Fate/choise of fool (直視明光)
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プロローグ

 Fate/grand order に触発されて書き出したものの、なかなか筆が進まないうちに出そうと思っていた英霊が先に公式に出されてしまうなどの事件が起こりさらに遅れてしまいました。初投稿なので、暖かい目で見守ってやってください。


かつて世界を救おうとした男がいた。

世界の悲しみを、憎しみを、絶望を、その全てを無くそうとしたのだ。

もちろんそれは叶わなかった。必ず何かを切り捨てなければ、今ある幸福すら守れなかった。

それが何度も、何度も、何度も続いた時、男はついに決心した。

今ある世界全てを焼き尽くしてでも、みんなが笑える世界を造り上げることを。

 

 

もう深夜にも関わらず、この建物の明かりは尽きることがない。

ここは時計塔。と言ってもロンドンの有名な観光地ではない。十二の学部に分かれ、数百年の歴史を持つ魔術師の総本山。その内の考古学科のカレッジである。

普段は魔術教会の中でも権力闘争から遠く、その名にふさわしい古風な雰囲気を持つのだが、今日は珍しく不穏な空気が漂っている。それは主に「今にありながら過去にある」と称される考古学部長室から溢れだしていた。

「なぜこんな物が発見されてしまったのか。よりによってわたしが学部長の時に!」

時計塔の考古学部長は頭を抱えていた。きらめく白銀の髪が乱れる。

彼女の名はハインリッヒ・シェリー。物体との同期を得意とする魔術師である。彼女は、歴代の学部長の中でも随一の腕前を持ち、こんな風になるのはとても珍しい事であった。

そのため、何か口実をつけては落ち込む学部長を見にいく研究員が続出していた。

魔術教会の中でも古くから伝わる魔術を研究する彼らの任務の一つに、大英博物館の地下に眠る最初期の工房の探求がある。半分ダンジョンとなってしまっている工房にも昔は多数の魔術師がいた。

しかし、後継ぎがいない研究の多くはその隠匿性によって闇へと消えてしまう。もしそれを回収することができれば、先人の研究をそのまま引き継ぐことができるのだ。

ただトラップに巻き込まれたり、封印されていた魔獣に襲われたりする事故が多発する為、殆どの魔術師には敬遠されており、古代遺跡の探求の方がはるかに人気があった。

故に小学生の夏休みの宿題のような有様だったのだが、『せっ、聖杯戦争の設計図らしきものが発見されました!』と探索班が報告してきたことで大騒ぎになった。

なんでも日本のある都市で地脈を利用してそれらしきものを開くらしい。最近本家のものは何人かの魔術師の手によって聖杯が破壊されてしまい、その解体もそのうちに行われてしまうという。それを受けて考古学科では、普段めったに来ないほどの人数の魔術師たちが奔走していた。     

しかしそんな中、やけに呑気そうな顔をした顔をした男がいる。

「すいません。このレポートなのですが」

「君もか。まさか普段全く講義に出ない考古学科の悪夢まで私が落ち込むのを見たがるとは。どいつもこいつも」

「いやぁ」

軽そうな顔と茶髪、それなのに首から下がやたらマッチョな男が、照れたように頭を撫でた。

 ログウェル・クック。時計塔の悪夢と呼ばれる彼は同時に探検家としてのスペシャリストでもある。その業績は考古学科でトップクラスではあるのだが、実は未だに学生の身であり、もう三十路半ばを過ぎていたりもする。

その実力は持って生まれた「物の起源」を見る魔眼に起因し、普通なら気が付かない入り口やトラップをたちどころに認識し大量の宝物を手に入れる事が出来る。これは一族代々受け継がれてきた血筋に起因する。まぁその奔放ぶりのせいで勘当されてしまった身なのだが。

普段は時たま研究成果を持って帰って来て、何も言わずにそれだけ置いて帰っていく様な彼であるが、さすがにこんな面白い事件は見過ごせなかったらしい。

「それで何しに来たのだ。『考古学は現地調査が一番、研究所にこもっていたら自分が研究対象になっちまうぜ』などと言って時計塔にもほとんど戻ってこない問題児のくせに。まさか、本当にレポートを提出しに来たわけではあるまい。手短に頼むぞ。私は会議の連続で疲れているのだ。これ以上何か手間を取らせるようなことがあったら、殴り飛ばしてやる」

そう言ってシェリーは拳を振り上げた。

「ロード、疲れすぎてキャラが崩れてませんか。あの天才、ウェイバー・ベルベットみたいになってますよ」

「黙れ、弟子の成長に置いていかれて挙句にグレートビックベン☆ロンドンスターなんて変なあだ名をつけられているヤツと一緒にしないでくれ」

 シェリーは振り上げていた拳を思いっきり振り下ろした。

「本当に聖杯戦争が行われているなら、この俺を魔術教会からの管理者として派遣してくれませんか」

その拳をモロに受けておきながら顔色一つ変えずにログウェルは言った。

「は?」

 たっぷり十秒ほどの間を置いた後シェリーは口を開いた。

「君、聖杯戦争が一体どのようなものが分かっているのかね。本家でさえ7人の魔術師が手段を選ばずに殺し合い、千人以上が死んだこともあるのだぞ。戦闘向きでない君の魔術でどう戦うのだ。 しかもこれはまだどんなものかも確認できていないのだ。現に、多大な参加人数や、英霊への縛りと現界術式の不完全性など、本物と違う点が続出している。聖堂教会も黙ってはいないだろう。もし使者を派遣して死んでしまったら…」

 彼女の頭が高速で回転する、こんなよくわからない聖杯戦争に貴重な研究要員を割いてはならない。ならば、高位の魔術師である自分が行けばいいような気もするが、いかに強大な魔術師であろうとこの争いにおいて生き残れるとは限らない。現に自信たっぷりで出掛けておきながら妻共々死んでしまった元学部長もいるのだ。

 その点、この男は適任である、もともと古代遺跡でトラップ相手に映画のようなことをやって生きている奴なのだ。なかなか死なないだろうし魔術の解析にも優れている。もし死んでしまっても、どのみち時計塔に寄りつかないこの男なら惜しくはない。

 これだけの事を1秒で考え、シェリーは口を開いた。

「なるほど、それは良い案だ。ほかのロードには私から話しておこう。それで君の目的はなんだね」

「良かったんですが、何かろくでもないことを思われている気が…。歴史上の遺物の回収に行きたいと」

 突如飛ばされてきた魔術弾をログウェルは寸前でかわす。

「何するんですかロード、あなたの魔術弾なんか素で食らったらシャレになりませんよ」

 なおも魔術弾を連続で飛ばしながらシェリーは叫んだ。

「忌々しい!君は!どうして!どんな願いでもかなうという聖杯に興味を持たないのだ!どうしてよりによってそこで遺物なんぞを欲しがる!」

「だって聖杯戦争ですよ、過去にも強力な英霊を呼び出そうと原初の蛇の抜け殻や、かの征服王の衣服が用意されたらしいじゃないですか。考古屋として、それが手に入れば冥利に尽きるってもんでしょう。だったらロードはどんなものを頼むんですか、金には困ってなさそうですし…あっ、わかりました結婚ですうわっっっっっ!」

 数日後、直撃した大量の魔術弾のダメージを回復し、頑丈さに驚かれながらログウェルは時計塔を後にした。

 

「しかし発動時刻が都合よく来年になっているなんて。タイミングが良すぎるな」

シェリーは一人で呟く。

「まるでわざわざ見つけられようとしているかのような気がする。何も起こらないといいが。まぁそんなことは有り得ないのだけど。私も動かざるをえないか…」

そもそもこの聖杯戦争を起こしたフランマ・ブレドアリナの子孫は今も生きているはずである。なぜ子孫に聖杯戦争の所在を知らせて聖杯を独占しなかったのだろうか。彼女はそんなことを考えていた。

 もっとも、魔術協会を躍らせようとしていたなら、それはすでに失敗している。彼女の背中には六十にも及ぶ令呪が静かに光り輝いていた。

 

 

 

 




 二週間に一回は最低でも投稿したいと考えてします。少しだけ書き溜めて置いた分があるので、次回は比較的はやく投稿できると思います。


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召喚ー選択の始まりー

 書き溜めとかできませんね!(やけくそ)
 書けるだけ書いた分をとりあえず載せたいと思います。
 いよいよ主人公の登場です。
 シリアスパートはしばらくお休みです。主人公の認識に合わせて書いているので、ノリが少し軽いところは許してやってください。
 個人的には、公式と微妙に変えてある召喚術式を見てほしかったりします。


―――物心ついた時から、俺の身近には魔術があった。

 幼い頃1番最初に与えられた本は魔術について書かれた理論書だったし、両親は毎日の様に俺に魔術の基本を学ばせ、俺がそれを身に付けていくのを見て喜んだ。

 自分でもそれが普通だと思っていたし、疑問も感じなかった。

 なぜ家族の中で俺しか魔術を使えないのだろうかという事以外は。

 後から分かった事だが、俺の家系“ブレドアリナ家”はこの当時完全に終わっていた。

 かつてはヨーロッパ1と呼ばれた事もあったらしいが、4世代ほど前から廃れ始め、親 父の代になってついに魔術師の生命線である魔術回路が完全になくなってしまうという体たらくだった。

 父はかつての栄華の名残である魔術刻印を細々と保ち続けることで精いっぱいだったらしい。

 そんなひどい状況だったからこそ、魔術回路を平均の25本程度しか持っていない俺が“天才”だの“神童”などと呼ばれて、無駄に調子に乗っていたのだろう。

 あの頃の俺は、自分は凄いのだと無邪気に信じ込んでいたし、周りの人々が自分よりも劣っていると思っていたふしさえあった。

 だがそんな思い込みは、時計塔に行って他の魔術師を見て一瞬で砕け散ってしまった。こちらが必死になってやることを奴らは簡単にこなしてしまう。

 正直言ってレベルが、次元が違うなんてものじゃなかった。彼らの周りだけ異世界で、これは上手く作られたCG映画のワンシーンだと言われても信じられただろう。

あまりにも差がありすぎて、いったいどれぐらい差があるのかさえ分からなかった。

そこから努力した。もうこれ以上ないほど毎日毎日、少しでも追いつこうとして必死になった。

 まだ追いつけていないけれど、“彼らの弟子”程度の実力は手に入れられたと思う。

 そして今やっている“コレ”が成功すれば彼らさえも追い越せるかもしれない。

 そう、これはチャンスなんだ。後は落ち着いて正面を向き、誰が来たかを確認するだけ。

 失敗はしてない。絶対にしてないんだから、こんなにドキドキする必要はないはずなんだ!

 ――――わざわざこんなに長い回想までして、俺は今自分を落ち着かせることに必死になっていた。

 

 

 

 聖杯戦争、と呼ばれるものを知っているだろうか。

 日本においてある町で5度開催された、7つの英雄の魂を呼び出して行う殺し合いを。

最後まで残った者は、あらゆる願いをかなえる力を持つ聖杯を手に入れることが出来るという。それをめぐって、過去五回すさまじい争いが繰り広げられた。

 その戦いにおいて確認されたものと同じようなものがこの土地で始まるなんて夢物語を聞かされたら、誰だってテンションが上がる。とりあえず土地の管理者らしいから教えておくぜ、なんて適当なテンションで来た相手がドン引きするぐらいに俺は喜んでいた。

 何でも俺の家の家系の中でもトップを張れるぐらいの魔術師によって、たった1人で作った仕組みが、今になって動き出したらしい。本物の方は三つの魔術師の一族が協力して作ったそうだから、それがどれくらいすごい事かはわかる。ありがとうご先祖様!

「ただ、魂を集める力があることが確認されただけで、聖杯が出て来るかどうかは未知数なんだけどね。英霊のクラスも本物の3倍以上あるらしいし……」

 本来聖杯戦争がどのようなものなのかもも禄に知らない俺に対して、そいつはそんなよく分からない事だけ報告して帰って行った。結局何が言いたかったんだろう。

一人きりになってからも俺は1人でずっと盛り上がっていた。魔術師同士の戦いなんて初めてだし、何よりも沢山の魔術師と実力を比べあう事が出来るんじゃないかと思うとわくわくした。

 その日から召喚を行う日に向けて毎日準備した。倉庫をあさったり、親父の遺品を持って来たりして必要な道具を集めた。やっぱり準備は重要だ。魔方陣の書き方や呪文の唱え方を覚え、リハーサルも十回以上行った。これだけやれば絶対に成功する自信がある。

 というわけで当日を無事迎え、俺はついに英霊を召喚する事となった。

 まぁ結局聖遺物は見つけられなかったが、それはそれ、きっとなんとかなるだろう。今までの聖杯戦争でもなんだかんだ言って何かは出て来たみたいだし。優勝するなんて夢のまた夢、俺の望みは最後まで無事生き延びる事だ。それぐらいなら大抵の英霊ならどうにかなる!

 そんな甘い見通しを立てていた事を、後から俺は後悔した。もう少しまじめに悩めよ!余裕ぶってると、後からひどい目に合うってのに…。 

 

「消去の中に退去、退去の陣を4つ刻んで召喚の陣で囲む、か」

 地下室の床に陣を刻む。英霊なんてものを召喚するからには、もっと複雑で理解できないようなややこしい手順が必要なのだと思っていたが、そうでもなかった。

しかも現界してきてからでも大きな魔力の提供が必要ないそうだ。それって大丈夫なのか。後から莫大な請求を受けたりしないのか。

とはいえ一度は死んでしまった英雄の魂を、こちらの世界に無理矢理持って来ているんだ。それ相応の対価は覚悟しておくべきだ。

―――ところで、まだ死んでない偉人の召喚は出来ないのだろうか。魔術教会のトップ辺りを召喚できれば一騎当千なのだが…。

くだらない考えを振り払って集中し直す。そんな事を考えながら出来る程甘い儀式じゃない。

「雷と焔を糧に、礎に地に秘められし力を。偉大なる全能神の力を中心に据える。立ち昇る波には壁を。四方の道は集まり、無より出でて結末に至る最後の希望は巡り昇華せよ」

 ゆっくりと呪文を唱え始める。

 強力な英霊を召喚するために、俺はわざわざ俺の体内の魔力が最高潮になる午前1時まで起きていた。

 魔術教会は『21体も召喚される英霊を同時に把握するため全員同じ日に召喚しろ』と指令を出してきたが、0時過ぎたらもうその日だ。誰も真夜中に召喚してはいけないなんて言ってない。

 こっちは人生を賭けてるんだ。少しでも有利な立場で戦いたいと思うのは当然だろう?

 自分の血液をこれだけ用意するのも大変だったし、失敗なんてするわけにはいかない。もししてしまったら原因となった者全てを一族郎党呪ってやる!

 ……結局誰に文句言うかってなると、自分に帰って来るわけだが。

 この聖杯戦争だと、大本にはあった『令呪』という絶対命令権の様なものがなくなっているらしく、その代わりに何でも『サーヴァントとマスターが二重存在となる。』らしい。よくわからないが、万が一の為にすぐに攻撃できるように準備してある。英霊相手にそれが効くかは疑問なのだけれど。

「止まれ。廻れ。進め。三つの歯車を回す。ただ、終わりし頃に帰還せよ」

 あと少しで狙った時間になる。おおむね計算通りだと言えるだろう。

 とはいえここからが本番だ。軽く気合を入れ直して詠唱を再開する。

「CONNECT」

 俺の中にある、見えないスイッチを押し上げる。

 背中から翼が生えるような感覚。ミシミシと嫌な音がする。

 身体の中身が入れ替わっていき、自分が人から魔術師へと変わっていく。

 濃いマナを全身に取り込んで、違う魔力に変換する。

 全身が熱い。身体をひどく邪魔くさく感じる。とっととやめてくれ、もう限界だと肉体が叫ぶ。

 これは魔術を使おうとする俺を、人である俺が抑えようとする拒否反応のようなものだ。

 魔術刻印が多い身である俺はその負荷がなおさら大きくなる。大事な魔術刻印だが、こういうのはどうにかならなかったのだろうか。

 体の痛み、全身の違和感、そういうくだらない事を全部無視して、ただひたすらに詠唱を続ける。

「告げる。汝の身は我が内に、我らが命運は共に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば答えよ――」

 突然、何も見えなくなった。本能的に焦る自分を押し留める。ここで失敗したら元も子もない。

 今の俺は魔力を外に出し続けさえすればいい。余計なことは考えるな!

「誓いを此処に。我はうつしよの善を担う者。我はうつしよの悪を制す者。汝五霊に守られし柱、抑止の輪より脱出せよ、新たなる空間の管理者よ―――!」

 呪文を最後まで言い切って、軽く一息ついた。

 五感を感じる。自分が人に戻っていることを確認する。

 上手くいった。失敗なんてありえない。そう思っているのに、なんでこんなに緊張するんだろうか。

 問題はない。そう、問題はないはずなんだ。だから落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!

 ミスをしたんじゃないかとか、ダメなんじゃないかとか、ついついマイナス方向に加速していく思考を抑えこむ為、軽く回想でもしてみる。

 心の中に浮かぶのは、幼少期の栄光の記憶とその後の挫折。

 周りの魔術師からバカにされ、コケにされ、見下された日々。

………まぁこんな事で、気分が明るくなるはずはないか。

現れた英雄を見るべく、俺はそんな気分のまま正面に目線をやって―――

 

 驚きのあまり言葉を失い、くだらない感傷は心の底から吹っ飛んだ。

 

 




 次回も早く投稿すると思います。(やけくそ)
 WORDからコピーして貼り付けるといちいち段落を変えなければならないのがめんどくさいです。


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サーヴァント、降臨!

遂に英霊の登場です。なお、真名はあともう少し明かさずに行こうと思っています。


 そこには恐ろしいほど美しい女性が立っていた。赤みがかった茶色の縮れ気味の髪をしていて、よく似合う赤い派手なドレスを着ている。目つきはちょっときつくて、かわいいというよりはきれいって感じの顔つきだ。

「ごきげんよう。お前が私のマスターですか」

 声は涼やかで、鈴の音のようだ。若干上から目線なのが少し気になる。

 まるでどこかの王女様の様だ。いや、実際そうかもしれない。

 これからこの人と一緒に戦うことを考えると心が少し傷んだ。自分の欲望の為に手を汚してもらうなんて、冷静に考えると随分と都合がいい話だ。

 そんな事を考えると、なんだか申し訳ない気分になってきた。

「どうしました?いつまで呆けているつもりですか。早く正気に戻ってください」

 ふと我に返る。そうだな、早く話さないと、相手に迷惑だ。

「えっと、君って俺のサーヴァントだよな」

「ええ、そうですが。他のなんだと思っているのですか?」

 キョトンと不思議そうな目つきでこっちを見てきた。

「ああ、やっぱりそうだよな。あんまり実感わかなくて…」

「ふふ、そんなに驚きましたか。少し嬉しいですね。」

 口元に華やかな笑みを浮かべ、得意げな表情を浮かべる。やっぱり百戦錬磨の戦士には見えない。むしろ見れば見るほど、そんな場にはそぐわないように感じる。

「今までどんな戦闘をしてきた?戦いとかしたことある?」

「もちろんありますとも。どうしてそんなことを聞くのですか?」

「いや、そんな見かけだからさ。なんというか、君と一緒にこれから殺し合いをするのはちょっと…」

「わ、私と一緒では不安だという事ですか!」

顔を真っ赤にしている。どうやら怒らせてしまったみたいだ。

「これだから男は…。いいですか、女性だから戦えないと思っているのならそれは大きな間違いです。お前のような三流の魔術師よりは、私の方がよっぽど優秀です」

「さ、三流ってさ、そりゃ否定はしきれないけど。初対面のヤツにいきなりそんなこと普通言わないだろう」

「出会い頭に“お前は戦力にならない”というような者に言われたくはありません!」

そう言うなり、彼女は横を向いて膨れっ面をした。悪い事言っちゃったな…。

「えっーと、とりあえず、真名を教えてくれ。それぐらいの情報共有は必要だろ?」

この何とも言えない空気を何とかする為、あえて笑顔で言ってみる。

「貴方に名乗る名などありませんっ」

 ダメだ。何の効果もない。

「なぁ、頼むよ。俺こういう感じのイベントに参加するの初めてでさ。この日の為にずっと準備して来たんだ。周りの奴に“お前にはまだ早い”とか“無理があるだろ”とかさんざんに言われてさ。こんなくだらない事でもめて敗退とか嫌すぎる。ここで勝てなきゃせっかくのチャンスが無駄になっちゃうんだ。もう“ブレドアリナ家?ああ、昔の伝説に出て来るアレ?まだ残ってたんだ”とか自己紹介するたびにヒソヒソ陰口を叩かれたくないんだよ…」

さっきまでの感傷が戻ってきた。外はまだ真っ暗、俺は何をしているんだろう。

「グチグチうるさい奴ですね…。わざわざ言わなくても見ればわかるでしょう」

 それを見て少しは同情してくれたのか、彼女は児童を慰めるような口調で諭してきた。

 そうだな…。その恰好と性格からして…。

「マリーアントワネットかな」

 美しさで世界を統べるわ!、みたいな感じでぴったりじゃないか。

「一体誰ですかそれは?そんな名前は知りませんよ」

「あれ?違ったかな。いや、それ以前に通じてない?」

 どうやらフランス革命より前に死んだ英雄らしい。それより前で女性の英雄となると…ジャンヌダルク?いや、ドレスは着ていないと思うけどな。

「戦いになってから宝具の真名を開放しますから、その時に確認してください。」

「ああ、分かった。でもさ、実はひどくマイナーな英霊だったりしないよな?世界で最初に勇者に助けてもらった人とか。」

 如何にもそういう感じの見かけだしね。それで、勇者と派手な恋物語を演じるんだ。

「お前は私の事を絶対に馬鹿にしていますよね!」

 結局さらに怒らせてしまった。何が良くなかったのだろうか。

そんな話をしている中、突然右手の甲に鈍い痛みが走り抜けた。

「痛っ―。」

思わずそこを抑えると、不思議な物が目に入った。

血で直接描かれたような絵と文字が、手の甲に浮かび上がっている。

「E、M、P、R、E,S,S。女帝か。」

「? なぜそんな事が分かったのですか。まだ話していないのに?」

 お、こっちに興味を持ってくれたみたいだ。

「この聖杯戦争ってさ、クラスがタロットカードになぞらえて設定されてるんだ。ま、愚者――フールのクラスだけかけているんだけど。で、そのクラスに対応する絵柄が右腕の甲に現れるようになってるんだよ。」

 魔術教会の管理者から聞いたうろ覚えの知識を総動員して説明する。それにしてもすぐに見やすい場所で良かった。背中だったら魔術刻印と混ざって、何が書かれているか全く分からないものな。

「タロットカード、ですか…。占い遊びに使うあれですね。庶民が遊んでばかりで仕事をせず、何度も禁止令を出したものです」

「はぁ。それは凄いね。」

「むっ。その反応…。信じていませんね」

「いや信じるよ。でも見かけと言っていることが、どうも合わないというか…」

「またそのような態度をとって。先程確かに言ったはずですよ。お前のような考えを持つ男がいるから―」

『プルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!』

 場の空気が再び険悪になりかけたその時、彼女の話を遮る形で突然電話が鳴りだした。

「わっ!いきなり何の音ですか?」

びっくりしている彼女を横目に電話を取る。誰だか知らないけどナイスタイミングだ!

「はい、こちらブレドアリナ・K・流星です。どちら様でしょうか」

「俺だ。もうサーヴァントの召喚は出来たか?まぁお前の事だ。まだ準備さえ出来てなかったりしてな。」

 ハハハハ、と受話器の向こうから神経を逆なでする笑い声が聞こえてきた。

「お、お前か」

この必要なく嫌味を織り交ぜてくる感じ、間違いない。こいつは…。

「よぉジョー、久しぶりだな。」

「こちらこそだ流星。そのバカっぽい感じ、全然変わってないな。」

 こいつの名前はジョージ・U・ストーン。イギリス生まれでイギリス育ちの由緒正しき魔術師で、時計塔での修行仲間。態度から分かる通りなかなかの自信家だ。

「それでそう言うお前の方はどうなんだよ、もう召喚は終わったのか」

「当たり前だろう。三時間前に終わらせた。この戦いに参加する者の中では恐らく一番最初に違いない。誰も夜の間に召喚していけないとは言っていないからな。」

 なるほど、同じことを考えたのは俺一人じゃないって事か。

「それで、監督役には報告したのか?まさかサーヴァントに気を取られて、すっかり忘れてるんじゃないだろうな」

「な、なぜ分かった!」

 まさかすでにジョーの使い魔に見張られているのか?いつの間に仕掛けたんだ!

「何を驚いている。日頃のお前の態度から簡単に推理できることだろうが。というかお前、報告せずに参加するつもりだったのか?なかなかいい度胸じゃないか」

「ああ、そうか!」

そういえば、サーヴァントを召喚できたらちゃんと連絡しとけって言われてた様な…。

「はぁ…。やはりな。だから軽い気持ちで参加するならやめておけとあれほど言ったのに、もうそんな失敗をして、そんな風で大丈夫なのか?」

「余計なお世話だ。そんなことより、約束覚えてるか?」

「聞くまでもないだろう。間違っても時間に遅れるなよ。」

「わかってるって。それじゃな。」

 電話を切って、ふと隣を見てみた。

「お、おおっっっっっっっ!!!」

 なんでだろう。やけにキラキラした目で見られてる気がするんだが……。

「す、すごいです!まさかお前のようなものがそんな複雑な道具を扱えるとは思いもしませんでした!」

「あ、ああ。そりゃどうも」

 それって俺の事を褒めてくれてるつもりなのだろうか?複雑な気分だ。

「あのな、これぐらいのこと現代人なら誰だって出来るぞ。というか、君だって知識だけなら持ってるはずじゃないのかよ?」

 召喚の時、どこかで失敗でもしてしまったのだろうか。

「だ、誰でも出来るのですか!お、恐ろしい時代に来てしまったものです」

 ダメだ。会話出来てる感じがしない。

「………まぁなんだっていいや。そういえば、君の事これからどうやって呼べばいいかな。いつまでも君だなんて呼び続けるわけにはいかないだろう。」

 やっぱりこれから一緒に戦っていく仲間とは、少しでも親しみやすく話したい。

「え〜と、どうしましょうかね。」

 彼女は少し考えた後、

「女王陛下と呼んでください。」

と、臆面もなく満面の笑みで言ってきたのだった。

 




次回はもう少し後に投稿しようと思っています。
少ない書き溜めがどんどん減っていく…(涙)。


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なんだかんだで日常

 早く戦闘シーンが書きたい!


 結局交渉の結果、彼女のクラス名であるエンプレス(女帝)…は言いにくいので、クイーンと呼ぶ事になった。最終的には彼女も納得していたし、結果的には良かったのだろう。まさかその程度の事で1時間も揉めるとは思わなかったけど。

 その後、俺は明日の学校に備えて寝床に着いた。少しでも気分を落ち着かせようと頑張ったけど、結局寝付けず暫く無為な時間を過ごした。それはまぁしょうがない。実質眠れたのが一時間ぐらいでも、別に悪いとは思わない。

 だけど、こんな目に遭うのは納得できない。この感情を伝える為、大声で叫ぶ。

「今何時だと思ってる!まだ5時だぞ!普通昨日午前2時に寝た奴をこんな時間に起こすか?もう少しぐらい寝かせてくれたっていいだろう!」

 人がいい夢を見ていたところを思いっきり揺さぶって起こしてきた上に、熟睡してるふりして誤魔そうとしたらベッドをひっくり返された!なんなんだコイツは、必要に応じて鬼人に覚醒したりするような感じなのか?

「何を怒っているのですか?私に従うものが私より早く起きるのは当然でしょう。ほら、着替えの準備をさっさと始めてください。ところで、ここにはお前以外の者はいないのですか?使用人が一人もいないとは、ずいぶんと質疎な家ですね」

 いかにもそれが当たり前、といった態度で接してくる。あのなぁ…。

「失礼な奴だな。今時家にそんなの置いてるのは少女漫画の男主人公ぐらいだ。大体俺一人しか住んでないんだから、もしいたとしても無駄なだけだ。」

 とはいえ、元々はこの家にも何人かはその手の者がいた。腐っても名家、その程度の事はステータスとして当然だ。時計塔に行っている間に俺の両親が病気で亡くなってからは別々の家に行ってしまったけど、今でも手紙ぐらいはやり取りする仲ではある。

 そうは言っても、そんな事は今何の役にも立ちゃしない。はてさてどうしたものか…。

 思案顔になる俺を見て、彼女はなぜだか嬉しそうに

「色は青で,清楚な感じがいいですね。コルセットは張り骨の部分が銀で出来ている物が身に付けやすいです。スカートはやはり大きくたっぷりしている物に強く惹かれます。ティアラは…」

 なぜだか服装のリクエストを始めた。しかも非常に細かく複雑に。

「何を勘違いしてるのか知らないけどな、俺の家に女物の服はないぞ。サーヴァントなんだから服がなくてもやっていけるだろう」

「そ、そうですか…。そうですよね、ここは遠くの人間と会うことなく話すことができるような時代。そんな些細な文化は消滅してしまったのでしょう。」

残念そうに間違った解釈を堂々と披露するクイーン。まぁ納得してるなら何でもいいか。

「そういや朝食はどうするんだ?俺はフル・ブレックファーストにするけど、クイーンは?」

「私の様な高貴なものが朝食を頂くと思うのですか?その様な文化は庶民の物、私達とは関係ありません」

 朝食を食べる文化がないなんて、こいつは一体どこのどんな時代の英雄なのだろう?服装からしてヨーロッパ系であることは確かだろうが、そこから先がさっぱりわからん。

 「要はいらないってことだよな。分かった、それならそれでいいよ」

 むしろ作る手間が省けた分だけ喜ぶべきところだろう。

 まず、紅茶を入れる為お湯を沸かす。フライパンにベーコンを入れ、トマトを刻む。

この料理は品数が多いので、朝の短い時間でどれだけ早く準備できるかが勝負だ。

 パンをトーストし、ソーセージをフライパンに放り込む。ベーコンから油が出てきたのを確認したところで卵を割り、焦げ付かせないようコンロの火力を少し下げる。

 パンにマーマレードを塗り、皿の上にそれを載せて、そこにソーセージを並べる。

 一息ついてから、ベーコンエッグの焼け具合を確認する。うん、俺の好みのやや固めになっている。それを皿の上に載せて完成!うん、我ながらうまく出来たといえるだろう。

 リビングに完成した朝食を持っていった俺を、クイーンが驚きの目で見ている。うん、悪い気はしないな。

「恐ろしい速度で作り上げましたね…。王室専属の料理人並みです…」

「時計塔にいる間にこういうスタイルの朝食にはまっちゃってさ。こっちに戻って来てから何度も試作して、ある程度は出来るようになったんだ」

そのまま自慢話をしようとする俺のセリフを、ピーピーという甲高く恐ろしく大きい音が遮った。

「しまった!やかんにお湯を沸かしたのをすっかり忘れてた!」

「やっぱり大した事無かったですね」。

そんなクイーンの声を後ろに聞きながら、俺は慌てて走っていった。

 

朝食を食べた後、軽く掃除をしてから学校に行く準備をした。ここまではいつもの朝だ。

 とても早く起きたことと、そうやってせっせと働いている間、クイーンがじーっとこっちを見てきていたことを除けばの話だが。

「どうしたんだ、そんなに見つめてきて。何か変な物でもついてるかな?」

「…別にいいです。おいしそうな料理を一口も分けてくれなかった事も、掃除をしている間いくら話しかけても聞いてくれなかった事も、全く気にしていませんから」

「なんだっていいけどさ、俺学校に行くけどクイーンはどうする?」

「軽く無視されました…。まさかもう話す気もないと言いたいのでしょうか。『パートナーが私のような者ではあてにはならない』と昨日言っていましたが、存在すら認めてくれない程嫌だったとは…」

 どうしたんだろう?何か一人でぶつぶつ言い始めたぞ。

「なぁ、俺の話聞いてる?」

「は、はいっ、もちろんです。霊体になってどこまでもついていきますっ。それでいいですよねっ。」

「あ、ああ。そ、それなら構わないけど…。」

 何だ。何が一体彼女をこんなにハイテンションにしたんだ。

 まぁいいや、とにかく学校に行くぞ!と思っていたところで、大事な事に気付いた。

「しまった。今の時間が普段より1時間ぐらい早いってことをすっかり忘れてた」

 時計を見てみると、まだ7時にもなってなかった。ここからどうやって時間を潰そう。

とりあえず、監視役に電話してみるか。この時間に起きているかどうかは微妙だけど、ダメもとで試してみよう。少しでも早く連絡するに越したことはない。

 携帯電話を取りだし、教えられた番号を入力する。4コールぐらいで相手が出た。

「はい―。こちらログウェル・クックです。何か御用でしょうか」

「こちら、ブレドアリナ・k・流星です。英霊の召喚ができたので報告します」

「やぁ、君かい。で、英霊はどんな遺物で召喚したんだ?」

「いや、特にそういうのは使ってないんだけど。何とか上手くいきました。」

 というか普通、どのクラスで召喚したとか、どんな英霊が出て来たのかとか、そういう感じのことを聞くもんじゃないのか?

