憑依した先はCGS一軍の隊員でした。 (ホアキン)
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プロローグ

とりあえずプロローグです。オリ主の設定は後日投稿予定です。


 「厄祭戦」と呼ばれた全地球規模の大戦争が終結してから約300年。

テラフォーミングでほぼ地球と同じ自然環境と都市が構築された火星は地球の4つの経済圏に分割統治されている。

 そしてここ、クリュセ自治区は4つの経済圏の一つであるアーブラウの支配下にあり、開拓時代の不平等な協定と地球圏優先の政策のために搾取され続けているらしい。(らしい、というのは僕はその開拓時代からの歴史を、電子化された本で読んだ知識でしか知らないからだ)

 そしてそのクリュセの中では貧富の格差が生じ、少数の富める者は肥え太り、多数の貧しき者は痩せ細って野垂れ死ぬのが珍しくない。

 かくいう僕もその多数の貧しき者の中で、なんとか生きる糧を得ている一人であり・・・「おいコラ何ボケッとしてやがる!?さっさとガキ共の相手してこいや!!」っと、お仕事お仕事っと・・・。

 

「すいませんハエダさん、今行きます!」

 

 そう返して自分にあてがわれた青と黄に塗られたMW(モビルワーカー)に駆け寄る・・・っテぇ!尻蹴飛ばしやがった!あんのハエ野郎!(ハエダだからハエ野郎、ろくに仕事もせず他人の働きで給料取ってる奴にはお似合いじゃないだろうか)

 

「ガキ共のMW戦闘訓練はテメエの仕事だろが!何のために専用機くれてやったと思ってんだ!」

 

 そんなの実戦で僕を囮にするためでしょうが、目立つ色に塗らせてさ。

 ハエダもササイも、MWの腕は大した事ない癖に。もう参番組の子達のほうが実力は上だってのに威張り散らしてもう・・・。

心中でぼやきながらMWを起動、訓練エリアに移動する。

既にピンクに塗られたMW1機とサンドカラーのMW3機が待機している。最初はシノの隊か。

 

「え~、それではこれより模擬戦を開始する」

 

 さて、今日もお仕事頑張りますか。参番組の子達には強くなってもらわないとね。彼ら自身のためにも、僕のためにも。

 そして二時間後、参番組のうち三つの隊との模擬戦はシノの隊に一勝、三日月の隊に一敗、昭弘の隊に一引き分けに終わり、一度負けたからとハエダに殴られた。ちくしょう。

 でも我慢、あと3年もすればハエダもササイもいなくなるんだ、それまで我慢するさ。

 それに、ハエダ達よりは仕事してるからか、社長は自分の懐が痛まない範囲なら割りと融通利かせてくれるし、今のうちに参番組の子供達からの心象が良くなるように行動しよう。

・・・1軍の隊員ってだけでマイナスだけど。ユージンとか嫌悪むき出しの眼で見てくるし。あと3年の間にマイナスからプラスに、最低でもプラマイゼロにはしときたいなあ・・・。

 小説なんかで見るような記憶を持ち越しての転生とか、本当にあるとは思わなかった。いや転生とは違うのか?憑依?まあ、この際どちらでも良い。最初は混乱したし1軍の奴らからの扱いとか殺し合いしなきゃ生きていけない状況も辛いけど『前』の記憶はこの世界では大いに利用出来る。上手く立ち回って鉄華団に自分の居場所を作ってやる!

 

現在P.D.320。CGSがギャラルホルンの襲撃を受け、それをきっかけに鉄華団に名を変えるまで、あと3年。




改行が少なく読みにくいというご指摘をいただきましたので、少し修正してみました。


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オリジナル設定

オリ主の設定は後日投稿と言ったな、あれは嘘だ。
すいません、思ったより早く出来たので投稿します。
注意、原作本編に無いオリジナル要素が多いです。勝手に妙な設定でっち上げてんじゃねーよ!という方はブラウザバックをどうぞ。まあとりあえず読んでやろうという寛大な方はどうぞスクロールを。


トウガ・サイトー  プロローグ時点の年齢21歳→原作開始時点で24歳

 

 CGSにかつて存在していた非正規部隊「壱番組」最後の生き残り。CGSで阿頼耶識システムの施術を受けた最初の世代の一人である。施術を受けた回数は2回。

 

 ある戦闘で傷を負って死にかけた時に、交通事故で死んだ現代人の意識が憑依した。

 

 まだ良心が残っていた頃のマルバとの契約と壱番組の壊滅で20歳の時に1軍に編入されて正規隊員になったが、ハエダ達他の1軍隊員からの扱いは変わらず顎で使われながら自力で仕事を覚え、今は阿頼耶識のおかげもあってMW戦では1軍最強、隊長のハエダより仕事が出来る1軍最優秀隊員。

故にマルバの覚えも少しは良いがそれがハエダの妬みを買い更に暴力を受ける原因になっている。

 

 参番組のMW戦闘のアグレッサーを専属で受け持っているが、これも他の隊員では参番組(特に三日月や昭弘)に太刀打ち出来ない為。

もっともトウガ自身プロローグ時点で三日月相手には勝てなくなってきており、昭弘にはかろうじて勝ちか引き分けで負け無し、他の隊員には一対一なら勝てる、つまりチームで連携されると厳しい。

三日月達に負けた時は決まってハエダに殴られている。

 

 性格的には我が身は大事だがハエダ達程クズにもなりたくないし扱いは参番組と結局大差無い(休日と給料は少しマシ)ので1軍の隊員達に仲間意識や情は全く無く、むしろ参番組のオルガやビスケットと仲良くしたいと思っており、次第に参番組の少年達を弟のように思うようになる。

 現代人の意識が憑依してからは憑依した人格がベースかつ記憶や経験は精神が破綻しない程度に残っている状態で、原作知識を頼りに将来の鉄華団での立場を確保しかつ犠牲を少しでも減らしたいと思っている。あと何故か死ぬ前に持っていた野菜の種を持っている。

これについては「二次小説でよくある特典という奴?ショボッ!あ、でも使えるかも・・・」と考えていて、後に基地内に作った畑で使用する。

 

保有スキル

MW戦闘 結構高め、昭弘と同程度。

MW整備 簡単な点検整備は出来る。本職には及ばないが、時たま本職が考えないような魔改造を考え付く。

白兵戦  高め。昭弘に近いレベルの筋力で人体急所を正確に狙っての打撃や関節技を使えるので1軍の中では実は最強だが普段は隠している。

野菜作り 生前家庭菜園をやっていたので、素人よりは基礎知識はある。

 

 

壱番組

 

 CGSにかつて存在した非正規部隊。CGSで阿頼耶識システムを最初に施術された子供達で構成されていた。

この時の施術は半ば練習台のようなもので成功率は1割から2割程度と、三日月やオルガの頃(成功率6割)より悪かった。

この頃はマルバも少しは良心が残っていたのか、20歳になったら正規隊員に昇格できると雇用時の契約に明記されていたが、1軍の弾除け、露払いに使われた壱番組の生存率は低く、同じ非正規部隊の弐番組と統合の後壊滅、唯一の生き残りのトウガが1軍に編入されて消滅した。

尚、参番組に昇格が無いのは、壱番組と弐番組の壊滅から、昇格の条件を用意してもどうせすぐ死ぬから無駄と判断された為である。

阿頼耶識の施術が麻酔無しになったのも、成功率の低さから、割りに合わないと判断された為。トウガも一回目は麻酔ありだったが、二回目は麻酔無しだった。

 

本作におけるCGSの休日

1軍は週休1日、但し2名は当直として待機する。

参番組は第1、第3週末は半数が1日休み(但し外出禁止の待機状態)残り半数は1軍の当直指揮下で警備にあたる。

第2、第4週は半数は1日休みで外出可。残り半数は1軍の当直指揮下で警備にあたる。

但しヒューマンデブリは全面的に外出禁止。基地で待機し、当直の判断で警備要員以外の者もその指揮下に入る。




ちなみに俺Tuee!な展開は本編にはありません。鉄華団のエースは三日月です。
4/8、機体関係の設定を削除しました。まとまったら改訂版を別個で更新します。


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雌伏編
初めは小さな事から


うーむ、三日月の台詞とか色々と不安でありますが・・・どうぞご覧ください。
 


 今日は1軍は休み、参番組は半数は休み(但し外出禁止の待機)で残りは基地の警備についている。

 今は亡き壱番組と弐番組の隊舎の近くの広場を耕し、街で買ってきた土壌改良剤と肥料、生ごみを発酵させてつくった堆肥を撒いて耕してビニールを張って、ようやく作物が育つ環境が整った。

 社長のマルバに直談判してここに畑を作る許可を得て、道具や資材を少しずつ買い揃えて(全部僕の自腹である)準備して早半年。

 長かったけどその間に良い事もあった。参番組のエースである三日月・オーガスと参番組の参謀格のビスケット・グリフォン。

 この二人、前に堆肥の材料の生ごみを運ぶのを手伝ってくれてから、時々様子を見に来て手伝ってくれるようになった。

 ビスケットの祖母の桜さんは農場を経営していて、三日月は桜さんみたいな農場やるのが夢だから、僕が野菜を作ろうとしていると聞いて興味を持ったらしい。原作主要キャラと接点が出来るのは非常に好都合で、喜ばしい。

 

「それにしてもよくあの社長が許可してくれましたよねえ」

「なんか、意外だね」

 

 ビスケットと三日月は社長がこの菜園作りを許可した事が意外だと言う。

無理も無いか、今のマルバ社長は自分の利益の事しか考えないもんな。

 

「あの人も昔はもうちょっとマシだったんだけどね、まあ僕は1軍の中では一番働いてるし、自分の懐が痛まないなら話を聞いてくれる事もあるってことだと思うよ。こうやって生ゴミを利用すれば業者に回収してもらうゴミの量を減らせて少しだけど経費が浮く、金銭的にマイナスどころかむしろプラスになるって、経理のデクスターさんが口添えしてくれたしね」

 

 この畑で作る作物はCGSで消費するものとして説明してあるが、実際は参番組の食事の改善が目的(更に先の事も考えているが)であり、そのあたりをごまかしてマルバから許可をとる事が出来たのはデクスターさんのおかげである。

 あの人も、マルバに逆らえない立場ではあるが、参番組の待遇の悪さには思うところがあったようで、金銭面での利点を楯にマルバを説得し、結果マルバはCGSの予算からは1ギャラーも出さないという条件つきでの許可をくれたわけである。

 

「これで後は苗を植えつけて水をやれば今日の作業は終わりだ」

「何を植えるの?」

「カボチャだね。結構生命力の強い作物だし、収穫出来たら長く保存出来て栄養も豊富だからね」

 

 因みに苗の元の種はこの身体に憑依した時何故かポケットに入っていた、生前買った物である。

「なるほど、それで、その苗はどこです?」

 

ビスケットにきかれてはっ、と気が付く。

 

「苗は別の所で育ててるんだよ、取ってくるからちょっと待ってて」

 

二人にそう言って走り出す。最初に持って来ておけば良かった・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 走っていくトウガの後ろ姿を見ながらビスケットは思う。

数ヶ月ここでの作業を手伝っているが、トウガはいつも一番キツい作業は自ら担当して自分達にはそれよりは楽な作業をあてがっていた。

 そもそも最初に手伝った時からして、こちらから申し出た事である。自分からすれば手が空いてる時に1軍の人間が働いてるのを見たら、手伝わないといけないと考えるのが習慣化している。そうしないと怒鳴られ、暴力を受けるのが当たり前なのがこのCGSでの自分達の立場だ。

 だが、自分達を虐げるのが当たり前の1軍にあってトウガだけは自分達に理不尽な暴力を奮う事は1度も無かったはずだ。

 1度、年少の隊員に対する躾だのと言って、ササイからタカキやライドを殴るように強要されていたが、差し出された警棒を突っ返して、結果自分が殴られていたのを覚えている。

 普段は他の1軍隊員に従順に振る舞っているが、参番組に対する理不尽な行いにトウガが加わっているのを、ビスケットは見た記憶が無かった。

 

「ねえ三日月、トウガさんが僕らの誰かを殴ったりしたのを見た事、ある?」

「見た事は無いけど、殴られた事はあるな」

「え?いつ?何で?」

「つい最近MWで1対1の模擬戦した時に。あの人負けるといつも殴られてたから、その時はわざと負けたんだけど、それで怒られた。負けて殴られるのが嫌なら模擬戦の相手なんか最初からしない、自分が模擬戦の相手するのは俺達を死なせない為だってさ。あと殴られたって言っても平手だったし、全然痛く無かった」

 

そう言ってポケットから取り出した火星ヤシの実を口に入れて、咀嚼しながら、でも、と三日月は思う。

痛くも何とも無かったのに、何でこんな何でもないような事が妙に記憶に残っているんだろ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「でさー、とうとう三日月に手加減されちゃったんだよ」

「何でそんな事俺に話してんですかアンタは」

「・・・何となく?」

 

 育苗ポットの入った箱を取りに動力室(バルバトス置いてる所、暖かくて光も入るので丁度良かった)に来たら参番組のリーダーのオルガ・イツカが昼寝してた。で、何となく最近の参番組隊員との模擬戦の話をしている。

 主に模擬戦で三日月に負ける事が増えて来た事とか。

 

「いや偶然会ったのも何かの縁ていうかさ、こういう事話せる相手って貴重だから」

「アンタ1軍だろ?だったらそっちに・・・ああそうか」

「わかる?所詮は僕もヒゲ付きの宇宙ネズミってことだよ。正規隊員って言っても書類上はって程度、壱番組の頃と変わりゃしない」

「俺達参番組より前にいた非正規部隊か」

「元々は身寄りの無い子供達に食い扶持を与えようって仏心もあったんだろうけどね、企業である以上利益を出さなきゃいけないし、学の無い子供達を働けるようにするにはまっとうなやりかたじゃ時間も金も掛かりすぎてそんな余裕も無くて、苦肉の策で阿頼耶識に手を出して、でも施術の失敗で大勢死んで、後戻りも出来なくなって、段々人が変わっていったんじゃないかな」

「あのオッサンに仏心ねえ・・・」

「善人が悪人に変わるのは切っ掛け1つあれば簡単なんだよ多分。まあ、元が善人でもああなっちゃったら駄目だよね」

「1軍の連中もそうなのか?」

「いやあいつらはハナっからロクデナシ揃いだったね」

「・・・そういやアンタ、何か用があってここに来たんじゃ無いのか?」

「あ、そうだった」

 

 いけないいけない、三日月とビスケットを待たせてるんだ。

急いで戻らないと。箱の中の育苗ポットの内半分をトレイに載せると、外に向かって歩き出す。

 

「んじゃねオルガ、隠れて休憩は構わないけど、ハエダとかに見つからないように気を付けてね」

 

 最後にそうオルガに言い、畑に戻った。三日月とビスケットに遅くなった事を謝った後、三人で苗を植えつけた。

 畑の面積に対し植えた苗は少ないが、後日追加する予定だからこれでいいだろう。

今度の外出で透明のビニールシートその他の資材を調達出来たらビニールハウスを作ってその中でも育ててみよう。

 

「二人とも、今日は助かったよ。ありがとう。お礼に何も出せなくて悪いけど・・・」

 

この畑を作る為に金は殆んど使ってしまったので、小遣いも出せない。手伝ってもらっておいてこの体たらく。情けないなあ。

 

「お礼なんて、こっちから手伝いに来てるんですから」

「俺達が好きでやってる事だし、最初から期待してないから」

「うーん、でもそれじゃあこっちの筋ってものが・・・それじゃあ、このカボチャが収穫出来たら、最初に二人に食べてもらえるかな?」

「えっと・・・それじゃあ、そうさせてもらいます」

「そっちがそれでいいなら」

「うん、それじゃあ、今日は本当にありがとう、じゃあね!」

 

手伝ってくれた事への感謝を伝えたかったのだけど、気持ちが先走って感謝の押しつけになってしまったような気がして恥ずかしい。慌ててその場を走り去った僕は、三日月が

 

「やっぱ変わってるな、あの人」

 

とビスケットに言っていた事に気付いていなかった。

 

P.D.320。ギャラルホルン襲来まで、あと約2年半。




トウガは元々参番組に同情的で自分から彼らに暴力を振るう事はありませんでしたが、憑依後は参番組からの心象アップを目指して彼らをハエダやササイから庇う方向で動いているので、参番組の面々からは、1軍の他の連中とは違うな、くらいには思われています。その分ハエダ達に殴られる頻度も増しています。

10/16、トマトをカボチャに変更他加筆修正しました。


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希望を見出した日

現在の苦痛に耐えかねた時、自分を見失いそうになる事ってあると思います。そんな話のつもりです。
今回は原作主要キャラは名前しか出ません。殆んどがトウガの独白です。


「ぶぐっ!」

 

頬に拳をくらい、声が漏れる。脳が揺れて一瞬意識がトビかけるが、今度は腹に膝を叩き込まれ、思わず前のめりに倒れ込む。

 

「テメエ何時から俺に口答え出来る身分になったよ?ああ!?」

「1軍にいるからって俺達と対等になったつもりかこのヒゲ付きが!!」

 

背中を踏みつけられる。

 

「たまたまマルバに拾われて!」

 

脇腹に蹴りを入れられる。

 

「たまたま阿頼耶識の施術が上手くいって!」

 

腕を踏みつけられる。

 

「たまたま長く生き延びてこられただけで!テメエみてえな宇宙ネズミが俺達と同じな訳ねえだろが!!」

 

頬に靴先を押しつけられる。

 

「何とか言ってみろやこのカスが!!」

「う・・・・ぐっ・・・」

「人間の言葉も喋れねえか?ああ?」

「うう・・・」

「へっ、生意気な口きいてこのザマか」

「ケッ!面白くねえ、行くぞ!」

「う~す」

「身の程ってモンをわきまえろや!」

「へっ、バカだねオメエはよお」

 

 毎度飽きもせずに吐き出される罵声とともに繰り出される暴力。抵抗したら余計酷くなるのでされるがまま、血ヘドを吐いて、もう呻き声しか出なくなった頃に、無抵抗の相手をなぶるのに飽きて、嘲りの言葉を吐き捨て去っていく。

 

 何時もの事だ、もう慣れ・・・慣れる訳あるか。

何回同じ目にあおうが自身の人間性を否定され、いいようになぶられて痛い思いをして、慣れてたまるか!

 大体何時も何時も大した理由も無い癖に子供相手に手を上げて、恥ずかしく無いのか?それを止めに入ったらこれだよ。いい加減飽きろよ!

どうせまた明日も同じ様なことを繰り返すんだろう。明日なんて来なければ良いとさえ思えてしまう。

 

「ていうか、そもそも何でこんなに痛い思いして、参番組の信用を得ようとしてるんだ・・・?」

 

 この身体に憑依して、トウガ・サイトーになってから、原作知識を活かして後の鉄華団に自分の居場所を作る為に行動して来たが、考えてみれば安全に生きるならオルガ達のクーデターの時に退職金貰って出ていけば良い。

ギャラルホルンやらタービンズやらブルワーズなんかとドンパチして、コロニーの騒動に巻き込まれてギャラルホルンの大部隊を敵に回して、地球に降りたらまたギャラルホルンとぶつかってという未来を知っててその中に進んで飛び込むよりずっと安全というものだ。何で痛い思いして、1人寂しくはぐれ者になって・・・?

 

「寂しい、のか?僕は・・・」

 

僕には今の立場を共有できる仲間がいない。壱番組の仲間は皆死んでしまったし、今の自分は参番組の面々とも違う立ち位置にいる。

原作知識での鉄華団の有り様が脳裏に浮かぶ。時に傷付き、仲間や大切な人を失って涙し、それでも前を向いて、胸を張って懸命に生きる少年達の姿・・・。

 

「いいなあ・・・・ああ、そうか・・・凄く単純な理由じゃないか。僕もあの中に入りたいんだ、あの中の1人になりたいんだ・・・・」

 

彼らに身内と認めて欲しい。信じて欲しい。頼られたい。一緒に笑い合えるようになりたい。

死んでいった仲間達の流した血と、これから流れる彼らの血が鉄のように固まって彼らを繋ぐ。その鉄血の絆の中に、僕も繋がりたい、胸を張って、彼らと同じ道を歩きたいんだ。

 1人は寂しい。自分を認め、受け入れてくれる人が誰もいないのは恐ろしい。

鉄華団の少年達は互いを認め、信じ合い、時にはつまらない事で笑い合ってケンカをしながらも、共に歩いていた。苦難に満ちた、けれど希望に輝く道を。

 

「希望・・・そうだ希望だ。鉄華団は、僕の希望なんだ」

 

 希望があるなら、また立ち上がれる。明日が来るのを恐れる必要は無い。たとえ時間がかかっても、鉄の華は必ず咲く。

鉄華団。決して散らない鉄の華。それは僕にとっては希望の華だ。

 彼らにハエダ達と同じと蔑まれたくない、その為なら、こんな痛み、耐えるだけだ。彼らに信じてもらえるなら、彼らに向けられる暴力を、自分に出来る限りは引き受けてやろうじゃないか。

身体を張って行動しなければ、信頼は得られないのだから。

 

 

P.D.321年。ギャラルホルン襲来まで、あと2年。




トウガの中では原作の鉄華団の面々は青臭くて意地っ張りだけど格好いい奴ら、となっています。だからそんな彼らに1軍の他の連中と同じクズだと見られたくはないと思っています。


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参番組から見たトウガ・サイトー

今回は原作主要メンバーにスポットを当ててみましたが、話の流れ上、ユージンに割りを食わせてしまいました。ユージンファンの皆さん、ごめんなさい‼あと会話にシノを絡める事も出来ませんでした。一応彼は一発殴られてしまったダンジの手当てをしていた事になっています。


「テメエ毎度毎度うざってえんだよ!」

「身の程わきまえろっつったろうが!」

 

 今日も訓練の最中、1軍の連中につまらない事で殴られたり蹴られたりしているのは、参番組の隊員ダンジ・エイレイ・・・・ではなく、それを庇いに割って入った1軍隊員トウガ・サイトー。しかしそれも珍しくない光景だった。

トウガは自分の手の届く範囲内で1軍の隊員が参番組に手を上げようとすると決まって止めに入ってきては自分が殴られている。まるで身代わりになるかのように。

 

「ちっ、興醒めだ、行くぞお前ら」

「おう」

「クソが!」

 

 殴り返すでもなくいいようにやられて、地面に這いつくばったトウガの姿は、1軍の暴力の矛先が自分達に向かないように声を潜め、縮こまっている年少組の子供達から見ても無様で惨めに見える。

 1軍が去って行って少しして、仰向けに寝転がったその顔は鼻からも口からも血が垂れ、頬は腫れ、髪の毛もグシャグシャに乱れている。

そのまま立ち上がろうともしないトウガに、庇われた形になったダンジと、年少組の中ではリーダー格のタカキ・ウノが近寄ろうとするより早く彼のもとに駆け寄ったのは、参番組隊長のオルガ・イツカと三日月・オーガスだった。

 

「また随分やられたなあ、立てるか?」

「無理なら手を貸すけど」

 

自身を見下ろしながら声をかける二人に、大丈夫、と返して立ち上がろうとしてよろけるトウガを支え、オルガはやや呆れたように問いかける。

 

「聞いたぜ、ダンジを庇ってやられたってな。アンタ何時も何時も、何だって俺達参番組の肩をもつような真似してんだ?こんなに痛めつけられて、なんの得がある?」

 

するとトウガは、目先の損得よりも大事な物があるから、と答えると、歩き始め、ありがとう、もう大丈夫、そう言ってその場を去って行く。

その背中を見送るオルガに、ユージン・セブンスタークが苛立ちを露に問い掛ける。

 

「おいオルガ、何だってあんな奴に構うんだよ!?アイツは1軍じゃねえか!」

「アイツにはさっきダンジを助けてもらった。それであんなにやられたのを知らねえ振りしちゃあ、筋が通らねえ」

「筋だあ?アイツは、俺達と同じ宇宙ネズミで、元は非正規隊員だった癖に、1軍に上がって俺達より多く給料とって、休みだって多くとってる!俺達からすりゃあ裏切り者みてえな奴じゃねえか!」

「止めなよユージン!いくら何でも言い過ぎだよ!」

 

流石に言葉が過ぎると感じたビスケットが止めに入ったが、ユージンの苛立ちは納まらない。

 

「るせえビスケット!アイツはメシだって俺達より良いモン食って・・・」

「トウガさんの食事は俺達と大して変わらないよ!それにトウガさんは何時も俺達に手を上げたりしないだろ?」

 

実際トウガの食事は参番組と同様のモロコシ粥に、スープが追加されただけである。

他の隊員達が食べているサラダもタコスも無く、スープとて具はろくに入って無い残り物である。

 

「!?・・・けどよお・・・・」

「アイツが俺達より多く貰ってる給料と休日、それ何に使ってるか知ってて言ってんのか?」

「はあ?何ってそりゃ・・・何に使ってんだ?」

 

言葉に詰まるユージンに、三日月が答えを教える。

 

「畑でカボチャ作るのに使ってる。そのカボチャを煮たやつ、今日の昼にも食べたよね」

「へっ?あ、あれが?ありゃ社長が回してたんだと・・・っつうか畑って、どこにあるんだよそんなもん」

「皆はあまり近寄らないし巡回ルートからも外れてる場所だから、知らないのは仕方ないけどね、昔の壱番組の隊舎の近くだよ」

「あのマルバのオッサンが、俺達の待遇を少しでも良くするなんて、それこそあり得ねえだろ。トウガのヤツがマルバに頭下げて土地借りて、後は道具から種から肥料まで、全部アイツが自分の金で用意して、休日使って育てて、何度も失敗してやっとマトモに育ったのを俺達のメシに追加させてくれてるんだよ」

「はあ!?何だってそんな事・・・・」

「さあな、俺にもわかんねえよ。だがな、アイツが金と労力を費やして作ったモンを食っておいて、知らん振りは出来ねえだろ?」

 

オルガの言葉にユージンは言葉に詰まる。

 

「あの・・・」

 

そこで話に入ってきたのは、年少組の子供達を宥めていたタカキとライド・マッスだ。

 

「あの人、俺達にもいつも優しい、ですよ。ホントは、内緒って言われてたんですけど、たまに、俺達年少組に甘いもの、配ってくれるんです」

 

火星では菓子などの嗜好品は割りと貴重品である。詰まりは畑以外でも、参番組のために決して多く無い給料を割いているわけである。

 

「この前は、キャンディくれたんだよ、チビ達も喜んでさ、あん時のトウガの兄ちゃん、チビ達の頭撫でながら笑ってて、すげえ安心できて・・・だから・・・」

 

ライドはユージンに怒られるのを怖れてか、言葉に詰まってしまう。

流石にユージンもこうなってはトウガを声高に非難出来なくなってしまう。そこへオルガがトドメの言葉をかける。

 

「たくよ、これじゃあ俺達の立つ瀬がねえ。なあユージン?」

「っ・・・!あ~解ったよ!アイツが1軍の他の奴らとは違うって事は、認めてやるよ!それでいいんだろチクショウッ!!」

 

ユージンが折れた途端、他の面々が笑顔になる。

そんな彼らを遠巻きに見ていた一団がいた。彼らの服には縦に赤い線が入っている。

昭弘・アルトランドを中心とするヒューマン・デブリの少年達である。

 

(トウガ・サイトー、か・・・おかしなヤツだ。ゴミクズ同然の俺達にも、普通に接して来やがる・・・)

 

自分達に対する態度を不審に思って、何故ゴミクズ同然の自分達を普通に人間扱いするのか尋ねた事があった。

するとトウガは困ったような顔でこう言った。

 

「君達がどういう扱いでここに居るかは知ってるよ。けど、自分で自分をゴミクズ同然なんて言わないで欲しい。社長や他の連中にどんな扱いをされたって、君達は間違いなく人間なんだから」

 

ヒューマン・デブリ。宇宙を漂う鉄屑程度の値段で売買され、ここCGSでは社員では無くマルバの所有物として酷使されている自分達を、まっとうに人間扱いした大人は彼くらいだった。

 

(けどよ、実際ゴミクズのように扱われているここじゃ、自分の価値なんかそんなもんだって諦めちまわねえと、やってらんねえだろ)

 

そうでなければ、きっと心がもたない。そう自戒しながら、踵を返す昭弘に従い、ヒューマン・デブリの少年達はその場を去っていった。

 

 

P.D.322年。ギャラルホルン襲来まで、あと1年。

だが、迫り来るその時を、少年達はまだ知らない。




そろそろ原作に入らないとなあ・・・と思っています。
あと参番組の面々が原作で食べていたお椀に入った黄色いものは、ネットで調べたところ、トウモロコシの粗挽き粉(コーンミール)を鍋で沸かしたお湯に入れて加熱しながらお粥のようにしたポレンタというイタリアの料理では無いかという意見がありましたが、Blu-ray2巻特典の鉄血日和に、合成コーンミールという表記がありましたので、そちらに変更しました。
TV4話の食事シーンにあった黄色い固形の食べ物も、冷えて固まったポレンタをカットして焼いた焼きポレンタというものがあるそうなので、それに似た物だと解釈します。
9話でモロコシのパンと肉とどっちが云々という台詞もありましたし、火星ではトウモロコシが主食なのでしょう、多分。栄養面は結構良いらしいし。

10/16 火星はトウモロコシ以外は栽培が困難な環境の様です。トウガの畑は辛うじてカボチャの栽培には成功したという事に変更します。


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CGS編
鉄と血と


Blu-rayを観ながら構成を直していたら遅くなりました。今回は原作改変をちょっと入れてみました。拙い文ではありますが、どうぞご覧ください。


 今僕は雪乃丞のおやっさんと、三日月と三人で社長から呼び出しがかかっているオルガを探している。

まあ、僕と三日月は見当がついているので、割りと早くに動力室で寝ていたオルガを見つけられたわけだ。で、三日月がオルガに声を掛けている。

 

「おお、ミカ」

「おおじゃないよ、またこんな所でサボって、見つかったらまた何されるか」

「わかってるよ。っと、トウガも居たのか」

 

居たのかって・・・おいおい。

 

「おーい、いたか、三日月~!?」

「うん」

「どうした?おやっさん」

「どうしたじゃねえよ!マルバが呼んでるぞ!っつーかここ入るなって言ったろ!」

「いやだってここ年中暖けえからさ。なあトウガ?」

「はは、大目に見てやってくださいよ、おやっさん」

「オメーもだトウガ!野菜の苗なんぞ持ち込んで、温室じゃねえって言ってんだろうが・・・ったく、動力室は一応最高機密扱いなんだぞ」

 

いやまあ、アレは新しく育て始めたのトマトの苗で、それなりに育つまでは野ざらしにするとすぐ枯れちゃいそうで危なっかしいんだもの。

 動力室を出ていくオルガと三日月の後について僕も出ようとして、ふと振り向き、胸部や腰部にケーブルを接続されてそこに鎮座する鉄の巨人を見上げる。

 

「もうすぐ出番だ、頼むよ・・・ガンダム」

 

返事など返って来ないと知りつつも、そんな言葉を掛けて、動力室を出ていった。

 

 で、オルガはビスケットと一緒に社長室に行って、僕は今、三日月vsユージン、シノ、昭弘の模擬戦の監督をしている。

いや~三日月すごいわ。もう僕じゃ敵わないよ。アグレッサーはお役御免ってか?

あ、シノがやられた。ユージンもか。おお、あのタイミングでかわすか、ああ、結構粘ったけど昭弘もやられた。すげー、三日月無双だわ、阿頼耶識3回のおかげかそれとも本人の才能かわからないけど、流石主人公というか。

 

「はいそこまで~!!」

 

 って!ササイの野郎タカキを警棒で殴りやがった!訓練中に手を止めて余所見は良くないけど、何も殴る事ないだろ!

くそ~、距離が離れてるから手出し出来ない。1発で済んだとはいえ痛かろうに・・・。

 

 

「俺達がお嬢様の護衛?」

「お嬢様って良い匂いするんだろうな~!!なあ三日月!」

「お嬢様って言っても、同じ人間なんだし、そんなに変わんないだろ」

 

 昼食時の参番組の面々の会話に、胸がざわつく。遂に来たか。

待ち望んでいた時が目前に迫ったという喜びもあるが、同時に大きな問題があった。

 

(42人か・・・何とかしたいんだけどな・・・でもどうすれば・・・)

 

 原作知識を活かして自分の立場を確保するという目的は変わらない。けれどその原作知識が、ダンジを含む参番組の隊員42人が死ぬという、未来の情報が頭を悩ませる。出来る事なら死なせたくない。しかし何が出来るのか?

 

(夜明け前に襲撃が来たらすぐに出撃出来るように備えて、後は出たとこ勝負しかないんだろうな、やっぱり)

 

 解ってはいるのだ。例え未来を知っていても、神ならぬ人の身ひとつで大勢の命を救うことは不可能だし、この先も人死には出るのだ。出来る限りの事をして、それで手が届かなかったものはどうしようもないのだと、自分の非力さも含めて受け止めなければならない。今までそうしてきたように。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「もう明日か、例のお嬢さんが来るのは」

「ああ。で、明後日には出発、地球までの往復にあれやこれやで、5ヶ月くれえか」

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインがCGSに来る前日の夜。MW格納庫で装備の確認をしていた雪乃丞とオルガの会話は、明日からの予定から、参番組の扱いの悪さへ移っていた。特に、入隊の条件だった阿頼耶識システムの施術について。

 

「ま、こいつを埋め込むのがここで働く条件だからな」

「それでも仕事があるだけまだマシか・・・ふっ、オメェん時は笑えたよなあ。麻酔もねえ手術なのに、泣き声一つ上げねえで、可愛げがねえって殴られてよぉ」

「泣けばだらしねえって殴られただろ・・・アイツは違ったっけな」

 

そう言ってオルガは、格納庫の隅にある、一際目立つ青と黄に塗装されたMWに目をやる。

 

「アイツ・・・ああトウガか、そうだなぁ、オメエの事、スゲエスゲエって、しきりに褒めてたなぁ。まあアイツも通った道だしな」

「どっちにしろ、ここじゃ俺ら参番組はガス抜きするためのオモチャか弾除けぐらいの価値しかない。でも俺にも意地があるからな。格好悪いとこ見せらんねえよ」

「ふうっ、三日月には、か?」

 

煙草の煙を吐き出した雪乃丞の言葉に苦笑するオルガ。そんなオルガを見ながら雪乃丞は立ち上がり、

 

「苦労するなあ、隊長」

 

そう言って床に落とした煙草を踏み潰した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~翌日~

 

「オメエ、無茶言うなよ、アレはこの基地の電力供給に使ってんだぞ、動かすとなると・・・」

「今すぐ動かせって訳じゃないです。必要になった時に少しでも早く起動出来るように、機材や部品を用意しておくだけでも・・・」

 

僕なりに考え、バルバトスの起動が早くなれば、少しは参番組の犠牲を抑えられるかもと、おやっさんに前もって準備をしておいてもらおうと頼んでいるが、ちゃんと理由が説明出来ないのでおやっさんの反応は芳しくない。

 

「だから、何でそんな必要があるんだよ。確かに今は手空いてるが、理由もねえのにんな事出来るか」

「・・・嫌な予感がするんですよ。背中のヒゲが疼くというか。例のお嬢様がらみで明日あたり、大変な事が起こる気がして・・・」

「予感ってオメエなあ・・・ってありゃあ、三日月か」

 

こっちに歩いて来たのは三日月と、その後ろに件のお嬢様。お嬢様が三日月に声を掛けている。つい、おやっさんと一緒に通路の陰から覗き見てしまう。

 

「握手をしましょう!」

「あ~・・・」

「何故ですか?私はただ、貴方達と対等の立場になりたいと思って・・・」

「手が汚れてたから遠慮したんだけど。・・・けどさ、それってつまり、俺らは対等じゃ無いって事ですよね」

 

おお、流石三日月、ぐうの音も出ない正論。そしてお嬢様やっぱりポンコツっぽい。だが多分それが良いんだろうし、いつまでもポンコツのままじゃ無いからなあ。

 

「あのお嬢さんがらみで、アレが必要になるってのか?」

「お嬢様自身はどうあれ、彼女を狙う人間が襲ってくるかも、です。普通に対応出来るならそれに越した事は無いですけど、最悪に備えておいて欲しいんです」

「アレが必要な最悪って・・・オメエまさか?・・・けどなあ、アレは使う用もねえってんで、コクピット回りは抜かれちまってるぞ」

「乗り手のいないMWを1台、夜のうちに搬入しておきます。それから阿頼耶識のインターフェースを移植すれば動く筈です」

「そりゃそうだが・・・」

「もし本当に必要になれば、きっとオルガも同じ事を考える筈ですから、細かい判断はその時オルガかビスケットに聞いてください」

「はあ~、そこまで言うんならやれる事はやってやるけどよ、大したことは出来ねえぞ」

「ありがとうございます!」

 

 そして夜、当直以外は寝静まった頃、格納庫にある予備のMWをこっそり動力室内に運び込んだ。これ、バルバトスの起動までの時間短縮だけで無く、ダンジの戦死を回避するためでもある。

 原作ではMWが1台余っていた為に、ダンジが志願して乗り込み、最期はオーリス・ステンジャのグレイズに接近して蹴り潰されてしまった。

 ならMWが1台も余って無ければ、ダンジはタカキやライドと同じように生き延びられるかもしれない。

後はギャラルホルンが仕掛けて来るまで、格納庫で待つしかないな。狙撃への対策は思い付かなかったので、可哀想だけど夜警の二人は助けられない。

 一応当直のシノに用心するように言ってはあるけど、いつ撃って来るかわからない狙撃に対応するのは無理というものだ。

 けれど、こういう風にこれから人が死ぬと知ってそれを見過ごすのは罪悪感を感じる。これが1軍の奴らだったらザマァ(笑)で済むんだろうけど、まだ子供の参番組だとなあ・・・。

 原作知識が無ければこんな思いはしないのだろうけど、その原作知識が他の誰も、三日月やオルガすら持っていない僕の最大の武器である以上、忘れる事も出来ない。

 

 格納庫のMWの中で仮眠する(広くないコクピット内でも寝られ、かつ約2時間程で目が覚めるように身体が馴れている)内に、夜明けが近付いて来た。そろそろか・・・・・・来た!!。

 爆音と震動。ギャラルホルンのMW隊からの攻撃だ。ハッチを開けて顔を出すと、格納庫の照明が点灯し、三日月と、当直のシノの率いる隊員達が駆け込んでくるのが見えた。

 

「三日月!シノ!」

「トウガ?アンタ何やってんだ!?」

「シノ、今はそんな事より迎撃に出ないと」

 

 当直の自分達よりも先に出撃態勢を整えていた事に驚いているらしいシノを三日月が制止する。

 

「僕は先に出る!君たちも急いで!!」

 

 そう言ってハッチを閉め、MWを発進させる。

基地の外に出ると手近な防壁を楯にして応戦の態勢をとり、増設したロケットランチャーを牽制に全弾発射する。敵はまだ姿が見えにくい遠距離から、雨のようにミサイル(あるいはロケット弾?)を撃って来る。迂闊に飛び出せない。

 やがて後方から、三日月の白いMWと、シノのピンクのMW、シノ指揮下のMW隊がやって来ると同じように防壁の陰に隠れながら攻撃を始めたが、こちらの攻撃は牽制程度だろう。少し遅れて昭弘達も出てきた。

 

「くそっ金持ちかよ、ボカスカ撃ちやがって。誰か知らねえが、このまま俺達を塩漬けってか?」

「いや・・・来る。」

 

 その時、粉塵の中から敵のMWが姿を現す。CGSのTK-53よりも大型で火力と装甲が上の新型、NK-17。マーキングされた紋章に、シノが驚きの声を上げる。

 

「嘘だろ!?あのMWは!?」

 

 これで他の皆にも敵の正体が知れたわけだ。けどまあ・・・。

 

「誰が相手でもやる事は変わらないだろ」

 

 三日月はブレないな。

 

「まあその通りだ。オルガや他の皆が来るまで何とかもたせよう」

 

 そうして応戦していると、弾丸の残りが怪しくなってきたところで、通信越しにオルガからの指示が聞こえた

 

「シノの隊は一旦下がれ!ダンテの隊と交替で補給だ!」

「オルガ!?遅えぞ!」

「悪いな、ミカと昭弘、トウガも戻れよ!」

 

 オルガの指示に従い、一旦後退して補給する。

そして先に前線に出たシノの隊を追うように前線に出ると、シノの隊の一台が足を止めてしまっていた。そこを狙う敵機を三日月が撃破する。

 

「ごめん、待たせた」

 

 そう言って敵部隊の中に飛び込む三日月に、昭弘と僕が続く。

 

「お前にばっかり、いい格好させっかよ!」

「足の速さはこっちの方が上だ。かき回せば数の差があっても!」

 

 そうして混戦に持ち込んで撹乱しながら敵の数を減らしていく。と、戦闘領域の外側の空に信号弾が複数上がった。1軍のをビスケットが遠隔操作で発射させたな。

 敵がそっちに移動しだした。ザマァ!

あ、でもデクスターさんは生き延びてください、マジで。切実に。

 さらに敵のMW隊がタカキ達の埋めた地雷にかかった。

 

「さあ、反撃開始と行こうかあ!!」

 

 オルガがそう言った直後、味方のMW隊に砲撃が着弾した。

 

「重砲!?どっから・・・うわっ!」

 

 オルガとユージンの近くにも着弾した。ついに来たか。

 

「まったく!この程度の施設制圧に何を手間取る!?MW隊は全員減給だ!!」

 

 ギャラルホルンの量産型MS、グレイズが3機、姿を現した。

 

「冗談だろ?MSなんて、勝てるわけねえ・・・」

「どうすんだよこれ?」

「逃げられるなら逃げたいけど・・・」

 

あれ?僕がダンジの立ち位置みたいな?

 

「どこに!?」

「そうだ。どこにも逃げ場なんてねえぞ、ハナっからな。なあ!、ミカ!?」

 

そう言ってオルガは後ろにいる三日月に呼び掛ける。

三日月は

 

「うん。で、次はどうすれば良い?オルガ?」

 

 そう、オルガに問いを返す。

 

「フッ・・・ああミカ。お前にしか頼めねえ、とっておきの仕事がある」

 

 そして三日月は動力室へ向かい、残った面子で時間稼ぎをする事になったが・・・。

 

「ハッハッハ!まるで虫けらだ!!」

 

こちらのMWはオーリスのグレイズ1機に一方的に蹂躙されていく。

 

「無理はするな!ミカが戻って来るまで少し時間が稼げれば良いんだ!そしたらよ、このクソッタレな状況に、一発かましてやれるんだ!だからそれまで・・・」

「お、オルガ!なんか、こっち見てる!」

「貴様が、指揮をしているのか?」

 

オーリスの奴、指揮官のオルガに気付きやがった!原作より早い・・・そうか!ダンジがMWで出ていないから、誤差が生じたのか!間に合うか?三日月・・・。

 

「ヒィ、死ぬ死ぬ、死ぬ~!!」

「死なねえ!!死んでたまるか!!このままじゃ・・・」

 

 オーリス機の攻撃をかわしながら、全速力で逃走するオルガとユージンのMW。スラスターを噴かしてそれを追うオーリス機が、バトルアックスを振り上げて足を止めたオルガのMWに襲いかかる。

 

「こんな所じゃ・・・終われねえ!!だろ!ミカァ!!」

 

 オルガの叫びと同時に、オルガの前の地面から轟音とともに土が噴き上がる。

 そしてその中から、メイスを振り上げながらガンダム・バルバトスが現れ、オーリス機にメイスを叩きつけた。

 左肩からコックピットまでを叩き潰され倒れるオーリス機。

誰もが驚愕しながらその光景を見つめていた。

 

 

 P.D.323年。CGS基地にギャラルホルン襲来。そしてソロモン72柱8番目の悪魔の名を冠するガンダムが今、火星の大地に立つ。

 




 今回ちょっとだけ原作ブレイクしてダンジを生存させました。なので次回はシノのあの名(迷)台詞は無しにするつもりでしたが、ご指摘いただきましたので、少し変更しています。



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バルバトス

 今回、主人公がちょっと本気出します・・・というか、オルガ達が我慢している中で彼だけ我慢を放棄したというべきか。

トウガ「私は我慢弱い男だ」




「マジかよ?本当にやっちまった!」

「あれに、三日月が・・・」

「乗ってるっていうのか・・・」

 

 目の前の光景にシノが、昭弘が、ユージンが驚きの声を上げる。

いや~、ヒヤヒヤした。原作知識よりオーリスがオルガに気付くのが早かったけど、バルバトスの起動が間に合って本当に良かった。

後方で待機していたグレイズの1機、クランク・ゼント機がバルバトスに向かって来た。

 

「っ!また来た!!」

「オルガ、皆を下げてくれ!」

「わかった!!」

 

 オルガの指示で僕たちは後退する。

一方バルバトスはスラスターを噴かして移動する。その先の、撤退中の敵MW隊を蹴散らして着地、最後の1機、アイン・ダルトン機がバルバトスに向かって行くが、バルバトスが投擲したメイスに足を止めた所を空中でメイスをキャッチしたバルバトスが攻撃、アイン機の左腕を破壊した。

しかしそこにクランク機が迫りバトルアックスで攻撃、それをメイスで受け止める。

 

「何処から持ってきたのか知らんが、そんな旧世代のMSで、このギャラルホルンのグレイズの相手が出来るとでも・・・」

「もう1人死んだみたいだけど?」

 

 確かにグレイズは新しい分、バルバトスを含むガンダムフレームタイプより兵器として洗練されている。

だが経年劣化で装甲もフレームもガタガタとはいえ、2基のエイハブ・リアクターが生み出すパワーは伊達じゃ無い。バルバトスがグレイズを押し込んでいく。

 だがアイン機がライフルを射ってきたためこれを回避、後退して距離を取るが、そこでスラスターの推進材が切れた。

 

 あ~、やっぱりガスの補給忘れたんだ、おやっさん。そこは原作通りじゃなくても・・・。

 

 バルバトスはメイスで地面を抉って土煙を巻き上げ、低姿勢でアイン機に接近して攻撃するがクランク機の妨害で狙いがそれた為、頭部センサーカバーを吹き飛ばすに留まった。

その隙を突いてクランク機がアイン機を抱えるようにして離脱を図る。

バルバトスはこれを追撃しようとしたが、限界に達した三日月が気絶した為、動きを停止した。

 

 

「オーライ、オーライ」

「埋まってるかもしれないから、慎重にな!」

「うっ・・・くそっ」

「痛むか?」

 

 ギャラルホルンは撤退したが、こちらに休む暇は無い。負傷者の手当て、死亡者を含め被害状況の確認、敵味方の破損機体の回収・・・やることは沢山ある。

 

「馬鹿野郎・・・女を知らねえで死ぬのはゴメンだって、お前らいつも言ってたじゃねえか・・・」

 

自分の隊の戦死者達に泣きながら呼び掛けるシノ。その姿に僕は既視感と無力感を感じていた。

 

(同じだ・・・これじゃ何も変わっていないのと同じなんじゃないか・・・)

 

 事前の工作の結果、ダンジは死ななかった。しかし他の隊員達の死は変わっていない。死んではいないものの、傷を負った隊員も多い。

結局ここでシノが仲間の死に涙を流す事に変わりは無い。シノの悲しみに死んだ人数の多寡は関係無いのだ。

 

「1軍の生き残りが戻って来たみたいだぜ」

 

 昭弘の言葉に、さらに気が重くなる。序盤トップクラスの胸糞イベントが待っているからだ。

 

 今回の戦死者数、1軍68名、参番組39名。ほんの少しだけ、参番組の犠牲は軽減されたけど、それを喜ぶ事は出来なかった。

 

 

「テメエ!」

「ぐ・・・」

 

 ハエダの拳がオルガの頬を打つ。よくもまあ自分達の事は棚上げして・・・。

 

「よくもコケにしてくれたな!俺達を使って・・・」

「1軍のみなさんが挟撃に向かう途中不幸な事故で敵の攻撃を受けた事は聞いてますがそれが俺らと何の・・・ぐはっ!」

 

今度はさっきより力を入れて殴ったな。オルガが倒れた。

ハエダの奴、オルガが1軍が逃げ出した事を敢えて知らん振りしてるのがわからないのか。1軍を囮にしたのもお互い様だろうに。

 

「しゃあしゃあとうたいやがって!ああっ!?何だその目は!?貴様らも殴られてえか!?」

 

 ったく、ホント屑だなコイツ!!・・・と、オルガが立ち上がった。

 

「俺、だけで・・・良いでしょう」

 

ああ、オルガが身体張って仲間を守ろうとしてるのに、これ以上黙って見ちゃいられない。もう我慢するの止めた。

 

「ああ、そうかよ。じゃあ・・・っテメエ!?」

 

 またオルガを殴ろうとしたハエダの拳を横から掴んで止める。

 

「もう良いじゃ無いですかハエダさん?オルガは1軍のメンツを立ててくれてるんですよ。ここらで・・・とおわっ!」

 

 ハエダの手を離して振り上げられた蹴りをかわす。たく、話は最後まで聴けよ。

 

「キサマ何のつもりだ!」

「これ以上醜態を晒すのは止めた方が良いですよ、相手がガキなら尚更、大人の余裕って奴ををっと!」

 

今度は殴って来た。けどそんなパンチ避けるのは簡単だ。

 

「テメエ・・・」

 

僕を睨み付けるハエダ。矛先は完全に僕に向いた。これで良い。

 

「オルガ、君たちはちょっと出ていてくれ。僕が話をつける」

「?・・・アンタ・・・」

 

僕の言葉に怪訝な顔のオルガ達は動こうとしない・・・仕方ない。

 

「今の言い方でわからないなら言い直そう・・・。邪魔だ。出ていけ」

「!?・・・わかった・・・行くぞ、お前ら」

「なっ!?」

「オルガ!?」

「ちょっ!?おいオルガ!?」

 

 思いっきり殺気を込めてオルガに凄んでみせた。

戸惑いながらもオルガ達は部屋を出て行った。心象悪くなりそう。さて・・・。

 

「テメエ、ガキどもの代わりに殴られたいってか、ああ!?」

「まさか。ハエダさんこそ、まだ恥の上塗りがしたいんですか?」

「偉そうな口きいてんじゃねえぞ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 部屋を出たすぐ先の廊下。

ユージン、ビスケット、シノがオルガに詰め寄る。昭弘は黙ってオルガを見ている。

 

「オルガ、どういうつもりだよ!?アイツ1人残したら、あれじゃヘタすりゃ殺されちまうぞ!!」

「そうだよ!庇ってくれたトウガさんを置いて逃げ出すなんて、君らしく無いじゃないか!!」

「そうだぜ!今からでも・・・」

「止めろ!!」

 

 部屋に戻ろうと主張する3人を、一喝するオルガ。

 

「アイツの邪魔すんな。どういうつもりかわかんねえけどよ・・・今は、アイツの良いようにさせてやろうぜ」

 

 オルガの言葉に、不承不承ながら口をつぐむ3人。

 

 部屋のドア越しに、何かを叩くような音、壁や床に何かを叩き付けたような音が聴こえて来る。

トウガがリンチを受けている音だと思うと、皆自然と奥歯を噛み締めていた。が、違和感にビスケットが口を開く。

 

「ねえ、トウガさん以外の声っていうか、悲鳴?みたいなのが聞こえるけど・・・」

「あ?そういえば・・・」

「トウガはこんな声出さねえよな・・・?」

 

 やがて音が止み、ドアが開くと、まず意識を失ったハエダを二人がかりで運びながら1軍の隊員が、次に同じ様に意識の無いササイを背負った隊員が出てきた。残りの隊員達の中の1人が、

 

「後で今回の損害を調べて持ってこい」

 

と言っただけで、皆無言で去っていった。トドは青ざめた顔をしていたように見えた。

何があったかとオルガ達が部屋に入ると・・・。

 

「ったく、だから恥の上塗りは止めろって言ったのに、聞かないから不様を晒すんだよ・・・」

 

 呆れた顔でぼやくトウガが立っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 やれやれ、ハエダとササイときたら、折角人が丸く納めようと忠告したのに、無視して殴り掛かってくるから、カウンターでワンパンKOなんて事になるんだよ。他の連中も頭に血がのぼって、格闘術のカの字もありゃしない。チンピラのケンカと変わらないね。

っと、オルガ達戻って来たか。こっち見てるよ・・・。

 

「アンタまさか、あいつら返り討ちにしちまったのか?」

「シノや昭弘だってその気になれば出来たんじゃない?さて・・・あんな能無し共の下で使われるのも、もう限界なんじゃない?ねえオルガ」

「・・・そうだな。ちょうど良いのかもな」

 

場所を変えて、MWの陰。

 

「俺達がCGSを!?」

「前にお前も言ってたろうがユージン。ここを乗っ取るって」

「そりゃそうだが、この状況でか? 参番組の仲間も何人も死んでる!」

「マルバも相当な屑だったが、1軍の奴等はそれ以下だ。アイツらは俺達の命を撒き餌ぐらいにしか思ってねえ。それにアイツらの頭じゃ直ぐ商売に行き詰まる。そうなりゃますます危険なヤマに手を出す。俺達は確実に殺されるぞ!」

「かといって、ここを出て行っても他に仕事なんて無いし・・・」

「選択肢はねえって事か」

「お前はどうする?昭弘?」

 

 オルガが昭弘に声を掛ける。

 

「俺らはヒューマン・デブリだ。自分の意志とは無縁でここにいる。上が誰になろうと従う。それがアイツらであろうと、お前らであろうとな」

「ふ・・・て事だが、アンタはコッチ側で良いのか?トウガ?」

「もちろん。社長はともかく、アイツらにはいい加減愛想が尽きたよ。別に恩も義理も無いしね。社長がいなくなって、1軍の人数が少ない今はチャンスだと僕も思うよ」

「んじゃ、そうと決まれば早速作戦会議だな」

「三日月は呼ばなくて良いの?」

「おお、忘れてた」

「忘れてたって・・・」

「ミカがもし反対するなら、お前らにゃ悪いが今回は中止だ」

「はあ?」

「オルガ?」

「まあそれは無いがな」

 

 オルガはそう言って、三日月のもとへ向かった。

さあて、正規兵とは名ばかりの屑共、今までの落とし前をキッチリつけてもらおうか。




主人公の格闘シーンは上手く描写出来ず、冗長になってしまったのでカットしました。自分の下手さ故の妥協です。


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散華

今回オリジナル展開が多くなりました。あと今回主人公けっこう毒舌、腹黒かもしれないです。

今日放送のオルフェンズ。色々動き出しましたね。ところで三日月、何故仮面男の正体がわかった!?


