ソード・オブ・ジ・アスタリスク (有栖川アリシア)
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VRMMO

「…ん」

VRMMO"SAO"の心地よいそよかぜと共に、浅黒い肌に銀髪の少年は目を覚ました。陽だまりのような温かさとこの心地よい風は"現実"の世界にはない感覚だった。

ゆっくりと体を起こす少年。視線の先にあるのは、巨大な滝が見える。滝がつくる水しぶきによる心地よい風とあたたかな陽の光は絶好の休憩兼寝床スポットだった。

 

「(今、何時だ…って見るまでもないか)」

この世界は現実の世界とリンクしており、現実の空模様とかがそのまま反映される。そして、視線の先の太陽は真っ赤に燃えて沈んでいる最中だった。

 

「(夕方か…そろそろポイントに戻ってログアウトするか)」

そういうと、緋色のコートを羽織り歩き出す。そして、帰り際、薄暗い石廊というダンジョンを抜けるために洞窟に入る。洞窟内はひんやりしていた。

 

 

「――…」

気配を察知して後ろに飛びのくと、そこに鈍い曲刀が飛んできた。

「グルァァァアア!!」

現れたのは、リザードマンと呼ばれる人型オオトカゲの群れだった。その手には丸形の盾と曲刀だ。

「(リザードマン、6体ね…ざっくりと終わらせますか)」

その六体に対して正中で構える。同時に、その六体が一気に襲い掛かってくる。

最初に突っ込んできたリザードマン一体をクロスカウンターの要領でその腹部にけりを淹れ、後ろに二体目とぶつからせるように吹き飛ばす。その風で壁のたいまつが揺れる。そんな中、三体目と四体目のリザードマンが曲刀を振るってくるが

 

「(遅い!!)」

パチンッ!!

指を鳴らすと同時に現れたのは黒い剣(エリュシデータ)このゲーム(SAO)の中で手になじむお気に入りの武器だ。

その黒い剣で一閃し、その曲刀を弾き飛ばし

 

「――スネークバイト!!」

剣を左から右へ、右から左へ素早く水平に連続で振るう。 そのスピードゆえに左右から同時に払ってるかのように見える。案の定、その攻撃で二体のリザードがポリゴンの塊となって消える。直後、残りの4体の内の二体が互いにクロスするように飛んでくるが、それを剣を青白い残光と共に4連続で振るう技ではじき返す。そして、後ろに吹き飛んだ四体に向けて炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出すコンビネーションを繰り出し

 

『グラァアアアッ!!』

断末魔のような悲鳴と共に、その場で霧散した。

 

「…帰るとするか」

誰に聞かれているわけでもないが、詰めていた息を大きく吐き出し、歩き始めた。

 

そして、歩いて数分後――

「戻ってきたな…」

ダンジョンのようなところを突破し、セーブポイントに近い小高い丘に来ていた。

ヒュールルル・・・

洞窟を出た少年を風が撫でる。視線を四方に向けるがあるのは、四方にひたすら広がる草原。そして、その草原は、ほのかに赤みを帯び始めた陽光の下で美しく輝いていた。遥か北の方角には森のシルエットが見える。南の方向には湖面が見え、東の方向には街の城壁がある。

 

「(戻るか…)」

視線の先の街を一瞥し街に向けて足を進め歩いていくと

 

 

 

 

「そこのプレイヤーさん、ちょっといいかな?」

「ん?」

現れたのは、真紅のフード付きローブをまとった人間だ。見れば顔を隠すエフェクトなのか、顔が見えない。しかも、長い裾はより不気味さを際立たせている。

「あんた、何者だ?」

そういうのも無理はない。この真紅のフード付きローブを纏えるのは、GMだけなのだ。

「君が知っている人物でいいと思うさ――」

その瞬間だった。そのローブから飛んできた金色の鋭利な何かによってこのアバターのクリティカルポイントである心臓を抉られる。

 

「――ッ!?」

ヒットポイントのメーターが消える直前の紅いラインまで行く。擬似的な痛感であるが、それでもここまで持っていかれたダメージの痛さは半端なものではなく、地面に横たわる。

 

「(ッ――ポーション)」

コンソールウィンドを開こうとするが、意識が朦朧として開かない。再び目の前にあのローブの人物が視界に映る。

 

「テメェ…本当にGMの人間か?」

「そうだな、この世界の神とでも言っておこうか?」

低く響くその言葉と共に、遠くで雷が鳴る音が聞こえる。たぶんこれはリアルでの事象だ。それだけに不安感が募る。

「この…世界の…"神"…だと、笑わせるんじゃねぇ」

「笑わせるか…面白い言葉を言うものを言う、確かにこの僕を今の君以外は観測できていないからね――棗斑鳩君」本名を知っているということに底知れぬ不安が襲い掛かる。

「テメェ…」

その直後、耳を劈く轟音と共に何かが流れるようなショックと共に、自分の意識はそこで途切れた。

 

 

翌日のとある新聞にはこうかかれていた。落雷による発火が原因による住居火災、住人死亡と。

だが、不思議と死亡した当人の遺体は出て来なかった。

 



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アスタリスクと最弱の称号

「………い…、………い…」

遠くで誰かが呼ぶ声がする。

 

「…おい……おい!!」

誰かに呼ばれて意識が目覚めた。身体は相変らず馴染んでいないかのように動きが鈍いため、動きにくいがゆっくりと視界を空けると、そこには好青年の姿があった。深く、黒い、夜空のような瞳が印象的だ。

 

「おい?、大丈夫か」

身体を起き上がらせると、風を身体が撫でる心地よいこの肌の感覚は、どう考えても現実(リアル)の感覚だ。とはいえ面倒な事に巻き込まれると面倒な事になるので

 

「あぁ、大丈夫だ…すまん、ここはどこだ?」

「ここは?って、星導舘学園さ」

起きて周囲を見渡すと近代的で開放的な高層建築が視線の先に見える。

 

「(星導舘学園だと?)」

起こしてくれた彼の胸元には、校章は不撓の象徴たる赤い蓮の花である赤蓮がある。

見れば自分の胸元にも同じような校章がある。その青年はなぜか焦っている。

 

「あんた、大丈夫なのか?」

「大丈夫か、って?どういうことだ?俺はこの通りぴんぴんしているが?」

「本当か?あんた、空から降ってきたんだぞ?」

「空から?」

その青年は空を指す。

 

「…マジかよ、なんかの勘違いじゃないのか?」

「勘違いって言われてもな…」

頭をポリポリと掻く青年。

とりあえず立ち上がってみるが、特にこれといった痛みなどはない。少年はとりあえずこのままだと誤解を生みかねないと思い、自己紹介をする。

 

「俺の名前は棗 斑鳩、あんたは?」

「俺は天霧 綾斗、斑鳩でいいか?」

「あぁ問題ない、綾斗でいいか?」

「あぁ、問題ない」

お互い握手を交わし立ち上がる。そんな中、この学園のと思わしき手帳が落ちた。

「手帳か…」

拾ってみると自分の名前と二つ名の所に、こう書かれていた"ザ・ワースト・ワン"と

 

「(学園最弱(ザ・ワースト・ワン)か…)」

手帳ををポケットにしまい歩き出す。綾斗と肩を並べて歩き出す。

 

それから数分後、空中をふわりと何かが舞ってきた。

「…風にでも飛ばされたのかね?」

「そうじゃないのか?」

隣にいた綾斗は舞い降りてきたそれを反射的につかんでいた。

 

「ま、唯のハンカチか」

可愛らしくも不器用な花柄の刺繍から見るに、どうやらハンドメイドのようだ。しかもほつれ具合や繕い直したような跡からみてどうやらとても大切にされているようなものみたいだ。

 

「どう考えても捨てられたものじゃなさそうだな」

周囲を見渡す綾斗と斑鳩。綾斗は、それを丁寧に折りたたみポケットにしまい込み歩き出そうとしたが

 

「――えぇい、よりにもよって、どうしてこんな時に…!」

耳を澄ませると鈴のように透き通る声。声の場所を見ると、遊歩道のようなところから一歩奥まった場所に立つ、清楚でクラシックな造りの建物が見えた。どうやらその建物の一室からのようだ。

 

「とにかく、遠くまで飛ばされないうちに追いかけねば……!」

どうやら、"ビンゴ"みたいだ。

 

「綾斗、あそこみたいだぞ」

「四階か、まぁ、足場もあるし問題ないかな?」

「行くのか?」

「あぁ、少し届けてくるよ」

「わかった、待ってるぜ」

そういうと二メートルの鉄柵があったが、それを助走もなしに軽々と飛び乗り、そこから手近な木の枝へと手を掛け、ひょいひょいと登っていき、その部屋の窓際に飛びうつり、猫のように身を丸め、ほとんど音を立てずに着地する。

 

「ふーん、あんなことが出来るのか?」

そう思いながらいると

 

「ご、ごめん!いや、あの、俺は別にそんなつもりじゃ全然なくて!」

「(あっ、地雷踏んだか?)」

そう思いながらいると

 

「いいから、さっさと後ろを向け!!」

有無を言わさせないその口調。

 

「(まぁ、これはありがちな展開か)」

状況が手に取るように予想できる斑鳩。そんな中、微かな熱風が斑鳩の肌を撫でる。

 

「(――一応、用意しておくか…)」

何のためらいもなく指を鳴らすと、その場に黒い剣が現れる。

 

「…おう、マジか」

出てきたのはエリュシデータ。その直後、

 

「――咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!!」

直後轟音が鳴り響いた。



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華焔の魔女

「――咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!!」

轟音が鳴り響くと共に綾斗が窓から飛び降り、空中で体勢を整え着地してくる綾斗。

視線の先には、巨大な焔の花がそのつぼみを開いていた。

 

「(おいおい…)」

斑鳩の肌を熱を帯びた突風が走り抜けていく。それこそ、爆弾が炸裂したようにとんでもない威力だ。斑鳩の横であっけに取られている綾斗。

 

「おいおい、覗いたのか?」

「あれは不可抗力だよ」

必死の弁解をする綾斗だ。視線の先からは、四階分の高さを優雅に降りてくる薔薇色の髪の少女。その姿は、気品と優雅さに満ちている。まるで、どこぞのお姫様のようだ。

 

 

 

「ほう、今のをかわすとは中々やるではないか」

彼女は声に怒気をにじませたまま、少しだけ感心したように言う。

 

「いいだろう、だったら本気で相手をしてやる」

隣の綾斗はもっぱら平和的解決を望んでいそうだが

 

「(状況的に着替えを覗いたってところか…ま、コイツには借りがあるし、ここで返しておくか)」

感覚的に彼女の力が高まる事を感じる斑鳩。そんな中

 

「わわっ、ちょっと待った!」

「なんだ?大人しくしていればウェルダンぐらいの焼き加減で勘弁してやるぞ?」

「(思いっきり、しっかり火を通す気満々だな!?)」

心中でツッコミを淹れる斑鳩

 

「…それは中までしっかり火を通す気満々ってことだよね?」

「(って一緒かよ!?)」

どうやら考えていることは一緒のようだ。

 

「じゃなくて、とりあえず命を狙われる理由を聞きたいんだけど…」

「乙女の着替えを覗き見たのだから、命をもって償うのは当然だろう」

「(ここまでビンゴとはな…こいつの将来が恐ろしいことになりそうだ)」

「だったら、さっきお礼を言ってくれたのは?」

「もちろんあのハンカチを届けてくれたことには感謝している、だが……それとこれとは別の話だ」

「……そこは融通を利かせてくれてもいいんじゃないかな?」

「あいにく、私は融通という言葉大嫌いでな」

微笑ながらばっさりと切り捨てるあたり、取りつく島はなさそうだ。つまり、交渉決裂絶対不可避だ。

 

「そもそも、届けるだけなら、窓から入ってくる必要はないだろう?ましてや女子寮に

侵入してくるような変質者は、それだけで、袋叩きにされてもおかしくないのだぞ」

「(それはごもっともな意見だなー)」

そう思いならが斑鳩は綾斗の方を見ると。

「……え?女子寮?」

その瞬間、"こいつやっちまったという顔"をしながら額に手を当てる斑鳩。

 

「まさか…知らなかったのか?」

知っててやっていれば確信犯。もしかしたらなんとかなると思うが

 

「知らないもなにも、俺は今日からこの学園に転入する予定の新参者で、しかもここにはちょっと前に着いたばかりなんだ、誓って嘘じゃない」

「(…マジかよ)」

となると自分はどうやらこの転入生に助けられたらしい。少女は綾斗をしばらくいぶかしそうな目で見つめて大きな息を吐く。

 

「わかった、それは信じてやろう」

そういって綾斗は胸を撫で下ろそうとするが、その気迫の変化を感じてない斑鳩は身構える。

 

「だが、やはりそれとこれとは話が別だな」

その瞬間、彼女の周囲に小型の火球が九つ現れる。

「咲き誇れ――九輪の舞焔花(プリムローズ)!!」

「ッ!」

綾斗が動くよりも早く反射的に斑鳩が動きだし綾斗を突き飛ばす。そして、斑鳩のタイミングに合わせるかのように、エリュシデータが深紅色に光り出す。

 

「(こっちも使えるってわけか…上等!!)」

斑鳩はスネークバイトで初球二発を消し、そこからデッドリー・シンズを繰り出し、ものの見事に彼女の攻撃を文字通り"叩き斬った"。

 

「…なっ!?」

そういうと、彼女と綾斗の前に出て剣を構える。

 

「悪いな、おねえさん――こいつには借りがあるんで、ここは俺とで納得してくれないか?」

自然体でありながらもエリュシデータを構えながら言う斑鳩。

 

「…なるほど、ただの変質者というわけでもないようだ…並々ならぬ変質者だな」

「相互理解って難しいなぁ…」

「(その点は同意するよ)」

とぼやく綾斗。

 

「ふん、冗談だ――」

すると少女は綾斗を半眼に睨みながら髪をかきあげた。

 

「おまえが善意でハンカチを届けてくれたのは事実のようだし、私の、その…着替えを覗いたのも、ま、まあ、一応わざとではなかったと信じてやってもいい、あ、あくまで、一応だぞ」

斑鳩を無視して話が進んでいく。

 

「本当に?」

「とはいえ、ここがどんな建物なのかを確認しなかったのはお前のミスだ。それにいきなり窓からはいってくるなど非常識極まりない」

「(ま、わざとじゃなかったらなんでも許されるわけでもないからな…特にこういうものはシビアだからな…)」

そう思いながら、点を仰ぐ斑鳩。相変らず、こちらの空も蒼かった。

 



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決闘

「とはいえ、ここがどんな建物なのかを確認しなかったのはお前のミスだ。それにいきなり窓からはいってくるなど非常識極まりない」

 

「(ま、わざとじゃなかったらなんでも許されるわけでもないからな…特にこういうものはシビアだからな…)」

 

「それは、ごもっとも」

「お前にはお前の言い分があって、私は私でこのままでは怒りが収まらない、となれば、ここはこの都市のルールに従おうか、幸いお前も、そして、お前もそれなりに腕が経つようだし、文句はないだろう?」

どうやら解決策があるらしい。そして、彼女はこちらをまっすぐ見つめる。

 

「おまえ、名前は?」

「…天霧綾斗」

「棗斑鳩だ」

「そうか、私はユリス、星導舘学園序列五位 ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ」

そう名乗った少女は、そのまま制服の胸に飾られた校章を右手にかざす。

 

「不撓の証したる赤蓮の名の下に、我ユリス、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは汝ら天霧綾斗と棗斑鳩への決闘を申請する!」

「決闘!?」

驚く綾斗だが、冷静な斑鳩。そして、決闘の申請に対して、胸の校章が赤く発光する。

 

「おまえらが勝てば、その言い分を通して大人しく引きさがってやろう、だが私が勝ったならその時はおまえらを好きにさせてもらう」

そうなるのが当然というように、彼女がにやりと笑うが斑鳩は静かに構える。

 

「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなに――」

「綾斗、どうやら聞く耳は立ててもらえなさそうだ…」

冷静にいう斑鳩。斑鳩の視線の先には彼女だ。

 

「早く承認しろ、いい加減、人も集まってきている」

承認したいのはやまやまであるがここで問題がある"やり方を知らない"のだ。

周囲を見渡すといつの間にか人だかりができている。

 

「ねーねー、なにごとなにごと?」

華焔の魔女(グリューエンローゼ)が決闘だってよ!」

「マジで!?冒頭の十二人(ページワン)じゃねーか!そいつぁ見逃せねーな!」

「んで、相手はどこのどなた様よ?」

「知らなーい、なんか見たことない顔ねぇ、ネットは?」

「今見てるけど載ってないなー」

どうやらかなり盛り上がりそうだ。

 

「なぁ、あいつまさか"学園最弱(ザ・ワースト・ワン)"じゃねぇか?」

そんな声が斑鳩の耳に入ってくる。その声を聞いて、彼女は表情を一瞬だけ変える。

 

 

 

「なんで、こんなに注目されているんだ?」

「(確かに、それは知りたいな…)」

そう思って彼女を一瞥すると

 

「理由は二つ、一つ目は有力生徒、つまり私のデータ収集だな、これでも私はこの学園の《冒頭の十二人》だし、隙あらば蹴落とそうと狙っている連中は少なくない」

「そういうことね…大体理解で来たわ」

一瞬で理解する斑鳩

 

「理解が早くて助かる、そして二つ目の理由は単純明快、ここの連中はみんな野次馬精神旺盛な馬鹿ばかりだからだ」

「(なるほどね…)」

「あの決闘って言われても、俺、武器持ってないし」

「なら、借りればいいだろう、おい、誰かコイツに武器を貸してもらえないか、剣がいい」

そう彼女がいうと、ギャラリーから綾斗に向かって短い棒状の機械が飛んでくる。

 

「そいつの使い方もわからないとは言わせんぞ」

不敵に微笑むユリス。

 

「はぁ…」

綾斗は大きく息を吐き、手にした武器を起動させる。そして現れたのは、一メートル程度のノーマルな武器だった。そして、彼女はレイピアを出現させる。

 

「さて、準備はいか?」

彼女が優雅に構え、二人を見据える。

 

「――我、天霧綾斗は汝ユリスの申請を受諾する」

「――我、棗斑鳩は汝ユリスの申請を受諾する」

綾斗のを見様見真似で交渉に手をかざし、呟く。すると校章が赤く煌めいた。

そして、5カウントで始まることになった。

 

 

「…」

カウントダウンが始まると同時に、周囲の歓声は斑鳩の中で小さくなっていく。同時に、全身の血流が早まっていき、戦闘を求める衝動に掛けた手綱をいっぱいに引き絞る。そして、僅かな躊躇を払い落とし、剣を身構える。そして、彼女もピタリと構える。そして、カウントの零と共に地面を蹴りだした。

 

「――ッ!!」

沈みこんだ体勢から一気に飛び出し、地面ギリギリを滑空するように突き進んでいく。

 

「咲き誇れ――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!!」

青白い炎の槍を展開させて、それを飛ばして攻撃をしてくるが

 

「遅い!!ヴォーパルストライク!!」

斑鳩はジェットエンジンのような轟音と共に 赤い光芒と共に剣による強力な払いを繰り出し、それを打ち払った。そして、それが横にそれ爆発が巻き起こる

 



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ユリスvs斑鳩&綾斗

『なッ!?』

観客たちは信じられないといった表情で驚いていた。

「うっ……そぉ……」

「な、なによ…それ…」

「おいおい、今斬ったぞ」

「偶然じゃないのか?」

「マジかよ……」

野次馬達から驚きの声が聞こえる。無理もないこんなバカげたことを出来る輩などそうそういないからだ。

 

野次馬にかかわらずユリスは綾斗に攻撃を変えるがそれを飄々と避ける綾斗。

「ええっと、ユリス……さん?そろそろ許してもらえないかな?」

「ユリスでいい、で、それは降伏の意思表示と受け取っていいのか?」

「そりゃもう、いや、そもそも俺としては最初から戦いたくなかったんだけど」

「ま、それならそれで構わないが、その場合お前は変質者として、私に中までじっくり焼かれるか、自警団に付き出す――」

 

ギンッ!!

 

斑鳩の剣と彼女のレイピアがぶつかり合う。

「――よそ見をするな」

「話し合い中は攻撃を引けて欲しいのだが…」

「知らんな」

そういいながら斑鳩は彼女に襲い掛かる。

 

「…もう少し頑張ってみようかな」

とはいえ、相手もこれで下がる気はなさそうだ。その証拠に、彼女は力を集中させ始める。

 

「咲き誇れ――六弁の爆焔花(アマリリス)!!」

ユリスの目の前に巨大な火球が出現する。どうやら先ほどの寄り二回り大きい技みたいだ。

 

「やっべぇ!!大技だ」

「ちょ、冗談じゃねぇぜ!!」

「退避退避!!」

目の前の彼女は野次馬に見向きもせず、最適な軌道を瞬時に計算して火球を放ってくる。そして綾斗と斑鳩は身構える。そして二人に交わされる直前で彼女は拳を握りしめ

 

「爆ぜろ!!」

「天霧辰明流剣術初伝――"貳蛟龍"」

「蒼風斬!」

剣閃らしきものが煌めいたかと思うと、焔の花弁が十文字と斜めに切り裂かれる。

 

「なっ――まさか、流星闘技(メテオアーツ)!?」

そんな中、一気に綾斗が彼女にとびかかり、斑鳩は察知し二人とそれの間に入り込む。すると、斑鳩のやることに武器が反応し、剣に深紅色の力をまとわせて7連撃を繰り出す。

 

「伏せて!!」

その意味をユリスが理解する前に、身体ごと押し倒す綾斗。そして次の瞬間、閃光と轟音が鳴り響いた。

 

「――ったく、対物ライフルの弾丸より遅いな―――にしても無粋な真似を」

平然とそんなことを宣う斑鳩。そして、斑鳩はためらいもなくその飛んできた方めがけて絶対零度の冷気を極太のレーザーのように発射した。

蒼空を真っ白な光線により線が引かれた。

 

「お、おまえ、何を……!?」

ユリスに当たるものだけを直接弾いた斑鳩。ユリスの視線の先には光り輝く矢が地面に突き刺さっていた。

 

「――どういうつもりだ?」

明らかに彼女を狙った攻撃だ。

 

「どうのこうもあるか、あの爆発を狙っての不意打ちとしか言えないだろう、気づいたのは、俺と綾斗位いってところか」

「そうではない、なんでわざわざ私を――」

と斑鳩が視線を向けると其処には彼女を抱きしめるようにしてのしかかっている綾斗が彼女のその胸を鷲掴みしていた。

「(おいおい、なんだよ、この展開はどこぞのラノベか?)」

もはや呆れて何も言えなくなる斑鳩。そして、彼女の顔が赤く染まる。

「ご、ごめん!いや、あの、俺は別にそんなつもりじゃ全然なくて!!」

あたふたと飛びのいて頭を下げる。そして、それを囃したてる野次馬。

 

「お、お、おまえ…」

「(あーあ、こりゃ怒らすわけだ…)」

彼女の怒気に反応してか、周囲に焔が噴き出す。どうやら制御できなくなっているみたいだ。

 

「第三ラウンド、行ってみましょうかね?」

そういって再び構える斑鳩。そんな中

 

「はいはい、そこまでにしてくださいね」

落ち着いた声と共に、手を打つ乾いた音が鳴り響いた。

 

 

 

 



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クローディア・エンフィールド

「確かに、我が星導舘学園は、その学生に自由な決闘の権利を認めていますが、残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」

そういいながらギャラリーから現れたのは、金色の髪を靡かせた一人の落ち着いた雰囲気の少女だった。

 

「……クローディア、一体なんの権利があって邪魔をする?」

「それはもちろん星導舘学園生徒会長としての権利ですよ、ユリス」

そういうと、彼女は校章を手にかざし

「赤蓮の総代たる権限をもって、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトと天霧綾斗、棗斑鳩の決闘を破棄します」

そういうと、二人の校章の紅い輝きが失われる。

 

「ふふっ、これで大丈夫ですよ、お二人とも」

「はぁー……」

今度こそなんとかなり、綾斗は額の汗をぬぐい、大きく息を吐く。

 

「ありがとうございます、生徒会長」

「はい、星導舘学園生徒会長、クローディア・エンフィールドと申します、よろしくお願いします」

綾斗はそっと差し出された手を慌てて取った。その一方で今の裁定を不満そうな顔をしている彼女。

 

「いくら生徒会長といえども、正当な理由なくして決闘に介入することはできなかったはずだが?」

「理由ならありますとも、彼が転入生なのはご存じですね?すでにデータは登録されているので、校章が認証してしまったようですが、彼には最後の転入手続きが残っています、つまり厳密には、まだ天霧綾斗くんは星導舘学園の生徒ではありません」

笑顔のまま説明する生徒会長のクローディア。

 

「決闘はお互いが学生同士の場合のみ認められています、だとしたら、当然この決闘は成立しません、違いますか?」

「くっ……!」

悔しそうに唇を噛むユリス。どうやら聞き分けはいいらしい。

 

「はい、そういうわけですから、みなさんもどうぞ解散してください、あまり長居されると、授業に遅刻してしまいますよ」

クローディアの言葉で集まっていたギャラリーたちも散っていく。そんな中、綾斗が声を掛けようとするが

「捨て置け、どうせもうとっくに逃げている」

「とはいえ、流石にやりすぎだろうな――これに関して生徒会長はどう見ます?」

斑鳩は彼女に視線を向けると

「えぇ、今回のは流石にやりすぎです、決闘中に第三者が不意打ちで攻撃を仕掛けるなど言語道断、風紀委員に調査を命じましょう、犯人は見つかり次第、厳重に処分いたします」

「(まぁ、すぐに捕まるだろうがな)」

手応えを感じていた斑鳩はそう確信する。そんな中

 

「ところで……先ほどは、その…あ、ありが、とう」

ばつの悪そうな顔で綾斗に向き直る彼女。

 

「ああ、うん、それはいいんだけど……もう怒ってない?」

「それは―――まぁ、怒っていない、こともないが、助けてくれたのは確かだからな、私とてあれが不可抗力だったことぐらいわかる、だから、今度のことは貸しにしてくれていい」

「貸し?」

「あぁ、わかりやすいだろう?」

「ま、わかりやすいな」

彼女の言葉に同感する斑鳩。それから、彼女に何か小言を告げるクローディア。とりあえず会長に言われた通り、その場を離れようとしたが

 

「…待ってください、棗 斑鳩」

「どっちかでいいですよ、用ですか?」

斑鳩は目の前の生徒会長に止められた。

「えぇ、少しいいですわよね?」

そういうと、綾斗はさも当然のように歩き出すが、斑鳩は任意とは名ばかりの"連行"されることになった。

それから、クローディア会長に指示され、綾斗が終わるまで別室待機となった。そんな中だった。

 

「少し、いいか?」

やって来たのは薔薇髪の美少女、先ほどこちらに刃を向けたユリスだった。

 

「ユリスさん、でいいか?」

「なんども言わせるな、ユリスでいい」

「そうか、それでユリス、なんの用だ?」

「まぁ、少し聞きたいことがあってな――」

そういうと、近くの自動販売機で買ったと思われるペットボトルを渡してくる。

 

「ありがとう」

「あぁ、早速本題に入ろう――お前、何者だ?」

「何者だ…ってな、俺は棗 斑鳩。それ以上のそれ以下でもないが」

「貴様、本当の"棗 斑鳩"か?」

「……どうしてそう思う?」

「そう思うも何も、昔お前と手合わせしたことがあるが、あの時お前と手合わせしたときの得体のしれない違和感があってな…」

「…違和感だと?」

「あぁ、まるでお前がお前でないかのようにな…」

「随分と、俺のことを知っている口調じゃないか…」

「知っているも何も、同じクラスだということをしらないのか?」

「(……嘘だろ)」

 

衝撃の事実で言葉が出ない斑鳩。

ハッタリだとしても、かなり無理があるともいえないものだ。何せ、この世界での記憶は全くないのだ。

 

「それに、お前の詳細に関して誰かによって細工されたように真っ白、改めて問うがお前は一体何者なんだ・・・?」

ユリスの瞳はいつも以上に鋭い物だった。なので斑鳩はこう言い放った。

 

「ユリス、お前口は堅い方だな?」

斑鳩はそういった。

 



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学園最弱の由縁

「ユリス、お前口は堅い方だな?」

「言うなといわれれば誰にも言わない、これは約束する」

「そうか、今から話すのは紛れもない現実だ」

そういうと、一連の"ここまで"の事を話をし始めた。

 

「…にわかに信じがたいな、だが辻褄が合うな」

顎に軽く手をやりながら話を聞くユリス。その顔はどこかやるせないといった顔だ。

 

「信じてくれるのか?」

「信じるも何もな、目の前で"あの事"が起これば否応なく信じるしかないだろ、それにあの手かのレーザーは《魔術師》たる証拠他ならないからな、それに元のお前は《魔術師》じゃないからな…」

「理解してくれて助かる、それにしても《魔術師》か、そんなたいそれたものじゃないんだがな…」

腕を組みながら言う斑鳩。

 

「んじゃあ、効かせてもらおうか――なんで、俺が"学園最弱"と呼ばれているのか?」

「――ギブ&テイクというわけか、非常に分かりやすいな、いいだろう教えてやる」

「感謝する」

一礼を告げる斑鳩。

 

「まぁ、呼ばれた理由はこの学園で唯一というべきなのだろうか、戦い方は守りに徹し、ほとんどの対戦相手のスタミナ切れで引き分けに持ち込んでいたということだ」

「スタミナ切れ?」

「あぁ、この都市の仕組みは理解しているんだろ、ショーでこんな戦いならつまらないが、かといって敗北の記録もない故に、学園最弱というわけだ、いつもなら防戦一方のお前がどうしてと思ってな」

「……そういうことね」

斑鳩自身がなぜ"学園最弱"と呼ばれたのか理解していた。

「まぁその他にもいろいろあるが――」

そんな中だった。

「あら、お取込み中だったかしら?」

「…クローディア会長」

やって来たのは生徒会長であるクローディアだった。ユリスと彼女がいくつか視線をかわし

「クラスで待っている、わかんなかったら探せ」

そういうと部屋を出るユリスであった。そして、先に口を開いたのはクローディアからだった。

 

「さて、はじめましてというべきかしら、棗斑鳩君」

「…それは一連のことを"聞いていた"と受け取ってよろしいですか?」

「それで結構ですわ、我が星導舘学園が貴方に期待することはただ一つ、勝つことです」

「わかりやすくて結構、お望み通り頑張ってみせますよ」

「えぇ、期待していますよ棗斑鳩、それとあなたの処遇というわけではないですが、一応日常生活に支障がない程度の"記憶喪失"として、こちらで話しを通しておきます」

「お心遣い痛み入ります」

「いえ、これも生徒会長ですからね」

「えぇ、さて、そろそろ始業時間ですし、このくらいにしておきましょう、なにかありましたら、いつでも言ってください、できるだけお力になりますよ」

「よろしくお願いします、クローディア・エンフィールド会長」

「クローディアでいいですわ」

「わかりました、改めてよろしくお願いします、クローディア」

「えぇ」

そういうと彼女に見送られ、斑鳩は教室に向かった。

 

クラスに戻ると、斑鳩はユリスに声を軽くかけた。

「戻った」

「あぁ、よく戻って来れたな」

「まぁな、こんな近代的な建物の中で遭難しても意味ないからな」

「よく言うものだ」

「ありがとう、それで、俺の席はどこだ?」

「…そうだったな私の前だ」

「ありがとう」

そんな中だった。そういうと彼女の席の前の席に座る。すると担任と思わしき女性が入ってきた。名前は谷津崎匡子という人らしい。長身の目つきが悪いといった女性だ。

「棗、少し来い」

こっちに向けて軽く手招きをする担任。

「なんでしょう?谷津崎先生?」

「やはり、生徒会長の言った通りか」

「…?」

「理解できていないようだな、貴様記憶喪失になったんだって?」

その言葉でクローディアの言葉を思い出す。

「えぇ、そうですが」

「そうか…無理はするなよ」

「お心遣いいただきありがとうございます」

「気にするな、私は貴様の担任だからな、ほら席に戻れ」

「はい」

そういうと席に戻るのであった。

 

「あー、とゆーわけで、こいつが特待転入生の天霧だ、テキトーに仲良くしろよ」

「ほら、さっさとしろ」

「あ、はい、えーと、天霧綾斗です、よろしく」

実におざなりな紹介とそっけない自己紹介だった。「(ハハッ、コイツは面白いことになりそうだな)」

心の中では愉快極まりないと言った感じで高笑いをしている斑鳩。

 

「席は、ちょうどいい、火遊びの相手の隣で斑鳩の斜め後ろが空いているからそこにしろ」

「だ、誰が火遊びの相手ですか!」

ユリスが顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「まさか同じクラスとわね」

「……笑えない冗談だ」

「ま、よろしくな綾斗」

溜息を吐くユリスとケタケタとした笑みを浮かべる斑鳩であった。

「(この学園生活、中々面白い物になりそうだな)」



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レスターマクフェイル

夕方

「……なら、なんで新参者とアイツとなんかと決闘しやがった!」

「――ん?」

夕陽が木々の影をくっきりと浮かび上がらせる中、軽いランニングをしていた斑鳩はその怒鳴り声を聞いた。

その声は若い男の声だった。気の小さい者なら竦み上がりそうな剣幕だが、生憎慣れっこな斑鳩。見てみると、四阿でユリスに詰め寄っている三人の男子生徒がいた。一番詰め寄っているのは大柄の男性のようだ。

少し面白そうなので身を乗り出して見てみる。どうやらギャラリーは他にもいるようだ。

 

「答えろユリス!」

「答える義務はないな、レスタ―。我々は誰もが自由に決闘する権利を持っている」

「そうだ、当然だ、オレもな」

「同様に、我々は決闘を断る権利も持っている、何度言われようと、もう貴様と決闘するつもりはない」

「だからなぜだ?」

「…はっきりと言わないとわからないのか?」

そういうとユリスは大きく溜息をついて、立ち上がった。

「きりがないからだ、私は貴様を三度退けた、これ以上はいくらやっても無駄だ」

「次は俺が勝つ!たまたままぐれが続いたくらいで調子にのるなよ!オレは、オレ様の実力はあんなもんじゃねえ!!」

「そうだ、そうだ!レスタ―が本気を出せばおまえなんて相手にならないんだぞ!」

後ろに控えていた二人が野次を飛ばしてくる。そして面白そうなので、斑鳩は動き出した。

「なら、まずはそれを証明することだ――私以外の相手でな」

そういうとユリスは背を向ける。

「待て!まだ話しは終わっちゃ…!」

レスタ―がその肩をつかもうとしたが

 

「あれ、ユリスじゃないか、奇遇だね、こんなところで」

「……おまえ、なぜここに?」

「時に奇偶というものは必然と言い変えられるものだよ、ユリス」

「…おまえまで」

「なんだてめぇらは?」

タイミングと台詞のわざとらしさに二人は揃って眉をひそめ、同時にこちらをにらんだ。

「あはは…ちょっと道を間違えちゃってさ」

「ランニング中に絡まれているお前を見つけてな、面白そうだからやって来た」

「ああっ!レスタ―!こいつ、例の転入生と"学園最弱(ザ・ワースト・ワン)"だよ!」

「なんだと……?」

鋭さを増したレスタ―の視線。

 

「それでユリス、こちらは?」

「……レスター・マクフェイル、うちの序列九位だ」

腰に手を当てつつあきれ顔で答える彼女。

 

「へぇ、君も《冒頭の十二人》なのか、すごいな、俺は天霧綾斗、よろしく」

「こんな、こんな小僧と闘っておいて、俺とは闘えねえだと…!?」

そしてレスターが呻く。

 

「ふざけるな!俺はてめぇを叩き潰す!絶対に、どんな手を使ってもだ!」

こちらには映っていなさそうだ。

 

「ちょ、ちょっとレスターさん、落ち着いてください、さすがにここじゃ……」

「ま、俺もそれには賛同だな、森が燃えてこの四阿も台無しだな」

「……」

正当な意見のせいで両者黙り込む。

 

「お、俺は諦めねぇぞ、必ずテメェに俺の実力を認めさせてやる……!」

そう吐き捨てて取り巻きを連れて去って行くレスタ―だった。

 

 

 

「はぁ……やれやれだ」

ユリスは再び長椅子に腰を降ろす。

「どうやらレスターという奴は君が気に食わないらしいね」

「あぁ、そうみたいだ。その手の輩は少なくないが、こうまでしつこいのは初めてだな」

「だけど、序列九位ってことは相当強いんだよね」

「あぁ、強いか弱いかで言えばまあ強いほうだろう、だが私ほどではないし、まして斑鳩ほどでもない、そもそも序列なんてものは言うほどあてにならん、『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』入りしていなくても実力のあるやつはいくらでもいる、根性もあるしな」

そんな中、ユリスは二人を見ながらわずかに口角を上げた。

 

「せっかくだ、私から質問がある」

「ええっと、なにかな?」

「答えれる範囲なら答えるぜ」

「今朝の決闘で、お前は流星闘技を使ったな、無調整の煌式武装で一体どうやった?」

「ああ、あれは流星闘技じゃないよ」

「……なんだと?」

「そもそも俺、流星闘技は使えないんだ、どうしても煌式武装と相性が悪いっていうか苦手でさ、出来れば実体があるほうが使いやすいんだ」

 

「だったら、今朝のあれは…」

「あれは唯の剣技だよ」

「同じく綾斗と一緒だと、言いたいんだが…」

斑鳩は言葉を濁す。

 

「斑鳩、言葉を濁してどうした?」

ユリスが聞いてくる。

「そのアレだな、さっきから聞いている、流星闘技(メテオアーツ)やら煌式武装(ルークス)やらの意味がわからないんだが」「…おぉう」少し溜息をつくユリスと綾斗であった。



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幼馴染という展開

それから二人によるレクチャーが終わり

「ということさ、だから今朝のは流星闘技なんてたいそれたものじゃないよ、ただの剣術さ」

「唯の、剣技だと……?」

ユリスの瞳が見開かれる。

 

「…確かに煌式武装の刀身ならば、私の焔を斬ること自体は不可能ではない。だがあそこまで見事迄切り裂かれたのは初めてだぞ、おまえ、どんな腕をしている」

「ま、たまたまさ」

「たまたまだよ」

そういう斑鳩。そんな中綾斗が頭をかきながら聞いてきた。

「そういうユリスはなんでそんな危ないところで戦っているの?」

「なに?」

「あぁ、それは知りたいな、ユリスお前は何を望んで戦っている?」

斑鳩はさらっと踏み込んだことを問う。

 

「金だ」

「…え?」

「(単純明快だな)」

「私には金が必要なのだ、そのためにはここで闘うのが一番手っ取り早い」

どうやらのっぴきならぬ理由があるらしい。

 

「あまり時間の余裕もなくてな、区切りもいいし、今シーズンの《星武祭》を全て制覇する、それが私の目標だ」

 

「三つの《星武祭》を全部って……」

斑鳩には分からないが、どうやらかなり難しいことらしい。

 

「ああ、手始めは《鳳凰星武祭》だ、最低でもここは押さえておかねばならん」

「……」

綾とは何かを聞きたそうだが、それを辞めたみたいだ。

 

「それで、パートナーというわけか…」

呟くようにいう斑鳩。

 

「う……まあ、そうなるな」

「ちなみに、準優勝でも金はもらえるのか?」

そういったのは斑鳩だった。

「あぁ、優勝には劣るがそれなりにはもらえることになっている」

「そうか、なら、面白そうだな」

「…?」

「ま、相方探しは頑張ってくれ――綾斗、俺は先に戻るぞ」

「お、おう」

そういうと、斑鳩は鞄を持って自分の尞に戻ることになった。

 

「(あの目は…『なすべきこと』決めた眼か…)」

学生寮の屋上の一角で、ポケットに手を入れながら斑鳩は一日を振り返ると共に、そんなことを想っていた。

「(…この世界で何もすることのなけりゃ…自分のすることが見つかるまで"助けて"やるか、これも何かの縁だな)」

そう思いながら指を鳴らす斑鳩。すると、手元にはエリュシデータが現れる。そしてもう一回、指を鳴らすと、今度は紅蓮のような真っ赤な刀身の剣が現れる。その剣の刀身に刻まれた文字はスカーレッド・ファブニールと銘描かれていた。

 

 

 

 

 

 

翌日――

斑鳩は、朝食を終え教室の扉を開き、席に向かう。

「おはようユリス」

「…ああ、おはよう」

真後ろの知り合いに軽く声を掛けると、頬杖をついたままのユリスが短く返してくる。どうやら斜め後ろの友はちょうど今といったところみたいだ。見れば、昨日の空白であった綾斗の左の席が埋まっている。見れば、青みがかかった綺麗な髪の女の子が思いっきり突っ伏していた。

 

「(あさ、弱いのか?)」

現実世界の自分をほうふつとさせる行動だ。そんな中

 

「おはよう、お隣さん。えっと、俺は昨日この学園に転入してきた天霧――え?」

「(ん?)」

綾斗が声を止めた。

「さ、紗夜?」

当の女子は無表情だが、やがて小さく首をかしげてつぶやいた。

「……綾斗?」

「えええっ?な、なんで紗夜がここに!?」

心底驚いていることから知り合いみたいだ。

「(まさか、これって幼馴染展開じゃないだろうな……?)」

と思っていると、英士郎が身を乗り出してきた。

「なんだなんだ、おまえら知り合いなのかよ?」

「ああ、うん、古い友人というか…まあ、いわゆる幼馴染ってやつかな」

「(幼馴染展開かよ!?)」

余りにもできすぎた展開に、思わず目の前の机をたたき割りたくなるがその衝動は押さえる斑鳩であった。

 

 



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襲撃者

「幼馴染ぃ?」

疑わしそうに二人を見比べる英士郎。

「だったらなんでうちの生徒だって知らなかったんだ?」

「どうせというわけではないが、どっかに引っ越したからといったところか?」

「あぁ、そうだかれこれ6年ぶりくらいになると思う」

「にしても、反応が薄いように見えるが」

そういうのは英士郎だ。

「んー、そうは言っても昔からこんな感じだったからなぁ、これでもきっと驚いている……はず、きっと」

「本当か?」

「……うん、ちょおビックリ」

「いや、全然そうは見えないけどな」

どうやら驚いているみたいだ。それから、綾斗と紗夜の会話を軽く耳にしながらも、授業準備を始めた。ちなみに、英士郎に銃口を突き付ける紗夜のその動きを斑鳩は確実にとらえていた。

 

 

 

 

 

その日の放課後、放課後の割と早い時間に、斑鳩はクローディアに呼ばれ生徒会室に呼ばれていた。

「失礼します」

「どうぞ」

生徒会室に入ると、そこには腕を組んだユリスとクローディアがいた。

「どうも斑鳩」

「どうもクローディア…この面々ってことは俺に関することですか?」

この場にいる人間は棗斑鳩という人物の真実の姿を知っているのだ。とはいえ、かなり剣呑な雰囲気だ。

そんな中、クローディアは軽くユリスに視線を送ると、ユリスが一歩前にでて口を開いた。

「棗 斑鳩、今日から私のサポートに入ってもらう」

「…俺がですか?ちなみに理由をきいてもいいかな、クローディア」

「見破られていましたか」

「勿論」

そういうと、少しにやりと笑い話し出す。

「彼女はこの学園での有力候補です、それに現状ではあなたもその候補の一人です、なのであなたに彼女のサポートをしてもらい、お互い高め合ってもらいたい、そういうことです」

「それで、本音は?」

「それを言ったらダメでしょう、ま、そういうことです」

軽くあしらわれる斑鳩。どうやらあまりいい本音じゃなさそうだ。

「ということだ、よろしく頼むぞ 棗斑鳩」

「こちらこそ改めてよろしくユリス」

改めてあいさつを交わす二人であった。それからクローディアの提案で斑鳩は校舎巡りをすることになった。

 

「…マジかよ」

斑鳩は偶然というわけではないが、ユリスと紗夜と出くわした。

「奇偶というわけではないが、よ、お二人さん」

「……斑鳩」

ジト目でこちらをにらむユリス。

「それで綾斗はどうした、案内中だろう?」

「あぁ、高等部の方へ飲み物を買いにいったさ、お前は?」

「校舎を散歩中といったところさ、にしても沙々宮さんはなぜ?」

「方向音痴だから――」

そう言いかけた瞬間、一瞬の殺気を感じた斑鳩は、指を瞬時に鳴らして武器を取り出し、それを弾いた。

驚いた様子のユリスと紗夜。二人とも反応は早い。とはいえ、

「(狙いはユリスか…)――流水爆鎖!!」

そういうと、相手の足元から細い水流を無数に発生させて、足元に絡めて移動を阻害させる。 すると、待ち構えていたかのように噴水から姿を現したのは、黒ずくめの格好をした襲撃者だ。その手にはクロスボウがある。。

「(飛び道具使い、ってことは近距離の間合いに入ればこちらのもんだ!!)」

「咲き誇れ――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!!」

そういうとユリスの炎槍の攻撃と共に飛び出してく斑鳩。だが、ユリスの攻撃ははじかれる。

「新手か……!いや、それよりも私の炎を防ぐとは…」

間に合った影も襲撃者と同じく黒ずくめの格好だ。両手で構えたその巨大な斧形の武器をたて替わりにしたみたいだが

「ヴォーパルストライク!!」

ジェットエンジンのような轟音と共に 赤い光芒と共に剣による強力な突きを繰り出す。

同時に、二つの攻撃が重なったのか、大男が真横に吹き飛ぶ。斑鳩は不思議に思ってみてみると、隣にいた紗夜が巨大な銃を携えていた。

「……なんだ、それは」

「三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」

「まさか、グレネードランチャー?」

斑鳩の言葉にうなずいた紗夜は、その銃口を噴水の方へ向け

「―――バースト」

「流星闘技か!?」

襲撃者は噴水から身を起こし、逃げたそうとするが

「……どどーん」

気の抜けるような掛け声と共に、光弾が着弾し爆発した。そして、ヴォーパルストライクよりもひどい耳を劈く様な轟音と共に、噴水を木っ端みじんに破壊した。

 

「(あーあ、修理代どうすんだろうな…)」

そう思いながら、基底部分からの水を浴びる斑鳩と三人であった。

 



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乱闘騒ぎ

襲撃者を撃退し、一息つく斑鳩。

「見かけによらず過激だな、おまえは」

「……リースフェルトほどじゃない」

紗夜に言われてユリスも言い返せないみたいだ。ちなみに瓦礫の間から襲撃者は逃げたらしい。

「取り逃がしたか…悪い、ユリス」

「いいさ」

軽く言葉を交わす斑鳩とユリス。

「にしても沙々宮は、強いんだな」

「……ありがとう」

礼には及ばんよと言いたくはなったが、二人の格好を見て少し溜息をつき

「…ほらよ」

軽いため息を吐き、斑鳩はユリスと紗夜に自分の着ていた服を羽織らせる。

すると、状況を把握したユリスが襲い掛かってこようとしたが察したのか何も言わず

「………ありがとう」

そういいながら後のことは当事者に託し、その場を後にした。

 

 

 

 

翌日、綾斗の純煌式武装の適合率検査などがあり、その週の日曜日

 

"折角ですし、外でも見てきたらどうでしょう?"と生徒会長クローディアの言葉と共に、斑鳩はアスタリスクを一人で出歩いていた。そして、このアスタリスクの市街地は、主に電車で移動する外縁居住区と地下鉄で移動する中央区に分けられる。

「にしても、ユリスは綾斗とデート中というわけか…」

若干羨ましいなと思っている斑鳩。流石に一人というのはこれは悲しいものである。

「(与えられしものと、与えられぬものか…)」

影で活躍するのもまた有りかと思いながら足を商業エリアの方に進めていく。

 

「(さすが、学園都市というわけあるか)」

メインストリートの中でも特に賑わいを見せている商業エリア。綺麗に整備された石畳風の道は学生たちで溢れている。当然のように私服だが皆、わかるように校章をつけていた。同時に、車両が見当たらないことから、どうやら歩行者天国の時間のようだ。

そんな中だった。

 

「…一人か、棗 斑鳩」

気配と声音からしてレスターだった。どうやら取り巻きはいないみたいだ。

そのせいか、いつにもまして声音は落ち着いている。

「あぁ、そうだ、ハブられたんだよ」

「……そうか、悪いことを…聞いたな」

バツの悪そうな顔をするレスター。

「同情するな、今なら同情でダンジョン一つはクリアできそうだよ」

「ダンジョン?」

「おっと、悪い、忘れてくれ」

「ん?あぁ、それでお前は何しているんだ?」

「唯一人町をブラブラとな、そういうお前はまさかユリス探しか?」

「ご名答、そんなところだ――にしても、まさかあんな立ち回りをしたお前が一人とはな、新聞部に囲まれたりしなかったのか?」

「してたらここに来ないさ、それを言うならお前もな」

「――ちなみに、まじめな話をしていいか?」

「あぁ、構わないが」

「つい先日、噴水のところでユリスを襲ったか?」

「噴水、何のことだ?」

「……わかった、それだけ聞ければいい、んじゃあ、ウィンドショッピングしながら戻るわ」

そういうと、斑鳩は歩き始めた。

 

 

 

 

 

夕暮れの街並みの中、斑鳩は最寄りの地下鉄の駅の方に足を向けていた。

「(ん、なんだ?)」

見てみれば学生同士が集団でもめているみたいだ。怒号と罵声が飛び交っている。周囲には野次馬もいくつかいるが、そそくさと散っている。そんな中、ふと声が聞こえた。

「あれは、レヴォルフの連中だな、相変らずバカなことをやっているものだ」

と声音の方に視線を向けると斜め前にユリスと綾斗がいた。

 

相変らず罵声と怒声が木霊しているが、何か違和感を感じる斑鳩。

「なんだか、二つのグループが揉めているみたいだね…あっ、手が出た」

そんな中、グループの代表らしき学生が、向き合っていた学生を突き飛ばす。そして、それをきっかけに反対側の連中が武器を構え、あれよあれよと乱闘に発展する。

 

「(そういうことか―――!!)」

その真意を捉えた瞬間、斑鳩は動き出す。

 

「――何ッ!?」

突如現れた乱入者によって完全に動きを乱されるレヴォルフ陣営。そして、斑鳩は綾斗とエリスの二人の前に出る。そして、煙るほどの速度で指を鳴らし、愛用の武器を出現させ、盛大な音を立てて足元の石畳に突き立てる。

その斑鳩の気迫に呑まれるかのようにレヴォルフの面々が立ち止まる。

 

「悪いな、こっから先は通行止だ」

斑鳩は目の前の連中に対してそう言い放った。

 

「――斑鳩!?」

突如の登場に驚いているユリス。そんな中レヴォルフの連中が後ろ二人をを狙っているみたいだ。

 

「(気迫からして三下といったところか…となると、こいつらは陽動で、本命は何処かいるってところか)」

と思いながら、斑鳩は動き出した。

 



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似つかわしい来訪者

「――肩慣らしにもならねぇな」

実際、ユリスが手を下すまでもない腕前の連中だった。そして、今ではそのほとんどがぼこぼこにされ横たわっている。何人かは逃げ出した。そんな中、ユリスがこちらをにらんだ。

「言いたいことはわかるが、今はあとだ――おい、貴様」

近くにいた学生の一人を引きずり起こす。

「さて、簡単に応えてもらおう、誰の指示だ、三秒以内に目を覚まさなければその毛根まるごと貴様を燃やすぞ」

手の平に火球を携えながらドスの聞いた声でいう斑鳩。

「お、俺はなんも知らねぇ!あんたらを少し痛めつけてやれって頼まれただけだ!理由は聞いてねぇ!!」

「金か?」

「そ、そうだ」

「背格好、そしてどんな奴だ」

「黒ずくめで背の高い、大柄な男だった、だから顔は見てねぇんだ」

「指示はまさか、封筒とカネというわけじゃないだろうな?」

「そ、そうだ」

そんな中、ユリスが何か考えていると突然モヒカンの目が大きく見開かれた。

「あ、あいつ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!!」

「っ!!」

綾斗とユリスが視線を向けると同時に、その人影は路地へと逃げ込んでいく。

「待てッ!!」

ユリスが男を追って走り出す。

「ユリス!深追いはまずい!」

かなり血が上がっていたのか、綾斗の言葉を聞かずに足を止めることはない。

「――あのバカ!」

斑鳩はモヒカンを地面に叩き付け、同じく走り出す。そして、コンマの差で一気に路地に突入すると、待ち伏せしていた大男が巨大な戦斧を振り下ろす。がそれを即座に後ろに飛びのく。そこへ黒ずくめの男がもう一人襲い掛かる。その手にはアサルトライフルの煌式武装だ。大男をサマーソルトキックのようなものを繰り出し、はじき出させる。すると、今度は後方から駆けつけてきた綾斗に三人目の襲撃者がクロスボウで襲ってくる。

「――二度はその手は食わないよ!!ハウンリングオクターブ!!」

炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出し、それを打ち払うに必要なものを全て打ち払った。だが、

「っと」

身のこなしの中で、何発かかすった光弾が斑鳩が来ていた制服をかぎ裂きに切り裂いた。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「問題ないさ」

険しい顔で駆け寄ってくるユリス。それを苦笑いをしながら返すと襲撃者の姿はもうなかった。

「(逃げられたか・・・)」

さっきまで足元にいたレヴォルフの学生たちも逃げ出していた。

「(あれこれと聞かれると、クローディア会長に迷惑もかかる、ここは潔く退散するか)」

周囲を見渡し安全を確認し

「後はお前に任せるぞ、綾斗」

軽く綾斗の肩を斑鳩はその場を離れた。そして、携帯端末を取り出しクローディアに一報を入れておいた。

 

そして、合わせて明日休むとも連絡を入れておいたのであった。

 

 

 

 

 

 

再開発地区――廃ビル。

「(ま、定番と言えば定番…)」

解体工事中のここは、一部の壁や床が打ち壊されて広く感じるが実質のところ死角が多いところだった。

 

行きの途中で勝ったあんぱんと牛乳で軽く朝食を済ませる斑鳩。ちなみに手元では絶賛ICレコーダーが稼働している。

 

「(さっきからこうもペラペラ、ペラペラと自供してくれているものだ)」

半ばあきれ気味の斑鳩。それにしてもサイラスはどう見ても小物臭い。

 

「(おいおい、強く振る舞うなよ、弱く見えるぞ、あ、俺は最弱か)」

今にもケタケタと笑いだしそうな斑鳩だが、それを押さえて監視と録音に徹する。

眼下には、サイラスとユリス、そしてレスター。いわゆる監視しているのだ。それにしても、相変らず三人はこちらにいまだに気付いていない。

そんな中、学園の方から綾斗が動き出したとメッセージが来た。

 

「(はーん、四対一になるわけないだろうなー)」

そう思いながらどんなふうに立ち回るべきかを考えながらいる斑鳩

「(ま、面倒だな)」

流石にポイ捨てはアカンので買ってきた牛乳の瓶をそっと鉄骨の上に置き、

「(さて、そろそろ行きますか)」

そういうと、エリュシデータを取り出し構え、あんぱんの袋をサイラスの前に落とす。

 

 

 

 

 

 

「なに、お二人とも揃って口が聞け無くなれば、あとは適当な筋書きをこしらえますから、ご安心を、ま、そうですね、お二人が決闘の挙句、仲良く共倒れというのが一番無難な――」

サイラスは案の定で言葉を止めた。無理もない、天井からあんぱんの袋が落ちてきたのだ。

「あんぱんのふく――」

そして、斑鳩は地面に降りた。

 




誤字報告ありましたら、ぜひご一報下さい。 by作者


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Double・HERO

「自供ご苦労、サイラス・ノーマン君、これは立派な証拠ですな」

地面に降りた斑鳩は、手元のレコーダーを見せながらいう。

 

「なっ!?棗斑鳩!?どうして、ここに?」

「さぁ、それはどうしてでしょうね?」

「――くっ!!」

そういうと、黒ずくめの"お仲間"達が現れる。が、問答無用で手元から極太のレーザーのようなものを発射して攻撃し爆散させる。

 

 

 

「ったく、汚い花火だ、もうネタはバレてるんだよ、サイラス・ノーマン、それにお仲間の戦闘用疑形体もな」

「なにッ!?疑形体(パペット)だと!?」

「綾斗の話だと、その場に居なくてもこの能力の持ち主は能力を使えるみたいだからな――」

「くだらねえ!そんなものここでてめぇを張り倒して風紀委員なり警備隊なりに付き出せば済むことだ!」

斑鳩の言葉を遮るレスターの言葉。

 

「それはあなた方が無事にここから帰れたらの話でしょう?」

「いいだろう、本気で行くぜ――」

レスタ―が星辰力を高め

「くらいやがれ!!《ブラストネメア》!!」

裂ぱくの気合と共にレスターの流星闘技が放たれる。すると人形三体を吹き飛ばす。そのカウンターでレスタ―に向かって別の人形が光弾を飛ばしてくるが

 

「――パターンが一緒だな、サイラス・ノーマン」

それを再びレーザー光線で消滅させる斑鳩。

「棗斑鳩…貴方は、どこまで私の「早く出せよ、384体」なにッ!?どうしてそれを!?」

「さぁな、知ってて何が悪い?」

「いいでしょう…お望み通りにしてあげます、僕が同時に操れる最大数、384体の人形でね」

「さんびゃく…」

レスタ―の顔に絶望が広がる。同時に、ユリスの周りに木偶の人形たちが取り囲むが

 

 

 

「ごめん、遅くなった」

次の瞬間、何体かの人形が胴から綺麗に両断されていた。斑鳩が空中を見ると、そこには綾斗の姿。そして、その手には純白の大剣。見れば空中でユリスと何かを話しているみたいだ。

「(ようやくのおでましか――なら、こっちも本気と行きますか)」

そういうと、もう一つの剣を取り出し、二刀流で構える。

「お話は終わりましたか?いやはや、まったく思わぬ飛び込みゲストですね――天霧綾斗くん」

余裕を含ませたサイラスの芝居がかった声だが

「(正直聞くに堪えないな――)」

流石にイラついてくる斑鳩。そして

 

 

 

「黙れ、不意打ちしかできないのはあなただろう、サイラス・ノーマン」

綾斗らしからぬ底冷えするような声。その迫力に気おされるサイラスが一歩後ずさる。

「――でしたら、試してみますか?」

サイラスが指を鳴らすと居並ぶ人形たちが武装を構え

 

「これだけの数を一人でどうにか出来るというならやってみるがいい!!」

一斉に綾斗めがけて攻撃する。

 

「――内なる剣を以て星牢を破獄し、我が虎威を開放す!!」

その瞬間、綾斗の顔に苦悶の表情が浮かび、星辰力が爆発的に高まったことを感じ取り、光の柱が立ち上がる。そして、その瞬間綾斗の姿が消える

 

「は…?」

唖然とした声を上げるサイラス。見れば人形たちは全て倒されている

 

「……なっ!ば、馬鹿な!?ど、どこに消えた!?」

「ここだよ」

「ひっ!?な、な、な!?」

慌てて振り返り、蒼い顔をして逃げるようにして後退りするが

 

「おいおい、ここから生きて帰れると思うなよ?」

「お、おまえは一体――」

ユリスも言葉を失っていたが、我に返ると

 

「い、いやそれよりも早く私を下ろせ!足手まといになるつもりはない!」

「いや、ユリスを一人にしたらあいつは必ずキミの方を狙ってくる、悪いけど、もう少しだけ我慢してくれないかな?」

 

「だが、片手では……」

「あぁ、それなら大丈夫、これ案外軽いから、まあ、正直言っちゃうとあまり長くはもたないんだけど――この程度ならどうとでもなるよ」

戦闘中なのに中々ラブラブしている二人。

 

「ぐッ…多少は出来るようですが、あまり侮らないでいただきたいですね――次はこちらも本気でいかしてもらいますよ!」

 

今まで乱雑に並んでいた人形たちが整然と隊列を組み始める。

「これぞ我が《無慈悲な軍団(メルフェルコープス)》の精髄!3個中隊にも等しいその破壊力凌げるものなら――」

すると物凄い轟音と共に爆焔が舞い上がり、二百体近くの人形が一気に消し飛んだ。

 

「おいおい、俺を忘れていないか?サイラス・ノーマン」

サイラスの残骸の先には斑鳩がいた。

 



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チェック・メイト

もはや隠すことを辞めた斑鳩。そして、濃密な殺意を解き放つ。

すると、こちらの存在への意識を取り戻したサイラスの顔が苦悶に満ちる。

 

「パターンは読めた、どうやらチェスのようにやっていたみたいだが、ゲームメイクが下手だな」

「くそがぁあああああ!!」

全てを見通されたのか、一転して顔を真っ赤にしたサイラスが吠える。

 

「潰れろ!!潰れてしまえッ!!」

綾斗と斑鳩に雲霞の如く人形が襲ってくるが二人の剣閃が舞う度に人形たちがその数を減らしていく。

《黒炉の魔剣》とスカーレッド・ファブニールの出力が圧倒的すぎて、並の武装では剣を合わせるものが出来ないのだ。そして二人の剣戟は恐ろしいほどに早い。

そして、時間にして三分もかからずに残りの人形達が一体残らず斬り伏せられた。

 

 

 

 

「……馬鹿な…こんな馬鹿なことが……ありえない……ありえるはずがない」

茫然自失といった有様のサイラス。斑鳩と綾斗が剣を向けると悲鳴を上げてしりもちをつく

 

「ゲームオーバーだ、サイラス・ノーマン」

「……ま、まだだ!まだ僕には奥の手がある!」

そういうと、後方の瓦礫の山から巨大な人形が姿を現わす。

 

「は、ははは!さあ、僕のクイーン!やってしまえ!」

サイラスの命令に従い、攻撃してくる巨大な人形。だが

 

「五臓を裂きて四肢を断つ――天霧辰明流中伝"九牙太刀"!」

「――サラマンドバタリオン!!」

直後、綾斗の攻撃と斑鳩の攻撃でその人形が跡形もなく"消滅"した。

 

 

 

「――」

もはや声を出せないといった感じのサイラス。そして、半泣きの顔で人形の残骸の中を逃げ惑う。

 

「往生際が悪いな――」

「確かに」

人形の残骸にすがりついたサイラスの身体がふわりと浮き、一気に速度を上げ吹き抜けを上がっていく。

 

「ごめん、ユリス、ちょっと追いかけてくるから、ここで待っていてくれるかな」

「それはいいが、間に合うのか?」

「……正直、微妙なところだと思う」

既に最上階まで到達したサイラス。

 

「ふん、だったら私の出番だな」

「え……?」

「言った筈だぞ?足手まといになるつもりはないとな!」

そういうと彼女は足もとに星辰力を集中させ

 

「咲き誇れ――極楽鳥の燈翼(ストレリーティア)

次の瞬間、綾斗の背中から炎の翼が広がる。斑鳩は、光の翼を展開し一気に空に駆け上がる。そして、一気に加速し、綾斗と同時に、サイラスの前で反転し

 

「――今度こそチェックメイトだ!サイラス・ノーマン」

「や、やめ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

斑鳩と綾斗がサイラスとすれ違い様に一閃。人形の残骸が粉々に砕けて、絶叫を残して廃ビルの谷間に落ちていった。

 

「下には、クローディアたちが待ち構えているはずだし、あとはあっちにまかせようか」

「そうだな…」

ユリスは一度目を瞑り、深く息を吸った。

 

「(とはいえ、ひと段落か…にしても、絶景だな)」

視線の先には、沈みゆく夕陽が年を赤く染め上げている。街も空も湖もただただ赤かった。焔の翼をはためかせながらユリスと綾斗は静かに微笑みをかわし合う。

 

「――ぐっ!」

不意に綾斗の表情が苦痛に歪む。

 

「(フィードバックか…)」

「お、おい!しっかりしろ、綾斗!おい!」

気を失って綾斗の身体から力が抜ける。

 

「ったく――」

一気に急降下して、綾斗の身体を片手で支える斑鳩。

 

「さて、戻るぞ」

そういうと、ユリスと綾斗を抱え、斑鳩は近くの着陸場所を探した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――

 

「(――綾斗ほどはいかないが、流石に厳しかったかな……)」

疲労した身体を引きずりながらも斑鳩は教室に来ていた。クラスはいつも通りざわめくこともなく普段通りの様相を呈していた。

 

「おはよ、ユリス」

「……おはよう」

何事もなかったかのように斑鳩は挨拶しそれに挨拶し返すユリス。そして特に何もなく自分の席に座る斑鳩。

 

「ところで…その、昨日は……ありがとう」

「ん?あぁ、それはいいさ」

「このことは貸にしてくれていい」

「貸し?」

「あぁ、わかりやすいだろ」

「そうだな、そうしておいてくれ、だが、もし万が一俺が困ったら、その時は助けてくれよ」

斑鳩は彼女に背中を向けながら拳を後ろに向けて軽く突き出し言うと。

 

「あぁ」

拳が少しぶつかると同時に、ほんの少し明るい声で彼女がそういった。そして、丁度良く担任の教師がやってきた。

 



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クローディアからの依頼

第二巻突入!!