「あ、そう。それじゃそれでいいや。そんじゃね」

「態度が一気に適当になったな!真面目に話聞く気無いのか!」

「そんなものあるわけないだろ。とっとと電話を切ってくれ。ああ、言い忘れた。オレも聖杯戦争に参加することにしたから」

「へぇ、そう…。ってちょっと待った。何て事をさりげなく言ってるんだ!聖杯戦争に監視役が参加するなんて前代未聞だぞ!」

 そんな俺のセリフに対して、無情に応える『ツー、ツー』という音。

 マジかよ…。あまりの事に俺はしばらく沈黙した。

 あいつが聖杯戦争に参加してくるという事は、かなり重要な意味を持つ。

 例えばサーヴァントを失っても、協会に避難して助けて貰うことができない。何か緊急事態が起きたとしても、協会に報告出来ない。そして何より重要なことだが、戦いに巻き込まれた一般人がいても、協会に保護してもらえない。

 かつての聖杯戦争でも、身内をこっそり助けた奴がいて相当揉めたはずだ。

 というか隠す気がないのが分からない。反則だと思ってないわけじゃあるまいし…。

「あーくそ、いったい何考えてんだあのバカ。全く考えが読めない」

「どうしたのですか。そんな『世界の終わりが5割ぐらいの確率で今日訪れます』って言われたような顔をして。電話で何か嫌なことでも聞いたのですか?」

 声のした方を見てみると、クイーンが不安そうな顔をしてこっちを見ていた。

「別に大した事じゃない。あとその表現は止めて。そこまでひどい顔はしてないよ、せいぜい1割ぐらいだね」

「はぁ、別にあなたがそう言うのなら気にしませんが…。ところで、これからどうしますか。まだまだ時間は残っていますが。」

 時計を見てみると、まだ5分もたっていなかった。ここからどうやって時間を潰そう。

 ちょっと前にも同じ事を考えていた気がする。ほとんど状況が良くなってない。むしろ前よりもイライラしているぶんだけ悪くなっているぐらいだ。

「とりあえずいったん寝直すか。それからでも十分間に合うだろう」

 ジョーにこの事を話すのは会ってからでいいし、取りあえずやるべき事も思いつかない。少しぐらいのんびりしていたってバチはあたらないはずだ。

 ソファに寝転んで布団をかぶる。その瞬間から暖かい眠気が押し寄せてきた。

「それじゃこれから1時間ぐらいしてから起こしてくれ。あ〜あ…」

「ちょっと待ってください。いきなり寝るというのはどういう―」

 彼女のセリフをBGMにして、俺は夢の世界へ誘われていった。

 




 書いていて思ったんですが、赤髪で女王と関わりがあるってだけで真名だいぶ絞れますよね。主人公側の英霊たちの真名は早く明かすつもりなので別にいいんですけれども。
 次回もお楽しみに!(もう書き貯めが…とかいうのはふっきりました。)


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転校生

 少し遅れました


「やべぇ、なんで遅刻寸前になってんだ!」

学校への道を全力でひたすら走る。時刻は午前8時10分。遅刻するかどうかの瀬戸際という所だ。最初は余裕だったのに!早めに学校に行けば良かった。

「ちゃんと起こしてくれって頼んだだろ!もう時間無くなっちまってるじゃねぇか!」

「ちゃんと起こしましたよ。そしたらあなたが何度も『う〜ん、あと十分寝かせて…』って言うからその通りにしたまでです。」

 必死な態度のこちらに比べて、霊体のまま話しかけてくるクイーン。余裕綽々という態度がひたすらむかつく。

「いや言ったよ、確かに言ったけどさ、そこはこう、応用を利かせるというか何というか…」

 しゃべりながら学校前の坂を駆け上がる。ここを上りきれば後一息だ。

 この程度の運動でもほとんど眠れていない体には堪える。息が上がり、眩暈がしてきた。普段からあまり運動していないせいかな…。

時計を見て時間を確認する。タイムリミットまで後2分、このペースならぎりぎり間に合う!

「よし、ここでラストスパートだ!」

走るペースを2段階ぐらいあげると同時、辺りに人がいないのを確認して、小さい声で呪文を唱える。

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

 呪文を唱えると魔力が出てきて、いろんな魔術が使える。……なんて仕組みなら苦労しないんだが、生憎とそんなうまい話はない。このセリフは自己暗示みたいな物だ。

 自分の背中からジェットが噴き出すのをイメージして、その通りになるよう魔術回路に魔力を通す。

 要はかっこつけてただの魔力の塊を放出しているだけだから楽なもんだ。

 代々の当主から受け継いだ魔術刻印は、よっぽどの事がないと使わないように心掛けている。俺の魔術回路より遥かに強力なのは分かっているんだけど、何か他人頼りな感じがして嫌なんだ。……というかそれ以上に強大すぎて、俺のテクニックじゃ扱いきれないというのが正しい。前併用した時は気づくと隣町にいたからなぁ。

 一気に周りの風景が高速で流れていく。このスピード感あふれる感じがたまらない。

「待ってください!このままでは―――おや、あれは何でしょうか。馬なし馬車とは、これは一体―」

 クイーンの声を無視してさらに速度を跳ね上げる。頬に感じる風が心地よい。

車やバイクを追い越し、学校の校門が一気に近づいてくる。それを駆け抜け、あっという間に校舎の壁が目の前に―――

「って、止まれねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!」 

 加速魔術を解除して、全力でブレーキをかける。このままじゃあっという間に打撲死体の出来上がりだ。まだ聖杯戦争も始まってないのにこんなことで死んでたまるか!

 その時足元から軽い音が響き、俺は足が浮いていく感触を味わう。

「あ」

 そのまま恐ろしい速度で頭部が地面に激突するのを、まるで他人事のように俺は受け入れていた。最後まではっきりしていたのは、後からやってきたクイーンがわざわざ実体化してまで『だから言ったのに』と言わんばかりにこっちを見る目だった。

 

―――やぁ、やっとこちらに来たようだね。どうしようもない劣化品。

 君が生まれるまでどれだけの時を過ごし続けた事だろうか。

 無意味に過ごし続けた月日がようやくこれで報われる。

 僕が作り出したこの舞台,少しは楽しんでくれると嬉しいな。

 それじゃ、せいぜい頑張ってくれよ?―――

 

「ハッ!?」

 目を開けると、明るい天井が広がっていた。

「大丈夫?学校の壁に頭からぶつかった奴がいるって大騒ぎになってるわよ」

 心配そうな顔をした保健室の先生が上から顔を覗き込んでいる。どうやら一命は取り留めたようだ。

「よ、良かった〜。本当にもうこれで終わりかと思った」

 生きているというただそれだけの事をとても嬉しく感じる。今世界全てが俺の事を祝福している!

「おお、神よ。この幸運に感謝します」

「大丈夫じゃなさそうね…。病院に連絡した方がいいのかしら」

「それじゃ先生、俺もう大丈夫ですから。授業受けてきます。」

 ベッドから起き上がって教室に向かって走り出す。授業にこれ以上遅れるわけにはいかない!

「ちょっと、待ちなさい!って、もう聞こえてないわよね…」

 それぞれの教室の窓からはみんなが真面目に勉強しているのが分かる。俺も急がないと。

 

「すいません。遅れました」

 自分の教室の扉を開け中に入る。周りからの視線が痛い。

「おお流星、思いっきり頭を打ったって保健の先生から聞いたが…」

「頭っから壁に突っ込んでったんだろ〜。お前らしいよな」

「思ったよりピンピンしてるんだね。もっとボロボロになってると思ったのに…」

 クラスメイトからの多種多様な反応を聞き流しながら自分の席に座る。

「流星君、大丈夫?まだ寝てた方がいいんじゃない」

 隣の席から、アニメっぽい女の子の声が聞こえてきた。

 彼女の名前は森野一花。黒縁の眼鏡がトレードマークの、俺の友達だ。

それにしても、いつも一人で本を読んでいる彼女まで知っているなんて、思った以上に自分の失敗は知れ渡っているみたいだ。

「もちろんだよ。見ての通りの健康体。いつも通りだ」

 伊達に魔術師やってるわけじゃない。きっとこけた時に衝撃を緩和する魔術を発動させたんだ。

 もっともそれでも気絶してしまっている辺り、まだまだ修行不足ともいえる。

「そう、それならいいんだけど。そうだ、学校に転校生が来たんだよ」

「は、この時期に?」

 四月ならいざ知らず、今は七月だ。親が急に転勤でもしたんだろうか。

「うん、そうなんだ。木暮疾風君って名前」

 彼女の指差した先を見ると、見慣れない顔の少年がこちらに笑顔を見せていた。

「やぁ、こんにちは」

 爽やかな笑顔、線の細い顔立ち。うん、文句なしのイケメンだ。

 それにしても、なんというか…。余りにも典型的すぎやしないだろうか。

 突然やってきたかっこいい転校生。どこかありがちな展開だ。

「かっこいいよね、ここからクラスの中の誰かと学園ラブコメが始まったりしないのかな」

「相変わらず夢見すぎだ…。そんなのは二次元の中で十分だよ」

 少しイライラしながら俺は突っ込みを入れた。あまりにもありきたり過ぎる。

「もう少し期待しようよ。もしかしたら、って所が面白いんじゃん」

「どこがだ?寧ろ自分には絶対にありえないって事を自覚して、暗い気分になるだけだろ。」

「揺るがないねぇ~。そんな風だからモテないんだよ。」

「な、それとこれとは別―」

「さーて、授業聞かなくちゃ。」

 そう言って彼女は、ニヤニヤしながら黒板の方に向き直った。好きなだけ言っといて、話を聞く気はないのか!

 ―ま、とは言ったものの、これは確かに。ラノベやアニメなら、ここから色々なイベントが起き、きっと楽しいラブコメ空間(俺はモブ枠)が始まるところだ。

「―――違和感を覚えますね。何故でしょうか、どこか普通の人間ではないような気がしますね」

「な、何だ!ってクイーンか。いきなりしゃべりかけてくるなよ。びっくりするじゃないか」

 聞こえないように小さな声でささやく。復活してから一言も話してなかったからすっかり存在を忘れていた。

「私がいつ話そうが私の自由です。そんなことよりも、お前はあの男にしっかりと目をつけなさい。あの様な空気を周りに纏っているものは何か良からぬことを考えています。」

 いつになったらこの上から目線の口調は治るのだろうか。サーヴァントとマスターの関係って、対等とは言えなくてももう少し親密なものだと思うんだけど…。

 俺はその場の平和な雰囲気に流され、木暮が向けている視線の不自然さに気付かず、

「そんなに気にすんなよ。こんなあからさまなところにそんな変な奴がいるわけないだろ。」

なんて、呑気なことをクイーンに言っていた。

 もう聖杯戦争は、とっくの昔に始まってるっていう事に気付かずに―――。

 

 よく学園もののドラマでは、転校生がやってくると苛められたり無視されたりする描写がある。

リアルではそこまで大袈裟でなくても、なんとなく話しかけづらいのは確かだろう。

 そう思っていたからだろうか、木暮がすぐにクラスに溶け込んでいったのを見て、俺は少し驚いていた。

 一体どういう手段を使ったのかは分からないが、気付くと元々このクラスの中心人物だったかの様な扱いを受けている。周りではたくさんのクラスメイトが元気よく騒いでいて、とても楽しそうだ。

 下手すると、いや普通に俺よりも遥かにクラスに溶け込んでいる。まぁ容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群と三拍子そろっていれば嫌う理由がないような気がするが。

 個人的にはその人心掌握術を少しでも教えてもらい、友達を一人でも増やしたいところだ。

「おい、ちょっといいか。」

 昼食を食堂で食べた後、のんびり図書館で借りた本を読んで至福の時を過ごしていた俺に、後ろから大石が唐突に声をかけてきた。

「あん、なんだよ?」

 よっぽど怪訝そうな顔をしていたのだろうか。おかしそうな表情をされた。

「放課後にさっそくみんなで木暮の歓迎会をしようと思うんだけど、お前も来ないか。」

「誘ってくれるなら行くけどさ、俺とお前ってそんなに仲良かったっけ?」

 こいつとはそこまでの面識はなかったはずだ。交友関係も違うし、普段も話す事はほとんどなかったはずだが…。

「いや木暮がな、『誘える奴は全部誘っといてくれ』って言うんだよ。そうでもなけりゃお前なんて呼ばれるわけないだろう。」

 何がおかしいのか、そいつはそこで盛大な高笑いをしやがった。

「そうか、そうだよな…。」

 皮肉を言っているつもりならまだしも、素で言っている様に見えるのが泣ける。

「それじゃ、4時までにカラオケ“SING“でな。」

 こっちの心の中に渦巻く暗い思い(殺意)に気付かず、それだけ言って大石は去って行った。

 




 木暮さんはご想像の通り聖杯戦争に関係しています(予定調和)


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対決

ようやくのバトルシーンだ!
……少しですけどね


歓迎会の後、俺は帰路に就いていた。

辺りは既に真っ暗で、人っ子一人見当たらない。ずいぶん遅くなってしまったようだ。

「そうだ、誰もいないんだったら――クイーン、実体化していいよ」

 言った瞬間、辺りの雰囲気にそぐわないドレス姿のお姫様が現れた。やっぱり見える相手との方が断然話しやすいな。

「この時代の音楽はどうしてこんなに騒々しいのでしょうか…。耳がおかしくなるかと思いました」

 出てきたばかりなのに、クイーンは頭を抱えてぼやいている。俺にしてみればこれが普通なんだが、どうやら好みに合わなかったらしい。やっぱり古い時代の英霊なんだろうか。って、英霊はみんなそれぐらい古いか。

 木暮は最近のキーの高い流行歌を歌いこなし、周りから喝采されていた。

 ちなみに俺はもっぱら手を叩くことに徹し、完全なる空気として過ごした。

「どうしてこんなに俺と違うんだろう。一体どうすればあんな風に振舞えるんだ…」

「また愚痴を言っていますね。そんなに後ろ向きでは幸運の方から逃げていますよ」

「はぁ、そうかな…」

 クイーンが優しげな口調で話してくる。今のメンタルではそんな事でもありがたい。

「そうです。あなたは多少空回りしている感じはありますが、悪い人ではありません。先ほどもこちらの事を考えてたまに話しかけてくれていたでしょう?」

「ま、まぁそうだけど」

 実はヒマつぶしのためにやっていたというのは内緒だ。

「そういう細かいところまで気を使えるところ、私は嫌いじゃありませんよ」

 クイーンはそう言って、花のような満開の笑みを浮かべた。

「く、くく、く、」

「どうしました?突然下を向いて」

「クイーンが、俺に、優しい言葉を…」

「なんなのですかそのリアクションは!こっちがちゃんと心配しているのに、あんまりじゃないですか!」

「ありがとう〜〜〜〜〜」

 俺は感極まって、クイーンの身体に飛びつこうとして、

「わっ、ち、ちょっと寄って来ないで、触らないでください!」

 彼女の蹴りを食らって、地面に頭っから突っ込んでいた。

 

「それで、これからどうしますか。とりあえずは自宅の周りを偵察するのが無難だと思いますが」

 クイーンが少し赤くなった顔でそんな真面目な事を言ってきた。そうだなぁ、やっぱりとりあえずは…。

「いや、とりあえずはジョーと合流する。一人よりは二人の方がいいだろう?」

 当たり前の事を言ったつもりなのに、クイーンは

「あまり賛成できませんね。今からでも取り止めに出来ません。」

と反対してきた。

 「どうしてだよ、21人も参加してるんだぞ。一人でも仲間が多いに越したことはないだろう」

「その考えが甘いと言っているのです。この戦いで聖杯を手に入れられるのは一人だけなのでしょう?いつ裏切られてもおかしくない状況ではないですか。」

「ジョーを疑うのか?あいつは絶対に仲間を裏切ったりするようなことはしない…とは言い切れないけど、利害が一致している間は信用できる。残り参加人数が10名程度になるまでは大丈夫だ」

 それまで生き残ったら、後はこっちが先に裏切るだけだ。

「本当に大丈夫なのでしょうね。裏切られた時の為に準備をしておいてください」

 問題ない。裏切られることを前提に計画を立ててある。

 道沿いに歩き続ける内、たくさんの花が植えてある鉢植えが見えてきた。あれが待ち合わせ場所である喫茶店の目印だ。

 まだあいつは来ていないようだ。店内には店員さん以外誰もいない。

「おかしいな、あいつは時間だけは守る男のはずなんだが…」

 クイーンを霊体化して店に入り、席についてコーヒーを注文する。日本にはおいしいコーヒーを出す店が少ないが、この店はその少ない店の一つだ。日本のコーヒーは香りが弱いんだよな…。

 その直後、

「おお遅かったな。15分も遅刻とは、日本人は時間にルーズらしいな」

 突然真横から声が聞こえた。

「わっ、わわっ、お前、一体何処から!ついさっきまで居なかったのに!」

 何故だ!振り返れば奴がいる…。新種の呪いでもかけられたのか!

「もう聖杯戦争は始まっているんだぜ。生身で来るとは、警戒が足りないんじゃないのか。」

このむかつく喋り方は確かにジョーのものだ。一体どこから声を出しているのだろう。その割りには使い魔らしき物は見当たらないが…。

俺がきょろきょろしていると、注文したコーヒーが運ばれてきた。とりあえずコーヒーを飲もうとして手を伸ばしたその時、カップが宙に浮くが早いか中身がなくなった。

「なるほど、透明化していたわけか。確かにハイレベルな魔術だが、俺が頼んだコーヒーはホットだぞ」

 次の瞬間『熱い!』という声と共に奴が現れた。当然周りの人間には、突然空気中から奴の体が現れたように見えるわけで…。

「睡眠結界、展開(スリーピング・ビューティー)」

 ウェイトレスさんたちが騒ぐ前に、ジョーが魔術を唱え結界を張る。彼女たちが眠ったのを確認してから、ジョーが口を開いた。

「クソッタレが、それならそうと先に言え。これだからお前は信用ならんのだ」

 堂々と文句を言い出した。自分のせいでそんな目に遭ってるのに何て言い草だろうか。

「それで、お前が召喚した英霊を見せてくれよ」

 無視して話を続ける。情報は可能な限り引き出したい。(こちらの情報は可能な限り公開したくない)

 魔術師のクラスというからには、やっぱりオーソドックスな格好をしているはずだ。英霊になるぐらいだから、すべての元素を操作できるとか、錬金術を究めたとか、並大抵の魔術師には絶対にできないようなことを平然とやってのけるような凄い奴に違いない!

「お前はやはりバカだな。魔術師としての常識も知らないのか?」

 やれやれ、とでも言いたげな感じで肩をすくめてみせるジョー。

「かっこつけて自分の姿を見えなくして、調子に乗ってるような奴に常識について語られたくないんだが…。まぁいいや、それってどういう意味だよ」

「魔術的防護が全くなされてない場所で、そんな話をすること自体が危険だと言っているんだよ。」

「ああ、なるほど…」

 言われてみればそうだ。今は聖杯戦争中、どこでどんなヤツに見られているか分かったもんじゅない。

 そんな状況でこの話題を話すのは、まさしく自殺行為だと言えるだろう。

「全くです、本当にお前という者は、いちいち教えてやらなければ分からないのですか」

「クイーン、お前自分で霊体化してるときは話さないって言ったよな?なんでこんな時だけ口を挟んで来るんだよ」

 むしろ俺をフォローするべき所だろう。責める時だけ口を挟んでくるなんて卑怯だ!

「それならどこで話せって言うんだよ。そこが不安だっていうのなら最初から俺の家に集まれば良かったじゃないか」

「そんなことをしたらお前にいきなり裏切られちまうだろうが…。俺は初日敗退だけはしたくねぇ。少しでも自分の実力ってやつを発揮したいんだよ。元々そんなものがないお前には関係ないかもしれないけどな」

 失礼な、そんなことはしない。せいぜい腕から“穏便な方法”で令呪をもらうだけの事じゃないか。

「それじゃ行こうか、なに、ちゃんと用意はしてある。目はつぶっておいた方が身の為だぞ。」

「え、行くってどこに」

「Let’s go my field!」

 こっちのセリフを無視してジョーが高らかに呪文を叫ぶと 、突然足もとに幾何学的な巨大魔方陣が現れた。

「しまったっっっ!!罠です!速く逃げて―」

 クイーンが俺に警告しようとしたその時、俺は全身に強烈な痛みを感じた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

 全身の魔術刻印が真っ赤に輝き、息をするだけでも苦しさを感じる。全身から毒液を注ぎ込まれるような感覚に、俺は一瞬で意識を奪われた。

 

 

〜『これ以上私のマスターに近づくな。もしこれ以上近づいたら―。』

『おいおい、そう殺気立つなよ。別に俺はそいつに危害を与えるつもりはない。今コイツを殺したら、ここからの戦いで勝ち上がれなくなる』

『あんな事をしておいて、よくもそんな口を聞けますね。私の力が万全なら、今すぐあなたを切り捨てているところです』

『仕方ないだろ。俺だってここであいつの魔術刻印(おさがり)がイカれちまうとは思ってなかったんだ。あれは不慮の事故、単なる偶然だよ。』

『偶然!あなたはマスターの体の魔術刻印の力がなければ、この魔法陣が起動しない事も、それに伴うリスクも、しっかり把握していたはずです!』

『おいエンプレス、それ以上騒ぐな。作業に集中できんだろうが』〜

 

「ハッ!?」

 目を開けると、巨大なシャンデリアが浮かんでいた。

 ここはどこだろうか。俺の知り合いのこんな趣味が悪いやつといえば…。

「ジョー!お前な、いつか裏切られるだろうと思っていたが、まさか初日に仕掛けてくるとは思わなかったぜ!この報い、しっかりその身に受けてもらうからな!」

 記憶が戻ってきた。そうか、俺はコイツのせいで1日に2度も気絶する羽目に…。

「お、起きたか流星。そろそろだろうとは思っていたんだがな、俺が思っていたよりもお前は丈夫だったようだ。喜べ、予想より5分も早いぞ」

 ジョー(悪魔)は、ふりかえってからいつも通りのイラつく態度で接してきた。

「ふざけるなよ、テメェ人をこんな目に合わせといて、その態度は何だよ。あまりにもなめてないか」

「罠にかかった方が悪い。それに俺は別にお前を殺すためにこんな仕掛けをしたわけじゃないぞ」

 心外そうな顔をするジョー。じゃあ何のためにこんなことをしたんだろう。

「俺の屋敷に移動する時、お前が死なない程度で可能な限り苦しむようにする為だ」

「そんなこと言われて俺が喜ぶとでも思ってんのか!」

 やっぱり外道だ。何かわけがあるのかと思った俺が馬鹿だった!

「流星、お前の力を見せる時です。とっとと片を付けてしまいなさい!」

「そうだよな。お前みたいなヤツ、ここで終わらせてやるぜ!」

 珍しく意見が一致した。あれ、でもクイーンのセリフになんか違和感が…。

「おいこら、静かにしろって言ってるだろうが!いい加減にしろよ!」

 そんな中響く聞いたことのない声。一体誰だ?

 声のした方を見ると、古代ギリシャ人っぽい恰好をした妙な男がいた。

 手にはハンマーやのみを持っている。彫刻でもやっていたのだろうか。

「マジシャン、今は大事なところです。口を挟まないでください」

「いやおかしいだろ。やれやれ…。昔は俺が仕事中だと聞けば、ギリシャ中の人々が注目したもんだ。間違っても作業の邪魔をする奴なんていなかった。それが今はどうだ、こんな小娘ひとりすら黙らせられないと来ている。落ちたもんだよな」

 男は自嘲的な口調で語りだした。クイーンのセリフから判断すると…。

「お前がマジシャンか。こいつを潰せばいいってことだよな。」

 見る限りそう強そうでもないし、二人がかりなら何とかできるはずだ。

「おい行くぞ、マジシャン。返り討ちにしてやろう」

 こちらを思いっきりにらむジョー。どうやら殺る気になったようだ。

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!!!」

 呪文を叫び、背中からあふれ出す圧倒的な力で、思いっきりジョーに突っ込む。速度は完璧、威力も十分。喧嘩は先手を取った方が勝ちだ!

「ちっ。call shield!」

 ジョーがそういったとたん、ジョーの前に巨大な盾が現れた。

 勢いのまま飛び出した右手を、そのままそこに叩きつける。高い金属音が響き、会心の一撃はあえなく防がれた。

「ハッ、魔力を集める事しか出来ないくせに、俺の魔盾を破ることが出来るとでも思ったか。所詮お前はその程度だ!」

 上から目線で嘯くジョー。その余裕もここまでだ!

「今だクイーン!全力で攻撃を叩き込め!」

 その余裕ぶった態度が命取りになる。これが魔術師だけの戦いではなく、サーヴァントがいる事を忘れていたようだな!

「クッ!マジシャン、抑え込め!」

「無駄だ!今更間に合うわけがない!」

 互いにサーヴァントに呼びかけようと、目線をずらして―――

 

俺たちは、椅子に座って見物しているクイーンと、無言で石にハンマーを振るうマジシャンを見た。

 




 戦わないサーヴァントってのも味があると思うんですよね。


 嘘です。次ではちゃんと戦います。


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戦い

 今日一日でUAが100を超えてました!(歓喜)


「「ちゃんと参加しろよ!!!」」

 何で完全に他人ごとなんだ!マスターの援護ぐらいはサーヴァントとして当然、むしろサーヴァントがメインで戦うべきだろう!

「あれ、なぜ戦いを止めたのですか?せっかくいいところだったのに。そのまま決めちゃえばよかったじゃないですか。」

 クイーンが本気で不思議がっている。どうして協力してくれないんだ。

「俺は今仕事中なんだ。喧嘩ならよそでやってくれよ」

「ふざけやがって!!今すぐ契約を解除してやろうか!」

 状況を無視して作業を続けるマジシャンに、一瞬で沸点に到達するジョー。キレやすい性格はやっぱり変わっていないみたいだ。少しは落ち着けよな。って、人の事を気にしている場合じゃなくて…

「なんで戦ってくれないんだ!君はサーヴァントだろう。マスターと一緒に聖杯戦争を勝ち上がる為、一生懸命努力するもんじゃないのか」

 「ええ。でもあなたが憑依せずに戦い続けたので、てっきり私は黙って見ていればいいものだと思っていましたが、違うのですか?」

 憑依?こんなところで幽霊だのシャーマンだのに関係ありそうな用語を聞くとは思っていなかった。聞き間違えたかな?

「憑依ってなんだよ?聖杯戦争に、そんなシステムなかっただろ」

「はい?そんなはずはありません。だったら私になんでこんな記憶があるんですか。その記憶を与えたのは正にそのシステムですが?」

「何だっていいからさ、とにかく戦ってくれる?」

「そんなことを言われても、私一人では戦えません」

 なんてこった。戦えない英霊を呼び出すなんて、あまりも不幸すぎる。

「は、なるほど。で、俺にそのたわごとを信じろとでも?」

「あぁ。とりあえずやってみろよ。実践あるのみって言うだろう?」

向こうでもジョー達が話し合い(?)をしている。互いに意見が合わないのは俺たちだけじゃないらしい。

「だからさぁ、戦ってくれって言ってるだろ!もういいから――」

 俺がちょっとイライラして来て、この際単身で特攻しようかと思っていた時、

「あぁ、そういう事か。本家とこの聖杯戦争は全くの別物。この程度の差異はあっても不思議はない。」

 ジョーがそう言って、

「MAGICIAN!!」

と叫んだ。

 

 

 ――その瞬間、辺りの空気が赤熱した。

 紅。ただその一色の莫大な光に、辺りが覆い尽くされる。

「ぐわっっっっっっ!!!」

 何が起こったのかも分からぬまま、とっさに目を瞑ってその場に伏せた。

 大きな何かが場に集まる気配を感じる。本能的な感覚が、全力で危険を訴えている。

 ヤバい。これは間違いなくヤバい。ジョーの奴、一体何をしやがったんだ。

 そのままその感覚は恐ろしい速度でどんどん増していって――

 唐突に、あっさりと消滅した。

 恐る恐る目を開けてみる。どうやら光は収まったようだ。

 辺りは何事もなかったように静まり返っている。ただの虎仮脅しだったのだろうか。

「うう、いきなり何だってんだよ…。」

 悪態を立ちながら立ち上がり、辺りの様子を窺う。クイーンは大丈夫だろうか。

「ほう、余裕だな。一目散に逃げ出してもおかしく無い所を、無防備にただ突っ立っているだけとは。それでは、『今すぐ僕の頭を叩き壊してください』と言っているようなものだぞ」

「―――――!!」

 不意に聞こえたジョーの声に、その場で転がって回避行動をとる。

 そこに風切り音を立てつつ、巨大なハンマーが大地を切り裂くようにして繰り出された。

「うぉ、危ねぇ!」

 良心を全く感じない。一撃で殺しに来るなんて、それでも友達(一応)か!

