ライザー=フェニックスの日常 (兵太郎)
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不死鳥の誕生と幼少期
誕生


新しい物を書き始める時って、ワクワクしますね!
さぁ、投稿です!



今から22年ほど前、冥界の病院の一室で、上級悪魔の子供が一人、産まれた。

「おお、これまた元気な子だ。我がフェニックス家の者にふさわしい、力強い泣き声だ。こいつは、立派な子に育ってくれるだろう」

産んだ母親は、赤ん坊が出てくる為に開いた穴を閉じる、いや、『再生』させながら言う。

「そうだわ、あなた。この子の名前をつけてあげなくては」

「この子の名前は決めている。ルヴァルと二人で、三日間かけて考えてやった。こいつの名前は・・・ライザーだ!」

「ライザー・・・良い名前です」

父親は、赤ん坊を両手で抱き上げ、言った。

「ライザーよ、お前はこの世に生を受けたのだ。これからお前は色々な物を見て、聞いて、感じて、思うだろう。それらを全て受け入れ、お前の力にせよ。力強く、自由に生きよ!」

 

赤ん坊はオギャー、と父親の言葉に応える様に泣いた。それと同時に口から火が少し漏れる。

「おお、火が出た!不死鳥の火が!よし、では『涙』の回収に移ろう」

フェニックス家の者の涙---俗に言う『フェニックスの涙』は、それに触れた部分をフェニックスの様に再生する効果があり、その実用性の高さから、高値で売られており、フェニックス家の主な収入源でもある。フェニックスの涙を多く取る為、フェニックス家はよく泣く者、つまり子供を良く産む。この度産まれたこの男の子は、二人の兄がいる。

ちなみに、フェニックスの血液は涙よりも再生能力が大きいが、血は他の事に使われそうだから、と販売していない。

 

「よし、ユーベルーナ!私が赤ちゃんを抑えてるから、涙を回収してくれ!」

父親は、この病院にいたもう一人の少女に声をかける。

「分かりました〜」

この少女は今年で五歳になる。フェニックス家に二歳の時から預けられ、そこで家事手伝いをしながら、家族の一員として暮らしている。今日は、フェニックスの涙を作る為、そして新しい家族を一目見るために、フェニックス卿について来たのである。

「あかちゃーん、ジッとしててね〜」「ダブッ、オエッ」

赤ん坊は上に向かって勢い良く火を吐く。幸いな事に、その先にはフェニックス卿しかいなかった。

「幸いではないがね!?まあいい。フェニックスの涙を回収するぞ」

赤ん坊の眼の辺りにスポイトを持ってきて、涙を吸い、ビンに入れる。赤ん坊は顔に当たる物体に嫌そうな顔をし、また泣き始める。それを何回か繰り返すと、赤ちゃんも泣き疲れたのか、顔に当たる物に慣れたのか、抵抗しなくなった。

「涙は取れたかね?」

その言葉に少女は持っているビンを見せ、答えた。

 

「赤ちゃんきゃわいいです!(バッチリです!)」

「・・・そうだな、可愛いな、赤ちゃんは」

「はっ!間違えた!」

 

「はははははっ!」「うふふふふ」

「わ、笑わなくてもいいではないですか!間違えただけなのですから!」

少女は顔を耳まで真っ赤にしながら言う。本人は強く言っているつもりだが、照れていて声に力が入っていない。

「キャッキャッキャッ」

「赤ちゃんまで笑ってる!?」

こうしてフェニックス家の三男坊、ライザー=フェニックスは誕生した。




ライザー=フェニックス誕生!ここから彼のハーレム人生が始まったのだった!・・・ラブコメみたいな描写、書けるかなぁ。不安です。
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
次回もよろしくお願いします!


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幼い頃の

さぁ、一週間ぶりの投下!
今回は幼児期編です。


両親や兄達、その眷属、ユーベルーナなどに見守られ、赤ん坊はすくすくと育った。三歳になる頃には、自分の身体のケガを修復できるようになった。

 

「ママー、ママー、あれ見せてー」

「はいはい、わかりましたよ」

三歳のライザー君は、ハマっているビデオがあった。

「今回はこの戦いで良いかしら・・・っと」

ライザー君は母親の膝の上で、ビデオが始まるのを今か今かと待つ。壁に埋め込まれた大きなテレビには、大きなフィールドが現れた。

「お兄ちゃーーーん!!今日も勝てー!」

 

ライザー君がハマったビデオとは、兄のレーティングゲームの公式戦の録画だった。彼の兄、ルヴァル=フェニックスはレーティングゲームでも上位の強さである。二歳と半年が過ぎたくらいの頃、たまたまテレビで試合を観た幼きライザー君は、ルヴァルのカッコ良い姿に心を惹かれ、レーティングゲームを見始めた。三歳になる頃にはきちんとレーティングゲームの主旨やルールを理解していて、偶に試合を見るもののあまり興味のなさそうなユーベルーナに、解説をしてあげていた。(最も、ユーベルーナは必死にたどたどしく話すライザー君に夢中なようで、あまり話を聞いていないようだったが)

 

「今日は負けちゃった……」

今回のレーティングゲームは、フェニックスの涙をよく買ってくれるお得意様であり、フェニックス家を代表したルヴァルは相手の顔を立てたのだが、勝ち負けしか分からない幼いライザー君はそれが理解できないようだった。

今まで見てきたビデオと違い、兄が投了を宣言するのを画面越しに見て、彼はひどく落胆した。

「あらあら、お兄ちゃん負けちゃいましたねー。残念ねー。でも、お兄ちゃんは強いから、きっと今度はあの人に余裕で勝っちゃうわよー」

「……今度は僕が戦う!」

「?」

ライザー君は母親の膝の上から飛び降りると、ビシッとポーズを決めて言う。

「僕がお兄ちゃんの代わりにこいつをぶっ飛ばしてやる!僕は不死身だから、それくらい余裕だ!」

「あらあら……」

フェニックス夫人は困った顔をし、このお子様にどう言えば落ち着かせられるか考えた。

 

「ライザー君はまだ眷属がいないでしょう?それじゃあレーティングゲームは出来ないわよー?」

「じゃあ、ママとユーベルーナを眷属にするもん!」

「ママは王だから、貴方の眷属にはなれません。それに、ユーベルーナが他の人に叩かれるのなんて、見たくは無いでしょう?」

「むぅ……」

言い負かされて、ライザー君は拗ねてしまった。

フェニックス夫人が再び困り顔で、今度はこの子をどう慰めようか、と悩んでいると、不意にライザー君が口を開いた。

「いつか僕だって、強い眷属をいっぱい集めて、レーティングゲームの王者になって、最強の王になるんだ!ママだってお兄ちゃん達やお兄ちゃん達の眷属だって超えるくらい、強くなるんだ……」

弱々しいながらもきちんと通った声で、彼は言う。その小さい身体をフェニックス夫人は抱きしめた。

 

「大丈夫、貴方ならきっとできます。貴方は強い子、私の自慢の子の1人なのですから」

 

「……」

ライザー君は何も言わず、ただ母のぬくもりに身体を預けていた。

 




自分はライザー君は、リアス達と戦う前からとても良い王であるんじゃ無いかと思っています。そうじゃ無いとあんなに沢山の眷属達を従わせることなんて出来ないし、あんなに沢山の女性に愛されるなんて出来ない。
今回はそんな彼に夢を持たせました。大きくなったら忘れてしまいそうな、小さい子の大きな夢を・・・

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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次男坊と長女

さあて、投下です!
今回は初のオリキャラ投入!……まぁ、お母さんやらもオリキャラと言えばオリキャラですが。



小さなライザー君が大きな夢を抱いてから、三年が経った。ライザー君は学校に行き始めた。(冥界の学校制度は人間界とほぼ同じで、六・三・三が基本で、さらに中級貴族以上の進学を希望する者は、その上の学校に行く事ができる)

ライザー君は家で姉の様な存在のユーベルーナから勉強を学んでいた為、二年学年を飛び級し、三学年からスタートした。

そして一カ月が経過し、学校で年上や、あるいは同い年の同級生達と仲良くなり、学校生活に馴染んできた頃、一つの吉報が届いた。

 

その日、ライザー君は学校を早退し、ユーベルーナと急いで家に飛び帰った。

「誰か、誰かいるー?」

大きな玄関からフェニックス家の屋敷に入って行く。その後ろをライザー君の速さに何とか付いて行ったせいでへとへとになったユーベルーナが追う。

 

「おお、帰ったかい?おかえり〜」

玄関の先、ロビーの上、二階へと続く階段の上に一人の男が立っていた。身長は185cmくらいで少し痩せ型の、優しそうな雰囲気の金髪の男である。

 

「リゼ兄、ただいま!」「ただいま!です!」

「うん、今日も元気だね〜」

 

彼の名前はリゾット=フェニックス。フェニックス家の次男坊で、ライザー君の実兄である。兄である長男ルヴァルと違い悪魔の駒を受け取らず、フェニックス邸で読書と、庭のバラ園のバラを育てることに日々を費やしている。とても優しい兄だった。

 

「さぁライ君、ルーナちゃん、行こうか」

『はい!』

 

ライザー君とリゾット、ユーベルーナは近くの病院--ライザー君が産まれた病院へと飛んで行った。

病院のロビーで部屋の番号を聞き、その部屋に向かう。

「もうそろそろ産まれるんじゃないかな?入るかい?」

「入る入る!」

部屋の内部では、母ローズ=フェニックスがベットに横になっていた。その横には、フェニックス卿もいる。

「おお、ライザー!ユーベルーナ!帰ったか!もう直ぐ産まれるぞ、よく見ておけ!」

母親は身体を震わせると、少し苦痛の声を漏らしながらも手の指を握って開いてを数度繰り返した。

「ぐ、くぅっ!そ、そろそろかしら?」

そう言うとローズはあらかじめ切れ線を入れた、自分のお腹に手を添える。そしてゆっくりとそのお腹を開く。

 

その光景を前にして、ライザー君は驚いた。お腹の中には別の小さな頭があった。少し金髪が生えているが、ほとんど何もない頭だった。

「さあ、赤ん坊を取り出すぞ!……そうだ、リゾット!お前取り出してみせろ!やってみたこと無いだろう?」

 

フェニックス卿の誘いに、しかしリゾットは被りを振る。

「え、僕ですか?僕は……遠慮します。始めてお腹から取り出すのは自分と妻の子が良いので」

「そうか……」

フェニックス卿は少し寂しそうな顔をするが今度はライザー君に言った。

「ライザー、お前はどうだ?赤ん坊を腹から取り出してみないか?」

「……やる!やるやる!やらせてやらせて!」

 

こうして赤ん坊は、フェニックス卿の手伝いを受けながらライザー君の手によって母親の身体から取り出され、無事に産まれた。

 

「ねえねえ、この子の名前は?何て言うの?」

 

「この子の名前はもう決めている。ルヴァルと2人で5日間考えて決めた!こいつの名前は……レヴィンだ!」

「父さん。この子……女の子みたいだよ?」

 

フェニックス卿が固まった。

「……ええぇ!女の子!?女の子が産まれたのか!?そうか、女の子が!やった、初めての女の子だ、やったー!」

「……で、この子の名前は?女の子の名前もあるんですよね、父上?」

その言葉にフェニックス卿は再び固まった。

 

「…大丈夫、こんな時の為に私が考えておいたから」

ローズがお腹の穴を再生させながら言う。

「何て名前ー?」

「この子の名前は…レイヴェル。レイヴェル=フェニックス」

「レイヴェル……良い名前ですね、母上」

「そうでしょう、うふふ」

 

そんな話をしていると、赤ん坊は火の玉を口から出した。そして激しく泣きだす。

「フェニックスの火が出たか……ライ君、ルーナちゃん、『涙』の回収の用意を!」『はい!』

「今回は役立たずですね、貴方」「そんなこと言わないで!?傷つくから!確かに今回何もしてないけど!」

 

こうしてライザー君に、初めて自分より年下の兄弟(妹)ができたのだった。これがフェニックス家長女、レイヴェル=フェニックスの誕生であった。




〜オリキャラ紹介〜
今回から何人かオリキャラを出していこうかなと思っています。そのため、オリキャラが出たらとりあえず後書きで紹介をしておきたいと思います。後、章が終わる事に登場人物まとめをするかも?

〜リゾット=フェニックス〜
フェニックス家の次男坊。ライザーの兄。強い力を持っているもののあまり試合向きの能力ではないため、悪魔の駒ももらわず、レーティングゲームにも参加しない。その為眷属などはいない。奥さんがいるが、彼女は戦い(というよりは勝ち負けのつくもの)が好きなようだ。

〜ローズ=フェニックス〜
ライザーの母。ルヴァル、リゾット、ライザー、そして今回でレイヴェルと4人目の子供を産んだ。優しくて強い心の持ち主。ライザー達を小さい時からずっと見守っている。子供達がだんだんと親離れしていく事に寂しさを感じている。

〜フェニックス卿〜
ローズの夫でライザー達の父。以上


こんな感じですかね?


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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一家大集合

久々の投稿です!ノロノロしててすいません…
アイディアを文に起こすのは大変です。では投下!


「レイヴェルちゃん、私達を見つけられるかなぁ?」

「むぅ〜!どこにいるの!隠れるなんてズルい!」

「(隠れてる訳じゃ無いんだけどね、ただ空飛んでるだけで)」

 

レイヴェル=フェニックスが産まれて早三年、ライザーは飛び級して人間で言うところの中二学年になった。今はユーベルーナと同じ学校に通っている。

レイヴェルも歩くことや走ること、喋ることができる様になった。

今日は休日。ユーベルーナと二人でレイヴェルと遊んでやっている。今は鬼ごっこの最中だ。現在、鬼はレイヴェルである。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんどこ……ふぇ、ふえええええん!!」

ライザー達がいなくなってしまったと思ったのか、レイヴェルは大広間の真ん中で泣き始めた。急な出来事にライザーは慌てて下へと降り、レイヴェルを抱っこした。

「れ、レイヴェルぅ〜、落ち着いて〜、俺はここですよ〜」「……タッチ!」「!?」

レイヴェルは急に泣き止むとライザーの腕をタッチし、抱き上げられた手を振り払って逃亡した!

ライザーは三歳児の罠にハマった!いつの間にか、さっきまで隣にいたユーベルーナもいない。

「く、クフフフ、フハハハハ!そうか、見事な策である!この究極にして完全で最強な俺の頭脳を、俺の長所にして最大の弱点である優しさ……甘さを利用して攻略するとは…だがしかし!究極にして完全で最強な俺の眼は!耳は!鼻は!既にお前達の姿を捉えているぞ!フハハハハハハハハ!……さぁて、どこ行ったのかなー?」

その時、後ろで炎が燃え上がる音が聞こえた。

 

「お、ライザー!ライザーじゃねぇか!ただいま!」

 

ライザーは声のした方を振り向く。そこにいたのは、2mを優に超えるであろう身長に筋肉質な体格をした金髪の男。どことなくライザーと雰囲気が同じである。

 

「……ルヴ兄、おかえり!元気だった?」

「もちろん!レーティングゲームをするなら、やっぱり元気で無いといけないしな!」

 

この男、名はルヴァル=フェニックス。フェニックス家の長男にして、レーティングゲームのランキングのちょうど真ん中辺りに位置するプロの王である。その強さと戦闘の派手さから魔界でも人気が高い、ライザー自慢の兄だ。

 

「おい、ライザー。親父はどこに?」「ん?あ、ええっとねぇ……書斎かな?」

「そうか。ありがとよ!」

「あ、兄さん。おかえりなさい」「あら、おかえりなさい、ルヴァル」

「おお、リゾット!嫁さんは元気か?母さんも、元気?」

次男、リゾット=フェニックスと母、ローズ=フェニックスも現れた。

 

「あれ……おお、よく帰ったなルヴァル!玄関の方に使用人達を並べておいたのに、転移魔法で帰っているとは。驚いたな。使用人達も、予定より帰る時間が遅いと心配しておるぞ!いつも玄関から入ってきなさいと言ってるのに……」

「あ!親父!ただいま」

フェニックス卿も合流し、ライザーはレイヴェルを呼び、全員で食事会場へと向かった。今日は月に1度の会食の日である。フェニックス家は6月以外は、少なくとも月に1度はこの屋敷に集まり話す様にしている。

そして食事は始まる。並びは上座にフェニックス卿、右座に、上座に近い方からルヴァル、リゾット、ライザーが並び、反対側にはローズ、その膝の上にはレイヴェルが乗っている。ローズの隣には空席が2つある。1つは将来レイヴェルが座る椅子である。

『(あれ、誰か忘れてる様な……)』

皆、そう思いつつも食事を始める。それぞれが自由に喋りながら、食事を取った。

会話は食べ終わった後も続いた。

「ルヴ兄、この前のレーティングゲームも、カッコ良かったよ!」「確かに、あの時も見事な攻めでしたね」

「おお、ありがとう!ダメな時はとことん言ってくるお前達が良かったと言うなら、良いゲームだったんだろう!」

 

やはりレーティングゲームの話になると、兄弟は三人とも盛り上がる。全員、レーティングゲームが大好きなのだ。特にライザーは、小さい頃からレーティングゲームばかり見て育ったので、その知識はゲームの細かいルールまで把握しているほどだ。20歳になれば即レーティングゲームに参加するだろうと、周りの皆から思われている。

 

「でもやっぱり、俺の将来の最強の眷属の前ではひとたまりも無さそうだけどね!」

ライザーは挑発する様にルヴァルに言う。

「おいおい、まだお前は眷属一人もいないだろう」

ルヴァルはライザーの現状を見て、呆れた様に笑う。今のライザーには眷属は一人もいないのだ、当然だろう。

「学校課程が全部終わったら、すぐに眷属を探しに行くよ!もう悪魔の駒(イーヴィル・ピース)はもらったし!」

そう言うと、ルヴァルはほう、と笑みを浮かべる。

「それは楽しみだ!もしお前が眷属を全員集めたら……いや、違うな。レーティングゲームに参加できる様になって、俺クラスに強くなったら、相手をしてやろう!」

「言ったな!俺の将来の最強無敵の眷属で、ギッタンギッタンのボッコボコにしてやる!」

 

ライザー=フェニックスがこの約束通り兄と闘うのは、これから更に十何年も後の話である。その間にルヴァルもランキング上位プレイヤーになり、ライザーも強力な新人として名を知らしめる事になるのだが、それもまたしばらく後の話である--

 




オマケ
忘れられた人の話

「……ここに隠れていれば、見つかる事も無いわね」
ユーベルーナは考えた。鬼ごっことは鬼から逃げるゲーム。しかし、自分は走る速度も飛ぶ速度も遅い。では、どうやって鬼から逃げるのか。そう考えているうちにこう思う様になった。

(逆に考えるんだ、逃げなくたっていいさって考えるんだ)

というわけでユーベルーナは隠し場所を探し、良い場所を見つけた。
「ここなら、ライ君達にも見つからないでしょ!」
そうして隠れているうちに、だんだんと眠くなってきた彼女は、そのうち考えるのをやめた。
「zzz……」


以上、オマケでした!
ルヴァルの詳しいプロフィールは、後々書きます。
次回からはいよいよ、ライザー君が眷属を見つける旅に出ます!お楽しみに!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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不死鳥と眷属の馴れ初め
旅立ち


さぁ、いよいよ眷属集めが始まります!まぁ、この旅で全員仲間にするわけじゃないですが。




時間は飛び、三年後。ライザーは飛び級に飛び級を重ねて、14歳で人間で言う高校までの勉強課程を全て終えた。現在、ユーベルーナは高校三年のところにいるが、彼女はそのまま大学まで行くらしい。だが、ライザーは違った。

 

「父さん!俺、眷属探しに行きたい!」

学校を卒業してから五日後の夜、ライザーは父親であるフェニックス卿にせがむ。彼にとっては、一刻も早く仲間を集め、鍛えて、最強の軍団を作りたいのだ。それに対し、父親は珍しく真面目な顔でこう言った。

 

「ライザーか……ルヴァルは忙しいからリゾットに頼もうかとも思ったが、お前の方が安全か……ライザー、お前に頼みたい事がある!」

 

フェニックス卿の話はこうだ。

現在、フェニックス家の領地で、旧魔王派による反乱が起こっている。旧魔王派の反乱は、新魔王体制になってから各地で何十年かに一度ペースで起こっているそうだ(これが21回目らしい)。

現最上級貴族達の中には旧魔王派の者が大勢いる為、魔王達は自ら軍勢を出すことはできない。最上級貴族達の反感を買えば、色々な手段を使って魔王の座を引きずり降ろされるからだ。だから、旧魔王派の反乱は、その地の領主が鎮める事になっているそうだ。

「最も、ここ200年位は『彼ら』が動いている。今回も『彼ら』がある程度は反乱軍を制圧している様だ。しかも、情報によれば相手の兵力のうち約八割は傭兵だと言う。傭兵は、理を解き金を払えば、余程の戦闘狂でない限り手を引くだろう。だから正直『彼ら』だけでも反乱は抑えきれる……が!任せておくだけではフェニックス家の名が落ちる!フェニックス家は何もできなかった、『彼ら』の軍が全てを終わらせた、そう歴史に刻まれてしまう!そうならない為に!そして、双方の被害をできるだけ抑える為にも!」

フェニックス卿はライザーを指差す。

「ライザー!今回はお前が戦場に出向き、その反乱を抑えてこい!ついでに強そうな者がいれば、眷属にして来るがいい!……あ、ただ、反乱の主犯は眷属にするなよ。そいつは捕まえて、転移魔法でこちらに送ってこい。生死は問わん」

 

「お、おおおおお!反乱軍の討伐!何ともカッコいい任務ではありませんか!それでは早速用意して、明日には旅立ちます!」

ライザーは興奮した!ライザーにとって戦場とは、戦いとは、目にした事はあるものの未だ経験したことのない、彼にとっての憧れであった!その中に自分が、こんなに若くして介入することができるとは、彼にも思っていなかった。

「父上、ありがとうございます!俺の力なら10日もあれば反乱軍も抑えられるでしょう!そのあと屈強な男達を沢山率いて、帰って来ますよ!」

「おお、まあ、あまり急がなくても良いが、慎重にな。できるだけ話し合いで解決するんだぞ。すぐ力に頼るのは愚か者のやる事だ。反乱軍の旧魔王派達の様な、な」

 

ライザーは旅支度を整える。とは言っても、持っていくのは悪魔の駒とフェニックスの涙、それと着替えと寝袋と金くらいである。結局彼はすぐに用意を済ますと、寝床に入った。期待で眠れないかと思いきや、意識が落ちるのは早かった。

 

 

--そして翌日の朝。ユーベルーナと共に家を出る。彼女は今日も学校だ。

寝坊したため朝食のパンをかじりながら空を飛びつつ、彼女はライザーに聞く。

「ライ君、学校は卒業したのにこんなに朝早くから、どこに行くの?」

「ん?……ああ、ちょっと戦場に」

「え?」「ちょっと戦場に」「……ごめん、聞こえなかったみたいだからもう一度いい?」「ちょっと戦場に」

それでもわかっていない彼女にキチンと説明してやる。一応、朝の食事の時に母親には伝えているのだが、彼女は寝坊したためその話を聞いていなかったのだ。

「……えええええぇ!ライ君、危険だよぉ!まだまだ幼いのに、戦地に行くなんて!」

「止めてくれるなユーベルーナ!俺は反乱を抑えねばならんのだ!この数分、いや数秒の間にも、戦場で多くの悪魔が死んでいる!俺は、彼らのために、父上の代わりに戦わねばならん。それが、領主の役目というやつなのだ!」

「ライ君……」

 

最近見た映画のセリフを言うと、ユーベルーナも納得したのか、それ以上何も言ってはこなかった。やはり映画というのは素晴らしいものだ。白黒なのが唯一の難点だが……

 

その後、ユーベルーナと別れ(遅刻するんじゃないか?と言ったら、慌てて猛スピードで飛んでいった)、ライザーも飛んでいくスピードを少し速めた。目的地はフェニックス邸からかなり離れている辺境だ。ノロノロとしていたら戦いが終わってしまうかもしれない。ここからこのスピードで飛べば、明日にはたどり着くだろう。ライザーは新しい体験、そして将来の自分の優秀な眷属の姿を想像し、胸を踊らせるのだった。

(俺の伝説は、この旅から始まる!)

 

 

 

 

 

 

……その頃、戦地の一部分にて。

「う、うわあ、奴ら、強いぞ!逃げろ!」「ひいいいい、殺される!」

旧魔王派に雇われた傭兵達は蜘蛛の子を散らす様に撤退していく。その様子を見て偉そうな赤髪の男が、集団の1番後ろにいる女に声をかける。

「フハハハハ、金で雇われた傭兵どもが我らが大佐が率いるこの部隊に勝てる訳が無かろう!ねぇ、大佐!」

「……え、ごめん、何だって?聞いてなかった」

「えええええ!こんなに近くにいるのにぃ!?」

いつもの光景なのか、周りの兵は特に気にした様子もなく、逃げる敵兵達を目で追いながら、何人かを攻撃し気絶させて捕縛する。

 

「我々がいるこの時代に反乱を起こしたのが間違いだったな。我々、独立軍『SAFS』は、お前らの様な目的も大義もない連中に負けはせん!」

そういうと男は高らかに笑う。当然の様に他の兵士達からはスルーされていた。




……ちなみにこの頃のライザー君は昔から見ていた兄のレーティングゲームの様子から、自分の眷属になる強者はみんな、ムキムキの力こそ全て!みたいな感じのマッチョマンを想像しています。

いよいよ本格的に眷属達との話を書く時が近づいてきました!一応それぞれの出会い方や好意を寄せる理由は考えているんですが、いつ全て書き終わるやら……気長に待ってください!

今回出てきた、また今後出てくるオリジナルの設定も、どこか途中でキャラクターと共にまとめたいと思います。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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SAFS

久々の投稿!時代は大戦の時まで遡る--


--昔々(とは言っても長い時を生きる彼らにとってはつい最近の様にも思えるかもしれないが)、悪魔・天使・堕天使による大戦が起こった。元々いがみ合っていた3大勢力はついにどの勢力からともなく争い始め、三つ巴となり衝突しあった。大勢の悪魔・天使・堕天使が死に絶え、結果は『魔王』・『聖書の神』という二勢力のトップの死と、各勢力の約八割を失う三者総痛み分けという形で収まった。

その後、天界では四大天使と他数名により『神の代わりのシステム』が造られる。堕天使は総督、アザゼルがそのカリスマをもってして生き残った者をまとめ上げて行く…一部の者を除き。

天使勢は最上級クラスの者にしか情報を漏らさない事で、堕天使勢は総督がいち早く他の堕天使幹部を抑える事により何とか配下の混乱を防ぐ事に成功した。しかし、悪魔達は違った。

旧魔王の死後、尚も戦争を続けようとする過激派を悪魔領の辺境においやった後に、魔王の重臣達は次の魔王について話し合った。彼らは『超越者』にして旧魔王の息子であるリゼヴィム=リヴァン=ルシファーを推した。しかし、リゼヴィムは選ばれなかった。

 

彼は大戦が終わった直後から、魂の抜け殻のようになっていた。その理由はただ単純に父親が亡くなったから、ではないのは分かったが、その真の理由は家臣ごときが推測できるものではなかった。

 

リゼヴィム=リヴァン=ルシファーが腑抜けてしまい、その他の旧魔王の血を引く者達を辺地に追いやった以上、旧魔王の血を引かない者から選ぶしか無くなったその状況下で、ある提案が出た。

リゼヴィム様以外の二人の『超越者』、サーゼクス=グレモリーとアジュカ=アスタロト。彼らのうちどちらかに魔王の座についてもらおう、と。

この意見に、旧魔王の重臣達は真っ二つに割れた。新魔王として超越者を擁立しようとする者と、彼らの様な1000年も生きていない、ルシファーの血を引いてもいない若僧に任せるのではなく、自分達の中から新しい魔王を選ぼう、という愚者に。その後、前者がサーゼクスとアジュカを説得して新魔王として魔界全土に広めた事に反対派が怒り、内紛が始まった。魔界の歴史の中で、最も大きな戦争であった。

結局、愚者共は敗北し、自分の領土さえ捨てて散り散りに逃げ出した。新魔王の座には、サーゼクス=グレモリーとアジュカ・アスタロトの二人、そしてその二人がそれぞれ推した悪魔、セラフォルー=シトリーとファルビウム=グラシャボラスの計四人が着き、四大魔王として魔界を治める事になる。

しかし、反逆者となった彼らもしぶとかった。その後散り散りになった彼らはもう一度集まり、蜂起する。自分の元配下だった者を集めたり、元72柱の中でも新魔王に味方していない者を煽ったりと、様々な手段を使って反乱を起こしてきた。果ては、自分達が追放した旧魔王の血を引くものを再び擁立してまで……その数は、歴史に乗らないような小さなものを含めれば、100を超える程だった。

 

そんな中、今から120年ほど前に旧魔王の重臣の一人が反乱を起こした。歴史上では『第十七次旧派の乱』と呼ばれるその戦いの中に、一つの新たな勢力が現れた。

 

彼らは反乱を瞬く間に抑えると元重臣を拘束し、その身柄を魔王に送った。元重臣を連行してきた男は、感謝の気持ちを表した魔王達に対しこう答えたと言う。

『我々は独立軍「SAFS」!我々は正義の軍である!今現在、正義の心は新魔王様方にあり、その心を持ち続ける限りは我々は貴方方の友軍として反乱軍を打ち倒す!しかし、その正義の心が乱れた時、我々は貴方方に牙を剥き、貴方方を倒してこの国に正義を取り戻すだろう!』と。

その後も一八次、一九次、二〇次と反乱があったが、その内一八次と二〇次はSAFSの協力により乱を抑えている。SAFSは軍として知名度を上げ、人気が少なからずあるようだ。

 

 

ここで、SAFSについて少し説明をしておく。SAFSは実力主義である。彼らは力により軍内でランキングを作り、その上位者が官職を授かるシステムになっている。月に一度、ランキング変動の為の試合があり、その順位によって階級・役職も変化する仕組みだ。

SAFSには総勢三万程の人数がいる。トップの下に三人の大将がいて、その次に五人の中将、そしてその下に十人の少将、更に下に准将が二十人いる。准将の次の階級は大佐であり、その人数は三十名。その中の二 人が部下を200名ほど連れ、今回の『第二十一次旧派の乱』を抑えに来たのだった。

 

「……とは言っても、やっぱり200人じゃ不安だよな。いくら相手の人数が少ないって言っても、敵は戦慣れした傭兵ばっかりだ。ボスももう少し人数を預けてくれると良いのにな!」

『SAFS』の前線基地の総督の部屋では、男と女が一人ずつ、紅茶を嗜んでいた。

「まぁ俺達なら大丈夫か?俺達でも大丈夫だろう。しかし俺でも大丈夫、か?俺でも大丈夫か。俺一人でも大丈夫?俺一人でも大丈夫だ!そうだ、俺一人でも大丈夫なんだ!じゃあちょっと行ってきて敵を壊滅させてくる!」

「分かった分かった、死んでこい」

軍服の襟から胸部分を破いて褐色の胸板を晒している、野生児じみた男の唐突な言葉を、軍服の袖を所々切っている、茶髪に赤のメッシュを多数入れた女は適当に受け流す。諦めの表情が浮かんだ顔に男は気づかず、カップに残っていた紅茶を一気飲みすると外へと出て行った。まぁ、夕食時には帰ってくるだろう、と女はティーカップを片付けながら思う。

男の名はキース、女の名はイザベラ。彼らはマイペースに、反乱の鎮圧を行っていた。

 

 




説明回みたいになってしまいました。ライザー君出てきてないし!
オリキャラをしれっと入れたりしてみましたが、彼が今後出てくるかは分かりません。ただ、書いていて結構好きになってきたので、もしかしたらまた出すかも……
最初からあの人をかなり強くしちゃったぞ、と書き終わってから気づきましたが、まぁライザー眷属は原作より多少強めに書くので良いということにしておきます!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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主役は遅れて

ライザーが家を出てから、二度夜が明けた。もう戦場はすぐそこである。

「どんな奴がいるのかな?俺の手足になってくれるような奴はいるかな?」

彼は希望と願望を胸に戦場に向かう。

 

その頃、旧魔王軍とSAFSの戦いはある流れの変化を迎えていた。

前日は昼も夜もSAFSの攻撃に会い、少なからず打撃を与えられた旧魔王軍だが、彼らは今日も朝から戦場に出てきていた。

SAFSの大佐、イザベラはため息をつく。彼女としてはさっさと降伏してもらい、戦争自体を終わらせて基地に帰ってシャワーを浴びたいのだ。

「懲りない奴らだ。いや、それとも上の指示に従っているだけか?……まぁ良い、蹴散らせ!」

その言葉を合図に、SAFSは一斉に魔法攻撃を開始した。傭兵達はどんどん倒れていくが、しかし、彼らは誰一人として死んではいない。なぜなら、SAFSが放つ魔弾は全て相手を痺れさせる効果しか付与していない、殺傷能力の無い弾だからだ。

SAFSは敵を殺すことをあまり良しとしない。敵、とは一概に言っても、悪魔にだって一人一人、事情や戦う理由がある。それを何も知らずに殺すのは正義の心に反するという気持ち故だ。それに、敵兵というのは死ねばそれで終わりだが、生きていれば色々と使い道もある。敵の現存兵力や装備、布陣している場所などの情報を上手くいけば聞き出せるし、恭順させてからもう一度、こちらのスパイとして敵陣に送ることもできる。敵兵は、殺すより生かして活かす方がメリットが多い、というのが彼らの考え方である。

「よし、回収しろ!」

その短い命令に、イザベラの部下100名のうち約80名は敵兵回収に向かう。しかし、それが良くなかった。

 

「いやはや今日も朝から絶好調!やはり我らに敵はありませんな、大佐!」と、副官エーミールはイザベラを振り向く。彼女は小さく右の唇を上げ、笑い慣れていないのか引きつった笑みを浮かべる。そのぎこちない笑みが、しかし逆に可愛く--

 

不意に、その表情が崩れた。彼女の顔面の右半分が、突然吹き飛んだ。

「は?」

エーミールには何が起こったか分からなかったが、部下の一人が遅れて言う。

「スナイパー!」

スナイパーだと!このあたり半径300mは敵は一人もいないはず!もしや、それよりももっと遠くにいたのか!?と一瞬エーミールは考える。しかし、そんなことよりも大事なことがあった。

「大佐!大丈夫ですか!」

そう声を掛けたが、大丈夫だとは露ほども思っていない。エーミールはイザベラの顔を覗き込み、うっ、と声を呑んだ。

イザベラの顔は右半分が弾け飛び、右の眼は無くなっていた。その顔は見るも無残と言った様子だった。唯一幸いだったのは、脳が吹き飛ばされていないことだ。

「おい、誰かフェニックスの涙を持ってこい!」

エーミールはそう部下に命令する。今回の反乱鎮圧の際のもしもの時用に、大佐二人は一つずつフェニックスの涙を支給されていた。彼はそれを使ってイザベラを治そうと思っていたが、部下はこう言った。

「フェニックスの涙は……昨日大佐がキース大佐に使ってしまい、もうありません!」

その言葉にエーミールは眼を見開き驚愕する。その顔は焦りに塗れ、汗がだらだらと流れた。兵士達の中に、回復系の魔法を使える者はいない。今回前線に連れてきたのは力に特化した屈強な戦士の中で、更に電撃魔法を習得した者100名だ。彼らが操られるのは電気と無属性の魔力等で、回復の知識は無いに等しい。

この傷は支給された回復薬では治らない。フェニックスの涙は使ってしまっている。キース大佐はフェニックスの涙を持っているし、自陣に戻れば回復役はいるが、彼女はもってあと十分。キース大佐に報せようにも、自陣に戻ろうにも間に合わない。

 

エーミールは、上司の死を悟った。彼は怒りに震える。彼とイザベラは、十年を越える月日をパートナーとして歩んできた。凸凹コンビながらも、上手くこれまでやって来た相方の死に、彼は激昂する。

「スナイパーだ!敵のスナイパーを見つけ出し、速やかに処分せよ!大佐の敵討ちだ!全体、進め!正義の為に!」

SAFSのイザベラ隊は彼女を簡易ベッドに寝かせると、そのベッドを大きな岩陰に置き、100名による敵軍突撃を行う。今の彼らには、敵を生かして捕らえる、などといった事は頭から吹き飛んでいた。

不幸な事に、激昂したエーミールの耳には彼女のか細い声は聞こえなかった。

「……行かないで……」

彼女は残った左眼から涙を流しながら、だんだんと遠のいていく仲間達を目で追っていた。しかし、彼らも視界から消えていく。だんだんと血が減っていくのが何となくわかる。視界が暗くなってきた。

「う、うう、ううあああ」

イザベラは死への恐怖のためか、声にならない声を上げた。

 

 

「さぁて、着いた着いた!結局夜通し飛んで二日かかったか……まだやってるかな?」

そんな中、主役は遅れて戦場にたどり着いた。都合良く、彼女の近くに。




さぁ、いよいよライザー君登場!ここからはライザーのターン!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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恩と仇

いよいよライザーとイザベラの初対面です!



