真ゲッターロボ BETA最後の日 (公園と針)
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第一部 序章 「変わりはじめた世界」
プロローグ 「その名はゲッター」


――それは、とてもちいさな

      とてもおおきな とてもたいせつな

         あいとゆうきとしんかのおとぎばなし――

 

 

 

 

 

 1967年 月のサクロボスコクレーターで人類は異星生命体とファーストコンタクトをはたした。しかし、それは決して友好的な物ではなかった。

 

 のちに、BETA(Beings of Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race 人類に敵対的な異星起源種)と名付けられたこの生命体は名付けの意味の通り人類に敵対する生物だった。

 

 人類は月でこの生物を駆逐することを決定。 しかし、遠くの月にまで人員、武器、酸素、食糧を運ばねばならず、当初の思惑どおりに事は運ばず虫のように潰してもいくらでも湧いてくるBETAに対して人類は追い込まれた。

 

月は地獄そのものだった。

 

 1973年4月19日 BETAの着陸ユニットが中国のウイグル自治区カシュガルに落着し、ハイブと呼ばれるBETAの「前線基地」が構築された。のちに地球にいくつも作られるハイブのオリジナルである。

 

 これを機に人類は月からの完全撤退を決め、月はBETAに支配されることになった。

 

 人類は月面での戦闘に敗北したのだった。しかし、月では使用できなかった兵器を地球では完全に使用できるため当初は地球圏での戦闘は楽観視されていた。

 

 中国は国連軍の介入を拒否し、航空戦力で地上に蔓延るBETAを殲滅。

 

 カシュガル落着から2週間。中国軍はBETAを圧倒していた・・・・・。

 

 ところが、月では確認されていなかった新種の存在が全てを変えることになる。

 

 レーザー種である。

 

 これにより航空戦力が全て無効化された。レーザーにより航空機・ミサイル・砲弾を空中で撃破されてしまうのだった。

 

 制空圏は完全にBETAのものとなり、中国は劣勢に追い込まれた。劣勢に陥った上で展開した核攻撃による焦土作戦すらBETAには効果がなかった。

 

 このカシュガル自治区のハイブから無尽蔵に湧いてくるBETAに人類は国土を奪われ、ハイブを世界各地に建築されてしまった。

 

 たった一年で世界人口は30%減少。人類は空前絶後の危機に瀕していた。

 

 

 

 

 しかし、BETAは突如として現れた謎の兵器との戦いを強いられることになる。

 

 その名は「ゲッター」。

 

 「進化」の力をもったエネルギー「ゲッター線」を動力とした兵器である。

 

 物語はBETAが地球に飛来して10年経った1983年。

 

 ゲッターチームの戦いが再び始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主要登場人物

 

 

流竜馬 

ゲッターチームリーダー。ゲッター1のパイロット。

 

インベーダーとの月面十年戦争を勝利に導いた「伝説の男」。

 

仲間である神隼人に殺人の罪を着させられてA級刑務所に投獄されていた。

 

ある男の反乱により仮釈放されて再びゲッターロボに乗ることになった。

 

仲間をバラバラにしたある男と自身をA級刑務所に閉じ込めた隼人への復讐を第一の目的としている。

 

空手の腕は超人レベル。全てが終わるまでは憎き隼人との協力関係を結ぶ。

 

 

 

神隼人

ゲッターチームメンバー。ゲッター2のパイロット。

 

IQ200の天才。月面十年戦争で活躍。

 

パイロットとしても優秀だが研究者としても一流で未知のエネルギー「ゲッター線」研究の第一人者の一人。

 

竜馬をA級刑務所に送り込んだ張本人。

 

竜馬には罪悪感を抱いていて殺されても仕方ないと思っていると同時にいまだ竜馬のことを「かけがえのない友」だと思っている。

 

全てが終わるまでは竜馬との協力関係を結ぶ。

 

 

 

車弁慶

ゲッターチーム予備メンバー。ゲッター3のパイロット。

 

月面十年戦争で活躍。日本軍所属。階級は少佐。

 

よく無茶をして負傷する武蔵の代わりにゲッターに乗っていた。

 

チームがバラバラになってしまったことや竜馬が殺人を犯したことに納得できないでいた。

 

重陽子爆弾から避難しようと武蔵が面倒を見ていた子供「早乙女元気」と共に核シェルターに逃げ込んだはずだったが…。

 

 

 

 

巴武蔵

ゲッターチームメンバー。ゲッター3のパイロット。

 

月面十年戦争で活躍。弁慶の先輩。

 

チームがバラバラになってしまったことを忘れようと努力し、恩人の遺児「早乙女元気」の面倒を見ていた。

 

戦闘中の負傷からある男との戦いで放たれた重陽子爆弾を阻止へ向かった竜馬と隼人とは別行動をとる。

 

別行動中に竜馬、隼人の代わりとして作られた鬼とトカゲの怪物とインベーダーが融合した化け物と戦闘。

 

ベアー号のコクピットごと潰されて戦死したはずだったが…。

 

 

 

早乙女ミチル

 

ゲッターチームの紅一点。ゲッターロボGの合体実験の事故によって死亡した女性。

 

その事故は当事者の竜馬、隼人はもちろんのことゲッターチーム全員にとってトラウマとなっている。

 

ゲッターチームが崩壊した原因。

 



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序章1話 「月の赤鬼」

1983年 1月10日 アメリカ ワシントンD.C.

 

「おい! どういうことだ!」

 

「今、調査中です!」

 

「なんだって 月の監視ステーションと周回衛星群が落とされた!?」

 

「だから 調査中です!」

 

アメリカのワシントンD.Cの国連宇宙総軍本部は二度地球に落着を許したBETAの着陸ユニットの更なる飛来に備えてそれを未然に防ぐ対宇宙全周防衛拠点兵器軍(通称SHADOW)を設立しようとしていた。

 

監視ステーションL2と月周回衛星群により飛来する着陸ユニットを早期発見し、地球と月の間に配置した核投射プラットフォーム「スペースワン」L1による核攻撃によって地球着陸コースから逸らすシステムであり、それが失敗したときはできるだけ大気圏外で核攻撃をしかけ、着陸ユニットの破壊をねらう全地球防衛核投射群「アーテミシーズ」が設置される予定となっていた。

 

L1L2そして月周回衛星群は展開が終わり、あとは残りの地球重力下のアーテミシーズの展開を残すだけとなっていた。

 

この計画のうちの月に近いL2と周回衛星群が突如として落とされたのだった。

 

「映像は!? 映像は来ているのか?」

 

「今、写し出します!」

 

そのカメラは猛スピードで動く赤い線と衛星に向かって飛んでくるものを記録していた。

 

「なんだ!? よくわからんぞ!?」

 

「この飛んできた物にどうやら衛星はやられたようです。」

 

「無人衛星でよかったな。これより前は? なにか月に変わったことは発見できないか?」

 

せかされたオペレーターが慌てて月の表面を舐めるように凝視し変化を探す。

 

「見てください! これ! 月の表側と裏側の境目にある巨大クレーターの中に8日になかったものが9日に現れています!!」

 

「拡大しろ!」

 

写し出されたソレは明らかに人工の建造物だった。

 

「一体これは!?」

 

BETAは地表にある全ての資源を食い尽くす。

 

月面戦争時のものが今残っているはずなどなかった。

 

「ソビエトのモスクワ宇宙軍局から入電! つなぎますか?」

 

「今は少しでも情報が欲しい。つなげ!」

 

「了解!」

 

モニターにソビエトのモスクワ航空宇宙軍の高官が写し出される。

 

「単刀直入に聞こう。昨日、我々のルナ10号が撃墜された。我々の衛星を破壊した赤い機動兵器について「貴様ら」の仕業ではないのなら何か知っていることを教えてほしい。」

 

流ちょうな英語で語りかけてくるソビエトの高官の顔は強張っていた。

 

「冗談は止してくれ。こちらもL2ならびに衛星群を落とされたのだ。」

 

二人の間に短い沈黙が訪れる。

 

「待て。今、赤い機動兵器と言ったか? ではこの線は機動兵器が動いた後か?」

 

「ッッ!! 交信を終了する!」

 

慌てて、ソビエト側は交信を切った。

 

「どうやらソビエトの連中はこちらが当然この情報を手に入れているものだと思っていたのだろうな。どうだ…赤い機動兵器は確認できるか?」

 

「駄目です。ほぼ全ての衛星のカメラが月のハイブに向いています。」

 

「わかる範囲でいい。そいつが飛んでいるスピードはだいたいどのくらいだ。」

 

「ええと…ッッ!! マッハ1.5から2くらいです!!」

 

「おいおい 月重力下とはいえ異常だぞ!」

 

「衛星を破壊したと思われる飛来物の拡大映像出ます!!」

 

そこに現れたものに一同は目を疑っていた。

 

「お前。何に見える?」

 

「信じられませんが…トマホーク……手斧に見えます。」

 

そこには、巨大な手斧が衛星に接近する映像が映し出されていた。

 

しかし、分かったのはそれだけだ。

 

月軌道の衛星が落とされ、月の裏側のことは地球上から観測ができない。

 

だが、地球上ではなく宇宙にあがっている艦からなら調査をすることができる。

 

「今、現在宇宙に上がっている将官は誰がいる?」

 

「我が国連のですか?」

 

オペレーターが調べる。

 

「〈月の英雄〉が今、大気圏外の駆逐艦にいます。」

 

「よし! 中将閣下及びその配下の者に調べてもらう。中将につなげ!」

 

月の赤鬼の出現がやがて世界を変えていくことなどまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 序章1 終わり

 



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序章2話 「東ドイツの白モグラ」

ワシントンとモスクワが月の人工衛星破壊について湧いているころ。

 

ヨーロッパの東ドイツ

 

1983年の時点でBETAは破竹の勢いでマシュハド、ウラリスク、ヴェリスク、ミンスク、エキバトウズ、スルグート、ロヴァニエミと次々と7つのハイブを構築、中国から西進していたBETAは東西に分かれたドイツにまで到達しようとしていた。

 

東ドイツ軍はBETAの攻勢に対し、遅延させるのが精いっぱいだった。

 

いつもどおり、視界には救援要請のウインドゥがいくつも現れた。

 

東ドイツ国家人民軍 第666中隊「黒の宣告」(シュヴァルツェスマーケン)に所属しているテオドール・エーベルバッハ少尉は、自機バラライカ(MiG-21)の速度を上げる。

 

 

「シュヴァルツ01より中隊各機へ。傾注!」

 

テオドールの網膜に強化装備を着た金色の髪の女性が投影される。この中隊の中隊長のアイリスディーナ・ベルンハルト大尉だった。

 

「まもなくBETAの群れへと突入する。混戦になるが各自陣形を維持しろ」

 

「08了解」

 

他の衛士たちと共に応答をする。

 

たった8機でBETAの群れにこれから突っ込もうというのだ。

 

今回の任務もレーザーヤークト。航空戦力と砲弾を使用可能にするためにレーザー級を狩るのが俺たちの仕事だ。

 

そのために救援要請を無視するのももう慣れた。

 

東ドイツ最強の中隊と呼ばれている俺たちだったが味方を平気で見殺しにする任務を主としているおかげで軍では嫌われ者扱いを受けている。

 

他人を助けようとしても無駄だ。この世界には信じられるものなどないのだ。

 

BETAの数は約2万。

 

ブリーフィング時点ではこのBETA群は4万とされていた。

 

だが突入前の今のデータでさえ2万である。

 

おそらくこの三倍の数BETAがいるだろう。

 

いよいよ俺たちの年貢の納めどきが来たのかもしれない。

 

まずBETAの群れをレーザー級から引き離さないといけない。

 

「シュヴァルツ01より中隊各機へ。これより降下する。」

 

「いいか。突撃級は無視しろ。戦車級と要撃級の群れに風穴を開ける。」

 

BETAは突撃級を最前列にして攻めてくる。群れに横合いから突入する俺たちには突撃級はあまり関係がないがはぐれ突撃級は無視しろということだろう。

 

「「「「「「「了解」」」」」」」

 

急激に速度を落とし、8機のバラライカが雪原に着陸する。

 

目前に気味の悪い赤い蜘蛛のような戦車級が迫る。

 

「各機、射撃を開始しろ。目標、目前戦車級!」

 

WS-16C突撃砲が火を噴く。36㎜機関砲が戦車級を粉々に打ち砕いていく。

 

「喰らえ! 化け物共―――!!」

 

歩兵相手では絶対的な強さを誇る戦車級だが、一体一体は戦術機の敵ではない。

 

問題は数だ。白い雪原の景色を赤一色に染め上げられる程度の数がいる。

 

徐々に戦車級の群れに穴を開け、そこに飛び込んでいく。

 

BETAの群れに飛び込んで既に1キロ。

 

おかしい。なぜだ? 戦車級の数だけがこんなに多い? 

 

考えが顔に出ていたのか中隊長が俺に声をかける。

 

「気づいたか? シュヴァルツ08?」

 

網膜に再び中隊長が写し出される。

 

「いくらなんでも戦車級が多すぎる・・・もしやBETAが極端に属種ごと群れをなしているのかもしれん。各機警戒を怠るな」

 

「「「「「「「了解」」」」」」」

 

もしそうだとしたら要塞級だけの群れや突撃級だけの群れに遭遇したときは死を覚悟しなければならない。

先行していたヴァルターの機が止まる。

 

「中隊長! 突撃級です!」

 

戦車級の一団を越えたところで突撃級が前の戦車級と同じように極端に集まっていた。

 

なぜ突撃級がこんなBETAの群れの真ん中に?

 

「ッ! 全機!陽動攻撃を打ち切り、低高度飛行を。 一気にレーザー級まで行くぞ!」

 

「同志大尉。 十分に陽動できているとは思えませんが?」

 

網膜に黒髪にメガネをかけたグレーテル・イエッケルン中尉が投射される。

 

この中尉はこの部隊の政治将校である。東ドイツは大きく分けて二大勢力が存在している。

 

国家人民軍(NVA)と国家保安省(シュタージ)である。

 

人民軍はBETAによる侵略に反抗する組織であり、当然この戦術機中隊も人民軍所属である。

 

国家保安省は治安維持という大義名分の名のもと他国のスパイや西側へと亡命しようとする者や体制への反逆者を粛清するのが仕事である。

 

どちらもドイツ社会主義党の組織であり、政治将校とはその党から送られた部隊の戦意や思想を見張る人物である。

 

階級としてはアイリスディーナより下だがやろうと思えば中隊全ての機のコントロールを奪うこともできる人物である。

 

中隊長と政治将校との間に沈黙が生じる。その沈黙を破るように8機の中の一機が突撃級の群れへと突進していく。

 

「06!? 一体何を!?」

 

「ここで私が単機で陽動をかけます。中隊長たちは今のうちにレーザー級を」

 

6番機アネット・ホーゼンショルト少尉が単独で陽動をしようとしているらしい。

 

「馬鹿者! 単機で一体何ができるというのか!」

 

グレーテルが吠える。

 

6番機アネットは冷静な思考能力に最近の戦闘で仲間を失ったことにより問題があった。

 

典型的な戦争神経症の兆候である。

「私が06を援護します。」

 

7番機イングヒルト・ブロニコクフスキー少尉が6番機に続く。

 

ただでさえ8機しかいない中隊が2機と6機に分かれるのだ。戦力の分散は死に直結する。

 

まったく死に急ぐなら独りで逝ってくれ。俺や中隊を巻き込むのは止めてくれ。

 

そう心で毒づいた後、テオドールはソレに気づいた。

 

慣れ親しんだBETAとの戦闘では一切聞いたことのない「音」に。

 

「中隊長! 何か異質な音が辺りにしています!」

 

アイリスディーナがハッとした顔になり何かに気づく。

 

「08! 今はそれどころじゃ・・・」

 

グレーテルが呻く。

 

「中隊各機! 何か地中から出てくるぞ! 気をつけろ」

 

アイリスディーナが中隊に注意を促す。

 

「「隊長!?」」

 

アネット機とイングヒルト機がその命令に機を急停止させる。

 

その瞬間。地中からソレが現れた。

 

突撃級の群れの前に巨大なドリルが突然現れる。

 

それは明らかに人工のモノでありながら既存のどの兵器にも類似したものはないものだった。

 

白い頭部、黄色いボディに足は赤。右腕には巨大なドリルがついており左腕にはレンチのような物がついている。

謎の白い機動兵器はBETAの突撃級の群れに猛スピードで飛び込んでいく。

 

信じられないことにその巨大なドリルで突撃級の硬い外殻に風穴をあけながらまるで障害物などないように突き進んでいった。

 

そしてそのまま地平線の彼方へと消え去った。

 

BETAの群れに風穴ができた。それを見逃すアイリスディーナではなかった。

 

「中隊各機! アンノウンの通った後を通り抜ける。」

 

しかし、俺を含めた中隊全機が目の前で起きたことに衝撃を受けてとっさに体が動かなかった。

 

いや動けなかった。

 

「どうした! 全機この一帯を離脱その後レーザー級掃討に移るぞ!」

 

アイリスディーナの喝に全員が我に返る。

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

中隊全機は健在のまま突撃級の群れを突破していく。

 

これが俺たち第666戦術機中隊と東ドイツ中を騒がせることになる「白モグラ」の初接触だった。

 

 

 

序章2 終わり

 



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序章3話 「北欧の黄色い竜巻」

謎の機動兵器が現れたのは月と東独だけではなかった。

 

旧フィンランド領 都市 イヴァロ

1980年 BETAの西進は北欧にまでさしかかろうとしていた。

 

迫るBETAの北進に北欧三カ国フィンランド、スウェーデン、ノルウェーは北欧三カ国軍事同盟を設立、三カ国は迫るBETAに完全な協力体制をしいてBETAを迎え撃った。

 

しかし、1981年にフィンランドの首都「ヘルシンキ」は陥落。

 

フィンランド領ロヴァニエミに8つめのハイブが設立された。

 

フィンランド国民は他の西洋諸国へと逃れていったが、当然全ての国民が逃げ出せたわけではなく、難民化してしまった国民も多い。

 

難民の多くはフィンランドの北にあるイナリ湖の側の街「イヴァロ」に身を寄せた。

 

「イヴァロ」にはフィンランドの唯一残った都市として自治機能を持ち、戦力を持っていた。

 

その戦力は崩壊した旧フィンランド軍の生き残りや志願した市民で構成されていた。

 

既に都市というより難民キャンプ兼基地と化していた。

 

「イヴァロ」はスウェーデン、ノルウェー、他西側の国への亡命を求めていたが、その亡命はあまり進まず、その代わりに戦力を貸すことを交換条件にBETAから北欧を遮る壁として用いられていた。

 

「イヴァロ」はロヴァニエミが落ちて約1年半必死に難民と自市を守ろうと努力してきたが既に限界に差し掛かっていた。

 

「イヴァロ」が存続できていた理由の一つとしてレーザー級がロヴァニエミから現れるBETA群には含まれていないことがある。

そのため、まず航空機及び戦車による爆撃によって大半のBETAを殲滅。

 

数の減ったBETA群を戦術機が掃討するというシンプルな作戦が用いられていた。

 

1983年1月10日 

 

10日に日付がかわったころ

 

爆撃で仕留め損ない都市に迫るBETAを狩るために元フィンランド戦術機部隊サンディ大隊は出撃する。

 

大隊といっても既に16機のみ。1個中隊と1個小隊で構成されている。

 

度重なる出撃により人員機体共々補給が追い付かなくなっていた。

 

元フィンランド空軍は絨毯爆撃などする余裕などなくBETAが比較的に多いと人工衛星や目視で分かる地点にしか爆撃ができず取りこぼしが多かった。

 

「こちらサンディ1 これより降下を行う 全機続け!」

 

「「「「了解」」」」

 

F-4 ファントムが16機 薄汚い血で汚された大地に降り立つ。

 

「いいか人的被害の多い戦車級を優先的に駆除する」

 

「「「「了解」」」」

 

見渡すかぎりに広がるのは憎き人類の敵の死骸だけだった。

 

「今回は取りこぼしが少ないようですね 大隊長」

 

「わからんぞ もっとも爆撃による生存率の高い突撃級の一団が現れるかもしれん」

 

爆撃による攻撃にもっとも強いのは体の前面部に強固な防備をもつ突撃級だった。

 

「よし小隊単位で散開し、掃討を行え」

 

「「了解」」

 

4機ずつに大隊が4つに分かれる。

 

「隊長?」

 

「うん?」

 

長年彼の2番機を務める男が秘匿回線で尋ねる。

 

「いつまでこんなことを我々は続けなければならないのでしょう?」

 

「どういう意味だ?」

 

隊長は編隊を崩さずに他の僚機に悟られないように機を操る。

 

「この戦法はレーザー級が現れていないからこそ有効な戦術です」

 

「そのとおりだ」

 

「ではレーザー級が現れ、爆撃の効果が無くなるとどうなるでしょう」

 

なぜそれをフィンランド防衛線で嫌というほど知ったこの男が聞いてくるのだろうか。

 

「………………そのときは全軍でBETAを航空支援なしで迎え撃つことになるな」

 

「そうなると我が都市「イヴァロ」は完全にBETAの手に落ちることになります」

 

「……何がいいたい?」

 

彼は息を呑んで言い放つ。

 

「我が都市群は所詮寄せ集め……指揮系統もバラバラ。このままの状態で防衛線をしても本国の二の舞です。それに我々の都市の民はいつになったら他国へと逃れられるのでしょうか? 

同盟国のスウェーデン、ノルウェーは我々を時間稼ぎの壁として……」

 

「もうやめろ!! 」

 

隊長はその彼の言葉を遮った。

 

「迷いがあるなら機を下りろ 我等にできるのは目の前に迫る危険を取り除くことだけだ。

切るぞ。」

 

「了解」

 

口惜しそうな声を出してその指示に従うサンディ2。

 

「……せめて指揮をとれる人物がいれば少しは変わるだろうが」

 

隊長は指揮系統なしに個々の隊がバラバラに行動している現状をなんとかしないといけないと考えていた。

 

「こちらサンディ7 隊長!!」

 

「どうした? 07」

 

突如として分かれた別の小隊の機から交信が入る。

 

「要塞級です。要塞級が3体加えて戦車級の一団がいます。」

 

「厄介な奴らを残してくれたな 航空部隊のやつらめ」

 

全高70メートルほどもあるBETA最大種の要塞級に小隊1隊では心元ない。

 

「全小隊集結して要塞級を撃破する」

 

「「了解」」

 

「集結するまで要塞級に手を出すな」

 

ファントムの速度を上げて集結しようとしている地点まで各小隊が移動しようとする。

 

 

「隊長は皆が集まるまで手出すなって言っていたけどどうする?」

 

一番早く要塞級を見つけた部隊は秘匿回線を使い僚機に相談する。

 

「たとえここで俺等が要塞級に攻撃をしかけても、今は俺たちが所属している軍は存在していないのだから命令違反にはならないだろう」

 

「それじゃあ やりますか」

 

「おい! よせ!」

 

小隊長であるサンディ7が静止をかけようとするが……

 

「07! もう貴様は小隊長でもなんでもないんだよ!」

 

3機のファントムが隊列を乱し先行する。

 

「チッ どうなっても知らんぞ」

 

7番機もそれに続く

 

4機のファントムが要塞級の一団に迫る。

 

「大きいな……」

 

要塞級に後50メートルまで差し掛かったところで注意を促す。

 

「奴の触手に気をつけろ。あれはかなり伸びる。」

 

そう言い終えたところで一番接近していた要塞級の尾の突起が伸び小隊に迫る。

 

本来なら前線で戦っていた彼らがたった1個小隊で要塞級に挑むような愚策に陥ることはなかっただろう。

 

しかし、度重なる出撃に加え全く進まない救助が彼らの判断を鈍らせた。

 

「うわあああああああ」

 

衝角の先が小隊の1機に当たる。

 

要塞級の衝角から強烈な酸が放出され鋼鉄でできた戦術機を溶かす。

 

「ひいいいい」

 

一人を失って気づいた。自分たちが愚かな選択をしたことに。

 

だが時はすでにおそかった。

 

「ちくしょうめえええええええええ」

 

「よせ!」

 

小隊長の声に聴く耳を持たず突っ込んだ1機はその鋭利な巨大な脚に串刺しにされた。

 

「なんてことだ。おい!!離れるぞ!!」

 

残った一人に小隊長は声をかけるが…

 

「………」

 

茫然としているのか全く動きがない。

 

そこでけたたましい音と共に何かが近づいてくるのにようやく気が付いた。

 

猛スピードで奇怪な風体の黄色い物体が視界に現れた。

 

白い土台の上に赤いボディそして一番目につく長い黄色の腕がついたその機械の腕がさらに伸びる。

 

そしてなんとあの尾の触手を掴んでその要塞級の巨体を投げ飛ばした。

 

投げ飛んだ要塞級は別の要塞級と衝突し、互いの脚と重量に押しつぶされ身動きをしなくなった。

 

そこで他の大隊の ファントムが集まる。

 

「要塞級は放置しろと言っただろうが!!」

 

「なんだこいつは」

 

「新手のBETAか?」

 

他の隊も突如現れた謎の機体に気づく。

 

「サンディ7  状況を説明しろ」

 

「…………サンディ7!!!!」

 

隊長が説明を急がせる。

 

「……所属不明機が要塞級を投げ飛ばしました。」

 

「おい冗談を聞いている暇はないぞ」

 

再度、黄の機体の腕が伸び残りの要塞級をぐるぐるとまるでヘビのように覆い天高く舞い上げた。

 

そうまるで竜巻があらゆるものを巻き上げるように。

 

要塞級は丁度先に倒れた2匹の上に重なり落ちその動きを止めた。

 

目の前で起こったことが報告を本当のことだと証明していた。

 

黄色の機体は手を大きく上げて、戦意がないことを示して、ゆっくりと戦術機部隊の方に近づいてきた。

 

序章3 終わり

 



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第一部 第1章 「ゲッターチーム招来」
竜馬編 第1話 「月に囚われた男」


暗い監獄の廊下を一人の男が歩いていた。

 

かつて英雄と、伝説の男と称された男だった。

 

看守の警棒が男の体を殴打する。

 

「インベーダーがいなくなった今、お前は用済みだ。」

 

男は黙ったまま、看守を睨みつける。

 

「なんだその反抗的な目は? また懲罰房に入れられたいのか? ああん?」

 

(俺じゃない)

 

「言いたいことがあるなら言えよ? 人殺し」

 

(どうして俺がこんな目に……)

 

暗い独房の中、男は壁に拳を打ち付ける。

 

壁が男の拳から流れる血で汚れる。

 

(誰のせいだ?)

 

血で汚れた壁のシミが狂気のせいかある形に見えてくる。

 

(アイツ……アイツのせいだ!)

 

それはかつて背中を任せられると信じた友のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 1月9日 月面

 

 

 

「隼人おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

流竜馬は悪夢によって目覚めた。

 

「ここは……どこだ?」

 

竜馬は辺りを見渡す。そこはゲッターロボのコックピット―イーグル号の中だった。

 

コクピットから降りた竜馬はそこが無機質なドックの中だということがわかった。

 

竜馬はその場所に見覚えがあった。

 

月面第4基地

 

かつて竜馬たちスーパーロボット軍団がインベーダーと決戦を繰り広げた月の前線基地だった。

 

「俺はいったい?」

 

どうして自分がこんな場所にいるのか? 

 

わからなかった竜馬はこれまで起きたことを思い返す。

 

インベーダーを絶滅させた後、ミチルさんが事故で死んだ。その後早乙女博士が隼人に殺され、

 

俺は濡れ衣を着させられて捕まりA級刑務所で地獄の日々を送った。

 

(どうやらジジイと隼人が結託して俺をハメたらしい)

 

実は生きていた早乙女博士を再び殺すために仮釈放させられ、俺は隼人と武蔵と再会した。

 

そして国連が放った重陽子ミサイルの落下阻止に失敗した。

 

ミサイルを阻止しようと時に包まれた「ゲッター線」の光。

 

あの時、感じた「ゲッター線」の力で自分がここに飛ばされたのだと竜馬は理解した。

 

月まで飛ばされたことやミサイルを阻止できなかったことを悔やんでも仕方ない。

 

今、俺のやらなければならないことは復活した早乙女のジジイとインベーダーをこの世から消すこと。

 

そして最後に隼人を………。

 

誰のためでもない自分の復讐のために。

 

竜馬は「全て終わった後に俺を撃て」と言って隼人に渡された銃を出そうと服をまさぐった。

 

しかし、そこにあるはずの銃はなかった。

 

竜馬は行動するために「ゲッター1」にすぐさま飛び乗った。

 

機体の状況を確認する。

 

ゲッター炉心は生きている。武装も全て揃っている。

 

まるで誰かがすぐに出撃のできるように用意したようだった。

 

「ん?…………」

 

機体の「ゲッター線」濃度を指し示す計器の値が大気のないせいでふりそそぐ「ゲッター線」の影響を直接受ける月面の割には低すぎた。

 

「こいつはいったい?」

 

しかし、そんなことよりも重要なことが判明した。

 

「ゲッター1」が浮遊するために必要なゲッターウイングが激しく損傷していたのだった。

 

地球の1/6の重力下の月での飛行ならば可能だろうが、完全修復しなければ大気圏突破ができず燃え尽きてしまう。

 

「面倒だな」

 

そう毒づいた瞬間、基地内のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

「基地の周囲に未確認生物多数! 基地の周囲に未確認生物多数!」

 

まるで壊れた機械のように繰り返す。

 

基地がどうやら敵性生物の存在を察知したようだった。

 

「月にまだいやがったかインベーダー野郎。」

 

竜馬はインベーダーがまだ月に残っていたのだと思い、殲滅するために出撃しようとする。

 

遠隔操作でハッチを開く。

 

「ゲッターロボ!! 発進!!」

 

 

ゲッター1が勢いよく、月の基地から飛び出す。

 

そこで竜馬が見たものは想像を絶するものだった。

 

一面を赤い蜘蛛のような生物がうじゃうじゃしていたのだった。

 

「何だこいつら? インベーダーじゃないのか?」

 

その赤蜘蛛たちはゲッター1を視認するとまるで砂糖菓子に群がる蟻のように取り囲む。

 

その数およそ3千。

 

「どうやら死にてえらしいな」

 

得体のしれない生物だったが不思議と恐ろしさはなかった。

 

肩のボタンからトマホークが飛び出す。

 

同時に腹部に穴が生じ、そこから赤い光りが漏れる。

 

「ゲッタァァァァァァビィィィーーーーーム!!!!」

 

約3万度の熱線が得体のしれない生物の姿を消し炭にする。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお」

 

ゲッタービームで殺しきれなかった敵をトマホークで蹴散らしていく。

 

手斧と腕から生えている棘―ゲッターレザーが敵を切り裂く。

 

1分もしないうちにそこにゲッター1以外に動く物はなくなっていた。

 

「威勢のいいのは数だけか?」

 

この生物はいったい? 一体一体の力はたいしたことないが数が多すぎる。

 

竜馬はゲッター1を基地へと戻す。

 

地球に下りたくても、ゲッターウイングを直さないと地球にいけないのだ。

 

竜馬は基地のドックを再確認する。

 

修理・改造に必要な道具がそろっていることに安堵した。

 

ゲッターウイングを完全修復するのに、つきっきりで1ヶ月というところだろう。

 

竜馬はアームを操作し、修理にかかろうとする。

 

しかし、またそこでサイレンが鳴り響く。

 

「なんだと!!?」

 

ゲッター1に飛び乗り、再び月面へと飛び出す。

 

先程の生物が全く同じようにそこに群れていた。

 

「こいつら一体どこから」

 

先程と同じように蹴散らしていく竜馬。

 

そうしているうちにセンサーが宙にある物体をとらえていることに気づいた。

 

その物体の真下に移動すると、物体の正体がわかった。

 

人工衛星だった。

 

地球に下りることもできない状態で月面に閉じ込められ、こんなよくわからない生物の相手をさせられていることに、竜馬は激しく怒りを感じていた。

 

「俺をここに閉じ込めて観察してやがるのか?」

 

第三者にこの状況を観察されているのだとしたら、そう考えるとさらに腹が立った。

 

「トマホォォォク!」

 

肩のボタンから手斧を取り出す。

 

そして音速を超える速度でゲッター1が宙を飛ぶ。

 

狙いは人工衛星だった。

 

「ブゥゥゥメラン!」

 

手斧を投げつけ、人工衛星を破壊する。

 

宙を飛んでいるとさらに人工衛星があることに気がついた。

 

次々と衛星を破壊していく

 

月に展開する衛星を全て破壊した後に月面へと目をやる。

 

地球から観測できない月の裏側の中央に巨大な建造物がそびえたっていた。

 

「全く…わからねえことだらけだぜ」

 

見知らぬ敵。見知らぬ建造物。

 

脱出できない現状。

 

流竜馬は月という巨大な監獄に再び囚われたのだった。

 

 

竜馬編 1話 終わり

 



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竜馬編 第2話 「月の英雄」

1973年 4月19日

 

BETAと月面で戦争をしていた国連宇宙総軍にとんでもない知らせが届いた。

 

BETA着陸ユニット中国領カシュガル落着。

 

その知らせにおよそ7年続いた月の戦闘で人類が敗北したのは誰の眼にも明らかだった。

 

国際恒久月面基地プラトー1を人類は放棄するしかなかった。

 

「撤退するしかないだろう」

 

アメリカ軍の将軍が提案をする。

 

「BETAが地球にいるのだ。ここで戦って何になるのだ?」

 

満場一致でプラトー1の放棄が確定した。

 

しかし、ここで新たな問題が生じた。

 

一体どこの軍隊から撤退するか。

 

当然国連宇宙総軍とはいってもそれぞれの国軍の寄せ集めに過ぎなかった。

 

撤退の最後尾を務めなければならない国の軍は壊滅的な被害を受ける。

 

どこの国もそれを嫌がった。

 

何時間もの沈黙とにらみ合いの中やがて一人の指揮官が手を挙げた。

 

当時、日本帝国航空宇宙軍御剣雷電少将だった。

 

斯衛軍から航空宇宙軍に転属願いを出した御剣少将は航空宇宙軍の指揮官としてこの月へと派遣されていた。

 

その日から帝国航空宇宙軍は地獄の中の更にひどい状況に晒された。

 

日が経つごとに減る味方の数。

 

虎の子の機械化歩兵装甲をあるだけ投入し、最後は御剣雷電少将の直属の精鋭がプラトー1を爆発させ、精鋭たちは仲間と指揮官を逃がすために命を投げ打った。

 

その中には当時大尉であった御剣雷電少将の子息も含まれていた。

 

敗軍の将として悪戯に自国の兵を死なせたこと。

 

その事を責められることを覚悟して国に帰った少将を待っていたのは、

 

 

 

 

 

「月撤退戦を最小限の被害で成し遂げた伝説の男」という称賛だった。

 

 

1983年 1月13日 

 

核投射プラットフォームスペース1「L1」付近の駆逐艦の中に現在国連宇宙軍中将となった御剣雷電がいた。

 

「儂はどれくらい仮眠をとった? 月詠?」

 

「ハッ! 3時間くらいであります。中将。」

 

副官である月詠大尉が報告をする。

 

「そんなにか……。相変わらず月に動きはないか?」

 

「ハッ! 相変わらず奴らのハイブから飛来物が太陽系外または太陽系内に向けて飛んでいます。」

 

BETAと未確認兵器が接触をしたとみられる9日から月面にある唯一のハイブが活発に活動し、一時間に数十回太陽系外、太陽系内問わず小型の飛来物を射出していた。

 

地球に向けて放たれたものもあったが、L1からの迎撃によって撃ち落とされた。

 

それが計算上、月に人工建造物が現れた直後だということがわかった。

 

「中将。進展といえば例の未確認兵器の呼称が正式に決まったと入電がありました。赤い戦鬼―<レッド・オーガ>だそうです。」

 

「赤い戦鬼か。そのままだな。月詠どう思う? BETAはこれまでも我々の理解を超える行動をしてきた。だが今回はさらに異常だ。」

 

月詠大尉は少し考えると

 

「例の赤い戦鬼がBETAか。BETAでないかで分かれると思います。」

 

「聞こう。」

 

「まずBETAであった場合。これは真空間飛行能力をもった新種です。我々がこれまで有効活用してきた衛星を無効果するのに非常に役立ちます。この技術を他星にいる仲間に伝えているというのがこの行動の理由でしょう。」

 

「ふむ……」

 

雷電が顎髭を触りながら納得したように頷く。

 

「次にBETAでない場合。BETAにとって非常に高い戦闘能力をもった敵となります。

これに対してBETAが脅威を感じ、他星にいる仲間に助けを求めているのがこの行動の理由だと考えます。」

 

「ふむ……つまり伝令もしくは救援要請ということか」

 

先程と同じように雷電はうなずく。

 

「しかし、どちらも異なります。なぜなら前者の場合はBETAが光線級を生み出したのがBETAに我々の飛行戦力が敵に多大な脅威を与えたことに由来することから否定されます。我々は月のBETAにこの10年何もしていません」

 

「そのとおりだ。大尉。」

 

「そして後者の場合。我々の飛行戦力がBETAに脅威を与えた折にBETAが新種を生み出すのに2週間かけたことにより否定されます。対抗手段の新種を生み出さずにBETAが白旗を上げるとは考えにくいです。」

 

「つまり…………?」

 

雷電が月詠大尉にまるで続きをはやく言えというように聞く。

 

「我々の理解を超えるBETAの突発的行動。つまりわかりません。」

 

「ハハハハハハハ!!!」

 

雷電が大声で笑う。

 

「そのとおり…此度の奴らの行動もわからん。だがわかっていることが一つある。それはBETAにとって赤い戦鬼の出現は予定外ということだ。そうでなければあんな行動はとらん。」

 

「では中将。これよりどうされますか?」

 

雷電は大声で宣言する。

 

「駆逐艦を月に向けろ。我々が赤い戦鬼と人類で初のコンタクトを試みる。有るだけハーディマンを使うぞ!」

 

駆逐艦は月へと進路を変えた。

 

雷電はBETAの行動に何かしら感じるものがあったが、それが何なのかまだ自分でも説明できなかった。

 

「月詠。今さらだが、斯衛を離れてよかったのか?」

 

「ええ。兄がいますから。国内のことはアイツにまかせればよいのです。」

 

と月詠大尉が言う。

 

月詠大尉には双子の兄がいるのだった。

 

「地球に下りてきた時、娘には会ったか?」

 

「ええ元気でしたよ。」

 

「そうか。…………そうか。」

 

月詠大尉には子供の話をした時に雷電がどこか寂しげな表情をしていたような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

一方月面

 

流竜馬のゲッター1のゲッターウイングの修理はまったくと言っていいほど進んでなかった。

 

なぜなら、数時間に一度は未確認生物の接近を基地がサイレンで告げ、それの迎撃に駆り出されるからだった。

 

「またか! ふざけやがって!」

 

また竜馬は出撃をする。

 

奴らが出てくるのは、アリ塚のように巨大な建造物だろうということは竜馬もわかっていた。

 

「先に巣から壊してやろうか!」

 

とも考えたが、巣を壊している間に基地を破壊されては地球に下りられなくなるので竜馬は基地を出たり、入ったりを繰り返すほかなかった。

 

しかし、その基地襲撃の頻度は少しずつだが確実に減っていた。

 

 

竜馬編 2話終わり

 



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竜馬編 第3話 「深紅」

 

1973年 5月 月面基地 プラトー1

 

国連軍がBETAの地球襲来を受けて月面からの撤退が決まってから約10日の時が流れた。

 

既に各国の国軍は撤退を完了し、残った兵は御剣少将率いる帝国宇宙軍のみだった。

 

月面にはおびただしい数の巨大クレーターがいくつもできていた。

 

マスドライバーによる長距離投射爆撃。

 

磁性をもった月の砂「レゴリス」が大量に巻き上がり、長時間の月雲が引き起こされることによる電波障害から使用を禁止されていたその兵器を人類側は使うしかなかった。

 

日本帝国軍はレゴリスによって地球との交信が絶たれ、完全に孤軍となっていた。

 

もうすぐ地球にそして帝国に帰れる予定だった。

 

 

だが、灰色の地平が赤く染まる程の大群がプラート1を取り囲んでいた。

 

既に戦線は開かれ、数多くの兵が犠牲となっていた。

 

脱出するのが、先かそれとも喰われるのが先か。

 

戦い時間を稼ぐ隊と先に艦へと逃げる隊と軍は二分された。

 

戦う隊の出身はほとんどが斯衛出身の武家の者達だった。

 

武家たるもの常に民の刃であり、鎧でなければならない。

 

帝国軍も元は国民。

 

国民を逃がすために命を懸けるのも務めの一つだと彼らは信じた。

 

機械化歩兵装甲ハーディマンを装着した兵士が重火器を放ち、戦車級の体液が月の大地を汚す。

 

大気のない月では爆風による破壊は効果が薄い。BETAに対してより大きな弾をより速く敵へと放つことが最大の効果を上げることになる。

 

宇宙服を着た兵士の頭部を背後から敏捷な動きで迫ってきた闘士級の象の鼻に似た前足が食い込み、引き抜いた。

 

「この化け物どもがあああああああああ」

 

基地の周囲に設置された地雷が突撃級の群れに襲いかかるが、それも一時しのぎにしかならない。

 

倒れた突撃級を迂回して新たな突撃級が基地へと前進を進める。

 

基地内部へもBETAが侵入し、基地内にも火の手があがった。

 

「プラトー1を放棄して、駆逐艦に乗り込め!」

 

最後尾で前線の指揮を執っていた雷電の指示で時間を稼いでいた兵達も駆逐艦へと急ぐ。

 

逃走中、副官が雷電に呼びかける。

 

「少将! 最前線の隊が奴らの群れに取り囲まれているようです! 救援に行きますか?」

 

雷電は選択を迫られた。

 

全軍を危険に晒して前線の兵を救うか? それとも見捨てるか?

 

将として全滅だけは避けなければならない。

 

「どこの隊だ?」

 

「……ご子息の隊です。」

 

最前線で激戦を繰り広げている隊は雷電の息子である大尉が率いている隊で雷電の斯衛時代の部下の者達だった。

 

 

 

 

 

最前線の部隊を残して駆逐艦は全機月面を離れた。

 

眼下のプラトー1が少しずつ小さくなっていく。

 

その時、通信が入った。月面に残していった御剣大尉の部隊からだった。

 

「司令部聞こえるか?」

 

雷電以下兵達が通信機へと駆け寄る。

 

「大尉! 隊の状況は!?」

 

通信兵が御剣大尉へと呼びかけた。

 

「通じたぞ!」 

 

通信機ごしに弱々しい周りにいるであろう兵の声が聞こえる。

 

「こちらは基地の隔壁を閉じて、なんとか凌いでいる状態だ。」

 

御剣大尉の隊はBETAが沸き返る基地の一室に閉じ込められたようだ。

 

「救援は頼めるだろうか?」

 

御剣大尉は救援要請を司令部にするために通信をしたのであった。

 

駆逐艦内に重苦しい空気が立ち込める。

 

現在、彼らを救えるような戦力など月面には無い。

 

「……儂が伝えよう。」

 

「…少将。」

 

雷電が通信兵と位置を変える。

 

「大尉。こちら御剣少将だ。」

 

「父……少将ご無事でしたか」

 

父親の態度に将としての言葉と理解して言い換えた。

 

「大尉。残念だが我等には貴隊を救う時間も戦力もない。」

 

「…………………」

 

告げられた。宣告に絶句する大尉。

 

沈黙の後、大尉が言葉を絞り出す。

 

「………父上。お願いがあります」

 

「なんだ?」

 

「……BETAに食い殺される日本人は我等で最後にしてもらいたい。」

 

震える声で懇願する息子の声に雷電は言葉を出せなかった。

 

「地球に降り立った奴らを一匹残らず根絶やしにし……」

 

「………全力を尽くそう」

 

雷電がそう告げると少しの間があり、大尉側から通信が切られた。

 

 

「マスドライバー施設との通信は回復したか?」

 

「はい!」

 

磁性レゴリスの通信障害から駆逐艦は解放されていた。

 

 

「マスドライバーでプラトー1を爆撃しろと命令しろ」

 

「!? 少将!?」

 

「英霊たちの血肉の一片すら奴らには渡さん!」

 

 

しばらくしてマスドライバーからの爆撃がプラトー1へと放たれた。

 

磁性の砂が巻き上がり、プラトー1を砂煙で隠した。

 

その光景を雷電は唇を噛みしめながら見つめていた。

 

雷電は自分の無力さを痛感し、かけがえのない存在を失ったのだった。

 

 

 

 

1983年 1月15日 月面

 

未確認兵器が確認された9日から13日という5日間。

 

月面のハイブは絶え間なく活動し、何かを絶えず射出していた。

 

だが、14日を迎えるとそれが嘘のようにぴたりと活動を停止した。

 

最後に月面ハイブから飛んでいったモノは火星に落ちた。

 

 

 

御剣雷電中将の乗った駆逐艦が月重力下に入った。

 

月の裏側と表側の境目にある人工建造物目がけて駆逐艦が進行する。

 

「本当に月に人工建造物が…………」

 

月詠大尉が目を見開いた。

 

「よし………付近にBETAはいないな。あの建造物の200メートル地点に着陸させろ」

 

雷電が指示を出して、駆逐艦が月に着陸する。

 

「まさか…生きている間にまた月に立つ時が来るとはな……………」

 

そう言った雷電は将軍より賜った深紅の斯衛軍の強化装備を身にまとっていた。

 

「中将? まさかご自身で探索に出るおつもりですか?」

 

「無論だ。武家たるもの常に先陣に立たねばならん。国連軍に渡るときに陛下より戴いたこれがようやく役に立つ時が来た。」

 

雷電がその上から宇宙服を着る。

 

「よいか。儂が単機であの建造物に乗り込む。3時間して戻らなかった場合アレは敵じゃ。

儂を置いて地球圏に帰れ。」

 

「しかし中将!」

 

「意見は許さん。武装はこれだけ持っていく」

 

雷電中将は皆琉神威を持つと船外へと出て行った。

 

月詠大尉は艦からその姿が見えなくなるまでずっと敬礼を続けていた。

 

「大尉。なぜずっと敬礼をしているのですか?」

 

一人の軍人が月詠大尉に尋ねた。

 

「中将はおそらく死ぬ気だ。」

 

「え!?」

 

「中将はずっとご子息を残して月を去ったことを後悔していた。ご子息の眠る月で逝きたいのだと思う。」

 

「ではなぜ? 武器を?」

 

「中将は後継者に未だ至っていないとしてご子息に宝刀の継承をしていなかった。常世で継承するには皆琉神威が必要であろう。」

 

「そんな……なぜ止めないのですか?」

 

「止められるはずがない! ようやく月に来られたのだ。私に中将の悲願を邪魔することなどできない!」

 

問いかけた軍人は絶句する。構わず月詠大尉は続けた。

 

「中将は懸けていらっしゃるのだ。赤い戦鬼が味方の場合は生きて我等の元に帰る。赤い戦鬼が敵の場合は月で果てる。どちらにしても中将にとって損はない。」

 

次第に震えてくる月詠大尉の声に誰ひとりとしてその判断に異を唱える者はいなかった。

 

「我等にできるのは………中将が戻ってくることをここで祈るだけだ。」

 

 

 

 

 

「どう見てもこの建造物は基地じゃな…」

 

白亜の建造物へと侵入する雷電。

 

3重にもなった扉を抜けると広い空間に出た。

 

宇宙服が空間に酸素が十分あることを告げたので、宇宙服を脱ぎ強化装備となる。

 

巨大な赤い物体がそこにはあった。

 

「これが……赤い戦鬼か。」

 

赤い戦鬼は無機質な無人のドッグで佇んでいた。全体的に赤だが胴部は白、腹部は黄色のカラーリングがなされている。

 

はたしてコレは人類の敵なのか? 味方なのか?

 

 

 

 

赤い戦鬼に目を取られていた御剣雷電が皆琉神威に手をかける。

 

いつのまにか隠そうとしない殺気が辺りを充満していた。

 

その瞬間。死角から何かが襲いかかってきた。

 

雷電は紙一重でその一撃を避ける。

 

「せっかく静かになってきたと思ったら……なんだテメエ!」

 

それはまるで囚人のようないでたちをした大男だった。

 

(日本語?)

 

その大男が雷電に飛びかかりながら蹴りを放ってきたのだった。

 

「ああ? テメエ!? 人間か? 変な恰好しやがって!!」

 

 

その剥き出しの殺気に雷電は皆琉神威の切っ先を向ける。

 

「ヤル気か? 俺と? ジジイだからって手加減しねえぜ! 俺は年寄りがこの世で二番目に嫌いなんだよ!」

 

雷電は猛獣に襲われたような心地だった。

 

相手が人間だということに少しも安堵を感じることができなかった。

 

男が目にも止まらぬスピードで雷電へと襲いかかる。

 

だが、大人しくやられる雷電ではない。

 

「ハァ!」

 

皆琉神威の白刃が疾走する男へと奔る。

 

男はなんとその剣に反応し、避けて浅く雷電の体に拳を撃ち込んだ。

 

「ぐ……」

 

強化装備の上からの打撃とは思えない信じられない重さだった。

 

これが強化装備無しだったら。

 

(いや! たとえ強化装備を着ていようが芯を捉えられたなら…)

 

「はあああああ!!」

 

今度はこちらから仕掛ける。

 

皆琉神威の白刃が縦横無尽に男に襲いかかる。

 

「見切ったぜ! ジジイ!」

 

男が身軽に雷電の攻撃を避け、接近して浅く雷電の体に拳を打ち込む。

 

「ぐ………」

 

雷電が身をよじる。

 

(信じられん。我が剣技を二度も避けるとは……)

 

否……男の体と衣服には確かに皆琉神威による斬撃の後があった。

 

(この男。紙一重で我が刃を……)

 

男の殺気に気おされていたとはいえ強化装備に武器まで持っていたという余裕のあった雷電は認識を改めざるをえなかった。

 

(殺される。全力でいかなければ殺される。)

 

雷電は皆琉神威を鞘にしまうと抜刀の構えをとった。

 

 

 

 

 

流竜馬もまた同様に驚いていた。

 

自分の2倍は生きていそうな老体が自分のスピードに対応してきたのだった。

 

その証拠に竜馬の頬には幾つも赤い線が走っている。

 

日本刀に襲われるという経験がなかったなら真っ二つにされていただろう。

 

竜馬はあの「全て」が始まった日を思い出す。

 

父親の流一岩の道場開きを阻止したジジイ共に鉄槌を……父親の仇を取ったあの日を。

 

早乙女博士にゲッターのパイロットとして見初められたあの日を。

 

(あの雨の日に感謝する時が来るとはな)

 

妙な甲冑のジジイが鞘に刀をしまうと猛烈な殺気を放ってくる。

 

(今、飛び込めば首が飛ぶのは俺の方だ)

 

先に手を出した方が死ぬ。

 

竜馬も雷電もお互いがそれをわかっていたから二人はそのまままるで世界が静止したように動きを止めた。

 

 

 

 

その静寂を突然サイレンが破った。

 

「まだいやがったのか? 虫野郎!」

 

竜馬はゲッター1にまるで猿のような乗りこなしで機体に上がると、コックピッドを開いた。

 

「ジジイ!! 続きは後だ!」

 

竜馬がゲッターロボに乗り込み、月面へと出撃した。

 

 

 

 

一人残された雷電は緊張をとく。

 

滝のように体から汗が噴き出していた。

 

極度の緊張から解放されて膝をついた。

 

あれは本当に人間なのか?

 

「一体……奴はどこへ?」

 

ドックの中に外の様子のわかるモニター室があった。

 

そこで見たものに雷電は衝撃を受けた。

 

駆逐艦を囲んでいた戦車級を赤い戦鬼が叩き殺していた。

 

戦車級は駆逐艦から離れ次々に赤い戦鬼を取り囲む。

 

赤い戦鬼の中央部から光が漏れたかと思うと光線が出てBETAを焼き尽くした。

 

しかもそれは光線級のような一瞬ではなく、断続的に出る光線だった。

 

ものの数十秒。BETAは駆逐艦の側からいなくなっていた。

 

雷電はその姿―BETAをまるで虫けらのように潰す赤い鬼の姿に魅せられていた。

 

この力があれば確実にBETAに勝てる。

 

忘れていた何か……自分の中に熱い衝動が走るのを雷電は感じ取れた。

 

 

そっと皆琉神威―亡き息子と逝った部下に向けて呟く。

 

「すまんな。まだそっちにはいけそうにない。儂の死に場所はここではないようじゃ」

 

 

10年の時を超えて御剣雷電の心に再び火が灯った瞬間だった。

 

 

 

竜馬編 3話 終

 



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竜馬編 第4話 「空虚な闇の底」

1983年 1月15日 月面

 

竜馬は謎の赤い甲冑ジジイの乗ってきたと思われる宇宙船とともに月面基地へと近づいた例の赤蜘蛛を倒しながらある疑念を感じていた。

 

(……おかしいぜ。 何なんだこいつらは?)

 

この基地に初めてやってきた時に比べて動きに敏捷性が感じられなかったのだ。

 

群れから外れた最後の一体に止めを刺そうとゲッター1を駆る。

 

トマホークを振り下ろす段階で竜馬はソレに気づいた。

 

「こいつ! 死んでいるのか!?」

 

その個体はまるで死んだように活動を停止していた。

 

BETA撃退のため機械化装甲ハーディマンを装備した国連兵を竜馬は無視してゲッター1を基地へと戻らせる。

 

(死んだ虫野郎のことはどうでもいい)

 

この月に飛ばされて初めてあった人間との喧嘩の方がよっぽど竜馬の興味を引いていた。

 

(ジジイに日本刀……胸糞悪い。)

 

竜馬は月面基地へと戻り、ゲッター1を下りた。

 

「続きだ! ジジイ!!」

 

竜馬が勇んで雷電との喧嘩を続けようとするが、そこには刀を置いて、正座した雷電が待っていた。

 

雷電にはもう敵対する意思がなかった。

 

敵対する意思のない奴に攻撃しても仕方がないので竜馬はその態度に拳を下ろす。

 

この世界の状況をこの男から聞きだそうと竜馬は口を開いた。

 

「おいジジイ! 俺にわかるように説明しろ! ここは何処だ? あいつらは何だ! 真ドラゴンは一体どうなった!?」

 

雷電に近づき、竜馬が問いただした。

 

「儂は国連宇宙軍御剣雷電中将だ。まずは名を聞こうか。」

 

自己紹介が先だと言わんばかりの有無を言わさない態度だ。

 

「チッ! 俺は流竜馬だ。」

 

相手にならって竜馬も自分の名前を告げた、しばしの後。

 

「ここは月面だ」

 

「ンなことはわかってんだよ! あの気味の悪い生物は何だ!?」

 

「貴様BETAを知らないのか?」

 

雷電と名乗った老人は信じられないといった表情をした。

 

「知るか! あんなモノに知り合いなんていねえ!」

 

「あれはBETAという生命体で儂ら人類の敵だ。」

 

雷電と竜馬はお互いの情報を伝え合った。

 

竜馬はここが20世紀で人類がBETAと呼ばれる地球外生命体の侵略によって存亡の危機に瀕していることそしてやはりあの建造物が奴らの巣「ハイブ」という事を知った。

 

「信じられねえが……俺は別世界に飛ばされてきたようだな」

 

「信じられないのはこちらじゃ。新たな宇宙生命体だと思っていたのが異世界から来た日本人とは」

 

竜馬は雷電に対しておそらく自分が異なる世界の未来から来たことと「ゲッターロボ」という兵器であることを伝えた。

 

「流。部下も呼んでよいか?」

 

「ああ。いいぜ。あの船ごと基地に入れな。」

 

返事をしながら、竜馬は思案していた。

 

(異世界だと!? ゲッターを修理して地球に戻っても何の意味もねえじゃねえか!)

 

 

竜馬はどうやって元の世界に戻るかということでいっぱいだった。

 

そうこうしている内に駆逐艦は月のドッグへと入り、ゲッター1の隣に着艦した。

 

「中将! 御無事でしたか!」

 

「どうした月詠? 何を涙ぐんでおる?」

 

月詠大尉が雷電へと駆け寄った。

 

「中将? あの男はもしや?」

 

月詠大尉が竜馬へと視線を向ける。

 

「ああ。赤い戦鬼―ゲッター1のパイロットの流竜馬じゃ。」

 

(「ゲッター線」の力で俺はこの世界に飛ばされた。なら同じようにあれと同じクラスの「ゲッター線」の力をこの世界で発生させれば元の世界に戻れるのか?)

 

だが無数のゲッター炉心を同化させた真ドラゴンと重陽子爆弾を合わせたようなエネルギーを生みだすのが果たして可能だろうか。

 

相変わらず考えていた竜馬に雷電が近づいた。

 

「流。話がある艦に来てくれ」

 

艦内の部屋に案内された竜馬。

 

そこで竜馬は雷電と月詠大尉とテーブルに腰を掛けた。

 

「この男は月詠大尉。儂の副官をしてもらっている。」

 

「月詠だ。よろしく頼む流。」

 

竜馬はその男に目をやる。隙のない身のこなしのまさしく武士といった精悍な男だった。

 

 

雷電が身を乗り出した。

 

「流竜馬。単刀直入に言う。貴公の力を貸してほしい。BETAを地球から排除するのに協力してほしいのだ」

 

そんなことだろうと思っていた竜馬は力強く言い放った。

 

「断る!」

 

竜馬の一言で場が沈黙する。

 

「俺には元の世界でやらなきゃいけねえことがあるんだよ!」

 

「貴様! 中将が自ら頼んでいるというのに何と失礼な!」

 

月詠大尉が飛びかかろうとする。

 

「よさんか! 月詠!」

 

雷電が月詠を制する。

 

「お前の力が必要だ。世界を救うのにあの「ゲッターロボ」を貸してくれ」

 

今度は頭を下げて雷電が頼む。

 

「チッ知るか! テメエらの地球が滅ぼされそうなのはテメエらの問題だろうが、俺を巻き込むんじゃねえ!」

 

「……うぐ」

 

竜馬の発言が大きく彼らの心に突き刺さる。

 

「……貴様」

 

今度こそ竜馬に飛びかかろうと月詠が身構えた。

 

だがその彼の行動を雷電の檄が遮った。

 

「儂らだけで解決できるなら貴様に頼んだりはしない!!!」

 

雷電が大声を発し、竜馬の眼が見開く、そのまま竜馬と雷電はにらみ合った。

 

「それにおかしいだろ? 20世紀後半の科学力なら航空兵器かなにかで上から爆撃すりゃBETAだが何だが知らねえが楽勝だろうが!」

 

月でBETAとしか戦闘をしていない竜馬は光線級の存在を知らない。

 

「奴らには航空兵器はほぼ通用しない。奴らの中には貴様のゲッターロボのように光線の発する個体が存在する。」

 

雷電は竜馬に月にいない光線級について伝えた。

 

「地球に落ちた着陸ユニットそれを基にした奴らの前線基地それが「ハイブ」。あの月の裏側にもある巨大な建造物とそこから這い出るBETAを中国軍は航空戦力で蹂躙していたが、その個体に全て撃破された。」

 

そこで竜馬に一つの疑問が生まれた。

 

「待て。御剣のジジイ、なぜこの月にそいつらはいない!?」

 

「諸説あるが、儂らはBETAが新種を生み出したと考えている。あの生物は自身が危機に陥るとそれに対抗できうる能力を持った個体を生み出すのだ。」

 

「……それを生み出すのはだいたい何日かかる?」

 

「光線級の時は2週間だ。」

 

それを聞いた瞬間、竜馬は部屋を飛び出した。

 

雷電と月詠は部屋に残された。

 

「一体どうしたというのでしょうか?」

 

「わからぬ。」

 

 

 

 

 

 

ドックのゲッター1に乗り込んだ竜馬はゲッター1を発進させる。

 

(奴らがゲッターを超える個体を生み出すとは考えにくいが用心にこしたことはない!)