「この野郎、調子に乗りやがって…」

 息を整えて魔術詠唱の準備をする。サーヴァントさえいなければ,何とか時間を稼ぐぐらいの事は出来る。クイーンがマジシャンを倒してから、じっくりジョーを倒せばいいんだ。

 そう思っていたのに―

「今の俺にそんな口を聞くとはな。いいだろう。一撃で仕留めてやろうじゃないか。その程度の覚悟は出来ているのだろうからな!」

 俺の目に飛び込んできたのは、倍以上の速度で動き回り、本棚ぐらいのハンマーを片手で振り回す、明らかに不自然なジョーだった。

「は?」

 緊迫した状況にもかかわらず、俺の口からはこんな言葉しか出てこなかった。

 真黒な瞳、薄紫の髪、マジシャンのものによく似ている衣装。何もかもがさっきまでとは大違いだ。

 変身魔術にしては高度すぎる。そもそも肉体を強化するなんて相当難しいはずだ。

 急な展開に頭がついていかない。目の前にあるものを、現実だと認識できない。

 頭から俺を叩き潰そうとするハンマーが、圧倒的な迫力と共に近づいて来る。

 時の流れが遅くなっていく。きっと死が目前に迫ったからだろう。人間意外にあっさりと逝ってしまうもんなんだなぁ。

 まるで他人事のように受け入れる。避けなければならないと分かっていても、体が全く動かない。

 走馬灯らしきものまで見え始めた。魔術を習う幼い自分、周りに追いつこうと夜遅くまで魔方陣を書く自分、親が交通事故で亡くなったと聞いて、泣き崩れる自分…。

 さすが俺、こんな時でも悪い記憶しか出てこな―

「って、死んでたまるか!!衝撃吸収(ストップ・インパクト)!!」

『ガキィィィィィィィィィィィ!』

 ジョーの剣が俺の目の前で止まる。後0.1秒でも遅れてたら死んでたな。

「フン、これぐらいなら――」

 ジョーがハンマーに力を加える。剣が激しく揺れながらゆっくりとこちらに近づいてきた。

 何て力だ。このままじゃ押し負ける。何か手を打たないと…。

「マスター!何をしているのですか。このままでは殺されてしまいます!」

「クイーン!?無事だったんだな!」

 両手で攻撃を抑えつつクイーンのいる方を見る。マジシャンとの戦いは終わったのだろうか?

「早く私を憑依させてください!どうして私の力を使わないのですか!」

「横で叫んでるヒマがあるなら、とっととそこのジョー(裏切り者)を吹き飛ばしてくれよ。今どっからどう見ても余裕がない状況だってわかるよな!」

「ええ!だから私にそんなことはできないと…、えいっ。」

クイーンはジョーをポカポカと叩いている。しかし、まるで聞いているように見えない。どちらかというと恋人同士の痴話喧嘩みたいだ。

「真面目にやれ、ふざけている場合じゃないだろ!」

だんだんとこちらも殺気立ってきた。いつまで本気を出さないんだ!

「チッ。」

クイーンが舌打ちをした。服や顔と合わさっていてすごく怖い。

そしてこちらを睨みつけるなり、俺の頭を拳で殴りつけた。視界が大きく揺れる。これだけの威力でジョーを攻撃すれば一撃で片付けられるはずなのに…。

「いいから、私のクラス名を叫びなさい、この間抜け!」

 なんで俺は逆ギレされているんだろう。どうしてこんなに追い詰められているんだろう。そもそもなんでこの英霊を召喚したんだろう。

「えーい。もう、どうにでもなれ!」

 そんなどうにもならないイライラが一気に溢れ出し、俺は自棄になって叫んだ。

「EMPRESS!」

 その直後、俺の右腕の令呪が、群青色に光り輝いた。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 全身に力がみなぎってくる。今なら何でもできる気がする。そんな爽快な感覚が、体中を駆け巡る。

 光が全身を包み込んでいくのと比例して、その感覚がさらに増す。

 なるほど、これだけパワーアップするなら、あいつが調子に乗るのも分かる。

 大きな力が使えるなら、普段は負担が大きすぎてなかなか使えない魔術も手軽に発動できる。それどころか、一年かけても出来ないような大技だって打ちたい放題だ。

「加速、最大(ラッシュ、マックス)!」

そもそも俺の一族の魔術は、少量の魔力を呼び水として地脈から大量の魔力を呼び出すという物。

元々の魔力がこれだけ大きければ、当然呼び出せる魔力もすさまじいものになる。

「ファイヤー!!!」

 俺はロケットみたく飛び出し、ジョーを真上に勢いよく打ち上げた。

「ごはっ!!!」

 天井を突き破り、屋根を吹っ飛ばし、どこまでも飛んでいくジョー。壮観な眺めだ。

「よっしゃー!これで全世界の悪は滅ばされたぞ!」

『余りにもはしゃぎ過ぎではないですか?まだ止めもさしてないのに、油断しすぎです。』

 突然、クイーンの声が聞こえてきた。

「あれ?クイーン、どこから話しかけてきてるんだ?」

 あたりには姿が見えない。そういえば、マジシャンも見当たらない。いったいどこにいったんだろう。

『見えなくて当然です。今の私はあなたと同化しているのですから。というか、その程度の知識、成敗戦争に参加する前に把握しておいてくださいよ』

「おいコラ、なんでお前が困った奴を相手しているような態度をとってるんだ。どう考えてもおかしいだろう」

 まるでクイーンと俺で知っている情報が違うかのような…。いや、気にするべきなのはそこじゃない。

「何で言ってもないのに俺が考えたことが分かったんだ?」

『この状態の私とは、思っただけで話をすることが出来るのです。本当にあなたは何もわかっていませんね』

「あぁ、そうなんだ。なるほど。って納得できるか!誰か今いったいどんな状況か教えてくれよ!」

「だから最初それを説明しようとしてここまで連れて来たんだろうが。聞かずに攻撃してきたのはお前の方だろうに、いきなり裏切りやがって」

「え、ジョー、ジョー!キサマ、なぜ生きて…」

いつの間にか無傷で立っているジョー。一体どうやって助かったんだ。まさか俺の願いに聖杯が反応して、ジョーを生き返らてしまったのか?

「当たり前だ。英霊の力を使っているのは俺も同じなんだぞ。あんな力任せの一撃でやられる程度の男だと思っていたのか。それよりお前、後で天井直せよ」

「英霊の力を使っている?お前なぁ、俺たち普通の人間にそんなものが使いこなせるわけが…」

 なんでそんなわけ分かんない事を当然の事にしているんだ。

「だから、その考えが間違ってるんだ。お前、ちょっと鏡を見てみろよ。」

 ジョーにそう言われて、壁に取り付けられた鏡を覗き込んでみる。

「おぉっっっっっっっ!!」

 そこに映っていたのは、普段と全く違った俺だった。

 クイーンと同じように、髪色は赤茶色、瞳は青。服装は雪のように白い、とても凛々しい軍服だ。

 こうしていると、まるでどこかの国の王子様のような気がしてくる。

「ま、見かけがどれだけかっこよく“加工”されても、所詮お前はお前だ。元があまりにも悪すぎる。」

「人の希望を込めた感想を台無しにするようなことを言うな!」

 なんとなく自覚してる分だけ余計に傷つくじゃないか。

「それよりも、なぜこうなっているのか疑問に思わないのか?もっとも、お前程度の頭脳では情報を処理しきれないかもしれないがな」

「失礼な。俺にだってある程度予想は付いてるんだ」

「ほう。なんだ、言ってみろ。」

「単純に、俺たちが参加している聖杯戦争は今までの物とは全く違うって話だろ」

「その程度の事、さすがに誰だってもうわかるだろうが!」

 あれ、違ったかな?てっきり今からその話をするんだと思ってたんだけど。

『要するに、どういう所がどんなふうに違うのかって話をしようとしているのです。』

「本当にもう、勘弁してくれよ…」

「そ、そんなことよりも、結局お前は何が言いたいんだよ。前置きはいいから、さっさと話せ!」

 すごく困った奴だと思われている。べ、別に、まずは基本的なことから言おうと思っただけさっ!

「あのな、俺たちは自分に英霊を憑依させて、その力を自由に使えるようになっているのだ。服装などの変化は恐らくその副作用だろう。宝具を使えるかどうかはまだ確認していないが、恐らく真名解放も出来るはずだ。スキルは一体化してなくてもある程度は使用可能だと…。」

「待て待て待て!もうちょっとゆっくり話してくれないか。まずは前提から理解出来ない」

「何だと?どこに問題があるって言うんだ。これでも丁寧に噛み砕いて話しているつもりだが」

 ジョーを遮って話を続ける。このままじゃ情報に置いて行かれてしまう。

「俺たち普通の魔術師が、英霊の力なんて使いこなせるわけないだろ。力のレベルが違いすぎる。せいぜい自爆するのが落ちだぜ。」

 そう言ったとたん、ジョーはやれやれという感じで頭を振った。コイツ…。いちいち癇に障るな。

「かのシャーロック・ホームズは言った。完全にありえないことを取り除けば、残った物は以下にありそうもない事でも、事実に間違いないと。現実を受け入れろ、愚かな仔羊。」

『無駄にかっこつけていますね。まぁそれはさておき、逆に考えてみてください。この現象の理由を何か他に思いつきますか?』

 クイーンが図らずも俺の心情を代弁してくれた。他の理由かぁ…。例えば、

「秘められていた才能が、命の危機を感じて突然覚醒したとか。」

「俺に起きた現象はどう説明するんだ。言っておくが、俺の才能はもう十分発揮されている。お前のいつまでも目覚めないそれとは違ってな」

「この町に、そこにいた人々を超人に変える魔方陣が仕組まれていたとか」

「もし本当にそうなら、とうの昔に異能バトルが始まっていてもいるはずだ。」

「俺たちを自分たちの惑星に適応できるようにする為に、宇宙人が人間改造光線を撃ってきたとか」

「そんなすごい装置を作れるものがいたなら、地球を自力で征服した方が早いと思うが。」

「それじゃ、えーと、えーと。」

「『いい加減に認めろ(てください)!お前はどれだけ頭が固いんだ(のですか)!』」

 クイーンの声とジョーの声がシンクロした。うーん。でも、やっぱりなぁ…。

「どうしても認めたくないというのなら、別にそれでも構わん。ただし、戦えなくなって困るのはお前だからな」

 ジョーがあくまでも上から目線で言い切った。そこまで言われるなら、受け入れるしかないのかなぁ。

 




 原作をプリズマイリヤにするか悩んだ時期もありました。
 次回は新しい英霊が登場します。


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連絡

 新キャラが登場します。ヒロイン(主人公のとは言ってない)も登場します。


 ジョーの話を聞いた後、俺たちは一度憑依を解いてから(マジシャンにやり方を聞いた。本当に上手くいくのかいま一つ掴み切れず、5分ほど迷ったのは秘密だ。)、今後どうするかの話し合いをしていた。

「どうするかはお前たちで決めてくれ。俺は武器をもう少し鍛えてくる」

 そう言って、マジシァンは早々に隣の部屋に引っ込んでしまった。社交性のない奴。

 さてと…。今日はどうしようかな。とりあえずは情報を整理する為、休息を取りたい。

「今夜は偵察はナシでいいよな。家に帰って晩御飯を作りたいんだが…」

「黙れ食い意地馬鹿。だがまぁ、俺も偵察をしないことには賛成だ。初日は相手がどう動くかわからん。下手に動くよりは、家の中にいた方が安心だ」

 ジョーもいつも通りの金髪紅眼に戻っている。やっぱりこっちの方が自然だ。

「そうですね。私も今日は色々と疲れました。早く寝たいです…」

「おおっ。俺の意見に二人とも賛成してくれるのか!」

 そうと決まれば善は急げだ。

「それじゃさっさと行くよ、クイーン」 

 立ち上がってクイーンの手を引く。帰る途中でスーパーに寄って、明日の晩御飯用の食材を買おう。

「おい、どこに行くつもりだ。聖杯戦争中はここに泊まっていけ。お前の家はどうも信用出来ん。一応共闘しているのだから、すぐに死なれると困る」

「失礼な。一応うちだって魔術師の家系なんだぞ。大丈夫だって」

 結界の手入れぐらいは定期的に行っている。敵の攻撃には十分対応できるはずだ。

「その根拠のない自信はどこから来たんだ?いいか、この屋敷は俺が聖杯戦争に備え、他の魔術師たちの力をも借りて造り上げた最強の要塞だ。祖先のお下がりのボロ屋敷とは格が違うんだよ」

「ここの方があなたの家よりははるかにましです。出来ればもう少し豪華な装飾が欲しい所ですが、まぁ及第点といえるでしょう」

「クイーンまでそんなこと言うのか!」

 そりゃ家具は古いし、雨漏りだってしてるけど、別にそこまで馬鹿にしなくたっていいじゃないか!

 ん、待てよ…。今のジョーの言い方からすると…。

「聖杯戦争だけの為にゼロから建てたのか!一体どこからそんな金が」

「一族に伝わる隠し財産をほんの少し使わせてもらった。まぁこの戦いで得る名声に比べれば、安いものだ」

くっ…。これがブルジョワの力か。なんと強大な…。

「なるほど。使うべきところで使ったという事ですね。その様な考え方は重要です」

 クイーンは何やらうんうん頷いている。一体何が通じているんだろう。

 って、この雰囲気に蹴落とされている場合じゃない!何とかして反論しないと!

「もしここに泊まるとしても、俺の家はどうするんだよ。ずっとほうっておくわけにはいかないぞ」

「問題ない。俺の家に代々仕える執事に、お前が留守の間は家を整備しておくように頼んである」

「泊まろうにも、泊まる部屋がないんじゃどうしようもないぞ」

「ここに誰か泊まりに来た時の為、部屋は5つ以上用意してある。全部屋ベットとテレビ付きだ」

「学校の教科書とか、魔術道具とかは家に置きっぱなしだぞ。」

「執事がこちらにまとめて持ってきてくれるそうだ。」

「え、えっとそれじゃあ、寝間着とか普段着とかは。」

「同じくだ。お前が思いつく程度のものはすでに持ってくるように言いつけてある。」

「あ、そう…。それならいいよ…。」

 ジョーは『そら見たことか』という顔でこちらを見た後、肩をすくめた。

「余計な心配をするな。ここにいる間は、俺に従ってくれればそれでいい。」

 うう、余裕めいた態度がむかつく…。

 

 その後約2時間、俺は一人で天井を直した後(材料はジョーが土蔵から持ってきた。本当に疲れた…。)マジシャンのリズムよく打たれるハンマーの音を聞きながら、夕飯の準備をしていた。

「たく…。ジョーの奴、殆ど野菜を買ってないじゃないか。今度買い出しに行かないと…。」

 クイーンとジョーは、二人で何やら楽しげに話しこんでいる。玉ねぎを微塵切りにしながら、軽く聞き耳を立ててみた。一体どんな話題で盛り上がっているのだろう?

「それでな、アイツが、『お前たちなんか、すぐに追い抜かしてやる!』なんてたんか切ってな。顔真っ赤にしちまって。必死な感じがこっちに伝わって来て、もうおかしくておかしくて…。」

「へぇ、昔から強がりなところは変わらなかったんですね。」

「おいこらっ!!テメェら、覚悟はできてるんだろうな!」

 人の失敗談で盛り上がるなんて、あんたらは鬼か!

「別にいいだろ?お前に笑えるエピソードが多いだけで、俺たちが悪いわけじゃない。」

「そうですよ。ちょっと笑い者にしたぐらいでそんなに怒らないでください。」

 笑みを噛み殺しながら言う二人。盗人根性猛々しいとは最にこの事を指すに違いない。

「たく、大概にしとけよ。」

 捨て台詞を吐いてから、料理に戻る。我ながらすごく負け犬っぽい。

 こうなったら、二人の分のハンバーグの中に唐辛子を仕込んでやる。何も知らず口に入れ、その罪の報いを受けるがいい!

 そんな暗い事を考えながら、ひき肉と玉ねぎを混ぜていた時…。

『ジジジジジジジジジジジジ!!!』

「ま、また電話が鳴っています。だ、誰か出てください!」

 唐突に、キラッキラの新品の電話が鳴りだした。

「ん、誰からだ?」

 ジョーが電話に出ようとして―

「――――――――ッッ!!!」

 跳ね上がるようにして、空中でバク転。電話から猛スピードで遠ざかった。

「おい、さっさと出ろよ。何一人で焦ってんだ。」

 たかが電話相手に、どれだけ激しいアクションしてるんだよ。

「良く見ろ!絶対にその電話には出てはいけない!」

 いつもより二割増し(俺調べ)でマジになっているジョー。まぁでもそんなこと言われたら…。

「隠されてるものこそ気になるのが人間だよなっ。」

 受話器を手に取り、耳に当てる、さぁ、一体誰からかかって来たんだ?

「ちょっとジョー、出るのが遅いよ!いつまで待たせるつもり?」

「…………………(しまった。すっかり忘れてた!)。」

「せっかく私の方から電話してあげたんだから、ワンコールで出るのが礼儀でしょう。居眠りでもしてたって言うの!」

 受話器越しに鳴り響く甲高い声。はぁ…。今日は本当に不運だ。きっと悪魔か何かに呪われたに違いない。

「だから出るなといったのに…。お前は本当に馬鹿だな。」

 ジョーが後ろで頭を抱えている。心なしか普段より毒舌も弱々しい。

 彼女の名前は守宮七夢。俺たちの同期で、日本出身の魔術師だ。

 尤も、俺と彼女じゃ天と地ほどの差がある。いまだに見習い扱いの俺に比べて、彼女は優秀な講師の右腕として、その力を余すことなく使っている。記憶が正しければ、次期典位(プライド)もちの候補にもなっているはずだ。俺たちにとっては神か天使かというぐらいの差がある。

 しかも容姿までもがアイドルや女優並み。長い黒髪が風に吹かれて揺れるたびに、男子が一人恋に落ちるとか、視線を合わせるだけで、ハートを打ち抜くことが出来るとかなんとか…。

 そんな彼女にも、ただ一つ庇い切れない欠点がある。

 俺がそれを知ったのは一か月ぐらい前、彼女も聖杯戦争に参加すると聞いて、ジョーと一緒に同盟を結んでくれないか頼みに行った時のことだ…。

 

 

 

〜「本当に会えるのか!すごいなお前、一体どんな手を使ったんだ!」

 授業後、寮にて。ジョーに連れ出された俺は、思ってもいなかった展開に胸を躍らせていた。

「そんなことはどうだっていいだろう。そんな事より、ちょっと用事があってな。残念だが、彼女に会いに行くのはお前一人でやってくれ。」

 満面の笑顔でさり気に仕事を押し付けてきた。全然残念そうじゃないぞ。

「冗談じゃない。あんなすごい人に俺だけで会いに行ってみろ。ガッチガチになってなんも言えないまま終わっちゃうよ。せっかくのチャンスを棒に振りたくはないな。」

「くっ、そう言われるとそうなんだがな。チッ、分かってる。付いて行けばいいんだろう行けば。」

 ?ジョーがいつもと違う。余裕がなさそうだし、皮肉も言ってこない。一体どうしたんだ?

 まぁいいや。日頃偉ぶってる分、何か報いでも受けたんだろう。

「それじゃ、とっとと行くぞ。早めに片付けようぜ。」

 何にしても、彼女が仲間に出来るかもしれないのはありがたい。よーし、絶対に成功するぞ!

 

「…………(ふぁ~)。」

 やばい、まさかこんなに退屈だとは思わなかった。早く帰りたいなぁ…。

 ジョーが守宮さんに聖杯戦争を説明している間、俺は退屈を持て余していた。

 男子寮を潜り抜け、公園の広場で彼女に会った瞬間から、長々と語り続けている。一体何分喋るつもりなんだ。

 どうして仲間にしようとしているか。マスターは何人いるか。サーヴァントのクラスはいくつあるか、どんな奴が参加すると予想出来るか、自分たちの狙いは何か…。

 聖杯戦争に参加する時に必要な情報を、可能な限り退屈に編集してみましたって感じだ。

「そんなわけで、後十人程になるまで、俺たちには手を出さないで欲しい。」

 真面目な態度(猫被ってるだけ)のジョーに対して、彼女は黙り込んだまま下を向いたままだった。

「もちろん謝礼はする。こちらからは、典位(プライド)への推薦状と、こいつの右の掌の魔術刻印のデザインを提供しよう。なんなら、後十五人でも構わない。」

 相手が怒っているとでも思ったのか、ジョーが条件を掲示し始めた。

「……………。」

 なおもその態度を貫き続ける。よっぽど癇に障ったのかな。

「え―とさ。その、悪気はなかったんだ。謝るから、どうか―」

「へぇ、そんな態度でいいと思ってるんだ?ふざけないでくれるかな。」 

 ガタン、という音をたてて立ち上がる守宮さん。マズイ。相当怒ってるぞ、これ。

「何でもっと早く呼びに来なかったの!参加するって聞いたから、私も一緒に戦うことにしたのに!」

「は?」 

 いつの間に彼女にフラグを構築したのだろう。意外に俺ってすごい?

「俺にも色々あるんだよ!お前と一緒に戦って勝っても、『“鬼使いの闇トカゲ”が仲間なら当然だな』とか思われちまうだろう。あくまで実力で勝ったと思われたかったんだよ俺は!」

 そこで前に出て言い返すジョー。あれ、なんでお前が―

「闇トカゲ言うな!大体ジョー一人で勝ち上がれるわけないでしょう。自分だって分かってるくせに!」

「………くっ、うるせぇ。俺は十分強い。そこまで言うなら、お前の助けなんか借りない!俺とコイツで、全員ぶっ倒す!」

「それ本気なの?いいよ、そっちがその気なら、私だって遠慮しない。返り討ちにするから覚悟しといて!」

「………(あれ、これどういう状況)?」

 激しい言い争いを続ける二人。俺は完全に展開から置いていかれていた。

「あばよ!次会うときは戦場だ!」

捨て台詞をはいた後、ジョーは其の場の勢いに任せて、俺を引きずって部屋から出た。

「たく、ふざけてやがる。あんな奴、こっちから願い下げだぜ。」

「………………………。」

「一番に倒してやる。なに、真正面から勝てないなら不意を衝けばいい。お前の魔術刻印と俺の魔術が合わさればどんなに強くたって―」

「………………………。」

「?おい、聞いてるか。何を呆けている。」

「あ〜〜。」

 だよなぁ。俺にそんな人生の春が訪れるはずがない。そんなことは自分が一番良く分かってる。言うまでもなく、当然のことだ。

 上を向いて深呼吸を一つ。よし、だいぶ落ち着いて―

「って落ち着けるか!お前なぁ、よくも色々とやらかしてくれたな!あんな美人と知り合いだった上に、それを一言も言わないってどういう事だ!しかもさり気に共闘も断っちゃってるし!というか守宮さんとどういう関係なんだよ!」

「一つ一つ理由を教えてやるから少し落ち着け。まず、俺と彼女はただの幼馴染だ。親同士が時計塔の同僚でな。それ以上でもそれ以下でもない。」

「それで納得できるとでも?」

 運命ってのは理不尽だ。何故俺にはそういう可愛い知り合いがいないんだ!

「納得しろ。お前の感想なんざ知ったことか。それで第二にだが、お前に言わなかったのは、こういう状況を防ぎたかったからだ。」

「防げてないじゃないか。」

 この心の奥からあふれ出す黒々とした感情(百パーセント嫉妬)をどうしてくれるんだ。

「黙れよ。この件は俺も予想外だ。事前にメールで連絡しておいたはずなんだが…。」

「メール!お前、守宮さんのメルアド知ってんのか!」

 何て事だ。時計塔で魔術を学ぶ新米少年魔術師の内ほぼ百パーセント(俺調べ)が知りたがっているといわれるあの秘中の秘を、こいつ程度の男が―

「おい、無言で黒々としたオーラを出すな。妖怪みたいで不気味だ。」

「うるさい!お前みたいなリア充に侮辱される覚えはねぇ!」

「お前が思っているほどいい環境にいるわけじゃない。アニメや漫画のイメージで人に文句言うな。」

 色々と言いたいことはあるが、ここはひとまず置いておくことにしよう。どうせまともな答えが返って来ないだろうしな。そんな事よりも…。

「そうだ、聖杯戦争はどうするんだよ!俺たち二人だけじゃ相当きついんじゃないか?」

 本来なら仲間がもう一人増えたはずなのに、むしろ敵確定の奴が出来てしまった。守宮さん相手じゃ、二人係でも勝てるかどうか分からないし、かなりまずい状況だと言えるだろう。

「何だ、そんな事か。だったら心配はいらない。」

 それなのに、やけに落ち着いた様子のジョー。あぁそうか、こいつなりに何か考えがあって―

「――――今更、焦ったところでもう遅い。」

「単に開き直ってるだけだ!」

 とはいえ、過ぎたことを悔やんでもしょうがない。仕方ない、俺たちだけで頑張るか…〜

 

その後、俺は一月ほどで聖杯戦争の準備をする為に日本に帰ったんだけど、それまでに彼女の手により様々な妨害を受けた。

 毎日催促の電話がかかって来たりとか、ドアを開けると家具がボロボロになっていたりとか、全速力で追っかて来る巨大な使い魔(アガシオン)と死闘を演じたりとか…。

 最後のはもはや嫌がらせなんてレベルじゃない。完全に俺たちだけで相手できる範疇を超えていた。

 今思い出してもはらわたが煮えくり返る。どうして俺がジョーと守宮さんの痴話喧嘩に巻き込まれなければならないんだ。二人だけでやってろよ。

 俺がいなくなった後も、その戦いは収まるどころかエスカレートしていった。結局講師の方々まで巻き込んで、力技で無理やり解決したらしい。

 その結果として直接攻撃してくることはなくなったものの、ただ抑えられているだけでいつ爆発するかわからない時限爆弾を相手にする事になってしまった。

 ジョーから『こっちに来たらきっと仕掛けてくるから注意しろ』と、あれだけ言われていたのに…。

 己の迂闊さを呪う。どうして電話に出てしまったんだ。これから延々恨み言(途中から惚気にしか聞こえない)を聞かされるぞ。 

「あれ、でも待てよ?」

 冷静に考えてみると、相手はまだ電話してきただけだ。てっきり最初から最終兵器っぽいのと戦う事になると思って、色々な道具(逃亡用)も用意しておいたんだけど…。

 まだワンチャンあるかもしれない。そう思うだけで、夢や希望が見えてきた。きっとまだ何とかなる!

「ねぇ、聞いてる?」 

「あ、はい。何でしょうか!」

 何とかしてこのピンチを乗り切るんだ。その一心で俺は落ち着きを取り戻していた。

「あれ、ごめんね。人違いかな?」

「はい、そうです。あの、俺はあの時のジョーの連れです」

「ああ、あのブレドアリナの末裔とかいう人だね。本当にまだ生き残っていたんだ。てっきり冗談かと思ってた」

「はは…。よく言われます」

慣れてるとはいえ気にならないわけじゃない。でも、笑って受け流せるぐらいには成長したつもりだ。

「あ、そうだ。そんな事より、ジョーに早く―」

 その直後彼女が言いかけた言葉は、大きな爆発音にかき消された。

 

「ど、どうしましたか。大丈夫ですか!」

呼びかけても何も聞こえてこない。いったい向こうで何が起きたんだ!