ライザーは思った。誰もいない!と。

戦場と教えられた地域にたどり着いたものの、そこには人っ子一人いない。その理由はSAFSが敵も味方の死骸も全て回収しているからだが、ライザーがその理由を知るはずもなく、彼は悪魔を探して飛び回る。

 

「誰かいないものかな?うーむ……飛んで行っているから隠れている奴とかを見つけられて無いのかな?」

ここは戦場、兵士達が馬鹿正直に堂々と立っている訳はない、とライザーは考える。このまま飛んで行っても見つからなさそうだと判断し、彼は着陸して歩き始めた。

--そして、約二分後。

彼は大きな岩の隣を、帰り道の目印と思って観察しながら通ろうとしたライザーは、その岩陰で寝ている一人の女性を見つけた。

その女性は、何故か岩陰で横になっている。その奇妙さに普通は怪しむものだが、ライザーは違った。

「あ、悪魔いた!」

彼は嬉々として女性に近づく。それは女性--イザベラにとって最大級の幸運であった。

 

「あの〜、すいません。寝ているところを失礼……うわっ!?」

ライザーはイザベラの顔を覗き込み、何故彼女がこんな所で寝ている、否、寝かされているか理解した。

「うわわ、ひどい怪我だ!涙、涙っと!」

ライザーはイザベラの顔にフェニックスの涙をかける。すると、彼女の傷はどんどんと再生していった。

「あ、ああああ……?」

イザベラは、視界が明るさを取り戻した事に驚く。それと共に、右眼が復活している事に気付いた。

(……顔の右側が復活している!?フェニックスの涙か!?……しかし、仲間達はフェニックスの涙を持っていないというのは話を聞いて分かっている。何者……ハッ!まさか、私の身体を狙った敵兵か!?)

イザベラは貞操の危機を感じ、右手に魔力を込める。まだ周りに敵兵はいるだろう。地面に電気を流し、ソナーのように近づいてくる者の数と距離を見極める。

 

そこに、ライザーが声を掛けた。

「あのー、おーい、もう治ったから起きてくださーい」

彼はイザベラを揺らし起こすため触れようとし、

「引っかかったな!」

魔力の篭ったグーを喰らい、その顔面を崩壊させられた。

「……ん?あれ、子供?」

イザベラはパンチが直撃した時には攻撃対象が子供であると気付いたが、そのパンチを止めることは出来なかった。

彼女はサッと青ざめる。

「相手の腹を殴るつもりだったのに、まさか相手が子供とは!この近くにあるという村の者か?しまった、思いっきり顔面を殴ってしまった!おい、少年!大丈夫か!?」

その言葉に、ライザーはこう返す。

 

「貴様、恩を仇で返しおって……貴様は絶対に許さんぞ!」

 

ここから、怒りにもえるライザーの攻撃が続く。イザベラは相手が子供だと思って最初は手を出せないでいたが、だんだんと防御だけでは持たないと思い初め、電撃攻撃を仕掛ける。しかし、不死身のフェニックスにそんなものが効くはずもなく、彼の本気の攻撃で服はほぼ全て燃え尽き、身体の所々に火傷を負い、遂に倒れた。

そこでライザーも正気に戻った。

「しまった!話を聞く気だったのに、戦って倒してしまった!」

慌ててイザベラの身体中にフェニックスの涙を振りかける。彼女の火傷跡は綺麗サッパリ無くなった。しかし、フェニックスの涙は生物しか再生出来ないのだ。

再び涙をかけられたイザベラは、その冷たさに飛び起きる。ライザーはその時、イザベラの目の前にいた。

 

ライザーの目に映ったのは、母親以外に見た事の無い、女性の裸。一糸も纏わぬ全裸であった。

「ブフォア!?」

ライザーはその刺激に鼻血を、貴重なフェニックスの血を大量に出して倒れた。

 




〜〜〜祝・UA10000突破!〜〜〜
皆さん、この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。こんなに早く10000UAに到達するとは思いませんでした!
読んでくれている皆さん、お気に入り登録して頂いている皆さん、本当にありがとうございます!
これからも『ライザー=フェニックスの日常』をよろしくお願いします!

次回、ライザー君、初の眷属ゲットなるか!?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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共同戦線

「……これ着とけよ」

「すまない、感謝する」

目のやり場に困るので、復活したライザーは簡易ベッドの補強に使っていた軍服を千切って女に渡す。彼女はいそいそと服を身につけた。

「……所で、あんた。あんたに聞きたい事があるんだけど……」

「奇遇だな、こちらもだ」

2人は数秒の間、見つめ合う。まず先にライザーが口を開いた。

「お前は誰だ?ここにいたって事は戦争に参加してるんだろう?」

「そうだ。私はイザベラ。正義の軍『SAFS』にて大佐を務めている。今は反乱軍鎮圧の任の最中だった」

「大佐!?……味方の軍は?」

「味方は……私の敵討ちに走ってしまったよ。私が油断していたばかりに、彼らにも苦労を負わせてしまっている。できれば直ぐに停めに行きたいが、それは君との話が終わってからかな」

ライザーは彼女が大佐、という何となく高そうな地位にいる事に驚きながらも、更に質問を加える。

「戦場には兵が……倒れている者さえいない様だけど、なんで?」

「それは私達が身柄を確保し、軍の陣地に持って行っているからだ。敵も、死兵も色々な事に役立つのだ」

「ふーん、なるほどね」

ここでライザーの質問は一旦止む。次はイザベラの番だ。

「君は、何者だ?見るからに幼い……まだ成人もしていない様だが、こんな戦場で何をしている?」

その質問を待ってました、とばかりにライザーはポーズを取る。

「俺の名はライザー=フェニックス!誇り高い不死鳥の血を引く三男坊!いずれはレーティングゲームにて王者の座に就く男だ!今回は我が優秀なる眷属となる者を探しに来た!……あ、あとついでにこの反乱を抑える為に、だ」

その言葉にイザベラは驚く。

「えっ……貴殿がフェニックス家のご子息……」

「何だ、驚いた顔をして」

「あまり上級貴族の子とは思えない……」

「また焼かれたいのか?」「いや、滅相も無い!」

イザベラは慌てて、話を変える。

「ライザー殿、あなたはこの反乱を鎮圧したいのか?それならば、我々と手を組んでくれないか?我々とあなたの目的は同じ、悪い事は無いはずだ……そうだ、もし我々に協力してくれたなら、この反乱を抑えらた時に、SAFSの今来ているメンバーの中でも腕に覚えのある者を何人か紹介しよう」

その言葉に、ライザーは少し考える。父親はお前の手で反乱を鎮圧しろ、と言っただけで、彼らの力を借りるな、とは言っていなかった。

 

「よし、分かった!今回はお前らと共同戦線と行こうではないか、イザベラ!」

その言葉に、イザベラは手を取ってきた。

「おお、決断してくれたか。ありがたい、ライザー殿!」

「ライザー殿、なんて止めてくれ。ライザー、でいい。あくまで共同戦線、立場は対等なんだから」

こうして、ライザーとイザベラは共に行動を開始する。

まず、彼らはエーミール率いるイザベラの隊に全速力で追いついた。エーミール達はスナイパーに用心し、常に索敵を行いながら進軍していた為、そんなに速いスピードでは無かったのだ。

 

エーミールはイザベラの姿を見ると、その目を驚愕により見開いた。その目からは涙が溢れる。

「た……大佐!大佐だ!生きていらしたんですか、大佐!」

そうやって抱きついてこようとするエーミールを冷静に避け、イザベラは自分の隊員に先程までの事情…ライザーに助けてもらった事、彼と協力することになった事など…を説明した。

 

「……という訳だ。私達はこれから、このライザー=フェニックスと協力して、反乱軍を抑える。分かったか?」

『イエッサー!』

「よし、いい返事だ」

そしてライザーとイザベラ、エーミールは作戦会議に移った。

「ライザー、君は個人でこの反乱を抑えようとしていたと言っていたが、どうやって抑えるつもりだったんだ?」

「俺は……敵の本拠地に乗り込んで、敵の大将を無力化し、その上で反乱軍の傭兵達に利を解いて、フェニックス家の配下にするつもりだったな」

「そうか、それなら本拠地が手薄になる様にこちらで陽動を仕掛けよう。エーミール、任せられるか?」

「はい、もちろんです!……しかし、大佐はどうするので?」

その言葉にイザベラは一呼吸置いて、言う。

 

「私は……ライザーと一緒に敵地に乗り込む」

ライザーは驚いた。それはエーミールも同様だ。

「ばか、止めろ!無茶だ!俺に不死性があるからこの作戦は成功するんだ!不死性の無い奴が行くのは危険すぎる!」

その言葉に、イザベラは反論する。

「確かに君は不死身かもしれない……しかし、無敵じゃ無いだろう?さっきみたいに気絶させられ、捕まるかもしれない。そうなったら、私達SAFSにとっても、フェニックス家にとっても不利になるだろう。それを避ける為に、私は君と共に行こう!」

そう言われては、先程2回も意識を飛ばしてしまったライザーには反論の余地が無い。結局イザベラはライザーと共に敵の本拠地に向かう事になった。

 

「では、我らはここで暴れています。あなた達は反対側に行かれてください。今はキース大佐が暴れているはずなので、それが終わり、各々が兵を引き上げている時を狙うのが良いでしょう……ご武運を!大佐、死なない様に気をつけてください!」

 

こうして、エーミール率いるSAFSの軍と別れる。

「では、行くかイザベラ!」「よし、行こう!」

ライザーとイザベラは、2人で行動を開始した。




今回は会話やセリフが多かった様な気がします。こんなものでいいんだろうか……

次回、新たな眷属(候補)参戦!乞うご期待!


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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女傭兵

「……キース大佐の攻撃がやっと終わったか。よし、私達は逃げ行く敵軍に合流するぞ!」

 

ライザーとイザベラは敗走する傭兵達の最後尾に紛れることに成功した。ライザーは、共に走っている周りの傭兵達を見渡す。

(屈強な奴……屈強な奴……)

彼は、自分の眷属候補をこの機会に探していた。すると、前で少しどよめきが起こった。しかし、傭兵達自体は何事も無くただ敵本陣へと戻って行っている。

「どうしたんだろう?」と思っていたライザーだったが、その理由はすぐに判明した。

通路の右側、そこに1人の女傭兵が倒れていた。頭にバンダナを巻き、人間界でいう騎士の様な鎧を着た女だった。腰には短剣を数本持っている。その身体に傷は無さそうだが、どうしたのだろうか。ライザーは不思議に思って近づく。

「おーい、大丈夫か?」

その女は、意識はあるのかこちらを向いた。その口が動くが、何を言っているのかわからない。ライザーは耳を口元に近づける。

 

「……はら……腹が、減った……何か、食べ物を……」

 

……。

「よし、行くぞイザベラ!」「お、おう」

そうやってライザーはその場から立ち去ろうとするが、足を掴まれた。

「……食べ物。食べ物をくれないか?」

「……あーもうわかった!これあげるから!」

ポケットに入っていた食べかけのチョコレートを渡す。彼女はそれを食べると、すくっと立ち上がった。

 

「よおぉし、元気が出たぞ!再び反撃と行くか!」

「いや、撤退命令出たんだが」

思わずイザベラが突っ込む。彼女はこの女傭兵にキースと同じ面倒くささを感じた。

 

「そうか、撤退か……すまない、折角食べ物を分けて貰ったのに……そうだ、チョコレート、ありがとう。感謝してる」

女傭兵はお礼を言ってくる。ライザーは少し照れながらも「味方通し、助け合いは当然だ」と返した。

 

その後、女傭兵と3人で敵本陣に走る。

「……ねぇ、あんた名前なんていうんだ?」

女傭兵がこちらに尋ねてきた。名前か……ここはフェニックス家にとって敵地。本名を言うと確実に狙われる。言うべきでは無いだろう。どうしようかなとライザーは考える。

 

「お、俺は、俺の名前は……そう、レヴィン!レヴィンだ!」

レイヴェル命名の時を思い出し、ライザーは咄嗟にそう口走っていた。

(父さん、あなたの付けようとした名前は、無駄にならなかったようだ!)

ライザーは父の抜けた所に改めて感謝した。ところで、この名前はその後も時々ライザーの偽名として使われる様になる。

「へぇ、なかなかイカした名前だね。そっちの橙髪のお姉さんは?」

「わ、私!?私は……い、イーザだ!」

「ふぅん、変わった名前」「はぅ!」

……ネーミングが安直だなとライザーも思ったが、気にしない事にした。

「私の名前はカーラマイン。傭兵歴は5年。初めて戦場に経ったのはレヴィンの歳くらいの時だな。それから何度か戦場を渡り歩き、今回が10回目の戦場になるが……あまり戦況は良くなさそうだ」

その後も女傭兵……カーラマインと話しているうちに、敵陣に到着した。敵陣は旧魔王幹部とその配下のいる場所と、傭兵達のキャンプに別れていた。旧魔王幹部のいる場所は贅沢そうな造りだが、傭兵達のキャンプは金をかけていないのが丸わかりなほど、差がある。

 

カーラマインは傭兵達のキャンプ群の奥へと進んで行く。ライザー達は黙ってついていった。やがてカーラマインはかなり奥の、そこそこ大きなテントの前で止まった。

「ふぅ、ついた。レヴィン、イーザ、あんたらも入るかい?」

カーラマインはそう訊いてくる。ライザーが頷くと、彼女は入り口を開け、中にエスコートしてくれた。

周りに警戒しながら中に入るライザー。すると、奥に人影がぼんやりと映る。

「おかえりー、なかなか遅かったな……ん、誰だ、お前」

「ただいま、そいつらは客だ」

「おお、カーラマイン。お前の客か」

よく見るとテントの中で、女傭兵が一人横になっている。髪を頭の上で何房にも分けるという独特の髪型をした、背の高そうな女だ。

「紹介しよう、こちらレヴィンとイーザ。私の恩人だ」

「カーラマイン、また食べ物を恵んでもらったのか?」

女傭兵はやれやれと肩をすくめる。こういう事は今回が初めてでは無いらしい。

「レヴィン、イーザ。こちらはシーリス。私の傭兵仲間だ」

「シーリスだ、よろしく頼む」

 

女傭兵……シーリスはこちらに浅く一礼する。その背中には大剣を背負っていた。

シーリスはカーラマインに尋ねる。

 

「どうだった、カーラマイン。今日の戦果は」

「これはもうダメだ。みんな戦う気を失ってる。中には自分達から捕まりに行ってる奴もいる。勝てるわけがない。最初から無謀だったんだ」

 

女傭兵2人はライザーとイザベラが居るのもお構い無しに、話を続けていく。やがて話はまとめに入ってきた。

「そろそろ引き時か?」「そうだな、捕虜にはなりたくないし」

その言葉を聴いて、ライザーは立ち上がった。

 

「お前達、逃げるなどよりもっと大きなことをしないか?」

 




カーラマインにシーリス、参戦です!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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収束

反乱編、ほぼ終了です!

*前回のシーリスとカーラマインを入れ替えました。


「……何が言いたい?……そもそもレヴィン、お前は本当に味方か?見ない顔だと薄々思ってはいたが」

シーリスは疑問を持った目でライザーを睨みつける。ライザーはその視線を受け流すと、話を続けた。

「今のお前達は泥舟の漕ぎ手を頼まれた船頭だ。いくら乗客が金持ちだからって、そんな無理心中に付き合う事はないだろう?……さっきお前達が言っていたように、旧魔王勢は圧倒的不利で、士気は低く、逃亡や果ては敵の捕虜に進んでなる者もいるような状況だ。このまま戦いが終われば、お前達はただの傭兵ではなく、負け犬反逆者の汚名を着ることになるぞ。なんせ、この戦いは現魔王と旧魔王の戦いだ。それにお前達は旧魔王派として参加してしまったんだからな」

その顔に、シーリスは渋い顔になりながら、ライザーに問う。

「……そんな厳しい状況にある我らに、何ができると言うのだ?」

「簡単だ、お前ら傭兵達は武器を収めて、『SAFS』の傘下に入ればいい。そうすれば反乱軍の戦力はほぼ削られ、壊滅する。お前達は、正しい判断をして戦いを早く終わらせた功労者になるだろう。『SAFS』の軍は魔王達の権力にもなびかない独立勢力だから、罪にも問われない。確か『SAFS』は実力主義で、その者の出自は気にしないんだったよな、イザ……おっとと、イーザ」

その言葉にイザベラは頷く。

 

「……お前達は、『SAFS』の手の者だったか。敵兵にこんなに容易く陣地への侵入を許すとは、この戦いは本当にこれ以上は無意味かもしれないな……」

シーリスは下を向く。彼女は、今の状況では彼が言った事が最善だと分かった。

「しかし、いくら私達が降伏したところで、上を倒さないと意味が無かろう。トップのあいつは今までにも二度反乱を起こし、そして逃げた反乱常習犯だぞ。彼を捕まえるなり、殺すなりしないとお前達の勝利では無いのではないのか?」

その言葉に、ライザーは答える。

 

「奴は俺が倒して、捕まえてやる。そうすれば俺達の勝利だ。俺がこの乱の鎮圧者……になるかは微妙だが……やっぱり手柄は『SAFS』の物かな?」

「まぁ、そうだろうな。お前が誰かは『SAFS』しか知らないし」

「そうか……まぁいい。俺がこの戦いを終わらせる。お前らは死なないようにこの場所からさっさと退いて『SAFS』に降るんだな」

「俺が……だと?お前一人で上と戦うつもりか?無謀だ!あいつは腐っても旧魔王幹部、お前のようなひよっ子が勝てる相手ではない!死ぬぞ!」

その言葉にライザーは笑う。そして彼は言葉を残してテントを後にする。

 

「フェニックスが死ぬもんかよ」

 

 

「……」

ライザーが出て行った後、テントの中には三人の女が残った。

「シーリス殿、彼が言った通り、ここは降伏するのが最善だ。もしそれでもたーー「彼は、何者だ?」

 

シーリスはイザベラの言葉を遮って尋ねる。イザベラは、その問いにゆっくりと応えた。

「彼は……不死鳥だよ。まだまだ若いが、いずれは大空をはばたく、フェニックスだ」

 

 

 

ーー二一回旧派の乱、報告。

フェニックス領にて反乱が発生。首謀者はこれまでも2度反乱を起こしており、二度目は『SAFS』が追い詰めたものの、往生際の悪い奴を逃がしてしまっていた。この度起こったのは、その男が起こした三度目の反乱である。

我々『SAFS』はキース、イザベラ両大佐の指揮のもとに、200名を送った。今回は、その報告である。

 

生存者…189名。死者…12名。捕虜…107名。それに加え、配下についた者が427名。

脱隊者…1名。

イザベラ大佐は今回の作戦により、『SAFS』を脱隊する。イザベラ大佐の抜けた穴には、エーミール中佐が入る事とする。

 

捕虜107名のうちの一人に旧魔王派幹部を確認、魔王城に送る。

首謀者の拘束により、二一回旧派の乱は収まった事とする。

以上。

 

 




今回で反乱は収束、ほとんど終わりですが……ライザー君の旅はまだもう少し続きます!まだ眷属一人も手に入れてないですし!
次回か次々回、更に眷属候補が?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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大佐

ーーイザベラは戦場の一部、彼女が撃たれたその場所に立っていた。隣にはエーミールと、男の傭兵が1人。そして、ライザーとシーリス、カーラマインが立っていた。

 

「名前は……確かスナザラと言ったな?君はどこから私を撃ったんだ?索敵では半径300m以内には敵の姿を確認できなかったぞ」

「……キャンプ地からでもその気になれば狙撃はできる。俺はその程度の実力は持っているつもりだ」

「……素晴らしい。君のような秀才が『SAFS』に降ってきてくれた事、嬉しく思うぞ。君ならすぐにでも少佐……いや、中佐辺りにはなれるだろう」

「……俺を、責めないのか?」

「戦場で敵を撃つのは当たり前だ。どこに責める必要があろうか?」「……ふっ」

傭兵はイザベラに小さく一礼すると、その場を離れる。『SAFS』の本隊に戻ったのだろう。イザベラはその背中が見えなくなるまで見送ると、エーミールの方を向いた。

 

「……よし、やるべき事は全てやった。エーミール、頼む」

その言葉にエーミールは、涙をこぼす。

「大佐、わかっているのですか?あなたはこれから……記憶を消されるのですよ!?」

イザベラは『SAFS』を脱隊する。それ故、『SAFS』に関する記憶は全て消しておかないと、内部機密を漏らされる可能性があるのだ。だから、今からイザベラは、『SAFS』に関する全ての事……戦いの事、勝利の事、そして、エーミール達仲間の事も全てを失くすのだ。

「大佐……大佐は俺達の事を忘れてしまうのですか?これまでずっと一緒にやってきたのに……」

そう言うエーミールをイザベラは軽く抱きしめる。

「私はここで一度死んでいたんだ。彼が助けてくれたおかげで何とか一命は取り遂げたが、すでにイザベラ大佐は、油断して撃たれて死んだんだよ。今君の目の前にいるのは大佐ではない。ただのイザベラだ。だから……泣くな?男だろう?」

エーミールはイザベラを強く抱きしめ返す。イザベラはその頭を撫でながら言う。

「私は運良く生き残った。生きていれば、私の名前を目にする時も来るだろう。また、会えるかもしれない。その時はまた、よろしく頼むぞ、エーミール『大佐』」

「大佐……イザベラ大佐ぁ……ゔぅ……」

ライザー達三人は、ただただ静かにその光景を眺めていたーー

 

 

ーーそして、三分後。ついに別れの時が来た。

「大佐、覚悟はよろしいですか?」「あぁ、よろしく頼む」

エーミールはイザベラの頭に魔法陣を重ねる。

「今までありがとうございました、大佐」

「こちらも、ありがとう。お前達と一緒に過ごした日々は、楽しかったよ」

その返しにエーミールは一瞬顔を伏せたが、顔を上げ、イザベラと目を合わせる。その眼には覚悟が宿っていた。

「ハッ!」

魔法陣は一瞬激しく光ると、二つに割れて崩れた。イザベラは、意識を失いその場に倒れかける。その身体をエーミールがしっかりと受け止めた。

 

「ライザー殿、彼女の記憶を消しました。後はさっきの話し合いの通り、彼女は傭兵で、今回の戦いを機に傭兵をやめるつもりだ、という記憶を刷り込んでください」

「わかった」

ライザーが頷くと、エーミールは深く一礼して、その場を去る。「イザベラ大佐を、頼みます」と言い残して。

 

「…う、ううん」

一時間ほどして、イザベラが目覚める。その目は寝起きの様に完全には開いていない。

「おお、イザベラ。起きたか!」「イザベラ、やっと起きたのだな!」

カーラマインとシーリスが、彼女を昔から知っている様に接する。彼女達の仲間という認識を練り込ませるためだ。

「……おう、シーリス、カーラマイン。今起きたぞ」

イザベラは、『SAFS』の事以外は全て……それこそ昨日の傭兵のキャンプ場で話していたことや、ライザーと戦った事は覚えている。エーミールは、『SAFS』という単語とその構成などの内部情報だけをきれいに抜き取ったのだった。

 

「……お目覚めか?身体の調子が良くないなんて事は無いか?」「……ああ、ライザーか」

イザベラは伸びをすると、身体を一瞥する。

「特に問題は無さそうだな」

その言葉にライザーは頷く。記憶を消した後遺症は無さそうだ、とホッとした。

 

「さて、本題だ。お前達三人、俺の眷属にならないか?」

その言葉に三人は頷く。

「お前の采配は見事なものだった。お前についていけば、この先も上手く生きていけそうだ」

「お前についていけば、美味しいものも食べられそうだし、命の危険も減るだろう。だから、私達はついて行くよ」

「私は……お前に命を救われたんだ。もう私の命は、半分お前のものの様なものだ」

その言葉に、ライザーは笑みを浮かべる。

「そうか、嬉しいぞ!今日からお前達は、この不死鳥・フェニックス家の三男、ライザー=フェニックスの眷属だ!光栄に思え!」

 

こうして、カーラマインとシーリスに騎士(ナイト)の駒、イザベラに戦車(ルーク)の駒が入れられた。ライザーにとって初の眷属は、彼が想像していた屈強な男とは程遠かったが、それでも彼は自分の眷属に満足していた。

 

「俺はこいつらと一緒に、最強の王になってやる!」

 

 

 




ライザー君、初の眷属ゲットです!それも一気に3人も!この調子でどんどん増やしていって欲しいものです!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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3日続けて投稿!
……毎日投稿してる方々は、本当に凄いですよね。




ーー旧魔王軍本陣、傭兵達の残したテントの一つ、その下から一人の男が這い出てきた。

「……クックックッ、クワッハッハッハ!『SAFS』に加えフェニックス家の者まで出てきた時はどうしようかと思ったものだが、奴らはやはり穴だらけよな」

 

この男は旧魔王幹部。男は一つ、珍しい能力を持っていた。

「……ち、やはり腕ではなく足にしておくべきだったか?」

彼は愚痴をこぼす。その彼の左腕は無かった。彼は、左足も義足である。彼は切り離した四肢を自分の分身にする能力と、その分身を手足に戻しくっつけられる能力を持っていた。しかし、彼が以前に二度目の反乱を起こした際に左足で造った分身は灰となってしまった。だから彼は左足が無い。

(このままでは左腕も失ってしまいそうだ……義手か……あの技師連中は値段を吊り上げるくせに良い性能の物をよこさねぇ。違う奴を捜してみるか……)

そう思いながら彼は、旧魔王派の本陣の裏に回る。そこには、小さな集落があった。彼はもしもの時のために、身を隠す場所を用意していたのだ。すでに彼の部下も何人か、そこに逃げ込んでいるはずだった。

 

男は村の小さな家のドアを、義足で蹴破る。

その家の中には、まだ十にもならないような顔立ちの子供が一人、床に座っていた。その奥には、布団に横になっている女も見える。中々の美人だ、と彼は思った。

彼は家に一歩踏み入る。

(このガキは殺して、女の方をゆっく「バーラバラ♪」

上から何か聴こえた……と思った時には一瞬の痛みが男を襲い、彼の意識は急速に暗転していったーー

 

 

ーー……一方その頃。ライザー達もその集落を目指していた。

「なぁ、そこに本当に強い奴がいるのか?」

ライザーの問いにシーリスは答える。

「ああ、私達はその集落をもしもの時の避難場所としていてな。集落、とは言っても、そこに住んでいた悪魔もほとんど戦争に巻き込まれると思って逃げているはずだから、実質空き家だらけだと思うが。『SAFS』に降らなかった奴は遠くへ逃げたか、その集落にいるんじゃないかな?」

 

そんな事を話しているうちに、彼らは旧本陣にたどり着いた。その地は所々傷跡や火事跡を残し、魔王幹部のいた豪華なテントは、見る影も無いほどグチャグチャに潰れていた。

「……すごい光景だ。そこそこの月日を戦場で生きてきたが、こんなに激しい戦いの跡を観るのは稀だぞ。ああ、私もこんな戦いをしてみたいものだ」

カーラマインは遠回しに言い、チラッとライザーを見る。ライザーは分かっていないようだ。カーラマインは直接、言う。

「ライザー、お前は強い。今度手合わせ願いたいものだ」

「ん?ああ、良いぞ。ただ、家に帰ってからな!」

家、という言葉にカーラマインは反応する。

 

「家……か。私は家での暮らしも、親の記憶も、ほとんど無いな……」「私もだ」「私も。だからライザー、私達は君が羨ましいよ。君には帰る場所もある。あたたかく出迎えてくれる家族もいる。私達もそんな暮らしがしてみたかった……」

その言葉にライザーは、眷属達を振り返り言う。

「?何を言ってるんだ?お前達は来ないのか?」

「え?」

本当に不思議そうにしたその声に、眷属達も疑問の声をあげた。

「お前達も、俺の眷属なんだから、一緒にうちに住もうぜ。そしたら、帰る場所も、出迎えてくれる家族もできるだろう?俺の家族もきっと家族が増えたと思って喜んでくれるさ!今日からフェニックス家は、俺達の家、だ!」

俺達の家……その言葉は、ずっと戦場で生きてきた三人の心に響いた。

「……良いのか?眷属が主と一緒に暮らしても?」「主の俺が言ってるから大丈夫だろう」

「そうか……ありがとう、ライザー」

「?何だお前ら?変な眷属だな」

 

そんな話をしているうちに、ライザー達も集落にたどり着く。彼は村の入り口近くの、小さな家の、雑に取り付けられたドアを、うっかり取れないように気をつけながらノックする。

「あのー、誰かいませんか〜?」

返事は無い。誰もいないようだ、と彼はドアを開ける。

家の中央には、一人の小さな女の子が座っていた。緑色の髪を少し短めに切った、痩せ細った女の子だった。その奥には、同じ緑色の髪をした女性が、布団に横になっている。

「あ、おじょ……「バーラバラ♪」

 

不意に上から可愛らしい声と機械がはげしく動く音が聞こえ、ライザーの首は切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 




首無しライザーと首無しライダーって似てますね。池袋の都市伝説の首無しライダーさんを思い出します。ハイスクールD×Dと文庫違うけどね!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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双子

「フェニックスが……首を切られたくらいで死ぬか!」

そう言い終わった頃にはライザーの首は再生を終え、彼は拳を上に振り抜く。が、それは宙を切ったのみだった。

上にいた者は壁を蹴ってクルクルと回りながら座っている女の子のもとに着地する。その顔には驚愕が張り付いていた。

「く、首を切ったのに死なないなんて……怖!」

その顔は座っている女の子と瓜二つだった。髪の長さと結んでいる場所が違うくらいで、彼女らは、生えている八重歯に至るまで全てが似ていた。

 

「どうした!何かあったのか!?」

眷属三人も遅れて家に入ってくる。彼女達に先に行かせなくて良かった、とライザーは心の中で自分の眷属の無事にホッとした。

座っていた女の子も床板を一枚取り外すと、中からもう一人と同じ武器を取り出す。チェーンソーだ。

対峙するライザー達と女の子、おそらく双子だろう。彼女らは痩せている弱々しい見た目にとても似合いそうに無い武器を持ち、構えている。ライザー達も彼女らをどうすればいいのかわからず、行動に移れない。一触即発の雰囲気を崩したのは、後ろで寝ている女性だった。

「コホ、コホコホッ!」

その音に双子は反応する。二人はチェーンソーを床に置くと、その女性の方へと向かう。

「お母さん、大丈夫?」「寝苦しかった?うるさかったかな?」

もはやライザー達のことは気にもしていない様子で、双子は奥で寝ている女性ーー今の会話からして、双子の母親か?ーーに話し掛ける。ライザー達は訳がわからなかった。

 

「どうしたんだ、ライザー?何があったんだ?」

「いや……ノックして家に入ってみたら首を切られてしまった。不意打ちだとはいえ、この俺に攻撃を喰らわせるとは……」

「……まぁ、君は結構隙だらけだしな」

ライザーはその言葉を華麗にスルーすると、女の子達に話し掛ける。

「お嬢さん方、大丈夫かい?そこのお母さんも無事?」

質問に対し、双子の片割れがこちらをキッと睨みながらライザーに言い放った。

「お母さんには手を出させないよ、絶対に!」

「いや、手を出す気は無いけど。ちょっと聞きたい事があっただけだし」

「え……」

ライザーは、内乱が終わったことと、ここに来た経緯を告げた。話を全て聞いた双子は顔を近づけて相談を始める。少しすると彼女らはこちらに謝ってきた。

 

「ゴメンなさい!勝手に首を切ったりして!」「ゴメンなさい!」

急な謝罪にライザーも驚く。

「い、良いよ良いよ。死ななかったんだから。死んでたら文句を言っていたところだけど……」

「そういえば、なんであなたは死ななかったの?」「そうそう、なんで?そもそも、あなたは誰?」

双子が聞いてくる。ライザーは、その時を待っていたとばかりに自己紹介を始める。

 

「俺はこの地を治めるフェニックス家の三男坊、将来のレーティング・ゲーム王者候補筆頭(自称)の最強の王、ライザー=フェニックスだ!そして彼女達はその栄えある眷属達!」

「ふぇ、フェニックス家!?」「上級貴族!?それも……この地を治める!?」

2人はそれを聞いた途端、姿勢を正し地に頭を伏せる。

『フェニックスさん、いきなり攻撃しちゃってゴメンなさい!』

ライザーは、そういった反応を待っていたと言わんばかりに満足そうな表情をする。

「おう……良し良し、なかなか良い子達じゃないか。面を上げい!」

双子は顔を上げると、ライザーに懇願した。

「フェニックスさん、お母さんを病気から救ってください!」「お母さんを、助けてください!」

ライザーは2人に手を取られると、彼女らの母親の所に連れて行かれた。眷属3人も彼の後についていく。

 

「ゲホゲホ、ゴホッ」

二人の母親は顔色が良くなく、汗がダラダラと流れている。カーラマインがその表情を見て、脈と体温を手で測り、考えだす。

「これは……インフルエンザかも知れんぞ」

「インフルエンザ!?早く病院に連れて行かないと!下手したら死んでしまう病気だぞ!」

 

そのライザーの言葉に、双子は悲しそうに答える

「お金……無いの」「病院に行く方法も……無いの」

……その言葉は、今まで何不自由なく暮らしてきたライザーには聞いたことの無い言葉だった。

双子は、今話した事で現実を思い出したのか、暗い顔をしだした。

「お母さん……死んじゃうの?」「このままじゃ、死んじゃうの?」

双子の問いに、ライザーは無言で頷く。

 

「そんな……いやだぁ!もっとお母さんと一緒にいたいぃ!」「うえええーん!やだぁ!」

そんな泣き声が辺りに響く。ライザーは、しばらく考えると、双子の母に近づき、その身を抱き抱える。

「あ……」「お母さん!」

ライザーはそのまま外を飛び出すと、空に飛び出した。

「あんなに頼まれちゃ、仕方ない。領地の人の言う事を聞くのは、その地を治める貴族の義務みたいなもんだしな……お前ら!俺はこの双子の母親を病院に連れて行く!シトリー領の一番大きな病院で待ってるからな!あと、子供達に空の飛び方を教えてあげてやれ!じゃあな!」

 

こうしてライザーは双子の母親と共に、病院に向かう。病気はまだ深刻化していないようで、母親は入院こそするものの、命に別状はないとの事だった。

 

母親の入院手続きが終わって部屋に入るのを確認した後、ライザーは一息つく。外の販売員から飲み物を買っていると、双子と眷属達が到着した。

双子はライザーを見つけると、大急ぎで近寄ってくる。

「お母さんは!?」「無事なの!?」

「ああ、無事だよ。入院は必要みたいだが……あの症状だったら命に別状はないってさ」

その言葉に彼女達は力が抜けたかのようにへたり込んだ。

「良かった……」とつぶやく彼女達だが、その直後にハッとした表情になる。

「お金……どうしよう」「どうしようか?」

不安そうな顔をする双子。そんな彼女達に、ライザーは言った。

「お前達の俺への攻撃、子供とは思えないくらい素早くて、正確だった。お前達は成長すれば、きっとかなりの戦力になる。どうだ、俺の眷属にならないか?」

『眷属?』

「ああ、俺の眷属になれば、きちんとした食事も出すし服も着れる、寝る場所だって用意してやる。それに……お前らのお母さんも世話してやる。まぁ、お母さんの入院に必要な金はこっちが勝手にやった事だから眷属の話とは関係無くこちらが払うが……どうだ、悪い話では無いだろう?」

 

その言葉に双子はお互いの痩せた身体を見て、それから病院を見ると頷き、ライザーに言った。

 

「私達、あなたの眷属になります!」「これからよろしくお願いします!」

「ああ、よろしくな!えっと……」

「イルです!」「ネルでーす!」

「そうか。よろしく、イル、ネル!」

 

こうしてライザーは新しく二人を眷属にした。そのスピードから『騎士(ナイト)』が適任かと思ったが、『騎士』はシーリスとカーラマインに使っていたので、プロモーションで『騎士』にもなれる『兵士(ポーン)』にした。

 

「よし、じゃあ帰ろうか!」

こうしてライザーの旅は、五人の眷属を手に入れるという成果で終えたのだった。

 

 

 

 

 




これで眷属は5人!残りの駒は、『女王』1、『戦車』1、『僧侶』2、『兵士』7です!つまり最大11人。まだまだ先は長い!