「あーあ、やっぱり破けてる・・・」

 

 旧壱番組隊舎前の畑に、以前調達した廃材や町で買った透明ビニールで簡素ながら作ったビニールハウスだったが、金属片が突き刺さって破け、一部のカボチャが傷ついてしまっている。

 それでも粉塵はある程度は防げたようだから無駄にはならなかったけど。

 

「まあ、とりあえずの応急修理をして・・・後は落ち着いてからだな」

 

 突き刺さった金属片を抜いて破けた部分をテープで塞ぐ程度で切り上げ、隊舎にランタンと寝袋、折り畳み式の簡易ベッドを運び込むと、ランタンの灯りを頼りに簡易ベッドを組み立て、その上に寝袋を敷く。

 昼間にハエダとササイ他数名を打ち伏せた為、今1軍の前に姿を見せたら面倒な事になるというわけで、今夜はここで寝ることにしたのだ。

 

「下手にハエダ達を刺激してオルガ達の作戦に狂いが出ると不味いからな・・・」

 

 今頃ビスケット達が1軍の食事を配っているだろう。

ハエダとササイには正に最後の晩餐というわけだ。

雑貨屋のアトラやビスケットの妹のクッキーとクラッカにクーデリアが作った食事だ。あんなチンピラ共には勿体無いくらいだが。

 

「・・・そろそろ良いかな?」

 

 もう配膳も終わって1軍の連中も部屋で食べ始めただろうから、顔を合わせる事もあるまいと思った僕は食堂に向かった。

 

 今夜の食事は美味かった。僕の畑は少し前に収穫を終えてしまってこの所合成コーンミールのお粥と具の無いスープが何日も続いていたし。

何より明日であのロクデナシ共ともお別れだと思うと・・・。

 

~翌朝~

 

 1軍の部屋の前、既に中で寝ている奴等は全員後ろ手で拘束して転がしてある。

そろそろ目が覚める頃だ。

 

「本当に良いんだな?」

「うん、ハエダの奴は三日月に任せる。他に抵抗してくる奴等は・・・少なくともササイは大人しく従うとは思えないからね。僕がやるよ、その代わり・・・」

「会計のデクスターには手を出さずにコッチに引き込む、だろ?わかってるよ」

「僕達じゃ金銭面の管理は出来ないですからね」

「んじゃ、行くか、頼むぜミカ」

「うん」

 

 オルガがドアを開けて部屋に入り、三日月、僕、ビスケット、ユージン、シノが後に続く。

 

「おはようございます、薬入りのメシの味はいかがでしたか?」

「薬だあ!?」

「ガキが!何の真似だ!?」

「まあ、ハッキリさせたいんですよ、誰がここの一番かって事を」

「はあぁん!?」

「ガキ共、貴様ら、一体誰を相手にしてると・・・」

「ろくな指揮もせず、これだけの被害を出した、無能をですよ」

「ふ、ふざけんな!ペッ!」

 

 オルガの足下に唾を吐き捨てるハエダ。ろくに身動きも出来ない癖に強気なもんだ。そんなハエダの顔をオルガが蹴り上げる。

 

「ぐぉっ・・・わ、わかった、わかったから!とりあえずこいつを取れ。そうしたら命だけは助けてやる」

「はあ?お前状況判ってんのか?その台詞を言えるのは、お前か、俺か、どっちだ?」

「ぬぅ~・・・」

「無能な指揮のせいで、死ななくても良いハズの仲間が死んだ。その落とし前はきっちりつけてもらう!」

「は?」

 

 オルガの後ろにいた三日月が前に出て右手に持った拳銃をハエダに向ける。

 

「待て、何を・・・!」

 三日月がハエダの頭をダブルタップで射つ。銃声が2発部屋に響き、動かなくなるハエダ。流れ出す血液。

 全く躊躇いなく、三日月はハエダを射殺した。

 

「さて・・・これからCGSは俺達の物だ。さあ選べ。俺達宇宙ネズミの下で働き続けるか、それともここから出ていくか?」

「こいつらぁっ!!」

 

 ササイが立ち上がり突進する。が、予想通り。こっちは僕の担当だ。

ササイの腹に蹴りを叩き込む。

 

「ぐえっ!」

 

呻き声を上げて怯んだ隙にその頭を抱え込んで首をへし折り、ハエダの隣に転がす。コイツに憐れみの情は無いが、人殺しはやはり気分が良く無い。

 

「ひいぃ~っ!」

 

デクスターさんが悲鳴を上げる。

 

「どっちも嫌なら、コイツみたいにここで終わらせてやってもいいぞ!」

「あの~、俺は、出ていく方で・・・」

「あ!会計を担当しているデクスター・キュラスターさんですよね、貴方には、ちょっと残ってもらいます」

「ええぇ~っ!!」

 

~そして~

 

「怖い思いさせてすいませんね、デクスターさん」

「はあ・・・もう良いですよ。身の安全さえ保証してもらえるなら、貴方達についていきますよ。どうせマルバ社長もいないですし」

 

 社長室でデクスターさんに謝罪がてら、辞めていく連中の退職金の計上を手伝っている。まあ、手伝うというよりは・・・・・

「あ、コイツ、10%カットしてください。コイツは20%カットで良いでしょう」

 

退職金の金額へのダメ出し、減額である。

 

「またですか・・・先日の戦闘で重傷を負った隊員以外ほぼ全員じゃないですか」

「デクスターさんも知ってるでしょ?1軍の誰もまともに仕事なんていなかったって。連中がやった事になってる仕事は大体は僕がやってたんですよ。それで今まで仕事以上の給料貰ってたんですから、10%や20%のカットで文句言う筋合いなんて、アイツらにある訳無いでしょ」

 

まあ、退職金貰えるだけありがたく思えって話。ブラック企業だったCGSじゃ退職金なんて期待出来ない事だし。

 

「退職金支払いはオルガの決めた事だから文句言うつもりは無いけど、勤務実績水増ししたようなデータから計上した額を支払うなんて冗談じゃ無いですよ。仕事には正当な報酬が必要ですから、不当に少ないのも不当に多いのもダメでしょう。重傷者の方は治療費って事で見逃しますけどね」

 

 そう言って退職金の減額を押し通す。資金に余裕が無いのはわかっているのだから手をこまねいてはいられない。削れる出費は削らないと。

 その後、1軍への退職金支払いを知ったユージンが怒鳴り込んできたが、オルガの説明と、頼んでも無いのに仲裁に入ったトドにうやむやにされたのだった。

 にしても、トドの奴良い面の皮だよ。何が「これからよろしく頼むぜ同志」だ、下心見え見えだっての。

 

「おやっさんは残ってくれるんだ?」

「まあな、俺も歳喰っちまった。ガキのお守りくらいの仕事がちょうど良いのさ」

「おやっさん友達いなそうだしね~」

「外でやっていけなさそうだしね~」

「よくわかってるじゃねえか」

「えへへっ」

 

 整備工場の方に顔を出してみると、バルバトスのコックピットで作業していたタカキとヤマギが、一服しているおやっさんと談笑していた。こういう穏やかな雰囲気はいいなあ。

 あれ、クーデリア、こんな所で何やって・・・ああ、今は出来る事が無いから、無力感に苛まれているのだろう。

そこに三日月を探していたオルガが来て、クーデリアと話している。まあ、そっちはいいや。おやっさんの方に歩いていく。

 

「おおトウガ、どうした?」

「おやっさん、これからもよろしくお願いします」

「何だよ、急に改まってよ?」

「これから専門外のMSの整備もやってもらうわけですし、一言言っておこうと思って」

「ふーっ、そうかい」

 

おやっさんは煙草の煙を吐き出しながらそう言うと唇を歪めて笑った。

 

 

「えーと、後は・・・」

 

 オルガ達は残りの予算を基に今後の行動について話し合い、僕は基地の倉庫で探し物をしている。

会議に参加しないのは、どうせトドがクーデリアをギャラルホルンに売ろうと言い出すのがわかっているから。

 あんのちょび髭、相談役気取りのようだが目先の事しか見えてないだろう、依頼人を敵側に売るような会社にどこが仕事回してくれるというのか。荒事が生業の民兵組織だろうが依頼人を大事にしないで商売が出来る訳無いだろうに。

 まあそんな事より僕がやるべきはクランク対策だ。

 あの人悪人で無いのは確かだし、死なせるのは正直惜しい。味方に引き込むのはまず無理だろうが、何かの役に立つかもしれないし。

 

「まあ、助けようが無かったらそれまでなんだけど・・・と、これでとりあえずは揃ったかな?」

 

その時、警報が基地に響く。来たか・・・。

 

「監視班から報告、ギャラルホルンのMSが1機、えーと、赤い布を持って、こっちに向かってる!」

 

さて、もしかしたら無駄骨かもしれないけど、僕も急ごう。引っ張り出した機材を抱えて倉庫を出ていく。

 

「私は、ギャラルホルン実動部隊所属、クランク・ゼント!そちらの代表との、一対一の勝負を望む!」

 

「厄祭戦の前は、大概の揉め事は決闘で白黒つけてたらしいが、まさか本気でやってくる奴がいたとはなあ」

 

 クランクの提示した決闘の条件は、自分が勝てば、大リス、もとい、オーリスのグレイズの返還にクーデリアの身柄引き渡し。それ以上はこちらに一切累が及ばないよう取り図るという。

 でも実際はクランクが勝手に言っているだけで、彼にそんな権限はあるまい。そもそもこっちが勝った場合の条件は提示されていない。こんな決闘、ひどい言い方をすればクランクの自己満足だ。ならば・・・。

 クーデリアは決闘するまでもなくあちらに投降すると言い出したがオルガがそれを突っぱね、三日月にクランクを倒すように頼み、三日月はそれを引き受け、バルバトスに乗り込みに向かう。

僕はオルガに声を掛ける。

 

「オルガ、決闘は良いけど、三日月が勝った時の事をあっちは何も言ってない。形だけでもそこをハッキリさせておきたい」

「はあ?んなもん、あのオッサンを殺(や)っちまえば同じ事だろ?」

「さっきから、音声を録音している。これが双方合意の決闘だって形式と証拠を揃えておきたいんだよ。後々ギャラルホルンに対する手札に使えるかもしれない。あの人も・・・ね」

「アンタ、何考えてる?」

「どこで何が役に立つかわからない。持てる手札は出来るだけ多くしておきたいんだ。頼むよ」

「・・・わかった、それでこっちから提示する勝った時の条件は?」

「ありがとう、それじゃあ・・・」

 

そしてオルガがクランクに、僕の要望を含んだ返答をする。

 

「あ、あー、待たせたな。この勝負を受けさせてもらう前に、こっちが勝った時の条件を提示させてもらう・・・こっちが勝ったら、アンタの乗ってきたそのMSと、アンタの命をもらい受ける。それでどうだ?」

「何と?・・・私の命は良い。しかしこのグレイズはギャラルホルンの装備だ。私にこれを譲渡する権限は無い」

「どうせ他に差し出せる物なんて無いだろう?先日こっちを襲ってきた賠償金とでも思ってもらおうか。・・・元々そっちが先に仕掛けて来たんだ。それで殺された仲間達の落とし前は、アンタ一人の命だけで済むほど安くは無え!」

「・・・承知」

 

 良し、先日の戦闘でクランク自身は1人も殺していないが、こっちが子供ばかりと知って良心の呵責を感じている所に付け入れば条件を飲むと思っていた。予想通りだ。

まあ、こっちから条件を提示しない、原作通りでも大して変わりは無いのだが、グレイズとクランクの命を取る事について言質を取っておくだけで良いのだ。

 三日月が乗り込み起動中のバルバトスを見ながらオルガとクーデリアが話している。阿頼耶識の手術の危険性、それを三日月は三回も受けている事など・・・。

 

「頼んだぜ!ミカ!!」

 

 起動し立ち上がるバルバトスを、その中の三日月を見上げながら、オルガが叫ぶ。それに応えるかのように、バルバトスのツインアイが輝いた。

 

互いに武器を手に対峙する三日月のバルバトスとクランクのグレイズ。

クランクが名乗りをあげ、三日月が戸惑いがちに応える。

 

「ギャラルホルン火星支部、実動部隊、クランク・ゼント!!」

「え?あー、ええっと・・・CGS参番組、三日月・オーガス」

「参る!!」

 

 クランクの宣言と同時に両機はスラスターを噴かして距離を詰め、互いの武器を打ち合わせる。バルバトスは長く重いメイスを軽々と振るい、グレイズはそれをシールドで受けつつバトルアックスを振るう。やがてバルバトスが振り降ろしたメイスがグレイズのシールドを砕いた。そのまま攻めるバルバトスの打ち込みを受け流すグレイズ。

 バルバトスとグレイズ。2機のMSは、最高出力と反応はリアクター2基と阿頼耶識を搭載したバルバトス、それ以外の部分は300年の技術の蓄積で洗練されたグレイズに分があると言える。

 互いに手持ちの武器1つでの打ち合いならバルバトスに分があると思うが、クランクのグレイズはほぼ互角に立ち回っている。

 阿頼耶識なしで三日月の攻撃に対応出来ているのはクランクの長年の経験とそれによって培われた技量に依るものだろう。

 もっともバルバトスが完全ならば展開は違っていただろうが。

あちこち劣化して、リアクターの出力も下がっている今のバルバトスだから良い勝負になっているのだろう。

 バルバトスのメイスの突きを左腕を犠牲に受け流したグレイズのバトルアックスがメイスの柄を叩き折った。折れた柄がこっちに飛んで来て戦いを見守っているオルガ達の近くに突き刺さり、土煙が巻き起こる。

 さて、そろそろ決着だろう。僕は自分のMWに乗り込み、発進させる。

 

「!?おい、何やってんだ!?トウガ!!」

 

 おやっさんが気付いたか。でも今は無視して移動する。

バトルアックスを振り下ろすグレイズに、バルバトスは掴んだメイスの先端部をグレイズの胸部に突き付け、内蔵された杭を撃ち込んだ。高硬度レアアロイ製の杭はグレイズの胸部から背部まで撃ち貫いた。それを引き抜き、頭部センサーカバーに右腕を突き立て押し倒す。グレイズの頭部外装が剥がれて内部センサーが露出する。

 

「もう良い三日月!!勝負は着いた!!」

 

更に追い討ちを掛けようとする三日月に通信で呼び掛けながら倒れたグレイズに接近する。こういう時は目に付きやすい派手なカラーリングが都合が良い。

 

「どういう事?俺オルガに言われたんだけど?コイツを殺(や)っちまえってさ」

 

 苛立ちのこもった声で問い掛けてくる三日月。怖いよ!

 

「オルガの許可は貰ってる!このグレイズはもうコッチの物だ、これ以上壊さないで!!おやっさん達の面倒増やさないでお願い!!」

「・・・オルガ?」

「っ悪いミカ!後はトウガに任せてやってくれ。そのオッサンもトウガが預かるとよ!!」

「・・・わかった」

 

オルガの言葉に従う三日月。ふう、しかしガンダムに見下ろされるって、ちょっと怖いな。大きさもあるけど、ツインアイだから無機的なグレイズの顔とはまた違うというか。

MWから降りてメディカルキットを片手に穴の開いたコックピットに駆け上がる。焼けた鉄や血の臭いが鼻腔を刺激する。

コックピットを覗き込むとクランクは右脇腹を押さえ呻いている。咄嗟に避けたのだろうがパイルバンカーぶちこまれたにしてはコックピットの状態もクランクの傷も驚くほど軽傷に見える。多分内臓損傷してるから放っておけばクランクは死ぬだろうけど。

 

「ぬ・・・うぅ・・・」

「オルガ!!衛生班を寄越して!!手当てすればまだ助かるかも!!」

「わかった!!」

 

 僕はクランクの軍服をナイフで切り裂いて傷の止血に取り掛かる。

 

「どういう、つもりだ・・・俺の命は・・・」

「こっちが勝ったら、アンタの命を貰う。そういう約束でしたね。でも殺すとは言ってない。アンタの命は僕が預かると、ウチのリーダーに話は通してます。ハッキリ言うと、今ここでアンタに死なれてもこっちは何のメリットも無いんです。アンタは部下に迷惑かけずに1人で責任背負って死ねれば本望でしょうが、そんな自己満足に付き合う義理はこっちには無いので」

「俺に、生き恥を、晒せと・・・?」

「ええ、晒して貰いましょう。先日の戦闘で笑いながら僕の弟分達を殺してくれたのはアンタのお仲間ですからね。こっち側に寝返れとは言いませんがどっちみちもうアンタ、部隊には帰れないでしょ?だったら先日の戦闘、そして今日のこの決闘の証人になって貰います。まあ、命が助かったら、の話ですけど、その時は死んだつもりになって、コッチ側の事を勉強してみては?」

「勉強?この歳になって・・・ううっ!」

「喋らないで良いですよ、聞くだけで。・・・ギャラルホルン側からは見えない物、わからない事を、見て、知ってください。人間、生きている限り何かしら学ぶことはあるでしょうよ。・・・あのMSのパイロット、三日月ね、農場をやりたいそうです。けど親もいなけりゃ学もなくて字も読めない。生きるためにこんなろくでもない会社で働いて来た。他の子供たちも、僕だってそうだった。アンタには人並みの教養ってやつがあるんでしょう?だったらそんなに難しい事はないでしょう・・・とりあえずはこれで良し」

 

その時作業用MW一台がこちらに来た。ああ、衛生班もこっちに来たか。

 

「言っておきますけど、くれぐれも自殺とかしないでくださいよ。それこそ生きたかったのに死んでいった子達への侮辱ですからね」

 

 その後、メディカルナノマシンを使いクランクは一命をとりとめた。

 僕はクランクの監視のため居合わせる事が出来なかったが、オルガはクーデリアの護衛任務を改めて引き受け、組織名を鉄華団に改名する事を宣言したと、後でビスケットから聞いた。

 

 さて、これからが大変だな・・・。




 今回の内容を捕捉すると、三日月ではなく主人公がササイを殺したのは、自ら1軍の隊員を手にかける事でオルガ達の味方だという身の証を立てるため、という意味があります。
 クランクが生存したならサブタイトルに偽りありでは?と思いましたが、ハエダとササイが死んでるから散華したのはそっちという事で・・・汚い華だな・・・。

10/16、畑の記述を修正しました。

今回でCGS編終了。次回から鉄血編に入ります。


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鉄血編
命の値段


何とか宣言通り今週中に更新できました。クランク生存がこうも響くとは・・・・。先にクランクのファンの方ごめんなさい、前回の彼の行動にトウガが批判的な事言います。でもアンチじゃ無いんです!信じてください!


 クランクの独房としてあてがわれた部屋で僕は今ギャラルホルンによるCGS襲撃の背後関係についてクランクに聴取している。

 

「じゃあ今までの情報を確認します。先日の2度の戦闘はクーデリアさんの命を狙ったもの。命令を出したのはギャラルホルン火星支部司令官のコーラル・コンラッド三佐」

「そうだ。火星の独立運動の象徴的存在であるクーデリアを争いの火種になる危険人物として拘束するというのが名目だが、コーラルの様子からすると裏で何者かの意向を受けていたようだ」

「それはギャラルホルンの外部、コーラルの個人的な繋がりからですね?」

「ああ、コーラルは地球からの監査の前に今回の事を片付けたかったようだ。俺にも監査官が到着する前にクーデリアを捕らえ、CGSの人間を証拠隠滅の為1人残らず殲滅しろと命令してきた。焦っていたようだな」

「そこまで監査を気にするという事からしても、まともな作戦命令じゃありませんね。それではあなた方はまるでコーラルの私兵じゃありませんか?ギャラルホルンは秩序を守る為の公的な組織でしょう?」

「・・・その通りだ。地球からの目が届きにくい火星支部はその行動の全てがそうでは無いにしてもコーラルの私的な欲の為に動かされている、私兵も同じか」

 

クランクは苦い顔でそう答えた。軍人として誇りを持っているこの人にとっては認めたくない事だったろう。

 

「つまり今回の件はあくまでコーラルの独断であり、ギャラルホルンの総意では無いんですね」

「おそらくはな。だがコーラルの真意はともかくクーデリアの影響力は大きい。彼女を捕らえる理由としては充分だろう」

「つまりクーデリアさんがギャラルホルンに狙われるのは変わらない、と」

 

 まあ、わかってはいたけど。どのみちマクギリスがクーデリアの地球行きを嗅ぎ付けるし、トドの裏切りが原因でコーラルの部隊と一戦交える事になる。この辺は先の事を考えると下手に介入出来ないなあ。

そう考えていたら、ドアをノックしてダンジが入ってきた。

 

「トウガさん、予定の時間になりましたんで、監視替わります」

「ああ、悪いねダンジ、シノの訓練抜けさせちゃって。それじゃあ昼までよろしく頼むよ」

「うっす」

「そういうわけでクランクさん、大人しくしていてくださいよ」

「俺の命はお前に委ねた。約束は守る」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

トウガが部屋を出て少し経って、クランクが口を開いた。

 

「ここは本当に子供ばかりなんだな・・・」

 

ダンジはさっきまでトウガが座っていた椅子には座らずクランクから距離をとってドアの前に立っている。

 

「え?・・・ああまあ、大人って言ったら、さっきのトウガさんと整備のおやっさんと、会計係のおっさんと・・・トドくらいだから4人か。あとはまあ、上が16、7くらいで、俺より下のチビも多いかな」

「俺は君達が大人に無理矢理戦わされていると思っていたが・・・そうでは無かったのか」

「アンタ達ギャラルホルンが攻撃して来るまではそうだったよ。1軍の大人達に毎日コキ使われてつまんねえことで殴られて、使い捨ての道具扱いでさ、トウガさんとおやっさんだけだったよ、大人達で俺達をまともに扱ってくれたのは。他のやつらはアンタ達が来たら俺達囮にして逃げだしてさ。おかげで大勢仲間が死んだよ」

「そうか。なら俺の事も憎いだろう」

「憎いっていうか、何で敵を手当てして基地に置いてるのか意味わかんねえっていうか。アンタは1人も殺しちゃいないってトウガさんが言うし、トウガさんの言う事だから皆アンタを殺そうとかしないだけっていうか」

「あの男の言葉だけで俺を受け入れるというのか?」

 

クランクは訝しげに問う。トウガとはそれなりに言葉を交わしているが、そこまで強い影響力のある男に見えなかったのだ。

 

「あの人の頼みは簡単には無視出来ねーよ。俺達散々世話になってるし・・・さっきも言ったけどさ、ここにいた大人は皆、俺達の事を使い捨ての弾除けかガス抜きに殴る玩具くらいにしか思ってなかったんだよ。俺達の命なんてその程度の値打ちだったんだよ」

「そんな事は無い!いや、あっちゃいけないんだ!大人が子供を・・・いや、すまない、俺に言えた事じゃあ無かったな」

 

クランクは思わず声を荒げるが、彼らの仲間を殺したのは自分達ギャラルホルン、しかも指揮官は自分の教え子だった事を思い出し言葉を打ち切った。

 

「アンタがどう思おうがCGSじゃそうだったんだよ・・・でもさ、トウガさんはいつも俺達を庇ってくれたんだ。んで代わりに自分がボコボコに殴られて、蹴飛ばされて。なのに俺達に恩着せがましい事も言わなかったし。俺達の飯がいつもモロコシ粥やレーションだけじゃ良くないからって社長に頭下げて、基地の中に畑作って野菜育ててさ、それを俺達に食わせてくれたんだ。元々親無しで学も無いし、此処で働かなかったらどっかで野垂れ死んでた俺達だけどさ、そんな俺達のために体張ってくれた大人はあの人だけなんだよ。だからあの人の頼みなら敵の1人くらい大したことねえって。納得したわけじゃないけどさ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 整備工場に行くとおやっさん達がバルバトスの整備とクランクのグレイズの修理をしている。グレイズの破損部分はより損傷の激しいオーリス機のパーツを継ぎ合わせ、それでも足りない分は新造したパーツで補うらしい。

 僕は損傷して使えないと除けられたパーツを物色して見る。

 

「ん~、これはまだ配線組み換えればなんとかなるか・・・でもここに亀裂が入ってるか。溶接でごまかせないかな・・・」

 

手間は掛かるが修理出来なくもないブースターユニットを何とか2基引っ張り出し、他のジャンクパーツから抜き取った部品で修理しているとオルガとビスケットが様子を見に来た。オルガがバルバトスのコックピットを手入れしていた三日月に声を掛ける。

 

「ミカァ!どうだー調子は!?」

「うーん、良いんじゃ無いの、多分」

「多分って ・・・」

 

ビスケットが上を指差しながらおやっさんに状態を問う。

 

「宇宙(うえ)に持っていけそうですか?」

「さあなあ」

「え、ええ~?」

「俺ぁなあ元々MW専門なんだぞ。しかもコイツは何百年も前、厄祭戦の時の機体ときやがる。新しい分まだアッチの方がマシだな」

 

そう言っておやっさんはヤマギが作業中のグレイズを指差した。

 

「そう言わねえで頼むぜおやっさん」

「まあ、やれるだけの事ぁやるがよ・・・っておいトウガ、オメエ何やってんだ?」

「宇宙に持って行く僕のMWを改造するためのパーツを揃えてるんですよ・・・っと、次は・・・」

「あっ!!オメエそれ転売予定の戦利品じゃねえか!!勝手な事してんじゃ・・・」

「いつもの業者じゃどうせ扱えやしないですよ」

「だからってオメエ・・・」

「みんな、特に年少組の子達は三日月とバルバトスがいれば怖くないって思ってるみたいですけどね、いくら三日月が凄いって言ってもギャラルホルン火星支部のMS全部相手させるなんて、そんな事出来るわけ無いじゃないですか」

「ギャラルホルンと戦(や)りあう事前提か?」

 

オルガが問い掛けてきた。

 

「クランクさん・・・捕虜の人ね。その話だとクーデリアさんを狙ってるのはギャラルホルン火星支部の司令官らしいから、簡単には諦めてくれないだろうね。それに案内役との仲介を、あのトドが買って出たっていうじゃない?オルガだって怪しいと思ってるでしょ?あの怠け者が自分から仕事しようなんて」

「アイツだって下手打ちゃどうなるかわかってるだろ」

「どうかな、そもそも、クーデリアお嬢さんをギャラルホルンに売り飛ばそうって、最初に言い出したのはアイツでしょ。一悶着あると思って準備した方が良いって。まともにMSとやりあうのは無理だけど、援護射撃くらいでも出来れば三日月のサポートになるかもしれないじゃない」

「・・・アンタ、一体何処まで先が見えてるんだ?」

「へ?」

「ちょっと顔貸せ」

 

 ええ~?

 

 

「あの依頼主のお嬢さんが来た日にアンタ、バルバトスを動かす準備をおやっさんに頼んでたそうだな。阿頼耶識対応のMWを動力室に運び込んでまで。で実際アレが必要になった」

 

 人気の無い倉庫の陰に連れ込まれ、オルガに詰問されている。どうしてこうなった?

 

「おやっさん言ってたそうだぜ、まるでこうなるのがわかってたみてえだって。なあビスケット?」

「え、ええ、けど、トウガさんのおかげで作業は速く出来たって言ってましたよ」

 

 ビスケット、助け船なのかそれは?

 

「僕なりに万が一を考えただけだよ。クーデリアさんの護衛はCGSには不釣り合いだし。キナ臭いと思ったし、嫌な予感がしてたからさ」

「それだけじゃねえ。ギャラルホルンが攻撃して来た時、アンタ真っ先に迎撃に出ていったな。当直のシノの隊よりも先にだ。あのグレイズとパイロットのオッサンの時も、会話を録音した上で言質を取った。わざわざ録音機材を倉庫から引っ張り出して、メディカルセットまで持ち出して。今も起こるかどうかもわからねえ戦闘の準備をしている。まるで戦闘になるのがわかってるみてえに。最近のアンタの動きは妙だ。これから起こる事に先回りするみてえに準備をしている」

「別に悪い事じゃあ無いだろう?不測の事態に備えるのは」

「不測の事態、か。アンタには全部、それこそ俺達が鉄華団を立ち上げた事すら予定の上なんじゃねえのか?」

 

 これはマズイな、このままじゃオルガは自分たちの行動にすら疑いを持ってしまうんじゃないだろうか。下手すると僕に誘導されているとか考え出すかもしれない。とんでもない。そんな黒幕みたいなの僕のキャラじゃない。それはマクギリスだ。

 

「考え過ぎだよ、君達は自分たちの為に最善を尽くしてきた。僕も同じだよ。これでも君達より長く生きてるから、先の事を色々考えて対策を用意するのが癖みたいになってるだけだよ。疚しい事は何も無い」

「信じて良いのか?」

 

 オルガが僕の目を見て問い掛けてくる。ここはハッキリ答えないと信じてもらえないだろう。

 

「もし僕が君達を裏切ったら、僕を殺せば良い。例えば三日月が相手なら僕はもう勝てないし、それで不安ならシノや昭弘も一緒に仕向ければ逃げる事も出来ない。確実に始末出来るだろう?」

 

きっと三日月はオルガがやれと言ったら容赦無くやるんだろうな。

 

「アンタ、本気で言ってんのか?」

 

こうなったら少し恥ずかしいけど腹の内を晒してしまおう。

 

「僕はさ、君達には軽蔑されたく無かった。1軍の他の奴等と一緒だと思われたく無かったんだ。君達の側に居たかったし信じて欲しかった。だから出来る限りの事をしてきたつもりだよ。でもそれが無駄だったのなら・・・僕を仲間と思ってもらえないのならいっその事、今ここで・・・」

 

何でこんな流れに・・・涙出そう。僕こんなにメンタル弱かったかなあ。

 

「ちょっ、トウガさん、落ち着いて下さい。オルガは何もそこまでしたい訳じゃ無くて・・・オルガも疑い過ぎだよ、トウガさんが僕達に不都合な事したわけじゃないだろ」

「・・・わかってるよ。悪かった・・・ここだけの話、俺達もトドは信用してねえ。アイツが信用に足る仕事をしたことなんてねえからな。そんでつい、1軍にいたアンタまで疑っちまった」

「俺達みんなトウガさんには感謝してますよ、1軍の他の人達とは違うって、わかってますから」

 

もう大丈夫かな?けどこの際だからもうちょっと話してしまおうか。

 

「正直言うとさ・・・壱番組の僕の仲間はみんな死んで、1軍に気を許せる奴なんていなかったし参番組のユージン達に良く思われて無かったのも知ってた・・・他に行く所も無いし、寂しかったんだよ・・・」

「「え?」」

「昔両親が死んでからずっと独りで、マルバに拾われてCGSに来て、仲間が出来たと思ったら皆死んでいってさ、気が付いたらまた僕独りぼっち、1軍に入れられたって、給料と休みが少し増えたって、相変わらず顎で使われて、ユージンとかは僕だけ良い待遇になったと思ってたみたいだけど、良い事なんて無くて・・・オルガと三日月が来た時さ、思ったんだよ。この子達はきっと何かを変えてくれるって」

「俺とミカが?なんだよそれ」

「阿頼耶識の手術で成功するのだって確率的にそう多くはない。その上泣き声ひとつ上げずに耐え抜くなんて、他とは違うって、思った。だから希望が持てたんだよ。いつまでもこのままじゃない、いつかきっと状況を変えるチャンスが来る。僕や死んだ仲間達が出来なかった事を、オルガと三日月はやってくれると思えたんだよ。実際参番組で君は隊長に、三日月はエースになった。だからさ、そんな君達に何かしてあげたいと思ったんだよ」

 

本当はもう少し打算的な思惑もあるんだけど、嘘は言ってない。僕が憑依する前のトウガ・サイトーが仲間を失った悲しさと孤独感を抱えていたのは本当だし、憑依してからもしばらくは孤立状態だったし。オルガや三日月を凄いと思っているのも本心だ。

 

「アンタ・・・」

「昭弘じゃないけどさ、僕も自分の価値なんて大したもんじゃないって思ってた。でも君達の為に何かしようと思ったら、少し楽しくてさ、捨てたもんじゃないって思えて、畑作って野菜育てるのも楽しかったんだよ。それにちょっと格好つけたくなって、1軍の奴等が参番組の子に暴力振るうのが放っておけなくなった。・・・幻滅したかな?」

「・・・そんな事ねえよ。見栄張って格好つけたい気持ちは俺にもわかる。それによ、アンタが俺達の為に体張ってくれた事は変わらねえ。本当に感謝してる」

「そうですよ。ユージンだって、もうトウガさんの事悪く思ってなんか無いですし、年少組の子達だってトウガさんが守ってくれたり、お菓子を配ったりしてくれた事、ちゃんと覚えてますよ」

「え・・・?何でビスケットがそれ知ってるの?タカキ達には口止めして・・・」

「あ!いえ、タカキは悪気は無くて、ユージンがトウガさんの悪口言ってたからそれを止めようとして・・・」

「そうか、タカキが僕を庇ってくれたんだ。じゃあ感謝しなきゃだね」

「まあ、色々言ったけどよ、アンタは独りじゃねえ。俺達の仲間だ。改めてよろしく頼むぜ、トウガ」

「うん、よろしく、オルガ。・・・あー、さっき言った事、他の皆には内緒にしてよ、恥ずかしいから」

「ふ・・・そうだな、この3人だけの秘密にしといてやるか。なあビスケット?」

「そうだね」

 

 

 その後昼まで作業をして、昼飯を急いで食べてから独房に戻ってダンジと交代しに行く。

 

「遅くなってごめん、てあれ?何話してんの?」

「え?な、何でも無いっすよ、じゃあ、また2時間経ったらまた来ます」

「ああ、よろしくね~・・・で、何の話してたんです?クランクさん?」

「いや、大した事じゃあ無い。・・・ここの子供たちは強いんだな」

「そう見えますか?」

「ああ、俺の部下にな、母親が火星の人間だからと差別されて悩んでいた奴がいるんだが、ここの子供たちは生まれの事なんか気にせず前向きに生きている。大したものだ」

 

 んん?それってアイン・ダルトンの事か?にしても・・・。

 

「そんな事、ダンジに言ったんですか?」

「いや、言っては無いが、何かおかしいか?」

 

 この人の唯一最大の誤りは、自分の環境と常識に基づく善意が誰にでも通じると思っている事、て評価があったっけ。なるほど確かにそうらしい。悪気はないんだろうけどねえ・・・。

 

「違いますよクランクさん。その差別されてたって人がどれだけ辛い思いしたか知りませんけどね、ここにいる子達はそんな悩み抱えてられなかっただけです。前向きなのは、生きる事に一所懸命なだけです」

「何?」

「ここで働く子達は皆親を亡くしたか捨てられたかで、自分や弟妹の食い扶持稼ぐ為に手段を選べないような子ばかりですよ。そんな子が、親が誰とかそんなどうしようもない過去の事で悩んでられますか。そんな余裕あったら非合法な上麻酔無し、失敗すれば良くて障害で寝たきり、悪けりゃ死んでしまう阿頼耶識の手術なんか受けなくてもなんとか食っていけてますよ。貴方の部下はそれはそれで悩んだんでしょう、辛かったんでしょう。でもね、辛いと思ったり悩んだり、そういう瞬間が死に直結するような生き方はしてないでしょう。彼らが強いとしたら、強くならなきゃ生きられなかったって事ですよ。・・・ヒューマン・デブリって知ってます?」

「ああ、非合法に売買されている孤児の事だな」

「大体は宇宙海賊とかに家族殺されて誘拐されて、屑鉄以下の安い値段で売り飛ばされた子達ですよ。CGSの社長だったマルバって人はそのヒューマン・デブリを買い漁って阿頼耶識の手術を強制して、消耗品のように扱ってたんですよ。CGSじゃ彼らも僕らもヒゲ付きの宇宙ネズミ、まっとうな人間として扱ってもらえなくて、でも生きる為にはここしか行き場が無かった。そんな子供達・・・僕もそうでしたが、彼らの命に大人達が付ける値段はそんなものです。親がどうとか考える余裕はないですよ」

「酷い話だな」

 

 クランクの表情が曇る。

 

「そう思えるのは貴方が善い人って事なんでしょうけどね、そんな現状を変えようって努力しているのがクーデリアさんですよ。貴方はその彼女の命を狙っているコーラルの手下じゃ無いですか」

「ぐっ・・・その通りだ」

 

 不本意なのはわかるけど、ちょっとキツい事言わせてもらおう。

 

「この際言っておきますね。貴方の決闘の申し出には自分が負けた時の条件が提示されて無かった。それは貴方に提示出来る物が貴方の命しか無かったからですね?」

「そうだ。あの決闘自体、上官の、コーラルの命令に背いた行為だった。何の手土産も無く帰れば部隊全員の責任になる。俺があそこで終わっていれば責任は全て俺が背負う事になる。負けた時はそれで片付けるつもりだった」

「それは全部貴方達の都合ですよ。こっちが負けたらそっちは欲しい物、つまりクーデリアさんの身柄を手に入れる事が出来るのに、こっちは勝っても得る物が無いんじゃ公平じゃない。大体こっちのMSは何百年も放置されてあちこちガタガタの骨董品でパイロットはあの決闘がMS操縦2回目、そっちは最新鋭機で整備も出来てて、貴方も操縦経験豊富なベテランでしょ」

 

まあ、バルバトスはリアクター2基と阿頼耶識という有利な部分はあるけど、リアクターの出力も下がってるし。

 

「だが俺にとって犠牲を最小限にする方法はあれしか無かった。部隊を率いて挑めば互いに犠牲は多くなっていただろう、何より部下達に子供殺しの汚名を着せたく無かった」

「それも結局貴方の都合、こっちにしてみりゃ良い迷惑ですよ。犠牲を最小限にって言っても、何十人も殺した後で言った所で今更どの口がって話です。そもそもクーデリアさんの引き渡しが済めばギャラルホルンとCGSの因縁はそこで絶ち切るってのも貴方が勝手に言ってただけですよね?後でコーラルがここの殲滅命令を出さない保証は無かった筈です」

 

 いや、戦闘の証拠を残しては置けないコーラルは確実に僕達の殲滅を命令していただろう。

 

「クーデリアさえ手に入れればコーラルも手を引く、いや引かせるつもりだった」

「あの状況じゃそんなの信じられないですよ。貴方にそんな権限無いだろう事くらいうちの団長なら分かりますよ。何の保証も無しに敵の言葉を信じられる程甘くもないし。だからこっちから勝った時の条件を提示したんです。貴方を僕が預かったのは、こちらがギャラルホルンと戦闘したのはあくまで自衛のためであった事の証人になってもらうため、グレイズを譲り受けたのは、修理してうちの自衛の為の戦力にするか、どこかに転売する為です」

「グレイズを売り飛ばすと言うのか!?」

 

さすがにそれは黙っていられないか。でも今はこっちの都合を押し通す。

 

「そうでもしないと遠からず僕たち全員飢え死にです。貴方達がここ襲った時に社長が現金持てるだけ持って逃げたから、このままじゃ長くは保たないんですよ。貴方のお仲間が壊しまくってくれたMWや設備の修理だって安くないし、惜しいとは思いますけど転売の方向で話が進んでます」

 

 この状況をわかっていてその備えのために作った畑の野菜も退職金の削減も気休めにしかならない。鉄華団の懐事情は本当に厳しいのだ。

 

「くっ」

「団長が言ってたでしょう?賠償金と思えって。決闘に負けた貴方に文句を言う権利があるとでも?」

「む・・・そうだな、しかしな・・・」

 

 まだ納得いかないようだが聞くつもりは無い。

 

「まあとりあえずはクーデリアさんがスポンサーからの援助を取り付けてくれたから何とかなってますがね、それも一時しのぎですし」

 

 そのスポンサーのノブリス・ゴルドンがコーラルにクーデリア抹殺を要請した張本人だって事は原作知識で知っているけど、その事は今明かしてもプラスにならないだろう。第一僕がそれを知っている事がおかしいわけで、この辺は今は放っとくしか無いな。

 

「さて、こっちの事情は大体話したし、朝の話の続きです。そちらも知っている事は話してもらいますよ。ああ、機密だから話せない事は言わなくて良いですから」

 

 その後しばらくはクランクから話を聴き、ダンジが交代に来たらまた外に出てMWの改造をしていると、皆集まっているのが見えたので行ってみる。するとそこには・・・・。

 

「ああ・・・これは・・・」

 

 そこにビスケットとクーデリア、フミタンを連れて出掛けていた三日月が戻って来た。

タカキが三日月に声を掛ける。

 

「あっ三日月さーん、あれ、見てください!」

「あっ・・・」

「おお~~」

「あれは・・・」

 

 三日月、ビスケット、クーデリアがそれぞれ声をあげる。彼らが、そして僕が見上げる先にあるのは、紅い華のマーク。

 

「これが鉄華団のマーク」

「団長に頼まれて俺が考えたんだぜ!」

 

 ライドが自慢気に言う。その横でシノが腕を組んで見上げながら感心している。

 

「上手いもんだな~、魚か!」

「はあ!?華だよ華!!」

 

 シノの言葉に憤慨するライドと呆れ顔のタカキ。

シノはどう見ても魚だろうと言い張るが・・・まあ、真ん中の部分だけ見れば魚に見えなくも・・・ない、と思う、多分。

 それにしても、何だか感慨深いというか、これを見たくて1軍のクソ共の横暴に耐えてきたようなものだしなあ・・・あ、て事は今頃トドが悪い笑みを浮かべているんだろうな。

 まあ良いか、どうせあのチョビ髭の悪巧みは上手くいかないってわかってるし、放っておこう。

 その時の為の準備はきっちり整えておくけど、ね。




 当初の予定では桜ちゃんの畑の手伝いにトウガも同行する筈でしたが、クランクがいるため同行出来なくなりました。なのでマッキーとガリガリの出番も先送りです。原作では畑で可愛い女の子達がキャッキャウフフだったのがこっちは野郎ばかりの会話が殆どに・・・。


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赤い空の向こう

原作の流れをBlu-ray3巻で確認して修正しました。



 宇宙に行く準備を進めて数日、何とか僕のMWの改造が間に合った。

 

「にしてもオメエ・・・随分と無茶な改造したもんだなあ」

 

 おやっさんが呆れたような声を上げる。確かにおやっさんみたいなまともな整備士はこんな改造考えないよなあ・・・これ魔改造の括りに入ってしまうかも。

 

「こんなにゴテゴテくっ付けてよお、制御が複雑になっちまうし、オメエの脳への負荷だってMS程じゃねえにしても今までとは大違いだろ」

「でもこれくらいしないとMS相手じゃ気をそらす事すら出来ない、ぶっちゃけ棺桶同然ですからね。無茶は承知の上ですよ」

 

 出来る限りの事はしないと。絶対に明かせない、原作知識なんて秘密を抱えている僕を、オルガは信じてくれたんだ。それに応える為なら少しくらい無茶したって足りないくらいだ。それに先の事を考えても、低軌道ステーションでの戦いには出て行きたい。

 

「ま、コイツを使わずに済む事を祈るぜ」

 

 そう言うおやっさんだけど、残念ながらそうはならないと、僕は確信している。

 

 

 オルガとビスケットがオルクス商会の契約は無事済み(とはいってもオルクスが裏切ってギャラルホルンに情報を売るのはわかっているのだが)、出発を明日に控えた日の朝の事。

 

「トウガさん!俺が居残りってどういう事っすか!?」

 

 整備場でMWの制御系の調整をしているとダンジが怒鳴り込んで来た。確かにオルガにダンジを残留組にするように言ったのは僕だけど・・・。

 

「オルガの説明は聞いた?」

「俺を居残りに指命したのはトウガさんだって言うからここに来たんすよ!タカキやライドは宇宙に連れて行くのに何で俺だけ!?」

 

 う~む、ダンジを残留に指命したのは、ダンジが手柄を気にするタイプだから功を焦って無茶しそうで危なっかしいってのが主な理由なんだけど、そんな事言ったら余計納得しないだろうしな・・・。

 

「ダンジ、宇宙行きのメンバーは年齢が上の者から、実力のある人間を優先的に選抜されている。その基準でいけば君は確かに宇宙行きだ。けど考えてくれ。実力のある、頼れるメンバーが皆宇宙に行ってしまったらこの鉄華団本部の守りはどうなる?ダンジ、君を男と見込んでここの守りを任せたいと思ったんだ」

 

 詭弁もいいとこだが、面倒くさがりの怠惰な人間でなければ重要な仕事を任せると言われれば少しは嬉しいものだろう。

 

「お、俺を男と見込んで・・・?」

「うん、本部の守りという大事な役目、是非君に任せたい。引き受けてくれるかな?」

「そ、そこまで言われちゃ、断れないっすよ!わかりました、本部の守り、引き受けます!」

 

胸を叩いて承諾の意を示すダンジ。

 

「そうかい、それはありがたい、頼りにしてるよ!」

「うっす!」

「それじゃあもう1つ大事な仕事があるんだ」

「お任せ・・・え?」

 

 フフフ、かかったなダンジ。

 

「んじゃ、あと詳しいやり方は端末に纏めてデクスターさんに預けてあるから、わからない事があったらその都度デクスターさんに聞いてね。大丈夫、そんな難しい事は無いし、必要な経費もデクスターさんに頼んであるから」

「はあ・・・」

 

 修復したビニールハウスの中で、植えてあるカボチャとトマトの世話の仕方、道具や肥料の置き場所等を簡単に説明している。種類についてはライドに手伝ってもらっの絵を描いた札を立ててあるし、トマトの苗はまだ小さいから判りやすい筈だ。

 

「皆の食生活を守るのも大事な仕事だよ。僕達がここに帰ってくるまでしっかりやれてたらボーナス出してくれるようにオルガに頼んであるから、頑張ってね」

 

「ボーナス・・・すか?」

「今のままじゃ無理だけどさ、お嬢さんの護衛が成功すればきっと鉄華団の名前は広まって、そしたら仕事も入ってその分君達の給料も増えるかもしれない。だからオルガ達がここの心配しなくても良いように、よろしく頼むよダンジ」

「り、了解っす!」

 

 よし、これで畑の方もとりあえず大丈夫だろう。

 

 そして深夜、ビニールハウスの中で、鉄板を継ぎ接ぎして作った簡易式の薪ストーブとその煙突周りの点検をしてから見張りの交代に向かうと、その途中でクーデリアに出会った。

 

「あれ、クーデリアさん、こんな夜遅くにどうしたんですか?」

「あ・・・その、眠れなくて・・・あ、ええっと・・・」

「ああ、そう言えば名乗ってませんでしたね。トウガ・サイトーと言います」

「あ、はい、トウガさんは、何を?」

「見張りの交代ですよ、ほらあそこ、今は三日月がやってます」

 

 そう言って監視塔を指差す。その監視塔の窓から光が見える。

 

「三日月が・・・?」

「でもちょっと早かったですね。ああ、三日月に話したい事があるなら行ってみたらどうですか?」

「えっ?」

「いえね、なんとなく、そんな感じに見えまして。違ってたら失礼しました」

「い、いえ、では・・・」

 

 そう言ってクーデリアは監視塔に向かって歩いて行った。

危ない危ない、うっかりフラグ折っちゃう所だった。もう少し時間潰して来よう。

 寒さを紛らわす為、基地内を軽く走って体を暖めてから再び見張りの交代に行った。

 

  ~翌日~

 

「私を!!炊事係として鉄華団で雇ってください!!女将さんには事情を話して、お店は辞めて来ました!!」

 

 皆で食事中にアトラが荷物背負ってやって来た。いや僕は原作知識で知ってたけどね。

 

「良いんじゃねえの?なあ?」

 

 三日月の傍に居たいのだろうアトラの動機を察してか、オルガが三日月に声を掛ける。

 

「アトラのご飯は美味しいからね」

 

 対する三日月は肯定の答えを返したけど、アトラの動機には気付いてないっぽいな。単純に美味しいご飯を食べられるからって感じだ。

 

「あ・・・ありがとうございます!!一生懸命頑張ります!!」

 

アトラは体を震わせてから、頭を下げて礼を言う。多分雇ってもらえるかどうか、もし断られたらという不安もあったのだろう。

 

「よーしお前ら!地球行きは鉄華団初の大仕事だ!気い引き締めて行くぞお!!」

「「「おーー!!」」」

 

オルガの言葉に皆盛り上がる。そんな中ユージンは不満げな顔をしている。

 

「ったく、浮かれやがって。俺達はギャラルホルンを敵に回してるんだぞ」

 

 まあユージンの考えもわかるけどね。と、少し離れた所で悪い笑みを浮かべているトドの背後に回って声を掛ける。

 

「最後の晩餐って、夜に食べるから晩餐っていうんで、今食べてるのを晩餐って言うのはおかしいと思うんですけどねえ、トドさん?」

「いいっ!、な、何だよいきなりよお?」

「いえ、トドさんが最後の晩餐がどうとか言ってたもんで」

「い、いい言ってねえよそんなこたあよお・・・」

「あれ、そうですか?じゃあ空耳かなあ・・・」

「そ、そうそれよ、空耳に決まってるってえ、へへへ・・・」

「ところでトドさん、最後の晩餐って言葉の由来になった昔の話だと、裏切り者はその裏切りを事前に見抜かれていたそうですよ」

「そ、それが何だってんだよ?」

「さて、何なんでしょうねえ・・・」

 

 狼狽えるトドの様子にほくそ笑む。まあ、今更揺さぶりをかけたってトドも裏切りをやめるなんて出来っこないし、これはただの嫌がらせだ。コイツ僕が参番組の子の代わりに殴られた時にニヤケ面でバカ呼ばわりしてくれやがったし、これくらいしたって罰は当たるまい。

トドがシノ達にボコボコにされる時は居合わせる事が出来ないだろうし、仕返しするなら今しか出来ないからな。

 

 その後僕達鉄華団地球行き組他3名は、クリュセ共同宇宙港から低軌道ステーションまでのシャトルに乗って出発した。

 

「まさか荷物扱いされるとはな」

 

 取り扱い注意と大きく記載され、ワイヤーで固定されたコンテナの中で、クランクさんが苦笑する。

 

「ギャラルホルンの士官を手錠掛けた格好で連れ歩いて乗り込むのは流石に無理ですからね。当面はここが独房代わりって事で。中は改装しましたから、そんなに悪いもんじゃ無いでしょう?」

 

コンテナの中は壁、床、天井に衝撃吸収材を貼ってあるし気密も保てるようにしてある。毛布もあるし非常用にノーマルスーツも置いてあるし。

 

「積込みの時は揺れたがな。いや、別に贅沢を言うつもりは無いんだが」

「落ち着いたら部屋を用意して貰える筈ですんで、もう少し我慢してください。それじゃあ僕はやる事があるんで」

 

 そう言って僕はコンテナを出て扉をロックすると、阿頼耶識対応型のノーマルスーツを着て自分のMWへ向かった。

 その後、予想通りオルクスからの情報で待ち構えていたギャラルホルンのアーレス所属のグレイズがシャトルに取り付きクーデリアの引き渡しを要求して来た。当然オルガが従う訳もなく。

 

「行くよ三日月、トウガさんもお願いします!」

 

 ビスケットからの通信の直後、シャトルの後部貨物室のハッチが開き、目眩ましの煙幕が吹き出して一瞬、グレイズの視界を奪う。

その隙を突いて三日月のバルバトス(第2形態)が滑腔砲の砲口をコックピットに突き付け発砲、グレイズを撃破するとそのグレイズのバトルアックスでワイヤーを切断して外に飛び出す。

 僕は三日月が撃破したグレイズをMWでシャトルの貨物室に押し込んでから三日月を追う形で宇宙に出ていく。

 敵機をシャトルから引き離すため牽制射撃する三日月、僕も機体後部に増設したテールに固定したグレイズのライフルを発射する。っと、狙いが少しずれたし、機体が軋んでいるのがわかる。

 

「っと、予想以上の反動だ。これは連射は無理だな」

 

 敵のMS隊はシャトルより先にこっちを潰す事にしたらしい、こっちに向かってくる。

 

「よし、こっちに来い。トウガは無理しないで、それじゃ当たったら一発で終わりだ」

「わかってる。無理はしないよ」

 

気遣いありがと三日月。無理はしないよ、無茶は現在進行形でしてるけど。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方オルガ達は迎えに来た昭弘達が乗る強襲装甲艦イサリビに回収され、ブリッジに到着していた。ここに至って自分の裏切りが見透かされていた、最初から信用されてなかったと悟ったトドが喚くがシノに殴られ、ブリッジの外へと連れ出された。オルクスの艦が攻撃して来た為オルガの指揮の下、迎撃にかかる。

 

「あっ、三日月が!」

 

 ビスケットの席のモニターに映る、戦闘中のバルバトスを見つけたアトラが声を上げた。

 

「三日月なら遠距離で射ち合っている間は大丈夫、MSのナノラミネートアーマーは撃ち抜けない」

「でも・・・」

「むしろ危ないのはトウガさんの方だよ。MWの装甲なんてMS相手じゃ無いのと同じ、一発でも当たればお仕舞いだ。・・・おまけにあんな派手な色じゃ・・・」

「そこはアイツなりの意地ってやつだろ・・・ヤマギにあれを準備させろ!」

「あれって・・・売り物を使う気?」

 

オルガの指示に、「あれ」の意味が解ったビスケットが戸惑いの声を上げる。

 

「ここで死んだら商売どころじゃねえ。昭弘、頼めるか?」

 

オルガの問い掛けに昭弘は無言で頷いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 危ない危ない、ギャラルホルンのMS隊は三日月に狙いを絞っているみたいだけど、時々こっちにも射って来る。まあ相変わらずの青と黄の目立つカラーリングだし、こっちは紙装甲のMW、一発当たればそれで終わりだけど、そう簡単にやられるものか。

 

「この色はCGSの時に何度も囮に使われて、仲間達を亡くしてそれでも生き延びてきた、壱番組最後の1人としての意地と誇りの色でね。弱いものいじめしか出来ないような奴らに落とされてたまるか!」

 

 それにこのMWの増設部分に取り付けてあるのはグレイズのライフルだけじゃない、鹵穫したグレイズの腰に装備されていたブースターユニットを二基、修理して取り付けてあるのだ。機動性もアップしているんだよ!制御が難しくなって脳の負担増してるけど。

 

 指揮官(コーラル)機のグレイズがバトルアックスを手にバルバトスに迫る。

僕の位置、おまけに狙いの怪しいこの機体じゃバルバトスに当たりそうだから援護出来ない。こんな時に!

と思った瞬間、別方向から指揮官機に着弾。間に合ったか・・・ナイスなタイミングだ昭弘!

