問題児と大地母神の夫が異世界から来るそうですよ? (らんらんタワー)
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第一話

どうもらんらんタワーです。

前作?ハハッ、君は何を言っているのかな?

これはわたすの黒歴史を増やすものです。多めに見てください。






それと誤字脱字等あったら報告してください。


 

 

 

 

 

 

「―――――――――この私が・・・・!たかが人間ごときにィ・・・・」

 

 

 

二又の槍を杖代わりに何とか地上に立っている状態を維持している、古代ギリシアの男性の服装であるはじめ長方形のウール布を右肩を露出して体に巻きつけている男は、右手が無くなっており腹部もかなり深く抉れていて、人間ならば(・・・・・)死んでもおかしくない状況であった。

だがこの男を傷つけた者に対して、人間ごときといっているところがこの傷ついている男は人間ではないと言うことが分かる。

 

 

 

「たかが人間、されど人間。人類に光を与えたルシフェルは人間に神をも超える可能性を見出したとされている。だからこそ英雄叙事詩などが人間の文化の中にあるのだ」

 

 

 

傷ついている男と相対している男は、顔に映画「プレデター」に出てくる地球外生命体である名称不明(ただし視聴者と製作者は捕食者を表すpredatorと呼んでいる)の二足歩行の生物が顔を隠すために被っているマスクと同じ物を着用しており、髪の色は光を吸い込むような漆黒。

服装は一言で表すなら戦闘服。別の言い方なら野戦服だろう。イメージとしてはニュースなどに映る現米陸軍の中東派遣部隊の服を想像してくれたらと思う。

 

 

 

「さて、アンタとの戦いは別段つまらなかった訳ではないが、俺は愛しの相手が待っているから早く戻らなくちゃいけないんだよ。じゃあな」

 

 

 

すると男は右手を前に突き出し、詠唱を始める。

 

 

 

『我は不浄を正す義者(アシャワン)、正義を貫く大神なり。虚偽を征し、聖なる焔の守護り手として智恵ある神に従わん』

 

 

 

男の口から出たのは聖句。カンピオーネ、魔王、様々な呼ばれ方をする神殺しの人間たち(神殺しの時点で人間はやめていると言っても間違いではない)が神から簒奪せし権能を使用する際に必要なもの。

この聖句を分析すれば、まずアシャワンと言うものはアヴェスター語で義者を表す。ちなみ義者というのは義をかたく守る人のことである。

次に正義を貫くとあるが、アヴェスター語が混ざっているのであれば必然的にインド・ヨーロッパ語族のサテム語派の代表的な言語となるので、この男が殺害した神がイラン高原東部の方にまつわる神であり、そこから絞り込むことが出来るのはゾロアスター教という宗教。

ゾロアスター教とは、古代ペルシアを起源の地とする善悪二元論で、紀元前6世紀にアケメネス朝ペルシアが成立したときには、すでに王家と王国の中枢をなすペルシア人のほとんどが信奉する宗教であったとされている。

さて分析に戻ろう。正義を貫く大神とあるが、ゾロアスター教での正義・・・つまり善だが、有名どころから当ててみよう。

ゾロアスター教の善神となると、真っ先にアフラ・マズダ(日本の宗教に馴染みあるのは大日如来)が思い浮かぶだろうが、それはちょっと間違っているところがある。

まずアフラ・マズダはゾロアスター教の最高神である。次にアフラ・マズダは善と悪とを峻別する正義と法の神とされ、彼は善悪の対立を超越して両者を裁く絶対の存在といえるだろう。

この時点でアフラ・マズダはこの善なる神である善神のカテゴリーからは外す事ができるだろう。

しかし「智恵ある神」と言うところはアフラ・マズダの名の意味を指しており、アフラ・マズダ関連の善神が関わってくるので絞込みはし易くなる。

何故なら、ゾロアスター教に於いて最高神アフラ・マズダに従う七人の善神と言われている、「不滅の聖性」を意味するアムシャ・スプンタと言われる者があるからだ。

 

 

※なお今回の推測では、スプンタ・マンユとアフラ・マズダは同一視せずに考えることとする。

 

 

始めにアムシャ・スプンタのメンバーを挙げよう。

アムシャ・スプンタは全部で七人いると先ほど言ったので、七人分軽く説明しよう。

 

まず一人目、スプンタ・マンユだ。

「聖なる霊」を意味するこの神は、創造を司るとされ、ゾロアスター教の悪神で「絶対悪」と表される創造神アンラ・マンユと世界の始まりの時に出会ったとされる。

 

二人目、ウォフ・マナフ。

「善い思考」を意味し、ゾロアスター教の開祖であるザラスシュトラと言う男を最高神アフラ・マズダの元に連れて行った神である。

この神の敵対者は「悪しき思考」を意味するアカ・マナフである。

 

三人目、アシャ・ワヒシュタ。

「最善なる天則」を意味し、人間の宗教的な有り様を端的に表す概念として極めて重視された存在で、敵対者である悪神ドゥルジが不浄と言う風になったことに対応して、その反対である清潔を司るとされた。

さらにこのゾロアスター教が時を経ていくに連れて、火の守護神とされアシャは聖火その物とされるようになった。天体運行を担うともされる。

何気にインドラの敵対者でもある。

 

四人目、スプンタ・アールマティ。

「心に従う者」を意味し、女性の守護神とも言われ、スプンタ・マンユが創造した世界の七つの要素のうちの大地の守護神ともされた。

敵対者は「背教」を意味する悪神タローマティである。

この神の原型はヴェーダ(バラモン教の聖典)にあるとされ、それは地母神とされている。

 

五人目、フシャスラ・ワルヤ。

「善き統治」を意味し、アフラ・マズダの理想的統治を神格化したものと考えられている。

この神の敵対者は「無秩序」を意味する悪神サルワであり、世界の七つの要素のうちの鉱物の守護神とされている。

 

六人目、ハルワタート。

「完全」を意味し、水を司る女神とされる。さらには規則正しい季節も司るとされる。

敵対者は「熱」を意味する悪神タルウィで、世界の七つの要素のうちの水の守護神とされる。

 

七人目、アムルタート

「不滅」を意味し、ハルワタートと同じく女神と考えられ、食物を司るとされている。

ちなみにイスラム教ではマールートという天使の伝承に変化している。

敵対者は「渇き」を意味する悪神ザリチュであり、世界の七つの要素のうちの植物の守護神とされる。

 

 

ここまで説明してて分かった方も多いはずだ。正義という善の部分を抜いて考えても、聖なる焔の守護り手に該当するのは、三人目の火の守護神とされるアシャ・ワヒシュタだろう。

 

ということでこの仮面の男が殺害したまつろわぬ神はアシャ・ワヒシュタ。

つまりこの男が使う権能は、炎。加えてアシャは正義・真実の神格化なので、相手の真名を見破る事にも何かしらの利点があるということ。

相手の出自を突き詰めていく事で、言霊を強化することが出来る権能を持っていたとすればかなりの力になったであろう。

無論、炎の権能も強力であることに変わりは無い。さらに天体運行を担ったとされるのであれば地球の公転、銀河の渦巻きといった天文学的数字が絡んでくるほどの力を行使することもできる。

