5月に飲むラミンーある少女の挑戦― (飛龍瑞鶴)
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最初の一歩。 任命、挑戦の日々の始まり。

第63回戦車道全国高校生大会は大洗女子学園の優勝に終わった。

各校では来年度に向けて、新たな体制作りが開始される。
それは、聖グロリアーナ女学院も例外ではなかった。


「こんな言葉を知ってる?『挑戦せずにして、成功はない』私は貴方に挑戦をお願いしたいの」

私の目の前の居る彼女、ノーブルシスターズのエルダーにして、我が校の戦車道部の隊長であるダージリン先輩は、その優雅さを崩さずに私に言う。

―今の言葉は野茂秀夫の言葉だったと、記憶している居るのだが。この場面では、その事を言うべきなのだろうか?-

 昼休み、図書館での楽しい読書タイムから、校内放送でこのサロンや、ティールームと呼ばれるクラブハウス。その中の戦車道部の部室、それも全校生徒垂涎の的である『紅茶の園』に呼ばれたので。私は戸惑いと混乱にいささかの恐怖を覚えていた。

 少なくとも…いや、確実に面倒ごとの中核に落ちたのは確かであると判断できる。問題は、その面倒ごとが何であり、私がどう関係するかである。

 私は確かに、戦車道の授業を受講しているが、部活動は文芸部で、委員会活動は図書委員である。

 まだ、入学一年目でなので、この学園、聖グロリアーナ女学院の流儀を完璧には理解していない。確かに、この学園艦と言う所は、丘とは違う論理で動いている。慣れるにはそれなりに時間が必要だと実感している。

 それに私は姉達や、あの兄と違い。人との距離感の測り方が上手ではない。

 僅かに目線を動かし、周囲を観察する。

 目の前のティー・テーブルには、俗にいう「ノーブルシスターズ」の面々。

 つまり、ダージリン先輩、アッサム先輩、同級生のオレンジペコさんが座っている。

 空気的に、私の返答を待っているのを感じ。私は脳みそを全開で回して、何とか言葉を返した。

 「『成功しないと失敗する可能性があります』って言葉がありますけど、私は『成功は決定的ではなく、失敗は致命的ではない。大切なのは続ける勇気だ』が必要なのでしょうか?」

 何かつかめないかと思い、名言と迷言の二つを返してみる。

 -さて、どう言う反応が来るかな?-

 「ダン・クエールとチャーチルですか」

 オレンジペコさんが、意外そうに言う。

 彼女はダージリン先輩が言う名言の解説役、つまりは女房役と言う噂を聞いていたが、それはどうやら本当らしい。

 「その二人の言葉を並べて言うのは、独特な感性を持っていますね」

 アッサム先輩が呆れと興味の混じった声で言う。

 -えぇ、完全にミスマッチな選択であるのは、理解していますよ。-

 私は内心で反論しつつ。それを一切表情に出さずに、ダージリン先輩に視線を固定していた。

 「『成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである』とも言うわ」

 ダージリン先輩が有名なチャーチルの言葉を出しながら、口元に笑みを浮かべている。

 『成功』どうやら、私が呼ばれたのはどうも、このワードが鍵らしい。

 これに現状から関連付けられる事象を考えると、戦車道だろうけど、私にその事がどの様に関連するのか?

 パズルのピースが足りない…歴史のスマイリー先生や、政経のマクレディ先生ならこういう状況でも的確に答えを導き出せるのかもしれない。

 「混乱するは当然ですわ。では、順を追ってお話いたしましょう」

 ダージリン先輩は、ティーカップを置き、二枚の写真と数枚の書類をとり出す。

 「我が校にも、新戦車が入りました。と、言っても僅か2両ですが。一両はブラックプリンス」

 「やっと、17ポンド砲の戦車ですか長かったですね」

 隊長車砲手のアッサム先輩が感慨深そうに言う。確かにドイツやロシアの化け物と戦うには、我が校の戦車では、いささかの知恵と旺盛な勇気。そして、多大なる幸運が必要になる。

 「そして、もう一両はコメット巡航戦車」

 私は思わず目を見開いた。英国巡航戦車の完成形。この車両ならパンターやT-34辺りとも十分に戦え、ティーガー等にも対抗することができる。

しかし、よく導入できたものだ。OGの声がデカい我が校では、新型戦車を導入するのは色々と難しい。

 今年から校長に就任した。「データの魔女」「鉄の女」と言われているモズレー女史が、OGの面々を数字で黙らせることに成功したのかもしれない。

 「ユニバーサル貿易の方が、東南アジアの某国から入手してくださりました。色々と改修されたのを戦前仕様に戻すのに時間がかかったので。全国大会後のタイミングになりましたが」

 ユニバーサル貿易は我が校のスポンサー企業の一つであり、本社は英国の倫敦にある…と言われている。名前からして代表がイニシャル一文字で、ウォッカマティーニを愛する美男子が居そうだけど。

 このユニバーサル貿易のおかげで、我が校は英国戦車の必要な部品と弾薬の安定供給が可能になっている。

 「今度はトータスでも探してもらおうかしら」

 ダージリン先輩は冗談のように言う。目は本気に見えるのだが、あの車両は確かに欲しいと言えば欲しいと思う。

 特に黒森峰がマウスを出してきた今回の全国大会からすると、来年はJS-3とかT28とか出てくるんじゃないだろうか?

 故にOG達の声を黙らせることに成功したのだろう。現在保有しているクロムウェルも、全国大会後に追加された一個小隊の車両と、元から運用され、現在入院中の一個小隊、合計二個小隊、8両が実戦投入可能なロジェステック(兵站)を確保することが出来たのもその流れだろうと推測する。

 「話を戻しましょう。貴女にはこの戦車を任せます。つまり車長として、この戦車の運用法を確立して下さい。二年、三年生は現行の戦車で練度を上げた方が全体的な戦力は向上しますので」

 確かに道理だ。新規増加分のクロムウェルも、同じような理由で一年生のみで運用している。

 「私たちに必要なのはパイオニア。私の言葉に独特の発想で返してくる。そう言う所が必要とされます。だから、あなたを選びました。我が校初のコメット巡航戦車、その車長にはパイオニアとなって車両の運用法を確立する必要がありますわ」

 そこで、ダージリン先輩は言葉を区切る。

 「タイ王国で初めて茶畑を開拓し製茶工場を創設した。お茶のパイオニアであるラミンの名前を今日から名乗ってください。高野皐月さん。いえ、ラミン」

 彼女はそういって、優雅に微笑む。

 紅茶に因む呼び名を与えられる幹部・幹部候補生になれとは…正直、お断りしたい。

 しかも、新戦車の車長である。誰から恨まれるか判った物ではない。

 しかし、ダージリン先輩の私を見る目は、真っ直ぐに私を見据えている。それに、断ったら断ったで、何処から恨まれるか判らない。

 どうやら私は、逃げることは出来なさそうだ。

 私は蛇に睨まれた蛙の様に硬直し、ぎこちなく45度の角度に腰を曲げ、無帽での敬礼を行い。彼女に対して敬意を示しながら。

 「謹んでお受けいたします。身に余る栄誉と重責、それに相応しく成る様、誠心誠意努力いたします」

 そう答えるのが精一杯だった。

 緊張しているが、同時に自分が選ばれたことへの幸福も感じていた。評価されている事は間違いないからである。私もそれなりに認証欲求は持ち合わせている。

 一つ確かなことは、私、高野皐月改め、ラミンの戦車道は新しいスタートが決まったと言う事だ。

 「『ミスを犯さない人間には、何もできない』と言います。貴女の戦車道は何度も躓くことになるでしょう。ですが、『つまずきは、転落を防いでくれる』とも言います。貴女のこれからの戦車道は、そういう事になると考えなさい」

 ダージリン先輩は英国の諺を引用して締めくくった。

 私はそれを聞きながら『すべって転んだことのない者は、安全確実に立っているとは言えない』と言う諺を思い出していた。




はじめまして、飛龍瑞鶴と申します。
ガールズ&パンツァーの二次創作を投稿いたします。

舞台は、私の故郷を母港とする。聖グロリアーナ女学院。
伝統ある学校であり。英国色が強い学校でです。
この学校を舞台に、来年度に向けて、努力する少女たちの姿を上手く描けたら良いなと、思っております。

新参者ですが、何卒よろしくお願いいたします。
感想、また、ご指摘はドシドシ募集しています。


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高野皐月が選ばれた理由

第二話です。

選ぶには対象を詳しく知る必要がある。


 ラミンとなった高野皐月嬢にオレンジペコを付けて退席させ、私はティータイムを再開した。

 「なぜ、彼女を選んだか。詳しいお話を聞かせていただけますか隊長。候補者は複数いたはずですが」

 アッサムが優雅さの中に好奇心を覗かせて尋ねる。

 データ主義者の私の参謀役にはデータを見せるのが早いだろう。

 私は、卓上の書類を彼女に示す。

 「お読みになられたら、少しは疑問が解消すると思いますわよ」

 「では、読ませていただきますわ。失礼します」

 彼女は一言断ると、私が示した書類を音もなく取り上げ、席に座りなおす。

 「彼女に関する個人情報に、友人等からの聞き取り調査の報告書ですか」

 アッサムは、声に出して私に尋ねる。発音する事で、自分の理解を早めるのと、私に詳細を喋らせるためだ。三年も付き合えば、お互いのスタンスが手に取るように解る。

 「えぇ。GI6は良い仕事をしてくれましたわ」

 GI6こと情報処理学部第6課は、こういう面でも我が戦車道チームに協力してくれる。

 

 「普通科、成績は全般的に平均より少し上、得意科目は歴史と、語学。戦車道では、現在はクルセイダー巡航戦車の砲手。能力的にはパンツァー・ハイ気味ですが、狙いは的確。命中率は我が校では平均値。半年でこれはかなりの努力家ですね。後で、詳しいデータを頂けますか?」

 隊長車砲手であるアッサムは同じ砲手として、その成長速度を評価している。確かに、行進間射撃を多用する我が校の戦車運用で平均値を出すのは、それなりに努力が必要である。

 「構わないわ。続けて」

 「車長への意見具申は多数で採用例多し。全般的な戦術傾向は搦め手を好む。好きな戦車はT-55、好きな花は桜。生まれも育ちも横浜」

 アッサムは、彼女の調査報告書の最初のページの概略を軽く読み。二枚目の詳細内容に目を通し。少し驚いた様に声を出した

 「家族構成まで…兄が一人に、姉が三人ですか。うち二人は我が校のOG」

 「一人はお会いすることができましてよ」

 「高野の姓のOGは、私の知る限り居ないと思いますが。最近、こちらに来られたOGの方の中には確実に」

 「確かに、OGだけど、校医として赴任なさっているわ。主にメンタルヘルス専門家として」

 それを聞いて、アッサムはさらに困惑した様であった。

 「校医にも高野の姓の人物はいなかったと記憶していますが」

 「それは、そうですわ。ご結婚なされていますから。因みに旦那様は偶に歴史学の講師として我が校を訪れますが、本業は古書堂の店主をなされています。まぁ、本人に言わせれば、それも研究費と資料代を稼ぐための副業と仰っていましたが。歴史学の博士号を持ってらっしゃる御方よ」

 それを聞いて、アッサムは納得いったような顔をする。

 「その御二方は存じています。渡良瀬非常勤講師と、渡良瀬校医ですね。しかし、渡良瀬校医の旦那様が、渡良瀬非常勤講師とは驚きです。同姓なだけで関係性は無いと思っていました」

 アッサムは意外な人の繋がりに驚いたようだ。

 横道に逸れるが、基本的に生徒の興味を上手く引き出し、学ぶ意欲の向上させる事に定評のあるが。外見的にはそれほど性的な魅力は無い非常勤講師と。

 生徒との信頼関係を上手く構築して、悩みを聞き出し、親身に解決策を共に模索し、円満解決させる事に定評のある。才媛と呼ぶに相応しい知性と性的魅力を持つ校医。

 あまり接点がなさそうな二人が、実は夫婦であることに驚きを感じているようである。

 「あの、ジェントリ―没落した貴族の代わりにのし上がってきた人々―がパーティで振る舞ったとされるお菓子を再現したと言って、希望者を募りお茶会を開催して。悪夢の情景を演出した人物に伴侶が居たことが驚きですよ」

 自分は事前に調べ、危機回避のために参加しなかったアッサムが、まるで参加した様に言う。

 「あら、あれは事前に調べれば回避できる点で、ずいぶん良心的と思うのだけど」

 私は渡良瀬非常勤講師が用意したお菓子を思い出しながら言う。

 用意されたのはある貴族の邸宅を再現した純白の砂糖細工。白砂糖が貴重品だった時代には、その貴族やジェントリの財力を誇示するのには最良の物である。とは言え、実質的には数キロの砂糖の塊であり。食べても食べても、砂糖である事に変わりはなく。その単調な甘さに辟易し、多くの参加者が数日後の体重計を想像して、悲鳴を上げてることになった。

 渡良瀬非常勤講師は、非常に濃く淹れた紅茶を用意し。砂糖細工自体も砂糖の種類を変更し、健康被害を最小限にしようとするなど、一応の配慮は見せていたが。

 参加者の少女たちが四苦八苦している姿を見て、目に愉悦の色を浮かべていたと証言する生徒も居る。

 ちなみに、この「砂糖の悪夢」と呼ばれるお茶会はそれ以降、二度と開かれてはいない。

 「渡良瀬校医は、元自衛官、最終階級は一尉。医官だったのですか」

 「戦車道の授業中に怪我人が出た場合、素早い応急治療をする為に待機なされているわ。昨日、菓子折りを持って会いに行ったわ」

 「妹さんの事を聞き出すためにですか」

 「まさか」

 私は首を軽く、左右に振って答える。

 「ただ。日頃の事に関する感謝の気持ちよ。軽い雑談はしたけど、彼女について聞こうとは思わなかったわ」

 それが礼儀と言うものでしょ?と、語外に言うと、アッサムはそれを察した様で軽くうなずいた。

 「お兄様は自衛官、渡良瀬校医が一番歳が近い姉で、その上の二人の姉は、一人は報道関係者、もう一人は教育関係者、お父様は通信行政に携わっていると。随分、年齢が兄と姉達から離れていますね」

 そう、一番年齢の近い姉でも、干支一回りは歳が離れている。

 「そのあたりが、彼女の人格形成にどのような影響を与えたかは、興味深いわね」

随分可愛がられて育てられたのは間違いないだろう。しかし、それだけでは無いだろうとも、推測できる。

 

 私はそれを再確認するためにアッサムを促し、彼女の我が校での評価の部分を読ませた。

 「一般的な印象は、近寄りがたいですか。その様には見えませんでしたが」

 アッサムは、意外そうに言う。確かに、先ほどの彼女は、小動物系の怖がり方と緊張をしていた。しかし、物怖じせずに会話ができる辺り、社交性は高いと評価していたのだろう。

 私は、無言で続きを読むように促す。

 「その割には自称、友人の方が多いですね。その方達は彼女を称賛してますね。これは興味深いですね」

 アッサムはラミン称賛している人物達の個別聞き取り報告に目を走らせ、納得するような声を漏らす。

 「なるほど、なかなか活動的ですねラミンは。多くのケースで、面識のある人物が困ってる際に、その人物との関係の深さは関係なく問題が大きくなる前にさりげなくサポートを行っている。その事に気が付いた人間が、友人を自称する者達ですか。しかし、否定的な意見もありますね。主に上級生からですが」

 そういうと、彼女はそちらの報告書に目を通して、何とも言えない表情を作った。

 「なんとも、相手を称賛しながら、理解できる人間にはその称賛が実は罵倒であるという方法で相手を罵倒するとは…確かに、罵倒されている事を理解できる人間なら、嫌いになりますね。特に上級生なら下手に怒ると、自分の株が下がってしまう」

 女子高と言う社会では、体面と言うものが重要視される。我が聖グロリアーナ女学院は英国的な面が強調されているから、他校よりもずっと重要視される。その中でラミンは、上手く立ち回ろうと努力をしている。その努力の半分は成功してると言えるだろう。半分は失敗と言わなくても、もう少し手管を変える必要があるかもしれない。

 入学から半年で、一般的な印象は近寄りがたいと言う評価を周囲からされるのは、なかなかできる事ではない。少なくとも、それなりに注目されなければ、一般的な印象は獲得できない。第一印象は、容易に変わるものであるから、これからその印象がどう変化するかに期待するべきなのだろう。

 私は自分が卒業した後の事を少し考えながら。残りの学院生活の中で、彼女と係ることを意識しながら、少し笑みを浮かべて言う。

 「まぁ、罵倒される人間は、明らかに間違った行為をした人間に限られるようですから。私が間違えても罵倒するでしょうね。私を称賛する言葉で」

 そういう人間だから、私は彼女にコメットを任せるのだ。

 長期的に見れば、オレンジペコが隊長になった時の参謀役になれるように。

 私にアッサムが居るように、彼女にも同級生の相方が必要だろう。ペコも最近は辛辣になってきた気がするが、根は素直である。故に少し癖の強いラミンと交流させれば、複数の茶葉をブレンドするのと同じように、変化が期待できる。

 「それができるのでしたら、あと半年は楽しくすごせそうですわね。ダージリン隊長」

 アッサムが何故か、含みのある笑顔で私に言う。

 「さて、そろそろですかね」

 私は時計で時間を確認しながら言う。

 アッサムは何のことかと、思考を回しているようだ。

 「彼女が戻ってくる時間よ」

 私がそう言うのと、『紅茶の園』のドアが控えめにノックされたのは同時だった。




 ラミンこと、高野皐月嬢の対人関係での評価。
 そして、自分が去った後を考えるダージリン様の思惑。

 次回は、ラミンこと高野皐月嬢が、コメット巡行戦車の乗員をどう集めるかと。
 ラミンとオレンジペコの交流を主軸にして書こうと思います。

 私事で、次の投稿は少し時間がかかりそうですが、できる限り早い投稿を目指そうと思います。


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可能な行動

許可されても、何処まで許可されているかは知らないと、行動は出来ない。


 時間は少し戻る。

 「大変な事になりました」

 私はそう呟くと、少し歩調を遅めにして、クラブハウスの出口へと向かっていた。オレンジペコさんが歩調を合わせ、隣に並んだ。

 「断っても良かったんですよ。ダージリン様も無理強いはお嫌いですし」

 私は彼女のその言葉を耳に入れながら、立ち止まった。悲しいことに捻くれた自我が、その言葉を裏読みしてしまう。

 「オレンジペコ様」

 彼女に対する返答の声が、自分でも予想外に無感情になっていることに驚いた。私の思考がマイナス方向に沈んでいるのを察したのだろ。彼女は、柔らかい声色で、私が次の言葉を発する前に主導権を握る発言をする。

 「同学年で同輩です。敬称はつけなくて良いですよ。ラミンさん。もしかしたら、そちらは戦車長なので私が様付けで呼ぶ必要があるかもしれませんね」

 「私の方が新顔ですので、その必要は無いかと。オレンジペコさん。確かに、戦車と同じく後退は出来るでしょう。私は挑戦したいと思っています。なので、辞退はいたしません。幸運の女神の前髪に触れる機会を得たのです。できるだけ長く触れていたいと思います」

 そう言って、癖毛の前髪を少しいじる。車長として、コメットに乗る時は姉からのプレゼントを使わせてもらおうと、脈絡もなく思った。

 「では、努力しないといけませんね。私も微力ながらお手伝いいたしますよ」

 そう言って彼女は微笑む、自然と私の表情も柔らかくなった。この辺りが人徳の差なのだろうか?

 「よろしくお願いいたします。苦労を共にして下さる方が、最初から居てくれるのはうれしいことです」

 「その代わり」

 彼女は普段見せないであろう。小悪魔めいた笑顔で私に微笑みかける。

 「私の苦労も共に背負ってもらいます」

 「つまり、共犯者と言う事ですか」

 「そう言う事です」

 私たちはクスクスと笑いあった。

 私は彼女と笑いながら、大切なことを聞き出すのを忘れていることに気が付いた。

 「オレンジペコさん。戻ります」

 私は彼女が聞き返す前に、走る寸前の速度で歩き出した。

 「どうしたんですか」

 「何をしていいかを聞くのを忘れました」

 そう答える頃には、既に部屋の前にたどり着き、控えめなノックをしていた。

 「どなたかしら」

 「ラミンです。少し、お伺いたい事があり。戻りました」

 「どうぞ」

 「失礼します」

 音を立てずに、部屋に滑り込み。扉を閉めながら室内を見渡す、室内にはダージリン先輩とアッサム先輩のみ、好都合だ。

あれ、ドアノブを握る手に強い圧力が…あ、オレンジペコさんを締め出してしまった。慌てて、力を抜き、扉から離れる。

 「失礼します」

オレンジペコさんは、派手な音も、コミカルな入室演出もなく、静かに入出する。流石はノーブルシスターズ。私とは格が違う。

 「それで、聞きたいこととは」

 「その前に、これから礼儀を忘れてしまうと思うので、その点はご容赦ください」

 私がそう言うと、ダージリン先輩は意外そうな顔をした。

 「随分、切羽詰まっているように見えるけど、どうなさったの」

 「私にとって、時間との戦争がはじまったのです。故に手段を選んでいる余裕がありません」

 「随分物騒ですわね」

 アッサム先輩が少し驚いた様に視線をこちらに向ける。

 ―よし、イニシアチブはこちらが取れた―

 私は内心の喜びを隠しながら、徐々に余裕が失われていく様に演技しつつ続ける。

 「要するに私には何が、どこまで許されて。それが何時まで許され続けるかを聞き忘れたのです」

 私は目ざとく、室内にあったチェス盤を持ち出し、先輩方のテーブルに載せ、白のルークを手に取ると盤面を滑らせる。

 「コメットをどれほど動かし、どれほど砲を撃ち。どれだけの予備部品を消耗させて良いか。人員は私が選別するのか、それとも先輩方が指名した人員を使うのか。また、それを何時までに終了させるか。その範囲をお聞きしたいのです」

 私は尋ねる。戦車と言う存在は、所々に無理をしている精密部品の集合体であるから、手荒く扱うには整備が必須であり、そして潤沢な予備部品があるのが望ましい。それに、英国の車両は米国やソヴィエト・ロシアの工業製品よりは、機械的信頼性は低い。無論、ドイツ製の工業製品よりは信頼性は高いが。

 現代の技術で作られているから、信頼性はWWⅡよりは上がっているが、本質的な無理は依然存在する。故に、どれほど動かしてよいかの確認が必要になる。試合で使えない状態になっては、乗員を訓練した意味がない。

 「なるほど、さらに言えば。貴女は既に運用法を考えついていて。その方向性で許可を貰おうとしている」

 ダージリン先輩は優雅にカップを置きながら、私に言う。

―そこまでお見通しですか。なら、これから先言いたいこと、予想済みですよね?―

 私はそのような意思を持った視線を彼女に向けつつ、もう一つの白のルークを手に取り、先に盤面に置いた白のルークと並べる。

 「えぇ、冷静に考えれば、コメットの運用法は、大きく分類すると三つしかありません。一つ目は、クロムウェルと同じ小隊に配置する。砲が強力で、砲塔の装甲が違いますが。極論すれば、コメットはクロムウェルのバリエーションでしかありません。ならば、同種の車両と組んで動かすのがセオリーです」

私はそこまで言うと、黒のポーンを手に取り、白のルークの片方を倒した。

 「しかし、この場合、外見上の差異から、真っ先に撃破される可能性が高いです。また、砲が違うので、運用面で相互の利点を殺すことになる可能性があります」

 立っている白のルークの横にキングを並べながら、話を続ける。

 「二つ目は、隊長車、またはフラッグ車の直掩兼予備兵力。このケースでは運用はドイツの独立重戦車大隊のようになります。強力な砲力を活かせ、また、その機動力で火消し役になれる。言うなれば、ワーテルロー‐ウォータールーでも構いませんが―で、皇帝老近衛隊の突撃を止めた第52軽歩兵連隊的な役割です。しかし、欠点は、巡航戦車はどこまでも巡航戦車であり。ドイツ製の肉食獣の様な厚い皮膚は持ってない」

 私はそこまで言うと、黒のクイーンを先頭にその後ろにキング、キングの左右にナイト、ルーク、ビショップでパンツァー・カイルに見えるものを作る。その前面に白のポーンを二列して横隊を作り上げ、その後ろにキングとクイーンを並べる。

 「我が校の基本戦術は、要約すれば、戦列歩兵の歩兵戦車」

黒の陣形の横に白のナイトとビショップの楔形陣形を新たに置く。

 「騎兵たる。巡航戦車の二つになります。コメットはこの騎兵に分類されますが、一両では突破力の足しにはなるでしょうが、相手に優先的に撃破されるでしょう。まぁ、敵の砲弾を消費させ、再照準の時間を作らせると言う効果がありますが」

 私がそこまで言うと、ダージリン先輩は、私が第三案を言う前に口を開いた。

 「貴女は第三案を現実的な案として考えている。察するに」

 彼女はそこで言葉を区切り、倒れている白のルークを手に取り、黒の陣形の横と後ろの駒にルークを軽く触れ合わせて、黒の陣形の後ろに置いた。

 「砲と装甲、そして機動力を活かした威力偵察。しかる後に後方攪乱」

 「ご明察です」

 やはり、これからは様付けで呼ぼうと内心で決意した。

 「私も貴女と同程度の知能と知識は持っていますわ。それに、経験はそれ以上です」

 彼女は不機嫌そうな顔でそう言うと、急に表情を変えた。一般的には笑顔とされる顔に。

 「合格です。時間も私の予想より、幾分か早かったですわ。乗員は一年生の志願者から選別します。貴女の納得のメンバーを集めてください。コメットはそれまでは自由に動かしてかまいません。できれば、オーバーホールは一桁にして下されるとう嬉しいですわ」

 「砲手と通信手の選別以外は、志願者の組み合わせを変えて、走り回ります。転輪のゴムがボロボロになるのと時間との競争ですが」

 私は今まで試されていた事に対して思う事はあったが。より現実的な問題に対して、話すことに集中していた。

 「何時までに、どれくらいの練度まで仕上げれば良いですか」

 それが問題だった。ダージリン様が、車両の使用自由を許す理由は、素早く実践に投入可能な練度にする必要性があると言う事だ。

 「来月の半ば、大洗との練習試合まで。あの合同エキシビションでは無いわ。日数にして、二八日。最低でも貴女の運用方針を最低限こなせる程度に。できで?」

 戦車道履修者だから、必要最低限度の技量はある。後は、いかにチームとして完成させ、車両に適合させるかである。

 「最善を尽くします。しかし、確約できるほど私は、自分を信頼していません」

 現時点では、そう答えるのが私の限界だった。

 「それで、結構ですわ。冷静に自分を評価できるのでしたら問題は無いでしょう。必要ならば助力しますし、助言もいたします。」

 見れば、アッサム先輩もオレンジペコさんも肯いている。

 私は良い先輩と同期に恵まれたらしい。

 「では、乗員の選別は今日…いや、この時間ですと、明日からですね。今夜中に通達を出していただけると嬉しいのですが」

 時計を素早く確認して、頼み込む。隊長からの通達であれば、戦車道履修者全員に間違いなく伝わる。

 「かまいません。出しておきます。今日は帰って、ゆっくり休んで明日に備えてください。ペコ」

 「はい」

 「彼女を玄関までお送りして、そのまま帰っても構いません。同級生同士の交流も良いでしょう」

 ダージリン様は、含みがありそうな笑顔を彼女に向けていた。

 「わかりました。ラミンさん、しばらくお待ちください」

 オレンジペコさんが急いで荷物を纏めている間に、私はダージリン様に姿勢を正して向かい合う。

 「ありがとうございます」

 私は深く頭を下げた。

 「必要としている人間に必要とされるものを与えるのは、当然ですわ。お礼は、練成終了後まで、取っておいてください。貴女は貴方のなすべきことをしなさい」

 「了解いたしました」

 遂に、聖書の引用かと思いながら。私はオレンジペコさんを夕食に誘う算段を立てていた。

 その夕食の場所で、思いがけない人物に遇うとは知らずに。

 




意外に早く、書き上げることができました。
やはり、勢いと言うのは重要な物なのかもしれません。

これにて、ダージリン様のラミンに対するテストは終わりです。
と言っても。戦車はまだ足しり出していませんので、これからもテストは何回もあるでしょう。

次も、可能な限り早く、書き上げるようにベストを尽くそうと思います。


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クラブでの夕食、思わぬ遭遇

お願いをする前に、少しばかりの買収工作を
             


 「そう言えば、疑問に思っていたのですが」

 『紅茶の園』を出るタイミングで、オレンジペコさんが尋ねてきた。

 「なんでしょうか」

 私は、一瞬、室内から外に出た時に風の冷たさを感じて、少し震える動作をすることで、反射的に全身の筋肉が緊張するのを抑えた。

 「コメット。いや、我が校の戦車の場合、無線手は必要ないですよね。装填手か、車長が無線を操作しますから」

 確かに英米の戦車はそうである。私はその質問に答えるのと、他にお願いしたいことがかあった。

 「その事でしたら、ご一緒に夕食でも食べながらゆっくりとお話しいたします。勿論、私が全額支払いますが」

 「あら、買収工作ですか?」

 オレンジペコさんが冗談めかして言う。

 「えぇ、そうです。なので、美味しい所にお連れしますよ。このまま直行が良いでしょう。荷物はクロークで預かって頂けますし。制服以外だと、ドレスが必要になりますので」

 「え?」

 一瞬、理解が追い付かず硬直するオレンジペコさんを私は、丁度校門前に来ていた。我が学園艦名物の一つ、ロンドンタクシーに乗せる。

 「クラブ・ブレイズへ」

 私は運転手に告げて、少額のチップを握らせた。

 「イエス。マム」

 運転手は、そう答えると。制限速度ギリギリの安全運転で、クラブへと車を飛ばした。

 クラブ・ブレイズは会員制の賭博兼社交クラブである。本家は英国倫敦にある。

 一口に言えば、クラブ・ブレイズは入会金と年会費を支払っている会員の親族とその付き添いが、ヴィクトリア王朝時代並みの贅沢ができる所である。

 未成年の私たちが出来るのはそこまでで、成人の会員やその付き添いは、一年の限度額が決まっているが賭博も楽しめる。学園艦であることを最大限に利用したシステムである。

 私の兄が、倫敦の本家クラブ・ブレイズの会員である為、支店であるこの学園艦でも私が利用できる。

 「いらっしゃいませ。高野様、半年ぶりのご来店、歓迎いたしますよ」

 クラブの主であり、相談役であり、殆どの会員の友人でもある人物が私たちを出迎えた。この人の記憶力には舌をまくしかない。

 私の入学祝以来、私は利用していないのに顔をちゃんと覚えている。

 「おひさしぶりです。こちらは」

 私がオレンジペコさんを紹介しようとすると、彼はそれを押しとどめて、誰でも心を許しそうな笑顔で言う。

 「存じております。聖グロリアーナ女学院の戦車道チームのオレンジペコ様ですね。当クラブへようこそ。高野様、渡良瀬様夫妻が、あなた方に関係のある御方とご一緒にいらっしゃっていますが、生憎、賭博室におられます。ご伝言はおありですか」

 「いいえ、ありません。今夜は少しばかり祝い事がありまして、食事に来ただけです。何時もの兄か姉の良く使うテーブルは空いていますか?」

 「もちろん空いております。ボーイ、お二人のお荷物をお預かりして、ご案内しなさい」

 二名のボーイが私たちの後ろに音もなく控えており、一人が荷物を受け取り、もう一人が優雅な仕草で私たちを先導した。

 「まぁ、ここの事は秘密で」

 ボーイに先導されながら歩く私は、少し呆然としているオレンジペコさんにそっと、耳打ちする。彼女が答える前に、席に案内された。

 着席すると同時に、給仕頭がメニューを持って控えていた。

 「お好きなモノをどうぞ」

 凝った装丁のメニューを開きながら私は言う。中身はしゃれた活字体の英語がびっしり、勿論値段は書いていない。

 「御勧めはなんでしょう」

 メニューを見て、判断が付かなかったらしいオベジンペコさんが給仕に尋ねる。実の所、私も実は同じことを聞こうとしていた。給仕は微笑みを浮かべながら、答える。高校生の背伸びした行為は微笑ましく見えるのだろう。

 「本日はサフォーク種のブレサレが入荷しております。本日のシェフはこれのカツレツが得意ですのでそれが宜しいかと。付け合わせに鶉のゼリー寄せなどどうでしょうか」

 「では、それに季節の野菜を付けてください」

 「私はゼリー寄せの代わりに、鮭の燻製をそれ以外は同じで」

 「かしこまりました。食後の紅茶ですが。セイロンのウバ、そのクオリティーシーズンの物が入っておりますので。そちらをお持ちいたします」

 「それでかまいません」

 注文を聞き終わると、給仕は恭しく一礼して下がった。それと同時に、食前酒代わりにオレンジジュースが洒落た細工が施された小ぶりの6オンスグラスで運ばれてきた。

 「さて、私の買収工作は成功でしょうか」

 「十分です」

 オレンジペコさんが何を頼まれるのかと言う顔で私を見ている。私はここに来る途中で走り書きしたメモを彼女の前に置く。

 「正式な書類は後日、提出しますが。ダージリン様には貴女から先に伝えておいていただけませんか」

 「コメットに指揮統制車用の通信機を搭載ですか」

 「えぇ、威力偵察をするには長い耳を持つ必要があると考えました。そこで、副操縦士兼車体機銃手を無線の専門家にしてもらおうと思いまして。そう言う意味で通信手と」

 「なるほど、しかし専門家を乗せる意味は?現状でもそれほど問題は無いと思いますよ」

 この人は、人に話させるのが上手い。まぁ、隠すこともないし、料理が来るまでにはまだ時間が在る。

 「即時戦闘に突入するかもしれない状況で、偵察情報をリアルタイムで記録しながら、本隊に通信を送る為には一人じゃ手が足りないのが一つ、残りは敵の短時間の発信から、方位を概算で計算できる人が欲しいと言うのもあります」

 「それは、通信傍受じゃないですか?」

 「自車から見て、電波の発信された方位を調べる手段…三点測量をするわけでもないし、相手の周波数に聞き耳をたてるわけではなく、飛んできた電波の向きを知るぐらい。正確な位置は判らないけど、継続的に受信に成功すれば、動いている向きぐらいは判るかもしれない。それに、通信機を増やしたぐらいでは、そこまで探知能力が上がるわけでもないので。判ったら良いなレベルの話になります…許可されなかったら。確実に無線を送信できる人材がいるだけでも、威力偵察の情報は意味を持ちます。撃破されても、その前に送信があれば、「この地点に砲弾の届く距離に相手は居る」と言う、情報になりますから」