次回、帰宅。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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帰宅

投稿です!


「ただいまー」

 

ライザーは五日ぶりに自分の家に帰って来た。少ししか離れていないが、それでもやはり自分の家とは恋しいものだとライザーは思った。

「おかえり、ライ君!」「おかえり、お兄ちゃん!」

ドアを開けるとすぐに、ユーベルーナとレイヴェルがライザーの胸に飛び込んでくる。ライザーは優しくそれを受け止め……受け止めきれず尻もちをついた。

「ただいま、ユーベルーナ、レイヴェル」

ライザーは2人の出迎えを心地良く感じる。内心、いつも会っていた者達と離れる事に少し寂しさを感じていたライザーは、温かい気持ちになった。

 

レイヴェルは兄が尻もちをついたのを見てクスッと笑いながら離れたが、ユーベルーナはそのまま腰のあたりに馬乗りになり、ライザーに対する言葉を紡ぐ。

「ライ君、怪我は無かった?病気してない?食事はきちんと食べたの?睡眠じか--」

「だ、大丈夫、大丈夫だから落ち着けユーベルーナ!」

静止するために少し強めにライザーが言うと、ユーベルーナは目を潤ませた。

「あ……ごめん、強く言いすぎたか?」

その問いにユーベルーナは首を振ると、ライザーの顔に手を添えながら言う。

「……違うの。ライ君が無事に帰ってきてくれて、嬉しいの。戦場に行って、ケガなんてしませんようにって、ずっと祈ってたのよ」

 

その言葉を聞き、ライザーは上半身を起こし、ユーベルーナを強く抱きしめた。

「……ユーベルーナ。お前の祈りのおかげで、無事に帰ってこれたような気もするよ。心配してくれて、ありがとう。これからも……って、あれ?ユーベルーナ?ユーベルーナぁ!?」

 

ありがとうの台詞は本人の顔を見て言おう、と思いライザーがユーベルーナと目を合わせた時には彼女の顔は真っ赤に染まっており、目と目が合ったと思いきやユーベルーナは目を回し失神してしまった。

 

「……なんか、幸せそうな顔して寝てるな……」

ライザーは、気絶したユーベルーナを起こさない方が良い気がして彼女をお姫様抱っこで担ぐと、そのまま近くの部屋である大広間のソファに連れて行き、ゆっくりと彼女の体をその上に置いた。

 

ライザーがユーベルーナを置いてから玄関に戻ると、そこでは三人の子供達がじゃれ合っていた。レイヴェルと、イル・ネルだ。

イルとネルがレイヴェルと共に歳相応に笑っているのを見て、ライザーは笑顔になる。

(やっぱり子供は笑顔が一番だな)

 

そんな事を思っていると、横から声を掛けられた。

「あ、ライ君おかえり。どうだった?反乱は」

廊下をこちらに向かって歩いて来ているのは、兄のリゾットだ。ライザーはVサインを作り、笑顔を見せる。

「ばっちり抑えて、眷属も手に入れた!」

「へぇ、眷属かい。どんな……ああ、あそこでレイヴェルと遊んでいるあの二人の女の子かい?」

リゾットは理解が早かった。ライザーは兄にイル・ネルを含めた自分の眷属を紹介する。

 

「女の子ばかりだね、それも可愛い子ばかりだ」

その言葉に照れる傭兵三人衆。

「これでも皆、戦場を小さな頃から駆け回った戦いのプロ、俺の眷属にピッタリの戦力なのです!」

ライザーは眷属達を兄に自慢する。

「へぇ、それは頼もしい……ただ、まだまだ駒は残っているんだろう?」

その言葉にライザーは頷く。

「まだまだ俺の眷属は揃っていません!しかし!俺はこいつらと共にレーティングゲームに挑み、ルヴァル兄さんを越え、レーティングゲームの王者になってみせる!」

 

 

「ほう……それは楽しみだ」

 

 

後ろを振り向くライザー。その彼の横を一人の男が通り過ぎる。

「まぁ、頑張ることだ……リゾット、俺は忙しいから、行ってくるな!母さんによろしく!」

彼はライザーの頭をポンポンと軽く叩くと、門を開けて外に行ってしまった。

 

(俺はいつか必ず……あの背中に追いついてみせる!!)

ライザーはその決意を更に深めたのだった。

 

 




この話で休んで、次回からまた眷属探しです!まだまだ先は長い……


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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怒りと謝罪と

眷属を再び探しに行く、と言ったな。アレはウソだ。




ライザーに眷属が出来てから、約半月が経った。

五人の眷属は、馴染んだ時期こそ違うもののフェニックス邸での暮らしに慣れ、ライザーの家族とも仲良くやれているようだった。

 

ライザーの自室は今、子供達の声で溢れている。

「待て待てー!」「きゃー!」「逃げろ〜!」

レイヴェルとイル・ネルが追いかけっこをして遊んでいる。1番この家になじむのが早かったのはイル・ネルだ。この半月の間で彼女らの身体にも肉がついてきて、骨と皮のような状態から血色の良い身体になった。母親の容態も順調に回復しているようだ。

 

「お、リーダー。ちょっとこんなものを作ってみたんだが……」

カーラマインがクッキーを持って部屋に入ってくる。彼女は食事と戦いが大好きだ。二日に一回の頻度で戦いを申し込まれ、ライザーは彼女の相手をよくしてやっている。食事は食べる専門では無く、作ることもできるそうである。何度か彼女の料理を食べる機会があったが、なかなか美味しかったのをライザーは覚えている。

 

「……zzz」

部屋の隅には、イザベラが壁に寄りかかって立ったまま眠っている。彼女はこの様な戦いの無い暇な時は、のんびりとしていることが多いとよく分かった。

 

「--というのが大戦前の魔界の様子です」

「なるほど、よく分かった」

シーリスはユーベルーナから勉強を教えてもらっている。傭兵の仕事を辞め眷属になった今、武力だけではなく学問も必要だ、と考えたそうだ。

 

そしてライザーは……

「おう、そこに置いておいてくれ」

プラモデルを組み立てていた。

彼が組み立てているのは『機動騎士ダンガム』のプラモデル、略して『ダンプラ』である。その組み立て作業もあとは塗装を残すだけになった。

「さぁて……あとは俺色に染めてやればかんせ(ヒュッ)ん?」

バキッ、という音が妙に大きく部屋に響いた。

風を切る音が聞こえたと思った時、ライザーが左手に持っていたダンプラの頭が、急に吹っ飛んだ!

ダンプラの命は、そこで儚く散っていった。

ライザーはわなわなと震える。後ろからは火炎の様なオーラが渦巻いていた。

 

「イル・ネル・レイヴェル!」

ライザーが怒鳴る。三人は遊ぶのをぴたりと止め、気をつけの姿勢を取る。

「お前達、誰かこっちに向かって何かを投擲しただろ!」

その問いに三人はよくわからないような表情を浮かべる。

「何かモノを投げただろう、と聞いてるんだ!」

そう言うと三人は必死に否定する。しかし、ライザーは信じない。

「お前達……早く犯人を名乗り出た方がいいぞ。今なら……炎の手でのおしりペンペン十回で済ませてやる。が、十秒経つ度に十回ずつ追加されていくぞ……さぁ、誰がやった!」

そう言っても、三人の口から出るのは否定の言ばかり。彼女らは目に涙を浮かべながらも、自分達ではないと言い張る。

 

「お前達……白を切るのか?時間が経てば俺の怒りが収まると思ったら大間違いだぞ?」

その言葉を発した時、三人以外の所から「ひぅううう〜」と声が聞こえた。

ライザーはそちらの方を向く。

そこにいたのは、座って飲み物を飲んでいるシーリスと。

 

なぜか汗をダラダラかき、下を向いて震えているユーベルーナだった。

 

「……」

ライザーは無言でそちらに近づく。再び、「ひぅううう〜」という声が漏れる。

「……ルーナ?まさかとは思うけど……お前じゃないよなぁ?」

ライザーは青筋立てた顔を、覗き込むようにできる限りユーベルーナの顔に近づけながら、優しく言う。

ユーベルーナは更に汗の量が多くなった。唇が震えている。

「わ、わた、わたたたた、わ、私がやりましたぁ!すすす、すいませんでしたぁ!」

顔を近づけて十秒と少し。ついにユーベルーナは自白した。

 

事情を聴くと、シーリスに勉強を教えている途中、消しゴムで間違った箇所を消そうとして、力強く紙を擦ってしまった為紙が破れそうになった。慌てて消しゴムを紙から離そうとした所、手から消しゴムがすっぽ抜け、後ろのライザーのダンプラにヒットしたそうだ。

その事にユーベルーナが気づき、謝ろうとした時、ライザーが怒鳴った為、怖くて言えなかったそうな。

 

「……そうか……三人じゃなかったのか……」

ライザーは自分の間違いに気づいた。そして、その間違いのせいで彼女達が傷ついてしまった事も。

「……イル・ネル・レイヴェル……ゴメンな、怒鳴ったりして。お前達は何も悪くないのに、信じてやれないで……」

ライザーは三人に深く謝罪した。

「……大丈夫。怖かったけど、もう気にしてないよ、お兄ちゃん!」「ちゃんと私達がやってないってわかってくれたんだから」「許すよ、お兄ちゃん!!」

下げた頭の上からそんな言葉が聞こえた。ライザーは顔を上げると、彼女達を抱きしめた。

「ゴメンな……」

三人は照れていたものの、嫌そうにはしていなかった。

 

それから、ライザーは急なトラブルの原因を偏見で判断せず、冷静に考えて対処する事を覚えたのだった。




オマケ

謝罪が終わった後、少しイル・ネル・レイヴェルに部屋から出てもらう。
言ったことはちゃんとやらなければならない。
「名乗り出ろと言ってから自白するまで大体二分半……つまり、150秒……最初の10回と足して、160回か……」

部屋の中央に、ライザーは立っていた。隣では、一人の女の子が泣きそうになりながら謝っている。
「ら、ライ君、私も反省してるから……わざとじゃ無いし……許して欲しいなぁ、なんて……」
「下を脱げ」
「ひぅううう〜」
ユーベルーナは震えながら、着ていたスカート、そして下着まで脱ぎ、ライザーの前に横になる。ライザーは正座し、彼女のお腹を太ももの上に乗せ尻を上げさせ……右手に炎を燃やした。
「まず一発!」
パシィインッ!といい音が響き渡り、それと一緒に少女の悲鳴が木霊する。
「おいおい、まだ一発しかしてないぞ。そんなんで160回も耐えれるのか……よっ!」
「あひぃいいい!あっ!ダメ!痛いっ!やめて!ゴメン!なさい!あっ!あっ!あっ♡あっ♡……」

そして160回終了後。
「……あはぁ♡」
ユーベルーナのお尻は猿のように真っ赤になり、所々火傷跡があった。ライザーはフェニックスの涙を尻にかけると、「手が疲れた……」と言いながら部屋から出て行った。

「あ……もう痛いの治ってる?ふぅ……はぁ……疲れた……あっ!いけない…この部屋にも確か、付いてたハズ……間に合うかしら……あっ、足が震えて、立てない……あひっ!だ、だめぇっ!こんな所でしちゃったら、掃除が大変……あっ、でも、もう、無理ッ!ダメダメダメダメッ!あ……あああああああぁあ〜♡」



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暴走

--紫色の夜空に紅き月が浮かぶ時、剣は血を求め人は血に溺れる。
『朽ちた剣』は『血塗れの剣』へと変わり、剣の行く先には血の抜けた身体が横たわろう--


--その日は、カーラマインの様子が少しおかしかった。

「シーリス、今日は昼通しで斬り合いしないか!?」

「……どうして?」

「あ……ええっと…そうだな……」

ライザー達悪魔は夜に行動し昼に眠る。夜が活動時間なのだ。昼にいっぱい寝て、早起きして昼明けの月の光を浴びるのが、健康に良いとされているほどだ。逆に昼に起きておくのは身体に良くないとされる。

このフェニックス家の屋敷に来てから、カーラマインもシーリスも、他の眷属もできる限り早寝早起きを徹底していた。そのおかげで彼女らは背が伸びたり胸が大きくなったりしてきている。

だから、シーリスはカーラマインがどうして今日に限って昼に斬り合い、などと言いだすのかが分からなかった。故に、その日は結局いつも通り人間界で言うところの朝の十時くらいの時間には、その身体を休めるのだった。

そして……次の日。

 

その日、ライザーは特に何もする事がなく、家の中を散歩していた。

「あー、暇だ。父さんも母さんもいないし……イル・ネルとゲームでもして時間を潰すか……」

そして、眷属達の部屋のある廊下に到着し、イルの部屋をノックしようとした時……

 

ガキッ!と金属同士がぶつかり合う重い音が、シーリスの部屋から聞こえてきた。それも、一度だけではなく、何度もだ。

ライザーはシーリスの部屋をノックして、声をかける。

「どうした〜?転んで剣でもぶつけたのか〜?」

その質問に対し、

 

「リーダー!?来るな!!」

カーラマインの鬼気迫った声が聞こえた。

ライザーはその声を聞き、何があっているのかとシーリスの部屋に入る。そして……

 

ニヤァ、と歪んだ笑みを、ライザーは見た。

 

「な、そっちに飛び……リーダー!?」

目にも止まらぬ速さで急に襲ってきた何者かによって、ライザーは首を斬られた。

襲ってきた者はその返す刀でライザーの右腕を刎ね飛ばし、更にその剣をライザーの胸に突き刺した。

「……?」

そして襲ってきた者は、首をかしげ……

「……吹き飛べ!」

再生したライザーの出した炎によって、壁に叩きつけられた。

 

「……何をしているんだ、シーリス」

襲ってきた者……シーリスは何も答えず、ただケタケタと笑っている。その表情からは、壁に叩きつけられた痛みなどの感情は微塵も感じられない。

 

カーラマインがライザーの背後に回りながら、ライザーに話す。

「リーダー、シーリスが持ってる大剣……あれは魔剣でな」

「何?」

「知ってるかな……魔剣フルンティングを」

 

 

--フルンティングとは、イングランドに伝わる叙事詩『ベオウルフ』の中で、主人公ベオウルフに使われていた。

その剣は、刀身が血をすするごとに硬く、強固になっていくという特性があった。

その剣は強い力を宿していて、前の持ち主はそれを使って失敗する事はなかったという。しかし……

ベオウルフが宿敵の巨人、カインの末裔の邪龍グレンデルを倒した後、その仇を討ちにきた母親に斬りかかった際、その剣は一切通用しなかった。

結局、グレンデルの母親は洞窟内にあった他の剣によって倒され、これまで沢山の敵を葬ってきたにもかかわらずフルンティングは『役立たずの剣』の烙印をベオウルフから押され、前の持ち主の元に返されたという--

 

「--で、今シーリスが持ってる大剣が、その魔剣フルンティング。いつもは大人しいんだけど、満月の夜はいつも血を求めて暴走してね……しかもいつものシーリスよりもかなり強いっていうんだから、洒落にならない」

カーラマインは肩をすくめる。

魔界の満月は地球とは違い70日に一度の周期で来る。その満月の日ごとにシーリスは暴走し、辺りを血で染めるらしい。カーラマインはある傭兵時代の出来事を語る。

「--あの日は満月が綺麗でね……急にシーリスが唸りだしたから、私はどうしたのかと思い彼女に近づいた。すると彼女はこっちを見てから急に戦場へと走り出した。そして、その日には私達の勝利で戦いは終わっていた。そういう事が何度かある」

「敵と味方の区別ははっきりしてるのか?」

「一応、そうみたいだ。ただ、今日はこの近くに仲間しかいなかった。だから、フルンティングが仲間を切る対象にしてしまったんだと思うよ」

ライザーはどうしようかな……と考える。いくらフェニックスの涙があるといっても、女の子が怪我しているのを見て良い気はしない。かと言って、怪我をさせずに彼女を無力化する方法は……あるのか?

と、ここでライザーの身体が上と下の真っ二つになった。シーリスは、剣で一閃したままの姿勢だ。

 

ん?今、もしかして……

「隙だらけ……か?」

そう思った時、すでに手は動いていた。

「ぐ!?」

首の後ろを叩かれ、シーリスは床に倒れ伏す。その頭をライザーは押さえ込んだ。

シーリスはフルンティングを逆手に持ち、ライザーに再び突き刺してくる。しかし、ライザーの身体に剣は突き刺さったものの、そのまま貫通してしまった。勢いよく剣を振ったため、フルンティングはシーリスの手からすっぽ抜けてしまった。

フルンティングをその手から離したシーリスは吠える。しかし、その叫びはだんだんと小さくなっていく。シーリスの手は一心不乱に、押さえつけているライザーの腕ではなく床に触れる。フルンティングを探しているようだが、あいにく剣はシーリスの手の範囲外にあった。

 

「……カーラマイン、縛ってやってくれ」「了解した、リーダー」

こうして、なんとか部屋の中で問題を片付けたライザーは、他の人が巻き込まれなくて良かったと安心する。一方で、眷属や家族が危険に巻き込まれないよう、この状況に対する安全策を考えないとな、と決めたのだった。




フルンティング…魔剣カテゴリーなのか聖剣カテゴリーなのか未だにわかりません……

最初この魔剣を持たせているのはカーラマインのはずでした。料理と食事と戦いが好きなキャラをシーリス、いつもクールだけどフルンティングのせいで暴走する役がカーラマインの予定だったのです。しかし、カーラマインは短剣を使い捨てていく戦闘スタイルで魔剣に合わない戦い方だなぁと思ったので、いつも大剣持ってるシーリスを魔剣所有者にしました。


次回からはまた眷属集めになる……はずです!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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道場

さあ、再び眷属集め!


「じゃあ、行ってくる!」

そう言うとライザーは家を出る。それをユーベルーナは見送った。

「……この頃一週間に二度は外出してるけど、どこに行ってるんだろう?」

 

 

「どーもー」

ライザーが訪れたのは、小綺麗で新しそうな道場。そして、その道場の中央には一人の老人が座っていた。

「ほっほっほ。よく来たの、ライザー。さぁ、今日も修行といこうではないか」「おう、師匠!」

 

「頑張るわねぇ、お坊っちゃん。根を上げて三日坊主になるかと思ったんだけど」

奥から出てきた女に、ライザーは振り返る。

「やかましい!ここで武術でお前に勝てる位に強くなるまで、俺はやめんわ!」

「あら、そう。楽しみね。何百年かかるか分かんないけど」

女は素っ気なく返すと、ライザーの横を通り、外へと出ていった--

 

 

 

最初にこの道場を見つけたのは、単なる偶然だった。

ライザーは、眷属にできるような強者を探して領地を歩いていた。

「はぁー、なんかなぁ、見ただけで『コイツ……できる!!』ってわかるような奴いないかな?」

ライザーはそんな事を愚痴りながら、歩いていく。すると、しばらく歩いた先、古臭い建物の前で、ナンパしている男達を発見した。

「よぉ、ねえちゃん」「俺達と遊ばな〜い?」

男達は二人で一人の女性をナンパしている。俺はその2人の背中を見て、思った。

(こ、コイツ、コイツらのどちらかは……できる奴だ!!)

ナンパしている方からは、微量ながら濃いオーラを感じられた。まるで、実力者がその力を隠しているが、漏れてしまっているかの様な……

(ど、どっちだ!どちらもそこそこ背が高いが、かなりヒョロヒョロだぞ……ハッ、まさか魔力のプロ!?)

ライザーはこっそりとその目でそちらを観察する。

「まぁまぁ、とりあえずお茶でもどうかな?」

そう言って片方の男が女の手を掴んだ……その時!

 

(な……オーラが、大きく……!!)

一瞬だった。一瞬感じていたオーラが大きくなり、次の瞬間には、男達が倒れ伏していた。

「アタシより弱い人とお茶なんて、バカじゃないの……アタシよりも強くなったら、考えてあげるわ♪じゃあね〜」

そう言って女は、古臭い建物の中に入っていった。

ライザーは慌てて男達に駆け寄る。男達はぐったりとなり、気絶していた。

「腹に一発ずつ、そして顎に一発ずつ…あの一瞬で、四撃!?」

ライザーは女が消えていった建物を見る。その入り口には、よく見ると木が立てかけてあり、文字が書いてあった。

 

「……『飛翼砕雪(ひよくさいせつ)拳』……?」

 

ライザーはその中を訪ね、そして一人の若い男と出会った。

「……ん?なんだ?今、掃除中なんだけどなぁ」

雑巾掛けをしている男。ライザーは彼に話しかける。

「あの……ここは拳法の道場か何かで?」

「ああ…ここはあんたが言った通り、拳法の道場で間違いないが、あんたは何だ……ハッ、まさか!」

そう言うと男はライザーの手を取る。そしてその手をブンブンと上下に振る!

「あんた、入道志望者かよ!嬉しいねぇ!ここ数年、生徒が居なくてよぉ!後数年来なけりゃここも潰さなくちゃいけなかったんだよ!」

そしてそのままライザーは、あれよあれよと道場に入門させられてしまった。

「じゃあ、受講の曜日は星期二と星期五だから!よろしくな!」

 

そして受講初日。

「ほっほっほ、来たか我が弟子よ」

最初に来た時に若い男が掃除してた所に、一人の老夫が座っていた。

「爺さんが俺の師匠か?」「いかにも……俺……いや、この姿では儂…か。儂がお前…ではないお主に拳法を教える……あ、いや違う、伝授するのだ……じゃ!」

老父は口調が整っておらず、言葉があやふやだ。

「……ああもう、この口調は疲れる!」

そして老父は急に声を荒げると、「修行するぞ修行!」とライザーに若々しい口調で告げた。

 

「さぁ、まずは座禅を組んで、精神統一だ!」「あ、ハイ!」

 

 

そんなこんなで修行を開始した、その日の丑三つ時位に、彼女は帰ってきた。

「ただいま……ん?何やってんの、父さん?」

現れたのはこの間見た女の子。やっぱりこの家の子だったのか!とライザーは内心で喜ぶ。

「おお、雪蘭。彼はレヴィン。この『飛翼砕雪拳』の継承者となるかもしれない男……お前の兄弟弟子だ。仲良くしてやれ!」

そう言うと女の子は鼻で笑う。

「ハッ、そんなガキがアタシの兄弟弟子?笑わせてくれるわ。アタシは兄弟弟子なんていなくても、一人でこの『飛翼砕雪拳』の名を冥界中に響かせてやるわよ!」

そう言われて黙っているほどライザーは大人ではない。

「誰がガキだ!俺は……実はレヴィンなどという名前ではない!本名ライザー=フェニックス!フェニックス家の三男坊にして将来レーティングゲームの覇者になる男だ!覚えておけ!」

 

その言葉に、雪蘭だけではなく老父も驚く。

「……へぇ、あんたがこの領地を収めるフェニックス家の三男坊……何の為にわざわざこんな辺境のボロ道場に?」

「この前たまたまお前の戦いを見てな……あの強さは素晴らしい!そう思って眷属に誘いに来たら若い男に捕まってこうして入門させられたのさ」

その言葉に雪蘭は一瞬ポカンとした後、声高く笑い出した。

 

「あははははははは!アタシがあんたの眷属ぅ?そうねぇ、アタシに勝てたら考えても良いわよ。勝てたらね!」

そう言った瞬間、ライザーの胸に掌底打ちが入る。ライザーの視界が暗転した。

 

 

眼が覚めると辺りは明るかった。どうやら朝まで眠っていたらしい。近くには老父が待機している。どうやら見守っていてくれたらしい。

「……おい、爺さん」

俺が声をかけると、老父は「何だ?」と聞き返してきた。

「俺、次から本気で体を鍛えるよ。そしてあいつに勝って、眷属として連れて帰る。良いよな?」

老父はその言葉にゆっくりと頷いた。

 

そして次の練習日。老父は道場の外で待機していた。

「すまない、爺さん。勝手してしまって……」「良い良い、あんなボロボロな床や壁ではろくな修行も出来なかろうて」

 

冥界の匠の手により、数時間で道場が新築になった。ライザーはこうして、新しくなった道場で、週2回の修行の日々を過ごすのだった。

 

「今年中にはあいつに勝ってやる〜!」




ライザー君、道場に弟子入り!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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修行の成果

--そんなこんなで六ヶ月、約半年、ライザーは週二度の修行を毎週続けた。ライザーは、自分がだんだんと強くなっているのを実感していた。

(そろそろか……リベンジの時は!)

 

「師匠、そろそろリベンジしたい!」「いーよー」

という訳で。

 

 

「ふふん、まさかおぼっちゃんの道楽が半年も続くとはね……しかもアタシに挑戦してくるなんて……半年前の無様な姿を忘れたのかしら?」

道場の中央で、ライザーは雪蘭(シュエラン)と対峙した。

「うるさい!俺はこの半年で強くなったんだぞ!」

「それはアタシだってそうよ」

ライザーが拳法を習っている時、彼女はいつも外出していた。ライザーは知らないが、彼女もいつも外で修行をしていたのだ。

「お前がどれ位強くなったかは知らんが、俺はお前より強くなったぞ!」「あーはいはい。そういうのは良いから、やりましょうか」

雪蘭は構える。攻撃的な弐の構え、『吹雪(ふぶき)』だ。

ライザーも構える。こちらは基礎の構え『風花(ふうか)』である。

「もし俺が勝ったら、約束忘れんなよ」「あー……何だったかしら?アタシの(しもべ)になりたいんだったっけ?」「違うわ!眷属になるって話だ!」

軽く言葉で戦う。雪蘭は喋りながらもだんだんと構えを解いていった。

「……『氷(つぶて)』っ!」

一瞬、彼女のオーラが大きくなった直後、雪蘭が眼前から消えた。ライザーは攻撃を読み胸の前で手を交差させる。その腕に掌底がぶつかった。

「……へぇ、半年前とは違って、見切れる様になったんだ」

雪蘭は二歩ほど距離を取る。さて次の攻撃に移ろうかと思った時、

 

「うごっ!?」

身体の中心部、へその辺りに重い一発を喰らった。

(な、速い!?どうして……!!)

雪蘭はライザーを見て驚いた。彼が自分に向かって突き出した拳。その直線上にある彼の肘から、火が噴射している。よく見ると、ライザーの背中からも火が噴き出していた。

(まさか、自分の出した火をブースター代わりにぃ!?)

雪蘭が考え終わらないうちに、吹き飛ばされて壁へと直撃した。新しく作った壁は硬い木を使っており、そこにぶつかった衝撃で彼女は意識が飛びそうになった。それでもなんとか歯を食いしばって立ち上がる。

「お、おおお……」

雪蘭がふらふらと揺れる。それをライザーは再び構えながら観察する。

「どうした?もう終わりか?」

鼻で笑い挑発する。雪蘭は対して、鋭い目をライザーに向けた。

「ゲホゲホっ!……冗談。だけど……少し油断してたから痛いの喰らっちゃったわね。ここからは本気で行くわよ!」

言うと同時に雪蘭はライザーに飛び蹴りを仕掛ける。ライザーはそれを迎撃しようと腕を振り、

 

その手は宙を切った。

 

「ふっ、残像よ!」

ライザーの背後から雪蘭の声が響く。その直後、今度はライザーが、先程雪蘭が叩きつけられた場所と同じ位置に吹き飛ばされた。

「隙だらけの背後に回ってからの奥義『白魔(はくま)』……うまく決まったわね……残念ね。まぁ、私に勝てる訳が無いというのはわかったかしら?アハハ「まだだ!」……!!」

叩きつけられたライザーも、再び立ち上がる。

「……嘘でしょ?完全に技が入ったはずだけど?」

雪蘭は驚愕する。それは一瞬だった……が、

 

「シッ!」「……あ」

 

ライザーが再び加速した攻撃を当たるには十分な時間だった。

 

火鳥(ひのとり)炎肘(えんちゅう)!!」

 

加速したライザーの拳が再び雪蘭の腹部に命中する!

先程殴られた箇所とほとんど同じ所を狙われ、ダメージの蓄積量が雪蘭の限界を超えた。

「……ガハッ!!」

雪蘭は血を吐き、その場にうずくまった。そしてしばらくの間、彼女も半年前のライザー同様、気を失う事となった--

 

--数十分後、雪蘭は目を覚ます。身体を鍛えている為眼が覚めるのが早い。

彼女が辺りを見回すと、一人の男が洗面器を持ってこちらに近づいているのが見えた。

「よし、そろそろタオルを変え……お、起きたか!」

そういうと男……ライザーは雪蘭を見て、言った。

 

「この勝負、俺の勝ちだ」

偉そうにドヤ顔で言うライザー。とりあえず雪蘭はその顔に一発お見舞いした。

「ふげっ!……何をする、せっかく面倒見てやってるのに!」

「うるさい!アタシはまだ負けた訳じゃ無いわ!!あれは……そう、身体の調子が悪かったの!」

それを聞いたライザーはキョトンとし、

 

「だから?」「っ!」

 

「お前は勝負を受けたんだから、そんな言い訳通用しないのはわかってるだろ?」

その言葉に雪蘭は項垂れる。しかし、首を再び上げる。

 

「そうよ、まだ一勝一敗!勝負は互角じゃない!まだアタシは一回負けただけで……「負けた時点でお前の負けだよ。そういう約束をしてたじゃないか」……父さん」

 

師匠が、今は老人姿ではなく、最初にライザーと会った時の様な若い姿の師匠が、優しく雪蘭を諭す。雪蘭は父親の言葉に言いかえせなかった。彼女もわかっているのだ。

師匠はライザーの方を向き、告げる。

 

「ライザー、お前もこの半年間、とても素人とは思えん急成長ぶりで、見事この『飛翼砕雪拳』を会得した。お前はもはや免許皆伝だ!……そして、我が娘をよろしく頼む」

ライザーは頷く。そして、雪蘭の方を向いた。

「お前のその攻撃力、そして防御力はかなり高い。それを更に強化してくれる『戦車(ルーク)』の駒をお前に与える」

「わかったわよ……これからは眷属として、よろしくね」

こうしてライザーは新たな戦力として、雪蘭を眷属にしたのだった。

「弟弟子として、主として、これからよろしくな!」

「……よろしく。ライザー」

 

 

 




オマケ

「本当に来なくて良いのか?」
帰る際に、ライザーは雪蘭に問う。
「良いの、アタシはここを気に入ってるから。父さんを置いてくのもなんかヤだしね」
雪蘭は簡単に答える。その言葉にライザーも頷いた。
「じゃあ、俺が収集をかけたら集まること、忘れんなよ」
「わかったわかった。ちゃんと行くわよ。アンタの他の眷属にも会っておきたいし」

師匠は外までライザーを見送る。
「じゃあな、ライザー。免許皆伝したから練習に出なくても良いが、基礎は毎日やれよ!あと、偶には遊びに来いよ!」
「おう、師匠!」
「あと、お前が有名になったらこの道場の名を広める約束、忘れんなよ!」
「おう、師匠!」
師匠とも約束を交わし、ライザーは二人と別れて帰路に着いた。
「新しく眷属が増えたって言ったら、五人はどんな反応するかなぁ?」
そんなことを考えながら--



……道場編終了です!また一人ライザー君の眷属が増えました。でもまだまだフルメンバーは遠いぞ!