数日後の昼休み――

 

昼休みの中には、斑鳩は綾斗と共に中にはでパンをむさぼっていた。

「ふぃーいやー、ここの焼きそばパンは絶品だな」

「そうだね」

やきそばパンと牛乳といういわゆる定番なものを食べていると、高等部の校舎から見知った顔がやって来た。

 

「英士郎、どうした?」

やって来たのは夜吹英士郎だった。

 

「うちの生徒会長がお呼びだぜ」

「んじゃあ、ちょっとクローディアの所に――」

「いんや、呼び出されたのは斑鳩の方だよ」

「俺の方?」

若干のことで驚きながら確認すると

 

「そ、斑鳩の方さ、用件はなし"とにかく来い"だとさ」

「斑鳩、なんかやらかしたの?」

苦笑いしながら心配してくる綾斗。

 

「心当たりないがな、まぁ呼び出されたからにはいかねばならんだろ、ちょっといってくる」

「あぁ、いってらっしゃい」

そういうと、生徒会長のいる生徒会室に向けて足を向けた。それから数分も関わらずに生徒会室に到着した。

 

「失礼します」

「どうぞ」

ノックをして生徒会室に入る斑鳩。見れば、生徒会室にはクローディア一人だった。

 

「わざわざご足労をおかけし、申し訳ありません――棗斑鳩」

「いえ、恩義がありますからね、どうかされましたか?」

「えぇ、とはいえ、こんな堅苦しいと私も疲れますからね」

そういうと表情を崩すクローディア。

 

「…こっちも言葉を崩しますか?」

「それはお任せしますわ」

「はいはい、それで、用件は?」

斑鳩はクローディアに聞くと彼女は一枚のファイルを取り出してきた。

 

「えぇ、貴方にはこれから書類を運んでいただきたいのです」

「俺は郵便屋ではありませんが、それでもですか?」

「はい、お得意のというわけではありませんが、影星はどういんできないのでね」

「…その名前を出していいんですか?」

「いいんですよ、貴方ほどに人物なら知っておかねばなりませんから」

「・・・わかりました、ではこの書類をどこに?」

「界龍第七学院、生徒会長で序列一位の《万有天羅》范星露(ファン・シンルー)にこれを手渡しでお願いします」

斑鳩は、彼女の言葉をメモする。

 

「わかりました、すぐに出ますか?」

「えぇ、お願いしますね」

「わかりました」

ニッコリ笑う彼女を一瞥し、斑鳩は界龍第七学院に向かっていった。

 

 

 

界龍第七学院――

 

アスタリスクの南東に存在するこの界龍第七学院は、敷地の全体が回廊で繋がれた無数の建物で覆われていた。伝統的な中華風の建築様式の建物で、言ってしまえば宮殿のようなものだった。

 

「――というわけですので、通してもらえませんか?」

「いや、ちょっとさすがに他の学院の方で連絡が行っていないので、それは無理かと…」

「(にしても、困ったな…これじゃあ、クローディアの依頼がな…)」

正門で止められている斑鳩。流石に強行突破すればクローディアに迷惑がかかる可能性もあるし、なにしろ二度も来るのは御免被るレベルだ。とはいえここの門番も誠実な対応しているから不快感はない。そんな中だった。

 

「おう、到着していたか、赤蓮の総代の使い」

やって来たのは小柄な少女。長い黒髪を蝶の羽のように丸く結え、この界龍の制服が似合う女の子だ。

とはいえ、その気迫が尋常じゃない。斑鳩は、一瞬で身構える。

 

「おぉ、この状態で私の気を察したか、いやはや結構――とはいえ、こんなんじゃ話も出来んからな、ほれ、ついてまいれ」

「師父!?良いのですか、他校の者ですぞ?」

どうやら師父といことは、彼女がここのトップ、序列一位の《万有天羅》范星露(ファン・シンルー)みたいだ。

 

「私が傍にいればいいだろう、まぁいい、入れ」

「は、はい」

そういうと界龍の正門をまたいで校舎内に入る。とはいえ、こちらをじろじろと見ているこの学院の生徒たち。まるで珍しい物が来たと言わんばかりにこちらを見ている。

 

「すまんな、好奇心が旺盛な輩も多くてな――それで、例の書類は?」

そういうと、赤蓮とクローディア直筆のサインが入った書類の封筒を見せる。

 

「おぉ、彼女の物じゃな、にしても、遠路はるばるよくぞ来たな」

「いえいえ」

そう言いながら彼女の後ろを歩き、この学院の中央、黄辰殿の近くの応接室に案内された。



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巨星堕つ

「では、書類を」

「はい、こちらになります」

「確認しよう」

封を破り中を確認する彼女。そして、彼女は一息つき

 

「お前さん、この後の予定はどうなっている?」

「一応学園に帰りますが」

「そうか、では私と手合わせしてもらわないか?」

まさかの言葉に驚く斑鳩。

 

「私が、ですか?」

「そうじゃ、あまり言いたくはないが、刺激が欲しいのじゃよ、刺激が」

あどけなく笑う彼女だが、どう考えても面倒だなと考える斑鳩であった。とはいえ、むげに断ることもできないので、斑鳩は中庭に向かっていった。

 

 

「――さてと、やるかの」

そう言いながら、彼女と向き合う。すると、彼女のその気迫が膨れ上がるが

「(…生憎、おいそれと負けるわけにはいかないのだよ)」

斑鳩の視線が彼女一点を捉え込む。

「カウントは5でいいか?」

「えぇ、問題ありません」

 

 

そして、カウントダウンが始まる。周囲の声はもはや何もきこえない。同時に斑鳩の血流が早まっていく。同時に、戦闘を求める衝動に掛けた手綱をいっぱいに引き絞る。相手はこの学園の一位ということで、僅かな躊躇を払い落し、二振りの剣を抜きはらう。最初から全力であたらねば失礼になる相手だ。

そして、二人とも中央のカウントには視線を向けなかった。しかし

 

「「――ッ!!」」

地面を蹴ったのは同時だった。沈み込んだ姿勢から一気に飛び出し、地面ぎりぎりを滑空するように突き進んだ。一気に直線で攻め込んで込む斑鳩。しかし、彼女はそれをあしらうかの如く回避するが――

 

ズギュンッ!!

 

コンマの差も無く、彼女に向けて元いた場所から絶対零度の冷気を極太のレーザーのようなものが放たれる。所謂偏光射撃だ。

その攻撃は、彼女の身体を擦るが、純粋な攻撃にはなっていない。

 

「ほぉ、いいだろう…面白いじゃないか」

獰猛な笑みを浮かべる彼女。そして、空中で棒のようなものを取り出してくる。斑鳩は、彼女に向けて、再びつっこんでいく。彼女もこちらの攻撃を読んでくるが、彼女の直前でくるりと身体を捻り、左手の剣を右斜め下から叩き付ける。だが、棒に迎撃され激しい火花が散る。

 

「面白い、面白いぞ!!棗斑鳩!!」

彼女もまた、こちらに向けて光弾を飛ばしてくる。それを連続した剣閃で全て打ち払い。そこから、彼女の懐に入り込むようにして彼女に向けて右の剣からコンマ1秒遅れで左の剣が襲いかからせる《ダブルサーキュラー》を繰り出す。だが、それを彼女は安々と防ぐ。

 

「(中々当たらないな…)」

彼女がその棒を剣のように扱いながらこちらに薙いでくる。彼女の小柄な体に棒が隠れて見えない。右へのダッシュの回避を試みるが、彼女はこちらに背中を向けそこから突きを繰り出してくる。

だが、瞬時に判断した斑鳩は、彼女の棒に向けてこちらは払いとのコンビネーションを繰り出す。ジェットエンジンのような轟音と紅い光が彼女の棒を払いのける。そこに全方向からのアブソリュート・ゼロを叩き込む。

 

「――ぬぅぅぅぅんッ!!」

彼女はその攻撃を避け、そのレーザー光線を受け止める。だが、片手であった。

「(抜けたか!?)」

だが、彼女もこれで終わるわけではない。今度は、先ほどの数百倍の光弾を打ち出してくるがその中にはダミーも含まれている。斑鳩は、直感的にそれら全て読み取り、こちらに脅威のあるものだけ叩き落とす。目の前の彼女に対して、片頬は真剣に、片頬は獰猛な笑みを浮かべて一気に斬りかかる。同時に激烈な加速感が斑鳩の全神経を逆撫でし、一気にトップスピードまで到達する。

 

「(俺には、綾斗みたいな力なんてない――だが)」

"あいつには負けない"。脳裏にはそのことしかない。同時に攻撃のギアを上げていく。もはやなんでもありだ。ズドドドドッ!!目の前の彼女に向けて巨大な闇のエネルギー球を飛ばし

 

「ヴォイド・ディストーション!!」

彼女の目の前で炸裂させる。そこに再び無数の風の刃を飛ばして彼女を攻撃する。

その瞬間、彼女の表情にちらりと"何か"が走った。

 

「(なんだッ!?)」

だが、考える余裕もなく。すべての防御を捨て去り、両手の剣で攻撃を開始する。

 

「――スターバースト・ストリーム!!」

両剣が星屑のように煌き、次々と剣戟を叩き込んでいく。飛び散る白光は、空間を灼くかの如き様だ。

 

「なんじゃと!?」

彼女が棒をつってガードする。斑鳩は、上下左右から攻撃を浴びせ続ける。

そして、最後の一撃の時だった。

 

「よかろう、久しく出していない本気、見せてやろう」

「――ッ!?」

彼女が獰猛な笑みを浮かべた瞬間、斑鳩の何かがブレた。技は完璧だった。しかし、何かが取られた、その感覚に陥る斑鳩。刹那

 

ドスッ!!

 

まるで一瞬にして、その事象を書き換えたのかと錯覚する斑鳩。斑鳩が認識した瞬間、彼の腹部に彼女の棒が触れていた。斑鳩の速度も十分あり得ないが、彼女も十分あり得ないといった速度をだしていた。

 

 

「――ふむ、こんなところかのぉ」

彼女がそういうと同時に、負けを悟った斑鳩は剣を収めた。

 



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《絶天》の称号

戦闘が終わると、戦闘が始まってからかなりの時間が経っていた。

「では、ここまでにするとしようかの」

ぐるりと中庭を見渡すと、そこにはこの学園の生徒の人だかりができていた。そんな中

 

「赤蓮の総代の使い、名は?」

「棗斑鳩、です」

「そうか、儂はお主を気に入ったぞ」

「ありがとうございます」

「にしても、お主齢いくつじゃ?」

「まぁ、17そこそこです」

「ほぅ、その年でその域か…それにしてもいつぶりじゃろうな、このような興奮した戦いは」

少し遠い目をする彼女。それに何かを感じる斑鳩。

 

「わかれるのが惜しいの、とはいえ、お主も帰る巣があるのじゃろ?」

「まぁ、寮がありますから」

「そうか、少し寂しいのぉ、とはいえ、これもまた定めじゃな」

そういうと、彼女は斑鳩に向けてその小さな手を差し出し斑鳩は彼女と握手する。

 

「お主がもしここの生徒なら、私が直々に二つ名を授けていたところじゃ、とはいえ、この数年の間なかった興奮を味あわせてくれた礼に非公式であるがお主に私が二つ名を授けてやろう」

その言葉で学園と共に、周囲にいた学生たちがざわめく。

 

「いいのですか?」

「おう、このことは誇ってよいぞ、この《万有天羅》を楽しませてくれたのだからな」

ニッコリと笑う彼女。そして、彼女はこちらを見つめ

 

「棗斑鳩、お主の二つ名は今日から《絶天》じゃ」

「《絶天》」

その言葉を反芻する斑鳩。"絶天"、その意味は天を絶やす者という意味だ。尚且つ彼女から受け取る言葉という意味の大きさもさながらだ。

 

「天晴な戦いじゃった、また遊びに来てくれ、《絶天》の使い手」

「はい、また来ますよ」

その言葉を交わすと同時に、界龍の学生達から割れんばかりの歓声が上がった。

そして、斑鳩は界龍を後にした。

 

 

 

「――虎峰か」

「師父、お疲れ様です」

「あぁ、ありがとう」

彼女が視線をやると、そこには、包拳礼をしていた趙虎峰がいた。

 

「見ておったか?」

「えぇ、この眼でしっかりと見させていただきました」

「そうか」

そういうと、彼女は彼の前で溜息をついた。

 

「師父?」

「惜しいのぉ、本当に」

「彼のことですか」

「そうじゃ、《絶天》棗斑鳩じゃ、儂は彼をあやつを気に入った、こういうのもあれじゃが、この学園外で、この儂の背中を預けれるのは、あやつぐらいじゃろうな」

「師父、そこまで絶賛なさるのですか?」

「無論、手放しというわけじゃない、じゃが、彼は遊び相手とちと違う領域のやつじゃな、あやつならば、五年――いや、三年も稽古をつけてやればいい相手になりそうじゃ」

「…はぁ」

「はぁ、返す返すも惜しい、なんで界龍に来てくれなかったのかのう……虎峰、今からでもなんとかならんか?」

「そう言われましても……」

「(とはいえ、あの"気配"、あやつがこの世界の"毒"の時になった時、我々は止められるのかのぉ)」

そう言いながら、彼女は遠い空を見上げるのであった。

 

 

 

 

 

斑鳩は特に寄り道もせず学園に帰った。すると、もはや情報がどこからか漏れていたのか、早速クローディアから呼び出された。その為、高等部校舎の最上階にあるところ、生徒会室に向かった。

そして、部屋に入ると、執務机についていたクローディアが、指を組んでニコニコ顔で待っていた。

「ただいまもどりました」

「おかえりなさい、斑鳩君」

こちらを試すように見てくるクローディア。

 

「界龍への書類の件、ご苦労様でした」

「いえ、お力になれて光栄です」

直立不動でいう斑鳩。そんな中、彼女はニコリと笑い。

 

「にしても、快挙ですね、彼女に触れると共に、彼女から《絶天》の二つ名を頂きましたか」

「お得意の諜報機関【影星】ですか」

「あら、わかりました?」

にこやかに笑う彼女。その腹の中にはどんな黒い物があるのかと推量するがあえてそれを無視し

 

「まぁ、報道という線も考えましたけどね、えぇ、非公式ですが《絶天》の二つ名を頂きましたよ」

「そうですか、我が星導舘学園は、貴方に期待しています」

「学園全体ですか…」

若干残念な気もするが気分を持ちなおすが、少し彼女に読まれていたらしく

 

「とはいえ、私個人としても貴方に期待しています、なにかありましたらいつでも言ってください、できるだけお力になりますよ」

彼女の美しい笑顔に少し元気をもらい、斑鳩はその部屋を後にした。

 

 



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シオン=フェルマイト=リージンベルグ

数日後――斑鳩は授業も終わり、中庭で一人寝そべっていた。

 

ひゅーるるる・・・

誰もいないこの昼開けの時間に、この中庭の比較的寝心地の良い庭の日向で斑鳩は只々午睡をむさぼっていた。そんな中だった。

 

「となり、いいか?」

瞳を瞑りながら聞いてくる声。意識がまどろんでいるため、男か女のか分からないが言葉じりで性別を捉え

 

「(まぁ、男だろうし、昼寝同盟なのかな…まぁ、いいだろう)どうぞ」

そういうと、再び午睡をむさぼる。それから気分も良く醒めた時だった。

 

 

 

 

「――イッ!?イイッ!?」

ショッカーよろしく驚いた声を上げる斑鳩。なぜなら隣には、少女がいた。紛うことなく少女がいた。余りにも唐突なことで地面に座ったまま後退り体勢をする斑鳩。その顔は驚き一色だ。

 

「あ、あの、あなたさんは?」

「この私を忘れたとは言わせない…棗斑鳩」

「……」

恐る恐る聞いたが、どうやら地雷を踏んだらしく、黙り込む斑鳩。

 

「記憶にないといったようだな」

そういうと、少女は立ち上がる。その少女の銀髪が風に揺らぐ。見れば片方の瞳は髪で隠れているが、反対は金色の瞳が煌々と光っている。

 

「(これはヤバいって…)」

今にもこちらに襲い掛かりかねない剣呑な雰囲気を出している少女。

 

「私はシオン、シオン=フェルマイト=リージンベルグ、貴様に三敗した者だ、そしてこの学園の序列13位だ!!」

そして、彼女はルークスを取り出し

 

「棗斑鳩、私と"勝負"しろ!!」

どうやら過去の斑鳩はめんどくさい遺産を置いてきたのだなと結論付け、頭を悩ませると同時に

「…あぁ、いいだろう」

そういって斑鳩は立ち上がった。

 

 

 

 

ヒュールルル・・・

誰もいない学園の中庭に一陣の風が流れる。

 

「…俺は序列に興味ない、非公式でいい」

「…もとよりそのつもりだ」

相対する斑鳩とシオン。とはいえ

 

「(こいつ……本当に13位か?)」

斑鳩がそう思うのは訳があった。この目の前の相手、シオンからはまるでコートのような濃密な何かを感じ取っているからだ。斑鳩は、指を鳴らすとエリシュデータが現れ、それを構える。

 

「(――あの構えは…)」

左足を前に半身に身を構え、腰を落とし、右手の剣は、ほとんど床に接するほどに下げられている。そして、左ては添えられているだけのようだ。斑鳩も、いつでも動けるように構えると

 

「いざ、参る!!」

言葉と共に先に動いたのはシオンからだった。低い姿勢で滑るように移動しながら、右手の剣が跳ね上がってくる。とはいえ、そのスピードは確かに"速い"。しかし、彼女ほどでもない。斑鳩は、手首から肩、腰を柔らかく動かすことによって 相手の攻撃を武器で受け流す。

 

「なにッ!?」

だが、彼女はそこから 2本の剣で舞うように連続で振るって攻撃をおこなう。 その攻撃を斑鳩は、剣で全て払い、彼女の攻撃のリズムを強引に崩す。

 

「(甘いな…ヴォーパルストライク!!)」

ジェットエンジンのような轟音と共に 赤い光芒と共に剣による強力な突きを繰り出すが、彼女は剣を交差するように防御して、 斑鳩の攻撃を受けると同時にクロス状に斬りつけてくる。

 

「っと」

軽々と躱して見せる斑鳩。そして、二人の剣戟がぶつかり合う。実力は、明らかにレスターより各上の人物だ。だが、《万有天羅》の彼女より遅い。

 

「(問題は、あの構えが何なのかだな…)」

謎は尽きないが今は剣を走らせる斑鳩。小柄な身であり、速度は速い。とはいえ、星露のような神速の域ではない。なので、一気にトップスピードまで自分の速度を押し上げる。

 

「(さぁ、行けるかな――)」

そう思いながらも剣を振るう斑鳩。とはいえ、二刀流と闘うのはこの世界に来て初めてなので、一気にヒートアップしだす斑鳩。

斑鳩は、一気に迫り込み、サマーソルトキックから、剣で彼女を斜めに斬りつける。

 

「――ッ!?」

それを彼女は、先ほどと同様に防ぐ。彼女はそこから、一気に斬りつけようとするが、斑鳩は直前で彼女の足を払い

 

「バーチカル・スクエア!!」

剣を青白い残光と共に4連続で振るう技だ。斑鳩の技を直撃で喰らい、そのまま倒れ込む彼女。

 

「(決着あり…かな?)」

そう思っていた時だった。丁度、彼女と斑鳩が直線に並んだ時だった。

 

「――見せてやる!!棗斑鳩!!私は、もう負けるわけにはいかないのだ…」

すると彼女の周りに圧倒的な量の星辰力が集まり、一瞬でそれが凝縮され、彼女の双剣の石の部分から桜光が噴き出しはじめ、それがまるでツバサのようになり、直後、彼女が銀色の弾丸のように突っ込んできた。



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決着・極光の双剣

 

 

手元の煌式武装の部分がまるでブースターのようになり、まるで銀色の弾丸のように斑鳩に一直線でつっこんでくる。

 

「――『極光の双剣(シュヴァルトライテ・レーヴァテイン)』!!」

そして、その勢いのまま金色の光と共に双剣を振るってくる。

 

「いいだろう」

そういうと、斑鳩は真正面に彼女を捉え

 

剣技連携(スキルコネクト)!!」

彼女に向けて剣に黄緑色の光の帯を引きながら繰り出し、それをぶつけることによって彼女の速度を落とし、そこから、炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り

上げを繰り出す。そして、剣を青白い残光と共に4連続で振るった。

 

「ッ!?」

その攻撃を喰らい、体勢を崩す彼女。だが、彼女はそのブースターで大きな弧を描き、瞬時に後ろに回るが

 

「良い攻撃だ、だからこそ、本気を見せてやる」

「…なにッ!?」

彼女の顔が驚き一緒になる。その直後、彼女が再び斑鳩を認識したときには、彼女の左手の人差し指がこちらを向いていた。直後

 

「チェックメイト」

その言葉と共に、斑鳩は偏向射撃を行い、彼女を文字通り"仕留めた"。

 

 

「――こんなもんかな」

「また…負けた」

「動き、それに気質もいい、今の君が今より3年早く君に勝負を挑まれていれば危なかっただろうな」

そういいながら斑鳩は手を差し伸べる。すると、彼女はその手を取って立ち上がる。

「にしても、君は守りどころか、攻めも強かったとはわな」

「それはどうも」

そういうと、彼女はこちらを見据え、口を開いた。

 

「いい経験になった、また今度相手をしてもらえるか?」

「あぁ、いつでもその挑戦を受けてたとう」

「よろしくたのむ」

そういうと、握手を交わし二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

シオンとの戦いから数日後――季節は夏真っ盛りだった。

肌を刺すような七月の陽ざしは、放課後になっても衰えることも無く、斑鳩と綾斗は中庭を駆け抜けていた。

 

「――おいおい、これって間に合うのか?」

「さぁ、どうなんだろうね、俺の本気なら間に合うが、まぁ、そっちはちょっと間に合いそうにないかもな」

時間に厳しいユリスに呼び出された斑鳩と綾斗。綾斗がユリスとタッグパートナーを組んで《鳳凰星武祭》へ出場登録を済ませてから数日が経っていた。綾斗とユリスは毎日、斑鳩を交えて訓練に励んでいた。

それから、中庭を抜け、中等部校舎と大学部校舎を結んでいる渡り廊下を横切ろうとした時だった。

人の気配を感じた斑鳩がとっさに綾斗の腰を引き、後ろに投げ、斑鳩が前に出る。ちょうど、一人の女の子が現れた。

 

「――っ!」

一瞬遅れて彼女も気付いたようだ。無理矢理に方向転換をするが

 

「はっ?」

直後、なぜか真正面からふたりは派手にぶつかった。幸い、ちょっとした裏技で受け身を取っていたので、すぐに起き上がると地面に座り込んでいるその子に駆け寄った。

 

「キミ!大丈夫?怪我はない?」

「あ、はい……大丈夫、です」

恥ずかしそうに斑鳩を見上げてくる。綾斗も駆け寄ってくるが

 

「(先に行ってろ、こっちはこっちで処理しておく)」

アイサインで、綾斗に伝えると、その場を立ち去る。

 

「本当にごめん!」

深々と頭を下げる斑鳩。見れば、彼女の可愛らしいデザインの下着が見えているが、軽く目を反らしながら、彼女の身体に傷でもないかを確認する。とはいえ、銀色の髪を二つに結び、背中に流している。それにその容姿もかなり目のやり場に困るものだ。

 

「とにかくごめん、不注意だったな」

「い、いえ、わたしのほうこそごめんなさいです、音を立てずに歩く癖が抜けなくて、いつも伯父様に注意されるんですけど…」

 

「(ま、確かに気付くのに一般人より遅かったからな…)」

と思いながらいるとよく見ると彼女の銀髪に小指ほどの枯れ枝が絡まっていた。

 

「ちょっと動かないでね」

そういうと、髪を傷めないようにそっと小枝を取り除く。

 

「あ……ありがとうです」

「どういたしまして」

真っ赤な顔をしながら言う彼女。まるで小動物のようだ。

 

「んじゃあ、またどこかで」

「は、はい」

そういうと、彼女は一礼をして立ち去っていく。

 

 

 

「(さーて、どうすっかな)」

そういうと、斑鳩は綾斗の二倍のスピードで二人の所に向かった。

 



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赤蓮への警告とE・Y氏

作者より――

更新遅れちゃって申し訳ないです☆
気づいたら更新が一年後になっていたという事実。



斑鳩が、ユリス達とトレーニングしていたころ、六花園会議も終えたクローディアは、ホテル・エルトナのカフェで少しの癒しの時を過ごしていた。そんな中だった。

「赤蓮の総代、ここよいか?」

「え、えぇ」

思わぬ人物に驚くクローディアとはいえ、その微笑を絶やさない。

 

「すまん、そこの者、ほうじ茶を頼む」

「かしこまりました」

近くにいたウェイターにそういってクローディアの方を向き直る界龍の総代范星露(ファン・シンルー)

 

「――さて、唯お茶に居合わせたというわけではないぞ、赤蓮の総代」

まるで腹の中を見透かしたようにいう彼女。

「あらあら…さて、ご用件をお伺いしましょうか」

「そうじゃな、まぁ、《絶天》のことについて、お前さんにいくつか直に聞きたくてな」

「…といいますと?」

「あやつのこと、どこまで知っておる?」

「…彼のことですか、クローディア・エンフィールド個人としてお答えするとすれば少しというところです」

「赤蓮の総代としては?」

「同じことですよ」

「そうか…」

やってきたほうじ茶を一気に飲み干す彼女。

 

「赤蓮の総代、私個人として言っておくが、アヤツがこの世界にとって毒になった時、儂は貴様らの学園に行くからな」

「それは、宣戦布告と「あぁ、受け取ってくれて構わない」――そうですか」

二人の間に剣呑な雰囲気が流れる。その空気を打ち破ったのも、また范星露(ファン・シンルー)だった。

 

「とはいえ、儂はよっぽどのことがない限り貴様らには関わらんよ、道は示してやるものじゃからな」

「…えぇ、心得ていますよ」

そう言いながら、席を立ってその場を離れる范星露(ファン・シンルー)

「(…全く、困ったものです)」

そう言いながら、再び手元のティーに口をクローディアはつけた。

 

 

 

一方

 

トレーニングルームに向かう途中、斑鳩は珍しい人物に遭遇した。

「あっ、斑鳩」

「おう、沙々宮とレスターじゃないか」

「よ、斑鳩」

不思議な組み合わせだが、まぁ色々あったのだろうと思っている。

 

「これから、綾斗のところか?」

「そんなところ、斑鳩は?」

「勿論、二人と一緒さ」

そう言いながらトレーニングルームに向かう。トレーニングルームに入ると、案の定、リースフェルトと綾斗一試合終えていた。

 

「ほほう、これはまた意外な組み合わせの来客だな」

こちらを面白そうに見ているリースフェルト。

 

「紗夜にレスター?どうして二人がここに?」

綾斗の言葉と共に、紗夜は一歩前に出てユリスに向かって人差し指を突き付けた。

 

「ずるい」

「は?」

「(は?)」

斑鳩も内心リースフェルトと同じ反応をする。

 

「ずるいって……いったいなにがだ?」

「ここのところリースフェルトは綾斗を独り占めすぎ、これは明らかに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反、改善を要求する」

「……こいつの扱いが独占禁止法に抵触するとは知らなかった」

呆れた顔をするユリス。

 

「おーおーよかったじゃないか、綾斗~うらやましいなー」

と機械がしゃべるように棒のように綾斗に向けて言う。

 

「とぼけてダメ、ネタは上がってる」

「(ん?刑事ドラマものかな?)」

「ここしばらく綾斗とリースフェルトが放課後二人っきりで密室にこもって人に言えないような行為に耽っていたことはすっかり調べがついている」

「(ありゃーいかがわしい行為…か…)」

と思いながらいると、リースフェルトが顔を真っ赤にしながら言ってきた。

 

「ひ、人聞き悪いことを言うな!私達は《鳳凰星武祭》に向けて訓練を積んでいただけだ!というより誰から聞いたそんな与太話!」

「情報源は秘密……情報通のE・Y氏からとだけ言っておこう」

「おのれ夜吹!」

「(すでにバレバレというレベル)」

「大体リースフェルトは普段から綾斗に引っ付きすぎ、この前だって昼食で偶然席が一緒になったふうを装をってたけど、不自然極まりない」

斑鳩は、その羨ましさに綾斗の足を小突く。そして、これ以上関わるのは面倒なのでレスターと向き直った。

 

 

 

 



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レスター&沙々宮

「おめでとうレスター、退院したんだね」

「あぁ、おめでとう」

斑鳩は綾斗と一緒に祝辞を述べる。

 

「……まあな、あれくらいの傷どうってことねぇよ」

「で、今日はどうしたのさ?沙々宮と一緒だなんて」

「あぁ、このちんちくりんは途中で拾っただけだ、なんか知らねぇが道に迷ってたみたいだし、どうせ行く場所が同じだったからな、まぁ、ついでだ」

「誰がちんちくりんか、でも連れてきてもらって助かった、ありがとう」

「(おう、これは地獄耳ってやつだな」

沙々宮が不意にこちらへ顔を向け、そう言ったら再びユリスと不毛な口論を再開し始める。

 

「そういや、行く場所が同じだったって、レスタ―も俺たちに何か用が?」

「ん、そうだな、それは気になるな」

するとレスターは眉間のしわを深めて、少し視線を反らす。

 

「あー……なんだ、その、サイラスの件なんだが…一応、アレだ、まぁ、結果的にとはいえ――助けてもらったことには違いねぇようだから、な、その、礼っつーか、ケジメっつーか、まぁ、それをだな」

そして彼はそこまで言うと小さく頭を下げ

 

「と、とにかく世話になった!それだけだ!邪魔したな!」

「わっ!ちょ、ちょっと待ってよレスター!」

言うだけ言うレスターを引き留める綾斗。

 

「そうだ!ちょうど、タッグ戦の訓練相手を探していたところだったんだ、レスタ―、良かったら手伝ってくれないか?紗夜も一緒に?」

「訓練相手だと?」

「う?」

レスターと紗夜とユリスが揃って綾斗に視線を向ける。

 

「こ、これ綾斗!何を勝手に…!」

「いんや、いいんじゃないのか?今まで三人でやっていたが、本当の実力を二人は知らないからな――」

「本当の実力?」

「そういうことだ、今まで俺が負けたことなかっただろ、技術とコンビネーションは上達しているが、とはいえ、俺に二本目の剣を抜かせていないからな、正確な実力を知らないと策を講じれないだろう」

「…確かに、そうだな」

ユリスを言いくるめ、再度二人を見ると沙々宮はあっさりとうなずく

 

「私は別に構わない」

「…しかたねぇな」

そういう頬をかきながら言うレスターであった。

 

 

 

「ほぉ、これはまた新鮮なものだな」

フィールドの端っこでレスター&沙々宮とユリス&綾斗の戦いを見ている斑鳩。

「どうしたどうした!その程度かよ!!」

果敢に綾斗を攻め立てるレスター。しかし、レスターとの間に複数の火球が割って入った。

 

「ちっ、いいところで」

「ふぅ…助かったよユリス」

「くそっ!相変らずちょこまかと…おい、ちんちくりん!てめぇもちゃんと仕事をしやが――」

そういうとレスターが背後の紗夜へと視線をやってそのまま固まった。いや、ユリスも綾斗もだ。

 

「…仕事なら今からやる」

見れば構えていたのは銃というより砲だ。しかものその砲身は優に二メートルを超えている。

 

「三十九式煌型光線砲(レーザーカノン)ウォルフドーラ――掃射」

緊張感のない声で紗夜っがそうつぶやいた途端、低い唸りを上げて光の奔流が迸った。

 

「ちょっ、待て!」

うろたえるようなレスターの声を聞きつつ、綾斗は身を伏せる。

 

「(――ッ!?)」

その光の柱は、一気に壁に向かっていくが、このままでは壁が一気に吹き飛ばされかねないので

 

「ったく、手間をかけさせやがって!!」

そういうと、沙々宮の砲身の直線状に立ち、壁と光線の間に瞬間的に身を入れ、右手をひるかえし、

 

「プロテクション!!ホーリー・ランス!!」

斑鳩は光線の柱から壁を守ように障壁を展開させ、相殺できるレベルの光線をぶつけ合う。

 

「――っと、間一髪かな」

掃射が止み、振り返ってみるが、何とか無傷と言ったところだった。

 

「沙々宮、やりすぎだ」

「…まさか、防ぐなんて」

その場にいた綾斗とエリスとレスターは二つの意味で驚いていた。一つは、まぎれもなく沙々宮のその攻撃。そして、もう一つはそれから完璧に守った斑鳩の実力だ。

 

「――間一髪、ってところですね」

聞き覚えのあるゆったりとした声が響いた。聞き覚えがあると思ったらこの学園の生徒会長であるクローディアであった。

 

「このトレーニングルームはあなた方《冒頭の十二人》に貸し出しているだけで、学園の設備であることはお忘れなく」

「……わかっている、次からは気を付ける」

「なら、結構」

そういうと面白い人物がやって来た。

 

「いやー、でもびっくりしたよねえ、カミラ、まさかいきなり壁が吹っ飛ぶなんてさー変わっているって意味じゃうちも相当なもんだと思ってたけど、やっぱり他所は他所で面白いわねー」

「あぁ、もう、あまりはしゃぐんじゃないエルネスタ、頼むからこれ以上面倒をかけないでくれないか」

現れたのは、アルルカント・アカデミーの生徒だった。

 



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アルルカント・アカデミー

「ご紹介しておかなければなりませんね、こちらはアルルカント・アカデミーのカミラ・バレードさんとエルネスタ・キューネさんです」

「アルルカントの?」

「今度我が学園とアルルカントが共同で新型の煌式武装を開発することになりまして、こちらのパレードさんはその計画の代表責任者なのですよ、今日はその正式な契約を取り結ぶために、わざわざ当学園までいらしてくださったのです」

「どうも」

褐色の肌をした女性が申し訳程度に頭を下げる。

 

「共同開発・・・へぇ~そういうことね」

クローディアの意図に納得する斑鳩。そんな中、レスターが口を開いた。

 

「おい、どういうことだ?」

「まぁ、わかりやすく言うと、サイラスの見返りだよ」

「なっ……」

絶句するレスター。とはいえ、クローディアは何も言わず微笑むだけだ。

 

「そんで、此処に来たのは自慢の人形をぶった切った張本人の顔を見に来たってわけか」

「そーこまで言われるとわねー」

エルネスタと呼ばれる少女が斑鳩の目の前でくるりと回りながら言う。どう見ても自由奔放そうな少女だ。

 

「ふーん、君たちが噂の剣士君達だねーふむふむ、なるほどー」

こちらをじろじろ見てくる彼女。

 

「ん、なかなかいいわねー、気に入っちゃった!」

そして、斑鳩と綾斗に目を細めてそっと耳打ちしてくる。

 

「でも――次はそう上手くいかないぞ?」

「(あぁ、精々期待しているよ)」

そんな中、エルネスタの唇が綾斗の頬にそっと触れる。同時に、綾斗が慌てて飛びのくと同時に、星導舘の女性三人が目の色を変える。

 

「きっ、きっ、貴様!一体なにを……!」

「…泥棒猫、滅ぶべし」

ユリスが細剣を抜き、紗夜はまだ展開したままだった煌式武装の砲口をエルネスタへ向け。

 

「にゃはは、怖いな怖いなー、そんな目くじら立てないでも、ちょっとした挨拶じゃないかー」

エルネスタは逃げるようにカミラの後ろに隠れる。そんな中だった。

 

「エルネスタ――少し静かにしたらどうだ?」

『――ッ!?』

透き通った声と異質な気配に思わず身構える斑鳩。やって来たのは、同じくアルルカントの制服を身に纏ったカミラと同じ褐色の肌に銀髪の女性だがカミラと違い、その顔つきは少女っぽい。そして赤と黒のマントを羽織っていた。

 

「(おいおい、コイツ何者だ…)」

界龍の総代である范星露(ファン・シンルー)とはまた違った異質な気配なのだ。その手には、ここで買ったと思われるドリンクがあった。

 

「あら、遅かったですね」

「少し飲み物を買っていたまでだ」

その彼女はこちらに向き直り

 

「エルネスタが無礼を働いたようだな、私はアンリマ。アンリマ・フェイトだ、以降よろしく、星導舘の諸君」

フェイトと名乗るその女性。見れば、エルネスタの明るい顔が真剣な顔になる。

 

「さて、星導舘の代表、そろそろ本題に入ろうとしないか?」

「えぇ、そう思っていたところです」

マントを翻し

「邪魔したな」

そういうと、アンリマが二人を連れてトレーニングルームを出ていった。

その後ろ姿を一瞬たりとも目を離さない斑鳩であった。

 

「(アイツは…一体何者だ、とはいえ、あのカミラってやつは沙々宮の武器を見ていたが…何か言いたげだったが…問題なのは、アンリマ・フェイトか…)」

頭の中でとにかくひたすら考える斑鳩。そんな中

 

 

 

「いか…が、斑鳩」

「ん、あぁ、悪い、気づかなかった」

声を掛けてきたのは沙々宮だった。

「斑鳩、アンリマって人が来てから厳しい顔をしていたけど、何かあったの?」

心配そうに聞いてくるこちらの顔を窺ってくる沙々宮。

「いんや、ただこっちの思い違いだったらいいなと思ってな」

「…あの人のこと?」

「あぁ…ちょっとな」

遠くを見るような顔をする斑鳩だった。どこか不安なことを感じながら、斑鳩はトレーニングに戻ることにした。

 

 



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疾風刃雷

作者より

三巻に突入!!
綺凛ちゃん可愛いよね?(迫真


その数日後の昼休み――

 

斑鳩は副業で得た肉まんを片手に、校舎内を平然と歩いていた。

 

「…っと、あれは」

依然、斑鳩と目の前で思いっきりぶつかった少女と壮年の男性が穏やかな空気をぶち壊していた。

 

「(昼くらいは、ゆっくりさせろよ)」

と、目障りなので注意しに動き出す。すると、その男性が彼女の頬を平手で叩いたのだ。

 

「――それはお前が考えることではないと言った筈だぞ、綺凛」

「(アイツ…)」

流石に許せんと思った時、動き出す一人の影があった。綾斗だ。どうやら、介入しようとしているらしい。

 

「で、ですが伯父様、わたしは……」

「(ま、面白そうじゃん)」

そういうと、斑鳩も一気に動き出した。

 

 

 

 

 

「口答えを許した覚えもない」

再び男の腕が振り上げられ、綺凛がピクリと身をすくませる。

 

「――はい、そこまで」

綾斗より一歩先に、斑鳩が二人の間に入って男の腕をつかんでいた。

 

「え……?」

驚いたように眼を開く綺凛

 

「……なんだ、貴様は」

「どんな事情かは知らないが、無抵抗の女の子に手を上げるのを黙って見ている男子はいないな」

「くくっ、笑わせるな、自分の欲のために「百人が百人、そういうわけではないだろ?」――貴様」

斑鳩を見下ろす目は、冷ややかな侮蔑が宿っている。どうやらあからさまな嫌悪があるみたいだ。

威圧するような男の視線だが、相変らずの飄々とした態度でそれをかわす。

 

「…ふん、今のはただの躾だ、身内の問題に部外者が口出しするな」

「身内?おいおい、有名なドッグトレーナーでもこんな躾はやらないでしょ」

その男性の顔が紅潮する。どうみても身のこなしから武術を習っているように見えるが、どう見ても格下の相手だ。

 

「私は刀藤鋼一郎、そこの刀藤綺凛の伯父だ――わかったら、そこを退け、小僧、そもそも貴様ら《星脈世代》がこの程度でどうにかなるわけないだろう?」

「とはいえ、ペインアブソーバしていないんだから、痛みを感じないわけないでしょ」

「たかだか学生風情が生意気な口を叩くものだ、貴様、名前は?」

「棗斑鳩」

すると鋼一郎は懐から携帯端末を取り出し、手慣れた仕草でそれを操作し、ウィンドを展開させる。

 

「棗…ふん『在名祭祀書』入りもしていない雑魚か」

どうやら短時間で調べたらしいが

 

「…《絶天》だと?」

一転して真剣なものになる鋼一郎

 

「(大体・・・コイツの考えが読めたな)」

この数回の会話と彼女の状況で大方の推理が出来る斑鳩。

 

「(出世欲と言ったところか)」

此処まで執着する理由に該当するだろうと思う斑鳩。

 

 

 

 

「貴様、綺凛と決闘しろ」

「ほぉ、決闘か」

悪意に満ちた笑みを浮かべる鋼一郎。待っていたと言わんばかりにこちらも悪意に満ちた顔を一瞬見せる。

 

「伯父様!待ってください!!」

驚いたように声を上げる綺凛。しかし、彼は意にも介さないで言葉をつづける。

 

「そうだ、それがこの都市――貴様らのルールだろう?」

「(…そういう魂胆ね、ま、泊つけのために《絶天》を堕とすか)」

そういうと、鋼一郎は綺凛の華奢な肩へ手をぽんと置く。

 

「貴様の相手は、これだ」

「おいおい、これ呼ばわりとはきついものだ、俺は《星脈世代》でもないってのに」

「…なにッ?」

鋼一郎の顔が引きつる。

 

「ま、そういうわけだから、こっちも勝ったらそれなりのものを要求させてもらうぜ」

「いいだろう、貴様が負けたところで、こちらから要求するようなことはない」

「伯父様!わたしは……!」

「黙れ!お前は私の言う通りに動いていればそれでいい」

「で、ですけど!」

食い下がろうとする綺凛だが

 

「綺凛ちゃん、辞めておいた方がいいよ、こういうタイプは堅いから」

「貴様…この私をどこまで愚弄するんだ!!」

「俺は愚弄したなんて、これっぽっちもないよ」

いつの間にか斑鳩vs鋼一郎の構図になっており、その間であわあわとしている綺凛。

そして、早速騒ぎをかぎつけたのか野次馬連中がやってくる。

 

「(ま、こういうものは"公開処刑"がおにあいかな)」

そして斑鳩は彼女に向き直る。

 

「……ごめんなさいです」

震える声でこちらを俯きながら見てくる彼女。

「(たぶん、謝るのはこっちになると思うがな)」

 

そして

 

「わたしは……刀藤綺凛は、棗斑鳩先輩に決闘を申請します」

そういうと斑鳩の胸元の校章が発光した。

 



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疾風が止まる時

作者の一言
・ESが終わらないよー(/_<。)ビェェン


「お願いします、先輩、ここで先輩が引いてくださればそれで収まります、そうしてください」

「その場合のキミは?」

「え?」

「キミはどうなるのさ?」

「わたしは、私のことは別にいいのです、どうにもならないことですから」

「そうなると、尚更引く気にはならないんだよな、これが」

きっぱりという斑鳩。

 

「(ま、どうにもならないよりかは、マシかな)」

チラリと鋼一郎の方を一瞥し、彼女に視線を戻す。内心、助けた女の子に決闘を挑まれるなど本末転倒だがと思いつつ、斑鳩は決闘のための距離をバックステップで取る。すると、彼女の腰元から現れたのは、煌式武装ではなく真剣だ。それも日本刀だった。

 

「(ふぅーん)」

剣気とでも言うべき鋭く冷たい圧力。しかし、何かが物足りない。

 

「――我、棗斑鳩は汝刀藤綺凛の申請を受諾する」

「参ります!!」

綺凛が短くいった瞬間に、一気に斑鳩に迫り込む。尋常ではない速度だが、斑鳩にとっては速いとしか言えない速度だ。

 

「っと」

それを最低限のステップで避け、反撃を食らわす。

 

「――棗先輩、お強いです、びっくりしました」

「それはどうも」

純粋な賞賛の声の彼女だが、こんなところで終わるほど"絶天"は安くない。

 

「(《絶天》と闘って、無事に帰れると思うなよ)」

そういうと、一陣の風が吹く。先ほどから、綺凛の攻撃はぎりぎりのところで躱される。

 

「(どうして、当たらないんですか!?)」

鋼一郎がいらいらし始める。同時に、斑鳩はその動きを加速させていく。とはいえいまだに、彼女と打ちあっていない。近づいて来ては離れ、離れれば近づきというスタンスで動き回っていく。

綺凛の振るった白刃を紙一重で交わす斑鳩。斑鳩は体制を崩そうとしてくる綺凛に対して様々な方向からの同時偏向射撃を行う。

 

「――ッ!?」

今の攻撃で完全に動きを乱される綺凛。斑鳩は、彼女に距離を詰め、上段からエリシュデータを振り下ろす。そして、そこから、剣技連携で見え見えの7連撃を繰り出す。それを防いだ綺凛は、片手で強引に跳ね起きる。とはいえ、そんなことはお見通しだ。とはいえ、このまま、彼女いや、後ろのあの男性を完膚なきまでに叩き潰すには、少し"魅せなければならない"。

 

「――んじゃあ、ほんの少し本気を見せるとするとしよう」

そういうと、こんな夏の炎天下の下なのにも関わらず、その場にいたすべての生徒、そして鋼一郎の背中に気味の悪い寒気が走る。

 

「綺凛、気を付けろ――そいつ、何をしでかすかわからないぞ」

「はい!!」

何か察したのか、綺凛は斑鳩から自分に向けられるうすら寒いさ濃密な殺気が向けられていることを理解する。同時に、距離を取るが

 

「――え」

斑鳩は一瞬にして、綺凛の懐に潜りこみ、何も無い左手にスカーレッド・ファブニールを煌めかせ

 

「――サラマンド・バタリオン(炎龍の大征伐)

剣からそ龍の形の一閃が放たれる。そして、それが彼女の校章にヒットし

 

 

 

決闘決着(エンドオブデュエル)!!勝者(ウィナー)棗斑鳩!!」

唐突に響き渡る機械音声。

 

 

 

「そんな…」

「うそ…でしょ?」

「なんだよ、あの出鱈目な力は……」

周囲の生徒たちから呆れたといった声が上がる。そんな中、斑鳩は鋼一郎の前に立つ。そして、彼にエリュシデータ、剣を突き付ける。

 

「あんたの道具である刀藤綺凛と計画は私が潰させてもらったぞ――それと、あんたはこの界隈の学生を舐めすぎだ」

そういうと、鋼一郎に向けて殺気を向ける。そして、言葉を続ける斑鳩

 

「貴様は、世界を知れ――界龍の総代はこんなレベルじゃないぞ」

「き、貴様!!私に手を上げれば貴様は――」

おびえた表情の彼だが、斑鳩から見れば見苦しいだけではない。

 

「現実が見えていないようだな刀藤鋼一郎、あんたと綺凛ちゃんの関係に口を挟む気はない、が――あんたが作った『刀藤綺凛』というブランドは、あんた一人のものではないだろう」

斑鳩の視線の先の鋼一郎は、何かを察していた。

 

「彼女は、この学園の財産だ――そしてそれはあんたのいる『統合企業財体』の財産だろ、それにあんたの私情で汚そうというなら、クローディアがだまっていないと思うが」

「…うぐ」

「それに、あんたのプランはさっきも言った通りだが、この俺が潰させてもたった、彼女のことはほおっておいて、あんた自身のことでも考えな」

そういうと、そのままふらつきながらその場を後に去ろうとした時だった。

 

「お、伯父様!!」

綺凛はその背中に向けて呼びかけた。彼は足を止めたが、振り返らない。

 

「私は伯父様に感謝しています、それは嘘じゃありません、今まで……本当にありがとうございました!!」

真摯に丁寧に頭を下げる。そして、彼はその場を去って行く。そんな中

 

 

「――完敗です、棗先輩」

「貴方もだよ・・・刀藤綺凛さん」

そういうと、綺凛はその場を去って行った。

 

 

 

「(ま、少しやらかしたかな?)」

その姿を見送る斑鳩であった。

 



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嵐の後

作者より

祝!!二期放送開始!!


