魔法科高校の風使い リメイク (asd)
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1話

一話目にして台詞が一つもないという問題が起きたが、許していただきたい。


ちゅんちゅん、と耳元に弾丸の音が聞こえる。なぜ、こうなったのかを振り返りたいところではあるが、それどころではない。こちらは一人しかおらず、向こうは最低でも三人はいるだろう。こちらは子供だが、あちらは大人しかいないだろう。こちらはサバイバルナイフ一本と弾の切れた小銃だけだが、敵はサブマシンガンで武装している。

 

本来であれば、ここまで苦戦するのはおかしい。つまり、ミスをしたのだ。それも勁ではなく、作戦を立てた彼の父と敵が、である。今回の作戦は麻薬畑を焼き消すのが目的だ。その為に警備の目を少し減らす必要があり、勁はちょっかいを掛けて二人ほど引っ張るのが役割だった。通常、であれば二人組か三人組で行動するのだろうが、よほど頭の巡りが悪いのか、全員が釣れてしまったようだ。今頃、勁の師である西条終は爆笑しながら爆薬を仕掛けているだろう。

 

そんな酷い師のことは置いておくにしても、下手を打てば、笑い事ではなく死ぬ。勁としてもそれは実に勘弁願いたいことであり、CADはないにしろ魔法式を構築する。CADを使った場合と比べると構築速度も規模も落ちるが、移動・振動系統のものであれば、問題なく構築できる。

 

対象を手持ちのナイフに設定して音から、おおよその位置を把握し、それに合わせて移動魔法を構築する。

 

瞬間

 

ナイフが独りでに飛んでいき、振動しながら、勁の位置を始点とした円を描き、再び勁の元に戻ってくる。ナイフには大量の血がついており、何やら叫び声とおそらく罵倒と思わしき声が聞こえる。罵倒の声が聞こえている間に銃を振動させたナイフで破壊し、尖った破片をいくつも作り出して、声のほうへと振動させながらばら撒くように移動させる。それで更にもう一つ悲鳴が聞こえる。

 

どこまで無能な集団なのかと思ったが、勁がそれを憂う必要はないし、何より好都合である。

 

もう一人削っておきたいと思ったところでマルチタクスで構築していた魔法式が完成した。勁は片手で地面に触れると魔法を発動させて、自らを中心とした振動を広げる。それにより、死角の情報を拾い、残りが二人であると確認する。

 

但し、ここで重要なのは振動を発動させたのは魔法ではあるが、物体に当たり歪んだ振動を感じ取ったのは魔法ですらなく、勁の研ぎ澄まされた五感であることだ。

 

勁は未だ8歳でありながら、その感覚は既に並の軍人のそれを大きく上回っていた。経験不足こそ見られるが、彼が極めて優秀な戦士になるのは既に確定しているとすら言っていい。とは言っても、それが優秀な将になれることを保障しているわけでもないのも重要なポイントだろう。

 

寧ろ今の勁を将として置くことを彼の父もそして、師もまた頷かないだろう。勁は父と師から教わった間違った日本こそ愛しているが、現実の日本には彼は合わないというのが、二人の一致する意見であり、幼いからこそ垣間見せる幼稚さと反骨精神と無鉄砲さでは間違いなく、一週間もしない間に法を破ることになるだろう。

 

最も、終はともかくとして、勁の父である凱は今現在日本への立ち入りが禁止されている。勁の母が死んだ時に起こした大亜連合に対する大虐殺の罰として、日本に帰ることがないように幾つもの任務が渡されている。厳密に言えば十師族が組んだとしても凱には敵わないため、敵対しない様に処置したというべきだろうが。

 

仮に政略、戦略、戦術をどこと戦うか、どのように戦うか、そして、実際に矛を交えると三段階に分けた場合、凱一人で、どこと戦うかを決められて、しかも、勝ててしまうほどに強く。前人未到にして、前代未聞の政略級魔法師という存在いうべきなのだ。

 

たった一人で国を形成できるほど強力な男の話は置いておくとして、二人の位置が分かった所で、その二人の首の位置を通るように移動魔法を掛けたナイフと飛ばしながら、反対側に飛び出し、移動魔法に分類される首刈と呼ばれる魔法を使う。

 

首刈のプロセス自体はそこまで難しいものではない。移動魔法で圧力を調整し、真空を生み出して、それを、そのまま移動させるだけである。

 

