美琴先生最強伝 (神榛 紡)
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プロローグ

 「……ん~。ウマウマ。いやはや、学校サボって食べるクレープはおいしいね、うん」

 

 ま、サボり、つっても必要性に駆られたサボりなんだけどね。

 心の中で付け足すように呟いて、茶髪の少女は有名な常盤台中学の制服のまま、ひょいと路地裏に入っていく。

 その無警戒に見える少女に対し、サボり常習犯の不良どもがケーキに群がる蟻の如く湧いてくるのだが、ポンポンと躊躇無く飛ぶ『電撃』を受けて撃墜、それを見た後続がどんどん撤退していく。

 

 「ん~。一応こんなんでもレベル五なんだよね~。まあ、あれだ。常盤台なめんな、的な?」

 

 周囲に軽くコンガリした輩しかいないにも関わらずポーズを決める痛い子だが、これでも常盤台が誇る学園都市第三位の『極雷球(プラズマ・エンド)』の御坂 美琴お嬢様(笑)である。

 二つ名が違う? 実はなどと言う必要も無く、この御坂 美琴は転生者なのでこれが正常かつ通常運転だ。『誰が超電磁砲(レールガン)なんか使うか』という意味不明なこだわりを発揮した結果、こんな痛い中二病ネームを付けられるとは誰が思おうか。いや、レベル五になれば付けられるのは自明の理だが。

 まあ、そんな転生少女が向かっている場所はというと、反対側の通りにあるファミレスだった。なぜ路地裏を通る必要があったのか非常に悩むような話だ。無意味に焼かれた不良達に合掌。

 

 「はい、到着。悪人気取りの一寸の闇すら知らない馬鹿の巣へようこそ~。いや、私が歓迎される側なんだけどね。そこんとこどう思うよ、自称選ばれた人間さん方?」

 「………ナメてます?」

 「舐めてない舐めてない。だって舐めたらばっちぃでしょ。お腹壊しちゃうわよ」

 

 ピキピキ、という言葉が聞こえてきそうな具合で、その場に集まっていた無駄に化粧が濃かったり髪染めに失敗してる、お馬鹿丸出しな中学生から高校生くらいの少年少女が青筋を浮かべる。

 おそらくはリーダーらしい少年が、眉間をトントンと叩いて冷静さを装いながらも話を続けようと無駄な努力をする。諦めれば楽なのに。

 

 「それで、常盤台の極雷球ともあろう方が、私達のような接点も何もない人間に一体何の御用で?」

 「意訳すると『てめぇには関係ねえだろとっとと帰れよ、お嬢様?』的な感じだよね。言葉遣いをいくら変えても自己満足に他人襲ってるゴミには変わりないのにねぇ。ま、用事は簡単よ? これ以上おいたしてるととってもこわーい人達が出てきちゃうから、弱いものいじめしてないで帰りなさいってお話です。首と体が泣き別れしてからじゃ遅いしねぇ。ま、その前に私が動いてる訳だけど。連中が動くまで放置してたら被害がめんどくさい事になりそうだし」

 

 知ってるのに動かないっていうのも良心の呵責がひどい訳でさ~、などと嘯いているが、これでも原作をいい方向に持って行こうと決めた以上、他の色々な闇もできるだけなんとかしようと決めた極度のお人好しなだけであり、ちょくちょく抜け出してこういった暗部の動かない場所でゴミ掃除をしている。

 結果寮監によるOHANASIを受けるのだが、全く懲りない辺り学習能力皆無だ。

 まあ、今日も学園都市から暗部には程遠いゴミが一掃されたというただそれだけの話である。

 オリ主少女は今日も(無駄に)元気だ。



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第一話

 真暗、とはとても言えない学園都市の夜。

 ため息を吐き出しながら電灯で飾られた都市を眺めるのは、我らが美琴先生である。

 

 「やれやれ。やっとこ始まった、って感じよね」

 

 白銀のシスターが主人公の住む部屋のベランダに引っかかったのを確認して、踵を返す。

 主人公の物語に干渉するのは、明日の夜。最後の時まで御坂 美琴という科学サイドのトップクラスが顔を突っ込む最大の好機は訪れない。

 だからこそ、やる事はもう一つの方だ。

 

