「全艦輪形陣、対空警戒!!」

 

赤城の命令で赤城部隊は陣形を変更する。

赤城と吹雪を中心に輪形陣を形成する。

 

「くっそーいつの間にあんな所に!」

 

青葉が唸るのも頷ける。恐らく距離は5,000を切っているだろう。

 

『サクテキヲ、オロソカニスルカラダ……』

 

CMS(艦娘)たちは背筋が凍った。向こうにこちらの声は聞こえないはず。

それなのに空母棲鬼は青葉の言葉を聞き取ったかの様にそう言った。

 

「ぐ……さすが鬼級と言っておきます!」

 

青葉がそう怒鳴る中、赤城は真っ直ぐに空母棲鬼を見ていた。

 

赤城と空母棲鬼の目が合う。空母棲鬼はニヤリと笑うと自らの周りに艦載機を浮遊させ始めた。

 

赤城も静かに弓に矢をつがえる。

 

(やはりあの娘は加賀さん……)

 

目一杯に弓の弦を引き絞る。

 

「奄美部隊全艦、攻撃始め!」

 

赤城の掛け声と共に戦闘が開始される。空母棲鬼と赤城の放った艦載機は猛然と敵機に喰いかかる。

 

その下では金剛と青葉が主砲を放ち、敵弾共に砲弾が弧を描いて双方に着弾する。

 

「赤城さん!敵艦隊確認!空母棲鬼の他、軽母ヌ級2、戦艦ル級elite1、駆逐イ級2です!」

 

砲撃戦に参加できない吹雪が、自慢の目視で敵艦隊を確認する。

 

赤城はギリリと歯をくいしばる。軽空母とはいえヌ級が2隻、制空権争いはかなり不利だ。

 

「それでも……負けないっ!」

 

赤城が新たに戦闘機を放つ。矢はその姿を『烈風』に変え、プロペラ音を轟かせて空に舞い上がる。

 

『テッキチョクジョウ……キュウコウカ!』

 

空母棲鬼の叫びにハッとして、空を見る前に舵を切る。

 

黒の塊が赤城の前に落下し、爆音とともに巨大な火と水の柱を作り出す。

 

「くっ……この……!」

 

赤城が艦載機を発艦させようとするが、敵の艦載機が上空から機銃掃射を赤城に浴びせ掛ける。

 

絶え間なく襲い掛かる機銃弾の雨に、赤城は避ける事で精一杯だった。

 

「マズイ……!これじゃあ艦載機が発艦出来ない!」

 

早く増援の戦闘機を上げなければ、たとえ烈風といえども大量の敵機にすり潰されてしまう。

 

それを見た吹雪が以外な行動に出る。

なんと、艦隊から離別し、1隻のみで別の方向に舵を切った。

 

「吹雪!?」

 

「さあ深海棲艦……この私を狙いなさい!!」

 

空母棲鬼は吹雪を見ると、ユラリとその腕を吹雪に向ける。

 

艦隊を狙っていた艦載機の一部が、今度は吹雪に殺到する。

 

あと一撃でも喰らえば、文字通り海の藻屑となる中、吹雪は片門だけ残った主砲を空に向けながら海上を駆け巡る。

押し寄せる艦載機を物ともせずに吹雪は果敢に砲を放ち、攻撃を避け続ける。

 

この光景を見た空母棲鬼の表情が消える。

何故、大破状態の駆逐艦1隻沈められないのか。

空母棲鬼が苛立たし気に新たな艦載機を発艦させる。

 

「きゃあぁッ!」

 

吹雪が1発至近弾を受け、その衝撃で後方に吹き飛ぶ。

海面に叩きつけられる寸前、また那珂が吹雪をガシッと抱きとめる。

 

「那珂……さん……」

 

「吹雪ちゃん吹き飛んで倒れてばっかだね〜。あんまり無理しちゃダメ!後は那珂ちゃんに任せて!」

 

吹雪に肩を貸すと那珂は敵機を振り切る様に速度を上げる。

 

「吹雪ちゃんの作ってくれたチャンス……無駄にはしないよ!!」

 

キラリと、那珂の笑顔と上空が光り、敵機が火を噴いて海面へと落ちていく。

 

那珂と吹雪の隣をすり抜けていった戦闘機の尾翼に『601』の文字。

 

「ありがとう吹雪さん。お陰で何とかなりました……。

烈風六〇一、全機発艦ッ!!」

 

赤城がそう言って連続して矢を射る。ヒュヒュンと風を切り裂く矢が、六〇一航空隊の烈風となって敵機に突撃する。

 

ヌ級の艦載機があっという間に溶けて消える。

たとえ機体性能は烈風だろうが、その熟練度は海軍一と謳われた六〇一空。数量の差を微塵も感じさせない、そんな光景を見せつける。

 

空母棲鬼が憤怒の表情で艦載機を操る。

 

六〇一空の烈風の背後を取った敵の艦載機が機銃を撃つ。しかしその瞬間、機体を傾け、敵艦載機の下に潜り込むと、そのまま機体を一回転させ敵機の背後へと逆に回り込む。

 

空母棲鬼は赤城を睨む。赤城はそれを真っ直ぐに受け止める。

 

空母棲鬼は上空の艦載機を攻撃させようと指示を出す。しかしその前に頭上で何かが炸裂した。

 

それは細かな火の玉を空中に撒き散らし、それに貫かれた艦載機はあっけなく撃墜されていく。

 

「いかがデショウ?『三式対空榴弾』の威力は?」

 

金剛が余裕の表情でそう言う。金剛は通常の砲弾から三式弾に弾種切り替えをしていたのだった。

 

烈風六〇一空と金剛の三式弾による対空射撃で敵の艦載機の数がぐっと減った。

 

青葉はこの瞬間を逃すまいと艤装に取り付けられていたカタパルトを空に向ける。

 

「『零式水上観測機』お願いしますっ!」

 

青葉の観測機が上空を飛び回る。観測機は敵の位置を確認すると、その位置情報を青葉へと送る。

 

「索敵も砲撃も雷撃も!青葉にお任せっ!位置データを皆さんにリンクしますね〜!」

 

「ok!弾種、零式通常弾、全砲門、fireーー!!」

 

放たれた砲弾はうなりを上げてル級eliteへと突き刺さる。そして爆発、ル級eliteの片方の大楯のような砲塔を消し飛ばした。

 

かつて奄美基地で日向の行っていた『弾着観測射撃』を金剛は実践していたのだ。

 

『シズメェッ!!』

 

空母棲鬼がそう叫んで新たな艦載機を発艦させる。しかし、烈風と烈風六〇一空がそれを阻みそう易々と攻撃はさせない。

 

空母棲鬼が悔し気に歯をくいしばると同時、背後で爆音が轟いた。

 

振り向くとそこにいた筈の駆逐イ級がいなくなっている。代わりに見えるは2隻のCMS(艦娘)

 

「五連装酸素魚雷!いっちゃってぇーー!!」

 

「那珂ちゃんセンター!一番の見せ場ですっ!!」

 

2隻のCMS(艦娘)から大量の酸素魚雷がばら撒かれる。

 

無論、航跡(ウェーキ)は視認出来ない。

空母棲鬼はエネルギーフィールドを展開させる。魚雷が何本か命中し、大きな水柱が立つが、空母棲鬼自体はあまりダメージを受けていないようだった。

 

しかし防御の態勢を取ったが故に、一瞬だけ攻撃の手がやむ。

 

「勝機!」

 

赤城はこの一瞬の隙を見逃さない。即座に準備させておいた攻撃隊を発艦させる。

 

飛び出した機体は天山だが、その尾翼に『601』の文字。そう、烈風と同じく、六〇一航空隊の天山だ。

 

今回は制空優勢を取るために装備スロットの殆どを艦戦で埋めているため、赤城の持つ攻撃隊の数はたったの20機。

しかし、艦載機の練度が違う。

通常の艦載機とは明らかに飛び方が違う。

海面スレスレを飛び、必中の間合いまで距離を詰める。

 

空母棲鬼が声にもならない叫び声を上げる。恐怖を感じたのか、己を鼓舞するものなのか。

 

いずれにせよもう遅い。放たれた航空魚雷は吸い込まれるようにして空母棲鬼とル級eliteに命中する。

両者のエネルギーフィールドを突き破り、魚雷は炸裂する。

 

弾薬庫に誘爆したのか、黄昏時の空を赤く染め上げる程の爆発を起こしル級が爆散した。

 

空母棲鬼の方も紅蓮の炎に包まれ、黒煙を噴き上げている。

 

「………やりましたカ?」

 

金剛がそう呟く。

一同が固唾を飲んで見つめる中、紅蓮の炎がまるで意思を持ったかのように渦を巻き始めた。

 

 

『カッタト……オモッテイルノカ……?カワイイナアァ………!』

 

 

炎の渦の中心からその白い髪と紅い瞳をのぞかせてくる。

艤装らしきものは半壊しているが、自身の傷は全く無かったかの様に修復されていく。

 

「再起動ですと……!そんな深海棲艦……あり得るんですか!?」

 

「あの空母棲鬼しぶと過ぎぃーー!!」

 

青葉と島風が驚愕をあらわにする中、赤城は叫んだ。

 

「いえ……!あれは空母棲“鬼”じゃない……!『空母棲“姫”』……!!」

 

「パワーアップしたって事ですか……!?」

 

吹雪が肩で息をしながら驚いたようにそう言う。

 

空母棲姫は攻撃を仕掛けてくると思いきや、クルリと背を向けて宵闇の中へと消えていく。

 

「逃げるつもりなの?」

 

那珂が不思議そうに首をかしげる。

 

「アカギ、ここでアイツを逃がすのはマズイデース!時を空け、力をつけて戻って来たら厄介な事になりマース!」

 

「分かっています、しかし吹雪ちゃんのバイタルが……」

 

元々の大破状態に数発の至近弾を喰らい、浮かんでいるのが不思議なくらいボロボロになった吹雪を見る。

 

ルナに指示を仰ぎたくても、無線機はどうやら攻撃の際に壊れてしまい、通信が出来なかった。

 

「いえ、私は大丈夫です。追撃を、早く!」

 

「けれど……」

 

「赤城さんは早くあの空母棲姫を……加賀さんを助けてあげて下さい……!」

 

赤城は吹雪の言葉にしばらく硬直していたが、一度目を閉じ深呼吸、息を整える。

 

「追撃戦に突入します!艦隊、突撃!」

 

赤城は発信のみの無線で「我レ夜戦ニ突入ス」と短く電信を打つと、空母棲姫の背を追う。

 

(もう日が落ちかけている……今、艦載機を出せば未帰還機が続出するのは当然の事……だけれど、ここで叩かなければ……!)

 

完全に夜の帳が下りる前に、第二次攻撃隊を送り込む。その後は金剛たちに任せるしかない。

 

赤城がそう決断した時、オーンという音を響かせて何かが迫る。

 

「まさか……敵機!?」

 

「夜間戦闘機ですか!?夜でも発艦出来るなんて!!」

 

辺りを見回すが、宵闇で敵機を視認出来ない。

 

そうこうしてる間に辺りに巨大な水柱が乱立する。部隊は混乱状態に陥った。

 

そんな中、1発の爆弾が赤城の飛行甲板艤装に直撃する。

 

「あぁっ!!」

 

飛行甲板艤装に穴が開き、他の艤装に飛び火して火災が発生する。

 

「不味い……!ダメージコントロール、誘爆を防いで!」

 

応急修理システムを起動し、弾薬庫に素早く注水して誘爆を防ぐ。

しかし艤装の火災が容易に消えない。

 

夜戦時は夜の闇に紛れるために光は極力消すようにするのだが、そんな中、火災が起きれば格好の的である。

 

ドォン、ドォンと低い音を立て、艦隊の先の方で砲炎が煌めく。

 

(こうなれば……!)

 

赤城は艦隊に指示を出す。

 

「金剛さん!青葉さん!那珂さん!島風ちゃん!私に構わず空母棲姫に突撃を!

火災が起きている私が囮になりますから!」

 

「……っ!了解ネ!」

 

金剛は即座に、赤城の指示に従う他ない事に気付き、夜の闇に乗じて空母棲姫に突撃を掛ける。

 

しかし、敵艦載機が攻撃を仕掛けてくる為に思うように近付く事が出来ない。

 

「くそぅ!せめて明かりがあれば……!」

 

青葉がそううめきながら見えない敵機に向かって機銃を撃ちまくる。

 

「明かり……?あっ!そーいえば」

 

那珂が何かを思い出したかのようにそんな声を上げる。

 

「那珂ちゃん特製花火〜!どっかぁーん!!」

 

那珂が空母棲姫の上空目掛けて砲を放つ。

空母棲姫はどこを撃っているんだと、その砲撃を鼻で笑ったが、次の瞬間にその余裕は消え去った。

 

上空で眩い光が炸裂する。その光は消える事なく、その下の海を明るく照らしている。

 

「照明弾……!星弾(スターシェル)デスカ!コレはチャンスデース!

皆さん、ワタシの援護を頼むデス!」

 

「金剛!?何を!?」

 

金剛は機関全開に、高速戦艦の名に恥じないスピードで空母棲姫へと迫る。

 

(照明弾の炸裂を直に見たのなら!今、空母棲姫は目が眩んで見えない筈デース。そこを至近距離から撃ち抜く!)

 

遂に金剛が空母棲姫の前に躍り出る。

空母棲姫の目は金剛を見ていない。完全に目が眩んでいる。

 

金剛は空母棲姫の側面に回り込み、その身体に35.6cm連装砲を向ける。

 

「コレで終わりネ!!!」

 

砲を放つ瞬間、金剛の足元から、鮫の口のような空母棲姫の艤装が現れ、金剛に噛み付いた。

 

「くっ……何デスと……!」

 

空母棲姫がゆっくりと金剛の方を笑いながら振り向く。

 

(嵌められたのはワタシの方デスカ……!)

 

空母棲姫がその背中の砲を金剛に突きつける。

金剛がここまでかと目を閉じた時、風を切り裂き一筋の光が飛んできた。

 

その光は空母棲姫の腕に突き刺さる。

 

何事かと腕を見る空母棲姫。その腕には艦載機の矢が突き刺さっていた。

 

空母棲姫が矢の飛んで来た方向を睨む。

 

そこには赤城が矢をつがえて立っていた。

幾度もの爆撃に中破、いやそれ以上に損害を受けながら赤城は立っていた。

 

「艦載機は発艦できなくても、矢を射る事なら苦でもありません!」

 

ヒューンと矢が、空母棲姫目掛けて一直線に飛んでいく。

空母棲姫はその矢を難なく弾くが、トンと背中に何かが押し当てられる。

 

「油断大敵、火がボーボーデース。一瞬でも気を抜いちゃダメデスヨー?」

 

矢を受けて気がそれた一瞬のうちに、金剛は拘束を脱し背後に回ったのだろう。

 

「今度こそチェックメイトデス、空母棲姫。安らかに眠るといいネ!!」

 

金剛の砲が放たれ、空母棲姫の胴体に風穴を開けた。

 

空母棲姫はその場に崩れ落ちーー

 

 

『ウウゥゥヴァァァアアア!!!」

 

 

ーーずに、金剛に砲塔を突きつける。

 

「why!?」

 

『シズメェッ!!』

 

空母棲姫がゼロ距離で砲撃する。金剛はギリギリの所で粒子装甲防壁を展開する。が、衝撃までは防ぎきれずに、砲撃の勢いで吹っ飛ばされる。

 

10mは飛ばされようかというトコでようやく海面へと叩きつけられる。

 

「ぐっ………うぅ……」

 

「大丈夫ですか金剛さん!」

 

追いついた青葉たちが金剛に駆け寄る。空母棲姫はその紅い目を更に真っ赤にして金剛たちを睨んでいる。

胴体の撃ち抜かれたトコロからは黒い液体が絶え間なく流れ出ている。

 

「何ですかアイツ……胴体に穴が開いても生きてるなんて……!」

 

「不沈空母……!」

 

どう考えてもイレギュラー個体の範疇を超えている。青葉たちが戦慄する中、赤城だけが空母棲姫へと向かって進んでいた。

 

「赤城!危ないよ!」

 

島風の忠告を無視して、赤城は空母棲姫に向かって進んでいく。

 

「危ない訳がない……何故ならあの娘は、加賀さんなんだから……!」

 

空母棲姫が近付く赤城に気付いて、砲を乱射する。

赤城はそれを避けようとせずに真っ直ぐに進む。

1発の砲弾が脇腹を掠めて、臙脂(えんじ)色の袴を赤く染めても、止まらない。

 

『シズメ……シズメェッ!!』

 

鮫の口のような巨大な艤装が赤城の片脚に噛み付く。それでも赤城は止まらない。

 

空母棲姫の目の前。

 

『グウゥゥアアアァァ!!』

 

空母棲姫は叫び声を上げ、赤城に砲門を突きつける。

 

その時、

 

ふっと、赤城が空母棲姫を抱き締めた。

赤城はいつの間にか涙を流していた。

 

「ごめんね……痛かったよね……苦しかったよね……」

 

突然の出来事に空母棲姫も戸惑いを隠せない様子だった。だが、そこから抜け出そうともがき始める。

 

赤城は更に強くギュッと空母棲姫を抱き締めた。

 

「でも、もう大丈夫。私が一緒にいるから、もう……1人にさせないから……」

 

赤城自身も自分が何を言っているか分からなかった。分からなかったがそう言わねばならないと頭の中の何かが訴えていた。

 

赤城の一言に空母棲姫の目から戦いの色が消える。

 

『ナンドデモ……クリカエス……カワラナイ……カギリ……』

 

「いいえ、繰り返さないわ。私たちは過去の記憶を持つCMS。過去の過ちはもう繰り返さない。

だから安心して眠って……」

 

空母棲姫が赤城の顔を見る。硝煙や海水、涙やらでぐちゃぐちゃになっているものの、赤城は笑っていた。

 

その笑顔を見て、空母棲姫も一瞬、ふっと笑った。

 

『シズカナ…キモチニ…そうか、だから私は……』

 

空母棲姫はそう言って目を閉じた。

 

 

 

「さようなら……おやすみなさい、加賀さん……」

 

 

照明弾が海に落ち、辺りを暗闇と静寂が包み込む。

そんな中、赤城のしゃくり泣く声がいつまでも響いていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

長い夜が明けた。

 

水平線から太陽が顔を出す。トラック泊地の埠頭にはルナと、トラック泊地にいる全てのCMS(艦娘)が集まっていた。

 

「……帰ってきませんね」

 

香取が時計を見ながらそう呟く。

 

「いや、奄美部隊は戻ってくる。この長門が言うんだ、間違いない」

 

ルナはジッと水平線を見つめている。

敵の攻撃で無線機は破壊されてしまったようで、昨日の夕方あたりから通信が取れなくなっていた。

 

他のCMS(艦娘)たちもみんな手を握り水平線を見つめている。

 

その中、双眼鏡を覗いていた駆逐艦娘が「あーーーっ!」と声を上げる。

 

「か……帰って来ました!!奄美部隊です!」

 

「何人だ!?誰が帰って来た!?」

 

ルナも思わず立ち上がる。そしてその駆逐艦娘にそう怒鳴る。

 

「はい……えっと……那珂さんと青葉さん、それに金剛さんも見えます!」

 

「3人……だけか……」

 

「あっ、いえ!後ろに島風ちゃんと、背負われて吹雪ちゃんが!!

ああーーーっ!!赤城さんもその後ろに!

全員です!全員帰って来ました!!」

 

その瞬間、トラック泊地に「やったぁああ!!」という声が響きわたった。

 

歓声に包まれて奄美部隊が帰還する。

前衛支援艦隊で先に戻っていた天龍と龍田が、怪我を負った仲間たちに肩を貸す。

 

陸に上がり、一列にならんだ奄美部隊はビシッとルナの前で敬礼をした。

 

「奄美部隊、旗艦赤城、以下5隻、無事任務を遂行し、帰還しました!!」

 

再び埠頭が割れんばかりの拍手喝采に包まれる。

 

「君たち……よく無事で……」

 

「まぁ無事じゃないんですけどね」

 

青葉の揚げ足取りも今のルナには嬉しく感じられた。

そして思わず奄美部隊全員を抱き締めた。

 

「ちょっ……少尉!」

 

「wow!ショーイってば大胆デース!」

 

「あっ、いや、ごめん。つい……」

 

周りのCMS(艦娘)たちもアハハと声を上げて笑った。

 

「よぉし!今日は宴だ!敵本隊と攻略部隊の撃滅、作戦終了を祝って!!

費用は全て、横須賀と呉の提督につけるぞ!」

 

長門がそう言い、CMS(艦娘)がワーッと盛り上がる中、赤城だけが沈んだ顔をしていた。

 

「どうした、赤城?」

 

そこでルナも気付いた。赤城は何かを背負っている。

 

「赤城、それは……?」

 

「…………空母棲姫です」

 

赤城は事細かに事情を話した。

普通ならば、深海棲艦は撃沈される、つまり息絶えるとすぐに沈んでしまう為、回収することはほぼ不可能だった。

 

しかし、今回は赤城が空母棲姫を抱き締めていた為に、沈むことが無かったのだ。

 

「少尉、この娘は……この娘の最期は、艦船のように海に沈めて葬ってあげて下さい。お願いします」

 

「………分かった。自分から征原司令に伝えて置こう。

赤城も今はゆっくりと休んでくれ」

 

こうして、トラック泊地の命運を賭けた戦いは終結したのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………以上で報告を終わります」

 

「うむ、御苦労じゃった。ルナ君とCMSの皆には本当に苦しい戦いだったろうが、よくやってくれた」

 

トラック迎撃戦から数日後、奄美基地。

 

ルナと赤城は提督室で作戦の報告を行っていた。

 

「またこの働きに際して、中央の方からまた色々あるそうじゃ。また(タイガ)から何か言われたら呼ぶから、それまでは普段通りに過ごしてくれ」

 

「了解です」

 

ルナが敬礼をする中、隣に立っていた赤城は敬礼もせずに暗い表情で俯いている。

 

「こら、赤城。敬礼はしないと駄目だろう」

 

「……え、あっ!す、すみませんでした」

 

赤城は慌てて敬礼をする。その様子を見てトウが口を開く。

 

「例の空母棲姫かね?」

 

「…………はい」

 

「……中央や研究者たちが、あのような個体を海に葬る事は勿体無い、と言いおってな……

残念ながら、赤城の希望通りにはならなさそうじゃ。すまないのぅ……」

 

「……いえ、解っていた事です。問題ありません」

 

そうは言うものの、赤城の顔は暗く、声も酷く落ち込んでいた。

 

ルナがそれを見て自らトウに直談判しようと一歩前に踏み出した時、トウが手でそれを制した。

 

「とにかく!君たちの戦いぶりは正に鬼神の如しだと耳に挟んでおる。

そんな君たちにワシから1つプレゼントがある」

 

「「……プレゼント?」」

 

ルナと赤城が声を揃えて、そう訊き返す。

トウはニヤリと笑うと、部屋の扉に向かって「ライラくーん!」と呼び掛けた。

 

扉がガチャリと開いて、しかめっ面のライラが入ってくる。

 

「全くこのジジイめ。いつまで待たせておくつもりだったんだ」

 

(ライラ君、タイミングタイミング)

 

トウが小さな声でライラにそう言う。ライラはため息をつくと自らの後ろを手招きした。

 

カツンーーと、

 

足音を響かせ、誰かが入ってくる。

 

白い、赤城と同じような道着に、弓の胸当て、紺色の袴。

 

サッパリとしたショートカットの髪型。だが、一部をサイドテール風にしばっている。

 

その姿を見て、赤城とルナがフリーズする。

 

間違いない。その人物はCMS(艦娘)。それに2人はトラックで横須賀所属の同じ人物に出会っている。

 

そのCMS(艦娘)は前に進み出ると、綺麗な敬礼をルナにしーー

 

 

「航空母艦『加賀』です。あなたが私の指揮官なの?それなりに期待しているわ」

 

 

航空母艦『加賀』と、そう名乗った。

 

フリーズから立ち直ったルナがトウに食ってかかる。

 

「ど…どういう事ですか征原司令!?この加賀はどう見たって『空母棲姫』だ!!納得のいく説明をお願いします!!」

 

忘れる筈も無い。特徴的なサイドテールに、サラサラした髪の毛。それに事前に赤城が空母棲鬼の事を“加賀”だと言っていた。

 

「空母棲姫……?この少年指揮官は何を言っているのかしら?」

 

加賀はキョトンとしてルナを見る。

 

「ルナ君、この世には喋る事の出来ない事柄の方が多いのじゃよ。

………また時が来れば、いずれ話そう」

 

「で…ですが!あの娘は中央や研究者たちが回収したのでは無いのですか!?」

 

「ワシは『赤城の希望通り“には”ならなかった』と言っただけじゃ」

 

トウがまたしてもニヤリと笑い、ルナもそこで気付いた。

 

「まぁ、今はそんな事どうでもいいじゃろ」

 

赤城は目に涙を溜め、震える脚で加賀の方へ歩いていく。

 

「あなたが赤城さんですか……それにせよ、なぜ涙を?」

 

赤城はそれに答えるかわりに、加賀に飛びついた。

 

「加賀さん……逢いたかったよぅ……」

 

赤城は加賀の胸に顔をうずめてむせび泣く。

 

「ふむ……少女が涙ながらに飛びつく……アリじゃな」

 

「私はお前のような奴は提督業をクビになるべきだと思う」

 

「ワシが悪かったライラ君。だから物理的に首を斬るのはやめておくれ……」

 

一方の加賀の方は突然の出来事に状況が理解出来ていない様子だった。

 

「提督、少佐、少尉。これは一体……!?」

 

「まぁまぁ、暫くそっとしてやっとくれ」

 

「ふん」

 

「いいじゃないか加賀。赤城は今までずっと君を追っかけてきたんだから」

 

3人がそれぞれそう言うと、加賀はそっと赤城を抱き締めた。

 

しばしの抱擁の後、赤城が顔を上げる。その顔は涙で濡れていたが、笑顔を浮かべていた。

 

「加賀さん……おかえりなさい……!」

 

加賀は“あの時”の様に、しかし、あの時とは別の意でふっと笑う。

 

赤城のその言葉に、加賀は微笑みながら抱き締め返すのであった。

 

 

 

「ただいま、赤城さん」

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・改造

第一次改装はCMSの装備品(機関部艤装)などをその名の通り改造して性能をグレードアップする。

その際、今までの近代化改装は撤去されてしまうが、カタログスペック以上の能力を発揮出来るようになる。

 

・クラッシャブルシステム

粒子装甲防壁で弾ききれない、防ぎきれないダメージを受けた場合、そのダメージが生体に伝わる事を防ぐ為に代わりとして艤装や衣服にダメージを分散させるシステム。

これにより超過ダメージを受けても生体はそれ程のダメージを受けない。

代わりに艤装が破損したり、服が破ける。

 

トウ曰く「中破で服が破けるのは浪漫」

 

 

 

 

 

 

 




kaeru「この15冬イベ、実話です」
ルナ「は?」
kaeru「E4ボス前で吹雪が大破、にも関わらず進軍、吹雪は空母棲姫の攻撃を昼戦2回夜戦1回全て回避して、ゲージ破壊。
ドロップ艦は当時未所持の加賀でした」
ルナ「成る程……ってお前、大破進軍させたのか!?フザケンナ!!」
kaeru「だって時間と資源が……」
ルナ「言い訳は聞きたくねぇな!」
kaeru「大破進軍、ダメ、ゼッタイ。それでは次回もよろしく」


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ー幕間ー
memory24「計画準備」


タイトルからわかる通り伏線回です。
今回はあのジジイ視点!

それでは


 

 

memory24「計画準備」

 

 

とある日、

 

奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナは奄美大島要塞基地司令、征原トウに呼び出されていた。

 

「休暇……ですか?」

 

「そうじゃ」

 

ルナは一枚の紙を受け取る。ルナを含めた奄美のCMS(艦娘)たちの外出許可がズラリと書かれている。

 

「ちょいと急用が出来てしまっての?ワシはライラ君と共に佐世保の方へ行ってくる。

その間、この基地の中でCMSの資材管理をできる者が居なくなってしまうのじゃ。

なので、今日と明日の2日間。CMSの活動は、深海棲艦が来襲するなどして緊急出動する場合以外は全面停止する。

早い話、演習とか訓練しなくて良いぞ〜って事じゃの」

 

「は、はぁ……」

 

「事務仕事は上層部に任せる事になっておるので、ルナ君にはCMSたちの外出確認だけ行ってもらいたい」

 

「派遣艦隊のCMSたちには既にその旨は話してある。外出する時は貴様に伝える様に言っているから、しっかりチェックするんだ。分かったな?」

 

トウの横に立っていた中央派遣艦隊指揮のライラ・トイライン=ハムがルナに有無を言わさぬ口調でそう言った。

 

ルナは了解の意を伝えると提督室を出ていった。しばらく無言のトウとライラだったが、トウが一息ついてポツリと言う。

 

「……何とかなったようじゃの」

 

「……正直に『加賀の消費資材が多いから、演習を止めろ』と言えば良かったんじゃないか?」

 

先日のトラック泊地防衛戦後、奄美部隊に加わった新たなCMS(艦娘)、加賀。

 

彼女は過去、赤城と共に第一航空戦隊を担い、帝国海軍でも随一の航空母艦だった。

 

そんな一航戦の片翼はCMS(艦娘)となっても艦艇時代と同じように、赤城と共に日々の訓練に励んでいる。

 

「バカ者!ライラ君は、あんなに嬉しそうに訓練に励む加賀と赤城の顔を見た事は無いのか!

仲睦まじく2人で一緒にいる姿は眼福……じゃない、見た事は無いのか!

そんな……そんな2人に訓練をするなとか、しても良いがゴハンのおかわり禁止とか……。

そんな残酷な事、言える訳無いじゃろ!!」

 

そうなのだ。

 

加賀は赤城や奄美の皆に追いつこうと、足手まといにはなるまいと、誰よりも訓練や演習に打ち込んでいるのだ。

 

それに赤城や奄美の皆、ルナも賛同し、ここ最近は前にも増して訓練をし、派遣艦隊と演習をするなど、その努力と頑張りは素晴らしいものだった。

 

しかしそれに比例して増えるのが彼らの補給資材。

訓練をすればする程、燃料と弾薬は消費され、食べるゴハンの量は以前の数倍にもなる。

勢いを増して減っていく資材。

 

要するに供給量と消費量が釣り合っていなかったのだ。

 

このままの状況だと、基地のCMS(艦娘)用資材が底をついてしまう。

 

「……と、言うワケで佐世保に資材をせびりに行くぞい」

 

「本当にゲスいなジジイ」

 

「明日の資材にも困る今の状況で、なりふりなど構っていられるものか。

それに、あの(ふね)を見に行く良い機会じゃ」

 

トウは席を立ち、外出用の服を取り出しながらそう言った。

 

「修理、終わったのか?」

 

「いや、修理自体は3年前に終わっとる。去年にやっと改造が終わり、今は新武装を装備されとるとこじゃ」

 

「そうだったのか。ただの護衛艦にしては整備期間が長いと思ったら」

 

「まぁ一応、特級極秘事項じゃからの」

 

トウはそう言うと提督室を出る。ライラもその後に続く。

 

庁舎を出てこっそりとコテージを覗くと、ルナがCMS(艦娘)たちに向かって何かを話している。

大方、先程のトウの話を伝えているのだろう。

 

「ふっふっふ、後で驚くじゃろうなぁ。加賀の他にあと2隻増えると知ったら」

 

「派遣艦隊の編入はともかく、もう1隻は実験艦隊という名目の厄介払いだろ?」

 

「そんなこと言うでない。外国の記憶技術、楽しみじゃないか」

 

トウはそう言いつつ歩き出す。ライラはため息をつきながらあとに続く。

 

「で?どうせアイツらも連れてくんだろ?」

 

「分かってるじゃないかライラ君」

 

トウとライラは出撃ポートに向かう。

出撃ポートには整備主任が待ちくたびれたように待っていた。

 

「やぁやぁ提督殿、御機嫌麗しゅう」

 

「ヤメロ気持ち悪い。何でお主はいつもそうなんじゃ」

 

「そりゃ何年も整備士やってたら頭のネジの1本や2本外れるってもんよ」

 

「整備士なら頭も治さんかい!全く……」

 

整備主任はひとしきり笑った後、トウにこう訊ねた。

 

「それで提督、トイラインのお嬢さんまで連れて、オレに何か用かい?」

 

「オイ、ムスビ。トイラインと呼ぶな」

 

整備主任はライラの言葉を口笛を吹きながら聞き流す。

トウは額に青筋を浮かべたライラをなだめつつ整備主任の質問に答える。

 

「整備主任のお主なら分かってるじゃろうと思うが、基地の資材が底をつきそうなんでの。

ちょいと佐世保に資材をもらいに行くのじゃ」

 

「成る程成る程、そのついでに『とがくし』を見に行くって事かい」

 

トウは「さすがじゃの」と笑うと、停泊している多目的汎用護衛艦『はだれ』に向かう。

 

トウ、ライラ、整備主任は『はだれ』に乗り込む。暫くしてラッパの音色がポート内に響き渡り、一行を乗せた護衛艦は奄美を後にした。

 

3人が艦橋へ向かうと、そこには『はだれ』の乗組員の他にどこかで見たような顔ぶれが3人を待っていた。

 

「おう博士!久しぶりだな!」

 

「よっ。アレ、トイラインもいるじゃねーか」

 

「あら、遅かったのね」

 

「久しぶりじゃの。ツキタツ君、シナ君、ミツバ君」

 

トウ達を待っていたのは、『くだものツキタツ』の店主と『ウカノ食堂』の兄と呼ばれていた料理人、『タテガミ雑貨店』の女店主だった。

 

「オイコラ、シナ!トイラインと呼ぶな!」

 

「あん?何でだよ?十数年間そう呼んでたじゃねぇか」

 

シナと呼ばれたウカノ食堂の兄料理人がライラにそう言う。

ライラはその後も何か言っていたが、その内諦めた様に「勝手にしろ」と言ってそっぽを向いてしまった。

 

「ガッハッハ!いつまで経っても変わらないなぁ!」

 

ツキタツの親父は1人でガッハッハと大笑いしている。

 

「なんだいなんだい提督!特験隊(とっけんたい)の奴らみんな呼んでたのかい!

ってことはサンタは?」

 

「予想通り、てっぺんで見張りをしておるよ。レーダーがあるからやらなくて良いと言っておるのに」

 

「無駄ですよ征原博士。あの子は自分の目で見たモノしか信じないんですから」

 

どこか花魁風な女性、タテガミ雑貨店の女店主がトウにそう言った。トウはやれやれと首を振ると椅子にどっかりと腰掛けた。

 

「そういえばミツバ。何故アイツにあの刀を渡した!」

 

そっぽを向いて拗ねていたライラが思い出したようにタテガミ雑貨店の女店主に言い迫る。

 

ミツバと呼ばれた女店主は「あら?」と、とぼけた顔をする。

 

「持ち主に返して何が悪いのかしら?私は預かっていただけだもの」

 

「いやっ……!それもそうだが、よりによってあのヘンテコとは……」

 

「今も昔も気に入った様子だったわよ?そんなにアレならまた新しく造ってみてはいかが?」

 

ライラはぐぅぅと言い淀むとまたそっぽを向いてしまった。時折「コイツらといると私の調子が狂いっぱなしだ」とブツブツ言っている。

 

そんな雑談に花を咲かせつつ、数時間かけ佐世保に到着する。

朝に出港したにも関わらず、陽は既に傾きかけている。

 

「空で来た方が速いのじゃが……今回はしょうがないの」

 

『はだれ』から降りてきたトウがそう呟く。その後に続いて他の者たちも降りてくる。

 

すると埠頭には、濃い紫色の制服におかっぱのような髪型の女性がトウ達を待っていた。

 

「長旅お疲れ様でした、奄美司令」

 

「なんのなんの、出迎え御苦労、妙高。

アラン君は部屋かね?」

 

「はい。何やら忙しいとの事で……」

 

「構わんよ。突然来たのはワシらじゃからのぅ」

 

妙高に連れられ一同は佐世保鎮守府庁舎へと向かう。提督室の前まで来ると、何の躊躇もなしにドアをノックして中に入る。

 

「……自分の部屋の様に入ってこないで下さい」

 

「そんなカタイこと言わずに、のぅ?」

 

佐世保鎮守府提督、アラン・エイが大きなため息をついた。

 

「資材を持ってくならそれ相応の態度というモノがあるでしょう?」

 

「元科学者にそんなトンチキ通用せんな。それに資材は借りるだけじゃ。永遠に」

 

「これだから科学者は嫌いなんだ」

 

アランは引き出しから書類を取り出し、サラサラと何かを書いてトウに渡す。

 

「取り敢えず、燃料2万、弾薬2万、鋼材1万、ボーキサイト1万……渡せるのはこれが限度です。

タダでさえボーキサイトは手に入りづらいというのに……」

 

「迷惑かけるのぅ」

 

「解ってるなら来ないで下さい」

 

トウはその書類を(ふところ)にしまうと、部屋を出て行く。

 

「……本当に自分勝手で自己中な人だな」

 

残されたアランは、そう毒付くと書類仕事に戻るのであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「よし、アラン君から書類は貰ったから、資材の積み込みはライラ君と整備主任と艦の者に任せて、ワシらは地下ドックに行くぞい」

 

「……そういう理由で私を連れてきたのか」

 

「え!?オレもやるんかい!?」

 

「CMS方面に明るくて、指揮できる人物など奄美には君ぐらいしかいないからのぅ。

整備主任はそのサポートじゃ」

 

ライラは舌打ち混じりに書類を受け取ると、艦の方へ戻って行った。

整備主任もトボトボのその後をついて行く。

 

「……ありゃあ後で何か奢った方がいいぞ博士?」

 

「そうじゃな、結構拗ねてたのぅ。そんなにアレを見たかったのか。蛙の子は蛙、技術屋の娘もまた技術屋ということかね。

整備主任……もといムスビ君はその内嫌でも付きっ切りになるからいいじゃろ」

 

トウ、ツキタツの親父、ウカノ食堂の兄料理人、タテガミ雑貨店の女店主の4人は佐世保工廠へと向かい、そこからエレベーターを使って地下に降りる。

 

地下は様々なセキュリティが施されており、トウは手順を間違えないようにパスを入力し、迷路のような複雑な通路を通って、やっと大きな空間に辿り着く。

 

「おお……!」

 

「すげぇ……!」

 

ツキタツの親父とウカノ食堂の兄料理人が驚きの声を上げる。

 

巨大な空間には何隻かの艦艇があり、どれも何かしらの修理や改造を受けていた。

 

「ここが……佐世保の巨大地下ドック……!」

 

タテガミ雑貨店の女店主がそう呟く。トウを除く3人が地下ドックに見惚れていると、1人の女性と金髪オールバックの、この場に似つかわしく無い男性がやって来た。

 

「あれっ?征原さん?何でここに?」

 

「おぉ、ヨーコ君。突然スマンの」

 

「やぁジイさん。これまた急な」

 

「ヒノン君も元気そうで何よりじゃ」

 

その2人の姿を見て、ドックに見惚れていた3人が駆け寄ってくる。

 

「ヨーコさん、久しぶりだなぁ!」

 

「お久、ツキタツ、シナ、ミツバ。征原さんも、いつもウチの馬鹿弟どもがお世話になってます」

 

「いやいやお姉さん、俺らにゃ何にもお世話んなってないぜ。なんせ港町で店開いてるだけだからな」

 

ウカノ食堂の兄料理人が軽くそう言う。そこにヒノンと呼ばれた金髪オールバックの男性が近寄る。

 

「やぁやぁシナ君♪妹さん達の様子はどうだい?」

 

「帰れこのチャラ男!!テメェを妹たちにゃ近付かせねぇからな!!」

 

「あらやだ、大声でシスコン宣言してるわ」

 

「変わってないのね、シナ……」

 

少し離れた所でタテガミ雑貨店の女店主とヨーコと呼ばれた女性が冷めた目でその2人を見ている。

 

「ヒノン君、シナ君の妹達はまたも美に磨きがかかったぞ?」

 

「マジっすか征原提督!?」

 

「口を挟むんじゃねぇこのエロジジイがッ!!」

 

「あらやだ、征原博士のエロスイッチが入っちゃったわ」

 

「征原さんはもうダメね」

 

タテガミ雑貨店の女店主とヨーコと呼ばれた女性は、会話に参加したトウをさらに冷たい目で見ている。

 

「そうはいうがなヨーコ君よ。男が女に惹かれるのは太古の昔からの記憶の名残……つまり運命、いやむしろ使命じゃ!

