射干玉の闇に灯るは幽けき淡い也 (真神 唯人 )
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兆しは、夢より来たり

大好きなゲームです。勢いで書きました。
サブタイトルに捻りなし。そのままです。

追記:2016/1/20 加筆しました







ー閉じた瞼の暗闇の先。

 

眠りの奥のその先から、俺を誰かが呼んでいる。

確かに聞き覚えのあるその声が、誰なのかを思い出せない。

声は、いつも同じことを繰り返し、俺に言う。

 

 しつこいんだよ。何なんだ?。

 

「ねえ。きみは おぼえているはず だよ?。」

 

 何を?。何のことだ?。

 

「ぼくは きみをみてる ずっと。」

 

 だから何を?。誰なんだよ、いつまで俺を呼ぶんだ?。

 

「きみの せかいが また おわるまで。」

 

 は?。「また」って何だよ?。

 

「おぼえているはず だよ きみは ね。」

 

 

    ぬるり。ふと指先全部が、液体に塗れたような感触。

 

突然、スポットライトを当てられたみたいに 俺の周りだけが不自然に明るくなる。

眩しさを避けて恐る恐る両手を上げ目にしたものに、俺は声にならない悲鳴をあげた。

 

 

 何でなんで何で?!。何なんだよ?!。何で俺の手が!!。どうして?!。

 

 

驚いて足元に視線をやると、それは両手だけじゃなかったことを知る。

顔も体もどこもかしこも、べっとりと それに塗れていることを。

 

俺は、まるでバケツで水を被ったかのような血溜まりの真ん中に

棒みたいに、ただ突っ立っていた。

 

意味が分からないまま、膝が、がくがくと震えだす。

その震えは やがて全身にまわって立っているのも覚束ない。

 

 

頭の中に響くのは 声にならない 俺と何かの絶叫。

 

 

と、突然明るさが消え、同時に足元がぽかりと開いて、真っ暗な底に堕ちていく。

どこまでも堕ちて堕ちて堕ち続けて、いつまでも止まらない。

 

闇の中を、堕ちていく感覚が 気持ち悪い。

 

そして、永遠に続くのかと思われたそれは 突然の水音と

俺の体?に、強い衝撃を与えて 終わりを告げる。

 

口に入るのは、とろりとした「何か」。

気持ち悪くてすぐに吐き出す。

 

 

何だ?。粘着質な液体?。何だ、この強い臭いは。

 

 

鉄錆びのような強いこの臭いには、何故だか覚えがあった。

どこでだったか。いつだったか。確かに嗅いだことがある。

 

そして、さっきまで両手を濡らしてた血が誰のものだったかとか、何でこんなものに

塗れているのかとか全部「覚えている筈」なのに思い出せない....思い出したくない。

 

 

 

 

 

「わすれたの? きみがいつも まとっていたものだよ」

 

 

 

***

 

 

    

「(....らと....あ...らと.....)アラト....ッ!!アラト!!起きなさい!!。」

 

 

 

ジリリリリ。ジリリリリ。がこっ。

目を開けて、ベッドからずるりと、目ざまし時計を止める為に伸ばした手は しろい。

 

.....あ?。ああ?。なんだ ゆめ か。 よかっ た。

あれ?。どんなゆめ だったっけ?。 何かすごく怖かったよう な?。

 

 

けれども、起き上がってしまえばもう、ぼんやりとすら思い出せない。その程度。

(だけど忘れてはいけなかった)夢から覚めたら。

 

俺、「祖神 現人(そがみ あらと)」の平凡な日常が始まる。

 

その日もバタバタと急いで着替えて部屋を飛び出す俺に、母さんが呆れた声を耳に

残してくれたから。いつものように、いってらっしゃい気をつけてねといいながら。

 

 

だから、気付かなかった。

 

 

否、気付けなかったのだ。「その声」に。

 

 

 

 

 

 

 

「きみは おぼえているはず だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




試しに書いてみました。初短編小説です。(文才なさすぎる。)
続きません、すみません。これだけ捻りだすのがやっとでした。

2016/1/20 追記:さらに捻りだしたら、単なる すぷらった に、なった(-_-;)。

短編的な、断片的なものとして続くかもしれません、すみません。


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赤き霊(ヒ)と、渦巻

今は、まだ「動かない」。

(「あの方」の次の思惑は まだ構築中、的な)




幾つもの、光る「渦」が現れては 消えて

 

幾つかの、光る「渦」が生まれては 死んでゆく。

 

「世界」は光る「渦巻き」で出来ている。

 

光る「渦巻き」は、数多の「赤い命の灯」で出来ている。

 

水の如き赤い灯の奔流が、世界を創る糧であり

 

世界を生む根源にして、すべての命の源である。

 

 

 -「禍つ霊(マガツヒ)」-

 

 

すべての命の源にして、世界を構築する為の基盤。

 

これがなければ、世界は、存在も存続も かなわない。

 

 

....これがあれば、世界を、「また」 生みだせる。

 

 

 

 

世界を創る条件は 二つ。

 

 

揺るぎ無き、確固たる構成理念をあらわす「理(コトワリ)」と

それを守護する、「神」たるもの。

 

 

そして。数多の命の奔流、すなわち膨大な量の「禍つ霊」。

 

 

この二つが条件として揃いし時

世界を生みだす、『 創世(そうせい)』へと至る資格を得るという。

 

 

 

....けれど、稀に。

 

 

「理(コトワリ)」無きままに、守護する神さえ無きままに

「世界」を生みだすことができることを、【消されし書物】を読んだ者は伝える。

 

 

いかなる手立てをもてば 可能なのか。どんな「世界」なのか。

 

 

読んだ者は語る。残念なことに、そのページは破れていて、

すでに失われていたということを。

 

 

....或いは「意図的に」破られていて、消されたのかもしれないと。

 

 

 

那由他の数の秘密によって、隠されし「真実」に、未だ至る者は無い。

だからこそ、それ故に明かされてはならないこととして 失われたのではないか。

 

秘密という名の「真実」が、たとえその一端にとはいえ。

 

終わりなき時の果てに、いつか、辿り着かれ 暴かれ 侵される時など来ないと

はっきりと言い切るには、「ヒト」の思いや念は侮りがたいものである、と。

 

 

だが、読んだ者は既に時の彼方に去り、もはやそれらの言葉は

大いなる闇の底に沈み、消えゆくのみであった。

 

 

 

 

***

 

 

数多の光りの「渦巻き」は、ボルテクス界と呼ばれ 存在する。

 

 

その中に、在りし日を失い「創世」へ至る為の「卵」となった世界があった。

揺るぎ無き「コトワリ」を持ちし 三人の「ヒト」と

揺らぎ続け「コトワリ」を持てぬまま 虚無に呑まれた「ヒト」と

 

「ある意思」により 望みもしない力を人ならざる姿と共に

与えられた「元・ヒト」だった者が 血と砂塵に塗れ 彷徨い続けて

 

 

 

進みゆく道を選択し続けた結果。

 

 

 

 

「卵」の殻が割れて、出てきたのは新たなる「コトワリ」の世界ではなく。

 

 

 

 在りし日の、さほど旧くない かつてヒトで満ちていた「世界」だった。

 

 

 

 

「創世」へと至る資格を手にしたのは

人ならざりし姿と力故に、誰より自由だった「元・ヒト」の少年。

 

 

彼が望んだのは 生まれ変わる前の「自分がヒトとして生まれた世界」の存続。

或いは 継続そのものだったのだろう。

 

 

  「ある意思」の思惑は、少年自身によって外されたのである。

 

 

 

***

 

ボルテクス界の「外側」。

 

 

赤き霊(ヒ)が満ちる経絡-アマラ経絡が敷かれたその先。

 

更なる深き層に分かたれた-アマラ深界の最下層。

 

ヒトが行きつけぬ-奈落の底の更に下。

 

 

何もない空間に、映るのは創世を成した「少年と、少年が生きる世界」。

淡々と、まるで無声映画のように次々と場面は進んでゆく。

 

 

そして薄闇に浮かぶ、不自然なほど巨大な玉座に座る「誰か」が

興味深げに、それを観ていた。

 

 

不似合いな、幼い子どもの囁くような声が

映像の向こう側の「少年」に向けられる。

 

 

 

  

  どれをえらんでも きみがのぞみ きょうかんして

  つくるのならと おもっていたよ

  

  

  いきつくさきは ぜんぶ ぼくのところになるから

 

  

  でも「これ」では ぼくののぞみは かなわないんだ

  だから せんたくし を あとひとつ ふやしてあげよう

 

 

 

「そうしたら きみは もっとじゆうになれるよ」

 

 

 

  

  ぼくのねがいをかなえる あたらしい ちから に なれる

  

 

  じかんは まだあるから 「やりなおそう」 いいよね?

 

 

 

 

 

 

 

「きみは きみのねがいを かなえたのだから」

 

 

 

 

 

  ぼくのねがいをかなえてくれる きみに なってほしい

  

  そのためなら どんな「どうぐ」でも そろえよう

 

 

  なんどだって 「やりなおす」から いいかい?

 

 

 

  さいしょの そうせい は

  

  そのための「えさ」なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本筋どこいった?感じになってしまいました。

2016/1/24 ちょこっと加筆しました。


...ますますワケわからんことに。




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定めを生みし、玉響(たまゆら)に

今は、まだ「動かない」。

(もう お一方の「あの方」も、次の思惑を「構築中」...?)


赤き霊(ヒ)に満ち、深き層に分かたれた-アマラ深界。

ヒトが行きつけぬ-奈落の底の更に下。

 

 

何もない空間に映る、創世を成した「少年と、少年が生きる世界」を観ていた

薄闇に浮かぶ、不自然なほど巨大な玉座に座る「誰か」の背後に 

 

 

すう、と 光と言うには、あまりに仄暗い 一筋の光が射した。

 

 

光は足元の影を伸ばし、影はどんどん伸びていく。

 

 

そうして伸びた影の先は やがて「誰か」の足先を映し出す。

 

 

ふいにカタリ、と 音をたてて進みだしたその足先は、何かの上に乗っていた。

露わになったのは、車椅子に乗っているらしい足先だった。

 

 

それを押す手は、黒い喪服用の手袋をしている細い女の指。

車椅子に乗っているのは、何かを模ったような細工の杖を持つ男。

 

 

カタリカタリ、と ゆっくりと進んでゆく車椅子。

 

 

幾らか進んだところで、薄明かりが照らすは男の影と足先だけ。

見えているのは、白いスーツと履いている黒い靴だけ。

 

 

 

いつの間にか、車椅子を押す女の姿は消えていた。

 

 

 

 

まるで、闇に溶けるがごとく。音も無く、忽然と。

残ったのは 車椅子に座る男 だけ。

 

 

 

やがて杖が持ち上がり、ついっ、と振られると 目の前で

先ほどまで映っていた映像は消え失せ、「二つの人影」を映した。

 

 

一人は、赤い服の成人した男。

一人は、黒い学生服の少年。

 

 

杖は「二つの人影」を交互に指し示し、考えあぐねているかのように

ゆらゆらと、ほこ先定まらぬままに あてどなく揺らされている。

 

 

ほんのわずかな玉響の間か、それとも時を忘れるほどの弥久の果てにか。

 

 

ゆらりゆらゆらと揺れていた杖は ゆっくりと下ろされた。

 

微かに 笑うような声と共に。

 

 

 

 

そして、しわがれた声が呟く。「二つの人影」に向けて。

 

 

 

   確実に 「ここ」へ導き 求める「力」を得るための 「道具」。

 

 

   全ての可能性を断ち 選ぶべき「道」を自ら棄てるように仕向ける

 

 

   その為だけに使う、「駒」であり「道具」。

 

 

 

       その「材質」を 間違ってはならない。

 

 

 

 

   「失敗」で、「成功」を生む為に。

 

 

 

 

    あらゆる想定を、シナプスのように張り巡らせて。

 

 

 

    どちらの「駒」ならば、我らが真に望み得る「結果」となるか?。

 

 

 

    ヒトであることを事を諦め、ヒトを棄て、世界を棄てて、新たなる「力」の

 

 

 

    具現を 確かなものにする為に。

 

 

 

    そしてそれは。「あの者」以外の、他のどんな人間にも務まらぬ、それ故に。

 

 

 

 

 

 

 

「....我らは選ぶ。我らの望みの為に。」

 

 

 

 

 

 

「....故に 「お前達」は、我らの為の有益な「道具」であれば良い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

「「依頼」、で ございますか?」。

 

 

 

 

 

 

喪服の女が、背後で車椅子を押す手を止める。

 

 

 

何事かを囁く、主(あるじ)たる者の言葉を 

一言たりとも聞き逃すまいと、耳をそばだてて。

 

 