 「さて。一人でも多く、一人でも長く、が目標かな。本当、救われないわね、あの子達も。そして、私はとても救えない」

 

 苦い思いを押し殺して、足元に転がしていた金属製のスノーボード――いや、この場合はエアボードというべきか――に乗って、磁力操作で空へと舞い上がった。

 そうして時をかけずに目標上空へと到達すると、同時多角ハッキングでアンダーラインを沈黙させ、脳内の電気信号を操作して(・・・・・・・・・・・・)自らを知覚から外し、堂々と進入する。

 研究所なんていう物の造りは大抵大きく変わる事も無く、無駄に凝った防犯システムは全てハッキングして瞬時に開き、最深部のメインコンピュータが詰まった部屋に到達。そこを掌握して研究所のデータも設備も根こそぎ内側“だけ”を駄目にして部屋を出る。

 文章にしたら簡単にしか思えない、実際当人にしてみれば児戯と言える自己満足を終えて後は外に出るだけという所で、上から降ってきた瓦礫を適当に弾いて避けさせる。

 

 「はい。こんばんわフレンダちゃんってとこかな。思ったよりもアイテムが出てくるの早かったわね」

 

 まだ主導した組織を壊滅、外部依頼を二十ほど潰した程度なのになぁ、などと嘯きつつ、爆弾入りぬいぐるみを適当に塵にする。

 影に隠れたフレンダが驚くのを“読み”ながら肩を竦めてあちこちに張り巡らされた白いテープも分解しておいた。

 これでフレンダは無力化完了で、オフェンスアーマーは元より脅威ではなく滝壺はただの能力者レーダー。

 唯一の懸念は麦野 沈利だが、正直に言えば、第一位と第二位以外ならば初めから脅威ではないのだ。原作だったならば違ったのだろうが、今の一方通行“程度”ならば封殺できる。

 しかし、だからといって片っ端から悲劇を回避すれば最善の結果がもたらされるかといえばそうではなく、この残酷なまでに無情が蔓延るこの世界では、最善を求めて最悪になるなんて当たり前にある。もっと言えば、この行動の結果だって、数ある結果から最良を勝ち取るには程遠いかもしれない。

 無関係なそこらのモブだったのならば、関係ないと言えただろう。存在しない八人目のレベル五だったのならば、原作崩壊にもためらう必要は無かっただろう。

 だが、実際にその身は原作キャラで、しかも中核の一人である御坂 美琴なのだ。軽率な行動が簡単に最悪を招き寄せる立場であり、関係ないと言い切るには物語の中心に近過ぎた。

 悩んで、悩んで、悩み続けた。

 だから決めたのだ。もし最悪になったとしたらその時だ。コントロールするためにできるだけ原作に近いルートで、最大限人死にを減らしてやろうと。

 だからこそ、麦野はここで潰す。反撃しようなどと考えないほどに圧倒すると決めている。

 

 「なんて決意をしておきつつも、やってる事は私らしくギャグ一色っていうね」

 「け、結局意味解んないし! っていうか離せぇ!」

 「あっはっは。筋肉動かすのも電気だったのが運の尽き! ほれほれ踊れ~」

 「結局もういっそ殺してほしいぐらい屈辱だし!!」

 

 アイテムが人払いをしたのだろう無人の研究所で、捕まえた金髪少女に音楽付きでウッーウッーウマウマを踊らせている第三位。学園都市の超能力者(レベル五)に対して絶望させる光景である。

 超能力って一体なんだったんだ。

 

 「あら、ストリップの方が良かった? でも、そっちだと十八禁になっちゃうし、じゃあ私の同室とじゃれてみる? 私としてもいけに――ゴホン、あの子と仲良くしてくれると助かるんだけど」

 「今絶対生贄って言ったし! ハッ! 良くある百合百合しいお話とか!?」

 「大丈夫よ。普通に『仲良く』してくれればね。ちょっとスキンシップが激しいだけだから」

 「結局レズだし! 絶対嫌だし!」

 「あらら、残念。じゃあ、やっぱり猫耳猫尻尾を付けてみよっか。大丈夫だよ。カエルから人体に無害な猫耳と尻尾を貰ってあるから」

 「結局最悪だし! つか、どっから出した!」

 