だが不用意にその力の行使をすれば地球が持たない。地球より天体の運行で発生する力が強い物など宇宙には数え切れないほどあるのだから。

 

 

 

「てめぇもここで終わりだぁ!!冥府の王!!!」

 

 

 

膨れ上がった呪力は太陽と同等、もしくはそれ以上の輝きを放つ聖なる炎に変貌し、満身創痍の冥府の王と呼ばれた男に牙を向く。

そして放たれた虚偽を征する炎が死者を統括する冥府の王を捉え、その身を炎が包み込み燃やし尽くす。

 

 

 

「が、がああああああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 

 

 

冥府の王である男の最大の武器は、今杖代わりにしている二又の槍で、本来は力の行使によって万物に平等なる「死」を与える凶悪極まりない物なのだが、使用者はもうその力を行使するほどの余裕も無くただひたすら身体を燃やされるだけであった。

だが男は最期まで立ち続ける。たとえ肉体が焼き尽くされようが、冥府の王である自身を打ちのめした人間に呪詛を吐き、自身の名誉のため倒れるわけにはいかない。

 

 

 

「ぐう、ぐうううおおおおおおお!!!神殺しよッ!!我を殺した事を後悔するがよい!!貴様にはこれから幾多もの神罰が――――――――――――――」

 

 

 

冥府の王の台詞は最期まで話されることは無かった。喉を焼かれ、肺を焼かれ、全身を燃やし尽くされた王の立っていた場所には、灰で出来た小さな小山があった。

 

 

 

「死者の世界の王の呪詛か・・・・、おぉ怖い怖い」

 

 

 

そして勝者のこの男、最後まで締まらない。まあ確かに冥府の王の呪詛は恐ろしいだろうけど。

 

――――刹那、ピクッと男の耳が微かにながら動いた。次の瞬間口を開いて、

 

 

 

「それで、そっちは終ったのか?――――――――――――キュベレ」

 

 

 

仮面の男がいきなり少し離れたところにある木々の生い茂っている森に向かって話しかける。

すると木々の間から、艶かしい笑みを浮かべながら一人の女性が姿を現した。

 

 

真っ白なウエディングドレスのような服を着ていて、母性の象徴である大きな胸はドレスを押し上げており、その自己主張の激しい胸はちらりと見える谷間と彼女の其れとは正反対のスレンダーでモデルよりも美しいと思われるスタイルは多くの男性を魅了するだろうし、彼女の闇夜の月に照らされて光る銀のように美しい銀髪と相まって最強に見える。

 

 

 

「ええ、もちろん終ったわよ。あなたのほうも無事に終ったようね」

 

 

 

彼女はゆっくりと歩みを進め、仮面の男の前に来ると男に抱きつき・・・・、

 

 

 

「仮面は取ってくれないの?それともそのままのほうが良いのかしら?」

 

 

 

彼女は並みの男性なら理性が吹っ飛んでしまいそうな色気を出しながら仮面の男に顔を近づけ問いかける。

 

 

 

「そうだな・・・、俺としては今日は帰ってキュベレとゆっくりしたいのだが・・・・」

 

 

「あら?今日のあなたは随分と静かじゃない。何時もならすぐに襲い掛かってきて・・・・きゃ///」

 

 

 

仮面の男が()はまだいいと言う返事をし、それを聞いてから銀髪の女性は男から離れて何を思ったのか顔を赤くして、体をくねらせる。

 

 

 

「お~い、頼むから自分の世界に浸ってないで戻ってきてくれー」

 

 

「そうね・・・、やっぱり子供は何人がいいかしら。二人以上は欲しいわね・・・・」ブツブツ

 

 

「ありゃ、駄目だこりゃ。すっかり妄想モードに入っちまったよ。俺としてはヴォバンの爺が来ると、あの人の長話に付き合わされるから早く退散したいんだがな」

 

 

 

仮面の男はぼりぼりと頭を掻きながら、仮面で表情は見えないが困った表情をしているのだろう。

 

 

そんな男の目の前に白い物体がひらひらと蝶のように舞いながら降りてきた。

 

 

 

「―――――――あ?なんだこれ。・・・・・手紙?」

 

 

 

男が手に取った白い物体はどうやら手紙だったようだ。ご丁寧に「神妻 衛」と自身の名前が書いてあった。

 

 

 

「なんで手紙がこんな所に振ってくるというかなんというか・・・・、他のカンピオーネの仕業か?」

 

 

 

男は手紙をこのまま燃やしてしまおうか悩む。カンピオーネの中でも飛び切り異質な存在である自身に来る手紙なんぞたかが知れている。

大体の場合が何かしらの術が掛かっているか、中から神が登場なんてことも前あった。

しかしこの手紙は不思議と中を見てみたくなった。

これはもう既に術に掛かってしまったのかという考えすら頭に浮かぶ前に男は手紙を読んでいた。

 

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば 己の家族を 友人 財産を 世界の全てを捨て 我らの箱庭に来られたし』

 

 

 

 

と書かれてあった。

 

 

 

 

「えっ(困惑)別に家族を捨ててまで”箱庭”とかいうところに行きたいわけじゃないんですけど・・・・」

 

 

 

 

だが時既に遅し。衛の体は上空四千㍍というイカれた高さの場所に投げ出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュベレと契約(意味深)していて良かった・・・・。これでなんとかあいつを呼び出・・・せ・・・・る。あれ?なんか契約の印が掠れて・・・・・掠れるゥゥゥゥゥゥッッッッッ!?!?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神妻 衛   24歳

 

 

彼の受難はまだ始まったばかりだ。主にカンピオーネとしてではなく、人外として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず評価をするのであれば、なにか改善すればいい点やら、良かった点などを挙げてくだされば次に繋げれると思うので、何卒よろしくお願いします。


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第二話

 

 

「ちょっと待てよ・・・。もし俺とキュベレの契約が切れたりしたら・・・・」

 

望んでいないにしろ召喚されてしまった衛は、上空四千㍍という高さから現在進行形で落下しているというのに、その事は別に気にかけず自身の最愛の人物である大地母神であるキュベレとの契約について危ぶんでいた。

それもそうだろう。衛がキュベレと交わした契約は、表向きには大地母神の加護を受けるといったものだが、本人たちしか知らない裏ではキュベレの加護と大地母神の力および彼女が崇拝されてきた小アジアの信者からくる信仰心を衛は自身の力に変換することができ、逆にキュベレは神殺しである衛が今まで殺害してきた神の権能を、一部ながらも使用することが可能で、まつろわぬ神として降臨した自分が神殺しと一緒にいることで他の神殺しと戦闘しても生き残ることができるからだ。

もちろんこの契約は互いに恩恵を受けることができるだけのものとされていると始めに言ったが、実際は衛とキュベレが夫妻としてあることを証明することにもなり、互いが離れ離れになってしまってもちゃんとした儀式を通じて召喚を行えば呼び出せることができるのだ。

 