 

竜馬はBETAが新種を生み出す前にハイブを叩くことに決めたのだった。

 

月面へと飛び出たゲッター1。

 

一直線にハイブへとゲッター1を進撃させる。

 

だが、竜馬の目の前に広がるのは力を失い、動きを止めたBETAの群れだった。

 

「どうなっているんだ? わけが……わけがわからんぞ」

 

竜馬はゲッター1を巨大な建造物ハイブへと急がせる。

 

徐々にその姿が顕わになっていく、地表構造物の高さはおよそ1キロメートル。

 

蟻塚のように大きな奴らの巣がそこにはあった。

 

あまりに大きく、その最深部へたどり着くことへの困難さが窺える。

 

「流! 応答しろ! 流!」

 

そこで雷電から通信があった。

 

「御剣のジジイ!! この奴らの巣にはどこから入ればいい!?」

 

「貴様、やはりハイブに……たった1機でハイブが落とせると思っているのか!?」

 

雷電は竜馬が考えもなしにハイブへと突撃したことに異を唱える。

 

ハイブは彼らの常識の中では単機で落とせるようなものではなかった。

 

「うるせえええええ!! やってみなけりゃわからねえだろうが!!」

 

「今奴らはハイブの周りにいるのか?」

 

「ああ? 一匹もいねえよ!」

 

ここは、あの男が無事に帰ってくると信じてハイブへと向かわせるのが吉ではないかと雷電は考えた。

 

「わかった。流。そのハイブの地表建造物は通称モニュメントと呼ばれている。そしてその地下は蟻の巣のようにいくつもの坑道と広間が存在している。」

 

「つまり、この地下は迷路だってことか?」

 

ハイブの坑道は半径100キロに近い網状になっている。

 

この迷宮を前準備なしに突破することは不可能。

 

だが、光線級のいないこの月なら可能にする方法がある。

 

「流。モニュメントの中央部の地下にはスタブと呼ばれる巨大なメイン通路があるはずだ。そこを下りろ。そうすれば最深部へと行けるはずだ。」

 

本来、光線級はハイブ内でレーザーを照射することはない。だが、スタブの主縦路の上空へと向けてはレーザーを発射し、敵を迎撃する。

 

主縦路は巨大なレーザー砲台と化す。だが、月には光線級がいない。

 

だからこそ可能な方法だった。

 

「よく知ってんじゃねえか。御剣のジジイ。」

 

BETAにほとんど勝利したことがないにしてはいろいろ知っている。

 

「感謝ならソ連のヴォールク共に言ってくれ。幸運を祈る。」

 

そこで通信が切れた。

 

竜馬は地表へと下りる。

 

相変わらず代わり映えのしない灰色の大地。

 

竜馬はハイブ内にいるBETAが迎撃に来るのではないかと用心していたが、そんなそぶりはなかった。

 

「ゲッタアアアアビィィィムウゥウ!!」

 

竜馬はモニュメントにゲッタービームで風穴を開けて、ハイブ内に飛び込んだ。

 

暗闇。

 

竜馬はレーダーとライトを用いて潜っていく。

 

不思議なのは奴らの巣なのにもかかわらずBETAが1匹もいないことだ。

 

暗闇の中をひたすら落ちていった。

 

底などないのではないかと思えるほど落ちたころにようやく底へとたどり着いた。

 

そこは広大な空間となっていた。

 

「チッ! 底にたどり着いたのはいいがここから最深部へはどうやっていけばいいんだ!?」

 

竜馬は暗闇の中を彷徨う他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面基地

 

 

「中将。あんな貴重な物をみすみす失うようなことをなぜ!?」

 

月詠大尉が御剣中将に問いかけた。

 

御剣中将は頭に手を当て、考えていた。

 

ここでBETAに勝てる可能性のある新たな力を失うわけにはいかない。だが、無理に止めてその後に協力しろと説き伏せても果たしてあの激情的な性格の男が納得しないだろう。

 

「儂の考えが正しければアレは無傷で戻ってくる。」

 

月詠大尉にはその発言の真意が掴めなかった。

 

「おかしいとは思わんか。儂らがここで奴らと戦った時は月面覆い尽くす程の数がいた。だがここを攻めてくる奴もハイブ周辺にも奴らの姿はない。」

 

雷電は10年前の自分たちのしたことを思い出していた。

 

「同じだ。儂等がこの月から逃げ帰った時と………」

 

「中将! まさか!」

 

月面部隊はプラトー1という基地から地球の各国へと撤退した。

 

わずかな兵を残して。

 

「奴らは少数の兵を残して月を捨てたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイブ最深部周辺

 

 

竜馬は広間を何時間も彷徨った。

 

そして壁に巨大な穴を見つけた。

 

その隔壁は無理矢理こじあけたような形状をしていた。

 

竜馬はゲッター1をその隔壁へと侵入させる。

 

そこには何もなかった。

 

明らかに最深部であるそこにはただ空虚な空間が広がっているだけだった。

 

竜馬がその中央部に目をやると大きなそこにいた何かの跡が残っていた。

 

まるで玉座のような台座のような奇妙な物だった。

 

そこにあったはずの何かが消えていたのだった。

 

動いているBETAはこの月から消え去っていた。

 

だが、竜馬にとって何の思い入れのない生物がどこへ行こうと知ったことではない。

 

ここには何もない。

 

脅威になりうる新種のBETAなどいない。

 

「なんだと!?」

 

だが、基地へと戻ろうとした竜馬はあることに気がついた。

 

ゲッターロボは宇宙に溢れるエネルギー「ゲッター線」によって動いている。

 

放射線をもつこのエネルギーは大変危険であるが、効果的に使えば人類に恩恵をもたらす。

 

確証はないが、人類が進化した原因という説もある。

 

インベーダーもこの「ゲッター線」を獲得するのが狙いだった。

 

宇宙線である「ゲッター線」は星へと降り注ぎ、それが地下であろうが、鉱物の中であろうがそこへ留まる。

 

この世界は竜馬たちのいた元の世界と比べればゲッター線の濃度は薄かった。

 

それに対して、竜馬は疑問を持っていたが世界が違えばそれもあり得ることだろうと納得していた。

 

だが、その空間だけは異常だった。

 

「……あ、ありえんぞ」

 

ゲッター線計の数値は0を示していたのだった。

 

その空間には「ゲッター線」は一切存在していなかった。

 

竜馬編 4話 終

 



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竜馬編 第5話 「オルタネイティヴ計画」

 

1983年、アメリカは米、中、ソの超大国の中で唯一BETAの被害を受けていない国である。

 

他の常任理事国のBETA大戦による没落。

 

国力に余裕のあるアメリカは国連を最大限に利用し、自由民主主義的な盟主としての立場を確立しようとしていた。

 

基本的に国連軍は全て米軍の影響下にある。その例外が二つあった。

 

一つは月面戦争時に国連軍に参加した全ての国に「貸し」をつくっている「月面戦争の英雄―御剣雷電中将」をリーダーとする国連宇宙軍の一隊。通称「御剣組」。

 

月面戦争の功績よりもコントロール不可能という意味で宇宙に飛ばされているというのがもっぱらの噂である。

 

そしてもう一つはソ連のハバロフスクである「特殊な研究」をしている一団であった。

 

 

 

 

 

1983年 1月16日 月面

 

15日が終わり、16日になったばかりの頃竜馬の乗ったゲッターロボが月面基地へと帰還した。

 

「無事だったか! 流!」

 

ゲッターロボを下りた竜馬に雷電と月詠が駆け寄る。

 

「おいジジイ。 BETAについて知っていることを全て教えろ!」

 

竜馬は雷電の襟を掴んで問いただした。

 

「どうしたのじゃ一体!?」

 

「いいから教えろ!!」

 

そして竜馬、雷電、月詠の三人は再び腰を据えて話を始めるため艦の一室に入った。

 

そこで竜馬はハイブにBETAが一匹も残っていなかったこと。そしてハイブ内に「ゲッター線」が存在しないことを伝えた。

 

「その『ゲッター線』がないというのはそれほど重要なことなのか?」

 

月詠はBETAがハイブを放棄したことの方がよっぽど重要ではないだろうか?といった口調で話す。

 

「『ゲッター線』ってのはどこにでもあるものだ! それがあの穴蔵の中には一つもねえンだよ! 事の重大性がわかってねえのはテメエだ!」

 

竜馬はこの世界に自身がやってきたのは「ゲッター線」の力によるものだと考えていた。そこに「ゲッター線」と関係する生物が現れたのである。

 

元の世界に戻るのに何かしらあの生物は関係があるはずだと竜馬は考えていた。

 

「ふむ。貴様とこの世界をつなぐ要素がBETAのハイブにあったということか」

 

雷電が成程といった具合にうなづいた。

 

「そうだ! 今はBETAに関するどんな情報でも欲しい!」

 

竜馬が鬼気迫る表情で雷電と向き合った。

 

「それでそれを貴様に伝えて儂等に何のメリットがあるんじゃ?」

 

雷電はタダでは教える気はないようだ。

 

「御剣のジジイ! テメエ!」

 

竜馬が昨日の喧嘩の再現をするかのように拳を上げる。

 

「そこで提案がある。」

 

「ああ!?」

 

その発言に竜馬は手を止めた。

 

「我々は貴様に全ての情報を提供し、元の世界に戻るために支援をしよう。ただし……。」

 

「……ただし?」

 

「その代わりこの世界にいる間は我々に協力してもらう」

 

雷電は竜馬にこの世界にいる間協力してくれれば、雷電も竜馬の帰還に協力するというギブアンドテイクを持ちかけた。

 

「わかったぜ。だが、元の世界に戻る方法が分かれば今すぐに帰らせてもらうぜ。」

 

竜馬は了承し席に座った。

 

「まずBETAのことだが、我々の持っている情報は多くない」

 

「おいクソジジイ」

 

話が違うと竜馬は睨む。

 

「まあ聞け。これは国連の人間でも一部しか知らん最重要機密じゃ。国連もBETA研究をしているそれが『オルタネイティヴ計画』じゃ。」

 

「オルタネイティヴ計画?」

 

「そうだ。現在、第三計画が進行中だ。」

 

竜馬は腕組みをすると沈黙し話を聞こうと意思表示をした。

 

「本来の目的は奴らとコミュニケーションをするための研究だった。第一計画で言語、思考解析の意思疎通を試みたのじゃ。当然失敗した。」

 

「だろうな。奴らが人語を理解するような風貌には見えねえ。」

 

「そして第二計画へと移行した。今度は多大な犠牲を払って奴らを捕獲し、調査した。わかったのは奴らが我々と同じ炭素生命体であるということじゃ。」

 

「つまり科学的な研究をしても生物であること以外わからなかったってことか?」

 

「そうなるな。そしてソ連が主導となって第三計画がはじまった。言語、思考、科学解析それら全て失敗して次は何で奴らを研究したと思う?」

 

竜馬は静かに首を振った。

 

(隼人だったらすぐに思いつくんだろうな)

 

「オカルト―超能力だ。ソ連は国内から超能力者をかき集めてそれを人工交配させて人工的に超能力者を量産した。そして戦術機―戦闘機を改造したロボットに登場させて持てる全ての和平のイメージをBETAにぶつけた。」

 

「それでどうなった?」

 

竜馬は超能力という怪しげな単語に特に詮索せず答えを聞きたがった。

 

「流。貴様超能力を信じているのか?」

 

「信じるも何も一度それに殺されかけた。」

 

竜馬には早乙女研究所で念動力によって一度殺されかけた経験があった。

 

「まあいい。儂も眉唾じゃったからな。その第三計画によってBETAにも思考する力があるのがわかった。そして奴らが我々人類を生命体として認識していないのがわかったのじゃ。」

 

「ジジイちょっと待て」

 

人もBETAと同じ炭素生命体である。つまり……。

 

「BETAは自分を生命体として認識してないってことか?」

 

「そうじゃ。その可能性が高い。儂等のわかっていることはこれだけじゃ。後は貴様の方がよく知っている。」

 

「どういう意味だ?」

 

雷電の問いかけの意味が竜馬にはよく分からなかった。

 

「人類がこれまで成し遂げられなかったハイブ攻略をたった一人でやってのけたんじゃ。

ハイブの中のことは貴様の方がはるかに詳しい」

 

「攻略も何も俺は何もしてねえよ。奴らが勝手にいなくなったんだ。」

 

「もしかしたら貴様はBETAの事を知らなくても、BETAは貴様を知っているのかもしれんな」

 

話はその後、これからについてにかわった。竜馬はゲッターロボの修理のために艦の人員の手配を要求し、ゲッターロボの修理に取り掛かった。

 

そして竜馬の次の行先がハバロフスクの「オルタネイティヴ第三計画研究所」に決まった。

 

 

 

 

 

 

艦の一室

 

「中将。これでアイツを地球に下ろせばBETAは勝手にいなくなってくれますね。」

 

月詠は安堵しながら雷電に語りかけた。

 

(果たして本当にそうだろうか? 奴らが月から引いたのはなにか他の要因があるのではないだろうか?)

 

雷電はそう簡単に事が終わらないだろうと感じていた。

 

「そうなってくれればいいがな」

 

雷電は祈りをこめてそう呟いた。

 

「あの秘密主義の研究機関が我々の訪問を許可しますかね?」

 

竜馬に伝えたわずかな情報でさえ、手に入れるのは非常に難しかった。

 

「するさ。何せアレがあるからな。」

 

雷電は艦の外のゲッター1を見た。

 

流石に月面のBETAを追い払った物を手土産にすれば文句は言わないだろう。

 

「そうなるとアメリカの動向が不安ですね。」

 

アメリカがソ連にゲッターロボが渡るのを絶対に阻止しようとすることが予想される。

 

「あまり、行き過ぎた事はしてくれないといいんじゃがな」

 

雷電は何か対策を練る必要を感じていた。

 

「まさか地球よりも先に月を奪還することになるとはな。」

 

皮肉めいた話であった。

 

 

 

 

 

 

 

竜馬はゲッターの修理しながら、今の自分の現状を把握していた。

 

(これから地球に下りれば、補給もろくに受けられねえ。スーパーロボットの残骸もあることだ。

改造して継戦能力を高めた方がいいかもしれねえ)

 

人員も増えたことでゲッターロボの改修をすることにしたのだった。

 

自身を生命体として認識しない生き物とはどういったものなのか竜馬には何も思い浮かばなかった。

 

彼のかつての親友であり、『ゲッター線』研究の第一人者である男が側にいれば何か掴めたかもしれなかった。

 

竜馬がわかっていたのはこの世界のイレギュラーであるゲッターと自身が唯一関係があると思われるBETAという奇妙な生命体。その存在に向き合う必要性があるということだけだった。

 

 

竜馬編 5話 終

 



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隼人編 第1話 「見知らぬ銀世界」

神隼人は暗闇の中で目覚めた。

 

目を開いても真っ暗。

 

しかし、自分が腰かけている場所に心当たりがあった。

 

慣れ親しんだシートの感触。

 

ジャガー号のコックピッド内にいるようだ。

 

隼人はコックピッド内の明かりをつけた。

 

明るくなったが、外は暗闇だった。

 

(状況を整理しろ。俺はなぜここにいる?)

 

隼人は自問した。

 

 

共にインベーダーに対抗する研究をしていた博士が暴走し、竜馬が釈放され、重陽子ミサイルが発射された。

 

あの時、俺たちは重陽子ミサイルを撃ち落とせなかった。

 

だが、思い出せるのはそこまでだった。

 

何もかもがうまくいかなかった。

 

上手くいったのは、かけがえのない友を刑務所へと送り込んだことそれだけだ。

 

隼人はレバーを操作し、この暗闇を抜けようとする。

 

どうやらこのゲッターロボはゲッター2になっているらしい。

ドリルの感触で自分がどこにいるのかがわかった。

 

隼人はゲッター2と共にどこかの地中にいたのだった。

 

ゲッター2を操作し、地表へと顔を出す。

 

 

 

1983年 1月9日 東ドイツ ポーランド国境付近

 

地中から出た隼人を待っていたのは一面、白銀の世界だった。

 

(どうやら地球にいるらしいな)

 

しかし、ロシアの北部かグリーンランドか。

 

とりあえず、ツンドラ地帯並みの極寒地にいるようだった。

 

隼人は気候よりも「ゲッター線」の濃度を指し示す機器の値がありえない程低いのが気になった。

 

(もしかしたら地球じゃないのかもしれんな)

 

状況を確認しようと少し小高い丘を探す。

 

丘にたどり着きそこから見下ろすと眼下にとんでもない景色が広がった。

 

見たことのない生物が白い世界を違う色に染め上げるほどそこにはいたのだった。

 

「こいつは……………いったい?」

 

隼人はその景色をみて悟った。

 

自分がまったく異なる世界に来たのだと。

 

 

 

 

 

 

1983年 1月10日 東ドイツ ポーランド国境付近

 

目覚めてから約数時間がたった。

 

隼人は謎の生物の行軍に地下からついて行っていた。

 

なにか得体のしれない物を感じたので、生物との接触は避けた。

 

(この星の支配者がこいつらなのだとしたら元の世界に戻るにはどうしたらいいのかまったくわからんな)

 

「どうみても言葉が通じる相手じゃなさそうだ」

 

隼人は溜息とともにそうぼやく。

 

明らかに意思疎通のできない相手との対話などする価値がない。

 

まだインベーダーの方が話せるだろう。

 

隼人がそう思っていると地上が騒がしいことになっていることに気がついた。

 

(これは爆音? 爆撃の音だ。)

 

ゲッター2を未確認生物の群れから離れさせて地上に浮上させる。

 

隼人の見た景色は、想像を絶するものだった。

 

未確認生物のおびただしい群れに蹂躙される戦車、ロボット、歩兵。

 

その光景は隼人に月面でのインベーダーとの闘いを思い出させていた。

 

地球外生命体と人類との生存競争。

 

この世界でもまた人類は異生命体との戦いを繰り広げていたのだった。

 

地上にも、空中にも逃げ場はなかった。

 

少しでも高度を上げた機体は光線のようなものに次から次へと撃ち落とされていく。

 

砲撃も同様に撃破されていった。

 

その中を這うように飛んでいくロボットたち。

 

隼人は瞬時に理解した。

 

あのロボットたちは光線を発する個体の排除に向かっている。

 

そうすることで空からの攻撃を有効にしようとしているのだ。

 

つまり、あのロボットたちが戦線のカギということだ。

 

そのロボットたちの中でも一際敵の深部へと踏み入っている8機の機影を隼人は確認した。

 

隼人はゲッター2を走らせた。

 

なぜなら、その8機が敵の群れのど真ん中で攻めあぐねていたからだった。

 

安易に接触するのははばかられるが、状況が状況だ。

 

介入せずにはいられない。

 

 

 

隼人はゲッター2を地中へと再び潜らせ、その8機と敵の間に浮上した。

 

硬そうな外殻を前面部に展開している生物が今にも襲いかかろうとしている。

 

「ドリルアーム!!」

 

ゲッター2の右腕のドリルが音速を超えるスピードで得体のしれない生物を貫いていく。

 

ここまで来られた部隊なら少し突破口を開けば後は大丈夫だろう。

 

一度見られたら後は同じことだ。

 

隼人は他の部隊を支援するためにゲッター2を走らせる。

 

 

 

 

 

隼人はしばらく、例の生物に襲われているロボットを助けてまわった。

 

隼人は理解した。

 

この戦いおそらく人類側に勝機はあまりない。

 

敵の数が多すぎる。

 

そしてあのレーザーを放つやつに対抗する手段があのロボットによる突撃しかないのだとしたら………。

 

単純に数の問題で人類側は敗ける。

 

確認したところ奴らの種類は5種。

 

小型の素早いやつが一種。

 

もっとも数の多い赤く中途半端な大きさの奴が一種。

 

鋏のようなものでロボットに襲っている大型のやつが一種。

 

一番厄介と思われるレーザーを放つ小さいやつが一種。

 

そして約時速170キロで俺のゲッター2を追い回している前面部が外殻に覆われている大型。

 

こいつが不可解だった。

 

音速を超えているゲッター2に追いつけるはずがない。

 

なぜ俺を追い回すのか。

 

まあ下等生物に計算などあるはずもないか……。

 

転進し、ドリルを奴らに向ける。

 

「ドリルストーム!!!!」

 

ドリルの先から衝撃波が生じ、奴らを上空へ巻き上げる。

前面部の外殻の重量がそのままやつらを押しつぶす。

 

「うん…………?」

 

レーダーに救援要請が移る。

 

どうやら例のロボットが出しているものらしい。

 

隼人はゲッター2をそちらに向かわせる。

 

 

救難信号は放棄された市街地から出ているものだった。

 

隼人のゲッター2が救難信号を出しているロボットに近づいたときには既に別の機体が張り付いていた。

 

それは最初に隼人が戦闘に介入したもっともロボットの操縦の技量が高かった8機のうちの1機だった。

 

「この状況下で機外に出て救助活動か」

 

隼人は少年が少女を救いだすのを苦笑しながら見届けた。

 

 

 

 

東ドイツ軍第666中隊「シュバルツェスマーケン」の一員テオドール・エーベルバッハ少尉は中隊長であるアイリスディーナ・ベルンハルト大尉と共に救難信号を出した戦術機部隊の救援に向かい、無事に一人の西ドイツ兵の救出に成功した。

 

テオドールの任務は隊長と合流し後は基地に帰還するだけだった。

 

帰還前の合流地点でアイリスディーナ中隊長は12名の定員を下回っていることからこの少女を新たに中隊メンバーにひき入れようという提案をテオドールにし、彼を説得した。

 

テオドールは不安だった。

西ドイツは東陣営ではなく西側陣営である。

 

西ドイツ兵を中隊に入れることは「シュタージ」にスパイ容疑をかけられて、下手をすると中隊員全てが粛清対象になってもおかしくない火種を抱えることになるのだ。

 

そう考えていたときに彼は再び例の音に気づいた。

 

「シュバルツ01!! またアイツだ!!!」

 

「散開!!」

 

アイリスディーナが声を挙げて、2機が二手に分かれる。

 

その中央から例の白い機体が地中から出てきた。

 

白い機体は2機の前で動きを静止すると、中から男が十数メートルの高さから飛び降りた。

 

男は着地し、何事もなかったかのように立ち、こちらに敵意は無いというように大きく手を上げた。

 

テオドールは目を見開いた。

 

 

「……シュバルツ01? どうする…?」

 

テオドールはどうしていいかわからず上官に尋ねる。

 

「……降りるしかあるまい。いいか私が合図したらすぐに銃を撃て」

 

「了解」

 

気を失った少女を安静に保ち、テオドールは覚悟を決めた。

 

まずテオドールがそしてそのすぐ後にアイリスディーナが地上に下りた。

 

そして所属不明機から降りてきた男に銃をかまえながら向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は初めてこの世界の住人とコミュニケーションをとるのに、あの戦術機のパイロットを選んだ。

 

化け物がひしめく状況下で人命救助をした人物ならいきなり襲われることはないだろうと踏んだのだった。

 

隼人は驚いた。

 

どんな屈強な男が指揮官機から出てくるかという想像をしていたら、中から出てきたのはとんでもない恰好をしていた。

 

少年はさっき見たから別にいい。問題は女の方だ。

 

あんな体のラインがはっきりとわかるパイロットスーツは見たことがなかった。

 

隼人は思わず目を見開き、銃を二人が構えていることに気がついた。

 

どちらも丸腰の隼人に対して銃を向けながら近寄ってくる。

 

(この距離なら避けられるだろうが、あまりいい気分ではない。)

 

女が銃口を隼人に向けながら尋ねてくる。

 

「私は東ドイツ軍第666戦術機中隊長アイリスディーナ・ベルンハルト大尉だ。

貴官の所属および目的それからあの機体について説明を求める。」

 

隼人は言葉が通じることに安堵した。

 

「俺の名は神隼人。今はただの民間人だ。そしてあれは「ゲッター2」というスーパーロボットだ。」

 

(民間人だと……? それに一体なんだ「スーパーロボット」というのは?)

 

アイリスディーナは隼人の言った言葉の意味が理解できずに戸惑っていた。

 

一方、隼人の方はアイリスディーナがいった言葉からここがどこか推測する。

 

(東ドイツ? 東ドイツは20世紀の冷戦期に分かれたドイツの片割れだったな)

 

「そうかここは20世紀のヨーロッパか」

 

隼人はそう結論をだした。

 

隼人の呟きにアイリスディーナがわずかに反応する。

 

「質問をひとつするごとに質問を返すことにしよう」

 

隼人が質問を交互にすることを提案する。

 

アイリスディーナがかすかにうなずいた。

 

「では俺からさせてもらおう。今年は何年だ?」

 

「1983年だが……?」

 

アイリスディーナはその突拍子もない質問にうろたえながら答える。

 

(やはりか、しかしあんな化け物が存在したという話は聞いていない)

 

「ではそちらの番だ。」

 

アイリスディーナに質問を促す。

 

アイリスディーナは思案した。

 

今の質問からこの男は場所、そして時すら知らないことがわかった。

 

しかし、東ドイツを知っている。

 

そして、既存の戦術機とは異なるはるかに強力なロボット「スーパーロボット」に乗っている。

 

このことから導かれることは……

 

「貴様は未来から来たのか?」

 

「中隊長!?」

 

横の男―テオドールが今までの沈黙を破る。

 

それだけアイリスディーナの出した答えが予想外だったのだろう。

 

「肯定する。が、俺はあんな生物を知らない。あれは何だ?」

 

アイリスディーナは驚く。

 

「BETAを知らないだと? では貴様のあの機体は何と戦うものだ?」

 

「BETA? 聞いたことがないな、アレはもともと宇宙開発用の機体だ。武装はインベーダーという怪物と戦うものだ。」

 

隼人は自分たちの過去にはBETAは存在しておらず、異なる敵と戦っているということを告げた。

 

「こちらの番だ。BETAはなんのために地球を攻めている?」

 

隼人が次の質問をする。

 

「それはこちらの知ることではない。BETAに聞いてくれ。」

 

アイリスディーナが淡白に答える。

 

「待ってくれ。中隊長。俺はアンタたちが何を言っているのかまったくわからない。アイツが仮に未来からタイムスリップしてきたとしてなぜBETAを知らないんだ?」

 

テオドールが頭を押さえながら言う。

 

「本で読んだことがある俗にいう………」

 

「パラレルワールド。平行世界というやつだろう。」

 

アイリスディーナが言葉を出す前に隼人がその言葉を引き継いだ。

 

「パラレルワールドだと? そんなあり得ない!」

 

テオドールが信じられないといった表情で叫ぶ。

 

「いや私は納得したぞ。あんな機体作り出す国が仮にあったとしよう。BETAは即地球から追い出されるが、東も西も関係なく世界はその国が征服するだろう。わかるかエーベルバッハ少尉。可能性で考えればとなりの世界の未来からやってきたという方が信じられる。」

 

アイリスディーナが言葉を出すがその言葉は少し震えていた。

 

冷静に考えてみれば、テオドールの反応が至極まっとうである。

 

しかし、自分たちはBETAを軽く一蹴するこの機体を見ていたのである。証拠がある以上隼人の言葉には説得力があった。

 

彼女も内心夢を見ているような心持ちなのだった。

 

「それで人類は勝機の薄い戦いを東と西と別れたままでしているのか?」

 

隼人が二人に尋ねる。

 

「そこまでわかるか?……たしかジンといったな」

 

「あのビームを放つやつに有効手段がないのだろう? そしてあの圧倒的な数に蹂躙される。

少し戦闘に参加すればわかるさ。そして貴様らの所属が東ドイツ、そうなると当然西ドイツも存在している。」

 

「そのとおりだ。」

 

どうやらこの男かなり頭の方もいいようだとアイリスディーナは関心した。

 

(この男の頭脳と力があれば……)

 

「ジン…あの機体遠隔操作はできるか?」

 

アイリスディーナが隼人に尋ねる。

 

「できるが……それがどうした?」

 

「私にいい考えがある。貴様が承諾してくれれば情報と寝床を与えよう。」

 

不敵に笑う中隊長にテオドールはこれから増えるであろう厄介事が自分に降りかからないように祈った。

 

 

隼人編 1話終わり

 



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隼人編 第2話 「亡命予定者二人」

1983年1月10日 東ドイツ

 

「シュバルツェスマーケン」政治将校グレーテル中尉はアイリスディーナが連れてきた20代後半の男―神隼人に向き直る。

 

「ハヤト・ジン軍曹 旧ポーランド共和国出身 日系ポーランド人。戦術機の整備兵として大戦に参加。その後ポーランド崩壊後国連の戦術機部隊に保護されるがその部隊が先の戦闘で壊滅。

同志大尉によって救助され今ここにいる。間違いないか?」

 

「ハッ! しかし、国連は保護と名ばかりで私を強制労働させていました」

 

隼人が敬礼をしながら、グレーテルに応える。

 

「確かアメリカの部隊だったな…保護対象に強制労働させるとはさすが鬼畜だな。

貴官は我が東ドイツに亡命を希望しているようだが……」

 

「ハッ! 盟友である東ドイツに亡命し、共にBETAと戦いたいと私は思っています。」

 

グレーテルが眉をひそめた。

 

「だそうだ。同志中尉。」

 

アイリスディーナが割って入る。

 

「同志大尉。こんな身元の特定しようもない人間を我が中隊に取り込むつもり?」

 

「そうだ。オットー技術中尉も整備が足らんと言っている。」

 

グレーテルが頭を抱える。

 

「壊滅した部隊出身で保護された国連部隊も壊滅。調査しようがないわ。シュタージにスパイとして簡単に疑われるわよ」

 

「そこは同志中尉の腕の見せ所ではないか?」

 

アイリスディーナがグレーテルを見つめる。

 

「西側の衛士まで今は保護しているのよ? それに加えて今は作戦司令部も例の「白モグラ」のせいで混乱しきっているわ」

 

「ああ………西の少尉も中隊に組み入れるように手配してくれると助かる」

 

「………………」

 

グレーテルが絶句する。

 

「はあ……西側の衛士が目覚めてから亡命手続きをするわ。一度にした方がよけいな詮索を招かないでしょう。まあ西のあの子が亡命希望をしたらだけど……」

 

グレーテルが仕方ないという表情で渋々と承諾する。

 

「それまでこの男は客人―保護対象としての扱いになるわ」

 

隼人は与えられた私室でイスに腰を下ろす。

 

そしてそれまであった会話を思い出していた。

 

 

 

 

数時間前

 

アイリスディーナは「ゲッター2」を遠隔操作ができるかを尋ねた。

 

まったく話がつかめないテオドールが口を開く。

 

「おい! アンタ一体こいつをどうするつもりだ? まさかこいつまで軍に入れる気じゃないだろうな?」

 

アイリスディーナはテオドールへと向き直る。

 

「そのとおりだ。同志少尉。」

 

「アンタわかっているのか? こんな兵器を持った奴を連れて行ってみろ。シュタージにコイツは拘束されて、機体は押収されるのが目に見えるだろ! こいつまで出世の道具にする気かよ」

 

テオドールはアイリスディーナに突っかかる。

 

「私がした問いをもう一度考えてみろ」

 

アイリスディーナがテオドールを諭すように言う。

 

「まさか…」

 

「そのまさかだ。この男は未確認機動兵器のパイロットとしてではなく、ただの亡命希望者として我が隊が保護をする」

 

アイリスディーナのバラライカへと搭乗する隼人。

 

「いいのか? 我等には貴様を招くメリットがあるが、貴様にはないぞ?」

 

「あるさ。元の世界に戻るメドがまるで立ってないから身を寄せる場所がいる。それに…………」

 

「それに?」

 

「あの手の化け物は虫唾が走る。」

 

隼人は心底嫌そうに言葉を発した。

 

(この世界の情報を集めるには集団に属していた方がいい)

 

隼人には東と西の冷戦に加えて、異種との戦争に東ドイツの国がひどい状況になっていることは予想できていた。

「なにか武器は持っていないか? 一応預かっておく。」

 

隼人は、身をまさぐる。

 

あるはずのないものがそこにあった。

 

それは竜馬に渡したはずの拳銃だった。

 

(なぜここにこれが?)

 

隼人は無言でそれをアイリスディーナに渡す。

 

「うん?」

 

アイリスディーナが不思議そうにその拳銃を見る。

 

「どうかしたか?」

 

「いや。あんなとんでもない兵器に乗っていた男が普通の拳銃を出してきたから驚いただけだ。」

 

アイリスディーナが少し笑う。

 

「しかし、こんな小さな機械であのデカブツを操れるのか?」

 

隼人は掌に収まるような時計型の小さな機械でゲッター2を操作し、地下へと潜らせていた。

 

「ああ……戦闘は無理だが動かすだけならな」

 

かつて、武蔵や弁慶が一時駐留していた基地の地下にゲッター2を隠すために使った機械であった。

 

「それでどう口裏を合わせる?」

 

隼人がアイリスディーナに聞く。

 

 

「貴様はポーランドの部隊に所属していた整備兵でポーランド壊滅の折に国連の西側に保護され、その後労働を強要されていたことにする」

 

「それで騙せるのか?」

 

「実際に壊滅した部隊の名前を調べておく。加えてあの国の政府は機能してないも同然。

何も問題はないだろう」

 

バラライカがスピードを上げる。

 

「ジン。貴様Gは何ともないのか?」

 

「ああ……別に問題ない」

 

アイリスディーナは目を見開く。

 

(強化装備無しでこのGが何ともないだと……未来人は体の構造が違うのか? あの機体から飛び降りたときには何かを使って衝撃を和らげたと思っていたが……)

 

アイリスディーナはこれからのことについて隼人に説明を始めた。

 

一方、もう1機のバラライカに西側の衛士を乗せているテオドールの心境は穏やかではなかった。

 

(一体なにがどうなっている?)

 

あの女―中隊長はシュタージの犬のはずだ。実の兄を売り渡した最低のクズだ。

 

ではなぜ? あの機体と搭乗者の素性を隠す? 

 

あれをシュタージに持っていけばさらなる地位につけるはずだ。

 

(まさか……シュタージの犬じゃないのか?)

 

「同志少尉。」

 

アイリスディーナがテオドールへと通信を送る。

 

「なんだ……?」

 

「この男とその少女の中隊編入及びこれから起こりうる件に協力をしてもらいたい」

 

「どうして俺が………」

 

「貴様は既に私の共犯者だ。」

 

「俺がお前とそこの奴のことを党に報告したらどうするんだ?」

 

「そんなことはしないさ。なぜなら、お前が西側の衛士と接触を持った方が問題だからな。」

 

アイリスディーナは薄ら笑う。

 

「それにこの男が超兵器を持っていると言って誰が信じる? 精神病院に連れて行かれるだけだ。貴様の選択肢は私の共犯者となるかそれとも病院送りの2択だ。」

 

テオドールは承諾するしかなかった。

 

隼人は冷静にそのやり取りを見ていた。

 

(この女……ただの胸が大きい女じゃないな。異形の群れに飛び込んでいく部隊の指揮官だけあって度胸もある。)

 

やがて、2機のバラライカが基地に到着した。

 

基地の下にゲッター2が潜んでいることを3人以外は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

隼人はこの基地に連れてこられた経緯を思い出した後に溜息をついた。

 

東ドイツ軍はとんでもない状況にあるらしい。

 

外部からはBETAに侵略され、内部からシュタージという秘密警察に縛られている。

 

そのせいで諸外国、特に西側からの支援を受けられないというのがわかった。

 

まさしく前門の虎、後門の狼といった具合であろう。

 

この問題を解決するには………

 

「狼の方を先に倒すしかないだろうな」

 

隼人は独り言をぼやく。

 

だが、「俺には関係ない」

 

この時はまだそう思っていた。

 

 

隼人編 2話 終わり

 

 



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隼人編 第3話 「同志ジン軍曹」

 

1983年 1月13日 東ドイツ

 

 

隼人は、東ドイツ軍の基地の一室にいた。

 

客人とは名ばかりで一種の軟禁状態であった。

 

(何の情報も入らない。ここに居るメリットは皆無だな)

 

隼人はあと3日何も動きがなければこの基地からゲッター2を使って脱出しようと考えていた。

 

「入るぞ」

 

そう不躾に告げて、部屋に男が入ってくる。

 

「シュバルツ03 ヴァルター・クリューガー中尉だ。」

 

そう言って体つきのよいいかにも軍人といった男が挨拶をする。

 

隼人は黙って敬礼をした。

 

(中隊の3番機か……)

 

「例の少女が東ドイツへと亡命希望をした。よって貴官と彼女の亡命を東ドイツは正式に受諾する。」

 

「それで中尉はなぜここに?」

 

「我が隊にはタダ飯食らいを置いておく余裕はないのだ。さっそく軍務についてもらう。ついてこい!」

 

隼人はヴァルターに連れられて基地内を歩く。

 

そこで例の赤髪の若い男と見慣れぬ少女―おそらく亡命した西ドイツの衛士と出くわした。

「坊主。」

 

ヴァルターが若い男に呼びかける。

 

そういえばコイツの名前は聞いてなかったな。

 

「同志軍曹。」

 

同志軍曹。

 

隼人は自分のことを言われていることに最初気づかなかった。

 

「こっちの坊主がシュバルツ08の……」

 

「テオドール・エーベルバッハ少尉だ。」

 

若い男―テオドールが不機嫌そうに自己紹介をする。

 

「わ…私が! カティア・ヴェルトハイム少尉です! この度東ドイツに亡命しました!」

 

聞いていないのに隣の少女も自己紹介をする。

 

「ハヤト・ジン軍曹だ。よろしく」

 

隼人はそう返した。

 

「私は西ドイツから来ましたが、BETAに対して東と西のドイツが協力でき……」

 

カティアが東側ではありえない発言をしようとした。

 

ヴァルターやテオドールがそれを止める前に隼人がカティアの顔の前に手を出してその次の言葉を遮った。

 

「少尉。思っていても口に出してはいけないことがありますよ」

 

隼人が睨みつけるとカティアは黙った。それだけの迫力があった。

 

そしてヴァルターが少年と少女に少し注意をし、再び別れる。

 

あの西の少女は何かしらの幻想を東側に抱いているようだった。

 

東ドイツは西側をBETAと同じ位敵視していることを理解していないようだ。

 

もっとも敵視するように仕向けている奴らのせいだ。

 

「ジン軍曹」

 

「…なんだ? 中尉。」

 

ヴァルターが歩きながら隼人に声をかける。

 

「目立つなよ。シュタージに目をつけられると厄介だ」

 

「フ…身を隠すのには慣れている。せいぜいあの少女に目立ってもらうさ」

 

隼人はそうヴァルターに応える。

 

ヴァルターが静かにうなずく。

 

「ここが格納庫だ。」

 

そこは例のロボット―戦術機のハンガーだった。

 

「班長!」

 

ヴァルターがそう叫ぶと男が奥から出てきた。

 

「お! ヴァルター。こいつが例の新入りか?」

 

「そうだ。後は班長に任せる」

 

そう言うとヴァルターは基地内へと帰って行った。

 

「相変わらず可愛げのないやつ。ったく中隊の男共は坊主もアイツも……」

 

ブツブツとオットー班長は言葉を漏らす。

 

「ハヤト・ジンだ。」

 

隼人はその班長にそう自己紹介をする。

 

「俺はオットー・シュトラウス技術中尉だ。お前本当に整備兵か?」

 

「……どうしてそう思う?」

 

隼人はその質問に質問で返す。

 

「整備兵の割には修羅場くぐってきた顔してやがるからさ。まあいいお前も俺たち200人の整備班の仲間入りだ。よろしくな!」

 

隼人の肩をバンと叩く。

 

「アジア人の割にしっかりとした体格だな。オイ。」

 

「……班長。」

 

「ああ……聞いているよ。中隊長が戦闘時にはお前に特別な任務を与えるから手をあけさせといてくれってな。」

 

そして、オットーが隼人の耳に顔を近づける。

 

「それに……その事を他の整備兵に気取られるなという話だ。俺がお前になにか別に仕事させているように見えるようにしろとの事だ。」

 

班長が顔を離す。

 

「けど戦闘時以外はこき使ってやるから覚悟しろや! ハハハハ!!」

 

オットーに連れられて隼人は整備に加わる。

 

月でもこんな感じの人がいたなと隼人はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

中隊ブリーフィング室

 

 

「あの人誰ですか?」

 

中隊のアイリスとヴァルター以外のメンバーはグレーテルに呼び出されていた。

 

カティアとテオドールは待っている間、会話をしていた。

 

「あいつはお前と一緒に亡命してきた奴だ。」

 

「怖そうな人でしたね。私、びっくりしました。殺されるかと思いました。」

 

カティアは怯えた様子で話している。

 

「なんだ? 漏らしたのか?」

 

「漏らしてなんかいません!!ギリギリでしたが、セーフです!!」

 

「ギリギリだったのかよ。」

 

カティアはさっきまでの怯えた様子は何だったのかというような笑顔でテオドールの方に向き直った。

 

「でもあの人きっといい人ですね!私に忠告してくれました!」

 

カティアの楽観的な考えをテオドールは羨んだが、頭の中が花畑になるので思い直した。

 

テオドールとカティアが室内で話していると、二人の少女がこちらに近づいてきた。

 

イングヒルトとアネットだった。

 

「この子が新しく中隊に編入された子?」

 

「私たちより年下みたいですね。」

 

「はい! カティア・ヴェルトハイム少尉です! よろしくお願いします。」

 

イングヒルトとアネットが自己紹介をする。

 

アネットの奴どうやら落ち着いているようだった。

 

シルヴィアとファム、少し遅れてグレーテルが入室してきた。

 

「まったくふざけているわ!」

 

グレーテルはたいそうご立腹のようだった。

 

「どうしたんです同志中尉?」

 

ファムが聞くが、グレーテルは聞いていないようである。

 

「………」

 

シルヴィアが無言で睨むとグレーテルは落ち着きを取り戻した。

 

「この子が正式に我が中隊に編入されたカティア・ヴェルトハイム少尉よ。」

 

正式? まだ中隊に編入することを決めて数時間しか経ってないはずだ。

 

「イエッケルン中尉。やけに早くないですか?」

 

テオドールが彼女に思わず、質問する。

 

「ええ、奴ら総出で例の「白モグラ」について調べているらしいわ。他のことに関しては全く興味がないようよ。……私がこの件を通すためにいくつ切り札を使ったと思っているのよ…ブツブツ」

 

グレーテルは隼人とカティアの亡命にいくつか使ったモノが無意味だったことに腹を立てているようだ。

 

「白モグラ?」

 

カティアが不思議そうにその単語を呟く。

 

「突然現れた白くて凄く速くて強いやつよ。そいつが戦場に現れてBETAと戦っていた私たちに味方したの。」

 

アネットがカティアにそう教える。

 

「馬鹿そうな説明だな……」

 

テオドールがそうつぶやくと

 

「なんですってえ!?」

 

アネットが吠える。

 

「まあまあアネット落ち着いて。戦闘能力がずば抜けて高い白い機動兵器のことです。地中を移動するから「白モグラ」って呼ばれています」

 

イングヒルトがフォローした。

 

「戦術機なんですか?」

 

「……それも不明だ。」

 

シルヴィアが珍しく口を出した。

 

中隊メンバーが驚く。それだけにあの存在は規格外だった。

 

中隊もあの「白モグラ」―「ゲッター2」に助けられた。

 

あの状況で地中から奴が現れなければおそらくイングヒルトかアネットのどちらか…または両方……下手したら中隊全員が全滅していたかもしれない。

 

「今、軍上層部はやっきになって奴の消息や行動を調べているわ。右腕の先端から衝撃波を出したとか。分身でレーザーを避けたとか。音速を超えるスピードで移動するとか信憑性の低い情報まで回っているわ」

 

「なんか凄いですね…」

 

「突撃級の群れに真正面から突っ込んで装甲殻を貫いていたのは確かね。」

 

ファムがいつも通りの口調で言う。

 

実際に見ていないカティアには想像するのが難しかった。

 

(あながち嘘とも言えない)

 

「テオドールさん顔色が悪いですよ?」

 

「別に……あとエーベルバッハだ」

 

テオドールがそっぽを向いた。

 

「中隊長が我々がアレに助けられた事は口外するなといっていたわ。」

 

「それはなぜでしょうか?」

 

ファムがグレーテルに尋ねる。

 

「東ドイツ最強の名に泥を塗ることになるからとかそんなところでしょう!」

 

ブツブツと文句を言いながら彼女はブリーフィング室を出て行った。

 

「テオ……エーベルバッハさん。」

 

カティアがテオドールを不安そうな顔で見る。

 

「事実だ。皆が幻覚を見たわけじゃない。お前みたいな西側からの亡命者が来たらもっと注目される。それがなかったのはもっと目立つことがあるからだ。」

 

基地内でも話題は例の「白モグラ」のことでいっぱいだった。

 

カティアのように西からの亡命者なんて本来もっと注意を集めることなのだ。

 

「順番が逆になったわね。ファム・ティ・ラン中尉よ。あっちの子がシルヴィア・クシャンスカ少尉よ」

 

シルヴィアが興味なさそうにカティアを見る。

 

邪魔だけはしないようにと目線が告げていた。

 

「同志中尉も行ったことだし、解散しましょうか?」

 

そこで中隊メンバーは解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって戦術機ハンガー

 

隼人は戦術機を見上げる。

 

戦術機―正式名称「戦術歩行戦闘機」

 

機動は主脚と跳躍ユニットに行われ、動力は本体と跳躍ユニットの二つのエンジンによって動く。

 

跳躍ユニットはジェットエンジンとロケットエンジンのハイブリット使用だ。

 

「……全ての動作が2段構えか」

 

機体が敵からの攻撃によって損傷受けることを最初から考えられている。

 

機動性は20世紀の後半の機動兵器としては優秀だが、あのBETAの物量そして何よりあの光線による攻撃を避けるには不十分だ。

 

いや避けることを考えていないのかもしれない。

 

重装甲で衛士の命を守ることを第一として考えているのだとしたら……。

 

BETAの要撃級の腕の衝角による攻撃や突撃級の装甲殻の突進に耐えられない装甲に何の意味があるのだろうか…。

 

(ゲッター3並の頑強さなら耐えられるだろうがな)

 

そんなことを考えていると視界の隅にアイリスディーナ中隊長が入った。

 

どうやら話があるらしい。

 

アイリスディーナが基地の外へと歩いていった。

 

隼人もそれに付いていった。

 

アイリスディーナが雪のちらついている外で佇んでいる。

 

その様子はまるで絵画のように美しかった。

 

「よく気づいたな、同志軍曹。」

 

「お前はハンガーの中では目立つ。」

 

「そうか今後気を付けよう。」

 

「それでなんだ?」

 

隼人がアイリスディーナに尋ねる。

 

「戦闘中は特別任務だとオットー技術中尉から聞いたか?」

 

「ああ……ゲッター2で戦場に介入しろと言うことだろう?」

 

「そうだ。だが一つ守ってもらいたいことがある」

 

「なんだ?」

 

アイリスディーナは少し溜めるとこう言い放った。

 

「貴様には我が中隊への支援は禁じる。」

 

隼人編 3話 終わり

 







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隼人編 第4話 「後門の人狼」

 

1983年 1月14日 東ドイツ

 

隼人はハンガーの戦術機―バラライカの中にいた。

 

アイリスディーナの1番機 そしてテオドールの8番機にとある細工をしていた。

 

バラライカ2機がゲッター2からの通信を受けられるようにしているのだった。

 

(なぜ? 俺はここにいる? )

 

隼人は作業をしつつ、自身に問いかけていた。

 

(間違いない。世界を飛び越えるなど「ゲッター線」の力以外にはありえない。)

 

隼人は自身が平行世界に来た理由が未知のエネルギー「ゲッター線」にあると感づいていた。

 

(だが、「ゲッター線」が世界を飛び超え、時をさかのぼる力を有しているのならなぜ『あの時』ではないのか)

 

隼人は早乙女ミチルが死んだ時のことを思い返していた。

 

(『あの時』に戻ることができたなら、竜馬もミチルさんも………)

 

録音機能があるので、ゲッター2からの通信があった場合はノイズが生じるように設定しておいた。

 

(異世界で異形の怪物の相手をすることになるとはな……)

 

(ミチルさんを殺し、竜馬を裏切った俺にはふさわしい罰だ。)

 

隼人は自身にそう言い聞かせる他なかった。

 

突然、カティアが管制ユニットに顔を入れ込んできた。

 

「ハヤトさん?」

 

西ドイツからやってきた少女は隼人に用があるようだった。

 

「……ジンだ。」

 

隼人が顔をそむけたまま仏頂面で睨む。

 

「何をしているんですか?」

 

「……仕事だ」

 

そういって隼人はカティアを放っておいて管制ユニットから出る。

 

「ま、待ってください!」

 

「なんだ?」

 

隼人がはじめてカティアの方へと顔を向ける。

 

「あ…あの私同じ日に亡命したハヤトさんと仲良くしたいです!」

 

「俺に不必要に仲良くしようとするな」

 

隼人がさらに睨みを利かす。

 

「………………」

 

カティアは怯えた表情をするが視線は隼人と目を合わせたままだった。

 

(この少女…肝は据わっているらしいな。)

 

隼人は溜息をつくとカティアから離れて行った。

 

「あ! 待ってください!」

 

「おい…」

 

隼人を追いかけようとしたカティアをどこからか現れたテオドールが止める。

 

「ちょっとこい。」

 

「テ…エーベルバッハさん!」

 

少し離れた場所までテオドールがカティアを連れて行く。

 

「お前は馬鹿か!」

 

カティアがテオドールに言われた意味がわからないという表情をした。

 

「いけませんか? 私はもっとハヤトさんたち整備の人たちと仲良くしたいだけです!」

 

「アイツはダメだ。」

 

「なぜですか?」

 

テオドールの返答の意味がわからずカティアは問いただす。

 

「アイツはお前と同じ亡命者で西から来たお前と同じくらいスパイと疑われている。そんな二人がいきなり仲良くしたらシュタージに疑われるだろうが!」

 

カティアがハッとなる。

 

「アイツだって気づいているんだ。わかれ!」

 

「………わかりました。」

 

カティアが納得したように頷いた。

 

「わかったら行くぞ。中隊長が呼んでいる。」

 

テオドールがついてこいと言わんばかりに背を向ける。

 

カティアはなぜ自分がハヤトと仲良くしようと思ったのか少しわかったような気がした。

 

少し似ている気がしたのだ。

 

テオドールとハヤト。どちらも冷たい印象だが根というか心の奥に熱い何かを隠しているようなそんな気がしたのだった。

 

そしてどちらもあまり周りに溶け込もうとしない。

 

中隊メンバーが格納庫に集まってきた。

 

「? 今からそっちに……」

 

カティアを連れて行こうと…と言おうとしたがそれよりもはやくグレーテルが口を開く。

 

「奴らが来る!」

 

その瞬間格納庫に2機の見慣れない機体が入りこんでくる。

 

「いいか! 何があっても手は出すな!」

 

アイリスディーナが叫ぶ。

 

2機の鋭角的なシルエットの戦術機がハンガーに降り立つ。

 

「久しぶりね。アイリスディーナ。」

 

女性の声がその機体―チェボラシカから発せられる。

 

隼人はその様子を眺めていた。

 

8番機の少年 テオドールの顔がみるみると青ざめる。

 

中隊のこの慌てようそして8番機の少年の動揺から相手を想像する。

 

少年が最も恐れていたのはシュタージという東側特有の秘密警察組織だった。

 

ならこいつ等はそのお抱え戦力。

 

「……秘密警察のお抱え武装警察軍か」

 

 

管制ユニットが出てそこから強化装備を纏った女性が出てくる。

 

「一体なんのようだ? 戦術機大隊『ヴェアヴォルフ』の指揮官ベアトリクス・ブレーメ少佐。」

 

「今、私たちは例の「白い奴」を追っていて丁度この近くまで来た。ついでに同期の顔を見に来ただけよ。」

 

黒い長髪、妖艶なたたずまいをしているその女が見下ろす。

 

中隊メンバーの顔に緊張が走った。

 

「武装警察軍の指揮官の貴官が用もなしに来るとは考えにくいのだが…」

 

「そうね。私たちも決して暇ではないわ。「白い奴」のせいで武装警察軍は総員本来の仕事を棄てて出ずっぱりよ。」

 

「妙だな。その「白い奴」の存在が貴官らの職務に影響をあたえているのか?」

 

アイリスディーナがベアトリクスに問う。

 

「ええ。喜ばしいことに同盟国や国連の兵が予想よりも多く生存していて、我が国の保護下に入った者の調査で私たちは寝る暇もないわ。」

 

喜ばしいという単語を強調して、その女が発言をした。明らかにその口調には余計な雑務を増やした「白い奴」に腹を立てていた。

 

シュタージは予想よりも多かった東ドイツ内で生き残った他国の軍人たちを送還するためにスパイでないかという調査に追われているようだった。

 

「それにアレが我が国の領内で無断で活動していることも問題ね。」

 

「そうか。それでははやく職務に戻った方がよいのではないか?」

 

「ええただ気になることが……」

 

ベアトリクスが一際微笑む。

 

「その『白い奴』と初接触したのが第666戦術機中隊でその日のうちに中隊が保護した『二人』が同時に突発的に亡命をしたこと。これは偶然かしら。この中隊には昔世話になった衛士もいるし気になって仕方がないわ。」

 

隼人の背筋に緊張が走り、カティアとテオドールの顔が急速に青ざめる。

 

ベアトリクスは中隊に編入した隼人とカティアに疑いの目を向けているのだった。

 

「まったくの偶然だ。二人と未確認機動物体との関係などない。」

 

8番機の少年はよほど混乱しているのか、二人を交互に見続けている。

 

黒髪の美女はカティアとその側にいるテオドールそしてアイリスディーナを見て

 

「それでは第一遭遇者として貴方たちは「白い奴」についてどう感じた?」

 

と問いかけた。

 

「それに答えたら本来の軍務にもどってくれるのか?」

 

アイリスディーナがうんざりしたように声を出す。

 

「ええ。とりあえず今はね………」

 

ベアトリクスの曖昧な言葉を無視して、アイリスディーナ答えた。

 

「アレはとんでもない戦闘力を持った兵器だ。党の作り出した新兵器でないのならBETA以上の脅威となる可能性がある。即刻破壊すべきだ」

 

「模範解答のような答えでつまらないわね」

 

「……ただ」

 

アイリスディーナが言葉を続ける。

 

「ただ?」

 

「可能ならば捕獲するべきだ。アレはBETAに対して非常に有効な駒になるというのは疑いようがない。」

 

「……そう。」

 

ベアトリクスは興味をなくしたように頷くと、

 

「明日の作戦では私の隊も作戦に加わる予定だわ。戦場で会いましょう」

 

そういって戦術機へと戻った。

 

チェボラシカがハンガーを飛び去る。

 

 

 

脅威が去った後もハンガー内を沈黙が支配していた。

 

「総員。通常軍務に戻ってくれ。明日の作戦に余念を残すな!!」

 

アイリスディーナが号令をし、整備兵と衛士たちは動きを取り戻した。

 

隼人は東ドイツの現状。

 

人民と国家保安省の関係の縮図をこのハンガー内で見た心地だった。

 

 

 

 

 

 

 

チェボラシカ2機がシュタージの基地へと向けて進行していた。

 

「同志少佐。この非常事態にあのような一介の大尉に時間をかけてよろしかったのでしょうか?」

 

副官がベアトリクスへと尋ねる。

 

「そうね。時間的には間違いなくロスだわ。」

 

だがどこか怪しい。

 

二人も他国の人間を中隊に取り入れて、まるで疑っておくれと言っているようではないか。

 

一人は西側の衛士。

 

明らかにスパイとして怪しい。

 

そしてもう一人。

 

たった一人部隊で生き残った整備兵。身元の保証もない。

 

「中隊長。整備兵の中に気になる人物はいたかしら?」

 

「……日本人と聞いていましたので、おそらくこいつだと思われます。」

 

モニターで録画されていた映像にはアジア人にしては体格のよい男が映っていた。

 

「………妙ね。」

 

東ドイツ軍人は基本的に武装警察軍を怖がる。

 

だが、モニターに映った男は全く動じていなかった。

 

まるでどこか俯瞰から見ているかのように思えるそんな印象だった。

 

「その映像を元にどこから来た男か調査しましょう。」

 

そして件の「白い奴」である。

 

ベアトリクスも最初は報告書を見たときにそれが事実だとは思えなかった。

 

党内でもその「幻覚」を見た人間を危険な存在として前線から外し精神病院へ移送しようという案もでた。

 

しかし、目撃者が多すぎた。

 

目撃者全てを移送などしては前線が持たない。

 

そしてシュタージ内にもソレを目撃した者もいることからそれが疑いようのない事実と分かり、他の何よりも優先して調べなくてはいけない案件となった。

 

ベアトリクスにはその「白い奴」と報告上最初に接触した第666戦術機中隊が一介の西の衛士やジャップの整備兵などが扱える代物ではないにもかかわらず何か関係があるような気がしていた。

 

任務は普段でも多大にもかかわらず、雪だるま式に増えていった。

 

そして、ベアトリクスは「白い奴」が今から自分たちが為そうとしていることに対する脅威とならないかが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

明日の出撃に備えての整備が予定よりも早く終了したため、隼人は調査を開始することにした。

 

無論BETAのことである。

 

資料室に向かう途中で例の8番機の少年と西ドイツの少女がコートも着ずに外へと出かけていったのを見かけたが、子供の秘密話に付き合っているほど暇ではない。

 

コットブス基地の資料室にはいくつかの蔵書とPCが配置されていた。

 

隼人はそこにあった簡単な歴史書をひとつ手に取り開いた。

 

―BETA 現在そう呼称されている宇宙生物と人類の初の邂逅は1958年にさかのぼる。

 

―火星探査機 ヴァイキング1号が火星にてその姿を捉える。

 

―1967年 第一次月面戦争 勃発

 

―1970年 現在の戦術機の開発の礎となる「機械化歩兵装甲」導入

 

―1973年 月面戦争で人類は敗北。BETAの地球侵攻が始まる。

 

隼人は要点を見て本を閉じ、思案する。

 

この世界と自分たちの世界は似通っていると隼人は感じていた。

 

地球外へと進出した人類。

 

それを待っていたかのように突如発見された「BETA」

 

そして元の世界の「インベーダー」。

 

こちらの世界では6年。

 

元の世界ではおよそ10年もの月面戦争を繰り広げた。

 

状況が似ているのは間違いない。

 

(これは全くの偶然か?)

 

隼人には偶然という言葉では説明できない何かがあるような気がしてならなかった。

 

隼人編 4話 終



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隼人編 第5話 「ナイセ川防衛線」

 

1983年 1月15日 東ドイツ

 

作戦前の最後の休憩時間。

 

吹雪の中、隼人は基地の外である人物を考え事をしながら待っていた。

 

 

BETA。

 

この世界の人類を滅亡に追い込んでいる存在。その最大の特徴はあの物量。

 

あの物量を宇宙外から持ってきたとは考えにくい。BETAの着陸ユニットは中国とカナダに落ちた2回のみだ。

 

宇宙外からやってきたのでなければ、あれはこの地球で生産されたものだ。

 

隼人はそう確信していた。

 

自己増殖。

 

だが、BETAが地球上で数を増やしているとなると不可解な点がある。

 

突撃級と要撃級の硬殻。

 

モース硬度推定15度以上の物質は地球上には存在しない。

 

ならどこから持ってきたのか。

 

否。奴らはそれを地球にあるものから生み出した。

 

地球上の資源からゲッターロボの超合金にも匹敵する程の硬度の物を生成する技術。

 

加えて惑星間航空すら可能にする技術。

 

 

さらに自身の存在を脅かす物が現れた時のそれに対抗する自己進化。

 

自己増殖に自己進化。

 

その特徴はあまりにインベーダーと似すぎている。

 

だがインベーダーと大きく異なるのは種ごとの違いはあれど個体の違いなどまるでない姿。

 

隼人はBETAに関してある結論に達していた。

 

BETAという生命体は星の資源を食い尽くし、数を増やし、そしてさらにまたその惑星間航空によって次の星へとその魔の手を伸ばす生物兵器であろうと。

 

一体、誰が何のためにこんな生物を生み出した。

 

「……BETAの行動に何の意味がある」

 

(そしてなぜ俺はこの世界に送り込まれた?)

