やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。 (mochipurin)
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プロローグ 出来立てほやほや同級生カップル

どうも草プリンと申します。
初めての投稿ですので、至らない点が多々あると思いますが、ここで誤字るのかよwwwだっせwwwwと罵倒系の草を生やしながら、温かい目で見てやってください。

※八幡とオリヒロが付き合ってから、少しした辺りの日常描写です。次回からが八幡とオリヒロの付き合うまでの過程を描いたものですので、飛ばしても構いません。あと、とても短いです。


  人は己の過去を振り返ったとき、何故あの行動によって今の自分がこの様になったのか?と、疑問に思う時がある。数多くの判断を実行してきた中で、今の自分に至るのは確率的に考えて奇跡、とも言えるだろう。

 なら今の俺が"この"状況に至るのも奇跡ということになる。なにせ長年小町に捻くれ者と罵倒され続けてきた俺に、

 

 

 

 彼女がいるだなんて、それは奇跡を超越した、そう、運命なのではないだろうか。

 

 

 うん、何言ってんだ俺。普通にキモい

 

「......ぇ!!」

 

 彼女が出来立ての男子ってみんなこうなるのかしらん。

 

「ねぇ!!お兄ちゃんってば!!」

 

「お、おおう?」

 

 ふいに愛する妹の声で現実に引き戻される。

 

「んもーなに自分の世界に入ってニヤニヤしてんのさ、キモイよ」

 

「いや、ナチュラルに罵倒しないでくれますか?あと小町、俺はニヤニヤなんてしていない。むしろ己をディスってたまである」

 

「はぁ......もういいよ、いつものことだし......それより!!」

 

 え? ちょっと待って、いつもニヤニヤなんて八幡してないよ? ......してないよね?

 

「優香さん! ほっといてもいいの?お兄ちゃん、彼氏でしょ?」

 

「あー大丈夫大丈夫。あいつはとっても優秀で信頼できる彼女様だから、ちょっとやそっと、放置する程度造作もないさ。そもそもいま行っても由比ヶ浜とか一色の質問攻めにあうから、近寄りたくない」

 

と、数分前まで、由比ヶ浜、雪ノ下、一色に囲まれて揉みくちゃにされていた俺の彼女こと、的前優香の方に視線を向け......てもそこにはなにもいなかった。アイエエエエエエエエエ??!! ユウカハ?! ニンジャ?!?!

 

「......はーちーまーんー?」

 

「ふぇい!」

 

 まさか......背後......だと......?!

 

「だーれを、放置しても大丈夫、それどころか近寄りたくもないってー?」

 

 あ、これアカン。なにがアカンってトーンがやばい。心なしかゴゴゴ......って幻聴も聞こえる。

 

「い、いや。あれは言葉のあやというかなんというか......」

体からギギギ......と、機械が軋むような音が出てそうなぐらい重々しく体を反転させ振り向くと、そこには数日前に付き合うことになった彼女の笑顔(目は笑ってない)があった。

 

「言い訳しない。それで?何か言うことは?」

 

「優香、愛してるぞぐぉっ?!」

 

 優香は顎アッパーを繰り出した!八幡は手持ちに戦ってくれるポケ◯ン、どころか味方がいない!止むを得ずライフで受けた!!

 

「「「「はぁ......」」」」

 

 意識が暗転していく中、4人の重なったため息が聞こえた。

 




いかがでしたでしょうか?
はい、短いですね。
いきなり付き合ってからの日常を長々やるのはあれなので、このぐらいの長さになりました。
次回からが本番になります。
本番すらいかずに失踪しないよう頑張るからね!!


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1. 彼に弓道のことを聞くのは当然の如く無意味である。

さすがにプロローグだけ書いて放置するのはあれなので、少しだけですが投稿しておきます。急いで書いたところmもあるので、かなり文章的に不安定な部分がありますがご了承ください。
プロローグを遡って、八幡と的前 優香の出会いから本編始まります。



 八幡は激怒した。

 7月、そう、夏。灼熱地獄を連想させるこの季節に、ある部長は、部員(俺)をまるで私物のように扱い、それでいて自身は部室で優雅に紅茶をすすっているというのだ。だから八幡は、かの暴虐の部長、雪ノ下雪乃を排除しなければならないと心に誓った。

 

「ってあいつそういや、俺が出て行く前にホットティー淹れてなかったか......?」

 

 依頼を済ませて帰ったら、「あら、お疲れ様、いつもならこんなことはしないのだけれど、紅茶、淹れておいてあげたわよ」とか変な気を起こしていないよね? そうでないことを願うばかりである。

 

「ちょっとー比企谷くーん? 見てくれてるー?」

 

「あ、すいません。もう問題解決したんですか? お早いですね。では、俺はこれにて......」

 

「いやいやいや! まだここにきて10分経ってないからね?! そんなすぐに治るのなら比企谷くんに頼ってないよ!」

 

 それもそうですね。八幡いまとっても帰りたくてウズウズしてるから早とちりしちゃったよ......早く家に帰って小町たんに会いたい......

 

「すいません、ちょっと考えてごとしてました」

 

「もー最初からそう言えばいいのに。なんでそう捻くれてるのかなぁ......」

 

 うるさいやい、捻くれてなにが悪いんだっての。

 

「捻くれ者ってのも案外いいものですよ、なにせ他人のことを気にせず過ごせますからね」

 

「いや、それ、比企谷くんが友達いない原因のうちのひとつではあるかもだけど、捻くれ者=友達いない、っていう等式は成り立たないと思うよ......」

 

 ボッチって言ってもないのに、ボッチ決めつけられちゃったよ......いやまあ、事実だから否定するつもりはないけど......

 

「まあ所詮は結果論です。どうでもいいからもう一回引いてみてください」

 

「強引に流されちゃったよ......いいや、じゃあもう一回引くからちゃんと見ててよね」

 

 数秒後、依頼主の的前 優香が放った矢は、的を勢いよく貫いた。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「あ〜だめだぁ〜また3秒前後だ......どうしよう......やっぱりあの引分けを変えたのがダメだったのかなぁ......いや、それならむしろ会のほうも......」

 

 弓道着姿で椅子にうなだれる的前。手にあるのは俺が先ほどの弓を射る姿を録画した際に用いたスマホである。

 何故こうなったのかを的前が自己反省モード中なうちにかいつまんで説明すると、

 

 ある日突然、奉仕部の扉が勢いよく開かれる

→弓道部の部長である2年生的前 優香が現れた!

→的「早気っていうのが治らないから、素人の人にどんなでもいいから感想をもらいたい!!」

→(雪ノ下が二つ返事で)依頼を受ける

→雪「では比企谷くん明日からいってらっしゃい」

→......は?

 

 あと由比ヶ浜も最初は行くと断言していたのだが、武道系に関わるとロクでもなさそうだと感じた雪ノ下がやんわりと抑えていた。俺も抑えてくれて......良かったんだよ......?

 それでも磨き上げられた社畜精神で、1日である程度の予習、そして何よりこの炎天下の中、この俺が、校舎外に出て来たのだ。信じられない。明日に雹でも降りそうなまである。まあ? 結局その素人目からすると、もうすでに完成された形にしか見えなくてさっぱりわからないんですけどね? 八幡、予習役に立たないの巻。ニンニン!

 ちなみに、早気というのは、弓を引ききってから、矢を打ち出すまでの時間が早い症状の事を指すらしい。主に3秒台を下回るものを早気というのだそうだ。

 

「はやけ、ですよね? (あた)ってるのに、わざわざ他人に見てもらってまでして治す必要なんてあります? そのままでいいんじゃありません? あとなぜあえて素人である俺を連行してきたのか説明してください」

 

「よくないよーそれにもし今は当たってても、早気を気にせず打ち続けてたら、いずれ当たんなくなっちゃう人も多いもん。あと素人って聞こえは悪いけど、見たまんまの意見を聞かせてもらえるから、今の私の症状改善のためにはぴったしかなーって」

 

「そういうもんなんですかね」

 

 武を嗜むっていうのは、精神的なものも関わってくるらしいし、そんなものなのかもしれない。

 

「というかさ、比企谷くん。け・い・ご!」

 

「的前さん。比企谷くんは、けいごじゃないんですよ?」

 

「違うよ!そうじゃないって! 敬語! やめにしない?」

 

「いやー......えっと......」

 

「同級生相手に敬語使ってるの私ぐらいなんじゃないの?」

 

「いやぁ......まあ......はい」

 

「だよね、普通に雪ノ下さんとか由比ヶ浜さんにはタメ口だったもんね。それでなんで私にはタメ口じゃないの?」

 

「......言わなきゃダメですか?」

 

「当たり前でしょ。私が納得いかないもん」

 

それ自己中心的な理由やん......

 

「ほーら! 白状して!」

 

「......もと.........からです......」

 

「もと......から.......? え? なんて?」

 

 うんごめん、今のは俺ですら聞き取れなかった。

 

「......的前さんの家が、家元だからです......」

 

「......へ? 確かに昨日自己紹介した時にそんなことを口に出した気はするけど、敬語と一体どこに関係が?」

 

「.......だって家元の娘に男が気安く話しかけでもしているのが知られたら、抹消されそうで......」

 

 おう、にいちゃんうちの可愛い娘になに気安く話しかけてくれとんじゃい! ってな感じで東京湾に埋められそう。

 

「はへ......? ......っ! く......くっくっく......あっはっはっは!!! ひ、比企谷くん......抹消......抹消って!! 世紀末でもそんなことなかなかないよ。あっはっはっは!!」

 

「............」

 

 おいてめえ何笑ってんだ。こちとら結構真剣に悩んでたんだぞ。

 

「あのねぇ、比企谷くん(笑)うちの家はそんなのまっっったく気にしない家柄だし、むしろ両親からは高校生2年生にもなって彼氏1人出来たことない私に心配してるぐらいなんだよ? それを......抹消って......くっくっく、あーダメだ変にツボはいちゃった」

 

 だからと言って、いくらなんでも笑い過ぎじゃないですかね? 八幡泣いちゃうよ?

 

「あー面白い......ということだから、比企谷くん、け・い・ご止めようね。むしろー敬語使ってた方が抹消されるかもね〜」

 

「冗談でもやめてくださいよ......」

 

「む......」

 

 え、なにそのふくれっ面可愛すぎやしません? 以前の俺なら告白して見事振られてるよ? 振られちゃうんだ......

あ......

 

「......冗談でもやめてくれ」

 

「ん、よろしい」

 

 なにこのラノベでよく見るテンプレ。俺じゃなけりゃ軽くハーレムルート突入寸前だね。

 

「よし! 比企谷くんがちょこっとだけ素直なったところでまた頑張りますかー!」

 

「さっさと解決して俺を帰らせてくれ」

 

「はいはい、そーゆーこといわないのー」

 

久しぶりに濃密な放課後を校内で過ごすことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか!
八幡の通う高校に弓道部があるという設定で書いておりますがご了承ください。
それと的前 優香という名前、名字で察した方もいらっしゃったかもしれませんが、弓道用語からきてます。
あと弓道着姿の女子......イイ......!!
では、また次回お会いしましょう


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2. 彼は結構真剣に依頼者のことを考えている。

どうも、草プリンです。
昨日の今日でUAが2000越えてて、なんでこの計画性0のSSなんかが......などと放心してました。
読んでくださった皆さんありがとうございました!
それでは第2話です。どうぞ!!


「ふぁ〜」

 

「あ、お兄ちゃんおはよー。朝ごはん出来てるよーって、うわ......どしたのそのクマ。いつも酷い顔がより醜悪になってるよ?」

 

「まあなんだ、ちょっと徹夜で勉強をな......てか小町、流石に醜悪は言い過ぎだ。せめて目が死んでるとい言え、目が死んでると」

 

「いや、どっちもどっちなんじゃ......ん? お兄ちゃんの高校って最近テスト終わったんじゃなかったっけ?」

 

「あーそういう類の勉強じゃねんだわ。ちょっと色々あってな」

 

「......! ほぅほぅ......色々と言いますと?」

 

「いや、別段小町が気にするようなことではないんだが......」

 

「いいから! 家族、特に妹には、ほう! れん! そう! だよ?」

 

 いつから俺の安楽の地は会社になったんだよ。やだよ、だったら八幡どこでも働いてるじゃん......

 

「まあ聞かれて困ることでもないからいいんだがな、まあかいつまんで話すとーー」

 

 それから俺は、弓道部部長の的前に依頼され、早気という弓道独特の症状を克服させるために、あえて素人視点からアドバイスをすることになったやら、それでもやっぱり知識があるに越したことはないと考え、徹夜をして勉強していたことなど、要点だけ伝えた。んー思い返せばタダ働きなのに、徹夜してまで勉強とか社畜精神パンパじゃねえな俺。

 

「へぇー総体が終わってすぐだって言うのにもうそんなに全開で練習してるんだーすっごいね」

 

 総体......ああ、そういえば世間ではそんなものもあったんだな、すっかり忘れてた。あれ、じゃあ的前って出来立てホヤホヤの部長さんなのか。

 

「で? その部長さんとは?」

 

「とは、ってなんだよ」

 

「だーかーらー未来のお嫁さん候補的には、その部長さんはお兄ちゃんから見てどうなのかなーって」

 

「ぶふぉっ!」

 

 お茶吹いた......。

 

「あ、あのなぁ小町よ。俺が高校に入ってから、これまでないほど女子と関わりを持つようになったからとはいっても、お嫁さん候補とか言うんじゃないぞ。せいぜい友達止まりだ。それに好きでもないやつ、ましてや俺みたいな奴のお嫁さん候補とか誰でも嫌がるだろ?」

 

「......お兄ちゃんそれ本気で言ってるの......?」

 

「あ?本気も何も事実だろ?」

 

「はぁ......こんな鈍感野郎を好きになっちゃうなんて、皆さん苦労するだろうなぁ......妹の小町ですら同情するぐらいだよ......」

 

あっれっれー?おっかしいぞー?天使であるはずの小町たんから、やけにドスの効いた声が聞こえたきがするぞー? かの少年探偵もおもらしするレベルで。

 

「ま、いいや。適当に頑張ってね。相手方に失礼のないように」

 

「お、おう」

 

最近小町がやけに大人びて見える今日この頃。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「ふぃー」

 

 机に突っ伏し、目を閉じる。

 

 今日はあの人の授業もないし、放課後までひたすら寝てやるぜ。お昼ごはん?知らない子ですねぇ......

 

「あ、比企谷くーん」

 

 あ、そういや昨日は奉仕部に戻るの面倒で由比ヶ浜にメールだけいれて帰っちゃったんだった。一度あっちの方にも顔出さないといかんよな......でも行ったらいったで絶対雪ノ下からお小言もらうだろうし、うーん......。

 

「......おーい。比企谷くーん。ねー聞こえてないのー?」

 

 ......いっそバックれてやろうかしらん

 

「ねーってばっ!!」

 

「おごっ!」

 

 後頭部に謎の衝撃!

 なに! 敵襲か?! よっーし野郎ども! 白旗を上げろ!!

 負けちゃったよ......

 

「ってなー由比ヶ浜起こすならもうちょっと優しくできな......どちら様?」

 

 教室で自ら絡んでくるのは由比ヶ浜しか考えてなかったのだが......誰だこの女子、どこかで見たような......

 

「ちょ! 私! 私だよ! 昨日一緒に居たでしょ?!」

 

え、なにそれ。新手の詐欺なの?

 

「んもーヒッキー流石に昨日の今日で顔忘れるとか酷すぎるよ......優香ちゃん、依頼人の子!」

 

おや、今度は本物の由比ヶ浜さんのご登場ですか。

 

「あ、あー覚えてた。覚えてましたとも。そもそも俺が一度あった人の名前を忘れるわけないだろ?」

 

川なんとかさん? 知らない人ですねぇ......

 

「じゃあ、私の苗字は?」

 

「......まと......がみ......」

 

「やっぱり覚えてないじゃない! ま・と・ま・え! 的前優香!」

 

「わ、わりぃ......弓道着姿じゃないからつい......」

 

「いやいやヒッキー、弓道着姿もなにもクラスメイトでしょ?」

 

「..................あぁ......」

 

「ひ、ヒッキーまさか......」

 

「いや、違う。断じて違うぞ。的前がクラスメイトなぐらい知ってるから」

 

「そーだよー由比ヶ浜さん。私は隣のクラスだもーん」

 

おお? だよな。俺は間違っていなかった。うん。ってか由比ヶ浜どうしたんだ? 他のとこのクラスメイトならともかく、自分とこのクラスメイトを忘れるだなんて......熱でもあるのか?

 

「そうそう、的前はやっぱり隣のクラスだよな。うん。俺は知ってたz「この教室のクラスメイトよ! 比企谷くんのばか!」ぐふっ!」

 

こいつ......脳天に容赦なくチョップを.....やっぱり女子って怖い......

 

「ヒッキー......クラスメイトの顔を今になって知らないのは、流石にサイテーだよ......」

 

「はい......」

 

おっしゃる通りでございます......

 

 

 

ちなみに、チョップが地味に効いたせいで熟睡ができなかったとさ......

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

放課後になった

 

パァッン

 

甲高い音が弓道場に響く。

 

「............」

 

 やはり的前は高校生のレベルでは弓道において、ほぼほぼ完成形にあるように思える。徹夜で弓道の知識を取り込んできたからこそ、尚更それを実感させられる。

のだが、それでもやはり......

 

「会、何秒だった?」

「3.16秒」

 

ストップウォッチに表されている数字をそのまま伝える。

 

「あーだよねぇ......」

 

 膝に手をつき、前屈みになる的前。うぉっ......弓道着だから胸元が......しかし、これ......結構でかいな。着痩せするタイプなのな、こいつ。

 

「あ、あーそうだ的前が大三から引き分けてくるときにちょっとだけ力が入ってた感あったぞ?」

 

 やべえ、めっちゃ早口になった。死にたい。

 

「え!ほんと?!」

 

「お、おう。これは関係ないかもだが、表情にも緊張が出てた感じあったし......」

 

「あ、うん。表情......大三......引分け......やっぱりかぁ.....そっかぁ......」

 

「............」

 

 あれ? 俺結構マズイこと言っちゃった? 結構シリアスなお顔をしてらっしゃるんですが......

 

「ねぇ、比企谷くん」

 

「あひぁい」

 

 おい俺。いつにも増してキョドリ過ぎだろ、いい加減にしろ。

 

「早気ってのは、精神的なものから来るのが大部分を占めてるんだ。知らなかったでしょ」

 

「あーいや、知ってる。そんな風にネットに書いてたからな............あ」

 

「え......あ、ふぅん......わざわざ調べてくれたんだ......もしかして、今日やけに眠そうだったのは......それに大三なんて中々知らないものだし......比企谷くんーー」

 

「で、早気の原因が精神的なのが影響してるってのはわかってるから、それがどうしたんだ?」

 

「......ふふっ......ありがとね」

 

 照れ隠しなのバレバレでした☆ 死にてえ。今日俺どんだけ死ぬんだよ。

 

「んーちょっと話すと長くなりそうだし、休憩がてらでいいかな?」

 

「おう、いいぞ」

 

「じゃ、あそこの椅子に座ろっか」

 

「......え」

 

 的前が指差した先にあるのはただの変哲もない長椅子......ではあるのだが、2人はともかく、3人でなんてとても座れないような椅子だった。

 

「ちょ、ちょっと的前さん?もっと違う椅子は......いや、なんだったら俺だけ床に......」

 

「んーなになにー?恥ずかしいのー?へぇー比企谷くんにもそういうピュアな一面あるんだーへぇー」

 

「......うるせぇよ」

 

「大丈夫大丈夫、私は気にしないからさー」

 

「いや的前は良くても俺の方が......」

 

「はーいはい、そんな恥ずかしがらなくていいからいいから」

 

「ちょっ、おまっ!」

 

 強引に手を引っ張てくる的前。

 

 ふと見えた横顔がほんのり紅くなっていたのは、この暑さのせいなのだろう。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「じゃあまずはどこから話そうかなぁ......」

 

「俺的には、早気の原因を一番に聞きたいんだけど」

 

「あーうん......やっぱりそこくるよね......」

 

 やはり他人には話したくないことなのだろうか。心なしか的前の顔色が優れないようにも見える。

 

「なぁ......やっぱり話したくないんなら別に無理して......」

 

「ううん、いいの。自分から話すって言った手前だしね。それに依頼を請け負って、その上徹夜までして弓道のこと勉強してもらってるのに私が原因を話さないのはあれだしね......」

 

「そうか」

 

「うん......」

 

 そして的前は2、3回ほど深呼吸をしてからこう言った。

 

「私ね。実は弓道......そんなにしたくないんだ......」




はい!いかがでしたでしょうか!
前回に引き続き短いですね!
依頼主からの突然の告白に八幡はどう答えるのか...!
続きはまたいつか!!では!!


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ヒロイン設定等々

どうも!草プリンです!
3話も投稿しておきながら、ヒロインの的前ちゃんの容姿とか、その辺の説明が全く無いというバカやらかしてたことに今更気づいたので、ここでネタバレしない程度にあらかたの設定書いておきます。


(3話時点)

的前 優香

17歳 9月10日生まれ B型

総武高校2年F組所属 弓道部部長

弓道段位 弐段

身長 162cm 体重51kg

スリーサイズ B86 W62 H83

髪型 ストレートミディアム

髪色 黒色

弓道の家元の門下生。

弓道を始めたのは小学2年生の頃からであるが、体格の問題もあり、小学5年生までは主に体幹を鍛えていた。

7月の中旬に行われた、高校生総合体育大会で3年生が引退したのを機に、キャプテンに抜擢される。(なお、大会結果は県内ベスト8)だがその数日後、とあることが原因で早気になり、当時的中(矢を、決められた数撃ち、内の当たった本数)

に影響は無かったものの、今後のことを心配して依頼という形で奉仕部へと赴いた。

そこで初めて比企谷八幡と出会う。

 

 

......このぐらいですかね?

もしまだ疑問点があったら言ってください。追加で書き込みます。

 

 

おまけ

 

弓道の基本、射法八節

弓道には射法八節、その名の通り大きく分けて8つの手順を踏み、それを一連の動きとしています。

 

と言っても私もよく知らない部分多いんですけどね!!!

 

1.足踏み

これは矢を射る際の前準備みたいなもので、足を自分の矢の長さ程度(肩幅ぐらい)まで開くことを指します。ポイントとしては身体をぐらつかなくなるよう意識して足を開きます。

 

2.胴作り

腰に両手を当て、身体の動きを安定させます。両手足を開いたバージョンのあたり◯え体操のようなもの、と考えてもらうと幾らか想像しやすいかと思われます。

 

3.弓構え

次の手順である、打起こしに持っていく為の準備動作のようなものです。

腕を輪っかのように開き弓をつがえます。イメージしやすく言うと、樽を抱え込むように、といった例え方があります。この時点で的の方に顔を向けなけれないけません。

 

4.打起こし

3の弓構えから頭上ちょっと手前ほどまで弓を起こしていきます。ここらあたりから、某ブラウザゲームの大食い艦などで連想できるのではないでしょうか。

 

5.引分け

肩甲骨を意識しながら身体全体を使って、弓を引き分けていきます。弓を射る、と聞けばほとんど人がこの部分を思い浮かべるのではないでしょうか。

ちなみに作中で出てきた大三というものは、射法八節ではないので出てきませんが、4と5の間にあたります。

 

6.会

引分けきった後、5秒ほどその状態で静止します。的前ちゃんを悩ませている早気は、この会の時間の長さの短さからです。

 

7.離れ

矢を放つと同時に、弦を引いていた手を身体で大の字を描くようにして離します。

このとき、自分の意思では腕をあまり動かさず、矢を放った反動で腕を後方へ振ります。

 

8.残心

矢を放った直後の体勢を維持し、数秒ほどその状態で静止します。もし的に矢が当たったからといっても、はしゃいではいけません。

 

と、弓道現役の人たちからすると、なにこいつ自信満々に語ってんだよ。一つもあってないわ。と思われるてる可能性がありますので、そこはコメントで優しくかつ、厳しく指摘してください。

 

本編は明日か明後日に投稿するつもりです。では!!

 

 

 

 

 

 




はい!というわけでやっとこさ的前ちゃんの容姿が明らかになりましたね!
おまけもいかがでしたでしょうか!
こう見えて私弓道部の......マネージャーなんです!!
......え?私が女?安心してください男マネですよ。


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3. 彼の周りはいつだって予想外でできている

投稿めっちゃ遅れました。休日は執筆スピード&質が落ちるという衝撃の事実。すいません。
あとキャラ紹介放り込んだ直前の話の終わり方が、「私......弓道そんなにしたくないんだ......」と的前ちゃんがちょっとシリアス展開を漂わせていたとこだったんでもやもやしてた人は申し訳ない。
またあのセリフから始まります
では、3話です。どうぞ


「私ね。実は弓道......そんなにしたくないんだ......」

 

 なん......だと......って

 

「いやいやいやちょっと待て。辛くなったら誰だってしたくないことができるのはわかる。とてもわかる。でも、だったらなんで奉仕部になんかに依頼を」

 

「ち、違うの!......確かにさっき言った通り弓道がそんなにしたくないのは本当。でもそれは現在の話であって、弓道は今も大好き。もちろん早気を治したいって心から思ってる。けど......」

 

 ......あーなるほど、原因だけは大体把握した。

 

「......家の都合か」

 

「......うん」

 

 やっぱり家元の娘ともなると色々あるのだろうか。流派絡みのゴタゴタとかあるだろうし、両親は優しいと話してはいたが、弓道に関しては無論厳しい部分もあるのだろう。うーむ、専門外すぎる上に、家までそれも、流派の本家ほどのものが絡んできてるとなるとこの依頼、やすやすと俺を解放してくれないんだろうな......帰りたいでござる。

 

「......ねえ比企谷くん、やっぱりこの依頼の件、無しにしてもらえないかな? 比企谷くんにはここまで付き合ってもらって本当に申し訳ないんけど、なかなか解決できそうにないよ......あのね、正直私、早気なんてすぐ治るし大丈夫って楽観視してた。周りのみんなも早気なんて意識したら数日で治ることも多いって言ってたからだと思う。その結果がこの有様。このまま依頼を続行させるとしばらくの間迷惑かけることになるだろうから......」

 

「............」

 

 ああ、そうだな。

 

「却下だ」

 

「えっ......な、なんで?」

 

「そうだな、理由を挙げるとすればだな、まず一つ目、依頼の取り消しがいくらそっちからの願い出だとしても、のこのこ奉仕部になんか帰ったら十中八九雪ノ下に数日間いじられるから」

 

「え」

 

「次、徹夜してまで得た知識を活用せず水の泡にしたくないから」

 

「う"......」

 

「あとはこの空間も結構新鮮だし、そんな悪くは......あ、いや今の無しなんでもない」

 

 なに口走ってんだ俺。こんなの絶対に、あ、ごめん、そういうのマジで無理だから。って言われて振られるじゃん。告白すらしてないのに振られちゃったよ......

 

「っ......!!」

 

 ヤバい、顔を真っ赤にするぐらい怒ってらっしゃる。これは殴られるパターン。

 

「ふ、ふーん......こんな依頼でもまだ比企谷くんは続けてくれるんだ.....ひ、比企谷くんも弓道も良さがわかってきてくれたのかな! ......あ! 今日は家の近場のスーパーでブロッコリーのタイムセールがあるんだった! 比企谷くんごめん!私はもうこれで帰るね!」

 

「え、あ、お、おう」

 

 話を突然捲し上げたかと思うと、的前はバッと椅子から立ち上がり、ぱたたっと更衣室の方へ駆けていった。

 ......結局依頼を続行するかどうかうやむやになって聞けなかったな。まあいいけど。

 というかあいつブロッコリー好きなのか......

 

「あ、的前の奴、弓に弦張りっぱなしじゃねえか、しゃあねえな」

 

確か弓の弦をつけっぱなしで放置しとくと良くないんだよな。的前よ、怒りに任せて後片付けを疎かにするとは情けない。

 

「こ、こうでいいんだよな......?」

 

 弦を外し、弓立に弓をかける。外す時にかなりしなったから折れないか心配だったけど、頑丈さパンパじゃねえなこれ。

 

んじゃま、依頼主がLOSTしたことだし、俺も帰りますかね......今何時だっけ

 

「......うげ、もう7時近いのか、小町に連絡入れとくか。まあ時すでに遅しだろうが」

 

(悪い連絡遅くなった。今から帰るわ)

 

「っと、これでいいか、帰ろ」

 

ピロロン♪

 

いやいやいや小町たん。いくら俺の帰りを待ちわびてるからって返信早すぎない?受験生がそんなに携帯触るのはお兄ちゃん、ちょっと見過ごせないなー

 

(お疲れ様ー遅くなったのは、朝に言ってた部長さんとの練習絡みかな? ちゃんと送り届けてあげた? あげたよね? うん! お兄ちゃんがドヤ顔で「おう」って言ってる姿が目に浮かぶよ! お兄ちゃんが成長して小町嬉しい!)

 

(ちゃんと送り届けてあげること)

 

(わかった?)

 

「............」

 

ポチポチポチ......

 

(悪い。帰宅するのもうちょっと遅れる)

 

(はーい。頑張ってね〜)

 

......的前出てくるの待つか。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「あーーーーーーー」

 

 もうもうもう、なんなのなんなの、比企谷くんったら!

すごく捻くれてると思ってたら、急に素直なこと言い出すんだもん、あんなの反則だよ......

 こっちは思わずスーパーでブロッコリーのセールがあるとか意味の分からないこと言って逃げてきたし、これ絶対変なやつだって思われたよね......

 

「はぁ......」

 

 結局依頼の件もうやむやにしちゃってるし、どうしよ。

 

「あーもう、やめやめ! こんなにうじうじしてるから早気が治んないんだ! 着替えて帰ろ! ......あ」

 

 比企谷くんにさよならのあいさつ、ちゃんとできなかったなぁ......

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「......お」

 

結構早かったな。弓道着とかだからもうちょっと着替えるの時間かかると思ってたけど、案外着脱は楽だったりするのかしらん。

 

「おーい的前、送っていくことになったから帰うぜ」

 

「え、あれ? 比企谷くん? もう帰ったんじゃなかったの?」

 

「いやちょっといろいろあってだな、本来の俺ならチャリに跨って帰路についてるころだったんだが......」

 

「いや、そこは嘘でも心配とかそんなこと言っとこうよ......」

 

「まあ細かい事は気にしないでいいから。俺はもう腹が減りすぎてやばいから、さっさと晩飯を食いたいんだわ」

 

「う、うんじゃあ帰ろっか。......あ、弦外すの忘れてたから比企谷くんちょっと待っててくれる?」

 

「ん? ああ、それならもう外しといたぞ」

 

 ドヤァ......俺だって多少は気が利く男なんやでぇ? なんだこのエセ関西弁。

 

「え、うわわ、ほんとだ、いつの間に。なんだかごめんね?依頼の事でもないのに......ありがと」

 

「お、おう。じゃあ帰るか......」

 

「うん!」

 

うーん、こう素直に感謝されるとむず痒いな......

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「へ、へぇ......的前の家ってここら辺なんだそうかぁ......」

 

「そーなんだー。もう30mも歩いたら着くよ、比企谷くんはどこら辺なの?」

 

「い、いや、他人に家のことは教えちゃいけないって妹にキツく言われてるからちょっと無理」

 

「あ、あはは......親じゃなくて妹さんに言われてるんだ。というか比企谷くんも妹いたんだね」

 

「も、ってことは的前もか?」

 

「うん、中学一年生の妹がいるんだー可愛いんだよねーこれが」

 

「わかるっとってもわかるぞ的前」

 

「おりょ? お兄ちゃん?」

 

「妹ってのはほんとにいいもんだ、もう一生嫁に出してやらないと思えるぐらいにはな」

 

「お、おーいお兄ちゃん」

 

 ほら目を閉じれば愛しの妹の声が聞こえてくるだろ?

 

「やっぱり妹は最高だぜ!」

 

「お、お兄ちゃん......小町今、ちょっと、いやかなり引いてるよ......」

 

「あ、あれぇ?」

 

 いやん小町たん......いたの?

 

「い、いや、小町これは言葉の綾で、というかなんでここに」

 

「コンビニでアイス買って来た帰り。あと言葉の綾って言ったらなんでも大丈夫な訳じゃないからね。で、こちらが例の部長さん?」

 

「お、おう」

 

「初めまして、こちらの目の死んでる比企谷八幡の妹の比企谷小町って言います」

 

 目の死んでると言えっていったの採用されちゃったのね......

 

「こちらこそ初めまして、的前優香って言います。よろしくね小町ちゃん」

 

「こちらこそ、こんな目の死んだ兄ですがよろしくお願いいたします」

 

「うわぁ、これ本当に比企谷くんの妹? 礼儀正しいし目が濁ってないよ?」

 

「おいこら喧嘩売ってんのか」

 

 あと初対面の人間の前で目の死んだとか、そんな汚い言葉使う人を礼儀正しいとは言わない。

 

「いやぁ、でもこんな可愛い妹さんがいたのかぁ......ん? 小町ちゃん、さっきコンビニ帰りって言ったよね?」

 

 おい小町待て気をきかせて、兄のこの必死のお目目を見て? 死んでるでしょ?

 

「え、言いましたけど」

 

 ......諦めよう

 

「......比企谷くん」

 

「あ、はい」

 

 目が笑ってらっしゃらない

 

「ここ私の家なんだけど」

 

 的前が指差す先には、洋風の小綺麗な家が。

 

「比企谷くん家,どこ?」

 

「......ここの十数軒隣です」

 

かなり家近かったですまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅かったから分量あると思った?残念!いつもと変わりません!!

