バカとテストと召喚獣と…… (SSSS)
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プロローグ

さて、始まりました『バカとテストと召喚獣と……』!
ハーレムにしようか一筋にしようか迷っている状態ですが良い作品になるように頑張ります。
また、『ハイスクールD×D』の新作も近い内に投稿するのでそちらもお楽しみに!
(お前の近い内って言うのはいつだ?と言うツッコミはお願いですからやめてください)


この日本は四季がある国である。

 

『春夏秋冬』

 

この四つがこの国の季節だ。

そして今の季節は春。

春に咲く花はアネモネ、ウメ、カーネーション……

数えだすときりがない。

そんな様々な種類の花達とは一線を画すのが桜だろう。

桜の花は日本では鑑賞用途としては他の植物に比べ、特別な地位にある。

果実を食用とするほか、花や葉の塩漬けも食品などに利用される。

日本国外においては、一般的に果樹としての役割のほうが重視された。

日本では平安時代の国風文化の影響以降、桜は花の代名詞のようになり、もはや桜の花の下の宴会の花見は風物詩であり、花を愛でる程雅な人間でなくともその眺めには誰もが心を奪われるだろう。そんな桜が美しく咲き誇る坂道を一組の男女が歩いていた。

 

「だから、悪かったって言ってるじゃないか……許してよ、真理」

 

そう言って少年―――吉井明久は頬を膨らませながら隣を歩く少女―――雨宮真理に謝罪した。二人は交際関係にあり、明久は両親と姉が海外に滞在している関係上、真理の家に住んでいるのだが……今朝、真理は彼女が居る男にとって見つけてはならない物を見つけてしまったのである。それは、己の欲望を高める為の男の聖書である。

そう、俗に言うエロ本だ。それもかなり際どい内容の。

それを見つけた真理は大激怒し『私よりもこんな本の女の方が良いの!?』とか『こういうことがしたいんだったら言ってくれればしたよ!』等と詰め寄り、不機嫌なまま家を出て、今に至る。

 

「許してあげない……私が居るのにあんな本持ってたなんて……」

 

「だからね?あれは違うんだよ。押し付けられたんだって」

 

実際明久の言う通り、明久の持っていた本は押し付けられた物だ。

押し付けた犯人は何と真理の父親―――雨宮茂である。それを打ち明ければ全て済むことなのかもしれないが、明久は真理の父親から大きな恩を受けている。真実を打ち明けることは茂の名誉を著しく貶めることであり、恩を仇で返すことになりかねない。

そんなことは明久の信条が許さなかった。

だが、このままでは愛おしい恋人の機嫌を治せない。

以前彼女の機嫌が芳しくないまま放っておいたら大変な目に遭った。

その日、明久はいつもと同じように自分の部屋で真理と共に眠りについた。

そして、目覚ましの音で目が覚めると、何と明久は縄で縛られていたのだ。

犯人は勿論、明久の愛おしい恋人である雨宮真理である。

明久が何故こんなことをするのかと尋ねると真理は可愛らしく微笑みこう答えたのである。

 

『オ・シ・オ・キ・♪』

 

その後明久が何をされたのかは明久の名誉の為に伏せる。

敢えて言うのであれば明久は真理にナニをされた。

 

「真理、今度何でも言うこと聞くから機嫌治してよ」

 

前回の二の舞になる訳にはいかない。

その思いで明久は絶対の切り札を切った。

正直この切り札を切ると何が起こるか分からないが機嫌が治らないよりはマシだ。

 

「ホントに!?」

 

勢いよく明久の方に振り向きそう尋ねる真理。

彼女の目はキラキラと星のように輝いていた。

 

―――何だか後で大変なことを頼まれそうな気が……

 

心の中でそんなことを考えた明久であったがもう何を言っても手遅れである。

真理は先程までよりも軽い足取りで明久よりも先を歩いている。

明久はため息を一つ吐き愛おしい彼女に置いていかれないように速足で歩きだした。

 

 

「おはよう、吉井、雨宮」

 

学園の玄関の前で二人はドスのきいた声に呼び止められた。

声のした方を見るとそこには浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。

 

「「おはようございます、西村先生」」

 

声の主は西村宗一。

この学園の生活主任で、トライアスロンを趣味にしていることから二人が通っている学園―――文月学園の生徒から『鉄人』などと呼ばれている。

優等生である二人はそんな渾名で呼んでいないが。

 

「二人の封筒は……これだな。ほら、受け取れ」

 

西村教諭が箱から封筒を取り出し二人に差し出す。

それを明久が二つとも受け取り、真理の分を真理に渡す。

 

「しかし、雨宮。残念だったな。お前なら試験をきちんと受ければAクラスを狙えただろうに」

 

文月学園にはクラスがAクラスからFクラスまであり、二年生以上はAから順に振り分け試験の成績でクラスが決まっていく。真理は試験当日に風邪を引いてしまい試験が受けられなかった為無得点扱いになり、Fクラスに振り分けられることが決まっていた。

 

「しょうがないですよ。おじいさまも『体調管理も実力の内だ』って言ってましたし」

 

「………」

 

真理の言葉を聞きながら無言で封筒の上の部分を破く明久。

実は真理が風邪を引いたのは明久の所為でもあるのだ。

昨夜、明久は真理の実家で行われていた真理の父親の誕生会に出席していた。

誕生会はかなり盛り上がり普段真面目な明久も酒を飲んだ。

その結果悪酔いしてしまい寝床で真理を襲ってしまったのだ。

その後、明久と真理は何も衣服を纏わず、布団もかけずに就寝。

普段から体を鍛えている明久は兎も角、常人の真理は風邪を引いてしまったのだ。

 

「そうか……ところで吉井、お前は何故試験を休んだ?」

 

「先生、僕は恋人が風邪を引いているのに放っておける程薄情ではないんですよ」

 

試験当日、真理が風邪を引いたと知った明久は自分の所為で真理が風邪を引いたのは自分の所為だと自己嫌悪感を抱き真理の看病をしていたのだ。

勿論、看病をしていた一番の理由は真理が風邪を引いていて心配したからだと明久の名誉の為に記述しておく。

 

「やれやれ……お前はCクラス位なら余裕で行けるレベルだと言うのに……」

 

「良いじゃないですか、それに僕は嬉しいんですよ」

 

「嬉しい?何故だ?雨宮と同じクラスだからか?」

 

明久の言葉に訝しむ様子を見せる西村教諭。

Fクラスの扱いがかなり酷いことは明久も知っている筈だ。

いくら恋人と一緒のクラスとは言え喜んでいくような場所ではない。

それなのに嬉しいとは一体どういう意味なのだろうか?

 

「それもありますけどね。多分、Fクラスには雄二達が居ますから」

 

そう言って獰猛な笑みを浮かべる明久。

その笑みはまるで獲物を狙う肉食動物の様な笑み。

 

「……何をする気だ?」

 

「別に何もしませんよ。ただ、面白い一年にはなるでしょうね。あいつ等が一年間ずっと静かに過ごすなんてことは無いでしょうし」

 

「確かにな……はぁ……今から頭が痛くなってきたぞ……」

 

「ご大事に。それじゃ、『俺』達はもう行きます。ほら、真理。行くぞ」

 

「……はい」

 

明久の獰猛な笑みを見て顔を赤らめた真理を引き連れ明久は自分達のクラス――――Fクラスへと歩き始めた。

 



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キャラ紹介

吉井明久

 

容姿 原作通り

 

学力 Cクラス代表程度

 

得意教科 特になし

 

苦手教科 特になし

 

性格 普段は原作通りだが感情が昂るとかなり猛々しくなる。

 

 

真理の恋人で中学生の頃有名な不良だったが真理の母親に教育され、今はかなりの好青年となっている。かなり強靭な肉体をしており、トラックに轢かれた時に『ちょっとだけ痛かった』で済ませたという伝説がある。

 

 

 

雨宮真理

 

容姿 身長140cm後半(本人曰く)で銀色の髪を肩まで伸ばしている。

   小柄な体型の所為でよく小学生に間違われるが明久は一人の女として見てくれるので全く気にしていない。

 

学力 Aクラス上位レベル

 

得意科目 特になし

 

苦手科目 特になし

 

性格 明久至上主義者

 

 

前述の通り明久至上主義者。明久が幸せになれるのであれば何でもする。

俗にいうヤンデレ。本当は(勿論例外はあるが)明久以外の存在と話すのですら嫌なのだが明久にお願いされて仕方なく話している。それでも最低限の会話しかしない。




一話目の投稿から色々考えた結果この作品はハーレムにすることにしました。

やっぱり明久はモテモテじゃないとね!



自分で言っておきながら大丈夫かなぁ……

原作のキャラが空気になりそうで怖い……

まぁ、頑張ろう!うん!気合いで何とか…………………………………………………………する!

絶対するもん!頑張るもん!




……何とかなった覚えないけど。


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一話 自己紹介

はぁ……書く時間が……




「このばかデカイ教室は何なんだろうね、真理」

 

「高級ホテルのロビーみたいだね、この教室」

 

明久達が去年あまり足を踏み入れなかった三階に足を踏み入れると、通常の五倍はあろうかという教室が明久達を出迎えた。

 

『皆さん、進級おめでとうございます。私はこの二年A組の担任、高橋洋子です。一年間よろしくお願いします』

 

足を止めて、大きめの窓から中を覗いてみる。

大画面のプラズマディスプレイの前に髪を後ろにまとめ、メガネをかけてスーツをきっちり着こなした知的女性代表の様な教師が居た。

 

「ノートパソコンに冷蔵庫、リクライニングシート、天井は総ガラス製でありながらスイッチで開閉可能と……どこからお金を出したんだろう……?」

 

「ここって本当に学校なのかな?実はホテルなんじゃない?」

 

Aクラスの教室を見渡して改めて感想を言う二人。

ここが国立ならば少しは分かるのだが確かここは私立だったはず……

そんなことを考えていると、Aクラス教室の時計が見えた。

短針が8、長針が4を指している。

つまり、今は8:20分。

HRの始まりはクラス毎に違っていて、確かFクラスは8;30からだった筈。

後五分はここに居ても遅刻しないだろうがもしものこともある。

 

「真理、そろそろ行こうか?」

 

「うん、分かった」

 

明久の言葉にそう返事をして真理は明久の右腕に自分の腕を絡める。

その行為に明久は眉を顰めるが、すぐに諦めたかのようにため息を一つ吐く。

学校ではこういう行為を自重して欲しいのだが注意できない。

注意すると真理は捨てられた子犬の様な顔をするのだ。

そんな顔をされたら明久に注意ができる訳がない。

明久は真理と腕を組んだまま歩き始めた。

 

 

Fクラス教室前

 

 

「ここは教室……なのかな?」

 

「まるで山小屋だね……」

 

Fクラスの教室の前まで来たけど……Fクラスの教室は真理の言う通りまるで山小屋の様だった。Aクラスとは違う意味で通常の教室とはかけ離れている。

 

「ま、まぁ、一応入ってみようか」

 

「そ、そうだね、中はまだマシかもしれないしね!」

 

前向きに考えながら明久は扉を開ける。

そして、挨拶を―――

 

「おはようg『早く入れ蛆y『死ねや、ボケがぁぁっ!』は?ぐはぁっ!』……」

 

ごく簡単に今起こったことを説明しよう。

明久は扉を開き、挨拶をしようとした。

すると、教壇に居た生徒―――これを生徒Aとする―――が窓側から三列目の一番後ろに座っていた生徒―――これを生徒Bとする―――に殴り飛ばされた。明久と真理はあまりのことに呆然と我を忘れたが、生徒Bが生徒Aに向けて拳を振りかぶったところで明久はすぐに我に返った

 

「た、達哉!落ち着いて!ほら、拳を下ろして!僕は気にしてないから!」

 

慌てて明久が生徒Aと生徒Bの間に入る。

生徒Bはすぐに拳を下ろしたがまだ殺気の籠もった眼で生徒Aを睨んでいる。

 

「だけど吉井さん、こいつ……」

 

「いいから、落ち着いて」

 

「……はい」

 

渋々と言った様子で殺気を霧散させる生徒B。

身長は170cm程。銀の様な白い髪に意志が強く、鋭い瞳に女受けしそうな整った顔。

彼の名は『坂成達哉』。明久に恩がある少年である。

 

「達哉、僕達の席は?」

 

「それは今ってないみたいです。皆勝手に座ってますよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

教室を見渡してみる。

ひび割れた窓、教室の隅にある蜘蛛の巣、古く汚れた座布団、薄汚れた卓袱台等々……

 

「って、机と椅子無いの!?」

 

「ないです」

 

「せめてその二つは用意しようよ……」

 

何かに耐えるかの様にこめかみを抑える明久。

明久程でないにしろ呆れたような表情をしている。

 

「おっと、すいません、挨拶が遅れました。おはようございます、吉井さん、雨宮さん」

 

深々と頭を下げる礼儀正しい挨拶。

達哉がこんな礼儀正しいをするのは明久や真理、真理の家族に対してだけだ。

挨拶をすればまだ良い方。大抵の人間に対しては無視をして、嫌いな人間に対してはいきなり殴りかかるなどをする為、文月学園で知らない者は居ない程の有名人となっている。

 

「うん、おはよう」

 

「おはよう、達哉君」

 

達哉の挨拶に二人がそう返した時だった。

明久達の視界の端に生徒Aが起き上がるのが映った。

 

「くっ……いててて……」

 

殴られた所を抑える生徒A。

身長は180cm強。意志の強そうな野生味たっぷりの顔。

短く、赤い髪の毛がツンツンとたてがみの様に見える。

 

「雄二、大丈夫?」

 

彼の名前は坂本雄二。明久の悪友で、達哉同様文月学園の有名人だ。

 

「死んだ婆ちゃんが見えたぜ……あのクソババア、手招きしやがった……」

 

「あはははは……」

 

雄二の言葉に乾いた笑みを浮かべる明久。

達哉と真理は『……そのまま死ねばよかったのに』などと物騒なことを呟いている。

 

「ところで、何で雄二は教卓に立ってたの?」

 

「あぁ、俺はこのクラスの最高責任者でな。先生が遅れてるそうだから代わりに上がってみたんだ」

 

「それって、雄二がこのクラスの代表ってこと?」

 

「ああ」

 

ニヤリと口の端を吊り上げる雄二。

達哉と真理はかなり嫌そうな顔をしている。

 

「これでこのクラスの全員が俺の兵隊だな」

 

そう言って雄二が踏んぞり返って床に座っているクラスメイト達を見下ろした時だった。

 

「えーと、通してくれますかね?」

 

不意に四人の後ろから聞こえてきた。

そこには寝癖のついた髪にヨレヨレのシャツを貧相な体に着た、いかにも冴えない風体の中年男性が立っていた。

 

「それと席に着いてもらえますか?HRを始めますので」

 

学生服も着ていない上にどう足掻いても十代には見えない。

どうやらこのクラスの担任の様だ。

 

「はい、分かりました」

 

「分かりました」

 

「うーっす」

 

明久、真理、雄二は返事をして、達哉は無視をして適当な席に座る。

担任は明久達を待ってからゆっくりと口を開いた。

 

「えーおはようございます。二年F組担任の福原慎です。これから一年よろしくお願いします」

 

福原教諭はそう言って黒板に名前を書こうとして――――やめた。

チョークすら完備されていないらしい。

 

「皆さん全員に座布団と卓袱台は支給されてますか?不備があれば申し出てください」

 

不備だらけである。

こんな設備で勉強させるなど一体この学園の創立者は何を考えているのかと思いたくなる程酷い。

 

「せんせー、俺の座布団に綿が入ってません」

 

「我慢してください」

 

「せんせー、俺の卓袱台の脚が折れてます」

 

「木工用ボンドが支給されてますので直してください」

 

「せんせー、窓が割れてて寒いです」

 

「分かりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を要請しておきます」

 

流石Fクラス。

やはり、酷い。

 

「必要な物があれば極力自分で調達してください」

 

「自給自足かよ……」

 

福原教諭の言葉を聞いてそう呟く達哉。

もう、この扱いは学校としては最低レベルである。

 

「では、自己紹介をしてもらいましょうか。

廊下側の人からよろしくお願いします」

 

福原教諭の指名を受けて廊下側の生徒の一人が立ち上がり自己紹介を始める。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

独特の言葉遣いと小柄な体。肩にかかる程度の髪、まるで女子と間違えそうな顔。

明久達の去年のクラスメイトである。噂では既に何人もの男子生徒に告白されたらしいが、秀吉は女子ではなく男子だ。

 

「……土屋康太」

 

またもや明久達の知り合いだ。

小柄で無口な少年、土屋康太。

一見無害に見えるが実は色々な意味で危険な男子生徒だ。

 

「―――です、海外育ちで日本語は会話はできるけど読み書きが苦手です。趣味は―――」

 

女子の声だ。学力最低クラスともなると女子はほとんど居ないだろうと思っていた明久にとっては軽い驚きだ。

 

「吉井明久を殴ることです☆」

 

「「(ギロッ!)」」

 

「ひっ!」

 

今、達哉と真理に睨まれたのは島田美波。

明久が真理と仲良く話していると様々な技をかけようとする危険な女子生徒だ。

勿論、達哉と真理が黙って見ている訳がなく返り討ちにしている。

 

「坂成達也だ。吉井さん達の邪魔したら半殺し、もしくは殺すから覚悟しろよ」

 

そんな物騒なことを平然と言ってのける達哉。

クラスメイトの何人かが達哉の言葉に恐怖して怯えたような表情を浮かべたが達哉は『そんなこと知らねぇ』と言うように平然とした表情をして座る。

 

「雨宮真理です。明久の恋人です」

 