神話を読み解いてもそうじゃ。例えばな……」

 

「そういえばMW技術を使った新歩兵武器のテストがまだだったなぁ……」

 

「ヨーコ君、『とがくし』に案内してくれ」

 

トウはとても真面目な顔になり、威厳のある声でそう言った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「何だこいつは……まるで新造艦じゃないか!」

 

ウカノ食堂の兄料理人がそんな驚きの声を上げる。

 

「まぁ殆んど作り直したからねー」

 

隣をヨーコと呼ばれた女性が通り過ぎながら言う。

 

「今、極荷電粒子用の加速器(アクセラレータ)を取り付けてるトコ。これが終われば奄美に回航出来るわ」

 

「あとどれくらいなんだ?」

 

「今月中にはそっちに回すわ」

 

「……さすが奴の娘なだけあるのぅ。全体的な予定より半年も早い。何故ナギサの子供らはこんなに優秀なのかのぅ?」

 

「やだなぁ〜照れるじゃないですか」

 

「優秀なのを否定しない辺り、ナギサにそっくりじゃ」

 

トウがそう言い終わるかの内に、ヨーコと呼ばれた女性は、目にも留まらぬ速さでトウに正拳突きを叩き込んだ。

 

トウが「がほっ……!」と呻き、白目をむいてその場に倒れた。

 

「あっ……!つい」

 

トウは何も答えない。どうやら気絶したようだ。

 

「『とがくし』……また俺らはコイツに乗るのかね」

 

「今の状況じゃどうかしらねぇ。ま、そうなってもあたしには断る理由がないわね」

 

「それもそうだな」

 

女店主とツキタツの親父がそう話す中、金髪オールバックの男性はしゃがみ込んでトウを突っついていた。

 

「あちゃー、これ完全に気絶してんじゃん。何ちゅうパンチを出してるんだよヨーコの姉さん」

 

「いやーついカッとなってね」

 

「さすが脳筋」

 

恐るべき速さでその金髪の頭に回し蹴りが迫る。金髪オールバックの男性は上体を反らし、バク転の要領でその殺人級の蹴りをかわす。

 

「よけんなッ!」

 

「当たったら死ぬだろ!?」

 

「じゃあ脳筋とか言うなッ!」

 

「つい好奇心がな」

 

すると、金髪オールバックの男性の腕時計の様なデバイスがブーブーと震えた。

 

「おっと通信か」

 

「タイガか。そういえばワシ、少し話したい事があったんじゃ」

 

「げっ、征原提督。復活早っ!?」

 

「伊達に毎日ライラ君に殺されかけておらんわい。ちっと貸してくれるか?」

 

呆れ顔で金髪男性はデバイスをトウに渡す。

 

『ヒノンか?』

 

「ワシじゃ」

 

『……なぜ征原、お前が応答してるんだ』

 

「丁度、ヒノン君と一緒におってな?」

 

『……で?何を言いたいんだ?』

 

「話が早くて助かる。資材の供給をちと増やしてくれるか?」

 

『どうせ何を言っても無駄なんだろ』

 

「分かっとるじゃないか」

 

『あまり高望みするなよ。この時勢だ、いつ資源地が深海棲艦に襲われるかも分からん』

 

「助かる。それじゃあこちらからも一言、『とがくし』は今月中に奄美に回航する」

 

『予定より大分早いな。ナギサの娘がやったのか。さすがだな……というくだりはもうやったんだろ?』

 

「またパンチの威力が上がっとるわい。そっちの道に行かせた方が良かったと後悔してるとこじゃ」

 

『ふっ……ヒノンに代わってくれ』

 

トウはデバイスを金髪男性に返す。二言三言返答すると、ヒノンと呼ばれた金髪男性は通信を切った。

 

「用事が出来たから俺行くわ。じゃあな特験隊の諸君、ヨーコの姉さん、あとジイさん!達者でなぁ!」

 

金髪オールバックの男性はそう言い残すと風の様に去って行った。

 

「ワシはオマケか……まあ良い、ワシらもそろそろ上に戻るか」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ヨーコと呼ばれた女性は『とがくし』の整備の為に地下ドックに残り、トウたち4人は地上に戻って来る。

 

陽は完全に傾き、空には暗雲が広がっている。

 

「天気……崩れそうねぇ」

 

「うむ、これは船を出すのは待った方が良いかもしれんの」

 

「確かに、荒れそうだな」

 

「くっ……まさか……こんな事になるなら食堂閉めて来るべきだったなぁ」

 

4人がそう言って話していると、ポツポツと雨が降ってきた。4人は急いで佐世保鎮守府庁舎に戻るのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その夜、日本防衛軍統括組織『中央』

 

総司令の瀬織津タイガは、椅子に座って物思いにふけっていた。

 

正直、雨と風がうるさくて何も考えてはいないのだが、それでもジッと腕を組んで座っていた。

 

「『方舟計画』は順調な様だな……」

 

おもむろにタイガは1枚の写真を取り出す。

トウも持っていた、3人の白衣を着た人が写っている写真だ。

 

「あの時は俺も征原もナギサも若かった……」

 

しみじみとそう呟く。写真に写っている3人の顔は、自信に満ち溢れている。

 

「今の俺は……昔のように堂々としているだろうか……?」

 

目を閉じ、しばし考えるが、考えるにも値しないと思い、フッと笑った。

 

「自らの過ちは自ら正す。それだけだ」

 

タイガが写真をしまうと同時、窓の外がピカッと光って、部屋の電気が消えた。

 

「珍しいな、停電か」

 

部屋の中が暗闇に包まれる。突然暗くなったので、目が闇に慣れてなく、周りは見えない。

 

そんな中、一陣の風が吹いた。

 

「……誰だ」

 

タイガは立ち上がり身構える。

 

周りは見えない。ドアを開ける音もしなかったが、何かがタイガの前に立っていた。

 

「おやおやぁ、バレちゃったか」

 

暗闇からおどけた声が聞こえる。その声にタイガは顔を歪めた。

自分の声を聞いているかのような声色。

 

「……誰だと訊いている」

 

「酷いなぁ……お前なら声で解ると思ったんだけどなぁ」

 

「貴様……やはり……」

 

「あ、やっぱり解ってたんじゃないか!まぁ忘れる訳が無いよねぇ」

 

「……何しに来た?」

 

「いやいや、その質問はおかしいでしょ!賢いお前なら全て解ってるハズだろ?何故ならお前だからさ!」

 

未だ姿は見えないが、その人物はトンチンカンな事をいいながら笑っている様子だった。

 

「……警備の者はどうした?」

 

「警備?え、警備!?アレで警備してるつもりなの?ただ突っ立ってただけじゃんあいつら。あぁ、怒るなって、大丈夫、何もしてない。僕は堂々とここまでやって来たぞ?」

 

タイガは表情を変えずに、かつ気付かれないようにポケットから何かを取り出す。

 

「まぁ世間話もここまでにして……。

タイガ、お前を殺す」

 

「……まるで悪役の様なセリフだな」

 

「悪役?とんでもない!僕はヒーローさ!地球を救う英雄になるのさ」

 

その人物は笑いながら語る。

 

「いやぁでもさすがお前だよ。普通にやっちゃあ、日本の土を踏む事すら出来なかったからね。アッパレだよ!

だからワザワザ新型を用意して南方に攻め込んだのに、その新型はお前たちに取られちゃったしさ」

 

「人聞きの悪い事を。記憶の浄化中、あの個体のメモリーからはN型の記憶兵器のデータがあった。

解析したところ、それはまだCMSを実戦投入し始めた時に行方不明になっていた 101007001……一番最初に開発した『加賀』のデータだった」

 

「なんだよなんだよ、まるで僕が奪ったみたいな物言いじゃないか。最初に奪ったのはそっちだろ?

まぁお前たちに取られちゃって、お前がそれに熱中してたお陰で、僕はお前の監視の目を盗んでここまで来れたんだけどね」

 

「……トラック空襲は監視を減らすための罠だったのか」

 

「その通り!さすがだね!」

 

「何故こんな回りくどい事を」

 

「ん?いやぁ、僕は賢いからさ。

お前たちが“何を隠し持ってる”か分からないからね?」

 

タイガは額に脂汗をにじませる。やはりコイツは感づいている。

 

「冥土の土産にいい事を教えてあげよう。

もしも、例えばの話だ。

お前たちの希望とやら……えーと艦娘とか言ったか?その強い奴が全員日本を離れて、その主力がいない隙に本土が攻撃されたら?」

 

「何を言っている。そんな事する訳無いだろ。最低1つの鎮守府は本土防衛に当たるのだからな」

 

「例えばって言ってんだろ?テキトーに聴き流してろよ。

まぁでも?総司令であるお前がそう言って実行しちまえば反論は出ないだろ?

それにだな……お前らの艦娘って過去の艦艇のデータを記憶として持ってんだろ?

そうだな……アリューシャン列島とミッドウェー諸島辺りにこちらから攻撃を仕掛けると言えば?

艦娘たちは……どうだろうな?」

 

「貴様、まさか……!」

 

「お?やっと分かったか。賢いお前にしちゃあ、ちょっと遅かったな」

 

タイガの脇腹辺りに鈍痛が響く。

撃たれた、と頭が理解したときには床に倒れ伏していた。

 

「…………」

 

「あれ?死んじゃったか?」

 

その人物が倒れたタイガの首筋に手を当てる。

 

「あちゃー、情報を聞き出したりしたかったんだけどなぁ。暗かったし、しょうがないか……ともあれ……」

 

その人物は両手を広げて、天に示すように高らかに言った。

 

「今から僕が総司令、タイガだ」

 

雷が落ちる。その光に一瞬だけ照らされたその顔は、床に倒れて動かないタイガその者だった。

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

《今までの登場人物》〜人間編〜

 

(さかえ)ルナ

記憶喪失により過去の記憶の一切を憶えていない、見た目青年の少尉。

現在は奄美基地で奄美CMS特別部隊指揮官として日々を過ごしている。

 

征原(ゆきはら)トウ

奄美基地の司令。温厚な性格で、年寄りらしく普段は提督室でのほほんとしている。

セクハラ発言をしてはライラに殺されかけている。

 

・ライラ・トイライン=ハム

奄美基地の中央派遣艦隊の指揮官。トウに代わり基地の細かな業務の全てを仕切っていたりする。

MW技術に関しての何かで博士号を持っているらしい。

 

・整備主任

奄美の整備士たちのリーダー。CMS(艦娘)の艤装のメンテナンスも出来る。

どことなく江戸前口調。

一部の者から『ムスビ』と呼ばれているが……?

 

・見張り員

奄美の見張り員。目がとても良く、自分で見たものしか信じないらしい。

そのせいか、ルナと出会った時、彼を怒らせている。

港町に知人が多いらしいが……?

 

・くだものツキタツの親父

港町で果物屋を営む親父。威勢が良く、豪快に笑う。

トウやライラと知り合いらしいが……?

 

・ウカノ食堂の三兄妹

港町で食堂を営む三兄妹。ツキタツの親父のせいで商売上がったりの様子。

トウやライラと知り合いらしいが……?

 

・タテガミ雑貨店の女店主

港町で雑貨屋を営む女性。裏では基地公認の武器を卸す仕事をしている。一部の者から『ミツバ』と呼ばれている。

トウやライラと知り合いらしいが……?

 

・金髪オールバックの案内人

呉鎮守府会議の時に案内人をしていた男性。

腕時計型のデバイスを愛用している。

トウやタイガと知り合いらしいが……?

 

・アラン・エイ

佐世保鎮守府司令。トウの自己中心的行動に頭を悩ませている。

 

須賀(すが)テンジ

横須賀鎮守府司令。あっけからんとした性格で、少しふざけた様子。

 

八幡(やはた)タカ

呉鎮守府司令。口数が少なく、とても真面目。

 

立橋(たてはし)アメノ

舞鶴鎮守府司令。五大鎮守府の中では唯一の女性提督。物腰柔らか。

 

・ユーカラ・コタン・カロ

大湊鎮守府司令。試される大地方面一帯を守る。名前は普段「ユカル・カロ」と略している。

 

瀬織津(せおりつ)タイガ

日本防衛軍統括組織『中央』の司令。皆から総司令と呼ばれている。

トウとは腐れ縁らしい。

 

 

 

 




ルナ「自分の出番が少ない……」
kaeru「次回は艦娘回だから」
ルナ「次回、レッツパーティ」


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memory25「歓迎パーティ」

日常回です。
そういえば先日、艦これ劇場版を観に行ったのですが、アニメ加賀さんと自分の小説加賀さんの設定が殆ど同じで戦慄しました。

一応弁明すると、パクリではありません(^^;;
というより、こっちの方が早いもん!!
という幼稚な言い訳であります。公式にやられるなんて誰が予想出来たでしょうか(^^;;

それでは!


 

 

memory25「歓迎パーティ」

 

 

トウとライラが佐世保に向かっている頃。

 

奄美基地、

 

「ーーとな訳で、今日明日の2日間は休みだそうだ」

 

ルナはコテージに集まった奄美のCMS(艦娘)達にトウに言われた事を伝えた。

 

「それは言外に訓練をするな、と言われている様なものではありませんか。

一体提督は何を考えているのですか」

 

そう言ったのは、奄美部隊に新たに加わった空母艦娘の加賀だ。

 

彼女はかつて、赤城とともに第一航空戦隊の中核を担っていた。

それはCMS(艦娘)になった現在でも変わらず、奄美の他のCMS(艦娘)たちに遅れを取らないよう、絶えず訓練に励んでいた。

 

「確かに、正にこれからという時にCMS全員に休暇とは……なんだか複雑な気分ですね」

 

加賀の隣に座っていた赤城が苦笑いをしながらそう言う。

 

「まぁまぁそう言わず、ここ最近皆さん訓練しっぱなしだったんですから、骨休みといきましょうよ」

 

「確かに、この休暇はテイトクの命令なんですから断れマセンネ」

 

青葉の言葉に金剛がそう相槌を打つ。そして、各々が2日間の休暇をどう過ごそうか話し始めた時、吹雪が勢いよく手を挙げた。

 

「じゃあ、今日は加賀さんの歓迎会をしませんか?着任してからゆっくり話す機会もありませんでしたし」

 

吹雪の提案に一同は一瞬キョトンとしたものの、全員が手を叩いて口々に「それは良い」と言った。

 

「確かに、加賀が来てから皆で演習か訓練しかしてなかったから、ゆっくりする時が無かったわね〜。私は賛成よ」

 

「龍田がそう言うんだったら、俺も異論はねぇよ」

 

龍田がニコニコとしながら、天龍は手をヒラヒラと振ってそう答える。

 

「パーティするんだよね!だったら早く準備しよっ!」

 

島風は既に席を立ちピョンピョンと飛び跳ね回っている。

 

「それじゃあ、今日は加賀の歓迎パーティをやるぞ!君たち、盛大にやるぞ!」

 

ルナが拳を突き上げると、CMS(艦娘)たちも「おーっ!!」と声を揃えてそれにならった。

1人、加賀だけが恥ずかし気に顔を赤らめていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そうと決まれば、準備が早いのが奄美部隊の良い所。

 

天龍、龍田、金剛は港町に食材を買いに行き、赤城は加賀を連れて港町を散策しに行った。

 

残った吹雪、島風、ルナは会場のコテージの飾り付けを担当した。

 

青葉は新聞のネタにする為、その様子を写真に収めていた。

 

「青葉さん、少しは手伝って下さいよ〜」

 

「いや、私は思い出の保存という大事な仕事を請け負っていますので」

 

吹雪がムスッと困った顔をする。青葉はそんな吹雪もカメラで撮っていた。

 

「ねぇねぇ青葉、島風も撮ってよ!」

 

「いいですよー。ハイこっち向いて〜、チーズ!」

 

島風がカメラの前でポーズをとって、青葉はそれをパシャパシャと撮っていく。

吹雪の「島風ちゃんまで〜!」という声は当の本人には聞こえていないようだ。

 

「いいじゃないか吹雪、楽しくやろうよ」

 

「……分かりました少尉」

 

「吹雪は真面目だなぁ」

 

ルナと吹雪が壁に紙で作った花を貼っていると、コテージの扉がバンッと開け放たれた。

 

「たのもーー!!」

 

そう言って現れたのは、橙色の制服に、お団子の様に髪をまとめたCMS(艦娘)

 

「君は……軽巡那珂!?」

 

「あーっ!少尉のお兄さん、久しぶり!」

 

突然やって来たのは、トラック迎撃戦の時に奄美部隊に協力してくれた、トラックに派遣されていた中央派遣艦隊の川内型軽巡洋艦3番艦『那珂』だった。

 

「どうして那珂がここに……?

 

「あれ?ここの提督に聞いてないのかな?はいこれ辞令」

 

那珂は(ふところ)から1枚の紙を取り出してルナに渡す。

その紙にはこう書かれていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日本防衛軍統括組織中央検

 

 

戦闘バイオロイド型記憶兵装保存媒体

NーⅠ型000048003

 

貴艦の派遣先をトラック泊地から奄美要塞基地へと変更するものとす。

また、派遣後は同基地所属部隊、奄美CMS特別部隊指揮官、栄ルナ少尉の下で独国のCMSとともにより一層の鍛錬に励むべし

 

 

日本国海軍部

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

書かれている内容を読み終えたルナは那珂を見返す。

 

「征原司令にはこんな事一切聞かされて無いんだけど……要するに君が奄美部隊に加わるって事でいいんかな?」

 

「いいんじゃないですか?あとあの娘もね」

 

那珂が背後を指差す。ルナがその方を見ると、色白の肌に特殊な服装のCMS(艦娘)が少し隠れてこちらを見ていた。

 

「In Ordnung……?」

 

「君は確か、ドイツのUボートの……」

 

トラック迎撃戦時に救出した、ドイツ海軍の潜水艦娘『Uー511』がひょこひょことこちらにやって来た。

 

「お久しぶりです……ユーもお世話になります。よろしくお願いします」

 

Uー511はピシッと敬礼をする。那珂の持ってきた紙を改めて見返すと『独国のCMSとともに』と書かれているので、彼女も奄美部隊に加わるのだろう。

 

「……これは征原司令が帰ってきたら事情を訊かなくちゃな。

ともかくよろしく、那珂、Uー511」

 

2隻はもう一度ルナに敬礼をする。

 

「それで……今は何を?」

 

Uー511が首を傾げてそう訊ねる。確かに、訓練もせずにコテージを飾り付けていたらそうなるのも頷ける。

 

「実は今日明日は緊急以外、出撃禁止なのさ。だから、今日はパーティをやろうと思ってね」

 

「え!本当!じゃあ那珂ちゃんはライブの準備するね!」

 

「ユーもお手伝いします」

 

那珂はコテージを飛び出ていき、Uー511は荷物を部屋の隅に置くと「何をすれば良いですか?」と聞いてきたので、吹雪を呼んで手伝うように指示した。

 

そうこうしていると、再びコテージの扉が開き、派遣艦隊の伊勢と日向が現れた。

 

「あれ?何か面白そうな事してるじゃない!」

 

「伊勢、少尉の前だぞ」

 

「伊勢と日向じゃないか。外出の届けかな?」

 

「その通りだが、栄少尉は何をやっているんだ?」

 

日向が不思議そうにルナの後ろを見ているので、ルナはカクカクシカジカと説明した。

 

「いいわね、それ。私たちも参加しちゃダメ?」

 

伊勢が顔を輝かせて身を乗り出す。ルナは苦笑いしながらも「もちろん」と答える。

 

「私たちって……勝手に巻き込むな」

 

「えー?日向は参加したくないの?」

 

「そういう訳じゃない」

 

「じゃあ決定!予定変更よ日向。町に色々買いにいくわよ!」

 

伊勢は日向の腕を引っ張ってコテージを出ていく。ルナはその背中に「夕方までには来てくれよー!」と声を掛ける。

 

吹雪、Uー511のおかげで(島風は遊んでいて、青葉は写真を撮りまくっていた)午後には飾り付けは終了した。

 

「只今戻りました」

 

そこにちょうど赤城と加賀が帰ってくる。両手には袋一杯に食材を持っている。

 

「おかえり赤城、加賀。港町はどうだった?」

 

「驚きました。深海棲艦に攻撃を受け、シーレーンは断絶もいいところなのに、あれ程の賑わいがあるとは思っていませんでした」

 

加賀がいつものすました顔で、ルナにそう報告する。楽しんで貰えたようなので、買ってきてもらった食材で料理を作る事にした。

 

「少尉は料理出来るのですか?」

 

「出来ると思うか?」

 

「取り敢えずキャベツを切るのに刀は要りませんよね?」

 

ルナはコホンと咳払いをしてヘンテコ面白刀を鞘に収めた。

 

「赤城は料理出来ないのか?」

 

「出来ると思いますか?」

 

「ひとまずキャベツに旨塩タレをかけてそのまま食べるのはやめてくれ」

 

赤城はムスッとすると、包丁でキャベツをざく切りにするとボウルに入れて食べ始めた。

そのまま食べるのはやめてくれと言ったが……違う、そうじゃない。

 

「赤城さんは食べ専なのよ」

 

「食べ専って何だよ!オイ加賀、お前まで食べ始めるんじゃない!」

 

コテージのキッチンはたちまち大騒ぎとなる。

後ろで見ていた吹雪がため息をつく。

 

「あれ、何やってるんですか赤城さん、加賀さん」

 

「わぁ、凄いね!」

 

コテージに派遣艦隊の蒼龍と飛龍がやってくる。港町から基地に帰ってきたところだろう。

 

「料理を作っていたところです」

 

「料理って……その塩キャベツですか?」

 

これ幸いとばかりに、吹雪は蒼龍と飛龍に事の顛末を話して聞かせる。

 

「成る程ねぇ、みんな料理出来ないんだ」

 

「蒼龍さんは出来るんですか?」

 

「ま、多少はね?レパートリーは少ないけど」

 

「豪華なのを作ろうとしないで、作れるものを作れば良いのよ」

 

蒼龍と飛龍がうんうんと頷いてそう言う。今の状況だと、夜のパーティに料理が並ぶかすら分からないので、吹雪は飛龍と蒼龍に料理を作ってもらえるようお願いする。

 

「もちろん良いわよ!これだけ材料があれば、何かは作れるでしょ!」

 

「飛龍は大雑把ねぇ……じゃあ私はお酒のツマミでも作ろうかな?」

 

「じゃあ焼き鳥にしない?皮・かわ・カワ!!」

 

「赤城さんと加賀さんがあれじゃあしょうがないね。料理の第二次攻撃隊、攻撃開始!」

 

蒼龍と飛龍がキッチンで玉ねぎと格闘しているルナを押しのけ、料理を始める。

 

「やれやれ……料理は難しいね」

 

「私に言われても……私だってカレーぐらいは作れますから」

 

吹雪がそう言ったので、ルナは吹雪にカレーを作ってもらう事にした。

吹雪は「パーティにカレーって……?」と疑問を抱いていたがそんな事知ったこっちゃない。

 

美味しいものが机に並べば何でも良いのだ。

 

そこに買い出しから戻った天龍、龍田、金剛がコテージに戻ってきた。

 

「oh!いつの間にか大所帯デース!」

 

「あら〜?もう料理作ってるの?」

 

「何だよ、赤城たちも買ってきてたのかよ。俺らの意味無くないか?」

 

「違うわ天龍、これは私と赤城さんの分」

 

加賀がしれっととんでもない事を言う。それに呆れたように3隻は首を振る。

 

「そうだチビ助、お前基地中にこの事広まってるぞ。どうしたら参加自由の御馳走パーティになるんだ」

 

「五十鈴が駆逐隊を連れて来るって言ってたわ〜」

 

「こっちが訊きたいわッ!!どうしたらそんな事になるんだッ!!」

 

食材は沢山あるから足りなくなる事は無いだろうと思うが……。

そこまで考えてルナは青葉の方を振り向いた。

 

「………お前か」

 

「いやぁ〜大勢の方がいいと思いまして」

 

ルナはヘンテコ面白刀を鞘から抜かずに腰から取ると、青葉に向けて振りかぶる。

 

「わあぁぁあ!ストップストップ!お詫びに私が料理作ってきますからぁ!!」

 

「……作れるのかお前?」

 

「任せて下さい。では、アディオース!」

 

青葉は食材を持ってくとコテージを出て行き、それと入れ替わりに五十鈴がやってきた。

 

「やぁ天龍、龍田。手伝いに来たわよ。駆逐隊単位でね」

 

「おう五十鈴、それは心強いな」

 

目まぐるしく変わる展開に自棄(やけ)になったルナは、お手上げのポーズを取ると、ヘンテコ面白刀でキャベツを半分に一刀両断すると、赤城、加賀とともに旨塩タレをかけて食べだした。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

そして夜、

 

コテージには沢山のCMS(艦娘)が、というよりほとんどのCMS(艦娘)が集まっていた。

 

その為、ルナの倉庫部屋にあった折りたたみ式の机を外に並べるという事態に陥った。

 

机の上に様々な料理が並べられていく。

途中で手伝いにきた派遣艦隊のCMS(艦娘)たちが、自分の得意料理をそれぞれ作ってくれたので、当初予想してた以上に豪勢なパーティとなった。

 

「……にしても青葉。お前これ自分で作ってないだろ」

 

「何をおっしゃる。どこにそんな証拠が」

 

「第二演習場のトコの居酒屋の女将にでも頼み込んだんだろ?」

 

「な……んだと……!?何故それを……!?」

 

ルナはそれには答えずに、机の上のふろふき大根に手を伸ばす。

その後、ルナは全員の前に出る。

 

「よぉし全員注目!奄美にやってきた新しい仲間を紹介するからなー!ちゃんと聴いてろよー!これが目的なんだからなー!」

 

ルナの隣にいたCMS(艦娘)3隻が自己紹介をする。

 

「DーⅠ型CMS、航空母艦『加賀』です。赤城さんと共に、栄光の第一航空戦隊、その主力を担えるよう、これからも努力を怠るつもりはありません。宜しくお願いします」

 

「艦隊のアイドル!那珂ちゃんだよー!みんなよっろしくぅ!この後も那珂ちゃんのライブをやるから、みんな盛り上がっていってねー!」

 

「ドイツの潜水艦、Uー511です……ユーとお呼び下さい。慣れない事ばかりで迷惑を掛けるかもしれませんが……

宜しくお願いします」

 

3隻がそう自己紹介すると、集まったCMS(艦娘)達から歓声と拍手が巻き起こった。

 

「それじゃあ改めて、みんなあまりハメ外さないようにな。

奄美の新たな仲間に、乾杯!」

 

その場にいた全員が声を揃えて乾杯とコップを頭上に掲げる。

 

このどんちゃん騒ぎは、その日の夜中まで続いたのであった。

 

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

《今までの登場人物》〜艦娘編〜

 

・吹雪

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《吹雪型駆逐艦一番艦

とても真面目な性格で、最近は実戦でも戦果を上げている。

第一次改装を受けており、スペックはN型の吹雪よりも高いものとなっている。

 

・天龍

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《天龍型軽巡洋艦一番艦

性格は以前と変わらないが、ルナの言う事をしっかりと聞くようになり、訓練にも積極的に参加している。

深海棲艦との戦闘においても、天龍らしい近距離戦を得意としている。

 

・龍田

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《天龍型軽巡洋艦二番艦

おっとりとした性格で、よく天龍と行動を共にしている。

天龍と同じく。対深海棲艦用近接モジュールを常備、愛用している。

 

・青葉

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《青葉型重巡洋艦一番艦

奄美部隊のムードメーカー的存在。『青葉新聞』と称する基地内新聞を独自に発行している。

回避運動が得意で、ルナから逃げ回るなどの日常生活にもそれらは表れている。

 

・金剛

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《金剛型戦艦一番艦

明るい性格で、よくコテージで紅茶を飲んでいる。

戦艦という立場からか、奄美部隊内では頼れるお姉さんとして皆に慕われている。

 

・赤城

MW《EーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《赤城型航空母艦

優しい性格だが、自分には厳しく、日々弓道場で鍛錬を重ねている。

そのしっかりとした様子から、艦隊旗艦を任される事も多い。

 

・伊勢

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000003001

モデルデータ《伊勢型戦艦一番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。楽天的な性格で姉妹艦である日向をよく怒らす。

第一次改装済で航空戦艦になっているが、本人は艦載機よりも砲撃を重視している。

 

・日向

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000004001

モデルデータ《伊勢型戦艦二番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。物静かだが、姉妹艦である伊勢に対しては容赦ない。

第一次改装済で航空戦艦になっていて、艦載機を使った空との立体攻撃を重視している。

 

・蒼龍

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000008001

モデルデータ《蒼龍型航空母艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。飛龍と共に第二航空戦隊として活躍している。

勢い余って前に出すぎる飛龍をいつも心配している。

 

・飛龍

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000009001

モデルデータ《飛龍型航空母艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。蒼龍と共に第二航空戦隊として活躍している。

攻撃は先手必勝を考えており、まれに蒼龍と意見が対立する事がある。

 

・五十鈴

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000043001

モデルデータ《長良型軽巡洋艦二番艦

奄美派遣艦隊のCMS(艦娘)。普段は駆逐隊を引き連れて、哨戒任務や輸送護衛などを行っている。

 

・吹雪(舞鶴)

MW《NーⅠ型CMS

型番《 402011001

舞鶴所属の吹雪。呉鎮守府会議時にルナ達と出会い、ルナ達を驚かせた。

 

・島風

MW《NーⅢ型CMS

型番《 330010001

モデルデータ《島風型駆逐艦

トラック迎撃戦直前に奄美部隊に加わったCMS(艦娘)

通常型では最新の『NーⅢ型』のCMSで、基礎スペックは駆逐艦娘の中でもトップクラスを誇る。

スピードに並々ならぬ自信を持っており、吹雪と仲が良い。

 

・巻雲

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000134001

モデルデータ《夕雲型駆逐艦二番艦

中央派遣艦隊のCMS(艦娘)。トラック迎撃戦では、先遣部隊として参加。

持っているソナーは自前であり、対潜戦に自信がある。

 

・白露

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303079001

モデルデータ《白露型駆逐艦一番艦

佐世保所属の駆逐艦娘。トラック迎撃戦にて先遣部隊として参加。

いつも元気で、一番艦であるからか一番にこだわっている。

 

・時雨

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303080001

モデルデータ《白露型駆逐艦二番艦

佐世保所属の駆逐艦娘。トラック迎撃戦にて先遣部隊として参加。

どこか達観した性格で、いつでも冷静。

 

・香取

MW《NーⅡ型CMS

型番《 000154001

モデルデータ《香取型練習巡洋艦一番艦

派遣艦隊でも、南方海域を中心に派遣される『南遣艦隊』の旗艦。現在はトラック泊地で司令代理を務めている。

NーⅠ型の改良版である『NーⅡ型』の試作艦でもある。

 

・那珂

MW《NーⅠ型CMS

型番《 000048003

モデルデータ《川内型軽巡洋艦三番艦

中央派遣艦隊のCMS(艦娘)。いつでも明るく、自称艦隊のアイドルと言うだけあって歌とダンスが上手。

派遣先がトラックから奄美に変更され、奄美部隊に加わった。

 

・飛鷹

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303065001

モデルデータ《飛鷹型航空母艦一番艦

佐世保所属の軽空母艦娘。トラック迎撃戦で奄美部隊に協力してくれた。

姉妹艦の隼鷹にはいつも手を焼いている。

 

・隼鷹

MW《NーⅠ型CMS

型番《 303066001

モデルデータ《飛鷹型航空母艦二番艦

佐世保所属の軽空母艦娘。トラック迎撃戦で奄美部隊に協力してくれた。

お酒が大好きならしく、何かと理由を付けて呑もうとする。

 

・長門

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101001001

モデルデータ《長門型戦艦一番艦

横須賀所属の戦艦娘。武人のような性格をしている。

戦艦を体現するようなその姿から、大規模作戦時には連合艦隊旗艦を務める事も多い。

 

・Uー511

MW《NーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ《U-ボートⅨC型潜水艦

ドイツ海軍所属の潜水艦娘。日本の技術提供を受け、様々な難題をクリアして造られた日本以外のCMS(艦娘)

現在は所属を仮的に日本海軍に移し、奄美部隊に加わった。

 

・加賀

MW《DーⅠ型CMS

型番《不明

モデルデータ※数種類存在

《加賀型航空母艦

*《NーⅠ型CMS 101007001?

*《空母棲姫?

トラック迎撃戦後に奄美部隊に加わった空母艦娘。その姿は、トラック迎撃戦時に死闘を繰り広げた『空母棲姫』に酷似している。

『DーⅠ型』という特殊な記憶兵装に、モデルデータが複数存在するなど謎は尽きないが(恐らく)この個体の建造に携わったであろう征原トウ奄美司令は何も言及していない。

 

・赤城(横須賀)

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101006001

横須賀所属の赤城。トラック迎撃戦では空襲時に奄美部隊の支援をしてくれた。

 

・加賀(横須賀)

MW《NーⅠ型CMS

型番《 101007002

横須賀所属の加賀。個体番号から”2隻目”と思われる。

 

 

 

 

 




ルナ「加賀さんの記憶兵装がD型って…」
kaeru「だからパクリじゃないよ!?たまたま同じなだけだよ!?」
ルナ「……まあいいや」
kaeru「評価や感想、御意見や質問などなどお待ちしております」
ルナ「次回、青葉新聞」


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memory26「青葉の旅行取材」

お待たせしました。青葉の新聞回です。

といっても、結構真面目な説明回になっちゃってます。
かるーく読んでください(^^;;

それでは!


 

memory26「青葉の旅行取材」

 

 

 

皆さん、こんにちは!

重巡洋艦青葉と申します!

 

私が発行している基地内新聞がかなり好評で、私としても嬉しい限りです。

 

と、いうワケで、今回は奄美基地やその周辺の色んな所に出向いて、面白い事を記事にして皆さんに紹介しちゃいましょう!

 

昔から、鎮守府や基地のどこに何があるのか確かめる事を『旅行』と言いますからね。

今回は旅行取材と銘打って、いざ出発です!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

私たちが所属するこの奄美基地。

 

正式名称を『日本海軍 奄美大島要塞基地』と言いまして、名前からわかる通り、鹿児島県、奄美大島に設置された国内前線基地になります。

 

場所は奄美本島の南端部、瀬戸内町にあった旧海上自衛隊奄美基地分遣隊跡地に本庁舎(司令部)が建てられています。

 

庁舎の周りには、その他色んな建物がありますが、まずは庁舎の中をご案内します!

 

 

基地庁舎は3階建ての良くある四角いような造りになってます。豆腐ハウスですね。

 

中には作戦会議室(ブリーフィングルーム)やら、資料室やら通信室やら色々とありますが、一番の見所といえば『提督室』でしょう!

 

この部屋は基地3階の端っこにあって、奄美基地司令である征原トウ提督がいつもこっくりこっくりと舟を漕いでいます。

 

基地の噂として、提督なのに仕事をしている所を誰も見た事が無いという、トンデモ伝説を持っているおじいちゃんの居眠り部屋ってトコですかね。

かく言う私も、提督がこの部屋で仕事している姿なんて見た事がありません。

 

提督室の隣には提督用の部屋があり、その隣には執務室、さらに隣にライラさん用の部屋もあります。

 

それでは早速部屋に突撃しちゃいましょう!

……え?怒られないかって?

 

提督室はさすがの私でも色々とヤバそうなので、今日の所は執務室で我慢です。

また、提督が佐世保から帰ってきたらお邪魔しましょう。

まぁ実は執務室もヤバそうなんですけどね、臆していては青葉の名が廃るってもんですよ!

 

バアァンッ!と扉を開けて中に入りますけど、机と椅子と本棚くらいしかありません。知ってましたけど。

 

普段はこの何も無い、そっけない部屋でライラさんが提督に変わり事務仕事をやっています。なぜ提督がやらないのかは謎です。

 

さぁどんどん行きましょう!次は出撃港、ドックを見に行きます!

 

庁舎裏手にはちょっとした山があるのですが、その内部をくり抜くようにドックは造られています。

 

このドック内には奄美が所有する改造護衛艦があったり、通常艦艇の修理スペースがあったりと、この基地が基地と言われる所以(ゆえん)でもある場所になります。

 

CMS用のドックはまた後ほど紹介しますね。

 

艦のメンテナンスや補給、修理改造などなど何でもござれなこのドックには、たくさんの整備士の方々が一生懸命に作業を行ってくれています。ありがとうございます!

 

そしてこのドックは海に面していて、CMSや艦艇は直接出撃する事ができます。

 

ではお次、工廠に向かいます!

 

工廠はドックの隣にありまして、現在は私たちCMSの艤装を整備するための施設になっています。

 

整備するだけでは無く、改造したり、新たな武器を造る事だって出来てしまう凄いところです!

 

訓練の時は自分で取りに来るのですが、出撃の時は、ここから艤装が出撃港(ドック)の方へ運び出されます。時間を短縮するためのテクニックですね。

面倒な着装も、出撃港内のコンピュータが自動で行ってくれるのですぐに出撃する事が出来るようになっています。

 

CMSのドック……CMS傷病療養施設も実は工廠内にあります。恐らく、工廠の中にあった方が速い対応が出来るためでしょう。

 

あ、あと基地の資材を保管しているスペースも工廠内にあります。保管庫は提督かライラさんの許可が無いと入れないようになっているので、今回は取材を断念します……。

 

気を取り直して次は別館宿舎に向かいます!