「もしもし、もしもし!返事してください!」

 不意打ちでも受けたのだろうか?もしそうだとしたら、下手をすれば死んでしまっているかもしれない。

 胸に走る暗い予感。そういや両親が亡くなった時もこんな感覚を覚えたような…。

「やっべ、意識飛んでた。電話してなかったら危なかったなぁ」

「…………。」

 どうやら気のせいだったらしい。外れて本当に良かった。誰かが死んだって報告を聞くのは一度で沢山だ。

「ねぇ、さっきの続き。早くジョーに代わって?」

 まるで何も起きなかったかのように話を続ける守宮さん。ここは合わせた方がいいのかな。声を聴く限りでは平気だったみたいだし…。

「はい、分かりました。少しお待ちください。」

 あまり長話してジョーを待たせるのも良くないし、パパッと代わろう。

「ほらジョー、代わってってさ」

「それで素直に聞いたのか!この裏切り者!」

 振り向いた俺の目に映ったのは、荷物を大きな袋に詰め込んで準備万端で逃げ出そうとするジョーだった。いやいや、そう言いたいのは俺の方だ…。

「あぁ、俺だ。一体何の用だよ!」

 自棄になったのだろうか。ジョーは涙目で引っ手繰る様にして叫びながら電話を受け取った。

 

 その後、5分ほど聞くに堪えない雑音が鳴り響くので割愛する。合間には『はぁ?どういう事だよ!』とか『そんなのんきなこと言ってる場合か!』とか、『バ、バカ。止めろよな、もう。』とか、普段聞けないようなジョーの一面を見ることが出来るセリフが聞こえたことをここに記しておく。

 




 次回は新英霊登場回です。なんかいっぱい出ます。


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VS元監督役

英霊がたくさん出てくると書くのが大変です。


「それで、結局どうなったんだ。やけに慌てているようだけど…。」

 電話を切った後、ジョーは俺に文句をぶつぶつ言うかと思いきや、俺とクイーンを無視して玄関に向かって走り出した。顔を見る限り、相当急いでいるようだ。

「二人ともとっととついて来い。マジシャン!お前もだ。」

 そのまま靴をつっかけ、どこかへと走って行く。

「ち、ちょっと。まず何を話したのか教えてください。そうでなければ、行動のしようがありません。」

 いまだに電話のショックから抜け切れていないクイーンが慌てた様子で追いかける。俺とマジシャンもそれに合わせ、それぞれ駆け出した。

「一体どうしたってのさ。」

「詳しいことは現場につけばわかる。今は四の五の言わずについて来い!」

 何がなんだか分からないまま、俺たちは闇の中に入っていった。

 

「おい、ここどこだよ!まさか何も考えず走ってんじゃないだろうな!」

 闇雲に走り続けること十分。地元に住んでいる俺ですら迷いそうな路地を、一瞬たりとも立ち止まることなく駆け抜けて行くジョーに対し、俺たちは疲労困憊していた。

「ちょっとは待てよ。お前たちはともかく、俺はただの道具職人だぞ。肉体労働は工房の中だけにしてくれ。」

「そうですよ。私はあなた達みたいな兵士ではないのです。もう少しペースを落とすか、馬車を用意するなどの配慮をお願いします。」

「英霊ならともかく、俺は人間に過ぎないんだぞ。そうだ、クイーン達に先に行ってもらって、俺は後から行けばいいんだ!クイーン、それでいいよな。」

「それがか弱い乙女に言うセリフですか?まったくもう…。そんなのだから友達が出来ないのです。」

「へぇ、こういう時だけそういうこと言うんだ。それってずるくないか。」

「何が?私はただ一般論を言っているだけです。」

「昔はな、俺を放ってしゃべり続ける奴なんていなかったんだ。みんな向こうから声をかけて来てさ、話し続けるのが大変で大変で…。」

「そういう所がだよ!自分に都合が悪くなるとすぐにとぼけて誤魔化す。俺の話をちゃんと聞け!」

 俺たちはささくれだった気持ちを互いにぶつけ合い、余計にストレスを高めあっていた。なんて不毛なんだ。

「疲れたのならクイーンを憑依させろ。それでしばらくの間は持つ。」

 振り向きもせずジョーが言い放つ。

「「ああ、なるほど!」」

「こんな事も思いつかないのか、これだからお前―」

 唐突にジョーの皮肉が止まった。その場で急停止し、呆然と立ち尽くしている。

「おっと、っとっと…。」

 止まり切れずジョーの背中にぶつかりそうになる。我ながら運動神経がない。

「突然立ち止まるなよ。危ないだろ。」

「何だと…。一体どうなってやがる、有り得ないだろこんな事…。」

 話しかけても何の反応もしない。背中からだからよく分からないが、どうやら驚いているようだ。

「うん、どうした?なんか面白いものでも見えたのか?」

 俺が純粋な好奇心でジョーが見ている方へ目線をやると―

 そこでは2人の英霊が、守宮さんの周りで激突していた。

 

「あれ、おかしいな。当の昔に切りがついてもいいはずなのに。」

 剣と剣とを交え、あくまでひょうひょうとした態度を崩さず、ログウェルは嘯いた。

『マスター、気を付けてください。次の攻撃で剣が折れます。』

「はいはい了解っと。それにしても面倒くさいな。さすがは聖堂協会からの使者。君、なかなか強いね。」

サーヴァントからの忠告を聞き少し顔を曇らせた後、剣を相手に叩きつけた。

それが真っ二つに割れた瞬間、間髪入れず後退。懐からもう一本出して身構え直す。

「適当なことを。あなたのような者がいるから私は派遣されたんですよ?少しは反省してください。」

 相手はただひたすらに突撃を繰り返す。まるで殉教者のごとく、その瞳に迷いはない。

 背中に巨大な槍を背負い、曲刀を武器として、正々堂々と戦っている。

「はぁ。やってられないね!くそ真面目な奴は苦手だよ。」

 そう叫ぶと同時、彼は右目に指を押し当てた。

「見るがいい。これが現代まで残り続けた、先祖代々受け継がれ続ける神秘の産物だ!」

 

「あれどうなってんの?」

「俺に聞くな。そんなもん分かるか。」

「どちらかが正義の騎士で、どちらかが悪の戦士という事ですね。」

「そんな事より早く彼女を助けに行けよ。見るからに困ってんだろうが。」

 俺たちは千差万別の反応を示しながら、戦況を観察していた。

「えーと、とりあえずジョー、助けに来てくれてありがとう。」

「何、気にするな。お前が死んだら目覚めが悪いから助けに来てやっただけだ。」

「あれ?俺、俺へのお礼はどうなったんだ?」 

予想外な展開に驚きつつ、守宮さんと合流する。それにしても相変わらず扱いが酷いなぁ。

「それで、召喚したお前の英霊はどうなったんだ。まさかもうやられたんじゃないだろうな。」

「それなんだけどね、逃げてる途中ではぐれちゃってさ。今どこで何してんだろ。」

「何をのんきな―MAGITIAN!」

 唐突にジョーが叫び、体を輝かせて英霊を憑依させた。

 どうでもいいけど、前の時よりも光が弱くなっているような気がする。毎回あんなに光ってたら眩しいもんな。

「ってそこじゃねぇ! QEEEN、じゃなくてEMPRESS!」

「あ、そうやって戦うんだ。えーと、MOON!」

 守宮さんと俺もそれに合わせて憑依させた。彼女適応早いな。俺とは大違いだ。

 緑の光が眩く輝く。力が一点に向かって、高速で収束していく。

 その光が消えたとき、そこには姿が変わった守宮さんが立っていた。青色の瞳に、沢山のエメラルドが散りばめられた金色の首飾りを身に着け、大きなラピスラズリが中央に付いている冠を被った、なかなか派手な格好だ。

「おい、何をボケボケしてるんだ。お前たちも手伝え。」

 どうやらジョーはあのハイレベルな戦いに参加するつもりのようだ。やれやれ、どちらかが倒されてからの方が楽なのになぁ…。

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 二人で叫びながら突撃。真剣に対峙している場をぶち壊して突き進み―

「行きなさい、私の使い魔(アガシオン)! IMPREGNABLE COMET!」

「■■■■■■ォ!」

 地面からそそり立つ様に飛び出した、巨大な土の巨人に吹き飛ばされた。

「「うわっ!!」」

 家ほどもある体、全身に浮かび上がった緑の魔法陣、煌々と輝く無機質な青い目。心なしか前に見た個体よりも少し大きいように見える。

「流石は英霊の魔力。いつもより強そうね。」

「ちゃんと周りを見て行動しろ!」

 ジョーが大声で文句を言っている。ちなみに俺はその足元で静かにぶっ倒れ、口も訊く元気もなかった。

「へぇ、なるほど。これなら頷ける。その英霊、さては相当珍しい聖遺物で召喚したね?」

 ジョーの肩越しに、何やら分かったような顔をしている男が見える。髪色とかが違うけど、あの顔、見覚えがある。まさか本当に参加しているなんて思わなかった。

「監督役の人じゃないか!しょっぱなから聖杯戦争の参加者を襲うなんて恥ずかしくはないのか!」

 人が良さそうな顔しておいて、そんなに悪い奴だとは思わなかった。そうと分かってたら前会った時に倒しておいたのに、俺のバカ!

「いや、そんな事言われたってね、こっちにも事情があるというか…。」

 困ったような顔をする管理役の人。眼の中で歯車が高速で回転するのが見える。あれってもしかして…

「魔眼?そんなすごい物持ってるくせに、なんて卑怯なんだ!大体この仕組みについて説明しとくべきだろ!」

「まさかこんな情報を伏せておくとはな。よくそんな性格でこの戦いに派遣されてきたな。」

「そうだよ!勝つためならどんな手でも使うのが魔術師だけど、これはちょっとやりすぎだよ!」

「えーと、その、あー」

 俺と守宮さん、それにジョーから集中砲火を浴び、奴は何とか誤魔化そうとしどろもどろになった。

「それを遺言の代わりにして、さっさと逝け!」

 そう言うなりジョーは大きくハンマーを振りかぶり、振り下ろしながら一気に相手に接近する。これで二人まとめて消し飛ばすつもりなんだろう。

「少し、待ってもらっていいですか?彼は私が確保します。」

 その時、それまで奴と剣をぶつけ合っていた男が、ふいに目線をこちらで向けた。

「うるせぇ、待てと言われて待つ奴があるか!」

 如何にも悪党というセリフを吐きつつ、そのまま突撃するジョー。

「落ち着いてください。少し待ってもらうだけでいいのです。」  

 それに対し、男は堂々とした態度で右手をかざし―

 ひょい、なんて擬音が似合いそうな感じで、その鈍器を事もなしに受け止めた。

「な、何だと!」

 ジョーは目を丸くして驚いている。それもそうだろう、一応とはいえ英霊の力で放たれた一撃を、魔術も使わずに受け止めたのだから。

「今だ!撤収!」

 その隙を狙って一目散に逃げ始める管理役の人。さっきまでの余裕ぶった態度が嘘のようだ。

「こらー、待てー!」

 それを逃がすまいと、守宮さんが右手を構える。するとゴーレムの全身がまばゆく輝き、そこから光球を発射した。結構な速度で飛んでいく。これは仕留めたんじゃないだろうか。

「うわっ、危ねっ。」

しかし奴は背中を向けたまま「まるで見えているかのように」その攻撃をヒラリと躱して、唐突に目の前から消えてしまった。

 




どうしてこの人がこんなに強いのかは次回で分かります。


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真名明かし

英霊の真名を発表します。まぁ、主人公の鯖の名はまだ伏せておきますけどね!


 

「結局そのまま逃げられ、誰一人倒すことが出来なかったと。総括はそんな感じだな。」

「はは、戦果ゼロって事か。」

「笑い事じゃないよ…。こんなので大丈夫なのかな?」

 あの後俺たちはジョーの屋敷に向かい、そこで反省会をしていた。もう少しみんなで楽しくやるものだと思っていたんだけどなぁ。

 管理役と打ち合っていた男は、ロズウェルが逃げた後、何もなかったような顔をして俺たちに言った。

「私は聖堂教会から派遣されてきた今回の聖杯戦争の(代理)監督役。Abel=Bianch1(アベル=ビアンキ)です。今後は私が聖杯戦争を管理しますので、よろしくお願いします。」

 勿論そんなこと言われたからってすぐに信じたわけじゃない。俺たちを騙し討ちにしようとしているのかもしれないし、そうじゃないにしても都合よく利用しようとしているのではないかと、最初は疑った。

 だけど考えてもみろ、『信じないのなら私に逆らうとみなし、この場で断罪―』と言いながら、剣呑な雰囲気で懐をゴソゴソとやり始める、見るからに強そうな男を。

 この場で殺されるよりはましだと判断した俺たちは、メルアドと今までこの聖杯戦争について知ったことを教え、早々にその場から立ち去った。

 それで今に至るわけだ。憑依に関する情報も今日中に全てのマスターに教えると言っていたし、せっかく他のマスターを出し抜き聖杯を手に入れるチャンスを失い、意気消沈していた。

「ねぇ、そんな事よりも。とりあえずは互いに出せる限りの情報を共有するべきじゃない?うじうじしてたってなんにも始まらないのよ。」

 ごちゃごちゃと暗いせりふを吐き続ける俺たちに向け、この場にそぐわない艶やかな声が送られた。

 輝く黒い巻髪、ギリシャ風の美しい顔立ち。彼女こそがMOON、守宮さんが召喚したサーヴァントだ。

 彼女と守宮さん、クイーンで構成された華やかな女性陣に対して、俺とジョーで構成された男性陣はひどく地味に見える。もう少しかっこよければ絵になるんだけどなぁ…。

「そうだね、ここは少しでも前に進む努力をするべきだ。俺とジョー、それに守宮さんの三人なら、まだまだ勝ち目は十分にあるし。」

「待て。俺は七夢と組むなんて、まだ一言も言ってないが。」

 ジョーが口を挟んできた。やれやれ…。まだそんなことを言っているのか。

「冷静に考えなよ、ジョー。ここで守宮さんを敵に回して、俺たちに勝機があると思う?」

「そうは思わん。だが、七夢を味方にしたところで、大して変わるとは思えん。」

「もしジョーがそうしないんなら、俺は守宮さんに付くよ。ここで二人のマスターを相手にするのと、一人仲間が増えるのと、どっちがいい?」

「分かった、分かった。要はお前の言う通りにすれば良いのだろう。だがしかしな―。」

「ねぇ終わった?結局ジョーは私を仲間にするの、しないの?」

「わかった、分かった。要は七夢を仲間にすれば良いのだろう。ここは折れてやるよ。」

 しびれを切らした守宮さんが直接ジョーに尋ねた。最初からこうすれば良かったな。

「ありがとう!これから一緒に頑張ろうね。」

「あ、ああ。どうせすぐ負けると思うがな。」

 すごく嬉しそうな守宮さんと、頬を赤くするジョー。何か面白くない。

「それで、結局何を話せばいいんだ?俺しか知らない事なんて、ほぼないと思うが。」

「そんなことないでしょ。私たちの名前、つまり英霊の真名はまだ明かしていないわ。それを教え会うだけで十分にお互いを信用できるようになると思うのだけれど。」

「なるほど、案外まともな意見だね。」

 ここまで来てようやく建設的な意見が出た。これでこの暗いムードをなくせるかも!

「悪くはないな。だがしかし―(流星にだけは英霊の真名を伏せておきたいな。)」

 ジョーよ、そこから先は言わなくても分かる。

「おーい、クイーンとマジシャン。こっち来て。」

 守宮さんの呼び声に応えて、向こうで何やらガチャガチャやっていたサーヴァント二人がやって来た。

「一体何の用だ。俺は今お前たちにも使える道具を作っている処なんだが。くだらない話なら後にしてくれよ。」

「私はいつでもいいですよ。ちょうど暇を持て余していた所ですから。」

「何、手間は取らせん。すぐに終わるからな。」

「うん、ちょっと名前を教えてくれるだけでいいんだよ。」

 そう言ってから(顔はにこやかなままで)俺とジョーは同時に魔術を発動させた。

「火炎爆発(フレイム・バスター)!」

「THROW ARROW!」

 俺の右手から放たれた炎と、ジョーの背後から飛び出した大量の矢が空中で激突した。

「てめぇ、往生際が悪いぞ。ここで気絶でもしてれば全てが上手く行くってのに。」

「何を言うか。俺とお前、どっちが犠牲になるかなど、考えるまでもあるまい!」

 悪態をつきつつ魔術の準備をする。こんな所で負けてたまるか!

「氷塊爆弾(アイス・クラッシャー)!」

「STRIKE SWORDS! 」

 それぞれが打ち出した必殺の一撃は―

「あーもう馬鹿じゃないの!いちいち喧嘩しないの!」

 俺たちもろとも、空中から現出した鳥型のゴーレムに吹き飛ばされた。

 

「たくもう。本当に君たちってば― そんなんだから― それでどうにか―」

「分かりました。反省、もう反省しましたから、お説教はやめてください…。」

 正座をさせられ、無言で叱責され続ける事二十分。俺はそろそろ限界に近付いていた。

「おい、こいつもこう言ってるんだ。ここまでにしようじゃないか。」

「いーや、まだまだ言い足りないね。後三十分ぐらいは…。」

「おいマジシャン、お前の真名を名乗れ。今すぐにだ。」

 無理矢理にでもこの地獄から脱出しようとするジョー。見なくても気配だけでその必死さが伝わってくる。

「いや、お前本当に言っていいのか?これって結構―」

「いいからとっとと言え。早くしろ、早くするんだ。」

「ジョー、目がすごく怖いよ。」

 見るからに押され気味のマジシャン。がんばれ、ジョーなんかに負けるんじゃない!

「お、おう。分かった分かった。俺の名はダイタロス。ギリシャで一番の発明家だ。」

 ダイタロス…。全くピンと来ない、一体どの時代の英霊だろう?

「なるほどね。だからあんなに大きなハンマーを振り回せたんだ。」

「そうだ。クラス名から魔術師が召喚されると考えがちだが、実際の所それには何ら関係性はない。タロットの意味から考えれば、不思議でも何でもないだろう?」

「そうだね。それならさ、私達の武器も作ってもらえないかな。それさえあれば相当パワーアップ出来るよ。」

「別に構わないが、材料はしっかり用意してくれよ?俺は仕事には真剣に臨むタイプだからな。」

 俺を無視して、どんどん話が進んでいく。すごく聞きにくい雰囲気だ。

「あ、あのさ…。」

「ん、どうした流星。心配するな、お前の分も一番最後に作ってやる。」

「ダイタロスって、誰?」

 そう聞いた瞬間、場が完全に凍りついた。

「ま、まさかお前、知らないのか?」

「そうだけど、悪いかよ。」

 ジョーがおずおずと聞いてくる。こうなったら開き直るしかない、

「ハハハハハ!コイツは傑作だ。お前は教養がなさすぎる!」

 突然ジョーが大声で笑いだした。すごく失礼だと思うけど、否定しきれない!

「大丈夫ですマスター。私も知りません!」

「私も知らないわ。きっとさぞかし名のある方なのでしょうけれど、無学でごめんなさいね。」

英霊二人が庇ってくれる。励ましは嬉しいけど、クイーン、そこは胸を張って言う所じゃないと思うんだ。

「お前たち二人は知らなくても無理はない。だが現代人が知らないとなれば話は別だ。」

 ジョーは吹き出しそうになるのを必死に堪えている。うう…、そこまで言われるような事なのだろうか…。

「ねぇ流星君、ミノタウロスって知ってる?」

 そんなムードの中、一人真面目な顔をして話しかけてくれる救世主。ありがたすぎて涙が出そうだよ。

「うん。確かギリシャ神話に出てくる、頭は牛で体が人間の怪物だよね。」

 ゲームの中でボスとして戦ったことがある。高い防御力に苦労させられたなぁ…。

「そのミノタウロスを巨大な迷宮に閉じ込めたのがこの人よ。」

「そんな強そうな魔物を捕まえるなんて、すごい方なんですね!」

「あぁ、そう言われると確かに聞いた事があるような気もしないでもないような…。」

「ないような…じゃねぇよ!失礼にも程がある!」

 なるほど、伊達に英霊になったわけじゃないって事か。

「それじゃ、次は私の番ね。私の真名は―」

「いや、大丈夫だ。それは聞かなくても分かる。」

 名乗ろうとしたムーンをジョーが押しとどめる。

「うん、もうみんな知ってると思うし、言わなくても大丈夫だよ。」

 守宮さんもそう思ったみたいだ。まぁ彼女の名はさすがに俺でも分かる。あまりにも有名だからな。

「いや、流星は分かってないか。周りに合わせる必要はない、ちゃんと聞いてこい。」

「そんなわけないだろ。馬鹿にしすぎだよ」

 からかってくるジョーを軽くいなす。いくらなんでもなめすぎだ。

「そんなに簡単な問題なんですか…。私には全く分かりません。」

 そんな中、クイーンが頭を抱えて悩んでいた。時代が違うんだから、知らなくたってしょうがない。

 ちなみにマジシャンはというと、怒りに任せてそのまま武器の制作に戻ってしまっている。ガンガンと響き渡るハンマーの音が怒気を帯びていて怖い。

「それじゃあ、せーので全員で言ってみようか。ついでにクイーンにも教えられるしね。」

「いいアイデアだな。これで流星が分かってないことを証明出来る。」

「だから知ってるって!いいだろう、臨む所だ!」

 いい加減に俺の評価を見直してもいい頃だろう。目に物見せてやる!

「じゃあ行くよ。せーのっ―」

「「クレオパトラ!」」

 守宮さんの合図に合わせて、俺とジョーが同時に答えた。

「チッ、知らないと思ったんだがな…。深読みしすぎたか。」

 納得出来ないような顔をして首をかしげるジョー。まさか本気で言ってたのか?

「ふうん、わたしって存外名が通ってるのね。少し嬉しいわ。」

 軽く口元を綻ばせて喜ぶムーン。凄く華やかに見える。

 ・・・後ろから聞こえてきた『そいつは知ってるのに、俺は知らないのか。』という呟きは無視しよう。

「それじゃ、そこの女の子――クイーンの真名は?」

 守宮さんがこっちを向いて言った。小首を傾げた仕草がとてもかわいい。

「えっと…。そういや結局聞いてなかったな。クイーン、真名教えて。」

「嫌です。」

「は?」

「断固として拒否します。」

「何でだよ!他の奴は皆ちゃんと答えたんだぞ。周りからどう思われるか、少しは考えてくれよ!」

 心なしか、すでにジョーどころか守宮さんまで攻撃の準備をしているように見える。早くしないと命が危ない。

「だって昨日あんな事したじゃないですか!」

 きつい目線でクイーンが睨んでくる。えっと、何の事だろう?

「私の事戦力にならないとか、戦えなさそうだとか、そんな失礼なことを臆面もなく堂々と言ってきましたね。忘れたとは言わせません!」

「ああ、その事か。確かに悪かったと思ってるけど、そんなに怒るほどの事でもないような気が…。」

「いいえ、そんな事はありません。ちゃんと謝ってください!」

「え、今?いや、いいんだけどさ。すいませんでしたっと。これでいい?」

「いいわけがないでしょう!もっとしっかりと、真面目に、礼儀正しく!」

「えっと、それじゃあ、馬鹿にしてすいませんでした。これからは気を付けます。これでどうだ。」

「駄目です。もっと誠意を示してください。」

「もう充分だろ!これ以上はただの意地悪だ!」

「何ですって!どれだけ私があの一言に傷つけられたと―」

「まぁ待て待て。要は流星に真名を教えたくない、そういう事が言いたいんだよな。」

 ギスギスした空気の中に、満面の笑みを浮かべたジョーがずけずけと割り込んできた。

「それなら、俺と七夢にだけ教えてくれればいい。これは情報の共有の為にやっているんだから、それで充分だ。」

「お前、勝手に何を―」

「賛成です。」

「右に同じ。」

「私もそう思うわ。」

「…(カン、カン)。」

 なんて事だ。俺以外の全員が賛成するなんて、夢にも思わなかった。

「それじゃ決まりだな、エンプレスと七夢、こっち来てくれ。」

 そう言ってジョーたちは、別の部屋に移動してしまった。

「はぁ、マジかよ。」

 あとに残されたのは俺と、無言でハンマーを振るい続けるマジシャンだけ。置いてけぼり感が半端ない。

「え、えっとマジシャン?俺と何か話す事ある?」

「…(ガン、ガン)。」

「分かりました。俺は向こうで静かにしてますよ。」

 さてさて、一体何をして時間をつぶそうかな。

 

「よし、これで完成だ。」

軽く辺りを探して見つけたトランプを使い、タワー作りに挑み続ける事二十五分。俺はようやく最後の一枚を置き、この大作を満を持して仕上げようとしていた。

思えば色々な事があった。最初の足場をどれだけしっかり置くかに執着したあの頃、一枚一枚置いていくだけなのに手先が震えて止まらなかったあの頃、少し慣れてきて速く置けるようになった事を無性に嬉しく感じたあの頃…。どれも今振り返ると、はるか昔の事の様に感じる。

 それら全ての終着点が、ここにある。辛い事も悲しい事も、すべてを受け入れてここまで来た。

 目線を前にやれば、こちらを真剣な顔で見つめるマジシャン。

 彼は俺がトランプタワーを組み立て始めてから、道具を作るのを中断してくれた。

そこに在るのは暖かな眼差し。『良く頑張ったな』口には出さなくても、そう思っているのが分かる。

トランプタワーを通して、俺と彼は今、確かにお互いの事を理解しあっている。そんな事実が、俺の胸に大きな感動を抱かせた。

 ここまでの努力はこの一瞬の為に。己の全てを出し切った結果がこれだ。

 俺は万感の思いを込めて、持ち上げた右手を――っ!

「流星、今終わりましたよ。」

 ――置くよりも早く、クイーンが開いた扉が起こした風が、トランプタワーを吹き飛ばしていった。

 凍る空気。明白に発せられる殺意。全ての空間を満たした後、それはただ一点に向かって収束していく。

「どうしました?そんな顔して、まるで私が何かやらかしたみたいじゃないですか。」

 それに気付かず、あくまでとぼけてみせるクイーン。なかなかいい度胸じゃないか…!

「別に何でもないよ。ちょっと己の全てを賭けた努力の結晶を、一瞬で破壊されただけだから。」

「満面の笑顔で言われると、少し怖いのですが。まぁ気にしてないならいいですよね。それなら早く夕食を―」

「何でもないからさ、ちょっとそこで土下座してくれないかな。」

「キャー!誰か、誰か助けてください!」

「どうしたエンプレ――って流星、全身に魔力を纏わせて、一体何をするつもりだ!」

「魔術刻印、総展開(システム・エマージェンシー)!」

「待って流星君!家の中でそんな物ぶっ放したら、全部まとめて吹き飛んじゃうよ!」

「地獄の大奔流(デス・スプラッシュ)!」

 ―その後の事はよく覚えていない。ただ、怒り狂ったジョーが、『なんでこんなことしなきゃならんのだ。』と言いながら、ごちゃごちゃした後片付けをしていたような………?

 

「流星、おい流星。」

「あれ、ジョー。今俺って一体何してた?」

 唐突に意識が戻る。ついさっきまでやっていた事を思い出せない違和感が、胸の中で渦を巻く。

「おい、マジかよ。俺の苦労を全部帳消しにしやがって、この大馬鹿野郎。」

 目線をやると、そこにはエプロンをして、食器を洗っているジョーがいた。

「七夢達女子陣は風呂に入ってる。エンプレスには風呂に入る習慣がないらしくてな、あのバカが無駄に騒いでうるさくて敵わん。夕飯はもう食べたぞ。久しぶりに食べたお前のハンバーグはおいしかった。四人分を六人で分けたから量が少なかったが。まぁ良しとしよう。とっととお前も手伝え。」

「お、おう。」

 覚えていないなりに、一応働いていたらしい。さすが俺、おかしくなっても真面目だ。

「お前のその妙な『気絶体質』はどうにかならんのか。イギリスでも色々と迷惑をかけられた。」

 溜め息をつくジョー。いや、悪いとは思ってるんだけどね。

「仕方ないだろ。魔術刻印の副作用なんて、どう対処しろってんだよ。」

 時計塔の師匠には、魔術刻印が多すぎる性で、それを管理する脳がオーバーヒートしやすいのだろうと言われた。薬の定期的な摂取である程度は治せるらしいけど、あまりに高すぎて手が出せないままだ。

「いや、分かってはいるんだがな。人の苦労を全く知らないでいると思うと、多少癪に障るというだけだ。」

 苦笑いを返された。話題を変えたほうが良さそうな気がする。

「それにしても、ジョーって意外に家事ができるんだね。そのエプロンなかなか似合ってるよ。」

「それは褒め言葉なんだろうな。向こうではお前が殆どやってくれていたが、俺だって出来ないわけじゃない。」

 ジョーとたわいもないことを話しながら、家事をこなす。そんな平和な時間が、地味に楽しかった。

 




次回は本命、というかこの話のラスボスの登場です。今から不安だな…。


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幕間 真打登場!

大幅に投稿が遅れてすいません!いろいろ忙しくてつい…。今後は気を付けます!


 同時刻、最大の優勝候補が顕現した。

「よし、これでいいのだろう。これで儂は必ず勝利を収めることが出来る。この圧倒的な力さえあれば、もはや負けなど決してない。」

 重々しいが、歓喜に満ちた声がトンネルの中で木霊する。地脈の力を利用するため、わざわざ下水道のなかに工房を作った買いがあるというもの。長い髭を生やし、黒いマントを纏った,いかにも魔術師然とした老人が、たった一人で笑いの四重奏を奏でる。

 煌々と輝く召喚の魔法陣の上には真鍮と鉄で作られた精巧な指輪が載っていた。

 彼の一族はそれを手に入れる為だけに存在していたといっていい。彼らの歴史の初めの半分はそれを求める探求に、終わりの半分はそれを使おうとする希望と失望に費やされた。かの王の指輪はほかの持ち主を受け入れず、何十の世代を無駄にした。その結果、彼らの一族はある一つの絶望的な結論に達してしまった。

『我らの一族の歴史には、何の意味もなかった。』

 それからの衰退は早かった。何の研究成果も見出せない魔術師などいて何になるのだろうか。あるものは魔術師を辞め、またあるものは他家へ取り込まれていった。

 そこまでの勇気もなく、何の意味もない日々を送る最後の生き残りのもとに、ある一報が入る。極東の地で、英雄たちを戦わせ、深淵へと至る聖杯戦争が起こるらしい。

 あの結論が出るまでなら鼻で笑っていたような話にその生き残りは飛びついた。

―聖杯戦争で勝てれば、何か目的が見つかるかもしれないー

 かつて一族を出ていった者たちに馬鹿にされながらも彼は出陣を決意した。聖杯戦争に勝利し目的を手に入れ、祖先たちの努力と年月が無駄ではなかったと証明するために。呼び出す英霊は、当然我らが求めた指輪を唯一使いこなしたとされるもの。その指輪の正当な持ち主、精霊王ソロモンである。

 ひとまず召喚に成功したことを確認し、喜びに浸っていた彼の心情はそのサーヴァントの声によって壊されてしまった。

「長々と一人語りご苦労様。まあ何でもいいんだけどさ、これどういう状況?せっかく友達と遊んでたってのに僕を呼び出すなんて、何かよっぽどの望みがあるんだろうね?」

 軽い口調に反して、その体は美術館においてあるような豪華な衣装に彩られている。指には既に、召喚に使われた指輪がはめられていた。

 魔術師は顔を一瞬不快感で歪めた。一族を懸けて研究してきた力ではあるが、まさか本来の使い手がこのような者だとは思わなかった。

 とは言うものの、彼は愚かではない。戦いに自分の私情をはさむような真似はしない。

 この聖杯戦争のシステムは時計塔で聞いて理解している。ここでサーヴァントとの関係が悪化するのは避けたかった。とりあえずは近くのまだなにも分かっていないであろうひよっこたちを倒しに出かけるとしよう。そう考えた彼は戦いに赴くため英霊との融合を行う事にした。サーヴァントとは彼らの家に行く道すがら話して行けばいいだろう。

「精霊王ソロモンよ。我が一族の為に協力してもらうぞ。サーヴァントよ。我に憑依せよ! WORLD!」

 その叫びと同時に、体が黄金色に輝く。その光が消えた後には、明らかに力を増した老人が立っていた。

「これだ、この力だ!かつて神から賜った指輪の力によって七十二柱の悪魔を使役し、生けとし生けるもの全てと語らい、それらすべてを統治したと称される、圧倒的な奔流よ!我こそはそれを操り、聖杯を手に入れる者―」

 唐突に老人の一人語りが止まった。その体が、不自然に赤く鼓動している。脳内に何かが侵入して中を覗き込んでいるような、ゆっくりと腐っていくような感覚が、全身に染み渡っていく。

「何だ。召喚に問題はなかったはず。何が起こっている。」

『いや、ちょっと軽く君の頭の中を覗かせてもらったんだけどさ。』

 そんなことが出来るはずはない。召喚された英雄は、融合しなければ並みの人以下の魔力しか持たない。たったそれだけの力で、高位の魔術師の精神に干渉するなど不可能のはず。彼が思考を巡らせる間にも、サーヴァントは無情に語り続ける。

『こんな小さな望みしかない、しかも三流の魔術師に協力する義理はないと思うんだ。』

 軽い口調と反比例して、鼓動の速度は速まる。徐々に全く間合いを開けなくなり―

「ま、待て精霊王、召喚されたからにはお前にも何か願いがあるはずだ。互いに協力したほうが勝利につながることはお前もわかっているはず。」

『何を馬鹿な事言ってんだよ。こちとら一騎当千の英雄様だぜ。君みたいな凡人の精神ぐらい、一切手間をかけずに乗っ取れるに決まってるだろ。それにさ―』

 次の瞬間、同化を彼が解くより早く、彼の意識は闇に沈んでいった。

『私の指輪を神からもらったなんて言う奴は、確実に殺すことにしているんだ。』

 数秒後、魔術師は再び体を起こしたが、その瞳にある意識は完全に別人のものだった。

「ふう、それにしてもこの肉体、どうにかならないかな。こんな年寄りの体手に入れてもね。」

 指を鳴らした瞬間に煙が体を包み込み、その姿は先ほどのものとなる。着ている服は現代風になっていたが、そのせいで手の古めかしい指輪が強烈に浮いてしまっていた。

「今の普通の服にしてみたけど、やっぱり違和感があるな。」

 それから彼はしばらく目を閉じていた。この聖杯戦争に使われている術式を完全に理解し、目を開ける。

「指輪とこいつの魔力で現界し続けられるから、こんな闘いほっといて本国に戻ってもいいんだけど、そういうわけにはいかないか。やれやれ。とりあえず、他の英雄を倒しに行こう。」

 それから軽く手を振って下水道を脱出する。一刻も早く座に帰ろうと、破壊の連鎖を広げるべく一歩踏み出したその時、

「うわあ、すごいなあの建物。」

 彼は天高くそびえたつたくさんの高層ビルに目を奪われていた。

「あんな高い建物見たことないぞ。形もかっこいい。僕の神殿もあんな感じにすれば良かった。」

 それから数十分、彼は車やコンビニ、自動販売機などの現代の神秘に完全に夢中になっていた。炭酸飲料片手に、全く王らしくない態度で呟く。

「まさかこの時代がこんなに面白いなんて。サーヴァントが残り五体、いや残り三体になるまでは、この世界で遊んでいよう。」

 そう言って一気にラッパ飲みし、思いっきりむせ返った。

 




はい、ものの見事にFGOと被っています。プロットを書いた時点ではまだサービス開始してなかったんですよ。変えようかと思っていたんですが、他に良いキャラクターを思いつかなかったのでこのままにしました。FGOとの違いはまた別の時に説明します。


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早朝の学校にて

取りあえず日常パートです。キャラの説明って難しいですね。


『ジリリリリリリリリリリ!』

「ん、ああ。もう朝か。」

 唐突に夢から覚めた。差し込む朝日が、新しい一日の始まりを告げる。

「あれ、ここは…」

 天井にシャンデリア。傍らに大きな本棚。見知らぬ光景に目眩を起こしそうになる.

