少女は命を結ぶ (合縁奇縁)
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少年少女は箱庭を訪れる

皆様初めまして。合縁奇縁と申します。今回は投稿者ではなく作者としての挨拶。
投稿するときより緊張はなかった! 推測するに他人の作品を預かるということに緊張していた模様。初めて書くので至らぬ点は多々あるだろうが、ご愛嬌と言うことで此処は一つお願い。あ、指摘されたら善処はするよ? 本当だよ、ボクウソツカナイ。


 箱庭の上空。高度にして四千。そこに四つの人影が見える。

 ある者は哄笑をあげ、またある者は無表情に眼下を眺め、またある者はその状況に目を見開いて落ちていく。彼らに命綱やパラシュートなどは見当たらない。バンジージャンプでさえそんな高くから飛び降りないというところに四人はいるのに、その高さに対する備えはない。

 このまま落ちれば命はない。しかし取れる手段など普通はない。……そう普通ならばない。だが、この世界は普通ではなかった。魑魅魍魎、修羅神仏などの人外魔境が集う箱庭。

 落下地点に用意された緩衝材のような水膜を幾重も通って湖に投げ出される。

「え?」

 その水膜のおかげで四人全員が無時だった。だが、落とされた地点が湖、更に見知らぬ場所ということが致命的な状況を招く人物がいた。包帯で瞳を覆った少女。その少女にはそれが湖なのか、大海なのか、はたまた川なのか判断する手段がない。少女に分かるのは水場ということだけだ。

 瞳を閉じた少女は器用に立ち泳ぎをするがどちらに進めばいいのかが分からない。

「こっちよ」

「あ、ありがとう」

 そんな少女を見かねたのか一緒に落ちてきた人物が手を引いてくれる。

「此処……どこだろう?」

「さあな、まあ、世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 他の二人である金髪の少年と三毛猫を抱いた少女は先に湖から抜け出しているようで現状の把握をしようとしている。しかし何も分かることはない。何せ四人全員にとって此処は知らない土地、更に言うならば知らない世界なのだ。なにせ箱庭と呼ばれるこの世界は、彼らがいた世界とは異なる世界、いわゆる異世界なのだ。異世界の存在を知らなかった彼らに分かることがあるはずもない。

「とりあえず同じ境遇にあることだし自己紹介でもしましょう」

 湖で少女を助けた人物が提案する。それに反対意見は無いようで頷く。

 提案者と言うことで正装らしき服装をした少女が名乗る。

「私は久遠飛鳥よ。それでそこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「春日部耀」

 スリーブレスのジャケットとショートパンツの耀が飛鳥に促されて名乗る。

「そう、よろしく。次に貴女は?」

 湖から岸辺まで案内するためにつないでいた手をちょいちょいと引っ張ることで瞳を隠している少女を促す。

「……初見(はつみ)命結(みゆ)です」

 少しおどおどとした様子で名乗る。名前を言った時に体が強張り、手に力がこもる。手を繋いでいた飛鳥だけはそれに気付いたが何も言わない。

 格好としては白いワンピースというラフなもの。しかし目を引くのはその瞳を隠している包帯。飛鳥達は気になることであったが敢えて聞かない。

「それで、貴方は?」

 残る学ラン姿の金髪の少年に飛鳥は視線を向ける。

「どうも逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ、お嬢様」

「取扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけ」

 心からケラケラと笑う逆廻十六夜。傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。我関せず無関心を装う春日部耀。この状況に怯えきっている初見命結。

 十六夜は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげて確認をする。

「まず間違いないだろうが一応確認しておくぞ。お嬢様達にもあの手紙が?」

 飛鳥と耀が頷く中、一人手紙に心当たりがない命結は戸惑う。命結は飛鳥の手を軽く引っ張る。

「手紙って何のことですか?」

 そう言われて十六夜達は気付く。確かに手紙は不思議な届き方をした。不自然な軌道を描き鞄に入ったり、誰も密室の空間に投書されていたり、空から降ってきたりと不思議だった。だが勝手に内容を読み上げることはなかったし、点字であったということもない。瞳を包帯で隠してしまっている命結には手紙を確認する術がないのだ。