 

「三日月ぃ!」

 

 昭弘の乗るグレイズ改が、三日月のバルバトスにメイスを投げ渡す。

グレイズ改に気をとられた隙を突いてバルバトスのメイスからのパイルバンカーがコーラル機のコックピットを撃ち貫く。

 賄賂目当てにクーデリアの命を狙い、この戦いの発端になった男の最期にしては呆気ないものだ。

 

「足の止まったのからやろう。援護頼む」

 

 そう言って三日月が昭弘に滑腔砲を渡すと敵機に向かっていく。

 

「待てよ!俺はまだこれに慣れてねえのに・・・」

 

 昭弘が戸惑うのも聞いてないようだ。突出してきた陸戦カラーのグレイズの攻撃を紙一重で回避して他の機体に向かって行く。 あの緑のグレイズはアインだな。クランクさんの仇討ちのつもりだろうけど、クランクさんが生きているとは知らないからな。

 

「三日月の野郎!こっちは阿頼耶識がねえんだぞ!」

 

 文句を言いながらも援護射撃する昭弘。何だかんだ言っても仕事はきっちりやってくれるんだから、良い子だ。僕も敵機の足を止めようと牽制の射撃をする。

 敵はバルバトスの動きに翻弄され、更にこちらの射撃で動きの鈍った所をバルバトスに叩き落とされて行く・・・あ、5機撃墜。原作の撃墜数超えたよ。そのまま6機目、と思った所でバルバトスに着弾。新手か・・・あ、やっぱりランス装備した紫のシュヴァルベ・グレイズ。ガエリオ・ボードウィンか。

 マクギリスも出てくるし、こりゃ近づいたら死ぬな。三日月はガエリオを相手取りながらもう1機グレイズを落としてるしこっちはもう僕の援護無くても良いだろう。よし、今回のお目当ての回収に行くか。

 

「昭弘、あの紫のは三日月に任せて、君は残りの敵機の足止めお願い。僕はちょっと別行動とるから頃合いを見てこっちに合流してね!」

 

 昭弘にそう言って後退する。

 

「ああ!?この状況で・・・っておい!・・・ちぃっ、どいつもこいつも!!」

 

ゴメン昭弘、でも残りの敵機少ないし、何とか出来るよね。

今回無茶して出た一番の目的を果たすチャンスは今しか無いんだ。

 

 その後合流した昭弘と一緒に、オルクスの艦を振り切って来たイサリビに回収された。戦果は上々、コーラルの指揮官用グレイズともう1機、シャトルに載せておいた1機を合わせて3機のグレイズと武器や装備を幾つか回収出来た。

 三日月も無事というか、原作通りにバルバトスの左腕部装甲とガントレットを無くした代わりに、というわけでも無いだろうがガエリオ機のワイヤークローを機体に巻き付けたままでユニットごと奪って来た。

 格納庫はオルクスの艦を振り切る時に無茶したユージンのMWの方に掛かりきりだが、これは仕方がない事だろう。今回は彼がMVPってやつかな。

 

「疲れた・・・」

「本当にねえ・・・」

 

 昭弘の呟きに同意する。あー、脳に結構負担かかったから甘いものが欲しい。三日月に火星ヤシ分けてもらおうかな・・・。

 

 その後オルガに聞いた話によると、トドは原作通りパンツ一枚でカプセルに入れて宇宙に放り出して来たという。

 あと、拾ってきたグレイズのせいで格納庫が狭くなったとおやっさんに文句言われた。一機残して後はパーツ取ったら売却するから問題無いでしょ。これ、名付けるならGジェネ式戦力増強&資金稼ぎって所か。海賊とかハイエナっぽい手口だけど、ケンカ売ってきたのはあっちだし。

 

 さて、回収したグレイズで一番状態が良いのは最初にシャトルに取り付いたやつと・・・コーラルの指揮官機か。コックピット回りを修理すれば使えるな。次の戦闘に何とか間に合うようにしよう。




 今回登場した魔改造MW、イメージ的にはガンダムSEEDのメビウス(ゼロじゃない方)が近い感じでしょうか。なお、出番は多分今回で終わりです。

10/16、畑関係の記述を修正しました。


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彼等について

週をまたいでしまいました。次回の戦闘の為の準備回です。


「そうか、コーラルが死んだか・・・」

「ええ、自らMSに乗って出てきましたが、仲間が投入した、元は貴方の乗っていたグレイズに気をとられた隙を突かれて・・・」

 

 独房のクランクさんに今回の戦闘について報告している。腐っても上官、戦死したとなれば思うところもあるのだろう。僕からすればただのゲス男が自業自得で死んだだけなのだけど。

 

「そうか・・・あの男、腕は良かっただろう?」

「そうですね、あれがデスクワーク中心であろう司令官とは、正直驚きですね」

「お前達からすれば迷惑な男だろうが、あれで昔は真面目で理想の高い奴だった・・・いつからだろうな、ああなってしまったのは」

 

そう漏らすクランクさんの顔は過去を懐かしむような、それでいて少し寂し気なように見えた。

 

「昔は、て言うなら僕ら置いて金持って逃げたCGSの社長だって、僕や同年代の孤児達を拾ってくれた時は優しいおじさんに見えたもんですよ。整備長のおやっさんに聞いた話だと若い頃は仔犬を拾って育てるくらいには良い人だったそうですし」

 

正確には僕の記憶じゃないけど、本当に良い人に見えたんだよな。

 

「人というのはどう変わるか、わからんものだな・・・いや、俺も自分では正しい道を進んでいると信じていたが、どこかで独り善がりの正義に酔っていたのかもしれん。その結果がこの様か」

「ギャラルホルンって権威主義っていうか貴族ぶっている所ありますよね。それに強大な組織ほどよく腐る物ですが、そんな所に長くいたにしてはクランクさんは随分とまともな方ですよ。そういえばさっきの戦闘、1機だけ緑色の塗装のグレイズがいましたけど、あれってCGS襲撃の時にいた奴ですよね?」

「アインか・・・コーラルが死んだなら、あいつも処分を受ける心配もあるまいが・・・」

「処分どうこうより、こっちを恨んで追いかけて来そうですけど。クランクさんのグレイズ見るなり突っ込んで来たし、前の時も自分らの事棚上げで三日月がMW狙ったの卑怯だとか寝言ほざいてたし。自分の指揮官が笑いながらMW潰してたの見てなかったんですかね?いくら夜が明けたばかりだったからって、寝てた訳じゃないでしょうに」

 

そもそもいきなり攻撃仕掛けて来たのはそっちだろうに。

 

「オーリスはともかく、アインは生真面目な奴なんだ。そう言わんでくれ」

「生真面目ってのが本当だとしても、襲撃時の言動は筋が通らないでしょ・・・っといけない。本題はそこじゃなくて、そろそろタダ飯喰らいで部屋に缶詰めの生活も飽きてきた頃かなって訳で、頼みたいことがあるんです」

「俺に頼み?・・・まあ確かに体も鈍っているしな、飯の分くらいは働くべきか」

 

 

~数時間後~

僕はブリッジ後方の作戦モニターを囲んでで今後の行動について話すための会議に参加している。僕以外のメンバーはオルガ、ビスケット、ユージン、シノ、そしてクーデリア。

 

「で、これからどうするかだけど・・・」

「オルクスが駄目だったからには、別の案内役を探さねえとな」

「やはり、案内役はどうしても必要なのですか?」

「そりゃあ当然ですね。無事に地球までたどり着きたかったらなあ」

「ここまでギャラルホルンと拗れた以上、只の案内役じゃあ駄目だ。火星に残ってる連中の事もひっくるめて頼めるぐらいの強力な後ろ楯がねえとな」

「火星支部のギャラルホルンはこっちを追ってくる心配は無さそうだけどねえ」

「え?」

「何でそう思う?トウガ?」

「えっとね、捕虜の人から聞いたんだけど、クーデリアさんを狙ってたのは火星支部司令官のコーラルって人なんだけど、どこぞの金持ちに賄賂をちらつかされて、その金目当てにCGSへの攻撃命令を出してたらしいんだ」

「要するにクズ野郎って事か」

「それで?」

 

シノが忌々しげに呟く横で、オルガが続きを促す。

 

「前回の戦闘でそのコーラルが死んだから、火星支部はクーデリアさんを狙うより自分達の体勢の立て直しでいっぱいいっぱいのはずだよ。ちょうど地球から監査官が来てる時だから余計にね」

「ならもう追われる心配はねえって事か?」

 

ユージンが喜色ばむ。けどそう甘い話じゃあないんだよな、これが。

 

「地球に近づくまではね」

「はあ?」

「その地球から来た監査官ってのが、前回の戦闘に出てたみたいなんだよ。三日月と戦った青と紫のMSは火星支部には無い特別な機体だって、クランクさ・・・捕虜の人が言ってた。つまり」

「その監査官とか言うのが、俺らに目をつけたって事か」

 

一応クランクさんに聞いた話という事にしてるけど実際は大半が僕の原作知識からの情報。話せる事は話しておきたいからね。

 

「だから地球の近くで網を張って待ち構えているはずだよ。僕らと違って地球まで正規の航路で戻る事が出来るから先回りになるし、逆に裏航路には入ろうとしない。お高く止まった奴らは薄暗い裏道は通りたがらないものさ」

「どっちにしても後ろ楯と案内役は絶対に必要だな」

「って言っても・・・」

「テイワズだな。それしかねえ」

 

オルガがキッパリと言い切る。

 

「マジかよ?」

「テイワズ・・・木星圏を拠点とする複合企業ですね。実態はマフィアだという噂も聞きますが・・・」

「お目当てはその実態の方さ」

「確かにテイワズなら地球にも影響力を持ってるし、ギャラルホルンも迂闊には手は出せないだろうけど・・・」

「けど、どうやって話をつけるんだ?」

「そうだぜ、あのテイワズが俺らみたいなガキの後ろ楯にすんなりとなってくれるか?」

 

シノとユージンが不安を口にする。

 

「何か伝手があればいいんだけど・・・」

「このままじゃ地球には行けねえし、火星にも戻れねえ。どっちみち木星に向かう以外ねえんだ。渡りのつけ方は行く道考えるが、いざとなりゃあ一か八かぶつかるまでよ」

 

ここはオルガの判断をフォローしておこう。

 

「まあ、木星圏をうろついてればどこかでテイワズ傘下の組織に行き当たるだろう。そうなれば後は何とかなるさ」

「トウガさんまでそんな楽観的な・・・」

「ぜってえ無理だよ・・・」

 

まあ実際はそのテイワズ直参組織のタービンズが追って来てるからそういう手間は省けるんだけどね。

 

「スゲエ・・・どうやったんだ?」

 

オペレーターを務めるチャドが声を上げたため、皆そっちに目をやり、オルガが問い掛ける。

 

「どうした?」

「火星の連中とどうにか連絡を取ろうと思ってたら、この人が簡単に繋げてくれたんだ」

 

「フミタン?」

 

クーデリアに呼ばれて、フミタンが説明を始める。

 

「ギャラルホルンが管理する、アリアドネを利用したんです」

「アリアドネを?」

「それって?」

 

「アリアドネはレーダーが機能しないエイハブウェーブの影響下でも、船に正しい航路を示す道標です。それを構成するコクーンを中継ポイントとして利用する事で長距離の通信が可能になります」

「ついでに言うと、通信は暗号化されているから、ギャラルホルンにもバレる心配は無いよユージン」

「おお、って、何で俺に言うんだよ?」

 

 そりゃ君がバレるんじゃないかって言うのを知っていたから。

 

「よろしければ、これからもお手伝いしましょうか?お嬢様のお許しを頂ければですが」

「え?・・・ええ、もちろん」

「決まりだな。通信オペレーターとして、是非頼むぜ」

「承知しました」

 

 しかしフミタン、どういうつもりなんだろう?別に知らん振りしていても良かったんじゃ無いかと思うんだが、何故自分から協力を申し出たのかイマイチわからないんだよなあ。

 

「じゃあ、よろしく。ええっと・・・」

「フミタン・アドモスです」

「へえ、そんな名前だったんだ」

「それにしても、理屈は僕も知ってたけど、実際にそれが出来るとは。流石にクーデリアさんのお付きのメイドさんは物知りですね」

「え?ええ、フミタンは色々と助けてくれています・・・」

 

そう言いながら、クーデリアはどこか浮かない顔をしている・・・ん?フミタンがこっち見てる?・・・いや気のせいか、見ていたのはクーデリアの方だろう。

 

「さて、今後の方針は決まりだね。それじゃあ僕は格納庫に行くか・・・っと、オルガ、許可して欲しい事があるんだけど」

「何だ?」

「鹵獲したグレイズの修理に人手が要るんだけど、整備班はバルバトスの方で手一杯だからさ・・・」

 

~その後、格納庫~

 

「ああ、そのパネルの前にこっちを付けた方が良い。ケーブルの接続が少しな・・・」

「え?ああ、なるほど」

 

バルバトスの整備に動き回る子供達とおやっさんの声が響く格納庫で、僕はグレイズ(指揮官機)の修理作業中。部品は残りの2機から取った分と、グレイズ改の予備パーツで補っている。

 

「お疲れ様でーす!お弁当でーす!」

 

 格納庫にアトラの声が響く。

 

「おう、ありがてえ。おーい!区切りの良いところで、飯にしようやー!!」

「了解!」

「やった飯だ!」

 

 格納庫の空気が緩む。やっぱり食事は大事だよね。育ち盛りの子も多いし。

 

「僕らも行きましょう」

「う、うむ・・・」

 

 弁当を受け取りに行くと、アトラと三日月の他にクーデリアもいて弁当を配っていた。僕は手が空いたらしい三日月に声を掛ける。

 

「何でクーデリアさんもいるの?」

「いや、手伝いたいって言うから。っていうか、何で捕虜の人がここにいるの?」

 

 そう、僕と一緒に作業していたのはクランクさんであった。

 

「グレイズの修理に人手が要るからさ、手伝ってもらってる。おやっさんやタカキ達はバルバトスの方で忙しいし。オルガの許可はもらってあるよ」

「オルガが良いって言うんなら。けど大丈夫なの?」

 

そう言ってクランクさんの方を見る。

 

「俺を信用出来ないのは当然だろうな。だがもう俺にはクーデリアを狙う理由も無い。この期に及んでおかしな事はせんよ」

「大丈夫だよ。クランクさんの両手首のバンド、あれスタンガン仕込んであるから、妙な事したら電流流して止めるよ。ちなみに僕からある程度離れたり、勝手に外そうとしても自動で電流流れるし、皆にはあまり近付かないように言ってあるから」

 

そう言ってクランクの手首のリストバンド状の物を指差す。ちなみに、僕の手作りである。

 

「へえ・・・まあ良いけど。おやっさん、俺もこっち手伝おうか?」

「ああ、力仕事になったらな。今細かい調整してるからよ。オメエ、字読めねえだろ?」

「そっか」

 

三日月とおやっさんの会話にクーデリアとクランクさんが驚いた顔をする。

「なん、だと・・・?」

「三日月、あなた字が読めないの?」

「うん」

「うんって・・・だって、あんな複雑そうな機械を動かしているのに」

「それでああも動けるとは、つくづく驚かされるな」

「字読んで動かす訳じゃ無いからね。MWと大体一緒だし、後は・・・勘?」

「「勘・・・!?」」

 

 あ、クーデリアとクランクさんがハモった。

 

「そんなに驚く事かな?」

「本来ならMWとMSでは操作の難易度はかなり違うんだが・・・阿頼耶識を使っているとこうも違うものか」

 

 ギャラルホルンが悪いイメージ広めて禁止する訳だよなあ。

 

「あの、学校とかには?」

「行ってないよ。行った事ある奴の方が少ないんじゃないかな」

「まあ生きてくだけで精一杯だった奴もここには多いからなあ。マシな施設にいた奴はいくらか教わった事もあるようだがな」

「そうですか・・・」

「・・・」

「配り終わったよ~」

 

 弁当を配って回っていたアトラが戻って来た。

 

「アトラは字読めるんだっけ?」

「うん。ハバさんに習ったから」

「トウガも読み書き出来るんだよね」

「まあね。両親が生きていた間に教え込んでくれたんだ。お蔭で助かってるよ。・・・1軍の奴らに押し付けられる仕事も多かったけどね」

 

 両親には心から感謝してるけど。

 

「三日月、良かったら、読み書きの勉強しませんか?」

「え?」  

「私が教えますから!読み書きが出来れば、きっとこの先役に立ちます」

 

 やや強めの口調で読み書きの勉強を勧めるクーデリアに、三日月は少し考えた後、やる事に決め、タカキにエンビとエルガー、トロウといった年少組の子達もクーデリアに教えてもらう事になった。

 

 

「俺達地球の人間のほとんどが出来て当然の読み書きが、火星では教わる機会を得る事すら難しいのか。こんな状況が良い筈が無いのにな・・・。これが彼等の現実か」

 

「そうですね。そして読み書きも出来ない子供でも有用な労働力に出来るのが阿頼耶識システム。だからここにいる子達は、最近入った炊事係のアトラ以外全員阿頼耶識の手術を受けています」

「非人道的と忌み嫌われる技術が、彼等の生きる為の手段になっている訳か。因果な事だ」

 

クランクさんが苦い顔でそう言った。

 

「全く、ギャラルホルンの支配のせいで生じた貧困に喘ぐ子供達が、ギャラルホルンの作った技術である阿頼耶識システムのお蔭で生きる糧を得る事が出来ている。本当に因果というか、皮肉というか・・・ま、その話は置いといて、弁当食べたら作業の続きです」

「ああ」

 

 そして弁当を食べた後作業を再開して、コックピット周りの修理はとりあえず終わり、細かいチェックをしていた時。

 

「トウガさん。ちょっと良いですか?」

 

 ビスケットが来て僕に一緒に来て欲しいというので、作業を中断してクランクさんを部屋に戻してから、ビスケットと一緒にオルガに会いに行く事になった。

 

 ビスケットは伝手も無しにテイワズと交渉する事、そして今回の仕事への不安をオルガに訴え、他の会社への委託を提案したが、オルガはこれを一蹴する。

 

「オルガは、焦り過ぎてるんじゃ無いか?何だかわざと危険な道ばかり進もうとしてる気がするんだ」

 

オルガに対する不安を口にしたビスケットに、オルガは苦笑して答える。

 

「フッ・・・かもな」

「どうしてさ?何でそんなに前に進む事にこだわるんだ?」

「見られてるからだ」

「え?」

「振り返るとそこに、いつもアイツの眼があるんだ」

「アイツ?」

「三日月、だね?」

「ああ。すげえよ、ミカは。強くて、クールで度胸もある。初めてのMSも乗りこなすし、今度は読み書きまで・・・そのミカの眼が俺に聞いてくるんだ。『オルガ、次はどうする?次は何をやればいい?次はどんなワクワクする事を見せてくれるんだ?』ってな・・・。あの眼は裏切れねえ。あの眼に映る俺は、いつだって最高に粋がって、かっこいいオルガ・イツカじゃなきゃいけねえんだ・・・トウガ、アンタなら少しはわかるだろ?」

 

 ふう・・・ここで火星での話と繋がるとはね。

 

「そうだね、僕も君達に嫌われたくなくて見栄を張ってたし。僕は今は君の判断に反対する気は無いよ」

「トウガさん・・・」

 

 良い代案も無いし。けど、釘は刺しておいた方が良いだろう。どれだけ効果があるかわからないけど。

 

「けどこれだけは言わせてもらうよ。君を見ているのは三日月だけじゃない。鉄華団の全員が団長の君を信じて、その背中に付いて来ているんだ。そんな皆より三日月1人を優先したり、他の団員に無用の犠牲を強いる事は許さない。もしそんな事があれば力ずくでも君を止める。最悪の時は君を殺してでも」

「と・・・トウガさん?」

「そんな時は来ないと信じたいけど。それでももしその時が来たら、僕は皆を守るためなら、例え三日月が立ち塞がろうと、例え自分が殺されようと必ず君を、殺してでも止める。君はマルバや1軍の奴らとは違うと、君を信じて命を預けた人間を裏切るのは絶対に許さない。それが君を組織の頭にした1人として、歳上のクセに重い役目を君に任せた、僕なりのケジメのつけ方だ。」

 

 実際そんな事になったら確実に死ぬな、僕が。

 

「・・・あり得ねえ。そんな時は絶対に来ねえよ。・・・けど、覚えとくよ。アンタの覚悟はな・・・テイワズの本拠地へ向かう。変更は無しだ」

 

そう言ってオルガは僕とビスケットに背を向けて歩いて行った。

 

「さっき言った事、本気ですか?」

 

ビスケットが不安そうな顔で尋ねて来る。

 

「そうならないで欲しいと願っているけどね。僕だって好き好んでオルガと敵対したいわけじゃない。おやっさんに聞いた話だけど、マルバだって昔はあんなろくでなしじゃあ無かったっていうし。オルガが悪い方に変わらないって断言は出来ないだろう?そうならないようにフォローはするつもりだけど、万が一に備えて釘は刺しておかないとね・・・。ビスケット、オルガを支えてあげてくれ。君の穏やかさと思慮深さはオルガに、いや鉄華団に必要不可欠なんだ」

「俺が・・・?いえ思慮深さならトウガさんこそ・・・」

「僕じゃ駄目なんだよ。君とはオルガの信頼の大きさが違う」

 

そもそも僕は原作知識ありき、いわば後出しジャンケンのペテン師だ。ビスケットの代わりなんて務まらない。

 

「きっと楽じゃない役目だ。けどオルガのブレーキ役になれるのは君しかいないんだ。言っちゃ悪いけどユージンやシノにはそう言う思慮深さは無いし、三日月はブレーキどころか無自覚にオルガを煽ってアクセル全開させかねないって、さっきのでわかっちゃったからさ。頼む、オルガの重石になってやってくれ。それがきっと鉄華団の為にもなる」

「・・・わかりました。やれるだけやってみます」

「ああ、頼むよ」

 

「ところでさっき重石って言ったの、僕が太ってるからですか?」

「え?・・・いやまさか!そんな事考えても無かったよ!」

「本当かなあ・・・」

「本当だってば!・・・て言うか、重さだったら昭弘の方が筋肉ガッチリで重そうじゃん、筋肉の方が脂肪より比重は重いんだよ」

 

 そんな事を言っていたら、非常事態を告げるブザーが鳴り響く。

あー、そろそろだろうとは思ってたけど、来ちゃったか。

 

「これは一体!?」

「ビスケットはブリッジに行って!僕は戦闘になった場合に備えて動くから!オルガのフォローよろしく!」

「え?あ、はい!!」

 

 先ずはノーマルスーツに着替えないと。

 この後の展開を思い出しながら僕はロッカールームに向けて走り出した。




 今回で鉄血編は終了、次回からテイワズ編(個人的にはオルガかわいい編とも言いたい)です。
やっと次回でトウガのMSデビューが書けるので楽しみです。


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テイワズ編
いさなとり


戦闘描写は思った以上に難しかったです。まだまだですね・・・。


 ロッカールームでノーマルスーツを着て、ヘルメットを手に格納庫に向かう。

格納庫ではおやっさんやタカキ達が状況を掴めずにいる。

 

「ブリッジは、マルバがどうのって言ってるけど・・・」

「はあ!?マルバだとぉ!?」

「また戦いになるのかなあ・・・」

「は~、とにかく、使えるように準備するしかねえ。いつ戦闘が始まるかわかんねえんだからな!」

「「はい!」」

「ヤマギぃ!そっちはどうだ!?」

 

おやっさんがグレイズ改の修理に回っているヤマギに声を掛ける。

 

「なんとかします!そっちよりは状態は良いし」

「おう、頼むぞ!タカキ、ライド!こっちも急ぐぞ!!」

「はい!」

「おっす!」

 

タカキ達に指示を出し、バルバトスの出撃準備にかかろうとするおやっさんに声を掛ける。

 

「おやっさん!!」

「ああん?・・・トウガオメエその格好、気が早ええんじゃねえか?」

「戦闘に備えてあっちのグレイズの出撃準備をします。戦闘になったら僕を先に出させてください!」

「おいおい、大丈夫なのか?」

「大体の修理は出来てますから、後は細かいチェックと調整が少し残ってますけど」

「じゃなくて、お前ぶっつけ本番でMSの操縦なんて出来るのかって聞いてんだよ」

「前の戦闘では昭弘だってそうだったんです。僕だってやってみせないと、立場が無いでしょう?」

「ふん、オメエも大変だな。手は足りてんのか?」

「大丈夫です。だから出る時まではバルバトスの方をお願いします」

「ああ、こっちは任せろ!」

 

 さて、気密チェック・・・よし、起動確認、コンディション・・・あ!スラスターのガスが少ない。補充して無かった。急いでコックピットを出てガスの補充作業を行う。

 

「・・・よし、もう一度コックピットに・・・」

 

コックピットに戻りチェックを続行する。よし、オールグリーン、ブリッジに通信を入れると、フミタンの顔がモニターに表示された。

 

「あ、フミタン、さん・・・」

『呼び捨てでも構いませんが』

 

平淡な口調でそう言うフミタン。けどろくに話もしていない相手を呼び捨てするのは抵抗あるんだよな・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ブリッジではマルバから、CGSの所有物全てと引き換えで手助けの依頼を受けたタービンズの代表、名瀬・タービンからイサリビを含む資産の引き渡しを要求されるがオルガは受けた仕事があるとこれを拒否。ビスケットが取引を申し出るも、名瀬に火事場泥棒で組織を乗っ取ったガキと一蹴され、結局交渉は決裂してしまった。

 

「あんたの道理がどうだろうと、俺達にも通さなきゃいけねえ筋がある」

『それは、俺達とやり合うって意味でいいんだよな?』

「ああ、俺達がただのガキじゃねえって事を教えてやるよ。マルバ!てめえにもな」

 

こちらを威圧する名瀬にそう啖呵を切り、オルガは名瀬の隣に立つマルバにも声を掛ける。

 

『はあ?』

「死んでいった仲間のケジメ、キッチリつけさせてもらう!」

『何だとおっ!?』

『お前ら、生意気の代償は高くつくぞ』

 

名瀬のその言葉を最後に、タービンズからの通信は切れた。

 

「慎重にって言ったじゃないか!交渉の余地はあった筈だ!」

 

意地を張って名瀬に対し強気の態度に出たオルガをビスケットが責める。

 

「わかってるけどな、通すと決めた筋は曲げられねえよ」

 

そこにフミタンが声を掛けた。

 

「団長さん、格納庫から通信が入っています。正面に出します」

 

その直後、正面モニターにノーマルスーツを着たトウガの顔が映し出された。

『やっぱり戦闘になるみたいだね、おやっさん達も急いで準備しているよ。僕は今回は鹵獲したグレイズで出るよ』

「何時もの事だが手回しのいいこったな。やれんのか?」

『前回昭弘には頼んでおいて僕にはそう来るのかい?ま、やってみるさ』

「フッ、そうかよ、なら頼むぜ・・・。敵艦にケツをとられちゃあいるが、鉄華団の力を見せるにはむしろ好都合だよな?お前ら!?」

「あったりめえだろ!」

「おう!目にもの見せてやろうぜ!」

 

オルガにユージンとシノが答える。

 

「テイワズとの渡りをつける千載一遇のこのチャンス、ものにするぞ!」

「っしゃあ!」

 

そしてイサリビは戦闘体制に移行、ブリッジにいた三日月とシノ、別室にいた昭弘もオルガの指示で出撃の為動き出す。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 イサリビが速度を殺さないようにしつつ180度回頭した。それじゃあ行くとしますか。

グレイズの武装は右腕にライフル、腰のバトルアックスに、左腕にシールドと、その裏にちょっとした隠し球を取り付けてある。

 

『エアロック作動、カタパルト、ハッチ開放します』

『カタパルトスタンバイ。発進どうぞ』

「了解、トウガ・サイトー、グレイズ、行きます!」

 

射出され、宇宙に飛び出すグレイズ。スラスターを抑え目に噴かして前進しながら操縦の感覚を確かめる。

 

「わかっちゃいたけど、やっぱり阿頼耶識じゃない分反応が少し遅いか・・・。相手の腕を考えると分が悪いけど、出来るだけの事はやるさ」

 

 そう考える一方、気持ちが昂るのも感じている。今僕はMSに乗っている。操縦している!

 

後ろから昭弘のグレイズ改が追い付いてくる。

 

「やあ昭弘、阿頼耶識無しのMS操縦はそっちが先輩だから、宜しく頼むよ」

「へっ、足引っ張るなよ」

「はは、言うねえ、頼もしい事・・・ん、三日月も来たね」

 

今度は三日月のバルバトス(第3形態)が追い付いてきた。

 

「お待たせ」

「はっ、待っちゃいねえよ」

「相手側は多分正面の2機以外にも1機、脚の速いタイプがいるはずだ、気をつけて」

「へえ・・・」

「何でそんな事知ってんだよ?」

 

原作知識とは言えないから、適当に誤魔化そう。

 

「僕なりに調べた。タービンズは武闘派で通っている組織で、MSは3機編成。もしかしたら予備にもう1機くらい・・・敵機確認!」

「あれか・・・」

 

 テイワズのMS、百錬が2機、モニターで確認出来る所まで迫っている。

さて、イサリビに近づけないようにしながら時間が稼げれば良いんだけど、相手は手練れだから、気を引き締めないと。

けど相手の事以上に問題なのは自分でわかる程に僕が興奮してしまっているって事で。

 

 百錬がライフルを撃ってくる。三日月と昭弘は回避、まだ不慣れな僕はシールドで防御しながら応射する。相手の腕の良さか、数の有利はあまり感じられない攻防が一時続いたが、イサリビから別のMS(百里)の攻撃を受けていると連絡が来た。

 

「トウガの言った通りだった・・・」

「三日月!!」

 

イサリビの方に一瞬気をとられた三日月の肩を昭弘が掴んで百錬の射撃から逸らす。僕もシールドを構えてカバーに入ると1発シールドに着弾した。 

 

「悪い昭弘、トウガ、前の2つは任せて良い?」

「なっ?・・・ああ、任せろ!」

「イサリビを頼むよ!」

「すぐに戻る」

 

そう言って百里への対応に向かう三日月、僕と昭弘は三日月にライフルを向けようとするピンクの百錬にライフルを撃つ。

 

「ここは俺達が任された!」

「あっちは三日月が抑えてくれる、こっちは僕達で抑える!」

 

 しかし昭弘、良い動きをするな、僕のフォローはいらないか、ならせめて一対一でやれるように、少し早い気もするけどここらで隠してる手札を切るか。

シールドの裏に付けていた弾頭を2機の百錬に、それぞれ1発ずつ発射する。弾速は然程早いでもなく、百錬はそれぞれライフルで撃ち落とそうと射撃するが、弾頭は破裂し、ワイヤーの束が散らばり何本かは百錬の機体に絡み付く。

だが大した拘束力にはならなかったようで、百錬の動きは殆ど衰えない。やはりあの程度じゃ役に立たないか。少し鬱陶しいくらいのようだ。

 

「本番までにはもっと効果があるように改良しないと・・・っと!?」

 

何発かもらってしまった。いけない、今は先の事より目の前の相手に集中しないと!

 そうこうする内に、イサリビはスモークの目眩ましからの急接近でのすれ違い戦法でタービンズの母艦ハンマーヘッドの内部にオルガ率いる陸戦隊を送り込む事に成功したようだ。

 

「昭弘、オルガ達が敵艦に乗り込んだ、もう少しだ!」

 

しかし艦から引き離された事に気付いた百錬が艦を追う。

 

「行かせるかあ!」

「相手はそっちじゃないでしょ!」

昭弘はピンクの、僕は青の百錬を追い、接近戦を挑むが、こちらの攻撃は防がれ、反撃に蹴り飛ばされてしまう。

「くうっ!!」

「くっそ!俺は・・・俺はアイツに任されたんだ・・・ここは退けねえ!退くわけには、いかねえんだよお~!!」

 

昭弘はピンクの百錬に肉薄、格闘戦を仕掛ける。僕は僕で青い方の百錬にシールドを叩きつけ、それで出来た隙を突いて百錬にしがみつ・・・こうとしたら、抱き付くような格好になってしまった。

 

「なっ!?コイツ・・・!!」

 

機体同士が密着している為、相手パイロットの戸惑いと、怒気がこもったような声が聴こえた。

 

「わ、悪いけど、もう少し僕に付き合ってもらいますよ!」

 

軽口を叩きながら、相手に抱き付いた状態のままスラスターを全開に噴かして、昭弘から距離を取ろうとする。

 

「もう少し大人しくしていて欲しいんですけどね!」

「く・・・ナメるんじゃ無いよ!」

 

相手もスラスターを噴かして振りほどこうとしてくる。

 

「ふおあっ!ちょっ、暴れないで!!」

「何甘えた事を・・・!アタシは敵だよ!」

「く・・・だあっ!」

 

 振りほどかれた上に蹴飛ばされてしまった。更に銃撃、咄嗟にシールドでコックピット回りを守る。

 どうする?ライフルはさっき手放してしまった。バトルアックスは、あっちのブレードと打ち合ったら負けるし、シールドで防戦に回って時間を稼ぐか?いや駄目だ、攻撃の手を緩めれば昭弘の方かイサリビの追撃に回ってしまうだろう。かといってこっちは不慣れだから真っ向勝負じゃ抑えられない・・・。

 

「このままじゃ駄目だ・・・こうなったら!」

 

 シールドをコックピットの前に構えたまま、百錬に突撃する。相手はブレードを抜いて振り下ろす。それをシールドで受け流すとそのまま右肘を打ちつける。

 だが今度はこっちが機体の腹に膝蹴りを喰らった。衝撃がコックピットにも伝わるが、まだ動ける。

 

「ぐうっ・・・まだまだあっ!!」

 

百錬に再びしがみつき、スラスターを噴かして昭弘と交戦中のもう1機の百錬に向かって行く。推力だけならグレイズの方が!

 

「くっ・・・!姐さん!」

「アジー!?・・・ウチの娘に何してるのさ!!」

「ぐああっ!!」

 

そのまま青い百錬をピンクの方にぶつけようとしたが、かわされた上に背部に蹴りを喰らってしまった。背部ブースターユニットが損傷、推進力低下・・・ヤバイ!?

 

「させっかよぉ!」

 

僕に攻撃しようとした百錬に昭弘が体当たりする。助かったけど、いよいよ手詰まりだと思った時、オルガから通信が入った。

 

『トウガ!昭弘!話はついた!もういいから、イサリビに戻ってくれ!』

 

百錬の方を見るとどうやらあちら側も母艦から同様の指示が来ているのだろう。こちらを警戒しつつも攻撃はしてこないでいる。

 

「はあ・・・はあ・・・終わったのか・・・?」

「た・・・多分ね・・・だからこっちから撃っちゃ駄目だよ昭弘・・・はあ~~、なんとかなったかあ・・・」

 

こっちは結構傷だらけだけど。せっかく用意したワイヤーも編み込んで無かったからか、あっちにはショボい嫌がらせみたいなものにしかならなかったし、もっと時間と手間をかけて用意しておかないと駄目だって良くわかった。反省する事の多い戦闘だったな・・・。そう自省しながら、こちらから離れて行く百錬を見送るのだった。

 

 

 




あああ・・・ラフタ、アジー、シノ・・・他にも大勢・・・。後書きに書く事がまとまりません。てかマッキー何でそのタイミングで出てきた!?おかげでクーデリアは助かってるけど!
あとアインが明らかにヤバイ。


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寄り添うかたち

遅くなりました。名瀬さんとの会話シーンは何度も書き直ししてました。あとオルフェンズて時間の流れが1回観ただけでは解りづらく、トウガをどう絡ませるか悩みました。


 ハンマーヘッドに帰っていった2機の百錬を見送った後、さっき手放したライフルを回収する。

 

「イサリビから結構離れたな・・・昭弘、自力で戻れる?」

「おう・・・問題ねえよ・・・」

「そう。悪いけどこっちは背部のブースターが壊れてるから自力で帰艦出来るか不安なんで、連れて帰ってくれない?」

「・・・ったく、イマイチ締まらねえなアンタ」

「たはは、面目ない」

 

 でも出て良かったと思う。タービンズのパイロットは皆腕利きだ。その実力をシミュレータでは無く実戦で身をもって知る事が出来たから。自分がまだまだだって事も痛いくらいに実感出来た。こんなのじゃあ、この先の戦いで『奴』の足止めすら出来ずに潰されてしまうだろう。

 そう考えつつ、昭弘に引っ張ってもらいながらイサリビに帰艦した。

 

「お疲れ様ですトウガさん」

「大丈夫かよトウガ兄ちゃん?」

 

コックピットから出るとタカキとライドが出迎えてくれた。

 

「僕は大丈夫だよ。機体は見ての通りだけど」

「結構やられたなあ、背中のブースターはもう駄目じゃね?」

「そうだね。昭弘のグレイズ用のパーツと他の鹵獲グレイズから取ったパーツを使って修理しないといけないかな」

 

パーツ自体は替わりがあるから良いんだけどね。

 

「は~、MSが増えて、戦力が増すのはいいけどさ、その分面倒も増すんだなあ」

「こらライド!そんな事言ったらトウガさんに悪いだろ!」

「いや、ライドの言う事も正しいよ、戦力としては強力でも維持運用には手間も金も掛かるのがMSってもんだからね」

「でもトウガさんも、三日月さんや昭弘さんと一緒にイサリビを守って戦ってくれたのに・・・」

「ありがとうタカキ。そう言ってくれるだけで充分だよ。ライドもごめんね、こんなに壊して君達の手間を増やしちゃって。出来るだけ僕も手伝うからさ」

「い、いや別に大した事じゃねーし!トウガ兄ちゃんに謝って欲しかったわけじゃねーから・・・」

「そっか。それじゃこの話はここまで。で、今の状況はどうなってるの?」

「今は団長がビスケットさんとクーデリアさんと一緒にあっちの艦に交渉に行ってます」

「そうか、上手くまとまれば良いんだけど・・・」

「これからどうなるんだろうなあ~?」

 

大体原作通りみたいだし多分大丈夫だと思う。ていうか駄目だったら詰みだし、考えても仕方ない。

・・・ていうか腹へったな。三日月と昭弘誘って食堂行こう。

 

「三日月~!昭弘~!メシ行こ~!」

「うん」

「おう」

 

そして食堂。

 

「良かった、皆無事で・・・」

 

僕たちが飯食べてる側でアトラが安堵の表情を見せる。そういえばアトラは戦闘中ブリッジで見てたんだよな。

 

「トウガと昭弘のおかげだよ。やっぱり良い腕してる」

「ボロボロにされちまったがな」

「僕は昭弘に比べたら大した事できてないよ」

「俺の方がよっぽどひどかった・・・」

「?」

「三日月、相手を倒しきれなかった事気にしてる?」

「うん。バルバトスもボロボロにしちゃったし」

「あ~、バルバトスの方はともかく、今回に限っては相手を倒さなくて正解だよ。今回は相手に鉄華団の実力を示して交渉に持ち込むのが目的だったんだし、こっちはもちろん、相手側にも死人が出てたら上手く交渉に持ち込めたかわからない。こっちもあちらも死者ゼロで済んで結果オーライだよ。三日月、君はちゃんと自分のやるべき事をやれた。それでも今回の戦闘に自分で納得出来ないなら、その反省を次に活かせば良いじゃないか」

「次、か・・・」

 

そう呟くと三日月は席を立つ。

 

「あ、三日月、おかわりは?」

「いや、いいや」

「え?まだ何時もの半分ぐらい・・・」

 

その時、タカキが食堂にやって来た。

 

「三日月さん!団長達が帰って来ましたよ、今ブリッジにいるって・・・」

「俺、ハンガーでおやっさん手伝ってくるから、そっちは任せるって言っといて」

「え、でも・・・」

 

三日月はそのまま食堂を出ていってしまった。

 

「良いよタカキ、今は三日月の好きにさせてあげよう。今回は相手が手強かったから、思うところがあるみたいだ」

 

そう言ってスープの残りを飲み干すと僕も席を立つ。

 

「ごちそうさまアトラ。僕はブリッジに行くね」

 

 ~その後、ブリッジ~

 

「と、いうわけで、テイワズのボス、マクマード・バリストンさんと交渉する事が決まりました!」

 

ビスケットの発表におおー、と、ブリッジにいるメンバーの感嘆の声があがる。

 

「慌てんな、まだテイワズの傘下に入れると決まった訳じゃねえ」

 

オルガが湧き立つ面々に釘を刺す。けどまあ、少し前までテイワズに渡りをつける当ても無かったのだから、大きく進展したと言えるだろう。

 

「これから俺達は、タービンズと一緒に歳星に向かいます」

「歳星?」

「テイワズの本拠地になっている大きな船だって。今近くにいるらしいんだ」

「へえ~」

「団長さん、火星と繋がりました」

「じゃあ、こっちの状況を伝えるんで・・・」

「その前にあちらからメールが来ているようですが」

 

 

「火星の方は収入が殆ど無くて、運転資金が目減りする一方だなんて・・・」

「そう長くは保ちそうにねえか・・・」

「ギャラルホルンに目を付けられてちゃまともに商売なんて出来ないもんね。早くなんとかしないと・・・」

「1軍の奴等の退職金削減しても焼け石に水だったかあ・・・」

 

畑の方はダンジがなんとかやってくれてるらしく、食費は少し抑えられてるらしいが、それも微々たるものでしかないようだし。

 

「ビスケット、火星でギャラルホルンから鹵獲した戦利品とこないだ僕が回収したグレイズ2機分のエイハブ・リアクター、それを売却すれば当座は凌げると思うけど?」

「あ・・・でも、CGS時代からの業者じゃ扱いきれないんじゃないですか?」

「なら扱える業者を探せば、いや、ちょうどそういう業者に伝手のありそうな組織と縁が出来たじゃない」

「タービンズに仲介を頼もうってか・・・」

「もちろん仲介料は払わなくちゃいけないけど、出来ない事は無いと思うよ。リアクターは機体を解体して用意しないといけないから、少し時間がいるけど、他に方法も無いでしょ」

 

 それから10日程、グレイズ2機を解体して、リアクター以外のパーツは修理用に残して、他の鹵獲品とリアクターをまとめてリストアップして、その合間に三日月と昭弘と一緒にハンマーヘッドでシミュレータ使って訓練したりして過ごした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なあ~、まだ歳星ってのに着かねえの?」

 

 食堂で窓から外を見ながらライドが焦れたような声をあげる。その近くのテーブルにタカキとヤマギが座っている。

 

「そろそろって聞いたけど」

「ちぇ~、昨日もそれ聞いたぜ~。一体いつ着くんだよ?」

 

ヤマギの言葉にも飽き飽きしたように顔をしかめる。

 

「ねえ、三日月さんて最近見ないよね?」

「ああ、トウガさんと昭弘さんと一緒に、あっちの艦でシミュレータ使って特訓してるって聞いたよ。今日はトウガさんは団長とビスケットさんと一緒にあっちに話に行ってるらしいけど」

「え?特訓?」

「すげえよなあ、三人ともあんなに強えのにまだ頑張って、トウガ兄ちゃんは他の仕事もしてるし。・・・に引き換え・・・」

 

 そう言いながらライドが目を向けた先には、テーブルに突っ伏したシノとモロコシ粥を掻き込むユージンがいる。

 

「あんなに女がいるのに、一人も靡かねえってどういう事だよお・・・」

「けっ!どーでもいいわ、んなもん!」

 

 タービンズの女性達を口説こうとして、全く相手にされなかったらしい。

あちらの女性達は全員名瀬を強く慕っているし、名瀬とシノを比べてしまうと男としての器の大きさが違い過ぎるので、当然の結果である。

そもそも、他人の女に手を出そうとしている時点で如何なものかという話だが。

 

「ほんと、少しはあの3人を見習えば良いんじゃね?」

 

シノとユージンをジト目で見ながら呆れたように呟くライドだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ~ハンマーヘッドの応接室~

 

「ん?初めて見る顔がいるな」

「あ、はじめまして、トウガ・サイトーと言います。一応パイロットやってます」

「ははあ、お前か、アミダが言ってた妙なのってのは」

「は・・・はい?」

「攻撃に殺気が感じられないわ、ワイヤーばらまくわ、アジーの機体に抱き付くわ・・・百錬に巻き付いたワイヤー外すのが面倒だってメカニックの女達もぼやいてたぜ」

「うっ・・・すいません」

「まあそんな事はいい。で、何だ?改まって話ってのは?」

 

名瀬さんに促され、ビスケットが鹵獲品のリストが入った端末を差し出し、売却先の業者を紹介して欲しいと頼む。

 

「もちろん、仲介料はお支払いします。お願いできないでしょうか?」

「できなかねえがよ、お前ら、そんなに金に困ってんのか?」

「そ、それは・・・」

「正直、困ってます」

「CGSの資産の内現金は殆どマルバが持ち出してしまってましたし・・・」

「なら、何で俺が仕事紹介してやるって言った時に断った?」

「えっ・・・あ、いや、だって、あの話を受けたら、俺達はバラバラになっちまうって・・・」

「なっちゃいけないのか?」

 

名瀬さんの問いに、オルガは少し考える様子を見せて口を開いた。

 

「俺らは、離れられないんです。」

「離れられない?気持ちわりいなあ、男同士でベタベタと」

「何とでも言ってください。俺らは・・・、鉄華団は離れちゃいけない」

「だから何でだよ?」

 

名瀬さんの語気が強くなる。理由の説明になってないから、苛立つのも無理は無い。

 

「それは・・・」

 

オルガはまた少し黙考して、口を開いた。

 

「繋がっちまってんです。俺らは」

「はあ?」

「死んでいった仲間の流した血と、これから俺らが流す血が混ざって、鉄みたいに固まってる。だから・・・だから離れらんねえ。離れちゃいけないんです。危なかろうが、苦しかろうが、俺らは・・・」

「マルバに銃を突き付けた時、お前言ってたよな?アンタの命令通りに、俺はアイツらを・・・」

 

立ち上がりながら名瀬さんが口にしたその言葉にオルガが息を呑む。

 

「アイツらってのが、その死んでいった仲間の事か?」

「・・・」

「離れられない、そりゃ結構。だがな、鉄華団を守り抜くってんなら、これからは誰もお前に指図しちゃくれねえ。お前の命令ひとつでガキどもが死ぬ。その責任は誰にも押し付けられねえ。オルガ、団長であるてめえが、一人で背負えんのか?」

 

 ソファから立ち上がった名瀬さんはオルガに指を突き付けた。組織の長としての覚悟を問うているのだろう。それは前線で戦う兵士としての覚悟とは全く別物で、誰も肩代わり出来ないものだから。

 

「・・・覚悟は出来ているつもりです」

「ほう~?」

「仲間でも何でもねえ奴に訳のわからねえ命令で、仲間が無駄死にさせられるのはごめんだ。アイツらの死に場所は、鉄華団の団長として、俺が作る!」

「オルガ・・・」

 

 オルガが立ち上がる。

 

「それは俺の死に場所も同じです。アイツらの為なら、俺は何時だって死ね・・・ぐあっ!」

「お、オルガ!?」

 

名瀬さんにデコピンを喰らって倒れたオルガに、ビスケットが悲鳴のような声をあげる。

 

「てめえが死んでどうすんだ?指揮官がいなくなったら、それこそ鉄華団はバラバラだ」

 

 僕はオルガを助け起こしながら、名瀬さんに視線を向ける。

 

「確かに団長としての責任はオルガだけのものです。けどその重さを少しでも軽くする為に僕がいます。他の皆もただオルガについていくだけじゃありません」

「てめえ、見た所オルガより歳上だろ?歳下に重い役目を背負わせてその下に甘んじてる奴に何が出来るってんだ?」

 

痛い所を突いてくるなあ。口を挟まない方が良かったかな?でももう退けない。僕も意地の張り所だな。

 

「戦闘、整備、炊事、その他色々。どれも正直うちじゃ二の線て所ですけどそこそこやれるつもりです。それと・・・オルガ達の弾除け」

「!?」

 

オルガが驚いた顔で僕を見ている。顔は見えないがビスケットも動揺した様な気配を感じる。

 

「てめえ、オルガの為に死ねるってのか?」

「少なくとも、マルバやCGSの1軍の奴らの為よりは万倍死に甲斐があると思ってます。だからこそ、火事場泥棒だって解った上でCGS乗っとりに荷担しました。マルバ社長への恩義を捨てても、オルガ達が自分達の意思で前に進む助けになりたいって思ったんです。だからオルガを信じて、鉄華団を守る為に命を張る覚悟は出来ています。それがオルガに団長という重い役目を背負わせた、指揮官になる力が無い僕なりの責任の取り方です」

 

 名瀬さんと僕は睨み合うような形で向き合う。

 

「トウガさんは、CGSの時から僕達の為に色々してくれてた人なんです」

「俺らを使い捨ての駒ぐらいにしか思ってねえ奴ばかりの1軍の中で、たった一人俺らに味方して、体を張って俺らやもっと小せえ奴らを庇ってくれた奴なんです。コイツや他の仲間達が任せてくれた団長って役目、その責任から逃げるようなカッコ悪い奴には、俺はなりたくねえんです」

 

「・・・ったく、青臭え事ばっかり言いやがって。ケツが痒くなっちまうぜ・・・」

「うっ・・・」

 

名瀬さんは呆れたような顔をしている。・・・マズったかな?

 

「まあでも・・・血が混ざって繋がって、か・・・そう言うのは仲間っていうんじゃないぜ」

「え?」

「家族だ。・・・まっ話は解ったよ」

「え?あの・・・」

「悪いようにはしねえからよ」

「よろしくお願いします」

「あ、お願いします」

「お願いします!」

 

応接室を出ていく名瀬さんを見送った後で自分達も応接室を出るとオルガはしゃがみこんで頭を抱えた。

 

「あぁ~!・・・しくじったあ・・・」

「そう?考えてくれるって言ってたじゃない?」

「問題はそこじゃねえ!商売の話はあくまで対等にしなけりゃなのに、あんなガキ扱いされて・・・」

「ぷっ、くくっ、はははっ」

「ふふっ、ふふふ・・・」

 

ビスケットと僕の口から笑い声がこぼれる。珍しくオルガの可愛い所が見れたなあ。

 

「何だよ?」

「ははっ、大丈夫、何があっても僕達はオルガを信じてついていくから」

「そーいう事」

「・・・おう・・・」

 

そう言って立ち上がり、歩き出す。僕とビスケットも後を追う。

 

「いやあ、それにしても珍しいものが見れたねえ、オルガの落ち込む姿とか、ユージンが見たら何て言うか」

「なっ、テメエ!言うなよ!言ったらアンタが恥ずかしいから秘密にって言ってた話バラすからな!」

「おおっと、それは困るな。解ったよ、ここでの事もこの3人だけの秘密ってことで。いいねビスケット?」

「わかってますよ、他の皆には話したりしません」

 

 そうして3人でイサリビに戻って少しした頃、歳星が確認出来たとハンマーヘッドから連絡が来た。

 さ~て、後々の為にもあそこにいられる間に色々調達しときたいんだけど・・・。

 

 




テイワズ編はオルガ以外の団員も結構かわいい所が見れますね。ライドとかいじらしくてもう。
 ユージンとシノはおバカというか・・・あれはあれで良い子達なんだけど、公式でお金持っててもロクな使い方しないとか言われちゃうしなあ。あの年相応のおバカさ加減は微笑ましくもありますが。


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 お待たせいたしました。今回新たにオリジナルの設定、人物を出しました。


 大型惑星巡航船、歳星。全長7kmとイサリビやハンマーヘッドとは比べ物にならない程に巨大であり、遠心重力ブロックを備えるその様相は移動式のコロニーのようである。

その歳星に入ってから、名瀬さんに連れられる形でオルガ、三日月、ビスケット、ユージン、僕、そしてクーデリアさんはテイワズの代表、マクマード・バリストンの屋敷の前に来ている。

 

「いいかぁ?この先にいるのは圏外圏で一番恐ろしい男だ。くれぐれも失礼の無いようにな」

 

 名瀬さんの言葉に、帽子を脱ぐビスケットとネクタイを締め直すユージン。ビスケットの脱帽はともかく、ユージンのネクタイは意味あるのか疑問なんだけど。

 

「よう、久しぶりだな」

 

門前に立つ黒服のいかつい男達の中から前に出てきたスキンヘッドの男に名瀬さんが声を掛ける。

 

「お久しぶりです、タービン様。失礼ですが、本日の御用件は?」

「ああ、親父に会いに来た」

 

その一言で了解したのか、スキンヘッドの男は無言で頷いた。

それから少しの間をおいて、大きな鉄の門が開く。

 

「さ~~て・・・んじゃ行くか」

 

 そう言って案内の黒服の後ろを歩き出す名瀬さんに付いて行く。

にしても、名瀬さんのこの余裕綽々の物腰ときたら。僕はあれやこれやで余裕なんかありゃしないってのに、僕よりも色々背負ってる筈なのにこの余裕は羨ましいくらいだ。

 そんな事を考えている内に部屋に通された。

 

「ん?おう、来たか名瀬」

 

通された部屋で盆栽に剪定鋏を入れている恰幅の良い和服姿の人物が、手を止めてこちらに体を向けた。この人がテイワズのボスのマクマード・バリストンか・・・うわあ、まんまジャパニーズヤクザの親分だ・・・。

 

「ひっ」

 

その手に握られた鋏の切っ先に悲鳴を上げるユージン。解らないではないけどビビり過ぎだ。

 

「成る程、お前らが・・・話は聞いてるぜ。いい面構えしてるじゃねえか。おーい、客人にカンノーリでも出してやれ。クリームたっぷりのな」

「へい」

「うちのカンノーリはうめえぞお、パリッとした皮にたっぷりのクリームでなあ」

 

とても穏やかで歓迎してくれている様に思えるけど、恐ろしい人程普段は穏やかで人当たりの良いものだと、知識だけではあるが僕は知っている。こういう人は絶対に怒らせてはいけないタイプだ。

 

「で名瀬、お前はどうしたいんだ?」

 

「こいつらは大きなヤマが張れる奴だ。親父、俺はこいつに盃をやりたいと思っている」

「!?」

 

名瀬さんの言葉にオルガが驚いた顔をする。確かマクマードさんに話を通すだけで、テイワズの傘下に入れるかはオルガ次第という話だった筈だから、名瀬さんがここまで推してくれるのは意外だったのだろう。

 

「ほおぉ、お前が男をそこまで認めるか。珍しい事もあるもんだな」

 

そう言いながらもマクマードさんは自分の下で名瀬さんとオルガが義兄弟の盃を交わす事を認めてくれた。ただし貫目は名瀬さんの申し出た五分では周りの反発もあるだろうし、鉄華団では荷が重いからと四分六(名瀬さんが兄でオルガが弟)にしておけと言ったのだが・・・その時のオルガの顔がちょっと気になる。後で話してみよう。

 その後、クーデリアだけに別に話があるというので、護衛に三日月を残して僕達は庭のテーブルと長椅子の所で座って待つ事になり、そこでコーヒーとカンノーリを出された。

 

「うっめえっ!何じゃこりゃ!」

 

カンノーリの美味さに驚嘆しながら次々と頬張るユージン。確かに美味い。けどね・・・

 

「ユージンがっつき過ぎだよ。美味い物はじっくり味わって食べないと勿体ないよ」

「んぐ、うっせえ、ここで食っとかなきゃ、もう二度と食えねえかもしんねえだろが」

 

そう言いながら自分の前の皿だけでなく隣の皿にも手を伸ばすユージン。貧乏性だなあ・・・まあ仕方ないか。僕ら実際貧乏だし。

 

「おっとそうだ、お前らから引き取った諸々の鹵獲品に値が付いたぞ」

 

そう言って名瀬さんは端末の画面をこちらに見えるようにかざした。そこに表示された金額は予想以上に大きかった。

 

「この金額で良けりゃあ請求を寄越してくれ」

「こ、こんなに!?」

「マジか!?」

 

その金額にビスケットとユージンが驚きの声を上げる。

 

「玉石混淆だったがな。中でもグレイズのリアクターは高く売れた。今エイハブ・リアクターを新規で製造出来るのはギャラルホルンだけだからな。ただ、業者の方が全額すぐには用意出来ないらしくてな、リアクター3つ分を優先して先に支払うから残りは少し待ってくれとよ」

「それは、大丈夫なんですか?」

 

ビスケットが心配げに問う。

 

「心配すんな、仕事自体は手堅い所だ。代金踏み倒す様な真似する所じゃねえし俺がさせねえよ」

「何から何まで、恩に着ます。えっと・・・あ、兄貴」

「まだその呼び名は早いぜ」

 

照れながら兄貴と呼んだオルガに名瀬さんは苦笑しながらそう返した。

 原作と同じやり取りで何の問題も無い筈だけど・・・なんかもやもやするなあ。何だろう、この感覚。

 

「歳星は金さえありゃ楽しめる場所だ。ずっと戦闘と移動続きでガキらもストレスが溜まっているだろう、少しは息抜きさせてやれ」

「そういうの、何時もカミさん達にやってるんですか?」

「んん?」

「いや、、えっと・・・家族サービスってやつなのかと」

「ああ~、女ってのは適度にガスを抜かないと爆発すっからなあ。家長としては、まっ当然の務めってやつだ」

「家長として・・・よし!こいつの売上げで今夜はパーッと行くか!」

「マジでか!?」

「待ってよオルガ。これからの事を考えたら堅実に資金運営を・・・」

「イィヤッホーー!!」

「他の連中にも早く知らせねえとな!」

「おう、パーッと行こうぜ!パーッと!」

 

ビスケットの言葉は耳に入っていないようだ。特にユージン、はしゃいじゃってもう。 

 

「聴こえてないみたいだよ、ビスケット」

「はあ・・・ま、いいか。確かに息抜きは必要ですね」

「そうだね、特に小さい子達にはお菓子をたくさん買ってあげようよ。・・・所で名瀬さん、ちょっとお願いがあるんですが」

「んん?何だ?」

「歳星にいる内に欲しい物があるんですが・・・」

 

名瀬さんに近づき、小声で欲しい品を告げる。

 

「お前、顔に似合わず物騒なモン欲しがるなあ」

「この歳星ならそういう物も手に入るんじゃないかと。紹介して頂けないでしょうか?」

「ふーん・・・まあ、良いだろう。携帯端末持ってるか?」

「はい、一応持ってきてます」

「じゃ、そいつに俺からの紹介状と行き先のマップを送ってやるから、そこから先はお前で話を付けな」

「ありがとうございます」

「だが気をつけろよ、ちょっと気難しい人だからな」

「は・・・はい」

 

そう答えて、名瀬さんから紹介状とマップを端末に送ってもらった。

 それから名瀬さんと別れてまずはショッピングモールへ繰り出す事になり、僕はオルガに声を掛ける。

「オルガ、さっきのマクマードさんの話だけど、何か不満があるんじゃない?」

「ああ?不満なんてあるわけねえだろ、むしろ思っていた以上に上手く話がついたじゃねえか」

「そう?マクマードさんに五分の盃は荷が重いって言われた時、侮られたと感じたんじゃないの?」

「!?・・・いや・・・そうだな、確かにあの時はそんな風に感じたのかもな。けど、冷静に考えりゃ、もっともな話だ。俺らはまだそれくらいのもんだ。名瀬さんと対等になろうってなら、もっとでっかくならねえとな」

「焦っちゃ駄目だよ?」

「解ってるよ、今は初仕事をキッチリやり遂げる。何にしてもそれからだ」

 

 僕の言葉にオルガはそう返した。それからモールで買い物をした後、僕はオルガ達と別行動をとって目当ての店に行く。

 目的の物を買うと今度は名瀬さんにもらったマップを頼りにエウロ・エレクトロニクスのファクトリーに向かい、そこにいる刀剣製造の技術顧問という人物に刀を買いたい旨を伝えたのだが・・・。

 

(どうして・・・こうなった・・・?)

