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恋姫で書いてみた

ネタの一発目は恋姫†無双です。
なんか今までの中でも結構長く書いたかもしれません。

一発目ネタなんだけどなあ。……解せぬ


 その日、董卓は運命に出会ったのだと思う。

 洛陽において劉協を十常侍から救い出し、洛陽の復興の為に全力を注いでいた日々。

 

 毎日が目を回しそうになるほど忙しく、董卓軍の全てが一丸となって働き続けていた。

 そんな中、ようやく復興に一段落がついた事を切欠に董卓は自らの親友であり、軍師で

ある賈詡からそれなりの休みをもらっていた。

 

 そして今、董卓は洛陽から然程離れてはいない森の中にいた。

 森に行くと言った時に賈?は危ないから護衛を、といってくれたが、董卓とてこの激動の

時代を生き抜いている一角の人物である。

 当然、武芸にはそれなりの腕を持っているし、馬術においては自信もある。

 

 それに、少しだけ一人になりたかったのだ。

 涼州の雄に過ぎなかった自分が今では皇帝を助けている。

 そして、それはある意味で一番天に近いと言っても過言ではなかった。

 

 そんな環境の変化に少し疲れていたのだ。

 董卓という少女は元来、戦や政治には向かない優しい少女である。

 故に戦や政治に必要とされる悪辣さという物を是とし続ける事に少し疲れていたのだ。

 

 森の中を馬で進む。

 小鳥が唄い、風が揺らす木々が奏でる音色、木々の隙間から差し込む優しい陽の光。

 それら全てに心を癒されながら、馬を進めていると、綺麗な泉が見えた。

 

 泉は透明感溢れる水で満ちており、とても気持ちよさそうだった。

 董卓は馬から降り、靴を脱いで足を水に浸した。

 水は程よい冷たさで、ついパチャパチャと足で遊んでしまう。

 

 それから少し経ち、董卓はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいない事を確認すると、

 

「少しなら……いいよね?」

 

 誰もいないがそれでも確認を取り、彼女は服に手を掛け、一糸まとわぬ姿となった。

 

 やや成長を始めた少女の身体は透明な水で神秘的に濡れ、陽の光が差し、彼女の銀色の

髪を鮮やかに輝かす。

 

――ああ、気持ちいい。

 

 馬での遠出で少し汗ばんだ身体の汚れを洗い流し、泉の中に潜ったりなど、少々遊んで

いたりしていた時だった。

 

 ガサリ、と奥の森の茂みが動いた。

 董卓はその音を聞き漏らす事なく、直ぐに手で身体を隠しながら近くに置いておいた剣

に手をかける。

 

 森の奥から出てきたのは巨大な虎だった。

 虎の身体には随所に傷があり、森における多くの生存競争を生き抜いてきた猛者の風格

があった。

 

 虎はゆっくりと董卓に近づいてくる。

 

「ウルルル……」

 

 威嚇の唸り声、董卓は剣から手を離す。

 今、この場で剣を抜けば、その鉄の匂いから虎が一足飛びに襲い掛かってくる事は容易

に想像がついたからだ。

 

 しかし、このままジッといていても助かる保証は無い。

 董卓はゆっくりと泉からあがり、虎から目を離すことなく後退していく。

 

 遂に虎がその姿勢をより深く前傾姿勢にし、いつでも董卓に飛びかかれる状態になった

時だった。

 

 大きな、とてつもなく大きな手が虎のやってきた方向から現れたのだ。

 

「迅、人、襲ウ、駄目」

 

 とても低い声で手は虎にそう言い聞かせる。

 すると、驚くべきことに虎は先程まで見せていた威嚇の姿勢を解き、手に頭を擦りつけ

始めた。

 

 手は虎の求めに答えるように虎の頭を優しく撫でる。

 

 木々を揺らしながら出てきたのは一人の巨躯の男だった。

 その背丈は凡そ9尺(207cm)、赤銅色の肌に猛禽類を思わせる鋭い瞳を持って

いた。身体は岩のような筋肉の鎧に覆われており、そこにいるだけで威圧感を放っている

かのようだった。

 

 男は董卓を一瞥する事なく、虎に森の奥に行くように促し、本人は泉の水を手で掬い、

飲み始めた。

 

 一方で董卓は虎から助かったかと思えば、虎の頭を片手でつかめるほどの巨躯の男が出

てきたものだから固まっていた。そして、男は目の前に裸体の少女がいるにも関わらず、

水を飲み始めたではないか。これには董卓も少々傷ついた。

 

 別に襲ってほしいなどと言うつもりは無いが、少しは気にしてくれてもいいのでは、と

思ってしまうのは勝手だろうか。

 

 男はある程度水を飲むと、すっと立ち上がり、再び森の奥に消えようとしていた。

 

「あ、あの!」

 

 気がつけば董卓は声をかけていた。

 別段、何か話したい事があった訳ではない。

 何となく、彼を留めてしまったのだ。

 

「……何カ、用?」

「あの、助けてくれてありがとうございました。私は董卓、字を仲潁と言います。その、

よろしければ貴方の名前を教えてはいただけませんか?」

 

 董卓の言葉に男はゆっくりと首を振る。

 

「我、オ前、助ケテナイ。迅、人食ウ、腹壊ス。ダカラ、止メタ」

「ソレニ、我、名前、無イ」

 

 これには董卓も驚いた。

 目の前の男は董卓の為ではなく、虎の為に止めていたのだ。

 そして、名前が無い、という事実に董卓は首を傾げる。

 

 この名無しの男は虎に名をつけるほどなのに自身には名が無いというのだ。

 

「モウ、イイカ?」

 

 男は今度こそ董卓の前から消えていった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 男と董卓の遭遇から数日、董卓はほぼ毎日森を訪れていた。

 もちろん、お目当てはあの巨躯の男だ。

 

 馬を進め、男と出会った泉に向かう。

 彼があの泉に必ずいるという事は無いが、殆どの確率で彼処に行けば会えるのだ。

 

 そして、今日もまた彼はいた。

 

 彼はいつもの様に泉の近くにある巨木にもたれかかって寝ており、傍らには迅と呼ばれ

た大虎や、他にも様々な動物が彼の側にいた。

 いつもの事ながらその光景は見る者の心を暖かくしてくれる。

 

 董卓は何となく両手の指で四角を作り、彼を中心とした風景を四角の中に入れる。

 それは今まで見てきた美術品にも劣らない美しさをもっていた。

 

 一歩、男に近づく。

 それだけで男は目を覚ます。

 

 他の動物達の目も一斉に董卓を視る。

 

「何カ、用カ?」

「あ、いえ。何となくまた来ちゃいました」

 

 駄目でしたか? と董卓が聞くと、男は何も言わず再び眠りについた。

 董卓はそれを許されたと解釈し、男の側に座る。

 

 そこはとても心地が良かった。

 巨木の上から優しく降り注ぐ陽光。多くの動物達が寄り添い生み出す温もり。

 

 あふ、と董卓の口から欠伸が漏れる。

 

 瞼が重くなり、コテンと首が倒れ、そのまま董卓は眠ってしまった。

 

 彼女が目を覚ました時には既に日は沈みかけていた。

 周りにいた動物達の姿は無く、いるのは男と迅だけだった。

 

「起キタ」

「あ、す、すいません」

「謝ル、イラナイ。……食ウカ?」

 

 男はどこからか摘んできていた小さな果実を一つ董卓に差し出す。

 董卓はそれを受け取り、口に入れる。

 

「わ、甘い」

「美味イカ? モット食ウカ?」

 

 男は董卓の反応が嬉しかったのか先ほどよりも多く果実を董卓に渡す。

 それから暫くの間、董卓と男は何を語るでも無く静かに果実を食べ続けた。

 

 果実もなくなり、再び静かな時間が訪れる。

 

「あの……」

 

 董卓はこの男と共にいる内にある事を考えていた。

 それは、この男の事をもっと知りたいというものだった。

 

 意を決し、話しかけた時だった。

 

「おぉ、こんな所に女がいるぜ」

 

 ボロボロになった見すぼらしい鎧を纏った男達が現れた。

 その数は20人ほどであろうか。

 彼らは全員が頭に黄色の布を巻いている事から黄巾党の残党であろうと董卓は推測を立

てた。

 

 男達は皆、下卑た笑いを浮かべながらネットリとした視線で董卓を眺める。

 それだけで身体の奥から嫌悪感が湧き上がる。

 董卓はゆっくりと剣に手を伸ばす。

 

「なあなあ、嬢ちゃん。すこぉーしの間俺たちと遊ばねえか?」

「……お断りします」

「釣れねえこと言うなよ。この人数に敵うとでも思ってるのか?」

 

 そういって剣をこれ見よがしに抜き、嗤う。

 

 すると、董卓と残党の間を遮るかの様に名無しの男が立ちふさがる。

 迅も唸り声を上げるが、男が森の奥を指さしたのでそれに従い森の奥に消えていく。

 

「ああ? なんだ、兄ちゃん」

「消エロ。オ前、臭イ」

 

 片言で彼は残党をまるで犬を払うかのようにシッシと手を振る。

 残党の額に青筋が浮かぶ。

 

「でけえナリしてっからて調子こいてんじゃねえぞ!」

 

 残党の頭目とおぼしき者が合図を送ると、残党達は男を囲む。

 董卓は加勢しようとするが、それは起きた。

 

 暴風、そう表現すべきだろう。

 

 男がその巨腕を振るうと残党が皆、吹き飛んだからだ。

 

 吹き飛んだ者達は木々に身体を強く打ち付け、背骨を折り死んだ者もいたが、幾人かは

運良く、いや運悪く生き延びてしまった。

 

 それは呼吸困難に陥り、喘いでいる間に男の足に踏み潰されてしまったからだ。

 ぷち、ぷち、とまるで小枝を踏むかのように人の生命を消していく男の姿に頭目は化け

物を見る目で半ば狂乱状態となりながら、剣をデタラメにまわす。

 

 剣は男に当たるが、剣は筋肉に阻まれ、男の生命を消すには及ばなかった。

 そうする内に男の手は頭目の頭を掴む。

 

「離せ、離せ、離せ、離せぇぇぇえぇあぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 手に着いた血を泉の水で落とし、男は巨木にもたれかかる。

 董卓も男の横に座る。

 

「また、助けてもらいました」

「…………オ前、我イナクテモ勝テタ」

 

 男はそういって董卓の剣を指さす。

 確かに董卓の腕ならばあの程度の者達ならば問題は無かった。

 しかし、そうなると分からないのは男の行動である。

 

「私が勝てると思いながら、なんで助けてくれたんですか?」

「…………意味、ナイ。ナントナク」

 

 そう言って男はプイと顔を逸らす。

 照れているのだ、と董卓は分かったが、それを指摘する事はなく、ただ笑った。

 そして、董卓は男にある提案をする。

 

「あの。私と一緒に来てはくれませんか?」

「……何故?」

「…………一緒にいて欲しい、そう思ったから。それと、ナントナクです」

 

 董卓は男の口調をちょっとだけ真似しながら言うと、男が笑った。

 初めて見る男の笑顔に董卓もまた笑顔を浮かべた。

 

 董卓は男を洛陽へと案内する事となったのだが、いまさらになって彼女はある問題に気

がついた。

 

 それは自身の親友でもあり、董卓軍の中核を担う賈詡をどう説得するか、であった。

 結局のところ、良い打開策を思いつくことは無く、ほぼ泣き落としという少しだけ狡い

方法で董卓は男を洛陽へと迎えた。

 

「それで、あんた名前は?」

 

 そう尋ねる賈詡の言葉の端々に棘が混じるのはしょうがない事だったが、ここでもう一

つ問題が生じた。

 

「我、名前、無イ」

 

 そう、男には名前が無かったのである。

 これには流石の賈詡も開いた口が塞がらなかった。

 

 董卓は男に名前が無いのを知っていたが、男が自身の側にいるという事が嬉しくて、つ

い賈詡にいうのを忘れていたのだが、うっかりでは済まない話である。

 

 すると、事の次第を眺めていた張遼がひとつの案を出した。

 

「なら、(董卓)が名前をあげればええやん」

 

 張遼の案以外に妙案は何一つ出なかった上にいつまでも名無しでは困るという事で張遼

の案が採用され、董卓は男に一つの名前を与える事となった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 時は流れ、洛陽の復興も終え、これから天下は董卓の助勢を得た劉協の治世の下、行わ

れるかに思われたが、これを良しとしない者達の手により、反董卓連合なるものが生まれ

た。事の起こりは名門袁家の出身である袁紹から各地に出された檄文からだった。

 

 その内容は董卓軍を知る者、ある程度の知慧を持つ者ならば袁紹の嫉妬から起きた言い

がかりによる連合軍であるという事はわかっていた。

 

 しかし、そういった知慧を持つ者達は各々が天下を、という野心を持っていたために袁

紹に事の真贋を追求する事は無く、次々に反董卓連合へと参加を決め込んでいた。

 

 もちろん中には檄文を鵜呑みにし、義憤により動く者もいたが、そういった者は稀であ

り、またあまり大きな勢力とは言い難がった。

 この数少ない勢力の中には劉備という少女が率いる義勇軍の姿があった。

 義勇軍自体は珍しいものではなかったが、この軍にはある一つの噂があった。

 

 それは、劉備の下には天の御遣いがいる、というものだった。

 

 天の御遣い、それは世が乱れる時に天より遣わされ、乱世を治めると噂される存在であ

った。もちろん、これが真実かどうかは分からないが、それは関係ないのだ。

 

 必要なのは天の御遣いは反董卓連合に参加しているという事だった。

 これにより劉備の義勇軍は他の軍と比べて貧弱でありながらその士気は遜色ない物とな

っていた。

 

 そして、現在。

 

 反董卓連合の勢いはまさに破竹の勢いであり、洛陽までにある砦、汜水関は既に抜かれ

ており、そこを守護していた将、華雄は劉備軍の関羽により討ち取られていた。

 

 反董卓連合は残る砦である虎牢関も抜け、遂に洛陽を目前としていた。

 

 ここで董卓軍がとったのは自身が最も得意とする騎馬による突撃。

 騎馬を率いるのは猛将、張遼と武神とまで呼ばれた呂布だった。

 

 2人の猛攻に反董卓連合はある程度まで押し込まれたが、いかんせん数が違った。

 張遼は反董卓連合の中でも有数の力を持つ曹操により捕縛され、呂布は数多くの将によ

り囲まれ、その勢いを失っていた。

 

 曹操の陣営において囚われていた張遼は曹操から勧誘を受けていた。

 

「張遼、既に決着は見えたでしょう? 私に降りなさい。貴方の才はここで潰えさせるに

は惜しい」

 

 曹操はそう張遼に言うが、張遼の答えは曹操の望む物ではなかった。

 