 

別館、通称宿舎は私たちCMSが寝泊まりする部屋がある所です。以前も紹介しましたね。

 

1階にはお風呂やガンルーム、2階、3階が私たちのお部屋になっています。少尉の部屋も宿舎にありますね。

 

ちなみに基地に勤めている人の寝泊まりする場所はここでは無いとこにありまして、少し離れた港町の内陸の方に、かつて海自時代の隊長官舎があり、そこを改築して寝泊まりしているそうです。

 

そしてこの宿舎の裏手後方、どちらかといえば山側に、掘っ建て小屋のような建物があります。

 

これが私たちがコテージと呼んでいる、奄美のCMSたちの憩いの場です!

 

なんか、ザ・家!って感じな、見た目1階、中2階の建物になっています。

 

訪れると、必ず決まって誰かしらがくつろいでいたりします。朝だと金剛さんが紅茶を淹れていたりとか。

 

いい感じの広さがあるので、奄美部隊を集めて話をする時などは、少尉も良く使っています。

 

2階の屋根裏的スペースは今までなんにも使っていませんでしたが、先日やってきたドイツUボートのユーさんが寝泊まりに使うそうです。

 

悲しい事に宿舎の方は満員御礼で、もう空いてる部屋が無いんですよね。新しいCMSが来たら一体どうするんでしょうか?

 

あ、それと那珂ちゃんは五十鈴さんと相部屋だと言ってました。

性格が全然違いますけど、一応同じ派遣艦隊のCMSですからね。何も問題が起きなければいいですが…………。

 

基地の中の紹介はこんなもんでしょうか。

では今度は基地周辺に行ってみたいと思います!

 

当たり前ですが、基地正面は海になっています。当たり前ですが。大事な事なので二度言いましたよ〜?

 

この正面の海は奄美本島と加計呂麻島に挟まれた大島海峡と呼ばれる海であり、この海峡内にある薩川湾という湾は、第二次大戦時には艦隊泊地にも使われたという、戦術的に安全な場所になっています。

 

この海峡の南側は奄美基地が占有しており、普段は訓練海域として使用されています。

 

訓練海域というワードが出たので、ちょこっと説明すると、奄美には3つの訓練場、訓練海域があって、大きい方から第一、第二、第三と名前が付いています。

 

いつも私たちが使っているのが第三訓練海域です。隻数も少ないですし。

 

第一は派遣艦隊の人たちが。第二は対抗演習の時などに使われたりしてますね。

 

話を戻して、海峡の北側は一般商船などのシーレーンになっています。

深海棲艦は太平洋側に多く現れる為、少しでも安全な大陸側をシーレーンにしているのですね。

 

これは本土の方にも言える事で、太平洋側の土地に荷を運ぶ以外は、一般商船は日本海側を通航する事が義務付けられています。

日本海側は舞鶴鎮守府の管轄で、大湊と共に本土防衛に重きを置いた鎮守府なので、とても安心ですね!

 

奄美基地が隣接する海域は、南西諸島、東南アジア方面へと通じていて、海洋国家である日本は海外との貿易が無いと存続する事が出来ません。

 

なので、奄美基地の主な目的、仕事は、このシーレーンの安全を確保する事が一番と言えるでしょう。

 

と、ここまで奄美贔屓(ひいき)で話してきましたけど(奄美基地周辺の紹介なので当たり前と言えばそれまでですが)別に奄美だけでは無く、日本にある基地の目的はシーレーンを守る為なので、他の基地でもやっている事は殆ど同じです。やっている場所が違う程度です。

 

佐世保管轄基地なら、奄美の他に鹿屋と岩川もシーレーン確保と、九州沿岸部の防衛が目的だった気がします。

 

海の話はこれくらいにして、次は港町に行ってみましょう!

 

我々は港町と呼称していますが、正確な地名は確か、瀬戸内町古仁屋と言ったはずです。

 

と言うのも、深海棲艦が各国を襲い始めた時に、沿岸部に住んでた人たちはみんな内陸部に避難してしまったんですよねぇ……

常識的に考えて、海に面してる所より内陸の方が安全ですからね。

それなので、沿岸部の町には人がいなくなり、どこもかしこも廃墟みたいに廃れてしまっていた時がありました。

そんなこんなで、昔の町を知っている人は殆どいなくなり、町自体も軍の意向で取り壊されたり、港湾施設になったりと様々な事があった為、正確な地名などあって無いような物となってしまったのです。

それでも、最近では人が戻っているとも聞いています。

 

そして先に言った話の理由で、軍の総司令部である中央も、山脈に囲まれた海無しの高地にあったりします。

まぁ、あの土地は第二次大戦時、本土決戦に向けた遷都計画の第一候補でしたからね〜。

実際に大本営を設置するために山に巨大な洞窟を掘ったとか。現在もその洞窟が使われているとか。

 

話が逸れましたので元に戻しますが、この港町には南西諸島方面からの商船や輸送船が、休憩や補給の為に訪れます。

その為、港町は今が戦争中にも関わらずにかなりの賑わいを見せております。

 

かつてあった住宅街は軒並み取り壊され、現在は貨物用の倉庫やコンテナ、残った少数の町民の家等がその代わりとして設置されています。

 

そこには、商船や輸送船の乗員をターゲットとしたお店がたくさんあって、さながら何処かの国の市場かお祭りの様な雰囲気を感じる事が出来ます。

 

売っている物も様々で、食べ物から雑貨、家具、おかしな所では危ない物まで売っている所があります。そういうお店を発見したら、基地の方へ報告するのが常なのですが……

いくら潰してもいつの間にかまた出来てるんですよね。いたちごっこです。

 

あ、ちなみに私がいつも持ち歩いている煙玉も実は港町で素材を買っています。

これが無いと何かあった時に困りますからね。少尉から逃げる時とか。

 

今日も出てきたついでに買い物をしようと思ったんですけど、果物屋も雑貨屋も今日はやっていない様ですね……

しょうがないのでまたの機会にしましょう。

 

 

そんなワケで基地に戻って来ましたが、もう紹介するネタが無いですね……

それと今回結構真面目に取材をしてしまったので、なんとなく面白味にも欠けますねぇ。

これは次回以降の課題として、困った時は取り敢えずあの人の下へ行きましょう!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「……で、ネタが無くなったから遊びに来たと?」

 

「はい!そうでーー」

 

「帰れ」

 

宿舎2階倉庫部屋、少尉の部屋です。

 

「えーなんでー?青葉もいた方が楽しくていいじゃん」

 

「ジャンじゃねぇよ島風!お前さんもさっさと帰れ!」

 

私の前に既に先客が居たようですね。駆逐艦の島風さんです。

奄美のCMSたちは、取り敢えず暇になったらコテージか少尉の部屋に遊びに来ているので、まぁ普通ですね。

 

「それで島風さん。あなたは何故ここに?」

 

「だって訓練禁止で暇なんだもーん。さっきまで吹雪と鬼ごっこしてたけど吹雪が遅すぎて勝負にならないしさー」

 

「いや、それはあなたが速すぎるだけです」

 

青葉がそうツッコむと、島風はケラケラと笑っていた。

 

「ところで少尉は何をしていたのですか?」

 

「ん?資料室から借りてきた戦術教本を読んで、それをこれに描いてただけだけど?」

 

見ると、どこから引っ張り出したのか、黒板にマグネットみたいなモノが貼ってあったり、何か矢印とかが描かれています。

 

「いやぁ、艦隊戦てのは奥が深いな。これを読んで、こうやって図に起こしてみると面白い事この上無い」

 

「……少尉らしいと言えばらしい過ごし方ですね」

 

「それはけなしているのか?用が無いなら島風を連れて帰ってくれ。色々とアレで静かに本が読めないんだ」

 

「残念ながら私も静かに本を読ませる気はありませんので。それじゃあネタになりませんし」

 

「解体処分を御所望か?」

 

「じゃあ、今日の取材結果でも……」

 

少尉の眼が若干紅くなって、こめかみをヒクつかせていたので慌てて手帳を少尉に見せます。

 

「へぇー、奄美基地周辺の。中々良い内容じゃないか」

 

「そのせいで笑い成分が無くなっちゃったんですよ。

前回の様なノリを期待して読んだら、何だこれ、真面目じゃねぇか!ってなって、これが原因で閲覧者が減って評価が下がってしまっては青葉の名折れですからね」

 

「お前は何の話をしているんだ」

 

ルナがため息をつきながら手帳を読んでいたが、不意にその手を止め、青葉を睨む。

 

「ど、どうしました少尉?」

 

「今日は港町の方にも行ったのか」

 

「えぇ勿論。基地周辺の取材ですからね」

 

「……自分に許可求めてないだろ」

 

「…………あ」

 

そういえば、この2日は基地の外に出る時は少尉に言わないとイケナイんでしたっけ……

 

「…………」

 

「待って!待って少尉!無言でその刀を抜かないで!

それとも良いんですか!?もし斬りかかってくるのであれば、青葉も自衛として少尉のヤバイ事を基地のみんなに言いふらしますよ!」

 

「自衛の手段がオカシイだろ!なんでゴシップなんだよ!って言うかヤバイ事って何だよ!?自分は何もしてないぞ!」

 

「よくもまぁそんな事を、知っているんですよ?少尉が未だにガンルームの艦娘クッキーを盗み食いしている事を!」

 

「だってアレ美味しいから……じゃない!コノヤローいつの間にその事を」

 

「えー!少尉盗み食いしてるの!?じゃあこの前クッキーが無くなってたのは少尉のせい?」

 

「えぇそうです島風さん!ですからその少年を拘束しちゃって下さい!」

 

「根も葉もない事を言うな!自分は2つしか食べてないッ!」

 

青葉とルナがじりじりと間合いをはかっている。

 

「そういえば青葉。お前執務室に忍びこんだって手帳に書いてあったが……

お前が自分の事を言いふらすなら自分もライラさんに報告させて貰おう」

 

「くっ……青葉一生の不覚!せめて……せめてあと一手、あと一手足りないっ!」

 

「何を言ってるんだお前は……」

 

ルナは刀を収めると、講話会議と言わんばかりに条件を提示する。

 

「お前が言わないなら自分も言わない。今回はそれで手打ちにしよう」

 

「安いですね、間宮の羊羹を希望します」

 

「何でそんなに強気なんだよ!お前ライラさんに殺されるぞ!」

 

「フゥーハハハハ!怖くて取材は成り立ちませんよ!死なば諸共です!」

 

「前言撤回だ。司令権限を行使する、今の事は言うなッ!」

 

「お断りします」

 

刹那、人間とは思えない速さでルナが青葉に掴みかかる。

その寸前で青葉はポケットから取り出した煙玉を直接投げつけた。

 

炸裂。部屋が煙でまっしろわーるど。

 

「ぐわっ……ゴホッゴホッ!またかぁーーーッ!!」と、顔面に煙玉を受けたルナが部屋に転がる。

 

「わぁ!何も見えなーい!」と島風。

 

「さらば少尉!この出来事は面白おかしく記事にさせて頂きますよー!」と青葉が颯爽と部屋を出て行く。

 

 

「青葉ァァァアアア!!!」

 

 

ルナの絶叫も虚しく、数日後、青葉の宣言通りに面白おかしく、新聞が基地内掲示板に張り出された。

 

その後ルナは青葉と壮絶な鬼ごっこを繰り広げるのだが、その新聞を見たライラに2人とも捕まり、筆舌しがたい程の有り難い説教を受けたとさ。

 

 

めでたし、めでたし。

 

 

to be continued……

 

 

 

 




ルナ「メタい話はやめような?」
kaeru「反省はしている。後悔はしてない」
ルナ「次回の話は?」
kaeru「次回、新たな作戦発動」


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memory27「前兆」

あけましておめでとうございます
新年早々の投稿遅刻とどうしようもないkaeruですが本年もよろしくお願いしますm(__)m

幕間回ラストです!
それでは!


 

 

memory27「前兆」

 

 

日本防衛軍統括組織『中央』

 

「それにしても、こんなに簡単にこの国の中枢に入れるなんて、思っても無かったなぁ」

 

自らの部屋で、総司令であるタイガは机の上に足を投げ出してそう呟いた。

 

普段のタイガの姿を知る者が見れば、びっくりして腰を抜かし、声も出ないであろうが、今ここにいるのはタイガであってタイガではない。

 

タイガになりすました“何か”が、今こうして総司令の椅子に座っている。

 

その時コンコンコンと扉をノックする音が聞こえた。その後また数回のノック。

 

総司令は目つきを変え、身なりを整えて「入れ」と言った。

ガチャリと扉が開き、秘書らしき人物が入ってくる。

 

「何か用か?まだ時間としては早いだろう」

 

そう言う総司令の姿は、タイガのものと何ら変わりない。

 

「少し報告したい事がありまして。先日、中部太平洋方面に偵察に向かわせた第六艦隊からの通信です。

総司令の予測通り、中部太平洋海域に深海棲艦の巨大基地を発見しました」

 

「場所は?」

 

総司令がそう訊ねると、秘書はゴクリと唾を飲み込んで言った。

 

「ミッドウェー……諸島です……」

 

「………そうか、下がってくれ」

 

秘書は敬礼をして部屋を出ていく。

その足音が遠ざかるのを待ってから、ニヤリとほくそ笑んだ。その下卑た笑いは悪魔と形容するのに相応しい。

 

「ハハハ……順調、順調。これで艦娘どもをミッドウェーに釘付けに出来る」

 

絶対にそうなると確信しつつ、総司令は電話を手にとって秘匿回線に繋げる。

 

「この僕が、世界を創り変えるのさ……!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

その頃、中央工廠鎔鉱炉。

 

ここでは不要になった武器などを溶かして、もう一度資材に戻して再利用するという事を行っている一般的な鎔鉱炉だ。

 

その炉の直前のスペースに1人の人影が見えた。

 

「………危ない所だったな」

 

身なりは違うがその顔は総司令のタイガであった。

 

謎の人物の凶弾に倒れたタイガは、即座にポケットから取り出した仮死薬を使って死んだように見せかけたのだ。

 

「……ぐ」

 

一応の止血はしたものの、腹部からは未だ血が滲み出している。

 

「治療をしている場合は無いな。まずは何とかして治療用ナノマシンか」

 

こんな状況下に置かれてもタイガは諦めなどしない。むしろ好機、向こうからやって来て居座るなど。

 

ただ心配なのが、他の鎮守府が良い様に利用されてしまう事だが……

 

「まだ、軍にはあの老いぼれジジイが居る……何の心配も無し……!」

 

そしてタイガにはまだ打つ手がある。

懐ろから1つの通信端末を取り出す。

 

(これでヒノンと連絡を取る事が出来れば、まだ何とかなる)

 

問題はアイツに自分が死んで無い事がバレたら……いや、とっくに気付いているのをワザと見逃しているだけかもしれないが。

 

タイガは重い足取りで歩き出す。

 

 

 

「ティーガ……お前の思い通りにはさせん……!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

奄美基地。

 

 

早朝からルナは基地内を散歩していた。

 

CMS(艦娘)たちが集合する時間まではまだ間がある。他の人なら色々と仕事があるのだろうが、なぜか自分の方にはそのような仕事は回ってこない。

立場を考えれば当たり前の事だが。

 

そのような事を考えながら歩いていると、基地の正門の辺りでウロウロしている女性を見つけた。

 

その女性はルナを見とめると物凄い勢いで走ってきて、ルナの肩をガシリと掴んだ。

 

「ねぇ君!ここの人だよね!?」

 

「え!?えぇ、まぁ……」

 

「工廠まで案内してくれないかな!?かな!?」

 

「分かりましたっ!分かりましたから手を離して下さい!」

 

その女性は「あ、ゴメンね」と言いながら手を離す。ルナは息を整えてから工廠へと案内をする。

 

見たところ、新しく工廠に入る整備士のように見えるその女性は訊かれてもいない事をペラペラとルナに喋る。

 

「いやぁ、新しい仕事で佐世保からこっちに来たのは良かったんだけど、場所が分からなくてね〜。最初なんて間違えて加計呂麻島の方に渡っちゃったんだよ」

 

「はぁ……」とルナは話半分で聞き流す。

 

「そう言えば名乗って無かったわね。新しくここのCMSの艤装整備を担当する事になった『ヨーコ・エイ』よ。宜しくね!」

 

ルナはその名前に思わず振り返る。

 

「『ヨーコ・エイ』?エイってまさか……」

 

「ん?……あぁ、佐世保提督は私の弟よ。トラックでの話は弟から聞いたわよ。栄ルナ少尉?」

 

ルナは吃驚仰天する。まさかこの女性がアラン提督の姉だったとは。

 

「し……失礼致しました」

 

「何言ってんのよ!私よりルナの方が偉いんだから、かしこまらなくても良いのよ」

 

「そ、そうですか……」

 

そうは言うわりには名前は呼び捨てか……と思ったルナだったが、この見た目だと呼び捨てにされてもしょうがないだろう。

 

「ウチの弟が何か迷惑を掛けてないかしら?」

 

「いえ、とんでも無い。むしろ助けられてばっかりです。トラック防衛戦でも佐世保の戦力をお借りして、御礼がまだ……」

 

「いいのよ、あんなヤツに御礼なんか。っていうかホラ、いつもムスッとしてて愛想悪いでしょ?」

 

ルナは苦笑いをしつつ、その話を聞きながら工廠前までヨーコを案内した。

 

「ここを真っ直ぐ行けば、山の所にありますから」

 

「ありがとうね、お礼に私の事をお姉ちゃんって呼んでも良いわよ?」

 

「遠慮します」

 

何処ぞのぱんぱか重巡洋艦娘のような事を突然言い始めたヨーコの言葉を一刀両断する。

 

「遠慮しなくて良いのよ?っていうか呼べ!」

 

「そ、それではヨーコさん、お元気でぇーーッ!」

 

鬼気迫る何かを感じ取ったルナは、とんでもないスピードでその場から逃走する。

 

 

「ヨーコさん、かぁ。お姉ちゃんって呼んでくれても良いじゃない!減るもんじゃないし!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「何で自分の周りにはおかしな人しかいないんだ……絶対あの人ショタコンでしょう……」

 

ルナは膝に手を付きながらコテージの所まで逃げてきた。

 

時計を見ると、良い頃合いだったのでそのままコテージに入った。

 

「Guten Morgen、ショーイ」

 

「おはよう、ユー。まだ眠そうだね」

 

コテージに入ると、寝ぼけまなこをこすりながらUー511がそう朝の挨拶をした。

 

「あの人たち……朝から」

 

Uー511が指差す先を見ると、奥の方で青葉と龍田が言い争いを繰り広げていた。

 

「だから本当ですって!奄美の護衛艦の2倍以上の大きさの艦が、夜中にドックに入ってったんですってば!」

 

「あら〜、でもドックにはそんな艦無いわよ〜。ただの見間違いじゃないかしら?」

 

「朝から何をおっぴろげてんだ君たちは」

 

ルナが呆れ顔でそう話しかける。青葉はズダダダと走り寄るとルナにギャーギャーと何かを説明するが、ルナは聞く耳を持たない。

 

「あれは護衛艦なんてものじゃなくて……そう!戦時の巡洋艦級(クルーザークラス)くらいの大きさがあったんです!」

 

「夜中で寝ぼけてたんだろう?」

 

「ムキー!これだからこのチビ少尉は!」

 

ルナは青葉の眉間にチョップを叩き込む。

 

「やられる前にやめろよ!」

 

「うぅ、写真を撮り損ねた事が悔やまれます……」

 

そんな会話を繰り広げていると、奄美のCMS(艦娘)たちが続々とコテージに入ってきた。

 

「おい龍田!何で朝起こしてくれねぇんだよ!?」

 

「いやぁ?気持ちよさそうに寝てたから〜」

 

「絶対ワザとだろ!?」

 

「うー、那珂ちゃん朝は弱いの……」

 

「島風もー……」

 

「貴女たち、自己管理も出来ないようだと何かあった時に困るわよ」

 

「まぁまぁ、加賀さん。多めに見てあげましょう?」

 

「………赤城さんは優し過ぎるんです」

 

「あとは吹雪と金剛だけど……まだ来ないか?」

 

全員が椅子に座り、ルナが壁に掛かっている時計を見た時、ちょうど吹雪たちがやってきた。

 

「good morning、ショーイ!さっきそこでライラと会ったネ!」

 

「げ、ライラさんに?朝からとは災難な……」

 

「少尉……私の後ろにいるんですけど……」

 

吹雪が背後を見やると、そこに腕組みをしたライラが立っていた。

 

「……おい小僧」

 

「東部戦線、異常アリマセン!!」

 

「そんな小説ネタ言っても無駄だ。後で執務室に来い。それでもって、今日はそんな事で来たんじゃない」

 

「え、それでは何用でしょうか?」

 

「ワシじゃよ、ルナ君」

 

トウがひょこりと顔を見せる。ルナとCMS(艦娘)たちは起立、気を付けをして、トウに敬礼をした。

 

トウは答礼をすると、コテージに入って一同を見回すとニッコリと笑った。

 

「みんな良い顔をしておるのぅ。結構結構。そんな君たちも薄々気づいておるかもしれんが、奄美CMS特別部隊は、中央からの意向で『実験艦隊』を兼ねる事になったのじゃ」

 

「『実験艦隊』?」

 

一同は首をかしげる。その中で赤城と加賀だけが主旨を理解したように頷いていた。

 

「成る程、加賀さん、ユーさん、那珂ちゃんが奄美に来たのはそういう理由ですか」

 

「さすが赤城、鋭いのぅ。加賀、Uー511、おぬしたちは艦隊に正式配属する為には少々難があるようでの?」

 

「ユーは外国艦だから記憶兵装の不備が無いか、加賀は………まぁそういうことかしら〜?」

 

「はぁ、それで『実験』と来たか。気に入らねぇな」

 

「勘弁しておくれ天龍、龍田よ。今は素直に仲間が増えた事を喜ぼうではないか。

あ、ルナ君。これがアホタイガの紙切れじゃ」

 

ルナは中央の印が捺印された書類を受け取った。

 

「うわぁ、自分には何が何だか」

 

「心配するな、書類仕事は私が教えてやる」

 

「え!?机仕事あるんですか!?」

 

「中央からの仕事には付き物だからな。良かったな」

 

ルナは「ぐわぁぁあ!」と頭を抱えて机に突っ伏す。

その時、通信士の女性がトウの下へと駆けてきた。

 

「提督、こんな所にいらしたんですか」

 

「どうした、ミカ君。急用かね?」

 

「佐世保から転送されてきました電信です。中央から各鎮守府へと……」

 

トウは紙を受け取りその内容を確かめる。読み進める程にその眉間にシワが寄っていく。

 

「ライラ君、上層部を緊急召集。会議を開く」

 

「……ジョークを言う暇も無いという訳か。分かった。お前はもう一度佐世保に確認を取れ」

 

「了解です」

 

「すまないが、ルナ君。君も来てくれるかの?」

 

「分かりました……?」

 

ルナとCMS(艦娘)たちは頭にハテナマークを浮かべたまま、その様子を見ていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

作戦会議室(ブリーフィングルーム)

 

 

「突然集めて申し訳ないのぅ。だがまずは聞いてくれ。

先程、佐世保経由で中央から通信があった。内容は、中央第六艦隊が敵深海棲艦の一大基地を発見したらしい」

 

トウが開口一言、そういうと室内がざわついた。

 

深海棲艦の基地だって?

 

ついに奴らの基地が見つかったのか!

 

と至る所で声が上がる。

 

「司令、その発見された場所は……?」

 

上層部の1人がそう訊ねる。トウはホワイトボードに貼った地図に赤丸を付けた。

 

「中部太平洋海域、ミッドウェー諸島周辺だそうじゃ」

 

「ミッドウェー……」

 

話を聞いていたルナは赤城を説得した時を思い出す。

赤城が海に出る事の出来なくなった原因。運命のターニングポイント。

 

 

ミッドウェー海戦。

 

 

その戦いが繰り広げられた場所がミッドウェー諸島。そこに深海棲艦の基地があると言う。

 

「まぁ、基地と言ってもこちらの様に、数あるうちの1つであろうが……敵の基地に間違いはない。

偵察によると、戦艦棲姫などのイレギュラー個体に加え、陸上型のイレギュラー個体も確認されたそうじゃ。

これを受けて中央は急遽、作戦を発動するハラらしい」

 

トウは地図に2つの矢印を書き込む。

 

青い矢印は、北海道の北側へ。

赤い矢印は、太平洋へ。

 

「現在考えられている作戦は、大湊、舞鶴の鎮守府の勢力をもって北方海域、アリューシャン列島にある敵飛行場を叩き、ある程度の敵部隊を誘引、その隙をついて、横須賀、呉、佐世保の鎮守府がミッドウェーの敵基地を破壊する魂胆らしい」

 

「オイジジイ、その作戦、本気で言っているのか?」

 

トウは黙ったまま、静かに頷く。

ライラがそう言うのも無理は無い。今、トウが説明した作戦は第二次大戦当時、日本軍が行った方法と何ら変わりないからだ。

 

ルナもその話を聞いてどこか違和感を覚えた。

なぜ、過去と同じ方法を取ってミッドウェーを攻撃するのか。

 

「恐らく……CMSじゃろうな。彼女ら記憶兵器に相応しい戦場だからこそ、過去を乗り越える意味合いも込めて、同じ作戦を立案したんじゃろう」

 

トウがそう解釈する。確かにそう言われればそうなのだが……

 

「作戦名も……『AL/MI作戦』か。そのまんまじゃないか。作戦発動は一週間後、中々に急じゃの」

 

トウがそうため息をつく中、逆に部屋の中には活気が満ちていた。

 

また前の様に戦果を出せたら、この基地の評判も上がる!

 

敵基地を破壊出来れば、敵の攻撃も少なくなるな!

 

そのような言葉が部屋を飛び交う。

 

(全く、他人事みたいに……実際に戦うのはお前らじゃなくて艦娘たちなんだぞ)

 

ルナは内心そう思いながら頬杖をついていた。

 

「あー、ゴホン。静かに」

 

トウがそう言って場を静める。

 

「やる気があって結構なのじゃが……この件は見送ることにする」

 

キョトンとした様子でその場にいた全員ーールナやライラも例外では無いーーが耳を疑った。

 

「司令……今何と……」

 

 

 

「じゃからのぅ……この基地は現段階では、今作戦には参加しない。そう言ったんじゃ」

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルナ「また不穏な雰囲気になってきたな」
kaeru「次回、発動!AL/MI作戦!!」


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3つ目の記憶ーーAL/MI作戦ーー
memory28「エクストラオペレーション」


AL/MI作戦編1話目です。

話の流れがアレですが理由があったりなかったりするので温かい目でご覧ください(^^;;

それでは!


 

 

memory28「エクストラオペレーション」

 

 

「何故ですか少尉!?何故奄美は作戦に参加しないのですか!?」

 

「私達が実力不足だと?」

 

「ま…待て、待ってくれ2人とも……!これは自分の意見だけじゃどうしようも無いんだ!」

 

「なら提督に直談判に……!」

 

「取り敢えず落ち着けって……!とにかくもう無理だってば……」

 

 

ルナの自室である倉庫部屋。

 

港町で買ってきた簡素な執務机に向かっていたルナの下に、空母艦娘である赤城と加賀が抗議に来ていた。

 

 

 

ーー中央が立案した攻勢作戦『AL/MI作戦』が発動されて既に一週間が経過していたーー

 

 

 

時は数日前、緊急会議直後に(さかのぼ)る。

 

作戦行動不参加を告げた奄美司令、征原トウに様々な非難が浴びせられる。

 

トウはそれに一切応じる事なく会議の解散を言い渡した。上層部の人間たちは不服そうに部屋を出ていき、中にはトウとライラ、そしてルナが残った。

 

「……どうした小僧」

 

「何か……理由があるのですよね?」

 

ルナはハッキリとした口調でトウに問い掛ける。トウは一瞬だけ眉をピクリとさせるとルナの顔を見る。

 

しばらく睨み合いを繰り広げた両者だったが、トウが折れたようにため息をついた。

 

「はぁ……昔っからそうじゃのぅ、その無言の圧力に勝てる気がせんぞ……」

 

「………?それはどういう……」

 

「こっちの話じゃ。それで、不参加の理由じゃが……」

 

ルナが緊張の面持ちで二の句を待つ。隣にいたライラも静かに待っている。

 

「一言で言うなら……アイツらしく無いのじゃよ」

 

「それはどういう意味だジジイ」

 

トウは歯切れが悪そうに話始める。

 

「ワシとあのバカ総司令が昔からの腐れ縁だという事は前にチラと話したじゃろ?

その腐れ縁の経験則から言わせてもらうとだな、アイツは物事1つとっても二手、三手とも言わず、五手、六手とそれをカバーするように幾つもの手段を用意するような奴なのじゃ。

だからワシは将棋でアイツに勝てた事が無い」

 

「それはジジイが弱いだけだろう?」

 

「……まぁつまり、今回の作戦は突然過ぎる。いくら敵基地が発見されたからと言って、ここまで急いで攻撃する事なかろう。もう少し時間を掛けて準備しても良いものを、今までのアイツの様な用意周到さがさっぱり無い。こんな事はウン十年やって来て初めてだ」

 

「何か、一刻も早く敵基地を叩く必要があったのでは?」

 

「うぅ……む、だとしても……」

 

「ジジイの考え過ぎじゃ無いのか?」

 

「ぐぬぬ……だとしても奄美基地は作戦に参加しない!佐世保にもそう伝える!」

 

トウは少しだけ声を荒げると大股で部屋を出て行った。その後ろ姿をルナとライラは驚いたように見つめていた。

 

「………頑固ジジイだな。何がそうさせるのか」

 

「一体、どういう事なんだろう……?」

 

 

 

トウは提督室に戻ると、机の上の無線機に手をかけた。中央直通の秘匿回線に繋げようとするが、どこかと繋げているのか、奄美からは繋がらなかった。

 

トウはしかめ面をすると、椅子にどっかりと腰掛けた。

 

「おかしいのぅ……何か、こう違和感……違和感を……」

 

トウはそういって腕組みをすると黙り込んでしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「だからって!何故!今作戦に参加しないのですか!!」

 

「だから落ち着けって!ここ一週間そればっかじゃねーかお前ら!」

 

ルナも思わず椅子を蹴飛ばして立ち上がる。

確かに、かつてのミッドウェー海戦に参加し、その中核を担った赤城と加賀としては、今作戦に参加出来ない事がどれ程のことか。想像に難くない。

 

「いいか?もう作戦発動から一週間が経っている。今から参加したところでここからはもう間に合わない。

だから、自分たちはいつもの通り、訓練に励むだけだ」

 

「訓練は実践で真価を発揮するために行うものでは無いのですか?」

 

加賀が真顔でルナに迫る。ルナは一瞬うっ…と言葉を詰まらせたが「征原司令の命令だ!」と言って何とかかわした。

 

「はぁ……加賀さん、何で私達だけ留守番なんでしょう……横須賀の私は今頃ミッドウェー諸島で敵部隊と交戦しているでしょうか……」

 

「そうですね、多分そうでしょう。それもこれも、この少尉の所為です」

 

「何でそうなるんだよ!司令が作戦不参加を言い渡したんだから自分たちは動けないだろ!

ホラ!今日は第二訓練海域で演習をやるぞ、早く準備しろ!」

 

そう言って、ルナが赤城と加賀を部屋から追い出す。

 

「毎日毎日朝っぱらから……」

 

ルナはガシガシと頭をかく。まぁ彼女らの気持ちが分からないでも無い。自分が赤城や加賀の立場だったら同じ事をしていただろう。

 

「それにしても……何故、司令はあんなにも……まぁ、いいか。自分たちには影響が無いし、作戦も今の所順調らしいしな」

 

身支度を整えて部屋から出ると、目の前にライラが立っていた。

ルナは慌てて敬礼をする。ライラはそれを手で制すとルナにこう訊ねた。

 

「ジジイを知らないか?」

 

「え?」

 

「え、じゃない。ジジイだ。知ってるだろ。忘れたとしたらとても幸せな事だが」

 

「いや分かりますって。提督室にいるんじゃないですか?いつもあそこから動かないじゃないですか」

 

「それもそうなんだが、返事が無いんだ。日が昇らないうちから起きているジジイだから寝てるという事は無いと思うのだが……別の意味で眠ってくれると嬉しいがな。

とにかく手間を掛けたな」

 

ライラはそれだけ言うとスタスタと行ってしまった。ルナはよくある事と結論付けると自らも訓練場へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「おいコラジジイ!居るんだろ、返事くらいしろ」

 

ライラが提督室をドンドンと叩いても、中からの反応は無い。

ドアノブに手を掛けると、鍵はかかっていなかった。

 

何の躊躇(ためら)いも無く部屋の中に入ると、トウが机に地図を広げてブツブツと独り言を呟いていた。

 

「おいジジイ、熱中するのもいいが返事くらいしたらどうだ」

 

「……………」

 

トウは未だに地図に向かってブツブツと何かを呟いている。ライラはノーモーションかつゼロフレームで白髪頭に(こぶし)を叩き込んだ。

 

「あいだっ!な……何事じゃ!?」

 

「何事もあるか!さっきから呼んでいただろう!返事ぐらいしろ!」

 

「おぉ、そうじゃったのか……気付かなくてすまんの」

 

「本気で気付いてなかったのか」

 

「最近耳が遠くての〜」

 

「それで、何をしていたんだ?」

 

「ワシの渾身のボケをスルーしないでおくれ……」

 

「これは……中部から北部太平洋の海図と本土近海の海図か……?」

 

「ことごとく無視するのじゃな……」

 

トウはため息をついて、部屋にある湯呑(ゆのみ)白湯(さゆ)を淹れた。

 

「何だ、あぁ言っておいて作戦が心配なのか?通信によれば何の問題も無く、作戦は順調に行っているそうじゃないか」

 

「問題はそこなのじゃよ、ライラ君。この作戦……”あまりにも上手く行き過ぎている”……」

 

「……何が言いたい?」

 

トウは本土近海の海図を食い入るように見つめる。そしてうーむと唸った後、疲れたように椅子に腰掛けた。

 

「………やはり、目標は硫黄島か。

ライラ君、現在動かせる艦艇は?」

 

「えぇとだな……今だと『かざばな』と『そうせつ』は動かしても問題は無いはずだ」

 

「両艦艇に出撃命令を。それとルナ君たちは今何をしておるかな?」

 

「第二訓練場で演習をするそうだが」

 

「奄美部隊にも出撃命令。防衛隊、CMS部隊ともに目標は小笠原諸島。CMS部隊は先行させて良い。ルナ君にも伝えてくれ」

 

「……成る程、ようやくお前の考えが解った。だとすると……マズイな」

 

「その通りじゃ。各鎮守府の主力部隊が出払っているこの状況で敵に先手を打たれるのは物凄く悪い。せめてそれだけは防がねばならん。

杞憂で済めば良いのじゃが……」

 

「深海棲艦もそれ程バカじゃないだろ。今までの交戦履歴から、敵だってこちらの戦力を把握しているはず。ミッドウェーに殆どを注ぎ込んでいる事を察知しているのなら、本土ががら空きと考えるのは自然だろ?」

 

「とにかく、そうなれば一刻の猶予も無い。ライラ君」

 

「了解した」

 

ライラはそう言うと急いで部屋を出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

ドック内、出撃ポート。

 

 

「それにしても、突然出撃って……一体何があったんでしょうね?」

 

吹雪が着装した艤装に不備が無いか確かめつつそう言った。

 

「この青葉もさすがに分かりませんねぇ。ただの哨戒任務じゃないんですか?派遣艦隊はみんな出撃しちゃってますから、私たちが代わりって事で」

 

「じゃあなんで護衛艦まで出るんだよ?」

 

隣にいた天龍がそう問いかける。確かにそう言われると何故なのだろう。青葉は黙ってしまった。

 

「talkもそこまでデース。そろそろ出撃シマスヨー!」

 

金剛を旗艦として、吹雪、天龍、龍田、那珂、青葉の6隻は改造護衛艦『かざばな』『そうせつ』とともに奄美基地を出港した。

 

 

「留守番つまんなーい!何で私じゃないのー!」

 

「潜水艦に……出番あるのかな?」

 

部隊を見送った出撃ポート内で島風がそんな風に駄々をこねる。その横で少し寂しそうな顔をするUー511。

 

「赤城さん……」

 

加賀が真剣な表情で赤城の方を向く。赤城も静かに頷く。

 

「そうですね加賀さん。何か……悪い予感がします」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「艦隊、針路1-1-0。第一戦速に増速。赤黒各自調整してくだサーイ」

 

奄美部隊は旗艦金剛の指示で東へと舵を切る。

 

「この出撃は……哨戒任務でいいのかしら〜?」

 

龍田が首を傾げながら天龍に話しかける。

 

「いや、どうだろうな……これは何か嫌な予感がするぜ龍田」

 

「嫌な予感ってどんな予感なのー?」

 

同じ軽巡洋艦娘である那珂が天龍の隣にやってきてそう訊ねる。

 

「……説明出来ねぇな、嫌な予感ってのは嫌な予感だよ」

 

「ふーん、でも何があってもアイドルは笑顔を絶やさないんだよっ!」

 

那珂はキラーンと星が流れるようなスマイルを天龍に向ける。天龍は頬を引きつらせながら顔を背けた。

 

「でも確かに……護衛艦まで出張るのは気になるデスネ。アオバ、ミッドウェー攻略部隊の通信を傍受出来ないデスカー?」

 

「第三通信系ですか?ちょっとやってみますね」

 

青葉は艤装に取り付けられている無線機をガチャガチャといじって調整を始めた。

 

「そういえば金剛さん、今回はどこに向かっているんですか?」

 

「ン?フブキは聞いてなかったデスカ。今回はオガサワラisland方面に哨戒任務……という名目デスが、テンリューの言うように何か嫌な予感がシマスネ」

 

「小笠原諸島方面へ?そちらは横須賀の管轄のはずでは?」

 

「横須賀管轄小笠原基地が確かあるわね〜。そもそも奄美の哨戒範囲は基地近海の南西諸島方面のハズだから、この時点でもうおかしいわよねぇ」

 

吹雪の言葉に龍田が続く。う〜んと悩むCMS(艦娘)たち。不穏な空気を振り払うように金剛がパンパンと手を叩く。

 

「ヘーイ!そこまでにするデース!何があろうとワタシたちは言われた事をしっかりこなすだけデース」

 

艦隊はレーダーと目視を頼りに静かな海原を進んで行く。

天気は快晴。絶好の航行日和だ。

 

「ふぁあ〜〜何も起こらないねぇ」

 

双眼鏡(メガネ)を覗きながら大きなあくびをする那珂。

那珂の言う通り、今のところはこれといったことは起きていない。ただのんびりと海を駆けているだけだ。

 

「アオバー、通信のほうはどうデスカー?」

 

「ウンともスンとも言いませんね。無線封鎖でもしてるんでしょうか……っと、ちょうど来ました!噂をすれば何とやらですね」

 

青葉は早速、暗号の解読に入る。しばらく乱数表と睨めっこをした後、解読した文面を読み上げる。

 

「通信から察するに、本隊のミッドウェー攻略はどうやら成功したようですね!