 そこまで言って、内心では電子妨害をかけることを考えたが、それはダメだろうと却下する。

 手段としては楽なのだが、戦車道の精神として問題がある。

 原理的に電子戦の基本は日露戦争から変わらず。物凄く大雑把に言えば、最大広域帯で大出力の発信をすることである。無論、友軍の無線も使えなくなるが。その辺りは、運用でカバーできる。

 「後方攪乱の時用に外部スピーカーを付けて、横浜市歌でも歌いますかね」

 この無意識に言葉にしていた思考を聞いた。オレンジペコさんが盛大に咽た。

 ノーブルシスターズに一人が盛大に目を白黒させているのは滅多に見られない。

 「そ、それは…我が校の生徒が笑って負けると思いますよ」

 「横浜市民ぐらいしか知りませんよね」

 横浜市歌、それは横浜で義務教育を受けた人間が漏れなく歌える歌である。国歌よりも先に覚えて、その歌詞を暗唱できる人間が多いとも言われている。横浜市民が多い、聖グロリアーナ女学院でも学校行事等で歌う機会があるので、歌える人間は多い。

 「じゃぁ、火力支援用の5インチロケット発射用のレールを砲塔に付けて、直射しますか。あれなら直射で命中すれば、大抵の車両は撃破可能ですから」

 「なんか、自棄になっていませんか?」

 私の脈絡が無い発言と、乱れてきた言葉遣いを聞いて、オレンジペコさんが尋ねる。

 「いや、明日の事を考えないようにしているだけです」

 明日は今の車長と部隊長に仁義を切りに行かないといけない。菓子折りを持参しよう…鳩サブレかひよこか…どちらが良いだろうか。

 「料理が来ましたよ。明日の事は忘れて、食事を楽しみましょう」

 「えぇ、そうですね」

 オレンジペコさんが言うのと同時に食事が運ばれてくる。

 今は、彼女の言う通り、嫌なことは忘れて美食に舌鼓を打つ事に専念しよう。

 料理は申し分なかった。スモーク・サーモンは程よい粘り気と塩気を持っており、私はそれを薄く切った黒パンにバター塗ってそれに巻いて食べる。

 「料理はどうでしたか」

 相手が食べ終わり、一息ついた所で尋ねる。

 給仕は音もなく食べ終わった食器を片付けるのを見ながら、オレンジペコさんは微笑んで答えた。

 「美味しいですね。カツレツはフォークで切れるほど柔らかいですし。鶉のゼリー寄せも様々な食材をいているのに、どれも味のバランスを壊していない」

 

 「この学園艦の良い所は、美味しい英国料理すら食べられるところよ。最も、味は日本人好みになるのには目を瞑るとして」

 唐突に第三者から、声をかけられて、私達は驚きを隠しながらそちらに目を向ける。 そこには私たちの良く知ってはいるが、詳しくは知らない人物が居た。

 「こうちょ…いえ、ミズ・モズレー。こんばんは」

 「こんばんは。ミス・オレンジペコ。ミス・たか、いえ。もうラミンでしたね。ミス・ラミン。私がここに来る前にそう言う報告が届いていました。もう一人来るけど、ご一緒してよろしいかしら?」

 モズレー女史は完璧な日本語で私達に許可を求める。

 「ど、どうぞ」

 私は緊張しながら答える。

 知性を窺わせ、強い意志を感じさせるブルーの瞳。自然老化ではなく、計算された彫刻の様に顔に彫り込まれた皺。英国女性ならこのように老けたいと言う典型の様な女性を前にすれば、女子高生ごときが太刀打ちできる相手ではない。

 噂では、この学園の学園長になる前は、英国の政府機関でそれなりの地位にいた人物であり、非常にやり手だったらしい。

 「ミズ・モズレー。私の妹とその友人を驚かせないでください」

 「ミズ・渡良瀬。旦那様の相手は良いの」

 私の姉が現れたことで、私は幾分か安心した。

 「ここで勝って、研究費捻出しているのに呆れましたので、置いてきました。限度額近くまで稼いだら来ると思いますので、そしたら一緒に帰ります」

 「なら、喉を潤す時間はあるわね。私には気の利いたバーボンを、アイスは不要です。貴女は?」

 モズレー女史は、いつの間にか控えていた給仕に命じる。

 「私は、ジンジャエールを」

 「あら、禁酒ですか?」

 「妊娠する予定ができたので」

 「それはご愁傷さま、禁酒その他を楽しんでください。経験者からのアドバイスですが、楽しい日々が待っていますよ」

 「えぇ、楽しみで夜も寝られません」

 そこで、姉は私に向き直って、好奇心を目に浮かべながら私に尋ねる。

 「皐月。紅茶名、襲名おめでとう。で、ラミンさんはどの車両の車長に」

 姉の声は少し誇らしげで、そして羨望が混じっていた。在学中、戦車道を履修した姉は紅茶名を拝命する事はなかった。

 「コメット巡航戦車です。乗員は明日ら集めますが」

 そこまで、聞いた姉は、モズレー女史に向き直り。完璧なクィーンズ・イングリッシュで尋ねる。

 「ミズ・モズレー。あの煩わしく、精力的なご婦人方をどれくらい黙らせられますか?」

 バーボンのストレートを飲みながら、私たちを見ていたモズレー女史は、小馬鹿にしたように言う。

 「あのお嬢様方なら、お望みなら何年でも。ホワイトホールやカスミガセキの古狸や、かつての部下の恐竜達よりはずっと容易な相手です。私の子どもたちの方が遥かに面倒。しかし、彼女たちの今後を考えれば、新年度までが、後腐れがないわね」

 「だ。そうよ」

 私がやり取りを理解しているのを知っている姉は、私に言う。

 「ありがとうございます。ミズ・モズレー」

 私は少し、RとLの発音が曖昧になりかけた英語で答える。幼いころに覚えていても、使う機会が少なければ、自然と言語能力は錆び付く、特に発声部分の劣化は早い。

 「お礼は結構。私は、部下と今後の学園運営につての雑談をだけよ。あなた方は偶然列席していただけ」

 モズレー女史は、事も無げに言う。

 私とオレンジペコさんは、時間が遅くなったのでと言い訳を残しながら、足早にクラブを後にすることにした。

 

 「アレもサプライズですか?」

 帰りのタクシーの中で、オレンジペコさんが尋ねる。

 「そんな訳ないですよ」

 私は大きく首を左右に振って強く否定する。そう、モズレー女史と遭遇するのは全くの予想外だった。

 「次はもう少し格式ばらない所で、良い店があるので。そちらに行きましょう」

 「良いですね。改造の件は明日伝えておきます」

 「よろしくお願いします。では、おやすみなさい」

 タクシーにオレンジペコさんの寮に向かうように指示して、前金とチップを含んだ金額を渡し、タクシーを降りる。この時間なら、閉店時刻直前には店に着くだろう。

 私は車長になる前にしなければならないことがある。それはとても重要な事である。

 

 




イギリスと言えば料理は…ってのは良くネタに(自虐的な意味でも)されますが。
最近は、改善されてきたようで。店の選択を間違えなければ悲惨な目になる事は少ないらしいです。

そして、学園長が登場。
モデルはイギリスの女優、ジュディ・デンチが演じた某有名映画の人物。

次回はやっと、コメットを出せそうです。


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私の流儀

新しいことを始めるには、それまでのことから離れる必要がある。


 オレンジペコさんとの会食の翌日。つまり、ラミンとして二日目の朝。

 私は陰鬱な気分で、通学路を歩いていた足取りは重く、気分は悪い。

 私は、通常の部活動では朝練が行われている時間。その時間に、現在所属するクルセイダーのメンバーと小隊長をクラブハウス、『フレイバー』に呼び出していた。

 理由は単純明快である。私がその車両と小隊を去るからである。故に私はその旨を伝え、今までの事に対する感謝を示さなければならない。

 それが礼儀であり。礼節を重んじる戦車道の嗜む者なら、礼儀はちゃんと行うべきだ。

 最低限の礼儀として、菓子折りを人数分、昨晩購入して持参して来た。

 それに、一言も言わずに去るのは、私が自分に守らせるルールから逸脱するのだ。

 この手の事は苦手だし嫌いだ。

 皆、私よりも高学年である。正直に自白すれば、先ほどから胃が痛い。

 半年の間、一両の戦車の乗員と言う運命共同体に属していた人間関係が変わるのだから、それなりに摩擦が生まれると思う。

 一年生の自分を砲手と言う立場に付けてくれて、指導もしてくれた人々に別れを告げるのは、後ろ髪を引かれる。

 また、一つのチームとして完成してきた所で、チームを抜ける行為を友好的に捉えてくれるだろうか?

 さらに付け加えるならば、先輩方を飛び越えて新戦車の車長になり、紅茶名を頂いている。嫌味は覚悟した方が良いかもしれない。

 先輩方は、戦車道の時間外にも私に個人指導をして下さった。それだけ、私を期待して、また信頼してくれていたのだと思う。それが離脱すると言う行為は、先輩方の信頼と期待を裏切る形になるのではないだろうか?

 思考は昨日からこのようにネガティブな方向に進んでいる。

 理由は簡単で、私が自分の対人関係能力を低いと評価しているのと、自分の中の卑屈な部分がどうしてもネガティブな反応が帰って来ると思ってしまう。

 「失礼します」

 決意を固めて入室する。視線が刺さるのを感じ、嫌で不快な汗が噴き出す。

 「既にご存知だと思いますが。新戦車の車長を命じられました。また、紅茶名をダージリン様より頂きました。今まで、ご指導ご鞭撻感謝いたします。皆さまのご指導が無ければ、この様な成果を得るは出来ませんでした。心より感謝いたします」

これは気持ちですので、と。ジョンソン&マリーのビスケットの缶を配る。

 反応が無いのが怖い。

 やはり、私の行動が、先輩方の期待と信頼に対する裏切りだと思っているのだろうか?

 「よくやりましたわ」

 ローズヒップ小隊長がいきなりいう。この人は…本当に予想がつかない。

 「私たちの指導の元、訓練を重ねた結果。それがダージリン様に認められるのは、わたくし達がダージリン様に認められたも同然。今後もダージリン様を落胆させない様に努力なさいませ。あと、これは喜んで頂きますわ」

 あぁ、こう言う考えもあるのか。正直、予想外だった。

 私自身の思考形態の根源的なマイナス方向、そして卑屈な面をどうしても自覚してしまった。

 私には、ローズヒップ小隊長がとても眩しく見える。

 そして、私はこの場の空気が暖かいものであると感じた。

 「惜しいな。さっちん…おっと、今はラミンであっているよね」

 昨日までの直近の上官、クランベリー先輩が砕けた口調で尋ねる。

 クルセイダー部隊は隊長のノリの為か、仲間内だけの時は格式ばらない事が多い。隊長は格式ばろうと努力しているけど。

 「はい、ラミンの名前を頂きました」

 私は答える。

 「ラミンは良い砲手になると思ったのだが…引き抜かれるのが痛い。まぁ、コメットの砲手の次に優秀な奴を探させてもらうよ」

 「感謝いたします」

 私は謝意を示すのと同時に操縦手の先輩が呟く。

 「車長、また一年から選ぶんですか?」

 「まぁ、クランベリーは年下が、お好みでしたか」

 ローズヒップ小隊長の言葉の意味を察した私は、折り曲げていた腰を止めて、一気に後ずさった。

 この人、そう言う趣味だったんだ。私は同性愛者を差別はしない。しかし、自分がそれに巻き込まれるのは困る。それとこれとは別問題で、個人的には大問題だ。

 「ラ、ラミン。そう意味じゃないのよ」

 「でも、クランベリー様、一年生は無垢で染める楽しみがあるって…」

 さらに距離を取り、出入り口を私は確認した。

 つまり、この半年の間。私はクランベリー先輩好みに染め上げられていたと言う事になる。嫌に冷たい汗が背中を伝う。

 「クランベリー様。人様の性癖に、口出しはいたしませんが…」

 私は恐る恐る口に出した。クランベリー先輩はさらに慌てて答えた。

 「ラ、ラミン。いや、さっちん、眼鏡がずれているよ。そう言う趣味じゃなくて、一年生の方が、変な癖が無くて伸びる部分が大きいからそう言っただけで。ローズヒップ様。下級生に誤解を与えるような。言い方をなさるのは勘弁してください」

 「あら、そうでしたの。ゴメン遊ばせ」

 ローズヒップ様は本気でそう思っていたんだろうと、眼鏡を直しながら思う。この人は良くも悪くも一直線な人だから。

 あと、クランベリー先輩は、ノーマルなのだろう。きっとそうだ。そうに決まっている。

 あ、眼鏡。鎖を付けないと、双眼鏡を使うときには眼鏡が邪魔だけど、車内で地図を確認するには眼鏡が必要になるから、付けている方が楽できる。ついでに、変な所に飛んで壊れない為の保険にもなる。

 「と、とにかく」

 ローズヒップ小隊長が声を張り上げた。全員の視線が集中する。

 「我々。クルセイダー小隊は貴方を応援しますわ。ダージリン様のご期待を裏切らないよう努力なさい。クランベリー、お紅茶を」

 「今日補充しようと思っていましたので、今は、ティーパックのしか備蓄が無いのですが。それでもよろしいですか?」

 「構いませんわ」

 ローズヒップ小隊長が胸を張る。

 「本当のお紅茶は、貴女がダージリン様のご命令を成し遂げた時に淹れますわ。その時はラミンのクオリティーシーズンの物を取り寄せて行います」

 「ベストを尽くします」

 私は深々と一礼する。

 私は大きく誤解していた事にも気づかされた。私はこのチームの中で上手くやっていたのだ。だからこそ、私の新しい道を祝福してくれる。

 そして、期待されているから、こうして暖かく送り出される。この期待に応えるためにも、これから歩む新しい戦車道では常にベストを尽くして、先輩方の信頼にこたえよう。

 そう、私は優しい先輩方に背中を押されて、新しい一歩を踏み出すことになったのだ。

 そこまで気がつくと、私は目頭が熱くなってくるのを感じた。

 しかし、涙を流すのはまだ早い。

 泣くのは、ここでラミンを飲む時。それまでは、涙を流す訳にはいかない。

 

 最初の一歩は、無線のエキスパートを引き抜く事から始めよう。

 まぁ、彼女なら。喜んで志願してくれるかもしれないが、迎えに行くのが。私の流儀だ。

 

 私の流儀。

 それは、私の自己認識で少し間違っていたのかもしれない。 

 新しい流儀を完成させて。それを貫く事が、私の戦車道なのかもしれない。

 




今回は短め。
新しい部署に行くのに、今の部署に挨拶しないのは、無礼なのでそういう話しを。

クルセイダー小隊の雰囲気は少し砕けた感じにしました。理由としては、高速戦闘をするぶたいなので、ある種の騎兵的な自由さと簡素さがあるんじゃないかなぁと思い。
こんな感じになりました。


2016/01/16PM:17:24
本文を大幅に修正しました。
ラミンの心境の描写不足を感想で指摘してくださった。ID:GXEuuIqY様ありがとうございます。




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一人目の乗員

今回から、乗員集めがスタートします。


 午前の授業が終わり、昼食とアフタヌーン・ティータイムを含んだ昼休みに入る。

 私は、テイクアウトしたサンドイッチのランチボックスを片手に図書館に向かった。

 「こんにちは」

 司書のサックス女史と司書室に良くいるスマイリー先生に挨拶して。人を探して、広大な図書館を歩く、目星はついている。

 飲食可能な個人用閲覧室に、目星通りに彼女が居た。

 控えめに扉をノック、返事は直ぐ返ってきた。

 「あいていますよ。ラミンさん」

 「相変わらず。長く良い耳をお持ちの様で。藤原菖蒲さん」

 私はドアを少し開けて、滑り込むように室内に入る。音を立てないのは、図書館でのマナーであり、少し神経質な彼女への配慮である。

 藤原菖蒲―ふじわら・あやめ―私と同学年で、情報処理学部に所属し、戦車道を受講している。私が早生まれなので、年齢は一つ上の16歳。

 私とは、中学時代からの付き合いになる。最も、リアルで友人関係になったのは、聖グロリアーナ女学院に入学してからだが。

 「貴女が。私をフルネームで呼ぶときは、長い話になりそうね。あぁ、先に返しとくわね」

 彼女は私に一冊のハードカバーを差し出す。タイトルは『欲望の倫理』、著者はナワダイク・モーガン。確かに先々週に貸した本だった。

 「ありがとう。参考になった?」

 本題に入る前の軽い雑談として、感想を尋ねる。彼女はそれを承知しているのであろう。話に乗ってきた。

 「拝金主義と言うか資本主義これに極まりね。逆に清々しいくらい。本題に入りましょうか」

 相変わらず。無駄が嫌いと言うか。デジタル的と言うか。公的な場面では見事に猫を被っているが、個人的な場面では、こうも簡素な会話を好むのだ。その切り替えは称賛するべきなのだろうか?

 まぁ、言いたい事を包み隠さずに行ってくる相手は、話しやすいのも事実だ。

 「知っているなら。話は簡単。私の戦車に無線の専門家として乗って、専用の無線機も操作してもらう。どう?」

 「で、電子戦でもしろと?車載無線、それもWWⅡの無線じゃできる事は少ないわよ」

 シグナル・インテリジェンス方面に、歳の割には造形が深い彼女は私に言う。

 「ならできる事は」

 私は質問で彼女の説明を促す。以前も聞いていたので、コメットを改造し、彼女を引き抜く予定をたてていたのだが。もう一度、本人から説明を聞いた方が、間違う可能性は少なくなる。

 「受信状況が良ければ、発信方位の概算の推定は出せる。他車の協力と、相手がそれなりの時間、無線を発信してくれたら、フォックス・ハンティングのやり方で、三角測定や定位置観測で移動経路の推測は出来る。でも、それは戦車道だと邪道になりそうね。貴女が私を必要としているのは、概算の測定と、送信量からの敵指揮車を探る事。それに、確実に味方指揮車または、両車に情報を送信できる事でしょ」

 「お見事。で、やる?」

 答えは判っていたが、尋ねる。

 「あんた。性格悪いわね」

 「知ってるくせに」

 私だって好きでこう言う正確になった訳ではない。

 その理由も知っている菖蒲の言葉に私は、表情を消した笑顔で答える。

 菖蒲は諦めた様に首を振った。

 「私がやりたいと言っていた構想を、「出来ますよ」って言ってくれば、やるしかないじゃない。私の構想を他人に横取りされるのはゴメンよ」

 そう言うと思っていた。菖蒲は自分の発想を実現化するのが一番好きなのを私は知っている。

 だから、返答が決まっている質問を態々言った。

 彼女の「やる」の一言を引き出すために。

 多分、志願してくるだろうが、私が引き抜いた方が色々とやりやすい。

 もし、失敗しても彼女は被害者で済む。

 「じゃぁ。交渉成立ね。よろしく、菖蒲」

 「了解しましたよ。ラミン。して、最初の命令は?」

 ワザとらしく敬礼をして尋ねる菖蒲に、私は命じた。

 「コメットの副操縦士席周辺に上手く無線機を詰め込む算段を付けてください。アンテナについては、整備課の顧問、ミスター・ブースロイド氏と協議して進める事。以上です」

 車両整備を統括的に支援する立場にある。ミスター・ブースロイド氏の協力があれば、レギュレーション違反の改造はしないだろう。

 改造に関する書類は、昼休み開始と同時に、担当教官に提出して、判子を貰っている。

 「ラミン。昼を済ませて行かない?具合よく、椅子は二つあるわ。食事は一人より、二人の方が楽しいわよ。それに午後に向けて、アフタヌーン・ティーの時間にどうせ暗躍するのでしょ?」

 「さて、どうでしょう?」

 そう答えると同時に、私はベーコン・ポテトサラダサンドを口に含んだ。

 

 

 昼食を早めに切り上げ。菖蒲と別れた私は、その足で戦車格納庫に向かった。彼女より先にコメットを実際に目で見たかったからだ。

 格納庫の中の空気はひんやりとしていて、私は一瞬、冬の新体操の練習場を思い出した。

 それはあまり良い思い出ではない為、その記憶を振り払うように格納庫の端に向かって歩き出す。

 コメットは整然と並んでいる他の車両と違い、一両だけで予備部品の箱の山と一緒に格納庫の一角を占領していた。

 

 クロムウェルを発展させた車体。

 

 溶接と鋳造を組み合わせ、一種の芸術に到達した砲塔。

 

 17ポンド砲よりは威力が落ちるが、取り回しやすさを向上させるのと同時に。1000m先の圧延防弾鋼に対して、APCBC弾で110 mm、APDSで165 mmの貫通力を実現させ。17ポンド砲よりも弾道が低進して、命中率が向上した77㎜砲HVの砲身が雄々しく伸びている。

 

 砲塔に一気に登り、ハッチが開くのを確認して、中を除く。

 砲塔と車内は予想通り、無人だった。

 そのまま、車内に入り、ハッチから上半身のみを出す。

 ここからの風景が、これからよく見る風景になる。

 「戦車、前進」

 小声で呟く。何とも言えぬ高揚感と全能感が全身を駆け巡る。

 これが私の力なのだ。そう、無力な私を変えてくれる力だ。

 女性としての根源的な部分に力が満ちるような感覚が脳内を奔り、私は溢れ出る思いを一気に叫んだ!

 「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」

 あぁ、気持ちいい。

 「随分、気に入ったようだね。ミス・ラミン」

 私が絶叫から冷静になる瞬間を狙ったかのように、悪戯に成功した少年の様なニュアンスを含んだ老人の声が耳に届いた。

 「は、はい。気に入りました。ミスター・ブースロイド」

 電動車椅子に座り、左足をギブスで固めた老人が私を微笑ましく見ていた。

 

 み、見られた。

 

 私はなんとかして、この暖かく微笑む老人の視線から逃れようとして、無理やり話題を逸らそうとした。

 「左足の怪我は、どうされたのですか?自動車事後でしょうか?それとも、転倒で?」

 「いや」

ブースロイド氏は車椅子の向きを変え、車載機銃や同軸―連装とも言う―用の射撃標的にギブスに包まれた左足を向ける。

 

 爆音、擦過音、爆発。

 

 「ハンティングだ」

 ドヤ顔で私に言う。

 この人は車両整備部門の顧問をしているが、趣味なのか、IG6の要請なのか知らないが、妙なアイテムの制作と生産にも定評がある。

 「すまないが、お嬢さん。ギブスを外すのを手伝ってくれんか」

 「わかりました」

 私は戦車から降り。手に持っていたマニラ封筒を、車椅子の右に付けられたトレーの上に置く。

 トレーは他にもフランスパンを一つ使ったサンドイッチが置いてあった。

 「引っ張るだけで取れるから。くれぐれも慎重に頼むよ」

 私はその言葉に、他にも謎装備が付いているのではないかと、疑いながらゆっくりと、両手でギブスを引き抜いてゆく。

 「ふむ。コメットの無線装備の強化の申請書類か…」

 引き抜き終わった私は、驚きを隠せずにブースロイド氏を見る。氏は自由になった両足で、地面を踏みしめ、トレーを指で軽くたたいた

 「X線透過装置内蔵だよ」

 「は、はぁ」

 トレーにそれを仕込んで使う場面なんてあるのだろうか?いや、今あったから、使う場面は在るのだろう。

 「コメットの指揮統制車両は存在したからレギュレーション違反にはならんね。問題は無線を置くところだが、君は副操縦席周囲に置くのを希望か…それも正解だ。この戦車は砲塔が狭いのでな。アンテナは目立たぬように工夫しておこう。後で、増設した無線を操作する子を連れてきてくれ。彼女にフィットさせるのでな。使いやすい配置と言うのは個人で違う。他に付けたいものは?5インチロケットの発射レールなんてどうじゃ?」

 ブースロイド氏はコメットの周囲を回りながら言う。

 私はトレーのフランスパンに興味があった。これも、特殊な装備を組み込んでいるのだろうか?手を伸ばして確かめるか躊躇する。

 「それに触っちゃイカン!」

 ブースロイドが猛然と近寄ってきて、フランパンサンドを荒々しくつかむ。やはり、特殊な装置なのか。

 「ワシの昼飯だ」

 一気に脱力した。

 「では、マチルダⅡの発煙弾発射器を砲塔の左右前方に付けてもらえますか?あと、発煙装置も」

 「そう言う現地改造の例はあるから問題なかろう。明日までには終わらせる。今日は乗り回すのは止めてくれると、作業が捗る」

 ブースロイド氏はそう言うと、色々と作業の準備を始めた。

 「承知いたしました。それと、改造と一緒に少しお願いが」

 私は悪戯を思いついた時の様に、微笑んでブースロイド氏に耳打ちする。氏は共犯者の笑みを浮かべて、親指を立てる。

 これで、砲手選別の準備は整った。

 




 まずは、一人目の乗員をゲット。
 ついでに、ラミンのパンツァー・ハイをちょこっと出してみる。
 やっぱり、叫ぶならあのセリフじゃないと。


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二人目の乗員 向き合わなければならない過去

今回は、ラミンの過去の一端が見れます。
人は、どんな過去と何時かは向き合う必要がある。


 聖グロリアーナ女学院は室内競技の施設も充実している。

 新体操用の練習場も上質の設備が揃っていた。

 アフタヌーン・・ティータイムの為か、この広い練習場には誰も居なかった。

 酷く静かで、心なしか空気が冷たい。この空気は、大会で自分の演技を始める瞬間に似ている…いや、冷徹に人を評価する人間の視線と、興味・敵意・期待の視線が入り混じった空気とはやはり、異質だとおもう。

 丘に居た頃は、その視線の中で踊っていた。だが、諸々の事が嫌になり。私は海に逃げたのだ。

 その、諸々の嫌な事を思い出す。この場所には一度も足を踏み入れなかった。意図的に、時には強引にでも逃げ回っていた。

 そのような場所に足を踏み入れたのは。差出人は不明だったが、心当たりがある人物からの手紙。

 ご丁寧に蝋に桐花紋を押し付けて封をした手紙、友人が届けてくれたのだが、差出人はまるわかりだった。

 

 内容はただ一言、「もう、踊れる?」

 

 私は躊躇もなにもなく、この場所に入れた事に驚きながらも、室内を見回す。ご丁寧にも私が得意だったフープが置いてあった。

 

―癪だけど乗ってやるわよ―

 

 私は靴とストッキングを脱いで裸足になり、ネクタイを外し、ワイシャツの袖のボタンを外す。手足の柔軟を入念にして、フロア・マットの上にフープを持って立つ。

 音楽は無いが、体が動作を覚えている。フープを高く投げると同時に走り出す。

 時間にして、一分半、私は1年と半年ぶりに踊った。

 「もう、踊れるじゃない」

 私を呼び出した人物は、わざとらしい拍手をしながら現れる。

 「自分でも、意外だったわよ。桐花」

 荒くなった息を整えながら、彼女が投げ渡してきたタオルで汗を拭い。身だしなみを直しながら答える。幸い、ワイシャツは裂けて無いようだ。

 踊れたのは意外だった。以前は、マットの上さえ踏めなかったのに。さっきは自然に準備し、踊れた。

 卯月桐花―うづき・とうかー私のいわゆる幼馴染であり、小中と同じ学校に通っていた。

 確か北九州に引っ越した関係で、私とは高校から別の道を歩いていた。

 戦車道では私の兄が私物で持っていたM24を二人で乗り回して、祖母から姉まで総出で怒られて以来の付き合いになる。私が小中と新体操に進んでも、彼女は戦車道を続け。私の友人、いや、親友だった。

 「黒森峰かサンダースに行ったんじゃないの?」

 私は少し攻撃的な声で言う。正直、会いたくなかった。彼女は私の昔を知っていて、今でも恐れている挫折を見ている。

 「サンダースに入学していたわ。でもねぇ、あそこでスタメンになるのは大変なのよ。それにM4は乗り回しても、面白みがないから…そんな時に、貴女が戦車道を始めたのを知ったのと、貴女のお兄さんの戦車コレクションで乗って楽しかったのは、英国戦車だったのを思い出してね。それで、転校してきたって所。最も、この学園の流儀に自分を適合させるまでは会うつもりもなかったけど…事情が変わったのよ。ラ、ミ、ンさん」

 私の紅茶名を強調して彼女は言う。

 「それで、私を笑いに来たと」

 私は吐き捨てるように言う。

 ここまで卑屈で臆病になった理由を知っている相手で、最も私を理解していると思う彼女だから、私は吐き出す。

 「勝手に祭り上げて。結果を知れば掌を返して、隠された真実が明らかになれば、また掌を返す。そうされる私を笑いに来たんでしょ」

 「ちがう」

 桐花は、練習場全体に響くような声で否定する。その目は、真剣そのものだった。

 「あんたと、一緒に笑いに来た」

 彼女が私の両肩を掴む。

 「あの時は、私は門外漢だから、手出しできなかった。いや、そう言う理由をつけて、自分を守っていたのかもしれない」

 掴まれた肩に籠められた力が、彼女が抱えていた様々な感情を雄弁に伝えていた。

 「今度は違う、私も貴女も同じ戦車に乗る。あんたが指揮して、私が動かす。あんた一人で耐えられないモノでも、二人なら耐えられるかもしれない。二人で無理なら、あんたが選ぶ戦車の乗員全員で耐えればいい」

 最近は、自分が間違っていたことに気がつかされてばかりだ。調子が狂う。

 「そういわれたら。操縦士を任せるしかないじゃない。桐花」

 「任せなさい。さつ…ラミン」

 彼女は昔と変わらず胸を張った。

 

 こうして、二人目の乗員は決まった。

 

 「桐花、貴女変わってないわね」

 私達は昔と同じように肩を並べて歩く。

 「何が」

 彼女は、心当たりがないらしい、無自覚なのは昔と変わらずか。

 「嘘が下手。戦車を乗りますのは簡単な事じゃないでしょ?」

 戦車の操縦は今でも特殊技能である。

 「まぁ、そうだけど…気難しい所が良いじゃん。英国戦車」

 「その、嘘を指摘されると、意地でもそれを通そうとするところも」

 桐花はそれを聞いて、黙り込んだ。これも昔からの癖だ。

 彼女が少なくとも変わっていない部分があると知って、私は嬉しかった。

 「貴女じゃないけど、戦車なら最悪。踏み潰せば良いのよね」

 練習場を出た私は、何気なくそう呟く。

 桐花はそれを聞いて、呆れたような声を出す。

 「あんたも、やっぱり。高野なのね」

 桐花が何か言ったが。私は聞き逃してしまった。

 「何?」

 「いや、気がついてないなら良い。それより」

 彼女はそこまで言うと、少し期待を籠めた視線を向けた。

 「もう、ちゃんと踊れるなら。もう一度、新体操始める?」

 その問いに、私は首を左右に振って答える。

 「いや、今は戦車道を一直線。でも」

 「でも?」

 私は、捨てた筈の過去を見つめるように目を細めて。

 「たまになら。いいかな」

 と、過ぎ去った日々を忘却するのではなく。受け入れ、気慣れたシャツに気がつかない様に自分の一部にする為に答えた。

 




 今回は少し短め。
 ラミンは昔、新体操をしていて、挫折しました。
 その挫折が、彼女を在り様を大きく変化させた過去であり。
 彼女は今までそれから、逃げていましたが。これからは逃げずに自分の一部として受け入れていくでしょう。

 では、次の話でお会いしましょう。


2015/01/21/16:32
描写不足を確認したので、加筆修正


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襲名披露。装填手の選別方法

 今回は装填手の選別方法まで、少し短いですが。
 ローズヒップ小隊長がフリーダムに動いてくれたので、キリの良い所で投稿します。


 午後の戦車道の授業の冒頭。ダージリン様の口から、私のラミン襲名が発表された。

 発表に対する反応は様々であった。羨望の視線を向ける者、嫉妬の視線を向けるもの、品定めをするような視線を向けるもの。私はそれらの視線を正面から、平然とした様子を崩さずに受け止める。

 一年以外が通常の訓練に散ったのちに、私は同学年の前に立つ。

 「先ほど、ダージリン様よりご紹介がありました。ラミンです。コメット巡航戦車の車長を任されました。現在、乗員の選別中です。現在募集していますのは、装填手と砲手です」

 私はそこで、言葉を区切る。私の言葉を一部の例外を除いて、全員が聞いているのを確認すると、改めて口を開いた。

 「この砲手と装填手は志願者から選抜いたします」

 何人かの目に、意欲が浮かぶのを感じる。

 私は基本方針を宣言することで、選別を少しでも楽にしようと考え実行に移した。

 「我々は指揮小隊に配備され、独立偵察部隊として運用されます。我々は全軍の長い耳と、良い目になり。情報を集めるために戦場を縦横に、自由に走り回ります。そして、戦機に恵まれれば、敵を混乱または、重要戦力の破壊の為に勇敢な戦闘を展開します。両車の支援は期待できませんが。手荒い、ビックゲーム・ハンティングを楽しめるでしょう。故に、我が車のモットーは、"Who Dares, Wins"―勇気ある者が勝利する―であり、"By strength and guile"―力と知恵で―です。私は21日で、それを可能にする様に命じられました]

 私はSASとSBSのモットーの二つを並べ、両方必要とされること強調した。

 そして、強引に笑顔を作る。俗に言うサメの様な笑みを作れていればいいのだが。

 「楽しい日々をお約束いたします。志願される方は、砲手、装填手の希望者用の受付を用意しますので、並んでください。聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の新たなパイオニアにならんと言う方とお会いできることを楽しみにしています」

 残り21日しかない。それが私の焦点だった。

 大洗との交流試合の前に一回はオーバーホールを行って、慣らし運転をする必要があると、車両整備部門から先ほど伝えられた。

 私は一礼すると、菖蒲と桐花に用意させた志願者受付に向けて歩き出した。

 「ラミン!待ちなさいですわ」

 ローズヒップ小隊長の声が、戦車格納庫に響いた。

 何事?

 私は内心の混乱と狼狽を必死に隠しながら、声のした方を凝視する。

 ローズヒップ小隊長は、中型のトラック運転席、その屋根の上に仁王立ちしていた。

 なんのトラックだろう?