「曹操、あんた、一つ勘違いしてるで?」

 

 張遼の不遜とも取れる発言に曹操に心酔している夏侯惇などが眉尻を上げ、怒鳴ろうと

するが曹操はそれを手で制し、問う。

 

「へえ、まだ何かあるのかしら? 既に董卓の生命は風前の灯火。呂布は関羽達によって

動けない中、まだ勝ちの目があるとでも?」

 

 曹操の言葉を張遼は鼻で笑う。

 

「ああ、確かに(呂布)はウチらの中でも格別の武将や。でもな、ウチらにはもっと

凄い奴がおるんやで?」

 

 張遼がそう告げた時、洛陽から大きな銅鑼の音が響く。

 

「曹操様! 洛陽の門が開き、土煙があがりました!」

「土煙……。軍勢がまだ残っていたの?……数は!」

「それが…………。敵は単騎です!」

 

 物見の兵士からの報告に曹操は唖然とする。

 ここまで劣勢の中で出てくるのだから余程の虎の子である精鋭軍かと思えば出てきたの

は単騎だという。

 

 馬鹿にしているのか、と張遼を睨もうとした曹操の耳に張遼の呟きが届く。

 

「この世で一番、怖~い奴が来るで~。逃げんと全滅かもなあ?」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 時は少々遡る。

 虎牢関が抜かれ、既にギリギリの心で戦いを広げていた董卓の下に更に報告が届けられ

る。

 

「張遼将軍、曹操軍配下、夏侯惇の手により捕縛されました!」

 

 董卓は目の前が真っ暗になりそうだった。

 そして、脳裏に浮かぶのは何故、という言葉だった。

 

 自分は荒れた洛陽と助けてほしいと泣きながら訴えてきた劉協の助けになりたかっただ

けだったのに。

 

 董卓も分かってはいるのだ。

 これは世の習いだと。

 劉協を助け、急激に力を増した自分たちを引き摺り落とそうとする今回の戦は起きるべ

くして起きたものなのだと。

 

 だが、だからといってハイ、分かりました。と負けてあげるつもりは更々無かった。

 それは今まで自分を信じてついてきてくれた皆を裏切る行為であるし、劉協は自分を頼

りにしてくれているのだ。

 

 未だ幼い彼女を護る。

 その為には勝たねばならなかった。

 だが、現状は惨憺たる有様である。

 

「月、どうする?」

 

 賈?の言葉に董卓はゆっくりと首を振るだけだった。

 

 そう、ここで諦める訳にはいかない。

 

 自分の後ろには今も涙を浮かべ、それでも尚気丈であろうとする劉協がいるのだ。

 負けられない。

 

 董卓は自身が腰に吊るしている剣に視線を落とす。

 その仕草だけで長年連れ添ってきた賈?には董卓が何を考えているのかがわかった。

 

「駄目! 今、月が出撃しても焼け石に水よ……」

(賈詡)ちゃん。それでも、私の、私達の後ろには劉協殿下がいる。復興したばか

りの洛陽がある。最後まで戦わなくちゃ」

 

 董卓の瞳には決して揺らぐことの無い決意の光があった。

 その光は賈詡に覚悟を決めさせるには十分過ぎた。

 

「そう、ね。諦める訳にはいかない。……どうする、考えろ」

 

 賈?が考え始めた時、彼は現れた。

 

「月」

 

 それは董卓が連れてきた彼だった。

 

「陽さん」

 

 陽、それが董卓が男につけた名前、李蒙の真名だった。

 

「月、待ッテロ。我、往ク」

「陽さん! 貴方は私が連れてきただけです。この戦には関係がないんです。貴方が戦う

必要はないんです。今ならば……」

 

 逃げられる、そう言おうとした董卓の言葉は李蒙によって遮られる。

 彼はいつか見た時のように優しく笑う。

 

「月、泣ク。良クナイ。我、月、護ル」

 

 そう言って李蒙は董卓の横を通り、出陣の準備を始めた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 門から出てきたのは異形だった。

 あれは何なのか。

 洛陽から現れたそれを誰もが見た。

 

 それは鉄塊、そう表現するのが一番しっくりと来る。

 黒鉄で巨躯を隙間なく覆い、その重厚な鎧は矢や生半可な剣は通しはしない。

 顔は獣を模した鉄仮面で隠されており、素顔を窺い知る事は出来ない。

 

 そして、何より目を引くのは異形が持つ獲物だった。

 

 それは大きかった。

 常人ならば持つどころか少しも浮かすことも叶わないほどの大剣。

 そして、反対の手にはこれもまた巨大な鎖、その先端には鉄球が付いている。

 

 誰もが唾を飲む。

 

「オオオオオオオオオオオォォォォオッォッッォォ!!!」

 

 咆哮。

 戦場全てに響き渡るその咆哮に肝の小さい兵士は腰を抜かし、将が乗る馬は怯え、

暴れ出す。

 

 鉄の異形、李蒙が駆け出す。

 その足音は重く、大地を揺らす。

 

 いち早く正気に戻った将達は配下の兵に矢を放つよう命じる。

 放たれる多くの矢。

 しかし、そのいずれもが重厚な鎧に阻まれ、李蒙を止めるには何もかもが足りない。

 

 そして、遂に李蒙と反董卓連合の兵士とぶつかる。

 そう、ぶつかっただけだ。

 

 大質量の鉄塊に高速で衝突した兵士はその肉を、その骨を、砕かれ、骸を宙に晒す。

 一度ぶつかったというのに李蒙の勢いは止まらず、尚直進を続ける。

 

 鉄の塊が走る。

 鉄の獣が駆ける。

 鉄の魔物が吠える。

 

 李蒙が鎖を振るえば鎖により身体を両断され、先端の鉄球に潰され、大剣を振れば人が

木っ端の様に宙を舞う。

 

 その姿に反董卓連合の兵士達が恐怖を抱くのにそう時間はかからなかった。

 勝ち戦にあったはずなのに。

 負ける筈はなかったのに。

 

 あれは、なんだというのだ。

 

 魔獣、悪鬼、羅刹。

 

 どれも当てはまり、どれも当てはまらない。

 

 そして、遂に。

 兵士達は我先にと李蒙から逃げ始めた。

 

 各軍を指揮する将達は逃げる兵卒を止めようと声を張り上げるが、兵士達には届かなか

った。

 

 崩れていく前線を見ながら曹操は呆然としていた。

 

 なんだというの、あれは……。

 この戦に義が無い事はわかっていた。

 それでもこの戦をもって私が覇道を歩む為の礎にするつもりだったというのに。

 

 鉄の獣が腕を振るえば兵士が吹き飛び、鎖を振るえば両断され、剣を振るえば潰されて

いく。呂布も恐ろしく強い力を持っていたが、アレは別格だ。

 

 一騎当千では生温い。

 まさに一騎当軍。

 

 曹操は捕縛していた張遼を睨む。

 

「張遼、アレは何?」

 

 奴ではなく、アレ。

 曹操は無意識の中で戦場を暴れまわる李蒙を自分と同じ人として認めたくは無いという

思いからアレと称していた。

 

 張遼は曹操の言葉に眉根を寄せる。

 

「アレなんて言うんやない。あいつは、李蒙は優しい奴や。でもな、怒らせるとこの世で

一番怖い奴でもあるんやで? あんたらは李蒙の逆鱗に触れてしまったんや」

 

 そう言って笑い、張遼は大きく息を吸い、

 

「陽ちん! ウチはここやーーー!!」

 

 叫んだ。

 その叫びに曹操と陣幕にいた将達は目を剥く。

 

「……武人としてはこの行動は一生の恥や。でもな、それでもウチは月の、董卓の矛であ

りたいと思っとる。……軽蔑してくれてもええ」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 己を呼ぶ声が聞こえた。

 声の主は張遼。

 

 そして、声の聞こえてきたのは曹の旗が翻る天幕。

 李蒙はそこを目指して駆け出す。

 

 いま、李蒙の心にあるのは董卓を護る事、そして仲間を救う、それだけだった。

 

「我、李蒙! 我、董卓、護ル!!」




こんな感じでこれからも適当にネタを思いついたら投稿していきたいと思います。
それではまた次回。


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vividで書いてみた

ネタを受信したのでとうこーう!!
ネタだから短いよ!


・『聖王協会、司祭長の手記』より

 

 △月○日

 

 古代ベルカ時代。

 この時代には数多くの王がいた。

 王たちは各々が大望をその胸に秘め、この激動の時代を自身の手で終わらせるため、ま

たは手中に収める為に奔走していた。

 

 その中でも後世においては信仰の対象にまでなった王がいる。

 王の名をオリヴィエ・ゼーゲブレヒト。またの名を聖王と言った。

 

 オリヴィエに関しては様々な諸説があるが、その諸説全てに共通するのは彼女、聖王は

類まれな戦闘技術を有しており、その力をもって世に平和をもたらした、と言うものであ

る。

 

 世に平和をもたらした、と言ってもそれは古代ベルカ時代の大地全てを平定した訳では

無い。彼女は確かに多くの王を打ち倒したが、中には彼女が戦うことの無かった王、戦う

事はせず聖王と同盟を結んだ王、等がいた。

 

 そんな中、聖王オリヴィエにとって特別な王が2人いた。

 

 一人は覇王、クラウス・G・S・イングヴァルト、シュトゥラ王国の王にしてオリヴィエ

の幼馴染であり、彼女を好敵手として見据え、最後まで勝つことの出来なかった王。

 

 そして、もう一人。

 その王の名をガイエン・B・U・グライエンと言った。

 ガイエンに関する記述は驚くほど少なく、この王については後世に発見される事となっ

た聖王オリヴィエの手記によってようやくその存在が明らかとなった。

 

 ガイエン王に関しての調査はオリヴィエの手記が中心となっていたため、彼女の感情や

主観が多く、かの王に関しての調査は難航した。

 そんな中、手記を基にガイエン王の治めていたであろう土地の場所がわかり、調査を行

った結果、一つのロストロギアが発掘されることとなる。

 

 □月×日

 

 この発見は素晴らしい。

 

 私は聖王教会において司祭長という地位にいるが、実をいうとそこまで聖王という存在

が好きではないのだ。

 

 彼女は美化されすぎている。

 確かに聖王は立派だろう。偉業を成し遂げた王だろう。

 

 だが、私は美化された王より、何も分からないガイエン王にこそ興味を惹かれる。

 かの王はどのような王だったのだろう。

 

 それを想像するのはとても楽しかった。

 そして、私はある記述を見つけた。

 

 それはオリヴィエがガイエン王に関して記した一文だろう。

 その一文をここに記す。

 

『……。それにしてもアイツは硬すぎる。なんだというのだ、あの硬さは。私が今まで多

くの王を打ち倒してきた拳が通じない。アイツ個人に通じないなら城を落とせば良いと考

えた時もあったが、あの男は不可思議な術で配下の兵から城まで硬くしてくる。まったく

もう、嫌になるわ。幸いなのはあの王と私の領地はかなりの距離がある事だろう。

もういい、アイツの守りを打ち壊すのは個人的な目標として、王としてはあの王は無視す

る事にしようと思う。だが、いつかは打ち破りたい物だ、あの王、護王を』

 

 これ以降にはオリヴィエの愚痴の様な物がつらつらと書き連ねられているだけだった。

 しかし、私は聖王の愚痴よりも護王という異名の方に興味を持った。

 

 あの聖王が遂に打倒し得なかった王。

 気になる。

 どんな王だったのだろう。

 

 ひと目、そう、一目でいいから拝謁したい。

 

 そう考えた時、私の脳裏にある天啓が舞い降りた。

 時間を逆行する事など出来ない、だが、もう一度護王を創る(・・)事ならば出来る

のではないだろうか。

 

 この考えは異端だろう。

 だが、それでも私はこの考えを止める事は出来ない。

 そうと決まればまずは護王のDNAを手に入れよう。

 

 幸い私は司祭長であり、宝物殿にも入れる。

 発掘されたあのロストロギアを調査すればきっと、何かがあるはずだ。

 

 ○月●日

 

 遂に発見した。

 発掘されたロストロギアを調査している内に私は遂にガイエン王のDNAらしき物の採取

に成功したのだ。

 

 あとは、前々から聖王の遺物にあるDNA情報を欲しがっていたあの男にこれを渡そう。

 あの男が何をするつもりかは分からないが、それでも良い。

 鎧王に拝謁出来るならば何でも構わない。

 

 近頃はあの預言者気取りの小娘の狗が色々と嗅ぎまわっているようだが、すでにDNAは

渡してある。

 

 あとは、待つだけだ。

 これより先のページは血で読めなくなっていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 次元世界の何処かの研究所。

 そこには人影らしきものは何もなく、ただ機械だけが乱雑と設置されていた。

 

 研究所の一室にそれはあった。

 それは生体ポッドと呼ばれる代物だった。

 

 ポッドの中には15歳ほどの少年が裸で浮かんでいた。

 

『エラー発生。ポッド内の予備電源が切れます。実験体を生体ポッドより出します』

 

 機械音が部屋に響き渡り、ピーという音と共に生体ポッドから溶液が抜かれ、浮いてい

た少年を外へと排出した。

 

 排出された少年はべチャリと床に落ち、暫くの間咳き込んだ後、呟く。

 

「げほっ、あー、あー。んん、不思議な気分であるな。蘇りというのは」

 

 蘇り。

 少年は確かにそういった。

 この言葉が事実だとするならば少年は一度死んでいる事になっている。

 

「……それにしても、余が目覚めたというのに誰も出迎えに来ないとは」

 

 まったく王を何だと思っているのだ、と少年はぼやく。

 

「まあ良い。さて、与えられた知識によれば今は余の生きた時代から幾千年が経った後の

世との事だが、さて、どうしたものか」

 

 王を自称する少年が思案していると、生体ポッドがあった場所からそう離れていない机

の上に鎮座していた何かのエンブレムを模したアクセサリーがキラリと光った。

 

『お目覚めですか、王よ』

 

 それは一般的にインテリジェンスデバイスと呼ばれる代物だった。

 

「ほう、機械の揺り籠の中にて与えられた知識にあったな、確かデバイスだったか」

『その通りです。我が王よ。私の名称はイージス。貴方様の忠実な僕として作成されまし

た。早速ですが命令を。我が王』

 

 イージス、そう名乗ったデバイスに王は満面の笑みを浮かべ、イージスをその手に取り

最初の命令を出す。

 

「衣服のある場所に案内せよ。王がいつまでも裸一貫では示しがつかん」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 第34無人世界マークラン。

 そこは名前の通り人の住まない無人の世界だった。

 

 しかし、今は違う。

 現在マークランには2人の人間が住んでいた。

 一人をルーテシア・アルピーノと言い、もう一人の名をメガーヌ・アルピーノという。

 