同艦隊は周辺海域の制海権を確保するまでミッドウェー諸島に滞在するそうです」

 

「お、やったじゃねぇか!これで深海棲艦の侵攻も少しは弱まるな」

 

「えー!もう終わっちゃったのー!?那珂ちゃんの出番全然ないじゃーん!」

 

全員は一様に安堵の表情を浮かべる。こちらから仕掛ける作戦でこれ程までに大規模なものは初めてであった為、作戦に参加していない奄美のCMS(艦娘)たちも多少なりとも不安を抱えていたのだった。

 

「出番がなかったのは残念ですけど、作戦は無事終了したみたいですし、良かった良かった………ん?」

 

青葉がそういった時、無線にどこかの通信が入ってきた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ、どこかの広域通信を拾ったみたいで……」

 

青葉がそのままその通信を傍受し、その内容に耳を傾ける。

 

「な……何ですって!?」

 

突然青葉が驚きの声を上げる。

 

「どうしたんですか青葉さん!?」

 

 

「軍の哨戒艦がトラック基地北西560海里、北マリアナ諸島近辺で敵深海棲艦の大規模艦隊を捕捉したとの情報が……っ!」

 

 

「「「!!?」」」

 

一同は驚愕する。暫しその事実を理解出来ずに思考が停止しかかったが、その中でも吹雪がいち早く立ち直った。

 

「そうか……!敵の狙いはこれだったのでは!?」

 

吹雪の言葉に全員がハッとする。敵基地にCMS(艦娘)の主力を誘引し、その隙に防備が手薄になった本土を強襲する。

 

金剛が弾かれたように艦隊に指示を出す。

 

「アオバ!今の通信を奄美基地に転送!フブキは小笠原基地に通信を入れてくだサイ!」

 

「了解です!」

 

「了解しました!」

 

青葉と吹雪は慌てて動き出す。

 

「くそっ!まんまとハメられたってワケか!」

 

「もしかして……提督はこの事を読んでいたのかしら〜?だから護衛艦も一緒に出撃させた……?」

 

「考えるのは後にするデース!ワタシたち奄美部隊は小笠原基地に向かいマスヨ!

ナカ!小笠原基地にはどれくらいで着きそうデスカ!?」

 

「えぇっとね……ここからだと、巡航速で27時間、30ノットで約16時間かな」

 

「さすがに距離がありますネ……!艦隊、第五戦速!!」

 

「そ、そんなに飛ばしたら燃料が……!」

 

「そんな事を言っている場合じゃないデース!これは、一刻の猶予もありまセン!」

 

一瞬で変わった状況に何とか追いつこうとして、奄美のCMS(艦娘)たちは速度を上げ、海上を疾駆する。

 

「金剛さん!奄美から通信です!」

 

「通信が返ってくるの早過ぎデース。やっぱりテイトクはこの状況を読んでいたようデスネ」

 

 

奄美のCMS(艦娘)たちは冷や汗を流しながら、小笠原基地を目指して進んでいった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

発、奄美大島要塞基地

宛、奄美CMS部隊

 

緊急電文により、AL/MI作戦展開中に敵別働隊の本土近海への来襲を確認した。

部隊は小笠原基地へ急行、敵別働隊を全力迎撃、本土近海を防衛せよ。

 

この電文を受け取った時点より『本土近海邀撃作戦』を発動する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 




kaeru「元ネタは2014年夏イベント、AL/MI作戦のエクストラオペレーションになります」
ルナ「また変な所を出してきたな」
kaeru「ここまで読んで下さった読者の皆様には理由はお分かりだと思います」
ルナ「次回も宜しく」


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memory29「敵、来襲」

前回までのあらすじ

記憶喪失の青年少尉、栄ルナは奄美部隊指揮官として忙しい日々を送っていた。
そんな中、ミッドウェー諸島に敵基地を発見。中央はAL/MI作戦を発動した。
しかし奄美基地は作戦参加を拒否、奄美部隊を小笠原諸島方面へと出撃させた。
ちょうどその時、日本にCMS主力のいない間隙を突いて深海棲艦の侵攻部隊が攻めて来ていた。


memory29「敵、来襲」

 

 

機関を唸らせ航行すること、早十数時間。

日は既に沈み、空は漆黒に染まっていた。

 

「距離的には……そろそろです」

 

隊内無線で吹雪がそう報告する。

通常の出撃ならば、遠方の海域に(おもむ)く場合、高速輸送艦を使って戦闘海域まで急行する事が出来るのだが、今回の場合はそうもいかない状況だったためCMS(艦娘)たちが自力かつ全力で突っ走っていた。

 

エンジン等の機関類に、特殊な核融合炉が使われるようになってからエネルギー事情をあまり気にしなくてもよくなったが、それでも燃料は消費する。

 

機関の燃料は足りるとしても、CMS(艦娘)自体の体内ナノマシンを覚醒稼働させるために必要な、体内に蓄えている燃料は刻一刻と減っていく。

 

それ以上に十数時間ずっと航行する事による肉体疲労が艦隊の全員に重くのしかかっていた。

 

「左舷60度!光が見えました!」

 

青葉の言葉を聞いて、すぐにその方向を確認する金剛。

遠くのほうで光がチカチカと輝いている。

 

「航行時間と距離、方向からみても小笠原基地のものと見て間違いないだろうな」

 

金剛と同じく、その光を確認した天龍がそう言う。

やっと到着したという安堵の空気が流れたその時、腹の底に響くような重低音がいくつも鳴り響いた。

 

「砲音……!」

 

「全艦、夜間戦闘用意ッ!航行灯消せ!」

 

金剛は敵に位置が知られるのを防ぐ為に全ての灯りを消すように下令する。

 

航行灯を消すと味方との距離感などが分からなくなって衝突する恐れなどが発生するが、そうならないように今まで訓練を積み重ねてきたのだ。

今の奄美部隊は昔の奄美部隊とは違っていた。

 

遠くの方でズゥーンといった、砲弾が着弾する音が聞こえた。

 

「味方の砲撃じゃなさそうね〜」

 

「敵の前衛部隊だろうが……暗くて敵部隊を確認出来ないな」

 

龍田の言葉に天龍が目を細めて辺りを見回すが、暗闇に紛れているのか姿を確認する事は出来ない。

 

「金剛さん、電探の方はどうですか?」

 

「ウーン……ダメみたいデース。今回の出撃に電探の記憶兵器は持って来てないデスからネ。

右舷前方、程度しか分からないデス……」

 

通常装備の電探では、深海棲艦のジャミングを完全に消す事は出来ない。その為に大まかな位置しか掴むことが出来ない。

 

敵部隊は砲撃を止めている。砲撃する瞬間には発砲炎が発生するので、その光で敵を確認出来るかもしれないが……

 

「至近距離まで接近しての雷撃……ですかねぇ。夜の魚雷ほど怖いものはありませんからね」

 

青葉が身震いをしながら言う。金剛は之字運動を指示し、暗闇の雷撃に備えるようにした。

 

 

その瞬間、上空で眩い光が弾けた。

 

 

「な、何だ!?」

 

光の玉は煌々と辺りを照らしながら、ゆっくりと落ちているようだった。

 

星弾(スターシェル)……!照明弾っ!?」

 

敵部隊がこちらを捕捉する為に撃ったのか、金剛は慌てて指示を出そうとするが、それを吹雪が制する。

 

「待って下さい金剛さん!あの照明弾はこちらに向けて放たれたものじゃないです!」

 

「what?」

 

よくよく確認してみると、照明弾が照らし出している影は敵の艦隊。

深海棲艦たちは突然の出来事に慌てふためいている。

 

「奄美部隊に照明弾を装備しているCMSはいないハズ……!一体誰が……!?」

 

そう青葉が呟いた時、奄美部隊後方から元気が爆発している、そんな叫び声が聞こえてきた。

 

 

「夜戦だあああぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

部隊の隣を誰かが猛スピードで駆け抜けていった。

 

「あれっ?川内お姉ちゃん?」

 

那珂がそう言って「おーい!」と呼び掛けると、通り過ぎた人影がターンをしてこちらに戻ってきた。

 

「聞いたことのある声だと思ったら那珂じゃないか。こんなところで会うとはね」

 

橙色がかった淡紅色の服装に白いマフラーのようなものを首に巻いていて、夜闇を駆けるその姿は忍者と形容するのに相応しい。

 

那珂の姉妹艦である、川内型軽巡洋艦一番艦『川内』だった。

 

「アナタは……センダイ!」

 

「ごめん、そういうのは後だ。照明弾に照らされたあの深海棲艦を沈める!」

 

川内はそう言うと、また猛スピードを出して敵艦隊に向かっていった。奄美部隊も遅れじと後に続く。

 

「敵艦隊確認!重巡リ級flagship1、軽巡ホ級flagship1、駆逐級4の巡洋艦隊です!」

 

目が良い吹雪が即座に敵艦隊を確認する。それを受けて奄美部隊の面々は頷く。

 

「金剛、意見具申!俺と龍田でホ級を叩く。重巡と駆逐は……」

 

「なら那珂ちゃんが駆逐をぜーんぶやるよ!」

 

「了解したデース!フブキはナカと駆逐を頼みマス!重巡はワタシが!」

 

金剛を追い抜いて、後続のCMS(艦娘)たちが敵艦隊に突撃していく。

 

リ級がそれに気付いたらしく、腕の砲塔を天龍たちに指向しようとする。

 

「そうはさせまセン!fireーー!」

 

金剛が35.6cm連装砲をリ級に向けて放つ。砲を指向していたリ級は回避運動を取る。

 

その隙に天龍と龍田が敵艦隊に接近する。3,000を切る距離になってもまだ接近する。

 

「行くぞ龍田!」

 

「勿論よ〜!」

 

2隻はその手にそれぞれ、対深海棲艦用近接モジュール(対艦刀と対艦薙)を出現させる。

それをグッと握りしめると主砲の狙いを定める。

 

「夜戦突入だ!ビビってんじゃねぇぞ!」

 

天龍の14cm単装砲が砲炎を噴く。放たれた砲弾はホ級の手前に着弾し、水柱を生み出した。

 

ホ級も天龍たちに向けて5inch単装高射砲を放つ。雨あられのように降り注ぐ砲弾を、天龍と龍田は巧みにかわしていく。

 

「主砲、撃てーーっ!」

 

龍田が狙いを定めて砲を放つ。3回斉射された砲弾はホ級に吸い込まれるように命中する。

 

「ふふん♪天龍ちゃんより上手でしょ?」

 

「なにぃ〜?俺の方が出来るっての!」

 

天龍は砲撃でホ級の目をくらましながら接近する。わざとホ級の前に水柱を立て、その飛沫(しぶき)の合間から躍りでる。

 

「もらったぁッ!」

 

天龍の対艦刀が閃いた。残像を残すのではないかと思われる太刀さばき、ホ級のエネルギーフィールドを容易く打ち破り、ホ級の胴体側部を斬り裂いた。

 

ホ級が体勢を崩し、横に傾く。その隙を見逃す龍田ではない。

 

「あら〜、もう声も出ませんか?」

 

龍田の対艦薙がホ級の胴体に深く突き刺さる。その一撃でホ級は動きを止め、二度と動く事は無かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「いっくよー吹雪ちゃん!」

 

「はいっ!」

 

敵艦隊後続の駆逐艦を狙う那珂と吹雪。反航戦を取る形で徐々に距離を詰めていく。

 

駆逐イ級が発砲した。それに続いて残りの3隻も5inch連装砲を絶え間なく放ってくる。

 

「面舵!」

 

那珂の命令で、2隻は之字運動を行う。距離を変動させ回避運動を取るために、その効果は大きかった。

 

「撃ち方、始めー!」

 

那珂の14cm単装砲と吹雪の10cm連装高角砲が同時に砲弾を吐き出した。

 

敵の駆逐艦も回避運動を開始するが、それ以上に那珂と吹雪の砲撃は正確だった。

 

数回の応射の間に敵駆逐艦4隻の内、3隻を葬った。

 

残りの1隻は巧みに砲撃をかわし、夜の闇に紛れて逃げていった。

 

「吹雪ちゃん、あの駆逐艦は放っておいて私たちはお姉ちゃんの方へ向かうよ!」

 

「川内先輩の方へですね、了解です!」

 

那珂と吹雪は、壮絶な砲撃戦を繰り広げている方へと舵を切る。

 

ホ級と駆逐3隻が沈んだため、敵巡洋艦隊は総崩れとなり、旗艦であるリ級も撤退を始めていた。

 

金剛が主砲を放ち、遠ざかるリ級を仕留めようとするが、flagship級と呼称される個体だけあって、その機動性で難なく避けている。

 

ふとリ級が気付く。海面に白い尾を引きながら、自らに向かって、水底へと引きずり込む必殺の槍。

 

「くそっ、気付かれたか!」

 

リ級から離れた位置にいた川内が舌打ちをする。即座に腕の砲塔をリ級に向ける。

 

「やっぱり、こんな辺境基地に来るならもっと装備を整えてくるべきだった!」

 

川内は悪態をつきながも砲撃を行う。リ級は気にせずに砲弾の雨の中へと突っ込んでいく。

 

(魚雷を喰らうより砲撃の方がマシって事、か……)

 

川内の装備している砲は14cm単装砲、重巡、しかもflagship級の装甲(エネルギーフィールド)を貫く事は出来ない。

 

夜の暗闇を利用し接近して至近距離で放てば、貫通する事は出来る。

しかし敵の規模、状況が把握出来ない状態で深追いするのは危険過ぎた。

 

リ級は多少の損害を出しつつも、川内を振り切って姿を消した。

 

「逃げられちゃった、か……」

 

「ヘーイ、センダイ!大丈夫デスカー?」

 

同じくリ級を追撃していた金剛が川内の下へやって来る。

 

「さすが奄美部隊って言うべきね。軽巡や駆逐とはいえ、あっさりとflagship級と後期級を撃沈するなんて。

噂と実力は同じようね」

 

「センダイも、夜戦になるとイキイキするのはどこのアナタも同じデース」

 

「はははっ、違いない」

 

「金剛ーーっ!」

 

天龍たちが手を振ってこちらにやって来る。奄美部隊全艦損傷は軽微、無傷に等しかった。

 

「川内先輩、お久しぶりです!」

 

「お、吹雪じゃん。E型の個体は始めてだね」

 

「はい、開戦の三水戦以来です」

 

吹雪と川内はお互いに敬礼する。その後に那珂の方を向く。

 

「那珂も久しぶりだね。こんな所に居るなんて聞いてないよ?」

 

「那珂ちゃんねー、トラック基地から奄美基地に転属になったんだよ!だからこんな所に居るの」

 

「へぇ、そうだったの。連絡入れてくれれば良かったのに」

 

それを見て青葉が疑問を呈する。

 

「あれ、知り合いなんですか?」

 

「青葉、その質問はおかしいだろ。川内型軽巡洋艦の姉妹なんだから当たり前だろ?」

 

「いや、そーなんですけど……」

 

青葉の疑問に答えるように川内が「あー」と声を上げる。

 

「私たち派遣艦隊の川内型軽巡洋艦は、みんな同じ所で建造され、同じ派遣艦隊で活動していた“本当の姉妹”なんだよ」

 

「そーいうコト!」

 

川内と那珂がビシッと親指を立てる。青葉と天龍が「成る程」と納得する。

 

「どっちでも良いけれど〜、そろそろ休みたいわねぇ」

 

龍田が疲れたようにそう呟く。それを受けて、奄美部隊にだけ重力が2倍になったのではないかという程にガックリと肩を落とした。

 

「ハッ!?すっかり忘れてたデース!

センダイ、ワタシたちは奄美から直接小笠原諸島に向かって来たために疲労と体内ナノマシン用燃料が限界デース!

機関部艤装からのエネルギー供給をグリーンで受け取るためのナノマシン覚醒起動もそろそろヤバイですカラ……」

 

「私もそうしたいのは山々なんだけどさぁ。そうもいかないみたいなんだよね……」

 

「は……?」

 

金剛が聞き返す前に川内が叫んだ。

 

「九八式夜間水偵から入電、硫黄島南東方向より敵巡洋艦隊が接近中!」

 

その報告に一同はどよめく。

 

「もう一艦隊いたんですか……!」

 

「硫黄島には訓練に来ていた陸軍の部隊や一部の海軍の人達がいて、まだ避難は完了してない。

悪いけど、私と一緒にもうひと夜戦してもらうよ!」

 

「全く、CMS使いの荒いCMSだなっ!!」

 

天龍はそう言いながらもニヤリと笑っていた。他のメンバーも疲れが見えるがやる気を失ってはいなかった。

 

川内と奄美部隊は硫黄島方面へと急行する。

 

「深海棲艦と戦って、人々を守る事が私たちの役目ですからね!」

 

「と、いっても流石に疲れちゃうよ〜。お肌が荒れちゃったら那珂ちゃん、ライブ出来ないし」

 

「オイ川内、基地に戻ったら何か(おご)れよ!」

 

「ハイハイ分かったよ」

 

そうこう言っている間に、川内と奄美部隊は硫黄島東海岸に到着した。

 

そこでは今まさに、人々が上陸用舟艇に貨物を積み、沖合に待機している輸送艦に避難しようとしている所だった。

 

そこで川内は海岸近くで、舟艇を誘導している人物へと声をかける。

 

「あきつ丸!」

 

「ん?おぉ、これは川内殿!助けに来てくれたのでありますか!」

 

「状況は?」

 

「見ての通り、撤収は順調であります。この大発で陸軍部隊及び海軍関係者の撤収は完了であります」

 

「分かった。そう言えばまるゆは?」

 

「まるゆには沖合で潜行待機、ついでに早期警戒をしていてもらっています」

 

「了解、敵の巡洋艦隊がこちらに向かって来ている。慌てなくていいけど急いでくれ」

 

「了解!」

 

川内が沖で待っていた奄美部隊の所へ戻ってくる。

 

「あれは……CMSですか?この情報通の青葉でも見た事がありませんよ?」

 

「あー、基地に戻ったらちゃんと紹介するよ。それよりも今は敵巡洋艦隊!私の夜偵が触接し続けてるから、さっさと行くよ!」

 

そう言って川内は、未だ目視出来ない敵艦隊へと突っ込んで行く。奄美部隊も慌てて川内の後を追いかける。

その時、川内の無線に通信が入った。

 

『姉さん!』

 

「神通!遅かったじゃないか!」

 

『姉さんが飛び出していくからでしょう……』

 

「丁度良かった、場所は?」

 

『姉さんが捕捉した敵艦隊の、向かって左舷側に、駆逐艦の娘たちと回り込んだ所です』

 

「遠距離雷撃で牽制かけるよ。こっちとそっちで十字に交差させるようにする」

 

『分かりました。こちらはいつでも大丈夫です』

 

川内は頷くと、背後に続く奄美部隊に声をかけた。

 

「今から統制雷撃を敵艦隊にお見舞いするから、魚雷のある娘、ちょっと手伝ってくれない?」

 

「本当に勝手な奴だなーお前は」

 

「奄美部隊の旗艦はワタシですヨー!

まぁ、別にいいデスケド……」

 

「助かるよ金剛、それじゃタイミングを合わせて、二集三散々布帯で統制雷撃いくよ!」

 

吹雪、天龍、龍田、那珂、青葉が魚雷発射菅や魚雷深度等を調整して、準備を完了させる。

 

「左舷、雷撃戦、用意……撃てぇ!」

 

川内の掛け声で、シュシュシュという音を立て圧搾空気に押し出された魚雷が白い航跡を残して突き進んでいく。

 

奄美部隊は速度を落とし、川内は夜間接触を行っている九八式水上偵察機で様子を探る。

 

「……上手くいったみたいだ。敵艦隊は雷群を避ける為に反転した模様」

 

「イイ感じに時間稼ぎが出来ましたね。戻ってくる前に迎撃体制を整えましょう」

 

「ちょっと待った。リ級が傾斜してる?被雷したみたい!」

 

CMS(艦娘)たちが「おぉ!」と歓声を上げる。重巡であるリ級が敵艦隊の中で砲撃、雷撃共に一番の打撃力を持っている。

 

それでいてリ級は艦隊旗艦。戦闘開始前に頭にダメージを受けて、敵艦隊の統率力は半減したに等しい。

 

それに加え、敵艦隊は雷群を避ける為に回避運動を行った。もう一度突撃をかけるには艦隊を集合させ、陣形を整えなければいけない。

 

平時ならそれ程手間は掛からないだろうが、統率力が落ちた今の敵艦隊には難しいだろう。

 

その間に、硫黄島にいた人々は撤収を終える。

 

「……敵艦隊は針路を逆にとって離れていく……ふぅ、何とかなったみたいね」

 

「本当デスカ!?」

 

「うん、今夜はもう来ないだろうって、私の夜戦の勘がそう言ってる」

 

「何ですかそれ……」

 

CMS(艦娘)たちはその後しばらく周辺を哨戒し、脅威が無いことを確認してから小笠原基地のある父島へと針路を取った。

 

「いや〜今夜は久しぶりに夜戦が出来たな〜!明日もあるといいなぁ!」

 

「それよりもまずは敵部隊についての対策を立てないと……」

 

「全く、どこの吹雪も真面目なんだから。朝潮ほどでは無いけど」

 

「聞きたい事は山程あるんだ。帰ったらすぐ会議だな」

 

「でも、一番最初にお風呂に入りましょうよ天龍ちゃん?私もう限界よ〜」

 

「龍田さんが弱音を吐くなんて珍しい……」

 

「私だってそういう事くらいあるわよ」

 

CMS(艦娘)たちはクタクタになりながら帰途につく。

しかしまだ敵の先行部隊を退けただけ。本当の戦いは始まってすらいない。

 

そんな事を自覚しながらも奄美部隊は、誰もがとにかくお風呂に入って寝ようと思っていた。

 

その中で川内だけが、自主的に夜間哨戒などを行うとイキイキした表情で宣言した。

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルナ「またいろんな艦娘を出すな」
kaeru「キャラ沢山の方が楽しいでしょ?あとルナは多分暫く出番ないよ」
ルナ「!!!?」
kaeru「御意見、御感想等お待ちしております。どうぞお気軽に」


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memory30「防衛戦、迎撃始め」

ブリーフィング回です(^^;;
お付き合い下さい

それでは!


 

memory30「防衛戦、迎撃始め」

 

 

時刻、0500。

 

まだ日が昇らない朝の時間から、CMS(艦娘)たちは父島にある小笠原基地の作戦会議室(ブリーフィングルーム)に集まっていた。

 

「みなさん改めまして、夜は姉さんがお世話になりました……」

 

奄美部隊の面々に、大きなリボンの付いた鉢巻きを身につけ、川内と同じような服装のCMS(艦娘)ーー川内型軽巡洋艦二番艦の『神通』がペコペコと頭を下げている。

 

「別にそんな事はどうでもいいから、ちゃっちゃと話を進めようぜ」

 

天龍がひらひらと手を振ってそう答える。

 

因みに川内本人だが「日光に当たると灰になる」などと不可解な理由をつけて部屋で爆睡している。

 

呆れて物も言えないが、この時間まで1人のみで夜間哨戒を請け負ってくれたので文句は無かった。

 

「そういえば、何でお姉ちゃんたちが小笠原基地にいるの?」

 

那珂が姉である神通にそんな事を訊ねる。

 

「私達は中央の派遣艦隊でしょう?命令があればどこへでも行く。つまり命令でたまたま来てたのよ、那珂ちゃん」

 

「そーだったんだぁー!偶然だね!」

 

そう姉妹が話していると、ガチャリと扉が開き、見慣れない2隻のCMS(艦娘)が入ってきた。

 

「みなさんもう御集りですか、早いでありますな」

 

「う……海のCMSさんたちがいっぱい……」

 

「こら、まるゆ!陸軍所属ならば胸を張って堂々とするであります!」

 

入ってきた2隻のCMS(艦娘)ーーグレーの軍服の様な服装の少女と、白いスクール水着に海女さんのような水中ゴーグルを頭に付けた少女ーーに奄美部隊全員が不思議そうな視線を向ける。

 

「……陸軍所属?」

 

「神通さん、この娘たちは一体?」

 

「紹介がまだでしたね。

こちら、陸軍部で開発、建造された『あきつ丸』さんと『まるゆ』さん」

 

そう神通が紹介すると、あきつ丸とまるゆは姿勢を正し、(ひじ)をビシッと張った陸軍式の敬礼をして自己紹介をする。

 

「紹介に預かりました、陸軍船舶部隊所属、上陸舟艇母船、特種船丙型揚陸艦『あきつ丸』であります。

あの奄美部隊と御一緒出来るとは……感激であります!」

 

「同部隊所属、三式潜行輸送艇、通称『まるゆ』です。

あっ、通称って言うのは、三式潜行輸送艇っていう……種類?の名前という意味です。

でも結局私1隻しかいないので、まるゆと呼んで下さい」

 

自己紹介を聞いて奄美のCMS(艦娘)たちはポカーンとする。本人たちはその様子を見て「何か海軍の気に障る事を言ってしまっただろうか?」とあたふたしている。

 

「いや……そうじゃなくてよ、(おか)もCMSを造ってたのかと思ってな」

 

天龍がそういう風に説明をする。あきつ丸は「成る程」と納得し、加えてこう言った。

 

「10年ほど前から、深海棲艦なるモノが出現し、海洋を侵蝕している事は周知の事実でありましょうが、その深海棲艦がどのように陸地を侵蝕しているか、海軍の皆さんは御存知ありますか?」

 

あきつ丸の問いに奄美のCMS(艦娘)たちは首を傾げる。

言われてみれば確かに、あのような姿でどうやって陸地に上がり、基地を建てたり侵攻したりしているのだろうか?

 

深海棲艦は海に現れるものであったから、そんな事を考えもしなかった。

 

「これは最近の研究で分かった事らしいのでありますが、どうやら深海棲艦の『輸送ワ級』と呼称される存在がその役割を担っているそうなのです」

 

「ワ級?あのお腹がぷっくり膨れている深海棲艦の輸送艦がですか?」

 

青葉が怪訝な表情でそう訊き返す。あきつ丸とまるゆはうんうんと頷いて話を進める。

 

「実はその輸送ワ級、輸送艦としての役割だけではなく、強襲揚陸艦としての役割も担っているらしいのです」

 

一部のCMS(艦娘)が頭にハテナマークを浮かべていたが、

 

「正に、あきつ丸みたいな感じです」

 

と、まるゆが付け加えると、なんとなく理解した。

 

「強襲揚陸艦としてのワ級は、その胴体に輸送資材では無く、説明に困るのですが……言うなれば……黒い、スライム、粘菌?のような物体を満載しているらしいのです。

その黒い粘菌のようなモノが、陸地を侵蝕、我々で言う、陸戦隊や上陸部隊と同じ役割を果たしていると考えられているのであります」

 

「知らなかったデース……」

 

「私も初耳よ〜?」

 

「だから中央は週常任務で『ろ号作戦』や『海上通商破壊作戦』などを展開して、達成すると特種資材が貰えるんですね」

 

まさかそのような方法で深海棲艦が陸までもを侵蝕、侵略していたとは。

奄美のCMS(艦娘)たちは全員が初耳だった。

 

「いずれ大反抗に出て、陸を取り戻すとなれば海のCMSだけでは手が足りぬ!

深海棲艦の陸戦隊に対抗する為には、こちらも陸上に特化したCMSを造れば良い!

そこで自分たちの様な『陸』のCMSが造られたのであります!」

 

「陸なら、誰にも負けないもん!」

 

あきつ丸とまるゆは、エッヘン!と腰に手を当て胸を張る。

 

「成る程……それで船なら海も得意なんですよね?死角ナシじゃないですか?」

 

吹雪がそう質問すると2隻はシューンと小さくなってしまった。

 

「自分たちは記憶リソースを陸上戦闘に多く割り振ったおかげで、海上戦闘は出来なくは無いのでありますが得意では無いのです……」

 

「それにまるゆたちのモデルデータはどちらも輸送専門……装備している武器は自衛の為のものくらいで、海上の深海棲艦のエネルギーフィールドを破る威力はありません……」

 

そう説明すると、2隻は更に小さくなってしまった。

吹雪が慌てて「す、すみません!」と謝ってフォローに入る。

 

神通が苦笑いしながら付け加えて説明する。

 

「そんな事で、あきつ丸さんとまるゆさんは、性能検証の為に硫黄島で各種テストを受けていた所だったの。

そこにちょうど深海棲艦が攻め込んできたから……」

 

「自分たちにしてみれば、テストのつもりが実戦になってしまったのでありますな。結果自体は良好だったらしいので良かったのでありますが」

 

「成る程デース、そういう事だったんデスカ」

 

「あきつ丸さんとまるゆさんの事情は分かりましたね?それでは作戦会議を始めても宜しいでしょうか?」

 

神通の言葉に異論は出なかった。神通は今までの情報をまとめるように話し始める。

 

「それでは現在の状況から確認しましょう。

1週間ほど前から、中央は一大攻勢作戦『AL/MI作戦』を発動しました。

作戦内容は過去の大戦時のものとほぼ同じで御存知かと思いますが、簡単に説明すると、アリューシャン列島方面に敵勢力を誘引、その隙に敵基地のあるミッドウェー諸島に攻撃を加えるというものです。

 

この作戦自体は、先日の明朝にミッドウェー攻略部隊が無力化したと中央に通信が入っています。中央はこの通信を一定通信域で各鎮守府に転送しています。

同部隊は、安全を確保するため周辺海域の掃討を行い、作戦終了期間までは同海域に留まるとの事でした。

 

しかしその数時間後の1030頃、トラック基地の哨戒艦が、トラック基地北西560海里、北マリアナ諸島近辺で敵の大規模艦隊を捕捉したとの緊急電文がありました。

敵針路から目標は日本本土、その針路上にある小笠原諸島が攻撃されると予想されました」

 

「その時、ちょうどワタシたちはコッチ方面に出撃していたデース。

哨戒艦の緊急電を受けて急行したのデスネ」

 

金剛がそれに続いて奄美部隊の経緯を神通に説明した。

 

「恐らく、俺らの提督はこの事態を予測していた。だから俺たちをあらかじめ小笠原諸島方面に出撃させ、護衛艦を2隻も出した」

 

「……聞いた話ですと、そう考えるのが妥当なようですね」

 

天龍の言葉に神通は静かに頷く。奄美部隊がこうも早く動かなければ、夜戦の時に川内と神通はやられていただろう。

 

「その後の出来事は皆さんの知っている通り、日付が変わり本日0100頃に敵巡洋艦隊が基地海域に侵入。

私と姉さん、それに奄美部隊とちょうど遠征から帰還途中だった大湊の駆逐艦たちとで迎撃した、と、 こんな所ですかね……」

 

神通がひと息ついてそうまとめる。

今までの状況を振り返ってみても、戦力差は圧倒的だとCMS(艦娘)たちは感じていた。

 

「敵艦隊の規模は分からないのですか?」

 

吹雪が手をあげて質問する。神通は申し訳無さそうに目を伏せる。

 

「先日から索敵機を出してはいるのだけれど、敵艦隊は発見できていないわ……ごめんなさい」

 

「いっ、いえ!そんな事ないです!」と吹雪が慌ててフォローする。

 

「じゃあ、今こちらの戦力は〜?」と龍田。

 

「はい、まず派遣艦隊である姉さんと私、そして大湊の初雪、叢雲、夕雲、長波。

そして奄美部隊の皆さん、計12隻が現在の小笠原基地の全戦力です」

 

「12隻!?それしかいないんですか!?」

 

青葉が驚いたように声を上げる。

 

もし仮に、大湊の駆逐艦娘がいなくて、奄美部隊が救援に来なければ、川内、神通の派遣艦隊2隻しか小笠原基地にいない事になる。

 

「各鎮守府の主力+派遣艦隊のほとんどがAL/MI作戦に参加する為に持ってかれてしまいましたからね……皆さんが来てくれなければ、この基地はおろか、本土が危険に晒される所でした」

 

「これは……作戦自体に不備がありますよね……」

 

青葉がそう呟く。そこまでの戦力をつぎ込まなければーー日本本土を危険に晒してまでミッドウェーの敵基地を叩く必要があったのか、甚だ疑問であった。

 

「まぁ今はそんな事考えてもしょうがなくない?これからを考えよっ!」

 

那珂が明るくそう言う。空気が沈んでいただけあって、那珂の明るさが今この場ではとてもありがたかった。

 

「そうデスネー、救援が無いワケじゃありまセンし。

先程話した通り、奄美から護衛艦……恐らく資材や装備を積んでいる2隻がこちらに向かって来ていマース。

敵艦隊が巡航18ノット程度で北上して来ているとすると、基地海域に侵入するのは今から約6時間後の1100頃。

奄美の艦の到着予定時刻は0900。充分に打つ手はありマスヨ!」

 

「そうです!まだ戦いは始まってすらいませんしね!それに、私と同じ十一駆の初雪と叢雲がいるなら負ける気はしません!」

 

「おぅ、その意気だ吹雪!世界水準を軽く超えてる天龍様がついてるんだ。深海棲艦なんて目じゃねぇぜ!」

 

吹雪と天龍がバンッ!と席を立ってガッツポーズを取る。それを見て、CMS(艦娘)たちから笑いがこぼれた。

 

「さすが奄美部隊ですね……強さの理由が分かった気がします」

 

「ん?神通お姉ちゃん何か言った?」

 

「ううん、なんでも無いわ那珂ちゃん。それでは皆さん、動きましょうか!」

 

神通の掛け声にその場にいたCMS(艦娘)たちは力強く頷いた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

時刻、0845。

 

小笠原基地に奄美の護衛艦『かざばな』と『そうせつ』が到着した。

早速クルーの人々が降りてきて、CMS(艦娘)用の機材の搬入に取り掛かった。

 

「やっぱり積んでいた機材は私たち用のねぇ……あのお爺さんはどこまでこの事態を予測していたのかしら?」

 

龍田が苦笑しながら護衛艦を見上げる。隣に立っていた天龍もため息をついている。

 

するとクルーに混じって、雰囲気の異なる女性が艦から降りてきた。

 

「貴女たちは……天龍と龍田ね!」

 

「……お前は?」

 

女性は「あれ、まだ情報回ってないのかな?」と困惑しながらも自己紹介をする。

 

「私はヨーコ・エイ。新しく奄美に来た整備士よ!専門は記憶兵装、宜しくね」

 

「あぁ、何かチビ助がそんな事言ってたな……」

 

天龍がそう納得しているとヨーコは「そうでしょ!そうでしょ!?」と天龍の手を取ってブンブンと上下に振る。

 

「いやほら、高城(たかしろ)整備主任は奄美基地で仕事があるから離れられないじゃない?

でも、小笠原基地にはしっかりと艦娘の艤装とかを整備できる人っていないらしいから、しっかりと整備できる優秀な、あ、ここ重要ね、『優秀な』整備士である私がやって来たってワケ!」

 

ヨーコはそんな風にワーッとひと息に喋る。天龍と龍田は1人でも姦しい人だなと内心、思っていた。

 

「それにね、良い装備もいくつか持ってきたのよ。61cm四連装魚雷発射菅に、それ用の九三式魚雷、もちろん酸素魚雷よ。

高角砲いくつかに九一式徹甲弾、佐世保の明石に頼んで改修してもらった星付き主砲!」

 

「結構持ってきたのねぇ。それだけあれば何とかなりそう〜」

 

「装備はモチのロンだけど、修理用機材もあるから怪我してもすぐ治せるからね!