 「聞きましたわ。コメットは調整中で今日は動かせないと。日数が少ないのに、これでは乗員の選別を無為に一日を過ごすことになりますわ。故にこの車両を用意させましたわ!」

 「ローズヒップ。降りなさい」

 「わかりましたわ。ダージリン様」

 ダージリン様の一喝で、ローズヒップ小隊長は車両から飛び降り―凄い運動神経だな―。車両が回頭して、後部を見せる。震度7とかを体験できる防災車両を急いで改造したのらしく。マンションの台所を模した上下左右に激しく振動する部分に、戦車の砲塔内部を模したモックアップが取り付けられていた。

 「ローズヒップ様…これは?」

 誰かが、私が尋ねるより早く尋ねた。

 ローズヒップ先輩は、誇らしげに胸を張って答える。

 「これは、装填手選別用に車両整備部門にお願いして改造してもらいました。ローズヒップ発案、戦闘時装填訓練装置ですわ。上下左右に激しく動くこの上で、命令通りに装填ができるように訓練ができる装置ですわ」

 たしかに、震度7とかを再現できる機構を流用すれば。戦闘時に激しく揺れる戦車の車内の再現が出来て、その中で重い砲弾を持ち、命令通りに装填する訓練をすることが出来る。

 発想は、素晴らしいが…あ、ダージリン様の米神に青筋が…

 「流石ですわ。ローズヒップ。その発想と行動力は称賛するべきモノですね」

 ダージリン様は、笑顔でローズヒップ小隊長に歩み寄る。

 その、あの、笑顔が怖いです。

 「なので、後輩たちの手本になるように貴女が、まず実演しなさい」

 その声と共に、控えていた車両整備部門の人間が、ローズヒップ小隊長に模擬弾を抱えさえ、装置に乗せる。

 「え、え?」

 「では、スタート」

 ダージリン様は渡された制御装置を操作した。

 スイッチを捻る。出力は躊躇なく、最大出力で…

 「わたくしにかかれば、これしき楽ら…わわわわわわわわ」

 激しいい振動と共に、何故かグレン・ミラーの「ダニー・ボーイ」が流れたす。そして、ローズヒップ小隊長の絶叫。

 「装填、急ぎなさい」

 ダージリン様の命令で、ローズヒップ小隊長は両足で床を踏みしめ、模擬弾を仮設砲に装填する。

 「装填された模擬弾はレールの中を通り、下に設けられた弾薬ケースに移動するのね。これなら、足元を転がって跳ねて足にぶつかる事は無いわ。良くできているわね」

 アッサム先輩が、装填手訓練装置の機構を見ながら感心した様に呟く。それには同感だが、無駄に手が込んでいると思う。

 「次、榴弾」

 「りょぉ、かい。ですわ」

 流石は、クルセイダー小隊の小隊長兼車長兼装填手なだけあって。最初は振動に驚いていたがそれ以降は、ダージリン様の命令通りの砲弾を迅速に装填してゆく。

 「ここまでにしましょう。お疲れ様です。ローズヒップ」

 ダージリン様は満足したらしく、機会を停止させる。自然とギャラリーから拍手がおこった。

 「こぉ、これくらい、できて当然ですわ」

 ローズヒップ小隊長は降りて、胸を張る。

 ―あぁ、足が震えて無ければ決まったのに―

 私はそう思いながら、ダージリン様に視線を向けていた。

 「使えるようですし、振り落としには使用できると思いますわよ」

 「その様ですね。ありがたく使わせていただきます」

 こうして、装填手候補の第一次選別方法が決まった。

 因みに、起動時に流れる曲はグレン・ミラーの曲オンリーだった。

 




 車両整備部門謎の技術力。
 


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海の上の彼女。丘の上の家族

装填手は決まり。次は砲手の選別。

そのころ、丘では彼女の家族にラミンの近況が届く。


 ローズヒップ小隊長の奇抜な発想と、車両整備部門の驚異の技術力によって出現した装填手訓練装置によって、装填手の志願者の選別は五指まで減らすことができた。

 ローズピップ小隊長と車両整備部門の方々には、後で菓子折りと差し入れを持って行こう。

 その後、残った五名と面談を兼ねたティータイムを楽しんで最終的に一人に絞り込んだ。

 選択基準は、筋は通すが、妥協をしなければならないときに妥協する人物。

 浸透偵察兼威力偵察。そして、後方攪乱を行う時には妥協をする時を理解している人間ではないと困る。最も、この選別方法は兄の受け売りなのだが。

 そして、私が選んだのは、吉田舞耶―よしだ・まいや―と言う。

 面識は少ないが、話した結果。気持ちの切り替えが早く、その場での自分の役割を理解し演じる事が出来る頭の回転の速さを持っている事が判った。

 それに、桐花と菖蒲とも相性は良さそうだった。これについては、後で二人に尋ねておこう。

 

 砲手の選別は明日、実際に発砲してそれで最終判断をする予定だが。それまでのふるい分けとしてとして、簡単な小テストを用意した。 

 砲手用のシチュエーションシミュレーションソフトを使い。コメットの照準器に敵を映した図を製作し、さらに現在の自車の方位、移動速度を書き。それからどう行動するかを質問し、目標までの距離と角度を答えさせた。

 意図は、どう行動するかを答えさせることにより。性格的傾向を軽く分析するのと。 私が言った『コメットの任務』をどう理解しているかを読み取る事。

 敵戦車が照準器に映った図の問題は、高校戦車道で遭遇しそうな戦車のスペックを記憶しているのかを調べるのと、ミル計算を理解しているかを調べる為である。

 後者は、ボーナス問題で電卓や携帯の使用を許可した。

 高校から戦車道を始めた人間と、それ以前からやっていた人間では差がありすぎるからだ。それに、この問題に対して。誰がどう動くかを私は俯瞰してみる事ができた。

 その小テストと、その時に俯瞰で見た時に、気になった事を書き留めたメモ帳数ページを前にして。その量を見ながら、「明日までに終わるだろうか?」と思っていた。

 他人に任せる仕事ではないので、これは一人で行う必要があるそれ故に、軽い現実逃避をしたくなったが、気分転換に近況報告を親に送ってから作業を始める事にした。

 

 

 横浜市某所、国際競技場やみなとみらいを遠くに見下ろせる高台に建てられた。それなりの面積と、通常よりは大きいガレージを二つ持つ庭付きの一戸建ての書斎と呼ぶべき本棚に囲まれた部屋で。初老に差し掛かった男が、年齢に似合わぬ、古いアニメの主題歌が流れるスマートフォンを軽快に操作していた。

 「皐月からか…ふむ。振り切れたか。手を貸すまで無かったな」

 ラミン、つまり皐月の父である高野邦夫―たかの・くにお―は、彼の妻であり、目の前のソファーに座る男にとっては、母の高野綾音―たかの・あやね―の誕生日を祝う為に帰省していた長男。高野善行―たかの・よしゆき―に言う。

 「それは良かったですね。葉月から聞いたよりも良くなっていますね」

 中年に成りつつある肉体を、厳しい訓練と、職業意識から押しとどめている皐月の兄は、既に結婚し、皐月と同じ学園艦に夫婦で住んでいる妹の名前を上げながら、嬉しそうに答える。

 邦夫の子供達は、一番歳の離れた妹を溺愛する傾向がある。

 無論、孫と同じ歳の娘を邦夫と綾音は溺愛しつつも、それまでの反省を活かして、優しくも厳しく育てた。

 「何か贈りますか?」

 色々と破天荒な人生を歩んでいる息子は、親の思考を先読みして尋ねる。

 「お前たちも送るだろう…そうだな」

 邦夫は名刺大の紙片に何かを書き込む。彼の脳は、歳のよる老化を感じさせな程、明晰ではあったが。娘の祝い事となれば、万が一忘れるようなことが在ってはならぬと考えメモを残す。

 重要な事をメモするのは、高野家の共通する癖である。無論、目の前に例外が居るが。

 「聖グロリアーナ女学院の学園艦には良い革製品の店がある。そこのアドレスと紹介状を用意しておこう。支払いは私だが」

 そこまで言うと、まだ象牙を取ることが許された時代に、英領だった香港で邦夫の先祖が買い。代々高野家の家長に受け継がれてきた象牙パイプにトルコ葉を詰める。

 代々使われてきた象牙パイプは綺麗な琥珀色に変色している。

 父がマッチでそれに火をつけるのを見ながら、善行はカリブの小島で彼の為だけに作られている葉巻の封を切る。

 「私は実用品を送りますよ。双眼鏡辺りが良さそうだ」

 善行はそう言うと、父から火種を貰い。炙る様にして火をつける。

 それと同時に、ブランデー党の母好み味に作らせた上質のXОクラスの琥珀色した液体を卓上のグラスに注いだ。

 彼の破天荒で特異な人生は、彼に少なからぬ傷を作ったが、同時に様々な恩恵を与えていた。

 「ツァイス製のか?お前は海外に伝手が多いから、入手も簡単だろう」

 息子の破天荒で特異な人生の全てを知るわけではないが、一端は知っている父親が皮肉めいた口調で言う。

 「ドイツ人の友人はあまり居ませんので、難しいかもしれません」

 息子は盛大に紫煙を吐き出しつつ言う。

 「私は基本、アングロサクソンと仲が良いので」

 好き勝手に生きたとは言えない人生だが、家族に迷惑をかけている事実を理解しつつ。最近は人生をいかに楽しむかを考えている男は、そうであるがゆえに家族には最大限の支援をする。

 「送るのはニコン製ですよ。最近の双眼鏡は対象までの距離や、移動速度、現在地からの俯角仰角まで知ることが出来るのが在りますので、戦車道には便利でしょう」

 「軍用か」

 「そうですが。同質の物はゴルフ用品店で買えます。恐らく安く」

 二人は同時に笑い出した。そう、大体の物は市販品の方が優れていると言う現実が、長年公務員とそれに準ずる職業をしていた人間には笑わずにいられない現実だった。

 最も優れているから良いと言う事でもない事も、二人は良く理解していた。

 「戦車道か。お前も戦車が好きだったな」

 父は息子に含みのある視線を向ける。

 「えぇ、好きですよ戦車は。愛していると言ってもいい」

 息子は信仰を告白するように続ける。

 「愛して夜も眠れません。奴らをいかに早く鉄屑にするかを考えるほど、愛していますよ」

 「バンパイアハンターが吸血鬼に抱く感情だな」

 「これでも、陸上自衛隊の人間なので」

 息子はそう答える。

 陸自の人間の一部は「敵戦車殺すべし。慈悲は無い」と言う考えを持っている。仮想敵の機甲戦力が常に膨大であった歴史が、そう言う思想を生み出す土壌を作った。

 「お前が、妹たちの為に戦車を何処から調達しているのは、最大の謎だが。自分本位で…あぁ、大学時代に結婚する位には馬鹿だったか」

 邦夫は象牙パイプをスタンドに置いて、グラスを手に取る。高野家の人間はブランデーに氷を入れたり、何かで割ったりしない。無論、飲める人間だけの伝統であるが。

 善行は無意識に喉の中央から右リンパ線前まで伸びたケロイド状になった傷跡を撫でていた。

 この傷跡の為に、『浮気かばれて嫁に斬り捨てられそうになった』だの『浮気相手が心中目的で、サーベルで斬りかかってきたのを万年筆で逸らすのに失敗した』等の噂が流れている。彼の妻が古流剣術の家元の娘であることから、その噂に信憑性が増している。

 実際は、模型製作中に折れたカッターナイフの刃が掠めただけなのだが。

 「ともあれ、皐月が良い方向になったのは良いことです。祝いの品は送りますか?」

 「お前が纏めて届けろ。どうせ、何かと理由を付けて行くのだろう?」

 「バレてましたか」

 善行はわざとらしく言う。

 「当たり前だ。何年お前たちの親をしていると思う」

 邦夫の口調は厳しかったが、表情は笑みで緩んでいた。

 要するに、親バカと妹バカの親子は、一番年下の妹の再出発を祝いたいだけなのである。

 

 そのころ、祝われるべき末の妹は、遥か遠くの学園艦の上の寮の一室で、唸りながら書類と格闘を続けていた。

 




おかしい。
書類と格闘するラミンを書くはずが、ラミンのお父さんとお兄さんの会話がメインだ。
一応、今後の伏線として機能する話でもあります。
どう機能するかはお楽しみと言う事で…

次回、ついにコメットの主砲が火を吹くと良いなぁ…

次話も、ベストを尽くして頑張ります。


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砲手の選出

やっと、コメットの主砲が火を吹きます。

そして、聖グロリアーナ女学院の学園艦に思わぬ来訪者が…


 翌朝、朝靄の中を陸上自衛隊、第一ヘリコプター団第102飛行隊に所属する一般的には『ブラックホーク』名前で知られるUH-60JA改は、一時的に統合幕僚本部付きにされ。

 戦車同連盟に出向し、日本戦車道連盟の強化委員をしている蝶野亜美一等陸尉に貸し出されていた。

 彼女はこの機体を使って、列島を縦断し。大会以降、戦力を拡充や変化をさせている各学園艦の現状を確認するために、毎年この時期は忙しく働いていた。

 今日はその初日であり、午後には聖グロリアーナ女学院に到着し、最初の確認を行うことになっている。

 毎年度恒例行事であるが、今年は防衛省からの要請で二名の随行員を伴っていた。

 一人は彼女と同じ、女性自衛官であり。機甲科の襟章を付けて、空挺徽章を胸に止めた一等陸尉。

 第二空挺団が結成されたことにより拡充され、C-2改によって、戦車のLAPES投下が可能になり。その教育を行う為に新設された空挺機甲教育隊。

その教官である、不破環生―ふわ・たまき―であり。

 蝶野も彼女から教育を受けたことがあり、気心が知れている。

 

 ―問題はもう一人よね―

 

 爆音響く、機内で鼓膜を守る為と機内通話用のベッドセットを付けた顔を対象に向けた。

 相手は、こちらの視線に気がつかない様で外を眺めている。制服姿だが、意外に手荷物が多い。

 相手は男性自衛官で、階級は二等陸佐。

 中央会計隊付きとなっているが。普通科の襟章を付け、空挺徽章、レンジャー徽章、冬季遊撃徽章を付けている。防衛記念章は、階級の割には多く。その中の複数は数回の受賞を示す、金桜を最低一つ付けている。その金桜を付けている記念章は、海外研修と海外派遣であり。他にも統幕や様々な部署を複数回経験したことを示している。

 中央会計隊付で、そんな人物が遊んでいるわけがない。

 もしくは、やらかして、営門一佐まで飼い殺しなのか?

 自衛隊では―話を聞くに警察も同じらしいが―退役前に一階級昇進さて一つ上の待遇で退役者を見送る。例え、次の勤め先が決まっていなくても。だからこそ、一階級昇進させるのが、組織の伝統であり温情だった。

 「高野二佐…」

 ベッドセット越しに尋ねようとしたが、その前に、相手は私の方を向いていた。 

 「僕が着いて来たのは、君が踏み潰してくれた車の保証関係の挨拶…は、大洗だけだけど。それ以外に、何を何処が、何処から買っているかの調査。後は、好きなんだよ。戦車」

 嫌味を言ったのちに、男は夢見るような視線を浮かべる。

 「珍しいご趣味ですね」

 少し、嫌味を返す。男は意外そうに返事をよこした。

 「いや、多いよ。陸には、特に普通科。皆戦車を愛してやまない。どうしたら、この世から一台残らずに鉄屑に出来るかを日夜考えているよ。味方の戦車を除いて」

 二佐は、そう言うと。これ最近言う機会多いなぁと、不思議そうに呟いていた。

 「それは有名な、バンパイアハンターが吸血鬼に抱く感情では?」

 不破一尉が呆れた様子で言う。

 まぁ、そうだろう。陸自の非公式なドクトリンは「戦車絶対殺す」「火力戦で負けない」である。冷戦期に敵対していた仮想敵:甲―つまりは、ソヴィエトーの機甲戦力、砲兵火力があまりにも巨大で在った為であり。遡れば旧軍が連合軍の戦車に辛酸を舐めさせられた事と、火力戦を目指しながらそれを実現できなかった経験からそうなっている。

 「まぁ、君たちが下りてくる前に。戦車が突っ込んでくるのを防ぐために、太ももに対戦車地雷括りつけて、ヘリボーンや空挺降下するしねぁ」

 持てるだけの対戦車兵器を持って降りるからなぁ。と、二佐は思い出すように続けた。

 「二佐は空挺団に在籍なされたのですか」

 「大隊S2―情報幕僚―として居たよ。その後は、北米のフォートブラックとか、イギリスのヘレフォードとにかく海外研修祭りだったよ。子供達を私立に入れたくてね。手当が増える事なら何でもしたさ」

 

 ―特殊部隊の駐屯地ばかりじゃない―

 

 絶対、まっとうな経歴と職務の人間でないと、私は決めつけた。

 

 「まぁ、それに。聖グロには妹が居るのでね。歳の離れた妹なんで、久しぶりに顔が見たくなった。それで、この仕事に飛びついたんだが。仕事を早く済ませれば、会う時間ぐらい捻出できるだろ。時間の空白は有効に利用しなくちゃ」

 すさまじい公私混同を、さらりと口に出した。

 そこまで公言されると、脱力と心の底からの呆れが浮かんでくる。

 「この人の基本行動原理は、大体コレなのよ。だからほっといて、私達は自分の仕事をしましょう」

 不破一尉は、慣れたように疲れた声で言う。

 隊を離れていた関係で、隊内事情に少し疎くなっていたが、どうやら有名な話らしい。

 「真面目に仕事をしてくれれば、文句は言いませんよ。二佐殿」

 私はそう言いきり。この兄を持つ妹は大変だと、内心で同情していた。

 

 その、同情されるべき妹、ラミンは戦車道の授業中であった。

 彼女は、コメットを事前に準備をお願いしていた演習場の射場に走らせていた。

 書類選考で残った面々は、後続のC15TA装甲トラックに乗っている。

 「桐花、運転の具合は?」

 私は今のうちに車内の面々に尋ねる。

 「まぁまぁ。これから走り回って、体に覚えこませるさ」

 インターコムの調子は良い。

 返答は彼女らしかった。

 自転車と同じで、一度体で覚えたら、咄嗟に体が動く。そう昔言っていたのを思い出す。

 「菖蒲、無線は?」

 「ベター、増設したアンテナの感度も良好」

 これも、予測していた反応だった。

 彼女はベストより、ベターの方が好きな性分だ。本人曰く、ベストは状況で変わる。それを求めたらきりがない。だから、ベターで現状に対処する。

 彼女の言う、増設アンテナを確認するために、ハッチから上半身を乗り出して確認する。

 砲塔上部に偽装網を巻きつける為の支柱が追加され、その上にアンテナが旧日本軍のチハ車の鉢巻きアンテナ様に追加され、車体後部に起倒機能が追加された長いアンテナが伸びている。

 それらが、他の機構に干渉していない事を確認して、車内に戻る。

 「舞耶さん。二人だと、広いね」

 「さん付けは、しなくていいです。そのベレー帽、似合っていますよ」

 彼女は自分の頭を指しながら言う。

 「ありがとう」

 私は髪を押し込んだ二次大戦中の英軍戦車兵のベレー帽に触れながら答える。

 姉が戦車道を始めた時に贈ってくれたものだった。

 頭部の保護の意味もあるが、あの濃い隊長たちに埋没しないためには、外見上の差異を出すしかないと思ったので、被る事にした。

 私はそれほど、目立つ人間ではない。

 「車内の振動は?」

 「問題ありません。あの機械の方がしんどいくらいです」

 私はそれを聞いて、「天国に昇る気持ちで、地獄行き」と言っていた志願者が居たことを思い出した。

 彼女はそこまで言うと、昼食を消化吸収せずに体外に出していたが。

 「なら、問題ないね。今日は動かないけど、厭きるぐらい装填を楽しめるだろうから」

 「え?」

 彼女が自分の今後を理解したのと同時に、コメットは射場に到着した。

 既に設営班と、ブースロイド工兵隊と呼ばれる集団が待機していた。

 戦車がダック・インした状態を再現する盛り土―つまりは射撃陣地の周りには、危険地帯を示す赤いデープで囲まれている。

 コメットを射撃陣地に入れると、私はビジョンブロックで前方を確認する。私の注文通りの光景が広がっている事に満足すると。

 後続の志願者達が整列している場所に歩いていく。

 気の利いた人物が黒板を用意してくれていた。

 「さて、お嬢様方。実射試験です」

 私はわざとらしく丁寧に言う。片手で黒板に簡単な概略図を書く。

 水色チョークがコメットで、ピンクのチョークが敵戦車である。

 こういう場合、見方は青系色、敵は赤系色と伝統的に決まっている。

 「想定状況は、我が方は威力偵察を完遂。後方攪乱の為、敵予想進路に先回りして、射撃陣地を敵到達までに完成したと言う状況より開始します」

 そこまで、言うと。

 私は黒板を固定している土嚢に視線を向ける。

 何人かがそれが何を意味するかを察して、息を殺す気配を感じた。

 「流石に、土嚢を持って走ってもらうのは、射撃試験の本位から外れますので、行いませんご安心を」

 

 安堵の溜息。

 

 私はあいうえお順に黒板に志願者の名前を書いていく。横に上から番号を付けて行く。

 「では、一番の方から。実射テストを開始します。残りの方は呼ばれるまで」

 周囲を見回す。在った。

 「あちらのバンガーに避退していてください。順番が来たらお呼び致します」

 最初の一人以外がバンカーに避難したことを確認して、志願者を連れてコメットに向かう。此処から先は志願者の一挙手一投足に注視する。

 彼女は、真っ直ぐに砲塔内に入った。私は手にしていたクリップボードのチェックシートにチェックを付ける。

 私も砲塔内に入り、ハッチを閉める。

 「さて、始めますか」

 最初の志願者はやる気に溢れているようだ。

 「よろしく」

 私はそう言うと、無線を開く。

 「標的を出してください」

 向こうからは了解の返答。私は、無線をホルダーにかけると、小型のスイッチを手に取る。腰を浮かせて、ビジョンブロックから外を見る。

 戦車のシルエットをした標的がゆっくりと動いている。

 「目標、1時、950、タイガー、徹甲」

 「タイガー?ティーガーじゃ?」

 舞耶が意図通りに聞き返す。

 「Ⅵ号戦車じゃないの?」

 菖蒲もそれにのる。

 「ドイツ語だとなんでしたっけ?ティーゲル」

 桐花も便乗する。

 「それは、あれが作られた時代のドイツ語?それとも現代ドイツ語?どの地方の訛り?」

 志願者まで便乗する。

 「あぁ。ここはベルリッツ外国語学校じゃない。以後、戦車道連盟の戦車データで呼称します」

 私はワザと、イラついた演技で言う。

 「了解」

 志願者が応じた瞬間にボタンを押し込む。それと同時に叫ぶ。

 「見つかった!敵戦車発砲!撃ちか…」

 その瞬間に工兵隊が盛り土に仕掛けた爆薬が炸裂し、車体を大きく揺さぶる振動。

 その振動の中で、車内に轟音。志願者は素早く撃ち返したらしい。

 「次弾装填急いで」

 彼女は焦りながら、舞耶に言う。

 「審判部より。標的に命中…判定では有効弾ではない」

 それを聞いて、私は次の演技に入る。

 「車長。撃ちます…車長?」

 薄目で志願者を確認すると。返答がない私の方を振り返って、声を上げる。

 「車長、失神。指揮を執ります」

 彼女はそう叫ぶと、照準器に顔を押し付け、再度発砲。

 「命中せず」

 菖蒲が無線を聞きながら言う。同時にボタンをもう一度押す。

 先ほどより激しい振動。

 「審判部より。こちらに命中…撃破されました」

 「状況終了」

 演技を終えた私は、そう宣言する。

 「お疲れ様でした。終了者用のバンカーで待機してください」

 私は言うと、無線を待機者用のバンカーに繋ぐ。

 「では、二番の方どうぞ」

 車外に出て、一番の志願者を見送り。工兵隊が再度爆薬を設置するのを確認して、次の志願者を注視する。

 この、実戦環境に近い実射テストは手に変え品を変え、様々なシチュエーションで志願者を試した。

さらに言えば、コメットの主砲の照準器は最初から少し調整を狂わせてもらっていた。

一気に人数を絞る事を目的にしていたが、それ以外にも評価するポイントを用意していた。だから、実射テストが終わるまでは、気が抜けなかった。

射撃技能だけでなく、総合的な能力を見ると言う事は、判断側の疲労は予想以上だった。

他の三名も協力してもらい。さらに、バンカーで待っている時の態度、終わった後のバンカーでの様子などを工兵隊の方々と審判部の方々、さらに一部の先輩の協力を要請して出来るだけ多角的に評価しようとしていた。

その中で、実射テストが本格的に開始される前に、コメットの照準器が僅かに狂っている事を看破した人間は僅か七名で、そして、実射テストで平然としていたのは二名だった。

それ以外にも私の判断基準に合致した人物が二名。後は、協力者の方々の評価を受け取って考える必要があるが…今日も徹夜を覚悟する必要がありそうだ。

とにかく、実射テスト参加者全員を招いたアフタヌーン・ティーでさらに、人物を見極める必要がある。

好き好んでやった事とはいえ、ここまで疲れるとは。

私はコメットの砲塔に寄りかかり、空を見上げる。陸自の輸送ヘリが学園艦に向けて、高度を下げるのが見えた。

 

嫌な予感がした。

 

その予感は的中する事になるが、神ならぬ私はその事を知らず。

ただ、本能が告げる警告を無視して、砲手の選別を続ける。

それが、現在、最も優先度の高い。私がするべきことであるからだ。

 




 砲手の選別ですが。
 ラミンは射撃技能だけでは選らぶ気ではなく。
 コメットの役割に必要な人材を求めています。

 時間がないのを理解していますが、それだけに人選には気を使っています。

 さて、次話にはメンバーが決定すると思います。
 久々にダージリン様達にも出番が在ると思います。

 不破一尉は、機動警察パトレイバーより。
 空挺レイバー隊の指揮官、不破二尉に昇進してもらい登場してもらいました。


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兄と妹 兄の仕事

今回はラミンと兄の会話。
そして、防衛省が動いている理由の一端が明らかに。


 「ヤコブの手紙 3章9節」

 「『わたしたちは舌で、父である主を賛美し、また、舌で、神にかたどって造られた人間を呪います』ですか」

 同じ血脈に連なる年の離れた男女は、人の途絶えた戦車格納庫で向かい合っていた。 人が途絶え、戦車のみが整然と並び存在する格納庫は。納骨堂の様な静寂と、ある種の思想を具現化した神殿の様な空気を持っていた。

 「お前はまた、そう言う事態になるかもしれない」

 歳の離れた男は、ラミンとこの学園では呼ばれる妹に言う。彼にはそれが杞憂の類の心配であることを理解していたが。彼女の決意を自分の瞳で確認したくなったのだ。

 「そうなったら、あらゆる手段を使って、身を守ります。兄さんにも容赦なく協力してもらいます」

 陸上自衛隊二等陸佐であり。ラミンの兄である高野善行は、妹が少し見ぬ間に大きく変容したことに気づかされた。

 

 ―少し前までは、恐ろしく卑屈で臆病で心配していたが。変わったな―

 

 と、内心で思うが。表面上のペルソナを改変するのには二日もあればできる事と、その手段たるマインドセットの方法を彼女に教えたのは自分だと思い出す。

 「それでは、マタイ10.16だ」

 「『いいですか。わたしが、あなたがたを遣わすのは、狼の中に羊を送り出すようなものです。ですから、蛇のようにさとく、鳩のようにすなおでありなさい。 マタイによる福音書 第10章16節』さっきから引用が、少し違う気がしますよ。兄さん」

 律儀に返してくる妹の知識量に、付け焼刃の聖書知識では対応は不可能と判断し。軽く両手を挙げ、降参の意志を示す。

 

      ―敵わんね。妻たちにも、妹達にも。そして、我が子たちにも―

 

 それが、自分の欠点であり。そして、守るべき『最後の一線―ラスト・ディッチ―』であることを自覚しながら。義行は言葉を発した。

 「聖グロリアーナ女学院の戦車道部隊の隊長さんは、格言好きらしいから。それなりに予習してきたんだがなぁ」

 「嘘ばかり。完璧に他人になる事もあるのが、兄さんの職業でしょうに」

 まぁ、娼婦と同程度に古い職業に属するのは事実である。

 「ヨシュア記2章。暗唱しようか?」

 私は言う。妹は不要と言うように首を左右に振った。

 「で、用件は」

 誰でも、今の妹を見れば不機嫌と察するだろう。まぁ、無理やり呼び出したのは自分なので、責任は私にあるだろう。

 「お前の最大の友軍からの支援物資だ」

 持ってきたプレゼントを渡す。一部はかさばるが、殆どはこの学園艦で実物と交換するためのチケットの様なものである。

 「あ、ありがとう」

 予想外だったのだろう。我が愛しの妹は、自分の家族の行動力を理解しているのに、自分にそれが向けられることを失念する事が多い。

 「父さんと母さんからは、皮の手袋と騎乗用ブーツを作ってくれる店の紹介状だ。代金は気にしなくていい。フルオーダーで作ってくれる。体に合うのを作って貰え。俺からは最新の軍用双眼鏡だ。多目的に機能が付いていて、便利だぞ。それに、使用感も良好だ。過酷な僻地で使用した人間が言うのだから間違いない」

 少し、皐月が笑う。もう少し、兄と妹の会話を楽しみたかったが。そろそろ仕事を始めなければならない時間だ。

 「後は、時計やら水筒やら…あ、葉月からは何故か、WWⅡの英軍採用の信号拳銃一式だ。まぁ、在って困るものでも無いが。」

 無線が使えなくても、位置やタイミングを知らせるぐらいは出来る。後は、士気を高める為にも使える時もある。

 「さて、お仕事の時間だ。会えて良かった。がんばれよ」

 制帽を被りなおして、サングラスをかけ。皐月、いや、ラミンに背を向け歩き出す。

結局、兄らしい言葉は最後ぐらいしか出なかった。我ながら自分の不器用さと不甲斐なさに、悲しくなる。任務なら何の抵抗もなく何でもできるのだが、家族の事になるとどうしても上手くできない。

 「兄さん。ありがとう」

 背後から聞こえる妹の声に、せめて格好良く見えるように右手の親指を立てて答えた。

 

 

 仕事は一段落し、学園艦に居る資産―ある職業での専門用語―から情報を受け取り、学園長と戦車道部隊隊長のご厚意で、戦車道の授業を見学できる事となった。

 少女たちが戦車に群がり、砲弾や燃料を運んでいる情景をみていると。数回経験したブルーベレー任務―国連平和維持軍任務―で目撃した情景を思い出し、複雑な感情を懐く事を禁じえなかった。

 「あれ?戦車は好きなんじゃないですか」

 蝶野一尉がヘリでの会話を思い出し。私の現在の表情から違和感を読み取ったのか、そう尋ねてきた。

 「あぁ、世界の少数派で居る事の喜びと。昔の感傷との折り合いが、なかなかつかなくてね」

 「少数派ですか。それならば、今を楽しむべきでは」

 「怖いほど魅力的なこと言うね。楽しんだら仕事にならないよ」

 私は蝶野一尉に視線を向けながら答える。そう言う意図で言ったのではないのだが。 いや、気がついて話を切り替えたのだろう。

 そう言う割り切る感覚は、女性の方が上手いのは理解しているのだが。どうも、自分自身はそこまでロジカルになる事はできず。ふとしたことで忘却と愚鈍になる事で耐えている事が、心の深淵から顔を覗かせ、平穏をかき乱す。

 内地にいる事が考える時間を増やすのも原因だろう。

 「まぁ、男はロマンチストでね。なかなか、ロジカルには生きられないのさ。それに昔の感傷の方が最近は強くなってね」

 暗い話をしても気が滅入るだけなので、話題を切り替えた彼女の話にのる。

 「昔の感傷ですか。なんです?七か二の師団長を目指していた事ですか」

 「それは今でも目指しているよ」

 胸を張って答える。我が社の機甲戦力の精鋭中の精鋭を指揮するのは、まだ諦めていない夢の一つだ。師団S-2辺りには何とかすれば、異動でなれる可能性が残されている。寒い所は嫌いだが、極地よりはマシだろう。

 その可能性自体が、水をワインに変えるぐらいの可能性なのは考えないことにする。そうすれば、希望くらいは残る。

 「では何です?」

 不破一尉も気になる様で、尋ねてくる。

 「迎え撃つべき怪獣や異星人が存在せず。命がけでそれらに撃ち込む『銀の弾丸』たる秘密兵器が存在しないことだよ」

 二名のWAC-婦人自衛官の略称―から冷めた視線が飛んでくる。いや、本当に本心なのだが。

 「それに気がついたのは何時頃で」

 「小学校に上がる前には気がついていたよ。でも、こういう情景を見ると、ワクワクするのは確かだよ。それだから、制服を着ているのかもしれない」

 それに対する反応は両極だった。蝶野一尉は、「なにを不真面目な」とでも言いたそうな表情をしていた。

 「男の子は何時までもオトコノコって事ですね。ウチの旦那も似たようなものです」

 結婚している不破一尉が言う。

 

  ―蝶野一尉。君も結婚したらわかるさ―

 

 我々は視線のみで内輪の会話を止めるのを決める。人が近づく気配を察し、お互い外向きのペルソナを被る。まぁ、一般幻想は守らなければならない。

 来たのは、私も良く知る聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の隊長である少女だった。

 「蝶野一尉、お久しぶりです。他の方々は初めまして。聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の隊長をしています。ダージリンと申します」

 優雅であり、数年後には貴賓さに困惑的な美しさを手に入れるのを期待できる少女は、蝶野一尉に一礼後改めて、我々に一礼する。

 視線で不破一尉にレディファーストと告げて、自分ではどう挨拶するか少し悩む。

 とりあえずサングラスは外す。

 その間に不破一尉は自己紹介を済ませてしまう。さて、私の番だ。

 「初めまして、ミス。ダージリン。私は高野善行です。ラミンの兄をしています。妹がお世話になっているようで」

 自分でも思うのだが、この親父の様な挨拶はなんとかならなかったのか?ほら、ダージリン嬢も笑っている。

 「それでは、お父様のご挨拶の様ですわ。高野二佐」

 「まぁ、自分の子供と同じ歳の妹なので、どうも…可愛い妹なのですがね」

 我ながらシスコンだな。と内心呆れる。

 「まぁ、ご家族に愛されている彼女は、幸福ですわね」

 「彼女に言わないでくださると、非常に助かります」

 ダージリン嬢は、年齢に似合わない小さな笑みを漏らす。

 「しかし、珍しいですね。防衛省の方が直接来られるのは」

 緩急が見事な質問だった。将来が楽しみな人材だな。

 「『柿も青いうちは鴉もつっつき不申候』と言う奴で。つっつきたいが、知識は無く、調べる気のない人たちが、連盟に貸しを作らずに情報を欲していましてね」

 私は皮肉めいた笑みを作る。隊長レベルにはわざと情報を流すように命令されている。その情報の正誤については機密だが。

 「この場合の柿は、大洗かしら?」

 なかなか鋭い。

 「いえ、戦車道そのものと我々は判断しています。今年の快挙で、二匹目の泥鰌を狙う所は多い。新たに戦車を買う所も増えるでしょう。そこに変なのが混じらない様にするのが今回の仕事でしてね」

 嘘は言っていない。

 そう言う側面もあるのは事実で、そちらに関する調査も任務として存在する。

 戦車道に関連する各種物資は膨大であり。それが生み出す利潤に群がる輩は、既に動き始めている。

 数年後のプロリーグ、それを睨んだ利権争い。

 選手、車両、そしてスポンサーの確保。

 魑魅魍魎が百鬼夜行を始めるには十分である。

 