『『『吉井をころs『テメエ等が死ね!』ぎゃぁぁぁぁっ!』』』

 

真理の言葉を聞いた瞬間クラスメイト達がカッターを構えて明久に向けて投げようとしたが達哉によって阻止された。

何人か腕があり得ない方向に曲がっている者も居るがそれは自業自得だろう。

そんな色々な騒ぎがあったが自己紹介も遂に終盤。

自己紹介の順番が明久に回った。

 

「えっと、吉井明久です。趣味は特にありません。よろしくお願いします」

 

無難な挨拶を終えて座る明久。

 

 

その後もしばらく名前を告げるだけの単調な作業が続き、明久達を睡魔が襲った頃に不意に教室のドアが開き、息を切らせて胸に手を当てている女子生徒が現れた。

 

「あの、遅れて、すいま、せん……」

 

『えっ?』

 

誰からという訳でもなく教室全体から驚いたような声が上がる。

それもそうだろう。何せ入ってきたのはこの学年で五本の指に入る学力を持っている姫路瑞樹だったのだから。

 




今回出てきたオリキャラ紹介

坂成達哉


容姿 銀髪のイケメン

学力 Cクラス程度


得意教科 特になし


苦手教科 特になし


性格 明久や真理の家族に対しては礼儀正しいがそれ以外にはまったく礼儀を尽くさない。


明久が不良だった頃から明久と共に行動している。
明久には恩がある為、真理には明久の恋人だから、真理の家族には明久が敬語で話しているから敬語で話している。


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二話 戦争の引鉄

「丁度良かったです。今自己紹介の最中なので姫路さんお願いします」

 

「は、はい!あの、姫路瑞希と言います。よろしくお願いします」

 

小柄な体を更に縮こめるようにして声を上げる姫路。

「はいっ!質問です!」

 

既に自己紹介を終えた男子生徒の一人が手を挙げる。

 

「あ、はい、何ですか?」

 

教室に入るなり自分に、質問が自分に向けられることを想定していなかった為に驚く姫路。

その仕草は小動物のようで保護欲をかきたてる。

 

「どうしてここに居るんですか?」

 

聞きようによっては失礼な質問だがその疑問は当然。

先程言った通り彼女の学力は学年で五本の指に入る程。

そんな彼女がこんな学力最低クラスに居る訳がない。

 

「そ、その……振り分け試験の途中に高熱で倒れてしまって……」

 

その言葉を聴き、全員が納得した表情になった。

試験途中での退席は無得点扱いになる。

彼女は最後まで振り分け試験を受けられずFクラスになったという訳だ。

そんな姫路の言い訳を聞いてFクラスで言い訳が始まった。

 

『そう言えば、俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』

 

『ああ。化学だろ? アレは難しかったな』

 

『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』

 

『黙れ一人っ子』

 

『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』

 

『今年一番の大嘘をありがとう』

 

流石Fクラス。

言い訳が低レベル過ぎる。

 

「はいはい。そこの人たち、静かにしてくださいね」

 

そう言って福原教諭が教卓を叩くと……

 

バキィッ! バラバラバラ……

 

突如、教卓がゴミ屑と化した。

 

「代えを用意してきます。少し待っていてください」

 

福原教諭はそう言って教室の外に出た。

改めて教室を見渡して明久は思う。

この設備はあまりにも酷すぎると。

最下層のクラスとはいえ蜘蛛の巣が張り、窓はひび割れ、壁は落書きのない箇所を探す方が困難などと言う始末。

 

「……真理、ここでちょっと待ってて」

 

「え?うん、分かった」

 

真理の返答を聞いてまず明久は欠伸をしている雄二の方へ向かう

 

「雄二、ちょっといい?」

 

「ん?何だ?」

 

「ここじゃ話しにくいから廊下で」

 

「ああ、分かった」

 

 

廊下

 

 

HR中とだけあって廊下に人影はない。

ここなら安心して話しが出来そうだ。

遠まわしに言っても仕方ないと思い明久は単刀直入に言う。

 

「雄二、試召戦争をやらない?それもAクラスを相手に」

 

「……何が目的だ」

 

雄二の目が細くなった。警戒されている様だ。

 

「真理の為だよ」

 

「なるほどな。実は俺もAクラスを相手に試召戦争をしようと思ってたんだ。学力だけが全てじゃないって証明したくてな。それにAクラスに勝つための作戦も思いついたし―――っと先生も帰ってきた。教室に入ろうぜ」

 

そう言って雄二が先に教室に入る。

 

 

教室

 

 

壊れた教卓を代えて(それでもボロイが)気を取り直してHRが再開。

 

「えー、須川亮です。趣味は―――」

 

特に何もなく淡々とした自己紹介の時間が流れる。

 

「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ」

 

「了解」

 

そう言って雄二は席を立って教壇に歩み寄る。

その姿はふざけた姿ではなくクラス代表としてふさわしい姿だった。

 

「坂本君はクラス代表でしたよね?」

 

福原教諭に言われて雄二は頷いた。

 

「Fクラスの代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも好きなように呼んでくれ。

さて、皆に一つ聞きたい」

 

雄二はゆっくりと全員の目を見るように告げる。

雄二の演説の仕方は間取りが上手く全員の視線はすぐ雄二に向けられた。

 

カビ臭い教室。

 

古く汚れた座布団。

 

薄汚れた卓袱台。

 

「この設備に不満は無いか?」

 

『『『大ありじゃぁぁぁぁっ!!!』』』

 

二年Fクラス魂の叫び。

 

「そうだろう!俺はこの状況を覆す為にある一つの提案をする!」

 

雄二はそう言って自身満々な笑みを浮かべ

 

「FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う!」

 

Fクラス代表坂本雄二は戦争の引き金を引いた。

 



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三話 根拠

Aクラスへの宣戦布告。

それはこのクラスにとっては現実味の乏しい提案にしか思えなかった。

 

『勝てるわけがない』

 

『これ以上設備が落とされるなんて嫌だ』

 

『姫路さんがいたら何もいらない』

 

否定的な声が教室のいたるところから上がる。

確かに誰が見てもAクラスとFクラスの戦力差は明らかだった。

文月学園に点数の上限が無いテストが採用されてから今年で四年。

この学園のテストは一時間と無制限の問題数が用意されており能力次第でどこまでも成績を伸ばすことが出来る。

また、科学とオカルトと偶然により完成された『試験召喚システム』はテストの点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を換び出して戦うことのできるシステムで、教師の立会いの下で行使が可能となる。

その中心にあるのが、召喚獣を用いたクラス単位の戦争――――試験召喚戦争と呼ばれる戦いだ。

その戦いで重要になってくるのがテストの点数なのだがFクラスとAクラスの点数は本当に桁が違う。

正面からやりあうとしたら一人に対して五、六人、相手次第では十人も用意しなければならない。

 

「そんなことはない。勝てる、俺が勝たせてみせる」

 

そんな圧倒的な戦力があるのも関わらず雄二はそう宣言した。

 

『何を馬鹿なことを』

 

『出来る訳が無いだろう』

 

『何の根拠があってそんなことを』

 

否定的な意見が教室中に響き渡る。

 

「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことの出来る要素が揃っている。それを今から証明してやるよ」

 

不敵な笑みを浮かべ、壇上から皆を見下ろす雄二。

 

「おい、康太。畳に顔をつけて姫路と雨宮のスカートを覗いてないで前に来い」

 

「はわっ!」

 

「私は見えないようにしてるから大丈夫だよ。明久♪」

 

そう言って明久の頬にキスをする真理。

その瞬間Fクラスの生徒ほぼ全員が殺気立つが、それを超える殺気を達哉が向けた為に一瞬でその殺気は止んだ。

 

「つ、土屋康太。こいつがあの有名な寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ」

 

若干の冷や汗を流しながら紹介する雄二。

 

「……!!(ブンブン)」

 

ブンブン、と首を振って雄二の紹介に首を振る康太。

ムッツリーニと言うのは康太の別名だ。

 

男子からは畏怖と畏敬を、女子からは軽蔑を以て挙げられる。

 

『ムッツリーニだと……?』

 

『馬鹿な、ヤツがそうだというのか……?』

 

「姫路のことは説明するまでもないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」

 

「えっ? あ、私ですかっ?」

 

「ああ。ウチの主戦力だ。期待している」

 

もし、試験召喚戦争に至るとしたら彼女程頼りになる戦力は居ないだろう。

 

『そうだ。俺たちには姫路さんがいるんだった』

 

『彼女ならAクラスにも引けをとらない』

 

『ああ。彼女さえいれば何もいらないな』

 

先程から姫路に向かってラブコールを送っている者が居る気がするがそれは置いておいて。

 

「木下秀吉だっている」

 

木下秀吉。あまり学力では名前を聞かないが他のことでは有名だ。

演劇部のホープであるとか、双子の姉のこと等。

 

『おお……!』

 

『ああ。アイツ確か、木下優子の……』

 

「当然俺も全力を尽くす」

 

『確かになんだかやってくれそうな奴だ』

 

『坂本って、小学校の頃は神童とか呼ばれてなかったか?』

 

『それじゃあ実力はAクラスレベルが二人もいるってことだよな!』

 

教室中の雰囲気が良くなってきた。

 

「それに雨宮真理。彼女はAクラス並みの学力を持っている」

 

『雨宮さん、吉井と別れて俺と付き合って下さい!』

 

『いや、待て。俺とだ!』

 

『いやいやいや!俺とだろ!』

 

『ふざけんな!俺とだ!』

 

「……ふふっ」

 

真理が微笑んだ。

その笑みはその体系や顔に相応しいものではなく、妖艶な女の笑みだった。

真理は想像したのだ。

 

 

 

 

――――もし、彼等全員が明久だったならば、と。

 

もし、彼等全員が明久だったなら全員で殴り合い……いや、殺し合いに発展するだろう。

もしかしたら全員で真理を愛でるかもしれない。

真理としてはどちらでもいい。

真理にとって大切なのは明久が真理のことを愛してくれることなのだから。

 

「どうしたの?真理」

 

明久が真理の顔を覗き込む。

明久の顔を見た瞬間、真理は大胆な行動に出た。

 

「んっ!?」

 

明久の唇に自分のそれを重ねたのだ。

 

『『『『吉井ィィィィィィッ!』』』』

 

それを見て一斉に殺気立つFクラスメンバー。

全員鎌や金属バッドなどの凶器を手にしている。

だが次の瞬間、全員の殺気が一瞬で止んだ。

その代りそれを上回る殺気が教室に流れる。

 

パリン!パリン!パリン!パリン!

 

軽い音をたてながら窓が割れていく。

その次に教室にある全ての卓袱台がビキビキと悲鳴をあげる。

 

「良い殺気を放つようになったじゃねぇか……達哉」

 

獰猛な笑みを浮かべ、真理を抱き寄せて呟く明久。

彼の視線の先には一人、クラスメイトを睨み堂々と佇む達哉が居た。

 

「お前等……そう言う物は脅しの道具じゃねぇんだぞ……?」

 

そう言って一歩、クラスメイト達に近づく達哉。

それを見てクラスメイト達は一歩後ずさる。

 

「そう言う物は人を殺す為にあるんだぜ?そんな物引っ張り出して何をしようとしてたんだ?」

 

そう言って達哉はまた一歩踏み出す。

クラスメイト達は先程と同じように後ずさる。

それが三度繰り返された時だった。

 

「達哉、落ち着け」

 

明久が達哉に声をかけた。

 

「ですが、明久さん……いや、分かりました」

 

渋々と言った様子で自分の席に座る。

それから数秒後、呆然としていた雄二がハッと我に返る。

 

「あ~コホン。更にうちのクラスには二人のジョーカーが居る」

 

『だ、誰だ!?ジョーカーって!』

 

『お、教えてくれよ!』

 

『そ、そうそう!』

 

クラスの雰囲気を戻す為に一つ咳払いをして宣告する雄二。

その宣告を聞いた瞬間にクラスメイト達が一斉に雄二にものすごい勢いで質問した。

 

「その二人とは、吉井明久と坂成達也だ。この二人のことは『去年の騒動』で知っている奴がほとんどだろう」

 

雄二がそう言うと生徒Cが手を挙げて、立ち上がりながら雄二に質問する。

 

『あ~、良いか?俺、去年の終わり頃に転入してきたから知らねぇんだけど……この二人有名なの?』

 

「あぁ、そう言う奴も居るか。なら、説明してやるよ。今の日本には四つの巨大な極道組織がある。まず、一つ目は構成員十万人という四つの組織の中で最も構成員の多い清龍会。二つ目は四つの組織の中で最も海外マフィアとの交流を頻繁に行っていて資金面では最も潤っている宏正会。三つ目は四つの組織の中で最も警察との騒動が多い盛虎会。

最後に構成員は二万人と四つの組織の中で最も少ないが、『極道界の切り裂き魔』『極道界の阿修羅』『風切り』等の極道界の有名人が数多く居る東龍会」

 

それら四つを挙げてから少し間を空ける雄二。

それから獰猛な笑みを浮かべ

 

 

 

「吉井明久はその東龍会次期会長で、坂成達也は明久の補佐だ」

 

そう言い放った。

 

「分かったか?その二人がジョーカーと言われる理由が」

 

「ん~、分かったけど俺、試召戦争には参加しねぇよ?」

 

「「「「………は?」」」」

 

クラスメイトCの言葉を聞いて『こいつは何を言ってるんだ?』と言う顔をするFクラス生徒ほぼ全員。雄二はそんな生徒Cを睨み付けながら問う。

 

「何故だ?」

 

雄二はかつて悪鬼羅刹と言われた程の実力者だ。

その雄二の睨みは並みの者ならば一瞬で失禁し、腰を抜かすようなものであったが生徒Cは怯む様子もなく答える。

 

「このクラスでAクラスに仕掛ける資格がある奴なんざ数人位しか居ねぇだろうが。

それを分かってねぇ奴等のお遊びに付き合っていられる程俺は優しくねぇんだよ」

 

「……お前、名前何だ?」

 

「篠笥八虎」

 

「覚えたぜ、お前の名前」

 

「勝手に覚えとけ」

 

睨みあう二人(と言っても一方的に雄二が睨んでいるだけだが)

Fクラスのクラスメイトほぼ全員が二人の間に入れない。

入れるとしたら達哉と真理と明久だけだろう。

だが、達哉は机に突っ伏し夢の国へと旅行中。

真理は明久にくっつくことに夢中で見向きもしない。

つまり、今の二人を止められるのは明久だけになる。

明久もそんなことは承知しているのでとりあえず二人に声をかける。

 

「二人とも、少し落ち着きなよ」

 

「明久、俺は落ち着いている。落ち着いた上でこいつをボコしてやろうと考えてるだけだ」

 

「俺も落ち着いてるぜ。そいつとは違って喧嘩なんてしようとは思ってないけどな」

 

「……はぁ」

 

二人(と言うより雄二)の言葉に盛大なため息を吐く明久。

正直、もう放っておこうかなとそんな思考が頭の中に浮かぶがそれはできない。

何せ、このまま放っておけば痛い目に遭うのは雄二なのだから。

 

「雄二、試召戦争に参加するかどうかは本人の自由なんだから強制しちゃいけないよ」

 

「……ちっ」

 

明久の言葉を聞いて小さく舌打ちをする雄二。

それから一つ咳払いをして雄二はクラスメイト達に告げた。

 

「色々な騒動があったがまず、俺達の力を証明する為にDクラスを征服しようと思う明久!お前にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

 

上位クラスへの宣戦布告使者は大抵が痛い目に遭う。

雄二は勿論それを知っている。

知っていて尚、明久に命ずる理由は二つ。

明久ならば怪我をしないのと嫌がらせ、という理由だ。

 

「分かったよ。それじゃ、行ってくるから真理は……聞かなくてもいいか」

 

真理の答えは聞かなくても分かっている。

明久が居るのならば真理は戦場にだってついて行く。

真理の居場所は明久の傍であり、そこを離れる等あり得ないのだから。

 

「明久さんが行くなら俺も行きます」

 

言いながら立ち上がる達哉。

達哉がついてくるのは単に心配しているからだ。

 

 

 

明久がやりすぎないかどうか。

 

『そっちかよ』等と言うツッコミが聞こえてきそうだが達哉は大真面目だ。

明久は相手が誰であろうとも売られた喧嘩は絶対に買う。

そして、Dクラスの生徒達はFクラスと言う最底辺のクラスから喧嘩を売られた場合それを最大級の侮辱だと考えるだろう。

そうなった場合例え明久の正体を知っていたとしても襲い掛かってくる。

そして、明久はそれを喧嘩を売られたと捉えて応戦するはずだ。

そうなると戦争が開戦する前にDクラスのほとんどの生徒が病院へ運ばれることになるだろう。それだけは絶対に避けなければ。

 

「うん、それじゃ、行こうか」

 

立ち上がりながら言う明久。

こうして明久はDクラスへと向かうことへなった。

 



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四話 明久の本性

最近友人に『ヒロインの中で最も好きなキャラはどんなタイプ?』と尋ねました。

すると、友人はこう答えました。


『ツンデレこそ至高!二人きりだとデレデレであれば言うこと無し!』


類は友を呼ぶと言う言葉がありますが事実だったようです。

だって、私もそうですから!