やがて すべての言葉を聞き終えた女は、深く一礼をして

背後の闇に掻き消されるように その場を後にした。

 

 

 

 

  あともう暫くの時をかければ、 「舞台」は 整う。

  今は、たゆたう束の間の「日常」を、享受するがいいだろう。

 

 

 

    いずれ、そう遠くない日に。

 

 

 

 「それ」は、いつか お前の「世界」と共に

  今度こそ 失われるのだから。

 

 

  

  我らは お前が堕ちてくるのを ここで待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












未だ本筋に辿りつけないって...。


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光、未だ遠きに在り

「絶対者」と、従う存在もまた、「今は動かない」。


数多の星が発する「光」が、一本の柱のように集まり伸びた、その先。

光る御柱の最果て、清輝に満ちた玲瓏なる間で歌われしは、讃美歌。そして。

 

 

 聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな 

 昔いまし 今もいまし 後来たり給う 主なる全能の神よ

 

 

ただ唯一の存在の為だけの、三聖頌が遠く近く どこまでも響く。

 

 

御柱の中で溢れんばかりの光の洪水が、途切れを知らぬ流れを生み続ける世界。

ヒトにはけして辿りつけぬ、真なる全き「光」の世界。

 

 

 

その中にあって、針の先よりも細き闇が 「そこ」に生じていた。

在る筈のない「闇」を創りしは、「尊き方」の光る御手。

 

 

視線は、愚かで小さきヒトの世界へと注がれている。

 

 

 

恒河沙の「渦巻き」の中から探す行為は まるで。

砂漠に落ちた、色の違う一粒の砂粒を探すようなものに似ていた。

 

  

  けれども、その視線は何故だか哀し気でさえあるような

  そう思われるモノであった。

 

 

敢えて、時を使い 探す事を哀しむようでさえあった視線が

やがて。ひた、と ある1つの世界を見出し 止まる。

 

 

そして、音とも声ともつかぬ囁きが 光の奔流に乗る。

哀し気だった視線は 姿をひそめ、重苦しき言葉となって。

 

 

  

  

  「懲りぬ者よ。<絶対なる悪にして堕ちたる天の御使い>よ。」

 

 

 

 

 

  「如何なる手を使おうとも、我は 認めはしない」

 

 

 

 

  

  「そして、許しもしない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

光る御手は、一つ乾いた音を以て「玉座に侍る者」を呼んだ。

 

 

再び起こらんとする「世界の崩壊」と、それによって生まれるモノを

「こちら側」に、導かんと努める旨を告げたのである。

 

 

 

そうなれば「<堕ちたる天の御使い>の思惑は外れ、天の糧が増える」と。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「王座に侍る者」は考える。

 

 

 

あの「ヒト」に 執着に似たものを持つのは、其れなりの理由がある筈。

なれば、弱きうちに手を打つが上策か。

 

 

だが、あの世界は「あの者」の領域。

光に属する身は、そう容易くは侵攻できない。

 

 

...それでも。赴かねばならないのだ。

何より、「あの者」の思うがままにはしておけない。

 

 

それは赦される事なのか?と、己れに問うたならば。

答えは一つしか出てこない。

 

 

 

 

「イイヤ、赦サヌ。」

 

 

 

 

そうだ。悪しき存在など 赦してはならない。

唯一の「尊い御方」の為だけに、己が存在は ある。

 

 

 

この力は、この身は、悪しきモノを滅するために 在る。

 

 

 

 

件の人間が、如何なるモノであろうと。

 

 

 

 

だが、せめてどちらに付くかを見定めてやるだけの猶予は

与えて然るべきだろう、と思い至る。

 

 

 

「あの者」の策に堕ちることなく、「大いなる存在」に 与するならば良し。

「あの者」の力によって、ヒトならざる身になろうとも なお救いを求めるならば。

 

 

 

その時は忌まわしき世界の「檻」を破って、光の御柱の向こうへ連れて行く。

 

 

 

 

但し、もしも....それが叶わぬときは。

 

 

 

 

***

 

 

清輝に満ちた、光溢るる間にて 歌声は響く。

今少しの、「その時」を待つように。

 

 

   「ハレルヤ」

 

 

 

 

 

 

 









未だ本編の折り合い付かず...。
スタイリッシュなあの人か、レトロな学生服の彼か...。


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何処かに在りし、欠片

夢落ち...に、してしまった、「彼」のもうひとつの感情。


真っ白な視界。開けても閉じても、真っ白な世界。

 

 

  ....ああ。また夢、見てるのか俺。

 

 

 

静かな世界に、割り込んでくる声・声・声。

 

 

  ....うるさいな。誰だよ「今度は」。

 

 

 

「なぁんだよ、寝ぼけてんのか?。」

 

 

  ....は?。だれ?。

 

 

 

「もう、全員整ってんぞ。行かねぇのかよ?。」

 

 

  

....行く?。何処に?。....あれ?。....。.....。........。

 

 

 

「アイツ、あそこから引き摺り下ろすんだろ。」

「何やってんの?。今さら、怖気づいたとかナシでしょおー?。」

「マサカ、コノ後ニ及ンデ尻込ミシテイルノカ?。」

 

 

  

  『...んなワケあるか。あの忌々しいアレ、引き摺り下ろして地べた這わす!。』

 

 

 

「何だ、寝ぼけるとは余裕だな。」

「オマエガ望ミ、叶ウハ直キニダ。緩ムデナイ。」

 

 

  

  『...緩んでねぇよ。何か、懐かしいような感じの夢、見てただけだ。』

 

 

 

「夢ぇ?。」

「何と。ここに至りて、うたた寝とは。」

「ぼぉーっとしとると思うておったら、のん気じゃのう。」

 

 

 

『...うるさいな。しかたないだろ、「あと少し」なんだから。』

 

 

 

「そうね。〇〇〇とは、結構長く付き合ってきたものね。」

「早く終わらせたいんだろ。緊張してんのか?。だっせーな。」

「ナンダ、〇〇〇。何ヲ気ニシテイル?。」

 

 

 

気にしているのは。「お前達」のことだと言ったら、笑うんだろ?。

らしくないとか言って、呆れるんだろ?。

それとも、くだらねぇって、生温かい目をするのか?。

バカじゃんって、醒めた顔で見るのはやめろよな。

 

しょうもない「感傷」だって、わかってる。

けどこんな感情が、「まだ」残ってるなんて思わなかった。

 

 

「ここ」まで来るのに 必死だったから。

 

 

おかしいよな。「ここ」まで来る為に、「俺」だけでは無理だから。

だから、「お前達」の力を必要としただけなのに。

考えないようにしてた。「全部終わった後」のことなんて。

考える余裕もなかった時のほうが、長かったけど。

 

 

...ごめん。「俺」は、やっぱり「帰りたい」。

「俺」が「俺」だった場所へ、「戻りたい」。

だから、今の俺は、「お前達」と同じな俺は、違うんだ。

 

 

...なのに、どうしてだろうな。

 

 

割り切るには、「ここ」までに長くかかり過ぎた所為なのか。

「その時」が近づくのは喜ぶべきで、寧ろ早く進むべきことで。

足が進まない「理由」は、置いていくべきことで。

 

 

   

『...「お前達」がいてくれて、助かった(良かった)。』

 

 

 

「お?。何だぁ、今頃んなって有難みがわかったってか?。」

「今頃言う事なの?。いつも言ってたじゃない。」

「さあ、あと少しですよ。参りましょう、〇〇〇殿。」

 

 

 

ああ、すまない。「俺」は「戻る」よ。

「お前達」のいない世界へ。

 

 

 

***

 

 

 

ジリリリリ。がこっ。....痛ってぇ。

「相変わらず」、けたたましい目ざまし時計だよなぁ。

買い換えるか、あーでも起きれないか、このくらいじゃないと。「俺」は。

 

 

 

「アラト?。やっと起きたの?。...。」

「...何?。てか、年頃の息子の部屋にノックもなしとか勘弁してよ。」

「...だってアラト、うなされてたし。怖い夢でも見たの?」

「はぁ?。なんで?。」

「……鏡、見なさい。それで、顔洗いなさいね。」

 

 

母さんが指摘するまで気付かなかった。

 

 

生温い、頬を流れる「ソレ」に。そして。

 

 

気付いた途端、そっちに気を取られて。さっきまで見ていた筈の「夢」が

きれいに霧散したのはもう、仕方なかった。

 

 

 

「俺」、何で泣いてたんだっけ?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうすぐ本編...の、筈。

1000字以上書くのがやっとって...泣。


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転(まろ)ぶ輪の鼓、鳴る日は来たり

あと少し。そのときまで。


数多の「渦巻」が生まれ消えゆく。

命の定めは、予定調和の如く ただただ、繰り返されるばかり。

 

 

 

人の世に在りし、とあるひとつの予言は語る。

 

ひとつ、無へと向かいし、力失いたる世のくぎりなる地あり。

罪咎を以て、滅びへと至る道に定まりし地にて、人、消え去るさだめなり。

 

されど、唯一なる救いの道、闇に沈みたる書にて残されたり。

世のくぎりたる地、その身を、「母」の宿りへと帰さば、救わるると。

 

 

故に、その地は、再び新たなる地へと生まれるが為に。

転(まろ)ぶ輪を生みし鼓の力で以て、死せる時を迎えるべし、と。

 

 

....そして、古き予言は果たされる。

 

 

闇に沈む書は、そこより掬いだしたる者たちの手に渡り。

長き時をかけ、読み解かんとする者たちによって。

 

 

そして、その者たちの、繋ぎし時の果て。

 

 

ただひとり、その書を「正しく」読み解きし男と

ただひとり、その身に秘めたる「力」を持ちし女によって。

 

 

 

***

 

 

「このところ、同じ夢をよく見るんだよ。どんなって、世界が丸くなる夢、なんだ。

あー、いや世界は丸いんだけどさ、それが丸くなるんだよ!!って、アレ?」

 

「ついさっきその先で、黒い学生服の少年を見たんだけど、黒猫と連れだっててさ。

これがまた美少年ってやつでさ。あのレトロチックな風情と帽子に、はおったマント、

何かどこかで見たような気がするんだけど、気のせいかなぁ?」

 

 

 

血生臭い事件、鳴りやまないサイレン、物騒な内容のニュース。

そのあとに流される、普通の日常的な事。

 

 

 

狭い世界は、今日も多少の喧騒付きで 変わらぬ日々を知る。

ほんの少しの、「違和感」をさらりと 教えることに気付かぬまま。

 

 

 

 

俺、「祖神 現人(そがみ あらと)」は、その日の朝も、夢見が悪かった。

 

 

あまりよくは、覚えていないけど確か、世界が滅ぶとかそんな類いの。

 

 

よく、寝る前に見た番組(特に怖い系)のせいで、怖い夢を見るって聞くけど。

俺は、とあるニュースがえらく引っかかってたせいだとは「思わなかった」。

世界が滅ぶ事と、騒がれてる「男」が全然「繋がらない」からだった。

 

 

なんてったっけ?。すっげえ印象的な髪形してた、どっかの企業の。

街ですれ違った女子たちが「カッコイイ」とか言ってたけど、マジか?。

いまいち、女子の趣味ってわかんねえ。

 

 

そういや、駅で受信した「友達」のメール。

性格わかってるから怒りはしないけど、褒めてんだか貶してんだか。

俺がいると「先生」が優しい?。気の所為だろ。

ホント、おまえ「先生」のこと好きな。バレバレだぜ、それじゃ。

 

 

今日は、友達二人と先生の見舞いに来た。

正確には、来るのが遅いせいで置いてかれたのだが。

 

 

病院に行く前に、あんなとこ寄ったのがまずかったか。

いわゆる「事件現場」ってやつ。血痕とか、すごかったな。

ドラマみたいだけど、現実だよなコレ。

さすがに死体とか見たら吐いてたんだろうけど。

 

 

呑気に見回しながら入っていくと、目の前に誰か居た。

なんていうか、オシャレなおっさんなんだけど、眼が鋭い。

訝しげに見ていると。おっさんは「聖(ヒジリ)」だと名乗った。

職業は「記者」だって聞いて何か納得したけど、追ってるのがなぁ。

こんな現場とオカルトが結びつくって発想がもうわからない。

 

 

わからないまま、雑誌をもらって病院へ向かおうとすると

おっさん……もとい、「聖(ヒジリ)さん」が「不吉なこと」を言った。

言ったあとで「...なんてな」ってアンタ、誤魔化すなら上手く言おうよ。

何か行くの、止めたくなってきた。

 

 

 

 

もう一人の「友達」からの着信が鳴って言われた事にも、ちょっとムカついてたし。

 

 

 

 

 

...二人して先に来てるって、マジで?。

進路相談?。入院中の「先生」にするか、それ。

...ああ、そう。いいよもう。好きに言ってろ、ったく。

分かったって、急ぎます急ぎます。じゃ、な。

 