いやもうほんとすいませんでした。許してください。
今度は執筆ちゃんとやるんで(絶対にしない)
ではまた次回でお会いしましょう。


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4. 彼は彼女に罰として条件を言い渡された

やっぱり平日は最悪だけど最高。休日より平日の方が執筆が捗るこの草野郎はどMなんですかねぇ......?
あと気づいたらUA10000いきそうで禿げました。皆さんありがとうございます。


「的前って名前に聞き覚えあるなーと思ってけど、近所の人だったんだねー納得だよ」

 

「そうだな」

 

「にしても的前さんめちゃくちゃ美人だったねー可愛さも兼ね備えてるし、それでいて弓道部の部長さん、スペック高いなー」

 

「そうだね」

 

「小町あんな人がお姉ちゃんになってくれたらうれし......ねえお兄ちゃん聞いてるの?」

 

「おお、聞いてる聞いてる」

 

「そう、じゃあ小町に一万円くれるんだね? ありがと。」

 

「ごめん、ちょっと待って真面目に聞いてなかった。俺の財布からこれ以上札を奪わないで」

 

「嘘だってば。はい、アイスの棒捨てといて」

 

「おのれ小町、計ったな......」

 

 脇にあったゴミ箱に狙いを決めてシュッートッ!!!......外れた。

 

「あのさぁ......なにもそこまで深刻に考えなくてもいいんじゃない?お互いの家が近かったってわかっただけじゃん」

 

「違う、違うんだ小町。俺が悩んでるのはそこじゃないんだ」

 

「じゃあなんなの? お兄ちゃんが的前さんに、ご近所ってことを頑なに隠匿しようとしたのがバレて、お叱りを受けたこと?」

 

「確かにあれは恐怖ではあったが......」

 

 いやほんと目が笑ってませんでしたからね?あの時の図を言葉で表すのなら、女豹に睨まれた引きこもり。圧倒的敗北。

 

「俺が言いたいのは的前が、

 

「じゃあ、明日から一緒に登校しない?いやー近くで知り合いが通学してないから寂しかったんだよねー、一緒に通学してくれると嬉しいなー」

 

と、一緒に通学しようと強せ......いや、お誘いしてきたところだ」

 

「強制って......あの言い方だと別に強制じゃないでしょ。あんなに可愛い同級生と一緒に通学できるなんて、一般男子高校生なら普通は舞い上がってるんもんじゃないの?」

 

 いやあの頼み方はほど強制に近い。

 

「確かに的前がかなり可愛い部類の女子ってのはわかる。だが、そこなんだ、そこが原因なんだ」

 

「ごめん、一般人である上に女子である小町には意味がわからないよ......」

 

「勝手に俺が一般人外みたいな言い回しやめてくない?」

 

 じゃあなに? 俺は一体なんなの? 比企谷八幡っていう固有種なの?

 

「で? 仮にお兄ちゃんが一般人で、可愛い女の子のお誘いに難色を示すごみいちゃんだったとしても、小町にはわかんないから説明してくれる?」

 

「いや、一般人の後いらねえから。まあいいわ、簡潔に述べるとだな、俺みたいなカースト最下位のやつが美少女と登校すると、美少女が心配され、逆に俺が貶されるから」

 

「......ごみいちゃんがそこまで酷い状態だったなんて......もうこれはごみどころかPM2.5だよ......」

 

 おいだれが粒子レベルに存在する公害だよ。そこまで多くねえからせめて花粉にしろ。

 

「あのねぇ......向こうからのお誘いなんだから、的前さん自身は気にしてないってことなんだよ? あとはお兄ちゃんが貶されるかどうかって話なんだし、断る理由なんてないでしょ?」

 

「ごめん大いにあり過ぎて困ってる」

 

 いや確かに貶される点においてはどうでもいいんだが、今の言い分はさすがに理不尽。

 

「はぁー埒があかなそうだからもういいよ。小町は寝るから。もし明日的前さんが迎えに来てくれたりしたらちゃんと一緒に行くんだよ? いいね?」

 

「わかった、わかったから」

 

「よろしい、んじゃおやすみー」

 

「おう、おやすみ」

 

 んじゃま、俺も寝ますかね。

 

 小町が退いたことで、身体の沈みが浅くなったソファーから立ち上がる。

 

 あれ? ソファーの沈み具合を逆算すれば、体重がある程度わかるんじゃ......?

 

「ねえお兄ちゃん」

 

「あひぁい!」

 

 あれ、もしかしてバレた? 俺、死ぬの?

 

「一緒に通学するのが恥ずかしいなんて、男子高校生たるお兄ちゃんにはありえないよね」

 

「............え」

 

「んじゃね〜おやすみ〜」

 

 扉がパタン、と控えめな音を立てて閉まり、リビングに静寂が訪れる。

 

「......んなわけないだろ」

 

 なぜ暑くなったのかもわからない顔の火照りを冷ますには、いささかこの季節は役に立たなさそうだ。

 

 

 

 

 

 




はい!3連休での汚名をそそごうかと努力した結果ですが、いかがでしたでしょうか!

もう内容の短さについては触れないでやってください(自分から触れてただけ)
今回は弓道成分0でしたがお楽しみいただけたら幸いです。
ではまた5話で!


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5. 彼は依頼のおかげで変化の兆しが見え始めた。

アイエエエエエエエエエ?!ナンデ?!UA13000ナンデ?!

どうも草プリンです。UAと評価点がやけに高くて疑心暗鬼になりそうです。ありがとうございます。
ちなみに、まあこのガバガバ設定のssを見たらお分かりかと思いますが、清々しいまでの見切り発進です。今更感ハンパないですね。書いた理由?昼夜逆転を治すためです。ああ、もちろん治ってませんよ。最近は古典的ながらも羊数えて無理矢理寝てます。どなたか眠気を促す良い方法知ってるのなら教えてください(切実)
教えてくださった暁にはこのSSの投稿速度が1/2以下になる特典をプレゼントします!

では5話です。どうぞ!


人生とは不条理そのものである。いずれ神は人を見捨て、酷たらしくも終わりを告げるのだ。

そしてまた俺も−

 

ピンポーン

 

終わりを迎えていた。

「いやいやお兄ちゃん、もう4回ぐらいインターホン鳴ってるって、絶対的前さんだって、さっさと出なよ」

「いや、これは昨日の俺たちの会話を盗聴してた第三者が俺の命を狙ってきてるに違いない」

「あのねぇ、昨日の今日でこんな朝からインターホン鳴らしてくるの、的前さんしかいないでしょ。なに一端の男子高校生が恥ずかしがってんのさ、キモイよ」

「いや、決して恥ずかしがってなんかないぞ。これはそう、あれだ、武者震いってやつだ」

「あ、そんなのいらないから。もうお兄ちゃんが出る気ないのなら小町がでるね。はーい、ただいまー」

「ちょ、まて、そもそも俺はまだ一緒に登校するなんて−」

「あ、やっぱり的前さんだった。うちのごみいちゃんが渋っててでるのが遅くなっちゃいました。すいません」

「んーん、全然大丈夫だよ。それよりこっちこそごめんね?いくら昨日から家に行くって言ってたとしても、朝から押しかける感じになっちゃって」

「いえいえ、そんなそんな。こちらとしては毎日通い詰めてもいいんですよ?それで、やっぱり今日はお兄ちゃんと一緒に登校するために?」

「そうそう。お誘いにやってきましたー」

「わっかりましたー!呼んできますね!......はぁ、全くあのごみいちゃんはこんな可愛い同級生さんがいるのになんで渋るのかねぇ......お兄ちゃーん!的前さんきてくれたよー!」

「......ああ」

まったく、人生とは不条理である。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「もーなんでそんなに私と一緒に登校するの渋るの?登校するの早かったとか、そんな感じの事ならこっちが合わせるよ?」

「いや、別に登校する時間帯とかはいつもとほとんど変わらねえから大丈夫なんだが......」

やはり周りから好奇の目で見られるのが辛い。とても辛い。白い目で見られるとかならいいんだけど......

「ねえ私のこと嫌い?嫌いなんだったらハッキリ言ってよ......」

うわぁ、女子の固有技「ねえ私のこと嫌い?」だぁ......

「い、いや、そんなことはないけど......」

「あー!いま面倒くさいやつって思ったでしょ!」

「......ちょっとな」

「そこは嘘でも思ってないって言ってよ?!」

面倒くせぇ......

「いやまあ、むしろ嫌ってるどころか好感度TOP10にランクインしてるまであるぞ」

知り合いが居てもせいぜい十数人だからな。

「えっ.....わ、私そんな上位に食い込んでるの?」

「おう」

知り合いがいないからな。

「へ、へぇー......そうなんだー......」

「ま、というわけで嫌ってるわけではないから気兼ねなく早気を治していいぞ。そんで俺をさっさと自由の身にしてくれ、外は暑くて敵わん。あと結構暇」

こんな暑苦しい季節に、青春だー!!とか言って、グラウンド走り回ってる奴らは控えめに言っても異常。やっぱりインドア派って最強だと思うの。

「はぁ......捻くれ発言で台無しだよ......」

「そりゃどうも」

「あ、暇で思い出したんだけど、比企谷くんもどう?弓道一緒にしてみない?」「は?無理無理、金もかかるし、もうちょっとしたら総体終わって休んでた連中もそろそろ部活に来るんだろ?どう考えても浮くだろ」

「そんなことないよ。ちゃんと事情を説明したら、わかってくれるだろうし、弓道具だって粗方揃ってるもん。正規部員になってなんて言わないから、せめて体験入部みたいな形でさ、どう?」

「どうと言われましても......そもそも俺、奉仕部に入ってるしあれだろ」

「そこは平塚先生に頼み込んでみるから!ね?」

「まああの人がそうそう許可を下すとは思えないが......まあもし話が通ったら小町に相談した上で考えてみるわ」

「そこでやるって言わないあたり卑屈だよね」

「卑屈言うな、リスクマネジメント上手なだけだ」

まあこのぐらいの期待は持たせてもいいだろう。どうせ平塚先生とか雪ノ下が許可しないだろうしな。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「ん?いいじゃないか?いろんなことを学生のうちに体験しておいて損はないからな。そもそも私が比企谷を奉仕部に入れた根本には更生の意もあるし、いい変化があると思うよ」

 

「弓道部に体験入部?いいんじゃないかしら。いまこちらの方で受け持ってるまともな依頼は的前さんの一件だけだし、きちんと依頼を完遂してくれるのなら基本的に比企谷なんてどうでもいいわ。むしろ武道の精神であの捻くれた性格を治してほしいぐらいだわ」

 

「ひっきーが......運動部に体験......入部......?あっはっは!ありえないありえない!......今日ってエイプリルフールか何かだっけ?」

 

「って言ってた!」

「............あぁ」

さよなら、俺の平和な日常。

平塚先生はもちろん、雪ノ下の言ってることも正しいっちゃ正しいし、真っ向から反論できる余地がないのが正直な感想ではあった。だが由比ヶ浜、さすがに失礼過ぎるし、お前にそうやって言われる筋合いはねえよ。

「むっふっふーどうさこの的前優香様の匠な話術は」

「ほんとだよ、雪ノ下は百歩譲っていいとしても、奉仕部の顧問でもあるあのお固い平塚先生を一体どうやって納得させたんだよ」

「え?といっても比企谷くんをうち(弓道部)に(体験入部という形で)ください!って言っただけだよ?」

「あぁ......なるほど」

あの人絶対親になった気持ちでいるよ。

しかも、結婚すっ飛ばして子供持ちだし、その上成人になっちゃてるよ。どんだけ結婚願望あるの......

あと平塚先生、残念ですがそのセリフ、立場的に父親が言われるセリフなんですよ。平塚先生まじビックファザー。

「じゃ、今日から弓道部員としてよろしく!」

「いや、体験入部員だから。そもそも小町にまだ相談してねえから」

まあ結果は火を見るよりも明らかなんですがね......

 

(いろいろあって周りから弓道部に体験入部しろと催促されてるんだが、小町的にはどう思う?俺の帰りが遅くなったり、俺の帰りが遅くなったりで、小町を寂しがらせちゃうかもしれないんだけど)

(おー是非入った方がいいと思うよー)

(俺の帰りが遅くなってもいいの?ねえ?いいの?)

(入って)

(あ、はい)

 

 

知ってた。

 

「小町ちゃんはなんて?」

「予想通り見捨てられた」

「ま、まあまあ、してみたら楽しいって弓道」

「わかってるわかってる、ここまできたらちゃんとやるさ。むしろここで拒否ったら絶対あいつらに蔑まれるからな」

「あ、あはは......比企谷くんも大変なんだね......知らないくせして、強制するみたいになっちゃってごめんね」

「いや、いい。理不尽なのには慣れっこだからな」

「う"......それなんのフォローにもなってないよ」

「だってフォローしてないからな。ほら弓道場行くぞ」

「あ、ちょ待ってよ、捻くれ谷くん!」

「おおん?おちょくってるっていうんなら弓道やらねえぞ?」

「嘘!嘘だから!ね、行こ!」

「はいはい......」

依頼?知らない子ですねぇ......いや知らないじゃねえよ、ほんともう意味わかんない。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「薄々思ってはいたけど、やっぱすぐには弓で射てるわけではないんだな」

俺の手にあるものは、弓のように弦があるわけでもない、ましてや弓の形ですらない。ただのプラスチックの棒の先端にゴムをぶら下げた謎の物体。

「当たり前だよ。もしどうしても射つっていうんなら止めはしないけど、矢じゃなくて耳が飛んでいくかもよ?」

「またまた〜ご冗談がうまいんだから〜」

「冗談じゃないんだよねーこれが」

「まじで?」

怖えぇ!弓道超怖ええええ!

「うん。まあ耳が飛ぶって言うのは言い過ぎだけど、縫う程度の怪我の恐れはあるよ。それもちゃんとゴム弓で、あ、今比企谷くんが持ってるやつね。それで射形とか云々を身体に叩き込むの」

よかった。まじでよかった。耳がまじで飛ぶとか言われてたら、八幡確実に夜逃げしてた。しかしこれゴム弓っていうのか......そのまんまの名前だな。

「で、これを弓に見立てて射法八節を習って練習すればいいんだな?」

「そそ、じゃあ一応射ってもらう前に射法八節が全部言えるかどうが試してもいいかな?」

「ん?まあいいぞ。まず、足踏みからだろ?そんで、胴造り。そこから弓構え、打起し、引分け、会、離れ、最後に残心。それで合ってるよな?」

「うん、バッチリ。さすが徹夜してまで覚えてくれただけあるね」

「まあ基本中の基本中だしな、覚えようと思えばすぐだろ」

「んーまあ基本ではあるんだけどね。でも最初から知識があるとないとでは、やっぱり違ってくる部分も多いから、いきなり射法八節を言えた比企谷は凄いと思うよ?」

「お、おう。さんきゅ」

努力したことをこうも素直に褒められるとなんだかむず痒いな......

「じゃ、次はさっき言った射法八節を念頭に置きつつ、一度引いてもらおっか」

「え、大丈夫?耳飛ばない?」

「飛ばないよ......どうやってたら人が引いた程度のゴムで耳が飛んでいっちゃうの......腕にゴムが当たって、赤く腫れるかもしれないぐらいだから」

......弓道って、怪我とはかなり無縁なスポーツとか思ってたけど、結構ハード?

俺どこで選択間違えたっけ......それとも俺がもやしっ子なだけなのかな......

「ほーらビビってないでチャチャっと引く!」

「ウィッス」

神よ......どうかこの八幡をお護りください......あ、もう既に今日の朝っぱらに捨てられてたわ。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

数十分後

「んー比企谷くんほんとに中学の頃弓道してなかったんだよね?」

「だから何度言ってるだろ?そうだって」

「まあ比企谷くんと私は中学一緒って言うし、弓道部に入っていないのは自明の理なんだけど......」

結果から言うと俺は、

「だとしたらこれは弓道の素質があるとしか......」

「地味という共通点があるからだろ」

「それ、私だからまだいいものを、弓道部員の前では絶対言わないでね?振りじゃないからね?」

初心者にしてはかなりうまい部類に入るやつらしい。

あと他の弓道部員とすぐ仲良くなれるほど社交性ないんで安心してください。

「比企谷くん、体験入部とかやめて正式に入部しない?付きっ切りで教えて、みんなに追いつかせて見せるって約束するから」

「やだよ。そもそも依頼はどこ行ったよ。まずはお前の早気からだろ。俺は自主練しとくから、的前も射ってこいよ」

付きっ切りで教えるってところにちょっとキュンとしました。

「そこを突かれるとアレなんだよねー.....わかった、こっちはこっちで練習してくるから、わからないことあったら遠慮なく呼んでね?素質があるとは言ったけど、まだ弓道始めて数時間程度の初心者なんだから」

「りょーかいりょーかい」

「もぅ、ほんとにわかってるのかな......」

一人ごちりながら射場へ向かっていく的前を背に、俺は、まだ十数回ではあるがコツを掴みつつある自分に、心の中で苦笑いした。

 

結構楽しいじゃねえかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




5000文字ぐらい頑張ったつもりだったけどダメでした。罵ってください。
あといろはまだ出ねえのかよって思われてるかたがいると思いますが、もう少々お待ちください。なんとかします。
5話でした。いかがでしたでしょうか?
前回はほとんど弓道要素含められていなかったので、今回は結構多めにしてみました。お気に召して頂ければ幸いです。
ではまた6話でお会いしましょう!


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6. 彼は弓道部員に自己紹介させられた後、爆弾を放り投げられた

見切り発進故にそろそろ毎日更新きつくなってきました草プリンです。いずれ二日に一回更新の日がやってくると思います。
あとこの場で、自分が凄まじい失態を犯していたことをお詫びします。簡潔にいいます。いろはの登場があんなに遅いとは思ってませんでした、原作読み返して放心してました。
活動報告に詳しいこと書いてますので、良ければそちらの方でコメントください。あなたのコメントが一色いろはを変える......!

はい、茶番です。6話どうぞ。


「くそぅ......的前め、ハメやがって......」

「いや、ハメてないから、体験入部してる人を部員に紹介するのは普通でしょ?」

「うぐぐ、しかしだな、俺はまさか弓道で実際に矢を射つまで、こんなに時間かかるとは思ってなくてだな」

「はいはい、今更見苦しい言い訳はいいからいいから。ほら、みんな集合したからいくよ」

 

 

あれから四日後、総体から休みだった練習が再開し、その練習初日の今日、物陰でひっそりと練習する予定を立てていた俺は的前に発見された後連行され、

「えっと、もうみんな知ってると思うけど、今年から弓道部の部長を任されることになりました、的前優香です。私とみんなにとって悔いの残らない一年にしたいと思っているので、よろしくお願いします」

二十数名いる部員が声を揃えて、よろしくお願いしますと返す。あら、結構信頼されてるっぽい。

「えーっと早速練習、といきたいところですが、休みの間に体験入部してる人ができましたー!」

的前が手で、俺を自己紹介するよう促す。

「えー体験入部することになった二年F組の比企谷八幡です。よろしくお願いしましゅ」

自己紹介で噛むという醜態を晒していた。死にたい。

 

まあ当然ではあるが、部員からはなぜこんな時期に、それも二年生が体験入部?と怪訝そうな顔つきで見られたものの、よろしくお願いしますや、おー体験入部かー、うわぁ......目が死んでる......などと、反応がまばらに聞こえてきたので、どうやら歓迎されてないというわけではないらしい。というか誰だよ目が死んでるとかいったやつ、ぶっ飛ばすぞ。

「みんなが休みのうちに、私が指導をちょこっとだけやったんだけど、比企谷くん、結構素質あるよ〜?一年生は気をつけたほうがいいかもね。二年生は早々抜かれるなんてないと思うけど、頭の片隅には置いてたほうがいいかも」

いやいや的前さんそういうのやめてくれません?今の言葉で部員さんの俺を見る目が明らかに変化したんですけど。

「的前さんが褒めるとかどんだけ化け物なんだ......」

とか聞こえてくるんだけど、じゃあ的前は化け物を超越した何かなの?もしそうなら本当に俺に依頼する必要ありました?

「でも比企谷くんはまだ始めて数日程度なので、気づいた点があったら是非指導してあげてね。といっても基本的に私がしばらく付きっ切りで指導するつもりなんだけど」

「ちょっと待て的前、その言い方はよせ。俺にとって絶対よくないことが起こるから」

主に男子から。

「的前さんに付きっ切りで......比企谷八幡......許すまじ......」

ほらぁ?言った通りになったじゃないですかやだぁ。

「?よくわからないけど、そろそろ練習始めます。比企谷くんはまだ真似るだけでいいからやってね」

「え、何を−」

「的正面!礼!」

「え......」

的前の謎の声かけで、部員が的を設置しているところ、的場というんだっけか、に洗練された動きで回れ右をして礼をする。

「脇正面!礼!」

かと思えば先程の向きに直り、再び礼をし、

「「「「お願いします!」」」」

最後にお願いしますでフィニッシュ!!

「............」

ゴメンチョットヨクキキトレナカッタナー......

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「やーごめんごめん。最初に説明しておけばよかったんだけど、みんないるし待たせるのもあれだなーと思ってやっちゃった」

「いや、やっちゃった、じゃねえだろ。あんなの直前に、真似てね?とか言われるだけじゃどうにもならんわ。それに的前が抜けてるせいでさっきのといい、結構被害受けてる気がするんですけど?」

「んもーいちいちうるさいなー悪いとは思ってるけど、男の子なんだからそのくらい許してよー」

「お?結局逆ギレですか?逆ギレなんですか?」

「うー比企谷くんの意地悪!捻くれ者!比企谷!」

「いや、比企谷は悪口じゃねえだろ。しかもそれだと俺の両親、ご先祖様もろとも貶されてるじゃねえか」

「あっ......ごめん......」

「い、いや俺は別にどうでもいいから大丈夫だけど......」

んー的前ってたまに突然しおらしくなるというか、深く落ち込むときがあるんだよなぁ、情緒不安定なのかしらん?

「そう......ん、じゃあ気をとりなおして一発引いてみよっか!」

「う、ういっす」

つってもすぐ復活するから大丈夫なんだろうけど。

 

 

 

ジーー

「.........」

ジーーー

「...............」

なんかめっちゃ見られてる。もんのすごく見られてる。

ちなみに俺の服は制服のまま。そしてその制服ボーイを見続ける20余りの弓道着ボーイ&ガール。

実にシュールかつ不可思議な光景である。

「見られすぎて集中できないんだが」

「あ、あはは......みんな比企谷くんの実力が気になるんだねー、なんでだろ」

犯人どう考えてもあんたやん。家元の娘が素質あるとか言ったら誰でも見に来ますやん。

「的前ってやっぱかなり抜けてるよな」

「いやいや抜けてないよ。一体私のどこが抜けてるっていうの」

「自覚がない時点で大概だと思うぞ」

「えー......っていうか比企谷くんみんなに見られて緊張してるからって、話すり替えて引く気ないでしょ」

「そういう的前は今話逸らしたよな」

「さっさと引く!」

「あっ、はい」

女子の言葉による強制力は反則級。

 

 

「おぉ〜」

残心を終えると同時に、野次の方からやや驚いたような声が聞こえる。

「すげえな、身体の芯が全くぶれてない」「それに大三から会の持っていき方も結構うまかったよね」「そうね。まだ荒削りな部分も見受けられたけど、優香が素質あるっていうだけあるわ〜あれ本当に始めて数日の射形?もうゴム弓卒業してもいいんじゃない?」「ぼっちっぽいなりしてるくせに生意気......」「会のとき目の死にようやばかったぞ」

「ほら!言った通りでしょ?やっぱり比企谷くんは素質あるんだって」

「そ、そうか」

こう大勢に認められると、ちょっと恥ずかしいな......あと後半の二人はあとで絞める。

「なあ的前。さっきの離れの部分がちょっとだけすくい離れ(手を下に切るような離れ)寄りになってたと感じたんだが、どうだ?」

「え?もうすくい離れまで知ってるの?確かにそうだったけど、まだ難しいだろうから言わないでおこうと思ってたのに......普通ゴム弓やってる段階ですくい離れなんてなかなか知らないよ?しかも自己分析までできる、か......私抜かれちゃうかも」

「いや、んなわけねえだろ。このぐらいの奴過去には何人もいただろ?」

なにせ文系部の俺が出来るのである。センス抜群の体育会系のやつなんて軽く俺のレベルを越えるだろ。

「んーそんなことないんだよねぇ......ほら、証拠」

的前が指差す先は、さっきまで俺をガン見してた野次の方向、だがそこに部員は誰もいない。いつ消えたんだあいつら。

「なんでみんないないんだ?」

「たぶん比企谷くんに負けるかもって、思ったんじゃない?まあ私も気を抜いてられないから、ちょっと射ってくるね。今日は練習再開初日ってこともあって、いつもより早く終わるつもりだからそこんとこよろしく。んじゃねー」

「え、ちょま」

シーン...

「............」

悲報

体験入部員、放置される。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「はい、練習お疲れ様でした。今日は久しぶりの練習ってことで、少し早く終わります。明日からいつも通りの練習時間になるから把握よろしくね。じゃ、的正面!礼!脇正面!礼!」

「「「「お疲れ様でした!」」」」

ふっふっふ、今回はなんとかやってやったぜ。ちょっと噛んで焦ったけど。

しかし、人がこうもいると疲れるな、今日はさっさと帰って、先週のプリキュアを2周目せねば......

退室時に、お疲れ様でしたーと部員たちが一言残して帰っていくのに便乗しようと−

「はい比企谷くんストーップ」

「ぐえっ」

背後から襟首を掴まれ、足止めされる。

「なんだよ的前。俺はこれから家に帰ってN◯K教育番組を見なきゃいかんのだ、離してくれ」

「教育番組って、比企谷くんそんなの見てるの?でもどちらにせよちょっとぐらいなら時間あるでしょ?」

「まぁそうだが、というか録画してるやつだから時間自体はいくらでも」

「あ、じゃあ尚更安心だね!」

「安心だね!じゃねえよ一体なんなんだ。俺をどこかに売り飛ばしでもするき?」

「どこをどうとったらそういう発想になるの......このあとさ、私と二人でちょっと街にお出かけしない?」

「......は?」

俺と残ってた部員の時が凍りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、元弓道部から現役弓道部の方から結構コメントいただいております。
主に誤字、修正のコメントなんですがね.....自分の未熟さがひしひしを伝わってくる今日この頃。それでも自分の書いた作品を目に留めていただい上に、コメントをしてくださるっていうのですから嬉しい限りです。また、弓道をしていない方がおられましたら、少しでも触れてみてはいかがでしょうか......!

それはそうと、ついに次回は的前ちゃんと八幡の制服デートが見えるのですかね?!(まだ次回の分一文字も書いてない顔)どんな展開にしてやろうかと試行中ですが、勘のいい方には丸わかりなんでしょうね!!

ではまた次回お会いできますように!


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7. 彼は彼女と下準備にかかる

UA20000いってました!ありがとうございますありがとうございます......!

どうも草プリンです。目を一瞬だけ閉じただけなのに、気づいたら朝になってました。やっと眠気が取り戻せた......?(そういうことじゃない)

あと、最近知人に、
「お前のSS読んだけど、あれって弓道部にしかわかんねんじゃねーの?」
と言われました。対する私の回答は

「じゃあみんな弓道部になればいい」

全人類弓道部化計画...開始!

(※ただし作者はマネージャーの模様)

では7話です。どうぞ!



「高い......高すぎるッ!!俺はもうだめだ!」

「や、あの」

「いいから行け!」

「うるさい」

「あで」

的前の手刀が後頭部に突き刺さる。

「あのねー比企谷くん。だから袴とゆがけ(矢を射る際、右手につける皮製の手袋のようなもの)、あと矢は、うちの道場のお古をあげるって言ってるでしょ?比企谷くんは弦と足袋さえ買ってくれればいいんだって」

「や、最初は俺もそのお言葉に甘えようと思っていたんだが、この陳列されている弓道具のお値段を見るとさすがに......」

一番安いのですら、全部揃えようとしたら最新ゲームハード買えてお釣りがくるとか誰が思うの?それをタダでもらうっていうんだから誰だって遠慮するだろ。

「んーじゃあもう廃棄なのかなぁ......捨てられるらしかったから、ぜひ比企谷くんに引き取ってもらいたっかったんだけど......」

「あ、捨てるんなら心置きなく頂戴致します」

「そう言うと思ったよ、現金さんだねぇ......あ、単純に誰も使わなくて邪魔になっただけであって、別に汚いからとかそんな理由じゃないからそこんとこは安心してね」

「やっぱタダよりいい買い物はないよな」

うんそうだねー矢までもらうんだもん。ならちゃんと射場に上がって射てるようになるまでは弓道してもらわないとね、最低一ヶ月はかかるだろうけど頑張ろうね」

「え"......」

は、ハメられた?!

「ちょ、的前さん、来週から夏休み......」

「お古とは言え矢までもらうんだもん。もちろん射てるまで頑張るよね?」

アカン、このままやと俺の至高の夏休みが弓道に奪われる......!

「そ、そうだ!的前がさっさと早気を治して依頼を達成すれば、弓道をしなくて済むんじゃ−」

「却下♪」

ああ......

「タダより恐ろしい買い物はないとはまさにこのことか......もう絶対にうまい話と的前は信じない」

「いいじゃんいいじゃん。弓道してる時の比企谷くん、少なくとも学校でいる時よりは目が生き生きしてるよ?楽しいでしょ?弓道」

「うぐ、まあ最近はちょっとだけ楽しいと思うようになってはきたが......」

「でしょー?弓道楽しいもん。もういっそ体験入部なんて止めて弓道部に正式に入ってくれてもいいんだよ?」

「さすがにそれはちょっと、な。奉仕部から許可という名の追放受けてるつっても、ずっと放置し続けられねえし。そもそもだ」

やっぱり依頼もこのままってのは、さすがに良くないよな。

「そもそも?」

ちょっと踏み込んでみるか。

「的前が早気を治してからじゃないと、俺は弓道部にはテコでも入らねえ」

「う......そこでそのネタを持ち込むのは反則だよ......よし、もうここでこれ以上お喋りしてもお店の邪魔になるだけだし、弦と足袋買って帰ろっか」

やっぱりか、今の話の逸らし具合からして、ふむ、タイミングもいいしここいらでいっちょ聞いておくか。

「なあ的前、隠すのはもうやめよう」

「えっ......何を、かな?」

あーこりゃ黒だな。

「......お前、早気酷くなってるよな?」

「......比企谷くん、一回買うもの買ってからお店でよっか」

「あいよ」

俺たちは店を後にした。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

弓道具店から出たすぐの公園のベンチに二人で腰掛る。公園内に遊具などがあるが、すでに6時を回っているため、子供の影はなく、恐らく俺と的前しかいないだろう。的前の真剣な表情からして、このぐらい静かな空間の方がちょうどいい。

「んーどこから話せばいいのかな......」

「できれば少し前に、的前が弓道をしたくないって言った理由から頼む。なんだかんだいってあれもうやむやになってたからな」

「ん、わかった」

 

そこから的前は早気になったであろう原因、その経緯を事細かに話してくれた。

要約するとこうだ。同じ門下生の男が、的前の射形、主に大三から引分けにかけてに突っかかってきた末、口論になったそうだ。段位は両者ともに変わらないのだが相手は歳上、それにも限らず一歩も引かず激しい言い合いが続いたらしい。どうやら的前がそこまで奮いたたせる理由があるらしいが、そこははぐらかされてしまった。

口論は他の門下生によって止められたらしいが、的前とその男は厳重注意を受け、両者、もう一度同じような問題を起こせば、娘だろうがなんだろうが関係無しに、破門されれしまうんだそうだ。これが的前が早気になった原因、そしてこの出来事が起こったのが、総体終了した次の日、つまり奉仕部に依頼してきた前日、ということになる。

 

感想

普通、早気ってこんな理由でなるものなんですか?

 

「なんていうか、あれだな。的前が結構すごいやつだってわかったわ」

「......私なんてすごくないよ、むしろすごいのは比企谷くんじゃない?弓道初めて一週間足らずで、弓道部員に危機感与えるとか、なかなかできることじゃないよ」

「いや、俺なら口論に持ちこむ前に折れて負けてるからな」

「え、そこ......?」

そこ?ってなんだよ。普通?歳上相手に口論まで持っていける?歳上の男に女の子が立ち向かう図は漫画で十分です。

「じゃあ次は早気になった理由かな。これはすごい単純、ただただ部活が始まって、練習を再開したからだと思う。私は部長なんだから、みんなを引っ張っていかなきゃないんだぞーって、頑張れば頑張るほど早気が酷くなっちゃって......」

的前の頰から一筋の涙が溢れる。

「ごめんね、原因は私事からきたことなのに、こんな依頼につき合わせちゃって......ん」

ぽんぽんと頭を撫でてやる。悪いな、こんな状況で出来るとしたら、兄スキルしか発動できねえんだわ。

「帰るぞ」

「......うん」

返事はしたものの、立ち上がらない的前。

「どうかしたか?」

「んーん、なーんでもないよっ!」

「うお、なんで急にそんな元気になんだよ。びっくりするだろ」

「気にしなーい気にしなーい。さ、帰ろ!」

「お、おう」

女とはよくわからない生き物である。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「あれ?小町ちゃんだ」

「あっ、的前さんとお兄ちゃんじゃん。奇遇だね〜いま帰り?」

「うん、弓道具買ってきたその帰り。小町ちゃんもまたコンビニ帰りかな?」

「そうなんですよー、やっぱり夏はアイスじゃないと締められませんよねー......ん?弓道具を買ってきた、つまり街に行ったてこと?!デート、デートだよね?このこの〜お兄ちゃんもこんな可愛い人とデートに行くなんてすみに置けないな〜」

「か、かわっ......」

「はぁ......あのな小町、俺とデートとかなんの罰ゲームだよ。的前に失礼だろ、謝りなさい」

あと、お前が奇遇を装って待ち伏せしてたのもバレバレだからな。コンビニ帰りとか言ってるけど、どう考えも歩いてきた方向が真逆。

「どう考えてもお兄ちゃんの方が失礼だと思うな。さすがにそこまでとはひどいとは......失望したよ」

「ほんとだよ、失礼しちゃう」

「いやなんでだ」

「まあこんなごみいちゃんは放っておいて、的前さん」

「ん、何かな?小町ちゃん」

「今日晩御飯を つ い 作りすぎちゃったんですけど、よかったらご一緒にどうですか?」

「確かに両親も妹も今日は、道場に隣接してる宿場に泊まっていくらしいから、こっちとしては実に魅了的なご提案なんだけど、いいの?」

「はい!こっちもいろんな話聞きたいですし、このけちいちゃん、全く弓道の話してくれないんですよ」

「じゃ、じゃあお邪魔させてもらおうかな」

いや、なんでそこで俺を微妙に上目遣いで見てくるんだよ。反則だろそれ。

「まあ飯くらいならいいんじゃないか?」

「お、別に求めてはなかったけど、お兄ちゃんの同意も得られたらし、家にレッツゴー!」

どちらにせよこうなってたってことなのね、知ってた。

「な、なんだかごめんね。お邪魔することになっちゃって」

「いや、的前は悪くねえよ」

「全面的に小町の策略が悪いから」

「あ、あはは......」

さて小町は待ち伏せしてまで的前を家に招き、何をするつもりなんだろうか。

 

 

 

絶対ろくなことじゃねないよな......