二日後の夕方

「よう遅かったじゃないか」

やって来たのは、綾斗の友人で同じクラスメイトの夜吹英士郎だった。

 

「遅かったって、予測していたのか?」

「ん、いんや――斑鳩、お前にお客さんだ」

「…俺に?」

「おうよ、応接室に通しているから、さっさと行きな」

「そうするとしよう」

そういうと、共用フロアの端にある応接室に向かった。

 

「あ……どうぞ」

応接室のドアをノックすると愛くるしい声が返ってきた。

 

「(あーこれは…)」

部屋に入ると、そこには元星導舘学園序列一位、刀藤綺凛だった。

 

 

 

「せ、先日は大変失礼しました!」

応接室に入るなり、あたふたとソファから立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする彼女。

 

「えっ、えっ、えっ、いや、それはこっちの台詞だと思うんだけど?」

余りのことに思わず斑鳩もあたふたとする。

 

「それより俺の方こそ色々とごめん、かえって困らせちゃったかな?」

「い、いえ、そんな……」

頭を下げたままの刀藤綺凛。彼女は、こちらの様子を窺っているように視線を向ける。

 

「あの…お、怒ってないですか?」

「なんで俺がさ、寧ろそっちの気もするけど」

若干苦笑する斑鳩

 

「まぁ…君の伯父さんに思うところはあるが…」

「う……それは、その、誠に申し訳なく……」

「……いや、だから君が謝る必要はないんだってば」

再び俯く綺凛。流石にこれは困る。斑鳩は、彼女の頭にぽんと手を乗せ、やさしく撫でる。

 

「あぅ…」

すると彼女の顔がほんのりと紅く染まる。

 

「い、棗先輩は、見ず知らずの私を伯父様から庇ってくれました…その、あんなことになってしまいましたが、ほ、本当にうれしかったのです…その、ありがとうございましたっ!」

「いいよ、結局、君の力にはなれなかったしね」

「そんなことは…」

「ま、送っていくよ、帰ろうか」

「あ、はいっ」

そういうと、彼女を尞まで送ることになった。

 

 

 

 

「にしても、この時間でもまたまだ暑いね」

夕暮れの夏空は、鮮烈な朱に染まっていた。

 

「刀藤さん、大丈夫?」

そういうのも無理はない。彼女の顔はほんのりと朱色に染まっているのだ。

 

「えっ?あ、は、はい……!」

「ひょっとして、緊張している?」

「ご、ごめんなさい、わたし、家族以外の男の人とこんな風に歩くの、初めてで……」

「へぇ…」

無言の時が流れる。

 

「…棗先輩、お伺いしてもいいですか?」

「なんだい?」

「先輩は、どんなトレーニングをしているのでしょう?」

「基礎鍛錬っていったところさ、朝は走り込みと型稽古、それに素振りだな、放課後は綾斗とユリスのタッグ戦の相手をしているな」

 

「ってことは、もう鳳凰星武祭のパートナーがいらっしゃるんですか?」

「いんや、いないよ」

「えっ、けどタッグ戦は「あぁ、一人で二人の相手をしているよ」」

「――!?」

綺凛の瞳が大きく見開かれる。無理もない前代未聞だからだ。

綺凛もユリスのことは聞いている。それに、伯父から彼のことも。だが、その二人を一人で相手しているなどと思ってもいなかったからだ。

 

「なんなら、来る?勿論、刀藤さんが良ければだけど」

「えっ、いいのですか?」

「ん、まぁ、大丈夫でしょう、それに二人の方がより一層実践に近くなるからね?」

「…え、えぇ」

どんだけ規格外なのだと思いながらいる綺凛。

 

「まぁ、ユリスと綾斗には話を通しておく、から、来たかったら来てよ」

「はい!」

「まぁ、高望みすると早朝訓練も付き合ってほしいけど、もし来たかったら連絡してね」

 

「その、お言葉に甘えて…」

「おう、じゃあ、よろしくな」

とりあえず携帯端末の連絡先を交換して、彼女と別れることになった。

 



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班目という存在

翌日――早朝

 

 

「おはようございます、棗先輩」

「おはよう、刀藤さん」

昨日の返ってからの連絡でどうやら早朝訓練にも付き合ってくれることになり、待ち合わせの時間を設定し、その時間の五分前に到着すると、もうすでの彼女の姿があった。

当然の如く、可愛らしいトレーニングウェアだ。

 

「さて、それじゃあまずはストレッチでもしましょうか」

「はい」

そういうと、普段できない二人一組のストレッチをし始める。とはいえ――

 

「(これで…13歳…だと)」

彼女が身体をゆするたびに、彼女の胸も合わせて弾む。その目のやり場に困る。そんな中だった。

 

「そういえば、先輩は朝、どんなコースを走っているのですか?」

「ん、まぁ、外に出て屋根走りかな?」

「ッ!?!?!?!?」

理解に苦慮している綺凛。無理もない。前代未聞なことだからだ。

 

「あの棗先輩、普通に走られたりしないんですか?」

「いや、ぶつかるからねー、それよりか屋根上は誰も人がいないから、一気に速度を上げられるんだよ」

「は、はぁ」

そう言いながらストレッチを進めていく。

「ちなみに、刀藤さんは?」

「私は、学園の外に出てアスタリスクの外周をぐるっと周回するようにしています」

「へぇ、じゃあ、今日はそれをやってみようか」

「わかりました、じゃあ、私が先行しますね」

「えぇ、お願いするよ」

そういうと、彼女が先導するように走り出した。

 

 

 

 

それから、とりあえず外周を走り終わり、沿岸の公園で一息ついていた。

 

「お疲れ様です、先輩」

「あぁ、お疲れ、刀藤さん」

お互い草原に腰を掛けている。すると、腰から未だにこの世界に来てから一度も使ったことのない黒いカードが落ちた。

 

「先輩、何か落ちましたよ」

「ん、あぁ、ありがとう」

そう言いながらカードを拾う斑鳩。

 

「先輩、それなんですか?」

「これ?このカードなんだけど、使い方が分からなくてね、使っていないんだよ」

「使い方がわからない?」

「うん、わからないんだよー」

「先輩、少し見せてもらっていいですか?」

「あぁ、いいよ」

そういうと、そのカードを彼女に渡すと彼女がガタガタと震えだす。

 

「と、刀藤さん、なんかあった?」

「せ、先輩、こ、これ、ブ、ブラックカードです」

恐る恐るカードを返してくる彼女。

 

「ま、マジか!?」

「お、おう、ちなみに使い方は?」

「多分、最寄りの金融機関に問い合わせればいいと思います、そうだ」

「ん?」

何かを思いつく彼女。

 

「折角ですし、一緒に行きましょうよ」

「お、おう」

そういうと、彼女は立ち上がり歩き出す。斑鳩も彼女に先導されるように歩き出す。

そして行政地区に向かっていった。

 

「先輩、手続き慣れていますか?」

「いや、慣れていないな(そもそも、やったことないな)」

「わかりました、お手伝いしますね」

「あ、あぁ」

それから、彼女は斑鳩を先導しつつ手際よく手続きを終え、1枚の紙を渡してくる。

 

「これは?」

「えぇ、カードに関する情報です、これでそのカードが使えますよ」

「ありがとう、刀藤さん」

「いえ、慣れっこですから」

「(訳は聞かないでおこう)」

と思いながらいながら、その紙を見るとその金額に思わず目を疑った。無理もない。記載されていたのは、某資本主義筆頭国家の予算3年分の金額なのだ。その証拠に零が14個ついている。とはいえ、身に覚えがないという金額というわけではない。これは前の世界でのゲーム内での自分の所持金額と一緒だ。

 

「(いや、これは不味いって・・・)」

そう言いながら、速攻で近くの金融機関でカードを分割して預けこむ。そこから1年間最低生活できるだけどお金を引き出し、あとは預ける。そんな中、あることに気付く。

 

「(そういや、あいつ――あんなことを言っていたな…)」

と友人の言葉を思い出す斑鳩。

 

「先輩?」

「あぁ、ちょっと待っていてくれ」

そういうと、リーゼルタニアの孤児院への寄付金として、0が12個つく金額を"班目鴉(マダラメカラス)"として寄付したのであった。

 



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疾風との鍛錬

数日後――海岸

 

 

斑鳩は、いつも通り綺凛と一緒に、早朝の白くぼやけた世界となったアスタリスクの外周を走り終え、湖岸沿いを走っていた。

 

「(にしても、これほど霧が深いとはな…)」

前を走る彼女を捉えられていないわけではないが、とはいえ、こんな霧だとあの世界のフィールドを思い出す。

 

「(まるで、早朝のロンドンと言ったところかな…)」

と思いながら、周囲を警戒しつつ湖岸沿いの歩道を走っていく。

「……棗先輩」

「あぁ、こいつは…複数ってところかな?」

その気配を察知して身構える斑鳩。その手にはエリュシデータ。

 

「そうですね、でも、何か変です?」

「獣の匂ってところだな…」

そういったところで二人は足を止める。無理もない。視線の先には工事中の看板があるからだ。

 

「工事中…はめられたな…」

「えぇ、嵌められましたね」

軽く顔を見合わせる斑鳩と綺凛。そんな中、迂回路を見るがどうみても出来すぎている。

 

「なぁ、刀藤さん」

「はい」

「どっちが狙われているか、心当たりある?」

「えっと、それなりに、まぁ、先輩も?」

「うん、まぁね、ま、ここは一緒にいくとしますか」

そういうと、背後から滲みよる気配。同時に、明らかにこちらに向けられる殺意

現れたのは、見たこともないような生き物。言うとすればキマイラと言ったところだろうか。

 

「この子たち…なんて生き物でしょうか?」

「さぁな、けど言うとすればキマイラと言ったところかな?」

綺凛ちゃんにとっては初見の生き物らしく、不思議そうに首をかしげる。

 

「でも、ちょっとかわいいですね」

「ん?ああ、うん――っと!!」

目の前の竜もどきが、隙ありとばかりにとびかかってくるが、生憎それを見切れない斑鳩ではなく。

すぐさまエリシュデータで迎撃する。

 

「棗先輩、大丈夫ですか?」

「あぁ、さほど手ごわいって感じでもないからな」

斑鳩は軽く牽制しながら、剣を振るう。すると、竜もどきの切り離された前足がその場で崩れ落ち、水飴のように溶けていった。といっても、スライムのような状態で残って震えている。

 

「…これは」

興味深く見ている斑鳩。そんな中、低い咆哮と共に放たれた火球を斑鳩は易々とはじく。

 

「刀藤さん、これは一体……?」

「多分、変異体と呼ばれるものかと思われます」

「変異体――あとで教えて」

「えぇ、今はこの状況を打開しましょう」

「あぁ」

そう言いながら剣を霞に構える。とはいえ、並の技で倒せるようなものではなさそうだ。

そんな中、抜き身の刀を構えながら言う綺凛。

 

「――少し試してみていいですか?」

「おう」

そういうと、無造作ともいえる足取りで竜もどきに近づいていき

 

「……ごめんね」

焦るでもなくそうつぶやくと、僅かに身体をよじらせその攻撃をかわし、襲い掛かってきた竜もどきの胴がばっさりと切り裂かれた。

 

「オオオオオオオオオッ!!」

悲鳴をあげ身体がスライム状にとける。そこから、そこのスライム状の物体に向かって、もう一撃鋭い斬撃を放つ。そして、そこから、すさまじい速さでそれを切り刻んでいく。その速度たるやまさに神速である。

そのスライム状の中に小さな球があった。

 

「(そこが、核ってわけね―――)」

「――終わりです」

一閃。彼女の刀が煌いたと思うと、その球は真っ二つに両断された。

 

「これで退いてくれればいいのですが……」

「さすがだ、でも、よくわかったね?」

「星辰力の流れが妙でしたから、わたし、昔からそういいのに敏感なんです」

「キミの強さの一端がわかった気がするよ」

そう言いながら、その残骸に目を落す。

 

「…手口的にアルルカントってことかな?」

「アルルカント?」

彼女が不思議そうな顔で訪ねてくる。

 

「っと――ッ!?」

斑鳩と綺凛から距離を取っていた竜もどきが連続して火球を撃ちこんでくる。

同時に、こちらを狙ってくる。だが――

 

「(――この狙いは!?)」

今度はこちらを狙ったものではない。明らかに低い軌道を狙った火球は、爆発音と共に綺凛の足元へと着弾し、爆発する。

 

「ッ!?」

同時に、彼女の石畳に放射状の亀裂が走った。

 



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策略

「えっ……!?」

反射的に飛びのく綺凛。だが、一歩遅かった。次の瞬間、彼女を中心として直径五メートルの範囲が陥没するように巨大な穴をうがった。

 

「綺凛ちゃん!!」

飛び込んで腕を伸ばす斑鳩

 

「大丈夫か?」

「え、えぇ、助かりました」

ほっと安堵を衝く斑鳩。だが、無常にも、その縁は崩れ去る。

斑鳩はとっさに彼女の身体と頭を抱きかかえる。そして、二人の身体が暗い穴の底へと吸い込まれた。

そして直後、衝撃を感じた。

 

 

「(――水中か!?)」

すぐさまウェイトを外し彼女と同時に浮き上がる。

 

「大丈夫、刀藤さん?」

「あ、ありがとうございます、助かりましたぁ、私、泳げなくて…」

「そうなんだ、にしても…ここはどこだ?」

水面から天井まで20メートルはある。横の広さは、どのくらいあるかわからない。

 

「バラストエリアでしょうか?」

「バラストエリア?」

「えっと、つまりアスタリスクはメガフロートですから、バランスを取るための重りとして水を利用しているのじゃないかと思います」

「ほぉ、ってことは点検用の出入り口があると思います」

「んじゃあ、それを探すか――って、上手くすんなり帰してくれるわけないよね」

「はい?」

斑鳩は水中をにらむ。すると、その水中からこちらをにらんでいる一匹の竜もどき。現れたのは、蛇に近い竜もどきと呼べるものがいた。

 

「棗先輩、あの竜、上にいた子たちと同じ感じがします」

「ってことは、核ありスライムってところか…あんまりいいニュースじゃないね」

「んじゃあ――ウォーターブレッシング」

そういうと、水中でも呼吸が出来る魔法を使う。

 

「ちょっと潜るよ」

そういうと、全速力で近くの柱まで彼女を抱えて泳いでいく。そして、水面より上の柱の壁を削り、小さい空間を作り出し、斑鳩と綺凛はその足場のようなところに上がる。

 

「んじゃあ、とりあえず凍らせますか」

斑鳩は、絶対零度の冷気を極太のレーザーのように発射して攻撃をおこなう。

すると、水面に着弾すると同時に、周囲一帯の水が一瞬にして凍り付く。

綺凛が息をのむ中、斑鳩はエリシュデータをきらめかせ

 

「んで、こうだ、ライトニング・フォール!!」

それを出来立ての氷に突き刺すことによって周囲に電撃を走らせる。直後、氷が一気に爆発した。

 

「ま、一件落着っと」

水しぶきが舞い上がり、二人の髪をもてあそんだ。

 

 

 

 

 

 

「――ってことは、棗先輩ってこの世界の人間じゃないんですか?」

「まぁな…この事実を知っているのはリースフェルトとクローディアだけさ」

斑鳩の削った柱の壁にもたれながらいう。斑鳩は、この壁で少し休憩を取ることにしたのだ。そんな中、彼女はこちらを少し泣き出しそうな顔で見てくる。

 

「どうして棗先輩は、闘うんですか?」

「え?」

ずいぶんと唐突な質問だ。

 

「――誰かの力になりたい、それと、越えたい人物がいるのさ」

脳裏に浮かぶのはこの世界で本気を出した人物の顔。

 

「越えたい人、ですか?」

「まあね」

その質問に斑鳩が頷く。彼女の顔は一色だが

 

「もしかして、界龍の生徒会長の……」

「あぁ――っくしょん」

少し気が緩んだのか、盛大なくしゃみをかます。

 

「んー濡れネズミのままじゃ、冷えるな」

「そうですね、タオルも濡れちゃいましたし…くちゅんっ」

身体が冷えているのは彼女も同じようだ。というか、ただでさえ氷が剥き出しなのだ、思いっきり冷える。

 

「せめて、濡れた服くらいは乾かせたらいいのですが…」

「そうだな…乾かす、乾かす…やってみるか」

「ほぇ?」

「んじゃあっと」

そういうと、斑鳩は左手をきらめかせスカーレッド・ファブニールを取り出し、地面に突き立てた。

 

 

 

数分後――

 

「おほぉ~あったけぇ~」

「あったかいです~」

若干、人には見せられないような頬の緩んだ顔の斑鳩と綺凛がいた。

 




前書き(謝罪)のようななにか

ユリス「おい作者、なぜ更新が遅れた?」

作者「えっ、いや、そりゃねぇ・・・色々とあったのさ?」

ユリス「本当か?まさか、様々な書類に手間取って遅れたとは言わせんぞ」

作者「…(なんで、わかるの彼女?)」

ユリス「黙秘は図星ととるぞ?――お前をやるのは最後だと言ったな」

作者「あ、あぁ」(^^;)

ユリス「あれは嘘だ――鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!!」

作者「うわぁぁぁぁぁあああああ」(×_×;)

作者より、更新遅れて申し訳ありませんでした。<(_ _)>


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刃雷の願い

「――そういうことね」

「はい…」

斑鳩は彼女のこれまでの話を聞いていた。この学園に入った理由、父を助けたい理由、それと伯父との仲に関することなどをだ。

 

「伯父さんと、そんな感じで仲が悪かったんだ」

「えぇ、けど、棗先輩のおかげで目が覚めた気がしました」

「…一歩踏み出せたってこと?」

「はい、けど、最近わかったことがあるんです」

「何さ?」

「私は、一人では…とても、とてもそんな――」

震える声でつぶやく綺凛。同時に少し罪悪感を感じる斑鳩。斑鳩は、ゆっくりと彼女をやさしく撫でる。

 

「大丈夫だよ」

「あ……」

「刀藤さんは一人じゃないさ、少なくとも俺は力になるよ――それに君が選んだ一歩だ、それなら尚更な」

「…わたしが自分で……」

こちらをまじまじと見つめてくる綺凛。その瞳の奥に何かが煌いたかのように見える。

そんな中、綺凛はこちらを見つめながら口を開いた。

 

「棗先輩、ぶしつけなお願いを聞いていただけますか?」

「あぁ、いいよ」

すっきりした表情の彼女を斑鳩はとらえていた。

 

 

 

 

「なんでまた決闘なんだい?それも俺となんて」

「…どうしても必要だと思ったからです」

「そうか、なら何も言うことはないな」

彼女のこれまでになく澄んだ瞳にその理由を納得する斑鳩。

 

「なら、本気で行かせてもらうとしよう」

「……望むところです」

バラストエリアのコーティングされた氷の上に向かい合って立つ綺凛と斑鳩。

 

斑鳩の内なる意識が集束していく。その集束先は彼女だ。そして、周囲の音が全てシャットアウトされていく。同時に、その気配も斑鳩自身に集束していく。

 

「(小細工なんて必要ない、彼女が本気で来るなら…こちらも本気で相対しよう)」

斑鳩の意識がまるで矢の弦のように張りつめていく。

 

 

 

「では――参ります!!」

あの時と同じように先に仕掛けてきたのは、綺凛からだ。だが、その一歩一歩は斑鳩の意識の中では蚊を落す以上に遅い。その彼女の一歩一歩を捉えているのだ。

 

「(――この一撃で…決める!!)」

そして、彼女が斑鳩のクロスレンジに入ると同時に、その意識下で一気に剣を振り抜く。

ザクンッ!!

確かな手応えと共に、大気が切り裂かれる。ソニックブームが巻き起こり、轟音がこのバラストエリアに鳴り響いた。

 

「…これが、棗先輩の本気ですか…参りました…完敗です」

すっきりした顔の綺凛。同時に、感覚がノーマルに戻っていく。斑鳩は地面に叩き付けられた彼女に手を差し伸べる。

 

「どうも、立てるか――」

「はい立てます――棗先輩!?」

「んっ?」

見れば身体の色々なところから血が流れていた。

 

「(…身体が追い付かなかったってところか)」

そう思いながら、彼女を絶たせてやると

 

「ちょっと、大人しくしていていください」

彼女は、ポケットかとりだしたハンカチで血をぬぐってくれる。

 

「ありがとう」

「いえ」

斑鳩と綺凛は先ほどの壁に腰かける。お互い、ほっとした時間が流れる。

 

「あ、あの…棗先輩」

「ん?なんだい?」

「その負けたのでなんともという感じがするのですが、ふ、二つほどお願いがあるのですが……いいですか?」

耳の先まで朱色に染めながら、小声で言ってくる彼女

 

「お願い……?」

「は、はい、できればその、な、棗先輩のことを、お、お、お名前でお呼びしたになと……」

「いいよ、それで、もう一つは?」

「は、はい……じゃ、じゃあ、い、斑鳩、先輩……」

「うん」

俯き上目遣いにもじもじとしている。それがどことなくではなく確実に愛嬌がある。

 

「……わ、わたしのことも、名前で呼んでもらえます、か…?」

驚いたが、断る理由もないので

 

「わかったよ、綺凛ちゃん」

そういうと、名前で呼ぶと同時に頭を撫でてやることにした。

 

「ふぁ…」

再び顔を赤らめる彼女であった。

 

 




疾風刃雷はかわいい。これは真理


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決意、そして分かれ道

綺凛との一戦があってから数日後――

斑鳩は、綺凛を連れて沙々宮とユリス、そして綾斗と一緒に鳳凰星武祭に向けて練習をしていた。

 

「斑鳩、案内ありがとう」

「いいさ、にしても、綾斗と一緒じゃなくていいのか」

そんな中、休憩もかねて斑鳩は沙々宮とドリンクを買いに校舎内を歩いていた。

 

「リースフェルトに負けるのはなんともいえないけど、これもジャンケン、しょうがない」

「まぁ、俺もジャンケンで負けたしな…」

二人で廊下を歩いていく。

 

「あの服装は…」

やって来たのは、アルルカントのカミラだった。

 

「どうも、カミラさん」

「あぁ、久しぶりだな《絶天》」

上から目線の物言いの彼女。そんな中、カミラは沙々宮の持つ煌式武装へ留まった。

 

「ふむ、これは面白いね、ずいぶんと個性的な煌式武装だ、コアにマナダイトを二つ……いや、三つかな?強引に連結させて出力を上げているようだが――なんとも懐かしい設計思想だ」

「……正解、なぜわかった?」

沙々宮が珍しく驚いた表情をする。

 

「わかるとも、私の専門分野だからね、しかし、言わせてもらえれば、あまり実用的な武装とはいいがたいな」

「複数のコアを――」

とつらつらとカミラが述べ始める。もはやこの領域になるとオタクの域だ。沙々宮は話しについていけてるが斑鳩は文字通りさっぱりの状態で。

 

「(…ロボス遷移方式とか…何言っているかわからない)」

そんな中だった。

 

「……それは事実」

悔しそうに唇をかみながらも、まっすぐにカミラをにらみ返す。

 

「――だが、それでもお父さんの銃を侮辱することを私はゆるさない、撤回を要求する」

「お父さん…?ああ――もしやキミは沙々宮教授のご息女なのか?」

彼女から聞こえたのは懐かしむ響とあざけるような響きだ。

 

「だとしたら?」

「ますます撤回するわけにはいかなくなった」

そういうと、肩を竦めるカミラ。

 

「沙々宮教授はその異端さ故にアルルカントを、そして我らが<獅子派>を放逐された方だ、武器武装は力であり、力は個人ではなく大衆にこそ与えられなければならない、それこそが<獅子派>の基本思想であり、私はその代表として彼の歪さを認めるわけにはいかない」

「……」

一歩も引く気はないという顔でにらみ合う二人。そんな中

 

「ごほん」

わざとらしく咳ばらいをする斑鳩。

 

「……悪かった」

そういうカミラ。そういうと、彼女はその場を去って行く。

 

「……」

カミラの猿姿を険しい顔つきで見る沙々宮。そんな中、彼女はこちらを見据え

 

「斑鳩、お願いがある」

「なんだ?」

「私とタッグを組んで、鳳凰星武祭(フェニックス)に出てほしい」

特に驚きというわけではないが、彼女の言いたいこともわかる。それに今のカミラの態度は個人的にも腹がたったので。

 

「あぁいいぜ、よろしく頼むぞ」

「うん」

そういうと拳を軽く付き合わせた。

 

 

 

 

 

数日後――

 

「あ、あの《絶天》の棗斑鳩先輩ですよね?」

昼休み、北斗食堂のテーブルで斑鳩は綾斗と英士郎の中の良い面子と昼飯を取っていた。そんな中、栗色の紙をした活発そうな女性とが満面の笑みで話しかけてきた。

 

「まぁ、そうだけど?」

「あの、サインをもらってもいいですか?」

そういうと色紙と色ペンを渡してくる。

 

「…俺のサイン?大してかっこよくないよ?それでもいい?」

「えぇ」

勢いを思いっきり殺したが、とりあえず渡された色紙に名前を書いて渡す。

 

「ありがとーございまーす!《鳳凰星武祭》がんばってくださいね!応援してますから!」

サインを受け取った女子は大きく手を振って去って行く。

 

「はははっ、人気だね斑鳩も」

「んー何が好きでサインなんかもらっていくんだが…俺にはわからないよ」

うどんをすすりながら言う斑鳩。そんな中だった。

 

「相変らず人気そうだな、斑鳩」

「ちょっと愛想がよすぎるぞ、斑鳩」

お盆を持ってやって来たのはユリスと沙々宮だった。

 

「おぅ、悪い、あつものだったから先に食べ始めていたぞ」

「いいさ」

そういうと、二人も向かいの席に座り飯を食べ始めた。

 



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魔女《ストレガ》

「にしても、まぁ、オークションに俺のサインも結構高値で出ていたな」

「あー、学生のポピュラーな小遣い稼ぎの一つだな、よくあるよくある」

英士郎が斑鳩の肩を軽くたたいてくる。

 

「まぁ、気にしないほうがいいだろうね、ちゃんと応援している斑鳩のファンだっているだろうし」

「そうだな」

とカレーを食べている斑鳩。

 

「ああ、そういえば二人も参加確定したんだっけ?」

綾斗も沙々宮と斑鳩が組んだということには驚いていた。先日、出場枠に欠場が出たので無事参加が決まった。

 

「無論、その時は全力で迎え撃つ所存」

「やるからには別だ――誰であろうと立ちはだかるならなぎ倒す」

鋭いまなざしを綾斗に向ける。

 

「ふふっ、まあ、そうでなくてはな」

「できれば決勝以外で当たらないことを祈るよ」

「あぁ、そうだな」

そういうと、斑鳩は立ち上がる。

 

「斑鳩、どうしたの?」

「ん、午後の昼寝ってところさ、んじゃあ、後でな」

「うん、待ってる」

沙々宮の肩に軽く手を置き、その場を離れる。それから、人目を避けて通信端末を開く。

そこには、物騒なメッセージが一通あった。

 

「(この手のことは一括してあっちに任せたんだがな…)」

斑鳩が鮮やかに綺凛に勝利しこの学園の一位になってから早一週間、こうしたことは珍しくもなくなっていた。幸い学園にはそういった部分をフォローしてくれる部署があるらしいが

 

「(通したってことは、クローディアの差し金ってところか…)」

彼女にもいろいろとあるのだろうと思いながら、斑鳩は学園の外に出てメッセージの指定された場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

指示された通りやって来たのは、再開発地区の所謂廃棄物処理場跡地だった。

 

「(…なんだ、ここ?)」

周囲の様子がおかしかった。無理もない。このあたりの木々が残らず枯れているのだ。あるのは、産業廃棄物だけ。そのごみの山の中央に人影が一つぽつんと佇んでいる。

 

「――誰?」

レヴォルフの制服を着ているが、それ以外は肘まで覆う長い手袋と白タイツだけ。そして、その静かな声は凍てついているかのように冷たく、地の底からでも響いてくるかのような暗くうつろだ。

なにより印象的なのは、まるで雪のように真っ白い髪と紅玉の双眸だ。まさに紅い月だった。

 

「…誰って、棗 斑鳩ですけど」

「そう…」

同時に、巨大な星辰力が膨れ上がる。その量たるや尋常ではない。まさに無限としか言いようがない。

 

「――ッ!?」

空気が震え、全てをねじ伏せ、押しつぶすかのような凶悪な威圧感が放たれる。確実に戦闘になると察した斑鳩は、すぐさま身構える。

 

「(なんだよ…ありゃ)」

彼女の足下から煙のように昇り立つ無数の腕が亡者のそれの如く蠢いている。

 

「(あの腕にクロスレンジで挑むのは、危ないだろうな…)」

そういうと、ライトニング・アローを彼女のその腕にめがけて放つ。

だが、毒々しい黒褐色のその腕によって止められる。斑鳩は、間髪入れずにウインド・カッターで風の刃を作り出し攻撃していく。物理的効果はない物の瘴気を少なからず飛ばす。

 

「(風系の《魔女》ってわけか…)」

とはいえ、止まるわけにはいかないので斑鳩は、懸命に攻撃を加えていく。

 

「なぁ…お姉さん、引いてくれないか?」

「今の私とあなたの運命は、ここにある、もしあなたがどうしても私を従わせたいというのなら――」

「実力行使でやってみろってか、極めてわかりやすいことだな」

「そう貴方には何も罪はないけど、ここで堕ちなさい」

「なら、やってみろ!!」

ほんの一瞬、彼女の顔が興奮に変わるが、すぐさま表情が戻る。

とはいえ、先ほどからあの触手もどきのようなものに攻撃が阻まれる。

「(うにょうにょしやがって…)」

心の中で舌打ちする。彼女の毒を察知し、一応風の魔法で防いでいるが、今後どうなるか分からない。

 

「(無味無臭の神経毒といったところか…)」

状況を冷静に考察するが、彼女は依然佇んだままだ。それが妙に腹が立つ。そんな中

 

「――あなたの運命はか弱い…だから」

彼女が物憂げに眉を寄せ、その右手を握り締める。そして、彼女の周囲から瘴気が沸き上がる、

 

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

彼女がつぶやくとその黒褐色の腕は地を這うように素早くこちらに飛んでくる

 

「――ッ!!」

デッドリー・シンズの7連撃攻撃でその腕を八つ裂きにする。

 

「防がれた…」

表情は変わらないもののほんの少し声音には驚きが混じっている。同時に嬉しさも

 

「(迷っていられそうにないな…)」

スカーレットファーブニルを取り出し構える。すると、彼女の毒を取り込んで一気に燃え上がる。

 

 

 

「――《魔女裁判》の時間だ!」

斑鳩は凄みをつけて言った。

 



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火葬の時間

「――《魔女裁判》の時間だ!」

斑鳩は凄みをつけて言う。視線の先には彼女がいる。

 

「…運命は、変わらない」

無表情で先ほどとは数百の腕を繰り出してくる。それを全て剣で防ぐ。

 

「まずは、これだ」

「――ッ!?」

彼女の姿勢が一気に崩れる。無理もない、この世界に来る前に"とある妖精王"が使ったとされる重力魔法を使ったからだ。

そこから、タイラント・ハリケーンで巨大な竜巻を発生させて彼女の瘴気を一瞬無効化し、竜巻と共に飛ばしていた雷雲からサンダー・ボルトで相手を強制的に麻痺状態に陥れる。

苦悶の表情をする彼女。我ながら酷いことをしているという自覚はあるものの、全く手を緩める気などさらさらない。

 

 

 

「さぁ、こっからがメイン(火葬の時間)だ…」

種はできた。後は、燃やすだけだ。斑鳩はスカーレットファーブニルを振るう。

 

「待ってそれは――」

「いや待たん」

一気に振り下ろすと同時に業焔の旋風が巻き起こる。彼女の瘴気を種として燃え上がっていくのだ。

比例的にその焔は増殖していく。

同時に、その旋風の中から彼女の苦悶に満ちた声が聞こえてくる。

それから、彼女の瘴気を燃やし始めて数時間後、どうやら、瘴気は消え焔の色が普通の色に戻る。

斑鳩は、火葬をやめ、旋風を収束させ彼女に駆け寄る。気づけば周囲の産業廃棄物も跡形もなく燃え尽きている。

 

 

 

「…あう」

彼女に駆け寄り、その身体を抱きかかえる。所々ではなく、服装の大部分が燃えていた。

 

「さて、その毒をきっちり吐き出してもらいましょうかね――|汝は満たされる、聖なる水、冷たい死を遠ざける《スー・フィッラ・ヘイラグール・アウストル・ブロット・スバール・バーニ》」

彼女の全身に掛けると同時に、その高位回復呪文によって生成された水を飲ませる。すると、彼女は思いっきり吐血と共に体の中の何かを吐瀉する。

 

「おい、大丈夫か!?」

斑鳩が声を掛けるものの黒い何かを吐瀉をしまくる。

 

「(まさか、体内から毒を吐き出しているのか…?)」

斑鳩は、高速詠唱で何度もそれを行う。何度も行うたびに、彼女の身体から毒素と思わしきものが吐瀉される。このままでは体力がと思い、斑鳩は懐からこの世界の物ではない甘酸っぱい不思議な味がする液体が詰まった小瓶を取り出し、彼女に呑ませる。それを飲ませた直後、彼女は盛大に黒い何かを吐瀉すると共に意識を失った。

 

 

 

「(……やべぇ)」

若干、事の重大さに気付きつつも、ここにいる必要性もないので、斑鳩は彼女をお姫様抱っこし産業廃棄物処理場を離れ、近くの海浜公園に向かった。

 

「(こんなところか・・・)」

心地よく海風に吹かれながら気絶した彼女の顔を覗き込む。その寝顔は年相応の可愛らしいものだ。

 

「(この世界に来て初めてか…)」

この世界に来て初めて女の子をお姫様抱っこしたなと思いながらいる斑鳩。

 

「(にしても…)」

若干頭をかく斑鳩。無理もない、彼は今問題に直面しているのだ。問題とはズバリというわけではないが、彼女の服装だ。一応マントを羽織らせているが、彼女は全裸だ。斑鳩が手加減なしてやってしまったために下着まで燃やしてしまった。故に全裸だ。かろうじて人がいないから何ともないがこのままだと下手に人にでも見られれば<絶天>という二つ名が<変態>の称号に変わりかねない。

だが、ここにきてもう一つ重大なことに気付いた。

 

「…消えている?」

見れば先ほどまで彼女から放出されていた禍々しい瘴気が完全に消えていたのだ。

 

「――まさかな…」

と思いつつ入ると

 

「ん…うぁ」

彼女が目を覚ました。

 

「おはよう――襲撃者さん」

「どちらかというと、今の立場から見ればあなたよ」

彼女は自分の置かれている状況を確認してからそういう。斑鳩に10のダメージ。

 

「ハハハ・・・それは言わないでくれ」

苦笑いしながらいう斑鳩。そんな中、彼女は視線の先の海と周囲に広がっている草むらを一瞥し

 

「変わったのね…運命は」

どこか哀愁深く、そして慈しむように、そして嬉しさの籠った声音でいう彼女。その二人を斜陽が朱色に照らしていた。そんな中、彼女はこちらを見る。

 

「貴方、名前は――いや、聞くまでもないわね、棗斑鳩」

「そっちは俺の名前を知っていて当然だよ、何せ俺を襲ったんだからな」

「そうね、自己紹介がまだだったわね、本当ならここで立って自己紹介したいけど生憎運命が変わって早々、私は露出狂になる気はないし、この格好でいる気もないわ、貴方携帯持っている?」

「え、あぁ」

どこかで誰かがみているんじゃないかと思いながらも斑鳩は彼女に携帯を貸す。すると慣れた手つきでダイヤルしどこかに電話をかけ始める彼女。そして、数分後やって来たのは、同じレヴォルフ学園の生徒だった。

そして、その手には手提げバックがあった。

 



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魔女のひとめぼれ

ヒロイン様の登場です!


「あ、オーフェリアさん」

その女性は彼女のその格好に驚いていた。というより斑鳩も驚いていた。なにせ、現れたのがプリシラ・ウルサイスだったからだ。

 

「悪いわねプリシラさん、制服持って来てもらって」

「いえ、これくらい何ともないですよ、はい、制服です」

「ありがとう」

そういうと彼女は制服を受け取り、着替え始めるので斑鳩は目を逸らすと

 

「あら棗斑鳩、見ててもいいわよ?」

「いや、いいさ」

「そう」

にしても、見てないとみていないでこれまた興奮するのはなぜだろうと思いながらいる斑鳩。

 

「あっ、オーフェリアさん、きつくないですか?」

「まぁ、胸元が少しきついけど気になる程度だし、暫く戦闘しない予定だからいいわ」

布擦れの音が妙に生々しい。それから数分も経たずに

 

「さて、着替え終わったわよ」

そういうと斑鳩は彼女の方を向く。

 

「――」

斑鳩は息を呑んだ。夕陽の光がオーフェリアを後ろから照らしており彼女の綺麗な銀髪と雪のような白い肌、そして雰囲気の変わった紅の瞳が凄絶な間での美しさを際立たせていた。まさに後光が照らしているといったところだ。そんな中、彼女はこちらに視線を向け

 

「私はオーフェリア、オーフェリア・ランドルーフェン。レヴォルフ学園の第一位《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》よ」

「…マジかよ」

此処に来て見えない事の重大さに気付く斑鳩。そんな中

 

「んじゃあ、私は姉のことがあるのでここでお暇しますね」

「えぇ、ありがとうプリシラ、このお礼はいずれ精神的に、ね?」

「はい」

駆け足でこの場を去るプリシラ。そして、この場で再び二人きりになる。

彼女は斑鳩のすぐ隣に座りこんでくる。同時に、正に今落ちる寸前の夕陽が二人を照らす

 

「…にしても、綺麗ね――こんなにも綺麗だなんてね」

うっすらと彼女の頬に涙が流れる。斑鳩はハンカチを出して渡そうとしたが、彼女はその前にこちらに向き。

 

「ねぇ、棗斑鳩」

「ん?なんだい?」

「少しわがまま言っていい?」

「わがまま?」

「えぇ」

そういうと彼女は顔を赤らめる。と同時に言葉を紡ぐ

 

「その……貴方のことを名前で呼んでいい?それと私のことも名前で呼んでほしいなって」

「あぁ、いいよ」

若干デジャブを感じるが別段断る理由もない斑鳩。彼女はベンチから立ち躍る様な足取りで斑鳩の前に出て、涙ながらもくるりと振り向き

 

「――ありがとう、本当にありがとう」

今までの強気な彼女と違う。まさに懸命にそれにこちらに向けて一心不乱に伝えられる言葉だった。斑鳩は思わず立ち上がり、彼女に駆け寄り、いつの間にか彼女を抱きしめる。

 

「――運命を…私の運命を変えてくれてありがとう」

真っ赤な夕陽が二人を照らしていた。そして、うっすらと彼女の涙が夕陽に照らされ煌いた。

 

 

 

 

 

数時間後

辺りはすっかり夜になっていた。斑鳩は彼女が泣いている間に、念のためクローディアと寮監に連絡を入れておいた。

 

「落ち着いたか?」

「ん、えぇ」

一しきり泣いたオーフェリアを半ば介抱していた斑鳩。

 

「(にしても、俺もこの世界に来てから本当に変わっちまったな…)」

いま、やっている行動を昔の自分に見せたらなんといわれるのだろうなと思いながら彼女の肩を抱いていると

 

「これが人間の温もりなのね…温かいわ」

「…ん、あぁ、とりあえず立てるか?」

「えぇ」

そういうと、軽く彼女の手を引いて立ち上がらせる。

 

「んじゃあ、オーフェリアが出来なかったことでもしに行こうか」

「…?」

そういうと斑鳩は近くの自販機まで一緒に歩いていく。

 

「なんか飲みたいものある?」

「いいの?」

「あぁ」

「…そうね、コーヒーでもいただこうかしら?」

「オッケー、まぁ、高校生にならではの行動その1、制服で自販機での買い食いってところかな?」

そういうと、彼女に缶コーヒーを渡して二人で飲む。

 

「あぁ落ち着くわ」

「だろ」

そういうといつの間にか肩と肩が触れ合っていた。

 

 



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開幕 鳳凰星武祭

作者より

更新遅れて申し訳ありませんでした。言い訳はあとがきで~


「――タイムアップ」

「っていったところだな」

「・・・ですね」

プロキオンドームの控室。斑鳩は小さくため息を吐く沙々宮と共に立ち上がる。

ちなみに、部屋には綺凛も一緒にいる。

 

「なにがあったのでしょうか……?」

「まぁ、何かあったんでしょうな」

とタイミングよく連絡が入ってくる。どうやら何かに巻き込まれたらしい。

 

「ま、もう試合は始まるし――いくか」

「しかない」

紗夜と斑鳩は顔を見合わせ歩き出す。斑鳩は、空間ウィンドの中でうなだれる綾斗に対して

 

「ま、とにかくそっちが終わったら控え室集合な、言い訳はあとだ」

『了解――じゃあ、がんばって』

「おう」

空間ウィンドが消える。同時に、紗夜の表情がやる気に満ちた顔になる。

 

「んじゃあ、行きましょうか」

「うん」

そういうと、斑鳩は歩き出しさっさと控室を出て、その後ろを紗夜が追いかけるようについていく。

そんな風にお互い心地よさの中、ゲートをくぐった。

 

 

 

 

『こぉーこで登場したのは星導舘学園の新序列一位 棗斑鳩選手と、そのパートナー沙々宮紗夜選手だぁああ!!』

ゲートをくぐってステージに入る二人。迎えたのはやけにハイテンションな実況の声。

『棗選手と言えば、その戦闘スタイルを変えてから数日も立たずに序列一位の座を手にしたルーキー!その実力は折り紙付き!』

『いやぁ、にしても棗選手は本当に謎の多い人物ですねー』

『そうですねー、一方沙々宮選手も泰然自若とした態度ですねー』

斑鳩と紗夜の相手、一人は長髪を首の後ろでくくった線の細い青年、もう一人はがっしりとした禿頭の青年だ。腕の紋章から見るに界龍の生徒だった。

 

「さて、紗夜どうする?」

斑鳩が聞くと慣れた手つきで煌式武装を展開させる。重厚で無骨な銃が現れる。

 

「三十四式波動重砲アークヴァンデルス改か」

一通り目を通している斑鳩。何が何なのかは頭の中に入っている。

「斑鳩の好きなように」

「あいよ」

『《鳳凰星武祭(フェニックス)》Lブロック一回戦二組、試合開始(バトルスタート)!!』

試合開始の宣言と共に、斑鳩は相手の間合いに一気に踏み込む。その手には、いつの間にか現れていたエリシュデータが握られている。斑鳩は、相手が拳を構える隙も作らず、斑鳩は一気にトップスピードに到達し下腹から胸元を斬りあげる。その直後、斑鳩を初めて捉えた青龍刀の使い手がそれを振り下ろしているが、それを跳ね上げ、身体を反らし、

 

「(バーチカル・スクエア!!)」

剣を青白い残光と共に4連続で振るう技を炸裂させ、相手をのけぞらせる。そこに斑鳩は、横方向でのサマーソルトキックで相手二人を蹴り飛ばす。そして、蹴った先は紗夜の波動重砲の射線だ。

 

「…《バースト》」

大地震でも起きたかのような振動と衝撃波、そして青年二人がステージの端まで吹き飛ばされ、すさまじい勢いで防御障壁へ叩き付けられ、そのままぐったりと地面へずり落ちた。

 

「試合終了!勝者!棗斑鳩&沙々宮紗夜!」

『は、はやぁい!さすがは星導舘の序列一位というべきか、まさか二人の攻防を一瞬で制したのは!棗選手と沙々宮選手だ―!』

勝利を宣言する機械音とアナウンスと共に会場がどよめいた。

 

「ま、こんなところかな」

「流石斑鳩」

お互い拳を突きあわせ控室に二人で戻ることにした。

 

 

 

 

 

戻ってみると、そこには綾斗とリースフェルトが来ていた。二人と軽く言葉を交わした後、斑鳩は一人でドームの自動販売機の売り場まで歩いていた。

 

 

「お疲れ、斑鳩」

「ん、オーフェリアか」

自販機で呼ばれた方向を見ると、そこにはオーフェリアがいた。

 

「にしても、一瞬だったわね、流石私を処刑した人だけあるわ」

「ありがとう、にしても此処にいたらユリスにばれるんじゃないのか?」

「さぁ、彼女はどうだろう、案外見つからないものよ」

「そういうものかね」

「えぇ、にしてもパートナーさんと一緒じゃなくていいの?」

「あいつにはあいつの交流がある、それに悩ますのは俺がすることじゃない」

「へぇ~、それで、大丈夫なの?」

彼女が表情を変えて聞いてくる。

 

「大丈夫さ、少なくともあんたに心配をかける程度じゃないよ」

「そう、ならいいけど・・・」

「まぁ、あんまり気にするな」

彼女の頭に軽く触れて撫でてやる。

そして順当にというか、予選総合試合時間まさかの10分で斑鳩と沙々宮は予選突破、そして本戦進出を果たした。

 




作者より~言い訳コーナー~

ユリス「おい作者、どうしてこのようなことになった・・・」

作者「僕の社会的立場がね・・・混濁したんですよ(泣)」

ユリス「そこでまさかの追い打ちを掛けるように39.5の熱か、よく死ななかったな」

作者「死にかけはしましたよwww」



そういうことで、更新が遅れてすいませんでしたーー!


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プリシラ・ウルサイス

本戦抽選日――

 

斑鳩は特にやることもないので、綺凛と二人で商業エリアをふらついていた。といっても、《鳳凰星武祭(フェニックス)》で有名になったので一応変装して街に繰り出していた。といっても、余り無駄遣いしない人間なのでウィンドショッピングなのだが。

 

「にしても、ほんとに人が多いな~」

「まぁ、《鳳凰星武祭(フェニックス)》ですからね~」

と脳天気に歩いている斑鳩と綺凛。そんな中、斑鳩の携帯端末が鳴った。

 

「…おいおい、綾斗からだよ」

「天霧先輩からですか?」

「あぁ――もしもし……なに、沙々宮が迷子になった!?そんで…まぁ、そういうことね、ん、わかった、こっちで探すよ」

いくつか言葉を交わして電話を切る。

 

「…何か、あったんですか?」

「あぁ、どうやら沙々宮も商業エリアに来ていたらしいのだが、いつの間にかふらふらしていたら迷子になってしまい、綾斗に助けを求めてきたらしんだが、クローディアと一緒らしく本戦抽選会であまり身動きが取れないらしい。それで、商業エリアにいるであろう俺らにってところだ」

 

「あらら…んじゃあ、探しましょうか」

「だな」

綾斗から送られてきた通信端末とシグナルと共に、斑鳩と綺凛は商業エリアのはずれに向かった。

 

 

 

 

「さて、たぶんこの辺りだろうな」

斑鳩はそういって、街並みをぐるりと見まわす。二人はアスタリスクの西部に来ていた。

 

「ここからは足で探すか」

「そうですね……」

綾斗の指示で紗夜には、そこから動くなと厳命しているので捜索範囲が広くなることはないと思う。

 

「とりあえず手分けするか」

「はい、それじゃあ私は向こうを見てきますね」

「あぁ、頼んだよ、綺凛ちゃん」

「はい!」

そういうと、小走りで走っていく綺凛。それから、路地を一つずつしながら探していると

 

「――」

路地の先から人の声らしきものが聞こえてくる。耳を澄ますまでもなく斑鳩は気配を消して走り出す。

そして、様子を窺うと、そこには複数の男たちに取り囲まれている女の子がいた。

 

「(おいおい、あれは…)」

女の子は見覚えがある顔。というより、色々と世話になった顔だ。無理もない女の子はプリシラ・ウルサイスなのだ。

 

「おいおい、あんまりわめいてくれんなよ、面倒くせーのは嫌いなんだ」

「そうそう、まぁ恨むんならおまえのねーちゃんを恨むんだな」

「んー!んんー!!!」

「(ま、こういうのはほっとけないものでね…」

そういうと、派手に音を鳴らして姿を現す。

 

「な、なんだてめぇ!!」

「ただの通り過がりなんだけど――っと、おやプリシラさんじゃないか」

斑鳩は彼女に視線をやる。

 

「あぁんッ!?テメェ知り合いか?」

「まぁね、その子、放してもらえないかな?」

「突然割り込んできてふざけたことぬかしてくれるなぁ、兄ちゃん」

こっちを睨みつけているが次々と煌式武装を起動させる連中。

 

「さて、ならべく穏便に行きたいところだが、そちらが刃を向けた以上――報いは受けてもらうぞ」

そういうと、斑鳩はファイティングポーズを取る。すると、何人かの連中が飛び来んでくる。

 

「(さて、ここでお披露目になるとはな)」

斑鳩は、彼らの鼻元に手をかざすと飛び込んできた連中が一瞬で倒れ込む。そして、間髪入れずにプリシラを取り巻いている面々を気絶させる。

「さて、逃げましょうか」

「あ、あの…!?」

どうやらこちらの騒ぎに気付いたらしい。土地勘のない斑鳩にとってはここは非常に面倒なフィールドなので彼女の手を引いて走り出す。そして、少しだけ走り

「んじゃあ、跳ぶからしっかり掴まっていてね」

彼女を抱き寄せ、一気に建物の屋上まで飛び上った。

 

「さて、大丈夫かい?」

「い、いえ、とんでもないです!危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

「いいさ、それより君のお姉さんと連絡取れるかい?」

「あぁ、もちろんです」

斑鳩は彼女が通信している間に、下に罠をまき散らす。

 

「あの、棗さん」

「ああ、ごめん、お姉さんと連絡はとれた?」

「はいっ、すぐに迎えに来てくれるそうです」

「そっか、まぁ、これで一安心だろうな」

耳を澄ますと、眼下の生徒たちはバタバタとまるで毒ガスでもまかれたかのように倒れていく。

 

 

「さて、どうして一体あんなことになったんだい?」

斑鳩は彼女に話を聞くことにした。

 



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イレーネ・ウルサイスと歓待

「さて、どうして一体あんなことになったんだい?」

「あの人たちは、歓楽街(ローリヒト)にあるカジノの方々だと……思います」

「歓楽街?」

「えぇ、再開発エリアの一部に非合法のお店が集まっている場所があって、そこの通称なんです」

「へぇ~もしかして、そこで姉がやらかしたと?」

「えぇ、あ、あの、でも誤解しないでくださいね!お姉ちゃ――あ、姉は確かにちょっと乱暴で気が短いところもありますけど、本当はすごくすっごく優しい人なんです!」

プリシラは腕を振りながら熱弁する。

 

「そうなんだ、あぁ、今更だけど俺は棗斑鳩、よろしく」

「プリシラ・ウルサイスです」

差し出した手を握り握手する。すると

 

「おい、そこでなにしてやがる」

鋭い声と共に、背後から猛烈な殺気が斑鳩へと叩き付けられる。斑鳩は振り返ると、そこには鎌を構えたイレーネが虚空に浮かんで立っていた。

 

「お姉ちゃん!」

「……まさか、プリシラに手を出したんじゃねぇだろうな?」

「ち、違うよ!さっき言ったでしょ!棗さんは、私を助けてくれたんだってば!」

「黙ってなプリシラ、大体なんで「イレーネ、少し落ち着きなさい」なぅ!?」

聴く耳を持たないイレーネが一気に飛びのく。其処にいたのはまたもやオーフェリアだった。

 

「お、オーフェリア!?」

「久しぶりねイレーネ、とりあえず落ち着きなさい」

「は、はい」

冷や汗を浮かべながら両手を前へと突き出し、首を縦に振って武器を収める。

 

「ったく、なに面倒な事に首つっこんでんのよ?まぁ、プリシラちゃんを助けてくれたことには感謝するわ」

そんな中、イレーネはこちらを向き

 

「ただ――あんたには二つ程聞きたいことがある」

「……お姉ちゃん?」

「イレーネ?」

「ヒィゥ!?聞くだけだ、聞くだけだ!手は出さねぇよ!それならいいだろう?」

「よし」

「うーん…別にいいよ」

「一つ目、ここの下で転がっていた連中はあんたがやったのかい?」

「まぁ、そうだ」

「…そうか、それであんたはこの通りを偶然通りがかったらしいが、何の用があってさ?」

「それは――っとそうだったな」

通信端末を開くと、そこには紗夜と綾斗の顔が映し出される。

 

「綾斗見つかった?」

『まぁね、綺凛ちゃんも一緒だよ』

「そうか、んじゃあ、後で合流だな、追って場所は連絡するわ」

『ん』

連絡を終え二人に向き直る

 

「まぁ、ちょっと迷子になった友人を探していたのさ」

「――だってさ、お姉ちゃん」

得意げにいうプリシラに対して、大きく息を吐いて肩を落とすイレーネ。

 

「ちっ、わかったよ、借りができちまったな」

「別にいいさ」

そういうと、斑鳩はその場を立ち去った。

 

 

 

 

翌日の夕刻――

斑鳩は、プルシラよりどうしてもお礼がしたいということで、彼女が指定した場所に出向いていた。そして、目の前にはそこそこ高級のマンションがある。

 

「(招かれたというからどこかの店と思えば…まぁ、マンションか…いやいやいや)」

斑鳩は意外なものに対して豆腐メンタルを発揮していた。無理もない、斑鳩の人生で初"女の子の部屋に招待された"のだ。以前の世界ならこんなこと考えられない。故にガチガチに緊張している斑鳩。どうやら、完全に及ばれされたらしい。

それから指定された部屋に向かうと、あっさり扉が開き、エプロン姿のプリシラが満面の笑みで迎えてくれた。その行動に思わずドキりとする斑鳩。

 

「いらっしゃいませ!さぁ、遠慮せずにあがってください、すぐにお料理の用意をしますから」

部屋に入る斑鳩。綺麗に片づけられたリビングにテーブルセットがあり、椅子の一つに仏頂面のイレーネがいた。流石にジーンズにTシャツというラフな格好だ。

 

「……よぉ」

「お、おぅ」

ちなみにガチガチなのは斑鳩である。そんな中、こちらに気付いたイレーネが少しニヤリと笑い。

 

「お前、緊張しているのか…?」

「まぁな…だって初めてだし」

そういうと、イレーネはこちらを一瞥し笑う。

 

「ハハハッ、星導舘の一位様にこんな弱点があったとわな~にしても顔紅いぞ」

「わ、わーってる」

完全にからかわれている斑鳩。

 

「可愛いじゃねぇか…このギャップ癖になりそうだ」

辞めてくれと言わんばかりのものだ。

 

「お待たせしました!」

とそこへプリシラが料理を運んできた。

 



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それは奇偶が必然か故意か?

「ひよこ豆とトマトのサラダ、ポテトのアリオリソース、小エビのニンニク唐辛子炒め、それからマッシュルームのセゴビア風です」

「おぉ~」

見たことのないおいしそうな料理の数々に思わず緊張もほぐれる。

 

「これこれ!」

「って、お姉ちゃん!お行儀悪いでしょ!」

イレーネは斑鳩が見たこともない笑顔で早速料理に手を伸ばすが、それをぱっしっとプリシラが叩いて止める。

 

「ま、んじゃあ冷めないうちにいただきましょうか」

「えぇ、いただきます」

そういってマッシュルームを一口食べる。

 

「美味しいな」

料理はすこぶる美味しい。同時に家庭的で暖かい。ほっとするような味だ。思わず箸が進む。

 

「わっ、ありがとうございます」

「ふふん、そうだろうそうだろう」

そんな中、ふと玄関のチャイムが鳴った。

 

「あれ、誰だろう?」

「ん?こんな時間に…俺が出る」

イレーネが立ち上がり玄関に行く。それから、

 

「おい、何者だ――」

「イレーネ、私よ、オーフェリアよ」

「お、オーフェリアッ!?」

素っ頓狂な声を出すイレーネ。どうやら、今日は彼女の意外な面をかなり見ている。

 

「ちょっと手が塞がっているから、開けてもらっていい?」

「お、おう」

そういうとイレーネがドアを開けると其処には、鍋掴みにエプロン姿という何とも言えない格好で鍋を持ったオーフェリアが其処にいた。

 

「あ、オーフェリアさん、どうもこんばんわ~って、鍋どうしたの?」

「一人で食べるの寂しくてね~たまにはってことよ、それに斑鳩もいるみたいだし」

「あぁ~いいですね~ちょっとメインが物足りないかな~って思っていたところなんですよ」

 

「あら、奇偶ね、ならなべてもしましょうか」

と中に入ってくるオーフェリア。そして、急遽鍋会になると同時に、人口密度が上がった。というより

 

「(これなんてエロゲ!?)」

自分に問いかけたくなる斑鳩。

 

「にしても、結構濃い面子ね~」

「そうですね~自分でもそう思っています」

オーフェリアがいうことに同意するプリシラ、ちなみに斑鳩も同感だ。

星導舘の一位とレヴォルフの一位、それに鳳凰星武祭の優勝候補とまぁ、これで濃い面子でなかったとしたら、あとどんくらいになるのかというレベルだ。そんな中

 

「にしても、他の学園の奴と同じ鍋を喰うとはな、思ってもいなかったぜ」

鍋をつつきながら言うイレーネ。

 

「それは俺も思うさ、にしてもオーフェリア、これは何鍋だ?」

「何鍋にしたい?」

「「「――ッ!?」」」

ここでプリシラ、イレーネ、斑鳩に衝撃が走る。

 

「まさか…闇鍋を」

「なーんて、冗談よ、大根と豚肉の醤油鍋ってところよ、にんにくも少し入っているわ、まぁ、私はほっかほか鍋って呼んでいるけど」

「へぇ~」

と斑鳩は鍋を食べ始める。醤油が効いたいい鍋だ。出汁も効いている。

 

「あぁ~温まる~」

「うへ~こりゃいい~」

イレーネと斑鳩の頬が緩む。多分、この状況が英士郎などに知られれば翌日学園新聞に嫉妬満載のうらやまけしからんと言った文面が載るだろう。とはいえ、今はこの状況を楽しみたい。

 

「斑鳩、頬が緩んでいるわよ」

「思わず頬が緩むほどの美味さだからな~」

「…///」

斑鳩にそんなことを言われたオーフェリアの顔が途端に赤くなる。同時にイレーネが"こいつどうしようもねぇ奴だ"といった顔をする。それから、鍋も終わり食後のお茶も終わり

 

「さて、んじゃ、自分もお暇しましょうかね~」

「そうね、私もそうしましょうかしら、二人とも明日《鳳凰星武祭(フェニックス)》でしょ?」

 

「ん、あぁ、そうだったな――すっかり忘れていた」

ケラケラと笑ながら言うイレーネ。どうやら、本当に忘れていたといった感じだ。

 

「気分がリフレッシュできたらからね~明日は頑張れそうだよ」

「おう、頑張ってくれよ」

「はい」

斑鳩の言葉に満面の笑みで答えるプリシラ。

 

「さて斑鳩、送るわ」

「いいのか?」

「いいのよ」

そういうと斑鳩は、オーフェリアに送ってもらうことにした。

 



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故郷よりの来訪者

数日後

「お疲れ沙夜」

「そっちこそお疲れ、斑鳩」

ドームの控室で拳を軽くぶつける斑鳩と沙夜。無事、五回戦を突破したのだ。

 

「どうやら天霧の方も順調といったところか」

「みたい、斑鳩いく?」

「もちろん」

そういうと斑鳩と沙夜は立ち上がる。そんな中、唐突にノック音が響き空間ウィンドが開いた。

 

『斑鳩先輩、ちょっと困りましたー』

そこには弟子であり師匠でもある刀藤綺凛の姿があった。

 

「綺凛ちゃん、どうしたの?」

『そ、それがその、リースフェルト先輩に来客なのですが、ちょっと…』

「わかった、とりあえず入ってくれ」

そういうと、斑鳩は心のどこかで面倒な事になったと思いながらドアを開いた。

 

 

 

 

「じゃあ、君はリーゼルタニアから一人で?」

「あい!フローラと申します、みなさま、よろしくお願いします!」

若干舌足らずな所もあるが、フローラと名乗ったその少女は直角になるくらい深々と頭を下げた。

どうやら、話を聞く限りユリスの関係者らしい。

 

「そんで?」

斑鳩が綺凛の方に視線をやる

 

「受付で随分と難儀していたようなので、話を伺ってみたらリースフェルト先輩のお知り合いだとおっしゃるものですから」

凄く目立っていたであろう光景が瞼の裏に浮かぶ。

 

「あい、助かりました!ありがとうございます、刀藤様」

それにしても控室に入ってもらったが、違和感がすごい。

 

「まったく、来るなら来るで一報くらよこせばいいものを……」

フローラの頭をやさしく撫でながら困ったように笑う。

 

「だって陛下が《鳳凰星武祭》のチケットをくれる代わりに、姫様似は絶対内緒にしておくようにって」

 

「はぁ…兄上は相変らず戯れがすぎるな、どうせその格好も兄上の入れ知恵だな?」

「あい、それでいけば姫様もすぐにわかるからって」

「(一歩間違えれば警察行きだがな…)」

ユリスはこめかみを押さえながらため息を吐く。とはいえ、その服装から見ても、妙に着こなしている感じがある。

 

「でもでも、今となってはフローラの普段着みたいなものですから、着慣れていて楽ですよ?」

「そうは言っても、ここは王宮ではないのだからその格好はな」

「普段着って?」

綾斗がユリスに尋ねる。

 

「フローラは王宮付きの侍女として働きに出ているのだ、まぁ、まだ見習いといったところだが」

「(だから、ってわけかー)」

と納得する斑鳩。

 

「あ、そうそう!陛下から御言付けがあったのでした、『年末までには一度戻ってくるように』だそうです」

「ふん、兄上め、どこぞからせっつかれでもしたか…まぁいい、言われなくても、どうせ一度戻らなくてはと思っていたところだ、それにみんなのところへ顔を出さないとならんしな」

「あい!みんな心待ちにしています!」

 

「それと、陛下といより孤児院全体からなんですが、学園都市にいるはずの『"班目鴉(マダラメカラス)"』という人を探してくれということです」

「――『"班目鴉(マダラメカラス)"』?フローラなんでだ?」

「陛下の話だと、孤児院にすごい寄付をしてくれたそうなんです」

「孤児院に?すごい寄付?」

「えーと」

そういうと、何やら手紙を取り出す。

 

「フローラ、見せてくれ」

「あい!」

彼女がその手紙をユリスに渡すと、ユリスの顔がひきつった。

 

「な、なんだこれは!?た、確かなのか!?」

「あい、陛下自らが確認しました、この数だそうです」

「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億、千億!?」

振り込まれた金額を見て顔を引きつらせるユリス。桁が違うというレベルではないのだ。

 

「確かにこれは探さないといけないな」

「ということです」

「わかった」

そういうユリス。そんな中、

 

「あぁ、そうだ、ねぇ、フローラちゃん?」

「あい?」

「故郷でのユリスってどんな感じなのかな?」

「…なんだ、やぶから棒に?」

「いや、純粋に気になっただけだよ、ほら、ユリスはあんまりそういうことを話してくれないからさ」

 

「……そうだったか?」

実際、めったにないのは事実である。

 

「んー、どんなと言われましても、特に今と変わりませんよ?」

そういうと、ユリスの故郷のことについて話し始めた。

 



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ユリスの思い出

「んー、どんなと言われましても、特に今と変わりませんよ?」

少し考えた後話し始める彼女。

 

「フローラ達と一緒に居るときはやさしくて、暖かくて、お城に居るときは凛々しくてかっこよくて――だから、今とおんなじです」

「へぇ~」

「へえ~」

綾斗と斑鳩の声が重なる。

 

「あ、そうだ!なんでしたら写真を観ますか?」

「写真?」

「あい!フローラのケータイには孤児院で撮った写真がいっぱい入っていますから」

そういうと、彼女は携帯端末を取り出す。

 

「いや、もうそのくらいでいいだろうに」

「…ほほう、それは興味深い」

「実に興味深い」

「わ、私もちょっと気になります」

上から沙夜、斑鳩、綺凛である。それから、次々と空間ウィンドウを展開していく。

 

「――っと」

写真の中の一枚、かなり際どいのあったので、慌てて視線を逸らす。

直後、声にならない悲鳴を上げたユリスがフローラから携帯端末を奪い取り、一瞬にしてすべてのウィンドウを閉める。

 

「(うん、今のはヤバかったな)」

流石にバスタオル一枚はということだ。

 

「…それにしても、こんなに小さい子を一人で寄越すのは少々問題」

と話題を変える沙夜。確かにもっともなところである。

 

「兄上は私同様、自由にできる資金はあまり持ち合わせていないのだ」

「統合企業財体でってところか?」

「あぁ、そういうことだ、従順な分、それなりに融通が利く、《星武祭》のチケットまでならその伝手でどうにかできよう、が、移動費用や滞在費まではおそらく無理だ、シスター達が捻出したのだろうな」

 

「…あい、こつこつ貯めていた蓄えから出してくれたみたいです、ただ、やっぱり一人分が精いっぱいで…それで誰か一人を選ぶなら一番フローラが適任だろうって」

しょんぼりと落ち込んだに見えたが

 

「だけどフローラは一人でも大丈夫です!これでも姫様と同じ《星脈世代》ですし、いずれフローラも学生としてこのアスタリスクに来るつもりですから!そして姫様みたいに孤児院のみんなを助けるんです!」

 

「へぇ、すごいな」

感心する斑鳩。見れば綾斗もみたいだ。

 

「なら、折角だ、フローラちゃんの移動費と滞在費くらいはこっちで持つよ」

「「なっ!?」」

「ま、まて斑鳩」

斑鳩の申し出にユリスとフローラの驚く。そして、リースフェルトが止めに来る。というか、周囲にいた面々の顔が一色になる。

 

「未来の後輩に投資ってやつさ」

「いいのか?」

「いいんだよ、トップになってからの特別報奨金が多少余っているのでな、それに俺とリースフェルトの仲だ、こんぐらいはな」

「…かたじけない」

申し訳なさそうに見てくるリースフェルトを宥めるように言い、

 

「いいさ」

と軽く決定し、カードを切る斑鳩。

 

「にしても、まだそんなことを言っているのか…お前がそんなことをする必要はないと言っているだろう?」

 

「でもでも、フローラだって、みんなのお役に立ちたいです!」

「まぁ、その心意気はいいだろう、最後に会った時も言った筈だぞ、私は必ずおまえたちを助け、あの国を変えてみせる、そのために全ての《星武祭》を制してくるとな…それとも、私はそんなに信用ならないか?」

「そ、そんなことないです!」

「うむ、ならばよし」

満足そうに頷くリースフェルト。

 

「流石はリースフェルト、目標も高く大きい」

「だが、そうは問屋が卸さないよ――少なくとも俺らが勝たせてもらうよ」

とまるで息を合わせた様に言う沙夜と斑鳩。

 

「おおー、斑鳩様と沙々宮さまは、姫様達のライバルなのですねっ」

「ま、そういうところだ、どうせぶつかるとしたら決勝だ、まずはお互いそこまで勝ち進まなければならないがな」

組み合わせ上、綾斗ペアと闘うことはできないというか別ブロックだ。

 

「ほほう、それは頼もしいな、ということはアルルカントの人形どもを攻略する術も準備万端というわけか?」

 

「それは本番でのお楽しみ――それよりそっちは?」

沙夜が斑鳩を一瞥したあと綾斗に視線をやる。

 

「こっちはこっちでどうにかするさ、明後日には綾斗も全力を出せるようになるし」

「綾斗の本気か…期待しているぞ」

そういうと、お互い今後のことを軽く打ち合わせをし、その場で解散となった。

それから、斑鳩は誰もいない部屋に帰るのも癪なので、少しふらついてから帰ることにした。

斑鳩は足を、歓楽街の方に向けた。

 

 



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死地での回想

歓楽街の端というわけではないが、割と沿岸部に近いエリアに斑鳩のお気に入りのエリアはあった。

そこは歓楽街の華やかさと海沿い特有のシーサイド感を出した不思議なエリアだ。それ故、斑鳩はその面白さに魅入られ、そこに入り浸っていた。そのエリアに一件、学生がよく立ち寄るリーズナブルな店がある。

斑鳩は久しぶりにそこに来ていた。

 

 

 

「(ここの料理は相変らず美味しいものだ)」

心地よい海風に、そこそこ華やかな料理。

ウッドデッキから見るアスタリスクの街並みもまた趣が良いものだった。

このエリアは、一般的な歓楽街とは違い"レヴォルフの連中"もおらず、大人しく過ごせる場とあってクインヴェールや星導舘やガラードワースなどの学生達がいた。そんな中

 

「お客様、申し訳ありませんが、相席よろしいですか?」

店員の一人が申し訳なさそうに頼んでくる。周りを見渡してみるが、席は結構埋まっている。なので

 

「えぇ、構いませんよ」

「ありがとうございます」

そういうと店員は去り、そのお客を連れてきた。

 

「相席、申し訳ない、おや君は」

やって来たのは、アルルカントの制服を身に纏い褐色の肌に銀髪の女性。そして、赤と黒のマントを羽織っていた。そう、アルルカントアカデミー生徒会長、アンリマ・フェイトだった。彼女はこちらを見て少し驚いた顔を浮かべる

 

「どうも、お久しぶりですアンリマさん」

「少し棘が入っているのはまぁ、置いておいて、久しぶりだな棗斑鳩」

「どうもです」

こちらも挨拶すると、こちらの料理を一瞥し

 

「キミの食べているのは、何という料理なんだい?」

「あぁ、海鮮サラダとマリネとパンです」

「そうか、では同じものを頼むとしよう」

そういうとまるっきり同じものを頼んでくるアンリマ。

 

「にしても、本当に何も話さないのか?」

「…えっ?」

寧ろ話してほしかったと言わんばかりに言うアンリマ。

 

「全くこれだから最近の若い者は、やはり草食だな」

これだからと言わんばかりの表情である。

 