 

 

   

 

 

 

   人混みと喧騒と他愛のない日常。

   今日も明日も明後日も。

   

   ずっと続くと信じた「それ」が全部、ぶっ壊れるまで。

   残り時間は、あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとここまできました。だいぶ端折った感は否めませんが。

古いプロットが台詞とモノローグばかりで、場面を忘れてるし。
公式の主人公の外観とイメージ、合わないかもしれません。


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終焉を告ぐる、静寂

「受胎」までのカウントダウン、始まる。


何が起こっているのか、理解が追いつかない。

なのに、これは夢じゃない。痛みもちゃんとある。

 

 

眼を閉じても、耳を塞いでも、止められない。

やめてくれ。見たくない。聞きたくない。

怖さのあまり、足が、震えた。

 

 

「常識」が、駆逐されていく。

「日常」が、壊されていく。

「二人の人間」によって。

 

 

  なんで、俺は生きている?。

  なあ、「先生」、何で「俺を生かすんだ?」。

  今、知りたいのになんで、教えてくれないんだ。

  「含み」を持たす言い方、しないでくれよ。

 

 

  知っても分からない?。そりゃそうだろう!!。

  どこをどう咀嚼したら「理解」できるんだよ、こんな事!!。

 

 

それでも、このわけのわからない感情を納得させたくて

どうしたって、聞かずにはいられなかった。なのに。

「先生」は、屋上に来いとだけ言い残して。

 

 

 

  何なんだ。俺はあんたの、そういうとこが嫌いだよ。

 

 

 

「ここ」に来てから、目の前に見えること、耳に届く言葉。

そのどれもが、全てが、間違うことなく。

 

 

俺の身に起きている、現在進行系の「現実」だった。

 

 

***

 

「先生」が入院しているという『新宿衛生病院』。

 

見舞いに行く為に来たのに、色々あって遅れて着いた俺は。

その状況を見て、愕然となった。

中はまるで、必要なものだけ持って、雲隠れしたかのような有様で。

 

 『(おかしいだろ、コレはさすがに)』

 

まず「誰もいない」。医師や患者、受付さえも。

次いで、書類やらカルテらしきものが散らばり、荒れていた。

寒々しささえ感じる異常な状況に、自然と背中に寒気が走る。

 

 『(何だよこれ...。)?!。橘!』

 「アラトくん?」

 

 

見回す視線の先に、先に見舞いに来ていた級友を見つけた。

状況を聞くも、彼女もよく分からないらしい。

もう一人の級友は、既に病院内を探索中らしかった。

 

  は?。俺も行ってこいって?。

  おまえ何気に人使い、荒いよな橘。いや、いいけど。

  あ?コレ?。いいぜ、やるよ。ヒマ潰しになると思う。

  ...オカルト本だけどな。平気か?。

 

持ってた本(貰いものだが)を彼女に渡した。

ぱらりと捲るや「やだ!」と、のたまったのは最初だけ。

そのうち興味を持ったのか、内容を話し出す。

俺は読むヒマもなかったので、「へえ」と聞きに入った。

 

 

内容はここに来る前に会った「記者」が言ってた「...なんてな」話。

その詳細だったが、聞けば聞くほどこの状況に現実味が増す。

けれど、肝心な事はこのテの雑誌にありがちな終わり方で。

 

 

  「で、以下次号!って感じなんだろ?」

  『新田!!』

 

 

向こう側から、すたすたと歩いてきたもう一人の級友が言う。

ご丁寧に、この病院に纏わる「噂」つきで続きを語りながら。

 

新田の話を聞いて...橘が、来るんじゃなかったと呟き

俺もさすがに内心、同意した。(嫌な感じがする)。

 

結局、男二人で「先生」を探すことになり、俺は地下へ向かった。

それを死ぬほど悔やむことになるなんて、想像もつかぬまま。

 

 

***

 

病院の地下は、更に凄まじいことになっていて。

壁に飛び散った血飛沫や、リノリウムの床に大量の血痕は

先に見た、公園の比じゃなかった。

 

  

  『何だ、このホラー映画的な状況...』

 

 

俺は正直、途中放棄して引き返したくなった。

 

  

    

   

     

     

    

      

 

 

 

  『こんなとこに、先生がいるわけないじゃんか...』

 

 

 

 

だけど、そうもいかない。

 

 

怖々と、試しに入ったのは手術室。

なんかの儀式のあとみたいな、そんな様子にゾッとして

さっと辺りを見回して、すぐにそこから出て行った。

そうして一通り入ったあとに残るは、一部屋だけ。

 

その無機質な扉の前まで近づいた時だった。

いままでにないくらい、背筋が寒くなって足が止まる。

 

  

   ...?。何だろ、この『既視感』

  『(俺は、ここを知ってる...?)』

 

  あけるな ひきかえせ あけろ あけないとすすまない

  やめろ いやだ よせ とまれ いくな....ッ!!!!

 

 

 

ガンガン鳴り響く警鐘を気のせいにして、扉の前に立つ。

あとは、ここだけだから。それでさっさと戻ってしまいたかった。

無機質な音をたてて、扉が動く。

 

 

開いた扉の向こうに見えたのは、椅子に座る「誰か」。

明滅する小さな光と、たくさんのコードに繋がれた「何か」。

キイ、という音と共に、椅子が回転してこっちを向く。

 

 

特徴のある髪型。鋭い眼。全てを軽蔑しきった顔。

どっかで見たような見覚えのある男が、じ、と俺を見た。

そしていきなり、ごちゃごちゃと語りだす。

 

 

  

  

  

  ...この男、確か 通信会社サイバースの「氷川」だ。

  行方不明とか、色々言われてるけど。なんでこんなところに?。

 

 

 

 

人の世を嘆くように言いながら、その表情はどこか悦に入っている。

救いをもたらすのは自分だと暗に言いたげな顔で、俺を見る。

そして「氷川」の後ろに「黒い影」が生じ、形をとった。

 

 

 

その異形な存在に、頭がついていかず体が強張る。

 

 

  『(なんだよ、コレ。あ...悪魔?。夢見てんじゃないよな??)』。

   俺に死ねと?。冗談じゃない。逃げるにきまってんだろ!。

 

 

 

無駄だと低く笑う声とともに、悪魔が俺に近づき、そして。

 

 

 

   「やめなさいっ!!」

 

 

 

 

その手が俺に伸びてきて、首に届くまでの僅かな間に。

後ろの扉が開いて、聞き覚えのある声がすぐ傍に聞こえた。

同時に、目の前に迫っていた悪魔はかき消える。

 

 

 

   

   『....先生....?』

    ...あんた何で、「ここ」にいる?。

 

 

 

男は、「氷川」は、僅かに片眉を動かし、「例外は無い」と言い放ち。

女は、「先生」は、「ならば、協力しない」と言い返した。

 

 

   ...何なんだ、あんたら。巫女とか、計画とか。

 

 

 

結局、短いやり取りのあと。

男は、「氷川」は、興味を無くして椅子を動かし背を向けた。

この『幸福な終わり』を一人静かに、迎えたい。と。

 

 

そして、俺達が外に出たあと。

 

 

「その時」を待ちわびる男によって。

目の前の扉は、ニ度と開かなくなった。

 

 

 

 

 

 




2000字超え...っ!。


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人にしてヒトに非ずモノ、波旬と為らん

時、満ちたり。天地、鳴動す。


屋上に向かう途中で、やたらはっきりとした「幻覚」を見た。

声まで聞こえる「幻覚」なんて、あるのか?。

 

 

 

そこにいたのは「喪服の老婆と、金髪に喪服の子ども」。

 

 

 

何でこんなとこに、俺達以外に人がいる?。

何で喪服なんだ?と思いつつ、なぜか目が離せない。

老婆と手を繋いだ金髪の子どもは、口元を手で隠しながらも

子どもらしくない目で俺をみて、何かを老婆に話しかけている。

それを受けて、忙しいから後にしようという老婆。

 

 

 

その様子に、また、どこかで見たような『既視感』。

何でなんだ。俺はこの二人を知ってる?。

そんなこと、「あるはずがない」のに。

 

 

そして二人は、ほんの一瞬の間に。

俺が、まばたきをする間に 消えていた。

 

 

 

***

 

 

 

街を見渡せる屋上で、「先生」は俺を待っていた。

世界の破滅とか、予言だとか、色々語るけど、耳に残らない。

 

 

 後悔しないって、本気で言ってるのか?。

 ここにいない全ての人間が、皆殺しになるんだろ?。

 あんたもあの男も、狂ってる。

 

 

  

   『高尾先生!!』

 

 

 

 

 決まった運命?。受胎?。俺が生き残る?。

 あんたがそれを決めたっていうのか。

 なぜ、俺なんだよ。

 

 

 

   『教えてくれよ!今から何が...っ!』

 

 

 

さっき聞いた時も、今も、酷く抽象的な言葉でしかない。

けれどわかるのは。あんたとあの男が、老いた世界だという「今」と

そのなかに存在するすべての人間を、断罪するという事。

 

 

 

世界を殺す罪を負って、世界を産むのがあんただという事。

 

 

 

 

「先生」は、その先へ、俺に来いという。

 

 

 

  俺を信じてる?。道を示してあげられる?。

  辿りつけたら、全ての疑問の答えを教える?。

 

 

 

なぜ今じゃないのかと聞けば、もう時間がないのだと返され。

 

 

 

そして俺は、目の前で この世界が混沌に沈む様を。

世界の、転生を 目の当たりにする。

 

 

 

遠くから、空に黒い稲妻が走るのが見えた。

それが、どんどん近くで落ちるようになり、建物を壊す。

ただの稲妻なんかじゃなかった。

 

 

そこに在った世界は。それまであった色を失くし、

モノトーンに似た色合いに変化した。

 

 

凄まじい揺れが起こり、街並みが壊れてゆく。

大地が、壊れた建物ごと捲れあがってゆく。

...数多の、命の灯が、消えてゆく。

 

 

スローモーションの映像を見てるかのように、音も無く、静かに。

本来この耳に、届くべき轟音さえ聞こえぬまま。

世界は、静寂とともに、壊されていく。

 

 

その真ん中に、太陽にも似たものを 模造しながら。

 

 

 

***

 

 

 

白く、眩しすぎる白い光が集まっていく。

目を閉じても真っ白な世界に、見覚えがあった。

いつか見た、白い夢に似ていたから。

 

 

夢。目覚めれば忘れてしまった「悪夢」。

それらを見たのなんて、つい最近のことなのに。

ひどく遠い過去のような気がする。

 

 

 

そんな俺の中に、突然響く「声」。

 

 

 

荘厳な、無機質な、温かみとか一切ない、感情なき「声」。

「それ」は、俺に心を見せろと言った。

 

 

  

  心?。今の俺に、何を思えというんだよ。

  「また」、全部失くしたのに。......「また」?。

  いや、違うだろ。「また」って何だよ。

 

 

 

「それ」は言った。俺の中には「何もない」と。

「コトワリ」の芽生えすら、ないと。

「それでは出来ない」「世界を創造する者」に、なりえないと。

「探せ、お前は何者かに為らねばならぬ」と。

 

    

   

 

   ...「コトワリ」って、何だよそれ。

   世界を創造する?。意味わからねえ。

   だいたいそんなことできるの、「神」さまだけだろ。

   何者って、俺は俺以外の何者でもないぞ。

 

 

 

 

そう思っていたら、いきなり視界が真っ暗になって。

目が追いつかなくて瞬きをした先に、「人」がいた。

 

 

 

...正確には、崩壊前に見た「幻覚」だと思っていたモノ。

「それ」は、なぜかもう一度瞬きをすると、至近距離にいた。

 

 

 

心臓が飛び出そうなほど驚いてるひまもなく、俺は。

気付けば「老婆」に抑え込まれていて。

 

 

 

   何なんだ、この婆さん?!。すげえ力で抑えつける!。

   いや、何言ってんだかわかんねえんだけど!。

   は?。そこの子どもが、俺に興味をもったって?。

   ヒトに過ぎない哀れな俺...って、じゃあんた達は?。

 

 

 

見ると、「金髪の子ども」の指先に「何か」がぶら下がっている。

そいつは、「虫」みたいに、うねうねと気色悪く蠢いている。

 

 

 

   ...何だソレ。気持ち悪い、どうする気だ。

   痛いのは一瞬?。痛いってどういう意味だよ?。

   ...待てよ!。やめろ!。

 

 

 

俺の懇願が聞こえないのか、子どもの指先は、無情にも

しごくあっさりと、「ソレ」を離した。

 

 

 

嫌な動きをしながら、俺の口めがけて落とされた「ソレ」から

目を逸らすことも、身を捩って避けることも許されぬまま。

 