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。家に的前ちゃんを招き入れた小町の策謀とは...?!
飯ですね、知ってます。

さあ、今日は金曜日、つまり週末なわけですが、果たして作者は投稿できるのか?!


多分できません。許してください。

ではまた次回!


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8. 彼をそっちのけで女子達は話を始める

やっぱり休日には勝てなかったよ......

どうも草プリンです。
予告通り投稿できませんでした(ドヤァ
しょうがないよね。そう、休日のフリーダムさが悪いのだ。つまり俺は悪くない。

と低知能な前書きはここまでにしといてですね。少し前に話したいろはの件なのですが、オリジナル展開を望むコメントが多かったこともあり、原作には逸れた登場をしてもらうことにしました。コメントくださった皆様どうもありがとうございました。今回はいろはでないですが、いつか出してくると思いますので、よろしくお願いします。

では8話です。どうぞ!




「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

やっぱり疲れた体に、小町たんのご飯は最高やな!真面目な話、仕事から帰ったら、小町の料理が待ってるとかこの上ない幸せだと思う。まあ、知らない男の嫁にする気はさらさらないんですけどね?

的前もさぞ幸せ−

「むむむ......」

おやぁ......?

「あ、あの的前さん?お口に合いませんでしたか......?」

おい的前。なに小町に不安げな表情させてやがるんだ。たとえ女子だろうと容赦しないぞ。

「ち、違う違う!料理はとっても美味しいよ、うん、自分が自信を無くす程度には......」

「「へ......?」」

「だってそうでしょ?!二つ下の女の子が作った料理の方が、自分のより全然美味しいんだよ?!誰だって自信無くすよ!!」

あ、ああ、なーんだそんなことか。よし許す。

「い、いや、そう言われてもですね。こっちは両親の帰りが遅いんで、ほぼ毎日私が作ってるうちに自然と上手くなったというか......」

「うー......そういうものなのかな......私も私で週三程度には自分で作ってるんだけどなぁ......はぁ」

「なあ、女子ってなんでそう料理に執着すんの?そりゃ上手いに越したことはないだろうけど、基本的に食えたらいいんじゃん?」

「「は?」」

「あ、いえ、なんでもないです」

怖えええええ!今のマジトーンだったよ?思わずチビるところだったよ?

「あのねお兄ちゃん、料理っていうのは男性を誘惑する手段の中でかなり有効なんだよ?まずは胃袋を掴むってよく言うじゃん」

そういうもんなのかねぇ.......てか、またそんな偏差値の低そうな本で得たような知識を......

「というと的前もそんな感じなのか?」

「んーどっちかというと私は、作った料理を家族に美味しいって、感想貰える方が嬉しいタイプかなー。といっても好きな人が出来たら、小町ちゃんの言うように考えるようになる女の子がほとんどだと思うな」

「ほほう?つまり今的前さんに好きな人はいないと?」

「う、うん。そうなるけど......そこがどうしたの?」

「やったねお兄ちゃん!これはチャンスだよ!アッタクあるのみ!!」

「しねえよ、それにしても砕けるだけだわ。あと、ガールズトークでもするってんなら俺は部屋に行くぞ?」

「あ、じゃあちゃちゃっとお風呂入ってそのまま部屋に帰ってもらっていいよ。んじゃねーバイビー」

「は......?」

え......冗談でしょ?

「あの小町、流石に冗だ−」

「バーイバーイ」

「あっはい」

ああ、この小町の目は、「ちょっと用事があるからどいて」の目だわ。なんでまた急に。

「え?え?あの私はどうしたら」

「あ、的前さんはそこでちょっと待っててもらえますか?ちゃちゃっと洗い物済ませてくるんで」

「え、あ、うん」

「はいはーい、お兄ちゃんはどいたどいたー」

「わっかた、わかったから。押すな押すな」

背中をぎゅうぎゅうと押され、廊下に出される。とても理不尽。

「お兄ちゃん」

「ん?」

なんだ?今度は顔をニヤニヤさせよってからに。

 

「的前さんにお兄ちゃんのこと、どう思ってるか聞いといてあげるからね」

「は?いやそんな無駄な気遣いいらねえから。ほんとまじで」

いやこれ気遣いですらないな。だって、

「比企谷くん?あはは!ないない!」

とか言われるだけなんでしょ?八幡知ってます。

「んっふっふー気になってるくせにー。じゃ、小町はガールズトークに花を咲かせてきますので!」

ビシッっと敬礼をして扉を閉められる。

「......風呂入るか」

気になってなんか、ないんだがなぁ......

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

十数分後〜リビング〜

 

「さあ、的前さん。洗い物も済みました。ここは予定通り、ガールズトークと洒落込みましょう」

 

「あの小町ちゃん?本当にするの?」

 

「あったりまえですよー、それともこの後何か用事でも?」

 

「いや、用事はないんだけど......あっ!ほら小町ちゃん、弓道のこと聞きたいって言ってたから、その話でも−」

 

「今は恋バナの方に夢中なんで大丈夫でーす。後でお兄ちゃんに無理矢理聞くなりしておきますので!そ・れ・よ・り!そこまでして話を逸らそうとするってことは何かありそうですね〜。手始めにまず、どれほど男性経験があるか聞いていきましょうか」

 

「ないよ!そんなの!!......あ」

 

「ほうほう......なるほど......では次に、気になりかけている人はいるかどうかを」

 

「勘弁してください......」

 

 

そうして少女達の時間は過ぎていく

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

女子とは本当によくわからない生き物である。少しでも見ないうちに変化し、そして他者を驚愕に見舞う。果たしてそれは、当人達にとって良いことなのか、また第三者にはどのような影響を及ぼす変化なのかは......

 

 

よくわかりません

 

 

「いや〜優香さんが、ああ思ってて、こうだったとはね〜」

「もうこの話は終わりにしよ?ね?ね?」

「ほんと何があったの?ついていけないんだけど」

風呂から上がって部屋でゴロゴロしようよしたら、急に部屋に連れも出された結果がこれだよ。

なにこれ?小町の的前に対する呼び方とか、顔を真っ赤にして涙声の的前が可愛いとか、ツッコミどころあり過ぎなんですけど。

「なにが的前にあったんだよ。小町は一体どんな話を振ったの?」

「あーよくない、よくないなー。女の子達の秘密に触れようとするのは」

あーはいはい、そう言われるってのは知ってましたよ。あと、女の子の秘密って、いい響きですよね。

「じゃあせめて的前を帰してやれよ。もう見てるこっちが耐えられるん」

主に男心が。

「おや〜さすがお兄ちゃん。女子、いや優香さんだけには優しいね〜」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

声にならない悲鳴をあげる的前。

「おい小町、ほんとお前なにしたんだ。的前が壊れかけてるから。危ないお薬使っちゃったんなら白状しなさい」

「なんで薬を使ったとかそういうことになるのさ。小町はただただ普通にガールズトークしただけだよ?」

「それマジで言ってるのなら、俺は今後女子を人として見ることはなくなるだろうな」

俺がもし国語辞典出したならガールズトークの類義語は、洗脳って書くレベル。

「まあもう時間も時間だし、今回はお開きってことにしますか。ほら優香さん、さよならの挨拶しましょうね?」

「う、うん」

さ、さよならの挨拶って......的前が幼児なわけでもないのにどういうことなんだってばよ。

「は、は、は、はち......は、はち......」

そしてついに壊れる的前。

ああ、小町は明日か務所暮らしか......寂しくなるなぁ......

「お兄ちゃんいますごい失礼なこと考えてたでしょ、違うから、優香さんを見ててあげて」

「見ててもなにも、ひたすらハチとしか言ってないんだけどなにあれ?ほんと小町なにをしでかしたの?」

「黙って見てて、いますっごい勇気出してるんだから」

「はぁ?」

あれのどこが勇気の必要な状態なのか。

「は、はちま......」

......はちま?

「はちま、八幡くん!!」

「おお!」

歓声をあげる小町。いや、はちまんってどこかで聞いたことがあるんだけど、どこでだっけ?

「どう?どう?!女子に名前を言われた感想は!!」

「は?名前?......あ」

俺の名前か。

「......ごみいちゃん、薬か何かキメてるの?」

「い、いや、基本的に俺を名前呼びするやつが少なくてだな、そう俺は悪くない」

そう、悪くない......はず。

「悪くないわけないでしょ、ほら」

的前を小町が指差す。

うわーほんとだー顔をさっきより真っ赤にして怒ってるーかわいいなー罵られるんだろうなー

「比企谷くんのアホ!バカ!根暗!死んだ魚!八幡!!」

「おい、死んだ魚じゃねえ、死んだ魚の目だ」

「またきっちり八幡って言ってる優香さんもさすがだけど、そこに反論するお兄ちゃんもため息が出るぐらいにはさすがだよ......」

「い、いや、マジで悪かった。もう一回言ってくれればちゃんとリアクションするから」

「言わないよ!もう帰る!バイバイ八幡くん!!」

そして荷物を持って廊下に姿を消した数秒後、玄関のドアが閉まったきり、比企谷家に静寂が訪れた。

「......結局八幡って言って去ってくのな」

結構照れますねこれ。

「もうめっちゃくちゃ言いたいことはあるんだけど、これだけは言っておくねお兄ちゃん」

「なんでございませうか」

できれば死刑宣告はご遠慮したいです。

 

 

「優香さん、お兄ちゃんのこと気になってるかもしれないんだってさ」

 

......え?

 

「ま、さっきの件でどう傾いたかは知らないけどねー。そこんとこは自己責任ってことで。んじゃ、小町はお風呂入ってくるから」

「え、お、おい小町」

小町が去り、再び静寂が訪れる。

すごくデジャビュを感じるんですがそれは。

 

しかし......

 

「気になる、ねぇ......」

 

小町まだ風呂に入ってなかったりしないかね。冷水のシャワーでも浴びたいぐらいなんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近眠気が12時ごろに来るようになりました。いいことです。
いいことなのですが、執筆を夜の11時から始めて、この時間帯に投稿してるので、かなりきつくなって来る可能性があります、というかすでに書いてるいまも眠い件。
まあなにが言いたいか申しますと、作品投稿の時間帯が変わるということです。
知人からも予約投稿しろやハゲとかなり言われましたので、そうなるかもしれません。あくまで可能性の話ですがね。

では、また次回!


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9. 彼の妹は鈍感な二人に変化を促す

やあ!草プリンです!
今回の強敵は、原作の細かい内容を完全に忘れ去っていた自分自身だったよ!
そして原作が手元にない自分はどうなるの?!
アイデアはまだ残ってる!
ここを耐えきれば自分の好きなように書けるんだから!!

次回「アイデアがあってもつまらない」

9話!スタンバイ!



「ささ、気になりかけている人はいるんですよね?どんな人なんです?後輩?先輩?同級生?もしかして、お兄ちゃんですか?!」

目をキラキラさせて聞いてくる小町ちゃん。な、なんでそこで比企谷くんの名前が出てくるのかなぁ?

「小町ちゃん、これはガールズトークじゃなくてマシンガントークって表言した方が正しいと思うよ?」

「あ、今。お兄ちゃんのことを挙げた瞬間、少しだけ表情筋がピクつきましたね?そっかーお兄ちゃんも幸せだなー」

「ちょっ?!そんなのまでわかっちゃうの?!」

というか表情筋から読み取れたりするものなの?!

「嘘ですよ、表情筋で他人の思考を読み取れたりするのは、お兄ちゃん以外小町は知りません」

「あ、出来ないのか、よか......あれ、私、カマかけられた?」

「ふむ、予想通りお兄ちゃんでしたか。あの鈍感マンと付き合うまで漕ぎ着けるのは、茨の道を歩むことと同等ですよ?」

ああああああああ!!??やっぱりカマかけられてた?!落ち着け私!言葉の裏の裏まで意味を探らないと、墓穴を掘るだけだ!

「うう......確かに気になってはいるけど、別に付き合うとまでは考えて、って何言わせるのもう!これじゃただの言葉の拷問だよ!ガールズトークなんだから、こっちからも質問させてよ!」

だめだ!全然落ち着けてないよ私!!!

「あ、どうぞどうぞ。あとそれ自爆ですからね?」

知ってるよ!!

「じゃあまずは好みのタイプとか?」

「お兄ちゃんみたいな捻くれてる人ですね」

「......え?」

兄妹愛が恋愛観に現れてるってことなの?それってちょっと危なくない?

「そ、そっかー。じゃあ−」

「ストップです。もう的前さんは質問してきたので、次は小町の番です」

「え、でも小町ちゃん、私に何回か既に質問を......」

「あれはノーカンです」

「理不尽だ?!」

 

〜三十分後〜

 

「もうお嫁にいけない......」

「大丈夫ですよ、優香さんはお兄ちゃんがお嫁にもらってくれるでしょうから」

「もう比企谷くんの話は出さないで......」

顔だけインフルエンザ状態だよ.....

ちなみに小町の私の呼び方が変わってるのは、これだけ踏み込んでる話してるんだから、優香さんって呼んでいいですか?と申し出があったからです。

まあ私は踏み込んだつもりでも、小町ちゃんには華麗に回避されちゃったから、ただの拷問だったけどね?

「うーんしょうがないですねー......あ、でも大事な話があるんで、次で最後でいいですか?それさえ聞いてくれればもう終わりなんで」

「わかったよ、もうなんでもどんとこいだよ......」

もう何も怖くない。

 

「比企谷くんって言われると小町が反応しちゃうんで、お兄ちゃんのことは名前呼びしてもらってもいいですか?」

「......はい?」

この子は何を言っているんだろう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そしてその結果......

 

最近、的前が俺を避けている件

 

こう思われます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

最近、的前が俺を避けている件

 

といっても避けられてる原因は明確なんですけどね?おのれ小町、一体的前にどんな話をしやがったんだ。たまに話しかけてきたらきたで、俺のことは、八幡くん、とか呼ぶしよう。もう土器が胸々してしょうがない。

元凶である小町は小町で、近頃は的前ん家に入り浸ってるみたいだし。的前の早気は一向に治らないどころか、あの日を境に、会が一秒台に乗っちゃたし......

ん?俺ってもしかして、的前の早気を治す上に置いていらない子?あれ、目から汗が。ほんと最近暑いですよね。今日は弓道の練習休みだからマジで神。

 

ブーブーブー......ブーブーブー......

そして、俺ののんびりした休日を遮るバイブル音。残念だったな、あいにく誰からのメールだろうが見る気はないんだ。

 

ブーブーブー......ブーブーブー......

いやなんで二通目?必要ある?何か書き忘れたことでもあるの?

 

ブーブーブー......ブーブーブー......

さ、三通目?普段は閑古鳥の鳴いてる俺のメールボックスちゃん、今日はやけに活動的ですね?海にでも言ってるのかな?あ、わかった、これは由比ヶ浜だ。ここまで物忘れがひどいのは由比ヶ浜しかいない。もう釘を刺すために返信してやろうか。

 

メールボックスを開き、内容を確に......

「ヒッ......」

確認したらどう考えても呪いのメールがそこにはあった。

 

(比企谷くんへ)

(夏休みに入ってはや数日、比企谷くんはいかかがお過ごしでしょうか。弓道に体験入部という形ではあるものの、武の精神に触れ、多少の変化が比企谷くんに訪れていることを切に願っています。

さて、話の内容は変わりますが、比企谷くんに一つ頼まれてほしいことがあって、メールを送らせていただきました。簡潔に述べると、林間学校のお手伝いをお願いしたいのです。小学生が協力し合って、二泊三日のキャンプをするという至って普通の内容です。この林間学校では、高校生のボランティアを募集しているらしいのですが、どうにも人数が集まらないようなのです。そこで今回は夏休みに活動がない奉仕部のメンバーで、ボランティアをするという、一種の奉仕という形で、手筈を整えています。向こう方も喜んでくれているので、ぜひ成功させましょう。今日の昼ごろから出発する予定なので、JR海浜幕張駅で待っています。

 

平塚 静より)

 

いや何コレ。文面は丁寧すぎて怖いし、気付いたら強制参加状態にトランザムだしさ、俺はいかねえよ?

つーか二通目はどうなんだ。

 

(忘れてました。詳しい日程表を添付しておきますので、軽く目を通しておいてください。)

 

あ、二通目は普通に忘れてたのね。結構細かい日程なんだな。へぇ、千葉村でやるのか、神だな。

あと日程表を送ってもらって悪いけど俺は行かんぜよ?

さて三通目いったい......

 

「............」

 

(返信、待ってます)

 

こわい、じゅんすいにこわい。思わず脳内で漢字変換が行われなくなるレベルには怖い。これあの人が結婚できない理由の一部でしょ、どう考えても。

 

ブーブーブー......ブーブーブー......

いやもうメールやめてくれ、頼むから電話かけてきて。電話苦手な俺がそう思うぐらいにはやめてほしい。

というかメールの内容はなん−

「......ヒッ」

 

(ねぇ?見てるんでしょ?見てるんだよね?)

 

俺はそっとスマホの電源切った。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

午前11:30

あれから2時間ほど経った。

このまま何も無い限り俺は、林間学校という地獄のイベントをサボタージュできるのだ。ちなみに平塚先生からは数回電話がかかってきたが当然のごとく無視。もう十分恐怖には耐えた。もう少し頑張れ俺、そして鳴るなインター......

 

ピンポーン

 

あれれぇ......?マジでぇ......?

「まさかあのお方が直々に......?」

いやいやありえない。まだ集合場所である海浜幕張駅に出かけるには早すぎるはずだ。それにもしそうだったら居留守を使えばいいんだ。そうだそうしよう」

 

プルルルル......プルルルル......

あ、ちょ、安心してまた電源つけたのが悪かった。着信音うるせえ!

「......ん?」

電源を切ろうとして、スマホの液晶に目がいく。そこに表示されて入る名前は−

「的前?またなんで電話なんか」

とりあえず電話には出てみる。

「あ、でたでた。こんにちは、は、八幡くん」

「おう、今日は急にどうした。なんか用事か?あと、言いにくいんなら名前呼びしなくていいんだぞ。何があったのか知らんが、小町の言われたことをいちいち間に受けなくていいから」

「だ、大丈夫。私の意志でやってることだから」

嘘だろ、今なんて言った?的前の意志?

「洗脳されてない?大丈夫?」

「それはさすがに小町ちゃんに対して失礼だよ」

「いいんだよ、何があったのかは知らんが、あいつが歳上に対して失礼なこと言ったのはなんとなくわかる。まあこの話は置いといてだ。今日は何の用だ?」

「あ、ちょっと八幡くん、とお出かけしたいなーと思って」

「は?それって......」

デーt「まあ詳しいことは平塚先生に任せるね。はい先生」

「ちょっとまて、いまなんて−」

「やあ比企谷、元気してたか?」

「はいとっても元気です。いますぐ駅に向かいます」

「よろしい」

プープープー......

「もうやだ」

俺の休日なんてなかったんや......

 

 

 

 

 

 




いろはの件、もう察しがついた方、いるんじゃないですかね?
察せてない方はすいません、作者の技量不足です。

まあおいおいわかることは置いておきましょう。
実は作者にとって死活問題の事態が発生しつつあります。
前書き後書きともにネ タ が な い。

そういうことなんです。
また次回までにいいネタができることを期待して。ではまた!


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10. そして彼は夏休みを満喫しようとしている

寝つきが良くなった途端これだよ、草プリンです。
二時にやっと眠気が来てたやつが、十二時の今、なんと眠気と戦ってるんですよ。すごくない?進化してるようで執筆速度は退化してるんだよ?すごくない?(すごくない)

やっとこさ10話です。どうぞ!


もう七月も終わり、セミの輩どもがコンサートを開いている八月の今日、本来ならクーラーの効いた部屋でダラーっと過ごす予定だった。だがしかし、今日の俺は、

 

 

 

何をどうしくじったのか、山にいた。

 

 

掻い摘んで話すと、騙されて誘拐されました。しかも先生に。体罰とかいうレベルじゃないでしょこれ。軽く犯罪だよ。おい女子、教師と教え子ってフレーズ聞いてときめくのはいいが、気を付けろよな。それ、誘拐したされたの関係にも使える言葉なんだぞ。思っているより世界は醜くて、歪んでるんやで。

まあ、強制労働させようとした平塚先生が全面的に悪いとしても、スマホ越しとはいえ、目上の人間に対して無視を決め込んでしまった俺も悪いからな。今回は、罪滅ぼしという名の強制労働を強いられてやろうじゃないの。......ふむ、俺ってだいぶ社畜精神が強化されてない?主に的前に関わり始めてから。まさか的前は平塚先生の刺客だったりして。まさかね、はは......

 

とにかく千葉村についた俺たち、平塚先生、雪ノ下、由比ヶ浜、的前。それに、どこから情報を嗅ぎつけていたのかは知らないが、俺が出かける時点でちゃっかり準備までしていた小町。最初見たとき、あまりの暑さで蜃気楼と願望がコラボして、俺に幻覚でも見せているのかと疑ったまであった、戸塚(ここ重要)

以上七名は、千葉村の駐車場に停めたワゴンカーから降り立つ。

「あー空気がうめえな。人がゴミのようにいないからか」

「今お兄ちゃんのせいで全く美味しくなくなったよ......でも、今日は真夏日になるて天気予報で言ってたのに、全然涼しいね。風が心地いいよ」

「ああ、その通りだ。実際、風通しの問題もあるんだろうが、やはりビルなどの人工物がほとんど見受けられないことからくる精神的なものが大きいな」

「思い込みの差、っていうやつですね」

わかる。中学生男子が、あれ?こいつ俺のこと好きなんじゃね?と思った途端、その女子の行動の根っこに、自分が関係してるって思い込むやつだよな。とてもわかる。ソースは俺。

あと先生、そこでタバコをふかすのいいけど、それで空気は本当に美味しいのん?

「しかし、さすが見渡す限りの山岳地帯って感じね。緑と宿泊関連施設しか見えないわ」

「ほんとだね、こんなところでキャンプできるなんて最高だよー。ねね、ゆきのん。ここ、川もあるらしいから後で泳ぎにいこーよー」

......ん?

「ちょっとまて由比ヶ浜、今キャンプって言ったよな?林間学校じゃなくて?」

「え?私は平塚先生には、キャンプだって伝えられたんだけど」

「私もよ」と、雪ノ下。

「私も私もー」と、的前。

「小町もー」と、小町。あーもう!ぴょんぴょん跳ねながら返事すんな!可愛い!天使か!!

「僕はキャンプじゃなくって合宿って聞いたけど、まあ同じもこなんじゃないかな」と、マイエンジェル戸塚。

「まじか......」

これってなに、新手の詐欺なの?下げて持ち上げる作戦なの?うわー絶対引っかかる人いねえわ。俺引っかかってるやん......

「比企谷の言ってたことであってる。といってもそこまでハードスケジュールなわけでもないし、結果次第では内申点をプラスで与えてやってもいい。まだいろいろと伝えられてない部分もあるが、とりあえず詳しいことは全員集合してから話そう」

俺に伝えたのが真実かよ!下げて上げて、結局落とすのかよ!最低だよこの人!

「つまり私たちの他にもまだ参加者が?」

「ああ、とあそこにいるな。おい!こっちだ!」

うえぇ......これ以上人増えるのかよ。初対面の人間とコミュニケーションなんてとれないよぉ〜八幡もうやだ帰る......いや、待てよ、人数増えたらその分楽できるか。よし、許す。

「や、ヒキタニくん」

「葉山か」

知り合いなんかーい!わーはっはっはは!!

 

結局、平塚先生のワンボックスカーに乗ってきた俺たち七名と、葉山、三浦、海老名、べーわーの戸部、と......誰だこいつ。

「彼女は一年でサッカー部のマネージャーをしてくれている、一色いろはっていうんだ」

「いや、心を読むなよ」

スペック高いやつって読心術マスターしてる確率高くない?っべーわー。

「ご紹介にあずかりました、一年生でサッカー部マネージャーやらせてもらってる一色いろはって言います。よろしくお願いしますね、先輩っ」

うっわぁーなんていうか、今まで見てきた女子高生の中で一番JKJKしてるわ、こいつ......なにが言いたいかというと、

「あざとい」

うっわぁー間違えて声に出しちゃった......

「あ、あはは、あざといってなにを言ってるんですかねぇ......後輩とはいえ、初対面の人間にその言い方はどうかとー......」

「っべーわー、ヒキタニくん。後輩とはいえ初対面のいろはすにそんな言い方できるとか、まじっべーわー」

「お、おう、そうだな。悪い、忘れてくれ」

っべーわー、さっきこの女子が言ったことほぼほぼトレースして発言してるよ、頭がまじっべーわー。てかいろはすってなんやねん。何味?美味しいの?

「ま、まあともかく、林間学校の間はよろしくお願いします」

聞きました奥さん!林間学校の間"は"ですって!学校では関わるなって暗に釘さしてきてますわ!なるほど、

「こっちこそ。ここでは、よろしくな」

だったら徹底抗戦だぜ!

 

 

「まったく、弓道部に体験入部したから多少は変化した部分があると思っていたが、あのバカはいつになったら皮肉なしで会話できるんだか」

「......なんだかすいません」

「いや、的前を責めているわけではない。そういう意味ではないんだがな。気に障ったならすまん。それに、変化がないと言ったわけではないからな。なにせ−」

「そーですよ、お兄ちゃんの捻くれようは高校から始まったことではないんですし、それに−」

「......?」

「「あの比企谷(お兄ちゃん)が休日に異性の電話にでるなんて、異常事態だからな(ですもん)」」

「え、え、それって......」

「いやー、今も鈍感なのには変わりないですけど、あのお兄ちゃんでも無意識のうちに行動が変わっちゃうもんなんですねー」

「まったくの同意見だ。......ふむ、比企谷といい、君といい、私は結構話が合うようだ。どうだ?妹からみた、比企谷の見解について聞きたいのだが」

「いいですねー、私も一番お兄ちゃんの内面を本当の意味で見れてる人の中では、平塚先生が一番近いとと思ってましたから」

「よし、決まりだな。長めの休憩時間が取れ次第じっくり話し合おうじゃないか」

「了解しましたー!あれぇ?優香さん、どうしたんですか?顔を真っ赤にさせて」

ニヤニヤ

「そうだぞ、あの比企谷の心を動かしたんだ、もっと誇りたまえ」

悔しさを滲ませながらもニヤニヤ

「もう!小町ちゃんと先生のいじわる!!」

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「う、るせぇ.....」

集合場所についた俺たちが目にしたのは、小学生百名という名の、騒音の発生源でしたまる。

ねえ小学生うるさすぎない?アブラゼミの大合唱を相殺してるよ?

「うわぁ......」

ほらぁ、あの由比ヶ浜ですらちょっと引いてるんだよ?もう無理だよこれ。ね?かえろ?

あと先生は静かになるように努力を......いやまてよ、あの、時計をしきりに確認すると同時に、威圧的な空気を漂わせているあれは......!

子供達も、小学生特有の洞察力で違和感に気づいたのか、次第に静かになっていき、シーン......完全に静かになったところで、先ほどの教師が口を開いた。

「はい、君たちが静かになるまで五分かかりました」

で、でたでぇ......もう二度耳にすることのない言葉だと思ってたのに、まさかこんなところで巡り会えるだなんて、ありがたやありがたや......

どうやら、テンプレにテンプレを乗っけたようなあの言葉は、夏休みで浮かれきった子供たちを引き締めるために、説教を始める口実のようなものだったらしい。

そこからは全体のスケジュール、諸注意、この次にやるらしいオリエンテーションの説明と、順調に進行していき、

「はい、それでは今回、みんなのお手伝い役として来てくれた、お兄ちゃんとお姉ちゃんに、よろしくお願いしますのあいさつをしよっか。せーの」

「「「よろしくお願いします!」」」

懐かしいなー、この間延びしたこの感じ。もうこの喋り方をしてたのも、五年以上前の話なのか......歳とったな俺。

誰がとは言わないが、子供達にトラウマを植え付けかねない行動を起こしそうな人物いるから、口に出すのは自重。

「ふぅ、もう少しで......」

「ん?どうした的前、トイレならもう少し我慢を」

「ち、違うよ!平塚先生に代表のあいさつ任されてるから緊張してるだけ!まったく、八幡くんにはデリカシーのデの字もないんだから」

「代表のあいさつ?なんでまた、的前が」

「部長だから適任だろう、って言ってたよ」

「部長っていう理由なら、むしろ葉山の方が適任じゃねえの?あいつ、どうせサッカー部キャプテンだろ」

「あー葉山くんはまだ正式にキャプテンじゃないみたいなんだよね。総体でけっこういいとこまでいったらしくて、つい最近終わったから、受け継ぎはまだなんだって」

「あ、そなの」

「県内ベスト8だったらしいよ、すごいねー......あ、呼ばれてる。んじゃ行ってくるね」

「噛んで恥かかないようにな」

「もうちょっと気の利いた言葉はないのかな......ん、でもありがと」

「おう」

トタタとスタンドマイクに走っていく的前。思えばあの女子特有の小さい身体で部長やってんだよな。すごいもんだわ。

「えーっと、これから三日間、みんなのお手伝いをすることになります。わからないことや困ったことがあったらなんでも聞いてね。楽しい思い出になるよう、こちらも一生懸命サポートするので、一緒に頑張ろー!」

大きな拍手が辺りに響く。小学生の男子なんて、顔を真っ赤にしてボーッとしてる、ありゃ惚れたな。教師陣の拍手もすごいものだ。

ほんと、さすがとしか言いようがないな。小学生目線になって話せてるし、体の身振り手振りで意識を逸らさせない。部長になったのも、弓道が上手いとかだけじゃないんだな。そんなハイスペックなやつが最近は、俺に付きっ切りで弓道を教えてくれてるっていうんだから実に勿体無い限りである。俺じゃなけりゃ惚れるな。最近は俺も結構危ういが。

「的前さん、すごいわね」

「まったくだ。てか雪ノ下も平塚先生から代表の話こなかったのか?そういうのはてっきり、葉山か雪ノ下が適任だと思ってたんだが」

「確かにやらないかとは言われたのだけど、断ったわ。人を見下すのは大丈夫だけれど、人と面を合わせて喋るのは得意じゃないのよ」

「ああ、そうですかい」

こいつを部長にしたのはどう考えてもミスでしょ。てか思い返せば、的前の依頼を俺一人ですることになったのもこいつのせいじゃねえかよ。俺の人生に変化及ぼしまくってんじゃん。

「あー緊張したぁ......」

と、過去に対して愚痴っていると、気だるそうに的前が帰ってきた。

「お疲れ様。とてもいいスピーチだったわ」

「それに緊張っつても見た限り全然大丈夫だったぞ。むしろすごかった」

「えへへ。あ、ありがと」

「これは............」

「ん?どうした雪ノ下」

「......いえ、なんでもないわ。由比ヶ浜さん、ちょっとこっちへ」

「え、あ、ちょ!ゆきのんどうしたの!引っ張らないでもついてくから!」

「なんだあいつら......」

「さあ?」

というかまだ教師陣の話終わってねえよ、最後まで聞いてけ。

 

「はい!ではオリエンテーリング、スタート!!」

そして教師のかけ声で、俺たちの奉仕活動が幕を開けた。

 




三日間ぶりの投稿ですっけ?にも関わらず分量は1000文字増えた程度です。HAHAHA!!許してやってつかぁさい。

ではまた次回お会いしましょう!


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11. 彼は協働を持ちかけられる

いんやーネタがない。捻りもないですぞー。そして分量もねえ!!フルコンボだどん!!!

どうも草プリンです。昨日は日本各地で大寒波と騒がれておりましたが、皆さんは大丈夫だったでしょうか。
まあ作者の地元は雪なんて一ミリも降ってなかったんですけどね。でもなぜかずっこけました。

作品もずっこけてないことを願いつつの11話です。どうぞ。


「あっつ......」

さすがは八月といったところか。いくら影の下で風通しが良くとも、耐え難いものがあるな。

「そうかなーそこまで暑くないとは思うけど......あ、休憩する暇はないからね?早くゴール地点に行かないと」

的前さんまじ体育会系。

「わかってるわかってる」

しかし暑いものは暑いのである。数時間前までクーラーの冷気に抱かれて過ごしてたやつなめんな。ほら、こんな奴は倒れちゃう可能性があるじゃん?ね?八幡、休憩が......したいな?

あ、でもここで意識とさよならできれば、気づくとゴール地点にワープしてるんじゃない?やだ八幡!頭いい!......三途っていう名前の川にワープしそうだから遠慮しときます。

「安心なさい、地図の通りだともう二十分もすれば着くわ。頑張りましょう」

「おー!」

「なにゆえ真夏の森でそんな元気でいられるのかね小町たん......」

「だってボランティアとは言え、二日もお泊まりなんだよ?!超楽しみ!」

「あっそ......」

そう、俺たちは今、小学生に混ざって森の中を絶賛闊歩中である。

 

オリエンテーリングが終わった順に昼食配布して欲しいんだけど、小学生に何かあると困るから、君たちもゴール地点まで歩いてこい。

 

当のオリエンテーリングが始まってから言うという、まさかの事後報告。あなたは本当に社会人?

ちなみに配布する側の俺たちが先を越されると元も子もないので、最速で到着というのが条件というおまけつきである。

ちなみに平塚先生は車でゴール地点へひとっ飛び。なにそれずるい。

あとこのオリエンテーリング、本来とは少し異なるもので、今回はそれぞれのチェックポイントに用意されているクイズを解き、そのタイムと正答数を競うという、体力馬鹿が決して優位に立てるわけではないルールとなっているらしい。実に良心的である。

普通は地図とコンパスを手に、ひたすらチェックポイントに向かって猛ダッシュ!という、夏には絶対したくない事ランキングに堂々とランクインするほどのゴツいスポーツなんだけどね。てか軽く死ねる。

しかし、

「へーさっきのチェックポイントの問題がわかったんだ、すごいね。高校生の俺でも迷ったっていうのに」

「えへへーすごいでしょー」

やはりというか葉山の対人スキルにはど肝を抜かされる。その相手相応の言葉選びのうまさに至っては、下手な社会人を上回ってる風に見える程だ。てかお前迷う素振りなんて全くしてなかったやろ。

「ねえねえ先輩」

べ、別に負け惜しみってわけじゃないんだからね!ぼ、ぼくだってちゃんと喋る事ぐらいできるんだから!