と、いう訳で少しだけですがツンデレキャラ登場です。

勿論、明久のヒロインです。


「と、いう訳で明久さんと真理さんはもう少し後で来る」

 

明久達がDクラスへの宣戦布告に行ってから五分後。

達哉がFクラスへ帰ってきた。ところが、帰ってきたのは達哉だけで達哉と共に宣戦布告に向かった明久と真理は帰ってこなかった。

明久達はどうしたのかと雄二達が尋ねると達哉はミーティングの最中に答える、とのこと。

そして、ミーティングをする為に屋上に来てから達哉の開口一番の言葉が冒頭のセリフだったのだ。念のために言っておくと達哉は屋上に来るまでの間に事情の説明等してはいない。

 

「いや、どういう訳だよ」

 

代表して雄二がツッコむ。

他のメンバーも口には出さないが雄二と同じことを言いたそうな顔をしている。

 

「ちっ、説明するのが面倒なことなんだって察しろよ……」

 

「複雑な事情でもあるのか?」

 

めんどくさそうな顔をして言う達哉に雄二が尋ねる。

すると、達哉は言いにくそうな顔をして答えた。

 

「いや、別に複雑じゃねぇんだけどさ……説明してるこっちが恥ずかしくなるような事情なんだよ……」

 

達哉の言葉に要領を得ない説明に雄二達は首を傾げる。

そりゃ、そういう反応をするよなぁ……

恐らく、自分も雄二達の立場であったなら同じ反応をしただろう。

達哉は意を決して口を開いた。

 

「まず、明久さんがかなりヤバい人だっていうのを頭に入れておいてくれ」

 

「明久がヤバい?何を言っておるんじゃ?明久は教師から一番信頼されておる生徒じゃぞ?それのどこがヤバいのじゃ?」

 

秀吉の言う通り明久は文月学園の教師に一番信頼されている生徒だ。

試験召喚システムのデータの採取の為に自分から観察処分者に立候補したり、去年、試召戦争の戦死者を補習室に送るのを手伝ったりなど教師の手伝いをしたりと色々した。

 

「いや……何て言うのかねぇ……あの人、そう言うお人よしなところはあるんだけど……女関係だとヤバくなるんだよ……」

 

「た、例えばどんなふうにじゃ……?」

 

「ん~……そうだなぁ……明久さんさ、女に告白されたら絶対に拒まないけど、告白されたら心も体も自分のものにしようとするんだよ」

 

「「「「「は?」」」」」

 

「で、そうなると放置プレイ。

女は身も心も明久さんのものだから捨てられない様に、って色々する訳だ。

すると、今度は甘やかす。そして、女が幸せの最高潮に居る所でまた落す。

それを自分に依存するまで繰り返す訳だ。

そんなことされても明久さんについて行くと決めた女は真理さんを含めて五人」

 

「「「「「………」」」」」

 

達哉の暴露に言葉を失う雄二達。

確かに明久は裏社会側の人間だが、無害な人間だと思っていた。

心優しい人間だと思っていたのだ。

だから、そんなことをするような男だとは欠片も思っていなかった。

特に、明久に対して特別な感情を持っていた島田と姫路は……

しばらく沈黙していた雄二達

 

「一応言っておくけど明久さんは『もうやめて』とか『もう別れて』とか言われればやめるからな?真理さんを含める五人は明久さんのこと拒絶しなかったんだからな?

後、俺がこんなこと言ったって言うなよ?下手すれば俺殺されいったぁっ!」

 

「誰が殺すか」

 

不機嫌そうな声。

恐る恐る達哉が振り向くとそこにはやはり、不機嫌そうな顔をした明久が居た。

その後ろには真理―――だけではなくもう一人少女が居る。

島田と同様に勝ち目な目。クールな美貌。

そして、ショートヘアの良く澄んだ水色の髪。

一瞬、達哉、明久、真理の三人以外全員が思わず見惚れてしまった程に少女は美しかった。

勿論、真理も美しい。姫路も島田も美少女の範囲に入る。

だが、その少女は圧倒的に美しかった。

 

「あれ、真希さんもご一緒だったんですか」

 

言いながら立ち上がる達哉。

恐らく、この三人だけ立っているのに自分が座っているのはおかしいと思ったのだろう。

 

「ええ、お手洗いに行こうとしたら運悪くどこかのバカに捕まったのよ」

 

「あぁ~……運が悪かったですね……」

 

「まったくよ」

 

「おいこら、どういう意味だ」

 

「言葉のままじゃない?」

 

「酷でぇ……」

 

軽口を叩き合いながら屋上の床に座る四人。

その光景に一番最初に我に返った雄二が口を挟んだ。

 

「お、おい、そいつ誰だ?俺達は初めて見るんだが……」

 

「あぁ、そう言えばそうだったな。紹介するよ。こいつは新山真希。

俺の幼馴染で公式的には俺の愛人っていう風になってる」

 

「「「「あ、愛人!?」」」」

 

「勿論、俺にとっては大切な恋人の一人だけどな?」

 

真理と真希の肩を抱き寄せていたずらっぽく笑う明久。

真理は明久の胸にしなだれかかり甘えるようにするが、真希はそっぽを向いた。

と言っても、まったく嫌がる素振りは見せないが。

 

「それで?何で俺が達哉を殺す云々の話になってんだ?」

 

明久がそう尋ねると達哉は気まずそうな表情で返した。

 

「えっと……どこから聞いてました?」

 

達哉は思う。

まさか、自分は今かなりマズイ立場なのではないだろうかと。

先程まで雄二達に聞かせていた話は軽々しくしてはいけない話だ。

(『なら話すなよ』とツッコミが入りそうだがそれは置いておいて)

もし、途中から聞いていたのであれば雄二達に頼んで話を合わせて―――

 

「『まず、明久さんがかなりヤバい人だっていうのを頭に入れておいてくれ』ってお前が言ったところからずっと聞いてた」

 

ほぼ最初からだった。

 

「え!?そんな前から聞いてたんですか!?」

 

「まぁな、気づかなかったのは問題だけどそこはいいや。

お前、俺のこと普段の生活を暴露された程度でブチギレして舎弟殺すような器の小さい男だと思ってたのか?」

 

「い、いや!そんな訳じゃないっすけど……何て言うか……軽々しく話して良い話じゃなかったんで……」

 

余程慌てているのか口調が少し狂っている。

明久は苦笑しながら言った。

 

「別に良いさ。確かに大っぴらに言うべきことじゃないけど真実だ。

隠しておくことでもねぇだろ」

 

そう言う明久の表情は心底どうでも良いと思っているような表情だった。

その表情にホッとする達哉。それと同時にあることに気づいた。

 

「吉井さん、まだ口調戻ってないんですね?」

 

「あぁ、お前等待たせる訳にはいかないって思ってよ。

途中で切り上げてきたんだけど……やっぱ最後までシてないから口調が戻らなかったんだろうな」

 

明久の言葉を聞き雄二は疑問に思っていたことを思い出す。

 

「そう言えば、明久。お前何でミーティングに遅れたんだ?」

 

そう元はと言えばそれを達哉に聞いていたのだ。

だが、その答えを聞く前に明久が来てしまった。

 

「いや、宣戦布告に行ったらDクラスの生徒に襲われてな?」

 

以降回想シーン

 

『僕達FクラスはDクラスに試召戦争を申し込みます。

開戦時刻は今日の午後からで』

 

明久曰く宣戦布告のセリフはそんな風に無難に終わらせたそうだ。

用が終わったので真理と達哉を引き連れて立ち去ろうとしたその時だった。

 

『ふざけんなよ!Fクラス風情が!』

 

そう言ってDクラスの男子生徒の一人が明久の胸倉を掴みかかって来たらしい。

そして、片手で胸倉を掴んだままその男子生徒が拳を振りかぶった時、明久の血が疼いたそうだ。

 

『遅い』

 

一言だけその男子生徒に呟いて明久は右足の膝を相手の腹にめり込ませたらしい。

 

『ぐはっ!』

 

その衝撃に男子生徒は膝をついたがそれで終わらなかった。

明久はその男子生徒の脳天に踵を落してその男子生徒を伏させてその頭部を踏みつけたままDクラスの生徒に言い放った。

 

『来いよ』

 

その容赦のなさにDクラスの生徒達は明久を恐れ誰も前に出ることは無かったらしい。

この光景は一応達哉も予想済みだったので明久を宥めたらしいが

 

『血の疼きが止まらないから少し真理とシてから行く。

あんまり遅くならないようにするから雄二にはそう言っておいてくれ』

 

と、真理を引き連れて明久はどこかへ歩いて行った。

そうして今に至るらしい。

因みに何をシていたのかは推して知るべし、だ。

 

「で、事の前に真希と会ったから真希とも……な?」

 

「なるほど……ん?ムッツリーニ、どうした?」

 

見ると康太が体を震わせていた。

どうしたのだろうか?

屋上は風が吹いているとはいえ、それほど寒くは無い。むしろ心地いい。

 

「ムッツリーニ……?」

 

何故だろうか?

明久は嫌な予感に襲われていた。

長年の修羅場生活が育てた予感が明久に告げていた。

 

―――何か悪いことが起こると。

 

そして、その予感は当たっていた。

 

ブシャァァッ!

 

康太の鼻から噴き出る赤い液体。

 

―――鼻血である。

 

「しまった!俺としたことがこいつの妄想力の強さを忘れてた!」

 

「明久、そんなこと言ってないでどうにかしなさい!

この出血量死ぬわよ!?」

 

「ムッツリーニ!しっかりしろ!ムッツリーニ!」

 

「ムッツリーニ!死ぬではない!」

 

「……死んだ後、俺のコレクションを頼む……!」

 

「土屋君、そんなこと言わないでください!」

 

「そうよ土屋!生きる努力をしなさい!」

 

「ってか、誰か救急車呼べよ!何で誰も呼ばないんだ!」

 

 

 

「ふぅ……色々あったがミーティングを再開する」

 

あれから数分後。

明久達の健闘により一命を取り留めたムッツリーニを保健室に運んだ後、フェンスの前にある段差に腰かけながら雄二が言う。

因みに真希は既に自分のクラスに戻った。

 

「そう言えば雄二よ。何故Dクラスなんじゃ?

階段を踏んでいくのであればEクラスじゃろうし、勝負に出るのであればAクラスじゃろう?」

 

「理由は二つある。派手にやって今後の景気づけにしたいのと打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスだって言う理由だ」

 

「でも、それって負けたらどうしようもなくなるんじゃないの?」

 

「お前達が協力してくれたら絶対勝てるさ」

 

そう言う雄二の顔は堂々としていた。

 

「何たって俺達のクラスは――――最強なんだからな」

 

それは何の根拠も無いセリフ。

まったく根拠のないセリフだが、何故か人をその気にさせる力を持っていた。

 

 

「良いわね。面白そうじゃない!」

 

「そうじゃな。Aクラスの連中を引き摺り落としてやろうかの」

 

「……(グッ)」

 

「が、頑張ります」

 

意気込む皆を見て明久は思う。

打倒Aクラスなど普通に考えれば夢のまた夢。

だが、夢は努力すれば必ず現実となる。

だから、頑張ってみよう、と。

 

「そうか。それじゃ、作戦を説明しよう」

 

涼しい風がそよぐ屋上で、明久達は勝利の為の作戦に耳を傾けた。

 




篠笥八虎

容姿 身長180cm程。茶髪のイケメン。
   イケメンなのでモテそうだが常に何事に対しても無気力なのでモテない。


学力 不明


得意教科 不明


苦手教科 不明


性格 前述の通り常に何事に対しても無期量


謎が多く雄二に向かって挑発した生徒。
初見で雄二以上の実力があると明久に見破られた。
去年の終わりに転校してきたため去年明久達が起こした騒動を知らない。
何か目的があって転校してきたらしいが……?



新山真紀


容姿 良く澄んだ青い髪に、圧倒的な美貌の持ち主。
   その為よく告白されるが全て断っている。


学力 Aクラス上位レベル


得意教科 数学


苦手教科 日本史


性格 何時も明久に対してツンケンしているが明久曰く『ただ素直になれないだけだ』とのこと。


明久の幼馴染で公式的には愛人と言う立場だが明久は大切な恋人の一人だと思っている。
作者が出したかったキャラの一人でもある。

2013 3/24追記


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五話 Dクラス戦前篇

最近コメントが無くて寂しいです……


シャカシャカシャカ……

 

響き渡る音。

場所は文月学園のとある教室。

この場には明久と真理と達哉と姫路、そして学年主任の高橋女史が居る。

明久と真理と達哉と姫路は補充試験の為に、高橋女史は試験の採点の為にここに居る。

とはいっても、明久と達哉の補充はもう終わっていている。

ならば何故未だここに留まっているのか?

理由は単純で明久が真理を待っているからだ。

明久が真理を一人にするなど滅多にないことだし、明久の舎弟である達哉が先に戦場に出ることも絶対にない。

 

「終わった!」

「終わりました!」

 

そう言って勢いよく立ち上がる真理と姫路。

それを見て明久と達哉も立ち上がり、真理を姫路の下へ歩く。

 

「よし、それじゃ、雄二の作戦通りに行こう。

達哉は念の為に姫路さんの護衛をお願い」

 

「分かったよ」

「了解です」

「分かりました」

 

明久の言葉に頷く三人。

そして、四人は行動を開始した。

まず、明久と真理、達哉と姫路の二手に分かれる。

明久と真理は戦場の前線へ、達哉と真理は階段へ向かう。

前線へ向かっては知っていると前線から明久達の方へと走って来る人影が。

 

「明久に雨宮、援護に来てくれたんじゃな!」

 

Fクラスの美少女(?)の一人、木下秀吉だった。

 

「秀吉、大丈夫?」

 

「戦死は免れておるが点数はかなり厳しいところまで削られてしまったのじゃ」

 

「なら、すぐに試験を受け直してこないと」

 

「うむ、全教科を受けている時間はなさそうじゃが一、二教科くらいは受けてくるのじゃ」

 

言うや否や秀吉は教室へ走っていく。

 

「明久、試召戦争のルールはちゃんと覚えてる?」

 

「勿論、大丈夫だよ」

 

試召戦争には様々なルールや制約がある。

長い為ここでは省略する。

 

「明久、あれ」

 

「ん?あれは……」

 

真理の指した方を見ると島田がツインテールの少女に襲われている光景が広がっていた。

 

『ふふっ。お姉さま、この時間ならベッドは空いてますからね?』

 

『ちょ、あんた何言って……いやぁぁぁぁっ!誰か!誰か助けて!』

 

「「………」」

 

あまりの光景に明久と真理。

冷静に見てみると戦場に居る全員があの場を綺麗に避けているような気もする。

と、明久の視線に気づいたのか島田が明久に向かって叫ぶ。

 

「吉井!そんなところに突っ立ってないで助けて!なんだか今のウチは補習室行きよりも危険な状況にいる気がするの!」

 

正解である。

 

「分かった!島田さん、少し――」

 

「明久」

 

明久の言葉を遮る真理。

彼女の方を向くと彼女は続けた。

 

「助けなくて良いよ、あんな人」

 

一瞬真理の言ったことが理解できなかった。

だが、真理が続けた言葉で真理の言いたいことが理解できた。

 

「明久を殴ることが趣味の人なんて助けなくて良い。

ううん、助けないで欲しい。今ここであの人が戦死したところでそれは自業自得だよ。

今まで明久を傷付けてきたんだから。ね?助けないで?」

 

そう言う真理の目は焦点が合っておらず、どこを見ているか分からないような目だった。

いや、どこを見ているかなど分かりきっていること。

真理は明久だけを見ている。それは今も昔も変わらない。

明久は少し目を瞑り、少し考える。

そして、目を開き

 

「……分かったよ」

 

そう答えた。

 

「ちょっと、吉井!?いや!助けてぇぇぇっ!」

 

島田はそのままツインテールの少女に連れて行かれた。

島田はこれから絶対に経験したくないようなことを経験するだろう。

だが、もしあそこで助けていたら島田は真理の手によって更に酷い目に遭っていた筈だ。

真理は敵には容赦しない。そして、真理にとって明久を傷付ける島田は敵なのだから。

気を取り直して明久は大声を張り上げる。

 

「とにかく秀吉たちが補充をしている間前線を維持するんだ!一歩も進ませないように!」

 

「させるな!前線さえ突破すえば後ろは補充試験を受けてる奴等ばかりだ!一気に攻め落とせ!」

 

明久の指示に対抗するかのようにDクラスの前線部隊の隊長が声を張り上げる。

ここからがFクラスの正念場。明久は気合を入れた。

 




やっぱり、短くなってしまった……

もう少し長くしたいけど……

う~ん……

次から頑張ります!


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六話 Dクラス戦中篇

「吉井隊長!横溝がやられた!これで布施先生側は後二人だ!」

 

「五十嵐先生側の通路だが、現在俺一人しか居ない!援軍を頼む!」

 

「藤堂の召喚獣がやられそうだ!誰か助けてやってくれ!」

 

あれから少しして、Fクラスは明久の想像以上に劣性となっていた。

本陣に増援を要請したいがそれをしてしまっては作戦につぎ込む戦力がなくなってしまう為明久達だけで何とかするしかない。

 

「布施先生側の人達は召喚獣を防御に専念させて!五十嵐先生側の人達は総合科目の人と交代しながら効率よく勝負をするように!藤堂は可哀想だけど諦めるんだ!」

 

『了解!』

 

明久は隊長という訳ではないが明久の指示がベストだと判断したのだろう。

明久の指示に従い陣形を組み始める。

 

「Fクラスめ、明らかに時間稼ぎが目的だ!」

 

「何を待っているんだ!?」

 

Dクラスが明久達の意図に気づき始めた。

これにより明久達はさらにやりづらくなる。

 

「大変だ!Fクラスに世界史の田中が呼び出されたらしい!」

 

「せ、世界史の田中だと!?」

 

「Fクラスの奴等長期戦に持ち込む気か!」

 

どうやらDクラスの偵察部隊に、Fクラスのテストの採点でやってきた田中教諭が見つかったようだ。世界史の田中教諭はおっとりとした初老の男性で、その採点の甘さには定評がある。その代り採点には少し時間がかかるが、長期決戦の場合には田中教諭の方が都合がよい。

 

「吉井、Dクラスは数学の木内を連れ出したみたいだ」

 

クラスメイトの須川がそう報告してくる。

数学の木内教諭は厳しいが採点の速さは群を抜いている。

どうやらDクラスは明久達とは対照的に、一気にケリを着ける気らしい。

だが、明久達の作戦の為にもそれをさせる訳にはいかない。

明久が雄二に与えられた仕事は一つ。兎に角前線を放課後まで保つこと。

 

「須川君、偽情報を流してほしい。時間を稼ぐために」

 

「偽情報?構わないけどDクラスの前線部隊長の塚本は声がでかいからすぐにバレるんじゃないか?」

 

須川の言う通り塚本の声は大きい。

その為、相手が混乱に陥りにくい。

 

「大丈夫、対象はDクラスじゃないから」

 

「?なら、誰に向かって流すんだ?」

 

「先生たちに向かって流すんだよ。他の場所に向かってくれるようにね」

 

「確かにそれは効果的だな。分かった。

流す情報の内容は任せてくれ。確実に騙してみせる」

 

「よろしく」

 

須川はそう告げると駆け足でこの場を去って行った。

随分と活き活きしているように見えるが須川はこういうことが好きなのだろうか?