それとこんな思考をしていることで衛は気付いていないが、自身の真下に湖がありこの落下コースなら湖にシュートッ!されてしまうのを防ぐため権能を使用するはずが、衛は自分がいなくなったことによってキュベレが狙われてしまうことを危視してこれからどうするかの考えで頭がいっぱいになっていた。

 

その結果・・・・・・、

 

「きゃ!」

 

「わっ!」

 

「ん?なんだk・・・・」

 

ボチャンと音を立てて、緩衝材のような薄い水膜を幾重にも通って湖に落ちた。

そこで衛は一旦頭の中が整理されて、自分が召喚されて湖に落ちたことに気付き、更に自分以外にも召喚されて湖に打ち込まれた哀れな三人+αにも気付いた。

髪の短い少女は一緒に着水した猫を急いで抱きかかえて、後の二人はもう岸に上がっているようであった。

衛はこのような非日常で起こりそうな事には元の世界でカンピオーネとして様々な厄介ごとに巻き込まれてきたことによって、大体のことでは動じないような精神に成長していたが今は気分が悪い、何故なら彼はあまり水を好まない。主にゼウスの兄の所為で。

なので大急ぎで衛は湖から上がって、女神ニンリルを妻に持つメソポタミアの風と嵐の神とされるエンリル神より簒奪せし権能を使用して風を起こし、何食わぬ顔で服を乾かす。といっても元より着ていた野戦服は防水性に優れていたので言うほど濡れていなかったが。

ちなみにヘルメットにだけは障壁を張っていたので水は浸入していなかった。(どうしてって話になるとまた長くなるから今回はパスで)

それに加えて、衛以外の少年少女も決して機嫌が良いわけではなかった。それぞれ文句を言いながら服の端を絞っていた。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「・・・・・・・。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

軽口の応酬を終えた二人とも鼻をフンと鳴らして、服を絞り続ける。それに倣って猫を抱いていた少女も岸に上がってから服を絞る。猫は体を震わせて水を弾いていた。

 

「此処・・・・・どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

「そりゃ古代インドの人々の宇宙の考え方・・・だったっけ?」

 

「へぇ、変なヘルメット被ってる割にはこんな事も知ってるんだな」

 

「当然、こういう知識も重要な情報だからな。それと変なヘルメット言うな」

 

短髪の少女が呟いたことに問題児っぽい少年が答え、それに衛がどうでもいいような知識を付け加える。

そんな会話の後に、少年は服を絞り終えたのか自身の髪を掻きあげて、

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずはオマエって呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「・・・・・春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。次に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

「それと最後に、変てこなヘルメットの様な物を被っている軍人みたいな貴方は?」

 

「だから変なヘルメットと言うなって・・・・、まあいい。俺は神妻衛だ。よろしく」

 

「此方こそよろしく、衛さん」

 

といった感じに軽く自己紹介を四人はしていたが、衛はヘルメットに搭載されている「熱線暗視装置」と心臓の鼓動音を音紋として視覚化する「聴診透視装置」(開発者命名)によって木陰に隠れていると思われる人型の生物を捕捉していた。

無論そんなものを使わなくともまつろわぬ神との戦いでは人智を超えた戦いになるのであの程度の隠密ではすぐに見破れる。なので危険視するべき対象ではないと判断し、いちをの確認として機能を使った。

元の世界に早く帰らなければいけないという思いを強めながら。

 

心からケラケラ笑う逆廻十六夜。

 

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

 

我関せず無関心を装う春日部耀。

 

内心相当焦っている神妻衛。

 

そんな四人を見ていた黒ウサギは思う。

 

(うわぁ・・・・なんか問題児ばっかりみたいですねえ・・・・。それとなんかヘルメットを被っている殿方がこちらをチラッと見た気が・・・)

 

召喚した側なのに、このメンバーが協力している姿を想像できない黒ウサギはため息を吐いていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

十六夜は苛立たしげに言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね、なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「・・・・・・この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

「こうゆう事には慣れてるんじゃないか?かくゆう俺もそうなんだが」

 

衛がまた付け足した所で、十六夜がため息混じりに呟いた。

 

「―――――――――仕方ねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

木陰に隠れていた黒ウサギは心臓をガシッと掴まれた様に飛び跳ね、四人の視線が黒ウサギに集まる。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいてたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「あれくらいは隠れているとは言わない。せめて放出される熱量を抑えることくらいしないとな、さすがに心臓の鼓動音まで消すのは無理かもしれないが」

 

「・・・・・へぇ?面白いなお前ら」

 

軽薄そうに笑う十六夜の目は笑っていない。四人は殺気の籠った冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「元の世界に帰してくれるなら、考えてやってもいい」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪と言うか最後の殿方いきなり帰りたい宣言!?」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとりながら黒ウサギは衛の交渉に食って掛かる。四人の値踏みをしながら。

 

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝気は買いです。まあ約一名NOどころではない対価交換のような交渉でしたが。扱いにくいのは難点ですね)

 

黒ウサギはおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせていると、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴みにし。

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

十六夜が片方の耳を掴む。

 

「・・・・・・。じゃあ私も」

 

「はぁ・・・、ほどほどにしてやれよ」

 

「ちょ、ちょっと待っ――――――――――」

 

今度はもう片方の耳を飛鳥が。そして左右から力いっぱい耳を引っ張られた黒ウサギは言葉にならない悲鳴を上げた。その様子を傍観しながら衛は掠れていた印を見ながらこれから起こるであろう事を考えていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「―――――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

十六夜の容赦ない言葉に半ば本気の涙を浮かばせながらも、気を取り直しこほんっ、と咳払いをして、

 

「それではいいですか、御四人様。定例分で言いますよ? 言いますよ? さあ―――――――――

 

 

ここからは少し長いので簡単に纏めさせてもらおう。

 

・ここは箱庭と言って、人外魔境共が生活する為の場所

 

・”コミュニティ”なるものに属さなければいけない

 

・色々なゲームがあり、ギフトと言うものを含めたモノを賭けたり逆に手に入れることもできる

 

・箱庭のルールはギフトゲームだとも言えるが、禁止事項もあるとのこと

 

 

といった所かな。俺を元の世界に戻すことが出来る奴がいたらそのギフトゲームって奴で勝てば帰してくれるみたいな感じにもできるということか。

 

「さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらを全て語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきないのですが.....よろしいですか?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

黒ウサギが話を進めようとするが、十六夜がそれに異議を唱える。

 

「・・・・どういった質問でしょうか? ルールですか? ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい.....。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは、ただひとつ。あの手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜が不敵に笑いながら言った。

 

「この世界は・・・・面白いか?」

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と、彼らの手紙には書かれていた。これほどのことを書いてありながら面白くないと言うのは許されることではないのだ。

もちろん衛は本人の意思でここに来たわけではないのでそれこそどうでもよさそうであった。

 

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公のヘルメットイメージ➔https://www.mamegyorai.co.jp/images/items/130821-w300.jpg
なおレーザーサイトは除かれています。その他の点も主人公用にカスタマイズされています。

うん、前回より変わっているところが無い。文がねぇ・・・?