 

今僕は武道場で木刀を手に素振りをしている。本当、買い物に来ただけのつもりだったのに・・・。

 

「っ痛てぇ!!」

 

などと考えていたら肩を竹刀で叩かれた。

 

「馬鹿もん、気を散じるで無いわ。体の軸がブレておったぞ」

「はい、すいません」

 

文句を言う余地など無いので大人しく従う。逆らっても無駄な相手なのはもうわかった。

 この頭を手拭いで覆った細い体躯の老人(?)がエウロ・エレクトロニクスのMS用刀剣の製造の技術顧問の一人、稲葉鋼舟(いなば・こうしゅう)先生。もう一人の技術顧問である作務衣をきた白髪の老人、刀鍛治の河内泰平(かわち・たいへい)先生も道場の隅に座ってこっちを見ている。

 

「ったく、剣術の心得も無い癖に刀が欲しいなぞと抜かしおって・・・」

 

いや、僕じゃ無くて三日月に刀の使い方を覚えさせる為の練習用に欲しかったんですけど・・・。などと言える訳も無く、オルガに聞いた宴会の時間ギリギリまでひたすら素振りをさせられ、疲れた体を引き摺るようにして会場の酒場に向かうのだった。手に出来た豆が潰れたし、それなりに鍛えてるとはいえ普段使って無い筋肉使ったからあちこち痛い。明日は確実に筋肉痛でキツい思いをするんだろうなあ。っていうかあの木刀、明らかに重さが可笑しい。中に鉄入ってるだろ・・・。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

~マクマード・バリストンの私室~

 

「どうしました先生、俺に直接通信とは珍しいですな?」

「マクマード、お前さん、鉄華団とかいう連中を傘下に入れるそうじゃな?」

「お耳が早い事で。それがどうかしましたか?」

「そこの若造が一人こっちに来てな、刀が欲しいと抜かしよった。名瀬坊の紹介状を持ってきたんで話を聞いてやったが、剣術の心得は全く無いんでな、ちっと基礎の基礎を仕込んでやった所じゃ」

「ほお、今日び刀を欲しがるとは、面白い奴がいたもんですなあ。で、そいつが気に入ったわけですか」

「阿呆、気に入る程のモンじゃ無いわ。2番手3番手に甘んじて上を目指そうという気概が足りん、謙虚と甘えを履き違えた馬鹿餓鬼じゃから、性根を叩き直さんと気がすまんだけじゃ。河の字もな、もう少しマシにならんと刀をくれてやる訳にはいかんと言うし、名瀬坊の顔を立てて稽古をつけてやっとるんじゃよ」

「ふ・・・まあそういう事にしときましょう、で、本題は?」

「うむ、あの小僧のMSな、聞いた所ギャラルホルンから分捕ったのを使っとるらしいが、それでは心許ない。ちいとパーツと武器を融通してやって欲しい」

 

「ふむ、先生の頼みとあれば、と言いたい所ですが、鉄華団の別の機体を予算上限なしで整備させるよう指示を出した所でしてなあ・・・まあ良いでしょう。試作品からパーツをそちらで見繕ってやってください。武器もそちらにお任せします」

「おう、感謝する」

「大恩ある先生の頼みですからな。では、張り切るのは結構ですが、体を大事にしてください。俺ももう爺ですが、先生もお若くは無いですからな」

「要らぬ心配じゃ、まだそこまで衰えてはおらん・・・ではな」

 

通信が切れる。

 

「ふふ、しかし剣術の手ほどきだけでなくMSの方も世話するとは、ああは言ってもやはり剣を教える相手ができて嬉しいようですなあ、稲葉先生・・・」

 

 そう1人呟きながら思い出すのは名瀬が認めた鉄華団の団長、オルガ。そして若さに似合わぬ度胸を自分が気に入った、クーデリアの護衛を務めていたMS乗りの少年、三日月。

そして自分が一目置く数少ない人物が目をかけた男も鉄華団にいるという事になる。

 

「鉄華団、か。面白い事になりそうじゃねえか・・・」

 

そう言ってマクマードは口の端を笑みで歪めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「う~~、腕が痛い・・・」

 

 腕を擦りながら向かった酒場の近く、しゃがんでいるオルガとその背中を擦っている三日月の姿が見えた。ああ、飲み過ぎて吐いちゃってるのね・・・と、1人の女性がオルガにハンカチを差し出す。

 

「大人になるなら、いろんな事との付き合い方、覚えなくちゃ駄目よ」

 

穏やかな口調でオルガにそう言って、その女性は去っていく。あの人がメリビット・ステープルトンか・・・。

 

「誰?」

「さあ・・・」

 

三日月の問いに答えながら渡されたハンカチを見つめるオルガ・・・あー、匂い嗅ぐのはちょっと、どうなの?

 

「女くせえ・・・」

「オルガごめん、遅くなった」

 

「あ?・・・トウガか・・・」

「遅かったね、どうしたの?」

「ん~、ちょっとお年寄りの相手してたら長引いちゃってね。ほらオルガ、これ飲んどきなよ、少しはマシな筈だから」

 

遅れた理由は適当にぼかして、オルガにドラッグストアで買ったウコンの錠剤を渡す。オルガは錠剤を飲み込んだが、まだふらついている。

 

「それじゃ、僕も飯食って来るから、オルガをお願いね三日月」

 

そう言って酒場、『PUB SOMEDAY』に入ると、年長組の団員達が、ある者達は談笑しながら、ある者は静かに、思い思いに酒を飲み、料理を食べている。あるテーブルではシノがユージンを頻りに何かに、というか所謂女遊びに誘っているようで、同じテーブルに苦笑混じりにそれを見ているビスケットと、シノに呆れているのか、無関心そうに料理を摘まむ昭弘の姿があった。

 僕はカウンターでグラスを貰ってから適当に空いている席に座った。

 実は平成に生きていた時からこういう学生の飲み会なノリには、途中参加になってしまうとイマイチ乗りきれない性分だったりする。最初から参加していればまあ乗れるのだけど、その場合は加減が効かず、今のオルガみたいな状態になってしまうのが常だった。

 なので周りが楽しんでいるのを眺めつつ、酒をチビチビ飲みながら料理を食べて、という体をとり、たまに話しかけてくる団員の相手をしながらこの飲み会を過ごした。

 

 そしてその場はお開きとなり・・・。

 

「んじゃ、俺らはここで。えっへへへ・・・」

「お、俺は、アレだからな!シノがどうしてもっつうから・・・」

「ああ、わかってるよ。行ってらっしゃい」

 

 二人して夜の街に繰り出すシノとユージン。何だかんだ言いながら一緒に行くのだから、ユージンもそっちの興味は当然あるよなあ・・・・うん、健全な証拠だと考えるべきだよね。もっとマシな金の使い方を云々と言うのは野暮だろう。

 

「う~ん・・・」

 

 オルガはまだフラフラで、昭弘が支えている。

 

「こんなオルガ、初めて見た」

「やっとだ・・・やっと、家族が作ってやれる・・・お前らにも、やっと、胸を張って帰れる、居場所を・・・」

「オルガ・・・」

「家族、か・・・」

 

 昭弘が呟いた言葉には、失ってしまった暖かい過去、本当の家族への思いがあるのだろうか・・・取り戻させてあげたいと思う。死んでしまった両親はどうしようも無いけど、せめてまだ生きている筈の弟だけでも。僕が昭弘の過去を知っていてはおかしいから、今は言葉には出せないけれど。

 そんな風に先の事を考えながら、三日月達と一緒にイサリビへ帰るのだった。

 

 オルガを三日月達に任せて、僕はブリッジの様子を見に行く。チャドとダンテがいないので・・・まあ、何かあるとも思えないのだが、一応念のためというやつだ。

 

「・・・ん?フミタン?何か有りました?」

 

誰もいないと思ってたら、フミタンが何やらキーボードを操作していた。

 

「いえ、定期的に行っているシステムチェックです。今の所は特に異常はありません。貴方は?」

「あ、いえね、チャドもダンテも居ないもんですから、一応見廻りって所です」

 

そう言いながらフミタンの座る方に近付くと、どうやらパネルの表示を切り替えた様だ。・・・もしかしたら、ノブリスに何か報告していたのかもしれない。単に次のチェック項目に移っただけかもしれないしけど。

 

「あれ?それって、モールでクーデリアさんが買っていたのですね。着けないんですか?」

 

 下部パネルの上に置いてあるネックレスに気付いて、聞いてみる。本当は着けない理由は大体知っているけど。

 

「貴女に感謝の気持ちも込めて、贈り物をしたいって言ってましたよ」

「そうですか・・・」

「何時も難しい顔していたクーデリアさんが、あの時は年相応の女の子のような笑顔でした。それだけ貴女を慕っているんでしょうね」

「私を?・・・ですが・・・」

「それを着ける事に抵抗があるんですか?」

 

直後、フミタンの顔に一瞬動揺の色が浮かぶ。知ってて聞くんだから、我ながら卑怯な事をしていると思う。

 

「私には・・・これは・・・」

「相応しくない、と?」

 

畳み掛けるように図星を突いて行く。ああ、これじゃ僕、本当にペテン師のようだ。でも放っておくのも何か嫌なんだよなあ。

 

「それを着けるか着けないか、それは貴女の自由ですけど、それが相応しいかどうか決めるのは貴女じゃないと思います。それは贈った人が決める事なんじゃないですかね?」

 

「それは・・・そうかもしれませんが」

「クーデリアさんは自分とお揃いの品物を貴女に贈った。それは単に使用人への感謝というより、貴女への親愛の気持ちの現れだと思います。それを貴女が自分に相応しくないと考えるのは、クーデリアさんの気持ちを否定する事のような気がする、というのは、僕の勝手な考えでしょうか?」

「・・・」

「すいません、差し出がましい事を言いました。それを着けるも着けないも、貴女の自由です。僕が偉そうに言う事じゃありませんでした。失礼しました。」

 

 そう言って、僕はブリッジを出ていった。

本当に何を偉そうに言っているんだか・・・。

 

 

「こんな時間にすいません。一杯だけ付き合ってください」

「・・・仮にも捕虜を酒に誘うというのはどうなのだ?」

 

街で買ってきた酒のボトルに、食堂からマグカップ2つを拝借してクランクさんの独房を訪ねた。元々クランクさんへの土産のつもりで買った酒だったのだが。

 

「・・・まあ良い。ただし一杯だけだ。俺は普段は飲まんし、お前も酔っ払う訳にはいかんだろう」

 

そうして、クランクさんのと自分のカップに酒を注ぐ。

「酒を飲むのは随分と久しぶりだな・・・・」

「ギャラルホルン火星支部には酒保は無いんですか?」

「無い訳ではない。ただ、俺はあまり酒は飲まない方だし、常に有事に備えて置くのが望ましいからな。偶の休暇にしか、な」

「軍人としてはもっともですけど・・・じゃあ、アイン・ダルトンとも?」

「ああ・・・酒舗に行けばアイツに絡む者もいるだろうしな、アインも不快な思いをするだろうと思って、飲みに連れていった事は無い」

「う~ん、生真面目ですねえ。ちょっと堅すぎでは?」

「そうか?」

「アインはまだ若いんですから、適度に肩の力を抜く事も教えておかないと。あ、だから視野が狭いんじゃないですか?余裕が無くて一杯一杯、だから、目に見える事、聞こえる事だけで、裏側の事情とか他人の都合とか考えられないのでは?」

「うん?むう・・・そう、だろうか?」

「今までの感じだとそうも思える、ってところですけどね。まあ、上からの命令には何も考えず服従するってなら、駒としては良い兵士って事かもしれないし」

「それは・・・」

「僕はまっぴらごめんですけど。命を賭けるならそれに値すると、自分が信じる者の為が良いです。それなら死んでもまだ納得出来るってもんです。出来れば死にたくは無いですけど」

「ああ・・・俺もアインにはそうであって欲しいと思っている。他人の言葉に惑わされず、自分の正しいと信じる生き方をして欲しいとな・・・」

「あー、でも他人の言葉に惑わされないってのと、他人の話を聞かないってのは違いますよね。そこを勘違いする奴っているんですよ。他人に惑わされないって思うあまり独りよがりな考えに凝り固まって、自分は正しい、邪魔する者は皆悪だ。みたいな」

「それは極端というものだろう。アインはそんな男では無い」

「だと良いんですけどね~・・・」

 

 原作だと正にその極端な方に行っちゃったんだよな・・・どうしてくれよう。

 頭の中でこの先戦場で対峙するであろう、生真面目な激情家の青年への対処を考えるが、アルコールの回った頭でまとまる筈も無く、カップの酒を飲み干すと独房を出た。

ちゃんと扉のロックは確認した。うん、酔いの方もまだ大丈夫の内。そのまま歩いて部屋に戻って寝た。

 

 

 

 ~翌日~

 

名瀬さんとオルガの兄弟盃の式が行われる会場、僕は名瀬さんに呼ばれて部屋に行くと、三日月も来ていて、名瀬さんに書いて貰った自分の名前を見ていた。

 僕も三日月も鉄華団のジャケットではなく、式の為に用意された羽織を着ている。

「俺、クーデリアから教わったのより、こっちのが好きだな。何か綺麗だ」

 

確かに綺麗な字だけど、クーデリアには聞かせられないなあ。

 

「へえ・・・・僕も書かせて貰っても良いですか?」

「ん?お前、筆使えるのか?」

「昔、ちょっとだけ親に教わったんで、久しぶりに自分の名前を漢字で書きたくなりました」

 

そう言って半紙を貰って、借りた筆で自分の名前を書く。

 

  斗我 斎藤

 

 親が生前教えてくれた字、斗我とは、[我と斗(たたか)う]。自分の弱さに負けず、強く生きて欲しいという意味が込められているのだという。

 

「あ~、読めねえ字じゃあねえが、上手いとはとても言えねえな」

「ですね・・・」

 

 本当、読めなくは無いものの、バランスが悪いや。長いこと書いて無かったから、字を忘れてなかっただけマシと思おう。

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

そう言って入ってきたのは僕らとは違いきっちりと羽織袴で正装したオルガだった。

 

「お待たせしました」

「お~、似合ってるじゃねえか」

「どうも。・・・あ、これって式で使う・・・」

「ああ」

「ほら、こっちは俺、こっちはトウガの。同じ字が入ってる」

「え?」 

 三日月が自分の名前の書かれた半紙と僕が名前を書いた半紙をオルガに見せる。うわ、自分の字の下手さが際立つ。

 

「それは、御留我(オルガ)の我(ガ)に、王我主(オーガス)の我(ガ)、それから、斗我(トウガ)の我(ガ)だ。『われ』とも読む」

「われ?」

「自分って意味さ。これからどんどん立場だって変わる。自分を見失うなよオルガ。でねえと、家族を護れねえぞ」

 

名瀬さんの言葉にオルガははっとした顔をする。

 

「あの、ところで名瀬さん、僕はどうしてここに呼ばれたんでしょうか?」

「おっと、いけねえ、式の前にオルガがお前に話したい事があるとよ、俺の立ち会いの上でな」

「え・・・?オルガ?」

 

オルガは畳の上に腰をおろすと、真剣な顔でこちらに正対する。僕も姿勢を正した。

「名瀬さんと兄弟の盃を交わす前に、アンタに言っておかなきゃならねえと思ってな・・・鉄華団の中で、俺に兄貴と呼べる奴がいるとしたら、トウガ、アンタがそうだと思う」

「え?・・・オルガ・・・!?」

「アンタはCGSの時から俺達を助けて、力になってくれてた。俺の、いや俺達皆の兄貴も同然だ・・・。けど、これから俺は名瀬さんと兄弟になる。この人以外を兄貴と呼ぶ訳にはいかなくなる。だから・・・兄貴、今まで俺達の力になってくれて、本当にありがとな。これから俺は名瀬さんを兄貴と呼んでいくが、これからも俺達に力を貸してくれ」

 

 そう言って、オルガは僕に頭を下げた。

ええっと・・・まさかこう来るとは思わなかった。僕が兄貴、か・・・。僕も鉄華団の皆を弟分と思っていたけど、オルガに面と向かって言われるとは。

 

「あ・・・ええっと、僕の方こそありがとう、そういう風に思ってくれて嬉しい。勿論、これからも、鉄華団を、家族を護る為に出来る限りの事をすると、約束する」

 

 そう言うとオルガは頭を上げた。

 

「よし、話はついたな。そんじゃあ、そろそろ行くか」

 

そう名瀬さんに促され、部屋を出ると、クーデリアが立っていた。黒いドレスを着て髪を纏め、薄く化粧もしている。

 

「おー、良いねえ」

 

名瀬さんがクーデリアの姿を褒める。確かに綺麗だ。

 クーデリアはオルガと一緒にマクマードさんの控えている部屋に向かった。多分クーデリアの立場がテイワズ預かりになり、クーデリアのアーブラウ政府との交渉が上手くいった時はテイワズがクーデリア指名の企業として利権を得る、という話だろう。

 

 その後式は問題無く終わり、事務的な手続きも済ませ鉄華団とタービンズは歳星を出発した・・・あれ?僕イサリビとハンマーヘッドを見送ってる?何で居残りになってんの!?

 




 というわけで、トウガは三日月と同じく後で追っかける形になりました。
 


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明日からの手紙

 大変遅くなりました。待っていてくれた方々に謝罪と感謝を。
お待たせしてすいません。そして待っていてくれてありがとうございます。
 前回トウガをイサリビと別行動にしたため今回が書くの難しくなってしまいました。
 あと先に白状しますと、僕は剣道、剣術はド素人です。なのでその辺りの描写がおかしいかもしれません。本当にどうしてこうなった。
 朝夕素振り五千回がスタートラインって何かピンク髪のおき太さんが言ってましたが・・・。


 歳星から出港するイサリビとハンマーヘッドを見送る三日月とおやっさん、そして僕。・・・いやなんでさ。

 

「行っちまったな」

「うん」

「何だあ?仲間と離れちまって寂しいってか?」

「うん。寂しいよ」

「ふっ、バルバトスの整備が済めばすぐに追っ付けるじゃねえか」

「まあね」

 

三日月とおやっさんが話していると、テイワズの整備長がやって来た。

 

「おーい、三日月君。阿頼耶識のシステムチェック始めるよ」

「うーっす」

 

呼ばれた三日月は返事を返すと歩いて行った。

 

「で、何で僕も残らされてんですかねおやっさん?」

「俺も知らねえよ。テイワズのメカニックから伝言頼まれただけだしよ」

「オマケに、僕のグレイズも降ろしてるし。イサリビ追いかけるのどうするんですか・・・」

 

今歳星のファクトリーにはオーバーホール中のバルバトスだけで無く、何故か僕のグレイズもハンガーに固定されている。

原作ではバルバトスはクタン参型に積載しておやっさんがクタンのコックピットに乗って、三日月がバルバトスのコックピットから操縦してイサリビを追いかける形だったが、僕のグレイズはどうするのか。

 

「だから俺に聞くなって。心配しなくても、テイワズの方で何とかしてくれるだろ」

「はああ・・・やりたい事色々あったのに・・・ってえ!?」

 

 バシッと言う音と同時に頭に衝撃が響く。

 

「ったく、ブツクサ言っとらんでさっさと来んかい。時間はあまり無いからな」

 

振り向くと後ろに、竹刀を持った稲葉先生が立っていた。

 

「稲葉先生?何でここに?」

「MSの方が終わるまでお前はワシの預かりじゃ。時間の許す限りではあるが、みっちりしごいてやる」

「ええ?じゃあ僕が居残りになったのは・・・」

「ワシが話を通した。ちっと素振りしただけでは意味無かろう?駆け足になるが少しは実戦的な稽古をつけてやる。わかったら早く行くぞ」

「あ・・・はい、わかりました!」

 

 戦闘に役立つ技が教えてもらえるならありがたいと思い直し、稲葉先生の後を追って道場に向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

イサリビでは、タカキを中心とした年少組の子供達が、テイワズから輸送を委託された工業コロニーへの貨物の整理作業を行っている。

 

「おいそこー!クレーンに近付き過ぎだぞー!」

 

タカキはいつになく張り切っており、クレーン操作が少し荒かったライドや危険な位置にいる子供達に注意したりと積極的に行動している。

 

「タカキさーん!このコンテナなんすけど~・・・」

「どうした?」

「ナンバーがリストと合わないんす。積み込む時に間違えたんじゃ・・・」

「ええ!?もう歳星から大分離れちゃったぞ、どうしよう・・・」

 

そこにヤマギがやって来た。

 

「ああ!やっぱりこっちに紛れてた!ゴメンタカキ、それこっちの資材だ。積み込みの時にそっちと一緒になってたみたいだ」

 

「え?そっちのって・・・」

「トウガさんが歳星で買い付けた資材のコンテナなんだ。ほら、トウガさん急にグレイズと一緒に歳星に居残りになったから、バタバタしてて確認出来なかったんだよ。おやっさんもいないし俺も手が離せなくて・・・」

「そうだったのか・・・じゃあそっちで任せて良いのか?」

「うん、昭弘さんのグレイズの整備は終わったし、直ぐに移動させるから」

「オーケー。にしても、一体何を買ったんだろう?」

「俺も詳しくは・・・。何か手伝って欲しいって頼まれてたんだけど、トウガさんが戻ってくるまでは保留かな」

「ふーん、まあ良いか。トウガさんのする事だし」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よし、素振りはもう良い。体も暖まったろう。ワシが相手をしてやろう」

 

 そう言って稲葉先生が木刀を手に歩いて来る。

 

「え・・・でもまだ素振り500しかやってないですけど・・・」

「細かく丁寧に教える時間は無い、そもそも剣術は素人でもお前傭兵じゃろ?しかも実戦経験ありならそれなりの体さばきは出来て当然。違うか?」

「む・・・おっしゃる通りです。ではよろしくお願いします」

 

そう言われたら否定は出来ないな。僕にも少しは意地ってものがある。

 

「うむ・・・一瞬たりとも気を抜くなよ、ワシも加減はしてやるがお前が気を抜けば良くて大怪我、下手すると死ぬ事もあるからな」

「はい!」

 

 そうして稲葉先生に相手をしてもらったが、本当に一瞬でも気を抜けない。こちらが先に動いても先生の方が僕の体に木刀を当ててくる。全く歯が立たない。

 恐ろしく思ったのは腹に木刀を当てられた時、叩きつけるのではなく切り裂くように木刀を滑らせていた事だ。腹に痛みはほとんど無いが、これが真剣ならと思うと・・・背筋が寒くなる。

 それにしても、三日月がバルバトスの太刀を早く使いこなせるようにと思いついての行動から、意外な展開になったもんだ・・・。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 トウガや三日月を歳星に残し、タービンズと共にイサリビで先行するオルガ達は、火星からのメールで火星の本部がとりあえず資金難を免れた事を知った事による安堵やらテイワズからお目付け役として派遣されたメリビット・ステープルトンの存在やらに僅かに緊張が緩んではいたが、特に事故やトラブルも無く、タービンズの案内で地球を目指し航行していた。

 そんな中、昭弘は暇を見つけてはハンマーヘッドでラフタやアジーにシミュレータでの訓練を受けていた。結果としては負けてはいるが、着実に実力を着けていた。そしてそんな現状を好ましく感じてもいた。

 

「そういえばさあ、トウガって昭弘や三日月よりここで訓練するの少ないよね?」

「え・・・ああ、アイツ俺達より器用になんでも出来るから・・・あっちこっちで仕事してる分暇が少ないんすよ」

「へえ・・・でもさあ、MSなら昭弘や三日月の方が上じゃない?アタシが相手した感じだと、何と無くそんな感じがするよ」

「ああ、MWの模擬戦ならアイツ三日月には負けてたな・・・俺は勝った事ねえけど」

「だったら今度、アイツと勝負してみたら?MSだったら今は昭弘の方が強くなってるかもよ?」

「・・・そうっすね」

「うんうん、そんじゃ、アタシとアジーで鍛えてあげるよ」

「おう、お願いします!」

 

 そうして昭弘はまた訓練に励む。三日月へのライバル心とは別に、今まで勝てそうで勝てなかったトウガに勝てるかもしれないという期待も後押しになっている。トウガもまた違う形で鍛えられている事を、昭弘は知らない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バルバトスのオーバーホールが完了したという報せが来た事で、僕の稽古は終わりとなった。

 

「ふー、本当はまだまだ足りんが、とりあえず卵から孵ってヒヨコにはなった、という所じゃな」

「はあ・・・やっとヒヨコですか」

「時間が足りんからな。本当ならこの程度で送り出すのは不本意じゃが、仕方ない。船に合流したら基本的な稽古は毎日しとけ。でないとすぐに鈍るぞ」

「はい、ありがとうございました」

 

そこに河内先生が来る。

 

「稽古道具を一式、コンテナに載せて輸送機に積んである。それとこれを持って行け」

 

そう言って手渡されたのは一振りの日本刀と、黒く塗られた、重みのある金属製の棒状の物。

 

「これは・・・特殊警棒、ですか?」

「護身用にな。まさか常に刀を持ち歩く訳にもいくまい」

 

伸ばしてみると、渡された日本刀と同じくらいの長さになった。

 

「強度も充分、腕次第で銃弾も弾ける」

「それは・・・稲葉先生ならできそうですけど」

 

そして今度は日本刀を鞘から抜いてみる。思えばこの一振りを手に入れようとしたら剣術の稽古を受ける事になったんだよな。

・・・鍔や柄、鞘には特別凝った意匠が施しているわけでもない、言ってしまえば地味な造りだがそれで、否それが良い。

飾り気の無さが実用性を重視した戦場刀らしさを感じさせる。

 それでいて刀身は美しいと思わずにいられない。銃やナイフもそうだが人殺しの道具、紛れもなく凶器だというのに、惹き付けられてしまうのは何故だろう。

 刀を鞘に戻すと、河内先生に頭を下げる。

 

「ありがとうございます。刀と警棒、どちらも大事に使わせていただきます。所で、この代金の方はいかほどでしょうか?」

 

最初から買うつもりで来たのだから、そこはちゃんとしないと、そう思って値段を聞くと、二人の先生は顔を見合わせて、稲葉先生が苦笑混じりに口を開いた。

 

「代金はもう貰っとる。マクマードからな。鉄華団に対する先行投資の内じゃと」

「え?・・・でもそれじゃあ僕は刀だけじゃなくて稽古までつけて貰って、それをタダでは・・・」

 

幾らなんでもそれはマズイというか、僕の気が済まないというか。

 

「ふむ、ならこうするか。今の仕事が終わったらまたここ(歳星)に来い。地球の酒でも持ってな。で、一杯付き合え」

「え?それって・・・?」

「じゃからそれまで死ぬな。また稽古してやるから生きてまたここに来い、と言っとるんじゃよ。解ったか?」

 

ああ、これはつまり、僕を激励してくれてるのかな?生きてまた会いに来い、と。でも・・・

 

「重ね重ねありがとうございます。でも、必ず、とはお約束できません。僕達鉄華団の地球への旅はきっと危険な物になります。そして鉄華団は僕より年下ばかりですから、僕は彼等より自分の命を優先する事はしたくありません。ですから・・・それでも生き延びる事が出来たら、その時は、地球で良い酒を買って、ここに来ます」

 

 別に死にたい訳じゃない。自分の命は惜しい、けどもし、我が身を惜しんだ結果犠牲が出たら、三日月が、オルガが、ビスケットが、昭弘が、シノが、タカキやライドが、皆の中の誰かが自分のせいで死んでしまったら、きっと自分を許せないだろう。であれば、いっそ彼等の盾になって死んだ方がまだマシかもしれないと思える。

 

「それで良い。卑怯者になれとは言わん、だが命を粗末にはするな。人の命は本質的には皆等価よ。それぞれの立場や信条で優先順位が違うだけじゃ。それを解らず命の価値に上下を付けたがる阿呆共には呆れるばかりだがの」

 

「僕達はその阿呆共に下の方扱いされてましたけど、それでも自分の命も、仲間の命も大事です。だから、僕にとって大事な命を奪おうとする者の命は、必要とあれば切り捨てます。今までも、これからも」

「うむ。剣は抜かずに済めば無事泰平、とは言うが、抜くべき時には躊躇うな。さもなくば・・・いや、それは身に染みているようじゃな」

「はい」

 

 ええもう本当に、身に染みてます。

 

「MSの方も少しばかり手を加えさせてもらった。勿論これもマクマードに話を通してある」

 

 そう河内先生が言うのでファクトリーに向かうと、僕のグレイズは確かにその姿を変えていた。

 頭部センサーカバーは昭弘のグレイズ改と同じ形だが、後頭部には大型のアンテナが二本追加されている。

 そして背部はこれまたグレイズ改のと同じ単発式の大型ブースターの側面にノーマルグレイズが背部とリアスカートに選択で装着するブースターユニットが左右二基、計四基追加されている。そしてサイドスカートのバトルアックスを懸架する部分に、別の何かを懸架する為と思われるパーツが付けられている。

 肩のアーマーは以前鹵獲したバズーカやシールド用のラックに換装されていて、その両方にやはり鹵獲品のシールド、そのシールドの裏側に箱の様な物が二つ取り付けてある。内一つはスラスターのノズルが付いているので、推進装置だろう。

 左腕にはバルバトスから撤去したシュヴァルベ・グレイズのワイヤークローが装着されている。

 そして機体のカラーリングが、宇宙で目立ちにくい暗い紫から鮮やかな青色に塗り替えられている。

 

「色はお前の所の整備士、雪乃丞と言ったか、あの男から聴いてな、青く塗らせといた」

 

 河内先生がそう説明するが、僕にはそれより気になる所があった。

 

「ガスの消費量が多そうですね・・・」

「まあ、な。一応タンクも増設してはあるが、正直焼け石に水というやつだ。だがMS戦は遠距離より接近戦が重要、となれば敵に素早く接近して斬る。そういう方向性の改修だな。装甲の強化も考えたが、ガスの燃費が更に悪くなるから断念した」

 

成る程もっともだ。推力が増した分扱いは難しくなるだろうけど、素のグレイズのままだとこの先苦しくなるだろうし、少し尖った位の方が良いかもしれない。

 

 そして僕のグレイズはバルバトスとは別のクタン参型に格納する形で歳星を出発した。まさかクタン参型をもう一機貰えるとは、至れり尽くせりでちょっと怖い位だなあ。

 おやっさんは原作通りバルバトスを積んである方のクタンに乗っている。ハンマーヘッドとイサリビの航路データはテイワズに届け出がされているので、そのデータに従えば良いし操縦は三日月にお任せだと気楽な様子のおやっさんの声を通信越しに聴いて苦笑いせずにいられなかった。気い抜いてると後で大変だよ・・・。

 

 で、今のグレイズの機能を確認しながら移動して、やっとこさイサリビに追い付くという所で、イサリビのさらに前方に複数のエイハブ・ウェーブの反応をキャッチした。その内一つは波形パターンで昭弘のグレイズ改と解った。となると他の反応は・・・ブルワーズのマン・ロディだろう。

 

「おやっさん、このまま突っ込む」

「はあ!?おめえ何言って・・・」

 

 おおよその状況を把握すると、直ぐに三日月がクタン参型を加速させる。

 

「これのコントロール、そっちに返すね」

「ちょっ、待ておい俺は操縦なんて・・・ぐわあっ!!」

 

 そして速度を維持したままバルバトスをクタン参型から発進させ、昭弘(と多分タカキも)の救援に向かった。

 いきなりクタンの操縦を振られたおやっさんはうろたえているが、僕も今はおやっさんより昭弘達の救援を優先しなければならない。僕はグレイズをクタンから分離しないまま昭弘達の所へ向かう。昭弘のグレイズ改に接近したとき、ちょうどバルバトスがマン・ロディの胸部装甲の隙間に太刀の切っ先を突き込んだ所だった。

 昭弘の窮地は間一髪の所で三日月が助けた。しかしマン・ロディは他にもいる。未だ状況は危険なままだ。どうする?

 




こっちの話が進まなかったので鉄血のオルフェンズBlu-ray6巻買ったのにまだ観てません。とりあえず鉄血日和だけ見ましたが、毎回伊藤先生はやってくれますね。しかし、敢えて言うなら、折角フミタンの水着姿を描くんならもちょっと大きい尺で・・・いえ失礼。煩悩が漏れた。とりあえずフミタンやっぱりスタイル良いですね。
 今回でテイワズ編が終了、次回からブルワーズ編です。


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ブルワーズ編
ヒューマン・デブリ


 お待たせしました。久しぶりの戦闘回ですが、トウガ用グレイズは今回は太刀を使いません。クタン頼りの戦いになってます。
おかしい所ありましたら御指摘お願い致します。


 昭弘のグレイズ改にチョッパーを振り上げたマン・ロディはバルバトスにコックピットに太刀を突き込まれ、機能を停止した。しかし残った2機のマン・ロディの内1機がバルバトスに向かって接近しながら発砲、三日月は撃破した敵機を盾に銃撃を防ぐと太刀を抜いて敵機を蹴り飛ばす。銃撃してきた方の機体がこれに激突し、もう1機の方が激昂する仲間を諌めようと接触する。

 その隙に僕達は昭弘のグレイズを僕のクタンにしがみつかせて、敵から距離を取りつつ昭弘達の状態を確認していた。

 

「昭弘、大丈夫?」

「おう」

「三日月さん!」

「え?何でタカキが」

「昭弘さんと哨戒に出てたんです」

「そしたらあの丸っこいのに襲われたわけだね」

「そっちはトウガか?とにかく助かったぜ三日月」

 

 追撃に備え僕はクタン参型を展開して右手にグレイズのライフル、左手にテイワズから貰った散弾砲を装備する。更に防御の為両肩のシールドを前面に展開するとクタンを背部に接続する。

 

「昭弘とタカキは一度イサリビに戻って、殿(しんがり)は僕がする。三日月は伏兵に備えて昭弘達のガードを頼める?」

「俺が殿の方が良くない?」

「いや、僕が敵の指揮官なら伏兵に強い奴を入れる。三日月はそっちに対応してくれ、昭弘はあまり激しい機動が出来ないし」

 

タカキのMWには慣性制御が働かないから、昭弘が激しく動くとタカキがダメージを受けてしまう危険がある。

 

「あれはどうする?」

「あれ?」

「あ、おやっさん・・・」

 

おやっさんの乗るクタン参型は制御ができてないようで、通信を繋ぐとうめき声が聴こえてくる。

 

『ぐうおお~~た、助けろ~~・・・』

「ああ、まあ敵からは離れてるし、回収は後でも良いでしょ」

「鬼かよ・・・」

 

 頑張れおやっさん。とりあえず命の危険は無さそうだし、耐えてください。

 と、さっきの2機が追ってきた。

 

「来たよ!昭弘行って!三日月、昭弘とタカキを頼むよ!」

「ああ、頼む!」

「わかった」

 

バルバトスとグレイズ改がイサリビに向かう。そして僕は向かって来る2機のマン・ロディに向かう。

1機がチョッパーを手に持って下方に移動し、もう1機が手榴弾を手に取る。が、しかし。

 

「その戦法は知ってる」

 

僕はシールド裏の90ミリガトリングとクタンの機関砲を発砲、手から離れた直後の手榴弾に着弾し、煙幕が発生、敵機は自分の手榴弾の煙にまかれる。そしてもう1機は・・・

 

「煙幕で視界を封じて、その隙に回り込んで後ろからチョッパー、のつもりだったんだろ?」

 

クタンのアームのスラスターとシールド裏のブースターを吹かして反転、こちらに突っ込んでくるマン・ロディにライフル、散弾砲、ガトリング、機関砲を向ける。相手は機動修正を図るが、加速して勢いが付いているから反応は出来ても・・・。

 

「もう遅い」

 

 全火力による一斉射撃。装甲は耐えられても構造的に比較的脆い部分は無事ではあるまい、そしてクタンのアームで上方にカチ上げる。そしてライフルと機関砲をさっき手榴弾を投げた方のマン・ロディに発砲。けど距離があるので当たったのは僅か、しかもろくに効いちゃいない。

まあ、こっちは相手を仕留めるつもりも無し、足止め出来れば充分だろう。こっちに阿頼耶識が無くても、手の内が解っていればそれくらいはやれるさ。

 歳星を出てから機体のチェックだけしていたわけじゃない。この戦闘に備えて相手の取る戦法を記憶の中の原作知識を基に脳内でシミュレートしていた。特に今相手している二人、アストンとビトーの連携攻撃はよく覚えている。初見で避けられるのは三日月くらいだろうが、そう来ると知っていれば阿頼耶識が無くても対応出来る。

 

「阿頼耶識の有無が戦力の決定的な差では無い事を、君達にも教えてあげよう!!」

 

 スラスターを吹かして接近し、散弾砲とライフルで牽制、あちらが接近してくればチョッパーの間合いに入られる前にクタンのアームで叩き、としながら時間を稼ぐ。

 あっちには三日月がいるし、直にラフタさんとアジーさんも来るから、相手にグシオンがいても何とかなるだろう。そう考えて目の前の2機の相手に専念する。ついさっき偉そうな独り言を言ったが、阿頼耶識がある分あちらの動きが良いのは確かだし油断は出来ない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時間稼ぎ自体は失敗したわけでは無かった筈だが・・・予想が楽観的に過ぎた、という事だろうか。推進剤の残量が切れそうになった頃にブルワーズが撤退して、イサリビの格納庫に帰艦した僕はその事を理解せずにいられなかった。そこには先に帰艦したグレイズ改と装甲のひしゃげたMW、その中から降ろされたタカキの、内側が血まみれのヘルメットと、ダンテがインナースーツのファスナーを開くなり溢れだす血液。ライドが何度もタカキの名を叫ぶ・・・出来れば避けたかった、しかし起きてしまった惨状に一瞬目の前が真っ白になる。

 

 (バカ!パニクってどうする!!今やるべき事を思い出せ!!こうなる事も予測していただろう!!)

 

そう自分を叱咤して原作知識を基に考えていた対応を思い出す。メディカルキットはクーデリアが持ってくる、応急処置はメリビットがやってくれる筈、その先だ!

 

「手空いてる者は医務室の電源入れに行け!!ナノマシンベッドの用意!!それに消毒液と輸血パックも準備するんだ!!」

「「「え・・・?」」」

「急げ!!応急処置は出来る人間を待つしか無いだろ!!他の出来る事をやるんだ!!」

「は・・・はい!」

「あとタカキを運ぶ用意もだ!ストレッチャーも持って来い!!」

 

 僕が唐突に出した指示に皆は最初戸惑っていたが、理解すると慌ただしく動き始めた。ちょうどそこにメディカルキットを持ってきたクーデリアと、メリビットが入って来た。目の前に浮かぶ血に動きを止めてしまったクーデリアの手からメディカルキットを取り上げたメリビットが応急処置をして、タカキは医務室のナノマシンベッドに入れられた。

 それから暫くして、タカキの容態が何とか安定した頃にはずっとタカキのそばを離れずにいたライドもタカキの入ったベッドの脇で眠ってしまっていた。

 僕もオルガと一緒に付き添っている。タカキの怪我は僕にも責任あるし・・・。

 

「もう大丈夫ですよ、団長さん」

「う、ああ、その、今日は・・・助かりまし・・・」

「船医も乗せず惑星間航行をするなんて判断、団長さん失格じゃない?」

「!・・・」

 

メリビットの厳しい指摘にオルガは言葉に詰まる。言い訳しようと思えば出来るだろうが、オルガは立場と責任感からそれを良しとしないのだろう。空気が重い・・・。

 

「兄貴の所に行って来る。これからの事相談しねえと」

「ああ、うん、行ってらっしゃい」

 

 結局メリビットに対しては反論しないまま、オルガは医務室を出て行った。メリビットの言った事は至極正論だしな・・・けど。

 

「どうすれば良かったっていうんですか?」

「え?」

「まっとうな医者なんてろくに知らない、そもそもこの仕事の為にギャラルホルンを敵に回している僕達に、どうやって医者を連れて来れたっていうんですか?最初に地球までの案内を頼んだ業者だって僕達をギャラルホルンに売ろうとしたんですよ。僕達が知っている医者なんて、阿頼耶識の手術に失敗して働けなくなった子や戦闘や訓練中の事故で死んだ子の後始末しかしない闇医者くらいですよ。阿頼耶識の手術だって医者じゃ無くて1軍のロクデナシどもに力ずくで押さえ付けられて、麻酔も無しで有機デバイス埋め込まれるんですよ。そもそもまっとうな医者が、クリュセにどれだけいるか」

「それは・・・」

「CGSの時は今回のタカキ程の怪我なら、治療なんて受けられずにそのまま宇宙に放り出されてたかもしれない」

「そんな事・・・」

「このナノマシンベッドだって、僕達の為には使わせてくれやしなかったでしょう。そういう待遇が何年も当たり前で、その間に何人も仲間が見殺しにされて来た。オルガのお陰でやっとマシになったのは本当に最近なんです。確かにオルガはまだ至らない所があるんでしょう。でも僕達が今こうしていられるのはオルガが皆を引っ張って来たからなんです。アイツ以外に団長をやれる奴なんていない・・・オルガの至らない所を指摘してくれるのはありがたいですけど、アイツが団長失格なんて事、二度と言わないでください」

 

「随分と団長さんの事を信じてるんですね」

「CGSにいた大人の誰よりも責任感が強くて、優秀な指揮官でしたから。それに努力もしている」

「そう。でも大人ってね、努力しているからってミスしても許されるようなものじゃ無いのよ?結果を出さないと認めてもらえないの」

「オルガが今まで出してきた結果があるから僕達はオルガを信じているんですよ。至らない所があるのは承知の上でね。ここに来て何日かしか経ってない貴女にはまだ解らなくても仕方ないですけど・・・あー、いえ、別に言い争いがしたいわけじゃ無いんですよ?船医がいないのは確かに問題で、でも船医を乗せてくるなんて事考えられないような環境だったわけで、そういう事を解って欲しいというか」

「・・・ふう、わかりました。私も少し、言葉が過ぎたかもしれませんね」

「まあオルガも意地っ張りですし、メリビットさんの言う事を素直には聞けないかもしれませんが・・・宜しくお願いします」

 

 その後様子を見に来た三日月と一緒に医務室を出た。

 三日月から、戦闘中僕と別れてから何があったか聞くと、やはりあの後敵の攻撃を受けたという。三日月が他より一回り大きい機体(グシオン)の相手をしている内に他の敵の攻撃でタカキが捕まり、昭弘がそれを奪い返した所でラフタとアジーが駆けつけたのを見てか、敵は撤退したのだという。

 原作での三日月は殿を務めつつ、グシオン率いる部隊の襲撃にも対応していた。結局はグシオンに苦戦して残りの2機がタカキを負傷させてしまったわけだが、今回も結局は同じ事になってしまった。僕の行動は、過程を僅かに変えただけで結果を変える事には繋がらなかったわけか。

 考えてみればそういう事は今までもあったのだ。主にテイワズ関係の事は、僕が多少なりとも関与していながら大筋は原作通りに進んでいた。テイワズ関係の出来事は変わらない事を望んでいたしそれで都合の悪い事は無かったので気にしていなかったが、今回は同じようにタカキの負傷という部分がそこに至る過程は変化していながら結果は原作通りになってしまったわけだ。

 なら僕が目指す原作改変は無駄なのか?そんな筈は無い。間違いなく変わった事もある。ダンジは火星で元気にやってるというし、原作ではとっくに火星で死んでいるクランクさんは今も生きて捕虜扱いでイサリビにいる。鉄華団の戦力だって原作より少しは増している。確かに原作と違う事も起きているのだ。ならば僕の行動次第で未来を変える事は不可能では無い筈だ・・・。

 頭に浮かんでしまった不安を振り払いながら、タカキの様子を見ようと再び医務室に向かうと、途中でオルガと三日月に会った。

「オルガ、相手が何者か判った?」

「ああ、ブルワーズとかいう、海賊だってよ。クーデリアを渡せと言って来やがった」

「海賊・・・そういう事か」

「何がそういう事なんだ?」

「昭弘達を襲ってきたMS、反応が良くてさ、多分阿頼耶識使ってると思う」

「阿頼耶識だと?」

「それと連中のMS、スラスター推力と装甲の硬さ、いわば強襲に偏った性能だったけど海賊ならまあ納得出来る運用だな、と」

「成る程な。襲う相手の攻撃を装甲で防ぎながら突っ込んで仕留める、船相手ならブリッジを速攻で制圧しちまうわけか。確かに海賊らしいやり口だ」

「いやに硬いと思ったら、そういう使い方の為か」

「もしかしたら僕達がCGSでそうだったように、使い捨ての駒として無理矢理ヒゲを付けられてるのかもしれない」

「・・・そうか・・・」

 

 医務室に入ると昭弘がいた。

 

「バチが当たったのかもしれねえな・・・」

「バチがどうしたって?」

「お前ら・・・」

「昭弘、タカキの事を自分のせいだって思ってるなら、そりゃ違うぞ。あれは俺が指示を出したんだ」

「僕にだって責任がある。最初の2機に気を取られて後から来た敵に対応出来なかったのは僕の落ち度だ」

「あっ・・・あ、いや・・・」

「何からしくないな、昭弘」

「・・・・・・そうだな。らしくねえんだよ俺は。ヒューマン・デブリらしくねえ」

「何だそりゃ?」

 

 自嘲的、あるいは自虐的な昭弘の言葉にオルガが反応する。そして昭弘は襲ってきた敵に生き別れた弟がいた事を明かした。

 そして鉄華団を立ち上げてから今まで楽しかったという心情も吐露する。

 

「楽しかったから、俺がゴミだって事を忘れてた。ヒューマン・デブリが楽しくって良いわけがねえ。だからバチが当たったんだ」

「そっか、俺達のせいで昭弘にバチが当たっちゃったんだ」

「ん?・・・ああいや、そういうわけじゃ・・・」

「鉄華団が楽しかったのが原因て事は、団長の俺に責任があるな」

 

 昭弘割と重い話してたのに、さらりとこういう言葉が出るあたり、三日月もオルガも気が回るというか、勘が良いというか。

 

「いや、違う。俺が言いてえのは・・・」

「責任は全部俺が取ってやるよ。その昌弘って弟の事もな」

「何を言って・・・」

「お前の弟は、別に望んで俺達の敵に回った訳じゃねえんだろ?」

「それは、判らねえ」

「どのみち、お前の兄弟だってんなら、俺達鉄華団の兄弟も同然だ。なあ、そうだろお前ら?」

 

 オルガの言葉に昭弘が振り向くと、ユージンにビスケット、シノやライド、ヤマギにおやっさん、ダンテとチャドも・・・主要メンバーが勢揃いしている。

 

「あったりめえだろ!?」

「何の話かと思えばよお」

「水くせえにも程があんだろ!」

「だね」

「んじゃ、責任の取り方を皆で考えようか」

 

 オルガと三日月と僕には来たの見えてたけど、今まで昭弘に気付かれず会話にも割り込まず、揃いも揃って空気読め過ぎじゃない?