 

「直接アイツ等に聞いてみたらどうだ?」

 

隼人の前に彼を呼び出したテオドール・エーベルバッハ少尉が現れた。

 

「それで……何のようだ。エーベルバッハ少尉」

 

「ハヤト。なぜお前はいつまでもここにいるんだ?」

 

テオドールにとって隼人がこの基地に留まっているのは不思議だった。

 

なぜなら、BETA大戦最前線であるこの戦場でこの男が求めるような情報などたいして得られないからだった。

 

「そうしたいからだ。」

 

隼人の答えにテオドールは納得できなかった。

 

「そんな理由!」

 

「それに貴様のところの隊長と俺は共同戦線を組んでいる。」

 

「自分の血縁を出世の道具に使うような女だぞ。」

 

隼人が白い息を大きく吐いた。

 

「よく考えろ。エーバルバッハ少尉。あの大尉はそんな人間ではない」

 

隼人はアイリスディーナを信用していた。そのことがテオドールには理解できなかった。

 

「こんな短い間で何が!」

 

「わかるさ。あの女の行動をよく考えてみろ」

 

そう言って隼人は基地へと戻ろうとする。

 

「心配するな。突然消えた俺の代わりに貴様が殺されるような事にはならんさ」

 

隼人の身分は今、中隊預かりとなっている。そんな男がいきなり消えてはいらぬ疑いを中隊にかけることになる。

 

「俺は仲間を……裏切らない。」

 

基地へと戻ろうとする隼人にテオドールはもう声をかけなかった。

 

遠ざかる隼人の背中が少しさびしそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦術機隊「ハンニバル」作戦司令室

 

 

作戦に備え、臨時集成戦術機大隊「ハンニバル」が結成された。

 

その指揮を執るのはホルツァー・ハンニバル少佐。少佐は部下のマライ・ハイゼンブルク中尉と共に最後のブリ―フィングをしていた。

 

「マライ、どう思う? この作戦は」

 

「鍵を握るのは武装警察軍の2個大隊です。あの部隊がこちらに協力してくれれば作戦は成功するでしょう」

 

武装警察軍の戦術機は全てバラライカよりも一つ性能の良いチェボラシカである。そんな部隊がこちらの味方になれば非常に心強い。

 

「その通りだ。だがほんとうに協力してくれればな」

 

武装警察軍の切り札が人民軍に味方を要請通りにしてくれれば何も問題はないのだ。

 

だが、彼らが本当に支援してくれるのかは確証がなかった。

 

「ここは一つ。未確認の機動兵器がこちらの味方をしてくれることを祈ろうか」

 

未確認の機動兵器―五日前に東ドイツ軍最強の戦術機中隊「シュヴァルツェスマーケン」を含む多数の東ドイツ軍人を救ってくれたという噂のことだ。

 

そちらの方がよっぽど確証などなかった。事実、マライもハンニバルもその噂をほとんど信じていない。

 

「少佐ともあろう人がそんな神頼みのようなことを」

 

マライは冗談めかして笑うがハンニバルの顔に笑みはなかった。

 

「既にこの国の現状は祈る段階に至っているよ」

 

ハンニバルの冷たい瞳がマライをみつめていた。

 

 

 

 

それから二時間後ついに作戦は開始された。

 

今回の作戦「ナイセ川防衛戦」はナイセ川を挟んで西側に防衛陣地を敷き、東側に戦術機大隊を展開、迫るBETA群に戦術機部隊をぶつけ、その進軍を遅らせその間砲撃によってレーザー級を殲滅、航空爆撃を仕掛けるというものである。

 

第666中隊9機を含めたハンニバル大隊は重金属雲が展開されたのちナイセ川東岸へと進軍した。

 

その時、隼人は白い外套を羽織り基地の外へと出ていた。

 

基地の警備など作戦中は有って無いようなものだ。抜け出すのは容易かった。

 

吹き荒れる雪の中でその姿は徐々に景色に溶け込んでそのまま消えた。

 

 

 

 

 

ナイセ川 西岸付近

 

戦術機部隊が前線を超えて群れの中に飛び込んですでに10分。

 

要塞陣地のT-55戦車大隊の指揮官は接敵まであと5分だと予測した。

 

武装警察軍の2個大隊に動く気配はない。

 

T-55の戦車の砲塔は全てBETA群へと向けられていて砲火が続いている。

 

「アイツ等は何を考えているんだ! 俺たちが全滅したら次は都市が戦場になるんだぞ!」

 

突撃級の群れがその砲火を受けながらもこちらに近づきつつあった。

 

これはもう駄目かもしれないと頭の隅によぎった瞬間。

 

ソレが現れた。

 

地面が割れその中から白銀のドリルが姿を見せた。

 

BETA群と戦車大隊の間にゲッター2が立ちふさがった。

 

 

 

 

 

 

 

ゲッター2の中の隼人は先日のアイリスディーナとのやりとりを思い出した。

 

 

 

「貴様には我が中隊への支援は禁じる。」

 

そう隼人に彼女は言い放った。

 

「いいのか? レーザー級狩りはゲッター2が加われば手早く終わるぞ」

 

それにアイリスディーナは首を振った。

 

「それは我々がレーザー掃討をしていない時にしてくれればいい。貴様にはやってもらいたい事がある」

 

「何だ?」

 

「前線の兵達を守ってやってほしい」

 

アイリスディーナの意思は自身の中隊の支援よりも前線の部隊の支援をしてほしいという事だった。

 

「それはかまわないが……お前やお前の部下は」

 

戦術機部隊が戦線維持に努めて、ゲッター2がレーザー狩りをするより確実に数的被害は抑えられる。

 

当然、隼人がゲッター2で前線を維持すれば兵の数の総合的な減りは最小限になるだろう。  

 

「我々は東ドイツ最強の戦術機部隊第666中隊だ。我々をなめてもらっては困る。」

 

だが、BETA群の中の戦術機部隊の苛烈さに違いはない。

 

「頼んだぞ」

 

そう言って彼女は去って行った。

 

あの女は自身や自身の部下たちよりも東ドイツ全体の事を考えている。

 

そんな奴が自身の保身と出世のために家族を売るはずがない。

 

隼人はそう判断した。

 

それに……。

 

「俺は二度と仲間を裏切ったりはしない。」

 

隼人は懐の竜馬に渡したはずの銃に手を当てた。一度共同戦線を組んだ相手が全体のことを考えているのに自分が戦場から逃げる気になどなれなかった。

 

そして何より

 

インベーダーに似たその生物が許せなかった。

 

ゲッター2はBETA群の中へと猛スピードで突入していった。

 

(二度と仲間を裏切らない)

 

その誓いが後に隼人を苦しめることになるとはその時は想像していなかった。

 

 

 

隼人編 5話 終

 



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隼人編 第6話 「白銀の銃弾」

 

1983年 1月15日 東ドイツ 

 

ナイセ川西岸~要塞陣地間

 

T-55戦車部隊の眼前には信じられない光景が広がっていた。地平線が迫るかのごとく押し寄せていた突撃級の群れが全て死骸と化していた。

 

巨大な白い機体が消えたかと思うと竜巻のような物が突撃級を吹き飛ばしていた。

 

皆、その竜巻が白い機動兵器の動いた跡だと気がついたのは突撃級の群れが死体となった後だった。

 

「班長! どうしますか? 後退しますか?」

 

戦車長は部下の呼びかけに我に返る。

 

BETA戦ではいかに後退をスピーディにするかにその後の戦況がかかっている。

 

この戦車隊も後退の準備をしていた。

 

「……しんだ」

 

「は?」

 

戦車長の答えを聞き取れなかった部下が聞き返す。

 

「前進だ! 前線を押し上げるぞ!」

 

BETA戦では非常に珍しい『前進』を戦車隊は選んだ。

 

 

 

 

 

ナイセ川東岸50キロ

 

北東から要撃級の群れが流れ込むのに対応しようとしていたハンニバル大隊に戦車部隊から通信が入る。

 

「我が戦車部隊前のBETA群が全滅。次の命令を!」

 

「こちらも前方のBETA群が消滅した! これからの作戦を求む」

 

ハンニバルの戦況ウインドのBETAマーカーが消えていく。渡河したBETA群が次々と消え去っているようだ。

 

ハンニバルのウインドにマライの顔が写し出される。

 

「大隊長! これは一体?」

 

「どうやら祈りが通じたらしいな」

 

「戦車部隊はナイセ川を突破したBETAと川を渡ろうとするBETAに引き続き迎撃を!」

 

その命令を出したところでナイセ川に水柱が次々と上がり、何かが川を渡ってきた。

 

その何かが急速にこちらに近づいてくる。

 

「まさか本当に? しかし、この速度は!?」

 

その物体の速度は秒速1キロ。およそマッハ3。

 

この速度だと1分足らずでここまでやってくる。

 

「こちらハンニバル1。所属不明機がまもなくこちらにやってくる。敵意が見られない場合は手を出すな!」

 

ハンニバルの命令に大隊内に衝撃が走った。

 

「所属不明機? 何だ? 何の冗談だ!?」

 

「例の白い奴か? 敵じゃないんだろうな!?」

 

「……おい!」

 

マライが大隊員に注意しようとしたところで所属不明機が西から一気にこちらにやってきた。

 

大隊のど真ん中におよそ全高40メートル―戦術機2倍の高さの白銀の機体が飛び込んできた。

 

「何なんだ! こいつは!?」

 

「シュタージの新兵器か!?」

 

その所属不明機は大隊長機の方に光を数回発して北東方から向かってくる要撃級の大群へとさらに進撃していった。

 

(ミ・ナ・ミ・ハ・マ・カ・セ・タ)

 

ハンニバルはその意味をすぐに理解した。

 

「こちらに敵意のない所属不明機は放っておけ。全機南東側のBETA梯団に突撃! 奴には近寄るな! 巻き込まれるぞ!」

 

大隊メンバーは隊長の命令に動揺しながら、先行する隊長機に追続していった。

 

 

 

 

ハンニバル戦術機大隊の中に「シュヴァルツェスマーケン」の9機もいた。

 

テオドールはカティアの9番機とコンビを組んで戦っていた。

 

「BETAの奴らがほとんど所属不明機に向かっているぞ!」

 

「神だ! ついに私たちに救いの手が現れたのよ!」

 

周りの衛士共がゲッター2によって消えていくBETAのマーカーに沸き返っている。

 

1番機 8番機に秘匿回線のコールがかかった。

 

シュヴァルツ13と書かれたそのコールを開くと目つきの悪いアジア人の顔が現れた。

 

「状況を説明しろ。」

 

「テメエいきなり出てきてなんだ!」

 

テオドールが叫ぶと隼人は肩をすくめた。

 

「一応、交戦中でな。手短にたのむ」

 

北東の方で数十のBETAが宙に吹き上がっていた。

 

テオドールの戦況ウインドの北東のBETA群マーカーが次々と消えていく。

 

(あのデカブツがこんなに速いのか。)

 

「存在しないはずの中隊13番機か面白い。」

 

アイリスディーナがさぞ興奮したように声を上げた。

 

「今回の貴様らの任務はレーザー狩りじゃないんだな?」

 

「ああ。この大隊の任務はBETAの遅延だ。」

 

どうやら隼人の機体にはデータリンクされてないらしい。ゲッター2の情報が東ドイツ軍に全て知れ渡ってしまうのでそれは仕方のないことであった。

 

「了解。俺が代行しよう。座標を教えてくれ。」

 

「わかった。北東15キロに光線級の一団があるはずだ。頼んだぞジン。」

 

奴は小さく頷くとウインドが消え、所属不明機を示すマーカーが消えた。

 

おそらく地中へと潜ったのであろう。

 

「シュヴァルツ各機我々も大隊に続くぞ!」

 

「了解!」

 

大隊は南東部のBETA群へと突入していった。

 

 

 

 

 

ナイセ川西岸より約100キロ

 

西岸に展開された要塞陣地さらにその西の丘に陣をとっていた武装警察軍には全てのデータリンク情報が集まっていた。

 

BETA群のマーカーが徐々に西方から消え去っていく。大隊の戦術機数も予定よりも大幅に残っていた。これは武装警察軍の描いたシナリオとは大きく異なっていた。

 

当初の予定では、人民軍の戦術機大隊が崩壊した後に「ヴェアヴォルフ」を含む武装警察軍が新型機チェボラシカ約100機をもって英雄的に人民軍を救うはずだった。

 

それによって、第666戦術機部隊に株を奪われていた東ドイツ最強の戦術機部隊の称号を取り戻し、欠陥機と評判の高いチェボラシカの評価を改めソ連に恩を売るというのが狙いだった。

 

その目論見をたった一機の所属不明機によって打ち砕かれた。

 

「ヴェアヴォルフ」の隊長ベアトリクスは唇を噛みしめ、震えていた。

 

(……こんなはずでは)

 

「大隊長どうされますか? 我々も救援に」

 

「このタイミングで救援に向かって、一体どうするの? それこそお笑い草よ。整備に時間がかかって出撃できなかったというしかないわ。」

 

欠陥機チェボラシカの整備不良というのを建て前に逃げるしかなかった。

 

(許さん。許さんぞ。所属不明機)

 

ベアトリクスの妖艶な顔が憤怒の表情に醜く変わっていた。

 

 

 

 

ナイセ川 東50キロ

 

光線級のレーザーもしなくなり、ハンニバル大隊にすっかり勝利の雰囲気が流れていた。

 

テオドールはその状態がたった1機によってもたらされたことに喜びよりも驚き、そして恐怖が生まれていた。

 

テオドールの戦況ウインドにアイリスディーナの顔が写し出された。

 

「エーベルバッハ少尉。どうした? 貴様だけ表情が強張っているぞ。」

 

テオドールだけが、そのゲッター2の素性を知っていることから他の者にない緊張を顔に出してしまっていたらしい。

 

「あんた……アイツを使って一体何がしたい?」

 

「私はこの東ドイツを救いたいだけだ。今回は計らずも人狼の鼻を明かせたようだがな」

 

(こいつ本当にシュタージのスパイじゃないのか。)

 

「中隊長! 要塞級です。」

 

大隊の前にBETA群のまるで先頭にたつように要塞級が現れた。

 

全高60メートルを超える要塞級が大隊の前に立ちはだかる。

 

「各機散開!」

 

要塞級を囲むような形で中隊機が散開する。

 

尾の鞭毛が中隊機に伸びようとした瞬間。

 

要塞級の胴体に巨大な風穴が空き、少し間を置いて奴が下りてきた。

 

隼人のゲッター2がちょうど要塞級の上に落下した。

 

「……要塞級が一撃で」

 

「信じられない。」

 

大隊もその衝撃的な再登場に目を奪われていた。

 

「ジン。十分だ。帰投してくれ」

 

アイリスディーナが隼人に戦況が決したのを見て帰投を命じた。

 

「了解。」

 

その姿が消えようとした。その瞬間。

 

ゲッター2をレーザーが貫いた。

 

要塞級は内部に光線級を内蔵していることがある。

 

要塞級から出ている光線級の姿をみつけ、テオドールとアイリスディーナのバラライカが突撃砲を放った。

 

光線級が突撃砲によって肉塊へと変貌した。

 

「「ジン!」」

 

ゲッター2の姿はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハンニバル大隊」が基地へと帰投する。

 

大勝利に終わるはずだったその戦闘で所属不明機がレーザーに貫かれたことでなぜだか雰囲気が悪かった。

 

テオドールもしっかりとその眼にその光景を捉えていた。

 

(短い間だったがおかげでこの大隊が救われた)

 

テオドールは軽く目を閉じた。

 

「……エーベルバッハ少尉。下りてもらえないだろうか、整備ができないんでな」

 

「は?」

 

目を開くと目つきの悪いアジア人の顔がそこにあった。

 

ゲッタービジョン―超高速移動で残像現象おこし、それによる分身でレーザーを回避した隼人はその状態を利用し、地面へと潜りそのまま基地へと帰投していたのだった。

 

 

 

 

 

 

ハンニバル少佐の作戦終了宣言がなされハンニバル大隊は帰投後、勝利の余韻に浸っていた。

 

衛士達がする話題は自分たちを救ってくれた「白い所属不明機」の事ばかりだった。

 

 

「奴は戦術機の何倍も速いんだ! 要塞級も一撃さ!」

 

「奴は生きているに違いない」

 

「いや死んだに決まっている」

 

そういった話題ばかりだった。

 

ほとんどがその圧倒的な戦闘力とその安否の事である。

 

基地内ではその無事を願う人の声も少なくなかった。

 

基地の外で当の本人―隼人は煙草を吸っていた。

 

その隼人にテオドールは近づいていく。

 

隼人は雪原の向こうを見つめていた。

 

「あ! テオドールさん! みつけましたよ!」

 

テオドールはカティアにみつかり、基地へと引き戻された。

 

カティアに手を取られながら、テオドールは隼人とゲッター2が人狼共―武装警察軍を倒す切り札「銀の銃弾」になるのではないかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は雪原を見つめながら、思案していた。

 

BETAの攻撃目標には優先順位があり、歩兵より戦車、戦車よりも戦術機といった具合に攻撃していく。だが、今回の出撃でわかったことがある。

 

BETAはそのどれよりもゲッター2に優先的に攻撃をしかけようとしていたのだった。

 

そして、ゲッターを確認したBETAは死ぬまで追い続けていた。

 

BETAはゲッターを諦めない。

 

(まさかBETAはゲッターを知っているのか?)

 

疑問は生まれたが、その答えはすぐには分かりそうにはなかった。

 

隼人編 6話 終

 



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弁慶編 第1話 「蚊帳の外からの脱出」

車弁慶は、悔やんでいた。

 

自分もゲッターチームの一員なのに早乙女研究所にいないことに。

 

自分とミチルさんを除く竜馬、隼人、先輩の武蔵、博士。

 

かつての仲間が揃い、困難にそれぞれの立場から立ち向かおうとしていた。

 

だから弁慶はなおさらそこにいないことに憤りを感じていた。

 

自分にできることは目の前にいる小さな「早乙女元気」という少女を守ること。

 

それだけだった。

 

この小さな手を離さない。

 

あの日はそう誓い、彼女と共に核シェルターという蚊帳の外に逃げ込んだ屈辱の日だった。

 

 

「先輩……竜馬……隼人……博士……げ…ん……き…………い」

 

うめいた後、車弁慶は目を覚ました。

 

車弁慶は自分がベアー号の中にいることに気がついた。

 

弁慶にとって月面戦争以来のゲッターロボのコックピッドだったが、不思議と久しぶりな気はしなかった。

 

(俺は「元気」と一緒に核シェルターに逃げ込んだ。それがなぜゲッターの中に……しかもなんで水中にいる?)

 

そのゲッターは水中にいたのだった。

 

しかし、それよりもわからないのは先輩の武蔵がいつも被っていた軍帽をなぜか自分が被っていたことだ。

 

「なんで先輩の帽子が…?」

 

弁慶はわけもわからないままに水底を這うようにしてその水場から出た。

 

その水場の形状から水場が湖だったということが見て取れた。

 

(ここは一体?)

 

弁慶がそう思っていると、南の空が明るくなった。

 

北から南へと砲撃が飛んでいく。

 

(南で戦いがあるのか?)

 

弁慶は行くあてもなく南に進路をとった。

 

1983年 1月10日  旧フィンランド領

 

日付が変わったころに弁慶はとんでもないモノをみた。

 

異形の死体がそこかしこに散らばっていた。

 

弁慶は先程の攻撃がこの生物を殺すためだったことを悟った。

 

(インベーダーとは違う。一体こいつ等はなんだ?)

 

南を攻撃していたということは北に人がいるということだろう。

 

今度は北に進路をとろうとした瞬間ソレが現れた。

 

前面部が殻に覆われた奇妙な生物だった。

 

ソレが数体ゲッター3に向かって突進してくる。

 

「砲撃の生き残りか! どんなモノか試してやるぜ!」

 

弁慶はゲッター3をその生物に向かわせる。

 

「ゲッタァァー パァァンチ!!」

 

ゲッター3の右拳が生物の殻を打ち砕く!

 

硬い! だが割れないほどじゃない。

 

「面倒だ! 打ち上げてやる!」

 

ゲッター3の腕が伸びて、その生物次々と掴み、宙へとうち上げる。

 

それが約100メートルまで上がり、自由落下する。

 

落下の衝撃でその生物は潰れて動かなくなった。

 

(大して強くないな…この生物)

 

弁慶は軽く向かってきた数体を打ち倒すと今度はこの生物を攻撃した存在と接触するために

北へと進路をとった。

 

北へ向かう最中

 

例の前面部が装甲に覆われたやつと幾度となく遭遇し、出会うたびに殴り潰していた。

 

そうして屍を増やしながら掻き分けて進むうちに巨大なモノがみえた。

 

全高60メートルはくだらない大きさの巨体をもつ謎の生物だった。

 

それが見たことのないロボットを襲っているのがわかった。

 

巨大生物は3体それにロボットは次々と落とされていく。

 

(残り2機―ここがどこかようやくわかりそうな手がかりを失いたくはない。)

弁慶はその巨体へと機体の出せる最高速で突撃をした。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

巨体の触手がゲッター3めがけて伸びる。

 

弁慶はその触手を掴んだ。

 

その触手をゲッターアームで絡ませ、ちょうどもう一体に放り投げた。

 

2体の巨体は互いの質量によって潰れて動かなくなった。

 

「よし!」

 

ロボットの数が次々と増えてくるが、そのロボットはゲッターを静観していた。

 

残り一匹がゲッター3へと向かってくる。

 

「直伝! 大雪山下ろおおおおおおし!」

 

ゲッタ-3の腕が急速に伸びて、巨体の体を覆う。

 

その巨体を掴み、思いっきり宙へとブン投げる。

 

巨体は自由落下で先に倒れた巨体と激突し潰れて動かなくなった。

 

どうやら腕は鈍ってはないようだ。

 

こちらに敵意がないのをわからせるために大きく機体の手を上げる。

 

そして弁慶はよくわからないロボットの一団へとゆっくり近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンディ1! 所属不明機が近づいてきます。どうしますか攻撃しますか?」

 

突如現れた謎の兵器にイヴァロ守備隊の面々は衝撃を隠せないでいた。

 

BETA最大種の要塞級を投げ飛ばすなんてどの国の兵器だ?

 

いや これはそもそも人類の兵器なのか?

 

俺たちを襲ったりしないだろうか?

 

そんな疑問が戦術機部隊を渦巻いて彼らの動きを止めていた。

 

「サンディ1! 指示を!」

 

部下の呼びかけでサンディ戦術機部隊長―クラウス・ユーソラ大尉は思考を取り戻した。

 

「いいか! 絶対に手を出すな!」

 

「しかし……」

 

「アレが俺たちを殺す気なら一瞬でできる。それをしないということは何かあるということだ。」

 

サンディ1は通信をオープンチャンネルにして所属不明機呼びかける。

 

「こちらイヴァロ守備隊サンディ大隊の隊長クラウス・ユーソラだ。貴官は何者だ?」

 

と所属不明機へと呼びかけた。

 

一方の弁慶は自身の敵意がないことが相手に伝わり,オープンチャンネルで呼びかけられたことに安堵した。

 

この機体に乗っているのは間違いなく人間だ。

 

「俺は車弁慶だ。所属は日本軍、階級は少佐だ。一体ここはどこであの生物はなんだ?それに日本はどうなった? 重陽子ミサイルは早乙女研究所に落ちたのか?」

 

「待ってくれ。ベンケイ少佐。貴官の言っていることがわからない。とりあえずここはフィンランドで日本帝国は今も健在だ。」

 

クラウスにはほとんど弁慶の言っていることなどわからなかったが、わかるところだけ返事を返した。

 

「日本……帝国?」

 

弁慶はその言葉に驚く。日本帝国なんて聞きなれない言葉が出たからだった。

 

日本が帝政だったのは大昔だ。

 

弁慶は一体全体何がどうなっているのかわからなかった。

 

ただ元気やゲッターチームの安否が気になった。

 

同様にクラウスの方も弁慶に対してどのように対応していいのかわからなかった。

 

こちらに敵意はなく、BETAを圧倒するだけの力を有している。わかるのはこの男と謎の機動兵器をみすみす逃してはならないということだ。

 

クラウスは弁慶を彼らの難民都市へと案内することにした。

 

1983年 1月10日 旧フィンランド領 イヴァロ

 

弁慶はその基地へと向かう間にいろいろと日本通であるというクラウスの部下ミカ・テスレフ少尉に質問を繰り返した。

 

わかったことは、ここが20世紀のフィンランド。

 

あの生物はBETAという生物で人類と敵対していること。

 

日本帝国は第二次世界大戦終結後にも存続しているということ。

 

(別世界の過去ってことか)

 

弁慶はそう結論付けるしかないという現実に打ちひしがれた。

 

(どうやって元の世界に戻ればいい?)

 

ハンガーにゲッター3を格納して、機体から降りると弁慶は銃に囲まれて軽く拘束された。

 

一人の男が弁慶の側にいた。

 

「私がテスレフだ。ベンケイ少佐すまない。」

 

ミカ・テスレフは中性的な顔をした20代後半の男性だった。

 

「おい少尉。これはどういうことだ。」

 

弁慶が思い切り睨みつける。

 

「少佐は身元不明者として拘束されているのです。しかし、命の恩人である少佐に悪いようにはしません。信用してください。」

 

「………頼むぞ。」

 

そしてある一室に連れられた。

 

「さて貴官は一体何者だ?」

 

屈強そうな男大隊指揮官クラウス・ユーソラ大尉が弁慶に向かって尋ねる。

 

「だから言っているだろうが日本軍少佐車弁慶だ。」

 

弁慶はこれまで通り自身が日本軍所属の少佐であるという主張を繰り返した。

 

「ふむ……ベンケイ少佐はBETAを知らない。日本帝国ではなく日本軍の所属ということで間違いないだろうか」

 

「その通りだ。俺はおそらく別世界の未来から来た。」

 

クラウスはそんなバカな話があるかと信じられなかった。

 

「少佐。少し待ってもらってもいいだろうか?」

 

クラウスはミカを連れて部屋から出た。

 

「おそらく…何かの例えだろう」

 

クラウスはそう結論を出した。

 

「たとえですか?」

 

ミカがクラウスに対して問うた。

 

「ああ……素性は言えないということに違いない。おそらく帝国の脱走兵だろう」

 

クラウスはそう判断を下した。

 

「……脱走兵」

 

ミカが格納庫のゲッターロボを見た。

 

「あの男は脱走する折に帝国の最新特別戦術機を盗んだのだ。それがあれだ。」

 

ミカは少々疑問を持ちながらも納得していた。

 

はたして別世界からの未来から来たという話と最新の兵器を盗み出した脱走兵どちらに信憑性があるだろうか。

 

「ではなぜこのイヴァロに?」

 

ミカの質問にクラウスは落ち着いて答える。

 

「ここは今や独立都市だ。他の国ならコイツのことを報告する義務があるだろうが、

ここイヴァロにはない。」

 

果たして遠い日本からBETAのハイブを越えてここまで単機で辿り着くことが可能なのだろうかと疑問を感じながらもミカはうなずいた。

 

「ではベンケイ少佐はイヴァロに逃げ込んだ脱走兵で間違いないのでしょうか?」

 

「ああそうだ。……そしてこれは我等にとって幸いだ。あの力を我等は防衛力として提供してもらう代わりにこの男をかくまえばいい。」

 

クラウスとミカは弁慶の話を脱走兵がそれを隠すために嘘をついているのだと推測し、その嘘を真実として扱い、弁慶を保護しようと決めた。

 

「ベンケイ少佐。貴官が未来に戻れるアテができる間はここにいてよい。その代わりに有事となれば我等に協力してほしい。」

 

部屋に戻ったクラウスが弁慶にそう提案をした。

 

「面倒はこのテスレフ少尉が見てくれる。」

 

この申し出は弁慶にはありがたかった。

 

見知らぬ別世界で孤独なのは不安だったのだ。

 

弁慶は客将として難民基地イヴァロに駐留することになった。

 

 

弁慶編 1話終わり

 



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弁慶編 第2話 「BETA戦災難民」

月面戦争時

 

3号機ベアー号のパイロットを早乙女博士が連れてきた。

 

日本軍で暴れまわっていた男―巴武蔵だった。

 

体の頑強さが取り柄の男だった。

 

しかし、武蔵はインベーダーとの戦闘時でもよく突撃を繰り返して怪我を負うことが多かった。

 

そこで日本軍時代に武蔵の相棒だった後輩の車弁慶が予備メンバーとしてスカウトされた。

 

 

 

「弁慶!」

 

左腕を吊った武蔵がベアー号へと乗り込む弁慶に声をかける。

 

「先輩、俺なんかが先輩の代わりなんてできるのか?」

 

弁慶は不安そうに武蔵へと問いかけた。

 

「誰でも最初はそうさ。俺なんて初出撃はずっと鼻血垂れていたぞ?」

 

武蔵が弁慶に優しく声をかけた。

 

「先輩……竜馬先輩や隼人先輩に付いていける気がしないんです。」

 

「お前がそんなに嫌なら片手で俺が出撃するが?」

 

「そんな! ダメっすよ先輩! アンタ怪我してるじゃないか!」

 

「大丈夫だ。ずっと俺に付いてきたお前なら俺の代わりができる。俺は信じている。」

 

弁慶はしばし沈黙をした後

 

「俺…………乗ります!」

 

と力強く宣言した。

 

怪我人の武蔵を乗せるわけにもゲッターを二人で出撃させるわけにもいかない。

 

「それでこそ俺の後輩だ。それに……片手でゲッター操るのは正直厳しいからな」

 

その日、弁慶は武蔵の代わりに出撃し大活躍といかないまでも武蔵の代役を成し遂げた。

 

 

 

 

1983年 1月13日 旧フィンランド イヴァロ

 

 

 

「なんて懐かしい夢を」

 

弁慶は夢から目覚めた。

 

初出撃の時のまだ青臭かった自分を思い出す。

 

(あの頃は竜馬や隼人を先輩と呼んでいたんだったな。)

 

弁慶はこの3日。

 

ロヴァニエミハイブから来るBETAの迎撃に駆り出されていた。

 

イヴァロは現在人口約7000人。

 

7000人のうち500人ほどが軍人なり志願兵なりの戦力だ。

 

 

後の6500人は非戦闘員。難民である。

 

「避難は進まないのか?」

 

難民キャンプを歩く弁慶とテスレフ。

 

周囲の眼は諦めと憎しみに満ちていた。

 

「それが進んでいないんです少佐。食糧の配給も最近滞っているのが現状です。」

 

「それでこの町の様子か……」

 

「わかりますか?」

 

行く人来る人全ての人の目が険しい。

 

「治安もすこぶる悪いだろう。」

 

「ええ。盗みなんて毎日ひっきりなしで起こっています。」

 

BETAによる被害は最前線の兵士に限った問題ではない。

 

「物資も足りていません。スウェーデンのルーレオ国連基地に物資と人員を要求していますが…」

 

「現状まったく足りていないのか」

 

「10日からは弁慶少佐がここにいますから人員はいいから物資だけでもと申請をしています。」

 

「しかし、たった兵士が500人というのに驚いたな」

 

「衛士はもっといたのですが……」

 

テスレフは言い難そうに語る。

 

「衛士ってのは戦術機のパイロットだったな…死んだのか?」

 

「いえ……衛士は一般人と命の値段が違うんです。」

 

「まさか………」

 

「衛士とその家族は優先的に亡命できるのです。」

 

衛士は戦術機を操れる数少ない人間だ。

 

その中でも「死の8分」と呼ばれる初陣衛士の平均生存時間を超えた戦闘経験を持つ衛士は先進国、後進国を問わず大変貴重な人間である。

 

同じ難民が亡命する場合でも衛士がするのと、一般人がするのでは全く意味合いが異なる。

 

衛士が亡命した場合、その技術と体を新たな国に捧げることを条件に他国は比較的容易に亡命を受け入れるのだった。

 

そして軍人を見る周囲の眼が険しいのもそれが理由だった。

 

「少尉………家族は?」

 

弁慶がテスレフに聞く。

 

「妻と娘が二人です」

 

「少尉は……亡命を受けなかったのか?」

 

「ええ………父親失格ですよ。家族の命よりここで見ず知らない他人を守っているなんて…」

 

弁慶はその言葉の真意を理解した。

 

この男は家族を連れて、他の市民を見捨てるよりも、家族を含めた市民を守ることを選んだのだ。

 

「今の私には……とても家族に合わせる顔がないのです。」

 

 

テスレフの眼が遠くを見つめる。

 

その視線の先には難民の子供たちが元気いっぱい走り回っていた。

 

「あの中に……いるのか?」

 

「ええ………金髪の子が娘です。」

 

男の子顔負けにはしゃいでいる女の子だった。

 

「会ってやらないのか?」

 

テスレフが静かに首を振る。

 

「………もう死んでいるものと思っているでしょう。」

 

弁慶はそんなテスレフに

 

「娘に会える時に会ってやれ。……会えなくなってからでは遅いぞ」

 

と声をかけた。

 

「ええ………ここにいる人が全員逃げ出せる日が来たなら…きっと」

 

子供たちは使われていないだろう廃工場に入っていき、見えなくなった。

 

「もどりましょうか。ベンケイ少佐。」

 

「ああ………」

 

兵舎に戻ろうとするテスレフ。

 

弁慶は早乙女元気を思い出す。

 

目の前で父と姉を失い心を閉ざした少女を……。

 

「……君と娘。どっちがつらいんだろうな」

 

そっと呟いたその言葉がテスレフ少尉に届いているかは弁慶にはわからなかった。

 

力だけでは何も救えないそれを痛感した一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン フィンランド国境付近

 

 

 

「こちらヴァンキッシュ1。CP応答を……」

 

「こちらヴァンキッシュ0。どうした榮ニ?」

 

スウェーデンにあるルーレオ国連基地は北へと迫るBETA群を間引く作戦をしていた。

 

大勢のファントムの中一際目立つ黒い機体が2機、隊の端にいた。

 

日本帝国斯衛軍専用機「瑞鶴」だった。

 

「裕唯。もう一回この馬鹿に作戦を説明してくれ」

 

「仕方ないな。ヴァンキッシュ2。この作戦は北上するBETA群を砲撃により減らし、更に戦術機による強襲で全滅させる作戦だ。私たちはその作戦に参加し、瑞鶴の実戦データを得る。くれぐれも前みたいに無茶な突撃しないでくれよ」

 

2番機からの反応はなかった。

 

前方のファントム群が行動を開始した。

 

瑞鶴の1機も続く。

 

「おい! ヴァンキッシュ2!」

 

 

1機の黒の瑞鶴がファントム群と共に行動しようとする。

 

「俺たちは第二陣だ。って聞け!」

 

ヴァンキッシュ1の制止を振り切り、2番機がBETA群めがけて進行する。

 

「ヴァンキッシュ1 これより2番機を追う。」

 

1番機の衛士がCPに「承諾」というよりは「確認」をとる。

 

「こちらヴァンキッシュ0。了解。こうなる気はしていたよ。」

 

CPの男がやれやれと言った具合に言葉を漏らした。

 

もう一機の瑞鶴もファントムの軍勢に加わり、BETAの群れへと進撃していった。

 

北欧の地で弁慶が同じ「日本」の男たちと出会うのはもう少し先のことだった。

 

弁慶編 2話 終わり

 



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弁慶編 第3話 「北欧に渡った鶴」

 

1983年 1月25日 スウェーデン領 ルーレオ

 

ルーレオ国連基地は北欧戦線を守備する拠点基地であり、ロヴァニエミハイブから西へと攻めてくるBETAへの侵攻を抑えるためスウェーデン軍、ノルウェー軍、旧フィンランド軍を中心とする多国籍軍の基地である。

 

そんな中、日本人で構成されている一派があった。

 

「先日の戦闘では大層無理をしてくれたじゃないか。榮ニ。」

 

「局地戦闘用の瑞鶴を使って寒冷地で戦っているんだ。多少の無理はするさ。」

 

日本帝国斯衛軍開発衛士の巌谷榮ニ中尉が報告書を手渡す。

 

「整備兵に聞かせてやりたいな。そのセリフ。」

 

もう一方の男が軽口をたたく。

 

「おまけに随伴機とキルスコアが同数ってどういうことだい?」

 

「アイツが勝手に突っ込んだんだ。俺のせいじゃない。」

 

「やれやれ、部下を抑えるのも隊長の仕事だよ?」

 

「裕唯。お前がやってみろ。」

 

巌谷がもう一人の男 篁裕唯少尉を睨みつけた。

 

「私が彼を? 無理に決まっている。君だから彼を抑えられるんだよ。」

 

日本帝国は今年から官民一体で純国産の戦術機開発計画「耀光計画」を開始していた。

 

第3世代の戦術機の自国生産にはどうしてもBETAとの実戦データが必要だった。

そこで日本帝国は戦地での実地実験をするために部隊を大陸に送り込んだのだった。

 

一人は篁裕唯 82式戦術歩行戦闘機「瑞鶴」を生み出した男。

 

一人は巌谷榮ニ 篁の設計した「瑞鶴」をテストして正式採用にまで持ち込んだ男。

 

「しかし、変な話ですね。正式採用した機体の実戦テストを後からするなんて」

 

もう一人。三人目の声が加わる。

 

「今回のメインは『瑞鶴』じゃないからね。なにせ第2世代を飛び越えた「第三世代」の開発だ。データは多ければ多いほどいい。」

 

「ふむ。それはそうと火をもらえますか? ライター忘れてしまって」

 

その男はスーツに帽子を被った少々風変りな男だった。

 

「何者だ! いつからそこにいる?」

 

巌谷が拳銃を抜き、男に向ける。

 

「おや、そっちの火じゃあありませんよ。」

 

男は余裕で受け応える。

 

「初めまして斯衛の若き衛士 巌谷榮ニ中尉。私は鎧衣左近。情報省外務二課の者です。」

 

巌谷が銃を下ろす。

 

「その情報省のものがなんのようだ? どこから入った?」

 

「彼に入れてもらいましたが?」

 

鎧衣は篁を指さす。

 

「すまない榮ニ。言い忘れていた。」

 

篁がすまなさそうに謝る。

 

「そういう事は先に言えっていつも言っているだろ!」

 

巌谷が篁に向けて怒鳴った。

 

「さて君たち3人に極秘指令を持ってきました。おや……一人足りない」

 

鎧衣が不思議そうに篁と巌谷を見る。

 

「ああもう一人は衛士として練度がまだ浅くてな。出撃の無い日はずっとシミュレーターだ。」

 

巌谷が応える。

 

「そんな衛士が実戦データ収集を?」

 

「彼は体がとても頑丈だから機体がどの程度の負担に耐えられるのかを計測してもらっているんだよ。」

 

こちらは篁が応える。

 

(Gを感じないとか頑丈で済むレベルじゃないがな)

 

巌谷が口に出かけた言葉を飲み込んだ。

 

「ふむ……そちらの方も気になりますが、いないならば仕方ない。さて斯衛の紅蓮中将より指令です。旧フィンランドの難民都市イヴァロで調査してきてください。詳細はこの封筒に入っています」

 

巌谷に鎧衣が密書を渡す。

 

「イヴァロ? 確かしょっちゅう救援要請とか物資要請とかしている難民基地だな。

なにかそこにあるのか?」

 

巌谷が鎧衣に質問をする。

 

鎧衣が首を振る。

 

「いいえ。ですが今月の10日から連日続いていた救援要請がしなくなったんですよ。

物資要請は続いているのに。」

 

「そんな理由で実戦データ収集を切り上げて私たちに調査してこいと?」

 

篁がそれまでの軽い態度から一変して鎧衣を睨みつける。

 

(裕唯の奴。本気になっているな)

 

巌谷がごくりと唾を飲み込む。

 

「貴方たちならわかるでしょう? 今、我々の世界にイレギュラーが起きていることに。上と東はさらに大変なようですよ?」

 

「上と東だと?」

 

「東は東側諸国。上は宇宙ですか?」

 

「ええ……察しがよくて助かります。」

 

そこで鎧衣がタメを作り、ダメ押しを言う。

 

「身近なところで言えば、衛士3人だけしかいない艦に4つの機体を抱えているこの艦とか。」

 

巌谷と篁の背筋がすこし伸びた。

 

「あと珍しい衛士がいるそうですね。強化装備を着ない衛士。実に興味深い。」

 

巌谷と篁が沈黙した。

 

「わかってくれて幸いです。それでは私はここで」

 

鎧衣が去り、巌谷と篁がお互いを見やる。

 

「情報省にとんでもない新人がいるという噂を聞いたが」

 

「ああ……間違いなく彼だろうね」

 

「おや。隠密行動が噂になるのは考えものですね。」

 

鎧衣がまた話に割り込む。戻ってきたようだ。

 

「貴様まだいたのか?」

 

「ええ伝え忘れました。この指令は紅蓮中将からですが、背後には政府、帝国軍の有力者もいるようです。どれだけ重要なものか。わかりますね?」

どうやら念を押しにだけ戻ってきたらしい。

 

帝国軍、斯衛軍、そして政府のトップレベルが注目しているようだ。

 

今度こそ、鎧衣が出て行った。

 

「榮ニ。何かとんでもない事に巻き込まれている気がするんだが……」

 

「諦めろ。俺はそうする。」

 

巌谷がため息をついた。

 

「というよりも彼を拾った段階でこんな事になるんじゃないかと私は思っていたんだ。」

 

「おいおい、今さら何を。」

 

篁と巌谷は貧乏くじを引かされた心地でもう一人が待つシミュレーター室へと向かったのだった。

 

 

弁慶編 3話 終

 



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第一部 第2章 「生と死の狭間で」
竜馬編 第6話 「復讐の果て」


 

 

「こんなところで伝説の男に会えるとはな……」

 

手足を拘束されて、逃げ出せられないようにされた流竜馬がその留置所にいた。

 

「おい お前がどんな罪で捕らえられたかわかっているんだろうな?」

 

竜馬は早乙女博士殺害の容疑で逮捕されたのだった。

 

「……俺じゃない。」

 

「ん?」

 

「俺じゃないんだ。俺が研究所についたときに既に早乙女のジジイは殺されていた。」

 

怒りに身を震わせながら、竜馬は言葉をしぼりだした。

 

「誰に?」

 

「隼人だ。」

 

「神隼人か。確かに目下捜索中だが、銃には貴様の指紋さらにお前のその体には硝煙反応が出ている」

 

竜馬は早乙女博士の死体の傍らに置いてあった銃を拾い上げて確かに発砲していた。

 

「それは俺が隼人に向かって撃ったからだ!」

 

「貴様が早乙女博士の遺体を隠したせいで拳銃が何発使用されたかわからないのでその発言を証明できないな」

 

「俺がジジイの死体を隠しただと……? 俺は指一本触れてねえ!」

 

「現場で見つかったのは致死量をはるかに超える早乙女博士の血液と目撃者早乙女元気と銃を持った貴様だけだ。言い逃れができると思っているのか?」

 

竜馬の頭にはなぜ?という疑問しかなかった。

 

なぜ隼人が博士を殺したのか。

 

そしてなぜ博士の遺体は消えた。

 

「貴様には二人の殺害容疑がある。」

 

二人。

 

その発言に竜馬は我に返る。

 

「二人ってのはどういうことだ!? ジジイだけのはずだろ!」

 

「早乙女博士。そして貴様が罪をなすりつけようとした神隼人の二人だ。」

 

竜馬が神隼人を殺害し遺体を隠してその後早乙女博士を殺害、早乙女元気に見つかるもそれに気づかずにさらに早乙女博士の遺体を隠したものと判断された。

 

「仲間亡くしたばかりの俺が仲間を殺すような真似するとでも思ってんのか!」

 

「それすらもお前の仕業だったとしたら?」

 

「な!?」

 

博士との不仲の原因となった早乙女ミチルの事故も故意であった可能性があると捜査もなされたが、こちらは証拠不十分となった。

 

二人しかも世界を救ったゲッターロボを開発した早乙女博士とそのパイロットである神隼人を殺害した罪を重くみた軍は流竜馬をA級刑務所に仮出所なしの無期懲役の刑に秘密裏に処した。

 

口と手それに足に枷をかけられた竜馬が護送車へと乗り込まされた。

 

流竜馬は早乙女博士が再び現れるまで約3年間A級刑務所に投獄されたのだった。

 

仲間をバラバラにし、A級刑務所に竜馬を追い込んだ隼人と早乙女博士を殺す。

 

それが流竜馬の復讐であり原動力だった。

 

 

1983年 1月25日

月面

 

竜馬が雷電と出会って10日が経った。

 

ゲッターロボの修理そして改修は予定よりも……順調すぎるぐらい進んでいた。

 

ゲッターロボの左腕に従来のより巨大化したゲッターレザーが装着され、両手にはスパイクが付いた。

 

予定では修理だけでひと月、それに加えて改修となるとさらに時間がかかるはずだった。

 

それを考えてみれば人が増えたといえ驚異的なスピードでゲッターウイングの修理は完全に終了した。

 

竜馬はそれに猛烈な違和感を覚えていた。

 

例えるなら、頭の中から消えた経験を手が覚えていて、昔やった工程を繰り返している。

 

そんな感じだった。

 

宇宙ステーションへとひとまず国連総本部への報告、オルタネイティヴ第3研究所への訪問申請へと行っていた雷電が月面基地に戻ってきた。

 

「流。調子はどうだ?」

 

雷電が竜馬にゲッターロボの状況を確認する。

 

「順調だ。あと半月もあれば地球に降下できるようになる。そっちこそ、あの舌噛みそうな研究所には行けるようになったのか?」

 

「ああ、二つ返事で了承された。もっとも少し準備するから待ってくれと言われたが、大方見られたくない物を処分しているんじゃろうな。」

 

秘密機関であるオルタネイティヴ機関が所属の違う人物を招き入れるのは異例中の異例であり、

 

「それはそうと後で話があるから儂の部屋に来てくれ」

 

そういって雷電はゲッターロボから離れていった。

 

竜馬は改修作業がひと段落した後、雷電の部屋を訪れた。

 

そこで待っていたのは酒瓶を持った雷電だった。

 

「お前とまだ酒を交わしてなかったからな。」

 

新たな仲間と酒を飲む。御剣組ではこうした事がなされ、入隊を歓迎していたのだった。

 

竜馬は昔、仲間と戦闘の後よく飲んでいたのを思い出した。

 

 

 

竜馬が雷電と酒を飲み始めたころ。

 

月詠が竜馬の改修を手伝っている技術者と話をしていた。

 

「どうだ? 何か盗めそうか?」

 

国連宇宙軍はゲッターロボから何かこちらの技術に流用できないかと考えていた。

 

「難しいですね。 我々とは考え方がまるで異なります。」

 

「というと?」

 

「信じられない程の力を持つ動力源、それによる反動やGは全て操縦者にそのまま伝わります。」

 

ゲッターロボの機動性や構造から操縦者にまるで配慮がされてないことがわかった。

 

「それを扱うことのできる者がかなり限られるということか?」

 

「そんなレベルじゃないですよ。乗れる方がおかしいです。」

 

この世界の人間に耐えられるような代物ではなかった。

 

「量産は可能か?」

 

「動力源の詳細も何もかもわかってないですし、流もどうやら改造はできるようですが生産はできないようです。それに量産できても乗れる人間がいません。」

 

「無理か」

 

「我々にも乗れるように誰かが設計から見直してくれればいいんですが。」

 

現状ではゲッターロボの増産、量産は難しかった。

 

 

 

 

 

 

雷電はこれまでのBETAとの戦いを竜馬にあの月面戦争を含めて語った。

 

「……………………………」

 

息子を含めた部下を失った月面での戦闘について竜馬は何も言わなかった。

 

「貴様は何も言わないんじゃな」

 

「英雄扱いされてる負け犬に何言えってんだ?」

 

「こいつは手厳しい。」

 

雷電は苦笑する。

 

「その手の事は言われ続けて耳ダコだろ? 余所者の俺が言う事じゃねえよ」

 

月から帰還した雷電を待っていたのは称賛と同情だった。

 

自分の負け戦がまるで美談のように語られ、その戦いを知りもしない人間に同情された。

 

雷電にとっては耐えがたい屈辱だったに違いない。

 

「それに……死んだ奴は何があっても返ってこねえからな」

 

竜馬はまるで自分に言い聞かせるように口に出した。

 

「さて次はお前の番だ。元の世界でしなくてはいけない事を含めて話せ」

 

「ジジイ……謀ったな。」

 

先に話しておけば竜馬も話さざるを得ないと見なしての行動だった。

 

酒の勢いもあって竜馬はこれまでの事を話し始めた。

 

早乙女博士に拉致され、はじめてゲッターロボに乗ったこと。

 

神隼人、巴武蔵、車弁慶、早乙女ミチルとの出会い。

 

約10年にも及ぶ月面でのインベーダーとの激戦そして勝利。

 

ゲッターGの実験でミチルを失ったこと。

 

そのすぐあとに早乙女博士が隼人に殺され、濡れ衣でA級刑務所に3年間閉じ込められたこと。

 

そして早乙女博士とインベーダーの復活。隼人、武蔵との再会。

 

話を終えるまでかなりの時間がかかった。

 

「俺は仲間をバラバラにしたジジイとA級刑務所に追い込んだ隼人を殺す。それが俺の目的だ」

 

「ククク……ハッハッハハハハハ!!!」

 

竜馬が話を終えると雷電が顔をしかめ笑い始めた。

 

「何がおかしい! ジジイ!」

 

竜馬が目をむいて激怒した。

 

「いや、済まぬ。ただ感情と行動が相反していると思ったのでな」

 

「どういう意味だ?」

 

雷電の返事の意味が竜馬には分からなかった。

 

「その博士と隼人とやらも仲間だったのだろう?」

 

「……何が言いたい?」

 

「貴様は……仲間をバラバラにされた腹いせに仲間を殺すのか?」

 

竜馬の怒りが頂点に達した。

 

「アイツ等が! 俺を裏切ったんだ!」

 

竜馬は信じていた仲間に裏切られ、訳もわからぬまま暗闇の中で過ごした。

 

その3年間、彼が自身の意志を保つにはその責め苦に耐えうるだけの何かが必要だった。

 

それが隼人と博士を殺すという目的だった。

 

「ジジイ! てめえに俺の何が分かる!? 

 

余所者に、仲間でもない者に言われる筋合いのないことである。

 

竜馬の怒りは止まらなかった。

 

「わからんさ。」

 

雷電の返答に竜馬は席を立ち、その口を黙らすために飛び上がった。

 

「ただわかるのは、復讐を成し遂げた後のお前の姿だ。」

 

竜馬は机の上にたったまま、雷電を睨み続けた。

 

「その復讐の果てに何がある? あるのは永遠に別れたままの仲間と……今度は本当に友の血で濡れた貴様の手だけじゃ。」

 

「ジジイ……てめえ」

 

雷電は竜馬に復讐の意義を問いかけた。

 

「流。貴様は沸き立つ激情をただ目の前にある物にぶつけているだけにすぎん。貴様の怒りの本当の理由とこれから為すべきことを今一度考えてみるんじゃな」

 

「チ!」

 

竜馬は机の上から飛び降りると部屋から出ようと扉に近づいた。

 

「お前の言った通り、死んだ者は帰って来ない。だが生きているのなら、心を通わせることができる。リーダーならばもう一度仲間を一つにしてみるんじゃな。」

 

扉は大きな音をたてて、閉じられた。

 

 

 

 

 

雷電の部屋の扉を誰かが叩いた。

 

「入れ」

 

技術者との話を終え、戻ってきた月詠だった。

 

「流と廊下ですれちがったんですが……中将何をおっしゃられたのですか?」

 

どうやら、竜馬に思い切り睨みつけられたらしい。

 

「世間話じゃよ。存外、奴も普通の人間らしい」

 

「普通の人間は月重力下といえ、20メートル以上の高さから降りて無事じゃすみませんよ」

 

(中身の話じゃよ)

 

雷電はそう思ったが、口には出さなかった。

 

「中将。本部に「ゲッターロボ」について報告してきたのですか?」

 

「ああ。適当にごまかしておいた」

 

異世界の未来から兵器とパイロットがやってきたと言っても信じられるわけがないので雷電は報告に虚偽を混ぜた。

 

「ついでに「ゲッターロボ」を加えた反抗作戦を国連総本部に提案してきた。」

 

「中将。奴を降ろせばそれで済むのでは?」

 

ゲッターロボと接触した月のBETAは月から撤退した。それと同じことが起きるはずである。

 

「念には念を入れておかねばならん。それにどうもそれだけで終わるとは思えん」

 

「勘ですか?」

 

「勘じゃ、うまくいけば、ゲッターロボをだしにしてアメリカを引っ張り出し、東西陣営の垣根を超えた反抗作戦が再び実行される」

 

パレオロゴス作戦。

 

かつて行われたNATO軍とワルシャワ条約機構軍の合同作戦。

 

あの作戦は失敗に終わった。

 

だが、今度こそは……

 

「バンクーバー協定の下でパレオロゴスのリベンジマッチといこうじゃないか。」

 

雷電の言葉には再び人類を一つにするという強い意志が込められていた。

 

 

 

 

 

 

月詠が雷電の部屋を去り、雷電はもう一度竜馬の話を思い返していた。

 

竜馬の話にいくつか竜馬の仲間の名前が出たが、当然雷電の知っている筈のない者ばかりだった。

 

一人を除いて。

 

「……巴武蔵」

 

どこかで確かに聞いたことのある名前だったがどこで聞いたかは思い出せなかった。

 

 

 

 

 

 

竜馬は自室に戻り、落ち着きを取り戻そうとしていた。

 

赤の他人に自分の原動力を否定されたこと。

 

そして、このまま隼人を殺すという目的を持ったままでよいのかということ。

 

(俺の感情を隼人を殺すという分かり易い目的でごまかしていたのなら)

 

竜馬の中に確かにある隼人への怒りは、一体どこから来たというのか。

 

竜馬にはわからなかった。

 

竜馬編 6話 終

 



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竜馬編 第7話 「焔に包まれる復讐鬼」

竜馬は早乙女博士に呼び出されていた。

 

娘の早乙女ミチルが事故死してからめっきり姿を見せなくなっていた早乙女博士の申し出を竜馬は断ることができなかった。

 

「チッ! 突然何なんだ?」

 

竜馬は誰も開発を進めなくなったゲッターロボGの量産化を目指して武蔵と弁慶それに数名の技術者と共に研究に明け暮れていた。

 

もうミチルのような犠牲者を出さないために。

 

事故の原因はポセイドン号の出力低下によるスピード不足だろうと決定された。

 

ミチルは隼人の次に正確な操縦をする人だった。

 

操作ミスだとは考えられない。

 

ならばゲットマシンの方に問題があったに違いない。

 

ゲットマシンの調整が竜馬の今の課題だった。

 

隼人と早乙女博士にもそれに協力するよう言ったが、断られた。

 

隼人はどこか上の空、早乙女博士はミチルの亡骸と共に研究所の地下へと閉じこもった。

 

早乙女博士はミチルの遺体を決してゲッターチームメンバーに見せようとはしなかった。

 

竜馬は一目、面会を頼んだが「ミチルを殺した上にさらに辱める気か?」と拒絶されたのだった。

 

暗雲が立ち込め、雨が降りだし、雷が轟いた。

 

「妙だな」

 

早乙女研究所はまるで無人のように人の気配がなかった。

 

「おい博士! 元気!」

 

何か、胸騒ぎがする。

 

竜馬は駆け出した。

 

しばらく廊下を走っていると、とんでもない音がした。

 

それは銃声だった。

 

礼拝堂を通り抜けた先にとんでもない物がそこにあった。

 

血に塗れた早乙女博士。

 

頭から血を流しており、死んでいるのは明らかだった。

 

「は、博士?」

 

竜馬は早乙女博士の側に駆け寄った。

 

「い、いったい誰が?」

 

その時、頭上からした殺気を竜馬は感じ、後ろに飛びのいた。

 

竜馬がつい今までそこにいた空間を刃が走っていた。

 

間一髪、竜馬の頬を赤い線が一筋。

 

ナイフを持った男が竜馬に襲いかかったのだった。

 

竜馬は追撃を躱し、男の顔を見た。

 

「は………隼人?」

 

その男は狂気に染まった目をした神隼人だった。

 

猿のような身のこなしで隼人はその場から離れていく。

 

「ま、待て!」

 

その場に置いてあった拳銃を拾い、竜馬は隼人を追いかけた。

 

「隼人! 隼人おおおおおおおおおおお!!」

 

竜馬は隼人に向かって発砲したが、隼人を止めることができなかった。

 

隼人が闇に消えたかと思うと、突然円盤状の発光体が空に浮かび上がった。

 

「な!? なんだと!?」

 

それは一つの線となってその場から飛び去って行った。

 

「UFO? ま、まさか?」

 

竜馬は背後から近づく存在にその時はじめて気がついた。

 

小さな影は早乙女元気のものだった。

 

元気は父の亡骸を怯えた瞳でみつめていた。

 

「げ、元気?」

 

元気は拳銃と竜馬の顔を見ると明らかに動揺していた。

 

その表情の変化に竜馬は自分が早乙女博士を殺害したかのよう思われていることを察した。

 

「違う! これは違う!!」

 

元気はその眼に大粒の涙をためていた。

 

「元気! これは違うんだ!!!」

 

「うわあああああああああああああああああ」

 

元気は叫び声を上げると竜馬から逃げだした。

 

「元気ぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 

竜馬の悲痛な叫びを雷が消し去った。

 

 

 

 

 

何の為に早乙女博士と隼人の奴が竜馬を騙したのか。

 

そんなことはわからなかった。

 

ただわかっていたことは隼人がゲッターGの研究を、ミチルの遺した全てを台無しにしたこと、そして元気に消えない心の傷をつけたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年

 

2月8日 月面

 

最悪の目覚めだった。

 

ゲッター1改修の最終段階に入り、いつのまにかコックピッドで眠っていた竜馬が目を覚ました。

 

竜馬はまるで悪夢を振り払うかのごとく首を振った。

 

「殺す! 絶対殺す!」

 

竜馬は己に言い聞かせるように口に出した。

 

「寝起きから物騒な男じゃな」

 

御剣雷電が竜馬を覗きこんでいた。

 

「……ジジイ、何のようだ?」

 

「これより作戦行動に移る。お前にも関係のあることだ。ついてこい。」

 

竜馬と雷電はコックピッドを下りた。

 

「しかし、凶悪な面構えだな」

 

「うるせえよ。生まれつきだ。」

 

「このゲッターロボのことだ。」

 

雷電は見上げながら指を上に向けた。

 

そこには竜馬の改修した赤いゲッターロボが立っていた。

 

コックピッドをガードするために口元にはまるで猿轡のように鋼が覆われ、首元にはスカーフのようなゲッターマントの切れ端が巻き付いていた。

 

「何だ? 何か文句があるのか?」

 

「別に文句などない。」

 

雷電は話しを打ち切り、廊下を歩く。

 

「……ただまるで貴様をそのまま投影させたかのようだ」

 

 

 

 

艦の前には御剣雷電の部下達が勢ぞろいしていた。

 

「さて! 準備が整った。これより我が隊は2組に分かれる。1組目は儂と共に国連軍の本部へと2組目は竜馬とそして」

 

そこで雷電はゲッターロボに目を向けた。

 

「ゲッターロボと共にソビエトの研究所へと行ってもらう。2組目の指揮は月詠。貴様に任せる。」

 

月詠は頷いた。

 

「なお、略式だが月詠は現時点を持って少佐と昇官する。ソビエトの連中も国連の佐官を存外には扱わんと鑑みる。以上だ。各員持ち場につけ!」

 

雷電の号令を聞き、隊員達は足早に行動を始めた。

 

雷電自室に戻り窓から、間もなく離れる月の大地を見た。

 

「また来る。」

 

そう優し気に独り言をつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

ソビエト連邦 ウラジオストク

 

戦術機 試作機実験場

 

ユーラシア大陸最も東の都市の一つであるウラジオストクでは新型戦術機の実験場があり、日夜アメリカの新戦術機に太刀打ちできるように研究がなされていた。

 

戦術機の実験は元より衛士の実験もここで行われていた。

 

実験所の最終目的は「たった1機で戦局を変える衛士と戦術機」を作り上げることだった。

 

20代後半にさしかかろうといった金髪の女性が強化装備に身を包み、いつものように最新鋭機 複座型のアリゲートルを見上げていた。

 

白衣を着た男が傍らに少女を連れて強化装備の女性に声をかけた。

 

「零号。今日、お前と共に乗る素体だ。」

 

「零号」と呼ばれた女性は興味なさそうにその銀髪の女の子を見た。

 

「……ずいぶんと幼いな。」

 

「喜べ「零号」。ハバロフスクからロールアウトしてきたばかりの「第4世代」だ。お前との「精神同調」も今度こそ上手くいくだろう。」

 

銀髪の小さな女の子は何の反応もなく、そこで佇んでいた。

 

「まるで人形だな」

 

その言葉に白衣の男は歓び、興奮したように叫んだ。

 

「そうだ! 我々が作り上げた。今度こそ成功するだろう!」

 

自身の興奮の余り周囲の見えていない男を放って、女性は銀髪の少女を憂うような瞳で見下ろしていた。

 

だが、少女の瞳は何も映していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面基地

 

 

雷電率いる第一部隊は既に地球へと降下し、残りは第2組のみとなっていた。

 

月詠少佐の隊は月面基地にある使えそうな機材をありったけ積み込んでいた。

 

中には全く用途のわからない物もあったが、ここに戻ってくるのがいつになるのかわからない為、使用する可能性のある物はほとんど艦に入れた。

 

「月詠、聞きたいことがある。」

 

「なんだ? 流?」

 

竜馬は月詠に聞きたいことがあったのだ。

 

「昔ここで何があった?」

 

月詠の顔が強張った。竜馬は雷電のBETAに対する執念に気づいていた。

 

「あのジジイにとってBETAは何だ?」

 

月詠は悲しげな顔をしながら声を絞り出した。

 

「仇だ。中将のご子息がここで亡くなられた。」

 

月詠は10年前の月面戦争について語り始めた。雷電がBETAとの戦闘によって部下と息子を失ったこと、そしてその介錯を雷電自らが行ったこと。

 

竜馬は何も言わずその話を聞いていた。

 

「貴様のような強大な力があれば、結果は変わったかもしれない。」

 

竜馬は沈黙を破った。

 

「……違う。」

 

 

竜馬の脳裏にある記憶が浮かび上がった。

 

インベーダーに寄生され、助けを求める兵士の声を聞きながら、その兵士達ごとインベーダーを焼き尽くしたことを。

 

その人達を殺したのはまぎれもなく竜馬だった。

 

「ジジイは今、何を考えてBETAに立ち向かおうとしている?」

 

雷電からは怒りや怨みなどの負の感情を感じなかった竜馬は思わず、口に出していた。

 

「中将の眼は過去ではなく未来へと向いている。今できることを為すことが一番の手向けとなると信じているのだろう。」

 

「それがジジイの出した答えか」

 

月詠とわかれ、竜馬はゲッターロボのコックピッドに搭乗した。

 

復讐を為した後の虚しさ、未来に繋がらない過去への清算。

 

(俺は一体何をしている?)