 遠目に、ラミンを名乗ることになった妹の乗るコメットを眺める。

 キューポラから上半身を乗り出している妹は、久々に充実している様に見えた。

 兄としてできる事は、彼女が充実して戦車道を出来るように少しばかり助力するだけである。

 




 今回の話は劇場版への布石のお話。
 


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短剣と外套…コメットの乗員決定

今回、コメットの乗員がついに決定しました。
また、今回は、故伊藤計劃氏のリスペクトを多分に含みます。


 兄の襲来と言うサプライズは在ったが、砲手の選別は残り日が20日を切る前に終わった。

 選別を残ったのは、雨月早苗―うげつ・さなえ―最初から砲の狂いを見抜き、爆発後も冷静に同軸機銃―以下、連装と表記―で試射し、修正射撃を行う冷静さを持っていた。また、その後の交流や他の人間の評価もおおむね良好で、他の戦車道履修者からも評価は良い。

 性格は、まぁ、私ほどではないが、疑り深く、職人気質を持っている。

 あと、感情の起伏がフラットで表情の変化を読むのが難しいが。これは、報告を総合すると戦車に乗る時にそうなるらしい。

 私と違い、パンツァー・クールとでも言うべきか。

 

 これで、面子は揃った。一覧にするとこうなる。

 

 車長:私ことラミン

 砲手:雨月早苗

 装填手:吉田舞耶

 操縦手:卯月桐花

 副操縦手兼無線手兼前方機銃手:藤原菖蒲

 

 この五名で協力し、いち早くチームとして戦えるようになり。

 来る19日後の大洗との練習試合に、実践投入可能にしなければならない。

 訓練メニューは大きく簡略化する必要がある。まるで、戦時動員の即席戦車兵だなと、内心で呆れと笑いの感情が交差する

 真っ先に削るのは、聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の十八番である統制のとれた行動。

 これは、単独先行するコメットには現状必要ない。

 とりあえずは、動いて射撃をする事と、偽装やら隠密偵察やらの訓練を重点的に行うことにしよう。

 私はそう決めると、流石に三日連続で徹夜したら体力が持たないと判断して、簡単なテンプレートを作成して眠りについた。

 体は正直で、布団に潜り込むなり。私は深い眠りに墜ちた。

 

 ラミンが深い眠りに墜ちているころ。

 聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の格納庫に、彼女の血縁者とその夫が在る人物を待っていた。

 「こうするのも久しぶりですね。義兄さん」

 ラミン、つまり皐月の一つ上の姉。葉月の夫であり、考古学および民俗学者である。渡良瀬総一郎が義兄たる高野善行に言う。

 彼は前人未到の無名都市の発掘調査時に善行と知り合っている。

 それが遠因で、義兄弟になるのだから、世界はわからない。

 「まぁ、貴様が倫敦の魔術教団を潰した時以来か?」

 倫敦のとある魔術教団をこれから合流する人物と共に、徹底的に壊滅させた事を思い出して言う。

 魔術教団、あるいは魔術結社と言うのは欧州が特に熱心だが。古くから世界中に存在して、彼らなりの独自の知識を蓄積し、大量の希少書を保有して現在に至るまで、離合集散しながらも存在する。

 「あれは、貴重な文化財を競売で売り払おうとした馬鹿と。資料を持ち逃げしようとした阿保を始末する必要があったんですよ。女王陛下の魔術師からの依頼でした」

 「それで、私様な間諜―スプーク―の幽霊―スプーク―まで動員されたわけか。どうせなら、魔法学院の人員を動員すればよいだろう。丁度、眼鏡の若き英雄が活躍していた頃だろう?」

 新たな声が、暗闇から自称した様に亡霊の囁きの様に響いた。同時に、青い瞳の年齢不詳の美男子が姿を現す。

 「お久しぶりです。ミスター・b」

 総一郎の声を美男子が遮る。

 「その名前は今の私では無いよ。後進に譲ったんだ。もう、女王陛下の間諜―OHMSS-ではないからね」

 「でも貴方は女王陛下の臣民―サブジェクト―であるのは変わりない…もしかしたら、所有物―プロパティ―では?五代目」

 善行は世界的に有名になる事で、自らを幽霊と同等の存在に昇華させた伝説的スパイの五代目を名乗っていた男に言う。

 「それは、解釈次第だね。さて、魔術師に忍者、そして時代遅れの恐竜が揃っている訳だが」

 五代目は両手を広げる。

 今宵この場所で時代遅れで、危険が伴う情報交換を提案してきたのは彼である。

 その為、善行はヘリを見送ることになった。

 「では、プレゼント交換といきますか」

 魔術師と言われた総一郎が言う。

 彼は二人分のマイクロフィルムを用意していた。他の二人も同様の物を差し出す。電子データにできない物がどれも映っている。

 五代目の恐竜が着るブリオーニのスーツ―これともう一つの要素が彼を五代目であることを語っている―の腰の部分から軽い電子音が響く。

 「どうやら、招かざる客人が入り込んでいる様だ」

 五代目はごく自然に、ワルサーP99を抜き、消音器を取りつける。

 義行も無言で、ブローンングHPを抜き、消音器を取り付ける。

 渡良瀬はティザー銃をとり出した。

 全員、悲しいことに荒事に慣れている。

 「我が学園の生徒ではない様です」

 渡良瀬が言う。生徒手帳に仕込まれたチップが発する信号を調べるアプリを彼は、教員としての義務から、自身のスマートフォンに仕込んでいた。

 「では、ご挨拶と行くか」

 自身もスマートフォンを見ていた五代目が言う。彼は、この学園艦の至る所に設置された各種センサーの情報を警備上の理由から閲覧できる権限を持っている。

 「そこに隠れているのは判っている。素直に出てくることをお勧めするよ」

 センサーが捉えた潜伏地点に向かって、警告を発する。侵入者に動きは無い。

 「仕方ない。歯を全部折って、金網に巻いて海に捨てるか」

 善行がわざわざ聞こえるように言う。

 「日本の伝統では、ドラム缶にコンクリートじゃないのかい?」

 五代目が茶化す様に言う。

 「あれだと、死体の浮力で浮かんでくるんですよ。金網なら、膨らむ前に魚が食べてくれます。ついでに歯を全て折るのは…」

 「本人確認できなくするためだね」

 五代目が引き継いだ。

 「義兄さん。なんでそれ知っているんですか?ヤクザの手口でしょう」

 総一郎が尋ねる。

 「潜入捜査で半年ヤクザの若頭に成り代わっていた。その時に覚えたのさ」

 「多忙だね。君も」

 五代目が皮肉げに言う。

 「係る仕事が世界を救うハメになる貴方よりはマシです」

 善行が皮肉で返す。

 「で、どうするんですか?」

 総一郎が焦れたように言う。

 投降を促す様に言っていた会話が、盛大に脱線している事に気がついたのだ。放置すれば、朝まで軽口と皮肉の応酬が行われる。

 「他校の生徒だろう…手荒に扱う訳にはいかないな」

 五代目は得られるセンサーの情報から侵入者が、おそらく女子高生であると検討をつけていた。

 彼はキーホルダーを取り出し侵入者が隠れている場所に投げ込み、口笛で「ルール・ブリタニア」の一説を吹く。

 その瞬間、電子音と共に黄色い煙が周囲にまき散らされる。

 煙の中で咳き込む声と、屈んだ位の態勢をした人間が倒れる音がした。

 「前任者のだが…使えるね。スタンガスだよ」

 五代目はそう言って油断なく銃を構え、潜伏地点に向かう。義行も続いた。

 彼らがたどり着く頃には煙は散っていた。そこには特徴のある癖毛の少女が倒れていた。

 「大洗女子の秋山か」

 携帯端末の顔認証システムを作動させ、戦車道関係の人物データから人物を特定した善行がそう言って銃を収める。五代目も総一郎も得物を収めた。

 「まぁ、練習試合前の偵察だろう…私が大洗に送り返す。存在しない公務を見られたので、その辺りを忘れるように言い含めておくよ」

 五代目は彼女の荷物を改め、メモリー関係の機器を素早く抜き取る。そして、金額を書いてない小切手を善行に渡した。

 「これで、新しいメモリーを買ってあげてくれ。我が校のセキュリティ上、映ってはならない物があるかもしれないのでね。ついでに謝罪も」

 そして、彼は立ち上がり。

 「さて、スプークは幽霊らしく消えるよ。これから約束があるのでね。遅れる訳にはいかないのだよ」

 そう言うと、影の様に消えて行った。

 「総一郎。彼女を頼む。俺は…車を用意してくる」

 善行はそう言うと、今消えた幽霊から貰ったオメガ「シーマスター ダイバー 300M」で時間を確認する。

 明日の訪問先が大洗で、学園艦が入港していると言う行幸に感謝しながら。

 彼女に言い含める事と、大洗まで車を飛ばすことを考える。どう考えても徹夜の仕事になりそうだ。

 「最後の定期便に間に合うな…それで学園艦を離れるよ」

 「昔話は次の来艦時にでも…一九日後ぐらいですか?」

 善行はそれに苦笑いで返す。

 「多分な」

 

 

 翌朝、時間通りに目覚めたラミンは、学園に向かう道すがら出会った戦車道チームの人間から。昨晩、格納庫に侵入者があり、今日は入れないと事を知らされた。

 午後の時間に自由時間が出来てしまったので、決まったメンバーを連れて父の紹介の革製品の店で、おそろいの手袋にブーツを作ることに決めた。

 電話で礼を両親に言った時に、母が「クルーの人たちのも作って貰いなさい」と言われたので、これで気楽に行ける。

 「買収工作ですか?」

 その話を聞いた早苗が平坦な声で言う。短い時間で会話をした結果。この声色は、色々と楽しんでいる声である事を理解できた。

 「それ、以前。オレンジペコさんにも言われた。今回は…士気向上と連帯感を作りたいからかな?」

 目的地の住所を教えたタクシーに五人で座りながら会話を楽しむ。この面子では変に格式ばった会話をしないことに流れで決まった。

 「でも。革製品五人分って、結構お高いんじゃ?」

 舞耶が言う。確かに両親の趣味趣向と兄の言葉から考えると。フルオーダーで作ってくれて、細かい注文にも応じてくれるだろう。

 「脛肉は太い内に齧るのが一番」

 菖蒲が容赦のない事を言う。

 「確かに、私の財布から出る訳じゃないですよ」

 私の拗ね方が面白かったのか、他の全員が笑った。

 この面子は良いチームなりそうだ。

 

 そのころの大洗

 「西住殿ぉ~申し訳ありません」

 秋山優花里は敬愛する隊長の腰に縋り付いて泣いていた。

 「聖グロの偵察に行きましたら。怖い人たちと鉢合わせして、デーダを没収されてしまいました」

 西住みほはこの友人に対して、どう対応するかを悩んでいた。

 今の場所は生徒会室なので、視線が色々と痛い。

 「と、とりあず。優花里さんが無事で良かった」

 「ありがとうございますぅ。偵察は記憶だけになりますが、しっかりと覚えて来ました」

 「で、その怖い連中は何処のどいつだ?聖グロの警備なら、まだ帰って来れない筈だ」

 河嶋桃が疑問に思ったことを口に出した。それを聞いた途端、優花里は真っ青になる。

 「答えられません。答えたら。自分はアンコウの餌ですぅ」

 優花里がまた盛大に泣き出す。よほど怖かったのだろう。みほの腰に回した腕は小刻みに震えていた。

 「彼女は何を見たんだろう?」と、みほは思いながら。

 何処かは防衛省ナンバーのクラウンで送られて来たから、予想はつくのだが。

 彼女は詮索しない事にして、口に出すのもやめた。

 優花里さんから聖グロの最新情報を聞くのはもう少し時間を置いてからじゃないと無理だろうと思い。少しでも早く、彼女が平常心に戻る様にゆっくりと頭を撫でた。

 




やっと、コメットの乗員が決定いたしました。
次回辺りから、練習試合などが書けると思います。

そして、モヤッとさんにラミンの立ち絵を頂きました。

【挿絵表示】

彼女が立ち絵で持っている本は『欲望の倫理』(ハードカバーのタイトル)と『On Her Majesty's Secret Service 』(文庫本のタイトル)です。

そして、今回はついに"彼”が登場してしまいました。声の吹き替えは田中秀幸氏です。
流石に秋山殿でも彼には敵わないと言う事で…

魔術教団ですが、面白いことに実在したりします。
英国や欧州、そしてアメリカにも今も実在していると記憶しています。
まぁ、現状は希少書のコレクション団体になっていたりしますが。

そして、善行さんも退場。次の暗躍は当分先です。


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番外編1 登場人物紹介(そのⅠ)

今回は、登場人物の一部を紹介します。
今回は主に、コメットの乗員をメインに紹介します。


・ラミン

 本名は、高野皐月(たかの・さつき)

 身長:155センチ

 血液型:AB型

 誕生日1月11日(作中では、15歳)

 出身:神奈川県横浜市

 好きな戦車:T-55シリーズ。特にAM2B等の改造車両が好み。

 好きな花:桜

 

 本作の主人公にしてコメット巡航戦車の車長。

 聖グロリアーナ女学院普通科一年生、戦車道履修者

 得意科目は史学で世界史、日本史とも得意。また、語学は英語が得意。

 英国で生まれの為、英語の会話は得意。最近は使う機会が無い為、少しLとRの発音が怪しい。

 視力は良いが、乱視持ちで眼鏡を着用している。

 歳の離れた兄と姉が4人居る、その為かお小遣いが平均よりも多い。また、良い物を好む両親や兄弟たちの教育か、少し高いがより良い物を買う傾向がある。

 基本的に文系の人間であるが、身体能力が高く体育の成績もよい。これは以前、新体操をしていた為。

 性格的にはある種の利己主義者で機会主義者、また合理主義的保身論者。本人は「臆病で卑屈、そして疑り深い」と自己評価している。

 この自己評価は、いささか外れていると周囲からは評価されている。

 彼女の幼馴染は「周囲を気にしているが、どう思われようと気にはしない。ついでに、肝が据わると恐ろしく大胆」と評価

 別の友人は「用意周到で狡猾。逃げ道は用意してるが、それを本人の意思で閉ざさせる」と評価している。

 万華鏡の様に変わると評価もできるが、ある種の流儀に沿って行動しているとも評価する人間も居る。ある種の境界線を越えると接し方が変わる為にそう評価される原因と思われる。

 好きな戦術は搦め手、本人は戦車に乗ると軽い躁状態、所謂「パンツァー・ハイ」になる傾向がある。

 趣味は読書、基本的に乱書家。速読者らしく、基本的に二冊以上の文庫本を持ち歩いている。また、学園艦の殆どの書店の常連客でもある。

 ストレス解消法は射撃、クレー射撃を兄に仕込まれた関係で。休日に学園艦の射撃場で学園艦での保護者代わりの姉か、その夫に連れて行ってもらっている。「憎い相手の写真を散弾で穴だらけにするとストレスも吹き飛ぶ」らしい。

 

・卯月桐花(うずき・とうか)

 身長:158センチ

 血液型:B型

 誕生日4月14日(作中では、16歳)

 出身:神奈川県横浜市

 好きな戦車:M24

 好きな花:アカツメクサ

 

 ラミンの幼馴染、彼女との付き合いは、幼稚園の頃から。

 幼いころから、ラミンの自宅でコレクションされている戦車を二人で乗り回し、小中と戦車道を学ぶ。

 両親の都合により、福岡に引っ越し。サンダース大学付属高校に入学するも、諸般の事情で聖グロリアーナ女学院に転入。

 得意科目は体育と生物。何故かブロークンな米国スラングに詳しい。

 性格が実直、外面のペルソナ被りは上手い。実際にはかなりの大雑把な面が私的な時には良くでる。

 嘘を付けない人種で、嘘が下手。それを指摘されると意固地になるが、さらに指摘を受けると不貞腐れて黙り込む。

 少女趣味で、恋愛小説・恋愛漫画。そして、乙女ゲーが好きである。

 現在、学園近くに格安の物件を発見して、コメットの乗員全員で借りる計画を立てている。

 

・藤原菖蒲(ふじわら・あやめ)

 身長:161センチ

 血液型:AB型

 誕生日:8月7日(作中では15~16歳)

 出身地:神奈川県横須賀市

 好きな戦車:指揮戦車全般。

 好きな花:カンナ

 

 ラミンの友人。直接的な交友関係は、聖グロリアーナ女学院入学後だが。それ以前にインターネットで知り合っている。

 情報処理学部に所属、シグナル・インテリジェンス方面に、歳の割には造形が深い。

 得意科目は、語学と科学全般。電子工学は実地も得意で、簡単な電子機器の修理はこなすことが出来る。

 性格は、極めて現実主義でデジタル的な感性をしている。また、「ベストよりベター」と言う考えを持ち、現状を今の状況で最善に近づける努力を惜しまない。

 現在、貯め込んだ資料により。寮の床が抜けそうなので、桐花の計画には好意的な態度を示している。

 最近の趣味は自作PC作り。規格が合えば何とか繋ぎ合わせることが出来ると言っているが、それによってPCの巨大化は否めない。

 

・吉田舞耶(よしだ・まいや)

 身長:163センチ

 血液型:O型

 誕生日:10月4日(作中では、15歳)

 出身地:東京都町田市

 好きな戦車:一式中戦車

 好きな花:ノコギリソウ

 

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者。

 ラミンの選別テストを合格して、コメットの装填手となる。

 頭の回転が早く、自分のその場での役割を理解して演じる事が出来る。

 成績は全般的に良好であり、出会って数日だが。桐花と勉強会などをしている。基本的に面倒見は良い。

 また、趣味は料理であり。腕前は、食べた桐花によれば「旨い」とのこと。

 桐花に共同生活の計画を持ち掛けた人物であり。5名で生活すれば料理のコストが節約できると考えている。

 小市民的な発想を持っており。ラミンの金銭感覚や、菖蒲の節約をしつつも豪快に金銭を使う感覚に驚きを隠せない様である。

 

・雨月早苗(うげつ・さなえ)

 身長:152センチ

 血液型:A型

 誕生日:5月28日(作中では、16歳) 

 出身地:神奈川県横浜市

 好きな戦車:IT-1(オブイェークト-150)

 好きな花:リンドウ

 

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者

 ラミンの選別テストを合格してコメットの砲手になる。

 戦車内では冷静沈着、ラミン命名「パンツァー・クール」

 戦車が鉄塊を動かすために無理を重ねた精密部品の塊であると言う信条を持っており。衝撃により何処かが狂うか、壊れるかを心配している。

 性格は職人気質、少し懐疑主義者。感情の起伏が乏しいと言われるが、実の所は表情の変化が乏しいだけで、交友関係を持てば、容易に感情が読み取れるようになる。

 趣味は卓上ゲーム。トランプでピラミッドをどれくらい高く作れるか挑戦中。因みにカードゲーム全般に強い。

 日本人には珍しく、敬虔なキリスト教徒。英国国教会と言ってるが、「聖グロリアーナ女学院の学園艦だからでは?」と思われている。

 本人曰く「不真面目な信徒。でも、拠り所が在った方が気が楽」その言葉通りに、最近は座禅教室に通っていたりする。

 

 

・彼女らを取り巻く人々

 

・渡良瀬葉月(わたらせ・はづき)

 身長:167センチ

 血液型:A型

 誕生日:7月25日 

 出身地:神奈川県横浜市

 好きな戦車:74式戦車G型

 好きな花:ソメイヨシノ

 旧姓:高野

 

 聖グロリアーナ女学院校医、主に応急処置とメンタルヘルスを担当。

 聖グロリアーナ女学院OGで戦車道元履修者。

 元陸上自衛隊二等陸尉、退役時に一等陸尉に昇進。職種は衛生科。

 ラミンの一つ上の姉。学費が安いからと防衛医科大学校に進学。

 医官として任官後、某国の派遣任務で現夫の渡良瀬総一郎と出会い、退官。

 その後、大学に入りなおして教員資格を取って母校の聖グロリアーナ女学院に赴任。

 性格は真面目で、修羅場を複数経験したらしく肝が据わっている。

 現在は、いろんな意味でギャンブラーの夫を呆れながらも愛して居る。

 妊娠する予定があるらしいので、現在禁酒中。

 

・渡良瀬総一郎(わたらせ・そういちろ)

 身長:182センチ

 血液型:О型

 出身地:神奈川県小田原市

 好きな花:アイスランドポピー

 

 聖グロリアーナ女学院学園艦の片隅で、『メーティス古書堂』を経営する。

 オックスフォード大学で歴史学と博物学の博士号、ミスカトニック大学で民俗学と社会学の博士号を取得し。日本の私立大学で教員資格を取る。

 専門は中東からシルクロードまでの文化比較、及び先史文明の発掘作業。

 オックスフォード大学時代のコネにより、聖グロリアーナ女学院に歴史学の非常勤講師として招聘される。

 元々、英国系の学園艦を選んだのは、彼の意志であり。理由は「本家並みに史料を貯め込んでいる事。それに世界規模の発掘品ネットワークがあるから」とのこと。

 横道に逸れるが興味が出る授業をするとの評判。しかし、事前に調べる時間を用意して、調べないと、その生徒は巨大な地雷を踏むと言う罠を用意する悪癖も持っている。

 ギャンブラー気質で、可能性が低いところに調査に行くことも多い。低い可能性を引き当てるから強運であるとも言える。

 様々な理由から、荒事にも慣れている。また、文化財保護には熱心であり。時折、手段を択ばず保護に行くと言う事も。

 『メーティス古書堂』の裏に『インデックス・図書館』なる有料図書館も経営している。中々の希少書や、焚書された筈の本まで在ると言われている。

 

 

・高野善行(たかの・よしゆき)

 身長:179センチ

 血液型:AB型

 誕生日:5月11日

 出身地:神奈川県横浜市

 好きな戦車:友軍戦車

 好きな花:相手の女性が好きな花。

 

 ラミンの兄

 妻帯者でラミンと同じぐらいの年齢の子供が複数いる。

 陸上自衛隊中央会計隊付きの二等陸佐。

 職種は普通科隊員であり、幾度の海外派遣と海外研修を経験し、広い人脈を持っている。

 その為、本人の意思に反して。現在は日本国情報活動の貴重なバルバロイの一人となっている。

 つまり、本業はヨシュア第二章に書かれている世界最古の職業の一つ。

 現在は、如何にして人生を楽しむかを模索中。

 収集癖があり。様々な種類のコレクションを持っている。

 広い人脈から、数々の貴重品を取り寄せたり。俸給以外の収入を持っていたりする。

 また妻は古流剣術の家元の娘であり、その為。事故で首に出来た傷跡を周囲に誤解されているが、本人はそれを楽しんでる節がある。

 女性に節操が無いと周囲に思われているが、愛妻家で家族愛も大きい。多少シスコン気味ではある。

 現在は、戦車道周辺における存在しない任務に従事している模様。




今回はコメットの乗員をメインに紹介。

また、他作品から拝借したキャラクターは意図的に除外しています。


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二歩目 練成開始

今回から、コメットの練成開始です。
先ずは、紅白戦に向けた準備


 結論から言えば、父と母が紹介してくれた革製品の店は凄かった。

 五人全員の細かく複雑な注文を、彫刻の様に深く皺が顔面を美しく飾っている老人は、瞳は真剣だが、頬は緩みながらも各自の注文を見事に果たした。

 それは調律が完璧のピアノの演奏の様であった。

 「凄かったですね」

 帰りのタクシーの中で舞耶が、自分の掌に密着し、装填手としての動作がスムーズに出来るように工夫された黒革の手袋をはめた手を何度も開いたり閉じたりしながら言う。

 全員が、出来上がったばかりの手袋と騎乗ブーツが非常に体に馴染む感覚を不思議に思い、そして楽しんでいた。

 

 「さて、今後の方針についてです」

 桐花が唐突に音頭を取った。

 気がつけばタクシーは寮より学園の方へと向かっている。

 「これから、19日。実際には18日で我々は大洗相手に実践投入されます。末期の武装SSといい勝負ね。相手は中東戦争を戦い抜いて、訓練と休養をとったイスラエル国防軍並み。これから毎日、ラミンの過酷極まる最低限度の訓練が時間ギリギリまで続きます。それの訓練を可能にする為に、私は共同生活と学園近くへの引っ越しを提案します」

 桐花がそう言いきると、タクシーが目的地に着くのは同時だった。

 「まぁ、共同生活するかは置いておいて、とりあえず。中見てよ」

 タクシーに料金を支払った桐花が、最新式のカードキーを取り出すのを見て。

 私はある事を悟ったが、念のために確認の言葉を述べる事にした。何事も確認せねば勘違いが時に大きな齟齬を生み出す。

 「もしかして、もう何人か住んでいるの?」

 私と砲手の早苗以外は手を上げた。なんとまぁ、いつの間に。この団結力は何だろう?

 「いつの間に」

 私の代わりに早苗が言う。彼女も呆れているようだが、空室の中をよく観察している。

 私も見たところ、通常の学生寮より少し間取りが広い。各部屋ユニットバス、キッチン付きで、後は一階には食堂が付いている。部屋数は八室で、上の階は半分、下の階は一部屋埋まっている。

 全体的に狭い印象を覚えるが、部屋間を移動する通路などが英国式アパートをモデルにしているようだからその様に感じられるのだろう。

 「家賃は?」

 私の問に、桐花がカード型電卓を叩いて数字を出す。ついでに、スマートフォンで現在地を表示する。

 学園から近く、現在住んでいる学生寮より安い。

 私は驚くと同時に、地図を再度確認する。義兄が経営する古書店の裏の場所だった。以前、空き地にするより、有意義な使い道をすると言っていた気がする。

 ガレージ付き、私の愛車も運び込める。

 私は古いタイプの赤いミニ・クーパーを入学祝に貰っている。広い学園艦内を移動するのに足が必世だろうと、兄が何処からか手に入れてくれた。

 戦車道履修者は追加試験を受ける事で、自動車免許を取得することが出来る。まぁ、取得しなくてもフィールドで運転はできるが。

 その、愛車を久しぶりに乗り回せる時間ができる事に気がついたが。それは、共同生活を始めてからであり。そして、乗る機会は遅刻しそうな早朝に全員を詰め込んでの登校になりそうだと予測がついた。

 また、古き英国式アパートを模しているが、ユニットバス・キッチンは日本製の最新のもので、光ファイバーケーブルのオンデマンド環境も整っている。

 恐らく、落ち着くまでは毎日、くたくたになるまで練習漬けだろうから学校から近いのも良い。仲間との共同生活というのも経験してみたい。気がつけば全員が共同生活に同意していた。

 引っ越しの準備や手続きを超特急で、私と早苗がする事になるのだが。それは別の機会に語ろう。

 

 

 秋山優花里が平静を取り戻したのは翌日だった。

 普段の調子に戻った彼女は、友人たちが心配する中。聖グロリアーナ女学院の偵察情報を纏め上げて報告を開始した。

 「次の聖グロの演習試合に向けて、偵察を行ったのですが。その結果、聖グロは戦力を増強しています」

 秋山は記憶を頼りに製作した戦力表をホワイトボードに貼る。生徒会長室に集合していた面々が、それを注視する。

 「まずは、ブラックプリンスを入手したようです」

 「17ポンド砲が厄介だね」

 誰がと言う訳ではないが、全員の心象を代弁したセリフが出る。

 対サンダース大学付属高校戦でも17ポンド砲搭載のファイアフライはその優秀な砲手であるナオミともども強敵だった。

 「それに、クロムウェル巡航戦車を4両確認しました」

 「こちらのほうが厄介かも」

 みほが呟く、砲力と装甲、そして運動性の良い戦車を揃えた聖グロは間違いなく強敵になると。

 彼女は直観と指揮官としての経験、そして対戦した時の実感として感じていた。

 「あと、最後の一台ですが。恐らく巡行戦車です」

 秋山は自信なさげに言う。

 「砲塔をシートで覆っていました。また、突起が砲塔から前方に伸びていました。もしかしたら、陣地突破用のロケット弾発射レールを付けているクロムウェル巡航戦車かもしれません。足回りはクリスティー式でしたから」

 「つまり。楽な試合じゃないと言う事だな」

 生徒会広報、河嶋桃が現状を簡潔に表現した。いろいろと言われることの多い彼女だが、状況の把握力はなかなかのものである。

 「前から、楽な戦いは無かったよ。桃ちゃん」

 副会長であり、河嶋桃の女房役、小山柚子が突っ込む。

 確かに、大洗女子の戦いは常にそうであった。

 「桃ちゃん言うな」

 本日の会議もいつもと同じように予定調和で終わった。

 

 

 共同生活七日目、コメットの乗員として訓練を開始しても七日目の朝。私は香ばしいパイ生地の焼ける匂いに連れられて、共同食堂へと向かった。

 「おはよう、舞耶。今日は、ミートパイ?」

 私は装填手に尋ねる。この7日間で分かったことは、彼女が迅速な装填ができて、なおかつ料理の手際と腕が良いことである。その為、最近は彼女に弁当を作るのを任せきりにしている。

 「おはようございます。ラミン。今日はミートパイの上をマッシュポテトで覆って焼いています。美味しいですよ」

 彼女は歌うように言う。私はそれをしり目に、二つの水筒にゆっくりと、炭酸飲料を詰めていた。

 「マウンテンデューにセブンアップですか…紅茶も飲むのに…」

 舞耶が私の糖分過多な水筒の中身を見ながら言う。車内で紅茶を淹れるので、水分摂取量は結構多くなるが、汗をそれ以上にかきそうだから問題ないだろう。塩分が問題になるかもしれない。

 「今日は、頭が糖分を必要としそうだから」

 私には予感が在った。

 ここ数日は、射撃コースを爆走して、射撃し、基礎戦闘能力を上げる事を目標にしていた。

 そして、昨日、その目標値を超えた。

 つまり、今日は先輩方のサプライズ・テストがあると危機感地センサーが告げていた。

 「カロリー使いそうですね…少し多めにしときます」

 「御願い」

 私は舞耶に頼むことにした。

 私も朝食の手伝いをすることにする。

 イングリッシュ・ブレックファーストも自分で作れば納得のいく味になる。

それにこの近所には、美味しいパンを焼くベーカリーがある事を早苗が発見してくれた。

 我々の共同生活での食生活は、良好であり全員が個人の嗜好を考慮しても、おおむね満足できる状態を維持している。

 共同生活で分かったことは、舞耶の料理の腕と。早苗は気分が良いと、風呂で様々な曲をハミングすること。桐花が時折、イヤフォン忘れて乙女ゲーを大音量でしたりと、全員の良い面や悪い面、そしてどうしようもない面が解る様になった。

 その為に、変に全員が気負いすることなく意識統一をできる事ができた。

 しかし、菖蒲宛に良く分からない電子部品が世界中から、毎日のように届き。彼女が換気を忘れると、アパート中に配線を繋ぐ匂いが充満するのは勘弁してほしい。

 戦車道の方では上手く、チームとしてまとまってきている。

 そこまで行くのに全員が数え切れない失敗をしたが、なんとかそれを乗り越えていくことに成功している。しかし、そろそろ気づかれもしている。

 今日あたりに精神的な一区切りをできるイベントが欲しいと、私は考えていた。

 その予感は、見事に当たる事になる。

 




次回辺りは、紅白戦が出来ると思います。
EUになってから、イギリス料理は良くなっているらしいです。
出店は、当たり、外れの差が大きいのですが…値段に合った味は食べれるとも…


ちょくちょく改稿
誤字脱字を減らすのが今後の課題だなぁ…


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五月の鷹

紅白戦が開始されます。



 午後の戦車道の授業。仕掛けてくることは、授業開始前の上級生たちの士気を見ていた人間ならだれでも察知できるぐらいの闘志を感じられた。

しかし、現状はまだ仕掛けてこない。

 

 菖蒲に全周波帯を探らせているが、それらしい通信は無い。

 先輩方の練度だと無線連絡無でも襲撃を仕掛けられると判断。

 私自身は先ほどから、コマンダーハッチから上半身を乗り出し、兄からのプレゼントの多機能双眼鏡で周囲警戒をしている。砲手は照準器で、装填手もビジョンブロックから周囲を窺っている。

 「ラミンはどの部隊が仕掛けてくると思いますか?」

 戦車の中では胡瓜の様な―英語圏で常に冷静沈着な人の比喩―早苗が尋ねてくる。

 一瞬、車内に視線を向けると、早苗は照準器のアイピースに目を押し当てているのを確認する。仕事をちゃんとしている姿勢はたいへん好ましい。

 私もハッチから身を乗り出し、上半身を砲塔に押し付けながら周囲を確認しつつ答える。

 「多分…クルセイダー小隊だと思います」

 これは、本当に勘だった。

 なんとなく、ローズヒップ小隊長の感じから、そう思えた。

 「賭ける?賭けるなら。私はチャーチル小隊に崎陽軒の弁当」

 「じゃぁ。私はマチルダⅡ小隊に同じく、崎陽軒の弁当」

 車体前方の二人が勝手に賭け事を始める。

 私はその二つの小隊が相手としてくる可能性を考える。

 対大洗想定だと、チャーチルとマチルダⅡでは走力は遅くなるが、それ以外は、一部の車両を除けば装甲は厚い物になる。砲力はチャーチルの方が近い。可能性はあるかもしれない。

 

 任務面から敵を想定してみよう。

 このコメットが相手する可能性が高いのは、これまでの大洗の戦歴、戦術からすると、89式とM3と偵察中に遭遇し、そのまま混戦になる可能性が高い。

 それがなく偵察が上手くいけば、大洗の主力に最良のタイミングで切り込めるだろう。

 問題はどの車両も練度がそれなりにあり。そして、殆どの乗員の肝が据わっている相手と言う事なのだが。その辺は最初から承知している事だし気にしないことにする。

 では、何が来るだろうか?

 「菖蒲、なんか兆候ある?」

 私は周囲警戒を続けながら尋ねる。

 「飛行場から観測機が離陸しそう…エアスピードAS39?良く実機が在ったと言うか…図面から創ったの??ウチの技術屋ども。岡部先生歓喜な機体じゃない、駄作機だけど」

 菖蒲が何かに驚いている様だが、観測機が離陸したと言う事は、襲撃があるのは、長くても数十分後になる。

 観測機からのデータは今後に活かせるからだ。

 「戦闘準備、咄嗟戦闘に備えよ」

 私はそう命じると、ヘッドセットを片方ずらして耳を澄ませる。

 

 擦過音が聞こえた瞬間。私は反射で命じる。

 「戦車、前進、全速。砲塔6時」

 同時に車内に落ち込む。自分の重さと勢いを筋力に足して、コマンダーハッチを閉める。

 「なんです」

 ビジョンブロックに齧りつきながら、後方へ回転する砲塔から周囲に視線を走らせながら、舞耶の質問に答える。

 「缶切りが来ます」

 「要するに曲射で上面を狙う射撃」

 私の発言を早苗が補足説明する。流石、砲手良く知っている。

缶切り、要約すれば砲弾は重力によって山なりの弾道を描く。それを利用して装甲の薄い車体上面に砲弾を命中させる技術である。

 無論、それを行うには砲に精通した精兵が必要になる。

 後方から衝撃、土煙が上がる。四度、衝撃を感じたから、相手は一個小隊。

 ―何処で何だ?―

 私は必死に周囲を索敵する。

 後方なのは間違いない。土煙の高さから砲弾を推測する。マチルダⅡやヴァレンタインではないと計算。

 チャーチルか?クルセイダーか?それともクロムウェルか?