首刈とナイフの挟み撃ちにより、勁よりにいたほうの敵の首が刎ね飛ばされる。それと同時に飛んできたナイフを掴み、反動で撃たれないように首ではなく銃を狙って投げ、走る。

 

ナイフは勁が頭に想い浮かべたイメージ通りに銃口に刺さり、そのまま、真っ二つにする。

 

そして、10mの距離に近づいた時に魔法を発動させてそのまま突っ込み、敵を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた敵は勁が発生させた真空のチューブに吸い込まれ、中身がぐちゃぐちゃになって20mほど後ろに一瞬で移動する。

 

そこでようやく気を緩めるところなのだが、死亡を確認していない二人の死亡を改めて確認した所でようやく息を吐いた。

 

それと同時に畑のほうで爆発が起きる。任務完了である。勁は終と合流して拠点へと戻っていった。

 

これはそんな彼の物語である。



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2話

「ていうか、なーんで少年兵ともいえる自分がさ、一番危険な目にあわなきゃいけないんだ」

 

がたがた、と車が音を流す中、勁はぶーたらと文句を出していた。ただ、相手が悪いといわざる終えない。まず、責任の所在という点からみて、凱の立てた作戦は特にミスと言える物はなく、唯、敵の知能指数を高めに設定しすぎていただけだ。この場合においてはミスしたと言えるのは敵しかなく、敵の行動に対して文句を言うのは滑稽に過ぎる。

 

だから、不利になっても助けに入ってくれなかった終に文句を言うしかないのだが、作戦という観点から見て、勁の文句は的外れというほかない。

 

「かかか、元気がいいのう勁坊。なんじゃ、好みの女子でもおったのか」

 

勁を笑うのは師の終だ。笑うだけならともかく、終は更に日本について嘘を吹き込んだ。

 

「そういえばのぉ、女子といえば、知っておるか?日本では中学校で皆、忍術を習うんじゃ。その時に女子はハニートラップのやり方を習うんじゃよ。故に、日本の女子は皆、床上手なのじゃ」

 

「へぇー」

 

勁はまんまと終の嘘に騙され、文句を垂れ流していたのも忘れて感心する。

 

確かに14歳から手管を覚えれば、ちょうど男性に好まれる20前後の年齢のときにはなかなかのものになるだろう。機会があれば体験してみたいと未だ8歳の少年が考える。それを終は見透かしているが訂正はしなかった。なぜなら、そちらのほうが面白そうだからである。

 

基地についた勁は報告を終に任せてシャワーを浴びに行く。シャワーを浴びてから自販機のジュースを飲むのはいつもどおりだが、ふと気になることができた。

 

この自販機、だれが追加してんだ?

 

周りには当然都市はないし、物資搬入で来るのは武器などがメインだ。当然食料も補給するが、飲み物の類は食堂にあるし、何より自販機を設置する理由も思い当たらない。風呂の近くにはただで水が飲める機械はあるわけだし、何より、円で金を取る人間が思い浮かばないのである。

 

そんなことを考えながらジュースを飲んでいると懐かしい顔が風呂前にやってきた。

 

「勁?」

 

懐かしさの余り誰か分からなかった勁に声を掛けたことで、勁もまた、相手を思い出す。

 

「佐人?佐人さんじゃないか?お久しぶりですね。どこに行ってったんですか?」

 

「日本だ。まあ、手紙を届けていたようなものだ。とは言っても他にも調整とか仕事があったからな。帰るのは遅くなったが」

 

「日本?じゃあ、東京タワーが歩くところも見たんですか!?」

 

勁は終たちから聞いた話を平然と話す。佐人はまたか。とは思うが訂正しないように頼まれているので、話をそらすことにした。

 

「見なかったな。それよりも、舞妓にあったぞ。真っ白だった」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、おしろい、と言ってな。専用の化粧品があるんだ。機会があれば一度見に行くといい。同一人物でも印象が随分変わる」

 

「へぇ。日本か~、楽しみが増えますね~」

 

そうだな。と佐人は話を切って風呂場に入る。凱と終に騙される彼が哀れで見ていられなかったのだ。

 

楽しみが増えたと喜び部屋へと戻る最中。凱と合う。

 

「勁。出るぞ。俺の古い戦友に合わせてやる」

 

はい?と首を傾げる勁を凱は力任せに持ち上げる。そのまま抵抗する勁を俵よろしく運ぶと、車で基地から出て行くのだった。

 

 

 

 



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