 

「お前ら・・・」

「ったく何をごちゃごちゃ言ってるかと思えば!」

 

 医務室内がにわかに賑やかになる。

 

「あ、あの~、煩くて寝てらんないんですけど・・・」

 

 あ、タカキの意識が戻った。真っ先に反応したのは昭弘と、ライドや年少の子達だ。

 

「タ・・・」

「タカキ!」

「「タカキさん!」」

「え?あれ?」

 

 自分の状態を把握出来て無いようで戸惑いの声を上げるタカキ。

 

「お~、気い付いたか!」

「良かった・・・」

「心配かけやがって!」

 

 皆が次々に安堵と歓びの声を上げる。さすがに騒ぎすぎと感じたのかメリビットさんが注意しようとしたが、野暮と思ったのか苦笑しながら言葉を打ち切った。

 その後僕はクタン参型に積んであった荷物から剣術の訓練用の道具を昭弘に手伝ってもらってトレーニングルームに運んでいる。

 

「ねえ昭弘」

「何だ?」

「さっき自分の事ゴミだって言ってたよね。多分さ、君の弟もそんな風に自分の事を思っているんじゃないかな」

「あ・・・?」

「ヒューマン・デブリって皆買われた先で虐げられて、そういう風に思うようになってしまうんだと思う。でもね、昭弘やダンテ、チャドが売られた時の値段が幾らだろうが、オルガや僕や三日月にとっては大事な、家族なんだからさ、自分の事ゴミだなんて言って欲しく無いよ」

「・・・けどよ・・・」

「皆の為にも、もう自分の事ゴミとか屑とか言わないでよ。皆で鉄華団をそんな事言わなくて良い場所にしていこうよ」

「皆の為に、か・・・」

「昭弘の弟もその皆の内に入れるように、僕も手伝うからさ」

「・・・ああ」

 そんな風に話しながら、トレーニングルームの中に道具の入ったコンテナを下ろす。

 

「よし、ありがとう昭弘。おかげで早く済んだ」

「おう、じゃあな」

 

 そう言って昭弘が出ていくのを見送ってから、コンテナの中から木刀を取り出す。

 

「さて、それじゃあやりますか」

 

 まずは素振りを二千回、慣れたら少しずつ回数増やしていこう。もっと強くならないといけないからな。これから先は厳しい戦いばかりだし。




 一応今回の戦闘について補足しますと、阿頼耶識使ってるマン・ロディ2機相手に渡り合えてるのは原作知識とクタン参型の推力と火力でのごり押しで何とかした、という感じです。楽な戦いではありませんでしたが、トウガが軽口叩いていたせいで伝わりにくいかも。
 あれです、NYで活動している某蜘蛛男がやたらおしゃべりなのは軽口叩いてないと精神的にキツいから。というのと似たようなものと思っていただければ。


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暗礁

 遅くなってすいません。仕事辞めて社宅から実家に引っ越したり、就職活動とか家の畑の手伝いとかでなかなか書くのが進まなくて気がつけば前回から二ヶ月経ってしまいました。再就職先の研修も終わって少し余裕出来てやっと投稿出来ました。



 ブルワーズと戦い、昭弘の弟、昌弘を奪還する。口で言うのは簡単だが、数の上では敵の方が上、質の面でもマン・ロディは阿頼耶識を使っている分手強いし、グシオンは阿頼耶識無しでも充分脅威だ。故にこちらは相応の策と下準備が必要なわけで・・・。

 

「トウガ兄ちゃん、LCSの受信機取り付け出来たよ!」

「どれ・・・うん、じゃあこれはヤマギに渡して、同じ様に他のも頼むよ」

「ハーイ!」

「トウガさん、弾頭の交換、とりあえず30発分出来ました!」

「うん、じゃああと20頼むよ。全部出来たら抽出してテストするから」

「はい!」

「ミサイルの弾頭、中身詰め替え全部出来ました!」

「それじゃあ、ヤマギの手伝いに回って」

「了解」

 

 僕はヤマギと年少組の子達数名の手を借りて今回の戦闘に使う武装の準備をしている。

 

「トウガさーん!MSの方、追加ケーブルの確認とFCSの調整お願いしまーす」

「えーと、10分待って!もうちょっとで切り上げるから!」

「はーい」

 

僕を呼びに来た子に返事して、ワイヤーを網状に編み込む作業の手を早める。

 そしてその作業を切り上げると格納庫のグレイズへ向かう。

グレイズの両肩には前回と同じくシールドブースターが取り付けてあるが、シールドの接続基部からバイパスする形でケーブルが繋がっている。肩のラックには通常シールドとバズーカのどちらかしか装備出来ないが、今回の作戦の為にシールドブースターを付けたままバズーカを使えるように改造を頼んでいたのである。

ケーブルをバズーカのコネクタに接続して機体のFCS(火器管制システム)もバイパスした状態に合わせて調整する。

 それにクタン参型とドッキング時の火器管制の方もだ。今回僕が使うクタンはウェポンプラットホームとして火器を多く搭載するので、その辺りは見直しが必要になる。

 今回の対ブルワーズ戦で僕は基本的には自由に動かせてもらえるように頼んである。まあ実際はオルガやアミダさんから必要に応じて指示が来るだろうが、僕の役目はブルワーズのロディフレーム機を可能な限り殺さずに無力化する事。これは僕から進言した事である。

 今回の作戦目的はブルワーズの制圧と昌弘の奪還、しかしブルワーズで不本意に使役されている子供は昌弘だけでは無い筈だと主張したのだ。結果、僕が無力化した敵機には三日月やタービンズの姐さん達は手出ししないかわりに、無力化されていない敵機を三日月達が撃破しても文句は言わないという約束事を決めている。戦闘が複雑化するため、本来ならこんなややこしい取り決めは良くないのだが、オルガと一緒に名瀬さんに頼み込んで呑んでもらった。

 大まかな作戦は原作通り、ブルワーズが仕掛けて来ると予想されるデブリ帯へクタン参型に格納状態のバルバトスと百里が先行。イサリビとハンマーヘッドが三日月とラフタさんの後ろから来ると考えるであろうブルワーズに側面から奇襲を掛けるというもの。この作戦自体は原作でも成功しているし、異論は無いが、ブルワーズ側のヒューマンデブリの子供達は出来れば死なせずにこちらで保護したい。無論こちらの犠牲を出さない事が優先ではあるが。

 グレイズの調整を終えてクタン参型の方に向かう途中、グレイズ改のコックピットで調整作業中の昭弘に声を掛ける。

 

「そっちの調子はどう?昭弘」

「ああ、問題無い、前に壊した所の修理も済んでるしな」

「うん、それは良かった。次の作戦、君が弟に接触出来るように僕達が他の敵MSは抑えるから。で、1つ忠告しておく。弟と話すときにね、新しい家族が出来たとか、そういう感じの事は言わない方が良い、特に家族って言葉は口にしないように」

「・・・何でだよ?」

「僕達はCGSを乗っ取って鉄華団を立ち上げて、タービンズに倣って組織内の仲間を家族だって言えるようになった。けど、君の弟は?海賊に使い捨ての駒扱いされている所に生き別れた兄貴が突然現れて、新しい家族が出来たって聞いたら・・・裏切られたと感じるかもしれない」

「な・・・何でそうなるんだよ!?俺は・・・」

 

僕の言葉に動揺してか、コックピットのシートから跳ねるように立ち上がる昭弘。

 

「ここで問題なのは今の昭弘の気持ちよりも、弟、昌弘がどう思うか。そうだな・・・少し前、CGSの時の事を思い出してみて。まともな人間扱いされず、理不尽に殴られたりして、自分はゴミ屑同然だと思っていただろう?今の昌弘もそうだとしたら?何処に行こうがどうにもならない、何処かで惨めに野垂れ死にするのがオチだって、昭弘の迎えに行くって言葉も諦めてしまっていたら?」

「それは・・・」

「そこに突然昭弘が迎えに来たって言っても、何を今更、と思うかもしれない。昭弘に新しい家族が出来たと知ったら、自分が辛い目にあっている時に、昭弘は良い目を見ていたのかって・・・」

「違う!俺は・・・俺は!」

 

激昂した昭弘にジャケットの襟首を掴まれる。追い込んでしまったかな。けど言うだけ言っておかないと。

 

「落ち着いて昭弘。わかってる。君だって辛い目に遭ってきた。それは僕もわかってる。けど、今まで何年も離れ離れだった昌弘が解ってくれるかどうかは別の話だ。腹が立つのはもっともだけど、それでもそういう可能性があると、理解して欲しい。言葉1つで誤解を招く事もある。言葉を尽くしても解ってもらえない事もある。たとえ兄弟でもそういう事があるから難しいんだよ」

 

「じゃあ、どう話せば良いってんだよ・・・?」

「ん~・・・ごめん、僕も正解は解らない。ただ家族って言葉は危ないかもってことしか言えないんだよ。その事は頭に入れておいて」

 

そう言うと僕は敵艦に突入するMWの準備をしているシノ達陸戦隊の方に向かう。こっちにも忠告しておく事がある。

 

「シノ!ダンテ!」

「おーうトウガ!どしたー?」

「敵艦に突入するんだろう?ちょっと気になる事があってね。多分艦内にはヒューマンデブリの子供達がいるはずだ。その子達には・・・」

「手を出すなってんだろ?解ってるよ、心配すんなって」

「無闇にガキを殺すような事しねえって、なあ?」

 

僕の言葉を途中で遮って皆まで言うなと言う風に他のメンバーを見るシノとダンテ。周りにいる陸戦隊のメンバーも無言で頷く。

 

「あ、うん、それは勿論だけど、それだけじゃ無いんだ。その子達に対しても武器を持っていないか確かめて、持っていたら武装解除させる事。ただ敵じゃ無い、大丈夫って言葉だけじゃ恐怖心や警戒心は拭えないと思う」

「考え過ぎだろ?」

「そうかもしれない、けど用心するに越した事は無いだろ?向こうからすればこっちは船を攻撃している側で、しかも武装しているんだから。中には昭弘みたいに親を殺されてヒューマンデブリにされた子もいるだろうし。そう言う過去の記憶とダブってパニックを起こす子だっているかもしれない。もしその子が銃を持っていたら乱射する可能性もある。避けられる危険は避ける努力をしないと。自分の為にも、仲間の為にも」

「お、おう・・・」

「頭には入れとくわ」

「頼むよ、全員無事に戻って来てくれるって信じてるから。それじゃ」

「アンタも気いつけろよー」

 

 シノの言葉に手を振って応え、グレイズのコックピットに戻るとハッチを閉める。調整が残ってるとかではなく、1人になりたいからだ。

 シノ達に言った最後の言葉は、多分嘘だ。本当は全員無事に、なんて無理だと思って、いや、知っているのだ。

戦いは非情だ。敵にも味方にも犠牲を、痛みを強いる。犠牲が出るのは敵側だけで、味方は全員生還なんて都合の良い事がある訳無い。実際原作ではブルワーズ母艦内の戦闘で、ヒューマンデブリの子供達に油断して撃たれた以外にも戦死者が出ている。

僕の忠告が効を奏したとしても死者ゼロという事はあり得ないと解っていても、ああ言わずにはいられなかった。全員の生還を信じてなんかいない、ただの願望を、信じるという綺麗な言葉で飾っただけだ。

 

「嘘、隠し事、腹芸・・・鉄華団に、僕程不誠実な人間はいないだろうな・・・」

 

少なくとも、鉄華団のメンバーには嘘が無い。見栄を張る事や、秘めた想いはあっても、仲間を欺いたりする者は1人もいないだろう。僕だけが、仲間に嘘をついている。隠し事をしながら、自分の思惑の為に皆を誘導するような事をしている。

 

「でもなあ・・・傍観者を気取って何もしないって事も出来ないし」

 

 もう僕は物語の視聴者じゃ無い。P.D世界に生きる1人の人間であり、鉄華団の団員の1人だ。そして三日月もオルガもビスケットもユージンもシノも昭弘も、一緒に戦い、生きてきた仲間、家族だ。家族を守るのに手段を選んではいられない。

 

「もう決めたんだ。皆が血を、涙を流すのを少しでも減らす。その為に出来る限りの事をする。独り善がりでも、卑怯でも、汚くても・・・いつか報いは受けるだろうけど、やる事をやり尽くすまでは絶対に折れない」

 

 気を取り直して、作業に戻る。やるべき事は多い、多分ギリギリまで掛かるだろう。

 結果、先に出撃する三日月を見送る暇も無く、準備も頭で考えていたように万全というわけにもいかなかった。

 

『これよりデブリの密集宙域に入ります。艦が大きく揺れる危険があるので、各員充分注意して下さい』

 

「おおっとまずい、急がないと」

 

 ノーマルスーツに着替えて格納庫に戻る途中で艦内アナウンスに少し焦る。本当はもうコックピットで待機していなければいけなかったのに。急いで格納庫に入ると機体の傍におやっさんが待っていた。

 

「おやっさん!」

「おう!急げトウガ!!お前が出られねえと後がつっかえちまうからよお!!」

「了解!!」

 

 グレイズのコックピットに飛び込むとハッチを閉じて機体を起動する。

「機体各部異常なし、武装確認よし・・・間に合った、何時でも出られる」

 

その数分後、ハンマーヘッド、続いてイサリビが敵艦の側面を突いての奇襲に成功、シノ達陸戦隊がMWで突入した。直後、モニタにオルガの顔が映る。

 

「よし、トウガ!先に出て昭弘の露払い、頼むぜ!」

「了解!トウガ・サイトー、グレイズ改、行きます‼」

 

昭弘に先駆けて発進すると艦外に固定されていたクタン参型とドッキングする。

「ドッキング完了。火器管制システムのマッチング、異常なし・・・っと、もう来た!」

アームに取り付けた本来はMW用の(対MSとしては)小型のミサイルランチャーを起動、両手にバズーカを保持すると接近する2機のマン・ロディに照準ををロックして発射する。

発射された弾頭はマン・ロディに着弾する手前で弾けてワイヤーネットを展開、それぞれマン・ロディの脚部と腕部に絡み付く。

 

「ち、ど真ん中とはいかなかったか。でも動きは鈍った!」

 

続けてアームの小型ミサイルランチャーを発射、ミサイルはネット弾の基部の発信器を追尾して着弾、内部に充填していた硬化ガスが着弾点を中心にマン・ロディの機体表面に固着して動きを封じる。

ちょうど後方から昭弘のグレイズ改が来た。そしてアミダさんとアジーさんの百錬も前に出て来る。

 

「昭弘、露払いは僕とアミダさん達に任せて!」

「急げ!昭弘!」

「ああ!!」

 

 昭弘は昌弘の機体の反応を追って行く。僕はさっき動きを封じたマン・ロディのまだ動ける手足にだめ押しで散弾砲の小型ネット弾を撃って完全に無力化出来たのを確認すると2機を背中合わせの形でワイヤーで縛った上で露出している頭部に手を当てて接触通信を図る。

 

「くそっ!何なんだよこれ!?動け、動けよおっ!!」

 

 聴こえてくる声はやはり子供の物だ。僕は出来るだけ穏やかに声を掛ける。

 

「大丈夫だ、僕達は君達を殺したいわけじゃ無いんだ。しばらく大人しくしていてくれ。後で迎えに来るから」

「っ!・・・何を・・・」

 

 相手の戸惑いを含んだ声が聞き取れるが長々と話してはいられない。イサリビにグシオンと5機のマン・ロディが向かっている。

 

「あいつら、艦に!」

「俺が行く」

「僕も行きます、すぐ戻りますんで!」

「アタシはハンマーヘッドの直掩に付く。ラフタ、アジー、昭弘を頼んだよ!」

「ラジャー」

「まっかせて!」

 

本当は僕は昭弘のフォローに専念するべきだが、三日月に任せると容赦無くマン・ロディのパイロット達を殺してしまう。三日月は昌弘は殺さないようにするが他のパイロットは気にしてないからな・・・。

 グシオンがイサリビに接近してバスターアンカーを撃ち込む。装甲の厚い正面だから深刻なダメージは無い筈だが。グシオンを追う三日月のバルバトスに接近するマン・ロディにクタンに装着している2門の滑腔砲を撃ち込み、体勢を崩した所にネット弾と硬化ガスミサイルを発射、マン・ロディはイサリビの装甲に張り付け状態になった。

 その後もう1機のマン・ロディを無力化すると、昭弘の方に急ぐ。

 昭弘の所へ着くと、昭弘のグレイズ改がマン・ロディに組み付いた状態で動きを止めていた。やはり昌弘の説得に難航しているのか・・・。

 そこにグシオンがハンマーを手に接近する。狙いはやはり昭弘か!装備している火器を一斉に発射する。だが止まらない。ネットを受けても意に介さない。

 

「くそっ・・・こうなったら、一か八か・・・!!」

 

クタンのブースターを全開にして昭弘達とグシオンの間に割り込む。グシオンを舐めていた。あの程度の小細工で止まる相手じゃ無かった。見た目はアレでもガンダムなのだ。

迫るグシオンにクタンのアームを突き出す。

 直後、激しい衝撃が僕とグレイズを襲った。

 

 

  

 

 




 一応補足しますと、トウガがイサリビに張り付け状態にしたマン・ロディは原作で三日月のバルバトスにメイスで潰されたおかっぱ頭の少年兵の機体です。それとビトーは原作通りに死んでます。南無。
 硬化ガスとはなんぞや?と思われる方いると思いますので簡単に説明しますと、密封したタンクから放出されるとガス状から硬化する・・・という感じの物です。元ネタはクロスボーンガンダムに登場するトトゥガという敵MSの武装というか装備でして、本作では似たような代物があったという事にしています。

 もうすぐオルフェンズ二期が始まりますね。本当は二期が始まる前に一期最終話まで行きたかったですが・・・今回がかなり遅くなってしまいました。しかしアルスラーンと七つの大罪は放送期間短すぎなんじゃ・・・。
 あと外伝の月鋼に、鉄華団が鹵獲して売却したグレイズの改造機が登場していてちょっと驚きました。


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葬送

 無念・・・活動報告で宣言した今週中には間に合いましたが、個人的には今日の放送前までに更新したかった。
昌弘については上手くまとめられませんでした。すいません。
 あと余談ですが来週から始まる3月のライオン、主役の河西さんはじめ、オルフェンズ出演キャストが結構多くてびっくり。河西さんは三日月以外はあまり(ジョジョ3部にちょっと出てたくらいしか)知らないので観てみようかな。猫もかわいいっぽいし。
ってあれ?櫻井さんが主人公の担任役?(声的に)マッキーがミカの担任・・・?いかん、オルフェンズのキャラで学園ものとか妄想してしまった・・・。


「トウガ・・・っ!?」

 

後方から接近して来るグシオンに反応が遅れ、しまった、と思ったその瞬間。自分とグシオンの間に割って入った機体に昭弘は驚いた。その機体、トウガの青いグレイズ改はドッキングしているブースターの推力で自分の後ろ、グシオンの前に強引に割り込むと正面からぶつかった。否、自分の盾になったのだという事はすぐに理解出来た。

 

「はは・・・ほら兄貴、アンタの仲間が1人死んだよ。いずれ俺もアンタもああなるんだよ」

「くっ・・・昌弘、お前・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「っ・・・はっ!」

 

 あっぶなっ!衝撃で一瞬意識トびそうだった!慣性制御が追い付かなかったんだな。急いで状況を確かめる。クタンのアームを前に出していたからか、グレイズ本体のダメージは軽微だ。

 

「けぇ~っ!さっきからチョロチョロと邪魔くさい!あの白いヤツといい、本当にうっとおしいネズミだよ!」

 

 接触通信で聞こえてくる声。正面モニタには、ひしゃげたアームを押し退けてこちらに手を伸ばそうとするグシオンの姿。

 

「まあいいわ。コイツを人質にして・・・」

「冗談じゃない!」

 

 腰の右側サイドアーマーに懸架しているショートスピア(アミダさんの百錬に壊されたバトルアックスの柄を削って作った即興品)をグシオンの腕装甲の隙間に突き込むと、両肩のガトリングをグシオンの頭部に向けて発射する。

わずかに怯んだ隙にアームを切り離して距離をとり、ブースターに固定してる滑腔砲2門同時発射で牽制する。

そこに三日月のバルバトスが太刀を手にグシオンを追って来た。バルバトスの斬撃をかわすとグシオンはこの場から離脱する。

 

「三日月!昭弘はまだ動けない、アイツを抑えるの手伝って‼」

「うんわかった。・・・別にアイツは殺(や)っちゃっても良いんでしょ?」

「え・・・ああ、構わない」

 

 僕も左側のサイドアーマーから太刀を抜くと三日月と一緒にグシオンを追う。

 グシオンの姿を捕捉すると滑腔砲を射つが、遠距離射撃は脅威でないと見てか、回避行動をとる様子は無い。反転してハンマーを両手で握ってこっちに突っ込んで来た。

何とか回避出来たが・・・小回りが利かない。クタンのサブスラスターはアームに内蔵されてたから、切り離した今は推力が直進に偏ってしまっているんだ。滑腔砲も残弾が少ない。切り離して機体背部のスラスターに切り換える。うん、こっちの方が動きやすいな。

 スラスターを噴かしてグシオンに接近し太刀を左下から右上へと斬り上げる形で振るうと、グシオンの胸部装甲に薄く傷が出来た。一歩、いや半歩分程間合いを詰めきれなかった?

 三日月がグシオンに斬りかかる。装甲を斬るのは難しいと踏んでか、間接やカメラアイ等、装甲で守れない部分に狙いを絞ったようだ。上手くダメージを与えている。

僕はもう一度、グシオンの胸部装甲を狙って太刀を振るう。

 斬る事は不可能では無い筈、太刀の鋭さ、強度に不足は無い。太刀を振るうモーションパターンは先生の動作をトレースしたものが組み込まれている。なら問題は僕の方、間合いの取り方、タイミングだろう。

 

「これならどうだ!?」

 

さっきより少しタイミングをずらして振るった太刀はグシオンの胸部にさっきより深い傷を付けた。もう一度振るうと、少し浅いものの更に傷が付く。

 そこに三日月の攻撃がグシオンの腕を捉え、ハンマーを弾きとばした。

 

「よし!」

「こいつの使い方、解ってきた」

 

 僕もコツが掴めてきたみたいだ。三日月が装甲の隙間を、僕は装甲を狙って斬りつける。傷だらけになっていくグシオン。

しかしただやられっぱなしでも無い。バルバトスの太刀を腕で受けたグシオンがバルバトスの腕を掴む。

 

『クソッ!ふざけんなよ‼オマエら楽しんでるだろ!人殺しをよお!!』

「はあ?」

「寝言は寝て言えよ」

 

 そう言うお前は弱いもの虐め大好きマンだろ。グシオンの頭に蹴りを入れると、三日月もグシオンを蹴って離脱する。クダルの暴言は言い掛かりも良いところだが、三日月の口からは否定の言葉は無い。少なくとも僕は楽しんでいるつもりは毛頭無いし、三日月もその筈・・・だよな?原作知識込みで三日月の心情は読み取るのが難しい時があるから・・・。

 グシオンは苦し紛れにバスターアンカーを射つ。しかし本来対艦攻撃用の火器であるそれはMSに使うには大振りというか、回避し易い。三日月は手近なデブリを盾にして防いだ。更に別のデブリを投げつけて出来た隙を突いてグシオンの胸部装甲の傷に太刀を突き立てた。

 

「まあいいか、コイツは死んで良いやつだから」

 

通信越しに聴こえた三日月の呟きに寒いものを感じながら、僕はパージした装備の回収に回る旨を三日月に告げてその場を離れた。

 ブースターや武器を拾ってから昭弘の所に戻ると、ブルワーズの母艦制圧が完了したらしく、昌弘の機体と他に2機のマン・ロディがラフタの百里とアジーの百錬に促されて武装解除していた。

 

「昭弘、話はついた?」

「あ・・・いや、まだ・・・」

 

どうやら昌弘を納得させられないままだったらしい。

 

「そうか、まあ、これから時間はとれる。落ち着いてからゆっくり話せばいいさ」

 

そう言ってから、昭弘と別れて先にイサリビに戻ると、通信でオルガに同行する旨を伝え、手早く着替えると刀を持ってオルガと一緒にランチでブルワーズの母艦に向かった。

 

「ダンテ!」

「団長・・・トウガも一緒か」

 

オルガに呼ばれたダンテがこちらに顔を向けた。僕を見て一瞬表情に陰りが差したようだけど、今はそれよりも、だ。

 

「これで全部か?」

「ああ・・・団長、こいつら・・・」

 

そこにはブルワーズの少年兵の生き残りが集められて座り込んでいる。人数は20人くらいか。原作だと10人程だったけど、その倍の数が生き残れたのは幸いだ。オルガはダンテの肩を叩くと警戒する少年達に近付き、しゃがみこんで声をかける。

 

「火星は良い所でもねえが、ここよりはマシだぜ」

「え?」

「本部の経営も安定してきたしな。飯にもスープが付くし、毎日とはいかねえが新鮮な野菜も食える」

 

オルガの言葉に、一番手前に座っている、頬に傷痕のある少年、アストンが怪訝な顔をする。

 

「兄貴に話はつけてある。コイツらはうちで預かる」

「団長・・・」

 

少年達は「預かるって・・・?」「どういう事だ?」と口々に戸惑いの声を上げる。

 

「どうして・・・」

「ん?」

「俺達はさっきまでアンタ達とやり合ってた。なのに・・・」

「それが仕事だったんだろ?なら仕方ねえ。それとも、お前らやりたくてやってたのか?」

「違っ・・・くっ、俺は今まで何も考えて来なかった。自分じゃ何も・・・だって俺達は・・・」

 

 アストンの悲痛な言葉にダンテやチャドの表情が曇る。彼らも同じ、上の命令に服従するしか無い立場だったからだろう。

 

「ヒューマン・デブリ。宇宙で生まれて、宇宙で散る事を怖れない、誇り高き、選ばれたやつらだ。鉄華団はお前達を歓迎する」

 

 オルガの言葉にアストンもデルマも、他の子供達も泣き出す。

それを横目に僕はチャドに持っていた袋を差し出す。

 

「これは?」

「歳星で買っておいたチョコレートの詰め合わせ。泣き止んだら配ってあげてよ。甘い物は気持ちを落ち着かせる効果がある。それに、見たところ満足に飯も食べさせてもらってないみたいだしさ」

「ああ・・・ありがと、な」

「この子達に僕が出来る事は今はこれくらいだからね。オルガには敵わないけどさ」

 

 オルガは彼らの心に救いをもたらしたと言えるだろう。僕のはほんの些細な施しに過ぎない。

 

 

「さあて、キッチリ賠償金を払って貰おうか、ブルック・カバヤン?」

「・・・名瀬・タービン・・・!」

 

ブルワーズ母艦のブリッジ。その艦長席に座る名瀬さんの前には、その席の本来の主だったブルワーズの首領、ブルック・カバヤンが床に座らされ、忌々しげに名瀬さんを見上げている。

 

「何が所望だ?兄弟?」

「そうですね・・・艦一隻とMSを全部」

「はあっ!?おい、そりゃ吹っ掛けすぎだろ・・・うっ!」

 

オルガの要求に不満を漏らすブルックの襟首を掴みオルガが睨みをきかす。

 

「不満ならアンタの肉を切り売りしたって良い。脂肪が多すぎだろうが、犬の餌ぐらいにはなるだろ」

「ヒッ、ひぃ~っ」

 

 折れたな。けどそれだけじゃちょっとね・・・。

 

「オルガ、それじゃあちょっと足りないよ。他に取っとかないといけない物がある」

「あん?」

「情報だよ。・・・ねえ、ブルックさん。アンタ、何でクーデリアの身柄を狙ってきた?誰の差し金?」

「うっ・・・それは・・・」

「アンタらごときがクーデリアの身柄を確保したって、それで利益を得るような手管は無い。あったら海賊なんかやってないでしょ?加えてテイワズ直参の名瀬さんに上から目線で喧嘩売るからにはテイワズが怖くない程のデカイ後ろ盾がいるって事になる。その後ろ盾がクーデリアを欲しがってるんじゃないですか?」

「・・・」

「図星みたいですね。加えて推測だけど、その後ろ盾も、クーデリアを確保するのが条件って所かな。アンタが今強気に出られないのがその証拠だ」

「ぐぬぬ・・・その通りだよ!ギャラルホルンがバックに付いてくれりゃ怖いもん無しだ。そうなりゃ好き勝手に暴れられる筈だったんだ!」

「ギャラルホルンだと!?」

「成る程な・・・デカいバックが付いたかとは思ったがギャラルホルンとはな。道理でえらく上から目線の物言いだった訳だ」

 

 ギャラルホルンの名が出た事に驚くオルガと名瀬さん。僕は原作知識で知っていた事だが、これでこの情報は僕が知っていてもおかしく無い事になったわけだ。

 

「ギャラルホルンの人間が、直接アンタらに接触してきたんですか?」

「・・・んなわけねえだろ。使いだってちょび髭の男が接触して来たんだよ。お前らの行く航路のデータと、結構な額の前金を受け取った。女1人かっさらうだけで前金の倍の報酬とギャラルホルンの後ろ盾が手に入るとなりゃ、そんなボロい仕事受けねえ馬鹿はいねえだろう?へへ・・・ぶぎっ!」

 

 そう言ってニタニタ笑うブルックにムカついたので、つい刀の柄尻をブルックの鼻っ面に叩き込んでしまった。豚みたいな見た目に違わぬ豚のような悲鳴を上げるブルック。

 いけないいけない。感情まかせに無抵抗の相手に暴力振るうのは卑劣な行為だし、刀の柄に鼻汁が付いてしまった。汚いなあ。

 

「と、いう事だけど、どうするオルガ?」

「賠償金の内容は変わらねえ・・・ああ、艦1隻とMS全部って言ったが、MSは武器弾薬やナノラミネート装甲の塗料なんかも併せて全部だからな。間違えるんじゃねえぞ」

「げえっ!?・・・ぬあ~っ!畜生、わかったよ!」 

 

そうして話がついたという事で、この後について話す為ハンマーヘッドの応接室へ移動する。ビスケットとユージン、シノにおやっさんも合流した。僕の顔を見てシノは沈痛な面持ちで、

 

「すまねえ・・・」

 

と謝ってきたので、陸戦隊のメンバーにやはり死者が出てしまったのだと察しがついた。

 

「今回の件、意外な裏が判ったがまあ予定は変わらねえ。これからコロニーへ向かう」

「ブルワーズの所有する資産は艦2隻、修理可能なMSが10機、といった所ですね」

「ああ揃いも揃って異常な程装甲が分厚いMSばっかだ。ま、中身は無事なのが多いがな。特に、あのグシオンなんてのは出物だぜ」

「どうします?そのMSは鉄華団で維持を?」

「そうだな・・・」

「賛成、あれはうちで使うのが良いと思う」

「何でだよ?売却して資金の足しにするのも有りだろ?」

 

 僕の意見にユージンが疑問の声を上げる。

 

「あれは金に換えてしまうには惜しいくらいに貴重かつ強力な機体だよ。厄祭戦を終わらせた最強のMSの一機。バルバトスの兄弟みたいな機体だしね」

「は?兄弟?」

「あれ、着ぶくれしてるしフレームにも手が入ってるみたいだけど、基はバルバトスと同じガンダム・フレームだよ。つまりバルバトスの予備パーツの流用が利くし、阿頼耶識で動かす前提で設計された機体だからうちの戦力にはうってつけだ。僕はあれを昭弘に使って欲しいと思ってる」

 

 原作通りにね。と内心で考えながらグシオンの運用を主張する。

 

「そういえば、昭弘はどうしてる?」

「部屋で弟と話してるみてえだ。ずっと離れていた上に再会したら敵同士だったんだし、色々あんだろ・・・」

 

 簡単にはいかないよな。理屈じゃない気持ちの問題だし。

 

「ああそうだ。出発前に、今回の鉄華団側とブルワーズ側両方の死者を弔うために、葬式をしたいんだけど」

「葬式?」

 

僕の提案にオルガが怪訝な顔をする。原作だと昌弘の件からメリビットさんが提案してたけど、この流れだとそうならなそうだから僕から提案する。

 

「良い考えだと思いますよ。私の産まれたコロニーでも、死者はお葬式で送り出すの。魂がきちんとあるべき場所へ戻れるように。そして無事に生まれ変われるように」

「なんすかそれ?うさんくさ」

 

僕の提案に賛成するメリビットさんにオルガが気に入らない態度で返す。

 

「良いじゃねえか。葬式ってのは昔は重要な物だったらしいぜ。葬式を挙げる事で、死者の魂が生きてた頃の苦痛を忘れるなんて話もある」

「それにブルワーズのヒューマンデブリの子達を受け入れるなら、彼らの死んだ仲間も弔ってやるべきだと思うんだよ」

 

 殺した側の僕達がそんな事をするのは偽善かもしれないけど。

 

「でも・・・」

「俺やりてえ。少しでもあいつらが、痛みを忘れられるなら、葬式やりてえ」  

「シノ・・・」

「そうと決まりゃあ、俺らも手を貸すぜ」

 

 結局はオルガが折れるような形で葬式を行う事が決まり、鉄華団のメンバーは準備の為イサリビに戻る。オルガは不満そうだが、メリビットさんに任せてしまおう。

 ダンテから聞いたところ、ブルワーズ艦制圧の戦闘で陸戦隊に死者3名、負傷者2名の被害が出たらしい。

 

 そして、イサリビの艦首上部に、鉄華団のメンバーと名瀬さんにアミダさん、ブルワーズから引き取った子供達が集まっている。

 

「こうやってここに立つってのは妙な気分だな・・・っておい、何でそのオッサンも連れて来てんだよ?」

 

 僕の隣にクランクさんが立っているのを見咎めたユージンが僕に訊いてくる。

 

「いやまあ、作業を手伝ってもらったついでというか・・・クランクさん、お願いします」

「ああ」

 

クランクさんが抱えている布包みを解く。

 

「何だそりゃ?」

「花・・・?」

「鉄板やワイヤーの切れ端を継ぎ接ぎして作った、鉄の花だよ。花でもあればっておやっさんが言ってたから造花でもと思って」

「オメエもちったあ考えた訳だ」

「一応、言い出しっぺなもんで」

 

そうおやっさんに返す。けどカプセルにはもう一杯だし、花が少し大きいから入らない。仕方が無いのでカプセルに入れずに宇宙に流す事にしてカプセルを閉じる。

 

「よーし、じゃあ始めっか。オルガ!」

 

名瀬さんがブリッジのオルガに声をかける。ブリッジにはオルガとチャド、ライドと回復して歩けるようになったタカキ、それにアトラにメリビットさんやクーデリアとフミタンもいる。

 

「よし、皆祈ってくれ。・・・死んだ仲間の魂が、あるべき場所へ行って、そんでもって、きっちり生まれ変われるようにな」

 

 オルガの言葉に応じて皆目を閉じて祈りを捧げる。

そして宇宙を流れて行くカプセルと鉄の造花。

 

「弔砲用意・・・射て」

 

 弔砲が2発上に向けて射たれ、宙で弾けるように青白い花を咲かせた。

 

「ああ・・・これは・・・」

「すっげー綺麗!!」

「花咲いた、花!!」

 

 宇宙に咲いた氷の花にはしゃぐ年少組の子供達。

おやっさんの方を見ると、ユージンにヤマギのアイディアで水素を使って細工したのだと説明している。

 

「消える・・・」

 

 氷の花はほんの僅かな時間しかその輝きを保てない。子供達はずっと咲いていれば良いのにと惜しんでいる。

 

「儚いものだな・・・」

 

 クランクさんがそう呟いた。

 

「生まれ変わりとか、そんなのデブリの俺達には関係無いのに」

「おい昌弘・・・」

 

昌弘が呟いたのを、アストンが諌める。

 

「そんな事ねえよ・・・何時か死んじまっても、また生まれ変わって、そんで帰って来るんだよ。俺達の家に」

「兄貴・・・」

「今はここが、鉄華団が俺達の家だ。俺達で護っていくんだ」

 

 

 式が終わると事後処理の為に再びハンマーヘッドの応接室へ。今度は三日月も一緒に来ている。

 

「では、これで売買手続きは完了ですね」

「おう、お疲れ」

「ありがとうございました・・・その、鹵獲品の事だけじゃなくて・・・葬式の事も・・・」

「気にすんなよ兄弟、じゃあな。・・・アミダ」

名瀬さんは立ち上がると隣のアミダさんの腰に手を回し・・・僕らがいるのも構わずキス、それもディープなのを始めた。

 うわあ、生々し過ぎる!

 

「・・・ちょっ、何いきなりイチャついてんすか!?」

 

 ユージンが驚きと困惑の混じった声を上げる。全くですよ、せめて僕らが退室してからにしてください!

 

「ん?知ってるか?人死にが多い年には、出生率も上がるんだぜ」

「はあ?」

「子孫を残そうって判断すんだろ。そうすっと隣にいる女がめちゃくちゃ可愛く見えてくる」

「可愛いのはいつもだろ?」

「そりゃもちろん。いつも以上にさ」

 

 アミダさんとそんなやり取りの後再びディープなキスを再開する。だから僕らが退室してからにしてくださいよ!

 

「な・・・成る程・・・」

 

 ビスケットが赤面しながら呟く。いや成る程じゃない!

 

「か、帰るよ皆!お邪魔しちゃ悪いし!ほらオルガ!」

「お・・・おう。それじゃ、失礼します」

「失礼しまーす!」

 

 慌ててオルガ達を促して退室し、イサリビに戻るのだった。  

その後、イサリビの通路を歩いていると。

 

「あれ、フミタン?クーデリアさんは一緒じゃないんですか?」

「御嬢様は少し、思う所があるようですので」

「はあ・・・ああ成る程」

 

 そういえば三日月のキス事件があったっけ。

 

「フミタン、服が濡れて・・・というか汚れてますけど・・・?」

「ええ・・・先程少し、年少の子が泣いていたもので」

「ああ、慰めてくれたんですか?それはありがとうございます」

 

 そうか、子供の涙とか鼻汁が付いちゃったんだな・・・。

 

「大丈夫ですか?服もですけど、その、何て言うか・・・」

「ええ、お気になさらず。私、子供は嫌いでは無いですから」

 

 そう言ったフミタンの顔には柔らかい笑みが浮かんでいて・・・ハッ?い、いやいや何を考えているんだ!?嘘だろ、フミタンが、可愛く見えるだと・・・!?いや美人には違い無いけど、可愛いは違うだろ。第一フミタンはノブリスのスパイであって・・・それにいつもは無表情なのに何でそんな表情・・・。

 

「どうかしましたか?」

「っ!?い、いえ、何でも、何でもありませんよ?大丈夫です。もう休みますから、失礼します」

 

 そう言って、逃げるように部屋に帰った。

 おかしい。これはおかしい。きっとあれだ。名瀬さんとアミダさんのディープキスにあてられているんだ。あんな生々しいの見ちゃったから影響受けちゃってるんだ・・・。

 うああ、こんなの想定外だ、どうしよう・・・。

 

 

 

 




 えーと、今回の最後の所、恋愛描写とか初めて書くんで自信ありません。あんな出来でも書いてて超恥ずかしかったです。
 これでブルワーズ編終了、やっと1クール分終わりました。
次回からコロニー編に入ります。
あ、そろそろリベイク買わなきゃ。


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コロニー編
希望を運ぶ船


 AmazonでオルフェンズのBlu-rayを買おうと思ったら・・・・三丁目のおるふぇんちゅ、だと?何これ超かわいいんですけど!
アニメージュに連載されているんですね。
 設定良くみたら、三日月達鉄華団はクマネズミ、マッキー&ガリガリが猫(マッキーが雑種な辺り細かい)、アインがモルモット・・・アインがモルモットて、ブラックなネタが入ってるなあ。


 イサリビの格納庫で、ヤマギにマン・ロディからグレイズ改への阿頼耶識の移植をしてもらい、テストをしている。まずは志願したシノが試している所だが・・・。

 

「ぐぅはっ!・・・」

「大丈夫!?」

「ああ。しっかしこりゃキッツいなあ・・・」

 

 厄祭戦後に造られた新しい機体で、阿頼耶識を使わない前提で完成したシステムを持つグレイズに阿頼耶識を組み込むのは簡単にいかないようだ。脳へのデータのフィードバックが最適化出来て無いのか、シノは顔をしかめている。

 

「やっぱり無理なのかな・・・ブルワーズが使ってた阿頼耶識システムをこいつに組み込むなんて」

「諦めんなよ、ヤマギ」

「でも・・・」

「テストだったら何度でも付き合ってやる。俺だって欲しいんだよ、護れる力ってやつがよ」

「シノ・・・」

「大丈夫、きっと上手くいくよ。テストだったら僕もいるからさ」

「でも、トウガさん・・・なんかダルそうに見えますけど」

「ああ、ちゃんと寝てんのか?」

「え?あ~、大丈夫、ちょっと寝付けなかっただけだから」

 

 言えない・・・フミタンの事が気になって眠れなかったなんて、恥ずかしくて絶対言えない。何でこんな・・・。

 

「それはともかく、僕も阿頼耶識が使えればもっと上手く戦える。そうすれば・・・」

 

 そうすれば、もっと太刀を巧く扱えるようになる筈だ。

グシオンと戦った時は装甲に傷を付ける事は出来たがフレームまでは斬れなかった。まあグシオンの時はそれで良かったのだけど。

 原作1期最終話で三日月とバルバトスが実現した装甲ごとMSのフレームまで断ち斬る剣。それが戦闘面での当面の目標だ。

 

「まずはシノに合わせた調整をして、それを基に僕に合わせた調整をするのが良いのかな?」

「そうですね・・・トウガさんに最適化した調整だと、シノには負荷が大き過ぎるだろうし」

 

僕は阿頼耶識の手術を2回受けているが、シノは1回。その分受け止められる情報量の限界には差があるからな。

 グレイズ改の改修は阿頼耶識の移植だけでは無い。タービンズから提供してもらった百錬のパーツを使って推力を強化する予定だ。

それとブルワーズからの戦利品のナノラミネート塗料に赤系の色があったので、シノがリペイントを希望。原作通りの流星号になるだろう。僕のグレイズ改も一部をリペイントする予定だ。

 

 グシオンについては、改修はコロニーに着いてからとなる。先に原作知識を利用してリベイクの改修プランを大まかではあるがまとめてタービンズに送ってあるので、原作よりわずかでも早く改修が終わる事を期待したい。

 バルバトスの予備パーツを流用し元のグシオンの装甲をバックパックやシールドに転用、バックパック内部にグレイズの腕パーツを流用したサブアームを内蔵、遠距離射撃に適した高感度センサーの頭部への搭載等・・・ラフタは今のグシオンの着膨れた姿と改修後(リベイク)予想図のフォルムのあまりの違いに首を傾げていたが。

 

 コロニーへの到着が迫った頃、僕は独房のクランクさんに頭を下げていた。

 

「貴方は鉄華団の人間でもなく、また虜囚の身を強いておいて勝手なのは承知していますが、力を貸していただく、お願いします」

「頭を上げてくれ。・・・事情を説明してくれるか?仲間では無く俺を頼るのには理由があるのだろう?」

「はい。コーラル・コンラッドにクーデリア殺害を唆した黒幕、ノブリス・ゴルドンがこれから行くドルトコロニーに罠を仕掛けています」

「コーラルを動かした奴が判ったのか!?」

「ええ。ノブリスはクーデリアの支援者でありながら、裏でクーデリアがギャラルホルンに殺害される状況を作ろうとしているんです。それを火種に火星の独立運動を過激化させて、乱れた治安を利用して利益を得る腹積もりのようです」

「その為の駒がコーラル、そしてその命令で動いた俺達だったのか。治安を維持するどころか治安を悪化させる片棒を担がされていたとは、情けない話だ」

 

 ため息混じりに自嘲するクランクさん。

 

「火星で失敗して、次はコロニーというわけです。ドルトコロニーでは今、劣悪な待遇の改善を求める労働者達が抗議のデモを起こそうとしています。ノブリスはその労働者達に武器を流して暴動を煽り、クーデリアをその首謀者に仕立て上げようとしているんです」

「どうやってクーデリアを首謀者に仕立てるというんだ?」

「それが・・・今僕達が依頼されてドルトコロニーに運んでいる荷物、工業資源と聞かされていたのが嘘っぱち、実際は戦闘用MWや武器弾薬だったんです」

「なんだと!?」

「僕達もノブリスに嵌められたんです。送り主のGNトレーディングという会社、ノブリスの会社だったんですよ。おそらく鉄華団が荷物を降ろした頃にギャラルホルンの部隊が来るようにノブリスの部下が通報する、そこに居合わせた鉄華団とクーデリアは不穏分子としてギャラルホルンに始末される。そうしたらノブリスは火星の独立運動家にクーデリアとその護衛の鉄華団の死を喧伝して煽るつもりなんでしょう」

 

 革命の乙女とそれを護る若き騎士団なんて、気取った言い回しをしてくれるよ全く。

 

「本当なら預かった荷物の中身を覗くなんて御法度です。現時点でこの事を知っているのは僕だけで、情報元が訳ありで団長や他の仲間に話す事も出来ないんです」

 

 情報元って原作知識だからなあ。

 

「ぬう・・・それでどうするつもりだ?」

「クーデリアは荷物の搬入先のドルト2では無く、高級住宅街やショッピングモールのあるドルト3に買い物に行くように仕向けます。そちらにもノブリスの手先がいる可能性はありますし鉄華団本隊と別行動になりますから護衛が必要になります。それを手伝って欲しいんです。貴方を同行させる理由は上手くでっち上げますから」

 

実際は原作通りならクーデリアは自分からドルト3に行きたがる筈だけど。

 

「良いのか?仲間を欺く事になるのでは無いか?」

「覚悟の上です。彼らの為に必要な事を躊躇う方が裏切りだと思っています」

「・・・判った。お前に任せる。コーラルを操っていた輩の企みなら、俺にも無関係でもないしな」

 

 

 そして

 

 

「皆さんがドルト2でお仕事をしている間、フミタンと二人でドルト3へ行って来てもよろしいでしょうか?」

「お嬢様?」

「ドルト3へ?」

「ええ、商業施設があるなら少し買い物がしたいと思って」

「お嬢様それは・・・」

「いいでしょ?フミタン。いろいろ買っておきたい物もあるし、何より買い物なんて久しぶりなんですもの」

 

 僕の知る原作知識通り、クーデリアがドルト3に行きたいと言い出した。しかしクーデリアのフミタンへの態度は妹が姉におねだりしているようで微笑ましいな・・・っていやいやそうじゃなくて。

 クーデリアの頼みにフミタンが折れ、アトラも一緒に行く事に。女性だけでは心配だからとオルガが三日月に護衛を頼み、本人の希望でビスケットも同行する事になった。僕はオルガに耳打ちする。

 

「オルガ、ちょっと外に。話がある」

「ん?・・・判った。ちょっと外すぞ」

 

そしてブリッジを出るとオルガに話を切り出す。

 

「オルガ、コロニーが見えてきた頃から嫌な感じがするんだ」

「嫌な感じ?」

「うん、こう・・・背中のヒゲが疼くというか・・・クーデリアがCGSに来た時と同じ感じ」

「あの時と同じ・・・何があるっていうんだ?テイワズから頼まれた荷物を届けるだけだぜ?」

「うん、ただの勘でしかないんだけどね、どうにも無視出来ないんだ。こういう時はいつも悪い事が起こる。困った事にドルト3に行くクーデリアの方にトラブルが起きそうな気もするし、ドルト2の方にも何かありそうな気がして・・・僕はクーデリアの護衛につかせてもらう。三日月がいれば、とは思うけど、人数が少ない方に同行させてもらうよ」

「はあ・・・確かにクーデリアが来た時のアンタの備えは的中したしな。わかった。ミカとアンタにビスケット、それだけいれば不足は無えだろうしな」

「あ、あと捕虜の人も連れて行くよ。何かあったら最悪クーデリアの盾になってもらう」

「あのオッサンをか?・・・良いのか?こんな所で」

「最悪の時は、だよ。取り越し苦労で済めばそれで良し。何かあったら・・・クーデリアの安全が優先だ。その為に犠牲が必要な時は身内以外の人間を切り捨てる」

 

 オルガの手前こうは言っているけど、半分くらいは嘘だ。僕はクランクさんに対しては多分非情になれないだろう。

 

「こういう判断は認められない?」

「いや・・・アンタがそう割り切ってるならそれで良い。あのオッサンの事はアンタに任せてるしな」

「ありがとう。ドルト2の方も用心してね。何かあった時はすぐイサリビを動かせるように」

「ああ、用心しとくよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 昭弘は昌弘を伴いグシオンの改修に立ち会う為ハンマーヘッドに来ていた。

「本当にこれに乗るの昭弘?だってこれ、昌弘やその仲間をこきつかって虐めてた奴が乗ってたんでしょ?」

「ラフタ!」

「だって・・・」

 

 ラフタの言葉に昌弘がビクリと反応する。それを見てアジーがラフタを諌める。昭弘は昌弘の頭に手を置きながらラフタに答える。

 

「戦力は必要だろう。それにトウガの奴がよ・・・」

「ん?」

「アイツのグレイズは、金目当てでクーデリアを狙ってた火星のギャラルホルンの司令官が乗ってた機体でよ」

「何それ?そんなMS売っちゃえば良いじゃん」

「タカキ達が訊いた事あるんだよ。鹵獲した機体は他にもあったのに何でってよ。そしたらあいつ・・・」

 

『そんな奴の機体だから、だよ。クーデリアを殺したがっていた奴の機体でクーデリアを護る。皮肉が効いていて面白いじゃないか』

 

「ってよ、楽しそうに笑ってやがった」

「げ~、それってちょっと悪趣味」

「ああ。けど、今はそう言う考え方も悪くねえ気もしてる。それに俺は昌弘や、俺達兄弟の為に体張ってくれた仲間を護る為に、もっと強くならなきゃいけねえんだ」

「兄貴・・・」

「心配すんな昌弘。親父とお袋が殺されて、何も出来なかったあの時とは違う。お前も仲間も、鉄華団っていう俺達の家も、自分の大事な物は自分で護るんだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 準備を整えた後、ランチでイサリビを出発してドルト3に向かう。ランチの操縦席と助手席に三日月とビスケットが、後部シートにクーデリアとフミタン、アトラが座り、僕とクランクさんは壁際に立っている。

 

「なんというか・・・思っていたより大人数になりましたね」

「すいませんね。三日月がいればまあ大丈夫かとも思いましたけど、念には念を、と言うことで」

 

 元々フミタンと2人で、自分が誘ったアトラを入れても3人のつもりが7人になった事に苦笑いするクーデリア。

 

「あの・・・座りませんか?」

「いや、気遣いはありがたいが、俺の事はいないものと思ってくれ」

 

アトラがクランクさんに声をかけるがクランクさんはやんわりと断る。

 

「じゃあトウガさん・・・」

「僕も遠慮させてもらうよ」

 

 フミタンと向かい合わせに座るのは落ち着かないから。

 

「あ、そうそう、今のうちに・・・。クーデリアさん、これを」

 

持ち込んでいたリュックサックから畳んだ服を2着取り出してまずクーデリアに手渡す。

「え・・・コート、ですか?少し重いですけど」

「防弾性の繊維を使って、裏地に防弾パッドを縫い付けた特別製です。これを着ておけば銃で撃たれても致命傷は避けられますから。コロニーに入ったらイサリビに戻るまでは着ていてください」

 

まあ絶対とは言えないし頭を射たれたら意味無いけど、無いよりはマシだと思う。ちなみにクランクさんも同じ仕様のコートを着ている。

 

「はあ・・・」

「私もですか?」

 

クーデリアの次に差し出されたフミタンが聞いてくる。

 

「当然でしょう?はいどうぞ・・・あっ」

 

 フミタンの手に指が触れてしまいドキリとしてしまう。マズイな。意識し過ぎだ。

 

「ええっと、後は・・・アトラはこれ持ってて」

「え?何ですかこれ?」

 

アトラに手渡したのは掌に収まるくらいの大きさの缶スプレー。

 

「暴漢撃退用スプレー。殺傷力は無いけど眼に入ったら開けてられないくらいに強烈な刺激を与える」

「あの・・・私達買い物に行くんですよね・・・?」

 

 アトラはなんとも言えない顔をする。

 

「楽しい気分に水を差して悪いけど、どんなに治安の良い所でも一人か二人くらいはおかしな奴とか悪い奴がいるものだと思った方が良い。女の子は特に気をつけないと。クーデリアさんとフミタンさんのは心配しすぎって言われても仕方ないけど、立場考えたらむしろ軽い位だよ」

「は・・・はあ・・・」

 

 あ、ちょっと引かれたかな?クーデリアも微妙な顔してるし。

間違った事は言ってないと思うけど・・・。

 それに原作だとアトラはクーデリアと間違えられてビスケットもろとも拉致された上、ギャラルホルンの兵士に何度も殴られたり髪の毛引っ張られたり縛り付けられた椅子ごと引き倒されたりしているし・・・ああ、思い出したらムカついてきた。こちらではまだ起こっていないとはいえ・・・。

 

「心配し過ぎですよトウガさん。ドルト3は治安の良いコロニーですから・・・あ、でもクッキーとクラッカだったら俺も心配かな・・・」

「だよね。アトラは僕から見れば妹みたいなものだし、心配して当然でしょ?」

 

 などと話しながらドルト3へ入港した。

 

 

「え?買い物って・・・?」

「伺いますが皆さん、最後に体を洗ったのはいつですか?」

「いつだっけ?」

「確か四日・・・あっ、いや五日前?」

「えーーっ!?」

「僕とクランクさんは昨日洗いましたよ。ねえクランクさん?」

「ああ、俺はタオルと湯を一日おきに用意してもらっている」

「僕もその後に自分の体は洗ってるけど」

 

 CGSの時はシャワーもロクに使わせてもらえなかったし、その頃よりは大分マシだと思うけどね。

 

「以前から気になってたんです。艦内に漂う、その・・・臭いが」

「そういえば確かに臭いかも。皆が集まってると、うっ!ってなる時あるもん」

「へえ」

「あー、ごめん。CGSの頃からの習慣というか・・・水を自由に使えるようになったのも最近の事だから・・・」

「そんなに臭いかなあ?」

「うん臭い!雪乃丞さんなんて近くに行くと目がツンって痛くなるし」

「衛生環境は大切です。皆さんの着替えと洗剤や掃除用具も買ってこの機会に艦内を綺麗にしてはどうかと」

「うん賛成!私も手伝います!」

 

 そして女子3人が買い物に勤しむ間、僕達男組は店の壁際で待機ということになった。

 

「何見てんの?」

 

 ビスケットが辺りを見回しているのに気付いた三日月が声を掛けた。

 

「えっ?ああ、憧れだったんだ。小さい頃ここへ来るのが」

「小さい頃?」

「話した事無かったけど、俺このコロニー群の出身なんだ」

「へえ」

「じゃあここはビスケットの故郷って事になるのかな?」

「住んでたのはドルト2のスラム街ですけどね。父さんと母さんは朝から晩まで工場で働いてて・・・貧しかったですよ。地球圏っていっても暮らしは火星の人達と変わらなかった」

 

 ドルト2での生活の貧しさを思い出しながらのビスケットの話は別れ別れになった兄の存在に移り、三日月やアトラ、クーデリアの勧めで、ビスケットは近くの公共端末ボックスから兄に連絡をとる。結果ビスケットは兄のサヴァランに会える事になったが、気後れするビスケットにアトラが同行を申し出た。

 アトラって、思い込んだら一直線な所あるよな・・・鉄華団に入団した時もそうだったし・・・っといけない。このまま二人だけ行かせたら原作通りビスケットとアトラが・・・。

 

 

「あー、僕もビスケットの兄さんには会ってみたいから、一緒に行って良いかな、邪魔はしないからさ」

「え?トウガさんもですか?」

「ちょっと挨拶させてもらうだけだからさ、頼むよ」

「おいちょっと待て、俺達はクーデリアの護衛の為に・・・」

 

 僕の発言にクランクさんが異を唱える。僕はクランクさんに耳打ちする。

「ドルトの労働者の問題もあります。本社の役員と接触出来たら役に立つかも知れないですから」

「しかし・・・」

「仰りたい事は解りますが、僕を信じてください」

「・・・わかった。従おう」

「何話してんの?」

 

クランクさんを説き伏せたものの、三日月に不審がられてしまったか。

 

「何でも無いよ。三日月がいれば、そっちは大丈夫だって話してただけだから。そうだろ?」

「ん、良いよ。任せて」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その頃ドルト2では、運んで来た荷物が戦闘用のMWや武器弾薬だと知ったオルガ達が驚いていた所にギャラルホルンの部隊が詰め掛け、労働者達を拘束しようとした。だが労働者達が隙を突いて発砲、銃撃戦になり、ギャラルホルンは撤退した。

 

「奴ら逃げて行ったぞ!」

「俺達の勝利だ!」

「喜んでる場合じゃねえだろ!あいつらすぐに戻って来るぞ。今度は大部隊を引き連れてな!」

 

 歓声を上げる労働者達をオルガが諌める。

 

「ああそうだな、もう後戻りは出来ない。戦って勝つしか無いんだ」

「ああそうとも!」

「やってやろうや!」

「俺達はやれるんだ!」

 

武器を手にした事、ギャラルホルンの部隊を撃退した事に舞い上がっているのか、危機感の少ない労働者達。

 

「本気かよ、こいつら・・・」

「オルガ、どうすんだ?」

「さて・・・どうするかな・・・」

(トウガの勘が当たっちまったか。あっちとも連絡を取りたい所だが・・・)

 

 

 

 

 




 コロニー編は観ていて辛いですね・・・。
あとクランクの扱いが当初の予定から変わって来ました。
以前感想返信で仲間化はさせないと書きましたが・・・。
あと活動報告でアンケートを募集する予定でしたが、一期の話が終わってからに変更します。


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足跡のゆくえ

 久しぶりに前回から二週間以内で更新出来ました。
シリーズが放送されていると二期の方の話も考えてしまったり、調子出てきたのだろうか・・・とりあえずラディーチェ&ガランはタヒね。明日の放送が待ちきれない。


「ビスケット、僕はちょっと離れた所にいるから」

「え?」

「付いて来ておいて今更だけど、人数多いと警戒されちゃうかもしれないからさ。一旦距離をとって、頃合いを見て合流するから」

 

 そう言ってベンチに座るビスケットとアトラから離れ、クランクさんと一緒に物陰に隠れると、鉄華団のジャケットを脱いでリュックから取り出した防弾コートを着込み、ジャケットをリュックに入れると二人の様子を伺う。

 

「何故隠れる必要がある?」

「さっき説明した通り、相手側に警戒させない為です。特に僕とクランクさんはちょっと・・・」

 

 僕の行動を訝るクランクさんに詳細は明かさず簡単な説明をする。

原作だとビスケットの兄サヴァラン・カヌーレは最初は一人で来て、ビスケットと一緒にいるアトラをクーデリアと勘違いして拉致の為に仲間を呼んだ。もし僕とクランクさんもいるのを知ったら呼び寄せる人数を増やすか別の手段に出る可能性がある。ここは原作通りの流れに誘導した方が先を読み易いと考えた。

 そうして少しの間待っているとスーツを着た男性がビスケットに近付いてきた。ビスケットが立ち上がり、言葉を交わす。どうやらあの男性がサヴァランらしい。

 サヴァランはビスケットとアトラを伴って近くの公共端末ボックスに向かうと何処かに連絡をしている。

 ビスケットとクーデリア(と誤解しているアトラ)を拉致する為に仲間を呼んでいるのだろう。

 サヴァランがボックスから離れてビスケットとアトラと一緒に歩き出した。僕もクランクさんを促して尾行する。

歩いて暫くすると、サヴァランが大通りから外れた道に入ろうとしている。

 

「行きますよクランクさん」

「なっ、おい!」

 

クランクさんに声を掛けるとビスケット達に駆け寄り、そして大声で呼び掛ける。

「アトラ!ビスケット!」

「トウガさん?どうしたんですか?」

「いや、ちょっとね。アトラ、僕が渡した物はちゃんと持ってるかい?」

「え?ええ、ちゃんとポケットに入れてますけど?」

「アトラ・・・だって?」

 

アトラを見るサヴァランの顔に戸惑いが浮かぶ。わざとらしくアトラの名前を強調したからな。人違いに気付いただろう。

 

「兄さん?アトラがどうかしたんですか」

 

ビスケットが怪訝な顔でサヴァランに声を掛ける。

 

「か、彼女は、クーデリア・藍那・バーンスタインじゃ、無いのか?」

「え?どうして兄さんがクーデリアさんの事を・・・?」

「何言ってるんですか?この子はアトラ・ミクスタ、うちの炊事係ですが?」

「なっ!?炊事係!?・・・そんな・・・」

「んん?何をそんなに狼狽えているんですか?」

 

 狼狽するサヴァランを素知らぬ振りをしながら煽ってみる。

 

 そこに1台の車が滑り込むように僕達の前に停車して中から大柄な男達が二人出てきてアトラとビスケットに手を伸ばした。

僕はすぐさま男達を1人は脛を蹴りつけ、もう一人の手をはたき落とす。

 

「ぐあっ!」「つっ!コイツ!」

 

そうする内に反対側のドアから更に二人出てきて僕達の背後に回った。だがその男達の背後を見て僕はつい口元が弛む。ナイスタイミングだ!