 私の疑問を一瞬で吹き飛ばす。聞きなれた特徴的な笑い声が、オープンに開いている無線から聞こえた。

 『ラミン。貴女達がどれほど成長したかを私達が試して差し上げますわ。ダージリン様のお紅茶の時間までに、終わらせて差し上げますわ』

 ローズヒップ小隊長のノリノリの声が響く。

 耳を澄ませば、ローズヒップ車のカリカリにチューンされた豪快なエンジンの爆音が響いてくる。距離を詰めてくる様だ。

 「桐花、履帯に無理させずにジグザグ機動。命令と同時に全力前進用意」

 「了解」

 私は桐花に命じながら、「缶切り」の後に距離を詰めてくるクルセイダー小隊の戦術を予想する。

 かつて所属していたから当たりはつけられる筈だ。

 おそらく、行進間射撃を榴弾オンリーにして、履帯の切断狙うだろう。

 また、遅延信管を利用し、榴弾をバウンドさせて曳火起爆で装甲の弱い部分を狙ってくるかもしれない。

 思考をめぐらしていると、新たな無線が入電した。

 『ラミン。聞こえていますね』

 ダージリン様からである。

 これはよろしくなさそうな展開だと直感が言う。

 無論、よろしくないは聖グロリアーナ女学院的な婉曲的な表現である。

 直接的な感情表現をすると、とても淑女たる乙女が抱くべきでない表現の羅列になる。

 『貴方のコメットは現在より『ガウェイン』のコールサインで呼ばれます。戦車道授業終了まで生き残るのが目標です。では』

 「『ガウェイン』了解。最善を尽くします」

 『五月の鷹』―ガウェイン―とは、『「タカ=鷹」ノ・「サツキ=5月」』と言う名前のモジリか、皮肉な事で…太陽が出ている間は撃破されるなと、湾曲的に言ってるのだろうか?

 内心から漏れそうになる悪態を自制し、周囲警戒を続ける。

 「早苗、照準器にクルセイダーを捉えたら射撃自由。弾種、榴弾」

 「了解」

 車外の監視を一瞬中止して、マップケースに視線を落とす。

 テープで括りつけた懐中電灯によって、暗い車内でも細部まで見える様に工夫した。 舞耶の提案で行ったが大正解だった。

 ダージリン様は、クルセイダー小隊だけを敵として用意してないだろう。

 クルセイダー小隊は、例えればキツネ狩りの猟犬。このコメットを任意の場所に追い込む為に放たれたと思われる。

 キツネが猟犬に食い殺されればそれでよし、猟犬に牙を剥いて襲い掛かるなら、射座から撃てばよし。その様なプランだと推測する。

 アッサム先輩も17ポンド砲を大洗戦まで行動中の戦車に命中させておきたいだろう。

 地図で仕掛けてくると思われる地点に目星を付けるのと、早苗の冷静な報告が届くのは同時だった。

 「クルセイダー、サイトイン。撃ちます」

 車内に轟音と振動、そして無煙火薬の匂い。

 薬莢がはじき出され、舞耶が次弾を素早く装填する。

 私もビジョンブロックに視線を戻し、砲弾の行方を追う。ジグザグに機動しながらの行進間射撃が命中する確率は皆無に近いが。榴弾の破片効果を期待していた。

 放たれた砲弾は、クルセイダー小隊の急速な減速によって。榴弾の効果範囲すら躱される。

 ―やはり、練度が高い。―

 流石はローズヒップ隊長の部隊。

 本人は『聖グロ一の俊足』を誇っているが、その能力の本質は高速機動するクルセイダー部隊を手足の様の操る統率力と判断力。そして旺盛な戦意。

 まさに現代の騎兵将校である。  

 アート・オブ・ウォーを自己の流儀で演出できるダージリン様とはタイプは違うが。現在の聖グロリアーナ女学院の戦車道部隊の背骨を担う人物である。

 次の世代。

 いや、パイオニアになれと言われている私が挑み、乗り越えなければならない壁である事は間違いない。

 私は口の中にアドレナリンの味が広がりつつあるのを感じていた。

 




紅白戦が開始されました。

さて、ラミンはどの様に戦うのか。
次回もベストを尽くして書きあげるつもりです。


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スワッシュバックラー

敵はローズヒップ小隊長率いるクルセイダー巡航戦車一個小隊
はたして、ラミン率いるコメットは如何に立ち向かうのか!!



 ローズヒップ小隊長率いるクルセイダー小隊は間違いなく、聖グロリアーナ女学院戦勝道部隊の中でも巡航戦車の扱いに精通しているライトスタッフの集団である。

 自分が所属していたこともあり多少、身内びいきな評価であると思うが。御世辞にも機械的信頼性が良いとは言えないクルセイダー巡航戦車を例え完璧な整備下で運用していても、戦車戦中に機械的トラブルで脱落させない手腕と、積極的交戦を挑む戦意。

 そして、人員的な運用面で問題を抱える車両を小隊一つが生物の様に統制がとれている。

 そこまで思考を巡らせた瞬間に、衝撃が来た。

 「被害報告」

 衝撃に耐えながら叫ぶ。

 恐らく防盾に命中弾。

 「主砲、照準器ともに被害なし」

 「砲塔内問題なし」

 『無線問題なし』

 『駆動系問題なし。全速発揮、戦術機動可能』

 素早く全員から返答が来る。その辺は良い兆候だが。

 現在の戦況はあまりよろしくないと言える。

 有体に言えばジリ貧、軍事的用語で取り繕えば消耗戦。

 今は距離があるから、先ほどのラッキーヒットぐらいしか命中弾は無いが。いずれは距離を詰められ、装甲厚に関係ない距離から有効弾を喰らう。

 それに、車体後部を向けているから、撃破される危険距離は近い。

 「主よ…」

 早苗が聖句か、聖書の一文を呟きながら主砲を撃つ。

 

 あぁ、これは本当によろしくない状況になってきた。

 

 ビジョンブロックから、距離をジリジリと詰めてくるクルセイダー4両を睨みながら。私は必死に思考を巡らす。

 

 ―ローズヒップ小隊長の車両の尻を振る癖が、此方の首を狩る鎌の動きに見える―

 

 そう思考が回った瞬間。先輩たちの癖に、付け入る隙があるのではないかと気がついた。

 

 ・ローズヒップ小隊長 車体後部を振る癖がある。

 ・クランベリー先輩 急停止後に車体を左右に振る。

 ・ヴァニラ先輩 咄嗟の判断で機動する時。右方向になる傾向がある。

 ・サクラ先輩 機動時に進行方向に先に砲塔を旋回させる傾向がある。

 

 一瞬で思い出せたのは行幸だった。

 これを上手く使えば付け入る隙は十分ある。

 咄嗟に大雑把な作戦を立案する。入念に検討する時間は無さそうだ。

 私は即決で決断を下し、車内に命令を飛ばした。

 「早苗、射撃中止、命令と同時に砲塔を右90度へ旋回。舞耶、次発から装填は、別名あるまで銀の弾丸―APDS―に。桐花、命令と同時に急停止、その後、発砲と同時に左に90度旋回。菖蒲、衝撃に備えて」

 「「了解」」

 『『了解』』

 了解の返答の声が揃っている。これは、宜しい兆候だと自分に言い聞かせる。

 

 車長―いや、指揮官は不安を見せてはならない。

 

 「早苗、連装の短連射をローズヒップ小隊長車に二回」

 「了解」

 早苗は77㎜砲HV砲の右側に据えられた7.92 mmベサ機関銃を短い間隔で二度、連射する。

 同軸機銃とも呼ばれるが、私は自衛隊式に連装機銃と呼んでいる機銃から放たれた銃弾は、クルセイダー巡航戦車の砲塔に火花を散らした。

 砲塔に機銃弾が弾かれると同時に、ローズヒップ小隊長車は急停止、他の車両は素早く散開。

 「急停止」

 私は命じると同時にコメットが急な制動をかける。

 体が慣性に引っ張られるのに耐えつつ、搭載されている即時発射可能な全ての発煙弾を発射、同時に煙幕を展開する。

 「砲塔旋回」

 制動に旋回の機動が加わり、耐えるのが辛くなってくるが。私はビジョンブロックから外の監視を強引に続ける。

 筋肉が悲鳴を上げているが、その悲鳴を無視する。後で、湿布でも塗り薬でも、針治療でも受ける。

 影がビジョンブロックに飛び込むと同時に私は叫ぶ。

 「撃て」

 轟音と振動、そして無煙火薬の匂い。それに旋回の慣性、それを無視し車体が向いている方を強引に見る。こちらにも影が飛び込む。

 「全速前進、衝撃に備え」

 600馬力のロールスロイス・ミーティアMk.III 12気筒ガソリンエンジンが咆哮を上げる。私はその後に来る衝撃に備える。

 そして、金属が奏でる不協和音じみた悲鳴と共に、前進を揺さぶる衝撃がコメットを襲った。クルセイダー巡航戦車の横っ腹に体当たりをする事に成功した様だ。

 『ヴァニラ車、命中、有効弾、撃破』

 一両を撃破する事に成功したのを審判部からの無線で判明する。

 私は無線から流れる判定より大きい声で、次の命令を下す。

 現状は至近距離での乱戦。煙幕が晴れる前に戦果を稼がねばならない。

 「後進、砲塔正面、射撃自由」

 少し、嫌な音がしたが。コメットは後進を開始する。砲塔も異常なく回転する。舞耶が次弾を急いで装填しているのが目の端に見えた。

 「装填完了」

 「撃ちます」

 爆音、振動、排莢、排煙。

 『サクラ車、命中、有効弾、撃破』

 これで二両目。ビジョンブロックに張り付いて、必死に周囲を確認する。

 「現状報告」

 忘れていた事を問う。

 ラム・アタックもどきをしたから、何かしら被害はあるだろう。

 その被害が少なければ良いが。

 「砲、照準器、戦闘に支障なし」

 「装填には問題ありません」

 「無線…アンテナは調べないといけないけど、受信、送信に問題なし」

 「操縦系統…現在は戦闘機動可能…正面は凹んでる可能性あり」

 「了解」

 少なくとも、この煙幕の中で、乱戦をするだけの余裕はありそうだ。

 私がそう考え、勝つための算段をしようとした瞬間。コメットの砲塔横で榴弾が炸裂した。破片が砲塔を叩く。同時に砲塔周辺の煙幕も吹き飛ばされる。

 榴弾で煙幕を吹き飛ばしたのは、クランベリー先輩の車両。流石に私の元車長は私の作戦を読んだらしい。

 「後進を継続、ジグザグ機動できる?」

 徹甲弾が飛んでくる前に、機動戦に移行したい。

 「可能、最初の数十秒は少し遅くなるけど」

 「任せる」

 私は桐花にそう言うと、周囲を必死に確認する。

 ローズヒップ小隊長車の行方が判らない。クランベリー先輩車の主砲は、此方を向いているが左右に揺れているので、まだ時間的余裕がある。

 これが、上下に揺れたら余裕はない。

 故に残った煙幕に車体を突っ込ませて、同時にクランベリー先輩車を撃破する必要がある。

 「捉えた。主よ…撃ちます!」

 発砲の振動。

 『これが本当のラム・アタックですわぁぁ!』

 ローズヒップ小隊長の絶叫と共に、先ほどのこちらがした体当たりとは比べ物にならない衝撃がコメットを襲う。

 『これはオマケですわ。じっくり味わいなさいませ!』

 砲塔側面から凄まじい衝撃。思わず横に吹き飛ばされるが、舞耶に腕を引っ張られ、早苗に受け止められる。

 『クランベリー車、ラミン車、有効弾、撃破』

 審判部から、撃破された事を告げられる。

 私は二人に礼を言ってから、車長席に体重を預けて力を抜く。

 「もう少し、上手くやれたかな?」

 私は自己評価を呟いていた。

 「上手くやった方じゃないですか?足りない分はこれからと言う事で」

 「3両撃破出来たし上出来。でも、満足はしないから練習は必須」

 『次に活かすこと、皆で探しましょう』

 『まぁ、即席チームだし。これからも練習あるのみだね』

 全員がそれぞれの感想を述べだす。全員が向上心を持っていることは理解できた。

 今日は、良い意味で一区切りの日になった。

 『こんな言葉を知ってる?』

 ダージリン様の声が無線から急に流れる。

 『なにごとも努力なくして勝利なし』

 「三宅義信ですか…」

 『えぇ、その通りよ。今日はよろしい戦いでした。更なる成長を期待します』

 ダージリン様なりの労いの言葉と、これからのも努力を続けよと言う叱咤激励なのだろう。

 無線はそれ以降、沈黙したままである。

 私は割れない様に収納していたティーカップを取り出し、陶器製に見える強化セラミック製のティーポットから紅茶を注ぐ。

 

 冷めているが、まぁ良いだろう。

 

 ハッチを開け、上半身を外に出す。前方のクルセイダーでも同じようにクランベリー先輩が紅茶を片手に出ている。

 彼女は私に気がつくと、軽くカップを掲げて見せてから優雅に飲み始めた。私も先輩にカップを掲げてから飲み始める。

 

 その日の紅茶の味は少し、渋みが強かった。

 




 対ローズヒップ小隊戦はこれにて終了です。
 戦果は撃破3両
 しかし、最後に撃破と言う結果になりました。

 この経験から彼女たちが何を学び、成長していくのか。

 次回もベストを尽くして書くつもりです。


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AAR

紅白戦が終わりました。
終わった後は、感想戦です。


 戦車道の授業は終了し、私達はトランスポーターに運ばれ格納庫に帰還した。

 その途中、私はコメットの砲塔上面を軽く撫でて。

 「コメットもお疲れ」

 と、物言わぬ鋼鉄のチームメイトを労った。

 帰還した先では、ブースロイド氏が整備班と修理班を総動員して待っていた。

 「ハデにやったのぉ」

 ブースロイド氏は呆れた様に言う。確かにコメット外見は酷い事になっていた。

 「すいません」

 謝罪の言葉が自然と出た。

 「気にせんでも良い。見た目は派手だが明日までには修理可能じゃよ。どこぞの毎回、破壊して返してくる悪ガキとは大違いじゃ」

 「「「「「お願いします」」」」」

 全員が声を揃えて、頭を下げた。

 「作業の邪魔になるから、お嬢ちゃんたちは戦車乗りから、淑女に変身すると良い」

 ブースロイド氏はそう言って、私達を格納庫から追い出した。

 

 ブースロイド氏の忠告通り、全員が汗を流した後。

 紅白戦後には必ず。AAR-アフター・アクション・レヴューが行われる事になっている。練習試合や試合の後もそうであるが。

 私達の模擬戦―つまり、コメット―ダージリン様的に今はガウェイン―の乗員全員と、ローズヒップ小隊長のクルセイダー巡航戦車部隊の全乗員が『紅茶の園』の円卓に揃って着席していた。

 目の前には、ティータイムセットと、各自一人につき一つのタブレットが置かれている。空いている席は3つ。ダージリン様とアッサム先輩、それにオレンジペコさんが来るのを私達は、表面上は紅茶を優雅に飲みながら待って行った。実際には全員が胃をキリキリさせながら待っている。

 その証拠にスコーン等に手を出している人は…ローズヒップ小隊長が、スコーンを割りジャムとクリームを載せ食べている。

 ―この人は肝が据わっている。流石だ―

 私は感心すると同時に、キリキリさせながら待つのは変わらないなら、少しでも食べ物を入れておこうと開き直り。胡瓜のサンドイッチを一つ手に取り、ゆっくりと音を立てずに咀嚼をはじめた。

 ―クラブハウスごとに胡瓜のサンドイッチの味が違うのよね―

 食べ終わり、周囲を見ると早苗と舞耶が目を見開いて驚いており。桐花と菖蒲、それにクランベリー先輩が呆れたように私を見ていた。

 ―何か変なことしたかな?―

 私は少し首をかしげると、ナプキンで口の周りを拭い。紅茶を補充し、ティータイムを再開する。

 

 それから、少しした後。ドアが控えめにノックされる。

 全員が、同時に音もたてずに起立する。

 「失礼しますわ」

 ダージリン様を先頭にその左右にアッサム先輩とオレンジペコさん。

 「では、AARを開始しましょう。ペコ」

 「はい。皆さま、お手元のタブレットをご覧ください」

 ダージリン様は座り、オレンジペコさんが注いだ紅茶を一口飲んで、口を湿らすと。オ レンジペコに命じてタブレットに戦闘記録を時系列順に表示させる。

 表示されるのは、上空から観測機器を満載したエアスピードAS39が収集した各種情報、各車に搭載された記録機器からの情報を統合した俯瞰映像。

 一度目は、コメットが撃破されるまでを全員が無言で見ていた。

 二度目は途中で映像を停止させ、その瞬間の行動について。

 ダージリン様とアッサム先輩からその戦術的意図、判断の理由を尋ねられる。

 これだけなら、車長のみで良いが。他の乗員もその時の行動の意図、自らの判断、行動に容赦なく批評と指摘が下される。

 全部の行動に対する批評と指摘が終了すると。

 今度はどのタイミングで、どう動くのが最良なのか感想戦が行われる。

 感想戦は両者が勝利を収めるまで続けられた。

 「これにて、AARを終了いたします。各自、今回で判明した課題点の克服に努力をお願いいたします」

 AARはダージリン様の言葉で締めくくられた。

 「では、次の組のAARがありますので、失礼いたしますわ」

 ダージリン様はそう言うと、アッサム先輩とオレンジペコさんを引き連れて『紅茶の園』の別の部屋へと向かった。

 

 ドアが静かに閉じられた瞬間、その場の殆どの人間が安堵のため息を漏らした。

 「相変わらず容赦がないですね。先輩方は」

 サクラ先輩がそう言うが、彼女の手元のメモ帳は遠目には黒く見えるほど書き込まれている。

 「自分たちが去った後の事を考えてくれているから。それに答えないとね」

 ヴァニラ先輩がそう言う。それは全員の心情の代弁でもあった。

 ―来年は我々で強豪相手に戦わなければならない―

 クルセイダー小隊の車長達は2年が多い。故に責任感と、様々な重圧を今から感じているのだろう。

 先日、個人的に会った。クロムウェル巡航戦車小隊の指揮官ドアーズも、主力となる可能性を考え、部隊練成に必死になっていると言っていた。

 ある意味では、私は比較的楽な仕事なのかもしれない。そうであるならば、仕事は完璧にこなすべきだ。

 私は手元のノートに書き込まれた事と、タブレットに入っている情報をどう活かすかを考えだした。

 「ラミン達は大変だな」

 クランベリー先輩がカップを置いて、座席の背に体重を預けこちら側を俯瞰するように見ながら言う。

 「大洗との練習試合を皮切りに、各校の精鋭とやりあう事になる。クロムウェル小隊もだけど」

 ―それ、聞いていない―

 私の内心に衝撃が走った。

 「一年生に経験を積ませる為に、各校の現在の面子が揃っている今の内に練習試合の予定をダージリン様は立てていらっしゃいますわ」

 ローズヒップ小隊長が補足するように言う。

 「オレンジペコ、ラミン、ドアーズ辺りが指揮官候補かな?」

 ヴァニラ先輩がとんでもなく恐ろしいことを言う。

 「その組み合わせだと、隊長、オレンジペコ。参謀、ラミン。副隊長、ドアーズ。って感じの編成かな?」

 サクラ先輩が続いて、あまりにも想像したくない事を言う。

 今年の戦車道は人材が豊作で、戦車道には人財となるだろう。とも言われている。

 大洗の人々は説明不要であるとして、他校も指揮官層はダージリン様を筆頭に、黒森峰の西住まほさん、プラウダのカチューシャさん、サンダースのケイさん等が揃っており。

 砲手も参謀もこなすアッサム先輩、名砲手と雑誌で取り上げられるサンダースのナオミさん、プラウダのノンナさんが居る。

 これを相手に何処かは判らないが練習試合で戦う事になるとは、胃薬が急に欲しくなった。それも、強いのを大量に。

 「まずは目の前の事に集中するべきよ。ラミン」

 桐花が私に言う。

 付き合いが長いから私の思考を読んだのだろう。

 「大洗が一番大変なんだけどね。あのゲリラ戦特化集団相手に全軍の長い耳と良い目になるんだから」

 策は考えてある。戦場の霧がどうなるかによる部分もあるが。

 そう考えながら、周囲を見れば全員が雑談に突入していた。

 私達コメット組もクルセイダー小隊人たちと上手く交流している。同じ、巡航戦車乗りと言う心理もあるだろうが、全力で殴りあったから生まれる友情もあるだろう。

 ―交流をさらに深くするのも良いだろう―

 私はワザとらしく、腕時計に視線を落とす。

 視線を戻す時に桐花と視線が交わる。

 彼女は私の意図を理解したらしく、親指を一瞬立てる。

 「そろそろ良い時間です。夕食を皆で食べませんか」

 「ラミン、まさか負けたからって、こっちが奢るつもり?」

 桐花が予定通りのセリフを口にする。

 もう一人、私の絵図を理解した人物が、私に合図を送ってきた。私は周囲を見つつ、彼女なら解るだろう返事を返した。

 「だって、撃破されたし・・・」

 「それならこっちは、私を含めて3両撃破されている。こっちが奢るのが筋だろう」

 クランベリー先輩が予想通りのセリフを言ってくれる。

 私は彼女に視線だけで一礼すした。

 「では、割り勘と言う事で」

 全員がそれで良いと同意した。

 此処までは予定通り。

 「それで、どこのお店をラミンは選びますの?」

 ローズヒップ小隊長が尋ねる。

 「この時間だと。ダイニング・サンダーランドを考えていました。丁度、ディナー・ビュッフェの時間が近いですし」

 私は英国製飛行艇の名前を冠した。ダイニング・レストランの名前を上げる。

 自分の舌で確かめたので、良い料理を出せる店だと自信を持って人を誘える。

 「おいおい。あそこのディナー・ビュッフェは一人、2720円だ。割り勘も何も無いじゃないか」

 クランベリー先輩が突っ込みをいれる。

 「おまけに。我が学園の生徒は220円引き」

 行った事があるらしいヴァニラ先輩が付け足す。

 「あ、そうでしたね。うっかりしていました」

 私は赤面する演技をして、下を向く。室内が笑いに包まれる。

 結果的に全員でそこに行くことになった。

 部屋を出る際に桐花が私に近寄り。

 「相変わらず。心を許させるのが上手いことで」

 と、耳打ちする。

 私は軽く肩を竦め。

 「天性の人誑しが親族に居れば、嫌でも身に付くわよ。最も、アレは私に方法を懇切丁寧に教えてくれたけど」

 苦笑いを漏らすしかなかった。

 




紅白戦も終了し反省会も終わりました。
次の課題は、他の部隊との連携になりそうです。


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海と陸での密談

今回は少し、黒い話。
また、文科省の辻局長が出てきます。


 『遅く起きた朝は、まだベットの中で半分眠りたい』と、昔の歌手が歌っていた記憶がラミンにはある。最も、彼女の唄は幼い頃に両親が良く聞いていたので、耳に残っている。そのおかげで、カラオケのレパートリーが増えている。

 クルセイダー小隊との乱戦の翌日、丁度の休日であり。コメット巡航戦車は修理と整備中であるため、戦車道はお休みとなり、丁度良い息抜きの日になった。

 頼もしい乗員は、「昼まで寝てる」と宣言した桐花と、夜遅くまで何らかの機械と格闘していた菖蒲はまだ寝ているだろうが。共同生活の生活面の主導権を握りつつある舞耶に何れたたき起こされるだろう。

 私はそう予想しながら共用スペースに入ると、連絡事項を留めるコルクボードに「教会に行っています」と早苗の書置きがあった。

 「本当にキリスト教徒だったんだ」

 自分でも失礼な事を口走りながら、自分も走り書きで「車長会議に行っています」と嘘ではないが本当でもない事を書いて張り付ける。

 外行きの私服に変な所が無いか確認して、半地下のガレージに入る。そこには、古いタイプの赤いミニ・クーパーがひっそりと彼女を待っていた。入学祝に貰った姉たちのお古だが、兄と姉達に弄り尽くされており、今の車両にも負けないパワーを持っている。

 乗り込んで、エンジンを始動する。暫く、エンジンを暖めながら、外を見る。『霧の倫敦』の街並みと、横浜の街並みを混ぜたこの学園艦の朝方は、霧に包まれていた。

 「そんな所まで再現しなくてもいいのに」

 エンジンが十分に暖まり、ギアをローに入れフォグランプを付けて、ミニを駐車場から発信させた。目指すは、グラブハウス『モダン・タイム』そこに相手がモーニング・ティの用意をして待っているはずだった。

 

 クラブハウス『モダン・タイム』の駐車場にミニを停めて入店する。先客が待っている事を告げて、店員にそこまで案内してもらう。私をモーニング・ティに誘った相手が私を待っていた。

 「おはようございます。そして、ご招待いただきましてありがとうございます。ドアーズさん」

 クロムウェル小隊を率いるドアーズが私を招いた相手だった。彼女は、ティーカップを音も無く置くと、良く聞こえる澄んだアルトの声を発した。

 「まずは、お座りになってください。ラミンさん。貴女とは一度、ゆっくり話したかったものですので、今回の招待に答えてくださりありがとうございます」

 ドアーズは笑みを浮かべて言う。私はそれに答えて座り、彼女と対面する。何度か話したことのある相手だが、印象的には油断ならない印象を感じている。いや、聖グロリアーナ女学院の生徒は概ね、外向きのペルソナ被りが上手い。それが英国的な気質を強く受け継ぎ、女子高と言うある種の閉鎖空間で作られたのかは判断を保留したい。

―ローズヒップ小隊長と言う例外が存在しているのだから―

 「昨日は、クルセイダー小隊相手に大立ち回りを演じたと聞いております」

 私が最初の一口を飲むなり、切り込んできた。

 「いえ。原隊に胸を貸して頂いただけです。そちらは、マチルダⅡとブラックプリンス相手に勇戦なされたとか」

 こちらも軽く切り返す。本題はそこではない筈だからだ。

 「ヴィレル・ボガージュの再現のお手伝いをしたまですわ」

 切り返しは効いた様だ。

 「さて、枕はこれくらいにして。本題に入りませんか?」

 これ以上の話の枕は、結果的に嫌味の応酬になりそうだと感じたラミンは、ドアーズに言う。ドアーズも同様の結論にたどり着いたようで本題にはいる姿勢になった。

 「大洗との練習試合についてです。こちらは、貴女のコメット、我がクロムウェル、ブラックプリンスを含むチャーチルと言う陣容になるのはご存じのはずです」

 「えぇ、存じています。我がコメットは先行偵察と遊撃が任務。クロムウェル小隊は、主力としてチャーチルと共同進撃ですか?」

 聖グロリアーナ女学院戦車道部隊のドクトリンに従えばそうなる。隊伍を組み、隊列を崩さず浸透強襲。

 「えぇ、ノルマンディー以前に連合軍が考えていた戦闘の様に」

 第二次世界大戦で連合軍は欧州上陸後は、ボカージュや小河川の一本一本を防衛線として組織的に頑強な抵抗を行うドイツ軍を、血みどろのクロースコンバットをしながら潰していくと言う計画を立てていた。その為、ノルマンディー以降の補給は失敗と判定されている。物資の90%はフネか海岸に置かれたままで、残りの10%で戦争をしていた。最も、ドーヴァ海峡にパイプラインを引いて燃料補給問題の解決を図ると言う常識を超える物量と技術力を持った国家が連合国側に居たから、補給の問題が大問題にならなかったのであるが。

 思考が横道にはいってしまった。練習試合で予定されているクロムウェル小隊の運用は、クロムウェル巡航戦車の利点を消している。足の速さを縛られては巡航戦車の意味がなくなる。

 「伝統的ですが。非効率的な運用ですね」

 私は内心で疑問を浮かべていた。あのダージリン様がその様な運用をするのだろうか?これは、ドアーズに対するダージリン様の課題と考えるべきか?

 「ですので、次回の指揮官会議で提案したい事がありまして」

 ドアーズが意地の悪そうな笑みを浮かべて私に言う。彼女も自分に対する課題と考えていたらしい。

 私達二人は、ある種の計画を昼近くまで協議しあう事になった。

 

 海の上で少女達が今後について話し合っている頃。陸では大人達もある種の密談を交わしていた。

 「そうですか。大洗の廃校は早まりますか」

 陸上自衛隊の制服を着た、高野善行によく似た一等陸佐が。文部科学省学園艦教育局局長である辻廉太に言う。

 「行政改革特命大臣と文部科学大臣の双方が合意に達したのでね。政治の決定だよ」

 辻は目の前の制服の男にそう答える。彼は局長まで登りつめたキャリア官僚であり、それまでに多くの同期や先輩を踏み台にしてきた。

 それ故にこの永田町での処世術に長けており、また官僚としての能力も高かった。

 「君達が調査してくれた各学園艦の戦車道部隊の実情はとても重要な情報になったよ」

 辻は、高岡と名乗っている。防衛省情報本部から来たと言う事になっている、一等陸佐を労う様に言う。

 「しかし、聖グロリアーナ、プラウダ、知波単とのエキシビションの直後に伝えるとは、今後の展開を貴方は予想していますな」

 高岡と名乗っている一佐は、辻を試す様に言う。

 センセーショナルな事情を抱え、奇跡と言われる優勝をした高校にまたセンセーショナルな問題が発生する事になる。それから展開する状況を、この永田町の鵺の一匹が理解していない筈がなないと読んでの質問でもあった。

 「戦車道による状況の打破」

 辻は静かに言う。

 「それだけですか?」

 「いや、今度は戦車道連盟を巻き込むだろう。西住の家元も動くと予想できる」

 「それに、ウチから出向している強化委員も、でしょうな」

 高岡はそこまで言うと、制服から煙草を取り出す。この場所は嫌煙の風潮の中でもタバコが吸える数少ない場所である。

 「しかし、見事なタイミングだ。プロリーグの開催、世界大会の誘致、政府の戦車道振興の方針。それを円滑にするには、世論を戦車道に釘付けにする必要がある。人は、他人の苦労や悲劇を物語として消費したがるものですからね」

 紫煙と共に吐き出された言葉に辻は憮然とした声で答える。

 「何を言っているだ?私は職務に忠実なだけだ」

 「己の首がかかっていても?」

 高岡は紫煙を吐き出し続ける。

 「大臣達は、どう転んでも次の選挙で勝てればよい。進退問題になるのは貴方だ。あぁ、そう言えば、来年度から戦車道の新興を目的とし。また、戦車道にブラックマネーの流入を防ぐ目的で『日本戦車道振興協会』が設立されますな。戦車道を新たに始める学園艦の支援から、戦車道振興籤の管理までを行う団体だ。局長クラスを経験した理事が、一人はいないと大変でしょう」

 どちらに転んでも貴方は安泰だ。ど高岡が付け加えて言うと、辻は表情を崩して答える。

 「私はただの官僚だよ。官僚は行政を円滑に行う為に存在する」

 そして、薄笑いを浮かべる。それは、永田町に潜む鵺に相応しい笑みであった。

 

 今回の任務は非公式なものであった。防衛省は学園艦の実態調査と言う正規の任務の裏で、今回の文科省の行動の情報支援を始めとする各種支援は、非公式に行われているものである。故に、高野善行二等陸佐はこの期間中、高岡征二郎一等陸佐と言う人物になる事になっている。

 善行はこの人生と言うゲームで、堅実な大勝負をする官僚に気になる事を質問する事にした。この場所に高岡一佐が居たと言うアリバイを作る為の時間つぶしでもある。

 「で、戦車道で廃校回避を目指す大洗女子と何処を戦わせるつもりですか?」

 「大学選抜チームだ。あそは島田流の後継者が指揮を執っている。西住流対島田流、センセーショナルな事になると思うが」

 「では、ルールは世界大会用の殲滅戦」

 「無論だ」

 30対8で殲滅戦か。まぁ、情報を事前にリークすれば、短期転校と言う手段で増援が来るだろう。

 善行は、防衛省は大洗側の動きを無視に近い形で黙認すると言う上司の発言を思い出していた。

 上司の浅岡一佐は、「女の子たちが力を合わせて障害を乗り越えるのは絵になるじゃないか」等と言っていたが。義行も同意できる事がらであった。

 「そう言えば、北海道で文科省が主導でレストアしているアレは?」

 「レストアが間に合えば投入する」

 あぁ、この人物はこの機会を最大限に利用するつもりらしい。確かに、アレの砲撃は見たい。

 そして、アレをレストアしてさらに改造を加える技術力を見せつけることもできる。

 どう転んでも、『戦車道に理解のある官僚』と言う印象は確保できる。

 故に、貴方は最後まで滑稽な悪役を演じるのでしょう。その演技、見せていただきますよ。

 善行は内心でそう思うと、紫煙を吐き出した。

 




今回は、密談のお話。
劇場版への布石と、自分なりに辻局長を官僚として書いてみました。
どうも、官僚機構とかが好きで、そこで働く人物を悪く書けない悪癖が自分にあるような気が…

局長まで登り詰めた人物が、逃げ道を用意していない訳がないと思うのです。


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会議で踊る。

聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の戦術会議。

大洗を相手に戦う事になる練習試合様に考えられえた。
ラミンとドアーズの案とは?