次回、ただただ動物を愛でる話。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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ねこねこパニック1

--ここは冥界、フェニックス家の屋敷の屋根の上。そこに、二人の女が佇んでいた。髪の色は赤と青。そして、その頭の上には、トラ柄のネコミミがピコピコと動いている。
服装は全身タイツ。尻のところに穴が開いており、そこから髪と同じ色の尻尾が飛び出していた。
「にゃー。警備が薄いにゃ。取れる物が少ないのか、それとも……」「警備が必要無いほど、家の者が危険なのか、だにゃ」
二人は手に持っている資料を確認する。
「現フェニックス家当主、及びその夫人は、使用人の約六割と共に旅行中。次期当主の長男、次男は家族や眷属を連れて遊びに行っているにゃ」
「今いるのは、三男ライザー=フェニックスとその眷属、長女レイヴェル=フェニックス、そして使用人が十数名だけ……余裕にゃ」
「さぁ、いくにゃ!これが記念すべき十回目のドロボウなのにゃ!」

こうして、彼女ら盗賊団『昼間のねこねこ団』(在籍人数……二人)は、行動を開始した--


--PM12:03

 

「ふあぁああ、眠い……」

ライザーはそう言うと更にもう一度大きく欠伸をする。

今、両親は一ヶ月使っての結婚2222年記念旅行に行っている。兄達もどこかに行ってしまった。つまり、今家にはライザーとレイヴェルとユーベルーナと眷属、そして使用人位しかいない。

その為、ライザーは割と好き勝手やっていた……とは言っても、いつもそこそこ好き勝手やっているので、日常生活と比べても特に大きな変化がある訳では無いが。

今日は深夜からイル・ネル・レイヴェル・ユーベルーナとゲームをしていた。桃太郎電鉄という人間界のゲームを100年ルールでやっていた為、夜から朝になり、昼になってしまった。

「……いや、でもまさかレイヴェルに負けるとはな……次回の為にもっと練習しないと……」

ちなみに桃鉄の結果は、最初にユーベルーナが僅差で目的地に到着したものの、次のターンでイル・ネルチームにボンビーさんをなすりつけられて、更にその次の次のターンでキングボンビーに変化したことで最下位の道を辿った。ライザーとレイヴェルとイル・ネルチームの三つ巴は、レイヴェルが戦略的な勝利を収めた。ちなみにライザーは2位だった。

ゲームが終わり、ライザーは白熱してかいた汗を洗い流すために、眠い目を擦りながら風呂場に向かっていた。その道中、

「……ん?何だあれ?」

廊下の端で何かが動いているのを見つけた。赤いそれは、廊下の端っこを壁に沿ってゆっくりと静かに歩いていた。

ライザーはそれに近づき、抱きかかえる。

「にゃ!?」

ライザーが捕まえたのは、一匹の猫だった。赤いフサフサの毛をしているが、その毛は埃で汚れていた。

「……かわいいなぁ」

ライザーは猫好きである。世の中には三種類の悪魔が存在すると言われる。猫派、犬派、どちらも好き派だ。ライザーはどちらかというと猫派の悪魔だった。

「ふむ、汚れてるな……そうだ!一緒に風呂に入れて綺麗にしてやろうっと!」

 

(!?)

その言葉に驚いたのは、赤い猫改め『昼間のねこねこ団』リーダー(笑)の女、リィだった。

『昼間のねこねこ団』の二人は、ある共通の特徴がある。どちらも猫又と悪魔のハーフで、猫に変身できる能力を持っていることだ。二人の能力は、半日の間猫に変身できる能力。猫になると半日間は元の悪魔の姿に戻る事もできず、更に悪魔に戻った後一日は猫に変身できないという、どこか中途半端な能力である。

二人は十二時になってすぐ猫の姿に変身し、着ていたタイツを屋根の隣の木に引っ掛けると、それぞれ別の場所から屋敷に侵入した。

もう一人……青髪のニィは窓から、そしてリィは……屋敷の煙突から侵入した。その際、リィは煙突の中の埃を毛に付けてしまっていた。それを毛づくろいするのも面倒で、さっさと金目の物を見つけようと思って歩いていると、見つかってしまって現在こんなことになっている。

(毛づくろいしておけば良かったにゃ!)と後悔しても時すでに遅く、リィは猫姿でライザーに風呂場に連行された。

 

「よし、まずは猫を洗うか!」

服を脱いで腰にタオルを巻き、ライザーは自分の膝の上に猫を乗せ、自分の身体の方に引き寄せた。すると当然だが、猫の身体はライザーの股間に当たる訳で。

(!?○◇☆!?)

リィは心の中で悲鳴を上げた。リィは男性と接することがあまり無く、そういう経験はまだした事がない。いわゆる、初心な女の子(職業・盗賊)だった。

そんな初心なリィに、更なる絶望の一言が告げられる。

 

「さて、猫を洗うのは……石鹸で良いかな。で、タオルを使っ……たら傷つくかもしれんな……手で洗うか」

リィはただひたすら逃げようと思い、抵抗した。できる限り膝の上で暴れた。何回もライザーを引っ掻いた。しかし、

「こら、シャワーが嫌なのはわかるが、逃げようとするな!」

ライザーには効かなかった。リィの心の中には、もう希望は相方が助けてくれることしかなかった。

 

まずシャワーをかけられる。リィはシャワー自体は嫌いではない。彼女はシャワーを浴びると身体を震わせて水を切り、そして出て行こうとした、がライザーに止められた。

「こらこら、身体を洗わないとダメだろ」「にゃー!ぎゃー!」

再び膝の上に座らされるリィ。先程引っ掻いたせいでライザーの腰のタオルは所々裂けていて、そこからチラチラと見える秘部がリィに恥ずかしさを与えた。

 

「痛かったら手を上げてーって、猫には通じないよな」

そう言いながら、ライザーは猫の身体を洗っていく。

まずは頭。そしてそこから背中を揉むように洗う。そこまではリィも、警戒心を持ちながらも心地よさに身を委ねていた。しかし、

「ふぎゃ!?」

次にライザーが掴んだのは……尻尾。

人間界の猫は尻尾を触られるのを嫌う。冥界でもそれは変わらない。ただ、猫又などの生き物には尻尾を掴んではいけない理由がもう一つある。

(あ……力が……ぬけて…………)

尻尾を掴まれると、急激に力が抜けてしまうのだ。

「あ、いかんいかん。尻尾を掴んではいけないんだった」と思い出したライザーは、すぐに尻尾を放した。しかし、その頃にはもうリィに抵抗する力が残っていなかった。

ライザーは次は猫を仰向けにする。

「……雌か」

ライザーはリィを見て言う。ライザーにとっては他の動物の性別確認の様なものだが、リィから見るとそうではない。

(ゔにゃ〜!!私の大事な×××が見られた!しかもドロボウ先の男にぃ〜!!!)

猫の身体も悪魔の身体と同じく自分の身体、その恥部を覗かれた事にリィは恥ずかしさで身体が燃えてしまうのでは無いのかと思った。

そんな事はつゆ知らず、ライザーは腹部を洗っていく。最初は首下、そこから下に下がっていき、胸を通り越してお腹も洗われる。そして、

(ああ、触られちゃう。ドロボウ先の子供に……私の大事なところを触られちゃうにゃあ……)

 

ライザーの手が下半身を優しく洗う。リィはその瞬間に意識が飛んでしまった。

「……ん、何だ?足が温か……あ!?この猫、漏らしてる!おいおい勘弁してくれよ!俺の足はトイレの砂じゃないんだぞ!」--

 

 

--そんなこんなで。

「あぁ、そろそろ逃がさないとな。こいつも帰る所があるかもしれないしな」

風呂から出てドライヤーで毛を乾かしてもらっている途中で、リィは目を覚ました。

(にゃ〜、作戦失敗〜。ニィの成功を祈るしか無いにゃあ……)

もはやリィにこれ以上働く気は起きなかった。

乾かしてもらった後、リィは家の玄関の外に出してもらった。お土産として、魚の干物をもらった。

 

リィが再び集合場所である屋根の上に行くと、ニィが猫の姿で待っていた。

ニィはリィを見つけるとすまなさそうに告げた。

 

『金庫は見つけたんだけど、予想以上にセキュリティーが硬くて、突破できなかったにゃ。そっちの守備は?』

『お魚1匹もらったにゃ』

 




ねこねこ編1終わり!
私はちなみにどっちかと言うと犬派です。猫も好きだけどね!

深夜テンションで書いたが、大丈夫だろうか……

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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とある1日

ただ甘いのが書きたくなって書いた。それだけ。
そんなに甘くないかもしれないけど、そこはご愛嬌。


「ふああぁ、良く寝た」

ライザーの夜はそこそこ早い。道場修行の時に早起きが身についているからだ。雪蘭の家の道場は早夜六時から修行が始まる為、必然的にもっと早く起きて準備しないといけなかったのだ。

ライザーはボーッとした頭で部屋の外に出、大広間に向かう。するとそこにはだいたいユーベルーナがいる。

「あ、ライ君!おはよー!」

ここまで歩いて来る頃にはライザーの目もある程度覚め、普通に対応できる様になっている。

「おはよー。ふああぁ」

このように部屋の外に出てユーベルーナに挨拶するまでが、彼の起床後のルーティンである。

 

その後、家族や眷属達と食事を摂る。食卓はいつも笑顔と笑い声で溢れている。

「はい、アーン」「ありがと……うん、うまい!」

そんなやり取りをユーベルーナと行っていると、イル・ネルも真似してライザーの口に食事を運びたがる。

「「はい、アーン!!」」

「アーン……うん、こっちもうまいな!」

そんなことをして食事を終える。

 

食後は庭の一角のグラウンドで武術の型の修練に精を出す。そして、眷属のうちの誰かと一戦する。

「今日はカーラマインか」「おう、リーダー。では行くぞ!私の太刀筋、見切ってみせろ!」

言いながら脅威の素早さで頸動脈へと迫ってくる短剣に対し、ライザーは口から火を吐く。そうして相手に攻撃をしながら、自分もその勢いによるブーストで短剣を躱す。

カーラマインは炎をブリッジで避け、そこから逆立ちのように手を地につけ足を上げ、足の指の間にいつの間にか挟んだ短剣をライザーの顔と心臓に向けて振り下ろす。しかし、

 

ライザーはそれを腕で受け止めた。そして両足でカーラマインの腰を掴み、こちらに引き寄せる。

 

「ははははは!今回も俺の勝ちだ!」

そう言ってライザーはカーラマインに頭突きを繰り出す。よろけたカーラマインにライザーは、先ほどのカーラマインのように倒立し、そこから回し蹴りの要領で一撃をお見舞いした。

「『火鳥(ひのとり)の鉤爪』!!」

ライザーの蹴りにカーラマインは吹き飛び、10数メートルほど後ろに行ったところで地に落ちた。

「あ……身体が、動かない……また負けか……」

そう言って落ち込むカーラマインをライザーは抱きかかえる。いわゆるお姫様だっこという奴だ。

「いやいや、だんだんと強くなってるさ」

「……戦場に長年いた私が成人もしていないリーダーに言われるのは、情けないけどね」

そう言って自虐的に笑うカーラマインの頭をライザーは撫でてやる。

「……慰めてくれているのかい?」

「ん?ああ」

「そうか、ありがとう」

 

夜中になると時々、シーリスと共にユーベルーナから授業を受ける。

「……と、これがフェニックス家の力の1つでもある、炎の魔力の原理です。フェニックス家は炎を自在に操る、いわば炎のまじゅちゅ、まじゅちゅ、まじゅつち、ま……ま、じゅ、つ、し、なのです!」

「ちゃんと言えてないぞ」「シーリス!そこは触れちゃダメだ!」

そんなやり取りが時々出てくるが、ユーベルーナはめげないのだった。

 

勉強が終わり、朝食をとった後は、妹や眷属と寝るまで遊ぶ。

(ふふん、あと1枚。そして次の次は私のターン。これは4分の1の確率で勝った!今回こそ最下位にはならない!)

「リバース」「ドロー2」「ドロー2」「ドロー4」

 

「あんまりですぅ!」

 

たまにボロ負けして不機嫌になるユーベルーナの機嫌を直すのは、ライザーの仕事だ。

「よしよし、ユーベルーナはいい子なんだから拗ねないでいてくれ」

そうやってユーベルーナを膝枕する。するとユーベルーナもだんだんと落ち着いてくるのだった。

 

(キャー!ライ君の立派な太ももの感触、ステキだよぉ!この太ももに挟んでもらいたいよぉー!

髪を撫でてくる手もあったかい!その手で私の身体を……キャー!!)

 

え?中身?そこまでは管轄外です。

「ふああ、そろそろ風呂に入って寝るか……」

「ああ、じゃあ背中を流そうか?」

「ああ、頼む」

一日の最後に風呂に入る。イザベラに背を擦ってもらい、代わりにライザーもイザベラを洗ってやる。そして最後は2人で湯に浸かる。

「ああ、風呂に入ると今日も一日頑張ったって気になるなぁ」「そうだな……」

こうして、ライザーは一日を終えたのだった。

 

 

「……楽しそうだにゃ」

その一日を、今度こそ泥棒を成功させようとするリィは庭の高い木からずっと見ていた。主にライザーを。

「いい……おっとっと、血迷うところだったにゃ。いくらこの間あんなことがあったと言っても、あいつはまだ子供なのにゃ。意識しすぎにゃ」

そう言いながらも目に当てた双眼鏡は彼の方向をひたすらに見ていた。

「!眠ったにゃ。あれは完全に眠りについたにゃ!うまくいけば寝首を狩れるにゃ!」

そう言うとリィは服を脱いで猫の姿に変身し、ライザーの寝室の窓に飛び移って、窓の鍵を魔力で外から開け……ようとしたがうまくいかない。なぜだ?と思ったら外の空気を入れるため、窓はすでに開いていた。

(にゃはははははは!リィは天才!運も良い!侵入なんて造作もないのにゃ!さて、ふくしゅむぎゅ!)

ライザーの上に辿りついて余裕が出たのか。考え事に集中して反応が遅れた。リィはライザーに掴まれたのだった。

(まさか……こいつ、実は起きて「ZZZ…」……はないにゃ。だけどこのままじゃまずいむぎゅ!)

リィはそのままライザーの胸まで持って行かれる。そしてライザーにぬいぐるみのように抱きしめられてしまった。

(にゃ!?こんなはずじゃ……ニィ、助けて!このままじゃばれちゃうにゃ!?)

リィはそう願うが、今回のフェニックス家の視察はリィがニィに秘密の独断でやったこと、故にニィはリィがフェニックス邸に来ていることさえ知らないのだった。

 

リィが全力で爪で手や顔をひっかいても、噛み付いても、ライザーは起きないし、腕も離さない。痛みを感じないからだ。

(あ……もうダメにゃ……体力がもたにゃ……)

その思考を最後に、疲れ切ったリィも夢の世界へと堕ちていくのだった。ライザーの腕に抱かれたままで。

 

 




ちなみに--

雪○さん
「アタシは別にあいつのことは弟弟子としか思ってないから別に良いし!一緒に住んでないからって理由で出番が無くたって構わないし!」


次回、ネコネコ再び。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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ねこねこパニック2

『ハイスクールD×D NEW FIGHT』サービス終了がショックです……結構古参だったのに……
とりあえずフェニックス眷属のコスプレだけでもスクショしておきたい……

さあ、投下!


ライザーの夜はそこそこ早い。道場修行の時に以下略。

ライザーはその日も、再び閉じようとする眼を必死に開く。とは言っても、昨日は早く寝たためいつも以上に睡眠が取れている。そのおかげか、比較的早く意識がハッキリとした。

しかし、目の前は真っ暗のままだ。

ライザーは(あれ、目は開いてるよな?)と思い、眼を擦ろうとして手を顔の前で何かにぶつけた。そこでライザーは、自分の顔に何かがくっついていると気づくと、顔からそれを引き剥がして確認する。

「……ZZZ」「……ん?この前の猫?」

顔にくっついていたのは、この間家の中で見つけて、汚れているからと風呂に入れてやった赤毛の猫だ。気持ち良さそうに眠っている。

ライザーはそれを見て、起きないように力加減を考えて首の下を撫でてやる。猫はくすぐったそうに身をよじらせたが、またすぐに眠りについた。

「外に出してやるか?」

そうした方が良いかな、とライザーは思い、猫の首根っこを掴む。すると、猫も起きた様で、ライザーと眼を合わせると「にゃっ!?」と鳴き声を上げる。

 

--その時、ライザーの睡眠から十二時間が経過した。

「……ん?」

ビクン!と一瞬猫が手の中で震えた。ライザーは猫を両手で持ち上げ、その姿を凝視する。

「どこか悪いのか……?」

ライザーが見ていると、猫はだんだんと大きくなっていく様な気がした。

「……って、え?大きくなってる!?」

様な気がした、ではなく猫は本当にだんだんと大きくなっていく!

「て、手が疲れてきた…どうなってるんだこれは……うわ!」

ライザーは上に伸ばしていた手が疲れてきたので、一回猫をベッドに置こうとベッドに後退しようとしたが、散らかっている(昨日リィが入って来た際にタンスから床に落ちた)ノートを踏み、滑って転ぶ!

「うわ!あぶね!……あ!猫!」

ライザーは転んで尻もちを打つ。だが、ライザーはその前に猫を空中で手放してしまった。ライザーは猫をキャッチしようと上を向いたが、

「へ?ぬご!?」

そこから降ってきたのは、人型の足だった--

 

 

--(しまった!変身が解けるのにゃ!)

そう気づいたリィは逃げようとするが、寝起きで力が入らない。そのままライザーに持ち上げられてしまう。

(にゃ!このままじゃ、本当の姿を見られてしまうにゃ!……え!?)

不意に、リィはライザーの手から解放され、空中に取り残された。

「にゃっ!?」

ここでリィの変身も解ける。リィにとっては非常にまずい展開だ。猫の状態なら余裕で受け身を取れるが、人型だとそうはいかない。空中でリィは考える。

(そうだにゃ!コイツを踏み台にすればケガしないし、うまくいけばコイツを気絶させられるのにゃ!)

そう思ったリィは、ライザーの身体の上に着地地点を定める。ただ、

「へ?ぬご!」

ライザーがこちらを向いたのは想定外だった。

 

想定ではライザーの頭の上に肩車の要領で乗っかり、ライザーを衝撃と首折りで気絶させた後、ゆっくり降りようと考えていたリィは、その顔面に足から落ちてしまう。

そして、リィは彼の顔面の上に着地した。

 

「……にゃ?」

リィは自分の股に違和感を感じる。そちらを見ると、ライザーの顔面が下敷きになっていた。

「ふごごごご、ががが!」「ふにゃっ!?」

ライザーが何かを喋る、と同時にリィの全身に電撃が走った。

(にゃ!?私の股間に、コイツの息が当たってるのにゃ……はぁん!?)

「ふごごごご」

ライザーは再び閉ざされた視界を開こうと、手足をジタバタさせ、何かを叫ぶ。その声は空気の振動となって、変身の為に裸になっているリィの股間に直接響いて来るのだ。

更に、ライザーは顔の上に乗っている物をどけようと、顔も左右に揺らそうとする。

「にゃっ…動く…にゃあ……」

リィは必死で彼の動きを止めようとするが、止めようとすればするほどライザーは激しく抵抗する。

「ぶももももも!」「にゃっ…しゃべるの…やめてぇ……」

だんだんとリィの全身に玉のような汗が浮かんできた。このままではマズイ、とリィが思った直後、

 

「ライくーん?起きるの遅くなーい?」

誰かがドアをノックした。リィの注意がそちらに逸れる。そして、まるでそのタイミングを狙ったかのように、

 

「ごごごごごご……がああああ!」

ライザーはこれまでで1番の全力を出して、叫ぶ!

「へっ?

 

にゃっ……にゃはあああああああん!」

 

僅かなタイムラグの後、リィは嬌声を上げて全身を震わせた。そして、へなへなとライザーの身体の上に倒れる--

 

 

--「ライ君!?何今の声!?入るよ!?」

そう言って部屋に入っていったユーベルーナが見たのは、なぜか幸せそうに倒れている裸の女性と、その下敷きにされて動かないライザーだった。

 




まだまだネコの脅威(笑)は終わらない!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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裁判

「……」

 

(い、今起こっていることをありのままにして思うぜ!猫が女の子になった夢を見たと思ったら夢じゃなくて女の子が俺の隣で正座させられてる!な、何を言ってるかなんとなくわかると思うが、俺はなんでこうなったかはわからねぇ!催眠術とかそんなんじゃない何かの片鱗を味わった気がするがそれもよくわからねぇ!)

 

ライザーの目の前にはユーベルーナが立っている。ただ立っているのではなく、仁王立ちをして、正座しているこちらを見下ろしている。背後に効果音をつけるとしたら、ごごごごだろうか?などとライザーは余計なことを考えて現実から目を背ける。

「……で?」

が、ユーベルーナはそれを許してはくれない。

「あなたはどこの誰です?一体どこから、何の目的でライ君に近づいたんです?」

その迫力に、隣の女の子は涙目だ。それでも何とか声を出そうとする女の子を一度静止して、ユーベルーナは再び告げる。

「まぁ、それはこの部屋で話す事ではありませんね……第三応接間に向かいます。ついてきなさい」

そう言うとユーベルーナは振り返って歩き出す。ライザー達もとぼとぼと後をついていく。

 

ユーベルーナが一人で応接間の中に入っていき、ライザー達は部屋の前で数分待たされる。その間にライザーは女の子に問う。

「えっと……お前は、誰だ?」

その言葉に女の子……リィは肩をビクッと震わせるが、

「私には黙秘する権利があるのにゃ」

と言ったきり、口を真一文字に結んで、何も言おうとはしなかった。

 

「どうぞ」

部屋の中からユーベルーナの声--いつもより少し……いや、かなり低い声が聞こえる。

ライザーが扉を開け部屋に入ると、部屋の中はいつもの応接間と見た目が変わっていた。

入った扉からまっすぐ進んだ部屋の中央に、小さな机が一つ。そしてその上を空白にした形で、宙にドーナツ型のテーブルと十数個の椅子が浮いていた。その椅子には現在、数名が座っている。

「あ、お兄ちゃんだー!」「お兄ちゃーん!」「やっほー!」

右上にはイル・ネル・レイヴェル。

「いやぁ、さすがリーダー。こんな若いうちから女に手を出すとは……英雄色を好むとはホントだな」「色を好む、とは言っても趣味は良さそうだね」「ZZZ…」

左上にはシーリス、カーラマイン、イザベラ。

そして、真正面にある三つの席、そこにいるのは二人。

 

「いやはや、まさかこんな事になろうとは……三男殿は鈍感系だとばかり思っていたのですが……10点ですね」

右側の席に座っているのは、フェニックス家の女性使用人を束ねるメイド歴200年のメイド長、ディマリア。

そして、三つの席の中央に座るのは、

 

「では、今から裁判を始めます!」

 

裁判長・ユーベルーナだ。

 

「今回の彼女の罪は、不法侵入、襲撃、暴行!紛れもなくギルティ!よって死刑!」

「……落ち着いてください、ユーベルーナ。もはや裁判にすらなっていませんよ。それではただイライラをぶつけているだけです。3点です」

ディマリアはそうユーベルーナを諌めると、こちらを見た。

「さて、そこのあなた、お名前は?」「……リィだにゃ」

ディマリアの最初の問いに、少々ためらいながらも女の子……リィは返事をする。

「リィさんですか……リィさん、これから私達はあなたにいくつか質問をしていきます。あなたはそれに答えてください。ただ、あなたには黙秘する権利もあります。答えたくなければ黙っていても構いません。よろしいですか?」

「黙っているなんて許しませんが……」

リィは首をブンブンと縦に振る。ユーベルーナのつぶやきが怖かったのか、涙目だ。今日のユーベルーナは滅茶苦茶怖い。目のトーンが消えていて、全体的に暗いオーラを纏っている。

そのユーベルーナを横目で見ながら、ディマリアはリィに質問を開始する。

「年齢はいくつ?」「……もうすぐ10歳だにゃ」

その言葉にライザーは驚く。出るところは出て、引き締まるところはきちんと引き締まった大人体型の彼女が、イル・ネル・レイヴェルのちびっ子チームと歳が殆ど変わらなかったからだ。

 

「その耳は?」

次にディマリアはリィの頭に付いているネコミミに付いて尋ねる。リィは数秒黙ったあと、静かに話し始めた。

「……私は、悪魔と猫又の間に産まれた子なのにゃ」

 

妖怪の中には猫又という種族がいる。猫が途轍もなく長い時を生きると、猫又に転じるのだ。ねこしょう、とか何とか言う強い猫又も存在するらしいが、少なくとも猫又である彼女の母親はその域まで達していなかったようだ。

「母と父はとても仲良く、私は妹と四匹で暮らしていたのにゃ。でもある日、私達が住んでいたところに、反乱軍がやってきたのにゃ。父母は殺害され、私と妹は命からがら逃げた。だけど、追っ手が私達のところまで迫ってきてたのにゃ。

……だけどその時! 一人の男が颯爽とやってきて、私達姉妹を助けたのにゃ!」

そう言うとリィはライザーの方を向く。ライザーの肩を掴んで彼女は声を張り上げ言う。

「それが彼なのにゃ!」

 

(……そんなことしたかな……??)

正直ライザーは、その事を覚えていなかった。まぁ、当たり前ではあるのだが……

 

「それはなかなか大変な魔生でしたね。では、あなたは三男殿と接点があったと言うんですね」

「彼は忘れてるかもしれないけど、私は彼に救われたのにゃ」

「では、そんな恩人のところに何をしに行ったんですか」

その問いにリィは言う。

 

「決まってるにゃ。猫の恩返し、に来たのにゃ」

 

「ほう?」

「助けられたからにはお礼をしなければならないのにゃ。そこで私は一生懸命に彼を探した。そしてつい先日、私は彼を見つけたのにゃ。だからこうして恩返しに来たのにゃ」

 

そこで、最初のつぶやき以来黙っていたユーベルーナが口を開く。

 

「恩返し……?ライ君と一緒に寝るのが恩返しとでも言うんですか!?そんなのただのご褒美です!恩返しでも何でもない!……なんでこんなポッと出の女の子にライ君を奪われるんですか!?絶対に許さない許さないユルサナイ……」

「待て待て、ユーベルーナ。もう少し冷静になれ」

暗いオーラを大きくして血涙を流し怒るユーベルーナをディマリアが抑える。しかし、ユーベルーナは止まらない。

「なぜこんな子にライ君の初めてを奪われるんですか!?何で私じゃないんですか!?私は彼女に何が劣っているんですか!?」

そこでリィが恐る恐る口を開く。

「あのー、私は彼と一緒に眠っただけで、特に何もやましい事はしてないんにゃけど……」

その言葉を聞いてユーベルーナは彼女をキッと睨みつけ、

「裸で抱き合っておいて何を今さら!」

 

「えっ……裸で抱き合ったりしてない……けど……」

ライザーが決まりの悪そうに告げる。その言葉に、ユーベルーナは止まる。

「……それでは朝のあれは?」

「変身が解ける時に持ち上げてたから俺の方に落ちてきただけだよ」

「変身とは?」

「いや、この子は猫に変身できるみたいでさ。俺が起きた時もこの子は猫だったし。多分ずっと猫だったんじゃないか?人の姿で俺の部屋に入れないだろうし」

「……では、彼女とは?」「特に何もないけど?」

 

その言葉にユーベルーナの纏うオーラがだんだんと薄くなり、遂には消えた。その代わり、ユーベルーナの顔がだんだんと赤くなっていく。

 

「わ……私は……私は何を考え…………も、もう仕事をしなければいけない時間なので、帰りまきゃあ!」

 

ユーベルーナは忘れていた。自分が空中にある席に座っている事を。

彼女がイスを下り、歩き出そうとしたところで重力を受ける。ユーベルーナは気が動転していて、翼を出せる事にも気づいていない。そのまま地上10メートル程の高さを落ちていく!

 

「危ない、ユーベルーナ!」

その時には、ライザーは動いていた。

ライザーは彼女の落下地点を予測し、そこに動く。そしてその直後、彼女はライザーの頭上へと落ちてきた。

 

「……?何か違和感がある様な「ふごがぁ」はぁん!?」

ライザーの顔面に騎乗する形で。

 

「ふごごごご」「ひぃ!ら、ライ君、やめてください!喋らないで!」

「ぶむむむむ」「動くのもやめ……あひ!ダメです、ダメ!そんなところ!」

「がああああああ!」「あ、やめ……もうダメです……ダメぇえええええ」

 

ユーベルーナは数回震えると、ぐったりとした様にライザーの上へと崩れ落ちる。

リィは、その光景にどことなく既視感を覚えるのだった--

 

 

 




〜〜〜祝・UA30000突破!〜〜〜
皆さん、どうもありがとうございます!ここまで続いているのは読者の皆さんのおかげです。これからも『ライザー=フェニックスの日常』をどうかよろしくお願いします。よかったら感想くれると嬉しいです!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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弁解(自白)

投稿!
今回は置き去りにされた妹の話--


「……どこに行ったのにゃ?リィは……」

闇夜の中、悪魔が最大限に力を発揮できる時間を全て費やして、ニィは姉であり、仕事のパートナーでもあるリィを探していた。

(これまでに盗みに入った所にリベンジにでも行ってるのかにゃ?)とニィは考え、ここ最近は泥棒に入った家を片っ端から探している。

ちなみに、ニィとリィは泥棒だの怪盗だのと自称しているが、実際に彼女らに盗まれた物というのは無いに等しい。彼女達は猫の状態で屋敷に入るので、硬いセキュリティは突破できないのだ。この間フェニックス家で貰った魚などのエサとして恵んでもらった物が盗みの戦利品だったりする。正直向いてない気がするからもうやめた方が……などとニィは思っていたが、リィが『どデカイ財宝や宝石を盗むまでは絶対に絶対にぜぇ〜〜〜〜〜〜……

 

……ったいにやめないのにゃ!』

などと言って聞かないので、渋々付き合っている。お姉ちゃんには困ったものにゃ、と思いながらもリィを見切らないのは、家族の愛情があるからだ。

リィとニィは自分の親を見たことが無い。ネコミミと尻尾が生えているから猫又の子、悪魔の翼が出せるから悪魔の子、というのはわかるが、そこから親を特定できる訳でもない。故に彼女らは親の愛情の代わりに、姉妹の愛情を糧としてこれまで暮らしてきた。

だからニィは必死になってリィを探す。いなくなって二日後から探し始め、今日は十二日目。とうとう最後に入った家になってしまった。ここでリィを見つけなければ……少なくとも手掛かりくらいは発見しなければ、姉をもう見つけられないかもしれない、という気持ちでフェニックス家に侵入する。

 

(……?リィ?)

猫姿で持ち前の耳をピコピコ動かして周囲の音を拾っていたニィは、近くで姉の声が聞こえた気がした。それも猫の姿ではなく、人の姿の時の声だ。

(まさか、再び泥棒に入って捕まって、拷問を受けているのにゃ!?)

ニィは最悪の事態を想定し、身震いする。もし自分も捕まってしまったら同じ目に合うかもしれないと思うと、身体の震えが止まらない。だが、

(それでも……リィはたった一人の血縁なのにゃ!)

 

ニィは姉を助ける為、爪をできる限り鋭く研ぎ、声のしたであろう方向に近づく。すると、ある部屋の前で再び姉の声が聞こえた。

その部屋のドアは半分ほど開いていて、中からは姉の声のほかに男と女の声がする。

ニィが部屋の中を覗く。中に姉は……いた。

 

なぜかメイド服を着て、なぜか男に膝枕されて、首下を撫でられてなぜか嬉しそうにしている、リィがいた。

 

ニィは一瞬思考停止状態に陥ったが、すぐに自分をクールダウンさせ、元の思考状態に戻す。

(リィがあんなとろけそうな笑顔を……ハッ、まさかもう調教済みなのかにゃ!?)

リィの性格を思い浮かべ、ニィは頭を抱える。強気なくせにチョロい彼女なら、即堕ち2コマなんて平気でありそうだ。

ニィはリィを侍らせている男を見る。男は下卑た視線でリィを見ながら、いやらしい手つきで彼女を撫でまわしていた(ニィ目線)。よく見るとリィは密かに屈辱そうに顔をしかめている(ニィ目線)。

 

それを見たとき、ニィの心は決まった。

 

(捕まって姉の様に調教されても、殺されてでも、リィを助ける!)

そしてニィは勘違いしたまま、ライザーの顔面へと飛びかかる!

 

(取った!)

ニィは鋭く研いだ牙を下種男の左眼と唇に引っかけ、一気に手を振り切る!

 

その爪に残った感触は、人肌(悪魔肌?)を切り裂いたにしては軽いものだったが、他の者の肌を切り裂いたことなど無いニィはそんなこと判断できない。

姉の仇が討てたこと、そして喰らわせた一撃が思った以上にキチンと決まったことにドヤ顔するニィの首根っこが掴まれ、彼女は攻撃などなかった、とでもいうように無傷な男の顔とご対面する。

「……リィ、リィ。この子もしかしてお前の知り合いじゃない?」

「……にゃ?にゃにゃにゃにゃにゃ……にゃ」

ニヘラッ、とやはりにやけ顏になっていた姉の顔が、自分を見て凍りつくのをニィは目の当たりにする。彼女の全身からダラダラダラダラーッ、と汗が流れるのを見て、ニィはこの事件の黒幕を知る。

ニィはリィより優秀なので(リィは認めないだろうが)、姉と違い時間制限なく身体を人型から猫型に、またはその逆に入れ替えられる。姉に言ったら拗ねるから言わなかったが。

ニィはもう一度男……ライザーの眼を爪で搔っ捌くと、その隙に近くのカーテンを切り裂いてから自分の身体を人型へ戻し、そのカーテンを身体にグルグル巻きにして首と手足以外を隠すと、

「で、これは一体どういうことか説明してもらおうかにゃー、お姉ちゃーん?」

「ニ、ニィ、こ、これは別に私がこの男に骨抜きにされたとか、そのせいでニィを忘れてたとか、もう裏稼業はやめてここでメイドやろっかにゃーと思ってるとか、そういうことでは一切無いのにゃ!」

 

姉の精一杯の弁解という名の自白を聞き、ニィは渾身の力でそのメイド服の腹部にネコパンチ(人型)をお見舞いした。




〜〜〜祝・お気に入り100件突破!〜〜〜
このあとがきに2連続で吉報を載せられて、嬉しい限りです!本当にありがとうございます!これからも温かい目でこのSSを見守ってくれると嬉しいです。

次回で猫編は終わり!そろそろレーティングゲームに入っていくかな〜?眷属全員は揃ってないですけど。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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覚悟

時間は流れる……


「「お誕生日おめでとー!」」『おめでとー!!』

 

「いやぁ、ありがとうありがとう。ハッハッハッ!」

今日はライザーの誕生日。それも、唯の誕生日ではない。

 

(遂に俺も二十歳……レーティングゲームの参加が認められる!)