 そう言えばジョーの家にいるんだった。聖杯戦争の為に建てた割に立派で、ホテルに泊まっているみたいだ。

「もう少し寝てたいなぁ。まぁ、そんなのんきなこと言ってると普通に遅刻するんだけど。」

取りあえず着替える。それにしても昨日の執事さん凄かったな。あんな大きい風呂敷でまとめて持って来るとは思わなかった。一体どんな修行を積んできたんだ。というか、それを何も言わずに受け取るジョーってナニモノ?そんなに偉かったの?

 寝惚け眼をこすりながら部屋を出る。静まり返った廊下は、人の気を感じさせない。

「やっと起きてきたのか。寝起きが悪いのは相変わらずだな。」

 リビングに入ると、ジョーが眠そうな目で酸素吸入器を使っていた。

「まだ喘息治ってなかったのか。大丈夫か。」

「お前に心配される程じゃない。それに、朝これさえやっていれば何の悪影響もないしな。」

 空気を吸い続けるうちに、ジョーの目に輝きが戻ってくる。赤色の目をしているからか結構不気味だ。

「さて、朝食でも食べるか。」

 ジョーが椅子から立ち上がり、トーストと目玉焼きを取ってきた。あれ、のんびりしすぎたかな。

「あれ、もうそんな時間?俺もちょっとは急がないと。」

「いや、俺には学校も何もないからな。単に早く目が覚めただけだ。ほら、おまえの分もあるぞ。」

 そういやそうだった。こっちにいる間は暇だろうなぁ。

 朝食を受け取り、席について食べる。目玉焼の焼具合がちょうどいい。

「というか、お前学校に行くつもりなのか。聖杯戦争の間ぐらい何とかして休めよ。」

「いやー、これ以上休むと単位が危ないんだよね。夏休みにやってくれたら良かったんだけど…。」

「呑気な事だな。この辺りにお前以外の魔術師がいないからいいようなものを、魔術師戦は起こさないようにしろよ。一般人を巻き込むと、色々と文句を言われそうだからな。」

「はいはい、分かってますって。」

 上から目線の忠告を軽く受け流す。(別に学校で妙な動きがあったわけじゃないし)何の問題もない。

「そういや女子陣はなにしてんの」

「昨日夜遅くまで喋っていてな、今朝一緒に魔術の鍛錬をしようと誘いに行ったら、もう2時間寝かせてくれと言われた。七夢はいつもの事だからいいとしても、霊体化すれば食事も何もいらないサーヴァントどもまで寝ているのは、無駄としか言いようがない。」

 ちなみにマジシャンは昨日からずっと工房で道具を作っている。寝る前に見に行ったら『俺の邪魔をするな』と大声で怒鳴られた。職人の執念ってのは恐ろしい。

「俺はこれから学校に行ってくるけど、お前はどうすんの」

「軽く辺りを見回って、結界でも張っておく。その後は…イメージトレーニングでもするか。昼間っから戦うわけにもいかないしな」

「随分と呑気だね。ジョーの事だから、『先手を取って魔術師を見つけてやる』とでもいうのかと思ったよ」

「おいおい、あまり馬鹿にするな。俺にだって常識はあるさ。」

 右手を振って眉を顰めるジョー。どうやら本気にしたようだ。

「ごめんごめん。ただの冗談だよ。そうだ、帰りに一回家に寄って良い?持ってきたい物があるんだ」

「別にいいが、エンプレスは連れて行けよ。万が一ということもあるし、おかしな事があったらすぐに連絡しろ」

「ああ、分かった。それじゃ、行ってきます」

 鞄を引っ掛けて、学校に向かう。今日は時間にも余裕があるし、のんびり行こう。

 

 ゆっくり歩き続ける事十五分。長い下り坂を降り続けてようやく校門にたどり着いた。

 朝練に勤しむ生徒たちの声が校庭から聞こえてくる。活気に満ちた声が、自分にもやる気を分けてくれる。

 これから始まる聖杯戦争で勝ち抜くには、ほんの僅かの気合いでも重要だ。いざという時相手より一秒でも早く決断出来れば、それが未来への鍵になる。

 俺がどうやったら上手く戦えるかを、脳内でじっくりシミュレートしていると―

「あ、流星。こんな時間にどうした。ああそうか、苦難に喘ぐ我が剣術同好会への入部をついに決心したのだな。それは良かった。早速入部届けにサインをしてくれ。今すぐダッシュで職員室に提出してきてやるぞ!」

 耳障りな声が、それを強制的に塗り潰した。

「朝っぱらからお前の顔を見るなんて、俺はよっぽどツイてないんだな…」

「ほら、このペンを受け取るのだ。ここに在る二枚の書類にサインするだけで、君も今日から文武両道、才色兼備のスーパー高校生だ!」

「うるさい。俺にそんな気はないよ。仮に入るとしても、お前がいる間は絶対に嫌だ。」

「そうか。やっと部員が増えるのかと凄く感激していたというのに、薄情な奴だな」

 そう言って俺の最近の大きな悩みの種である女子生徒、守神光は俯いた。

 「残念系美少女」彼女の紹介をするなら、この一言で用が足りてしまう。

 百メートル12秒台の運動能力と、学年でトップ30に入るほどの成績、さらには金髪碧眼の物語から出てきたような容姿(母方がフランス人らしい)を、その性格が全て台無しにしている。

 何でも彼女は、三年前まで海外で生活していた間、日本のイメージを時代劇や漫画で得ていたせいか、日本にはまだニンジャやサムライがいて、皆刀を持っているのだと本気で信じていたらしい。

 そのせいで口調も変になり、あまつさえ『二次元の日本文化を広めよう!』とか変な事を言い、部活を立ちあげるイタイ奴になってしまった。

 そんな変な奴と何で知り合いなのかって?何という事もない。単に彼女が俺の名前を見て、自分と同じ帰国子女だと勘違いして、俺に話しかけてきただけだ。

 そんなわけで、俺にとって彼女は疫病神以外の何物でもない。何者でもないんだけど…

「いや、悪いな。まったく入りたくないわけではないんだ。ただ、俺にもいろいろとあって、今忙しくて。」

 美少女が悲しそうな顔をしていると、なんだが自分が悪いような気がしてくるから不思議だ。いや、もちろん俺には一切悪いところはないと断言できるけど、何というかこう―

「そうか、それは『忙しくなくなったら入部する』という意味だな。一体どんな問題を抱えているんだ。教えてくれれば、私が全力で解決に当たってやろうではないか。」

 さきほどまで抱きかけていた感情が気のせいだった事を、俺は痛感した。

 

 なおもうるさくしゃべり続ける守神を振り切り教室に入る。早く来すぎたせいか、教室には誰もいなかった。

 席に着き、鞄から図書館で借りた本を取り出す。暇つぶしには最適だ。

 さてと、どこまで読んだっけか…

「へぇ、君もそんな分厚い本読むんだね。意外だな、感心しちゃうよ」

「えっ!」

「何をそんなに驚いてるのさ。俺だよ、俺」

 突然の声に驚いて振り向くと、そこには木暮が立っていた。

「いや、気づかなくてさ、悪いな」

 冷静に考えてみれば、鍵が開いていたんだから誰かいるのは当然だ。我ながら馬鹿だな。

「気にしなくていいよ。俺も暇だったし、会話する相手がいるなら時間つぶしも出来るしね。」

「そういや、お前は何でこんな早く学校に来たんだ。なんか部活にでも入ったのか」

「単に早く目が覚めただけだよ。今のところどこにも所属するつもりはないな」

「お前ならどこでも大活躍できそうだけどな。まぁ、それならそれでいいけどな」

 もったいないとは思うけど、本人がそう言うのなら仕方ない。ここは肯定するべきだ。

「走れ、皆の者!鍛錬さえ積めば、いつかは必殺技だって打てるようになる!」

 窓の外から守神の声が聞こえてくる。やれやれ、いい加減に少しは真面目に―

「あの部活面白そうだね。一体どんな活動してるんだろう」

「待て、あの部活だけはやめておけ。悪いことは言わないから。絶対後悔するって!」

「え、でも楽しそうだし、皆仲良さそうだし」 

「いいから俺の言うことを聞け!」

 本人がそう言うなら仕方ないのかもしれないけど,あまりにもったいな過ぎる。ここは絶対否定するべきだ。

 天才系の人はみんなセンスがおかしいっていう法則でもあるんだろうか。あまりにも別次元過ぎて、凡人の俺には分からない何かの波長でシンクロでもしてたりするのかな?

 とにかく、残念な人をこれ以上増やさないために、俺は守神をその場から窓越しにとっとと追い出した。

 これで落ち着いて話せる。俺がよく周りのやつに言われるようにボッチ系でないことを証明してやる!

「さてと、それで木暮君―」

 と、いきこんで振り向いた瞬間、俺の目には猛然と突き進んでくるたくさんの生徒が映ったのであった。

 




次回、ようやくまともな戦闘が描けます!


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影人、参上!

また新たなサーヴァントが登場します。
彼女は他ルートではヒロインをやったりもします。


「それで結局、今日はその後一言も話せなかったんだ。森野には『まぁ流星君だからしょうがないよね。』て言われるし。どいつもこいつも俺の事を何だと思ってんだろう」

「そう言いたいのは、延々とあなたの愚痴を聞く羽目になっている私の方だと思うのですが…」

 学校が終わった帰り道、俺はクイーンに学校での出来事を話していた。

「学校に来て一日でファンクラブが出来るってどういう事だよ。いくらなんでも人気過ぎだろ」

「あなたも少しは彼のことを見習ったらどうです。少しは効果があるかもしれませんよ」

「俺にそんな事が出来ると思うか?失敗してみんなの笑いものになるのがオチだよ」

「またそんな後ろ向きなことを言って。少しはがんばりましょうよ」

「頑張ってこれなんだよ。こう見えても少しはましになった方なんだぜ」

 自分の家が見えてきた。早く荷物を持ってジョーの家に行こう。

 鍵を開けて玄関に入る。当たり前だけど、一日前に家を出てから何の変化もない。

「ここに何しに来たのですか。魔術に使う道具なら、ストーンズの家にある物の方が強力だと思いますが」

「冷蔵庫から買いだめしといた食材を持って帰ろうと思ってさ。腐らせたらもったいないし、ジョーは放っておくとパンしか食べなくなるからな。執事の人に頼んでも良かったんだけど、あんまり手間取らせても悪いし…。」

「そんな理由で来たのですか!なんてくだらな。」

「くだらないとは何だ。時計塔からの奨学金しか収入がない俺にとっては死活問題なんだよ」

 キッチンに入り、冷蔵庫を開ける。確か前スーパーの全品10%で沢山買った豚肉が残ってたよな…。

「あれ、変だな」

 中にあったほとんどのものがなくなっていた。残っているのは調味料だけ。それ以外は何一つ残っていない。

「マジかよ!空き巣にでも入られたのか?」

 でも鍵はかかっていたし、窓だって割れていなかった。というか結界が張ってあるんだから誰かが侵入したら分かるはずだ。一体とうやって入ってきたんだろう。

「どうしました?」

 脇にどいて冷蔵庫の中身を見せたが、クイーンは特に驚いた様子は見せなかった。

「それがどうかしたのですか」

 不思議そうな顔をしている。小首をかしげた仕草がやたらと可愛い

「だから、冷蔵庫の中が空っぽになっているだろ」

「はい。」

 一応うなずいているものの、顔に分かった様子はない。クイーンは現代の知識が乏しいから、これがどれだけ大変な事か理解できていないようだ。

「まず冷蔵庫は、食べ物が腐らないように入れて置くものなんだ」

「はい」

「それに、家の食べ物は殆どここに入っている」

「はい。」

「つまり、もしジョーの家に行っていなかったら、俺たちの夕食はなかったって事なんだ。」

「それは大変ですね!そうならなくて良かったです!」

 良かった、ようやく伝わったみたいだ。

「お前がストーンズの仕掛けた罠に気づかなかったのも、ストーンズの屋敷の方がここに比べてはるかに豪華だったのも、全ては必然だったということですね」

「ん、まぁ、そうだね…」

 そうとも言えるけど、なかなかグサリと来るなぁ。これって天然なのか?絶対違うな。

「ってそれどころじゃない。玄関の鍵を閉め忘れたとすると、鍵がかかっているという事は…」

「と言う事は?」

「まだ家に俺たち以外の誰かがいるってことだよ!」

「何ですって!」 

「これはまずい事になった。急いで警察に電話をして―」

 いや、それはだめだ。家中にある魔術道具について聞かれたら、色々と面倒くさい。

「待ってください。私をお前に憑依させて、家の中を探索してみるというのはどうでしょう?」

「いいね。そうしよう。」

 クイーンの力があれば、相手が誰だろうが安心だ。とっとと侵入者を捕まえよう!

「それじゃ行こうか。EMPRESS!」

 全身が光に包まれ英霊が憑依する。まぁ魔術師と戦うわけじゃないから、そこまで本気出す必要はないけど。

 そのままキッチン、リビング、と探していく。結局ソファーの下や風呂の中まで探したが見つけられなかった。

 ええっと、まだ探してないところは…

「分かったぞ。奴は地下室にいる」

『当然でしょう。いかにも推理しましたみたいな態度をとらないでください』

 魔法陣や昔からある道具を下手にいじくられたら、こっちにとっても相手にとっても厄介なことになる。これは急いで対処したほうが良さそうだ。

 鍵で扉を開けて地下まで下りていく。普段は全く使っていないので、えらく埃っぽい。

「私はこんな汚れた所で召喚されたんですね…できればもっと明るい所が良かったです」

「うるさいな。普段はイギリスにいるんだから仕方ないだろ」

 暗すぎて先に何があるかよく分からない。ここで奇襲されたら一発だな。

 一番下までつくと、ぼんやりと置きっぱなしにしてある様々な道具が見えた。とりあえず明かりをつけよう。

 手探りでスイッチを探す。カチリと音を立てて、天井の古めかしい蛍光灯がついた。

 人影は見当たらない。どうやら地下にもいないようだ。

 きっと冷蔵庫の中の物を食べたのはゴキブリか何かだったのだろう。やれやれ…、心配して損した。

「ほう、あれは何ですか?」

 クイーンが初めて見る物に目を丸くして驚いている。何を見ても新鮮に感じるってのはうらやましい。

「扇風機だよ。もう少し暑くなると出してきて使うんだ。風が吹いて、とても涼しいよ」

「では、あちらは?」

「オーブン。食べ物を焼くのに使うんだ。電子レンジを買ってからいらなくなったんだけど、捨てられなくて…」

「でんしれんじ?ま、まぁとりあえずそれはいいです。それなら、こちらは?」

「えっと、それは…」

 クイーンの指さした先には、見知らぬ物が転がっていた。

 大きく真っ黒な布に、何かがくるまれている。大きさはちょうど俺と同じぐらいだ。

「こんなのあったかな?ちょっと調べてみるか。」

 少しづつ布を解いていく。何重にも巻かれていて、なかなか中身が見えない。

「どんな物が入っているのでしょうか?伝説の剣とか、指輪とか、そういうかっこいいものだといいですね。」

「そんな物とうの昔に売り払っちゃったよ。何しろお金が足りなくてさ。」

 両親が亡くなってから二か月ほどは地獄の日々だった。家を売ればいいんだけど、一応魔術師の工房を一般人に見せるわけにもいかないし、ずいぶんと苦労させられたなぁ。

 まぁそんな体験も、思い出すと懐かしい感じがして―

「駄目だ、今でも悲しくなってくる。下手に思い出すんじゃなかった」

 今やっていることに集中しよう。別に暗い気持ちになりたいわけじゃないんだから。

「早くしてください。今すぐ終わらないのなら帰りましょう。」

 クイーンがいらいらしている。そんなに急ぐことないだろう、やる事もないんだし。

最初に比べて随分と布が捲れてきた。あとちょっとで何が入っているのか分かりそうだ。

 腕をせっせと動かす。俺だって何が入っているかは早く知りたいんだ。

 すると突然コテンと音を立てて、白い物が転がりだしてきた。

 とっさに拾い上げて調べてみる。これで大体中に入っている物の見当がつけられるぞ。

「えっと、こりゃお面だな。それも骸骨の。なんて悪趣味なデザインだ」

 薄くて軽いわりに固くて付けやすそうだ。だけどこんな縁起の悪そうな物が家にあったかなぁ。

「流星、変な音がしませんか?何にしても、早くここから離れたほうが良さそうです!」

 クイーンの声につられて振り返ると、ガタガタと高速で震えている黒い布が見えた。今にも爆発とか消滅とかしてしまいそうな雰囲気を醸し出している。

「急いで逃げよう!きっと侵入者用のトラップか何かだったんだ。俺の魔術刻印に反応したに違いない!」

 こんな迷惑な物どこで手に入れたんだろう?と言うか、ちゃんと処分しとけよ昔の俺!

「EMPRESS!」

大きく後ろに飛びすさりつつ、クラス名を唱えてクイーンを憑依させる。最悪の場合はこれで何とかなる!

 その直後、バシンと音を立てて、黒い布が粉々に吹き飛んだ。一体どれだけの力ならそんな事が出来るんだ!

 その真ん中に立つ黒一色のシルエットは―

「人間、だって!そんな馬鹿な!」

 見間違え様もないぐらいはっきりと、人のカタチをしていた。

『流星、これはどういう事ですか?魔術で動く絡繰なら何度か見たことがありますが、あれほどの力を持つ物は知りません。それ以前に、誰の指示もなく勝手に動き出すなんて…』

『俺も知らないよ。ホムンクルスとかゴーレムとかは専門じゃないんだ、そのへんは守宮さんに聞いてくれ』

『この役立たず。自分の家にある物の性質ぐらい理解しておくべきでしょう!』

『うるさいな、だからあんなの家になかったって言ってるだろ』

 クイーンとテレパシーで話しながら、怪人黒人間(仮)の様子を窺う。この際どうしてそんな事ができるのかは考えなくてもいい。こっちにどうやって接してくるかが問題だ。

 夜をそのまま溶かし込んだような色の布で全身を覆い隠し、不気味な雰囲気を漂わせている。顔は胸まで伸びている黒髪が邪魔でよく見えない。何を考えているのか分からないのは、なかなかに不安だ。

「―――――して。」

 それは金剛石の様に透き通った声で、何か一言呟いた。

『しゃ、喋りましたよ!自分の意思を持っている、という事でしょうか。なんと高度な…。』

『クイーン、ちょっと今黙っていてくれる?そんな暇があるなら相手の動きに注目していてくれ。ここで油断していると、下手すりゃ死ぬかもしれない』

 相手がいかなる者であったとしても、家の魔術結界に反応せずに侵入している時点で普通じゃない。警戒は十全にしておくべきだ。逃げるにせよ戦うにせよ、一瞬でも相手より早く動ければ勝機はある。

「もう一回言ってくれる?よく聞こえなかったんだ」

 自分にできる限りの笑顔を作って話しかけつつ、様子を窺う。さぁ、一体どう返してくる?

「―――早く返して。その仮面は私の物。なくすと怒られちゃう」

「えっと、これの事かな?」

 さっきの骸骨のお面を拾い上げる。ここは素直に言う事を聞いておいた方がいい!

「はい、どうぞ」

「―――ありがとう」

 それを渡すと、それは仮面を付けるために髪を掻き上げた。小麦色の肌と真っ赤な目、くっきりとした目鼻立ちを見ることが出来る。長い睫毛から判断するに、女性型だったようだ。

 カサリと音を立てて、彼女は仮面を慣れた手つきで付けた。衣装と相まって、さらに不気味度が増している。

 あれ、この姿、どっかで見たことあるような…。

『今すぐ逃げるぞクイーン!ジョーたちと急いで合流するんだ!』

『はい?いきなり慌ててどうしたのですか?』

「加速、最大(ラッシュ・マックス)!」

 全身から魔力を吹き出し、階段をひた走る。仮面を見た時点で気付くべきだった!

 あれはホムンクルスでも、ゴーレムでもない。冬木で行われた聖杯戦争で召喚される、サーヴァントの七つのクラスの一つ、隠密行動とマスター殺しを得意とする、ハサン・サッバーハの名を引継ぎし最高の暗殺者集団。アサシンだ!

 この家の結界に何の反応もなかったのも頷ける。彼らにとってはこの程度、造作もないに違いない。

 一人で戦うには分が悪すぎる。ジョーや守宮さんと協力して、三対一で―

「いや待てよ。別に俺一人でもなんとかなるんじゃないか」

『ようやく気づいたのですか。相手が私と同じ様にマスターに憑依することで力を発揮しているのなら、恐れることはありません。たとえ想像もつかないような卓越した才能を持っているとしても、マスターが凡人では何の意味もありませんからね』

 家を飛び出してからふと我に返る。そもそも冬木の聖杯戦争と違って、この聖杯戦争にアサシンというクラスは存在しない。相手にそこまでの戦闘能力があるのなら、目を合わせた瞬間に殺されていたはずだ。

「よし!どこからでも掛かってこい、返り討ちにしてやるよ!」

『あきれるほど単純ですね…。あまり調子に乗っているとあっさりやられますよ』

 魔力を溜め、相手が家から出てくるのを待つ。出て来た所を一撃でけりをつけよう。

「―――それはどうも」

 不意に後ろから声がすると同時に、首筋を雷が落ちるような衝撃が駆け抜けた。視界が明滅し、窒息しかける。

「―――惜しかった。他のマスターと協力するなんて卑怯」

「不意打ちで殺そうとした時点で、卑怯も何もないだろ―――っ」

 どうにかその一言を口にする。他のマスターって誰のことだろう。何にせよ助かった。

「流星君、聞こえる?私だよ。」

 後ろから守宮さんの声が聞こえる。いつから俺のそばにいたんだろう。

 全身に力を入れて振り向く。しかしそこには、ナイフを構えるアサシンしかいなかった。

「今はこの虫を使って通信してるの。早く逃げて!そいつは、流星君じゃ相性が悪い!」

 目の前にふわふわと浮いている、カナブン(?)から声がする。これが身を守ってくれたのか。

『一度撤退すべきです。このタイプの相手には、ダメージが与える術がありません。』

 クイーンも逃げろと言っている。自分がどれだけ弱いかよく分かるな…。

「―――来ないのなら、こちらから行く」

 アサシンが静かにナイフを構えるのが見える。仕方ない、ここは強行突破だ!

「大地爆散(ガイア・インパクト)!」

 地面が大きく盛り上がり、大量の砂を巻き上げる。この隙に―

「―――私に、煙幕は効かない」

 カナブンの辺りで甲高い音が聞こえる。投げる仕草は見えないのに、短剣(ダーク)が明確に首の辺りにある結界に突き刺さっているのが地味に怖い。どれだけ高速で投げりゃこんなこと出来るんだよ。

 こちらには相手は見えず、相手からこっちは見える。これって完全に逆効果だな。

『マスター、宝具を使います。それに合わせて行動してください!」

『了解!』

 この状況を打開するには、宝具しかない。役に立つ物だといいんだけど…

『我が心臓はイングランド王の物。肉体がか弱く脆いものであろうとも、王として君臨せん。私は国家と結婚した(アイ・マリッド・ザ・カントリー)!』

『え、それって―』

 薬指の指輪が大きく輝いた。魔力がさらに増大していく。これほどの魔力、地脈に直接繋ぎでもしない限り扱うどころか呼び出す事さえできないはずだ。

『って、今はそこじゃない。宝具の真名がそれって事は、クイーンって』

『はい、いかにも私はエリザベス。イギリスを治め、無敵艦隊を持つスペインを下した、偉大なる女王です!』

 唐突に明かされるクイーンの正体。凄い英霊だってことはわかったんだけど…

『でも確かその人って、七十歳ぐらいで亡くなったはずじゃなかったっけ?』

『それは後で説明しますから、今は戦いに集中してください!』

『分かった。気合い入れていくぜ!』

 いつもの百倍、いや二百倍ぐらいの力がある気がする。大きすぎてよくわからない。

 まぁなんだっていいや。これだけの量なら、ただ腕から発射するだけで十分だ。

「竜巻大砲(ストーム・インパクト)ってえええええ――!」

 飛び出した竜巻は、砂煙を跡形もなく消し去り、相手を軽く巻き上げて―

 その反動で、自分を後ろに五十メートルぐらい吹き飛ばしていた。

「―――少しは効いた。でも見かけほどじゃない。力を無駄遣いしすぎ」

 夕焼けの中立ち上がり、首をコキコキと鳴らすアサシン。使いこなすのに時間がかかりそうだ。

「―――不本意だけど、本気を出させてもらう。覚悟して」

 やばいぞ、アサシンの本気ってことは―

「回想婉腕(ザパーニーヤ)」

「ひゅ、人間爆弾(ヒューマンダイナマイト)!」

 全身から炎と風を吹き出し、防御を固める。こんな技で防げるのだろうか。

 辺りからコロコロと音がする。見回すと其処らじゅうに短剣(ダーク)が落ちていた。

 その数百本以上。え、いつの間にこんなにたくさん投げたんだ?

「―――やっぱり未完成。もっと練習が必要。」

 項垂れ、頭を掻きむしるアサシン。悔しがっているように見える。こんなに強力なら十分だと思う。

「だから自分を憑依させろと言った。お前に正面対決は向いていない」

 唐突にアサシンの後ろから声がした。曲刀を持った誰かが立っているのが見える。アサシンの仲間かな?

「―――仕方がない。ここで負けるよりはまし」

 アサシンが再びこちらに刃を向けた。次は何を仕掛けてくるんだ。

「―――FORCE」

 静かに口にした瞬間、アサシンの姿が紫色に輝いた。眩しいその輝きが収まると―

「―――この格好、動きにくい」

 彼女は鎖鎧を纏い銀色の布を被って髪を隠し、瞳の色をアメジストを直接打ち込んだような紫色に変えていた。

 その姿には先ほどまでの謎めいた雰囲気はなく、圧倒的な強者として君臨する気迫が現れている。

「―――それじゃ、行くよ」

 仮面を丁寧に懐にしまいつつ、アサシンは構える。その顔には標的を仕留める時の淡々とした瞳が輝いていた。

 

 




そろそろサーヴァントも増えて来たし、ステータスとかをまとめて投稿したいと思います。
細かいところまで詰めてないんだよなぁ…。


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vsforce

ようやく本格的な戦闘が書けました。少しは臨場感ある物になっているでしょうか?