 私がドアーズと『モダン・タイム』において、密談と言うと聞こえがいいが。

 実際の所、これから、『紅茶の園』で開催される。大洗女子との練習試合に向けた参加車両の車長と、戦車道部の首脳が参加する戦術会議に向けた根回しの様なものであった。

 今回の戦術会議は大いに荒れそうだった。我が、聖グロリアーナ女学院に一度、練習試合で敗北したとはいえ、その後は常勝不敗。

 『優勝しなければ廃校』と言う状況であったが、戦車道経験者が西住流の家元の娘とは言え。それ以外は初めて経験する素人集団を黒森峰、サンダース、プラウダと強豪校相手に戦えるまでになった集団相手に、歴戦の先輩の小隊以外は一年生によって編成された新規部隊。

 他校相手の実戦経験は無く、部隊としての紅白戦も数える程度。みな少なからず不安を抱いているのは確かだろう。

 

 ―そんな中で、「アレ」を提案する辺り。私もドアーズも大概だな―

 

 私は自分と共犯を評価しながら、その共犯者に視線を向ける。

 ドアーズはそれに気がつき、不敵に笑みを浮かべた。私も自身の表情筋が笑顔に表情を作っている事を自覚した。

 

 ラミンとドアーズが笑っている。それは、他の車長達を驚かせた。

 クロムウェル小隊練成時から『策士』と呼ばれていたドアーズと、コメット巡航戦車の名前よろしく、彗星のように現れ、瞬く間に自分とその戦車の立場を聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の中で決定づけたラミン。それを行うまでに要した時間の少なさや、選別方法の容赦のなさから『ダージリンのスターリング』なるあだ名が陰で呼ばれつつある。その二名が、会議開始前に示し合わせた様に笑っているのを他の参加者は背筋に冷たい物が流れるのを感じていた。

 

 ―この二人。何を企んでいるの?―

 

 参加者の多くはそう感じ、早く首脳陣が来ることを祈りながら。表向きは穏やかなお茶会を演じていた。

 

 「皆さま、お揃いですね。それでは、大洗との練習試合に向けた戦術会議を始めます」

 ダージリン様を先頭にノーブルシスターズが入室、着席と同時に会議は開始された。

 最初に大洗側の最新情報が、GI6こと情報処理学部第6課からもたらされた情報を元に首脳部が分析を加えた予想戦力が。各車長、個人個人に配布されたタブレットに表示された。

 現状、大洗に新型車両無し。しかし、乗員の練度は上昇しているものであると判断し、現状までに収集分析を行った各戦車のデータを上方修正する。

 また、決勝戦終了後から現在までの練成によって『西住みほ流(仮)』が大洗戦車道部隊に理解、ドクトリン化されたものと考えられる。

 「つまり、以前より確実に強くなっており、それはチームとしても、各戦車の練度もと言う事です」

 データ主義であり、参謀役のアッサム先輩の言葉で大洗の戦力分析は終わった。

 

 「さて、この現状で我々がとる戦術について本日は討議する訳ですが。ドアーズとラミンは何か策がある様ね。披露していただけるかしら」

 こちら側の戦術会議に移行した途端に、ダージリン様が言う。見抜かれていたか。

 いや、二人そろって悪戯をする子供の様に笑っていれば、誰にでも解るか。

 私は視線でドアーズを促す。私は今回の企みでは脇役であるからだ。

 「我々、クロムウェル小隊は当初の計画では本部小隊と行動を共にする予定でしたが」

 ドアーズがそこまで言うと、戦場を想定したタブレット上のマップを操作し、新しい戦況を作り出す。それは即時送信され、全員が観る事になる。

 「ラミンのコメットと同時に移動を開始。コメットが敵主力を発見次第、その前方へ出ます」

 タブレット上のマップでは、大洗の主力の前に隊伍を組んだクロムウェル小隊が展開する。

 「我々は隊列を維持しつつ、後退戦闘を行い。本部小隊と合流を急ぎます。コメットはこの時点でビッグゲームを開始」

 「その後は本部小隊と連携しての包囲殲滅。つまり、あなた方は、カンネー、或いはタンネンベルクの再現を狙っているのね」

 ドアーズが最後まで言わせずにダージリン様が後を引き継いだ。見事に意図を読まれていた。

 「それは、魔性の戦術です。リスクが高すぎます」

 アッサム先輩が反対意見を述べる。

 確かに歴史上、カンネーの再現を狙って破滅した軍人は、それこそ星の数ほど居る。しかし、私とドアーズは対大洗戦ではある程度まで成功する可能性を見出していた。

 「大洗の指揮統制の欠点を突けば、成功する可能性は高いかと思われます」

 私はダージリン様を正面から見据えて言う。

 大洗の西住みほ、そして彼女が率いる戦車道部隊を最もよく見てきた彼女相手に、映像データでしか大洗を知らない私がどこまで迫れるのか。それを試したくなった。

 「大洗の戦車道部隊は、プラウダ、黒森峰戦を等から解る様に各車長の自由裁量が非常に大きいと言えます。また、指揮官たる西住みほ女史は強権で指揮統制を行う人物でないと、私は考えます。また、大洗戦車道部人員の多くは、我々との以前の練習試合の件がありますから。勝機を感じれば食い付いてくると思われます」

 無論、大洗もプラウダ戦から学習しているだろうから、食い付いてこない可能性がある。

 しかし、彼女らは全国大会優勝と言う栄光を手に入れ、廃校を回避した。そろそろ、緊張の糸が切れてボロを出す可能性は高い。

 それに、自信は容易に慢心に変化する。

 「コメットが相手の耳と牙を傷つけ、その中で遭遇したクロムウェル巡航戦車の小隊が徐々に後退速度を速めながら後退戦闘に入れば、相手としては罠だとしても食い付くと思われます。今回のルールは殲滅戦ですので、どちらにしても積極的な攻撃をする必要があります」

 私の後をドアーズが継いだ。

 付き合った時間は短いが、なかなか息が合う相手だと思う。

 友人にするにはもう少し話す必要がある。私達はまだ戦車道の立場でしか会話をしていない。

 「ラミン、ドアーズ」

 「「はい」」

 私達二人は、ダージリン様が命令をする時の声で名を呼ばれて、同時に声を上げる。

 やはり、大洗の隊長の指揮傾向まで踏み込んだのは間違いだったか。

 「次回の戦術会議までに、あなた方のプランをもう少し洗練させなさい。それと、プランが失敗した時の計画も同時に立案する事。今回の練習試合は貴女方の作戦立案能力を試す機会でもあります。励みなさい」

 「「了解いたしました」」

 声を合わせて答える。

 ダージリン様のテストはより難しくなっていく様だ。

 それだけ、私達に期待を持ってくださっていると言う事に嬉しさを感じると共に、それに答えなければと言う義務感や様々な感情が内心に浮かんでくるのを私は感じていた。

 




来年以降すら見据えている。
ダージリン様の後輩への指導。
それに答えようとする後輩たちの努力。

それが報われるかは、本人の努力と時の運。
しかし、運を引き寄せるには努力が必要である。


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GI6と邂逅

 ダージリンより作戦の練り直しと代替計画の立案を命じられたラミンは。
 大洗の更なる情報を求めてGi6と接触を決意する。


 ダージリン様から、代替計画を含めた計画の練り直しを命じられた私は、菖蒲経由でGI6こと情報処理学部第6課とコンタクトを取った。

 実は以前からGI6とは連絡をとっていたが。直接、顔を合わせるタイプの接触では無かった。ある特定の場所に隠された文書やUSBメモリでやり取りをしていた。

 この様な方法をデッド・ドロップと言う方法だと兄に教えられた。

 「着いたわよ。私は帰るけど、迎え要る?」

 菖蒲の言葉に首を左右に振り、迎えは不要だと告げる。

 「じゃぁ。行ってくる。色々ありがとう。このお礼は後日精神的に」

 「返す気ないでしょ。その台詞じゃ」

 ブツブツと文句を言いながら去る菖蒲を見送って。

 私はコーヒー・ハウス『Clook and dogger(外套と短剣)』と言う如何にもな名前の店に入店する。

 店員に菖蒲から教えられた合言葉を告げる。

 合言葉を告げられた店員は無言で私を席まで誘導する。

 

 ―何事も芝居じみてる―

 

 意図は解るのが少し自己嫌悪につながる。

 あの馬鹿兄貴が諜報のイロハをさりげなく教えてくれたのは、学園生活で少し役に立ったが、こう言う場面では展開が予想できるのが恨めしい。

 相手の掌でわざと踊るのも楽しいことだと、最近気がついた。

 常に優位に立つ立場は、それはそれで良いのだが、円滑な学園生活を送りたい自分には精神的な負担があると思う。

 最も、最近それは無理じゃないかと感じているけど。

 自分の今後の学園生活計画について考えていたら、目的の部屋に通された。

 中には三名の女子が座って私を待っている。値踏みするような視線を感じた。

 「ようこそ、ラミン。こうして直接会うのは初めてですわね。私はフレミング。右隣りがル・カレ、左隣がフォーサイスですわ」

 私は軽く会釈をすると、席に座る。

 見事にスパイ小説の大家な人たちの名前を名乗っている方々揃っている訳ですが。

 先輩方で、本名も知っているのだけど。

 私がラミンである様にこの学園艦の上では彼女たちは名乗った名前で生活している。

 さて、いきなり本題に入った方が良さそうだ。英国のスパイ小説の様な陰鬱な枕に付き合う必要はないだろう。

 「さて、貴女方は私にどれ程の情報を開示してよいと、GI6のC(コントロール)から言われていますか?C(コントロール)でなければ、A(アッサム)先輩から」

 向こう側が警戒する目つきになる。

 現在、GI6を束ねているのはアッサム先輩と言う事は機密に属するのだろう。

 種明かしをしないと、目的を果たせずに放り出されるか。

 「カウンターインテリジェンス。私の兄を調べた様ですね。本業相手に無茶をなされたようですね。その兄に事前情報で詳しい事を教えて貰いました」

 本職の情報関係者を調べれば、所属機関がカウンターインテリジェンスをするのは当然と言える。その為に私は無駄にGI6の内情に詳しくなった。

 私は”まだ持ちカードはありますよ“と言うブラフを演じつつ、向こうの出方を待った。

 「情報は種類により開示できるものが違います。先ず貴方が求める情報を言って下さい」

 まぁ、そうだろうと思ったが。

 向こうも私が知りたい情報をある程度は掴んでいる筈である。しかし、これはゲームなので、ルールに通りに要望を出す。

 「大洗、戦車道履修者の性格的傾向の分析。それと、その情報を元にした各車両ごとの行動傾向予測。対価が必要でしたらバーターで情報をいくつか提供できます」

 さらに持ちカードの中身を仄めかす。

 『門前の小僧習わぬ経を読む』であるが、兄や姉は私に交渉術等をさりげなく身に付けさせてくれていたことに感謝する。

 「その情報は提供できます。しかし、ラミンさん。貴方は此方向きだと思いますよ」

 フレミング先輩がフォーサイス先輩に合図を送りながら私に言う。

 「リクルートならお断りします。御褒めの言葉なら喜んで受け取ります」

 私は笑顔で答える。正直これ以上、タスクを増やすと確実にオーバーフローするのを確信していたからだ。

 「もちろん褒め言葉ですわ。こちらがデータになります。ご活用ください」

 フレミング先輩は微笑みながらUSBメモリを差し出す。私はそれを受け取り眺める。

 「データ、ダウンロードは一回限りでしたっけ?そして、複製不可能。ダウンロード終了後にはUSB側のデータは抹消される」

 「えぇ。大体は合っています。なので、慎重にお取り扱い頂けると幸いです」

 私はUSBメモリをしまいながら、フレミング先輩の言葉を記憶する。

 

 ―大体は合ってるね―

 

 このUSBは今回の作戦立案用に購入したノートパソコンに挿そう。

 データ以外に何が入っているか判った物じゃない。

 「それでは失礼いたします。何れお世話になるかと思いますが、その時もよろしくお願いいたします」

 私は礼を述べると、席を立ち歩き出す。

 「また会える日を楽しみにしています。ご案内は必要ですか」

 「来た時に覚えましたので、大丈夫です。ご配慮、感謝いたします」

 再度礼を述べて、出口へと向かう。

 事前に店の構造は把握していたから、案内は、最初から不要だった。

 

 

 「ただいまー」

 共同生活のアパートに帰った時には、私の精神は摩耗してボロボロだった。

 「あ、おかえりなさい」

 舞耶が出迎えてくれたので、共有スペースのソファーに倒れ込みながらお願いをする。

 「紅茶淹れて、ミルクと砂糖マシマシで」

 「はいはい。了解ですよ」

 舞耶の軽い返事を聞きながら、私は淑女にあるまじき欠伸をもらす。本当に疲れている。ここ数日は、頭脳労働と、無駄に神経を擦り減らす事が続いた為に、本当に消耗している。

 「次の作戦会議終わったら。どっかに遊びに行こう」

 「良いですね。何処に行きます?」

 舞耶が乗り気で私に聞く。乗員全員で一泊旅行とか面白いかもしれない。

 「海があって、食べ物がおいしい所」

 三浦半島か湘南海岸辺りを念頭に入れて答えた。しかし、舞耶は予想外の返答を私に返した。

 「いっそ、大洗に行きます?観光地ですし、電車で行き帰りができますよ」

 予想外だったが、それは面白そうだ。

 「作戦会議と練習を終えて。コメットがオーバーホールに入ったら行こう」

 私はそう言うと、各種手配を舞耶に任せて。彼女の淹れたミルクティに口をつけた。

 




出したかったGI6をやっと出せた。

新たな情報を入手したラミンは、どのような計画を立てるのか?
そして、大洗に行けるのだろうか?

次回もベストを尽くして頑張りますので、よろしくお願いいたします。


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今を頑張る人、これからを見つめる人

 GI6と接触して、大洗の情報を入手したラミンは作戦の立案にかかる。
 それらを見つめるダージリンは来年度以降に向けて、思考を巡らすのであった。


 GI6から入手した情報と、その他いろいろな手段で入手した大洗の戦車道部隊の情報を総合した結果。

 

 ―西住みほの作戦計画は破綻している場合が多い―

 

 と言う結論にたどり着いた。

いや、作戦計画が上手くいく事など殆ど無いのだが―相手がいるので―これほどまでに、見事な破綻は珍しい。

 初期の頃なら、素人集団を指揮するのであり得る事態と思えるが。

 後半、姉妹での戦術の読み合いと言う特異な黒森峰戦を例外として。作戦が計画通りのモノになった例は少ない。

 

 では、何故?大洗は優勝できたのか?

 

 私の推測では、西住みほのリカバリー能力の高さと、各車に与えられた自由裁量の高さであると推測できる。

 西住みほの性格的傾向からも強権で部隊を統制するタイプの指揮官ではない。その指揮スタイルが裏目に出たのが対プラウダ戦序盤の敵の罠に突撃していった瞬間だろう。

 

 無論、車長の独自判断で動くのは間違いではない。

 獲得目的が明確であるならば、独断専行を行うのは当然と言える。ソ連軍式のガチガチに固まった指揮系統で、プロセスを消化する様な指揮系統でも問題は無いが。

 西側の軍隊―東側も多少は―は独断専行をある程度許容している。階級と部隊指揮官はその為に居る。趣旨の名言もある。

 大洗は部隊規模が小さいと言う問題がある以上は、各車に自由裁量権を与え、全体的な作戦計画を修正する方が、運用はしやすいだろう。

 それであっても、西住みほの極めて短時間で作戦計画を修正する能力は、希少な才能と評価できる。

 

 では、その大洗相手にどう戦うか?私とドアーズは、カンネー、或いはタンネンベルクの再現を狙って包囲殲滅を計画した。

 こちらの方は、ドアーズと連絡を取りながら計画の再検討を行っている。

 

 では、代替計画はどうするか?それが私を悩ませている事だった。

 聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の伝統に従って浸透強襲。それを基本として、大洗の弱点狙う。そこまでは構想が固まっていた。

 「コメットに求められる任務は、後方攪乱と重要目標の撃破…」

 そう呟いて、大洗の戦車で重要目標を考える。

 まずは、Ⅳ号戦車これは撃破が難しい。ならば、ポルシェ・ティーガーはどうだろうか?これはなんとも撃破したい。コメットの主砲と砲弾なら可能だろう。

 あとは、駆逐戦車に突撃砲…結構多い。

 「コメットのもう一つの任務。長い耳と…!」

 私はそこまで呟くと脳内で代替計画のプランに重要なピースがハマるのを感じた。

 いける。これなら、咄嗟に対処可能だ。

 私は今回の練習試合様に格安で購入したノートパソコンを起動させると、鼻歌を歌いながら作戦計画書の製作をはじめた。

 

 「奇襲、強襲…乱戦、分断…情報量の飽和…各個撃破…」

 作戦計画は予想より早く仕上がった。今は、それを読み返して穴が無いか確認する。

 この作戦計画は味方の損耗を最初から想定している計画である。無論、私達のコメットも損耗の駒の一つに含まれている。

 その損耗をダージリン様は許容してくれるだろうか?

 確実に数両が撃破される事を念頭に置いた計画など、士官学校等ではマイナス評価が付く事は間違いない。

 戦闘の結果の被害ではなく、作戦の都合で部隊を損耗させる指揮官は、よほど外道かモラルブレイクを起こした組織ぐらいだろう。

 しかし、私がやるのは戦車道だ。

 ある程度は観客(オーディエンス)を喜ばせる事も必要になる事も考慮すべきではないだろうか?

 ならば、接戦を演じて勝つのが最上かもしれない。

 

 ―なんで、練習試合でこんなこと考えているんだろう?―

 

 私は自分の脳みそが疲れているのを感じて、ノートパソコンの電源を落として布団に潜り込んだ。

 

 

 ―数日後、聖グロリアーナ女学院 クラブハウス『紅茶の園』―

 

 「以上で、作戦会議を終了いたします。以降の練習はこの場で決定したことを実行に移す練習になります。各員、励みなさい。解散」

 練習試合参加の車長陣が退出する中。

 ダージリンは、残ったオレンジペコに追加の紅茶を注がせながら口を開いた。

 「こんな格言を知ってる?『将たるものは、怯弱の時あるべし。ただに勇をたのむべからず』」

 「曹操ですか?」

 アッサムが答える。

 「そうよ。今回の作戦会議で様々なプランが提出されたわ。基本的に我が校の伝統を守っているけど、消極的なプランが多かったのも事実。これは、怯弱の時と解釈すべきかしら?」

 ダージリンは提出された作戦計画書の山を軽く叩きながら言う。

 「恐らくは皆、大洗の幻影に怯えているんでしょうけど。『指揮官は心を自由にしておかなければならない。偏見、先入観、固定概念を排除することである』と言う名言にもある様に、偏見、先入観、固定概念を排除した作戦計画は、見込んだ数名が提出したものだけ。ペコ、貴女の計画もその中に入っていてよ」

 紅茶を注ぎ終わり。ティーポットを机に置いたオレンジペコは軽く頭を下げる。

 「ありがとうございます。先ほどの名言は、フェルディナン・フォッシュですか?」

 「えぇ、そうよ」

 そう答えたダージリンは、アッサムの方へと向き直る。

 「GI6に接触した人数と、最も、情報を欲していたのは?」

 Gi6を束ねるアッサムは全てを記憶しているのだろう。流れるように答える。

 「接触は4名、最も情報を求めたのはラミンです。彼女、なかなかの交渉上手です。また、カウンターインテリジェンスをくらいました」

 その発言にダージリンは、目を細めて言う。

 「意外に彼女、多彩ね。それに見事に『勇敢な臆病者』の資質を持っているわね」

 ダージリンはそういうと、ティーカップを再度持ち上げ。

 「楽しみねペコ。貴方の周りを固める人物が成長していくのを見るのは、貴女も努力しなければ抜かれるかもしれないわよ」

 そう言って、愉悦を浮かべた瞳と、妖艶な笑みを浮かべるのであった。

 




作戦計画は後のお楽しみに。

計画が決まればそれに沿って訓練をしなければなりません。
果たして、ラミン一同は大洗に遊びにいけるのだろうか?

次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いいたします。


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三歩目 休息、大洗への小旅行

今回、ラミン達が大洗に向かいます。



「皆さま。大洗戦の練習を終了します」

例列した参集試合参加メンバーを前に、ダージリン様は告げ。今度の予定化に関しては、オレンジペコさんに後を任せた。

「車両は土日そして、月曜日の授業開始まで徹底的なオーバーホールが行われる。来週から試合開始日までは、慣らし運転と調整の確認のために砲を数回撃ちます。この後、全員で最終点検を行います。それなので、休日に怪我などしないように」

そこで挨拶をして解散。

 

 

学園艦が横浜に入港している間にコメットの乗員皆で家に急いで帰り。

前日までに用意した旅支度を家から引っ張り出して、学園艦を降りる。

横浜駅から、上野、水戸を経由して大洗に向かう。

 

旅の手はずを整えた舞耶がチケットを出しながら予定を説明する。

「大洗に宿を取っておきました。今夜中にチェックインして、明日が大洗観光、明後日は迅速に午前中に帰ります」

舞耶が取り出した色々と書き込まれた地図を回し読みする。

「大体の所は行けるわね」

「広いから全部回るのは大変そうだけど、このルートなら殆ど回れるわね」

「そう言えば、今日の夕飯はどうするの?」

どれどれ私も観てみよう。私以外は全員観たし、私は練習試合について悩んでいたので、舞耶に旅行プランニングを任せたので、どういうルートから大洗を回るかもわからない。

「私も見せて・・・」

私も予定表を見て、泊まる宿に露天風呂がある事に気分をよくした。

「しかし、シーズンオフで良かったです。安くすみました」

 

最近、共用資金と旅行用に皆で貯金した金銭の管理は舞耶が行っている。資金運用が一番だからだろう。私は使う時に使いずぎてると言われ、菖蒲は謎の機械になる、桐花は衝動買が多い。 

 

―早苗はどうだろうか?―

 

同じ戦車の要員の事は良く知ったつもりだったが、結構取りこぼしがある。しかし、大洗練習戦までにチームとしては纏まれた。

まぁ、同居生活はこれからも続くのだから、ゆっくり知って行けばいい。

「しかし、大洗は意外に近いね。横浜から約3時間で来れる」

「まぁ、首都圏の観光地の一つだから」

「これは水戸までよね?」

桐花がルートを確認して言う。そうであると早苗が鉄道路線図を片手に頷く。

明日、散策する予定の大洗の地図を見ながら、お菓子を摘み。追加で行くところがあるか、順番を組み替えるかを話し合う。

丁度良い所で、休みが入り大洗を直接見る事ができるのだ。

これは運がいいと思っておこう。

まぁ、電車の旅は乗り間違えも乗り越えて無事に乗り換えも成功して大洗駅に着いた。

 

 

「着いたー」

宿にたどり着き部屋に案内された私達は、お決まりの様に畳の床に倒れ込む。

 畳が新しくて、良い匂いがする。

 荷物を置けるスペースに置き、夕食の前に露天風呂に行ける時間があるか確認して、十分余裕があるので。

 お風呂セットを持って露天風呂へむかった。

 

 「あぁ~疲れが取れる」

 私が湯船での見る段階で桐花が入ってきた。他はお客さんが居ないのでまるで貸し切りだ。

 「相変わらず。気が抜けるとだらしない」

 幼馴染にそう言う風にいわれてしまう。何時もきっちりとしていられる訳はなく、どうしてもだらしない部分はある。

 私のそれによく出くわすのが桐花と言うだけなんだが。

 「まぁ、今日は休んで。明日は大洗観光のついでに、大洗女学園も覗いていきましょう。学園艦が大洗に入港してるいのも確認できたし。学園艦の戦車カツの店に行く途中で寄れそうだし」

 「寄るって、どう大洗女子に入るの?」

 桐花は何か気がついたようだが、私の口から言わせたいらしい。

 「私達はまだ、高校生になって半年しか高校生はしてない。今回の旅行は私服で来ているから、大洗女子に通学しようと考えている中学生にギリギリ見えるでしょう」

 「入れなかったら諦めて、撤収?」

 「そう。入れてくれるかな?」

 「さぁ、私達の運次第じゃない?」

 桐花の答えに私は体を起こして。

 「神社にお祈りしてから行く?」

 と答えるのだった。。

 




息抜きに大洗に出発。
学園艦などの話の為にに少し調整の為に短い話になりました。

次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いいたします。


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ぶらり、大洗探索

お久しぶりです。
何とか、書けるまで体力が回復しました。



 翌日、私は起床すると、朝飯・朝風呂を堪能し舞耶に

 「定年退職した社会人のオジサンですか?」

 とあきれられた。

 

 -言い返せないのが辛いー

 

 ともあれ、私服に着替えて最初の目的地「大洗磯前神社」に向かう。

 目的は、対大洗必勝を祈願しに行くのと、大洗に潜入できることを祈りに行くのだ。

 と、言うのは建前で商店の開店時間までの行けそうな所を回る計画である。

 「そういえば早苗、あなた英国国教会の信徒だけど大丈夫?」

 神社に向かう道中、菖蒲が早苗に尋ねる。それはからかう意図はなく真剣な顔と声で訪ねていた。信仰的に参拝して大丈夫?と暗に尋ねている。

 菖蒲のこういう部分は好ましい、本人は機械の神―デウス・エクス・マキナ―を信仰していると言うくせに他人の信仰をちゃんと尊重できる。しかし、今聞くのはタイミング的は遅いような気がする。行く前に聞く事だと思う。

 「八百万の神の中にも主は居られるでしょう」

 早苗は澄ました顔で答える。

 「要は解釈しだいと」

 菖蒲が面白そうに尋ねる。この二人、示し合わせて話題作りか?

 「そうゆうこと。それに神社に行くなとは言われてないし」

 自称:不真面目なキリスト教徒はそういって、ウインクをする。それを見て確信する。示し合わせた暇つぶし用の話題だ。

 

 ―良いのかなぁ。一神教徒がそれで―

 

 などと思ったが、まぁ原理主義者だったらイロイロと困るので。本人の意思を尊重しよう。

 

 ―まぁ、日本人らしい宗教観なのかもしれない―

 

 神社に到着して、石段を登りながら参拝の手順を確認し、参拝。

 本殿参拝後、軍艦那珂の慰霊碑でも祈る。防人には敬意をはらうべきだ。

 

 その後の、書店を見つけ、探索しようとしたら、桐花に猫掴みで止められた。こういう地方の書店には掘り出し物があったりするのに…

 菖蒲も電気店に入ろうとして、舞耶に止められている。

 ―どうやら、考える事は同じらしい―

 早苗はその光景を見ながら苦笑していた。

 

 そんなやりとりをしながら、商店街で食べ歩きをしつつ。まいわい市場までやってきた。

 「食べ歩きなんて、聖グロじゃ中々できないよね」

 桐花が串カツを頬張りながらしみじみと言う。

 「まぁ、そんな空気と雰囲気はしてますけど…食べ歩きしてる生徒もいますよ。フィッシュ&チップスとか…」

 舞耶が同意しながら補足する様に言う。彼女が聖グロリアーナ女学院について、裏も表も私達の中では一番詳しい。私と桐花と菖蒲は高校からだが、彼女は中学からあの学園艦で生活している。

 「一応、はしたない行為とたしなめられますけど、隠れてする事を密かな愉しみにしてる生徒もいますね」

 早苗が補足する様に言う。禁止されればしたくなるのは何処も同じかと思う。そう言う早苗もイカらしき乾物を咥えている。皆、聖グロリアーナ女学院から離れて少しハメを外している。

 

 ―気分転換は成功かな?―

 

 私は皆を気づかれない様に観察しながらそう思う。このメンバーが集結して以来ずっと、結構ハードな日々だった。帰ったらまだハードな日々は続くけど、皆、羽を伸ばして英気を養って新鮮な気持ちで臨めそうだ。

 それだけでもこの小旅行は成功だろう。

 

 歩き疲れたので、ショッピングモールの広場で休憩するために座れる場所を探していたら。広場の中央では何らかのイベントが催されていた。

 「大洗のみんな~、こんにちはだモン」

 熊本から県を代表するゆるキャラが来ている様だ。

 

 ―あのキャラの中の人は県の職員だっけ?プロのスーツアクターだっけ?―

 

 と、つらつら考えてると。ステージにもう一体の熊の着ぐるみが現れた。

 「おぅおぅ。大洗で熊のマスコットがオイラに挨拶無いとかどう言うつもりだ!」

 このキャラも知っている。マイナーメジャーで知名度が低いが、確か『ボコられグマのボコ』だ。あの、三下というかチンピラと例えるべきか悩む口調は間違えようがない。

 全身包帯だけの熊の着ぐるみが、洋梨を連想させる熊の着ぐるみに詰め寄っていた。

 「そんな事、急に言われても困るモン」

 「ハァ?おめーの都合なんざ知ったこっちゃねぇ」

 チンピラの絡み方だなと思いながら。何故このキャラクターにある一定の人気とカルト的なファンが居るのか考えてしまう。

 「梨汁ブシャー」

 黄色を基調にした新たな着ぐるみが割り込み、ボコを押し倒す。もう、最初の台詞で正体は判っている。非公式ゆるキャラでフリーダムな奴だ。

 「うゎ、てめぇ何しやがる。退きやがれ」

 「三下が吠えるなしー」

 「け、ケンカはやめるモン」

 「て、めえ。どさくさに紛れて蹴ってくるんじゃねぇ」

 

 ―なに?このカオス―

 

 私達は目の前で展開される地獄絵図じみた光景を唖然と眺めていた。

 「頑張れ!ガンバレ!ボコ!」

 ボコを必死に応援する聞き覚えのある声が耳に届いたのは、その時だった。

 

 私はその声をここ数日厭きるほど聞いている。

 

 私はその声の主を知っている。

 

 私はその人物を知っている。

 

 映像でなら厭きるほど見た人物で、詳細な個人情報も知っている。

 

 ゆっくりと、視線を声の方へ向ける。

 そこには一人の少女が居た。年は私より一つ上だが、真剣に舞台上のボコを応援する姿は、童女の様に真剣そのものだ。

 

 彼女が、彼女こそ大洗を廃校から救った名将

 

 無名の大洗女子を優勝校に押し上げた軍神

 

 西住みほとの初遭遇であった。

 




今回はここまでです。
ボコとゆるキャラとの絡みは、以前夢でみたまんまを書いています。

次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いいたします。


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Dishonored 1

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。

Wer mit Ungeheuern kampft, mag zusehn,
dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird.
Und wenn du lange in einen Abgrund blickst,
blickt der Abgrund auch in dich hinein.

ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ著「善悪の彼岸」第146節から引用。


 その時の彼女が感じた驚愕を文章にするのは難しい。

 

 もう数日後には戦う事を決定されている相手であり。勝たねばならない相手であり。

 最も関心を持ち日夜、必死に研究している相手が、童女の様に真剣にぬいぐるみショーを見ている。

 ただ、その遭遇が彼女にとって、意図していなかった行動をさせる事になる。

 「桐花。ちょっと良い?」

 「何よ…わかったわ」

 桐花はラミンと瞳を合わせた瞬間に彼女の強い意志と何か壮烈な決意を読み取った。真剣になり声を潜め、彼女の傍で話を聞く体勢になる。

 「アレする。皆に説明よろしく」

 「いいの?」

 彼女がやろうとしている事を、本人が嫌っている事をよく知っている桐花が心配そうに尋ねる。 

 「やらなきゃ。いけなくなった」

 答えるラミンの声が不自然な程平坦になる。

 

 ―あぁ、この娘。覚悟決めちゃったか……止めるのは無理ね―

 視線と声からそれを悟った桐花は彼女を最大限サポートする覚悟を決める。

 

 「無理はしないで……と、言うか準備は」

 「当然してきた。無理はしない約束する」

 「こちらの準備はしとく、詳細を後で伝えて」

 「了解」

 

 ラミンは他の皆に少し花を摘んでくると言い。小さな鞄を荷物から取り出して雑踏に消えた。

 私は、それを憂いを感じながら見送ると、西住みほに対して注意しながら、仲間を集めた。

 「皆、話をよく覚えていて。ラミンは数十分で帰って来ると思うけど、私が接触するまで、声を掛けないで。私が接触したらその時に呼ぶ名前でそれ以降、彼女を呼んであげて。彼女の一世一代の演技だから」

 桐花の説明に全員が頷く。

 「ラミンさん。何するんですか?」

 「女は化ける。それの実例の一つよ」

 彼女はそう言いながら、ラミンから送られてきた設定を仲間に話し始めた。

 

 

 ショッピングモールでパウダールームを運良く見つけたラミンは、荷物を開くそこにはプロ顔負けの化粧道具。そして、茶髪のウィッグ。

 (これを使う事は無いと思ったけど…私じゃ、彼女に近づく勇気がない。でも……)

 

 化粧―けわい―と言うのは古来、神を降ろすために行われた。

 神意は凡夫では聞くことは、出来るはずもない。故に化粧を施し、他人になり神に近づく。つまり、化粧とは他人になる為の儀式でもある。

 古来より、日本の武士、英国のハイランダー等は戦いに赴く時には、必ず化粧をしたと言う。自分で無い者になり、普段の自分ではできない事を行う。ラミンが行おうとしているのは、それであった。

 しかし、彼女の心の芯は高潔であり、その様な事をして行う妖芸を好んでいなかったが、しかし、「備えあれば憂いなし」と心配性を通り越したシスコンの兄に基礎を教えられており。新体操選手時代に「演じる」と言う事を何度も実践していた為に、この技術を磨いていた。

 

 髪を濡らしクリームで固め、ネットの中に押し込む。瞳に焦げ茶のカラーコンタクトをする。

 肌の色を白人にするには時間がかかり過ぎるので、無茶をせず日本人と白人のハーフを演じる事にする。

 唇に紅を引き、ファンデーションで肌質に変化を入れる。

 そして、焦げ茶のウィッグを被り長時間ごまかす訳でもないので、皮の手袋をハメる。

 茶色のウィッグを選んでカラーコンタクトを焦げ茶にしたのは、白人と日本人の間の子供は白人の遺伝子が劣勢の為に青い瞳と、綺麗な金髪になる事は無い。

 故に混血特有の外見を選択した。

 

 そこにはラミンと呼ばれる少女は居なかった。彼女には似ているが、明らかに異国の血が混じった一人の成人女性が居た。

 着てきた服が少し背伸びをした大人びた格好だったので、違和感が無い。

 今の彼女は、「英国生まれ、英国育ちのラミンの親戚であるメイ・ハイランド」と言う女性である。

 ラミンの変装の中で唯一、詳細な設定を用意された人物である。

 その設定の大半は彼女が複雑な心境を懐く。あの兄が考えてラミンに変装、仕草、固有の癖まで叩き込んだ。

 「よし。行くわよ」

 パウダールームの鏡に映る。

 自分ではない自分を見るたびに彼女の良心が痛むが…それでも彼女はこれからの接触に強い好奇心に心が引きずられていた。

 故に彼女は鏡の向こうのメイ・ハイランドに対して気合を入れた。

 荷物を纏め、ラミンだった女は雑踏へと消えた。

 

 「メイ!こっち、こっち」

 人混みの中から桐花が大きく腕を振るのが見えた。

 私は人混みを上手く避けながら桐花に近寄っていく。

 「トウカ、お待たせ。場所聞くのにも苦労したわ」

 その声を聞いた菖蒲、早苗、舞耶の表情が驚愕に変わる。

 声の発音が日本語を母語とせず英語圏に生まれた人間のそれになっていた。声質もいつもより大人びている。そして、体運びも普段とは違い、ある種の優雅者を感じさせるもので、英国で教育を終えかけていると言う設定に矛盾しない振る舞いであった。

 それらの行為が見事にバランスを取り纏め上げられている。客観的に見ても全くの違和感が無い。

 殆どの人間は彼女を「外国人の観光客」としか思わないだろう。それの証拠に、ここに来るまでの道をワザと尋ねた時の人々の反応を見ても問題は無いだろう。

 彼女が今使って居る芸は、長年使い込まれた妖芸の一つの昇華された姿だった。

 「さて、皆合流で来たわね。それじゃぁ、フェロミー」

 メイと名前を変えたラミンは少し以上、テンションの高い年上女性を演じながら目標へ近づき遂に声をかけた。

 

 「ミホ・ニシズミさんですか?」

 メイとなった彼女は、今は心の奥底に押し込んでいる主人格が数時間後に自己嫌悪に陥る行為を開始する声を発した。

 




ラミンの隠された技能…それは変装。
彼女自身はこれを使う事を嫌っているが、それしか手段が無い時はそれを完璧に行い。
変装を解いた後。すさまじい自己嫌悪に見舞われるのだが……

かの大怪盗:アルセーヌ・ルパンを書いた。モーリスルブランによれば。
「ルパンの最大の能力はどの様な状況でも設定した人物を演じ通す胆力と知力である」
と書いています。

さて、西住殿を前にラミンの胆力は果たして持つのだろうか?
まて、次回と言う事で……

次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いします。


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Dishonored 2

≪注意≫

今回は西住みほに対しての考察が行われますが。
それは、メイ・ハイランドと言う人格が行った考察にすぎません。
その点に注意してお読みください。


 

「ミホ・ニシズミさんですか?」

「は、はい!」

 私の少し下手な日本語で声をかけられたミス・ニシズミは、酷く驚いたらしく飛び上がる様な反応を示し、裏返った声でそうであると答えた。

 本人の確認が取れると、私は一気に歩み寄って。彼女の両手を握った。

 「本当に会えるとは思いませんでした。主よ、感謝いたします……あ、事後紹介が遅れました。私は、ハイランド。メイ・ハイランドです。英国からきました」

 それから、私には彼女に親戚から日本の高校戦車道が面白いことになっている。との情報を貰い、衛星放送で試合の流れを追っていたら、すっかり彼女のファンになってしまった事を告げた。

 

 彼女はそれを聞くと意外そうに驚き、それと同時に途轍もなく申し訳なさそうな表情になった。

 「い、いえ。私は会いに来るほどの人じゃないです」

 「NO!サクセスストリーの主人公じゃない。変化が無くてつまらなかった日本の高校戦車道に、大きな風穴を開けたじゃない。これからの日本戦車道に強い興味を持たせてくれたわ。伝統で雁字搦めのヨーロッパの戦車道や、ショウビズに特化している旧植民地―失礼、アメリカの戦車道より健全な戦いが見れる事を期待しているわ」

 「外国の戦車道ってどうなんですか?」

 ニシズミさんが食い付いてきた。

 しかし、自分の話題を避けている感じがする。

 判断するにはまだ早い、もう少し彼女と話さなければ。

 

 「ヨーロッパは大会毎に優勝校が決まっているの。そう、持ち回りで平等に優勝校になる事が決まっているのよ。欧州が統合されてからは特にそう。アメリカは大衆向けのショウ・ビジネス。試合ごとに脚本が出来ていて、何処でどの戦車がどう動いて撃破されるまで決まっている。と、言う話しよ。だから、エキサイティングな試合展開が毎試合続く。どっちがお好み?付け加えるなら、両方とも極論すればお金で優勝は買える。資本主義万歳と言ったところね」

 私は高校戦車道ではなく、プロリーグの話をした。日本では戦車道のプロリーグは数年後にはできる。その戦場に戦車道を続ければ、彼女は立つことになるのは確定的推論である。

 故に世界大会を誘致が実現すれば、彼女が大学かプロリーグに居る時だろうから相手になる人々の傾向を教えて、その反応を見たかった。

 それに、去年の事が心の傷であるなら。彼女の反応は予測ができる。違ったら、それはそれで、判断材料が増える事になる。

 「両方とも、大変そうですね」

 差し障りのないテンプレートな回答。

 これは、私が立てた嫌な方の仮説が当たりそうな気配を感じた。

 

 ミホ・ニシズミは自我が希薄である。そういう仮説を構築した。

 

 彼女は名門の次女として生まれた。

 長女が既に居るから。家を、ニシズミ流を継ぐ必要は無いが、もしもの時のスペアとして必要とされる。或いは、政略結婚の道具として。

 

 故に彼女は出来るだけ自我が希薄な状態で育てられたのではないか?