 ルーテシアは数年前に母であるメガーヌを救う為にジェイル・スカリエッティの一味に

協力し、時空管理局に敵対していたが、主犯であるスカリエッティとその配下が捕縛され

た事により、彼女も拘束された。

 

 その後の調べによりルーテシアには意識操作の痕跡が発見された事と、母の為という理

由から更生プログラムを受けた後は救出された母と、相棒たる召喚蟲ガリューと共にこの

世界、マークランにて時空管理局の管理の下で生活を営んでいた。

 

 マークランでの生活はとても穏やかな物で、ルーテシアは意識を取り戻した母、メガー

ヌとの生活を満喫しており、生来の性格を取り戻していた。

 

 ある日の事だった。

 ルーテシアが洗濯物を干していると、ルーテシアのデバイスであるアスクレピオスが転

移反応を示した。

 

 直ぐに異変を感知したガリューが側に寄る。

 

「転移、誰が来るの? 局員だったら事前に連絡がある筈。ガリュー、油断しないでね」

 

 ルーテシアの言葉にガリューは頷き、転移陣が現れた場所を注視する。

 転移陣の光が強くなり、そして光が収まった。

 そこには一人の少年がいた。

 

 黒い髪を獅子の鬣の様に逆立て、どこか野性味のある風貌の少年だった。

 

「イージス、此処は何処だ?」

『我が王、此処は私に登録されていたデバイスのポイントから割り出した場所です』

「つまり何処なのだ」

『つまり分からない、という事です』

「一番重要な事が分からぬではないか」

 

 少年はルーテシア達が目に入っていないのか、自身のデバイスと会話をしているのだが

ルーテシアには少年達の会話の中で聞き逃す事の出来ない単語があり、少年を注視してい

た。

 

 すると、少年の方もルーテシアに気がついたのかルーテシアの方に歩み寄ってくる。

 ガリューはルーテシアを護るように前に出るが、少年はそれを気にする事無く、ルーテ

シアに声をかける。

 

「そこな女子(おなご)。此処はどこだ?」

「ここはマークラン。……貴方は誰?」

『誰と問うなど無知にも程がある! この方を誰と心得ているのか!?』

 

 少年の持つデバイスが大声を上げる。

 

 しかし、ルーテシアには目の前の少年が何者か等と皆目検討はつかない。

 

「イージス、よい。余を知る者がいないならばまた知らしめれば良いだけの事。それに面

白いではないか、誰も余の事を知らぬ世に我が名を轟かす。これもまた蘇った特典の一つ

というものよ」

『流石は我が王! このイージス、感動で前が見えませぬううううう!!』

「……………………あの、それで貴方は?」

 

「おお。そうだったな。よいか、一度しか言わんから良く聞くのだぞ? 余はベルカの王

の一人、護王ガイエン・B・U・グライエンである!」

 

 これが、後に次元世界にその人あり、と言われる事となるガイエンとその伴侶ルーテシ

アの出会いであった。




vividのルーテシアはエロ……ゲフンゲフン。可愛いね! そしてけしからんね!
そんなこんなでオリジナルの王さまとルーテシアのラブコメに繋がるかも、という短編でした。この後はルーテシアを訪ねてきたヴィヴィオやアインハルトと一悶着あるかもね!

それではマタ次回!


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ネギま!で書いてみた

先に言っておきます。かなりアホな文章ですよ?


 麻帆良学園都市と呼ばれる土地は数多くの学園が集い構成された一大都市である。

 しかし、それは表の顔に過ぎず、裏の顔も存在した。

 

 そう、麻帆良学園都市は魔法使いと呼ばれる超常の力を扱う者達が集う都市でもあった

のである。麻帆良学園都市は日本における魔法使いの一大拠点でもあり、その重要性から

派遣されている魔法使いは皆優秀である。

 

 そして麻帆良学園都市はある少年を迎え入れた事でその重要性を更に増す事となる。

 少年の名をネギ・スプリングフィールドと言う。

 この少年の父は英雄ナギ、母は亡国の王女アリカという魔法使いからすれば決して軽視

できない血筋を持つ少年だった。

 

 この少年が麻帆良学園都市に修行の一環としてやってきた時、少年ネギの英雄へと向か

う物語は幕をあげた。

 

 真祖の吸血姫エヴァンジェリンとの決闘、京都での死闘、公爵級悪魔の襲来、彼が関わ

ってきた事件はあげれば暇がない。

 

 そうして少年は数々の戦いを経て、英雄として成長した。

 

 そして今、ネギとその仲間である少女達の肩には魔法世界の命運が担われていた。

 魔力で構成された魔法世界が限界を迎え、崩壊の時を迎えようとしている中、世界の救

済を掲げた組織、完全なる世界との死闘。

 

 完全なる世界に所属する者達はいずれもが化け物の様な強さを誇る者達。

 今、ネギの前に立ちふさがるのは完全なる世界でも上級幹部デュナメス。

 彼はその圧倒的なまでの戦闘力を持ち、ネギ達を追い込んでいた。

 

 そして遂にネギ達の命運も絶たれようとしていたその時だった。

 

 彼が現れたのは。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 麻帆良学園都市には数多くの魔法使いがいる。

 彼らはいずれもが一流。

 

 そんな彼らに『麻帆良学園都市において最高の魔法使いは誰か?』という質問を投げか

けると、彼らは全員がこう述べるだろう。

 

 麻帆良学園都市学園長、近衛近右衛門、と。

 近右衛門は麻帆良学園都市の学園長であると同時に関東魔法協会の理事を務めあげる翁

であり、その実力は誰もが認めるものである。

 

 では『麻帆良学園都市における最高の戦士は誰か?』という質問では多少の意見が出る

が、その大半は高畑・T・タカミチであるという答えが返ってきた。

 

 タカミチは幼い時分には英雄の集いであった赤き翼に所属していたという事もあり、彼

らが表舞台から消えた後も前線に立ち続け、その名を馳せた戦士であり、その評価はとて

も高い。

 

 尚、この2人以外にも麻帆良学園都市にはエヴァンジェリンという真祖の吸血姫という

規格外の存在がいるのだが、彼女は魔法関係者の中では悪にあたる人物である為にその名

が出てくる事は無い。

 

 では『麻帆良学園都市最強は誰か?』

 この質問に対する答えは満場一致で近衛近右衛門の名があがった。

 

 やはり、最高の魔法使いは最強という事なのだろう。

 しかし、ただ一人、その答えを否とする者がいた。

 

 その一人こそ、近衛近右衛門だった。

 

 彼はその長く伸ばした髭を撫でながら笑う。

 

「わしが最強? なんの冗談かの。麻帆良にはわしなど足元にも及ばぬ者がいる」

 

 ああ、もちろんエヴァンジェリンの事ではないぞ、と彼は言う。

 

 では誰なのか。

 

 その問に彼はその名を口にした。

 

「その男の名はの……」

 

 

◆◆◆◆

 

 

「新田……先生…………?」

 

 デュナメスの魔法が放たれる寸前、彼らの前に立っていたのは麻帆良学園都市にいる者

ならば忘れる事の出来ない人物だった。

 

 新田弘次。麻帆良学園都市において学園広報指導員を勤め上げる教師であり、その厳格

さ故に『鬼の新田』とよばれる名物教師の一人である。

 

 しかし、それは一般、表の話であり、彼自身が魔法に関係しているという話は聞いた事

が無かった。

 

「新田先生! 何故、こんな所に!? ここは危険です!」

 

 ネギ達が叫ぶ。

 彼は尊敬できる大人ではあるが、ここでは無力な一般人にすぎない。

 ここにいては彼の命が危ない。

 

 そう思った。

 

 だが、

 

「ネギ先生。そして貴様ら、零点だ!」

 

 彼の口から出てきたのは叱責の言葉だった。

 突然の叱責の言葉にその場にいる全員の目が点になる。

 

「いいか、ネギ先生。君たちはまだ子供だ。子供は困ったら大人に助けを求めるものだ。

だというのに、何が世界を救うだ、何が僕達にしか出来ないだ!! 自惚れもいい加減に

しなさい!」

 

 そういった新田は優しく微笑み、

 

「私達大人は君たちの小さな肩に世界などという重荷を背負わせる程に頼りなくは無いぞ

?」

 

 ネギ達の頭を撫でた。

 

 あまりの事態に目を白黒させる状況からいち早く立ち直ったのはデュナメスだった。

 

「いきなり現れたかと思えば、私を無視しての説教とは恐れ入る。見たところ魔力も気も

無い一般人のようだが、この場にいるならば容赦はせんぞ?」

 

 デュナメスの言葉に新田はネギ達から手を放し、デュナメスをまっすぐに見る。

 

「……君、名前は?」

「私か? 私の名はデュナメス。貴様を葬る男の名だ!」

 

 そう言ってデュナメスの姿が掻き消える。

 そして、次の瞬間には彼の姿は新田の目の前にあった。

 

 ネギ達は思わず目を瞑る。

 新田が殴られ、死んでしまう。そう思ったからだ。

 

 だが、現実は違う。

 

「そうか。デュナメス、貴様は指導対象だ!」

 新田は突如として現れたデュナメスに一切の焦りを見せず、ゆっくりとただ添えるよう

に握った拳をデュナメスの腹に当てる。

 

 それだけ。

 たったそれだけの一動作。

 

 だというのに、目を開けたネギ達の目に写ったのは悶絶するデュナメスの姿だった。

 

 うずくまるデュナメスは何をされたのか分からなかった。

 ただ自分は腹に拳をそえられただけ。

 

 だというのにこの激痛。

 訳がわからない。

 

 いや、一つだけ分かっていることがある。

 それは……。

 

「何をされたかわからないかね? 答え合わせも兼ねて、指導を始める!」

 

 目の前の老齢といっても過言ではない男が油断のならない人物だと言う事だ。

 

 新田はデュナメスが立ち上がるのを待っていた。

 その余裕がデュナメスの心を逆撫でる。

 

「あまり、私を舐めない方が良い。今、追い打ちを行わなかった事を後悔させてやる」

「……追い打ち? 何故そんな事をする? 言っただろう、これは指導だと!」

「ほざくなぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 吠えるデュナメス。

 彼の姿が再び消え、現れた場所は新田からかなりの距離を取った場所。

 

 デュナメスは自身の周囲にある人など軽く押し潰せそうな瓦礫をいくつも浮かせ、新田

目掛けて投げつける。

 

 新田は迫る瓦礫を見ず、ただ真っ直ぐデュナメスを見ていた。

 

「やれやれ。人に向かって瓦礫を投げつけるなど、私はともかく後ろにいる子どもたちに

当たったらどうするつもりかね?」

 

 そう言い、彼はまた先ほどの様に迫る瓦礫全てに手を添える。

 それだけで瓦礫の全ては砕け散った。

 

「貴様には特別指導が必要なようだ」

 

 新田はそう言うとメガネを外し、一歩踏み出した。

 次の瞬間には彼の姿はデュナメスの目の前にあった。

 

 それを見て、驚いたのはネギ達であった。

 今、新田が行ったのは彼らの知る戦闘歩法、瞬動や、その派生である虚空瞬動とは明ら

かに違っていたからだ。

 

「新田先生、何者ですか?」

 

 ネギと共に戦っていた少女の一人、桜咲の言葉がその場にいる全員の思いを代弁してい

た。

 

 困惑しているのはデュナメスも同じだった。

 目の前に現れた男からは魔力も気も、おおよそ戦闘能力というものを感じる事は出来な

い。だというのに、何故……!

 

「人を見かけで判断するな。幼い時分に教わらなかったかね? まずは答え合わせをしよ

う。貴様が私から何も感じ取れないのはそれだけ私と貴様の間に力量の差がある。それだ

けの事だ」

「巫山戯るな……。巫山戯るなぁあぁぁぁぁぁ!!」

 

 激昂したデュナメスの一撃を新田は手のひらで軽く受け止め、そのまま彼を地面へと叩

きつける。

 

「さあ、指導開始だ!」

 

 そこから始まったのは指導という名の蹂躙だった。

 新田はデュナメスの行動の一つ一つを指摘し、何が悪かったのかを告げる。

 

 それは確かに指導だったのだろう。

 まあ、かなり痛い体罰指導ではあるが。

 

 既にデュナメスの体も心もボロボロだった。

 そんな今にも倒れそうな彼に新田の拳が迫る。

 

 これで終わりか。

 そう、思った。

 

 だが、覚悟した痛みが訪れる事は無かった。

 

 うっすらと目を開くと、そこには手を差し出す新田がいた。

 

「指導は終わりだ。何かあれば此処に連絡しろ」

 

 その姿にデュナメスは造物主とはまた違う、敬意の念が現れるのを感じた。

 

「名をもう一度……」

「新田。新田弘次。麻帆良学園都市で教師をしている」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 どうしてこうなった……。

 それが魔法世界での騒乱を終え、麻帆良学園都市に戻ってきたネギ達の心境だった。

 

 何故なら、

 

「本日から世話になる。元完全なる世界だ。以後よろしく」

 

 そこには学生服に身を包んだ完全なる世界のメンバーがいたのだから。

 

 

 指導完了!!

    




やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「悪ふざけ」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このネタを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「指導の大切さ」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、このキーワードを作ったんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。


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恋姫で書いてみた2

就活の 終わりが見えず 苛ついて 思わず書いた 酷すぎるネタ。


――神さまとかいるんならマジで出てこい。全力で殴ってやるから。

  『とある少年の心からの叫び』から抜粋。

 

◆◆◆◆

 

 どうも、初めまして。僕の名前は張任と言います。

 そう、あの三国志で有名な張任です。

 

 まあ、こんな言い方をしていればお察しいただけるかと思いますが、実は僕転生したみ

たいなんですわ。いや、別段トラックが云々とか神様のミスとかいう面白展開ではなく、

気がついたら張任だった。という、よく分からない状況に陥っている元普通の男子高校生

です。

 

 もうね、最初は何が何だかわかりませんでしたよ。

 だって、張任だよ?

 みんな、張任って知ってる?

 僕は三国志がそれなりに好きだから少しは知ってたけど、主要人物くらいしか知らない

人だと、『張任、誰それ?』ってなると思うんだ。

 

 そんな、あなた方の為にかるーく僕、張任について説明しよう!

 

 張任、字は不明。文武に優れた名将とされていて劉備が来る前の蜀、まあ益州だね。

 その益州の牧である劉璋配下の武将だよ。

 ちなみに益州が劉備のものとなる際に劉備に降るを良しとせず、首を刎ねられる事にな

る忠義の人。

 

 さて、そんな張任になってしまった僕だが、まず言わせてほしい。

 まじ、フザケンナ。

 

 なんていうかこう、赤ちゃんスタートとかなら未来改変とかで生き残る道を模索出来た

りするんだろうけど、なんで劉備が益州を攻めてきて、?城を護ろうとしている所からの

スタートなの?