 

 

体に走る激痛とおぞましさに泣き叫ぶ、俺の耳に

「金髪の子ども」は更なる現実を囁いた。

気絶さえできない状況で、朦朧とする意識は混濁して

理解できないまま、遠のく「言葉」。

 

 

 

 

 

その「意味」は、このあと、思い知ることになるのだが。

 

 

 

 

 

「これでキミは...アクマになるんだ」

 

 

 

 

 

俺が「ヒト」でなくなることを告げる、その「声」は。

おもちゃで遊ぶのを愉しむような、子どもらしい声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『人修羅』、誕生 です。


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無明への慟哭、彗剣と為るや

「あの方」に呼ばれる少し前。


頭が、ぐらぐらする。胸が、むかむかする。

呑み下したはずのモノが、張り付いてるようで、気持ちが悪い。

 

 

体が重くて、ひどくだるい。

ゆっくり起き上がり、片膝をついて溜め息をつく。

思考がままならない。もう一度、横になろうか。

 

 

   「眠ってはいけません。起きなさい」

 

 

そこに、耳障りな「声」が遠く近く響く。誰かの声が。

どっかで聞いた、嫌な印象しかない慇懃無礼な、しゃがれた「声」。

 

 

    何だよ。疲れてんだよ。うるさいな。

 

 

俺のことなんか、これっぽっちも構うことなく「声」は続ける。

 

 

    

   「坊ちゃまがあなたに贈ったモノが、何であるか」

   「すっかり、言い忘れておりました」

   「アレは、悪魔の力を宿せし禍いなる魂」

   「禍魂 ―マガタマ― と、いうモノでございます」

 

 

 

悪魔の力を宿した何かを、俺の体に入れたと。淡々と語る「声」。

普通に聞けば、自分の体に何かされたなんて事がどれだけおぞましい話か。

正気なら、罵声を浴びせているかもしれない話を聞かされているのに。

 

 

けれど今は、凄まじくだるくて。まともに考えてられない。

ただの「言葉」の羅列が、耳に入るだけなのだ。

けれど、次の言葉に俺は反応して目を覚ました。

 

 

    

   「これであなたは、悪魔になったのです」

 

 

 

すう、と瞼をあげ数回瞬きをして、周りに視線を向けてみる。

どうやら手術室だか、その辺りにいるらしいのが見て取れた。

目覚めると、先ほどのひどいだるさはどこかに行ってしまっていて。

すっきりとはいかないまでも、それまで霞がかっていた頭の中が

かなり、クリアーな状態になっていた。

 

 

 

そこで、ふとある『違和感』に気付く。自分の手に。

 

 

 

見れば両手に、緑色に光る印?が、刻み込まれている。

両手だけじゃない、腹とか足にもあるのに気付いて、瞬時に血の気が引く。

すると、首にチリッと痛みが走るので怪我でもしたかと訝しんだ。

 

 

そっと手をまわすと、「尖った何か」が首の後ろに出ている。

印?といい、それが何なのか理解できず、冷や汗が止まらない。

 

 

 

    何だよコレ?!角?棘?体から生えてる?突き出てる?

    ありえねえ!って、抜けねえぞ?!って...うわ、何だコレ...。

 

 

 

湧き上がる、悪寒。ぞわぞわと、這い上がる気色悪さ。

長時間、正座したあとの足の痺れの、強化版みたいな感覚。

暫くの間それが引くまで、ひたすらに耐えた。

 

 

 

するとまた「声」が聞こえてきた。坊ちゃまを退屈させるな、と。

そこまで聞いて、俺はやっとわかった。聞こえた「声」が誰なのかを。

あの「金髪の子ども」の隣にいた、俺を抑えつけた「老婆」だと。

あの時落ちてきた「虫」みたいなモノは「マガタマ」というのだと。

 

 

 

 

そして...俺は、悪魔の姿に変えられた、らしいことを。

 

 

 

 

少し先に、鏡があることに気付いた俺は、確かめたくて

ふらりと、手術台?らしきところから降りて、鏡に近寄り覗きこんだ。

そして覗いたことを後悔するほど、くっきりと確かに。

「ソレ」は、俺の顔にも、刻み込まれていた。

 

 

 

***

 

 

取り敢えず、何がどうなったのかを確かめようと部屋を出た。

ここにいたくなかった。意識を奮い起こす。

背中の扉は閉じられた。行くしかない。

 

 

 

***

 

 

 

少し前まで、ここで、泣いて喚いた。

 

 

 

自分が変わり果てた事実に愕然としたあと。

俺は暫く、考え込んでいた。

 

 

 

最後に見た光景が、頭にこびりついている。

あれが現実となったのなら、もう俺の家は無いし、母さんも。

...知らず、涙が零れてくる。(....母さん。)

家族を失くした喪失感に苛まれた後にきたのは、怒り、だった。

俺をこんなことに巻き込んだ「氷川」と「先生」への、純粋な感情。

 

    

ふつふつと、湧き上がった激情に流されるまま。

俺は、そこらにあったモノを掴んで暴れた。

まるで子供が癇癪を起こして、泣き喚くように。

泣きながら、言葉にならない何かを喚きながら。

手当たり次第に、壊した。

 

 

 

...壊して、壊して、壊して。

壁といわず床といわず、そこらじゅうをへこませて。

壊すものがなくなるまで、それは続いて。

やがて息が上がり、力が抜ける。

 

 

 

がくり、と膝をつき、へたりこむ。

俺は、そのまま床に突っ伏して、泣いた。

咎める者も、嗤う者も、いない。

今、ここには 俺ひとりだから。

 

 

 

そうして、涙も声も涸れたころ、思い出した事があった。

「先生」は、俺が辿りつけたら全てを教えると言っていた。

外がどうなっているかなんて、分からない。でも。

恐怖と怒りと知りたいという気持ちが、ない交ぜになる。

 

 

 

   ここでじっとしてたって、しょうがないんだよな。

   だったら行くしかないんだ。 確かめたいんだ、俺は。

   俺が生きているのなら、あいつ等だって、もしかしたら。

   ...俺みたいに、姿が変わってるかもしれない。

   それでもいい、探そう。

 

 

 

 

もっと知りたくない現実が待ってるかもしれなくても。

この姿に、怯えられ、化け物呼ばわりされても。

この世界に、俺は一人なんじゃないと知りたいから。

 

 

 

 

そして俺は、小さな、でも確かに大切だった存在に

自覚無きまま、「2度めの、再会」を果たすこととなる。

 

 

 

 

『2度め』...。

「それ」は未だ遠い記憶の底に沈んでいると、知る由もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








...困った事態、発生。
よって、仕舞い込んでたPS2、起動(泣)。


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瑞風、ただ、乞ひて

最初の「仲魔」にして、戦友。


...正直、まさかと思った。

 

 

「先生」でも「氷川」でも「あいつ等」でもなく、何で?と。

記者魂ってやつなのか、執念ってやつなのか。

 

 

無事だったのにも驚いたけど、一番驚いたのは俺みたいに悪魔化するでなく

東京受胎前に会った時のまま、ヒトの姿を保っていたことだった。

 

 

 

***

 

 

最後にいたのは屋上だったけど、気がついた時は手術室だった。

そして部屋の外に出たら、見覚えのある地下階。

だから。ああ、あのまま病院は無事だったんだと思った。

 

 

だけど、青白い何かがぼうっと浮いていたのには本気で びびった。

恐る恐る話しかけてみたら、返事が返ってきたのにも びびったけど。

何なんだろう?。人魂ってやつか?。

 

 

そうして、ふらふら歩きだしてふと見ると何かよく分からねえマークが

チカチカしている扉があるのに気付いた。近づくと、がたり、と音がして。

そういえばここは、「氷川」がいた部屋だと思いだす。

 

 

まさかあのまま、ここにいるのか?と思わず身構えた。

あの男はどうやってか「悪魔」を呼び出せる。

けれど、今は俺も悪魔の体だから、いざとなれば戦える。

 

 

そう思い直して、思い切って扉の前に立った。

 

 

 

***

 

 

薄闇の向こう。淡く光る「何か」と、それを撫でまわす男。

「氷川」じゃない誰か。けど、俺はその男を知っていた。

入ってきた俺に気付いた男は、一瞬、びくり、と肩を跳ねさせた。

そして俺をしげしげと見たあと、まさか、という顔をする。

 

 

それからは、情報交換みたいな会話をした。

けれど、圧倒的に情報が少なくて、男は...「聖(ヒジリ)さん」は。

俺に調べてきて欲しいと言った。...まあ,そうなるか。

 

 

更に受胎後、悪魔が出るようになったと聞いて驚いた。

まだ遭遇してなかったのは、幸か不幸か。

 

 

取り敢えず地上に、外に出ないと始まらない。

俺はそこから、エレベーターへと向かった。

エレベーターといい、電気系統は生きてるらしく動いていた。

 

 

そこまではよかった。

 

 

ところが、扉が開いたところで異常が起きた。

ぐにゃりと視界が歪んで、眼を開けたら「赤い場所」にいた。

膝下あたりまで水?に浸かっていて、思わず目をみはる。

 

 

よく見ると、その視線の先に「誰か」がいる。

「車椅子の男と、喪服を着た若い女」が、こっちを見ている。

すると突然、頭の中に声が響いた。〈来い〉と。

 

 

 

近づいていくと、〈悪魔の力を見せよ〉と、聞こえて。

そしていきなり、二体の「悪魔」が現れた。

 

 

 

    うわ、気持ち悪っ!本物の「悪魔」かよ!

    くっそ、武器とか無ぇし!コレどうすんだ??

    殴ればいいのか?近寄んな、噛むな痛てぇ!!

 

 

 

ひたすら殴って、でも、その感触が気持ち悪くて。

呼ばれて進むたびに、それを繰り返した。そして。

最後に〈...上々だ。近いうちにまた会う〉と、言われた後。

また視界が歪み、元のエレベーター前に戻っていた。

 

 

 

引き返して、よくわからない体液?を洗い流す。

気持ち悪くて仕方なくて、何とかしたかったから。

でもきっと、この感触は消せないと頭のどこかで思いながら。

 

 

 

***

 

 

1階に上がって、ある意味、無事ではないことを知る。

ここにも人魂(後に「思念体」という存在だと知る)が、いた。

話を聞いてみると、ここには人間はいないと言われた。

それを聞いて、マジかと絶望しかけたけれども。

 

 

 

確か「先生」は、ここにいない人間は死ぬといった。

でも俺も「あいつ等」も、ここにいたんだ。ならば。

どこかに飛ばされて、生きている可能性はある。

 

 

 

    諦めねえ。諦めるものか。まだ外に出てさえいないんだ。

 

 

 

取り敢えず、分院を目指して進む。

妨害する悪魔を沈めながら。時に、逃げながら。

全部倒しても、きりがないから。

 

 

 

そしてやたら明るい、外が見える連結路に着いた。

あれ?。何だあれ。...「何か」が、いる。

 

 

その「何か」が、「悪魔」だと気付いた俺は

咄嗟に、その入り口に浮かんでいる小さな「悪魔」に身構える。

けど目が合った途端、何故か心臓がドクリ、と鳴った。

 

 

 

突然、視界が白一色になる。「声」が聞こえた。

 

 

 

 

    「...ラト、アラトってば。ねえ聞いていい?」

    『うん?。なんだよ、改まって』

    「どうしてアタシを、ここまで連れてきたの?」

    『...前線で戦えなくなってもってか?』

    「うん。強化はしてくれたけど、頭打ちなのになんで?」

    『えー?。言わすか、それを。まあいいや。それは、あれだ...』

 

 

 

     おまえとは、一緒に生き抜いて、死線を潜り抜けてきたんだよ。

     他の奴らとは、全然違うんだ。外すことも合体材料にすることも。

     考えたことなんか、全然無ぇよ。だから、ここまで連れてきた。

     最後まで付き合ってくれよな。頼むよ。

 

 

 

 

すう、と視界がひらけて 元の場所にいることに気付く。

 

 

 

      ...あれ?。俺いま、何を考えてた?。

      何かアタマ痛ぇな。まあいいや。...お?。

 

 

 

目の前には、きれいな翅をはばたかせて浮いている「妖精」が

不思議そうな顔をして、こっちを見ていた。そして。

 

 

 

「妖精」は、探し物をしているのかと問いかけ、それなら自分も

「仲魔」となって、探すのについていくと告げる。

「妖精」は、ここから出たいから連れ出してくれる者を探していたと。

 ...あまり強そうじゃない、の一言は、余計だったけれど。

 

 

 

ついてきてくれるその「妖精」は...ピクシーは、俺に聞いてきた。

 

 

     

 

     「アラトっていったっけ?ねえ、何で。泣いてるの?」

     『...わかんねぇ。なんでだろうな...』

 