「......せんぱーい?聞いてますかー?」

あ、そもそも話しかけてすらくれないじゃん。そっか〜じゃあしょうがないな〜俺の華麗な話術が飛び出したのにな〜残念だな〜。

「せんぱい!」

「......あ?おれ?」

「他に誰がいるっていうんですか......」

いや、小町以外は全員該当するだろうが。

「悪い、先輩とか言われたの初めてでわからんかった。何か用か?」

「暇なんでお喋りしましょうよー」

「あ、悪い。そういうの間に合ってるから、違うやつと喋ってて」

「間に合ってるって......先輩誰とも喋ってなかったですよね?」

いや?ね?自分の心と対話してったていうかぁなんというかぁ。うっわ普通にキモい。引くわ。

「あーまあいいが、俺なんかと喋っても暇を潰せるような、面白おかしいネタはなにもないぞ」

「それは知ってるんですけど、この中で全く知らないのって先輩だけなんですよねー。だからプチ交流会てきなことをと思いまして」

「知ってるってお前な、今日初対面の先輩に対して失礼じゃない?シメられたいの?」

「それはお互い様ですし、シメれる度胸もないですよねー。あはは」

......こいつあれか、あざとさ溢れる表面の内側は腹黒ゆるふわビッチってやつか。絡みたくねぇ......

「わかったわかった。で、なんだ、交流会っつっても、俺の事なんぞなにも話す事はないけど」

「あ、先輩の過去とかそういうのはいいんで、主に交友関係についてお願いします。葉山先輩とより関わるためのダs......きっかけになるかもですし」

「............」

ねえ聞いた?この子いまダシとか言いかけてなかった?最近の女子ってみんなこんなの?

あとその、洞察力だけはありそうだから言葉の裏も読み取れよって顔やめろ。 まあわかっちゃたけどさ?

「なるほどな、お前葉山の事が好きなのか」

さすが葉山。後輩にまでモテまくりである。

「うわー小声とはいえ、当人が近くにいる状況でよく口に出せますねー。ちょっとデリカシーなさすぎて引きます。あとお前呼びは嫌なんで、せめて一色と呼んでください。というか一色以外の呼び方はしない方向で」

「......一色って周りにはあざとく振る舞う系の女子じゃないわけ?なんで俺だけあたり強いの?怒ってるの?」

だから初対面であざといとか言って遠ざけようとしたのに、どうしてこうなった。

「初対面でかつ、みんなの前であざといとか言ってくる人に対して、自分を見繕うほどの価値ありますか?」

あ、言葉選びをミスったからかー。自業自得かー。いやー申し訳ない。

「あれに関しては謝るが、だったらなんで尚更俺に絡むんだ。意味わからん」

「今回参加してる、葉山先輩に雪ノ下先輩、その他の人もほとんどが学校で有名な人ばっかりなんですよ?そんな人たちと知り合いとかちょっとおかしいですよねー。もしかして自覚ないんですか?」

「自覚もなにも、知り合いって言えるのは雪ノ下と由比ヶ浜、辛うじて葉山程度だぞ。交友関係の狭さなめんな」

「そこでドヤ顔されてもですね......というか的前先輩も結構有名なんですよ?彼氏なのに知らないんですか?」

へえ、的前もなのか。容姿端麗、といういうとちょっと違う気がするが......まあ、かなり高水準な容姿であることは頷ける。そう、美人というよりは、可愛いっていったほうが似合ってる感じなのだ。あいつは。

「あと一色。俺と的前はカップルでもなんでもないからな。俺の前はともかく、的前の前では冗談であってもやめてくれ。絶対嫌がる。というか最近そのネタでいじってくる愚妹がいるから普通に疲れる」

「え?!カップルじゃないんですか?!二人が喋る時の態度が、明らかに周りとは違うから絶対そうだと思ってたのに......あ、そうか、まだ両想いの段階......なるほど」

なにブツブツ言ってるのこの子。大丈夫?暑さで頭やられた?

「確認ですけど、先輩は的前先輩のことが好きなんですよね?」

「はぁ?なんで俺が的前のこと好きってなってるんだよ」

ほんとこの子大丈夫?今すぐ帰宅したほうがいいんじゃない?なんなら俺も帰らせて。

「うっわー......この人、自分の心に気づいてないのかー、鈍感なんてレベルじゃないですねこれ......」

自分の心に気づいてないってなんだよ。俺の心はピュアッピュアで真っ白だからしょうがないだろ。それ人間性喪失してる気がする......

「ね、先輩。私、葉山先輩が好きって言いましたよね」

「そうだな。お前自身は言ってないけど」

歩みを緩め、少し雪ノ下達と距離を置き、俺の顔をしっかり見て、

「ここは好きな人がいる同士、協力しませんか?」

そう告げてきた。

「だから的前は好きなんかじゃねえって......」

......こいつのあざとは、好きな人に振り向いて欲しい、の一心からきたものなのかもな。そう思った−

 

 

 

 

 

 

 

 

反面、

 

小町と関わらせると絶対ヤベェ......そう確信した。

 

つうかなんで俺と的前が付き合ってるように見えたの?至って普通に接したはずなんだけど......な?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一色のキャラ黒くね?
はい、ごもっともな感想です。作者も筆を置いた後に気づきました。じゃあ修正しろよって感じなんですけど、それはそれで違った一色を味わってもらえたらなーって(訳:書き直すモチベーション消失)

ではまた12話でお会いしましょう!


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12. 彼は彼女の優しさを理解し、彼女は彼の優しさに...

テスト「きちゃった(はぁと)」
作者「帰れ」
そういうことなんです。より一層執筆遅れます。
赤点60点てアホやない?ねえ、アホなんでしょ?

そんな心境の中で書いた12話です。どうぞ


林間学校一日目は、特段何事もなく終了した。

 

強いて言うなら、昼食で配った梨の皮剥きができない由比ヶ浜に驚き、夕食のカレーですらまともに作れない由比ヶ浜に驚いたことぐらいだろうか。

親が調理しているのを見ているだけで出来るようになるほど、料理は甘いものじゃないわ。クッキーの件で学習したのではないの?(CV:雪ノ下)

まじ由比ヶ浜かわいそす。

まあそんなどうでもいいことは置いとくとして、気になったことといえば、オリエンテーリングで出会った一つグループにて、周りからは弾き出されている女子小学生を見たことだろうか。

何より頭を抱えた問題は、それを感じ取った葉山の行動である。その女子の状態を、まだグループに馴染んでないだけと判断したようでようで、半ば強引に引き戻してしまったのである。

俺同様、雪ノ下もそういった心あたりがあるようで、その時ばかりは共に天を仰いだ。青々と茂った葉っぱが見えましたまる。

ま、まあ誰にだって失敗はあるからしょうがない。だが、当人から望まれてもいないことをしたにも関わらず、三浦から、きゃー!隼人かっこいい!!て感じの視線を送られているのだからムカつく。許さん。イケメン死すべし。

あと途中から的前の顔色が優れてなかったけど調子でも悪いのかしらん。もし帰るのなら、是非とも同行させてください。

とまあ夕食後は温泉入ったりした後、俺、戸塚、葉山、戸部(元凶)で好きな人の話をしたりした。感想、発案者の戸部はとりあえず黙って瞑想でもしてろ。あの葉山ですらうんざりしてたじゃねえか、空気読めねえのかお前。そもそも修学旅行どころかボランティアで来てるんだから、青春謳歌してるぜテンションはちょっと抑えようぜ。

そして現在時刻は二十三時ぐらい。小学生も床に就き、俺たちもまたバンガローで明日に備えて横になっているわけだが、

「んん......」

「.........」

戸塚の寝息色っぽすぎぃ!

やばいよやばいよなにこれやばい。

男相手でも変な気持ちになっちゃう戸塚の性別は戸塚だろなに言ってんだいい加減にしろ俺落ち着け。

「......外でも歩いてくるか」

三人を起こさないよう、俺は夜の散歩に出かけた。戸塚の寝息が収まってくれることを願いながら。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

..................パァン......

「ヒェ......」

今日は厄日だわ!!

もうなに嫌だ、なんで外でもこうなっちゃうの?

天国すぎる地獄と謎の音に見舞われる地獄とか、どう考えても前者一択だろ帰ろう。......っておいやめろマイレッグ!好奇心に負けて歩みを再開するな!

.........パァン...

あーもうほら目の前森やん、一面闇に包まれた森やん。一足踏み入れたら最後、な雰囲気めっちゃ醸し出してるやん。

まるで、作者が物語を展開させるいいネタが思いつかなかった結果、超ご都合主義な動きをする羽目になったキャラを演じなくていいからマイレッグ様......

...パァン!............

「............ん?」

なんだろう、最近やけに聞いた気がするぞ、この音。確か......ああ、これって

そうしているうちに開けた場所に出た。

ここは......川のほとりだろうか。

一切の雑音がない森に、微かに流れる川のせせらぎの音。思わず目を瞑って聴き入ってしまいそうな場所に佇む、いや弓構えをする、的前の姿があった。

「おぉ............」

あまりにも絵になりすぎて、思わず見惚れてしまった。

そして的前の手元にあるのは一つのゴム弓。なるほど音の発生源はあれか。どうりで聞いたことがあるわけだ。てかそれ昨日使ってたやん俺。それでも思い出せないって記憶力皆無か。

「......帰るか」

それにここで話しかけたとしても、的前がいつもの制服姿や、昼間のジャージ姿とも違って私服だから恥ずかしいし可愛いからキョドりそうで嫌だし可愛い。

まあ折角落ち着ける場所で練習しているのだ、そこに水を差すというのは無粋ってものだろう。ここは大人しく退散だ。

くるりと華麗にターンを決め、

パキン

はーい出ましたー。まるで作者が物語をてんか(ry−−−−−−−−する羽目になったキャラがやりそうなことその2ー。

「だ、誰かいるの......?」

ほらねー気づかれちゃったじゃーん

「よ、よう」

さすがにこの状況で逃げるわけにもいかないので、観念して月明かりで照らされた地面に出る。うわぁ、まるで悪役の登場シーンみたいだー。

「あ、は、八幡くんか......良かったー、熊かイノシシでも出たのかと思ったよー」

「洒落にならんだろそれ」

次の日の朝、遺体で発見されて警察沙汰とか嫌だぞ俺。

「しかし、林間学校のボランティア中ですら弓道の練習とか流石、としか言いようがないわ」

「えへへ、一日でも練習抜いちゃうとなんか不安で」

はにかむのやめろぉ!ただでさえ私服姿にドギマギしてるのに!!

「しかし、よくゴム弓なんて持ってきてたな、準備よすぎだろ」

「あ、比企谷くんの分も持ってきてるけど、どうする?一緒にする?」

「さすがに準備よすぎだろお前......やります」

「りょーかい!ちょっと待っててね」

腰に巻いたやや大きめのポーチバックから、今ではもう見慣れたゴム弓を取りだし俺に手渡してくれる。

「さんきゅ、それと悪いな集中してるとこ邪魔しちゃって」

「大丈夫大丈夫。私も一回休憩挟んどこっかなー、って考えてるところだったから」

「あ、じゃあちょっと休憩がてら待っててくれ。飲み物持ってくるから」

「わ、悪いよ、せめて一緒に」

「それじゃ的前の休憩にならねえだろ。バンガロー自体すぐそこなんだから大丈夫だって」

「な、なんだか今日の八幡くん優しい?」

「バッカお前、俺はいつも優しいだろうが」

小町に対して。

「う、うーん?ま、まあそこまで言ってくれるのならお願いしようかな」

「ああ、すぐ戻ってくる」

今度こそ華麗にターンを決めてバンガローへ走る。

 

 

だって今日の的前なんだか思い詰めてる感じだったし、優しくしてしまうのはどうしようもないだろーが。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「あの感じだと私が調子悪いのバレてるなー......」

同性にすら気づかれない程度に、うまく隠せてたのに......

「ほんと八幡くんの優しさにはいつの助けられてばっかりだ、私」

今もどうぜ私のことなんかを心配して、走ってまで飲み物を取りに行ってくれてるんだ。

「............あー」

動機が激しい。心なしか顔まで熱い気がする。

「好き......なんだろうなぁ......」

どうしたらいいんだろう......私......

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

「おーい的前、飲み物とってきたぞ。ほい、これ」

的前に缶ジュースを放る。俺の手にはもちろんマッ缶。

「ありがとー、あ、コーラ......」

「ん?......あ、悪い。炭酸無理なタイプか?」

「うん、ちょっと苦手で......」

「や、事前に確認しなかった俺も悪い。......あーじゃあこっちならいけるか?ほれ」

「え、わっとと......マックスコーヒー?」

「そう、千葉県民のソウルドリンク」

「千葉県民だけど知らないよ......ってこれいいの?八幡くんのじゃ......しかもソウルドリンク?っていうくらいだし相当好きなんじゃ」

「おかわり用でもう一本持ってきてるから大丈夫」

コーラは明日戸部にでもくれてやろう。めちゃくちゃ振りまくってから。

「二本飲むつもりだったんだ......なんだかごめんねわがままいった形になっちゃって」

「わがまま言われるのは小町で慣れてるから大丈夫だ」

「それフォローになってないよ......まあいいけど、じゃいただきます」

「お召し上がれ」

手慣れた手つきで、一足先にマッ缶を煽る。あー驚異的な甘さが疲れた身体に染み渡るわー。

「どうだ的前、くせになる甘さだろ。......的前?」

俯いたまま顔を上げない的前。

「............る」

「え?」

ごめん、難聴系主人公のつもりはないけど聞こえない。

「美味しすぎる......」

「.........へ?」

今こいつなんつった?まさか美味いていったの?うっそだろ、初めて飲んだやつは大抵、甘すぎるっ!!と、殺人的甘さ故に語彙力皆無の回答を弾き出すってのに......

あれ、何気に人生初じゃない?初めてマッ缶飲んだ人の中で、美味しいって言うやつに出会うの。

「わわ、ほんとに美味しいよ......これ千葉県民のソウルドリンクじゃなくて、日本国民のソウルドリンクでもいいくらいには」

ああ......ああ......

「.結婚しよう」

「ぶふっ!」

「あ、悪い。つい感激のあまり」

「も、もう!コーヒー吹いちゃったじゃない!感激のあまりってなんなの............いきなりそんなこと言われると心の準備が...........ゴニョゴニョ.........」

「え、ごめん。難聴系主人公のつもりでは決してないんだが、何言ってるかわからん」

そもそも主人公どころか、そこらのモブですらある。

「聞かなくていい!ほら、休憩終わり!!練習練習!!」

「え、ちょ、気になるんだけど」

「はちまんくん?」

「アッハイ」

ごっつい怖い。あと怖い。

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

......パァン!............パァン!

「............」

「............」

......パァン!......パァン!

「............」

「............」

 

ただゴムが放たれる音だけが森を支配する。

いつからだろう、この音が心地よく聞こえるようになったのは。

始めた当初なんてゴムが空気を裂く時に鳴るただの音、なんて思ってたのに。

「ありゃ、もう十二時になっちゃってる。八幡くんちょっと休憩でもしてから切り上げる?」

この変化は目の前の少女が生み出したものなのだろうか。

「ああ、そうだな」

ならば彼女の変化にも、

「なあ的前」

「うん?」

「悩み事があるなら話せ」

彼女の変化にも俺が関わりたいと思ってしまう。しかし、

「......あ、あはは、悩み事は早気だって言ってるじゃん。それだけだよ」

彼女はそれを拒絶する。優しいから。なにか得体のしれないものを心の奥底に溜め込んだまま、変わらず他人に優しく接する。

「今日の早気は特に酷かった。いつもの笑顔にも影がかかってたし、お前らしくもないミスもたくさんあった。それもこれも今日の昼ごろからだ。なにがあっった言ってくれないか?」

「......大丈夫。依頼の件ですら解決できてないのに、これ以上迷惑はかけられないから......。それに、ただの友達の八幡くんには関係な−」

「関係ならある」

「え、それってどういう......」

あ、やっべ、なに勢いに任せて口走ってんの俺。

「や、そのあれだ。そう!依頼主と請負人の関係!的前のコンディションがあれだと治る早気も治らないからな。うむうむ」

あっぶねね、もう少しのところで「俺の、好きな女だから」とか史上最悪レベルの黒歴史発言をしてフラれるところだった。フラれるのか、泣きそう......

「ぷ......ぷぷっ、あはは!もーならしょうがないなー」

「ああ、しょうがない」

「ふふっ、じゃあ八幡くん。私の悩み、聞いてくれますか?」

「ああ、もちろんだ」

依頼という名の後ろ盾を使わずに、彼女の悩みを聞けるようになるにはまだまだ、時間がかかりそうである。

 

恥ずかしさのせいで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




時が過ぎるというのは早いものですね。一月は行く、二月は逃げる、三月は去るという程ですし、最近は時間の流れがやけに早く感じます。さっさとその感覚から脱しないと、気づいたらテストの真っ最中、気づいたらテスト返却で絶望、何てことになりそうで怖いです。じゃあこんなの書かずに勉強しろって話ですよね。してきます。

ではまた次回。満面の笑みで新規投稿ボタンをタップできると信じて。


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13. 彼と彼女は、後輩の策中にはめられる。

あはははは。課題だぁ......課題がいっぱいだぁ......。俺、これが終わったら休みを満喫するんだ......。あはははは。


どうも課題を絶対殺すマンしてました草野郎です。はい、更新遅れすぎですね。すいません。というわけで課題やってきます。


「えーっと、なにから話せばいいのかな......前に私が弓道したくないって言ったのは覚えてる?」

 

「あー、あの衝撃のカミングアウトな」

 

あの時は、え、まさかの依頼放棄?とかそんな思考が頭を支配するどころじゃなかったからな。ただただ驚きしかなかったわほんと。

 

「それで、その原因というか発端になった事は話してなかったよね」

 

「ああ?......ああ」

 

確か、家の事情だったよな。まだ掘り下げる必要があるのか。

 

「八幡くんは、別に掘り下げなくてもいいだろ。って思ってるんだろうけど、私にとっては結構重要なんだ」

 

「しれっと心を読まないでくれる?」

 

最近、男の心読む系女子多すぎない?漫画で出てくるのならいいけど、現実でされるとか精神持たないからやめてください。それともなに?分かっててやってるの?タチ悪過ぎて笑えない。

 

「それと、早気の原因は家の事情って言ってたけど、あれは訂正。正確には道場で、私がある門下生と口論になったからなんだ」

 

えっ......

 

「......嘘やろ?的前が怒るとかどうなっちゃったの?怪我してないの?大丈夫?」

 

「へぇーそんなに私が怒ってるの怖いのかぁー......怒るよ?」

 

「ち、違うぞ。的前が怪我してないか心配って意味でだな」

 

こ、こえー。言葉だけで、他人に大怪我負わせる勢いだよこの子。

 

「もう、話を逸らさないでよね、まったく。話を戻すけど、どうやらその人は、私のお父さんとお母さん、うん、両親に恨みがあったらしいんだ。根の葉もない悪口を聞いてると我慢できなくて、つい口喧嘩に発展しちゃったんだ。その時は周囲にいた、他の門下生達がすぐに止めてくれたんだけどね」

 

「その時は、ってことは2回目もあったのか」

 

つーか、的前の両親に恨みがあるんだったら、なんで道場になんか入ってんだ? 恨みがある故とか? もしそうだったら事件に発展しそうで怖いんだけど。

 

「うん。2回目は翌日、道場に行く道中に」

 

「うぇ......まじで危ないやつじゃねえか。大丈夫だったのか?」

 

危険な匂いがプンプンするんだけどその人。

 

「あ、や、その時は別に言い合いにもならなかったし、すぐ別れたんだけど......もう、二度と弓道をするな、って言われちゃって。あはは」

 

......は?

 

「いやいや、笑い事じゃねえだろ。親が憎いからって、その娘である的前にそこまでちょっかい出すのはおかしいわ。なんだそいつ。......って思うぞ」

 

あら、かなりドスの効いた声だしちゃった。いけないけない、自制心カムバック!

 

「だ、大丈夫だよ?お父さんにそのこと話したら、破門になったし。元々問題ばっかり起こしてる人だったから、ちょうど良かったって」

 

「あ、そうなの」

 

ですよねー、愛娘にそんなこと言ったら、さすがにそうなるよねー。只今、的前父の好感度上昇中。......あれ、今なぜか寒気が......

 

「ま、それだけことではあるんだけどね。でもいざ弓を構えると、あの言葉が無意識で頭の中に出てきちゃって......ほんと、情けない話だよね」

 

「情けないなんてことはねえだろ。むしろそんなこと言われてまで、弓道を変わらず続ける的前はすごいと思うぞ」

 

この言葉に嘘偽りはない。自分が大好きでしてることを否定された時の悲愴感のせいで、やめてしまう人もいるのだから。ソースは俺。

 

「そうかな......結局は早気になっちゃってるわけだし」

 

「そこまで深く考えなくてもいいから。もっと気を楽にして、自分の好きにしたいようにしろよ。いざとなればその狂人まがいの奴からぐらいは助けて......やれるかもしれなくもないから」

 

「えぇ......そこは言い切って欲しかった」

 

「うっせ」

 

誰だって怖いでしょ。年上の大人、ってイメージだけでも十分恐怖だってのに、そいつが憎いからってその娘に手出しする奴とか、いざ戦ったらナイフで刺されるバットエンドしか見えない。

 

「思い当たるとしたらこれだけなんだけどね。......なかなか言い出せなくてごめんなさい。それどころか嘘までついちゃってたし、ほんと毎回毎回、迷惑かけてばっかりで、ごめんなさい」

 

「あーやめやめ、こっちまで気が滅入ってくるから謝るのはなし。誰だって隠したいことや、嘘つくことぐらいあるだろ。ましてや、的前みたいに深刻な話なら隠して当たり前だ。それを俺に話してくれたんだ、十分だろ」

 

「う、うん」

 

そして女子っていうのは己の危険性を相手に認知させたところで、こう切り出してくるのだ。

 

『ちょっと危ないから、護衛よろしくねー。比企谷がいたら、誰も近寄ってこないもんねー(笑)あ、ストーカーと間違えて通報しちゃったらごめんね?』

 

ソースは、ねえよ、さすがにこれは酷すぎるだろ。最後の一言さえなければ中学の俺のことだけどさ。

ほら、的前も、

 

「あっ、もうこんな時間!早く帰らないと、心配されちゃうかも。行こ?八幡くん」

 

「え、え?護衛は?護身用アイテムHACHIMANは?」

 

「ふぇ?護衛?護身用アイテム?だれの?」

 

うっそだろ。このタイミングで男をうまく利用するのが女子ってもんだろう......はっ!まさか的前は女じゃない?ごめんなさい、そのポジションは戸塚で間に合ってます。ああ、可愛い。可愛いよ戸塚!

 

「や、なんでもない。じゃあ帰る−」

 

ガサッ......ガササ......

 

ひっ......!

 

「ひっ......!」

 

的前も俺の心の声とシンクロして声を発する。あら俺たちココロコネクトしちゃってる。

 

「ね、ねえ八幡くん。今の音ってなんなのかな......熊とか......」

 

「や、さすがに熊が出たりするところで林間学校は催したりしないだろ。......鹿とか猪は出るかもしれんが」

 

「どっちにしろダメじゃん!早く死んだふりしないと!」

 

「まあ落ち着け」

 

「は、八幡くん......」

 

肩を手を置き、的前をなだめる。

 

「そう、落ち着け。素数を数えて落ち着くんだ。1、2、3etc......」

 

「全然落ち着けてないよね?!というか素数どころか、ただ自然数言ってるだけだよ?!」

 

「しょうがねえだろ!誰だってこんな状況怖いわ!」

 

ガサ...ガサササッ......

 

「い、いや!もうすぐそこまで来ちゃってるよぉ!」

 

「ちょ......おま、抱きついてくんな!」

 

胸、胸が!絶妙な柔らかさをした胸が!!腕に当たってる!

 

ガサササッ!!

 

「「ぎゃあああああ?!」」

 

オワタ。我々、死ス。

 

 

 

 

 

 

「あー、話し声がするかと思ったら、こんなところにいたんですねー」

 

「は?」

「へ?」

 

そこには何故か、

 

 

一色いろはがいた

 

 

「みんな心配してましたよ?先輩はされてなかったですけど。......って、もしかしてお楽しみ中でした?」

 

そこで的前が俺の腕にしがみついていることに気づく。

 

「あ、的前、その、腕に、その、当たってる」

 

「わわわっ!ご、ごめん!」

 

「や、だ、大丈夫」

 

やっベー。まったく意識してなかったけど、む、胸があったてたー!やーらかったぞおおおおお!

 

「もー、別にそのままでもよかったですよー?お邪魔虫はとっとと消えるのでー」

 

「いや、お楽しみ中じゃねえから。だから早くそのスマホで警察に電話をしようとしないでくれる?」

 

「違いますよ〜警察になんか電話かけてないでーす」

 

「え、うそ、この状況で警察に電話かけられないの初めて......!」

 

「ひ、比企谷くん......」

 

「おいやめろ的前。まるで可哀想な奴でも見るかのような目で見るな」

 

それにまた名字呼びに戻ってるから、引かれ具合がよくわかるね!

 

「で、誰に電話をかけようとしてるんだ。由比ヶ浜とかか?」

 

「平塚先生です」

 

「すいませんそれだけはやめてください警察より怖いですからそれだけは」

 

あかんて。夜中に、暗い森の中で、男女が、会話してたとかそんな話が知れると絶対死ぬから。警察より数十倍怖いから。

 

「うそですってー。ほーら先輩方、もう帰りましょ?用事ももう済んだみたいですし。後処理はちゃんとしておきましたか?」

 

「そそ、そんな後処理するようなことしてないよ!!」

 

「アホか」

 

なに言ってんのこの子達......

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「あーすっきりしたー。これぐっすり眠れそうだよー」

 

「ですねー。往復するだけでも結構いい運動になりますし」

 

「行きは意識しなかったが、結構

な距離歩いてたんだな」

 

「いろはちゃん、ごめんね。あんなところまで歩いてきてもらって」

 

「いえいえ、問題ナッシングです。私も探すがてら、夜の散歩ができて楽しかったです」

 

そういえば、俺も最初は夜の散歩が目的でしたね。

 

「そう言ってくれるとありがたいなー。じゃあ、そろそろ入ろっか。八幡くん、おやすみなさーい」

 

「おう、おやすみ」

 

パタパタとバンガローに戻っていく的前。なんだかハムスターだな、あいつ。

 

「じゃあ私も戻って寝ますねー」

 

「ああ」

 

一色もバンガローに、ゴートゥーホームし......せずに何故か俺の耳元に顔を近づけてくる。ちょ!近い!あといい匂いするからやめろください!

 

「おま、なにを−」

 

「さっきの、吊り橋効果はどうでしたか?ちょっとは進展できました?」

 

「っ......!」

 

「じゃ、今日は一日お疲れ様でしたー。また明日も頑張りましょうね。おやすみなさーい」

 

「......ああ、おやすみ」

 

一色......あいつ本気で俺と的前をくっつける気なのか......。じゃあ俺は見返りにあいつと葉山をくっつけにゃならんのか。難易度高えな......や、別に俺と的前が付き合わなかったらいい話なんだけどね?

そう、付き合わなければ。そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




甘い、甘すぎるよ。一ヶ月ぶりの更新だからって文字数は増えないんですよ!
次はこんな風に開き直らず投稿できるよう頑張ります。

更新遅れてすいませんでした。


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14. 彼は気づくと女子小学生の悩みを聞くことになっている。

やー何とか遅くならない内に更新できました。
今回は区切るタイミングがなかなか掴めなかったので、やや長いです。(長いとはいってない)

では14話です。どうぞ!


「ほらほらお兄ちゃん、愛する妹の水着姿だよ!今日のために新調してきたんだから、ねーねー感想はー?」

 

「あーはいはい、可愛い可愛い。プリティーキュート」

 

「わー雑な返しだなー。小町的にポイント低い」

 

「小町ちゃんの言う通りだよ!女の子がせっかく水着姿見せてるんだから、ちゃんとした感想言わないと!作文用紙一枚ぐらい!」

 

「由比ヶ浜、お前はその量書けんの?自分の頭とちゃんと相談して言ってる?」

 

翌日の今日、小学生が夜の肝試しまで自由行動ということで、俺たちもまた自由行動ということになり、何をするか話し合った結果、

 

「うっさいし!川遊びしてる時ぐらい勉強の話はしないで!」

 

 

そう、川に来ていた。

 

 

いや、川があるとか聞いてねえから。水着とか持ってきてないんだけど。あるって言われても持ってこなかっただろうけど。

あと由比ヶ浜、俺は勉強の話をしてるんじゃない。真にお前の頭を心配して言ってるんだ。

 

そうこうしていると、遅れて雪ノ下、的前、戸塚、一色、平塚先生がやってきた。

うわぁ、あの先生、なんであのプロポーションで男いないんだよ......。あ、昨日のメールで原因分かってたわ。

 

ギンッ

 

「ひっ」

 

ちょ、なぜ睨んでくるの!10mは離れてるだろ!

 

「ど、どうかな、八幡くん。似合ってるかな?」

 

と、超能力者染みたテレパシーを駆使してくる平塚先生を尻目に、的前が少し顔を赤くしながらおずおずと聞いてきた。

的前は、ストライプ柄のビキニだった。

正直目のやり場に困るのだが、ここで変に反応すると、「うっわぁ......こいつ水着姿程度に動揺してやんの(笑)」と内心馬鹿にされた上、確実に引かれるので、動揺を見せるな。感情を殺せ俺。

 

「お、おう。に、似合ってると思うぞ」

 

はいー知ってたー。絶対キョドる結末しか見えてなかったー。

 

「そ、そっか。よかったぁ......」

 

あ、しまった。まともに感想を−

 

「あれー?なんで優花さんだけまともに感想言ってるのかなー?」

 

ニヤニヤ、ニヤニヤと兄をこの上なく嘗めた態度で、接する妹がそこにはいた。知ってた。

 

「そうだよ!ほらヒッキー!私の水着姿に対する感想は?!」

 

うん、こうなることも知ってた。

 

「あ、じゃあ先輩には全員分の感想言ってもらう。って言うのはどうですかー?」

 

「は?」

 

それは知らん。そもそもハーレム系主人公ですら、まともな感想が出てこない鬼畜難易度イベントなんぞ、俺に乗り越えられるわけないだろ。頼むから見逃してケロぉぉぉ。

 

「そうね。こんな境遇、比企谷くんには二度と訪れないものね。更生へ導くにはうってつけだと思うわ」

 

「うん。いいんじゃないですか?」

 

雪ノ下、そんな顔が赤くなるぐらい嫌なんだったら、反対してもええんやで?というか是非反対してください。

 

「じゃあ、まずはハードルが低いであろう小町からで」

 

小町がはいはいと手を上げてぴょんぴょん跳ねる。

あ^〜マイエンジェルシスター小町たんがぴょんぴょんするんじゃ^〜

 

「てかちょっと待て、俺は感想を言うなんて一言も−」

 

「ごみいちゃん、この状況で拒否権が発動できるとでも?」

 

この後、めちゃくちゃ感想を言わされた。拒否権どころか黙秘権すらなかった件。権(件)だけに

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

ひとしきり川で泳いだ後、一旦昼食を挟もうという流れになり、バンガローに向かって森の中を移動中である。

ちなみに的前と昨晩いたところはもうちょっと下流だった。

 

「あー、楽しかった。葉山くんとかみんな来たらよかったのにね」

 

「ほんとですよねー。でもあそこで子供達の安全を優先するのが葉山先輩らしいっていうか」

 

「まったくだ。比企谷、君も少しは見習ってみたらどうだ」

 

「ハハハ、心に留めておきます」

 

そうなのである。葉山、三浦、戸部、海老名さんを率いる4人は、夜の肝試しの準備も控えているっていうのに、なんと、子供達の安全のため警備すると自ら名乗りでたのだ。

と言っても、葉山以外の3人は奴の意見に賛成して従ったまでなのだが。

やだ、葉山のイケメンオーラが半端じゃない。

ちなみに一色に、なぜ葉山についていかなかったのかを聞くと、押してダメなら引いてみろ。とのことだそうだ。はいはい、策士策士。

 

「ヒッキー絶対見習う気ないよね」

 

「まあ比企谷がこの程度の進言で更生するようなら、奉仕部に入部させるほど苦労はしていない。本当、君には困らされる」

 

「まったくですね。でも、そんな自分が嫌いじゃないです」

 

「あはははは.......」

 

なぜか的前に苦笑いされる俺。

 

「そんなのだから、あなたはいつまでたっても比企......ヒキガエルなのよ」

 

「おい待て、なんでお前が小学生の頃の俺のあだ名知ってんだよ。ソースどこだそれ」

 

「え......ごめんなさい......冗談で言ったつもりだったの」

 

「おい、急に態度変えて、まるで可哀想な奴を見るような目をするな」

 

別にいいだろ、ヒキガエル。小学生の頃の話なんだから多少はいい思い出に、なるわけねえだろ。

 

「あ.......は、はは......」

 

的前、というか全員、乾いて引きつった笑みを浮かべていた。みんなどしたん?

 

「はは......あ......」

 

と、ふと的前が声を漏らした。

その視線を辿ると、森の出口、その一番外側に生えてる木に背を預け、まるで休日の俺みたいにほけーっとする、黒髪ロングの女の子がいた。

あー覚えてる。小学生ながら妙に達観した価値観をお持ちのお子様だ。

 

「......っ!......っ......」

 

「............」

 

なるほど昨日途中から、的前の気が沈んでいたのはこれが原因か。

チラリと平塚先生に目配せをし、的前と例の女子小学生を交互に見る。

 

「......ふむ。そういえば肝試しの準備のために荷物の搬入があるんだった。すまんが、比企谷と的前以外はついてきてくれないか?比企谷と的前は、付近で生徒が、怪我でもしていないか見回っててくれ」

 

どうやら俺の考えを読み取ってくれたようだ。みんなもその指示に異論はなさそうである。

しかし、こういう時の平塚先生の察しの良さは、さすがとしかいいようがない。

 

「どういう経緯かは知らんが、的前のこと、ちゃんとフォローするんだぞ」

 

「......ウィッス」

 

その上俺の横を通り過ぎながら、超カッコいいセリフ吐いていったよ......。やばい、惚れた。

そしてこの場には俺、的前、そして例の女の子が残ったわけだが。

とりあえず声をかけないとな。的前のフォローも頼まれたことだしな。

 

「よ、どうした、こんなところでぼーっとして」

 

そうここは優しいお兄さんキャラで、

 

「......別に、私がしたいからこうしてるだけ。というか無理してキャラ作りしなくていいから。どうせ友達いないんでしょ?」

 

ごめん先生......フォローなんてできそうにないよ......