まあええわ。


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第三話

 

 

 

「はぁ・・・・」

 

ルンルンと気分よくスキップしながら先頭を歩いている黒ウサギを見ながら深いため息を吐く衛。

実は十六夜の質問の後に、衛は元の世界に帰るにはどうすればいいと聞いたが黒ウサギは帰り方をしたないみたく、更に帰したくないと来た。

そんなこんなで、そこまでして俺を帰したくない黒ウサギに衛は他の三人には聞かれないようにして黒ウサギにこの事について深くは追求しないことで、特別に後で儀式に最適な場所を探してもらうことにした。

儀式?そりゃ、俺の大切な唯一の家族であり最愛の人物であるキュベレをこちらに呼び出すためだ。

印が掠れている事が召喚に支障を来たすかも知れないが、やってみなければ分からないこともある。

なので元の世界に戻れる方法を模索しながら、黒ウサギのコミュニティにお世話になる。

この流れだとずっと黒ウサギのコミュニティにいることになりそうで怖いが。

 

「なあ衛。さっきから不機嫌そうだが元の世界に帰れないのがそんなに嫌か?」

 

「だから年上には敬語を使えと何度・・・・、いやもうどうでもよくなってきた」

 

「で、そんなに嫌かってそりゃあ嫌さ。なんてたって俺の意志で来た訳じゃないしな」

 

「へぇ、あんたの雰囲気と服装から察するに元の世界では傭兵か何かだったのか?あまり人と関わらなさそうだったし」

 

「傭兵・・・と言えば違うな。これは俺の普段着って言えるが、誰かに雇われて行動はしないな。むしろ色んな組織に依頼することのほうが多かったな。それに元の世界には残してきちまったのが何人かいるからな。確かに忙しなくて、危険と隣り合わせなところだったが愛着も少しはあったからとでも言っておこうか」

 

十六夜が話しかけてきたので、こちらも思考を一旦切り替えて応じる。

しかしこいつはやはり敬語を使わない、何度も注意しているのだが一向に直る気配が無い。それほど元の世界ではまともな扱いを受けて来なかったのだろう。

・・・・俺にも子供ができたらこう育たないようにしなければな。

 

「それでよ、世界の果てを見に行かないか?」

 

「世界の果てだ?それって俺たちが落ちている時に見えたって奴か?」

 

「ああ、そうだ」

 

「別に見に行くだけなら黒ウサギが心労で倒れることも無いだろうし・・・・。わかった行こう」

 

「お、本当か?それじゃあそっちの二人はどうするよ」

 

「私は遠慮しておくわ。あまり数が少なくなるとと黒ウサギに気づかれそうだもの」

 

「私もいい」

 

「OK、わかった。それじゃあ行くぞ衛」

 

直後、十六夜と衛は常人では出せない速度で駆け出した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

黒ウサギが世界の果てまで駆け出したことを知らずに意気揚々としながら、外門前の街道を通って少しのところにある箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段にいた少年に大きな声で呼びかける。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「はいな、こちらの御四人様が――――――――」

 

クルリと振り返りそのままカチンと固まる黒ウサギ

 

「・・・・え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と、軍人のような格好で奇妙なヘルメットを被っていた常識人と思える殿方が」

 

「ああ、十六夜君と衛さんのこと?あの二人なら”ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”とか言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

飛鳥があっちの方に。と指差す先は上空四千㍍から見えた断崖絶壁。そのことを聞いて呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「”止めてくれるなよ”と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか⁉︎」

 

「”黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。壊滅寸前のコミュニティ復活のために呼んだ期待の人材がこうも問題児揃いだと嫌がらせのように感じるであろう。

 

「はぁ・・・、唯一の黒ウサギを心労から救ってくれると思っていた常識人の衛さんも成りを潜めていただけなんですね・・・」

 

黒ウサギは冒頭の衛のように深いため息を吐いてから、体を震わせて、

 

「あ、あの問題児様方はーーーーーーーーーーッ!!」

 

黒ウサギの悲痛な叫びが街道に響き渡った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

時は変わって駆け出した後の衛。彼は今非常に大人として恥ずべき状況に置かれていた。

何故なら・・・・・、

 

「しまった・・・・、十六夜とはぐれただけでなく道に迷うとは」

 

絶賛迷子中であった。

 

「くそっ、久しぶりに全力でぶっ飛ばしたら十六夜がいなくなってるし、さすがにエンリルの権能で早めすぎたか」

 

木々の鬱蒼とした森の中を歩きながら悪態を吐く。

彼としては余裕をかましているつもりなんだろうが、ヘルメット越しにでも焦っていることが分かる。

しかしそんな彼は、少し開けた場所に出た。

 

「ん?なんだここ。こんな森の中に開けた場所があるって怪しいというか何が起こるかわからんから気味が悪い」

 

それは今までカンピオーネとして問題ごとに巻き込まれてきた経験からなのか、人としての本能がそう告げているかは知るよしも無い。

だが彼が「気味が悪い」と口から発してからすぐに彼は、中心に佇んでいた一際大きな樹木の元に駆け寄っていた。

なんとそこには血まみれで、真っ黒な体毛が紅く染まって倒れている犬がいたのだから。

 

「ちっ、迷った挙句こんなことになるなんて聞いてねえぞ」

 

衛が犬に近づくと犬は力を振り絞って精一杯威嚇をするが、衛はそれを気にも留めず犬に近寄り、鎮静剤を打ってからベルトキットからメディカルキットを取り出して応急措置を施す。

幸い出血が酷かったものの命に別状は無く、出血を止めてからキュベレの加護を付加したポーションを飲ませてしばらく寝かしたことにより立ち上がれる程度まで回復したようだ。

 

「ワンッ!!」

 

「ははっ、元気になってよかったな。しっかしあんな状態までなるってことは狩りでも失敗したのか?」

 

「ワフっ」

 

「ったく、俺は犬語なんぞ分からんぞ。キュベレがいれば違ったかもしれないが」

 

今元気よく咆えて俺と会話のようなことをしているさっきの犬は、必死に何か俺に伝えようとしているが、生憎俺は大地母神の加護を受けているといっても動物とは話せない。無論大地母神であるキュベレなら普通に犬語を理解してただろうが。

 

「それにしてもお前、ケルベロスの野郎に似てるな。親しい仲の奴に接している時のアイツとそっくりだ、尻尾の振り方といい」

 

「ワンワン!」

 

「ん?俺はこれから箱庭に行くためにまた一人悲しくこの森の出口を迷いながら探さないといけないんだが」

 

「ワンッ!」

 

「ふむふむ、その感じだと俺も付いて行くみたいな感じだが、いいのか?」

 

「ワフッ」

 

「OKOK、じゃあ付いて来な。出口が見つかるか分からんが」

 

▼ 衛は一匹、話し相手を見つけた

 

 

 

 

しばらくたって・・・・・

 

 

 

 

「ああ~くそぅ・・・・。いつまで歩いても木、木、木。嫌になるぜ」

 

まだ衛は森をさ迷っていた。このまま森に現れるさ迷う軍人のようになってしまうのだろうか。

 

「うし、今度は東に行ってみるか」

 