そんな考えが一瞬頭の中にそんな考えが浮かんだが。すぐに消した。

何せ、今は戦争中。そんなことを考えている暇はないのだ。

 

「一対一じゃ分が悪い!コンビネーションを重視して!」

 

そう大きな声で指示を出す明久。

まだ、試召戦争は始まったばかりだ。

 

 

『塚本、このままじゃ埒が明かない!』

 

『少し待っていろ!今、船越先生も呼んでる!』

 

しばらく拮抗した状態を続けていると明久達にとって好ましくない会話が聞こえてきた。

数学の船越教諭を呼んだのは採点目的ではなく立会人になってもらう為だろう。

これは明久達にとってまずいことだ。これ以上戦線を広げられると実力差がよりはっきりと表に出てしまう。そうなると、明久や真理も本格的に戦闘を行わないといけないかもしれない。いや、別にもっと前から戦闘をしても良かったのだができれば戦闘は避けたかったのだ。戦闘をしてしまうとどうしても血が疼き、感情が昂り、『女』を求めてしまう。

そうなると、真理に負担をかけてしまう。いや、真理だけではない。

明久の『女』は真理だけではないのだ。彼女達にはできるだけ負担はかけたくない。

かつて、彼女達は自分の我が儘に付き合い、辛い目に遭った。

それから、明久は決めたのだ。彼女達にこれ以上辛い目に遭わせないと。

だが、このままでは負けてしまう可能性が出てくる。

その可能性を潰すには圧倒的な戦力を使うしかない。

今、それができる姫路と達哉は自分の作戦を遂行している最中。

篠笥は宣言通り試召戦争自体に参加していない。

真理はもし戦死したら補習の間明久と離れてしまい、大変なことになってしまうからできる限り参加はさせたくない。

Aクラス戦では参加しなくてはならない確率が高いがその辺りは大丈夫だろうと明久は考えている。何せ、真理は―――

 

ピーンポーンパーンポーン《連絡致します》

 

聞き覚えのある声で流れる放送。

 

「―――須川君」

 

そう呟く明久。

そう、これの放送は須川の声だ。

直接職員室に行ったらDクラスの生徒に見つかる可能性があるから放送室に行ったらしい。

 

《船越先生、船越先生》

 

呼び出し相手は丁度会話に出ていた船越教諭。

かなりのファインプレイだ。

 

《吉井明久君が体育館裏で待っています》

 

「…………………え?」

 

《生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な会話があるそうです》

 

船越教諭とは生徒からかなり恐れられている教師である。

婚期を逃し、遂に生徒達に単位を盾に交際を迫るようになった。

確かに須川の放送により体育館裏に向かってくれるだろうが明久の貞操は大変なことになるだろう。

 

「吉井、あんた男だよ!」

 

「ああ。感動したよ!まさか、クラスの為にそこまでやってくれるなんて!」

 

前線部隊の仲間達が感動にむせびながら明久に握手を求める。

一応記述しておくが明久はそんな指示はしていない。

 

「おい、聞いたか今の放送」

 

「ああ、Fクラスの連中本気で勝ちにきてるぞ」

 

「あんな確固たる意志を持った連中に勝てるのか……?」

 

Dクラスからそんな呟きが聞こえてきた。

まずい、否定しにくくなってきた。

 

「皆、吉井の死を無駄にするな!」

 

「絶対に勝つぞ!」

 

味方までいい影響を受けてしまった。

これでは絶対に否定できない。

 

「吉井、行けるぞ!この勢いで押し返そうぜ!」

 

「………」

 

「……吉井?」

 

「……す」

 

「す?」

 

「須川ぁぁああああああああああっ!」

 

明久の叫び声が木霊した。

 

 

その頃、達哉は放送室に向かって廊下を疾駆していた。

後のことは全て姫路に任せた為彼がこうしていても全くという訳ではないが問題は無い。

 

「あのクソ野郎め……生まれてきたことを後悔させてやる……!」

 

走りながら忌々しげに呟く達哉。

達哉の殺気の所為か、ハリウッド映画の様に達哉の後ろの窓ガラスが割れていく。

そうして、走ること数分。達哉は放送室の扉の前で立ち止まった。

いや、立ち止まらざるを得なかったと言うべきだろうか。

達哉は感じたのだ。扉一枚の向こうに居る強者の存在を。

 

「(この存在感……明久さんや先代並か……!)」

 

彼の兄貴分の顔や極道界の恐王の顔が浮かぶ。

あの二人に並ぶ存在がこの中に居る。

須川ではないことは分かりきっている。

須川からは大した気配を感じなかった。

ならば篠笥か?

いや、確かに強者であるとは分かったが明久程ではないと感じた。

 

「(震えてやがる……)」

 

強者の存在に振るえる達哉の身体。

こういう経験は今までで二度ある。

一度目は明久と初めて出会った時。

二度目は極道界の恐王と謳われる真理の祖父と邂逅した時。

 

「(おもしれぇじゃねぇか……)」

 

達哉は獰猛な笑みを浮かべ、扉を一気に開け放った。

まず、達哉の目に飛び込んだのは傷だらけで倒れている須川。

まぁ、これはいい。どのみち須川はこうなっていたのだから特に気にすることはない。

気にするべきなのはその須川の近くで須川を見下ろしている少年だ。

身長は大体180前半程度。制服の上からでも分かる引き締まった筋肉。

そして、一番特徴的なのが太陽の光を反射して光りそうな綺麗な金髪。

その少年は須川から視線を達哉に移した。

 

「テメエ、こいつと同じクラスの奴か?」

 

「……そうだ」

 

警戒しながら質問に答える。

もし、一瞬でも警戒を解けば間違いなく須川と同じ目に遭うから……!

 

「そうか……お前はこいつの仲間か……!」

 

少年から放たれる殺気。その殺気を浴びて確信した。

この男は間違いなく明久と同等の実力を持っている。

もし、勝負をしたら勝ち目はない。

達哉は誤解を解くことにした。

そうしなければ自分を傷付けた明久は絶対にこの少年を粛清しようとする。

そうなれば明久もただでは済まない。

それだけは絶対に避けなければ。

 

「待ってくれ!俺は確かにそいつと同じクラスだけどさっきの放送については知らなかったんだ!それに知ってたら絶対に止めた!あの人を貶めようだなんて絶対にしない!」

 

「あ?あの人?お前、『親友』のなんだよ?」

 

「親友?」

 

明久のことを指しているというのは察することができた。

だが、自分はこの少年のことを知らない。

自分は明久と二年の付き合いだがこの少年のことは見たことが無い。

そんなことを考えていると少年は達哉の心を察したのか自己紹介を始めた。

 

「名前を聞くには自分からだったな。親友にいつも言われてたのに忘れてたぜ。

金城舜一だ。親友からは『シュン』って呼ばれてる」

 

「坂成達哉だ。明久さんの舎弟やってる」

 

「舎弟!?あいつ舎弟なんか作ったのかよ。あいつ『絶対に舎弟なんか作らない』って言ってたのにな。やっぱり二年って年月は人を変えるのかねぇ……」

 

そう言ってぶつぶつと色々呟き始める舜一。

達哉は自分の疑問を解決しようと試みた。

 

「金城っつたか?お前、端的に言えば明久さんの何なんだ?」

 

「あいつの親友である俺には敬語なしなのな……

俺はあいつの元ナンパ仲間みたいなもんだ。

二年前に引っ越してこっちに戻って来たのさ」

 

そう言えば聞いたことがある。

達哉が明久と知り合う少し前まではかなり気のおける親友が居たと。

色々な事情があって今は離れているがそろそろこちらに戻ってくるだろうと。

 

「あんたのことだったのか……」

 

「あいつが俺のこと何て説明したのか知らねぇけどあいつ、友達少なかったから多分俺のことで間違いねえよ」

 

「友達が少なかった?」

 

明久は友達の為には何でもできる男だ。

そんな男に友が少なかったなどあまり信用できる話では……

 

「あいつ、友達の為には何でもしたけど敵を作りやすかったからさ……」

 

納得ができた。

確かにそうかもしれない。

 

「それで、俺は誓った訳よ。あいつの敵は俺の敵。

どんな奴が相手でも嬲り殺してやるってさ」

 

「……そうだな。俺も同じことを誓ったよ」

 

去年、あの事件が起こった時。

明久は言ってくれた。

 

『俺の親友やその幼馴染を傷付けるような奴はどんな奴でも潰してやる!』

 

あの時自分も舜一と同じことを誓った。

 

「はっ、悪い。お前は船越対策の為にここに来たって言うのに色々なこと聞かせてよ」

 

舜一の言葉でここに来た理由を思い出す達哉。

 

「そうだったぜ。ちょっと、悪い」

 

そう言って放送室の機材の操作を始める達哉。

そして、操作を終えて達哉はマイクに向かってこう言い放った。

 

「船越先生、先程の放送は嘘です。代わりに須川を放送室に置いておくんで好きに使ってください」

 

そう言ってまた機材の操作を始める。

そして、それを終えると達哉は須川に近づき、上着を脱がしてそれを器用に使い縛っていく。

 

「これでよし」

 

作業を終えて立ち上がる達哉。

最後に舜一に向けて頭を下げる。

 

「明久さんの為にありがとう」

 

「止せよ。照れるだろ」

 

そう言って頬をかく。

達哉が顔を上げると舜一は明後日の方向を向いていた。

 

「それじゃ、俺は戦線に戻るぜ。ほんと、手伝ってくれてありがとな」

 

そう言って扉へ向かって歩く達哉に舜一が声をかける。

 

「感謝してるんだったら親友にこう伝えてくれ『準備は全て整った』ってな」

 

舜一の言葉の意味は全く分からなかったが達哉は頷き、扉を開けた。

向かうは戦線の前線。

戦争はまだ続いている。

 




5/8 物語の辻褄を合わせる為に少々修正しました。


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七話 Dクラス戦後篇

遅くなってすいません……


「工藤信也、戦死!」

 

「西村雄一郎、総合残り40点!」

 

「森川が戻ってこない!やられたか!?」

 

士気が盛り上がったまま戦うことしばし、戦力差の影響が現れ始め次々と景気の悪い報告が聞こえてきた。工藤と森川が戦死し、これで前線部隊は残り五名となってしまった。

そろそろ前線を保つのが難しくなってきた。

 

「明久!もう少し持ちこたえろ!」

 

撤退を考えだしたところでそんな檄が飛んできた。

辺りを見渡してみると明久の遥か後方に援軍を引き連れた雄二の姿が見えた。

 

「援軍だ!合流する前に吉井たちを全滅させろ!」

 

Dクラス前線部隊の隊長である塚本の指示が聞こえる。

だが、いくら雄二達が来たとは言え距離はまだ遠い。

 

「西村雄一郎戦死!」

 

これで残り明久を含めて六名。

雄二達はまだ遠い。

 

「五十嵐先生、Dクラス鈴木が召喚を行います!」

 

「負けるか!Fクラス田中も行きます!」

 

田中も捕まった。

 

『Dクラス  鈴木一郎  VS  Fクラス  田中明

 化学     92点  VS        67点』

 

刀の餌食になる田中の召喚獣。

これで残りは五名。

雄二達は間に合いそうにない。

 

「どんどん行くぞ!」

 

Dクラスは戦死を恐れずに明久達に突っ込んでくる。

ここが正念場であると感じ取っているらしい。

 

『Dクラス  鈴木一郎  VS  Fクラス  柴崎功

 化学     25点  VS        66点』

 

鈴木は撃破したが明久達の戦力は風前の灯となってしまった。

 

「先生!Dクラス笹島圭吾が行きます!試獣召喚(サモン)!」

 

更に新手が出現。

柴崎の召喚獣を倒し、明久に向かってくる。

 

「ちっ!」

 

舌打ち。

だが、舌打ちをしたところで相手がこちらに向かってくると言う事実は変わらない。

――やっぱり、戦うことになるのか。

 

「真理、悪い……今夜、お前と真紀に迷惑をかける」

 

目も合わせずに真理にそう謝罪する。

今は真理に合わせる顔もないから。

だが、真理は優しく微笑み首を横に振った。

 

「いいよ、明久。前にも言ったでしょ?私は明久と一緒に居られるだけでいいの。

だから、好きなだけ私達を『利用』して?」

 

真理の言葉に明久はまるで締め付けられるような痛みを感じた。

確かに明久は真理達を心の底から愛している。

だが、彼女達を利用しているのは事実だ。

親友の為に、そして自分の為に。

真理達は理由を知らないがその事実は知っている。

だが、そのことに対して真理達は何も言わない。

 

「……ありがとう」

 

感謝の言葉を告げて明久に向かってくる敵を見据える。

 

「吉井明久!その首級貰った!」

 

もう、迷いはない。

 

「――試獣召喚(サモン)!」

 

叫んだ直後、足元に現れる魔法陣。

現れた召喚獣は喪服に身を包み、左腕にナイフを装備していた。

 

『Dクラス  笹島圭吾  VS  Fクラス  吉井明久

 化学    80点   VS        152点』

 

「Cクラス並みの点数だと!?」

 

表示された明久の点数に驚愕する笹島。

その隙を逃す程明久は優しくは無い。

自分の召喚獣を相手の召喚獣に肉薄させ、喉を切り裂く。

すると、笹島の召喚獣は戦死した。

 

「なっ!?」

 

更に驚愕する笹島。

彼は何が起こったか理解できていないだろう。

全ての動作を終えるのに一秒もかかっていないのだから。

 

「はい、終わりだ」

 

笹島に告げて別のDクラスの生徒達を見据える。

もう既に笹島は眼中にない。

 

「くっ、お前達!相手は確かに強敵だが全員でかかれば倒せるはずだ!」

 

「舐めるなって」

 

そう言葉を発した瞬間、明久はDクラスの生徒達に向かって召喚獣を突貫させた。

 

「なっ!?う、打ち取れ!」

 

塚本はそう指示を出す。

その間にも明久の召喚獣は走る。

Dクラスの前線部隊の召喚獣の隙間を縫うように。

そして、明久の召喚獣が全ての召喚獣の合間から抜け左腕を振るった時、それは起こった。

 

「え?はぁっ!?」

 

「しょ、召喚獣が!」

 

「私の召喚獣もよ!」

 

広がっていく混乱。

それは当然の反応だろう。

 

 

―――首から血を吹きだし彼らの召喚獣が倒れていくのだから。

 

「吉井!お前何をしやがった!」

 

Dクラスの男子の一人が明久に詰め寄る。

明久はそれを軽くいなした。

 

「教えてやってもいいけど分かっても無駄なんじゃね?」

 

言いながら明久はその男子の後ろを指さす。

そこには仁王立ちをする西村教諭の姿があった。

 

「ひぃっ!ほ、補習はいやだぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「気持ちは分かるけど逃げるな」

 

必死に逃げようとするDクラスの男子を抑える明久。

その間にもDクラスの生徒達は西村教諭の魔n……手によって捕まっていく。

 

「よ、吉井!頼む!離してくれ!」

 

「却下。離す訳じゃないじゃん」

 

「少しは考えてくれ!」

 

「分かった」

 

思考開始。

 

……………

 

…………………

 

………………………

 

「やっぱり却下」

 

「三秒しか経ってない!てか、このやり取りどっかで見た覚えが――うわぁぁぁぁっ!」

 

哀れ、名前も知らないDクラス男子。

最後までセリフを言えず西村教諭に連れ去られていった。

 

「よくやったぞ、明久」

 

いつの間にか近くに来ていた雄二がそう言って明久の肩に手を置いた。

 

「別にあの程度大したことねぇよ。それに本番はこれからだろ?」

 

ちらほらと下校している生徒の姿も見え始めた。

もうDクラス代表の首を取りに行く頃合いとなった。

 

「ああ、最初にも言ったとは思うができる限り敵を引きつけろよ?

姫路や坂成が作戦を遂行しやすくする為に」

 

達哉は先程の放送を聞く限り放送室に一度行ったのだろうがもう姫路と合流しただろう。

だから、作戦の執行は姫路一人でと言うことは無い筈だ。

よって、作戦の行方は姫路達にかかっている。

(もっとも、達哉はDクラスの代表を打ち取ることを姫路に丸投げしたのだが明久がそのことを知る筈もなかった)

 

「分かってるっての。俺に全部任せろよ。行くぞ、真理」

 

「うん」

 

真理を引き連れてDクラスの本隊へと向かう明久。

彼は戦後舎弟と恋人達にこう語った。

 

「もし、過去に戻れるなら過去の自分を泣いて謝るまで殴ってやる」

 

 

 

「何でこうなってんだ、こん畜生!」

 

敵の攻撃を避けながら叫ぶ明久。

 

―――約三十名。

 

この数が何の数だか分かるだろうか?