てかなにこの子、歳上にこんな失礼な口きくとかどんな教育受けてんの。

 

「お、おまえな......」

 

「おまえじゃない、灯崎、灯崎美咲」

 

「............」

 

名前にサキが多いんだよ、この野郎。

 

「は、八幡くん落ち着いて」

 

「......おう」

 

挙げ句の果て、俺が的前に宥められる始末。許すまじ。

 

「じゃあ、サキサキ」

 

「......そのさきさきっていうのやだ。普通に名前で呼んで」

 

「ああ、わかった。で、サキサキ」

 

「「......大人気ない」」

 

悪かったな。俺は根に持つタイプなんだよ。まあ、さすがに冗談だが。

 

「一体どういう経緯で美咲は......粗方予想はつくんだが......」

 

何らかの原因で、周りからハブられている。これは確実だろう。

そしてサキサキもまた、その現状を改善、変えようともせずに、ほぼほぼ諦めてる。恐らくこれも当たりだろう。

だが問題はその根本、サキサキが周囲から浮いたところにある。こればかりは仮説がいくつか挙げられるだけで、真相には辿り着けない。

 

「あー、そのことなんだけど......ちょっと美咲ちゃん」

 

「ん」

 

と、的前がサキサキと何か小声で話し始めた。え、目の前でひそひそ話されると私、気になります!

 

 

 

 

 

「じゃあ、そういうことでお願いね」

 

「わかった」

 

どうやら話が終わったようだ。

3分程度だったとはいえ、完全に蚊帳の外というのは、なかなか心にくるものがあったな。八幡寂しかったです。

 

「ごめんね八幡くん。ちょっとデリケートな話だったから」

 

「さすがにデリケートな話ってぐらいわかるけどな。で?話し合った結果どういった結論に至ったんだ?辛いのなら別に俺が席を外せばいい話−」

 

「ううん、八幡がいい」

 

「............」

 

......キュン

ってダメだろ俺。さすがにJSは刑法ものだって。

 

「ほんとずるいよねー八幡くんは。私ですら、私生活でうまくいってないんだーって言ったから、情報の共有って形で教えてくれたのに。それが八幡くんは、美咲ちゃんに一目見られて、この人なら教えても大丈夫、って思われてるんだもん。このたらし魔」

 

「おい待てこら。俺がどこで誰をたらしたってんだよ。誰も俺に恋愛感情なんて持ち合わせてないから、その貶し文句はおかしいだろ。」

 

「はぁ......そう言うと思った。いいよいいよ、他人の好意に気付けないまま独身でいればいいんだよ。この無自覚たらし魔さん」

 

「今の数十秒のうちに、何があって無自覚って言葉が付与されたの?ねえ」

 

「二人とも、話が脱線してる」

 

ジロ......

 

「「あ、すいません」」

 

何だろう。今雪ノ下と平塚先生を想起させる眼光が放たれた気がした......

そしてこの小学生に怒られる高校生情けない二人。

 

「じゃあ美咲、これだけは教えてくれ。ほんとに俺でいいのか?」

 

「うん。だって、八幡ちょろ......超カッコよかったんだもん」

 

「あーはいはいそういうことね。おーけーおーけー理解した」

 

頼らられて内心喜んでた過去の俺を殴りたい。

 

「あーもう、また話が逸れてきてるよ。八幡くんはちょっと黙って、ね?」

 

「あ、ハイ」

 

......あれ?今の俺が悪かったの?

 

「じゃあ、美咲ちゃん」

 

「......うん」

 

そして彼女、灯崎美咲は喋り始めた。

ポツリ、ポツリと。己の過去を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ね?長くないでしょ?
次回の更新の予定は未定です。
はい、いつも通りですね。

感想、評価ありがとうございます!
また次回お会いしましょう!

追記
原作のルミルミが登場しない訳は、的前というオリジナルキャラからなる、オリジナル展開があるからです。ルミルミ好きの方には申し訳ありませんでした。
また完全に新しいオリジナルキャラを作中に登場させていたことを後書きに書き忘れるという愚行、お許しください。


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15. 彼と彼女が少女のために取りし行動とは。

ほんともう遅れてすいません。

4000字ぐらいなら結構前にかけてたんですが区切る部分がなかなかなくてズルズルと引き延してしまいました......

や、でも3話ぐらいの分量あるんで、と言ってもズルズル引き延したというだけあってどうも納得いってないんですよね。もしかしたら書き直すかもしれません。

あとコメントでツイッターやってますかとの質問をしてくださったので、一応書いておきます。

@arazin0022

はいそこ。なんでarazin?kusapurinじゃねえの?とか言わない。アラジンと魔法のランプのせいだよ。
ちなみにこのアカウントは、ハーメルン用に作ったものではないので、何かと内輪ネタをツイートするときもありますのでご注意ください。

久しぶりの更新なんだからさっさと読ませろって感じですよね。はい。15話です。どうぞ!


そして夜。今まさに、小学生の大半が初体験であろう夏の風物詩、肝試しが始まろうとしていた。

が、そこでお化け役をする俺たち高校生組は、肝試し会場である森の入り口ではなく、むしろその逆方向に立地している、大きく開けた原っぱにいた。

今頃、唯一司会役として残った小町が、小学生相手にルールなどの説明してくれているだろう。さすが小町たん。コミュニケーション能力の塊。俺は一体どこでこの差がついてしまったのか......

 

とまあ、俺たちはじゃあ一体何をしているかと言うと、

 

「よいしょ、っと。これいいかな、的前さん」

 

「うん、ありがとう葉山くん、それにみんなも。急な話だったのに準備まで付き合ってもらっちゃって」

 

「全然気にしなくていいよ。同じクラスメイトなんだ、助けるのは当然だよ」

 

「葉山くんの言う通りだべー。それにこんなテンションのアガること、乗らない方があれっしょー。っと、よっこらせ」

 

葉山と戸部が、持っていたダンボール箱を芝生の上に置く。

これで荷物の搬入は完了だな。

 

「うん。本当にこのクラスで良かったよ。ありがとう。じゃあ、私と八幡くん。それに雪乃ちゃんと結衣ちゃんはここで残るから、他の人は肝試しの方に戻ってくれるかな?」

 

さすがに全員が残れるわけないので、的前プラス奉仕部でセッティング、それが大方終えたあたりで由比ヶ浜、雪ノ下ともに肝試し組へ合流、俺と的前で作戦を最後まで決行、という手はずだ。

俺って最近、的前と一緒にいる状態多くね?正直、嬉しさと緊張がそろそろゲシュタルト崩壊を起こすレベルで意識を占拠してるから困るんですけど。

 

「うわー、あーし、肝試しとかチョー久しぶりなんですけど」

 

「私たちはやらないんだからね?小学生に混じって優美子が肝試ししないでよ?」

 

「そ、そのぐらいわかってるし!バカにすんなし!」

 

「へー優美子ならやりそうだけど」

 

「はぁ?!」

 

ほんと三浦、海老名さんペアって仲良いな。

 

「あーはいはい。二人漫才はそこまでにして。小町ちゃんも待ってるんだし、早く戻ってあげないと」

 

「りょーかーい」

 

「ちょっ、隼人!私、肝試しなんかに浮かれる女じゃないからね?!ね?!」

 

「はいはい......」

 

「本当に違うんだってば!」

 

ギャーギャーと女王様が騒ぎながら、肝試し会場へと続く森へ五人が消えていった。うるさい。

しかし葉山も大変だよな......あのメンツ全員に不満がないようまとめ上げてるとか、苦労が半端じゃねえわ。さすがイケメンくんは違うぜ。俺だったらグループに存在した時点で、不満が蔓延するレベルである。これって無理ゲじゃない?

 

「じゃあ後はちゃちゃっとセッティング済ませちゃおっかー!」

 

「ええ、まだ時間は十分あるけれど、トラブルのことも考慮すれば、早めに取り掛かった方が良さそうね」

 

「だな。あとはー......予定通り進行すれば、肝試しが終わるまで二時間無いくらいだな。ちゃっちゃと作業に取り掛かろうぜ。ほれ由比ヶ浜、これ持っといてくれ」

 

「はいはーい」

 

携帯で時間を確認した後、由比ヶ浜にダンボールの中身を渡す。

しかし、的前も案外アグレッシブな部分もあるんだな。これも昼間の少女、サキサキの状態に何か思うところがあったのかもしれない。そもそも彼女自体が年端のいかない女の子である。"あんな"過去があるのなら、誰だって助けてあげたいと思うのが当たり前だろう。

 

「的前」

 

雪ノ下と由比ヶ浜が散っていったところで、的前に話しかける。

 

「ん?何かな?」

 

「この計画、必ず成功させような」

 

「え、う、うん」

 

「なんだよ、歯切れ悪いな。あの子、笑顔にさせるんだろ?」

 

「うん、なんだろう。八幡くんにキザなセリフは似合わないと思うんだよね」

 

「泣くぞ」

 

まあ確かに似合わんけども。かなり自分でも無理のあるキャラだったと自覚してるけども。

 

「でも、うん。頑張るよ、私」

 

「おう。俺も程々に頑張るわ」

 

「えー、そこは八幡くんも一生懸命頑張るー、とか言うところなんじゃないのー?」

 

「言ったらどうせ、そんなセリフは俺に合ってないとか言うんだろうが。だから俺は絶対に言わん」

 

「もー拗ねないでよー」

 

「拗ねてねえっての」

 

「......ふふっ」

 

「ふっ......」

 

二人で顔を見合わせて微笑み合う。どうだ葉山。俺みたいなのでも、まるでリア充のような雰囲気を醸し出せるんだぜ?問題は、お前が本物のリア充で、俺は所詮、偽リア充ってところだがな。あ、そもそも立つ土俵が違うわこれ。

 

「よろしくね、八幡くん」

 

「ああ、こっちこそよろしくな」

 

まあ、偽リア充だろうが、なんだろうがどうでもいいさ。真か偽かは当事者である俺が決めることだ。

 

「あー! 優花ちゃんとヒッキーがなんだかいい雰囲気になってるー!」

 

なってねえよ。

 

「あら比企谷く......サボり企谷くんの分際で生意気な態度をとるものね」

 

「い、いい雰囲気なんかじゃ--」

 

「雪ノ下、わざわざ言い直す価値あるか?それ」

 

「--ってそこ?!」

 

甘いな的前。俺は小町にほぼ毎日、的前との進展はどうだの、今日は何をしてたのだの、うんざりするほど聞かれてんだ。今更由比ヶ浜程度の煽りで動揺なんてしないさ。

 

「じゃあお願いだから、場を弁えず、盛った、犬のような、行動、をするのだけは控えてちょうだいね。約束よ」

 

「ばっ、雪ノ下おまえっ!」

 

こいつ絶対、俺が余裕綽々だったのが気に食わなかっただけだろ!自分で言って頬を赤く染めるぐらいなら無理するなよ恥ずかしい!

 

「さ、盛った......」

 

的前もリピートしなくて良いから。というかお前も顔を赤くしないで否定しろ。

 

「盛った......どういう意味?」

 

ああ......ああ......この子は......

 

「由比ヶ浜......今はお前の馬鹿さが心地良い......」

 

「なんで私馬鹿にされてんの?!」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「やー、にしてもさすがだわ的前さん。なんていうのー?あれ、リーダーシップがぱねーよなー。弓道部の部長だし?やっぱああいうのがみんなに気遣えるんだろーなー。っべーわー、まじっべーわー」

 

「ああ、そうだな」

 

仮装をして配置につくため、五人で話をしながら森を歩く。

 

「あ、や、もちろんハヤトくんも入ってるっしょー?あ、それだとユミコも入ってるしー。あれ?俺らのクラスって結構リーダー系の人多いんじゃねー?!」

 

「で、ですねー。それに、戸部先輩もなかなかだと思いますよー」

 

なんだろう。今日の戸部先輩、すごくやかm......うるさい。

あれだろうか、先ほどの三浦先輩と同じく、柄にもなく肝試しが楽しみなんだろうか。参加できないとわかっていて、なぜこうも興奮......あ、脅かす役をするから......?

......だめだ。この人が脅かす役を演じるなんて出来そうにない。いや出来ない。絶対に、ばーっ!って叫ぶところで、っべー!って言っちゃうでしょこの人。

三浦先輩は、仮装なんかしなくても怖そ、

ひっ.......なぜか今寒気が......

 

「で、でも本当に凄いですよねー。一人のために、あんな大胆な行動をすぐ実践できるのって」

 

「ねー。あーし、いきなり的前さんとヒキオが、肝試しの役するの降りたいとか言うじゃん?ちゃんと先生を含めて計画まで練ってるのにしょーもない理由だったら、軽くシメてやろうかとか思ってたんだけど、ああいった内容の話されちゃったら、むしろ感動ものじゃん?あれでかなり的前さんの認識変わったわ、あーし」

 

とか言いつつ最初、私のこと睨んでましたよね?

 

「おれもおれもー」

 

「私もー」

 

「部長に抜擢されるのもわかるよ。技力もあるんだろうけど、結局は周りからの信頼だからな」

 

「ですねー」

 

全員がそれぞれ肯定の相づちを打つ。

なお、ここまでに先輩の話題はない模様。かわいそうな人です。アーメン。

 

「急ごしらえとはいえ、美咲ちゃん、でしたっけ?その子のためにも、うまく成功してくれるといいんですけどねー」

 

「だべだべ」

 

「まあ、他人の心配もほどほどにしといたほうが良さそうだな。もう少しすれば肝試しも始まる。由比ヶ浜さんと雪ノ下さんも、あっちの準備を終えて、もうじきこちらに戻ってくるはずだ。美咲ちゃんのためにも、出来るだけの事をしてコンディションを整えておこう!せーの、えい、えい、」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

先輩、全く誰にも触れてもらえてませんでしたが、私ぐらいは応援しておいてあげますから。頑張ってくださいね。そしてせいぜい、私と葉山先輩の架け橋になって使い倒されてください。

 

 

"花火" 上手く打ち上がるといいですね。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「っへくし!」

 

なんだろう。凄く失礼な事を考えられてた気がする。具体的には、あざとい後輩に巧みに利用されそうな。

 

「大丈夫? 風邪とか引いてない?」

 

「や、大丈夫。それよりこっちの準備は完了したぞ。的前の方はどうだ?」

 

「うん。こっちも今終わったよー。あとは由比ヶ浜さんから、肝試しの終了の連絡を待つだけだね」

 

打ち上げ花火の粗方のセッティングを終え、葉山達を追った由比ヶ浜から先程、肝試しが始まった旨をメールで伝えられたので、今から一時間程、ここで的前と待機ということになる。

一見余裕そうに見えるが、本来肝試しの後にはキャンプファイアー行われる予定だったのだ。それを無理言ってずらしてもらっているので、迅速かつスピーディに行わなければならない。

でも事実、この待機時間は暇なわけで、

 

「ねえ、八幡くん。一袋だけ......ダメかな?」

 

恐る恐る、まるで躾の厳しい母親におもちゃをせがむような顔で、手持ち花火の入った袋を俺に見せてきた。なにこれクッソ可愛い。

それは四人で設置した打ち上げ花火とは別に、キャンプファイアーの時にでも小学生に配ろうと予定していたものだ。もちろん、足りなくならないようかなり余裕をもてる量を買ってきたので、多少は大丈夫だろう。っていうか、

 

「そもそも経費の半分は的前が出してるんだし、あいつらなら責めやしないだろ」

 

そうなのである。林間学校のボランティアに、なぜそんな金を持ってきてるのかは知らないが、買い出しで山の麓のスーパーまで行ったとき、半分出すと言って財布から諭吉さんが数枚出てきたのには驚いたものだ。

あと素行の良い的前ですらこんなことを言うのだ。俺が耐えられる訳ない、花火したい。めっちゃ花火したい。うわー、何年ぶりだろうなー。花火なんて眺めてるだけで、したことないから凄く新鮮だなー。何年ぶりとか言う問題じゃなかったなこれ。記憶がないほど昔の俺が花火を体験していることを願うばかりである。

 

「いや、みんなが頑張ってるのに私達だけ楽しんでて良いのかなーってのがちょっと......ね」

 

「っは、んなもん大丈夫大丈夫。待つのだって立派な仕事のうちの一つだ一つ」

 

「うーん、そういうものなのかな......あ」

 

「そういうもんそういうもん。よっと」

 

的前から袋をぶんどり、容赦なく開け放ち一束取り出す。

 

「あーもー、もしバレたら八幡くんのせいにするからねー」

 

苦笑いしながら罪をなすりつけてくる的前。

 

「ちょっとまて。誘ってきたのお前だろ。なんで俺のせいになるんだ」

 

「みんななら許してくれるんでしょ?」

 

「断じて違う。的前は大きな勘違いをしている。それは的前という個人だから許されることであって、俺という存在が許されるかどうかはまた別問題なんだよ。そして恐らく雪ノ下に蔑まれる」

 

「う、嘘だって。そこまで必死にならなくても......というかしれっと八幡くんの存在が否定されかけてない?」

 

「雪ノ下の罵倒を受けていないからそう言えるんだ。てかライターどこだ」

 

的前の俺を見る目が、段々と慈悲に満ちてきたので、話を逸らすべくダンボールの中を漁ってライター探す。

 

「あ、ライターは私が持ってるんだった。はい」

 

「さ、さんきゅー。ほら、最初は的前がやれよ。俺が火持っててやるから」

 

話逸らそうとしても決まらねえな......俺。

 

「ほんと? ありがと。わー、実は私ってこういう花火、手持ち花火って言うんだっけ?初めてなんだよねー。いつもは打ち上げ花火を眺めてばかりで」

 

えっ

 

「えっ」

 

あまりに衝撃の事実に、心と声がシンクロ。

 

「え?」

 

「え? じゃなくてだな、的前はてっきりこういうのは、友達とか家族でやってるものなんだと」

 

もしかして意外に俺と同じ類の奴っているの? まじ? 今俺の常識が覆されそうなんだけど。

 

「あはは、やっぱり変だよね......この歳にもなってそういう思い出が無いのって」

 

あれ?!地雷踏んだ?!

 

「おかしくなんかねーよ。俺だって記憶が正しければ手持ち花火なんて生まれてこのかたしたことないし」

 

せいぜい小町がしてるのを端から見てたぐらいだ。小さい頃の話だが。

なんで見てたのかって、そりゃあ両手に花火を持ってはしゃぎまくる小町を暖かい目で見守ってたからに決まってるだろいい加減にしろ。

 

「え?! ほんと?! わーわー! 初めて手持ち花火したことない人に出会えた! まさか八幡くんもだったなんて! もー、びっくりだよー!」

 

「お、おう」

 

え、なんでこの子こんなに嬉しそうなの。喜ぶ基準おかしいでしょ。今までで一番喜んでる気がする。

 

「じゃあ今からすることは、私と八幡くん、お互いに初めての体験なんだねー、なんて。えへへ」

 

「............」

 

くっそかわいいんですけど。え、ほんとに俺と同じ人類なのこれは。

つかめちゃくちゃ恥ずかしい。もう自分が打ち上げ花火になっていいですか?

 

「えへへ、へ......へ......あ」

 

あ、今絶対自分が大胆発言したのに気づいたよこの子。ティ◯ァールも目じゃないくらい急速に赤くなってるよ。

 

「や、その、ちがっ!ちがくてっ!私が言ったのは決してそんな意味じゃなくてっ!」

 

「わかってる、わかってるから」

 

「本当にわかってる?

 

......なんだかここまでとりみだしてると、少しいじめたくなるな。よし。

 

「というか俺は花火のことだと思ってたんだがなー。的前の言う、そんな意味って、どういうことなんだ?」

 

「ふぇぁ?! そ、そんなの言えるわけないじゃんバカ! はちまんくんのいじわる!」

 

「ぉぉ......」

 

はっ、いかんいかん危うく新しい扉を開け放つところだったぜ。ナイス自制心。

 

「......え、えっちなことじゃないんだからね!!」

 

開けていいですかね?新しい扉。

 

「わ、悪かったから。ほら、ライターつけるから花火出せって」

 

「......じゃあもう変な意地悪しない?」

 

「ああ、この通りだ」

 

THE土下座を繰り出し、もう二度としないことを誓う。(しないとは言ってない)

 

「むー......わかった」

 

少し拗ねただけで、どうにかなったぽい。ナイスライター。

しかし取り乱した的前、あれは危険だな。下手すりゃ俺が犯罪級の過ちを犯す可能性まである。気を付けよう。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「わわ、すごいよ八幡くん! すごいシュワーって、シュワーっていってる!」

 

はしゃいでる。めっちゃはしゃいでるよこの子。拗ねた的前どこいった。

火花を放ち始めた手持ち花火を見た瞬間、機嫌を直す的前まじちょろい。

あと的前の精神年齢が著しく低下してない? こんな無邪気はしゃぐキャラじゃなかったよね? どんだけ花火に興味津々なの。

 

「ほらほら八幡くんも!」

 

「お、おう」

 

どうも調子狂うんだよなぁ、異性、その上同級生にこういう接し方されると。無邪気パワーにゃ敵いませんわ。

ドギマギしつつも今度は的前に火をつけてもらう。なんだっけかこの花火の種類、確かテレビで見た記憶が正しければ、ススキとかそんな感じ。

どうでもいい記憶を掘り起こしていると、先端から黄金色に輝く火花がで始めた。確かに心なしかススキのように見えないこともない。

 

「おお、実物だとなかなか違うもんだな」

 

「だねー! あ、終わっちゃった。次は......こ、これにしっよかな」

 

次に的前が手に取ったのは......パンダさんがプリントされた絵型花火だった。なぜ二本目でそれをチョイスしたのか。

だ、だめだ。ギャップで笑いが堪えられねぇ。

 

「え、えーっとライターライター」

 

「ほ、ほれ、ライター代わりに俺の花火使えよ。くっ」

 

「あー! 今笑ったでしょ! 前からしたかったんだからいいでしょ!」

 

「わかったわかった。ほれ、火傷するなよ。っくく」

 

「うぅ......なんだか今日の八幡くん意地悪だよ......もしかしてそれが本性なの? うわぁ、最低......」

 

「まて、勝手に自己完結して俺を最低野郎にすんな。俺はただ困ってる的前がかわい、じゃない、面白くてだな」

 

おっと危うく本音が。

 

「か、可愛い......」

 

漏れてました。

 

「おい、面白いからって言ってんだろ。可愛いなんぞ一言も言ってない」

 

そういう小っ恥ずかしいセリフ掘り返さないでくれますかねぇ......。蘇った黒歴史の記憶と相まってアッパーKOされそうになるんで。

 

「......ほんと?」

 

Oh my shit......

 

「......あー、まあ、そのなんだ。少しは可愛いかった、ぞ」

 

反則だろ。涙目でそれは反則すぎるだろ......。この子末恐ろし過ぎるんですけど。可能性の化け物かよ。

 

「ねぇ、八幡くん」

 

「ん?」

 

妙に頬を赤らめながら、おずおずと口を開く的前。

 

「その、困ってる私がか、可愛いって言ってくれたけど、じゃあ私自身のことは、あの、どう思ってくれてるのかなって......」

 

..................は?

 

「や、お前、何言って」

 

「............」

 

なんで黙りなんですかねぇ......

 

「あのー的前さん?」

 

「............」

 

ふ、ふえぇ......無言のプレッシャー半端じゃないよぉ......僕もう胃袋が締め付けられすぎて死んじゃうぅ、助けてドラ◯もーん!

 

prrrr...prrrr...

 

「「!!」」

 

ポケットに入れていたスマホに振動が走る。このタイミングで着信ってことは......

 

 

着信元 : 由比ヶ浜

 

 

ああ......あなたが神であられましたか......

というか今日はやけに由比ヶ浜に助けられてる気がする。いつかマッ缶でも買ってやろう。

 

「......出ていいか?」

 

「うん......」

 

確認を取らなければいけない雰囲気な気がしたので一応。

 

「あー、もしもし。俺だ」

 

『あ、ヒッキー? 調子はどう? こっちはもう十分もすれば、今出てる組の子達が帰ってきそうなんだけど、準備の方は終わった?』

 

あっちの方は少し予定より早くおわりそうだが問題はなかったみたいだな。まあ、あの面子で問題なんて起こらないだろうし、そこは信用してるけどな。

 

「ああ、悪いな。準備といい、肝試しといい、いろいろやってもらって。助かった、さんきゅ」

 

『えっ......ゆ、ゆきのんゆきのん!た、大変だよ! ヒッキーが! ヒッキーがスマホ越しとはいえ素直にお礼を!!』

 

『由比ヶ浜さん、早く電話を切りなさい。今喋ってるのは恐らく地球外生命体よ。比企谷くんに化けているのだわ。それだと彼はもう......』

 

『ええっ?! そんなっ! ヒッキー!! 大丈夫?! そこにいるなら返事して!!』

 

「雪ノ下さん? 由比ヶ浜の頭じゃ本当に信じ込むからそういうのやめてくれません?」

 

『あら、私としてはかなり真剣に言ったつもりなのだけれど』

 

こいつ......!

 

『まあ先ほど由比ヶ浜さんが言った通りあと十分、いえ、あなたが無駄話をしているからあと五分程で肝試しが終了するわ。そろそろ準備しておいてくれるかしら』

 

「無駄話し始めたのお前らからだろ......。まあわかったわ。いつでも打ち上げられるよう待機しとく。今だ、ってところでまた連絡してくれ」

 

『了解よ。成功を祈ってるわ』

 

「は? お前が祈るとかなんの冗談?」

 

ふっ、最後に少しは仕返しを......

 

ブツッ......プー...プー...プー...

 

「あんの野郎......っ!」

 

普通に切りやがったよ。なんだ、そんなに俺に言い返されるのが怖いか。はっ! 雑魚め! ......これを負け犬の遠吠えって言うんだろうな。

 

「あのー八幡くん。あっちはなんて......?」

 

「あー、肝試しは予定より少し速く終わるっぽいな。また連絡をよこしてくれるから、それまでにすぐ打ち上げられるようにしとくぞ」

 

「あ、うん、わかった」

 

ポケットに入れてたライターを取り出し、最初に打ち上げる予定の花火の前でしゃがみこむ。花火は一列に並べてあるので、的前は数メートル離れた花火のところで待機だ。

 

「ねえ、八幡くんとさ、雪ノ下さんって仲いいよね。もちろん由比ヶ浜さんもだけど」

 

座った的前がふとそんなことを言い出した。あのぉ......また拗ねてます? 言葉のところどころに棘があるんですけど。

 

「ねーよ。なんだ藪から棒に。由比ヶ浜はともかく、雪ノ下とは言い合いばっかしてるんだ。あれを見てどこが仲良く見えるんだか」

 

「こう、なんでも言い合える仲って感じがしてさー?」

 

「あれは悪口しか言ってねえだろ......」

 

「ふーん」

 

面倒くせぇ......ほんとなんで拗ねてんのかわかんねぇ......。

なんかライターいじいじして火つけてるし。

 

「あ、わかった。お前雪ノ下と仲良くなりたいのか。だから俺が雪ノ下と仲よさげに話してててヤキモチを......大丈夫だ。あいつはなんだかんだ言って相手の好意は拒めないタイプだからな。初めはあれだろうが、いざ話してみれば大丈夫だ」

 

なお俺から向けられる感情は何だろうが容赦なく一刀両断される模様。

 

「八幡くんてよく酷い勘違いするよね。ヤキモチはあってるけどズレてるし......正直わざとなんじゃないかって思うくらい」

 

「え、なんで......あ、雪ノ下じゃなくて由比ヶ浜の方か」

 

「......はぁ」

 

挙げ句の果てにため息までつかれる始末。言いたいことあるんならさっさと言わんかい。

 

「小町ちゃん。八幡くんは一体どうしたら気づいてくれるのかなぁ」

 

「あ? 小町がどうしたって?」

 

「なんでもないですよーだ。この鈍感シスコン」

 

「なんだその新しいあだ名」

 

鈍感ってなんだよ。むしろ鋭すぎるまでだろ。目つきとか。

 

そしてそれを境に会話がポツリと止んでしまう俺、コミュ障の塊(笑)

 

「............」

 

「............」

 

胃が、胃がキリキリ締め付けられるでおじゃるぅ......どうしてこんな気まずい雰囲気の中で気になる女子と一緒におらにゃならんのだ。俺は帰らせてもらうぞ!

いや、考えろ。俺は鈍感系主人公じゃねえんだから分かるはずだ。なぜ的前が拗ねているのか。

まず俺が由比ヶ浜、雪ノ下と電話をしたから拗ねた、正確にはヤキモチを妬いたわけだ。

しかし的前は二人に対してヤキモチをついてはいないという。じゃあつまり俺にヤキモチを......?

いやなぜそんなばかな。あの会話の中のどこにそうなる要素があった。いや、ない(確信)

となると電話がかかってくる前............あ、あー......

 

「な、なあ。的前」

 

「......なにかな」

 

言う。言うぞ。頑張れ俺、絶対に噛むなよ......

 

「その、あれだ。お前はいつも、ま、まあまあ可愛いとは、その、思う......ぞ」

 

ああああああああああああ、穴があったら入って塞いで冬眠したい......

......反応なくね?

恥ずかしさで伏せていた顔をそろりと上げてみるトォ?!

 

突如顔面に衝撃が走る。なんでビンタされてますねん。意味わからんわ。

 

「ちょ! まて、少し落ち着--」

 

「ばかばかばか! どうしていつもそんなセリフを不意打ちで言ってくるの! 恥ずかしんだよ?! いつも照れ隠しするの大変だし、声のトーン抑えるのだって必死なんだよ?! このたらし!!」

 

あーそういうこといっちゃう? カッチーンときた。

 

「......ああそうかいそうかい! なら俺からも言わせてもらうとだな。今日のお前は喜怒哀楽がコロコロ変わりすぎなんだよ! 俺も接し方がもうちょっと心に余裕持てや!」

 

なんかしれっとすごいこと言われてる気がするが無視だ無視。

 

「なっ! それは今関係ないでしょ?! というかそれだったら八幡くんだって!」

 

「ああ?」

 

「なによ!」

 

 

 

 

 

「なに痴話喧嘩してんのさこのカップルは......」

 

「「カップルじゃない!! ......あれ?」」

 

「もう息までぴったしじゃんか......」

 

はぁ、とため息を吐く小町たんがそこにはいました。

 

「え、おま、小町、なんで」

 

「なんでって......お兄ちゃんと優香さんが二人っきりだったから?」

 

なんでこの妹はそこまでして湧いて出てくるのだろう。将来記者にでもなりそうなんですがそれは。

 

「ね、ねえ小町ちゃん。一体いつからそこに......」

 

「そうですねー......『じゃあ私自身のことは、あの、どう思っ--」

 

「わーわーわー!!」

 

「思いっきり最初からじゃねえか......」

 

「やー! さすが高校生は違いますねぇ! もうあの大胆発言! 眼福眼福♪」

 

「おっさんかよ」

 

「奥手だと思っていた優香さんが、ここぞとばかりに攻めに転じた姿にはさすがに驚きましたよー!」

 

「あぅぅぅぅぅぅ......」

 

やめて!的前の(精神)ライフはもうゼロよ!そしてこれ以上の口撃は私のライフも削ることになるわ!

 

「やー、でもほんとに、びっくりしましたよー。お兄ちゃんの告白紛いも結構なものでしたが、まさか喧嘩になるとは。お兄ちゃんも甲斐性がないなぁ」

 

「あれはどう考えても的前が悪いだろ。叩かたり罵られたり、いろいろと理不尽すぎる」

 

「はぁ......いい加減小町も叩きたくなってきたよ」

 

先ほどとは違い、完全に呆れ切ったため息をつかれると同時に、謎の攻撃を宣言される。なんで?

 

「あの、小町ちゃん。このことは誰にも......」

 

顔を俯かせ、人差し指をツンツンしながら、ええい!いちいち反応がかわいい!

 

「え、あ、やー、誠に申し上げにくいんですけど。そのー」

 

「なんだ。気持ち悪いまでに敬語使って。小町らしくもない」

 

どうせもう誰かしろに言っちゃったとかなんだろうな。真剣に一色でないことを願う。

 

「そのー。みなさん、どうぞ」

 

「......は?」

 

みなさん、どうぞ? おいおい小町、今年受験生なのに大丈夫なのか。動詞つけろどう......し......

 

「あ、あはは。やっはろー?」

 

「まったくあれほど盛るなと言っておいたのに」

 

「っべーわー。ちょー的前さん大胆だわー」

 

「は、八幡。なんかごめんなさい」

 

ぞろぞろと近くの茂みから出てくること出てくること。は? 死んでいい?

 

「ごめんね? さっきの電話した時点でもう肝試し終わっちゃってたんだよねー。そこでちょっといたずらしちゃおっかってこと......で、小町.....が......」

 

「小町」

 

「は、はいっ!」

 

いつぶりだろうか。ここまで低い声が出たのは。

 

「おまえ、家帰ったら覚えとけよ。帰るまでに罰考えとくから」

 

「え、じょ、冗談だよね? 小町に何もしないよね?」

 

わたわたと目を涙ぐませながら俺にしがみついてくる。

 

「......冗談言ってると思うか?」

 

「は、はい......ごめんなさい......」

 

「よろしい」

 

「あ、あの、ひっきー......」

 

と、由比ヶ浜が怯える子犬のような顔でおずおずと口を開いた。

 

「あ、由比ヶ浜とかは別に何もないぞ。全てはこの妹が招いた結果だからな。自業自得だ」

 

「ぅ......」

 

「あ、そ、そっかー。よかったー」

 

今度は、捨てられていた自分を誰かが拾ってくれたかのような安堵を見せる。

え? 俺そんなに怖かったです?

 

「すまないヒキタニくん。出たくても出られない状況だったとはいえ、黙って傍観なんてことをしてしまって」

 

「や、別に怒ってねえよ。それに場所もわきまえず言い合ってた俺たちにも非がある」

 

「そうか。そう言ってもらえると助かるよ」

 

「おう」

 

すげえな。場の雰囲気を一気に収束に持っていったぞこのイケメン。

 

「一見比企谷くんと的前さんがゴールインすると見せかけての百八十度ターン! 略奪愛で比企谷くんをメロメロにするが葉山くん! でも、ベットでは葉山くんが下手に回って、あたっ」

 

「やめなさい」

 

すげえな、この数回の受け答えでかなり具体的な妄想をしたぞこの腐女子。そして三浦様。ナイス抑制です。

ん?ていうか的前まったく喋らないけどどうし--

 

「あ......ぃぅ......みら......みられ......ぁ......ぁ......」

 

「大丈夫かおまえ」

 

耐性なさすぎだろ。そんなぐらいだったら大胆発言って言われるほどのことすんなよ。

 

「あの、優香さん。その、すいませんでした。ちょっとした出来心だったんです」

 

「ひぅ......」

 

「ちょ、おま」

 

他人の視線どころか声にも怯えているようで、スッっと俺の背中に隠れてしまう。っく......もうメンタルが持たない......っ!殺せっ!