 

竜馬は激情に任せ、壁に拳を打ち付けた。

 

この復讐はどこに向かうのか。

 

その答えを竜馬は知っていた。

 

だが、理解などしたくなかった。

 

 

 

 

「出発だ! 流! 貴様はそのゲッターロボのまま、大気圏を突破することになる。本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「ゲッターを舐めるんじゃねえ月詠。大気圏突破の熱ぐらいどってことねえ。表面が焦げる位で済むはずだ。」

 

降下の進路はかつての宇宙開拓時代に作られた人工衛星群を突破する進路をとった。

 

そこは既に機能を終えているもの、既に地上にその国自体が無いものも多く、デブリ帯となっていた。

 

ゲッターロボと艦は大気圏突破の準備に入った。

 

が、竜馬のゲッターロボが何かが高速で迫ってくるのを察知した。

 

「こ、こいつは!?」

 

熱源はある一点からいくつも生じており、その一点は廃棄衛星だった。

 

「レーダーに感! 少佐、熱源多数!」

 

「落ち着いて、熱源の正体を探れ。」

 

月詠が艦のクルーに指示をしていく。

 

竜馬にはその正体がわかった。

 

「ミサイルだ! 衛星の一つからミサイルが俺等に向かって発射されている!!」

 

「ミサイルだと!?」

 

大気圏突破の準備に入り、大きく進路を変えることができない状態からのミサイル攻撃。

 

「どこの国だ! こんなバカな真似をしたのは!」

 

月詠少佐の叫びが艦内に響いた。

 

月詠の脳内にはゲッターロボをソ連に持ち込むことによって不利益を生むことになるある国が浮かんだ。

 

月詠達に残された選択はここで迎撃するか、このまま地球圏へと逃げることだった。

 

「おい月詠。」

 

竜馬は月詠少佐に通信を送った。

 

「何だ?」

 

「俺を置いて、ソ連に向かえ」

 

竜馬は自分とゲッターを置いて、月詠達は先に行くように促した。

 

「竜馬! 何を言っている? 我々は貴様とゲッターを失うわけにはいかないのだ。貴様だけでも先に……」

 

「ゲッターを舐めるんじゃねえって言っただろ!! 全部撃ち落としたらすぐ追いつく。」

 

「しかし、流。」

 

「行け!」

 

竜馬の決意に月詠は頷いた。

 

「進路をソ連のハバロフスク、オルタネイティヴ研究所へとれ。」

 

艦は進路を地球に取り、竜馬のゲッターロボは反転し近づきつつある熱源群へと向かい合った。

 

「俺の眼の前でまたミサイルを落とさせるかよ!」

 

ゲッターロボの腕からガトリングガンが現れた。

 

「遠慮はしねえ! 全弾撃ち落とす!」

 

ガトリングガンが周り、火を噴いた。

 

同時に腹部から光が生じた。

 

「ゲッタァァァァァビィィィィィム!!!!」

 

光線がミサイルへと向かっていき、ミサイルを打ち抜く。

 

腕から現れた銃とマントで反射させたゲッタービームがミサイルを次々と打ち抜き爆散させていく。

 

竜馬はゲッターロボでミサイルを迎撃しながら、廃棄衛星に迫っていった。

 

(妙だな)

 

竜馬は違和感を感じていた。そのミサイルが全て核弾頭ではなく通常弾頭であったことだ。

 

ゲッターロボを確実に破壊したいのであれば、核ミサイルで攻撃しているはずである。

 

廃棄衛星の側までついにゲッターロボはたどり着いた。

 

ところが突然、攻撃の波が止んだ。

 

(なぜ、ここで攻撃を止めた?)

 

竜馬は疑問を感じたあとすぐにゲッターロボを反転させ、地球に向けて高速で向かった。

 

少しでもこの地点から離れるために。

 

 

 

その瞬間、廃棄衛星が核爆発を起こした。

 

竜馬はゲッターロボごと核の炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソビエト連邦 ウラジオストク

戦術機 試作機実験場

 

複座型のアリゲートルが倒れていた。凄まじい速度でターゲットを射止めていき、実験は成功すると思われていたが、突然制御を失い地面に不時着した。

 

零号と呼ばれた女性は既に管制ユニットから出て、救助が来るのを待っていた。

 

もう一人の方は出てこなかった。

 

しばらくすると、救助が来て管制ユニットの方にも救護班が向かっていた。

 

数時間前、上機嫌だった白衣の男が顔を紅潮させながら女性に問いかける。

 

「あの「第4世代」は無事なんだろうな? アイツを1体造るのにいくらかかっていると思っている!?」

 

「無事さ。体の方はな。」

 

「……まさか」

 

白衣の男が助け出された少女に駆け寄った。

 

少女は生きていたが、瞳は完全に光を失っていた。

 

溶けあった意識から少女は自分を取り戻すことができなかった。

 

「また失敗か」

 

白衣の男は膝をついて、その実験が失敗したことのみに落胆した。

 

少女はおそらく二度と意識が戻らずに、処分されるであろう。

 

零号とよばれた女性は自分の遺伝子を使って生み出された少女が物のように運びだされる様子を眺め、ふと空を仰いだ。

 

巨大な流星が空を駆けていた。

 

女性は叶わないと知りながら、「誰かここから連れ出してくれ」と祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソビエト連邦 ハバロフスク

オルタネイティヴ研究所付近

 

既にオルタネイティヴ研究所に着いていた月詠少佐以下御剣隊は大気圏突入し落下したゲッターロボの元へと集結しつつあった。

 

「これは!?」

 

月詠少佐たちの眼の前にあったのは、彼らの知っているゲッターロボではなかった。

 

表面が焦げ付き、黒く変色したゲッターロボ。

 

手足が大きく損傷し、状態は最悪だった。

 

月詠は最悪の結果を想像した。

 

その時、黒いゲッターロボから男が飛び出してきた。

 

「チ! 駆動系がいかれやがった!!」

 

流竜馬は無事だった。

 

核爆発に巻き込まれる瞬間にゲッターマントで機体を全て覆い手足でコックピッドだけを守ったのだった。

 

「どこのどいつだ! いったい!?」

 

「流! 無事か!」

 

月詠が竜馬に駆け寄り、竜馬の無事を案じた。

 

「俺は無事だが、ゲッターが……」

 

竜馬はゲッターロボの方を向きなおった。

 

黒く変色し、手足のひどく損傷したゲッターロボは当分戦線復帰できそうになかった。

 

 

 

竜馬編 7話 終

 




ストックがなくなりましたのでゆっくり更新します。

次の更新から新作になります。


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竜馬編 第8話 「意思を持つ機械1 接触」

パレオロゴス作戦にて初めて人工的に作られたESP発現体が実戦投入された。

 

複座型の戦術機に衛士と共に発現体を乗せ、BETAとの意思疎通を図った。その計画は失敗し、帰還率は6%だった。だが、その6%の帰還は発現体の能力がなければさらに減少していただろうとソ連は認識していた。

 

このことに着目し、発現体そのものを衛士にするため、ワルシャワ条約機構加盟国全土で天然のESP発現体なおかつ衛士適正のある者の捜索がはじまった。

 

衛士適正があり、ESP能力者である人物はただ一人だけだった。

 

その人物は「ESP能力衛士素体第零号」と呼称された。

 

その人物の遺伝子と「第ニ世代」になっていた人工ESP発現体の遺伝子を組み合わせることによって人工的に100%ESP能力者でありながら衛士になれる存在を作り出した。

 

「第三世代」である。

 

計画はさらに進行し、その実験体を複座型の戦術機に乗せることで飛躍的に戦闘能力を上げることを目的としていた。

 

4本の手、4本の足が一体の戦術機を操れば、一人の時より効率的に動かせる。

 

複座による戦術機の操作は何よりチームワークが重要である。

 

だが、二つの脳。司令塔が二つである限り、必ず齟齬が生まれる。

 

このことから戦術機は1機につき一人というのが原則となっていた。

 

だが、もしもその司令塔を一つにできたなら話は異なる。

 

ESP能力者によるリーディングとプロジェクッション。それを同時にすることによって意識を同一化する。そうすることで意識を一つの状態にしたまま戦術機を操るのである。

 

それがこの実験の目的だった。

 

「第三世代」同士の意識同一化は上手くいかなかった。

 

リーディングとプロジェクッションの二つの能力が基準に満たなかったのである。

 

ソビエトは片方の衛士を「遺伝子提供者」つまり「零号」にすることで能力を基準値まで上げることに成功した。

 

実験は成功。異なる意識の同一化に成功し、戦術機の操作一時的に格段に上がった。

 

だが、今度は別の問題が生じた。

 

同一化した意識からまた二つの意識に戻る際に強く結合すればするほど同一化時よりもより強い能力がいることがわかったのだった。

 

実験の終了後いつも目覚めるのは一人だった。

 

溶けあった意識から戻ることのできない実験体は意識を取り戻すことなくそのまま息を引き取った。

 

「第三世代」では同一化はできても解離ができない。よってより能力が強化された「第四世代」が作られたのだった。

 

 

 

 

1983年 2月10日

 

ハバロフスク オルタネイティヴ研究所

 

大破したゲッターロボはなんとか研究所近くの施設に移送された。

 

竜馬はそのゲッターロボの状態を確認していた。

 

「どうだ! 流! ゲッターロボの状態は?」

 

下では月詠がコックピッドを窺っていた。

 

竜馬が地面へと何食わぬ顔で飛び降りて言う。

 

「ダメだ。当分、動かせそうにねえ。」

 

「……ここは月の6倍の重力だぞ」

 

月詠はあきれたように言葉を漏らした。もう慣れたらしい。

 

「月面基地なら三か月くらいでなおせるだろうが、こいつはもっとかかるな」

 

「腕がなるってもんだな!」

 

月詠の後ろに控えていた技術兵、整備兵が力強く声を上げた。

 

「直したばかりだってのにわりいな また頼むぜ!」

 

「おおおお!!」

 

竜馬の返答に他の技術班達も応えた。

 

その受け答えを見てこの部隊は極端に入れ替わりがないのでどこか閉鎖的な部隊だと自認していた月詠は驚いた。

 

特に技術班は雷電の下、月面でBETAとの戦闘を経験した人も多い、だが不思議と竜馬は受け入れられていたのだった。

 

「中将から通信が入っている。ついてこい。」

 

「部下になったわけじゃない」だの何だの言いながら竜馬はおとなしく着いていった。

 

司令室に入るとモニターに御剣雷電が映っていた。

 

「ジジイ。俺は敵はBETAだけだと思っていたんだがどうやら違うらしいな」

 

竜馬が開口一番に雷電にかみついた。

 

大気圏突入の折のミサイル攻撃。

 

竜馬からすれば背後からの強襲に他ならなかった。

 

「まさか、核まで使ってくるとはな。もう貴様の知っているところだと思うが、この世界は貴様のいた世界のように敵に対して一つになれなかった。」

 

竜馬のいた世界では日本のゲッターロボを中心にして全ての国がインベーダーという敵に立ち向かった。その結果、勝利した。

 

「アメリカとソビエトを中心として東と西に分かれ覇権を取り合っている。そこにBETAという障害が生まれたにすぎないのじゃ。」

 

「人類の3割が喰われているのにずいぶんと余裕だな」

 

竜馬の目が鋭く、雷電を睨みつけた。

 

「地球外の侵略者を前にしても人類は手を取り合うことができなかった!!」

 

雷電は拳を机に打ち付けた。

 

切り札をもう少しで失うところだったということに雷電は怒りに震えていた。

 

「ジジイ。アメリカの狙いは何だ?」

 

竜馬は、BETAとの戦争での被害が月面での戦闘とユーラシア各地で国連軍としての人的損失のみに留まっているアメリカによる攻撃だと予想を立てていた。

 

雷電は、BETAが生み出す「G元素」と呼ばれる人類が発見することのできない元素。

 

そしてアメリカがBETA戦争勝利後の世界の覇権とユーラシア各地にあるハイブを確保するためにユーラシア大陸にある国家が弱体化していた方が都合がよいことを話した。

 

「そんな奴らにとって俺のゲッターは都合の悪い存在ということか。」

 

「アメリカの全ての人間がそうではないが、国の態勢としてはまだBETAにいてもらわねば困ると考えているといっても過言ではないだろう。」

 

「そんなんで世界を一つにした反抗作戦とかできるのか?」

 

「それは儂ら、国連軍にかかっている。」

 

「チ! 俺には関係ねえ。敵は根こそぎ薙ぎ払う。それだけだ。」

 

竜馬は指令室から立ち去った。

 

「月詠。研究所の者達の様子はどうだ?」

 

「現状は規定通り我々の誰かが傍についた状態でのゲッターロボの視察をしています。」

 

オルタネイティヴ研究所と御剣組は互いの施設に入る際は必ず立ち入られる側の人物が立ち会うのを条件に施設の立ち入りを許可したのだった。

 

当然、研究所の関心はゲッターロボにある。

 

研究所側はゲッターロボの存在を恐れているのか、中破したゲッターロボに強奪する価値をみいだせないのか、国連と事を荒立てなくのかは不明だが、大人しく条件を守っていた。

 

「しかし、竜馬は相変わらずですね。」

 

月詠がため息をついた。

 

「そうでもない。奴は関係ないと口癖のように言っておるが、この世界の事を気にかけておる。

この世界の現状を理解しようとしているのが証拠じゃ」

 

月詠は竜馬と竜馬の周りの変化を思い出した。

 

そして雷電が竜馬という存在を「未知の力を持つ異邦人」以上に扱っていることに気がついた。

 

「中将。中将は竜馬のことをいたく気にかけているようですが、何か理由があるのでしょうか。」

 

雷電は少し動揺したように目を見開いた。

 

そして、見透かされていたことを素直に認めた。

 

「儂はどうやら……あの男に息子の影を重ねているようだ」

 

月詠は息を呑んだ。

 

「中将。それは……あの男とご子息では似ているところなど」

 

雷電はその言葉に頷いた。

 

「そうだ。竜馬と奴は似ていない。だがな、儂は気づいたのだ。似ていないと判断するのは儂があの二人を比べているからなのだと。」

 

そもそも比べなければ、その違いなどには気がつかないのだ。

 

「儂はどこか頭の片隅であの二人の共通点を見出そうとしていた。」

 

月で息子を失い、10年の時を経てまた同じ月で男と出会った。

 

比べるなという方が無理なのかもしれない。

 

両者の共通点、相違点を雷電は無意識的に探していた。異なる点を見つけては「違う」と己に言い聞かせることができた。

 

だが共通点を見つければ、何か繋がりがあるのではと思ってしまう。

 

「どうも息子の代わりに現れたんじゃないか……等と有り得ない妄想に囚われるようになった。だから距離をおくことにしたのじゃ。」

 

月詠の脳裏に先程の技術班達の顔が浮かんだ。

 

彼らもまた竜馬を通して懐かしい戻らぬ人を思い返していたのかもしれない。

 

暗い顔をしていた雷電の顔が元に戻った。

 

「それと紅蓮の奴がどうやら動いているようじゃ。」

 

「紅蓮中将が?」

 

日本帝国斯衛軍中将 紅蓮醍三郎

 

かつては雷電とともに帝国斯衛軍の双璧と呼ばれていた男だった。

 

「奴め。北欧の方で何か企んでいるらしい。」

 

「北欧?ずいぶん、日本から遠いですね?」

 

「ああ、おかげで情報がほとんど入らない。」

 

「オルタネイティヴ研究所には機を見て竜馬と共に入れ。よいな」

 

「了解しました。」

 

それから、隊のこれからの動きについて話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は指令室のすぐ側に背を預けていた。

 

「チッ!」

 

自分でもよくわからない舌打ちをしてゲッターロボの方へと進んだ。

 

「ん?」

 

ゲッターロボの置いてある格納庫が騒がしかった。

 

 

 

 

 

 

 

白衣の男と年端もいかない銀髪の少女が格納庫の前に立っていた。

 

が、白衣の男が少女に促すが一向に入ろうとしない。

 

「どうした? なぜ命令を聞かない!!」

 

「……嫌。……怖い」

 

少女は言葉少なくだが絶対の拒絶を示した。

 

どうやら白衣の男は予想外だったらしく狼狽していた。

 

「理由をいえ! 理由を!」

 

少女は静かに黒いゲッターロボを指さし、震えながら声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……中に『何か』がいっぱいいる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月12日 ウラジオストク

新型戦術機実験場

 

「ESP能力衛士素体第零号」という呼称を与えられた女性はその実験場の責任者に呼び出されていた。

 

先日の実験失敗から待機を命じられていた彼女は憂鬱な気分のまま、司令室に向かった。

 

司令室に入った途端、いつもとは違う様子を彼女は「色」で感じた。

 

「零号。貴様にはハバロフスクのオルタネイティヴ研究所へ行ってもらう」

 

「……オルタネイティヴ研究所? なんでまた?」

 

彼女にとってそこは古巣だ。彼女はそこで「人工ESP発現体衛士」の親としてありとあらゆる研究、実験を受けた。

 

当然、いい思い出など一つとしてない。

 

「貴様の疑問に答える余地などない」

 

司令官は彼女の質問に答える気などないようだ。

 

「……任務の内容は?」

 

「任務内容はある人物の特定。及びその監視。そしてある機械の調査だ。」

 

彼女は興味なさそうに首を振った。

 

「そんな物は人形共にやらせればいいだろう? なんで私が?」

 

彼女は自分の子供とも言える存在を人形と言い放った。

 

「貴様にしか出来ないからだ。人形共はその命令を拒否した。」

 

女性は首をかしげた。

 

「人形共に自我が?」

 

「わからない。だが、その機械に近づくことすらもできんようだ」

 

どうやらより強い能力を持つ自分に白羽の矢が立ったようだ。

 

「お前は研究者として研究所に戻ってもらうことになる。」

 

「話は終わりか? では失礼する。」

 

部屋から出ていこうとする女性に司令官は声をかけた。

 

「零号。生き物でない物に「色」を感じたことはあるか?」

 

女性は眉をひそめた。

 

「動物以外に「色」を感じたことはないが?」

 

責任者は笑みを浮かべたが、それ以上何も言葉を出さず女性は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

女性はその言葉の意味を理解することになる。

 

 

 

竜馬編 8話 終

 



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竜馬編 第9話 「皇帝の影」

1983年 2月16日

アメリカ 国連本部

 

 

御剣雷電中将はゲッターロボを登用したBETAに対する反攻作戦の準備をしていた。

 

月のハイブをたった1機で攻略したゲッターロボなら各国を動かせるという考えだった。

 

だが、竜馬のゲッターロボが核攻撃を受けたことによる破損のため、その戦力を各国に証明する機会を失い予定よりも大幅に遅れていた。

 

ゲッターロボが修繕されるのに数カ月、それから反攻作戦への準備にさらに数カ月かかると雷電は考えていた。

 

(それでは遅すぎる)

 

竜馬は元の世界に帰る方法が見つかれば即この世界から立ち去るだろう。

 

雷電が考えあぐねているところ、部下の者が雷電宛ての手紙をいくつか持ってきた。

 

ほとんどの手紙は挨拶めいたものだったが、そのなかに一つ雷電の目を引く物があった。

 

それは月で亡くした部下の妻からの手紙だった。

 

雷電がその手紙を開くと、中からは便せんと写真が出てきた。

 

その女性の文には夫の死を乗り越えて、息子と共にこれからの人生を歩もうという強い意志が記されていた。

 

写真には、5歳になるかといった息子とその女性が写っていた。

 

雷電が月でBETAと戦っていたのは10年前の1973年以前である。

 

普通に考えれば、その子供は夫の子ではない。

 

だが、その子供は間違いなく部下の実子だった。

 

日本帝国城内省には、BETAとの月面戦争に参加した全ての斯衛軍の兵士の遺伝子情報が保管されていた。

 

斯衛軍は武家の嫡子、つまり家を継ぐ者がいなくなってしまった場合の救済措置として彼らの血を遺した。

 

手紙の女性は嫁いだ家を守るためにこの遺伝子情報を用いたのだった。

 

当然、御剣雷電の息子もその中にある。

 

(我々もソビエトの奴らと何も変わらんな。)

 

雷電はその手法を使う者にどうこう言うつもりはないが、好んではいなかった。

 

それはソ連のオルタネイティヴ計画の実情を知っているからなのかもしれない。

 

(竜馬はあの計画を見てどう思うだろうか)

 

 

 

 

 

 

 

同日

ソ連 オルタネイティヴ研究所

 

 

 

黒く焦げた中破したゲッターロボに御剣組とソ連の技術者が群がっていた。

 

月詠少佐がその様子を見ていた。

 

御剣組の技術者はソ連の技術者がゲッターロボを見ても問題ないと判断した。

 

「ソ連の奴らがアレを造ることができるのなら、やってみろ」

 

とのことらしい。

 

「おでましか」

 

月詠少佐は技術者でない白衣の集団が銀髪の年端もいかない少女達を連れて、ゲッターロボに近づくのを見た。

 

少女達は明らかにゲッターロボに怯えていた。

 

月詠少佐は自身の娘ぐらいの年の少女を物のように扱う白衣の集団を睨みつけた。

 

その白衣の集団に一際、目を引く金髪の20歳代の若い美女がいた。

 

その女性は月詠少佐に近づいてきた。

 

「初めまして、エヴァ・ノーリといいます。」

 

女性は作り笑いを浮かべて、月詠少佐に挨拶をした。

 

「我々もあの機械に近づいてもよろしいですか?」

 

と月詠少佐に許可を求めた。

 

月詠少佐はかまわないと許可すると白衣の集団はゲッターロボに近づいて行った。

 

竜馬はこの場にはいなかった。

 

予め、雷電は竜馬に「銀髪の女には不必要に近づくな」と言ってあったのだった。

 

白衣の集団がゲッターロボの真下に着いたときにそれが起きた。

 

 

 

 

 

 

 

エヴァ・ノーリと名乗った女性―「零号」はその機械をまじまじと見た。

 

既存の戦術機とは何もかもが異なるその機械。

 

彼女はその機械を彼女達にしか使えない「眼」で見てみた。

 

彼女達の「眼」は通常、人の心の動きや考えを色や光で感じとる。

 

その機械は確かに光を発していた。

 

光はまるで星空のように無数に輝いていた。

 

色や光はそれぞれに全く異なり、大小もまた異なっていた。

 

その光は機械の中心部が密集し輝き、中心部から離れれば離れるほど光と色の数は減っていった。

 

さながらそれは銀河であった。

 

彼女は一瞬だけその光景をみた後、能力を使うのを止めた。

 

これ以上のリーディングを行えば、危険だと判断したのだった。

 

無数の光それぞれが何かを訴えかけてくるような、得体のしれない気持ち悪さを感じていた。

 

エヴァは能力を安定して使えない人形達がリーディングを使うのは危険だと判断したが、白衣を着た人でなし共はその機械を捉えた時点でリーディングを使うように調整していた。

 

人形達はすでにその機械の意思に触れていた。

 

人形の一人は、突然失禁し白目を向いて倒れた。

 

もう一人の人形は、立ったまま痙攣し、うわ言を繰り返した。

 

ゲッターロボの周りにいた御剣組、ソ連兵がその異常に騒ぎ出した。

 

エヴァは倒れた一人に駆け寄り、彼女の目を見た。

 

その瞬間、彼女のプロジェクション能力により、エヴァの脳裏に「ソレ」が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァは裸で暗闇の中で浮かんでいた。

 

「ここはいったい?」

 

よく見ると、微かな光の点が縦横無尽に散在していた。

 

「ここは宇宙なのか?」

 

彼女が、その空間を宇宙なのだと感じとった瞬間に後ろから巨大な光が現れた。

 

それは、例の機械を信じられない位巨大化したような機械達の軍勢だった。

 

明らかに星よりも大きい物もあった。

 

「一体何なのだ。これは? 私はどこに来たんだ?」

 

軍勢が向かう先に新たな何かが現れた。

 

「BETA?」

 

それはBETAに似ている巨大な生物のような物の群れだった。

 

軍勢と群れは戦闘をはじめ、いくつもの星がその戦闘に巻き込まれて消え去った。

 

エヴァはあまりの迫力に目を奪われ、他に考えが回らなかった。

 

軍勢と群れは激しい戦闘を繰り返し、終わりなどないように思えた。

 

すると、軍勢の中の一際巨大な赤い機械が前に出て、まるで宇宙を照らすような巨大な光を出したかと思うと、巨大な生物の群れは消え去っていた。

 

その機械が出した光の一撃によって、全て消し飛んだのだった。

 

その機械が軍勢のリーダーなのだと彼女は理解した。

 

彼女はその赤い機械の中心部に人間の男が立っているのを見つけた。

 

彼女はその男の顔を見た。

 

男の眼は狂気に染まっている眼をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月18日

ソ連 オルタネイティヴ研究所

 

 

エヴァは、オルタネイティヴ研究所の医療室で眼を覚ました。

 

医師の話ではほぼ丸二日彼女は眠っていたようだ。

 

エヴァと一緒にいた二人の人形はどちらも亡くなったようだ。

 

倒れた方は死ぬまで痙攣を繰り返し、立ってなにかうわ言を言っていた方は「そうか」と一言呟くと息を引き取ったようだ。

 

エヴァはあの時、見た夢の光景に心を奪われていた。

 

絶対的な力を持つあの機械、そしてそれを操る男。

 

きっとあれほどの力をもつ男は、心に迷いを持たず、自由に宇宙を蹂躙していくのだろう。

 

鳥かごの中で自身の命を使い潰される彼女や彼女から出来た子供達とは何もかもが違う。

 

あの機械は一体何なのだろう。

 

無感動に生きていた彼女に興味という物が芽生えた。

 

今では、ソ連に連れ去られた時に離れ離れになった家族のことでさえ考えなくなっていたというのに。

 

あれほどの力があれば、BETAもソ連も関係ない。

 

自由を手にすることができるだろう。

 

そうすれば奪われた人生を取り戻せるのかもしれない。

 

奇しくも、自身に与えられた任務が彼女自身の求める物そのものになっていた。

 

オルタネイティヴ研究所の人間は人形達を飲み込んだゲッターロボを恐れ、あまり近づかなくなっていた。

 

彼女は独自に調査を開始した。

 

ゲッターロボが収められている格納庫に彼女は再び足を踏み入れた。

 

男が一人、そのゲッターロボの真下に立っていた。

 

彼女は自身の眼を疑った。

 

まさかと思ったが、彼女はその男に近づく足を止めることができなかった。

 

その男が彼女の方に向き直った。

 

その男は夢に現れ、巨大な軍勢を率いていたその男。

 

その人だった。

 

彼女は能力を使うまでもなく、その男がゲッターロボのパイロットなのだと直感した。

 

だが、彼女はその男の心を覗かずにはいられなかった。

 

彼女は男の心に迷いなど無いと予想していた。

 

しかし、彼女の予想を裏切り、男の心には怒りと悲しみの色が強く現れていた。

 

その瞳も狂気ではなく、何かに、いやここにいない誰かに囚われていた。

 

 

 

竜馬編 9話 終

 




竜馬が一言も喋ってないですね。

零号さんの名前は「イブ」と「零」から。本名は・・・。
容姿は金髪のクリスカだと思っていただければ。

柴犬アニメのBD1巻購入しました。
「突撃級ならギリギリ飼える」等大変コメンタリーが面白かったです。


次の話の後書きで少し設定めいた話をしようと思います。


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隼人編 第7話 「意味ある犠牲」

 

 

東ドイツの軍と市民を恐れさせている武装警察軍。

 

だが、武装警察軍は決して一枚岩ではなかった。

 

二つのグループがあり、ベルリン派とモスクワ派がその覇権を争っていた。

 

モスクワ派は前回の「ナイセ川防衛戦」において、チェボラシカの欠陥機としての汚名を雪ぎ、シュタージ内の権威を高めるはずだった。

 

しかし、その企みはたった1機の未確認所属不明機によって破られた。

 

モスクワ派はソビエトへの恩を売るのに失敗し、窮地に立たされていた。

 

 

 

1983年 2月08日 東ドイツ

 

 

モスクワ派最強。

 

人員、装備、共に武装警察軍最強の「ヴェアヴォルフ大隊」は今、絶体絶命のピンチを迎えていた。

 

人狼の名を冠されたその部隊は交戦からおよそ30秒で片腕を失っている状態に追い込まれた。

 

未確認兵器を視界に捉えた瞬間。

 

突風と共に大隊の半数が消し飛んだ。

 

目的は件の未確認兵器の捕獲。

 

だが大隊員はそれが無理だということに瞬時に気がついた。

 

前方の目標体を視界に捉えたと思ったその時にすでにソレは大隊の背後に回っていた。

 

すれ違い様に半数の機を失った事実に大隊長ベアトリクスは舌を噛んだ。

 

いつもとはまるで立場が逆転していた。

 

狩る側だった人狼部隊が狩られる側になっていた。

 

(これ以上は士気にかかわる。)

 

ヴェアヴォルフ大隊は対所属不明機の訓練を打ち切る他なかった。

 

他の隊の機体から集めに集めた「ゲッター2」の情報を基に作り上げた仮想のソレはヴェアヴォルフに現実を押し付けた。

 

 

 

 

コットブス基地

 

 

 

テオドール・エーベルバッハは隼人を探していた。

 

今朝、見た悪夢が忘れられない。

 

それは忘れようと努めた記憶だった。

 

体制と迫る外敵に怯えながらも穏やかだった生活。

 

家族に囲まれて笑っている自分。

 

それは辛すぎる思い出となり、テオドールを苦しめていた。

 

もしもBETAがいなかったのなら。

 

(俺は家族と別れなくて済んだのだろうか?)

 

「妹を頼む」と最後に分かれた義理の父の顔が今も胸に焼き付いている。

 

その答えを知っている男を俺は探していた。

 

相変わらずその男は雪原を見ながら煙草の煙を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人はレーザー級について考えていた。

 

レーザー級より放たれる戦術機や爆撃や砲弾を全て撃ち落とす光線。

 

それがたった3メートル位の生命体が可能にしているということが腑に落ちなかったのだった。

 

隼人はもっと強力な光線を発する物を知っていたが、アレは高出力のゲッター炉心があってはじめて可能になるものだった。

 

あの小さな体にどれだけのエネルギーを秘めているのか。

 

それともこの地球の何かを変えてレーザー射出を可能にしているのか。

 

だがどれもこの最前線では分かりそうもなかった。

 

「今できることをするしかないか」

 

そう呟いて基地に戻ろうとするとテオドール・エーベルバッハが彼の前に現れた。

 

「ジン……てめえに聞きたいことがある。」

 

テオドールの顔は真っ青だった。

 

「何だ?」

 

「お前の世界はBETAがいなかったんだろ?」

 

「そうだ」

 

「BETAがいない世界の東ドイツはどうなったんだ?」

 

テオドールの口調はひどく震えていた。

 

まるで本当はその答えを聞きたくないかのようですらあった。

 

「この世界は俺のいた世界とは違う。同じ歴史になるとは限らんぞ」

 

「いいから答えろ!!」

 

テオドールは普段のクールな様子からは想像もできない程声を荒げていた。

 

隼人は煙草の火を靴で消し、テオドールの顔を見つめた。

 

「……6年だ。」

 

「は?」

 

「今から6年後の1989年……ベルリンの壁は崩壊する」

 

その答えにテオドールは信じられないといった表情をしていた。

 

「西側が攻め込んでくるのか?」

 

「いや、壁は崩壊し東西ドイツは統一される。そしてその一年後東西冷戦は終結し、ソ連はいくつかの国に分かれる。」

 

「そんな……」

 

テオドールに告げられたBETAがいない世界の話は彼にとって衝撃の一言だった。

 

「もっとも第二次大戦の末路が俺の世界と異なるから全く同じ道を辿るとは思えないが」

 

隼人の言葉はもうテオドールには届いてない。

 

テオドールはその場で膝をついた。

 

テオドールの眼に映っていたのは深い絶望と激しい怒りだった。

 

「奴らがいなければ、俺は……俺の居場所を失わずに済んだのに」

 

テオドールの眼に何かを感じた隼人は彼に何があったかを聞き始めた。

 

テオドールは隼人に養子としてホーエンシュタイン家に受け入れられたことや亡命のこと、そして失敗しおそらく家族全員が既に殺され一人で行き場のなく軍で戦っていること全てを話した。

 

また親しい人を失わない為に心を閉ざしていたテオドールはそれまでの反動のように口を開いた。

 

全く違う世界から来たからなのか隼人には話しやすかったのだった。

 

「俺にジンのような強さがあれば……家族を守れたかもしれないのに」

 

隼人は静かに首を振った。

 

(大切な人を失った悲しみにつけこんで親友を地獄へと追い込んだ俺が強いわけがない)

 

「俺はいったいこれからどうすればいい」

 

BETAとシュタージに家族を奪われ、夢も希望もないテオドールは打ちひしがれていた。

 

「俺に言えるのは……お前の死んだ家族は今のお前のそんな姿を望んでいないってことだけだ。」

 

隼人は雲の厚い空を見上げながら、独り言のようにつぶやいた。

 

「『死んだ奴はもう戻らない。』俺の一番の親友だった男が良く言っていた事だ。お前がこれからする事が失ってしまった人の犠牲を意味あることにするんだ。」

 

(そうか竜馬……お前の言ったことの意味がようやくわかったよ)

 

テオドールは顔を上げ、立ち上がった。

 

「……犠牲になった人の死を意味あるものにか」

 

「そうだ……それにエーベルバッハ少尉お前はもう一人じゃない。」

 

隼人は基地の方を指さした。

 

「テオドールさん~~! ハヤトさん~~!」

 

基地の方から彼らのよく知る少女が走ってきた。

 

「なんでテオドールさん! ハヤトさんと一緒にいるんですか! 私には近づくなって言ったクセに!」

 

カティアが可愛く怒りながらテオドールに食って掛かる。

 

「俺がどこにいようが俺の勝手だ!」

 

「なんですか! それは!! あれ? テオドールさん泣いてません?」

 

どうやらカティアはテオドールの顔色に気づいたようだった。

 

「泣いてねえよ! 戻るぞ!」

 

テオドールは泣き顔を隠すかのように基地へと戻り始めた。

 

「あ! テオドールさん? 待ってください。」

 

テオドールを追おうとするカティアを隼人は呼び止めた。

 

「待て、カティア。」

 

「はい? なんですか? ハヤトさん?」

 

隼人は少し笑うと「……テオドールを頼む」と一言言った。

 

カティアは少し不思議そうにすると「はい!」と力強く返事をしてテオドールの方へ走って行った。

 

カティアは隼人の言った言葉の意味が良くわからなかったが、テオドールと隼人が名前で呼んだことに異を唱えなかったこととテオドールを頼むと言われたことが嬉しくて気にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人はなぜテオドールの眼が気になったのかがようやくわかった。

 

ミチルさんを失った自分と竜馬と同じような眼をしていたからだった。

 

彼を俺や竜馬のようにしてはいけない。

 

隼人にこの場所で戦う理由ができた瞬間だった。

 

隼人編 7話 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アニメのアクスマン若すぎじゃないですかね。



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隼人編 第8話 「蘇った義妹」

1983年 2月12日

東ドイツ

 

隼人がこの世界にやってきてひと月が経った。

 

相変わらずなぜこの世界にやってきたのか。BETAとは何なのか。といった疑問が解決されることはなかった。

 

だが変化が何もないわけではなかった。

 

隼人に対して、テオドールやカティアが話をしに訪ねてくることが増えた。

 

両者が一緒に訪ねてくることはなかったが、テオドールはカティアやアイリスディーナやグレーテルの愚痴が多く、カティアの方はテオドールのすること全般が話のネタだった。

 

整備班にも変化があった。

 

隼人は整備班長のオットー技術中尉に各機の整備をする順番や工程等を提案した。

 

それが採用され整備班は新体制となり、軍務が円滑に進むようになっていた。

 

1月15日のBETAの侵攻からBETAの大規模な侵攻が無かったことも大きかった。

 

あの日以来姿を見せない人民軍の兵士が「東ドイツの白き守護神」と称する謎の機動兵器の安否についての噂がひっきりなしで基地内で話されていた。

 

そういうこともあり、中隊機9機共完全に整備が為されていた。

 

ところがその日、中隊のハンガーにもう1機バラライカが搬入されたのだった。

 

隼人の整備を手伝うカティアが中隊のメンバーが一人増えたことを隼人に伝えた。

 

「リィズ・ホーエンシュタイン?」

 

聞き覚えのある言葉に隼人は繰り返す。

 

「そいつはまさか?」

 

隼人に一つの疑念が生じた。

 

「はい……テオドールさんの妹です。」

 

(そいつは不味いな)

 

テオドールは死んだと思っていたが、実際は生きていたらしい。

 

それがこのタイミングで中隊に編入された。

 

 

 

 

 

 

 

「ジン、どう思う?」

 

ところ変わって、雪原でアイリスディーナが珍しく隼人に声を掛けた。

 

「十中八九、スパイだろうな」

 

隼人は即答した。

 

「そもそも、シュタージの奴がテオドールを生かしていることが腑に落ちなかった。」

 

テオドールは亡命計画者の首謀者の親類だったのだ。

 

生かす価値が無い。

 

シュタージの恐怖に怯え、服従したとはいえ家族を奪われたテオドールがシュタージに復讐することも考えられる。

 

ではなぜ、テオドールを生かしたのか。

 

それは……。

 

「テオドールはあの娘の首輪ということか」

 

アイリスディーナは合点がいったように顎に手を当て頷いた。

 

利用価値のある手駒。

 

リィズ・ホーエンシュタインという裏切ることのない女スパイを作り出すため。

 

そしてその枷を第666中隊に送り込み、万が一の時の保険としておく。

 

「だが名目上は派遣部隊からの転用という形になっている。」

 

「その手の情報操作がやっこさんの得意分野だろう。」

 

「中隊はそいつをどうする気だ?」

 

「シュタージのスパイだということがはっきりわかるまで手は出せない。」

 

隼人の問いに対して、アイリスディーナはグレーテルやヴァルターと話し合った結果を言った。

 

「だろうな。」

 

白黒かはっきりするまでにもしリィズ・ホーエンシュタインに手をだせば、テオドールは今度こそ心を完全に閉ざし、誰も信頼しなくなるだろう。

 

それはテオドールにとって家族を奪ったシュタージと全く同じだ。

 

それにリィズがいても中隊は10人で、正規人数に足りないのだ。

 

「……もしはっきりすれば」

 

アイリスディーナは息を呑んだ。

 

「俺がやる。」

 

隼人は断言した。

 

「その時は俺がやる」

 

隼人は繰り返した。

 

「中隊の誰かがやれば、テオドールはそいつを信用できなくなるだろう。」

 

リィズ・ホーエンシュタインを粛正しなければならないこととなれば、一番テオドールにとって影響のないのは隼人だろうと二人は判断した。

 

「そうか、お前がそういうなら任せよう。」

 

「……できれば只の偶然であることを祈ろう。」

 

隼人は雪原に煙草の灰を落とした。

 

 

 

 

アイリスディーナが立ち去り、隼人は再び煙草に火を付けた。

 

あくまでも仮定の話だ。

 

まだ何の確証もない。

 

隼人の元へ誰かが走ってきた。

 

「ハヤト!」

 

テオドールだった。

 

テオドールは隼人の肩に手をかけ話しかけた。

 

興奮を隠しきれない様子だった。

 

「聞いてくれ リィズが生きていた。」

 

それからテオドールは隼人に対してリィズの様子が本当にシュタージを憎んでいて情報提供者ではないことを力説した。

 

「どいつもこいつもあいつを……俺の妹をスパイ扱いしやがるんだ。」

 

テオドールはリィズがシュタージの息がかかっていないと信じたいようだった。

 

希望が1%でもあればそれを信じてしまう。

 

そうであってほしい、きっとそうだ等と自分の希望的観測を根拠づけるための証拠集めしかしない。

 

隼人がそうだったようにテオドールまたそうだった。

 

テオドールにとっては死んだ存在が甦ったことに等しいのだ。

 

失わないためなら何でもやるだろう。

 

「ハヤト。頼みがある。」

 

「なんだ?」

 

隼人は真剣な顔で頼み込むテオドールの顔を見据えた。

 

「俺にもしものことがあったら、カティアとリィズを頼む。」

 

隼人はカティアが何者でどんな理由で東ドイツに来たのかは知らないが、中隊が、アイリスディーナが東ドイツを守ろうとしているのはわかっていた。

 

中隊がその目的のために闘い続けるかぎり、そして、テオドールがその目的のために中隊と共に闘い続けるかぎり協力しようと決めていた。

 

「わかった。」

 

テオドールは少し安心した様子をみせると基地へ戻っていった。

 

もしかしたら破棄することになる約束をなぜしたのか、隼人にはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

基地に戻ろうとする隼人に微かな足音が近づいた。

 

隼人はテオドールが何か言い忘れたことがあるのかとでも思っていたが、ただならぬ気配を感じとりすぐに振り向いた。

 

「最近、お兄ちゃんがよく相談事をする、整備のお兄さんって貴方ですか?」

 

リィズ・ホーエンシュタインだった。

 

金髪に水色と白のストライプのリボンを二つ結びにしている普通の少女。

 

リィズは隼人に近づき、隼人に問いかけた。

 

「お兄ちゃんが誰を狙っているか教えてください!」

 

一瞬、隼人の目が点になる。

 

「お兄ちゃんが狙っている女の子を教えてください!やはり金髪ナイスバディのベルンハルト大尉?それともエキゾチックで母性溢れるファム中尉?黒髪眼鏡でガード堅そうで実は緩そうなイェッケルン中尉? 元気いっぱいのアネットさん?同年代ならお嬢様タイプのイングヒルトさん?小動物系妹タイプのカティアちゃん?私が本当の妹なのに義理だけど!」

 

とんでもない早口で中隊メンバーの女性陣の特徴と名前を言い連ねるリィズに隼人は少し圧倒されていた。

 

「まさか暴力系姉タイプのクシャシンスカ少尉じゃないよね!?」

 

「落ち着け」

 

リィズはテオドールがよく隼人に会いに行くという話を聞いて、恋愛相談をしてもらっているものだと勘違いしたらしい。

 

ほとんどカティアの愚痴で、浮ついた話ではないことを言うと、リィズは落ち着いた。

 

「でも、珍しいですね。お兄ちゃんが人に懐くなんて」

 

「3年も経てば変わるだろう」

 

リィズは兄共々よろしくと言い、去っていった。

 

隼人はリィズとのやり取りに不信感を感じなかった。

 

(あれが本当にスパイなら大したものだ)

 

会話のやり取りだけなら隼人もスパイじゃないと思っていたかもしれない。

 

だが、最初に感じた違和感は間違いなく「殺気」だった。

 

あの少女は殺気を隠して、隼人と会話をしていたのだ。

 

隼人は一刻もはやく白か黒かはっきりさせる必要があると感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は知っていたはずだった。

 

家族を失った父親と妹がどれだけの心の傷を負ったか。

 

そしてテオドールにとって自分の存在を過少評価しすぎていた。

 

彼がトラウマを打ち明ける人物など数限られているというのに。

 

「今度こそ仲間を守る。」

 

その誓いが隼人の目を曇らせ、かつての仲間にしたのと同じ行動に歩ませていた。

 

 

 

隼人編 8話終

 




基本的に原作と全く同じ所は省こうと思います。


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弁慶編 第4話 「四人目の戦士」

苛烈極まるインベーダーとの戦争。

 

その戦争の渦中に投げ出された弁慶はからくも初出撃をこなし、ゲッターチームの一員として申し分ない働きをした。

 

その初出撃後の夜、弁慶はブリーフィング室に呼び出されていた。

 

(なにかヘマをやってしまったのか)

 

そう思いながら、弁慶はブリーフィング室のドアを開いた。

 

部屋では竜馬、隼人、武蔵がいて酒を用意していた。

 

「主賓の到着だ! 弁慶! ここに座れ!」

 

武蔵が顔を赤らめながら、弁慶を手招きする。

 

「勝手に一人で飲み始めたくせに何言ってやがる!」

 

竜馬と隼人はグラスに手を付けずに待っていてくれたようだった。

 

新人の歓迎会というにはあまりに粗末な物だったが、彼らなりに新たな仲間を歓迎していた。

 

「武蔵の代わりが見つかってくれたことを祝して乾杯!」

 

「おい! それどういう意味だ!」

 

竜馬の茶化した音頭に武蔵がすかさず突っ込みを入れる。

 

「フ……これでいつでも死ねるな」

 

 

今度は隼人が武蔵をからかった。

 

「俺の味方がいねえ!」

 

武蔵が心外だと言わんばかりに騒ぎ出す。

 

「やかましい! テメエみたいな突撃馬鹿と組んでいたらいつか死ぬんだよ!」

 

「……お前も同じレベルだがな」

 

ゲラゲラと笑い合いながら、酒を飲み干す。

 

三人が三人ともにお互いを信頼していた。

 

「弁慶! 俺たちの事は呼び捨てでいい。」

 

隼人もそれに頷いた。

 

「いいんですか?」

 

「ゲッターの操縦はチームワークが全てだ! 余計な気遣いなんていらねえ」

 

3機の高速のゲットマシンが合体、分離を繰り返すゲッターロボ。

 

コンマ一つのズレが命に係わることになってしまうのだ。

 

竜馬は弁慶が新入りだということでいらぬ気遣いを与えないように自分の名前を呼び捨てるように提案したのだった。

 

「竜馬、隼人、先輩……よろしく頼む」

 

弁慶は深々と頭を下げた。

 

彼らの心配りに感謝した。

 

 

「せいぜい足を引っ張ってくれるなよ!」

 

武蔵が笑いながら弁慶の背中を叩く。

 

「「お前が言うな」」

 

竜馬と隼人が全く同じタイミングで武蔵に突っ込んだ。

 

その時、部屋の外から声がしてきた。

 

「貴様ら何をしているのだああああああ!!」

 

猛烈な勢いでドアが開き、早乙女博士がやってきたのだった。

 

「うるせえ! ジジイ! 俺達がどこで飲もうがテメエに関係あるか!」

 

竜馬が早乙女博士に突っかかる。

 

だが、早乙女博士の反応は意外なものだった。

 

「儂も交ぜんか!!」

 

空いていた席に座り、博士も酒の席へと加わった。

 

弁慶の歓迎会は夜通しで行われ、全員そこで酔いつぶれた。

 

 

 

翌朝、博士を含め全員が早乙女ミチルに説教を食らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

1983年 2月8日

旧フィンランド領 難民都市イヴァロ

 

弁慶は目を擦りながら、今朝みた夢を思い返す。

 

間違いなく一番苦しい時だった、インベーダーとの生存競争。

 

だが後のことを考えれば、戦争下のあの時期がゲッターチームとしては最も平穏だったかもしれない。

 

弁慶は皮肉なものだと呟き立ち上がった。

 

BETAの襲撃がない日は小さないざこざはあれど、平和なこの都市が今日は慌ただしかった。

 

戦術機ハンガーに衛士達が集まっていた。

 

「なんだって突然、日本帝国のロイヤルガードがウチに来るってんだ?」

 

サンディ大隊隊長のカルロス・ユーソラ大尉がミカ・テスレフ少尉に尋ねる。

 

「知りませんよ。救援物資と警護の戦術機3機の都市への入場の許可を求めていますが、どうするんですかね?」

 

「断るかけにもいかんだろ。しかし、たった戦術機3機とは舐めているな」

 

どうやら弁慶の知らないところで何かが起こっているらしい。

 

「ゲッター3を回収に来たんじゃないでしょうか?」

 

テスレフが訝しむような発言をし、ユーソラ大尉は顔を渋めた。

 

「そいつは困るな、アレは俺達の生命線だぞ。」

 

ゲッター3の要塞級すら投げ飛ばす桁違いの力によってこの都市はかろうじて守られていたのだった。

 

「しかし、そうなると懸念が残ります。」

 

「ああ」

 

 

ゲッター3は並の戦術機がそれこそ連隊程度集まっても捕獲が可能になるような物ではない。

 

それを確保するのに戦術機3機だけとはあまりに力不足もはなはだしい。

 

「狙いがわからんな。」

 

 

 

 

弁慶が近づくと、テスレフ少尉とユーソラ大尉は敬礼して迎えた。

 

「ベンケイ少佐。実はお耳に入れたいことが……」

 

テスレフ少尉は弁慶に日本帝国斯衛軍の隊が近づきつつあることを話した。

 

「何か問題あるのか? 補給が来る、いいことじゃないか。」

 

弁慶の返答にテスレフ少尉は困惑の表情を浮かべた。

 

「少佐は問題ないのですか?」

 

「俺がか? 俺に問題なんてないぞ? むしろこっちの日本の奴らと話せるいい機会だ。」

 

弁慶にはテスレフ少尉がきょとんとした顔を浮かべた理由がわからなかった。

 

弁慶が特に問題ないと判断したことで彼らの戦術機がこのハンガーに到着する運びとなった。

 

 

3機の戦術機がハンガーへと入り込む。

 

黄色が1機、黒色が2機。

 

その戦術機はハンガー内のゲッター3に驚いたのか、一瞬足を止めた。

 

そして強化装備を着た衛士が3人。

 

 

 

……降りてこなかった。

 

強化装備を着た衛士は二人。

 

黄色の強化装備が一人。黒色の強化装備が一人。

 

そしてもう一人はただのBDUにヘッドセットを付けた背が低く横に広い男だった。

 

イヴァロ基地内で、大きな動揺が走り、衛士達はざわつきはじめた。

 

戦術機を操縦する上で必需品である強化装備をその男はつけていなかったのだ。

 

だが、弁慶はそんなことよりもその男そのものに驚いた。

 

「なんで……先輩が?」

 

その男は弁慶の先輩であり、ゲッターチームの一人……巴武蔵だった。

 

 

 

 

 

弁慶は武蔵と別室にて話をしはじめた。

 

帝国斯衛の衛士は隣の部屋でユーソラ大尉とテスレフ少尉と話をしているようだ。

 

「武蔵先輩。あんた、この世界に来てたんすね。」

 

「おうよ。今じゃこっちの世界の日本の兵士……いや衛士か。」

 

弁慶はこの世界に慣れ親しんでいる武蔵にこれまで何かあったかを聞こうとした。

 

「先輩。どうしてこっちの世界の日本軍に?」

 

「俺の事を話す前に聞きたいことがある。」

 

武蔵は弁慶の質問を遮った。

 

「何ですか?」

 

「弁慶。元気は無事だろうな?」

 

親代わりとして早乙女元気の面倒を見ていた武蔵がその心配をするのは当然だった。

 

「それは大丈夫なはずだ。俺は元気と一緒に核シェルターに逃げ込んだからな」

 

武蔵は納得したように頷いたが、なにか気に障るようだった。

 

「おい弁慶。お前なんで元気と核シェルターに逃げた筈なのにゲッターと一緒にここにいる?」

 

「それが俺にもさっぱりで」

 

弁慶は答えることができなかった。

 

「わからねえならもういい。」

 

そして、武蔵はこれまでのことを話しはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

武蔵がこの世界にやってきたのは弁慶がこの世界にやってくる2カ月も前のことだった。

 

1982年11月、傷ついた未確認巨大物体が日本帝国佐渡島に流れ着いた。

 

その未確認巨大物体(ゲッター3)から譫言を言いながら出てきて意識を失った武蔵を調査しにきた日本帝国斯衛軍試験分隊「ヴァンキッシュ」が保護した。

 

ゲッター3に興味を持った篁裕唯少尉は翌日、意識を取り戻した武蔵にゲッター3を操ってほしいと頼み、戦術機に同乗するように頼んだ。

 

その時、戦術機同乗のさいに強化装備を着るよう勧めるも武蔵は拒否。そのまま戦術機瑞鶴に乗った。

 

篁少尉は武蔵を海岸まで連れて行き降ろした。だが、そのゲッター3はゲッター炉心がなぜか本調子でなく、予備エンジンで動かすことしかできなかった。

 

篁裕唯は強化装備無しで戦術機に乗っても影響のない頑丈さを持つ武蔵を次世代戦術機開発計画のデータ収集に加えることを思いついた。

 

御剣中将、紅蓮中将の協力もあり軍属を国連軍、日本帝国軍、そして日本帝国斯衛軍と順に異動させることで体裁を整え、巴武蔵を日本帝国斯衛軍の少尉として引き入れた。

 

それから、約2ヶ月武蔵は巌谷榮ニの元で戦術機の操縦を学び、北欧にやってきたのだった。

 

話を聞き終えた弁慶が口を開いた。

 

「先輩のゲッターは動かなかったんすか?」

 

「ああ、なぜか炉心のエネルギーが上がらねえんだ。俺の直せる範囲で直したんだがな」

 

武蔵の乗ってきたゲッターロボはなんらかの原因から戦闘に参加できないようだった。

 

「あれは隼人の奴に見てもらわねえと多分無理だな」

 

武蔵は首を振る。

 

「俺がゲッターに乗って戦えていたらもっと奴らを殺せたはずだ。」

 

武蔵の眼光が鋭さを増した。その瞳は完全に月面戦争時のものだった。

 

「俺も一応、そのゲッターを見てみますよ」

 

弁慶がそう言うと武蔵はあのころの眼をしたまま微笑んだ。

 

「ああ、たのむ」

 

弁慶は既知の人物が現れたことに安堵した。

 

もしかしたら、竜馬や隼人もこの世界に来ているのかもしれないということを思った。

 

そのとき、隣の部屋から怒号が聞こえてきた。

 

驚いた弁慶と武蔵はたまらず部屋へ駆け込んだ。

 

そこには顔を真っ赤にしたユーソラ大尉が篁少尉、巌谷中尉を睨み付けていた。

 

弁慶と武蔵が部屋に入ってきたのを見て篁少尉は立ち上がり、弁慶に向かいあった。

 

「我々の使命は貴官とゲッターロボを我が軍に引き入れることだ。」

 

「ヴァンキッシュ試験分隊」の与えられた任務はフィンランドの基地で孤軍奮闘しているゲッターロボおよびそのパイロットを日本帝国に引き入れることだった。

 

ユーソラ大尉が怒り狂うのも無理はない。

 

この極限下の基地が今この世界に存在しているのはゲッター3と弁慶がこの基地の防衛に当っているからであった。

 

この基地から弁慶が居なくなれば、その結果は火を見るよりも明らかであった。

 

弁慶はしばし考えた後、口を開いた。

 

「いいだろう。日本帝国軍に入ってやってもいい。」

 

ユーソラ大尉、テスレフ少尉の顔が真っ青になった。

 

「ただし、条件がある」

 

弁慶は「安心しろ」とまるで言うように彼らに頷いた。

 

 

弁慶編 4話 終

 




作品的には4人目ですが、この世界的には一人目です。


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弁慶編 第5話 「遠い日の追憶」

 

 

 

月面戦争時

 

武蔵の怪我が治り出撃し、弁慶は基地で待機していた。

 

弁慶が研究室に立ち寄ると,早乙女ミチルが熱心にパソコンを見ていた。

 

「ミチルさん何しているんですか?」

 

弁慶が尋ねると早乙女ミチルは作業を止めて,弁慶の方へ向きなおった。

 

「ああ、弁慶君。今、竜馬君達の動きを見ているのよ。」

 

そこには録画された、いくつものゲッターとインベーダーとの戦闘が流れていた。

 

「例えばね」

 

そういうと画面が九分割され、すべて竜馬が操るゲッター1の画像になった。

 

ゲッター1は、まずインベーダーに対してトマホークブーメランを投げ、それと同時にゲッタービームをマントで反射させてインベーダーの逃げ場を無くした。

 

ビームを反射させたと同時にゲッター1は突進し、ビームの雨と共に先に投げたトマホークを追う。

 

ゲッター1は新しいトマホークを肩口から取り出し、トマホークブーメランを受けたインベーダーに対して襲い掛かった。

 

ゲッター1はインベーダーをトマホークで切り刻む、さらに同時にゲッターの腹部が発光し、零距離でゲッタービームをインベーダーに照射した。

 

これが決め手となり、インベーダーは消滅した。

 

どの画面のゲッター1も同じようにインベーダーに止めを刺した。

 

「次は隼人君ね。」

 

今度は同じ様に、ゲッター2の画面に切り替わった。

 

高速で動き回るインベーダーをゲッター2が追いかける。

 

そのスピードはゲッター2とほぼ互角の速度。

 

そのインベーダーに対して、ゲッター2はドリルストームを繰り出した。

 

そんなものはそのインベーダーにとって避けることなどたやすい。

 

ドリルストームで生じた衝撃波から余裕で逃げ出したインベーダーをゲッター2の右腕のドリルが待っていた。

 

隼人はドリルストームで予めインベーダーが逃げる場所を誘導したのだ。

 

インベーダーはゲッター2に串刺しにされて、体を溶解させた。

 

先ほどと同様に、9分割された画面のどの画面もゲッター2は同じように仕留めていた。

 

「次は武蔵君。」

 

次はゲッター3の画像に切り替わった。

 

インベーダーと力比べをするように押し合いをするゲッター3の映像が映し出された。

 

ゲッター3の腕が伸び、インベーダーの体に巻き付き、空高くに投げ飛ばした。

 

投げ飛ばしたインベーダーをさらに追撃のゲッターミサイルがゲッター3の背部から発射され、空中に放り出され逃げ場のないインベーダーは直撃を受けて爆散した。

 

ゲッター1、ゲッター2と同様にどの画像もその技でインベーダーを倒していた。

 

「ミチルさんこいつは?」

 

「うん。竜馬君達の癖かな? 切り札みたいなもので手ごわいインベーダーに対してはこうやって倒しているみたいよ。」

 

成程と弁慶が頷く。

 

「武蔵先輩がこんな技を?」

 

弁慶には武蔵が大雪山おろしで空中という逃げ場のない場所にインベーダーを投げ飛ばし、ミサイルで撃ち落とす等いう戦術のような戦い方をするような人物とは思えなかった。

 

「それがね、武蔵君に必殺技が欲しいって言われて、私が考えたの。武蔵君「大雪山おろしで吹き飛ばした相手を殴るんだ!」なんて言うんだから」

 

「整備兵が泣いちゃうから止めてあげて」とミチルが代案を出したのだった。

 

「それでこれを調べてミチルさんはどうしようって言うんですか?」

 

「実はね! じゃーん!」

 

ミチルは「G」と書かれた分厚い書類を弁慶に見せた。

 

「新しいゲッターの設計図よ!」

 

ミチルは新型ゲッターの開発に取り掛かっていたのだった。

 

「ゲッターの新型!? それでそいつが先輩たちの癖と何の関係があるんですか?」

 

「竜馬君達の操作の特性に最高に合ったゲッターを造って見せるわ!」

 

新しいゲッターをゲッターチームに最も適した形で開発することそれがミチルの目的であった。

 

「もちろん、弁慶君のデータも考慮しておくわ」

 

「すげえじゃねえですか」

 

弁慶は新しい強いゲッターが生まれれば、きっとインベーダーに勝つことができると沸き立った。

 

そんな話をしているうちに竜馬達が戦闘を終え基地に帰還したとの報を受け、弁慶は帰還した竜馬達の元へと向かった。

 

一人残ったミチルの眼はどこか冷めていた。

 

「強くなって、インベーダーよりも強くなって、ゲッターは人間を……竜馬君たちをどうしたいの?」

 

ミチルはゲッターをインベーダーと同様に危険視していたのだった。

 

「たとえ人間でなくなったとしても私は……」

 

それでも私は……彼らの傍にいたい。

 

 

だがゲッターロボGが完成する前に月面戦争は人類の勝利で終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年

2月18日 バルト海上

 

弁慶はベアー号の中で目を覚ました。

 

日本帝国軍が所持する駆逐艦の中にゲッター3が2機並んでいた。

 

現在、この艦は日本帝国斯衛軍のヴァンキッシュ分隊がその身を寄せているスウェーデン・ルーレオ基地に向けて海を進んでいた。

 

弁慶が、日本帝国に入る代わりに要求したのは難民都市イヴァロ市民を全員日本帝国が難民として受け入れることだった。

 

これを受けて日本帝国斯衛軍紅蓮中将は「ゲッター3」の戦闘能力を試して、その実力が見合えばこの条件を飲むために全力を尽くすと承諾した。

 

車弁慶とゲッター3はそのために、スウェーデンのルーレオ基地までヴァンキッシュ分隊と共に向かうことになったのだ。

 

その間、日本帝国軍1個連隊が「人道支援」を名目に、イヴァロに入り都市を防衛する。

 

たとえ、ゲッターの実力が認められなくても、ある程度の難民は衛士を中心に帝国に受け入れられることなっていた。

 

弁慶がベアー号の中で寝ていたのは、いまだ原因不明の炉心のエネルギー不足に陥っている武蔵の乗っていたゲッターを調べるためにベアー号に乗り込み徹夜で調べていたからだった。

 

「……また懐かしい夢を」

 

弁慶は先ほどみていた夢を思い返す。

 

「……ミチルさん」

 

優しい人だった。

 

誰よりも俺たち4人の事を考えてくれていた人だった。

 

「……なんでいなくなってしまったんだ」

 

武蔵の乗っていたゲッターからはどこか懐かしい匂いがした。

 

その匂いが弁慶にミチルのことを思い出させたのかもしれない。

 

「おい! 弁慶!」

 

外から武蔵の声が聞こえてきたので、弁慶はゲッターから降りた。

 

「どうだ? 弁慶! 動かない理由はわかったか?」

 

弁慶は首を振った。

 

「わからねえ、てんでさっぱりだ。なんで動かねえんだ。」

 

武蔵の乗っていたゲッターは弁慶が見てみても、その動かない理由がわからなかった。

 

「こいつは隼人か博士に見てもらわねえと無理だな」

 

弁慶はそう結論づけるしかなかった。

 

「二人がこの世界に来ていると思うか?」

 

武蔵が弁慶に尋ねるが、弁慶にもそれはわからなかった。

 

「それにたとえ来ていたもしくは来ているのしれないが、同じ時間に現れるとは限らんでしょう。」

 

武蔵と弁慶のようにこの世界に来た時間がずれている可能性もある。

 

「チ! ゲッターが動けばよかったんだが、瑞鶴で頑張るしかねえか」

 

武蔵は頭の後ろに手をやり、伸びをした。

 

弁慶が武蔵と話していると、篁裕唯が格納庫にやってきた。

 

「やれやれ、まいったな。車少佐、ここに来て行先変更だ。」

 

「篁少尉、スウェーデンって話だったんじゃないのか?」

 

「ああ、行先は旧ポーランドのグダンスクだ。そこで国連主導の中規模な作戦があるらしい。それに参加しつつ、ゲッターを試せって上からのお達しだ」

 

ルーレオ基地には向かわずに、国連主導の作戦に参加しろとの命令が下ったのだった。

 

 

「ポーランドか、エヴァンスクハイヴをまたぐ形になるな。なんだってそんな変更が?」

 