 

「貴様ら何をしている!?」

 

僕に遅れてこちらに来ていたクランクさんが男の一人を体当たりで吹き飛ばし、もう一人を腕を捻りあげて取り押さえた。

 

「なっ!?まだいたのか!?」

 

 クランクさんだけ少し距離が開いていたから視界に入らなかったのだろう。嬉しい誤算だ。

 僕はコート裏のポケットに入れていた特殊警棒を伸ばすと男の一人の腕を打ち、それで出来た隙を突いて下顎に警棒を打ち付け、更に脳天に振り下ろして、気絶させた。

 

「きゃあ!」

「アトラ!」

 

悲鳴の聞こえた方に目を向けると、もう一人の男がアトラに襲いかかり、アトラを庇うビスケットと揉み合いになっている。最近は専ら頭脳労働担当で白兵戦はご無沙汰なビスケットは体格差もあって押されている。更にクランクさんが体当たりした男もそちらに迫っている為、僕はそちらの対応に向かいながらアトラに指示を出した。

 

「アトラ、スプレー使って!」

「え!?は、はい!えい!」

 

 咄嗟の指示だがアトラは直ぐに僕の指示を理解して暴漢撃退スプレーを出すとビスケットと揉み合う男の顔に吹き付けた。

 

「ぎゃあっ!?」

 

激しい目の痛みに悲鳴を上げた男。そうする内にもう一人を叩き伏せた僕はクランクさんの傍に結束バンドの束を放り投げる。

 

「そいつらの拘束お願いします!」

 

そして目の痛みに苦しみながらもビスケットと揉み合っている男の頭を警棒で殴り付け、倒れた所で結束バンドで両手の親指を後ろ手に縛りつけた。

 

「さて、あとは・・・逃げんな!」

「うわっ!」

 

 その場から逃げだそうとしていたサヴァランの脚を狙って警棒を投げつける。バランスを崩して転んだサヴァランを地面に押さえ付ける。

「兄さん!?」

 

 ビスケットが悲鳴のような声を上げたが、今はフォローする余裕は無い。

 

「そうやって逃げようとするという事は、コイツらはアンタの差し金か。どういうつもりだ!?」

「え・・・!?兄さん、どうしてそんな・・・!?」

「くっ・・・お前達こそ、スラムの連中に武器を渡してどういうつもりだ!?」

「武器って、何の事です?」

「お前達の仲間がドルト2に運び込んだ荷物の事だ!」

「あ・・・あれはテイワズから依頼された物で・・・って、あの中身が!?」

「そうか、お前達も利用されただけ、か。クーデリア・藍那・バーンスタインに・・・ぐあっ!」

 

サヴァランの勘違い発言にイラついたので押さえていた腕を捻る。仕方無いのは解っているのだけど・・・。

 

「クーデリアさんの顔も性格も何も知らない癖に知ったような口きくなっての。まあ話は移動しながらにしましょう。いつまでもこうしてはいられないですし、オルガ達とも連絡をとりたい。アンタにも一緒に来てもらおうか」

 

 サヴァランの手を結束バンドで拘束すると強引に立たせる。

「くっ、離せ!」

「先に僕達に牙を剥いたのはアンタの方だ。落とし前もつけずに解放するわけにはいかないんですよ。さあ歩け」

「ちょっ、トウガさん、あまり乱暴にしないでください」

「これでも優しいつもりだよ。この人が君の兄さんでも、現時点では敵視せざるを得ないからね」

 

 そして公共端末ボックスのある所まで移動して、オルガに連絡する。

 

「あ、オルガ?ちょっと・・・」

「トウガか!?アンタ今何処にいる!?」

「えっと、ドルト3の公共端末ボックスから・・・どしたの?」

「アンタ達が襲われたって、こっちに情報が入って来て、今しがたミカにも伝えた所だ!」

「え・・・じゃあ三日月は?」

「アンタ達を探して動いてる筈だ。こうやって連絡寄越したって事は無事なのか?」

「うん、大丈夫。なんとか凌いで、襲ってきた連中の頭を捕まえたよ」

「そうか。ミカと行き違いになると面倒だ。あまり動き回らないでくれ。俺らももう少ししたらそっちに向かう」

「ああ、了解」

 

 オルガの指示にそう返して通話を切った。

 

「オルガは何て言ってましたか?」

「向こうにも僕達が襲われた事は伝わってるらしい。三日月がこっちに向かってるからあまり動くなって」

「三日月が?じゃあ、クーデリアさんは?」

「三日月だってクーデリアさんの安全を確保した上で動いてると思うけど・・・」

 

 原作だと三日月が離れている間にマッキー仮面のせいでフミタンもクーデリアもホテルを出てしまったしなあ。

 

「とにかく下手に動き回ると三日月がこっちを見付けにくくなる。オルガのいう通り動かない方が良いだろう。とはいえここじゃ人目に付きすぎる」

 

 一先ずビルの間の細い路地に入る。人目には付きにくいけど三日月なら見付けてくれるだろう。

 

「さて、サヴァランさん、アンタはクーデリアさんが狙いで僕達を襲った、クーデリアさんを捕まえてどうするつもりだった?」

「・・・彼女がスラムの連中を煽動し起こそうとしている武装蜂起の首謀者としてギャラルホルンに引き渡して交渉しようと考えたんだ・・・」

「そんな!?どうして兄さんがそんな真似を!?」

「お前達の運んできた武器を手にした組合員が暴動でも起こしてみろ!この機会を待っていたギャラルホルンは大義名分を掲げて鎮圧に乗り出すぞ‼そうなれば血を流すのはお前も暮らしていたスラムの住人だ!それで良いのか!?」

「くっ・・・」

 

サヴァランの言い分に返す言葉を失うビスケット。彼の心情もわかるけど・・・。

 

「アンタの考えはまあ解った。で、それはクッキーとクラッカの将来を犠牲にするだけの価値があるのか?」

「何・・・?」

「クーデリアさんを地球へ送り届ける。この仕事には桜さんの農場の未来も、クッキーとクラッカの将来も懸かっている。それを邪魔するって事がどういう意味か、解ってんのか?」

 

 サヴァランに対し、言葉に怒気を込めて問う。彼は彼で自分の身近な人達を守ろうとしているのだろうけど、ビスケットや桜さん、クッキーとクラッカの将来の妨げになる行動だ。それは許せない。

 

「く、組合員達の、大勢の命がかかってるんだ、見せしめの虐殺を回避する為なら充分・・・」

「ふざっけんなあっ!!」

 

サヴァランの首を掴み睨み付ける。

 

「アンタビスケットとクッキー、クラッカの兄貴だろうが!?兄貴が弟の仕事を潰すってのか?妹達の将来を犠牲にすると言うのか?ビスケットの給料で何とか回ってる桜農場を潰すのか?クッキーとクラッカを学校に入れるっていう、ビスケットの目標を踏みにじるとぬかすか?ふざけるな、ふざけるんじゃないぞ‼兄貴は弟妹を守ってナンボだろうが!!」

「ちょっ、トウガさん!」

「おい、落ち着け!」

 

ビスケットとクランクさんが僕をサヴァランから引き剥がす。

 

「ふーっ・・・大体暴動が起こりそうな程労働者達に不満が溜まってるって事は、ドルトの経営に問題があるって事だろうが!そこを改善しない限り同じ事はまたすぐに起こる。アンタがやろうとした事は一時しのぎの誤魔化しでしか無いじゃないか!」

 

「今回の事を何とか出来れば改めて本社側と交渉する時間を稼げる。そうすれば・・・」

「誘拐未遂犯の言葉なんか信用出来るか!さっきから手前勝手な事ばかり、自分達の至らなさのツケを、通りすがりの人間に押し付けるな‼」

「だから落ち着け!!そもそも話の前提条件に食い違いがあるだろう!?そこから正さなければ話が成り立たんだろう」

「う・・・すいません、その通りでした」

 

 クランクさんが僕の肩を掴み諌める。久し振りにブチキレたせいで話の根本を放り出してしまっていた。落ち着け、そもそもの話、だ。

 

「そもそもクーデリアさんがスラムの人達に武器を贈ったなんて与太話、何処から聞いたんですか?」

「与太話!?・・・・組合のリーダーのナボナさんだ。革命の乙女クーデリアが火星以外でも反抗の狼煙を上げようと呼び掛けている。その為の武器を、鉄華団に運ばせるとクーデリアの代理人から連絡を受けたと」

「はあ・・・革命の乙女、ねえ。そんな大仰な言葉を使い、クーデリアさんの代理人を騙って武器を送る、か。そんな事をするのは大方ノブリス・ゴルドンあたりだろうな」

「ノブリスって・・・!?でも、どうしてそんな!?」

「クーデリアさんを、いや僕達鉄華団もかな、利用して何か企んでいるんだろう。大体武器を贈って武装蜂起させたって、戦闘のド素人の労働者達じゃギャラルホルンに返り討ちが関の山。本気の支援なんかじゃないのは明らかだ」

「武器を渡したのはクーデリアの意志では無い?・・・いや、そんな事は重要じゃない。革命の乙女の身柄を押さえればギャラルホルンも満足するだろう、今ならまだ間に合う、クーデリアを引き渡してくれ。もう時間は僅かしか残されていないんだ!」

「兄さん・・・」

「アンタなあ、クーデリアさんをギャラルホルンに売ろうとか、やろうとしてる事はこの前僕達を襲ってきた海賊達と変わらないじゃないか。アンタを尊敬していたビスケットに、恥ずかしいとは思わないのか?」

「もう手段を選んではいられないんだ!!」

「ビスケットやクッキー、クラッカすらどうなろうと構わない、と。ならば敢えて言おう。ビスケットはどう思うか知らないが、ここの労働者達がどうなろうと、僕達の知った事では無い。武器を運び込んだ事も、荷物の中身に送り主が虚偽の記載をしていた以上僕達だって騙された被害者だ。責任を負う謂れはない。武器を手にした労働者達が武装蜂起してギャラルホルンに皆殺しにされようがそれは労働者達が自分で選んだ行動の結果だろうし、そう言う無謀な行動に彼らを追い詰めたのはドルトの経営陣の怠慢だ。何故僕達が仕事を放り出さなきゃいけない?」

「なっ、トウガさん!いくらなんでもそれは・・・」

「そうだよ!ビスケットの気持ちも考えて!」

 

僕の非情とも思える言い様に、ビスケットとアトラが非難の声を上げる。

 

「ならここでクーデリアをギャラルホルンに売り渡すと?」

「それは・・・」

「そう、そんな事出来る訳が無いだろう。今まで何人も仲間が死んだ。この仕事を投げてしまえば彼らの死は無駄になってしまう」

「トウガさん・・・それは、確かにそうですけど・・・」

 

 ビスケットにとっては故郷の事だから、割り切れないのは当然だろう。

 

「あ、ここに居たんだ。皆大丈夫?」

「三日月!」

「ん?その人は?」

「ビスケットのお兄さん、なんだけど・・・」

「ちょっとトラブって、拘束しなきゃいけなくなった。オルガと相談しないといけないけど、それよりクーデリアさんとフミタンはどうしてる?」

「大丈夫、ホテルに隠れてる」

「クーデリアがホテルに!?なら・・・むぐっ!?」

 

何か口走ろうとするサヴァランの口を押さえる。

 

「三日月の前でさっきみたいな事は言わない方が身のためですよ。彼は身内に危害を加える者に容赦ないから」

 

 殺されちゃうぞ、とは言わないけど。

 

「ならそのホテルに急ごう。どうもキナ臭い事になってるみたいだし、早くこのコロニーを離れたい。三日月、案内よろしく」

 

 そうして早足でホテルに向かって歩いていると、僕達の少し前に、荷台にパンの絵の描かれた幌のかかった軽トラックが停車し、荷台からオルガが顔を出した。

 

「ミカ!全員無事か!?」

「オルガ!」

「えっ?」

「乗れ!急ぐぞ!」

「了解!クランクさん、サヴァランを!」

「あ、ああ」

「せーのっ!」

 

先にサヴァランをクランクさんと二人で抱えて荷台に乗せる。

 

「ぐあっ」

「おい、誰だコイツ?」

「ビスケットのお兄さん、詳しい説明は後で。出して!」

「おうよ!」

 

「待ってくれ!このままじゃドルト2は・・・ビスケット!!」

「兄さん・・・兄さんには感謝しています。父さんと母さんが死んだ後必死に俺達を養ってくれて。今の俺があるのは兄さんのおかげだから」

「だったら・・・」

「でも!今俺は鉄華団の団員なんです。仲間を裏切る事も、仕事を投げ出す事も出来ません。クッキーとクラッカの為にも、それは出来ないんです・・・!」

「!・・・ああ・・・すみませんナボナさん、俺は・・・」

 

ビスケットにも拒絶され項垂れるサヴァランをよそに、シノの運転する軽トラはクーデリアがいる筈のホテルに向かった。

 だが・・・。

 

「クーデリアがいない!?急がねえと組合の連中が始めちまうってのに・・・」

「クーデリアさん・・・どこに行っちゃったの?」

 

 やっぱりこうなっていたか。基本的には原作通りの状況を作り先を読みやすくする。そして先回りで対策を講じて被害を可能な限り避ける。そう言う意味ではいつも通りの筈で、どう動くべきかも解っているのだけど・・・僕は理由の判らない焦燥感を感じていて、今すぐホテルを飛び出したい衝動を抑えながらオルガ達を見ていた。

 




 オルフェンズ二期のガンプラ、バルバトスルプスが一番安いみたいですね。グシオンリベイクフルシティ(長い・・・)や獅電、レギンレイズはルプスよりちょっと高かったです。


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フミタン・アドモス

 活動報告から11日、遅れて本当に申し訳ありませんでした。
あの時はテンション上がってて「明日には更新いけるんじゃね?」などと思ってしまっていましたがそんな簡単じゃありませんでした。
 待っていてくれた皆様にはお詫びと感謝を。 


 クーデリアとフミタンがホテルからいなくなった。今オルガやビスケット達はホテルの従業員に尋ねる等状況確認に動いている。

 

「チェックアウトはしていないらしいけど、別々に出て行くのを見たってホテルの人が・・・」

「勘弁しろよ・・・早いとこイサリビに戻んなきゃいけねえってのに」

「俺やっぱり捜してくる」

「ミカ!」

「私付いて行きます!」

「ああ、頼む!」

「おい良いのかよオルガ!?」 

 

 三日月が飛び出す後を追ってアトラも駆け出す。

 

「本当に良いのかよオルガ?勝手に行かせてよお?」

「どっちにしろ捜さなきゃいけねえんだ」

「だね。こっちも手分けして・・・」

「ん?」

 

その時、ドルト2の組合のデモの声が聞こえて来た。

 

「我々の子供から未来を奪うな~!!」

「我々の子供から未来を奪うな~!!」

 

僕達はホテルを出ると道を行くデモ隊の姿を見る。

荷台に数名乗せたトラックを先頭に明るめの緑色のジャケットを着た集団が歩きながら声を上げている。アサルトライフルを持つ者、プラカードを掲げている者、更に戦闘用のMWも随伴している。

 

「あれって・・・」

「始めちまったか」

「組合の連中の言っていたやつか」

「ああ、急がねえと」

「ヤマギは残って部屋に転がしてあるサヴァランを見張ってくれるかな?逃げないように、あと万が一にも自殺とかもさせないように。」

「えっ?」

「結構追い詰められてるみたいって言うか、僕も追い詰めちゃったからさ、頼むよ。訳あって対立しているとはいっても、ビスケットの兄さんだからね」

「はあ・・・わかりました」

「オルガ、あの人達は最終的にはドルト本社に向かうんだろう?多分そこが一番危険な場所になるから、クーデリアがそこに行ってしまう前に見つけないと」

「ああ、わかってる。行くぞお前ら、手分けして捜すんだ」

「うん」

「おう!」

「僕達も行きましょうクランクさん。先ずは宇宙港行きのエレベーター発着場に行ってみましょう」

「あ、ああ」

 

 走り出した僕の後を追ってクランクさんも走ってくる。

 しばらく独房暮らしだったのに体力を維持しているのは流石というべきか。

 とにかく先ずはフミタンを確保しないと。そう思いながらエレベーター発着場へ向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ホテルに現れた仮面の男によって、ノブリスとの繋がりをクーデリアに暴露され彼女のもとを去ったフミタン。追ってきたクーデリアを撒いて宇宙港直通のエレベーターに乗り込んだが、宇宙港はデモの影響でギャラルホルンの要請を受け一時封鎖、エレベーターは地表階へ逆戻りする事がアナウンスされていた。

 

 ドルト3の宇宙港閉鎖はタービンズも把握していた。更にコロニー周辺にギャラルホルンが、それもドルト駐留の部隊だけで無くアリアンロッド本隊の艦隊まで集まって来ている状況にきな臭いものを感じていた名瀬はMSの出撃準備をアミダを介してラフタとアジーに指示しており、グシオンの改修が終わった昭弘にも準備するよう声が掛かっていた。

 そして完成したグシオンの姿を見ながらタービンズのメカニック達は思う所を話し合っていた。

 

「それにしてもあのずんぐりMSが本当にこんなになるなんてね」

「おかげで早くロールアウト出来たけどさあ、最初からこういう形が現状での最適解になるって、最初から知っていたみたいな改修案が作業始める前からあったのはメカニックとしては・・・ねえ?」

「いっそ楽出来てラッキーって思えたらって感じだけど、あの見た目からこの形がイメージ出来てたって何かおかしいよねえ・・・バルバトスのパーツの流用といい、連携も考えての仕様といい」

「まあ、100%そのまま仕上げた訳じゃ無いって事で、善しとしましょ」

 

 イサリビでもまたパイロット不在のまま出撃準備に取り掛かっていた。格納庫にはバルバトスと、阿頼揶識システムの移植だけで無く、百錬のパーツを使った改修とブルワーズから接収したナノラミネート塗料を使ってのリペイントを終えた2機のグレイズ改があった。

 

 地表階に戻ったエレベーターを降りた所で、フミタンはノブリスの部下の男二人組に捕まっていた。

 

「何故一人でいる?ターゲットはどうした?」

「ぐっ・・・」

 

 二人組の内の白人系の男に襟首を掴まれて通路の壁に身体を押し付けられた状態のフミタン。もう一人の黒人系の男は人が来ないか通路を見張っている。

 

「貴様が何を考えてるか知らんが、ボスがそれほど気の長い性格じゃ無い事は知っている筈だ」

「・・・」 

「こっちの準備は整っている。お前はお前の・・・「おい、人が来るぞ」ちっ、いいか、仕事を果たせ。逃げられるなんて思・・・「ぐあっ!!」何!?」

 

 フミタンを脅し付けていた男が相棒の声に後ろを振り向くと見張りをしていた相棒が倒れ込んでいた。

 そしてその場にいるコートを着込んだ若い男、相棒をやったのはコイツかと男が理解したのと、右腕に鈍い痛みが走ったのはほぼ同時だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一人目は不意打ちで上手い具合に倒せた。もう一人の方はフミタンの襟首掴んでる腕に特殊警棒を叩き付けて手を離させたは良いが・・・・。

 

「貴様あっ!」

「っ!」

 

 コイツ見かけ倒しじゃないな。腕にしっかり当てた、骨にヒビくらい入った筈なのに痛みで怯んだのは一瞬、すぐに反撃して来た。CGS一軍の奴らともさっきサヴァランが呼んだ奴らとも違う。けど!

 

「ふっ!」

「がっ!」

 

 相手は片手が使えず、リーチもこっちが勝っている。腰を落として脛を警棒で打つと、この痛みは耐え難いらしく動きが鈍った所に返す刀で顎を打ち上げる。

 

「くぁっ・・・」

 

 脳震盪を起こしてよろけた所にだめ押しで頭に警棒を横殴りに叩き付け、やっと倒れた。

 

 

「ふーーっ・・・フミタン、見付かって良かった。皆心配していますよ」

 

 特殊警棒をしまってフミタンに声を掛ける。そこに少し遅れていたクランクさんが追い付いた。っと、そうだ。

 

「ここにいたか。クーデリアはどうした?」

「クーデリアはいません。クランクさん、フミタンをお願いします。ちょっとやっておかないといけない事があるので」

「ん?・・・わかった」

「私は・・・」

「話は後です。コイツらがクーデリアに手出し出来ないようにしておきたいので」

 

 倒れている男二人の手足を結束バンドで拘束し、目と口をダクトテープで塞ぐ。そして・・・。

 

「まずは右から・・・ふんっ!」

「ーーーーーー!!」

 

 右手の人差し指と中指の骨を折る。べきり、という音と同時に男が声を上げるが、口は塞がっている。

 

「次は・・・ま、そりゃそうするよね」

 

 左手は強く握り締めている。右手の指を折られた痛み故か左手の指を守ろうとしてか判らないが、それならそれで。

 

「ふんっ!」

「ーーーーー!!!!」

 

左腕の骨を折る。

 

「クーデリアを殺される訳にはいかない。物理的に手出し出来なくさせてもらう」

 

 もう一人の方も両腕を折っておく。今さらだけどこういう事を割と落ち着いて出来てしまっているあたり、僕も大分まっとうな感覚というものから外れて来ている。

 

「さて、行きましょうフミタン。早くこのコロニーを離れないといけないので」

「私は・・・もう貴方達と、いえお嬢様の傍にはいられません」

「貴女がノブリスと繋がっている事をクーデリアさんに知られたから、ですか?」

「!何故・・・?」

「その辺の話は移動しながら話しましょう。貴女がいないと、クーデリアさんの事だけじゃなくて色々困るんです」

 

 ここでフミタンにいなくなられたら、クーデリアを見付けてもコロニーを離れずフミタンを捜そうとするだろう。僕自身のフミタンに対する気持ちの整理が付かなくなる、という個人的理由もあるし。

 僕が先頭、その後ろにフミタン、更にその後ろにクランクさん、という形で大通りへ向かって歩く。

 

「最初から違和感は感じていました。CGSがギャラルホルンに攻撃を受けた時貴女は様子を見てくると言ってクーデリアさんの傍を離れ、戦闘が終わった後に戻ったそうですね。別におかしいと言う程でも無いですけど、何か引っ掛かる物を感じてはいました」

 

 フミタンとノブリスの繋がりを知っていた理由(でっち上げ)を話すがフミタンから返事は無い。

 

「その後、イサリビに乗り込んでからも違和感は感じていましたけど、確証はありませんでした。テイワズの依頼でドルト2に運んだ荷物の中身と送り主の名前でそれがノブリスの差し金だと気付いて、そこから貴女がノブリスにクーデリアさんの動向を伝えていたと考えれば、まあ納得出来ます」

 

 後ろを向いてフミタンに顔を向ける。

 

「で、僕達が貴方達がいる筈のホテルに行くと二人ともいなくなっていた。ホテルの人に聞いたら別々に、フミタンが先に、それを追うようにクーデリアさんが出て行ったという。これは何かあったな、と」

「では・・・」

「ええと、ごめんなさい。ただのハッタリ、鎌かけです。でも的中だったみたいですね」

「っ!」

「っとお!逃げないでください!」

 

 駆け出そうとするフミタンの腕を掴む。

 

「離してください!私は・・・」

「貴女がそれで良くても・・・クーデリアは良くない筈でしょう!」 

「それは・・・それでも・・・」

「僕だって困るんですよ!貴女にいなくなられたら!」

「!?何を・・・?」

 

  あれ?

 

「ノブリスにはこれ以上手出しはさせません!鉄華団の仕事としてクーデリアを地球に着くまで護るのは最後までやり通す!で、仕事とか関係無しに貴女も護りますから傍にいてください!!離れられたら護れないでしょう!!」

 

 ちょっ、僕は何を・・・何を言っている??いやフミタンを護る、それは良い・・・良いのか?何かエライ事を言ってしまったような気がする・・・。

 

「一体何を言っているのです?貴方は・・・」

「ああ・・・とにかく行きましょう!話はイサリビに戻って落ち着いてからです。それまでは・・・離しませんから」

 

 もう何が何やら。頭が上手く働いてないみたいだ。とにかくクーデリアを見つけて・・・確か大通りのドルト本社ビルの前だったか・・・急がないと。

 速足でドルト本社に向かう。

 

 本社の社屋近くに着くと、そこではデモ隊とギャラルホルンがにらみ合いの様相を呈していた。いや実際の所ギャラルホルンはこの後の暴徒鎮圧という名の虐殺を実行する為に待機しているに過ぎない。武装しているといってもデモ隊の労働者達は戦闘は素人、脅威ではないだろう。

 

 

「おい、あれは・・・」

 

 クランクさんが指し示す方を見ると、大通りの向かい側に、こちらに手を振っているクーデリアの姿。おそらくフミタンを見つけたのだろう。こちらに来ようとしてデモ隊の人に止められている。・・・てヤバッ!!

 

「クランクさん、フミタンをお願いします!!」

「あ、おい!?」

 

 くそっ!解っていた筈なのに!ノブリスの手下を無力化して気が弛んでたのか!?ノブリスの手下がクーデリアを狙撃したのはギャラルホルンの機銃掃射が運良くクーデリアを外れていたからで、狙撃を阻止すればそれで良い訳じゃ無かったのに!!

 クーデリアの事に気付いたらしく、デモ隊の人達の一部はクーデリアの周りに笑顔で集まって来ている。一方フミタンの所に行きたいクーデリアは戸惑っている。そこに駆け寄ろうとするが、僕にもデモ隊の1人が止めに来た。

駆け寄ろうとするが、僕にもデモ隊の1人が止めに来た。

 

「ちょっとアンタ、ここは危ないから下がって」

「そこにウチの護衛対象がいるんです。危ないってなら避難させないといけないでしょう!」

「護衛対象って・・?」

「あそこにいるでしょうが!僕は鉄華団の団員です!」 

「鉄華団?アンタが?」

「ああもう、時間が無いんです!」

「あっちょっと!」

 僕の前に立つ男を押し退け無理矢理中に入りクーデリアの近くまで行く。クーデリアに壮年の男が話し掛けているのが聞こえる。

 

「鉄華団の皆さんは大丈夫ですか?お仲間が何かに巻き込まれたとか・・・」

「?彼らに何が・・・」

「クーデリアさん!」

「トウガさん!フミタンが・・・」

「ええ、フミタンは保護しました。後はクーデリアさんだけです、皆捜してますよ」

「ちょっと何なんですかアナタ!?」

「クーデリアさん、何か一言お願いしますよ!」

「ええ、お願いします、皆の力になるような・・・」

 

 クーデリアに声を掛けるが組合員達が割り込んできて話がすすまない。ああもう、この人達は・・・!

 

「ナボナさんってのは誰です!?今すぐここから」

 

 離れてください、と言おうとした時、ドルト本社の正面出入口で爆発が起こった。ああ、始まってしまった!!

 

「攻撃は待てと言った筈です!」

「いえ、こっちでは・・・」

「待て、俺達じゃない!」

「俺達は爆弾なんて持って無い!」

 

 組合員達は爆発は自分たちの攻撃では無いと訴えているが、武装している状態では端から見れば彼らの仕業と思われてしまうのも無理は無い。

 ドルト本社前に展開しているギャラルホルンのMWが発砲、労働者達のMWが次々に破壊されていく。

 

「くっそーっ!!」

「撃って来た!撃って来たぞ!」

「なっ、何なんですか!?」

「下がります!こっちへ!」

「ちょっ・・・」

 

 ギャラルホルンの攻撃に銃を持った組合員は反撃を始めた。

 状況が理解できず戸惑うクーデリアを女性の組合員が後ろに下がらせようとする。周りは混乱していて近づけない。くそ、このままじゃ・・・。

 

「駄目です!撃つのを止めてください!これでは相手の思うつぼです!」

 

 ナボナが声を上げるがもう状況は収まらない。そこにギャラルホルンのMWから煙幕弾が発射された。

 

「うっ、ガスか!?」

「いやこれは・・・」

「ただの煙?うわっ!」

「全員伏せろーっ!!」

 

 近くにいたナボナを押し倒し、伏せるように呼び掛ける。数秒後、ギャラルホルンの機銃掃射が始まった。

 

「うわぁーーっ!」

「ぐあっ!」

「痛い!」

「死にたくないよーっ!」

 

 銃弾の音に混じって組合員達の悲鳴が聞こえてくる。僕は自分の下にいるナボナを地面に押さえ付けてじっとしているしか出来なかった。

 

 銃撃が止んだ。煙幕も徐々に晴れて来ている。

 

「うっ・・・一体何が・・・?」

「静かに、まだ動かないでください」

 

 ナボナに動かないように言って、クーデリアのいた方向に匍匐前進で近付いていく。

 

「だ、大丈夫ですか!?しっかり!」

 

 クーデリアの声が聞こえる。良かった、とりあえず生きてる!

 クーデリアは地面に座り込んだ体勢で、その腕には組合員の若い女性が抱かれていた。被弾したらしく息も絶え絶え、もう助からないだろう。

 

「うれ・・・しい、私・・・革命の乙女の・・・手の中で・・・まるで・・・物語・・・みた・・・」

「しっかり!あっ・・・」

 

 クーデリアの腕に抱かれた女性は息絶えた。クーデリアにも自分の腕の中で一つの生命が消えるのが感じ取れたのだろう。

 

「私・・・私は・・・!そんな・・・そんな・・・!」

 

 煙幕は殆ど晴れて、クーデリアと僕の周囲、煙に隠された死屍累々の惨状が露になる。

 

「どうして・・・どうしてこんな事になるんですか!?なんで・・・」

 

 クーデリアの叫び、しかし応える者は、応えられる者はいない。僕もどんな言葉を掛ければ良いのか判りかねていた。これだけの犠牲が、クーデリアさんの器を試す為に必要だったのか?マクマード・バリストン!?

 

「あああ・・・皆さん・・・こんな、こんな事になるなんて・・・私達は・・・私達の望みは・・・こんな仕打ちを受けなければならない程の事だというのか・・・!」

 

 後ろからの声に振り向くとナボナが立ち尽くしていた。

 確かに酷い話だ。けどこの人はまだ生きてる。生きてるということは、やらなければいけない事があるという事だ。

 

「ナボナさん、貴方は逃げてください。ギャラルホルンはここ以外でも武装蜂起した組合の人達を鎮圧と称して虐殺していくでしょう。それに力で対抗しても勝ち目はありません。今はとにかく逃げて逃げて、生き延びる事を考えてください」

「し・・・しかし、私には責任が・・・」

「死んでしまったら責任を果たす事すら出来ないでしょう!生き延びてこそ、出来る事がある筈です!」

「う・・・わ、わかりました・・・」

 

 ナボナはその場を立ち去って行った。僕はクーデリアに声を掛ける。

 

「クーデリアさん、行きましょう」

「トウガさん・・・ですが・・・」

「今ここで座り込んでいて、何が出来るんですか?今はここを離れないと」

「それは・・・」

「トウガ、クーデリア」

「三日月・・・」

 

 三日月がここにたどり着いていたか。ちょうど良いかな。

 

「三日月、クーデリアさんを頼む。僕はフミタンを連れて行くから」

「フミタンもここに?」

「ああ、近くにいる。クーデリアさんの方、よろしく!」

 

 三日月にそう言い残してクランクさんとフミタンの所に向かうと、途中で街を移動するギャラルホルンをやり過ごしながらホテルに向かった。

 

 

 




 今回のトウガの台詞にもついて補足。
周りに合わせて言葉を選んでいるとき、演技している時はクーデリアをさん付けで呼んでいますが今回のフミタンとの会話では、感情的になっているせいで地が出てクーデリアと呼び捨てになっている部分と、取り繕ってさん付けの部分が混在しています。
 ですのでさん付けの所とそうでない所は意図的に書き分けている・・・筈です。


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クーデリアの決意

 前回との辻褄合わせで強引な展開になったかもしれません。

 話は変わりますが捕捉情報(ネタ元は鉄血日和#6)。
ドルトの組合員ですが、ドルト2で最初にオルガ達と話した眼鏡の男はオハギ、ちょっと厳つい顔の男はマン・ジュー、本社前でクーデリアの腕に抱かれる形で死んだ女性はタルト、という名前だったそうです。そしてナボナ、サヴァラン・・・。

アトラ「ドルトの人達はみんな・・・スイーツなお名前だったんだね」


 クランクさんと一緒にフミタンを連れてホテルに向かうと、三日月とクーデリア、アトラやオルガ達が既に集まっていた。

 クーデリアはフミタンに気付くと彼女に歩み寄る。

 

「フミタン・・・私・・・私、また何も出来なかった・・・私の目の前で沢山の人達が・・・なのに・・・!」

「お嬢様・・・やはり変わらないのですね、あの頃から何も・・・」

「え・・・?」

「責めている訳ではありません。覚えていますか?火星のスラムでの事を・・・」

 

 クーデリアにフミタンは語りかける。多分、自分の今の気持ちを正直に話す決意をしたのだろう。

 

「三日月、アトラ、少し離れよう。僕達が立ち聞きして良い話じゃない」

「あっ、そうですよね。行こ、三日月」

「うん」

 

 僕は三日月とアトラを促して二人から離れると、ヤマギの側で座り込んでいるサヴァランに話し掛ける。

 

「ドルト本社前まで行ってきましたよ。ギャラルホルンは自作自演でテロをでっち上げて大義名分を作った上で組合の人達を虐殺しました。それは他のコロニーにも拡がっています」

「なんて事だ・・・ナボナさん・・・俺は何も出来なかった・・・」

「ナボナって人は生きてましたけど、上手くギャラルホルンから逃げられるかは判りません。一応伝えましたよ」

「くっ、うう・・・」

 

 嗚咽を漏らすサヴァラン。

 

「貴方にはしばらく僕達と同行してもらいます。こちらに弓引いた落とし前はつけてもらう」

 

 そう言ってオルガの方に状況を聞きに行く。

 

「イサリビと連絡は出来ない?」

「ああ、回線をギャラルホルンに押さえられてる」

「ん・・・ダメ元で宇宙港まで行ってみる?」

「・・・それしかねえか・・・」

「けどよ、街ん中はギャラルホルンがうろついてんだぞ?」

「ここでじっとしてても時間を潰すだけでどうにもならねえ。何とかやつらの目を掻い潜って行く」

「くっそ勘弁しろよ・・・」

「こうなったら腹括れよ、ユージン」

 

 危険な賭けにぼやくユージンにシノが発破をかける。

 僕だって分の悪い賭けは好きじゃないけど今は他に動きようが無い。上手い事原作通りに報道クルーに遭遇するのを祈るしか無い。

 3階のエレベーターがまだ動いていたのでそちらに向かったが、エレベーター前の待合室までは行く事が出来たものの、やはりギャラルホルンによって封鎖されていた。

 

「どうするオルガ?これじゃイサリビに連絡とれたとしても・・・」

「・・・」

 

 その時、待合室のモニターにギャラルホルンと組合側のコロニー外での戦闘が映し出された。

 しかし組合側のMSやランチは攻撃はおろか回避行動すらとれずに撃墜されていく。

 

「組合側の武装勢力って、あのおっさん達の仲間なんだろ?」

「交戦っていうか、なぶり殺しだね」

「MSもランチも攻撃、回避どっちもろくに出来てない。多分スラスターや武器に細工されてたんだ。」

「細工ってどういう事だ?」

「今回の騒動はギャラルホルンとドルト本社の手の内だって事。ドルト本社は待遇改善を訴える組合の人達が疎ましい、ギャラルホルンはデモとか他の所でも起こされると面倒だから見せしめが必要、だから組合側にわざと使い物にならない武器を流した上で挑発して暴動を起こさせる。そしたら組合の人達はMSやランチでコロニーの外に飛び出すけど弾は出ないしスラスターはすぐガス欠になる。計器上は異常無しに見えるよう細工してあればチェックしても簡単には気づけない。ギャラルホルンは大義名分を掲げて武装しているようで実際は丸腰同然あの組合の人達を殺して見せて、立派に働いてますってアピールも出来るし、ドルト本社はどこかから仕事の無い人達をかき集めて人手を補充すれば元通り。仕事が無くて食うや食わずの人達なら待遇が悪くてもしばらくは大人しく働くだろうしね、CGSの頃の僕達みたいにさ」

「んだよそれ!?汚ねえだろ!」

「なあオルガ、なんか出来る事ねえのか?俺達に」

「出来る事って何だ?」

「だから何か手伝うとか、一緒に戦うとかよ・・・」

「駄目だ。何度も言わせんな」

「テイワズの指示ってのはわかるけどよお・・・見て見ぬふりってのは・・・」

「おっさん達言ってたじゃねえか、俺達の事騎士団ってさ!英雄で希望の星なんだぜ!?」

「駄目だ!俺達の仕事は依頼主を無事地球に届ける事だ」

「そうだよ、ここまで来て目的を果たせなかったら・・・」

「クーデリアさんはどう思いますか?」

「え?」

「トウガさん?」

「依頼主本人の考えも聞くべきだと思うよ。クーデリアさん、団長が言った通り僕達は貴女を地球に送り届けるのが仕事です。その為にこのコロニーを離れる事を第一に行動するという事で良いですか?」

「それは・・・」

「僕達は正義の味方じゃありませんから、最優先すべきは依頼の遂行です。その為なら今起こっている暴動鎮圧を装った虐殺を無視して動く。それで良いですか?」

「そんな・・・それは」

「下手に介入すれば地球に行く手段を失う可能性が高い、その危険を考えれば当然の判断です。納得頂けますか?」

 

 クーデリアにここでの騒動に介入しないように言いくるめる風を装いつつ煽る。クーデリアが立ち上がってくれないと正直詰みだ。この先モンタークの協力を得る事も出来ないだろうし。原作と違ってフミタンが死んで無いから、クーデリアが立ち上がる気になるように後押ししないと。

 

「私は・・・私はこのまま地球へは行けません」

「お嬢様?」

「フミタン、貴女の言う通り、私はあの時から変わってないのかも知れない。あの時私は『その場限りの施しは救いでは無い』という貴女の言葉を聞けなかった。助けたい、何かしてあげたいという気持ちだけで浅はかに行動してしまった」

「それは・・・私が言ったのはそういう事では・・・」

「それでも、例え愚かな考えだとしても、私はここで起きている事を無視する事は出来ない」

「おい、解ってんのか?ここで騒ぎを起こしちまったら・・・」

「解っています。それでも・・・ここの人達も火星の人達と同じです。虐げられ踏みつけられ、命まで・・・それを守れないなら・・・立ち上がれないならそんな私の言葉など誰も聴いてくれる筈が無い」

「て、依頼主のお言葉だけど?」

 

 原作とは少しの違いはあるものの、クーデリアはここで起きている事を放っては置けないという答えを出したので、オルガ達に話を振る。

 

「あ・・・ほらな、お嬢様だってこう言ってんだよ!」

「ここでやんなきゃカッコ悪いだろ」

「ちょ・・・ちょっと待った。そんな簡単に・・・」

 

 クーデリアの言葉に勢いづくシノとユージンを諌めようとして、チラリとサヴァランの方に視線を向けるビスケット。

 オルガは三日月の意見を問う。

 

「ミカ、お前はどう思う?」

「俺はオルガの決めた事をやる。けどこのままやられっぱなしってのは面白くないな。それに・・・」

 

 一旦言葉を切ると三日月は僕の方を向いて口を開く。

 

「トウガも、本当はこのまま知らない振りは嫌だって思ってるでしょ」

「う・・・バレたか。まあ正直な気持ちを言えばね」

 

 というかここで派手にやっておかないとマクギリスの目を引く事が出来ないかもで、そうなったらこの先詰む可能性が高いし。

 

「はあ・・・ったくお前ら・・・まあどのみちこのままじゃらちが明かないしな。やるか!」

「よっしゃーーっ!」

「そう来なくっちゃな!」

「まあ、待っていても捕まるだけだしね。それに、兄さんはあの人達を守ろうとしてたんだし」

 

 そう言ってビスケットはサヴァランに歩み寄る。

 

「兄さん、兄さんがギャラルホルンに売り渡そうとしたクーデリアさんや俺の仲間達が、兄さんの守ろうとした人達の為に危険を冒して動こうとしています。その事を少し考えてみてくれませんか?」

「ビスケット・・・」

 

「本当に良いのか?このコロニーはギャラルホルンでも最大最強を誇るアリアンロッド艦隊の管轄だ。いくらお前達でも・・・」

 

 クランクさんが相手の強大さを警告して来る。

 

「やるだけやってみましょう。正義の味方を気取るわけじゃ無いですけど、昔の言葉にもありますし。義を見てせざるは勇無き也ってね」

「・・・そうだな。俺も正直今回のギャラルホルンのやり方は思う所がある」

「でしょう?」

 

 と、やる気になったは良いものの、民間のエレベーターは全て封鎖されてしまっていた。

 

「メンテナンス用なら・・・」

 

 そう話していると角から人影が。

 

「あ・・・貴方達は・・・」

 

 それはドルト本社前で別れたナボナさんだった。

 

「ナボナさん!」

「サヴァラン?何故君が鉄華団の皆さんと一緒に・・・?」

「あ・・・それは・・・」

「ちょっとトラブルがあって、同行してもらっています。それより貴方は何故ここに?」

「組合の仲間と合流しようとしたんですが、ギャラルホルンから逃げ回る内にここに・・・」

「おーい、君達!!」

「誰だ?」

「あれ?あの女の人さっきニュースで・・・」

 

 僕達に声を掛けてきたのはドルトの報道スタッフだった。

 

「君あの時デモ隊の中にいた子だよね?」

「私ですか?」

「良かったら少し話を聞かせてくれないか」

「悪いけど先を急いでんだ」

「そういうこと」

 

 クーデリアに話を聞きたいというディレクター?らしき男性にオルガが拒否の意思を示す。

 

「いや少しだけでも良いんだ。個人的には今回の報道は一方的過ぎると思ってる。どこまで出来るかわからないが君達労働者の声も出来るだけ伝えたいんだよ」

「だから急いでるって・・・」

「待ってください」

 

 苛立たしげに取材を拒絶しようとするオルガをクーデリアが制止した。

 

「私の声を届けてくださるというのなら望むところです。その為に火星から来たのですから」

「火星?」

「あんたは?」

「クーデリア・藍那・バーンスタインと申します」

「クーデリアって・・・」

「おい!勝手に・・・なっ?」

「まあまあオルガちょっと落ち着いて」

 

 ビスケットがオルガの肩を掴んで制止し、僕もオルガを宥めにまわる。

「報道スタッフなら専用ランチを持ってる筈だよ。報道用の専用回線もね」

「つまり僕達にとっても渡りに船、好都合だよ」

「・・・!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ハンマーヘッドの艦橋

 

「本気なんだな?」

『ええ、すんません兄貴、依頼主の希望で俺達は一番派手なやり方で地球を目指す事になっちまった』

「ここまで事が大きくなっちまった以上、テイワズとして名の売れてる俺達は出て行けねえぞ。オヤジにまで迷惑がかかっちまうからな」

『わかってます』

「そうか。まっ腹括ったんなら根性見せろや」

『はい!』

「ってことだが、お前はどうする?」

 

 そう言って名瀬は後ろに立つ昭弘に顔を向けた。

 その後、格納庫で出撃しようとする昭弘をラフタが呼び止める。側にはアジーと昌弘もいる。

 

「やっぱり行くの?」

「そりゃあそうでしょ」

「んー・・・やっぱり私ダーリンにもっかいお願いしてこようかな・・・」

「やめときな」

「でもさ外すんごい数なんだよ!?」

「名瀬だって辛いんだ。あんただってわかってるだろ?」

「でも・・・」

「こいつを仕上げてもらっただけでもタービンズには感謝してもしきれねえ。こいつの初陣、派手に飾ってやりますよ」

「兄貴・・・」

「心配すんな昌弘、ここで待っててくれ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 報道スタッフの人達の専用ランチにたどり着いた僕達、三日月は一人ノーマルスーツを着て宇宙に出て、バルバトスを運んでくるおやっさんとの合流ポイントに向かう。

 

「彼は一人で大丈夫なのか?」

「心配いらねえよ」

「しかし・・・」

「丸腰のランチだけで飛び出していくわけにはいかねえだろ」

 

 一人宇宙に出た三日月を心配するディレクターにオルガが答える。 

 

「あの・・・このコロニーで働く人達の事を、出来るだけ教えていただけませんか?」

「え?」

「どういう事です?クーデリアさんは私達の事を・・・」

「何か誤解されているようですが、私はこのコロニーの事を何も知らないのです。地球に行く途中で立ち寄っただけで」

「待ってください。私達は鉄華団の皆さんが運んできた武器はクーデリアさんから贈られた物だと・・・」

 

 クーデリアの言葉にナボナさんが怪訝な顔で問い返す。ああ、この誤解も解いておかないとな。

 

「ナボナさん、貴方達は騙されてたんですよ。クーデリアさんの代理人を騙るノブリス・ゴルドンに。クーデリアさんをギャラルホルンに殺させる為の火種として」

 

 そうして僕はクーデリアとナボナさんに今回ノブリスが仕組んだ事を説明した。

 

「そんな・・・私達はそんな事の為に・・・利用されていたなんて・・・」

「そういう事ですか・・・ですが、何故トウガさんがその事をご存知なのですか?」

「え・・・あ、フミタン、フミタンが話してくれたんです」

「フミタンが?」

「い、いえ私は・・・」

「その事は後で説明します。今は知るべき事があるでしょう?」

 

 危なかった。何とか誤魔化せたかな・・・て、何故フミタンは僕を睨んでいるのだろうか?嘘はついてるけど、別にフミタンを悪く言った訳じゃ無いし・・・。

 

 そして、三日月がバルバトスで戦闘(虐殺)に介入、その隙にイサリビとの合流ポイントにランチを発進させる。 

 三日月はアリアンロッド所属のグレイズ相手に優勢に立ち回る。が、そこに新たな乱入者が現れる。

 ガンダムキマリスと紫のシュヴァルベ・グレイズ、ガエリオとアインがバルバトスに攻撃を仕掛ける。キマリスのスピードには三日月も苦戦している。

 バルバトスがシュヴァルベから僕達の乗るランチを庇って攻撃を敢えて受けた。しかしそれでアインはランチに狙いを変えた。

 あの野郎、こっちは非武装の報道用ランチだぞ!

 三日月はキマリスに翻弄されこちらに対応出来ない。

 

「ひぃ~!!」

「ちっ!!」

 

 報道の人達が悲鳴を上げる。舌打ちしたのはユージンか。

 しかしそこにちょうどイサリビが到着、シュヴァルベの前を遮ってくれた。その隙にランチは着艦出来た。僕とシノは急いでノーマルスーツに着替えて格納庫の自分の機体に乗り込む。

 出撃準備が出来た所でブリッジのオルガから通信が入る。

 

『トウガ、シノ!出られるか!?』

「ああ、行けるよ!」

『こっちもいつでも行けるぜ!ん?』

 

 シノにはヤマギからも通信が入っているのだろう、ヤマギはシノを特に気にかけているから。

 

『へっ氷の花咲かせんのは当分先だぜ!ノルバ・シノ、流星号!行くぜおらぁ!!』

 

 そう言ってシノは先に発進して行った。おやっさんとライドが顔を見合わせて「流星号?」と呟いているけど、僕も出ないといけないのでスルーする。

 

「トウガ・サイトー、グレイズ改、行きます!」

 

 発進すると接近して来たグレイズに散弾砲を射って牽制し周囲を索敵する。・・・いた!!アインのシュヴァルベとシノの流星号だ。スラスターを噴かして加速する。

 

「シノどいて!」

「あ?うおっ!?」

 

 流星号を避けつつシュヴァルベの肩を蹴りつける。

 

「シノはイサリビの護衛にまわって!」

「は?そいつは俺が・・・」

「シノは初乗りでしょ!?それに・・・」

 

 太刀を抜いてシュヴァルベに斬り掛かる。シュヴァルベは左腕のクローで受け止めた。

 

「こいつには用がある!悪いけど譲れない!」

『クランク二尉の機体のみならずコーラル司令の機体まで・・・貴様らあ!!』

 

 リアクターの波形パターンでこの機体がコーラルが乗っていた物と気付いたか。けどこっちも言いたい事はある!

 

「アイン・ダルトン!非武装の報道ランチを攻撃しようとするとは、情けない男なんだな!」

『何!?俺の名を・・・!?』

「MSで戦闘用MWを攻撃するのは卑怯で、非武装のランチを攻撃するのは卑怯じゃ無いのか!?自分達は何をしても許されるとでも思っているのか!?」

 

 太刀の刀身を下げて斬り上げる。これは避けられた。アインはライフルをバトルアックスに持ち換えて斬りかかってきた。

 太刀で受け、捌く。

 

『ふざけるな!クランク二尉やコーラル司令を手にかけたばかりかその機体を奪った貴様らが!』

「先に仕掛けたのはそっちだろうが!何十人も殺しておいて、反撃されたら被害者面して、怨念返しにこんな所まで追い掛けて!そんな事クランク二尉は望んでいない!」

『き・・・貴様に!クランク二尉の何がわかる!!』

 アックスとクローでの連続攻撃、捌くのが難しくなってきた。一旦距離をとろうと機体を上昇させる。

 アインが追撃、斬り上げるようにアックスを振るう。僕はリアスカートに装備していた片刃式ブレード(名瀬さんとアミダさんに頼んで一振り譲ってもらった)を抜いて受け止めた。

 

「わかるさ。あの人と言葉を交わしたからな。あの人はお前や他の部下の事を気遣っていた。僕達にもあの人なりに善処しようとしていた」

『そうだ!そんな人を、その善意を踏みにじって貴様らは・・・!』

 

 アインの攻撃が激しさを増す。機体の出力はシュヴァルベの方が上だ。パワーで押されると不味い。

 

「踏みにじってるのはお前だろうに!」

 

 正面から対するのは止めた。絡め手で行かせてもらう。こっちが相手に優っている点は阿頼揶識の有無だ。それを活かす。

 AMBACとスラスターの併用で機体を動かしシュヴァルベの背後を取ると、背部のブースター接続部に片刃式ブレードを差し込むように突き立てる。

 

『何っ!?』

「まずは機動力を削ぐ!」

 

 ブレードを握る手を動かし背部のスラスターを剥ぎ取る。推進バランスが崩れて動きにくくなる筈だ。それから戦闘力を奪えば・・・。

 

『ぬああっ!くっそー!!』

『特務三佐殿!?くっ!』

「あっ!?おい待・・・うっ?」

 

 シュヴァルベはこちらを振り払い、三日月と戦っているキマリスの方へ向かう。追おうとしたが他のグレイズが攻撃して来た。

 

「くそっ、邪魔を!」

 

 スラスターを噴射して一気に接近、グレイズの胸部に太刀を突き込み停止させる。

 

『トウガ!こっちに戻ってくれ!敵が集まって来やがった』

「・・・了解、すぐ行く」

 

 出来ればアインをシュヴァルベもろとも捕獲したかったが無理だったか。せめてと思い、剥ぎ取ったシュヴァルベの背部ブースターを拾うとイサリビに向かう。

 イサリビの近くではシノがグレイズ二機相手に戦っていた。

 一機がシノからイサリビに狙いを変更したらしくイサリビに向かってバズーカを構えた。散弾砲を射って牽制し、一気に接近すると逆手持ちにした片刃式ブレードを胸部に突き立てた。

 シノも相手取っていた一機を倒したようで、二人揃ってイサリビの甲板に着地した。

 

『助かったぜトウガ』

「いや、こっちこそ、僕が戦っている間イサリビを護ってくれてありがとう」

 

 そこに三日月のバルバトスと昭弘のグシオンリベイクが合流して来た。

 

『トウガ、シノ、大丈夫?』

『ああ、今んところはな』

「問題はこれから、かな」

 

 ギャラルホルンの艦隊がイサリビを包囲している。グレイズもかなりの数が展開している。

 

『すげえ数だな』

『逃げてえ~~』

『逃がしてもらえるもんならね』

 

 身構える三日月達。

 

『私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。今テレビの画面を通して世界の皆さんに呼び掛けています。私の声が届いていますか?』

 

 クーデリアの声が通信を介して聴こえて来る。始まったようだ。

 

『皆さんにお伝えします。宇宙の片隅、ドルトコロニーで起きている事を。そこに生きる人々の真実を』

 

 さて、クーデリアの周りの状況は原作と少し変わっているけど、上手くいくだろうか?




 今回の戦闘の捕捉。
トウガはアインを出来れば生かして捕らえてクランクに会わせてやりたいのとついでにシュヴァルベのパーツ欲しさからコックピットへの攻撃を避けています。阿頼揶識使ってるのにアインに勝てなかったのはそれも理由の一つです。アインの腕もシュヴァルベを乗りこなせる程向上しているのもあります。


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地球降下編


 今回はトウガの感情ブレまくりになっちゃいました。



 ギャラルホルン、最大最強を誇るアリアンロッド艦隊の戦艦、MSに包囲されたイサリビ。絶体絶命の状況下で、クーデリアの姿が、声が、放送によって世界中に発信されている。

 

『私は自分の産まれ育った火星の人々を救いたいと願い行動してきました。けれどあまりに無知だった。ギャラルホルンの支配に苦しむ人々は宇宙の各地に存在していたのです』

 

 クーデリアは自分がドルト本社前で見た事を語る。ドルト本社で起きた爆発はデモ隊によるものでは無く、しかしそれによってギャラルホルンがデモ隊に攻撃を開始した事を。

 

「ここにドルト本社の方が1人います。この方にも話をお聞きしたいと思います。・・・まずはお名前とご職業からお願いします」

「私は・・・サヴァラン・カヌーレ。ドルト本社勤務の社員・・・です」

 

 え?サヴァラン?何を話すつもりだ?

 

「今起きている事について、御存知の事を、話していただけますか?」

「・・・元々ドルトカンパニーは、本社勤務の社員と各工業コロニーで働く人達の間で、給与その他の待遇に大きな格差があり、コロニーの労働者達には不満を持つ人達が多くいたのです。ですが・・・」

 

 労働者達の不満の声、待遇改善の要求をドルト本社はギャラルホルンの武力を楯に強引に押さえつけていたとサヴァランは語る。

 

「私は労働者と本社側の間で、何とか話し合いの場を設けられないかと交渉していたのですが、状況は進展せず、遂に本社側は労働者達が暴動を起こすように仕向けて見せしめに虐殺するというギャラルホルンからの提案を受けてしまいました。本社前の爆発というのはおそらく本社とギャラルホルンの間で、予め用意されていた物でしょう・・・」

 

「今のお話のように、ドルト本社前で起きた爆発は、ギャラルホルンによって仕組まれた物でした。そしてそれによって始まった戦闘、いえ・・・虐殺は今も続いているのです!」 

 

「くっ・・・ククク・・・フハハ・・・」

『お、おいトウガ?』

「これは予想外だな。けど良いじゃないか」

 

 サヴァランはビスケットの為に自殺させないという、ただそれだけの目的で拘束していたのが、まさかこんな形で役立つとは思わなかった。そりゃあ笑いたくもなる。

 立場上は本社側の人間であるサヴァランが本社とギャラルホルンのでっち上げを証言したんだ、クーデリアの話は真実味を増すだろう。

 

『笑ってられる状況か?来るぞ』

『くっそ、うようよと・・・』

 

 ま、確かにそれは尤もだけど。

 

『今私達の船はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。・・・ギャラルホルンに私は問いたい。あなた方は正義を護る組織ではないのですか?これがあなた方の言う正義なのですか?ならば私はそんな正義は認められない。私の発言が間違っていると言うのなら・・・構いません。』

 

 あ・・・嘘?それ、言っちゃうの?

 

『今すぐこの船を撃ち落としなさい!』

『おいおい・・・』

『何言っちゃってんの・・・?』

「まさかここまで腹括ってるとは・・・」

『どっちにしろやるしか・・・』

『動くな三日月!』

 

 ギャラルホルンに対し迎撃に動こうとする三日月をチャドが制止する。

 

『おいおいどうなってんだ?やつら動かねえぞ』

 

 ギャラルホルンの艦隊もMSも動きを止めた。

 

『すごいなあいつ』

『三日月?』

『俺達が必死になって一匹一匹ぷちぷち潰してきた奴等を、声だけで・・・止めた』

「ああ、確かに。僕達には出来ない事だ。これが彼女の力、か」

 

 僕も見誤っていたのかもしれない。フミタンが死んで無いから原作程の覚悟は出来ないと思っていたけど・・・。

 見ているかマクギリス・ファリド。お前の眼に、今の状況はどう見えている?