 

 馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ?

 

 今までの張任さんがどんな人間だったか知らないけど、中身がいきなり変わった事ぐら

い直ぐにバレるよ。バレたら『張任様がご乱心めされた』なんて言われて更迭されるのが

目に見えてるじゃん!

 

 まあ、幸いというか張任になった時に今までの張任としての記憶がこう映画を見るよう

に浮かんできたので、今はそんな記憶の中の張任さんを頑張って演じております。

 

 さて、そんな僕ですが今何をしているかと言いますと……絶賛伏兵しています。

 

 そう、伏兵です。

 なんでも配下の兵士1が言うにはそろそろここ、落鳳坡を劉備が通るらしいのでそれを

狙い撃ちましょう、との事だ。

 

 また報告によると劉備は白い馬に乗っているらしくそれを目印にするとの事。

 

 だけど、僕は知っている。

 ここ落鳳坡において白馬に乗っているのは劉備ではなく、鳳統であるということを。

 

 僕の記憶が正しければここで伏兵をして、鳳統を射抜くのは張任配下の将であったと思

うのだが、まあ某無双のゲームでも伏兵として隠れていたのは張任だったから問題は多分

無いのだろう。

 

「将軍、もう間もなく劉備軍がここを通ります」

 

 斥候に出ていた兵士の報告に緊張から汗が一筋流れる。

 

 周りにいた兵士にもっと姿勢を低くするように指示を出し、鳳統がここに来るのをジッ

と息を潜めて待つ。

 

 そして、遂に劉備軍の先頭が見え、白馬の姿を確認したのだが。

 

「……………………は?」

 

 思わず、そう漏らしてしまった。

 だが、仕方がないと思う。

 だって、白馬にまたがっていたのは僕が想像していたような鳳統ではなく、魔女っ子の

コスプレをしたようにしか見えない少女だったのだから。

 

 まさか、アレが鳳統だとでも言うのか。

 嘘だと言ってよ、と縋るような目で隣にいる副官を見るが副官はそんな僕の視線に何を

勘違いしたのか頬を染めやがった。

 

 ちなみに副官は男(マッチョ)です。

 そして、当然僕も男(ショタ)です。

 

 ゾワリと背筋が凍った。

 コレ以上はマズい。

 そう直感した。

 

 僕は副官の視線から逃れるように兵士に指示を出す。

 

「いまだ、放てええ!!」

 

 見た目幼女だろうと、あれは鳳統、そして僕は張任!

 ならば行くしかなかろうて!

 決して副官の視線から逃げたわけではない!

 

 大量の弓矢が鳳統に殺到し、弓矢が鳳統に刺さろうとした時だった。

 突如として僕の視界が真っ白になり、全てが消えた。

 

◆◆◆◆

 

 気がつけば、また僕は落鳳坡にいた。

 あれ、鳳統は?

 伏兵の結果は?

 

 そんな事を考えていると僕はあることに気がついた。

 

 そう、僕は何か紙切れをその手に握っていた。

 

 恐る恐る紙切れを広げると、そこには

 

『幼女を射殺すなんてとんでもない』

 

 と書かれていた。

 え、なにこれ。

 どういうこと?

 

 いや、でも此処は落鳳坡で、僕は張任なんだからそうするしかないじゃん。

 悶々と考えているうちにあの時と同じ兵士がかけて来た。

 

「将軍、もう間もなく劉備軍がここを通ります」

 

 取り敢えず考えるのは後だ。

 さあ、鳳統よ来い!

 

 再び鳳統(仮)がここを通ろうとした時、弓を射かけた。

 そして、僕の視界も再び真っ白になった。

 

◆◆◆◆

 

 またまた此処は落鳳坡。

 そしてまたまた僕は伏兵中。

 

 そして手には紙切れ。

 

『ここは落鳳坡。つまり鳳凰が落ちる場所。後は分かるな?』

 

 今度はそう書いてあった。

 ああ、わかってるよ。

 だから鳳凰――鳳統――を射落としてるんじゃないか!

 

 それの何が駄目だって言うのだろうか。

 

「将軍、もう間もなく劉備軍がここを通ります」

 

 弓が駄目だっていうのなら、槍を投げてやる。

 僕は配下の兵に指示を出し、鳳統が通った瞬間に一斉に槍を投げつけた。

 そして、槍が鳳統の体を刺し貫いた時、またまた視界は真っ白に。

 

◆◆◆◆

 

 もうね、どうしろと。

 段々とイライラしてきたが、とりあえずは手に持った紙切れを広げる。

 

『落鳳坡は鳳凰が落ちる場所。つまり鳳凰をオトせということ』

 

 そう書いてあった。

 そして僕はある一つの恐ろしい仮定を思い浮かべてしまった。

 

 此処は落鳳坡。

 僕は張任、ちなみに何故か見た目は少年。

 

 これから此処を通るのは鳳統。見た目は何故か美少女。

 

 紙切れには鳳凰をオトせと書いてあった。

 落とせでも、堕とせでもなくオトせ。

 

「まさか……、まさか……。男として女の鳳統をオトせという事なのか?」

 

 いや、まさか、そんな。

 

 だが、この無限ループから抜け出す為にありとあらゆる事をやってみなければ。

 

 僕は試しに兵士に動かない様に指示を出し一人鳳統が通るであろう道に仁王立ちする。

 

 見えた。鳳統だ。

 鳳統は一人で仁王立ちをしている僕を見て訝しんだ顔をしているが、僕はやることをや

るだけなのだ。

 

「鳳統殿! 好きだあああああああああ!」

 

 そして、視界は真っ白に。

 

◆◆◆◆

 

 もう、どうしろと?

 紙切れを見てみる。

 

「心が籠もってない10点」

 

 ふざけんなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 俺はあんな美少女鳳統のことなんか一ミリも知らんのにどう心の籠もった告白をしろと

言うんだ。心の籠もった告白が見たいなら鳳統の幼馴染とかにしろよ!

 そうでなくともせめて同じ所属だろう!? こちとら張任よ!? 劉備に降るを良しと

せずに散った将なんだよ!?

 

 どうしろってんだよ!

 

 だが、方向性はあっているらしい。

 なんとかして鳳統と好き合う関係にならなければ僕は永遠に落鳳坡から解放されないの

だろう。ならば、やるべきことは一つ。

 

 まずは鳳統という少女を好きになろう。

 なので今回は弓も槍も告白もせずにただ影から鳳統を見続ける事にした。

 

 ふむふむ。魔女っ子スタイルは正直どうかと思うが、顔はやはり可愛いな。

 外見しかわからないが、こうやって研究を重ねていくしかあるまい。

 

 そうして鳳統をじっくり見ている間に鳳統が落鳳坡を超えてしまった為、視界は真っ白

になった。

 

◆◆◆◆

 

 色白の肌に豊かな髪。

 そして小動物っぽいな。

 

◆◆◆◆

 

 どうやら口癖は「あわわ」らしい

 

◆◆◆◆

 

 結構恥ずかしがり屋なのではないだろうか……。

 

◆◆◆◆

 

 ホウトー。

 

◆◆◆◆

 

 ほうとう。

 

◆◆◆◆

 

 ほーとー。

 

◆◆◆◆

 

 かゆ、うま……。

 

◆◆◆◆

 

 あれから何度繰り返しただろうか。

 何度告白しても無駄無駄無駄無駄無駄。

 視界は真っ白になり、リスタートを繰り返す。

 

 だが、これで精神が摩耗するという事はなく、ただただ僕は叫び続けるのだ。

 

「鳳統殿! お付き合い願いまーす!」

 




本文にもあるように落鳳坡は鳳凰が落ちる場所。そんな感じで思いついたネタです。
……ごめんなさい。もうしませんから。

張任くんがどうしたらこのループを抜け出せるか、良い告白法を思いついた方は感想まで!

それではまた次回。


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ハイスクールD×Dで書いてみた





「オノレェ! よくも我が手勢を! 我が組織ヲォォォォ!」

 

 怨嗟の声が木霊する。

 声の主はボロ布のようなローブで体を覆い、フードからは爛々と輝く瞳が覗いていた。

 

 そこは元は古びた洋館だった。

 洋館の調度品で壊れていない物は無く、いずれもが粉々か消し炭となっていた。

 

 地の底から響くような声の先には一人の男が佇んでいた。

 男は真っ赤な全身鎧に捻くれた山羊の角が付いた獅子の面を付け、炎を背負い、声と対

峙しているようだった。

 

「オノレ、ベリアルマスク!」

 

 ベリアルマスクと呼ばれた鎧の男はその言葉に答える事はせずに拳を構えた。

 

「ぶっ飛べ!!」

 

 ベリアルマスクの拳が叫ぶ男の頬に突き刺さる。

 殴られた男は壁まで吹き飛ばされ、背中を強かに打ち付けた。

 

 その衝撃でローブが取れ、その全体が明らかになる。

 そこには身体は無く、ただ宙に浮く頭蓋骨があるだけだった。

 

「それがお前の正体か。犯罪組織『アルマゲドン』ボス、アンチ・クロス!!」

 

「グッ、ゴホッ。流石はベリアルマスク。ベリアルの名を冠するだけはあるという事か。

だが、私は一人では逝きはせんぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 アンチ・クロスの頭蓋骨には既に罅がはいっており、言葉を発する度にその罅が広がっ

ている事から既に限界を迎えている事が伺えた。

 

 しかし、アンチ・クロスはそんな事はどうでも良いと思っていた。

 

 ただ、今は目の前のベリアルマスクを倒す。

 それだけだった。

 

「これでトドメだ!」

 

 ベリアルマスクがアンチ・クロスにトドメを刺す為に飛びかかる。

 

「それを待っていたァァァァァァァ!!」

 

 飛びかかるベリアルマスクに反応するようにアンチ・クロスの目の前に魔法陣が出現し

たのだ。

 

「なんだと!?」

 

 ベリアルマスクは魔法陣に気づき、急ぎ炎を使って緊急回避をしようとするが、

 

「カカカ! 遅いワァ! 世界を超える転移魔法陣で何処とも知れぬ世界で朽ちよ! 我

はそれを死者の国で呵呵と笑いながら見させてもらうわ!!」

 

 アンチ・クロスはそう笑いながら言い、崩れ去った。

 

「アンチ・クロスゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 その日、一つの犯罪組織と一人のヒーローが姿を消した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 誰にだって馴染みの店というものが存在する。

 

 それは兵藤一誠という男子学生にとっても例外ではなかった。

 兵藤一誠はぶっちゃけしまうと人間ではない。

 そう、彼は悪魔である。

 

 まあ、悪魔と言っても厳密に言えば転生悪魔と言い、元は人間だった者が死に瀕した時

に「悪魔の駒」と呼ばれる代物によって転生し、生まれるのが転生悪魔である。

 

 もちろん、悪魔に転生したからと言って何か兵藤一誠という人物の何かが変わる訳では

ない。ただ、寿命や身体能力などが大きく変化したりするといったぐらいである。

 

 さて、そんな兵藤一誠の馴染みの店だが、実は二つある。

 一つは彼の生き甲斐であると言っても過言ではないエログッズをいつも買う店。

 まあ、男子なのだからそれぐらいは普通かもしれないが、兵藤一誠は並のエロ男児では

なく、超エロ男児なのだが、それは今は関係ない。

 

 今回、焦点を当てるのはもうひとつの馴染みの店『飯処 漢』である。

 

 カランカランと扉に取り付けられたベルを鳴らしながら一誠はいつもの様に店の中に入

っていく。

 

 そこは定食屋だった。

 店の中には適当に並べられたテーブルとカウンター席が5つ程設置されており、それ以

外には注文を待つ間の暇つぶし用か、店主の趣味かは分からないが一昔前の少年漫画が所

狭しと入れられた本棚がある。

 

 一誠は慣れた様子でカウンター席に向かい、

 

「ユメさん、今日の日替わりは?」

 

 カウンターの奥にいる女性に声をかける。

 

「あら、一誠ちゃん。久しぶりねえ。今日の日替わりは生姜焼き定食よ」

 

 一誠にユメと呼ばれた女性はぱっと見の外見は20代前半と言った様子だが、この店に

10年以上通い続けている常連によれば彼女の外見はここ10年まったく変わっていない

との事であり、実際の年齢は不詳な人物であった。

 

 しかし、一誠やここの常連の男連中にとってそんな事はどうでも良かった。

 ユメという女性はボンッキュッボンという言葉はこの女性の為にあるのではないか、と

思ってしまう程に整った魅惑のボディの持ち主なのである。

 

 一誠の主である駒王学園オカルト研究部部長であるリアス・グレモリーや同研究部の女

性達も皆美人であり、整ったプロポーションの持ち主ではあるのだが、ユメには彼女らに

は無い大人の色香といったものがあるため、リアス達とはまた違った魅力を放っているの

である。

 

 これほどの美人であるならば男達が放っておく筈もないのだが、ユメに言い募る男は皆

無と言ってもいい。

 

 これはユメがどうとかではなく単純に彼女は既に人妻であるというだけである。

 そして、この魅惑の女性の心を射止めた幸せものこそがこの店の店主であった。

 

 ユメが既婚者である、という事実に何人かは血の涙を流す事態も発生しており、店主に

呪いの言葉を吐こうとする者もいたが、それが実行される事はなかった。

 

 その理由は伴侶たる店主にあった。

 

「おう、イッセー!! 久しぶりじゃねえか!!」

 

 ユメの立つカウンターの奥、調理場から獣の咆哮の様に馬鹿でかい声が響いてきた。

 声の主はドスドスという音を立てながら、カウンターに出てきた。

 それは巌のような男であった。

 まるで巨岩を荒く削ったかの様に盛り上がった筋肉が着ている服を弾き飛ばさんばかり

に盛り上げており、顔もまた獅子か猛虎を彷彿とさせるような厳しい面構えに金髪を調理

の邪魔にならないように短く刈り上げていた。

 

 まさに動く筋肉の塊といっても過言では無いこの男こそ『飯処 漢』の店主、ドウサン

と言った。この威圧感がそのまま形をとったようなドウサンに面と向かって呪詛を吐こう

とする猛者は流石におらず、結果今のような状態に落ち着いていた。

 

 ちなみに余談ではあるが一誠とその友人であるとある二名も呪詛を吐こうとした者達で

あった。

 

「あ、店長ちわーす」

 

 普段の一誠ならばビビってしまいそうなものだが、彼もこの店の常連となってから数年

が経過している為に軽く挨拶をする事ができた。

 

「おう。イッセー、暫く見ない間に随分と見違えたじゃねえか。なんか男の格が上がった

、そんな感じだな。それと店長じゃねえ、おやっさんと呼びな」

 