明久が今戦っている人数の数である。

別に明久が引きつけた訳ではない。

最初から約三十名が明久に向かってきたのである。

 

「明久、手伝おうか?」

 

「いや、これくらいの数なら余裕だ。叫んだのもこの不幸さに対するものだから」

 

確かに、何もしていないのに約三十人が一斉に襲ってきたら不幸以外の何物でもないだろう。

 

「しかし、数多いなぁ……っと」

 

ボヤキながら敵の攻撃を躱し、カウンターを入れる。

敵の召喚獣の点数に修正が入った。

 

「さて、そろそろ行こうかね」

 

そう呟き、召喚獣に武器を構えさせる。

その刹那―――

 

「うわぁっ!」

 

「んなっ!?」

 

「な、何でお前がここに―――くそっ!」

 

明久と対向していたDクラスの生徒達の後方にざわめきが生まれた。

明久はそれを認知した瞬間、警戒を始める。

だが、そのざわめきの正体を見てその警戒はすぐに解くこととなった。

 

明久よりも高い身長。

見るもの全てを威圧する鋭い瞳。

そして、本物の銀の様に輝く白髪。

 

「達哉!」

 

そう、明久の舎弟である坂成達哉がそこに居たのだ。

 

「明久さん!真理さん!一旦合流しましょう!」

 

「了解だ!」

 

「分かったよ!」

 

達哉の提案を承諾し、敵を倒しながら達哉の方へ向かう。

達哉も敵を倒しながら明久との合流を目指す。

 

「達哉姫路と作戦を遂行している筈のお前が何でここに居る?簡単に説明しろ」

 

達哉と合流し、達哉にそう尋ねる。

 

「あの須川の放送の対策をしてる最中に『明久さんのことだから真理さんには召喚させないんじゃないか?』って思いまして。敵を引きつけるんだったら数が多い方が良いんでこっち来ました」

 

「姫路の方は大丈夫なのか?」

 

達哉がここに居るとなると作戦の遂行は姫路一人でということになる。

一抹の不安は拭いきれない。

 

「大丈夫でしょう。この季節なら明久さんや俺程の操作能力を持ってる奴はそうは居ません。居たとしてもDクラスの生徒です。そう簡単に倒せないでしょう」

 

「完全に不安は拭いきれねぇけどまぁ、納得しといてやるよ」

 

姫路一人で作戦を遂行できるかと聞かれると完全に「イエス」とは断言できない。

達哉の役目は完全に「イエス」と断言できるようにすること。

正直その役目を放棄した達哉は褒められたものではないが放棄してしまったものは仕方がない。

 

「達哉、下手して戦死するなよ?」

 

「分かってます」

 

そう言いながら二人は召喚獣に武器を構えさせる。

 

「真理、ちゃんと追いついて来いよ?お前の居るべき場所は俺の隣なんだから」

 

「うん!」

 

真理の返答を聞いて明久達は召喚獣を引き連れて駆ける。

敵はどうにかして明久達を止めようとするが、誰一人明久達を止められない。

 

「平賀源二!その首貰ったぜ!」

 

「覚悟!」

 

「くっ!代表!逃げてください!」

 

「ここは私達が何とかします!」

 

明久達の前に立ち塞がる二人の女子生徒。

その結果平賀はがら空きになる。

平賀はこの危険な場所から一刻も早く脱出する為に駆け出した。

 

――何故自分達はここまで追い詰められている!?

 

走りながら平賀は思う。

相手は問題児の集まる最低クラス。

自分達の成績は平均よりも少し低いがFクラスよりも遥かに頭が良い筈だ。

なのに、何故―――

 

「―――作戦通りだ」

 

――――え?

 

後方からの声。

気のせいだ。辺りは戦争の喧騒で騒がしい。

そんな状況で一つの特定の声がはっきりと聞こえる筈がない。

そんなことは分かっているというのに何故自分はここまで焦っている!?

 

「くっ!」

 

自分の中の思考を全て振り払うように首を横に振る。

そして、後もう少しで現代国語のフィールドから出られると言う所で声をかけられた。

 

「平賀君」

 

足を止めて声のした方を向く。

そんなことをする暇はないが何故か足が止まった。

 

「ひ、姫路さん?」

 

声をかけてきたのは学力で五本の指に入る生徒『姫路瑞希』だった。

 

「どうしたのかな?Aクラスはこの廊下を通らなかったと思うけど」

 

何となく、彼女がここに居る理由は分かっている。

だが、どうしても認められなかった。

まさか―――

 

「いえ、そうじゃなくて……」

 

彼女が―――

 

「Fクラスの姫路瑞希です。Dクラス平賀君に現代国語勝負を申し込みます」

 

Fクラスの生徒だなんて!

勝てる筈がない。

だが、受けなければ敵前逃亡で戦死扱いとなる。

 

「さ、試獣召喚(サモン)!」

 

ヤケクソ気味に召喚獣を召喚する平賀。

 

『Fクラス  姫路瑞希  VS  Dクラス  平賀源二

 現代国語  339点  VS        192点』

 

素早い動きで姫路の召喚獣は平賀の召喚獣に肉薄する。

そして、相手の反撃も許さず一撃でDクラス代表を下した。

 



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八話 戦後会談

「まさか、姫路さんがFクラスだなんて……信じられん」

 

力なくよたよたと歩くDクラス代表の平賀。

 

「あの……さっきはすいません……」

 

平賀を打ち取った姫路も違う方向から歩み寄ってくる。

 

「いや、謝ることは無い。Fクラスを侮っていた僕達が悪いんだ」

 

ほぼ騙し討ちだったがこれも勝負。

姫路が謝る必要など欠片もない。

 

「ルールに従って設備を明け渡そう。ただ、こんな時間だから作業は明日で良いよな?」

 

これから平賀はあの教室で再び試召戦争ができるようになるまでの三か月間をクラスメイトに恨まれながら過ごさなければならない。勝てば英雄視されるのがクラス代表なのならば負ければ戦犯の様に恨まれるのもクラス代表なのだから。

 

「勿論、明日で良いですよね、坂本君?」

 

平賀に同情したのか姫路が雄二にそう聞いた。

その問いに雄二は姫路の予想しなかった返事をした。

 

「いや、その必要はない」

 

「あ?お前何言ってんだ?」

 

「俺にはDクラスの設備を奪う気はない」

 

それが当然のことであるかのように雄二は達哉の言葉にそう返した。

 

「忘れたのか?俺達の目標はAクラスだ。だから、Dクラスの設備に手を出す気はない。それに、もし、設備を奪ったらどこかのバカ達はDクラスの設備で妥協するだろうから余計にDクラスの設備には手が出せない」

 

『『『『…………………』』』』

 

目を逸らすほとんどのFクラスのクラスメイト達。

雄二の言うことは的を射ていたらしい。

 

「という訳で俺達はDクラスの設備には手を出さない。

だが、条件がある」

 

「一応聞かせてもらおうか」

 

「なに。大したことじゃない。俺が指示を出したらあれを動かなくして欲しい。

それだけだ」

 

雄二が指したのはDクラスの窓の外に設置されているエアコンの室外機。

だが、その室外機はDクラスの物ではない。

Dクラスの設備にエアコンはないから。

置いてあるのはスペースの関係でここに間借りをしている―――

 

「Bクラスの室外機か」

 

「設備を壊すから教師にもある程度睨まれるだろうが悪い取引じゃないだろ?」

 

悪い取引である筈がない。上手く事故に見せかければ厳重注意程度で済み、三か月間Fクラスの教室で生活するという地獄から逃れられるのだから。

 

「確かに悪い取引じゃないがどうしてそんなことを?」

 

平賀の疑問はもっともだ。

Fクラスの目標はあくまでAクラス。

だというのに何故Bクラスの、それもエアコンなどという直接関係のないものにダメージを与えるのだろうか。

 

「次のBクラス戦に必要でな」

 

「……そうか、では俺達Dクラスはありがたくその提案に乗ることにするよ」

 

「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行って良いぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

じゃあ、と手を挙げてDクラス代表、平賀は去っていった。

 

「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補充を行うから今日のところは帰ってゆっくり休んでくれ!解散!」

 

雄二が号令をかけ、Dクラス戦は終了した。

 

 

 

「準備は全て整った……シュンがそう言ったのか?」

 

「ええ」

 

満月の月明かりの下。

二人の少年が酒を飲んでいた。

吉井明久と彼の舎弟である坂成達哉である。

彼らが居るのは東龍会本家の縁側。

丁度そこは明久達の寝室の近くでこうして話すことにあまり不自由はない。

 

「明久さん、俺は去年のあの騒動からあんたに忠誠を誓いました。

だから、いい加減に教えてくれませんか?あなたは一体――」

 

「何を企んでいるんだ、か?」

 

達哉の言葉を遮り明久が彼の言葉の続きを言う。

そして、明久は微笑みながらこう続けた。

 

「心配するなよ、真理達が居る限り東龍会相手に戦争は起こさねぇから」

 

それは逆に言えば真理達が居なければ戦争を起こしても構わないと言っているような態度。だが、そんなことは起こらないだろう。

明久を相手にしたらどうなるかなど二年前に充分味わったのだから。

 

「明久さん、すいません。俺は……」

 

「良いさ―――達哉、何度も言うけど俺は絶対に東龍会と戦う様な事には絶対にならない。だから、安心しろ、お前が東龍会と戦うようなことには絶対にならないよ。いや、絶対に俺がさせない」

 

達哉は東龍会を愛している。

東龍会は唯一の達哉の居場所だから。

二年前。達哉は両親や幼馴染や親友に見捨てられ孤独だった。

そんな時に明久と達哉は出会った。

色々な街に二人で繰り出した。色々な出会いをした。

その最中に明久が真理と出会い、恋をして、とある事情で東龍会に殴り込み、そこで色々あって二人は東龍会に入ることとなった。

それからというもの、毎日が楽しかった。

だから、東龍会とは戦いたくない。

自分を認めてくれた東龍会とは絶対に……

だが、もし明久が東龍会と戦うようなことになったのであれば達哉は明久と共に東龍会と戦う。

今の生活は明久がもたらしてくれたものだから……

 

「さて、俺はもう寝るかね。お前も寝ろよ?明日はテスト詰めなんだからさ」

 

明久はそう言いながら酒器を持って立ち上がる。

達哉も明久と同様に立ち上がった。

 

「はい。おやすみなさい、明久さん」

 

明久は「おう」と返事をして部屋に入り襖を閉めた。

 




う~ん……最近スランプ気味だなぁ……(元々作品の出来は最低だったけど……)

明久と真理の会話も全然ないし……

もう少し頑張って増やさないと……

という訳で、次々回ぐらいに明久と真理、それと真希とのデートを書こうかと思っています。




……本当に書けるかな……

すごく自分でも心配だ……

どんな風にしようかな……今から考えないと……

『デートはこんな風にすればいいんじゃね?』っていう風なコメントを送ってくれると嬉しいです。

では、また次回に。


p.s 物語の辻褄を合わせる為に5/8少しだけ修正を入れました。


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九話 料理の罠

今回、タイトルですべて分かりますよね?

はい、みなさんのご想像の通り『あれ』が登場します。


「ふぅ……疲れた」

 

そう呟きすぐに体を横にする明久。

すると、後頭部に柔らかい感触を感じる。

自分の目の前に自分を見下ろす真理の顔があるからだ。

ほとんどのクラスメイト達から殺気を向けられるが、特に手を出してくるような気配はない。達哉が居るからだろう。

と、そう思っていると騒がしい声が聞こえてきた。

 

「そこを退きなさいよ、篠笥!」

 

「そうです!退いてください!」

 

「ったく、めんどうくさい女共だな……

二人は恋人同士なんだからどこでいちゃつこうが勝手だろうが」

 

上半身だけ起こして様子を窺ってみると八虎が島田と姫路の二人を抑えていた。

明久は「やれやれ」と言いながら起き上がる。

二人のことをいつまでも八虎に押し付けている訳にはいかないからだ。

真理が惜しそうな顔をしていた為彼女の頭を撫でてご機嫌をとった。

そして、八虎が抑えている二人の前に立つ。

 

「二人とも、何しようとしてるの?」

 

若干だが、明久の機嫌が悪い。

明久の声を聞いて達哉と真理はそう察した。

まぁ、誰だって彼女とのいちゃつきを邪魔されたら不機嫌になるのだから仕方ないのだが。

 

「あんたらがいちゃついてるからお仕置きよ!」

「吉井君達がいちゃついてるからお仕置きです!」

 

……意味が分からない。

その言葉を聞いて一番最初に思ったことがそれだった。

何故、恋人といちゃついてお仕置きされなければならないのか。

 

「達哉」

 

「はい」

 

「任せる」

 

「了解です」

 

明久はそう言ってまた体を横にして真理の膝に再び頭を乗せる。

それを見た瞬間八虎が構えるが達哉はそれを「別にいい」と言って制した。

それと同時に姫路と島田が明久に向かって襲い掛かるが……

 

「行かせねえって」

 

達哉はそう言ってすれ違う二人の肩に手を置く。

それだけで二人は一歩も前に進めなくなってしまった。

 

「な、何で……」

「坂成君、離してください!」

 

島田は何故自分達が動けないのか理解できていないようだったが姫路は理解できたようだ。

 

「へぇ……俺の所為だって分かったんだ。でも、行かせる訳ねぇじゃんよっ!」

 

達哉は一瞬だけ二人の肩から手を離す。

そして、二人の首に当て身を入れて二人を気絶させた。

 

「やれやれ……どうしても明久さんの恋人になりたいんだったら絶対に断らねぇんだじゃら告白しろって―――」

 

「それだけはダメ!」

 

教室中に響く真理の声。

 

「明久に暴力を振るおうとする人を明久の周りに囲むのだけは絶対に許さない!」

 

「す、すいません……」

 

真理の勢いにたじろぐ達哉。

真理がここまでの勢いで詰め寄ってきた覚えは無い。

特に女関係は明久が全て決める。

だから、真理が口を出したのはこれが初めてだ。

 

「分かってるよ、真理」

 

真理の下からかけられる声。

勿論、明久の声だ。

 

「安心しなよ、真理。あの二人は告白してきても断るから」

 

そう言って手を真理の後頭部に回し、頭を撫でる。

それだけで真理の機嫌はすぐに直る。

真理にとって明久に撫でられると言うのは最高に幸せなことなのだ。

 

 

「って、ことがあってさ」

 

「それは真理も怒るわね」

 

昼休み、明久は真希達を引き連れて屋上へ向かっていた。

明久達の昼飯は常に明久達が各々自分で作ってきた弁当だ。

場所はいつも明久の気まぐれで決まる。

因みに達哉は恋人と二人きりで食べている。

 

「それより達哉は酷いよね。僕はそんなに女癖悪くないのにさ」

 

「「………え?」」

 

「え、何その顔」

 

「「だって……ねぇ?」」

 

「…………」

 

今夜は絶対に二人のことを寝かせないと心に誓いながら屋上の扉を開く。

そして―――

 

「「「―――――――」」」

 

絶句。

三人の視線の先には倒れているジュースの缶をぶちまけて倒れる雄二の姿があった。

 

「ちょ、坂本!?どうしたの!?」

 

雄二に駆け寄る島田。

 

「あ、足が……攣ったんだ」

 

あり得もしない言い訳をする雄二。

明久は何が起こったのかを把握する為に辺りを観察する。

そして、見つけた。

定番のメニューが詰まっている重箱。

その重箱から明久はかなり嫌な気配を感じる。

明久はその重箱に近寄りエビフライを摘み取る。

 

「あ、明久!ダメ―――」

 

秀吉が明久を止めようとするが明久はそれを聞かずにエビフライを口に運んだ。

 

「―――――!」

 

声にならない絶叫。

悶え苦しむ明久を見て、真理と真紀が明久に声をかける。

 

「「明久!?」」

 

明久がここまで苦しむのを見たのは初めてだ。

明久は彼自身の体質上どんな毒を飲んでもまったく苦しまない。

昔、日本三大有毒植物の一つとされるトリカブトを敵組織の策略で接種したことがあった。だが、明久は少しの息苦しさを訴える程度でまったく苦しみを訴えることはなく平然と暮らしていた。

その明久がここまで悶え苦しむとなるとその毒性はかなりのものだと想像できる。

 

「お、俺は大丈夫だ……はぁ……はぁ……」

 

正直まったくそうには見えない。

額には汗が滝のように流れ、顔色がかなり悪い。

しかも、一人称が「俺」になっている。

かなり苦しかったのだろう。

 

「ひ、姫路さん、この料理には一体何を……?」

 

どうにか口調を元に戻した明久が尋ねる。

自分をここまで苦しめた料理に含まれている調味料は一体何なのか―――

 

「酸味を出す為に濃硫酸を少々入れました」

 

硫酸にはいくつかの種類があり、その中で一番危険な硫酸は何かと答えたら明久は濃硫酸と答えるだろう。強力な酸化力や脱水作用を有し、質量パーセント濃度が約90%以上のそれは医薬用外劇物の基準である10%を優に超えている。

そんな物体を一体どこで手に入れたのかとか、どうしてもっと安い筈であるお酢を使わなかったのかとか、エビフライに酸味は要らないだろう等とツッコみたいことはいくつかあるが明久の一番言いたいことはただ一つだ。

 

「そんなもの料理に使うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

明久の叫び声とほぼ同時にとある女子生徒悲鳴が木霊した。

 




言い訳タイム。


いや、あのですね?