「にしても棗斑鳩、確か君が次に戦うのは"ウチの生徒"だったよな」

「…あまりネタバレをする気はないですよ?」

「寧ろしないでくれ、こちらもそういう楽しみは取っておきたいのでね」

「…本音は?」

「あまりド派手にこちらの研究成果を壊さないでくれ、かな」

脳裏に浮かび上がるのは、ユリス&綾斗vsプリシラ&イレーネの試合だ。あの試合では、イレーネの覇潰の血鎌《グラヴィシーズ》を悉く砕いている。

 

「…まぁ、善処しますよ」

「極力頼むよ」

と若干苦笑いしながらいう彼女に、底知れぬ何かを感じつつも食事を勧めていったのであった。

それから、尞に戻り斑鳩はストレッチを行い床についた。

 

 

 

 

 

――そこは、かなり広いドーム状の部屋だった。視線では、骸骨とムカデを合わせたようなモンスターがフィールドを文字通り"蹂躙"していた。

 

「クソッ!?」

斑鳩は一心不乱に身体を動かしていた。

 

「わあああ――!!」

斑鳩から見て丁度右斜め前に居たプレイヤー達から悲鳴があがり、モンスターの骨鎌が振り上げられる。そんな中、斑鳩のあの世界での一時期の相棒であった紅い鎧のプレイヤー"シーズ"が、その骨鎌めがけて相方の真下に飛び込んで鎌を迎撃し弾く。そして、耳を劈く衝撃音と共に火花が散る。だが、シーズにもう一つの鎌が迫り込む

 

「――ッ!!」

瞬間的に、ウォーバルストライクを発動させ二つ目の鎌を弾いていく。

 

「(クソッ!!重い!)」

二つ目の鎌を抑え込んでいたが、それを弾かれると同時に壁に吹き飛ばされる。

 

「――ガハッ!!」

壁に叩き付けられ、軽く吐血すると同時にHPバーが減少していく。

その間でも目の前のボスモンスターは斑鳩とシーズ以外のプレイヤーをためらいもなく消し飛ばしていく。正にプレイヤーの地獄と言ったところだ。もはや士気の低下というレベルの問題ではない。それに加え

 

「(ここまで一方的なのか――)」

余りにも強い強さ。幾つかのプレイヤーはその場から逃げるのに精いっぱいといった状態だが、

 

「諦める――わけにもいかないんだよね」

斑鳩は再びエリシュデータを構える。

 

「うぉおおおぉぉっ!!」

叫び声と裂ぱくの気迫。斑鳩はモンスターに向けて飛び出していく。

まるで戦いが身体を求めているように、いや身体自体が限界ぎりぎりの死闘を求めているのかもしれない。

そんな中、風と融合したような感覚と共に剣を振り続ける斑鳩。それはある意味、途方もない感覚でもあった。しかし、そんな中斑鳩の視線は、ある一人の人物に視線が一瞬行く。その人物は、紅いマントに希少武器である"軍神の剣"を携えた褐色の人物。確かにあったはずのその人物の名前を斑鳩は思い出すことができなかったくらい集中していた。

 



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刀藤流とデートとパフェ

「ん…」

その朝は携帯端末の着信音などではなく、自然と目が覚めた。

 

「(久々の感覚だったな…)」

クリアすぎるあの感覚。どうやら体と意識が覚えていたらしい。

 

「(少しシャワーを浴びるか…)」

時刻は早朝訓練の時間より少しある。斑鳩はシャワーを浴び、早朝訓練用の服に着替えて走り出した。

 

 

 

 

「(――相変らずってところか)」

朝霧に包まれたアスタリスクを疾駆していく斑鳩。そんな中、前方を走っていた刀藤綺凛の姿が見えた。斑鳩は彼女に声を掛けた。

 

「おはよう、綺凛ちゃん」

「おはようございます斑鳩先輩、今日はお早いですね」

「まぁね、鍛錬の方は順調?」

「えぇ、先輩の技もいくつか真似できるようには」

「そうか、それはいい」

「ちなみに、先輩の方はどうなのですか?」

斑鳩は彼女に技を教える代わりに、斑鳩もまた彼女に刀藤流の技を習っているのだ。ちなみに、こうなったのはつい先日、斑鳩の度を越したおせっかいで綺凛とその父親を面会させた、そこで綺凛の師範代理が決まり、今では彼女が刀藤流の師範で、その第一期卒業生が斑鳩になる。

ちなみに、刀藤流には巣籠、花橘、比翼、青海波など、四十九に及ぶつなぎ手があり、それを繋ぎ合わせることで完全な連続攻撃を成す。まさに連続攻撃の完成系と言ったところで、彼女曰く『"連鶴"に果て無し』ということだ。とはいえ、この型は斑鳩の技にも応用でき、技→刀藤流の繋ぎ→技といった具合で連結させると非常に効果が高い。

 

「まだまだですよ、師匠」

「そんな、師匠だなんて」

苦笑いしながら走っていく斑鳩。それからアスタリスクを一周し、ストレッチも終わり、彼女も用があり、その場を離れる。それから、一息ついたころ、携帯端末が着信音を鳴らしていた。

 

『斑鳩、今いいか?』

何と相手はユリスだった。斑鳩は多少不思議に思うものの出る

 

「ああ、いいぞ、どうしたユリス?」

『うむ……実は、フローラが昼食の席におまえを呼びたいと言っていてな』

「フローラちゃんが?俺はいいけど?」

『そうか、では来てくれ、綾斗が夜吹から聞いた良い店とやらがあるらしい』

「(あぁ~確かに、この時期は混むからな…)」

そう思いながら、ユリスの"お願い"に了承し尞を出た。

 

 

 

「はふぅ……すっごく美味しかったです!」

オムライスを綺麗に平らげたフローラ。満足げな笑みだ。

 

「ああ、もう……ほら、ケチャップがついているぞ」

「むぐ……」

その隣に座ったユリスがフローラの口の周りを拭いてあげる。まるで本物の姉妹だ。

 

「夜吹の言う通りってわけじゃないが、良い店だなここ」

「うん、そうだね」

斑鳩は途中合流した綾斗と共に、夜吹が紹介した店に来ていた。

ここが中々の良い店だった。大通りから一本脇に入った路地にあり、落ち着いた外観で不思議な魅力があるお店だった。ちなみに、斑鳩達の前には食後の珈琲が置かれていた。

 

「それで――聞きたい事って何かな、フローラちゃん」

「あ、あい!ちょっと待っててください……!」

フローラは自分のポシェットを探ると可愛らしい手帳を取り出して見せる。

 

「ありました!えーとですね…」

手帳をめくっていくフローラ

 

「ん?」

綾斗が不思議に思って視線を上げる。つられて斑鳩も上げると

 

「お待たせしました、特製フルーツパフェでございます」

隣のテーブルに置かれたのは、巨大なパフェだった。

 

「…あれが食べたいのか?」

「……あい」

あきれ顔のユリスだが、フローラは少し恥ずかしそうにうなずく。

 

「まぁ、構わんが」

「わーい、ありがとうございます!」

ちなみに斑鳩も頼んだ。

 

「…お前もか」

「ブルータスみたいなノリでいうな、こう見えても甘いのは好きな方なのさ」

すると、パフェに目を輝かせるフローラ。そんな中

 

「……なにをジロジロ見ている」

「あぁ、いや、案外子供に甘いんだなって思ってさ」

「意外か?」

「ちょっとね」

「――ま、仕方あるまい、この子達は人に甘えるということがあまりできないのでな、シスターたちは立場的に無理だし、フローラくらいの歳になれば自分より年下の面倒を見るのがふつうだ、だからそれが可能な私くらいは、精一杯甘えさせてやろうと決めている、私にとっては皆かわいい妹のようなものだからな」

「それにこの手の甘味は孤児院ではなかなか巡り合えん、たまには悪く無かろう」

「あ、でもどでも、最近は姫様が仕送りをしてくれるのでだいぶ楽になったってシスター達が言っていました」

その話を聞きながら斑鳩はパフェを貪っていた。

 



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レヴォルフの使い

黙々とパフェを貪る斑鳩、この心地よい甘さが食欲をそそる。そんな中

 

「姫様姫さまっ」

「どうした?」

「あーんしてください、姫さま」

フローラがそういってスプーンを差し出してくるので、ユリスは苦笑いして口を開ける。

 

「えへへ」

フローラは満足そうに笑いながら、そこへスプーンを運ぶ

 

「……ふむ、なるほど、うん、これは美味いな」

「だろ?」

ごく自然な動作で取り入れる斑鳩。

 

「ごく自然に入ってくるな、いや、悪いわけではないが」

純粋に絵面が面白いと言った表情のユリス。そんな中

 

「あ、そうだ!せっかくなので天霧様もどうぞ!」

「んなっ!?」

「え?俺ももらっていいのかい?」

「もちろんです!姫様もシスターも美味しいものはみんなで分け合ったほうがより美味しいって、いつも言ってますから!ね、姫さま?」

無邪気そうに言うフローラだがユリスの顔は紅い。

 

「(まぁ、そうなるな)」

関節キスを意識しているのだろうと思いながら、黙々とパフェを食していく斑鳩。

 

「じゃあ、はい!天霧様も、あーん」

「……あーん」

苦笑いしながらパフェを食べる。

 

「ん、本当だ、これ、すごく美味しいね」

「あい!」

「ありがとう、フローラちゃん」

「えへへ~」

その笑顔でご飯何杯行けるのか、軽く計算しつつパフェを食べる斑鳩。一方、ユリスの顔はどこか紅いものの、何とも言えない複雑な表情だ。斑鳩は軽く本題を切り出す。

 

「それで、フローラちゃん、本題は?」

「あーい」

そういうと手帳をめくり出す

 

「んーと、まずはどれだったかな……あ、これですこれ!」

フローラは綾斗へ向き直ると、たどたどしく手帳を読み上げた。

 

「それでは一つ目の質問です、えと『天霧さまと姫様の関係はどの程度まで進展されてるのですか?』」

「ぶふっ!?」

ユリスが飲んでいたコーヒーで思いっきりむせる。

 

「落ち着けユリス」

「あ、あぁ、悪い」

ティッシュを差し出す斑鳩。

 

「――どう考えてもそれ、フローラちゃんの質問じゃないね?」

「うん、そうだね」

「あぁ、陛下が『将来弟になるかもしれない少年について、これらのことを調べてきて欲しい』って」

「はい、ビンゴー」

棒読みと言わんばかりに言う斑鳩。

 

「お、おのれ兄上め――」

夜吹の時とまるっきり一緒のトーンに少し苦笑いする斑鳩。

 

「フローラ、ちょっとそれを貸してみろ、他にはどんな質問が書いてあるのだ」

「あ、ダメです!バレルと怒られるから姫様には内緒にしておくようにって陛下が――」

「もうバレてるよね、それ」

「ああっ!そ、そうでした!」

今更気づいたが、だが遅い。

 

「ダ、ダメです!フローラが仰せつかったお仕事ですから、ちゃんと最後までやらせてください!」

「却下!」

「続行!」

ユリスの意見に面白半分で真反対のことを言って乗る斑鳩。その隣で苦笑いする綾斗。頗る面白い。ここまで来たら頗るふざけてやろうと思い。

 

「よしフローラちゃん、陛下にはこう伝えるんだ――『ユリスとの仲は~「余計なことを言わんで宜しい!」おふっ!」

軽くげんこつで小突かれる斑鳩。

 

「ははは、少しふざけすぎたみたいだが――お客さんみたいだな」

やいのやいのしている中、斑鳩は彼女に気付いた。

 

 

 

「あ、あの…お取込み中、すいません、ちょっといいでしょうか……?」

現れたのは、レヴォルフの制服に身を包んだ一人の女の子。斑鳩は彼女を知っていた。

 

「さて、レヴォルフの会長秘書さんが何の用かな?まぁそうだな、用件は俺の隣にいる《叢雲》の天霧綾斗に用かな?」

唐突なことで綾斗が困惑している。ユリスとフローラも手を止める

 

「そ、そうです、も、申し遅れましたが、私は生徒会長秘書を務めている樫丸ころなと申します、天霧綾斗様申し訳ありませんが、少しお付き合いいただけますか?」

あたふたと頭を下げてくる少女。

 

「それで、その――会長がお待ちです」

「綾斗、だとよ」

斑鳩は顔を引き締めながら綾斗を一瞥し言った。

 



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ディルク・エーベルヴァイン

「会長だと…?」

ユリスの顔が一瞬で引き締まり、剣呑な雰囲気が流れる。ユリスが彼女に向かって何かを言おうとするが、斑鳩はそれを手で軽く制す。

 

「《悪辣の王(タイラント)》か…綾斗どういうことだ?」

「うん、それは俺から頼んだんだ」

そういうと、状況を話しだす。そして

 

「わかった、そういうことなら私も同行させてもらおう」

「え?でも会長は天霧さんを――」

「――なにか「まぁ、待てよ、問題ないよな"会長さん"」ッ!?」

聞かれていることはもはや斑鳩にとっては筒抜けだった。すると、突然彼女の前に暗転した状態のウィンドが現れる。

 

『バレていたのかよ、構わねぇよ、棗斑鳩共々連れて来い、ころな、せっかくだ、《華焔の魔女》の面も拝んでおこうじゃねぇか』

「は、はい、わかりましたっ」

「ほらね?」

さも当然のような顔をする斑鳩。

 

「(にしても、フローラをみられたのはまずかったな…一応、頼んでおくか)」

そういうと、コンソールと共に斑鳩は信頼できる人物に連絡を入れる。同時に、フローラのポシェットにごみを着ける。

 

「で、では、ご案内しますので、どうぞこちらに……」

完全に顔が引きつっている。どうやらよほどユリスと斑鳩が怖かったみたいだ。

 

「フローラ、すまんがそういうわけだ、一人でホテルまで帰れるな?」

「あい!大丈夫です!」

スプーンを握り締めたままいうフローラ。とはいえ、その件に関してはもう解決済みで

 

「ユリス、その件は大丈夫だ―― 一応ボディーガードをつける」

「ボディーガードだと?」

「あぁ」

そういうと、店に一人の少女がやってくる。刀藤綺凛だった。

 

「わざわざ済まないな、綺凛ちゃん」

「いえ、どうかしましたか?」

「彼女をホテルまで頼む、それともしよろしければ食べてくれ」

そういうと、軽い甘味をウェイターが持ってきてくれた。

 

「いいんですか?」

「あぁ、ぜひな」

そういうと綺凛の頭を軽く撫でてやり、店の外に出た。

店の外に出ると、そこには、巨大な黒塗りの車が止まっている。いわゆるリムジンだった。

 

「こちらです」

ころながその車のドアを開けると、中は想像以上にゆったりしている。言い変えるとすればちょっとした応接室と言った感じだった。

 

「――入れよ」

青年――ディルク・エーベルヴァインの声がする。斑鳩が先に入り、それから綾斗とユリスが中に入る。

 

「てめぇが、《叢雲》と《絶天》か――ぼんやりとした面といかにもってな面だな…」

「……そんなぼんやりとした輩の相手を――」

ユリスの言葉を斑鳩が遮る。

 

「ま、先日の襲撃の件は証拠不十分で何も言わないよ、それにそっちにも被害は出ただろ?」

うすら寒い笑みを浮かべる斑鳩。この場の雰囲気が一瞬にして最悪になる。ディルクが言うのも無理はない。斑鳩はこのレヴォルフの金目を何人か文字通り"潰している"のだ。本来なら全面戦争ものだが、状況が状況であり、彼の実力をよく知っているのも、またディルクだった。

 

「…話の通りの奴だな《絶天》」

「ま、関係ないけど牽制さ」

「あぁ、そうだったな、だが、話をする前に言っておくぜ、俺はテメェの質問に答えてやる義理はねぇ、それだけはよく覚えておけよ」

 

「でも……だったらなぜあなたはここへ?」

「そうだな、唯の気まぐれといったとこか」

「忙しいであろう生徒会長がわざわざ、ただの気まぐれで?まさか」

綾斗は深い息を吐くと、ディルクの眼を見た。

 

「俺にもあなたに提供できるものがなにかある、そうでしょう?」

「……その通りだ、何かを得たいと思うなら、何かを差し出さなけりゃ取引は成立しない」

ディルクはそういうと、足を組み直す

 

「いいぜ、合格だ、何が聞きたい?」

「姉さん――天霧遥について、貴方の知っていることを全て」

「天霧遥……か、生憎とオレもそれほど多くのことを知ってるわけじゃねぇ、一度見たことがあるってだけだ」

「どこで?」

「――《蝕武祭(Eclipse)》」

ディルクの顔にユリスが驚いたように目を見開く。とはいえ、斑鳩もそれは同じだ。

 

「《蝕武祭(Eclipse)》、ルール無用で非合法、おまけにギブアップなし、決着は気を失うか、絶命か――アンダーグラウンド開催だから、規模は小さいが"殺し合い"が大好きな連中の格好の遊び場ってところか」

「…テメェ、どこまで知ってやがる?」

「さぁ、それはあなたが思うところまでですよ」

「はっ……オレが天霧遥を見たのはその出場選手の一人として、だ、当時の俺は《蝕武祭(Eclipse)》の客の一人だった」

「姉が…試合に出ていた?」

「あぁ、《黒炉の魔剣》を使ってやがったからよく覚えているぜ、《蝕武祭(Eclipse)》に純星煌式武装を持ち込むはそういねぇ」

そういうとディルクは、昔を懐かしむように話し出した。



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天霧遥――揺れる綾斗

「それで、その試合の結果は?」

「――天霧遥の負けだ」

その瞬間、綾斗の身体がぐらつく。それをユリスが支える。

 

「ちょっと待ってくれ、今負けと言ったが、どっちで負けた」

「…テメェは本当に頭が回るようだな」

斑鳩を一瞥しながら言うディルク。

 

「死んでいなかったみたいだぜ、その後はどうなったか迄は知らねぇがな、オレが天霧遥を見たのはその一度きりだ」

「そう、ですか……」

綾斗はこの状況下ではそう答えるのが精いっぱいだ。一方斑鳩は、どうも腑に落ちないところがあると言った顔をする。

 

「そんじゃあ、次はオレから質問させてもらうぜ――てめぇ、マディアス・メサとはどういう関係だ?」

「……え?」

何を聞かれたのか分かっていない綾斗。

 

「マディアス・メサって、あの運営委員長の?」

「……ふん、どうやらしらばっくれてるわけじゃねぇようだな、ならいい」

そういうと指を鳴らし、車が止まりドアが開く。

 

「話は終わりだ、さっさと失せろ」

「えぇ」

そういうと、聞き分けの良い子犬のように今にもかみつきそうなユリスを連れて斑鳩は綾斗と共に降りる。

降りた場所は星導舘学園の近くの埠頭だった。

 

 

 

車に降りると、物凄い不機嫌そうなユリスが斑鳩の目の前に立ちふさがった。

 

「――斑鳩、次々と私を妨害するようだが、どういう意味だ?」

「簡潔に言うと、お前の質問はあしらわれるのが分かりきっていた、それだけだ」

「…では聞こう、私が最後に《悪辣の王(タイラント)》に聞こうとしていた質問、わかるか?」

「"どうしてあの場所が分かった"、だろ?」

「ッ!?」

まさかという表情のユリス。斑鳩は言葉をつづける。

 

「お前の言いたい事はわかるが、あの《悪辣の王(タイラント)》が自分の手の内をみすみす晒すわけがないからな、それにクローディアを見ればわかるだろ?ああいうのが、生徒会長になる」

「俄然説得力があって反論できないのが悔しいところだ」

理解したのか、ユリスは綾斗に向き直る。

 

「綾斗……お前、本当に大丈夫か?」

「……あぁ、大丈夫だよ」

心配そうなユリスの声。この時、斑鳩は、心のどこかで動こうという決心をつけた。

しかし、その前にやることがある、斑鳩はフェスタでの"相棒"に連絡と事情を暈してつける。帰ってきた返事はすぐに動くだった。

 

 

 

 

 

 

翌日――

 

「――少しはマシな顔つきになったみたいだな」

準々決勝。斑鳩は空間ウィンド越しにユリスと同じことを言っていた。

 

『まぁ、なんとかお陰様でね』

『腹をくくったということか?』

『うん、決めたよ、俺は姉さんを探し出す――そのためには統合企業財体の力を借りるのが一番早い』

『――そうか』

空間ウィンド越しにどこか嬉しそうに微笑むユリス。

 

「なら、まずは今日の試合を勝ち抜いて来いよ」

『うん』

そういうと、必要以上に相手のことを言わずにウィンドを閉じる斑鳩。今まで綾斗と斑鳩の通信の隣にいたのは沙々宮だった。

 

「まったく、斑鳩には勝てない」

無表情でそういうがどこか嬉しいという感じだ。

 

「そりゃどうも、それと昨日はありがとう」

「当然のこと、こちらこそありがとう」

斑鳩は彼女に軽く拳を突き出すが

 

「それは決勝に取っておこう」

「…そうだな」

斑鳩の脳裏に浮かぶのは明後日の綾斗とユリスの姿。

 

「さてと、綾斗の試合でも見に行きましょうか」

そういうと紗夜と共に、斑鳩は二人の試合を見に行くことにした。

 

『さぁさぁ皆さまお待ちかね!いよいよこのシリウスドームでも準々決勝の試合が始まろうとしています!まず東ゲートからその姿を現したのは、星導舘の天霧綾斗・ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア!そして、そしてその反対側!西ゲートからは界龍第七学院の黎沈雲・黎沈華ペアが入場です!』

『奇しくも五回戦と同じく星導舘と同じく界龍対決となったッスね!」

『そうなんですよ!なお、他のステージではすでに全ての試合が終了し、ベスト四のうち三枠までが決定しております!果たして果たして、その最後の一枠を埋めるのは、どちらのペアなのでしょうか!」

耳を劈く様な大歓声だ。それに引けをとらない実況と音声。そして

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝第四試合、試合開始!』

試合開始が宣言された。

 



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鳳凰星武祭 準決勝第一試合

――《鳳凰星武祭(フェニクス)十四日目:シリウスドーム・控室

 

「さてと、そろそろいくか」

斑鳩はそういうと、控室から立ち上がる。紗夜は手元に落としていた視線を上げ、いつものように無表情でうなずく。斑鳩の視線が偶然、彼女の古い紙切れに行く。

 

「――お守りか?」

「うん、なんでも願い事が叶う、魔法のチケット」

「そうか、大事にしろよ」

「わかってる」

そこで言葉を終わらせ控室を出て通路を歩いていく。

 

「――斑鳩」

「ん、なんだい?」

「ありがとう」

思わぬ言葉だったが、多くは語らないシンプルな言葉でもあった。

 

「ここまで来られたのは、斑鳩の力があってこそ、感謝する」

「こっちも、沙々宮の力があってこそだったさ、こちらこそありがとう」

お互い謝辞を述べながら歩いていく。何も言わずともお互いなんでこの戦いに臨むのかもうわかり切っている。故に、交わす言葉は少ない。

そして、薄暗い長い通路を進んでいく。一応、紗夜と斑鳩はシリウスドームで試合をするのは初めてだ。とはいえ、この世界に来て間もない斑鳩もこのシリウスドームで試合をすることには特別な何かをを感じている。

 

 

 

そして通路の先に二人の影が見えた。いち早く気付いた斑鳩は紗夜を後ろに下がらせる。

気配であの二人だとわかる斑鳩。

 

「やぁやぁ、剣士君、お久しぶり」

「お久しぶり、エルネスタさん」

にこやかな顔だが、身体から滲ませるのは純粋な闘牙だけだ。

 

「にゃはは~キミは本当に一筋縄ではいかないね~これから闘う者同士とはいえ、別に親交を深めちゃいけないってわけでもないっしょ、別に八百長しようってんじゃないんだしさ」

「闘うのは、お宅らの擬形体でしょ?」

「んー、まぁ、そりゃそうなんだけどね」

エルネスタが何かを言いたそうだが、大体察しがつく斑鳩。

 

「ま、大方後ろの…えーと、カーミラさんが相棒に言いたいわけだろ」

「ピンポーン、正解!ということだから、ほれ」

二人のやりとりを眺めていた、カーミラが出てくる。

 

「久しぶりだね、沙々宮紗夜、なに、わたしも少し誤解をしていたようなので、決着をつける前に――」

カーミラが言おうとした言葉を、斑鳩は軽く手をかざして止めた。

 

「悪いが、面倒事はこっちも好ましくないのでね、単刀直入に言わせてもらうよ」

そういうと、更に気迫を増しながら言う。

 

「先日の言葉を負けたら撤回するか否か、それだけが焦点だ」

「不可能だ、万が一、ありえない話だが、仮にアルディとリムシィが君たちに負けたとしても、私がそれを認めることはない」

明らかにこちらへの宣誓布告だ。その証拠に紗夜の瞳に怒りが満ちる。

 

「……ただ、その時は先日の言葉を撤回しよう、アルディとリムシィの武装は私と《獅子派》が積み上げてきた技術を全て注ぎ込んである、彼らを打ち破ったとするならば、さすがに実践的ではないと言えないからね」

それだけ言うと、クルリと紗夜に背を向けて去る。

 

「あ、ちょ、自分の要件がすんだら即撤収とかひどくない?あたしだってその子の武装には興味があるんだから!色々と聞きたかったのにー!?って、あーもう、待ってよカミラってば!!」

カミラを追っかけていくエルネスタ。そして、彼女は不意に足を止め

 

「それじゃあ、うちの子たちをよろしく頼んだよぉー!楽しんでねー!」

子どものように大きく両手を振ると、今度こそ通路から消えた。

 

 

 

斑鳩の心の中ではこのやり取りでかなり言いたいことが渦巻いている。が、

 

「行こう、斑鳩」

「…あぁ」

光と歓声が渦巻くステージへ、足を向ける。

 

「――絶対に勝つ」

「あぁ、当然だ(アルルカント、いやエルネスタとカーミラ!!そういつもいつも……思い通りになると思うなよ!!)」

 

会場は綾斗とユリスの時と同じように、熱狂に包まれている。相変らずの良い実況だ。とはいえ、そんな実況を軽く楽しみつつも、斑鳩の意識は目の前の擬形体に意識が言っている。

 

 

『確かに、どちらのペアもほとんどの試合が瞬殺と言っていいほどの短時間ですもんね、それでも沙々宮・棗ペアは先の準々決勝でも多少苦戦したようですが、アルディ・リムシィペアのほうはここまで全試合、ほぼ一分で決着しています!」

『それもあの"一分間は手を出さない"という宣言をすべての試合でやってのけたうえでの話ッスからねー、今日の見どころとしては、沙々宮・棗ペアがアルディ・リムシィ選手の絶対防御を破れるかがまず一つめの焦点かと思います』

「聞くがよい!今回も貴様らには一分の猶予をくれてやろう!吾輩たちはその間、決して貴様らに攻撃を行うことはない、存分に仕掛けてくるがよい!」

「(ッシャアアアアアアア!!全力解放していいってことだな!!思う存分一分で終わらせてやる!!)」

内心ガッツポーズをする斑鳩。そして、紗夜と斑鳩は互いを一瞥し

 

 

 

 

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準決勝第一試合、試合開始(バトルスタート)!』

試合開始が宣言された

 



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RMC&ARDvs斑鳩&紗夜

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》準決勝第一試合、試合開始(バトルスタート)!』

試合開始が宣言される。しかし、目の前のアルディとリムシィは仁王立ちのままだ。

どうやら、傲慢不遜という言葉がこの擬形体にはお似合いらしい。

 

 

 

 

「――ッ!?」

開始と同時に、神速とも言わん速さでに斬りかかる斑鳩。相手は、リムシィだ。

 

「まさか、貴方が来るとは思いませんでした――棗斑鳩」

「曰く、『女は自然が最高の完成を保全するために工夫したものであり、男は自然の命令を一番経済的に果たすためのに女を工夫したものだ』――もし、俺が開発者なら、アンタに隣のアルディのリミッターをかけるからな」

「まさか、最初から私を狙って!?」

「如何にも――その一分間で蹴りをつけてやる!!」

出し惜しみは無しだ。斑鳩もここにきて、全力を出す覚悟をし、剣を振るう。

斑鳩は、ホリゾンタルから連鶴を用いて摩訶不思議とも言えるしかし、一通りつながった連鶴を叩き込んでいく。

 

 

『お、おおーっと、これはすごい!ついに、ついについに、この大会で初めてのリムシィ選手が攻撃を受けました!棗選手!まさかあの難攻不落の絶対防御を攻略したというのでしょうか!?」

「――なぜだ、どうして絶対防御が効かない?」

「(それは、単に経験がないからだよ――)」

斑鳩の予測だとこの二体は何かしら秘策がある。あのエルネスタがそれを隠していないわけはない。

そういうと、彼女が動き出す。

 

「解せません、そして不愉快です――ルインシャレル」

「そ、そしてそして!なんとリムシィ選手から攻撃を仕掛けたぁ!!時間は宣言から30秒!まだ一分は経過しておりません!」

リムシィの内臓兵器が唸りを上げて光の奔流が襲い掛かるが、斑鳩は負けじと絶対零度の冷気を極太のレーザーのように発射して攻撃をおこなう。そこに、今度はアルディが一分足らずで襲い掛かってくるが。

 

「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト――《バースト》」

紗夜の甲高い言葉と共に突如、斑鳩とアルディを光線が二分した。

 

「――忘れては困る、本気で来い」

視線をそちらの方に向けると、そこには巨大なバックユニットを備えた大型の煌式武装を顕現させた紗夜がそこにいた。

 

「ナイスだ紗夜、さて畳みかけましょうかね」

「させるか!!」

アルディが前に出て、リムシィが後ろに下がる。斑鳩は、目の前のアルディにほぼ零距離に近い距離で無数の光の矢を飛ばして攻撃をする。

激しい爆発音と共にアルディの装甲を削る。其処にリムシィの砲撃が飛んでくる。しかし、それを紗夜が相殺する。

 

「なんのこれしき!!」

アルディが立ち上がりハンマーを振り上げ、襲い掛かる。リムシィの砲撃の射線も斑鳩を捉える。

 

「潰れるがいい!!」

一気にハンマーを振り下ろしてくるアルディ。そこにリムシィの攻撃が砲撃が飛んでくる。斑鳩は、手首から肩、腰を柔らかく動かすことによって 相手の攻撃を武器で受け流し、そこから、剣を左から右へ、右から左へ素早く水平に連続で振るう。機械特有の経験不足でボロが出たので、一気に立ち位置を入れ替える。すると、リムシィのルインシャレルがアルディに直撃する。

 

「ちっ」

舌打ちをするリムシィ。そこに間髪入れずに斑鳩と紗夜が襲い掛かるが、とっさに危機を感じたリムシィは距離を取る。

 

「――なるほど、カミラ様が気にかけているだけはありますね沙々宮紗夜、棗斑鳩」

髪をばさりと掻き上げるリムシィ。

 

「その極めて不安定な煌式武装を、あれだけの精度でコントロールする技術には感服いたします、しかも私の攻撃を完全に見切ったうえでの、これ以上ないタイミングでした、大したものです、それに棗斑鳩の機敏さ、称賛に値します」

 

「お前の攻撃は正確で完璧な予測に基づいている、でも、だからこそ対応しやすい」

「右に同じだな」

そういう斑鳩。

 

「……いいでしょう、この屈辱を味わうことができるのも、マスターが私達に人格と心を与えてくださったが故、その言葉、確かに刻みました」

そういうと、リムシィは煌式武装を投げ捨てる。そして、高温を響かせながら緑色の光を放つ。

 

「なればこそ、私も全力で応じましょう」

そういうと、再び銃型の煌式武装が現れ、その身体がふわりと浮き上がる。

 

『おおーっと、リムシィ選手が飛んだー!?飛びました!』

『あー、あの背中のは飛行ユニットだったんッスねー、飛行能力者はそれほど珍しいわけでもないっすけど、空中で自由に十全な戦闘を行えるだけの鍛錬を積んでいる選手となると話は別っすスネ』

リムシィの機動力はまさに圧倒的な物だった。鳥のようにというレベルではない。

しかし、相手にするのは彼女だけではない。目の前のアルディも対策しないといけない。斑鳩はそこを何もしていないわけではないし、手段もないわけではない。

斑鳩は、軽く手を空にかざし、その文言を唱えると

 

「――ッ!?」

リムシィが地面に真っ逆さまで地面に激突した。

 

 



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RMD&ARCの合体

『――な、な、なんと!?リムシィ選手が落ちた!?』

会場にどよめきがはしる。斑鳩は重力魔法で文字通り、彼女を叩き落としたのだ。

 

「ということだ、これは予測できていなかったかな?」

「…一体、これは?」

「重力魔法、とでも言っておこうか?」

「――最大出力」

轟音とともに脱出しようとするが、脱出が出来ない。斑鳩は、彼女に迫りこむ。だが

 

「リムシィ!!」

アルディが助けに介入してくるが、それを軌道を観ずにエリュシデータで跳ね返す。

 

「――馬鹿な!?」

「紗夜が言っただろう、読みやすいってな」

そういうと、そこから、斑鳩はサマーソルトキックで彼を飛ばす。その隙に、リムシィは脱出する。

というか、わざと脱出させられる。

 

「――《フルバースト》」

ヴァルデンホルトから極度に圧縮された重光弾が放たれた。そして、リムシィが抜け出そうとした瞬間に着弾し、刹那の静寂の後、会場そのものを吹き飛ばすかのような大爆発が巻き起こり、荒れ狂う暴風と震動にステージを取り囲むすべての防護壁が割れんばかりにビリビリと震え、観客席の彼方此方から悲鳴が上がる。

そして、爆風が収まると、大きくクレーター状に抉れた爆心地にリムシィが苦悶の表情で膝を着いていた。その左腕や幾つかの装甲は完全に破壊され、火花と黒煙を噴き上げていた。

そして、其処に向かって紗夜のフルバーストが着弾する。

 

「間一髪であったな、リムシィよ」

「(あの防御障壁、自分の周り意外にも展開できたか」

想定外であったが、これも範疇である。

 

「リムシィ、よもや贅沢を言うまいな?」

「わかっています」

リムシィの声はいかにも悔しそうだ。

「まぁ、これで二体一、ってわけにはならないだろうな――奥の手があるだろうな」

目の前の二人に言う。

 

「どうして、そう思う棗斑鳩?」

アルディが聞いてくる。

「俺ならそういう風に考えるし、あの二人が布石を打たないわけがない、大方俺のよそうだと、合体とかあるのだろう」

というと

 

 

「…」

まるで、ネタのオチを最初に言われたかのような水をうったような静けさ。

 

「(あっ、やらかしたかな?)」

何とも言えない気まずい空気。やらかしてしまったネタバレ。非常に会場の空気が悪くなる。

 

『あ、これは棗選手、壮大にやらかしましたね』

『これでもし、本当に合体したら、試合の盛り上げ的には棗選手の負けですね』

戦には勝ったが、雰囲気で負けたらしい。

 

「ふ、不本意ではありますが、貴方の望み通りにして差し上げましょう」

「そ、そうだな、そうこなくてはな!こちらはいつでも準備万端である!」

機械でも、このような反応は出来るらしい。目の前の敵にものすごく申し訳なさを感じながらその合体を見守る。流石にここまで来て合体中に倒したら、下手すれば《絶天》という名前から《雰囲気壊し(ムードブレイカー)》という大変不名誉な名前になりかねない。

そして、リムシィはすこぶる不愉快といった顔で大きく両手を広げた。同時に、その身体からマナダイトの光が溢れだす。そして、合体していき

 

「ふはははははは!これぞ吾輩の真の姿である!」

そこに、誇らしげに佇む合体したアルディがいた。

 

「さぁ、どうであるか!威容を増し、貫録を深めた吾輩のこの姿は!」

まさしくフル装備と言ったところだ。其処に関しては少しカッコいいと思いが、思いのほか残念なところもある。

 

「ぐぬぬ…ちょおカッコいい」

「まぁ、カッコいいが、如何せんな」

「何か不満でもあるのか?」

「いや、展開が「それは言ってはならぬぞ棗斑鳩」あっ、はい」

機械に指摘される斑鳩。どうやら、最近の機械は空気を読むのにたけてるらしい。同時に、リムシィはゆっくりとした足取りで下がる。同時に、校章がリムシィの敗北を告げる。

 

 

 

 

「さぁ、どこからでもかかってくるがよい!」

アルディは手にしたハンマーを軽々と振り回し、その石突を地面へと突き立てる。

 

「どうやら、単にパーツが増えたってわけじゃないな、出力は上がったな」

「…」

小さくうなずく紗夜。ヴァルデンホルトの状態を確認するが、あまりに過冷却をすると今度は砲身がやられる。少し様子見の必要もあるが、

 

「ふむ、こないのであれば、こちらからいかせてもらおうか」

もう少し見ていたいところだったが、どうやら、此処までの要だ。

アルディがハンマーを構えたのを見て、紗夜は腹を括る。

 

「(――各個にとはいかなさそうだな)」

どうやら、第二回戦は此処からの要だ。

 

「スカーレット・ファーブニル」

斑鳩の左手にもう一本の剣が現れる。

 

「(…さぁ、ここからだ――)」

戦いは、二次局面へと移ろうとしていた。

 



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破壊の先の本気へ

「(速い――だが、追いつけない距離ではない!!)」

アルディとリムシィが合体してからは、正に戦というにふさわしい戦いだった。

もはや、剣戟とハンマーとの戦いだ。とはいえ、一般的にはアルディの出力は圧倒的だった。

彼のハンマーをかわしながら、剣を振るう斑鳩。その後ろから、紗夜が援護してくる。

 

「いくらなんでも強すぎ、どういうこと?」

「おそらく、マナダイトに秘密があるのだろうな」

苦笑しながら頷く斑鳩。全ての能力が向上しているアルディ。しかし、どうみてもリムシィとの釣り合いが合わない。

 

「さぁ、受けてみよ!これぞ吾輩のウォルニール・ハンマァァァァ!!」

どう考えての直撃コースだ。斑鳩は、両手の剣を×印のように交差させ相手の攻撃を受け止める。

そこから、隙の少ない3連撃のスキル、シャープネイルで、装甲を削る

 

「ほほう、あの直撃を受けて、尚且つ反撃するとわ……さすがであるな!」

「それはどうも!」

再びハンマーと剣がぶつかり合い。そして、紗夜の支援が入る。

 

「ふはははははあ!楽しいな!実に楽しい!だが、まだまだ!まだ、まだ吾輩の力はこんなものではないのである!」

アルディがハンマーを下ろしてくるなら、それを弾き、後ろから攻撃をしていく紗夜。

そして、両者撃ち合うごとにその威力が増していく。見れば、アルディの装甲にはよく見れば無数のひびが入っている。そこから蒼い光が漏れ出している。

 

「(あれは、ウルム=マナダイトの光・・・ってことは、あいつの全身が武器ってわけか)」

どうやら、本格的にネタが分かってきた。そんな中

「さぁ、名残り惜しいがそろそろ決着をつけようではないか!――参る!」

今度は防御障壁でハンマーを構築し、突進してくる。どうやらが学習能力は健在のようだ。

斑鳩は反射的にそれを撃ちあう。

 

「(さっきより重い…ってことは出力が上がっているわけか!?)」

紗夜の攻撃も徐々に押され始める。

 

「押すしかない!!紗夜!」

「グッドタイミング、斑鳩」

「なにッ!?」

そういうと、アルディの周囲に光球が現れ

「ふっとびな!!」

「――《フルバースト》」

轟音といくつもの光の奔流に包み込まれる。だが、それも防御障壁で阻まれる。

 

 

 

 

「では、吾輩もお返しというこうか!」

アルディが手の平をかざすと、今度は防御障壁が重なり合い、巨大な球状に展開する。

 

「(――ッ!?)」

そして、その巨大な球体は見る間に圧縮されて拳の中に納まる。

 

「まさか…!?」

斑鳩の直感が最大級の危機を告げる。そして、魔力の障壁を展開させた直後

 

「さぁ、爆ぜるのである!」

アルディがその拳を拓くと、圧縮されたエネルギーが一気に解放される。それはステージ全体を巻き込むほどの大爆発だ。無論、逃げ場などあろうはずもない。

そして、閃光が視界全て白く染まり、ユリスの悲鳴が轟音にかき消される。塵のように吹き飛ばされず済んだが、やはり、それでも完全相殺には至らなかった。斑鳩はとっさに紗夜をかばう。同時に、その衝撃で、一瞬意識を手放しかけたが、幸いにも体中を走る激痛が覚醒を強制した。

 

「ぐ、ぅ……」

「…い、斑鳩」

倒れかけた斑鳩は、何とか身体を起こし自分と相棒の状態を確認する。制服は多少ぼろついたものの、そこまでの状況じゃない。校章は無傷だ。

とはいえ、目の前のステージは完全に壊滅していた。ただ二点、爆心地の僅かな空間と沙々宮と斑鳩のいる地点だけだ。それ以外は、完全に瓦礫と化していた。

 

「ふははははは!さぁさぁ、続きといこうではないか!我輩まだ――」

とがくんとその膝が落ちるアルディ。

 

「ぬ……?」

ウルム=マナダイトの高出力による自壊の副作用がアルディを襲う。

 

「斑鳩、大丈夫?」

か細い声に振りむけば、斑鳩の背後で紗夜が身体を起こした。とはいえ、完全無傷とはいかなさそうだ。苦悶の表情を浮かべた、その場にへたり込んでいる。

 

「紗夜!」

「こっちは、大丈夫ともいえない――」

斑鳩はゆっくりと彼女を抱き起してやる。

 

「斑鳩、いける?」

「…さぁ、それはどうだろうか、だな、ほんの少しだけ厳しいところもある」

流石に先ほどの全力までとはいかないが、まだ勝機があるのは事実だ。

 

「方法は?」

「時間を待つか、ってところだ」

おそらく自滅するであろうアルディを待つこともできるが、しのぎ切るというのも些かである。

なにしろ、後ろの紗夜はどうみても満身創痍だ。斑鳩も完全状態とは言えない。

 

「斑鳩――いける?」

「当然だ」

そして、ここにきての全力をかけることを決定した。

 



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決着――鳳凰星武祭 準決勝第一試合

斑鳩はゆっくりと瞳をつぶり、全神経を集中させる。

 

「(――完全武装支配術!!)」

心の中で技を発動させる。思い起こすのは"あの世界"の武器だ。そして、最も使いやすい形、大きさの武器が現れる。

 

「(こい!!)」

すると、スカーレット・ファーブニルに黒い紋様が浮かび上がり、刀身に紅い文字が浮かび上がる。

そして、その刀身に絡み吐く様な焔がともる。

 

「斑鳩、これを使って」

紗夜が斑鳩に触れてくる。同時に、ヴァルデンホルトからエネルギーが斑鳩に譲渡される。その膨大なエネルギーが斑鳩を伝わり、エリュシデータに流れていく。そして、スカーレット・ファーブニルのコアの紅玉とエリュシデータに後付け内蔵されたマナダイトが輝きを増し、唸りを上げていく。同時に、エリュシデータの黒い紋様がより一層かがやき始める。

 

「これが…紗夜の力――」

「この試合、私に出来るのはここまで――あとは頼んだ、斑鳩」

「…了解、紗夜」

そういうと、斑鳩はアルディに向き直る。

 

「待たせたな、アルディ」

「いいや、我輩のほうも少々不調があったのでな、応急処置を施したところである」

斑鳩は、土塊とステージの破片の中を進んでいく。そして、反対側からはアルディが同じように悠然と進み、お互いが間合いに踏み込む。そして、一気に間合いを詰め、中央でぶつかる。

 

 

 

 

 

「はあああああああ!!!」

斑鳩が裂ぱくの気合と共に、剣を薙ぐ。斑鳩は、それをハンマーで受け止めたが、その瞬間防御障壁で構築された部分が吹き飛ぶ。

 

「なにッ!?」

周囲の声はもはや何もきこえない。同時に斑鳩の血流が早まっていく。同時に、戦闘を求める衝動に掛けた手綱をいっぱいに引き絞った手綱を斑鳩はそれを放った。

空中で高速で起動し、斑鳩を捉えてくる。まさに風さえも押しつぶすような勢いで襲い来るハンマーをはじき返す。同時に、斑鳩の感覚が全方位全周位に向けられる。正に感覚が鋭敏化される。

同時にアルディの飛行ユニットがロケットのような勢いでその身体を旋回させるアルディ。

そして、その隙を斑鳩は決して見逃さない。その一瞬に全ての意識をささげる斑鳩。

 

死角もなければ、最善の角は存在しない。ただその一撃に掛ける。心は水滴を垂らしたように極限まで研ぎ澄まされ、視覚も味覚も嗅覚も触覚も聴覚も今はその攻撃に全て傾注される。

此の刹那、斑鳩はまさにすべてを放棄して余った力を結集させる。内という内、髄という髄、血という血、そして、細胞までもがそのすべてを振り絞っていく。まさに一瞬を駆けていき

 

「(極限の一撃を――ッ!!!)」

 

 

 

 

天壌焼き焦がす星龍皇の焔(スターバースト・サラマンドラ・ストライク)!!」

 

 

両方の剣から摂氏3000度の熱を発する剣閃の二刀流による剣撃を敵の体に次々と叩き込む。 星屑のように煌き飛び散る白光と紅蓮の龍の剣閃は、まさに空間を灼くかの如き様。

衝突する音と剣戟の破壊音。轟音と閃光を生み、全ての音を奪い去った後

 

 

 

何かがはじける音と共に、斑鳩は極限状態から意識を取り戻す。

その視界に入ったのは、ライトの光。そして、

 

 

 

「エルネスタ・キューネ、校章破損(バッジ・ブロークン)

 

「試合終了!勝者、棗斑鳩、沙々宮紗夜!」

続いて入ってきたのは――

 

 

 

「ふははははははっはははは!――我輩の完敗である!」

人間らしい機械の笑い声と歓声と拍手、喝采に口笛、実況と解説の声――様々な音。

 

そして、その声に安堵して斑鳩はその場でしりもちをついた。

 

 

 



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従者誘拐

「お疲れ、斑鳩――」

「そっちもな、紗夜」

勝者インタビューをほっぽりだし、斑鳩と紗夜は互いにぐったりとした様子でソファに腰かけていた。紗夜と斑鳩の二人とも、身体の彼方此方に包帯がまかれていた。痛々しいことこの上ないが幸いにも大きなけがはなかった。とはいえ、斑鳩はこの世界に来てのかなりの無茶を行ったため、かなり満身創痍な状態である。

そんな二人の仲を穏やかな時間が流れている。

 

「――紗夜!斑鳩!」

わざわざ綾斗がやって来た。

 

「やれやれ、大丈夫か?随分と派手にやられたようだが?」

後ろから入ってきたのは、ユリスと綺凛だった。

 

「…問題ない、わけでもないさ、ちとばかし本気を出してな、慣れないもんだから少し疲れた」

疲れたというレベルではないのも綾斗達は知っている。

 

「斑鳩、どうだ?」

「ん?あぁ、メディカルチェックか…まぁ、ご覧の通り応急処置で済んださ」

若干ケラケラと笑いながら手を振る斑鳩。今は、薬も効いているのでそれなりに問題はない。

 

「紗夜のほうは?」

「身体のあちこち痛い、ただ、それよりも……煌式武装がいくつかおしゃかにされてしまったほうがもっと痛い」

 

「そうだな…そこは考えないとな」

少し斑鳩の顔が曇る。

 

「斑鳩、まずは一勝、いぇーい」

「お、おう」

と無理やりに紗夜のテンションに載せられる。

 

「まぁ、私達もすぐさまトップ2まで行ってやる、それまで休め、なあ、綾斗?」

「うん、ゆっくり休んでくれ」

「あぁ、今はそうさせてもらおう」

「まぁ、決勝では我々が待っているから、存分にこい」

「ご期待通り、全力でぶつかり合ってやるよ」

ユリスがそういって拳を差し出すと、斑鳩と紗夜はそれに自分の拳をこつんとぶつけた。そんな中

 

「失礼しますね」

ノックの音と共に、おだやかな声がドアの向こうから響き、クローディアが控室にやって来た。

 

「斑鳩くん、沙々宮さん、この度はトップ2進出おめでとうございます、星導舘学園としても、今シーズンの展望がだいぶ明るくなってきましたね」

「おう、どうもクローディア」

「…別に自分のためにやっただけ」

丁寧に頭を下げるクローディア。どうやら、結構いい感じのようだ。そんな中

 

「ところでクローディア、途中、フローラを見なかったか?」

「いえ………生憎とお姿は見かけていませんね」

ゆっくりと首を振るクローディア。

 

「試合後は沙々宮たちの控室で合流するという約束だったのだが……」

試合が終わってからは随分と時間が経つ。綾斗達の試合は夕方からでまだ余裕はあるが、少し心配だ。

嫌な気配が胸をざわつかせる。そして、そのフローラからの通信がユリスの携帯端末に入った。

 

「フローラからだ、まったくあいつめ、一体何をして……」

相手を確認したユリスの顔が、一瞬にして真剣な表情になる。

 

「音声通信だと……?」

その言葉に緊張が走る。

 

「……ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだな?」

「誰だ貴様!なぜその端末を持っている!」

怒鳴るように問いただすユリス。相手はそれに答えない。

 

「この端末の持ち主は預かった、そこに天霧綾斗はいるか?」

「あぁ、俺がそうだけど……フローラちゃんは無事なのか?」

綾斗はまずなによりも大切なことを確認する。

 

『姫さま!天霧さま!フ、フローラは大丈夫です!』

これは間違いない、彼女の声だ。

 

「お前がこちらの要求を呑むならば、以後の安全も保障する」

「……その要求は?

「《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に対して、緊急凍結処理を申請しろ、その受理が確認され次第、彼女は解放する」

 

「緊急凍結処理……?」

「要求が実行されなかったと判断された場合、及び警備隊ないし星導舘学園の特務機関への連絡が確認された場合、彼女の身の安全は保障できない、またお前たちが《星武祭》を棄権した場合も同様とする、以上だ」

「あ、ちょ、ちょっと待っ――――!」

一方的にそれだけ言うと、空間ウィンドはプツりと消えた。

綾斗は慌ててユリスの手から端末を借りると、こちらからかけなおすが、当然反応はない。

 

 

「(誘拐ってわけか…上等じゃねぇか)」

まさか、ここにきてこのような状況になるとは思ってもいなかった斑鳩。

斑鳩は、自身と味方のHPをより回復させることが出来るリフレッシュを自分に多重掛けする。

反動はデカいが今はこうするしか手立てはない。

そして一瞥する。見れば、かなり青ざめた顔のユリス。しかもその声には力がなく、まるでユリスのものとは思えない。

 

「さてと、とりあえず落ち着こうか」

斑鳩は周囲をぐるりと見渡しそういった。

 



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友の為に――

「さてと、とりあえず落ち着こうか」

斑鳩は周囲をぐるりと見渡しそういった。

 

「まず、狙いは今の通り綾斗ってことだ、ユリス、お前がうろたえてどうする?」

「斑鳩…」

「こういう時こそ、しっかりとした状況把把握が重要だ」

その言葉にユリスは大きく深呼吸し自分の両頬をパンと叩いた。

 

「あぁ、そうだ、すまない」

その眼には強い怒り、しかし動転した様子はない。それを確認した斑鳩はクローディアに視線を向ける。

 

「よし、まずクローディア、犯人の要求に遭った緊急凍結処理について説明してくれ」

「はい、緊急凍結処理というのは、学有純星煌武装使用者がその純星煌武装に危険を感じた場合に申請するものです」

 

「つまり、危険性発覚の場合、使用者自らが強制封印の申請を行うってわけか」

瞬時に、それを理解する斑鳩。

 

「となると、犯人の要求は《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を使えさせなくさせることだと?」

「おそらくは」

「ってことは、犯人側も結構な輩がいるな」

斑鳩は状況を総合してそうつぶやく。

 

「斑鳩、それはどういうことだ?」

「簡単さ、まず緊急凍結処理ってのは文字通り封印だ、ってことをしたら気難しい《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》はそんな真似をされて黙っているわけないだろ、そこをまでを見越して、犯人はこんなことをやっているってことさ、ということは必然的に裏に居るのは――どこぞの特務機関関係者ってことだ、それに犯人は特務機関の存在を知っているってことだからな」

 

「斑鳩、それは深く考えすぎでは?」

リースフェルトが言ってくる。

 

「いんや、それだったら、普通に襲撃をかけているさ――もし天霧綾斗であればな」

「ということは、まさか《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》と両方?」

「そういうことだ、犯人の目星はもうついている」

斑鳩はクローディアと綾斗に目を合わせる。二人とも直感で感じたらしい。

 

「だが、犯人は同時に大きなミスを犯した」

「大きなミス?ですか?」

おずおずという綺凛。

 

「あぁ、まずあいつはあの場にクローディアがいることを知らない」

そういうとクローディアに全員の視線がいく。

 

「斑鳩、クローディアがいるとなんか問題なのか?」

「違う、その逆だ、記憶が正しければ学有純星煌武装の使用に関しては会長の許可が必要、そして、その逆である封印関する処理も然り、となると緊急凍結処理に関しての承認はクローディアが持っているとなると、この場でクローディアがあえてこの話を聞かずに、姿を消してくれたら、その間に時間が稼げるだろ?」

「あぁ、そうだな、それが何になるんだ?特務機関や警備隊は使えないのだぞ?」

「問題ない、明日の決勝までの"こちら"で探し出す――もう猫のしっぽは捉えているからな」

そういうと凄みをつけていう斑鳩。

 

「対象は"再開発エリア"、仕掛人は《悪辣の王》ディルク・エーベルヴァイン、そいつだけだ」

 

「《悪辣の王(タイラント)》――」

「もちろん彼が証拠を残すわけがないので、となるとあちらの諜報工作機関"黒猫機関"といったところだろうな」

そして、クローディアは斑鳩がそこまで言うと今までのを要点をまとめてみせる。

 

「つまり、相手の要求を呑んだ風によそいつつ、今から24時間以内に犯人を見つけ出しフローラを救出する、ってところですか?」

 

「その通りだ、綾斗はどう思う?」

「悪くない案だと思う、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を手放す自体は構わないけど、フローラちゃんが解放されるとは限らない、だったら出来る限りのことはしておいたほうがいい」

「…そうか、わかったその案でいこう」

ユリスは心を落ち着かせるように言う。そして、皆が頷くと同時に、斑鳩は一歩前に出てくる。

 

「ユリス、綾斗、ふたりは次の準決勝に備えたほうがいい」

「そうですね、あちらの要求に《星武祭》を棄権するなという条件が入っていた以上、まずそちらに集中した方がよろしいかと」

「あぁ、付け加えるとすれば、おそらく犯人は星武祭の中継を通してしか緊急凍結処理を確認することができないだろうな」

「集中しろと言われても、この状況でできると思うか?本来ならば《星武祭》など放りだして、今すぐにでもフローラを探しに行きたいところだ」

「・・・ユリス、それは自分の望みをあきらめることになるぞ?」

「構わん、大切なものを守るために、それを犠牲にするのでは意味がない」

きっぱりと言い直るとバツが悪そうに綾斗の方に向く。

「ああ、そのすまない、つい私の都合だけで言ってしまったが、我々はタッグパートナーだ、無論、お前の意思は尊重する」

「気にしないでいいよ、ユリス、俺も同じ考えだからね」

というが、

 

「ユリス、あまり失うことをおそれるな――それに、フローラを助けて決勝で俺らとぶつかったうえで優勝する、それくらいの気概を持ってくれ」

「――斑鳩」

その言葉に驚くと同時に頼もしさを感じるユリスであった。



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歓楽街疾駆

斑鳩はユリスの顔を尻目に、クローディアに向き直り

「さてと、ここからの流れだ、まずクローディア、書類関係を綾斗の端末に送っておいてくれ」

「はい、もうすでに送りましたわ」

「さすがだ、それと装備局にこっそりと手回しを頼みます」

「えぇ、もちろんですわ」

「さすが、十分助かる」

「ありがとう、クローディア」

ユリスが素直に感謝の言葉を述べる。

 

「それで、クローディアが力になれるのはここまでってところか、んじゃあ、あとはフローラを救出したらってところですかね?」

斑鳩はユリス達の方に向き直り

 

「綾斗、ちょっと手を出してくれ」

「手?」

そういうと綾斗は手を出してくる。斑鳩は綾斗の手の甲に軽く触れ、呪文を唱える。綾斗に囁く。すると、その内容を理解する綾斗。そして、斑鳩と紗夜は立ち上がる。

 

「さてと、行きましょうかね」

「そうですね」

「うん」

「あぁ、再開発エリアでは簡単にでも変装のようなものをしていった方がよろしいかと、黒猫機関(グルマルキン)は少数精鋭と聞き及んでいますので、監視をあちことに配置させるようなことはしていないでしょうが、念には念を入れてでしょう」

「――了解」

そう答え、控室を出ていこうとする三人に、今度はユリスが声をかけた。

 

 

「待ってくれ、お前たちが協力してくれるのは正直助かる、だがおまえたちは――」

「「――ユリス(・・・)」」

紗夜と斑鳩の声が重なった。

 

「友達の窮地に力を貸すのは当然のことだ、気にすることはない」

「はい、私もそう思います」

「そういうこと、気にすることはない」

三人の言葉にユリスは目を見開き、苦笑を浮かべてうなずく。

 

「そうか、そうだな、紗夜、綺凛、それに斑鳩――よろしく頼む」

「……ん、頼まれた」

「おう、任せろ」

そういうと、斑鳩は動き出した。

 

 

 

 

 

再開発エリア――

 

通路には人が疾駆する音が木霊していた。

斑鳩は、事前にクローディアから送られてきたデータを参照しながら凄い速さで歓楽街を捜索していた。

 

「(にしても、個々の歓楽街はいい方だが――廃墟エリアになるとな)」

流石に、今回に関しては地の利の面で言えば犯人の方が上手だ。

 

「(二手に分かれて正解だったな)」

方向音痴な紗夜に綺凛を任せ、斑鳩は通路を疾駆していく。とはいえ、

 

「(一つ一つ潰していくのは、至難の業か――)」

流石に、このアスタリスクの歓楽街だけあって、その規模は大きい。尚且つ店の数も多い。

 

「(先導人を見つけなければな…)」

その中を斑鳩は、メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を駆けながら一つ一つしらみ潰しで駆け抜けていく。とはいえ、ここはアスタリスクの暗部だけあって、あまりいい情報はない。

 

「(夜吹の力も借りるか…それとも独自でやるか)」

あの情報通が影星ではない確証もないということになると、下手に連絡は取れない。

 

「(早々に見つけないとな…)」

とはいえ、この町で勝手に押し入るわけも行かない。足を止めればすぐに客引きが寄ってくるような町だが、そこは光学迷彩を使っているので問題ない。そんな中だった。

 

「あら、見えないネズミがいるようね、お行儀が悪いのは誰かしら?」

「――ッ!?」

直後、何者かが剣を振るってきた。しかも、異質な感覚、それに加えかなり重い攻撃。

斑鳩はすぐさま回避行動を取ると、容赦なく二撃目が飛んでくる。映り込むのは白い髪。

見れば、その人物が持っているのはレイピア型の星煌武装。斑鳩は、再び三撃目を警戒し、距離を取る。

そして、襲撃者の方を見ると、

 

「オーフェリア!?」

「…この声、斑鳩?」

其処に居たのはレヴォルフの服装のオーフェリアだった。

斑鳩は、光学迷彩を解くと

 

「斑鳩じゃない」

「そっちこそ、オーフェリアだったか――にしても、肝を冷やしたぜ」

「ごめんなさい、確認せず攻撃して」

「いんや、いいさ」

「それにしてもどうしたの?こんなところで?」

「ん、あぁ、実はな――」

そういうと、斑鳩は事の経緯を話し始めた。

 



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従者救出と阻む影

「そういうことね……」

「あぁ」

そういうと、少し考えたのちにオーフェリアは口を開いた。

 

「結論から言うと――私から言えるのはあまりないわね」

「……そうか」

残念であるがこれは予想されていた答えだ。

 

「まぁ、誤解しないでちょうだい、私も彼から口止めされているわけじゃないわ、むしろその逆ね」

「逆?」

「今回の件は、まず彼によるものね、それにお抱えの機関も」

「黒猫機関ってわけか」

「えぇ、にしても、厄介なところに人質を取られたわね、今回は、イレーネみたいな子飼いの連中じゃないわ、なにせ、通達が来ていないわ」

「…ますます黒猫機関の連中ってわけか」

「えぇ、それで斑鳩はどこに検討をつけているわけ?」

「廃墟ではなく、こちらの生徒会長がピックアップしたところだな」

「まぁ、検討はいいわね、私としては歓楽街ね」

「歓楽街…確かに、草を隠すには草のなかってわけか」

「その通りよ、どうするついていこうか?」

まるで子供を見るかのようにいうオーフェリア。

 

「子供じゃあるまいし……」

そこまでいうとオーフェリアの表情が変わる。

 

「ま、まぁ、地の利のそっちの方がわかっていそうだから頼めるかな?」

「待ってました、んじゃあ、いくわよ」

そういうと、オーフェリアに手を掴まれ、そして彼女は飛び出していく。

そろそろリミットの時間、ゴミが起動する時間だ。

 