「紅蓮中将がゲッターを日本帝国の新兵器として他国に公表すれば、受け入れざるを得なくなるとのことだ。加えて、ゲッターの実力を証明する目は多い方が都合がよいと。」

 

(国益を考えれば、ゲッターの存在は秘密裡にしておいた方がよいのだが。)

 

と篁少尉はその言葉を飲み込んだ。

 

紅蓮中将にはその考えはなく、それよりも国内の反対の声を抑えることを選んだのだった。

 

「なるほどな。」

 

弁慶は納得した。それを伝え終わると篁少尉は武蔵の方へ向き直った。

 

「巴なぜここにいる? この時間はシュミレ―タ―のはず……」

 

それを言い終わらないうちにけたたましい声が格納庫に響いた。

 

「と~も~ええええええええええええ!!!!!!」

 

巌谷中尉が格納庫に走りこんできた。

 

「げ!」

 

武蔵がバツの悪そうな顔を浮かべて、逃げようとしたが巌谷中尉の方が速かった。

 

「てめえは朝から俺と戦術機の操縦の特訓だろうが!!」

 

「……飽きちまった。」

 

武蔵は朝の特訓をサボっていたのだった。

 

「飽きたじゃねえ。行くぞ!」

 

 

巌谷中尉が武蔵の首をつかんで引っ張った。

 

「それと裕唯」

 

「なんだい?」

 

やれやれと様子を窺っていた篁少尉は巌谷中尉に尋ねられて聞き返した。

 

「ゲッターを量産することは可能か?」

 

「それは私に君を殺せと言っているのかい?」

 

その質問に篁少尉は冷ややかに返した。

 

「戦術機にかかるGをものともしない巴がやっと動かせる程度のシロモノだ。我々が扱うのは難しいだろう。死ぬことになるぞ」

 

巌谷中尉は篁少尉の言葉を切り捨てた。

 

「死ぬことなんか、開発衛士になったときから恐ろしくない。とっくにその覚悟はできている」

 

巌谷中尉の言葉に篁少尉は声を荒げた。

 

「馬鹿か君は! 我々、技術者がテストパイロットが死ぬとわかっているものを造ると思うのか!」

 

二人の距離は次第に近づいていき、一触即発の状況だった。

 

「そんなことはわかっている。だが、それでは前に進めない。」

 

「犬死には前に進むとは言わないぞ」

 

二人の言い争いにたまらず、武蔵が声を出す。

 

「おいおい、喧嘩するなよ!」

 

「「うるさい!!」」

 

二人の間に入った武蔵に息の合った返しが入ったが、武蔵は続ける。

 

「それに、その時は俺が最初に乗ってやるよ。それから調整すればいいだろ。」

 

と武蔵は笑った。

 

武蔵の笑顔に二人は罰が悪くなったのか、落ち着き、矛を収めた。

 

「榮二。動力がよくわかっていないんだ。開発者に聞いてみなければ、量産なんて無理だ。」

 

篁少尉は冷静になって、巌谷中尉の質問に答えた。

 

「そうか、ならいい。いくぞ! 巴!」

 

巌谷中尉はそのまま武蔵を連れて、その場から去っていった。

 

その光景を弁慶は複雑な心地で見ていた。

 

まるで、かつての竜馬、隼人、武蔵のやり取りをみているようだった。

 

弁慶はそのことを懐かしいと思っていることに気が付いた。

 

そのことが、過ぎ去った日が、もう戻らないということを認識させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、日付が変わり、2時間が既に経っていた。

 

弁慶は、小便を済まし、自室へ戻ろうと歩いていた。

 

「ん?」

 

ふと、前方に人影が見えた。

 

その人影は格納庫の方へと向かっていた。

 

こんな時間に何者なのか。

 

整備兵か見回りかもしれない。別に弁慶が追う必要もないが、なぜか気になった。

 

弁慶はその人影を追っていた。

 

その人影は線の細さから女性の様であった。

 

この世界に弁慶の見知った女性などはいない。

 

が、その女性のシルエットは見覚えがあった。

 

弁慶は頭を振った。

 

(そんなはずはない。彼女であるはずがない。)

 

その人影は武蔵のゲッター3の前に立ち止まった。

 

その時、月明かりが格納庫に差し込み、その人影の顔が明らかになった。

 

弁慶はそれを見て衝撃を受け、動きを完全に止めてしまった。

 

その人影はまた格納庫の奥へと歩き始めた。

 

「待て!!」

 

もう弁慶は相手に気取られることを気にせず駆けだした。

 

その人影は闇に溶け込んでいった。

 

弁慶は人影が消えた方へ追いかけたが、跡形もなく消え去っていた。

 

「い、今のは一体!?」

 

弁慶は冷や汗を信じられない程体から噴き出していた。

 

自分の見たものが信じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人影は間違いなく「早乙女ミチル」その人だった。

 

弁慶編 5話 終

 




1983年2月18日時点の登場人物紹介

主要登場人物紹介

ゲッターチーム

流竜馬
御剣雷電中将率いる国連宇宙軍「御剣組」に身を寄せる。
この世界から帰還するためにBETAが関係あると考えた竜馬はBETAを研究しているというソ連のオルタネィティヴ研究所に辿り着く。が、その道中にゲッターを核攻撃により大破され使用不可能になった。
雷電に復讐の意味を問われ、答えを出せずにいる。

神隼人
東ドイツ人民軍第666戦術機中隊に整備兵として身を寄せる。
東ドイツを守るというアイリス、テオドールに共感し協力するようになる。
自分のした行為で仲間を崩壊させた過去から「仲間を守る」ということに執着している。

車弁慶
フィンランドの難民都市イヴァロに身を寄せる。
難民を日本帝国に移動させるために自身とゲッターを売り込んだ。
その過程で巴武蔵と出会い、行動を共にしている。

巴武蔵
日本帝国斯衛軍「ヴァンキッシュ」試験分隊所属。自身の乗っていたゲッターがなぜか、外傷もないのに炉心が働かず、黒の82式戦術機「瑞鶴」に搭乗している。
なぜか、竜馬達とはこの世界に訪れた時間がずれている。

早乙女ミチル
ゲッターチームが崩壊した原因。
自身の設計したゲッターロボGの実験に失敗し死亡したはずだったが……。



竜馬編

御剣雷電
国連宇宙軍中将。別名「月の英雄」
1973年の月撤退戦を指揮した。その戦闘中、息子を失う。
ゲッターロボを使ったBETA反攻作戦を計画している。
月に現れた竜馬に息子の影を重ねている。

月詠少佐
国連宇宙軍少佐。雷電の副官。
妻子があり、娘は8歳くらいになる。
双子の兄が斯衛軍に所属し、煌武院家に仕えている。
竜馬に対して、少しずつ仲間意識を抱くようになる。

エヴァ・ノーリ
「ESP能力衛士素体第零号」人工ESP能力衛士のオリジナル。
ポーランドで暮らしていたが、能力者を探すオルタネィティヴ研究所に家族と引き離された。生き別れの兄がソ連の衛士となっている。
エヴァ・ノーリは本名ではなく人工ESP能力衛士の「イヴ」「零」であることから付けられた。竜馬とゲッターに興味を持つ。

隼人編 

テオドール・エーベルバッハ
東ドイツ人民軍第666戦術機中隊の衛士。隼人の正体を知っている数少ない人物。
隼人の実力を信頼しており、自身のトラウマ等を相談したりしている。
東ドイツ、カティアという西側との懸け橋、そして義理の妹を守るために奔走している。

アイリスディーナ・ベルンハルト
東ドイツ人民軍第666戦術機中隊長。隼人の正体を知っている数少ない人物。
隼人のゲッターを東ドイツを守るための手駒の一つとして使う。

リィズ・ホーエンシュタイン
テオドールの義理の妹で東ドイツ人民軍第666戦術機中隊の衛士。
中隊員から武装警察のスパイでないかと疑われている。


弁慶編

巌谷榮二
日本帝国斯衛軍中尉。試験分隊「ヴァンキッシュ分隊長」
黒の瑞鶴を駆る衛士。
戦術機対戦術機を最も得意とする国内最強の衛士。

篁裕唯
日本帝国斯衛軍少尉。試験分隊「ヴァンキッシュ分隊技術少尉」
黄の瑞鶴を駆る衛士でもある。
妻と1歳に満たない娘がいる。口癖は「まいったな」





この話のミチル出現をもって、第1部の主要登場人物が全て登場しました。

そして約3年前(予定では1年位でここまでくる予定でした)の書き始める前の初期プロットを書き終えました。

この話以降各編が繋がっていきます。


そもそもこのSSはゲッターというスーパーロボットとマブラヴの何番煎じか分からない位のクロスなので、どうせやるなら今この時しか書けない物にしようというのが出発点でした。
ゲッターチームはせっかく3人いるのでそれぞれ「オルタ」「TE」「柴犬」とマッチさせるような話にしたいそしてそれが少しずつクロスする話にしようと思ったのです。

ところがご存じのとおり「柴犬」だけ18年前の1983年という設定のためどうしようか悩んでいたのですが、「オルタ」「TE」の18年前の設定を勝手に考えて18年前から開始することにしました。

   竜馬編 オルタルート
   隼人編 柴犬ルート
   弁慶編 TEルート
というわけです。

この話の大きな謎として
①なぜゲッターチームがこの世界に来たのか
②なぜ月のBETAは消えたのか
③なぜ武蔵だけ時間がずれているのか
④ミチルの幻は何なのか
⑤ゲッターチームの記憶のずれは何なのか
⑥竜馬達は元の世界に戻れるのか
⑦ゲッターとBETAの関係性とは
があります、これらが全て明らかになるときこのSSは終わる予定です。

(一応、今までの話全て読み返しました。矛盾はないと思いますがこっそり直すかもしれません笑)



それではまだまだ完結まで長くなると思いますがよろしくお願いします。


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弁慶編 第6話 「死者は蘇らない」

その日、月で最後のインベーダーが死んだ。

 

最後のインベーダーは追い詰められたインベーダーが集結、巨大化し、人類に立ちはだかった。

 

そのインベーダーは、インベーダーに対して最も有効なゲッター1のゲッタービームさえ吸収するほどの強化されたものだった。

 

しかし、ゲッターチームは、早乙女博士が予備機として残していたゲッターロボ2機に隼人、武蔵がそれぞれ乗り、3機のゲッター炉心を複合させ、ゲッタービームを放った。

 

その3機のゲッターロボの炉心からの照射を受けたインベーダーは爆散した。

 

10年にも及んだ、地球とインベーダーとの月面戦争が終結した瞬間だった。

 

弁慶はその吉報をミチルと共に月面基地で聞いた。

 

「これで俺たちもお役御免だな。」

 

ミチルは全ての人が喜び沸き立つ中、冷静だった。

 

「本当に……全滅したのかしら?」

 

「G」と書かれた設計書を抱えて、ミチルは勝利を疑った。

 

その可能性を誰も信じなかった。

 

誰もが、平和が未来永劫続くことを祈っていたからこそ、その可能性を考えることを拒んだ。

 

ミチルは父親と仲間とともに、新たなゲッターの研究に着手したのだった。

 

だが、それすらインベーダーの手の内だったとは誰も予見できなかった。

 

インベーダーの存在を最も危惧していたミチルは不幸な事故で亡くなった。

 

そしてその死は、ゲッターチームを崩壊させる原因となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月19日 

バルト海

 

 

 

弁慶は昨晩、自身が見たものが信じられなかった。

 

彼女の霊がなぜ、弁慶の前に現れたのか皆目見当もつかなかった。

 

そのことについて、武蔵と話す必要がある、そう考えた弁慶はブリーフィングルームを訪ねた。

 

「おや、車少佐。どうしたんですか?」

 

ブリーフィングルームには、一枚の写真を手に取って見つめていた篁少尉が一人でいたのだった。

 

「ああ、先輩と話をしようと思ったんだが……。」

 

「巴ならさっき榮二に連れていかれましたよ。昨日サボった分を取り返すらしいです。」

 

武蔵は巌谷中尉とシミュレーターで訓練をしているようだった。

 

弁慶は少しその訓練が気になった。

 

「篁少尉。先輩は戦術機の操縦に向いてないのか?」

 

武蔵の猪突猛進なあの性格は、BETAの攻撃を主に避けることで防ぐ戦術機の特性には向いていないのかもしれないが、弁慶の知っている武蔵はそんな機体特性も把握できない男ではなかった。

 

「そんなことはないです。雑ですが、機体の限界値まで戦術機の能力を引き出すことのできるいい衛士。失礼、いいパイロットですよ。武蔵は」

 

篁少尉の武蔵の衛士としての評価は決して悪いものではなかった。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

篁少尉はその後に含みを持たせた。

 

「戦場で少し暴走気味ですね。」

 

「先輩が暴走?」

 

「ええこれは、私に聞くより、僚機として戦った榮二に聞く方がいいでしょうね。」

 

「そうか、後で聞いてみるとしよう。」

 

そこで武蔵の戦術機の操縦の会話は終わった。

 

次に弁慶は篁の持っていた写真が気になった。

 

「その写真は?」

 

「見ますか?」

 

篁は弁慶にそれを手渡した。

 

手渡された写真には和服を着た女性が赤ん坊を抱えている姿が写っていた。

 

「こいつは?」

 

「私の家内と子供です。」

 

「な!?」

 

篁少尉は、国に結婚したばかりの妻と生まれたばかりの子供を残して、北欧に来ていたのだった。

 

「お前は、それでいいのか?」

 

弁慶の問いかけに篁少尉は笑って答えた。

 

「私には責任があります。私の瑞鶴では、BETAはもちろん、米国やソ連の最新鋭機に太刀打ちできない。そんな物しか、造ることしかできなかったんです。」

 

篁少尉が設計に携わったファントム改修機瑞鶴では日本帝国斯衛軍の要望に応えるものではなかった。

 

第2世代の米国のF14(トムキャット)にかなり劣っていたのだった。

 

自国での限界だったとはいえ、その結果は篁少尉の望むものではなかった。

 

瑞鶴の限界や性能を実戦で収集するこの機会は未来にとって大きな財産になると期待しての作戦参加だったのだ。

 

「しかし、少尉の家族は……」

 

「この子が大きくなるころには、戦争を終わらせたい。そのためならなんだってやる。そう誓ったんですよ。」

 

篁少尉の言葉には覚悟がこもっていた。

 

「車少佐にも家族がいるんですか?」

 

「……家族。」

 

(いない)と答えようとした弁慶の脳裏に、ゲッターチームの面々そして早乙女元気の顔が浮かんだ。

 

答えない弁慶を見かねて、篁少尉は笑って続けた。

 

「それに、士官学校からの腐れ縁と新顔の暴れ馬だけでは、私のもう一人の子が壊されかねませんからね。」

 

その言葉を言い終わらないうちに、ブリーフィングルームの扉が開いた。

 

巌谷中尉だった。

 

「誰が俺の機体を壊すって?」

 

開口一番に巌谷中尉は士官学校からの腐れ縁にそう応えた。

 

「やあ榮二。暴れ馬の調教は上手くいっているのかい?」

 

「どうこうも。あいつ、訓練じゃ大人しいんだ。」

 

「戦場では違うのか?」

 

弁慶の問いかけに、巌谷中尉は首を振る。

 

「戦場では全く違う衛士だ。車少佐。こちらこそ聞きたい。」

 

「なんだ?」

 

「あいつは本当にBETAを知らないのか?」

 

「そのはずだが……」

 

弁慶の答えに巌谷は顎に手を当て、思案する。

 

「それにしては、巴はBETAを憎んでいるようだ。」

 

「BETAを憎む?」

 

「いや、忘れてくれ。」

 

篁と巌谷は、ブリーフィングルームを離れ、弁慶は武蔵に会いにシミュレーション室に向かった。

 

弁慶は巌谷中尉の言った武蔵がBETAを憎んでいるという言葉を考えていた。

 

もしそれが本当なら、武蔵はインベーダーと似ているBETAに対して恨みをぶつけているのだろうか。

 

 

武蔵がちょうど、訓練を終えたところだった。

 

「先輩。はなしてえことがあるんだが」

 

「なんだ? 弁慶?」

 

「ここじゃなんだ俺の部屋で話をしよう」

 

そして、自室に戻った弁慶は、昨日見た「早乙女ミチル」の霊について話した。

 

「てめえはまだそんなこと言っているのか!!」

 

武蔵は弁慶にそう怒鳴りつけた。

 

「俺は言っただろ。「ミチルさんが死んだこと」は忘れろって」

 

「だが……現に俺の前に」

 

「そりゃてめえの見間違いだ。」

 

「いや、あれは間違いなくミチルさんだったんだ。」

 

「弁慶、お前は元の世界で一度でもミチルさんの幻を見たことがあるのか?」

 

「いや、ない。だが」

 

「だがじゃねえ! なんでこの世界に一度も来たことがねえミチルさんの幻をこっちで見て、元の世界では一度も見たことがねえんだ! おかしいだろ!」

 

「それは……」

 

「今までインベーダーとの戦いでインベーダーに寄生された奴や死んだ奴が甦ったことがあったのか?」

 

「……ねえよ」

 

「それなら、てめえの見た物はただの幻だ。大方この世界で元の世界の俺の姿見て夢でも見たんだろうさ。そうに違いねえ」

 

武蔵は弁慶の見た幻をただの見間違いだと決めつけた。

 

「今、俺たちには死んじまった奴のことをくよくよ考えている時間はないんだ。どうやって元の世界に帰るかを考えて、行動すべきなんだ。」

 

弁慶は武蔵に見間違いだといわれ、確かにそうなのかもしれないと感じていた。

 

たとえ、ミチルの霊だったとしても、今の弁慶や武蔵が考えることではないのだ。

 

「いいからもう休め、疲れているからそんな幻を見るんだ。この話はこれで終わりだ。」

 

「先輩、最後に一つ聞いていいですか?」

 

「なんだ?」

 

弁慶は巌谷の言っていたことが頭によぎったのだった。

 

「先輩はBETAをこの世界に来る前から知っていたんですか?」

 

「俺がBETAを知ったのはこの世界に来てからだが?」

 

武蔵の返した答えは当然のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弁慶の部屋から出て行った武蔵は自室に戻った。

 

「死んだ奴は蘇らない」だって何言ってやがる?」

 

武蔵は独り言をつぶやいた。

 

「それなら俺は……」

 

自室の鏡に映った自身の姿を見て武蔵は独り言を続けた。

 

「それなら俺は……死んだ時の記憶がある俺は…一体誰なんだ?」

 

鏡に映った自分は記憶のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「教えてくれミチルさん。俺は……誰なんだ?」

 

武蔵のその問いに答えは返ってこなかった。

 

 

 

 

弁慶編 6話 終

 



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第一部 第3章 「ゲッター2VSゲッター3」
隼人編 第9話 「海王星作戦開始」


1983年 2月28日 午前7時

バルト海

 

 

 

戦術機揚陸艦ペーネミュンデ甲板上で隼人は煙草を吸っていた。

 

その艦だけでなく、バルト海上には多くの多国籍の軍艦が目の前にひろがっていた。

 

今回の作戦は、海王星作戦というらしい。

 

沈静化していたとみられていたミンスクハイヴから突如、BETAの大群がポーランド方面へ向けて侵攻を開始したことにより、国連軍と欧州連合の主導で立案された作戦である。

 

主目的はBETAの漸減だ。

 

この作戦は、本来BETAの攻勢に押されているはずだった対BETAの盾「東ドイツ」の戦力の持ち直しを期待して立案及び計画が練られていた作戦だ。

 

東ドイツの脅威の粘りで、現状戦力の立て直し及び各要塞陣地の復旧が思いのほか進んでいたため、作戦の発令は中止される可能性もあった。

 

しかし、バルト海を目指してBETAの侵攻が始まったことで、状況は一変した。

 

バルト海を越えてBETAが西側諸国に及びフィンランド以外の北欧諸国に侵攻する可能性が生じたのだった。

 

国連軍と欧州連合は作戦開始を前倒しにして、かき集められるだけの戦力を集めてBETAを迎え撃つこととした。

 

国連軍、米軍、欧州連合軍、中隊の所属するワルシャワ条約機構軍、そして飛び入り参加の日本帝国斯衛軍の5軍合同の一大反攻作戦である。

 

作戦は大きく三段階に分けられていた。

 

第一段階は、グダンスク沿岸を強襲上陸及び、旧軍施設の奪還確保。

 

第二段階は、内陸侵攻によるBETAの大規模な漸減。

 

第三段階は、主力の撤収。

 

作戦第一段階は、「北」「中央」「南」の三方向に分かれ海岸から目標40kmの範囲の確保にあたる。

 

「北」は日米連合軍。

 

「中央」は欧州連合軍。

 

「南」はワルシャワ条約機構軍。

 

どの軍も海岸から水上打撃部隊の支援を受ける予定である。

 

この作戦の隼人の役目は「何もしないこと」だ。

 

アイリスディーナは、隼人に対してゲッター2での戦闘及び出撃を禁じた。

 

隼人はつい先ほどの会話を思い出した。

 

「今回の作戦には一切出撃するな。」

 

「その命令の意図は何だ?」

 

ワルシャワ条約機構軍は盟主となるソ連軍を欠いていた。

 

三軍の中で戦力的に最も劣るのは間違いない。

 

「この作戦で、我々は東ドイツの実力を誇示する必要がある。我々が他の西の衛士よりも遥かにBETA戦の経験を持っていることを示して彼らに我々の有益性を証明する機会にしなければならない。」

 

東ドイツ崩壊後の難民問題や西側諸国との共闘作戦を展開するためにそれは必要不可欠なことだった。

 

その機会を突然現れた「謎の機動兵器」に奪われることは、何としても避けなければならない。

 

「つまりこの作戦には俺は邪魔だってことか。」

 

ゲッター2が出撃し、ほぼ1機で橋頭保を確保することになれば、その機会をふいにすることになる。

 

それどころか、世界にその機体が東側に在ることが明らかになり、西側諸国の強制介入を招くことになる可能性もある。シュタージが東ドイツを牛耳る状態であるにもかかわらずだ。

 

「了解だ。俺は整備にまわるとしよう。」

 

作戦が成功しても、この世界の未来の可能性が一つ閉ざされることとなる。

 

それでは、中隊員が命を懸ける意味がなくなる。

 

中隊が全滅する以上に、「世界」にとってよくない結果を招くことになる。

 

 

 

 

 

 

(俺が守りたいのは仲間の「命」なのか、それとも「信念」なのか。)

 

隼人の答えがおぼろげながら、明らかになっていった。

 

煙草はいつのまにか、燃え尽きかかっていた。

 

その時、隼人の上空を獣の数字を冠した10機が陸地へ向けて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、「世界」はアイリスディーナや隼人の思惑とは異なり、「ゲッター」を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、出撃したテオドールの目の前に、東ではおおよそ信じられないような戦場が広がっていた。

 

すなわち、物量対物量。

 

水上打撃部隊による艦砲射撃がレーザー級の迎撃できないほど撃ち込まれて、グダンスク沿岸のBETAを激減させる。

 

無線の交信と爆撃が繰り返されていた。

 

沿岸部のBETA群が爆散したことによる道が開けた。

 

戦術機部隊の役目は橋頭保の拡張だ。

 

先行するA6(イントルーダー)と共に海岸から40キロまでの距離を確保する。

 

「総員! 私についてこい!」

 

中隊機10機はBETAの群れへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後、「南」を担当するワルシャワ条約機構軍司令部に信じられない情報が飛び込んだ。

 

「北」を担当する日米連合軍が揚陸開始を始めた30分後には40キロ地点までたどり着いていたということだ。

 

「信じられん! アメリカは核でも使ったのか?」

 

「中央」を担当する欧州連合軍は揚陸作戦の進捗具合は6割。ワルシャワ条約機構軍はわずか4割だ。

 

アメリカとの連携は政治的理由で不可能である。

 

ワルシャワ条約機構軍にとって40キロの縦深という条件を満たすことは厳しい状況だった。

 

さらに、「南」を担当するワルシャワ条約機構軍と「中央」を担当する欧州連合軍の担当戦区の境界線上にBETAが梯団を形成し、グダンスク沿岸に向けて進行していた。

 

データーリンクを共有していない2軍が入り乱れて交戦すれば、同士討ちを招く恐れがある。

 

第666戦術機中隊長アイリスディーナはその梯団の前面部に展開する突撃級の漸減を提案し、

中隊機全10機は「南」と「中央」の境界に向けて進行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第666戦術機中隊のメンバーにも、アメリカが目標を達成したことは情報として届いていた。

 

「一体? アメリカはどんな魔法を使った!?」

 

グレーテルが口惜しそうに喚いた。

 

(ここに来る間に、見かけたF14(トムキャット)で構成される世界最強の戦術機部隊「ジョリーロジャース」がそれほどまでに強力ということなのか)

 

テオドールは髑髏のマークを付けた戦術機を思い浮かべた。

 

中隊は、BETA梯団の突撃級と接近した。

 

「総員! 奴らの足に鉛玉をぶち込めえええええええ!」

 

10機のバラライカの突撃砲が突撃級へと襲い掛かった。

 

 

中隊機に狙撃されたBETA以外は何か目標でもあるように、バラライカを無視し、橋頭保に向けて進軍した。

 

突撃級が無視したために、後続の戦車級と要撃級が中隊機を取り囲むが、やはりほとんどのBETAは中隊を無視した。

 

「これはいったい?」

 

中隊メンバーは状況を理解できないでいた。

 

しかし、この状況はあの時に似ていた。

 

そう、初めてテオドールたちが隼人と………「ゲッター2」と接触してきた時だった。

 

その時、カティアが叫んだ。

 

「全機戦況ウインドを見てください!」

 

欧州連合軍の戦術機がこちらに向けて進軍していた。

 

(増援が来るのか)

 

中隊に応援が来ることに安堵していたが、カティアの次の言葉に驚いた。

 

「西ではBETAとの近接戦は戦術機単独では行いません、支援砲撃をした後に戦うことになっています。」

 

「な!」

 

BETA群に砲撃をした後に、戦術機を突入させるのが西側の戦術のセオリーだ。

 

それが適用されるのとなると、BETAの群れにいる中隊までも砲撃に巻き込まれることになるのは必至だった。

 

「全機後退するぞ」

 

アイリスディーナが指示をしたが、中隊機に緊張が走る。

 

ここはBETAの群れのど真ん中、当然レーザー級の集団もいるだろう。

 

その上空を飛んで撤退するわけにはいかない。

 

「私が残ってレーザー級をやります。低高度飛行で後退してください。」

 

リィズがそう進言した。

 

「リィズ!? お前何バカなこと言って」

 

「こういうことは一番新米がやることでしょ? お兄ちゃん?」

 

たった1機でレーザー級をやるだと!? そんなことできるわけがない。

 

「中隊長! 俺も残ります。」

 

テオドールがアイリスディーナに向けて提言する。

 

「私も…」

 

「お前はだめだ」

 

カティアがそう言おうとしたところを、秘匿回線でテオドールが遮った。

 

2機では厳しいが、カティアをこんな博打に付き合わせるわけにはいかない。

 

「私も行くわ。」

 

「私も行きます。」

 

アネットとイングヒルトがアイリスディーナに申し立てた。

 

「承知した。08お前が小隊長だ、必ず生きて帰れ。」

 

「「「「了解」」」」

 

4機と6機に分かれて、前進と後退を始めた。

 

 

 

 

それから5分後、後退を決めた6機は不思議な光景を見た。

 

「何か」を、BETAの群れが取り囲んでいた。

 

6機はその状況を好機と捉えて、その戦域を脱出した。

 

一方、4機のバラライカは、レーザー級の集団と接触し、突撃砲をその群れに叩き込んでいた。

 

「よし、全機! 後退するぞ!」

 

テオドールの指示に応えて、4機が戦域を離れようとする。

 

しばらく進んだ後に、4機のバラライカを爆発の連鎖が包み込んだ。

 

「ぐ…………全機無事か?」

 

「私は大丈夫よ。」

 

長刀を杖替わりにして、アネット機が立ち上がった。

 

「私も無事です。」

 

イングヒルトも機体の損傷はなかった。

 

「リィズ!? リィズはどこにいった!?」

 

「お……お兄ちゃん」

 

リィズ機はテオドール達から少し離れた位置で倒れていた。

 

リィズ機はエンジン部が酷く損傷していた。

 

航空が不可能なのは簡単に見て取れた。

 

「………リィズ?」

 

「お兄ちゃん……私をおいて逃げて。きっとまた爆撃が飛んでくる」

 

「でも、お前をおいていくなんて」

 

やっと出会えた妹とこんなに早く別れるなんて……

 

「テオドール! 逃げないとマズイよ!」

 

アネットが急かした。

 

「はやく行って!」

 

「くそおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

テオドール達3機はリィズを置いて、宙域を去った。

 

何がシュタージのスパイだ。

 

あんな提案をして、俺たちが逃げ出せるように尽くしてくれた。

 

アイツがスパイであるはずがなかったんだ。

 

俺はどこか疑っていた。そんな気持ちでこの戦場に臨んだことがこの結果を招いた。

 

その時、「何か」とテオドールはすれ違った。

 

それに気を取られた瞬間。

 

リィズがいた位置に火の手が上がった。

 

その位置はデータ上でも記憶している。

 

間違いなかった。リィズは死んだ。

 

リィズは、欧州連合軍の砲撃によって死んだ。いや、リィズを殺したのは俺だった。

 

その時、爆炎から「何か」が飛び出してきた。

 

「な!?」

 

「それ」は、黄色の腕でリィズの機体を抱えていた。

 

「てめえら味方の上に爆弾落とすとはどういう了見だあああ!?」

 

オープンチャンネルで呼びかける「それ」は、奇妙な風体をした機動兵器だった。

 

その場に居たテオドールだけがその正体に気付いた。

 

それは、彼らの整備兵が隠し持っていた「機体」と同類にちがいない。

 

「まさか……もう一機!?」

 

リィズ機を救出したのは「ゲッター3」だった。

 

 

 

 

隼人編 9話

 

 

 

 



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弁慶編 第7話 「帝国の特型戦術機」

 

1983年 2月28日 午前7時 

バルト海

 

日本帝国軍戦術機揚陸艦「大隅」の甲板上で弁慶は、周りに一面に広がる多国籍の軍艦を眺めていた。

 

弁慶は、海を覆うほどの軍艦を見つめつつ、複雑な表情を浮かべていた。

 

瞼に浮かぶのは、難民キャンプと故障した戦術機で出撃しなければならない半数以下になった大隊だった。

 

これだけの戦力があれば、イヴァロの難民7000人を容易に救えるはずだ。

 

だが、この「世界」は、弱者に対してあまりにも厳しかった。

 

それだけ、余裕がなかったのだ。

 

「車少佐。ブリーフィングルームに来てくれ。」

 

巌谷中尉に呼ばれて、弁慶は作戦室に入った。

 

「我々は、戦術機1個小隊のみの参加となる。この戦闘に参加する全ての軍の中で最小規模だ。」

 

巌谷中尉が作戦内容の説明を始めた。

 

「よって、我々は、作戦内で最大規模の戦力を持つアメリカ軍と行動する。」

 

「北」海岸を制圧する米軍との合同作戦。

 

「米軍からの指示は……、「後ろに下がってみていろ。」だ。」

 

アメリカにとって、日本の戦術機1個小隊の戦力などあってないようなものだ。

 

ヴァンキッシュ小隊に戦場に出てこられた方が迷惑ということだろう。

 

「だが、我々は後ろで指を咥えてみることはできない。」

 

弁慶は、「ゲッターロボ」の有用性を日本帝国に知らしめなければならない。

 

篁達は、次代の戦術機のために「瑞鶴」の実戦データを集めなければならない。

 

小隊にも後方待機などする余裕はなかったのだ。

 

突如、艦内に爆音が走った。

 

「はじまったか。」

 

多国籍軍による艦砲射撃が開始された。

 

「海王星作戦」のゴングが鳴ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グダンスク沿岸のBETAは艦砲射撃によって撃破されていた。

 

いよいよ戦術機による橋頭保の拡張。40キロメートルの縦深が始まろうとしていた。

 

橋頭保には続々と、アメリカ軍の最新鋭機F14「トムキャット」が上陸していた。

 

F14に搭乗したアメリカ海軍第103戦術歩行戦闘隊「ジョリー・ロジャース」の隊員が軽口をたたいていた。

 

「なんだってジャップと組まなきゃいけないんだ?」

 

「お荷物がないと赤の連中との差が開く一方だろ」

 

「見ろよ! 日本の新型が出るぞ!」

 

「大隅」から2機の黒色の瑞鶴が飛び立った。

 

「ジーザス! 日本の噂の新型はF4だ!」

 

瑞鶴はファントムの改修機である。

 

F14に乗る彼らからすれば、最も古い戦術機の改修機が日本の最新鋭機など恰好の笑い話に他ならなかった。

 

だが、笑い話では終わらなかった。

 

「大隅」から彼らの想像を遥かに上回るものが現れたのだった。

 

「ジャップそりゃ一体何だ!? お前らは何を造った?」

 

その物体は、「大隅」から海中へ飛び込むとグダンスク海岸に浮上した。

 

彼らは知る「世界最強の戦術機部隊」の称号を返上しなければならないということを。

 

 

 

 

 

 

弁慶は先行していた巌谷、武蔵と共にグダンスク沿岸に到着した。

 

作戦に参加する3機の中で、指揮をとるのは巌谷の役目である。

 

巌谷は、初めて光線級の存在する戦場に立った。加えて、話だけでは戦局を1機で左右することも可能だという「ゲッターロボ」の存在が嫌でも頭をよぎる。

 

しかし、巌谷は実際にゲッターロボの戦いを見たわけではない。

 

現場指揮官として「ゲッターロボ」の真価を見極めなければならなかった。

 

そんな,巌谷をよそに、かつて世界を救った二人は、落ち着いていた。

 

「懐かしいな。この空気。」

 

武蔵は、弁慶にそう語りかけた。

 

世界を変えて、機体を変えても、仲間と共に戦うことに変わりはない。

 

「先輩! ゲッターチームの恐ろしさを見せてやろうぜ!」

 

弁慶は、今この場にいないチームリーダーの口癖をまねた。

 

「こちら、ヴァンキッシュ0」

 

一人、艦に残った篁から通信が入った。

 

篁は,コマンドポストとして指令台に立ったのだった。

 

「さて我々に下った指令は後方待機だが? 榮二どうする?」

 

「知れたこと。命令違反はうちの専売特許だ。」

 

巌谷はそう笑うと、部下の乗る瑞鶴とゲッター3を見た。

 

「君もかなり部下に毒されているようだね」

 

「行くぞ!! 新生ヴァンキッシュ試験小隊出撃だ!」

 

ゲッター3を先頭にヴァンキッシュ試験小隊はBETAの群れへと飛び込んだ。

 

「先陣は俺が切る。二人はサポートを頼む!」

 

弁慶が叫び、ゲッター3が目前のBETA群に突撃した。

 

要撃級がゲッター3に向かってとびかかり、大挟みをゲッター3に向かってふるった。

 

だが、大挟みはゲッター3の左手に難なく受け止められ、反対にBETA群へと投げつけられた。

 

要撃級は他の要撃級、戦車級と衝突し、動かなくなった。

 

「は!?」

 

巌谷は自分の目が信じられなかった。

 

ゲッター3は、片手で要撃級の攻撃を受け止め、投げ飛ばしたのだった。

 

間髪いれず、ゲッター3の周囲のBETAがゲッター3を取り囲み、一斉に襲い掛かった。

 

その数、およそ50。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

ゲッター3の腕が戦車級数体をまとめて払い飛ばし、伸びた腕で要撃級を掴み上げ、ジャイアントスイングの様に周りのBETAを薙ぎ払った。

 

「シシシ、絶好調だな。弁慶」

 

後続の瑞鶴が突撃砲を発射しながら、ゲッター3に追随するが、あまり効果はない。

 

ゲッター3の通った跡にBETAなど1匹たりとも残っていないからだ。

 

光線級がゲッター3にレーザーを放つが、装甲は傷一つつかなかった。

 

弁慶は、足元の潰れた戦車級を拾い上げて、その光線級に向けて投げつけた。同胞の死骸が目の前に現れたことによって照射を止めた光線級と死骸が衝突し、光線級は潰れた。

 

ゲッター3はゲッターロボの3形態の中でも攻撃力、防御力に優れた形態である。

 

光線級の照射を数秒受けた程度では、ゲッター3の装甲を貫通することなど不可能だった。

 

その光景を目の前で見て絶句する巌谷だったが、巌谷以上に驚いていたのは米軍である。

 

BETAとの近接戦闘など言語道断の米軍にとって、群れの中で大立ち回りを繰り広げるゲッター3は想像を絶した。

 

「ジーザス! ジャップはなんてものを造ったんだ!?」

 

「信じられない。たった1機でBETAの群れに風穴を開けやがった」

 

「負けていられん! 我々も追いかけるぞ」

 

群れの外周から砲撃をしていた彼らだったが、群れの中に飛び込んでいった弁慶達の後を追い始めた。

 

BETAは一目散にゲッター3に向かっていく、その集団を横から瑞鶴とF14が突撃砲で狙い撃つ。

 

ゲッター3は向かってくるBETAをちぎっては、投げて、突撃していく。

 

弁慶は気が付けば、40kmの縦深を終えていた。

 

予定の時間よりも、早くに目標を達成した。

 

「よし目標達成だ。車少佐、巴、小休止だ。」

 

巌谷は、「ゲッターロボ」の戦闘力に驚愕しつつ、冷静に指示をしたが、もう1機の瑞鶴は止まらなかった。

 

「先輩? どうしたんですか?」

 

弁慶の呼びかけすら無視し、瑞鶴は欧州連合軍の担当する「中央」へと向かったのだった。

 

「先輩!?」

 

「チ! 暴走癖がまた出たか!」

 

「中央」へと進行した武蔵を弁慶と巌谷が追いかける。

 

「どうしたんですか!? 先輩!?」

 

その時、ゲッター3が武蔵の声を通信で拾った。

 

「人類……敵は絶滅……未来のため」

 

武蔵の瑞鶴からは意味不明な言葉が飛び込んだ。

 

「先輩!? チィィィィ!!」

 

武蔵の瑞鶴は機体限界値のスピードを保ったまま、方向転換、急上昇、急降下を繰り広げた。

 

武蔵機はBETAを見つけては、突撃砲を連射し、BETAを殲滅した。その武蔵機に追随する巌谷機そしてゲッター3。

 

3機は、「中央」のBETA群に飛び込んでいた。

 

「日本機!? どうしてこんなところに」

 

「なんだアレは? 戦術機か!?」

 

欧州連合の戦術機部隊が突如現れた日本の瑞鶴とゲッター3に驚いた。

 

瑞鶴はまだいい、一目見ればF4の系列だということがわかる。

 

だが、もう1機はBETAの死骸の転がる戦地をキャタピラで高速走行する機体は彼らの想像を超えていた。

 

米軍のF14も到着し、「中央」は、日米連合軍、欧州連合軍が入り乱れる戦場となった。

 

「中央」も40kmの縦深を完了させていた。

 

「先輩! 何考えて!」

 

弁慶が武蔵へ呼びかけたが、武蔵は先ほどの様子とはうって変わっていた。

 

「弁慶。どうした?」

 

「あんたそんな機体で単機で突撃したら命がいくつあってもたりねえぞ!」

 

弁慶は武蔵を怒鳴りつけたが、武蔵は気にしていない。

 

「お前がいるからな。多少の無理はするさ」

 

「先輩、さっきのあれは?」

 

武蔵のあのうわ言のような言は一体なんだったのか?

 

「あれ? あれってなんだ?」

 

武蔵は覚えていないようだった。

 

モニターに巌谷の顔が映った。

 

「巴、てめえ」

 

「隊長、俺たちの瑞鶴の存在を世界に示したぜ」

 

武蔵の上機嫌なセリフに巌谷は呆れた。

 

「瑞鶴よりも……」

 

他の部隊は、何かを警戒していた。

 

言うまでもない。

 

彼らの警戒対象はゲッター3だった。

 

未だBETA戦の戦場となっていない国がとんでもない対BETA兵器を造っていたのだ。

 

味方であるうちはいい。だが敵になれば、先ほどのBETAのように素手で叩き潰されるのは自分達だ。

 

その時、「中央」と「南」の境目、欧州連合軍とワルシャワ条約機構軍との担当区の境目にBETA群が大挙として押し寄せグダンスク沿岸に進行しているとの情報が入った。

 

「欧州連合軍司令部より各部隊へ、「中央」と「南」の境界線上にこれより艦砲射撃を行う。各部隊は境界線上から離れろ」

 

だが、ゲッター3に乗る弁慶だけは、その「境界」に飛び込む10機の戦術機を捉えていた。

 

ゲッターの探知機能は、重金属雲の影響を受けない。他の戦術機よりも圧倒的に探査機能範囲が優れていた。

 

「ヴァンキッシュ3より欧州連合司令部。先ほどの境界線上にすでに部隊が入っている。砲撃は待たれたい。」

 

弁慶は「欧州司令部」に対して砲撃を待つように呼びかけた。

 

「こちらからは確認できない。砲撃は予定通り行う」

 

だが、司令部は弁慶の意見を取り入れなかった。

 

データリンクを共有していない両軍では他の軍の機体を把握することはできなかった。

 

否、把握していたとしても、「東側」の機体を守るために砲撃を止めることはなかっただろう。

 

だが、そんな背景など知らない弁慶には関係がなかった。

 

「先輩、巌谷中佐、そこで待っていてくれ!」

 

弁慶はゲッター3を「境界」へと走らせた。

 

弁慶は敵群に飛び込んだ「勇者」をフレンドリーファイヤで見殺しにするのは絶対に嫌だった。

 

「うおおおおおおおおお」

 

ゲッター3を視認したBETAが進路を遮るように立ちふさがった。

 

「どけええええええええええ」

 

ゲッター3の剛腕がBETAを投げ飛ばした。

 

米軍機、欧州機ともいずれとも異なる6機がゲッター3とすれ違い境界線上から離れていく。

 

「あとの4機はどうした?」

 

レーダーを確認すると、4機は依然として境界線上に向けて進行していた。

 

「間に合えよ!」

 

ゲッター3は最高速で境界線上へ向かった。

 

3機の機体とすれ違った。1機は、機体トラブルを抱えているのか全く動きを見せない。

 

その時、レーダーがグダンスクからの砲撃を捉えた。

 

砲撃は一直線に「境界」へと向かってきた。

 

エンジントラブルで動きを見せなかった1機が視界に入った。

 

「届けえええええ!」

 

弁慶はゲッター3の腕をその機体に向かって伸ばした。

 

ゲッター3の腕がその機体を抱えた瞬間、砲撃が彼らの頭上へ降り注いだ。

 

ゲッター3は機体を抱え込んだまま、地面にうつ伏せになり、砲撃からその機体を守った。

 

「大丈夫か! あんた!」

 

「え? 何があったの? 私生きてるの?」

 

弁慶の呼びかけにその機体の衛士が答えた。

 

信じられないことに、その衛士は10代の少女だった。

 

(こんな若い少女がこんな最前線に!)

 

弁慶には衝撃が隠せなかった。

 

「嬢ちゃん! 逃げるぞ!」

 

だが、「生きている」そのことに安堵した弁慶は、その機体を抱き上げたまま、「境界線上」から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月28日 午後4時 

 

 

グダンスクには簡易ながらも前線基地が展開されていた。

 

弁慶は、その手際に感心していた。

 

日本帝国の格納庫には人が溢れかえっていた。

 

その理由は一つ、「ゲッター3」を見るためだった。

 

「こいつが突撃級を真正面から殴り飛ばしたって?」

 

「動力はなんだ? 戦術機とは根本から違うぞ」

 

日本帝国本国でも作戦に参加した軍から問い合わせがひっきりなしに行われていた。

 

紅蓮中将は「機密事項なので回答は拒否する」と全ての国を門前払いしていた。

 

弁慶と武蔵は居心地が悪くハンガーから離れた。

 

あてもなく他の戦術機ハンガーを回っていると、どこからか言い争っている声が聞こえた。

 

それは「境界」に飛び込んでいた例の部隊だった。

 

言い争いに割って入る形で弁慶がその部隊に声をかけた。

 

「よう! 東の「勇者」達!」

 

突然現れた日本帝国軍人に東と西のドイツ兵は言い争いを止めた。

 

「あんた達は何者だ!?」

 

東ドイツの赤毛の少年が弁慶の前に立ち問いただした。

 

「俺か? 俺は日本軍……じゃなくて日本帝国斯衛軍の車弁慶少尉だ。」

 

「俺は巴武蔵少尉だ。お前らあんな10機くらいでBETAに飛び込むたあ大した腕だな!」

 

「な!?」

 

日本帝国はアメリカの庇護下にある「西側」の国である。そんな国からの称賛に東ドイツの衛士は驚いた。

 

「なんなのあんた達!突然やってきて日本は西側なのに何言ってるかわかってるの!?」

 

西ドイツの少女は弁慶達にかみついた。

 

「知るかよ。レーザー避けながらBETA群に切り込む奴らを凄いって言って何が悪い!」

 

武蔵は、同じような戦い方をしている隊を見てうれしかったのか、彼らを庇った。

 

しばらく言い争いをしていると、西ドイツの方の上官が現れて引き下がっていた。

 

弁慶達は改めて東ドイツの若すぎる衛士達へと向き直った。

 

(先の西ドイツの兵士も若かったが、こいつらは若い奴ばかりだな)

 

「日本帝国の衛士ですか? 私を助けてくれたのはどちらですか?」

 

金髪の青いリボンをした少女はあの時弁慶が助けた衛士だった。

 

「俺だが?」

 

「ありがとうございました!おかげでお兄ちゃんとまた会えました!」

 

金髪の少女―リィズは弁慶の両手を掴み、謝辞を述べた。

 

「お前があの時の衛士か。兄貴と再会できてよかったな」

 

「俺からも礼を言う。妹を助けてくれてありがとう。」

 

赤毛の少年―テオドールも礼を言った。

 

「同じ戦場で戦う味方だろ。気にするな」

 

その弁慶の発言に彼らは驚いたのだった。

 

まさか西側から東側へ「味方」と言われるとは思っていなかったのだ。

 

「あんた達は一体?」

 

茶髪の小さい少女兵士が飛び跳ねるように喜んでいた。

 

だが、その時巌谷中尉が場に飛び込んできた。

 

「不味いことになった。車少佐、巴!」

 

「……少佐?」

 

東ドイツの衛士は意味がわからないようだった。

 

「どうした? 巌谷。」

 

「ハンガーに戻るぞ!」

 

「おう!?じゃあな。嬢ちゃんたち」

 

弁慶、武蔵は巌谷と共にその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

去っていく彼らを見ていたテオドールは思った。

 

(聞きそびれたな)

 

「お前達のあの機体は「ゲッターロボ」なのか」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を眺めていた一人の人物がいたことに誰も気づいてはいなかった。

 

 

 

弁慶編7話終

 




お久しぶりです。

ようやく柴犬アニメ円盤全巻そろいました。やったぜ。
ゲームの第2部も楽しみです。


第一部 第3章のサブタイトルは「海王星作戦」ではないのですが、しばらくはネタバレ回避のためこのままでいきます。





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弁慶編 第8話 「立ちはだかる者」

 

1983年 2月28日 午後5時

旧ポーランド領 グダンスク

 

 

 

グダンスクに展開された日本帝国斯衛軍駐屯地にヴァンキッシュ試験小隊員が集合していた。

 

「巌谷中尉不味いこととは一体なんだ?」

 

「明日から俺たちはワルシャワ条約機構軍と行動することとなった。」

 

巌谷から伝えられたのはヴァンキッシュ試験小隊が日米連合軍を解消し、東側のワルシャワ条約機構軍と共に行動するということだった。

 

「なんだってそんな突然?」

 

西側にはある思惑があったのだ。

 

大規模両翼包囲網によるBETA殲滅作戦。通称アクティヴディフェンス。

 

面制圧による光線級制圧が西側の作戦であった。東側の主作戦であるレーザーヤークトではなく、西側のアクティヴディフェンスこそBETAに対して有効な方法であるということを証明しなければならなかった。

 

だが、西側の思惑は既になかば崩壊していた。

 

それは、日本の一機当千の新特型戦術機「ゲッター3」の存在だった。

 

日本帝国は、再三の他国の要求に対して、「ゲッター3」をワンオフで造られた特別機―仮称「G」とだけ世界に公表した。

 

「ゲッター3」が戦場を単機で駆け回れば、その分アクティヴディフェンスの有用性が薄まる。逆に、東側のレーザーヤークトの有用性が高まるのではないかと危惧した。

 

それは、西側としては避けたかったのだった。

 

そこで西側作戦首脳部は、最もワルシャワ条約機構軍が保有する戦術機が少ないことを建前に最も強力な戦術機「G」を保有する日本帝国斯衛軍と組むことを強要したのだった。

 

作戦では、「南」海岸に強襲するBETA梯団に対して、ワルシャワ条約機構軍と日本帝国斯衛軍が真正面に展開し、米軍と欧州連合軍が両翼ではさみ、包囲する。そこに艦砲射撃と戦車部隊による面制圧で殲滅する予定だ。

 

ワルシャワ条約機構軍でも、日本帝国斯衛軍と作戦を展開することに意見が交わされたようだが、地理的に「東」と「西」の境界にいる「日本帝国」を「東」に取り入れることに意味があるという理由、さらに東ドイツは、昨今国内を騒がせている白い機動兵器と「G」の関連性を疑い、「G」を間近で観察する必要性があると判断した。

 

西側作戦司令部は、「G」による戦局の乱れが生じる前に、逆にアクティヴディフェンスを用いるために「G」を使うことを選んだのだった。

 

「命令違反したらこの様だ。」

 

巌谷が肩を落とした。

 

「私たちに東と組んでBETAと足を地につけて殴り合えとはな」

 

篁も落胆した様子だった。BETAとの戦闘データを集めるのが目的なのに砲兵のように戦うことを強いられたのだった。

 

「また命令無視して、飛び込めばいいんじゃねえか?」

 

武蔵はいつものように能天気にそういったが、巌谷は首を横に振った。

 

「砲弾の雨の中を突っ切ることになる。ゲッターなら問題ないだろうが、瑞鶴ではハチの巣だ。それに紅蓮中将にも釘を刺された。目立ちすぎだとな。」

 

日本帝国斯衛軍紅蓮一派もゲッターの戦闘力がこれ程だと誰も予想していなかったのだ。

 

「命令に従うしかない」

 

巌谷は、小隊員にそう告げた。

 

「それと不必要に東側の人間と関わらないでくれ。お前達には関係ないかもしれんが、BETAがいなければ、あいつ等が俺たちの「敵」なんだからな。」

 

「BETAに圧されていながら、人類同士でいがみ合いか」

 

弁慶は、心底呆れたように声を漏らした。

 

「俺の本意じゃないが、少佐達が東側のドイツ兵と接触した時の西側ドイツ兵の反応が今の世界の常識だ。」

 

弁慶達は先ほど、弁慶達の態度に驚いていた両ドイツ兵との会話を思い出した。

 

「日本帝国の立場はわかったが、今日のようなことがあれば、俺は加勢にいくぞ。俺は国の立場を気にして、「味方」を見捨てるなんて真似は絶対にしない。」

 

これまで、難民基地で国際関係を気にせず、ただ人命を守るために戦ってきた弁慶にそういった世界の現状を理解して戦えなど弁慶には到底容認できるものでなかった。

 

政治面に考慮はしない。あくまでも、弁慶は余所者らしく、人命を守るために戦う姿勢を貫く気だった。

 

 

 

 

 

 

1983年 3月1日 午前8時

旧ポーランド グダンスク

 

 

 

グダンスク湾には、昨日よりはるかに艦船が集結していた。

 

そして、永続的に続くのではないかと疑ってしまうほどの水上打撃部隊による艦砲射撃が重金属雲の展開されたグダンスク内陸部に撃ち込まれていた。

 

米軍と欧州連合軍によるBETA梯団包囲作戦は、順調に展開されていた。

 

BETAの群れの進軍速度によって、前衛、中衛、後衛と分かれたその梯団に対して、海上部隊、地上部隊、戦術機部隊が連携して各個に攻撃し、BETAを漸減していった。

 

光線級も重金属雲の展開されている上での艦砲射撃で、その脅威が抑えられていた。

 

「ゲッター3」に乗り、ワルシャワ条約機構軍と共に「南」沿岸部に構える弁慶は正直なところ暇だった。

 

やることと言えば、偶に突破してくる突撃級の集団を単機で叩き潰すだけだった。

 

アクティヴディフェンスは、その有用性をこれでもかと東側諸国に示していた。

 

日本帝国軍の隣に展開する10機の東ドイツ軍の部隊も「西側」の戦いを驚嘆の目で眺めていた。

 

弁慶が助け出した東ドイツの少女兵の戦術機は破損していたはずだったが、10機いるということは、おそらく修繕が間に合ったのだろう。

 

弁慶は、彼女達に話かけたかったが、昨日の巌谷の話もあり話かけるのは、自重していた。

 

このまま作戦が順調に進めば、海王星作戦の第2部、内陸侵攻によるBETA漸減は成功するだろう。

 

「つまらんな、弁慶」

 

武蔵が欠伸をしながら、弁慶に話しかけた。

 

昨日のように武蔵は暴走することはなく、おとなしくしていた。

 

「作戦が上手いく行けばいいんじゃないですか?」

 

「米軍と西欧だけ暴れられてずるいぜ。にしても米軍と比べて、こっちの軍はなんともみずぼらしいな」

 

旧式のバラライカばかりの戦術機部隊に武蔵は目を留めた。

 

「あの小僧たちが、世界で最も技術を持った衛士ってのが信じられねえな。」

 

武蔵は、興奮した様子で話すが、弁慶は対照的だった。

 

「ああ、信じられねえですぜ。あんなガキが最前線で戦ってるなんて」

 

弁慶は心底辛そうに言葉を発した。

 

ゲッターロボに乗ることのできた彼らは若いころからインベーダーと戦うしかなかった。

 

そんな彼らの過去を嫌でも思い起こさせた。

 

「死なせたくねえな、弁慶」

 

「ああ、俺の目の前では絶対に死なせねえ。」

 

それだけの力が彼には、「ゲッターロボ」にはあった。

 

順調に行われていた作戦だったが、その余裕が突如打ち砕かれた。

 

光線級のレーザーが大陸の内陸部から発し、水上打撃部隊と砲兵部隊の砲弾を迎撃したのだった。

 

突然国連指令部からヴァンキッシュ小隊に通信がはいった。

 

「国連指令部より日本帝国ヴァンキッシュ小隊小隊長、応答願う。」

 

「こちらヴァンキッシュ1だ。どうしたのだ?」

 

巌谷が指令部からの応答に答える。指令部は慌てた様子で巌谷と通信した。

 

「単刀直入に言う。そちらの特型戦術機「G」に支援をしてもらいたい。現在、ポーランド内陸部から新たな光線級を含むBETA梯団が迫ってきている。そちらの「G」に突撃級の殲滅かレーザーヤークトそのどちらかもしくは両方を頼みたい。」

 

アクティヴディフェンスで囲んだBETA梯団とは、別に新たなBETA梯団がポーランド内陸部からグダンスク沿岸へ侵攻していたのだった。

 

新たに現れた光線級は、海上打撃部隊の射程外である、しかも重金属雲の展開もない。

 

よって光線級を排除するには、戦術機によるレーザーヤークトしかなかった。

 

だが、レーザーヤークトできる部隊は、限られていた。米軍の「ジョリーロジャース

」、東ドイツの「第666戦術機中隊」そして一機当千の「ゲッター3」を有する「ヴァンキッシュ試験小隊」だ。

 

すでにアクティヴディフェンスの絶対性は崩壊した。

 

だがそれでも、作戦全体を失敗させるわけにはいかなかったのだ。

 

そして国連指令部は、「ジョリーロジャース」の護衛として、「ゲッターロボ」に支援を要請したのだった。

 

「東」に頼るよりは、「西」に組みする新型機に頼る方が遥かにマシだったのだ。

 

「前線から下げといて、どの口が言ってやがる」

 

武蔵が国連指令部に噛みついた。作戦の政治的理由で作戦外へ追いやっておいて、ピンチになったら助けを求める。そんな都合のいい話を武蔵は認められなかった。

 

「だまれ巴!! 車少佐行けるか?」

 

「おう、あそこまで行って光線級潰せばいいだけだろ? 行くぜ!」

 

ゲッター3は単機でアクティヴディフェンスの外へ向けて進行しはじめた。

 

「気をつけろよ。弁慶何か嫌な予感がする」

 

「おうよ! 先輩! 後で会いましょう」

 

巌谷はそれを確認したのち、指令部へ向けて通信をした。

「こちらヴァンキッシュ1より国連指令部。こちらの「G」が単機で光線級へのレーザーヤークトを開始する。」

 

「貴隊の支援に感謝する。米軍の「ジョリーロジャース」にも支援要請している。連携して作戦に当たってほしい。」

 

国連指令部は「西側」の力のみで作戦を完遂するつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弁慶の乗るゲッター3が欧州連合軍の包囲網を抜けた瞬間だった。

 

弁慶は、レーダーにとんでもないモノが映り込んでいるのに気がついた。

 

「こいつは!?」

 

その瞬間。

 

弁慶の進む前方の地中からソレが飛び出てきた。

 

 

 

「まさか!!!!」

 

 

それは、この世界のモノではなかった。だが、弁慶はその物体を知っていた。

 

特徴的な細いシルエット、右腕には巨大なドリル。紛れもないそれは!

 

 

 

「馬鹿な! ゲッター2だとおおおおおおお!?」

 

ゲッター2が地中から姿を現したのだった。

 

ゲッター3は突然現れたゲッター2を前に足を止めた。

 

「誰だ? 誰が乗っている? 俺たち以外にもこの世界に来た奴がいたのか!?」

 

弁慶は、ゲッター2に通信を試みようとしたが、それよりも先にゲッター2のドリルが回転し、ドリルストームが勢いよく弁慶のゲッター3の頭上を掠めた。

 

弁慶にはゲッター2を操っている人物の素性は分からなかったが、このゲッター2を操っている人物が敵対意思を持っていることだけはわかった。

 

「てめえ! なんのつもりだ!」

 

ゲッター3の背面からゲッター2に向けてゲッターミサイルが放たれたが、ドリルストームによって叩き落とされた。

 

互いの威嚇攻撃に両者はひるまなかった。

 

弁慶の目的は光線級の排除だが、明らかにその進行をゲッター2が遮っていた。

 

(ここを突破するには、ここでこいつを倒すしかない。)

 

引く様子のないゲッター2を前に弁慶は覚悟を決めた

 

 

 

 

 

 

 

遠い世界、異形の群れの中、二機のゲッターが激突しようとしていた。

 

 

 

弁慶編8話終

 

 

 

 

 

 




真ゲッターロボ BETA最後の日 第一部 第3章

「ゲッター2 VS ゲッター3」

次話からサブタイトルを変えようと思います。

また隼人編に戻りますよ。






柴犬後編延期だそうで。

どこで買おうか悩みますね。



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隼人編 第10話 「矛盾」

 

 

月面戦争時

 

隼人達が所属する月面基地にインベーダーが襲撃をした。

 

隼人は、竜馬、武蔵とともにゲッターロボに搭乗し、弁慶とミチルは基地に残った。ゲッターロボは、基地を襲うインベーダーを殲滅した。

 

だが、信じられない報告がゲッターチームに飛び込んだ。

 

「隼人達の所属する月面基地からちょうど月の反対側に位置する基地がインベーダーに強襲されている。」との報だった。

 

「馬鹿な、インベーダー共が俺たちを陽動しただと!?」

 

ゲッター2に変形し、ゲッターロボがその基地に辿り着いたときには、全てが終わっていた。

 

基地には、無数のインベーダーが侵入していた。

 

「おい! 誰か生きている奴はいないのか!?」

 

武蔵が基地へ呼びかけた。ゲッターチームの予想を裏切り、基地からは応答があった。

 

「……たすけてくれえええええええええ!」

 

「我々はここだ!!」

 

生きている!