前に更新した翌日に『TSUTAYA』に行ったんですよ。

そこで何となく『黒子のバスケ』という作品を借りたんです。


これがすべての元凶です。

もし、『黒子のバスケ』を借りなければもっと早くに投稿できたでしょう。

『黒子のバスケ』を借りた私はこう思う訳です。


うわ、これマジで面白い!


端的に言えば『黒子のバスケ』にハマった訳です。

私は『黒子のバスケ』のマンガを出ているだけ全て買いました。

そして、『黒子のバスケ』の二次を書こうと思い、三日間こちらは書かずにそちらに集中しました。

そこで、私は思う訳です。


バスケのルールよく知らねぇ……


そうして、『黒子のバスケ』の二次を書くことを断念することになったんです。

そこからはこちらに集中して、今日ようやく完成しました。

お待たせして本当に申し訳ありませんでした。

こんな作者ですがよろしくお願いします。


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十話 ミーティング

「ふぅ……」

 

激しい昼食を終えて復活した皆でのんびり茶を啜る。

殺菌作用がある為、雄二とムッツリーニにはお茶を大量に飲ませた。

 

「姫路や島田は大丈夫なのか……?」

 

あの後姫路は明久のごうm……説教で、島田は姫路に暴力を振るった明久に暴力を振るおうとしたが真紀に返り討ちにされ各々保健室送りにされた。

 

「僕の方は加減したよ?」

 

「私も加減したわよ?」

 

もし、加減していなかったら二人が送られていたのは保健室ではない別の場所に変わっていただろう。

 

「それより雄二、次の相手はBクラスなの?」

 

昨日雄二は戦後会談でBクラスの室外機を壊すことを引き換えにDクラスの設備には手を出さなかった。まさか、Bクラスの設備にダメージを与えてAクラスを攻める訳がないだろうから次の目標はBクラスとなるだろう。

 

「ああ、そうだ」

 

「ふぅ~ん……そうなんだ」

 

雄二の答えを聞くと明久は興味を無くしたのか真理達の頭を撫でたり二人に愛を囁いたりといちゃつき始める。真理と真希の二人の反応は各々で違う。

まず、真理は素直な反応を示し、真希はそっぽを向きながらも顔を赤らめる。

ムッツリーニが今にも明久を刺し殺しそうな顔で明久を睨んでいるが当の本人は全く気にしていない。

 

「しかし、どうしてBクラスなのじゃ?目標はAクラスじゃろう?」

 

秀吉の言う通りFクラスの最終目標はAクラス。

通過点に過ぎないBクラスを相手にする理由が分からない。

 

「正直に言おう」

 

雄二が急に神妙な面持ちになる。

 

「どんな作戦を用いてもAクラスには勝てない」

 

雄二がそんな弱気な発言を言うのにも理由がある。

文月学園の二年はジャスト300名。

Aクラスはその300名の上位五十名が所属している。

だが、その内40名は正直大したことはない。

Bクラスの生徒に毛が生えた程度だ。

だが、ムッツリーニの情報では残り十名の格が違うらしい。

今の所ムッツリーニが情報を手に入れられたのはその内の三名。

まず、秀吉の姉である木下優子。

彼女はこの学園の誰もが知る優等生で教師からも信頼されている。

次に久保利光。

学年次席である彼は学年主席の霧島程ではないものの圧倒的な学力を持っている。

そして、学年主席である霧島翔子。

彼女の学力は想像を絶しており、彼女一人で大半のFクラス生徒は倒せるだろう。

そして、もう一人……明久はもう一人Aクラスの中で規格外な生徒を知っているが……まぁ、それは今言ったところで仕方ないだろう。

 

「それではわし等の目標はBクラスに変更になるのか?」

 

Aクラス程ではないとはいえ、Bクラスの設備もそうとうなものだ。

不満は出ないだろう。だが、雄二は首を横に振った。

 

「いいや、最終的にはAクラスをやるさ」

 

「……さっきと言っていることが違う」

 

秀吉の台詞を引き継ぐようにムッツリーニが間に入る。

Aクラスに勝てるかどうかはFクラスにとって大きな問題だ。

 

「クラス単位では勝てない。だから、一騎打ちを申し込むつもりだ」

 

「一騎打ちじゃと?どうするつもりじゃ?」

 

一騎打ちなど申し込んだところでAクラスが承諾する訳がない。

承諾すればわずかとはいえ自分達が負ける可能性ができてしまう。

 

「Bクラスを使う。上位クラスが負けた場合どうなるか知っているな?」

 

「……相手クラスと設備が入れ替わる」

 

「そうだ、そのシステムを利用してBクラスと交渉をする」

 

「交渉じゃと?」

 

「設備を入れ替えない代わりにAクラスへ攻め込むように交渉する。

あいつ等もFクラスの設備は嫌だろうからうまくいくだろ。

その後にそれをネタにAクラスとも『Bクラスとの勝負直後に攻め込むぞ』といった具合に交渉する」

 

学年の二番手との戦争の後に休む暇なくまた戦争。

これはかなりきついだろう。

Fクラスも連戦だがFクラスには不満と言う原動力がある。

だが、Aクラスには利益がない。

勝っても得られるものは無いし、Fクラス相手に時間をくうのも嫌がる筈。

モチベーションの差はハッキリしている。

 

「雄二よ、それでも色々な問題はあるじゃろう。

そもそも、一騎打ちでこちらが勝てるのか?

姫路と言うジョーカーがこちらに居ることはもう既に知れ渡っていることじゃろう?」

 

「大丈夫だ、その辺に関しては考えてある」

 

秀吉の不安とは対照的に自信満々な雄二。

 

「とにかくBクラスをやるぞ。その後のことはそれから教えてやる。

おい、明久。お前Bクラスに行って―――おい、明久はどこに行った?」

 

「む?おかしいのう。雨宮や新山も居らん」

 

「……さっきまでここに居た」

 

消えた三人を探し始める三人。

すると、どこからか声が聞こえてきた。

 

『あきひさぁ……そこ、だめぇ……』

 

『ははっ、いつもツンケンした態度なのにシてる最中だけそんな可愛い態度だなんてある意味卑怯だよな?』

 

『あきひさぁ……私にもはやくぅ……』

 

『もう少し待ってろよ、こいつにお仕置きしなくちゃいけないんだから』

 

『うぅ……私もう我慢できないよぉ……あきひさぁ……』

 

プシャァァッ!

 

噴き出る鮮血。

出所は勿論

 

「ムッツリーニいぃぃぃぃぃっ!」

 

土屋康太である。

 

 

その後、ムッツリーニは雄二と秀吉の活躍で奇跡的に一命を取り留めた。

尚、明久は行為の時の声を聞かれたと放課後、真希に三時間程説教された。

 




遅くなって申し訳ありません。


先輩のムチャぶりに答えていたためこんなに遅くなりました。


本当にあの人酷いわぁ……はぁ……


皆さん、先輩からムチャぶりを受けたことありますか?


私はしょっちゅうです。


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十一話 デート

「明久、これはどうかしら?」

 

鏡の前に立って服の上から衣類を当てて明久に問いかける真希。

それに対して明久は的確に答える。

 

「う~ん……真希はもう少し落ち着いた感じの服が良いんじゃないかな?」

 

そう返事をすると真希は「分かったわ」と言って明久に見せた元あった場所に戻し、再び服を吟味し始める。

その姿を眺めながら明久は二時間前のことを思い出していた。

 

 

「デート?」

 

「うん、デートして?」

 

学校が終わり家に帰り、真理といちゃついていると彼女がそんなことを言ってきた。

 

「ダメなの?」

 

「いや、別に良いんだけどさ?でも―――」

 

そう、別にいい。

彼女が自分とデートするように言ってくるのは初めてではない。

だが―――

 

「何で真希と?」

 

他人とデートをするように言ってくるのは初めてだ。

流石の明久も戸惑ってしまう。

因みに当の真希は買い物に出かけていて今は居ない。

 

「だって、真希ちゃん明久と違うクラスだから明久と入れる時間がどうしても短くなっちゃうでしょ?可哀想だから少しだけ貸してあげようかなって」

 

「……大丈夫なの?」

 

明久至上主義である真理が明久と少しの間とはいえ、離れ離れになる。

真理にとってそんな拷問の様な時間を彼女は耐えきれるのだろうか?

正直かなり心配だ。だが、彼女はまるで『心配ご無用!』とでも言いたそうな顔で部屋にある押入れを勢いよく開ける。

 

「これは……」

 

押入れの中には明久の写真や明久の私物、更には明久を模したような人形、明久が書かれたカップ等様々な『明久グッズ』があった。

 

「これがあれば私は明久が居なくても一日は生きていけるよ!」

 

そう言って真理は胸を張る。

とりあえず、写真はどうやって撮ったのかとか、私物はどこから集めたのかとか、まぁ、そんな野暮なことはツッコまない。

ツッコんでも無駄だと言うことは良く分かっているから。

だが―――

 

「これだけあっても一日しか保たないんだ……」

 

どうしてもそこだけはツッコまなければ気が済まなかった。

 

 

と、まぁ、こんなことがあり明久と真希はデートすることとなった。

因みに最初に真希をデートに誘った時は『で、デート!?べ、別に嬉しくないわよ!で、でもどうしてもって言うんだったら……』等と言いながら頬を赤らめていたのは余談である。

 

「明久、決めたわ!」

 

そう言って服を持った真希が明久に駆け寄ってくる。

 

「ん、分かっt―――」

 

全てを言い終わる前に固まってしまった。

何故なら―――

 

「服、多くね?」

 

そう、真希が持ってきた服が異様に多いのだ。

思わず素に戻ってしまう程に。

 

「そうかしら?」

 

明久の言葉に首を傾げる。

普段凛々しい態度を取っているだけにこういう可愛らしい態度をとられるとかなり可愛く見えてしまう。

 

「いや、普段から滅茶苦茶可愛いよ?だけど、今のはマジでヤバいよ……兵器だよ……!」

 

「?明久、どうしたの?」

 

「いや、大丈夫だ。問題ない」

 

そんなこんなで服屋での買い物は終了。

 

 

「あぁ~……幸せ……」

 

「………」

 

うっとりした顔で真希がパフェを食べていく。

明久はそれを微笑みながら見ている。

 

「何笑ってるのよ?」

 

「いや、お前さ。昔っから可愛かったけど―――」

 

「にゃ、にゃにを言ってにょのよ!バカじゃないの!?」

 

そう言って頬を赤らめ、そっぽを向く真希。

明久は微笑んだまま続けた。

 

「よく笑う様になった今のお前の方が昔よりももっと可愛い」

 

最近はよくそう思うことが多くなった。

昔は一度もたりとも笑顔を見せることのなかった真希がシュン達と出会ってからよく笑うようになった。

明久は恋人としてそのことが嬉しいのだ。

 

「なぁ、真希。お前、今幸せか?」

 

答えなど分かりきっているというのに、そんなことを訊いてしまう自分はやはりバカなのだろうか?否、自分は不安なのだ。

答えは確かに分かりきっている。

だが、本当に自分は彼女を幸せにできているのか。

目の前の―――かつて、暗闇の底に居た少女を本当の意味で救えたのだろうかと。

不安で仕方がないのだ。

 

「勿論、幸せよ」

 

真理は微笑んで明久の問いに即答した。

 

「今の私はあなたのおかげで本当に幸せよ……だから―――」

 

 

 

 

 

       ―――ありがとう、『兄さん』

 

 

思わず真理の微笑みにも慣れている明久でさえも一瞬見惚れてしまった。

 

「~~~っ!行くぞ、真希!デートの続きだ!」

 

明久は勢いよく立ち上がりそっぽを向く。

だが、真希は見逃さなかった。

明久の耳が赤くなっているのを。

 

「ふふっ……ええ、行きましょうか、明久」

 

真希も立ち上がり明久について行く。

二人のデートは始まったばかり―――

 




ふぅ~……最近本当に忙しいです……

もっと早くに投稿したいのに全然できない……

時間が欲しいよ~~~!

誰か時間をプリーズ!


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十二話 Bクラス戦 ①

「さて皆、総合テストご苦労だった」

 

教壇に立った雄二が机に手をおいて皆の方を向いている。

今日も午前中がテストで先程全科目のテストが終わったところだ。

 

「午後はBクラスとの試召戦争だが、殺る気は充分か?」

 

『おおーっ!』

 

一向に下がらないモチベーション。これがFクラス唯一の武器だろう。

 

「今回の戦闘は敵を教室に押し込むことが重要になる。

その為、開戦直後の渡り廊下戦は絶対に負ける訳にはいかない」

 

『おおーっ!』

 

「そこで、前線部隊の指揮は姫路瑞希にとってもらう。野郎ども、きっちり死んで来い!」

 

「が、頑張ります」

 

男のノリについていけないのか若干引いた様子の姫路が前に出る。

 

『うおおーっ!』

 

一緒に戦えるとあって前線部隊の士気は最高潮に達しようとしていた。

渡り廊下戦ではFクラス五十人中四十人を注ぎ込む。

そこには学力で文月学園のトップクラス姫路や真理、更に操作技術でトップクラスの明久や達哉が居る。滅多な事がない限り負けることはない。

 

キーコーンカーンコーン

 

昼休みの終了のベルが鳴り響いた。

これでBクラス戦の始まりだ。

 

「よし、行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」

 

『サー、イエッサ―!』

 

敵を押し込むことが重要なので、兎に角勢いが重要になる。

今回のFクラスの主な武器は数学だ。

理由は二つある。

一つ目がBクラスの生徒は比較的文系が多いという点。

二つ目は詳しい理由は分かっていないが数学の長谷川教諭の召喚フィールドが広いという点だ。他にも英語ライティングの山田教諭や物理の木村教諭も居る。

立会人の教師を増やして一気に駆け抜けるのがFクラスの狙いだ。

 

『居たぞ!Bクラスだ!」

 

『高橋先生を連れているぞ!』

 

正面を見ると相手はゆっくりと歩いている。

人数は十人程度。

あくまで様子見といったところだろう。

 

「生かして逃がすなー!」

 

そんな物騒なセリフが皮切りとなり、Bクラス戦が始まった。

 

『Bクラス 野中長男 VS Fクラス 近藤吉宗

 総合  1943点 VS      764点』

 

『Bクラス 金田一裕子 VS Fクラス 武藤啓太

 数学    159点 VS       69点』

 

『Bクラス 里井真由子 VS Fクラス 君島博

 物理    152点 VS      77点』

 

やっぱり点数の差がある。

圧倒的な戦力差に第一陣がことごとくやられていく。

止めが刺される前にフォローをしなければ戦力が激減してしまう。

と、前線の観察をしていると

 

「お、遅れ、まし、た……ごめ、んな、さい……」

 

息を切らした姫路がやってきた。

 

『来た!姫路瑞希だ!』

 

Bクラスの誰かが叫んだ。

やはり、姫路がFクラスに所属していたことを知っていたらしい。

声を聞きBクラス生徒の目が変わった。

明らかに姫路を警戒している。

 

「姫路さん、早速で悪いけど……」

 

「は、はい。分かり、ました」

 

そのままトタトタと戦場に紛れ込む姫路。

 

「長谷川先生、Bクラス岩下律子です。Fクラス姫路瑞希さんに数学勝負を申し込みます」

 

「あ、長谷川先生。姫路瑞希です。よろしくお願いします」

 

早速勝負を申し込まれる姫路。

向こうとしては早々に潰しておきたい相手だろう。

 

「律子、私も手伝う!」

 

その後ろからもう一人Bクラスの女子が召喚を開始。

現在ここにBクラスは十人しか居ないというのに二人がかりとは、余程警戒されているようだ。姫路ならば負けないだろうが一応姫路の援護をしておくべきだろうと思い、達哉達にその旨を伝えようとしたその時だった。

 

「吉井明久!見つけたぜ!」

 

そんな声が明久の耳に届いた。

声のした方へ顔を向ける。

そこには明久の見覚えのある男子が居た。

 

「佐藤?」

 

『佐藤康彦』

 

かつて明久達が真理と出会う前に出会った少年だ。

佐藤は常に強い者との戦いを求めて明久達に勝負をしかけてきた。

結果は勿論明久達の勝ち……だったのだが、それからというもの『俺は吉井明久に勝つまで何度も勝負を仕掛けてやる!』と宣言し、その宣言通り何度も勝負を仕掛けてきた。

 

「お前、この学園に居たのかよ……」

 

「面倒くさい奴と会っちまった……」と呟いて項垂れる明久。

一年の頃には見かけなかったからようやく佐藤から解放されると思っていたというのに……

 

「お前に勝負を仕掛ける為にお前が入った学園を調べたんだ!勝負しろ!」

 

「そのやる気を別の所に回せよ……」

 

確かに勝ち逃げなどする気はない。

リベンジマッチも受けて立つ。

だが、あまりにもしつこすぎるのだ。

別に諦めろとは言わないが会う度に勝負を仕掛けるのだけはやめて欲しい。

 

「明久さんが出ることは無いですよ。俺がやります」

 

そう言って達哉が前に出る。

すると、佐藤は口の端を釣り上げてニヤリと笑った。

 

「良いぜ?坂成とも戦いたかったんだ!行くぞごらぁっ!」

 

「かかってこい!佐藤!」

 

『『試獣召喚(サモン)!』』

 

『Fクラス 坂成達哉 VS  Bクラス 佐藤康彦

 数学   123点 VS       175点』

 

喚声に応えて魔法陣が展開。

二人の召喚獣が顔を出す。

二人の召喚獣の装備は二体とも素手。

 

「おらぁっ!」

 

「くたばれ!」

 

激しい拳の打ち合い。

点数は佐藤が勝っているが達哉はそれを操作技能でカバーしている。

 

『い、岩下と菊入が戦死したぞ!』

 

『そ、そんなバカな!?』

 

『姫路瑞希、噂以上に危険な相手だ!』

 

Bクラスの生徒達から上がる驚愕の声。

どうやら姫路が上手くやったらしい。

 

「ちっ!だから、姫路のことは厳重に警戒しとけって言ったのによぉ……

お前等、中堅部隊と交代しながら退きやがれ!殿は俺がやってやる!なるべく早く中堅部隊を連れて来い!」

 

佐藤がBクラスの生徒達に指示を出す。

とりあえず狙いは成功した。

後は相手を徐々に下がらせて、目的のBクラスに釘付けにするくらいで今日の戦闘は終了するだろう。

 

「明久、ワシらは教室に戻るぞ」

 

「何で?」

 

佐藤と達哉との戦いを眺めていた明久の所に秀吉がやってきた。

 

「Bクラスの代表じゃが……」

 

「うん」

 

「あの根本らしいのじゃ」

 

「根本ってあの?」

 

「うむ」

 

『根本恭二』

 

根本恭二という男を一言で表すのであれば『卑怯』。

その言葉が一番的を得ているだろう。

噂ではカンニングの常連だとか、球技大会でチームに一服盛ったとか色々言われている。

 

「なるほど、確かにそれは戻っておいた方が―――」

 

『戻っておいた方が良いね』と言おうとしたところで叫び声が聞こえてきた。

 

『戦死者は補習~!!』

 

『ちくしょぉぉぉっ!坂成!覚えてろよぉぉっ!』

 

どうやら達哉が佐藤を倒したらしい。

 

「すいません、明久さん。思ったより佐藤の野郎がしぶとくて」

 

「別に良いよ。ご苦労様。それじゃぁ、早速だけど教室に戻ろうか?」

 

「え?」

 

「事情は戻りながら説明するから。達哉、真理、秀吉。行くよ」

 

「はいっす」

 

「うん」

 

「うむ」

 

明久達は姫路に一言報告して教室へと引き返した。

 




もう忙しすぎて執筆時間が……


どうすれば良いんでしょうか……


はぁ……


あ、そう言えば前回真希とのデートを書きましたよね?