「あの手紙は勝手に人を此処に連れてくる?」

 耀の可能性の提示に十六夜は首を横に振る。

「それはあり得ない。内容も読むことを前提としていただろ」

 手紙は十六夜達に問いかけるような内容であった。それは読まれることを前提としており、勝手に連れてくるのであれば必要のないことだ。それに加えて十六夜は手紙が届いてすぐに開いたわけではない。暫く時間をおいて読んだのだ。手紙が勝手に開き、命結を此処に連れてくるとは思えない。

「あ、あの、その手紙の内容を教えてくれませんか?」

 命結の問いかけに代表して飛鳥が手紙の内容を教える。

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己が家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの箱庭に来られたし』

「心当たりはない?」

「……ない、です」

 命結は本当に聞き覚えが無いか記憶を漁るがない。それは命結がイレギュラーだと示していた。彼女だけは招待されていない、もしくは招待のされ方が違う。

 その事実に命結は顔を青ざめさせる。彼女は自分が置かれている状況を見ることも出来ない。そんな中で自分だけが違うという事実は死に直結する可能性がある。

「安心しなさい。見捨てるなんてしないわよ」

 そんな命結を励ますように飛鳥が繋いでいる手を強く握る。命結はその手に縋りつくように握り返す。

 まるで母鳥になった気分だと飛鳥は苦笑する。

「……どうするの?」

「俺達で考えても仕方ない。招待したやつを問い詰めるとするか」

 頭を振り絞っても無い知識は出てこない。手掛かりもないのだから推測も出来ない。ただ一つ彼らに分かっていることは自分達を招待した何者かがいること。

「招待した人物がこの近くにいるのですか?」

 十六夜達は頷くことで答える。しかしその動作は尋ねた命結には伝わらない。代わりに命結の三人は草陰から自分達を伺っている存在に気付いていると分かる。一人分かっていない命結は首を傾げたままだ。

「へぇ、お前達も気付いていたのか?」

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 耀の答えに十六夜は興味を持ったように目を細める。風上に立たれて分かるということは、風で運ばれる何かを調べることが出来るということだ。しかし普通の人では到底できない。手紙にあったように手紙で呼び出された三人は才能(ギフト)がある。そう普通ではないのだ。

 十六夜が目を細めて耀に問いかけるようとする。だがそれよりも先に飛鳥が呆れたようにため息をつく。

「それ以前にあれは隠れていると言えないのではなくて?」

 草陰から覗くウサギの耳。飛鳥達が何かを言うたびにピクピクと動くその耳は。飛鳥達の様子を伺っている証拠だ。

「まあ、出てこないなら仕方ないよな」

 耀から視線を外した十六夜は地面を見渡し、手頃な小石を手に取る。小石であれば当たり所が悪くなければ怪我こそしても惨事にはならないだろう。

「出てこないなら当てるぞ?」

 これもまた普通の人であれば、だ。十六夜が軽い動作で投げた石は銃弾なんか比べものにならない速度で隠れている者の真横を通過する。そのまま石は隠れていた者の後ろに小さなクレーターを生み出す。

「……出てこないね」

「……出てこないわね」

 正確には出てこないのではなく、急に真横を通過した凶弾に顔を青ざめさせているのだが、不幸なことに見えているのは耳だけ。十六夜達の位置からは確認できない。

「次は当てるか」

「ちょ!? ちょっとお待ちを!?」

 十六夜が次の石を手に取ろうとしているのを見て、隠れていた者は慌てて飛び出す。

「殺す気ですか!?」

「峰打ちだ。問題ない」

「あの速度には峰打ちなんて関係ないのですよ! それに投石に峰があるはずないでしょう!」

 だが、十六夜はその者の言葉で止まることなく、石を拾う。そして再度真横を通過させてやろうと考え、隠れていた者を見る。

「ヤハハ、随分と変わった格好だな」

「十六夜、人の趣味を笑ったら駄目」

 隠れていた者は、ウサ耳をしたバニーガールの格好の女性だった。それを見て十六夜は哄笑する。耀がそれを窘めるが口元がにやけていることから悪ふざけであることは明白だった。