そう、ライザーは今日で二十歳、大人の仲間入りを果たしたのだ。二十になると上級悪魔にはレーティングゲームの参加権利が与えられる。

 

相手と話し合ってゲームの参加日を決め、それをレーティングゲームの総合組合に申請すれば、試合ができる。それがレーティングゲームのシステム。戦う相手がいて、申請すれば、すぐにでも戦うことができるのだ。

眷属達との誕生日パーティーが終わった後、ライザーは父親の書斎を訪ねる。

「親父、レーティングゲームの試合を組んでくれ!」「いきなりだなオイ!」

こうしてフェニックス卿にゲームを五日後にセッティングして「え、私の出番もう終わり?」……セッティングしてもらったライザーは、眷属にその事を話す。

 

「--という訳で、五日後にレーティングゲームだ!皆、身体の調子を万全にしておけよ!」

『はっ!』

いつもマイペースな眷属達も、この時ばかりは真剣に真面目にライザーに返事をする。

ちなみに今現在、ライザーの眷属は八人である。あの事件の後メイドとして雇っていたニィ・リィが自分達を眷属にしてくれ、と頼んできたのだ。彼女らは運動能力もそこそこ高く、素早さと機動性はかなり優秀だった。駒が揃っていないライザーは喜んで彼女らを『兵士(ポーン)』にしたのだった。

現在の眷属は『騎士(ナイト)』二人、『戦車(ルーク)』二人、『兵士』四名。『僧侶(ビショップ)』がいないということは魔法……つまり遠距離攻撃やサポートのプロがいない、という事だが、『ガンガン行こうぜ』が基本の特攻部隊・ライザー眷属には特に関係なかったりする。

彼は眷属を解散させ、自分の部屋に意気揚々と、何なら軽く鼻歌を歌いながら向かう。

 

「あ、おかえりなさい、ライ君」

自分の部屋に戻ると、ユーベルーナが部屋の椅子に座っていた。

ライザーは部屋の中を移動して、ベッドに腰掛ける。

「嬉しそうね」と言うユーベルーナにライザーは言う。

 

「やっとだ……やっと俺も、あの舞台に立てる……長かった……」

 

懐かしい思い出が蘇る。

三歳の時、最強の王になると決意してから、約十七年。初めて眷属を手に入れてから、五年。その間、意志の炎は収まるどころか、メラメラと更に激しく大きくなっていった。今の彼の心にあるのは、戦って、勝つ。その二文字だけだ。

 

ユーベルーナはそれを聞いてライザーの近くに歩いて近づき、同じくベッドの上に腰掛ける。

「おめでとうございます……ふふふ、ライ君は昔からレーティングゲームが大好きだったもの、気持ちが高ぶるのも当然よね。でも……」

彼女はベッドに置いていたライザーの右手を取り、言う。

「私は、心配でもあるの。あなたが怪我したらどうしよう……あなたが傷ついてしまったら、どうしようかしらって」

「俺は不死鳥だぜ、傷つくなんて概念、俺には無いさ」

ライザーはその話を笑うが、ユーベルーナは続ける。

「身体が傷つく事は無いでしょう……ライ君は強いから。だけど……あなたの心は違うわ」

ユーベルーナはライザーの右手を握ったまま、もう片方の手でライザーの胸に手を当てる。

「ライ君は優しい人だもの……眷属が敵に倒されたり、逆に敵を倒したり……そんなことを続けているうちに、あなたの心が荒んで壊れないか、私は心配なの」

胸に置かれた手を、ライザーは左手で包む。その手は、その表情は、とても温かいものだった。

 

「大丈夫……俺はルヴァルの兄貴の様な……いや、それ以上に立派なレーティングゲームの王者になる。眷属達が、そして家族達が、それを支えてくれる。ユーベルーナ、お前も俺をずっと……最強の王になるその時まで、俺の心が壊れない様に、支えて欲しい」

「……はい、ライ君」

2人は見つめ合う。

ライザーがニコッと笑うと、ユーベルーナも微笑みを返してくれる。

それは、とても温かい時間だった。

 




〜おまけ〜

しばらくして部屋を出たユーベルーナは、自分の部屋に戻るとベッドに入り込み……悶える。
(ライ君の手、温かかったな……それにしても、あんなこと言われるなんて……『俺を支えて欲しい』だって……あれってもしかして、プロポーズ!?キャー!)
一人でベッドの上でゴロゴロやってるのを、天井に張り付いて見ている影があった。赤い毛を逆だたせながら、リィは考える。

(グヌヌヌヌ……ユーベルーナめ……いくら生まれた頃からの付き合いだからって言っても、あんな羨ましい台詞を言われるだにゃんて……にゃー!私だってご主人様を支えるのにゃ!眷属として、メイドとして、そして将来は……にゃー!キャー!)

……ユーベルーナとリィ、どちらも結構重症な妄想癖を持っている様だ--

〜〜〜〜〜

次回、初のレーティングゲーム!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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初めての

さあて、初のレーティングゲーム!


--遂にレーティングゲームの日がやってきた。今回の相手は『フェニックスの涙』の顧客のお得意様の一人息子だ。彼もレーティングゲームは初めてなので、今回はルーキー同士の対戦となる。

 

ライザーと眷属は地図を渡され陣地に転移させられる。近くに建物なんかは何もない。

辺りは森。今回のフィールドは森林内の様だ。

「……っと、ここが今回のフィールド……くぅーっ、この緊張感、たまんねー!」

ぴょんぴょん飛び跳ねながらはしゃぐライザー。それを微笑ましく見る事のできない眷属がいた。

「ニィ、ガッチガチだにゃ。緊張しすぎよ」「……」

リィに声をかけられ、ニィはギギギ、と音が聞こえてきそうなくらいぎこちなく首をリィの方に向け、言う。

「だっ、だって私達の姿が悪魔社会の中で放送されるんだから、緊張しない方がどうかしてるにゃ!」

 

そう、このレーティングゲームは冥界のテレビで放送されるのだ。しかも真夜中に。

 

「どうかしてるって……ニィ以外は皆いつもどおりにゃ」

「……」

その言葉を聞いて、ニィは辺りを見回す。

ライザーは興奮してぴょんぴょん跳んでいる。イル・ネルもそれを見て真似して飛び跳ねて遊んでいる。

カーラマインとシーリスは剣で木を伐って作った切株に腰掛け、談笑しながら剣を磨いている。

雪蘭はいつもどおりに型の練習に精を出しており、そして

 

「ZZZ……」

最後の一人に関しては、眠っていた。

 

「……って、さすがに皆緊張感なさすぎにゃ!?おかしいにゃ!ていうかここに来て寝るって神経図太すぎ「ニィ、アナウンスが始まったから静かに!」…えぇ……」

ライザーに注意されてニィはしょぼん、と落ち込む。いつの間にか皆も真面目な顔してアナウンスを聞いていた。理不尽だ、と思うニィだった。

 

『ごきげんよう、ルーキーの皆さん。私は今回のゲームを取り仕切る審判(アービター)役、リュディガー=ローゼンクロイツと申します。どうぞ、よろしく』

リュディガー=ローゼンクロイツ。元人間の転生悪魔だが上級悪魔となり独立し、現在はレーティングゲームのランキング上位50位に入る程の実力者だ。

『今回のバトルフィールドはシトリー領の中でも特に大きい、「シトリー自然公園」のレプリカです。両陣営、転移された先が「本陣」です。ライザーさんの本陣が最北、魔樹の森・森林広場。ティミッドさんの本陣が最南、暗闇の森・森林広場。「兵士(ポーン)」の方は「プロポーション」をする際、相手の「本陣」の周囲まで赴いてください』

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。こういう地形になってるのか」

とりあえずポーンの四人に相手の本陣の位置を教え、作戦会議を始める。

 

「この本陣の周り、半径500メートルは森で覆われている。敵は十人、数ではこっちが負けているから、同時に攻めてこられたら何人かは通過させてしまうかもしれない。だから、森に罠を張る」

ライザーは比較的魔法の使えるイザベラに何箇所か魔力罠、そしてトラップグッズを設置しに行かせる。その間に他の者にも指示を出す。

「カーラマイン、シーリスは正面から攻めろ。敵が来たら戦え、できるだけ派手に」

「陽動かい?」

「ああ、そうだ。お前達二人は正面から敵を翻弄しろ。次、ニィ・リィ。お前達は猫に変身してこっそりと東から回って敵陣を目指せ。敵が来ても戦わない様に隠れてやり過ごせ」

「「了解にゃ!」」

「そして、イル・ネル・雪蘭。お前達は西から敵陣を目指せ。ただ、雪蘭。お前は敵と出会ったら戦え。その間にイル・ネルを本陣に進ませろ」

「わかったわ!」

 

「そして俺は……秘密だ♪では、各自移動開始!」

『はっ!』

 

イザベラが戻って来たので全員にイヤホン型の通信器具を耳に入れさせる。イザベラに本陣付近の守備を頼み、ライザーも移動する。

 

 

 

〜ニィ・リィ〜

 

「……にゃー」「にゃふ?」

ライザーの言った通りに猫になって暗闇の森を歩いていたニィ・リィだったが、奥に進むに連れて霧が深くなっているのがわかった。

 

「……あら?霧の魔力に小さな乱れ……こんな所に生き物が……って、そんな訳ないか。敵の使い魔かしら?」

不意に霧の中から魔女の様な風貌の女が姿を現わす。彼女は逃げようとするニィ・リィを抱きかかえ、見つめる。

 

「……にゃー」「にゃふぅ?」

 

「か、かわいいっ!」

魔女はニィ・リィに頬ずりをしてくる。彼女達は嫌そうに鳴くが、魔女はお構い無しだ。

 

「はぁああ、私も使い魔欲しいわぁ。ザトゥージさん所は予約いっぱいであと2週間待たないとだしぃ」

そう言いながらニィ・リィをモフモフする魔女。完全に油断しきっている。そこでニィ・リィは……

 

(何事も臨機応変に!)(倒すべき時に倒すのにゃ!)

 

「あぁ、かわい……って、え?なんか大きくなって……むご!?」

 

魔女は訳のわからないまま口を抑えられ目隠しをされ、森の中に連れて行かれ、そして消えた。

 

『ティミッドさんの『僧侶(ビショップ)』、1名リタイア』--

 

 




早速命令を破るニィ・リィ。敵が来たからね仕方ないね。

レーティングゲーム、開始です!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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戦闘開始

投稿!


シトリー自然公園、中央、噴水広場。

現在そこには二人の剣士が陣取っている。

 

「……ふむ、誰もこないな……ヒマだ」

ベンチに腰掛け、携帯食の手作りクッキーをサクサクかじりながら、カーラマインは小さく呟く。向かいの席につき、こちらはお茶を嗜みながら、シーリスも頷いた。

 

その時。

 

二人の影から何かが飛び出し、首もとに襲いかかる!

 

「!やっとお出ましか!」

カーラマインは瞬時に短剣を取り出すと、その攻撃を弾く。シーリスは身体を少し全体的に横にずらし、無駄無く避ける。どちらも長年積み重ねた戦闘技術の賜物だ。

そのまま二人は自分の影に剣を叩きつける。しかし、反応はない。

「遠隔操作型か……面倒だな。周りは木ばっかりだから術者を見つけるのに骨が折れそうだ」

そう言っていると、再び影が盛り上がる。今度はそれが、だんだんと姿を変えていく。やがて、影は悪魔型を取った。モデルはシーリスとカーラマイン。二人は影の変形に驚く。

 

「ほう、敵は自分自身、という事か。面白い趣向だな」「私が相手とは……相手に取って不足は無いな!」

 

そう言うと二人とその影は、真正面からぶつかり合う!-

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

雪蘭は大木の枝を使い、跳びながら敵本陣に向かう。下ではこっそりイル・ネルが後を追うという作戦だが、その姿は見当たらない。

(うまく隠れながら移動してるのか……それとも私が速すぎて追いつけなくなったのかも?)

拳法の修行で小さい頃から木登りや枝から枝への跳び渡りをしている雪蘭にとっては、大木の太い枝などはもはや地面と同じ。地面を走る程の、いや、むしろそれよりも速いスピードで雪蘭はどんどん進んでいく。

(もうそろそろ敵本陣に着くんじゃないかしら?もしそうなったら王の首でも狙いましょうか。ライザーに初勝利をあげたいし……ハッ、違うわ!これは『飛翼砕雪(ひよくさいせつ)拳』を冥界に広げる為であって、ライザーの為じゃないんだから!)

 

そうやってブンブンと激しく首を振る雪蘭。その足がある枝に降りる……はずだったが。

 

不意にその木が消滅した。

 

「なっ!?」

雪蘭は空中で一瞬体制を崩す。そしてその瞬間、四方八方から魔弾が飛び出す!

「(しまった!?罠か!)『粉雪』!」

とっさに全方位攻撃で魔弾を弾く雪蘭。しかし全ては捌ききれず、腹と左足に一発ずつ喰らってしまう。

雪蘭はそのまま地に堕ちる。受身を取ったおかげで落下ダメージはないが、着地の衝撃により左足の痛みが増す。鈍い痛みに顔をしかめながら、雪蘭は辺りを見渡す。もう攻撃は飛んでこない。その事に雪蘭は安心して、再び登ろうと別の木の窪みに手をかけたその時。

一本の矢が彼女の背中に迫る--

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ZZZ……」

 

イザベラは木の上で、幹に身体を預け、仮眠を取っていた。無論、本陣と自分の半径20mには魔力によるセンサーを設置し、触れる者が現れると警報を鳴らす様にはしている。

 

「ZZZ……むっ!」

そしてとうとう、その警報がなった。イザベラは眼を開き、辺りを見渡す。今引っかかったのは自分の居場所から半径20m地点の一角。本陣とは正反対の場所だったのでイザベラは安心する。もし、寝ていて本陣近くまで相手を放っておいた、などと言ったら叱られてしまう。

 

「ふむ……だんだんと近づいてきているな……スピードもなかなか……あと二秒……ハッ!」

イザベラは電撃の弾丸を下に打つ。それは何かに命中した様で、トサッと何か軽い物が木の葉の上に落ちたのが聞こえた。イザベラは目視で確認する。下にいるのは……鳥だ。小さな鳥がピクピクと痙攣しながら地に伏せっている。

「使い魔……か?そうだろうな、ここに野生の動物がいる訳でもないし……仕留めるか」

イザベラはもう一度雷弾を放ち、鳥を戦闘不能にして退場させた。

「ただ、使い魔を倒してもな。敵戦力は余り減らせないし『確かに、その通りですね』!?」

背後から受けた声に驚き、イザベラは後ろを振り返る。しかし、後ろには誰もいない。ただ、声だけが聞こえてくる。

 

『あなたは電撃使いですか……なかなか強いですね……私もやられてしまいましたよ……うらめしい……』

 

突然イザベラを囲むように、先ほどの鳥が何匹も現れた。彼らはイザベラのレーダーに反応しないようで、イザベラもそれには首を傾げる。

「ただの使い魔では無かったのか?」

『うふふふふ……』

話している間にも増えていく鳥達。イザベラの視界を埋め尽くすほどの鳥が、すでに現れていた--

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……あと五分くらいか……集中!」

そしてライザーは、力を貯めていた。

 

 




次回、喰らえ必殺のクロスファイヤーハリケーン!(嘘)

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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煌炎

各々それぞれ個々別々に闘っている最中、ライザーから通信が入る。

『皆、これから30秒ほど、ひたすら守りに徹しろ!』

その言葉の意図は分からずとも、王の言う事に眷属は従うのみ。彼女らは移動も闘いも中断し、防御の構えを取った--


始まりから約20分。小さな王・ティミッドは怯える身体を女王に抱きしめてもらっていた。

「……皆、動きが、無いけど、大丈夫、だろうか?」

「大丈夫です。皆、それぞれの魔力を使って闘っているはずです」

ティミッドは臆病者だ。正直闘いは好きではない。貴族の嗜みだと言われ、また自分の臆病さを少しでも軽減してくれるようにという裏の願いも受け止め、親からレーティングゲームの参加を薦められたティミッドはそれを受けた……受けて早速後悔している。

ティミッドの眷属は皆、魔力攻撃や幻覚、遠距離攻撃の専門家ばかり。それはティミッドが血みどろの闘いを見るのを嫌っているから、という理由もあるが、ティミッド自身の考えも大きい。

彼のモットーは、『近づかず、近づかせず』。自陣に近づかせる事が無ければ相手はプロモーションもできないし王である自分に近づけないから負けもしない。敵の遠距離攻撃は自分の魔力で全て防ぎ切る事ができる。逆に、遠距離攻撃をすれば近づかずに敵……王を倒す事さえも不可能ではない。

このモットーに従い、ティミッドは眷属達にも隠密能力と命中精度、魔力向上を重点的に鍛えさせた。

 

だが今、敵であるライザーの眷属は一人も減っていない。それどころか、ティミッドの本陣を守っていた『僧侶(ビショップ)』のうちの1人がやられてしまい、霧が消えてしまった。その事実がティミッドを更に臆病にさせていた。

そんな中、

「……?」

 

ティミッドは感じ取った。とてつも無く大きな魔力。

「……これは、僕達の、力じゃ、ない。守りを、固める」

その声に女王は表情を引き締めると、能力補助の魔法をティミッドにかける。そしてティミッドは、半径十数メートル、本陣を半円状に覆う形の防御の魔力壁を作った。

その直後だった。

 

 

「……!!?」

防御壁の周り一帯を、炎が埋め尽くした--

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

防御壁が炎に包まれる約一分前、ライザー=フェニックスはカーラマインとシーリスが闘っているのを、噴水広場にある大きな樹の上から眺めていた。

「よしよし、うまく闘えているな。これで少なくとも一人は、あっちに眼がいってるだろう……」

そう言いながら、ライザーは両手を、手のひらを敵陣に向けるように身体の前に出した。

 

「『火鳥(ひのとり)の煌炎』!!」

 

その言葉と同時に、超巨大な炎球がライザーの手の内に生まれ、次の瞬間にはライザーの手を離れて前方……ティミッドの本陣めがけて突き進んでいた。

 

炎は木を薙ぎ、森を焼く。そして、森の中で遠距離攻撃を行っていた術師ごと、全てを呑み込んでいく。

 

「……ふぅ。ざっとこんなもんだな」

大樹の幹に寄りかかり、そのまま太枝に座り込むライザー。その眼前にあるのは、敵本陣周辺十数メートルのみ。

 

それ以外は全て、炎の海と化していた。ライザーは前方向、フィールドの約八分の一を、一瞬にして燃やし尽くしたのだった。

 

『……ティミッドさんの『騎士(ナイト)』一名、『兵士(ポーン)』五名、リタイア』

どうやら、敵陣の近くに敵は固まっていたらしい。残り三人……王と女王、そしてもう一人は、あの一瞬出てきた防御壁の中だろう、とライザーは推測する。

 

下では、『影が消えた!』『倒した……のか。さすが我らが王だ』などと言われている。何だかこそばゆく感じるライザーであった。

「あとは、俺の誇る『兵士』達に任せようかね」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

ティミッドは、今の一瞬の出来事に動揺を隠しきれない。自分自身を守る事には何とか間に合ったが、眷属のほとんどがリタイアしてしまった。残るは今、自分を先程よりも強く抱きしめる女王と、本陣から半径十数メートル内にいて唯一助かった僧侶だけ……と思った時。

 

「おらああああああ!!」

一人の女性が、その僧侶の顔面に拳を喰い込ませながら自陣に突撃してきた。

「ふぅ、何とかK.O.されずにここまでこれたわね」

そう言う女……雪蘭(シュエラン)の服はボロボロで、傷跡も少なからず見て取れた。その中でもティミッドが一番に目にとめたのは、右腕を貫通した一本の鉄矢だった。

「……」

眷属の善戦に心の中で健闘を称えるティミッド。その眼前に、更に四つの影が姿を見せる。

 

「あたしいっちばーん!」「あたしの方が早かったし!」

「辿り着いたのにゃ!」「ニィ、ちょっと速いのにゃ……ひぃ、ふぅ……」

ライザー=フェニックスの四人の兵士。彼女らは同時に声を上げる。

 

「「「「昇格(プロモーション)・『女王(クイーン)』!!」」」」

 

そう言った瞬間、四人の兵士の力が一気に増大した様にティミッドは感じた。

 

「5対2は卑怯だ、なんて文句は受け付けないわよ。元々は8対10でこっちが不利だったんだし……まぁ、道場復興の第一の足場になりなさい!!」

 

雪蘭は他の四人に抜け駆けして王の首を狩りに行く!!そして!!

 

 

「がぁ!?」

 

空中に数十メートルは吹き飛ばされ、そのまま光へと変わった。

 

『ライザーさんの『戦車(ルーク)』、一名リタイア』

 

 

一瞬、何が起きたか分からなかった兵士四人は、改めて敵の王を見る。

 

その姿は先程までの小柄な姿から、超巨大な筋骨隆々の体躯へと変化し、並ならぬオーラが全身から溢れ出ていた。

無表情で目を閉じる王の隣で、ティミッドの女王が細々とした声で告げる。

 

「『肉体強化』×35、『パワー増幅』×46、『俊敏増加』×18、『鉄壁』×20、『限界突破』×77、『順応能力』×100……それに追加し、先程の『魔力付与』×7、そして……これで最後……」

 

女王はティミッドの大きくなった背中に大きな魔法陣をくっつけると、脱力し倒れ伏す。その身体は脚からキラキラと光り、粒になって消えていく。

 

「……『狂暴性』×44。これで我が主は、最強の戦士となりました……」

 

その言葉を最後に、女王はフィールドから姿を消す。

 

『……』

ティミッドは閉じていた目をゆっくりと見開く。その眼前には、四人の姿はどこにもなかった。

 

『逃がさん……』

 

ティミッドはクラウチングスタートの構えを取り、

 

『逃がさん!!』

 

前方の樹々を薙ぎ倒しながら、まっすぐ中央を目指し走る!!第一の標的は……

 

「!何で四人で分かれたのに私のところに向かってくるのにゃ!?」

 

まっすぐ森を抜け、噴水広場に入ろうとしている赤髪の少女。ティミッドの拳はその顔面を捉え--

 

「そうはさせない!!」

 

--る直前、上から何かが腕に落下してきた事により、ティミッドの拳はリィから大きく逸れ、地を割った。

『……』

ティミッドは先程殴りかかろうとした右手と逆の腕で、上に乗っている何かを吹き飛ばそうとしたが、それは成らなかった。

その何かを、ティミッドの拳が貫通したのだ。

狂暴になっているティミッドも、さすがにこれには驚いた。それと同時に、その腕に強い熱を覚える。

ティミッドは腕の上のものをきちんと眺める。それは、

「腹を貫通とか……俺がフェニックスじゃなかったら死んでたんじゃ……いやまぁ、俺の身体が脆いだけなんだろうけど……」

 

王、ライザー=フェニックスであった。

 

 




オマケ

カーラマインとシーリスは、赤々と燃える森の中から飛び出してきたリィに声を掛けようとし、その後出てきた大男の姿を見て、そのオーラに圧倒され身体が竦み、固まった。
その拳がリィに振り下ろされる直前、何とか身体を金縛り状態から戻す事には成功したが、しかしもう救出は間に合わない!と悟りリィを助けるのを諦め、殴った後の隙を突くため、攻撃の構えを取る。
敵の拳がリィの顔面を捉えようとするその瞬間、思わず二人は目を逸らす……しかし、いつまで経っても、『兵士』リタイアのアナウンスは聞こえてこない。
二人が再びそちらに目を向けると、そこにいたのはリィと敵の間に立ちはだかる、二人が信頼する王であった。

「リーダーが闘うつもりのようだ、私達は退こう」「ああ、リィを救出しないと」
二人は騎士のスピードで、ライザーの後ろで白眼を剥き失禁して気絶しているリィを回収し、自軍の本陣に向かって全力で走った--


次回、初めてのレーティングゲーム、果たして勝利となるのか?
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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大変お待たせしました……

レーティングゲーム、再開!


ティミッドはライザーの身体から腕を引き抜く。ライザーの身体に空いた穴は、炎に包まれてものの数秒で元の肉体に戻っていく。

『……ライザー=フェニックス!』

ティミッドはライザーに再び拳をお見舞いする。今度は顔面を振り抜いた。ライザーの顔面は大きく凹むが、一瞬で元に戻る。

「甘いぞ!」

今度はライザーの蹴りの一撃がティミッドの脇腹に入る。しかしティミッドはその足を掴むと、ジャイアントスイングの様にぐるぐるとライザーの身体を振り回す。ミスミスミスと空気を切る音が響く。

『おおおおおっ!!』

ティミッドはそのままライザーを上に飛ばし、自分も飛翔する。そして空中でライザーの頭を右手で鷲掴み、その右手に全体重をかける!ライザーは自由な手でティミッドの腕や胴を殴るが、ティミッドは手を放さない。

成人悪魔二人分の質量が、ライザーとティミッドを地面へと誘う。そのままライザーは全身をフィールドに叩きつけられた!

 

『……』

ティミッドは肩で息をする。しかし、まだライザーを掴む手は放さない。今度はその身体を上に持ち上げ、先程と同じ様に左手で全力で殴る!

ライザーはその衝撃で十数メートル吹き飛び、地面に転がる。しかし、すぐに起き上がった。ライザーはティミッドに言う。

 

 

「……お前、だんだんと弱くなっていってないか?」

『……』

無言のティミッド。それに対し、ライザーは疑問の根拠を述べる。

「さっきのお前がリィを庇った倒そうとした時の拳。俺にはあの一撃がこちらへの小手調べに見えたが、お前はあの一撃で俺の身体を貫いた。だけど今のパンチはどうだ?俺を吹き飛ばしただけで……まぁ、だけでも凄いかもしれんが、まぁとにかく、貫通する程の強いダメージを与えられてない。結構本気で殴っただろうに……なんでだ?」

 

『魔法陣が、崩れていっているのだ』

ティミッドは答える。この質問に答える事は自分の弱点を教える様なものだが、ティミッドは答えた。

『我が女王が最後にかけた魔法。あれは短期決戦型の魔法で、強力だが長続きはしない。ましてや術者がいないのだ、もう魔法の効果は長くは保たん……今は自分の魔力で補っているが、このままでは、あと十分もせずに魔法の効果は無くなるだろう…よ!』

そう言い終わると同時に、ティミッドはこちらに突っ込んでくる。しかし、スピードが先程と比べて遅くなっており、ライザーはそれを避ける事が出来た。

「……何でそんな事を教えた?それを聞いた俺はお前の魔法の効果が切れるまで逃げ続けて、効果が切れたと同時に眷属全員で一斉に攻めかかるかもしれないぞ?」

その話に、しかしティミッドは首を振って言う。

 

『お前の目が言っている、全力の俺と戦いたいと』

「なるほど、それはわかりやすい」

 

ライザーとティミッドの拳がぶつかり合う。辺りに衝撃波の様な風圧が飛び、近くの木々を薙ぎ倒す。しかしそれには目もくれず、ティミッドとライザーはひたすら殴り合う。

拳が胴にぶつかる度に、ライザーの身体には小さな穴が空き、ティミッドの身体はだんだんと縮んでいく。しかしそれでも二人は殴り合うのをやめない。

そうして一分が過ぎ、二分が過ぎ……五分が過ぎた。ライザーの身体はほとんどが再生の炎で覆われている。また、ティミッドの体躯は最初の頃の小さな身体に戻っている。

『……体力の、消耗が、激しかった、から、魔力の、消耗も、早まったの、だろうか?』

そんな事を言いながら、しかしティミッドはライザーを殴り続ける。今の彼は自分のモットーも、本来魔法専門だという事実も、戦うのが嫌いだと言う性格も、全てを忘れていた。ただひたすらに自分の二倍の身長はある敵の王に対し、拳を振るうだけだった。それはライザーも同じ。いくら相手の肉体が小さくなっても、だんだんと相手の身体に痣や傷痕ができても、彼は殴るのをやめない。

 

ライザーの一撃がティミッドの胴体の真ん中に入り、ティミッドが吹き飛ぶ。ティミッドは空中でくるっと回転し着地する……が、ダメージが大きかったのか、その場でよろめく。

 

「……限界が、近いか……」

下を向いてポツリと言った後、ティミッドはライザーの方を向き、叫ぶ様にしてライザーに宣言する!

「今から、僕は!全身全力を掛けて!散っていった眷属達の力を乗せて!君に一撃を喰らわせる!最後に、立っていられるのが、どっちなのか!決着を、つける!」

力強い言葉に、ライザーも応える!

「だったら俺も!次の攻撃に全力を掛けて、散っていった眷属達……あれ、1人だけだから達じゃないか……まぁいい!眷属皆の思いを加えて、一撃に全てを込める!かかって来い!」

 

ティミッドはライザーの言葉を全て聞いて、その目の前まで一気に跳ぶ!それに対しライザーも、一撃を放つべく構えを取る!

 

「『翔・真拳(しょうしんけん)』!!」

ティミッドの拳がライザーの顔面に叩きつけられる!

ライザーはその一撃をガードもせずに受ける。ライザーの身体が、横に大きく動く!が、ライザーは倒れない!そして!

 

「お前の一撃、確かに効いた!今度は俺の番だ!

 

弐の構え、吹雪から放つ技!

 

飛翼砕雪拳技・『大雪山(だいせつざん)』!」

 

大きく振りかぶり、身体を回転させながら放ったライザーの裏拳が、ティミッドの鳩尾に決まる!

 

「グフッ!」

ティミッドは血を吐き出しながら吹き飛び、そのまま中央にある巨大樹に衝突する!木の幹にめり込んだティミッドは、そのまま動かない。

 

 

『ティミッドさんの「王」……ティミッドさんが、意識喪失により戦闘不能。これにより、ティミッドさんは「詰み(チェックメイト)」よって、本日のレーティングゲーム、勝者は……

 

ライザー=フェニックス!!』

 

そのアナウンスを聞いて、ライザーは右の拳を再び握り、今度はそれを天に掲げる。

「よぉっしゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」

ライザーの絶叫が響くと共に、フィールドに残っていた他の眷属達が皆、ライザーに近寄ってきた。イル・ネルが飛び込んでくるのを受け止めて、ライザーは皆と抱き合う。

「ありがとう!お前達のおかげで俺は今回の戦いに勝つ事が出来た!本当にありがとう!」

 

「皆、リーダーを抱えて胴上げだ!」『おおっ!』

 

こうして、ライザー=フェニックスの憧れでもあった初のレーティングゲームは、見事に白星を飾る事となったのであるーー

 

 

 

ーー冥界・バアル領のとある街。

そこでは、1人の女の子が、レーティングゲームの試合を見て打ち震えていた。

「………カッコいい……私、この人の弟子になりたい!」




レーティングゲーム、決着です!結果はライザー君の初勝利!
次回は、勝利記念パーティーになるかな?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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祝い

パーティー!


『あ〜あ〜……ううん!ごほん!本日は忙しい中、この席に着いてくれた者達に感謝する。我が息子ライザーは小さな頃からレーティングゲームが大好きだった。その大好きなレーティングゲームで、激闘の末初勝利を飾った事を今日ここに祝いたいと思う!では皆の衆!グラスを持て!音頭は本日の主役に任せる!』

『……本日は俺の初勝利記念パーティーに来てくれてありがとう!どうか楽しんで行ってくれ!では……乾杯!!』

 

『乾杯!!!』

 

ライザーの音頭に合わせ、その場にいた者は一斉にグラスを上へと掲げる。そして、『ライザー=フェニックス、レーティングゲーム初勝利記念パーティー』が幕を開けたのだった。

 

この場に呼ばれているのは、親戚の他にはフェニックスの涙のお得意様や、フェニックス領の近くの領地の名主達。その間を縫う様に、フェニックス家のメイド達が料理皿や酒瓶を持って右往左往している。

ライザーは挨拶をした後、中央のステージを降りる。そのまま食事のある場所に向かった。バイキング方式なので好きなものが好きなだけ食べられる為、早く食事を確保しておきたかったのだ。

何人かと挨拶を交わしながらも食事をある程度取り、ご機嫌なライザー。その背中をツンツン、とつつかれ、後ろを向いた。そこにいたのはユーベルーナとリィ。今回はメイド総出の為、二人も一生懸命働いているのだ。

「ライ君、ワインはいかが?年代物のいいのがあるよ〜」「いやいや、ご主人にはこのウイスキーが似合うのにゃ」

目の前に二つの酒瓶が出される。どちらも美味しそうだ。

「ただ俺、両手とも皿で塞がってるからワイングラスは持てないぞ」

ライザーがそう言うと、リィは目をキランと光らせて、言う。

「そうなると思って、リィは秘策を用意しているのにゃ。これをリィが口の中に入れて、そのまま口移しでふぎゃ!?」

リィの頭が突然下がり、そのまま手に持っているウイスキー瓶に激突する!リィが蹲ったその後ろを見ると、そこには双子の妹、ニィがシャンパンを持って立っていた。

「あれ、ごめんにゃリィ。シャンパンを開けたら蓋が飛んでっちゃったにゃ」

どこか誠意のこもっていない口調でニィは謝る。それに対しリィは返事もできず、ただウイスキー瓶が激突したおでこを押さえている。

「あーあー、リィ大丈夫か?」

そう言うとリィは涙目ながらも、「大丈夫だにゃ、リィは大人だから、こんなの痛くも痒くも無いにゃ……」と無理に笑みを作る。「そうか、偉いぞ」と頭を撫でてやると、作り笑いが消えて本当の笑みがこぼれてきた。

「首の下も〜」「はいはいわかったわかった」と、いつもの様に首の下も撫でてやると、リィはもはやぶつかった事も忘れたかの様に満足そうに喉を鳴らし、目を細めて嬉しそうに尻尾を振る。それを二分ほど続けると、リィもいつも通り、元気になったのだった。

「……終わった?ライ君、それでどっちを飲むの?」

ユーベルーナに聞かれたライザーは、後で良いやと応えてその場から立ち去った。ユーベルーナが少しショックそうな顔だったから、後で構ってやろうと思ったライザーだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

食事に良い場所は無いか、と思いながら会場の中をうろついていると、傭兵三人組が食事をしているのを見つけた。ライザーはその輪に近づくと、三人もこちらに気づいたのか、場所を少し開けてライザーを迎えた。

「よう、楽しんでるか?」

その問いに三人は同時に首を縦に振る。

「出されている料理は美味しいものばかりだ!ジューシーな肉、柔らかい魚、新鮮な野菜、そしてふっくらしたパンにちょうど良い甘さのデザート!どれも素晴らしい出来で、食べるのがもったいないくらいだ」

食べるのが好きなカーラマインが言うと、残りの二人も同意する。それを聞いてまだ食事を口にしてないのに気づいたライザーは、肉を一切れ皿から取ると口に含んだ。

「……うん!確かに美味い!毎日の料理も美味しいが、これもまた絶品だ!」

「あ、ライザー。これも美味しいんだ。食べるかい?」

イザベラが、皿の上に乗っているゼリーを指差す。ライザーが欲しいと口にすると、イザベラはスプーンで一口分ゼリーをすくい、「はい、あーん」と口の前にに持ってきた。それをライザーはパクっと食いつき、ゼリーを口の中に入れた。

「うん、フルーツの甘みが控えめながらもきちんと感じられる、良い味だ!」

そう言うとイザベラもそうだろうと笑いながら、ゼリーをまたすくうと、今度は自分の口に入れた。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

食事をしながら談笑したライザーは、皿の上が空になったタイミングで三人と別れ、皿を返却しに向かう。そこでイル・ネルと会った。二人は棒状のキャンディを舐めながら、ニコニコと笑っている。ライザーが見えると、二人は近づいてきてライザーに抱きついた。

「お兄ちゃんお兄ちゃん!聞いて聞いて!もうすぐお母さんの病気が治るんだよ!」「退院するんだって!また一緒に暮らせるね!」

「おお、良かったな!」そう言ってライザーは二人の頭を撫でる。二人はその間は目を瞑って、撫で終わると同時にまた話し始める。

「お兄ちゃん、お母さんを助けてくれて、ありがとう」「お兄ちゃんのおかげでお母さんは健康になりました」

そう言って二人はぺこりと頭を下げた後、満面の笑みで言う。

「「お兄ちゃん大好き!!」」

その言葉にライザーも、「俺もお前らが大好きだぞー」と返して、二人を抱きしめる力を少し強くした。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

皿を返却して二人と別れた後、ライザーは少し風に当たろうと思い、テラスへと出た。テラスには何人か男女がいたが、皆ライザーを見るとそそくさと建物の中に戻っていった。

ライザーは夜空を見上げる。いつもの様に曇っていると思っていたが、どうやら珍しく雲が無い様で、ただひたすら暗闇が空に広がっていた。その中でただ一つ、欠けた月だけが一人ふわふわと浮いている。

 