「オーフェリア、いいか?」

「ん、どうした?」

斑鳩は"ゴミ"を起動させた。すると、斑鳩の端末の地図、歓楽街のはずれ、北側の一角に紅い点が浮かび上がった。

 

「ビンゴ、オーフェリア、このまま最高速でいくぞ」

「待ってました」

そういうと、斑鳩は近くにいた綺凛と紗夜に居場所データを送り、速度をあげて北側の一角に向かった。

 

 

 

 

先に到着した綺凛と紗夜。二人は、入り口の敵をなぎ倒し、地下に降りていた。そして、すぐに巨大な扉に行きあたっていた。

 

「紗夜さん、まずは私が」

何かあった時に備えて、役割を分担しておいた方が賢明だと感じた二人。前に立ったのは綺凛だった。

「……わかった」

紗夜が頷くのを見て、ゆっくりと扉を開く。そこは、一階と同じようなホールが広がっていた。しかし、天井はあまり高くなく、柱の数もずっと多い。全体的に薄暗いフロアの中、所々明るい照明の所に人質はいた。

 

「フローラちゃん!」

綺凛が声を掛けると、女の子はハッとしたように顔を上げた。

 

「んんんー!」

猿轡を噛まされているために何を言っているか分からない。そんな中

 

「――ッ!?」

綺凛はふいに殺気を感じて、大きく横に飛びのいた。

わずかに遅れて柱の影から飛び出してきた巨大な棘が、さきほどまで綺凛が立っていた空間を刺し貫いた。

そして、更に他の影からも同じような棘が次々と綺凛を狙う。

 

「(一階の人影といい、やはり影を武器にする能力者……!)」

ホールの無数の光源。この場所はこの能力を最大限まで発揮できるようになっているみたいだ。

 

「――刀藤綺凛か、随分と大物がやってきたものだ」

ピタリと攻撃が止む。そして、フローラの柱の影から無機質な目をした男が姿を現した。

 

「……あなたが誘拐犯ですか?」

そう問うと、フローラの影から延びた棘がその喉元に突き付けられる。

 

「オレの邪魔をすればこの娘の命は保証しない」

「そ、そんな……!もうやめてください!そんなことをしてもあなたが不利になるだけです!」

「一つだけ教えておいてやろう、俺がどうなるかなどということは、俺にとってはどうでもいいことだ」

その本気の言葉にゾッとする綺凛。どうやら、ためらいは無いみたいだ。

「まずは武器を捨てろ」

「……くっ」

それが分かった以上、綺凛はどうすることも出来ない。仕方なく千羽切をゆっくりと床に置く。

 

 

「綺凛!フローラを!」

その瞬間、鋭い紗夜の声がホールに響く。同時に、フローラの喉元の棘が撃ち抜かれ、同時に照明弾で影をいくつか消した。千羽切を斑鳩に教えてもらったやり方で拾い上げ、そのまま全速力で駆け抜ける。

男が、動く。同時に、フローラ自身の影から棘が生まれる。

 

「させません!」

剣閃がその棘を立ち切り、綺凛はフローラを抱きかかえる。

そして、後方から光弾が飛んでくる。

 

「この狙撃――沙々宮紗夜か」

そして、綺凛は猿轡と縄をほどいた。

 



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到着、絶天

フローラを救出した綺凛と紗夜。

「と、刀藤様!ありがとうございます!」

「いいえ、それより早くあの扉の向こうに――」

「あいっ!」

フローラは涙をぬぐって走り出す。子どもとはいえ、《星脈世代》すぐに入口までたどり着いた。

 

「さて、どうしますか?」

「知れたことだ、お前たちを排除して、娘を取り戻す」

どうやら退いてくれる気はないみたいだ。その証拠に、男の腕から黒塗りの刃が滑り落ちる。

 

「(…実剣ですね)」

どうやら、相手はこちらを殺る気満々のようだ。

 

「でしたら、命に代えてもここを通すわけにはいきません」

綺凛は、そういって千羽切を構える。どうやら、ここまでの攻防から推測するに、男の能力はいくつか制限があることは明白だ。

 

「(相手の能力は、闇討ちや暗殺に特化したもの…正面から戦う場合は別でしょう)」

と推測しているが

 

「――くッ!?」

男の斬撃を受け取める。的確に急所だけを狙い、尚且つずしりと重い一撃だ。

それを跳ね上げるが、すかさず男が鋭い突きを返してくる。綺凛は、それをかわすが、そこに男の膝が腹部を抉る。

 

「――ッ!?」

思わず床に崩れ落ちそうになるが、それはできない。

 

「(……強い、ですが)」

侮っていたわけではない。万全と言えども今の彼女とこの状況はキツイ。

それに、剣技では綺凛が上回っているが、体術では完全に負けている。しかも、攻撃に一切の躊躇がない。

とはいえ、後ろの紗夜に助けを求めたいが、生憎フローラを守らなければならない以上、加勢も厳しい。

 

「(一か八か――)」

そう考えるが、男はその余裕を与えてはくれず。驚くほどに静かな走りで間合いを詰めると、鋭い連続攻撃を繰り出してくる。そして

 

「――終わりだ」

「えっ?」

ふいに男がつぶやき、目の前からその姿が消える。眼前には壁。そこで初めて気づいた。自分が罠に嵌められたことを。

「綺凛よけろ!」

 

紗夜の声にはじかれるようにして身をひるがえすがわずかに遠い。そして、影から伸びてきた棘が綺凛の脇腹を貫通した。

 

「あああああっ!」

焼けた鉄の塊を押し付けられたような痛みに、思わず悲鳴が漏れる。見る間に服が赤く染まり、急速に力が抜けていく。千羽切を取り落としそうになったその時だった。

 

 

「綺凛!!」

自分の名前を呼び捨てで読んでくる男性の声。この情勢下で最も頼もしい人物の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

到着しホールについてみれば、若干手遅れなものの、何とか間に合ったようだった。

 

「綺凛!!」

直ぐさに駆け寄る斑鳩。見れば脇腹から血が出ており、服が赤く染まっている。

 

「悪い、遅くなった!」

斑鳩はすぐさま、その棘を弾き消し飛ばし、綺凛を抱える。

 

「大丈夫か!?」

「は、はい」

意識がもうろうとしているが、一先ずは大丈夫のようだ。斑鳩は、すぐさまリフレッシュを綺凛に多重掛けする。すると綺凛の傷がみるみるうちに癒える。

 

「驚いた…棗斑鳩だと、それに治癒だと」

「…」

斑鳩は何も言わない。ただその場で敵をねめつける。

いや、この場合、斑鳩の内なる殺意によって言葉すらもが停止しているからだ。

 

「…下種共が」

「なに?」

斑鳩は、かろうじて言葉を紡ぐ。

 

「黒猫機関金目の七番ヴェルナー、雇い主は言うまでもなくディルクか」

「――なにッ!?」

ボソリとつぶやく斑鳩。心底つまらないと思う。だが、その言葉に動揺が伝わってくる。

男は、実剣と棘で攻撃してくるが星辰力の壁に阻まれる。

 

 

「なんだ…こいつは!?」

ヴェルナーはほんの少し狼狽する。データでは、いたってこちら側の世界に踏み込んでいない健全な生徒の筈だ。しかし、彼は濃密な殺気をコートでも着込むように身にまとっているのだ。いくらがこの学園でもそこまで濃密な殺気を纏っているやつはいない。黒猫機関でもだ。

瞬時に感知する濃密な殺気。どう考えても押さえているが、そのこぼれ出ている量が異常だ。

 

「(まさか、こいつの本性か…?)」

そう思いながらもヴェルナーは斑鳩に攻撃を加えようとするが。その瞬間、鈍い音と共に何かが砕けていた。

 



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父の背中

斑鳩の頭の中では如何にしてヴェルナーを処理するかしかなかった。

今にでも激情に身を任せ、ヴェルナーの首を跳ねたいが、それでこの空間が収まるわけがない。下手すればレヴォルフ学院そのものが崩壊させかねない。

 

「――馬鹿なッ!?」

見ればヴェルナーの手元の実剣がものの見事に粉々に砕け散っていた。しかし、目の前の棗斑鳩は、剣を取り出していない。その手には、星辰力で構成されたと思わしき刀がそこにある。

 

「紗夜、綺凛――あまり見るな」

「えっ?」

「おそ――」

隙を見て斑鳩に向けて攻撃しようとしたヴェルナー。しかし、まるで壁に引っ張られるようにして、後方の壁に勢いよく叩き付けられる。同時に回避不能な無数の光の矢がヴェルナーに飛んできて、文字通りヴェルナーを磔にした。

 

「クソッ!!どういうこと――」

斑鳩はヴェルナーがここで死なれては困るので、ありとあらゆる死の手段を封じ込んだ。

 

「綺凛、大丈夫か?」

「は、はい」

顔を真っ赤にさせながら言う綺凛。今お姫様抱っこのような状況だ。

 

「少し背中で休んでいてくれ」

「ありがとうございます」

そういうと、彼女をおんぶする形になる斑鳩。そして、通信端末を開いてクローディアにつなげる。

 

「クローディア、襲撃者の無力化及びフローラを確保、綾斗に存分に暴れていいぞと伝えてくれ」

『あら、一歩遅かったですわ、ついさっき、試合は終わりましたよ』

「結果は、聞くまでもないか」

『えぇ、綾斗の勝利です』

「わかった、ありがとう」

そういうと、斑鳩は通信を切り、紗夜と斑鳩、それにフローラを軽く眠らせ三人を抱きかかえる。

 

「あとは任せたぞ――夜吹とその"お仲間"たち」

そういうと、近くの柱の影から夜吹が現れる。

 

「見抜いていたか、斑鳩」

「まぁな、あとは任せたぞ」

「あいよ」

専門家集団に彼を引き渡し、斑鳩はその場を立ち去る。

入り口には、警戒していたオーフェリアがいた。

 

「どうだった?まぁ、その様子だとってところね」

「あぁ、ありがとう、オーフェリア、このお礼はいずれ精神的にな」

「いいえ、こういう時こそ、お互いさまよ、じゃあ、私も怪しまれないうちに出るわね」

「あぁ、なんかあったら言ってくれよ?」

「えぇ、そうするわ」

そういうと、その場から消えるオーフェリア。

「さてと、帰りますか…」

その前にこの三人をどこかで降ろさないとなと思いながら、一路近くの公園に向かった。

 

 

 

 

斑鳩は案の定、近くの海浜公園に足を向けていた。

「――さてと、3・2・1」

そういうと、三人が目を覚ました。特に跳び起きたのは紗夜だった。

すぐに武器を構えるが、その光景に、少し動きを止める。

 

「…ここは?」

「海岸近くの公園だよ、紗夜」

「海岸近く――私達は廃ビルにいたんじゃ?」

「さぁな?」

見ればフローラの姿もあり、少し胸をなでおろす紗夜

 

「斑鳩、何をした?」

「少々、見られたくないものがあってな…これ以上は先に聴かないでくれ」

「……わかった」

その凄みのある言葉に納得する紗夜。斑鳩はフローラの方を一瞥し

 

「紗夜、あとはフローラを頼む」

「斑鳩はどうするの?」

「万が一に備えて彼女を連れていく」

「わかった、任せて」

「頼むぞ」

そういうと、信頼できる相棒に彼女に任せて、綺凛を治療院に連れていった。

 

綺凛は、心地よい夢を見ていた。

それも遠い昔の夢だ。あの頃は、自分もまだ泣き虫だったころの夢だった。山を駆けていたころ、転んでしまい、偶然にもおぶられていたなと思い出して、感傷に浸っている。今となってはいい思い出だ。

 

 

「(あの頃はお父さんと一緒だったな…)」

ふと薄く目を開けてみれば、父親と似た白い髪。

 

「…お父さん」

どこか妙に懐かしく、まるで自分の父親におぶられているように感じる綺凛。その温かさに思わずつぶやいてしまう。そして、その広さに温もりを感じ、再びまどろみに身を委ねる綺凛であった。

 

「(父さんか…)」

背中に湿り気を感じながらも、何とも言えない感じの斑鳩だった。

 



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鳳凰星武祭-決勝戦

翌日――早朝

 

斑鳩は、早朝のアスタリスクの街並みを眺めていた。視線の先からは、ゆっくりと海面から太陽が上がっていく。

 

「(ここまで来たのか…)」

剣を携え、その陽を見ている斑鳩。そして、ゆっくりと陽が上がっていく。それはいつもと変わらない

朝の風景。ただ陽が登って陽が降りて夜になる。そんな単純なものだが

 

「(決勝か――)」

心の奥底で高ぶる鼓動。すでに、弓は放たれようとしているが、今は違う。

 

「(今は、今を行くだけだ――)」

そう自分に言い聞かせ、いつも通りの瞑想に斑鳩は入った。

 

 

 

 

「そろそろ…時間だな」

控室のソファに座って目を閉じていた斑鳩は時刻を察知し紗夜に声をかけた。

 

「そうだね」

短く答えると、立ち上がって二人で大きく伸びをし、控室のドアを開き、通路を歩き出す。

 

「この通路を歩くのも最初で最後か…」

「そうだね…シリウスドーム派手に壊したからね――アルディが」

「…請求書は、委員会より個人的にあの二人にしたほうがいいだろうね」

「だよね…けど、そうなると斑鳩もだよ?」

一応斑鳩もアルディほどではないが派手にシリウスドームを壊している。ちなみに、その件でクローディアも苦言を言われたらしく、夜吹経由でしこたまというわけではないが、小言は言われた。ちなみに、その後、この前だというのに土下座までする羽目になった。何とか許してもらえた。

そんなことを思い出しながら通路を歩いていると、突然紗夜がつぶやいた。

 

「――斑鳩、ありがとう」

「え?」

「斑鳩、ここまで連れてきてくれてありがとう」

「それはお互いさまだよ――当初の目的は達成したが、ある意味であっちも、そしてこっちもは本気が出せる」

「うん」

 

『さぁー西ゲートからは星導舘学園の棗斑鳩選手と沙々宮紗夜選手も入場です!ニ週間の長きに渡って様々な闘いが繰り広げられてきたこの《鳳凰星武祭》もいよいよラストバトル!!決勝戦です!』

『いやぁ、楽しみッスね!』

決勝戦にふさわしいアナウンス。決勝のステージに出る直前、紗夜が足を止める。

 

「斑鳩」

拳を軽く突き出してくる紗夜。それを何も言わずに答える斑鳩。そして、斑鳩と紗夜はステージに出た。

一気に歓声が沸き上がる。同時に、斑鳩は決勝の相手を捉える。言うまでもなくユリスと綾斗だ。

 

 

 

「不思議なものだな、こんな状況だというのに――今の私はこの試合に勝ちたくてたまらない」

「うん、俺もだよ」

「よし、ならば私もお前も精々欲張るとしよう、望むものすべてを手に入れてみせようではないか」

「何一つ取りこぼすことなく、ね」

ユリスと綾斗がつぶやく。それを聞き逃さない斑鳩と紗夜。

 

「このような形で相見えることが出来たとはな、綾斗、それにユリスも」

「うん、それはこっちもだよ、斑鳩、紗夜も」

斑鳩は、エリュシデータとファーブニルを取り出す。

 

「にしても、この形で良かった」

「どういうこと、斑鳩?」

「なんの気兼ねなくぶつかることが出来るからさ」

「そうだね、それはこっちもだよ、斑鳩」

綾斗がそういう。

 

「あぁ、そうだ――相手が二人で良かった、全力を知っているだけ、こちらも有利に行ける」

「それはお互いさま、リースフェルト」

ユリスの言葉に紗夜が反応する。

 

「相手にとってこれほど満ち足りたとは――幸せなことだ」

「斑鳩、感傷に浸らない」

綾斗は黒炉の魔剣を構える。

どうやら、あの気難しい魔剣も今回ばかりは盛り上がっているみたいで、綾斗に従順のようだ。

 

 

 

「悲しいことだが、ここでおまえらの願いはへし折らせてもらうぞ」

「私達には、私達の夢がある――邪魔はさせない」

斑鳩は本格的に身構える。視線の先には、万全の状態のユリスと斑鳩。

 

「紗夜、いけるな?」

「もちろん」

龍虎相見えるようにお互いがお互いを捉える。そして、カウントダウンが始まる。周囲の声はもはや何もきこえない。同時に斑鳩の血流が早まっていく。同時に、戦闘を求める衝動に掛けた手綱をいっぱいに引き絞る。相手は天霧綾斗だ。僅かな躊躇を払い落し、二振りの剣を抜きはらう。最初から全力であたらねば失礼になる相手だ。二人とも中央のカウントには視線を向けなかった。しかし

 

「《鳳凰星武祭》決勝戦、試合開始(バトルスタート)!」

最後の合図が鳴り響いた。地面を蹴ったのは同時だった

 



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斑鳩&紗夜vsユリス&綾斗

綾斗は開始と同時に、力を解き放つ。同時に、斑鳩に向かってくる。しかも、ユリスと同時にだ。

 

「ほほう」

どうやらあちらもこちらの力は知っているらしい。単純に、こちらを先に倒してくるみたいだ。

 

「行くよ、ユリス!」

「あぁ!」

綾斗は即座に呼吸を整え、剣を構える。相手は出し惜しみをする気はない様だ。

 

「天霧辰明流剣術中伝――九牙太刀」

「刀藤流剣術――連鶴」

綾斗から五つの突きと四種の斬撃を組み合わせた九連撃が飛んでくるが、それを綺凛から習った連鶴で打ち消していく。

 

「――連鶴!?」

「ははっ、驚いたか綾斗、綺凛ちゃんから習った技さ」

「驚いた、まさかそこまでの技量に達していたとはな…一筋縄ではいかぬか」

リースフェルトは顔をしかめ釣らせる。当の斑鳩と綾斗はお互い距離を取る。

「んじゃあ、こっちから行かせてもらおうか」

斑鳩はまるで、そこから消えるように身体を揺らし、一気に地面をすべるようにかけていく。

 

「バーチカル・スクエア!!」

「――ッ!?」

突如現れた斑鳩の人影。青白い残光と共にエリュシデータを4連続で振るう。綾斗はそれを防ごうと剣を振るってくる。斑鳩の怒涛の攻撃だが、それで終わるわけではない。

 

「(――さぁ、暴れようぜ!!)」

斑鳩のエリュシデータに黒い紋様が浮かび上がる。

綾斗の《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》は、触れれば溶けるという話がある剣だ。故に、今までの選手は遠距離及び中距離や極力攻撃を当たらないようにしてきた。だが、同じ剣どうしであればどうなるのか

そして、斑鳩のエリュシデータと綾斗の《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》がぶつかり合った。

だが、エリュシデータは無傷だ。

 

「――ッ!?」

黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を知っている綾斗にとっては驚きでしかない。斑鳩は何も言わず綾斗の《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に剣戟を撃ちこんでいく。

 

「咲き誇れ――九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

綾斗の背後で猛烈な熱気が上がる。そして、斑鳩に向けて上下左右の炎の花が襲い掛かる。

 

「天霧辰明流剣術初伝――貳蛟龍」

綾斗とユリスは、斑鳩が避けるとと知っての攻撃を繰り出してくる。しかも、狙いは胸の校章。

二人の息の合った攻撃だ。確かに、これが斑鳩本人であればいいが、生憎一人ではない。

 

「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト――《バースト》」

斑鳩にユリスの攻撃が当たる寸前、真横からねりを上げた奔流が綾斗たちを襲う。

だが、直撃する寸前、ユリスの手を引いてぎりぎりのところでそれをかわす。

斑鳩は一旦距離を取るため、バックステップで一気に飛び上り紗夜の隣に着地する。

 

「ナイスフォローだ、紗夜」

「斑鳩も、グッジョブ」

とはいえ、今のでいくつか分かったことがある。綾斗は、こちらの動きや場などを俯瞰的に把握しているということだ。お互いの距離が離れる。

今度はこちらから、一気に走りこんでいく。

 

「綾斗!」

「わかっている!」

一気にユリスに行くと見せかけて綾斗にとびかかる。斑鳩は、ソニックリープを繰り出し、そこから、

スネークバイトにつなげ、ダブルサーキュラーの攻撃の線が読めない攻撃を繰り出す。

二つの剣がぶつかり合うたびに、その余波が障壁を揺らす。

 

「咲き誇れ――赤熱の灼斬花(リビングストンデイジー)!」

地面から無数の焔が吹きあがり、渦を巻くようにして炎の戦輪が現出する。数がいつもより多い。その分、若干小粒だ。斑鳩は、エリュシデータを煌かせ。

 

「ライトニング・アロー!」

無数の光の矢を飛ばしてユリスの攻撃を相殺する。

 

「天霧辰明流剣術中伝――十昆薊」

体をひねりながら剣を払ってから、 もう片方の手に剣を持ち替えてさらに体をひねって剣を払ってくる。

斑鳩は、そこをダブルサーキュラーで相殺する。斑鳩は、ライトニングアローで強引に綾斗をひきはがす。牽制のためにばらまかれた弾幕をかわし、下段から一閃。

 

「ヴォーパルストライク」

赤い光芒の演出と共に剣による強力な突きを繰り出し、それをはじき返す。

そんな中

 

「ふふん、この時を待っていたぞ……!」

かなり不穏な空気。

 

「綻べ――栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

ユリスがアスペラ・スピーナを振り下ろすと同時に、地面に魔法陣が浮かび上がる。同時に、巨大な炎の爪が噴き上がり、そのまま斑鳩を握りつぶす。だが、物凄い轟音と共に、その爪が横に一閃される。同時に、その爪がはじけ飛んだ。見れば、斑鳩の手にはスカーレットファーブニルが煌いている。

 

「――甘いな」

「何ということだ…」

「忘れては困る」

ユリスは悔しそうに舌打ちしてから、再び綾斗と合流しようとするが

そこに光の奔流が二つ襲い掛かる。ユリスの危機をとっさに感じた綾斗は彼女の手を引いて避ける。視線の先には、四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルトではなく軽装をした紗夜がいた。

 



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Gun & Sword

お待たせいたしました。更新再開です!


「咲き誇れ――六弁の爆焔花(アマリリス)

ユリスは火炎球を飛ばして攻撃してくる。狙いは紗夜だ。

だが、斑鳩は間に入りそれを打ち払う。そこに計ったかのように

 

「天霧辰明流剣術初伝――貳蛟龍(ふたつみずち)

そこに綾斗が剣を切り裂いていく。

 

「バースト!」

紗夜の双単銃で綾斗の攻撃を逸らす。斑鳩は、そこからユリスに向かって水月を繰り出す。

水月は、単発で水平蹴りを繰り出す体術だ。ユリスはそれを両手で防ぐが、斑鳩はサマーソルトキックのようなもの繰り出し、ユリスを横に吹き飛ばす。

 

「なっ!?」

「ユリス!」

斑鳩に向けて綾斗がとびかかってくる。

「天霧辰明流中伝――夜紋塵(やもんじん)!!」

走りながら体を捻ってから両手に持った剣で一閃してくる。斑鳩は、すぐにユリスの相手を止めて綾斗の方に足を向ける。斑鳩は、ソニックリープからデッドリー・シンズを繰り出す。そして、綾斗がかなり吹き飛ばされる。

 

 

 

「紗夜――」

「ユリス――」

綾斗と斑鳩お互いそういうと同時に翔けだす。裂帛の気迫と共に、お互いがぶつかり合う。

 

「「――ッ!」」

お互いの剣がぶつかり合う。同時に、その衝撃で障壁が揺らぐ。そして、何撃がぶつかり合ったと同時に、お互い後ろからの援護射撃が始まる。

紗夜の攻撃は綾斗に、ユリスの攻撃は綾斗に飛んでくる。

 

「咲き誇れ――呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」

魔法陣から巨大な火炎竜を飛ばすユリス。その数は先ほどのアマリリスより少ないが、それでも厄介だ。

 

剣技連携(スキルコネクト)――スネークバイト!!バーチカル・スクエア!!」

剣を左から右へ、右から左へ素早く水平に連続で振るい、そこから青白い残光と共に4連続で振るう技を繰り出す。その呑竜を退くと、その呑竜の中から綾斗が飛び出してくる。見れば、してやられたという顔の紗夜。

 

「天霧辰明流剣術初伝――肆シ蜂!!」

素早い移動から繰り出される剣による突き攻撃を繰り出してくる。

斑鳩は、綾斗の胸元に向けて極太のレーザーのように発射する。当然

 

「――がはっ!!」

綾斗は障壁に叩き付けられる。

 

「綾斗――!!」

「――バースト」

無表情な紗夜がその言葉を言うと同時に、ユリスを光の奔流が襲う。同時に彼女も吹き飛ばされ綾斗と同じところに叩き付けられる。

綾斗とユリスは、叩き付けられるが、すぐに意識を取り戻す。

 

「やはり、あの二人は恐ろしいな」

「ほんと、同感だよ」

ゆっくりと立ち上がる綾斗とユリス。

 

「恐れられているみたいだな、俺ら」

「当然、だって私と斑鳩だもん」

無表情で言う紗夜。斑鳩は、紗夜の方を見るとどうやらいくつか傷を負っているみたいだ。

 

「紗夜、まだやれるか?」

「――うん、まだ大丈夫」

「(まったく、こいつは――)」

斑鳩は手をかざすが、それを拒む紗夜。

心の中で半ば彼女が綾斗の幼馴染ということに少し嫉妬する斑鳩。

 

「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト――《バースト》」

再び現れたヴァルデンホルトを構えた紗夜。空気を振るわせる衝撃と共に光の奔流が襲い掛かる。

 

「ユリス、掴まって!」

綾斗は彼女を抱き寄せ、大きく真横へ跳ぶ。爆風に煽られて地面を転がりながらも、二人はすぐに立ち上がって体制を整える。

 

「――とんでもない威力のようだな……」

紗夜の攻撃は直撃を避けても爆風に巻き込まれるだけで相当なダメージだ。

 

「まだまだ――」

斑鳩は間髪入れずにヴァルデンホルトと同じ規模のレーザーを繰り出す。

 

「連射だと!?」

「走って、ユリス!」

外周を回るように駆けだす綾斗とユリス。それを追うように背後で爆発が何度も巻き起こる。

そんな中だった。

 

「――なっ!?」

次の瞬間、綾斗の閃撃が煌めく。しかし、今回のは斑鳩からではない。そして

 

『沙々宮紗夜、校章破損(バッジブロークン)

紗夜の校章が敗北を告げた。

 

 

 



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斑鳩vsユリス&綾斗

『沙々宮紗夜、校章破損(バッジブロークン)

紗夜の校章が敗北を告げる。その場でしりもちをつく紗夜。

 

『おーっと、ここで天霧選手の攻撃が決まり沙々宮選手、思わぬ退場だ!』

会場はより一層盛り上がる。

 

「悪い、斑鳩」

「いんや、いいさ」

「あとは任せた――」

「あぁ、お疲れ様」

斑鳩は軽く彼女の頭を撫でてやる。紗夜は自らの足取りでフィールドを去っていく。

 

「さぁ、第二ラウンドを始めようか――」

斑鳩はスカーレットファーブニルとエリュシデータを構える。斑鳩は本気を出し始める。

 

 

 

 

「――ッ!?」

刹那、斑鳩の剣と綾斗の剣がぶつかり合う。

 

「綾斗!咲き誇れ――六弁の爆焔花(アマリリス)!」

ユリスの火炎球が飛んでくるが、それを一閃するだけで全てはじけ飛ばす。

綾斗はその隙を見ているが、後ろに紗夜がいない分、感覚が全てに研ぎ澄まされるので、綾斗の攻撃も全ていなされる。

 

「天霧辰明流中伝――」

斑鳩は言い切る前に、綾斗の動作を読みその剣戟を封じる。

 

「なにッ!?」

「バーチカル・アーク!」

綾斗をV状に斬りつけて攻撃をする。しかし、綾斗の防御に防がれる。舞うように連続で双剣を振るって、最後に小さく飛び上がって剣を振り下ろす。そこから、サマーソルトキックで綾斗を吹き飛ばす。すると

 

 

「そこだ!咲き誇れ――灼炎の太陽華(アネモネ・コロナリア)!!」

斑鳩の頭上に炎の大輪を展開させる。それを落下してくる。

激しい轟音と熱波。そして、業焔が斑鳩を包み込む。

 

「――やったか!?」

ユリスの声。だが、その焔は一閃され、その焔が何かに吸い込まれていくように収束していく。

 

「…いくらなんでも、強すぎだ」

何も言わない斑鳩。其処に綾斗が突っ込んでくる。だが

 

「ッ!?」

イレーネと同じような重力攻撃が綾斗とユリスを襲い掛かり、二人の良く手を遮る。

 

「重力攻撃!?」

「これでは避けられるまい」

そういうと、二人の上空からレーザーが降り注ぐ。

 

「ええい!咲き誇れ、大紅の心焔盾(アンスリウム)!!」

咄嗟に焔の盾を顕現させるもののあっさりと打ち砕かれ、綾斗はユリスをかばうように星辰力を集中させる。四肢を引き裂く様な衝撃が綾斗達を襲う。

 

「ぐ、ぅ……」

綾斗は口元の血をぬぐいながら、よろよろと立ち上がる。

 

「ユリス……大丈夫かい?」

「あぁ、お前が守ってくれたおかげでどうにかな……すまない、助かった」

二人ともかなりのダメージを受けたようだが、何とか立ち上がる。

 

 

「――流石だな、綾斗」

綾斗を称えながら構える斑鳩。そして、綾斗は《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の出力を上げて、間合いを詰めてくる。斑鳩はそれを迎え撃つ。

 

「はぁぁああ!!」

神速とも言える疾さで斑鳩の懐へ飛び込む。そして、下段で斬り上げてくる。が、斑鳩もそれを見切れぬわけではなく、それを適切に対処していく。何十もの打ち合いを経ても、お互い一歩も譲らない。そんな中、ユリスのスピアが、虚空に魔法陣を描き、巨大な焔の呑竜が姿を現す。

 

「咲き誇れ――呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」

先ほどと同様に上空から襲い掛かる。綾斗と打ちあっている今、隙を見せるのは致命的だが

 

「――ッ!」

ほんの少し星辰力を一方向に放出させる。するとその余波で呑竜の姿がかき消える。だが、それを許すほど綾斗は甘くない。綾斗は連撃を加えてくる。斑鳩はそれを連鶴ではじきかえす。

 

「では、爆ぜろ!」

そして、全方位に向けたレーザー光線を繰り出し、文字通り床を抉った。

 

綾斗の視界全てが閃光で白く染まり、ユリスの悲鳴が轟音でかき消される。

塵のように再び吹き飛ばされ、あまりの衝撃に一瞬意識を手放しかけるが、幸いにも激痛により覚醒する。

 

「ぐ、ぅ……」

倒れ伏していた綾斗は何とか身体を起こし、状態を確認する。何とか校章は無事ではあるが、視線を上げ、思わず固まる。

視線の先のステージはものの見事に完全壊滅していた。観客席の防御衝撃も火花が散っている。唯一つ、斑鳩のいる地点だけが無傷だった。

そこに超絶ともいえる雰囲気を纏ってその場に立っている斑鳩がいた。しかも、完全に何かが吹っ切れた様に全てダダ漏れで其処にいた。

 

 

 



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絶天vs叢雲

「綾斗、無事か・・・?」

か細い声に振りむけば、綾斗の背後でユリスが身体を起こしたところだった。しかし、彼女は苦悶の表情を浮かべ、またすぐに倒れ込む。

 

「ユリス!」

「だ、大丈夫だ……と言いたいところだが、流石に少々厳しいな……」

ユリスを抱き起す綾斗。彼女はぐったりとしたまま苦笑を浮かべるだけだ。

 

「正直に言え……まだ勝機があると思うか?」

「…なくはない、と思うけど」

それから、斑鳩に聞こえないように話し出す

 

「その案はあまり現実的ではないな……他には?」

「せめて俺が速度で上回ることができれば、勝負に出られるんだけど………」

「速度、か……」

すると、ユリスは何かを思いついたのか、顔を上げる。

 

「以前クローディアから《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》は本来使用者にとって最適の形状をとると聞いた覚えがある、だが、今の形はとてもそうとは思えん、それをなんとかできたなら、少し改善にあるのではないか?」

「そう言われても……」

「流星闘技を使った時は巨大化させていたではないか、要領は同じだろう?」

「俺は細かい星辰力の調整が苦手なんだ、それもすごく」

「ふむ……」

ユリスは少し考え込む。そして意を決したように言った。

 

「――わかった、ならばそれは私が担当しよう」

「えっ?」

「少し《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を触らせてもらうぞ」

そういうと彼女は、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に触れる。

 

「ちょ、ちょっと――!」

「く……っ!?」

黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に触れたユリスはすぐにその手を離す。

「ふふ……流石に難物だな、認めぬ者には触れさせもせんか…まぁ、どっちにしろ《魔女》の私にはこいつを扱うことはできんな」

 

「まぁいい、今ので十分だ――綾斗、流星闘技をやってみろ」

「流星闘技を?このままでかい?」

ユリスに促され、綾斗は《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に星辰力を注ぎ込む。そして、ユリスは綾斗の右手に自分の右手を重ねる

 

「ユリス…?」

「咲き誇れ――炎菖の飾王花(アレクサンドリート)

その途端、綾斗の右腕をユリスの星辰力が駆け抜け、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に絡みつく様な炎がともる。そして、その刀身が変わっていく。しかも黒い紋様と炎が交互に絡み合い、幻想的な美しさを作り出す。

 

「この試合、私に出来るのはここまでだ、あとは頼んだぞ、綾斗」

「……了解、ユリス」

綾斗はユリスをやさしく横たわらせる。そして《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を一振りして斑鳩に向き直る。直後、ユリスは退場していく。

 

 

 

 

「ごめん、待たせたかな?」

「いいや、問題ない――それに、そっちもといったところか」

斑鳩もどうやら本心からぶつかる必要がある。生半可な気持ちではならないようだ。

 

「いいだろう――見せてやる」

そういうと、瞼の裏で彼女の顔を浮かべ、”借りるぞ”と、心の中でつぶやく。

すると、まるで周囲のいや斑鳩そのものが変わっていく。

地の底から響いてくるような凍てつかせるような声を響かせ、星辰力を身体の隅々までいきわたらせる。同時にその紅い瞳が紅い月と荒涼とした闇を宿しより一層の不気味さを増していく。

そして、信じられないほどに強大な星辰力が膨れ上がっていく。その量たるや、尋常ではない。推し測ることができないほどに圧倒的で禍々しい星辰力が斑鳩を包み込んでいく。そして、万応素が荒れ狂い、一瞬にして、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。そして、空気が震え、全てをねじ伏せ、押しつぶすかのような凶暴な威圧感が放たれる。その手の2つの剣には禍々しいまでの万応素と星辰力がまとわりついている。そして、お互いが一気に踏み込み――

 

「「はあああああ!!」」

ステージ中央で激突し、両者裂帛の気合と共に剣を薙ぐ。一発でも攻撃を受ければそこでおしまい。まさに極限ともいえる攻防が続いていく。

 

 

 

「天霧辰明流剣術奥伝――」

天壌焼き焦がす(スターバースト)――」

お互いがお互いを迎撃し――

 

 

 

「修羅月!」

星龍皇の焔(サラマンドラ)!」

 

お互いの渾身の一撃がぶつかり合った。

 

 

 

 

 



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決着――鳳凰星武祭 決勝

二人の剣閃が半月のような軌道を描く。そして空中で交差した両者は、そのまま地面へと落下し、受け身を取れず派手な土煙を巻き上げた。

両者とも、仰向けに倒れ体力の限界はとうに超えている。その目に映えるものは、遥か天井から自分を照らすライトの眩さだけだ。相手がどうなったのか、お互い、待っていると

 

「――天霧綾斗、校章破損(バッジブロークン)

斑鳩は勝ったのかと思っていると、まだ機械音声は続いていた。

 

「棗斑鳩、校章破損(バッジブロークン)

そして、機械音声は告げ

 

 

 

「試合終了!判定不能!両者引き分け(ドロー)!」

まさかの結果、思わぬことが起きた。

 

「つ、ついに!遂に決着つかず!凄まじい激戦の末、この《鳳凰星武祭》史上初めて同立優勝に導いたのは、星導舘学園の天霧選手とリースフェルト選手、そして棗選手と沙々宮選手です!」

「いやー、見入っちゃったッスねー、決勝戦にふさわしい、素晴らしい試合だったッス!」

歓声と拍手、喝采に口笛、実況と解説の声。様々な音と声が二人に降りしきる中、綾斗と斑鳩はゆっくりと目を閉じ、深く大きく息を吐いた。

 

激戦は終わったのであった。

 

 

 

 

 

シリウスドームが何とか修復が出来たため、表彰式と閉会式の会場はシリウスドームになった。

表彰式に出席するのは、優勝者と準優勝者。といっても、同立優勝な為、表彰式は星導舘が独占していた。

ちなみに、ユリスは勝負後すぐに医療院へ運ばれ、それの付き添いで紗夜も言っているので、この場に居るのは、斑鳩と綾斗だけだ。

ちなみに、観客席の方は立錐の余地もないほどに人で溢れている。どうやら、かなり盛り上がったのでということらしい。

 

「――以上のことから見ても、今回の《鳳凰星武祭》が如何に素晴らしいものだったかわかっていただけると思います、特にアルルカント・アカデミーの二人に関する特例措置はあくまで暫定的なものであるとはいえ、今後のルール制定において、重要な……」

壇上では運営委員長のマディアス・メサが大会の総評を述べていた。

 

「(ったく、ぐだぐだと長いなー)」

と話をめんどくさそうに聴いている。見れば、壇上には各学園の生徒会長が並んでいる。

ちなみに、綾斗はどうやらクインヴェールの生徒会長であるシルヴィア・リューネハイムといつの間にか知り合いになっていたらしい。とはいえ、こっちはというと、こちらに各生徒会長の中で一際こちらを気にしている人物がいる。界龍の生徒会長《万有天羅》"范星露(ファン・シンルー)"だ。

 

「(うわぁ…嫌なのと目が会った」

何か言われるかもしれないなと思っていると、

 

「さて、それでは第二十四回目の《鳳凰星武祭》優勝者をお呼びしよう――二人とも、こちらへ」

マディアスに呼ばれ、壇上に登ると観客席から大きな拍手が巻き起こる。

 

「天霧綾斗、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、そして棗斑鳩、沙々宮紗夜の4名の輝かしい栄光と不屈の闘志、赫々たる勝利をここに称える――優勝おめでとう」

「ありがとうございます」

マディアスの力強い手が二人の手を握る。

 

「予想外の妨害にあったようだが、それにも負けずに闘い抜いた君たちはまさしくこのトロフィーを受け取るにふさわしい、我々運営委員会も警備隊に全面的に協力して真相究明に努める所存だ、2度とこのような真似をは許さないので安心してほしい」

「……よろしくお願いします」

「こちらからも、よろしくお願いします」

そして、二人でトロフィーを受け取る。そして、マディアスに従い振り返ると、壇上を取り囲むようにして、メディアの取材陣が集まっている。

 

「さあ!我々に無上の興奮と感動を与えてくれた彼らに、盛大な拍手を!」

マディアスの声を受け、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

斑鳩は、一つ何かを越えた様に思ったのでもあった。

 

 

 

表彰式を終え、斑鳩と綾斗は控室に戻っていった。

「それで、この後はどうしますか?一応、レセプションがありますが、別段参加が義務付けられているわけではありません」

「それなら、まず医療院に行きたいな、ユリスと綺凛ちゃんの様子を見ておきたい」

「それは同じだな――俺も綺凛が気になる」

「んじゃあ、行くか」

そういうと斑鳩は、途中で紗夜と合流し医療院に向かった。

 

 

 

「あ、綾斗先輩!?斑鳩先輩!――痛ッ!」

病室に入るや否やベットから跳ね起きようとしたものの、脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべ、硬直する綺凛。

 

「綺凛ちゃん、無理しなくていいから」

「い、いえ、大丈夫です、これくらいすぐに治りますから」

慌てて駆け寄る綾斗。

 

「重症なのは間違いないんだから、大人しくな」

「そうですよ、まずはゆっくり体を休めてください」

綺凛にそういう斑鳩。それから、クインヴェールの会長とのことについて軽く問い詰めていると

ユリスが戻ってきた。

 



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後の祭り

 

「一体、何をやっているのだ…おまえたちは?」

病室のドアが開きユリスとフローラが入ってくる。

 

「あぁ、ユリス、警備隊の聴取は終わったの?」

「うむ、如何にディルク・エーベルヴァインが悪逆非道な男か、滔々と語ってきてやったぞ」

すっきりした顔をで言うユリス。

「それはいいけど……ユリスも入院が必要なんだろう?そんなに動いて大丈夫なのかい?」

「私の場合は綺凛と違って星辰力切れの症状だったからな、入院と言っても1日だけだし、もうだいぶ回復した、無論打撲や骨折やらはあるがな」

「…悪い」

というと

 

「ん?どうしたフローラ?」

病室の入り口に立ってうつむいたままのフローラ。

 

「あ、あの皆さま!この度はフローラのせいで大変なご迷惑を……!」

「そんな、別にフローラちゃんが悪いわけじゃないんだから、気にしなくてもいいよ」

今にも泣き出しそうなフローラ。斑鳩は軽く彼女の頭に手を当て

 

「フローラ、次は君が誰かを救えるような力を持て、もしこのアスタリスクに来るなら、尚更だ、だから今は泣いていいんだよ」

そういうと、フローラはユリスにしがみつき大声で泣き出した。彼女が泣き止むまで、ユリスはその背中をずっとやさしく撫で続けていた。

 

 

 

「さてと綾斗、少しいいか?」

部屋から出ていくユリスと綾斗。それを追っかけていこうとする紗夜。そんな中

 

「おまえらも来るか?」

ユリスはこちらに気付き、声をかけてくる。

 

「いんや、俺は後で合流する紗夜、先に行ってな」

「…斑鳩?」

こちらを怪訝そうに見る紗夜。斑鳩は察しろと言わんばかりに紗夜に視線を送る。そういうと3人で先に行く。

 

 

 

「良いのですか?」

「いいんだよ、乙女の恋路を邪魔するほど、俺は腐っていないよ、こういう時こそ…な」

「そうですか・・・」

どこか悲しそうな顔をするクローディア。

 

「紗夜は元々、綾斗の幼馴染だ、そういう感情を抱いても不思議じゃない、それに俺はな…」

「少しは、嫉妬を覚えてもいいのでは?」

「他人の女に手を出すほど腐っていないさ」

病院の部屋の中に何とも言えない雰囲気が流れる。

「クローディア、少しレセプションに言ってくる、車を頼む」

「えぇ、わかりましたわ」

そういうと斑鳩はレセプションの会場に向かった。

 

 

 

「やっときおったか――絶天」

レセプションの会場は凄い気配に満ちていた。

 

「(ははっ、こりゃ、どういうことだよ…)」

見れば界龍の范星露(ファン・シンルー)、そして、クインヴェールのシルヴィア・リューネハイム、そしてアルルカントのアンリマ・フェイトがいた。そんな中、クインヴェールのシルヴィアが近づいてくる。夜明けの空の色のような圧倒的な存在の彼女だ。ちなみに、彼女の歌は携帯端末の音楽の所に入っている。

 

「はじめまして、棗斑鳩君」

「こ、こちらこそ初めまして、シルヴィア・リューネハイムさん」

流石に世界の歌姫の目の前でガチガチの斑鳩。そして、彼女は我慢できなかったかのように噴き出した。

 

「あははは!いいね!いやーこういう子久しぶりだわ、」

「えっ、いや、その――」

「シルヴィでいいよ、親しい人はみんなそう呼んでくれてるし」

そういうと、彼女は携帯端末を取り出しこちらの端末へと向ける。直後、着信音と共にアドレスが送られてくる。

 

「実はね、前からキミには少し興味があったんだ、今日こうして直接話が出来て良かったよ」

「こ、こちらこそ、ありがとうございます」

「あっ、それと私のプライベートアドレスだから、いつでも連絡して頂戴、まぁ、このところちょっと忙しくてすぐに出れるかわからないけど」

 

「ま、これからもがんばってね斑鳩君」

「は、はい」

そういうと、こちらの胸を軽くたたいてその場を去っていくシルヴィア。そんな中

 

「おう!?」

いきなり肩に何かがとびかかってくる。

見れば、斑鳩の肩には少女がぶら下がっていた。界龍の総代だった。



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月下の祝勝会

「おや、よかったのぅ――絶天」

とびかかってきたのは、范星露(ファン・シンルー)だった。思わず、何て呼べばいいのかで言葉に詰まる斑鳩。

 

「そういや、えーと」

「おぉう、儂のことは星露で良いぞ、ぬしは門下ではないし、敬語も不要じゃ、なにより、あの闘いで久しぶりにワクワクさせてもらったからのぉ」

「ありがとうございます」

そういうと、降りる気配を見せない彼女。だが、彼女は降りてきて、斑鳩の正面にむき直り、

 

「まずは、優勝おめでとう――まことに見事な試合じゃった、今も思い返すだけでうずうずするほどじゃ、ほんまに惜しいのう、なぜ界龍に入ってくれんじゃたんだが」

「ありがとうございます、まぁ、そういわれましてもねぇ…はいっちゃったもんはしょうがないですよ」

「まぁ、そうじゃな、にしても、儂の見立ては間違っていなかったということじゃな《絶天》の称号を与えたものとして、鼻が高いわ」

まるで自分の弟子のように喜んでいる彼女。そんな中、彼女の秘書である趙虎峰(ジャオ・フーフォン)がやって来た。

 

「棗斑鳩――わしは今回のこの鳳凰星武祭でのお主の功績を称え、本来ならここで何かをくれてやりたいところじゃが、生憎色々あって渡すことができん、悪いな」

「いえ、そんないいですよ」

「まぁ、とはいえ、ほれ携帯端末を出してみぃ」

「…?」

彼女も嬉々として携帯端末を出してくる。そしてお互いの連絡先が交換される。

 

「先ほどの《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》同様、私のプライベートアドレスじゃ、なんかあったら連絡してくるがよいぞ」

「ありがとうございます」

「おう、これからも精進するんじゃぞ」

そういうと、彼女もここから立ち去っていく。いつの間にかアンリマも消えていた。斑鳩は状況をみつつ、その場から立ち去り尞に戻ることにした。見ればオーフェリアからもメッセージが来ていた。

 

 

 

 

奇しくもこの夜は雲一つない満月の夜であった。

 

「……」

月下、斑鳩は一人で寮の屋上で立っていた。そして星空を眺め一人黄昏れていた。そんな中、誰かがこの屋上にやってくる。どうやら、

 

「ここにいたのか、斑鳩」

やって来たのは紗夜だった。

 

「紗夜――」

紗夜の手には、ドリンクがあった。

 

「綾斗とはいいのか?」

「そこまで私も独善的な人間じゃない、斑鳩、座って」

その隣を両手でぽんぽんと叩く。そして、紗夜から飲み物を貰う。

 

「どうかしたのか?」

「うん、斑鳩が心配で――どうしてあの時来なかったの?」

「…さぁ、なんでだろうな?」

わざとしらをきる斑鳩。理由はわかっていた。だが、其処は言わないのが約束だが、彼女は心なしか咎めるようにこちらに見て

 

「斑鳩、あの時もしかして綾斗と私のことを気にして?」

紗夜の言葉に思わず黙りこむ斑鳩。だが、ここまで黙ってもいられないので

 

「…あぁ、そういうことだ、特にやましいことはないよ」

正直に言う斑鳩。

 

 

 

「ごめん…」

紗夜の顔がしょげる。どうやら、何か思うところがあるようだ。

 

「いいさ、勝利の祝杯は挙げられたのだろ?」

そう斑鳩が問うと

 

「いんや、まだ上がっていないさ――」

其処にはユリスと綾斗がいた。

 

「ユリス、綾斗!?」

いきなりの登場にこれは驚いている斑鳩。

 

「全く、くだらないというか、まぁ、お前らしい気遣いだな」

「ユリス――」

どうやら、紗夜も罪悪感が少なからずあったらしい。

 

「折角だ、4人で祝杯を上げようではないか」

ユリスがそういう。

 

「そうだな」

斑鳩は、今までの考えが吹っ切れる。そして、4人の手に飲み物が渡る。そして、ユリスが音頭を取る。

 

「今日の勝利を祝して」

ユリスが言って缶を掲げる

 

「次の勝利を願って」

綾斗がそういう。

 

「この先の勝利を願って」

「乾杯」

4人の缶がぶつかった。その音が月下の空に響いた。

 



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一足早く――

アスタリスク中央区行政エリア――その中心に《星武祭》の運営本部は存在していた。

そして、斑鳩とユリス、綾斗は事件の報告を受けるためにマディアスと向き合っていた。

 

「やあ、よく来てくれたね、今回の《鳳凰星武祭》はいろいろあったものだから、後始末に時間がかかってしまった――ああ、どうぞ座って」

マディアスに促され、テーブルをはさんでソファに座る。《鳳凰星武祭》が終わってから1か月、既に長い夏休みも終わり季節は秋にと移っていた。

 

「早速だが、本題に入ろう、フローラ・クレム嬢の誘拐事件に関して――もうすでに君たちの耳にも入っていると思うが、あの事件の犯人であると目されているマフィアグループのうち、逃亡していた幹部連中が先日逮捕された」

そこで小さく息を吐くマディアス。

 

「クレム嬢が監禁されていたカジノを運営していたマフィアでね、他にも手広く違法行為を行っていて《鳳凰星武祭》関連のとばくの堂本でもあったようだ、ところが少し倍率を偏らせすぎたようで、君たちに勝たれるとかなりまずい状況だったらしい、とはいえ、棄権されると払い戻しになってしまう、そこで思いついたのが、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を使えなくさせるというハンデだ、今の所ほとんどの連中が否認しているが、アジトからは決定的な証拠がいくつも押収されている」

そこまで話すと、マディアスは苦笑して肩をすくめる。肩をすくめたいのはこっちもだ。

 

「まるで納得していないという顔だね――」

「当然です、あれは明らかに――「まぁ、まて綾斗」斑鳩?」

「フェスタの運営委員長として、名前を上げるのは贔屓になるのであまり大きな声で言えない、とはいえ、マフィアの構成員にレヴォルフの生徒はいたんですよね?マディアスさん」

斑鳩の言葉に、ユリスが奥歯をかみしめる。

 

「あぁ、もちろんだ、所属学園の責任は逃れない、当然処罰も検討しているし、場合によっては《星武祭》のポイント剥奪なども考えている、それにこの一件に関しては警備隊長が強い関心を持っているとも聞く、捜査も引き続き行われるようだし、もう少し長い目で見てくれたまえ」

「……わかりました」

不承不承といったところで頷くユリス。それから、綾斗の姉の捜索に話が行く。

《鳳凰星武祭》優勝者の願いとして、綾斗と紗夜は綾斗の姉である天霧遥の捜索を願った。ユリスは当初から言っていた通り、金銭を要求した。統合企業財体が提示した金額はとてつもないもので、ユリスはそれを使ってリーゼルタニアにある複数の孤児院の借金を全て返済し、さらにその権利者となり、残った分は、以後の運用資金に充てるそうだ。ちなみに、斑鳩は少し特別なお願いをしている。それから、面々は一礼を告げ、その場を後にした。斑鳩はこの後行くところがあったのであった。

 

 

 

 

北関東多重クレーター湖上のフロートエアポート

 

斑鳩は、とある人物の見送りでこのフロートエアポートにやってきていた。

 

「――にしても、どこにいるんだ?」

周囲を見渡すが彼女の姿は見当たらない。いくら、目立つといってもこのような人混みがあるところは話が別だ。再び、メールに視線を落すが、手がかりという手がかりがあまりない。そんな中

 

「――だーれだ?」

定番中の定番、というか目は塞いでいないものの、誰かが抱き付いてくる感覚。

背中にはやわらかい感触。というか、ある意味で慣れた感覚だ。

 

「さぁ、オーフェリアかな?」

「せいかーい」

顔を見せるオーフェリアだった。

 

「いんやー、これ一回やってみたかったんだよね」

そういうと、彼女の顔が少し曇る。大体の理由は知っているのだ。彼女の足元にはキャリーケースがある。

 

「オーフェリア、時間あるか?」

「ん?えぇ、あるわよ」

「ちょっと、座ろうぜ」

「うん」

近くの椅子に座り込む。すると斑鳩が、先に口を開いた。

 

「ディルクがってところか?」

「えぇ、そういうこと――4時の便でミュンヘンだって」

そういうと、彼女は斑鳩によりかかってくる。斑鳩は軽く彼女の後ろに手を回す。

 

「ごめんね、ちょっとしんみりしちゃってさ」

「ま、その気持ちわかるよ」

「ありがとう、けど、たぶん貴方は私のものに来るわ」

「なんで?」

「多分、リースフェルトが自分の王国に呼ぶからよ」

「あぁ~」

「まぁ、それまでのしばしの別れね」

「そうだな」

軽く頭を撫でる斑鳩。すると、物凄い赤い顔をした後に、何やらしかめっ面をするオーフェリア。

 

「オーフェリア、俺が浮気すると思っている?」

「さぁ、星導舘は綺麗どころが多いからね~どうだか」

再び頭を撫でる斑鳩。

 

「ま、大丈夫だよ、多少信じてくれよ」

そういうと、先ほどの比にならない位顔を赤らめるオーフェリア。それから無言の時間が続く。

お互い寄り添い合っている。それから1時間後、飛行機の時間がやって来た。

 

「じゃあ、待っているからね」

「あぁ、待ってろよ」そういうと、彼女を見送り、斑鳩は飛行機と反対方向の星導舘に戻った。

 

 



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ユリスからの誘い

十月――

 

「ところで、おまえたち冬期休暇の予定は決まっているのか?」

学食のテーブル。斑鳩を含めた一同が昼食を終えたタイミングでユリスがそう切り出してきた。

最近では毎日のようにこの席に同じ顔ふれが集まる。ほとんど指定席のようになっているが、別段示し合せなどない。

 

「……冬期休暇?」

「まだ先の話ですし、特に決まっていないですけど……」

ユリスの正面に並んで座っている紗夜と綺凛が揃って不思議そうに首をかしげる。

 

「できれば今度こそ私はゆっくりしたい……」

机につっぷす紗夜。

 

「はは、紗夜は秋季休暇中ずっと補習だったからね」

「むぅ……」

といっても、彼女の期末試験に斑鳩も少しは手伝っている。

 

「ま、その点冬季休暇には補習はねーから安心だな」

「それは自分に言っているのか、夜吹?」

「う……?」

ユリスの言葉に綾斗の反対隣りに座った英士郎がわざとらしく目を逸らす。

 

「で、冬期休暇には何かあるのかい?」

話題が軽く逸れたので綾斗が話を戻す。そして、ユリスは複雑そうな表情で言った。

 

「実は…先日のフローラの一件で、兄上がどうしてもおまえたちを国に招きたいと言い出してな」

「国にってリーゼルタニアに?」

「まぁ、そうだ、私が帰省するのに合わせて、誘ってみろということらしい」

一同顔を見合わせるが

 

「ユリスのお兄さんってことになると、リーゼルタニアの王様からの招待ってことだよな?」

斑鳩が軽く言葉を濁す。

 

「いや、そんなに気おくれすることはない、形式ばったものはやめてくれと私から伝えてある、あくまで一言礼を言いたいそうだ」

「にしては、微妙な表情じゃないか」

斑鳩はユリスを見ながら言う。

 

「う……!い、いや、別にそうではなく」

「兄上は…その、なんとうか、悪い人ではないのだが……少々変わり者でな、またなにかよからぬことを企んでいるのではないかと、少し心配だ。ただ、フローラを助けてくれたことに関しては、兄上だけではなく、孤児院のシスターからもぜひ直接礼を言いたいという声が届いている。そういう意味では、私としてもお前たちを国へ呼ぶのはやぶさかではないのだが…」

苦笑を浮かべて肩をすくめるユリス。

 

「まぁ、お前たちにも都合があるだろうし、無理にとは言わん――とはいえ、斑鳩」

「ん?俺がどうかしたか?」

「お前には来てもらうぞ、是が非でもな」

斑鳩は少し考え込む。というより、ここまでのことをしているのだ、是が非でもと言われているのだろう。夏休みと違い、オーフェリアもいないし、やることもあまりないので

 

「ん、あぁ、せっかくだし招待を受けよう」

とはいえ、こうなることは半ば予想されていた。同時に問題も起きていた。

それから、綾斗と綺凛、それに紗夜も来ることになった。そして、道順について揉めていると

 

「それなら、先に沙々宮さんの家に寄ったら如何ですか?」

「うわっ?」

不意に綾斗は背後から覆いかぶさるように抱き付かれる。もちろん、こういうことをするのは一人しかいない。クローディアだ。

 

「毎回毎回、驚かせないでよ、クローディア」

「うふふ……すいません、つい」

案の定クローディアだ。

 

「相変らずいきなりだな、おまえは……それで紗夜の実家によるというのはどういう意味だ?」

半ばあきれ顔のユリス。そしてクローディアは笑顔のまま人差し指を立てた。

 

「リーゼルタニアには空港がありませんし、どうせドイツかオーストリアを経由しての入国でしょう?沙々宮さんのご家族が住まわれているのはミュンヘンですから、立ち寄るのはそう難しくないのではないかと」

「……よく知っている」

「まぁ、そこは生徒会長ですから」

驚いたように言う紗夜だが、クローディアはあっさりと応える。

 

「なるほど、確かにそれならば不可能ではないが……どうする、紗夜?」

「む……」

紗夜はしばらく考え込むようにしてから頷く。

 

「皆がそれでいいなら私は異存ない」

「ふふっ、では決定ですね、ところでそのお誘い、私も入っているのでしょうか?」

「おまえ、言ったいつから聞いていたのだ……まぁいい、無論、お前にも話は来ている」

「あら、良かったです、私も仲間はずれは嫌ですからね」

「ということはおまえも参加すつもりなのか?」

意外そうな顔でユリスがクローディアを見返す。

 

「当然、そのつもりですが?皆さんと一緒ということに意義があるのですよ」

何か含みを持たせた言い方をするクローディア。どうやら何かあることは決まりのようだ。

だが、斑鳩には思い当たることがあった。斑鳩は、クローディアに軽く耳打ちする。

 

「クローディア、俺のパスポートとかの件ってどうなっているの?」

実を言うと、斑鳩の戸籍が抹消されたため、斑鳩は戸籍などを作って更にパスポートの手続きなどを学園の機関に依頼して発行してもらっている最中だ。

 

「あぁ、それに関しては星導舘学園が総力を持って再手続き中です」

「よろしく頼むよ」

「えぇ、お任せください」

この時ばかりは頼もしいと思った斑鳩であった。そして、斑鳩のリーゼルタニア行きが決まったのであった。

 



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いざ、ドイツへ

北関東多重クレーター湖上のフロートエアポートの特別ラウンジで綾斗と斑鳩一行は搭乗時間を待っていた。

 

「いくら急かしても詳細を知らせてこないと思ったら、まさか王室専用機を寄越すとは……こうなると兄上の一存ではないな、まったく先が思いやられる」

ユリスが腰に手を当てたままぼやく。視線の先、ガラスを隔てた滑走路には、リーゼルタニアの専用機だ。

 

「(おぉ、中々かっこいいデザインだな)」

と思いながらくつろいでいる。

 

「にしてもリースフェルト、まさかこれって凱旋パレードでもあるんじゃないのか?」

「まさか、何も言ってこないんだぞ?」

「さぁ、どうだろうな、俺がお前の兄だったら、そういうサプライズでも仕込むよ」

とぼやきながら言っていると

 

「では、お話は一旦そこまで、さて、そろそろ支度を整えましょうか」

クローディアが手を叩き、一同を見渡す。今回向かうのは、ユリス、綾斗、斑鳩、クローディア、紗夜、綺凛の六人だ。大晦日を控えたこの時期は空港は混んでいるのだが、VIP用のラウンジは貸し切りっていた。

 

「(ま、目立たなくて済むのはありがたいな)」

アスタリスクの外に出るので当然私服だ。普段は携帯が義務付けられている校章も身に着けていない。ちなみに、全員個性のでた私服だ。当の斑鳩はも黒いジーンズに袖ありの白いTシャツに、パーカーにコートという格好だ。

 

「それと皆さん、ちゃんと煌式武装の持ち出し手続きが済んでいるか確認してくださいね」

そう言われ斑鳩は特別申請データを確認する。そこにはエリュシデータとファーブニルの認可の文字が入っていた。

 

「綺凛ちゃんはどうだった?」

「あ、はい……でも、なんとか大丈夫でした」

綺凛の千羽切と斑鳩のエリュシデータ、それにファーブニルは煌式武装ではないため、違った手続きが必要だったのだ。その為、少なからず手間取っていた。

 

「まぁ、アスタリスクじゃないし武器使う機会なんてそうそうないとは思うけど……って、うん?」

綾斗の端末が着信を知らせる。

 

「え……?」

思いがけない名前みたいだ。思わずその手が止まる。

 