 ドウサンはガシガシと乱暴に一誠の頭をなでつける。

 力強すぎるその撫で方に軽く痛みを覚えながらも一誠は笑う。

 

「いてて。すんません、おやっさん。いやあ、おやっさんに男の格が上がったって言われ

ると何だか自信が着いちゃいますよ」

 

 ドウサンもまたそんな一誠の言葉に笑顔を深くする。

 

「そういった言い方が出来るのが男が上がったって言うんだよ。これはあれか? お前に

もようやく春が来たのか? エログッズとかの寂しい春じゃなくて本物の女がよ」

「……かもしれないっす。いや、まだ片想いなんですけどね?」

「あら一誠ちゃん、本当に春が来たのねえ。お姉さん寂しいわ。これでも一誠ちゃんの事

可愛いなあって思ってたのに」

 

 会話に混じってきたユメの言葉に一誠はガバッと顔を上げ、先ほどまでの真面目な顔と

は打って変わってだらしない顔になり、

 

「えぇっ、じゃ、じゃあユメさんとの壮大な恋もあったってことっすか!?」

 

 ユメに、更に詳しく言うならばその雄大な山脈に、イヤラシイ視線を向けるが、

 

「おう、一誠。ユメに手を出したらどうなるか分かってるよな?」

「や、ヤダナー。僕がユメさんにそんな視線を送る訳ナイジャナイデスカー」

 

 ドウサンの言葉に冷や汗を流しながらユメの胸から目を逸らすのだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「さて、一誠。今日の注文はどうする? さっきユメに日替わり聞いてたからそれでいく

か? 今日は良い豚がはいったから旨ぇぞぉ」

 

 席に案内された一誠はドウサンの言葉に喉をごくりと鳴らすが、この店に来た目的を思

い出すと首を振る。

 

「……おやっさん。注文いいですか?」

「おう。今日はどうする?」

 

 一誠は顔を引き締め、真っ直ぐにドウサンを見詰め、静かに注文を告げた。

 

「チャレンジャーお願いします」

 

 チャレンジャー。その単語が一誠の口から出た瞬間に店から一切の喧騒が消え、店内全

ての視線が一誠に向く。

 

「……チャレンジャーでいいんだな?」

 

 ドウサンの確認に一誠はコクリと頷く。

 

「うす。お願いします」

「確かに男は上がったようだが、まさかチャレンジャーとはな。一誠、勇気と無謀は違う

ぜ? 最終確認だ、チャレンジャーでいいんだな?」

 

 再度の確認に一誠は自身の背に冷たい汗が流れ、心臓は鼓動を速くする。

 そして、

 

「うす。チャレンジャーお願いします」

 

 その言葉を口にした。

 

「チャレンジャーいっちょう!!」

 

 ドウサンが店内に響き渡るように大声で注文を叫ぶと、店内に動きがあった。

 それまで談笑していた会社員達も定食を食べていた男子学生達も皆、席を立ち、店の中

央に空きスペースを造る。空いたスペースにユメが一つの小さなテーブルを置く。

 

「一誠、財布は大丈夫だろうな?」

「問題ないですよ。勝ちますから」

 

 ドウサンの言葉に一誠は自分を奮い立たせる意味も持たせ、勝ち気な言葉を口にした。

 

「良い度胸だ。位置につきな」

 

 ドウサンは腕を捲り、その丸太のような腕をテーブルに置く。

 対する一誠も同じように学生服を脱ぎ、シャツの腕を捲り、悪魔としての修行で逞しく

なった腕を置く。

 

 それは所謂腕相撲の格好であった。

 

 審判役を務めるユメが両者の拳を合わせ、ルールの確認を行う。

 

「勝負は腕相撲一本勝負。一誠ちゃんが勝ったらスペシャル漢丼を無料提供。この人が勝

ったら当然スペシャル漢丼の代金、2500円を払ってもらう。両者、いいわね?」

 

「はい!」

「いつでもいいぜぇ」

 

 両者が頷くのを確認したユメはテーブルから離れ、息を吸い、

 

「ファイッ!」

 

 ゴングを鳴らした。

 

 ここで一誠が注文したチャレンジャーについて説明しておこう。

 一誠が注文したチャレンジャーとは『飯処 漢』の名物であり、また漢試しの一つとし

て常連たちの間では有名なものである。

 

 店主であるドウサンとの腕相撲に勝利した場合はこの店の最高の値段を誇る丼ものであ

るスペシャル漢丼が無料となるという他の店における大食いチャレンジと同じであるのだ

が、違うのは戦うべきは大皿に載った料理ではなく店主ドウサンであるという点である。

 

 今までにもチャレンジャーに挑戦する者は数多くいたが、そのいずれもがドウサンに勝

つ事は出来ずに敗北してきた。

 

 それ故に周りの常連たちは一誠が挑戦することにいい意気込みだと思いはするが、勝て

るとは微塵も思っていなかった。

 何故なら、今の一誠よりも遥かに筋量があるであろう男達が敗れ去ってきたのだから。

 

 しかし、それは一誠が人間であればの話である。

 今の一誠は悪魔に転生しており、その身体能力は人のそれを遥かに超えている。

 

 勝たせてもらう、一誠はそう考えていた。

 

『悪魔の力の悪用というか、なんというか。相棒情けないぞ』

 

 彼の神器『赤龍帝の籠手』に宿るドラゴン、ドライグはそんな一誠に苦言を呈するが、

 

(うっせー。人間の力じゃおやっさんに敵う訳ねえだろ!)

 

 そんな情けない返事が帰ってくるだけだった。

 

 一誠は悪魔の身体能力を使ってでもドウサンに勝ちたかった。

 それはスペシャル漢丼が無料になるだけではない。もうひとつの理由があった。

 いや、むしろもう一つの方こそが目的だったりする。

 

 それは、チャレンジャーに挑戦し、勝った者には勝者の褒美としてユメからキスがある

というものだった。

 

(悪魔の力でもなんでも良い。俺は勝ってユメさんにキスしてもらうんだ!!)

『うぅ、下心しかない相棒だ』

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ユメの合図と共に両者はその腕に渾身の力を込める。

 ギシギシッと机が悲鳴を上げる。

 

「ほう、一誠。どんな鍛え方をしやがった。その細腕からは考えられねえ程の力じゃねえ

か」  

「へへへ、驚くのはまだ早いっすよ。うぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 ドウサンの賞賛の言葉に一誠は笑みを深くしながら更に力を込める。

 

「ぬぅ!」

 

 悪魔の身体能力をフルに使い、一誠はドウサンの腕を机に着けようとする。

 

 ぐぐぐ、とドウサンの腕が傾く。

 その光景に常連たちは皆、驚嘆の表情を浮かべていた。

 

「おいおい、あいつあんな細腕だってのに大将を押してんぞ」

「こりゃもしかするともしかするか……?」

 

 周りのささやき声に笑みを深くする一誠。

 

「へへ、どうっすかおやっさん。降参してもいいんですよ?」

 

 軽い挑発を交えた言葉にドウサンもまた笑みを深くする。

 

「イッセー、確かに力を付けたな。だが、これしきの力で俺を超えられるなんて甘っちょ

ろい考えは捨てた方がいいぞ?」

 

 ドウサンの言葉に一誠は怪訝な表情を浮かべる。

 

「イッセー、いつからこれが俺の全力だと思っていた?」

「……なん……だと……」

 

 ドウサンはフゥゥゥと大きく息を吐き、そして、

 

「フンッ!!」

 

 一誠に押されかけていた腕に力を入れた。

 それと同時にパンプアップされた筋肉によりはじけ飛ぶドウサンの衣服。

 

 急激に増したドウサンのパワーに一誠の腕が軋みをあげた。

 

「ぐげっ!」

 

 両者の腕が載ったテーブルがミシミシと音を立てる。

 一誠の有利に傾いていたはずの勝負は一瞬にしてドウサンの有利となる。

 

「ぐぎぎっぎぎ」

 

 歯を食いしばり、耐えようとするが、それも長くは保たなかった。

 

 パタリ、と力を失った一誠の腕がテーブルについてしまった。

 

「それまで! 勝者、ドウサン!!」

 

 ユメの言葉に店内全てが沸き立つ。

 勝者となったドウサンはバッと拳を突き出し、勝者の名乗りを上げるのだった。

 

「イッセー、本当に強くなりやがって。一体どんな特訓をしてきたんだ?」

 

 疲労から地面に伏している一誠にドウサンが声をかける。

 ここで悪魔になったからです、と言えるはずのない一誠は軽く引きつった笑みを浮かべ

自身の中に前からあった疑問をドウサンに投げかける事で誤魔化した。

 

「前から思ってたんですけどおやっさんってこの店始める前って何をやってたんですか?

こんなに筋骨隆々な料理屋ってのも無いと思うんですけど」

 

 一誠の疑問にドウサンとユメは顔を見合わせ、ドウサンが頷くと、ユメが口を開いた。

 

「一誠ちゃん、この人の昔の職業はね」

 

 ……ヒーローよ。そう言ってユメは笑った。

 

 その答えに一誠は何と言っていいのか分からなかった為笑うしかなかった。

 

 ちなみにこの後、一誠は敗北のスペシャル漢丼をお金を払って食べる事となり、その財

布は薄くなったとだけ言っておこう。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 一誠の財布が薄くなってから幾日かが経ったある日、一誠の通う駒王学園はある種の緊

迫感に包まれていた。

 それは、駒王学園に天使、堕天使、悪魔という三大陣営のトップ達が一堂に会している

ためであった。

 

 何故、三陣営のトップが一同に会しているのか? それは端的に述べるのであれば和平

を結ぶ為の会談であった。

 

 何故、会談がこの駒王学園で行われているのか。

 それはこの会談が開かれる前より、この地にて起きている数々の事件が関係していた。

 

 一つ一つの事件に三陣営の全てが関係しているか、と問われればそれは違うのだが、全

ての事件を見れば、必ず何処かの陣営が関係していた。

 

 また、それらの事件の解決には悪魔陣営のトップである魔王の一人であるサーゼクス・

ルシファーの妹であるリアス・グレモリーが関係していた事から事情の説明も兼ねて、今

回の会談は駒王学園で開かれる事となったのである。

 

 そして現在、一誠は会談が開かれるまで少しだけ時間があったので何をするでもなく廊

下をぶらぶらと歩いていた。

 

 すると、廊下で一人佇み、手元にある一枚の写真を見ているサーゼクスを見つけた。

 サーゼクスは一誠が近づいてきたのを感じ、写真を胸元に仕舞い、彼に向けて微笑を浮

かべ、手招きをした。

 

「やあ、一誠くん。調子はどうかな?」

「ぼちぼちって所です。サーゼクス様は何を見てたんですか?」

 

 一誠の問いにサーゼクスは少々気恥ずかしそうにしながらも先ほど仕舞った写真を取り

出した。写真は随分と古い物なのか色褪せていたが、何が写っているのかは分かった。

 

 写真には美少年と言っても過言ではない紅髪の少年がゴテゴテとした真っ赤な全身鎧に

顔には捻くれた山羊の角が着いたこれもまた真っ赤な獅子の面をつけた人物、あえて言う

ならば一昔まえの特撮ヒーローに抱えられ満面の笑顔を浮かべていた。

 

「これは?」

「一誠くんは知らないかもしれないけど冥界には娯楽がとても少ないんだ。今でこそ、色

々なものが流れてきて少しはマシになってきたけど私が子供の頃は娯楽と言えば本とか、

そういった物しかなかったんだ」

 

 でもね、と一旦言葉を切ったサーゼクスは思い出すかの様に視線を宙にやった。

 

「この写真に写っているのはね、そんな娯楽の少なかった冥界に新しい風を運んでくれた

ヒーローと恥ずかしながらそんなヒーローの大ファンだった私なんだよ」

 

 その話を聞いた一誠はなるほど、と思った。

 確かにこの写真に写っている美少年は目の前のサーゼクスをそのまま幼くしたようにも

見える。しかし、それよりも気になるのはこのヒーローであった。

 

「このヒーロー、どんな作品だったんですか?」

「ヒーローの名前は魔炎英雄ベリアルマスク。全身を真っ赤に染めた炎のヒーローでね。

こっちの特撮みたいに勧善懲悪という訳じゃなくて自分が気に入らない奴を持ち前の怪力

と炎で打ち倒していくって内容なんだ」

「ず、ずいぶん特徴的な特撮っすね」

「ああ、そうだね。ちなみに登場時のセリフは『天駆け、地駆け、人助け! 子供の声が

俺を呼ぶ! 魔炎英雄ベリアルマスク推参!』だよ」

 

 サーゼクスはベリアルマスクのポーズを取り、笑いながら言葉を続けた。

 

「一誠くん、実はこのヒーロー作り物じゃないって言ったらどうする?」

「へ? どういう事ですか?」

「ベリアルマスクはね。私が子供の頃のヒーローなんだ。私が子供の頃の冥界にそんな特

撮を撮る技術なんて無いからね。このベリアルマスクは実際に冥界で活動をしていた実在

のヒーローなんだよ」

 

 サーゼクスの言葉に一誠は引きつった笑みを浮かべる。

 

「いやあ、すごかったなあ。西に気に食わない悪魔がいれば殴り飛ばし、東で子供を泣か

す悪魔がいれば燃やし尽くす。まあ、毎回毎回暴れる度に冥界の建物が何棟か全壊してい

たけどそれでもあの姿は私の目にはヒーローとして焼きついたよ」

 

 ちなみに、私世代の悪魔は皆ベリアルマスクのファンだよ、というサーゼクスの言葉に

一誠の表情からは今度こそ笑みが消えた。

 

「悪魔って寿命滅茶苦茶長いじゃないですか。てことはそのベリアルマスクさんもまだ活

動しているんですか?」

「いや。残念ながらベリアルマスクは私が魔王に就任する前にいなくなってしまったんだ

よ。噂によればとあるSSS級の指名手配悪魔がボスをしていた犯罪組織と激闘を繰り広げ、

その後の消息は不明なんだ。まあ、あれほどの力を持っているヒーローだったからね、ま

だ生きているとは思うんだけど」

 

 また会いたいなぁ、と呟くサーゼクスの姿は悪魔のトップである魔王ではなく、一人の

ヒーローに憧れる少年の様に見えた。

 

「サーゼクス様。会談が始まります」

 

 そこまで話していると、一誠の歩いてきた方向とは逆からサーゼクスの『女王』である

グレイフィアがやってきてそう声をかけた。

 

「分かった。行こうか」

 

 グレイフィアに答えた時にはサーゼクスの顔は魔王としてのそれに戻っていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 三陣営による会談は概ね問題なく進んでいた。

 しかし、それも今の瞬間までだった。

 

 突如としてそれは起きた。

 周囲の時間が止まったのだった。

 