 大声を出し過ぎてぜぇぜぇはぁはぁ言ってるフレンダに、その辺の原子を集めて作った似非猫耳と猫尻尾を持ちながら近付く。まあ、あのカエルなら言えば本当にそれくらい用意できそうな気もするが、現状で美琴とあの医者に接点は無い。

 ただ、美琴が大きな怪我をすれば十中八九あの医者のいる病院に連れて行かれるだろう。アレイスターにとって死んでもらっては困る、もしくは死なせられない人間は、アレイスターとカエルとの関係性と信頼からもれなくあの病院へと連れて行かれる。

 当麻はキーマンであり替えが無いから。一方通行は表のプランの最重要ピースのため。ラストオーダーはエイワス及び風斬氷華顕現の核であるため。

 そして、美琴は妹達量産のための遺伝子保有者であるために。

 逆に不要だが有用な人間は、使い潰す事前提で利用される。

 原作の木原病理に第二位の能力が応用して組み込まれていたように。麦野 沈利が高性能の義肢を付けて、復讐心を利用されて浜面への刺客とされたように。この都市では、極一部を除いて、理事会のメンバーですらも利用される使い捨ての駒でしかない。

 それすらも理解して、ふざけて遊ぶのが美琴なのだが。

 

 「ほらほら、一寸先が闇なら楽しんで好き勝手した方がお得じゃない?」

 「知るか! 結局今も私は闇の底だし!」



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第二話

 「はい、お疲れさまー」

 

 壁がぶち抜かれて崩れ落ちる様を見ながら言ってみる。壁の向こう側から現れたのは第四位『原子崩し(メルトダウナー)』で、彼女は“床に置かれたカメラとスピーカー”を見て米神に血管を浮かばせる。

 その様に見えないのを承知でやれやれと肩を竦めて首を振り、ニッコリ笑顔でからかう事にした。

 

 「徒労で骨折り損のくたびれ儲けになった気分はいかがかな~。『AIMストーカー』が知らないAIM拡散力場を追えないのは知ってるよ。暗闇の五月計画の子は別の所で待機かな、第四位ちゃん?」

 「……ただのふざけた奴って訳じゃないみたいね」

 「いやいや存分にふざけた奴だとも。少なくとも軽く叩きのめした後もふもふにする気は満々だし? やっぱり麦野 沈利ちゃんには黒雹だよね~。滝壺ちゃんはバニー一択で絹旗ちゃんは白熊かなぁ」

 「………加えて変態か。人物像が全く理解できないわね。それ以前に私達の情報が漏れている事の方が問題か」

 「私ほど分かりやすい人間もいないと思うんだけどなぁ。ま、いいか。フレンダちゃんは施設の外に転がってるよ。で、こうして話しているのは先に話すことは話しておこうと思ってね」

 

 これからするのは紛れも無く一方通行並の蹂躙だ。だからまあ、アレイスターに対する説明も込みで、先に謝っておくべきだろうなぁ、と思ったのだ。

 謝るくらいならするなという話だが、まあ、私の安寧のためにもそれはできない相談だ。

 

 「話? 惨めに命乞いでもするのかしら?」

 「ははは。面白い冗談だ。そんな事をするくらいなら、とっくにここから逃げてるよ。話っていうのはそんなに難しいものじゃないよ。もしかしたら知っている人間はいるかもしれないけどさ、今までずっと隠してきた分、ここらで物理最強としての力を見せようと思ってね。だから、フルボッコにしてごめんね? って話なのよね」

 「フルボッコ。フルボッコね。…………面白い冗談だな、このメスガキが」

 「面白い冗談とはまるで思ってない顔だねぇ。ま、いいか。分かりやすく説明するけど、私の名前は御坂 美琴。第三位で極雷球なんて呼ばれてるけどさ、違うんだよ。私の真価は君が想像するみたいな電気操作の上位互換じゃない」

 

 そう。原作の美琴のような、電気関係を操るような能力じゃない。開発当初は思い込みで原作通りだなんて思っていたけれど、力を鍛え、努力していく内にそうじゃないことに気が付いた。