 

 

 

ぼたぼたと涙を零す俺は、男でしょ!泣かないの!と、小さな手で叩かれた。

その小さな手の感触を、何故だか知ってる気がした。

 

 

 

 

だからなのか。そうして叩かれた額は、いつまでも痛かった。

 

 

 

 

     「「 アラトぉー?。ほらあ、行くわよー 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





うちの人修羅さんは、泣いてばかり(序盤だし)。










2/23、加筆しました。ちょこっとだけ。
今日は早く帰れたぞー(ついさっき帰宅)。


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白夜の世に降り立ちし、弓月




「今は」まだ、交差することなき「影法師」ふたつ。


何なんだ。これってお約束ってやつか?。と、思った。

フラグばっかり、立ちやがって。とも。

 

 

 

***

 

 

 

セキュリティカードを手に入れて分院に入って、情報を集めるうちに

まるで、この僅差のすれ違いは予め仕組まれたことかと、疑う話だった。

 

 

ある思念体は言った。分院に「人間」がいる、と。

更に、ある思念体は言った。ついさっき、ここにいた「人間」が。

ここを我が物顔で占拠している悪魔の隙をついて、外に逃げたらしい。と。

 

 

それを知ってからの俺は、だいぶ焦ってたと思う。

手を伸ばしても、あと少しで、届かないことに。

 

      

        

 

 

        誰だ。「先生」か。それとも「あいつ等」か。

        待ってくれ。追いつくから。待ってくれよ。

 

 

 

 

 

力任せに進む俺は、周りを見ていなかった。

ただ、「他の人間」に会いたいばかりに。気付かなかったんだ。

新たに「仲魔」になってくれた彼らが、疲弊している事に。

ピクシーに...「彼女に」諌められるまで、ずっと。

 

 

     

      『...悪かった。皆も、ごめん』

      「ねえアラト。ヨヨギに行きたいアタシが言うのも、アレだけど」

      『うんわかってる。...ごめん』

      「...なら、いいわ。アイツに勝たなきゃ出られないんだし」

      『皆も、ごめんな』

      「ううん、ボクらもがんばるから。ねっ?」

 

 

 

今の俺は、「彼らと同じ」だとわかっていなかった。

「仲魔」は、「使う」モノだとどこかで思ってさえいた。

「人間の俺」は、彼らにさえ、敵わないというのに。

「悪魔の俺」だから、ついてきてくれているのだと。

 

 

 

       

       ...それでも。俺は「人間」だ。外側は「悪魔」でも。

 

 

 

 

逸る気持ちを抑えて、ここから出る事へ意識を向ける。

そうだ。ロビーで悠然と泳いで?いるヤツを、ぶっ倒さねえと進めない。

じゃあ、やることは決まってる。選択肢なんて無い。

そしてもう、今からは「間違わない」。

 

 

 

 

***

 

 

 

どれくらいの時間が経ったかなんて、考えてる余裕もなかった。

撃てるだけ撃てる「魔法」と、殴れるだけ殴る「打撃」で。

「俺達」は、ヤツを斃した。息も絶え絶えになりながら。

 

 

 

やっと断末魔の声をあげて、ヤツが霧散してゆく。

それを見届けて、地味にキツかったことを反省した。

このままじゃ、先へ進むのは困難だと。

 

 

 

      『(やることはやらないと、マズイって現実か)』

      「...はぁ。もう魔力、使いきっちゃった。...アラト」

      『ああ、回復してもらおーぜ。今、外に出たら、しぬわまじで』

      「ボクらも、もおホント、くたくただよぉ。」

      「うん、頑張ってくれてサンキュな。助かった」

 

 

 

...ついでに、勝てるわけないと嗤って賭けてきた

ある思念体の「オッサン」の財産ももらってきたのは

ほんの、ついでの余談だが。

 

 

 

***

 

 

 

そうしてやっとの思いで出た「外」は。

病院の窓から見えた以上に、変わり果てていた。

倒壊したビルと街並みは、あらかた「砂」に埋もれて

舞う風は砂塵と共に、俺に吹き付ける。

 

 

 

あまりの変わりように茫然としていたら、首の後ろの突起が

ちりっ、と乾いた音をたてた。と、同時に感じた、「何かの気配」。

ピクシーが何かを言うのを制して、思わず身構え正面を見やった。

瞬きのあいだに忽然と現れたのは「金髪の子どもと老婆」。

 

 

 

相変わらず上から目線で、直ぐに死んでしまう事を恥だと言い切り

それがなかったことを、安心されてしまった。けれど。

 

 

 

       ...「情け」だと?。あんた達が、俺にした事が?。

       ヒトのままで、ここにいる「人間」が存在してるのに。

       何で俺だけ「悪魔化」する必要があるんだよ!。

 

 

 

 

答えはなかった。それどころか、完全にスル―されて。挙句に。

「老婆」は、この世界の「今」を淡々と語り、瞬き一つの内に消えた。

 

 

 

 

       世界を創るのも良し、壊すのも良し...?。

       世界なんて、とっくに壊れてるじゃないか。何を今更。

       あ?。...もしかして「創世」とやらか?。

       なあ。「先生」といい、「あんた達」といい、

       含みを持たす言い方するのは「大人」の特権か?。

 

 

       ...すっげムカつく。だから「あいつ等を探す、ついでに」。

 

 

 

 

何がどうなっていくのかを、知ってやると決めた。

「聖(ヒジリ)さん」に頼まれたからじゃなく、自分の意志で。

 

 

 

俺は、「仲魔」と共に、「ヨヨギ公園」へ向かった。

そこで1つの選択が待っている事に、気付かないまま。

 

 

 

「老婆」が最後に言った言葉の意味を、俺が理解するのは

まだだいぶ、先の話だとうっすら感じてはいたくせに。

 

 

 

そんなこんなで、「俺達」が立ち去ったあと。

一陣の風が、「アイツら」を連れてきたことは知る由もない。

 

 

 

***

 

 

 

砂塵舞うかつての都市に、二つの影が降り立つ。

 

 

 

1つは、「少年」だった。

 

 

 

風に、はためくは黒き外套。腰に帯びしは、黒き鞘と旧き銃。

黒き学生服を纏い、胸元で白きベルトに固定された「銀の管」。

目深に被った学生帽から覗くは、涼やかにして意志強き、眼差し。

 

 

 

「少年」のそばに、ゆらりと現れたもう1つ。

それは一見すると、ただの「黒猫」だった。

 

 

 

吸い込まれそうな翠の目と、艶やかな黒い毛並み。

その「黒猫」は、ちらりと少年を見上げるように鳴いた。

...否。鳴いたように聞こえるのは、力持たぬ「人間」の耳にだけ。

 

 

 

        

        「...ここが、ボルテクス界か」

        「どこか「帝都」に、似た雰囲気を感じるが」

 

 

 

 

 

徐に。ライドウ、と、「黒猫」は「少年」を呼ぶ。

呼ばれた「少年」は、すっ、と目線を「黒猫」に下げた。

 

 

 

 

        「...何でしょう、「業斗(ゴウト)」さん」

        「どうする?。ここで「人修羅」に接触を試みるか、それとも」

        「いえ、まだ来たばかりです。ここは、一先ず」

        「...少し、泳がせるか。ふむ、それもよいだろう」

 

 

 

 

二つの視線が、俺を捉えていることなど。

今は、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






異界より、「彼ら」が到着です。





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縁(エニシ)無き縁(ヨスガ)、望まん

最初の「選択」と、1つ目の「未来」との、邂逅。


かつて、あらゆる最先端の象徴だった都市は。

少しの面影を残して、壊れた建物の瓦礫と砂に、半ば埋もれていた。

そこから離れてしまえば、辺り一面は間違うことなく。

 

 

 

いつかテレビで観た、「砂漠」だった。

 

 

 

暫く進むと、「東京」は、「トウキョウ」と呼ばれていると知る。

読みは変わらないのでややこしいが、漢字からカナ表示になったという所か。

なんだそりゃ、と思ったが受胎により「前の世界」が滅びたせいで

旧い呼び方をかえたつもりか?。だとしたら、滑稽な話だ。

 

 

 

ひたすら、「人間」が向かったという南を目指す。

 

 

 

途中、級友と思しき思念体に会った。

相変わらず漏れ聞いた「噂話」を語り、そいつは「創世」を否定して嗤った。

途中、世界は丸くなると言ってた人だった、思念体に会った。

木星の予言によれば、「人修羅の男」が、新しい世界を創造すると。

そう言って、俺をまじまじと見て「アレ?」って言うかフツー。

 

 

 

語尾があやしかったから、あの時も今も、酔ってるんだなと

そう思って、さっさとスルーして進んだ。そして。

 

 

 

 

...ピクシーが。「彼女」が示していた条件の場所に、着いた。

本来なら、「彼女」とはここで別れなくちゃならない。

「彼女」も、そう言って振り返り、俺を見つめる。

 

 

 

...なのに。何だ、この穴が開いたような寂しさは。

母さんを失くした時とは違う、感情。

 

 

 

      

         俺は、この感情を知ってる?。バカな。

         ...でも。このまま別れてしまうのは。...「嫌だ」。

 

 

 

 

それを言いたいのに、言えず、小さな両手をとった。

なあに?どうしたの?と、小首をかしげて俺に聞くのに。

俺は、どうしてもそれが言えないで黙ってしまった。

こんな小さな「妖精」を頼っていることが恥ずかしくて。

言ったら、嫌よ!と拒否されるのが怖くて。

 

 

 

けれど、「彼女」は逡巡したのか、俺に言った。

 

 

 

 

         「ねえ、アラト。ひょっとしてずっと一緒にいたいって思ってる?」

         『(!!)...ああ。ダメ、か?』

         「ふーん。そう言われると、悪い気はしないかな」

         『(!!!)...じゃあ、いいのか?。ここに居れなくても』

         「しょうがないなあ...もう少しだけつきあってやるか!」

 

 

 

 

小さな両手を取る手に、思わず力が籠ってしまう。

けど、痛い!!の声に驚いて手を離した途端、間髪入れずに

頬を叩かれたけれど、今度は痛くなかった。

...俺、もうたぶん「彼女」には頭、上がらねぇなと思った。

 

 

 

 

***

 

 

 

なんていうか、ちょっと視界の暴力みたいな悪魔から

どんな怪我をも治す、施設があるとは聞いたけど。

やたら、意味深なのが腑に落ちなくて。

とっとと行きやがれ、イカすからって...なあ。

 

 

 

それで...実際、行って納得した。したけどさ、俺も男だから。

そこには、湧き出る透明な光を佇ませた泉と鉱石のような岩棚。

その上で揺れる、レースをあしらった白く大きなベール。

胡坐をかいてすわっていたのは白い肌の、全裸の美女..と思う。

 

 

 

何で全裸?!。目のやり場に困る!!と、焦ったけれど。

聖女と呼ばれるだけあって、本人は何ともないのか淡々としていて。

...変に焦った俺が、ものすごく俗物に思えて居た堪れなかった感は

しばらくの間、利用するたびに消えなかったのは...余談だが。

 

 

 

美女と思うって曖昧な言い方をしたのは、単純に顔がみえなかったから。

新宿衛生病院の思念体と違い、施設みたいだから有料なのは、しかたない。

ただ、何故か出る時に後ろを見るなって言われて、その一言が気になった。

全く意味がわからず、何か怖かったからそのまま出たけれど。

...もしも振り返ったら、どうなるんだろな。

 

 

 

***

 

 

 

砂地を踏みしめて歩くこと、どのくらいか。

時計がないので、カグツチの周回を時計代わりに

歩いてきたら、やっと「シブヤ」に着いた。

やっぱり、砂に埋もれてはいたけれど。

 

 

 

急いで、「人間の女」がいるという場所を探す。

喧嘩を売られて、ボコったら態度を改めてそれを教えてくれた

やたらガラの悪い、思念体には呆れたけど手加減できなかった。

 

 

 

地下街の一角。重たく厚い扉を、押し開く。

視線の先に見た、思念体じゃない「人影」が、動いた。

探してた、「人間」のうちの1人。

病院にいたことで、東京受胎を生き延びた「人間」。

級友であり、幼馴染の少女「橘 千晶」だった。

 

 

 

望んだ再会。けど、疲れ切った顔で俺を見つめる目に

俺は、姿が変わってしまったからだと怯んだ。

どんな顔をすればいいのかと聞かれて、えっ?と聞き返すと

俺の名を呼び、わかると、大丈夫だと告げられて。

 

 

 

俺と同じように、泣き喚いて。醒めない悪夢だと知ったと。

何が起きたのかと問われ、「東京受胎」だと教える。

納得するしかない答えに俯きながら、世界中で、「人間」は

自分1人なのかと本気で考えたと言った。

 