「綾斗、どうした?」

「い、いや、なんでもな――」

不思議そうに首をかしげて手元を覗き込んでくる紗夜から隠そうとしたはずみでボタンが触れ

 

「やっほー、綾斗くん、今ちょっといいかな?」

「(おっほ、これはこれは――)」

空間ウィンドが開き現れたのはシルヴィアだった。

 

「「「――ッ!?」」」

一同に驚愕と緊張が走る。

 

「(すげぇ、バットタイミングだな、こりゃ)」

心の中で苦笑いしている斑鳩。

 

「まったくもー、自分から連絡先聞いておいて、全然連絡くれないんだから…って、あれ?」

一拍おいてこちらに気付いた。

 

 

 

 

「あらら…ひょっとしてお取込み中だった?」

「ま、別にそういうわけじゃないんだけどね――お久しぶり、シルヴィ」

今度はこっちに視線が行く。主に綾斗も一緒だ。

 

「あっ、斑鳩君じゃん、お久しぶりー元気してたー?」

「えぇ、お陰様でそちらは?」

「うん、こっちもだよ―そんで、綾斗君は大丈夫?」

「おう、すぐに変わるよ」

そういうと綾斗の背中を軽くたたいてウィンドに出す。どうやら、デートの話になったらしい。

 

「(ま、厄介なことになりそうだな…)」

と紗夜とユリスの表情を見ながらそう思っている斑鳩。

それから一方的な言葉と共に、空間ウィンドがブラックアウトする。

 

「あっ!ちょっとシルヴィ!」

むなしく響く綾斗の声。

 

「ま、そういうこともあるさ――ほれ、搭乗時間だ、いくぞ」

「そうだな、どうせ時間はたっぷりある、詳しい話は機内で聞かせてもらおう応ではないか」

綾斗の背中に痛いくらいの視線が突き刺さるのを眺めながら、斑鳩はお得意の重力操作で5人全員の荷物を軽々と持ち、搭乗口に向かった。そして飛行機は飛び立った。

 

 

 

斑鳩はユリスの許可を得てソファーで横になっていた。と言っても、頬杖を突いた格好だ。

 

「大丈夫かい、綺凛ちゃん?」

「はい、結構楽です」

斑鳩は目の前で猫のようにゴロンとしている綺凛に声を掛ける。力ない笑顔で応える。

先ほどより幾分かマシになっているみたいだ。ちなみにはたから見ると親子だ。

 

「ま、無理するな」

と彼女を撫でてやる斑鳩。

 

「まるで父親と娘だな」

「そっくり」

「いやいやいや」

ユリスと紗夜のツッコミを交わしている。当の綺凛は顔が少し赤い。それと嫌がるそぶりを見せていない。

完全に休日の父親と娘のような関係だ。

 

「ロリコン」

「だな」

「異論なし」

「ふぇ!?」

散々な言葉を言われつつも飛行機はドイツに向かっていった。

 

 



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沙々宮家

ミュンヘン空港から鉄道に乗り換え1時間。思いのほか早く、綾斗達は紗夜の家とたどり着いた。とはいえ、時刻は夕刻を過ぎ、日が暮れかけていた。今日はこのまま家に泊めてもらうことになっている。

紗夜の家はミュンヘン郊外の一軒家で、二階建てだ。レンガ造りの古民家を改装したもののようだ。

にしても、冬のドイツの南部の気温は低く、雪も積もっており寒かった。

 

「――ただいま」

「おや、ようやくおかえりかい、馬鹿娘」

先頭に立つ紗夜がセンサーとロックを解除してドアを開けると、斑鳩と綾斗達を出迎えてくれたのは紗夜の母親――香夜だった。シガレットタイプの電子タバコをくわえ、頭の後ろで髪を纏めていた。

 

「香夜さん、お久しぶりです」

「あぁ、久しぶりだね、綾斗いい男になってきたじゃないか」

屈託のない笑みを浮かべる香夜さん。

 

「沙々宮夫人、本日はお世話になります」

「ごていねいにどーも、星導舘の生徒会長さんだね?」

「はい、クローディア・エンフィールドと申します」

「あ、あのわたしは――」

クローディアに続いて綺凛が挨拶しようとするが

 

「まぁまぁ、そんなとこで立ち話はなんだろう、とにかく中へ入りなさい」

「はい、失礼します」

香夜の隣に半透明の男性が現れる。それに驚く綺凛。

 

「こーら創一さん、いきなり出て来られたら驚くでしょうが」

「おお、すまんすまん、こっちからは見えていたから、ついな」

香夜ににらまれ頭をかく男性。

 

「まあ、創一さんの言う通りこんなところで立ち話もなんだ、とりあえず入って入って、大したもんじゃないけど、晩御飯も用意してあるから」

それから、香夜に案内されリビングに通されると中央に置かれたテーブルの上には料理が並んでいた。

 

「普段は自分の食べるぶんだけしか作らないからね、久しぶりに腕を振るう機会が出来て嬉しかったよ、ほら、座った座った」

香夜さんに促されテーブルに着く。そして、ユリス、綺凛、斑鳩の順で自己紹介していき、そして斑鳩の番になった。

 

「棗斑鳩です、紗夜さんには大変お世話になりました」

かしこまって挨拶をする斑鳩。流石にこういう場では普段のは出せない。

「あはは、そんなかしこまらなくていいよ、むしろうちの子が迷惑かけなかったかい?」

「い、いえ、そんな…・!」

首を振る斑鳩。

 

「こういっちゃなんだけど、まさか優勝するとは思ってもなかったからねぇ」

「ふふん、わしは信じておったがな」

「創一さんは親バカなだけでしょ、もう」

どうやら、この夫婦の中はよさそうだ。

 

「ま、なんにせよおかげでわしのところもあちこちの研究所や企業からオファーが殺到してな、実にいい気分だわい、ま、全部断ってやったがの」

「断ったって……どうしてですか?」

「わしは、儂の作った煌式武装が評価されればそれで十分なのだよ、無論、生活していくのに金は必要だが、さしあたっては今はさほど困窮しているけでもない」

「確か、沙々宮先生は銀河の研究施設に開発協力として参加してくださっているのでしたね」

「ほぅ、よく知っておるの」

彼女の言葉に目を見張る創一。

 

「そういえば、創一おじさん、この家にも研究室はあるんでしょう?」

「あぁ、地下にどーんとな、日本の家にのそれとは比べ物にももにならんくらいの設備を整えてやったわい、わしの本体もそこにあるし、こうしている今もファクトリーはかどうしておるぞ」

「……お父さんはそこに自己の補償金を全部つぎ込んだ」

やれやれと言わんばかりの紗夜。それからほどなくして賑やかな食事が始まる。

 

「(こういうのもいいものだ…)」

香夜さんの作る和食はどこから懐かしさを覚える味だった。自然と頬を緩めながら、その味をかみしめていた。

 

 

 

「さて、それじゃあ部屋の方に案内しようか」

「一応、二階に来客用の部屋が二つ空いているから、そこを解かってもらおうと思っているんだけど、各部屋二人ずつで大丈夫かい?」

 

「はい、問題ありません」

僅かに眉を寄せながら言う香夜さん。

 

「ただねぇ、部屋割りはどうする?紗夜は自分の部屋を使うからいいとしても・・・」

「部屋割り?」

そして、何かに気付く4人組。

 

「なるほど、でしたら、綾斗は私と一緒の部屋ということで~」

「なっ!?ちょっと待てクローディア!い、いきなり何を言い出す!?」

「わ、私も綾斗先輩を信じてます!」

と面倒な事になり始める。確かにこの先を見てみたいところもあるが、一応明日もあるので

 

「俺と綾斗で相部屋ですよね?」

というと、"ですよね~"といった表情で見る女子四人組が其処にいた。

 

 

 




なんでアニメで沙々宮家の回が飛んでいるんだ・・・(噴


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予感的中-凱旋パレード

「それじゃまあ、気を付けてな」

翌朝、門前前までに見送りに来た香夜さんは、紗夜の頭をぐりぐりと撫でながら、やさしい顔でそういった。

 

「……うん」

はにかみながらうなずく紗夜。今日も晴れているが寒い。

 

「おお、そうだ、一応報告しておこう、昨夜の侵入者だが、センサーのデータを見る限り、どうやら人間ではなかったようだぞ」

 

「人間じゃないって、だったら一体何だったんですか?」

「野生動物かなにかのようだのう、そこらの森から出てきたかもしれんな」

ホログラフの創一がいう。

 

「動物ですか・・・」

と待っていた時だった。そこへ大きな黒塗りのリムジンが斑鳩と綾斗達の目の前に止まった。

 

「皆さま、お迎えにあがりました!」

助手席から降りてきたのは、メイド服姿の少女、フローラだった。

 

「相変らず元気だね、フローラちゃん」

「あいっ!それがフローラの取柄ですから!」

と綾斗の声に反応する。

 

「それじゃ、創一おじさん、香夜さん、お世話になりました」

二人に挨拶して斑鳩達は、車に乗り込んだ。そんな中だった。

 

「あ、姫さまと天霧様は後ろの席でお願いします」

「(これはこれは・・・)」

半ば面白くなってきたと思いながら、少しニヤつきながらもすぐに表情を戻した。

 

 

 

 

窓の外の景色は次第に雄大な雪山い変わっていく。

 

「(さすがに、平野部と違い積雪の量も多いな…)」

と思いながら、外の風景を見ていると

 

「あ、そろそろ首都ストレルが見えてきますよ!」

助手席に座ったフローラが振り向いていう。どうやら国境を抜けたみたいだ。そして、視線を向けると、山々に囲まれた湖の畔に想像以上の大きな街が広がっていた。

 

「(まさに欧州といったところか)」

視線の先にはレンガと木で作られた古い家々が連なっている。

 

「ここがリーゼルタニアの首都ストレルですか・・・綺麗な街ですねぇ」

うっとりした顔で綺凛がつぶやく。

 

「まぁ、別段なにがあるというわけでもないがな……ん?」

ユリスが不意に眉をひそめた。

 

「どうかしたか?」

「いや、王宮に行くのならこの道は遠回りに……どういうことだ、フローラ?」

「えっと、これも陛下から仰せつかってますので」

「兄上から?」

「あい、ちょっと待っててくださいね」

そういうとフローラは目を取り出し、それを広げていく。同時に、車は速度が落ちている。

 

「(あっ…これは…)」

狙いが見えてくる斑鳩。まさかという感じだが

 

「……なんか、大勢人がいるっぽい?」

紗夜がつぶやく。

 

「えーと、『せっかく帰って来たんだから、ついでに凱旋パレードをよろしく』だそうです」

「なっ……!?」

腰を浮かせるユリス。

 

「おっ、当たったなユリス」

「お、おまえ…」

してやったりといった顔の斑鳩。そして、軽くユリスに小突かれる。

 

「(にしても、これは凄いな…)」

沿道には人が溢れ、皆口々にユリスの名前を叫んでいる。空からは色とりどりの紙吹雪が舞い散り、見上げると、家々やビルの窓から顔を出した人が、手を振りながらそれを撒いている。ふと見てみると、そこには、ユリスの写真と共に、凱旋が告知されている。

 

 

「ユリス、あれ」

「なっ、くぅ、兄上め!覚えていろ……!」

悪態をつきつつも、造り笑顔を浮かべて窓に向き直る。

 

「(さすが、一国の王女様だこと、観光とか凄いことになっているんだろうな…)」

と窓の方を見ている。

 

「天霧様!棗様、沙々宮様!」

「ん?」

ふと名前を呼ばれ、顔を上げるとフローラがこっちをじれったそうに見つめていた。

 

「もしよろしければお三方も応えてあげてください、姫様みたいに」

「「ああ、うん、ってお、俺も!?」」

綾斗と斑鳩の台詞が被った。

 

「あい!」

「いや、なんで俺まで…」

それを言いたいのは俺もである。綾斗に関してはユリスのタッグパートナーだが、斑鳩はむしろ敵の方だ。

 

「だって、天霧様は姫様のタッグパートナーですし、斑鳩様と沙々宮様も姫さまと熱い戦いを繰り広げたので、今やお二人とも人気なんですよ」

 

「へぇ~」

見ればややぎこちないものであるが、ユリスにしては珍しくいい笑顔だった。綾斗も見よう見まねでしている。斑鳩も外に手を振ってみる。若干むずがゆいところもある。とはいえ、集まった観衆の中には、ユリスの名前だけでなく、綾斗や斑鳩、それに紗夜の名前を呼ぶ者もいた。

少し照れくさくなる斑鳩でもあった。

 



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ストレル王宮

想像以上に長く続いたパレードを終え、斑鳩達一行は、ストレルの王宮にやってきていた。

ちなみに、到着するなにユリスは怒りに顔を染めてつかつかとその廊下を早足に進んでいく。

そして、王宮の二階にある部屋の扉を、ノックもせずに思い切り押し開けた。

 

「兄上!一体、これはどういうことだ!」

怒気を孕んだ声を上げる。後ろからそっと部屋を覗いてみると、豪華ではあるものの華美すぎる印象の部屋だった。

 

「ああ、戻って来たんだね、ユリス、おかえり」

部屋にいたのは、歳は二十代の半ばくらいの、濃い赤毛はやや長く、全体的に線が細い、ラフな格好の男性がいた。

 

「あらぁ、ユリスちゃんお久しぶりねぇ、それにクローディアちゃんも」

膝枕をしていた女性もいた。

 

「義姉上、お寛ぎのところ失礼します、少々兄上とお話をさせていただきたいのですが」

「はぁい」

女性は無邪気にそういうと、男性と共に立ち上がって優雅に一礼した。

 

「どうも初めましてぇ」

「星導舘の皆さんだねぇ?今回は不躾な招待を受けてくれて嬉しいよ、僕はユリスの兄でヨルベルト、一応、この国の国王をやっている、で、妻のマリア、ああ、ここは僕の私室なので君たちも寛いでくれて構わないよ」

その言葉に斑鳩とクローディア、それにユリスを覗いた面々が目をパチリとさせる。

 

「……え?」

「国王陛下?」

訝しげなジト目で紗夜がヨルベルトを見る。

 

「……本当の本当に?」

「あはは、困ったな、王冠でも被って、マントでもひらめかせていれば良かったかい?」

と彼は屈託なく笑うが、実際の綾斗も意外だった。とはいえ、斑鳩も当初は驚いていたが、此処に来るまでに様々な王の姿を見てきたので、あまり以外でもなかった。

 

「一応公務のときはちゃんとスーツを着るよ、今日はオフだからね、もっとも普段から僕の仕事なんてあってないようなものだけど」

「そんなことより、兄上!私は凱旋パレードなど聞いていなかったぞ!あれほど大事にしないでくれと言っておいただろうに!」

「だって言ったら絶対に嫌がるじゃないか」

「当然だ!しかも私だけならともかく、綾斗や斑鳩、それに沙々宮まで巻き込むとはどういう了見だ!」

「うん、まあ、そこはせっかくだからさ」

「常識で考えて、まずは話を通すのが普通だろう!」

「わかったわかった、僕が悪かったよ、すまなかったね、皆さん」

苦笑いするヨルベルト

 

「でもね、ユリス、国民は皆、ユリスだけでなく、そのタッグパートナーの天霧君にも興味があるんだよ、なにしろ、王女である君が選んだパートナーだからね」

「う……」

「(なるほど上手いな…)」

流石兄弟というべきだろう。

 

「とはいえ、興味があるのは国民だけではないんですよね――国王陛下」

「おやおや、流石ユリスが言っていただけあるな…棗君は」

「……どういう意味と聞くまでもないか」

とユリスがいう。

 

「そうそう、それと君たちにはうちの侍女を助けてもらったお礼もしなければならなかったね」

そういうと、ゆっきりとこちらを全員見る。

 

「というわけで、今夜は君たちを歓迎する夜会を催すことにしたから、ぜひ参加してほしい、あ、服はこちらで用意したから適当なのを選んでくれて構わないよ、サイズ調整も今からなら間に合うだろうし」

「だから、それも聞いていないぞ兄上!」

「あははは、まあいいじゃないか」

声を荒げるユリス。やはり、ヨルベルトは涼しげな顔だ。

 

「……なんだか、個性的な人ですね」

「まぁ、そうだな」

「あはは……」

綺凛がどうしたらいいのかわからないと言った顔でこちらを見てくる。

それから離宮に案内されていた。離宮までの専用の回廊には、見事なバロック風の庭園が広がっていた。

生憎今は雪に覆われているが、その純白の雪化粧もまた見事なものだった。

 

「うわぁ、綺麗ですね…」

「あい!春になったらお花でいっぱいになって、もっともーっと綺麗ですよ!ここは姫様もお気に入りの場所で、お花の手入れも姫様がご自分でやったりしてたんです!」

感嘆の声を漏らす綺凛に、フローラが胸を張る。それにしても、この静謐さはまた違った美しさがある。

 

「フローラ、余計な説明はいい、さっさといくぞ」

それから、一行は離宮に向かった。そして、個々の部屋に案内された。

 

 

「棗様、夜会用の礼服をお持ちしました、サイズを見ますので、ちょっと袖を通していただけますか?」

フローラではない人が礼服を持ってきた。

 

「えぇ、わかりました、それにしても一つ聞いていいですか?」

「はい?」

「夜会ってどんな感じなんですか?そういう場所ははじめてなんですけど」

「今回の夜会は急に決まったものですし、そんな大きなものじゃないと思います」

「そうですか・・・」

それから、慣れた手つきでサイズを測っていく。そして、ちょうどいいタキシードが届き、それに身を包み夜会に向かった。



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見斬!!

斑鳩はユリスの自室から出てきた綾斗達と通路で合流することになり、通路を歩いていた。

 

「(おぉ~)」

四人の少女に純粋に見惚れてしまう斑鳩。

 

「ん、どうかしたか?」

「いんや、にしても、みんなよく似合っているぞ」

「全く、あって早々何をいうと思えば」

若干あきれ顔のユリス。だが、どこか嬉しいというのもまた事実のようだ。

それぞれによく似合ったドレスをまとっている。

 

「斑鳩もよくお似合いですよ」

「ありがとうクローディア」

と言いながらしんがりを務めるように歩いていく。今回の主賓はユリスだ。

 

「ほら、ユリス、主賓は君だ、それと綾斗もな」

と二人の肩を軽く押す。

 

「ま、まぁ、仕方あるまい――ほら」

ユリスが苦笑を浮かべて綾斗の肘を軽く曲げ、そこへ手を添える。

 

「――皆さま、そろそろお時間です、準備はよろしいでしょうか?」

フローラが入ってくる。そして、やや舌足らずな口調であるが、精一杯仰々しく告げる。

 

「(ま、行きますか)」

そして、斑鳩は夜会に繰り出した。

 

それから夜会もある程度進み

参加者たちと談笑しながらも、斑鳩はテラスの方に足を向けようとした時だった。

見れば、複数の招待客から話しかけられ、明らかに困っているである綺凛がいた。

 

「(まぁ、しょうがないか)」

幸い、こちらに気付いている人もあまりいないので、斑鳩はそっちに足を進める。

「綺凛ちゃん、ちょっといいかい?」

「あっ…!はい、すみません、失礼します」

軽く声を掛けると、綺凛は表情をきらめかせ駆け寄ってくる。

「ありがとうございます、斑鳩先輩、助かりました」

「どういたしまして」

それから二人で歩いていく。

「にしても、相変らずにあっているよ綺凛ちゃん」

「で、でも、こんな格好…わたしみたいな子供には似合わないですよ」

「そうでもないよ、大人っぽくてきれいだよ」

軽く一部を見ながら、持つものは持たないものを痛みを知らぬとはこういうことかと思いつつも歩いていく。

「あ、ありがとう……ございます」

消え入りそうな声で綺凛がいう。そんな中

「あ、あの、お願いがあるのですが、いいですか?」

「なんだい?」

「そ、その…わたしも、斑鳩先輩と腕を組んでみたいっていうか…さ、さっきユリスさんがそうしているところ、すごく素敵だったので」

「別に構わないよ」

斑鳩は軽く左腕を曲げるとおずおずと体を寄せ、自分の右腕を絡める。とはいえ、絡めるという寄り身体を預けてきているせいで、豊かなふくらみが押し付けられる形になっており、いかんともしがたい。

密着しすぎだと思うが、とはいえ、ここで何も言わずにエスコートするのが、男だろうと思いながら会場内を歩いていく。その都度、綺凛と共に、会場の招待客と言葉を交わしながら歩いていく。それから会場を一周し、途中で綾斗と合流し綺凛を預け、再び一人で回ることにした。

 

一人で回っている中、招待客の中に一人あまり、雰囲気のよくない人間がいた。

「(マークだけはしておくか…)」

軽く目をつけておく斑鳩。見れば、クローディアとユリスはどうやら招待客と談笑してて動きそうにない。

「(これは動いた方がいいかな…)」

そういいながら、斑鳩はその人物に悟られないようにマークしておく。見ればその人物は、綺凛と紗夜に腕組をされている綾斗に接触をしていた。

遠くから、話を盗み聞きするがあまりいい雰囲気ではない。そして

 

『あなた方がエンフィールド嬢のチームに入ると、困る方がいるのです、私の役目は――』

その言葉を聞くと同時に斑鳩は駆けた。その姿はさながら"黒の剣士"そのものだった。

 

 

綾斗その紳士の周囲も様子がおかしいことに気付いたのか、さざ波のようにざわめきが広がり始めていた。

 

「――もし断ったら?」

「それは至極残念ですな、可愛い後輩を手にかけるのは心が痛みます」

その瞬間、紳士を中心に万応素が吹き荒れる。

 

「なので……その役目はこの子に任せるとしましょう」

突如として複雑な魔法陣が空中に浮かび上がり、そこから巨大な生き物がのそりと姿を現す。

だが、現れた瞬間だった。

 

ザクリという音と共に、そのキマイラもどきが真っ二つに裂けた。

万応素がはじけ飛んでいく。綾斗と綺凛、そして紗夜の先に居たのは、ギラギラと紅い瞳を輝かせる斑鳩がそこにいた。その黒い服装と相まって背中を針で刺されるような底冷えする恐ろしさを醸し出していた。

 

 



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襲撃の後宵祭

「なにッ!?クソッ!」

その場を駆けて逃げていくその紳士。斑鳩は周囲の状況を見る。襲撃者がこれで終わることはないだろうと思うので、斑鳩は地面を蹴ってジャンプし空中で一回転し、ヨルベルトの前に出る。

 

「い、斑鳩君!?」

「理由は後です、逃げてください」

狙いがどうなるかわからないので、追っ手をほかの面々に任せて斑鳩は護衛に入る。

見れば、焦ったのか、今度はこちらにキマイラが襲い掛かってくるが、たかが疑似動物如きが斑鳩の足止めも出来るわけもないので、

 

 

 

「――遅いんだよ」

剣を青白い残光と共に4連続で振るい斑鳩は、一刀両断する。その間に護衛の人にヨルベルトを任せる。それから、会場の招待客とこちらの間に魔力障壁を作り出し、安全を確保する。

 

「(クリア――)」

そして、犯人はどうやら逃げられたようだ。会場はとりあえずの平穏が戻っている。

 

「ま、とりあえずかな――」

と剣をしまっていると

 

「全く、お前にはつくづく驚かされるものだ――」

其処には赤いドレスを身にまとってユリスがやれやれといった表情で其処にいた。そして、後ろから綾斗達もやって来た。

 

「にしても、静かになったな、今日はお開きかな?」

静かになってしまった会場を見ながら言う斑鳩。

 

「そうだな、流石にこの騒動ではな――にしても、手際が早いな、気づいていたのか?」

「直前にな、雰囲気に気付いていな」

「そうか、にしても兄上の事は流石だな」

「ありがとう、さて、会場が少し荒れてしまったから直すとしようか」

「ん、出来るのか?」

「造作もない事さ」

そういうと、重力魔法を多用し斑鳩は会場の壊れた食器やグラスを片づけ、そして机の配置を戻す。

そして、料理とかが元通りになる。

 

「ちょっと遅くなったが、小さい食事会でもしようか」

斑鳩は椅子に座り、皆に促すように視線を向け小さいが華やかな食事会が始まった。

 

 

 

小さな食事会も終わり、斑鳩は用意された自室に戻っていた。自室からは月が見える。

「(こっちはこういう風に見えるのか…)」

斑鳩の中で海外の月というのは何処か趣深いものがあり、少し思いにふけっていると

 

コンコンコン―

斑鳩の自室のドアが叩かれた。

 

「はい」

「斑鳩様、私ですフローラです、少しよろしいでしょうか?」

訪ねてきたのは、メイドのフローラだった。

 

「あぁ、フローラちゃんか、どうぞ」

「失礼します」

そういうと、扉を開け中に入ってくる。

 

「どうしたんだい?さっきの襲撃で何かあったかい?」

「いえ、その件ではないのですが、国王陛下がお呼びです」

「・・・ヨルベルトさんが?」

ただ事ではななさそうだと思い斑鳩は、服装を整えようとするが

 

「斑鳩様、服装はそのままで結構と」

「…?」

斑鳩はフローラに連れられ、ヨルベルトの私室の前にやってきた。

 

「国王陛下、斑鳩様をお連れしました」

「ありがとう、入ってもらって」

そういうと、ドアが開かれる。開かれると、そこにはソファーに寛いでいるヨルベルトがいた。

 

「おっ、来た来た、入って頂戴」

「失礼します」

一応ということで、中に入る。ユリスがいないこともあり、少し緊張している斑鳩。

 

「ま、そんな固くならずに、ちょっと夜更けに来てもらったのは、君にお礼をしたくてね」

「お礼、ですか?」

この世界もそうだが、そうじてお礼というのはいい意味と悪い意味がある。そのどちらにも心当たりがある斑鳩。

 

「まずは、さっきの件、ありがとう非常に助かったよ」

「いえ、当然のことをしたまでですよヨルベルトさん」

「ははは、さすがだな、ま、僕の愛人たちもかなり君を評価していたよ」

「そうでしたか、ご無事でなによりです」

「ありがとう、さて、ここからが本題だ」

「"三兆"、この数字に心当たりないかな?」

いきなり直球の直球を投げ込んでくるヨルベルト。

 

「……その件ですか」

「あぁ、フローラもがんばってくれたようでね」

「(ユリスが、俺のことに関して語気を強めていたのはこういうわけか…)」

そんな中、ヨルベルトは少し真面目な顔になり

 

「孤児院の件、本当にありがとう、正直かなり助かった、心からお礼を言わせてくれ、ありがとう」

「いえ、道楽に使うより、良い使い道が見つかったので、当然のことをしたまでです」

「世の中には、そういうことを心からいえる人が何人いるかな…」

「何人でしょうね?」

というヨルベルト。自然と握手を求めてくるので、斑鳩はそれに応える。

 

「さて斑鳩君、個人的にも国として君にぜひ何かお礼をしたい、何がいい?」

「何がいいと言われましてもね…特にこれといって」

「そこをなんとかな、こうみえても少し気にしてしまうタイプの人間なんでね僕は」

律儀な人だなと思っていると、ふと脳裏をとあることがよぎった。

 

「その、もし叶うならでいいんですが、俺が六花(アスタリスク)を出たら、このリーゼルタニアに住むことを許可してください」

そういうと、ヨルベルトは目を丸くして

 

「あぁ、寧ろこちらから頭を下げてお願いしたいところだよ、ぜひ、このリーゼルタニアに住んでくれ、ユリスもきっと喜ぶから」

「ありがとうございます、お礼はそれでいいですよ」

「いいのかい?それだけで?」

「えぇ、いいんですよ」

そういうと、それから少し言葉を交わし、斑鳩は部屋を出た。

 

 

 

 

 

翌日――

 

当然というわけではないが、斑鳩と綾斗たちは揃って王宮に呼び出された。

 

「ギュスターヴ・マルローですか」

斑鳩は、近くの扉によりかかりながら話を聞いていた。

 

「うん、まぁ、僕もよく知らないんだけどね、警察の人たちが言うには昨日の犯人はそういう名前らしいよ」

昨日と同じ部屋で話すヨルベルト

 

「にしても、面倒な奴が現れたものですね、たしか、ギュスターヴってアルルカントの学生でしたよね?」

 

「えぇ、その筋では有名人ですよ」

「たしか、《翡翠の黄昏》を起こした人物の一人、二つ名は《創獣の魔術師》でしたよね?」

「えぇ、アスタリスク史上最大のテロ事件です」

「…ということは、あのヒゲはテロリスト?」

「いんや、シンパと考えるのが妥当だろうな、たぶん金で動いている、そういうことだろ?」

と斑鳩が視線をクローディアに向ける。すると、彼女は携帯端末を操作すると、複数の空間ウィンドが現れた。現れたのはテロ事件に関するニュースのようだ

 

「これらは全てギュスターヴ・マルローが関わっていたと目される事件です。彼らには政治目的を達成するような思想がありません、それは《翡翠の黄昏》以降、主義主張の異なる様々なテロ組織と組んでることからも窺えます」

 

「今回のは、《翡翠の黄昏》の逃げ延びたメンバーの関連が高そうだな」

「…なるほどな」

「ま、ギュスターヴ・マルローが魔獣使役の使い手だということは分かった、問題なのはここへの侵入方法だ、ヨルベルトさん、警察からはなんと?」

「あぁ、その件だが、ギュスターヴとやらは銀河の研究所幹部と身分を偽ったようだが、その際に使っていた銀河のIDは本物だったそうだ、止められるわけがない、僕だって無理だよ」

「統合企業財体のIDを?」

クローディアが眉を顰める。

 

「どうかしたのかい?」

「統合企業財体のIDは本社が直轄の組織の人間にしか与えられません、本来ならそう簡単に手に入るようなものではないのですが…」

 

「誰かに頼まれたような口ぶりでしたし、やっぱり大きな組織が背後にいるのでしょうか…」

「いんや、ある意味での個人かもしれないな…」

ある種の予測が斑鳩の脳裏をよぎるのでそういう。

 

「あ、そうそう、それと一応警察から護衛をつけるように要請が来てるけどどうする?」

「私には不要だが、必要なものが入ればそうする」

「ま、最悪ユリスの護衛はこっちでするんでいいですよ――なんたって、ここには《鳳凰》を制した二人と元星導舘一位もいますからね」

と護衛は不要ということで落ち着かせる

 

「それは頼もしい、実際うちの護衛より君たちのほうが強いだろうしね」

「そういうことです、んじゃあ、俺はクローディアと紗夜と綺凛ちゃんを連れて出ているんで、あとは三人でどうぞ」

 

「気を遣わせて悪いね、後で個人的にお礼をしたいから迎えを寄越すよ」

「お手数かけます」

そういうと、斑鳩は空気を読んで三人を連れ出し、外に出た。

 



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孤児院

斑鳩は、クローディア、紗夜、それに綺凛と別れた後、王宮を出て湖畔を歩いていた。目標は対岸だ。

 

「――寒いな」

ザクザクと雪を踏みしめながら歩いていく。

貧民街のはずれの高台に、その境界はあった。教会は煉瓦と木組みの古い造りで、そこに繋がるように二階建ての屋舎が立っている。

 

「(にしても、全体的にくたびれているな…)」

と足を踏み入れると、教会の裏手から子供特有の高くはしゃいだ声が聞こえてくる。

見れば、そこには綾斗とユリスとまだ年端もいかないような子供たちがいた。

 

「あー、なつめいかるがだ!」

「ほんとだー!」

「すごーい!」

子どもたちが次々と声を上げる。

 

「まさか、お前もか――その様子だと歩いてきたのか?」

「まぁね」

と思っていると

 

「あら、やけににぎやかだと思ったらお客様だったのね、ユリス」

現れたのは初老のシスターだった。

 

「シスター・テレーゼ、あぁ、紹介します、こちらが……」

「大丈夫よ、私だって《鳳凰星武祭》は見ていたもの――ようこそ、天霧綾斗さん、それに棗斑鳩さんも」

やさしく微笑むシスター

 

「あまり大したもてなしはできないのだけれど、もし良かったらお茶でもいかがかし

ら?」

「あ、はい、ぜひ」

「良かった、じゃあ、中へどうぞ」

促されるまま、ユリスと共に教会に入る斑鳩。中に入ると、そこでは外で遊んでいた子どもたちよりは幾分年上の子どもたちが手伝っている。

 

「祭日が近いので、ちょうどそれの準備をしているところだな」

「へぇ……」

足を止めてその光景を懐かしむように見ているユリス。

 

「すまない、つい懐かしくてな」

「昔はユリスも手伝ってたりしてたんだ?」

「まぁ、一応はな」

複雑そうな顔でユリスがそういう。

 

「ふふっ、そうね、確かにここへ顔を出し始めたころのユリスは、本当になにもできない子だったわ、なにを手伝っても足を引っ張ってばかりで」

悪戯っぽく笑うテレーゼ

 

「シスター・テレーゼ、あまりいじめないでください」

「ごめんなさい、でもそんな子がまさか《鳳凰星武祭》で優勝しちゃうなんてね」

苦笑するユリスに穏やかに微笑むテレーゼ。それから屋舎の奥、ちょっとした食堂のような部屋に案内される。

 

「改めまして、ようこそ天霧綾斗さん、それに棗斑鳩さん、私はテレーゼ、一応、この教会と孤児院を任されています」

向かいに座ったテレーゼがそういうと、それ見計らったように言うまだ若いシスターがお茶を運んできた。

 

「おかえりユリス、《鳳凰星武祭》見たよーやるじゃん」

「ふふん、まぁ、当然だな」

「お、言うねー、昔はぴーぴー泣いてばっかだったくせにさ」

「(ま、普通の女の子か)」

ある種安心もしている斑鳩。それは綾斗も同じようだ。

 

 

「さて、フローラの件ではご迷惑をおかけしました、改めてお礼を申し上げます」

「いえ、こっちも色々とありましたし、いいですよ」

「それにやっぱり一番問題だったのは、私があの子を一人で行かせてしまったことだわ、無理してでも、誰かシスターを付ければ良かったのに」

力なく首を振る。それから、話も進んでいくと

 

「ユリス?」

「…すみません、少し、外の空気を吸ってきます」

部屋を出ていくユリス。

 

「ふぅ…」

重たいため息を吐いてつぶやく。

そして、三人で教会の敷地を出て荒涼とした街並みを歩いていく

 

「(どこか息苦しいな…)」

「…すまない、どうも今日は少し不安定になっているようだ」

「そういう時もあるよ」

ユリスにそういう綾斗。それから、ユリスの話を聞きながら歩いていく。そんな時だった。

 

「――ッ!?」

突然弾かれたようにユリスが顔を上げた。先ほどまでの苦悩に満ちた表情が驚愕に塗り替えられていく。

 

「今のは、まさか…」

「ユリス?」

視線の先、何かを捉えたみたいだ。

「いや、これは間違いない…」

「ユリス?一体何が・・・?」

「綾斗、すまないが、孤児院に戻って待っていてくれ、少しばかり用事が出来た」

そういうなり全力で走り出すユリス。

 

「ちょっとユリス!いきなりどうしたのさ!?」

綾斗もすぐにユリスを追って走り出す。勿論斑鳩もだ。そして、すぐに周囲の風景が街はずれの風景から雪と森に変わっていく。

 

「ユリス!」

「どけ、綾斗!私は急いでいるのだ!」

「それは見ればわかるよ、でも今のユリスをこのままいかせるわけにはいかない、どんな理由か知らないけど、一度落ち着いた方がいい」

「それは……っ!」

噛みつくように身を乗り出すが、すぐに目を伏せる。

「それは、自分でもわかっている…!だが、後生だ綾斗…行かせてくれ!」

 

少しだけ落ち着くユリス。だが、その眼には強い焦燥感がある。どうやら、よほどのことらしい。

 

「…はぁ、わかったよ、俺も着いていくからね」

「あぁ、構わない」

そういうと、二人はすぐに走り出し始める。

 

「(さて、向かうところは…おいおい)」

雪原を駆けていく三人。それから、目の前に現れた森林を駆け抜けていく。

 

「――ッ!」

まるでクレーターでも出来たかのように、ぽっかりと巨大な空間が開けていた。視線の先には真っ白な雪の平原。そして足跡。その足跡を追うように進んでいく綾斗とユリス。

舞い散る雪は、次第に強さを増している。見れば、平原の中央にはなにやら建物がある。

しかもかなりの規模だ。とはいえ、すたれている物ではなく、どこか修復した後さえ見える。

三人の視線の先の建物の前に人影一つぽつんと佇んでいる。白い髪の少女だ。

そして、ユリスはその手前で足を止め、人影に向かって呼びかけた。

 

 

 

 

「――久しぶりだな、オーフェリア」

 



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孤毒の魔女

オーフェリアは可愛い、これ真実イイネ?


ユリスが呼んだその名前に、綾斗は思わず息をのんだ。

 

「オーフェリアって、まさか――」

綾斗の顔が焦り一色になる。

 

「…なぜ来たの?」

今にも悲しそうな顔だが、どこか本気ではない。

 

「本物、なのか…」

綾斗はごくりと唾をのむ。そうなるのも無理はない、状況を知らなければ、今、目の前にいるのはアスタリスク史上最強の魔女なのだ。

 

「およそ一年ぶりといったところか、まさかこんなところで会うとは思ってもいなかったぞ」

「…あれほど、もう関わらないようにと言ったのに」

どの口がいうかと今一度言いたくなる斑鳩。相変らずユリスは、一瞬だけ残念そうに唇を噛む。

 

「用件は一年前と同じだ、戻ってこい、オーフェリア、おまえがいるべき世界はそこじゃない」

「――やめて、ユリス、私は私の運命に従うだけ、あなたでは私の運命を覆せない」

オーフェリアは力なく首を左右に振る。そして

 

 

 

「そう、貴女"では"私の運命は覆せなかったわー」

「貴女では・・・どういうことだ?」

「こういうことよ」

「――ッ!?」

冷徹な声音のオーフェリア。ユリスと綾斗は身構える。そして、オーフェリアは雪原を駆け斑鳩の後ろに移動してくる。

 

 

「斑鳩、彼女から――」

ユリスは、言葉を失った。なぜなら、彼女が斑鳩に後ろから抱き付いているのだ。

カールのあった髪もストレートになっており、どこか自信ありげな表情になっている。

 

「…どういうことだ、オーフェリア」

「こういうことよ…」

こちらを一瞥しいうオーフェリア。

 

「私の運命を変えたのは、貴女じゃないユリス、私の運命を変えてくれたのは彼よ」

「なにッ!?」

ユリスの顔が再び驚愕に塗り替えられる。

 

「そして、私の今の恋人が彼よ」

そういうと、背中から前にまわってくるオーフェリア。そして、彼女は背中に手をまわし抱き付いてきてキスをしてくる。

 

「な、なっ、なっ!?」

顔を赤らめるユリス。同時に斑鳩も顔を赤くしていた。ちなみに、斑鳩はいつの間にか雪原に押し倒されていた。オーフェリアは、二人が見ているにも関わらず斑鳩の互いの唇が軽く触れ合うささやかなキスをしてくる。ほんの数秒で唇を離すと、彼女は目をうっすらと開け、斑鳩の頬に手を添えてきた。

 

「斑鳩……んっ」

オーフェリアがの斑鳩を引っ張って、口付けをねだってくる。

目を細めて肯定の意を示すと、再び唇を重ねた。

 

「んっ……」

ユリスに見せつけるように、何度も何度も口付けを重ねてくる。オーフェリアは舌を絡ませて、何度も愛情を確かめるように斑鳩の口内を舐り、歯列を舐め回し、唾液の交換をする。そして、舌を絡ませ、口内の隅々までを味わってくる。その姿はまさに、獣のようだ。

彼女の声はどんどん悩ましく、甘ったるく、甘えるような声音になってくる。

オーフェリアはうっとりとした目をして、気付けば斑鳩の後頭部に腕を回し、足はするすると斑鳩の腰や足に回して絡み付いていた。この雪原の中に似つかわしくない光景だ。

 

「ん…ぷはぁ」

キスがやみ、オーフェリアがしてやったりといった表情でこちらを見てくる。たぶん、この後喰われることは間違いなさそうだ。ゆっくりと起き上がるオーフェリア。

 

「こういうことよ、ユリス――わかったかしら」

余りにもなことに顔を赤くしているユリス。赤くしたいのはこちらも同じだと言いたい斑鳩。

そして、起き上がっているために、妙に生々しい光景になる。

 

「オーフェリア…おまえ…」

「理解してくれたのね、ユリス…にしても無粋ね、せっかく晴れてお披露目ってところだったのにね」

斑鳩も現れたその気配にスイッチが入る。

 

 

 

「そっちからやって来てくれるとはな…ギュスターヴ」

悟られないようにしかし、相手を捉え構える斑鳩。視線の先には昨日の紳士、ギュスターヴが其処にいた。

 

「あんなものを見せつけられてね、多少は嫉妬するものもありますが――まさか、そうなっているとはね」

 

「…悪いな、ギュスターヴ・マルロー」

射貫く様な視線で言う斑鳩。

 

「おやおや、バレていましたか…」

「にしても、よく作品が壊されて顔色一つ変えないものだ、大層なものだ」

皮肉を込めていう斑鳩。

 

「…私は私の用を済ませてしまうといたしましょうか」

ギュスターヴがにこやかにそういうと、彼の両脇に魔法陣が浮かび上がり

巨大な双頭の犬と三つ首の犬がのそりと這い出てきた。

 

 



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白天疾駆

「ご紹介しましょう、我が作品、オルトロスとケルベロスです、どうですかな?神話に伝わる通りの雄姿でしょう?かつて、星猟警備隊の猛者たちをことごとく血祭りに上げた愛しき番犬……まぁ、さすがに警備隊長殿には、敵いませんでしたがね」

残念そうに語るギュスターヴだ。斑鳩は、一気に翔けだしていく。

 

「それでも当時からは随分と――」

斑鳩は、ギュスターヴの話を聞かず、動き出す。その手には、既にエリュシデータが握られている。斑鳩は剣を青白い残光と共に4連続で振るう。

 

『ガァアアアアアアアァァァァァァッ!!』

「何っ!?」

断末魔の絶叫と共に、一瞬の間に三つ首と双頭の首がはじけ飛ぶ。斑鳩は、剣を構えて視線をギュスターヴに向ける。

 

「…さすがは、《鳳凰星武祭》のチャンプだけでありますな」

「そういうことだ、さて、この場にクローディアが来ているが、お前はどうするんだ――お抱えの魔獣は消えているが…」

「…やれやれ、不愉快なほどに聡い輩だ、どうやら、依頼を完遂するには、まずはお前から消さなければならないようだ――棗斑鳩」

苦々しい顔で、あちらもこちらを射貫くように見てくる。

そういうと、再び魔法陣が現れ光を放ち、触手のような蛇の首が現れ出でる。四足歩行の恐竜のような体躯から九つの蛇の首が生えたその怪物は、誇張でもなく小山ほどある。そして、その周囲に竜牙兵が現れる。

 

 

 

「ヒュドラに竜牙兵(ドラゴンとワーストウォーリアー)か」

まるでくだらないといったように言う斑鳩。

 

「まさしくその通りですよ、棗斑鳩――神話に書かれた通りの――いや、それ以上に雄々しく凛々しい姿でしょう?三年がかりで創り上げた究極の魔獣です」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

空気を震わせ、九つの首が同時に咆哮をあげる。

ユリスと綾斗は身構えるが、斑鳩がそれを静止する。

 

「斑鳩?」

「綾斗、ユリス、二人は、万が一のことが無いように孤児院と貧民街を守れ、こいつは俺がやる」

「どういうことだ?」

「考えてみろ、こいつの目的は《獅鷲星武祭》を考えた時に二人の存在は厄介になることでの襲撃だ、ってことは、背後にいるのは統合企業財体、ユリスにこういうのは悪いが、この町が市街地で重要施設があるのなら、いざしも、貧民街と孤児院のここのエリアは、思う存分暴れられるエリアってことになるだろ」

押し黙ったまま唇を噛むユリス。

 

「そういうことだ、綾斗と二人で護れ、いいな?」

「あぁ、わかった、だが、お前は――」

「何言ってんのよ?私もいるわユリス、行きなさい」

オーフェリアが一歩前に出てくる。その手には、剣が一本握られている。

 

「これはこれは…《絶天》に《孤毒の魔女》のタッグですか」

「――そうね、ほれぼれするかしら?」

挑戦的な笑みを浮かべていうオーフェリア。とはいえ、ここに思い入れがあるらしく、怒りをにじませている。二人の視線の先には、竜牙兵とヒュドラ。流し目で軽くこちらを一瞥するオーフェリア。

 

「(言葉は不要か――)」

一陣の風が吹き、二人のその白い髪がお互い風になびく。それが雪原と相まって、何とも言えない幻想的な光景になっている。そして、綾斗とユリスは二人を一瞥し走りだす。

 

「(この感覚…久しぶりだな――)

心の底からあの時の死地の感覚がじわじわと思い出されていく。目の前には巨大な怪物。だが、不思議と今は恐れはない。そんな中、ヒュドラの咆哮と共に三つの首が斑鳩に向かって光線を放ってくる。

斑鳩は、それを魔力障壁を張ってそれを弾く。そして、それが開戦の合図のように無数の竜牙兵が武器を掲げて動き出す。斑鳩とオーフェリアもそれに合わせて動き出す。

竜牙兵とヒュドラ、そして斑鳩の両者の距離が近づくにつれ、脳の中で冷たい火花がスパークするような感覚が襲う。同時に久しく感じていなかったアクセル感が戻ってくる。

 

 

 

 

「――!!」

斑鳩は竜牙兵に向かって剣を思いっきり打ち下ろす。そして、竜牙兵の剣がぶつかり合う。

単調な動きの竜牙兵の懐に入り、エリュシデータの首もとにあてがい、一刀両断する。

斑鳩は、ヒュドラに向けて猛然とダッシュする。そして、斑鳩の進路を阻むように攻撃してくる竜牙兵。

自分の攻撃に全神経を傾ける。

斑鳩は、赤い光芒と共に剣による強力な突きを繰り出すウォーバルストライクを繰り出し、目の前の竜牙兵を突き飛ばす。そして、その脇から出てきた竜牙兵が、曲刀を振り下ろしてくる。それを両手の剣を×印のように交差させ相手の攻撃を受け止めるクロスブックで受け止め、そこに空いた左腕で、零距離で相手にイエローに輝いた腕で貫き手を繰り出すエンブレイザーを繰り出す。

 

 

「ガアアアアッ!!」

竜牙兵の断末魔が雪原に木霊する。

斑鳩の隣ではオーフェリアが星辰力を剣に纏わせ半ばレイザーブレードのような伸縮自在の剣を操り、

竜牙兵を蹂躙していく。しかも剣技は並の剣士を越えた速度だ。

二人で瞳を見交わすだけで、意思疎通し、斑鳩とオーフェリアは完ぺきに同調した動きで竜牙兵をなぎ倒していく。そんな中、一気に四体の竜牙兵が翔けている斑鳩に襲い掛かってくる。

斑鳩は、剣を青白い残光と共に4連続で振るう技バーチカルアークを繰り出し、そこから炎をまとわせた剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出すコンビネーション業であるハウンリングオクターブを繰り出した。

 

 

「そこをどけぇぇぇ!!」

見れば周囲を取り囲んでいるヒュドラは全てなぎ倒されている。ここに来るまで5分もかかっていない。

斑鳩とオーフェリアはヒュドラに翔けた。

 



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月光の剣士

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

空気を震わせ、九つの首が同時に咆哮をあげる。先ほどと同様に、ヒュドラが光線を放ってくる。

 

斑鳩は言葉を遣わずに、見ることもせず、まるで思考がダイレクトに接続されたようなリニア感を得る。

 

そして、息もつかせぬヒュドラの連携攻撃を瞬時に反応し、受け止め、攻撃し返していく。

斑鳩はオーフェリアとかつてないほどの一体感を味わう。まるで、二人が融合したかのような感覚を得る。

 

まさに神速ともいえる連携攻撃で攻撃をしていく。そして、首を切り落とすが、今まさに切り落とした首の切り口がぼこぼこと泡立ったかと思うと、それが次第に盛り上がり、やがて元通りに再生した。

 

 

「そんなところまで神話通りというわけか…」

「中央の首を落すしかなさそうね」

「みたいだな」

そういうと、ヒュドラに対して一歩前に出るオーフェリア。

 

「ま、準備運動は出来たし、久々の私の本気、見せてあげるわ」

そういうと、オーフェリアの周囲から星辰力が溢れだす。そして、あの時とは違い、今度は周囲から緑色の粒子が噴き出していく。斑鳩は瞳を軽く合わせ、ヒュドラに向けて滑空するようにかけていく。その手には、エリュシデータではなく、スカーレットファーブニルが握られている。

 

「――塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

オーフェリアがつぶやと同時に、緑色の粒子で構成された腕が地を這う蛇のように素早く雪原を走り、

ヒュドラの中央の首以外を掴み、それを無理やりへし折る。

 

「ガァァアアア――!!」

そんな中、ヒュドラの眼は生きていたらしくこちらに向けて光線を放とうとしてくるが、

 

「グギャアアアアッ!!」

不意にその頭部が炸裂し、文字通りのた打ちまわる。この攻撃を出来るのは一人しかいない。案の定、その人物から通信が入る。紗夜からだ。

 

『危機一髪?』

「ナイスフォロー、助かった!」

斑鳩の知覚は対岸からの攻撃を感知していた。それにしても、今の一撃は湖の対岸、優に三キロある地点からの長距離狙撃だ。さすがというしか言いようがない。

そして、連続して8つの首が連携攻撃してくるが、オーフェリアと紗夜の隙のない攻撃で爆発していく。光線攻撃が悉く失敗に終わる。斑鳩は、大きくスカーレットファーブニルを構える。そして

 

 

「――サラマンド・バタリオン」

剣から摂氏3000度の熱を発する一閃、その光跡は龍の形をしている。

一閃をすると共に、爆炎に飲み込まれたヒュドラが断末魔のようなものを上げる。即座に焼かれる。

そして、その骨でさえも一閃で砕かれ、正真正銘ヒュドラが消し飛んだ。

 

 

 

「――終わったな」

ヒュドラを一瞥する斑鳩とオーフェリア。サラマンド・バタリオンのせいで地面は大きくえぐり取られ、熱波によって周囲に積もった雪が解けていく。周囲を見渡すが、案の定ギュスターヴの姿は見られない。

 

「そうね、それにしても彼には逃げられたのかしら?」

周囲を一度見渡しいうオーフェリア。

 

「大丈夫だ、信頼できる追っ手がいる」

そういいながら、高台の方をねめつける斑鳩であった。湖畔には月光が光輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そんな、まさか」

余りの短時間の出来事に驚いているギュスターヴ。ヒュドラと竜牙兵があの速さで倒されたのもさることながら、それにもまして、この距離であちらがこちらを見てきたということだ。スコープ越しだが、彼と目が遭い底冷えぬ何かに充てられるギュスターヴ。

 

「(とはいえ、ここまで間に合うまい)」

あくまでここに居れば逃げられることに半ば安堵の息を吐くギュスターヴ。震えながらもスコープをしまい、落ち着かせるために口ひげを撫でる。

 

「仕方あるまい、また次の機会を窺うとしましょう」

そういってギュスターヴはその場を立ち去ろうとするが、その人影に気付いた。

 

「――これは驚きましたな、どうやってここが?」

「それは貴方が知る必要がありません、しいて言うとすれば、斑鳩さんとユリスさんの見立てです」

月光に照らされた人影――刀藤綺凛の顔が露わになる。

 

「この近くで貧民街とあの場所を一望できる場所はそう多くありません、あとはそこを調べていけば…」

「こうして当たりを引くこともありますか、なるほど」

ギュスターヴは、頷きながらも星辰力を集中させる。

 

「大人しく投降してはもらえませんか?率直に言って、星辰力を消費したあなたでは、私には勝つことはできません」

「ふむ……その通り、でしょうが、打つ手がないわけでもありませんよ」

そういうと、その場に竜牙兵が現れる。

 

「貴女を倒せずとも、私が逃げおおせるくらいの時間は稼いでくれれましょう」

ゆっくりと竜牙兵が綺凛を取り囲んでくるが

 

「確かに、綾斗先輩の天霧辰明流と違い、刀藤流には多対一を想定した技術は、実戦レベルのものとなると、ほとんど皆無でしょう――」

言いながら、綺凛は腰の日本刀をすらりと抜く。そして、その鞘を持ち、半身に構える。

 

「私個人としてなら、話は別です――」

「なんですと…!?」

綺凛から放たれる剣気に後退りはじめるギュスターヴ。

 

「かかりなさい!!」

次の瞬間、ギュスターヴが命令するよりも早く動き出す綺凛。

 

「―――」

綺凛は、刀を振り上げてから、払うことによって目の前に衝撃波を発生させて範囲攻撃の残月と刀と拳撃を組み合わせた3連続の攻撃の羅刹を繰り出す。そして、最後に相手が技を出してから反応してたら間に合わないほど素早い辻風を繰り出した。

 

「がはっ…!」

「安心してください、峰打ちです」

綺凛の剣戟でギュスターヴは白目を剥いて雪の上に倒れ込んだ。

 



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戦のあとの一杯

 

「――お、おじゃまします」

「どうぞ~」

オーフェリアの提案で、彼女の家に案内され中に入る。

 

「広いな」

どう見ても平均を上回る広さの家だ。この家に彼女一人だけなんて信じられない。

そんな中

 

「ほら、その格好だと堅苦しいから、これに着替えてちょうだい」

投げ渡されたのは、半そでと半ズボン。

 

「いいのか?」

「えぇ、別に」

それがどうしたと言わんばかりの表情のオーフェリア。もはや、斑鳩を家族の一員でしか見ていないようだ。

うれしいやらもどかしいやら少し複雑な斑鳩。それから、オーフェリアに渡された服に着替える。

 

「(これもこれで心地いいな)」

妙な解放感に包まれる斑鳩。かなり気分が軽くなる。あの世界での夏を思い出す解放感だ。

 

「(そういや、この世界にも夏はあるんだよな・・・)」

あの時は感じる暇もなかったが、今は季節を感じることができる。それからリビングに戻ると、オーフェリアが戻ってきた。

 

「あっ、着替え終わったんだ?きつくない?」

「あぁ、特に」

「じゃああげる」

「へっ?」

「いやね~その服、少し胸元がきつくなっちゃって、買ったはいいものの落ち着かないのよ」

紗夜が聞いたら発狂しかねない言葉だ。にしても、オーフェリアはそういうものの、彼女の格好はジャージに眼鏡というこれまた女性らしさが消えた地味な服装だ。

 

「そっか、んじゃあ、ありがたくいただいておくよ」

「あっ、脱ぎたてがよかった?」

「いんや、俺にそういう趣味はないさ」

「ちぇ、残念」

残念がられても困る。

 

「斑鳩、なんか飲む?」

「なんでもいいよ?しいて言えばコーヒープリーズ」

「んじゃあ、作って漁っていいから」

そういうと、ソファーに座り込むオーフェリア。

 

「いいの、冷蔵庫漁っても?」

「どうせ、数年後共用になるんだし、いいわよ、あ、ロクなものないからね?」

「そんな、まさかな――って、マジでない」

開けてビックリ玉手箱とはこのことだ。びっくりするほどろくなものがない。とはいえ、かろうじてコーヒーはあったので、コーヒーを手間をかけて作る

 

「はい、オーフェリア」

「ありがと」

斑鳩はサイドテーブルにカップを置き、彼女の隣に腰を下ろす。

 

「うん、おいしい」

オーフェリアがニッコリとほほ笑む。賞賛に他言は不要とはこのことだろう。

そして、二口目を含み満足げな顔を伺いみて、斑鳩は自分のカップに口をつける。

自然というわけではないが、二人とも会話がない。無言の状態が続いて間が悪い思いをすることもなかった二人であった。



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父との決別――新たな戦いに向けて

「――おかえりなさいませ、随分と遅いお帰りでしたね」

クローディアが微笑んで出迎える。男は一瞬面くらったように目を見開いた。

ここはロンドン郊外、エンフィールドの屋敷だった。

ゴシック・リバイバル様式のこの邸宅は、あくまでエンフィールド一族が所有する屋敷の一つに過ぎないが、クローディアは男がこの懐古主義的な空気を殊の外気に入っていることを知っていた。

 

「ふふっ、そんなに驚かなくてもいいじゃありませんか、ここだって一応私の家なのですから、そうでしょう、お父様?」

「……こうして直接顔を合わせるのは久しぶりだな、クローディア」

「いくら携帯端末に連絡しても出てくださらないですもの、だったら、直接お会いするしかないと思いまして」

無言のままコートを脱ぐニコラス・エンフィールド。音も無く現れた老人が恭しくそれを受け取り音も無く下がる。そして、斑鳩が口を開く。

 

「知っていると思うが、ギュスターヴ・マルローはこちらで捕縛させてもらった」

「あぁ、聞いている、評判ほどに使えん男だったな」

事も無げに言う。

 

「あら、存外素直にお認めになりますね、おそらく彼は今頃自白していると思いますが」

「…お前相手にしらを切っても始まらん、で、どうする、私を告発するかね?」

「まさか、そんなもったいなことをするわけないでしょう」

無邪気にコロコロと笑うクローディア。この時ばかりは彼女を敵に回してはならないと思う斑鳩。

 

「それで単刀直入に聞こう、今回の一存はあんた個人だな――やり口が温すぎる、銀河が本気になればこんなもんじゃないだろう」

「…そうだ、あくまで私の一存だ」

「どうせお母さまも気が付いていたのでしょう?それでいて、黙認した」

「そうかもしれんが…わからんよ、私にあいつの考えなど、わかるはずもない」

ゆっくりと首を振るニコラス。

 

「だが、一つだけ確かなことがある、私が失敗した以上、遠からずあいつが動くことになるだろう、その際に必要と判断としたなら私を切ることを一切躊躇すまい、そうなれば今回のカードなど役に立たんぞ」

「でしょうね、今回も、それを見据えての彼ですから」

「分かっているのか、クローディア!もしそうなったら……!」

「お父様が私のためを思って行動されたことは理解していますよ」

「……どうしても《獅鷲星武祭》に出るというのか?」

「はい」

「ならばせめて、願いを変えてくれ、頼む、今ならばまだ間に合う」

「何度も申し上げている通り、それもできません」

「私は……私はお前を愛しているのだ、クローディア」

弱々しい声のニコラス。

 

「私も愛していますよ、お父様――ではごきげんよう」

背後に重く響く隔絶の言葉と音を聞きながら、斑鳩とクローディアは外に出た。

 

 

 

 

 

それから、斑鳩とクローディアはお互い無言で、その役割を果たしつつ歩いていると、その沈黙をクローディアから破ってきた。

 

「斑鳩、護衛ありがとうございます」

「いえ、何度も世話になっていますからね」

「そんなことありませんよ、それにしてもユリスにあの事を知らせなくていいんですか?」

「いいんですよ、オーフェリアも着いたらでいいと言っていましたし」

「そうですか、まぁ、それもそうですね」

クスリと笑うオーフェリア。

 

「にしても、まさか斑鳩の願いが"星武憲章(ステラ・カルタ)"を越えたものを望むとは」

「とはいえ、前例がないわけではない、そこいら辺は調べていますよ」

「えぇ、過去に二度ありましたからね、にしても、なぜあのような願いを?」

「単純に言えば、彼女と一緒にいたい、それだけですよ」

「斑鳩にしては、やけに単純ですね」

「複雑な事なんてわかりませんよ」

軽くほくそ笑む斑鳩。

 

 

 

「さて、学園に帰ろうとしましょうか」

「えぇ、そうですわね」

そういって彼女と肩を並べてロンドンの街並みを歩き出す。

 

「にしても斑鳩は、先ほどから色々と興味深く見ていますが、もしかしてロンドンは初めてなのですか?」

「あぁ、昔本でこのビックベンやピカデリーサーカスは見たことはあったがな…本物を見るのは初めてなんだ」

「へぇ~でしたら、少し観光でもしていきます?」

「いんや、大丈夫だクローディア、来ようと思えばいつでも来れる、それにクローディアもいるんだ、下手に危険な真似は出来ない」

「あら、お気遣い無用ですよ?」

「いいのさ」

とロンドンの街並みを観察しながら歩いていく斑鳩であった。



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マグナム・オーバス

ヘルガは、軽く手を挙げ、その場を去っていく。

 

「はぁ…なんだか考えることがいっぱいだな」

ようやく姉に会えたことには間違いない綾斗。その実感がわいてくるが、やはり問題は山積みであった。

 

「(五年か…)」

決して短い時間ではない。しかも綾斗にしてみれば、今までの人生の三分の一に近い時間だ。

 

「姉さん…とはいえ、これ以上俺にできることはないんだよな……」

知らずに声に出てします。無理もない、喜ぶのはまだ早く、今のままでは話すことはできないのは明白な事だった。そんな時だった。

 

 

 

「そんなことはないですよ」

突然背後から声がかかった。

 

