相棒 ー三人所属の特命係ー (佐渡カラ君)
しおりを挟む
写真上の事件
少年の訪問
いつものように、
「電話ですね。」
「ええ。」
読書中の右京は、興味を示さない。
「え、僕が出るんですか?」
「どうせ、暇ですから。」
「右京さんも暇じゃないすかぁ。」
そう
「はい、特命係。」
「こちらフロントでございます。特命係の杉下様をお呼びのお客様がお待ちです。」
「はい、わかりました。」
「失礼します。」
「はいー」
「右京さん、お客さんですって。」
「僕ですか?」
「そうです!」
「何を怒っているんですか。君も短期ですねぇ。」
「怒ってませんよ。さ、はやく、お客様が待ってますよー」
冠城は、右京を無理やり特命係から追い出した。
「人を怒らせる才能がありすぎだっつーの。」
冠城はそんな独り言を発した。
杉下が1階のロビーに行くと、中学生くらいの男子がこちらにむかって礼をしてきた。
「杉下右京さん、、、ですよね?」
「君は・・・、確か、、、」
「
「ええ、晃樹君でしたね。 で、今日は?」
「いきなり本題ですか?」
「ええ、わざわざニューヨークから東京まで来るということは何か事情があるはずですから。」
「聞いたとおり、なんだか面倒くさそうな人ですね。まあ、親戚なんで、僕もそんなことは言えませんが。・・・あ、言えませすね。血、繋がってませんから。」
「まあ、そうですが。」
「本題に入る前に、特命係、行ってみたいです。」
「特命係ですか、、、見るほどのものではありませんがねぇ。」
「いいですよ。 」
「そうですか。では、行きましょう。」
「ところで、、、」
特命係に向かう途中、右京が晃樹に話しかけた。
「中学生一人で、よく入れましたね。」
「ちょっと恐ろしいものでしたけどね。なんか中学生だけでは言っちゃいけないとかいうルールがあるのかと思ったので、知らない大人の子供役で入りました。今考えると、よく怪しまれなかったですね。」
「ですが君、一人でフロントで聞けたんですから、あまり意味がなかったのでは?」
「そうですね。無駄骨でした。」
「入り口にさえ来てくれれば、僕に連絡をしてくれればよかったのに、君、僕の携帯のアドレス、花さん、、、お母さまに教えてもらわなかったんですか?」
「いや、お母さん、先月くらいに急に右京さんにメールが送れなくなったって、言ってましたよ。まあ、それほど用はないみたいなので、それからは何も言ってませんでしたけど。」
「ああ、そういえば、スマートフォンにしてから、まだアドレス変更のメールを送っていなかったですねぇ。今、送っておきますね。」
「いや、お母さんも先月一回携帯変えたばかりなんで、意味ないと思いますよ。」
「では、さきほど送ろうとしていたメールは、アドレス変更のメールでしたか。では、また聞かなければいけませんね。君に。」
「そうですね、今度。 っていうか、花って呼んじゃって大丈夫ですよ。お母さんの事。」
「ですが、そんな風に呼ぶのは、久しぶりなものでしてねぇ… 最後に会ったのも10年ほど前でしょうかねぇ。彼女が日本に一度来た時に。」
「ニューヨークですからね。」
「そうですね、ぜひ、今度は花さんと一緒に。」
「わかりました。まあ、仕事も仕事なんで、空いている日もないかもしれませんが。」
組対5課の横を通ると、角田課長が物珍しそうな目で見てくる。
「ええ、、、。ここが、特命係です。」
「ああ、ここですか・・・」
「期待はずれでしょうか?」
二人は、組対5課のフロアの隅にある、「特命係」に入る。
「いえいえ、そんなことはないですよ。」
「あ、右京さん、お帰りなさい。 この男の子は?」
すでに中にいた冠城が、晃樹に手を向けて質問をする。
「ああ、遠い親戚です。」
「いや、そんな一言にまとめられると、困ります。気になりますよ。」
「遠い親戚ですよ。話せば長くなります。いろいろややこしい関係ですから。」
右京は、さっそく紅茶を高くから自慢のティーカップに入れる。
「あらら、、、なんか、やっと母親から離れたのに、こんなの見ると、また母親に会ったみたいで、嫌ですね。」
「あれ、君のお母さん、もしかして右京さんに似てるの?」