 

だが、そう安堵した瞬間。

 

それは絶望に変わった。

 

「おい! 竜馬、隼人! あれは!?」

 

武蔵は、目の前の光景を信じることができなかった。

 

「あれはもう……だめだ。」

 

隼人は、目の前のインベーダーを見てそう判断した。

 

助けの声は、インベーダーの体内から発生されていた。

 

インベーダーの体には、基地にいた幾人もの人の顔が張り付いていた。

 

そのどれもが、苦悶の顔を浮かべて、助けと痛みを請いていた。

 

そのインベーダーからいくつもの触手が伸びて、ゲッターを捕獲しようとした。その触手をゲッター2で抵抗することなく避け続けた。

 

「どうすればいい」

 

ゲッターチームの誰もがその答えを探していた。

 

「ジジイ! 隼人! インベーダーに寄生された人間を助ける方法は見つかったのか!!」

 

竜馬が叫ぶと戦況ウィンドウに基地にいる早乙女博士、ミチル、弁慶の顔が映し出された。

 

「残念だが、助ける方法は今のところ見つかっていない。」

 

博士の答えは残酷なものだった。

 

隼人は、無言で首を横に振った。

 

その答えを聞いた竜馬は……。

 

「隼人!俺に代われ。俺がやる。」

 

その通信を聞いた弁慶が回線に飛び込んできた。

 

「おい!竜馬!お前何する気だ!?お前まさか!?」

 

竜馬は通信を断った。

 

「オープンゲット!」

 

ゲッター2から3機分かれたゲットマシンがゲッター1へと変形した。

 

竜馬は一度、辛そうな顔をした後、顔を上げ、助けを求める人の声のする方を目を逸らすことなく真っすぐに見た。

 

「チ!…………ゲッッッタァァァァァビィィィィムウウウウ!!!」

 

ゲッター1の腹部から赤い光が発し、光線がインベーダーを貫いた。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

両手にトマホークを持ち、ゲッター1が基地へと突撃した。

 

隼人は目を伏せ、武蔵は帽子を目深に被り、竜馬の悲痛な叫びだけがコクピッドに響いていた。

 

 

 

 

1983年 2月28日 午後4時

旧ポーランド領 グダンスク

 

 

戦術機揚陸艦ペーネミュンデ内で戦術機整備の準備をしていた隼人に信じられない情報が飛び込んできた。

 

日本帝国の新型戦術機がBETAを何百匹も単機で倒しているとの情報だった。

 

隼人は、世界最強と言われる戦術機F14を見たが、F14ですらそんな戦果を挙げられるとは思っていなかった。

 

(単機でBETAを数百だと? まさかな)

 

だが、隼人の予想は当たっていた。

 

帰還した666戦術機中隊の口から語られた日本帝国所属機の特徴が、その機体がゲッター3であることを隼人に理解させた。

 

(不味いことになったな)

 

この戦いにおける666戦術機中隊―東ドイツの存在意義を示すという目的が困難になったのは言うまでもない。

 

東も西も突如現れた極東の島国がつくった戦術機(ゲッター3)に注目していた。

 

今や最先端のF14で構成されるアメリカの「ジョリーロジャース」のことすら誰も話題にしてはいない。

 

東ドイツの一個中隊など因縁ある西ドイツと他1隊以外に興味を引くものはいなかった。

 

隼人が戦闘で傷ついたリィズのバラライカを整備していると、アイリスディーナが訪ねてきた。

 

「全く予想外だった。まさか「もう1機」現れるなんてな。」

 

アイリスディーナは既に、その存在の正体に気がついていた。

 

この世界にとってイレギュラーな存在。

 

この世界に現れた新たな「ゲッターロボ」だということに。

 

「グダンスクは奴の話でもちきりさ。我らのことなど気にも留めてはいない。」

 

アイリスディーナはため息をつき、腕を組んだ。

 

「そんなことを言いにわざわざ声をかけにきたのか?」

 

隼人は、手を止めアイリスディーナの顔を見た。

 

「いや、貴様に言っていた「出撃禁止」命令を解こうと思ったまでだ。すでに私の描いた絵は崩れた。」

 

西側諸国が窮地に立たされれば、666戦術機中隊に加勢を頼むだろうというアイリスディーナの思惑は崩れた。

 

すでに、隼人のゲッター2を止めておく理由はなくなったのだ。

 

「あとは貴様の判断に委ねよう。より多くの命が救われるように動いてくれ。」

 

2機のゲッターが海王星作戦に加勢すれば作戦は容易に進むことになる。

 

だが、その戦場で666戦術機中隊は、自身の価値を知らしめることはできない。

 

「それでいいのか。」

 

「次のチャンスを待つさ。………もっとも次があればだが」

 

アイリスディーナはそう言うと去っていた。

 

 

 

次のチャンスまでに東ドイツと我々が生きていたら。と隼人はアイリスディーナがその言葉に含めているのを感じた。

 

「………次のチャンスか。」

 

そんなものがもう来ないことを彼女は知っている。

 

この戦場の他にチャンスはないのだ。

 

 

ゲッターのいる戦場で第666戦術機中隊が、世界にその名を示す方法が一つだけある。

 

作戦中、西側が「第666戦術機中隊」を頼る状況を、「虎の子の新型が所属不明機に襲われる」という形で生み出すことだ。

 

それは、「ゲッター2」で「ゲッター3」を止めることだ。

 

「問題は「ゲッター3」に乗っているのが誰かってことだ。」

 

隼人にとっては、乗っている奴の腕が悪ければ、悪いほど都合が良い。

 

「確かめる必要があるな。」

 

その時、格納庫で誰かが騒いでいることに気がついた。

 

隼人は、戦術機の陰から格納庫入口を覗いたところ、テオドール達と見知った顔を二つ見つけた。

 

他でもない、それはかつて隼人と共に戦い、共に世界を救った二人。

 

 

巴武蔵と車弁慶だった。

 

隼人は、すぐに彼らから見えない位置へと移動した。

 

隼人にとって、それは最悪という他なかった。

 

武蔵、弁慶どちらも「ゲッター3」の乗り手として、隼人の知る限り最強のパイロットだ。

 

それを止めなければならない。

 

隼人の脳裏にかつてその剛腕でインベーダーを駆逐していたゲッター3の記憶が呼び起こされる。

 

他人事などではない、隼人もその機体の中にいたからだ。

 

隼人の頬に汗がつたる。

 

「ゲッターロボ」3形態の中で最強のパワーを誇る「ゲッター3」を物理的に止めなければならない。

 

隼人も、この世界の他の衛士とともに「命」をかけなければならない場面が差し迫っていた。

 

二人が足早に、ハンガーを去っていった。

 

隼人は、その様子を眺めていた。

 

 

隼人の元に、テオドールが訪ねてきた。

 

「ハヤト……あんたに聞きたいことがある。あの機体は、「ゲッターロボ」だな。あいつらはあんたの知り合いじゃないのか?」

 

テオドールも、既に日本の「新型」が「ゲッターロボ」だということに気がついていた。

 

「ああ……。」

 

「ハヤト……お前はあいつ等といかなくていいのか? 仲間なんだろ?」

 

「今の俺には、他にすることがある。」

 

テオドールの顔に安堵がみえた。

 

「テオドール。アイリスディーナは、この戦いを東ドイツの「666戦術機中隊」の存在を西に知らしめる機会にするつもりだった。」

 

「ああ、俺もさっき聞いた。だが、この状況なら難しいだろう。今まで救われていたものにチャンスを潰されるとは……皮肉だよな。」

 

テオドールも諦めの兆しをみせていた。

 

「もしチャンスが……中隊の目的を達成できるチャンスが与えられたなら……命を賭して目的を達成できるか?」

 

隼人の珍しい問いかけにテオドールは目を見開いた。

 

「俺はこれまでと変わらない。もしあんたが……チャンスをくれるってんなら俺は、全力を尽くす。」

 

隼人は、その答えに頷いた。

 

「……わかった。俺も命を懸けよう。」

 

(お前達……俺の「仲間」の守りたいものを……「信念」を守るために)

 

 

 

ゲッター3を止めてみせる!!

 

 

 

隼人は、今の所属、立場を捨てて弁慶達とともに行くという衝動に駆られたが、そうするわけにはいかなかった。

 

隼人は、もう「第666戦術機中隊」の仲間であるのだから、仲間を裏切ることは、かつての自身の行いを繰り返すことに他ならなかった。

 

だから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月1日 午後0時

グダンスク内陸部

 

 

 

アクティヴディフェンス失敗。

 

その報を聞いた隼人は、既に内陸部の地下に潜んでいた。

 

ゲッター3が新たなBETA梯団へ向かうのを待ち構えていた。

 

隼人はいくつかの偶然が重なるように、博打を打っていた。

 

一つ目の博打は、アクティヴディフェンスが失敗すること。

 

二つ目の博打は、作戦司令部がゲッター3に救援要請をすること。

 

三つ目の博打は、ゲッター3に乗っているパイロットが一人であること。

 

「ゲッターロボ」は3人乗ってはじめてその性能の真価を発揮することができる。

 

それは単独で乗る状態に対して3人ならおよそ9倍の出力である。2人でも4倍の出量である。

 

エネルギー量にそれだけの差があれば、いかにゲッター最速のゲッター2を操る隼人といえど、「ゲッター3を止めること」など不可能だった。

 

近づいてくるゲッター3のゲッター炉心のエネルギー数値は、隼人機とほぼ同値であった。

 

博打には勝った。それならばあとは!!

 

隼人はゲッター2を駆り、ゲッター3の前に飛び出した。

 

「こいつを止めればそれでいい!!」

 

隼人は、今の仲間の守りたいものを守るために、かつての仲間と戦うことを選んだ。

 

 

「行くぞ……ゲッター3!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲッター3の周りをゲッター2が高速移動する。

 

ゲッター3の最高速度は時速200キロメートル。

 

対して、ゲッター2の最高速度はマッハ3。

 

これだけの差があるが、隼人はスピードを緩める気などない。

 

ゲッター3の時速200キロメートルは足の話だ。手の速さは、それを遥かに超える。

 

音速レベルで飛び回るインベーダーを掴んで、叩き落したことすらある。

 

それを証拠に、ある一定の距離間を守らなければすぐに黄色の腕が飛び込んできた。

 

地中からの攻撃も不可能。本来、水中での活動を考慮されているゲッター3は、上下前後左右の空間把握、すなわち水面、水中、そして地中すべてにおいての把握が他の機より上だ。

 

飛び出した先に、モグラ叩きのように、黄色い腕が待ち構えているだろう。

 

追いすがる黄色い腕を避け、隼人はゲッター3の背後に回り、ゲッター3の背面へ向けてドリルストームを叩き込んだ。

 

ゲッター3は、後ろに振り返り、腕を十字にしてドリルストームを受け止めた。

 

ドリルストームでは、ゲッター3の強固な防御力では足止め程度にしかならない。

 

ゲッター3は、ゲッター2の攻撃を捌きながら、着実に梯団へと向かっていく。

 

「こいつに乗っているのは、どっちだ?武蔵か?弁慶か?」

 

武蔵の方がより動きが単純で読みやすい。

 

だが、四ツ目の博打は外れていた。

 

隼人は、ゲッター3の周りを高速移動しながら、ゲッター3の動向に注意を払っていたが、ゲッター3がなにか妙な動きをしたのを確認した。

 

その瞬間。

 

ゲッター2の前に、何かが飛んできた。

 

間一髪。

 

それを避けたが、それは要撃級の大挟みだった。

 

ゲッター3は、BETAの死骸を音速を越える速度でゲッター2に投げつけたのだった。

 

「チ!」

 

こいつは、臨機応変で読みづらい武蔵ではない……弁慶だ。

 

「てめえ何者だ! なぜ俺の邪魔をする!?」

 

オープンチャンネルで怒鳴りあげる弁慶の声が聞こえた。

 

隼人はその問いに応えない。

 

そうこうしながらも、ゲッター3はBETA梯団に迫っていた。

 

ドリルストームでは、ゲッター3を完全に抑えることなどできない。

 

 

それは、ゲッター2で弁慶の操るゲッター3に格闘戦を挑まなければならないということを示していた。

 

隼人の狙いは、ドリルアームでゲッター3の背面にあるミサイルタンクを破壊することだ。

 

あそこを破壊すれば、中のパイロットを傷つけることなく、ゲッター3に損傷を与えることができるだろう。

 

 

隼人は、気づいていなかった。

 

ゲッター3がBETAの死骸をゲッター2に投げつけることができるということに。

 

弁慶に動きを読み取られつつあるということに。

 

最高速でゲッター2を加速させ、背後に回りこむ。

 

「もらった。ドリルアーム!!」

 

ゲッター2がその右腕を容赦なくゲッター3へとたたきつけた。

 

「な!?」

 

思っていた衝撃とは、異なるものに隼人は驚いた。

 

ゲッター2とゲッター3の間には、突撃級の外殻が挟まっていた。

 

ドリルアームがゲッター3に突撃級の外殻を突き破って辿り着く前に、ゲッター3のゲッターパンチが思い切りゲッター2に叩き下ろされた。

 

「チ!」

 

間一髪。

 

隼人は、ゲッタービジョンでその一撃を避け、高速でその場を離れた。

 

隼人は、冷や汗を流していた。

 

ゲッター3は、ゲッター2が飛び込んでくるのを待っていたのだった。

 

ドリルアームを一瞬止めるために突撃級の外殻を利用した。

 

ゲッター2の最高速の一撃を待ち構えるなど不可能だ。その突撃のタイミングを事前に知っておくことでもできなければ……。

 

今度は、秘匿回線。ゲッターロボ同士でしか通信できない通信で弁慶の声が聞こえてきた。

 

「隼人!! お前なんだろう!? 一体なんのつもりだ!?」

 

 

 

 

 

その問いに隼人は……。

 

 

 

隼人編 第10話 終

 



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弁慶編 第9話 「シビル・ウォー」

月面戦争時

 

 

 

竜馬達は、インベーダーを、寄生された人々を基地ごと焼き尽くして、帰投した。

 

その3人を真っ赤な顔をした弁慶が待ち構えていた。

 

「どういうことだ! 竜馬!!」

 

激昂する弁慶に対して、意外にも竜馬は冷ややかだった。

 

「どうもこうもあるか 作戦は終わった。それだけだ。」

 

「そういうことを言ってんじゃねえ!!」

 

竜馬の首を掴み、弁慶が詰め寄った。

 

「てめえ! あの中にはまだ人がいたんだ! 何か方法が……手があったはずだろ!」

 

弁慶は、寄生されたインベーダーの中の人を殺した竜馬が許せなかったのだ。

 

「何とか言えよ!!」

 

「インベーダーに寄生された時点で、人じゃねえんだよ!!」

 

竜馬は、それまでの態度を翻して、弁慶の手を撥ね退けた。

 

「この人殺しが! よくもそんなことを!!!」

 

弁慶は竜馬を殴ろうとしたが、それを武蔵が体当たりで止めた。

 

「やめろ!弁慶! 俺たちがここで争って何になる!?」

 

「退いてくれ先輩! 俺はあいつが許せねえ!」

 

「俺はもう休む。疲れたんでな。」

 

竜馬は服を直すと足早に自室へと帰っていった。

 

「竜馬! 話は終わってないぞ! 待ちやがれ!」

 

武蔵に飛びつかれながらも弁慶は竜馬に追いすがろうと手を伸ばす。

 

「誰が……誰が一番辛いと思っているんだ! 手をかけた竜馬が一番辛いんだ!!」

 

武蔵の言葉にハッとなった弁慶はようやく落ち着いた。

 

「竜馬の言っていることは正しい。インベーダーに寄生された人間は既にインベーダーだ。あいつ等を救うには殺すしかない」

 

傍でやり取りをみていた隼人が弁慶に言い聞かせた。

 

「悲劇を生み出したくなかったら、強くなるんだな。弁慶。そうすれば、インベーダーに寄生された人間も減るだろう。」

 

隼人も竜馬の跡を追った。

 

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

弁慶は無力な自身に憤りを感じる他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月1日 午後0時

旧ポーランド領 グダンスク

 

「何がどうなってやがる!? どうしてゲッター2が!?」

 

弁慶は、突如現れ、自身の前に立ちふさがったゲッター2の前にたじろいだ。

 

「どうした!? 車少佐!?」

 

突然声を上げた弁慶に対して、巌谷が通信を送った。

 

「こちらヴァンキッシュ3!! 所属不明機に攻撃を受けている!!」

 

「なんだと!? 一体どこのどいつだ!?」

 

その時、ゲッター2が高速移動を開始し、弁慶の周りを回転し始めた。

 

「俺と同じ「ゲッターロボ」だ!」

 

「ゲッター!? 弁慶! ゲッターがもう1機現れたのか!?」

 

たまらず、武蔵が交信に入った。

 

「そうだ! 先輩! 敵は「ゲッター2」だ!」

 

弁慶はゲッター3の腕を伸ばしてゲッター2を確保しようとするが、ゲッター2は驚異的な方向転換、速度緩急を繰り返し、全てを避けた。

 

(とんでもねえ。こいつに乗っているやつは隼人クラスの達人だ)

 

さらに、ゲッター2は地中に潜ろうとはしなかった。

 

ゲッター2最大の特性が、ゲッター3相手では、最も有効な弱点になることを知っている。

 

(こいつは、各形態の特徴も熟知していやがる。)

 

ゲッター2が、ゲッター3の背後に回って、繰り出したドリルストームを腕で防御する。

 

「今まで、戦ってきた奴の中で間違いねえ……最強だ。」

 

「車少佐! どうだ!? そいつを突破して、BETA群へ向かえそうか?」

 

「チ! 巌谷中尉! 今すぐには無理だ!! アレに乗ってる奴は凄腕だ! 油断したら逆にやられる!」

 

ゲッター3は、ゲッター2の攻撃を捌きつつBETA梯団へと進行しようとするが、うまくいかなった。

 

国連軍作戦司令部にも、日本帝国の「G」が攻めあぐめているとの情報が入った。

 

「馬鹿な! 日本帝国の「G」が所属不明機と交戦中だと!?」

 

「アレを止めることが可能な機体なんているものか!」

 

「一体!? どこの国の差し金だ!?」

 

「ソビエトか!?」

 

「ソビエトにそんな化け物がいたらBETAになんか負けてねえよ!」

 

作戦司令部は、「G」の投入で光線級及び新たなBETA梯団は解決すると思っていたことからの反動で、パニック状態となっていた。

 

「こちらヴァンキッシュ1。欧州司令部!」

 

巌谷から欧州司令部へと通信が入った。

 

「うちの3番機の進行が遮られている! このままでは、レーザーヤークト、突撃級の殲滅どちらも不可能だ! 障害を突破できる保証がない! 代案の検討を願う!!」

 

欧州司令部上層部には手札がなかった。

 

……獣の数字を冠する部隊を除いて。

 

 

 

 

 

 

1983年 3月1日 午後0時10分

グダンスク「南」沿岸部

 

「一体……どうなってるのよ」

 

アネットが飽和する無線交信に不安気な声を漏らした。

 

ワルシャワ条約機構軍とともに待機をしていた第666戦術機中隊。

 

テオドールは静かに時を待っていた。

 

彼の仲間が……チャンスを彼らにもたらしてくれるその時を信じて。

 

「欧州作戦司令部から第666戦術機中隊指揮官へ」

 

「こちらシュバルツ1だ。」

 

作戦司令部から666戦術機中隊へ米軍とともに「レーザーヤークト」の依頼が下された。

 

「総員傾注! 我々はこれよりグダンスク内陸部のBETA梯団に対してレーザーヤークトを開始する。」

 

「「「「「「「了解」」」」」」」」

 

テオドールは眼を開いた。

 

(これがそのチャンスなのか? ハヤト)

 

テオドールの待っていた答えがもたらされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

グダンスク内陸部では、依然としてゲッター2とゲッター3の戦いが繰り広げられた。

 

 

「妙だ。こいつの動きどこか見覚えがある。」

 

弁慶は、ゲッター3の攻撃を全て避け切り、高速移動するゲッター2に既視感を感じていた。

 

(……まさか?)

 

ヒットアンドアウェイを繰り返すゲッター2を前に弁慶を攻めあぐんでいた。

 

「こいつの狙いは俺を止めることか? それが何の得になる!? 人が死ぬだけだ!!」

 

「弁慶少佐!」

 

巌谷の通信が弁慶に入った。

 

「どうした巌谷中尉!」

 

「司令部は東ドイツの第666戦術機中隊へレーザーヤークトを命じた!」

 

「なんだって!?」

 

弁慶は、昨日最前線に飛び込んでいた10機の東ドイツの部隊を思い返した。

 

またあの少年兵が、砲弾と光線の雨を搔い潜って光線級を殲滅させられるのだ。

 

弁慶は、感情のまま破れかぶれに足元の要撃級の大挟みをゲッター2へと投げつけた。

 

それは、ゲッター2を掠めたのだった。

 

「まて……おかしい。」

 

弁慶は感情を押し殺し、冷静になった。

 

(ゲッターロボ最速のゲッター2になぜ届いた?)

 

投げつけた物体よりもゲッター2の方が速いはずだ。

 

(俺が無意識に相手の動きを読んだってのか?)

 

「なんでそんなことができる?」

 

それを可能にする条件は一つしかなかった。

 

(俺はこいつを知っている?)

 

ゲッター2のパイロットなど一人しか知らない。

 

「試してみるしかないな。」

 

「何か……何かないか。」

 

弁慶の目に突撃級の死骸が映った。

 

これだ!

 

ゲッター2が弁慶の背後に回りこんだ。

 

「来る!」

 

ゲッター2の突進に合わせて、弁慶は突撃級の死骸を手元へ引き寄せる。

 

ドリルアームの直撃に突撃級の外殻を合わせた。

 

その一瞬。タイミングは完璧だった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお」

 

弁慶は、拳を振り下ろしたが、ゲッター2はそれをゲッタービジョンで避け切った。

 

今の攻防で、弁慶は理解した。

 

「俺はこいつを知っている。そして……こいつも俺を知っている!!」

 

こいつは! こいつの正体は!!

 

弁慶は、ゲッターロボ同士の秘匿回線で呼びかけた!!

 

「隼人!! お前なんだろう!? 一体なんのつもりだ!?」

 

その問いに、ゲッター2は動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

グダンスク内陸部からBETA梯団は海岸線へと迫っていく。

 

「ジョリーロジャース」と「第666戦術機中隊」は作戦を成功させるために光線級へと向かう。

 

動きを止めた2機とは、対照的に作戦は進行していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲッター2に乗っていた隼人が口を開いた。

 

「……弁慶。よく俺だとわかったな。」

 

弁慶の動きを知っていてなおかつ、弁慶もその動きが読める人物。

 

それは、かつてのゲッターチームメンバー以外にいるはずもない。

 

所属不明機が隼人だと確認できた弁慶は自身を止める隼人に対して怒りを覚えた。

 

「隼人! てめえは何を考えている!? 今ここで俺たちが争っていれば、どうなるんかわかっているのか!? てめえは知らねえだろうが、東ドイツのガキどもが駆り出されるんだぞ! ガキを殺す気か!!」

 

「何も考えてねえのはお前だ。この作戦の意義とこの「世界」の現状がわかってないのはお前だ!!」

 

ゲッター2から弁慶と同様に隼人が弁慶に対して怒鳴りつけた。

 

「ゲッターで光線級を叩けば、この作戦は成功する。それがこの「世界」のためじゃないのか!!。」

 

弁慶は作戦を成功させることが優先だと隼人へ問いかけるが、隼人は緩めない。

 

「お前がこの戦場を荒らすことでこの世界に「機会」が失われるんだ!」

 

「「機会」?何の「機会」だ!? 隼人!?俺にわかるように説明しろ!!」

 

「この世界は、俺たちの世界と違う!侵略者に対して各国がバラバラで戦っている。それも東西冷戦の中でだ!」

 

隼人は弁慶に対して呼びかけた。

 

「わかるか? 弁慶。俺たちは突然この世界にやってきた。明日、いなくなっても何もおかしくないんだ! そんな俺たち余所者が東西融和の種になるかもしれないこの「機会」を奪ってもいいのか!」

 

「な!?」

 

弁慶の目に迷いが生まれ、この作戦の指揮系統の歪さを思い返した。

 

隼人の口ぶりから、隼人はこの世界の現状を弁慶以上に理解していることがわかった。

 

「この世界は他陣営の国を盾にして、生き延びている。俺たちの行動で「この世界のチャンス」を奪うわけにはいかないんだ。」

 

弁慶の脳裏にキャンプで暮らす難民たちの顔が浮かぶ。

 

(確かにそうだ。この世界が一つになるチャンスに、俺たち余所者が邪魔するわけには…)

 

弁慶は、ゲッター3の腕を下ろそうとしたが、今度は、かつてインベーダーに寄生された人達の顔と、作戦で出会った東ドイツの少年兵たちの顔が浮かんできた。

 

失われた命、そしてこれから失うことになる命。

 

弁慶は、再び顔を上げて、ゲッター2と隼人を見た。

 

その目に迷いはなかった。

 

「てめえの言い分はわかった。だが、それとこれは別だ! 大義名分でガキどもを殺す気か? 目の前の助けられる命を救えないで何が「世界」だ! どけ神隼人! 俺は俺の仲間の「命」を守る! あの時とは違う!今なら間に合うんだよ!」

 

ゲッター3は内陸部へと再び進み始めた。

 

「弁慶……それはできない。俺も俺の仲間の……あいつらの命を懸けても守りたいと思っている「夢」を守るために戦う! たとえお前と殺しあうことになってもな! 俺は二度と仲間を裏切らん! こい! 車弁慶!」

 

ゲッター2はそれを迎え撃つ。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

二機のゲッターは、互いの素性、事情を知ってもなお、戦うことをいとわない。

 

それがBETA大戦の「最前線」だけを知っている者と「最前線」を知らない者の差だった。

 

彼らは……彼らの守りたいものために……止まることなどできなかった。

 

2機のゲッターはさらに激しく衝突を繰り返すのだった。

 

 

弁慶編 9話 終

 




マブラヴ世界で分かれたゲッターチームがゲッター同士で戦うって最初どうかな?って思ったんですが、思ったより好評でよかったと思います。

竜馬編書きたいなー。と思いつつもまだまだ海王星作戦は続きます。

それではよいお年を。

PS

初めて、「活動報告」書いてみました。


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弁慶編 第10話 「交差する拳」

1983年 3月1日

グダンスク

 

 

「巌谷中尉! 俺の半径500メートルに他の戦術機を入らせるな! 巻き込まねえ自信がねえ!」

 

弁慶は、レーザーヤークトを行う戦術機部隊に対してゲッター同士の争いに巻き込まないように呼びかけた。

 

進撃するジョリーロジャースや第666戦術機中隊がゲッター2のドリルストームやゲッター3の腕に巻き込まれる可能性があるからだ。

 

「わかった。司令部にはこちらから伝えておく!」

 

「待ってろ! 邪魔者を片付けて、光線級は俺が潰す!」

 

ゲッター2とゲッター3は依然交戦状態であった。だが、その位置は少しずつ内陸部へと近づいていた。

 

もしこれが逆であったなら、すなわち突破する方がゲッター2なら勝負は一瞬だったであろう。

 

ゲッター2のスピードにゲッター3は追いつくことはできない。突破したなら追いつく術がない。

 

だが実際は逆だ。突破しようとするゲッター3に対して、スピードが売りのゲッター2ではあまりにも力不足だった。

 

BETA梯団に向かって一直線に進むゲッター3に対して、ゲッター2が攻撃を掛けてなんとか止めようとするが、ゲッター3にいなされその進路を阻むことができない。

 

じわじわと内陸部へと進撃するゲッター3とそれを阻もうとするゲッター2とBETA梯団先鋒の突撃級集団が接触するまであと10分といったところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内陸部へ進まんとする10機の獣の数字を冠する戦術機部隊がその付近を通過した。

 

「なんだって、アレが日本の化け物戦術機と闘ってるんだよ! あいつは味方なんじゃないのかよ。」

 

アネットが2機の怪物の戦いを横目に見ながらそう呟いた。

 

「「白モグラ」と戦えるものがこの世界にあったのか?」

 

グレーテルだけでない、中隊員は今まで自分達を救ってくれたゲッター2が人類の新兵器と闘っている理由が謎だった。

 

テオドールとアイリスディーナを除いて中隊内に彼らの戦う理由を知っている者はいない。

 

テオドールは操縦桿を握る手に力を込める。

 

彼らの仲間がかつての仲間と闘う選択をしたことを無駄にしないために。

 

テオドールは、昨日の隼人のなにか覚悟を決めた顔を思い出した。

 

(アンタはこうなることがわかっていたのか? ハヤト?)

 

「集中しろアネット。俺たちはいつも通りレーザー級を殺す。それだけだ。」

 

テオドールの言葉にアイリスディーナは頷いた。

 

「総員。まもなくBETA群へと入る。各機我々の活躍に海王星作戦の成否がかかっている! 不埒な異星起源種にシュヴァルツェスマーケンを下してやれ!!」

 

アイリスディーナの声もどこか気迫を感じとれた。

 

「「「「「了解!!」」」」」」

 

中隊機に続いて、ついこの間まで最強だった戦術機部隊が通過する。

 

「ジーザス! ヨーロッパにはBETA以上の怪物がこんなにごろごろいるのか?」

 

「あれは日本の変態機だ! ヨーロッパは関係ないだろ!」

 

「機首を上げすぎるなよ! レーザーが飛んでくるぞ!」

 

「ジャガイモ野郎ども、マジかよ。この低さであの速度かよ」

 

トムキャットの編隊は、ゲッターの戦いと第666戦術機中隊の技術に驚きながらも、彼らについていく。彼らにも意地がある。

 

第666戦術機中隊、追随するジョリーロジャースを引き連れてBETA群のすぐ傍まで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

弁慶は焦っていた。

 

もう時間がない。

 

東西の戦術機隊はすでに通り過ぎた。

 

「隼人! お前は過ちをまた繰り返すつもりか!」

 

「過ち!? なんのことだ!」

 

弁慶は隼人とぶつかりあいながらも、呼びかける。

 

「あの戦術機の衛士たちは、命を懸けているのかもしれない。だが、あいつらの家族はどうだ!?」

 

「家族?」

 

弁慶は、旧フィンランドで、家族にウソをつきながら戦う一人の衛士を思い出していた。

 

「お前はミチルさんを失った元気の姿をしっているか! 残された家族は一生苦しむんだぞ!」

 

「……家族」

 

隼人に早乙女博士、ミチル、元気の家族、ついで中隊にいる兄と妹を思い起こされた。

 

今、戦場に飛び込もうとする衛士の誰もが、誰かの子で、誰かの大切な人だった。

 

覚悟をしているのは本人だけで、家族はどうなのだ?

 

「…………」

 

弁慶の問いに、隼人は答えなかった。

 

答えられなかった。

 

……隼人の心に迷いが生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人も焦っていた。

 

弁慶は、隼人と戦うよりも内陸部へと進行することを優先していた。

 

もはや時間がない。

 

中隊とゲッター3がBETA群を殲滅すれば、その手柄は間違いなくゲッター3にいくだろう。

 

それを止めるため、隼人は覚悟を決める他なかった。

 

ゲッター2は、ドリルストームを打ち出した。

 

急ぐゲッター3は、それを受け止めようとせずに避けた。

 

それが隼人の狙いだった。

 

隼人はその瞬間、避けたゲッター3に襲いかかった。

 

ゲッター3が避けるであろう位置を予め、ゲッター2の右腕で狙いつける。

 

隼人は必殺技でゲッター3を貫くつもりだった。

 

もしも直撃すれば弁慶の命の保証はない。

 

隼人の脳裏に弁慶の優し気な顔と早乙女ミチルの顔が浮かんだ。

 

隼人は忘れていた。いや、忘れるほどにそれだけ焦っていたのか、それとも心に生まれた迷いがそうさせたのかもしれない。

 

ゲッター2の隼人の動きはあまりにも正確だ。先ほどの戦闘でそれが弁慶で読まれつつあったことを。

 

隼人の必殺技など弁慶には百も承知だというのに。

 

 

 

 

 

 

弁慶はドリルストームを簡単に避けられたことに違和感をおぼえた。

 

(俺はこれを知っている!)

 

どこでこの技を見たのか。

 

弁慶は、この世界で見たミチルの幻を思い出した。

 

弁慶は眼を見開く。

 

「その技は知ってんだよ!」

 

弁慶は、ゲッターパンチを振りかぶって迎え撃つ。

 

タイミング、軌道、全てがミチルがシミュレーション室で見せてくれた映像と繋がった。

 

ゲッター2の右腕のドリルアームにゲッター3の左腕のゲッターパンチが合わさった。

 

その刹那。

 

ゲッター2が吹き飛んだ。

 

ゲッターパンチのクロスカウンターがゲッター2を捉えたのだった。

 

「隼人おおおおおおおおおおお!!」

 

ゲッター2は、数百メートル以上も吹き飛ばされ、地面に倒れた。

 

隼人は頭から血を流し、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

ゲッターパンチの直撃を受けたゲッター2は動かない。

 

(……隼人。死ぬなよ)

 

弁慶は、後ろ髪を引かれる思いで内陸部へと進むのだった。

 

 

弁慶編10話終

 



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隼人・弁慶編 第11話 「それでも……」

 

 

ミチルさんは死んだ。

 

なぜ、死んだ?

 

俺か、竜馬か、それともゲッターGのゲットマシンのせいか。

 

何が理由なのかなどどうでもいい。

 

俺は、大切な人を失った。それだけは事実だ。

 

「大切な人を取り戻したいと思うだろう? スティンガーくん」

 

「う、うん、そうだね コーウェンくん」

 

悪魔の誘惑に俺は抗えなかった。

 

それが大切な親友を……仲間たちの絆を崩壊させることになるなど考えもしなかった。

 

俺の心にあったのは、ただミチルさんにもう一度会いたいという気持ちだけだった。

 

意識を失った隼人は、夢を見ていた。

 

(俺は、まちがったのか。)

 

(一体…何を守りたかったのか。)

 

今ここで、テオドール達を助けたとしても、俺が竜馬を…ゲッターチームを裏切ったという事実は何も変わらない。

 

「二度と仲間を裏切らない」という誓いすらも、弁慶と……「仲間」と戦っていることですでに破綻している。

 

「矛盾」した思いが隼人の選択を鈍らせたのか。

 

心のどこかで、弁慶が正しいことはわかっていた。

 

テオドール達が任務を完遂しても、その命を失っては「仲間」を守ったことにはならない。

 

「……なあミチルさん、俺はまた間違えたのか、間違えたのなら言ってくれ。たのむ教えてくれ」

 

朧気な意識の中、隼人はミチルの姿を思い浮かべた。

 

ミチルが死んでからはその存在を忘れることはなくとも、その顔をできるだけ思い出さないようにしていた。

 

久しぶりに思い浮かべた彼女は…

 

隼人の中の「早乙女ミチル」は、静かに微笑んでいた。

 

その笑顔は、まるで「それでいい」と言っているようだった。

 

ならばこんなところで寝ている場合ではない!!

 

隼人の中の「最後の灯火」が灯った。

 

 

 

1983年

3月1日 グダンスク

 

 

既に東西の戦術機隊がBETA群に入って数分が経過している。

 

弁慶は、突撃級の群れの大波と格闘していた。

 

「邪魔だああああああああああああ!!」

 

最高速の時速200キロでそのまま突っ切る。

 

地下からも、突撃級がゲッター3に襲い掛かる。

 

「チ! なんだってこいつらはゲッターを目の敵にしやがる!!」

 

すでにゲッター3をBETAが取り囲んでいた。

 

「俺は認めんぞ! ガキ共を殺してでも守る世界なんて!!」

 

その時! それに気づいた。

 

地下から猛スピードで向かってくる存在を!!

 

「チ! まさか!!」

 

ゲッター3の進行線上にボロボロのゲッター2が地下から現れた。

 

「隼人!!! てめえまだやるつもりか!!」

 

「……弁慶。俺は間違っているのかもしれない。だが、それでもあいつ等を信じる!」

 

BETAの群れの中をかいくぐってゲッター2がゲッター3に迫る。

 

「信じるだと? 一体何を?」

 

「あいつらがレーザーヤクトを完遂して帰ってくることだ!!」

 

戦術機に乗る衛士の生還率がわかっていない隼人ではない。

 

「隼人お前は!!」

 

「俺は信じる! あいつ等を俺の仲間を信じる!」

 

弁慶の言葉を隼人が遮った。頭から出血した隼人がモニターごしに映る、それは手負いの虎に相違なかった。

 

「信じるだと? あの時俺たち、仲間から離れたお前が仲間を信じるっていうのか!!」

 

「俺はあの時、信じることができなかった。お前を!ミチルさんを死なせてしまったチームを!それが過ちだった。」

 

ゲッター2が再び、地中に潜った。

 

(地中に!?血迷ったか隼人!?)

 

ゲッター3相手に地中から攻撃するなど、普段の隼人ならば絶対にしないだろう。

 

「今は違う!! 俺は「仲間を信じる」! 信じることが「裏切らない」ことだ!!」

 

ゲッター3のソナーが地中のゲッター2を捉えた。

 

地中から襲い掛かろうとするゲッター2をゲッター3が待ち構える。

 

隼人の気迫に弁慶は圧されそうになった。

 

(先ほどまでとはまるで違う)

 

だがそれでも……。

 

「「それでも……俺はあいつ等を守る!!」」

 

二人は同じ言葉を放ち、激突した。

 

「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

地中からゲッター2の左腕、万力のゲッターアームが飛び出る。

 

そこに待ち構えたゲッター3がゲッターパンチを振り下ろした。

 

(手ごたえあり!!)

 

ゲッター3は素早く、腕を上げるとそこには!

 

そこには、潰れたゲッター2の左腕のみが残されていた。

 

「な!」

 

つぎの瞬間! ゲッター3の背部のゲッターミサイルが爆発した。

 

ゲッターミサイルタンクを隻腕のゲッター2のドリルが破壊したのだった。

 

隼人は、あえて地中に潜行して、攻撃することとゲッター2の左腕を囮に使い、弁慶のパンチに対してカウンターを加えたのだった。

 

「借りは返したぞ! 弁慶!」

 

隻腕のゲッター2と背部を損傷したゲッター3が向き合う。

 

「隼人! お前?」

 

「肉を切らせて骨を断つ」戦い方など、隼人らしくない。

 

むしろ隼人の方が損傷が大きいなど弁慶にはこれまでの経験上考えられない戦い方だった。

 

損傷したゲッター3が内陸部へ進もうとするが、隻腕のゲッター2がその前に立ちはだかる。

 

「どけえ! 隼人! もう時間がない!!」

 

「弁慶……俺の勝ちだ。」

 

次の瞬間、グダンスク沿岸部からの艦砲射撃がゲッター2機ごとBETA群へと降り注いだ。

 

BETAの大群は、艦砲射撃によって次々と撃破されていく。

 

内陸部からのレーザー掃射はない。

 

爆撃と煙が過ぎ去った後、BETAの死骸の上にゲッター3はただ1機だけぽつんと戦場に残っていた。

 

「イヤッホー!!666だ!666がやりやがった!!」

 

「俺たちの戦友がレーザー級を殲滅したぞ!」

 

「各員! BETAの殲滅を確認!! 我々の勝利だ!」

 

「我が陣営の666戦術機が作戦に成功をもたらした! わが陣営のだ!」

 

各司令部、各衛士、各陣営が好きかってに交信を繰り返した。

 

そのどれもが第666戦術機中隊を賛美していた。

 

「弁慶! ゲッター2は! ゲッター2はどこへいった!!」

 

武蔵の無線が無数の戦果報告の中に聞こえるが、弁慶は返さなかった。

 

(俺が間違っていたのか?)

 

「隼人おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

彼と今の今まで戦っていたかつての仲間は跡形もなく消え去っていた。

 

 

隼人・弁慶編11話終

 



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隼人・弁慶編 第12話「意思を持つ機械2 拒絶」

1983年3月1日 午後8時

グダンスク

 

海王星作戦成功を記念して、国家の垣根を超えた祝賀会がとり開かれた。

 

大騒ぎをする全ての陣営のなかで、一人の男が孤独を貫いていた。

 

頭に包帯を巻いた隼人だった。

 

隼人は、祝賀会の行われた会場の隅にいた。

 

「よう、隼人みつけたぜ」

 

隼人に声をかけた人物は、かつての仲間の一人、巴武蔵だった。

 

「武蔵か。久しぶりだな。2カ月ぶりか。」

 

「俺はお前とちがって4カ月だが、まあいいか。」

 

隼人は、2カ月と声に出したがそれ以上の長さに感じた。

 

隼人がチームを離れてから3年間顔を突き合わすことがなかったからだろうか。

 

隼人と武蔵はこれまであったことを互いに話した。

 

「つまり、隼人は東ドイツの奴らのために弁慶と闘ったのか。」

 

「ああ、そうだ。」

 

武蔵と弁慶は、隼人が全部隊強制参加のこの祝賀会にいるだろうと考えて探し回っていたのだった。

 

 

「俺は遅れてここに来たんだが、よくすぐに見つけたな。」

 

「いや、なんかこうピンと来たんだ! お前がここにいるってな。」

 

「……超能力はもう勘弁してくれ。」

 

「それで隼人、さっき話した俺のゲッターだが……」

 

武蔵と隼人は、祝賀会を抜け出した。ヴァンキッシュ試験小隊のドックを通り抜けて日本帝国の軍艦大隅までたどり着いていた。

 

ドック内には、ボロボロになったゲッター3とおそらく弁慶が回収したゲッター2の左腕がそこにあった。

 

大隅の中に入ってみると、もう1機の武蔵が乗ってきたゲッターロボがそこにあった。

 

「隼人、たのむぜ! こいつを直してくれ!」

 

「長い時間は見られんが、見てみよう」

 

隼人は、ゲッターロボの中に乗り込んだ。

 

機体の中にはどこか懐かしく、そして哀しい匂いがかすかにした。

 

隼人は、密室内で煙草に火を点けた。

 

その匂いを掻き消すために。

 

 

 

だが、その匂いは……きえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人が機体に乗り込んで約1時間が経過した。

 

武蔵は隼人を見つけたことを弁慶に教え、大隅まで戻ってきた。

 

「隼人がいま、俺のゲッターを見てる。これで俺もゲッターで暴れられるぜ!」

 

武蔵は興奮していたが、弁慶は対照的に冷静だった。

 

「たしかに、隼人が見てくれれば戦線復帰できそうだが」

 

「そうだろ!」

 

そんな会話をしていると、隼人がゲッターから出てきた。

 

「……弁慶。」

 

「隼人!」

 

二人は互いをみつめ、沈黙した。

 

つい数時間前まで戦っていた間柄だ。気まずい雰囲気が流れる。

 

「おい隼人! どうだった!?」

 

武蔵は、空気を読まず隼人に問いかけた。

 

「会場に戻るぞ、少し長居しすぎた。歩きながら話す。」

 

3人は急いで会場へと戻りながら、話し始めた。

 

「結論から言う。あのゲッターは使えない。」

 

「どういうことだ!?」

 

隼人の言葉に武蔵が驚いた。

 

「あのゲッターは……」

 

隼人は息を呑んだ。

 

「あのゲッターには、動作しない理由がない。」

 

「おい隼人言っていることがわからんぞ」

 

武蔵の反応を待たず、隼人が続ける。

 

「あのゲッターは俺が見る限り故障していない。それは確かだ。もし動かない理由があるとしたらそれは……」

 

「それはなんだ?隼人」

 

(もしも「ゲッター線」の意思があるという仮説が正しいのなら。)

 

 

 

 

 

「ゲッターが自らの「意思」で動くことを拒否している。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祝賀会場に戻った武蔵は、すでに切り替えていた。

 

「動かないものは仕方ねえ。当分は瑞鶴が相棒だな。おっしゃ飲むぞ!巌谷と篁探してくる!」

 

武蔵が場を離れ、弁慶と隼人は二人になった。

 

「隼人、お前が正しかったんだな。」

 

「そいつはどういう意味だ?弁慶」

 

弁慶は、会場の様子を眺めて続ける。

 

「あれだけいがみ合っていた東と西が今じゃ仲良く酒を飲んでいる。」

 

隼人が、目を向けると東陣営と西陣営が笑いあっていた。

 

その中心は紛れもなく666だった。

 

「隼人、お前が俺から守りたかったこの光景。お前の考えが正しかったんだ。」

 

隼人は煙草の煙を大きく吐き出した。

 

「……馬鹿かお前は、今回はたまたま上手くいっただけだ。全滅する可能性もあった。命を守ろうとするお前の行動が間違いなはずない。」

 

「……隼人」

 

「それにあいつ等を……世界の爪はじきにされていたあいつ等を本気で守ろうとしてくれた。」

 

隼人は内心弁慶に感謝していたのだった。

 

「なあ隼人、お前が良ければ俺たちと一緒に行かないか?」

 

弁慶の誘いに隼人は首を振った。

 

「あいつ等は、今微妙な立ち位置にいる。あいつ等が障害を乗り越えるまでは見届けたい。余所者なりに手を貸すつもりだ。」

 

隼人の「仲間を守りたい」という言葉に弁慶はもう誘わなかった。

 

「隼人……竜馬は来ていると思うか?」

 

「ああ……来ているだろうな。だが竜馬が来ているには静かすぎる。武蔵のように時間がずれているかもしれんな」

 

「月とかに飛ばされてたりしてな!」

 

「……そいつは笑えるな。」

 

「俺は今のお前なら竜馬も許してくれると思うぜ。」

 

「…………………」

 

隼人と弁慶が話していると、隼人の姿を見つけたテオドールとカティアが駆け寄ってきた。

 

「ここにいたのかハヤト探したぞ!」

 

「ハヤトさんも飲みましょう!」

 

弁慶は隼人に駆け寄る東ドイツの衛士を見てその場を立ち去った。

 

「余所者ね。あれだけ慕われていて何が余所者なんだか。」

 

弁慶は新たな仲間に囲まれる隼人の姿を見て笑っていた。

 

「車さん!」

 

背後から弁慶を呼ぶ女性の声が聞こえた。

 

弁慶が振り向くと、弁慶が助けた東ドイツの少女がいた。

 

「たしか……」

 

「リィズです! ささ、今日は飲みましょう!」

 

リィズは、弁慶の手を引いた。

 

「いや、俺は。」

 

「命の恩人にお酌くらいさせてください。」

 

「それじゃあ、1杯だけだ。」

 

「はい!」

 

東ドイツの少女に手を引かれつつ、弁慶は先ほどまでの隼人との会話を思案する。

 

意思。

 

もしも本当に武蔵の乗っていたゲッターロボがその意思によって、その行動を封じているのなら。

 

一体「誰」の意思なのか。

 

弁慶ははじめて、「この機体」を見た日の夜を思い出した。

 

暗闇の中でみた確かな幻。その人影。

 

 

 

 

「早乙女ミチル」の幻影を。

 

 

 

 

隼人・弁慶編12話終

 




第3章「ゲッター2VSゲッター3」終了です。




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第一部 第4章 「侵蝕する深淵」
竜馬編 第10話「鏡像」






 

 

 

 

銀河の中に無数の巨大な艦隊が進軍していく。

 

無数の巨大な怪物がそれを阻もうとするが、艦隊を止めることなどできない。

 

艦隊と怪物は宇宙の至るところで衝突を繰り返す。

 

無数の戦闘の中に、怪物たちが勝利する場面も中にはあった。

 

だが、怪物たちが勝利した瞬間に、空間を突き破り、星よりも巨大なソレが現れた。

 

巨大なソレが光を放つと怪物は光に飲み込まれた。

 

ソレの強大な力が怪物を殲滅したのだ。

 

なんという一方的な蹂躙であろうか。

 

 

 

 

幾星霜にもおよぶ年月と衝突を繰り返し、やがて艦隊は怪物を追い詰めた。

 

怪物の中にもソレと並ぶ巨大さを持つものが数十、数百もいた。

 

おそらくこれが、艦隊と怪物の最後の戦いとなるのだろう。

 

巨大なソレの中にいる「男」がなにか声を発した。

 

「男」の眼には、その戦場の敵のみが映っていた。

 

するとソレと同クラスの大きさのものが2つ空間を突き破り現れた。

 

巨大な三つのソレは、近づきやがて「一つ」になる。

 

三つの圧倒的な力を持つものが、「一つ」になった瞬間。

 

巨大な閃光が場を飲んだ。

 

光が収まると、怪物も艦隊も消え去っていた。

 

そして、巨大な「一つ」が残っていた。

 

「一つ」の発する光に消滅されたのか。

 

否、「一つ」と一つになったのだ。

 

「一つ」もまた空間を飛ぶ。

 

新たな戦場、新たな宿敵を求めて。

 

それは未来永劫続く戦い、無数にある戦いの結末の一つにすぎない。

 

この場には静寂が残された。

 

だが、怪物の群れの中にいたひときわ矮小なただ一匹が身を潜めて生き残った。

 

「一つ」の圧倒的な巨大さ、強さに比べれば細胞の一片にもならないちっぽけな存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

……だが

 

 

 

 

 

だが、生き残ったのだ!!

 

 

 

 

 

 

1983年 2月22日 

ソ連 ハバロフスク オルタネィティヴ研究所

 

 

 

研究所で休んでいたエヴァは飛び起きた。

 

彼女から流れる冷や汗が止まらなかった。

 

「なんだ! あれは一体!?」

 

彼女は、先ほどまで見ていた夢に恐怖した。

 

大宇宙は巨大な戦場であった。

 

あまりにもスケールが違いすぎる。

 

彼女は、あの「意思をもつ機械」すなわちゲッターロボにリーディングをかけて以来、不思議な夢を見るようになった。

 

それは、あの巨大な「ゲッターロボ」を中心とした宇宙戦争の光景であった。

 

それが未来のことなのか、それとも過去のことなのか、それもわからない。

 

ただわかるのは……

 

わかることは、その夢と「ゲッターロボ」そしてあの男「流竜馬」と関係があるということだ。

 

「ゲッターロボ」にリーディングをかけてその意思に触れてから、彼女の超能力はさらに強化され、新たな能力を開花させていた。

 

それは、対象者の体験した過去を観ることができるという能力だった。

 

だが、この能力は彼女のコントロール下にはなく、突然、目の前の人物が強く印象に残った体験が彼女の脳内に流れ込んでくるのだ。

 

その能力で、オルタネィティヴ研究所の白衣を着た人でなし共が、人形を殺した「ゲッターロボ」に恐れをなしていることを視っていた。

 

彼女の報告した「ゲッターロボ」のパイロット「リョウマ・ナガレ」なる人物を監視することそれだけが彼女に求められていたことだった。

 

彼女は、夢で見た宇宙での戦闘については報告しなかった。

 

報告する義務もなく、あまりにも現実的ではないことだから彼女は報告しなかったのではない。

 

彼女は、自分だけがそれを知っていることを望んだのだ。

 

彼女は今日も、着慣れぬ白衣を身に包みあの格納庫へと向かう。

 

「ゲッターロボ」とあの男に会うために。

 

 

 

 

 

 

同日

オルタネィティヴ研究所 御剣組 駆逐艦内

 

 

 

竜馬は、依然として進まない研究所視察に苛立ちを募らせていた。

 

さらに、「ゲッターロボ」の修理も捗ってはいなかった。

 

御剣組の技術者は、よくやってくれている。

 

しかし、なんせ扱うモノが今まで見たことも聞いたこともない「ゲッターロボ」だ。

 

指示する竜馬も技術者や研究者でもないのだ。

 

全てがスローペースだった。

 

地球に降りてきたというのに、月にいた頃と何も変わっていなかった。

 

変わったことと言えば、「ゲッターロボ」を研究しようとする研究者が一人増えたことだ。

 

まだ若い金髪の女性だった。

 

竜馬にとっては若い女の研究者と言うだけで近づきたくなどなかった。

 

嫌でも、彼女を思い起こさせる。

 

「早乙女ミチル」を。

 

今日も彼女が、格納庫へと足を踏み入れた。

 

「おはようございます。流大尉。」

 

「……エヴァ・ノーリ」

 

「エヴァと呼んでいただいて構いませんよ。」

 

白衣を身に包んだ女性が竜馬へと話しかけた。

 

表向きは、竜馬は大尉として活動をすることになっていた。

 

「お前はこいつが好きなのか。」

 

竜馬は黒色のゲッターロボを見上げ、エヴァもつられて見上げた。

 

「ええ、とても興味深いと思っています。流大尉は違うのですか?」

 

「ああ、俺は嫌いだ。こいつの顔なんざ見たくねえ。」

 

エヴァはすでに竜馬の真意を観ていた。

 

この機に乗ることで仲間と友を得て、そしてこの機に乗ることで仲間と友を失った。

 

好きとか嫌いとかで言い表すことのできないその業というものを竜馬は感じていた。

 

「エヴァ・ノーリ」

 

竜馬はゲッターロボを見るのを止め、彼女を見ていた。

 

「一昨日、ここで倒れていたガキ共がいたはずだ。あいつ等はどうなった?」

 

竜馬の眼が鋭くなっていた。

 

「……………………。」

 

エヴァが答えに困っていると竜馬は続けた。

 

「あいつらが超能力者だってことは知っている。なぜ倒れた?」

 

「……それは」

 

「あいつらに会わせろ」

 

エヴァは迷った後、研究所から少し離れた丘に案内した。

 

そこには、無数の墓標が立っていた。

 

竜馬は、彼女達がすでに亡くなっていることを理解した。

 

竜馬は無数の墓標を前に言葉を失っていた。

 

「流大尉、あの機体はなんなのですか?」

 

「何だと?」

 

「あの機械には、不思議な力が備わっているのはわかります。その正体は何なのですか?」

 

竜馬は首を振った。

 

「俺が聞きたいくらいだ。ゲッター線が進化の力を持っているくらいしかわかっていねえ。」

 

「ではあの夢は?」

 

「夢? 一体何のことだ!?」

 

竜馬はさっぱりわからないといった感じだった。ただ墓標を見つめていた。

 

エヴァは、研究所へ戻ろうと竜馬に呼びかけたが竜馬は「考え事がしたい」と断った。

 

エヴァが竜馬と別れ、丘を降りようとした時だった。

 

「うっっっっっ!」

 

そのとき、彼の記憶が彼女に流れ込んできた。

 

それは葬式だった。

 

遺体も、遺影も飾りもない、仲間うちだけでの寂しい式だった。

 

参列者は竜馬を含めわずか3人。

 

竜馬が仲間になにかを呼びかけていた。

 

仲間の死を乗り越え、前を向こうと呼びかけていた。

 

竜馬は、自身に言い聞かせていた。

 

あれは事故だったのだと。

 

自身が仲間を殺めたこと、仲間をバラバラにしたこと。

 

その眼は狂気ではなく、苦悩の色が映っていた。

 

 

 

 

 

 

エヴァは、我に返ると竜馬の方を振り返った。

 

竜馬は相変わらず、墓標を見つめていた。

 

彼の心はここにゲッターロボを連れてきたせいで人が亡くなったことに動揺していた。

 

竜馬は、墓標と若い女性の研究者を見たことで「早乙女ミチル」を思い出していたのだった。

 

今みた竜馬と夢で見た竜馬は、あまりにも違っていた。

 

どちらも同じ姿。

 

だが、エヴァにはとても同一人物とは思えなかった。

 

仲間の死を悼み、苦悶する彼。

 

宇宙戦争で敵を撃滅する彼。

 

この場にいる彼と夢の彼では、鏡に映したように正反対だった。

 

人と人の姿をした「何か」。

 

「……進化。」

 

彼女はそのフレーズを聞いて、気がついた。

 

彼が同一人物なのであれば、その機械も同一ではないのだろうか。

 

この「ゲッターロボ」がやがて……。

 

宇宙を破壊する機械の怪物になるのではないか。

 

「私は……未来を見ていたのか?」

 

ではなぜ?

 

なぜあそこまで感情豊かで人間らしいあの男が、狂気の眼をした人ではない「なにか」になったのだろうか。

 

その答えは今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

竜馬編 第10話終

 



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竜馬編 第11話「エヴァ・ノーリ」

 

 

 

1983年 2月25日

ソ連 ハバロフスク 御剣組 駆逐艦内

 

竜馬は、月詠大尉からあと数日でオルタネイティヴ研究所への視察が可能になるという報告を聞いた。

 

「ようやくか、これで何も得られる物が無かったらタダじゃおかねえ。」

 

すでにソ連に来て10日程にもなる、ゲッターを壊され、情報が何もないままでは竜馬の我慢は限界に近かったのだ。

 

「流、それよりゲッターの調子はどうだ!?」

 

「難しいな。戦闘どころか飛行だって無理だ。」

 

ゲッターの修理完成は、約3ヶ月予定だ。月までゲッターを運べばこれよりも早く直すことができるだろうが、そう簡単な話ではない。

 

「ゲッターとBETAを接触させれば、BETAは月のように撤退をはじめるはずだ。できるだけ早く頼む。」

 

「しかし、本当にそう簡単に行くかのう?」

 

国連本部から通信をしている御剣雷電が疑問を挟んだ。

 

「中将、月でハイブ攻略の前にBETAが撤退したのは事実です。地球でもそれと同様のことが起こること考えるのがふつうでしょう。」

 

「なにか重要なことを見落としているような気もするんじゃが……」

 

「それと竜馬、お前に聞かせたいことがある。貴様が儂に依然話した貴様の仲間「巴武蔵」のことだが」

 

「武蔵?」

 

竜馬は、元の世界の仲間の名前を雷電が話したことに驚いた。

 

「去年の11月、斯衛の紅蓮が同姓同名の人物を国連軍から日本帝国軍へと偽装転属してくれと頼まれていたのを思い出した。」

 

「おいジジイ? そいつはまさか!?」

 

「同姓同名の別人という可能性もあるが、貴様の仲間がこの世界に来ているのかもしれないということじゃ。」

 

「武蔵が先に来ている? 今どこにいるんだ?ジジイ!」

 

先に来ていた武蔵と接触すれば、元の世界に帰るヒントを得られるかもしれない。

 

「それは分からない。何かわかればまた教えよう。」

 

一筋の光明が差した気がした。そして、竜馬は思い立った。

 

俺と武蔵がこの世界に来ているのなら、きっと「アイツ」もこの世界に来ているのだろうと。

 

 

 

 

 

 

同日

ソ連 ハバロフスク オルタネイティヴ研究所内

 

 

 

エヴァは、「御剣組」の視察に備えて、公開不可能の機密を全て最高レベルの地下最深部のレベル4に隠そうと研究所員が忙しく回る研究所内で一人呆けたように立っていた。

 

エヴァはある報告書を盗み見ていたのだった。

 

そこに書いてあったのは、「第4世代」初期ロット同士の意識同一化、意識解離に反応が微弱ながら成功したということだ。

 

そこには「第5世代」もしくは「第6世代」に至れば安定して戦術機を運用できるようになるということ。

 

そして、不要になった「零号」。

 

つまり「私」を、この任務が終われば、他の任務に就かせるもしくは「破棄」も含めて検討することが、難解な暗号文書で記されていた。

 

彼女は、知るはずもない暗号を読むことができた。否、読んでないが、文書を持つだけで内容を理解してしまった。

 

ゲッターの意思に触れた彼女の能力はさらに強化されているのだ。

 

だが、高まる能力に高揚感など彼女にはない。

 

(私の居場所は……私の名前は……どこ?)

 

彼女にあるのは、喪失感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二次世界大戦。

 

ポーランドは、ナチス第3帝国の侵攻により国土を荒らされたが、それは戦後も続けられた。

 

戦後冷戦下において、ソ連を盟主とするワルシャワ条約機構に組みされ、社会主義同盟の一翼を担わされた。

 

それによってポーランド内の貴族は、党内のポストを条件にその財をはく奪された。

 

そんな片田舎の丘の頂に建つ旧貴族の邸宅に、超能力を持った少女が生まれた。

 

少女は、すくすくと育ち、はじめて能力に気がついたのは、些細なことだった。

 

家族と遊んだカードゲームで、相手の持っているカードがわかったのだった。

 

思えば、少女は、相手の考えることがなぜか手に取るようにわかることが多かった。

 

そのことに気がついてからは、さらにはっきりとわかるようになった。

 

少女は、能力を隠そうとはしなかった。

 

小さな町で、それが噂になるのは早かった。

 

少女が10代後半に差し掛かろうとする1973年、BETAが地球へと侵略を開始した。

 

少女の力はますます増していた。例えば、牧場で彼女は何の動作をすることなく羊達を従わすことができた。

 

彼女に聞けば行方不明になった人や動物などはすぐに見つかった。

 

知り合いが忘れ物をしていると、それをテレパシーで暗に本人が気がつくように伝えていた。

 

ソ連が超能力者を探していると噂が広まり始めた時だった。

 

少女に対して、両親は力を使うのを止めるように訴えたが、彼女は聞こうとはしなかった。

 

兄が軍に入り、残った一人の子供を守るために両親は尽力した。

 

1978年のある日、少女が成年へと差し掛かり、大学への進学が間もなくとなった時だった。

 

いつもの日常は唐突に崩壊した。

 

ソ連の軍人と白衣の男達が片田舎へと訪れ、少女を連れ去ったのだった。

 

少女は、研究素体としてそれまでの生活、自由を奪われた。

 

平穏な田舎の陽だまりから無機質で暗い研究所の地下に押し込まれた彼女は、その周りの空気と同様に感情を押し殺すようになった。

 

調査によって彼女に衛士適性があるということが判明し、研究者は狂喜した。

 

「ついに探し当てた。」

 

彼女はこれまでの名を奪われ、「ESP能力衛士素体第零号」となった。

 

彼女は、ものの一年も経たぬうちに「自身の子」だと言われた少女と引き合わされた。

 

彼女の遺伝子を利用した第3世代。人工ESP能力衛士。

 

虚ろな目をした幼子。勝つために兵士として、人本来の成長を著しく促進させ、人を物として扱う狂気に触れ、彼女の精神は病んだ。

 

「家に帰ること」

 

「自由を取り戻すこと」

 

この二つだけを目的に彼女は生きていた。

 

「零号」となった彼女の仕事は、研究素体として、「体を弄られること」と「戦術機を操縦すること」そして「他人の思考を覗き見る」ことだった。

 

家から連れ去られ数年経ったある日、彼女はポーランドの高官の心意を確かめる目的で、再びポーランドへと戻っていた。

 

調査を終え、ポーランドの高官の邪な考えを覗いた後、彼女は脱走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は一目散に家を目指した。

 

片田舎にあった私の家は、既に無くなっていた。

 

丘にあったのは、廃墟だった。

 

近くに住む人に聞いたところ、愛娘を奪われた両親はあらゆる手を使って私を取り戻そうとし、失敗し家を追われたとのことだった。

 

家族の行方は結局誰もわからない。

 

その人が、嘘を言ってないのはすぐにわかった。

 

「嘘を言っていない」とはっきり理解ることが苦しかった。それこそ私を家族から引き離した原因であったからだ。

 

結局わかったのは、ソ連の衛士になった兄が家族の行方を聞きに来たということだけだった。

 

「私は生まれるべきではなかった。」

 

その後、すぐに私の体に埋め込まれた発信機によって居場所を突き止められ連れ戻された。

 

私は生きる希望を一つ失った。

 

廃墟と化した我が家を見た時、きっと私は、本当の私は一度死んだのだろう。

 

私の人生のなかで、もっとも幸福だった時は、もう戻らない。

 

家族は誰もいなくなった。

 

私の子供はたくさん在るが、家族などではない。

 

「零号」という名の方がしっくりした。

 

物のような名前、物のような扱い。

 

それでいいとさえ思えた。

 

そうでないと、私の名前を思い出してしまう。

 

思い出すと、きっともう生きてはいけなくなる。

 

私は「心」を殺すことにした。

 

「心」を殺し、国に尽くす機械と化した。

 

だが、この報告書によって私はまた一つ居場所を失った。

 

喪失感が殺したはずの「心」を再び絶望に落とした。

 

「零号」という呼称すら私を構成する要素だったのだ。

 

国が、組織が、能力が、「私」を奪っていく。

 

私の「心」はいつ生き返ったのか。

 

きっとあの日あの流星を見上げたとき、月から落ちる「ゲッターロボ」に私は「心」を震い立たされたのだ。

 

いっそ、ゲッターロボの意思にその身を投げ込んだ彼女達のようにあの膨大な意識の銀河に入った方がよかったのでないか。

 

あの中に入れば「私」のように小さなことなどどうでもよくなるのではないか。

 

彼女達は、あの意識の銀河の星のどれか一つになれたのだろうか?