八話で『明久と真理、それと真希とのデートを書こうかと思っています』

なんて言ったのに……

真希とだけのデートになってすいません……

この謝罪も前回やっとけばいいのに忘れていて……

重ね重ね申し訳ありません……

真理とのデートもちゃんと書きますので少々お待ちください。


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十三話 Bクラス戦 ②

「こりゃまた手酷くやられたね……」

 

「そうっすねぇ……」

 

そう言う二人の前には穴だらけになった卓袱台や折られたシャーペン。

犯人は推理しなくとも分かるだろう。

 

「まったく……正々堂々戦うってことを知らねぇのかねぇ……Bクラスの連中は」

 

壁に寄りかかりながらそんなことを言う篠笥。

そんな篠笥に達哉が敵意をむき出しにする。

 

「テメエはこの戦争サボってずっとこの教室に居たはずだろうが。何してやがった」

 

「寝てた」

 

篠笥が答えた瞬間、篠笥に向けられていたものが敵意から殺気に変わった。

 

「テメェ……マジでぶち殺すぞ……」

 

「やってみろ」

 

まさに、一触即発。

何かきっかけがあれば二人は殺し合いを始めるだろう。

その殺し合いを止められる人間はこの場にはたった一人しかいない。

 

「お前等やめろ」

 

この男、吉井明久以外は。

 

「こんな場所でケンカした所で何にもならねぇだろうが」

 

「俺はケンカしたい訳じゃねぇぜ?お前の舎弟がケンカ吹っかけてきただけだ」

 

篠笥の言葉で更に達哉の殺気が膨れ上がった。

それを感じ取って明久はため息を吐く。

 

―――この短気さえ治ればなぁ……

 

そう思う明久だが、今は思っていても仕方がない。

二人を止めなければ少なくともこの教室が吹き飛んでしまう。

 

「達哉、篠笥に殺気を向けるのはもうやめろ。

そんなに戦いたいんだったら俺が相手になるぞ」

 

明久の言葉に顔を真青にする達哉。

別に明久は殺気を込めていた訳ではない。

ならば、何故達哉は顔を真青にしたのか?

理由は簡単だ。明久の言った内容が恐ろしかったのだ。

達哉の実力は常人のそれと遥かにかけ離れているが明久の実力は達哉のそれを超越している。明久と戦うことになった時のことを考えると震えが来るほどだ。

 

「す、すいません!篠笥、マジで悪かった!もうケンカ吹っかけねぇから許してくれ!」

 

ものすごい勢いで頭を下げる達哉。

いきなり態度が変わったことに篠笥はおろか他のFクラスメンバーもついていけていない。

 

「い、いや、別に良いんだ。それより、坂本。これからどうすんだ?」

 

まるで誤魔化すかのように雄二に話を振る。

少し戸惑いながらも雄二はその問いに答えた。

 

「先程、Bクラスから協定の申し出があってな。

協定に乗っ取り午後四時には戦争を終了する」

 

「協定?あぁ、そんなもん結んだのか?」

 

「あぁ、体力勝負に持ち込んだら姫路が保たないからな。

雨宮が参加していたら良かったんだがどっかの誰かさんが参加させないし」

 

「……ごめんなさい」

 

何の反論もせずに謝罪する明久。

というか、何も反論はできない。

真理が参加していないのは明久の勝手なのだから。

 

「まぁ、そんな訳で今日の戦争は四時までだ。

それまでは各々戦死しない様にあいつ等を教室に押し込め」

 

「はいはい、了解。それじゃぁ、俺も参加するか」

 

「?どうしてだ?」

 

篠笥は『試召戦争には参加しない』と雄二に向かって啖呵を切った。

だが、今は参加すると言う

この矛盾に雄二は訝しんだ。

 

「俺も戦争に参加しねぇとは言ったけどこれから巻き込まれることもあるかもしれねぇからな」

 

「なるほどな、なら、明久達の隊に行け」

 

「了解、それじゃ、よろしくな。隊長殿」

 

そう言って篠笥は手を差し出してくる。

 

「あぁ、よろしく」

 

明久はその手を握った。

最初はいけ好かない男だと思ったが思ったより接しやすい男だったようだ。

 

「それじゃ、早速だけど急ぐとするか。前線で何かされてるかも知れねぇし」

 

「そうだね。相手はあの根本君だし」

 

「それじゃ、走ります?真理さんは明久さんがお姫様抱っこでもして」

 

「はぁ?何言って―――」

 

「達哉君いいこと言ったよ!さ、明久!カモン!」

 

達哉の言葉を遮って真理は手を伸ばす。

因みに余談だが『私を抱き上げて』は英語で『Pick me up』だ。

(なお、『Pick me up』には『抱っこ!』と言う意味もあるし、強壮剤と言う意味もある)

 

「はいはい、分かったよ」

 

苦笑しながら明久は真理を抱き上げる。

 

「マジでやりやがった……」

 

呆然とそう呟く篠笥。

そんな篠笥を尻目に明久と達哉は駆ける。

それも、常人ではあり得ない速さで。

 

「速すぎだろ……少しは他の奴のことも考えろよ」

 

そう呟きながらも篠笥は駆けだした。

 

 

 

それも、明久達とほぼ同じ速度で。

 




はぁ……本当に参りました……


執筆時間が三日に一度しかも一時間しか取れなくなってしまいました……


本当にどうしたら良いんだろう……


あぁ、それと、Bクラス戦を『前篇』『後篇』表示から『①』『②』表示に変えました。


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十三話 Bクラス戦③

「吉井!雨宮!坂成!戻ってき……坂成?」

 

明久達と共に来た篠笥を見て訝しんだ表情を見せる須川。

(因みに真理はもう既に下ろしている)

 

「詳しい事情は後で話すよ。戦況は?」

 

「あ、ああ。正直に言うとあまり良くない」

 

「何だって?」

 

向こうから本隊が出た様子はない。

それに、明久達が教室に引き返した時、確実に勝てるところまでBクラスを追い込んでいた筈だ。それなのに一体何が起こったのだろうか?

 

「実は、姫路さん。腕輪の使用で結構点数を消費していてな。

一旦下がるように副官の島田が指示をしたんだ。

それからしばらく島田が指揮を執っていたんだが、いつの間にか島田が人質に取られたんだ」

 

「はぁ?」

 

意味が分からない。

何故指揮を執っていて人質に取られるのか?

 

「とりあえず状況を見に行こうぜ。まずは状況を見るのが最優先だろ」

 

「それなら前へ行こう。敵はそこで道を塞いでるから」

 

須川の案内で部隊の人垣を抜ける。

すると、そこには須川の言う通り二人のBクラス生徒に捕らえられた島田及び召喚獣の姿があった。傍には補習担当の講師もいる。

 

(まずは、様子見かな)

 

そう考えて一歩だけ前に出る。

 

「動くな!それ以上動くならこの女を補習室送りにするぞ!」

 

島田を捕えている敵の一人が明久を牽制する。

どうやら興奮していてこちらの動きに敏感になっているらしい。

こうなっているのは島田のミスだ。

後二人で相手の前線部隊を全滅させることができるというのに島田の所為でそれができない。これがもし普段の戦争だったならば島田を見捨てていただろうがこれは本物の戦争ではない。

だから、できれば無事に助け出したい。

 

「吉井、俺に任せてくれないか?」

 

篠笥が舌打ちしてそう言ってくる。

どうやら島田を救出する術を編み出したらしい。

 

「分かったよ。お願い」

 

頷く篠笥。

 

(さて、どんな手を使うのかお手並み拝見――)

 

「試獣召喚(サモン)!」

 

『Fクラス 篠笥八虎

 英語W   89点』

 

「「「えぇっ!?」」」

 

突然召喚する篠笥。

そんなことをしてしまえば相手を刺激することになり、島田の身が危険に晒されることになる。

 

(なのにどうして……まさか!?)

 

「試獣召喚(サモン)!」

 

最悪の思考に至った時明久は召喚獣を召喚していた。

篠笥の召喚獣は既にBクラス生徒達へ突貫を始めていた。

 

「間に合え……ッ!」

 

召喚獣を走らせるなか、明久の頭の中は覚醒していた。

まず、情報を客観的に分析する。

 

篠笥の召喚獣の装備は手甲。

格闘術を使った戦闘が得意だと推測できる。

召喚獣の走行方法から篠笥が狙っているのは島田の召喚獣の右側の敵だと仮定。

 

これ等の分析に明久は一秒もかけない。

コンマ数秒ですべての解析を終わらせ次の段階に入る。

次の段階は自分がどうすれば島田を無事に救えるかどうかの検証。

高速で数百というパターンをシミレーションし、ベストな方法を見つけ出す。

 

(――見つけた!)

 

シミュレーションで見つけたベストな方法の通りに召喚獣を動かす。

まずは、篠笥が狙っていない(だろうと仮定した)敵へとナイフを投擲する。

 

「……え?」

 

相手は召喚獣を一歩も動かすことができずに戦死。

その時篠笥の召喚獣は拳を相手の召喚獣へと突き出す最中だった。

別に篠笥が遅い訳ではない。

篠笥が召喚獣を召喚してからこれまでの間は約二秒しか経っていないのだ。

つまり、明久が速すぎるだけだ。

だが、これで終わりではない。

次の行動はただ一つ。

 

 

 

――明久の召喚獣を島田の召喚獣の前に出すことだ。

 

明久の召喚獣はダメージを受ければ召喚者にそのダメージの何割かを返す観察処分者仕様になっている。

勿論防御はするがそれでも激痛は走るだろう。

それでも島田を守る為には仕方がない。

そう覚悟を決めた時だった。

 

「ちっ、やめだ、やめ」

 

舌打ちと共に聞こえるそんな呟き。

声のする方を向けば篠笥が痒くもないであろう後頭部をかいていた。

 

「確かに島田を戦死させて補習室に送ろうとしたけどやめだ」

 

そこまで言うと篠笥は顔を明久の方へ向ける。

 

「お前は何もしてないのにお前を攻撃するのはおかしいだろ?」

 

「………」

 

「俺は一旦下がらせてもらうぜ。さっきから雨宮や坂成の視線に殺気が籠もってて怖いからよ」

 

そう言って篠笥は真理と達哉が居る方向を指す。

確かに真理と達哉が殺気を込めて篠笥を睨んでいた。

周りに居る生徒も恐怖で体を震わせている。

だが、篠笥はそんな様子は一切ない。

 

「心にも無いことを言うね」

 

「ふっ……じゃぁな。本当に下がるわ」

 

そう言って篠笥はFクラスの教師へと戻っていく。

一方明久は島田の方へ。

 

「島田さん、大丈夫?」

 

「え、ええ。大丈夫よ。助けてくれてありがとう」

 

島田に手を差し出して立ち上がらせてやる。

その瞬間明久に殺気が向けられた。

犯人は勿論真理だ。

 

(はは……島田さんに触れるな、と?)

 

これは後でたっぷりとお詫びをしなければならないだろう。

 

(はぁ……こうゆう時にシミュレーションが使えたら楽なんだけどなぁ……)

 

もし、使えたら真理の機嫌を治せる方法がすぐに見つかると言うのに……

明久はため息を吐いた。

 

 

その後、四時になったので協定に従い明久達は教室へと引き返した。

 



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十四話 Bクラス戦 ④

「ただいま……って、あれ?皆何してるの?」

 

明久達が教室に戻ると雄二達はどこかへ出かける準備をしていた。

鞄を持っている訳ではないから帰る訳ではないようだ。

 

「おお、明久。帰って……一つ聞いてよいか?」

 

「うん。良いよ」

 

聞かれることは大体予想がついてはいる。

秀吉は明久の腕に抱き着いている真理の方を見ながら尋ねた。

 

「雨宮が明久に抱き着いておる理由はまぁ、察せるんじゃが……どうして、雨宮はそんなに不機嫌そうなんじゃ?」

 

島田を助けてから真理はずっと不機嫌そうな顔をしながら明久に抱き着いている。

正直歩きづらいのだがそんなことを言えば最後今日中に機嫌を治すことが難しくなってしまう。

 

「いや、実はね……」

 

苦笑しながら先程起こったことを説明する。

だが、秀吉はその説明で要領を得なかったらしく首を傾げた。

 

「えっとね……真理は自分が認めた人以外が僕に触れるのを極端に嫌うんだよ」

 

明久の言葉に納得した表情を見せる秀吉。

秀吉が納得したため明久は聞きたかったことを訊くことにした。

 

「皆一体何の準備をしてるの?」

 

「Cクラスが怪しい動きをしているそうでのう。

Cクラスとも条約を結びに行くのじゃ」

 

秀吉の言葉を聞いた瞬間嫌な予感がした。

何故だかは分からない。

だが、何か良くないことが起こるような気がした。

こういう時の明久の勘は良く当たる。

 

(止めるべきかもしれない)

 

と、そんな考えに至った時だった。

 

「明久、どうしたのじゃ?」

 

と、秀吉が声をかけてきた。

少し難しい顔をしていたからだろう。

 

「やっぱり僕達もCクラスに行った方が良いの?」

 

嫌な予感はするが自分や達哉が居れば大抵のことは何とかできる自信はある。

それにもしも本当にCクラスが何かしようとしているのであれば行くべきだろう。

 

「その方が良いじゃろうな」

 

「分かった、ついて行くよ。それじゃぁ、行こうか」

 

「ああ、明久。ワシは―――」

 

「秀吉は連れて行かないぞ」

 

秀吉の言葉を遮り雄二が会話に入ってきた。

 

「どうして?」

 

「秀吉がついてくると万が一の場合にやろうとしている作戦に支障が出るからな。

念のために秀吉はここに残ってもらう」

 

「そっか。それじゃぁ、Cクラスの代表が帰る前に行こうか」

 

こうして明久達はCクラスへと向かうことになった。

 

 

「Cクラス代表は居るか?」

 

教室を開け放つなり雄二がその場に居る全員に告げる。

Cクラスの教室にはまだかなりの数の生徒が残っていた。

 

「私だけど何か用かしら?」

 

明久達の前に出てきたのは混じり気のない黒髪をベリーショートにした気の強そうな女子。

名前は小山友香。バレー部のホープだ。

 

「Fクラス代表として―――」

 

「待って、雄二」

 

雄二の言葉を遮る明久。

その行動に訝しんだ表情を見せる雄二だが明久の表情を見てその表情はすぐに消え去った。

 

「どうした、明久」

 

―――何かある。

 

明久の表情を見て雄二はすぐにそう察した。

こういう時は素直に明久に任せた方が良い。

 

「いや、少しね」

 

雄二の言葉にそう答えると明久はゆっくりと教室の奥へと歩き始めた。

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

慌てて明久を制止する小山。

明久は思いの外素直に止まった。

安堵の表情を浮かべる小山だったがすぐにその表情は真逆に変わることとなる。

 

「どうして、ここに根本君達が居るのかな?」

 

『『『―――っ!?』』』

 

その場に居た全員の表情が固まった。

 

「よ、吉井君。な、何を言ってるの……?」

 

「ふぅん……?」

 

小山の言葉を聞きニヤリと笑う明久。

それを見て真理は内心呆れていた。

 

(また明久の悪い癖が始まったよ……)

 

――明久の悪い癖

 

それは困っている女子を見るといじめたくなるというもの。

勿論、深刻に困っている時は助けたりするがそれ以外の時はそうではない。

それ以外の時は思いっきりいじめる。

つまり、明久はドがつくSという訳だ。

 