「……うっ……グスッ……」

そこで、女の子の泣き声が聞こえた。ライザーは、こんな楽しいパーティーの中でどうしたんだ?と思いながらそちらに近づく。そこには、レーティングゲームの時と同じ、動きやすそうなタンクトップとパンツというファッションの雪蘭が、外のベンチに腰掛けて鼻をすすっていた。

「雪蘭……どうしたんだ?暗い顔して?」

その問いで側にライザーがいるのに気づいたのか、雪蘭は目と鼻を拭うと、立ち上がった。

「別に……何でも無いわ。ただちょっとお酒が回っちゃって……ここで涼んでたの」

ライザーはそうか、とだけ言うと、雪蘭の横を通り過ぎ、ベンチの後ろの柵に寄りかかった。ライザーの背後にはフェニックス領の中の家々が並んでいる。しかしライザーはそちらに目を向けず、雪蘭をただ見る。

少しして、雪蘭は口を開いた。

 

「ごめんなさい……」

 

ライザーはその一言に驚く。

「私、自分が今まで強いと思ってたの。だけど、今回のレーティングゲームでは、敵の王に思いっきり殴られてそのままリタイア。そのせいであなたのパーフェクトゲームにはならなかった」

「気にしてないよ、勝てたんだしさ。それにあの王はめちゃくちゃ強かったし。最初の一撃なんて俺の身体を貫通したんだぜ!俺が不死鳥じゃなかったらまずかったと思うくらい強かった……」

「そんな強い相手の力量を測れなかった時点で、私は弱いのよ」

雪蘭はそれだけ言うと、下を向く。その足下に、ポツポツと水が落ちていく。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私が足手まといになっちゃって…私のせいで……」

 

そう言う雪蘭を、ライザーは抱き寄せた。

「大丈夫、お前は良くやってくれてるさ。聞いたよ、腕に矢が刺さってなお、敵を倒したんだろ?」

ライザーはそう言うと、腰にある雪蘭の右腕をなぞる。一箇所不自然に凹んでいるところを、ライザーは愛おしむ様に触れる。

「お前は何も悪くないさ。俺はお前に感謝してるよ。ティミッドを倒した最後の技……飛翼砕雪拳の奥義も、お前に会えたからできたんだ。お前に会えてなかったら俺は、あいつに負けてたかもしれない。だからお前には感謝はありこそすれ、不満なんてない。

だから……もう謝らなくていいさ」

「……」

「一つ言わせてくれ……ありがとう、雪蘭」

 

その言葉を聞き雪蘭は、大粒の涙をライザーの手に落としながら、叫ぶ様に泣いた。ライザーは彼女を、泣き疲れて眠りに落ちるまで抱きしめていた--

 

 

 

 

 




パーティー終了、次回から久しぶりに仲間集め!次のターゲットは……あの影の薄いお姫様でしょうかね?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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和歌


「『こちふかば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ』これはかの大和呪術の起草者としても知られる菅原道真公が、大和の端、修羅の国は太宰府に左遷される前に京の実家の庭の梅の木に残した歌で、菅原道真公の死後、この梅の花が咲き誇った春の季節に朝廷の重鎮が大勢死んだ事から、宿魂と呪術を融合させる初の試みであると「すぴー……」……」
とある和風の屋敷、中庭の池が見える一室で、とある女悪魔がもう片方の女悪魔の頭を持っている扇子で思いっきり叩いた。
「てっ!?……何しますの!せっかく良い夢を見ていたのに、形無しですわ!」
「姫様、それを言うなら台無しですよ」
「話を煙に巻かないのですわ!お通さん、あなた華奢な見た目の割に暴力的でしてよ!」
「姫様が話をお聞きになられないからでしょう?」
「だって、庭にこんな綺麗な梅の花が咲いているのに、梅の呪術の話なんて聞きたくありませんもの。それに、せっかく空が晴れているのですし、こんな日に月光に照らされると、眠くなって当然と言うものですわ」
「姫様は曇りの日も雨の日も、十中八九眠っているではありませんか!」
「……だって和歌なんてつまらないんですもの。わらわは蹴鞠がしたいの。あ、近頃流行っていると言う南蛮蹴鞠でも良くってよ」
「姫様はいつもそうやって蹴鞠蹴鞠と。はぁ、和歌も唄えばお上手ですのに……」
「得手不得手ではなく、好き嫌いの問題ですわ。私は、ものを読むと眠くなるの。あ、絵は別ですわよ。一度見せていただいた『怒羅愚・蘇棒流』なる書物は、とてもわかりやすくて面白かったですわ」
「あれはマンガですっ!娯楽品!面白くて当然ですし、そもそもあれは学問ではありません!」
その後三分ほどお小言を受けた後、また和歌の授業が開始される。

「はぁ……退屈ですわ、こんな日常。ただ起きて和歌を詠んでお話しして食事して勉強して眠るだけ。つまらないですわ」
「……しょうがないではないですか、姫様。あなたは中流貴族として、そして我が家の唯一の女子として、立派な殿方に嫁ぐ為の知識が必要とされるのですから」
そう言われて、姫様と呼ばれる女悪魔ははぁ、と息を漏らす。
「異国のおとぎ話で見た様な、私を連れ去ってくれる白馬の侍はいないものでしょうかね…」
その小さな独り言は、指導役にに聞かれる前に、庭のししおどしの音に消されたのだった--




--グレモリー領、和の国。ここは現代グレモリー卿の趣味により、日本の平安や戦国、江戸時代の文化がかなり精密に取り込まれた、いわゆる日本街である。

そこにライザーは、友人と二人で温泉に入りに来ていた。

「いやぁ、やはり温泉は良いもんだなぁ。一度入ってから気に入ってしまって、家にも風呂をつけたくらいだ。お前はどうだった?」

甚兵衛姿に下駄と言う和風な出で立ちのライザーが尋ねると、もう一人ものんびりとした口調で返す。

「確かに温泉とは、良いものだ。疲れが全て、無くなったような、錯覚を覚えた。確かに、家に取り付けたい、気持ちもわかる」

もう一人……ライザーの初のレーティングゲーム相手でもある、ティミッド=オセはそう言うと、小さな手で小さな肩を優しく揉んだ。

「それにしても……どうだ?TV局の方は?」「もう、あまり、来なくなったさ。まぁ、初戦で、敗退した、だけの王が、引退したところで、特に、話題性も、無いだろうしね」

 

ティミッドはライザーとのレーティングゲームの一戦の後日、レーティングゲームの引退を発表した。一戦だけながら上級悪魔のルーキー同士の熱い戦いという注目性のある試合の後の引退だった為、世間に少し影響を与えたのだった。

『これで、いいんだ。僕は、戦いは、好きじゃ無いし。眷属が、傷つくのも、見たくは無いしね』

引退の直後、自分に責任があると感じて謝罪に行ったライザーに、ティミッドはそう言った。

『でも、なんか責任を感じちゃうな……俺の戦いがトラウマとかになって無いか?』『トラウマ?僕は、戦いは、好きじゃ無いけど、あの戦いは、とても熱い、良い試合だと、思ってる。君との、戦いは、嫌いじゃ、無かったよ』

そんな話から仲良くなり、レーティングゲームから二週間で一緒に温泉に行くほどの仲になったライザーとティミッドだった。

 

「……?ちょっと、失礼、信号が、来てる」

ティミッドはそう言うと少し離れて、手を耳に当てる。どうやら通信魔術が送られて来たようだ。何回か頷くと、ティミッドは少し残念そうな顔をしてライザーへと近づいてくる。

「ちょっと、家の用事が、入っちゃった。今日は、もう、帰らなきゃ、いけない」

小さな声で申し訳なさそうに言うティミッド。それに対しライザーは、「……そうか。わかった、じゃあまた今度会える時に遊ぼうぜ!」と返事をする。

「うん、また」

ティミッドはそう言ってニコッと会釈した後、人混みの中に紛れて言った。

そして、一人になったライザー。

(さて、暇になっちゃったぞ。本来ならこのまま江戸の町から戦国の町に行くつもりだったけど、ティミッドがいない状況で一人で行くのもな……)

急に無くなった予定の代わりになる物を探そうとするライザー。そこで一枚のチラシが家の柵に貼られているのに気がついた。

「『百人一首カルタ大会』?何だこれ、面白そうだな。行ってみるかな」

カルタ大会のチラシを見て興味を持ったライザーは、その会場である平安の町の、とある貴族の家に向かう。家の庭では、30人ほどの男女がワイワイと騒いでいた。更に入り口の門から、甲高い女の子の声が飛ぶ。

「残り参加者は後三人ですわよ!さぁさぁ皆さん寄ってらっしゃい!豪華景品のある百人一首カルタ大会、もうすぐ定員ですわ!」

ライザーはその女の子に近づくと、参加の意を表明した。ライザーは奥に通され、他の男女と同じく庭へと連れて来られた。その後、更に二人の男が庭にやって来たところで、家主らしい髭を生やした男が現れて言った。

「これはこれは、皆様気合い十分なご様子で。では、定員が揃った事でありますし、ただいまより百人一首カルタ大会を開催しますぞ」

その言葉に周りも盛り上がる。ライザーも一緒になって盛り上がった。

「まずはくじ引きで相手を決めてくだされ。それから第一回戦ですぞ」

言われた通りくじを引く。ライザーが引いたのは三番。三の席に着くと四の席には相手らしい女がすでに座っていた。

(……げっ!?)

ライザーはそこで気づいた。このカルタが、正座で行われる事に。

(俺は正座は嫌いなんだが……足が痺れるし……)

そうは思いながらも座らないと話が進まないので、仕方なく正座するライザー。それから数十秒後、試合が開始された。

 

『すみのえの〜』「はいっ!」「えっ?」

 

『こひすてふ〜』「はいっ!」「は?」

 

『む「はいっ!」 「(゚Д゚)??」

 

そして50枚が詠まれた時、

「やった!勝った!」

ライザー達の勝負が決した。結果は50対0。ライザーが圧倒的だった。

 

 

 

 

 

圧倒的に、弱かった。

 

「出口は入り口と同じ場所ですのでな」「あ、はい」

ライザーは言われるままに門に向かう。

「何だあのカルタ。絵も何も無く取り札も文字だけだったぞ?しかも悪魔文字では無いし。なぜ敵は取れたんだ?わからん」

頭に疑問符を浮かべながら、ライザーは門の付近までたどり着く。そこで、先程の受付の女の子の声が聞こえた。

「あーあ、このまま外に飛び出せれば良いのに。私はまるで籠の中の雛。成長して飛び立つ事の無い、永遠の雛鳥の様……

 

せのはねよ とべよとべよと なきながら とぶこころねは なきにひとしき」

「すいません、外に出たいんだが」「ぴっ!?」

ライザーが声をかけると、遠くの方を見ていた女の子は肩をびくりと揺らす。

「あ、あれ?まだ一回戦も半分が終わったくらいですけれど?急用でもお有りでして?」「いや、負けたから帰るだけだけど…」「そうですか……」

2人の間を、どこか心地の悪い空気が流れる。

「外、出たいのか?」

ライザーが何気無くそう言うと、女の子は再び外に目を向けながら言う。

「確かに、外への憧れは尽きて止むことがありません。でも、私はこの屋敷から出る事は出来ません」

「魔法でもかけられてんの?」

「そういう訳では無いのですけれど……」

女の子はため息を吐きながら小声で言う。

「誰か私を連れ去ってくれる者はいないのかしら……」

 

 

「俺が連れ去ってやろうか?」「え?」

 




オマケ

「はぁ〜、温泉とはやはり良い物ですね。日々の疲れが癒されます」
はっぴのような服を羽織った女の子は、風呂桶の中の手ぬぐいをいじりながら温泉の外に出る。外でコーヒー牛乳のビンを一つ買うと、栓を開けて片手を腰に当て、ぐいっと一気飲みする。
「プハァ〜!この一杯の為に生きてる!……なんちゃって」
入り口の前でそんな事をしている女の子の横を、二人の男が避けるように通る。その二人の男に、女の子は見覚えがある気がした。

「あれ、もしかしてあの二人この前のレーティングゲームの!!……ってあれ!?消えた!?人混みに紛れた!?もー!!」
一人芝居やってる場合じゃなかった!と、女の子は一人地団駄を踏んだ--


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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蹴鞠

「……これで良いのか?」「はい」

 

ライザー達は今、外に出ている。辺りには花畑が広がっていたり、立派な木々が並んでいたりする。

「外の空気は気持ち良いですわね。やはり家の中に篭ってばかりだと、気が滅入りますわ!」

そう言って中央へと走っていく女の子。十二単のくせに動きが軽快である。だが、ライザーにはそれよりも気になる事があった。

「いや……外って言ってもさ…………

 

 

ここ、あんたらの家の庭じゃん」

 

そう、ライザーがいるのは百人一首カルタ大会をした家の、庭だった。日本庭園という感じの庭で、ライザーはその家の女の子とその従者らしき女と男の悪魔を見る。

「さすがに姫様をどこの誰かもわからない馬の骨に連れて行かせる事は出来ません」「何をされるかもわかりませんし、何より姫様は世間知らず。何か問題を起こされてはいけませんから」

従者二人が少々警戒した様な目でこちらを見つつ、言う。どうやらここらの町にはTVというものが無いため、皆ライザーの事を知らない様だ。まぁ最も、だからこそライザーはティミッドと二人で遊びに来た訳だが。

ライザーはそう言われて黙っておらず、自分の名前を言う……ところを自重した。さすがに昔とは違い、自分の身分がどの様なものなのかはわかっている。今ここで自分の名を告げたら、大騒ぎになる……かもしれない。そうなったらカルタ大会も中止になってしまうだろう、それは申し訳ないと考えた故だった。

 

「まぁまぁ、ここで庭の梅を見ながら蹴鞠というのも乙なものですわよ。では、行きますわ!ほれ!」

そういうと姫様と呼ばれていた女の子は、いつの間にやら持っていたボールを、ライザーの隣にいた女悪魔へと蹴り上げた。

「あなた方、四角を作ってください」

女悪魔はそう言いながら、ボールをオーバーヘッドキックでお姫様に返す。着物なのにそんな動きが!?とライザーは少し驚きながら、彼女に言われた通りの配置に着くと、蹴鞠を始めた。

(なるほど、落とさない様に相手へと蹴り上げて、それを続けていくのか……単純だけど、結構楽しいな……)

本当はもっといろいろなルールがあるのだが、皆そこまで厳しいルールにはしなかった。規則に縛られて楽しみを減らすのは無粋だと思ったのだろう。

途中でボレーシュートやオーバーヘッド、ツインシュート、スカイラブハリケーンなどが飛び出したが、鞠は落ちる事なく蹴鞠はずっと続いていた。

 

そして、しばらく後。家の方が騒がしくなってきたところでライザー達は玄関の方へと戻っていった。どうやら、優勝者が決まったらしい。ライザーが優勝者の顔を覗くと、自分が初戦で負けた相手だった。残った参加者と家の者から拍手を受けながら、優勝した女悪魔は茶器をもらって、嬉しそうに笑っていた。ライザーも素直に彼女の勝利を称えながら、(優勝者に当たったのなら、ボロ負けしても仕方ないな、うん)と自分で自分を慰めているのだった。

「ではこれにて、百人一首カルタ大会を閉幕させていただきます。次回の開催も楽しみにお待ちいただければと存じまする。ではお気をつけてお帰りくだされな」

こうして、百人一首カルタ大会は幕を閉じた。参加者は話をしながら、門へと向かってゆっくりと歩き出す。ライザーもそちらについていこうと思った時、着ていた甚兵衛の袖を引かれた。振り向くと引っ張っていたのは、先程まで蹴鞠をしていたお姫様。彼女は笑顔を浮かべて話してくる。

「今日は楽しかったですわ!久しぶりに外に出られましたし、蹴鞠ができましたし、良い事づくめでしたわ!これもあなたが来てくれたからかしら?まぁとにかく、一緒に遊んでいただき、感謝しますわ!!」

姫様はそう言うと、頭を軽く下げる。後ろにいた、先程蹴鞠を一緒にした男と女の従者も、深々と頭を下げる。

「いや、ただ初戦敗退して時間が余って暇だったから、相手しただけさ」

ライザーは少し照れくさくなってそう言うと、お姫様は「それでも嬉しいですわよ」とニコニコ笑顔で答える。

「あの、カルタ大会は月に1度ほど開かれておりますの。また、遊びに来てくださいますか?」

ニコニコ笑顔を崩さないまま、お姫様は尋ねる。ライザーもそのままの状態で頷き、また来るよと返した。

「じゃあ今日は帰らせてもらおう。また来月……になるのか?まあいいや、またな。えっと……」

美南風(みはえ)ですわ。そちらは?」

「俺?俺か……俺はライザーだ」

ライザーは迷ったが、多分わからないだろうと思って本名を名乗った。美南風はそれに頷くと、

「今日はありがとう、また遊びましょう、雷君!」

念押しする様な美南風の言葉に、ライザーは手を振って返すと、その家を後にした--





美南風編、一旦ここで終わりです。次回は……他の眷属達かなぁ?

『ハイスクールD×D』、アニメ4期が決定しましたね!!やったー!!o(`ω´ )o
ライザー君の出番があるのかわかりませんが(DX2の再戦の話をアニメ化してほしい……)、楽しみです!いくぜおっぱい!!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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第1回眷属最強決定戦
プロローグ 〜きっかけは些細な事〜


思いついたので投稿。新たな戦いの幕開け--


きっかけはある日の朝方、ライザー=フェニックス眷属の二回目のレーティングゲームでの白星を記念しての眷属での打ち上げ、その終盤あたりでライザーが発した一言だった。

 

「いやぁ、それにしてもやはり皆強いなぁ。流石は俺の眷属だ」

レーティングゲームを思い出して口から出たその言葉に、少々酔っ払った雪蘭が盃を片手に同調する。

「ま、確かに皆強いわよね。

 

まぁ、一番強いのはあたしだけどね!」

その言葉に、眷属達の肩がピクリと震えた。

「何を世迷言を。お前の拳が私の剣に敵うはずがあるまい」

「そうだそうだー、お前が最強など、片腹痛い!」

ジョッキの中の酒をグイッと一気飲みしてもまだ余裕がありそうなカーラマインと、かなりアルコールが回ってきているシーリスが雪蘭の言葉に噛み付く。

「何、あんた達あたしより強いっての?あたしはライザーにだって勝った事があんのよ。あんた達みたいにライザーとの組手で負け続けてる訳じゃ無いんだから」

そう言ってふふん、と鼻を鳴らす雪蘭に、シーリスが一言。

 

「最初のレーティングゲームの唯一の脱落者が良く言う」

 

バキッ、と雪蘭が盃を握り潰す。

「あんた……言ってはならない事を言ったわよ……ここで死にたいのかしら……」

「お、やるか?良いだろう。さっきのセリフが大間違いだった事を、すぐにでも分からせてやろう」

雪蘭が構え、シーリスが椅子の横に立てかけていたフルンティングを掴む。

「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」」

二人の酔っ払い悪魔は、前方にある椅子やテーブルや酒瓶を巻き込みながら一斉に自分の敵へと突撃していく!!雪蘭とシーリスの拳と剣が交差す「やめぃ」

 

背中に殴打を受け、突撃直前で二人は地に伏す。荒いやり方で衝突を止めた本人、ライザーは二人の背中を押さえつけ、動きを封じる。

「おい、お前達。寝てる奴らが起きちゃうだろうが」

ライザーはそう二人に注意する。どこか注意の観点がおかしいのは、彼も酔っ払っているからだろう。

その彼は酔っ払った状況で、こう言った。

 

「お前らが誰が強いか知りたいなら、そういう大会を開いてやろう。俺の眷属による総勢八人のトーナメント。お前らはそこで、誰が一番強いのか、思う存分競うが良い!!」

 

それを聞いて、ライザーの手の下でもがいていた二人の動きがピタッと止まる。それを確認してライザーが手を放すと、二人とも素早く起き上がった。

シーリスがライザーに問う。

「今の話は本当か?」

もちろん、とライザーは頷く。

「そうだな……今から三日後、家のグラウンドで行う。優勝者は、俺が何でも一つ、願いを叶えてやろう。叶えられる範囲で」

その言葉に、話の輪の外にいた者達も反応する。具体的には、酒の代わりにオレンジジュースを嗜んでいたリィだ。

「今の話は本当かにゃ!?」

「ああ、男に二言は無い」

「じゃあ、記憶が無いから無しってって言わせないように、今から録音するにゃ!もう一回言って!」

「何度でも言ってやろう。今から三日後、真夜中!場所は我が屋敷のグラウンド!眷属によるトーナメント形式の試合を行う!優勝者は俺の叶えられる範囲で、何でも一つ願いを叶えてやろう!」

 

こうして酒の席の成り行きで、『第一回眷属最強決定戦』の開催が決定したのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

三日後。深夜11時32分(冥界時間)。

 

『それでは今より、第一回眷属最強決定戦を行う!』

マイクを通してライザーがそう言うと、眷属達や見物である使用人達が、おぉぉ!!と歓声をあげる。

『ルールは単純、相手を戦闘不能にするか、降参させれば勝ち!ただ、殺すのはNG!切断は許可する!以上!』

いよいよ始まる試合に、会場全体がワァァ、と盛り上がる。その中でライザーは、試合順を発表する。

 

『1回戦、第1試合!

 

イザベラVSニィ!』

「ZZZ……」「いきなりかにゃ!?」

 

『第2試合!

 

リィVSシーリス!』

「げっ……」「ほう……肩慣らしには良い相手かな?」

 

『第3試合!

 

ネルVSイル!!』

「「!!?」」

 

『そして第4試合!

 

雪蘭VSカーラマイン!以上の組み合わせで行う!』

「最後……!」「主役は遅れて登場するものってことかな?」

 

『審判は俺、ディマリア、ユーベルーナの三人!三人が戦闘不能だと判断した場合、勝負は決着!

優勝者は、俺が一つ願いを叶えてやろう!

 

それでは改めて、只今より第一回!!眷属最強決定戦を行う!!!皆、全力を出しきり、悔いの無い試合をするが良い!!』

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、数本の煙が空に上がり、そして爆発する。空一面に、赤や緑や黄色の花火が咲いた。

 




試合の組み合わせは、公平にあみだくじで決定しました!

次回、1回戦第1試合、イザベラVSニィ!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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1回戦第1試合 〜拳と爪〜

『では、1回戦第1試合!「イザベラVSニィ」始め!!』



「フッ、フッ、フッ」

イザベラは一定間隔で呼吸をしながら、ファイティングポーズを取ったままその場から動かない。身体を揺らし、まるで食虫植物の様に獲物が飛び込んでくるのを待つ。

ニィはそれを、ただ黙って見続ける。どこかに隙が無いかを探しているが、イザベラは全くと言って良いほど隙を見せない。

二人は試合が始まってから三分ほど、どちらも全く動かなかった。観戦者達も固唾を飲んでそれを見守る。

 

「グゥゥゥゥ……ニャア!!」

ついに我慢の尾が切れたのか、ニィがイザベラに向かって飛び込む!両手の爪をかなり伸ばして、引っ掻く体制に入った!

空中で大きく振りかぶり、全力でイザベラの顔と胴を狙いにかかる!

 

が。

 

ガシイィィィ!っとその爪が手に掴まれる。顔面と身体を切り裂くはずだった武器は、その一歩手前で止められた。

イザベラは鋭利な物を掴んだ事による手の出血も気にせず、むしろより強く爪を握りしめ、思い切り地面に叩きつける!

「グェ……ぁ……うに゛ぁぁあああ!?」

ニィは悲鳴をあげる。その右手の爪が五本中三本、左手が五本中二本、それぞれ剥がれていた。

「……脆い」

イザベラはニィの手から剥がれて自分の手に食い込んだ爪を外すと、地面に放り投げ、かかと落としでそれを粉砕する。粉々に砕け散ったそれを見ながら、イザベラはニィに言う。

「もうリタイアした方がいい」「……っ!」

その声は決して冷酷でも無く人を馬鹿にした響きも無く、むしろ優しささえあった。そんな声でイザベラは言う。

「長年傭兵稼業をやってきた私とお前では、やはり経験値の差というものがある。それはそうそう破られはしない。世の中には大物喰い(ジャイアント・キリング)なんて言葉があるが、それは決して勝てるはずが無い、なんて言われてたやつが勝つからそう言われる。逆に言えば、それだけ勝つ目が少なかったという事だ。今のお前も同じ。無駄に傷つけられるよりは早く降参した方がいい。今だって……痛いだろ?」

ニィは右手で左手を抑えながら、イザベラの方を向き直す。その目には涙が浮かんでいた。

 

しかし、その目は死んではいない!

 

「そんな、初戦敗退なんてお断りだにゃ!」

ニィはイザベラに強く言い、今ある残りの爪を地面に叩きつけ、折る!するとその両手に、新たな十本の爪が出現する!

「奥義・『爪合わせ』!ニィはここに来てからの修行でこんな事も身につけたのにゃ!」

先ほどとは違い、少々青みがかった爪を見てイザベラは眉をしかめる。

「やる気なのか?」

イザベラの先ほどより低い声に、しかしニィは臆さず答える。

「当たり前だに「残念だ」

 

ニィの腹部に、イザベラの左拳が突き刺さる!

 

「せめて痛みを知る間も無く気絶するがいい。

 

『紫電掌』」

 

イザベラの手から電撃が走る!それはニィの身体を貫くと更に数m上空まで飛んでいき、そこで霧散した。

「か……はぁ…………」

白目を剥くニィの口はだらしなく開き、中からザラザラとした舌が無遠慮に垂れている。身体は微弱な電磁波に震えていて、イザベラがその手を離すと今にも崩れ落ちそうだ。その急な衝撃に身体が耐えられなかったのか、時々わざとらしいと思うほどに大きく振動する相手を見て、イザベラは短く

「……勝負あり、だな」

イザベラは拳を一度身体から離すと、倒れかかってきたニィの頭を肩に置き、抱きかかえるように持ち上げる。そこから彼女を寝かせるため動かそうとする。

 

 

その肩に、痛みが走った。

 

「っつ!」

イザベラは肩を見る!そこには先ほどまで白目を剥いていた少女が、大きな口を開けて噛みついていた!

「あがよううはおあっえいあいぎゃ!」

ニィは更に顎の力を強める!数秒して、ゴキン、という鈍い音が辺りに響く!

イザベラは数度右手でニィの腹を殴り、なんとか肩からニィを外す。が、噛み付かれた左腕には力が入らなくなっていた。

「……肩を外したか」「本当は骨を噛み砕くつもりだったんだけどね」

左腕を使い物にならなくさせられながらも未だ余裕を持った感じのイザベラに、ニィは苦々しい顔をしながらも応じる。その身体の震えは止まっている……というより最初からなかったかの様に堂々と立っているニィに、イザベラはなぜ痺れていないのかを質問する。

「私に勝ったら教えてあげるにゃ」

言うと、ニィは爪を空にかざす。その爪には、強力な電気が流れており、バチバチと音を立てている!!

(なるほど、爪を避雷針の様にして電気を全てそこに逃がしたのか……)

そう考えているイザベラに、再び顔と胴をめがけて爪が飛ぶ!

「今度のは電撃入り、掴んでも痺れるにゃよ!」

イザベラは後ろに飛び、それを避ける。しかし、

 

「遅いにゃ!」

昇格(プロモーション)して騎士(ナイト)の速さを手に入れたニィがイザベラの背後に回る!そしてその背中を全力で切りつける!

「がぁっ!!」

イザベラは呻くが、倒れない。彼女は脚に電気を纏わせた回し蹴りでニィを威嚇しながら、間合いを取る。

「にゃ!?今のはかなり本気だったんにゃけど!?」

ニィの動揺、その一瞬の隙を突きイザベラはニィに急接近し、その長く伸びたに蹴りを入れる!最初に叩き割った時よりかは硬くなっていた爪だが、イザベラの蹴りの前に十本まとめて容易く散った。

それを見たニィはギョッとして、騎士の力で逃げようとするが、イザベラはその服を掴み自分に引き寄せ、

 

「『双撃紫電掌』!!」

 

避雷針を無くした身体に右拳と左拳を当て、電撃を浴びせる!!

イザベラの電撃で、ニィはゴロゴロと1mほど転がり、停止する。

「一応、念には念をというやつだ」

イザベラはその両手に魔力の電気の塊を造り出し、ニィに思い切りぶつける!それはニィの腹部に当たり、霧散する。

ニィはピクリとも反応しなかった。イザベラはそれを見ながらライザーに告げる。

「ニィはもう戦闘不能だろう。早く看病してあげてほしい」

 

ライザーはこう答える。

 

いや(・・)まだだな(・・・・)

 

 

何っ!?とイザベラが言うと同時、

 

ニィはすでにイザベラの目の前にいた。

「なっ!?」

イザベラは右腕を前に出してガードしようとしたが、

 

 

その顔面に、戦車(ルーク)昇格(プロモーション)したニィの右拳が突き刺さった。

「ぶ……がぁ……」

倒れゆくイザベラの腹に、更にニィは1撃をお見舞いする。

地面に仰向けになり肢体を投げ出して、イザベラはそれから20秒間動かなかった。

 

『……イザベラ戦闘不能、これによりニィの勝利とする!』

 

「ジャイアントキリング成功ってね」

ゲホッ、と血……ではなく毛玉を吐きながら、ニィはニヤッと笑った。

 

 

 

 

 




1試合目はニィの勝ち!ちなみに、なぜ彼女が電撃を喰らって動けたのかはまた次の機会……かな?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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1回戦第2試合 〜リィの秘策〜

『では、1回戦第2試合!「リィVSシーリス」始め!!』


開始の合図と共に、シーリスはフルンティングを地面に叩きつける!地面にヒビが入り、割れた土や石の破片が宙に浮かぶ。それを、シーリスはフルンティングの横腹でリィに向かって打つ!

「にゃ!?」

とっさに顔面の前で腕をクロスさせ、身を守るリィ。しかし、ガードすることによってできた隙を見逃すシーリスではない。

土を守りきったリィの頭上には、すでに騎士のスピードで回ってきたシーリスが自慢の剣を振りかざしている!

「えっ、ちょっ」

 

リィの頭に、フルンティングの柄が叩きつけられた!

 

「お、おおおおおぉ〜〜〜!!」

頭を押さえて呻くリィ。どうやら戦車(ルーク)昇格(プロモーション)して、少しでも防御力を上げる事で気絶は免れた様だ。

そのリィの腹部に、シーリスの膝が飛ぶ!リィはガードする間も無く、蹴飛ばされて地面を転がる。

 

「……さっきの第1試合を観て思った事は、やはり油断は敵だという事以外にもう一つある。容赦は自分の首を絞める行為だという事だ」

シーリスは剣先をリィの方に向けながら、宣告する。

 

「リタイアしろ。さもなくば血に飢えたこの剣が、お前の身体を貫く。ルール上は死なない限り反則にはならんからな。殺す気は無いが、私は容赦しないぞ?」

 

うずくまってシーリスの話を聞いていたリィは、その言葉を聞くと、

 

 

着ているメイド服の襟首の中に、顔を突っ込んだ!

 

シーリスは突撃を開始する。頭をどこにあるかわからなくすれば、躊躇してくれると思ったのだろうか?などとリィの奇行に頭の中で?マークを浮かべながらも、その剣がリィに近づくのを止める事は無い。

(あの体勢と体型ならば、胸より下には確実に首がいっていない。ならば、腹部を突く!!)

衝突寸前のシーリスは、その少し前にリィが服の中から首を外に出すのを視界の端で見た。突撃されているとわかって逃げようと遅い行動を開始したのだろう、などとリィの性格を吟味して結論付けるシーリスの剣が、ついに座っているリィの位置へと重なる--!!

 

 

「……あれ??」

 

シーリスは、そう口に出す。理由は簡単。剣から肉を突き破る感覚が無かったからだ。音も無い。悲鳴も無い。もちろん審判達による決着の言葉も無かった。

剣の切っ先にぶつかっている筈の、リィの姿もそこには無かった。

「何!?あの状態から逃げた!?どうやって!!」

 

シーリスが混乱していると、上から声が聞こえた。クスクスという、笑いを押し殺してなお堪えきれずに出てしまった様な声だ。

 

シーリスが上を見るとそこには、悪魔の翼を広げて十mほど上を飛ぶ、リィの姿がある!

「ば、バカな!ありえん!!お前が翼を広げて飛び去るまでには五秒ほどの時間を要するはず!そのうちに私の剣がお前を貫いているはずだ!!なぜ避けている!?なぜ飛んでいる!?」

 

その叫びに、リィは反応し、口を開ける。

 

「ふひひ、フヒヒヒ、ヒハハハハ。ニャハハハハハ!ヒャハハハハハハハハハ!!」

 

返ってきたのは嗤い。それも、溜めて溜めて溜め続けていたものが放出した様な、とてつもなく大きな馬鹿嗤いだった。

 

 

 

 

 

 

 

と、不意にリィの姿が空から消える。

「何っ!?」

頭に血がどんどんと昇ってきながらも、何とか冷静にと努めながらリィを観察していたシーリスは、突然の出来事に驚愕を露わにする。

そのシーリスの横腹に、拳が叩き込まれる。シーリスはそれを受け、わざと地面をゴロゴロと転がり、謎の攻撃から距離を取ってその原因を探ろうとする。

しかし、その背中を踏みつけられたシーリスは、剣を片手に地に伏せる。首を回して背中にいる者を確認するシーリス。そこには、リィがいた。

 

ただし、様子がおかしい。

いつもは(時々だらしない顔になるが)美少女、とも言える彼女の顔が、ただならないほどに変化している。

視線はそこかしこを泳いでおり、一点に定まっていない。口は裂けているかと思うほどに大きく開いており、そこからは涎がダラダラと溢れている。頰は赤く染まっており、どこか火照っている様に見える。どこからどう見ても正気だとは思えない。

 

そんな奴が背中に乗っている、という事に危機感を覚えるシーリス。ここは一刻も早く離れた方が良い、と思い、彼女は持っている剣でリィの足を払うと、スピードを生かして全力で離れる。

 

「リィ、貴様何をした?完全に調子がおかしいぞ。恐怖にやられてしまったのか?」

シーリスの問いに応えるリィではない。彼女は再び視界から消える。それを見たシーリスは飛んで空に逃げると、寸前までいた場所にリィが立っていた。シーリスの先程の立ち位置に、再び拳を放っている。

リィはシーリスの方を向くと、再び消える。今度はシーリスは大剣を身体の前に出し、剣で前身を守ろうとする。ガードが完了したギリギリの所で、リィの拳が剣に叩き込まれる。シーリスはその隙を逃さずリィの腹部を力を込めた左脚で蹴りつけた!リィは、おかしくなる前の様に呻き声を上げたりせず、ただ素直に重力に従って地面に落ちていく。シーリスは攻撃が当たった事に少し安堵しながら、落ちていくリィを見守る。

「何だ、あの力や速さは……服の中に何か、強化剤でも仕込んでいたか?」

シーリスは、レーティングゲームなどで見た事の無かったリィの秘めたる力を見て、そう懸念する。通常のレーティングゲームで取れない、反則とも言うべきドーピングによる超強化。それが強さの理由だと思わないとリィのパワーアップに納得ができない。

(確かにこのトーナメントは反則はほぼ無い様なものだが……そうまでして勝ちにいく必要が……あー)

優勝賞品を思い出して腑に落ちるシーリス。その思考の隙を突き、リィはシーリスの後ろに回って彼女をアームハンマーで叩き落とした。

「ええぃクソッタレ!私としてもそんなくだらない理由で負ける訳にはいかないぞ!」

起き上がりながら怒鳴るシーリスの目の前にリィが現れる。その手には立派な獣の爪が、今にも獲物を仕留めんとばかりにキラリと光っている。シーリスが横っ飛びで爪の射程距離から外れると、リィはそちらを向き再び突っ込んでくる!