 

「ありゃぁ......完全にダメだよこれ」

 

「このままだと非常に花火が打ち上げづらいわね。比企谷くん、どうにかしなさい」

 

「なぜ俺なんだ。こんなのは同性がするもんだろ」

 

「あなたバカなのかしら。ここで同性である私たちが出しゃばるより、比企谷くんの方が効果あるに決まってるでしょ」

 

「「「「うんうん」」」」

 

ええ......そういうもんなのか......

 

「ほら先輩。的前先輩のことならなんでも知ってるんですから。ここで気の利く一言でもお願いしますよぉ」

 

この後輩、ここぞとばかりに借りを作って、後で自分と葉山をくっつけること手伝わせる気満々だろ。隠す気もねえし、若干煽りも入ってるし。

そして場の空気が完全に俺に言わせるムードな件。腹を括らざるを得ない。

 

「安心しろ的前、大丈夫だ。俺が(この件は秘密として)守ってやるから。正気になれ」

 

「............」

 

ふらりと。俺の服を掴んでいた手の力がふっと抜ける。

 

「え、ちょ?! なんで倒れるんだよ! 大丈夫か的前!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「バカだ」」」」」」」

 

呆れ切った罵声も気に留めず、的前がなぜ倒れたのか不思議でしょうがなかった俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ね?ズルズル引き延した様な文章でしたでしょ?
スットクもへったくれもありませんが次回更新は出来るだけ早くしようと思います。過度な期待はせずにのんびりとお待ちくださいませ。
と、そういえばまた性懲りもなくもう一本ssを書き始めたバカいますようで。しかもまた見切り発進らしいですよ?
あ、いろはルートです。まだ1話しか投稿してないですが、よければそちらの方もお願いします。

できれば感想・評価お願いいたします。


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エイプリルフールネタ 彼らのエイプリルフールはなかなかに壮絶である。

今日って何日かしってますか?
はは、バカな筆者ですよね。なんで当日、せめて次の日ぐらいには投稿しろって話ですよね。

ま、まあ? エイプリルフールがつい最近あったとか関係ないし? つい突然、急にエイプリルフールネタが書きたくなっただけだし?だけだしっ?!


「ねーねーお兄ちゃん。明日って何の日だか知ってるー?」

 

春休みの昼下がり、ソファーで春の陽気に当てられながらぬベーってしていると、同じくぬベーっと寝転んで雑誌を読んでいた小町がふとそんなことを聞いてきた。

お兄ちゃん、そんなどうでもいいことより、その偏差値の低そうな雑誌を読まないで欲しいな......。もう受験近いんだから勉強してください......

 

「明日......四月一日だろ? そりゃお前、綿抜ーー」

 

「だよねー。流石のお兄ちゃんでも知ってるよねー。あのエ・イ・プ・リ・ルフールだもんねー」

 

しょうもないことで話の腰を折るなと流し目で睨まれた。すんません......

 

「ということで! エイプリルフールパーティを開こうと思います!」

 

どういうことで?

 

「おいおい待て小町。ひな祭りとかならまだわかるがエイプリルフールでパーティってなんだ。ろくなパーティになる気がしないんだが」

 

エイプリルフールズなの? 参加者みんな嘘つきなの?

 

「だいじょぶだいじょぶー。参加者間で嘘を交えつつトークするだけだから〜」

 

「参加者間て、一体誰が参加するんだ?」

 

「えっとねー、優香さんと、雪乃さんと結衣さんとー......いつもの人達に声はかけてるよ」

 

「波乱万丈の予感しかしないんだが」

 

陽乃さんが我が家に、しかもエイプリルフールという矛を持って突撃してきた日にゃ、大惨事大戦が勃発しちゃうんですがそれは。

 

「残念! 陽乃さんは学校の方で忙しいんだって。よかったね」

 

「残念なのかよかったのかどっちなんだよ」

 

でも、よかった.......本当によかったよぅ......

 

「まあいつもの人達といっても、今言った三人にいろはさんが来れるかどうかなんだけどね〜」

 

「あ、そなの」

 

コミュ力の塊である小町のことだから、てっきり俺の知り合い全部呼んでるのかと思った。

 

「ま、そういうことだからとっておきの話考えておいてね」

 

「やっだよ。なんで俺がそんなことしなきゃらん」

 

「えー、なんでさー」

 

「なんでって言われても俺は参加しないんだから何とも」

 

「うっわぁ......いい加減にその思い込みどうにかしないと、優香さんに愛想尽かされるよ......小町的にポイント低い」

 

「愛想も何も愛されるような間柄じゃねえだろ......」

 

というかなんでそこで的前出てくんだよ。そっちこそそうやって毎度毎度的前ネタで弄ってくるの、いい加減やめないと八幡的にポイント低いぞ。

 

「じゃ、明日の十時ごろに来るだろうからよろしくねー」

 

「十時? 昼からじゃないのか」

 

「無知だなー。エイプリルフールってのは午前に嘘ついて午後にネタばらしするものなの」

 

「悪かったな。そういうリア充絡みのイベントはあんまり知らねえんだよ」

 

というか無知って......お兄ちゃん、小町にだけは言われたくなかったよ......

 

「まったくリア充関係ないんだけどね......」

 

呆れ切ったため息をつかれる。ため息つきたいのは俺のほうだよ。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「やっはろー! こんにちは小町ちゃん!」

 

翌日、十時頃にリビングでくつろいでいると、玄関から一瞬で誰かわかる声が聞こえてきた。予定通り家に着いたようだ。

あの、由比ヶ浜さん? ご近所さんに変な(頭の子が遊びにきていた)噂立てられるとあれなんで、そのいかにも頭悪そうな挨拶はちょっと遠慮してくれませんか?

 

「あ、雪乃さんといろはさんも一緒だったんですね。全員一緒にくるって言ってくれれば迎えに行ったんですけど」

 

へぇ、一色も一緒なのか。珍しい。

 

「いえ、一色さんとは途中で会っただけよ。小町さんが気負うことはないわ」

 

「そうですよ〜。それに私もちょっと迷わないから心配だったから助かりました〜。ありがとうございます」

 

「そ、そう。あら? そういえば的前さんはどうしたのかしら。家が近所同士と伺っているけれど......」

 

あ、話逸らしやがった。

でも確かに雪ノ下の言う通り遅いな、的前。

 

「まあ電話もできますし、いざとなれば家に行ってみますから。とりあえず立ち話も何ですし上がってください」

 

「「「おじゃましまーす」」」

 

数名の足音が近づいてくる。

......お茶でも入れとくか。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「ではではー、第一回エイプリルフールパーティをここに開催したいと思います。ぱふぱふ〜」

 

「ぱふぱふ〜」

 

さっと小町がカーテンを閉め、照明をつけていない部屋が一気に薄暗くなる。

そして小町と由比ヶ浜の気の抜けそうな掛け声と共に謎のパーティ、エイプリルフールパーティなるものがついに開催されてしまった。私、どうなっちゃうの?!

 

「えー、ルールはメールでお伝えしていますが、軽くおさらいしておきますね」

 

......は?

 

「ちょっと小町たん? 私ルールのルの字も聞いてないんだけど?」

 

「あれー? そうだっけー? じゃあおさらいするからそれで理解してねー」

 

最近小町の俺へ対する扱いが雑なんですがそれは。

 

「じゃあもう一回説明しますね。えーっとーー」

 

画して、おさらいという名のルール説明を受けるのであった。俺マジ不憫。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「じゃあ十分後に始めますねー」

 

「はーい」

 

ふむ。説明を聞いた限りでは、小町が考えたにしては意外としっかりしていて、かつ単純なルールだ。

 

まず、各々が話したい話題を提示し、決めた順番に沿って気がすむまで話す。

しかし条件として、嘘を最低一つ、最高でも三つ織り交ぜて話さなければならない。

その後、小町が考えた独特の採点が入るらしく、これが中々に駆け引きを要求される。

その採点というのが、自分が隠し通せれた加点と、相手の嘘を看破した加点で最終結果を競う、というものだ。

自分がついた嘘が隠し通せると加点一。バレると減点二。

逆に他人の嘘を見破ると加点二。見誤って真実を嘘と述べると減点一。

これだけのシステムを短期間で仕上げた小町には驚かされたが、それよりもその集中力を是非勉強に生かして欲しかった。

 

「そういや小町。未だに的前が来てないが連絡はしたのか?」

 

集合時間であった十時からすでに半時間ほど経過しているがインターホンに音沙汰はない。

 

「あー、うん。連絡したらどうしても外せない用事が出来ちゃったから、お昼からの参加にするんだって」

 

「外せない用事ならしゃあな......ん? 小町、お前いつの間に連絡とってたんだ。俺の見た限り携帯をいじってる姿なんて一度も見てないんだが」

 

「うぇ? ほ、ほら。お兄ちゃんには死角になって見えてなかったかもだけど、説明している内にメール送ってたんだよー」

 

「そ、そーだよー」

 

由比ヶ浜がすかさず相槌を打つ。

 

「あ、そなの」

 

怪しい。いや、怪しいどころか確信犯だろ。こいつら絶対何か隠してる。

現状怪しいのは由比ヶ浜と小町だけだが......

確認をとるため雪ノ下と一色に軽く視線を送る。

 

「............」

 

雪ノ下はだんまり。ふむ、普段ならここで憎まれ口の一つでもたたいてくるんだが......恐らく黒だな。

じゃあ一色は......

 

「......?」

 

白......なのか? 白っぽいな。というかなんで知らないの。お前こいつらにハブられてんなら相談しろよ......? どうしようもできないけど。

 

「じゃ、優香さんには悪いですけど、時間も時間なんで始めますねー」

 

とりあえずこいつらはよく観察しとかないとな。変なこと企んでなきゃいいんだが......。特に雪ノ下は注意だな。あいつの嘘を見破るのは確実に骨が折れる。

逆に雪ノ下が落ちれば俺の勝ちだ。さすがに小町は長年兄をしてるだけあって、ある程度行動も心も読める。そして由比ヶ浜は論外だ。

と、そうこう考えている内に、小町が懐から割り箸を取り出した。

 

「じゃあ、くじで順番決めるんで一つ選んでくださーい」

 

こうして、雲行きの怪しさに顔をしかめつつも、嘘にまみれたトークパーティが始まった。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「頼む......もう、もうやめてくれ......」

 

頭を抱え込み、うわ言のように繰り返し懇願する俺の姿がそこにはあった。

そして目の前には、俺の状態なんて露知らず、澄ました顔で言葉を紡ぎ続ける悪魔、比企谷 小町がいた。

 

「そこで顔を真っ赤にした優香さんが言ったんですよ! 私、八幡くんのことが好きかもしれないって! もー小町もノックアウトしちゃうところでしたよー。あ、それとですね。これもまた優香さんがお兄ちゃんに対して言ってたことなんですけど」

 

......経緯を説明しよう。

くじを引いた結果、雪ノ下、俺、由比ヶ浜、小町、一色という順番になった俺たちは、すぐさま雪ノ下のトークを聞き始めた。

正直、いきなりラスボスかよ。ゲームの主人公じゃねえんだから負けイベントとかいらねえんだよ。と、心から神を恨んだものだが、これがびっくり、最近読んだ本で面白かった、興味深かったことをつらつらと数分述べただけで終わったのだ。最後の最後に爆弾でも投下してくるのかと身構えていたのだがそれも杞憂に終わった。

 

そして俺の番。もちろん特段面白みのある話などするわけもなく、様々な時事ネタを数分にわたって述べただけだ。

小学生でも知っているような内容でも、へぇ〜っと妙に納得した声を上げる由比ヶ浜を見て涙したが。

 

そんな、由比ヶ浜を馬鹿にしていた俺に天罰が下ったのかもしれない。

 

そこからは地獄だった。

 

 

「前ねー、夜に優香ちゃんから電話がかかってきてさー。気になる人がいるから、その人の好きなものとか、いろいろ教えてほしいって言うんだ」

 

最初は、男子の俺がいることを除けば至って普通の、普通のガールズトークのような切り出し方だった。俺がいることを除けば。......まあここまではいい。問題はその次のセリフ。

 

「誰かわからないのに好きなものもわからないからさ。だれー? って聞いたの、そしたら......結衣ちゃんと同じ部活の男子、って言ってたんだよ! いやー、ねえ?」

 

以下、同じような話題が繰り返されたわけだ。だがこの話は三回まで嘘をついていい。つまりこれらの話は嘘、と思いたかった。明らかに三回を越える量を話しやがったのだ、こいつは。それは由比ヶ浜の話したエピソードのうち、いくつか真実であることを表している。

その答えに行き着いた俺は、悶々としたものを心に抱えたまま、小町の番へ突入......

 

「で、小町がそう言ったら優香さん、顔を真っ赤にして呻き始めちゃって! もういっそお兄ちゃんより先にもらっちゃいそうになりましたよー。いやはや」

 

「死にたい......いっそ殺してくれ......」

 

した結果、冒頭のようになった。

もういじめって言ってもいいと思うんだ、これ。

 

「まだまだ話し足りないんですけどこれ以上話したら、いろはさん待たせちゃうんでこれくらいにしておきますね。ではいろはさん、お次どうぞ〜」

 

「わっかりましたー」

 

ああ、やっと終わった......。抵抗しようと口出ししても全て無視られる地獄は終わったのだ。

そして予想だと一色は白。ようやく息を

 

「では私も由比ヶ浜先輩と小町ちゃんに便乗しましてー」

 

......あんだって?

驚愕の表情を浮かべ、一色を見つめる俺に、

 

ぺろっ

 

お前舌出してれば可愛く見えるとか思うなよ。絶対に許さんからな。なんだよその騙して悪いが、みたいな表情。気に食わねえ。だかそれも後の祭り。

 

「ああ......無理矢理にでも出かけてればよかった......」

 

そう消え入りそうな声で呟いたのだった。ふざけんなまじで。

 

 

時は過ぎて時計の針が示すのは午後、エイプリルフールではついた嘘を告白する時間となった。

 

「はーい。結局優香さんは来なかったけど、全員終わったということで採点始めようと思いまーす! どんどんぱふぱふー!」

 

「どんどんぱふぱふー!」

 

ああ? 何がどんどんぱふぱふだ。しばき回すぞ。

一色の話が終わる頃には、俺の心は完全に荒んでいたわけで。心労で明日倒れないか心配です。

 

「ではでは今言ったとおり採点、もとい誰が一番うまく嘘を隠し通せてるか決めたいと思います! そしてなんと! 見事、嘘のつき方見破り方の頂点をとった人には、小町からプレゼントを用意しているのでお楽しみに!」

 

ええ、なにそのまったく嬉しくもない頂......。そしてプレゼントって聞いても嫌な予感しかしないから不思議。

 

「嘘かどうか尋ねる順番は、話した逆からですから......いろはさん、小町、結衣さんに、お兄ちゃん、最後に雪乃さんですね。まずはいろはさんどうぞ! あ、ちなみに回答は最低でも一回。全員がパスした時点で終了なんでご理解を」

 

なるほど、嘘さえ見抜ければ見抜いた奴の独壇場になりうることもある、ってことか。いや、おまえ、独壇場とか俺絶対無理じゃん。言うの小っ恥ずかしすぎて無理じゃん。

ちなみに俺がついた嘘は二つ。時事問題とは言え、嘘だと見抜かれるのは癪なので引っ掛け問題的なものも含めておいた。雪ノ下にはバレバレだろうが由比ヶ浜に気づかれなければそれでいい。

一色は、んーと顎に人差し指をつけて、THEあざとい仕草をした後、

 

「雪ノ下先輩の、この本のイラストを書いた人はドイツ人って言った点なんですけどこれ、ドイツ人じゃなくてフランス人ですよね?」

 

「......は?」

 

一色、お前そんな投げやりな回答はさすがにーー

 

「正解よ」

 

「......は?!」

 

「やった!」

 

「いやいや、まて、待ってくれ。なんで一色おま、そんなクソ難しいのがわかって......あー、いや、なんでもない。なかったことにしてくれ」

 

そーでしたぁ! こいつら組んでるんでしたぁ! 忘れてましたぁ!!

 

「えー? 先輩急にどうしたんですかぁ? いろは、結構そういったのにも知識あるんですよねー、残念でした!」

 

「はいはい」

 

うぜぇ......あざとさが相乗効果生んでよりうぜぇ......

 

まて。こいつらが組んでるってことは......まさか

 

「はい次は小町ですね。じゃあ私も雪乃さんに。著者が十六歳だと言ってたましたけど十五歳ですよね?」

 

「ええ、さすがに小町さんね。正解よ」

 

まってまってまってまってまってまってまってまってまってまってまってまって

 

「では、次は由比ヶ浜さんですね。どうぞー」

 

「うん。ゆきのんが言ってた一文。私は彼にどうしようもないくらい恋をし、そして愛を求めた。ってとこ、たいげん......体言止めだったよね? だから彼にどうしようもないくらい恋をし、そして愛を求めた、私は。だよね?」

 

もうやだっ! 八幡お家帰る!!!

そろーりとリビングから脱出

 

「どこにいこーとしてるのかな、お兄ちゃん?」

 

できるわけないですよね。知ってます。

「次はお兄ちゃんの番だよ? お兄ちゃんも雪乃さんに、あー! 雪乃さんはもう三回とも嘘がバレちゃったから無理なのかー。残念だねっ」

 

勉強はからきしなのに、悪魔のようなことを考えるのだけは天才な小町の頭が俺は残念だよ。

 

「あと答えられるのは、小町、結衣さん、いろはさんだね。頑張って!」

 

「ヒッキー、ここまできたら腹を括って、ね?」

 

「そうね、男なら腹を括りなさい」

 

腹を括れって、お前らそれもう確信犯じゃねえか。

ま、まあこの一回さえ耐え抜けばあとはパスできるんだし? どうにかなるだろ。

 

「お兄ちゃんがさっさと答えないので、さっきのプレゼントの中身発表しちゃいますねー」

 

答えない俺にしびれを切らしたのか、プレゼントの内容を言うようだ。由比ヶ浜の作ったクッキーとかじゃなければいいが......

 

「中身はー......中学の時にお兄ちゃんが大切にしてたなぜか真っ黒に染め上げられたノート、でーす!」

 

「はぁ?!」

 

小町の手には黒く塗りあげられたノートがひらひらと揺れている。まじか......全部捨てたはずなのに、俺の目をかいくぐって生きてたというのか......

というか絶対しびれ切らしてないよこの子! ここぞというばかりに切り札発動してきたよ!!

 

「え、ほんとですかー? うわー中学時代の先輩がどんなことしてたのか興味あるなー。頑張っちゃおうかなー」

 

「ま、まてまて一色。あれはだな、そう、中学時代の俺が書いた日々の苦労がひたすら綴られてるだけだから。見てもこれっぽーっちも面白くないから。な?! な?!」

 

「ちょ、ちょっと必死すぎてきもいです......あと顔近いです離れてください」

 

「今回ばかりは引き下がるわけにいかないんだよ。な? 頼むから!」

 

脇目もふらず土下座。これしかない。

 

「えー、どうしましょうかー」

 

あえなく躱されて撃沈。こうなったらいっそ小町から奪い取るって手も......

 

「比企谷くん。一色さんに見られない、いえ、誰にも見られないようにするなら簡単な方法があるじゃない」

 

「なに?!」

 

まさか雪ノ下、ここで俺を助け......てくれるわけねえよな。さすがにここまであげて落とされてたら騙されんわ。

 

「他の人の嘘を全部見破って一位になればいいのよ」

 

ね?

 

「あー、とことん俺を殺す気ですか。いいでしょう。相手して差し上げます」

 

 

 

「うわぁ......ヒッキーが薄気味悪い笑み浮かべてる......」

 

「なんだか口調も変になってますし......由比ヶ浜先輩、これ本当に大丈夫ですか? 先輩があとで復讐でもしてこないか不安でしょうがないんですけど」

 

「そだねー......頃合い見て退出しちゃおっか」

 

「ですねー」

 

「はははははは」

 

無だ。心を無にすればどんな傷も負わない。なんで最初からこうしておかなかったんだろう。

 

振り返ったら結局心に大ダメージを負うことになるのを、その時の俺は知らなかった。(後日談)

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「終わった。言い切ったぞ俺は......」

 

景品の黒歴史ノートを大切に抱いて、フラフラ、フラフラと扉へ向かう。

俺があまりも痛々しく感じられたのか、果てまたもう用済みなのかは知らないが、もう呼び止める声はかからなかった。

しかしなんという、なんという痴態を晒してしまったのだろう。明らかに俺を意識している的前のエピソードについて、嘘だのなんだの言い放ちまくったのだ。

時間は今十三時を回ったところだが、結局的前が来ずに終わったのが唯一の救いだな。

 

ガチャ

 

もう自室にこもって寝よう。寝ればこの気持ちも幾分マシになるかもしれない。

そう思ってリビングを出る。......ん? ふと視界の端に物陰が。

 

「「あ......」」

 

的前さん、いらっしゃぁーい。

 

「あ、あの、付かぬ事をお尋ねいたしますが的前さん。いつからここに?」

 

聞かれていても最だけだろうから大丈夫だろうが、念には念を、だ。

 

「え、ええっと......いろはちゃんが話してる途中から......かな?」

 

 

Why?

 

「あの、ほんとになんで? 十二時頃に来るって言ってなかったっけ?」

 

「え、私そんなことは一言も......」

 

「............」

 

おんのれあいつらぁぁぁ!! エイプリルフールをこの上なく活用しやがってええええええ!!!

「それに」

 

的前はいかにも不思議そうな顔で、

 

「まだ十一時だよ?」

 

..................は?

 

「いやいや、的前さん。知ってます? 午後になったら、エイプリルフールはネタバラシの時間なんですよ? 嘘はついちゃあいけない」

 

「その、嘘じゃないんだけど......ほら」

 

そう言ってポケットからスマホを取り出し俺に見せてくる。液晶に表示されている時間はもちろん、じゅう......じ......

......なんで? さっきだってリビングの時計が十三時を指してるのはっきり見てるし、廊下の時計だって......

 

「こまちぃいいいいい!!」

 

バンと勢いよく扉を開け放つ。

 

「あ、まず」

 

俺がもう部屋に戻ってくると思ってなかったのか、心底驚いた顔をする面々の中、小町の手には例の時計。どうやら読みは当たってしまったようだ。

 

「小町ちゃーん。なんで君は時計の針をいじくってるのかなー。お兄ちゃん不思議でならないなー」

 

俺が朝起きた時点ですでにこいつらの企みは実行されていたのだ。

まず目覚まし時計をいつもより早く設定し、家中の時計の時間もそれに合わせてずらす。あろうことか俺のスマホの時間まで変えてやがった。どうりで朝がいつもよか眠かったわけだ。

あとは的前に十一時から開始すると嘘をつけば、俺をいじり倒す場の完成。

 

「え、や、あの、お兄ちゃんこれはその......」

 

「言い訳が通用するとでも? 散々いじり倒したくせして、まだ言い逃れしようってのか?」

 

「はい......すいませんでした......」

 

しゅんとその場に正座する小町。よろしい。

 

「お前達もだ」

 

三人もまた正座し始める。さすがの雪ノ下もいまの俺の気迫に押されたのか、何も言わず正座した。

 

「さぁーて、罰を受ける準備は、出来てるんだろうな?」

 

「「「「すいませんでした......」」」」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「あー、すっきりしたすっきりした」

 

伸びをしてジュースを煽る。いやぁ、仕事してからの一杯てのはいいものですなぁ!

え? なんの仕事かって? そりゃあ悪い子達をひたすら真顔で見つめ続ける仕事さぁ?

 

「は、八幡くん。一体どれをどうしたらここまで精神を追いつめられるの......?」

 

女子四名が正座したまま顔をうな垂れさせる、という異常な光景に青ざめる的前。散々好き勝手やったんだ。やられ返されて当然だ。

「てか的前も被害者じゃねえか。こいつらに有ること無いこと、いや、無いことしか言われてないんだから反撃してもいいんだぞ?」

 

「や、ここで追い打ちかけると命断っちゃいそうな勢いだし......そもそもそこまで怒ってないし」

「でも、あそこまで酷い嘘作られてるんだしちょっとぐらいはいいんじゃないか?」

 

「あー、うん、そうだね。嘘だもんね」

 

「え、なんでそんなに歯切れがわるーー」

 

「八幡くん」

 

顔を真っ赤にした的前に、声を遮られる。え?

 

「あのね、その、みんなが言ってたこと......全部ほんとなんだよ......?」

 

え......的前、こいついま、なんて......ええ?

 

「......はっ」

 

「え?」

 

あぶねえ、どれだけ馬鹿なんだ俺は。今日はエイプリルフール。最後にとんだ伏兵だったが、いまの俺はさながら歴戦の戦士。もう引っかからないぜ。

 

「さすが的前だ。最後の最後で俺に嘘をついてくるとはな。朝一言われてたらあっけなく騙されてたぜ」

 

「あ、そうそう! もー、ちゃんと見破れるようになってるか試したのにまだまだだなー、八幡くんは」

 

「最終的には騙されてないんだからいいだろ」

 

「そだねー。えへへ」

 

 

 

 

現在時刻 12:05

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近気付いたら文字数が結構な数言ってるんですよねぇ。
この分だと次回も期待できますね! 頑張ってください!(まだ1000文字くらいしか書けてない顔)


追記.
作中では春休み中の4/1と書いていますが、関係は変化していません。ご注意ください

追記2.
4/1なのに小町が受験前とは何事。エイプリルフールネタということでスルーしてくださいお願いします。


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16. 彼らは少女のために、夜空に花を咲かせる。

遅れました、ほんとまじすいません。テスト期間だったり、感染性胃腸炎になったり、いろいろ言い訳は出来るんですが、一番の原因は、なろうでリゼロ(487万文字)一気読みしてました、はい、バカでした。
そして感想で更新待ってます、の何気ない言葉が胸に刺さる......っ!

と、今回で、林間学校編は終了です!1万3000文字と文字数は過去最高かな?
期間明けすぎて、構想忘れるやら、プロットの紙消失するやら、いろいろしでかしたんで、支離滅裂な部分があるかもしれませんが、許してください!

では、16話です。どうぞ!




......ォ......

 

......?

 

......ォーン......

 

あれ......私どうしたんだろう。

 

辺りを見渡してみるがどこも真っ暗な世界が広がっていて、なにも見えない。ああ、なるほど。私はどうやら、夢の中にいるようだ。

 

確か八幡くんと喧嘩してたんだんよね。それをみんなに、しかもそこだけじゃなく、もっと恥ずかしいところまで見られてて......

なるほど、納得納得。現実であんな大胆な行動出来るわけないもん私。あれは夢、夢だったんだ。良かった〜......あんなの現実で起こったら、恥ずかしさのあまり気絶しちゃってたよ〜。

 

......ドォーン......

 

......ドォーン? なんだろこの音。爆発、じゃないよね。うーん?

それになんだかとても大事なことを忘れてるような......

 

......まぇ......

 

って夢の中なんだから大事も何も関係ないか。

で、夢の内容は、なんだったっけ......確か私が花火を打ち上げたいって提案したんだよね。そしたらみんな、賛成どころか準備まで手伝ってくれて。

 

...とまぇ......

 

それからみんなは肝試しのお化け役もしないとだから、そこで八幡くんと二人きりになったんだ。んー、よく出来てる夢だなー。

 

......まとまぇ...

 

花火は......そうだ、美咲ちゃんに見てもらいたくて。......美咲ちゃん? 美咲ちゃんと会ったのは昨日の出来事じゃ......花火を打ち上げるの計画したのも昨日のことだし......もしかして、

 

「まとまーー」

 

「花火打ち上げなきゃ!!」

 

「がはっ」「あだっ」

 

がばっと起き上がると、視界に煌びやかな光が差し込むと同時に、頭に鈍い衝撃。うぅー頭がチカチカする......

 

「的前、お前な......急に起き上がんなよ。俺の顎が危うくケツ顎になるところだったぞ」

 

「あたた......八幡くん? え、嘘。私寝てたのになんでここに......はっ! まさか寝込みを襲いに......。ちょ、ちょっと?! 私達高校生にはまだ早いと思うな?! .......するならまず付き合ってから......ごにょごにょ」

 

あぅ......まさか八幡くんがこんな大胆だなんて知らなかったよ......。せめて私の想いを伝えてから......

 

「は? 何言ってんだお前。気絶した時に頭がショートでもしたのか?」

 

む......なんでだろう。すごくバカにされてる。ん? 気絶?

 

「え? え? 気絶って、私はバンガローで寝てたはず......」

 

「うわー。こりゃ本格的にダメなやつだ。僅か十数分のうちに一体脳内でどんな処理が行われたんだか」

 

「......ちょっと待って。まさか、夢だと思っていたのは。みんなに見られて恥ずかしい思いしたのは、現実?」

 

「あ、ああ。ちなみにその件は、罪悪感だかなんだか知らんが、あいつらはこれ以上言及もしないし、掘り下げもしないとさ。よかったな」

 

八幡くんも恥ずかしかったのか、顔を逸らして素っ気ない態度を取ってくる。

っていやいや!

 

「よ、よよよ、よくないよ! あれって夢じゃないの?! うわぁ......穴があったら埋まりたいぃ! なんであんなこと言ったの、私のばかぁ!」

 

ガバッと頭を覆い唸る私。どうやら私の脳が都合よく夢と思い込んで、現実逃避してただけだったようだ。

 

「あー、自己嫌悪してるとこ悪いんだが。ほれ」

 

八幡くんが苦笑いしつつ、夜空を指差す。次の瞬間ーー

 

ドォーン......

 

あ、打ち上げ花火......

 

「きれい......」

 

市販のものとはいえ、夏の風物詩である花火が夜空に映えるその光景に思わず息を漏らす。その下には、導火線に火をつけるもう顔も見知った面々。

そっか、気絶してた私の代わりにみんなが打ち上げてくれたんだ。

 

「あはは、準備どころか最後の最後までみんなに任せちゃったなぁ......」

 

「別に気に病むことなんかねえよ。誰も不満に思ってないし、的前も気にすることもない。むしろ戸部に至っては嬉しがってたし。まあ、おまえがいないと締まらないってのはあるが」

 

すっと顔を横に向けた八幡くんの視線を追うと、

 

「あ......」

 

ぽつんと立てられている、一本の打ち上げ花火。

私が最初に打ち上げる予定だったものだ。

 

「これって、もしかして」

 

「ああ」

 

微笑を浮かべて頷きながら、私にライターを渡してくれた。

どうやら私が打ち上げる花火を、最後の締めとして置いていてくれたらしい。

 

「ありがとう」

 

「礼なら考えた他の奴に言えよ」

 

「......それちゃんと考えてから言ってる?」

 

「ああ?」

 

何言ってんだこいつって目で見られる。自分の発言が完璧だとでも思っているのだろうか。

......ほんと、嘘が下手というかなんというか。

 

「はぁ......」

 

「な、なんだよ」

 

「私がこの花火を最初に打ち上げるって言ったの、八幡くんだけだよ?」

 

「おぅ......そういやそうだった......」

 

「もー、お礼言われるのが恥ずかしいといっても、ちょっとぐらい素直になればいいのにー。ふふっ」

 

ほんと、こういうところが憎いんだよね、八幡くんって。

そしていっつも懲りずにドキドキさせられる私も私なんだけど。いい加減耐性ついてもらわないと、心臓に悪い。

 

「うっせ。それよりもう花火も打ち切りそうなんだ。的前もさっさと準備入ってくれ」

 

「あ、そうなんだ。まだ火のついてないのあるけど。それは私がやらなくていいの?」

 

「その点は大丈夫だ。葉山がローテ決めてくれてるから」

 

「あ、そうなんだ。そこまでしてもらっちゃったかー。お礼言っとかないと」

 

「葉山に礼言う暇があるんならちゃっちゃと待機についてくれ。誰かさんが気絶したせいで俺が指揮とる羽目になってんだから」

 

「あはは、やっぱりいじわるだよ。今日の八幡くん」

 

「いつもこんなもんだろ。それに礼、もちろん謝る必要なんてないのは本当だからな。小町を始め的前が気絶するまで追いやったことにみんな責任感じてんだか、ら......な」

 

墓穴を掘って自爆する八幡くん。もう、そこで顔を赤くしないでよ。なんだか私も恥ずかしいじゃん......

 

「あ、あー。もうそろそろだね! 位置についてくる!」

 

「お、おう。そうだな。頑張ってくれ」

 

思い返すと今日の私、何回大胆発言したかわからないな。一回クールダウンでもしないと八幡くんと一緒にいれる自信ないし、脱出脱出。

......火照った顔、見られなかったよね?

 

 

 

「あ、優香ちゃーん。もう大丈夫?」

 

待機していると、すぐに結衣ちゃんが手を振りながらやって来た。雪ノ下さんも一緒にいるので、どうやら二人とも打ち上げ終わったみたい。

 

「うん。いろいろ迷惑かけちゃってごめんなさい。それに打ち上げてもらってありがとう」

 

「う、ううん。その、私たちも野暮なことしちゃったなー、って反省してるしこっちこそごめんね......まさか気絶するだなんて思わなくて」

 

「そうね。出るタイミングを完全に失っていたとはいえ、覗き見ていいようなものではなかったし、大人しくその場を去らなかったこちらが一方的に悪いのよ? 的前さんが謝る必要なんてないわ。ごめんなさい」

 

「わわ、そんな、こっちは全然気にしてないから! ね、私も代わりに謝らないから顔上げて?」

 

本当のこと言うと、アレを見られたのは怒ってはないけど、ちょっとねー......。もう思い出すだけで顔から湯気が出そう......

 

「ええ、ありがとう。私たちが終わったから、そろそろみんなもここに来るんじゃないからしら。彼らもあなたのこと心配していたし」

 

「えー? もー、ただの気絶なのにみんな心配性だなー」

 

心配してもらっているのは素直に嬉しいのだが、理由が理由なだけに恥ずかしいんだよねぇ。

 

「羞恥だけで気絶するのは結構なものだと思うのだけれど......」

 

「初心なんだよー」

 

「う、初心とか言わないでよー。あの時はもう頭が真っ白で何も考えてなかったんだから。気付いたら意識なかったし......」

 

実際、私自身あそこまでああいうのに耐性がないとは思ってなかった。他人に見られるのってあんな恥ずかしいもんなんだね。

 

「それだけヒッキーのことに夢中だったてことなんじゃない? あそこで小町ちゃんが、喧嘩を止めに出てなかったらもしかして、ねー?」

 

「あれこそ恋は盲目、と言うんでしょうね。見ていていい勉強になったわ」

 

「もぉー!」

 

今日って八幡くんに限らずみんな意地悪なの? 私ってそんなにいじり甲斐あるのかなぁ......?