だから安心して当たって砕けてきて!」

 

「当たって砕けたら沈むだろうが!」

 

天龍は思わずそうツッコミを入れてしまう。

コイツは何かウマが合わなそうだ、と天龍は結論付けて背を向ける。

 

「あ、ねぇ、ちょっと!」

 

「あばよ、優秀な整備士さんよぉ。ドックの準備しなくていいのか〜?」

 

天龍が手をヒラヒラと振りながら歩き去る。ヨーコは「あぁっ!?そうだった!!」と慌てて走っていった。

 

 

 

一方その頃、

 

基地の通信士が無線機を金剛に渡す。それを受け取りコホンと声を整える。

 

「こちらコンゴウデース。アカギ、応答してくだサーイ」

 

『はい、こちら赤城です。無事なようで何よりです』

 

「アト2時間くらいしか保障されない無事デスケドね。そちらはどれくらいでコチラに到着しそうデスカー?」

 

『昨晩から急いではいますが……恐らく第一波には間に合いません。攻撃隊での援護は出来ますので、敵艦隊を捕捉したら御連絡を』

 

「了解したネ。でもコチラの戦力はたったの12隻、なるべく早く頼むデース」

 

『了解しました。……どうか、沈まないで下さいよ』

 

「縁起でも無い事を言うんじゃナイデース!これ以上は傍受の危険性があるので、もう切りマスヨ!」

 

金剛は無線機を通信士に返す。後ろに控えていた青葉が不安そうな顔で金剛に訊ねる。

 

「赤城さんたち……救援隊は……」

 

「マァ、概ね予想通りデース。今日1日はワタシたちで乗り切らないとダメデスネ」

 

2隻の間に重い空気が流れる。しばらくの後、金剛が静かに口を開いた。

 

「これは……トラック迎撃戦以上の戦いになりそうデース……」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻、1000。

 

「これより、第一次強行偵察を敢行します」

 

神通が基地埠頭で静かに宣言する。

 

「現在、我々の置かれている状況は悪いと言わざるを得ません。

このままジッとしていても、約1時間後には敵艦隊が基地海域に侵入します。

そこで、敵艦隊の規模などの情報を得るとともに……侵攻を遅らせる、時間稼ぎを行ってもらいます」

 

目を伏せ、申し訳無さそうに神通はそう告げる。

前に立つ臨時の水雷戦隊ーー旗艦那珂、吹雪、初雪、叢雲、夕雲、長波の6隻は問題無さそうに笑ってみせる。

 

「大丈夫、神通お姉ちゃん!このグループならトップになれるよ!」

 

「何言ってるんですか……」

 

吹雪が苦笑いしながらいつもの様にツッコミを入れる。その様子を見て他のCMS(艦娘)たちもつられて笑う。

 

「いいですか、今回はあくまで偵察です。正面からぶつかってはいけません。敵情を把握したら、適度な攻撃で牽制しつつ撤退して下さい。いいですか?」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

こうして、那珂率いる水雷戦隊は出撃する。

 

 

小笠原基地での一番長い日が始まった。

 

 

 

ー物語の記憶ー

 

・星付き

通常のCMS用装備(攻撃用艤装など)を特殊な部品でアップグレードすると、僅かにだが装備の記憶に干渉し、結果CMS(艦娘)とのリンクが強まりさらなる性能を引き出す事が出来る。

このアップグレードを施した装備の俗称が『星付き』である。

アップグレードの回数を重ねる毎に性能は高まり、星の数で回数を表す。

 

 

 

 

 

 

 




ルナ「本当にオレの出番無いのか……」
kaeru「無いです」
ルナ「主人公なのに……」
kaeru「次回、硫黄島の戦い(違」


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memory31「硫黄島沖偵察任務」

ー前回のあらすじー
記憶喪失の青年少尉、栄ルナは奄美CMS特別部隊指揮官として忙しい毎日を送っていた。
そんな中発動されたAL/MI作戦は、奄美部隊が参加する事なく終了した。
しかし艦娘主力がいない隙を突いて、敵大規模艦隊が本土に攻めてきていた。
小笠原基地に到着した奄美部隊は、敵情を把握するために偵察に出るのであった。


memory31「硫黄島沖偵察任務」

 

 

「そろそろ会敵予想海域に突入するから、警戒してね!」

 

小笠原迎撃隊、臨時水雷戦隊旗艦の那珂が隊内無線でそう伝える。

那珂の率いる水雷戦隊は、偵察部隊として敵侵攻部隊が向かってくるであろう硫黄島南東の方角に出撃していた。

 

「はぁ……帰りたい……」

 

「ちょっと初雪、アンタ何言ってんの。今さっき出撃したばっかりじゃない!」

 

吹雪型駆逐艦三番艦の『初雪』の愚痴に対し、同五番艦の『叢雲』がそう言う。

 

艦隊は6隻で単縦陣を取っており、旗艦那珂に2隻目が初雪、その後ろに叢雲、4隻目、5隻目に夕雲型駆逐艦一番艦『夕雲』と四番艦の『長波』最後尾に吹雪という順番で航行していた。

 

「もともと私達は遠征帰還途中……大湊に帰っても何も問題は、無い」

 

「ありまくるわよ!帰る場所が無くなって逆に還るわよ!」

 

「まぁまぁ叢雲、落ち着いて……」

 

ワーギャーと初雪を叱り付ける叢雲を吹雪がなだめている。

 

「特Ⅰ型は仲が良くていいわね」

 

「夕雲型だって負けてないと思うんだけどなぁ、早いトコ深海棲艦を倒して母港に帰ろうぜ!」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

夕雲と長波が、初雪たちの様子を見てそう話す。

 

「現在時刻、1024。そろそろ何かあってもいいと思うんだけどなぁ……」

 

那珂が目を凝らして周囲を見回すと、東の空に黒いゴマ粒のようなものが見えた。

 

「左舷50度に敵艦載機!艦隊、輪形陣に移行。対空戦闘よぉ〜い!」

 

那珂の命令で艦隊は単縦陣から輪形陣へと陣形を変更する。

 

「艦載機?敵には空母もいるの……って、思ったけど、まぁ考えてみれば自然な事ね」

 

叢雲はそう言いつつ、装備している12.7cm連装高角砲を空へと向ける。

数分と経たないうちに艦隊の頭上に敵機が接近する。

 

「対空戦闘、うちぃ〜かたぁ〜始め!」

 

CMS(艦娘)たちの対空砲が一斉に対空弾を吐き出し、瞬く間に敵機を拒む弾幕を形成する。

 

今回、この偵察部隊にはどのような事態になっても対応が出来るようにと、様々な武器を持ってきていた。

その中でも初雪と叢雲は12.7cm連装高角砲を、吹雪は10cm連装高角砲を装備して空襲に備えていた。

 

「くっ……!それでも少しキツイですね……!」

 

吹雪が絶えず砲を空に向けながらそうつぶやく。

あらゆる場面に対応出来るようにと言ってみても、積んでいる武装は元々、小笠原基地にあった物か奄美から運んできたような貧弱な物しか無い。苦戦するのも当然の事であった。

 

対空砲火によって数機を撃墜し、若干数を攻撃ルートからそらす事ができたが、弾幕をかいくぐった敵機がCMS(艦娘)たちに接近する。

 

「各艦、自由回避!」

 

CMS(艦娘)たちは敵機の攻撃に対して回避運動を取る。

 

「いったいなぁ、もう!」

 

長波の近くに敵機の投下した爆弾が落ち、爆発の衝撃で体勢を崩してしまった。

それを逃すまいと航空魚雷を引っさげた艦攻が長波目掛けて突っ込んでくる。

 

「長波、後ろっ!」

 

夕雲の声にハッとして長波は振り向く。そこには魚雷を投下しようと高度を下げにきた敵艦攻が迫っていた。

長波は未だ体勢を整えきれていない。

 

「そうはさせません!」

 

吹雪が長波と、今まさに魚雷を投下しようとしていた敵機との間にすべり込み、正面から砲弾を叩き込んだ。

目の前で敵機は爆散し、その影響を受けて、後から続いてきた他の艦攻は攻撃を断念して離脱しようとした。

 

「この長波サマに手を出しておいて、タダで帰れると思うな!」

 

長波は主砲と通常装備の機銃で、逃げようとする敵機を狙う。

撃墜することは叶わなかったが、数機が機銃弾を受け、煙を出しながら水平線の向こうへと消えていった。

 

「くそっ、逃がしたか。でもあの様子じゃ長くは保たないだろ。それにしても吹雪、助かったよ〜」

 

長波の礼に吹雪は少し照れたように「どういたしまして」と返した。

 

それを最後に空襲は止み、敵艦載機も引き上げていった。

 

「みんな集合ー、被害確認するよ」

 

「初雪……問題ナシ……」

 

「叢雲、至近弾1。粒子装甲防壁(バリアー)に少し負荷が掛かったけど、想定の範囲内よ」

 

「夕雲、特に異常は無いわ」

 

「長波、損傷軽微!余裕で戦えるぞ!」

 

「吹雪、作戦行動に支障はありません」

 

被害を確認した那珂はうんうんと頷いた。

 

「さすがだね〜!じゃあ、みんな無事みたいだから、さっきの艦載機がやって来た方向に進むよ。艦隊、単縦陣。針路1-3-5、速力20!」

 

偵察部隊は再び陣形を単縦陣に組み直すと、敵艦載機が襲来してきた方向へと舵を取った。

 

「先程の空襲でやって来たのは2〜30機程でしたが……軽空母ですかね?」

 

「いや……そうとは限らない……」

 

吹雪の疑問に初雪が口を開いた。

 

「正規空母が攻撃隊を少数に分けて五月雨式に攻撃を……なんて事があるかも」

 

「まぁ、初雪の言う事も一理あるわね」

 

叢雲が初雪の言葉に頷く。そのような考えを頭の隅に置きながら部隊は航行を続ける。

 

しばらく何も無い海を進んでいると、那珂が突然「みんな止まって」と艦隊に停止をかけた。

 

「どうかしたの?」と夕雲が怪訝そうな表情で訊ねる。

 

「多分ねぇ……あの向こうに敵艦隊がいると思うの」

 

那珂は水平線を指差す。当然ながら、その先には青い海が広がっているばかりで敵の姿など全く見当たらない。

 

「どうしてそんなのが分かるのさ?」

 

「知りたい?長波ちゃん?それはねぇ……アイドルの勘だよ!」

 

「全くアテになりませんね」

 

「何の根拠もないのねぇ」

 

吹雪と夕雲がそうつぶやいた。

 

「あー、全然信じてないね?これでも四水戦旗艦だったんだからね!艦隊、面舵。回り込むよ」

 

那珂は指差した水平線の辺りに、向かって右側に回り込むように移動する。すると正面にユラリと黒い影のようなモノがちらと見えた。

 

「て、敵艦隊です。距離があるため識別はまだ出来ません」

 

「あら、本当に見つかったわね」

 

「ほらね言った通り。それじゃ接近するから速力落とすよ。あと、見つかったら頑張る事になるから心の準備も忘れずにね!」

 

那珂の言葉に悪寒を感じつつも艦隊は接近する。

距離、およそ3,500。

 

「両舷前進半速」

 

更に速度を落として、気付かれぬように敵艦隊の規模を確認する。

 

「艦種確認、戦艦ル級flagship1、軽巡へ級flagship1、軽母ヌ級elite1、駆逐艦級不明3です」

 

「ル級flagshipとは、手強いわね……」

 

叢雲が手に持っていたマスト型対艦槍(近接モジュール)を握り直しながら言った。

 

敵戦力の把握も終わり、離脱しようとした時、ル級がくるりとこちらを向いた。

 

「気付かれたわねぇ……」

 

「マズイんじゃないかコレ?」

 

ル級はその巨大な砲塔をCMS(艦娘)たちに向ける。

 

斉Z(右180度一斉回頭)!両舷前進第五戦速!」

 

那珂の指示で、弾かれたように艦隊は離脱を開始する。

ル級がこちらを仕留めようと砲塔を指向させ狙いを定める。

 

五斉(左50度一斉回頭)!単横陣!」

 

一斉に取り舵をとって進路を変更する。その時、背後で発砲音が轟き、部隊右舷後方にル級の砲弾が着弾する。

 

「単縦陣!三方(左30度方向転換)!」

 

再び単縦陣に戻ると更に取り舵をとる。今度は、先程までの進路上に砲弾が着弾した。

 

方三(右30度方向転換)、最大戦速でル級射程外へ離脱!」

 

CMS(艦娘)たちは機関出力を上げる。それに呼応するように航行用艤装がうなりを上げ速度がぐんと跳ね上がった。

 

軽巡と駆逐の水雷戦隊なので、ル級率いる敵艦隊よりもスピードは上。その為、振り切ることは容易かった。

しばらく航行し、追撃のない事を確認してから、那珂は集合をかけた。

 

素早い判断と対応のおかげで、部隊は被害ゼロの状態で逃げ切れたようだ。

 

「……焦った」

 

初雪が額の汗を拭いながらそう言った。

 

「ふぅ、上手い事いったわね。こっちの被害ゼロで敵艦隊の規模が分かったんだから」

 

「でも……あれは本隊じゃないと思う……」

 

叢雲の言葉に初雪はそう返した。

確かに、あのル級艦隊が本土侵攻部隊の本隊とは考えにくい。なぜなら、本土侵攻を目論むにしては戦力が割に合っていないからだ。

 

「そう考えると、あの艦隊は前衛艦隊と考えるのが一番かしらね?」

 

夕雲のいう通り、あのル級艦隊を前衛と考えるのなら、何の矛盾もなく疑問は氷解する。

 

「夕雲ちゃんのいう通り、前衛艦隊と見るのが自然だよね。

だとすると、あの艦隊の後ろには敵の本隊がいるはず!」

 

那珂たちが知りたいのは敵の最大戦力、つまりは本隊である。敵の一番大きな戦力が分かれば、それ相応の対応が出来る。

 

たとえ準備が間に合わなかったとしても、あらかじめ知っておく事で「敵はこんな戦力でやって来る」という心構えが出来る。

 

精神がもたらす影響というのは思いの外、大きなものだ。それを軽減するだけでも効果はある。

 

「そうと決まればチラッと敵本隊を見てきて、パパッと連絡して任務終了にしようぜ!」

 

長波が腕を組みながらそのように言う。他のCMS(艦娘)たちもその意見に賛成だった。

 

確認を終えた時点で統制雷撃でもお見舞いしておけば、今回の任務は完了したと言っても過言では無いだろう。

 

「よし!じゃあさっきの前衛艦隊を迂回するように後方に回り込むよ!モチロン、警戒は怠らないように」

 

偵察部隊は第三戦速まで速度を上げると、先程のル級艦隊を大きく避けるように迂回し、南からル級艦隊後方を目指して進んだ。

 

空と海、どちらも警戒を続けつつ部隊は進んでいく。

 

そしてしばらくの後、ル級艦隊後方と思われるポイントに到着した。

那珂は「両舷前進原速」と指示し、細心の注意を払いながら、そのポイントをくまなく捜索した。

しかし、本隊どころか駆逐イ級1隻見当たらない。

 

「あれぇ、おかしいなぁ。距離からみてもここら辺で遭遇する筈なんだけど……」

 

那珂が思わず艦隊を停止させる。駆逐艦娘たちも不思議そうに辺りを見回している。

 

「確かにおかしいですね……敵侵攻部隊も巡航速でこちらに向かって来ているのであれば、絶対にこの付近で衝突する筈ですが……」

 

「駆逐イ級どころか、海鳥1匹いないわね」

 

吹雪と叢雲がそのように言って海図を見ながら、今までの航行ルートを指で辿る。

 

「私たち偵察部隊の動きが読まれていたんじゃないかしら?」

 

ふと夕雲がそのそんな風に口を開いた。

 

「まず私たちは最初の段階で空襲を受けたし、その後の前衛艦隊にも存在が気付かれているわ。

当然、報告が敵本隊に上がっていて、何かしらの対策を取られていても何ら不思議じゃないわ」

 

「なんだよー、こんなに遠回りしたのにアタシたちはバレてたってワケかよ?」

 

「まだそうと決まったわけでは無いけど……」

 

夕雲はチラリと那珂を見た。つられて長波も那珂を見る。

 

「でも、この状況を見る限りその可能性は高いね。まだ索敵範囲が狭いから、その外にいるって事もあるけど……」

 

「……水偵を出してみたら?」

 

那珂がうーんうーんと唸っている所に初雪はそうつぶやいた。

那珂はポンと手を叩くと「あーそっかぁ!すっかり忘れてた!」と艤装から零式水上偵察機を取り出して、腕のカタパルトにセットする。

 

「全然使った事無い装備だったからすっかり忘れてたよー、偵察機、発艦!」

 

ガシュンと音がしてカタパルトが起動し、零式水上偵察機を空へと送り出す。

水偵はプロペラ音を響かせながら上空へと昇っていった。

 

「そういう大事な装備、忘れますか普通?」

 

「現に忘れちゃってたから、しょうがないね!」

 

吹雪はハァとため息をついた。那珂は水偵に指示を出し、索敵範囲外の捜索を始める。駆逐艦娘たちは周辺警戒の任についた。

 

那珂は水偵と意識をリンクし、視覚情報などを共有する。記憶兵器だから出来る索敵方法で、敵艦隊がいそうな場所を捜索する。

 

「那珂さん、何か見つかりましたか?」

 

「全然ダメだよー、全く見つからないね。やっぱり夕雲ちゃんの言う通り先読みされてたっぽいね。これは1回戻った方が良いかも……」

 

那珂は叢雲に基地に通信を入れるように頼むと、水偵を引き返させる事にした。

その時、突然那珂と水偵とのリンクが遮断された。

 

「あれっ?」

 

「どうかしました?」

 

「水偵とのリンクが切れちゃった。記憶兵装の故障かなー?」

 

「零式水上偵察機は実在した機体ですし、烈風六〇一空のようにif装備じゃないんですから、そんな事起こるハズが……」

 

吹雪がそう言いかけた時、CMS(艦娘)たちは不思議な音を聞いた。

太鼓を叩いたような音が聞こえたと思ったら、風を切るヒューという音が聞こえてきたのだ。

一瞬、何事かと思考を止めたその瞬間、部隊の周りに殺人的な規模の水の柱が乱立した。その衝撃で海面が上下に大きく波打つ。

 

「なっ、なんだなんだ!何が起きたんだ!?」

 

「……砲撃?」

 

「そんな……どこからっ!?」

 

艦隊はパニックに陥った。突然どこからか攻撃を受けたのだ。しかもその砲撃の威力はル級をはるかに上回っている。水柱の大きさを見れば一目瞭然だ。

 

そんなCMS(艦娘)たちは、恐ろしい『声』を耳にした。空気の振動としてでは無く、頭の中に直接響いてくるような、そんなおぞましい声を。

 

 

『ナンドデモ……シズメテ……アゲル……』

 

 

CMS(艦娘)たちは戦慄した。言葉を発することの出来る深海棲艦なんて数えるほどしかいない。そして知っていた。言葉の発することの出来る個体は、全て『イレギュラー』な事を。

 

人間型(ヒューマノイドタイプ)の身体に不釣り合いな程に巨大な装備。いや、ただの装備では無い。人間1人を軽く握り潰せるであろう巨大な手のひらと足のような物も見える。

艤装そのものが1つの意思を持っている。かつてトラック泊地に現れた空母棲姫と同じタイプの艤装。

 

「……『戦艦棲姫』……!」

 

那珂が冷や汗を垂らしながらそうつぶやいた。イレギュラー個体の中でも戦艦の能力に特化した個体。その攻撃力の前ではCMS(艦娘)装甲(バリアー)など紙と同じであろう。

 

「アレが……侵攻部隊の本隊って事で確定ね……」

 

「……もう、ヤダ」

 

辺りを見回すと、偵察部隊は多数の深海棲艦によって完全に包囲されていた。旗艦(flagship)級や精鋭(elite)級は勿論、果てにはあの空母棲姫もいる。

 

「マズイぜ、囲まれてる!」

 

「いつの間に……これ程とは思ってなかったわ……」

 

戦艦棲姫はニヤニヤと笑いながら徐々に距離を詰めてきていた。その様子はさながら、イワシを食べようと追い詰めたクジラのようだ。

 

「那珂さん……っ!」

 

副艦である吹雪が那珂に指示を求める。那珂は真剣な表情で「全周防御」とまるで陸戦のような指示を出した。CMS(艦娘)たちは背中合わせに丸くなる。

 

「やっぱり、那珂ちゃんたちの動きは読まれてたみたいだね。それに帰してあげるつもりは無いみたい」

 

「暢気な事言わないで、どうするんですか!?」

 

「慌てちゃダメだよ。どんな時でも冷静に」

 

そうこうしている合間にも深海棲艦たちはジリジリと距離を詰めて来ている。

 

「あの間を抜けよう」

 

那珂が目線で吹雪に伝える。そこはル級が2隻立っている所だった。

 

「なぜ軽巡や駆逐の合間じゃ無いんですか?逆に難しいのでは?」

 

「確かに、抜けるのは難しいけど、すれ違い様に魚雷を撃ちながら行けば多少なりとも向こうの出鼻を挫けるハズ。みんな那珂ちゃんの指示通りにお願いね」

 

那珂は「針路2-4-0、機関微速」を命じ、ゆっくりとその場から移動を始める。

深海棲艦たちも少し慌ただしくなる。こちらの様子を(うかが)っているのか。

 

「まだだよ……まだ……」

 

ゆっくりとル級の方へ近づいていく偵察部隊。ついに痺れを切らして、戦艦棲姫がその巨大な砲をこちらへ向けた。

那珂は呼吸を合わせて叫ぶ。

 

「今だよっ!機関一杯!!」

 

それと同時に戦艦棲姫が砲撃する。那珂たちは機関を言葉通り一杯にして最大速力でル級に突っ込んでいく。今まで立っていた所に戦艦棲姫の砲弾が着弾して、海面が面白い程に波打った。

 

それを皮切りにして、他の深海棲艦も砲撃を始める。海上は一瞬にして修羅場と化した。

 

「全艦、魚雷戦準備!目標、両舷のル級!!」

 

ル級の顔がだんだんと近づく。表情が読み取れる程に。砲弾の雨をすり抜けつつ、艦隊はこの包囲網を突破しようと試みる。

 

吹雪型3隻は右舷のル級を、那珂と夕雲型の2隻は左舷のル級を狙った。

 

「撃てぇぇーー!」

 

各艦が装填していた魚雷を全てばら撒いた。何本かは白い航跡を残す普通の魚雷だが、そこに紛れて酸素魚雷も共に海中を突き進んでいく。

 

数本が敵に防がれ、たどり着く前にズドォンと爆発した。残った魚雷は外れる物もあれば、見事命中した物もあった。

 

そんな混沌とした海上を死に物狂いでCMS(艦娘)たちは駆け抜けた。

 

すれ違い様に、深海棲艦目掛けて主砲を乱射する。離れた所にいた駆逐ロ級が流れ弾に当たってひっくり返った。

ル級にも何発か命中したが、軽巡と駆逐の砲撃で戦艦の装甲(エネルギーフィールド)は抜けなかった。

 

しかし、偵察部隊はそんな死の包囲網を見事突破した。しかし喜んでいる暇は無い。後ろからは戦艦棲姫や空母棲姫、大量の深海棲艦が追ってきているのだ。

 

「全速!とにかく機関一杯で振り切るよ!叢雲ちゃん、基地に高速暗号通信!敵戦力を伝えて!」

 

「言われなくてもやってるわよ!」

 

「初雪ちゃん、夕雲ちゃん、長波ちゃんは砲撃継続!吹雪ちゃんは煙幕展張!」

 

「うん……分かった」

 

「主力オブ主力の夕雲型の実力、見せてあげるわ」

 

「やっば寄せ集め軍団は最高!」

 

「了解、煙幕展張します!」

 

吹雪が煙幕を展開し、戦艦棲姫からこちらの姿を隠す。それでも敵の射撃精度は一向に低下しない。

 

「ダメです!効果ありません!」

 

「アイツ……電探を装備してるのね……!」

 

白煙を上げていた吹雪がふと上空を見る。黒い甲殻類のような敵艦載機に混じって、白くて丸いモノも一緒に飛んでいる。

 

「上空、敵機!」

 

「輪形陣!撃ち落としてっ!」

 

敵艦載機は滝のようにCMS(艦娘)たち目掛けて急降下してくる。爆弾が一斉に投下され、天地がひっくり返ったのでは無いかという程の衝撃が艦隊を襲う。

 

「なにあの白いタコヤキに変な顔がついた奴!普通の艦載機より性能高いぞ!」

 

長波が機銃を撃ちながらそう叫ぶ。直後に至近弾を喰らって頭から海水をかぶった。

 

そんな絶望的状況の中、偵察部隊は辛くも新型艦載機を含む敵攻撃隊の空襲を切り抜けた。だが全速力で航行しているのにも関わらず、深海棲艦との距離は広がらない。

 

「何よあいつら!そこまでして私たちを沈めたいワケ!?」

 

叢雲がそう叫んで、追いすがる駆逐ハ級に主砲を叩き込んだ。ハ級は爆発を起こして沈んでいったが、その直前に魚雷を撃っていた。

 

「後方より魚雷接近!」

 

「面舵回避!」

 

艦隊は舵を切って魚雷を回避する。それを狙っていたかのように戦艦棲姫や他の戦艦クラスの深海棲艦が一斉射撃を仕掛ける。

偵察部隊はたちまちバケツの水をひっくり返したような状況になった。

 

「みんな!大丈夫!?」

 

那珂がそう呼び掛ける。全くもって大丈夫では無かったが、駆逐艦娘たちは大丈夫だと答えた。しかし、直撃弾が無いとはいえ、度重なる至近弾のせいで駆逐艦娘たちの装甲(バリアー)の耐久値は既に7割を切っていた。全員の艤装が至近弾のみで『小破』の損害を受けている。

それに対してこちらは敵艦隊に有効なダメージを与えられていない。

那珂は決断した。

 

「……統制雷撃をする!」

 

異論は出なかった。駆逐艦娘たちも身なりは小さくともバカでは無い。この状況下において、逃げ切れるだけの時間を稼ぐことのできる方法がこれしか無いことを察していたのだ。

 

全艦が魚雷の再装填を終えるのを見計らい、那珂が針路変更の指示を出す。

 

「艦隊、方八(右80度方向転換)!目標、右舷敵艦隊群、対水雷戦闘用意……っ!」

 

那珂がそこまで言った時、上空から太陽を利用して敵艦爆が急降下してきた。

 

 

『テッキチョクジョウ……キュウコウカ!!』

 

 

空母棲姫の不気味な声が頭に響く。那珂は即座に反応した。

 

「命令待てっ!敵機直上、対空戦闘!」

 

しかし、突然の出来事に大湊の駆逐艦娘は反応が遅れてしまった。反応が出来た吹雪のみ、10cm連装高角砲を白い敵艦載機に向ける。

 

その白い敵機は那珂を完全に捉えていた。那珂も対空砲を向けるが、いかんせん太陽の中に入られている。撃墜するのは厳しい。

そう判断した那珂は咄嗟に回避運動を取った。至極、当然の事である。

 

しかし敵の新型艦載機はそれすらも見切って、的確に那珂を捉えていたのだ。

 

吹雪が新型艦載機を狙って10cm連装高角砲の引き金を引いた。狙いは完璧、日頃の訓練の成果だった。

 

しかし、そこで驚くべき事が起きた。吹雪の対空弾は躱されてしまったのだ。

 

「そんなっ!?」

 

あの新型艦載機は、吹雪が思っていた以上の性能を見せ付けると、悠々と爆撃コースを修正し、爆弾を投下した。

 

「那珂さぁぁああん!!!」

 

那珂の背中に爆弾が接触する。瞬間、紅蓮の炎が一瞬辺りを包み込み、次いで衝撃波が駆逐艦娘たちを薙ぎ払った。

 

コンマ数秒遅れて、耳をつんざく轟音が響く。目を回す駆逐艦娘たちだったが、即座に状況を理解し、那珂の下に駆け寄る。

 

「那珂さん!那珂さんしっかり!」

 

那珂はグッタリとしてピクリとも動かなかった。背中の機関部艤装はその殆どが吹き飛び、服が破けて火傷した背中が見えていた。口元からは血も出ている。

 

「そ……そんな……!」

 

「早とちりしないで吹雪!まだ生きてるわ!」

 

叢雲が冷静に脈を確認する。まだ生きている。爆発の衝撃で気を失ってしまっていたのだ。

 

しかし、確認を取るまでもなく那珂は大破、航行不能の大損害。

艦隊旗艦がこの有り様。後ろからは戦艦棲姫率いる大艦隊。

言わずもがな、状況は絶望的だった。

 

「吹雪、アンタ副艦でしょ?指揮をとりなさい」

 

「え……」

 

「え?じゃないわよ!旗艦である那珂さんが指揮を取れなくなったら、副艦である吹雪が指揮をとる決まりでしょう!?」

 

「そ……それはそうだけど……」

 

「何よ、怖じ気ついたの!?どこの吹雪も元気と真面目だけが取り柄でしょ!!」

 

「そんな事無いよ!?それ以外にもあるよ!?」

 

「とにかく、誰かが指揮しなきゃ私達は全滅。私達がやられたら基地で待ってる他の仲間だって危険に晒される。小笠原が落ちれば、いよいよ本土攻撃になるのよ。アンタの指揮官って、CMS想いの変人なんでしょ!私達がやられれば絶対に悲しむわよ!」

 

吹雪がハッとする。トラック迎撃戦の時、大破した自分に向かってルナはこう言った。

 

『《絶対に全員、生きて戻ってくる》。いいか?これは命令だ!破ることは許されない!負けてもいい……全員、生きて帰ってこいッ!!』

 

「ど、どうしてそれを……?」

 

「ウチの提督……大湊の提督もCMS想いの変人なのよ。そうそういないもんよ、私達を大事にしてくれる人間なんて。だから何としても生き残るの、分かった?」

 

吹雪はコクリと頷く。そして目元を拭うとスッと立ち上がった。

 

「……旗艦那珂の大破によりこれ以上の指揮は不可能と判断し、副艦である吹雪が指揮を取ります!

初雪と叢雲は那珂さんを曳航、夕雲は対空警戒、長波は煙幕を展張して下さい!」

 

「大丈夫、こういうの……慣れてる」

 

「ちょっと初雪こっち見ないでよ。もう雷撃処分はこりごりよ」

 

初雪と叢雲が那珂に肩を貸し、両脇から抱える形で持ち上げる。

そして夕雲と長波が張り切ったように武器を構え直す。

 

「護衛なら夕雲の得意分野だわ」

 

殿(しんがり)はこの長波サマに任せとけ!」

 

吹雪は状況を再度確認して前を向く。

 

「艦隊、全速前進!!」

 

偵察部隊は再び動き出す。状況は何ら変わらない。むしろ那珂の大破で悪くなっている。それなのに駆逐艦娘たちには闘志のようなモノが湧き上がっていた。

 

そこから艦隊は必死に基地を目指して全力で航行した。全力と言っても先ほどよりも速力が落ちているせいで、敵の軽巡や駆逐に追いつかれ始めた。

 

駆逐イ級が並走して、砲撃を加え始める。

 

「このっ……沈みなさい!」

 

叢雲が主砲をイ級に向けて撃ち放つ。数度の応酬の後、イ級はズブズブと水底に沈んでいく。

 

「もうダメ……弾薬が尽きた。初雪、そっちは?」

 

「私も後2、3回斉射したらおしまい……あと魚雷だけ」

 

「初雪!左舷!」

 

「くぅっ……!」

 

初雪の真横から駆逐ロ級が大口を開けて迫る。喰われる寸前にその口蓋に向かって主砲を乱射する。

上顎がこの世から永遠に消滅し、倒れ込むようにして海に沈んでいく。

 

「……おしまい」

 

初雪が片手を上げて「弾切れ」のポーズを取った。

 

「夕雲さん!長波さん!」

 

「わかってるわ!」

 

「任せろ!」

 

吹雪の声で夕雲と長波が初雪達の護衛に戻ってくる。見ると、既に太陽は傾き、夜の暗闇が空を支配しようとしていた。

 

艦隊は単縦陣から、那珂を曳航する初雪と叢雲を取り囲むように、いびつな輪形陣を形成する。

 

それから吹雪たちはがむしゃらに基地を目指した。追いすがる敵艦隊を必死に攻撃し、敵の砲弾や魚雷を避け続けた。

 

気が付けば、前方に大きな黒い影が見える。

 

「……硫黄島だ」

 

ついに部隊は硫黄島まで戻って来た。しかし後ろには敵艦隊が迫っている。

その時、吹雪たちを追ってきていた軽巡や駆逐艦が、何かに吸い寄せられるようにUターンした。

 

「……何事?」

 

不思議に思う偵察部隊にピーンという甲高(かんだか)い音が聞こえた。

 

「これは、潜水艦の探信音(ピンガー)!」

 

そして、追撃をしてきていた敵重巡艦隊にカッと一筋の光が照射される。

 

「こ、このぉ!深海棲艦どもめ!狙うなら、このあきつ丸を狙うがよい!」

 

「あ……あきつ丸さん!?」

 

なんと、揚陸艦であるあきつ丸が探照灯をその手に持って、敵艦隊を誘引していた。

 

深海棲艦があきつ丸に向けて砲撃を行う。あきつ丸は「とっ、取り舵っ!」と舵を切るが間に合わない。着弾し爆炎が上がるが、あきつ丸は無傷だった。

驚く吹雪の目に、見慣れた2隻の姿が映った。

 

「大丈夫か、あきつ丸?」

 

「防御は私達に任せて〜」

 

「天龍さん!龍田さん!」

 

吹雪は思わず叫ぶ。それに気を取られていたせいで、吹雪を喰らおうと近付いていた駆逐イ級に気付くのが少し遅れた。

しかし、イ級が吹雪にぶつかる前に、その身体に魚雷が突き刺さり爆沈した。

 

「吹雪ーーっ!」

 

「島風ちゃん!」

 

吹雪の隣に島風が並ぶ。島風がここにいるという事は、奄美の増援が小笠原基地に到着した事を意味していた。

 

「た……助かった……」

 

「うん、もう大丈夫。金剛と青葉と川内も来てる。島風が援護するから、吹雪たちは早く基地へ!」

 

偵察部隊は島風の誘導で父島へと向かう。とにかく今はこの戦闘から離脱しなければならない。 ほぼ全員が損害を受けている中、気を失った那珂を曳航しつつ基地へと針路を向けた。

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・12.7cm連装高角砲

標準的な対空高角砲。対空装備だが、副砲としても使用可能。

最初から高角砲として開発され、第二次大戦時は多くの艦艇に搭載されるという傑作兵器だった。

名前が似ているが、小口径主砲である「12.7cm連装砲」とは別物。

 

・零式水上偵察機

零水偵と呼ばれる標準的な偵察機。戦艦や重巡など様々な艦艇に搭載され索敵を担当する。

現在、CMS用装備として開発されている偵察機の中では唯一量産されている装備

 

 

 




kaeru「御意見、御感想お待ちしております。良かった一言でも、ここんとこ理解しにくいなどでも結構です。よろしくお願いしますです」
ルナ「次回、さらなる成長」


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memory32「強くなりたい」

ちょっと展開早いかもしれませんがご了承ください

それでは


 

memory32「強くなりたい」

 

 

「は……早くドックへ!!」

 

戦艦棲姫を振り切り、命からがら小笠原基地に帰還した偵察部隊。

その姿を見て基地の人々は絶句した。

 

艤装を粉砕され血を流し、気を失っている那珂。曳航してきた初雪と叢雲も武装の殆どを喪失している。

そんな無防備な仲間たちを護衛する為に戦ったのであろう夕雲は中破状態。殿(しんがり)を担当した長波の被害はそれ以上だった。

 

そして旗艦不在の中、ここまで艦隊を引っ張ってきた吹雪は極度の疲労で立っているのもやっとという状態だった。

 

そんな中、CMS整備士のヨーコがハッとして指示を出し始めた。

 

「被害の大きい娘から優先してドックへ!那珂はポッドに、早く!」

 

基地の人間がバタバタと担架を運んでくる。

初雪と叢雲に背負われていた那珂が担架に乗せられ、ドックへと運ばれていく。

 

「さぁ、君も早くドックへ」

 

基地の人間が吹雪にそう言ったが、吹雪は

 

「私はあまり被害を受けていないので、夕雲さんと長波さんを先に……」

 

と言って断った。

その直後、神通が慌ててやって来た。

 

「だ、大丈夫ですか!?艦隊の被害は!?那珂ちゃんは無事ですか!?」

 

「報告します。臨時水雷戦隊、偵察隊は硫黄島南東20海里程の所で敵侵攻艦隊を発見。

しかし我々の存在は事前に暴露しており、逆に攻撃を受けてしまいました……。

包囲網離脱の際、旗艦である那珂さんに敵艦爆による爆撃が命中、航行不能の大損害を被りました。それにより艦隊指揮権を吹雪に移譲、牽制攻撃を行いながら硫黄島まで撤退したものの、追撃を受けました……。

その後は皆さんの援護があって、なんとか戻ってきた次第です……」

 

「そう……ですか。分かりました、とにかく今は休んで下さい」

 

「………すみませんでした」

 

「どうして謝るんですか?吹雪さんは自らに出来る事をやっただけでしょう。言うなら、こうなってしまったのは旗艦の判断ミスです」

 

「っ!そんな、那珂さんは……!」

 

「分かってます。だから、今は何も言わずに休んで下さい」

 

神通はニコリと微笑んでそう言う。妹である那珂が意識不明の重体を負って、その心中はそれどころでは無いはずだが、神通はその心の内を表に出さないようにしていた。

 

吹雪は頭を下げると、ドックの方へ歩いていった。

その後ろ姿を見送った神通は作戦会議室(ブリーフィングルーム)へと向かう。

 

部屋の中には、救援に来た奄美部隊の赤城と加賀が机の上の海図に敵味方の駒を置いて状況を整理していた。

 

「神通、那珂や吹雪の様子は?」

 

加賀の問いに、神通は無言で首を振った。加賀は「そう……」とつぶやくと「今は次を考えましょう」と静かに言った。

 

「あ、神通さん。気を悪くしないで下さいね。これが加賀さんの精一杯の励ましなんです。なんせ加賀さんたら物凄い人見知りで……」

 

「赤城さん、その説明はいささか不服です」

 

加賀はムスっとした顔で赤城を見る。赤城は何の事やらという顔で加賀の視線を受け流す。

 

「やはり、奄美の皆さんは仲が良いのですね」

 

「……それより、外の状況はどうなっているの?」

 

加賀は軽くため息をつく。

夜の海に出撃しても、空母は艦載機を発艦する事が出来ない。

その為、救援にやって来た奄美部隊の赤城と加賀は、現在の状況についてまとめていたのだ。

 

「詳しい事は姉さんや奄美の皆さんの帰還待ちですが、戦艦棲姫率いる敵本土侵攻部隊は硫黄島の南海岸に上陸しようとしているらしいです」

 

「まさか、深海棲艦は硫黄島を前哨基地にするつもりですか?」

 

「……その可能性は否定出来ません。敵戦力に対して、こちらの戦力は余りにも少ない。数で押し潰しにきたら、こちらがすり潰されるのは目に見えていますから」

 

「小笠原基地の目と鼻の先に、前哨基地を造るとは……」

 

そう3隻が話していると、扉がガチャリと開き、夜の海に繰り出していた金剛たちが戻ってきた。

 

「姉さん!」

 

「ごめん神通、少しドジった」

 

川内は天龍の肩に掴まりながら、片手で脇腹を押さえている。

その部分には応急処置の包帯が巻かれていたが、わずかに赤く血が滲んでいる。

 

「戦艦棲姫の砲撃を直で喰らっちゃってね。幸い榴弾じゃなくて徹甲弾だったから、粒子装甲防壁(バリアー)は貫通してシステムにあんまり負荷は掛からなかったけど、弾が脇腹をかすってね」

 

「笑ってる場合じゃ無いです!早くドックに……」

 

「今ドックは満杯でしょ?それにこれはただのかすり傷さ。那珂なんかに比べれば、どうってこと無いよ」

 

川内は椅子に腰を下ろし、鎮痛剤を何錠か飲み込む。

そして後ろに続いていた金剛が戦闘の結果を報告する。

 

result(結果)は悪いと言わざるを得まセン。ヤツら、本当に硫黄島を乗っ取るつもりデース」

 

「今朝あきつ丸が言ってた『輸送ワ級』が南海岸の翁浜に揚陸していたのを確認した。陸上部隊までは見えなかったが、恐らくもう侵蝕は始まってるだろうな」

 

金剛に続いて天龍がそのように補足する。

 

「現時刻での敵の動きは?」

 

「今のところ目立った動きは無いわね〜。硫黄島に上陸したら防御体制を取り始めたわよ?