彼は深呼吸してから、腰掛けていた岩から立ち上がり歩き出す。

 

「森を出るなら西のほうに行かないと出れませんよ」

 

「西ぃ?西ならさっき行った・・・・は・・・ず・・・・・」

 

「?どうしたんですか?いきなり硬直して」

 

「はっ?え?ちょ、いやお嬢ちゃん誰よ」

 

衛は振り返っていきなり後ろから森の出口の方角を教えてきた高校生くらいの少女に驚く。

これは誰が見てもヘルメット外したらアホ面晒しますわ。

 

「私ですか?しっかりしてくださいマイマスター。私は先ほどの犬ですよ」

 

「へ?マイマスターって、先ほどの犬って・・・まじで?」

 

「はい、私先ほどあなた様に助けて頂いたサラトガと呼ばれる者です」

 

「ほえ~、犬って人間になれるのか。・・・いやこの世界だけかも知れん」

 

「まあ・・・、普通は人間に成れませんからね」

 

さらさらとした絹のようでありながら無造作に伸ばされた漆黒の髪と力を強くしたら簡単に折れてしまいそうなほどの可憐な体に獣のような耳と尻尾があり、古代の狩人のような服を着ている粗野な女性に見えるサラトガと言った少女は、男なら惚れてしまいそうなほどのとびきりの笑顔で衛をマイマスターと呼んで、彼の手を引いて進んでいく。

そして当の本人である衛は、この状況に早くも対応しており、彼女に引かれる手を離す事を彼女が渋々了承したので彼女の後を付いて行って出口を目指す。

 

「なあサラトガ、その俺をマイマスターと呼ぶのをやめてくれないか?どうもその呼び方は好きになれない」

 

「むっ、それは了承したくありませんが、マイマスターの頼みならば変えましょう。それでは名前を教えてくださいませんか」

 

「そういや自己紹介してなかったな。俺の名は神妻衛だ。神様の神と夫妻の妻に、衛生の衛だ。それとこのヘルメットについては何も聞かないでくれ」

 

「分かりました。では衛様と呼ばせていただきます」

 

「結局様は付けるんだな。というより何時から俺はサラトガの上に立つ存在に・・・?」

 

「そんなことは簡単ですよ。だって衛様はあの死に絶えそうだった私を救ってくださっとのですから」

 

サラトガは顔を赤くしながら、少々頼りない胸を揺らして尻尾をぶんぶんと振る。

 

「ん、そろそろ森を出れますね。それと箱庭に行くなら森を出てからそのまま北に行けば着くのですが、衛様だけだと不安なので私もお供させてもらいます」

 

「おお、ようやくこの木だけの景色から抜け出せるんだな。最後に俺だけだと不安ってどうゆうことだ」

 

「やだなぁ衛様。言ったとおりですよ?この森に入り込んでしまう時点で色々抜けてるので」

 

「それはどうゆうことだ?」

 

「えっ?知らないんですか、この森は立ち入り禁止の場所なんですよ」

 

「はっ?嘘だろおい」

 

「本当ですって、主にこの森のトップとも言えるサイクロプスの所為ですね」

 

「サイクロプスって・・・、ああキュクロープスのことか」

 

キュクロープス・・・・サイクロプスというのは英語による呼び名で、ここから2次創作などに派生したものが多い。ゼウス、ポセイドン、ハデスの三神によってウラノスに拘禁されていたところを解放された事でその三神のためにそれぞれ雷霆、三叉の銛、隠れ兜を造った。

ただ叙事詩によっては旅人を喰らうだけの粗暴な怪物になっている。

 

「もしかしてサラトガも単眼野郎(キュクロープス)にやられたのか?」

 

「はい、挙句の果てに私の獲物まで奪って行きましたから。次会ったら必ず殺す・・・」

 

親の敵を見るような眼で森を睨みながら、恨めしそうに単眼野郎(キュクロープス)に対する呪詛をブツブツと唱えているサラトガにしばらく衛は話しかけれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでじゃ。ちょやめて出荷しないで(´・ω・`)
できることならすぐに次の話を投稿できるようにしたい。流れが重要☚ここ重要
オリキャラについては別な機会で・・・・。











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第四話

 

 

 

 

森から出て箱庭に移動中・・・・・

 

 

 

「衛様、私あなた様のギフトについて何も聞いていなかったのですが、どのようなギフトを持っていらっしゃるのですか?」

 

「唐突になんだ?正直俺もギフトについては何も把握してないんだ。権能がギフトに部類されるのかどうかも分からんし」

 

衛はこの世界でエンリル神の権能を使うことができたので、権能自体に問題はないとしてそれがギフトになっているのかどうかが分かれば戦闘については無問題だと思っていた。

それに加え、もし大地母神の加護がギフトに含まれていて、なおかつ其れが自身の保有するギフトにあれば彼女の召喚は問題なく行えると言うことになる。

 

「そうなのですか・・・、でもギフトの中には私を含めておきたいですね」

 

「・・・ゑ?」

 

「ということでギフトゲームしましょう!衛様の”魔王”としての実力も知りたいので」

 

衛の意見を聞かずに話をとんとん拍子で進めるサラトガは一枚の”黒い”羊皮紙――――――契約書類(ギアスロール)を取り出し、

 

 

『ギフトゲーム名 犬の怪の追跡

 

・プレイヤー 一覧 神妻衛

 

         サラトガ

 

・主催者側 ゲームマスター サラトガ

 

・プレイヤー側 ゲームマスター 神妻衛

 

・ホストマスター側 勝利条件 制限時間内に神妻衛から逃げ切る

 

・プレイヤー側 勝利条件 制限時間内にサラトガを捕縛

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

”底無し穴の魔王”印』

 

 

 

こう記されている物をサラトガは衛に見せた。

 

「・・・・サラトガって魔王だったのか」

 

「はい♪でも今は無所属ですから同じ”魔王”である衛様に隷属しちゃおうかなって」

 

「俺も魔王・・・か。確かに元の世界では魔王とも呼ばれていたが、別な世界まで来ても魔王なのか」

 

「元の世界での立場云々は関連してるかもしれませんが、この世界では保有しているギフト及びその力によって左右されることもあると聞いた事があるので・・・」

 

「仕方がないとも取れるか、まあいい。それよりもギフトゲームを始めないのか?」

 

「ええ、勿論始めますよ。それとこのゲームでは私の捕縛なので縄が用意されてます」

 

「あっ、でも安心してください。私は本来の犬の姿で逃げますから、どっちかっていうと犬にリードを付ける様なものだと思ってやってください」

 

「ああ分かった。手段についてはサラトガを気絶させてからとかもありなのか?」

 

「そういえば衛様はギフトゲームが初めてでいらっしゃいましたね。答えはYESです。手段云々については記してないので」

 

サラトガはそう言い終えると、その場でジャンプし空中で一回転すると、あのとき助けた真っ黒な体毛の犬に変わっていた。

ただ違う点は、先ほどより身体がかなり大きくなっており、更に首が”一本”から”三本”に増えていたところか。

 

「やっぱりケルベロスか、底無し穴の魔王と言う時点で想定はしていたが実際に見るとのでは違うな」

 