 

 自我が必要とされる時になったら植えつければ良い。

 旧家で家を割るリスクを減らすならそれくらいするだろう。旧家の人間とは家を存続させることを最優先とする傾向があると言う話しも聞く。

 

 つまり、彼女はニシズミ流に必要な能力だけを叩き込まれた傀儡ではないかと言う疑惑から、この仮説を立てた。傀儡なら他人を頼らない、自己を顧みない、機械的で相手が求める反応を返す。そして自分が評価される事を嫌う、何故なら傀儡には傀儡回しが必ず要るからだ。評価されるべきは傀儡回しと考える。

 

 私は、彼女が感情の無い傀儡であるとは思っていない。喜怒哀楽を表現している事からも明らかだ。だが、私の疑り深く作られた人格は、その反応を「この場合はこの反応」と言うフローチャートに沿った反応ではないかと疑ってしまう。

 

 私自身がラミンと今呼ばれている少女が無意識に思っている『善き人でありたい』と言う思いが、無意・意識的に表に出さないようにしていた人格面を核にして構築された人格である。それはラミンが背負った十代の少女には重すぎるトラウマから逃げる為だった。

 今は、それを拒絶せずに受け入れつつあるから、遠からず私は、ラミンが自分の意志で演じる性質になるだろう。現に、今回はラミンの意志が強く私になる事を求めた。

 

 その様な経緯から、ミホ・ニシズミも逃避の為の自我が元から希薄だった主人格を上書きしているのではないかと予測を立てた。

 彼女が本当に自我が薄いならば、代理でも、疑似でも人格を構築しないとならない環境に陥ったからだ。

 周囲の環境が激変したならそれに合わせたペルソナが必要になる。

 

 または、それまでは、ニシズミ流と言う枠に入らなくて抑圧していた本来の自我が目覚めたのかもしれない。

 

 私の主人格はそうあってほしいと、願っているようだ。

 

 「そう、大変よ。でも、欧州でソ連軍の機甲戦力と睨み合っていた頃よりはマシよ。あの頃、戦車道履修者は強制的に軍に入隊。そのまま戦車兵の時代だったのよ」

 10万両近い機甲及び機械化戦力を動員して、最初から核をバカスカ使う連中相手に戦う事が無くて本当に良かったと思っている。私は資料でしか知らないけど。

 

 「みぽり~ん!アレ?」

 「西住殿ぉ~!そちらの方は?」

 丁度、良い所で彼女の友人が来たようだ。あのままでは、軽い尋問をしてしまいそうだったから、丁度良いタイミングだった。

 

 運は私に見方をしている。

 

 そう考えた私は、後手でサインをトウカに送る。

 

 「私は、ハイランド。メイ・ハイランドです。英国からきました。貴女方は、ニシズミさんの戦車の乗員でしたよね」

 私は一人、一人と全員を相手に握手しながら彼女たちを把握する。ミホ・ニシズミの乗り込むⅣ号戦車の乗員は精鋭揃いで素晴らしいと、煽てるのを忘れない。

 「えへぇ。照れますね」

 「私たちワールドワイドだよ。海外の男性ファンに告白されたらどうしよう」

 「ミス・タケベ。年長者から老婆心の一言よろしいですか?」

 私は思わず口に出していた。この面子相手には少し調子が狂う。

 

 なんとかして、調整しないと

 

 「え?いいですけど」

 「恋に恋しているのか、添い遂げたい相手を探しているのか。それを自分の中でしっかり決めていないと」

 「いないと?」

 「ダメな男に引っかかるか。屑な男に騙されるわ」

 冷たい中に後悔を混ぜた視線でミス・タケベを見つめる。

 彼女は困惑と決意を感じさせる声で私に答える。

 「肝に銘じます」

 

 「メイ。そろそろ」

 いつの間にかトウカ達が集まっていた。そろそろ移動しないといけない時間である事を示した。私は至極残念そうな顔を作って、ニシズミさん達に向き直った。

 「ごめんなさい。そろそろ移動の時間なの……楽しい時間は一瞬ね。最後に一緒に写真を撮ってくださらない?」

 「それなら、こんな所より学校の四号の前で撮ろうよ。直ぐに行けるから」

 「名案です。武部殿」

 話が勝手に進んでいった。

 予定を変更することを後手のハンドサインでトウカ達に告げる。

 「メイ。この人達に私達を紹介してくれない?」

 「OKいいわよ」

 私の計画は想定外の方法で実現されようとしていた。

 




お待たせしました。

今回の作品ではラミンの人格ではなく。
メイ・ハイランドの視点からの話になりました。
作中に書いた、世界のプロリーグの話は私の独自設定ですので、原作とは大いに違うと思われます。

劇場版をご覧になった方はお分かりと思いますが。メイの考察は大外れです。
その誤算がどう影響するか?

次回も頑張って書きますので、宜しくお願い致します。
また、感想を切にお待ちしております。


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Dishonored 3

新年会あけましておめでとうございます。
今年もラミンの物語をよろしくねがいします。


 大洗女子学園に向かう途中。私はミホと呼んで良いと言われた。ミホさんとその友人たちにトウカ達を交えながら談笑しつつ向かっていた。

 「失礼だったらごめんなさい。ミホさん。結構印象が違って驚いたわ」

 「どんな印象だったんですか?」

 「私も気になる」

 「自分もであります」

 彼女の友人たちも興味津々のようだ。

 

 ―やはり、外部からどう見られているかを知りたがるのは、誰でも同じか―

 

 「アールネ・エドヴァルド・ユーティライネン大尉の女性化?」

 「あそまで、私はエキセントリックじゃないです」

 「つか、誰それ」

 ミホさんは困惑気味に苦笑。ミス・タケベはそもそも知らない様だ。

 「冬戦争中のコッラーにおける丘陵地の戦闘で4000人のソ連軍をフィンランド側が32名の守備隊が撃退した戦いで、フィンランド側を指揮した。フィンランドの国民的英雄ですよ」

出来るだけとぼけた様に答える私が解説する前に、ミス・アキヤマが詳細な解説を入れ出した。

 「まぁ、砲撃の最中にロッキングチェアでくつろいでいたり、散歩に行くと言って戦車を撃破してくる人ですけど」

 「なんで、そんなことが出来るの?」

 まぁ、その指摘は正しい。

 「妖精だからよ。〇―ミン谷の」

 これはトウカ

 「神の加護でしょう」

 これはサナエ

 「ソ連の練度が低かったっただけでは?大粛清の直後ですし」

 マイヤの発言が恐らく正しいのだろう……。それでも砲撃下でロッキングチェアでくつろぐのはマトモナ神経ではできない。

 士気高揚の為の演技だとしても凄い事だ。

 私はミホさんが、決勝戦で見せた行動や、それまでの指揮姿勢から肝の据わった指揮官だと推測したのだが……見込み違いか?

 話してみての感覚から実感できたのは、資料通り個性で集団をけん引していく人物には見えない事だ。もしかしたら、戦車に乗ると性格が判るタイプなのかも?あるいは、『この隊長の為なら』と覚悟を決めさせるタイプか?混乱してきた。

 

 取り敢えず。ミホさんの性格からの判断は保留して、大洗女子の戦車道チームの組織論から推測しよう。

 

 ―大洗女子の戦車道チームには、憎まれ役の鬼軍曹タイプの人間が副官の立ち位置に居るのではないか?―

 

 思いつくのは、副隊長の片眼鏡で怜悧な表情をした人物。確か名前はカワシマと言ったか?彼女が規律面での統率を担当していた可能性が高いのかもしれない。

 その事を確かめるべくさり気無く話を振ってみた所。どうも、生徒会そのものが、強い牽引力を持っていた様だ。では、来年はどうなるのだろう?

いや、現状ではミホさん主導権が確立しているからその心配は薄いと考えるべきかもしれない。

 

 ―現状では指揮系統の捩じれにつけ込むのは事は可能か―

 

 私はそう確信する。

 彼女らにラミンの印象を間違って伝えることにして、その心に罠を仕掛けておこう。

 

 

 ―彼女(ラミン)(メイ)になったのはそう言う意図があるからだ―

 

 

 「やっぱり、さつ…トウカ?今あの子なんて呼ぶんだっけ?」

 私は後ろに振り向きトウカに尋ねる。

 私の視線に籠められた意味を察したらしく、彼女は呆れた表情を作り。私の質問に答える。

 「ラミンですよ。『連れてくればよかった』っていう話は無理ですよ」

 「インフルエンザだしねぇ。流石にこの時期に大洗に連れてくるのは、練習試合前のバイオテロよね」

 私は誰が見ても残念そうに肩を落として見せる。

 「あのぉ。ラミンさんと言うのは?」

 ミホさんが何かに気がついたようにおずおずと尋ねてきた。

 「私の年の近い従妹。呼び名で分かると思うけど、聖グロリアーナ女学院の一年生で、戦車道チームの一年。私に貴方たちを教えてくれたのは彼女よ。優秀な従妹かしら?一年で紅茶名を貰ってるのは6人と聞くけど?トウカ達一団は彼女の戦車の乗員。トウカ?あなたから見てラミンはどう見える?」

 トウカは呆れた様な声を出した。

 「なんで私に?貴女が言わないですか?」

 「私が言うと、とても辛辣な評価になるもの。昔は素直で良い子だったのに、最後にあった時には、臆病が悪化して恐怖心で人間不信で人間嫌いになって。ありとあらゆる事を疑ってかかり、機会主義と保身が処世術になり。他人を信用せずに、他人は自分の為に最大限に利用すべきであり。蹴落として成果を奪える要素ぐらいにしか見ていない従妹の為に、わざわざ転校までして駆けつけた情が深い親友のトウカはどう思ってるのかなぁ~?と思っただけよ」

 「大体言ってるじゃないですか。ソレ」

 トウカが声を荒げるのを私は曖昧な笑みで韜晦する。

 親友の少し前の自己評価を本人の口から聞くのは気分が悪いだろうが。以前の私は、そのように世界を見ていたのは事実である。

 ―だから、世界観を激変させてくれた貴女達には本当に感謝している―

 口には出さないがこれは偽らざる私達(ラミンとメイ)の本心である。

 

 「なんでそこまで人格が歪んだんだ?」

 ミス・レイゼンが尋ねてくる。資料にもあったが、空気は一切読まない様だ。

 「簡単よ。信頼している大人と友人、部活と言う小さい閉鎖系の全員が彼女を『売った』のよ。それに騙されて彼女をありとあらゆる罵詈贈号で罵り。真実が判ると、何も無かったと自分たちの所業を忘れ掌を返した。クラスメイトや、教師を含む周囲の大人と言う環境を中学時代に味わえればそうなるわよ」

 ラミン(主人格)が思い出して悲鳴をあげているが、無視する。覚悟の上で私に主導権を投げた癖に、向き合うと決めたのなら、いちいち悲鳴を上げる必要はないだろに………いや、解かっている。まだまだ、生々しい記憶なのは。

 私はラミン(主人格)と違って殺意しか浮かばないのだけど。

 

 「それは、酷い」

 ミス・レイゼンが言う。感情は在るのだろうが、声が常に平坦で判断に困る。

 

 「ラミンは乗り越えようとしていますよ。恐怖を押し殺すのを止めて、恐怖を希望で塗りつぶそうとしていますよ」

 トウカは全く良いことを言う。

 

 ―私達(ラミンとメイ)には本当にもったいない親友だ―

 

 「でも、悪辣さは増した気がしますね」

 こ、コイツ。

 

 「それはあるね。『貴方が関係する必要は無いけど、貴女の信念的にはどうなの?』って退路を断って志願されるよね」

 あ、アヤメまで。

 

 「人を値踏みする様な冷たい視線をする事もありますね」

 マイヤ、貴女もか。

 

 「怠惰を許さない。と言う強い意志がありますね。また、出来る事をやらない人間を間引くのは上手ですね」

 サナエまで。み、味方は居ないの?

 

 私は表情を維持しながらそれを黙って聞き。かるく「そう」と、半信半疑に聞こえるような声で答える。

 「まぁ。3週間で大洗と闘えるチームを作らされていたからね。それには成功したけど、インフルエンザで寝込むまで、誰よりも頑張っていたからしょうがない面もあるわね」

 「ダージリン様のむちゃぶりに応えられる能力はありますよ」

 「なんだかんだで、私達を信頼して頼っているし。周囲を気軽に協力者にするくらいには、マトモになってると思いますよ」

 フォローはありがとう。

 私は彼女らに視線で謝辞を伝えると、調略の為の布石を打つ。

 その対象であるミホさんの様子を窺うと、明らかな困惑を浮かべていた。ミス・タケベ、ミス・アキヤマも困惑しているようだ。

 「お会いしても居ないのに、変な印象を持つのは失礼でしょう」

 「そ、そうだね」

 ミス・イスズの一言により彼女たちは一応の鎮静化を見せた。芯の強い女性と史料にあったが、予想以上だ。だがしかし、彼女の一言を待っていた。

 人は、先入観を持たないように意識すればするほど、先入観に引きずられる。

 先入観を排除しようとすると嫌でも先入観を強く意識してしまう。

 ミス・イスズの冷静な一言が、期せずして私の罠の一つを完成させてくれた。

 

 調略と言うのは気がつかれる事の無く。

 対象の心を蝕み現実の行動に影響を及ぼすことが最上なのだ。

 




軽く、ラミンの過去がまた露出。
調略に関しては私の私見です。

ある意味で、このDishonored編は、ラミン自体が抱える歪みが如実に出て居る回です。
彼女は、戦車道を『ルールで縛られた戦争』捉えて、全力で勝ちに向かっています。
彼女の過去と現状が彼女の精神を蝕んているのかもしれません。それに触れるのは、もう少し後になりそうです。

今年もベストを尽くして書いていこうと思いますので何卒宜しくお願い致します。


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Dishonored 4

注意:この話で語られる考えはメイ個人の主観であり。
   キャラクターの思考と趣味を否定するものではありません。


「3番めに良い技術を持ってきてくれ。2番目に良い技術は間に合いそうもない。1番良い技術はいつまでも使い物にならない」
 連合軍のレーダーの開発に貢献したロバート・ワトソン・ワットが言ったとされる言葉



今回から会話表記に変更を行いました。
違和感や読みにくさを感じた場合は、感想にお書きください。


 「ここが、私たちの戦車格納庫です」

 

 ミホさんがそう言って格納庫の扉を開いた。中にいたのは(主人格)が飽きるほど調べ、戦闘時の映像を見て、個別の挙動の癖まで脳裏に叩き込んだ。鋼鉄の野獣たちであった。

 

 「映像で何度も見たけど。これは…」

 

 「末期の武装SS戦闘団?」

 

 私が口に出すのを躊躇する言葉をあっさりとアヤメが口に出す。

 

 「それも、義勇○○人大隊とか、義勇○○警察大隊とかで編成された末期の中の末期の戦闘団ですよね」

 

 マイヤがさらに追い撃つような発言をする。私の背中を嫌な汗が流れてくる。そう思うのは同感だが、当人を前に言う事ではない。自分たちが必死にかき集めた戦力を、その様に表現されたらどう思うかくらい理解しているだろうに……。

 

 「それよりも相応しい例えがありますよ」

 

 サナエが口を開く、お願いだから穏便な表現をお願い。

 

 「ベルリン市街地戦の終わりに、生き残った戦車を集めて、なりふり構わず集めた移動手段に市民を乗れるだけ乗せ、連合軍占領地まで脱出するまでの時間を作り出すために覚悟を決めた名も無き勇者たち。尊敬すべき戦車乗りの集団」

 

 「て、照れますね」

 

 サナエの例えに照れるミス・アキヤマ。

 確かに照れる事だろう。

 軍人の存在意義、護民と言う義務に殉じて、おそらく義務を満了して死んだ者たちに例えられるのは。例えその戦士たちが仕える国家が史上最悪の愚王と亡者共の楽園であったとしても。義務に殉じ勇者のごとく倒れた者たちは称えられるべきだ。

 

 車両を俯瞰で観る為に二、三歩下がる。その瞬間に、サナエ達の表情を窺うと、大洗のメンバーに見えない様に器用にVサインをして見せる。今までの会話の流れは意図的だった様だ。

 

              ―まったく、誰に似たのやら―

 

 「マタイ10:34」

 

 私は大洗戦車道チームの一部の車両を見ながら、無意識に口走る。

 

 「『わたしが来たのは地に平和をもたらすためだと思ってはなりません。わたしは、平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすために来たのです』 マタイによる福音書 第10章34節がどうしました?」

 

 サナエが全文を引用した後に訊ねてくる。意外に大きな声で無意識に呟いていたらしく、他の面々も気にした様に此方をみている。

 結構物騒な独り言を無意識に呟いたのは、自己分析では現実と想定の乖離をなんとかして埋めようとしている為にだと思う。

 決して褒められる事では無いが、少しマウンティング行為に手を染めよう。でないと、ミホさんを美辞麗句で飾った言葉で褒めたてながら、全力で侮辱と揶揄、そして罵倒してしまいそうになっている。

 悲しむべきことにラミン(主人格)の脳みその性能の限界点は意外に低い、想定と現実の差が開き過ぎている事に理解力が追い付かない。なので、少し此方が優位に立てそうな事で脳みそを冷やさせてもらおう。仄暗い愉悦は(メイ)が一番好きなモノである。

 

 「あの子が居たらそう言いそうだなぁって思ったのよ。彼女、Ⅵ号重戦車以降のドイツ戦車大嫌いだから。あとそれが好きな人も、もっと正確に言えばその戦車たちが優れていると誇らしげに語る人種が」

 

 「何となくわかる気がしますが。何故Ⅵ号でありますか?ドイツの花形戦車ですよ」

 

 ミス・アキヤマが微妙そうな顔をして訊ねてきた。どうも彼女も似たような経験をしたのだろう、

 ミリタリーを趣味にすると確実に出会う、個人的にもっとも忌み嫌う人種に。

 

 「本末転倒だからよ。創る必要すら無かった。もちろんⅤ号F以降は……」

 

 「それは、聞き捨てならんな」

 

 新たな声が私の声を遮る。声の主は足音高くこちらに近づいてくる。名前とパーソナリティは覚えている。

 Ⅲ突を運用するチームの一人、エルヴィンと言うソウルネームを名乗っているらしい。

 

 伝統で紅茶名を名乗る聖グロリアーナ女学院の生徒で、自らも紅茶名を名乗ってるラミン(主人格)はデータを見た時に、「笑えないなぁ」と苦笑を漏らしていた。

 

 しかし、制服の上からナチス時代のドイツ国防軍の軍服、制帽にゴーグル。見事なまでにロンメルリスペクト、聖グロリアーナ女学院では許されないぐらい自由度がある校風だ。最も、軍人でもないのに日常生活で軍服を羽織る神経性は私には理解できない。ポケットが無数にあるので、利便性は良いことは認めよう。統一ドイツでそんな格好していれば、確か逮捕される筈だと記憶している。いや、逮捕されるのはSS(親衛隊)の服装だったか?

 

 まぁ、良い。問題は、彼女が些か以上に腹を立てている事だろう。怒りの理由を推測するのは容易だ。日常生活でも旧国防軍リスペクトをしている彼女だ、自身を侮辱されたに等しい怒りを感じているのだろう。

 

 「貴女は?色々言いたいですがお名前は?」

 

 「メイ!」

 

 「メ、メイさん?」

 

 英国淑女(ペルソナ)を維持したまま尋ねるが、その声はガラスの様に冷たい。話を大声で遮る輩に、私はそれ相応の対応しかできない。

 声から私の内心を察したトウカとミホさんが慌てて声を荒げるが、エルヴィンと名乗っている少女は気にせずに私の前に立って宣言する。

 

 「私は大洗女子戦車道チームの一員だ。エルヴィンと名乗っている」

 

 「ハイランド、メイ・ハイランド。英国陸軍予備役士官候補生、現在はオックスフォード大学院で国際関係学の博士号の取得を目指している。此処にはミシズミさんのご厚意で居るわ」

 

 私は、兄が詳細に設定し、破綻しない様に必要な知識を脳に覚えさせた設定を演じ続ける。久々に否定から向かってきた相手であり、しかも善良な臆病者(ラミン)では無い時である。邪悪な狂犬(メイ)として、それなりの対応をしよう。

 

 「なぜ、Ⅵ号重戦車を創る必要が無いと断言するのかその理由が聴きたい」

 

 「先ず。前提条件の確認をさせて頂戴、エルヴィンさん。尋ねますがナチス・ドイツ時代のドイツ国防軍のドクトリンを端的に言うと何になる?」

 

 「無論。電撃戦だ。かのグ……」

 

 何を聞いているのだと言う表情を浮かべた彼女は簡潔に答え、それから薀蓄を続けようと口を開こうとするが。私は次の質問を飛ばしてそれを遮る。

 

 「では、電撃戦とは何か?」

 

 「機甲戦力を集中して運用し、戦線を突破する戦術を主軸とした機動戦ドクトリンだ」

 

 「では、何故?機甲戦力を集中させて、戦線を突破する?」

 

 「敵陣深くに突進して司令部を叩き、指揮命令系統を混乱させるためだ」

 

 「なぜ?それを行う」

 

 「その混乱に乗じ、後方の歩兵部隊が戦線の穴を拡大して、こちらの戦線を押し上げる為でありますね」

 

 「そして、歩兵で敵国中枢を占拠して、相手にこちらの政治的目的を飲ませる事ですね。だから、電撃戦ドクトリンは相手の心臓を挿す槍にたとえられる事が多いです。穂先が鋭い方が良いですが。柄の部分が折れてしまえば、穂先は機能しなくなる」

 

 ミス・アキヤマとミホさんが先読みして言う。私は沸騰仕掛けた脳みそが急速に冷えていくのを感じていた。

 

 「補給が切れた機甲部隊は直ぐに作戦能力を失う。だから、歩兵師団に突撃砲やⅣ号戦車、アハト・アハトを対戦車砲にして潤沢に配備を行い軍全体の戦闘力を上げて、モスクワを占領するなり、戦線を整備して時間を稼ぐなりして。Ⅴ号中戦車の設計を詰めて、できればF、だめならGの配備を目指すべきだった。Ⅵ号重戦車のラインを新たに作り、専門の野戦整備部隊を整備するよりは、経済面でも負担が少ない。単価の高いⅥ号は消耗の激しい陣地突破には使えず、戦略機動性も低い。その戦車を独立重戦車大隊として戦線に投入した瞬間から、旧国防軍は電撃戦ドクトリンを放棄してしまった。でしょ?」

 

 聞き飽きたとばかりにトウカが、私の言いたいことを全て言う。

 

 「ありがとう。ミス・エルヴィンごめんなさい。先祖がWWⅡのアフリカ戦線で、日本風に言うのであれば醜の御楯になっているのよ。それに士官候補生研修で会ったドイツ連邦軍の士官がロンメル信奉者の嫌な奴で、どうも冷静を失っていたわ。二度目になるけど、ごめんなさい」

 

 私はそう言うと、深々と頭を下げた。先ほどまでの行為は、どう見ても此方に非がある。意図的に行った事ではあるが、やり過ぎであった。

 

 「い、いや。こちらも突然怒鳴り込んで申し訳なかった」

 

 向こうも非は理解していたらしい。まぁ、若さゆえの過ちと言う事にしておこう。

 今の恰好も大学生時代には黒歴史になっているかもしれない。

 

 「まぁ、ナチス・ドイツの兵器行政は合理的ではありませんでしたから」

 

 「伍長閣下のおかげでね」

 

 「それは、何処の国も同じよ。旧しょ……失礼、アメリカではAGFと言う思想派閥が、M4への90ミリ砲装備を潰したりしたし、M26パーシングの配備をおくらせたりしていたわ。我が国では老害がクロムウェルの開発をなにかと妨害したし」

 

 アメリカ陸軍は、AGF(Army Ground Forces)と言う概念で、保有するすべての車輌を機能別に「空挺、機甲、対空、対戦車(駆逐)」の四つに分化させて、各々の機能に最適化させつつ標準化、効率化という概念に囚われて、機甲戦力が苦労することになった。

 

 我が英国ではクロムウェル巡航戦車の開発を、様々な人間が妨害していた。

 

 そして、ナチス・ドイツでは重厚長大な兵器が大好きな独裁者と、そのお気に入りの狂科学者(マッドサイエンティスト)の執念と、元から抱える技術的な問題から常識の外にある様々な兵器群を生産する事になるのだが。

 

 思考が一時迷子になった。私は改めて、ミホさんに向き直り、微笑んで言葉を発する。

 

 「ミホさん。そろそろ時間が押してきましたので、写真を撮りましょう。横道に逸れて申し訳ありませんでした」

 

 「そうだよ。すっかり忘れてた。皆、Ⅳ号の前に集まって!ほら、みぽりんは、真ん中」

 

 「おや、集合写真か?それじゃぁ私が撮ろう」

 

 「メイは、西住さんの隣ね」

 

 「準備はいいかい?はい、チーズ!」

 

 この時、Ⅳ号戦車の前であんこうチームと、私たちが一緒に写った写真は、今も机の写真盾の一つに入っている。

 

 

 その後、ミホさんたちと別れ、戦車カツを堪能した後に宿に戻り。メイからラミンに戻った私は土産物で手荷物を増やして大洗を後にした。

 次に来るときは大洗との練習試合の時である。

 




大洗編はこれにて終了。

作中の国防軍批判はあくまで、メイ&ラミンが思っている事であります。
特定の人物、思想を誹謗中傷する意図はありません。

さて、大洗編も終わって、いよいよ練習試合もまじかに迫ってきました。
これからも、最善を尽くして書いていきますので、今度ともよろしくお願いいたします。

また、感想は常時募集しています。


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焦燥と葛藤。信頼に決意。

  もし君が悩む友を持っているなら、君は彼の悩みに対して安息の場所となれ。
        だが、いうならば、堅い寝床、戦陣用の寝床となれ。
        そうであってこそ君は彼に最も役立つものとなるだろう。
              フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』




作中でざんこくなびょうしゃがあります。ご注意ください


 大洗から帰り、各自宅によった後。私たちは慣れ親しみだした共同生活空間に帰ってきた。

 旅装を解き、皆でティータイムを楽しんでいる時に桐花が思いつめた様に私に訊ねてきた。

 

 「ラミン。いや、皐月。貴方は何を隠して背負い込んでるの?」

 

 目が座っていた。

 それにラミン(紅茶名)ではなく本名で尋ねてくるところからも、彼女が、聖グロリアーナ女学院戦車道チームのラミンではなく。一人の人間としての私に訊ねている事は理解できた。

 

「なんで、そう思うの?」

 

 私は平静を維持しようとしたが、桐花の覚悟を決めた視線から目を逸らせなかった。

 覚悟を決めると、桐花は納得するまで止まらない。最悪つかみ合いの喧嘩、もしかしたら昔の様に殴り合いになるかもしれない。

 

 「大洗に行くに前から少し様子がおかしかった。そして、大洗での行動。マウンティング行為なんて、アンタが一番嫌う手段じゃない。どうせ、練習試合当日に菓子折りもって『ウチの親戚がご迷惑をおかけしました』とかやって、相手を混乱させるつもりでしょうけど」

 

 あらま、読まれていたか。幼馴染には私の考えはお見通しと言う訳か。どうするか、言うべきか口舌で誤魔化すか?この場で言って良いのだろうか?

 私の幼馴染は苦悩自体も見通していた様で、嫌な笑みを私に向け言葉を続ける。

 

 「色々考えて、悩んでるでしょ?素直にしてあげる。菖蒲、早苗、拘束!舞耶、準備!」

 

 「「「了解」」」

 

 桐花の号令に綺麗に揃った声で答えた皆の行動は、素早く的確だった。

 椅子ごと後方に引かれ、右腕を菖蒲に、左腕を早苗に後ろに回され関節を極められる。これで、私は椅子に座ったまま拘束された。視界の端では、台所に走る舞耶の後ろ髪が見えた。

 

 「私達も心配して怒ってるんですよ」

 

 早苗が悲しそうな声で言うが、左腕に巻き付いた彼女の手はさらに強く関節を固定する。本気で怒らせてしまったようだ。

 

 「アンタの戦車に乗った時から、私たちは運命共同体。信頼して、全て吐いて楽になりなさい」

 

 菖蒲は暗に「私達ってそんなに信用無い?」と訊ねている。それが心に刺さる。

 

 「準備、完了です。流石、軍用携帯コンロ、火力が違いますよ」

 

 軍用携帯机に置かれた軍用携帯コンロが青白い炎を、凄味のある音と共に吐き出して、その上に載った鍋の底部を赤々と変色させていた。沸騰した水分が立てる水泡が奏でる景気の良い音が聞こえる。鼻孔に流れ込んでくる匂いが、鍋の中で煮立つ物を教えた。

 

               ―こ、これはオデン―

 

 片岡―北野協定により、尋問に使用することが禁じられた凶悪兵器が着々と準備されている。舞耶の顔色を窺う、怖いまでの笑顔である。しかし、目は一切笑っていない。

 私は、全員を怒らせてしまったようだ。全員が私の為に心配して、そして全力で怒ってくれるのは嬉しいが。

 その為に、非人道兵器、タマゴ、ちくわぶ、そして最強最悪の餅巾着を口内に押し込まれるのは御免被る。

 

            ―えぇ、もう全て吐き出してしまえ―

 

 「はなす。はなすから、その南極条約で使用禁止にされた拷問道具の準備はヤメてぇ!」

 

 私の懇願の絶叫を聞いた桐花は満足げに頷くと、コンロの火を消す。しかし、菜箸を手に持ちカチカチと音を立てるのを止めない。

 

 「素直が一番。私たちは皆で困難を乗り越える運命共同体。だから、余計な配慮は不要。信頼して、ね」

 

 その声には頼む様な、縋る様な響きがあった。

 

 「うん」

 

 「でも、本気で心配させた罰で一個、食べようか」

 

 無慈悲!