前哨基地を完成させてから総攻撃を掛けるつもりかしらね〜」

 

「私達は父島と硫黄島の中間地点を最終防衛線(ラストボーダーライン)にしてそこを死守してる。

今はドイツの潜水艦が前線で張っていて、何か動きがあれば探信音(ピンガー)を利用したモールスで後方のまるゆに状況を報告、まるゆは浮上して、同じく待機してる青葉とあきつ丸を通して通信で知らせてくれるようにしてくれている」

 

椅子に腰掛けていた川内が龍田と共に現状をそうまとめた。川内は「ドイツの娘にはつらい仕事だけど……」とつぶやくと、背もたれに身体を預ける。

 

潜水艦は、隠密性が艦艇の中で一番高い。その為、索敵や早期警戒、敵勢力圏内の偵察など様々な分野で活躍が期待できる。

 

しかもその活動環境は主に海中。海中を探査できる装置(パッシブソナーやアクティブソナー)が無ければ、海上にいる艦艇は潜水艦を攻撃する事はおろか、見つける事が出来ないのだ。

 

相手の手の届かない、優位なポジションからの必殺の雷撃。海上のあらゆる艦艇はこれを怖れて、どんな時でも対潜哨戒を欠かさない。

 

つまり、奄美から救援にやって来たUー511が担っている仕事は、敵に見つかれば多大な被害を被る事を意味していた。

 

「大丈夫デース、ユーは覚悟を持ってこの戦場に来ていマス。それに、深海棲艦の目を盗んでドイツから日本にやって来たのデスから、そんじょそこらの対潜部隊(ハンターキラー)には見つからないデスヨ!」

 

「でも、今日はもう深海棲艦どもも動かないだろ。あと1、2時間くらいでユーとまるゆは引き上げさせていいだろうな」

 

神通はしばし考え込む。

 

「戦況は分かりました。が、私ではこの事態に的確な判断、作戦命令を下す事は難しいと判断します。その為、横須賀に通信を入れ、提督に指示を仰ごうと思うのですが、この事に異論はありますか?」

 

「まぁ……確かに、硫黄島まで攻め込まれてしまったのなら、次に打つ手は絶対にミスする事は出来ない。タダの兵器であるCMS(私たち)には出来ない事だね」

 

川内がぐったりとしながらそう言った。神通はペコリとお辞儀をすると部屋を出て行った。

 

奄美のCMS(艦娘)と川内が部屋に取り残される。

しばらくは無言の時間が続いたのだが、天龍が耐え切れないといった風に口を開いた。

 

「なんだよお前ら、御通夜みてーに静まり返りやがって。まだオレたちは負けてねぇんだぞ」

 

そう言うものの、天龍の言葉に誰も答える事は無かった。

本土の目の前とも言える硫黄島に敵の前哨基地が建設されてしまったらどうなるか。想像出来ないほど、この場にいる者は馬鹿ではない。

 

まず、本土の海上交通網(シーレーン)に危険が及ぶ。どのルートを通っても、深海棲艦からの攻撃の範囲内に入ってしまうからだ。

 

本土の海上交通網(シーレーン)が断絶すれば、鉱工業など産業が破綻し、深海棲艦たちと戦うための経済、戦争経済が瓦解する。

そうなれば、もう日本は戦う事はおろか、深海棲艦に攻め込まれる前に自滅する。

 

今、日本は戦わずして敗北しようとしているのだ。

 

天龍だってその事が分かっていない訳ではない。しかし、気持ちが沈んでいては精神に影響が出る。精神に影響が出れば、いざという時に実力が発揮出来ずに、轟沈(死ぬ)

 

他の者も分かっている。解っているからこそ、このような状態になっているのだ。

 

再び、部屋が静寂に包まれる。天龍はそれ以上何も言わずに、舌打ちをしながら自らも椅子に座った。

 

そんな時、部屋の扉がガチャリと開いた。

 

神通が戻ってきたのかと、全員が目を向けると、そこには休んでいるハズの吹雪が立っていた。

 

「どうしまシタカ?フブキは赤疲労なんですからしっかり休んでいないト……」

 

「いいえ、休んでなんかいられません」

 

吹雪は手のひらをぎゅっと握り締める。

 

「悔しいんです。戦艦棲姫たちに良いように蹂躙され、こちらはただ負けるのを待っているなんて。

私たちは、まだ戦艦棲姫に一度も攻撃をしていない。せめて一矢でも報いたい……!

それに私たちが負ければ、本土で暮らしている人々が危険にさらされる。

私たちが沈めば、基地で待っている少尉が絶対に悲しみます。

だから、私たちは深海棲艦に勝利して、全員で生きて帰らないといけないんです!」

 

力強く、信念のこもったその言葉は、吹雪が「まだ負けていない」と言っているかのようだった。

 

「私は駆逐艦で、弱くて役に立たないかもしれませんが……それでも、みんなを守りたい……!

誰かを守れないのは……もう嫌なんです……!」

 

目元に涙を浮かべつつ、吹雪は下を向いて肩を震わす。

 

「吹雪は弱くないよ!」

 

「……島風……ちゃん…」

 

島風は吹雪の手を取って、その涙の浮かぶ目を見る。

 

「吹雪は、島風を守ってくれたじゃん」

 

吹雪が目を見開く。島風は笑いかけた。

 

「特型駆逐艦は世界を驚愕させた(ふね)なんでしょ?だったら弱くないよ!役に立たないなんてこと無い!

それに、あの時言ったよね。『1人で駄目なら』……」

 

「……『2人一緒で』……!」

 

吹雪は顔を上げる。そこにはいつもと変わらない島風の姿があった。

 

突然、背中を強く叩かれる。

 

「オイオイ、2人なんて寂しい事言うなよ。この天龍様を忘れんなよ!」

 

「私もいるからね〜〜♪」

 

「チョット!抜け駆けはズルいデスヨ!」

 

天龍、龍田、金剛が吹雪の側に駆け寄る。

 

「ふふっ、先程までのあの空気はどこへやら。一航戦として、敵に遅れは取れませんね。加賀さん?」

 

「赤城さんの言う通りです。私と赤城さん、栄えある第一航空戦隊の空母が如何程なものか、見せてあげましょう」

 

赤城と加賀も立ち上がり、決意の眼差しで吹雪を見る。

 

「さすが、世界を驚愕させた特型駆逐艦は違うねぇ。こうも容易くみんなの心に火をつけるなんて。

でも、おかげで助かったよ。華は二水戦に譲っても、三水戦が伊達じゃ無い事を証明してやろう!

それに、妹を傷つけた償いは受けて貰わなくちゃね……!」

 

川内が拳を天に突き上げる。その顔は川内型軽巡の長女として、第三水雷戦隊のリーダーとして、覚悟と自信のあふれる顔に変わっていた。

 

「ちょっと、この私を忘れるなんてどういうことかしら!」

 

扉がバン!と開け放たれ、叢雲を先頭に大湊の駆逐艦たちがやってくる。彼女たちも吹雪と同じく、呑気に休んでいる事など出来なかったのだ。

 

まだ受けた傷は癒えてなく、包帯などが目に付くが、駆逐艦たちの闘志は再び燃え上がっていた。

 

「所属は違うけど、同じ第十一駆逐隊の仲間でしょ!アンタがやるって言うなら、喜んで手を貸すわよ」

 

「本当は得意だし、こういうの……」

 

「陽炎型の改良型である夕雲型が、吹雪型に劣っていては笑われ者になっちゃうわ」

 

「おうよ!今度こそ、長波サマのチカラであいつらに目に物見せてやるぜ!」

 

そう言う大湊の駆逐艦の背後に、警戒役を請け負っていたCMS(艦娘)たちが戻っていた。

 

「吹雪殿、話は聞かせて頂きました。是非、我々(おか)の船にも協力させて貰いたい!

硫黄島を奴等の手中から取り戻す時、必ずやお役に立ちましょう!」

 

「ここで立ち上がらないのは陸軍の名折れです!まるゆも微力ながら協力致します!」

 

「青葉も居ますからね!?私、奄美のCMSですからね!?」

 

「ユーも、忘れないで……」

 

吹雪の前に、仲間たちが集まる。全員が、この最悪な状況に似合わない笑顔を顔に浮かべている。

 

彼女らには、自信が満ち溢れていた。

 

「みんな……!」

 

「いいか吹雪、お前は1人じゃない」

 

天龍の言葉に他のCMS(艦娘)たちが声を揃える。

 

 

「「「私たちがついてる!!」」」

 

 

「………ありがとうございます…!!」

 

吹雪の目から涙が溢れる。全員が笑い合う中、廊下の方でドタバタと喧しい音が聞こえてきた。

 

CMS(艦娘)たちが不思議に思い廊下を覗いてみると、整備士ヨーコと取っ組み合いながらジタバタと暴れる那珂の姿があった。

 

「こらーっ!怪我人は大人しく治療ポッドに入れーーっ!」

 

「やだぁー!ポッドに入ったら修理が完了するまで出撃出来ないじゃーーん!!

那珂ちゃんはあの戦艦棲姫の前でライブするのっ!!」

 

どうやら那珂も吹雪と同じく、とても悔しかったのだろう。姿を見るだけで再戦(リベンジ)に燃えているのが見て取れた。

ギャーギャーと取っ組み合いを繰り広げているが、CMS(艦娘)の力に一般人が敵うはずも無く、ヨーコはズルズルと引きずられている。

 

「那珂さん!?」

 

「こら!那珂は一番被害が大きいんだからドックに入らないと駄目じゃないか!」

 

川内が那珂を鋭く叱りつける。しかし那珂は引かなかった。

 

「川内お姉ちゃんだって怪我してるじゃん!」

 

「こんなのかすり傷さ」

 

「じゃあ那珂ちゃんだってかすり傷だもん」

 

「馬鹿、規模が違い過ぎるだろ!私たちに任せて那珂は眠ってるんだ!」

 

「うぅ……!川内お姉ちゃんのわからずや!那珂ちゃんはもう一回海に出たいの!」

 

「わからずやは那珂の方だろう!那珂は私や神通と違って基本スペックが低いんだから……!」

 

そこまで言いかけて川内は口をつぐむ。川内の言葉に疑問を感じた吹雪は、川内に訊ねる。

 

「那珂さんも川内先輩も同じN型で姉妹艦じゃないですか。どうして基本スペックが違うんですか?」

 

「そ、それは……」

 

川内が明らさまに動揺する。那珂の隣りにいたヨーコがポンと手を叩いて口を開く。

 

「もしかして『改二』のコト?」

 

「……カイニ?」

 

ヨーコは「そうそう改二」と言って簡単に説明をする。

 

「ここにいるみんなは多分、“第一次改装”は受けてるでしょ?

それはみんなが出撃する時に装着する『艤装』を改造して、性能を引き上げてるんだけど……。

その艤装を身に付ける『CMS(艦娘)』自体を改造出来れば、もっと性能は上がるんじゃない?って話よ」

 

ヨーコの言葉に一同はざわつく。

 

「生体を改造って……サイボーグとかになるんですか!?」

 

「そんなワケないでしょ〜。あなたたちの記憶兵装を改造するのよ。

元々、生体に使用する記憶兵装にはリミッターが付いてるのよ。追加したデータ(記憶)で生体自身の記憶を破壊したり、戦闘時にオーバーロードしないようにね。

“第二次改装”では、新たにデータ(記憶)を追加すると共に、そのリミッターを外す。

すると、従来では考えられないくらい基本スペックが上昇するのよ。

後はそうね……身体が急激に成長状態になったり、見分けが付くように支給される制服が変わったりするわね。

要するに、第二次改装に成功したCMS(艦娘)の事を書類上では『改二』って呼ぶのよ。

ここでは川内と神通が改二になってるわね」

 

全員の視線が川内に集まる。言われてみれば確かに、同じ姉妹艦なのに川内の制服と那珂の制服は似てはいるもののデザインが違う。

 

「じゃあ改二になれば強くなれるんですか!?」

 

「まぁそうなんだけどねぇ……実は第二次改装は、最近やっと出来るようになった新技術でね、解明出来ていない現象や改二になれないCMS(艦娘)もいるのよ。

それにもし改二適正があっても改二になる為には色んな条件が必要なのよ。

共通しているのが、『戦闘経験豊富で高練度である事』

これ以外は1人1人異なる条件があるらしいのよね。

第二次大戦時に輝かしい戦果を挙げていたり、逆に不幸な事があった艦とか、

元々、艦艇時代に改装案や設計図があったけど未改装のまま終わった艦とか、

強い覚悟と信念が必要だとかね。

逆に、過去に改装案とかが無くても改二になれちゃう娘もいるし。本当まだよく分かってないのよ」

 

ヨーコがそう言い終わるとともに那珂がヨーコの手をガシッと掴む。

 

「那珂ちゃんにも……第二次改装を!那珂ちゃんも改二にしてっ!」

 

「えっ、えぇ!?今から!?うーん……改装用の学習装置あったかなぁ……それに、提督の許可も無いし、新艤装を造るアレもあるし……」

 

「じゃあ提督に許可貰ってくる!」

 

那珂は話も聞かずに通信室に向かおうとする。それを川内が呼び止める。

 

「待て、那珂!那珂は改二になっちゃ駄目だ!」

 

「どうして!?何で那珂ちゃんだけ改二になっちゃ駄目なの!?」

 

川内が少し俯いた後、それまでとは打って変わった静かな声で語りだす。

 

「那珂、あんたの個体識別番号は?」

 

「……000048003だけど」

 

「そう、そして建造番号は003。これは那珂が中央工廠で建造された中で3隻目を表している。この意味が解るかい?」

 

「……1隻目と2隻目の那珂ちゃん(わたし)()んだか解体されたって事でしょ」

 

その言葉に、その場の時間が一瞬だけ停止した。

 

那珂(3隻目)には話して無かったね。

第二次改装が出来るようになった頃は、とにかく色んなCMS(艦娘)が改二になれないか試していたんだ。

川内型軽巡にも順番はやって来て、まず始めに神通が改装を受けて、それは見事成功した。そして私も成功。那珂(1隻目)も成功した」

 

「……じゃあ何の問題も無いじゃん」

 

「ところが海上訓練中、那珂が突然倒れた。ドックに運ばれたけど、どんなに手を尽くしても意識は回復せず、脳死と判定された。原因は第二次改装が疑われたけど、詳しい事は分からなかった。そして那珂(1隻目)は解体処分になった……」

 

「…………」

 

「そしてバックアップのデータ(記憶)を元に、2隻目の那珂が建造された。今度は慎重に慎重を重ねて第二次改装を行なった。

その後もしばらくは何の問題も無かったんだけど、とある時に深海棲艦と交戦した時、記憶兵装に不具合が生じて、戦闘行動を取る事が出来なくなった。撤退を試みたものの、深海棲艦に包囲され、その戦闘時に敵戦艦の砲撃を受けて那珂(2隻目)()んだ………私をかばったばっかりに………!」

 

川内の言葉が途切れる。

誰も言葉を発する事は出来なかった。

 

「だから、もう第二次改装はさせない。もう妹が悲惨な目に遭う所なんて見たく無いんだ……」

 

川内の告白を受けて那珂はーー

 

 

「大丈夫、心配しないで!」

 

 

ーーニッコリと笑って見せた。

 

「なっ……!話を聞いてたのか!?」

 

「もちろん。川内お姉ちゃんが駄目って言う理由は分かったよ。だけど、もうそんな事は起きないってアイドルの勘が言ってるの」

 

「そんなもの、何の根拠も無いじゃないか!」

 

そのやり取りを聞いて、吹雪と大湊の駆逐艦たちは既視感を覚えた。

そう、偵察に出た時もそんなことを言って、敵艦隊を発見した。

 

しばらく姉妹喧嘩のような言い合いが続いた。双方とも考えは変わらず、膠着(こうちゃく)状態になった。

 

「姉さん、もういいでしょう」

 

川内がハッと振り返ると、通信を終えた神通がそこに立っていた。

 

「神通!」

 

「姉さんの言い分も解ります。私だって那珂ちゃんが居なくなってしまうのはもう嫌だわ。でも、最後にもう一度だけ、那珂ちゃんを信じてみましょう?」

 

「だけどっ……!」

 

「今の戦力じゃ殆ど勝ち目がないんでしょ。那珂ちゃんが改二なれば少しは勝ち目が見えるかもしれない!川内お姉ちゃん、那珂ちゃんを信じて……!」

 

川内は何かをこらえるように歯をくいしばり、髪をワーっとかきむしると、くるりと後ろを向いた。

 

「………勝手にしろっ!私は夜間哨戒に出てくる!」

 

そのまま川内は走り去ってしまった。那珂はその遠ざかる背中を、見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・改二

第二次改装を完了したCMS(艦娘)を書類上そう呼称する。

改二になると、基本スペックが大幅に上昇し、また固有の能力が開花する事もあるなどして、戦力の増強に繋がる。

しかし現段階では解明されていない事柄も多く、改二になれるCMS(艦娘)は多くない。

改二適正があっても、様々な条件をクリアしないと成功しないという事も、この事態に拍車をかけている。

 

 

 

 

 

 




ルナ「少しブラックな話が出てきたな」
kaeru「兵器として扱われる……つまりそういう事なのです」
ルナ「あぁ!気が滅入る!次回予告するぞ!」
kaeru「次回、那珂と○○が改二改装!?」


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memory33「改二」

前回は展開が早過ぎたので気を付けて書く事にします(^^;;
それでは


 

memory33「改二」

 

 

「うーん……脳内の記憶兵装を書き換える学習装置もあるし、改二改造用の資材もある。

新艤装を造るための機材一式も揃ってるし……

何なのこの基地!?」

 

「いや、一時的な泊地以外はどこも工廠あるんですから……」

 

まだ日付の変わらない夜。

 

CMS(艦娘)たちと整備士ヨーコは小笠原基地の工廠に来ていた。

 

「征原さんとルナは軽~く言うけど、記憶兵装の改装は私1人しか出来ないのよね……」

 

「「「よろしくお願いします!!」」」

 

ヨーコは背後に立つCMS(艦娘)たちをチラリと見てため息をついた。

 

「………これは徹夜だな」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は数時間前に遡る。

 

 

「………勝手にしろっ!私は夜間哨戒に出てくる!」

 

川内はそう言い残すと踵を返し、基地の外へと走り去ってしまった。

 

「姉さん……」

 

神通は悲しそうな顔でその背中を見つめる。

 

「あの、神通お姉ちゃん」

 

神通が振り返ると、那珂がもじもじしながらお礼を言った。

 

「その、ありがと……」

 

その言葉に神通は目を伏せて、首を横に振る。

 

「いいえ那珂ちゃん、私は悪い姉です。那珂ちゃんの改二のリスクや姉さんの気持ちを無視して、基地の勝利を最優先に考える。冷酷で残酷な姉です……」

 

「……神通お姉ちゃんは、那珂ちゃんの改二に反対なの?」

 

「本心を明かすなら、改二にさせたくはありません。わざわざそんなリスクを(おか)してまで基本スペックを上げるならば、今の状態で練度を高める方が安全ですから。

私だって、那珂ちゃんが消えてしまうのは二度御免です」

 

「じゃあ、さっき『那珂ちゃんを信じる』って言ったのは嘘なの?」

 

「………いえ、それも本心です。今の那珂ちゃんは昔の那珂ちゃんとは違う。ここで久しぶりに会ってから、それを強く感じました。

那珂ちゃんは、良い仲間を持ちましたね」

 

神通は後ろで静かに話を聞いている、奄美のCMS(艦娘)たちを見る。

 

「那珂ちゃんね、さっき神通お姉ちゃんにそう言われてね、嬉しかった。

お姉ちゃん達は、何か那珂ちゃん(3隻目)を見ていない様だったから……」

 

「…………」

 

「だから!神通お姉ちゃんは那珂ちゃんを信じてて!みんなが見ててくれるから、アイドルはアイドルでいられる、みんなが応援してくれるから、アイドルは頑張れる、成長できるの!

だからっ……!」

 

那珂は両手をぎゅっと握って、神通を見る。

神通は那珂の目を見る。その眼差しに覚悟と決意を受け取った神通は、コクリと頷いた。

 

神通の後ろに立っていた奄美のCMS(艦娘)たちも那珂を見て何度も頷いた。

 

「それでは、奄美基地と連絡を取りましょう」

 

CMS(艦娘)たちは通信室へと向かう。

その場に取り残されたヨーコはポツリとつぶやく。

 

「これ……もしかして、私が改二改造担当するパターン?」

 

「ヨーコさーん!早くー!」

 

呼ばれたヨーコは「ちょ、ちょっと待ってー!」と言って後を追いかける。

 

 

 

小笠原基地から奄美基地への直通回線は存在しない。そのため、一度直通回線の繋がっている横須賀を経由し、奄美基地へと繋げてもらう事になった。

 

通常の電波を使う通信では、深海棲艦側にも通信が傍受されてしまう恐れがあるからだ。

 

「こちら小笠原基地、派遣艦隊の神通です。奄美基地、応答願います」

 

『こちら奄美基地司令、征原じゃ。どうしたのかね、神通よ』

 

神通は緊張しながらも、事の経緯を簡単に説明し、那珂の第二次改装の許可を求めた。

 

『ふーむ、そう言われても那珂はルナ君の部隊に配属となっておるからのぅ、本人に訊いた方が良いじゃろ。ライラ君、ルナ君を呼んできとくれ』

 

扉が開く音が聞こえ、しばらく待っていると再び扉が開く音が聞こえた。

 

ごにょごにょと話し声が聞こえてくる。どうやらルナに改二について説明している様だった。

 

『ごめん、待たせたね神通』

 

「栄少尉、いつも妹がお世話になっております」

 

『ああいや、どうも……それで改二の話なんだけど、那珂はいるかな?』

 

「いるよー、少尉のお兄さん!」

 

『那珂は改二になりたいんだね?』

 

「うん、那珂ちゃんは改二になりたい!」

 

ルナはしばらく無言になる。那珂も静かに言葉を待つ。

 

『……じゃあ自分から何か言う必要は無いな』

 

那珂はパァァっと顔を輝かせる。ゴホンとせきばらいが聞こえ、トウの声が聞こえてくる。

 

『ヨーコ君はいるかね?』

 

「やっぱり私なんですね……」

 

側にいたヨーコがふぅとため息をついた。

 

『ヨーコ君以外にCMSの記憶兵装をいじれる人間は小笠原にはいないじゃろ?新艤装の作製は“かざばな”と“そうせつ”の技師に協力して貰っとくれ』

 

「いやでも、第二次改装はMW技術の中でもかなり難しいんですよ?」

 

『おや、かの天才と言われたMW技術者の娘で、国内でも五指に入るとも言われるヨーコ君には出来ないのかね?』

 

「くっ……!この言わせておけば……!いーわよ、やってやろうじゃないの!

征原さん、基地に戻ったら覚えてなさいよ!」

 

倉稲(うかの)の3人にケーキを注文しておこう』

 

「任せて下さい征原提督。このヨーコ、命に代えても改二改造を成功させてみせます」

 

先ほどまでの暴言と態度は何処へやら。ヨーコは通信機の前でキレイな敬礼をするほど、態度を改めた。

 

「あっ、あのっ!すみません!」

 

後ろで控えていた吹雪が、突然口を挟む。

他の誰もが驚いていたのだが、唯一、那珂だけが吹雪の考えが分かったらしく、吹雪を通信機の前に連れて来た。

 

『………なんじゃね?』

 

「私も、改二になれませんか!?」

 

吹雪は思い切ったように、少し大きめな声でそう言った。

 

「な……!吹雪さん、さっきの姉さんの話を聞いていましたか!?

第二次改装は脳に負担をかけ、記憶兵装に障害が出る可能性があるんですよ!

それにあなたの記憶兵装はE型、改二の成功報告があるのはN型だけですし……!」

 

神通がそのように吹雪に言い寄る。

吹雪は多少たじろぐものの、後ろに下がろうとはしなかった。

 

「吹雪さんの実力なら、改二にならなくても十二分に力を発揮出来ると……」

 

「いいえ、それじゃ駄目なんです」

 

吹雪のはっきりとした言葉と声音に、神通は言葉を詰まらせた。

 

「ヨーコさん、CMSの力は練度を高める事によって無制限に伸び続けるものなのですか?」

 

「えっ、いや、それは艦娘の力にも限界はあるよ。各パラメータは近代化改修や戦闘経験を積むことで上昇していって、一定値になるとそれ以上は上がらなくなる。まぁ人間の肉体的限界に似てるかなぁ」

 

吹雪はそれを聞くと、再び神通に向き直る。

 

「私も限界を感じたんです。那珂さんが大破する直前、私は敵機を捉えていたんです」

 

硫黄島沖の強行偵察において、敵群を振り切る際、那珂は統制雷撃を指示し、艦隊は魚雷を放つために舵を切ろうとした。

その瞬間、高高度から急降下してくる敵艦載機を発見し、那珂は咄嗟に命令を変更した。

 

この急展開に大湊の駆逐艦娘たちは対応が追いつかなかった。

元々、遠征を主任務とする駆逐艦娘たちだ。戦闘経験が少なかったのだろう。

 

しかし吹雪は、この突然の出来事にも冷静に対応できた。那珂に爆撃しようとしている敵機を捉え、砲を向けていたのだ。

これは(ひとえ)に吹雪が日々の訓練を真面目に受け、練度を高めていた事に他ならない。

 

だが、吹雪の対空射撃は命中しなかった。

それには様々な理由があるだろう。もしかしたら運が悪かっただけかもしれない。

けれど、吹雪は違うことを感じていた。

 

「でも私は敵機を撃墜出来なかった。そして基地に戻ってきて感じたんです。『もし次、同じ様な事態が起こっても、今の私ではあの敵機を撃墜出来ない』って。

だから私は、みんなを守る為に、那珂さんと一緒に、私も改二になりたいです!」

 

あまりの熱意に神通は言葉を失っていた。

通信機の向こうにいるトウも『うーむ』と唸るだけだった。

 

『……征原司令、吹雪もどうにか改二に出来ないでしょうか?』

 

「少尉……!」

 

通信機からルナの声が聞こえてくる。ルナのその言葉にトウは更に唸るだけだったが、ルナは吹雪に向かって問いかけた。

 

『吹雪、それが君の選択なんだね?』

 

「はい……!」

 

『リスクを冒してまでの事なんだね?』

 

「………はい!」

 

吹雪は力強く答えた。ルナが『お願いします』とトウに頼む声が聞こえる。

通信は声だけで姿は見えないのだが、トウに向かって頭を下げているルナの姿が想像できた。

 

『………さっきも言ったろうに。吹雪はルナ君の部隊所属じゃ。ルナ君が良いならワシは何も言わんよ』

 

「司令……!ありがとうございます!」

 

「ええーーッ!?良いんですか征原さん!吹雪ちゃんは、その……!」

 

ヨーコが物凄く驚いた感じに声を上げた。そして通信の受話器を神通から奪い取り、凄まじい剣幕で何かを喋る。

しかし、トウが一言『良いのじゃ』と言うと、ヨーコは渋々と引き下がった。

 

それと入れ替わりに島風が前に出る。

 

「ねぇねぇ私も改二になれないのー?吹雪ばっかりズルいよ~」

 

「それワタシも思ってたデース!テートク、ワタシもワタシもー!」

 

島風がそう言い始めたのをきっかけに、他のCMS(艦娘)たちもやいのやいのと頼み始めた。

 

ヨーコや神通が何を言ってもCMS(艦娘)たちは「改二にしろー!」と抗議を続ける。

 

『あー、ヨーコ君。とりあえず全艦に改二検査してやっとくれ』

 

「何だとこの老いぼれ!軽く言うけど作業するのは全部私なんだぞーー!!」

 

ついにヨーコがキレて、ギャーと騒ぎ始めた。CMS(艦娘)たちは危険を感じて一歩後ろに下がる。

 

『ヨーコさん、大変だとは思いますがこれには我々の未来が掛かっています。第二次改装、どうかお願いできないでしょうか?』

 

ルナがそう嘆願すると、ヨーコはピタリとフリーズし、曇り空が突然晴れたかの様な状態になった。

 

「あぁもぅ!ルナにそうお願いされたら、やらないわけにはいかないじゃない♡」

 

ヨーコは身をよじらせながら幸せそうな笑顔を浮かべている。

CMS(艦娘)たちは、一歩ならず三歩ほど後ろに下がった。

 

通信機からも小さな声でルナが『やっぱりこの人ショタコンなんじゃ……』とドン引きしていた。

トウも焦ったように『ヨーコ君!ヨーコ君!』と呼び掛けている。

 

『はぁ……もうどうにもならんな。とりあえずN型の第二次改装はマニュアル無しでもヨーコ君ならやってくれるな。

E型の記憶兵装のデータを横須賀経由でそちらに転送する。パスはいつものヤツの3つ目じゃ、よろしく頼むぞ』

 

「任せてっ!」

 

ヨーコはこぶしをグッと握りガッツポーズを取る。そして通信は終了した。

 

「さぁさぁ、この天才整備士ヨーコ様が見てやるから早く工廠に行けーーっ!!」

 

「龍田、アイツ性格変わってないか?」

 

「変わってるね〜、2つの意味で」

 

天龍と龍田の声も今のヨーコに届くことは無く、ヨーコにに押されるようにしてCMS(艦娘)たちは工廠へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして現在。

 

検査の結果、改二改造が可能なCMS(艦娘)は那珂と吹雪の2隻のみだった。

 

赤城、加賀、青葉、天龍、龍田、島風は未だ改二改造が研究途中らしく第二次改装は出来なかった。

 

金剛はN型での改二が確認されているが、練度が足りず、記憶兵装の改造をするのは危険と判断された。

 

「こんな事になるなら、自主トレーニングをやっておくべきだったデース……」

 

「いや、金剛さん。第二次改装はそれ相応のリスクが伴います。ここはどの道諦めて下さい」

 

神通はそう告げる。現在、小笠原基地に戦艦は金剛の1隻しかいない。

その為、戦艦棲姫と少しでも勝負になるのは戦艦である金剛のみだ。

 

そんなこちらの最高戦力が、改二による記憶兵装の不具合で戦えなくなっては困るのだ。

ここは賭けに出る時では無い。金剛もそれが分かっているので、不承不承ながら了承した。

 

「あの、整備士殿!」

 

ずっと後ろで様子を眺めていたあきつ丸がヨーコに声を掛ける。

 

「あぁ、陸の艦娘じゃない。どうしたの?

あっ、まさか……」

 

「自分とまるゆも改造してほしいのであります。我々に改二はありませんので、第一次改装になるのでありますが……」

 

「私たちも皆さんの力になりたいのです!

第一次改装すればあきつ丸は航空兵装を使用可能になりますし、私は記憶領域が拡張されます。

微力だとは思いますが、弾除けぐらいにはなります!お願いします!」

 

あきつ丸とまるゆは腰を直角に折り曲げ、頭を下げて懇願する。

 

「んあぁ〜……まぁ、この際だからやってあげるわよ。でも、陸軍の許可は取ってあるの?」

 

「それはこれからであります!」

 

「オイオイオイ……じゃあ一緒にあなたたちの記憶兵装のマニュアルも貰ってきて。NーⅡ型のMWは前にさわったけど、陸軍のヤツはわからないからね」

 

「了解です、あきつ丸!」

 

「よし、部隊長殿に話をつけるぞ!」

 

あきつ丸とまるゆは駆け足で工廠を出ていく。

ヨーコは服の袖をまくると那珂と吹雪を見る。

 

「それじゃ第二次改装を始めるけど、覚悟は出来てる?記憶兵装に関して私がミスる事なんて無いと思うけど、那珂は以前からの事故が起こるかもだし、吹雪のE型は初めてだからよく分からないわ。

それでもいいのね?」

 

「アイドルに二言は無いよ!それに整備士のお姉さんは天才なんでしょ?」

 

「私はヨーコさんを信じてます!」

 

「うっ……心に刺さる事言ってくれるわね」

 

ヨーコが苦笑いをしていると神通が心配そうな表情で、ヨーコに改めてお願いする。

 

「エイ整備士、よろしくお願い致します」

 

「そんな不安そうな顔しないで……大丈夫、上手くやるわ。私に任せなさい」

 

神通は無言で頭を下げる。

 

「さぁ、第二次改装を始めるわよ!」

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 




ルナ「やっと出番がきたな!」
kaeru「ですが後は出ません」
ルナ「」
kaeru「次回、硫黄島を取り戻せ」


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memory34「本土近海邀撃戦開始」

ペースを崩さないよう頑張ります

それでは


 

 

memory34「本土近海邀撃戦開始」

 

 

「夜明けまで後2時間、那珂と吹雪の改二改造は間に合うんだろうな?」

 

「あきつ丸さんとまるゆさんの改造は終了して、今は艤装チェックの段階らしいですが……

那珂ちゃんと吹雪さんはまだ……」

 

作戦会議室(ブリーフィングルーム)

 

整備士ヨーコによる改造作業が行われている間、残ったCMS(艦娘)たちは占拠された硫黄島を奪還し、敵艦隊を迎撃するための作戦会議をしていた。

 

「ジンツウ、センダイは……?」

 

「姉さんは夜偵で夜間哨戒を続けています。基地レーダーや逆探もあるので大丈夫だとは思うんですが、聞かなくって……

那珂ちゃんの改二がよっぽど嫌なんでしょう……」

 

金剛の言葉にそう答える神通の顔は暗く沈んでいる。

 

「今度のナカなら大丈夫デース!センダイもそれは感じてるはずデスヨ。

案外あんな事言った手前、顔を合わせるのが恥ずかしいだけかもしれまセン」

 

「あぁ、アイツの性格ならあり得るかもな」

 

天龍がおどけてそう言う。神通はそこで気付いた。

彼女らがわざとその様に言い、今この場の空気を少しでも明るいものにしようと努めているのだと。

 

(私とした事が……自ら悪い雰囲気を作り出し、士気を下げてしまうような事をしてしまうとは……)

 

神通はその事を反省しつつ、改めて作戦を説明する。

 

作戦の準備として、まず夜明け前、潜水艦Uー511が哨戒線をかいくぐり、敵勢力圏内に潜入する。

 

この最大の目的は潜水艦の隠密性を活かして行なう雷撃。つまりは伏兵である。

しかし、敵も当然のように対潜警戒をしているだろう。潜入出来るかには運の要素も絡んでくる。

 

もし発見されてしまった場合、Uー511は囮となる事が決まっていた。少しでも敵戦力を誘引し、戦力差を埋めるための、文字どおり囮となる。

 

「ユーさん、この任務にはあなたの命の危険があります。遂行不可能と判断した場合は即座に戦闘から離脱、自らの安全を優先、確保して下さい」

 

Jawohl(了解)、頑張る」

 

Uー511が出撃し、夜が明けたら作戦第一段階の開始である。

 

おそらく敵は夜明けとともに空襲を仕掛けてくると予想された。

敵艦隊には空母棲姫だけではなく、ヌ級やヲ級などの通常の航空母艦もいる。硫黄島から基地のある父島までの距離は直線でおよそ250km。

白い球体状の新型艦載機で無くても、十分に届く距離だ。

 

第一段階では赤城、加賀の偵察機で航空索敵を行い、敵艦載機群を発見した場合は、汎用護衛艦『かざばな』と『そうせつ』のスタンダードSAM(艦対空ミサイル)で迎撃する。

 

艦載機には深海棲艦特有のエネルギーフィールドは発生しないらしく、通常の対空兵器で対抗が可能だった。これは人類側に取って唯一の救いである。

 

艦載機に通常兵器をほぼ無効化するエネルギーフィールドが発生しないおかげで、人類側は大規模な空襲を受けても、多大な被害を被る事無く済んでいるのだ。

 

新型艦載機は機動性が高く、ミサイルは避けられてしまうかもしれないが、従来の艦載機なら十分に通用するだろう。

そして数が減じたところを、一航戦の2隻が追撃する手筈となっている。

 

この防空網をすり抜け、なお基地に迫る艦載機は護衛艦の防空システムに頼らざるを得ない。

しかし、SSM(シースパロー)などで迎撃出来る猶予は限られている。その為、少なからず基地に被害は出ると予測された。

 

第一段階の目的は、基地に来襲する敵機群の数を減らし、基地への被害を最小限に留める事だった。

 

迎撃が終了、もしくはそれに類する状況となった場合、作戦は第二段階へ移行する。

 

第二段階では敵主力である空母棲姫、戦艦棲姫を攻撃する部隊を中核艦隊とし、その前衛に2~4隻のCMS(艦娘)で構成された少数部隊を配置、硫黄島までの道中を切り抜ける事を目的とされた。

 

前衛少数部隊は第一から第四小隊までとし、対潜、対空、迎撃部隊の攻撃から中核艦隊を守る事が主任務だ。

 

ここでのポイントは、いかに中核艦隊を損耗させずに敵主力にぶつけるかに絞られる。

 

その為に、時として前衛部隊は中核艦隊の盾に徹することとなる。それがたとえ轟沈に繋がるものでも。

 

硫黄島に接近できたら、作戦は最終段階に移る。

中核艦隊は敵主力に突撃、戦艦棲姫と空母棲姫を撃沈し、硫黄島を奪還する。

 

「でも、私たちが全員で出撃しちゃって大丈夫なの~?敵の別働隊が基地に攻めてきたら危ないんじゃない?」

 

「いいえ龍田さん、この戦いは後手に回ると負けます。深海棲艦の戦力は無尽蔵。倒しても倒しても湧いてくる敵を逐一迎撃するのではこちらが消耗し、いずれすり潰されます。

この状況を打破する為には、司令塔である姫級2隻を撃沈するしかありません。

司令塔である艦が沈めば、深海棲艦は統率を失い、それ以上の攻勢は不可能となるでしょう」

 

「まぁ……一応、理には適ってるわねぇ。リスクを負わなきゃ、作戦遂行は出来ないってわけね」

 

龍田の言葉に神通は静かに頷く。

 

CMS(艦娘)が姫級を沈めるのが先か。

深海棲艦がCMS(艦娘)を沈めるのが先か。

 

その事実を、部屋にいる者全員が理解し、同時に決意を固めていた。

 

この戦い、負ける事は許されない。

たとえ相討ちになろうとも、深海棲艦をこれ以上進撃させてはいけない、と。

 

「お待たせ致しました!艤装チェックが完了したであります!」

 

ちょうど、タイミング良く第一次改装を終え、艤装チェックが完了した陸軍のCMS(艦娘)、あきつ丸とまるゆが部屋に入ってきた。

 

「ちょうどこっちも作戦説明が……ってあれ、あきつ丸さんが黒くなってるじゃないですか!」

 

青葉があまりの変わり様に声を上げた。元々、灰色の服装だったものが、第一種軍装を思わせるような黒い制服へと変わっている。

 

「黒くなっただけでは無いのですよ。記憶領域が2つから3つに増え、航空艤装も使用可能になったのであります」

 

あきつ丸はくるりと後ろを向く。背囊(はいのう)のような機関部艤装に、大発動艇を格納する為の特殊艤装。

それに取り付けられるように、巻物のような艤装が新しく装備されていた。

 

「と、いっても搭載数は全24機。サポートに徹するしかないのでありますが」

 

「元々、あきつ丸さんは海上戦闘艦娘では無いですからね……でも、私たち空母が負傷して、発艦している艦載機の収容が困難な時はとても助かるわね、加賀さん」

 

「まぁ、期待はしているわ」

 

「こ、このあきつ丸には勿体無いお言葉!進化したあきつ丸、全身全霊で戦う所存であります!」

 

あきつ丸はビシッと敬礼をしてみせる。

そして青葉はとなりのまるゆを見る。

 

「まるゆさんは……外見は変わって無いですね」

 

「そうなんですよ、あきつ丸だけズルいですよね。でも、私も記憶領域が拡張されて雷撃も出来るようになりました!」

 

そもそもまるゆは潜行輸送艇であり、戦闘潜水艦では無い。そんなまるゆが雷撃を行えるようになったという事は、素晴らしい進化と言えるだろう。

 

「それと、技師の皆さんのおかげで艤装の性能もアップしまして、潜行したままの海中航行が可能になりました!」

 

「本当ですかそれ!」

 

「まぁ船速(あし)は相変わらずですけど……」

 

「………マル・ユー」

 

「きっ、キルユー!?」

 

Uー511がキラキラした瞳でまるゆを見ている。当のまるゆはびくびくと後ずさる。

 

「ユー、マルユーと一緒に作戦やりたい」

 

Uー511がピッと挙手をして神通にそう言った。

神通は少し悩む素振りを見せるとまるゆに作戦の事を説明し、訊ねる。

 

「この作戦には命の危険が伴います。それに陸軍の皆さんは戦闘に巻き込まれただけで、この作戦に参加する義務はありません。

それでも、私たちに協力して頂けるのなら、是非ともお願いします」

 

神通は頭を下げた。まるゆは慌てたように言う。

 