衛は底無し穴の魔王でケルベロスを想定していたと言うが、それはケルベロスの名に関係している。

まずケルベロスの名は「底無し穴の霊」を意味しており、テュポーンとエキドナの息子とされ冥府の入り口を守護する番犬である。

文献によっては、首が五十本あるとか、青銅の声で吠える恐ろしい犬だとか、竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な犬とも言われる。

話を戻すが、底無し穴とはおそらくタルタロスを意味していると思われ、タルタロスは冥界より更に下方にあるとされ、冥府または地獄である場所の番犬をしているもの、すなわち霊としての存在からケルベロスと呼ばれるようになったとも推測できる。

しかしケルベロス本体ではなく分霊としているとも考えることが出来るが、今の彼女から感じれる雰囲気は元の世界でまつろわぬ神のハデスと初めて交戦した際に引き連れていたケルベロスと同等のものが感じられ、分霊では引き出せない力の”壁”を作り出していた。

無論、衛はこの世界に来る前にハデスを打倒しており、元から神を殺害して権能を簒奪していることも合わさってこの力の壁は難なく突破し、彼女に触れることができるのだが死に掛けていた彼女を助けただけでここまで懐いたなんて事は理解できなかった。

 

『さあ衛様、私を捕まえてみてください』

 

凛とした彼女の声の面影はなく、どす黒い地の底から響いてくるような声で衛に話しかける。

彼女は衛に話しかけているようだが既に走り始めれる状態だと思われる。だが彼女がいくら早かろうが天空神の権能を使用できる衛の前には遅く感じれるだろう。

今更感がするが、衛が殺害した神は全部で四神。

 

アシャ・ワヒシュタ この神を殺害し、衛は神殺しとなった。

エンリル神  大地母神であるキュベレの加護を受け、苦戦したものの勝利。

ゼウス  キュベレを口説いた事により、衛がブチ切れてクレタ島が半分沈みかけるほどの戦闘を行い勝利。

ハデス  今まで出会った神の中でも上位に位置するほどの実力の持ち主で、三度に渡る戦闘を繰り広げるものの、最後はバイデントを攻略し勝利。

 

以上となる。

これだけの権能を同時使用できなくとも使用することができるのであれば、難なくこのゲームに勝てるだろう。

 

しかし忘れてはいけないのがこれはケルベロスが主催者のゲームということ。

彼女なりに何かしらの対策はしてあるだろうし、衛もまた天空神ゼウスの権能を使用し雷と同じ速度になりすぐに彼女を捕まえれるなどとは思っていない。

今までのまつろわぬ神との戦いは力も重要であったが、真に重要なものは戦略であった。

確かに彼はプロメテウスのようなザ・チートの存在とは戦っていないが、ハデスのように万物全てのモノに死を平等に与えるような槍を使ってくる相手とも渡り合えているのは戦略または知略を駆使したからだ。

 

「さて、どんな対策がしてあるかは分からんがまずは馬鹿正直に行ってみようか」

 

衛はケルベロスが駆け出した瞬間に動き出す。

 

「天を支え、地を創造する者よ。その雷霆は大いなる神の威光と成らん」

 

衛の口から聖句が吐き出され、次の瞬間風の如き速さで駆けていたケルベロスに光速で伝わる雷のような速度で肉薄する。

 

『!?はやっ、でーも簡単には負けれませんよ』

 

三本の首の内、一本がこちらを向いて驚いたような表情になるが、まだ余裕があるような口調で話しかけ、衛を近づかせぬために行動する。

逆に衛も光速での移動で近寄ったケルベロスの意識を刈り取らんと攻撃を開始する。

 

「我は風なり、人を滅せし旱魃と風災は汝を攻むる刃となる!」

 

『冥府に導かれし霊魂よ、我に仇名す敵を防ぎたまえ!!』

 

衛がエンリル神より簒奪せし権能で風を起す。旱魃とは農作物に必要な水が乾ききること、風災と刃、すなわち鎌鼬を起こし更にその鎌鼬は旱魃という水分不足を加えて、大気中に含まれる水素原子をも切断する恐ろしいものとなる。

なのでこの刃に斬られれば、外傷的な傷は愚か有機化合物としてある生物の肉体を貫通して切った場所をすべて分解してしまうだろう。

無論、ケルベロスもそう易々とやられるわけには行かない。というよりもこの刃はいくら生物として最高ランクとしても申し分ないケルベロスさえも苦しめるものなのだから、なんとしてでも防がなくてはならない。

衛の聖句の後にケルベロスが防御に使った権能により、黒い靄が掛かった塊が飛んできた鎌鼬を全て防ぎきり、靄が晴れた後にはケルベロスは衛とは反対方向に向きを変えて走っていた。

 

「ほう、通常時の速度ではこちらが攻撃を行った際に引き離しやすくなる。正面から挑むのはかなり分が悪いな」

 

衛は関心したようにするも、また聖句を唱え雷となりケルベロスに再度接近する。

対するケルベロスも引き離したもののすぐに来ることを見据えていたようで一本の首はこちらを向いていた。

 

「我は不浄を正す義者、正義を貫く大神なり。虚偽を征し、聖なる焔の守護り手として智恵ある神に従わん」

 

火の守護神の権能は、冥府の王を燃やし尽くした時と同様眩いほどの光を放ち、ケルベロスを包み込もうとする。

ケルベロスとしては叙事詩で、ヘラクレスによって地上に引きずり出された際に太陽の光を浴び、狂乱して涎を垂らしたとされているが、いくら箱庭にいて太陽の光が平気になったとしても今ケルベロスを襲っている太陽の光と同等もしくはそれ以上の光はケルベロスにとって恐るべきもので、ケルベロスはその場で驚き立ち止まってしまい咄嗟に霊魂の権能で自身の身を包んだがそれは悪手であった。

ケルベロスの体は権能で守ることはできたが、肝心の聖句を唱えた衛がいないことに気付いたケルベロスは三つある頭をフル稼働し、思考しながらその場で周りを見渡した。

しかし衛の姿を見つけることはできず、また駆け出そうとする。

 

すると・・・・、

 

「あの靄って何でもガードできると思ったけど物理的なものはガードできないんだな。だとしても何で鎌鼬はガードできたんだ?風として認識されていたからなのか?」

 

ケルベロスの背から聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。

彼女はハッとなり、急いで体を震わして衛を背中から落すが時既に遅し。

片手にリードのような紐を掴んでいる衛が頭から地面に叩きつけられていた。

 

『ハッ!?衛様!!」

 

彼女は急いで体を人型にし、首から上が地面にめり込んでいた衛に走りよる。

 

「衛様!今すぐにそこから抜くので、動かないでください」

 

ケルベロスはめり込んでいる衛の足をむんずと掴んで、地獄の番犬に恥じない力で引き抜いた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「――――――――抜いてくれたのはよかったけど、下半身と上半身がお別れになりそうだった・・・・」

 

「あ、あわわわわわっ。私としては最善の方法だったと思うのですが衛様がよろしくなかったのであれば謝罪させていただきます」

 