「ええ、母によれば。自分に右京さんが似せてきたとか。」
「それは違いますよ。だいたい僕のほうが一回り二回り年上ですよ。真似してきたのはあちらのほうですよ。」
「右京さん、そんな小競り合いどうなってもいいじゃないですか。君も大変だね、ストレスたまるよな、こういうのがすぐ近くにいると。」
「ええ、とても。 あ、僕の名前、杉下てるきです。」
「てるき?どんな字?」
「えーっと、国会議員の
「へえ。晃樹君。 僕の名前は、冠城亘。字はこの通り。」
冠城は、入り口にある名札を指さす。
「へえ、あんまり聞かない名前ですね。」
「そうかな? 晃樹君は、中学生?」
「はい、中学1年生です。」
「そっか、今、ちょうど夏休みだっ、、、あれ、ちょっと早くない?まだ7月初めだよね。」
「いや、僕、日本に住んでないんで。」
「え?」
「母が、ニューヨークでフォトグラファーをやってるんで、僕もアメリカに住んでます。日本語学校に通ってるんですけどね。」
「へえ、え、ずっとアメリカ?」
「いえ、 、、 養子なんで。自分が生まれたときに、親が離婚しちゃって、父親に引き取られたんですけど、6歳の時に交通事故で。なんで、養子縁組に。で、なぜか、アメリカで引き取られたんですよ。」
「・・・・・・、国籍は?」
「国籍はアメリカです。でも、純粋な日本人です。英語もほとんど話せないし。」
「英語離せないと、けっこう生活に支障きたすんじゃない?」
「まあ、そうですね。あ、でも、テレビとかは、パソコンで日本のを観たり、あっちの
「ほお、ま、どっちにしろ、夏休みはいいなぁ。」
「君は十分、夏休みではありませんか。」
「右京さんもでしょう?それに暇なのは、特命係に捜査権がないからでしょう?」
「え、特命係って捜査権ないんですか?」
「うん、追いやられた存在だからね。」
「一時は、警視庁陸の孤島とも呼ばれたことがあります。」
「陸の孤島、ですか。 右京さんがここにいるのは、なんでですか?」
「さあ、覚えていませんねぇ。昔の話ですから。」
「とぼけたふりしちゃって、、、まあ、俺も最近来たばっかりだから、よくわかんないんだけどね。」
「へえ、なんか、裏にありそうですね。 冠城さんは?」
「いや、僕は、特命係に正式にいるわけじゃないから。」
「ええ、冠城君は、法務省の人間ですから。」
「法務省?じゃあ、なんでここにいるんですか?」
「お邪魔してるんだよ。」
「これも、なんか裏がありそうで怖いですね。」
「それにしても、、、晃樹君、大きくなりましたねぇ。」
「杉下さん、僕の小さいころの姿見たことないでしょ?」
「ええ、まあ、そうですが。・・・雑談はさておき、今度こそ本題に入りませんか?」
「そうですね。」
「・・・赤谷晃章ってご存知ですよね?」
「国会議員の? さっきも名前の紹介で使ってたね。」
「それほどのことじゃないんですけどね。」
「前置きはさておき、どうぞ。」
「はい。僕のお母さん、フォトグラファーやってるじゃないですか?」
「ええ。」
「いや、初耳。」
「ああ、言ってませんでした?まあ、別にそこは大事じゃないんですけど。先月、『水』、って題で、写真を撮ってたんです。それで、サクラメント川っていうところの写真を撮ったんですね。」
「サクラメント川は、ロサンゼルスのすぐ近くの海に流れ出る川でしたねぇ。」
「ええ、よくご存じで。 その撮った写真に、赤谷晃章らしき人物が写っていたんです。それもなんか怪しい感じで。これがその写真です。」
晃樹が、バッグから一枚の写真を取り出す。
「まあ、こんな鮮明に赤谷晃章が写ってるのは、母が気づいてズームしたからなんですけどね。で、結局、赤谷がどこかに行くところまで、連写しちゃってます。」
「盗撮だね。」
「それは侵害ですね。せっかく母が撮ってくれたんですから、感謝してください。」
「で、どこが、怪しいのですか?」
口を出していなかった右京が、晃樹に聞く。
「えーっと、それは。」
「それは?」
「・・・すいません、聞いてないっす。」
「聞いてない?」
第2話に続く
閲覧ありがとうございました。
目次 感想へのリンク しおりを挟む