 流石に三陣営のトップ達はその時間停止の影響を受けてはいなかったがその顔は厳しく

眉間に皺がよっていた。

 

「来たぞ」

 

 堕天使のトップであるアザゼルの言葉が皮切りになったのか、駒王学園の校庭に多くの

転移魔法陣が現れ、そこから黒ローブの集団といういかにもアレな団体が現れ、会談を行

っている部屋に向かって魔法を矢の如く放ってきたのである。

 

「ちっ、めんどくせえな」

 

 アザゼルはポリポリと頭をかきながら時間停止から開放され始めた一誠達に現状の説明

をした。この時間停止の原因はリアス・グレモリーの眷属である『僧侶』ギャスパーの神

器の暴走であり、暴走の原因は今襲いかかってきている集団、『禍の団』によるものであ

ると。

 

 一誠がアザゼルの説明を受け、ギャスパーの救出に向かおうとした時だった。

 

『待てぃ!!』

 

 駒王学園全体に大声が響き渡る。

 

 その場にいる全員が声の出処を探す。

 一誠はその声に聞き覚えがあった気がした。

 

「あ、あそこだ!!」

 

 その言葉は誰が発したものかは分からない。

 だが、その方向に視線を向けると、彼はいた。

 

 真っ赤な全身鎧に捻くれた山羊の角を付けた同じく真っ赤な獅子の面。

 

 その姿を確認した魔王であるサーゼクスやレヴィアタンはまさか、と思いながらもその

姿を見て、涙まで浮かべていた。

 

「き、貴様、何者だ!」

 

 黒ローブの集団から声があがる。

 

『知らぬというならば答えてやろう。聞けぃ悪人ども!』

 

『天駆け、地駆け、人助け! 子供の声が俺を呼ぶ! 魔炎英雄ベリアルマスク推参!』

 

 それは古きヒーローの再臨だった。




ものすごく久々の更新です。
無性に書きたくなったので投稿しました。

大分テンションにまかせて書いているので大分酷い。

年内にもう一本かけたら良いなあと思いつつ、ここらで失礼します。
それではまた次回。


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戦国†恋姫で書いてみた

ものすごく遅いですが、あけましておめでとうございます。

今回は戦国†恋姫で書いてみました。
かなりネタバレらしきものがあるのでこれからプレイする方などは読まないほうがいいかもしれません。

それではどうぞ


「だから、それはきっと傷の傷の舐め合いだったんだろう」

『だから、それはきっと運命だったのだ』

「だから、もう引き返すことは出来ない」

『だから、この手は決して放すことはないだろう』

 

 

◆◆◆◆

 

 

 男の視界に勝利に沸く兵士たちの姿が見える。

 勝鬨を上げているのは木瓜紋を掲げている兵士たちだった。

 

「おいおい、本当に奴の言ったとおりじゃねえか」

 

 男は心底驚いたという様子で言葉を漏らした。

 

 男が立っているのは勝鬨に湧く戦場から遠く離れた巨木の天辺であり、男は自身の手で

筒の様な形をつくり、まるで遠眼鏡で覗いているかの様にその場の様子を見ていた。

 

「……圧倒的な数の不利がある織田家は突然の大雨に機を見出し、雨音で軍馬の音を掻き

消し、今川本陣に急襲。そして大将、今川義元の首級をあげる、か。ここまでは奴の言う

通りだ。なら、この後は……」

 

 男がそう呟くと同時に天に突如として光り輝く球体が現れた。

 その眩い光は戦場を照らすだけでなく、遠く離れた場所にいる男も照らした。

 

 男の姿は奇妙な物だった。

 全身をゆったりとした黒い外套で覆い、顔は狼を模した仮面で覆われており、その素顔

を窺い知る事は出来ない。しかし、仮面の目に当たる部分から覗く瞳には剣呑な光が宿っ

ていた。

 

「……全部信じるしかない、か。奴の言っていた話も、そして奴の語った俺の未来も」

 

 男は光球が降りてきた天を睨む。

 

「……お前らの言う通りになんてなってやるものかよ。ああ、なってやるものか」

 

 ビュオウと風が吹いたかと思えば、もうそこには男の姿は無かった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 新田剣丞は天より降りてきたとされている。

 

 その真偽の程は定かではないが、彼の身に纏う服は普通とは違ったし、彼の保有する常

識と周囲の常識がずれている事は確かであった。

 

 さて、そんな剣丞なのだが今は織田家で世話になっていた。

 

 もちろんただ世話になっているだけでは無く、一応軍働きのような物をしており、小規

模とはいえ一隊を任せられており、現在はその隊の者達と長屋で寝食を共にしていた。

 

「……丞さま。剣丞さま……、起きてください」

 

 ゆさゆさと体を揺らされ、剣丞は薄っすらと眼を開く。

 意識がゆっくりと覚醒すると同時に鼻に体を揺らしている人物の長い黒髪があたり、少

しこそばゆかった。

 

「んぅぅ。おはよう、詩乃」

「はい、おはようございます」

 

 剣丞に詩乃と呼ばれた少女は僅かではあるが微笑みの形を造り、剣丞と挨拶を交わす。

 

「もう皆さん起きて居られますよ。剣丞さまもすぐにいらしてくださいね」

 

 詩乃はそう言うと、部屋から立ち去った。

 

 剣丞はその後姿を見ながら常日頃から思っている事を考える。

 

(あれが、天下にその名を轟かす竹中半兵衛だってんだから本当に可笑しな世界だよな)

 

 そう、先ほどの詩乃と呼ばれていた少女は剣丞が本来いた世界、現代においては歴史を

少しでも学んでいたのならば知らぬ者はいない程の知恵者、竹中半兵衛なのである。

 

 もちろん、竹中半兵衛があのような可憐な女の子であるはずもない。

 いや、もしかしたらそんな事もあるかもしれないが、剣丞が指揮する剣丞隊には竹中半

兵衛の他にも、木下秀吉、蜂須賀正忠、蒲生賦秀がいるのだが、その者達もまた全員が可

憐な少女なのである。また、それだけではなく彼が今まで出会ってきた武将達の全てが女

性であるのだ。

 

 流石に織田信長までが少女であるとなると、剣丞の中では一つの仮説も立っていた。

 

(おそらく、ここは一種のパラレルワールドみたいなものなんだろう)

 

 何故、自分がこの様な所にいるのか、それは分からないがいるからには何かをしたい、

剣丞はそんな事を考えながら、普段着に着替え、部屋から出ると、

 

「おや新田様。御目覚めのようで」

 

 剣丞よりも頭二つほど小さな翁が挨拶をしてきた。

 

「団助さん、おはようございます」

「はい、おはようございます」

 

 団助は剣丞がこの長屋にやってきた頃に雇われた小間使いのようなもので長屋をあける

事が多い剣丞隊が長屋にいない間の管理や、普段から長屋の掃除を任されている老人であ

り、毎朝こうして長屋を訪れているのである。

 

「新田様なんてやめてくださいよ。剣丞とかでいいですって」

「いえいえ、織田様の夫である貴方様をそのような呼び方をしましては私めの首が飛んで

しまいます。……それでは私は掃除があるので失礼いたします」

 

 団助は頭を下げると、長屋の奥に消えていった。

 

「……あんな年上の人にまで様付けで呼ばれるのはやっぱり気がひけるなぁ」

 

 頭を軽くかきながら嘆息した剣丞は詩乃達と朝食をとるために歩を進めた。

 

「おはよう、皆」 

 

 がらり、と扉を開け、挨拶をする。

 

「あ、剣丞さま! おはようございます!」

 

 いの一番に挨拶を返してきたのは橙色の髪に満面の笑顔を浮かべた木下ひよ子秀吉だっ

た。次いでぺこりと頭を下げてきたのが先ほど剣丞を起こしに来た竹中詩乃重治、そして、

 

「あ、剣丞さま。もうすぐご飯できますからね」

 

 そういって調理場から顔を出した蜂須賀転子正勝、最後が

 

「ハニー! おはようございますわ!」

 

 豊かな金髪を揺らしながらこちらに駆け寄ってきた蒲生梅賦秀。

 

 これが今の剣丞隊の中核を担うメンバーであった。

 

「剣丞さま、少々時間がかかったようですけど何かありましたか?」

 

 剣丞を起こしに来た詩乃の疑問に、剣丞は何もないよ、と言いながら自分の席に座る。

 

「いや、団助さんと部屋を出たら会ってね。少し話をしてたんだ」

 

 団助、その人名を聞いた詩乃は少しだけ顔を曇らせた。

 

「……そう、ですか」

「うん? 詩乃、どうかした?」

「……剣丞さま、団助さんには気をつけてください」

 

 居住まいを正しながら、詩乃はそう忠告してきた。

 いきなりの言葉に剣丞としては首をひねる他ない。

 

「詩乃、いきなりどうしたんだ? 団助さんに気をつけろだなんて」

「あ、いえ。何と言いますか、その、団助さんには少々怪しいところが有るような気がし

まして……」

 

 確証はないのですが、そう言った詩乃の言葉は確かにいつもの知恵者としての彼女らし

くなかった。

 

 結局、その場においては剣丞が同じ長屋の仲間をそう疑ってはいけない、と詩乃に注意

し、その話は終了となった。

 

 この時、部屋の外に小さな影があった事に気づいた者はいなかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 剣丞隊の長屋から然程遠くない場所にその廃寺はあった。

 

 時刻は既に夜半を過ぎており、人の気配は皆無だった。

 

 そんな廃寺の縁側に一人の女性が腰掛けていた。

 女性は淡い金色の髪を首の辺りで軽く結び、西洋の薄手の衣服を見に纏い、月明かりを

頼りに縁側で本を読んでいた。

 

 その女性の名前をルイス・エーリカ・フロイスと言い、剣丞が京を訪れた際に縁があり

織田家の下に身を寄せた人物である。

 

「……エーリカ」

 

 本を読み進めていた彼女に月明かりの当たらない影から声がかけられる。

 

「いらしたのですね」

 

 読んでいた本を閉じ、彼女は影に目を向ける。

 彼女の赤い瞳は真っ暗な影の奥にいる人物をはっきりと視界におさめていた。

 

 影からユラリと姿を現したのは桶狭間にて戦を眺めていた男だった。

 いつもの狼面にゆったりとした黒の外套で全身を包んだ男はエーリカの下に歩を進め、

彼女の横に立った。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は何かを話すでもな月を見上げていた。

 

 それから少しして、エーリカが口を開いた。

 

「どう、でしたか?」

「……あんたの言う通りだった。ああ、全部、だ」

 

 男は何がとは聞かず、呟くように答えた。

 

「あんた、言ったよな。これは決められていることなんだって」

「ええ。貴方が貴方である限り、これは決められていること」

「……それは覆らないのか?」

「……おそらくは無理でしょう。そして、貴方が貴方であることを決められているように

私もまた私であることから逃れることは出来ません」

 

 エーリカの言葉に男は何かを堪えるかの様に先ほどよりも高く空を見上げる。

 

「……俺は、ただ。役に立ちたかった。己の技を捧げたいだけだった」

「ええ」

「ただ忠を捧げ、義を掲げ、誠をもって仕えたいだけだった」

「ええ」

 

「それは、そんなにも許されない事なのか……?」

 

 狼面の隙間を涙が伝う。

 

 エーリカはそんな男に何かを言うでもなく、ただ男の手を優しく包んだ。

 

「だから始めるのです。貴方がただの貴方となるために。そして私がただの私になるため

に。そうでしょう?」

 

 男はエーリカの手を優しく握り返し、彼女の隣に腰掛ける。

 

「ああ。ああ。そうだとも。その為に俺はあんたの側に来た」

「ええ。ええ。終わらせるのです。全てを。そして始めましょう、全てを」

 

 ただ静かに涙を流しながら、二人は肩を寄せあっていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 場所は京。

 しかし、その様子は剣丞が初めて京にやってきた時とは様変わりしていた。

 

 活気にあふれた京はドス黒い瘴気に包まれ、多くいた筈の人の姿は欠片も見当たらず、

かわりにいるのは剣丞がこの世界に現れたころから大量発生を始めた人を喰らう鬼たちの

姿だった。

 

 剣丞たちは鬼がとある薬を飲まされ、変化した人であるという事を知り、そして人を鬼

に変えていたのはエーリカであるという事実まで辿り着いていた。

 

 そのエーリカは剣丞の妻にして、織田家の主君である織田久遠信長の身柄を攫い、剣丞

達に自身のいる場所まで来れるものなら来てみろ、と言った。

 

 そして現在、剣丞はこの世界に来てから縁を結んだ人々と共にエーリカがいるであろう

本能寺の近くまでやってきていた。

 

 そこに至るまでに数えきれない程の鬼たちと戦闘をこなしており、その場にいる者達の

顔にはそれなりに疲労が見えた。

 

「見えた! 本能寺だ!!」

 

 本能寺の門が見え、剣丞が叫ぶ。

 

 並み居る鬼を蹴散らし、剣丞たちが本能寺へと駆け込もうとした時だった。

 門の前に一人の男が立っていた。

 

「…………団助、さん?」

 

 それは剣丞にとっては見慣れた人物、自分たちの長屋を管理してくれている翁だった。

 

「新田様」

「団助さん! どうしてここに! いや、それよりもここは危ないです! こっちに!」

 

 剣丞はそういって団助に手を伸ばすが、その手を止める者がいた。

 

「剣丞、やめなさい」

 

 それは剣丞がこちらで縁を結んだ一人、長尾美空景虎であった。

 

「なにをするんだ! あそこに団助さんが!」

 

 手を振りほどこうとする剣丞に美空は何も言わず、真っ直ぐに団助を睨みつける。

 

「剣丞の言う団助ってのが誰かは知らないわ。あの男は団助じゃない」

 

 美空は一度言葉を切り、そして、

 

「そうでしょう? 加藤段蔵」

 

 団助に向けてそういった。

 

 加藤段蔵、そう呼ばれた団助は笑みを深くした。

 

「……何故、分かった?」

「ふん、そんな胡散臭い雰囲気の奴があんた以外にいるもんですか」

 

 美空の言葉に団助、段蔵は顔をしかめる。

 

 そして、変化が現れた。

 それはまるで映画のワンシーンを見ているかのようだった。

 

 剣丞よりも小さかった筈の翁が曲がった腰を伸ばし、続いて全身の骨をゴキリゴキリと

動かし、次の瞬間にはそこには小さな翁の姿は無く、剣丞よりも頭一つ大きい狼面の男が

立っていた。

 

「団、助、さん?」

「新田様、いや、もういいか。そこの長尾殿の言う通り俺は団助じゃあない。いや、団助

でもあるんだが、あれは俺の変装した姿でな。初めまして、剣丞殿。俺の名は加藤志狼段

蔵だ。ま、よろしく」

 

 段蔵はそう言って剣丞に軽く礼をした後にパチリと指を鳴らす。

 

 すると、彼の周りに先ほどとは違う完全武装をした鬼達が姿を現した。

 

「……加藤、あんた何のつもり?」

 

 美空がその顔に怒りを浮かべる。

 

「何のつもりもなにも。見て分かるでしょう?」

「なるほど、分かりやすいわ。でもね、私が聞きたいのはそういう事じゃあないの。私が

聞きたいのは何であんたがそっち側なのか、よ。前から胡散臭いとは思っていたけど、ま

さか外道の側につくとはね」

 

 胡散臭い、美空のその一言に段蔵の体がぴくりと反応する。

 

「……それだ」

「は?」

 

「その言葉だ!!」

 

 それは誰の目から見ても分かる怒りだった。

 

「俺はただ技を尽くして働いていたはずだ! だが、貴様はただ胡散臭いから、そう言っ

て俺を追放した! 俺が何をした!? 俺はただ鍛えた技をもって仕えたいだけだったの

に。何故、胡散臭いと思ったのか言ってみろ!!」

 

 段蔵の言葉に美空は言葉につまった。

 

「なんでって、そりゃ……」

 

――そういえば、何で自分は目の前の男を胡散臭いと思ったのだろう?