 

 「君を含めた発電能力者(エレクトロマスター)とは別なんだよね。」

  

 困った事に、簡単に偽装できてしまうほど、とても似通ってはいるのだけれど。

 

 「ちゃんと覚えておいてね、オ・バ・サ・ン。私の電子操作(エレクトロン・コントロール)というんだよ。分かりやすい能力名でしょ?」

 

 まあ、どうせ厨二心溢れる研究者に珍妙な名前を付けられるんだろうけどね。などと嘯いて、麦野の肩を叩く。

 慌てて振り向く麦野に、私は“部屋の奥から”手を上げて声をかける。

 

 「やっほー、オバサン。そんなに近付かれたのに気付けなかったのが驚きだったのかな? まあ、私は一応これでも電気系では最高峰な訳でさ、ちょっと頑張れば精神感応系の真似事もできる、というだけの話なんだよ。理解できるかな、オバサン?」

 「あんたが死にたいって事はよーく理解したわよ」

 

 言葉と同時に、私を極太の光線が貫く。

 いやいや、障害全無視で直進とか恐ろしい攻撃だけれども、当たらなければ意味が無いね。周りが融けているのに傷一つついていない私に驚愕する麦野へ向けて、私は大げさな動作で肩を竦めて首を振る。

 

 「ふぅ、やれやれ。オバサンの頭じゃやっぱり理解できないみたいだね。私の能力名はちゃんと教えたのに、この程度の事も理解できないのかしら。歳を取るってほんと怖いわぁ」

 「……視覚を乗っ取ったのか」

 「ブッブー。同じようなネタを何回もやる訳無いじゃん。蜃気楼の応用よ。さすがに周辺の温度が急激に変化すると計算めんどいけど、温度差で光を屈折させて像を結んでるだけだって。これだから頭の固いオバサンは。あ、ちなみに本物の私はこっちね?」

 

 アホみたいに見当違いの方向へぶちかます麦野にニヤニヤと笑って手を振る。

 同時に光線が襲ってきたが、クイっと干渉して捻じ曲げて上げる。

 これは原作で美琴がやっていた事をもう少し踏み込んでやった物で、きちんと効率化しているから燃費もいいし、計算も楽だ。あと百発来ても曲げられる。

 それじゃ面白くないからしないけど。

 

 「電磁波で捻じ曲げたのね。そんな小細工がいつまで続くかしら」

 「HAHAHA。ずいぶん愉快な勘違いね。どれだけあなたが頑張ろうとも、ここでレベル六に到達しようとも私には勝てないからこそ姿を見せてるんじゃない。ただ終わらせるんなら、最初の精神干渉で潰してるわよ。そんな事も分からないからいつまで経っても四番目なのよ、オ・バ・サ・ン?」

 

 再度の挑発に簡単にキレた麦野がメルトダウンを撃とうとするが、そもそも原子崩壊させられなければ撃てないのだから、そこに干渉されることは考えないのだろうかと不思議に思う。

 ちょちょいと干渉すれば、簡単に止められる程度の事なのに。

 

 「な、なんで力が使えないの!?」

 「いや、私が干渉したからに決まってるじゃない。AIMジャマーの仕組みは能力者の思考に電磁波やら音波やらで干渉する事で計算を邪魔する訳だけど、それを再現しなくても、同じ電気系の能力者なんて、ちょっとこっちから干渉すればいいだけなんだから簡単な事じゃない」

 「ふざけるな! そんな事ができてたまるか!」

 「現にできてるんだけどねぇ。ま、いいか。理解されなくとも問題ないし。という訳で、そろそろ終わらせよっか」

 

 真面目な戦闘にもちょっと飽きてきた。アレイスターに対するアピールは十分したし、年増女のヒステリーほど醜い物は無い。

 最後に脅し込みでちょろっと派手な事をしてずらかりますか。

 

 「んじゃねぇ、オバサン。もうちょっと柔軟に考えて生きなさいよ?」

 

 世の中やっぱりストレスフリーに生きないとね~。なんて考えつつ、私は巨大なプラズマで壁をぶち抜いて研究所を脱出した。

 さすがに、寒いのはごめんだしね。



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