「マジかよ。彼女、まさか本物のハサン・ザッパーハじゃないだろうな。」

 てっきり憑依させてその力を使っているものだと思っていたけど、一つの魔術師に英霊は一人のはず。つまり彼女は、素の戦闘スペックであれだけ強いという事であって…。

『呆けている場合ではありません!相手としっかり戦ってください』

『そ、そうだな。まだ死にたくはないもんな』

 見る限りかなり強そうだ。慎重にいこう。

 突撃してくる相手を見据えて、重心を下げる。力技じゃ勝負にならない。まずは相手のバランスを崩さないと。

 右か、左か.どちらから切り付けてくるかな…。

「―――鮮血を散らせ」

 物騒な事を言いながら振り下ろしてきた剣は、威力こそ高そうなものの速さはさっき程じゃなかった。これぐらいなら魔術を使えば十分に避けられる。

『右です!』

『分かってる!』

「瞬間幻影(インスタント・ファントム)!」

 己の周りに大量の光球を展開すると同時、左に自分を吹き飛ばす。

 いつものが豆電球なら、今日のは派手な都会のイルミネーションだな。

 そう思いながら、自分にかかる強烈な空気抵抗に歯を食いしばって耐える。

「迅雷の拳(ライジング・ナックル)!」

 もらった、隙だらけだ!このタイミングで放てば躱しようが―

「―――甘い」

 あったようで、ものの見事に回避されていた。掠りもしない、もはやすがすがしくなるような外れっぷりだ。

 アサシンの体越しに大爆発が見える、今の一撃、当たれば絶対勝ってたのに…。

「すごいね。力の差がすごすぎて、泣きたくなってくるよ。」

 呼吸を整えつつ、間合いを測る。牽制の役割は果たしていたから良しとしよう。

「―――気にしないで。私と普通の人間が違うのは当然。あなたが悪いわけじゃない。」

 戦っている相手に励まされるのは初めて…ってわけでもない。最近こんなのばかりだ。

『いつになったらコントロール出来るようになるのですか!こんな事では魔術刻印と併用するなんて夢の又夢ですよ!もっとこう、努力してください!』

『してるよ!大体宝具を使ってなくたって魔術刻印との併用だなんて無理だよ!もっと練習すれば別だけどさ、とりあえず今すぐは絶対に出来ないね!』

「―――シャァァァァァッ!」

 アサシンの上半身が大きくぶれる。さっきよりも早い。ええい、本当に余裕がないな。

「風力発道(ロード・オブ・エアー)!」

『そうやっていちいち魔術名を口に出すのもやめてください!発動までに多少手間取ります!』

 言わなきゃ感覚的に使えないんだよ、悪かったな。

 辺りの空気をまとめて吹き飛ばし、それに乗って高く舞い上がる。遠距離から一方的に攻撃してやる!

「―――逃がさない」

 アサシンの曲刀が迫る。しかしそれは、ギリギリのところで右足をかすめるだけに留まった。

 ざっと十メートルぐらいの高さで浮遊する。これなら安心…かな?

「火炎爆発(フレイム・バスター)!」

 腕からバランスボールぐらいの大きな炎球が飛び出した。いつもよりずっと大きいな。

「『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇー!』」

 アサシンの辺りに着弾すると同時、半径五メートルぐらいをまとめて焼き尽くす。これで決まりだ!

 火が収まるのを待って地面に降り立つ。やれやれ…どうなる事かと思った。

「よっしゃー!勝ったぞ!」

『良かったですね。これで一人目―』

 クイーンの嬉しさに満ちた声が、不意に止まった。どうしたんだろう?

「―――死ぬかと思った。この借りは必ず返す。」

 とっさに振り向く。顔に煤をつけ、全身の服を焦がしながらも、彼女は立っていた。

「―――仮面が焼けなくて良かった。でも熱い。こんな目にあったのはこっちに来てから初めて」

 眉毛をつり上げ、、鋭い目つきで睨んでくる。絶対怒ってるな…。

『そんなはずはありません。伝説や歴史上の英雄でもない限り、この攻撃で倒れるはずなのに。』

『聖杯戦争に参加してる時点で条件満たしてるよ。もう少し威力を上げないと、歯が立たない』

 こりゃ駄目だ。今になって日頃の訓練不足が悔やまれる。『どうせ上手くならないしなぁ。』とか言ってサボらなきゃ良かった。自業自得ってのは本当なんだなぁ。

「―――必ず、殺す」

 さっきより数段階速く迫る刃を見据えつつ、俺がどうやって逃げるか考えていると―

「■■■■■■■■ォ!」

 地面から巨大なゴーレムが飛び出し、俺とアサシンの間に割り込んだ。

「守宮七夢、ただいま参上!」

「ハッ、助けに来てやったぞ。ありがたく思え」

 振り向くと、憑依状態の守宮さんと、何故か素で立っているジョーがいる。助けに来てくれたんだ。

「ごめんね流星君、遅くなっちゃった」

「いえいえ、ありがとうございます」

 駆けつけてくれただけで十分だ。すごく嬉しい。

「本当はもっと早く来ていたんだけど、ジョーがもう少し出て行くのを待てってうるさくて…」

「ジョー!何考えてんだよ!」

「少しでも相手の戦い方を確認したいと思っただけだ。他意はない」

 他意しか感じないよ!って突っ込みたいとこだけど、今はそれどころじゃない。敵を倒すのが先だ!

「さぁ、行くよ皆!全員でコイツを叩きのめすんだ!どれだけ防御力が高くたって、協力すれば何とかなるよ!」

「そうだね。それじゃ、行っくよ―!」

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

俺が走り出したのに合わせて、ゴーレムが全身に力を溜めた。二段階攻撃で仕留める。

「―――分が悪い。撤退する」

「今更遅すぎる。自分の行動の遅さを悔やむんだな」 

 後ろでジョーが言い放つ。かっこつけてないでお前も攻撃に参加しろ!

「―――そんな事はない。RELEASE!」

 唐突にアサシンが憑依を解除した。不敵な笑いが気になるけど、それじゃ攻撃は防げないよ!

 止まる事なく俺の拳が直撃する。クイーンとその宝具によって強化された一撃は、相手を大きく吹き飛ばした。

 続いて放たれた光弾を大きくのけぞってスレスレで躱し、空中で態勢を取り直すアサシン。回避は達人級だな。

 着地する寸前、両足を地面に叩きつけて弾丸のように飛び出す。早すぎてゴーレムが反応出来てない!

「STRIKE SWORDS!」

 ジョーが放った大量の剣をその場で拾った短剣で叩き落し、さらに跳躍、一気に間合いを詰める。

『思ったより速いです!気を付けてください!』

「―――もっと。もっと前に。誰よりも先を行くことこそ、私の力!」

やばい、このままだと首を持っていかれる!

「今よ!行きなさい、CRAWL NIGHTMARE!」

 地面から幾何学的な模様が描かれた縄が飛び出した。アサシンを縛り上げ、その進撃を止めようとする。

「―――こんな物じゃ、私は止められない」

 そのまま駆け続けている。全く効いてない!

「それはどうかな?どれだけ速くても、自分から逃げることは出来ないよね!」

 縄全体が黒く染まり爆発する。至近距離からまともに食らい、体勢を崩して地面に激突した。

「―――凄いね。あなたは優秀。そこの男とは違う」

 地面に倒れ伏したままアサシンが呟く。もう逃げられないぞ。

「―――でも、来るのが少し遅すぎ。」

 その声にあからさまな余裕を感じて身構える。

「諦めの悪い奴だ。無駄だよ、ここでお前はゲームオーバーだ」

「――それじゃまた。次あったときは殺すから」

 ジョーの戯言を無視して、彼女が別れの挨拶をした。ここでまだ切り札を隠し持っているのか?

見逃さない様万全の注意を払う。一瞬の油断すら、この状況では命取りだ。

「回想婉―(ザパーニー―)」

「人間爆弾(ヒューマン・ダイナマイト)!」

 さっきと同じ技を使った所で、対処方法は変わらない。もう一度同じ事を繰り返すだけだ!

「まずいよ流星君!この状況でそんな派手な技を使ったら―」

 巻き上がる大量の炎と風が視界を覆う。アサシンの姿も、ジョーたちの姿も、どちらも全く見えない。

「どさくさ紛れに逃げられても、攻撃のしようがない!」

これが狙いって事か!勘を頼りに攻撃しようにも、仲間に当たりそうでうかつに動けない。完全にミスった!

 荒れ狂う炎が消え去ると、そこには肩をすくめたジョーと、悔しそうな顔をする七夢さんしかいなかった。

 



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流星の魔術練習 初級編

今回は主人公に修行をさせます。頑張って強くなれ!


「全くやってくれたな。絶好のチャンスだったのに無様にも逃げられた。おまけに相手はアサシンだ。おかげで俺たちは四六時中不意打ちで殺される恐怖に怯え続けるってわけだ。もはや逆に笑えるぐらいだぜ。」

「うう…。面目ない。」

「これからはちゃんと魔術の練習をしてください。一つでもまともに決まっていれば絶対に勝てたはずです。」

「はい、一生懸命やります…。」

 ジョーの屋敷までの帰り道、俺はずっと叱られていた。まぁそれだけの事をしでかしちゃったってのはよく分かってるんだけど、結構こたえるなぁ…。

「で、でもさ、流星君だけが悪いわけじゃないよね。すぐに共闘しなかった私たちも悪いし、相手がアサシンって事も最初は分かってなかったんだから、対処できなくたってしょうがないと。」

「いいえマスター、それは違うわ。相手の出方を窺うのは当然よ。寧ろ今回私たちが反省すべきなのは、ここまで早く戦闘が起こるはずがないと無意識に油断していた事。もう少し沢山の使い魔を派遣していれば、相手の動きも探知できたのだけれど。」

「すいません。完全に余裕ぶってました。これぐらいなら自分でもどうにかなると自惚れちゃってました。」

 もしもスカラベを放ってもらっていなかったらと思うとぞっとする。最初の脱落者になる所だった。

「後でビアンキに連絡するぞ。最も、奴が状況を把握しているとは思えんがな。」

「いや、あの人はきっと知っていると思う。たぶんもう事態の収拾に動いているんじゃないかな。」

 それどころか今頃一戦交えていたっておかしくない。あんなにスペック高そうな人なんだ。それぐらいのことは俺たちよりもずっと簡単に出来てしまうだろう。

「はぁ、それにしてもなぁ。」

 自分の失敗を嫌でも意識してしまう。明日から頑張ろう。これ以上足をひっぱるわけにはいかない!

「そう言えば、私の真名についての話はどうなったのですか?このまま触れずに流してしまうのならそれでも構いませんけど…。」

「そういやそうだな。一応話しとこうか。」

「一応、ですか。なんというか、凄く残念な気分です。もっと驚いていると思っていたのですが。」

「気にするなエンプレス。単にこいつが処理落ちしてるだけだ。」

 色々ありすぎてもう全部投げ出したくなってしまっている自分が良く分かる。頑張れ、諦めるのはまだ早いぞ!

「で、どうしてお婆さんの姿じゃないんだ?エリザベス女王の人生の最盛期って、たぶんスペインの無敵艦隊を破った時だと思うんだけど、それって結構年取ってからの出来事だったよな。」

「そうだな。最ももしその時の姿で出てきたら、ただの老けたお婆さんと一緒に聖杯戦争を戦う事になるわけだが。きっと最大の問題は腰痛の治療だ。」

 茶々を入れてハハハ、と軽すぎる笑い声を上げるジョー。クイーンと七夢さんに冷たい目を向けられていることにも気づいていない。いや、気づいてないふりをしてるのかな?

「私はそんな年寄りではありませんっ。英霊はその全盛期の姿で召喚されます。今の私は二十歳、その後に起きた事は知識として頭の中にあるだけです。言ってみれば、『私の一生』という題名の台本を読まされた様なものですね。」

「え、俺たちの方が年下だったのか。同い年か年上だと思ってた。」

 四つも年上にはとても見えない。そうか、もし現代で生きていたら大学に通ったり就職して働いててもおかしくないぐらいの年なのか…。

「反応するべきなのはそこじゃないわ。要は、若い姿でも問題はない。と言いたいのよ。」

「年上のお嬢様か…。悪くないなぁ。」

「駄目だな。現実に早く戻って来い。」

 喫茶店でバイトしたり、皆で合コンしたりしているんだろうなぁ…。

「そういや、ムーンは何歳なんだ?」 

「乙女に年齢を聞くのはマナー違反よ。」

「別に気になるわけじゃないが、そんなに勿体付けなくても――げふっ。」

「マナー違反よ☆」

 いつか彼氏が出来て、二人で水族館にでも行って…

「いい加減に正気に帰れ。」

「痛って!あれ、俺何してた?」

「はぁ、やってらんねぇな。」

「ジョー、頑張って。」

「他人事みたいなこと言いやがって。七夢、お前もコイツをなんとかするのを手伝え。」

「ごめん、それは無理。」

 ようやく家が見えてきた。少し休みたいと思いつつ、俺は今日の晩御飯を何にするか考え始めていた。

 

 

「さてと、それじゃ買い物に行ってくる。」

 約十分間ゴロゴロした後、買い物に行く準備をする。今日は水曜日だから、海鮮物が少し安くなっているはずだ。夕ご飯のメインはエビフライで決まりだな。

「おい、まさかあんなことが起きた後、普通に外出するつもりじゃないだろうな。」

 怪訝な顔をしたジョーが持っているのは、ピザの出前のチラシ。確かに今日は行動したくない。またアレと遭遇したら、今度こそ生きて帰って来られないかもしれない。

 でもそんな事を怖がっていたら、おいしい夕食は作れない!俺は覚悟を決めて玄関に向かって歩き出し―

「買い物には私が行ってくるよ。流星君は家でゆっくりしていていいから。」

 守宮さんにとおせんぼして止められた。そりゃ行ってくれるのならありがたいけど…。

「守宮さんこそ外出しない方がいいんじゃないかな。この土地に慣れてないだろうし、迷子になったら大変だし。」

「スマホの地図を見ながら行くから大丈夫だよ。それと、晩御飯も私が作っていいよね。」

「ああ、構わん。MOONも連れてけ。とっとと帰れよ。」

 俺が反応するより早くジョーが答えた。振り向きもせず、心配するそぶりも見せない。

「それじゃ、行ってきます。」

「いや、ちょっと待―」

 俺の話を最後まで聞かず、彼女は行ってしまった。

「おい、ジョー。少し守宮さんに冷たくないか?」

「どこがだ?お前、何か誤解してるんじゃないか?」

「誤解してるってどういう意味だよ。」

「あのなぁ、あいつは俺たちよりも遥かに強い魔術師だぞ。不意打ちされようがサーヴァントと遭遇しようが、悪くても逃げ切り、下手すりゃ返り討ちにしたっておかしくないぐらいだ。」

「何が言いたいのさ。」

「要するに心配するだけ無駄って事。第一、俺たちがいたって何の役にも立たねぇよ。せいぜい体を張って縦になるぐらいが関の山だ。お前がそうなりたいって言うなら止めはしないが?」

「それはそうかもしれないけど…。」

 それにしたって薄情すぎると思う。付き合い長い相手なんだから、これぐらいが普通なのかもしれないけど。

「そんな事よりとっとと魔術の練習をしろ。また同じ様な失敗をしたら許さないからな。」

 そう言い放つとジョーは部屋を出ていった。大方マジシャンの様子でも見に行ったんだろう。

「言われなくてもするさ。全く…。」

 クイーンもマジシャンの方にいるし、今ここで俺は一人きりだ。集中するにはちょうどいいな。

 適当な箱を掴んで庭に出る。外でやった方がしくじった時に被害が少なくて済む。

 そこには巨大な噴水やローマっぽい石像、さらには楔型文字?が彫られた石板が並べられていた。ついこの間造られたとは思えない程の豪華さだ。

 壊したらきっと怒られるだけじゃ済まない。絶対に失敗しないようにしないと。

 地面に箱を置き、静かに呪文を唱える。

「竜巻大砲(ストーム・インパクト)」

 手のひらサイズの竜巻が箱の中に展開された。クイーンの力がなきゃこんなもんだ。

「ふぅ――――っと。」

 合わせた両手をゆっくりと離していくと、それに連動して竜巻が少しずつ大きくなっていく。後は箱から出さないまま、じっくりと風の勢いを強くしていけばいい。

 いつもはこのまま続けるんだけど、今日はちょっと挑戦してみたい気分だ。上手くいくかな?

「魔術刻印、展開(システム・オン)」

 背中に刺されるような痛みが走る。これに耐えられなきゃ、この力は使えない。

 段違いの速さで風の速度が上がる。徒歩から車に乗り換えたぐらいの差があると言えば分かりやすいか。

「集中、集中。」

 一瞬でも気を取られたら大惨事だ。風のコントロールにだけ神経を張り巡らせる。辺りが静かになり、この世界で自分が一人きりになったかのような感覚を味わう。

 風の余波で砂が舞い上がり、空中でキラキラと輝く。それはまるで砂漠に埋もれた宝石のようで―

「って危ない。何余計なこと考えてんだ俺は。」

 こんなんだからいつも失敗ばかりに違いない。気が付けば竜巻は縦に大きく伸び、今にも制御不能になってしまいそうだ。これ以上は危険だな。

 急いで魔力を流すのをやめる。竜巻は一瞬大きく膨らんだ後で、空気の中に急速に溶け込んでいった。

 




戦力になるにはまだまだ時間がかかりそうです…。


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流星の魔術練習 中級編

ようやく本編が更新できました。


「はぁ、危なかった……」

 大きく息を吐き、気分を落ち着かせた。背中の妙な感覚がゆっくりと薄れていく。

これを憑依状態、さらには宝具開放していても出来るようにならなきゃいけない。道のりは長そうだ…。

 庭からリビングと廊下を通り抜け、マジシャンの部屋まで移動する。

「クイーン、ちょっといいかな」

 ドアを開けて中を覗き込むと、休んでいるマジシャンが見えた。どうやらジョーの武器は完成したようだ。

「おお、流星。見ろ、これが俺専用の武器だ。かっこいいだろ?」

 上機嫌でジョーが掲げているのは身長より少し長いぐらいの杖だった。表面に細かい彫細工がされていて、光を反射してキラキラ光っている。太さは人差し指ぐらいだ。戦いで使えるようには見えない。

「一応これはコイツの『宝具』だからな。真名開放だって出来る。最も出来なくても十分役に立つと思うがな」

 自慢げに説明するマジシャン。一体どんな効果を持っているんだろう。

「コホン。それで何の用ですか、流星」

 クイーンがわざとらしい咳払いをした。構ってほしいのかな?

「魔術の練習をしたいから、憑依させてもらっていいかな?」

「別に許可を取らなくても、お好きにどう―」

「EMPRESS!」

『ちょっと!話はちゃんと最後まで聞くものですよ!』

 庭に戻り、両腕をかざす。さて、もう一度―

「竜巻大砲(ストーム・インパクト)っと!」

 いきなり巨大な風の尖塔が飛び出した。大きすぎて制御できない。慎重に魔力の流れを抑えていく。落ち着け、落ち着け……。

『魔術の練習ですか?それならもっと力を抜いてください。そのように体を強張らせたままでは押し負けますよ。受け止めるのではなく、受け流すのです』

『悪いクイーン。正直、実感わかないというかそんな余裕ないというか……っっ!』

 魔力を抜いていっているのにも関わらず、寧ろ風速はどんどん上がっている。ヤバい、調子乗りすぎた!

『余裕はある物ではなく創る物です。いいから力を抜いて、後は私が何とかします』

 どっちにしたってこのままじゃ終わりだ。俺は一か八か、風を抑えていた力を一気に解き放った。

 途端に轟、と吹き荒れる風。辺りの物を巻き上げて、滅茶苦茶にかき回す。

「失敗した―――っ!」

 脳裏に浮かぶのは、マジ切れしたジョーにボッコボコにされる分かりやすい破滅への道。何てこった、やっぱり俺にまだこの力はレベルが高すぎた!

『私は国家と結婚した(アイ・マリッド・ザ・カントリー)』

 そんな風にテンパっている俺の脳裏に、落ち着き払ったクイーンの声が染み渡った。

 唐突に竜巻がスピードダウンする。あっという間にそよ風程度に下がり、すぐに消滅してしまった。

「おお、凄い!風が跡形もなく消えた!」

『別に驚かれるような事はしていません。より大きな力に取り込ませただけですから。』

『何だかよく分からないけど、ありがとう。で、具体的にはどういう事したんだ?仕組みが分からなきゃ、使いようがない』

『そうですね…。要は、もっと強力な風を吹かせたわけです。風そのものを力で押さえつけるよりも、自分で風を使った方が力の効率がいいんですよ』

『へぇ、なるほど。よく分かったよ。それじゃ俺も、そうやってやればいいんだな』

『言うほど簡単ではありませんけどね。鍛錬あるのみです』

「よーし。頑張るぞ!」

 その後1時間ぐらい魔術の練習をした。最後の方は前よりは上手く出来るようになっていたと思う。

 

 

 

「はぁっ―――。RELEASE、っと……」

憑依を解き、リビングのソファ―の上に寝転がる。すっごく疲れた。もう動きたくない。

「一体どれだけ普段サボっているんだ。もう少し真面目になれ」

 TⅤを見ながら嫌味を言うジョー。大画面の中では二枚目が気取って女性を口説いている。

「あれ、守宮さんまだ帰ってないんだ。大丈夫かな」

「迷子にでもなっているんじゃないか?何、何かあったら連絡してくるさ」

「アサシンと戦ってて、そんな余裕がないって事はないかな」

「ああ、その件なら大丈夫だ。ビアンキから交戦してある程度ダメージを与えたから二日ぐらいは心配しなくていいと連絡があった」

「マジで!あの人凄いな」

「本当にそうですね。あの裏切り者とは大違いです。」

 それは良かった。さて、数学の復習でもしようかな……。

 




次は戦闘描写が書けます!


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魔女

久しぶりの投稿です


「はぁ、くそ、このっっ!」

『女の子がくそ、なんて言ってはいけないわ。どんな時でも美しく、周りの目を意識して―』

『今はそういうの良いから!使い魔(アガシオン)は届くかな?』

『ええ、何とか。あれだけ放てば一匹ぐらいは辿り着けるはずよ。』

「IMPREGNABLE COMET、後もうちょっと頑張って!QUICKRAPID CLAW、深追いは厳禁だからね!」

「■■■■■■、■ォ!」

「シギャァァァァァ―――ッ!」

大地を揺るがす巨人と獣、幾重にも重なり天を覆う緑の閃光。それをかき分けるようにして飛び回るいくつもの影。その正体は―

「目標はっけーん。とっとと殲滅しちゃうよ!」

「それは相手がたくさんいる時に使う言葉じゃない。日本語も上手く使えないの?」

「戯言言ってる暇があるならとっとと戦いに参加しろ!来んのが遅すぎんだよ!」

 黒い帽子と黒いマント。箒に乗って宙を舞い、黒猫を相棒とする。古から恐れられ、禁忌とされた存在。

 悪魔と契約を交わし、その力でもって様々な神秘を扱う、ワルプルギスの夜の住人。

 まごう事なき魔女が、平凡なこの町に君臨していた。

 

 

 

「もう、こんなの聞いてないよ。どう考えても敵が多すぎる。」

 混乱しつつも服から一枚の紙を取り出し、地面に叩きつける守宮。

 それに呼応して大地が盛り上がり、大きな人型を形造る。

「IMPREGNABLE COMET、もう十分だよ、ありがとう。SUBVERSIVE FIST!出番だよ、しっかり戦ってね!」

「グォォォォォォッッッ―――ッ!」

 崩れ落ちる巨体を乗り越え、強烈な突きが魔女を吹き飛ばした。

「痛ったいなぁ、そんなの女の子にする攻撃じゃない、もっと手加減してよ。」

 しかしそれでも、迫りくる攻撃は止まらない。一人一人とは戦えても複数体が補っているため、追撃を掛けられないのだ。その隙に相手はダメージを回復し、再び戦線に復帰する。その繰り返しだ。

『もう抑えきれない…。MOON、宝具を!』

『ごめんなさいね。私の宝具、こういう状況では無力なの。』

『そんなぁ。私、ここで死ぬの?どうせなら英霊相手にかっこ良く逝きたかったなぁ。』

『そんな事を言う余裕があるなら、まだ頑張れるんじゃない?ほら、気合いを入れて。』

「だぁぁぁぁ、チェストぉぉぉぉぉ!」

 叫びながら右腕を大きく振りかぶると、拳に握っている紋印の彫られた石が紫色に輝いた。

 それを正面に思いっきり投げつける。不自然な速さまで石は加速し、空中で形を変える。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 そのまま地面に激突し、粉塵を巻き上げて大爆発した。辺りが炎で真っ赤に染め上げられる。

「今ので三人ぐらいは気絶したはず!相手が混乱している内に逃げるよ!」

 守宮の呼びかけに合わせ、ゴーレムたちが合体して一つの形をとる。バイクを思わせるフォルムを形作ったそれに跨ると、後ろから蒸気を吹き出し、その勢いで急速発進した。

「あーもう。あいつらのせいで携帯電話は落とすし、晩御飯はいつになっても食べれないし―――」

 ブツブツと愚痴を言いつつ、走るスピードを上げていく。周りの風景が線になって流れる。

『ねぇマスター。もういい加減に覚悟を決めるべきじゃないかしら。あなた、魔術師でしょう。』

『何の話?それより、どうやったら逃げ切れると思う。あれで全部じゃないみたいだし、また捕まるのは時間の問題だよ。どうにかしてジョーたちと合流しないと、結局やられちゃう。』

 風に髪を任せつつ、前を見据える。その瞳は焦騒に揺らいでいた。

『相手に配慮している場合じゃないと言っているのよ。人を殺すのがそんなに怖いの?』

『なっ!当たり前だよ。犠牲は最小限に、要は相手のマスターだけ倒せればいいんだから。』

『そんな余裕めいた事を言っていると、先にあの世に行く羽目になるわ。手加減なんて必要ないの。』

『私はそういうの嫌いだな。』

『ふふ…。よくそんな事が言えるわね。そんな覚悟で戦場に来ては駄目よ、必ずいつか命を奪うのだから。心構えだけはしておかないと。』

『怒られたってこれだけは曲げられないよ。』

『どうして?』

『どうしてもだよ。昔それで痛い目に遭ったことがあるの。』

『ふぅん、そう。それはそうと、敵さんはもう立ち直ったみたいよ』

「わぁ本当だ!総員、戦闘態勢に―」

「遅っそぉーい!」

 再びゴーレムが元の姿に戻るよりも早く、一直線に駆け抜けた箒が守宮を背中から叩き落した。

「がっ、わっ、だっ、つっ!」

 地面をゴロゴロと転がりながら、かろうじて受け身を取る。

「おら、いくぜみんな!一斉に突撃だぁ―――っ!」

 掛け声に合わせ、一人、また一人と魔女が突っ込んで来る。

 あんな物をまともに受けたらそれこそ本当に死んでしまいかねない。擦り傷だらけの体に鞭打ち、守宮は何とか正面を向き直した。

「みんな、私を守って!」

 正面に一枚の巨大な盾が展開する。一瞬全ての攻撃を受け止めるも、最初から無かったかの様に雲散霧消した。

「くっ、殆ど品切れだ。こうなったら仕方ない。切り札、切っちゃうよ!」

 頭の後ろに手をまわし、ポニーテールにしてある髪留めを引き抜く。

大きく揺れる髪を払い除け、そこから一枚の魔法陣を取り出した。

 一体の魔女が突っ込んで来た所をひらりと躱し、高速で印を結ぶ。

「ここに刻まれるはその息吹。貫き通すその覚悟がもたらす善なる焔で、悪しき炎を焼き尽くせ。四大元素の一柱の担い手よ、今ここに顕現せよ!SALAMANDRA SALAMANDRA!」

 そう叫ぶと同時、巨大な黒い影が唐突に現出した。

「GAAAAAAAAAAAAAA!」

 今までの物より数倍大きな雄たけびを上げるその姿は、まさに神話に出てくる怪物そのものだった。

 背中から生えた1対の歪んだ翼。電柱よりも太く長い尾。つららの様に尖った牙。

 全身に生えている黒曜石に似た鱗は、光を反射して鈍く輝いている。

「み、見掛け倒しよこんなの。きっと大したことない。」

「へぇ、本当にそう思う?そんな口を叩けるのも今の内だよ。やっちゃえ、サラマンダー!」

 轟!と放たれる焔の渦。それはまとめて魔女を巻き込み、黒コゲにして気絶させる。

「私を、私達を、ナメんな――!」

 それを掠めるようにして潜り抜け、体当たりで攻撃する魔女。だが悲しいかな、怪物には傷一つなかった。

「WOOOOOOOOOOOOO!」

「うきゃー!や、やられた…。」

 面倒くさげに翼を動かすと、それで竜巻が発生し、魔女を空の彼方に吹き飛ばした。

「ビビんな、前に出ろ。魔術師を直接狙え!」

『あら…。私も随分軽く見られたものね。隊列を崩し、統制を失った相手ぐらいなら、十分対処出来るのよ!』

 腕から迸る緑の閃光が、躊躇する魔女を容赦なく貫いていく。当てられた魔女は箒から落ち、そのまま微動だにしない。ついさっきまでのピンチが嘘だったかの様に、戦況は完全に逆転していた。

「撤退、てったーい!この野郎、今度必ず仕返ししてやんよ!」

 結局、そんないかにもなセリフを残して、魔女達は逃げていった。

 

 

 

「ふふん、やっぱり私強いな。これならジョーたちがいなくても、一人で何とか出来るんじゃない?」

『調子に乗っているところ悪いのだけれど、あの”切り札”っていうのはどういう意味?これだけ強力なら最初から使えば良かったんじゃない?』

『これ5分ぐらいで動けなくなっちゃうんだ。魔力を溜めるのに四枚合わせて一週間ぐらいかかっちゃうから、あんまり使用したくないんだけど―』

 守宮が言っている間にも、巨躯はゆっくりと空気に溶けていく。10秒ぐらい経った後大きな叫び声をあげ、その体は完全に消滅してしまった。

『あちゃー。後三枚か、大事に使わないと』

『四大元素の担い手を仮初とはいえ召喚するなんて…。あなた、アベレージ・ワンか何か?』

『いやいや、私にはどれだけ工夫しても風属性は使えないし、そもそも私の本来の属性は火属性だけだよ。ただ特殊体質―――召喚術に関してだけ特別に色々出来るようになっている――と言うのが正しいかな』

『それはどういう仕組みでやっているの?多分魔法陣で他の属性を部分的に付与しているとか、そんな感じね』

『トップシークレットです!』

『ふうん、あくまで秘密は明かせないと。そう言いたいわけね』

『一応一族代々引き継いできた技だから、そう易々とは教えられないよ――ん、あれ何?』

 守宮の目に、沢山の小さな黒い影が映り込んだ。心なしか少しずつ大きくなっている様に見える。

「POLICED WINGS。ちょっと様子を見て来てくれる?」

 紙を取り出し宙に投げ込む。するとそれはひらひらと舞ってから、風に乗って影の方に飛んでいった。

 暫く経った後、しゃがみ込んで地面に指で小さな魔法陣を描く。その後両手をごにょごにょと複雑に動かすと、空中にぼんやりと映像が浮かび始めた。

 

 

『あれです。あれ!あの呑気な顔してしゃがみこんでる奴ですよ!』

『ああ、あのバカっぽい女の事か?全く、たった一人に十人がかりで負けるなんて、意外にお前ら使えないな』

『仕方ねぇだろ。あれが神域の怪物を呼び出すとか、そんな事が出来るタマに見えるかよ。まぁなんにしたって、これだけの人数で挑めば、さすがに負けねぇだろ』

『だといいんだけどな。おい、そこの!隊列を崩すな』

『はーい、すいませーん』

 そこにいたのは三十人以上の魔女と、中心で腕を組む一人の男性だった。全員が同じ衣装を身に纏い、一団となって、確実にこちらに近づいてくる。

「ん、これは…」

 守宮の脳にステータスや能力値が浮かび上がる。これはサーヴァントの情報だ。

 あの内どれか一人が英霊を憑依している。その事がどうしようもなく自分を焦らせた。

「POLICED WINGS、もういいよ、早く戻って来て!」

 立ち上がって魔法陣を足でかき消す。地面に紙を投げつけ、出て来たバイクの様な物に乗り込もうとした時―

「尻尾を巻いて逃げるつもりかい?それはちょっと違うんじゃないか?」

 後ろから、やけに軽いテンションで誰かが呼びかけてきた。

 




ストックが切れたのを書いていたらだいぶ間が空いてしまいました…急いで書きだめしないと!