「いや、大丈夫だ。ヘルメットがこの程度のことに耐えれなかったのも改善しなきゃいけない点で見つかったし、結果オーライってところかな」

 

そうケルベロスが地面から引き抜いた際に衛の被っていたヘルメットだけが地面に残り、衛がヘルメットを地面から掘り出して着用したら、中の電子機器類が全てイカレテいたことが発覚したのだ。

何故ぶっ壊れたのかというと、ケルベロスから振り落とされた際に頭部から地面に落着したことによって起きた衝撃で狂ったと言うところだろう。

 

「しかし、ヘルメットを取った後の衛様のお顔もダンディーですね。ヘルメットを取る前も十分ダンディーな感じが出ていたのですが、こちらも中々///」

 

「褒めても何も出ないぞ。それに俺の顔は結構平凡なほうだと思ったんだがな・・・」

 

お前はまず平凡と言う文字を辞書で引いて来いとしか言えない。

どこの世界にそこまで整った顔を平凡と言う奴がいるか。間違いなく他から見ればイケメンの類であろう衛の顔は、左目にまつろわぬ神との戦闘でできたのか分からないが深い切り傷があり髭も薄いながらも生えていて、確かにダンディーな感じがする。

本当にお前は二十代かと言いたくなる。

 

「まっ、何はともあれこのギフトゲームの勝者は俺だな。証拠はこの光っている”黒い”羊皮紙だな」

 

「はい、このゲーム私の負けですね。これで私は衛様に隷属した”元”魔王ですね」

 

「はぁ・・・、やっぱり隷属だけは変えれないんだな」

 

 

助けた犬に連れられて森を出た衛は、突然助けた犬であるサラトガに仕掛けられたギフトゲームに勝利し、魔王であった彼女を隷属させた。

箱庭に着たばかりの人物としては上々な出来だが、衛としてはこのことについては負担が増えたことと同意義であった。

理由としてはキュベレが女性関連に厳しいので、女性をましてや端から見れば女子高生くらいの女性を魔王と言えども隷属させてしまったのだから、彼女が怒ること間違い無しなのだ。

 

神妻衛。彼の受難(主に女性関連)はこれから酷さを増していくことになる・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上オリジナル要素が結構入ってた回でした(´・ω・`)
えっ?戦闘描写っぽいところに不満アリっすか?
勘弁してください(切実)これ以上は私の文章力では筆舌に尽くし難い。







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第五話

 

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「――――――――♪~」

 

上から順に、十六夜、衛、サラトガとなっている。

十六夜と衛が互いの顔をじっと見つめており、そこに衛に頭を撫でられて尻尾をブンブンと激しく振っているサラトガがいるという混沌とした空間が出来上がっていた。

肝心のツッコミ役である黒ウサギはこの恐ろしい固有結界のようなものに影響されてなのか、固まっていた。他の女性二人と少年一人もまた然。

しかしそこで十六夜がこの雰囲気を打ち破りに出た。

 

「声の渋いおっさんだと思ってたあんたが、まさかこんな短時間でケモノっ娘を陥落させてるとはな」

 

「それには少し語弊があるな。決して私はサラトガのことを(恋愛的に)堕としていないし、怪我をしていた彼女を治療しただけにすぎないぞ」

 

「それでもワンころがあんたに惚れる材料になったんじゃないのか?」

 

「衛様に陥落させられる・・・・。イイですね///」

 

「そこ、妙な発言するな」

 

十六夜が口を開いたと思ったら、そこから吐き出される女性に対する恋愛的な要素の数々。

衛はすかさず十六夜の発言に異議を唱えるが、このことの当事者でもあるサラトガは満更でもない様子で衛の右腕をホールドする。

普通の男性なら発育段階なのかどうかは定かではないにしろ、女性の母性の象徴が当たっていれば何かしらの感情を抱くはずだが、衛にそういった感情は一切湧かない。

彼としては生涯を誓い合った相手はキュベレただ一人なのだから。

だが端から見れば、顔が整っている美男子と美少女の組み合わせであり、身長的に差が幾分かあるものの十分絵になっている。

この光景を絵として留めていたいが、私のセンスでは不可能だ by作者

 

「あ、あの・・・・。えっと・・・・どうしましょう?」

 

「うーん。そういえばさっき来る途中にサラトガに聞いた事が気がかりでしょうがないんだが」

 

「ふぇ?・・・・あっ、確かにウサギがいるコミュニティについて何か知ってないかと聞かれましたね」

 

「そうそう。やっぱり俺としては、これから行動するために入るコミュニティの情報は知らなくちゃいけないからな」

 

三人の応酬を見ていた少年―――――――ジン=ラッセルが困惑した声で衛に話しかけるが、衛はサラトガとの会話に入り聞く耳を持たなかったが、それを見かねた黒ウサギが慌てて衛とサラトガの会話に乱入し、黒ウサギのコミュニティ――――――ノーネームの置かれた状況を説明する。

ここに来て衛は初めて黒ウサギが召喚した直後の四人を品定めするような目で見てきたことの理由がわかった。

”魔王”という存在により、コミュニティが滅ぼされて”ノーネーム”となってしまったことを、そしてコミュニティ復興のために強力な恩恵(ギフト)を有する彼らを呼び出したことを。

 

「・・・・・・」

 

その場に訪れる沈黙。衛としては、彼らのコミュニテの復興は自身が元の世界に戻るための必要十分条件となりうるので何とか協力してあげたい思いである一方、自身は黒ウサギたちのコミュニティを滅した”魔王”と同じではないにしろ、同じ部類に分類されることをサラトガに小声で告げられたことを気にして、葛藤に駆られていた所であったため話をする余裕がなかったのだった。

といった雰囲気の中、ジンが何とも言えないような表情で話し始める。

 

「え、えっとですね・・・・。立ち話もなんですし、今日はコミュニティに帰りませんか?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら”サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと、この水樹の事もありますし」

 

黒ウサギの言葉に四人は首をかしげて聞き返す。

 

「”サウザンドアイズ”? コミュニティの名前か?」

 

「YES!”サウザンドアイズ”は特殊な”瞳”のギフトを持つ者たちの群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「もちろん、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事です。自分の力の正しい形を把握していた方が引き出せる力はより大きくなります。皆さんも、自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

黒ウサギは四人に同意を求めるような感じで話す。

個々に思うところがいくつかあるのか知らないが、衛とサラトガは別に、といった様子で考えを巡らせる。

まあ結局拒否する声はなく、メンバーは”サウザンドアイズ”に向かう。

衛とサラトガ、黒ウサギ以外の三人は興味深そうに街並みを眺めていた。

 

「桜の木・・・ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずないもの」

 

「いや、まだ真夏ってわけじゃないだろ? 気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「・・・・・? 今は秋だったと思うけど」

 

「季節・・・といえばあの森には四季がありませんでしたね。まあ冥府も対して変わりませんけど」

 

三人は、ん?と首をかしげ、サラトガは自身の過去の記憶に浸り始める中、黒ウサギは笑いながら説明をした。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ? パラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体並行世界論というものなんですけども・・・・・今からこれの説明を始めますと一日二日では説明しきれないのでまたの機会に」