 

 イサリビに帰艦すると、報道スタッフにナボナさんを預けて送り出した。ナボナさんもだが、報道の人達には身の回りに注意するようにと、一応忠告はしておいたが・・・ここから先は彼ら次第だ。

 サヴァランに何故クーデリアに加担する証言をしたのか尋ねたら、

 

「自分に出来る事をしようと思った。既に犠牲は出てしまったし、カヌーレの家には顔向け出来ないが・・・」

 

 と肩を落としくたびれた様子で答えた。 

 サヴァランは本社側とカヌーレの家を裏切った状態でもうドルトには帰れないし、まだケジメをつけてないからとりあえずクランクさんと同様に独房に入れている。

 その後ハンマーヘッドと合流、名瀬さんとアミダさんがブリッジに到着した。

 因みにダンテはブリッジにいない。原作同様にやっちゃったか。

 

「悪いな、遅くなっちまって」

「いえ、こっちこそ面倒かけちまってすいませんでした」

「気にすんな。それにしてもやってくれたな、あのお嬢さんは・・・っと」

 

 クーデリアとフミタンがブリッジに入ってきた。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「大丈夫かい?カメラの前ではずっと気を張ってただろう?」

「・・・大丈夫です。それで、出発の方はどうなりますか?」

「ああ、それなんだが・・・」

 

 予定では地球軌道上にある2つの共同宇宙港、ユトランド1、2のどちらかで降下船を借りて地球に降りる手筈だったのだが、僕達の動きはギャラルホルンにマークされている為それは不可能と名瀬さんは説明した。

 

「そう、ですか。他に方法は無いのですか?」

「意外と冷静ですね」

「前もって忠告を頂いていましたから、覚悟はしていました。ですがそれでも、私は地球に行かなければならないのです。私を信じてくれる人達の為に、果たさなければならない責任があるのです」

「と、言ってもな・・・」

「んー・・・」

 そろそろ来る頃だけど・・・

 

「エイハブ・ウェーブの反応、船が近付いて来ています」

「ギャラルホルンですか?」

「なら一隻って事は無いだろう」

「接近する船から通信が入っています」

 

 オルガは名瀬さんの方を伺うと、名瀬さんが頷いたのを見てメリビットさんに指示を出す。

 

「正面に出してくれ」

 

正面のモニターに通信相手の姿が映る。

 

「うおっ!?」

 

 モニターに映る相手の顔というか仮面に驚いて声を上げたのはチャドか。僕は予想してたけどそれでも実際にみると、ねえ。

 

「あの男は・・・」

 

 クーデリアとフミタンの顔に警戒の表情が浮かぶ。

 

『突然申し訳ない。モンターク商会と申します。代表者とお話がしたいのですが』

 

 オルガに代わって名瀬さんが応対する。仮面の男は商談があると言って直接の面会を求めてきた為ハンマーヘッドの応接室で話をする事になった。

 

 仮面の男との商談には僕も立ち会いを希望した。

商談自体はこういう話に慣れている名瀬さんが対応する。

 

「改めまして、モンターク商会と申します。またお会いしましたね、クーデリアさん」

「知ってんのか?」

「いえ・・・少し」

「しかしまだ彼女を側に置いているとは、私の忠告は無駄でしたか」

「フミタンの事は私が判断して決める事です」

「成る程・・・これは失礼」

 

クーデリアの言葉に薄く笑みを浮かべる仮面の男。

 

「何の話か知らないが、本題に入ってくれるか?商談ってのは?」

「私どもには降下船を手配する用意があります」

「はあ?」

「貴女の革命をお手伝いさせていただきたいのです。クーデリア・藍那・バーンスタイン」

 

 そして仮面の男はクーデリアの目的達成によってマクマードさんとノブリスが得る火星ハーフメタルの利権に自分達も加わる事を援助の見返りとして要求してきた。

 しかし彼の求める本当の見返りが別にある事を僕は知っている。

 

「返事は何時までに?」

「あまり時間はありません。なるべく早いご決断を」

 

 そして仮面の男は挨拶代わりにと物資の提供を申し出て来た。

 

「マクマードさんとノブリス・ゴルドンが繋がってたなんて」「ドルト2に運んだ荷物の件、マクマードさんは知ってたのかもね」

「え?どうして・・・」

「多分マクマードさんはクーデリアさんと僕達を試すためにノブリスの企みをあえて見逃したんじゃ無いかな?口先だけの小娘とガキの集まりか、それとも本当にデカいヤマを張れる力があるか・・・ってね」

「そんな・・・」

「仕方ねえ、あの人達は化かし合いの中で商売してる。俺達やクーデリアを試すくらいの事はしてもおかしくねえ」

「もうバルバトスのオーバーホールとか色々便宜を図ってもらってるし、文句は言えないよね」

「あの人達と対等に商売していくなら、今のままじゃ駄目なんだ」

「オルガ・・・」

「えーっと・・・あまり思い詰めない方が良いよ。今は目の前の事を」

「そいつはわかってる。けどな・・・このままじゃ終わらねえ」

 

 やっぱりオルガの上昇思考は簡単には抑えられない、か。

 

「にしても、モンターク商会、か。こっちに選択の余地が無いのを解ってるねえ」

「そうですね。物資の件といい、こっちの足下を見られてるような・・・」

「このままあっちに主導権を握られているのは面白く無いね。ちょっとこっちから仕掛けてみようか」

「こっちから?」

「ちょっとあの男とサシで話させてくれる?取っ掛かりは僕が探るからさ」

 

 

 その後、イサリビの通路にて

 

「ていうか・・・何でチョコの人がいるの?」

「「え?」」

「ふっ・・・双子のお嬢さんは、元気かな?」

「って、あの時のギャラルホルンの!?」

 

 三日月にあっさり正体を見抜かれた仮面の男。いや本当、何でわかったのかなあ?

 

 警戒を露にするオルガ達に仮面の男は自分が腐敗したギャラルホルンを変革したいと考えており、その為に外から働きかける役を鉄華団に求めていると語った。

 

「まあ、良く考えてくれたまえ。ああ、私の事は内密に。もし他言したならば・・・この件は、無かったことにしよう」

「ちょっと待ってもらおうモンターク。それは狡いな。交渉事に一方的な条件追加はアンフェアじゃないか」

「既に対価は払ったと思うが?」

「物資の事を言っているなら、あれは挨拶代わりなんだろう?なら別の話だ。そっちに対する礼も兼ねて一対一で話がしたい。そちらにも損はさせない自信がある」

「ほう・・・面白そうな事を言う。だが鉄華団の代表者は君ではあるまい、良いのかな?」

 

 仮面の男はオルガに話を振る。僕もオルガに顔を向ける。

 

「・・・頼むぞ、上手く話を着けてくれ」

 

 空き部屋の一つに僕は仮面の男・・・モンタークと二人で入ると扉をロックする。

 

「さて、先ずは挨拶代わりの物資に対する返礼からですか。とは言っても金や物では貴方には何の得にもならないでしょう、マクギリス・ファリド」

「・・・君にその名を名乗った覚えは無いのだが」

「勿論、今日が初対面ですよ。でも僕は知っている。貴方が今のギャラルホルンを変革したいという意志が本当だって事も。その為に知っておいて損は無い話がありますので、それをもって返礼とさせてもらいます」

「一体どんな話を聞かせてくれるのかな?」

「この先起こる出来事、その予測を貴方に話しましょう。・・・先ずこの後、貴方からの申し出を受けてからの話です。勿論ギャラルホルンの妨害もありますが、まあそれは切り抜けられるとして。その先、地球に降りてからが問題でしてね」

 

 そして僕は地球に降りたその先に起こる事を、予測と称して語った。クーデリアの交渉相手の蒔苗は現在失脚中で、アーブラウ代表に返り咲く為にエドモントンまでの護衛を要求して来るであろう事、蒔苗の対立候補アンリ・フリュウがマクギリスの養父イズナリオと結託してアーブラウの政権を握ろうとしている事。そして地球外縁軌道統制統合艦隊司令カルタ・イシューが鉄華団を追って来る事。

 

「貴方の目指す変革の為にイズナリオは排除する必要がある、そして、セブンスターズの一席、イシュー家のカルタ・イシューもいなくなった方が貴方には都合が良い。そうでしょう?」

「何故、そう思う?」

「イズナリオが権力欲まみれの腐った奴だから。そしてイズナリオを排除してファリド家を掌握しないと貴方はギャラルホルンの中枢部に食い込めない。カルタもいなくなった方が今の勢力構造が乱れて貴方が付け入る隙が増える。・・・だからカルタを殺し、イズナリオの企みも潰す。貴方が鉄華団に期待するのはそういう役割でしょう?」

 

 ガエリオの死もマクギリスの望みに多分含まれるけど、それは自分でやってくれ。カルタはまだしも三日月と戦って互角に近いような厄介な相手の事は確約出来ないし。

 

「ふっ・・・フフフ・・・何故そうも確信したように未来の予測を口に出来るのか、何故私の思惑をそうも見透かすのか・・・」

「気を悪くしたなら謝罪します。けど、僕は貴方に敵対するつもりはありません。むしろ利害が一致する限りは出来る範囲で貴方に協力したいと思っているんですよ。それが鉄華団の為になるのなら尚更、ね」

「・・・いや、なかなか面白いな。君の予測が正しければ、の話だが。それで?」

「さっきも言いましたが今の話は物資の返礼です。今後の参考にでもなれば、と。貴方の正体に関する口止めの件ですが・・・」

 

 そしてこちらからの要求を述べる。

 

「なかなか面倒な注文だな」

「でも無理では無いし、割りに合わない事も無いでしょう?」

「・・・良いだろう。手配しよう。だがそれも商談が成立すればの話だ」

「その辺は心配して無いんでしょう?」

 

 こっちに選択の余地なんか無いんだから。

 

 モンタークが去った後、改めてハンマーヘッドの応接室に名瀬さんとアミダさん、オルガとビスケットに集まってもらった。

 

「でお前、何だそれは?」

 

 名瀬さんからの問い掛けの声。その顔は僕には見えない。今僕は正座から床に手をつき額を擦り付ける格好、つまり土下座しているからだ。

 

「今からお願いする事は筋の通らない、僕の我が儘ですから。それでも、どうか聞いてください」

 

「顔を上げろよ。中身が何であれ、顔の見えねえ相手の頼みは聞けねえ」

「・・・それでは失礼して。実は・・・」

 

 僕は顔を上げると、今回のドルトの一件でノブリスの企んでいた事、そしてフミタンがノブリスの命令を受けたクーデリアの監視役だった事を名瀬さんやオルガ達に話した。自分が前からフミタンを怪しいと思いながら確証が無い為オルガ達に話さずにいたとも。

 

「まさかアドモスさんもノブリスと繋がってたなんて」

「まさか依頼主の傍にスパイがいたとはな・・・」

「・・・で、お前の頼みってのはそれに関わる事なんだな?」

「はい。フミタンを・・・今まで通りクーデリアの傍にいさせてあげて欲しいんです」

「え?それって・・・」

「つまり今までノブリスに情報を流していたのを、水に流せってのか?」

 

 オルガの声色が剣呑になる。

 

「フミタンはもうノブリスを裏切ってクーデリアの為に行動しました。彼女は変わったんです。クーデリアにも支える人間が必要です」

「だからって・・・!」

「ちょっと待てオルガ」

「兄貴?」

「なあ、一つ訊かせろ。何でお前がそこまでする?」

「え・・・?」

「そういう事は、本当ならあのお嬢さんが話しに来る事じゃないのか?何でお前が家族でもねえ女の為に土下座までする?」

「あ・・・それは・・・その、約束しちゃったんです。フミタンも護るって。鉄華団としてじゃ無く、僕個人で、ですけど」

「だから何でそんな約束したんだよ?お前には他に護るって決めた家族がいるだろ」

「う・・・それは、そうですけど、あの時フミタンはクーデリアを危険に晒さない為一人で何処かに行こうとしてて、そのまま行かせたら、僕の手の届かない所でいずれノブリスに始末される。それは嫌だって、それで・・・」

「ははあ・・・そういう事か」

「どういう事ですか兄貴?俺にはどうもトウガの考えがわからねえ」

「ま、そりゃあ仕方ねえ事だろう」

「トウガは惚れちまったんだよ、フミタンに。そうだろう?」

「ええっ!?」

「なっ!?何をっ、惚れ・・・いやっ・・・それは・・・!」

 

 アミダさんの言葉にビスケットが悲鳴のような声を上げる。僕も言われた事に戸惑ってまともな言葉が出て来ない。

 

「違うのか?」

「えっ・・・その、違うとも言い切れ無いです。けど、元々怪しいと思って気にしていたんで、それがそういう感情になるなんて、僕は・・・」

「男と女は理屈じゃ無いからね。そういうのも別におかしい事じゃ無いさ」

「ああ、だからその感情は何も恥じる事はねえ。けどなトウガ。護りたいものが増えるって事は、背負うもんが増えるって事だ。それはわかるな?」

「・・・はい」

「だったら俺には言う事はねえ。お前はどうだ兄弟?」

「・・・正直俺には納得出来ねえ。けど今この事で騒ぎ立てるのは上手くねえし、クーデリアも望まねえだろうとは考えられる。だから、今回限りは目え瞑る事にします」

「名瀬さん、オルガ、いや団長、恩に着ます・・・!!」

「そんな物着なくて良い。だいたい肝心のお嬢さんがいねえんだ。俺達でどうこう言っても仕方ないだろう」

 

そう名瀬さんが言った直後、ドアが開きクーデリアが入って来た。

 

「あ、あの、すみません。入ろうと思ったら、どうも立て込んでいたようなので・・・」

「え?」

 

 ちょっと待って。それってつまり・・・

 

「・・・聴いてました?」

「その、ごめんなさい。立ち聞きする積もりはなかったのですが・・・」

「・・・えーと・・・」

「私からフミタンには、何も言いませんから安心してください」

「あ、はい」

「で、フミタンの事はこれまで通りって事で良いのか?」

「はい、本来なら私からお願いするべき事でしたが、皆さんが許してくださるのなら」

「ああ、こっちの考えはそれでまとまってる」

「その、アドモスさんはどうなるんです?その、ノブリスの方は・・・」

「ノブリスには私から話を着けました。皆さんにご迷惑おかけしました事、私からフミタンに代わってお詫びします」

「いや・・・実害がどれだけあったのかわからないですし、正直助かった事の方が多いですよ。ね、オルガ」

「ああ、もうその話は良い」

「それよりも問題は・・・」

「モンターク商会を名乗るあの男、ですね」

「ああ、取れるだけ裏を取ってみるから、結論を出すのはもう少し待ってくれ」

「わかりました」

 

 フミタンについてはこの場にいる面々の胸にしまっておく事になり、そしてこの場は解散となった。

 

 

「そうか、アインはお前達を追ってここまで・・・」

 

 独房でクランクさんにアインと交戦した事を伝える。

 

「殺さずに拘束しようとしたんですが失敗しました。ですが次は何とか・・・」

「無理をするな」

「いえ無理なんてしてませんよ」

「俺に気を遣ってアインに手心を加えるような真似はしなくて良い。そもそも俺は気遣いをされるような立場じゃあないだろう」

「でも、クランクさんにとっては可愛い部下でしょう」

「それはお前が気にする事じゃない。お前には他に優先すべき人間がたくさんいるだろう」

「それは、でも」

「良いか、お前は戦士だろう。戦場では敵と味方の線引きははっきりさせろ。さもないとお前の仲間が殺される。そういう道をお前達は進んでいるんだろう。違うか?」

「!・・・そうです。けど」

「お前達鉄華団は家族なんだろう?なら家族の事を第一に考えろ」

「クランクさん・・・」

「俺の事を思ってくれるなら、アインに子供殺しなどさせないでくれ。それ以上は望まん」

 

 クランクさんのその言葉はつまり仲間を死なせるなと言う事なんだろう。僕の方がクランクさんに気遣われている。

 

「すいませんクランクさん」

 

 クランクさんに頭を下げる。恥ずかしい。何時の間にこんな傲った事を考えるようになっていたのだろう。原作知識を持っているからって何でも思い通りに出来るとでも思っていたのか。そんな事は無いと判っていた筈なのに、クランクさんをアインと再会させてやろうなんて考えていた。思い上がりもいいとこだ。

 

「謝る事は無い。お前は俺とアインの事は気にせず自分の家族の為に戦え」

「はい・・・!」

 

 自分の愚かさを改めて思い知った。原作知識に思い上がって一番大切な事を見失いかけていた。自分が只の1人の人間でしかない事を、第一に考えるべき事は何かを、クランクさんが思い出させてくれた。

 

 その後、名瀬さん、オルガ、クーデリアの3人を交えた話し合いで、モンターク商会の話を受ける事が決まった。

 後はモンタークが僕の注文通りに動いてくれるか。そしてアインがまた現れた時に僕が躊躇せずに戦えるか。

 

 

 

 

 




 トウガとフミタンの関係はとりあえずトウガとしては保留、となります。まだフミタンへの気持ちを整理出来て無いので。


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願いの重力

 遅くなってすいません。TVシリーズ本編がストレス溜まる展開続きで調子が悪く、更にシノの死亡回の翌日に事故に遭って怪我してしまいまして・・・。なかなか進まず一月半が過ぎてしまいました。
 待っていてくれた皆様には感謝です。ありがとうございます。


 モンターク商会との取引を受け、鉄華団は地球降下の準備に追われている。

 僕も機体のチェックの為に格納庫へ向かう途中。

 

「あっ・・・」

 

 通路でフミタンに出会った。ううむ、気まずいなあ。あんな事言っちゃったしなあ・・・。

 

「えっと・・・クーデリアさんはどうしてます?」

「地球に降りてからの、アーブラウ代表の蒔苗氏との交渉の為の準備をしています」

「あ、そうですか・・・」

 

 何を訊いているんだか。今クーデリアがする事なんて訊かなくても見当つくだろ。

 

「あの・・・私も、最後までお嬢様のお傍にいると決めました。その上で、貴方にお訊きしたい事があります」

「・・・場所を変えましょう」

 

 他の人に聴かれない方が良いと思い空き部屋に入る。

 

「何故あの時、あのような嘘を吐いたのですか?」

「あの時・・・ああ、報道のランチでの事ですか」

 

 そう言えばあの時フミタン僕を睨んでたっけ。

 

「私は貴方にノブリスの事を話していない。それどころか、ノブリスの計画の詳細を知らされてすらいなかった。何故あんな事を・・・」

「先にああ言っておけば貴女がもうノブリスの思惑に従う事は無いって信じてもらい易いでしょう?」

 

 本当は僕がノブリスの計画を知ってた理由を誤魔化す為でもあるけど。

 

「貴方は・・・鉄華団の皆さんと何か違うと、この艦に乗り込んだ頃から感じていましたが、今その理由がわかりました。他の皆さんは言葉にも行動にも嘘が無い。ですが貴方だけはその言動に嘘がある。私と同じように、自分に信頼を寄せる人を欺いて・・・」

「・・・貴女と同じ、か・・・」

 

 確かにそうかも知れない。

 

「ですが、同じようで違いますね。貴方の行いは彼らに害を与えない、むしろ助けになっているのでしょう。お嬢様を死に追いやろうとしていた私とは・・・」

「でも今は貴女もクーデリアさんを助けたい。そうでしょう?」

「・・・それは、少し違います。私はお嬢様に希望を見ています。だからその傍で、彼女が成す事を見たいのです」

「・・・だったら、違わないですよ。やっぱり僕と同じです。僕にとっては鉄華団が希望なんですよ。だから手助けをしたい。彼らと一緒にありたい。その為に出来る事をしているだけです」

「私を護ると言うのも、その一環という事ですか?」

「え・・・ああ、それは、違いますね、うん。でも放って置けなくって」

「は?」

「だって貴女、クーデリアさんに迷惑掛けないように彼女から離れようとしたんでしょうけど、そうしたら貴女がいずれノブリスに殺されるでしょう?」

「それは、貴方に関係無い事のはずです」

「けどうちの年少の子達は貴女になついてますし」

「それだけで・・・?」

「んー・・・実のところ僕にも良く判らないんですよ」

 

 年少の子達の事も嘘では無いけど、それよりも僕自身フミタンがいなくなるのが嫌だったからというのが大きい。そこが何でなのか、名瀬さんとアミダさんの言うようにフミタンを好きになってしまっているのかもしれないけど、でもまだどこか納得出来ていないというか、整理が付かないでいた。

 

「納得出来ないでしょうけど、そうとしか言えないんです。自分でも理由はわからない、けど護りたいと思った。命だけじゃなく、クーデリアさんのお姉さんみたいな貴女の立場も含めて」

 

 そう言って部屋を出ると格納庫に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 イサリビのブリッジではオルガがビスケットに地球降下の同行者に追加が出た事を説明していた。

 

「兄さんを一緒に?」

「ああ、トウガの提案でな。お前の兄貴はドルトに話も通さずに連れ出して来ちまったからな。かといって、今更コロニーに送り返すのも危ないってよ」

「ああ、そうだね。ドルト本社や引き取られた家を裏切った形だし、ギャラルホルンにも狙われるかも・・・」

「だからクーデリアの交渉相手の蒔苗って爺さんに頼んだらどうかってな」

「え?クーデリアさんの?」

「勿論クーデリアの交渉次第だけどな。俺達じゃどうにも出来ねえが、その爺さんなら上手く話をつける事も出来るだろう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあ、行ってくる。昌弘お前はハンマーヘッドで俺達の仕事が終わるのを待っててくれ。今はそっちの方が安全だからな」

「兄貴、でも・・・」

「心配すんな。グシオンは俺達の力になってる。それに俺もあの時・・・親父とお袋を殺された時より強くなってるからな」

「兄貴、鉄華団は良い所だよ。皆俺の事当たり前に人間として扱ってくれるし。けど、だから、いつかまた壊れて無くなるんじゃないかって怖くなる」

「・・・そうかも知れねえ。だからこそ護るんだ、大切な物を二度と奪われない為に、手放してしまわないように、自分達の力で」

「・・・俺達、自身の・・・デブリの俺にも、護れる物なんてあるのかな?」

 

俯いてそう呟く昌弘の頭に手を置いて、昭弘は穏やかに、しかしはっきりと答える。

 

「俺はそう信じてる。お前は俺の弟だからな。・・・じゃあな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 作戦の第一段階、ブルワーズ艦を盾にしたイサリビによる艦隊の陽動はユージンの奮戦で無事成功。モンタークの手配した降下船にクーデリアやオルガ達、資財の積み込みも順調、だったけど・・・。シノの流星号が搭載されたクタン参型のブースターが被弾して爆発した。

 

「攻撃!?」

「どこからだ!?」

 

 MS隊はすぐに迎撃のために動き出す。シノのクタンがシュヴァルベ・グレイズのライフル弾を受けながら機関砲で反撃するが、シュヴァルベがワイヤークローをクタンに向けて射出する。

 けど来るとわかっていれば対応もしやすい。クタンの前に出て太刀で受け流すとクタンの上に乗りシノに指示を出す。

 

「シノ、パワーじゃあっちの方が上だ、一対一は分が悪い、連携して行こう」

「こっちには阿頼揶識があるんだぜ?」

「アイツを舐めちゃ駄目だ。新手が来る前に仕留めるんだ。先ずは僕が仕掛ける、援護を」

「お、おう!」

 

クタンに乗ったまま肩のガトリング砲を発砲してシュヴァルベを牽制しながらクタンの推力でシュヴァルベに接近、僕はそのまま片刃式ブレードを抜いてシュヴァルベに斬りかかり、シノのクタンは一旦離れる。

シュヴァルベは左手のクローでブレードを受け止める。

 

「また貴様か!だが今日こそ!」

「こっちも討たれてやる訳にはいかないんだ」

 

 右腕に装着していた小型ランチャーから弾頭を射出しクローの装着されているシュヴァルベの左前腕部に命中させるとブレードを握る右腕を引いて空いている左腕でシュヴァルベを殴り付けて後退する。そこにシノのクタンが援護射撃の後クタンから流星号が飛び出してシュヴァルベに体当たりした。

 僕はシノと入れ替わるようにクタンに取り付くとアームに懸架されたライフルを装備してシノに援護射撃を行う。

 シノと前衛を交替する前にシュヴァルベの左腕部に撃ち込んだ弾頭にはワイヤーネットと粘着剤が封入されていて、それはシュヴァルベのクローにも絡み付いている。

 これでアインはワイヤーによる絡め手は使えない。上手く先手を取れた。

 

「シノ退がって!」

「お、おう!」

 

シノが離れるタイミングに合わせて散弾砲からネット弾を発射。通常弾と思ったのか受けようとしたようだがネットが腕に絡み付いた。

 

「よし、後は僕がやる。シノは船を頼むよ」

「わかった!」

 

 シノが昭弘が護衛している降下船へ向かった後、僕はシュヴァルベに左腕部のワイヤークローを射出して捕まえる。

 

『くっ!貴様あっ!!』

「こっちにも護るものがあるんでね。けどせめてもの情けだ、教えてやろう。クランク・ゼントは生きている」

『!?・・・何を・・・』

「一対一の戦いに敗れ負傷したあの人を手当てしたのは僕だ。その後あの人が帰還しなかったのはお前や他の部下をコーラルから守る為、全ての責任を1人で被る為だった」

『う、嘘をつくな!そんな事が・・・!』

「あの人は生きているし、その善意も踏みにじられてなんかいない・・・仇討ちなんか必要無かったんだよ」

『だ・・・黙れ!なら、俺は何の為に・・・いや、そうだとしても、お前らがクーデリアを引き渡していればこんな事には!』

「引き渡し要求も伝えず一方的にCGSを殲滅しようとしたのがそもそもの始まりだろ?お前の罪じゃないけど、恨むなら私欲の為にお前達を利用したコーラルだ。だから僕もお前を憎みはしない」

『何・・・?』

「お前に子供殺しの罪を負わせたく無いという、クランクさんの意志と、自分の家族を護るという僕自身の意志で・・・お前を殺す」

『!?』

 

 そう言って僕はシュヴァルベのコックピットにブレードを突き立てた。

 此処で原作通りにさせる訳にはいかない。アイン自身は悪人で無いけど、アインに子供殺しをさせない、鉄華団の被害を減らすならこれが確実な方法だろう。

 念のためブレードを角度を変えてもう一度刺しておく。これでアインはグレイズアインの生体パーツなんかにならずに済む。原作よりは人間らしい最期じゃないかな・・・。

 

『トウガ、敵の増援だ。迎撃してくれ!』

「了解。」

 

オルガからの通信に応答すると、一瞬だけ、動かなくなったシュヴァルベに視線を向ける。アインに良い感情は無いけど、それでもクランクさんにとっては可愛い部下だ。出来れば殺したくは無かったけど、殺す以外の選択肢を選べなかったのは僕の弱さなのだろう。

 

「さようなら、アイン・ダルトン」

 

 一言だけ、言葉を掛けて敵の迎撃に向かう。

 

「いた・・・!」

 

 編隊を組んで飛行するグレイズリッターに向けてガトリング砲をバラ撒くように発砲する。同時に別の方向からの射撃が先頭のグレイズリッター二機に命中しその態勢を崩した。

 

「来たか・・・モンターク」

 

 流星号に似たカラーリングのMS、グリムゲルデだ。ライフルを投げ捨てると両腕のブレードを展開しグレイズリッターに接近し攻撃している。

 近くにいた三日月のバルバトスも滑腔砲でグレイズリッターを迎撃しているので、僕も散弾砲の弾倉を散弾から通常弾に交換して援護射撃をする。

 三日月とモンタークは背中合わせの状態で会話しているようだが、そろそろ三日月を船に向かわせないと。三日月に通信を繋ぐ。

 

『アンタはもういいよ。まだやってもらいたい事があるし』

『ふっ、そうか。では、お言葉に甘えさせて貰おうか』

 

 三日月とモンタークのやり取りが聴こえ、その直後グリムゲルデが離脱して行く。

 グレイズリッターも追撃を諦めて離脱する中一機だけが諦めずに追って来ている。

 

「三日月、急いで船に戻って!ここは僕が・・・」

 

グレイズリッターに体当たりして降下船への攻撃を妨害しながら三日月に呼び掛ける。

 

『いや俺が・・・』

「君は行くんだ・・・っ!」

『ミカぁ!トウガ!戻って来い!!』

 

散弾砲を棄ててブレードと太刀でグレイズリッターと打ち合いながら三日月を急かす。通信越しにオルガの声も聴こえる。けど敵も強い、おかげで喋る余裕が無い!

 

「オルガ達も呼んでる・・・くっ!」

 

 こっちは二刀なのに殆ど互角か!それでも・・・!

 

「僕も後で合流する!」

『・・・わかった、先に行く』

 

 そう三日月の声が聴こえた。よしそれで良い。後はコイツを・・・!

 

『うおおっ!』 

「このぉっ!」

『地球に、我らの地球に、火星のネズミを入れてたまるかあっ!!』

 

 接触通信で敵パイロットの声が聴こえてくる。

 

「こっちだって!家族を殺らせるわけには!!」

 

 片刃式ブレードを胸部装甲の隙間に捩じ込んでコックピットを

潰す。ブレードを引き抜くとすぐに上昇しようと全スラスターを最大出力で噴かすが離脱しきれず、肩のシールドブースターが爆発した。

 

「くっ、試作パーツだし仕方ないか。けどまだ・・・」

 

 背部スラスターは前回の戦闘で奪ったシュヴァルベのスラスターを増設したから推力だけならバルバトスよりも上のはず。何とか・・・と考えていたら予備の推進剤タンクが爆発した。

 

「くっ、不味いか?一応保険はかけておいたけど・・・」

 

 何とか重力圏を離脱出来ればモンタークの手配で回収してもらえる筈だけど・・・。

 駄目だ、重力を振り切るには推力が足りないみたいだ。このままだとガス欠になったら墜ちる・・・エイハブウェーブ反応!?

 

「っ!アイツら戻って来たのか!」

 

 離脱した筈のグレイズリッターが接近して来ていた。この状況でアイツらを相手しては無事じゃ済まない。地球降下はおろか離脱も不可能・・・詰んだか。

 

「もはやここまで、か?見通しが甘かったかな・・・」

 

 嫌だな・・・こんな中途半端な所で終わりなんて・・・。

 

 

 

 

 

 




 アインについて、色々悩んだのですがこうなりました。
 アインがああなったなら、ガエリオも死んでね?と思われるかもですが、負傷したものの辛うじて生存しています(戦闘不能で後でスレイプニルに回収されました)。
 ガンダムフレームはパイロットの生残性が高めらしいので・・・。

 今回グリムゲルデを流星号に似たカラーリングと表現しましたが、これは鉄血日和からのネタだったりします。以下一部台詞抜粋。

アイン「クランク二尉の機体をなんて下品な色に!!(激昂)」

マクギリス「ダルトン三尉こんにちはー。これ(グリムゲルデ)ね、カッコいいでしょ。あの機体(流星号)と色似てるかな?」

アイン「似てますね!下ッ品です!!!(怒)」

マクギリス「あ、そう、下品・・・(ムカァ・・・)」
 ↑アインをギャラルホルン改革の人柱にしようと決めた顔。

 個人的に鉄血日和で一番のお気に入り回です。
アインは企画初期(士官学校を舞台にした話)の案での主人公デザインが基になっているからか、鉄血日和では割りと優遇されてますね。伊藤先生も愛着があるのかも。 


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彼のいなくなった後

 気が付けば前回からもうすぐ3ヶ月。なかなかうまく進まず、遅くなってしまいました。すいませんでした。
 梅原さんや内匠さんが出演されていると知って観始めたタイガーマスクWももう3クール目の終わりが近付いて来ています。
しかし梅原さんはW主役の1人なので良いとして、内匠さんが演じるマイクに残り3話で見せ場はあるのだろうか・・・?
 まあ内匠さんは7月から放送開始のナイツ&マジックで演じる役が活躍するの確定だし・・・。
 今回は雌伏編以来のオリジナルのサブタイトルになっています。原作通りのサブタイは合わないように思えたので。
あと今までとは違う事もやってみていますが・・・如何なものでしょうか?



 地球降下に成功し、ミレニアム島へ上陸した鉄華団。しかし殿を務めたトウガは戻って来ず、またギャラルホルンの追撃も考えられる状況ではオルガ達には安堵や喜びの感情は湧かず、周囲を警戒しながらも粛々と資材の運搬作業を行っていた。

 

「やっと地球に着いたってのによ・・・くそっ」

「シノ!しっかり周り見張ってろよ!ギャラルホルンにはもうこっちの位置は掴まれてんだからな!」

「ああ・・・わかってるよ」

 

作業を手伝いコンテナを運ぶ足止めてを止め、フミタンは空を見上げて呟いた。

 

「・・・」

「フミタン?」

 

足を止めて空を見上げるフミタンに、彼女の少し前を歩いていたクーデリアも足を止めて振り返る。

 

「自分が守るからそばにいろと言っておいて、自分が離れて行ってそのまま・・・勝手な人です」

「それは・・・」

「判っています。私達をここにたどり着かせるために最善を尽くした結果なのでしょう・・・それでも・・・何故でしょう、私に言ったあの言葉は信じたいと思えて。なのに・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 僕はモンタークと二人きりで交渉した時に、状況によっては殿のMSが降下船に戻れなくなる可能性があるのでその時に備えて回収の手筈を整えておくように頼んでいた。そしてモンタークはそれに応えてくれていた。

 僕を狙って接近して来たグレイズリッターをモンタークのグリムゲルデが阻み、その間に大型ブースターを装備した二機ののロディ・フレーム機が地球の重力に捕まっていた僕の機体に取り付きワイヤーを巻き付ける。

 そして上空から百里のカスタムらしき機体がワイヤーを引っ張って僕を引き上げ、ロディフレームはスモークグレネードで敵の目を眩ましてその隙に離脱するという方法で僕は彼等に連れられギャラルホルンから逃れた。

 その後ランチに収容されて、僕を引き上げたMS達の母艦、装甲強襲艦メリクリウスに乗せられ、この艦の主、ジャンマルコ・サレルノ・・・タントテンポの輸送部門を仕切る人物と面会する事になった。

 メリクリウスは民間企業の立場とモンターク商会の口利きで現在共同宇宙港ユトランド2に入港している。

「まさか、タントテンポの幹部が直々にお出ましとは驚きました」

「ギャラルホルンにケンカを仕掛けた馬鹿の顔を見てみたくてな」

「元を辿れば先に仕掛けて来たのはあっちの方です。僕達は降りかかる火の粉を払いながら仕事をしているだけですよ」

「それで危うく殺される所だった奴が言うじゃねえか」

「それを助けてここまで連れてくるなんて危険な仕事を引き受けてくれたのは何故です?」

「モンターク商会の提示した報酬がなかなかでかい額だったからな」

 

 モンタークめ、よほど僕達に恩を売っておきたいらしい。けど確かジャンマルコの関心事は戦いと女だった筈じゃ?

 

「・・・あなたは金や権力には興味が薄いと聞いていましたが?」

「そこは今のウチにも事情があるって事だがよ・・・お前らのせいでもあるんだぜ?」

 

 タンポテンポは前の代表が殺されてその娘が跡を継いだばかりだ。トップの代替わりに前後して組織が荒れるのは世の常だが・・・。

 

「僕達のせいでもあるって言うのはどういう事ですか?」

「ドルトでお前らが起こした騒動は他のコロニーにも影響してるんだよ。当然アバランチにもな。俺も今は頭目の後見人だからな。前以上に働いて見せねえと示しがつかねえんだよ」

「はあ・・・ドルトでは僕達も巻き込まれた側なんですが」

「ハッ、てめえらがそう言っても世間様は聞いちゃくれねえよ。特に面子を潰されたギャラルホルンはな」

「それはまあ・・・ごもっとも?なんでしょうね」

 

 僕からすれば自作自演で虐殺やってる方が悪いと思うんだけど、そういうやり方が結果的に犠牲を抑えられる、という考え方もあるという事か。

 

「まあ、世間話はこの辺にしとくか。モンタークの船もこっちに着いた。今後の事をお前と話したいとよ」

「わかりました。あまり時間の猶予もありませんし早く地球に降りる段取りをつけないと」

 

 カルタ・イシュー率いる地球外縁軌道統制統合艦隊が鉄華団への雪辱の為に動く筈だし。

 そうして案内された先は何故か格納庫で、そこにはモンタークと・・・。

 

「これは・・・(アインの)シュヴァルベ・グレイズ!?」

「こちらで回収して運んできた。通常のグレイズより扱いは難しいが、阿頼耶識を使えばある程度使いやすくなるだろう」

 

 少し前に自分がコックピットを潰した機体との再会ときた。

 

「これを僕に?」

「幸いコックピット以外の損傷は軽微だ。君が使っていたグレイズも損傷している。どうせならこのシュヴァルベにコックピットブロックを移植してはどうかと思ってね」

 

確かにこの機体、スラスター推力、リアクター出力とも高く、扱いこそ難しいが高性能、正直欲しいがその前にだ。

 

「・・・パイロットはどうした?」

「死んでいたよ。コックピットを潰されていたのだから当然だが・・・ああ、そういえばこんな物を持っていたな」

 

 そう言って透明樹脂製の小袋に入った徽章を出して見せた。やっぱり持ってた。見せて欲しいと言うとモンタークは小袋に入れたまま徽章を僕に手渡した。

 

「これ、預かって良いか?元の持ち主を知っている。僕からその人に返したい」

 

 徽章を一通り確認する素振りをして見せてモンタークにそう問いかける。

 

「元の持ち主とは、ギャラルホルン火星支部の人間かな?」

「そうだよ、前に世話になった事があってね・・・。本部長のコーラルってのは汚職をしてたらしいけど、僕の知っている人は真面目で善い人だったんだ」

 

 アインは終らせるしか出来なかった。せめてこれだけでもクランクさんに渡したい。自己満足なんだろうけど。

 

「ふむ・・・まあ、良いだろう。好きにしたまえ。それで、MSの方はどうする?」

「ん・・・せっかくだし、使わせて貰おう」

「では作業をさせよう。ジャンマルコ、事前に申し入れた通りこの艦の設備を使わせていただく」

「おう、それでよ、こっちの今まで使ってた方のグレイズはどうするんだ?」

 

ジャンマルコが僕が使っていたグレイズの処遇について尋ねてきた。欲しいの?貴方もうグレイズのカスタム機持ってるでしょ。

 

「あ~・・・そうですね、タントテンポにお譲りします。盗まれたアスタロトの替わりとは言えないまでもロディ・フレームよりは良い機体だと思いますし、アスタロトが戻って来るまでの繋ぎに使わせては?」 

「てめえ・・・何で知ってる?」

 

 『前』に事故死する少し前に小説で読んだから、なんて事言える訳無いからな。誤魔化そう。

 

「僕もガンダムには思う所がありまして、情報を集めてたんですよ。所在が判ってたアスタロトは悪用される事は無いと思っていたら盗まれたらしいと情報がはいりまして。個人的には木星圏の闇ルートが怪しいと思ってます。うち(鉄華団)も鹵獲したMSをテイワズ経由で転売してますし。そうだ、アルジ・ミラージに伝えてください。鉄華団のガンダムは仇じゃないから狙ってこないように、と」

 

「お前あのガキの知り合いか?」

「知り合いとは言えないですね、僕の方が一方的に知っているだけです。彼の家族の仇が見つかる事を祈る、とも伝えてください」

 

 そう言った僕を見るジャンマルコの目は『コイツ胡散臭え』と言っているようだ。目は口ほどにものをいうって本当だね。でももっと胡散臭いのがここにもう一人いるよ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一夜明けて、ミレニアム島内の倉庫で雪之丞が三日月立ち会いでバルバトスを整備している。

 

「よおし、追加したスラスターもまだ使えるし、他も例の商会からもらったパーツで充分足りるな。後は・・・」

「火星で動かした時に比べれば上等、やれるよ」

「まあ、そうだがなあ・・・」

「トウガがいなくなった分、頑張らなきゃ」

「そうだな・・・」

 

 三日月だけでなく鉄華団の誰もがトウガが居なくなった事を大きな損失と思っている。単純に考えてMS一機を失った事は鉄華団の戦力的に痛手と言える。そしてそれ以上にトウガの不在が団員達の心情に影響していた。

 オルガは努めて動揺を表に出さずにいるし、ビスケットもそれを察して何も言わない。シノはいつもの陽気さが無い。昭弘は黙々と作業を行っている。タカキやヤマギは今出来る事、やるべき事に意識を向けている。ライドはタカキ程上手く意識を切り替えられずにいるが、仕事を投げ出すような事はせずにいる。

 トウガからすればバルバトスをより良い状態で地球に降ろす為に殿役を買って出た訳で、その点では彼の目論見は成功と言って良い。だがその反面、彼の不在(死んだと思われている)は鉄華団に影を落としていた。 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ミレニアム島への降下は出来ない!?」

「君の予想通り、地球外縁軌道統制統合艦隊が鉄華団追撃に動いている。既にミレニアム島へ降下出来るコースは艦隊に封鎖されつつある」

「言われて見ればそれくらいはするよな・・・船の手配は?」

「クーデリアから依頼されるという君の予想に合わせてオセアニア連邦内に用意してある。そちらに向かうか?」

「時間的に厳しいけど他に方法は無さそうだな。明朝には攻撃が開始されるだろう。急いで準備を・・・」

「急ぎたいのは解るが、少し待ちたまえ。シュヴァルベのコックピットの換装と整備にも少し時間が必要だ」

「く・・・なら僕も作業を手伝いに」

「少し落ち着いたらどうだ。君1人居なくても心配はあるまい。たとえ数の差があろうと実践経験の少ない相手に負ける鉄華団では無いだろう」

「負けなきゃ良いって話じゃあ無いだろ!・・・いや、大局的視点で言えば間違ってはないかもしれない。けど・・・」

「だが今動くのは不可能。それに君も休息は必要だろう」

「・・・解った。機体のコックピット換装が終わるまで休ませてもらう。作業が終わる頃に連絡を寄越してくれ」

 

 モンタークに背を向けて部屋を出ると、あてがわれた部屋に向かう。コックピット交換だけならあと二時間もあれば終わるだろう、仮眠をとったら格納庫に行こう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いーやいやいや、良く来てくださった。儂が蒔苗東護ノ介だ。待ちわびておったよ」

 

夕方、オルガ、ビスケット、クーデリア、フミタン、そしてメリビットの5人は蒔苗東護ノ介の滞在している屋敷に招かれて来ていた。そこで彼等はドルトの一件のその後について聞かされた。

 クーデリアの演説をきっかけにドルトの労働者達が地球と対等の権利を得た事、それによって一時的にせよアフリカンユニオンの生産力が低下する事は、ミレニアム島を領内とするオセアニア連邦(とその他の経済圏)にとっては好都合な事であるため、その呼び水となった鉄華団とクーデリアをギャラルホルンに渡すような事はしないと蒔苗は語った。上機嫌な蒔苗の様子はクーデリアやオルガ達の警戒心を少しばかり緩ませた。特にビスケットはドルトの顛末を痛快と笑うその態度に、これならドルトから連れて来てしまったサヴァランの事も何とかしてもらえるのでは、と期待した。

 しかし本題の交渉に話が移ると、そんな淡い期待も吹っ飛ぶような難題を突き付けられる事になってしまった。

 

 曰く、蒔苗は現在失脚しており何の権限も無い。故にアーブラウ代表に返り咲くためにアーブラウの代表指名選挙の行われるエドモントンに出席する必要があるので、アーブラウの首都、エドモントンまで連れて行って欲しいというのである。

 しかしアーブラウを追い出された身の蒔苗が歓迎されるとは言えず、しかも対立候補のアンリ・フリュウにはギャラルホルンが後ろ楯に付いているため、この依頼を受ければギャラルホルンとの衝突は避けられない。

 しかも、一旦話を持ち帰って団内で相談するとオルガが言い掛けたとたんに蒔苗は態度を一変、オセアニア連邦が鉄華団をギャラルホルンから護っている今の状況も自分の一存でどうにでも出来ると恫喝して来たのである。

 結局は考える猶予を与えたのはどう考えようと答えは1つという意味だろうか。

 

 オルガとビスケットは宿舎に戻ると他の団員達にこの事を説明、その直後クーデリアは、自分が鉄華団に依頼したのはここまで。後は自分の仕事、鉄華団は自分達の道を進んで欲しいと自らの意志を伝えた。

 そこに、イサリビでの陽動役として別行動をとっていたユージン達から連絡が入り、イサリビとハンマーヘッドがオセアニア連邦に匿われている事を知らされる。蒔苗からの依頼について名瀬に相談するオルガを残し、ビスケットはドルトの顛末を報せようとサヴァランに会いに行った。

 

「そうか・・・ドルトの、生き残った人達の状況は良い方向に向かっているんだな・・・」

「はい・・・」

 

ビスケットから話を聞いたサヴァラン、しかしその顔に歓びの表情は無い。ドルトを離れてから食事は殆ど摂っておらず、さらに睡眠不足でもあるらしく、元々細かった顔はげっそりと頬はこけ、目の下には隈が出来ていた。

 

「俺がしていた事は一体何だったんだろうな・・・」

「兄さんは、ドルトの人達の事が大事だったんですよね?だからあそこの人達の為に良かれと思って行動していたんでしょう?それこそ形振り構わず、必死になって」

「そのつもりだった。自分の行動はきっと仲間達の為になる、そう信じていた。・・・だが事は思い通りには運ばず、お前達にも迷惑を掛けて、結果はどうだ。クーデリアやお前達が動いてくれなければもっと酷い事になっていただろう」

「それは・・・」

「俺もナボナさんも、自分の手に余る物を背負い込んで無理をし過ぎたのかもしれない。逃げ出して何か小さな幸せを見出だす事も出来たんじゃ無いかと今は思う。だが一度大きなうねりに飲まれてしまったら、もう抜け出せなくなっていた・・・。ビスケット、俺のようにはなるな」

「兄さん・・・?」

「他人に振り回されず自分の道を自分で見付けて歩いて行くんだ。家族や仲間を大切に、堅実な幸せを掴んでくれ。俺にはこんな言葉しかお前に贈ってやれない。至らない兄貴で本当に済まない」

「そんな、そんな事言わないでください。俺は・・・本当に感謝してるんです。兄さん、俺は今16歳です。クッキーとクラッカは9歳になりました。俺達3人こうしていられるのは兄さんのお蔭なんです!だから・・・」

 

 サヴァランは項垂れたまま無言だ。

 

「俺達の仕事はもうすぐ終わるんです。そうしたら一緒に火星に帰りましょう。テイワズに頼めば兄さんの事もきっと何とかしてもらえる。そうして、婆ちゃんとクッキーとクラッカと、皆でこれから先の事を話し合いましょう」

 

 その後、ビスケットを呼びに来たオルガと二人で砂浜に移動すると、オルガは自分の決意をビスケットに伝えた。

 

「俺は決めた。蒔苗の話を受けるぜ。どっちを選んでもリスクがあるってんなら、上がりはデカイ方が良い。そう思わねえか?」

「・・・」

「ビスケット?」

「もういいじゃないか、目的は達成したんだ。あとは皆で火星へ帰ろう。テイワズに頼めば、装備は無理でも俺達だけなら・・・」

「それだけじゃ駄目だ。火星で細々とやっているだけじゃ俺達はただのちょっと目端の利いたガキでしか無い。いずれまたいいように使われるだけだ。のし上がってみせるんだ。テイワズからも蒔苗のじじいからも、奪えるものは全部奪って・・・」

「やめてくれ!ここまで来れただけで充分じゃないか!」

 

 語気を荒げるビスケットに驚くオルガ。

 

「仲間の事をもっと考えてくれ。皆を危険な目にあわせずに火星に帰る方法はきっとあるはずだ」

「俺が仲間の事を考えてねえってか?」

「そうじゃない。また危険な道をあえて選ぼうとするのはやめてくれって言っているんだ!」

「考えた上での事だ!どう動くのが俺達の将来の為になるのかって」

「昨日トウガさんがいなくなったばかりじゃないか!その上にまた無理をして、今度は誰が犠牲になるか・・・こんな事続けて将来も何も・・・」

「だからこそだ!!トウガや他の死んでいった連中、それに見合う上がりを手に入れなきゃ、それこそアイツ等の犠牲が無駄になっちまう!」

「そんな・・・少なくとも、トウガさんはこんな事望まないはずだ!」

「それでもだ!もう決めた事だ。前に進む為に!!」

「だったら!!」

 

 鉄華団を降りる、という言葉を口に出しそうになって、しかしビスケットは思いとどまる。ギリギリの所で彼を押し留めたのは、以前トウガに掛けられた言葉だ。

『オルガを支えて欲しい』『オルガの重石になれるのは君しかいない』 タービンズとの最初の接触の前にそう言われた。そして自分は出来る限りの事はすると応えたのだ。鉄華団を降りる事は、あの時の言葉を反故にする事に思えた。

 

「何だよ?」

「っ・・・僕は、少なくとも今は賛成出来ない。少し考えさせてくれ。オルガももう一度考え直してくれ。皆の命がかかった重大な事なんだから」

 

 そう言ってビスケットは歩き出す。今は自分も冷静になれない。オルガと話し合うにも時間が必要だった。

 

「ビスケット!おい!・・・いくら考えたってなあ、俺の答えは変わらねえぞ!!」

 

 後ろから聞こえてくるオルガの言葉にも、今は応える気になれなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 少し寝過ぎた。いつもならとっくに目が覚めていたはずなんだけどな・・・疲れが溜まっていたのだろうか。急いで格納庫に行くともう整備は終わっており、降下船への積込が行われていた。

 モンタークのクルーザーももういなくなっていて、モンターク商会の人間が数名残っているだけだった。

 

「これからオセアニア連邦領内の港に直接降下。その後港に停泊している船に荷物を移してからミレニアム島へ向かいます。最速なら明朝には島が見えるくらいの位置まで行ける見込みです」

「解りました。よろしくお願いします」

 

 タイミング的にはギリギリか。

 

「船はミレニアム島にはあまり近付けません。ギャラルホルンに捕捉されてしまいますから。可能な限り近づいたら貴方には単独で島に向かってもらいます。その為に一番大きい荷物には、追加のタンクをとりつけてあります」

「了解しました」

「では搭乗を・・・ああ、船ではなく荷物の方に、です」

 

 いちいち『荷物』と言い換える必要はあるのだろうか?まあ、おおっぴらにMS運んでますとは言えないだろうけど。

 まあそんな事はどうでも良い。やっと地球に降りる事が出来るんだからな。

 

 何としても、明日は原作通りにはさせないようにしないと。

原作のミレニアム島で鉄華団が喪ったものはあまりにも大きい。それを知っている僕はそれを防がなければいけないんだ・・・!

 




 今回は公式外伝『月鋼』よりジャンマルコに出張して来てもらいました。時期としては一期終了直後、ダディ・テッドの墓参りから帰ってアスタロトが盗まれた事を知った矢先にモンターク商会から依頼を受け、部下とハクリ兄妹連れて急行して来た。という事にしています。少々強引な気もしますが。
 トウガのグレイズに取り付いてワイヤーを付けたのがハクリ兄妹のハクリ・ロディ、ワイヤーでトウガのグレイズを牽引した百里のカスタム機はカッリストです。確かジャンマルコの配下だったと思いますので登場させましたが・・・。




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還るべき場所へ

 お久しぶりです。前回から遅くなってしまいました。待っていてくださった方々本当にすいませんでした。


 ギャラルホルンからクーデリアと鉄華団の引き渡し勧告が来た事を蒔苗からの連絡で知ったオルガ。

 一方ビスケットは雪乃丞に自分の感じている不安を話し、助言を受けた事で気持ちの整理をつけ、オルガと改めて話し合う事を決意した所でオルガからの伝言を伝えに来た三日月に呼ばれ、オルガとクーデリア、フミタンの4人で蒔苗の邸宅に向かった。

 蒔苗とクーデリアを交えた話の末、オルガは蒔苗とクーデリアを連れての脱出を決断。鉄華団は総出で迎撃作戦の準備に取り掛かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 既に日付が変わり徐々に夜明けは近付いている。追加の推進剤タンクや海上移動の為のホバーユニット(グレイズより旧世代の機体のオプション装備らしい)を含め地上戦闘に合わせたシュヴァルベの調整も終わり、手持ち無沙汰なせいか焦れったい感覚に突き動かされ、ノーマルスーツを着たままモンターク商会の社員に声を掛けていた。

 

「ミレニアム島はまだ見えませんか?」

「衛星の監視網を避けて航行している事もありますが・・・潮の流れが良くないそうです。どうにも速度が上がらないと」

「そうですか・・・」

 

 まずいな。もし間に合わなかったら取り返しがつかない。

少し前から起動状態にしてあるシュヴァルベ・グレイズのコックピットに乗り込むとモニタに機体データを表示する。シュヴァルベの腰背部ホバーユニットの性能データ、追加された推進剤タンクの容量とそれを装備した状態で出せる速度、タンクが空になるまでの想定時間のデータと、ここからミレニアム島までの距離を計算してみる。

 島に着いた後の戦闘の事を考えると少し心許ないな・・・あと少しだけ待ってそしたら船を出て一人でミレニアム島に向かおう。

機体から降りると商会の人に考えを伝え、またコックピットに乗り込む。2、30分くらいならもう乗っていた方が良いだろう。

 確かコーリス・ステンジャの指揮する艦は夜の内に島からも見える所まで来てるんだったか。カルタとお供の連中が降りて来るのは明るくなってからだったが・・・。

 出撃の時間を待ちながら原作での戦闘の流れを思い出す。この30分の待機が悪い結果に繋がらないよう願いつつ・・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夜が明けてミレニアム島の近くに待機していた地球外縁軌道統制統合艦隊所属太平洋方面防衛部隊の艦隊が島へ砲撃を開始した。ギャラホルンお決まりの弾薬の消費を惜しまぬ飽和攻撃である。

「始まった・・・」

「急げよ三日月」

 

 三日月はエーコ発案で脚部を地上戦向けにセッティングし両腕に90mm機関砲を装備したガンダム・バルバトス第5形態地上戦仕様(原作と違いシュヴァルベのスラスター有)に乗り込み武装の積まれたコンテナを見下ろす。

 いつものメイスは軌道上でのキマリスとの戦闘の時に手放したものが最後だったらしくコンテナには太刀しか無かった。

 

「あれ使い辛いんだよな・・・」

 

 ドルトの一件の後、地球降下の準備の合間にトウガが上手く使えばMSの装甲を切り裂く事が出来る筈だと言っていたが、やはりメイスのような叩き潰す武器の方が感覚的に使い易く、太刀の他に何か無いかと他のコンテナに目を向け・・・。

 

「良いのあるじゃん」

 

モンターク商会から提供されたコンテナ内にあった物を掴んで先に出ていたシノの流星号に合流した。

 

「何だそりゃ!?」

「もらったコンテナの中に入ってた」 

 

 シノがバルバトスの手に握られたそれ、レンチメイスの異様に驚きの声を上げた直後、砲撃が飛んできた。

 

「好きだねえ、お手本通りの飽和攻撃」

「MSには意味無いってのに、無駄撃ち大好きだよね、金持ちってさ」

 

MSにとっては脅威では無い攻撃に、シノが、そして海岸の護りについているラフタが苦笑混じりにぼやく中、オルガの指示を受け昭弘がグシオンリベイクの両手に装備した滑腔砲で敵艦への砲撃を行う。しかし宇宙と違い大気や重力の影響を受けた砲弾は狙いを逸れ海面に着弾した。

 

「ちっ、外した・・・」

「ちゃんと狙えバカ!そんなんじゃ姐さんにどやされるよ!」

「あっいや、だって・・・」

「地上では大気の影響を強く受ける。データの修正急いで!」

 

 ラフタの叱咤とアジーの指示に戸惑う昭弘だったが、三日月の助言を受け感覚で照準を修正し、今度は敵艦の一隻に命中させる事が出来た。

艦からMSが発進して来るとラフタとアジーの漏影が迎撃する。

 

「こりゃ俺達の出番は無えかも・・!?何だこりゃ!?」

「上か?あれは・・・」

 

シノの流星号のライフルが爆発し、三日月が上空を見上げると、落下してくる複数の物体が見えた。大気圏降下用グライダーに乗ったグレイズリッター、そのまま数5機。

 グシオンと流星号の砲撃はグライダーに防がれ、グレイズリッターは次々と着地し整列する。

 

「我ら!地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

「「「「面壁九年!堅牢堅固!!・・・ぐあっ!?」」」」

 

カルタ機の中央に並び立つ5機のグレイズリッター。しかしその内1機の頭部装甲が吹き飛びのけぞる。グシオンリベイクの砲撃が当たったのである。

 

「射って良いんだよな・・・?」

 

 あまりに隙だらけだった敵の様子に、砲撃した当の昭弘が戸惑いの言葉を漏らす。

 

「当たり前じゃん」

 

直ぐに三日月が返答を返した。

 

「何と無作法な!!」

 

 顔を歪め怒りの声を声をあげるカルタ。戦場は彼女達が行ってきた式典や訓練等とは違い、彼女が思う様な礼儀作法など無いという現実を、彼女はまだ正しく理解出来ていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「げ、もう始まってる!あれが敵の母艦か」

 

 船から出撃して数時間、グレイズに比べピーキーなシュヴァルベの操縦性に手こずりながらも何とか扱いの感覚を掴めてきた所でやっとミレニアム島と戦闘の煙、そしてギャラルホルンの艦が見えてきた。艦二隻の内一隻は既に沈みかけている、原作通りなら昭弘のグシオンの砲撃による物だろう。

 健在なもう一隻はこちらに気付いているだろうか?まあどちらにしても・・・。

 

「素通りって訳にはいかないよね、お互いに!」

 

ショートバレルのライフルを構えるとホバーユニットとスラスターを噴かして跳躍し、艦の上に着地すると目についたのから片っ端に砲塔やミサイルランチャーに向け発砲。完全に破壊とまでいかなくても火器を潰しておけばこちらへの攻撃は防げるだろう。時間が惜しいので攻撃はそこそこに、離脱して島に向かう。

 海岸に近付くと数機のグレイズとそれを相手取る2機の漏影が見えた。

 漏影の一機が倒れたグレイズにクラブを振りおろす。もう一機の漏影もグレイズと格闘しているが、その隙に一機が突破しようとしていたのでそのグレイズにライフルで攻撃した。

 被弾したグレイズが一瞬、注意を逸らした隙をついてスラスターとホバーユニットを噴かしてタックルして押し倒すと胸部装甲の隙間に太刀を捩じ込みコックピットを潰して無力化した。

 

「ふう、よし次は・・・うわ!?」

 

 周囲を確認しようとした瞬間、クラブを振り下ろそうとする漏影の姿が見え、慌ててスラスターを噴かし、砂を蹴って飛び退く。漏影の振り下ろしたクラブは倒れたグレイズの胸部を叩き潰した

 

「ちょっ!ラフタ?それともアジー?味方だよ味方!」

 

 阿頼耶識の反応速度とシュヴァルベの性能が無ければもろに喰らってた・・・危なかったなあ。

 

「は?味方って・・・」

「・・・もしかしてトウガ?あんた無事だったの!?」

「すいません、その話は後で!オルガや三日月達は?」

 

残りのグレイズに牽制射撃をしながら状況を問う。

 

「後で、ちゃんと説明してよね!」

「上から降りて来た敵を相手してる。あの子らなら大丈夫と思うけど・・・っ」

 

 ラフタとアジーはそれぞれグレイズを相手取りながら答えた。

 

「そっちに向かいますんで、ここお願いします」

 

 そう言い残し、海上移動中に最大出力で酷使していたホバーユニットををパージするとホバーに比べ温存していたフライトユニットとスラスターを噴かして跳躍、空中から島を見下ろすとバルバトスとグレイズリッターが見えた。そしてバルバトスの後方にMWが一台、オルガとビスケットだ。間に合ったか!?