 

「あ、的前さん目覚ましたんだ。よかった」

 

不意に後ろから声をかけられ振り向くと、そこには葉山くんを始めとしたボランティア組のみんなが歩いてきていた。

どうやら、打ち上げる花火が残っているのは八幡くんと私だけのようだ。

 

「的前さんごめんね。なんだかいろいろと迷惑かけちゃって......」

 

「あ、ううん。大丈夫だよ戸塚くん。さっきも言ったけど全然気にしていないから」

 

「そう? よかったー」

 

ほっと胸をひと撫でする戸塚くん。うーん、ほんと戸塚くんって男子なのかわからない時あるんだよねー。仕草に違和感ないし。

 

「あ、そうそう。葉山くん」

 

「ん? なんだい?」

 

「なんだかいろいろと段取りしてくれたみたいでありがとう。どちらかというとこっちが感謝したいぐらい」

 

でも私が気絶してから程なくして打ち始めたっていうし、ほんと葉山くんってリーダー気質あるなー。

 

「............」

 

「ど、どうかした?」

 

「いや、あー、なるほどヒキタニくんならやりかねないな。しかしなんでそんなわかりやすい嘘を......」

 

「え、えーっと」

 

独り言を喋ってるけどどうかしたのだろうか。葉山くんらしくもない。

 

「的前さん。その、言いにくい、ってわけでもない、か。包み隠さず言うとね、僕は一切なにもしてないし、無論段取りなんてしていない」

 

「んん??」

 

えっと、それってつまり

 

「ヒキタニくんが、たぶん照れ隠しなんだろうけど、嘘をついてたってことさ」

 

「ええ?!」

 

「やー、あの時の先輩すごかったんですよー? 的前先輩が倒れた時はもちろん、その後もずーっと心配してたんですから。たぶん起きた時も近くに先輩いたと思うんですけど」

 

「ね、ヒッキーの慌てっぷりが珍しすぎて私たちがニヤニヤしてたら、見られたのが恥ずかしかったんだろうけど、捲したてるようにローテーション決めちゃったし」

 

 

「ほんっと」

 

 

「「「「「愛されてるねー」」」」」

 

 

 

「もー、からかわないでよー。八幡くんって誰にでも優しいから私にも良くしてくれるだけだってー」

 

というかさっきからかったの反省してないよね、みんな。

 

「「「......は?」」」

 

「あの、的前さん。それ、本気で言ってる?」

 

「......? うん」

 

女性陣が一様に疑問の声をあげ、葉山くんが顔をやや引きつらせながら尋ねてきた。

って本気な訳ないでしょ! さすがに気づくよ! でも依頼人として特別視してるだけの可能性だって十分あるからどうしようもないし、あと単純に恥ずかしい!

 

「まあそこが似てる分、あのお兄ちゃんと相性いい部分があるんでしょうけどねぇー」

 

「「「あー......」」」

 

すっごいわかる、とでも言わんばかりの顔されたんだけど。八幡くんと似てるって言われるのは嬉しいけど、それは似てるものによるんだよね......。さすがにあそこまで鈍感なのはちょっと......。少しぐらい気づいてくれてもいいのに。

 

「そんなに不安がらなくてもだいじょぶですってー」

 

「あら、もうそろそろ比企谷くんの分が打ち終わりそうよ。あと三発程度かしら」

 

「わわ、ほんとだ。ライターライター」

 

慌ててポケットからライターを取り出す。私が打ち上げるのはこの一つだけ。みんなのものと変わらない、ただの花火だけど、美咲ちゃんに込めた思いは一番の自信がある。

 

ドォーン......

 

でもこれは彼女が望んだからやっていることではない。

 

両親共に、亡くなってるなんて状況、小学生にはあまりにも辛く、苦しい。この花火も見てくれているかすら怪しいのだ。

 

それでも何かせずにはいられない。偽善者と言われようがどうでもいい。ただ少しでも彼女の心を動かせるなら。

 

ドォーン......

と、八幡くんがもう一発打てば私の番だ。あと数秒もない。うまくいってくれるかなぁ......。

なんて弱気なことを考えていると、ポンと、後ろから肩に手が置かれる。

 

「大丈夫だよ。どうせヒッキーのことだもん。優香ちゃんのためならどうにかしちゃうって」

 

「結衣ちゃん......ありがとう」

 

どうやら顔に出てしまっていたらしい。結衣ちゃんってこういう時やけに鋭いなー。部長として是非見につけたいものである。

 

「その言葉は私じゃなくてヒッキーに言ってあげなよ。きっと顔を赤くしてあたふたするから」

 

そしたらからかっちゃおー、といたずらっ子のように、にひひと笑みを浮かべる結衣ちゃん。うーん、悪いけど結衣ちゃんの場合、むしろ返り討ちに遭いそうな気がする。

 

ドォーン......

 

「あ! ほら! 最後の一発打ち上がったよ! 優香ちゃん、着火着火!」

 

「うん!」

 

導火線に火をつけ、さっと後ろに退がる。数秒後には、筒から夜空に向かって一つの閃光が飛び上がるだろう。

 

この想い、美咲ちゃんにーー

 

「たーま、ってほらほらみんなも一緒に、せーの!」

 

届け!

 

「「「たーまやー!」」」

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

「やあ、比企谷。お疲れだな」

 

小学生達がキャンプファイアできゃっきゃとはしゃいでいるのを視界の端に収めつつ、木の幹にもたれかかりながらボケーっとしていると、不意に冷たい物体が頬に押し付けられた。

 

「どうした。準備にかける時間がそれほどなかったとはいえ、そこまで疲弊するほどのものではないだろう。あの小学生達とまではいかんが、若いのだからもう少しはシャキッとしたらどうだ」

 

「なんかあれっすね。すごく親戚のおじさん臭が、しなくないです。とっても優しい近所のお姉さんみたいです許してください」

 

 

「まったく。最近君と顔をあわせる度に、失礼なことを考えられている気がしてならん。仮にも先生と生徒なんだ。もう少し目上の人間を敬ったりできないのか、ほれ」

 

「......どもっす」

 

缶ジュースとため息をありがたく受け取り、プシュっと栓を開け一気に煽る。渇いた喉に通る液体、サイダーが心地良い。キンキンに冷えてやがる......!

 

「ふぅ。で、どうしたんですか。もう仕事は全部片付いたんです?」

 

「片付いてはいない。といっても既に終わったと言っていいほど片してはいるがね。少し教え子と一緒に休憩を取ろうと思ってな」

 

「だったらあっちで話せばいいじゃないですか。ほら、俺以外は集まってますし」

 

楽しそうに打ち上げ花火の成功を祝っている集団を指差す。べ、別にうらやましくなんてないんだからね!

 

「まあまあそう言うな。私は君と話がしたいんだ」

 

「......そっすか」

 

このいつになく真剣な表情......うーんアレのことか?

 

「ふむ、君も気づいているだろうから単刀直入に言う。今回の的前を中心に行った計画、比企谷、あと雪ノ下もだろうが、あれではぬるい、何の解決にもならない、そう考えているはずだ。解決はもちろん、下手をすれば何の進展を得られないことに」

 

「......はぁ、なんですかいきなり。......確かにあれじゃ、どうしようもないでしょうね。でもそれは俺と雪ノ下だけじゃない、あいつら全員そう思ってますよ」

 

「ほう。それはまたどうして」

 

「はぁ、別に大したことじゃないですよ。人って生き物は、自分より不幸な人を見ると同情する、その上高校生なんて年頃は特に」

 

「なるほど。つまり上手くいかないと分かっていても、何かしらの行動を起こしておかないと後味が悪いと」

 

「端的に言えばそうですね。というか、あなたならわかりきってることでしょうが」

 

「そう怒るな。別に君たちのしたことが無意味だの言うつもりはない」

 

と一拍置いて、

 

「ただ君が、何をしたのか聞きたいだけだ」

 

「............」

 

教師というものはみんながみんな、教え子の行動が読めるものなのか。正直反則だと思います。

 

「そんなわけないだろう。誰もが人の心境など読み解くことはできないさ、むしろ、行動することが予想できた君だからこそ分かったようなものだ」

 

ついでに行動どころか心まで読まれる始末。

......俺ってそんな単純なやつなのん?

 

「結果的にはな。逆に道程は複雑で、読み切れないの極みだ」

 

「そんなこと言うぐらいだったらもう心読むの、やめてくれません?」

 

もう口を開かなくても、立派に会話成立しそうな勢いなんですがそれは......。

あ、それはそれで楽かもしれない。

 

「そうしたら君は心置きなく失礼な、と話を戻そう」

 

「で? 君は何をしたんだ」

 

「......大したことじゃないですよ。最低でもプラスの成果が得られるようにしただけです。変なことはしてませんよ」

 

これは紛れもない真実だ。次に会ったら軽く睨まれるかもしれないが、決して嫌われることはしていな、いかもしれない。あれ......不安になってきた。

 

「そうか。その言葉を信じよう。良ければ何をしたか......言うつもりはなさそうだな」

 

「先生だったら俺の考えていること、分かるんじゃないんですか?」

 

「馬鹿を言え。普通? 何それ? おいしいの?みたいな常識知らずの思考が、そうホイホイと読めてたまるものか」

 

「ははは、酷い思考の持ち主もいるもんですね」

 

「まったくだ。困る生徒だよ」

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

「あ......」

 

花火が終わった。と判断出来るものはないけど、不思議とそう感じられた。

 

「何だったんだろ、あの花火」

 

しおりに書かれていた日程に、打ち上げ花火なんて項目はなかったはずだ。

先生達の書き忘れ? それともサプライズ的な何かなのか。まあどちらにせよ、私には関係ないことか。

 

本来この時間に行われていたキャンプファイアの設置場所へと向かう。林道を抜けると、ごうごうと巻き上がる炎があった。どうやら既に着火されていたらしい。

 

「ほんと、無駄に元気」

 

数分前に終わった打ち上げ花火の跡は何処へやら。キャンプファイアの周囲には、キャッキャとはしゃぐ同級生と下級生の集団。自分もその小学生だが、正直あそこまで体力が持つとは思えない。

 

「ふぅ......」

 

木を背もたれに、体育座りをする。あ、この草のクッション座り心地、結構気持ちいい。

 

「............」

 

うとうと......

 

だめだ、微かに届くキャンプファイアの熱気のせいで眠くなってきた。

さすがに今寝ちゃうのは迷惑かけるし、何より恥ずかしい。何かで気を紛らわせないと。

 

「あ、そういえば......」

 

あの花火、打ち上がっている最中は高校生の人達を見なかったな。中学生の人はいたけど。あの人達が打ち上げてたのかな。となると、計画したのも彼らなのかも知れない。

......何にせよ、今日で林間学校は終わり。おじさんの好意は嬉しいけど、正直こういったイベントにはもう参加したくないな......。ただただ疲れるだけだっーー

 

「あ、ああ、あの、灯崎さん!」

 

「............あ、なに?」

 

頭上からかけられた上ずった声の方を見ると、三人の女子が目の前に立っていた。全員、少し顔が赤かったり、目を泳がせている。なんだろう、私何かしでかしたっけ......? あ、よく見ればクラスメイトだった。

というか危ない危ない。今完全に私が呼ばれたことに気づいてなかった......。

 

「あ、えっと、ねえ、どうしよう......」

 

「えぇ?! そこで私に振らないでよ!」

 

「普通に話しかけるだけでいいんじゃないかな」

 

「............?」

 

話しかけてきたと思ったら、三人揃って密談を始めてしまった。いや、密談って言えるほど声小さくないけど。

 

「ほら、むしろ変に意識するとかえっておかしいからさ。自然に話しかけちゃいなよ」

 

「う、うん。わかった」

 

なんなんだろう。罰ゲーム......なんてする子達じゃないし、させそうなクラスメイトもいないし......。まあ、関わりをもってたらもったで、私の過去のせいでお互い気まずくなるだけだろうし、いつも通り断っとこ。

 

「あの、わ、私、私たちと一緒に、は、花火してくれませんか!」

 

そう言って、ばっと、袋に包装された花火を出してきた。一体どこでそんなものを。

あー、なるほど。チラッと視線を女の子の背後へ向けてみると、そこには花火を配る先生達、それに群がるみんながいた。

 

「えっとその、ごめんなさい。私一人でいたいの」

 

「あ......」

 

まるで好きな人に告白して、振られたような顔をされる。ごめん。こうでもしないと気まずくなるだけだから。

 

「ダメだよ、ここで諦めちゃ。お兄ちゃんも言ってたじゃん。灯崎さんは優しいからそう言ってるだけだって」

 

「そ、そうそう。諦めちゃダメだよ!」

 

「う、うん」

 

......お兄ちゃん? お兄ちゃんって誰だろう。

 

「あ、あの! せめて、せめて一本だけでいいから......どうかな?」

 

う......そういう涙ぐんだ目で言ってこないで欲しい。いや、でもここで折れては、

 

「ごめーー」

 

「だめ、かな......?」

 

............

 

「一本、だけなら」

 

「ほ、ほんと?! やった! やったよ! ほんとにお兄さんの言った通り! あ、私ね!春木野 沙兎って言うの、よろしくね!」

 

「......ねえ、誰なの? そのお兄ちゃんて人」

 

この子たちを操ってる黒幕がいるような気がしてならない。

 

「え、ボランティアに来てる高校生さんだけど。黒髪で、ちょっと猫背の。その人に相談したら、灯崎さんは私達のこと嫌いじゃないから、こっちから一歩近づいてあげろ、って」

 

「ちょ、ちょっと沙兎ちゃん! それは秘密だって......!!」

 

「あっ!」

 

もしかしなくても、春木野さんって天然なのだろうか。

しかしこの特徴を聞く限り当てはまる黒幕は一人しかいない。八幡め、余計なことを。あとで恨みごとの一つでも言ってやる。

 

「ほ、ほら、灯崎さん! お兄ちゃんのことは忘れて花火しよ! あっちの方に空いてるスペースあるから!」

 

「う、うん」

 

そう言って、私の手を握ってきた春木野さんにされるがまま、歩き出す。

っていやいや、このままじゃダメだ。

 

「待って、みんな。聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

「うん、なんでもいいけど......」

 

「どしたのどしたの」

 

「なにかな」

 

三人ともすぐに立ち止まり、私の言葉に耳を傾けてくれた。ゔ、こうやって静かな状況作られると辛い。

 

「その、私って親とかいないし、おじさんに面倒見てもらってるから、関わり辛くないのかなぁって。だから同情とか、哀れみで話しかけて来てるんだったら、今のうちに」

 

「......ふふ、優しいなぁ、灯崎さんは」

 

「なっ!」

 

や、やさしい? こっちは突き放すようなこと言ってるのに?

 

「私たちもうお兄さんから全部聞いてるんだからー。実は灯崎さんが友達欲しがってることから、全部知ってるんだよー」

 

「は?」

 

八幡!! あいつ絶対許さない!!

 

「でもね。少なくとも私たちは、そんなことで気まずく思わないし何より、灯崎さんと、ずっとずっと友達になりたいと思ってたんだもん。そっちの方が気まずさなんて上回ってるんだから。ほーら、いこ?」

 

「あ......」

 

私の手を握り、再び歩き出す春木野さん。

初めてだ。こんなことを言われたの。いや、それもこれも私が周りのみんなを遠ざけていたからなのかな。

 

「あっ! 灯崎さんが笑ってる!」

 

「わ! 本当だ!」

 

「えぇ......私だって笑いくらいするよ」

 

「あ、そうだよね。ごめんごめん。でも灯崎さんが笑ったの初めて見たから」

 

「もー、ひどいなー。あはは」

 

......ちょっとくらいは、あの男子高校生に感謝してやってもいいかもしれない。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「くっそ、なんでこんなクソ重いコンロを一人で運ばなきゃらねぇんだ」

 

翌日の朝、本日の予定は朝食を取った後、すぐに帰る準備をすることになっているため、皆が皆、荷物の運搬をしていた。

なお、俺がバカみたいな重量のバーベキューコンロを一人で運んでいるのは、圧倒的な男手不足からであって、いじめられているわけでは断じてない。というか真面目な話、腕が引きちぎれそう。よし、必殺! 違うことを考えて痛みを感じなくさせる技! ネーミングセンスの無さを恨みたい。

 

そっと目を閉じ、五感を機能させなくするべく、脳内で思考を始める。

とりあえず、家に帰って文明の利器に癒される妄想を......。

エアコン、扇風機、吸引力の変わらないただ一つの掃除機、冷蔵庫でキンキンに冷やされたマッ缶、ああ、最高やんけ!

よーし、いい感じに腕の痛みが和らいできたぞ。この調子で残りの道のりをーー、刹那、横腹に衝撃が走る。

 

「ぐはぁっ!」

 

コンロをその場に設置!その反動で俺は吹っ飛ぶ!己より、BBQコンロを優先する俺まじ人間国宝。

 

「ってぇな。誰だよタックルかましてきたの......」

 

恐らくタックルであろうものを受けた横腹よりも、ろくな受け身も取れずにしたたかに打った腰をさすりながら立ち上がる。

先ほど俺が立っていた場所に目を向けるとそこには、

 

「仕返し」

 

ニッ、と悪い笑顔をする少女、灯崎美咲が立っていた。

的前が望んでいた彼女の笑顔を、俺は思わぬ形で見ることとなった。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「やっぱり八幡が黒幕だったんだ。おかしいと思った、誰にでも冷たく接してた私に、あの三人が突然声をかけてくるんだもん」

 

「おい待て、黒幕ってなんだよ。その感じだと、その三人組とも昨日は仲良く出来たんだろ? 初めて会った時とは、声のトーンがやけに違うし、歩調も軽やか、何より表情が豊かになった。お互い幸せなら結果オーライじゃねえか。むしろ感謝してほしいぐらいだね」

 

「うわぁ、どれだけ私のこと見てるの......さすがにひく......」

 

十分ほど前、俺にタックルをかましてきた少女、サキサキこと灯崎美咲は、俺に昨晩の件について言及してきた。

ボランティアとは言え、BBQコンロを運搬する使命を負っていた俺は、再認識した腕の痛みに鞭打って、コンロを運びながら彼女の言及にしぶしぶ応じた結果、今に至る。

 

しかし、人間は一晩でここまで変わるものなのだと、つくづく驚かされる。

この目の前にいる少女の、足取りの軽やかなことよ。一昨日会ったときなど、両足に足枷でもつけているのかというぐらいには、無気力に満ちていたというのに。

 

「俺をひくのは正直勝手にしろって感じだがな、サキサキ。お前は一つ勘違いをしているぞ」

 

「サキサキゆーな。なに? 実は黒幕じゃなくて殺人犯だったり?」

 

「誰も殺されてないし、平和この上ないよね?! 俺はあの子らを誘導してなんかないってことだよ!」

 

「......? じゃあ脅したの?」

 

「.............」

 

絶句。この子はどれだけ、自身が他人を遠ざけることに成功している、と信じ込んでいるのだろうか。

 

「根本的に違う。俺が言いたいのは、あの子たちが、お前と、仲良くなりたくて、自ら行動していたってことだ。俺はあくまで相談に乗ってやっただけ」

 

まあ、彼女らの相談が無ければ、今頃違う手段を投じていただろうが。恐らく、いや確実に、平塚先生にため息をつかれる類のものを。

 

「ええっと、つまり......」

 

「お前に、灯崎美咲と、友達になりたかっただけってことだ」

 

「じゃ、じゃあ八幡は、黒幕でも、真犯人でも、参謀閣下でもなかったってこと?」

 

「君は一体俺をなんだと思ってるの? まあいい、ちゃんとあの子らに接してやれよ。勇気振り絞っての行動だったんだから」

 

昨日の昼間、話しかけてきた時の彼女らの怯え様よ、俺のメンタルを木っ端微塵にするのに数秒もかからなかったぜ、はは。

 

「うん、あ、ありがと」

 

「おう。できればその言葉、的前にも、いや的前には必ず言ってほしいところだけどな。知らないだろ? あの花火、サキサキのために的前が打ち上げる計画したんだぜ? まあ今回はもう時間もないし、次会う機会があったら、ってことになるが」

 

「え、しおりの予定に書いてなかったあの花火って、私のため、なの?」

 

心底、なぜ自分にそこまでしてくれるのか、微塵も理解出来ていない顔だ。無理もない、協力した俺ですら的前の考えは完全に読みきれてないのだから。

 

「心身財布ともに投げ打って、計画してたからなぁ。優しいやつだよ、ほんとに。おっと、もうすぐ着くぞ。さすがに小学生のサキサキが付いてきたら、俺が怒られるから、ほれ、帰った帰った」

 

「で、でも!あのお姉ちゃんに、お礼!」

 

「もう集合時間ギリギリだろう? 単独行動は集団で動く中でタブーだ。どうせ、いつか会えるさ。世間は意外と狭いからな」

 

「そんな適当な......っ!」

 

「これでも人生の先輩だ。ちょっとは信じてみろ。損はさせないから、な」

 

「あ、ちょっ!」

 

コンロを足元に置き、サキサキの小さい肩に手を置き、来た道の反対、小学生が集合する方へ向き直させる。

 

「俺たちは友達じゃない。ただのボランティアだ。そんなものより、今は出来立ての友達のことを考えろ。もしかしたら、一生の付き合いになるのかもしれない。ほれ、このままだとみんなに迷惑かけることになるぞ?」

 

「......っ!.......うん」

 

悔しそうな顔をして歩き出すが、その足元はおぼつかない。......これだけ的前に感謝したいのなら、いいか。

ポケットから、メモ帳とペンを取り出し、ささっと数字を書く。

 

「おい、サキサキ」

 

「......サキサキゆーな。なに、このままだと私、遅れちゃうんでしょ?」

 

「時間はとらせねえよ。ほれ、これでも持っとけ。俺の電話番号だ。やったな、俺の電話番号を知る十本指の中に入れたぞ」

 

「えっと、怪しい人に関わっちゃダメだって、先生が......」

 

「別に怪しくもないし、嫌なら電話かけてこなけりゃそれで済む話だろ。かけてきたら、どうにかして的前と引き合わせてやるから」

 

「!! うん! ありがとう!!」

 

再び、今度はきちんとした足取りで、向こうへかけていくサキサキ。的前の名前を出しただけでこれなのだ、電話がかかってくることは確実だろう。

 

「ヒッキー? なにしてるのー、ヒッキーのコンロ待ちだよー?」

 

「あんな大口叩いといて、俺が迷惑かけてるとか死んでも言えねえな......」

 

「??」

 

持ち直したコンロは重いはずなのに、彼のその歩みは、三人の女子小学生に駆けていった少女の様に、弾んだものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ、タグに遅筆の二文字、追加しました。
というか更新してなかった間にUA10万いってた!ありがとうございます!


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17. 彼と彼女は二人っきりで祭りを楽しむ。

なんかもう本当にすいません。

リアルが忙しい、わけでもなく、家庭の事情がある、わけもなくただただ単純に遅れました。すいません。

17話です。どうぞ!


「あ? 祭り?」

 

 弓道の練習を終えその帰り道、隣を歩いていた的前から、今週末にある祭りに行かないかとお誘いの声がかかった。

 

「うん。千葉市民花火大会ってお祭り。行ったことは無くても、聞いたことぐらいはあるでしょ?」

 

「俺がその祭りに行ってないって最初から決めつけるのやめてくれない? 確かに行ったことないけど」

 

「あ、ごめん。小町ちゃんから行ったことないって聞いてたから、つい」

 

「あいつ......」

 

 兄のプライベートを容赦無く筒抜けにしていく妹はさておき、夏休みも残すところ十日程となった。的前の言う、千葉市民花火大会は、夏休み最後の週末に開催されるので、思い出のラストを飾るにはもってこいのイベントだろう。

 が、それはリア充であればの話である。

 一人で行くのは以ての外、野郎と行けば哀しみが辺りに漂い、カップルですら彼氏は金ヅルと化す。彼女ですらない的前に同行する俺なんて論外だ。財布の中身が風前の灯火となるのは明白である。

 結論、適当な予定をでっち上げて断る。

 

「あー、すまん。今週末はーー」

 

 言いかけたところで再び、情報漏えいしまくる妹の姿が脳内に浮かんだ。

 

「今週末は予定ないから大丈夫です......」

 

「あ、あはは......小町ちゃんには勝てないね......」

 

 予想通り俺の予定も筒抜けでしたまる。

 

「いや、でもだな的前。夏休み明けに県内で試合があったよな? そっちの方は大丈夫なのか?」

 

 確か、休みが明けた週の土曜日に近場の数校が集まる、規模は小さいながらもきちんとした試合が予定されていたはず。

 要らぬお節介かもしれないが、なんだかんだ、的前以外の部員とも会話する機会が増えてきたし、趣味が合う奴もいたので、こちらとしてはぜひ勝って欲しいところだ。決して断る口実を作ってるわけではない。

 

「もー心配性だなー。当日の練習もちゃんと終えてから行くし、大丈夫大丈夫」

 

「や、そうじゃなくてだな。俺は祭りでお前が怪我したり体調崩したりしないかが心配なんだよ」

 

 もしこれで調子を崩して試合に出れなかったりでもしたら、部員に申し訳が立たないからな。まあ、流石に祭りでそこまでのことになるとは思わないが。

 

「えっと......その、私が部長だから......だよね?」

 

「おお......ほぼ毎日並んで部活に行ってるとはいえ、一ヶ月程度すれば思考も読めるのか。さすが的前」

 

 一日の四分の一以上を、家族以外の人間と過ごすのが初めてという悲しい事実よりも、何故か的前に思考が伝わっていることが嬉しかった。あれ......俺って今、相当悲しい人なんじゃ......

 

「はぁ......だよねぇ......」

 

 虚しい現実から目をそらそうとしていると、的前がおもむろにため息をついた。おや、君も現実逃避ですか?

 

「この類の発言だけは判断出来るようにしとかないと、これ以上心が持たないよ......」

 

 と、独り言のように口を尖らせブツブツ言い始めた。本格的に現実逃避し始めたかと思ったが、拗ねたような不機嫌顔なので恐らく違うだろう。いやどっちにしろなんで? そして何の類の判断?

 

「なあ、今のどういう意味ーー」

 

「あーはいはい、八幡くんは無意識だからわかんないよね! 今週末のお祭り楽しみだね! ばいばい!」

 

「お、おう?」

 

 先ほどの拗ねた表情なんて比じゃない不機嫌な顔でそうたたみかけると、俺の理解が及ぶ前に走り出し、曲がり角の前で振り返ったと思えば、べっと舌を出し消えてしまった。なにあれ、行動の意味がさっぱりわかんないけど可愛い。

 というか、明日も練習ありますよね?

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 微妙にギクシャクした(主に的前が)数日が過ぎ、祭り当日。

 待ち合わせ場所である駅前に俺はいた。てっきり、いつものごとく的前の家まで赴き、そこで合流するものだと思っていたのだが、そう考えていたのはどうやら俺だけだったらしく、的前と小町、特に後者の方が猛反対。

 小町いわく、これは部活に行くのではなく、れっきとしたカップルデート。だから待ち合わせ場所もそれらしいところにしろ、ということらしい。誰がカップルデートやねん。

 ちなみに、現在時刻は集合時間の二十分前。二十分前である。天地がひっくり返るかもしれないこの現状。まあ、集合時間ギリギリに行こうとするとまた小町がうるさくなると思ったので、十分前ぐらいに着こうと家を出ただけなのだが。あと玄関先で、その早出の原因である妹に、「お兄ちゃんも、成長したねぇ」と、何故か涙ぐまれた。失礼すぎる。

 

「んお」

 

 ポケットに入れている携帯が、ズボンを通して振動を伝えてきた。すぐさま取り出し着信元を見ると、液晶には的前の二文字。駅に着いたら連絡すると事前に言っていたので、恐らく近くにいるのだろう。そばに噴水があるので、そこに行っとけばすぐ合流出来るか。涼しげな水の霧を吹き出している噴水へ歩みを進めながら、電話に出る。

 

「もしもし、おれおれ」

 

『あ、おれおれ君? わたしわたし』

 

「実は、さ。事業で失敗しちゃって......わたしわたし詐欺って語呂悪くね?」

 

『いや、詐欺するつもりは欠片もないんだけど......』

 

「人間なにがあるかわかんねえからなぁ......」

 

 まず最初に、近頃では当たり前になってきた、よくわからないやりとりをする。的前も、初めこそすれこのネタ振りに困惑していたものの、今ではむしろ、あっちからネタ振りしてくることがあるのだから驚きである。ボケとツッコミが自然と出来るくらいには、思考回路が似ているかもしれない。

 と、電車の時間も考慮して早速本題に入るとしよう。

 

「的前今どこだ? 俺は噴水前に移動してるとこなんだけど」

 

「......え? あ......」

 

 すると何故か、的前が困ったような声を上げた。

 

 

 

 携帯越しではなく、すぐそばで。

 

 

 

「えっと......お待たせしました?」

 

「......全然、今来たところだぞ......」

 

 最近は、考えること全般似てきているのかもしれない。事実、近頃の的前の言動には、俺の行動パターンを掌握しているような節が多々あるので笑えない。本当に笑えない。

 とまあ、デート定番の、「あ、待った?」「ううん、いま着いたとこ」イベントを微妙な形で達成したところで、目前の的前の服装に目を向ける。

 浴衣、ではない。これは、あー、確か、ノースリーブとかいうやつだ。それに、ロングスカートを組み合わせた、的前らしい大人しめな格好だった。

 しかし、その、あれだな。何気に的前の外出用の私服って見たことなかったな。部活に行くときは制服だし、林間学校のときは動きやすそうな服装だったはず。俺の家に来るときだって私服ではあるが、大分ラフな格好だった。つまり、そのなんだ、なんか照れくさい。

 自分を見る俺の視線に気づいたのか、的前が微妙に頬を染める。

 

「ごめんね......浴衣持ってなくて、私服で来るしかなかったんだ。で、でも気合入れた服は着てきたつもり! に、似合ってないかな......?」

 

 どうやら的前は浴衣を着てこられなかったことを申し訳なく思っているらしい。というか、気合入れた服着てきたつもりってなんだよ......めちゃくちゃ嬉しいんだけど......

 

「いや、その、すげえ似合ってる。可愛い」

 

「そ、そう? よかった......」

 

「おう......」

 

「............」

 

「............」

 

 お互いがぎごちなさすぎて、二人の間に微妙な空気が流れ始めてしまった。なぜだ、なぜこうも恥ずかしいんだ。最近なんて、ほぼ毎日顔を合わせてるだろうが俺。しっかりしろ。

 なんて思案していると、視界の端でこちらをガン見してくる大学生ぐらいのカップルを見つけた。

 

「ねー、ほら見てみてたっくん。あそこの高校生カップル、すっごい初々しい感じー。あの子達もお祭りいくのかなー?」

 

「あほ、聞こえちまうだろーが。さっさといくぞ」

 

 彼氏だろう。たっくんと呼ばれた青年はそう言って、駅のホームに群がる人だかりの中へ彼女の腕を引っ張って消えていった。というか、普通に聞こえてるんですが......

 

「......行こっか」

 

「そうだな......」

 

 的前も、今ので少し冷静になれたのか、苦笑いしつつも落ち着いているようだ。時計を見ると、もう数分もしないうちに電車がつくところだった。危ない。一応あの大学生カップルに感謝しておこう。

 前途多難な気がしてならない、俺と的前のデートが始まった。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 はっきり言うと、デートは何事もなく、ただただ楽しいものだった。

 

 

「ほれ、的前はりんご飴」

 

「うぇ? なんで?」

 

「なんでって、食いたそうにしてたろ。あ、奢りだから安心しろな」

 

 屋台の明かりで紅い飴の部分が透き通り、ルビーのように見えるりんご飴を大通りから少し外れたベンチに座る的前へ差し出す。

 

 はっきり言うと、デートは何のアクシデントも起きることなく、ただただ楽しいのが現状である。俺はてっきり材木座とでもエンカウントするものだとばかり......