「これは私の趣味ではないのですよ!」

「その趣味は理解出来ないわ」

「私も着ようとは思わない」

「目の保養にはなるぞ」

 否定するが彼らは聞く耳を持たず、悪ふざけを始める。命結だけはその姿を確認できず、会話だけを聞いて首を傾げている。

「変態さんですか?」

 命結は素直に思ったことを尋ねる。そこに悪意は一切なくふざけているわけでもなかった。その分、女性の心に突き刺さる。

「ち、違うのですよ!!」

 女性は項垂れるが、それを十六夜達は許すような人物ではなかった。項垂れる女性に耀は忍び寄りそのウサ耳を根っこから鷲掴み、

「えいっ!」

「フギャ!」

 力いっぱい引っ張った。

「ちょ!? 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」

「好奇心のなせる業」

「自由にも程があります!」

 耀に対して喚く黒ウサギだがその耳に背後から新たな手が伸びる。耳を掴まれることで女性、黒ウサギは顔を引き攣らせながら手を伸ばした人物、十六夜の表情を伺う。軽薄な笑みを浮かべた十六夜を見て黒ウサギは冷や汗を流す。

「ま、まさかそんなことしませんよね?」

「そのまさかだ!」

 十六夜は容赦なくその耳を引っ張る。

 彼らは理由もなくこういうことをしているわけではない。遥か空高くに投げ出されて、湖に突き落とされた。そのことに憤りを覚えているのだ。しかし、最大の要因は彼らが問題児だということかもしれない。耀の言った好奇心と言うのは嘘ではないのだ。

 だが引っ張られる黒ウサギはたまったものではない。その痛みに声にならない絶叫をあげる。

「!?」

 それに反応したのは命結だった。視界が無い命結にとって音はとても大切なものだ。彼女は目を覆っている代わりに他の器官を研ぎ澄ませている。そこに黒ウサギの絶叫が届く。

 音の暴力ともとれるそれに命結は繋いでもらっていた飛鳥の手を離し、耳を押さえて蹲る。

「ふむ、思ったより頑丈だな」

「だからって引っ張らないで下さい!」

 黒ウサギの懇願を無視して十六夜は黒ウサギの耳を弄ぶ。

「十六夜君と貴女、ちょっといいかしら?」

 十六夜と黒ウサギの二人に能面のような顔をした飛鳥が問いかける。

「は、はい」

「お、おう」

 その表情を見た十六夜と黒ウサギは姿勢を正す。

「まず命結さんを見て何か言うことはないかしら?」

「「へ?」」

 二人は飛鳥に言われて耳を押さえて蹲る命結の姿を認識する。

「何か言いたいことはあるかしら?」

「あ~、すまん」

「わ、悪かったのですよ……」

 流石に十六夜もその様子を見て反省する。黒ウサギに関して言えば被害者なのだが、謝りたくなるような光景だった。

「さて、落ち着いたところで説明して貰おうかしら」

「そうだね」

 最初に黒ウサギの耳に攻撃を行った耀は何事もなかったように飛鳥に続く。それを見て黒ウサギは何かを言おうとして堪える。折角向こうから聞いてくれているのに、蒸し返すようなことをしてしまえば何時間かかるか分からないと判断したのだ。

「まず質問なのだけど、私達を招待したのは貴女なのよね?」

「YES。黒ウサギ達が招待しました」

「なら一応口上だけでも聞いておくか」

 黒ウサギが頷いたので十六夜達は聞く態勢に入る。ただ気に食わなければすぐに立ち去ると決めているため、座り込むようなことはしない。

「それでは、御四人様、定例文で言いますよ。ようこそ、“箱庭の世界”へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」

 何故、三人しか招待していないのに四人いるのか、全員がギフトを持っているのか、同時刻に最後の一人を招待したのは誰なのか、そして彼らは戦力足り得るのか。

 黒ウサギはそのような疑問を全て頭の隅に押しやり、説明を始めた。

 




まぁ初めての作品だし、粗はたくさんあると思う。だからと言って放置なんてしたくない。だから活動報告で意見を書くところを用意します。お前の作品なんか何を言っても無駄だ、なんて言わずに何か言ってください。
次回は……うん、今月中にはなんとかするよ。多分。
誰かが読んでくれると祈りながら投稿!