 

 美空は考える。

 目の前の男の忍びとしての働きは素晴らしいものだった。

 この男が率いる軒猿は自分にありとあらゆる情報をくれた。

 この男の働きで調略が成功した事も多々あった。

 

――あれ? なんで私はこいつを追放したんだろう?

 

 悩む美空の姿を見た志狼はそんな姿を嘲笑う。

 

「わからないだろう? そうさ、わかるはずもない」

 

 そう言って、志狼は天を睨む。

 

「そうだ、そう定められた。加藤段蔵という名を持つ者は何処に言っても謂れのない猜疑

をかけられ、追放される……」

 

「巫山戯るな!! 本来の加藤段蔵がどのような人物であろうと俺は俺だ! 俺は加藤志

狼段蔵だ!!」

 

 その叫びは魂からの叫びだった。

 

「だから俺はこちらにいる! エーリカの横に立つと決めた! 天が定めた道筋を壊す為

に! ただの志狼として始める為に!! ただのエーリカとさせる為に!!」

 

「加藤志狼段蔵、参る!!」

 




長尾のところで名前だけ出てきた加藤段蔵、なんか胡散臭いを連呼されすぎてつい書いてしまいました。戦国†恋姫、結構面白かったです。今度は柿崎あたりをヒロインにして書いてみたいです。

それではまた次回。

感想お待ちしております。


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なのはstsで書いてみた

 私はあの温もりを生涯忘れる事はないだろう。

 

 里から追い出され、何処へ向かえばいいのか、何をすればいいのか。

 何も分からず、呆然としていた時に差し出されたあの大きな手。

 

 私はあの手に救われたのだから。

 

「キャロ、聞いてるの?」

 

 声を掛けられ、キャロはようやく視線を上げた。

 

「すいません、ティアナさん。なんでしょうか?」

「なのはさん達はオークション会場の方の警備で此処には私達しかいないんだから、

隊列の確認をしましょうって話よ。ちゃんと聞いててよね」

 

 語尾に多少の苛立ちが混じっているのに気づきキャロはまたやってしまったか、と反省

する。どうにもあの時の事に想いを馳せていると周りが見えなくなってしまうのだ。

 

 矯正すべきだとは思っている。

 だが、駄目なのだ。

 

 あの温もりが私を支えてくれたのだから。

 

「キャロ、あんたのもう片方の相棒は何か発見してない?」

 

 ティアナの言葉にキャロは急ぎ、自身の横にいる白竜フリードではなく上空を旋回して

いるもう片方の相棒、黄土色の鱗を持つ竜に思念を送る。

 

『スカイ、そっちに異常はない?』

『異常無し』

 

 簡潔に過ぎる言葉が帰ってくるが、それが彼の性格なのだ。

 寡黙で、他人との関わりを余り持とうとしないスカイは実のところキャロが召喚し、契

約を結んだ竜ではない。

 

 彼はキャロがとある人物から別れの際に譲り受けた竜である。

 その為、当初はキャロもスカイとのコミュニケーションは難儀を極めたが、長い時を共

に過ごす内に彼も少しずつ心を開いてくれ、今では短文ではあるが返事をしてくれるよう

になったのだ。

 

 ちなみに、同僚である他の機動六課の面々は未だに無視されている。

 特に酷いのがフェイトである。

 

 フェイトはキャロを引き取った時に彼女からスカイがどのような経緯でやってきたかを

聞いた際にスカイとも仲良くせねば、と思ったのだが、スカイはそんな彼女に心を開く事

はせずに無視し続け、酷い時には煩わしい小虫を追い払うように尻尾で弾き飛ばす事もあ

るほどである。

 

 そんな様子でいつまでも心を開いてくれないスカイにフェイトはとても悩んでいるのだ

が、今はそれは割愛しよう。

 

 キャロは上空を優雅に飛ぶスカイを見ながら思い出す。

 

 温もりをくれたあの人、センセイの事を。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 強すぎる力を持つがゆえに里から追い出された彼女は途方に暮れていた。

 それも当然の事だった。

 

 如何に強力無比な力を持とうともこの時のキャロは未だ10に満たない幼い少女。

 自分に従ってくれる竜であるフリードは子竜であり、それも完璧に御せる訳でもなく、

生活に関しても里という限定された狭い空間が今までの世界の全てだった彼女にそこから

追い出された場合における生きる術を持っている訳でもないのだから。

 

 里の人間達は彼女を追放する際に多少の金銭と地図は渡してくれたが、それが何になる

というのか。かつてあった温もりは無くなり、里を追い出されたという事実のみが彼女の

心を酷く傷つける。

 

 森をトボトボと歩きながら、キャロは考える。

 

「……こんな事になるのなら」

 

 ――こんな事になるのなら私は力なんていらなかった……。

 

 ただ私は里の皆と笑い合って過ごせればそれだけで良かったのに。

 

 もう帰ってくる事のない母の温もり、二度と触れあう事のない父の背。

 

 そんな事ばかり考え、涙を零しながら下を向き歩いていたからだろう。

 目の前に人がいるのに気づかず、ぶつかってしまたのは。

 

「おっと。すまんな」

「あう。あ、いえこちらこそ、す、すいません」

 

 キャロがぶつかったのは一人の男性だった。

 年の頃は20かそこらだろう。

 

 薄い紫色の髪を短く切りそろえた青年の格好は全身を旅のために使われるローブのよ

うな物を羽織っており、その手にはドラゴンの頭を模した木の杖をもっていた。

 

 その姿は昔に絵本で見た魔法使いのような姿だった。

 

 キャロはつい青年をジロジロと見てしまう。

 そして、先程からフリードがこの青年をいたく警戒しているのに気がついた。

 

「どうしたの、フリード?」

「キューーー」

 

 そう、キャロは下を向いていたので気が付かなかったがフリードは見ていた。

 この青年は何もなかった場所に突如として現れたのだ。

 

 まるで魔法みたいに。

 

 そして何より、青年の周囲から放たれるとても濃い魔の気配。

 キャロは気づいていないが、竜たるフリードにはその気配は濃厚過ぎた。

 

 すると、青年はキャロの肩に乗るフリードに気がついたのか。

 ジッと視線をフリードに向ける。

 

「お嬢ちゃん、そのドラゴンなんだが」

「何ですか?」

「どこで捕まえたんだ?」

「はい?」

 

 青年の質問にキャロは目が点になった。

 この人は何を言っているのだ。

 

「いえ、フリードは……」

「あ、やっぱ言わんでいいや。取り敢えず君はモンスターを持ってる。つまりはそういう

事だろう? 扉の先で他国のモンスターマスターに出会ったのならば俺たちがやることは

唯一つだ。俺はロウジュの国のクオウ。さあ、モンスターバトルだ!」

 

 クオウはそういうと、ローブをバサリと翻す。

 それが合図だったのか、クオウに付き従っていた三体の魔物がその姿を全面に押し出し

てきた。

 

 左に立つのは額に3つ目の瞳を持った鷲頭の悪魔。

 右に立つのは巨大な槌を持った竜の戦士。

 そして、真ん中に堂々たる佇まいでいる黒い肌を持ち、双頭の刃を持つ魔神。

 

「え、え?」

 

 明らかにキャロに対し、臨戦体制を取る三体の魔物にキャロは戸惑うばかりだった。

 

「どうした、そっちのモンスターはソイツだけか?」

「え? モンスターバトル? なんの事ですか?」

「なにいってんだ。お前モンスターマスターだろう?」

「だからMMってなんですか?」

「え」

「え」

 

 

 キャロがモンスターマスターでないという事に気がついたクオウは謝りながらキャロと

共に火を囲っていた。パチパチと火が爆ぜ、適当に周りに刺した魚がいい具合に焼けてお

り、程よく焼けた魚の香ばしい香りにキャロは自身のお腹からクゥと可愛らしい音が鳴っ

た。

 

 赤面するキャロにクオウは笑いながら、魚を差し出す。

 キャロはおずおずとソレを受け取り、齧りつく。

 

――温かい。

 

 ポロポロとキャロの瞳から涙が零れた。

 

「ど、どうしたお嬢ちゃん。あ、熱すぎたか!?」

 

 突然泣きだしたキャロにクオウは慌てだした。

 あたふたとするクオウの様子を見て、彼に付き従っていた魔物達が豪快に笑う。

 

「マスター、慌てすぎだ」

 

 鷲頭の悪魔、ジャミラスが手を叩きながら笑い、

 

「常日頃から思うがマスターはもっと落ち着きを持つべきだな」

 

 武器である戦鎚を地面に置いた竜の戦士、ドラゴンソルジャーが窘め、

 

「馬鹿め」

 

 黒い肌を持った魔神、ダークドレアムが微笑みながら、各々がマスターであるクオウの

慌てている姿を笑った。

 

「お前らなあ、もう少しマスターに対する敬意とか持てよ!」

 

 クオウは自身を笑う仲間達に叫ぶが、仲間達は笑い続け、いつしかクオウも笑い、それ

に釣られるかのように先ほどまで泣いていたキャロもまた、笑っていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 あれから暫くの間笑い続けていた彼らはキャロから彼女の事情を聞いていた。

 

 キャロの事情を聞き終えたクオウは何も言わずに、ただ彼女の頭を撫でた。

 

 グシャグシャと些か乱暴な撫で方であったためかキャロの髪型は乱れたが、その乱雑さ

にキャロは自身の父を思い出し、またジワリと涙が零れそうになる。

 

「ク、クオウさんはモンスターマスターっていう職業の方なんですよね?」

 

 零れそうになる涙を誤魔化すようにキャロはクオウに質問した。

 

 クオウはそのとおりだ、と頷くとモンスターマスターという存在について詳細に教えて

くれた。

 

 その話を聞いたキャロは心底驚いた。

 

 まさか契約でもなんでもなく只信頼のみで人と魔物が共にいるという関係があるとは夢

にも思わなかったからである。

 

 そこでキャロは思った。

 

(この人に色々と教えてもらえば私のこの力を制御できるかも)

 

 もちろん、クオウに竜召喚の知識などは皆無である。

 しかし、彼は魔物との信頼関係の築き方を知っている。

 

 キャロは藁をもつかむ思いでクオウに頼み込んだ。

 

「お願いします! 私を、私を弟子にしてください!」

 

 いきなり頭を下げたキャロにクオウは戸惑うが、キャロの事情を聞いた今となっては彼

女の頼みを断りづらいのも確かであった。

 

 どうしたものか、と仲間たちを見ると、ジャミラスは受けてやれ、とでも言いたげに頷

き、ドラゴンソルジャーは肩をすくめ、ダークドレアムに至っては興味が無いようで明後

日の方向を向きながら武器の手入れをしていた。

 

「あー、俺には竜召喚? の知識なんてないぞ?」

「はい」

「それでもいいのか?」

「はい!」

 

 ガシガシと頭を掻き、クオウはキャロの頭に手を置くと、

 

「よし、なら今から俺はお前の師匠だ!」

 

 そう言った。

 

 そこからキャロはクオウから魔物の知識や信頼関係の築き方などを教わる事となった。

 

 その日々はキャロにとってかけがえの無い宝物であった。

 しかし、物事には何事も終わりというものがある。

 

「センセイ、今、なんて?」

「そろそろお別れだって言ったんだ」

「そ、そんな……」

 

――捨てられる?

――何かやらかしてしまったのだろうか?

 

「そんな泣きそうな顔をするな。単にお前にもう教える事は無いからそろそろ独り立ちを

しろって事だ」

「それほど大した事も教えてないだろうに」

 

 ダークドレアムが茶々をいれるが、クオウはそれを無視し、キャロの頭を撫でる。

 

「お前はもう大丈夫。それに、誰だっけ? なんか時空管理局の某とかいう人からお誘い

を受けたんだろう?」

 

 そう、いつ目に付いたのかは分からないがキャロは先日、時空管理局という組織につと

めているフェイト・T・ハラオウンという女性から自分の下に来てほしいと誘いを受けて

いた。

 

「でも、センセイがいません……」

「俺はなぁ、ただのモンスターマスターだからなあ。一箇所に縛られ続けるのは勘弁なん

だわ」

 

 一応、キャロに誘いをかけたフェイトは彼女と共に旅し、彼女の保護者代わりであった

クオウにもミッドチルダで暮らさないか、と提案していたのだが、クオウはそれを断って

いた。

 

「私はセンセイと別れたくありません……」

 

 そう言ってクオウのローブの裾を握りしめるキャロ。

 

 クオウはどうしたものか、と考え、何か思いついたのかいつも背負っている荷物袋から

一つの卵を取り出した。

 

「キャロ。これをお前にやろう」

「え?」

 

 クオウから手渡された卵はずっしりと重く、キャロは一瞬よろけるが、すぐに体勢を戻

し、クオウは真っ直ぐ見つめた。

 

「キャロ、俺はモンスターマスターだ。俺の夢は最強のモンスターズを揃える事だ。だか

ら一つの場所にずっといるなんて無理だ。だから俺は行く。だけどこれが今生の別れじゃ

無い。モンスターマスター同士は惹き合うものだからな。だから、この卵から生まれる奴

をちゃんと育てろよ。そしたら、いつかまた会った時に俺のモンスターとバトルしよう」

 

「育てる……。そうしたらまた、会えますか?」

 

「もちろん。約束できるか?」

 

 そういって小指を出してきたクオウにキャロは小指をからませた。

 

「「指きりげんまん嘘ついたら針千本のーます」」

 

 そして、キャロとクオウは別れ、キャロが預かった卵から生まれたのがスカイだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「キャロ!」

「はいっ、なんですか!?」

「あんた、またボーっとしてたわよ。シャンとしなさい!」

 

 ティアナに再び窘められ、うなだれるキャロ。

 そんな彼女達の下に警報が届けられた。

 

『転移反応が一つ! 現れます!』

 

 突然の転移反応に場の空気がピリピリとしたものに変わる。

 しかし、キャロは別の意味で戸惑っていた。

 

 上空を泳いでいたスカイが嬉しそうに啼いたのだ。

 あの寡黙で無愛想なスカイがこんなにも嬉しそうにするのは初めての事であった。

 

――まさか

 

『現れます!』

 

 転移魔法が無事完了し、一つの人影が現れた。

 

「げほっ。まぁた可笑しな所に飛んだもんだ」

 

――この声!