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余裕の風格

ようやく投稿できました。最近時間がなくて……


「一体何者?私に何か用かな。」

 守宮は後ろを見ずに話した。右手には魔法陣を持ち、何時でも投げつけられる様に体勢を整える。両脚に力を籠め、いつでも駆け出せるようにする。

『一般人にせよマスターにせよ、面倒なことになったわね』

「おお、怖いなぁ。そう喧嘩腰になる事はない。取って食おうってわけじゃあるまいし」

「御託はもう終わった?別に私は今から一戦交えてもいいんだけど。」

 そうやり返した守宮の耳を、耳障りな甲高い笑い声が打った。

「勇ましいお嬢さんだ。まぁいいだろう、昔からその手の女は嫌いじゃない。君みたいのがたくさんいらっしゃる場所には慣れてるからね。」

「減らず口を叩かないで。時間の無駄だよ」

「はいはい、分かってるよ。君が思ってる通り、僕はこの聖杯戦争に参加しているマスターの一人だ。名は――そうだな、DEBIL、とでも名乗っておこうか」

 一息入れ、相手のセリフが終わるか終わらないかの内に守宮が振り向く。其処には流星と同じ学校の制服を着た、容姿端麗な少年が立っていた。

「この状況でも憑依させてないなんて凄い度胸だね。感心しちゃうよ」

「いや、もうやってあるぜ? ステータスが見えないのはその手の宝具を使ってるからさ。いきなりやられるのは御免だからね」

 それを聞いて守宮は小さく舌打ちした。それでは相手の強さが分からない。協力して敵を迎え撃つか、こいつを置いてさっさと逃げるか、判断が付きかねる。

「全くもう、全然話が違うよ!結局この土地の魔術師は何人いるの、もう後二十人ぐらい出てきても驚かない」

『口に出てるわよ。もっと慎重になりなさい』

「おいおい、何を馬鹿なことを言ってるんだ。この土地の魔術師は一人だろ」

「君と流星君で、最低でも二人はいるよね?それにあの魔女軍団も入れたら、大体30人以上。多分あれだけじゃなくもっといるから、最終的にどれほどの人数になるんだろう…」

『三桁はくだらないと思っておいた方がいいかもね。いちいち一人一人倒してたんじゃきりがないわ』

 強烈な疲労感に襲われる守宮。まだ始めてもいないのにイメージだけで憂鬱な気分になってしまう。

「ああ、そうか。君まだ知らないのか」

 したり顔で少年が手を打った。口元には優越感いっぱいの笑みを浮かべている。

「丁度いいころだな。ちょっとそこ見てもらえる?そろそろ”戻る”はずだよ」

「?ねぇ、それってどういう―」

「言う通りにすれば分かるから、ちょっと黙っててくれ」

 発言を遮られて少し眼光を鋭くする守宮。しかしその眼はすぐに驚きに見開かれる事になる。

 地面に気絶して倒れていた魔女が少しずつ変化していく。黒いマントと帽子を身に着けた如何にもそれらしい物から、青色のセーラー服を着た女子高生の姿に。付近をうろうろと飛び回っていた箒もただの黒色の鞄になり、燃料が切れたかのように地面に落下してしまった。

「礼装の魔力切れかな?それで、これがどうしたの?」

「良く調べてみろよ。そいつの体に、全く熊力を感じないだろう?」

 少年に促され、守宮は彼女の近くに寄ってその体に触れた。暫くそれを続けた後、弾かれる様に腕を離す。

「本当だ!いやでも、そんなはずは…」

『そうね、それならさっきまでのは全部幻だったって事になってしまうも。』

「別におかしくなんかないよ。それはHERMITの宝具、闇に惑えし狂乱の祭典(ナイト・オブ・ワルプルギス)の力さ」

 何でもない事の様に少年はさらりと言い捨てる。相手への気遣いが全く感じられない。

「さっきからさ、君は何でそんなこと知ってるの?」

「自分で調べたというか、向こうから情報を引き出したというか……。ま、そんな細かいことは気にしなくてもいいと思うよ」

 守宮の当然の疑問は、大袈裟なジェスチャーと共に冗談交じりに誤魔化された。

「さて肝心の宝具だけれど、ある一定の範囲内の男性を眠らせ、女性を強制的に自身の手駒である魔女に変える力を持っている。既に自分の力で神秘を行使出来る魔術師には聞かず、またその元となった逸話により夜にしか発動できないという制限はあれど、中々強力な代物だと言えるね」

「へ、へぇ……。そこまで分かってるなら、真名ももう分かってるんじゃないかな?」

 すらすらと並べ立てられる新しい情報。それら全てを少年一人が握っている事に、守宮は戦慄した。

 仮に情報を制御する力を持った宝具か何かを使ったとしても、そんな情報はそう易々とは手に入らないはずだ。聖杯戦争においてそれを見破られる事は、自分の切り札が読まれる事以上に大きな意味を持つ。

 真名―――英霊の正体までもがそこから推理され、本来余裕で勝てるはずの相手に致命的な弱点を突かれて窮地に追い込まれる事だって、十分に有り得る。

「いや、あいつに真名はない。なぜって、”魔女”という概念その物だからね」

 そして何より恐ろしいのは、相手がそれをどんな手段で手に入れたにせよ、一切隠蔽する気がない事。この程度の情報を掴まれたとしても、自分は簡単にそれ以上を得ることが出来ると思っているのだ。

「偶然神秘の力を手に入れたり、ほんの少し薬草に詳しかったり、自身にあった稀有な才能で人々を助けた人々。自身の信条に従い、決してそれを曲げなかった者。まぁ中には本物の魔術師もいたかもしれない。そういう人達、教会や周りの人々に迫害され、魔女狩りの犠牲となって死んでいった者。彼らの深い恨みで、あのサーヴァントは出来ている―――ねぇ、俺の話聞いてる?」

「え? あ、うん。勿論だよ」

 頭を振って相手を見据える守宮。まだ詳しいことも分かっていないのに、相手を恐れてはいけない。戦う前から飲まれるなんてもっての他だ。

「それじゃ、とっとと片付けようか。あれは正面対決はそんなに得意じゃない。普通に戦えば十分に勝てるさ」

「別にいいけど、あなたの真名は?どうせ私の英霊の名前はもう知ってるんだろうし、教えてくれない?」

「本気で聞いているのかい?この姿から少しは考えてみたら?」

 そんな事を言われたって、そもそも本当に憑依させているのかさえ怪しいその姿から、推理なんてできるわけがない。守宮は無言で肩をすくめた、

「そうかい、それなら教えてあげよう。僕の英霊は、君のそれとも大きく関わりがある。かつてローマを支配し、すべての民に愛された男――」

 そこで一旦口を止め、少年は両腕を左右に広げた。

「偉大なる独裁官、ガイウス・ユリウス・カエサルさ」

 




次回はもう少し早く投稿しようと思います………


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VSDEVIL?

ようやくの更新です


「はぁっっ? 冗談でしょ、アンタみたいなちんちくりん男が、あの方と同じ名を名乗っていいわけがないじゃない! 撤回しなさい、今すぐ撤回しなさい! 今ならまだ、軽く呪うぐらいで許してあげるから!」

 守宮の口から叫び声が飛び出した。そのあまりの剣幕に、言った本人も含めて驚かされる。

「いや、これ私じゃないよ? 多分MOONの言いたい事が、無理矢理出て来たんだと……」

 右手で口を押さえ、左手を大きく動かして必死で弁明する守宮。その仕草を見て、少年は天を仰いだ。

「いやいや、きっとこのカエサルは君と出会う前の姿さ。だって聖杯戦争に英霊は、最盛期で召喚されるっていうじゃないか。」

 如何にも面白い事を思いついたといった表情で嫌味を言ってくる。それに対し守宮は一枚の紙を取り出し―

「IMPREGNABLE COMET!このダメ男を吹き飛ばして!」

 ゴーレムを素早く召喚する。大声で叫びながら、待ったましたとばかりに飛び出していくその姿を、後ろから大きく伸びた影が覆った。

「シャシャシャァァァァァァ―――――ッ!」

 その正体は人一人ぐらいなら丸飲みしてしまいそうなぐらいの大蛇だった。尾を左右に振り回し、暴れまわるその姿は、ハリウッド映画でだって中々見れるものではない。

「え、ちょっとこれ何。シャレにならないぐらい大きいんだけど」

『エジプト呪術の力よ! さぁ、私の怒りをとくと受け止めなさい!』

「かかって来なよデカブツ。カエサルの力、その目に焼き付けてあげよう」

「だからアンタはカエサルじゃない!」

 荒れ狂う巨体を、器用に躱し続ける少年。やはり英霊を憑依しているようだ。

 空中から剣を抜き出し、二、三度切りつけてから顔をしかめた。

「刃こぼれしている。やはり並大抵の攻撃では、この鱗は砕けないみたいだね」

 更に別の剣を抜き、一気呵成に斬り続ける。高い金属音が、辺りに響き渡る。

 接近してくる魔女達をそっちのけで行われる戦いに、少年とMOON以外の全員が置いていかれていた。心なしか様子をうかがっている魔女達も困っているように見える。

『何をボケっとしているの! 早く攻撃しなさい!』

『協力するとかそういう話じゃなかったのかな……』

 両腕から緑の閃光を打ち出しつつ、守宮は溜め息をつく。

「能天気なもんだ。まぁ、僕の仕組んだ通りなんだけどね」

 それをじろりと睨んでぼそりと少年は呟いた。そのポケットには、大量の握りつぶされた甲虫の死体が入っていた。

 

 

 

「うう、さっぱり分からん。ベクトル方程式とか、微分積分とか、どうしてそんな物を人間は生み出したんだ」

 難しすぎる問題を前に、俺は頭を抱えていた。こんな物がなければ日本中の高校生が幸せに過ごせるのに。

「流星?大丈夫ですか、何をしているのかはよく分かりませんが、無理をするのは良くありませんよ」

 不思議そうな顔のクイーン。昔はこんな物なかったんだよな……。

「何を考えているか透けて見えるぞ、流星」

 そう言ってジョーはクククと笑った。自分はこんな心配しなくていいから、俺の苦労が分からないんだ。

「そういや、お前何してるんだ? 随分と呑気だけどさ、パトロールでもしてきたら?」

「今日は別にすることはない。強いて言うなら、いつになっても帰ってこない七夢を迎えに行くぐらいか」

 

「そういやそうだね。どこに行ってるんだろう」

 言いながらちらりと時計を見る。針は8時を指していた。

「えっ、もうこんな時間かよ! まだ1時間も経ってないと思ってたのに」

「気づいてなかったのか。いくら何でも遅すぎるだろう」

「早く探しに行きましょう。このままでは戦いに巻き込まれ、最悪の場合そのまま……」

 言われなくても分かっている。俺とクイーンは、急いで外に飛び出した。

「EMPRESS!」

 この強力な力にもだんだん慣れてきた。さてと、それじゃ――

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

 とっととヒロインを助け出すとしますか!

「おい、ちょっと待てよ。まだ連絡がないんだから――」

 馬鹿なことを言っているジョーを置き去りにして。

 




一度間違えて別の作品のほうに投稿してしまいました……気を付けないと


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ようやくの合流

主人公よ、今こそ練習の成果を見せる時だ!


「とは言ったものの、どこにいるのか分からないから探しようがないんだよな……」

『今更気づいたんですか? それを含めて何とかするのがあなたの仕事でしょう』

 何も考えず外に出てから気づく事実。しらみ潰しに探すのは手間がかかりすぎるし、そんな呑気なことはやってられない。少しでも急がないと。

『クイーン、こういう状況で使える宝具ってない?』

『ない事はありませんが……。発動に結構な魔力がかかるので、やめておいた方がいいと思いますよ』

『あるならそれでいい。早く使ってくれ』

『駄目です。仮にそれで七夢さんを発見出来たとしても、恐らくそこで待っているのは戦闘でしょう。其処に魔力不足で挑むというのは、少々心もとない』

『……そうだな。二人まとめて共倒れになったら何の意味もないしな』

 中々動き出せない。どんな手を打てばこの状況を打開できる?

考え込む俺の横で、ジョーがスマホをいじり始めた。何度か指を動かした後、画面をこちらに向ける。

「場所ならこれで分かる。あいつの位置をGPSで分かるようにしておいた」

「そんな物があるのならもっと早く言えよ!」

 これによると、彼女がいるのはだいたいここから三十分ぐらいかかる橋の辺りだった。

「別に隠しておいたわけじゃない。聞かれなかったから答えなかっただけだ」

 そう嘯くジョーの顔は怒っているように見えた。いや、頭にきているのは俺の方なんだけどな。

「とにかく、さっさと行こう! 今度こそ、加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

 流れるように過ぎていく風景。これならもっと早く着くな。

「くそ、思うようにいかない。これだからアイツは……」

 ジョーも頭を掻きむしった後、渋々ながらついてきた。こちらに比べて遥かに遅い。

「先に行ってるからな。ちゃんと後から来いよ!」

 スマホを返してさらに速度を上げる。吹きすさぶ風が、その圧倒的な速さを教えてくれる。

『! 急いでください! 私たちは囲まれています!』

『え、何の事―』

 セリフを最後まで伝えるより先に、後ろから大きな爆炎が噴き出す。あれ、魔力の制御をしくじったかな?

「待て、其処の魔術師! ここから先は、私たちが通さない!」

「おとなしく両手を上げて、降参しなさい!」

 聞こえるのはいくつもの叫び声。こんな時に敵襲かよ!

「今はお前たちを相手している暇はないんだよ!」

 全身から噴き出す魔力量をさらに増やす。最早風景が線となる加速の限界を、一気呵成に突っ走る。

 あっという間に向こうの声は聞こえなくなった。そりゃそうだろ、これだけ速ければ追い付かれようがない。

『ジョーの事は気にしなくていいのですか? このままではやられてしまうと思いますが』

『今気にしている余裕はない! ステータスが見えなかったから相手はサーヴァントじゃないし、きっと自分で何とか出来るさ』

『だといいですね。ところで、そろそろ着きますよ。ちゃんと止まれますか?』

『勿論さ。さっきの練習で少しコツをつかんだ。今の俺なら何とかなる!』

 成功するかどうかは五分五分だという事は黙っておこう。

「急減速、開始(ストップ・バースト)!」

 一気に正面に魔力を噴射する。これで上手くいくはずだ。

今までの俺は、力を緩めて泊まろうとしていたせいで、その後の事を考えてなかった。考えてみれば当たり前だ、車のエンジンを切ったって、動いている物はそう簡単に止まっちゃくれない。その運動エネルギーがゼロになるまで、延々と動き続ける。

ブレーキをかけるには、逆方向に進もうとすればいい。力をしっかり相殺できれば、ちゃんと止まれるはず―

『……やっぱ無理かも』

『諦めないでください! このまま戦闘もできずに死にたくはないでしょう!』

 全然スピードは下がらない。調子に乗って速度を上げ過ぎたな。

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 全力で叫ぶ。それぐらいしか出来ることがないんだからしょうがない。

「あ、流星君。助けに――」 

 戦っている守宮さんの真横を高速で滑り、橋の真横を通り過ぎ、そのまま止まらずに進み続けて――

『ああ、これは死にましたね…』

「おわぁァァァァァァァァ!」

 静かに流れ続ける川の中に、頭から墜落した。

 

 




大丈夫です、生きてます。


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幕間 サ-ヴァントとの相性問題

視点を変えて書くのは大変ですね


 遡る事一時間。不気味なほど静まり返った川沿いの住宅地に、佇む一つの影があった。

 全身黒色の服に、顔を覆う白い骸骨の仮面。そう、あのアサシンである。

「―――疲れた。早く休みたい」

 右肩は血で赤く染まり、不自然な方向に曲がっている。左足は一本の棒になったかのように固まり、それを無理矢理引き摺って歩いている。戦闘で受けた鮮烈なダメージを想起させるその見かけに反して、彼女の口調はあくまで淡々としていた。

『人気がやけにないな……。マスター、辺りを警戒したほうがいい。というか私の宝具を早く使え。その程度の傷なら簡単に治せると、さっきからしつこく言っているだろう』

「―――いちいち魔力は使えない。魔術師でもない私には、そんな余裕はない』

 そう言いながらポケットから包帯を出し、無事な方の腕で乱雑に巻き付ける。痛みなど感じていないかのように、その動作には躊躇がなかった。

「―――中々いい場所がない。やっぱりもう一度あそこに戻りたい」

『本気で言っているのか? 死にたくないのならやめておけ。確実に待ち伏せされるし、そうでなくともそれ相応の罠が仕掛けられているはずだ』

「―――今から暗殺すればいい」

『勿論万全の体調で完全な闇討ちなら、ほぼ確実に殺せるだろう。だが傷が癒えてからでも、別に遅くはないはずだ』

「―――ふふ」

 アサシンが腹部を抑え、その場でかがみこんだ。肩がわずかに震えている。

『どうした。今更痛みに耐えきれなくなったとか言い出すつもりか。無理はするな、自分が何とか―』

「―――冗談に本気で言い返すなんて、馬鹿みたい」

 人目を気にすることなく、大声で笑う。その声は彼女が一人の少女である事を如実に示していた。

 と、唐突にそれが止まる。顔を不機嫌そうにゆがめ、ぼそりと彼女は呟いた。

「―――笑ったら、傷口に響いた」

『君は馬鹿か! 少しは状況を考え……、いや、それどころではないな。マスター、どうやら他のサーヴァントがこちらに近付いているようだ』

 それを聞き、彼女の顔色が変わった。立ち上がり、口元に笑みを浮かべる。それは戦いに臨むときの気持ちの高ぶりを端的に表した、鮮烈な物だった。

「―――山の翁になる私を奇襲するなんて、いい度胸。返り討ちにしてあげる」

『まぁそう血気に逸るな。相手はこちらを狙ってきているわけではない。いくらなんでも気配を消しているお前を見つけることは不可能だ。ここは穏便に撤退しよう』

「―――そんな事は出来ない。敵と戦わないのは、私の誇りに逆らう」

『お前はアサシンだろう。そんな物は持ち合わせていないはずだ』

「―――そこは笑い飛ばすところ」

『ええい、少しは真面目に話してくれ』

 何はともあれ、早くこの場を離れよう。そう思ったアサシンは、闇の中に静かに溶け込んでいった。

 それから十秒ほど後に、空から少女がひらりと舞い降りた。全身茶色の服に、赤色の髪。その派手すぎる見かけは、良くも悪くも悪目立ちしている。

「HERMITめ、何も考えず適当に宝具を使うなんて。いきなり全員に喧嘩売って楽しいのかね」

『そう愚痴るなよマスター、俺だってその宝具を持っていたら同じ事をしたさ。沢山の人間が自分が思った通りに動くなんて、一度はしてみたい体験だと思うけど』

『あーあー、そうだな。お前みたいなのが敵じゃなくて本当に良かったよ』

 そう言いながら、鞄から古ぼけた革で縛られた真っ黒な本を取り出した。表紙には、CHILDRENS STORYSと赤い大文字で書かれている。

 素早く結び目を解き、本を真上に掲げる。すると1ページ1ページが眩く輝き始め、さらに群青色の魔法陣が展開された。

『おお、派手だね。それで、結局何をするんだ?』

「………それは枕元から、或いは隠された入り口から。語るのは両親、或いは世界の案内人。訪れるのは素敵な物語、或いは真実の冒険譚。例えば夢見るお姫様、白銀の正義の騎士、悪い竜に不思議な魔女。くるくる回る夢幻の世界の、奥の奥までつまびらかに」

 ゆっくりと詠唱される魔術。それに合わせて、上空に大きな渦が巻きあがる。

『グダグダ長いな。何時になったら終わるんだよ』

「………今回紹介するのは、滅びもたらす魔物の牙。皆がよく知る悪役の力を、我が手中に収める!」

 パン、と手を合わせると、其処目がけて黒い奔流が放たれた。彼女の腕の周りを何重にも取り巻いて回り続ける。

『やれやれ、ようやく終わったね。あれだけ長い詠唱して、そんな事しか起きないのか』

「さっきからお前うるさいんだよ! サーヴァントならサーヴァントらしく私の言う事を聞いて黙ってりゃいいの! いちいち口を挟むな!」

 怒りのあまり、少女は念話を使わず直接怒鳴りつけた。これからこいつと一緒に勝ち上がらなくてはならないとなると、益々苛立ちが募る。

「とにかく、これでいつでもアイツらを迎撃できる。ようやく起動出来たぜ。この魔術礼装、起動に時間がかかり過ぎるんだよ」

『僕は要らないと言いたいわけか。その程度の力なら、簡単に超えられるよ』

『お前は燃費が悪すぎる。今日中に後もう一回でも使ったら、反動で二日はまともに動けなくなるだろうな』

『大袈裟だな。要は魔力放出を一回も使わなければいいんだろ。それぐらいの調整は出来るはずだ』

『うるさいな。出来ないから使わないんだよ! 少しは考えろ!』

『へぇ、出来ないって、自分で―』

「RELEASE!」

 大声で怒鳴ると、服装や髪色が大きく変わった。黒いジャケットに、ナイフで何度もダメージ加工されたジーンズ。ざっくばらんにくくられた、金色の肩まである髪。現代風の魔術師らしからぬ姿が現れる。

「取り敢えずどこかで休むか。そこでのんびりしながら、栄養ドリンクでも飲めば疲れも取れるだろ」

 魔女達に見つからないようにするには、空から見えないような場所が必要だ。とはいえ、今からホテルに戻るには時間がかかりすぎるし、奇襲にも対応しづらい。そう考える彼女の目が、ふと橋の下を捉えた。

「そうだな、あそこならちょうど良さそうだ」

 ポケットから魔法陣と栄養ドリンクを取り出し、イヤホンをつけて口笛を吹きながら歩いていく彼女の耳には、幸か不幸か、守宮の使い魔が放つ咆哮が届かなかった。

 




次回、ついにバトルロワイヤルが本格的に始まります


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加速せよ

遅くなってすいません! 所用で中々上げられなくて……


「はぁ、はぁ……。この野郎、何時になったら学習するんだよ!」

『自分で自分に嫌味を言ってどうするのですか。それよりもこの状況を反省し、少しでも前に進む為に……』

 お説教モードに入ったクイーンを無視しながら、川からよたよたと上がる。全身がびしょ濡れになって、服が体に張り付く感触が気持ち悪い。

 全く、どうして俺はここぞという所で失敗ばかりするんだ。ここまで来ると、あたかもそういう星の元に生まれたかの様な気さえしてくる。

「な、ななななっ!」

「ん、何だ?」

 川の向こう岸から、変な声が聞こえた。まずい、見られたかな…。

 そちらに視線を向けると、目を丸くしてオロオロとしている小学生ぐらいの女の子がいた。一般人だとしたら、記憶とか改竄しとかないといけないんだろうな。

 残念な事に、そっち系の魔術は得意じゃない。下手に失敗したら脳が壊れて、相手を一生植物状態にしてしまう……、みたいな事を師匠が言ってたような気がする。

 そんな事は絶対にしたくない。本当にやらなきゃならないのかな……

 いや、まだ間に合う! この場で何とかして。誤魔化せばいいんだ!

「えー、えっとですね、こ、これはマジックの練習なんですよ! 空から飛び降りて、落ちていく途中でパッと消えるっていうヤツです。いやー、まだ練習が足りませんね」

『まさか、それで相手を納得させられると思っているわけではありませんよね?』

『やっぱ無理か。取り敢えず気絶してもらって、後からじっくりとやれば何とかなるよな』

『その時は私も手伝いますから。早くやっちゃってください』

 クイーンにかなり呆れられている。このままだと俺の株は下がりっぱなしだ。もう下がるとこまで下がってるような気もするけど、ここは少しでもいいところを見せないと!

「了解っと、それじゃ其処の人、悪いんだけどちょっと意識をもらっていいかな」

「な、何わけ分かんない事言ってんだ。と言うかお前いったい何者だよ、あんたに高い所から落ちてきて、無傷だなんて……」 

「あー、その辺は気にしなくてもいいから。どうせ忘れるんだから、そこまで深く考えなくてもいい」

「そうだな。“どうせ死ぬんだから”お前の事は考えなくてもいいよな!」

 彼女のおどおどとしていた態度が豹変した。両腕から飛び出した黒い光が、こちらに向かって飛び出してくる。

「うおっと!」

 咄嗟に頭を右に振る。頬のぎりぎりの所を掠め、光弾はそのまま飛んで行った。

 左頬に激痛が走る。どろりとした血の感触が、首筋まで垂れてくる。まともに食らったら首が飛んでたぞ!

「そうか、あんたも魔術師だったのか!」

「ああ、そうだよ。気付くの遅過ぎないか? 流石はブレドアリナのお坊ちゃま、実戦には疎いと見える」

 彼女が首を左右に振ると、少しづつ体が大きくなっていく。それに合わせて服も大きくなっていき、最後には二十代ぐらいの見かけになった。

 自身の身体を加工する魔術となると、相当難しいはず……、いや、多分ただの幻だろう。

 目の前に魔術師がいるのに見逃すなんて油断し過ぎだ。憑依状態で良かった。

「まぁ何にせよ、まんまと引っ掛かってくれたんだ。お礼はちゃんとしないとな! SUN!」

「くっ、舐めるなよ。加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

 一気に視界が加速する、俺はその速度に任せ、相手に向かって突き進む。

「所詮は馬鹿の一つ覚え! 力任せに突っ込むだけじゃ、限界があるってもんだぜ!」

 全身が黄金に輝いた後、服装が茶色、髪が赤色に変わる。やっぱり彼女もマスターか。

「さぁ来な! あたしの力を見せてやるよ!」

 俺は右腕に力を籠め、大きく後ろに引いて勢いをつけると――

「悪いな、今はそれどころじゃないんだよ!」

 其処からさらに魔力を吹き出し、相手を一気に飛び越えた。

 さすがはサーヴァントの力。圧倒的な高速挙動だ!

「この野郎、待ちやがれ!」

「待てと言われて待つ奴はいないよ!」

 今は守宮さんを助ける方が大事だ。ここでのんびり戦ってる場合じゃない。

 俺はそれを捨てぜりふに残し、川の土手を一気に駆け上がっていった。

 




多人数だとそれぞれの行動を書くのが大変ですね


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VSSUN

主人公活躍回です!


 橋の辺りまで何とか戻ってくる。沢山の魔術師と交戦中の守宮さんと、やっと合流出来た。

「あ、流星君。大丈夫、怪我してない?」

「はい、何とか。それよりこれはどういう状況なんですか? 敵が多すぎる気がするんですけど」

 守宮さんが心配そうに声をかけて来た。どうして助けに来た俺が相手に心配されているんだ?

「えーとね、取り敢えず後で説明するよ。早く全部倒して、この戦場から脱出しよう。正直疲れちゃったけど、三人も味方がいるなら大丈夫だよね」

「三人? ここには俺とジョーしかいませんよね?」

 俺がいない間に他のマスターと共闘関係でも結んだんだろうか。それにしては辺りに姿が見えないような……

「ほら、其処に…、あれ、いないなぁ。さっき大蛇の噛み突きを食らってたから、それでやられちゃったのかも」

「仲間って言ってませんでしたか?」

 その言い方はどちらかと言えば敵にするものだと思う。

「ううん、まぁ、色々あって……、あ、ジョー!」

「しゃべってないでさっさとこっちを手伝え! 正直、今すぐにでも戦線を離脱したい!」

 盾を展開して必死で魔女達の攻撃を受け止めているのが見える。そういやMAGITIANって今憑依に応じてくれないんだよな。

「後もうちょっと頑張ってくれ! 俺はこっちを何とかしてから行くから!」

「正気かこの野郎! 少しはこっちの立場も考えろ!」

 ジョーの怒鳴り声を聞いている間に、さっきの魔術師が登ってくるのが見える。今の守宮さんに、サーヴァント戦まで頼むのは無理だよな……

「おら行け、やっちまえ!」

 地を這うように突き進んで来る黒い棘を、左右に飛んで回避する。相手はサーヴァントの力は使えないみたいだし、これなら俺でも勝てる!

『クイーン、一気に行くぞ!』

『了解です。我が心臓はイングランド王の物。肉体がか弱く脆いものであろうとも、王として君臨せん。私は国家と結婚した(アイ・マリッド・ザ・カントリー)!』

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

両足を地面に叩きつけ、相手に肉薄する。結局自分の戦い方ってワンパターンだよな。

「囲め、斬り裂けぇぇぇぇ!」

 周りから覆うように殺到してくる刃。こういう時には―

「人間爆弾(ヒューマン・ダイナマイト)!」

 まとめて吹き飛ばし、突破口を開く。力任せでも何とかなる物だな。

「チッ。突き殺せ、真正面から貫いちまえ!」

 鋭い槍に収束し、回転しながら抉り取りに来る。甘いな、威力ならこちらの方が上だ!

「迅雷の拳(ライトニング・ナックル)!」

 中心でぶつかり合った衝撃で、腕に重い痛みが生じる。コンクリートの壁を、何も考えず殴りつけたら、こんな感じだろうな。

 でも、今の激突で相手の魔術礼装は完全に粉砕した。これで相手の攻撃手段はなくなったはずだ。

「竜巻大砲(ストーム・インパクト)!」

 続けて一撃を放つ。吹き荒れる風が、相手を大きく吹き飛ばした。

 このまま有利に進められたらいいな。俺はそう思いながら、落ちていく相手を追いかけてもう一度下まで降りて行った。

 




ようやく主人公がまともに戦えています!


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幕間 ジョーの真名開放!

ジョー無双回です!