「その反応を見る限り根本君はこの教室には居ないんだよね?」

 

「も、勿論よ!」

 

嘘を吐いている。

小山の反応を見る限りそれは明らかだった。

 

「そっかぁ……それじゃぁ、僕達は帰ろうかなぁ……」

 

だと言うのにそんなことを言い出して明久は出口へ歩き始めた。

 

「お、おい!明久!」

 

それを見て雄二は止めようとする。

その時明久は振り向いた。

 

「なぁ~んてね♪」

 

次の瞬間明久は教室の奥へ向かって再び歩き始めた。

 

「え、ちょっ……!」

 

小山は明久を制止しようとするが今度の明久は止まらなかった。

 

「やぁ、根本君」

 

「くっ……何で気づきやがった……!」

 

隠れていた場所から姿を現して忌々しげに明久を睨む根本。

隠れていたのは根本だけではなく他のBクラス生徒や長谷川教諭も居た。

 

「君たちはCクラスと手を組んでたんだね。Cクラスが怪しい動きをして僕達がここに来るように仕向ける。そうすると僕達は協定違反をしたことになるからここで僕達を打ち取る。まぁ、そんなところかな?」

 

「く……っ!」

 

どうやら図星らしい。

歯軋りをして明久を睨み付けている。

 

「さて、どうするかなぁ……ねぇ、雄二。どうする?」

 

根本を見て驚愕して固まっている雄二に話しかける。

その瞬間雄二は我に返った。

 

「そ、そうだな。ここで打ち取るべきだろうな」

 

「だってさ。それじゃ、長谷川先生。Fクラス吉井明久が――」

 

「させるか!Bクラス芳野が受けて立つ!」

 

根本に対して攻撃しようとしたところを芳野が根本の身代わりになった。

 

『Bクラス 芳野孝之 VS Fクラス 吉井明久

 数学   161点 VS      132点』

 

「くっ!お前等!俺は逃げるから時間を稼げよ!」

 

そう言って根本は仲間を置き去りにして逃げた。

これでここに居るBクラスの生徒は四人。

 

「ふっ!」

 

一閃。

 

一瞬で相手の喉を装備のナイフで切り裂いて相手を戦死させる。

これで後残りは三人―――

 

「吹き飛べやあぁぁぁっ!」

 

訂正二人だ。

 

「や、やばいぞこれ!」

 

「早く逃げるぞ!俺達じゃ時間稼ぎにすらならねぇ!」

 

更に訂正。

敵は居なくなった。

 

「よし、敵も居なくなったことだしお前等。一旦、教室に戻るぞ」

 

雄二の言葉にFクラスのメンバー全員が頷いた。

 

 

「こうなっちまった以上Cクラスも敵になった」

 

教室に戻る最中雄二が口を開いてそう言った。

 

「Bクラス戦の後Cクラスとも戦うのはかなりきつい」

 

「それならどうすんだよ。このまま勝ってもCクラスの餌食じゃ意味ねぇじゃねぇか」

 

「心配するな」

 

達哉の言葉に雄二が野性味たっぷりの活き活きとした顔でそう告げた。

 

「こうなることは想定内だ。こうなった時のことはちゃんと考えてある。

目には目を、だ」

 

この日はそれで解散となり、翌日へ持越しとなった。

だが、明久はこの時気付いていなかったのだ。

 

 

―――根本に弱みを握られていたことを。

 







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十五話 Bクラス戦 ⑤

「昨日言っていた作戦を実行する」

 

翌朝、登校した明久達に雄二は開口一番そう告げた。

 

「作戦じゃと?まだ開戦時刻は先ではないのか?」

 

現在の時刻は八時三十分。協定により開戦時刻は九時だ。

 

「Bクラス相手にじゃない。Cクラスの方だ」

 

「ほう、それで何をするのじゃ?」

 

「こいつを秀吉に着てもらう」

 

そう言って雄二が学生鞄から取り出したのは文月学園の女子の制服。

文月学園の女子の制服はそのデザインの良さから他校の生徒や一部のマニアからも人気が高い。しかし、雄二は一体どこでどうやってこの制服を手に入れたのだろうか。

 

「それは別に構わんが儂が女装してどうするんじゃ?」

 

そこは男として存分に構うべきだ。

 

「秀吉にはこいつを着て木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」

 

秀吉には双子の姉が居る。

 

『木下優子』

 

文月学園に在籍する限り、彼女の名前は学年主席の霧島翔子や学年次席の姫路瑞希、学年三位の久保利光に次いで頻繁に耳にする。

学力で優秀な姉の木下優子、演劇部のホープである木下秀吉。

この姉弟の名前を知らないこの文月学園には者は居ない

 

「と、いう訳だ。秀吉、準備をしてくれ」

 

「う、うむ……」

 

頷き秀吉は雄二から制服を受け取り、その場で生着替えを―――

 

「待て、木下」

 

「そうそう、ここで着替えんなよ」

 

始めようとしたところで達哉と篠笥に止められた。

 

「ここには女子も居るんだ。着替えるんだったら別の場所で着替えろ」

 

そう言って篠笥は秀吉の首根っこを掴み猫の様に運び、達哉は秀吉の着替えを運ぶ。

その二人の行動に秀吉の生着替えを期待していたFクラスのメンバーからバッシングを受けるが二人は気にせず外へ出た。それから約十秒後三人は帰ってきた。

 

「着替え終わったぞい。ん?皆二人を睨んでどうしたのじゃ?」

 

ほとんどのFクラスメンバーは達哉と篠笥に殺気を向けていた。

もっとも、二人は全く気にしていないが。

 

「さぁな、それよりさっさとCクラスに行くぞ」

 

「うむ」

 

雄二が秀吉を連れて教室を出て行く。

それを見て篠笥は自分の席に戻り、横になり、達哉は明久の元へ近づいた。

先程まで何も言わなかった明久だが、どうやら考え事をしていたらしい。

 

「明久さん、どうしたんですか?」

 

達哉に声をかけられて明久はハッと我に返った。

それから、周囲を見渡し、雄二達が居ないことに気づいた明久は問いかける。

 

「雄二と秀吉は?」

 

「Cクラスの教室に行ったよ?」

 

「Cクラス?何で?」

 

どうやら考え事のし過ぎで何も聞いていなかったらしい。

雄二達がCクラスに行った経緯を説明する。

 

「どうする?私達もCクラスに行く?」

 

そう尋ねると明久は首を横に振った。

 

「別に大丈夫でしょ。大丈夫じゃなかったら雄二が行く時点で誰かに声をかけてるだろうし。雄二が帰ってくるまで僕は寝てるよ。真理、悪いけど――」

 

「うん、いいよ」

 

真理は頷くと明久に抱き着き、明久を押し倒す。

その時にFクラスのほとんどのメンバーが明久に殺気を向けたが達哉の睨みにより全員が顔を逸らした。

 

(肉布団じゃなくて膝枕をして欲しかったんだけどな……まぁ、嬉しいから良いけど……)

 

恐らく明久の本当の要求を分かっているのだろうが敢えてこちらを選んだのだろう。

だが、これも案外悪くないと思いながら明久は目を閉じた。

それを確認し真理も目を閉じた。

と、その時だった。

 

♪♪♪~♪♪~♪~♪~

 

明久のズボンのポケットからそんな音楽が鳴り響いた。

明久の携帯のメールの着信音だ。

「誰だよ……」と文句を言いながらポケットから携帯を取り出す。

ディスプレイに表示されたのは知らないアドレス。

間違いメールか迷惑メールだろうかと考えたが、もしかしたら知り合いがアドレスを変えたという趣旨のメールを送って来たのかもしれないと考えてメールを開く。

メールの内容を見て明久は目を見開いた。

 

「真理、悪い。少し退いてくれ」

 

明久の言う通り素直に退く真理。

体を起こして達哉の方を向く。

 

「達哉」

 

「はい」

 

「お前に行って欲しい場所がある」

 

「どこへ?」

 

達哉の問いに明久は一瞬何故か躊躇ったような表情を見せた。

だが、すぐに明久は口を開きその場所の名前を言った。

 

 

「――旧図書室だ」

 




更新遅いうえに短くて申し訳ありません……

Bクラス戦は次回で終わりです。

そして、次回には新たなオリキャラが出てきます。


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十六話 Bクラス戦⑥

この約一か月間少々色々ありまして……

何があったのかは後書きにて。

まずはかなり短いですが本編をお楽しみください。


――旧図書室。

 

この学校がまだ旧校舎のみだった時に使われていた図書室。

新校舎ができた時点で取り壊され新たな教室となる予定だったがとある二人の女子生徒の存在がそれを阻んだ。

一人は前々生徒会長である『図書室の魔女』と呼ばれた女子生徒。

一年時に生徒会に書記として立候補。

二年時には生徒会副会長。

そして、三年になり生徒会長になったと言う経歴の彼女は古き良き雰囲気である旧図書室を残すべきだと学校側に三年間主張していた。

学校側はそれを『彼女が卒業するまで』という期限付きで了承した。

彼女が卒業した時、彼女は文月学園に転校してきたのだ。

 

 

――『図書室の悪魔』は。

 

どういう取引かは不明だが、彼女は学園側と取引し旧図書室を永遠に残すことを学園長に承諾させた。

 

「一体どんな女なのかねぇ……」

 

噂では彼女の前ではどんなことも隠せないとか、実は本当に悪魔なのだとか言われている。

 

「けど……何で明久さんは図書室の悪魔に頼ろうとしてるのかねぇ……」

 

ここに来る理由を尋ねても明久は『行けば分かる』の一点張り。

明久を信頼していない訳ではないが明久の考えていることが分からない。

 

「ま、会ってみますかね。図書室の魔女とやらにさ」

 

そう呟き図書室の扉を開く。

 

「思ってたより整備されてんなぁ……」

 

Fクラス教室と同じ旧校舎にあるここもあんな感じだと思っていたが思ったより整備されていた。目のつくところに埃は無いし湿度も本を管理するのに最適な湿度だ。

 

「さて、図書室の魔女は何処かね……」

 

そう呟き、辺りを見渡す。

その時だった。

 

「――こっちよ、坂成達哉君」

 

自分を呼ぶ声。

達哉はその声のした方へゆっくりと歩く。

 

「あんたが図書室の魔女かい?」

 

声のした方に居たのは一人の女子生徒。

達哉はその女子生徒を見た瞬間にこう思った。

 

(この女、まったく分からねぇ……)

 

達哉は東龍会の幹部と言うこともあり今まで様々な女を抱いてきた。

そのおかげか一目見ただけでその女の特徴を見抜けるという特技をいつの間にか身に着けていた。その特技を以てしても目の前の彼女だけは年上だろうと言うこと以外何も見抜けなかった。

 

「女性をじっと見つめるなんて失礼じゃないかしら?

もしかして、恋人が居るのに私に惚れた?」

 

誰もが見惚れるような笑みを浮かべて目の前の女はそう尋ねてきた。

だが、この女には聞かなければならないことがある。

 

「……何で俺の名前を知ってる?いや、何で俺がここに来ることを知ってた(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

自分は確かにこの学校においては有名人だ。

年上らしきこの女が知っていても何の疑問もない。

だが、この女が名前を呼んだ時自分は姿を見せていなかった。

だと言うのにこの女は自分の名前を呼んだのだ。

 

「知ってるわよ?あなたが明久に言われてここに来たこと。

そして、あなたがこれからすべきこともね?」

 

「!?」

 

(何なんだ、この女は……!一体何を知っているんだ……!)

 

「そうね、まずは自己紹介をしましょうか。

私は朝霧結衣。図書室の魔女だなんて呼ばれているわね。

あ、そうそう。それと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

明久の元カノよ」

 

その名乗りに達哉は絶句した。

 




前書きの続きです。

活動報告をあげてから三十一日までは活動報告の通り仕事で投稿が出来なかったんです。

問題はその翌日からでした。

九月一日。

親戚の集まりがあったので私はT県のSと言う街に行ってきたんです。

そこで作品を書くつもりでした。

集まったのは私の家族や祖父母、それと私の従妹です。

従妹は私より二歳年下なのですがかなりやんちゃなんです。

まぁ、その辺りのことを語ると長くなるので省略しますが。

その日は何も起こりませんでした。

ですが、翌日です。

何と、私のUSBがなくなっているではありませんか!

様々なデータを詰め込んだ私のUSBなくなれば大変なことになります。

私は全力で探しました。

そして、祖父母や家族から話を聞いてようやく見つけました。

私のUSBを。

あった場所は何と





お風呂場でした。

真相はこうです。

私はその日、従妹は風呂に入る前に寝ました。

無くさないようにUSBをパソコンの上に置いて。

従妹は風呂に入る前に着替えを用意しました。

まぁ、ここまでは問題はありません。

問題はこの後です。

従妹はその着替えを私のパソコンの上に置いたのです。

その結果、従妹の着替えに私のUSBが紛れ込み、しかも脱衣所で

何が起こったのかは分かりませんがUSBが風呂場に入ってしまったのです。

そのせいで私のUSBは水浸し。

データはすべて壊れていました。

と、まぁ、こんなことがあった所為で投稿がかなり遅れてしまったのです。

ご迷惑をおかけしました。

今後どうしようか本当に迷っております。

USBが壊れたせいで細かい設定がすべて消えた。

どうしようかなぁ……


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十七話 Bクラス戦 ⑦

時は少し進み、新校舎の階段の踊り場。

そこに、二人の少年が居た。

 

「いきなり呼び出して何のつもりだ?―――根本」

現在試召戦争の相手のクラス代表である根本からの呼び出し。

それが先程のメールの内容だった。

 

「お前に頼みたいことがあって呼んだんだよ、吉井」

 

ニヤニヤといやらし笑みを浮かべながらそんなことを言う根本。

やはりか、と明久は内心で呟く。

呼び出しのメールが送られた時から何となく予想はしていた。

と、すると、根本はこちら側を従わせる手札を持っていることになる。

さて、どんな切り札か……

そんなことを考えている明久に根本はとあるものを差し出した。

 

「……封筒?」

 

そう、何の特徴のただの封筒だ。

訝しむ明久に根本は開けてみろよ、と言う。

明久はその指示通り封筒から中身を取り出す。

そして、明久はその中身を見て固まった。

 

「驚いたか?」

 

いやらしい笑みのままそう尋ねてくる根本。

根本が渡してきた封筒の中に会ったのは写真。

それもただの写真ではない。

それに映っていたのは―――

 

「俺は驚いたぜ。まさか、神聖な校舎で淫行を行う奴が居るなんてなぁ」

 

先日Dクラスに宣戦布告した際に明久、真理、真希の三名で働いた淫行の証拠だった。

 

「この写真をばらまいたらどうなるだろうな?

まぁ、退学は免れないよぁ?」

 

その言葉に明久の身体が震える。

それを見て根本はさらに続ける。

 

「頼みって言うのは簡単なことだよ。坂本を倒してほしいんだ。お前なら簡単だろ?」

 

そう言って明久の肩に手を置く根本。

本来、根本はこの脅迫を真理にするつもりだった。

だが、先日明久達を罠に嵌めたようとした時に明久が圧倒的な操作技術を以て自分のクラスの生徒を倒したと聞いて気が変わった。

 

――点数は高いが一度も召喚獣の操作をしていない者よりも点数は少し下がるが圧倒的な操作技術を持った者の方が確実ではないか?

 

そう思って今に至る。

 

「安心しろよ、この頼み事を終えれば写真は処分してやるからよ」

 

まぁ、勿論嘘だけどな、と内心で呟く根本。

根本は少なくともこの文月学園に在学中は明久を自分の操り人形にするつもりだ。

写真さえあればそれも可能の筈。

 

「………」

 

――だが、

 

「………」

 

――根本恭二は

 

「………」

 

――吉井明久と言う男を

 

「………」

 

――理解していなかった。

 

「………フッ」

 

「……?」

 

唐突に笑みを浮かべる明久。

そのことに根本は訝しむ。

 

(今の話のどこに笑う要素があった?こいつは俺に追い詰められている筈だ)

 

だと言うのに、何故目の前の男は笑う?

何故自分はこんなにも――

 

 

――震えている!?

 

 

「根本、お前は今自分が俺を追い詰めてると思ってるだろ?」

 

「じ、実際そうだろうが!この写真をばらまけばお前はや雨宮や新山は退学を免れないんだぞ!?」

 

それなのに何故明久は余裕なのか。

根本には分からない。

 

「くっくっく……そうか、なら上手くいった(・・・・・・)って訳か」

 

「!?」

 

そんな明久の言葉に根本は驚愕する。

 

――まさか……いや、そんなバカな!?

 

「根本、知ってるか?俺の一番好きなことはな……」

 

―――そんなことあり得る筈がない。そうあり得る筈が……

 

 

 

「卑怯な手を使って勝った気になっている奴を絶望のどん底に叩き落とすことだ!」

 

 

 

その言葉で根本は完全に察してしまった。

そう、ここまで全てが吉井明久の掌の上であったと言うことを。

だが、根本恭二は負ける訳にはいかない。

学力最低クラスのFクラスに負けるなど自分のプライドが許さない。

 

「こ、この写真はお前だけじゃなく雨宮や新山を退学に追い詰めることができるんだぞ!?何でそんなに余裕なんだ!?」

 

当然の疑問。

その疑問に明久はとあるものを差し出した。

 

「携帯?」

 

「俺のだ。開けてみろよ」

 

明久に言われて根本はゆっくりと明久の携帯を開く。

 

「んなっ!?」

 

驚愕の表情を浮かべる根本。

明久の携帯の画面に表示されていたのはとある画像。

 

 

 

根本恭二の恋人である小山友香が椅子に縛られている画像だった。

 




次回、明久がかなり悪役っぽくなります。


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