 

「また失敗か、マスター」

「またとか言うな!」

 

 共にいる魔物達はあの時とは大分違うが、それでもこの声を間違える事はない。

 

「センセイ!!」

「ん? キャロ! キャロじゃないか! ははは、久しぶりだな!」

 

 キャロは溢れる涙をとめる事なく、スカイとフリードに念話を送る。

 そんな彼女を見て、クオウもまた笑いながら手をサッと振り、

 

「ロウジュの国のクオウ」

「アルザスのキャロ」

 

「「いざ、モンスターバトル!!」」




明日モンスターズ2の発売なので書いてみました。
正直言って短いし、全体的にお粗末な出来ですね。
なお、最後のクオウのパーティーはサージタウス。粗製リンクス自身のパーティーです。

明日を楽しみにしつつ。今回はここまで。
それではまた次回。

感想お待ちしてます。


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UQホルダーで書いてみた

ものすごくお久しぶりです。
粗製リンクスです。

ものすごく久しぶりに書いてみました。
なので、書き方を忘れました。

ではどうぞ。


 

 愛は素晴らしい。

 勇気は美しい。

 

 化物を貫くのは絶大な力ではない。

 愛や勇気こそが化物を貫くのだ。

 

 逆説的に言うのであれば、唯の力で討ち倒される輩は化物ではなく、

 ただの小悪党。

 

 愛を、勇気を、正義を、人の美徳に負けよ。

 力に、魔力に、気に、愛の無い力を打ち砕け。

 

 君が負けるのは愛のみだ。

 

 ――さぁ、ショウタイムだ。目を覚ませ、我が愛子よ。

 

◆◆◆◆

 

 轟々と音を立てながら一気の軍用輸送機が空を飛ぶ。

 輸送機の中には操縦士の他に三人の男の影がある。

 

 一人は目を瞑った壮年の男性、もう一人は右目に眼帯をした黒髪の青年。

 そして、灰色の髪をカクンカクンと揺らしながら居眠りをしている青年の三名。

 

 壮年の男性が居眠りをしている青年に近づき、軽く肩を叩く。

 

「……そろそろ起きたまえ」

 

「んぉ……。なに、もう着いたの南雲のオッサン」

 

 薄っすらと目を開いた灰色髪の青年、名をプロートゥと言う。

 

「ん、そうだよ。先に入っている灰人から連絡があった。不死者を確認、

 だそうだよ。これから合流後、依頼にあったとおり『瓦礫』を撤去しつつ、

 ついでに不死者狩りだ」

 

 ついでを強調しながら南雲が笑う。

 プロートゥもそれにつられて笑う。

 

「なぁに男二人で顔つき合わせて含み笑いしてんの。気持ち悪いなぁ」

 

 それまで傍観していた黒髪の男、超が肩をすくめる。

 

「まあ良いじゃないか。いくつになっても不死者を相手にするのは心が踊る

 というものだ。それに今回、確認された不死者はあの名高い『UQホルダー』。

 私の力がどこまで届くか楽しみでしょうがない」

 

「まあ、なんでも良いけどね。僕は気持ちよく殺しが出来れば」

 

 ニタニタと笑う超を見ながら失笑を零すプロートゥ。

 

「何が可笑しいんだい? プロートゥ」

  

 笑みをなくし、瞳に剣呑な光を宿した超がプロートゥの首筋にナイフを当てる。

 

「やめろ、超」

 

 南雲の制止が入るが、超はナイフをひかない。

 

「止めないでくれるかな。そもそも僕は今回のコイツの参加にまだ得心がいって

 ないんだ。ここ十数年の傭兵記録はあっても特定の組織には入らず、それより

 前の記録は全て真っ白。今回の参加だって依頼主からのネジ込み。これを気に

 するな、という方が無理な話さ」

 

 超の言葉に南雲の閉じられた瞳がピクリと動く。

 南雲自身、今回のプロートゥの参戦には些か疑問を覚えているが、

 

「確かに彼の事は気にかかるが、そんなものはこんな仕事をしていればよくある

 事だ。依頼主がそうしろ、と言ったのならそれで終わりさ」

 

 南雲の言葉に超は舌打ちを一つ打ち、ようやくナイフを下ろす。

 ナイフを当てられていたプロートゥはそれを気にするでもなく、笑う。

 

「南雲のオッサン、あんがと。超の兄さんも済まないねえ。俺も今回はアンタ達に

 協力すれば大きな額がもらえるからね。そのお金があればまた探しものができる」

 

 今回の任務の間だけよろしく頼むわ。

 

 そう言って手を合わすプロートゥに南雲は苦笑いを浮かべ、

 

「一つだけ教えてくれるかい? 君の欲しいものってなにかな。こんな下衆な

 仕事に就いてでも欲しいものって」

 

 南雲の問いプロートゥは先ほどとは違う笑み、嘲笑のようにも自嘲のようにも

 見える笑みを浮かべ、告げた。

 

――……愛と勇気、それを持った主人公《ヒーロー》さ。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 小高い丘の上にプロートゥの姿はあった。

 眼下には目標の不死者に敗れ、簀巻にされた超の姿とボロボロになった狼男の

 灰人、南雲の姿があり、彼らの眼前には先ほどまで彼らと戦っていた不死者の

 他に『UQホルダー』の中でも実力の高いメンバー、数名とその首領格であり、

 巨額の指名手配を受けている雪姫と言われている妙齢の女性の姿があった。

 

「んー。キティ《・・・》が出てくるとは。あれは南雲のオッサンじゃ厳しいな」

 

 さて、どうしたものか。

 思案にくれているプロートゥに通信が入る。

 

「はいはい、こちらプロートゥ」

 

『プロートゥ、何故参戦していない』

 

 通信相手は今回プロートゥを雇った男だった。

 この雇い主は不死者を研究しているとか、なんとか言っていたが、プロートゥには

 どうでも良いことだった。

 

 今回、プロートゥがこの男に雇われているのは前金で大量の額を貰えるからであり、

 後は適当にやるつもりだったのだ。

 

「いやね、俺も最初からいくつもりだったんだけど南雲さん達に断られてねぇ」

 

 いや、初顔は信頼がなくて辛い、と嘯く彼に雇い主は額に青筋を浮かべる。

 

『その南雲達も見たところ満身創痍だ。そろそろ動け』

 

「あいさー。雇い主殿」

 

 雇い主の言葉に従い、よっこらしょと腰をあげたプロートゥの姿は次の瞬間には

 その姿を消していた。

 

『ふん、最初からそう動けばいいんだ。冥獣め』

 

 

◆◆◆◆

 

 

 南雲達を打倒し、歓喜に湧く刀太達、そしてそんな彼らを暖かく見守るUQホルダーの面々。

 最初に気がついたのは誰だったか。

 

 いや、誰も気がついていなかった。

 気付かされたのはUQホルダーから応援に駆けつけた真壁の首がゴトリと地に落ちた時だった。

 

「真壁!?」

 

 血を吹き散らしながら崩れ落ちる真壁の体。

 しかし、体が完全に地に伏す前に真壁の不死者としての能力は発動し、全ては元に戻る。

 

「いやー、コングラッチュレーション! やはり不死者は便利だね」

 

 今、真壁の首を落とした張本人とは思えないプロートゥの言葉に場の空気が固まる。

 

「貴様……」

 

「やぁやぁ南雲のオッサン、ズタボロだね」

 

 射殺さんばかりに自身を睨みつける視線もなんのその。

 プロートゥは平常運転に地に伏した南雲に笑いかける。

 

「随分遅い参戦じゃないか。どこで油を売っていたのか」

 

「いや、ずっと見てたよ。ただね、どうにも俺の探しものらしきものがいるじゃない。

 これは観察しなきゃと思ってね。ねえ、近衛刀太くん?」

 

 グルリと首をまわし、刀太を見るプロートゥ。

 明らかに人間の可動域を超えた首の動きに刀太が一瞬だけビクリと体を震わす。

 

 そんな彼を隠すようにUQホルダーの面々が前に出る。

 

 先頭にたつのは雪姫だった。

 

「あらら、隠されちゃった」

 

「久しいな、冥獣」

「やぁやぁキティ。久しぶり。何百年振りだっけ? ところでその呼び名やめない?

 嫌いなんだよ」

 

 雪姫をキティと呼ぶプロートゥが気になったのか刀太が声をあげる。

 

「お前、雪姫の事を知ってんのか?」

「まぁ旧知の仲だよ。近衛刀太くん」

 

「刀太! 身を隠しておけ! そいつに関わるな!」

 

 声を荒げる雪姫。

 

「ひどいなぁ。俺は単純に彼と話したいだけなのに」

「刀太はお前の求めているものではないぞ。あれは、ただのガキだ」

 

 そう言い捨てる雪姫に対し、

 

「それを判断するのは俺だ。そこをどけ、キティ」

 

 段々と口調が荒くなるプロートゥ。

 

「化けの皮が剥がれ始めてるぞ、冥獣」

 

「俺をその名で呼ぶな、といった筈だ。闇の福音」

 

 メリメリと音を立てながらプロートゥの体が膨らんでいく。

 変化が終わった後に立っていたのは先ほどまでの青年の姿はなく、

 そこには3mを超えた異形が立っていた。

 

 捻くれた二本の大角、顔は竜のような、醜い獣にも見える。

 唯一の名残かのように長く伸びた灰色の髪がかろうじて目の前の異形がプロートゥ

 であった証拠だった。

 

「……久しぶりに見たな、貴様のその姿」

 

「ふん。久しぶりであっても貴様ならば分かっているだろう? 俺とやりあう事の

 無意味さを」

 

 プロートゥの言葉に雪姫は顔を歪ませる。

 

「いつまでも僕らを無視しないでほしいな」

 

 雪姫と共に来ていたUQホルダーが動いた。

 宍戸、真壁、飴屋の三人が各方向から動き、各々がプロートゥの急所を狙う。

 

 そして、それら全てがプロートゥの体に突き刺さる。

 

「なるほど、良い連携、良い攻撃だ。並の連中ならそれこそ不死者であっても

 しばらくは動けないだろう。だが、愛がない」

 

 軽く身を震わすプロートゥ。

 それだけで攻撃を加えた三人は吹き飛んだ。

 

「邪魔しないように封じさせて貰おうか」

 

 自身の髪を数本引き抜き、吹き飛ばした三人に吹きかける。

 プロートゥの髪は巨大な杭なようなものに変化し、三人を地面に縫い付けた。

 

「お前たち! プロートゥ!」

 

 雪姫がプロートゥを睨む。

 しかし、その視線を無視してプロートゥは近衛刀太に近づく。

 

 刀太の近くにいた九郎丸は刀を構えるが、動けずにいた。

 

「動かないのは正解だな。動かなければ何もしないさ。さて、近衛刀太くん」

 

「な、なんだよ」

 

「一つ、問おう」

 

――……君にとって愛とは?

 

 

◆◆◆◆

 

 

 結論から先に言おう。

 プロートゥは去っていった。

 

 地面に縫い付けられていたUQホルダーの面々も開放され、現在彼らはUQホルダーの

 本拠地にて雪姫からプロートゥの説明を受けていた。

 

「プロートゥは古い知己でな。奴も一種の不死者だ」

「しかし、あの姿は? 僕の知るなかであんな姿の生物はいないのですが」

 

 九郎丸の言葉に雪姫はうなずく。

 

「それはそうだろう。奴に種族はない。強いて言うならばプロートゥというただ一人の

 種族だ。無論、それを種族と言っていいかは謎だが、そういった認識で構わない。

 問題なのは、奴が刀太に目を付けたという事だ」

 

 一同の視線が刀太に集まる。

 

「……あのプロートゥとかいう奴はなんで愛がどうとかを聞いてきたんだ?」

「それが奴の欲しいものだからだ。答えから言おう。奴はある不死者が造り上げた

 造物だ。作成者である不死者は既にいないが、奴の根底にはその不死者からの薫陶

 がある。それは、化物は愛と勇気によってのみ打倒されるべきというものだ。

 そして、奴はそのとおりになるためにこれまで活動を続けている」

 

 愛と勇気によって打倒される事を望む。

 まるで絵本に出てくる魔王ではないか。

 

 そんな感想が顔に出ていたのか、雪姫は苦笑する。

 

「あながち間違いではない。奴は魔王のようなもので、自分に終止符を打ってくれる

 存在を、愛と勇気を待っているのだ。そして、不幸な事に刀太、お前はその愛と勇気

 を持つ存在だ、と奴に認識されてしまった」

 

 これから事あるごとに奴はお前に関わってくるだろう。

 

 そう締めくくった雪姫にUQホルダーの面々は渋面を浮かべる。

 

 話は終わりだ、と雪姫は席を立ち、その場は解散となった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 自室で一人でワインを飲みながら雪姫は空を見上げる。

 

「……あいとゆうきの主人公、か。そんなものは存在しないよ、プロートゥ」

 

 

◆◆◆◆

 

 

「あいとゆうきの主人公は必ずいるさ。じゃないと何で俺が造られたのか分からない

 じゃないか。そうあれかし、と造られたこの生に意味はあったと思いたいから」

 

「だから……」

 

――待っているよ、近衛刀太、UQホルダー。あいとゆうきの主人公達。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 これは無視をしても構わない物語。

 本来は関わる必要の無い物語。

 

 それでも、ただそうあれかしと造られた怪物は此処にいて、今もあいとゆうきの主人公を待っている。

 




こんなんで良いのかな。

粗製リンクスはラスボスが主人公という展開が大好きです。
それがヒロインとの愛と勇気で話が終わるという王道展開が大好きです。

なので、今回もそんなお話。
プロートゥの語源は冥界神のプルートー。姿としてはLoVのプルートーがイメージです。

愛と勇気で打倒される事を願う魔王系主人公。
そんな傍迷惑な存在に目を付けられたUQホルダーの若い面々の明日はどっちだ、
てきな作品でした。

クォリティひっく。

こんなんですが、またネタを思いついたら書いていきたいと思います。

ではまた次回。


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