シーリスはフルンティングで何とか両腕による攻撃をいなすと、二撃目を放とうとしている状態の身体にトゥーキックをお見舞いし、その反動でまた少し距離を取る。

(何か弱点を探さねば、このまま負ける!何か……っ!)

再三の突撃を剣で対処する。と、そこでシーリスに疑問が浮かぶ。

(目に見えないほどのスピード……それなのになぜガードできるんだ?……あ!)

 

シーリスの頭の中に一つの仮定が生まれる。

(試してみる価値はある。ただ、外したら隙は大きい。一か八か、だな)

 

シーリスは最初と同様剣で地面を叩き、粉塵を今度は自分の上に撒き散らし、そこから距離を取る。石つぶてがパラパラと降るのをリィは笑いながら観ていた。

 

石や砂が全て落ちきる。すると、それを待っていたかの様にリィが姿を消す!

 

「リィ……やはりお前は馬鹿だな。せっかくのスピードも、きちんと動ける様にしなければ意味がない」

 

シーリスは両足を横に大きく開くと身体を横に向け、リィがいた方向とは反対側に、大胆にフルンティングを振りかぶる。

 

「お前はさっきから、突撃する前に数秒から十数秒のラグが生じていた。その間、お前は私の位置を確認していた。しかし」

 

シーリスは脚に力を込め、勢いよくフルンティングを横振りする!

「そんな事をするのは、移動中でも良かったはず!さらに言えば、攻撃も単調なものだった。大体が背後に回るか正面突撃かの二パターン。そのスピードを活かせれば、いろいろな場所から攻撃ができただろうに。

 

そこから導ける答えは一つ!」

 

豪快なスイング、その軌道の先に、リィが現れる!!

 

「お前は、その驚異的なスピードで移動できる代わりに、まっすぐにしか進めない様だな!!」

 

ガッ!!とリィの脇腹にフルンティングの腹が直撃し、

 

リィの身体は一直線に屋敷の方へと飛ばされていった。壁にぶつかり、落ちていくリィを遠目に見て、ライザーは勝敗を決した。

 




オマケ

リィをふっ飛ばしたシーリス。その頭の上に、コツンとぶつかるものがあった。先ほど巻き上げた石だろうか?などとシーリスがそれを拾い上げる。

「……実?」
シーリスが手に取ったのは、何かの植物の実。匂いを嗅ぐと、甘い香りが鼻腔に着く。
と、
「……にゃ!?シーリス!早くそれを捨てて!匂いがこっちにくる前に!!」
フィールドの外からこちらを見ていたニィが、慌てた様にそう言う。
「リーダー、燃やしてくれー」
そう言ってライザーの方にその実を投げると、彼は一瞬でそれを炭にした。

「……燃えたかにゃ?」
恐る恐るニィが質問する。そのニィにシーリスは質問を被せた。
「あの実はなんだ?リィの強化と関係があるのか?」
それに対しニィは、できる限りその炭からも離れる様にしながら言う。
「あれは……私達猫又……いや、猫にとっての天敵とも言える存在……その名も

『MATATABI』

あれを嗅いだら最後、しばらくの間は興奮と共に意識が飛んでしまうのにゃ……ああ、恐ろしにゃ」
「確かに、かなり狂暴化していたな。


満月の日のシーリスみたいだ」
主人からのその言葉を聞き、シーリスは固まる。
「……えっ、私っていつもあんな感じなのか?」
「まぁ、涎を垂らしたりはしていないが、白目を向いて奇声をあげて襲い掛かってくるから似た様なものだなぁ」
それを聞いたシーリスは、

「っ!」
顔を赤くして己の癖(?)を恥じるのだった--


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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1回戦第3試合 〜個々の実力〜

『さぁ、1回戦第3試合!「ネルVSイル」始め!!』


イルとネル、双子の姉妹は対峙する。その手にはいつも戦闘時に使うチェーンソーがない。

 

(?……二回戦はどっちかと当たるだろうからあのチェーンソー捌きを一回ちゃんと観察しようと思ってたのに、二人とも使わない訳?)

雪蘭(シュエラン)はフィールドの外から二人を眺め思う。雪蘭は、イルとネルの攻撃方法はチェーンソーを使ったツープラトンしか知らない。どちらが次に当たっても良い様に、と真剣に観察を開始する。

 

 

二人は同時にぺこりとお辞儀し、ファイティングポーズを取る。ただ、そのファイティングポーズは二人には珍しく、それぞれ別の物だった。

(ネルのは、拳法風……と言うより、イザベラみたいなパンチングスタイルかしら。で、イルのは……なんだろ、あれ?)

雪蘭はイルの構えを見て、雪蘭は眉をしかめる。飛翼砕雪(ひよくさいせつ)拳の継承者として他流との交流試合や、拳法ではないバトルスタイルとの異種間交流試合を数年前からやっていたが、あんな構えの物はなかった。

姿勢は少し猫背気味、腕は前に出しているが、拳を握ったりはせず手は開いたままだ。脚は大きく横に開いている。あれで素早く動けるのだろうか?

(あれかしら、レスリングスタイル。私はまだ戦った事も見た事もないけど)

雪蘭は初めて見るであろうイルの攻撃スタイルに、期待を覚える。

 

「いくよ、イルちゃん!」「良いよ、ネル!」

まずネルがイルに向かってダッシュ。そして、イルの3mほど手前で、前に向かってジャンプ!

(え、でもあの距離じゃイルには届かない……!?)

 

ネルが届いたのはイルの1mほど前、ネルはそこに手を突き……手と腕と翼の力でもう一度飛ぶ!

そこから繰り出されたのは、重力と羽ばたきによる超スピードの両足ドロップキック!

 

しかしイルはそれを冷静に見る。そしてギリギリでその横を通り抜け、

 

 

ネルの襟首を掴み、そのまま彼女の身体を地面に叩きつける!

ネルはゴホッと咳き込むが、身体を強引に回してイルの手を離すと、そのまま背中を使ってその場でスピンし始めた!まるでブレイクダンスの様な動きに、雪蘭は見入ってしまう。ネルの下半身がだんだんと上に昇っていき、倒立姿勢に近づいていく。ついに身体が地面から離れ、掌を地面につけて高速回転するネル。

 

と、その回転により勢いをつけた脚がイルに向かう!イルは再び済んでのところでそれを避けたが、ネルの回転と攻撃は止まらない!彼女の二の足、三の足がイルへと飛び、それをイルはひたすらに避ける!回転速度に手がついていかなくなったのか、少ししてネルは倒立をやめ、最初の構えに戻る。その一瞬の隙をついて、イルがネルに飛びかかる!

 

「でりゃああ!!」

そのイルの顎を、ネルの右脚が蹴り抜く!イルは上に吹き飛び、重力に引っ張られて落ちていく。寸前で翼を出し地面と衝突するのは避けたが、彼女は顎を抑えて半泣きになっている。かなり今の技が効いたらしい。

「ネル、イルもう怒っちゃったよ!脚の骨折っても怒らないでね!!」

その言葉と同時に、イルは最大出力でネルに近づく!ネルもここまで速く間合いを詰められるとは思っていなかったのか、少し動揺が走る。

そのネルの胴をイルが抱きしめる様に腕を回して掴み、

 

「バックドロップ!!」

 

翼を使っての縦回転で、ネルの頭を地面に叩きつけた!!ネルの口から苦痛の声が上がるが、イルの攻撃は終わっていない。

彼女は胴を掴んだまま、翼で上空へと飛んでいく。数mほど昇ったところで、彼女は翼を引っ込めた。

重力に従い、二人の身体は地面へと落ちていく。が、ネルは捕まっていない脚を使ってイルを攻撃し、上空からの叩きつけから逃げる事に成功した。

 

空中で火花を散らす二人。しかし、イルが先んじて地面へと降りる。ネルも同じく地面へと降りた。

(?なんで地面に?地面の方が都合が良いのかしら?)

雪蘭は考察する。確かに今までの攻撃のうち、イルの攻撃は全てが相手を地面に叩きつける技だった。地面に相手がいないと不利なのかもしれない。ネルは……今までの攻撃は空中でもできそうだ。しかし地面に降りたという事は、イルに合わせたのだろうか?

今度はネルが間合いを詰め、右上段蹴りでイルの顔面を狙う。先程の顎のダメージで痛みと脅威を練り込まれたのか、イルは後ろに跳んで距離を取る。対してネルは上段回し蹴りの勢いで側転し、イルとの距離を再び縮めた上で、

 

「突撃ぃ!!」

地面を両足で蹴り、空中で回転してイルに向かって飛び蹴りを放つ。今度はイルもそれをちゃんと見て避け、

 

それと同時に、ネルの左足がイルの脇腹に入る!

 

「えっ!?」

イルの意識が脇腹に向かう。それを狙って今度は右脚をかかと落としの様に落とす。それは頭に当たり、イルは反射的に頭に手を当て悶える。

「イルちゃん!まだまだ終わらないよ!」

ネルが次に繰り出したのは足掛け。イルの脚がもつれる。そしてガラ空きになった腹を見て、再びネルは手を地面につくと、

 

「大回転!!」

その身体を再び踊る様に回す。脚がプロペラの刃の様に次々とイルの身体に叩き込まれていく!連撃がモロに入り、イルの身体が後ろに吹っ飛んだ。人一人分離れたところで、イルは倒れる。

「まだ終わってないよね!」

ネルは手をバネの様に曲げ、反動で飛び上がる!空中でクルクルと横回転を繰り返し、

 

「喰らえ、ネルの必殺技!!『フェニックススクリュードライバー』!!」

ドリルの様に回りながら、全力で突撃する!!空気を切る音がだんだんと大きくなっていき、それと比例する様にだんだんと突撃スピードも上がっていく!そしてその脚がイルの身体に届く、その寸前で、

 

「まだ終わってないよ!」

イルが立ち上がる!彼女は地面から脚を離し、ネルの身体を受け止めようとするが、あまりの回転に腕が弾かれてしまう。

「甘いよ、イルちゃん!ネルの必殺技が掴める訳ないもん!」

そして、イルの腹にネルのつま先が食い込んでいく!ネルの身体は回転と勢いを殺しながらも、ゆっくりと脚をイルに押し込んでいく。

「イルちゃん、これで終わりだよ!!」

ネルは右脚を腹から抜き、再び顎に向かって放つ!イルが反撃する事ができない、それほど弱っているのを見越しての事だったが、

 

ガシィ!と、イルの両手がその右脚を掴む。

「えっ!?」

今度はネルが、疑問の声を上げる。

「イルちゃん、もう動けないんじゃ……」

その言葉に、イルはニコッと笑うと。

 

身体から残ったネルの脚を抜く様に彼女の身体を引っ張る!ネルはその勢いのまま、上空へと放り上げられる。技に移行したり防御体制に入ったりする前に、ネルの両脚がイルに掴まれた。

「……イルちゃん、離して?」「やだ☆」

 

数秒後、ネルの身体がパイルドライバーで地面に叩きつけられた。

 

「……勝った!!」

キュー、と目を回すネルを見て、イルは両腕を上げる。それを見て雪蘭は思った。

(……相性はそんなに悪くはなさそうね……)

 

 

 

 

 

 

 




〜オマケ〜

いったん部屋に戻り、健闘した二人の身体を『フェニックスの涙』を染み込ませたタオルで拭いてやるライザー。彼女らはお互いの攻撃を受けたところに立派な青痣や腫れを作っていたが、『フェニックスの涙』によってスウッとそれらも引いていく。
「「ありがとう、お兄ちゃん!」」
頭を下げる二人の頭を、ライザーは強く撫でてやる。
「お前達二人もよく頑張ったぞ!ちゃんと課題通り強くなってたしな!」

それを部屋の外でコッソリと聞いていた雪蘭は、『課題』という言葉に反応する。
(やっぱり、ライザーは二人に何か教えてたんだわ。それも、私達の拳法以外の何かを!)
悔しさと怒りがだんだんと湧いてくる雪蘭。その課題の詳細を聞くためにドアに再び張り付く。

「でも、TVで見た格闘技を真似るって、意外と大変だったねー」「うん、なかなか動きとか技とか覚えるの、難しかったー」

その言葉を聞いて雪蘭はずっ転けた。
(て……テレビ?テレビの技の模写?ああいうのって達人とかがやる『魅せる』もので、闘う人がやるもんじゃないでしょ……)
雪蘭は思う。今の彼女達は、その『魅せる』攻撃を実戦レベルにまで昇華し、雪蘭も見事と思う様な勝負をしてみせた。
イルとネル、二人の才能を肌で体感する雪蘭。
(これは……将来、とんでもないバケモノになるかも。いや、なる。もしかしたら、私もおいおい抜かされるかも……)
不安になる頭をブンブンと振って、雪蘭は気持ちを改めた。
(そうよ!あの子達が強くなるっていうなら、私はもっと強くなれば良い!今のところはまだ私の方が強いはず。そこから同じだけ成長していけば、追いつかれる事はない!)
その為に、何としても今回勝たねば、と心に決める雪蘭。と、その耳に更に三人の声が聞こえてくる。

「えっと……お前達は何を見たんだっけ?」
「イルはねぇ、プロレスとサンボ!」「ネルは、カポエイラ!!」
(え、何?何それ?プロレスはわかるけど、後の二つ!私そんな格闘技聞いた事も無いわよ!?)

雪蘭は思う。まだまだ世界は広い。





今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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1回戦第4試合 〜最終奥義〜

『では、1回戦第4試合!雪蘭VSカーラマイン、始めぇ!!』


カーラマインはベルトから二本の短剣を取り出すと、片方を雪蘭(シュエラン)に投げつける。

それに対し雪蘭は基本の構え、『風花』を解くと右に跳び、そちらに拳を振るう。

と、騎士(ナイト)の素早さを駆使して裏に回ろうとしていたカーラマインが吸い込まれる様に拳とぶつかり、吹き飛ばされた!

「っ!小細工は通用しないか!」

空中で体制を整え、着地するカーラマイン。その真正面に雪蘭が迫る。右の拳がカーラマインをめがけて振り下ろされる。それに対しカーラマインは腰の二本の長剣の片方を抜き、拳ではなく雪蘭本体を狙う。

 

「かかったわね!」

一足早く雪蘭の拳がカーラマインの顔を捉える……事はせず、顔の前を通り過ぎる。雪蘭は、腕を振った勢いでスッとカーラマインの横まで滑る様に移動し剣を避け、

 

「『氷山』!!」

腰を落として背中から体当たりをぶつける!カーラマインは再び吹き飛び地面を転がる。

「ほらほらどうしたの!?まだ一発も当てられてないわよ!」

挑発する雪蘭に対し、カーラマインは服についた土を払うと、長剣を両手で持ち、構える。

 

「炎よ!我が剣に宿れ!!」

瞬間、カーラマインの長剣に煌々と燃える炎が宿った!!

 

「……って、はぁ!?そんなのアリ!?」

雪蘭は驚愕する。カーラマインはそれにキョトンとして、雪蘭に告げる。

「ん?あれ?フェニックスは火の鳥だから、フェニックス眷属は皆、炎の技を操れる様にするんじゃなかったのか?」

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 

「あれ?この前リーダーにそう言われて、この『炎を剣に纏わせる』技術を習得したんだが……」

それを聞いて、雪蘭はプルプルと震えると。

 

 

「ラァァァイィイィイザァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

雪蘭ではなく、審判のライザーに襲いかかる!主審の顔面に、重い拳が突き抜ける!

「WRYyy!?」

地面に倒れたライザーに馬乗りになり、雪蘭は彼を尋問する。

 

「ライザー!私聞いてないわよそんな事!なんで私を無視しようとするのよ!そりゃあ私は強いからそんなの必要ないなんて思っても仕方がないとは思うけど、だからって仲間ハズレは酷いんじゃないの!?」

「す……すまん……」

首が絞まっているのか、少しキツそうにしながらライザーは雪蘭に謝る。

「まだカーラマインとイザベラくらいにしか今の事は言ってなかったんだ。カーラマインとイザベラは特に頻繁に格闘の稽古をするから……いずれ他の眷属にも言うつもりだったんだが……」

「そういうのは皆を集めていっぺんに言うものよ!だってそうしないと不平等感とか出るでしょ!私だって言われれば一生懸命やったのに……あ、あんたのためじゃ無いけど。フェニックス眷属がそういう炎を操るって設定があるから、仕方なく合わせてあげるだけだけど!」

最後の方は早口で告げる雪蘭に、ライザーは真面目な顔になって言う。

「すまない……でも、雪蘭の都合も考えてたんだ」「えっ?」

 

「雪蘭……お前は生まれてからずっと教え込まれてきた、拳法が身についてる。その安定した力に別の刺激を加えたら、お前の強みが崩れてしまうんじゃないかって思って。今の試合を見てたけど、やっぱりお前は強い。だからこそ、下手に別の事を教える事はできない……お前のファイトスタイルを変えてはいけない……そう考えた」

言いながらライザーは、雪蘭の右肘あたりを撫でる。そこには、少し膨れた箇所があった。最初のレーティングゲームの際に射抜かれた矢傷の跡だ。

「下手に新しい事を教えて、そのせいでお前が敵に対応できなくなったら……いや、炎で怪我でもしてしまったら、俺はお前と師匠に申し訳が立たなくなっちまう。だから、お前にはあまり言うまいと思ってたんだ。ごめんな」

 

雪蘭はそれを聞いて、ライザーの身体から下りる。倒れたライザーに手を貸し、彼を起こした。

 

「私こそごめんなさい……まさかアンタがそんなに真剣に考えてるなんて、思ってもなかった。ただ単に、私だけ一緒に住んでないから忘れてるんだと思ってた」

「いいさ、俺だって悪かったんだ。お前に聞きもしなかった俺が……」

謝るライザーの口を、雪蘭は人差し指を当て黙らせる。

「私、優勝商品決めたわ。

 

優勝したら、アンタに炎の技を教えてもらうわよ。一日かけてきっちりと、ね。」

「!……ああ、わかったよ」

 

雪蘭はライザーから離れ、フィールドに戻る。中では炎の剣を持ったカーラマインが、親切にも待ってくれていた。

「……ん?終わった様だね。……表情が変わった。とてもいい顔だ」

「待たせたわね!早速で悪いけど、倒されてもらうわよ!!」

「私だって、楽に倒されはしないさ」

お互いニヤリと笑うと、雪蘭とカーラマインは激突する!

まずはカーラマインが炎剣を横薙ぎに振るう。対して雪蘭は、バックステップで退避する。

続いて五本の短刀を投げつけたが、それは全て雪蘭の裏拳で弾かれる。

弾きで動きを止めた雪蘭の頭上から、カーラマインは右手で炎剣を振り抜く!

「効かないわよ!」

雪蘭は再び横滑りをして剣を避ける。が。

 

「それはどうかな!」

カーラマインは空いた左手で腰からもう一方の長剣を抜くと、雪蘭に向かって突きを放つ!!

雪蘭はそれを、右手で受ける。骨に剣が当たる音が、鈍く響いた。

しかしそれでも。雪蘭はニヤリと笑う。

 

「エサに喰らいたいたわね」

 

雪蘭は、足に力を込める!カーラマインの視界にもそれが見て取れた為、彼女は左手の剣を捨て一瞬で距離を取る。

直後、カーラマインがいた場所に強烈な膝蹴りがお見舞いされていた。

 

「残念だったな!私を捕まえるには、速度が足りなかったみたいだぞ!」

言いながらカーラマインは、力んでしまい隙だらけの雪蘭に、炎の剣で突撃を仕掛ける!

「これで……終わりだ!!」

 

「万物は天へ昇り、天は雪を降らす」 「!?」

 

カーラマインの突撃は、しかし避けられた。突いた、と思った時には、雪蘭は翼を使い上に飛んでいた。カーラマインは勢いをできるだけ殺さない様に地面を蹴って飛び上がる。

 

「鳥は翼を用い、翼は天を切る」

 

カーラマインの長剣が雪蘭の腹に刺さる……直前、雪蘭の右肘が剣にぶつけられる!

 

「天を切る翼に、雪結晶が勝てようか。いや、勝てまい」

 

長剣に纏った炎が分散し、空気に溶けていく。生身の剣身が雪蘭の肘とぶつかった!

 

「結晶は砕けて、翼となる」

 

しかし、その剣も刃先を肘にぶつけた途端に、粉々に砕け散った!カーラマインは驚きながらも、ベルトから数本短剣を引き抜き、全力で雪蘭に投げつける!

 

「翼となりし雪結晶に、万物何が勝てようか。いや、勝てまい」

 

雪蘭は対して、再び右手を使って全てを叩く!叩いた短剣は粉々になり、雪のように空を舞い、雪蘭の右手にくっついていく!

 

「砕雪をまぶした飛翼は、誰にも砕けぬ。誰にも崩せぬ

 

それが天命なりて、それが運命なり

 

故に、飛翼砕雪は無敵の力となる」

 

攻撃が通らないと見たカーラマインはその場を離れようとしたが、そこで何かに引っ張られるように雪蘭の前に送られてしまう!カーラマインは顔をひきつらせ、最後の抵抗と言わんばかりに残った短剣二本を両手に持ち、雪蘭に直接刺しにかかる!

 

が、雪蘭はそこで目を見開き、

 

「飛翼砕雪拳、最終奥義。

 

 

『飛雪千里』!!!」

 

カーラマインの腹部に、雪蘭の右拳が叩き込まれる!

 

カーラマインは一瞬、くの字に身体を曲げると。

 

 

次の瞬間には、地面に叩きつけられていた。

 

のみならず、カーラマインの周囲は陥没した様に凹み、フィールド全体がひび割れていた。

 

 

「が……ゴホッ!……ゴボッ!!」

 

カーラマインは何かを言おうとしたが声は出ず、二回目の咳と共に血塊を吐き、そして意識を失った。

 

 

『勝負あり!』

告げるライザーに向かって、雪蘭は左手でピースサインを作った。

 

 

 

 




〜オマケ〜

「ひーん……痛いぃ……」
雪蘭は穴の空いた手に、慌てて『フェニックスの涙』を塗る。先に折れたらしき骨に塗るため、指を空いた穴の中に入れるのだが、その際に肌に指が当たる度に痛みが走る。
「戦ってる時は何ともなかったのにぃ……」

言いながら雪蘭が治している隣に、カーラマインがお姫様抱っこでライザーに運ばれてきた。
「『フェニックスの涙』を借りるぞ」
ライザーは『フェニックスの涙』をカーラマインに飲ませようとするが、カーラマインは気を失っていて口を開かない。
「……仕方ないか……」

ライザーは口に『フェニックスの涙』を含むと……カーラマインにキスをする。


「って、えええええ!?何やってんのよライザー!!?」
慌ててツッコミを入れる雪蘭に、ライザーはいつも通りの口調で言う。
「いや、どうも『涙』が自力では飲めない様だったから、俺が口移しで飲ませてやったんだよ」
「何でアンタが飲ませる必要があるのよ!?ディマリアさんとか呼んでくればいいじゃない!」
「いやぁ、こう言うのはできるだけ早く治した方がいいと思ったからさ」
「アンタ、治癒目的の為とはいえ、乙女の唇をそんなやすやすと奪っていいと思ってんの!?カーラマインもそれを知ったら怒るわよ!?」

その言葉にライザーは、思わぬ発言をしてくる。

「え?前やった時は、怒られなかったけどな」


その後ライザーに雪蘭の奥義が飛んだのは、言うまでもない。





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2回戦第1試合 〜対人〜

ーー1回戦終了から一時間後。

『よし、休憩終わり!各自準備はできたか?

今回トーナメントを勝ち進んでいるのは、

ニィ。シーリス。イル。雪蘭。
以上四名!

今から2回戦だ。これに勝てば決勝!心して戦うように!

では、2回戦第1試合!「ニィVSシーリス」始めぇ!』


開始と共に、シーリスはフルンティングを地面に叩きつけ、割れた地面の欠片をニィに向かって飛ばす!1回戦、リィへの攻撃と同じやり方だ!

対しニィはガードせず、飛んで逃げる。

「ふむ、やはりリィと同じ戦術では駄目だな」

やはり1回戦と同様、ニィが元いた地点にたどり着き、剣を振るシーリス。柄が土にあたり、少し抉れた。

 

「ニィをリィと一緒にされては困るにゃ。私はメイドの職務の空き時間や休みの日は、約半分を修練に当てている。休みの日はいっつもご主人様の膝の上で寝ているリィとは違うのにゃ!」

ギリギリと歯を鳴らすニィ。対しシーリスは笑う。

「そうか、私はお前と違って給仕の仕事はないからな。私は特訓は一日のうち三割程度だが、それでもお前より長く鍛錬してると思うぞ。それに……お前と私では訓練の質が違う。私の訓練は……対人特化型だ」

 

言うや否や、騎士(ナイト)の素早さでニィの横まで一瞬で移動するシーリス。ニィが逃げようと高度を下げるその一歩手前で、シーリスはニィの翼を掴み、勢いよく引っ張る。目の前に連れて来られたニィのボディに、フルスイングした剣の柄を命中させた!

下へと勢いよく飛んでいくニィ。何とか地面スレスレで一回転し墜落は避けた、が。

「立て直しが遅い」「んにゃが!?」

吹き飛んでいくニィに並走していたシーリスが、その顎に飛び膝蹴りを放つ!ニィは衝撃で今度こそ地面に叩きつけられ、そのまま地面を滑っていく。シーリスはそれを追尾し、ニィの腹に乗り上げるとマウントを取る。背中にフルンティングを背負い両手を自由にすると、

 

殴打、殴打、殴打。

 

対してニィは腕でガードしようとするが、シーリスは腕の間を縫って拳を的確に顔面や胸部に当てていく。

 

「にゃあ!?……こうなったら、使うしかないにゃ!」

ニィは大きく目を見開く。赤い瞳が黄金色に変わり……

 

「にゃあ!!」「あがっ!?」

 

青白い電撃がニィの身体から発せられる!密着しているシーリスは、それをまともに喰らい、動きを止める。

その隙を逃さず、ニィは入れ替わるようにシーリスからマウントを取り、手の爪を伸ばす。それをシーリスの口に噛ませ、「にゃあ!!」と再び電撃をお見舞いした!シーリスは細かく痙攣しながらも、右手で背負ったフルンティングを再び抜く。

それを見たニィが剣を振らせないよう右手を押さえにかかるのを見て、シーリスは左足を動かしニィの背中を軽く蹴る。

右手を押さえようと重心を前に傾かせていたニィはバランスを崩し、シーリスに抜け出されてしまった。

 

シーリスは額を押さえて頭を振り、意識をはっきりさせようとしながらニィに話しかける。

「お前のその能力……一回戦でイザベラの電撃攻撃を防いだのはそれか?」

ニィは言われて顔をしかめる。

「決勝まで秘密にしておくつもりだったのに……バレてしまっては仕方がにゃいにゃ」

目を赤に戻したニィは、ポーズを決めながら堂々と言った。

「これがニィの新たな技その2、『猫変幻(ねこへんげ)』!

猫又をベースに猫、と呼ばれる生物の力を取り込む能力!この力があれば、シーリスにだって負けないにゃ!」

 

今の会話の間に痺れから回復したシーリスはそれを聞くとフッ、と笑った。

「力を取り込む……とは言っても、猫限定だろう?悪魔や天使……あるいはフェニックス、そんな力を取り込む事ができない限り、私は負けないさ」

一筋の電撃が迸るが、シーリスは首を傾け避ける。髪の一房に擦り、毛が数本舞った。

「猫の力を馬鹿にすると、恐ろしい目にあう……それをその身に思い知らせてやるにゃ!!」

ニィは言うと同時に走り出すと、一瞬でシーリスの裏を取った。そのまま爪を振りかざす!

「ほう、それは楽しみだ」

対してシーリスはフルンティングを背中に回してガードする。

 

『猫変幻・ウンピョウ!』

ニィに大きな牙が生え、シーリスの肩に噛みつきに向かう!

しかしシーリスはブリッジでそれを避け、起き上がる勢いでニィの顔面に拳をお見舞いする。ニィは怯みながらも腕を振る。

『猫変幻・ピューマ!』

シーリスは振ってきた腕を剣で受ける。爪が割れる音が響き、シーリスの顔の方にも1本飛んできた。シーリスは左手でそれを掴み、放り捨てる。そしてニィの方を向き……驚愕する。

 

「い、いない!?」

シーリスはニィを見失い、辺りを見渡す。しかしどこにもニィはいない。

「空か!…………ガッ!?」

一回戦のリィを思い出し、空を見上げたシーリス。そのワキ腹に、鈍い痛みが起こる。

「し、下か!!」

言いながらシーリスは肘打ちをニィに浴びせようとするも、ニィは既に離れた後。シーリスは地面にフルンティングをぶつける。地面を飛び散らせる事でニィを再び周囲に近づけない算段だ。

 

(くっ……不覚だった。傷が深い。もう一撃喰らえばアウトだ……

そして、それはニィもよくわかっているだろう)

シーリスはワキ腹の痛みを押し殺し、周りを見ながら冷静に分析する。

(ならば、次の一回に全てをかけよう)

 

シーリスはフルンティングを地面に再び叩きつける。三度叩きつける。四度叩きつける!

シーリスの周りの地面が割れ、裂ける!これでシーリスの周りに走って行くことができなくなった!

 

(さて、これでニィが背後から来るか前から来るか)

 

風を切る音が聞こえてきた。ニィは確実に、素早いスピードで接近してきている!

 

(これは何となくだが……リィは単純なやつだ、その分までニィは慎重を期して行動してる。だから裏を取ることで安心する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と見せかけて!)

 

「前だぁ!!」

 

シーリスはフルンティングを前に大きく振る!

 

「にゃ……にゃにぃ!?」

 

ニィがシーリスの前に現れたのは、ちょうどシーリスがフルンティングを振り始めたタイミング!!

「喰らえぇぇぇえええええ!!!」

 

ニィの身体をシーリスの剣が捉えた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、誰もが思った。

 

剣を振り切ったシーリスは、手応えの無さを感じた。

 

 

「ま、まさか!?」

 

シーリスは、崩れて小さな足場しかない地面の方を見る。

ニィがいた場所に現在いるのは、小さな青い猫。猫はだんだんと大きくなりながら、拳を握る。

 

「対人特化だったから、こんなのは読めなかったでしょ?」

 

『猫変幻・バーバリーライオン!』

 

 

勢いよく放たれたパンチはシーリスの腹部に命中し、シーリスは空高く吹き飛ぶ。

錐揉み回転をしながら落ちてくるシーリスを、ライザーが両手で受け止めた。

 

『シーリスは気絶!よって勝負あり!』

 

「ネコを舐めるにゃよ!」

気絶したシーリスに向かって、ニィはパチっとウインクを決めた。

 

 

 

 




〜オマケ〜

勝者に向かい、リィは走る。
「ニィ!!ニィばっかり新しい技いっぱい覚えててずるいのにゃ!リィにも教えてよ!!」

対してニィは涼しい顔で言う。
「マタタビに頼っているようじゃ覚えるのは無理にゃ」
「ぐぬぬ……」
リィは歯ぎしりした。

「このままでは、最終手段に出なければいけなくなるにゃ……」
「最終手段?土下座でも……!?」

リィが懐から取り出したるは、対ネコ武器、MATATABI!

「ふへへはへ、これを使いたければ、リィに技を教えるにゃ……」
「くっ、ニィはMATATABIなんかに屈しないにゃ!!」


数秒後。


「ふへへへへへへへへへへ!!」

マタタビの枝を噛みながら、空高く飛んでいく一人の女の子がいた。

彼女を見ながら、その双子の姉妹は呆れたように呟く。

「我慢できなくて自分で使っちゃうなんて……リィは何がしたかったのにゃ……」


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2回戦第2試合 〜敵〜

『2回戦第2試合、「イルVS雪蘭」始めぇ!!』


雪蘭(シュエラン)はイルを眺め、目を細める。

「……あなたじゃ私に勝てないわ、今の私には」

「何をー!」

言われたイルは、その言葉に反論するように雪蘭に向かっていく。雪蘭との衝突、その寸前でイルは体制を落とし、足へのタックルに移行した!

「おりゃあ「フッ!」アバッ!?」

イルのタックルはしかし、顔面への蹴りによって中断された。イルは鼻血を吹き出しながら、地面を転がる。その目がハッと開かれた。

 

「そうだった!サンボに大切なのは『待つ』こと!相手が懐に入ってくるのを待つことが、サンボの必須条件!」

イルは服の袖で鼻血を拭うと、構えの姿勢に移った。イルはその状態から動かなくなる。

それを見た雪蘭は、今度は逆にイルの懐に突っ込む!

雪蘭の左拳がイルの腹に向かって飛ぶ……それを見てイルは嗤う。相手の攻撃を捉えてカウンター、という流れをずっと考えてきたイルには、打ってくる拳の動きがむしろスローに見えた。

(もらった!)

イルはその手を掴んだ!脚を絡ませ、腕ひしぎの要領で折りにかかろうとする!

 

……しかしその前に、雪蘭の右の拳がイルの顎先をしっかりと捉えた。

 

突然の衝撃。イルの視界がぶれる。力が入らない。

イル自身は知る由もないが、この時彼女は脳を頭骨内部に激突させ揺らし、脳震盪を起こしていた。

さらには既に意識を分散されたイルの下顎に、強烈な回し蹴り。その衝撃はイルの意識を完全に飛ばし、同時に軽い体重の彼女を文字通り宙に浮かせるには十分な威力だった。

 

白目を剥いて落ちてくるイルの身体に雪蘭の長い脚が絡まる。そのままパイルドライバーの要領で、雪蘭はイルの脳天を地面に叩きつけた!!!

 

数秒して、雪蘭はパイルドライバーの構えを解いた。倒立をしているイルの体制はそれにより崩れ、地面に倒れる。

十数秒経っても、イルは起き上がってこない。それどころか、身動き一つ取らなかった。

それを見てライザーは高らかに告げる。

 

『勝負あり!!』

 

雪蘭はもはやイルを見ていなかった。彼女の視線は既に、観客席にいる悪魔に向けられていた。

 

「ニィ!!このままかかってきなさい!!私は一刻も早く優勝しなきゃならない。休憩する必要もない。さっさとアンタを倒すわ!!」

 

その言葉に、観客用に出された室外用のイスでくつろぎながらも試合を観察していたニィは焦る。

 

(れ……レベルが違いすぎる!!私がかなうわけ……)

不意にポン、と肩に手を置かれる。ニィは振り向いた。

 

そこには、かつて戦った二人の強敵がいた。

 

「心配するな、そして恐怖するな。お前は格上相手でも十分にやっていける。イザベラとの戦い、そして私との戦い。お前はどちらにも苦戦しながら、しかし知恵と能力を駆使して勝ち上がってきただろう?」

「大丈夫だ、ニィ。お前ならきっといい戦いができるさ」

 

「二人とも……わかったにゃ」

うつむいていたニィは頰を一度、強く叩く。怯えや焦りによって混濁していた思考がはっきりする。尻尾をピン、と立ててニィは告げる。

「行ってくる!!」

ニィは背中を押されながら、バトルフィールドに飛び出した!