バルバトスとMWの間を目指して急ぎ降下する・・・が。

 

「あっ?」

 

 

丁度機体の脚が地に着くか否か、という時に、バルバトスと交戦中だったグレイズリッターが突っ込んで来て激突。互いに縺れ合い、地面を抉りながら転倒した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 バルバトスと交戦していたグレイズリッターのパイロット、カルタ・イシューには接触通信でバルバトスのパイロットへの通信が聞こえていた。同時に、バルバトスの後方のMWから上半身を晒した男の姿を視認していたカルタは、あのMWに乗っているのが賊の頭目だと察知した。あれを潰せば、と判断するや、バルバトスの武器に挟まれている腕部装甲をパージすることで拘束を逃れるとMW目掛けてグレイズリッターを走らせた、だが丁度その瞬間、目前に割り込んできた青いMSと衝突し、明後日の方向に倒れ込んだ。

 

二機のMSが地面を抉り、砂塵を巻き上げながら転倒する轟音を、オルガ・イツカは全速力で走行するMWの車上で耳にした。 同時に飛んできた石が彼の肩を掠め、振り返ると砂埃の中に動く影が見えた。

 

「だああっ!!何でこーなるかなあもー!?」

 

 叫び声と共に、青いMSが砂埃を振り払うように立ち上がった。

 

「あ!オルガ、ビスケット!!無事!?生きてる!?」

 

 聞き覚えのあるその声に、オルガの胸中に何とも言い難い複雑な感情が起こっていたのは、恐らく仕方のない事だろう。

 

 

 

 




 おかしいな・・・ビスケットの死亡フラグをブレイクするはずが一緒に別のものをブレイクしてしまったようです・・・。カルタの事含め戦闘の決着については次回でちゃんと書きますので。
以下今回の補足です。

 シュヴァルベグレイズ改
 ドルトの戦闘で剥ぎ取った背部スラスターを追加で装備、さらにゲイレールのホバーユニットを腰背部に装備しています。
カラーは今は青一色になってますが、後で色を足す予定です。
 武装は今回は太刀とグレイズ用ショートバレルライフルのみ。


 グレイズリッター
 軌道上で殿に残ったトウガを狙った時にグリムゲルデの攻撃で機体パイロット共に傷を負ったのが2名いたため、原作と比べ数が7機→5機に減っています。それでも戦闘の流れがほぼ原作通りなのは残りの面子が欠員分を埋めようと頑張ったから、ということで。


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閑話
裏で動く者達、闇に潜む者達


 今回は閑話というか、本編の裏の話です。
一応後への伏線張ってますが、読まなくても本編には支障無いかもしれない内容です。
 ほぼ会話オンリーでわかりにくいと思いますがご了承ください。
 


「親父・・・いくら何でも、とっくに成立した契約に横槍を入れるってのは、どうかと思うんですが・・・」

 

 ハンマーヘッドの応接室。名瀬・タービンは通信端末に向かってそう言った。通信の相手はマクマード・パリストン。テイワズ代表であり、名瀬にとっては盃を交わした親分である。

 

「お前が疑問に思うのも解るがな、これは色々考えた上で俺が判断した事だ」

「その考えってやつを、聞かせてはもらえないんですか?」

 

事は鉄華団がブルワーズから接収し後に売却したMSマン・ロディの事である。タービンズがドルトコロニーにあるテイワズの支社に引き渡した10機の内の半数に当たる5機を返品すると連絡が来たのである。

 売却手続きはとうの昔に、何の問題も無く完了している。今更どういう事かと問い合わせた所、これはマクマードからの指示だと言うので、そのマクマードに通信を繋ぎ問い合わせているのである。

 

「鉄華団はテイワズ傘下に入ったばかりでまだ経済的には安定出来てません。当てにしていた収入が減らされちまうのは、今のあいつらには痛い事です」

「今あいつらに本当に必要なのは金よりも戦力なんじゃねえのか?どうせあいつらが買い戻す事になる品だ。だったら今のうちに鉄華団の戦力に入れておいた方が、今回の博打の為には良いだろう」

「今のあいつらの状況、知ってるんですか?」

「例のお嬢さんの交渉相手の蒔苗が失脚中だって事とアーブラウの代表指名選挙が近い事、それと蒔苗の対立候補のアンリ・フリュウの裏にセブンスターズのファリド公が絡んでるって事はな。・・・名瀬、こいつは上手くいけばデカいシノギになる。それに俺の見込みではそう分の悪い賭けでも無さそうだ。だったら少しでも賭け金を上乗せしておきたくなるじゃねえか」

「親父・・・」

「鉄華団の名が上がりゃあ、兄貴分のお前の評価も上がる。悪い話じゃねえだろ。それとな、お前らに絡んでるモンタークとか言う商人も使え。ハーフメタルの利権に加えろって言う奴らに楽させる事はねえ、連中のコネを使って鉄華団の宇宙に残ってる連中を増援としてアーブラウに送らせろ。MSもMWも持たせてな」

「・・・わかりました。オルガには俺から・・・」

「伝えるな。オルガ・イツカには伏せとけ。こういう助けはな、味方にとっても予想外な方が効くんだよ」

「そう、ですかね・・・?」

「ああ、増援なんぞ期待させたら油断の種になりかねんしな。MSはドルトに顔が利くタントテンポに運ばせる。地上用のパーツも一緒にな。受け取りと整備、モンタークへの伝達やらは任せたぞ」

「はい」

「じゃあな名瀬、上手くやれよ」

 

 その言葉を最後に通信は切れた。名瀬はソファの背もたれに体重を預けると深い溜め息を吐いた。

 

「どうもらしくねえ・・・何時もの親父ならここまでのテコ入れはしねえ。失敗した時に巻き添え喰わねえようにある程度距離を置いておくんだが・・・」

「そうだねえ・・・別の誰かがマクマードさんに入れ知恵でもしたかねえ?」

「親父を動かす人間なんざ、それこそ限られてる。・・・ジャスレイはまずねえだろう。逆にこっちの足を引っ張るならまだしも、助け舟なんぞ出す奴じゃねえ」

「そういえば・・・稲葉のじい様がトウガを気に入ったらしいとか、そんな話を聴いたよ」

「あの爺さんか・・・確かにあの人の言う事なら親父も動くか。俺には当たりがキツいんだがな・・・」

「別にアンタが嫌いってわけじゃ無いみたいだけどね」

「そうかい」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これで良かったんですか、先生?」

「おお、すまんな。組織の運営には口出ししない約束だったものを」

「いえいえ、しかし随分と鉄華団に肩入れしますな。そんなに弟子が可愛いですか」

「馬鹿言え。アイツがどんな酒を地球から持ってくるかが楽しみなだけじゃ」

「はっは、そういう事にしておきますか」

「あと・・・奴が一体何人斬り殺して来るか、そしてあの面構えがどう変わって来るか、そこは興味あるのう・・・人のままか、それとも鬼になるか。鬼になったとして悪鬼か否か。もし悪鬼となったならば儂が引導渡すまでだがな・・・」

「怖いですなあ・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・こちらA(アルファ)。皆聴こえているな?」

「・・・こちらC(チャーリー)」

「D(デルタ)だ。B(ブラボー)はどうした?」

「こちらA。Bはいない。理由は後で話す。続けてくれ」

「こちらE(エコー)、Cは事情を知ってるようだな・・・」

「話は後だと言ってるだろ。こちらF(フォックストロット)だ。」

「こちらG(ゴルフ)、通信異常無し」

「こちらH(ホテル)です」

「はーい、I(インディア)でーすよー」 

「えっと・・・J(ジュリエット)は永久欠番でしたよね、K(キロ)です・・・」

「あくまでコードに過ぎないとはいえ縁起悪いしな・・・L(リーマ)だ。通信に問題は無い」

「こちらM。時間が惜しいので急いで進めてくれないかなあ?」

「Nはまだ欠員補充出来て無いんだよな?なら俺か。こちらO(オスカー)」

「こちらP(パパ)、QとRは急用があって欠席だ。代表して俺が参加する」

「こちらS(シエラ)よ。今更だけど長くない、この手順?」

「昔程じゃないさ。こちらT(タンゴ)、私が最後だったな」

「こちらA、UからZまでは空席だからな。ではまずBについてだが・・・彼は死んだ」

「なっ・・・!?」

「そんな・・・!」

「確か彼は歳星にいたはずだろう?」

「ああ、JPTを調べていた」

「て事は・・・」

「十中八九あのケツアゴかその取り巻きだろう」

「くっそあの野郎・・・ロクな事しねえな!!」

「やっぱり早いとこ片付けた方が良かったんだ!」

「貴重な同胞がまた1人・・・」

「落ち着いてくれ皆。Bの事は残念だったが、逸ってはいけない。彼を惜しみ悼むなら尚更だ。彼は自分が死んだ時に備え我々につながる情報は抹消して動いていた。覚悟はしていただろう。我々は彼の遺志を継いで計画を進めなければならない。憎きケツアゴの処断は決行時期もふくめて先代B・・・もといブレードにお任せする。仕掛けて仕損じ無し、を地で行くお人だからな」

「Aの言う通りね・・・あのご老人に任せましょう。遅くとも二年以内にやってくれるんでしょう?」

「ああ・・・」

「何時になるかわからないのが不満ではあるけどな・・・」

「ただ始末すれば良いってわけにはいかないしな。忌々しい」

「他、報告のある者はいるか?」

「こちらP、アーブラウの仕込みは順調だ。手駒も数はそれなりに。QとRはアレジ氏の所に情報交換に行っている」

「アレジに・・・よくアポが取れたな」

「マスコミに骨のある協力者を得られたからな。フリュウと腐れショタコンの密会の証拠を入手出来たのは大きかった」

「それ初耳ですねー」

「それも凄い事じゃないか」

「そう言うわけでこっちは順調だ」

「では引き続き頼む。くれぐれも慎重にな。他は?」

「Fだ。ドルトの騒動の時の報道の3人、身柄を確保した。ひとまずHに預けたいのだが」

「こちらH。解りました。客として滞在させましょう」

「よろしく頼む。骨のあるジャーナリストは得難い人材だからな」

「Tだ。アバランチの方はシナリオ通りに一期が終わった。次に大きな動きがあるのは半年後だな」

「まあそっちは動向を静観する方針だったからな」

「だが・・・ジャンマルコの動きが少し妙だ」

「ジャンマルコが?」

「モンターク商会から依頼を受けて動いているようで地球低軌道ステーションの辺りをうろついてる」

「今の時期にモンタークって、鉄華団絡みか?」

「だと思う。詳しくはわかっていないが」

「今は月鋼の空白期だから、何とも言えないわね・・・」

「あー、Cだ。空席になったBの席なんだが・・・補充要員の候補が見つかった。Aには先に相談したが」

「どういう事ですか?」

「私達の同類が新しく見つかったのか?」

「確定じゃない。今はそれっぽい、としか言えないが・・・そいつは鉄華団にいる」

「何いーーっ!?」

「それ超重大案件じゃない!?」

「アンタ今歳星だろ!?なんで判った?」

「あー、それがブレードの爺様からつい最近聴いて・・・ソイツあの爺様に弟子入りしたらしい」

「は?」

「どゆことですか?」

「Cの説明は正確じゃないな。そいつ、仮にX(エックス)と呼称するが、歳星で日本刀を買い求めたらしい。そうしたらブレードに目をつけられて、無理矢理弟子にされた、という」

「何故その、Xは日本刀なんて欲しがったんでしょう?」

「恐らく三日月の強化を目論んだのでは、と考えられる」

「ミカ君のー?・・・あー、グレイズアインの時の・・・」

「だと思う。あれを見越して先に刀の扱いに習熟させようとしたら・・・」

「ミイラ取りがミイラ、じゃないけど自分がしごかれる羽目になったわけね・・・」

「じゃあソイツ、もうシナリオの改変に動いてるって事か?」

「そのようだ。調べた所歳星でのバルバトスの整備と並行してグレイズの改造が行われていた。昭弘の機体とは別のな。青と黄のグレイズ改なんて本来のシナリオに存在しないだろう?」

「おいおい・・・」

「そういえばドルトの騒動の時クーデリアが狙撃されなかったし、フミタンもその場に現れなかった・・・」

「そうだ!その後のクーデリアの演説もサヴァランが出てきたり内容が違ってたぞ!」

「じゃあXが我々の同類だったとして、目的も我々と同じと考えて良いのか?」

「そう思いたいが、まだ判らん、と言うべきだろう。今は様子見が無難だと思う」

「まあ、一期の内は余り派手に動かない方針だしねえ。私達はこの先に備える必要があるし」

「ちょっと悠長に構えすぎじゃないか?イレギュラーが出たなら対応するべきだと思うけどな」

「だがこれがきっかけでブレードが動いてくれた。マクマード氏に働きかけてイサリビ残留組にマン・ロディを送らせたそうだ」

「え?あの人今の同盟の活動には干渉しない筈じゃ?」

「多分同類同士の互助会だった頃の理念に拠り、という事だろうなあ。あの人初代のABCへの忠誠心は揺るぎないし」

「でもマン・ロディだけ送っても陸戦には使えないのでは?」

「マン・ロディの輸送を依頼した相手はタントテンポだ。あそこのラブルスは・・・」

「頭以外ランドマン・ロディと同じ仕様つまり・・・」

「タントテンポに陸戦用パーツを融通して貰うわけか・・・代価はハーフメタル関係の利権か?」

「とにかくアーブラウでの戦闘を鉄華団はより充実した戦力で戦えるわけか」

「朗報、だよなこれ?」

「だがXが要注意人物である事は変わらない。そうだろA?」

「ああ、次に鉄華団が歳星に来たらブレードが腹の内を確かめるそうだ。これもあの人にお任せ、という事だ。この件はここまでとする。他には?」

「いや強引に終わらすな。俺は納得いかないぞ。何でもあの爺さま任せじゃ俺達の存在意義がだなあ・・・」

「Aやブレードには悪いけど、Dの言う事も一理ある。我々でXに接触してみようと思うがどうだ?」

「どうするつもりだP?」

「アンカレジでアレジが蒔苗に会うのに同行する。そのまま鉄華団の乗る列車に乗り込んでXを探して話す」

「無茶を言う」

「付き合いのある医者を捕まえて同行させる。医者の助けは鉄華団も拒否できんだろう」

「確かに。医療面で頼れる人材メリビットしかいないからなー」

「・・・Xもそこは手が回らなかったようだからな。そう言う事ならL、君も行ってくれるか。君の能力が役立つだろう」

「ちょっと待て・・・スケジュール的にギリギリだな、善処する」

「もう良いかなあ?私も忙しいんだよ?」

「そう言えばMが進めてるカスタム機はどうなってる?」

「どうもこうも!精度の低いパーツが回って来たせいで要らん手間がかかっている!質の悪い品を売り付ける業者は死ねば良い!やっと半分という所だ!大体本命の作業も並行しててだなあ・・・とにかく時間が惜しい!」

「あー、済まないがそちらは頑張ってくれ、としか言えないな」

「えっと、御愁傷様・・・?」

「キーーッ!!同情するなら時間をくれ!!あと甘いものを寄越せー!!」

「・・・他に報告等あるか?・・・無いな?ではMのためにもここまでとしよう」

「了解・・・」

「M、差し入れは送ってやる。死ぬなよ・・・」

「では・・・鉄の華に幸福を」

「ケツアゴに断罪を」

「虚飾まみれの驕った笛吹きどもに天誅を」

 

 

 

 

「はあ・・・それにしてもX、か・・・DやPの言う通りイレギュラーには早急に対応するべきだな。今はまだ表に出られない我々が諦めた命を、彼が拾い上げてくれていればありがたいのだが、な・・・」

 

 




 思い付いて二日で書けた・・・やっぱり思い付いたらすぐに書いた方が良いのかも知れません。
 いわゆるテコ入れです。一期までなら無くても何とかなったかもですが、二期について考えるともう・・・こんなんトウガ1人じゃひっくり返せねーーーっ!!という訳で憑依、転生者を複数投入しました。
 もうある意味敗北宣言のようなものです。

 2/3修正しました。


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地球編
まだ、止まれない


 また遅くなってしまいました。申し訳ありません。
 今回からオリジナル要素が前より多くなっていくと思います。
 そして皆様お待ちかね?トウガ叱られ回でございます。

ところで4月1日の小川Pの呟きはどう解釈すれば良いのでしょう?エイプリルフールネタだとするとまだ何か企画しているという事?期待して良いのだろうか・・・?


 頭で考えてたイメージだとオルガ達のMWの前に着地して、カルタを押さえつつ後退するようにオルガに呼び掛ける筈だったのに、カルタが突っ込んで来るのが思ったより速かった。

 咄嗟にカルタの機体を掴みスラスターを横に向けて噴かしてオルガ達の方に行かないようにした結果、互いにバランスを崩し木々に突っ込んだ。

 格好のつかない自分に苛立ちながら機体の状態を確認すると、カルタ機を押し退け機体を立ち上がらせた。

 

「ああもう、何でこうなるかなあ、もーー!!」

 

『かっ、カルタ様あ!?』

『カルタ機!ご無事ですか!?カルタ様!?』

 

 カルタに呼び掛ける声が接触通信でこちらにも聴こえる。まあ生きてはいるでしょうよ、僕が口の中切った程度なんだし・・・あ。

 

「オルガ!!ビスケット!!無事!?生きてる!?」

 

 あわててオルガ達に呼び掛ける。カルタの攻撃自体は阻止出来たけど・・・。

 オルガの姿は確認出来た。ビスケットはMWの操縦席だから姿が見えないけど、車体に目立った破損は無いみたいだから・・・。

 

『トウガさん・・・生きてたんですか!?何で・・・?』

「ああ、良かった。そこにいるね?良し、一旦退がってて・・・と」

 

 その時、傍らに倒れていたグレイズリッターが動き始めた。地面に両手をついて起き上がろうとしている。

 

「させるか!」

 

 肘関節を狙って蹴りを入れると地面に倒れこむ。足下に落ちていたナイトブレードを拾い上げるとグレイズリッターの背中に突き付ける。

 

「動くな。動くよりこっちが剣を突き立てる方が速い」

『ううっ、下郎が、よくも私に恥を・・・』

「恥、ね。命よりそっちが大事?」

『カルタ様!!』

『おのれ卑怯な!』

「自分たちから仕掛けておいて何言ってんだか・・・。自分達は何をしても良いとでも思ってるの?」

 

『何を・・・ぐお!!』

 

グレイズリッター二機の内一機が吹っ飛んだ。その背後にいたのはレンチメイスを振り抜いた格好のバルバトス。

 

『いきなり出てきたと思ったら・・・さっさと殺っちゃえば済むのに何してんの?』

 

「あ~・・・三日月、こっちの指揮官機は僕に任せてよ。必要な手順っていうかさ。他は任せるから」

 

『貴様・・・私の部下を!!』

「あいつらは抵抗するも逃げるも自由にして良いんだけど?あいつらを死なせるのはアンタだ。それが指揮官の責任ってものだろう」

『戯けた事を!!私のかわいい部下達を・・・』

「アンタが仕掛けて来なければ死なずに済んだ。それとも、1人も部下を死なせずに勝てる、とでも思っていたか?羨ましいなあ、そんな甘い夢を現実と思い込めるその精神が、さ」

 

 いやまあ皮肉だけど、割と本気でそう思える部分もある。それくらい楽観的に生きていけたらどんなに良いか。

 

『私は・・・私に、我がイシュー家に、こんな不様はあってはならない!こんな・・・』

「これが現実だ。勝負はついた。今投降すればアンタの命は保証するけど?」

『この私が!賊に投降するなどあり得ない!!』

 

 怒りと屈辱のこもった声。まあ拒否すると思ってたしその方がマクギリスには都合が良い。もし投降するならその時はマクギリスには内緒で拘束しといて後で蒔苗氏に扱いを丸投げするつもりだったけど・・・。

 

「ああそう、じゃあ部下もろとも死にたいって事ね。勧告はしたし、恨まれる筋合いは無いって事で」

 

 下から掬い上げるように蹴って転がし胸部にナイトブレードを突き立てる・・・少し浅い、か。指揮官仕様のリッターの胸部に追加されている装甲のせい、いやそれでも一撃でコックピットを潰しきれなかったのは僕の腕の問題か。ひしゃげたコックピットに挟まれて死にきれず苦しかろう。

 

「悪い、楽に死なせてやれなかった。僕の未熟さ故、そこは恨んで良いよ」

 

ナイトブレードを太刀に持ち替えて改めてコックピットに突き刺す。剣のせいにするわけではないけどこちらの方がやはり使いやすい。今度は上手く出来た。

 

周囲を見渡すとレンチメイスを下ろし、こちらを向いて立つバルバトスと、その足下に二機のグレイズリッターが倒れているのが確認出来た。

 

「オルガ、全体の状況はどうなってる?・・・・・オルガ!?」

『あ・・・ああ、海岸の方の敵は片付いたみてえだ。念のためラフタさん達はまだ警戒してるが艦からの攻撃も無いな。反対側の上陸部隊も制圧済みだ』

「艦の方も攻撃は出来ないみたいだね、じゃあ敵のMSから装備やパーツを回収しよう。特にグレイズの陸戦用装備は手に入れておいた方が良い」

『・・・解った。あまり時間は無えが、出来るだけやっとくか。昭弘とシノはラフタさん達と警戒を続けてくれ。ミカはトウガと回収作業だ。敵がまだ来たら出てもらうぞ』

『解った』

「さて、こっちもやりますか」

 

 太刀を使ってカルタのグレイズリッターの腕や脚の根元のジョイント部を壊して外すと左腕ワイヤークローのワイヤーで縛って担ぐ。

 エイハブリアクターは惜しい気もするが、欲張って船の積載量を超過しては元も子も無いし、エドモントンではMSよりMWの方が数が必要だしなあ・・・カルタの死体を持っていくのも何かマズイ気がするし置いて行こう。

 この先の戦いに思考を巡らせながら、空いている右手でグレイズリッターのナイトブレードを拾って回った。

 

 ギャラルホルンの艦隊は一時は海岸のラフタ達とにらみ合いの様相を呈したが、しばらくすると艦を回頭、撤退した。クーデリアや蒔苗を連れてオルガ達はギャラルホルンの上陸部隊から奪った揚陸艇に乗り込み、僕がシュヴァルベ・グレイズで先導する形モンターク商会の大型タンカー船に合流、移乗した。

 船倉にシュヴァルベ・グレイズを駐機して機体から降りると、オルガとビスケット、昭弘にシノ、タカキにライド・・・おやっさん含め主なメンバーが集まっていた。全員こっちを見ている、というより睨んでる・・・?

 

「えっと、何この雰囲気・・・?」

 

 何だか剣呑というか・・・う~ん、僕何かやらかしたっけ?

 

「あー・・・オルガ、ビスケット、これからの行動について相談したい。時間をもらえるかな?色々と計画を立てないといけないことがっ!?」

 

 話している途中でパン、という乾いた音と頬に熱い感覚が走る。叩かれた?誰に?

 

「アナタという人は!!」

 

 声を荒げたのはフミタンだった。フミタンに叩かれた?何で?

 

「無事だったのなら連絡ぐらいはするべきでしょう!!ここにいる全員が、アナタは死んでしまったものと・・・昨日一日どんな思いでいたか・・・!!」

 

 そう言ってフミタンは踵を返し、足早に立ち去ってしまう。

 

「え?・・・あ・・・!」

 

 言われてやっとこの雰囲気の理由がわかった。僕は軌道上の戦闘の後皆に連絡をとろうともしていなかった。早く合流しないと、と逸るあまり忘れていたのだ。戦場で別れた相手から音沙汰が無い、それはその相手が死んだ可能性が高いと考えるべき状況だろう。

 その当人が何食わぬ顔で戻ってきたら・・・そりゃ怒りますよね!

 

「ごめんなさ-い!!本っ当にすいませんでしたー!!」

 

 オルガ達に頭を下げる。これはもう、謝るしかない・・・!!

 

 はーーっ、と溜め息を吐いたのはオルガとビスケットか。

 

「言いたい事先に言われちまったな・・・。まあ、そういう事だよ。このバカ!」

 

 とオルガが。

 

「本当、アドモスさんの言う通り連絡はしてくださいよ・・・」

 

 安堵したような呆れたような口調でビスケットが。

 

「ユージンだってちゃんと連絡寄越して来たんだぜ~?」

 

 軽めの口調でシノが。

 

「報告、連絡は基本だろー?らしくねえなー」

「でも無事で良かったです」

 

 ライド、タカキが。

 

「まあ・・・今まで何やってたのか、ちゃんと説明しろよ。あのMSの事も含めてよお」

 

 最後におやっさんが締めるように言う。

 

「はい・・・皆、本当にごめん」

 

 そして軌道上で皆と別れてからミレニアム島に来るまでの経緯を説明する事になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ~一方、オルガ達から少し離れた所で~

 

「三日月は、トウガさんに何か言わなくて良いの?」

「ん・・・良いや。後で合流するっていう、別れる前の約束は守ったし、さっきオルガ達を助けてくれたし」

「・・・そっか」

「それよりアトラ、腹減った」

「あ!すぐ準備するね!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「フミタン!待ってフミタン!」

 

 船倉を出て通路を足早に歩くフミタンに、追ってきたクーデリアが声を掛ける。フミタンは足を止めると、溜め息を吐いてからクーデリアに向き直った。

 

「申し訳ありませんお嬢様、取り乱してしまって・・・」

「いえ・・・でも驚いたわ。貴女があんなに怒るなんて、初めてじゃ無いかしら」

「それは・・・何なのでしょう、あの人は。あの人に手を上げたのも怒鳴ったのも、私自身の感情からでした・・・それを皆さんを代弁したような言い方をした私は狡いですね」

「フミタンのそういう所、私知らなかったわ。それとも、貴女が変わったのかしら?」

「それは・・・」

「フミタンには色んな事を教えてもらったけど、フミタン自身の事は、私知らない事の方が多いのかもしれない」

「きっと私は変わったのでしょうね。お嬢様と・・・きっとあの人のせいです」

 

 そう言って手を見る。思い出すのはドルトで、1人クーデリアの元を去ろうとしていた自分の手を引いて、またクーデリアの側にいられるようにしてくれたトウガの手。

 

「フミタン・・・?」

「本当に何なのでしょう?あの人に対するこの気持ちは・・・自分で自分の気持ちがわからない、こんな事が二度も・・・」

 

 一度目はクーデリアに対する感情で、それはドルトの一件を経て整理が出来たが今はトウガに対する自分の感情をもて余している。

 

「ですが、今はそれよりも考えなければいけない事があります。そうですねお嬢様?」

「あ・・・そうね。今は目の前の事を考えないと。フミタン、私の戦いはここから。貴女の力を貸してちょうだい」

「はい、勿論です」

 

 結局フミタンは、今は考えない事にした。今優先すべき事は他にあるという理由付けが出来たのは都合が良かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 合流するまでの経緯を皆に話した後、オルガとビスケットと三人で今後の事について話し合う為、オルガの部屋に集まった。

 

「にしても、アンタを助けてここまでの移動を手配してその上MSまで・・・モンタークには随分と借りが出来ちまったな・・・」

 

「いや、僕が言うのも変な話だけど気にする必要は無いよ。アイツはアイツの打算で動いてるんだから。それよりこれからの事だ。僕達はクーデリアの交渉相手の蒔苗さんをエドモントンまで送り届ける。それで良いのかな?」

「ああ、そう請け負った」

「ビスケットは?それで納得してるの?」

「それは・・・正直不安はあります。ギャラルホルンとまともにぶつかるのは危険過ぎると思いますし・・・」

「そうだよね、少なくとも数では圧倒的不利だし。僕も分の悪い賭けは好きじゃない」

「アンタも反対って事か?けど今の状況じゃ他に道は無え。俺はこれが最善だと思ってる」

「そうだね、今のままじゃ蒔苗さんの件を断ってもギャラルホルンに追われ続けてジリ貧だ。蒔苗さんをエドモントンの議事堂に届けて、上手く蒔苗さんが代表に返り咲けばそれもチャラに出来る」

「結局どっちなんだよ?」

「まあ聞いてよ。ビスケットの心配はもっともだし、かといって他の道も無い。でもこういう博打みたいな仕事はこれっきりにしよう。この仕事の後は地道に堅実な方法でやっていく事を第一に考えてよ。ビスケットの意見もちゃんと聞いてあげなよ。参番組の頃から皆を引っ張って来た、相棒だろ?」

「・・・相棒、か。そうだな、そうする。ビスケットにも文句を聞かねえって言われたしな。今回の仕事をやり遂げて、俺達の状況を一気に変えられるようなデカい上がりを掴めれば、その後は地道にやっていくさ」 

 

 とは言うものの・・・多分上昇志向自体は変わらないよな、皆の為を思えばこそ、だろうし。そこは僕やビスケットがフォローしないといけないな。

 

「うん、それじゃあ念のため確認、これからの戦闘は今まで以上に危険で難しいものになる。誰が死んでもおかしくない。鉄華団の全員がその覚悟で臨まなければならない・・・その上で、今更だろうけど問う。死を覚悟しての戦いを命じる、その重荷を背負えるか?」

「本当に今更だな。歳星に行く途中にも名瀬の兄貴とそんな話したよな」

 

 オルガは苦笑しながら僕の問いに返す。

 

「鉄華団の誰一人死なせたくない。それは君も僕も同じだろ。なのに皆を今まで以上に危険な・・・死人が出ない筈が無い戦いに向かわせようっていうんだからさ、今更でも何でも、確認したくもなるよ」

「わかってんだろ?前に名瀬の兄貴に言った、あの時と答えは変わらねえ」

「ビスケットは?あの時と気持ちは同じかな?」

「・・・はい。色々あって、少し弱気になってましたけど・・・これからもオルガを信じます」

「そう。でも言いたい事は言った方が良いよ。それもビスケットの役目の内だから。作戦考えるのと同じくらい大事な、ね」

 

 うまくまとまった、かな。それじゃあ次だ。

 

「この仕事に成功した先の話もしておこうか」

「いやそれは気が早いだろ。目の前の事に集中しようぜ」

「言ったろ?誰が死んでもおかしくないって。今の内に僕の考えを君達には伝えておきたいんだよ」

 

 軌道上でも死にそうになったし、エドモントンで僕が死なない保証なんて無いし・・・死にたくは無いけど。

 

「この仕事が上手くいけば鉄華団の名を上げる事が出来て、アーブラウ政府にも繋がりが出来る。火星ハーフメタルの取引公平化が成れば火星の景気も良くなる。それは良い。問題は・・・ギャラルホルンって大した事無いじゃないか。って調子に乗る海賊とかが増える。昔のCGSみたいな質の悪い民兵組織も増えるかもしれない。でヒューマンデブリや少年兵も増えて結果治安は悪くなる・・・僕達のせいでね」

 

 最後に付け足した言葉にビスケットが表情を変えた。

 

「そんな!?俺達はただ・・・」

「ただ仕事をしただけ。でもギャラルホルンの面子を潰すってことはそれだけ大事なんだよ。ドルトの件一つとってもあれが切っ掛けで労働者の企業への反発を増長させてるって、月のアバランチコロニーを仕切ってる組織の幹部に言われたよ」

 

 まあ労働者を酷使して反感を育ててきた企業は自業自得だし、タントテンポの新頭目は自分の能力を示す機会と前向きに考えてるみたいだから、ものは考えようだけど。

 

「今回はギャラルホルンが経済圏の政治に干渉しないというルールを破っている。僕達はそれを暴きたてる格好になるからその影響もドルトとは比べ物にならないくらい大きくなる。そういう状勢の変化には僕達も無関係じゃいられないから、その辺を踏まえて組織の舵取りをしていく必要があるってことを、頭に入れておいて欲しいわけだよ」

 

 世界の状勢に目を向ける事が出来ないとそうと気付かぬまま破滅に向かってしまう危険があるから。

 

「そう、ですね。わかりました」

「あとテイワズ内部の事もかなー?。一枚岩じゃ無いのは解っているし、名瀬さんを良く思ってない人も少なからずいそうだから、そういう人達はきっと僕達の事も目障りに思うだろうし・・・」

「いや、やっぱその辺はこの仕事をやり遂げてから考える事だろ」

「あっ・・・、そうだね。まだ終わってない仕事の先の事を今あれこれ考えるのは皮算用が過ぎるか。でも忘れないで。この仕事で終わりじゃない。まだ先があるって事をさ。CGSの時はその日その日を生き抜く事しか考えられなかった。でももう少し先の事を考えて生きていく事が出来るように変わっていかなきゃいけない。まっとうに生きるっていうのはそういう事だと思う」

「ああ・・・覚えとくよ」

 

 そう、エドモントンで終わりじゃない。前世で僕は観る事が出来なかったけど鉄華団の物語はまだ先がある。今度こそその先を見たい。もう原作とは違うかもしれないけれど、ビスケットやダンジ、昌弘が今も生きているこの世界で、エドモントンの戦いのその先を。

 でもその前にケジメをつけないといけない事がある。オルガ達と別れると、ビスケットから聞いた部屋に向かう。

 

 

「失礼します、サヴァランさん」

「君は・・・」

「ドルトでは失礼しました。貴方の立場や心情について考えず一方的に非難した事を謝罪します」

「い、いやそれは・・・君の言った事は間違っていない、と思う。ビスケットからクッキーとクラッカの事も聞いているし・・・」

「それでも、思い詰めて余裕の無い状態の人を責め立てるような事はしてはいけなかったと思います。苦しい状況で道を1つしか見出だせない、他にどうしようも無い、それは僕もビスケットも同じだったんですから」

 

 あの時は冷静じゃなかった、と言うと言い訳になるけど、落ち着いて考えるとサヴァランも余裕が無かったのだろう。確認もせずアトラをクーデリアだと思い込むくらいだし。世界は綺麗事や正論ではどうにもならない事ばかりだって、わかっていたのに。

 

「あの時はどちらが正しいとか間違ってるとか、そういう問題じゃ無かった。お互いの立場とか大事な者の為にぶつかってしまったんだと思います。だったら僕が貴方を一方的に責めるのはフェアじゃありませんでした」

「いや・・・俺も君の言葉で思い出したよ。両親が死んでビスケット達を、家族を護ろうと働いていた時の事を。幸せだったわけじゃない、苦しくて辛かったけど、今思い返すと少し誇らしかったような気もする。あの頃は本当に、家族の事だけを考えていられたんだ」

「そんな貴方の背中を見て今のビスケットがいる訳ですね・・・貴方の今後の事ですが、今僕達はアーブラウの前代表の蒔苗氏を代表指名選挙が行われるエドモントンに送り届ける依頼を受けて行動しています。これが終わったら、貴方について便宜を図ってもらえるよう蒔苗氏に頼む予定です。アーブラウに亡命、という事になるのではと考えていますが・・・出来る限りの事はさせてもらいますので。では失礼します」

 

 

 サヴァランの部屋を出るとその隣の部屋の前に立つ。

サヴァランの時よりも気が重いが避けるわけにもいかない。

 船室の扉の鍵を外して開くと、クランクさんが床に座っていた。

 

「ああ、お前かトウガ。死んだと聞いていたが・・・良く戻ったな」

 

 クランクさんの言葉は穏やかで、けどその言葉が僕の胸に痛い。

 

「貴方に伝えなくてはいけない事があります」

「どうした?」

 

 深呼吸する。逃げる訳にはいかない。クランクさんの正面に正座して顔を上げる。

 

「地球降下時の戦闘で・・・アインを殺しました」

「っ!?・・・・そう、か・・・・」

「貴方には僕を討つ理由があります」

「・・・馬鹿を言うな、討たれて死んでくれる気などあるまいに。大体それを言うならお前達こそ俺を殺すには充分な理由がある。CGSへの攻撃を指揮したオーリスは俺の教え子だ。オーリスだけじゃない、あの作戦に参加した兵の多くはオーリスやアインと同じ俺の教え子だった。コーラルの命令とはいえお前達の仲間を殺めた罪は俺も負わねばならん」

「アインと少しですが、言葉を交わしました。彼は貴方の仇討ちの為と思いその一念で僕達を追ってきた、つまりそれだけ貴方を慕っていたという事です」

「仇討ち、か・・・」

 

 アインに対しては然して思い入れがある訳ではない。下手をして原作通りにグレイズアインになって暴れられるよりはあそこで殺した方がマシだという考えにも変わりはない。でもクランクさんは違う。この人をここまで同行させたのは僕だしドルトでは協力してもらった。この人には不義理は出来ない。

 

「貴方の教え子で、貴方の事を心から慕っていた。それを知ってそれでも、殺す以外のやり方を選べせませんでした・・・」

「戦場で敵として対したのだ。どちらかが死に、どちらかは生き残る。当たり前の、事だ。恨むなど・・・筋違いな事はせん」

 

 そう言いながらもクランクさんは拳を強く握りしめている。口で言うほど割り切れていないのがわかる。

 口から出そうな謝罪の言葉を飲み込む。口にしたら今堪えているクランクさんの意志を汚すように思えるし、謝罪は自分の罪悪感を誤魔化す事にしかならないだろう。さっきサヴァランに謝ったのとは別の話だ。

 ポケットからアインの持っていた徽章を取り出しクランクさんに差し出す。

 

「これは・・・」

「アインが乗っていたMSを回収した人物から受けとりました。貴方が持つべきだと思いまして」

「これは火星で俺が出撃前にアインに渡した物だ。あれから持ち続けてくれていたか・・・何故、こうなってしまったのか・・・」

 

クランクさんの顔が苦渋に歪む。

 

「あの時俺はCGSの少年達を手に掛ける事は出来ない、アイン達にもさせたくない。そう思って1人で出撃した。全てを自分で終わらせるつもりだった。なのにアインは俺の為にと思い詰めてお前達を追い、そして死んだ・・・こんな結果を望んでいた訳では無かったのに・・・!」

「クランクさん・・・」

「すまんが、1人にしてくれないか」

「・・・わかりました。失礼します」

 

 部屋を出て鍵を掛ける。僕達には敵であり邪魔者でも、死ねば悲しむ人がいる。当たり前だけど、いつしか考えなくなっていた事実を目の当たりにしてしまい、どうにもやりきれない。

 

「とっくの昔に、割り切った筈だったのになあ・・・」

 

 クランクさんに絆され、フミタンに肩入れし、サヴァランには謝罪して。こんな筈では無かったのに。もっと打算的に立ち回り鉄華団に利益をもたらす事で団内の立場を確立する。最初はそう考えていたのにこの様か。

 

「アインの事もなあ・・・」

 

 こっちが気に病む必要など無いだろうという考えも湧いてくる。アインが仇討ちなんて考えなければ、否、アインの仇討ちをガエリオが後押しして地球圏まで連れて来なければアインは火星に留まらざるを得ず、エドモントンの件の後にでも火星でクランクと再会する事も出来たのでは無いか。

 

「あのガリガリにも責任あるんじゃ無いか。ていうかカルタにしてもガリガリが声かけなきゃああはならなかったんじゃないのか?直接殺したのは僕だけどさ・・・」

 

 ああ、いけない。これは責任転嫁だ。僕だけが悪いわけじゃ無いという思いが膨らんで来る。

 あー駄目だ。悪い方に思考が働いてるな・・・。

 

「おやっさん達の手伝いにでも行こう」

 

 余計な事は考えるな、やるべき事に集中するんだ。

今は立ち止まって良い時では無い。だからそれで良いだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  ~アーブラウ領内、アンカレッジ某所~

 

「では蒔苗先生はこのアンカレッジに来られると?」

「ええ、そちらにも連絡がある筈です」

「ああ、それならご挨拶に伺わなければ!」

「そう仰ると思いまして、つきましてはアレジ先生にお願いがあります」

「何ですかな?」

「その蒔苗先生へのご挨拶に、私共も同道させていただきたいのです」

「それは・・・また、何の為に?」

「蒔苗先生の護衛に就いている組織・・・鉄華団。彼等の支援の為に医者を付けたいと考えた次第で、その引率という所です。アンリ・フリュウと癒着しているファリド公率いるギャラルホルンとの衝突は避けられませんから」

「成る程・・・・蒔苗先生のお体も心配ですし、それは必要な事でしょうな。良いでしょう。蒔苗先生から連絡がありましたら貴方にも伝えますので」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。ではまた」

「はい。失礼します」

 

 

「・・・ふう。これで渡りは付けた。医者の方も何とか二人は都合がついた。Lも何とか間に合いそうだ。後はイレギュラーを特定する方法だが・・・ふむ、アイツらを使ってみるか。原作知識ありの転生者なら他とは違う反応を示すだろう」

 

 




 前回(幕間は除く)までは原作の1話分ずつで区切ってましたが、今回は少し手前の所で区切りました。オルガの演説?の内容が纏まらなくて・・・次回で入れる予定です。


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嵐前の出会い

 大変お待たせいたしました。すっかり更新の遅くなってしまった拙作ですが、待っていて下さった方々、心配して下さった方々、すいません、そしてありがとうございます。
 一期における決戦前です。


 夜が明けて、鉄華団は船の甲板に集合した。全員の視線が前に立つオルガに向けられている。

 

「俺らは地球までたどり着いた。今まで良くやってくれた。だが俺達の仕事はまだ終わりじゃねえ。受けた仕事は最後まできっちりやり通すのが鉄華団だ。そうだろお前ら?」

 

 その言葉に否定的な者はいない。皆オルガを信頼しているからだ。

 

「筋も道理もねえ勝手な都合で俺らを潰したがってる奴らがいる。そんな奴らに追い回されて逃げ回ってたら、俺らの居場所は何処にも無え。今までは降りかかる火の粉と思って振り払って来たが、ここからは俺らの邪魔をする奴らには容赦はいらねえ!徹底的にぶっ潰す!そうだろミカ?」

「ああ、邪魔をするなら潰す」

 

 オルガの問い掛けに三日月は一瞬の躊躇いもなく答える。

 

「思い知らせてやろうぜ!鉄華団はただのガキの集まりじゃねえってな!俺らが生きて行くために、そしてこれまで死んで行った仲間の為にも、この仕事を最後までやり遂げるぞ!!」

 

「よおっしゃあ!やってやるぜ!地球のギャラルホルンだろうあビビるこたあねえ!!」

 

 オルガの言葉の後、最初に声を上げたのはシノだった。そして同調する声が上がり始める。

 

「そうだ!俺達の力、見せてやろうぜ!」

「ああ!昨日だって俺達が勝ったんだ!やれるぜ!」

 

「よーし、俺らもやるぞタカキ!!」

「うん!俺達も役に立てるように頑張ろう!」

 

 ライドやタカキをはじめ年少組もやる気になっている。 

そんな中クーデリアがオルガの方に歩み寄り声を掛けた。

 

「団長さん、これからのルートについてお話があります」

「ルート?」

 原作同様テイワズの定期便で鉄道を使ってエドモントンに行くって話だろう。

 僕はおやっさんとヤマギ、エーコさんとMSの整備だ。

 

「え?左肩のスラスター、駄目ですか?」

「ああ、派手にすっ転んだろ?そんとき壊れてた所で替えが効かねえパーツがある。コイツはちょっと直せねえ。となると無事な右側も使えねえだろ。バランス崩れて戦闘どころじゃ無くなっちまう」

「ですねえ・・・といってスラスター無しってのも」

「鹵獲したパーツで代用するしかねえな。グレイズリッターっつったか?アレの肩の装甲にスラスター付いてるから、まあ無いよりマシだろ」

 

「え、それじゃバルバトスの肩は?」

「そっちも大丈夫だ。お前や三日月が拾って来たのが4機分あったからな」

「それならそれで、お願いします。あ、ヤマギ、ちょっと良い?流星号の事なんだけど・・・」

 

 そんなこんなで、アンカレッジに着くまで機体の整備、着いたら荷物の載せ換え作業と結構忙しく・・・アンカレッジでラスカー・アレジ氏が手配したという医者とその護衛が列車に乗り込んだ事を知ったは列車が発車してからだった。

 

「メディカルチェック?」

「はい、アンカレッジで乗って来た医者の人たちが・・・簡単な問診だけでもって・・・」

 

 タカキの言葉にはて、と思う。そんな事原作には無かった筈だけど、今まで色々変わって来てるからな・・・と考えつつ臨時の診察室になっている車両に入るとスーツ姿の男性に問診票だと端末を渡された。

 

「・・・は?」

「どうかしましたか?」

「あ、いえ、何でも無いです」

 

 思わず声が出てしまった。渡された端末の角にシールが貼られていたのだが・・・ライムグリーンの円形シール。しかし手に取った瞬間気付いてしまった。

 

(何でハロのシール?あるの?ハロがこの世界に?そんなの知らないぞ・・・)

 

平静を装いつつ端末の画面をタッチして問診票にチェックを付けていく。

 

「うえっ!?」

「・・・大丈夫ですか?」

「え、ええ、大丈夫です。何でも無いんですよ本当に」

 

 最後に画面に表示されたのは熊っぽい意匠の可愛いマスコットキャラ。というかこれ・・・。

 

 (プチッガイ?プチッガイ何で?)

 

不審に思われてはマズイと内心の動揺を隠し平静を装おうとしたが・・・後になって振り返ると、上手く出来てなかったらしい。

 問診票の端末を返した後対面で一通りの問診を受けたら、僕だけ残された。おかしい、特に身体に異常があるような事は書いて無いし言ってないのに。

 

「やあ、まずはその椅子に座って」

 

 そう声を掛けてきたのは先程端末を渡して来たスーツの男性。他には誰もいない。不審に思いつつ、直ぐ立ち上がれるようにと意識しながら椅子に座る。

 

「はい・・・それで貴方は・・・」

「コードネームはP(パパ)。多分、君と故郷を同じくする者、『限りなく近く、果てしなく遠い世界』から来た者だ」

「!?」

 

 椅子から立ち上がり後ずさる。この男は今何と言った?故郷が同じ?それに『限りなく近く、果てしなく遠い世界』と言ったか?その言葉には覚えがある。ずっと前、まだこの世界に来るよりも昔に・・・。そうださっきの端末、ハロにプチッガイ・・・まさか。

 

「君だけ他と反応が違ったからなあ。この世界に異邦人は自分だけだと思っていたか?それが違ったんだなあ、これが。はじめまして、我等が同胞よ。ああ警戒する事は無い、さあ座って、お茶でも飲みながら話をしようじゃないか・・・」

 

 そう言って男は魔法瓶とカップを出しながら笑った。

 

「良いでしょう・・・お話、こちらも望む所ですよ」

 

 こちらも虚勢ではあるが精一杯強気の態度で応じた。

 

「あ、お茶は結構です」

 

 何が入ってるか分かったものじゃないし。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あー・・・頭が痛くなりそう・・・」

 

 ここに来て僕以外の原作知識持ちとか・・・先が予想しにくくなるじゃない・・・いやアインやカルタがもう死んでるしもうこの先何があるかなんて判らないと言えるけど・・・それにしても彼らはテイワズにも繋がりのある組織で、鉄華団には好意的で支援をしたいのだと言っていたが信じて良いものか?理屈で考えるとこんないきなりの援助の申し出なんて怪しい所だし、だからオルガやビスケットには伝えていない。だけど何でか感覚的には信じられる気がするというか、信じたいと思ってるんだよなあ・・・。

 それにミレニアム島で撃破したグレイズリッターの数が原作よりも少なかった。カルタは死んだがその親衛隊に生き残りがいるならカルタの仇討ちに来ない筈が無いし、カルタの後見人のイズナリオが指示すれば形式に拘りもしないだろう。手段を選ばず妨害してきても不思議は無い。そう考えるとカルタは生かしておいた方が対処が楽だったかも・・・いや今更そんな事考えてもどうにもならないし・・・。

 

「どうかしましたか?」

 

 かけられた声に顔を上げるとクーデリアとフミタンが立っていた。自分の状態を顧みると通路の壁にもたれ掛かって頭を抱えていた訳だから、不審に思われるのは当たり前だった。

 

「ああいえ・・・この先の事を考えていたもので・・・」

「この先の・・・そうですね。これから鉄華団の皆さんは今まで以上に危険な戦いに向かうのですから」

「そう、です。それが最善と信じてはいますが、それでも誰かが傷付き死んでいく、それを避けられない、防ぐ力の無い我が身を嘆かずにいられない・・・僕がもっと強く誰よりも、それこそ三日月より強く、全ての危険を、敵を打ち払う力があったならと、思ってしまって」

 

 自分に出来る最善を尽くしているつもりではあるが、仲間内の誰かが死んでいくたびそこに手の届かない自分の弱さ至らなさは受け入れ難い物だ。

 

「それは、違うと思います」

 

だが、クーデリアは僕の言葉にそう返した。

 

「確かに、自分にもっと力があればと思う事はあるでしょう。ですが自分1人で全てを守ろう、救おうというのは、きっと違うと、私は鉄華団の皆さんを見ていて思うのです」

 

「火星でギャラルホルンの攻撃を受けて、大勢死んで・・・私はそれを自分のせいだと思いました。でも三日月に叱られたんです。彼らが死んだのを私のせいだと思うのは、彼らを侮辱する事だと」

 

 ああ、と思い出す。確かにそうだった。そしてクーデリアの言わんとする事を理解する。

 自分に力があれば彼らを死なせずに済んだと考えるのは、その時のクーデリアと同じなのだと。

 

「鉄華団は三日月1人の強さでここまで来たのでは無い筈です。団長さん1人の力でも無い、皆さん一人一人が力を合わせて生きる為に力を尽くして来たから今ここにいる筈です」

 

「そう、ですね。その通りです・・・わかっていた筈だったんですが・・・至らないのは力だけでなく心の方もですね。三日月にはとても及ばない・・・」

 

あの真っ直ぐな、時に怖いと感じる事もある精神性から来るのだろう強さは僕には無い・・・。

 

「貴方は彼では無いでしょう」

「フミタン・・・?」

「彼と貴方は別の人間です。同じにはなれません」

「それは・・・っ」

 

 痛い言葉だと感じた。僕は三日月のように強くはなれないと言われたようで、しかしそれを否定出来ない、どこかで納得している自分がいた。

 

「私をお嬢様の側に引き戻してくれたのは、あの時私の手を引いてくれたのは三日月・オーガスでは無く、トウガ・サイトー。貴方です」

 

「ええと・・・はい」

 

「貴方は貴方のままで良い筈です。オルガ・イツカでも三日月・オーガスでも無い、貴方にしか出来ない事があると・・・私は、そう、思います」

 

 フミタンの言葉は否定で無く肯定だった。今の弱く半端な僕自身を、認めてくれていた。

 

「はい、そうですね。本当に、当たり前の筈の事を見失いそうになっていましたね。僕は僕に出来る事を」

「私は私に出来る事を」

「勿論私も、そして鉄華団の皆さんも同じ筈です。だから1人で背負い込む事は無いんです」

「ええ。家族ってそういうものですよね」

「家族・・・?」

「アトラが言ってましたからね。クーデリアさんも家族だって。そのクーデリアさんにとっての家族ですから、ふ、フミタンも、僕たちの、か、家族、ですよ?」

 

うう、自分で言ってて何だが、フミタンが家族って別の意味でイメージしてしまって、どもってしまった。

 

「なら、約束は守ってください」

「約束?」

「ドルトで言っていた事です。私を守ってくれるのでしょう?だったら・・・勝手にいなくなったりしないでください」

 

 ああ、あの時確かにそう言ったけど・・・約束になっていたのか。

 

「はい・・・その約束は守ります。勝手にはいなくなりません」

 

 そして僕にそれを拒否出来る筈も無かった。フミタンは僕のジャケットの袖を掴んでいるし。

振りほどく気にもなれないのは惚れた弱味という事かな?

 

 

「必ずですよ・・・?」

「念押ししますね・・・信用無いですか?」

「ついこの前の事がありますし、貴方は嘘つきですから」

「ごもっとも・・・ところで・・・何見てるんですかクーデリアさん」

「はっ!?いえその、後学の為に、と」

「いや何のですか・・・」

「お嬢様・・・」

 

 それから。

 

 交代で警戒していたがギャラルホルンの攻撃も妨害も無く、列車はエドモントン郊外に到着した。

 もうここに至ってはゴチャゴチャ考えていられない。味方を守り敵は潰す。多分それしか出来ないのだろう。

 今まで僕がしてきた事の結果もここで出るのかもしれない。

 

 さあ、決戦だ。  

 

 




 序盤は飄々とした所のあったトウガの性格が変わって来たように見えるかもしれないのでちょっと補足。

 序盤の態度は原作知識で先の事を知ってるから少し余裕があってあんな感じでしたが、改変を重ねた現在はもう先の事が判らないので余裕が無くなり今の状態になっているのです。
 化けの皮が剥がれてきた、とも言えるかも知れないですね。

 やっとこさここまで来たか、というのが正直な所です。一期はこれで原作だとあと残り二話ですが、多分もう一話くらい増やす事になりそうなのであと三話、頑張りますのでよろしくお願いします。


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