「えっ?」

慌てて振り向くと、そこにアルルカントの制服に白衣を着た怪しげな女性がいた。

 

「天霧綾斗、ですね?」

「そうだけど、あなたは?」

「きししし、これは失礼しました、あたしはヒルダ、ヒルダ・ジェーン・ローランズです、ヒルダとお呼びください」

衣擦れしたような乾いた笑い声の彼女。彼女は猫のように目を細める。

 

「それで…俺に何か?」

「あぁ、そうでした天霧綾斗、キミがあたしを必要としているのじゃないかと思いまして」

「え…?』

「きししし、だってキミはお姉さんを治療したいのですよね?」

「っ!なぜそれを……!」

反射的に身構える綾斗。

 

「知っていますよ、我々《超人派》は治療院と深いパイプを持っていますからね」

その名前に聞き覚えがある綾斗。

 

「あぁ、それとニュースを観ました、「おまえらの先輩がこっちにやってくれたみてぇじゃねぇか、ヒルダ・ジェーン・ローランズ」な、なんですかッ!?」

聞き覚えのある声と共に、こちらに向けられているのは濃密な殺気。見れば、殺気慣れしている綾斗はそうでもないが、ヒルダに関しては何かを察知し、その身体を震わせていた。そして、その殺気の正体が現れた。

 

 

 

「最悪のタイミングですね」

「どうも、大博士(マグナム・オーパス)

斑鳩の言葉に思わず身を構える。

 

「それで綾斗と接触したのは、姉である天霧遥の治療と引き換えに貴様に課されてるペナルティの解除か」

「制限?」

「あぁ、コイツはとある実験で失敗してな、その中でも大型万応素加速器を操る施設に入れなくてな、それで綾斗に優勝してもらい、その施設に入れてもらおうっていうわけさ」

黙り込む綾斗。

 

「一つ聞きたい……あなたがオーフェリア・ランドルーフェンを《魔女》にしたっていうのは本当なのか?」

「おやおや、そのあたりもご存じでしたか、一応あの実験のことはまだ発表されていないのですが……きししし、これは話が早い」

独特の笑い声をあげながら目を細める彼女。

 

「そうですそうです、あれはあたしにとって特別な被験体でした、あぁ、もし今あれがあたしの手元にあったなら、どれほど貴重なデータが取れたことか、まったくもって残念でなりません、それに、彼女も変わったっていう話もありますし、とはいえ過ぎたことを嘆いていても仕方ありません、科学者たるもの、常に未来へと目を向けなければならいのです――そ「そうか、言いたいことはそれだけか?」

「えぇ、そうですよ」

不気味に笑う少女。斑鳩にとってはつくづく不愉快としか言いようがないが、なんにせよ彼女に対する憎悪は非常にこの空間を捻じ曲げかねないほど黒く膨らんでいた。その周囲に斑鳩の周囲にどす黒い星辰力があふれ出ていた。

 

「…ま、まさか――」

「お前の想像通りだよ、アンタの思う通り、オーフェリアの毒を消したのはこの俺だ」

「そ、そんなーー」

その気迫に押され、後退りしはじめるヒルダ。

 

「知っているか――人間の脳味噌って、電気が流れているらしいな?」

この学園都市では殺すのはご法度だ。だが、ばれないように傷つけることは可能だ。斑鳩は彼女の頭を掴み。

 

「では、魔女裁判の時間と行こうか」

「へっ?」

地面に突き刺すことによって周囲に電撃を走らせるライトニングフォールを手から起こした。しかも、唯の雷撃じゃなく、黒い雷だ。

 

「―――!!--!!」

とてもじゃないが人間が発する言葉を発していないヒルダ。

 

「さて、記憶のクリーニングは出来ているかな?」

まるでゴミを扱うように彼女を扱う斑鳩。斑鳩は何事もなかったかのようにその場を立ち去ることにした。



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エレンシュキーガル

長らくお待たせいたしました。更新再開です!! by作者


数日後

 

「やぁ斑鳩、おはよう」

「おはよう、斑鳩」

「存外早かったな」

「あぁ、おはよう」

朝のトレーニングを終え、クラスに入るとユリス、紗夜、綾斗に出迎えられる。

 

「にしても綾斗、お前どうしてドアの前に?」

「ちょっと紗夜と飲み物を買いに行こうと思ってね」

「そういうことか」

と思いながら席に着く。周囲を見て見るといつも朝うるさいやつがいない。

 

「そういや夜吹は?」

「さぁ、どこなんだろう?」

見渡すがいない。そして、授業前のホームルームの鐘が鳴り全員が席に着く。少しざわざわしているが。そして、担任の谷津崎先生が少し苦々しそうな顔をしながら教室に入ってきた。

 

「なぁ、今日の先生、ものすごく不機嫌じゃないか?」

「まぁ、人間だからね、なんかあったんじゃないの?」

マジレスしてくる綾斗。聞きたいのはそういうことじゃない。そして、少し髪をくしゃくしゃしてストレスを発散させるような動作をし

 

「あー、えーと、なんて言えばいいんだかな…転校生が来たぞ」

「えっ…」

クラスの一人がそんなことを言う。無理もない、転校生という言葉はこの六花で使われてはいけない言葉だ。

 

「あぁー色々とあると思うがな・・・このクラスに新たな仲間が加わる、はいれ」

そういうと、前の扉から一人の女子が入ってくる。綺麗な銀髪と雪のような白い肌、そして雰囲気の変わった紅の瞳が凄絶な間での美しさを際立たせている。だが彼女から放たれるその気迫に充てられた一部のクラスメイトは言葉を失う。そして、斑鳩のすぐ近く、ユリスも半ばその姿を見て気絶しかかっている。というより、もはや表情が凄い。涙を流しているのか、気絶しているのか、驚いているのか、とにかく様々な表情が混ざった顔をしている。

 

「(うわぁ、これは酷い)」

斑鳩は、ユリスを一瞥し視線の先の転校生に目を向ける。この六花でしかもこの時期となれば一人しかいない。

 

「(案外、手続きに手間取ると思っていたんだけどな…)」

そして、聞こえてくるのは、光近が聞きなれた声。

 

「はじめまして星導舘のみなさん、オーフェリア・ランドルーフェンです、これからよろしく」

視線の先の黒板の前には、オーフェリアが星導舘の服を着ていた。

 

 

 

 

 

放課後

 

「ふぅー」

「お疲れ、オーフェリア、ほら」

初日の通過儀礼とも言える質問攻めで昼休みをつぶされ、授業も終わり斑鳩はオーフェリアの下にやってきていた。オーフェリアは斑鳩から缶の飲み物を受け取る。

 

「やっぱり文武両道をモットーとしているだけあって、教育の質が違うわね?」

「質なんてわかるのか?」

「まぁね、こういうのもあれだけどレヴォルフ学院の先生は、無気力だったからね」

「へぇ~」

斑鳩は彼女の近くの椅子に座る。

 

「どうだ?」

「なんか嬉しいわ」

「なにがさ?」

「こういう風にね、なーんにも心配しなくていいことよ」

「ははは、そりゃいい」

斑鳩も飲み物に口をつける。

 

「それに、斑鳩もそうだけどユリスと再び肩を並べることになるとは思ってもいなかったからね」

どこか黄昏るように言葉を交わす二人。その二人を祝福するかのように、夕陽がお互いの髪と顔を照らす。

 

「それでオーフェリア、住む尞はどうなったの?」

「ん、生徒会長さんの取り計らいで二人部屋だって」

「ほぇ~そんで場所は?」

「女子寮でなんか、会長の話だと、まだその住人には話を通していないんだって」

「…通していない?」

どこか嫌な気配しかしない。むしろ、こんな事が出来るのは彼女しかいない。

「オーフェリア、いくぞ!」

「えっ、ちょっと!」

彼女の手を引いて、校舎を走り出す。斑鳩はえもいえぬ高揚感と達成感、それに嬉しさに包まれる。

そして、全てが始まったあのはじまりのあの場所に着くや否や

 

『な、なんなんだこれは一体!?』

女子寮の一部の部屋から悲鳴が上がった。

このとき、心何か新しい何かが始まったのではないかと感じる斑鳩であった。

 

 




作者より~報告コーナー~

ユリス「おい作者、幾らなんでも長すぎやしなかったか?」

作者「いや、これはですね…こっちも人生のビックイベントがありまして・・・」

紗夜「ビックイベント(嘲笑)」

作者「うわ、エグ…」

ユリス「まぁ、何はともあれ、無事決まったんだし、良かったではないか・・・」

紗夜「来年からニートにならずに済むね、やったね作者」

作者「なんやかんややって4月から10月までかかったからね~」

ユリス「そうか…まぁ、いいだろう、ネタは出来ているんだろうな?」

作者「モチのロンで…たぶん」

唐突にのど元に突き刺さるヴァルデンホルト

紗夜「次はないと思え・・・たとえ、ドライバーズライセンスがあってもだ!!」

作者「え、なにその無理ゲー」



そういうことで、更新が遅れてすいませんでしたーー!
これから、ガンガン更新していく予定ですので、宜しくお願い致します!!
<(_ _)>


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華焔落涙

「……一体、これはどいうことだ、オーフェリア」

「あ、アハハハ…ごめん、ユリス」

今の状況を説明しよう。わかりやすく言えば、ユリスの部屋に並々を積まれたダンボール。それだけだ。

オーフェリア自らがやらかしたとあって、少し怒っているユリス。

 

「はぁ……まぁ、今回のはな、クローディアも少し関わっているんだろ?」

「えぇ、まぁ…伝え忘れた…のかしらね?」

「(伝えていないって言ったのは、どの口だオイ?)」

冷や汗を垂らしつつ、ユリスの逆鱗に触れないかどうか、少し顔を蒼くしているオーフェリア。そして、横から全力でツッコミを入れたくなる斑鳩。そんな中、ユリスは少し顔を戻し

 

「私もこの部屋が広くてな、少し物寂しかったところだ、それにオーフェリアが来てくれたなんて、まるで夢みたいだ・・・」

少し涙を滲ますユリス。その顔はどこか年相応といったところだ。そして、少し指で涙を拭きとり

 

「またよろしくね、ユリス」

「あぁ、こちらこそな」

軽く握手する。少し感動的な場面に立ち会う斑鳩。

「さて、では、廊下に置いておくと邪魔だ、これらの荷物をまとめて入れるとしようか」

「そうだな、さて、人手も足りないし――まぁ、足りているといえば足りているけど」

こっちをみてほんの少しニヤリと笑うオーフェリア

 

「こら、オーフェリア、あんまり斑鳩を虐めるな、ま、手早くやってしまおうではないか」

やれやれといった表情のユリスであった。

 

 

 

 

――夜、四阿

 

引っ越し作業も終わり解散した後、斑鳩はユリスに呼ばれあの四阿に出向いていた。四阿は、月光が照らしており、どこか幻想的な風景が広がっていた。

 

「(まだ、ユリスは来ていないのか?)」

そう思いながら斑鳩は四阿で座って待っていると

 

「待たせたな」

いつぞやのようにユリスがやってきた。その手には飲み物がある。にしても、月光に照らされたその姿は学生服を着ていてもその魅力を抑えられていないようだ。

 

「いや、待っていないよ、にしても、引っ越しの件ありがとな、ユリス」

「それはこっちのセリフだ、斑鳩、お前が一番動いていたじゃないか」

「それはお互い様だ、ほら飲み物だ」

「ありがとう」

飲み物を受け取り、それを口つける。

 

「にしても、ここは静かだな」

「まぁな」

お互い月光を見ながら缶を傾ける。

 

「にしても、こういう感じでお前と話すのは久しぶりだな」

「そうだな、確か、あの時は、『お前、何者だ』だったよな、それは覚えているよ」

と少し前のことを思い出し、お互い黄昏る。

 

「私はあの時、今のお前に出会えてよかった」

「…」

唐突な言葉に思わず言葉が詰まる斑鳩。

 

「まさか、私も夢にも思ってもいなかったよ、あの頃、私はオーフェリアをこのアスタリスクに連れ戻す、そして、孤児院のことを考えいてた、それがまさかこうもなるとはな」

「…」

「全く夢のようだ、再びオーフェリアと肩を並べて寝ることが出来るんだからな」

「よかったじゃないか、ユリス」

「これも全てお前のおかげだ、斑鳩」

真っすぐな瞳でそういわれて思わず気恥ずかしくなる斑鳩。それを紛らわせるように飲み物に口をつける。

 

「孤児院の件、兄上から話は聞いたぞ、お前だったんだな」

「…黙っててすまん」

「お前のことだ、ある程度の理由は分かるさ、だが――」

そういうと、ユリスは飲み物を置いて斑鳩の手を握ってくる。その行動に思わず心臓が跳ね上がる。

 

「孤児院の皆に変わって、そして、リーゼルタニアの王族の一人、また私個人としてお礼を言わせてくれ」

そういうユリスの声はどこか震えている、見れば瞳の端にきらりと光る粒が見える。

「ありがとう、本当にありがとう」

その言葉と共に斑鳩は何も言わず、その涙をぬぐってやるのであった。

 

 

 



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バトル・オブ・アスタリスク

数日後――

 

斑鳩は、クローディアに呼び出され生徒会室に出向ていた。そして、そこの部屋に入ってみると、見知った顔のクラスメイトというよりオーフェリア、綾斗、紗夜、ユリス、綺凛がいた。

 

「…このメンバーが集められたってことは、どう考えても獅鷲星武祭関係だろうな?」

「だろうな、だが、俺もそうだが、オーフェリアはチームエンフィールドのメンバーじゃないぜ」

「となると、どいうことなんだかな…」

ユリスの言葉に反応する斑鳩。斑鳩は綾斗に視線を向けるが

 

「僕もさっぱりだよ」

「(ま、誰一人知らされていないってわけか)」

と心の中で納得していると、クローディアが戻ってきた。

 

「皆さんお揃いですね」

こちらを一瞥しそういうクローディア。

 

「それでクローディア、俺らが集まったってどういうことだ?」

「えぇ、少し困ったことになりましてね」

「困ったこと?」

「えぇ、今度の学園祭で、星武祭(フェスタ)の運営委員会が少しイベントを行うことになりまして」

「イベント?」

「それで、その内容は?」

紗夜が聞いてくる。

 

「はい、六人一組で半ば獅鷲星武祭と似たような感じのイベントといったところです」

「…まさか」

「えぇ、そのまさかですわ」

クローディアは斑鳩の言葉を聞き逃さなかった。

 

「斑鳩、もうわかったのか?」

「あぁ、クローディアの≪パン=ドラ≫は、知っての通りいろいろとリミッターがある、それに獅鷲星武祭があるから、このイベントに参加できない、となると、クローディアを抜いてここにいるメンバーは?」

「…6人ですね」

「それで?そのイベントとやらはいつなんだ?」

「…なんと、一週間後です」

「(笑っていうことじゃねぇぇぇえええええ!!)」

にこやかにいうクローディアだが、内心とんでもないことをしてくれたなと言いたい斑鳩。

 

「そんで本音は?」

「本音というわけではありませんが、運営委員会からの要請でならべく盛り上がる人選をと言われました、六花園会議で一応、獅鷲星武祭に向けてのプレゼンテーションバトルという認識になったので、こういうことになりました」

「そうですか…」

「ま、今回のイベントには聖ガラードワース学園から銀翼騎士団を、それにクインヴェールルサ―ルカも出るみたいですよ」

「ってことは、事実上の獅鷲星武祭の前哨戦か」

「えぇ、余談ですがあの聖騎士(ペンドラゴン)も相当汗を滲ませていましたよ、それに初めてでしょうか…六花園会議で全員が一緒の感情になったのって」

半ば面倒なことになったなと思うと同時に、クローディアの言葉に生徒会長たちの表情が想像ができる斑鳩。

 

「そうなると、どんな戦力が出てくるか未知数だが、クローディアとしてはどうしたいんだ?」

「できる限り全力で、です」

「そうか、わかった」

斑鳩は面々を見渡す。

「(俺に綾斗、ユリス、紗夜、綺凛ちゃんに、オーフェリアか)」

申し分のないメンバーだ。

「さて、チーム戦の極意ってやつを一週間でやりますか、そんでクローディア、そのイベントの名前は?」

 

「はい、名前は六花祭(バトル・オブ・アスタリスク)です」

イカした名前じゃないかと思う斑鳩であった。

 

 

 

 

数日後――トレーニングルーム

 

個々に関する連携の訓練も終わり、斑鳩は実戦訓練を目の前の四人にたいして行っていた。さすがに一人で四人を相手するわけにはいかないので、オーフェリアと二人で相手をしていた。

 

「はぁ!」

綾斗が斑鳩に狙いを定め≪黒炉の魔剣≫を振りかぶってくる。斑鳩はバックステップで後方へ下がる。

直後、無数の光弾が降り注いでくる。まさに綾斗と紗夜の連携攻撃が襲う。

「なにっ!?」

その光弾に警戒することもなく、綾斗に突っ込み剣を振るう。だが、刻一刻と斑鳩に光弾が迫るが

塵と化せ(クル・ヌ・ギア)――!!」

突如として現れた巨大な手が紗夜の攻撃を阻む。連携に対処するには、こちらも連携だ。

「綾斗先輩だけではないんですよ!」

そのすぐ後ろから綺凛が襲い掛かる。さすがの三段構えだ。斑鳩は、単発で水平蹴りを繰り出す水月で彼女の動きを狭める。綺凛はそれを見越し、綾斗から学んだ体術でそれをかわしてみせ、再び剣を振るってくる。

「(ほう、やるじゃないか)」だが、斑鳩は剣を旋回させて目の前にかざすことによって 相手の攻撃を防ぐ盾とすることが出来るスピニングシールドを繰り出し、刃と刃が触れ合った瞬間にまるで流すように繰り出したので、その攻撃も不発に終わる。「先ほども言ったようだが、これはチーム戦だぞ?――咲き誇れ、呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」ユリスのスピアが、虚空に魔法陣を描き、巨大な焔の呑竜が姿を現す。4人の完璧な連携攻撃だ、だが、それで負ける斑鳩じゃないのは、誰しもが知っていた。

 




六花祭(バトル・オブ・アスタリスク)編――始動!!


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六花祭に向けて

 

「咲き誇れ、呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」

巨大な焔の呑竜が姿を現し、襲い掛かってくる。

 

「なかなかの連携だ、だが、俺を堕とすには、まだだ――」

そういうと、 剣に深紅色のエフェクトをまとわせて繰り出す7連撃で、その呑竜を払い、ユリスに迫りこみ

 

「――なっ!?」

「まずは一人――」

とっさに攻撃しようと身構えてくるが、単発で水平蹴りを繰り出す体術で仕留め。

 

「ユリス――っ!?」

「今は、戦闘中よ、周りをみなさい」

オーフェリアが持っているのは星辰力で構成されたレイピアだ。それで彗星のごとく全身から光の尾を発しながら 突進して剣で攻撃をおこなう。中段突き3回、切り払い攻撃の往復、斜め切り上げ、上段への二度突き、 以上の連続八回攻撃を見舞う。

 

「(――スター・スプラッシュにフラッシング・ペネトレイターかよ、結構エグイの繋げるな)」

と思いながらも、綾斗が脱落し

 

「沙々宮先輩!」

「わかった」

残ったのは、綺凛と紗夜だ。先に突っ込んでくるのは、綺凛だ。その後ろから光弾を放ってくる。

 

「さすが綺凛ちゃんだね、速度は速いけど、悪いけどまともに相手をするほど、私も熱血な人じゃないのよね」

「あぁ、戦場では何が起こるかわからない、からな」

「っ!?」

光近の手元に小さな魔法陣が現れたと思えば、いきなり自分の速度を落とされる綺凛。対して、もともと早かったオーフェリアは、差が二倍に開いたところを容赦なく迫り

 

「はい、三人目――」

「綺凛!」

「集中しろ、紗夜」

「――!?」

すでに紗夜の上空には、相手の頭上に超極太の光の柱が、まさに降り注ごうとしていた。

 

「――チェックメイト」

斑鳩が軽く指を鳴らすとともに、試合が終わった。

 

「にしても、個々の連携に関しちゃ悪くない、むしろ上出来だ、だが経験ってところだな、それがネックになってくるな、だが、綾斗」

「ん?」

「ちょっと周囲の状況把握ができすぎでそれに意識を取られすぎて、判断がすこし鈍かったぞ?」

「ま、では第二ラウンドでも始めましょうかね」

オーフェリアの声とともに、第二ラウンドを始めることになった。

 

 

 

 

 

「へえ~だから、こんな大がかりなのか」

英士郎の力説をよそに、斑鳩は綾斗とともに窓の外を眺めている。さすが、学園祭開幕が二日後に迫っているだけあって、どこも追い込みらしい。かくいう斑鳩も今回は獅鷲星武祭には出ないので、そこそこ楽しみだ。

 

「著名OBを呼んでの講演会や、各種クラブの発表会や他学園との対抗戦、パレードや演劇、なんでもござれ、それがアスタリスク全体で6日間も続くんだから、そりゃあな」

「でも、こういった学園祭って確か日本だけの文化じゃなかったっけ?」

「あぁ、最初は星導館だけのイベントだったみたいだけど、今じゃすっかり他の学園も馴染んでいるぜ、それにアスタリスクとしても、今やこの学園祭は≪星武祭≫に並ぶ一大集客イベントだからな」

つらつらとよく説明できるなと思っている斑鳩。

 

「なにしろ六学園すべてがその敷地を開放する唯一のイベントだ、一般人が学園に入れるのは基本的にこの期間だけだし、そりゃ人も集まるってもんだろ」

「まぁ、俺らも他の学園周り放題ってところだがな」

ちなみに、最終日には本命のイベントバトル・オブ・アスタリスクも開催される。

 

「にしても英士郎、風の噂だとこの期間中は校章の不携帯と決闘の取り締まりが厳しいんだろ?」

「あぁ、お前さんらも気を付けろ」

「心に留めておくよ」

「わーってるって」

学園からもしつこく言われている。もちろん、斑鳩の場合はクローディアからもだ。

 

「さってと、それじゃあ俺はもう一仕事行ってくるよ」

「大詰めなんだろ?がんばって来いよ」

「おう」

ここのところかなり学園祭のイベントにかかりっきりになっている英士郎。

 

「学外イベントとはいえ、三学園合同イベントなんてめったにねーからな。規模も相当にデカいから楽しみにしておけよう」

 

「おう、そうさせてもらうよ」

そういいながら斑鳩は席に戻る。

 

「(学園祭か…)」

例のイベントに向けても練習はあるが、今の斑鳩の頭の中にあることはただ一つ

 

「(――初めてだな…)」

と思いながら青空を眺める。そんな青空とともに、すこぶる痛々しい打撃音が教室に響いていた。



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学園祭での一幕

学園祭初日―

 

学園祭初日の今日は晴天に恵まれ、その甲斐もあってか、学園祭の盛況は凄まじいものだった。

 

「(まぁ、やっぱり人がいるよね――)」

今座っているベンチが面している遊歩道も星導館の敷地の外にあるのだが、普段あまり人のいないことの通りも、行き交う人の姿は絶えない。

 

「(あの地獄よりましか・・・)」

正門から校舎群へ続くあたりの混雑に比べればましな方だ。そんな中だった。

 

「待たせたわね、斑鳩」

ふいに名前を呼ばれて視線を上げると、そこには、堂々と顔をした紗夜と申し訳なさそうな顔と状況がイマイチ把握できていないような顔の綺凛、さらに保護者のような風格をだしているオーフェリアがそこにいた。

 

「いや、時間通りだが――」

斑鳩は二人に目をやると

 

「ん、二人がどうかしたの?あぁ、綺凛ちゃんはなんか不機嫌そうだったし、紗夜ちゃんは迷子になりそうだったので、拉致って来たわ」

「拉致ったの!?」

「そう、拉致られた」

にこやかな顔のオーフェリアにどや顔の紗夜。にしても最近行動が大胆になってきた気がする。

 

「それで、変装したっていっても、イメチェンしすぎじゃない?」

「学生服よりかはマシでしょ、というか、あれ胸元も多少きついのよね」

隣の紗夜にクリティカルヒット。というか、シンプルな服装はいい意味でよく似合っている。

 

「まぁ、似合っているからいいと思うぞ」

「そう、それはありがとう、んじゃあ、行きましょうか」

「えぇ、ちゃんとエスコートしてよ?」

するりと腕を絡ませ、上目遣いにこちらの顔を覗き込んでくる彼女に、思わずドキリとする。

 

「んで、どーする?」

「まぁ、いろいろと見て回りたいってところね、ふたりはどう?」

「目指せ全学園制覇」

「お、おぉ~」

紗夜の言葉に驚く綺凛。

 

「おいおい、まさか六学園全部を?」

「もちろん、今日一日にじゃないよ?三日くらいね~」

のんびり行けるか否かということだ。どおりで早かったわけだ。三人で遊歩道を歩いていく。一応、三人とも軽く変装しているものの、やはり目立っている。

「あ、そうだ、斑鳩もそうだけど見て回りたいイベントかあるなら、言ってよね?付き合うんだから」

満面の笑みで言うオーフェリア。先ほどからドキドキしっぱなしだ。

 

「わかったよ、オーフェリア」

「オッケー、わかった」

「よ、よろしくお願いします」

上から斑鳩、紗夜に綺凛ちゃんだ。それから三人は歩いていき、中等部校舎の裏辺りに差し掛かる。

 

「へぇ~ここいら辺も賑わっているな」

校舎の中に入れないが、校舎群を取り巻くようにずらりと出店が並んでいる。そんな中、突如オーフェリアが足を止めた。視線はすぐ近くの出店に向けられているようだ。

 

「お兄さん、4つ頂戴」

「あいよー」

オーフェリアが店員にそう声をかけると、すぐにアイスクリームが出てきた。

 

「はい、綺凛ちゃん、それに紗夜も」

まず二人に渡し。

 

「はい、斑鳩」

「ありがとう、にしても、なんでアイス?」

「こういう時はアイスクリームがつきものなのよ、正確にはジェラートなんだけどね~」

と古い映画になぞらえているみたいだ。歩いていると、前の方から大音量の歌が流れている。見れば、巨大な空間スクリーンが、多角展開されている。どうやらシリウスドームで行われているライブを中継しているみたいだ。

 

「へぇー、ライブ中継なんてやっているんだ」

「ちなみに、今歌っているのルサ―ルカのメンバーよ?」

空間スクリーンに映し出されている少女を見上げている斑鳩に言うオーフェリア。

 

「彼女らが、俺らの一応の相手ってわけね…」

と将来の相手を見定めつつもアイスを食べる斑鳩。

 

 

 

 

それから三人で他愛のない会話をしながら、星導館の周囲を歩いて見ていると今度は紗夜がその足を止めた。

 

「斑鳩、オーフェリア、あれに出たい」

紗夜の視線と指の先には水泳部と射撃部が屋内プールで共同開催しているイベントで

 

『ウォーターサバイバル』なるイベントの告知だった。

「『ウォーターサバイバル』、あれに?」

「うん」

コクリとうなずく紗夜。

 

「なんか面白そうじゃない斑鳩、行ってみれば?」

「だな、体を動かすイベントも面白そうだし、行こうか」

「うん、いこう」

そういうと斑鳩は、屋内プールに向かった。

 

 

 

 



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弾道予測を予測する

綾斗は、シルヴィアと他愛のない会話をしながら、星導館を案内しつつ、イベントなどはちらりと除くくらいでぶらぶらしつつ、屋内プールで行われているイベントに出向ていた。

 

「ねえ、あれって確か綾斗君の知り合いでしょ?」

屋内プールの二階席からシルヴィアの指さす先を見ると

 

「紗夜…?それに斑鳩も?」

「あ、本当だね」

そこには両手に大型の水鉄砲を構えたスクール水着の幼馴染と水鉄砲に木の棒を構えた海水パンツの友人の二人が大立ち回りを演じていた。

どういうルールなのかわからないが、紗夜も斑鳩も対戦相手のほとんどを敵に回しているようだった。

その数は、40人ほどだ。そして、プールには無数の浮島がいくつも点在しているが、ふたりは?それを八艘飛びよろしく飛び回りながら正確無比の射撃で対戦相手を次々とプールに叩き落して言っていた。

 

「うーん、ふたりともバランス感覚もすごいけど、動体視力もすごいよね、攻撃をかわしながら、空中であの射撃制度っていうのは、ちょっとまねできないな~」

ととなりで感心しているシルヴィア。そして、お互いがお互い以外の全員をプールに沈め終わる。そして、二人がプールサイドの両端に飛び移り、お互いを見据え始めてた。

 

 

 

 

「――静かになったな紗夜」

「…」

紗夜は何も言わない。というより、先ほど何かを見てから妙にむしゃくしゃしているみたいだ。

 

「(大方、綾斗でもいたのか――)」

と軽く会場を見渡してみると、そこにはここからそそくさと立ち去っていく綾斗の姿。もちろん、女の子を連れていた。

 

「(ユリスの髪色でもクローディアでもないってことは…また、新しい女子を作ったか、あいつは…)」

心の中で友人に対して少し呆れつつも、目の前の対戦相手に視線をやる。

 

「斑鳩、私は今、すっごくむしゃくしゃしている」

「まぁ、わからんでもないがな」

そういうと、紗夜が身構えるので、こちらも身構える。そして、紗夜がトリガーに指をかける瞬間、斑鳩はプールサイドを蹴って、浮島へ飛び出していく。そして、数歩も進まないうちに、紗夜の右腕が動き、こちらへ銃口が向く

――と、感じた瞬間に、斑鳩は思いっきり右前方に飛ぶ。直後、すぐさま紗夜の水弾が斑鳩のすぐ横をかすめて、通過していく。右足にあって浮島を蹴り、中央に戻る斑鳩。

斑鳩は、紗夜の弾道を予測しつつ動いているが、銃口には視線は行っていない。行っているのは、ひたすら紗夜の眼だけだ。とはいえ、さすが長年銃器を取り扱っていただけか、隠しているものの、斑鳩は瞳から弾丸が飛来する軌道の気配を感じ取って動いていく。紗夜の瞳の動きから導き出された予測線自体を回避していく。実際に弾が通過したときには、もうすでにダッシュの態勢に入っている斑鳩。

紗夜の三連発の銃撃を二セット回避する斑鳩。残りはあと少しだが。

 

「(紗夜の弾倉もあとは少ないはず――)」

と勘ぐる斑鳩。紗夜が撃ち終わった|弾倉≪水のボトル≫をリリースし、後方に飛ばすと同時に左手で先ほどほかの選手から奪ったと思われるフル装填されたボトルに換装していく。この一連の作業はまさに、0,5秒だ。

 

「(なんつぅインチキ技!)」

そして、紗夜の変則的なリズムを刻んだ弾を撃ち込んでくる。が、それを交わし迫り込んでいく。そして、残り5メートルといったところで、紗夜の顔がはっきり見える。そして、紗夜の瞳が小刻みに微動し、こちらの胸の高さを薙ぐ。

 

「(ってことは――)」

予測して体を倒して浮島の上をスライディング。マシンガンかと疑いたくなるような連射で放たれた水弾を潜り抜けて、紗夜に近づいていく。そして、紗夜が何やらニヤリと笑う。

斑鳩は、反射的にダッシュするのを変更し、上に思いっきり跳躍する。

案の定、斑鳩が立っていた場所を、ノーリロードで放たれた水弾が駆け抜けていく。

 

「(おいおい、隠し球かよ!?)」

と心の中で叫びつつ、空中でくるりと一回転し、紗夜のすぐ前に着地する。

ここで決め台詞の一つも吐きたいが、紗夜がどんなことをしでかしてくるかわからないので、彼女の肩を素早く叩いた。

 

「――さすが、斑鳩」

とただ一言、その直後、割れんばかりの大歓声が巻き上がった。

 

斑鳩と紗夜は普通の学生服に戻り、オーフェリアと綺凛と合流していた。

 

「紗夜、むしゃくしゃしていたのはおさまったか?」

「もっち、いい発散になった」

親指をサムズアップさせて言う紗夜。

 

「発散って…沙々宮先輩」

苦笑いしている綺凛。

 

「それで、これからどうするの?」

「学園祭期間中は、いろいろと安くなるんだろ?」

「えぇ、特別価格ってやつになっているわよ」

「割と良心的だな、折角だし、どこか屋台で腹にたまるもの食べて今日はあがるか?」

「私はそれでいいわ、紗夜と綺凛ちゃんは?」

オーフェリアは斑鳩の提案に同調してくる。

 

「私もそれでいい」

「はい、大丈夫です」

そういうので、商業地区の方の屋台に斑鳩達四人は向かっていった。

 

 



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エルネスタ

斑鳩達四人は、夕ご飯を食べるために商業地区の方に出向いていた。

 

「にしても白衣の学生が多いな」

「ん~ここはアルルカントが近いからね~」

周囲の屋台を見ながら歩いていく4人。そんな中、オーフェリアがふと足を止めた。

 

「ねぇ、斑鳩、あれ…」

と軽く指をさすオーフェリア。その方向を見ると、人ごみの中で思いっきり困っていそうな顔をしているポニーテールの少女がいた。いつもなら、自由奔放そうな顔をしているが、今はそんな気配はない。携帯端末を見ながら困っているのは間違いなかった。斑鳩は、面倒なことになる前にそそくさと立ち去ろうとした時だった。

 

 

 

ピカァーンッ!!

 

こちらに気づいたエルネスタの瞳が一瞬煌いたように見えた。

 

「にひひひ~みーつけちゃった」

まるで獲物を見つけたかのようだが、その顔にはどこか助かったような安堵の色もあった。

 

「いっかるがくーん!」

手を振りながらこっちに駆け寄ってくるエルネスタ。胸元はラフなので思いっきり揺れている。もう一度言おう。揺れているのだ。というか、そんなことをしてくれるので、思いっきり周囲の視線が5人に行く。

 

「おっひさしぶり~元気にしているかな~?」

と上目遣いでこちらを見てくる。

 

「お、おう、そんでエルネスタはどうしたんだい?」

「ん~迷っちゃったんだよね~」

「なら、アルディかリムシィでも――」

と言いかけた時だった。突如、彼女は斑鳩の手を取り、それを自分の胸元に持ってきて、触れさせた。

 

「なっ!?エルネ――」

「おっと、それ以上声を挙げていいのかな?」

大声を出さないように牽制するエルネスタ。やはり、彼女は策士のようだ。

 

「どういうつもりだ…」

「私の望むことはただ一つ――」

「のぞみ…だと?」

エルネスタと斑鳩の二人の間に緊張した空気が流れる。

 

「望みはなんだ?」

「私からの望みは一つ」

そういうと思いっきり胸を張るエルネスタ。

 

「ご飯に付き合ってくれない?」

すぐさま両手を合わせておねだりしてくるエルネスタであった。

 

『はっ?』

4人の声が合わさった。

 

 

 

 

それから5人で歩いていく。もはやちょっとした集団になっていた。

 

「にしても、なんでご飯?」

「実はね~ほら、今日学園祭でね、いつも言っている食堂が休みなんだよね~」

「そういえば、そうだったな」

「それで、しょうがないからこうして外に出てきたんだけど~私って、超がつくほどの方向音痴なんだよね~」

紗夜のこともあって脳裏にカミラの苦労が思いやられる。

 

「もしかして、いつもカミラがいるのって?」

「私が迷わないためだよ~」

「…え、えぇ~」

少し引き気味の斑鳩。

 

「ってことは、今日もカミラがいるんじゃないの?」

オーフェリアが聞く。

 

「それがねぇ~獅子派の研究発表があってそっちに行っているんだよ、それで私はお腹が減っちゃって」

「んで、迷ったところに俺らが通りかかったってことか」

「そういうこと~」

話ながらいると、一旦アルルカントのエリアから離れ、レヴォルフのエリアに来ていた。

 

 

「いんや~この時期のレヴォルフは、けばけばしく飾っているね~」

とおぉ~と言いながら迷子なのに楽しんでいるエルネスタ。

 

「まぁね~レヴォルフの学生は、こういったイベントに積極的じゃないから、ほとんど歓楽街に丸投げなのよ」

「へぇ~」

「だから、雰囲気が似ているんですね~」

流石、元レヴォルフにいただけあって、納得がすごく出来る。

 

「にしても、かなり強気な値段設定」

紗夜の言う通り確かに、値段設定は結構強気で、尚且つ店員も強面だが、壁にはカラフルなグラフティや卑猥ならくがきなどがある。

 

「相変わらずというより、レヴォルフは全体がカジノだな」

「まぁ、そんなものよ」

と歩いていくと、どこからともなく美味しそうな匂いが流れてきた。

見れば、中庭らしき一角に大きめの露点があり、簡素な椅子とテーブルがその店先に並べられていた。

 

「いらっしゃいませーパエリアはいかがですかー」

可愛らしいエプロン姿のプリシラが呼び込みをしていた。

 

 

 



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パエリアを囲んで

 

「あ、棗さん!?それにもしかして、お、オーフェリアさん!?」

「久しぶりね、プリシラ」

やっほーといった感じに軽く手を振るオーフェリア。

 

「お礼が遅くなっちゃったけど、あの時はありがとね?」

「い、いえ、そんな…オーフェリアさんがしてくれたことに比べれば…」

照れくさそうにはにかみながら、プリシラが視線を落とす。

 

「プリシラ、五名なんだけど?空いている?」

「もちろんです、どうぞ」

そういうと、円卓の席に案内される。

 

「ねぇ、ここってプリシラの手作り料理を出しているの?」

「はい、一応」

「なら、折り紙付きね」

「だな」

とオーフェリアと斑鳩は顔を見合わせる。

 

「斑鳩さん、後ろのアルルカントの方は?」

「エルネスタ・キューネ、迷子だ」

「・・・え、あのエルネスタさん!?」

「まぁ、そういうことだ事情は深く聞かないでくれ」

「…迷子って言っていますよね」

「秘密な?」

「は、はい、あ、メニューを持ってきますね」

「ありがとう、頼むよ」

そういうと、露点の中に入っていくプリシラ。

 

「にしても、この面子って私が言うのもなんだけど、濃いよね~」

言い出したのはエルネスタだ。確かに、元レヴォルフと星導館の一位、それに期待の新星ともいわれる紗夜に、絶天と獅子派の筆頭だ。

 

「それで、彼女をどうみた?」

「足運びが違うし、体幹もずっとしっかりしているな」

「そうですね、私もわかりました」

綺凛も同調してくる。

 

「お待たせしましたー、こちらがメニューです」

二人が話していた時にプリシラがメニューをもってやってきた。一先ず、適当に見繕って代表して斑鳩は注文する。注文したのは、おすすめのパエリアだ。そして、ほどなくして注文していた料理がやってきた。

 

 

「おー、バスク風かな、美味しそうだな」

早速一口食べてみると、やはりおいしい。

 

「うーん、これは大したものだね、料理の面では、プリシラには敵わないわ」

「王竜星武祭の制覇者も弱いところがあるって感じ?」

「まぁね~面白いんじゃない?アスタリスクでの料理王決定戦とかね」

「それ、面白そうだね~」

オーフェリアの何気ない話にエルネスタが同意してくる。

 

「そういや、エルネスタって料理とかするの?」

「うーん、3分で出来る料理なら・・・するかな~?」

「それは料理とはいえるのか…」

「まぁ、ほとんどカミラが作っているし~」

だから、そんな体型が維持できているのかと思う斑鳩。そんな中

 

「そうそう、話が変わっちゃうけどさ、沙々宮ちゃんは、カミラのことどう思っているの?」

「カミラの事?」

エルネスタが紗夜に話を振った。

 

「…今は、ライバルだと思っている」

「そっか、それならねーまぁ、こういうことはカミラの前では言えないんだけど、沙々宮のお父さんのことは私は尊敬とはいかないまでもすっごいなーって思っているからね?」

「どうしてそれを?」

「ま、私は私だからってところかな~あんまり、同じように見られたくないってのが本音」

「わかった、ありがとう」

いつもは無表情な紗夜であるが、今回は、どこか嬉しそうな表情をしている。

「にしても、珍しい気がするな、エルネスタがこういうのって」

「ん?今の言葉、私も滅多に言わないんだけどね、こういうこと、レア中のレアだぞ~」

斑鳩の言葉ににひひと笑いながらいうエルネスタ。

 

 

「私も斑鳩君たちとは今後いろいろとあると思うからね~多少、仲良くなっておかないと」

「そのいろいろな事の中に面倒なことがないことを祈るよ」

パエリアを食べながらいうエルネスタにいう斑鳩。

 

「まぁ、ほかにも理由はあるんだけどね」

「なにさ?」

そういうとエルネスタはパエリアを食べる手を止め。

 

「まぁ、斑鳩君を気に入っちゃったからかな?」

満面の笑みで言う彼女。途端に、空気が凍り付く。もちろん、斑鳩もだ。その中でも特にオーフェリアは酷い状況になっている。ちなみに、そのあとの食事は、少しストレス性の胃痛に悩まされるのであった。



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グラン・コロッセオと万有天羅

5日目――

 

斑鳩は、綾斗が出るグランコロッセオというイベントを見るのととある呼び出しのために、界龍第七学院に出向いていた。

 

「(にしても、学生数が多いっていうのもあるが、界龍はやっぱり雰囲気が違うな」

とその活気を後目に歩いていく。相変わらず手元の地図を見ないと迷うことこの上ないところだ。

視線の先の大きな広場では、屋台と同時に、巨大な龍の人形を複数人が操りながら踊っており、その周りには人だかりができている。また反対側では刃物を持った大男が曲芸をこなし、喝さいを浴びていた。

そして、あちらこちらで賑やかな音が鳴り響き、常にどこからか賑やかな音色が流れてくる。同時に、界龍には、六学園で唯一の初等部を持つため、楽しそうに走り回る子供の姿も見られた。

 

「(にしても、良くも悪くもまとまりがないとはこういうことか)」

それから道場らしき広間を覗いてみると、数十人の学生が一糸乱れる演武を行っている。

 

「(まぁ、レベルは高いってところか――)」

界龍が星武祭の成績で常に上位を維持している理由がわかる。それから回廊を歩き続けていると、突如、辺り一帯の万応素が蠢く。同時に、周囲の景色がぐにゃりとねじれる。

 

「――ずいぶんと手荒なやり方ですが、騒ぎになると面倒ですもんね」

「ほほぅ、わかっておるではないか」

柱の陰から現れたのは、髪を蝶の羽のように結い上げた童女。

 

「お久しぶり、星露」

「おう、久しぶりじゃな」

万有天羅(なんでもあり)だけあって、いきなりの縮地術とは、恐れ入ったよ」

「…その呼ばれかたはどうかと思うが…まぁよい、遅くなったが我が界龍にようこそ、にしてもおぬしはどうしたんじゃ?」

「どうしたも何も、これを送ってきたのは星露だろ?」

そういうと携帯端末のメッセージを見せる斑鳩。そこにつづられていたのは、ここに来いということだ。

 

「ほほほ、そうじゃったなぁ、そのメッセージを送ったのはいかにも童じゃ」

「んで、どうすればいいんだ?」

「ま、今日ばかりは私と一緒に頼む、乱入があるかもわからんからな」

「確か、グラン・コロッセオの主催としてということか?」

「如何にも、頼むぞ」

「はいよ」

星露を軽く見る斑鳩。見ればいつの間にか、星露が肩に乗っていた。

 

 

 

 

シリウスドームの特別観戦席で、斑鳩と星露は、第一フェイズを見ていた。

「んで、あれが星露の言っている玩具ってやつか?」

「まぁ、そうじゃな、確かアルルカントの者が煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)と言ったのぅ」

観戦室のモニターには、光の刃を煌かせた剣型の端末と大型の銃型の端末がそれぞれ半々、空中でぴたりと止まっていた。その数は百を下らない。

 

煌式遠隔誘導武装(レクトルクス)――そういや、こっちとなんか共同研究していたな」

「ほぅ、星導館とか、お主使わぬのか?」

「使わないね、馴染んだのが一番いい」

眼下では、綾斗とシルヴィア、それに聖ガラードワース学園の生徒会長≪聖騎士≫がフェイズ1をクリアしていた。

 

「お、次のが出てきたな」

「あれは、戦闘用外骨格(パワードスーツ)じゃな」

「あれが、パワードスーツねぇ・・・」

視線の先には重厚で堅牢な装甲に包まれたその巨体。どことなくあのアルディに似ているが、全体的なフォルムは太くて無骨だ。そして、第二フェーズが始まる。今度は、先ほどのルールと逆でよければいいという単純なルールだった。

 

「(ほぅ、予想に反して早いじゃないか)」

もっと鈍重そうな動きを想像していたのだが、それを遥に越えるスピードだった。

そして、綾斗と≪聖騎士≫のアーネスト、そしてシルヴィアが相手を圧倒していっている。その直後だった。

 

「ば、馬鹿な!ありえん!こんな、、こんなことが……!」

隣の席で声を挙げたのは、グラン・コロッセオの統括運営本部長でもあるアルルカント・アカデミー≪獅子派≫副会長ナルシス・ペロウであった。

 

「ほほぅ、中々見事な茶番であったのう、まぁ、あんな不格好な玩具ではあの程度が関

の山じゃろうて」

ナルシスの隣の席で笑う星露。それをにらみつけるナルシス。

 

「しかし残念じゃったな、本部長殿、ご自慢の玩具は哀れ全滅じゃ」

「そんな…そんなはずはない!俺の戦闘用外骨格は、エルネスタの人形なんかよりもずっと優れている――」

斑鳩は、何も言わずにナルシスの目の前に剣を突き立てた。

 

「――おい、貴様」

ゆっくりと駆け寄り彼の胸倉をつかむ。

 

「今、なんていった?」

「な、なにをするんだ、貴様!?」

凄みのある斑鳩の気迫と突如のことに動揺しているナルシス。まさか、怒るとは思ってもいなかったからだ。そして、あまりの恐怖に会話が成立していない。

 

「ご自慢の戦闘用外骨格(パワードスーツ)が、エルネスタのRM-CとAR-Dに劣るだと?」

 

「そ、そうだ!人形に自我を持たせるなどという不合理――」

と話したとき、ナルシスは斑鳩の手がどこに向けられているのか気づいた。見れば、戦闘用外骨格の上には無数の光の槍がその照準を戦闘用外骨格に向けていた。

 

「お前の自慢はわかる――なら、エルネスタのリムシィとアルディの攻撃を受けきった、俺の攻撃を受けても壊れないよな?」

「あ、あぁ――そうだ!戦闘用外骨格は、優れているんだ!」

といった直後、槍と同時に極太のレーザー光線が戦闘用外骨格に降り注いだ。

 



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内なる何か

ズドォオオォォオオォンッ!!

一瞬にして、その場から消滅する戦闘用外骨格。

 

 

「《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》を入れずに、しかも序列一位を相手に完封できればこそ、最高のデモンストレーションだったんだけどなぁ…おい、このザマはなんだよ、これじゃあ戦闘用外骨格は、レーザー光線すらも受けきれない、ひ弱なスーツになったことになるぞ?これなら、まだアルシィやリムディの方が骨があったな」

物凄い黒い笑みを浮かべながら、ナルシスをにらみつける斑鳩。

 

「――そ、そんな馬鹿な…」

「おいおい、現実見えているか?」

と手を駆けようとした時だった。

 

「そこまでにしておけ、絶天、気持ちはわかるが、少々やりすぎじゃ」

「…」

星露に言われたので、武器を置く斑鳩。

 

「よろしい、にしてもナルシスよ、数字しか見ておらぬお主にはわかるまいよ、じゃが、儂にとってはどうでもよいことじゃ、それほどまでに象牙の塔の居心地が良いならば、好きなだけそこに籠っておるがよいわ」

そういって、席から飛び降りる星露。そして、扉に向かって歩いていく。

 

「ど、どこへ?」

「第三フェイズは儂の担当じゃからのう、やはりもっと近くで観戦せねばなるまいて」

「マジで?」

「えらくマジじゃよ」

にひひとした顔で笑う星露。

 

「ま、待ってくれ…!」

とナルシスが言ったとき、すぐさまそれをけん制するように斑鳩の槍がナルシスの頭上に展開される。

 

「黙ってろ、不快だ――それと、茶番は終わりだ」

強制的に黙らせる斑鳩。二人から放たれる威圧感に、ナルシスの体は否応なく竦みあがる。

 

「おや、先手を打たれたものかな、まぁ、よいか」

「すいません――ッ!?」

斑鳩は謝ろうとした直後、こちらにやってくる気配を感じて、すぐに構えた。そして星露を守るようにドアの前に出る。

 

「――まさか、この時点でこちらに気づくとはな、にしても我からしてみればお前のしていることも茶番と変わらんがな」

やはりといったところか、廊下から声が響き、見知らぬ女が部屋へと入ってきた。目深いローブを被ったその姿はいかにも怪しい輩だ。とはいえ、かろうじて声と体型で女性だということが分かる。

 

「ふむ……おぬし、誰じゃ?」

斑鳩の後ろからいぶかしげな顔で女を見上げる星露。そして、その女は小さくため息を吐くとローブを脱いだ。現れたのは、二十代半ばの堀の深いなかなかの美人だが、布を巻きつけたような簡素な服装は引き締まった体のラインを際立たせていた。

 

「むむ……心当たりがないのう」

首をひねりながらその顔をまじまじと見つめる星露。そして、彼女の胸元へと視線を落とした途端、手をポンと打った。

 

「おお!誰かと思えば、これまたずいぶんと可愛らしい身体になった(・・・・・・・・・・・・・)ものじゃな!」

 

「それはこちらの台詞だ」

視線の先の女の胸元には、格好とは不釣り合いほどに大きな、機械的で化け物を象ったようなネックレスがかかっている。

 

「それで、わざわざおぬしがこんなところまで何用かの?」

腕組みしてそう問いかける星露。女は、それにこたえることなく部屋を横切りステージに面したガラス壁まで歩く。

 

「……珍しくおまえが表に出てきたので、再度勧誘に来たのだが、明らかにヤバいのを飼いならしているじゃないか」

「ふむ、こやつか、飼い慣らしているつもりはないぞ?それと、何度来られても返事は変わらんのじゃが」

斑鳩を一瞥し、そういう星露。

 

「これまで関わってきた中でもずば抜けておっかない奴だな…そいつ」

こちらを忌々しいように尚且つ警戒している女。

「濃密な殺意って奴をまるでコートを羽織るかのように纏ってやがる…お前、何もンダ?」

「星導館の生徒、といったところだ」

名前を名乗らない斑鳩。

 

「分が悪いな…覚えておけ、もしお前が敵に回るというのなら、我々も容赦しないぞ」

「ほほう、それは脅しかえ?」

「警告だ、少なくとも、我はお前に相応の敬意を払っている」

「くくっ、それはありがたい話じゃ」

くつくつとのどを鳴らす星露。相変わらず斑鳩は彼女を捉えて離さない。

女は、もう一度ため息を吐くと、再びローブを身にまとう。その直後、こちらに濃密な殺意を向けてくるので、で、斑鳩は構える。直後、胸元のネックレスが黒く輝いた。同時に、猛烈な頭痛が斑鳩を襲う。気を失いそうなほどの強い痛みだが、かろうじて構える斑鳩。

そして、必死に脳内で抵抗する斑鳩。

 

「しぶとい奴だ、今度は逃がさん」

先ほどとは比べならないほどの苦痛。

 

「(このままで、終われるか(・・・・・)…)」

「――…」

その瞬間、意識がふっと途切れるのと同時に、斑鳩はその手に剣以外の何かを握る感覚を覚える。

否――もしかしたら、それは、何かに握られる感覚だったのかも、しれない。

 

 

 



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ヴァルダと斑鳩

最初にこの異変に気付いたのは、ヴァルダでもなく星露だった。

 

「いかん!こやつ、おかしいぞ!」

「なら、殺すまでだ!」

ヴァルダが斑鳩の胸元めがけ襲い掛かるが、その溢れだす何かに負け、空中で下がる。直後、星露は、縮地術で被害の出ないところに一瞬で三人を移動させる。斑鳩の綺麗だった白い髪は、ゆっくりと闇に塗りつぶされたように輝いたかと思うと、次の瞬間、斑鳩から溢れた黒い万応素の奔流が、いとも簡単に近くの山を溶かし、巻き散らす。

 

「おい、これはどういう・・・ことだ・・・?」

なんとかそれを避け切ったヴァルダが、忌々し気に星露に問う。

 

「お主のウルム=マナダイトとあやつの星辰力が反応した――今は、それだけしかいえん」

「・・・俺のが反応だと?まて、棗斑鳩は星脈世代(ジェネステラ)じゃないはずだ」

空虚な瞳ながらも驚いた顔をするヴァルダ。

 

「あやつは孤毒の魔女(エレンシュキーガル)を元に戻しておる、儂の見解としては、彼女の力のある程度がこやつに流れたとみている」

 

「…そんなバカげた話があってたまるか――!!」

直後、ヴァルダに向けて、黒い触手のようなものが一斉に襲い掛かる。

 

「こいつ!?オーフェリア・ランドルーフェンよりたちが悪い!!」

身体だけを狙っているのではなく、直接胸元のウルム=マナダイトに向けて襲い掛かってくる。

 

「――今は、こやつの攻撃を避けることを考えろ!」

斑鳩のその手は、異様に変化しており手の甲にウルム=マナダイトと思わしき宝玉が輝いており、そこから力が直にあふれ出していた。

それを見た瞬間、ヴァルダは背筋を走るぞくりとした感覚に息をのんだ。なぜだろうか、あの剣には、刃物や武器としての剣呑さや、ウルム=マナダイトの強大さ以外に思わず身震いしてしまような、恐ろしいものを覚えさせる何かがあった。

 

 

 

 

ざぁ……ざぁぁん……

 

「(ここは……)」

遠くから聞こえる波の音に誘われるまま、斑鳩はどこともつかぬ砂浜の上を一人歩いていた。

足の裏に直接感じる感触と熱気。それに海の潮の匂と波の音。

ここがどこで今はいつなのかわからない斑鳩。

それから砂浜を歩いていると

 

「―――。~♪~♪」

丁度、自分の後ろからそれはとてもきれいな歌声が聞こえてきた。斑鳩は無性に気になり、後ろを振り向こうとする。しかし、目の前に気配を感じた斑鳩。

そして、そこに現れた、いや居たのは、黒髪の少女だった。

肩と腰に輝く漆黒の鎧。そして、胸元と下半身を覆うように広がった闇色のヴェール。そして、幻想的な輝き放つ瞳がまっすぐ、こちらを見据えていた。

斑鳩とその少女の無言の時間が続く。そんな中、少女は、こちらと目を逸らしじぃっと空を見つめている。

斑鳩は不思議に思って、彼女の隣に向かう。

 

「どうかしたのか?」

声をかけるがじっと空を見つめたまま動かない彼女。

 

「まさか、こうして宿主と話せるというのはうれしいな」

「…宿主というのは、俺のことか?」

「そうだ、起点はどうであれ、こうやって話せるというのは、思いもよらなかった」

そういうと、彼女はこちらを向く。先ほどとは違い人懐っこく、尚且つ無邪気そうな顔を向けてくる。

そして手を取られ、にこりと微笑みかけられる。斑鳩はひどく照れくさい気持ちになる。彼女は、斑鳩の手を取ってそれにくちづけをする。

 

「――ッ!?」

思わぬことに驚くが、身動きが取れないためなすすべしかない斑鳩。彼女はまるで、親猫が子猫を舐めるのようにその手の甲をなめていく。そのゾクゾクした感触に思わず背筋が伸びる。

同時に、今まで少し曇っていた空が晴れまぶしいほどに星が輝きを始める。

 

「では、行ってこい」

先ほどのあの無邪気な笑みを浮かべる彼女。そして、まさに夢の終わりとも思わしく、斑鳩の意識は再び落ちていった。

 

 

「……おや、やっと目覚めたかのぅ」

「ここは?」

見上げると、そこは普通の天井だった。

 

「ここか?ここはグランコロッセオの会場じゃよ」

「気絶していたわけですか?」

「ま、そういうことじゃな」

「ローブの女は?」

「去っていったよ、それも足早にな」

徐々に過去のことを思い出していく斑鳩。見れば、眼下のグランコロッセオでは、≪聖騎士≫アーネスト・フェアクロフが白と黒に人形相手に無双していた。

 

「星露、ローブの女について、何か知っているよね?」

そういうと星露は、こちらを一瞥し再び目を逸らす。

 

「あぁ、知っている、だが、今はそれをおぬしが知る必要はない…最も自分で調べるなら止めはせんよ」

そっぽを向く星露に、どことなく違和感を感じる斑鳩であった。

 

 



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開幕 六花祭

「にしても、本当にガラリと変わったな」

シリウスドームの観客席から見下ろすと、ステージはほとんど別物といっていい程に様変わりしていた。

 

「誰かさんが派手に壊したからね~」

と軽く皮肉を込めて言うのはオーフェリアだ。

 

「観客の安全性を高めるための改修らしいが、またずいぶんと大げさになったものだ」

綾斗の隣に立っているユリスは少し呆れた顔をしていた。綺凛と紗夜はその少し先、観客席の最前列に立ってなにやら話しているみたいだ。

 

「ご歓談中申し訳ないが、少しいいかなチーム星導館の諸君」

と背後から声がした。涼しげな声だ。

 

「学園祭以来ですね、フェアクロフさん」

「元気そうでなによりだ、天霧君」

綾斗がそういって右手を差し出すと、その集団の戦闘にいた青年《聖騎士(ペンドラゴン)》、アーネスト・フェアクロフは、端正な顔にどこかクローディアにも似た完璧な笑みを浮かべて綾斗の手を握り返してきた。

 

「お久しぶりです、アーネスト・フェアクロフさん」

「こちらこそ、あの絶天とまたお会いできて嬉しいよ」

斑鳩は、彼と会うのは鳳凰星武祭以降だ。綾斗と同様の笑みを送ってくるフェアクロフ。

 

「にしても、そちらはランスロットが大部分を占めているようですね」

「まぁ、手の空いているものがランスロットの面々しかいなかったからね、何しろ初めてのイベントだからね、そちらもチームエンフィールドの面々に・・・へぇ」

「ま、お互いさまっていうところです」

「そうだね、お互い正々堂々とがんばろうじゃないか、では、また願わくば闘いの場で」

そういうと、一糸乱れぬ統率された動きで去っていく聖ガラードワース学園の一行を見送る。

 

「今回のイベントは大変なことになりそうだ」

というと、オーフェリアと綾斗が苦笑いした。

 

 

 

「今回初めてとなるこのイベントは――」

居並ぶ学生をぐるりと見まわし、マディアス・メサが演説を行っていた。

 

「(にしても、相変わらず薄気味悪い演説だ…)」

相変わらず受けの良いマディアスの演説ではあるが、いろいろな裏事情を知っている面々にとっては、詭弁にしか聞こえない。同時に、薄気味悪い空虚さを感じる斑鳩。

 

「(ま、気にしている必要もないか)」

と軽く聞き流し、学園祭最終イベント――六花祭(バトル・オブ・アスタリスク)が開催されることになった。

 

 

 

 

開会式も終わり、久方ぶりのシリウスドームの控室に斑鳩は来ていた。

 

「さてと、ま、あとはリラックスってところだな」

「そうね、そうしましょうか」

綾斗、紗夜、綺凛、ユリス、オーフェリア、そして斑鳩の六人は、控室でくつろいでいた。

「そういえば、そろそろチーム紹介をやるんじゃないかしら?テレビ」

「そうですね、見てみましょうよ」

控室に備え付けの空間ウィンドを開く。

 

『……というわけで、このバトルオブアスタリスクの実況を仰せつかりましたABCアナウンサー梁瀬ミーコです!そしてそして、解説はレヴォルフ黒学院OGであり、現在は星猟警備隊で一等警備正を務める柊静薙さんに起こしただきましたー!』

そこには昨年の《鳳凰星武祭》ですっかり顔を覚えてしまった女性アナウンサーが映っていた。

 

『どうも、よろしくであります』

『さてさて、柊さん、それでは早速ですが、今回のイベントの有力チーム紹介と解説をお願いします』

『まず優勝候補筆頭は、やはりガラードワースでありましょう、《聖剣》の使い手《聖騎士》アーネスト・フェアクロフ君を筆頭に、6人中4人が前回の《獅鷲星武祭》で活躍したメンバーであります!新たに序列入りした《優騎士》パーシヴァル・ガードナーさんも純星煌式武装(オーガルクス)《聖杯》の使い手、聖ガラードワース学園史上、《聖剣》と《聖杯》がそろったチームは一度も優勝を逃したことがないというデータも出ているであります』

『《聖剣》というのは《白濾の魔剣(レイ=グレムス)》、《聖杯》というのは《贖罪の錐角(ゴート・アマルティア)》の異名です、ガラードワースの学生はこうした別名をつけることが多いみたいですね』

『そういう伝統でありましょうな、さて、この二つはどちらも防御するのが極めて難しい純星煌式武装(オーガルクス)であります、これに加えて《黒盾》、《王槍》が脇を固めるのでありますから、盤石の布陣といっても過言ではありますまい』