 

 

 




〜オマケ〜

「あれ、あそこは私が声をかける場面のはず……」
某暴走メイドはそう言いながら、イルの脚をゆっくり持つ。肩の方はネルが抱くように持ち上げている。
「まぁいいにゃ。変なこと言って姉の威厳を下げるより、こっちで雑用こなしてる方がマシなのにゃー」
ニィはそう言うと、ゆっくりとイルをフィールド外に運び出して簡易ベッドに寝かせた。

「……ハッ!」
数分してイルは起き上がる。顎の痛みに顔をしかめながら、横になっている今の状況を確認し、嘆息する。
「負けちゃったかー、ざーんねん」
看護の者に肩を貸してもらい、起き上がるイル。彼女の視界の中では、今にも試合が始まろうとしていた--


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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決勝 〜決着〜

長く伸ばした爪と蹴り上げた脚がぶつかり火花を散らす。それが開始の狼煙となった。



ニィは蹴られて耐久力が低くなった爪を自分で折り、雪蘭(シュエラン)に投げつけた!五本の鋭い刃が雪蘭に飛ぶ!

 

「こんなもの、効かないわ!」

対して雪蘭は地に足をべったりと付け、構える。

「『細雪(ささめゆき)』!」

空気を切る音が連続して聞こえる。雪蘭の拳が飛んで来た爪を全て打ち砕いた!

「くっ……にゃ!」

飛び道具が駄目ならと、ニィが脚を変化させて一気に雪蘭の横まで移動、その腕を狙うが、

「甘い、遅い!」

逆にその膝蹴りを脇腹に受けて怯むニィ。そこに雪蘭が連撃を仕掛ける!

「『結晶』!」

パッと開いた手を顔面にお見舞い、喰らったニィはふらつく。

「……からの拳技、『大雪山』!!」

その場でぐるぐると回った雪蘭は、その遠心力を利用した裏拳で、ニィを真上に吹き飛ばす!

そこから、先ほどのイルと同じようにニィを地面に叩きつけようと飛ぶ準備をする雪蘭。

「……に゛ゃあ゛おぅ゛ぅ!!」

しかし、それよりも早くニィが動く!

空中でニィは急激に肥大化し、落下エネルギーをも味方につけて一気に雪蘭の上に躍り出る。そこで変身を解き四肢を全て雪蘭に向け、

 

「『爪合わせ』っ!」

一気に伸びる計20本の爪々!雪蘭は目を見開き腕を前に出す。

「『細ゆ……っ!?」

しかし間に合わない。この至近距離、五本ならともかく20本を捌ききるのは、飛ぼうと足に力を込めていた今の雪蘭には不可能であった。右脚の腿を貫通し、左手を削り、右頰を切った爪はさらに被害を広げんと動き始める。

 

「ぐ……あ゛ぁい!!」

痛みで顔をしかめながら、重傷になりそうな右脚に突き刺さる爪だけは根元から叩き折る雪蘭。身体を支えていた爪が折られ、ニィのバランスが崩れる。その隙を狙って雪蘭が一発!

「『氷礫(こおりつぶて)』!!」

ニィの腹部に掌底をお見舞いする!

これにはニィも堪らず吹き飛んだ。内臓に負担が掛かったのか、ゲホゲホと激しく咳き込む。口から、数ヶ所赤に塗られた毛玉が飛び出た。

「こんな傷がどうした!私は負けられないのよ!飛翼砕雪(ひよくさいせつ)拳は無敵の拳法。それが何度も負けるなんてことはあってはならない!!」

雪蘭の目が大きく見開かれる。彼女は腕を大きく突き上げた。その腕の先に、魔法陣が現れる!

「にゃ!にゃにを!?」

何かをされる、されてはまずいと感じたニィは腕を振りかぶる!

「『猫変幻・アムールタイガー』!」

分厚くなった腕が雪蘭を襲う!

 

 

が。

「つ、冷た!腕が……ああっ!?」

ニィは急激な温度の変化に、思わず腕を引っ込める。そして自分の両腕を見て驚愕する。

腕は、氷に包まれていた。完全に凍っていたのだ。

 

「これが私の魔力。氷による魔力装備、『雲雀殺(ひばりごろし)』!!そして……」

雪蘭の腕には大きな氷の手甲が付いている。雪蘭がその手甲で地面を叩くと、地面は一気に氷面へと姿を変えた!

「これが『白銀世界』!!」

雪蘭の足にも魔法陣が現れ、雪蘭の靴にスケートシューズのような刃を付けた。その刃を使って、雪蘭はニィに急接近する!

 

「にゃにゃ、寒い……!」

対して、ネコ科で寒いのが苦手なニィは本能的に縮こまる。それを見逃さない雪蘭ではない。

両腕を拳に固め、前に突き出し、先ほどから執拗にダメージを与えていたニィの腹部に押し当て、

「奥義・『太平雪(たびらゆき)』!!」

その言葉と共に、両腕を一気に突き出す!その衝撃はニィの腹部を襲い、摩擦の少ない氷の床ということもあって一気にフィールドの端まで吹き飛ばされた!

「ゲボッ!」

今度は毛玉でなく、真っ赤な鮮血を流し、それでも立ち上がろうとするニィ。その真上に、先程ニィがやったように雪蘭が飛びかかる。

 

「『細雪』!……から『吹雪』!!……そして『氷山』!!!」

流れるような攻撃にニィはとっさに爪でガードしたものの、一撃目で爪は砕け、二、三撃目をまともに喰らう!

 

「うぐっ……!」

しかし、攻撃をしていた雪蘭にもダメージが入る。先ほどの爪攻撃の傷痕から、じわりと温かい血が溢れてきた。透明な手の甲冑に、紅が混じる。

痛みを耐えるように唇を噛みながら、雪蘭は思う。

 

勝った。

 

 

ニィはフィールドの端でうつ伏せに倒れており、その身体は寒さか蓄積されたダメージのためか、震え続けるのみ。全身に力は入っておらず、完全に伸びているように見える。

 

(だけど、油断しちゃいけない!!)

あれが狸寝入りの可能性もあることは、一回戦を観ていた雪蘭は百も承知。一気に、確実に決めるために、心を平静に整える。

両手足の甲冑を消し、雪蘭は飛び上がった。目を瞑り、唱える。

 

-万物は天に昇り、天は雪を降らす-

 

「な……まさか!?」

その1撃を喰らっていたカーラマインは、思わず声を漏らした。

 

-鳥は翼を用い、翼は天を切るー

 

「そんな、今のニィにそんなものを喰らったら……」

イザベラも、仮面に隠されていないもう片方の目を見開く。

 

ー天を切る翼に、雪結晶が勝てようか。いや、勝てまい-

 

-結晶は砕けて、翼となる-

 

「雪蘭ちゃん、ダメ!ニィちゃんが!」

イルが悲鳴をあげた。しかし、雪蘭は反応しない。

 

-翼となりし雪結晶に、万物何が勝てようか。いや、勝てまい-

 

「まずい、雪蘭に声が届いていない!余程の精神統一を決めている!まさに氷の精神だ!」

シーリスが冷静に分析し、叫ぶ。

 

-砕雪をまぶした飛翼は、誰にも砕けぬ。誰にも崩せぬ-

 

ーそれが天命なりて、それが運命なり-

 

「……」

ライザーはただ、ニィを見つめる。

 

-故に、飛翼砕雪は無敵の力となる-

 

「……っ!ニィ、起きて!!避けて!!」

リィが必死に声を飛ばす。

 

 

「ゔ……にゃ……」

声を聞いて、ニィは意識を取り戻す。爪を伸ばすと、それを氷に突き立て立ち上がる。虚ろ眼で、空に浮かぶ雪蘭と対峙する。

 

 

そこで、雪蘭は目を見開いた。

 

「飛翼砕雪拳、最終奥義。

 

飛雪千里(ひせつせんり)』!!」

 

雪蘭が、ニィへと飛ぶ!

その拳がニィへと届く--

 

--寸前!

「……炎よ、我に宿れ!!」

 

ニィの両手。その先に伸びる爪牙に、真っ赤な焔が顕現する!

 

「……えっ!?なんで!?カーラマインとイザベラ位にしか教えてなかったんじゃ……」

 

その炎に気をとられ、動揺し、雪蘭の心が揺らいだ!!

 

拳はニィの顔面に当たる。しかし、カーラマイン戦ほどの威力は無い。せいぜい、拳法の演舞で行う正拳ほどの威力しか出ない!

「あっ……しまっ……」

 

拳を振り抜いた状態で空中に取り残された雪蘭。慌てて翼を広げようとする。

 

しかしその数瞬早く。

 

 

「『焼描牙虎(しょうびょうがこ)』!!!」

 

 

ニィの両腕が、燃える刃が雪蘭を襲い。

 

雪蘭は炎を纏って錐揉み回転、そのまま地面に叩きつけられる。

 

薄氷の地面はヒビ割れ、結晶が散った。

 

 

 

ニィの炎も霧散し、空に溶ける。なんとか立っていた足は支えをなくした事で折れ、その身体は崩れ落ちる。

 

倒れ伏した二人にユーベルーナとディマリアが駆け寄る。その片手ではフェニックスの涙の瓶が光る。

 

そして、この大会の主催は顔を引き締め、宣言する。

 

 

「この戦い!

 

 

 

両者共に相手を倒したことにより、両者を勝者とする!

 

よって優勝者は!!ニィ!雪蘭!両方ともだ!

 

皆、二人を称えろ!!」

 

静まり返った観客は、やがて思い出したかのように騒めき、そして最後には割れんばかりの喝采が飛び出した!!

 

フェニックスの涙によって外傷を綺麗さっぱりなくした雪蘭とニィ。意識のない二人をライザーは抱きしめる。

 

 

「意識が飛ぶまでやらせてしまったことは、すまないと思う。だが、俺にはあの戦いを止めることはできなかった。

 

そして言わせてくれ。

 

 

おめでとう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まずは、大変遅れて申し訳ありません!
バトルは試合展開を考えるのが難しく、私生活が忙しくなったこともあり、過程を考えているうちにこんなに時間が経ってしまっていました。
待っておられた方、申し訳ありませんでした!

このトーナメント、当初は形式と優勝者だけを決めていたため、新技等、平等さに欠けてしまったような気がします。みんな頑張って修行しているので、新技はちゃんとできていますよ!

次回、エピローグ。

そしてその後は、残りの眷属探しです!全員仲間にするまでは止めません!


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!



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エピローグ 〜成果と褒賞(役得)〜

クリスマスに投稿しようとしたら、用事が入ってしまいましたよHAHAHA……嘘です今年もクリぼっちです。
投稿!


 

--「ハッ!ハッ!!」

雪蘭(シュエラン)は空中に突きを行う。拳法の修行となんら変わらないその行為。しかし、一ヶ所これまでとは明確に違うところがあった。

「本当に……熱くないわね……」

その拳は、橙の炎に包まれていた。本来は氷や雪などの魔力を使う雪蘭は、炎が苦手だ。しかし、この炎は雪蘭の身体に何の被害も及ぼさない。それもそのはず、その炎は雪蘭自身が創り出したものなのだ。

その炎を見て、雪蘭は思う。

 

 

(何でこんな早く覚えちゃったのよ、私の馬鹿ー!!!)

 

「そうだネル!もう少しイメージを膨らませろ!火種はできてる!あとは燃やすだけだ!!」

現在、ライザーは眷属の皆に炎の魔力の使い方を指導している。

トーナメント優勝後、雪蘭はこう言った。

『ら、ライザー。約束通り優勝したんだから、ちゃんと炎の出し方教えてくれるんでしょうね!』

それに対しライザーは、

 

 

『おう、もちろん!こうなったら危ないとかそういうのは無しだ!俺が付きっ切りで全員纏めて教えてやる!』

『そ、そんな付きっ切りで全員だなんて……ん?全員?』

『おうよ、フェニックスの眷属はやはり炎を操れないとな!雪蘭のおかげで、やっと決心がついたぜ!』

 

 

『……この馬鹿ー!!!』『ゲボォア!?』

 

しかして雪蘭には『ふたりっきりで教えなさいよ!』などと言う勇気はなく、結局数日後の今、ライザーの炎魔力教室が行われているという訳である。

それでも教えてくれるなら……と意気込む雪蘭だったが、彼女は戦いの才が非常にあった。

 

『そこで炎のイメージを膨らませるんだ、強く、激しく!』

『強く、激しく……!できた!……あ』

『おお、さすが雪蘭!完璧だ!これだけ威力があれば十分、俺が教えることはもう無いな!免許皆伝だ!』

 

という訳で開始五分ほどで指導終了。その後永遠と空に拳を突き出し続ける雪蘭は、心の中で泣いていた。

 

 

そんなことはつゆ知らず、ライザーは眷属皆を回って炎魔力を教える。

(シーリス、雪蘭はさすがに飲み込みが早かったな。二人ともスポンジのように技術を吸収していった。

イルもほとんど安定している。残りはネルだけだな。

 

しかし、リィがあんなにすぐできるようになるとは意外だったな。やっぱりリィには理屈よりも感覚で教えた方がいいのかもな)

 

リィへの指導は『変身する時の魔力を全て爪の方に集中させて、そのあと火が凄く燃え上がってるのをイメージしろ!』と言っただけだったが、リィはライザーが想定したよりもずっと早く炎を纏うことに成功した。

なお、現在リィは体育座りで明後日の方向を向いて座り込んでいる。哀愁の漂う背中から出される構ってオーラに、しかしライザーは気づいていない。

 

「こ、こうかぁ!!」

ボッ!とネルのチェーンソーにもとうとう火がついた!刃と共に回転する炎を見て、ライザーは頷く。

「皆よくやった!これで俺達はフェニックス眷属の名に恥じない紅蓮の焔を手に入れた!これからは各自の技に加え、炎の方も鍛えていくようにな!では解散!」

『はっ!』

眷属達は短く返事をすると、それぞれの趣味へと移行するため散らばっていった。イザベラが俊敏に木の上に登って昼寝を開始するのを視界の隅に入れながら、ライザーは腕を回す。

 

「……疲れた。他人に物事を教えるのって、こんなに難しかったのか。師匠はやはりそれだけすごいってことなんだな」

ミー、と頭の上でネコが鳴く。ライザーがその頭を人差し指で撫でてやると、ネコは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 

「でもニィ、お前は『一日俺の頭の上にいる事』なんて願いで良かったのか?」

ニャー、と1回。それが肯定だとライザーはわかる。

「まぁいいならいいけどさ。さて、風呂行くか!お前も来るか?」

ニィはその言葉に身体を固まらせる。数秒後、少し弱めの声でニャーと聞こえた。

「行くのか?じゃあ身体は俺が洗ってやるよ。昔リィも洗ってやったことが……うお!?こら、顔面引っ掻くな!びっくりするだろ!」

フーッ!と威嚇のような音を立てるニィ。頭の上では爪を立てている。

 

機嫌の悪いニィをなだめながら、ライザーは風呂へと向かう。脱衣所で服を脱ぎ、だだっ広い温泉に飛び込もうと風呂の戸を開け、

 

「……え?」

 

湯浴みしていた雪蘭と遭遇した。

 

「……ん?おお雪蘭、お疲れ!さすが「出てけぇ!!」ボヘァ!?」

雪蘭の一閃がライザーの腹に突き刺さる!ダメージはほぼ無いものの、衝撃によろけるライザー。その下には、雪蘭が持ち込んでいた石鹸が……

 

「っとと!?」「えっ……キャッ!」

ライザーは雪蘭を巻き込むように転倒し、そして。

 

 

「……ちょっ、退きなさいよ、ば、馬鹿!」

「……ん?うぉ!?悪い!」

 

ライザーが雪蘭を押し倒したような格好になっていた。指摘されたライザーは慌てて離れる。

「で、何よ!何しに来たの!」

身構える雪蘭。しかしライザーは動じず「風呂に入りに来た」と告げる。女性とはいえ共に修行した兄弟弟子。そして眷属。特段気にする様子もない。むしろ、

 

「そうだ、背中流してやろうか?」

などとデリカシーなく聞いてくる。雪蘭はわなわなと震え、

 

「『氷礫・紅』!!」

「うわらば!」

 

早速本日の成果をお見舞いするのだった--

 

 

 

 




〜おまけ〜

泡に包まれながら、ニィはジト目で雪蘭を見る。
「も、もうちょっと上よ、上」
「ここら辺か?」「……うん、そこそこ。気持ち良いわ〜」

文句を言い、殴ったりしながらも結局はライザーに背中を流してもらっている雪蘭は、顔を真っ赤にしながらも必死で強がっている。その雪蘭に身体を洗ってもらっているニィなのだが、時々洗う手に力が込められて痛い。
「ニャフニャフ!」
抗議を上げても二人は聞いていない。まぁ、聞こえたところで二人に意味は通じないのだが。もがこうにも雪蘭は泡だらけの両手でしっかりと胴を掴んでいる。ニィに逃げる手段はない。
「もう少し強くした方がいいか?」
「そうね、お願いしようかしら……んんっ、強いっ!あはっ」
「っ!痛かったか?」
「……はぁ、い、いえ。そんなことないわ。続けてちょうだい?」
とうとう握る力が限界に近づいてきた。
(ぐ、グエェ!ま、不味いにゃ!いちゃいちゃついでに殺されてしまう!変身を解かにゃいと!)

ニィが変身を解除する。彼女の身体はだんだんと大きくなっていき、ようやく雪蘭の魔手から解放された!
「た、助かった……に゛ゃっ!?」
ニィの力が急に抜ける!どうしたことかとニィが振り返ると……
「ら、ライザー。もっとお願いよ、もっとぉ」
ライザーに懇願している雪蘭が、照れ隠しにとニィの尻尾を弄っていた。

脱力したまま床に着地するニィ。さらに運が悪い事に、そこには先ほどまで雪蘭がニィを洗う時に使っていた石鹸があった。
「ふぎゃっ!?」「きゃっ!」「うわっ!」
思いっきり滑るニィ。彼女は後ろにいる雪蘭、そしてライザーを巻き込んで転倒する!


「あ痛たた……」「にゃあああ…」
派手に転倒した二人は、しかしライザーの足を下敷きにしていたため頭を打たずに済んだ。
「ライザー、あんたは……」「ご主人様、だいじょ……」


二人は見た。見てしまった。
ライザーに取り付いた異形の怪物を。大怪鳥を。


ブシッという音が四つ、風呂場に響く。
「……びっくりした。急にニィが倒れ込んでくるとは。大丈夫か、お前た……なっ!」
少し遅れて上半身を起こしたライザーが見たのは、鼻血を出して倒れている二人の姿だった。
「だ、大丈夫かお前達!おい誰か!誰か来てくれ!」--


今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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不死鳥と眷属の邂逅
契約


--「父上、準備は整いました」「うむ」

かつての盛りが見る影もない程に、戦火に焼かれた宮殿。その地下で一組の親子が頷き合う。
「では始める。構えよ」
そう言って父親は、横目で娘を見ながら持っていた笛を咥えた。

奏でられた笛の音は甘美に響き、その音に合わせるように娘は踊る。腰を振り、腕を回し、踊りながら移動する。床に絵を描くように、決まった場所を踊り歩く。
そして数分後。笛が鳴り終わると同時に、娘は自らが描いた円の外に出た。
「ご苦労だった。では、今より始める。


古より出でし悪魔よ!人ならざる者よ!
我は汝の同胞にして、汝の盟友である!
汝、我と契約せよ!汝、我と抱擁せよ!
その力を持ってして、我が願いを叶えたまえ!

顕現せよ、『フェニックス』!!」

言い終わると共に現れたのは、巨大な火柱。娘は思わず眼前に手を翳す。その手を離した時、一人の男がそこに立っていた。
全身を紅い衣で包んだ、長身の男。親子のような褐色肌ではなく、透き通るような白い肌に、金色の髪を持っている。そしてその背には、立派で巨大な黒羽が一対。
男は整った顔を歪めつつ、言う。

「フェニックス家が三男、ライザー=フェニックス。契約に則り参上した。問おう。お前が俺の契約者か?」

「そうだ」

「結構、ならば契約と行こう。何が望みだ?」

「フェニックスよ、不死の盟友よ。汝が先祖をそうしたように、我らを守りたまえ。我らの命を救いたまえ」

「結構。契約が終わったあかつきには、お前達の命を貰うとしよう」

「我らには何十何百の敵有り。汝、その命を代わりに持っていくべし」

「結構。それでは契約だ」

ライザーは懐から一枚の紙を取り出した。父親は同じように懐から、小さなナイフを取り出す。
そのナイフで人差し指の先を切ると、血が溢れる。溢れた血は紙に吸われるように落ち、落ちた血は紙に文字を浮かび上がらせる。

「結構。契約は完了した。これより我は汝の盟友となり、同胞とならん」




「という訳で、こんばんは。ライザー=フェニックスだ」

「どうもよろしく。盟主変わった?」

「変わってねーよ。子供が増えて末席の俺が出てきただけだ」

「そーかそーか。前来た時はいつだったかの」

「800年前に来たでしょ、おじいちゃん」

「ほーかほーかって誰がおじいちゃんだ、俺はまだ42だぞてめぇ!」

「うるせぇこの若造が!」「お前こそ偉そうに出てきたけど、俺より若ぇだろ!俺に誤魔化しは効かんぞ!」

 

娘は目をパチクリと開き、二回瞬き。急に親しい間柄のように馴れ馴れしくなった父と悪魔に、何がなんだかわからない様子だ。

そんな娘の姿を見て笑う父親。彼は指先から出した青い火を振りながら、言う。

「我が家はフェニックス家の契約先のお得意様。フェニックス家とは主従の絆を何度も交わした」

橙色の火を灯しながら、ライザーが話を引き継ぐ。

「俺の兄貴も800年前に契約をし、俺の父親も数千年前に契約を結んだ」

指先の火を掴むようにライザーの手を握る父親。次の瞬間、二人の手が白炎に包まれる。ライザーが手を離した後も、父親の手の中で大きくなった火は燃え続ける。火はゆっくりと腐っていくように黒色に変わり、やがて闇が炎を支配した。

「血筋は薄く薄くなったが、細々と続く我が家を、度々幾度も助けてくれた。もはや我らは主従ではない」

 

真っ黒の炎を背後に放り投げ、父親は前にいる娘に向かって宣言する!

「我らは数千の時を共に生きた、(ともがら)よ!」

 

ビシッ!と決めポーズを決める父親とライザー。投げられた炎は空中で破裂し、どういう原理か鮮やかな七色に分かれて弾け飛ぶ。綺麗に派手に、格好良く見せているが、即興のせいでライザーの顔と父親の腕が被っていることに娘は突っ込まない。

アクションがないまま十数秒、ついに観念したのか娘が手を叩くと、ライザーと父親は満足そうに頷き元の場所に戻った。

 

「……で、今日俺を呼んだのはどういった用件だ?」

その言葉に父親は目を瞑り、上を向いて言う。

「ちょっといろいろあってな……大臣に裏切られた。首都でクーデターだ。追われてる。家が燃やされ、過激派が迫ってきてる」

「……何やったんだ?」

問いに首を振る父親。彼は未だに手の中に少し残る黒火を強くしたり弱くしたりと遊びながら言う。

「ヤクの厳重規制。近頃はこの国にやる奴が増えた。昼間っからしゃぶってるやつもいる。田舎に行けば、道端で舌出して倒れてる奴なんて腐る程いる。最近は外からも入ってきてるらしい。俺はそれを止めるべく、法律を作った。厳しいなんて言われちゃいるが、普通のやつはやらねぇ事をやるんだから、厳しいのは当たり前だろ?」

「しかし、それを受け入れない奴が大勢いた、か。大臣は何の関係が?」

「奴がこの反乱(お祭り)の先導役だ。大臣(バカ)曰く、『ヤクはウチの国の重要な輸出品』だってよ。俺はこの国をそんな恥ずかしい国にした覚えはねぇ!」

バンッ!イラつきを抑えるためか壁をなぐりつける父親。手の炎は火の粉となり空中に散っていく。その肩を叩きながらライザーは冗談めかして言う。

「王ってのは大変なもんだ。敵も多い、仕事も多い。恨まれ憎まれ蔑まれ馬鹿にされて、それでもそんな奴らの上に立たなきゃならねぇ。引っ張らなきゃいけねぇ」

「梯子外されて背中を刺されるまでがワンセットだ」

「そりゃお前だけだろ」「てめぇ言ってはいけないことを!」

二人は一瞬睨みあった後カラカラと笑うと、今度は素手で握手を交わした。

「稀代の魔術師にして世紀の愚王、シュトレイゼン=アル=カサンドレだ。生き延びる為にお前さんを頼らせ(使わせ)てもらうぜ」

「末席の不死鳥にして最強の愚王、ライザー=フェニックスだ。せいぜい俺を楽しませてみせろよ」

 

 

 

 




傾国編、スタートです!今度の眷属候補は誰なのか!?

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
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「こっちだ、ついてこい」
シュトレイゼンの後をついて行くライザー。その後ろに娘が背後を警戒しながら続く。
シュトレイゼンが壁の一部を蹴飛ばす。すると、その奥に長い空洞が現れた。どうやら召喚された家からかなり離れた場所に出るらしい、と推測したライザー。
時々後ろの様子を確認しながらも、3人は前に進む。
「この道は、宮や屋敷を見渡せる山の七合目ほどの場所に出る。数個前の先祖が造らせたというが、そんな話はどうだっていい。問題は、そこに大臣の配下が山のようにいるだろう、ということだ」
「隠し通路なんだろ?」
ライザーの疑問に、シュトレイゼンは眉を顰める。
「隠し通路っつっても造ってから優に200年は経ってる。国の偉い奴らならある程度知っている道になってるのさ。王家の隠し通路ってのは何個もあるが、俺達の屋敷から繋がってるのは一つだけだし、そこも知ってるやつは知ってる。大臣は知らなかっただろうが……大方、屋敷の使用人あたりを脅してすでに場所を特定してるだろうよ」
「じゃあ、どうするんだ?」

ライザーの質問に、シュトレイゼンは娘を指差した。
「お前の出番だ、シュリヤー。そして悪魔さんよ」
その言葉に、今まで蚊帳の外だった娘が髪をかきあげながら言う。

「私はお父様と違ってこの国に未練はないけれど、私が生き残る為にあなたを使わせてもらうわね」
「使いこなしてみせろ。楽しめないようなら、俺は裏切ってしまうぞ」
「あなたこそ、私の踊りについてこれるかしら?リードはしてあげないわよ?」
「見ての通り上流階級の出でね、ダンスは得意なんだよ」

言い合っている二人を背にし、王は少し先を見た。トンネルの上に空いた穴から、月の光が輝いていた--


--時刻は、夜。満月が暗闇を晴らすように光る。そんな月光の中で数十人の男達が、一つの大穴を囲んでいる。

 

そしてそこから数百メートルほど離れた隣の山で、大臣が双眼鏡を覗きながらピーナッツをかじっていた。

「大臣殿、未だ王シュトレイゼン、ならびにその娘シュリヤーは出て来ません!屋敷を焼いてから三時間ほど経っております。大臣殿の兵はともかくとして、王の暴政に立ち上がった市民達は、痺れを切らし穴に突入しようとするものや、逆に家に帰ってしまうものも出ております!」

その視界の外から現れた私兵の一人の声を、大臣はさして驚きもせず受け流す。

「そんなことは直接見てわかっておる。帰りたい者は帰らせれば良い。だが、突入は断固阻止しろ。あの愚王も抜け道がバレているのを知ったら、屋敷の方に引き返してしまうだろう」

「しかし、屋敷の方にも多数の兵を配置しているはずでは?」

 

大臣はピーナッツを数個口に入れ、一気に噛み砕く。

「それでは奴の死に様を見れぬだろう?宮殿を抑え、寝室に突入しても逃げ去り、逃亡先の屋敷を焼いても生き延びているしぶとさ。あやつにここで他の国へと落ち延びられると厄介だ。奴の死をこの目で確かめねば、安心できぬ」

手が震えるのを抑えようともせず、大臣は言い放つ。

「あと少し、あと少しで王座が--」

不意に、視界が消えた。レンズが白に塗りつぶされた。突然のことに目が眩んだ大臣は双眼鏡を思わず落とし、そして前を見て驚愕した。

 

そこにいたのは一匹の巨大な鳥であった。それは全身を赤々と燃やし、その羽を揺らすたびに熱風が山の木々を薙ぎ倒す。それは巨大な城のような大きさで、先程火をかけた宮殿から飛び出してきたのではないかとすら思えた。月の存在を歯牙にもかけないほどの煌々とした明るさで、視界に入れるだけで目を焼かれるようだ。しかし大臣は、それから目を逸らせずにいた。

大臣も国の中枢部にいるだけあって、魔法の存在や王が優秀な魔法使いであることは知っていた。しかし、

 

「き、聞いてないぞ!ふざけるな!」

 

でたらめだ。そう思いたかった。そう信じたかった。

 

その言葉に反応したのか、火の鳥は首を前に向けると。

 

 

『キュガァァアアアアァ!!』

 

咆哮と共に山の下、眼下に広がる街に向けて、炎を放出した!

振っていく炎弾。それは目を瞑っても消えず瞼の裏に残り、そして開いた時には更なる惨状が広がっていた。

 

街が燃えている。

何代もの先王が創ってきた由緒と伝統のある街が、自分が麻薬によって弱体化させ、手中に収めた街が、燃えている。自分達が燃やした宮殿と同じように、街の家も畑も道も、平等に赤々と燃えている。国が燃えているのだ、と大臣は思った。

炎の発する熱風がともに持ってきたのか、民の悲鳴が、恐怖の声がはっきりと聞こえる。その恐怖が伝播したのか、私兵も言葉にならない声をあげる。

 

そして、その火の鳥の上、天から声が上がった。大臣が忌み嫌った、あの男の声だ。

 

『フハハハハ、この不死鳥(フェニックス)凄いよぉ!さすがは先王達の御遺産!この街のエネルギーは全てもらっている。わかっているのか愚かな麻薬中毒者ども!そしてその原因となった者よ!』

 

その言葉に喉が干上がりそうになりながら、大臣は無理やり言葉を紡ぐ。

「ふざけるな……もうお前は終わったんだ!この国は俺の物だったんだ!だからといって首都を滅ぼすなんて!麻薬中毒者だって反逆者だってお前の国民だろう!」

 

『悪をも全て救います、なんてぇのは阿呆の言うことだぁ!

国民は!国民であればいいのだ!麻薬がそんなに好きかぁぁぁっ!!』

 

火の鳥が叫びに応じたように咆哮する。

 

『今までの時代が間違っていたのだ。国民はあの快感を忘れることなど出来はしない。だから、この不死鳥(フェニックス)で全てを破壊して、新しい国を(はじ)める!』

 

その言葉と共に、火の鳥が大きく膨れ上がる。その炎が、ついに月を呑み込んだ時、王は叫ぶ。

 

月 光 鳥(げっ こう ちょう)である!!』

 

次の瞬間、火の鳥の翼から先ほどの炎弾とは比べものにならない大きさの炎の塊が飛び出した。それも一つではなく、何十、いや、百を優に超える!

 

首都のシンボルが爆発四散した。街にはとうとう地割れが見えてきた。熱風によって今いる山も下から燃えている。この身を炎が襲うのもあと数分後だ。

 

それらを全て理解して、大臣はもはや考えるのをやめた。

全てを放棄し、ただ終わりを待った。

炎がその真正面までたどり着く。

それが、大臣を襲い--

 

 

 

 

--「がぁぁあああ゛あ゛あ゛……あ?」

いつのまにか、視界は晴れていた。顔を触ろうと手を動かそうとするが、動かない。どうやら縛られているようだ。

その目の前に、一人の男が現れた。

 

「調子が悪そうだな、大臣」

 

王・シュトレイゼンがいやらしく笑いながら、仰々しく口にする。対して大臣は叫ぶ。

 

「何を言うこの悪魔め!首都を全て燃やすなどという歴史に残る悪行、この国が許すと思ったか!?」

「おいおい、何を正義面してやがる。この国がああなったのはお前のせいだろ?俺はそれを正そうとしただけだ。

 

それに、周りを見てみろよ」

言葉に、大臣は垓下を見下ろす。

 

そこには、昨日までと同じ街があった。王の宮殿の焼け跡以外、いつもと変わらない首都がそこにあった。

 

「俺が魔法使いっていうのは前に言っただろ?お前らに見せたのは全てが幻覚だ。それでお前達が麻痺した後、ゆっくりとお仲間もろとも捕まえさせてもらった」

その言葉を聞いた大臣はハッとし、唇を噛んだ。

「お前らは全員、反逆罪で捕らえさせてもらう。これで麻薬派は終わりだ。この国も少しはマシになるだろうさ」

 

連れて行け、という言葉とともに、幻覚で大臣達が惑っていた間に呼び寄せた王の兵に連れて行かれる反逆者一行。それを尻目に、シュトレイゼンは後ろに控えていたライザーに話しかける。

 

「どうだった?楽しめただろう」

「いやぁ、面白かった。舞を利用して術式を描いているのか。範囲も広くて効き目も強い。文句なしだな」

「その分舞は時間も精度も範囲も、全ての規模が大きくなるのだけれどね」

魔法を使った本人、シュリヤーが言葉を紡ぐ。

「それに、お父様やあなたの協力があったから幻覚の信憑性が増した訳だし。お父様が幻覚に声を乗せて、あなたが熱風を届けたからこそ大臣達はハマったのよ」

「フェニックスは炎と風と命を操る家、そのくらいは当然だ!」

格好をつけるライザーに、シュリヤーもニコリと笑う。

それを見て、シュトレイゼンはライザーに告げた。

 

「なぁ、もし良かったら俺の娘を連れてかないか?」

談笑していたライザーとシュリヤーは、その言葉に驚く。

 

「いやなに、現在首都の周りは麻薬派、及び大臣派がそこそこ多い。過激派は今回捕まえたが、まだまだ影に隠れてる奴らがいる。そいつらをあぶり出すためには、何か理由をつけて俺が正義、大臣が悪という構図を国民に知らしめておきたいんだ。

国民が同情してくやすいのはやはり、死だ。現在の俺の一人娘が死んだ、という事実に対してまともな国民は俺を憐れみ、支持してくれるだろう」

「そのために、娘を遠くに追いやろうってのか?」

少し怒り気味のライザーに、シュトレイゼンは首を振った。

「娘には、もっと広い世界を見てもらいたかった。月並みな言葉だが、俺の本音だ。

 

お前になら、任せられる」

 

ライザーはシュリヤーを見た。シュリヤーは少し悲しそうな顔をしている。

そのシュリヤーの前に、シュトレイゼンが立った。

「お前の母も、俺も、お前にはこの国を飛び越えて活躍する女になってほしいと願った」

「……その通りです。私はこんなところで燻っている女じゃないわ」

 

シュトレイゼンは、顔が向かい合うようにしゃがむと、シュリヤーの頭を撫でた。

 

「すまない、ありがとう」

「ありがとう、さようなら」

 

 




お久しぶりの投稿です!お待ちしていた方、申し訳ありません。

最新巻で再びライザー君がイッセーと戦うフラグが立ったようで、非常に嬉しい!アニメでも元気そうで安心しました!

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!


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