 

黒ウサギは肝心なところで話しを曖昧にし、振り返ってまた歩き出す。

 

「(季節・・・か、ハデスの奴と初めて接触した時は春だったが、最終決戦はその三ヵ月後・・・・夏だな。どうにもギリシャに長くいると感覚が狂う)」

 

「(しかし先ほどは持っていなかった水樹とやらを持っていると言うことは十六夜辺りがギフトゲームで手に入れたな。俺のギフトがどんな物かは大体予測は付くが、キュベレとの契約が影響してる可能性もあるな)

 

衛は気を取り直してまた一人考えを巡らせ始めようとしたが、その行動を黒ウサギは振り返って前方を指差した。

 

どうやら”サウザンドアイズ”とやらについたらしく、商店の旗と思わしき物には蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神が記されていた。

しかし今はもう夕暮れ時。割烹着の女性店員が看板を下げ始めた。

するとそこにすかさず黒ウサギが滑り込みでストップをかけにいく。

 

「まっ」

 

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はやってません」

 

容赦ない一撃で、黒ウサギのストップは効果を示さなかった。

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつけるが、相手は大手の商業コミュニティだけあってこの手の客の対応にも慣れているため、あっさり伸された。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を閉め出すなんて!」

 

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎなのですよ!」

 

「なるほど、”箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいですか?」

 

「・・・・うっ」

 

店員の一言によって言葉が詰まる黒ウサギ。

 

「(これも”ノーネーム”とやら故の不利なところの一つか)」

 

チョンチョン「ん?」

 

「(衛様。ここ”サウザンドアイズ”はノーネームはお断りの店なんです)」

 

「(なるほどな)」

 

やはり名無しはよく思われないのか、これからの行動にも”ノーネーム”と言う名前が縛りを加えてくるのだろう。現に今の状況がそうだ。

 

「俺達はノーネームというコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ノーネームですか。ではどこの”ノーネーム”様でしょうか。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

十六夜がノーネームと普通に返答してしまったが、そのあとの店員の返しで黒ウサギは心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟く。

 

「その・・・・あの・・・私達に旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

「きゃあ―――――――――・・・・!」

 

哀れなり黒ウサギ。黒ウサギは店内から飛び出してきた白いナニカに抱きつかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹っ飛んでいった。

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

十六夜は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。

 

「・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスでもあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

結構マジな顔でそんなくだらないやりとりをする二人。

一方そんな二人を尻目に黒ウサギを急襲した白髪の少女は彼女の胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いのかここが良いのか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

黒ウサギは白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

しかし投げられた先には衛がおり、そのまま衝突するかと思われたが・・・

 

「衛様に気安く近づかないでください。この変態太陽」

 

「ぐほうッ!?」

 

サラトガが衛の前に立ち、白夜叉をサッカーボールのように蹴って十六夜に機動を変える。

 

「てい」

 

「ゴバァ! お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとか何様だ!」

 

「十六夜様だぜ、以後よろしく和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜を見ながらサラトガは、はぁとため息をついてまた元いた衛の後ろに戻る。

そしてこのカオスな状況に呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この”サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

冷静な声で釘を指す女性店員。正直こんな変態少女がオーナーってちゃんと経営できているのだろうか。

そんな会話の間に、濡れた服やミニスカートを絞りながら水路からあがってきた黒ウサギは複雑そうに呟いた。

 

「うう・・・・・まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報・・・・かな」

 

『お嬢の言う通りや』

 

悲しげに服を絞る黒ウサギとは対照的に濡れてもそれを気にしない白夜叉は十六夜たちを見回してニヤリと笑った。

 

「ふふん、お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元まで来たということは・・・・遂に黒ウサギが私のペットに!」

 

「なりません! どういう起承転結があったんですか!」

 

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。何処まで本気なのかわからない白夜叉は笑って店に招く。

 

「まあいい、話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか? 彼らは旗を持たない”ノーネーム”のはず。規定では」

 

「”ノーネーム”だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった五人と一匹。それからある部屋に障子を開けて入った。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

障子を開けて招かれた場所は香のような物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

そして上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから彼らに向き直る。

 

「もう一度自己紹介しとこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている”サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやってる器の大きい美少女と認識しといてくれ」

 

「はいはい、お世話になってますよ、本当に」

 

黒ウサギにしては珍しく投げやりな言葉で受け流す。そんな黒ウサギの隣で耀は首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ、数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者たちが住んでいるのです」

 

「つまり、七桁、六桁と数字が若くなればなるほど修羅神仏が跋扈する人外魔境、バケモノの巣窟になっていくと」

 

黒ウサギの説明を簡単に言うと、箱庭には七桁の階層があって数字が若くなるほど中心、人外魔境になっていくのだ。

黒ウサギの描く上空から見た箱庭の図を見た四人は、

 

「・・・・超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

うん、と頷き合う三人の反応に黒ウサギはガクリと肩を落とすのだった。

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は”世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ―――――その水樹の持ち主などや、今はその男に従っている地獄の番犬(ケルベロス)などな」

 

白夜叉の言葉に黒ウサギは物凄く驚いた顔で声を上げる。

 

地獄の番犬(ケルベロス)!?それってあのギリシア神話の神々が集うコミュニティ――――オデュッセイアでの超問題児ともいえる魔王じゃないですか!?」

 

「え、えっと・・・。それを言われると恥ずかしいと言うかなんというか」

 

「サラトガ・・・・、あんまり溜め込むなよ」

 

「あの・・・いやその、うう・・・・」

 

サラトガはその時のことはあまりよく思っていないのか、黒歴史に近い何かのようだ。

そんな黒歴史を掘り返されてもじもじしているサラトガに、その意味を理解しているのか分からない衛が自覚無しで追撃を入れる。

ちなみに衛の黒歴史は厨で2な病気を発病し、痛い言葉を中学生時代に連発していたことだ(現在もカンピオーネだから結構痛いと思われる言葉は連発しているのだが)

 

「しかしのぉ・・・・、どうやってこの厄介極まりない魔王を降したのか」

 

「別に珍しいことはしていない。ただ彼女を助けた後にギフトゲームをして勝っただけの些細なことだ」

 

「いや魔王とのギフトゲームを些細なことというのはさすがにだな・・・・」

 

「衛様、魔王とのギフトゲームは普通ならば苦戦は強いられてあたりまえなのです。ただ私は衛様に・・・その・・・・」

 

「あー・・・・、もうよい。大体察することができた」

 

魔王とのギフトゲームを些細なことで片付ける衛も感性を疑うが、サラトガは完全に衛に、ほの字なので白夜叉はそれに気付いて何か腑に落ちたのか、言うことだけ言ってうんうんと一人で頷いていた。

先ほど驚いて少し放心していた黒ウサギは、魔王を降して隷属させた衛に対してキャーキャーと黄色い声を上げながら喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 




衛の口調は、普段は普通と言うか冷静キャラみたいな感じですけど、いくつかある条件に引っかかるとアグレッシブな感じに変わります。(簡単に纏めると口調ブレまくるかもしれないから勘弁してちょうだい)


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