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箱庭と言う世界

今月中に投稿できた!
やる気が上がる出来事が多かった……。
……前書きに書くことがない。


 黒ウサギは箱庭での基本的なことを説明する。

 ギフトゲームについて。様々なものから与えられた恩恵、ギフトを使い競い合うゲーム。そして勝者が商品を手にし、敗者はチップを失う。その際命が危険にさらされることもある。

 コミュニティについて。生活を共にする集団のようなものだ。異世界から呼び出されたギフト保持者は数多あるコミュニティに必ず属さなければいけない。

 ギフトゲームは箱庭において法のようなものだ。強盗や窃盗は箱庭の法で禁止されている。

 口頭で黒ウサギは説明するが、世界のことだ。とても話しきることなんて出来ない。そこで黒ウサギは提案する。

「皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭におけるすべての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。ここから先は我らのコミュニティでお話させて頂きたいのですが……よろしいです?」

「待てよ」

「待ってください」

 黒ウサギの提案に待ったをかけた人物は二人。一人は十六夜。そしてもう一人は命結。

 十六夜は仕草で命結に先を促すが、命結は何も言わない。命結にはその仕草が見えていないのだから先を譲られていることに気付けない。

「十六夜君、命結さんには言葉にしないと伝わらないわよ」

 それを見かねた飛鳥が口を挟むことで、十六夜は自分の失態に気付く。

「ヤハハ、すまん。初見から先に言っていいぞ」

「あ、有難う御座います」

 命結は声がしたで方向に頭を下げる。自分にはよく分からない身振りの行動だが、感謝を示すのに適した行動だと知っていたためだ。

「黒ウサギさんは召喚を依頼したと言っていましたが、それには私も含まれますか?」

 恐らく違うと分かっていても尋ねずにはいられない質問。

 黒ウサギは考え込む。黒ウサギは召喚を依頼しただけであり、詳細な内容を知らされていない。分かっているのは彼らが人類最高クラスのギフト保持者ということ。それも黒ウサギはリップサービスだと思っている。

 要するに黒ウサギが召喚に関して分かることは殆どない。三人を召喚する時に他人を巻き込む可能性がないとは言い切れない。

「わ、分からないのですよ」

 そこまで考えた黒ウサギはウサ耳を萎れさせて答える。自分の不手際なのか、それとも別に召喚した者がいるのか。黒ウサギには判断できない。

「分からない?」

「依頼したって言ってたな」

「は、はい」

「誰に依頼したんだ?」

「そ、それは……」

 黒ウサギは言葉を詰まらせる。召喚を依頼した相手は確かに存在する。だが十六夜達が何をするか分からない状態で答えるわけにはいかない。黒ウサギにとっては恩人とも言える相手なのだ。不手際があったとしても、答えることは出来ない。

「答えられないのかしら?」

「す、すいません」

「彼女を元の世界に帰すことは出来ないの?」

「黒ウサギ達には出来ません」

 十六夜達には話していないが黒ウサギのコミュニティはギリギリだ。人によっては終わっているコミュニティと言う程だ。そんな黒ウサギ達が出来ることなど無いに等しい。

「……私は路頭に迷うことになるのですか?」

 黒ウサギが見ず知らずの命結に構う理由はない。それは命結にとって絶望的な状況だった。黒ウサギはゲームの参加する資格をくれると言ったが、命結が参加できるゲームは一体いくつあるだろうか。彼女が一人で生きるのは厳しい世界だ。

「そ、そんなことはしません! 黒ウサギ達の不手際の可能性がある以上、黒ウサギ達が出来る限りのことはします」

 黒ウサギは周りの反応を伺うため耳を立てる。もし命結を召喚した者が他にいるのだとしたら、傍にいるはずで、黒ウサギがコミュニティに迎えると言ったなら何かしら反応すると思ったためだ。

(反応はないですね。ということはやはり黒ウサギ達の不手際なのでしょうか? ですが、そんな怪しいものをあの方が使うでしょうか?)

 異世界から召喚する。それは黒ウサギ達にとって一世一代の賭けとも言えるものだ。だからこそ信頼できる相手に頼んでいる。不手際があるなど信じられなかった。それでも、目の前に命結がいるという結果がある。そして周りに黒ウサギ達以外いない。

 黒ウサギと同時刻に召喚をして、黒ウサギ達が不手際と考えると予測する。それは不可能だと黒ウサギは判断する。

「なら、俺の質問いいか?」

「YES」

 黒ウサギは目下の問題がとりあえず解決したことに安堵して気楽な気持ちで最初は十六夜に返事をした。

 だが、それは十六夜を見て考えを改めさせられる。十六夜は召喚されてずっと軽薄な笑みを浮かべていた。だが現在の十六夜は真剣な目をしていた。

「……どういった質問です? ルールでしょうか? それともゲームそのものですか?」

 十六夜の雰囲気に威圧されて、身構えてしまう。

「そんなのは()()()()()()。世界のルールを変えるのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは……たった一つ。手紙に書いてあったことだけだ」