 

 

俺に会えてよかったと、「橘」は言って歩き出す。

みんなを探すと言う「橘」に、一緒に行こうとは言えなかった。

何故なら、あいつは俺に出会えたことで、希望が見えた気がすると言う。

そして。このままじゃ、気が済まない、と強い光を瞳に宿していたから。

 

 

 

こうと決めたら、あいつは自分の意志を曲げない。

女子だけど、その強靭さは俺でも敵わない。

我儘とは違う、強い気持ちで前を向く。

 

 

 

...けれど。すれ違いざまに、ぽつりと小さく呟いて

「橘」は、振り返らぬまま、ここを出て行った。

 

 

 

まるで、俺と自分に言い聞かせるかのように。

運命は、そんなに残酷じゃない。残酷なんかじゃない。

でないと、あんまりだと...その呟きが、どうしてか。

 

 

 

いつまでも、耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1人目の。
今はまだ「弱き」、神の依代。









2/29、ちょこっと、加筆修正しました。


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転瞬にて生まれ、永劫を誓わん

迷いながら、開ける、この世界の1つの「禁忌」。


『なんっで【事故る】んだよっ!態とかっ!』

「態とでは無いと、毎回言っておるだろう!要因は...云々」

『返せ戻せ!俺の仲魔あっ!』

 

 

 

***

 

 

トウキョウに点在する「施設」のひとつ、[邪教の館]。

そこは、悪魔どうしを掛け合わせて、違う悪魔を創り出すという機能を持つ。

その機能は、我らを材料に使うという意味では全くもって恐ろしき所業だが、

我が主(あるじ)たるアラト殿にとっては、更なる高み、より強き戦力となる

「仲魔」を得られるということを可能とする好都合な「施設」だ。

 

......但し、いかなる条件によってかは未だに不明瞭だが、たまにこうして

ありがたくない【事故】が起こる。

 

その時のアラト殿の不機嫌ぶりたるや...ああ、怖や怖や。

 

 

 

「アラト殿、落ち着かれよ。新たな仲魔が困惑しておりますれば」

『...悪い。ええっと、俺はアラト。よろしくな』

 

 

バツの悪そうな顔を引き締めて、新しい「仲魔」へ向きなおり挨拶をされた

主(あるじ)に困惑しながらも己が名を名乗り、「今後ともよろしく」と

告げる彼の者がちらりと視線を寄越す。

 

 

「気にせずともよい、主におかれてはいつもの事ゆえ」

『...しょうがないだろ。弱点消しとスキル継承、苦労したんだぜ』

「結果として、良き仲魔を得られたではありませんか」

 

 

 

        ...わかってるよ。ここは、俺にとって必須ともいうべき機能。

        ...だけど、どうにも嫌だという思いが消せずにいる自分がいて。

        その所為で、なかなか利用する気になれない所だったんだよ。

 

 

 

そう言って聞けた少し前の話は、未だ変わらぬ主の本質を垣間見る出来事だった。

 

 

***

 

 

「橘」と別れたあと、俺は「シブヤ」の地下街を見て回っていた。

そこにターミナルとは違うマークがある扉を見つけて、恐る恐る入ってみたのだ。

小さなプラズマ?のような光が幾筋も飛び交い、およそ機械らしからぬ形の「それ」は

司教のような司祭のような男の後ろに設置されていた。

白い顎鬚を伸ばした初老の男は、サングラスらしきものをかけているのが謎だったけど。

 

 

 

「ここは[邪教の館]。我々の秘術は、悪魔を従えておるお主の助けとなり得るだろう」

『どういう意味だ?それに、他にも俺みたいに仲魔を連れてるヤツが?』

「...特例だ。実際にはお主の意志でもって行う事を、見せよう」

 

 

 

質問に答えはないまま、そう言うと、俺の「中」の「ストック」から仲魔が2体、

引っ張り出された。俺が「仲魔」を呼べたり引っ込ませたりできる原理は、よくわからない。

思うに、俺の体を軸に、便宜上「ストック」と呼んでる「異空間」に待機させてる感じか。

 

気がつくと悪魔化してからずっと一緒にきた仲魔が、機械のてっぺんに現れる。

やがて、彼らが黒い泡?のようにその姿を変えていき、中心に集まり凝縮されていく。

そして目を覆うほどの閃光が走り、薄闇に見たことのない悪魔が現れた。

呆気にとられてる俺に、館の主は事も無げに「これが秘術【悪魔合体】だ」と言った。

 

 

 

 

「案ずるな。今回は特例だ、戻っておるのがわかるだろう?」

『...なんでこんな事をする必要がある。俺が強くなればいいだけだろ』

「それで渡り歩けるほど、悪魔が跳梁跋扈する世は甘くは無いぞ」

『...俺に、俺の為に仲魔に材料になれって言えってのか』

「それを言わねば、お主は先へは行けぬ。それが何を意味するかは、わかる筈」

『.......。』

 

 

 

俺は踵を返して、そこを出た。何も言い返せなかった自分に腹が立って。

すると仲魔の「コダマ」が、無言で歩く俺に話しかけてきた。

その言葉に驚いて、俺は歩を止める。...おまえ、マジで言ってんのか。

 

意味わかってんのか?と聞けば。

 

 

「うん。ボクは、キミの〔強さ〕になる。足手纏いにはなりたくないよ」

『見ただろ?!おまえ、消えちまうんだぞ?!しぬんだぞ!!』

「あたしも同感だねぇ。おまえさんの行く道の露払いもできないんじゃ意味も無いさね」

『ダツエバ...』

 

 

仲魔の「ダツエバ」まで、そんな事を言い出して俺は、言葉を失う。

そんなに俺が頼りないかと言うと、ばかだねぇと言いながらしゃがれた声でヒヒヒと笑った。

そして。体は失くしても、記憶は、気持ちは新たな仲魔の中に残るからなんて、陳腐な言葉を

言ってまで俺に決心させるつもりなのが見て取れて、涙が浮かびかけたのを隠そうと目を瞬いた。

 

 

 

「但し、妖精の娘っこは置いときな。最初の仲魔なんだろう?」

『...それは、でも...』

「いいのさ、それで。あの娘っこは、おまえさんにとって別格だからねぇ」

「そうそう。ピクシーちゃんは、お姉さんみたいだもんね!」

 

 

 

ゲラゲラと笑って茶化すようにしたのは、俺への気遣いか。

彼らだって病院からついてきてくれた、最初の仲魔なのにと言わさずに呑み込ませて。

そうして。だから、躊躇うなと彼らは言って俺の背中を押した。

ここまでされて応えないわけにはいかなくなった俺は、再び、あの扉を開く。

 

 

 

         「「大丈夫。いつもキミのそばに在るから」」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

『だから!タイミング狙ってきたのに【事故る】なあああっ!』

「こればかりは如何にもならんと、言っておるだろうっ!」

 

 

 

...また、であられますか。ようよう【事故】がお好きと見受けられますな、館の主どのは。

我が主の言いあいも最早当たり前のように繰り広げられていて、違和感などなくなりましたなぁ。

我が主は相変わらず、時折、苦しげなお顔をなさるのは未だに直られぬようですが。

 

それでも主(あるじ)は、アラト殿は、前を向き、歩いてゆかれる。

なれば我らは、この身に持ちし力と能力でもって、矛となり盾となりましょう。

 

 

 

...したが、アラト殿は気付いておられるのか。

館の主が話した、主の身の内にある「マガタマ」が如何なるものかを。

悪魔の力を封じたるソレは、寄生した人間を悪魔の姿に変えると。ここまではいい。だが。

 

 

 

「我々は、ある使命を受けてマガタマを遣う者の手助けを任としておる。

お主がこの地に眠りし全てのマガタマを集め終えしとき...それは我々が使命を果たす時と為ろう」

 

 

 

この言葉の意味することは何ぞや?。一介の悪魔である我には分かりかねる。

...いつか分かる時が来ようが、その時、アラト殿が苦しまれることになど

ならないようにと願ってやまぬ。

 

 

その時、我はそばに居らぬやもしれまいが、それでも、切に。

 

 

 

 

「まあまあ、落ち着かれませ、アラト殿。ほれ、彼が困っておりますぞ」

 

 

 

 

そう言って、笑って背中を押すのはいつものこと。

姿が、種族が、すべてがかわってしまっても。

 

 

 




初めて訪れた邪教の館での、葛藤。その後も拭えないまま続ける行為。
せめて、強く在れと時間をかけて吟味して、決定を下す。


...のに、事故られた日には。そりゃ怒るでしょう(笑)。








ゲームプレイ中、合体事故るたびに結果が望ましくないときは即リセットでした。



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無為なる因縁、火坑(かきょう)知らぬ者と結ばん

「欲」そのものは罪でないと、誰かが言った。
では罪に為りしは何かと問えば。応えが1つ返ってきた。


罪深きは、その「欲」の「深さ」である、と。


「聖(ヒジリ)さん」は言った。この物体は、ただのオブジェじゃないと。

「アマラ経絡」という回廊のような不思議な空間を繋ぎ、僅かな時で、

離れた場所へ飛ばす転送機能を持つ「ターミナル」だと。

 

****

 

「ギンザ」に新しい世界を創ることを掲げた「組織」があるらしい。

それを聞いて、さてどうやって行くかと考えながら地下街を歩いていると

ある扉の前で、がたりと音がした。

 

もしやと思って扉を開けると、「聖(ヒジリ)さん」がそこにいた。

 

 

「お前...いや驚いたな。自力で、ここまで歩いてきたのか?」

『ええ。「聖(ヒジリ)さん」は...まさか』

「俺は少し前に着いたんだ。こいつを使って、な」

 

 

そう言ってオブジェを指差し、その機能を俺に教えた。更には、この「ターミナル」が

「氷川」の居る所にまで、繋がっている筈だと。そして、俺をじっと見て言った。

 

 

「よう、手を組まないか?。癪だが今の状況を変えるには「氷川」の影を追うしかない。

噂じゃ、創世とやらを掲げる「組織」が「ギンザ」にあるそうじゃねぇか。しかも、だ」

 

 

率いているのは「人間」。そうだろうな、東京受胎なんてことをやって悪魔も呼び出せる

ような男だ。どう見ても敵う筈の無い存在を、その背に従えるくらいワケは無い。

「聖(ヒジリ)さん」から、この「ターミナル」で俺を「ギンザ」まで送ってやるとの

申し出に否やは無かった。他に手段が見つからないんだ、多少のリスクは腹を括るしかない。

 

 

「但し、「ギンザ」が今どんな事になってるかは全く想像がつかん。準備を怠るんじゃないぞ」

 

 

準備を終えて戻ってくると、俺の転送に成功したら、何とかして後を追うという

「聖(ヒジリ)さん」が「ターミナル」の転送機能を起動させる。そして。

 

 

「...いいか、死ぬなよ。それじゃあ、行って来い!!」

 

 

****

 

 

...なーんて、カッコよく送り出されたけど。...マジで死ぬかと思った。

てか、死んでてもおかしくないぞ!。よく生きてたな俺......。

 

 

回り出す「ターミナル」。目まぐるしく変わる「回廊」への視点。猛スピードで移動する自分。

このまま順調にいくかと思いきや、凄まじい音と共に足元が抜けて。

思わず声をあげたのは、当然の反応だろ。

床への激突だけは避けたけど、気付けばどこかに「落ちていた」。

 

 

...そこは、赤と金の世界。天井と床を、膨大な「マガツヒ」が流れていく。

目がチカチカして、長居はしたくねぇなと思っていると、上から声が聞こえてきた。

「聖(ヒジリ)さん」いわく、どうやら俺は、転送に失敗して「アマラ経絡内」に落ちたらしい。

「アマラ経絡」は転送路だから、入口と同様に出口もあるといい、自分がバックアップするから

「ギンザ」を目指してくれと言ってきた。(...ホントに大丈夫かよ。)

 

 

「アマラ経絡」にも、住人という名の思念体は、わりと居た。

ただ、何と言えばいいのか。彼らは、頑ななまでに「他人を拒絶する」。

群れることを嫌い、関わることを嫌い、どこまでも拒む。所謂、個人主義が思想か?。

...ここまで極まっていると、いっそ潔いと錯覚する程に。

けど、稀にそこまでない思念体もいて、マガツヒが何故できるのかを教えてくれた。

 

 

大きな感情。例えば、苦痛・不安・悲しみ。プラスよりもマイナスの感情。

そういった大きく強い感情の流れが、大きな力を生みだすんだと。

...と、いうことは。ここはマイナスの感情が強い場なんだろうか。

この赤い命の灯の全てが。そう思うと、背筋が寒くなった。

...早いとこ出口へ行こうと、俺は先へ進む。

 

 