 ちなみにこのりんご飴は、羨望と葛藤の表情で屋台を見ていたので、トイレのついでに買ってきたものだ。俺はたこ焼きを一パック買ってきた。

 

「あー、うん、それじゃもらおっかな。ありがとう」

 

「おう」

 

「でも、本来誘ってる私が奢るべき立場なのに。あとそれに……」

 

「男女で祭り、というかどこかに出かけた時点で男は金ヅルなんだよ。あとなんも奢っていないとか小町に知られたら、理不尽すぎるぐらい怒られる。大人しく受け取ってくれ。それに林間学校の花火は的前の出資で成り立ってた様なもんだし、それのお礼みたいなもんだ」

 

 後半で何やら言い淀んでいたが気にせず言い放つ。なにせ今日の俺の財布には天下の諭吉さんが入ってるからな。心強いぜ。

 

「あー、その件なんだけど……。私、平塚先生が後日お金くれたんだよね。いいものを見せてもらったからって。さすがに全額は悪いから半分だけど」

 

 そう言って苦笑いした後、「でも、八幡くんにもお金払うって言ってたよ?」と、まったく心当たりのないことを言われる。

 いや、そういえば林間学校が終えた二日後に一緒にラーメン食いに行かない誘われたな。もちろん断る理由もなく行ったのだがその時、妙にチャーシュー増し増しのラーメンを奢ってくれたのはそういうことなんだろうか。仮にそうだとしたらイケメンすぎる。

 

「だったとしても半額だろ? お財布的には痛手に変わらないし気にすんな。またどこかでアイスでも奢ってくれ」

 

「わっ」

 

 りんご飴を的前に無理やり押し付け、言い返される前に、買っていたたこ焼きをパクつく。

 む? うまい。これは、関西風の出汁だろうか。少し冷えていてアツアツではなくなってしまっているが、それでも十分美味しい。

 

「う、うん。ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……。うぅ、これ以上太りませんように……」

 

「…………」

 

 拒んでいた真の理由が呟かれた気がするが、もしかして迷惑ーー

 

 ぱぁぁぁっ

 

 一口食べた瞬間、的前の顔が満面の笑みに輝く。どうやら食べたいのは本当だったようだ。良かった。

 

「的前、これも食うか?」

 

 今度は先ほど買ってきたたこ焼きを勧めてみる。

 

「え、う、うぅぅー……ダメ!!」

 

 残念、たこ焼きは振られてしまった。心なしか関西風のたこ焼きの嘆きのツッコミが聞こえた気がした。なんでや。

 

 

 このあと、結局物欲しそうに見てきたのでもう一度勧めてみると、「このお祭りで歩けばプラマイゼロだよね......っ!!」と言って、迷いなくたこ焼きを口に運んでいた。どうやら吹っ切れたらしい。

 しかし、どう見ても太っていないと思うんだが……。女子とは実に気難しいものである。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 そんなしょうもなくも、楽しい時を的前と過ごし、花火まであと一時間といったところで見知った顔を発見した。

 

「あれ、あれって結衣ちゃんじゃない?」

 

「うげ、マジだ。もしかして、雪ノ下とかまで......って、少なくとも今は一人みたいだな」

 

 面倒臭いことにならないかと危惧したがどうやら杞憂だったらしく、由比ヶ浜が一人で正面から歩いてきていた。

 あ、目があった。

 

「あれ?! ヒッキーと優香ちゃんじゃん! おーい!」

 

 手をブンブン振りながら、人混みをかき分けてこっちに向かってくる由比ヶ浜。

 

「的前、由比ヶ浜が合流したらちょっと道から外れようぜ」

 

「うん? どうして?」

 

「どうせあいつのことだ。長話とまではいかずとも数分は喋り続けるだろ。流石にこの人混みの中だと疲れる」

 

 不思議そうに聞き返してくる的前に理由を答えつつ、辺りに逸れられるスペースがないか見渡す。

 と、あそこにもう一本あるな。

 今いる道の左手、少し暗そうな道があった。人通りが多いわけではないが、そちらへ避ける人もいるので、現在位置から変に外れる道ではないだろう。

 とりあえず由比ヶ浜を連れてあの道にーー

 

「ふーん」

 

 ふと、横にいる的前から不機嫌そうな声が上がった。振り向くとなぜかジト目である。

 

「ど、どうした」

 

「なにもー。結衣ちゃんのことよくわかってるんだなってー」

 

「あるんじゃねえかよ。......そりゃ、同じ部活の部員同士なんだから、行動パターンぐらいは読めるだろ」

 

「......そっか、結衣ちゃんいいなぁ......」

 

 ボソッと、的前が口を尖らせて何か呟くが、祭りの喧騒にまかれ聞き取ることが出来ない。

 

「あ? いまなんてーー」

 

「なんでもない! ほら、結衣ちゃんすぐそこまで来てるよ!」

 

 聞き返してみるも、思いっきり背中を叩かれ話を逸らされてしまった。いたい。なんでや、ものの数分前までりんご飴を満面の笑顔でパクついてたやん......わいまた関西弁やん......

 関西弁が癖になりつつある現状に危機感を覚えていると、俺たちが道を逸れきったところで由比ヶ浜が合流した。

 やや息を荒らげながら膝に手をついて呼吸する由比ヶ浜を見ると、彼女は浴衣姿だ。明るい色をベースにしたひまわり柄の由比ヶ浜らしい浴衣である。

 本来ならここで、「小町仕込み、女の子の服装は相手に聞かれる前に褒める!」を発動させるところなのだが、ここでカウンタートラップが発動! 「小町仕込み、ただし! 既に違う女の子が一緒ならばそれすなわち愚行なり!」の効果により、比企谷八幡のお口をセルフチャックだ!

 

「あー、ほんと凄い人だかり、なんてどうでもいいとして、まさかヒッキーと優香ちゃんがいるなんてびっくりだし! どしたの? デートデート?」

 

「んなわけねえだろ。ちょっとでかい財布を引き連れた的前の一人歩きだよ」

 

「ちょっと! 人聞き悪いこと言わないでよ!」

 

「あ、あははー......相変わらず仲いいね二人とも......」

 

 苦笑いしながら感想を漏らす由比ヶ浜。

 ......あの由比ヶ浜がこれって、俺と的前ってどうしようもないくらい周りに呆れられてるんじゃ......?

 

「俺たちのことはどうでもいいんだよ。それより、由比ヶ浜はなんで一人なんだ? お前のことだから一人で来ているわけないし......ああ、迷子か、お前」

 

「ええ?! 今これは迷子になっちゃたかなーって思っていたとこなのになんでわかったの?! ヒッキーキモい!」

 

「なんでディスられなきゃなんねえんだよ......。で、迷子の由比ヶ浜さんはどこに行こうとしてらっしゃるので? 俺らと喋ってる暇はないんじゃないの?」

 

「? ああ、スマホあるからその点は大丈夫」

 

 そんなことを言いやがった。

 

「じゃあさっさと連絡とれよ......」

 

 通信手段あるんならどうしてお前はここにいるんだよ。頭の中お花畑にも程があるわ。四季問わず咲き乱れすぎだろ。

 

「うーん、そだね。とりあえず連絡しとく」

 

 サッとスマホを取り出し、わずか数秒でコールし始める由比ヶ浜。相変わらずこういうことだけは素早い。

 祭りの騒音のせいで、相手が着信に気づかないのか、少し手持ち無沙汰になった由比ヶ浜が喋りかけてきた。

 

「あ、それでヒッキーと優香ちゃんは買い出し? 小町ちゃんに挨拶もしときたいなー、近くにいる?」

 

「なんで小町いることが決定事項なんだよ。あいつは今日いねえよ」

 

「え、そだったの。あー、じゃあ、うーんと、えー、材木座くんとか?」

 

「あまりに長い失礼な思考時間をどうも。材木座でもねえよ、今日は俺と的前だけだ」

 

「......まったまたー。お節介な小町ちゃんのことだから後をつけてきてるんでしょ?」

 

「いやほんとだから。ついさっきビデオ通話で家にいるの確認した」

 

「そんなに信用ないんだ?!」

 

 小町のお節介癖がとうとう第三者までにも知られているのは、どう考えても自業自得なので放っておくとして、どうやら由比ヶ浜は俺と的前が二人っきりでいることがどうにも信じられないらしい。はて、これまでにも的前と二人になることは何度かあったはずだが。

 なんて思案顔になっている俺に的前がこそっと耳打ちしてきた

 

「八幡くん八幡くん。結衣ちゃん、というかみんなは、これまでに私と八幡くんが二人だけでいたことをほとんど知らないんじゃないかな」

 

「......あー、なるほど」

 

 思い返せば、小町を除く周囲の奴らが認知している俺と的前の行動といえば、二人で弓道の練習に行っているということぐらいな気がする。弓道具の買い出しから、小町に頼まれた夕飯の食材の買い出しまで、そんな日常の一部に的前が割り込んでいるだなんて、第三者が知りうる領域ではないだろう。となると、由比ヶ浜からすると少し信じがたい光景なのかもしれない。

 そうこうしている内にどうやら電話が繋がったようだ。由比ヶ浜もなんだかんだ繋がるか不安だったようで、少し安堵した声で会話し始めた。

 

「あ、優美子ー? あははー、ごめんごめん、ちょっとはぐれちゃって。うん。うん。わかった。じゃあ花火会場で」

 

 どうやら話を聞く限り、通話相手は三浦のようだ。となると葉山含むいつもの面子で訪れているのだろうか。

 由比ヶ浜らしくもない、ごく短い通話時間に若干驚いたが、ここは迷子の由比ヶ浜が姉御の三浦に連絡を取れたことを素直に喜んでおこう。

 

「で、落ち合う場所は花火会場でいいのか? よかったら送ってくぞ」

 

「え?! ほんと?! じゃあお言葉に甘え......て......あ、あはは......や、やっぱりいいや」

 

「あ? なんでだよ」

 

 小町仕込みの、「とりあえず女性の送り迎えはしろ」を発動したが、冷や汗を流し始めた由比ヶ浜には拒否されてしまった。

 その視線の先は俺の隣、つまり的前に向けられているわけだがーー

 

「むぅぅぅうーー」

 

 タコだ。タコがいる。

 女性に対して失礼極まりない感想であることは認めるが、頬を極限まで膨らませる今の的前を表そうと思えば、タコという他に言葉がない。先ほどの関西風たこ焼きで身体が変化し始めているのだろうか。

 

「あ、あの、的前さん?」

 

 普段なら絶対しないであろう的前のしかめっ面についキョドってしまう。あのあの、僕何か気に障ることしましたか......?

 

「............」

 

 完全にガン無視である。

 なんでだ。ほんのちょっと前までは会話してたはず、つまり今に至るまでに何か的前の機嫌を損ねる言動が......思い当たらない。

 いや、そもそもだ比企谷八幡よ。まず俺が原因という前提条件を無くそう。視野を広く持て。見ろ、あの的前の何か言いたいことが言い出せず、それでも必死に瞳で訴えかけてくるあの姿を。

 ......! 閃いた!

 

「的前、お腹が痛いのならトイレまで送ってーー」

 

「ヒッキーはバカだし?!」

 

「ぐへっ! って、おまっ、何を」

 

 俺が気の利いた提案をすると、真横からなぜか由比ヶ浜の鉄拳が迫り、見事頭部に命中。ふらついたところで胸ぐらを掴まれ、そのまま的前から少し離れた地点まで引っ張られる。

 

「由比ヶ浜お前な、もう少し優しく扱えないの? 脳震盪でも起こしてたらどうするつもりだったの?」

 

「ああ! もうそんなどうでもいいことはいいから! 早く優香ちゃんに謝ってきて! あたしも悪い部分あるし一緒に謝ってあげるから!」

 

「お、おお。って、そこ、そこなんだよ。なんで的前は、あんなタコ見たく頬を膨らませて不機嫌にしてるわけ? 俺たちなんかしたの?」

 

「ああああああああ!! この鈍感ヒッキー!! そんなんだからクラスで陰湿ムッツリ野郎なんて言われてたんだよ!」

 

「まって、そんなあだ名初耳なんだけど。ねえ、それ命名したのだれ? というか鈍感なのとそのあだ名の関係性ないよね?」

 

「ああもうっ! そこはどうでもいいからツッコまなくていい!」

 

 いや、十分重要だろ。これからクラスメイトになにされるか不安で授業中も眠れねえよ。

 

「いい? 優香ちゃんは、やきもちをやいてるの。雰囲気でわかんない?」

 

「まあ確かに。あの頬をはち切れんばかりに膨らませている的前を見たらわからんことは」

 

 ちらっと見るとあら怖い。タコ魔人的前様がこちらを見つめてる。

 

「でしょ? だからさっさと謝る、せめて何かして機嫌を直させる! ほら、いくよ」

 

 そう言って背中をぐいぐい押してくる由比ヶ浜。

 あ、ちょ、由比ヶ浜さん。む、胸が少しばかり背中に当たって......的前さんそんな睨まないでください怖すぎます。

 

「あ、あのだな由比ヶ浜。そもそもなんで俺が謝らなくちゃならないんだよ。確かに俺に非もあると思うが、やきもちやかせたのはお前であって俺じゃないだろ」

 

 的前と由比ヶ浜、同じクラスな上に奉仕部絡みで結構仲良いからな。俺がしゃしゃり出てきてやきもちやかれるのはしょうがないし、俺にも非がある。だがこの現代、やきもちをやかせたやつが最も悪いのは決定事項。つまり的前にやきもちをやかれた由比ヶ浜がーー

 

「......は?」

 

「いえなんでもありません私が悪かったです」

 

 的前には聞こえないよう、由比ヶ浜にそっとそう囁くと、鬼が二人に分身。気づけば逃げ場がないこの状況。詰んだな。

 無言になった由比ヶ浜の目線に促され的前の正面へ。ふえぇ......前後から凄まじい殺気が漂ってくるよぅ......。僕がなにをしたってのさぁ......。

 って、痛い痛い! 何を言おうか迷ってるだけなのに横腹つねってくるのやめて由比ヶ浜さん!

 そして、さっさと喋れとでも言わんばかりに、次第につねる力を強めてくる。なんだこの現代版ゆとり拷問。

 

「あー、その、なんだ。悪かった、なっ?!」

 

 気持ち程度に頭を下げ、謝罪の言葉を述べると刹那、クロックスを履いているため靴下を履いていないむき出し足首に激痛。

 

「なんなんだよお前! 謝っただろ! なんの不満があるんだよ!」

 

「態度だよ! あーっと、ごめんね優香ちゃん。久しぶりに会ったからちょっとはしゃいじゃって。といっても林間学校以来だからそんな久しぶりってほどでもないっけ」

 

 態度が悪かったら蹴られるんですか。さいですか。しかもそれ下駄ですよね? まだジンジンとした痛みが残ってるんですけど? どこが悪いのか皆目見当もつかないのに謝らされ、挙句、下駄で蹴られる俺まじ不憫じゃないですかね?

 

「......八幡くん」

 

「あっはい」

 

 心中で不満を垂れながしているとこれまで口を開いてなかった的前から、ついに声がかかり、思わず身体を硬直させる。なんだろ......俺、死刑宣告でもされちゃうのかな......。

 

「八幡くん言ったよね。今日は一日、私の金づるだって」

 

 あっ、これ、俺じゃなく財布の方に対して死刑宣告もといチェックメイトかけてきましたねー。非常にまずい展開です。いや、無期懲役じゃないだけまだマシ......? 法廷で判決を言い渡される直前ってこんな気持ちなんだろうか。絶対罪は犯さないようにしよう。

 なけなしの諭吉さんが散って逝く未来を想像しながら静かに判決を待っていると、ついに次の言葉を紡ぐべく的前の口が開かれた。

 

「......だから、今日だけ八幡くんは私のものなの!」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「あー......」

 

「結衣さっきからため息ばっかだけどどしたん? 高校生にもなって迷子になったのがそんなに辛い?」

 

「いや、うん、あれは勝てないなぁ......って」

 

「?」

 

「我ながらなんて敵に塩を送る行為......しかも現状最強の敵に向かって......はぁー......」

 

「結衣、疲れてんならそこらへんで休んできてもいいんだかんね?」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「............」

 

「............」

 

 やべえ。どうしたらいいんだこの状況。

 

的前、突然の大胆発言から既に一時間。俺はもちろんのこと、発言者である的前ご本人もだんまりしてしまい。気づけば花火も終了。言葉を交わすこともなく、二人で駅へ向かっている最中というわけだ。

 由比ヶ浜は即効消えやがるし、会話の切り口になるかと思った花火のネタも、今の状況を見れば火を見るより明らかだし。

 ......いや、いまからでも遅くない、か。花火綺麗だったな。とか、感想から始めれば充分会話の材料になるはず。よし、そうとなれば早速実践あるのみだ。もうこの沈黙には耐えられん。

 

「ま、的前。あ......のだ......な......」

 

「っ......う、うん」

 

 うぐ、気まずさに全てを押し潰される......っ!

 いかん。ここで引いてどうする。電車での移動など含め、最低でも四、五十分は一緒なんだ。そろそろ打開しておかないと俺のメンタルが死ぬ。

 

「その......」

 

「............」

 

 いや、そこでやけに頬を赤くして俯くのやめにしません? 沈黙よりそっちの方がメンタルの削れ早いんですけど。

 っと、いかんいかん。言うんだ俺、この空気を打開するために。

 

「その、きれーー」

 

 

 

「あ、優香。電話しても返事がないから心配したじゃないか。......と、お邪魔だったかな」

 

「は? ......じゃなくて、その......」

 

 知らないおっさんが話しかけてきた。怖い。妙にニコニコしてるし。あ、これって的前を連れて逃げたほうがいいやつだったりする?

 不審がってる雰囲気が出てしまったのだろうか。目の前の中年男性は苦笑いを浮かべたまま、

 

「自己紹介もなく声をかけてすまない。彼氏くん、かな? 私は的前茂光」

 

 

 

「しがないながらも、的前優香の父をやらせてもらってます」

 

 そう言った。

 

 デートの帰り道で、相手の父上にエンカウントするとはこれいかに。

 

 

 

 

 

 

 

 




最強の敵、お(義)父さんとエンカウント


感想等々あればよろしくお願いします!
ではまた次回に!


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18. 彼は二つ目の依頼を承諾する。

珍しく一週間足らずでの更新です。何があったんでしょうね。

18話ですどうぞ!


「いやぁー、まさか、優香の彼氏さんに遭遇してしまうとはなー。心配で迎えに行ったは良かったけど、守ってくれる殿方がいるのならやぶへびだったかな」

 

「もー! だから彼氏じゃないって言ってるじゃない!」

 

「へぇ、それは八幡くんはこれからも恋仲になることはない、ただのお友達なのかい? それともまだ、ってことなのかい?」

 

「うっ......なんで今日のお父さんそんなにいじわるなのぉ......」

 

「............」

 

 現在、我が家と的前宅がある見慣れた市街地を、一台の軽自動車に乗って移動しているのだが、

 

 なんだこの恥ずかしい空間は。

 

 同乗者は、後部座席に座る俺の隣にいる的前に、この車の運転手であり、的前の父である的前茂光。つまり弓道場の師範でもあるのだが、さすが弓道という武道に長年触れ合ってきただけあってか、同年代の中でも、特に落ち着いているように見える。そう、平塚先生みたいな......おっと、この話はよそう。

 しかしこの人、温厚な割に、先ほどからこちらをはやし立ててくるから困る。それに対する的前の反論からするに、普段はそんなキャラでないことは窺えるのだが......ああ、あれか、愛娘に男が出来たらめっちゃ喜ぶ系のお父さんなのか。娘さんをくださいって言われたら笑って承諾してそう。

 と、バカみたいな考察はやめにして、俺も一応反対しておくか。的前が涙目になってきてるから見るに耐えられん。

 

「あの、的前さん。的前が言っている通り、俺たち本当に付き合ってなくてですね」

 

「八幡くん。的前だと私も優香も反応に困る。私のことは、茂光と呼んでくれて構わないよ。おっと、それよりもお義父さんと呼びたいかい?」

 

「キャラブレねえなこの人......」

 

「うう、お父さんもう何も言わないで......恥ずかしいから......」

 

 どうやら弁解の余地はないらしい。仕方がない、家までの数分間我慢しよう。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「さて、私は八幡くんを家まで送っていくから優香は先に家に入っておきなさい」

 

「帰りもお父さんがいるんだから、私もついていくのに」

 

「別に大した距離じゃなさそうだし、すぐ帰って......ああ、優香は一秒でも長く八幡くんと一緒にいたいのか」

 

「〜〜〜っ! もう今日のお父さん嫌い!!」

 

 勢いよく扉が閉まり、的前は家の中に入っていってしまった。なんか......今日一日お疲れ様。特に帰り道が。

 

「おやおや、嫌われてしまったようだ。さて、行くとしようか八幡くん」

 

「はい」

 

 ......あれ、よく考えれば我が家に着くまでこの人と二人っきりなのか。やばい。不安しかない。助けて小町えもん! ......なんて、いくら最近ストーカー染みてきたとは言え、こんなタイミングで妹が登場するわけもなく、車は残酷にも発進してしまう。

 オゥ......突然の沈黙が身に染みるぜ......。

 

「......八幡くん」

 

 って、そうですよね。そっちは喋りかけてきますよね的前父さま。

 

「な、なんでしょうか。出来ればお手柔らかに......」

 

 まあ、根掘り葉掘り聞かれても、やましい事をしたわけじゃないから余裕なんだけどね? 余裕なんだけどね?

 

「お手柔らかに? ......ああ、そういう事か。大丈夫だ、安心してほしい。さっきまでの私はうざいお父さんキャラを演じていただけだからね。今は平常運転の的前茂光だよ。先程は困らせて

しまってすまなかった」

 

 演じてた? 運転席越しにかけられる謝罪の言葉は、嘘をついているようにも思えない。だとしたら疑問が一つ残る。

 

「は、はぁ......じゃあ、なんであんな意味のわからないキャラを演じてたんですか?」

 

「い、意味のわからない......か。はは、うざいことは自覚していたが、客観的には意味がわからないお父さんに見られてしまったのか。慣れない事はするものじゃないな......。おっと、話を戻そうか。話は単純、優香を家に帰す為さ」

 

「的前を家に帰す為? あいつ何かあったんですか?」

 

「いやいや、優香は関係ないよ。私は、君と二人っきりになりたかったんだ」

 

 君と二人っきりになりたかったんだ。

 

 君と二人っきりになりたかった。

 

 君と二人っきりに。

 

 君とーー

 

 いやいやいや、まさか、嘘だろ?! この人あっちか! あっち系なのか?!

 

「いや、ちょ、さすがにそれは俺には荷が重すぎるというか、あ、もう、ここまでで十分なんで降ろしてください」

 

「八幡くんの中での私がどんな立ち位置にいるのか気になってしょうがないところだが......八幡くん、これは真面目な話なんだ。優香に関するね」

 

「......しょうがないですね。的前は、俺の依頼人ですから」

 

「八幡くん......」

 

 

 

「そこまで優香のことが好きなのなら、数年後にでも家に来なさい。結婚なら僕は二つ返事で快く承諾するよ」

 

「いや、真面目な話するんですよね?!」

 

 だめだ。この人といるとどうしても調子が狂う。的前、よくあんな素直な子に育ったな......。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「............」

 

「あれ、比企谷先輩、浮かない顔してどうしたんです? 休みが終わってブルーって感じですか?

 

 ぼーっと、矢が的へ刺さる光景を眺めていると、ふと、横から声がかけられた。

 声の方に視線を向けると、今となっては見られた顔の後輩が弓を片手に、こちらを不思議そうな顔を浮かべていた。

 

「......お、ああ、橋本か。誰だって休みが終わると鬱になるもんだろ。特に夏休みなんて長期休みが終わるとな」

 

 彼の名は、弓道部員である一年生の橋本亮斗。俺が弓道部に顔を出し始めた日から声をかけてきてきた後輩だ。的前が手を離せない時なんかは、それに変わって俺に指導をしてくれたりした優しい奴だ。

 

「はぁ、そんなもんなんですかねぇ。僕はそろそろ友達に会いたくなってきてた頃なんですけど」

 

「それはお前みたいに友達がいるやつだから言えることなんだよ」

 

 一ヶ月弱の夏休みもついに終わりを迎え、当たり前のように二学期が始まった。今日は始業式、ホームルームを少しばかり行ってすぐさま放課後へ突入したので、的前と共に弓道場へ。最近の弓道部は空気がピリピリしているので、極力邪魔にならない端っこで、時折練習を挟みながら見学しているところだ。正直言って、居心地が悪い。

 

「またまたー、友達はいなくても的前先輩といちゃいちゃしてたんでしょ? わかってますって、そりゃ毎日デート出来る環境がなくなるんですもんね。ブルーにもなります」

 

「しばくぞ」

 

 手元にあるゴム弓をチラつかせて、にやけ顔をのムカつく後輩を黙らせる。こいつや小町、そして的前父といい、なんでこうも俺と的前ネタでいじってくるん? そんなにいじられるようなことしてないやん?

 

「っと、これ以上騒ぐと的前先輩に怒られそう。部長モードの先輩は怖いですからねー」

 

「部長モードじゃなくても大概怖いだろ」

 

 思い浮かぶのは、顔を真っ赤にして怒る的前の顔、顔、顔。未だに怒る理由が謎な上、日に日にその頻度が増えているのだから理不尽である。

 ......まあ、怒るといっても胸をポカポカと叩いたりしてくる程度なので害は、それどころか見ていて和むので気にしてはいない。

 

「はぁ? なんですそれ? 普段の顔も知ってますよーっていう自慢ですか?」

 

「ちげえよ。お前も夜道には気をつけろってことだよ」

 

「こわっ! 的前先輩そんな人だったんですか!」

 

「ああ、あれは忘れもしない、そう、つい数日前のこと......」

 

「はーちーまーんーくーん?」

 

「いやこれには事情が、ないです。言い訳にするにしても苦しすぎますねすいません許してください」

 

 背後から届いた恐ろしく低いトーンの声。これには八幡くん堪らず振り向きざまに土下座。

 

「ちゃんと見学しとく! 亮斗くんも、八幡くんなんかと喋ってたらレギュラー一生取れないよ!」

 

「一生って酷くないですか?!」

 

「それ実質俺への罵倒しかなくない?」

 

「確かに、比企谷先輩と絡んでるとレギュラーを取るのは難しそうですけど」

 

「てめえ敵に回りやがって!」

 

 叱られてもどこか締まらない俺たち二人に、的前の顔が段々と呆れ顔になっていく。

 

「大体な、話しかけてきたのはお前からなんだから、むしろ俺は被害者の方だ」

 

「比企谷先輩が浮かない顔してるのが悪いんですよ! そのせいで練習に集中できないんですから、むしろこっちが被害者です!」

 

「あぁ?」

 

「なんですか!」

 

「静かに!」

 

「「いだっ!」」

 

 こ、こいつ、ぶった、ぶったぞ。俺らと変わらないぐらいうるさい声量のくせして思いっきりぶちやがった。

 

「はぁ、仲良いのはいいことだけど、今はみんなも集中してる時期なんだから静かにしとくこと。いい? 私もまた練習に戻るから」

 

「「ういっす......」」

 

 ......さて、場の空気に緊張感が漂っている理由を説明しよう。簡単に言うと再来週に県内で行われる弓道大会があり、今はその選考期間ということだ。

 未だに体験入部部員である俺にはまったく関係のない話だが、目の前にいる後輩ぐらいには是非頑張ってもらいたいところである。

 

「じゃあ僕も戻りますね。さすがにこれ以上は怖いんで」

 

「メンバーになれるようせいぜい頑張れよ」

 

「比企谷先輩に言われなくても取ってやりますよ。では」

 

「おう」

 

 的前に続き、橋本も射場【射手が的に向かって弓を引く場所】に戻っていき、再びぼっちになる。

 

「......守ってほしい、か」

 

 矢をつがえ始めた的前の姿を見ながらそう呟く。最近、一人でいるときはこればっかり考えている気がする。

 

「学校外からの依頼は初めてだが、的前を守ってくれなんて内容、俺が一番適任だからな」

 

 

 

 思い返すのは数日前、的前の父と二人っきりになり、一時は貞操の危機を感じた祭りの帰り道の話である。

 

「さて、真面目な話に戻ろうか。八幡くん、君は奉仕部という部活に所属していて、そこにきた優香の依頼を承諾、そして今に至っている。そうだよね?」

 

「はい」

 

「では、私も、一人の依頼人として君に頼みたい」

 

「え、ちょ、なんで俺なんかにーー」

 

 

 

「優香を、守ってほしい」

 

 

 

「っ......い、いや、守ってほしいって、的前はなにかにでも狙われてるんですか?」

 

「八幡くん、優香はね」

 

 

 

「天才なんだ。弓道のことに関しては」

 

「......は?」

 

「天才なんだ。師範を務めている私でさえ嫉妬するほどに」

 

「は、はぁ」

 

「優香の高い技術に嫉妬した門下生が愚痴を言っているのは今でもよく聞く。いや、むしろ最近になって増えてきていると言えるかな。私も他人から恨みを買っているようだからね。その矛先が優香に向くかもしれない。いや、一度は向いたかな」

 

「あ......」

 

「......その様子だと、優香から聞いているようだね。すまない。この依頼自体、不出来な私の尻拭いを君にしてもらおうとしているも当然なんだからね」

 

「......いえ、受けますよこの依頼。現状俺が一番的前を守っていられる立場にいますからね。実際周りに気を配る程度で大した労力じゃないですし」

 

「すまない、感謝する。と、学校の部活に対する依頼とはいえ、報酬を払わないとね。八幡くんが望む報酬はあるかな? なるべく用意させてもらうよ」

 

「いえさすがにそれは......あ、じゃあその代わりにーー」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

「ーーほう、君も策士だね。いいだろう、依頼完遂の報酬としてそれを支払わさせてもらうよ」

 

「ありがとうございます。依頼の件承りました。依頼期間である的前が卒業するまで、的前を守らせていただきます。

 

「ああ、よろしく頼んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、間違いを起こして優香をボディーガードが襲うなんてことはないようにね? するとしても然るべき準備をしてから。いいね?」

 

「う、ういっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新キャラ、怒涛の登場。

後輩くんがどんな立ち位置になるのかは知りません。

では次回でお会いしましょう!


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19. かくして彼は彼女を見守り始める

 いやー、お待たせ、非常にお待たせいたしまたすいません。新生活やら一気に都会デビューだかで、完全に更新ストップしてました。
 いろいろ設定等々朧げになってるところあって変な点あるかもですがよければどうぞ!


「優香のことを、頼んだよ」

 

 的前の父である的前茂光に、そう依頼をされて、三ヶ月が経った。

 楽しくも忙しい夏休みはとうの昔に終わり、それどころか、もう少しすればニ学期末テストがニヒルな笑みを浮かべ、俺をテスト勉強の沼へ引きずり込むだろう。やめてください。

 

 さて、結論から言うと、この三ヶ月間は平和そのものだった。

 

 例の依頼を受けてからというものの、的前を影から見守ってきたが、これといった不審者はまったくなし。的前の様子もさしたる変化なし。むしろ最近は俺が不審者なのではと疑問を抱くまである。

 

「はい、じゃあ今日の授業はここまでだ。テスト勉強、ちゃんとしろよー」

 

 授業の終わりと、放課後の突入を告げるチャイムが鳴り、物理の先生が教室を足早に去っていく。生徒の方も、テスト期間で部活がない為、残ってテスト勉強をする者を除く大半の生徒は、早々に帰宅の準備を始めている。

 んじゃま、俺も家に帰って、今日の授業でも軽くおさらいしときますか。鞄を持ち上げ席を立つ。

 授業を聞いてもリアルタイムで理解できない物理は、元から教科書すら開いてない為、帰る準備は既に万端である。これには三十秒で支度しなおばちゃんも、さぞ驚くことだろう。はっはっは、なにが帰ってから軽くおさらいだよ、重いよ、ガチ勉強だよ、赤点取りたくないよいい加減にしろ。

 まあ、理系科目は毎回こうだから、どうしようもできないね。しょうがないね。帰ろうね。

 

「んーっと、あれ?」

 

 一緒に帰ろうと思い、的前の席を見ると空席だった。はて、授業が終わった直後に姿を忽然と消すとは、いつの間に瞬間移動出来るようになったんだろうか。

 あ、勘違いしないでよね! 的前と一緒に帰りたいとかじゃなくて、ちゃんと的前父の依頼を遂行してるだけなんだからね!

 

「八幡くん!」

 

「んえぇ?!」

 

 お、おおう、まさか俺の目の前に瞬間移動していたとは。是非ともご教授願いたい。

 

「サイゼリア一回奢るからそれでどうだ?」

 

「わけのわからないこと言って話を逸らそうとしても無駄!」

 

「い、いや、そんな凄い剣幕で迫られてもマジでなんの意味か……」

 

 もしかしてあれか、あまりの暇さに、的前を数秒眺めてたのがダメだったのか。嘘だろ。すぐ視線外したぞなぜバレた。

 

「ほーら心当たりありそうな顔してる!」

 

「ぐぬぬ、悪かったよ。もう見ないから。不快な思いさせてすまんかったな」

 

「は?! 逆でしょ! もっとちゃんと見て!」

 

「はぁ?!」

 

 え、なに、的前いつの間に俺のことLOVEだったの? 数秒程度じゃだめってこと? 眼球飛び出すぐらいガン見しなきゃだめってこと?

 

「いや、ま、的前、そういうのはせめて周りに人がいないところで……」

 

「そんなのはいいの!」

 

 自分の性癖を暴露してでも俺に見て欲しいのか。なんて大胆な……。

 

「よし、わかった。次からはちゃんと努力する。でも、流石に、いきなり十分とかは厳しいから、まずは数分からってことで頼む」

 

「なにバカなこと言ってんの! 授業中はずっと見る!」

 

「ずっと?!」

 

 それは俺に授業を放棄しろということなのだろうか。しかし一体的前はなぜそこまでして俺にーー

 

「だから、ちゃんと、黒板の板書も取って、授業は最後まで聞く! 分かった?!」

 

「ああ、いまいち意図が汲み取れないが、わか……授業?」

 

「……? そうだけど、どうかした?」

 

 あ、ああ、ああああ?!

 

「いいいいや、いや、なんでもないんだ。忘れてくれ。忘れてくれないと死ぬかもしれん。いやもう既に死にたい」

 

 自分の恥ずかしい勘違いを認識すると同時に、急速に身体が熱くなっていくのがわかる。そうだよな。そうに決まってるよな。当たり前だよなぁ?!

 

「ええ? ちょ、ちょっと、どうしたの? 大丈夫?」

 

「いや、ほんとに、なんでもないんだ。わかった。ちゃんと授業は聞く。聞くからまずは家に帰ろう」

 

「う、ううん? あ、ちょっと待ってよ!」

 

 バッと鞄を持ち上げ、的前を置いて早足に教室を出る。

 あかんあかんなんて勘違いしてんだ俺。自意識過剰にもほどがあるだろぶっ飛ばすぞ。

 やっべー、マジやっべー。今の俺絶対顔真っ赤だわやっべー。

 

「ちょ、ちょっとー? 八幡くーん?」

 

 後ろから駆け足でついて来る的前に、顔だけは見られないようにしつつ歩く。

 

「あー、ちょっとな。突然モンハ○がしたくなって来てな。さっさと帰らないと」

 

「今テスト期間だよ?!」

 

 背後から的前の勢いの良いツッコミが帰ってくる。いつもなら歩調を緩めてのんびり帰ってるところだがそうはいかん。俺は帰るぞ! 俺、正門を抜けたところで猛ダッシュ!

 

「ちょ! なんで急に追っかけっこみたいなってるの?! 八幡くん早いって!」

 

 堪らず的前もダッシュ!

 

 なんだこれ、変態二人組だろ完全に。

 

「はっはっは! 捕まえられるものなら捕まえてみなさい!」

 

「いや、もうほんと意味わかんないからね?!」

 

 意図せぬまま、猛ダッシュで帰路につく俺たち。

 あの勘違いは完全に黒歴史に残るだろうが、この鬼ごっこまがいのこれは、良い思い出になるんだろうな。……いやならねえか。

 

 

 

 

 

 

 そういえば、的前はなんで俺が授業を完全に放棄していたのを、知っていたのだろうか。的前の席は俺より前だから、振り返らないと見えないはずなんだが。

 

 そんな疑問を抱いた頃には我が家の玄関前におり、ドン引きした小町に迎えられるのだった。

 

 年の終わりも近い。

 




 とりあえず当たり障りのない感じのをー、って感じで書きました。いやもうブランクが凄い……どんなテンションで文章書いてたんだっけ。とまあ、次回の更新から展開していくと思います。ではではー

追記
いや、冷静考えたらいろいろイベント飛ばしすぎでは……?クリスマスパーティー絡みの書こうとしたらいろはが生徒会長になる下り書いてなくてやばいやばい。ちょっとその辺りの下り書くかもしれないです


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