 十六夜は視線を黒ウサギから外し、周りを見渡し、巨大な天幕によって覆われた都市に視線を向ける。

 彼は何もかも見下すような視線で一言だけ問う。

「此の世界は面白いか?」

 彼らがここに来る際に支払った代償。家族を、友人を、財産を、元の世界のありとあらゆるものを捨てて箱庭と言う異世界の大地を踏んでいるのだ。命結とは違い、彼らは覚悟を決めてやってきた。その価値がこの世界に本当にあるのか。十六夜達には最も重要なことだった。

 十六夜はずっとこの世界を見極めることに必死なのだ。そのための情報を必死に集めているのだ。

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界よりも格段に面白いと、黒ウサギは保証します」

 十六夜は黒ウサギの回答にひとまず頷くのだった。

 

 

 場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリドット通り・噴水前広場。

 箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で戯れていた子供達がいた。しかし、わいわいと騒いでいたのは少し前までだった。今はジン一人が訪れた青年と対峙していた。

「……僕達に何のようですか?」

 ダボダボのローブに跳ねた髪が特徴的な少年は警戒しています、と表現するように言葉を発する。

「そう警戒しないでくれたまえ、ジン・ラッセル」

 少年、ジンは自分の名前をいい当てられたことに驚く。かつてのジンのコミュニティだったら名前を知られていてもおかしくはなかった。だが、現在のコミュニティはある理由で衰退している。そのため自分達を知っている者など、近くで生活をしている者だけであるはずだ。

 しかし、目の前でジンの名前を言った人物にジンは心当たりがない。

 杖のような、剣のようなものを持っている青年はにこやかにほほ笑む。敵意が無いと言うかのようだった。

「私の名前はホーエンハイム。少しお願いがあってきたんだ」

 ホーエンハイムと名乗った青年は懐から何かを取り出す。

「これで引き受けてくれないかい?」

 ホーエンハイムが取り出したのは大きな金塊。だがジンはそれを信用しない。金に見えるものはある。例えば、真鍮。今はコミュニティのリーダーと言う立場だがかつては金庫番だったジンはその可能性に気付いていた。

「ああ、警戒しなくても大丈夫だよ。サウザントアイズの鑑定書もつけよう」

 サウザントアイズとは大きな群体コミュニティ。その鑑定書があるならまず本物だ。その鑑定書が偽物であった場合、ホーエンハイムがサウザントアイズの制裁を受けることになるだろう。サウザントアイズは力のあるコミュニティのため、そんな危険を冒す可能性は極めて低い。

「……頼み事とは何ですか?」

 普通なら聞くことさえしない提案。しかしジン達の状況は手段を選べるような状態ではない。いつコミュニティを消滅させなければいけなくなるかも分からない状態なのだ。

「簡単なことさ。これから来る異世界から来た者を無条件で受け入れること。ああ、性格とかに難があると思ったらコミュニティを脱退させてもいいけれど、害が無ければ追放しない事。それだけだよ」

「……え?」

 ジンは呆気にとられる。自分たちが召喚を依頼したということを知っている者はいる。だから異世界から来た者と言う言葉におかしなところはない。しかしホーエンハイムの提案が、あまりにも簡単すぎるのだ。金塊という報酬と釣り合わない。

「何が目的ですか?」

「目的は確かにあるけれど、それが不利益となることはないということは保証しよう」

「……信じられると思いますか?」

「信じられないだろうね。それでも君は受け入れる」

 ホーエンハイムは確信しているかのように言葉を発する。そしてそれは悔しいことに事実であった。何せジンは異世界から呼び出したのは彼らをコミュニティに引き込むためなのだ。それで金塊も貰えるというこの条件を蹴る理由がなかった。

「……分かりました、引き受けます」

 ジンは知らなかった。本来呼び出す予定だった三人ではなく、四人目が紛れ込んでいるということを知らなかった。また、目の前の男にとって金塊の価値が皆無であるということも、知らなかったのだ。