 

崩壊するアイデンティティと、未だ私に残る「自我」との葛藤。楽になりたいという思い。

 

「自由」のための勝ち目のない闘いかそれとも目の前にある「救済」か。

 

彼女達の見た「深淵」は彼女達に何をもたらしたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は再び「心」を殺そうとする。だが、あの機械の意思の銀河と宇宙戦争の光景が忘れられない。

 

「強大な力」とそれを操る「男」、その男が辿り着く「未来」。

 

一つ分かったことがある。それは、あの男―流竜馬がゲッターロボに近づくとあの意識の銀河は輝きを増すことだ。

 

男に「何か」を訴えかけるように感じるのだ。

 

一度揺さぶられ、取り戻した心は、留まることを知らない。

 

私は誰だ?

 

ゲッターロボとそのパイロットを調査する人物「エヴァ・ノーリ」?

 

誰だ。それは?

 

私は! 私の名前は!!

 

 

 

 

竜馬編 第11話終

 

 



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竜馬編 第12話「覗き見た深淵」

1983年 3月1日

ソ連 ハバロフスク オルタネイティヴ研究所 午後0時

 

 

 

「ようやく、研究所に入れるのか。」

 

竜馬は、月詠少佐や他の数名とともにオルタネイティヴ研究所の入り口まで来ていた。

 

「いいか、流。下手な真似したら国際問題になるぞ。」

 

「そんなこと俺が知るかよ。」

 

月詠少佐は、竜馬の答えに予想どおりの回答だったのか、動じず言葉をつづけた。

 

「だが、研究所内で貴様が「偶然」にも迷ってしまえばそれは不可抗力だ。」

 

「わかってんじゃねえか。月詠。俺は好きにやらせてもらうぜ。」

 

竜馬はオルタネイティヴ研究所で、元の世界に帰る手がかりを手に入れなければならないのだ。

 

すなわち、ゲッター線とBETAの関係性。

 

「言っておくが、物は壊すなよ。中将に迷惑が掛かる」

 

堅牢な門をくぐると白衣を着た男達とエヴァが待ち構えていた。

 

「月詠少佐。視察に時間がかかってしまい、申し訳ない。」

 

白髪の年配の男が月詠に対して話しかけた。どうやら研究所の長らしい。

 

「かまいませんよ。突然の申し出を受けてくださってありがとうございます。」

 

「この研究所は本来外部の方が入るようになってはいないので準備に手間取ってしまいました。」

 

「まあ、見せられるものと見せられないものがあるでしょうからね。」

 

月詠は作り笑いを浮かべて、所長と言葉を交わす。

 

「それはそちらも同じでしょう。あの機動兵器にはまだ秘密がありそうだ。」

 

「あれは借り受けたものですから、詳しくはわかりません。そちらの研究員の視察を我々は受け入れていますからいつでもいらしてください。」

 

「わかるもんならな」と小声で御剣組の技術者が呟いた。

 

月詠少佐と研究所所長が腹の探り合いをしていると、竜馬はこちらをじっと見つめてくるエヴァと目があった。

 

「さて時間もないことですし、視察をはじめよう。」

 

幾重にも重なった堅牢なセキュリティーを越えるとようやく入り口に辿り着いた。

 

「こ、この研究所は地上1階、地下2階の施設になっています。」

 

イゴーリと名乗った若い博士が案内する。青白く線の細い気弱そうな男だった。

 

無機質な窓一つない廊下が永遠と続いていた。

 

月詠少佐達は研究員に案内され、研究所の奥へと進む。

 

そこに竜馬の姿はなかった。

 

誰にも一人いなくなったことに気がつくことはなかった、だがそれは奇妙なことだ。

 

超能力を持つエヴァすら竜馬がその場にいなくなったことに気がついていなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしいぞ、真っすぐ歩いてきたのになんで一人になってんだ。」

 

竜馬は、研究所にぽつんと一人で立っていた。

 

研究物を案内されている時にスキを見て、単独行動をするつもりだったのだ。

 

だが、少しの間「武蔵」がこの世界に来ていることについて考えていた間に気がつけば一人になっていた。

 

「まあいい、それならそれで動きやすい。」

 

竜馬が割り切って研究所を探ろうとした時だった。

 

竜馬の背後から何者かが服を引っ張った。

 

「!?」

 

竜馬が、飛びのきながら振り返るとそこには虚ろな目をした銀髪の少女がそこに立っていた。

 

少女は、10代前半の容姿で、髪はセミロングで一つに結んでいた。

 

少女は、無言で竜馬を手招きした後踵を返し、研究所の奥へと歩いて行った。

 

「ついてこいってことか?」

 

銀髪の少女には近寄るなと言われていたが、研究所の内にあてもない。

 

竜馬は少女について行くことにした。

 

「しかし、妙だな。ムショ暮らしで鈍ったか。」

 

竜馬は少女が服に触れるまで、その接近に気がつかなかったことに不審さを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月詠少佐は、ホルマリン漬けにされた闘士級の姿を見ていた。

 

「我々の同士が多大な犠牲を払って捕獲した1体です。」

 

月詠少佐は感嘆を受けながらも、不自然さを感じていた。

 

「俺は、何をしにここに来たんだ?」

 

月詠少佐は、ここに来た目的を見失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は、竜馬を研究所の奥深くへと地下へ地下へと誘導する。

 

すでに地下3階まで来ていた。入口のセキュリティーが軽く思えるほどのセキュリティー、

隠された扉そのすべてが少女が歩くだけで開放された。

 

「何者だこいつ? こんなガキにここまで権限があるのか?」

 

地下3階の研究室内で竜馬は、一つのレポートを手に取った。

 

 

 

 

 

「BETAは生物なのか?」

 

我々は多大な犠牲を払い、BETA闘士級を343体捕獲した。

 

そこで我々は、体長、体重、体の部位、頭、鼻、足の大きさ、重さ、構成する元素に至るまで細部を徹底的に調査した。

 

そのことによって分かったことは、我々の想像を絶した。

 

343体すべてが、体長、体重、個々の体の部位すべてが同一だった。

 

寸分とくるいすらなかった。

 

これがどういうことか、わかるだろうか。

 

例えば、「人類」ホモサピエンスを見れば分かるだろう。

 

体色、性別、年齢、身長、人種、指紋、DNA。

 

60億人がいれば、それぞれが全く異なった「個性」を持つ。

 

ところが、この「闘士級」は全てが同一だった。

 

つまり、343体を横一列に並べて、番号をつけずにシャッフルするともうどれがどれか判別するのは不可能であるということだ。

 

これが生物と言えるだろうか?

 

BETAは「兵器」ではないだろうか。そう拳銃の「弾」のように、全て同一、同効果を持つために規格されたもの。

 

BETAは生物ではない。兵器なのだとしたら……

 

それは誰かの意思によって作られた兵器なのだろう。

 

では誰の意思だ?

 

誰が、人類を滅ぼそうとしているのだろうか? それは我々人類の一人も知ることはないだろう、神のみぞ知ることか。

 

それとも、神の意思か。

 

神が人を滅ぼそうとしているのか。

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は、レポートを読み終え少女の方を向き直った。

 

「おいガキ!」

 

少女は、竜馬の呼びかけには答えず、寄り道をせずに早くこいといった感じで手招きをして竜馬を急かす。

 

「見せたいものがあるのか?」

 

竜馬は、少女に再びついて歩く。ふと違和感があった。

 

「おい! お前いつ髪切った?」

 

少女の髪型がショートカットに変わっていた。

 

「………………」

 

少女は答えなかった。

 

さらに、研究所の地下深くへと踏み入れたところ、青白く光る広大な空間が広がっていた。

 

その空間には数十にもなる培養液の入ったカプセルが並べられていた。

 

そのすべてに銀髪の少女が入っていた。

 

「人工的な超能力者の育成工場か。」

 

竜馬は苦虫をかみつぶしたような表情でそれを見つめる。

 

「胸糞悪いな。」

 

次の瞬間。

 

その光景は竜馬に猛烈な違和感を感じさせた。

 

(なんだこれは、俺はこの光景を視っている!?)

 

知っているのではない。視っている。

 

どこだ? どこで見た?

 

ここまで案内した少女がにやりと笑った気がした。

 

 

 

竜馬の眼に一瞬だけ映像が流れ込んできた。

 

そこはどこかの宇宙空間に浮かぶ巨大な宇宙船の中だった。

 

先ほど見たようにカプセルが数百、いや数千、数万にも並んでいた。

 

そのカプセルの中にいたのは男性だった。

 

「號?」

 

だが、そのカプセルにいた人物は……號ではなかった。

 

「今のは一体なんだ!? おいガキ今のは!?」

 

竜馬は、我に返り少女に問いただそうとした、だが少女はその場から消えていた。

 

その空間には、竜馬しかいなかった。

 

次の瞬間、基地内に警報が鳴り響いた。

 

「次から次へと一体何だ? 俺のわかるように誰か説明しろ!」

 

竜馬は、一人孤独に叫んだ。

 

 

 

 

 

同時刻 同研究所内 上階

 

 

「待て、流大尉がいない。」

 

エヴァは、突然気がついたようにつぶやいた。

 

月詠少佐もそれに気がついた。

 

だが、なぜ今の今まで誰も気がつかなかったのか。

 

その数秒経った後、研究所内に警報が鳴り響いた。

 

その警報が竜馬の居場所を指し示していた。

 

竜馬が、研究員たちに連れられて上階へと戻ってきた。

 

「お前、どこに行っていたんだ?」

 

竜馬はその質問に答えず、考え事をしていた。

 

だが、明らかに激怒していることはその場にいた誰もがわかった。

 

研究所長が竜馬に詰め寄った。

 

「君、どうやって研究所の最深部へと!? それまでのセキュリティーはどうやって突破した?」

 

「俺が知るか! 俺は案内されただけだ! あのガキどもに聞け!」

 

竜馬は吐き捨てると、研究所から立ち去ろうとしていた。

 

「待って流大尉。その子供が貴方を案内したって言うの?」

 

エヴァが尋ねると、竜馬は研究所から出ていきながら答えた。

 

「一つ結びと短い髪の銀色のガキ共だ。」

 

「嘘をつくな! 人形共は、全て研究所内から退避させている!」

 

研究所長の発言を無視する竜馬。

 

「……一つ結びと短い髪」

 

エヴァは思い立ったように研究所の一室へと向かった。

 

その一室にはこれまで生成された「人形」のリストがあった。

 

生成の最も新しい「第4世代」の中でも最新の2体。

 

ゲッターロボの「深淵」に触れた2体。

 

「や、やはり……そうか」

 

エヴァは納得いったように、言葉を発したが、その言葉は恐怖に震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

その少女達の髪型はそれぞれ一つ結びと短髪だった。

 

その後エヴァは、基地内の監視カメラをチェックしたが、映っていたのは独りでに開くセキュリティーと竜馬の姿だけだった。

 

少女達の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は、研究所を出た後、格納庫へと急行した。

 

竜馬は、黒いゲッターを睨みつけ、叫んだ。

 

竜馬が研究所の地下で見た光景。

 

宇宙船内にあった数万ものカプセルの中にいた人物。

 

號ではなかった。

 

それは……。

 

それは竜馬のよく知っている人物に他ならない。

 

「てめえ!俺の仲間に……武蔵に一体何をした!?」

 

鋼の機体がその問いに応えることはなかった。

 

……今はまだ。

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月2日 

ソ連 オルタネイティヴ研究所

 

 

 

オルタネイティヴ研究所視察が終わったその翌日の未明。

 

「流! 起きろ!」

 

「……今度は何だ。」

 

カプセルの中の「武蔵」のことを考え、一睡もできなかった竜馬は、月詠を睨みつけた。

 

「ついてこい!」

 

巨大なモニターのある部屋に連れてこられた竜馬は、それに映っている物に驚きを隠せなかった。

 

「こいつは何がどうなってやがる!」

 

そのモニター内には、雪原を覆いつくすBETAの群れの中で激突する2機。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲッター2とゲッター3の映像が映し出されていた。

 

 

 

竜馬編 第12話終




読めない人もいるようなので削除して再度投稿しました。


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竜馬編 第13話「瞳の向こうに」

1983年3月2日

ソ連 ハバロフスク オルタネィティヴ研究所

 

「何がどうなってやがる? なんでゲッター2とゲッター3が戦っている? これはいつの映像だ!? ジジイ!?」

 

竜馬は、目の前の映像が信じられず、国連本部にいる雷電に問いただした。

 

両ゲッターの周りにいる生物はBETAだ。つまり、この2機のゲッターは、竜馬と同じ世界に来ていることは明白だった。

 

竜馬の頭に先ほどまで、おそらくこの世界に来ているのではないかと考えていた「武蔵」そしてその次に「隼人」の顔を思い浮かべた。

 

武蔵の乗ったゲッター3を相手にできるゲッター2など、隼人以外にはいないだろう。

 

その逆もそうだ。

 

「映像はつい昨日の国連主導の作戦中のものだ。場所は、旧ポーランド領グダンスク。」

 

「ポーランドだと!? ユーラシアの反対側じゃねえか。」

 

昨日見た宇宙船団のこともあり竜馬は激しく混乱していた。

 

「落ち着くのじゃ、今ここで貴様が慌てても何も変わらない。」

 

そして雷電は、竜馬に現在日本帝国の新型の特型戦術機「G」としてゲッター3が発表されていることを伝えた。

 

「武蔵はやはり日本帝国にいるのか? ゲッター2の隼人の方はどうなっている? ジジイ!?」

 

「そちらの方は全く情報がない。貴様の方が詳しいのではないか?」

 

作戦中の不測の事態に陥った司令部がゲッター3に支援要請をしたところ、突如ゲッター2がそこに現れ、その進行を阻んだということ。

 

作戦自体は成功し、ゲッター2の方はいずこかへ消え去ったということ。

 

その2点、作戦中のゲッターロボ出現の経緯を雷電は竜馬に伝えた。

 

「ポーランドで何か起こっているのは間違いねえな。」

 

(武蔵、隼人お前達はそこにいるのか? なぜお前達が争う、俺の次は武蔵か隼人?)

 

無数の武蔵を見た昨日の記憶が嫌でも引き起こされた。

 

「竜馬、月詠から昨日の研究所視察からお前の様子がおかしいと聞いている? 何があった?」

 

「どうせ信じねえよ。俺も信じられねえくらいだ。」

 

竜馬は、雷電に巨大な宇宙船と無数の武蔵のことを話すのをためらった。

 

あまりにも荒唐無稽だったからだ。

 

「酒を組み交わしたお前の言葉ならそれが何であれ信じよう。話してみよ。」

 

雷電の竜馬への語りかけは、父が子に諭すような優しいものだった。

 

「……ジジイ。」

 

竜馬は、口を開いた。竜馬はこの老人を信じることにしたのだ。

 

ESP能力者の生成工場で見た一瞬の幻。

 

巨大な宇宙船、その内部にあった無数の仲間。

 

そしておそらく自身が知らないことにもかかわらず、その光景を見たことがあるということ。

 

その既視感については、竜馬はこの世界を訪れる際に感じた「ゲッター線」の力に包まれた時に見たもの。

 

つまり未来に起こることだと感じとっていた。

 

「それでお前はどうする?」

 

竜馬は少し考え、言葉を発した。

 

「ゲッターが、それともゲッター以外の何かが武蔵を利用しているのなら俺は許さねえ。必ずそのすべてを潰す。」

 

「つまり、お前はかつての仲間を救うために戦うということか。」

 

「武蔵は仲間だ。あんな命を弄ばれるような目に合わせてたまるか。」

 

雷電は、安心したような顔をした。

 

竜馬と雷電の生命への倫理観はそう乖離していないことがわかったからだった。

 

ソ連のオルタネイティヴ研究所の研究員よりも異世界からきた人間との方がより認識を共有できることに安堵したのだった。

 

(この男なら我々人類の背中を任せられる。)そう確信した。

 

後は、この男の心の奥底にある憎しみと悲しみさえ癒すことができれば……。

 

「もしこの世界に来ている「巴武蔵」がお前の知っている「巴武蔵」でなかったらどうする?」

 

「偽者は殺す。」

 

竜馬は、そう断言した。

 

「……お前は仲間を救うために仲間を殺すのか。」

 

「そいつは、仲間じゃねえ!」

 

確かにそうだろう。竜馬にとって、それは仲間の顔をしたほかの何かに他ならない。

 

では?

 

「神隼人についてはどうだ?おそらくこのゲッター2に乗っているのは隼人なのだろう?」

 

「隼人は、俺を裏切り、A級刑務所に送りやがった。ミチルさんを裏切った。だから殺す。」

 

「神隼人こそ貴様の仲間であろう?」

 

そう問いをかけた竜馬の顔は、真っ赤になっていた。

 

そして絞り出すように声を出した。

 

「あいつはもう……俺の仲間じゃねえ。ジジイ!! 俺をグダンスクへ連れていけ。隼人も武蔵も俺が片をつける!」

 

雷電は、声を荒げた。

 

「馬鹿者が! 儂は貴様に仲間殺しをさせるつもりはない!!」

 

「ジジイ! 話が違うじゃねえか。俺がこの世界にいる間は協力する約束だったはずだ!」

 

雷電は、先ほどまでとは対照的に声のトーンを落とした。

 

「……それがお前に協力することにはならんからじゃ。」

 

「何だそれは!? てめえに俺の何かがわかる?」

 

「竜馬、儂は貴様よりも貴様のことをわかっているつもりだ。少し頭を冷やせ。昨日、今日といろいろあったからな。鏡でも見てこい。」

 

「クソジジイが!!」

 

竜馬は、扉を破壊するかのごとくいきおいよくドアを閉め、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人残った月詠少佐は、雷電へと疑問を投げかけた。

 

「中将。流を刺激してどうなされるおつもりで?」

 

「儂は、あやつに真に我らの仲間となってほしいだけじゃ、このままではいずれ独りになる。」

 

雷電は、竜馬に対し目先の戦力としてではなく、本当の仲間になってほしいとおもっていたのである。

 

「流の気持ちの整理がつくでしょうか?」

 

「きっかけ次第じゃろうな。昨日、今日ですでにサイは投げられた。後なにか一つ。」

 

(なにか一つあれば、きっといい方に転ぶ。)

 

「しかし、にわかには信じがたいですね。星より大きな宇宙船とは、」

 

「少し前なら信じられなかったじゃろうな。だが、」

 

「中将?」

 

「儂は信じるよ。あやつが儂らを信じてくれたように」

 

雷電は将としてではなく、年相応に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った竜馬は、鏡を見た。

 

そこにはひどい顔をした自身の顔が映っていた。

 

竜馬は、部屋を飛び出し格納庫へと向かった。

 

「ゲッターに乗ってポーランドへ行けば!」

 

(行って一体どうする?また仲間を殺すのか?)

 

その時、雷電の顔が浮かんだ。

 

「うるせえ! てめえらに何がわかる?」

 

誰もいないであろう深夜の格納庫へと着いた竜馬だったが、なんと先客がいた。

 

眼鏡を外し、白衣を脱ぎ普段着となっていたエヴァだった。

 

「流大尉? どうしましたこんな夜更けに」

 

「お前こそどうしてここにいる?」

 

「いえ、特に理由はないんですが」

 

「「…………………。」」

 

二人の間に沈黙が流れた。

 

「流大尉は、ゲッターロボに乗っていて不思議なことが起こったことはないですか?」

 

沈黙を破ったのは、エヴァだった。

 

「不思議なことだと!?」

 

エヴァの言った意味がわからず、質問に質問で返した。

 

「ええ例えば、星よりも巨大なゲッターロボや宇宙戦争の映像を見たことはありますか?」

 

「お前なぜ俺がゲッターに乗っていると知っている? 何者だ!?」

 

エヴァは、その正体を隠そうとはしなかった。

 

「私もESP能力を持っています。ゲッターロボが私にそのような映像を見せてくるのです。」

 

「ゲッターがお前に?」

 

エヴァは、これまで彼女の能力で知り得た「未来の竜馬」以外のことを話した。

 

「私は、知りたいのです。ゲッターロボが……「ゲッター線」が人類に何をしているのか、何をさせようとしているのか、そして我々はどこに行こうとしているのか。」

 

エヴァは竜馬の返答を待たずに続ける。

 

「彼女達は……ゲッターに魅入られた彼女達は救われたのですか? この中に彼女達がいるのかと思いましたが、私には見つけることができません。」

 

この超能力者の女性は、ゲッターが明確な意思を持って、人類に何かをさせようとしていると言っている。

 

(それが武蔵を使う理由なのか? ゲッターは武蔵を使って何をする気だ)

 

「そしてゲッターの描く未来にとって、この世界の今、最も邪魔な存在はBETAなのだろうと私は感じました。」

 

「お前は結局、何がしたいんだ?それがソ連の狙いなのか?」

 

「言ったはずです。私はゲッターを知りたい、ゲッターを知るには、貴方の信頼を得るのが一番の近道だと思いました。これは私の意思です国は関係ありません。」

 

「俺はもう誰も信じねえよ。」

 

隼人にA級刑務所にぶち込まれ、武蔵は生死不明な上に「ゲッター線」にいいように使われているのかもしれない。竜馬は仲間を信じることができなかった。

 

「それは貴方が仲間に裏切られたからですか?」

 

「お前に何がわかる!?」

 

竜馬は他人に心を土足で踏み入られて憤慨した。

 

「私にはわかります。仲間に裏切られた悲しみが、貴方を苦しめています。」

 

「違う!違う! 俺は隼人にA級刑務所で見た地獄をアイツに返すだけだ。それが俺の復讐だ。」

 

「怒りで目を曇らせて、また仲間を失うのですか? 今度こそ貴方の手で」

 

「てめえ!」

 

こいつは、ミチルさんのことも知っている。いや俺から感じとっている。

 

「私には貴方の仲間や失った物はわかりません。ですが、私には貴方の心だけはわかります。貴方は仲間を今も信じているから辛いんです。」

 

「俺は……」

 

エヴァに気圧され、竜馬は言葉を続けられなくなっていた。

 

「貴方の仲間をもう一度信じてみてください。私のことはそれからでいいです。」

 

暗い格納庫の中、黒きゲッターロボの下、二人は再び沈黙に包まれた。

 

竜馬は、何も言わずにその場を立ち去った。

 

彼女も沈黙していた。

 

なぜなら彼女には竜馬が変わったことがわかったから。

 

それは、彼女が夢で見た狂気に染まった目でも、先ほどまでの怒りと悲しみに染まった目でもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は、再び駆逐艦内司令室へと訪れていた。

 

「月詠、御剣のジジイを呼んでくれ。」

 

先ほどまでの打って変わって落ち着いていた竜馬に月詠少佐は異を唱えなかった。

 

「どうした竜馬?」

 

雷電の姿が、モニター上に映し出された。

 

「俺は、あいつ等に……俺の仲間に会いに行こうと思う。どうするかは会って話をしてみてから決める。」

 

「……竜馬。」

 

友と再び向き合うと告げた竜馬の瞳は澄んでいた。

 

これまでの友に裏切られた怒りと悲しみに染まった瞳ではなかった。

 

自身の本当の心の声を、暴かれた竜馬は、過去と向き合い、前に進むことを決めた。

 

雷電は、その瞳にかつてそこに在ったであろう、「友と人類のために戦い世界を救った若き青年」の姿を見た。

 

「わかった。儂が責任を持って貴様をグダンスクへと送ろう。」

 

今なら、また違う選択を生むだろうと雷電は感じたのだった

 

雷電は、月詠の方を見て頷いた。月詠は何か言いたそうだったが、それを押し殺した。

 

「流、貴様が西欧に行っている間ゲッターロボは任せろ」

 

「頼んだぜ、御剣のジジイ。月詠。」

 

竜馬は、新たな1歩を踏み出すこととした。

 

「今日はもう遅い休め。」

 

雷電は、竜馬にそう言い、竜馬は自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬がいなくなった司令室。

 

 

 

「何があったのでしょうね。突然変わりました。」

 

「フン、きっかけはそこら中に転がっていたんだろうよ。」

 

雷電は竜馬の選択に満足そうであった。

 

「中将、実は気になることがあるのですが、」

 

月詠は、ポーランドからもたらされた映像に気がついたことを話し始めた。

 

「この映像に映っている2機は、流の乗っている物と同じゲッターロボですよね。」

 

「そう聞いている。さきほど、竜馬も言ったであろう。」

 

月詠少佐の声は震えた。

 

「ではなぜ、ゲッターロボと接触したはずのBETAは地球から消えないのですか?」

 

「…………!?」

 

月のBETAはわずか竜馬のゲッターと接触した5日後には、消え失せていた。

 

だが、地球のBETAにその兆候は何もない。

 

「地球のBETAは何か違うのか、それとも地球が違うのか。」

 

答えはまだ出そうにはなかった。

 

 

 

 

 

 

竜馬編 第13話 終

 




お久しぶりです。早く全員そろってくれないかなー。まだ当分かかりそう。

実際は、隼人と戦ったゲッター3に乗っているのは、弁慶です。竜馬は「武蔵」だろうと思い込んでいます。(念のため)

これにて第4章「侵蝕する深淵」終了です。


次回は第5章「北欧にそびえる大雪山」です。


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第一部 第5章 「北欧にそびえる大雪山」
弁慶編 第13話 「始まりにして……」


1983年 3月2日

 

旧ポーランド領 グダンスク

 

東側陣営の船がグダンスクを離れ、本国へと帰っていく。

 

闘いの後、本当の意味で同志となった英雄たちを見送りに西側陣営の国の部隊が集結していた。

 

その中に、日本帝国に所属することとなった車弁慶の姿があった。

 

「弁慶、隼人はもう大丈夫だろうか?」

 

武蔵は、心配している様子で弁慶へと話かけた。

 

隼人は、ミチルさんを失って、一番取り乱していた。そのことを武蔵は言っているのだろう。

 

弁慶は、自信を持って武蔵の問いに答えた。

 

「あいつはもう大丈夫だ。」

 

結局、隼人と話をしたのはあのパーティの後だけだったが、弁慶には確信があった。

 

仲間を守るためにゲッター3と格闘戦を挑むなんて生半可な覚悟できるはずがない。

 

「あいつはもう仲間を裏切るような真似はしないと思いますぜ。」

 

「そうか。」

 

武蔵は、目を閉じ頷いた。

 

 

(心配なのはむしろ)

 

弁慶は満足げな武蔵の横顔を見て、武蔵の奇行を思い出した。

 

戦闘中の暴走、その時に言っていた何かそして、これは隼人と話してわかったことだが……。

 

弁慶と隼人は、ほぼ同時にこの世界に来ていたことがわかった。

 

なぜ先輩だけが時間がずれているのか?

 

「後は竜馬だけだな。あいつは今ごろ何しているか。」

 

そんな疑念を持つ弁慶の心は知らず、武蔵は残りの一人のことを話し始めた。

 

「先輩は、この世界に来る前に竜馬に会ったんですよね?あいつどんな感じでした?」

 

「ああ、それだがいまいち思い出せねえんだ。この世界に来た前後の記憶が曖昧でな。」

 

武蔵は、そう言うと立ち上がり駐屯地へと歩き出した。

 

その言葉にウソはないのだろう。

 

「竜馬、お前は今どこにいる?」

 

寒空を見上げ、竜馬を想った。

 

艦へと戻った弁慶は、巌谷中尉と篁少尉に呼び出された。

 

「車少佐、少佐はこの作戦を持って日本帝国斯衛軍の少尉として俺の隊に入ることになった。これからは部下として扱わしていただく。」

 

軍としての規律を保持する以上それは当然のことだ。

 

弁慶は、それについては異議などない。

 

「それはつまり、俺の要求は受け入れられたってことでいいのか?」

 

「ああ、君は「ゲッターロボ」の有用性を示した。それこそ戦術機開発に携わる人間全ての自信を叩き潰してね。」

 

篁少尉が、笑みと悔しさを感じさせる声で巌谷中尉の言葉を引き継いだ。

 

「むしろ、目立ちすぎじゃと儂は言いたい。」

 

艦に設置されたモニターから年寄りの男性の姿が映った。

 

気骨溢れる老齢の軍人が文字通り真剣な眼差しで見つめていた。

 

「儂は斯衛の紅蓮という。弁慶といったかのお前は目立ちすぎじゃ。」

 

紅蓮の話では、日本帝国内では「ゲッター3」の強さより、謎の白い機動兵器つまり「ゲッター2」の脅威論が持ち上がっているようだ。

 

何せ音速を超えるスピードで移動する「スーパーロボット」だ。そのカウンターとして、「ゲッター3」が必要というのが日本帝国上層部の決定だった。

 

「ゲッター2」が「ゲッター3」と全く同じ機体であること。

 

「ゲッター2」を操る人物が弁慶、武蔵と同様この世界にやってきた異邦人であること。

 

この2つの秘密は、巌谷、篁の両名には話していたが、巌谷はこの話を軍上層部へと報告はしなかった。

 

余計な詮索、疑いを招くことが明らかであったからだ。

 

「それから儂は、国内外から昼夜問わず「G」について問い合わせされているんじゃ……」

 

紅蓮中将が突然画面からいなくなった。

 

「量産できるものならとっくにしとる!って言っておけ!」

 

そんな声がした後、紅蓮中将は画面へと戻ってきた。

 

「それで貴様もゲッターロボも儂の預かりになった。」

 

「それはいいが、難民たちは受け入れてくれるんだろうな?」

 

「無論だ。だが、どこからか噂を聞きつけたのか、難民の総数は5倍に膨れ上がった。

すでに受け入れを開始しているが、時間がかかる。」

 

難民都市イヴァロを日本帝国が独自に人道的に支援しているという話。

 

加えて、謎の守護神が現れたという噂によって周辺の難民がこぞってイヴァロを目指したのだった。

 

「もしかしたらこのユーラシアから脱出できるかもしれない」

 

そんな期待感を難民都市に寄せていた。

 

「具体的な期間は?」

 

紅蓮が険しい顔をさらにしかめた。

 

「最短でも1週間。」

 

「1週間だと!?」

 

避難の期間としては長いが、数万人を受け入れる舟を北欧に派遣するだけでも時間がかかる。

 

だが、「はいそうですか」と弁慶には了承できない。

 

何のために弁慶はかつての仲間と拳を交えたのか。

 

「その間の守りは!?難民たちは誰が守る?」

 

弁慶は激昂していた。

 

顔は紅潮し、握りこんだ拳から血が滲む。

 

「都市防衛隊と我々が守る。幸いにも直近のエヴァンスクハイブは沈静化している。」

 

そう紅蓮は言ったが、弁慶は納得などできなかった。

 

結論として、弁慶は自身が難民の避難を完了させるまでフィンランドへと再び戻ることを紅蓮に了承させた。

 

「大隅」は、フィンランドへと進行を開始したのだった。

 

その間、弁慶は、ゲッター2との戦いで傷ついた「ゲッター3」の修繕をすることにした。

 

そしてもう一つ、弁慶の心は「武蔵」へと向いていた。

 

なぜ武蔵だけが時間がずれているのか。

 

武蔵がこの世界に来た時のことを当人以外から聞く必要があった。

 

「篁少尉、一つ聞きたいことがある。」

 

紅蓮との通信が終わり、いつものように武蔵と巌谷がシミュレーション訓練に入った。

 

膨大な実験データを前に腕を組んでいた篁裕唯を弁慶は尋ねたのだった。

 

「なんですか?車少尉。」

 

「先輩がこの世界に来た時の状況について聞きたい」

 

篁は快諾し、武蔵を保護した時の状況について話した。

 

概ね武蔵の話したとおりだったが、一点気になったことがあった。

 

それは武蔵がゲッター3から出て意識を失う前に話した言葉だった。

 

その言葉とは「早く、………合流しなければ」というものであった。

 

武蔵は、誰かと合流する気だったということだ。

 

だが、その後に武蔵にそのことを問いかけても覚えておらず、その言はいつのまにか忘れ去られることとなったというのだった。

 

(先輩の言葉が本当なのだとしたら。)

 

武蔵は……あらかじめこの世界に来ることを知っていたことになる。

 

「先輩は知っているのか……いや知っていたのか。」

 

失われた記憶。そこに答えがあるような気がしてならない。

 

訓練を終えた武蔵にそれとなく尋ねたが、「覚えていない。」としか返ってこなかった。

 

武蔵と分かれた後、弁慶は格納庫の2機並んだゲッター3の前に立った。

 

「ミチルさん教えてくれ」

 

弁慶は、一度見たミチルの幻影に問いかける。

 

もし先輩が誰かとこの世界で合流しようとしていたのだとしたら……

 

「それは誰だ?」

 

高まる武蔵への猜疑心。弁慶は、もっとも信頼できると感じていた昔ながらの戦友への疑いに激しく動揺していた。

 

弁慶の心に闇を生んだまま、「大隅」はフィンランドへと向かって進行する。

 

「竜馬、隼人、これは俺だけではとても……」

 

だがここには、竜馬も隼人もいなかった。

 

そしてミチルの幻影も現れることも……

 

弁慶はたった一人で向き合うほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、ある報告がもたらされた。

 

沈静化していたロヴァニエミハイブが再び活性化しつつあると。

 

 

 

弁慶編 第13話 終




やっと続き書けたー。やったー。


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弁慶編 第14話 「少女救出作戦」

弁慶編 第2話 「BETA戦災難民」を先に読んでいた方がいいかもしれません。


1983年 3月7日

 

旧フィンランド領 ウツヨキ

 

弁慶を新たに迎えたヴァンキッシュ試験小隊はバレンツ海につながるフィンランド北端まで来ていた。

 

バレンツ海には数多くの日本帝国の艦船が停泊し、難民の到着を待っていた。

 

当初、難民の移送は車で予定されていたが、ロヴァニエミハイブの活性化に伴い、計画は急速に前倒しにされ、徒歩での移動となった。

 

難民たちおよそ5万人はすでにイヴァロを発ち、欧州道路E75線を北上し、バレンツ海まで海路のあるフィンランドの北端ウツヨキを目指し最短ルートを歩いていた。

 

その距離およそ150キロメートル。

 

5万人もの大規模な行軍である。女、子供、年寄りも多く、1時間に進める距離は約2キロメートル。

 

到着まで必要な行軍時間はおよそ75時間。

 

さらに夜間を差し控えると、一日に行軍できる時間は半分となる。

 

つまり、約1週間もの間5万人は歩き続けなくてはならなかった。

 

イヴァロとロヴァニエミとの距離はおよそ160キロメートル。

 

衛星がロヴァニエミハイブの活性化を捉えた翌日の3月4日に難民たちはイヴァロを発っていたのですでにその行路の半分まで来ていた。

 

 

難民の守備は、都市防衛隊と日本帝国陸軍1個師団がその防備につき、行軍に随行していた。

 

だが、その早い難民たちの動きに反して、ロヴァニエミハイブは動きを潜めていた。

 

弁慶は、その報を聞き安堵した。

 

だが、都市防衛隊の一人。

 

弁慶がこの世界に来た時に力になってくれたミカ・テスレフ少尉が弁慶へと個人的な頼みを申し出たのだ。

 

それは彼の娘イルマのことだった。

 

娘イルマが、ウツヨキに向かう難民たちの中に含まれていないというのだ。

 

母親が都市防衛隊に申し出て発覚し、当初は5万人の行軍のどこかにいると思われていたが、日本帝国軍と都市防衛隊が調査した結果どこにもいないということがわかった。

 

都市防衛隊はイルマがまだイヴァロに残っているのだと結論を下した。

 

父親が帰ってこないにもかかわらず、自身だけ逃げることを良しとしなかった少女が難民都市に一人残り、父の帰りを待っているのだった。

 

いつ死んでもおかしくない父の安否に娘が悲しまないように配慮したその行動が娘を置きざりにしたのだ。

 

少女一人のために、都市防衛隊をイヴァロに戻すわけにもいかなかった。

 

対応策を考えあぐんでいたところに弁慶が戻ってきたのだった。

 

ミカは、弁慶に頼むほかなかった。

 

弁慶は、そのことを聞きすぐに巌谷、篁、武蔵に話をした。

 

「俺たちだけでイヴァロに行き、少女を保護するしかない。」

 

弁慶が断言すると、武蔵もそれに続く。

 

「おう、早く保護しねえとマズイぜ。エヴァンスクハイブのBETAがいつこっちにむかってくるか、わからねえ。」

 

武蔵、弁慶の言葉に、巌谷は眉をひそめた。

 

「少女を瑞鶴に乗せろということか。」

 

「まいったな。それは厳しいな。」

 

瑞鶴は、つい去年完成したばかりの日本帝国最新鋭機だ。そんな機体に、一般人しかも他国の人間を乗せるわけにはいかなかった。

 

その上、ゲットマシンにも乗せるわけにはいかなかった。

 

ゲットマシンのコックピッドなどに少女を乗せれば、少女の体は耐えきれない。

 

巌谷、篁両名は、紅蓮中将を説得にかかることにした。

 

紅蓮も一存では決めることができなかったため、本国の許可を取るため瑞鶴は待機。

 

弁慶、武蔵は、先行して少女の保護に向かうこととなった。

 

「俺たちが許可を取る、巴達は先にむかってくれ。」

 

弁慶がベアー号、武蔵がジャガー号に乗り込んだ。

 

「久しぶりだな。この感覚。」

 

「先輩! お願いしますぜ。」

 

「まかせろ! ゲッターロボ発進!!!」

 

格納庫のゲッター3が3機のゲットマシンに分かれて、大隅を飛び立つ。

 

「チェェェェェンジイィィィィィ!! ゲッター2! スイッチオォォォンンン!!!」

 

3機が再び分かれて、先日弁慶が戦った形態へと変化した。

 

武蔵、弁慶は、最短でイヴァロに辿り着く方法を選んだのだ。

 

「いくぞ弁慶! 舌噛むなよ!」

 

「応!」

 

音速を超える速度でイヴァロを目指す。

 

「本当に、3機に分かれて別の機体になったぞ。裕唯?」

 

巌谷が、驚愕の目でそれを見上げた。

 

「まいったな。本当にまいった。我々は、アレに追いつけるんだろうか。」

 

篁は、技術力の違いを思い知られたが、その眼は前を向いていた。

 

「いつか追いついてみせる。」

 

技術者としての篁裕唯は、力強くそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

 

だれもいなくなった都市に辿り着いた武蔵と弁慶は、少女を探し始めた。

 

「イルマー!」

 

「嬢ちゃん! 出てこーい!!」

 

大声で呼びかけるが、返答はなかった。

 

「当たり前だが、人っ子一人もいねえ!」

 

「早く見つけねえと。」

 

都市、難民キャンプを数十分ほど見回ったが、少女を見つけることはできなかった。

 

「巌谷だ! 巴、車!聞こえるか!」

 

「おう!聞こえるぜ!巌谷!瑞鶴の承認は降りたか?」

 

「もうすぐだ! それよりエヴァンスクハイブからBETA梯団がそっちに向かっている。」

 

「なんだって! このタイミングで?」

 

沈静化していたエヴァンスクハイブから突如BETA梯団の北進。

 

弁慶と武蔵は、このまま少女を探し続けるか、それとも切り上げるかの選択を迫られた。

 

その時、弁慶に難民キャンプの端にある廃工場が目に入った。

 

「先輩! あそこかも知れねえ。イルマが遊んでいた場所だ。」

 

「それに懸けるしかねえか。弁慶! お前はあの工場を探せ! 俺は、BETAを足止めする。」

 

武蔵と弁慶は、二手に分かれ、武蔵は、エヴァンスクハイブから向かってくるBETA群へ、弁慶は、ゲッターを降りて廃工場へと向かった。

 

ものの数分。

 

武蔵の操るゲッター2は、BETA梯団の最前列と会敵した。

 

突撃級が大群を成して北を目指していた。

 

「ゲッター2で戦うなんて初めてだぜ! これまでの借りを返してやる!」

 

武蔵は勇んで、瑞鶴を操縦していて感じていたフラストレーションをぶつけるように叫んだ。

 

ゲッター2がBETAを足止めするために、突撃級の群れへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

廃工場の中で、少女は息を潜めていた。

 

「パパは絶対帰ってくる。」

 

少女―イルマ・テスレフは、毛布を体に巻くことで寒さを凌いでいた。

 

その眼は少女の年齢にしてはあまりに強く、諦めを知らないものだった。

 

その時、工場の門が大きな音を上げて開いた。

 

「見つけたぞ! 嬢ちゃん!」

 

弁慶が、少女の姿を認めて駆け寄った。

 

「誰ですか?貴方は? 私は、パパが帰ってくるまでは絶対にこの場から離れませんよ!」

 

「安心しろ。パパに会わせてやる。さあ一緒に……。」

 

「パパに!?」

 

少女の顔に安堵の笑みが生まれた。

 

その時だった。

 

轟音が工場内に響いた。

 

「おじちゃん。アレ。」

 

イルマは恐怖の表情で後ろを恐る恐る指さした。

 

そこにあったのは、血のような赤。

 

弁慶が先ほど通ってきた門から赤い手が伸び、門をこじ開けた。

 

「馬鹿な! 早すぎる!!」

 

門をこじ開け、工場内に侵入したのは戦車級だった。

 

 

 

 

弁慶編 14話終

 




忘れられたころに更新。



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弁慶編 第15話 「生き残った意味」

・・・あの時、俺がポセイドンに乗っていれば

 

ミチルさんが死ぬことも、チームが崩壊することも。

 

 

 

 

そして……元気が独りになることもなかった。

 

 

 

 

 

1983年 3月7日

旧フィンランド領 イヴァロ

 

 

廃工場内の弁慶は、愕然としていた。

 

「馬鹿な、なぜ戦車級が」

 

戦車級が武蔵の操るゲッター2を越えてきた可能性は低い。

 

「斥候か? 奴らにそんな知恵が?」

 

弁慶は、巨大な敵の前で冷静に分析する。

 

敵の数は!?

 

後続のBETAはない。目の前の戦車級は1匹のみ。

 

武器になりそうな物は?

 

工場内には缶詰運ぶベルトコンベアの機械の他には何もなかった。

 

「嬢ちゃんを連れて、ここを脱出する!! それしかねえ!」

 

弁慶は戦車級に向かって突撃する。

 

巨象、否それよりはるかに凶悪な獣に挑んだ。

 

戦車級が弁慶に向かって腕を振り、その腕が弁慶の体に手を伸ばした。

 

弁慶はその巨体からは想像できないほど素早く、戦車級の丸太のような腕をかいくぐり、巨大な口の前に立った。

 

彼もゲッターチームの一員。決して愚鈍なのではない。

 

「その顎貰ったあああああああ!!」

 

弁慶は、戦車級の顎に強烈な左アッパーを叩き込んだ。

 

戦車級の動きは一瞬止まったように思えたが、やはり質量が違いすぎた。

 

戦車級は、動じることなく、その腕で弁慶を薙ぎ払う。

 

弁慶は、投げとばされ、地面へと叩きつけられた。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおお!」

 

戦車級は弁慶を投げ飛ばすと、次はイルマへと向かっていく。

 

少女は、初めて見るBETAの恐怖に逃げ出すこともできなかった。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

弁慶は、すぐに立ち上がり、100キロはありそうな機械を持ち上げて戦車級へと投げつけた。

 

機械を猛スピードで投げつけられた戦車級はよろめいた。

 

「お前の相手は俺だ! 間違えるんじゃねえ!」

 

その声を理解したのか、さだかではないが戦車級は再び弁慶に狙いを定めた。

 

ゲッターに乗ればどうということもない戦車級もこの場ではとんでもない怪物に他なかった。

 

弁慶は、はじめて身をもってこの世界におけるBETAの脅威を感じている。

 

戦車級の巨大な手が弁慶に向かって振り下ろされる。

 

「ぐおおおおおおおおおおお」

 

避け切れなかった弁慶は、巨大な掌底を二つの腕で受け止めた。

 

受け止めた衝撃が弁慶の頭からつま先まで響き、一瞬で弁慶の意識を奪った。

 

弁慶の薄れゆく意識は、過去へと誘われた。

 

全てを無くした「あの日」へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日

 

あの日の空は青く澄み渡っていた。

 

ゲッターロボの後継機。

 

その試作機の合体実験をするとの報告を受けて、弁慶は早乙女研究所に呼び出された。

 

任務で海外まで行っていた弁慶は急遽研究所へと急いだ。

 

弁慶が早乙女研究所に訪れると竜馬、隼人、ミチルそして博士の四人が待ち構えていた。

 

ゲッター線の研究者になった隼人はともかく、実家の空手道場を継いで田舎に引きこもっていた竜馬すら呼んでいた。

 

「よし、これで全員揃ったの。」

 

武蔵の姿はない。

 

「先輩はこねえんですか?」

 

「アイツは、別の任務だ。だが待ってはいられない。竜馬、隼人、弁慶!貴様を再び集めたのは他でもない。」

 

博士が一際息を吸いこんだ。

 

「これよりゲッターロボGの合体実験を行う!」

 

三人の眼光が鋭くなった。

 

竜馬は、最初了承しなかったらしいが、ミチルに諭されてしぶしぶドラゴン号に乗ることを呑み研究所まで来たのだった。

 

当初の予定では、ポセイドン号には弁慶が乗る予定であったが、ミチルたっての頼みでポセイドンにはミチルが乗ることになった。

 

 

弁慶は、鬼気迫るミチルの様子に違和感を覚えたが、自身の設計したゲッターに乗りたいのだと思い、ミチルにポセイドンを譲った。

 

 

 

 

 

 

 

そして事故が起きた。

 

合体に失敗したポセイドン号は、ドラゴン号とライガー号に潰されたのだ。

 

あの日、弁慶がポセイドンに乗らなかったことがミチルを殺したのだった。

 

その直後、帰らなかった姉の代わりに元気を迎えに行った弁慶だったが……。

 

名前通りの元気っ子は姉の死に打ちひしがれていた。

 

思い出すのは、元気にポセイドン号に弁慶の代わりにミチルが乗ったことを伝えた時のこと。

 

「弁慶。」

 

元気は、目に涙を浮かべ体を強張らせていた。

 

「どうして、3号機に乗らなかったの?」

 

弁慶は、震える元気を抱きしめた。

 

「すまない。元気すまない! 俺が、俺が代わりに乗っていれば!! お前の姉ちゃんは!」

 

悲痛な声で叫ぶ弁慶。

 

元気は、その弁慶の様子にはっとした。

 

自身が言ってる言葉の残酷さに気がついたのだ。

 

それは、なぜ代わりに死んでくれなかったのかと聞いているに他ならない。

 

「違う、違う、俺が言ってるのはそうじゃないんだ。なんでなんでこうなったんだ! う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

元気も弁慶を抱きしめ返した。

 

元気は何も弁慶に代わりに死んで欲しかったわけではない。

 

幼い子が姉の死ななかった方法を考えただけだ。

 

それが分かるから弁慶も悲しいのだ。

 

この時はまだ泣けるだけマシだったのだ。

 

その後、父を失った元気は、完全に心を閉ざした。

 

いつも弁慶は武蔵の代わりだった。

 

だから、あの時ポセイドンに乗らなかった武蔵の代わりはミチルではなく、弁慶だったはずだった。

 

ゲッターロボGを操縦し、事故を引き起こした竜馬、隼人と同様に弁慶にも十字架が架されたのだった。

 

武蔵が元気を引き取ったのも、唯一事故に関わってなかったからだった。

 

弁慶は、あの日からずっとポセイドンに乗らなかった理由を自身に問いかけていた。

 

弁慶はゲッターを降り、この世界に来るまでゲッターに決して乗ろうとはしなかった。

 

否、乗れなかった。

 

だが、不思議とこの世界に来てからは、乗って戦うことができた。

 

なぜ?

 

あの日ポセイドンに乗らなかった理由。

 

この世界に来た理由。

 

この世界に来てからゲッターに乗れた理由。

 

薄れゆく意識は全てを一つにする。

 

俺は生き残った。

 

あの時、ポセイドンに乗らずに生き残った。

 

なぜ?

 

それは、まだ生きて戦うため。

 

なぜ戦わなければならないのか。

 

それはきっと……。

 

絶たれた意識を気合いで繋ぎ止め、目を薄目に開くと少女の姿が見えた。

 

少女の姿が元気と重なる。

 

家族を失い、絶望に堕ちた子。

 

あの過ちは、もう繰り返さない!!

 

弁慶は戦車級の手を振り払った。

 

「俺はあの日、ポセイドンには乗らなかった!だから今はここに!この世界にいる!」

 

弁慶が意識を失ったのはおよそ半秒だった。

 

意識を取り戻した弁慶は再び戦車級の正面へと立った。

 

引きちぎれそうなほど腕は傷んでいたが、そんなことは気にならなかった。

 

「汚ねえ手で嬢ちゃんに触るんじゃねえ!!!」

 

弁慶は、戦車級の手をかいくぐって少女を片手で抱き上げた。

 

今、この場で戦車級を倒すことは不可能。

 

だがそれでも少女を連れて脱出することはできる。

 

「嬢ちゃんしっかりつかまってろ!」

 

「おじちゃん危ない!!」

 

瞬間。戦車級が腕でイルマごと弁慶を薙ぎ払った。

 

咄嗟に弁慶は、少女を庇う。

 

吹き飛ばされた2人は、壁に激突するはずだった。

 

弁慶は、少女を左手に抱えたままで右手を壁に向かって突き出し衝撃を殺した。

 

鈍い音とともに、既に傷んだ弁慶の右腕があらぬ方向に曲がった。

 

「ぐおおお!」

 

弁慶は痛みで呻いたが、あの日守ることのできなかったものを守るために立つ。

 

片手で少女を支える弁慶に迷いは一塵もない。

 

「おじちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫だ。パパにあわせてやるさ。すぐにな。」

 

だが、戦車級は2人に追撃の手を掛けようと迫った。

 

その時だった。

 

「車! 伏せろ!」

 

その声を聞いた瞬間。

 

弁慶は少女を、下にして地に伏せた。

 

上空から突撃砲が降り注ぎ、屋根ごと戦車級を肉塊にした。

 

黒色の瑞鶴がそこに降り立つ。

 

「早かったな巌谷中尉。」

 

「少女も無事か?」

 

「ああ、今度は守り切れたぜ。」

 

弁慶は痛みはずの腕を抑えたまま、柔和に笑った。

 

「今度は?」

 

巌谷は弁慶の答えの意味は分からなかったが、大丈夫そうなので安心した。

 

「車少尉。奴ら地下を掘り進んでいたみたいだ。トンネルから戦車級が吹き出している」

 

黄色の瑞鶴に乗った篁が巌谷機のすぐ側に降りた。

 

「祐唯。二人を回収してすぐに帰還だ。」

 

「そのつもりだが、巴は何してる?」

 

「先輩ならBETA梯団を止めてるぜ。」

 

「祐唯。先に少女をお前の機に乗せろ。」

 

「了解。さっさと脱出しよう。」

 

弁慶とイルマは、それぞれ戦術機に乗り、町を離れた。

 

弁慶は腕の痛みに意識を失ったが、その表情はどこか朗らかだった。

 

 

 

 

その12時間後。

 

イヴァロからエブァンスクハイブに50キロの位置。

 

BETA梯団は、全滅した。

 

武蔵の操る「ゲッターロボ」たった1機に全滅させられたのだ。

 

だが戦闘を終えた武蔵の様子はどこかおかしかった。

 

興奮や疲れではない。

 

ただ震えていた。

 

コックピットの中で武蔵は頭を抱えていた。

 

「俺は知らない!俺はそんなゲッターは知らない!!」

 

弁慶や巌谷達から連絡があるまで武蔵はそこから動くことはできなかった。

 

 

 

1983年3月9日

旧フィンランド領

ウツヨキ

 

「パパー!」

 

少女は父の姿を見つけて駆け寄った。

 

「イルマごめんな。父さんのせいで」

 

「いいの。帰っきてくれたから」

 

父と娘は泣きながら抱きしめ合った。

 

「あのおじちゃんが助けてくれたの。」

 

イルマは、弁慶を指差した。

 

ミカ・テスレフは弁慶に何度も頭を下げた。

 

その姿を見た弁慶はミカに手を振って満足気にその場を立ち去った。

 

(そうだ。俺はこれからも戦い続ける。)

 

きっとこの光景も「あの日」ポセイドンに乗らなかったからこそあったものだ。

 

俺はこれからも「あの日」ポセイドンに乗らなかった意味を戦いに見出す。

 

「それでいいよな。元気、ミチルさん。」

 

応えはなかった。

 

だが、答えは出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年3月10日

バレンツ海

 

難民の救出が無事終了し、グダニスクに帰還しようとする弁慶は武蔵にゲッターに乗ったことで記憶に変化がないかと聞くことにした。

 

結論だけを言えば、特に変化はなかった。

 

ただ武蔵は、ゲッターでBETAと戦闘を開始した瞬間にある言葉が浮かんだという。

 

それを言った時。武蔵は震えていた。

 

生身でインベーダーと戦った時でさえ恐れを知らなかった武蔵が。

 

その言葉を教えるのをためらう武蔵を説得したが弁慶も聞き覚えはなかった。

 

だが不思議とその言葉を聞いた瞬間。

 

体が震えるのを感じた。

 

それは恐怖なのか、言葉には表せないモノだった。

 

その荘厳の名とは裏腹に。

 

その名は。

 

 

 

 

「ゲッターセイントドラゴン」

 



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第一部 第6章 「裏切り者に死を」
隼人編 第13話 「崩壊の始まり」


1983年 3月2日

 

旧ポーランド グダンスク

揚陸艦ペーネミュンデ

 

 

 

任務を終えた「第666戦術機中隊」は、東ドイツへ向けて出港した。

 

中隊員やその他大勢が甲板に立ち、手を振る。

 

「ベンケイさーん! また会いましょうね!……う!」

 

リィズが船酔いにもかかわらず弁慶に向かって飛び上がって手を振っていた。

 

弁慶が返してくれたのだろうか、リィズは口に手をやりつつ喜ぶ。

 

「おっとーリィズさん。おじ様好きですか?」

 

からかうアネットをリィズは少し冷たい目で見つめたが、笑顔で返した。

 

「残念ですが、私はお兄ちゃん一筋ですよ。アネットさん、ライバルは減りません!……う!」

 

「だ、誰が。あんな暗い奴好きになるんだよ!」

 

イングヒルトが静かにアネットを指差した。

 

「イングヒルトォォォ!」

 

甲板では、皆が昨日の祝勝会の影響で舞い上がっていた。

 

見送る西側陣営。

 

その中にひと際目を引く黄色の腕をした機がいた。

 

「ゲッター3」

 

だが隼人は、それを見ずに船内にいた。

 

この船に残るという選択について、後悔はなかった。

 

「いいのか?」

 

隼人が振り向くと、美しい長い金髪、整った顔立ち、女性なら誰もが羨む外見の持ち主がそこにいた。

 

アイリスディーナだった。

 

「ああ十分だ。」

 

「私はてっきりお前が彼らと行くのではないかと思っていた。」

 

「……まだその時ではない。しばらくはここにいる。」

 

「礼を言うべきだろうな。」

 

彼女は隼人に近づき、手を伸ばして彼の頭に巻かれた包帯に触れた。

 

血の滲んだ包帯だが、アイリスディーナは臆さない。

 

「この血は、我らのために流したものだ。我らの血に他ならない。」

 

二人の距離は今までになく接近していた。

 

「……ハヤト、ありがとう」

 

「ベルンハルト中隊長」

 

アイリスディーナは初めて隼人を名で呼んだ。

 

「アイリスだ。私の仲間は皆私をそう呼ぶ。」

 

初めてアイリスディーナがほほ笑むのを隼人は見た。

 

「アイリス、君は笑っていた方がずっといいな。」

 

思わず言ったその一言を聞き、彼女は少し赤くなった。

 

「ツッ……さあ見納めだ。最後にもう一度見ておけ。」

 

隼人の名前を呼び、自身の愛称を呼ばれた照れ隠しに隼人を促し、アイリスディーナは甲板に上がる。

 

隼人もそれに続いた。

 

「なかなかいい景色だろ。」

 

東と西の人営が手を振り合ってるのを見てアイリスディーナがそう言った。

 

(もう一度くらい俺を殴った男を見てみるか。)

 

そんなことを思い、弁慶達の方を見た。

 

その瞬間。隼人は目をこれでもなく見開いていた。

 

「ハヤト?」

 

隼人の様子は豹変した。

 

隼人はとてつもない速さで双眼鏡を持っていた兵士からそれを奪い取り、弁慶達の方を覗いた。

 

隼人の汗や動悸は先程までの冷静な人物とは思えないほどだった。

 

「気のせいか。突然悪かった。」

 

隼人は双眼鏡を返すと、気分悪そうに甲板を離れた。

 

それを心配そうに、アイリスディーナは見ていた。

 

いつも冷静だった男の変わり様にアイリスディーナは複雑な表情を浮かべていた。

 

それはきっと彼女たち、いや彼女には決して取らない態度を取ったからだった。

 

アイリスディーナの自身ですら気付いていない表情に気づいたのはテオドールだった。

 

なぜなら、他でもないテオドールがアイリスディーナをそう見ていたから。

 

そしてもう一人。

 

リィズはアイリスディーナを甲板に出てからずっと鋭い目で追っていたのだ。

 

彼女は一介の整備兵に気にしすぎている中隊長に違和感を感じていた。

 

「リィズさん?」

 

カティアがリィズの冷たい表情にたまらず声をかけた。

 

「なんでもない。う!船酔いが酷いから戻ってるね。」

 

リィズは、誤魔化し船内へと足早に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った隼人はベッドに横になった。

 

思わず顔を手で覆った。

 

どうやら俺は思いの外センチになってしまっているらしい。

 

だってそうだろ。

 

武蔵の横に彼女が立ってるのが見えたなんて。

 

そんな馬鹿げたことあるはずないのに。

 

遠目に見えた人影が「ミチルさん」に見えたなど。

 

 

 

そんなことあるはずがないのに。

 

 

 

 

 

 

1983年3月4日

東ドイツ ロストック県

 

 

揚陸艦が東ドイツに帰った途端に揚陸艦に武装警察軍(シュタージ)が乗り込んできた。

 

海王星作戦で大活躍した中隊の牽制が目的であった。

 

モスクワ派のベアトリクスとベルリン派のアクスマンが同時に来たのだった。

 

人民軍の台頭に武装警察軍が結束しなければならないという事態に東ドイツ国内はなっていたのだった。

 

そのさなか、中隊員にテオドールとリィズがかつて亡命に失敗し、武装警察軍の手に落ちたということが知れ渡ってしまう。

 

同じ部隊に親族がいるという異常さ、兄妹がシュタージにマークされていたという事実。

 

必然的に中隊にはリィズへの不信感が募った。

 

祝勝ムードだった中隊にシュタージの存在を知らしめることに成功した。

 

だが悪いことばかりではなかった。

 

ヴィスマール基地には、真新しいMig-23チェボラシカが10機並んでいた。

 

「これを俺たちに使えと?」

 

テオドールの目が輝いた。

 

「ホルツァーハンニバル少佐からだそうだ。」

 

整備班長オットー技術中尉がうなづく。

 

「チェボラシカ。俺に扱えるだろうか。」

 

テオドールは新たな力に震えた。

 

テオドールは、「ゲッター2」隼人の存在、与えられたチェボラシカの存在を思い、これならシュタージにも勝てると思えた。

 

だが、中隊員はもうリィズを仲間だとは思っていない。

 

特にカティアの怯えようはひどかった。

 

テオドールは、頼りになるのは自分と隼人だけだと思っていた。

 

隼人は、というとさっそくチェボラシカの隊長機に細工を施していた。

 

「ハヤト。これがチェボラシカのコックピットか。」

 

アイリスディーナがコックピッドの様子を見に来ていた。

 

「できるだけはやく慣熟訓練を行いたい。」

 

「……アイリス、いいんだな?」

 

隼人の声のトーンは至極低く、そして真剣だった。

 

アイリスディーナはすぐ何をさしているのか理解した。

 

「ああ、黒だった時は、頼む。」

 