「あの馬鹿は全く……。自分が何しに来たのか完全に見失ってんな」

 何重にも盾を重ね合わせ、魔女達の攻撃を何とか受け止めながら、ジョーはボソリと呟いた。

「悪あがきね。貴方の出す武器は、一流には届かない二流に過ぎないわ。いくら沢山出したとしても、英霊の宝具には対抗できないわ」

 包囲を固めながら一人の魔女が宣告した。その顔には嘲りの表情が浮かんでいる。

「あん? 本当に届かないかどうか、その体で試してやろうか?」

 ジョーが彼女をギラリと睨むと、全身から激しい殺気が溢れ出した。それは刻一刻と力を増し、周囲一帯を強烈に威圧する。ゆっくりと右手を持ち上げ、何かを抜き取ろうとして――

「……いや、お前たちに使うのは勿体なさ過ぎる。代わりにいい物見せてやるよ」

動作を途中で取りやめ、代わりに左腕を前に突き出した。その先ではマジシャンに作らせた宝具が、闇を切り裂くように煌々と光り輝いている。

「世界の礎とならん者(ジョー・ストーンズ)!」

 真名を唱えた後、指を鳴らして盾を消した。完全に敵の前に生身を晒しながらも、口元の笑みは消えない。

「さぁ、かかってきな。力の差って奴を丁寧に教えてやるよ」

「馬鹿にするのも大概にしなさい! 総員、突撃!」

 売り言葉に買い言葉。疾風怒濤の勢いで迫りくる魔女集団に対し、ジョーは一度全身をかがめ、

「どうだ、受け取りやがれ!」

 宝具を横凪に一閃した。それにより強烈な風が巻き起こり、余波だけで魔女達を叩き落す。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

「ハッ、そんなんじゃ遅すぎるぜ!」

 斜め後ろから食らい付く相手と、振り向きざまにぶつかり合う。その衝突は、一瞬でジョーに軍配が上がった。

「クッ、重い! これ程の得物を操るのは、人間技では不可能なはず……」

「その程度の奇跡も起こせない様じゃ、宝具とは到底言えないぜ? まぁ、勿論トリックはあるんだがな」

 両腕を使い高速で宝具を振り回しつつ、油断なく出方を窺う。隙が出来れば、容赦なく打ち込み、一気に勝負をつけるつもりだ。

 如何にも簡単そうに動かしてはいるが、地面を宝具が掠めた途端、其処が大きくひび割れ、大きく歪んだ。その反応だけで、どれほど宝具が重いか、容易に想像できる。

「おらぁぁぁぁぁ!」

 大きく振りかぶり、裂帛の気合いと共に前に突き出す。叩き出されたその一撃は、加速度をそのままに魔女達をビリヤードのごとく鮮やかに叩き出した。

 さらに勢いを増し、風をうならせながら宝具は空間を駆け巡る。その残像が美しい孤を描いた。

「そら、そら、そら、そら! どうした、もう限界かよ!」

 三人がかりで押さえつけに来るのを薙ぎ払い、遠くから飛んでくる魔術をあっさりと切り落とす。突き出される箒を破壊し、宝具を振るうたびに相手が宙に舞う。

 その姿は、まさしく現代に再臨した英雄そのものだった。

「あん? もう終わりかよ。つまんねぇの」

 ジョーを襲っていた魔女達全員が地に伏すまで、十分もかからなかった。息1つ乱さずに、さらりと嘯く。

「七夢はHERMITと一騎打ちしてるし、流星はまだ戻って来ねぇ。助けに行ったほうが良さそうだな」

 鼻歌交じりに歩き出すジョー。その動作には、自分一人でも戦えるという自負心が満ちていた。

 




主人公もこれぐらい活躍してくれるといいのですが……


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追跡の末路

サーヴァントを見るだけでステータスが分かることを今になって知りました。
流星にそれに関したコメントをさせたほうがいいのかな……。


「あれ、どこ行ったのかな……」

『惚けている場合ですか。一刻も早く探し出さなければ』

 坂を下り切った俺を出迎えたのは、人の影一つとないただの更地だった。

 確かにこっちに落ちていったはずだけど、どこへ行ったんだ?

 辺りを軽く見回してみても、影も形も掴めない。どうやら逃げられてしまったようだ。

『……仕方ありません。流星、ここは七夢の援護に戻りましょう。何の手掛かりのないのでは、捜索のしようもない』

『そうだね。というか、本当はその為に来たはずだもんな』

 戦いに臨んで頭に血が上ってしまっていた。落ち着いてみると、自分のっ行動のおかしさがよく分かる。

「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」

 今日一日でここを何往復するんだろう。そんな事を思いつつ、俺はもう一度坂道を駆け上がった。

 

 

『行ったようだぜマスター、相手が戦い慣れしてない魔術師で助かったな』

 流星が守宮の元に走り出したのを確認してから、地面に一つの影が降り立った。

 最もその着地は優雅な物とは程遠く、例えて言うならボールを高い所から投げ落としたよう、つまり完全なるただの自由落下だったが。

 十メートル以上の高さから垂直に落下しても、全くダメージを追っているように見えないのは、ひとえに英霊としての力のなせる技だろう。

『あいつも馬鹿だよなぁ。すぐ真上を見れば、探してる物が簡単に見つかったってのに、』

 くるりとその場で回り、流星の歩いて行った方に向き直る。その目は、悪戯心でキラキラと光っていた。

『それで、どうするマスター? 僕ならここでカウンターを仕掛けるけどね。やられっぱなしは性に合わない。大丈夫さ、油断しきった相手を不意打ちで倒すことぐらい、簡単だろ』

 ただし、目以外は全く生気が感じられない。だらんと腕は垂れ下がり、ピクリとも動かない。

 どたん、と音を立て膝がつかれた。全身に全く力が籠っておらず、風が吹いたら崩れ落ちてしまいそうだ。

『おい、返事ぐらいしなよ。何時まで僕を無視し続ける気だ』

『…………』

『もーしもーし、聞こえてますかー?』

 一方的にまくしたて続けるサーヴァントに対し、中々彼女は喋らない。ようやくくちからことばがもれでたものの、その声はひどく弱々しげだった。

「魔力使い過ぎなんだよ、この馬鹿……。お陰で念話さえ出来ないじゃないか。どうしてくれる……」

『仕方ないだろ、一度に二十メートルは飛んだかな? とにかく、これだけ一気に移動したんだ。放出する魔力量だってただじゃ済まないさ』

「それにしたって加減ぐらいしろよ……。そんな派手に動く必要はなかった。ただ軽く視界から消えるとか、それぐらいで良かったのに……」

『悪いな。僕、加減とか出来ない性質なんだ。死ぬよりはましだったと思って勘弁してよ』

「RELEASE」

ゆっくりと憑依が解けていくのを感じつつ、彼女は携帯電話を取り出した。

 聖杯戦争を魔力切れでリタイアする事だけは避けたいし、暫くは他のマスターの様子を見つつ、主に事態を静観することになるだろう。別に急ぐ必要はない。二十人の参加者が適度にぶつかり合ってくれれば、必ず勝機は見えてくるはずだ。

 それはとにかく、どこかでゆっくり休みたい。自身の協力者を呼び出しつつ、彼女は日本のグルメについて考えていた。本場の” 天婦羅”や、”ラーメン”は必ず食べねば。

 こんな時でも食い意地が張っているのが、彼女の性格を端的に表していると言えるだろう。

 

 

奔る緑の閃光。それを悉く撃ち落とす紫の光球。俺が最初に目にしたのは、そういう風景だった。

「この、往生際が悪いな。たった一人になったんだから、早く降参しなさい」

「余計なお世話だ。町の警護に回っている奴を呼び戻せば、十分に数は稼げる。それでお前を倒してから、もう一度体勢を立て直せばいい」

 一切の詠唱なしに、右腕を構えるだけで魔術が発動している。MOONも相当な使い手だけど、あいつのサーヴァントはそれ以上って事か?

「ちっ、新顔かよ。いちいち苦労させんじゃねぇ!」

 相手が左腕を前に突き出すと、そこから黒い煙と共に何かが大量に飛び出した。あれは……骸骨だ。

 二、三十体程が一斉に召喚された。風に合わせて、カタカタと不快な音を立てている。

「そら、行ってこい。いくらお前たちでも、文字通り礎になるぐらいは出来るだろ!」

 その一言を合図に、こちらに向かって突っ込んで来る。B級のホラー映画みたいだな。

『ぞっとしない光景ですね……。一体一体倒していたのでは、また相手に新たな敵を召喚されてしまいます。ここは一気に行きましょう』

『了解!』

 サーヴァントとモンスターの力の差を見せてやるよ!

 




彼らと本格的に戦うのはもう少し後です。


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登場英霊情報

 やっとできました。これを全員分書くとなると気が遠く…
(ネタバレがありますので、出来れば全部の話を読んだ後に見てください)
 隠者・悪魔について記載しました。
 認識は一応主人公に合わせてあります。


0愚者 存在しない

 

1魔術師 登場済み

 ①ダイタロス

 ②ジョージ゠U゠ストーンズ

 ③混沌・中庸

 ④筋力C 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運C 宝具C+

 ⑤ギリシャ神話に名をはせるほどの名工。最初はアテネで働いていたが、弟子のタロースが鋸を発明するとその才能に嫉妬し彼を殺してしまい、その咎で追放された。

  その後クレタ島に居つき、王妃の為の牝牛の模型や、その子の為にラビュリントスを設計したりした。しかし糸球を使ってそこを脱出する方法を王女アリアドネに伝えた結果、王の怒りに触れ息子とともに塔に幽閉された。人工の翼を作り脱出を果たしたが、途中で太陽に近づきすぎた息子は翼の蝋が解け、海に落ちて死んでしまった。最終的にシチリア王のもとに身をよせ、そこで残りの一生を過ごした。

  斧や錘、水準器などを発明したその腕前は本物である。ただし自身の才能に絶対的な自信を持っており、それを否定する者や己を超える才能を持つ者は完全に敵視するため注意が必要である。

  聖杯にかける願いは自分が人類史上最高の職人と認められること。そのためなら、彼は容赦しない。

 ⑥道具作成;A+ 魔力を帯びた器具を生成できる。彼の創る物はそれ一つで宝具に匹敵し、神秘性を持つ。 

  陣地作成;B- 職人として、自らに有利な陣地を作り上げる。あくまで彼は魔術師ではないので、使い勝手のいい工房を形成するのが限界である。

  高速思考;B 瞬時に脳内で設計図を組み立て、細かな機能を調整できる。現実に道具を一瞬で作成出来る能力ではなくイメージに過ぎないが、そこから作り出すものは投影魔術で作られたかのように瓜二つである。

 

 ⑦■■■■■■■■ ランク;Ⅽ 種別;迷宮宝具 レンジ;10~100 最大補足;― ■■■■■■を閉じ込めていた迷宮の具現化。一旦発現してからは、「迷宮」という概念の知名度によって道筋が形成される。彼にとって■■■■■■■■■■■■■■■■■、迷宮も彼を封印するため以上の意味は持ちえなかった為ランクが大幅に低下している。

  ■■■■■■■■■■ ランク;C 種別;対人宝具 レンジ;― 最大効果;1人

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■ためダイタロスに造らせた宝具。外からは■にしか見えない。

  ■■■■■■■■■ ランク;C- 種別;対人宝具 レンジ;0 最大補足;1人

 鉛で固められた翼。装備することで飛行能力を得られるが、伝承通り熱には弱い。

2女教皇 登場済み

 ①不明

 ②アベル=ビアンキ

 ③混沌・善

 ④筋力B+ 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運B 宝具A

 ⑤不明

 ⑥聖なる守護者:A 神殿や教会を守る時ステ―タスが上昇する。生前■■■■■■■■と名乗った彼のこのスキルは最高クラスと言える。

  神に愛されし九人が一人(ナイン・ウォルイーズ):B 死後教会によって神格化されたことによって得たスキル。ここぞのタイミングで幸運が1ランク上昇する。アーサー王やアレクサンドロス大王、カエサルも保持しているが、キリスト教を心から信じていないと消滅するため、機能していない。

  騎乗:C 騎乗の才能。大抵の乗り物は乗りこなせるが、それはあくまで得意の域を出ず、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

  対魔力:C 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

  戦闘続行:B 往生際が悪い。瀕死の傷でもある程度の戦闘を可能とする。

 ⑦■■■■■■■■■ ランク:A 種別:対軍・対人宝具 レンジ:1~50 、0(追加効果) 最大補足:50人

  彼が■■■を先導するときに使った■を展開する。■■■■■■を■■■■アップし、真名解放後常時■■■■■■を得、さらに■■を二倍にする。また背後には■■■■■■■を召喚し、それを用いて追撃を行える。■■■■は通常の場合攻撃が一切通用せず、破壊するためには最低でも■■■■■■■■か運命を覆すほどの■■■■■■が必要である。

  攻撃中は自身の周りに魔力で障壁を築き、■の属性を持つ者の攻撃を無効化出来る。魔力消費が大きく、連発できない。

 

3女帝 登場済み

 ①エリザべス1世

 ②ブレドアリナ・流星

 ③秩序・善

 ④筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A 幸運A 宝具A++

 ⑤イギリスを小国の一つから、世界有数の強国へと変える黄金時代の始まりの女王。一生を独り身で過ごし、処女王と呼ばれる。1533年にヘンリー8世の王女として生まれるが、母は処刑された。自身も投獄された過去を持つ。異母から生まれた弟や姉の死後に1559年即位する。イギリス国教会を国家の主柱として位置づけ1588年にスぺイン無敵艦隊に対して勝利を収めた。

  性格は短期ではあるが我慢強い。優秀不断で、母が裏切られて殺されるのを目の当たりにしたため男性不信気味である。彼女の黄金時代であるスペインに勝った時点で50歳を超えているが、『女子は一番かわいい時代が黄金時代ですっ。』として15歳前後で現界している。あまり戦って勝った実感はないらしい。

  聖杯にかける願いはイギリスの全盛期の復活、それによって犠牲になる人々の事はまだあまり考えていない。

 ⑥麗しの姫君:A 生粋のお姫様。見た目や、立ち振る舞いに起因する。周りの人間を魅了し、敵の士気を下げる。本来はBランクであるが、本人が処女であったことからワンランクアップしている。

  カリスマ:B 軍隊を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

  魔術:A オーソドックスな魔術を使用。達人の域に達している。魔力量も相まって、時計塔のロードに成れるレベルに達している。

  精神強度:B 精神汚染を防ぐ精神面の強さ。

  心眼(偽):B 視覚妨害による補正への耐性。第六感、虫の知らせとも呼ばれる、天性の才能による危機感知である。

  騎乗:D 騎乗の才能。大抵の乗り物を人並みに乗りこなす。常人程度。

 ⑦■■■■■■■■■■■■ ランク:A++ 種別:対人~対城宝具 レンジ:1~99 最大補足1000人

  そもそもはイギリスの黄金時代の頂点に立ったビクトリア女王の宝具であるが、そのはじまりであるエリザベスも使うことが出来る。■■■■■■■■■■■■■■を召喚し、■■■■■■■■使うことが出来る。■■■■も可能であるが彼女が■■■■■、■■■■■■■■■■■■ことのない■■の■■しか使うことが出来ない。また、■■は自前のものである。もう一つのエリザベスの宝具と組み合わせることにより、絶大な威力を発揮する。ちなみにビクトリアが使った場合、ランクがEXになり、■■■■■■■■■■■■■■の■■を使えるようになる。

  私は国家と結婚した(アイマリッドザカントリー) ランク:A 種別:対人宝具 レンジー 最大補足1

  国家そのものと結婚したことによる宝具。イギリス全土の地脈や魔術師、さらにはそこにいる国民一人一人から、微量ずつ魔力を集める。一人一人は少なくとも、集まれば膨大なものとなる。■■■■■■■■■■■■にランクが低下する。

 

4皇帝 未登場

 

5教皇 未登場

 

6恋人 未登場

 

7戦車 未登場

 

8力 登場済み

 ①不明

 ②アサシンっぽい少女

 ③秩序・善

 ④筋力B 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運A 宝具B+

 ⑤不明

 ⑥根性:A 防御、防衛に長けていることを表すスキル。耐久に防衛戦のとき+が付く。外国の幾度にもわたる攻撃を退けた彼のそれは最高ランクである。

  カリスマ:B 軍隊を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の戦闘力を向上させる。カリスマは稀有な才能であるが、彼の場合歴史が生んだということもできる。

  対魔力:A A以下の魔術はすべてキャンセル。事実上現代の魔術師では傷をつけられない。

  軍略:B カリスマと似て非なるスキル。こちらは後天性である。カリスマと両方を持つのはかなり稀有。

  戦闘続行:A 往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

  騎乗:C 騎乗の才能。大抵の乗り物は乗りこなせるがそれはあくまで得意の域を出ず、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

 ⑦■■■■■■■■■■■■ ランク;B+ 種別;対軍宝具 レンジ;― 最大補足;1個

  自身が■■■■■を取り戻し更に守り抜いた逸話に由来する宝具。■■■■■■■■■■■■することで、其処を攻めるまたは守る時に■■■■■■■■■■■に■■■■■。また対城カタパルトや城壁などを展開出来る。

  ■■■■■■■■■ ランク;C 種別;対人宝具 レンジ;0 最大補足 1人

  ■■■■■を撃退した際に手に入れた■■■■■■■■■■■■■■■■■。真名開放することで■■■■■■■■■■、■■■を■■する。彼にとってはあくまで■■■■■■■■■■■■■■■■■、ランクが大幅に低下している。

 

9隠者 

 ①魔女(魔女狩りのイメージ)

 ②黒服の青年

 ③混沌・中庸

 ④筋力D~F 耐久C~E 敏捷C+~D- 魔力B+~C 幸運D~E 宝具B++ ⑤15世紀前半に始まり、17世紀末に衰退した魔女狩りにあった人々がまとめて反英霊として具現化したもの。その為性格や年齢、性別すら一定ではなく、聖杯戦争ごとに変化する。

  一切の魔術的な力を持たない普通の人から、条理すら反転させる代物を使いこなす魔術師まで入り混じっている為、宝具以外の全てのステータスが変動する。

  人々を神秘を使って助ける癒し手としての存在と、人々に悪魔の力を振るい苦しめる呪術師としての存在が競合しており、行動に一貫性がない。

  聖杯にかける願いはすべての自己の救済。最早"自分"に意味などないとしても、救いを求めずにはいられないのだ。

 ⑥顕現せし悪夢と幻想の魔術:A- 魔女狩りにて「魔女」が行ったとされる現象を起こすことが出来る。本当は魔術では行えないことも起こせるが、逆に「魔女」がやっていないことなら基礎的な魔術も使えない 

  顕現せし希望と虚像の魔術:D‐ 魔女狩り以前のいわゆる「良い魔女」が行ったとされる魔術を起こすことができる。現在は大幅に弱体化しており、些細な力の行使でもたくさんの魔力を消費する。

  やまぬ怨嗟の声;A 精神が常時汚染される代わりにそれ以外の精神攻撃を無効化する 

  恐れるべき存在;B+ 見た人間に恐怖を感じさせる

  二重存在;B 二つの存在が相反し合っている状態。二重人格と化す

  無辜の怪物:A 後世の評価などによって存在を捻じ曲げられたことを表すスキル。解除不能。彼女の場合、このスキルによって宝具を使えたり、魔術を行うことが出来る。

 ⑦闇に惑えし狂乱の祭典(ナイトオブワルギュリプス) ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:99 最大補足:制限なし 彼女たちが無実にも関わらず(一部有罪?)、魔女とされたことと、ドイツに伝わる伝承が結びついたもの。夜にしか発動できない。魔術師でない女性を全て魔女に変え、男性を全て眠らせる。彼女たちはこのサーヴァントに従い、多少の力も持つ優秀な尖兵となる。範囲は一つの町ぐらいの大きさ。

 

10運命の輪 未登場

 

11正義 未登場

 

12つるされた男 未登場

 

13死神 未登場

 

14節制 未登場

 

15悪魔 登場済み

 ①ガイユス・ユリウス・カエサル(と本人は言っている)

 ②学生服の少年

 ③宝具の影響で、(と本人は言っている)不明

 ④同様に不明

 ⑤自身の能力でのし上がり、王になる寸前までいった男。青年期に政変によって亡命を余儀なくされるも、ローマに戻った後その弁舌で有名になり、軍団司令官になった。幾度の事件を乗り越えて三頭政治の一角を務め、ガリア戦争で大きな戦果を挙げるも、パルティアへ遠征していた同じく三頭政治の一角であったクラッススが戦死した事で、ポンペイウスとの対立が顕在化した。彼は何とか勝利を治め、ローマに凱旋を果たした。その途中でエジプトを平定し、クレオパトラと知り合うことになる。終身独裁官になり、栄華の頂点を極めたところで、ブルータスに暗殺された。この時のセリフ「ブルータスよ、お前もか」はあまりにも有名。 

 ⑥同様に不明

 ⑦同様に不明だが、ステータスを隠す宝具があると推測される。

16塔 登場済み

 ①不明

 ②ログウェル・クック

 ③秩序・中庸

 ④筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B+ 幸運E- 宝具D

 ⑤不明

 ⑥美貌:A 美しさを表すスキル。彼女のそれは最高クラスで、箱入りのお嬢様といった雰囲気を全身から振りまいている。

  魅了(歪):A 悪い男を引き寄せるスキル。無意識で発動する。神話上彼女ほど男運が悪かった女性はまずいない。なにしろあいては神だったのだから。

  高速神言:B 呪文、魔術回路との接続をせずとも、魔術を発動させられる。神代の言葉なので、現代人には発音できないはずだが、この聖杯戦争では憑依された人間も使うことが出来る。王女として習ったものなので、質としてはAに相当するが、量はあまりないためBランクとなっている。テンパると使えなくなる。

  千里眼(歪):A++ ■■■■■■を見ることが出来るが、■■■■■■■■。自分で制御できず、ある意味■■を■■させているともいえる。

 ⑦■■■■■■■■■■ ランク;B 種別;対軍宝具 レンジ;10~40 最大補足;一人

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■を展開する。その中で戦闘したり物を壊したりすると、■■■■■■ことになり、後に必ず■■を受ける。■■■■■■■■■。 

  

17星 未登場

 

18月 第一ルート登場済み (ルートによって英霊が異なります。)

 

 ①クレオパトラ七世

 ②守宮七夢

 ③筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具B+

 ④秩序・中庸

 ⑤エジプトの女王であった絶世の美女。18歳の時に父親の死亡に伴い兄弟婚を行い、弟とともに王座に就いた。その後弟によって国境まで追いやられるも、アレクサンドリアのカエサルの元へ絨毯に自分の体を包んで送り、その愛人となった。

  カエサルの手を借り弟を葬り、クレオパトラは名義上もう一人の弟と結婚して共同統治を再開した。カエサルの子カエサリオンを生み、栄華の絶頂を極めたかと思いきや、カエサルが暗殺されてしまう。カエサリオンをエジプトの共同統治者に指名し、当初はアントニウスと敵対する勢力を支援したが、それが敗れて出頭を命じられた時に籠絡し、三人の子供を成した。

  しかしアントニウス率いる連合軍とオクタウィアヌス率いるローマ軍が、ギリシャ海岸のアクティウムで対決した時、戦線を離脱し、結果それを追ってアントニウスも逃亡した為、敗北を喫してしまった。本人曰く、『こいつじゃだめだと思ったのよ。』

  最期はオクタウィアヌスに従うことを拒み、自身の胸をコブラにかませて果てた。

  成功する為には手段を選ばず、人を捨て駒にすることも厭わない。自分の魅力や才能を誰よりも理解している。 彼女を従わせる為には、人的魅力を可能な限り高めるしかない。下手に小細工をすれば、それはたちまち看破されてしまい、逆に利用されてしまうだろう。逆に、気を許す人物にはとことん許すため、彼女の信頼に足るだけの能力があれば、デレまくる彼女を見ることが出来るだろう。それは非常に難しいだろうが…

  聖杯にかける願いは愛しのカエサルとカエサリオンを現界させ、三人で楽しく暮らす事。母は強い。

 ⑥艶美:A 姿だけではなく立ちふるまいなどすべてが美しい。もはや人間とは呼べず、神格化されている。本人曰く『普段は制限している』らしい。

  エジプト魔術:B+ 呪い系中心の中東の魔術。現在使える者はとても少ない。

  親魔力:B 魔術と親和性が高いことを表すスキル。魔術の習得が速く、手足の様に操ることが出来る。

  陣地作成:A 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。"工房"を上回る"神殿"を形成する事が可能。

  道具作成:B 魔力を帯びた器具を作成できる。現代では不可能なレベルの物を作り上げられる。 

 ⑦■■■■■■■■■ 種別;対人宝具 ランク;B+ レンジ;1~3 最大補足 10人

   己の内的魅力に関する様々な逸話が宝具化したもの。そこにいる男性を問答無用で自分に恋させる。ただし強制ではなく、■■■■■■■■■■■■■■■■を持つ者が他にいても効果を発揮しない(いないけど)■■■■■■■■■■■■■■■■者にも効きにくい。(ほぼいないけど)

  ■■■■■■■■■ 種別;対人宝具 ランク;D レンジ;― 最大補足 1個 

 複雑な意匠が織り込まれた絨毯。■■■■■■■■■ことで■■■■■■■■へ■■■■■■ことが出来る

19太陽 未登場

 

20審判 未登場

 

21世界 登場済み

 ①ソロモン王

 ②ヴァン・ピュタレス

 ③筋力E 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運A+ 宝具EX

 ④混沌・中庸

 ⑤古代イスラエルの王。ダビデの息子として生まれた。他の兄弟を倒して王となり、国を繁栄させ、イスラエル神殿を建設した、その知恵を求めて他の国から王や死者が何人も訪ねてきたとされる。しかし、彼の重税と贅沢は国を圧迫し、彼の死後国は分裂していくことになる。

  ある目的の為に当時神に通じる者しか使えなかった魔術を発展させ、民間人でも使えるようにした。その魔術と本人の腕を駆使して指輪を設計し、完成させる。ある日枕元に~の逸話はそれを見た民衆によるもので、本人はそれを嫌っていた。魔術を教えを請いに来た者たちに広め、また自身はそれを使ってハーレムを作るなどして、贅沢に暮らした。

   かなり自分勝手な性格で、自分の事しか考えていない。王という地位にいるのも、それが一番恵まれているからに過ぎないと言い切っている。自分の為なら他人に迷惑をかけることもいとわない。しかし、『自分を慕う者たちが不幸な目に合うのは不快だ』という理由で人々をその知恵で助けたり、魔術を教えたりするあたり、根っからの善人ともいえる。それでもクズ。

   ある日千里眼で遊んでいたときに、並行世界にいた魔術王ソロモンと出会うことになる。お互いに全く相いれなかったため、並行世界を股にかけて争ったものの決着がつかなかった。あまりに世界が書き換えられ続けた結果、最終的に人類史では二人の伝説がごちゃごちゃになって成立してしまっている。それからソロモンは千里眼を封印している。

   聖杯にかける願いは特になく、普通の聖杯戦争なら指輪を身に着けた時点で令呪を振り切って逃げだしてしまう。たとえマスターが魔力供給を絶っても指輪の魔力で現界し続け、現世を大いに楽しむことだろう。

 ⑥召喚術:EX 72柱の魔神を召喚したとされる彼の召喚術は人類史上類を見ないレベルである。

  高速詠唱:A- 魔術の詠唱を高速化するスキル。通常なら一人前の魔術師でも一分はかかる大魔術を半分の三十秒で使用できる。

   実のところ、魔術の腕で彼に勝る魔術師は人類史上何人も存在する。彼が圧倒的な優位性を持つのは、あくまで宝具によるものである。それに対して彼は、『別に開発者が一位である必要はないだろう』 と割り切っている。

  陣地作成:ー 指輪を身に着けている限り、彼がいる場所は常に神殿となるため、必要ないスキル。

  道具作成:E(EX) 指輪を作るなど神域に達するほどの技術を持つが、本人が『これ以上の物は作れないので意味がない』と考えて使わないため、大幅にランクダウンしている。

   対魔力:EX(E) 指輪によるもの。本人はほとんどない。

   千里眼:E(EX) 過去や未来、並行世界をも見ることが出来るが、本人が一度嫌な目に遭ってから絶対に使わないと決めているため、大幅にランクダウンしている。

   万能の頭脳:A 本人の高い頭脳を表すスキル。カリスマ・軍略などのスキルを、ランクが二段階下がった状態で取得できる。頭脳面でしか取れず、皇帝特権の下位互換。

 ⑦■■■■■ ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:5人

叡智を象徴する宝具。■■■■■■■■■■■■盾を召喚し、相手の攻撃を受け止める。盾は■■■■■を持つが、■■■■■は無きに等しい。質より量で勝負するタイプ。大盾が200、小盾が300の量を誇る。

  精霊王の指輪(ソロモンリング) ランクA+~EX 種別:対因宝具 レンジ:1~99 最大補足:制限なし

言わずと知れたソロモン王の指輪。普段は真鍮の部分を使い、■■■■■を召喚して■■■■■■■■■■戦う。召喚された■■は■■された後も行動し、5体で英霊一体分に相当する。詠唱と真名解放をすることによって指輪は回転し、鉄の部分が上になる。そこから■■■■■■■を召喚することが出来る。

  ■■と言っても、記述に残る■■ではなく、■■■■■■■が■■■■■■■■■■ことによって■■■へと■■■■■■を■■させるものが、後生に、その恐怖と力によって■■と呼ばれるようになったもの。あくまで使役ではなく、召喚であるため彼ら1柱1柱が高い知能と自我を持ち、ソロモンに対しては友として接する。1柱1柱が竜王ファフニールや炎蛇ティフォンに匹敵する実力を持つ。

さらに、その指輪を身に着けたものがいる場所を常に持ち主の神殿とする。そのため、指輪を身に着けたものは常に魔法クラスの魔術を使うことが出来る。

  他にも、高い対魔力を付与したり、■■■■■■でも■■■■■■■■■■■を生成するなど多彩な機能を持つ。

  身に着けると、ソロモン自身の魔術回路とほぼ同化してしまうため、指輪が破壊されるとソロモン自身も死亡する。引き剥がされただけでも、ソロモン自身が再び身に着けるまで回避・回復不能の固定ダメージが入る。

  また、その宝具の性質上、使った直後から使用者はアラヤ・ガイアの抑止力両方に敵対することとなる。

   その威力のわりに名前がシンプルなのは、ソロモンが『必殺技の名前は簡単な方がいい』と考えているためである。

 

 




 


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