 桐花は菜箸でマグマの様に煮立った鍋の仲から、汁を十分に吸って、もうもうと湯気を吐き出している餅巾着をつまみ上げる。口は、舞耶が万力じみた力で口を開いた状態で固定している。

 

 「はい。あ~ん」

 

 「ひょうきん族!」

 

 私は良く分からない悲鳴をあげて、口内に餅巾着を迎え入れた。

 

 

 「で、何処から話してくれるの?」

 

 一連の騒動の首魁は、満足はしたが、納得してない様で私に尋ねてくる。

 私は、舞耶に口内に綿棒で薬を塗ってもらいながら、その答えを言う覚悟をしている。幸い、餅巾着は意外に熱量を持って無かったので、口内を酷く火傷する事は無いだろう。

 

 「OG会が圧力をかけてきてる」

 

 「それは、学園長に抑えてもらう様にお願いしたんじゃないの?」

 

 確かに学園長はOG会を押さえてくれている。しかし、顔も知らぬお嬢様方(糞ババア)は他の方法で自らが従い築き上げた「伝統」(呪い)を私たちにも強制させようとしている。

 

 「『新型戦車の車長は心療内科に通院歴があるらしいけど、そんな人物が車長をしていて大丈夫?』とか。『プレッシャーに負けて逃げ出した人物に何ができるの?』って学園の生徒やOG会に吹聴されている方が居る様でね。我が家にも来たそうよ『お子さんに今の立場を降りさせる様に』説得しに」

 

 「卑劣ですね」

 

 早苗が平坦な声で言う。

 卑劣、それには同感だ。しかし、効果的ではある。

 人格攻撃ではあるが、『逃げ出した』のも『心療内科に通院』しているのも事実だ。故に私は否定できない。

 

 『私は聖グロリアーナ女学院の戦車道部の今後を憂いてあえて警世しているの』とのたまって善人ぶれば何人かは賛同するかもしれない。

 

 「あちゃ~」

 

 「自殺志願者?」

 

 私の「家族」を知っている。菖蒲と桐花が呆れた声を漏らす。

 

 「どうしたんですか?二人とも?」

 

 舞耶が内心をどう表現したモノかと悩んだような声で、二人に尋ねる。

 

 「我が子を誹謗された親は普通、どう思う?」

 

 桐花が嫌に神妙な声で言う。

 

 「怒りますよそれは」

 

 「その親と家族がそれなりの権力を持っていて、それの拡大解釈的行使に躊躇がないとしたら?」

 

 「え?」

 

 「父は官僚で、霞が関と永田町(官僚と議員)に顔が広い。母は法曹関係の家系、弁護士、検事両方が親族に居る。兄は自衛隊の情報関係の幹部自衛官、一番上の姉は報道関係者、二番目は、聖グロリアーナ女学院OGで、今は教育委員会に居る。一つ上の姉は聖グロリアーナ女学院の校医、OGで戦車道履修者、精神科と救急医療が専門の元医官、PKO派遣の経験あり」

 

 私が指折り言うと、舞耶の顔が青くなっていく。

 

 「父方の祖母は、電話数本で市立校の人事を数か月で変えれる。祖父は船舶会社の顧問……」

 

 「もういいです。つまり、相手を法的にも社会的にも追いつめる事が出来るんですね」

 

 「物理的も可能かなぁ……兄さんは『心配ない気にするな』って言ってたから」

 

 流石にそれ(行方不明とか交通事故)は無いだろうと思うけど、あの兄が心配ないと言うのは少し、怖いのも事実だ。

 

 「それは、良いとして。私たちがしなければならない事実が一つだけある」

 

 私は、その言葉を全員が聴き、理解するまで時間をおいた。

 

 「私は、ダージリン様から紅茶名を授かり、貴女達を選んだ。少々強引な手段も使ったのも事実。つまり、ダージリン様が在籍中に多くを納得させる「成果」が必要になる」

 

 ダージリン様が卒業してしまえば私は後ろ盾を無くすことになる。その後がどうなるかは未知数だ。

 そして、恐らく最も誰もが認める「成果」とは。

 

 「大洗女子相手に奮戦、可能であればⅣ号中戦車の撃破」

 菖蒲の出した答えに、私は無言で頷く。

 大洗のⅣ号中戦車の撃破、これこそが現状では最も多くの人間を納得させる「成果」になる。しかし、それを強調して皆に無用な重圧を感じさせたくなかった。

 

 「フフフ、燃えてきた」

 

 「ジャイアントキリング……嫌いじゃないわ」

 

 「あの五十鈴様と撃ち合って勝てと、御所望ですか。ラミン様も無茶をおっしゃりますが、嫌じゃないですよ」

 

 桐花、菖蒲、早苗の三人が私の予想に反して、鮫の様に笑って口々に言う。

 そこには煮え滾る闘志が溢れ出ていた。

 想定外の反応で混乱している私に、舞耶が穏やかな声で尋ねる。

 

 「車長、我が車のモットーは何ですか?」

 

 「"By strength and guile"(力と知恵で)"Who Dares, Wins"(勇気ある者が勝利する)

 

 「その基準で、貴女が集めた私達ですよ?前提からして28日で大洗女子相手に戦えるようになると言う無茶苦茶な条件です。それに今更一つ無茶が加わったところで怖気づく私たちじゃ、貴女に選ばれてません。私達もですけど、少しは自分の鑑定眼とこれまでの努力の結晶を信頼してください」

 

 「うん」

 

 私は素直に頷く、舞耶も笑顔であるが目には闘志の炎が燃えていた。

 

 そう、私たちは無茶を乗り越え、大洗女子相手に戦えるとダージリン様に判断された。28日でそれを成し遂げた事、その間の血の滲むような努力は、私たちの糧になっている。 今、さらに大きな目標ができたが、私達ならできると今ならそれが信じられる。

 

 「勝とう。皆で」

 「「「「了解」」」」

 

        この時、私たちは本当の意味でチームになった。

 

 

      友情は瞬間が咲かせる花であり、時間が実らせる果実である。

            アウグスト・フォン・コッツェブー 『イギリスのインド人』

 




 この登場人物たちは特殊な訓練を受けています。
 皆さまは絶対真似をしないでください。

 ラミンが焦っていた理由があきらかになり。
 そして、それを隠していた事でメンバーを怒らせましたが。
 雨が降って地固まることに成功しました。

 さて、いよいよ大洗女子との練習試合が目前となりました。


 次回もベストを尽くして書きますので、よろしくお願いします。


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最初の小さな、偉大なる一歩 決戦前夜

 いよいよ。練習試合直前。

 作中で、語られる「全国大会準々決勝、聖グロリアーナ女学院VS黒森峰女学園」の経過はオリジナル設定であります。
 公式設定とは違うと思いますので、その点につきましてはご容赦ください。
また、作劇の都合上、ニルギリさんの学年と性格を改変しています。
 この点につきましてもご容赦ください。


 それから、練習試合前日まで私たちは、大洗女子の各車の装填速度、命中率、機動時の癖などを覚え、各自の技能向上に励んだ。満足のいく事は無かったのだけど、こればかりは満足できる事は無いので、現状で妥協するしかなかった。

 

 そして、外野でのアレコレは私達の手が届かない問題なので、あえて気にしなかったが。先日、偶然を装ってすれ違って来たフレミング先輩が、『OG会が上に下に、世代に、派閥に、と分裂して内紛状態ですが。何かしました?』と耳打ちしてきたが。私は『知りませんわ』と曖昧な微笑を返した。

 

 実際の所、思い当たる所はあるのだが。ここ数日間は練習と研究に没頭していたので、周囲で起きている事など気がつかなかった。

 また、私の手の届かない所での騒動なので、実際に知らない。

 

 それ以外は私達はごくごく普通の戦車道女子として学園生活をして過ごしていた。もっとも、戦車道女子の生活が普通かどうかについては、多くの異論がありそうではあるが。

 

 

 下級生が自力で走り出すのを見るのは、嬉しくもあり、些か淋しく感じるのは、奇妙な感覚だった。先輩方も同じような感覚を感じていたのだろうか?

 

 私はついこの間まで、私の戦車で砲手をしていた後輩が、車長として、部隊長として立派に立ち回っている姿を眺めていた。

 

 「練習試合に出れなくて残念?クランベリー」

 

 「それは、そっちじゃないか?ルクリリ。大洗にはなにかとあるだろう?」

 

 「それは全国大会優勝記念のエキシビションマッチで済ませるわよ」

 

 綺麗な長髪を三つ編みで纏めた、マチルダⅡ小隊を率いている我が同期はそう言って、私に並んで同じ風景を眺める。そこではラミンやドアーズが最後の調整を行い、ダージリン様の訓示を聞くために車両を整列させていた。

 

 「あいつ等が準決勝で居てくれたら、色々と楽だったのですけどね」

 

 「ニルギリ、確かにお前ならそう言うよな。小隊車両はまだ入院中?」

 

 「あぁ、新学期までは無理そうだ。エキシビションにも参加できない。練度低下が気になるけど……ひと段落したら、ドアーズに借りるか」

 

 もう一つのクロムウェル巡航戦車の小隊を率いるニルギリが私達に並ぶ。彼女が率いるクロムエル巡航戦車小隊は先の全国大会準決勝、対黒森峰戦で重度の損傷を受けて学園の外の修理工場で完全に分解されての修理を受けている。

 

 私たち三人は同級生で苦楽を共にしてきたせいで、三人だけだと聖グロリアーナ女学院の流儀を忘れて砕けて話せる。

 そして、悲しいことに女生徒からの人気があると言う点でも同じであった。一年目はそうでもなかったのだが、小動物系だったニルギリが、肝が据わっと言うか、開き直ったと言うか。アッサム先輩を目指した結果。怜悧な空気を纏い始めた頃にそれが決定的になった。

 その結果、ローズヒップ様命名の「ヅカ系三人衆」なる有り難いような、迷惑な様な二つ名が定着してしまっている。

 

 

 「しかし、黒森峰の重戦車5両を我々全員で仕留めたから、新規にあの戦力が導入された訳だ。卵が先か鶏が先かだな」

 

 「オムレツを作るにはまず。卵を割らなければならない、か」

 

 ルクリリがニルギリに言う。ニルギリも解っているとでも言う様に呟き、肩をすくめた。

 そう、黒森峰のティーガーⅠを三両、ディーガーⅡを二両撃破できたのは、ニルギリの小隊と私が所属するローズヒップ様のクルセイダー小隊が、ルクリリ達が支えていた戦線の真横に浸透し、黒森峰の隊列に突入し統制を乱し、グロリアーナ女学院が投入した全戦力での乱戦で得た戦果だった。その代償が75ミリ、88ミリ、128ミリの集中射撃を受けて大破したニルギリの小隊と我々の敗北であったが、確かにラミンとドアーズの戦力が加われば勝てたかもしれないと言う、ニルギリの発言には同意する。

 

                ―私達だって優勝したい―

 

 これは、聖グロリアーナ女学院戦車道履修者の全員が抱いている願望であり、もはや熱望にも近い。

 ベスト4常連で、準優勝も幾度か経験しているが、聖グロリアーナ女学院は最後の最後で敗北する。

 聖グロリアーナ女学院戦車道の伝統と言う制約の中での戦術、戦略ではどうにもならない。

 そう思わせられるほど、最後の一手が足りないと感じさせられる。

 

 それを打破できる可能性が目の前に出てきた。これに期待しないでいられるだろうか?

 

 「ルクリリ、クランベリー、これらに目を通し、評価してくれないか?それも今日中に」

 

 「随分急ね」

 

 私も同意と言った表情を浮かべてニルギリから四つの書類綴じを受け取る。

 タイトルはそれぞれ

 ・『プラン:アヴェマリア』 

 ・『プラン:G線上のアリア』 

 ・『プラン:ハンプティダンプティ』 

 ・『プラン:ビネガー塗の鰻ゼリー ファルサルス風味』

 と書かれており。

 流し読みで読む限り、作戦計画書であった。

 

 「ラミン、ドアーズ、オレンジペコがそれぞれ立案し、採用された作戦計画。最後のが、ダージリン様の基本計画」

 

 「つまり、ゲテモノにいくら調味料をかけてもゲテモノだから、正攻法で潰しましょうと、言う事かな?」

 

 ダージリン様の命名センスに対する評価を冥王星ぐらいまで放り投げて、計画を咀嚼する。

 

 誰しも全部完璧とならないのが人間である。

 

 『ファルサルス』

 かのジュリアス・シーザー……ガイウス・ユリウス・カエサルでも良いが、寡兵でポンペイウスの軍を撃破した戦い。

 戦術面で言えば、ハンニバル・バルカがカンネーでプブリウス・コルネリウス・スキピオ・アフリカヌス・マイヨルに、ザマの戦いでスキピオがハンニバルにやり返した包囲殲滅を、歩兵運用で行った包囲殲滅戦、鉄床戦術の完成系の一つとも言える。

 

 ドアーズの小隊が大洗女子を誘い込み、決定的な段階でダージリン様が率いる本部小隊が、右側面を叩き、そのまま敵中央へと突撃する計画である。

 ラミンの役割は、敵の迂回阻止、さしずめガイウス・クラッシアヌスといった所だろうか?

 

 「戦術の定石って所かなぁ」

 

 「教科書通りの戦闘ができる人が一番すごいと言うが」

 

 定石を定石通りにできるのは、何事も相対的である現実では難しい。

 まして、相手はあの大洗女子なのだ、定石通りの行動を強要させるのは難しい。

 故に何かが引っかかる。

 

 「まてよ……」

 

 私は、ラミンとドアーズ、そしてオレンジペコの作戦計画を一通り確認する。

 

           ―なるほどね。ダージリン様も人が悪い―

 

 後輩育成に熱心なのは理解していた。

 そして、一年を重視するのは経験を積める時間が長いからだ。

 彼女は聖グロリアーナ女学院戦車道チームと言う庭を手入れし、肥料を蒔き、苗を植えた。

         

         ―植えた苗が三年後に見事な茶葉を実らせるために―

 

 

 

 大洗との練習試合を前に。ダージリン様は我々に、ネルソンの引用を交えた訓示をなされた。

 一言で要約すれば。

 

 『聖グロリアーナ女学院は、各員がその持ち場で行うべき義務に対して、最善を尽くすであろうと信頼する』

 

 ネルソンがトラファルガーで示した旗旒信号の草案に近い物で、ダージリン様が『統率とは信頼によって成り立つ』と言う意思を示したものであった。

 

 その後は解散となったが、私はドアーズと話して、コメットとクロムエルで明日戦いに出る全員に、コメットとクロムエルの前に並ぶように召集を掛けた。

 全員にパンツァージャケット着用する事を命じ、自らも深紅のジャケットに袖を通して、黒の革手袋をはめ、騎乗ブーツを履き、腰にピストルベルトを巻き、双眼鏡、マップケース、信号拳銃を吊るす。最後に黒のベレーを被り、眼鏡をチタンフレームの物に替える。

 

 「ラミン。皆揃ったわ」

 

 ドアーズが私に告げる。

 彼女もパンツァージャケットの腰の部分に馬上鞭を吊るしていた。

 

 「鞭が似合い過ぎね」

 

 「そっちもキメ過ぎ。ついでに、刻みの入った象牙のグリップの拳銃でも吊るせば?」

 

 「残念ながら……パットンを気取って、サンダースに不要なヘイトを販売する予定も無いし。それに、熱血姐御なんてキャラじゃないし、好みでもないわね」

 

 「そうよね。どちらかと言えば、ハロルド・アレグザンダー大将よね。貴女」

 

 「渋いチョイスをありがとう」

 

 一次大戦から激戦地で闘い続け、ダンケルクでは最後まで踏み留まり、アフリカ戦線を最後まで支え続けた歴戦の名将に譬えられるのは嫌ではない。しかし、それだけじゃないバズだ。

 

 「怒れない皮肉は貴方の特技じゃない」

 

 私は肩を竦めてみせ、歩き出す。

 これからするのは、アレグザンダーよりパットンだが。

 

 

 「全員、傾注!」

 

 

 私が皆の前に立つと、意外な事に舞耶が号令をかけた。思えば聖グロリアーナ女学院在学歴が長いので、全員と顔なじみの可能性が在ったことを思いながら、自分もまだまだ付き合いが短いことを内心にメモしておく。

 

 私は皆の正面に停車しているコメットの車体に昇り、両足で強く踏ん張り、肚から声を出す。

 

 「親愛なる学友にして、勇敢なる戦友予定者である淑女の皆様」

 

 声を張り、全員を俯瞰して見つめる。嫌になるほどの視線の集中に、何もかもを投げ出したくなるが、堪える。

 

 「先ずは、突然の呼集に応じてくれたことに、感謝いたします。明日、我々は初陣を迎えます。相手は、今年度優勝校の大洗女子学園、我々の相手としては強敵と言えるでしょう。しかし、ダージリン様は我々が最善を果たすと事を信頼すると言われた。我々はその言葉に応えなければならない。淑女の皆さん。皆さんが学び、培って受け継ごうとしている聖グロリアーナ女学院の伝統、それらで構成された我々の戦車道を大洗女子にぶつける時です。我々は言うならば、聖グロリアーナ女学院戦車道部隊と言う花壇に植えられた花と言えます。一人がどの様に努力しても、聖グロリアーナ女学院戦車道部隊と言う巨大な花壇の中では一時の徒花でしかないのかもしれません。しかし、我々全員が協力し、努力すれば素晴らしいガーベラとして聖グロリアーナ女学院戦車道部隊と言う花壇を更に彩る事が出来ると私は信じております。これより先、我々は個々の義務において、最善を尽くして征く事でしょう。私たちの戦車道は未だ、行き先を濃い霧が包んでおります。しかし、ルビコン川が我々の目の前に迫っています。だから、明日、明日だけは、未来は来るのもではなく、勝ち取るものだと思って下さい。我々がガーベラになるために、運命は星が決めるのではなく。我々自身の想いと覚悟、そして行動が決めるのだと心得て下さい。そうであるが故に、明日。私は、賽を投げる!」

 

 語りに熱が、自身の情念が強く入ってきたと自覚する。自分の思考も感情も、その熱にあえて浮かされる様にする。言葉遣いが徐々に荒くなるのを自覚するが、修正を放棄する。

 戦友予定者の心に届かすには、婉曲にした言葉ではなく、素の熱い情念が必要だ。

 

 「諸君らに問う。明日、我々の果たすべき義務は!命令は何か?殲滅だ!攻撃するだの、損害を与えるだの、包囲するだのじゃない。殲滅だ。繰り返し言う。殲滅だ。一両残らずの殲滅だ!故に為すべき事はただ一つ!」

 

 最後は目の前に立っていたドアーズが唱和した。

 

 「「地獄を作れ!」」

 

 その命令に23人の戦友予定者は、見事な敬礼で応えた。




ガーベラ花言葉:「希望」「常に前進」


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番外編2 登場人物紹介 その2

今回はドアーズと、原作キャラから乖離し、半ばオリジナルキャラクターになった二名を紹介。


 ドアーズ

 身長:164センチ

 血液型:A型

 誕生日:7月15日

 好きな戦車:ビッカースMBT

 好きな花:ブーゲンビリア

 

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者。

 ラミンと同学年であるが、全国大会終了直後からクロムウェル巡航戦車一個小隊の指揮運用を任され、一年生を主体として部隊練成をしてきた。

 当初は先達であるニルギリの指導下で行っていたが、徐々に独自性を出てきた為、「後輩の戦車道を邪魔しない」為にニルギリ指導下を離れる。

その後は、「策士」と呼ばれるほどの手腕で小隊を纏め上げる。

 戦術傾向は徹底した定石からの変則戦術。状況に合致した定石に合せて次々と行動を変化させると言うその戦術は、高い状況把握力と、判断力を要求される。

 彼女は、その両方を兼ね備えている様であるが。経験不足と言う事を自覚している。

 趣味は、サイフォン珈琲。自室で一人でクラシックを聴きながら淹れ、味と香りを楽しむ。

 

 

クランベリー

 身長:174センチ

 血液型:B型

 誕生日:10月19日

 好きな戦車:オリファントMk.1

 好きな花:水仙

 

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者

 二年生であり、ローズヒップ率いるクルセイダー巡航戦車部隊の車長兼装填手

 ラミンの元上司で、彼女も射撃技術の可能性を見出して、砲手としていた。

 生活は明朗快活。表裏のない人物で果断。

 女子生徒からの人気があり、また、ラミンに懇切丁寧に指導していたことからユリ疑惑を持たれていた。

 趣味はフェンシング。その長身とスレンダーな肢体から繰り出される剣戟も女子生徒人気の一つである。

 

 

ニルギリ

 身長:169センチ

 血液型:A型

 誕生日:3月26日

 好きな戦車:コンカラー重戦車

 好きな花:シオン

 

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者

 原作とは違い二年生である。ビジュアルは原作に準拠する。

 ドアーズのは別のクロムウェル巡航戦車小隊小隊長

 一年時は、オドオドした態度と小心者な性格であったが、アッサム先輩を目指して努力した結果。

 現在では、知性漂う怜悧なクールビューティーな女性となった。

 その為に、同期のクランベリー、ルクリリの二名と合わせて女子人気が高く。

 ローズヒップ命名の「ヅカ系三人衆」の一人と言う地位に居る。

 戦術面では小隊を有機物の様に自在に動かし砲撃を躱して敵に肉薄して必中弾を浴びせると言うスタイル。

 これによって、第63回戦車道全国高校生大会準決勝では、黒森峰女学院の重戦車を協同撃破で5両撃破と言う功績を出した。

 趣味は、読書。ラミンとは時々図書室や、学園艦上の書店で顔を会せている。なお、読書の傾向は戦車道に関する知識と、時代小説である。 

 

 

ヴァニラ

 身長:161センチ

 血液型:О型

 誕生日:8月6日

 好きな戦車:マガフ

 好きな花:夾竹桃

 

  聖グロリアーナ女学院情報処理学部在籍、戦車道履修者

  二年生、ローズヒップ率いるクルセイダー巡航戦車部隊の車長兼装填手

  瞬時の判断力には目を見張るモノがあり。同級生で、クラスメイトで僚車のサクラとのコンビネーションは正に打てば響くとの評判である。

 性格的には視野が広く、物事を俯瞰してみる傾向がある。情報処理学部では、広く集めた情報を分析して相関図等を作るのが得意。

 趣味は、散歩で聖グロリアーナ女学院学園艦の白地図に自分の足で調べた情報を書き込んでおり、卒業までには完成させたいと思っている。

 

 

 サクラ

 身長:153センチ

 血液型:B型

 誕生日:8月9日

 好きな戦車:ショット

 好きな花:紫陽花

 

聖グロリアーナ女学院情報処理学部在籍、戦車道履修者

二年生、ローズヒップ率いるクルセイダー巡航戦車部隊の車長兼装砲手

ヴァニラと同級生で、クラスメイトで僚車。こちらは集中力が高い為に砲手と車長の兼任と言う形をとり、ヴァニラの発見報告から瞬時に射撃を行える。

性格的には、我慢強く長時間の集中力に秀でている。

情報処理学部では、長時間の経過観察系の情報処理や分析系統が得意。

趣味は、絵画。風景画が好きらしく、よくクラブハウスや、車庫、演習場を見下ろせる場所などでキャンパスを広げている姿が見かけられる。

 

 

 ディンブラ

身長:162センチ

 血液型:AB型

 誕生日:6月19日

 好きな戦車:アージュン

 好きな花:カトレア

 聖グロリアーナ女学院情報処理学部在籍、戦車道履修者

 ドアーズ指揮下のクロムウェル巡航戦車小隊次席指揮官。

 ドアーズを努力の上の「策士」とするなら、彼女は閃きにより、策を組み立てる「策士」である。

 他人にはその思考は「説明されれば解るが、どの段階でどう繋がるのかが不明」と評価されている。

 しかし、積極的な意見具申を行い。それが採用されるケース多々あり。ドアーズには自分の思考の穴を埋める存在として頼られてもいる。

 趣味はルービックキューブ。一般的なルービックキューブ以外にも無数のコレクションがある。

 

ルフナ

 身長:154センチ

 血液型:O型

 誕生日:11月30日

 好きな戦車:カルナ

 好きな花:岩団扇

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者

 ドアーズの小隊では珍しい、中等部より戦車道をしている少女。

 中等部では主にマチルダⅡに搭乗していた為、クロムウェル巡航戦車の戦闘テンポに困惑していたが。

 本人の努力と、小隊の仲間たちの手助けもあり順応した。

 趣味はトランプ。カード捌きは一流だが、性格的にポーカーやブラックジャック等は弱い。

 

 

 テライ

 身長:152センチ

 血液型:A型

 誕生日:4月28日

 好きな戦車:アル・ザラール

 好きな花:カイドウ

 聖グロリアーナ女学院普通科在籍、戦車道履修者

 ドワーズ小隊のクロムウェル巡航戦車車長。

 何事にも全力で取り組む少女。しかし、その熱意は多少空回り感があるが。自分の車両の面々がそれを助けている面もある。

 彼女は、他人に積極的に助けたるなる様な空気を持っていると、友人は語る事が多い。

 趣味は園芸

 




今回は、三名の紹介。クルセイダー小隊の残り二名は何れ追加いたします。

3/19
クルセイダー小隊の残り2名の追加を行いました。
7/10
ドアーズ小隊の戦車長を追加しました。


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練習試合編 練習試合直前、軽くなった心

お待たせいたしました。
今回は少し短いですがご容赦ください。



 夜明けの静かな海に影を落としながらに、聖グロリアーナ女学院学園艦は大洗港学園艦専用の桟橋に侵入した。見れば、大洗女子学園の学園艦は既に入港していた。

 メガストラクチャが並ぶ光景は一種の感動すら感じさせる光景であった。その二隻の中では、今日この地で闘うことになる戦車道女子たちが静かに闘志を燃やしている筈であった。

 そう、その筈だったのだ。

 

 「聖グロリアーナ女学院戦車道チームは、34番昇降機(リフト)―断じてエレベーターでは無い―を使用し、48番出入り口(ゲート)から下船して下さい。下船後は、大洗港管理部の交通統制に従って下さい」

 

 「一般車両は、3、6、9斜路(ランプ)を優先して使用してください」

 

 「乗船希望業者は、2,4、8斜路(ランプ)から乗船願います」

 

 「左舷(ひだりげん)のゲートは順次開放を開始してください」

 

 大量の乗船生活者が上陸し、また学園艦自体の些細な修繕の為に乗艦する業者の出入り、必要物資の搬入の為の車両の出入りなどで学園艦航行管理部門は大忙しである。

 聖グロリアーナ女学院戦車道チームも車両をキャリアに載せ、指定されたルートを辿って下船しようと慌ただしく移動を始めていた。

 移動するのは戦車だけでは無く、整備部門の車両、兵站部門の車両も加わり、一種のコンボイとなる。

 そして、下船は急ぐ必要がある。一般車両が港湾周辺の道路を埋めてしまう前に幹線道路人出る必要がある。大洗の学園艦も入港しているから、大洗港周辺の道路は、一時的には大きく混乱すると予想された。

 通常の入港ではここまでの混雑はない。しかし、今日は戦車道の練習試合が開催される為に、両方の学園艦居住者の多くが練習試合の見物の為に繰り出していた。

 見物者対策に、大洗町役場、商工会議所、茨城県警、戦車同連盟茨城支部は大忙しであり。観客席や観戦用メガビジョンの設置等をおこなっており。そして、人が集まればそこに商売を見出す香具師、的屋、地元商店街の出店などが早くも商売を始めていた。

 

 「戦車道による地域経済活性化……あのコストカットしか興味ない大臣様とデカい物潰して手っ取り早く功績を作りたい政治屋は無視するだろうなぁ…はむぅ……大洗周辺選出のセンセイに動いてもらうかなぁ」

 

 「お父様、食べ歩きながら考え事は、少々はしたないと思いますか」

 

 「あぁ、すまない。美紗」

 

 高野善行は歴戦の諜報員であるが、妻と娘、そして家族の前ではとても立場が低くなる。彼はバツが悪そうに出店のチョコバナナを胃に収めて、口元をウェットティッシュで拭った。

 

 「葉月伯母さんと、皐月叔母さんに会いに行くのですか?」

 

 「お父さんは、戦車同連盟の方に挨拶に行ってくる。恐らく、葉月もそっちに居ると思う。美紗は先に皐月の所に行ってくれないかい?」

 

 善行は娘と同じ目線の高さに合わせて、娘の目を見て言う。家族にお願いをする時は必ず行う動作だった。

 

 「はい。わかりましたわ。お父様、場所は地図通りでよろしいですか?」

 

 「あぁ、問題ないと思う。あと、皐月で通じなかったら、ラミンと尋ねれば大丈夫だと思うよ」

 

 善行の言葉に彼の娘は少し苦笑した。

 

 「聖グロリアーナ女学院戦車道チームの伝統ですね」

 

 「笑ってやるな。美紗の学校でも似た様なものだろう」

 

 「まぁ、生徒会役員はバラの名前で呼ばれますけど」

 

 彼女が通う学園艦は、戦前から武蔵野に在ったミッション系のお嬢様学校であり。その長い歴史から独自の文化と伝統を持っていた。

 

 「そう言う物なんだ。と思っておけばいいよ。それじゃぁ、行ってくるよ。聖グロリアーナ女学院の方に行く時には電話をするね」

 

 「はい、では、グロリアーナ女学院の集合場所でお待ちしております」

 

 

 戦車道の試合前にはどうしても、空白時間と言うのが発生する。それは、練習場で展開した各学園の車列(コンボイ)が会場に着き、試合開始地点で車両の最終確認、作戦の最終確認を行う。それを双方が完了したと審判団が判断して、試合開始前の挨拶の為に車両と、人員を試合会場のほぼ中心に移動させる。

 審判団の各種確認にはそれなりに時間がかかり、その時間がどうしても空白時間になる。

 

 ラミンはその隙間の時間を使い、大洗側に『横濱レンガ』と言う6個入り1450円のチョコレート菓子を贈呈用に梱包し、大洗戦車道チーム全員分を用意して、先日の詫びに出かけていた。

 

 練習試合に出ない面子は、試合開始まで意外と暇である。紅茶を用意し、保温用のケトルに淹れ、軽食を用意する。観覧席に場所取りに何名かが行っているが、流石にダージリン様のように貴賓席を設営したりしない。

 

         ―あのような事はダージリン様位でないとできない―

 

 別に、聖グロリアーナ女学院の階級制度と言う訳ではないが、戦車道チームを率いる隊長としての格とでも言えば良いのだろうか?兎に角、隊長であることは大変と言う訳だ。

 

 「失礼いたします。こちらは、聖グロリアーナ女学院の戦車道チームの待機テントでしょうか?」

 

 想定外の来訪者に対応しようとしたクランベリーは、相手の容姿、服装、所作を見た瞬間に聖グロリアーナ女学院の外向きのペルソナを被った。

 相手は黒に緑を一滴垂らした様な深緑色の古風なセーラー服姿、今時珍しいロングスカートを履きこなし、純白に近いタイを一寸の隙も無く着こなしている。その姿から何処の学園かは予想がついた。明治から続く、基督教系の御嬢様学校、それも昔は華族の子女向けで有名な学校である。

 

 「こちらは、間違いなく聖グロリアーナ女学院の戦車道チームの待機テントですよ。当学院に何か御用でしょうか?」

 

 「実は、人を探しています。聖グロリアーナ女学院の戦車道チームのメンバーの皐月叔母様……失礼、現在はラミンさんでした。を探しております。こちらにいらっしゃいますか?」

 

 「ラミンは席をはずしております。失礼ですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」

 

 その言葉を聞いて、来訪者は耳まで赤くなって、少し慌てて応対をしたが、言葉づかいには乱れはなかった。

 

 「失礼いたしました。最初に名乗るべきでしたね。私、高野美沙(たかのみさ)と申します。皐月叔母様のお兄様の娘です。本日は叔母様の戦車道の試合を父と観戦しに来たのですが、父は所用がありまして、私のみが先にこちらに参りました。ご迷惑でなければご一緒に観戦してもよろしいでしょうか?」

 

 「ラミンのご家族でしたら問題はございませんよ。只今、御席を用意いたします。お二人分必要でしょうか?」

 

 久々にラミン兄が私用でくるのかと、クランベリーは内心で少し楽しみになった。ラミンの兄は現役自衛隊幹部と言う事もあり、その戦術眼は大いに参考になる。また、博識と言うより衒学か碧学に近い豊富な知識量を駆使して、その場を盛り上げると言う。気遣いも好ましい。

 所詮は、子供と大人の差なのだろうがそれでも今回の練習試合の観戦を普段より実りあるものにしてくれると、期待を感じていた。

 

             ―さて、肝心のラミンは何処だろう?―

 

 

 そのラミンは自分の戦車部隊に戻っていた。

 大洗女子学園戦車道チーム全員に「私の車両のクルーと親類がご迷惑をおかけしたようで」で菓子を配り、深々と頭を下げて回って戻ってきた。

 アンコウチームの面々には、「迷惑じゃなかったですよ」と、「インフルエンザもう大丈夫ですか?」と恐縮と心配され。エルヴィンには「いや、知見を広げるいい機会だった」と返された。

 生徒会広報、河嶋桃が瞬間湯沸かし器の様に「貴様、我々を懐柔するつもりか!」と、怒鳴り上げたが生徒会長の角谷杏が「私らの戦車道は安くないだろう?かぁーしまぁ」の一言で収まり、風紀委員からは「今度からは許可を取る事」と言われる程度だった。

 

 「戦う前に大洗女子のチームを見てきた感想はあるかしら。ラミン?」

 

 自車に戻る途中でで、ダージリン様にそう言って呼び止められた。一瞬、心臓を嫌な寒気が撫でた。それは、私の感覚の間違いで在ってほしい。

 

 「ご存知でしたか」

 

 「オレンジペコが、『ラミンは戦闘前に一度、大洗女子のチームを見に行くと思います』と教えてくれたの。で、貴方の大洗女子の戦車道チームはどう見えたのかしら?」

 

 ダージリン様の声は普段と変わらず優雅そのものだった。いや、言葉の温度に楽しむような響きがある。私は色々と覚悟してその問いに答えることにした。

 

 「正直に申しあげますと、個性的過ぎて混乱しました。乗員も戦車も」

 

 「最初はもっと個性的だったわ。しかし、その彼女たちが今年の全国大会優勝を掴んだ。今日は私たちが、彼女たちの胸を借りる番」

 

 そうである。ダージリン様直属の本部小隊以外は、対外戦の初陣の人員である。

 

 「貴女はどうするの?」

 

 ダージリン様が問う。私はその瞳を真っ直ぐ見つめて答える。

 

 「隊長の信頼に応えられるように、私たちの戦車道をぶつけ、最善を尽くす様に努力いたします」

 

 私の答えに、ダージリン様は優しく微笑む。

 

 「それでいいわ。ハードスケジュールで変に気負わせたと思ったけど。それを忘れていないならのであれば、貴女はガーベラとして十分咲けるでしょう」

 

 そう言って、私をコメットの方へと送り出した。

 敵わないなぁと思いながらも、あと二年であそこまで至れるかと思ったが。

 

    ―私はダージリン様の模倣品になる為に戦車道をしているのでは無いい―

 

 と言う事に気がついて、心が少し軽くなった気がした。

 

そう思い、歩みを速めたところで、携帯電話がなった。

 

 「はい、高野です」

 

 「叔母様、美紗です。父と観戦に来ました。えっと、そのご武運を!」

 

相手はは年上の姪の美紗、懐かしいく、つい話したくなるが声が変わった、兄だ。

 

「電話変わるぞ、皐月。手短に言う。外野は気にするな。あの時とは違う。そして、お前の友と楽しめ。それじゃぁ、後で」」

 

 それで、通話が途切れた。

 同時に肩が軽くなった気する。

 

 

「今日は楽しもう」

 

 私は少し軽くなった足取りで、仲間とコメットの方へ急いだ。

 




練習試合前です。
なかなか試合が始まらなくて申し訳ない。
07/06
加筆


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