『事実、どこのオッズを見ても、このチームランスロットが圧倒的に一番人気のようです』

『なるほどなるほど、さすがは《獅鷲星武祭》最多優勝を誇るガラードワースです――ではでは、その対抗馬は?』

『対抗馬としてまず一番に名前を挙げるべきは、星導館チームでありましょうな』

「わわっ!私達の名前が……!」

「まぁ、ガラードワースに次いでっていうのは、確かだろうな」

『なにしろあの《鳳凰星武祭》の優勝2タッグと、元星導館の一位、疾風迅雷に、なによりあの王竜星武祭(リンドウルブス)の二連覇、それに孤毒の魔女(エレンシュキーガル)のオーフェリア・ランドルーフェンさんがいらっしゃいますからね、総合力でガラードワースに対抗できる、数少ないチームでありますな』

『ほうほう』

「それと未知数ではありますものの―――」

続いて界龍の説明が入る斑鳩。

 

「(まぁ、やるだけやらせてもらうよ)」

と今までにない高鳴りを覚えながら、ウィンドを見つめる斑鳩であった。

 

 



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狂音競争曲

「いよいよ、第一回戦!東ゲートからは星導館チームの入場です!」

新しくなった入場ゲートの扉が開き、解説のハイテンションな声にあおられた歓声が空気を震わせる。

オーフェリアを先頭にその道を進んでいく。

 

「そして、その対戦相手は、世界的ガールズロックバンド、チーム・ルサールカとこれまた世界の歌姫シルヴィア・リューネハイムが代表を務める、クインヴェール女学園チームだぁぁぁあ!!」

反対側のゲートからルサ―ルカとシルヴィアが笑顔で歩みを進めてくる。試合前とは思えないほど悠然としている。両チームのメンバー解説されていく中、お互いステージへと降り、所定の開始位置まで進み出る。

相手のチームのシルヴィアが、こちらのチームの先頭を見た瞬間に表情を変える。

 

「…まさか、こんな形であなたと相手することが出来るなんて、このイベントに感謝しないといけないようね」

いつもと違い全身に闘気を滲ませているシルヴィア。その姿は、世界の歌姫シルヴィア・リューネハイムではなく、戦律の魔女(シグルドリーヴァ)そのものだ。

斑鳩は、彼女の目的を悟り軽く牽制するように出ようとするがオーフェリアが逆にそれを牽制するように一歩前に出る。

 

「こっちも、この状態で貴方と戦えるだなんて、思ってもいなかったわ」

と言い放つオーフェリア。その姿は、気丈に振る舞っているように傍から見ればわかるが、今すぐにでもゴーサインが出れば飛び出しかねないほど気分が高ぶっているみたいだ。

「オーフェリア、加勢するか?」

斑鳩とユリスがオーフェリアに軽く視線を送る。

 

「大丈夫よ、斑鳩、それにユリスも」

淡々と、しかし、相手の一挙手一投足を確実にとらえながら言うオーフェリア。その眼は、あの可愛らしいオーフェリアではなく、もはや目に鬼が宿っている。

「ミルシェ、パイヴィ、モニカ、トゥーリア、それにマフレナ、オーフェリアとはサシでやらせて頂戴?」

「…ま、そういうならどうぞ」

ミルシェが少し呆れたようにいう。

 

「んじゃあ、それ以外のメンバーは私たちでやっちゃうね」

「えぇ、お願い」

シルヴィアが親指でこっちから離れたところを指し示す。そして、オーフェリアとシルヴィアは、互いにチームから距離を取り、ステージを挟んで二分される。

 

「さーて、そちらさんには悪いけど、番狂わせさせてもらおーじゃんか」

ギター型の純星煌式武装(オーガルクス)を肩に背負い、にやりと挑発的に笑うミルシェ。

「生憎、こちらも負ける気概はない」

「ふーん、そっか、まあ、いいや、どっちにしろ、勝つのはあたしたちだかんね!」

苛烈な炎を宿す両チーム。同じタイミングで踵を返し、定位置に戻る。

こちらの陣形は、オーフェリアがいないが、最前列に綾斗と綺凛、そして遊撃のユリスとクローディア、そして後衛の紗夜だ。

 

『――そろそろ開始時間が迫ってまいりました!お互いに準備は万全といった佇まい!果たして、勝利を勝ち取るのはどちらのチームになるのでしょうか!』

興奮を隠しきれない解説の声と被るように機械音声の宣告が響いた。

六花祭(バトル・オブ・アスタリスク)第一回戦第一試合、試合開始!」

途端に、それら全ての音を吹き飛ばし塗りつぶすような、凶悪な重低音と爆発がステージを駆け抜ける。

 

「――っ!?」

宣誓攻撃を仕掛けようとしていた綾斗。だが、その重苦しい衝撃に思わず膝をつきそうになったのだが

 

「(これはまた…想定していた以上にというところか)」

斑鳩は特に何も感じず平然と立っている。視線の先には、モニカの純星煌式武装(オーガルクス)

 

「(重低音による集中力への影響か、確かに綾斗に対しては絶大だが――生憎そんなことなど関係ないんだよ!)」

そういいながら、重低音の中を駆け抜けていく。

 

「っと、まずい!」

直後、ミルシェとトゥーリアの動きが変わる。視線の先には綾斗がいる。

 

「(目的は綾斗だな――)」

直角ターンで向きを強制的に変え、綾斗を抱えて空を飛ぶ。同時に、破砕振動波が襲い、空気が震え、綾斗が直前までたっていた地面が大きくえぐられる。

 

「悪いが今回は初っ端から全力だ!」

「はっはー!オレたちのサウンドに酔いしれな!」

直後、最後列にいるマフレナの指が空間投射キーボードの上で踊ると、その周囲に無数の光弾が出現し、こちらめがけて高速で放たれる。そんな中だった。

 

「援護します!」

「あぁ、咲き誇れ――赤円の灼斬花(リビングソトンデイジー)!」

綺凛が前に出てくる。綺凛の千羽斬は深紅色の光が輝いている。

 

「(まさか――ッ!?)」

その動きに注視する斑鳩。直後、綺凛は斑鳩の予想通りの7連撃を繰り出し、文字通りあのデッドリー・シンズを繰り出し、ものの見事に彼女の攻撃を文字通り"叩き斬った"。

その行動に思わず会場がどよめき立つ。

 

「(ここまで頼もしくなるとわな――)」

 

フフフと笑いながら意識をルサ―ルカに向けた。

 

 

 



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チーム戦

「すまないがやはり星辰力の集中が上手くいかん・・・・援護のタイミングも普段通りというのは難しそうだ」

「大丈夫だ、そのための俺もいる」

ユリスが苦々しい顔で歯を食いしばりながらも、煌式遠隔誘導武装で光弾を防ぎながら言う。

 

「わかった、なら、作戦通りに移行」

直後綾斗と斑鳩の着地を狙ってトゥーリアの横薙の斬撃が走る。

 

「そうはさせねーよ!」

「それは、こっちのセリフだ!」

炎をまとわせたエリュシデータによる5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出すコンビネーションで、彼女の攻撃を弾く。

 

「ぐぅ…」

後方に下がるトゥーリア。斑鳩は間髪入れずにそこからミルシェに向かい。

 

「――そのリズム、貰った!」

体術スキルで、零距離で相手にイエローに輝いた腕で貫き手を繰り出す。そして、綾斗が叫ぶ。

 

「紗夜、今だ!」

「いわれなくても…ずどーん!」

次の瞬間、ステージを無数の筋の光の帯が翔け抜けた。

 

「んなっ!?」

そのうちの二つは綾斗の脇をすり抜けるようにして、トゥーリアの胸の校章を違わず正確に撃ち抜く寸前でガードされる。

 

「な、なんだ今の!?」

「危なかったわね」

「いきなり校章を狙ってくるなんてえ……」

次々と焦ったような声が漏れる。

 

「ちょっと、なんだよあれ?」

ミルシェ達の驚愕の視線は綾斗達の背後へ向けられる。そこに立つのは、

 

「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト」

全身に六門の砲口を開いたその煌式武装を構え、紗夜がそういう。

 

「けど、普通のレーザーじゃなかったよね」

「あら、気づかれたか」

と地面に降りたった斑鳩がいう。

 

「あまりネタバレはしたくないが、気づいたから教えよう、ホーミングさ、といっても、無理やりこっちのレーザーとあっちをぶつけただけのお粗末なものだがな」

 

「ホ、ホーミングレーザー!?」

「んな、無茶苦茶な」

ミルシェが警戒するように後ずさり、パイヴィがあきれたように言う。

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ!今のモニカたちなら、十分対処できてるもん」

「…そうね、確かに狙いは正確だけど、威力はそこまででもないわ、私の防壁で防げる範囲よ」

「それにさ、あっちだって、あんなデカブツを背負ってたら動きも制限されちゃうって、むしろチャンスだと思わない?」

「ふむむ…それもそっか、んで、シルヴィア(リーダー)のほうは…」

とミルシェがそっちを見るので、斑鳩も釣られて見ると

 

 

 

「(おいおい、女の子がしちゃいけない顔をして戦っているぞ、あれ…シルヴィア的にいいのか?)」

観客もドン引きするほどマジな戦いをしている二人。シルヴィアに至っては今後の仕事活動に影響が出るレベルで強烈な顔をしている。しかもオーフェリアも同じような顔をしている。まさに鬼対鬼の戦いだ。

そして、両チームいい感じでドン引きする。

 

 

 

 

「よ、よし気分を変えてやっていこう!」

「え、えぇ、あ、あのトゥーリアさんは前に出すぎです・・・・・!パイヴィさんもその位置だと左側に防壁展開範囲の死角ができてしまうので戻ってください!」

厄介なのは最後列のマフレナだ。彼女のチームの綻びを見つけてそれを修正するのはピカイチだ。

 

「そうはさせん!」

遊撃のユリスの声が響く。

 

「しまった!」

六本の煌式遠隔誘導武装がパイヴィの音圧防壁をすり抜け、上空からモニカを襲う。

 

「ふっふーん!なによお、こんなの…って、あれえ?」

それを払いのけようとしたモニカだが、目的はそこではない。そして、モニカを囲むようにして等間隔に突き刺さる。

 

「――綻べ、栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

ユリスがそう叫ぶと同時に、モニカの足元に魔法陣が展開し、巨大な炎の柱が五本まるで、悪魔の詰めのように立ち上がった。

 

「なにゃっ!?」

巨大な炎の掌に囚われ、立ち尽くすモニカ。さすがに反応できなかったのだろう。炎の詰めが握りつぶすように閉じられる。

 

「あ、あっぶないわね、もお!」

が、パイヴィの防壁がそれを押しとどめるように展開される。ギリギリのところで防がれる。が、それを易々と見逃すほど、斑鳩は甘くはない。

 

「危ないのは――そっちだよ!」

救援に向かうミルシェを綺凛の剣撃が阻む。そして、モニカの下に向かうトゥーリアも綾斗が抑えている。斑鳩は、モニカの下に駆け出していった。斑鳩は、ステップを踏んでフェイントを仕掛ける。そこに飛んでくるパイヴィの光弾をはじき返し、彼女をけん制し、神速の域に到達する。

 

「馬鹿な!?」

「速い!?」

パイヴィが驚愕に目を見開き、マフレナが唖然とした顔でつぶやく。

 

「(一気に行くぞ!!)」

斑鳩は、炎の檻から出ていたモニカをとらえていた。

 



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クインヴェール戦、決着!!

斑鳩は、炎の檻から出ていたモニカをとらえていた。だが

 

「あっまーい!」

体勢を立て直していないモニカへの攻撃は、割って入ったミルシェに止められていた。だが、これもわかっていたことだ。

 

「――ッ!?」

空中に浮いている状態のマフレナに向かって、バーチカル・スクエアを叩き込む。とっさにギターでガードするが距離と空中だったことで、吹き飛ばされる。

 

「あんまりモニカを舐めない――!?」

その状態でモニカの方を振り向き、すぐに体勢を立て直していたモニカに向かう。そして、一気に剣を振り上げると動作を見せる。そして、モニカは案の定を上からの攻撃に反射的に守ろうとしたのだが――

 

「えっ!?」

同時に、斑鳩の背後からうねるようにほとばしった光の矢がモニカの校章を打ち砕いていた。斑鳩のライトニング・アローだ。

 

『モニカ、校章破損!』

機械音声がモニカの敗北を告げる。

 

「そ、そんなあ」

半泣きでへたり込むモニカ。これで『阻害弱体化』の効果はここまでだ。

 

「皆さん、一度陣形を組みなおします、戻ってください……!」

「そうは言ったってよぉ!」

モニカが退場したことによって、少なからず押されていた戦競は変わった。

 

「(さて、パイヴィの音圧防壁をどうするかだが…)」

「咲き誇れ――呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!!」

とはいえ、こっちもユリスの援護が復活している。斑鳩は後ろにいる龍の熱気を感じながら、再び剣を握る。見れば、綺凛もミルシェを押し込んでいる。

 

「――舐めるなよ、≪叢雲≫!」

綾斗の方に、トゥーリアが行く。そんな中だった。

 

「マフレナ!!」

「はい!」

刹那、ミルシェの叫びに応えるかのように、マフレナのキーボードが力強くも美しい音量度大音量で奏でる。同時に、ミルシェの瞳に紺碧の炎が燃え上がる。

 

「(ここにきての『活性強化』か!?)」

即座に理解する斑鳩。スイッチ形式で綾斗と紗夜が入れ替わり、斑鳩はすぐに駆け出す。

しかも、マフレナの速度は尋常なものではなかった。

 

「まずは一人!これで終わりだぁあああ!」

紺碧の軌跡が綺凛に向けて煌めく。だが、綺凛はいたって冷静だ。斑鳩が後ろから、シングルシュートで綺凛に向けて剣を投げ込む。そして、ミルシェの攻撃を千羽鶴をパージすることでその一撃をかわし、後ろから飛んできたそれを受け取る。それにミルシェの目が驚愕に染まった。そして、綺凛にこたえるようにジェットエンジンのような爆音と共に赤い光芒と共に剣による強力な突きを繰り出した。

綺凛自身も驚くほどの剣が滑らかに滑り――

 

 

 

 

『ミルシェ、校章破損――試合終了!勝者!星導館チーム!』

機械音声が結果を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、負けちゃったみたいね――」

「これはお預けってわけね…」

あまり気にしたくない二人がいた。

 

 

「ふぃ~」

一回戦を終え、斑鳩と綾斗は、控室に戻っていた。綾斗は部屋に戻るなり、ベットに倒れこんだ。

 

「お疲れさん、綾斗」

「そっちもね」

とはいえ、今回大健闘したのは綺凛ともいえるだろう。

 

「お疲れ、綺凛ちゃん」

当の綺凛はオーフェリアにかわいがられていた。ちなみに、控室にはクローディアも来ていた。

 

「一回戦突破、おめでとうございます」

「ありがとう、クローディア、それで次の対戦相手はどこなんだっけ?」

「はい、次は聖ガラードワース学園のチームとです」

「聖ガラードワース学園、ってことはチームランスロットか」

斑鳩の脳裏を掠めるチームランスロットのメンバー。

 

「ってことは、過去のを幾つか見たが、どう見ても正面突破しかないだろうな」

「えぇ、斑鳩のいう通り、チームランスロットは、まさしくチーム戦に特化した究極のチームです、個別に秀でた五人の個性を統合して融合させた一つの有機体としてのチーム、それに対抗するにはこちらも下手に小細工するよりもチームでぶつかる他ありません」

「今回ばかりというか、今回はいつも以上にチームを意識する必要性があるな」

「えぇ、もしチームから一人でも突出するようなら、即座にチーム・ランスロットはその一人を飲み込んでしまうでしょう」

斑鳩の呟きにクローディアが大きく頷く。

 

「ま、望むところだな」

「強気ね、斑鳩」

意外そうに、しかも誇らしげにほほ笑むオーフェリア。

 

「勝ち目が薄いなら、自分で納得できりような闘いをしたいからな」

「まぁ、そうだな」

「異存はない」

「決まったな」

お互い目線を交わしあい、力強く頷いた。

 

 



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ランスロット

――シリウスドーム。

 

「さぁ!六花祭もいよいよ終盤に差し掛かってきました!星導館チームと聖ガラードワースチーム、両チームのメンバーがステージに降り立ちました!さあさあ!六花祭 第二回戦が始まります!」

ステージ上で対峙するのはアーネスト・フェアクロフ率いる、聖ガラードワースチームだ。そのプレッシャーは、並々ならぬものがあった。個人の力量でいえば斑鳩率いる星導館チームも劣ってはいない。とはいえ、視線の先の六人は居揃って並ぶ様は、巨大な山が今にもこちらを押しつぶさんとしてくるように感じられた。

 

轟音のような大歓声の中、アーネストが前に進み出て右手を差し出してくる。

 

「生憎、《獅鷲星武祭》ではないが、我々は容赦しないよ」

「えぇ、わかっていますよ」

綾斗の手を取り、握り返すアーネスト。

 

「――六花祭に相応しい闘いにしようじゃないか」

相変わらずの爽やかな笑顔でいってくるアーネスト。そしてくるりと踵を返し戻ってくる。

そして、試合開始位置につき、その時を待つ。

 

 

 

 

 

「――《六花祭》、第二回戦、試合開始!」

 

 

 

試合開始を告げる機械音声をかき消さんばかりの大歓声。同時にガラードワースチームは即座に一糸乱れぬ動きで布陣する。

 

「さぁ、参りますわよ!」

そういうのは、ガラードワースの副会長レティシア・ブランシャールだ。同時に、巨大な半透明の光が背中から八枚、琥珀で作られた蜘蛛の足のように広がり、こちらに襲い掛かる。が、それをライトニングアローの一斉射出で防ぐ。そして、綾斗とアーネスト。オーフェリアとライオネルがステージの中央でぶつかり合う。

 

「こうして君と剣を交えることが出来た!この僥倖、神に感謝せねばならないな!」

「ご期待にそえるかどうかはわかりませんよ…!」

綾斗とアーネストがぶつかり合い、斑鳩の攻撃でレティシアの攻撃を防ぐ。アーネストは顔色一つ変えずに、綾斗への援護攻撃を防ぐ。

 

「綾斗、斑鳩、あれが来る!!」

紗夜が叫んだ。だが、これは斑鳩にとっても待っていたことだった。

 

「(待ってました!!)」

斑鳩はレティシアの攻撃を全て切り払い、そのうえでパーシヴァルに向けて弱い威力のトルネード・キャノンを撃ち込む。

 

「ッ!」

その威力の弱さを悟ったのか、必然的にパーシヴァルがトルネード・キャノンを受ける。受けてもダメージはないパーシヴァル。

 

「棗斑鳩にしてはこの攻撃――」

直後、彼が苦しみ始めるとともにパーシヴァルががくんと足から力が抜けたように体制を崩す。

同時に聖杯・贖罪の錐角(ゴート・アマルティア)が今まで湛えていた黄金色の光が消え、地面に落ちる。

 

「――なにっ!?」

アーネストがいったん引き、体制を立て直す。見ればパーシヴァルの手が震え、のどに何かが詰まっているかのように苦しさを訴えた顔をしていた。

 

パーシヴァルの聖杯・贖罪の錐角(ゴート・アマルティア)の一切の物理的破壊力を持たない代わりに、相手の意識だけを吹き飛ばすことが可能な光を放出する、『抜魂』の能力を持つ。その能力を知っていた斑鳩は罠にパーシヴァルを嵌めたのだ。

 

「一体…何を…!?」

レティシアが彼のほうを見る。

 

「恐らく毒、しかも無味無臭、無色透明の毒ガスと言ったところだろう――とんでもないな、これは」

斑鳩を冷静に見据えるアーネスト。その顔には乾いた笑みしかない。

 

「ご名答アーネストさん、その毒ガスの効果は星辰力に作用し、強制的に星辰力切れと同じ状態にするものですよ、ま、命を脅かすものではないですけど、星辰力の総量が多いほど効果は高いんでね」

 

『――パーシヴァル・ガードナー、意識消失、戦闘不能!』

と機械音声が告げる。直後、あちらのチームが残ったメンバーで視線を交わすと同時に、陣形を再び整える。

すると直後、レティシアの光の翼が飛んでくる。

 

「――ッ!」

危ないところでそれを交わす斑鳩。見れば光の翼をやり過ごしたケヴィンが長剣を突き立ててくる。ユリスはとっさに飛びのき応戦するがケヴィンの巨大な黒い盾にはねつけられる。ユリスの攻撃を往なす様はさすが《黒盾》といったところだ。

 

「さすがは《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》!中々に情熱的なアタックじゃないの!どうだい、今夜食事でも……!」

「生憎と、おまえのような浮ついた男は趣味じゃない!」

ユリスが細剣を振り下ろし、鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)を繰り出す。

 

「あらら、ざんねーん!」

それをケヴィンが長剣で振り払いつつシールドバッシュを仕掛けてくる。

 

「くっ!」跳ね飛ばされるユリス。衝撃に顔をゆがめる。しかし戦闘中なのですぐに身体を起こそうとすると

 

「どうやらお姫様は、お前みたいな堅物が好みみたいだぜ、レオ!」

「なっ!?」眼前にライオネルの振るうパルチザンが飛んでくる。

「試合中に無駄口がすぎるぞ、ケヴィン!」

「(さっきのは、目くらましか――)」

このタイミングが回避は間に合わない。覚悟を決めて星辰力を防御に集中させようとした時だった。

 

 

ガキンッ!

 

 

槍がユリスを薙ぎ払う寸前、割って入ってきた人影が同じレイピアを使ってその一撃を弾き飛ばした。

「オーフェリア…!」

「ユリス、援護しなさい!」

初めてといえるその言葉。だが、この状況でこれほど頼もしい声はなかった。

 



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グリューエンローゼ&エレンシュキーガル

「行くわよ!ユリス!」

「おうとも!」

一気に目の前の二人に向かって駆け抜けていくオーフェリア。

 

「させません!」

レティシアの光翼がオーフェリアに襲い掛かる。だが、オーフェリアは、レイピアによる稲妻のごとく4連撃でその光翼をはじけ飛ばし、一気に迫りこむ。

 

「咲き誇れ――九輪の舞焔花(プリムローズ)!!」

能力を発動させ9つの火炎球を展開させ、 それを違う軌道で飛ばして攻撃をおこなう魔法で援護してくるユリス。その間に責め立てるオーフェリア。

 

「(にしても、厄介ね――この二人)」

いくらオーフェリアとユリスの息の合ったコンビとはいえ、ライオネルとケヴィンのコンビの攻防一体、それに加えてレティシアの遠距離攻撃は厄介なことこの上ない。

 

「さぁ、まだまだ行きますわよ!」

そんな声と共に襲い掛かってくる光翼を弾き飛ばす。

 

「(彼女を早々に消した方がいいけど――今は)」

遊撃のケヴィンの完璧な動きを見極める。そして、レティシアの攻撃をかわすオーフェリア。その先にはライオネルの剛槍が待ち構えている。

 

「――ッ!!」

相手の足元から細い水流を無数に発生させて、足元に絡めて移動を阻害させる技を繰り出し、ライオネルの攻撃を無理やりそらす。そして、その先のアーネストに向けて飛ぶ。その先にいるのは綾斗だ。

そして、不意打ちのようにアーネストに襲い掛かる。

 

「――オーフェリアさん!助かった!」

「どうも!!」

その状態のまま、二体一でアーネストを攻め立てる。だが、アーネストは巧みな体捌きでオーフェリアに斬撃を集中させるが、それをすべて弾くオーフェリア。二人の技量の差に関しては、オーフェリアのほうが上だ。

 

「――悪いがミス・オーフェリア、僕が君の相手になるべきではなさそうだな!」

「それはどうも、この大根役者!」

レティシアの攻撃を跳ね飛ばし、アーネストの攻撃を受け流す。

 

「仕切り直しよ!」

上段からの剣閃を弾き飛ばすオーフェリア。そこにアーネストの二撃目の胸元をえぐるような突きが飛んでくる。それを交わし、一気に迫りこんだ。

 

迫りこんでいたのは何もオーフェリアだけではなかった。

 

「――ッ!!ちょこまかと!!」

レティシアの声に怒気が籠る。無理もない、ここまで百発中九十発が避けられ、十発が迎撃されているのだ。

それでもアーネストやライオネル、それにケヴィンのサポートもしなければならない状況だ。だが、レティシアにとって目の前から迫りつつあるその脅威は何物にもまして脅威であった。

本来、他のチームの誰か一人でも突出するようなら、即座にチーム・ランスロットはその一人を飲み込んでしまう。そういう戦法を取っていた。だが、目の前の人物はそれすらを砕こうとしていた。

 

「負けて、いられませんのよ!!」

「その生きがい、尊敬に値する!」

レティシアは無数の光翼を槍のように飛ばしてくる。斑鳩は、一発目を剣を旋回させて目の前にかざすことによって彼女の攻撃を防ぎ、そこから 剣に深紅色の星辰力をまとわせて繰り出す7連撃を繰り出し、はねのける。同時に、無数の光の矢を飛ばして攻撃をしかける。

 

「――ッ!!」

レティシアの背中から広がる光翼が新たに四枚に増え全16枚になった翼が斑鳩を襲い掛かる。

だが斑鳩は、それをスカーレット・ファーブニルの一薙ぎと一呼吸でそれを斬り払う。

そこにケヴィンとライオネルが左右から挟み込んでくる。

 

「さすが《絶天》!だが、オレたちだって負けてられないんだよ!」

「おうとも!」

長剣と剛槍のコンビネーションが襲い掛かる。斑鳩は、右手のエリュシデータで剛槍をはじき返し、間髪入れずにスカーレット・ファーブニルに力を籠める。抜きざまの一撃をライオネルの胴に見舞う。

そこにケヴィンが上段の斬りおろし攻撃を放ってくる。それを両手の剣を交差して長剣を受け止め押し返す。

その隙めがけてラッシュをかけ始める。

まさに脳の回路が焼き切れんばかりの速度で剣をふるう。甲高い効果音が立て続けに唸り、星屑のように飛び散る斑鳩の星辰力がバトルフィールドを灼く。

 

「(もっと速くッ!!)」

全身をアドレナリンが駆け巡り、剣戟を敵に見舞うたび脳神経がスパークする。限界まで加速された神経には普段の倍速で二刀を振るうそのリズムすら物足りない。

そして、斑鳩の剣の余波が校章にヒビを入れた。

 

「ライオネル・カーシュ、校章破損(バッジブロークン)!」

「おいおい、冗談じゃないぜ……!この剣筋、なんなんだよ……!」

とライオネルが行ったときには、もう遅く斑鳩の剣先はケヴィンに迫りこんでいた。

先ほどとと同等、いや、さらに加速された速度での剣戟がケヴィンに襲い掛かる。

そして、剣戟が次々と叩き込まれ、最後の烈火の一撃でケヴィンの盾が砕け散った。

 

「ぐぅ!?」

その余波でフィールドの端まで吹き飛ばされ、防御壁にたたきつけられる。その衝撃で、彼の校章にヒビが入った。

 

「ケヴィン・ホルスト、校章破損(バッジブロークン)!」

 



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白銀烈勢

 

「(残りはレティシアとアーネストか…)」

 

こちらの視線を感じ取って、アーネストは《白の魔剣》を構えなおす。彼は瞬時に間合いを詰めていき、地を這うような下段から、弧を描いての上段突きを繰り出す。それを軽々と交わして見せる斑鳩

再び脳内が加速し始める。剣で対象を斜めに斬りつけるスラントから、連鶴でソニックリープにつなげ、そこからダブルサーキュラーを繰り出す。アーネストは引き戻した《|白濾の魔剣≪レイ=グレムス≫》で防ぐが、二撃目の刃でガラードワースの制服を切り裂く。

 

「アーネスト!」

レティシアの背中からの光翼が増え、21枚になった翼が斑鳩を襲う。だが、それをスカーレット・ファーブニルの一撃で全てを葬り去る。

 

「そんな……」

呆然とした表情のレティシアにオーフェリアとユリスの攻撃が迫りこむ。だが

 

「――やらせないよ」

そこには険しい顔をしたアーネストが二人の攻撃を防いだ。

 

 

「…アーネスト・フェアクロフ」

その直後、正気を取り戻したレティシアの光翼が飛んできて、横殴りにユリスを弾き飛ばす

 

「ぅあっ!!」

「――ッ!?」

アーネストの薙ぎの攻撃をオーフェリアは往なし、彼女はユリスを抱きかかえ抱え短いバックステップで距離を図り直す。

 

「ユリス、大丈夫?」

「ああ、すまんな」

足を負傷したユリス。レティシアの光翼がユリスやオーフェリアをけん制してくる。

 

「――なかなか、しつこいわね、あれ」

「あぁ、全くだ――策は?」

「ゴリ押し?」

「お前、考えが変わったな」

「「――ッ!?」」

滑空するように攻撃を避けるオーフェリア。二人の視線の先では、お互いの相棒が果敢にアーネストを攻め立てている。先ほどまでの劣勢はいざ知らず、一気にケヴィンとライオネルを打倒したことにより、情勢が逆転しており、攻め立てていた。

 

「――ッ!?」

レティシアの攻撃がユリスめがけて飛んでくる。レギュレーション違反ではないが、明らかにガラードワースらしくない攻撃だ。それを細剣で弾き飛ばすと、オーフェリアはゆっくりと降り立った。

 

「…」

「オーフェリア?」

「少し、ここで待っててね」

オーフェリアがそういうと、彼女の周囲の雰囲気が一変した。

 

「さっきの攻撃、中々鋭かったじゃない」

にこやかな笑みでいうオーフェリア。

 

「えぇ、ガラードワースですか――」

レティシアの言葉は最後まで続かなかった。オーフェリアの右手が閃き、剣先が彼女の口元に触れたからである。その攻撃にのけぞるオーフェリア。

 

「…舐めないでくださいまし!」

明らかに戦闘とは異なった色の瞳をこちらに向けるレティシア。そういうと、光翼を飛ばして攻撃をしようとするが、それすらも中断を余儀なくされる。なぜなら、オーフェリアが細剣を構えるや否や猛然と攻撃し始めたのだ。

 

「――ッ!?なんですの!?」

光翼で必死に応戦するが、もはや応戦や戦いとすら呼べるものではなかった。オーフェリアの剣閃は無数の星辰力の光の帯を引きながら恐るべき速さで次々とレティシアの光翼を消し飛ばしていく。

白銀の髪を躍らせ、黒い星辰力を滲ませながら無表情に彼女を追い立てる。

レティシアは恐慌を来たし、むちゃくちゃに攻撃してくるのだが――

 

バシュンゥ!!

 

『レティシア、校章破損(バッジブロークン)!』

「……忘れてもらっては困る、私もいる」

オーフェリアとユリスの後ろ。そこには紗夜の握りしめたハンドガンの銃口がまっすぐレティシアの胸元に向いていた。

 

「さて、残りは彼だけね」

オーフェリアとユリスの視線の先には、距離を取った三人がそこにいた。

 

「(お膳立てはしたんだから――勝ちなさいよ…斑鳩)」

オーフェリアは静かに思った



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アーネスト・フェアクロフ

『レティシア、校章破損(バッジブロークン)!』

「レティシアがやられたか…」

そうつぶやくのはアーネストだった。

 

「――ふむ、この状況で君ら二人を相手するのは、チーム戦でいったら負けに等しいが」

するとアーネストの雰囲気が変わった。

 

「僕的には楽しみだ」

「――ッ!?」

綾斗の首筋を狙った《|白濾の魔剣≪レイ=グレムス≫》の斬撃が飛んでくる。まさに優雅さの中に狂気が満ちた斬撃が飛んでくる。

斑鳩は何も言わずにアーネストに踏み込む。そして、剣を青白い残光と共に4連続で振るう。

アーネストはそこから飛んで斑鳩の攻撃を退く。綾斗がその着地するところに向けて間合いを詰め、下段から切り上げる。アーネストは空中で姿勢を変え突きを放ち、それが綾斗の脇腹を掠める。だが、どちらもまだ浅い。

 

「――スイッチ!!」

「うん!」

そういうと斑鳩と綾斗が入れ替わり、アーネストを果敢に攻め立てていく。

校章を狙った斬撃をアーネストは《|白濾の魔剣≪レイ=グレムス≫》で受け流す。牙をむいて嘲笑しながらつばぜり合いに持ち込む。斑鳩は、右上段斬りでアーネストの攻撃を打ち払い距離を取る。そこに

 

「天霧辰明流組討剣術――砥柄壬!」

綾斗がアーネストの間合いに飛び込み様右袈裟に斬り下ろすと持ち手を変え、身を引いてそれをかわしたアーネストの腹に柄頭を叩き込む

 

「ぐふっ!?」

さらに空いた右てでその顎に拳を見舞うが、ほぼ同時にアーネストの膝蹴りが綾斗の鳩尾にめり込む。

そこめがけて斑鳩は、ライトニングアローを見舞う。

 

「いや、まだだ!」

アーネストがその槍を振り払った直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーネスト、これはチーム戦だよ」

斑鳩の言葉で何かに気付くアーネスト。だが、時すでに遅く綾斗の後ろからジェットエンジンのような爆音が唸りを上げていた。次の瞬間、 赤い光芒からの強力な突きによってアーネストは吹き飛ばされていた。

 

『アーネスト・フェアクロフ、校章破損(バッジブロークン)!』

 

『試合終了、勝者星導館チーム!!』

 

 

 

 

静まり返ったステージに機械音声が響いた。刀を振り払ったのは綺凛だった。

 

 

 

 

 

 

『ば、ば、番狂わせだぁぁぁぁああああああ!?大激戦の第二回戦に終止符が打たれました!圧倒的不利とされた前評判を覆したのは!!星導館チームだぁっぁああああ!!』

空間ウィンドウからは、興奮気味の実況と解説の声。そして、割れんばかりの大歓声が聞こえてきた。

確かに、ものすごい大激戦であったのは間違いない。チームの面々もひと時も気の抜けない張りつめた叩きだった。それに、アーネストの技量は、<獅鷲星武祭(グリプス)>で確実に、チームエンフィールドの脅威になることは間違いなかった。

 

「(――アーネスト・フェアクロフ)」

本気とその奥底が見えなかったアーネストに対して少し疑惑と不快の念を抱きながらも斑鳩達は控室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

控え室――

 

「みなさんお疲れ様です」

控え室に戻った面々を出迎えたのはクローディアだった。

 

「ありがとう、クローディア」

面々がそれぞれソファーやら椅子やらに座りこむ。

 

「にしても、あのガラードワースを破るとは…これで今シーズンの展望も明るくなってきました」

「まぁ、本チャンは《獅鷲星武祭》だし、幸先がいいっちゃいいが、油断禁物だぞ?」

「えぇ、これで《獅鷲星武祭》の前評判のオッズは大混乱、それにガラードワース側も本腰入れてくるでしょうね」

と斑鳩とオーフェリアが答える。

 

「しかしまあ、こちらの手もいくつか知れ渡っただろうな」

「だろうな…そこに関しては今後ってところだが、問題は」

「次の試合ですね――」

「あぁ、その通りだ、クローディアとして、ユリスのは厳しいってところか?」

「えぇ、時期尚早です」

キッパリというクローディアにため息をつくオーフェリアだった。なぜなら、明日は決勝戦だというのにユリスの新武装も使えない。紗夜のヴァルデンホルトは改修中の為投入できないからだ。

 

「ここまではなんとだが――明日はな…」

予想だと明日の対戦相手は界龍の相手になる。そうなると斑鳩が覇軍星君や空中戦の天苛武葬を相手しないといけないことになる。

 

「(一先ず、明日の戦いを乗り切るしかないだろうな)」

と思っていた直後だった。

 

 

『な、な、なんとぉおおおぉおおここでも番狂わせだぁぁぁああ!!』

 

 

解説の興奮気味の声。空中に投影されたディスプレイを見ると、そこには他の会場でやっていた界龍とエキストラチームとの戦いが映し出されていた。そして、そこにはズタボロになった界龍の面々がいた。

まさかの展開だった。

 



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たった一人の最終負荷実験

赤い月が、二つの|世界≪ゲームワールド≫を隔てている門を血のような赤い色に染め上げていた。

 

「……」

視線の先にあるのは、巨大な構造物。この構造物は二つの|世界≪ゲームワールド≫の領域、いわゆる暗黒界と平和な世界である人界を隔て続けてきた。それがまさに崩壊せんとしていた。

いくらイベントとはいえ、|人界≪プレイヤー≫側の無限にも等しかった力の一滴が尽きた瞬間に鳴り響いた巨獣の雄たけびは、現実と錯覚するくらいに禍々しいものだった。

そして、最後の砦とも言える所に一条の亀裂が走り、眼を焼きかねない白い光の演出と共に、浮かび上がる文字

 

 

 

Final Tolerance Experiment(最終殲滅実験)

 

 

 

視線の先には猛獣やゴブリンの群れ。そして、それに相対するようにある広大な戦場にはたった二人しかいない。そして、天まで届くほどの閃光を放ちながら、巨大構造物、いや門が崩壊し始めた。

 

 

 

 

 

『闇の国の将兵どもよ!貴様らは待ち望んだ刻が来た!命ある者はすべて殺せ!奪えるものは余さず奪え!――蹂躙せよ!!』

大門の崩壊の音は否応なく耳に入っていた。視線の先の戦場には敵のラスボスの言葉に反応するかのように獣の声やゴブリンのウォーという声が沸き起こっている。そして突き上げられた無数の武器は血の色に染まっている。

 

「(―― 一万三千か…)」

ざっと見渡して戦力を図る

 

『第一陣――突撃開始!!』

ゆっくりと立ち上がり、剣を構える。そして一刻ごとにその兵士たちが近づき始める。

 

「・・・実質一人か」

ケタケタと笑いながら、そのゴブリンたちを見据える。そして、突撃兵のゴブリンが凶悪な鎌を無造作に振り上げる。

 

 

 

刹那――

 

 

 

鋭く空気を裂く音と共に、青白い天幕内部の薄闇に響いた。

 

「……ぐ、ひ……?」

何が起きたのか訝しむようなゴブリンの唸り声。その顔の真ん中を赤い線が音もなく横切り、ゴブリンの頭の半分がずるりと滑り、地面に落ちた。

 

「(悪いが・・・ここから先は通すわけにはいかないんだよ)」

ありったけの力を振り絞って突撃していく。ゴブリン達、いや1万5千の敵勢力の目標は大門破壊ではない。

視線先にいるプレイヤーたった一人だ。

 

凶暴な雄たけびで襲い掛かってくる軍団。一斉に蛮刀を振り上げ、前後からとびかかってくる敵兵めがけて、剣技を放つ。それはまさに連続した一つの美技だ。

ばらばらと幾つもの首が落ちていく。

 

そして、視線の先から現れる巨大なゴブリン

「――小ボスか」

「あーあ、派手に殺して――」

強烈な殺気を滾らせていたが、そんなことはどうでもよかった。今はただ目の前の敵を一匹残らず殲滅すればよかった。

 

「……あ」

言葉を交わさずに自分の部隊の大将が殺されたことに、半ば畏怖を感じている。

 

「ば、バケモノがぁぁぁ!!」

言葉を覚えた何匹かのゴブリンが襲い掛かってくる。それを冷めた目で一瞥したと同時に、手元の剣を閃かせ一薙ぎでゴブリンたちを葬る。

 

視線の先では、ゴブリンやオーク、それにジャイアントの命がたった一人の人間によって失われていく。

その中で黙々と剣をふるっていく。

そんな中で数千ものオーガによる弩弓が飛んでくる。また、広域焼却弾が飛んでくるが

 

「――…-…--」

空に向かって何かを叫んだ瞬間にそれらは突如現れた光線によって消滅する。

 

 

 

 

その目にあるのは闘志ではない、もはやそれすらを超越した何かだった。視界に入るものをすべて斬り伏せ飛んでくるものを全てはじけ飛ばし、阻んでくる巨壁をすべてなぎ倒していく。

とっくにレベルはカンストしていた。だが、一兵ごとに心の中で溜まっていく何か。

 

「……」

そんなものを考えずに、斑鳩は剣をふるった。

 

ガバッ!!

「……」

背中にはじっとりした汗でシャツが張り付いていた。

「(夢か…いやなものを見たな)」

斑鳩は、水を飲み再び床に就いた。

 

 

 

 

 

「さぁ!星導館学園チームとエキストラチーム、両チームがステージに降り立ちました!さあさあさあ!いよいよ、ついに、この学園代表チームの頂点を決める最後の戦い《六花祭》決勝戦が始まります!」

 

 

 

決戦が始まろうとしていた。



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六花祭 最終戦!!

新年一発目は、ドンパチだ!!


ステージ上で対峙するのは、フードをかぶったエキストラチーム。今までの戦いでそのベールを脱ぐことはなかった謎に包まれたチームだった。

 

「(なんだ…これ)」

このアスタリスクから来てから初めての違和感。といっても、この感覚は以前にもどこかであった。

 

「(思い出せない…なんだ…これ)」

なぜか思い出せない。確かに知っている人物だとわかっているのに、もやがかかったように合致しないのだ。

再び視線を戻すとそこにはフードをかぶった5人組。彼らから発するプレッシャーは並々ならぬものだ。だが、奇妙な感覚に襲われる。拭いようのない違和感が入り混じった何とも言えない。

 

轟音のような大歓声の中、チームリーダーと思わしき人物が前に進み出て右手を差し出してくる。

 

「生憎、我々は容赦しないよ」

「それはこっちのセリフですよ」

手を握り返してくる。肌の色は茶褐色だった。

 

「決勝戦に相応しい闘いにしよう」

「その前に、フードを取った方がいいんじゃないか?」

「そうだな、そうさせてもらおうか」

そういうと、フードに手をかけ、一斉にそれを脱ぎさった。

 

「なっ!?」

現れたのは、赤と黒のマントを羽織った褐色の肌に銀髪の女性。

 

『な、なんと!エキストラチームのリーダーは!アルルカント・アカデミー生徒会長アンリマ・フェイトさんです!?』

『まさか、あの謎に包まれた彼女が出てくるとは…これは予想だにしなかった展開ですね』

興奮に包まれている解説。やはり、予想だにしなかった展開みたいだ。

 

「久しぶりだな棗斑鳩、まさかこうして君と剣を交えることが出来て光栄だよ」

「こちらこそ」

驚きはしたものの、踵を返してお互い自分のチームに戻ると

 

「もはや隠す必要もないってことかな?会長さん?」

「ま、そうだな――ここで隠しても意味はない、ぬいでいいぞ」

「どうも」

アンリマを挟んで無邪気そうな声音と凛とした声。そして後ろにいた四人がフードに手をかけ、一斉にその姿を現した。

 

「久しぶりだな、≪華焔の魔女(グリューエンローゼ)≫、それに≪疾風迅雷≫」

「…お前は」

 

ユリスと綺凛はその言葉を発した人物を見据える。二人の視線の先には、微風で銀髪を揺らした褐色で隻眼の人物

 

極光(シュヴァルトライテ)――シオン=フェルマイト=リージンベルグ」

「その名で呼ばれるのは久しぶりだな」

 

闘志を秘めた笑みをこちらに向ける彼女。

確かに、シオンの登場には斑鳩も驚いた。だが、斑鳩の視線を否応なく釘付けにしたのは、二人の少女だった。

 

 

 

一人は、長く伸びたストレートの髪は、濡れ羽色とでも言うべき、艶やかなパープルブラックの髪の少女だった。胸の部分を覆う黒曜石のアーマーにチュニックと風をはらんではためくロングスカートは矢車草のような青紫。腰には黒く細い鞘。そして顔は小造りで、えくぼの浮かぶほお、つんと上向いた鼻の上に、くりくりとした大きな瞳が、アメジストを思わせる輝きを放っていた。

 

 

 

 

もう一人は、 眩い金色の光を放った長い髪に大きく開かれた二つの碧眼の少女。その碧眼には息をのむほど美しい煌めきを秘していた。そして黄金色のブレストプレートと白いロングスカートを身にまとい、腰には山吹色の長剣を装備していた。その美貌はまさに人形そのものに近く、入口から吹き込む微風に碧いマントと金髪が揺れていた。

 

「(…どうして、あの二人がいるんだ!?)」

見知った所の話ではなかった。あの世界にいた人物にそっくりな人物が目の前に現れたのだ、驚いた所の話ではない。

 

「…斑鳩?」

「あぁ、悪い」

オーフェリアの声で、現実に引き戻される。

 

「斑鳩、知り合い?」

「いんや、ちょっとあってな…その昔にな」

「ふーん」

と言葉を交わす。この言葉だけでかなりリラックスする。

 

いつにもまして気合が入っていることを感じ取る斑鳩。

 

「(言葉は不要か――)」

斑鳩の意識が目の前のチームに向けて収束していく。そして、試合の開始位置についてただ、その時を待つ。

そして

 

 

「――六花祭≪決勝戦≫、試合開始!」

試合開始を告げる機械音声を掻き消さんばかりの大歓声と共に、戦いが始まった。

 

 

 




新年、あけましておめでとうございます。

今年も、本作品をよろしくお願いします。



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アリシゼーション・ロザリオ

エキストラチームは、一糸乱れぬ動きで布陣する。

 

「アリス、ユウキ、二人は≪絶天≫の相手をしてくれ、私とシオンと綾音は、残りを相手する」

「了解」

「わかったよ」

そういうと、あの二人が目の前に現れる。

 

 

 

先に挨拶して来たのは、あの金髪の少女からだった。

 

「はじめまして≪絶天≫、私は|天緑≪アマユリ≫アリス、よろしく」

「僕は|東雲結城≪しののめゆうき≫、よろしくね」

濡れ羽色のストレートの髪の少女

 

「!?……あぁ、よろしく」

 

二人の名前に驚きながらいると、二人とも剣を構え始めるので、斑鳩も剣を構える。

見ればアリスの方は、柄に金木犀があしらわれた剣を持っていた。また、結城の方は、真っ黒い剣だった。

 

双方、構えを崩さないまま、少しずつ少しずつ間合いを詰めていく。ぴりぴりとした空気が帯電し、観客の声が遠ざかる。そして耳が痛くなるほどの静寂が際限なくその密度を増していく。そして、開始に合図宜しくアリスの青い瞳がすっと細められる。刹那の雷閃に似た光が、瞳孔の奥で閃いた。

 

「――ッ!?」

同時に裂ぱくの気合と共に、黄金の髪を翻して真正面から神速の剣を斬り下ろしてくるアリス。

そして、すさまじい衝撃が斑鳩の両手を襲った。同時に、オレンジ色の火花が飛び散る中で、お互い表情を変えずに剣を振りかぶる

 

「「……ッ!?」」

星辰力を迸らせつつ、完璧に同期したモーションから、右上段を繰り出す。だが、弾き返されるので、今度は横から撃ち込む。だが、これも弾かれるで、右斜めの斬りおろし、そこから完璧なモーションで右上段斬りを繰り出す。そして噛み合う刃を滑らせ、右斜め斬りおろしを繰り出す。が、受け止められる。

 

「――ッ!」

そこから斑鳩は鍔迫り合いに移行しながら、内心での改めて舌をまく。

彼女の瞳の奥の燃えるような瞳を直視し、振り切る。

 

「(……アマユリ アリス)」

アリスは瞬き一つせず、視線を受け止めている。わずかに隙を見せれば、その瞬間に斬られるだろう。

 

「中々やるな」

「それは貴方もね!!」

言い終えると同時にアリスが突っ込んでくる。斑鳩の剣とぶつかり合うが、押し合うタイミングでアリスが一気に剣を引く。

すると、刃が滑り、一直線の火花が咲く。斑鳩は後方に押しやられ、アリスは前につんのめる。ここで踏みとどまれば、アリスの剣が飛んでくる。斑鳩は、勢いに逆らわず背中から床に倒れこむが、その寸前、右足を鋭く振り上げ、ブーツのつま先に眩い輝きが生まれ、アリスの顔をしたから照らす。

 

「そこだ!!」

短く吠えながら、全身をコンパクトに回転させると、後方宙返りの蹴り技≪弦月≫を繰り出す。そこから、体当たりと斬撃を連続させる≪メテオブレイク≫を繰り出す。

 

「――ッ!?」

アリスの剣をふるう右腕が唸りを上げて真横に動く。だが、今更どんな攻撃を繰り出そうと、こちらの蹴りの方が速い。無視して、撃ち抜けば――だが、その想定は甘かった。

 

突如飛んでくる剣の柄頭。それは体ではなく右足だ。しかも逆手握りの柄当て。放ったのは

 

「僕を忘れてくれちゃ困るよな~」

剣技の華麗さや勇壮さの欠片もない実践的なテクニックだった。視界に飛び込んでくる濡れ羽色の髪。

蹴り足を横から打たれたら、≪弦月≫の軌道を逸らされるので歯を食いしばり撃ち出される右足を懸命に引きとどめる、同時に硬質な衝撃音がとどろいた。

斑鳩の≪弦月≫は、ユウキの剣の右手の甲をとらえる。

 

「っと」

「――ッ!?」

手首から肩、腰を柔らかく動かすことによって 斑鳩の攻撃を武器で受け流した。それを斑鳩は、全く衝撃を感じなかった。

 

「(なんでその技を!?)」

バックステップで空中で身体を回転させ距離を取って着地する。

 

「遅いです!」

着地した瞬間に、今度は黄金の剣が飛んでくる。だが、この戦場を包むほどの甘く爽やかな香りが濃密に漂った直後、彼女の黄金の剣の刀身が消えた。

 

「(この香りは金木犀――まさか!?)」

案の定、金色の突風が斑鳩に襲い掛かる。斑鳩は絶対零度の冷気を極太のレーザーを乱発射させ、無茶苦茶であるが、その攻撃を避けた。だが、こっちに何枚か襲い掛かってくるので、それをジ・イクリプスで跳ね返す。その直後、金の風に押された、横からユウキが加速して突っ込んでくる。

 

「(あれは足場にもなるのか!?)」

と驚きながらもジェットエンジンのような轟音と共に 赤い星辰力を剣に迸らせ強力な突きを繰り出す。

だが、その突きは突風を斬り裂き、ユウキの胸元にめが突っ込んでいく。思惑通りだった。だが、胸元直前、ユウキの右手が煙るように動いた。同時に、右側面に小さな火花が弾け、突きの軌道がズレた。

その直後、今度は斑鳩の胸元目がけて剣が飛んでくる。だが

 

 

「――忘れたとは言わせないわよ」

頼もしい声が響いた。

 



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スリーピング・ナイツ

ガキッン!!

火花が散り、ユウキの攻撃が大きくそれた。

 

「加勢するわ、斑鳩」

「サンクス、オーフェリア」

視線を交わし、再び相手を見据える。

 

「私はあっちの黒髪のユウキって子をやるから、そっちはアリスって子で」

「わかった」

そういうと、斑鳩はアリスに向き直った。そして、オーフェリアはユウキに向き直る。

 

 

「――さて、僕の相手は貴女だね」

オーフェリアの視線の先には、片手用両刃直剣。彼女の髪色と同じく黒曜石のような深い半透明の色合いを帯びていた。

 

「(煌式武装ではなさそうね……)」

と見定めると、目の前のユウキは長剣を中段に構え、自然な半身の姿勢を取る。対して、オーフェリアは右手を体側に引きつけ、細剣をほぼ垂直に構える。

そして、大きく息を吸い吐いたところで、隣にいたアリスとの剣がぶつかり合い、火花が閃いたと同時に、オーフェリアは地を蹴り、ユウキとの距離を瞬時に駆け抜けながら、体をひねる。

 

「――ッ!」

短い気合と共に、まるでライフルの弾丸のごとく右手を突き出し、ユウキに向けて突きを放つ。

初撃と二撃目は、読み通り避ける。先ほどと同様、ユウキはその突きの軌道をずらしている。

超高速の突きを弾き、カウンターの反撃を予想するオーフェリア。だが、ここで剣を戻せば体制が硬直するので、思いっきり体を左回転させる。

そこに雷光とも言える速度で、ユウキの剣が飛んでくる。身体を限界までねじり、その攻撃を避けるが、剣が胸元を掠める。

 

「(――技量、高いわね…)」

グリップのあるブーツで地面を蹴飛ばし、大きく左にジャンプする。そこで右足でもう一度飛び、十分な距離を取る。

 

今後はユウキが地面を蹴って飛び出してくる。そして、轟然と襲い掛かる黒い剣。それをオーフェリアは斬り払いで受ける。

 

「――ッ!?」

すさまじい衝撃が火花と共にオーフェリアの右手に伝わる。撥ね戻された剣を、ユウキが武器の重量を感じさせないほどのスピードで切り返し、次々と撃ち込んでくる。見てから反応したら間に合わないほどの速度だが、ユウキの動き全体を捉え無理やり対応させるオーフェリア。

お互い、超高速の剣戟を響かせる。

 

「(速い――けど、勝機はある!)」

そういいながら、ユウキの三連撃を潜り抜け、思い切り懐まで飛び込む。

そして、腰を落とし、右手の細剣をユウキの体の中心めがけて、思いっきり突き込む。

だが、ユウキは少し驚いたものの、それに反応し、剣をしたから切り上げてくる。

オーフェリアは、がら空きのボディーめがけて右手でショートパンチを放つ。

ユウキはその拳術に驚きながらもいるが、

 

「――カドラプル・ペイン!!」

レイピアによる稲妻のごとく4連撃をユウキに向けて繰り出す。この距離では回避不能。そして、直撃は目に見えていた。だが、オーフェリアの背中に戦慄が走る。

 

「(まさか、見えている!?)」

ユウキの赤紫色の瞳に驚きはなく、視線の先には細剣の尖端が映し出されてくる。

その瞬間、ユウキの右手が閃き、四回の火花が散る。

攻撃がすべて弾かれたのだ。

すぐさま体勢を立て直すが、もうすでに遅く、コンマ何秒の時間と共に、ユウキの黒曜石の剣が青紫色の光を帯びる。

 

「やぁっ!!」

「(この技は!?)」

まさに、スター・スプラッシュと似た技だった。だが、この攻撃は似ているからこそ反撃が可能だ。

今度は、こちらから、 星の頂点を突くようにして繰り出される5連続の突きスターリィ・ティアーを繰り出し、弾く。

 

「へぇ、やるじゃない――」

そういうと、ユウキは、空中で体を一回転させる。すると剣に黄緑色の光が灯り、次の瞬間光の帯を引きながら攻撃を繰り出してくる。だが、素直すぎるその攻撃はカウンターを誘いやすい。

 

「――ニュートロン!!」

レイピアによる高速の5連続の突きを繰り出す。その攻撃に、対処せざるを得ないユウキ。

ユウキはその攻撃を身体をねじって避ける。だが、これで攻撃が終わるわけではない。

 

ユウキの視線の先には白い光を放ったオーフェリアの細剣。

 

「――ッ!!」

彗星のごとく全身から光の尾を発しながら 突進して剣で攻撃をおこなうフラッシング・ペネトレイター

をオーフェリアは繰り出した。



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アリシゼーション・ダンシングソード

ギンッ!!

 

斑鳩のエリュシデータとアリスの剣がぶつかり合う。そして、青白い火花を散らした。

「――ッ!?」

斑鳩は、後方に大きく弾かれ、体勢を崩すと同時にアリスの剣が動かないことに驚いた。

 

「(大岩を撃ち込んだ感じだな、こりゃ)」

そこに流水のように滑らかな足さばきでアリスが迫りこむ。

 

「――やぁっ!!」

高く澄んだ気合と共に、大きな半円を描いて恐るべき速度で剣が撃ち込まれる。すぐさま、剣で迎撃するが大きな衝撃と共に回転しながら吹き飛ばされる。

 

「(動作はでかいが一撃が大きすぎる…)」

あの速度であの威力に驚き、慄然としながらも相手を見据える斑鳩。

ここに来てからの二度目の一方的な展開だ。舞うように典型的な型でふるってくる斬撃を懸命に受けるが、体捌きだけで回避できれば反撃できるものの、彼女の剣のスピードとパワーに圧倒され、綺麗に躱すことが出来ない。

 

「なるほど、流石絶天ですね――」

隙を一切見せないアリス。そして、

 

「これで終わりです――」

剣を構えると同時に、一瞬の静寂と共に、空気を引き裂き黄金の光が走る。

斑鳩は、それを剣技連携で無理やりコネクトさせ、無数の技を右手がかすむほどの速さで動く。

無数の金属音と火花。そして攻撃を受け流す斑鳩。

 

斑鳩は、そこに無数の光の矢を飛ばして攻撃をするライトニングアローと巨大な闇のエネルギー球を飛ばして炸裂させて攻撃をするヴォイド・ディストーションを繰り出しアリスの視界を奪う。

 

「たかが、こんなので私を止められるはずもありませんよ!!」

そういうと、金色の風が横薙ぎでその二つを弾く。

 

「そこだ!!」

斑鳩はアリスの黄金の風に向けて星辰力を極太のレーザーのように発射する。

 

「えっ!?」

驚きの声を上げるアリス。その奔流は彼女の風の制御を乱す。

会場に大音響を轟かせ、漆黒に深紅の嵐と黄金色の嵐がぶつかり合い、まじりあう。

斑鳩はこの機会を逃すまいと一気に駆けだす。

 

「――ッ!!」

ジェットエンジンのような轟音と共に 赤い光芒の星辰力と共に剣による強力な突きを繰り出すそして、アリスの剣が弾かれ、そこにサマーソルトキックのようなものを繰り出され、そこから、剣に黄緑色の光の帯を 引きながら繰り出される一撃であるソニックリープを繰り出す。

だが、彼女も剣に星辰力を迸らせ、振り下ろし、一歩も引かずに剣を受け止める。

そして、お互いの件による火花が飛び散る中で、歯を食いしばると、表情を崩さずアリスは剣を振りかぶる。

 

「ヤァァッ!!」

気合を迸らせ、右上段斬を繰り出すアリス。斑鳩は、上段ダッシュ技であるアバランシュで、上段斬を叩き落とす。お互いの剣戟がぶつかり合い、衝撃波でお互いが吹き飛ばされ後退する。

アリスが着地と同時にこっちに駆け抜け、剣を振り上げてくる。斑鳩は、、短く吠えながら、全身をコンパクトに回転させ、右足で鋭く振り上げる。《弦月》だ。

 

そこから斑鳩は十五メートルの距離を瞬時に駆け抜け、突進のスピードを余さず乗せた右上段斬を放つ。アリスは、床を割り砕かんばかりの踏み込みから、剣戟を繰り出す。

そして、黒と金の刃がぶつかり合う。

 

「(……勝負にならないな)」

お互いが技量が拮抗したと悟った斑鳩は、二本目の本命の剣を取り出す。

 

「両手剣ですか――」

「いかにも」

そういうとアリスは再び剣を煌めかせ、黄金の嵐にさせる。斑鳩の手には、もう一本の剣。スカーレッド・ファーブニルだった。ファーブニルから煌焔が迸り、剣による5連続突き、斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬りを繰り出し、アリスの嵐を吹き飛ばした。

 

だが、一瞬にして黄金の嵐を収束させ、剣に戻したアリスが右足で思いっきり床を蹴飛ばしてくる。

 

「――その技は!?」

彗星のごとく全身から光の尾を発しながら 突進してくるアリス。アリスの剣が斑鳩の肩を掠る。

斑鳩は驚愕に目を見開きつついるが、すぐさまアリスめがけて蹴りを繰り出す。

 

「ッ……!!」

いきなりの蹴り上げに驚くアリス。だが、すぐにアリスの剣が真横に動き、斬撃が飛んでくる。

だが、このほんのコンマ一瞬を斑鳩は見切っていた。

 

「――そこだ!!」

斑鳩のエリュシデータが青白く光り輝き、そしてスカーレッドファーブニルの焔がエリュシデータに迸り、

 

天壌焼き焦がす星龍皇の焔(スターバースト・サラマンドラ)!!」

斑鳩は、神速の一撃をアリスの胸元めがけて放った。同時に、フィールドを包むほどの爆発が三か所で巻き起こった。




作者より~報告コーナー~

ユリス「おい、作者――今後の展開、出来ているのか?」

作者「一応ね・・・一応だよ、一応ね」

綾斗「なんだろう、ものすごく俳句っぽいよね」

作者「お、おう、ってか問題なのは、79話のあとがきコーナーで壮大な誤解が起きたことだよね?」

紗夜「私は何も間違ったことは言ってない」

作者「まぁ、確かにそう捉えちゃうよね」

ユリス「お前の、文才がないな」

作者に対して、99999ダメージ

ユリス「まぁ、兎にも角にも、内定は取ったんだろ?」

作者「まぁね、だからあのコーナーで告知したんだけどね・・・いや~あはは」

紗夜「笑いごとでも・・・いいと思う、ところで作者、仮免の見通しは立っているんの?」

作者「学科はいける、実技はSクランクと、狭路走行をなんとかすれば・・」

綺凛「が、頑張ってください」

サクシャ ハ 100000 カイフク シタ。

紗夜「Good Luck」


というわけで、これからも本作品をよろしくお願いいたします。

有栖川アリシア


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