そして、「聖(ヒジリ)さん」いわくここは形が常に安定しているとは限らないらしいと

言っていたが、安定してないどころか適当に進むと最初の場所に戻されたりと面倒な仕様で、

もう地図を作るつもりで進むしかないなと開き直った。

 

****

 

辛うじて通信が可能な「希薄空間」を通過しながら、先を急ぐ俺に「聖(ヒジリ)さん」が

気になる事を言ってきた。俺達の通信に割り込もうとしている存在がある、と。

「敵」かもしれないから気をつけろと言われていたのに。

ようやく出口が近いことを知らされ、安堵した隙をついて「ソイツ」は現れた。

たどたどしい口調に、表す確かな「敵意」と共に。

 

 

「外道・スペクター」というソイツは、強欲の塊だった。

どうやら俺がここのマガツヒを独占しにきたと思い込んでいるらしく、どうでも排除しないと

気が済まない姿勢だったから、こっちもいいかげん外に出たかったし応戦するしかないわけで。

かなり苦戦は強いられたけれど、何とか退けた。

 

 

              「...イツカ、ゼッタイ、オマエヲ、クッテヤル。」

              『は?(何言ってんだろこいつ)』

              「...ウォレ、ウォマエ、ゼッタイ、ワスレナイゾ...」

 

 

そう言い残して消えたソイツと「また」があるなんて、想像すらしないまま。

眩しい光の先、出口へと歩いて行く。これで出られる、そう思っていた。

 

 

 

...どう考えても出口...だと思っていたのに。

足元に虚ろな「穴」が開いた瞬間、俺は、またも「予想外」の所に転落した。

視界が光の白から、闇の黒へ、そしてまた「赤」へと変わっていった。

 

 

そして「アマラ経絡」とは明らかに「違う」場所に、俺は立っていた。

「ターミナル」とは違う奇妙な「オブジェ」が真ん中にある、円形状に囲まれた部屋?に。

暫く辺りを見回していた俺の全身が、何かを感じ取って総毛立つ。

そこらじゅうに漂う「妖気」とでもいうのか、異様な雰囲気が慄かせるのだと気付いても

小さな震えが止まらない。

 

 

それでもゆっくりと、さっきから気になっていた「オブジェ」へと近づく。

幾つかの歪な穴が集まって、小窓のようになっているそこから「覗いて」みた。

まるでジェットコースターに乗ってるように、黒と赤の視界が揺れて眩暈がするのに

そこから顔が外せない。...やがて、ぴたりと動きが止まって視界が安定する。

 

 

 

その、視界の。視線の先で。あり得ない「その人」の声を聞くなんて。

俺は、冗談だと思った。どうして。何で。こんなところに。

 

 

 

               

 

 

                  なんで、「あんた」がここにいる...?。

 

 

 

 

 




「あの人」なのか。赤の他人なのか。そうだと言い切るには、他人の空似と言うには、あまりにも「似過ぎて」いて。リアルタイムでプレイしていた時も、改めてリプレイしている今もなお、私は、いまだに分かりません。プレイした人の数だけ、様々な解釈が在ると知ってはいても。







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萍水(へいすい)に抗いし、徒波は未だ

人に似せた紛い物と蔑まれ利用され、搾取される為だけの存在。
「彼ら」は、その身に宿す命の灯さえも、「紛い物」。

どれだけ近くても、交われない哀れな存在と嗤ったのは誰だったか。


「おい、現人(アラト)。聞こえてるか?。

...ああ、なんとか「ギンザ」に出れたか。

いや、途中でお前の気配が消えたから...心配したんだぜ。

アマラ経絡の中に飲み込まれたんじゃ

ないかってな。...うん?どうした、何かあったのか?。

...そうか、ならいいが。ああ、これからだけど、お前は足を使って

「氷川」を調べてくれ。手掛かりがある筈だからな。

 

俺は別の方法でヤツを追う。じゃあな、お互い生きてまた会おうぜ」

 

 

****

 

「ターミナル」から出てみれば、そこは塵ひとつ落ちてなど

なさそうな、エントランス。中央には、きれいな水が心地よい音をたてる噴水。

整えられた、きれいな街、という印象だった。そこここに、見張りらしい悪魔が

いなければ「人間」が歩いていそうな場所だ。当然、「氷川」が統治するという

だけあって、そこにいる悪魔や思念体は「氷川」に心酔してる

者ばかりだ。なぜ「自分達より弱い筈の人間」に、と聞けば、どこを取っても

抜け目のない方だと褒めちぎる。...何か、意外だった。

 

悪魔なんて、粗野で乱暴なものだと思っていたから、そういう

わけでもないというのは、単純に驚いた。

 

だからといって、あいつがやった事を許していいことにはならないが。

 

「氷川」が目指すものは感情に支配されない、故に苦しみのない、

静寂で機能的な世界だという。それだけ聞けば、かつて「ヒト」が夢見た

平和で争いも無く生きていける理想の世界だと言えなくもない。...でも、その根底は。

 

取り敢えず、情報収集をと街を歩きまわると...大層な思想の割に、なんで「俗物的」な

場所があるんだと首を傾げる所があったのには笑えたけれど。近くにいた悪魔が

けしからん、なにが情報交換の場だ!って言ってるけど、ホントは入りたいんじゃねえか

って聞いたらすっげーキレられた。

 

...あれは絶対興味アリだけど、思想に忠実じゃないといけないからなんだろうなぁ。

 

情報交換の場だというくらいだからと、入った場所は所謂「BAR」だった。

本来なら未成年の俺は入ってはならないし、近寄りもしない所だけどそれは

「人間」の場合であって「人間の法」などもはや関係ないこの世界では意味がない。

 

...それでも、おそるおそる入ったのはしょうがないだろ。仲魔だろ!笑うんじゃねえ!。

 

店主?の「マダム」と呼ばれる女悪魔は、なるほど大人の色香を纏う妖艶な美女だ。

そんな風だから俺は、おませな坊や呼ばわりされてもしょうがないんだけど。

話せば気さくなひと(人じゃないけど)で、まるで、相談に乗ってくれるお姉さん

みたいな感じだった。

 

「ニヒロ機構に人間の巫女がいる」と聞いて表情が変わった俺に何を思ったのか

...男の子だったらドーンと行っちゃいなさいって、それ意味間違えてるだろ絶対!。

絶対ぇ、違うから!。違うって!!。聞けよ、人の話!!!。ああもう!!。

 

****

 

外に出て、聞いた場所を目指すが割と近くにあった。入り口で追い返されたけど。

しょうがないから、また「ギンザ」に戻って「マダム」に相談すると、本当に行くとは

思わなかったと言われてからかわれたのかとショックを受けてたら。

 

「マダム」は急に真面目な顔をして「ゴズテンノウ」に会えと言って。

「氷川」と対立する集団の「親分」だから、きっと力になると。

 

「イケブクロ」を仕切る「親分」か。行き方を聞くと、少し先の「ハルミ倉庫」から

地下を抜けて行くらしい。砂漠を歩くのは辟易していたところだったので、準備を整えに

街を歩いた。後から気付いて入ってみた店が「宝石商」みたいな所でなぜか店主が上から

ブランコみたいなものに座ったまま、するすると揉み手をしながら降りてきたのには驚いた。

 

...俺から宝石の匂いがするって、ああ、アンタも悪魔みたいなもんなのか。

俺には宝石の匂いなんてわからねぇもん。

 

 

聞いたとおり、倉庫へと向かいシャッターを開ける。目の前には地下へと続く道がある。

どれだけの長さかは分からないけど、長丁場になりそうな気がした。

入り組む地下道の道のり。そして、その先で俺は我が目を疑う存在を見ることになる。

その後、頻繁に関わるとは思いもしない「彼ら」を。

 

 

****

 

『(なんだろう、あれ。悪魔...じゃないよな。)』

 

 

流れる地下水を挟んだ対岸にいた「そいつ」は俺と目が合った途端。

「あっ!」と叫んで逃げていった。

対岸だから追いつける筈もないんだけど、にしたって逃げ足早ぇな。

見た事のない服(単衣の着物?)を着た、「人間」によく似た姿形。

 

 

死者の精神から生まれた「思念体」とは違う存在。

かつての「人間」の真似をする「人間」に似て非なる「人形」。

 

 

「彼ら」は「マネカタ」。擬人と呼ばれる存在。今はまだ、小さくて弱いだけの。

いずれ大きな流れと力を生み、「あいつ等」と同じ位置に立とうとは到底思われも

しないし、誰も思わない存在。...そう、「今はまだ」。

 

 

 

 

 




人の夢よりも儚い夢を、いまは見ることさえ無い。
ただ、怯え、隠れ、生きるだけ。






「仲魔」?「友達、友達!」。


悪魔ではないから、仲魔という概念がないのは仕方ないけど
仲魔にならないと知って、地味に悲しかったな。



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そは、純粋なりし、愚にあらん

力に求めるは、果てに何をも見通せず。
今は...。


今も思う。アレは、妙な悪魔じゃったと。うーん、なんという名じゃったか。

若い連中はやたらと懐いてしまったが、それも無理からぬことかのう。

アレは、悪魔らしからぬ悪魔じゃったからな。悪魔と言えば、ワシら「マネカタ」に

苦痛を強いらせて「マガツヒ」を搾り取ったり、奴隷として使ったりするのが当たり前で

ワシらはそれに抗う術は無く、受け入れるしかなかった。嫌なら逃げるしかなかった。

じゃが、アレはそんなことには全く興味を持たなんだな。何でかは知らんよ。

 

他の悪魔を退ける力を持ちながら、ワシらに危害を加えることはせんかった。

いつも、懐かしいものを見るような目をしておったのう。

 

 

****

 

 

「ギンザ大地下道」の入り組んだ道の先に、「彼ら」は隠れ住んでいた。

「人間」を追っていたら「人間を真似て」創られた存在に会うとか、

何の因果だろうと思った。「人間」に似せているとはいえ表情も乏しいし、

動きも妙で。でも会話するのは、何気に楽しかった。

 

濁さずストレートな言い方がツボにきたとでも言おうか。

 

ただ。困ったことに、俺が向かう「イケブクロ」から逃げてきたらしい

「彼ら」によって、そこへと至る途中の扉は閉ざされていた。どうするかと

思案にくれていると「彼ら」のなかの1人が言った。

 

「ガラクタばかり集めてるマネカタ」にはもう会ったか、と。

行ってみれば、扉の前にはそれはもう分かりやすいほどに「人間」が

使っていたモノの残骸が陣取っている。

 

入ってみたら、これでもかと壊れたショーケースに飾られていて、まるで店かと

錯覚したほどによく集められていた。そしてそこに、件の「彼」が居たのだが、

通さない門番に口利きをする代わりに、あるモノを見つけてきてほしいと

頼み込まれては、否も応も無い。「それ」があるかもしれない「人間で賑わっていた場所」

なんて、ありすぎてヒントにならないと思いかけたけど、俺は1つ心当たりがあったのを

思い出して「ギンザ」に戻った。

 

『(...ビンゴ、だな)』。

 

見張りがいない間に、どうにか「それ」を盗み出したはいいけど戻ってきた見張りと

鉢合わせしたのは、世の中やっぱり甘くないらしいことの証明か。

 

 

****

 

持ってきた「オサツ」を手に取り、こっちが引くくらい喜ぶ「彼」は、早速口利きの手紙を

書いてくれたし、そして何て書いてあったかは知らないけど、門番は、割とあっさり通して

くれた。...なんだこのノリは。まぁいいけど、通れりゃそれにこしたことはないからな。

長かった地下道を抜け、外へ出て「霊園」を通り、砂漠を歩いた。そして。

力が全てだという、ある意味最も悪魔らしい思想を貫く集団の拠点へと向かった。

 

 

...まさかそこで、探している「人間」の2人目に会うなんて、予想だにしてなかった。

高い高いビルだったモノの、入口の扉の向こうで、聞き覚えのある声に俺は急いだ。

開けた扉の先には、図体のでかい悪魔に向かって何かを言う「人間」の後ろ姿。

「東京受胎」のあと、病院からここまで自力できたのか、いきなりここまで飛ばされて

きたのかは分からない。もし、自力でここまで来れたのなら、俺より「橘」より

すげぇなと思ったけど、真相は。あいつは...「新田」は、俺に気付いて振り返ったけど

すぐには俺だと分からなかった。

 

また新たな悪魔が出たと思ったらしいけど、まじまじと俺を見て名を呼んだ。

そして、ここで時間を食ってるヒマは無いと、「先生」が...と言いかけた隙に、

後ろの悪魔に殴られて立てないところに悪魔の手が「新田」の頭に乗せられる。

 

そこから赤いモノが、抜かれていく。ずるずると、引き出すように。

俺は、初めて「マガツヒ」が抜かれる瞬間を見た。

命宿る者から、命の灯が抜かれるのを。

 