「頭を上げて下さい!まるゆもCMS(艦娘)のはしくれ、陸軍の代表として私も戦います!」

 

「自分も忘れないで頂きたい!」

 

「……ありがとうございます。共に頑張りましょう」

 

神通とあきつ丸、まるゆは固く握手を交わした。

そしてその数十分後、作戦の準備段階、潜水艦娘2隻による敵哨戒線突破が決行された。

 

暗闇の海に、Uー511とまるゆが消えていく。CMS(艦娘)の中で一番危険な任務を請け負うのだ。CMS(艦娘)たちはその姿が見えなくなるまで見送った。

 

再び作戦会議室(ブリーフィングルーム)に戻ると、ヨーコが椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。

 

「天才整備士様じゃないか、仕事は終わったのか?」

 

「やぁ天龍、那珂と吹雪の改二改造、やっと終わったわ〜。那珂は失敗しないように慎重にやったし、吹雪のE型は初めてだから時間が掛かっちゃった。

そろそろ起動してる頃じゃないかしら?」

 

ヨーコがそう言うと同時、改二改造を手伝っていたらしい技師が顔をみせる。

 

「ヨーコ整備長、N型とE型のCMSの目が覚めました」

 

「ほーらビンゴ、じゃあちょっとこっちに連れて来て貰えますか?」

 

技師は了承の意を伝えると敬礼をして部屋を出て行く。そしてすぐに那珂と吹雪がやって来た。

 

「おぉ……」

 

「oh!何か強そうになっちゃってマース!」

 

那珂は改造前に着ていた橙色の服と似ているデザインの制服を新しく着ている。

しかし以前と違い、スカートには可愛らしいフリルが付き、全体的に見てアイドルの衣装のようだ。

 

「強そうと言うか……アイドルっぽくなってません?」

 

青葉が首をかしげながら神通に訊ねる。神通は苦笑いしながら答える。

 

「改二には大きく分けて2パターンあってですね、1つが『強い意志や思いの表れ』なんです」

 

「あぁ……なんとなく分かりました。那珂さんはアイドル志望ですからねー……って、改二にまで表れるなんてどれだけアイドル意識高いんですか!」

 

「アイドル志望じゃなくてアイドルだってばー!」

 

那珂のその物言いに全員が「そっちを訂正するのか」と心の中で突っ込んでいた。

 

武装を見てみると、腰についていた魚雷発射管は太ももに、対空力を強化したのか肩には通常兵器の機銃が備わっている。

それに伴い、21号対空電探も通常装備として持ってきていた。

 

「何か不具合とか、変な所は無いかな?」

 

「うん、大丈夫!整備士のお姉さんありがとー!」

 

那珂はくるくると回り、はしゃぎながらヨーコに礼を言った。その姿を神通は憂いの目で見つめていた。

 

「私だって改二になりたかったのになぁ。吹雪ばっかりずるいよ〜!」

 

「そう言われても困るよ、島風ちゃん……」

 

対する吹雪はかなりの変わりようで、紺色の制服は黒色の制服に変わり、艤装も背負うタイプから腰に装着するタイプへと変わっていた。

 

「吹雪ちゃんはどんな所が強化されたのですか?」

 

赤城が椅子に座っているヨーコにそう質問する。同じE型のCMS(艦娘)の初改二である。そのスペックは全員が気になっていた。

 

「まず過去の艦艇の記憶によって、回避と索敵が高くなってるわね」

 

「やはり……サボ島沖ですか?」

 

「いえ、個人的にはバタビア沖かと。……って、青葉さんがそれ言いますか?」

 

「あぁいや、そういう訳じゃ……ゴメンナサイ」

 

吹雪の無言の圧力で、青葉はカタコトに謝った。

 

「その腕に付けてるのは何かしら〜?」

 

「これですか?なんかよく分からないんですけど高射装置?とかなんとか……」

 

当の本人も初めてな物なので、まだ分からない事が多いようだ。そこでヨーコがコホンと咳払いをする。

 

「94式高射装置、簡単に言えば対空用の火器管制装置ね。高角砲と一緒に使えば、高い対空能力が発揮出来ると思うわ。

あと吹雪改二は13号対空電探改も通常装備だから、ある意味『防空駆逐艦仕様』ってわけ」

 

その後、高射装置なんて初めて調整したわー、とヨーコは独り言のように呟いていた。

 

「異常なまでの対空強化ですね。那珂の様に全体的にスペックが上昇するのではなく、能力値は平均的に、しかし突出したステータスを持つとは面白いですね」

 

赤城の隣にいた加賀が、吹雪の状態をそう分析する。

 

「おそらく……私も『意志や思い』が表れているんでしょうね……」

 

吹雪は静かにそう呟いた。

そのため、吹雪の声が他のCMS(艦娘)たちに届く事は無かった。

 

そんな2人の前に神通が立つ。

 

「那珂ちゃん、吹雪さん。改二改造、現段階では成功おめでとうと言っておきます。

でも、もとより改二改造はあなた達の存在に必要な記憶兵器に、後から手を加えるというもの。ブラックボックスも多く、大体の改造には“if”が伴います」

 

2隻はゴクリと唾を飲む。

既に失われたモノが再びこの世に在る為には、過去の存在証明、すなわち『歴史』、そこから成る『記憶』が必要となる。

 

記憶兵器はこの存在証明を操作する兵器だが、その為には『記憶』の裏付けである『実際に起きた出来事』、『事実』という『歴史』が無いと、能力は発揮出来ても不安定なものとなる。

 

if、つまり『もしも』の記憶には当然の事ながら裏付けとなる事実は存在しない。

 

那珂ならば、艦艇時代に自身がアイドルなどという事実は存在しない。

吹雪ならば、艦艇時代に94式高射装置など対空力を大幅に強化する改造が行われたという事実は存在しない。

 

赤城がトラック泊地より譲り受けた烈風六〇一空なども、案はあったが実現はしなかった。

 

「ifの記憶は強大な力を持ちますが、時として、思いもよらぬ事故を引き起こす場合もあります。その事を心に留めておいて下さい。

那珂ちゃんは前例が全て失敗、吹雪さんはE型初の改二です。戦闘行動中に、記憶兵装に支障をきたす場合があるかもしれません。

覚悟は良いですね?」

 

神通の目は普段のそれと違い、川内型軽巡洋艦にして第二水雷戦隊旗艦であった、軍艦神通としての鋭くも無機質、それでいてその奥には人知れぬ感情が渦巻く眼差しで2隻に問い掛けた。

 

「はいっ!覚悟の上です!それに、ここで沈む気など毛頭ありません!」

 

「神通お姉ちゃんってば心配し過ぎだよ〜、那珂ちゃんは大丈夫だから!まだ公演ツアーもやってないのに沈んでいられないよ!」

 

2人の言葉に神通は普段の凛々しい目つきに戻って微笑んだ。

 

「そうですね。こんな所で沈む理由がありません。必ず、全員で生きて戻ってきましょう!」

 

神通の言葉にCMS(艦娘)たちの声が重なる。

 

夜明けは近い。CMS(艦娘)たちは出撃の準備を進めるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ホント、運が悪いな(おれぇ)は……あの大発動艇に乗り損ねるとは……」

 

ーー硫黄島。

 

深海棲艦に占拠されたその島に、1人の男が取り残されていた。

 

「まぁ、元々自分はここに居ないはずの人間だからなぁ〜、書類上は休暇になってるだろうし、部隊の収容名簿に載ってなかったんだろうな〜。

それで、全員撤退したと思って父島に引き上げちまったってワケか。笑えるな」

 

男は茂みをガサガサとかき分け歩いていた。

その理由は「深海棲艦」を間近で見るため。男は致命的に馬鹿だった。

 

「せっかくやっこさんのフトコロにいるんだ。深海棲艦の(つら)を拝んでからでも悪くは無かろう。父島までだったら泳いで帰れそうだしな」

 

男は深海棲艦をその目で見た事が無かった。部隊にいる時は、遠く沖合にいるのをちらと見たくらいで、深海棲艦がどのような奴らなのかはデータベースでしか見た事は無かった。

 

「おっ?そうなると、おれぇは逆に運が良いんじゃないか?深海棲艦を間近で見たやつなんてそうそういないし、まだデータベースにない情報を得る事が出来れば……!

へへっ、出世間違いねぇな!」

 

その時、映画の怪物の様な鳴き声が正面から聞こえてきた。男は咄嗟にその身を地面に伏す。

 

「……近いようだな」

 

男は音をなるべく立てないようにして匍匐(ほふく)前進で前に進む。

 

茂みがなくなる辺りに身を潜め、望遠鏡で海岸を見る。

 

「おぉ!いたいた、アレが深海棲艦……」

 

海岸には駆逐や軽巡、人型の奴などと様々な深海棲艦が停泊していた。

 

男はカメラを取り出し、その様子を撮影する。

 

「確かに、ありゃあバケモンにちげぇねぇな。あんなのに陸地を攻撃されたらおしまいだなぁ。

あぁ、硫黄島も素晴らしい所なのに、奴らの手に落ちてしまうのか。はたまた、我らが艦娘殿が取り戻すのか。

ま、おれぇにはコレくらいで十分さね」

 

深海棲艦の様子をあらかた撮影した男は、望遠鏡をカバンにしまい、反対側の海岸に出ようと地図を見る。

 

「えーと?見てたのが南海岸で……あれが摺鉢山、ってこった今はここら辺か。じゃあ井戸ヶ浜から逃げればいいな」

 

男はもと来た道を少し戻り、西海岸の方へと歩を進める。

やがて海岸が見えてくると、男は驚きの余り目を見張った。

 

「な……こっちにも深海棲艦が居たのか……」

 

しかしさっき見かけた奴らとは大分容姿が異なっている。巨大な大砲は無く、その代わりにお腹にあたる部分が大きく膨れていた。

 

「データベースで見た事あったぞ……確か、輸送ワ級。深海棲艦どものライフラインであり、最近じゃ陸の侵蝕もワ級がって話があったな」

 

男は考察する。

何故、輸送艦だけが別の場所に停泊しているのか。

もし艦娘たちが最初の情報を頼りに南海岸を攻めてくるなら、戦闘の出来ない輸送艦は逃がさなければならない。

それに西海岸は父島から見て、硫黄島の反対側、攻めて来るまでに一番遠い場所。

 

「つまり……輸送艦は撃沈されないようにここにいるわけか。深海棲艦も考えてんだなぁ」

 

考えても考えがまとまらなかったため、適当に結論付ける。そこで男は気付く。

 

ここで、輸送艦の位置を小笠原基地に伝えれば、逆に深海棲艦の裏をかける!

 

深海棲艦は陸を取りに来たんだ。輸送艦が沈んでしまえば、陸地に攻撃は出来ても、奪い取る事は出来ない!

 

そしておそらく、この事に気付いたのはおれぇ1人!

 

「ふふふ、成る程成る程、どうやらお天道さんはおれぇの味方のようだ。

確か、ここの飛行場に小笠原との通信施設があった筈、それでこの事を伝えりゃあおれぇは勝利の立役者ってわけだ!」

 

男がそうニマニマしていると、ワ級の膨らみがガタンと開いた。まるで揚陸艦が中の物資を運び出すように。

 

「ん?」

 

瞬間、背後に察した気配に振り向くと、そこには黒いドロドロとした人型の何かが立っていた。

 

「ひっ!」

 

黒いドロドロは腕のような部分をシャァッと伸ばし男に襲いかかる。

 

男は横に転がって避けたが、腕が突き刺さった地面は色を失い、ボロボロと崩れ去っていく。

 

そして、ワ級の膨らみからは同じ黒いドロドロが溢れ出し、陸に向かってゆっくりと進んで行く。

通った場所は同じように侵蝕され、ボロボロと崩れ去っていく。

 

「こっ、こいつが……深海棲艦の陸戦隊!?」

 

目の前の黒いドロドロはなおも攻撃を続ける。

男は肩にかけてあった突撃銃をドロドロに向けて発砲する。

 

銃弾の当たった箇所に穴が開き、ドロドロは人の形を崩して、バシャリと地面に広がる。

 

「はっ、はっ、はあ!艦載機と同じく、エネルギーフィールドは張れないようだな!

助かったぜ…………ぃい!?」

 

倒したと思った地面に広がる黒いドロドロは、ゆっくりとだが再び人型の姿に戻ろうとしていた。

 

「ぐっ、銃が効かねえ!そんならコレだ!」

 

人型に再び戻られる前に、男はグレネードを投げつける。

 

ドォォンと音を轟かせ炸裂するグレネード、黒いドロドロは辺りに飛び散ったが、同じように再び集まってくる。

 

「ちぃ、通常兵器は効かねえってことか!」

 

そこで自分の失態に気付く。

 

派手にグレネードなんておっ広げたせいで、ワ級たちがこちらに気付いたじゃないか!

 

ワ級は備え付けの砲で男を狙い撃つ。

 

CMS(艦娘)にすれば何て事はない砲弾だが、生身の人間には爆風に煽られただけで死ぬ威力がある。

 

「南無三ッ!」

 

男は全力で後ろに走り飛ぶ。背後で閃光が炸裂したと思ったら、耳をつんざくような轟音と共に吹き飛ばされた。

 

「………生きてる!ははっ、ヘタクソめ。それにしても、味方の奴もろともかよ……」

 

今の砲撃で、黒いドロドロは消し飛んでしまったようだ。しかし、ワ級の膨らみからは同じドロドロが溢れ出している。

 

「とりあえず、飛行場方面に逃げるかなっと!!」

 

黒いドロドロが横から男に迫っていた。男はもう一度グレネードを投げて、ドロドロが散って集まるまでの間に走り出す。

 

走りながらも、カメラを取り出しその場を撮影する。どうせブレてしまっているだろうが情報は多いほど良い。

 

高台まで逃げると、男は息を整える。

だが、息を整えるより先に、海にいる奴らをみて息が止まった。

 

「アレは……戦艦棲姫と空母棲姫!?」

 

遥か彼方、海と陸という距離を隔てても、その存在感は圧倒的であった。

 

戦艦棲姫の後ろにたたずむ、巨人の様な何かが、その巨大な砲塔をこちらに向けるのが分かった。

そして届かないはずの声が響く。

 

『シズミナサイ………!』

 

「バカヤローー!陸でどう沈むんだよこのぱっぱらぱー野郎!!」

 

男は死にもの狂いで高台から転げ落ちるように逃げ出す。

 

 

 

 

次の瞬間、高台は消滅した。

 

 

 

 

to be continued……

 

ー物語の記憶ー

 

・94式高射装置

対空高角砲と一緒に使用する火器管制装置の1つ。目標の位置、高度、速度などを測定し、対空射撃で最大の効果を得るためのデータを算出する。

91式高射装置の上位互換版だが、当時だと微妙な性能だったという。

 

・13号対空電探改

小型電探、13号電探の改良版。当時の物は名称が変わる程の改良はしていないが、記憶兵装として生まれ変わっている。

そのため多少ifの記憶兵装になっている。

 

 




ルナ「ついに改二になったか……でもそんなにレベル上がってるのか?」
kaeru「細かい事はいいんです。ほら次回」
ルナ「次回、前哨戦」


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memory35「哨戒線突破」

実に丸々1ヶ月、間が空いてしまったkaeruです。申し訳ございませんm(__)m
今回より投稿を再開しようと思いますが、投稿ペースが落ちる可能性があります。そうならないように最善を尽くしますがご理解頂けると幸いです。
それでは。

ーこれまでのあらすじー

記憶喪失の青年、栄ルナは奄美基地でCMS指揮官として忙しい毎日を過ごしていた。
AL/MI作戦によりミッドウェー攻略に成功したが、その間隙を突いて深海棲艦が本土に侵攻してきた。奄美部隊は急遽、小笠原基地に展開。改二改装を終えた那珂と吹雪を加え、劣勢の中、迎撃作戦を敢行する。



 

memory35「哨戒線突破」

 

 

「時間は限られています。私たちの消耗を防ぐためにも速攻でいきます!迎撃艦隊、抜錨!」

 

夜明けの朝。

小笠原基地にいたCMS(艦娘)たち、総勢16隻が海原へと出撃する。

 

迎撃艦隊の中核を成すのは奄美部隊。

旗艦、金剛に青葉、那珂、吹雪、赤城、加賀の6隻。

 

その周りを取り囲む、少数部隊が4つ。

第一小隊、天龍、島風。

第二小隊、神通、夕雲。

第三小隊、川内、初雪、叢雲。

第四小隊、龍田、長波。

 

そしてあきつ丸を加えた小笠原迎撃艦隊は一路、硫黄島へと向かう。

 

「針路、1-8-0。母島を迂回する航路で硫黄島に近付きます」

 

第二小隊旗艦、神通が隊内無線でそう通達する。艦隊は第一戦速で海上を駆け抜けていく。

 

「ふぅ……はぁ……」

 

「大丈夫~?あきつ丸」

 

龍田が心配そうに、前を進むあきつ丸に声を掛ける。

 

「御心配をお掛けして申し訳ない龍田殿。あきつ丸は大丈夫であります!」

 

元々あきつ丸は低速艦であり、高速な艦隊運動は出来ない。

通常ならば艦隊で速度を合わせ、無理のない艦隊運動を行うのが(つね)なのだが、現在の状況下ではそんな事も言っていられない。

 

第一次改装で機関部、航行用艤装ともに強化されたあきつ丸だが、やはり低速艦という足枷は重かったようだ。

 

「敵空母が攻撃隊を送り込んでくるなら、そろそろの筈です」

 

「えぇ、直掩隊の発艦準備を始めましょう」

 

赤城と加賀が矢筒から矢を取り出し、飛行甲板艤装にセットして発艦準備を進める。

 

「第一から第四小隊は中核部隊を囲むように展開、対空、対潜警戒を厳とせよ」

 

神通の指示で小隊は辺りに広がる。中核部隊は輪形陣を取り、対空戦闘に備える。

 

「加賀さん、準備はいい?」

 

「いつでも大丈夫です」

 

2隻は頷くと、矢をつがえ、空高く弓を掲げる。

 

「戦闘機隊、発艦始め」

 

加賀は澄ました声でそう言うと、大空へと矢を放つ。風を切り放たれた矢は、瞬時にその姿を『紫電改二』へと変え、艦隊の上空で体勢を整える。

 

「続いて索敵機、発艦!」

 

赤城が別の矢を放つと、それは『彩雲』へと変化する。

 

「1-8-0から2-7-0にかけて扇状に展開、低高度から敵艦隊を、高高度から敵艦載機群をお願いします」

 

赤城から発艦した彩雲10機は了解の意を返すと、指示された方角へと索敵を開始した。

 

「……戦闘機を出すのは早すぎたかしら」

 

「いいえ加賀さん、時を待ち過ぎて発艦が遅れ、手遅れになるよりはずっと良いですよ」

 

「確かに、赤城さんの言う通りです」

 

まだ敵の勢力圏内に入ってはいないものの、辺りの海は怖いほどに静まり返っている。

CMS(艦娘)たちは対空電探や双眼鏡(メガネ)を頼りに対空警戒を続ける。

 

「様子はどうデスカー?」

 

中核部隊旗艦の金剛が隊内無線で確認を取る。

 

「青葉です、辺りに敵影は見えません。無線の方も特に引っかかるものは無いですねぇ」

 

「那珂ちゃんだよー!こっちも同じ~」

 

「こちら吹雪、13号改にも反応ありません」

 

各々は金剛にそう伝える。航空索敵の方も未だ敵発見の連絡は無かった。

 

「……那珂ちゃん、吹雪さん、調子は大丈夫ですか?」

 

右舷前方を先行する第二小隊の神通が無線で問いかける。

本来なら完熟訓練を必要とする中、切迫した状況下の為ぶっつけ本番の形で那珂と吹雪は出撃していたからだ。

 

第二次改装が戦闘行動に支障をきたす事案は少なく無い。

 

「大丈夫!那珂ちゃんは何の問題もないよ!きっと整備士のお姉さんの腕が良かったんだね」

 

那珂は各部の艤装を動かして見せながら言う。

吹雪は少し、小首を傾げつつも問題無さそうに言った。

 

「艤装のタイプが変わっているのでまだ慣れませんが、今の所問題は無いと思います」

 

2人とも今の所、第二次改装の悪い影響は出ていないらしく至って普通に航行していた。

 

しかし川内だけが2人をジッと見つめていた。

 

那珂がその視線に気付き、そちらを見ると川内はフイと顔を背けた。

 

「川内お姉ちゃん……」

 

索敵を始めて暫く航行していく迎撃艦隊だったが、加賀がぽつりと口を開く。

 

「……おかしい」

 

「どうかしたんですか?」

 

対空警戒に当たっていた青葉が振り返って訊ねる。加賀は口元に手を当て、考える素振りを見せてからその理由を説明する。

 

「航行速度と時間からみてもそろそろ敵勢力圏内に入るはず、なのに何も起こらない。

深海棲艦だって馬鹿ではないのだから、索敵機の1機や2機飛んで来ても不思議では無いはず。

それに敵艦隊には空母棲姫他、多くの空母がいるのにこちらの索敵機には何も引っかからない。

つまり、動きがあっても良いはずなのに何も起こらないからおかしいと言ったの」

 

「……確かに加賀さんの言う通りです」

 

隣にいた赤城も加賀の言葉を肯定する。

 

「俺たちに恐れをなして逃げ帰った、って事は無いだろうしな……何か不自然だな」

 

「あら~、天龍ちゃんがそう言うのって珍しいわねぇ」

 

他のCMS(艦娘)たちも、皆一様に押し黙っている。

ちょうどその時だった。青葉の監視していた無線に通信が入る。

 

「むっ、どこかの広域通信を傍受……って、小笠原基地のでした。えーと…………!?」

 

しばし通信に耳を傾けていた青葉の表情が一転する。それに只ならぬ事態を察した神通が、自らも小笠原基地へと回線を開く。

 

「基地、東南東方面から敵艦載機群が接近中ですって!?そんな、どうしてっ!?」

 

艦隊に衝撃が走る。自分たちの艦隊を避けるようにして敵の艦載機群は小笠原基地に迫っていたのだ。

この事から考えられる事柄は1つ。

 

「私達の作戦は読まれていたのね……」

 

第三小隊の叢雲がつぶやく。川内が舌打ちをすると、神通に意見を具申する。

 

「神通!味方の艦載機の一部を基地に振り分けるんだ!今からでもまだ間に合う!」

 

「分かっています……!赤城さん、加賀さん、戦闘機隊の一部を小笠原基地へお願いします!」

 

「了解、紫電改二の数部隊を小笠原基地への援護へと回します」

 

赤城と加賀の紫電改二、合わせて30機程を小笠原基地へと向かわせる。

 

おそらく敵艦載機群は大編隊。護衛艦のスタンダードSAM(艦対空ミサイル)SSM(シースパロー)で迎撃できるとしても対空能力はすぐに飽和してしまうだろう。

紫電改二が間に合ったとしても、基地に損害が生じるのは明らかだった。

 

「やってくれるな深海棲艦め!」

 

長波がこぶしを握り締めて基地の方角を見る。

 

「作戦第一段階が敵に読まれていた以上、継続する理由は無くなりました。よって第二段階へ移行します」

 

神通は冷静を装い淡々とそう告げるが、顔には汗がつたっていた。

これ以上迎撃艦隊に出来る事は無い。あるとすれば、紫電改二が間に合い、護衛艦や基地の対空能力を信じて被害が少なく済むよう祈ることしか無い。

 

一刻も早く敵艦隊を撃滅しなければ。

 

「艦隊、速度落とせ。ソナー感度上げ、海面の潜望鏡に注意して下さい」

 

作戦第二段階、ここでは中核部隊を消耗させずに敵本隊にぶつける事が重要となる。

 

そして既に艦隊は敵勢力圏内に突入している。CMS(艦娘)たちの進行を妨げる為、潜水艦が潜んでいる事は決定的。

ここが一番の警戒区域だった。

 

「対潜ならこのあきつ丸にお任せあれ!」

 

突然、中核部隊後方に位置していたあきつ丸が声を上げる。

驚いて皆が目を向けると、あきつ丸は巻物のような飛行甲板艤装を展開した。

 

「さぁ、カ号のみんな、出番であります!」

 

あきつ丸はその手に走馬燈のような艤装を持ち、艦載機の絵が描かれた紙をそこにセットする。

 

すると走馬燈に灯りがともり、その影が飛行甲板艤装に投影される。

 

走馬燈が回るにつれ、影も動いていくのだが、その影がいつの間にか実体を持ち、赤城や加賀と同じ様に機体となる。

 

「カ号観測機、発艦!であります!」

 

通常の艦載機とは随分形状の異なる機体が、空へと上がる。

 

「オートジャイロですか……!」

 

青葉が手をひさしのようにかざして空に浮かぶカ号観測機を見る。

 

「まだまだ!続けて三式指揮連絡機、発艦!」

 

同じ様にして、あきつ丸は別の機体を発艦させる。

 

「固定翼機もあるんだよ、であります!さぁ、行くのです!」

 

あきつ丸の指示で、発艦した2種類の哨戒機が対潜行動を開始する。

その初めてとは思えない手際の良さに、他のCMS(艦娘)たちはただただ驚いていた。

 

「あきつ丸さん……進化し過ぎじゃないですか?」

 

「そうでありますかな青葉殿?発艦方法などは記憶としてアップデータされております故、何ら問題はありませんでしたが……」

 

「でも、思いがけずあきつ丸さんが対潜哨戒を行ってくれるおかげで我々は攻撃に専念出来ます」

 

神通が装備していた爆雷をいつでも投射できるように用意する。

 

「潜水艦など、自分がいれば近付けさせないのであります!」

 

「それは頼もしいですね」

 

「……多分!」

 

「なぁ龍田、大丈夫だと思うか?」

 

天龍が呆れたようにそう言う。神通も苦笑いで返すしかない。

だが、その心配は杞憂だった。

 

「……!右舷70度、雷跡であります!」

 

三式指揮連絡機からの通信を受けてあきつ丸が叫ぶ。見ると確かに魚雷の白い航跡が4条迫ってきていた。

あきつ丸の警告のおかげで艦隊は余裕を持って回避する。

 

「第一小隊、攻撃を!」

 

「任せろ!行くぞ島風!」

 

「りょーかいっ!」

 

天龍と島風が弾かれたように海上を疾駆する。すぐにトップスピードに到達し、連絡機が空中でくるくると旋回し潜水艦を捕捉している場所へ向かう。

 

「敵潜水艦、潜航中であります!」

 

(おせ)ぇ!」

 

「おっそーい!」

 

天龍と島風が敵潜の上を通り過ぎ、その瞬間に爆雷を投射する。

 

投射された爆雷は調定深度に達すると爆発し、海面が白く盛り上がったかと思えば、ズゥーンといった低い音を響かせ水柱を作り出す。

 

天龍と島風がターンをして敵潜水艦のいたポイントに戻ってくる。

 

海面は未だ爆発の衝撃で白い泡が浮かんできていたが、それに混じって重油のような液体も浮かんできていた。

 

「こちら天龍、敵潜水艦撃沈確実だ」

 

天龍は隊内無線でそのように報告する。

 

「ついに敵の哨戒線に突入するんですね……」

 

「見つかるのは最初から予想済みデスからネ。後はいかにダメージを受けずに戦艦棲姫と勝負出来るかデース」

 

吹雪のつぶやきに金剛が答える。自分たちの戦いでこの世界の運命は決まるのだ。

 

「なんかトラック迎撃戦の時と同じ状況じゃないですか?」

 

「まぁつまり、我々は一度も負けてはいけないという事です」

 

「深海棲艦の戦力は無尽蔵、それゆえに無謀な作戦も実行出来ますが、こちらの戦力は限られている。

だから私たちは戦力を損耗させる事無く、深海棲艦に勝ち続けなければならないというわけね」

 

赤城と加賀が青葉に言う。その合間にもあきつ丸の哨戒機は敵潜水艦を発見し、爆雷を海に落としている。

 

通常の艦載機と違って、ヘリコプターと同じようにホバリングの出来るカ号観測機の対潜能力は目を見張るもので、被害はゼロで敵潜水艦の哨戒線を突破した。

 

赤城と加賀は直掩の艦載機を収容しつつ、新たな偵察機を飛ばして索敵を図る。

 

「基地の方は大丈夫でしょうか……」

 

吹雪の言葉に青葉は無線をいじりながらに答える。

 

「うーん、さっきから通信が一切入っていないんですよねぇ」

 

「空襲が始まったのなら、広域通信を発信するはずでは?」

 

「いつもの深海棲艦による電波妨害ですかね……」

 

「まさか、空襲によって基地の通信施設が破壊されてたりとかは……」

 

その一言は、予想し得る中でも最悪のケースだった。もしそうなっていた場合、CMS(艦娘)たちは基地のバックアップ無しに深海棲艦と戦わなければならない。

 

「そうなっていない事を祈るしかないデース。アオバは引き続き、無線傍受をお願いするネ」

 

「了解ですっ」

 

艦隊はときおり針路を変更しつつも硫黄島へと進んでいく。

 

海域エリアCポイントを抜けた辺りで吹雪の13号対空電探改に反応があった。

 

「対空電探に感あり、4時の方向!」

 

「来ましたね」

 

加賀がいつもと変わらぬ調子で言う。赤城もこの時を待っていたかの様に、燃料補給の完了した艦載機の矢をスッと引き抜く。

そして神通は艦隊に素早く指示を下す。

 

「第一から第四小隊は、中核艦隊を中心とした対空陣形の外縁部に展開し、敵機を迎撃、または誘引して下さい」

 

「神通がリーダーっぽいデスが、艦隊旗艦はワタシなんデスカラネー!

奄美部隊、陣形、輪形陣に移行。対空戦闘用意するデース!」

 

「「「了解!!」」」

 

小笠原迎撃艦隊は哨戒線を強行突破し、敵勢力下の海へと突入する。

北西の空からは敵艦載機がごま粒の様に見え始めていた。

 

 

 

to be continued……

 

 




kaeru「遅くなりました」
ルナ「なり過ぎだろ。こんなペースで終わるのかよ」
kaeru「記憶の海はまだまだ続きます!じゃあ次回」
ルナ「話をはぐらかすな!」
kaeru「次回、作戦第二段階」
ルナ「おいこら聞け!」


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memory36「作戦第二段階」

投稿ペースを元に戻したいkaeruです。
ですが未だに厳しい状況が続いています。いつになったらこの小説完結するんだ……

それでは


 

 

 

memory36「作戦第二段階」

 

 

小笠原迎撃艦隊の右舷から、(やじり)のような形の敵艦載機が襲来する。

その中には従来のものとは違う、白い球体状の新型艦載機も数機、混じっていた。

 

「小隊、対空戦闘用意……てぇーーっ!」

 

一番最初にぶつかったのは、川内率いる第三小隊。川内の掛け声で、初雪、叢雲は空に向けた砲を放つ。

 

敵機の行く手に対空砲弾が弾けとび、対空陣形内縁部への侵入を拒む。

 

「初雪と叢雲は敵艦攻を集中的に狙って!高度を下げにきている艦攻ならすぐに撃墜できるはずだ!」

 

「了解……」

 

「やってやろうじゃないの!」

 

第三小隊は押し寄せるように現れる敵機に向かって、ひたすらに砲撃する。

 

「元第三水雷戦隊をなめるなーっ!」

 

しかし、別の角度から別の艦載機群が接近し、CMS(艦娘)側の空母を沈めようと突入してくる。

 

「今だ、撃てッ!」

 

敵艦攻が最後のコース修正をしようと高度を下げた時、その眼前には無数の機銃弾による弾幕が形成されていた。

 

火を噴き海面に突っ込む敵機。その横を第一小隊の天龍と島風が駆け抜ける。

 

「いいか島風、こっちに来た奴は全部撃ち落せ!1機も通すんじゃねぇぞ!」

 

「えぇーー!?いくら私が速いって言ってもさすがにそれは……」

 

「それぐらいの気持ちでやれって事だよ!」

 

「あっ、そーゆーことね。それじゃあ連装砲ちゃん、いくよっ!」

 

第一小隊と第三小隊が奮闘していても敵は多勢、数機、また数機と対空陣形の内側へと侵入する。

 

しかし、内側へと侵入した艦載機は恐怖した。空母艦娘のいる中核部隊までの間に、1隻の軽巡艦娘が静かに居た。

たかが軽巡、なのにその身体から溢れ出る気迫のようなものはさながら鬼神の様だった。

 

「敵速確認、相対速度計算完了、仰角良し、信管調整良し、対空弾装填良し」

 

神通がまるで兵学校で教える教師のように、全てを確認しながら通常兵装の高角砲を指向する。

 

「……狙い良し(ロックオン)、です」

 

神通の近くを通ろうとした敵艦載機の全てが爆発、もしくは炎を上げて墜落する。

まるで防空巡洋艦であろうかと思うほどの対空力に、後続の艦載機は反転したり、あらぬ所に爆弾を投下し逃げ帰るものもいた。

 

「いいですか夕雲さん、今のようにすれば敵の方からこちらの砲弾に突っ込んで来てくれます」

 

「い、いや……どうでしょうね。夕雲には難しいかも……」

 

「夕雲さんなら出来ますよ。心配なら私が訓練を付けてあげましょう。大湊の提督にも進言しますよ?」

 

「だっ、大丈夫ですよぉ。それより、今は防空しないと!」

 

「あら、私とした事が。確かに、今は対空戦闘中でした。では、戦闘を継続します」

 

夕雲は神通の見ていないところでホッと胸をなで下ろす。

二水戦の神通の行う訓練がスパルタだということは、この世の駆逐艦娘全員が知っている事だろう。これをいかにかわせるかに駆逐艦娘たちは全力を尽くすと言う。

第二次大戦の時と変わらず、訓練モードの神通は『鬼の二水戦旗艦』とひそかに言われていた。

 

しかしスパルタで過酷な分、それ相応の実力がすぐに身につく。その為一部の努力家は神通に訓練を直接申し込むという。

 

神通の実力を察した敵機は、神通のいるところを避け、回り込むように奄美部隊に近づく。

相手だって馬鹿ではない。艦より飛行機の方が速いのは当たり前だ。

 

「くっ、さすがにこれはどうしようもないですね……」

 

神通は簡易無線のスイッチを押す。

 

「金剛さん、こちら神通です。敵機2編隊、数にしておよそ10機余り、そちらに侵入します」

 

『ヘーイ、コンゴウデース!それだけ減らしてくれれば充分デス。引き続き頼むネ!』

 

「了解です」

 

神通から連絡を受けた金剛は赤城と加賀に指示を出す。

 

「準備は良いデスカー、enemy()が来ますヨー?」

 

「既に直掩機は発艦済み。上空で待機しています」

 

加賀が金剛に言う。しかし他の艦娘が空を見上げても艦載機の姿は見当たらない。

そのかわりに敵の艦載機の姿が見えた。

 

「各艦、自由回避許可、対空射撃始め!」

 

敵機が奄美部隊上空に到達し、艦爆や艦攻が攻撃態勢に入る。

 

「今よ」

 

加賀がそうつぶやいた瞬間、敵機が爆散する。

敵機よりも更に上空から『紫電改二』が急降下し撃ち仕留めたのだ。

 

「止まり木戦法は今の世界でも有効なようね」

 

加賀の紫電改二のおかげで、敵機は一気に半数以上が消失する。

だが、それをすり抜ける敵艦載機もあった。白い球状の新型艦載機だ。

 

「今こそ改二のチカラを見せる時だよー!」

 

那珂が装備していた12.7cm連装高角砲を空に向ける。

 

低音と金属音の混ざったような音を立て砲弾が発射される。砲弾は信管によって空中で炸裂し、辺りに破片を撒き散らす。

 

しかし白い球状の新型艦載機はそれらを物ともせずにすり抜けて、那珂に爆弾を投下する。

 

「とーりかーじ!」

 

那珂は即座に舵を切る。改二となり航行性能も上がったらしく、寸前で投下されたにも関わらず回避することができた。

 

頭から海水を浴びつつ、那珂は陽気に言う。

 

「ふっふーん!トップアイドルはそんな爆弾には当たらないよーだ!」

 

『ちょっと那珂ちゃん、今の爆撃は危なかったですよ!まさか、改二の影響が……!』

 

「違うってば神通お姉ちゃん~!新型艦載機の性能が良すぎるの~!」

 

那珂の無線に神通の心配そうな声が聞こえる。

 

『練度が足りませんね。そんなようではこの先やっていけませんよ?』

 

「大丈夫だって、心配無用だよ!」

 

『はぁ……川内姉さんも何か言って下さい……』

 

神通がため息まじりにそう言う。川内は無言だった。

 

『………切るよ』

 

『ちょっと姉さん……!』

 

通信が切断され、それ以降何も聞こえなくなる。那珂は心の内に(もや)がかかったような気持ちになる。

 

(やっぱり川内お姉ちゃんは……いや、今はそれよりもこの戦いに勝つ事を考えなきゃ……!)