他ならぬリィズのことだった。

 

リィズがシュタージのスパイであったなら、手を下すのは隼人の役目だった。

 

「テオドールには私のせいにしてもらって構わない。」

 

アイリスディーナは自身の命令であることを強調する。

 

「いや、俺が勝手にすることだ。中隊員でもまして余所者することだ。そうすれば、テオドールは、中隊の仲間でいられるはずだ。」

 

たとえ、テオドールの信頼を裏切ることになっても隼人は仲間を守るために行動する。

 

それが、かつて仲間を守れなかった隼人の責だとそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

かくいうリィズは、テオドールによって基地に到着早々に医療区画に入れられていた。

 

リィズと中隊員の余計な衝突を避けるためだった。

 

ふと電話の呼び出し音が鳴り、それにリィズは迷わず出た。

 

「目が覚めたかしら同士中尉?」

 

電話の声の主は、妖艶な女性の声だった。

 

「ブレーメ少佐。」

 

電話の主は先ほど接触したベアトリクスだった。

 

「これまでの成果を教えてなさい。」

 

「兄の信用は先のグダンスクでの戦いで勝ち得ました。命を落とすところでしたが、それが功をなしたようです。」

 

自身の存在がいずれ隊の結束を乱すことを知っていた。

 

「それは上々だ。カティア・ヴァルトハイムについては?」

 

「あの子は無力です。戦術機の扱いは中の上といったところですがそれ以外には何も。」

 

兄の関心を得ていること以外にはなかった。それもまた腹立たしい。

 

「それよりも気になるのは……。」

 

「ああ例の機動兵器、グダンスクで現れたようだな。」

 

「はい。結果的にあの機が現れたことで我々はあの作戦の英雄になれました。」

 

ナイセ川防衛線での戦いから沈黙を守っていた「ゲッター2」それが突然また中隊の前に現れたのだ。

 

嫌でも関係を疑いたくなるものだ。

 

「他に何か気になることはないか?」

 

リィズは昨日見た隼人を気にするアイリスディーナに違和感を覚えたことを話そうと思ったが、それについては止めておいた。

 

情報が不確定すぎたからだ。

 

「なぜチェボラシカが中隊に配置されたのですか?」

 

これで、シュタージと中隊の機体の差は数以外なくなったといえる。

 

絶対に阻止せねばならない事項だったはずだ。

 

「それは、ソ連の意向だ。」

 

「ソ連?」

 

「中隊が生き残れば、また例の機動兵器が現れると踏んでいるらしい。あちらの方があれに関して情報を有しているのかもしれん。」

 

中隊にチェボラシカを与えたのはソ連の指示だとベアトリクスは言う。

 

リィズは面白くなかった。起動兵器が全て予定を覆している。

 

リィズは最後に、ベアトリクスの一派に落ちた条件を繰り返す。

 

「ブレーメ少佐。全てが終わった際には「兄」を本当に頂けるのですか?」

 

「ああ、貴様の兄がそれまで生きていたなら、後は夫にするなり、情夫にするなり、好きにするといい。」

 

「それを聞いて安心しました。それとベルリン派は掌握しつつあるのですか?」

 

「ああ、アクスマンの陣営も人民軍の台頭にこちら側に傾きつつある。そんなに気になるか。」

 

「はい、奴は私が必ず消しますので。」

 

「そうか、それでは今以上に貴様の兄の心を完全に掌握しろ。どんな手を使ってもいい。」

 

「どんな手を使っても」

 

リィズは命令を復唱し、自身の身体に手をなぞらせた。

 

すでに男の心を掴む技術は、躰に染み込んでいた。

 

「誰がオヤジ好きよ。」

 

酷く冷たく言葉を発した。

 

自身の心と体は汚れている。

 

不意になぜか、グダンスクでテオドールの信頼を得させてくれた男の顔が浮かんだ。

 

その笑顔が眩しすぎたからだろうか、だがリィズはその顔を脳裏から消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェボラシカの初期設定を終えた隼人は雪原でタバコを吸っていた。

 

そうしていると、小走りにテオドールがやってきた。

 

「ハヤト。頼みがある。」

 

「妹のことか。」

 

「そうだ。どいつもこいつも中隊に入ってきた時以上にリィズをシュタージのスパイだと思っている。あいつが命を懸けて俺たちを守ったのに」

 

テオドールは妹を守るために何でもするつもりだった。

 

「俺はもう二度と家族を失いたくはない。お前しかいないんだ。ハヤト。」

 

隼人はテオドールに向き直った。

 

「ああ、俺にまかせておけ。」

 

「頼んだぞ。」

 

テオドールが雪原から離れると、隼人はもう一度タバコに火を点けた。

 

「俺にまかせておけか……ずるいな」

 

隼人は自身に仕方ないと言い聞かせた。

 

「仲間を守ること」

 

過去の自身の贖罪への誓いが彼を苦しめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月5日

東ドイツ ロストック県 ヴィスマール基地

 

その日、チェボラシカの機体整備中バーニアが突然噴出したことにより整備兵が1名亡くなった。

 

その者がシュタージの情報提供者だったことを知っているのは隼人だけだった。

 

未来からきた隼人にとって20世紀の通信など掌握することなどたやすかったのだ。

 

隼人はすでに次に狙いを向けていた。

 

彼に信頼を寄せる男の妹を。

 



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隼人編 第14話 「黒の宣告」

隼人は最初からリィズを疑い続けていた。

 

だがリィズを疑っていたのは隼人だけではない。

 

誰がどう見ても彼女は怪しかった。

 

では、なぜそんな見えすいた者を送り込んだのか。

 

もちろんテオドールの枷にするという理由もあるが、何より本命の情報提供者が他にいるのだろうと隼人は睨んでいた。

 

整備兵に紛れていたそいつは中隊の動きを収集し、それをアクスマンに報告していたのだった。

 

その本命を事故に見せかけて殺すことができたのは幸いだった。

 

そして、隼人が盗聴していたリィズとベアトリクスの会話からリィズがシュタージのスパイなのは確定した。

 

それまでは何も痕跡を残していなかったが、確かな証拠を得た隼人はついにリィズの排除に乗り出そうとしていた。

 

隼人の仲間となった第666中隊のために。

 

「二度と仲間を裏切らない」その誓いの下に。

 

テオドールのたった一人の生き残った家族を手にかけようとしていた。

 

仲間を守るためと言う誓いとその信頼を裏切ることの「矛盾」は考えなかった。

 

否、目をそむけた。

 

海王戦作戦の時は止めてくれる者がいた。

 

しかし、ここには誰もいなかったのだ。

 

武蔵も弁慶もそして竜馬も。

 

 

 

誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

1983年

3月15日 東ドイツ

 

 

その日の天候は吹雪だった。

 

食堂でカティア一人震えていた。

 

あのリィズの一件から隊内にはどこか妙な空気が漂っている。

 

海王星作戦の時の一体感などまるでなかったことのようだ。

 

最近は、1人かもしくはアネットとイングヒルトに加わって食事を摂ることが多い。

 

この日は、チェボラシカでの初飛行訓練が行われる予定だ。

 

だがカティアが震えている原因は、その緊張ではない。

 

カティアが朝食を早めに済まそうと思い一人で食べていると、目の前に隼人が座ったのだった。

 

「‥‥‥」

 

隼人は無言のままカティアを見つめていた。

 

カティアはお世辞にも美味しいとは言えないその料理の味がさらに何も感じなくなっていた。

 

カティアには幾分か慣れていた東ドイツの環境にもはや余裕は感じられなかった。

 

常にシュタージの情報提供者に見張られているように感じる。

 

だが、それすらも凌駕する隼人の視線にカティアは緊張を強く感じられた。

 

隼人は静かにうなづいた。

 

「もしテオドールが人をまた信じられなくなっても、側にいられるか?」

 

カティアは質問の意図はよく分からなかったが、隼人の真剣な眼に初めて目を合わせた。

 

「はい! 私はテオドールさんから離れることはありません!」

 

「そうか‥‥ならいい。頼んだぞ。」

 

隼人は席を立ち去っていった。

 

カティアは「隼人さんも」と声をかけられなかった。

 

立ち去る隼人の背が何かを告げていたから。

 

 

 

 

3時間後。

 

10機のチェボラシカが基地から飛び立った。

 

悪天候下においてのmig23の慣熟訓練を目的に中隊は出撃していた。

 

「出力が全然違う」

 

アネットが舌を巻いた。

 

バラライカしか知らなかった彼女にとって後継機慣れるまで時間がかかりそうだ。

 

テオドールもシュタージの悪評と整備面の使いづらさを聞いていたため、最初は欠陥機というイメージもあったが認識を改めていた。

 

機体性能はバラライカよりも格段にいい。

 

来たる武装警察軍との戦いに備えなければと、操縦桿に力がこもった。

 

東ドイツ、仲間、そしてカティア、義妹を守るために。

 

士気が高い中隊員の中で、リィズとカティアだけが暗かった。

 

リィズはシュタージの接触から暗いままだった。

 

チェボラシカに慣れないのか顔はさらに険しい。

 

カティアは今朝の隼人と会話からかどこかしら元気がなかった。

 

アイリスディーナの隊長機のレーダーが何かを捉えた。

 

「総員傾注、西に30キロに小規模のBETA群を確認。全機迎撃に移る」

 

「「「了解!!!」」」

 

群れから外れたBETAとは珍しい。

 

普通は群れの中で活動するはずだ。

 

何かイレギュラーなことが発生したのか。

 

そう例えば無視できない何かを発見したとか。

 

中隊がBETA群へ向かおうとした瞬間だった。

 

「くっ、出力が安定しない!」

 

リィズ機のエンジンバーニアが火を吹いた。

 

「リィズ!?」

 

テオドールがリィズ機への目をやるとそこには片方のエンジンバーニアが燃えていた。

 

目に見える危機が義妹に迫っていた。

 

「中隊長! 自分がリィズ機のカバーに入ります!」

 

アイリスディーナは少し悩んでいた。

 

テオドールを残し、ただでさえ欠員のいる中隊をさらに分けるかそれともシュタージのスパイの恐れがあるを置いていくか。

 

「中隊長! ここは私を置いて行ってください! 機体には異常ありますが自力で基地へと戻れます。」

 

「リィズ! 何を言って」

 

「ホーエンシュタイン少尉自身で基地へと帰投しろ! 各員は私に続け!」

 

アイリスディーナはテオドールの言葉を遮った。

 

リィズ機を残し、中隊はBETA軍へと向かう。

 

リィズは中隊での信頼を得るためあんな発言を行なったわけだが、テオドールがすぐに引き下がったことに違和感を強めた。

 

兄は絶対に残ろうとしたはずだ。

 

そこでダメ押しの演技で信頼を得るつもりであった。

 

なぜ兄は私を置いて行った?

 

疑問を抱きつつ、リィズは片方のエンジンバーニアを吹かせ基地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

BETA群へ向かうテオドールはできるだけ早くBETAを殲滅し、リィズの元へと戻る気だった。

 

だが、安心していた。

 

「お前の妹は任せろ」

 

と隼人が通信をしてきたから。

 

リィズは大丈夫だ。

 

ハヤトがいるなら。

 

そう信じていた。

 

この時はまだ。

 

 

 

 

 

 

 

隼人はジャガー号のコックピッドの中で息を呑んだ。

 

(これでいいのか? 本当にリィズをテオドールの妹を殺していいのか?)

 

隼人が自問した瞬間。

 

竜馬の声が頭に響いた。

 

「また奪うのか? 元気からジジイを、そして俺から仲間を奪ったように」

 

「違う! 俺は仲間を守ろうとしている! あの日できなかったことをこの世界でやる!」

 

隼人はコックピッドで1人で叫んだ。 

 

「それが独りよがりなんだよ! お前は自分が必要とされる世界で都合よく解釈しているだけに過ぎねえんだよ!」

 

「違う、竜馬。俺は仲間をまた裏切りたくないだけなんだ。」

 

隼人は心の中の竜馬に負けじと言い返した。

 

「お前はまた裏切るんだよ隼人、お前はあのガキを「俺」にするのか。」

 

隼人は復讐心に囚われて、気が狂ったようにゲッターロボGの軍団に1人で戦った「竜馬」を思い出した。

 

この竜馬は、テオドールをあのようにするなと言っている。

 

家族を失ったテオドールの行く末を案じている。

 

テオドールがまた人を信じられなくなってしまってもいいのか?

 

隼人に迷いが生じた。

 

否、リイズを殺すと決めたその時から生まれていた隼人の迷いが「竜馬」となって現れたにすぎない。

 

だが、隼人は知っていた。

 

テオドールに対するカティアの想いを知っていた。

 

東ドイツや中隊の仲間に対するアイリスディーナの想いを知っていた。

 

彼女達ならきっとテオドールを守れる。

 

「俺はやるぞ竜馬。俺は知っているあいつの仲間を、カティアやアイリスを!」

 

あの2人ならたとえテオドールが復讐に心を囚われても立ち直させることができるはずだと隼人は確信していた。

 

それにテオドールも。

 

彼は立ち直った。

 

家族を失い、消耗品の衛士にされ、それでも戦っている。

 

ただ生き残るためではない。

 

東ドイツを彼の国を守るという大義のために。

 

「最初はそうだった。ただ俺を必要とする都合の良い存在だった。だが今は違う。アイツ等は月で戦っていた俺達と同じだ!」

 

テオドールを信じている。あの時の竜馬と変わりはない。

 

竜馬の心の炎が隼人への怒りを糧に燃え続けていたように。

 

隼人がそう宣言すると、もう竜馬の声は聞こえなくなっていた。

 

「俺は仲間を守る、そして信じる。今度こそ!」

 

隼人はゲッター2を地上に浮上させた。

 

目的は、武装警察軍リィズ・ホーエンシュタインの抹殺だった。

 

 

 

 

 

 

 

基地へと向かうリィズの前に突如、隻腕のゲッター2が地中から現れた。

 

「白モグラ? なぜ今?」

 

突然のこととゲッター2が味方であるという認識。

 

それが反応を遅らせた。

 

瞬き一瞬。

 

次の瞬間とんでもない衝撃を受けた。

 

「きゃああああああ」

 

リィズ機は機体の半分を一瞬で失った。

 

リィズは瞬時に理解した。

 

自身がゲッター2に襲われているということに。

 

「やはりこいつ中隊と繋がっていたか!」

 

残った右腕の突撃砲をゲッター2に向ける。

 

だが瞬時にゲッター2はまた音速を超え、リィズの視界から消えた。

 

「どこに!」

 

また衝撃。

 

今度は右腕が吹き飛んだ。

 

勝ち目などあるはずがない。

 

武装警察軍にいた時にすでに知っていた。

 

一瞬で大隊の半分を失ったあのシュミーレーター訓練そこにリィズもいたのだ。

 

リィズは緊急脱出を行い逃亡を図った。

 

「私は生きる。私がお兄ちゃんを守らないと」

 

隠し持っていた拳銃を手に、雪原へと投げ出された。

 

直立するゲッター2の大きさにたじろぐ。

 

男が1人ゲッター2の中から出てきた。

 

神隼人である。

 

「ハヤトジン! やはり何かあると思ったが貴様が!」

 

間髪入れず拳銃を隼人に向けて撃つも、隼人は全て見切って避けた。

 

「ホーエンシュタイン少尉いや中尉。貴様にはここで死んでもらう」

 

今の発言で完全にシュタージのスパイとバレているとわかった。

 

「私はタダではやられませんよ」

 

なぜこの男はわざわざ降りてきたのか。

 

「今から俺がすることは俺の独断だ。テオドールもアイリスも知らない。」

 

「そんなことをわざわざ言いに降りてきたのですか?」

 

舐められたものだ。

 

リィズは隼人へと走り込み、強烈な蹴りを放った。

 

だが、相手が悪すぎた。

 

隼人はその蹴りを見切り逆に首筋に手刀を繰り出した。

 

「がっ!」

 

雪原に倒れたが、リィズは意識が飛びそうになりつつもなんとか繋ぎ止める。

 

彼女はなんとか命を長らえさせる方法を思案する。

 

「わ、私は兄のためなら何でもする。シュタージから兄を守るためにはこうするしかなかった」

 

(たとえどんなことをしても)

 

リィズはできるだけしおらしく、弱っているように演技を見せた。

 

強化装備は隼人の手刀の威力を軽減していた。

 

リィズは涙を流し、泣き始めた。

 

「全部お兄ちゃんのためだったの! 私の知ってることは全て話すわ、これからの戦い必要になるはずだわ」

 

命乞いに生じた隙を狙う。それしかリィズの生き残る方法はなかった。

 

「何なら私のこの体も好きにしていい。誰でも満足させられる自信もあるわ」

 

色目を使って隼人を見上げた。

 

だが隼人の目は暗くひどく冷めていた。

 

獲物を見る目そのものだった。

 

リィズは知っていた武装警察軍として逃亡犯を殺害したリィズ自身の目と似ていた。

 

命乞いなど意味のないことを知った。

 

「ヒッ」

 

恐怖。リィズの心を恐怖が支配した。

 

「テオドールにお前を殺させはしない。俺がお前を殺す。」

 

(この男。兄自身に私を殺させないために)

 

「どうせ殺されるならお兄ちゃんに殺されたかった!!そうすればお兄ちゃんは私のことをずっと覚えてくれる。

他の女に盗られることもない!」

 

リィズは観念したのか叫び始めた。

 

それは兄への妄執。

 

兄への狂愛。

 

それだけが彼女の生きる目的そして凶行へ駆り立てていた原因だった。

 

(テオドール。やはりお前の妹は3年前に死んでいた。)

 

隼人はあの拳銃をリィズの頭に向ける。

 

 

 

 

 

吹き荒ぶ雪の音が銃声を掻き消した。

 

 

 




祝アークアニメ化。
できれば近いうちにもう1話更新します。


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隼人編 第15話 「黒の復讐者」

「悪く思うなよ竜馬」

 

早乙女研究所には大勢のパトカーが停まり、竜馬が確保されていた。

 

早乙女博士殺害の罪で竜馬はこれでA級刑務所に収監されることとなる。

 

「時間がかかりすぎだ。そうだろう、スティンガーくん」

 

「う、うん、そうだね、コーウェンくん」

 

「「消してしまえばよかったのでは?」」

 

「竜馬は我々の計画が失敗した時の保険だ。」

 

2人の男が隼人と共にいた。

 

「早乙女博士を回収して、すぐに計画に移るぞ」

 

俺はもう動き出してしまった。

 

だが、計画が達成されたなら、竜馬も理解してくれるはずだ。

 

いや、理解されなくてもいい。

 

計画のために走り出した時点で竜馬とは袂を分かったはずだ。

 

計画の名は「真」ドラゴン計画。

 

そして最終段階「聖」ドラゴン計画。

 

「これで人類は次なる進化へと進む!」

 

「煩わしい寿命と老いる体の克服!!」

 

「「それこそが進化!進化!進化!」」

 

2人の博士は盛り上がっているところだが、隼人にとって人類の進化などどうでもよかった。

 

隼人には早乙女博士の目的がコーウェンと同じなのかそれとも隼人と同じ目的なのかわからなかった。

 

だが、計画には積極的だった。

 

インベーダー殲滅。

 

人類の進化。

 

今の隼人にはどちらもどうでもいい。

 

A級刑務所に収監される竜馬は隼人を恨むだろう。

 

その恨みが竜馬の怒りをより強くする。

 

その怒りはきっと人類の力となる。

 

だから今はこれでいい。

 

真ドラゴン計画のための真ドラゴンに乗るパイロットを造ること。

 

それが急務だ。

 

隼人の目的は最終段階の聖ドラゴン計画の中にあった。

 

結局のところ、叶うことはなかった。

 

真ドラゴン計画の真実に気がついた時には全てが遅かった。

 

だが流竜馬は復讐のため月面戦争時よりも苛烈にもっと強くなっていた。

 

それだけがせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月15日

東ドイツ

 

BETA群を排除した第666戦術機中隊は基地へと帰投した。

 

テオドールは、リィズが未だ帰投していないことに愕然とした。

 

「そんなバカな」

 

テオドールはチェボラシカに再び乗り、リィズと別れた地点を目指した。

 

「ハヤトどういうことだ。リィズは任せろって言ったじゃないか」

 

思えば不可解な点が多かった。

 

突然BETAが現れたこと。

 

リィズの機体だけがエンジン不良を起こしたこと。

 

「チェボラシカが欠陥機だからって!」

 

そんなタイミングよく暴発するのか。

 

リィズと別れた地点に着くと機体の破片と掘り返した穴があった。

 

その穴と機体の破片で全てを察した。

 

「ハヤト?」

 

テオドールはしばらくリィズがベイルアウトしたかもしれないと周りを探したが誰も見つけることが出来なかった。

 

日が落ちてテオドールは探すのをやめて基地に帰投した。

 

そこでオットー技術中尉にリィズの機体を整備したのは誰かと尋ねたところとんでもない回答が返ってきた。

 

リィズ機を整備したのは隼人だと。

 

テオドールは血相を変えて隼人を探し始めた。

 

「テオドールさん、落ち着いてください。」

 

「落ち着いていられるか!リィズの命がかかっているんだ!!」

 

「す、すみません」

 

カティアのショックを受けた顔にテオドールも悪いと思ったのか、「今はほっておいてくれ」と告げて走り去った。

 

テオドールは基地中を走り回った。

 

いつもの雪原に隼人は1人で立っていた。

 

「ハヤトオオオオ!!」

 

テオドールは隼人に向けて叫んだ。

 

「リィズは! 俺の義妹はどうした!」

 

隼人は何も言わず水色と白色の布をテオドールへと手渡した。

 

「これはリィズの!」

 

それはリィズの髪に巻かれていたリボンだった。

 

だがそれは赤く汚れていた。

 

それは乾いた血だった。

 

誰の血かなど言うまでもない。

 

テオドールは言葉を失い、その場に座り込んだ。

 

「リィズ・ホーエンシュタインはシュタージのスパイだった。これがその証拠だ。」

 

隼人は録音していた音声をテオドールに聞かせた。

 

そこには武装警察軍の上司にテオドールの心を掌握したという報告があった。

 

「リィズがシュタージのスパイ?」

 

そのはずがないと信じていたが明らかな証拠に何も言い返せなかった。

 

だが、テオドールは隼人に妹を託していた。

 

その信頼をこの男は裏切ったのだ。

 

絶望は怒りへと変わり、義妹への仇と化した男に鬼の形相で向き直る。

 

「ハヤトおおおおおお」

 

テオドールは隼人に向かって殴りかかるが、隼人はその拳を正面から止めた。

 

「お前の怒りはもっともだ。」

 

「俺はお前を信じていたのにどうして!」

 

「俺はこの隊にとって一番良いと思う選択をしただけだ。」

 

「分かったぞ!アイリスディーナの命令か! あの女!」

 

テオドールは錯乱していた。

 

無理もない。

 

生き残った唯一の肉親を奪ったのが信じていた男だったのだ。

 

「アイリスじゃない。俺の独断だ。」

 

怒り。怒りだけがテオドールの自我を保った。

 

「ウオオオオ!!」

 

手を掴まれたままにテオドールは隼人に蹴りを放ったが、隼人はテオドールの腕を引き思い切り投げ飛ばした。

 

だがテオドールは止まらない。また隼人に襲いかかる。

 

隼人が何かをテオドールにむけて投げた。

 

テオドールはそれを受け取り、それに目をやる。

 

それはあの拳銃だった。

 

竜馬に渡したあの拳銃だった。

 

「シュタージとの決着がついた後、それで俺を撃て、俺は逃げも隠れもしない。」

 

テオドールはその拳銃にリィズのリボンを巻きつけると、隼人に拳銃を向けた。

 

「ハヤト! シュタージを全滅させるまで元の世界に逃げるなよ!!お前を殺すのは俺なんだからな!!」

 

と言い、テオドールは基地へと戻った。

 

基地でテオドールを待っていたカティアはテオドールのただならぬ様子を見てテオドールを追いかけた。

 

「ほっておいてくれ!」

 

「そんなことできるわけありません!」

 

テオドールは自室内にカティアを引き込み、カティアをベットに押し倒した。

 

「テオドールさん? そんないきなり」

 

「カティア。お前はどこにも行かないよな。俺の側を離れたりしないよな。」

 

カティアはテオドールが震えているのに気づき抱きしめた。

 

「大丈夫ですよ。私はずっとテオドールさんといますから」

 

テオドールは、考えていた。

 

一刻もはやく、シュタージを倒して、そして義妹の仇を討つことを。

 

裏切り者をこの手で殺すことを。

 

 

 

 

 

隼人はしばらく佇んでいた。

 

(やはり、俺は裏切り者からは脱却できないらしい。)

 

だがこれでいい。

 

テオドールが恨むのは俺だけだ。

 

そう思っていると、後ろに気配を感じた。

 

アイリスだった。

 

アイリスはひどく隼人を心配そうに見つめていた。

 

肩には雪が白く降り積もっている。

 

長時間外にいたのは明白だ。

 

そして隼人とテオドールのやりとりを見ていたのだろうと分かった。

 

「ハヤトあれでよかったのか?」

 

「ああ。これで良い。」

 

「良いはずがないだろう!」

 

アイリスディーナが戦闘時以外で大声を出すのは珍しかった。

 

「お前は中隊の、東ドイツのために! リィズを処理した。どうして私のせいにしない!」

 

隼人は目を見開いた。

 

感情を爆発させた彼女を目にするのが初めてだったからだ。

 

「これで良いんだ、テオドールに恨まれるのは俺だけで良い」

 

「だがしかし!」

 

「どうしたアイリス。兄を手にかけ、全てを捨てても国を守ると誓ったお前はどこに行った?」

 

アイリスディーナにも自分の状況がうまく飲み込めていなかった。

 

だが隼人があれだけ拒んでいた「仲間への裏切り」をさせてしまうことにアイリスディーナはひどく嫌悪感があった。

 

「俺の存在ごときで変わるなアイリス。お前のそのスタンスに俺は賭けたんだ。」

 

今も、海王星作戦の時も人々を守るという心意気に隼人はシンパシーを感じていた。

 

それは同調であり、憧れでもあった。

 

隼人のその言葉にアイリスディーナも言葉を抑える。

 

「それに悪いことじゃない。テオドールはこれからの戦い必ず生き残る。俺への怒りがテオドールをさらに強くする。」

 

かつての竜馬のように。

 

ここに復讐鬼が再び生まれた。

 

武装警察軍との最終決戦が近づいていた。

 

たとえ仲間の心を裏切っても、仲間を守る。

 

矛盾していた。

 

海王星作戦の時とは異なる選択をした。

 

隼人はだがこれでよかったのだと思っていた。

 

これでよかったのだ。

 

自身のした選択に後悔などなかった。

 

それがあの時と。

 

竜馬の時と違うことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後

1983年 3月18日

 

目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

 

体を動かそうとすると、自分の体がいくつもの管に巻かれていた。

 

おそらく骨もいくつも折れている。

 

気力を振り絞っても立ち上がることもできない。

 

満身創痍だった。

 

ここはどこなのか?

 

疑問は尽きないが現状を把握するほかできることはない。

 

「病院?」

 

周りを見ると少し揺れていた。

 

船の中のようだ。

 

船酔いの心配はなかった。船酔いする余裕もない。

 

ガラスに映った自分の姿はまるでミイラだった。

 

兄からもらったリボンも無くなっていた。

 

代わりに大きな白い包帯が頭に巻かれている。

 

部屋には自分以外にも誰かいた。

 

男が少女の手を握ったまま眠っていた。

 

暖かい。

 

知っている顔だった。

 

数日前に命を救われたばかりだ。

 

確か名前は。

 

「ベンケイさん?」

 

男の顔は以前と同じで朗らかだった。

 

体と頭の疲労は大きく、また眠りに落ちそうになる。

 

眠りにつきながら思考した。

 

全てが疑問だったが何より一番分からないことは。

 

あの男は確実に私を殺すつもりだった。

 

なのになぜ私は生きているのか。

 

一体あの時何が起きたのか。

 

 




次もできれば早く更新したいですね。


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隼人・弁慶編 第16話 「白の福音」

竜馬を早乙女博士殺害の罪でA級刑務所に投獄させることになったが問題が一つあった。

 

そう早乙女元気だ。

 

早乙女元気は短い期間で2人の肉親と竜馬、隼人という顔見知りを失うことになる。

 

そして元気を誰が面倒を見るのかということだった。

 

敷島博士が候補に上がったが隼人が却下した。

 

あまりにも人格に問題がありすぎた。

 

元気の心をケアするには荷が重い。

 

武蔵か弁慶なら引き取ってくれるだろうと予想した。

 

彼らは竜馬や自身と違うと隼人は感じていた。

 

人情。

 

そういうものがきっとあるのだ。

 

結果、武蔵が引き取ることとなった。

 

 

 

 

 

1983年 3月15日

東ドイツ

 

隼人がリィズの命を断とうとした瞬間だった。

 

隼人は何者かの視線を感じ、振り返った。

 

そこに信じられない者が立っていた。

 

「バカな。そんなはずが!」

 

隼人は冷静さを失い、叫んでいた。

 

そこに立っていたのは。

 

悲しそうに隼人を見つめる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早乙女ミチル」だった。

 

隼人は目に映るものが信じられなかった。

 

ずっと前に失ったもの。

 

ずっと欲しかったもの。

 

友を地獄に送り込んで、その果てに諦めたものがそこにあった。

 

「ミチルさん!」

 

隼人は思わず叫んだが、早乙女ミチルは何も答えず、ただ悲しそうな瞳で隼人を見つめるだけだった。

 

静寂。

 

隼人とミチルは見つめ合う。

 

だがミチルの悲しげな瞳は変わらなかった。

 

静寂は長くは続かなかった。

 

「ウオオオオ」

 

突如動きを止めた隼人に獣のような叫び声をあげてリィズが襲いかかる。

 

リィズは予備動作なしに跳躍し、隼人の拳銃目掛けて蹴り上げた。

 

隼人は引き金を引いたが間に合わず、拳銃は空中で暴発した。

 

リィズの決死の一撃だった。

 

「私は死ねない! おにいちゃんのために!!」

 

さらにリィズは追撃をかけるが、隼人がリィズの知覚できる速さを遥かに上回るスピードで一撃を叩きこんだ。

 

リィズは頭から血を流し、今度こそ完全に意識を失った。

 

頭部から流れた血がリィズのリボンを汚した。

 

隼人は急いでミチルのいた場所を振り返る。

 

しかし、そこには影も形も足跡もなかった。

 

早乙女ミチルは消えていた。

 

幻?

 

だが数秒間確かに隼人は早乙女ミチルを感じていた。

 

なぜ彼女は突然現れた。

 

何か俺に伝えたいことが?

 

リィズを殺すなということか?

 

同じ過ちを繰り返すな。

 

そう言いたいのだろうか?

 

そうだ。

 

テオドールは隼人と同じであった。

 

テオドールは死に別れたと思っていた義妹とやっと会えた。

 

いくら非道な行いをしていたとしても妹は妹なのだ。

 

俺に、よそものの俺に奪う権利などない。

 

だがリィズを殺す以外の手段など。

 

どこかに閉じ込めておくことも難しい。

 

殺す以外の選択肢など。

 

不意に弁慶の顔が浮かんだ。

 

弁慶に頼むしかない。

 

東ドイツのコットブス県からグダンスクまで約500キロ。

 

ゲッター2なら15分あれば到着する。

 

弁慶がグダンスクにまだいるかどうかはわからないが、行くしかない。

 

隼人はリィズをジャガー号のコックピットに運び、座席に固定した。

 

ゲッターの機動にこの世界の人間が耐えられるのか不明だがやってみるしかない。

 

隼人はゲッター2を駆り、グダンスクへと向かう。

 

音速を超えた瞬間だった。

 

「ゴッフ!」

 

リィズが吐血した。

 

「頼む。持ってくれよ。」

 

今は衛士の強化装備を信じるしかなかった。

 

 

 

 

同時刻

旧ポーランド領 グダンスク

 

グダンスクは完全な対BETA前線基地として整備されていた。

 

各先進国の格納庫が設けられ、その中央に日本帝国軍用の特大の格納庫が用意されていた。

 

その理由は監視である。

 

ゲッター3がどこにあるか。今、何をしているのか。

 

格納庫にあるかどうか。

 

各国の関心はひとえにそこにある。

 

日本帝国が作り出した対BETA用特型戦術機。

 

それの所在を明らかにすることがこの基地の存在意義の一つであった。

 

グダンスクに到着してすぐにゲッター3はそこに置かれ、毎日各国の研究者が入れ替わり立ち替わり見に来ていた。

 

問題は、研究者に見られることではなく、自由にゲッター3を動かせないことだ。

 

戦車級と白兵戦ではなく格闘戦を行った弁慶は腕を吊りながら、それを眺めていた。

 

武蔵は、瑞鶴を降り、今はゲッターの正規パイロットとなっている。

 

今までと逆である。

 

武蔵が弁慶の代わりであった。

 

瑞鶴も同様に格納庫の中にある。

 

そしてもう一つの動かない武蔵のゲッターは、格納庫ではなく、日本帝国の船の中に隠されていた。

 

弁慶が船の中に戻ると、兵たちが騒いでいた。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「車少尉。あのゲッターが」

 

弁慶が、隠された武蔵のゲッターのある場所に行くと、そのゲッターがなんと発光していた。

 

「なんだって急に!」

 

弁慶が、ベアー号に乗り込むとレーダーがある座標を示していた。

 

モニターに映ったそれを確認すると、発光は消え、反応はなくなった。

 

グダンスクの郊外にある場所だった。

 

また武蔵のゲッターは動かなくなってしまった。

 

弁慶は、驚いていた。

 

やはりこのゲッターは死んではいなかった。

 

隼人の言ったとおりであった。

 

「弁慶! 何があったんだ?」

 

武蔵達もゲッターの様子を見に来たのだった。

 

「先輩! こいつが急に動きだしたんだ。」

 

「なんだと!?」

 

弁慶は、巌谷達に相談し、瑞鶴でゲッターの示した地点へ行くことになった。

 

「先輩どう思う?」

 

「あのゲッターが死んでないってのがわかったことはよかったが」

 

武蔵の操る瑞鶴の中で弁慶は、突如動いたゲッターについて武蔵と話していた。

 

「隼人のやつはあれが自分の意思で動かないって言ってたが」

 

「ゲッターの意思か。」

 

武蔵は、彼に似合わず深刻な顔をしてつぶやいた。

 

「だったら、なぜ今日いきなり動き出した?そしてなぜまた動かなくなった?」

 

「わからねえな、先輩。ゲッターに意思なんて本当にあるのか。」

 

「わからねえな。今はただあの場所に行ってみるしかないってことだ。」

 

グダンスク郊外についた瞬間だった。

 

地中から隼人のゲッター2が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人はグダンスクではなく、その郊外を目指した。

 

ゲッター2でグダンスクの基地に直接向かうのは目が付きすぎると考えたからだ。

 

リィズは呼吸をしていたが、かなり辛そうだった。

 

グダンスク郊外でレーダーが日本帝国の瑞鶴をキャッチした。

 

彼らは弁慶を知っているはずだ。

 

彼らと接触するほかない。

 

隼人はゲッター2を浮上させ、リィズを抱き抱え、外に出た。

 

瑞鶴はゲッター2の近くへと降下し、中から弁慶と武蔵が出てきた。

 

「隼人、突然だな! そいつは東ドイツの嬢ちゃんじゃねえか!? 生きてるのか?」

 

「武蔵、弁慶! 勝手を言って悪いがこの子を頼みたい!」

 

武蔵と弁慶は顔を見合わせたが、弁慶はリィズを隼人から受け取った。

 

隼人のただならぬ剣幕に体が勝手に動いていた。

 

弁慶は、リィズを抱いた瞬間に彼女の容体が危険だとわかった。

 

「先輩! 先に船に帰ってこの子を手当てしてもらってていいか? 俺はコイツに聞きたいことがある」

 

「ああわかった! 巌谷と篁には言っておく」

 

武蔵は、弁慶からリィズを受け取ると瑞鶴に乗り、船へと向かった。

 

「何があったか話してもらおうか! 隼人!」

 

隼人は、リィズが東ドイツのシュタージのスパイだったこと。

 

同時に隼人の仲間のテオドールの肉親であること。

 

そして始末しようとしたこと。

 

全て話した。

 

弁慶は凄まじく怒っていたが、隼人が思い止まったことでかろうじて殴りかかることはなかった。

 

隼人の様子も普通ではなかった。

 

「何があった? お前はどうしてあの子を殺さなかった?」

 

隼人は、少し躊躇っていたが話し始めた。

 

「俺がリィズを殺そうとした時、ミチルさんが出てきたんだ。」

 

「ミチルさんだと!?」

 

弁慶は、この世界で見たミチルの幻を思い出していた。

 

ミチルさんが隼人にも?

 

「ミチルさんがリィズを殺すなって言ってる気がして、殺すことが出来なかった。だがリィズをそのままにすることはできなかった。弁慶、お前しか頼れなかった。」

 

「ミチルさんが隼人にも?」

 

「まさか弁慶、お前も?」

 

「ああ、俺もこの世界で見た。隼人は話できたのか?」

 

「いや、顔を合わせただけだ。どこか悲しそうだった。」

 

「そうか、ミチルさんが隼人を止めてくれたんだな。」

 

弁慶は空を見上げた。

 

「何か理由があるはずだ。この世界にミチルさんの幻がいることに。そうだ、武蔵は? 武蔵は見たことあるのか?」

 

「いや、先輩はないって言ってたぞ」

 

「そうか、俺たちだけか。」

 

「隼人! もういいだろう。俺たちと一緒に来い!」

 

弁慶の呼びかけに隼人は首を横に振った。

 

「俺はテオドールを守る。たとえアイツに恨まれても、殺されるためだったとしても生きる目標になってやりたい。」

 

東ドイツが落ち着くまでは、東ドイツにいると隼人は弁慶に告げた。

 

「そうか、隼人。もし俺が竜馬に先にあったらこの事を話すぞ」

 

「‥‥」

 

隼人は黙した。

 

「竜馬が決めることだが」

 

「もう行くぞ。リィズを頼んだ。」

 

隼人は、何も言わずにゲッター2に乗り込む。

 

「俺は竜馬にもう一度お前を信じたいって言うからな! 隼人!!」

 

弁慶は、隼人が東ドイツを守るために手をかすと言ったことを、テオドールのためにリィズを殺そうとしたことを、そして何より弁慶を頼り、ミチルをまだ想っていること、その全ての行動が隼人を信じられると感じさせていた。

 

隼人は変わっていなかった。

 

月面戦争から変わっていない。

 

冷血に見えて熱い男だ。

 

その後、巌谷が弁慶を迎えに来た。

 

弁慶が船に戻ると大騒ぎになっていた。

 

武蔵が東ドイツの重傷者の軍人を持って帰って来たからだ。

 

結論から言えば人道的観点から保護し、治療することとなった。

 

篁は、特にリィズの身体に興味津々であった。

 

ゲッターの最高速度の機動に晒されたからだ。

 

リィズは日本帝国の船に隠されて、治療を受けている。

 

この少女は、工作員。

 

だが時代の被害者だった。

 

この子が東ドイツから解放されたことはよかったのかもしれないな。

 

弁慶はリィズの様子を見ながら、また隼人とミチルを思った。

 

2人は、あの事故の前、互いを慕い、恋人になりかけていた。

 

そんな隼人がミチルを失い暴走してしまったのは仕方のないことだったのかもしれない。

 

ミチルさんが隼人を止めてくれた。

 

竜馬も止めてくれるだろうか。

 

船の中のゲッターは沈黙したままだったが、確かに生きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの意思を乗せて。

 

 

 

 




次から第一部最終章です。

アークネタというか原作漫画ネタは結構入れてるのでアークを見た方は最初から読むと新たな発見あるかもしれません。


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第一部 最終章 「暁に輝く涙」
第1話 「真そして聖」


 

 

そもそも「真ドラゴン計画」とは一体何だったのか。

 

そして「世界最後の日」とは。

 

計画の実行者は、神隼人、敷島博士、コーウェン、スティンガーそして早乙女博士。

 

始まりは早乙女ミチルの死だった。

 

ミチルはインベーダーに寄生されて死んでいた。

 

それは地球圏でインベーダーが隠れて存続していたことを示していた。

 

有機、無機を問わず融合するインベーダーを殲滅することは不可能に近い。

 

インベーダーを一網打尽にするため考案された作戦。

 

それが「真ドラゴン計画」だった。

 

その目的は、「インベーターの殲滅」。

 

その手段は、「巨大なゲッターロボによる地表全てをゲッター線で焼き尽くす」ことだった。

 

その巨大なゲッターロボこそが「真ゲッタードラゴン」そう「真ドラゴン」である。

 

インベーダーごと地表を焼き尽くすこと。

 

当然、全人類が逃げおおせるはずもない。

 

限られた人類しか生き延びることができない。

 

それでもインベーダーに全人類が全滅させられるよりはマシだった。

 

一度世界が滅びること。

 

それこそが「世界最後の日」。

 

そしてゲッター線に焼き尽くされ汚染された世界は人をもう1段階進化させる。

 

すなわち機械と人の同化融合である。

 

それが計画の第2段階「聖ドラゴン計画」である。

 

必要なものは、主に4つ。

 

1つ目はインベーダーごと焼き尽くされる地表から人類を守るための地下施設。

 

2つ目は真ドラゴンのパイロットになる超越した新たな人を作り出すことだった。

 

計画の初期段階では、號と竜馬と隼人が乗る予定だったが、竜馬を説得することは不可能ということになり、人造人間が造られたのだった。

 

3つ目は真ドラゴンの材料の量産型ゲッターロボG軍団。

 

4つめは真ドラゴンが覚醒するまでの間、それを守ることのできるゲッターロボ。

 

そうそれが「真ゲッターロボ」であった。

 

1つ目については国際社会のすでに要人となっていたコーウェンとスティンガーが、2つ目のパイロットの新人類は隼人と敷島博士が、そして真ゲッターロボと真ドラゴンそのものは死んだことになっている早乙女博士が担当していた。

 

計画の最大の障害となる「流竜馬」の排除。

 

ここまでの計画はうまくいっていたが、それぞれの思惑は異なっていた。

 

すでにインベーダーに寄生されていたコーウェンとスティンガーは「真ドラゴン計画」を利用して地球を「ゲッター線の太陽」にすること。

 

早乙女博士は娘に寄生し、弄んだ「インベーダーの殲滅」。

 

敷島博士は「ゲッター線と人の進化の行く末」を見ること。

 

そして隼人の望みは・・・。

 

隼人が正気に返った時にはすでに手遅れだった。

 

計画はすでに動き出していた。

 

すでに核となる「號」以外のパイロット、竜馬と隼人のクローン「ゴール」と「ブライ」は完成していた。

 

隼人は実は一番まともだった敷島と共に計画を止めるため動いたのだった。

 

キーとなる「號」はミチルの細胞を使用していること、さらに真ドラゴンを止めるためにも必要なことから破棄することはできなかった。

 

隼人と敷島博士は、「號」を奪われないために日本軍に託そうとした。

 

国連軍はすでにコーウェンとスティンガーの支配下にあったからだ。

 

それに日本軍には弁慶、そして元気の面倒を見るために一線を退いてた武蔵もいた。

 

隼人と敷島博士が、「號」を弁慶や武蔵に引き渡そうとした時だった。

 

コーウェンとスティンガーの命を受けたインベーダーが「號」を奪いに襲撃に来たのだ。

 

隼人のゲッター2、武蔵のゲッター3がインベーダーを迎え撃ったが、計画を急ぐ早乙女博士が真ゲッターロボを使い漁夫の利を得て「號」を奪った。

 

すでに早乙女研究所には必要となる真ドラゴンの材料の「ゲッターロボG軍団」、パイロットとなる「號」「ゴール」「ブライ」があったことから早乙女博士は単独で「真ドラゴン計画」の実行に踏み切った。

 

日本軍は、真ドラゴン計画を阻止するためのジョーカー「流竜馬」を解き放った。

 

隼人も武蔵も早乙女博士を止めるために集結した。

 

だが計画は進み、「號」は覚醒し、ゲッターG軍団は、不完全ながらも「真ドラゴン」へと合体した。

 

ここまでは計画が順調だったが、コーウェンとスティンガーによりすでに制御不能にされていた「ゴール」「ブライ」の暴走、さらに「インベーダー」の襲来。

 

インベーダーは、真ドラゴンと真ゲッターから発する「ゲッター線」を吸収し、数を増やしインベーダーの森を作り出した。

 

それが恐竜時代に退化していたのは、インベーダーが「ゲッター線」に受け入れられずに進化できないことを示していた。

 

国連軍は「真ドラゴン」を破壊するために「重陽子爆弾」を投下することを決定したが、それは中途半端な状態での「真ドラゴン」のゲッター線解放であり、インベーダー側であるコーウェンとスティンガーにも不都合であり、真ドラゴン計画を実行する早乙女博士にも好ましいことではなく、当然計画を止めようとする竜馬達にも世界の崩壊を加速させることに他ならないものだった。

 

結果、重陽子爆弾は真ドラゴンに落ち、真ドラゴンの不十分なゲッター線が解放され、地球全体がゲッター線汚染されたのだった。

 

その過程で武蔵は死に、早乙女博士もインベーダーに寄生されたのだ。

 

 

 

 

 

そうあの戦いで「巴武蔵」は死んだのだ!

 

 

 

 

 

 

1983年

3月15日

ユーラシア大陸北 カラ海上

 

ソ連から西ヨーロッパへ向かうソ連軍籍の船に竜馬が乗っていた。

 

竜馬は、ゲッター2とゲッター3が戦闘した場所グダニスクを目指していた。

 

グダニスクに、対BETA前線基地ができつつあるという話は聞いていた。

 

実際ソ連はかなり協力的であった。

 

それがゲッターロボへの興味か、はたまた他のなにかなのかはわからなかったがしかし、御剣雷電が手を尽くしてくれていたのは明らかだった。

 

竜馬は感謝はしていたが、それ以上にオルタネィティブ計画研究所で見たカプセルの中にいた無数の武蔵の幻への怒りの方が勝っていた。

 

(最悪の場合、俺は隼人、武蔵2人を殺さなければならないのか。)

 

考えるだけで憂鬱だった。

 

何がゲッターチームリーダーだ。

 

だが、俺にしかできないことだった。

 

リーダーとしての責務を果たす。

 

「なんて顔してるんですか」

 

白衣を着た女性。エヴァが竜馬に声をかけた。

 

彼女は、このソ連船唯一のオルタネィテウィブ計画関係者だった。

 

竜馬を監視するために派遣されているのだろう。

 

「また覗き見でもしたのか?」

 

「今のは能力を使わなくてもわかりますよ。」

 

苦悩する竜馬をエヴァは本心で案じていた。

 

「話してくれませんか?」

 

「何を?」

 

「あなたのことですよ。今何に苦しんでいるのかを」

 

「そんなもん俺が言わなくてもわかるんだろうが」

 

エヴァは微笑みながら

 

「あなたの口から聞くことに意味があるんですよ。」

 

と答えた。

 

竜馬の目にエヴァの微笑みがミチルと重なった。

 

竜馬は事の始まりから話し始めた。

 

早乙女博士にある日拉致され、ゲッターロボのパイロットとして無理矢理乗らされたこと。

 

そこから隼人、武蔵、ミチル、元気、弁慶との出会い。

 

そして約10年に及ぶインベーダーとの月世界戦争。

 

エヴァには竜馬が楽しそうに話しているように感じられた。

 

インベーダーとの戦いは苛烈だったが、仲間がいた。

 

仲間は同じ道を歩んでいた。

 

道が分かれたのはやはり「ミチルの死」だった。

 

あれは事故だった。

 

だが、竜馬と隼人が殺したと言われればそれはそうだった。

 

あの事故から隼人と早乙女博士は研究所に籠るようになり、竜馬はゲッターロボGの開発に力を入れていた。

 

そして早乙女博士に突然呼び出された竜馬は隼人に殺人の罪を着させられて、A級刑務所へ閉じ込められることとなった。

 

「俺は隼人と早乙女のジジイを殺すつもりだったが、分からなくなってきた。」

 

御剣雷電に復讐を成した後の竜馬を。

 

本当に自身の手で仲間をバラバラにする意味を問いかけられ、今ここにいるエヴァに未だ隼人や早乙女博士、かつての仲間を信じている心の内を暴かれた。

 

エヴァは何も言わず竜馬をただ見つめていた。

 

本当にこの男が宇宙の侵略者になるのだろうか。

 

仲間を思う竜馬の心はあまりに普通の人間だった。

 

もしかしたら、私はちょうどターニングポイントに立っているのかもしれない。

 

ここで竜馬に人の心を失わせるような行為をさせれば、あの巨大戦艦に乗っていた男になるのかもしれない。

 

エヴァにはどうすればいいのかわからなかった。

 

どちらの竜馬が見たいのか決めかねていた。

だが竜馬の選択、そしてその行く末を見てみたいと思った。

 

彼女にまだ生きる理由がまた一つ増えた。

 

だが思わず言ってしまった。

 

「きっとそのミチルさんはあなた達が争うことは望んでいないでしょうね。」と。

 

竜馬は「そうだろうな。」と呟いた。

 

そしてそれすら気づけていなかった自分が怒りに目が眩んでいたことを自覚した。

 

竜馬は変わりつつあった。

 

隼人への殺意は依然あったがそれよりも殺したいのは「武蔵の偽物」だった。

 

あのデジャヴは一体何なのか。

 

武蔵が偽物なのだとしたら。

 

本物の武蔵は一体どこへ行ったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬を乗せた船はグダニスクへと向かう。

 

武蔵、弁慶そして2機のゲッターロボがいる地へと。

 

 





原作真ゲッターロボ 世界最後の日 1から3話の私の解釈ですね。

真ドラゴン計画については当時発売されたムック本に書いてあるので公式設定ですね。

まさか令和に動く巴武蔵司令官が見れるとは思ってなかったです。




ネタバレなしの各話解説を活動報告に上げようと思います。



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第2話「忘れがたきもの」

 

10年前

 

月の地獄から国に帰った雷電を待っていたのは称賛の嵐。

 

「よくやってくれた。」

 

「日本男児の鑑だ」

 

後継者を失ったことも悲劇の英雄としてプロパガンダとして使われた。

 

帝国及び国際社会は地球にBETAが襲来した暗い不安な未来に明るい話題を探していたのだった。

 

「後継者を失いつつも、地獄を生き残った雷電将軍」

 

「戦おう! BETAに! 雷電少将のように!」

 

雷電は耐えられなかった。

 

息子を置いて見殺しにして負けておめおめと帰ってきた自分に称賛が与えられることに。

 

退役を申し込んだが受諾されなかった。

 

雷電は少なくとも国内にはいられないとかねてから誘いのあった国連軍への異動を申し出た。

 

帝国軍は日本の英傑が世界へ羽ばたくいい宣伝としてこれを受諾。

 

御剣雷電の国連転属が正式に決まった。

 

 

 

 

 

京都城内省

 

「此度の栄転。まことにめでたい。」

 

「ありがとうございます。殿下」

 

将軍によびだされた雷電は最後の挨拶へと覗った。

 

雷電の国連への栄転を祝すというのが表向きの要件だったが、本当は違った。

 

「すまないな、雷電少将。政治の実権を奪われた私には今回の件止めることができなかった。」

 

「もったいなきお言葉。」

 

将軍は雷電を政府がプロパガンダとして利用したこと。それを止められなかったことを謝りたかったのだった。

 

「そなたにこれを贈りたい。もってきておくれ。」

 

側の者が持ってきたのは新調された深紅の斯衛軍の強化装備だった。

 

「しかし殿下! これは斯衛にのみ許された物でしょう!」

 

斯衛軍の衛士にのみ使用されている強化装備を日本帝国から離れ、衛士でもない雷電に贈るというのは本来許されないことである。

 

「私が国内及び国際的に大変影響力を持つ雷電少将が帝国の斯衛の装備を着るというのは帝国の威光を国内外に示すことになると通した。」

 

「殿下………」

 

「私の魂は常に貴公の側にある。それだけは忘れないでくれ。」

 

「……ありがたく頂戴します」

 

日本を去り、国連軍に入った雷電を待っていたのは、国連事務局で働いていた珠瀬玄丞斎だった。

 

「御剣少将……他の誰が貴官を誉めようとも私は貴官を認めませんぞ。子供を置いてみすみすと帰ってくるなど」

 

珠瀬はなかなか子供が出来ないこともあり既知の間柄であった雷電を辛辣な言葉で迎えたが、珠瀬の顔はひどく心配していた。

 

「…辛かったな」

 

誰も言ってくれなかった言葉。

 

その言葉に雷電は救われたのだった。

 

日本を離れることに未練はなかった。

 

亡き息子との約束を果たすため。

 

ただ気がかりだったのは、五摂家の姫であった。

 

義理の娘になるはずだった齢15の少女。

 

そう本家煌武院の姫である。

 

 

 

1983年

3月15日 国連本部

 

国連主導のハイブ攻略戦について会議が秘密裏に開かれていた。

 

だがどの国も時期早々と取り合わなかった。

 

特にアメリカ大陸とアフリカ大陸の国々は冷ややかであった。

 

来たるBETAとの決戦にどの国も備えて国力を蓄えることが急務だった。

 

ハイブを抱えるユーラシアの大国中国でさえ未だ準備不足と言い放った。

 

ゲッター2とゲッター3の映像を見るまでは。

 

映像の一幕。

 

襲い掛かるBETA要撃級をちぎっては投げるゲッター3。

 

BETA突撃級の群れをかき分けて突き進むゲッター2。

 

2機は要撃級や突撃級の度重なる攻撃を迎撃しつつ戦っていた。

 

まるでBETAが存在していないかのように激突しあう超兵器の登場に各国はどよめいた。

 

「ポーランドのグダンスクに基地を造るなど正気かと思ったがこいつは」

 

「いけるかもしれない。」

 

二機とも日本帝国が開発し、一機はコントロールを失い、暴走したと説明された。

 

国連は白い機動兵器を確保できた場合年内でのハイブ攻略作戦に乗り出したいと提案した。

 

攻略目標はH5ミンスクハイブ。

 

1978年に「パレオロゴス作戦」で攻略に失敗したハイブだ。

 

初めてハイブ内部にまで攻め込めた作戦。

 

勝機が見えたからか、アメリカ以外の国が全てハイブ攻略に賛成した。

 

アメリカは持ち帰って検討するとのことだ。

 

ロシアはアメリカの支援なしでも攻略に乗り気だった。

 

世界が急速に動き始めていた。

 

雷電が作戦を急いだのは異邦の力「ゲッターロボ」がいつまでこの世界にあるかわからないからだ。

 

「珠瀬も水面下で動いてくれている」

 

国連事務で働いている珠瀬も雷電の提案に乗っていた。

 

後は、ゲッターを何体確保できるかが問題であった。

 

雷電は懐から写真を取り出しそこに写った亡き息子を憶った。

 

「日本には1匹たりとも上陸などさせん。それが約束だったからな」

 

雷電を突き動かすのは亡き息子への想いゆえだった。

 

忘れたくとも忘れられぬもの。

 

息子を思うと次に竜馬のことが浮かんできた。

 

彼もまた孤独を知っている男だった。

 

「頼んだぞ竜馬。全てはお前にかかっている」

 

あの男は危うい、だが信に足りる男だ。

 

雷電はゲッターチームリーダーを信じていた。

 

 

1983年 3月18日

東ドイツ

 

リィズを失ってからのテオドールの様子は酷いものだった。

 

顔からは生気が抜けていたが、反面殺気立っていた。

 

彼の側には常にカティアがいた。

 

2人が夜同じ部屋で過ごしているらしいと噂も立っていた。

 

カティアの様子もまた違っていた。

 

幼かった彼女からどこか幼さが消えていた。

 

アネットとイングヒルトがテオドールのことを気にしていたが、

 

「テオドールさんのことは私に任せてください」

 

とカティアに言われ、それ以上何も言えなかった。

 

カティアの大人びた様子はアネットをたじろがせた。

 

イングヒルトが何かを察したようにアネットの肩を叩いた。

 

「男はBETAの数ぐらいいるからね」

 

「人が失恋したみたいに言うな!!」

 

今日もまた2人は同じ部屋で夜を過ごす。

 

部屋では傷心したテオドールがカティアに抱き止められていた。

 

隼人の拳銃を強く握りしめたまま。

 

 

 

 

一方、隼人は誰も来なくなった雪原でタバコを吸っていた。

 

アイリスディーナが残した紙に目をやった。

 

その紙には今後の作戦が書かれていた。

 

隼人はそれを読んだ後、ライターで火を点け燃やした。

 

東ドイツ人民軍と武装警察軍決戦が迫っていた。

 

隼人は早乙女ミチルのことを考えていた。

 

海王星作戦の時に頭に浮かんだミチルとは違い雪原に現れた彼女は確実に存在していた。

 

弁慶も観たと言っていた。

 

何か意味があるはずだと考えたが答えは見えなかった。

 

だが、隼人の心は澄んでいた。

 

テオドールに罪悪感は感じていたが隼人は選択を誤ったとは思ってはいなかった。

 

竜馬の時とは違った。

 

ミチルさんが止めてくれたから。

 

 

 

 

 

1983年

3月18日 旧ポーランド グダンスク

 

新設された基地では各国の軍が軍備を増強していた。

 

弁慶は、隼人に託されたリィズの様子を見ていた。

 

リィズは重傷だった。

 

隼人に殴られたことが原因ではない。

 

ゲッターに乗った影響で内臓がボロボロになっていた。

 

戦術機開発に携わる篁は、この世界の人間がゲッターに乗るのは現状厳しいと判断した。

 

リィズは静かに寝ていた。

 

否、狸寝入りをしていた。

 

リィズは、現状をすでに把握していた。

 

自分が日本帝国の船にいること、おそらく東ドイツ外にいることは理解していた。

 

戦術機がいる。

 

東ドイツまで戻るために。

 

なんのために?

 

それは他ならぬ兄のため。

 

テオドールがリィズをスパイとして活動させるための駒だったことは理解していた。

 

自分がスパイとしての価値をあげるほど、兄は安全になる。

 

そう思って生きてきた。

 

そう思って祖父と同じくらいの年齢の男にすら抱かれた。

 

ここで終わるわけにはいかない。

 

兄が死ねば私が畜生にまで堕ちた意味がなくなる。

 

弁慶が部屋を出た後、頃合いをみてリィズは医務室から逃げた。

 

リィズは弁慶のことについて考えていた。

 

隼人がここに連れてきたということはおそらく知り合いなのだろうと予想した。

 

だが隼人の冷たい目と対称的に弁慶の目はリィズを憂いていた。

 

その目がリィズの心に残った。

 

次の瞬間、船が警報を鳴らした。

 

逃げ出したことがバレたらしい。

 

リィズはぼろぼろの体で格納庫へと急いだ。

 

格納庫へなんとかたどり着くと弁慶が待っていた。

 

「どこいくんだ? 嬢ちゃん」

 

「ベンケイさん、そこをどいてください!私はお兄ちゃんを守らないといけないの!」

 

リィズはできるだけ自分の状態を悪く見せるために咳き込み、息を荒げた。

 

無論、弁慶を油断させるためだ。

 

急所に医務室にあったペンを突き立てればただではすまないだろう。

 

「もういい! お前はもう秘密警察じゃないんだ!戦わなくてもいいんだ!」

 

何も知らないくせに耳障りの良いことを言ってくれる。

 

兄を守る。兄を自分のモノにする。

 

それだけのために3年間地獄を生きた。

 

弁慶がリィズの二歩手前に立つ。

 

ここでペンで目を刺せばスキが生まれるだろう。

 

いや、ここはこの異能の力を持つこの男を取り込む方が先決だ。

 

リィズは、弁慶の胸に飛び込んだ。

 

「うぉ!?」

 

弁慶は驚いたようだがリィズを抱きとめた。

 

(かかった。)

 

リィズは弁慶の信を得ようとする。

 

そのためには肌を合わせることもやぶさかではない。

 

だがリィズの予期しないことが体に起きていた。

 

溢れていた。

 

頬を伝っていたのは涙だった。

 

この3年他人を騙すために流した涙は数えきれない。

 

だがそのどれとも違っていた。

 

涙が溢れ、リィズの頬を流れる。

 

なぜ自分が涙しているのか分からなかった。

 

リィズは驚愕した。

 

自分にこんな感情が残っていたことに。

 

ただ一度救われた男の手に抱かれているだけだというのに。

 

否。

 

この3年間、幾度も男と肌を重ねたがどれとも違う。

 

リィズは思い出す。

 

この温もりを。

 

不自由ながらも幸せだった日々を。

 

兄がいて、母がいて、父がいたあの日々を。

 

そう弁慶を重ねて思い出していた。

 

自分が変わる前を。

 

ただ1人愛する兄のために自分と同じような亡命しようとする者を捕縛し、殺し、好きでもない男と肌を合わせ骨抜きにし情報を吸い出すような畜生に落ちる前を。

 

もう戻らない日々を。

 

「あああああああああああああ」

 

声にならない叫びも彼女から溢れていた。

 

スマートだった父と似ても似つかない無骨な東洋人の抱擁。

 

男は何も語らなかった。ただリィズを受け止めていた。

 

だが、地獄に変わった日から今まで抱かれてたどんなものより暖かった。

 

忘れようとしたものを思い出させていた。

 

涙は溢れていた。

 

失った3年間の思いと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月19日

 

衛星がH5ミンスクハイブ周辺に前例にないほどのBETAの大群を捉えた、それは東ドイツに迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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