「そうか、では待ち人も着たようだし私はこれで御暇させていただくよ」

 ホーエンハイムは箱庭の中に戻っていく。それと入れ替わるように黒ウサギの声が聞こえる。

「ジン坊ちゃ~ん! 新しい方を連れてきましたよ~!」

 外門前の街道から黒ウサギが女性三人を連れてきているところだった。そのうちの一人は歩いているのではなく、背負われている。

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性三人が?」

 包帯で目の部分を覆った命結に驚くが、それを表情に出さない。ホーエンハイムが受け入れるように提案したのは命結のためであると推測する。

 一人足りないが、ジンは四人目と言うイレギュラーを知らない。

「はいな、こちらの御四方が……」

 くるりと黒ウサギは振り向いて固まる。

 此処に到着してようやく一人足りないという事実に気付いた。

「……え? あれ? もう一人の殿方は?」

「十六夜君のこと? 彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ』と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 飛鳥が指差すのは上空四千メートルから確認できた断崖絶壁があった方角。

 新たな同士を呼ぶことに成功して浮かれていた黒ウサギは十六夜がいなくなったことに気付いていなかった。

「な、何で止めてくれなかったんですか!」

「『止めてくれるなよ』と言われたもの」

「なら、どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!」

「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」

「嘘です、実は面倒くさかっただけでしょう!」

「「うん」」

 飛鳥と耀は二人揃って頷く。黒ウサギは最後の希望と耀に背負われた命結に顔を向ける。

「……命結さんはどうして教えてくれなかったのですか?」

「えっと、気付いていなかったのですか?」

 飛鳥達の話で世界の果てに行ってくると言ったところまでは事実だった。その声を命結は聞いている。だが、黒ウサギが浮かれていて気付いていないとは思ってもいなかった。

「う! き、気付いていなかったのですよ……」

 痛いところをつかれて、黒ウサギは前のめりに倒れる。

 黒ウサギはようやく十六夜がとんでもない問題児であるということに気付く。

 そんな黒ウサギとは対照的にジンは顔を蒼白にさせて叫んだ。

「た、大変です。世界の果てにはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」

「幻獣?」

 ジンの発した聞きなれない言葉、幻獣に耀が食いつくように問いかける。

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー? …………斬新?」

「冗談を言っている場合ではありません!」

 ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は肩をすくめるだけである。

「えっと、息があれば私が何とかできますよ」

「「「「……え?」」」」

 命結の言葉に四人は一斉に驚いた顔をする。助け舟のつもりで出した命結の言葉はとても奇妙なものだった。彼女が何故耀に背負われているのか。目が見えない状態だからだ。そんな彼女に出来ることがあるとは思ってもいなかったのだ。

「……私にも異才(ギフト)はありますよ」

 少し拗ねた様子の命結。

「と、とりあえず、黒ウサギはその一人を連れ戻してください」

 話を変えるためにジンは黒ウサギに指示を出す。

「分かりました。問題児を捕まえて参ります。事のついでに“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 黒ウサギの艶のある黒髪は淡い緋色に染まる。

「一刻程で戻ります。皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能下さいませ」

 黒ウサギは緋色の髪を戦慄かせ、全力で跳躍をして弾丸のように飛び去った。

「箱庭の兎は随分速く跳べるのね」

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

 そう、と飛鳥は空返事をする。飛鳥の興味は別にあった。天幕に覆われた都市、箱庭。黒ウサギが面白いと保証した都市。そこに釘づけだった。

「黒ウサギもご堪能下さいと言っていたし、お言葉に甘えて箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がして下さるのかしら?」

「あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン・ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。お三人の名前は?」

「久遠飛鳥よ。そしてそこで猫を抱えているのが」

「春日部耀、私が背負っているのが」

「初見命結です。よろしくお願いします」

 礼儀正しく自己紹介をするジンに倣って、飛鳥は一礼をする。耀は命結を背負っているため、命結は耀に背負われているため一礼が出来なかった。

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事をしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 飛鳥は期待に胸を膨らませ、笑顔で箱庭の外門をくぐった。

 




今回は説明回。伏線も入れているけど説明回と言ったら説明回!
ホーエンハイム。どこかの作品で聞いたことがある名前だけど、気にしたら駄目だよ。別と言う程乖離してはいない気がするけど、別人だし。伝承に詳しい人なら言いたいことは分かってくれるはず! 恐らく。
次はうん、今月中に書けるといいな。


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