 

那珂は再び砲撃を始める。しかしいくら砲を放とうとも、心の(もや)が晴れる事は無かった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

そんな戦闘が繰り広げられている所から少し離れたところに龍田の率いる第四小隊とあきつ丸が待機していた。

 

「しかし、我々はここで待機していて良いのでありますか?我々も戦闘に参加した方が……」

 

あきつ丸が龍田に訊ねる。

 

「私たちはもしもの時に動く緊急用の部隊なの。例えば、誰かが機関故障とかで動けない時に離脱を助けるとか、本隊の手が離せない時に敵別働隊を食い止めるとかかしら~。

だから私たちはいつでもすぐに動けるようにしておかないとダメなのよ?」

 

「……それ以外にも理由があるのではないのですか?」

 

「…………」

 

「一番の理由は自分でありましょう。戦闘艦ではない自分を戦闘に参加させない為、違いますか?」

 

「それもあるかもしれないわねぇ」

 

龍田はあきつ丸の言葉をやんわりと肯定した。あきつ丸は顔を歪め、こぶしを握りしめる。

 

「自分は、自分が情けない!CMSでありながら深海棲艦と戦う事も出来ず、人々を守るハズが逆に守られる。何も出来ない自分が情けないっ……!」

 

「それはちょっと違うかな~」

 

「……?」

 

龍田はいつものニコニコ顔であきつ丸に言う。

 

「誰しも得手不得手って言うものがあると私は思うんだ~。あきつ丸は、私たちみたいに前線に出て戦う事は出来ないかもしれないけど、逆に私たちに出来ない事をあなたは出来るでしょう?」

 

「…………!」

 

「つまり、人によって輝ける場所は違うって事よ。今は何も出来なくても、絶対にあなたの力が必要になる時が来るわ。だからそんなこと言っちゃダメよ~?」

 

「龍田殿……!申し訳無い、自分はもう大丈夫であります」

 

あきつ丸はシャキッと背筋を伸ばし敬礼をする。この切り替えの速さもあきつ丸の良い点だろう。

 

龍田は相変わらず微笑んでいる。そして静かに話を聞いていた長波が声を上げる。

 

「6時の方向、機影です!」

 

「敵の艦載機かしら~?」

 

「いや……どうも様子が……あっ、基地の方へ増派した赤城さんと加賀さんの紫電改二です!」

 

双眼鏡(メガネ)を覗いて長波が機影を確認する。龍田はあきつ丸に振り返る。

 

「ほら~、早速あなたの出番よ」

 

「は……?」

 

「今、赤城と加賀は戦闘中で艦載機の収容は出来ないわ。だから飛行甲板を持つあなたが代わりに一時的に収容すれば良いと思うわよ」

 

「成る程。しかし、自分の格納庫だと10機も収容できませんが……」

 

「被害の大きい艦載機から収容して、あなたの出来る範囲で整備すれば良いわ。それと、基地の状況も聞くのを忘れないで。空母の2隻も納得すると思うわ~」

 

「了解であります!」

 

あきつ丸は信号灯で艦載機に状況を伝え、着艦指示を送る。艦載機から了解の信号が返ってくる。

 

「長波、対空及び対潜警戒。気を抜いちゃダメよ~?」

 

「了解、長波サマの腕を信じてくれって!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「…………」

 

「どうかしましたか加賀さん?」

 

「第四小隊嚮導艦(フロチラリーダー)から電信、少し待って下さい」

 

加賀は送られてきた電信を解読する。

 

「読みます『貴艦の基地に増派した艦載機が帰還したが、本隊は戦闘行動中の為、小隊旗艦龍田の独断で一部をあきつ丸へ収容、整備を行っている旨を報告する。尚、基地の損害は軽微だが、一部施設はかなりの損害を負った模様』以上です」

 

「了解しました。今の電文を金剛さんに転送して下さい。それにしても、加賀さんは良いんですか?」

 

「赤城さん、その質問はどういう事ですか」

 

「いや、自分の艦載機を他のCMSに渡すのって、加賀さん嫌がるじゃないですか」

 

「……その情報がどこから出てきたのが知りませんが、あきつ丸は芯がしっかりしているから大丈夫です」

 

「そうですか、ならこちらも頑張りますか」

 

本隊上空には未だに敵艦載機が侵入してくる。

しかし、赤城と加賀の的確な管制指示によって次々と撃墜されていく。

 

「なんか、私たちの出番ないですねぇ」

 

青葉が対空砲火を継続しながらそう愚痴をこぼす。

 

「ごめんなさい青葉さん、でも私たち空母の戦える場はここしか無いので……」

 

「ここは譲れません」

 

赤城と加賀が揃って言う。青葉は苦笑いしながらも「気を付けて下さいよ」と答える。

 

「私もこの高射装置を使ってみたかったんですけど、なんか使い方が良く解らないですね」

 

吹雪が腕に装着している94式高射装置を見る。この装備を使いこなせれば、対空戦闘で絶大な効果を発揮する事が出来るのだが、吹雪の対空砲の範囲まで敵艦載機はやって来ていなかった。

 

「フブキならぶっつけ本番でも大丈夫デスヨ。ところで現在の状況はどうなっていますカ?」

 

金剛の元に各小隊からの状況報告が届く。

 

『こちら本隊前方、天龍だ。もう敵機はやって来ないな』

 

『第二小隊、神通です。左舷側の敵機は全て迎撃完了しました』

 

『川内、もう艦載機は確認出来ないね』

 

『龍田だよ~、こちら異常無し』

 

金剛は報告を確認し、対空戦闘の終了を告げる。小笠原迎撃艦隊は損害確認を急ぎつつ硫黄島へと進路を取る。

 

「赤城さん、損害状況です」

 

「受領しました。………成る程、金剛さん」

 

赤城が旗艦金剛に航空機の損害を伝える。

 

「報告します。先の空戦で我が方は紫電改二6機を喪失、18機が損傷、未帰還機5、計29機の損失。

小笠原基地に増派した紫電改二は30機中、帰還したのは12機のみ。その内8機はあきつ丸さんが収容。

以上より、赤城11機、加賀18機、合計29機の喪失。損傷機も含めると47機の損耗です」

 

「了解したデース。航空戦力に支障は無いデスカー?」

 

「損傷機を修理し、予備の機体を組み立てれば問題無いと思われます」

 

「どれくらいで修理は完了しますカ?」

 

「……最低でも15分はみておきたいかと」

 

赤城は矢の状態に戻った艦載機を見てそう言う。艤装のシステムで修理自体にそれほどの手間は掛からないのだが、どうしても時間は掛かってしまう。

 

「こちらでも善処しますが、最悪の場合は修理を放棄し、残存戦力で対抗する他に無いと思います」

 

「……仕方アリマセンネ、そうならないように祈りまショウ。

ナカとフブキにも問題は見られませんシ、艦隊の被害も少ないので今の内に前進を……」

 

金剛がそう言いかけた時、那珂と吹雪がほぼ同時に声を上げた。

 

「何これ……!21号電探に感あり、右舷30度!」

 

「こちらでも捕捉しました!敵機数、およそ……150!?」

 

「150ですって……!?」

 

吹雪の言葉に赤城は驚きをあらわにする。

 

「……前進したかったのデスけど、深海棲艦の通行止めのようデスネー」

 

金剛が敵機の方角を見る。まだ遠くの空だが、その悪魔のような顔を持った白い球状の艦載機が見て取れた。

 

CMS(艦娘)たちは、その圧倒的な物量に、背筋に冷たいものを感じながら、一時、言葉を失った。

 

 

 

to be continued……

 

ーー物語の記憶ーー

 

・止まり木戦法

主に艦載機の空中戦で用いられる戦法。敵機よりも高い位置で待機し、上空から急降下、奇襲をかけるという戦法。

太陽の中に入るとより効果的。

 

 

 

 

 

 

 

 




ルナ「ふと思ったけど、俺の出番無くないか?」
kaeru「無いです」
ルナ「どこぞの主人公が出ない漫画みたいになってるぞ……」
kaeru「次回、戦艦棲姫登場!」


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memory37「作戦変更、敵陣突入」

投稿ペースを何とか保ってるkaeruです。
しかしながら次の話は少し投稿が遅れそうです。御容赦下さい、スミマセン!

どんなことでも良いので感想等頂けると嬉しいです(^^;;

それでは!


 

 

 

memory37「作戦変更、敵陣突撃」

 

 

「あの新型艦載機は……空母棲姫のものです……!」

 

敵機を確認した吹雪が言う。敵艦載機に大きな違いは無く、種別以外の個々の識別は困難を極めるのだが、吹雪はひと目で空母棲姫のものだと判った。

 

忘れもしない偵察任務の時、那珂の率いる臨時水雷戦隊を壊滅に追いやった新型艦載機。

 

「攻撃の間隔が短過ぎる……!」

 

川内が睨むように空を見上げながらそう呟く。川内の言葉に、神通が答えるように言う。

 

「一航戦の2人は戦闘機を収容した直後で、燃料補給や修理が終わっていません。そのため、先程のような航空支援は望めません」

 

「それだと一時的にも制空権を失ってしまうじゃないか!」

 

「その通りです。そしてここで制空権を失えば、こちらが艦載機を発艦するタイミングも無くなる可能性もある……!」

 

川内はギリリと歯をくいしばる。2隻の会話を通信で聞いていた奄美部隊、旗艦である金剛も顔を歪めていた。

 

「いくら何でもタイミングが良過ぎるデース。基地の空襲といい手の内がバレまくりじゃないデスカ!」

 

「金剛さん、落ち着いて!」

 

青葉がなだめるように言うと金剛はハッとして「sorry」と謝った。しかし険しい表情はそのままだ。

 

「どうするんですか?今ここで消耗したら、敵本隊との戦闘時に影響がでるかもしれませんよ」

 

「解っていマース。けれどあの艦載機群を無傷ですり抜ける事は恐らく不可能デス。

それはアオバも解るでショ?」

 

「そうですけど……」

 

青葉の言いたいことは金剛にも解っていた。しかし今の状況だとあまりにも打つ手が無さすぎる。

 

「意見具申、よろしいですか?」

 

ふと、赤城が隊内無線で金剛に言う。金剛は「いいアイディアがあるんデスカ?」と反射的に問い掛けていた。

 

「苦肉の策ですが……艦隊を二分して再編、対空母棲姫用の艦隊を作って、中核艦隊が敵本隊と接触するまでの時間を稼ぎます」

 

「それは……」

 

つまりは誘引役、囮であり、身代わりである。作戦に沿うならばその役目は、第一から第四までの小隊の仕事だが、小隊では無く、艦隊単位でそれを行おうと言うのだ。

 

「そして、誘引役には私が」

 

「what's!?アカギがデスカ!?アカギが居なければ艦隊の航空戦力は半減デース!

戦艦棲姫率いる敵本隊にも空母がいる可能性があるんデスヨ!

それに、アカギはどうするのデース!?」

 

「大丈夫、加賀さんならきっとやってくれます。それと、私の事ならご心配無く。トラック防衛戦の時だって空母棲姫と一対一だったんですから」

 

「あの時とは戦力差があり過ぎなんデスヨ!アカギ1人なんて……危険過ぎマス!」

 

「そうです赤城さん」

 

金剛の言葉に便乗して加賀が口を開く。

 

「1人では危険です。私も残ります」

 

「カガまで何を言い出すんデスカー!?」

 

「ここで損害を受け、敵本隊との決戦時に確定的な戦力差が付くよりは、打撃力を多少減じたとしても敵本隊との決戦に可能性を残すのは当然の事では無くて?」

 

「そ……それもそうデスが……」

 

金剛は歯切れの悪そうに言いよどむ。加賀は更に言う。

 

「それに、赤城さん1人では誘引としての効果も小さいでしょう。空母が2隻、別離すれば、敵にとっても格好の(まと)になるのではないかしら」

 

「……アーもうっ!承諾してやるデース!無茶はしないで下さいヨ!!」

 

ついに金剛が折れ、やけ気味にそう言い捨てた。

 

「ありがとう、金剛さん」

 

「むしろ、空母棲姫を退けてそちらに追いついてあげましょう」

 

赤城と加賀は弓を握りしめ、笑みを金剛に向ける。金剛は隊内無線に怒鳴るように言う。

 

「各小隊、今の話を聞いていまシタネ!?艦隊を二分シマス!

アカギ、カガに第一、第二小隊を加えた6隻を誘引部隊とし、空いた中核艦隊の2隻に第四小隊が入ってくだサイ!

アキツマルは第三小隊に異動、第三小隊は引き続き、護衛をお願いするデース!」

 

『こちら天龍、了解したぜ!』

 

『第二小隊了解、こちらは任せて下さい。姉さん、那珂ちゃんを頼みます』

 

『……分かってるよ!川内、了解!』

 

『わかったわ~、天龍ちゃん、気を付けてね?』

 

CMS(艦娘)たちはすぐに隊列を組み直し、艦隊を二分させる。

そして、赤城と加賀率いる誘引部隊が予定航路を外れ、敵艦載機が来る方向へと向かっていく。

 

中核艦隊は単縦陣になり、速度を上げて硫黄島へと急ぐ。第三小隊は中核艦隊の前方に移動し、先遣を担った。

 

誘引部隊がやってくれたのか、中核艦隊は敵艦載機の襲撃を受ける事無く、不気味な程に静まり返った海を進んでいく。

 

時刻は昼を回り、太陽は少しずつ傾き始めている。

 

「金剛さん、海域ポイントEー6ーJに入ります」

 

青葉が航路を確認し、戦闘海域に突入する事を伝える。

 

「索敵機の準備をしてくだサイ。アカギとカガのいない分、念入りに行いマスヨ。センダイも出来ますカー?」

 

『了解、索敵機の準備をするわ』

 

数分の後に金剛、青葉、川内の3隻は零式水上偵察機を発艦させる。

 

「各艦、警戒を怠らず、戦闘準備を整えておいてクダサーイ」

 

「「「了解!」」」

 

ついに中核艦隊は会敵予想海域に突入する。

CMS(艦娘)たちは短距離電探(レーダー)双眼鏡(メガネ)などで周囲の警戒を続ける。

 

先程まで顔を出していた太陽も雲の中に隠れ、まだ日中だというのに薄暗くなってきた。

 

「……荒れそうね~」

 

「うぅ、嵐は苦手だぞ……」

 

最後尾に付いていた龍田と長波が曇天の空を見上げつぶやいた。

 

「金剛さん、索敵機を帰還させた方が良いのでは?」

 

「そうですネ、収容不可能になる前に帰還させマショウ」

 

嵐が来ると踏んだ金剛は、早めに索敵機に帰還指示を出した。

 

 

 

「初雪、叢雲、周辺警戒。あきつ丸は後ろで待ってて」

 

中核艦隊前方、第三小隊。川内は戻ってきた索敵機を収容するために一時停止していた。

 

「はぁ……帰りたい」

 

「アンタいつもいつも言ってるわね。世界の危機だっていうのに、暢気なモンね」

 

「叢雲は帰りたくないの?」

 

「………この戦いが終わったら、提督に休暇届でも出そうかしらね」

 

「それフラグ……」

 

「何よフラグって」

 

「何でもない…」

 

初雪と叢雲がそんな事を話ながら周辺警戒を実施する。索敵機の収容が終わり、再び部隊が前進をしようとした時だった。

 

「あのー、川内殿」

 

「何、あきつ丸?」

 

「赤城殿と加賀殿は未だ戦闘中でありますよね?」

 

「まぁ、空母棲姫の艦載機の追撃が無いからそう考えるのが無難ね」

 

「では3時方向に見えるのは……?」

 

「3時方向?」

 

川内が右舷を振り向く。目を凝らして見ると、空には黒い粒がチラチラと見える。

川内は即座に無線を掴んで怒鳴るように言った。

 

「警報ッ!右舷90度、敵機!!」

 

中核艦隊もそれを確認し、金剛は陣形を輪形陣に変更せよと命令を下す。

 

「敵機群に新型艦載機を視認!艦爆と艦攻です!」

 

「電探でも捉えたよー!数およそ50!」

 

吹雪と那珂が敵機群の編成を報告する。

 

「全艦、戦闘用意!」

 

金剛の一喝でCMS(艦娘)たちは砲弾を装填し空に砲を掲げる。

 

「接触までおよそ2分!」

 

「…………!」

 

CMS(艦娘)たちは顔に冷や汗を流しながら敵機を凝視する。

 

「川内殿……」

 

「あきつ丸は下がって!中核艦隊の後方まで!」

 

「り、了解……!」

 

あきつ丸は第三小隊から離れ、後方に位置する中核艦隊へと急ぐ。

 

「あきつ丸、こっちよ」

 

「龍田殿!」

 

龍田はあきつ丸を呼び寄せる。

 

「いい?あきつ丸。艦載機が爆弾や魚雷を投下する時には必ず突入角度を固定して突っ込んでくるわ。艦爆なら直角に、艦攻なら平行に移動して回避するのよ」

 

「空襲が始まるのでありますか。自分にも何か出来る事は……」

 

「あきつ丸は硫黄島を取り返す事の出来る唯一のCMS、だからまずは自分の安全を最優先するのよ」

 

「しかし!それも奄美の皆さんが損害を受けてしまったら、硫黄島に辿り着く前にやられてしまいます!」

 

「……私たちはそう簡単にはやられないわ。だからあきつ丸は自分に出来る事をやるのよ」

 

龍田の言葉にあきつ丸はハッとする。その言葉は、先の空襲で言われた言葉。

 

「そうでした。自分には自分の、自分にしか出来ないことがある……!」

 

あきつ丸は龍田の前に出る。龍田が危ないと呼び止めるが、その制止の声を聞かずに走り出し、飛行甲板艤装を展開する。

 

「今こそ、その時であります!」

 

一枚の紙を取り出し、それを走馬燈に入れ、掲げる。飛行甲板艤装に投影された影が実体を持ち、浮かび上がる。

 

しかしその機体はカ号観測機や三式指揮連絡機では無かった。濃緑色で4枚羽のプロペラを持ったスッキリとしたボディ。

 

「赤城殿、加賀殿、力を貸して頂きたい……紫電改二、発艦始め!」

 

合成風力を受けて、総数たった8機の紫電改二が空へと飛び立つ。

紫電改二は奄美のCMS(艦娘)たちの頭上を飛び越え、敵艦載機の方へと突撃していく。

 

「あれは……赤城さんと加賀さんの紫電改二!?」

 

後ろにいた長波が驚いて声を上げる。龍田はその様子を感心したように見ている。

 

「あきつ丸はさっき、基地に増派した赤城と加賀の艦載機を収容していたから……それを発艦させるなんてアイディア、よく思いついたわね~」

 

あきつ丸は必死になって艦載機の制御を行っている。制御方法はMW技術によって記憶としてインストール、アップデータされているが、あきつ丸にとって艦載機を扱うのはこの出撃が初めてなのだ。

 

しかも初期装備の艦載機は全て索敵、対潜専用。戦闘機なんて触れた事も無い。

 

「くっ……!」

 

「落ち着いてあきつ丸、あなたならきっと出来るわ。心を静めて、艦載機に意識を集中させて」

 

「そうだぜ!周囲はあたし達に任せなっ!」

 

「龍田殿、長波殿……!かたじけない!」

 

龍田は機銃を空に向けながら無線のスイッチを押す。

 

「金剛~!」

 

「事情は分かりマシタ!タツタとナガナミはあアキツマルを護衛するデース!」

 

「分かったわ~」

 

金剛はふぅと小さく息を吐くと、顔を上げ、キッと敵機を睨みつける。

 

「いつまでも深海棲艦の思う通りにはさせまセン!

FCS(火器管制装置)、観測データをリンク!砲弾装填良し、全砲門開け!」

 

そして、振り上げた手を敵機に向けて振り下ろす。

 

「三式対空榴弾、fireーーーッ!!」

 

衝撃を伴って発射された三式弾が、放物線を描き敵機目掛けて飛翔する。

 

数秒後、信管によって炸裂した三式弾は、燃える弾子を辺りにばら撒く。

 

まるで流星群の様なその炎の雨に貫かれ、敵艦載機群の一部が丸ごと消滅した。

 

「次弾装填急ぐデース!」

 

金剛が次の砲撃の為に有する時間は決して短く無い。その間隙を突いて、敵機は一気に距離を詰める。

 

「そうはさせん!」

 

あきつ丸の操る赤城と加賀の紫電改二が敵機と接触する。

 

「戦闘機どうしのドッグファイトは極力避けるのよ。撃墜する事が目的じゃなくて、攻撃機から攻撃のチャンスを奪うように立ち回るのよ」

 

「了解した龍田殿……!」

 

紫電改二は突撃と離脱を繰り返しながら、敵機群に攻撃を仕掛ける。

紫電改二が無闇に深追いをしないおかげで、敵の戦闘機もこちらを攻撃する機会を掴めないでいるらしく、たった8機という少数にも関わらず互角の勝負を繰り広げていた。

 

(今は金剛の砲撃の影響で敵機の混乱が激しいから互角だけど、向こうが立て直したらこちらの紫電改二はすぐにすり潰される……!)

 

龍田は今の状況をそう分析していた。そしてこの分析は半ば的中していた。

 

今はよく言う『奇襲効果による一時的優勢』と何ら変わりないのだ。

早く次の手を打たなければ、この有利はすぐに崩れ去る。

 

「艦隊、第四戦速に増速!敵陣に斬り込むネー!」

 

金剛は突撃を命令した。時間が掛かれば勝ちの目が無くなる。そう判断しての、ある種無謀な命令だった。

 

しかし、CMS(艦娘)たちはそれに了解と答えた。

苦難を乗り越えて来たCMS(艦娘)たちは、逆境が自らを奮い立たせる事を知っていた。

そこにあるのは決意と覚悟。艦隊は増速をかけた。

 

だが、その時。

 

 

「前方に敵艦隊を視認!」

 

前方にうっすらと大きな黒い影が見える。恐らくあれは硫黄島の影であろう。

 

その手前、身も凍りつくようなオーラをその身体から出している、ひときわ目立つモノがそこに見えた。

 

 

 

『シズメテ……アゲル……!』

 

 

 

敵本隊の旗艦である戦艦棲姫が、脳に直接響くような声でそう発する。

 

「命令の変更は認めず!全艦、突撃セヨ!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

CMS(艦娘)たちは戦艦棲姫に臆する事なく、機関を唸らせ海上を疾駆する。

 

 

硫黄島奪還戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 

to be continued……

 

 

 

 




ルナ「やっとボス戦突入か」
kaeru「ここまでが長い。そしてこれからも長い……」
ルナ「ごちゃごちゃ言うな。ほら次回」
kaeru「次回、予想外の出来事」


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memory38「リスク」


ぐわぁぁぁぁぁあ!筆が進まないいぃぃ!
筆で書いてないけど。

次回はもう少し早めにしたいと思っているだけです。冗談です、努力しますm(__)m

それでは


 

 

 

memory38「リスク」

 

 

中核艦隊が敵本隊に突撃を掛ける少し前。

 

誘引役を担った赤城と加賀、護衛する第一、第二小隊は空母棲姫との艦載機と猛烈な戦いを繰り広げていた。

 

「空母棲姫は!?」

 

「まだ確認出来ません。こちらの範囲外からのアウトレンジ攻撃です!」

 

赤城の問い掛けに神通はそう答える。赤城と加賀の紫電改二部隊は未だ整備、補給中で発艦は出来そうに無かった。

 

それ以前に、別の機体を発艦させる前に敵艦載機による空襲が始まってしまい、空母の2隻は発艦の機会を失ってしまっていた。

 

「連装砲ちゃん、頑張って!」

 

島風の連装砲ちゃんがキュー!と鳴きながら対空弾を空へと放つ。

だが、敵の艦載機は量に物を言わせて、無理矢理に防空網をすり抜けていく。

 

「……っ、危ねぇッ!」

 

天龍が島風の腕を引っ張り、強引に針路を変える。そして、その針路上を敵艦攻の魚雷が通り過ぎていった。

 

「あ、ありがと天龍」

 

「あぁ、でも気を付けろよ。こっちはタダでさえ無勢なんだ。誰か1隻でもやられたら、すぐに押しつぶされるぞ」

 

そう言っている間にも敵艦載機は猛攻を続け、誘引部隊の対空能力は飽和状態になりつつあった。

 

「赤城さん、ここは多少の損害は覚悟して戦闘機を緊急発進(スクランブル)させた方が良いのでは……!」

 

「早まってはダメよ。今低空に降りてきているのは全て攻撃機、戦闘機は上空で待機しているはずです」

 

加賀は之字運動を続けながら空を見る。確かに、はるか上空に攻撃機とは別の飛行機が飛んでいる。

 

「仮に今、数機発艦させたとしても、空中集合を行う前に撃墜される……各自交戦させれば数に圧倒されるのは確実……!」

 

「打つ手ナシね~」

 

夕雲がお手上げといった風に声を上げる。赤城は殺到する艦載機を見て命令を下す。

 

「各艦、対空砲火続行、最大戦速に増速!」

 

部隊は航行速度を上げる。しかしその程度では敵艦載機は振り切れない。

 

「赤城さん、何か策でも?」

 

「まずは空母棲姫の位置を特定します。艦載機のやって来る方向や帰投方向からの予測ですが、ここでただ耐えるよりは動いた方がいいでしょう」

 

赤城は針路変更を指示する。向かうは硫黄島と逆の方向。

 

「第一波、終了したらしいぞ」

 

汗を垂らしながら、天龍がそう報告する。しかし正面からは新たな艦載機が押し寄せてきている。

 

「赤城さん、正面から敵艦載機第二軍です」

 

「…………」

 

赤城は加賀の言葉を聞いて瞳を閉じる。そして、矢筒から艦載機の矢を十数本引き抜いて、加賀に差し出した。

 

「赤城さん、これは?」

 

「加賀さん、あなたの損傷した矢と交換して下さい」

 

加賀はワケの分からないまま損傷した紫電改二の矢と赤城の矢を交換する。

 

「っ!?赤城さん、この艦載機は……!」

 

「私が囮になるわ。加賀さん、部隊を頼みます」

 

「赤城さん!」

 

加賀の呼び止める声を聞かずに赤城は船速を上げ、部隊から離れる。

 

敵艦載機の約半数ほどが赤城を攻撃するために方向を変え突っ込んで来る。

 

赤城は隙を突いて、残っていた紫電改二を発艦させる。その直後、赤城の上空に達した敵機が連続して航空爆弾を投下する。

赤城の姿は、乱立する水柱に隠れて見えなくなった。

 

「赤城……さん……!」

 

加賀は一瞬だけ呆然となるが、今、自分が何をすれば良いかを瞬時に理解し、いつもより少し熱のこもった、しかし普段のような静かな声で指示を出す。

 

「部隊指揮権を赤城さんより委譲、変わって加賀が指揮をとります。全艦、対空および対潜警戒。これより発艦作業に移行します」

 

「敵機が来てる中か!?無茶だ!」

 

加賀の言葉を聞いて天龍が反射的にそう言った。だが、加賀は弓に矢をつがえる。

 

そして呼吸を整え、弦を目一杯に引きしぼる。

 

「『烈風六〇一空』発艦始め!」

 

加賀は赤城から受け取った『烈風六〇一空』の矢を放つ。

続けて1本、2本、3本と連続して放たれた矢は、燐光を散らしつつ艦載機へとその姿を変える。

 

しかし、その時を待っていたかと言わんばかりに敵の戦闘機が上空から烈風六〇一空を狙う。

 

高度を上げようと機首を上げたところを強襲しようとしているのだろう。

だが、烈風六〇一空はそんな予想とは裏腹に高度を下げた。

 

敵戦闘機は戸惑ったように降下を止め、ただ烈風六〇一空の上をついて行く。

 

「まだ高度を上げては駄目。エンジンが熱を持つまで待つのよ」

 

いつまで経っても高度を上げようとしない烈風六〇一空に痺れを切らしたのか、敵戦闘機は機首を下げ、機銃を発射する態勢に入った。

 

「今よ、フラップ・オン!」

 

敵機が機銃を撃つ。その瞬間、烈風六〇一空は失速しながら機首を上げ、急上昇した。

その結果、まるで蛇が鎌首をあげるような空戦機動(マニューバ)で烈風六〇一空は敵戦闘機の後方に、横に回転(ローリング)しながら瞬時に移動した。

 

「な……何、あの空戦機動(マニューバ)……!?」

 

夕雲がその光景を見て驚きの声をあげる。

刹那の出来事に烈風六〇一空を見失った敵戦闘機は、烈風六〇一空の放つ機銃弾の餌食となりあっという間に撃墜されていった。

 

「烈風六〇一空、交戦開始(エンゲージ)!」

 

護衛の戦闘機を失い、自らを守るものがいなくなった敵の攻撃機は、慌てて魚雷や爆弾を投下して逃げ帰って行く。

 

「逃がさないわ。新たな戦闘機が来る前に、攻撃の手を潰してあげる」

 

加賀は的確な航空管制で、近くにいた艦攻や艦爆を1機ずつ確実に撃墜していく。

烈風六〇一空の反撃をかわした敵攻撃機は、東の空に逃れて消えていった。

 

「よっしゃあ!敵の艦載機がいなくなったぞ!で、どーする加賀?」

 

「島風を連れて赤城さんの救護をお願い。敵の攻撃が止んだ今しかチャンスがありません。赤城さんを救護したら私の指示があるまで危険の無い場所まで後退し待機していて」

 

「了解だ、赤城は任せとけ!行くぞ島風!」

 

「うん!」

 

第一小隊の2隻は部隊を離れ、赤城の救護へと向かう。残った加賀と第二小隊は速度を更に上げる。

 

「機関最大、両舷前進一杯」

 

加賀は機関一杯を指示し、足元に今まで以上の白波を立て海上を航行する。

 

「加賀さん、海域エリアポイントEー6ーHに入ります!」

 

「………良いタイミングね」

 

加賀の言葉を疑問に思った神通だったが、すぐにその表情を引き締める。

その目線の先、距離にして10,000も無いだろう。空母棲姫が憤怒の形相でこちらを見つめていた。

 

『ナンドデモ……シズメッ!』

 

「第二小隊、突撃を敢行し近距離からの雷撃で空母棲姫を攻撃して下さい。撃沈できなくても艦載機発艦能力さえ奪えればこちらの勝利です。随伴艦は私に任せて、航空機で援護します。出来ますか?」

 

「これでも第二水雷戦隊旗艦なんですよ。言われた事はやり遂げるまでです。夕雲さんはどうですか?」

 

「私だって、夕雲型の一番艦よ。遅れは取らないわ」

 

神通と夕雲は加賀を追い抜いて突撃をかける。

その後ろから風を切り裂いて艦載機の矢が飛んでいく。

 

新たに発艦した艦載機は、従来の彗星艦爆と小笠原基地に保管されていた高性能艦上攻撃機『流星』だ。

 

小笠原基地に航空母艦が配属されるのは稀な為、倉庫に保管されっぱなしだったこの装備を整備士であるヨーコが見つけて、加賀に搭載させたのだ。

 

低くエンジン音を響かせ、フルスロットルで彗星と流星は飛んでいく。

 

空母棲姫も自らの周囲に出していた艦載機を、迫り来るCMS(艦娘)とその艦載機に向かわせる。

 

「機関一杯そのまま、赤黒は調整して速度を合わせて下さい」

 

「りょうか~い!」

 

夕雲に指示を出す間、神通は敵空母機動部隊の規模を確認する。

 

(空母棲姫の他に、軽母ヌ級flagship1、軽巡ホ級flagship1、駆逐ニ級後期型とイ級後期型合わせて3……ですか)

 

そして敵の陣形を輪形陣と見切ると素早く夕雲に言う。

 

「取り舵15、駆逐級の間を抜けて空母棲姫に肉薄します」

 

神通と夕雲は敵艦隊右舷側からの突入を図る。そうはさせまいと敵の艦載機が攻撃を仕掛けに来るのだが、烈風六〇一空がそれを許さない。

 

逆に彗星による爆撃でヌ級は炎上し、航空管制能力を喪失した。

 

「神通さん!」

 

「ええ、右砲戦用意、目標、駆逐イ級後期型」

 

2隻は面舵で針路を戻すと、輪形陣の中心に向かって一直線に進んでいく。

 

「撃てッ!」

 

神通の14cm単装砲と12.7cm連装砲が同時に防弾を吐き出した。

放たれた防弾は寸分の狂いなくイ級に命中し、一撃で戦闘能力を奪い去った。

 

「凄いこの主砲……対艦戦闘時の生体同期(バイオフィードバック)と記憶とのリンクの誤差がほとんど無いわ……!」

 

「火器管制とのラグも最小限に抑えられている。これが星付き装備の威力ですか……」

 

神通と夕雲が持っている主砲は、奄美から持って来た佐世保特製の改修装備だったのだ。

星付き装備の強さを感じながら、第二小隊は輪形陣内側に侵入する。

 

上空では敵新型艦載機と烈風六〇一空が熾烈なドッグファイトを繰り広げ、両者ともに少しずつ、その数を減じていく。

 

第二小隊の2隻にも少なからず敵攻撃機が襲い掛かるが、味方艦載機のおかげで、攻撃の密度は薄く、攻撃タイミングもバラバラだった為、回避にそれ程の労は要さなかった。

 

そうこうしているうちに空母棲姫との距離、およそ5,000。

 

空母棲姫も、その生物型の艤装で砲を放ってくる。この近距離帯で直撃を食らってしまったら、最低でも中破は免れないだろう。

 

「左舷、砲雷同時戦用意、方Z(右180度方向転換)!」

 

神通は方向転換を指示し、面舵を掛ける。神通と夕雲は大きく弧を描いて海上を旋回する。

 

「今です!魚雷発射!」

 

弧が一番大きくなった瞬間、神通は叫んだ。2隻の魚雷発射管から十数本あまりの九三式魚雷が発射される。航跡は通常魚雷に比べてはるかに見えにくい、酸素魚雷だ。

 

空母棲姫は叫び声を上げ、魚雷を回避するべく舵を切る。しかし、避けきれないと見るや否や、海面に向けて砲撃する。

 

数本がそれによって誘爆、信管過敏だった魚雷が消失する。

 

「3…2…1……!」

 

残った魚雷が空母棲姫に到達し、くぐもった爆発音が響く。

 

しかし水煙の向こうには、先程と変わらずそこにたたずむ空母棲姫の姿があった。

 

「えぇ!?魚雷は命中したはずでしょう!」

 

夕雲が驚いて思わずそう言う。神通も魚雷の命中はその目でしっかりと確認していた。

 

「あれは……!」

 

神通が目を凝らして見てみると、空母棲姫の前に大破した生物型艤装が横たわっていた。

 

(魚雷が命中する直前に、あの生物のような艤装を盾にしたのですか……!)

 

空母棲姫はニヤリと笑い、残った自らの艤装の砲を向けて、第二小隊に砲撃を加える。

 

「一時距離を取ります。引き撃ちで攻撃は続行して下さい!」

 

神通と夕雲は反転してそのまま砲撃を行いつつ、空母棲姫から距離を取る。

 

だが、2隻の周りには空母棲姫の放った防弾が降り注ぐ。こちらの砲撃は空母棲姫のエネルギーフィールドを貫通出来ずに弾かれる。

 

「やはりもう一度魚雷を撃ち込まないとダメですか……!」

 

神通がそう呟いた時、その脇を加賀の流星がすり抜ける。

 

『雷撃機を突入させるわ。対空砲火で援護をお願い』

 

加賀からそう通信が入り、艦載機たちが一斉に空母棲姫に向かっていく。

そうは言っても、敵艦載機との空戦で敵味方ともにその数は僅かとなっていた。

 

第二小隊も対空砲火で加賀の攻撃機を援護する。

 

(この攻撃で……沈める!)

 

加賀は極限まで意識を艦載機に集中させる。

 

敵戦闘機を振り切り、空母棲姫自身の対空網をくぐり抜け、5機が攻撃態勢に移る。

 

海面すれすれを微調整をしながら、急速に距離を縮める。

そして必中の間合いまで近づき、(ふところ)の魚雷を投下する。

 

空母棲姫が先程のように、魚雷に向けて砲撃するが、もう遅い。

 

「終わりよ」

 

加賀の言葉と同時、空母棲姫本体に魚雷が突き刺さる。敵艦載機が引き返して、未だ水柱の立っている空母棲姫のもとに駆けつける。

 

離脱しようとしていた流星5機のうち2機は、引き返してきた敵戦闘機に撃墜された。

 

息をのんでその光景をみていたCMS(艦娘)たちだったが、次の瞬間には、その表情を一変させた。

 

あれだけの魚雷を食らってもなお、空母棲姫は沈んでいなかったのだ。

 

「くっ……!」

 

加賀は歯をくいしばる。既に艦載機は発艦しきっている。次の攻撃を仕掛ける為には、攻撃機を収容し、補給、再装填の必要があった。

だが、加賀は冷静に空母棲姫を見た。

 

「まだ沈まないなんて……!」

 

「夕雲さん、魚雷、次発装填!あの空母棲姫にとどめを……!」

 

『待ちなさい神通。空母棲姫は既に戦闘能力を喪失しているわ』

 

加賀の通信によって、ハッと我に返った神通も双眼鏡(メガネ)でその姿を確認する。

 

機関部に致命傷は負っていないものの、生物型艤装は大破、自身の武装も先の被雷によって吹き飛んでしまっていた。

 

空母棲姫は憤怒の形相でCMS(艦娘)たちを睨みつけると、恨めしげに背中を向ける。

それを庇うように随伴艦がその後ろに付く。

 

「……っ、追撃を……!」

 

『その必要は無いわ。あの空母棲姫は放置しても問題無いでしょう。一度戻ってきて頂戴』

 

「……分かりました」

 

多少思う所はあったものの、神通は加賀の指示通り追撃をせずに戻る事にした。

 

一方、加賀はため息をついていた。

 

(なんとか空母棲姫を無力化出来たけども、残存機の数が少ない……。予想はしていたけど、時間もかかり過ぎたわね……)

 

「おーい加賀ー!終わったかー?」

 

遠くから天龍の声が聞こえてくる。そして天龍と島風に身体を預けながらも、赤城が手を振っている。

 

「赤城さんっ!」

 

「さすが加賀さんです……加賀さんなら、やってくれると思っていました……」

 

赤城の姿を見た加賀は、瞬時に艦載機の発艦が出来ない状態だと悟った。だが大破していないだけ僥倖(ぎょうこう)だろう。

 

第二小隊もそこへ合流し、次の行動について短時間、相談する。

 

「現在地はEー6ーH。硫黄島とは海域の反対側になります。今から全速力で向かっても、時間的には到着は日没後になりそうです。

ですが……赤城さんが中破となると以降の行動は慎重に決めた方が良いでしょう」

 

神通が現在の状況を軽くまとめる。打撃の要である航空母艦の2隻が本隊に居ないだけでなく、その内の1隻、赤城は航空戦闘能力を失っている。

 

「……赤城さん」

 

「言いたい事は分かってるわ。艦載機を発艦する事が出来ない以上、私が戦闘に参加することは不可能。良くて盾か囮ね」

 

「すみません、意見具申よろしいですか?」

 

神通が手を挙げてそう問う。加賀はそれを首肯する。

 

「戦闘に参加出来ない赤城さんに護衛を付け後方に退避させるのが無難かと。残りは硫黄島を目指して前進……。無理して赤城さんを進撃させて事態が悪化するという可能性もありますので……」

 

「残念ですが、それが最善なようね。赤城さん」

 

加賀が赤城の方を振り向く。赤城はこくりと頷いた。

 

「分かったわ、私は戦闘を離脱して待機します。加賀さん、この艦載機も使って下さい」

 

赤城は残っていた艦載機の矢を加賀へ手渡す。装備のメモリーカードは交換することは出来ない為に、先程同様、意識を集中させないと上手く扱えないが、使えないよりはよっぽど良い。

 

そして、第一小隊を赤城の護衛に付け、戦闘海域を離脱するように退避させる。

 

「頼むぞー!あと龍田によろしくなー!」

 

「赤城は島風たちがしっかり守るからね!」

 

「加賀さん、後は頼みます」

 

加賀と第二小隊はこくりと頷き。ともに背を向け機関をうならせる。

 

「……本隊の方が心配ですね」

 

「初雪と叢雲、大丈夫かしら……?」

 

第二小隊の2隻がそれぞれそう呟く。加賀は背中でそれを聞きながら静かに「両舷前進第五戦速」と下令した。

 

向かうは硫黄島、先に行った中核艦隊は既に交戦状態だろう。加賀は艦載機の発艦準備を始めながら、本隊が無事である事を切に願った。

 

to be continued……

 

 

ー物語の記憶ー

 

・流星

艦上攻撃機の一種で、性能は天山を上回り、if装備である天山六〇一空とほぼ同等。

今までの攻撃機に無かった防弾装備を施した上で、攻撃機としては抜群の運動性能を持っていた。逆ガル翼が特徴的。

 

 




ルナ「もう少し早く書けよ」
kaeru「本当に申し訳ない」
ルナ「この物語終わるか心配になってきたな……」
kaeru「最近永夜抄EXのパターン化が忙しくて」
ルナ「書けよ!」
kaeru「次回、戦艦棲姫VS奄美部隊!」
ルナ「逃げんな!」


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