力無く倒れた「新田」を見下ろし、俺に向かって悪魔は言った。

 

 

 

 

「このマントラに足を踏み入れたる者は、全て、我が裁きを受けてもらう」

 

 

 

 

力を示さねば死ぬ。シンプルで分かりやすい「理不尽」。

それが、ここで行われている「決闘裁判」だった。

 

 

 

俺は、それに勝たなければならない。

 

 

 

 

負ければ、死んで全てが終わる。それは俺の選択肢には無い。




要は、勝てばいい。どんな手を使おうとも。
それもまた、シンプルで分かりやすい「理不尽」だ。


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空華なりし思、黒業へと為りや

荒くれる獣は、群れて愚を示さん。


牢の看守がせせら笑う。「潔白だと言い張るんなら死ぬ気でねじ伏せろ」と。

執行役の冥界の番犬の弟が言い放つ。「オレノ心ヲ満タス死ニ方ヲ考エロヨ」と。

双剣煌めかせる夜叉女が宣言する。「アンタは死刑なの。ああ、早く切り刻みたい」と。

 

 

...俺は、躊躇わない。「理不尽」な罪状で収監されて、極刑なんて断固、拒否する。

自分たちの方が強いと自負して自惚れる以上、目の前の奴等を倒して力を示しても納得など

しやしないだろうとは思ったが、その時はその時だ。「新田」のこともあるから

さっさと片付けたい。その為なら、見張り番から提示された「情報料」は安いと思った。

 

****

 

呼ばれて俺は、闘技台へと足を踏み入れた。ガシャンと背中の格子が閉められ、声が響く。

ふざけた内容の罪状を読み上げる声が、怒気を含み荒くなった。

そして、刑を執行する為に現れた悪魔が舌舐めずりをしながら、余裕を見せる。

 

 

『...1対1じゃなくてもいい、だって?』

「キサマガ連レテル仲魔ナド、物ノ数ニモ入ラヌ」

 

 

俺は1対1で闘り合うつもりでいたけど、だったら遠慮はしない。

しかもご丁寧に、回復と準備の時間を取っていいとか、どこまでも上から目線だ。

...せいぜい、言ってろよ。

 

 

『来い!。ミカズチ!ビャッコ!クシナダ!』

「てめぇ!。俺だけ省略呼びすんなあああっ!」

 

 

新宿衛生病院でのフォルネウス戦からこっち、力不足を認識した俺は嫌でも戦って経験を

積んでいくしかなかった。とある場所に行って出現する悪魔を片っ端から屠り、他の場所では

交渉して仲魔にし、共に戦い、邪教の館の「秘術」で新たな戦力へと生まれ変わらせた。

....「秘術」への抵抗は、未だに無くならない。

姿が融けるように消えて融合してゆく、その一部始終を見届けるのは。

苦しむ声がするわけでもない。悲鳴も何もない。

けれど、目の前で起こされているのは、間違うことなく「消失」だ。

そして、ここに来るまでにはどうしても付き合いが長くなるから、どうしても、いつまで

経っても躊躇う俺を、そんな俺の横を、じゃあなと仲魔たちは笑って通り過ぎていった。

 

 

『...俺は、ここでくたばるワケにはいかねえ!みんな、手ぇ貸せ!』

 

 

手に入れた「情報」を軸に弱点を突き、先手を打ち、怯んだタイミングで畳みかける。

受けた攻撃の傷は、放置せず回復させた。そして攻撃の手を緩めない。

...どれぐらいの時間がかかったのか。荒い息を継ぐ俺の目の前に転がる、こと切れた執行者

だったモノたちの死体が突然、吹き飛んだ。ズズズ、と闘技台の床が揺れる。

いよいよ、ここの荒らぶる連中を束ねるナンバー2のご登場らしいと察した俺達に、緊張が

走った。大気が揺らぎ、「新田」のマガツヒを吸い上げた悪魔が現れる。

 

 

「私の名は鬼神トール。ここまでの見事な戦いぶり、褒めてやろう。だが貴様の力、私に通用

するかどうか。我が裁きのハンマーを以て、試させてもらう!!」

 

 

****

 

さすがにナンバー2と言われるだけあって、その実力は半端なかった。

弱点も死角もないから、総力戦になった。膝をつき、倒れたのを見た途端、俺の体が傾ぐ。

気ぃ抜くんじゃねーよと、満身創痍の仲魔達が支えてくれなかったら倒れこんでたな。

...すっげえ疲れた。伊達や酔狂で、力が全てだという看板を背負ってないわけだよ。

 

真の強者のみが生きるユートピア建設を目指す「ゴズテンノウ」に会えと言う「トール」は

俺の力で世界が変わるかもしれんと付け加える。

そして裁判官に、自分が認めるから無罪判決を下せと言って去って行った。

よほど悔しいのか認めたくないのか、それを隠しもしきれず、つっかえながら判決を言い渡す声。そうして街の入り口まで戻された俺に、看守の悪魔も、気にいらねぇとかぶつぶつ言いながら、お前は顔パスになったと告げて去って行った。

取り敢えず、泉の聖女の所で回復したあと...捕まったままの「新田」を、どうやって助け出すかと逡巡しながら出てきたばかりのマントラ軍本営へと戻る。

 

牢に入れられた時、「新田」は無事だった。

そこで悪魔は、「マガツヒ」は、よほど飢えて無い限り全部は抜かないんだと知った。

でなければ「楽しみ」が減るからだと。

あっさり殺して出た「マガツヒ」よりも、大きな感情の流れで生まれた「マガツヒ」ほど

旨いものはないらしい。...つくづく悪趣味だ、ホントに。

 

****

 

マントラ軍本営前の、大階段の下。

マネカタが、じっとこちらを見るので近づいて話しかけた。

 

「銃刀法違反でしたよ」...は?。

「学生の方でしたよ」...なぁ、どういう意味?。

「黒服の学生が探してたぞー」...............?!。

「アラトって「悪魔」を探してたぞー」.....マジか。

「キミ、知ってる?」....それ、俺だ。

 

 

学生服のやつになんて覚えはないけど、「誰か」が「俺」を探している。

その事実が、自由の身になった俺の気持ちを引き締めさせる。

階段を上がりきった所で感じる「奇妙な視線」。

その向けられた視線を辿って、柱のかげに「何か」が居ると察知した。

じ、と見据えると見たことの無い「悪魔」らしきイキモノが見ていたが、

すぐに引っ込み、その仕草にこっちもびくり、と反応してしまった。

さらに凝視すると、突然飛び出してきて、体をくねらせながら言う。

 

 

 

「ここは何だかとってもダークネス。ボク、ボルテクス界デビューしたっスよ」

....はい?。見たこと無い悪魔だけど、何言ってんだ?。

「ウヒッ!デビルサマナー・クズノハライドウ対人修羅...それってイケてる?」

...ちょっと待て。今、何て言った??。誰と誰が対決するって?!。

 

 

 

悪魔が、そのまま視線を階段下へと向けるのにつられて俺も視線を動かす。

そこに、いつの間に来たのか、マネカタが言ってた「学生服の男と黒猫」がいた。

この世界になってから「あいつ等」以外、終ぞ見なかった「人間」と「黒猫」の組み合わせに

驚くしかなかったから、頭の中が疑問符だらけの俺は完全に油断した。

 

 

 

そしてすぐに、ありえない事態に遭遇することになる。

どこのお伽噺か、ファンタジーかと思った自分が恨めしいと後で後悔する程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




普通、「猫」は流暢にしゃべらないだろ...。


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白烏(しろがらす)、両虎を繋ぎて

あり得ないのは、「両方」だと気付いているか?


 

仲魔の檄が、飛ぶ。

 

 

 

「呆けてるんじゃねぇ!アラトっ!!」

『...っ!悪い、ミカズチっ!!』

「だから...ひとを...っ、略すなっ、ガキがあああああっ!!」

「クダラヌ言イ争イハ、止メヌカバカ者ガッ!」

「来ます!主さまっ!」

 

 

****

 

 

マネカタから俺を探してるやつがいる、そう聞いてすぐだった。

マントラ軍本営の大扉の前で、見たことの無い悪魔に遭遇してそいつが

俺が誰かと対決するって言いだして、階段の下に視線を移したその先にいたのは。

見紛うことなく、間違う事無く「黒猫と学生服の男」だった。

そういや、「東京」で聞いたな。そういうのを見かけたって。

....「美少年」だって言ってたけど、そこはどうなんだろ?。

俺、そんなことの基準値なんて知らないし。

 

 

ふと思い出したことを頭から払い、ソイツ等を見つめる。

 

 

「あいつ等」以外の「人間」が、このボルテクス界に存在している。

だけど、「妙な感じ」がするのはなぜだろう?。........ああ、そうか。

単純に見たことのない「制服」と、知らない「学生帽の校章」だからだ。

って言うか、ここら辺であんな「学生服の学校」なんかあったか?。

だいたい「学生服にマント?みたいなもの」をはおってるのも「変」だろう。

 

 

そう、そこにいるヤツからは「違和感」しか感じない。

あまりにも、クラシカルというかレトロというか。もっと言えば。

それは見るからに、「今の時代に、そぐわない」んだ。

懐古趣味?。いや、そんなもんじゃない。

 

 

不躾にじっとそいつを見ていると、足元にいた「黒猫」が動いた。

あの時、病院にいなかった者は「全て死んだ」筈だ。それが「東京受胎の条件」だ。

ならなんで、「黒猫」なんてものがここに存在している?。なぜ、存在できるんだ?。

 

....そこまで考えて、俺は思い至る。

階段の下にいる「アイツ等」は、「明らかに存在自体がおかしい」んだと。

この、ボルテクス界において。「あり得ない存在」なんだと。

そして....「黒猫」が、じっと俺を見ている。そう思った時。

 

 

どこからともなく、「声」がした。突然「低い声音」で、俺に向かって言い放った。

 

 

 

「....「人修羅」とやら。まずはその力、見極めさせてもらうぞ」

『(えっ?今、どっから声がした?アイツ、口開いてねえよな?)』

「どこをみている。さすがは「人修羅」、余所見とは余裕だな」

『(....まさか。マジか?。)』

 

 

「学生服の男」が、猛ダッシュで階段を駆け上がってくる。

マント?の下に、黒くて長い鞘みたいなモノが見えた。「刀」だ。

鍔を押し上げ、柄に手がかけられ、鞘走る音とともに俺に向かって。

ソイツは、ダンッ!と踏みしめて高く跳んだ。そのまま「刀」を振り抜く。

 

 

煌めく刃が、俺の頭上に降ろされる。...ヤバい、間に合わねえ!!。

ダメージをくらうと覚悟した俺は、目を開けたまま、ソイツを見た。

けれど、おかしいことに、ソイツからは殺意は感じなかった。

まるで剣道か何かの手合わせを、挑まれたような感じといえばいいか?。

ただ、竹刀で打ち込まれる。それに似た感覚だった。

持ってるのは間違い無く、「真剣」なのにな。何でそう思ったのか。

 

 

呆気にとられて手を出せない俺の前に、ソイツじゃない「人影」が現れた。

 

     

 

      ...おい、俺は「呼んで」ねえぞ。何でここで「出て」くるんだよ。

      ...それも「次々に」。...俺の「盟約の拘束」が弱いのか?。

 

 

 

凄まじい剣げきの音と共に、降りて来る筈の「刃」が防がれる。

別の手にすぐさま後ろに引っ張られ、後退させられた。

「俺達」を庇うように、白い獣が舞い降りる。

臨戦態勢となった「俺達」に、どこからか「声」がした。

 

 

 

「...「ライドウ」。先ずは慎重にな。間違っても殺すなよ?」

 

 

 

「声」に応えるように、ソイツは頷き、胸元から何かを抜いた。

「銀色の試験管?」のようなモノを構えるように持ち、口早に何事かを呟く。

そして、それが俺達に向けられた途端、「何か」が飛び出してきた。

 

 

「ヨシツネ見参ッ!!」

『あ、悪魔ぁ!?』

 

 

 

「赤い鎧武者」姿の悪魔が、にやりと口角を上げて刀を振り下ろす。

なおも俺に迫るそれを「タケミカズチ」の剣が、弾き返した。

跳び退った悪魔は、ヒュウと軽く口笛を吹いて笑う。「やるじゃねぇか」と。

 

 

次々に違う悪魔を呼んでは、攻撃を仕掛けるソイツ自身の強さも

相応のものだった。おそらく、今の俺より少し上か。でも。

負けるわけにはいかない。まだ、終われない。

....また「声」がした。

 

 

「「ライドウ」。少し手を抜きすぎではないか?「人修羅」め、なかなかやりおる...」

 

 

****

 

 

真剣勝負の結果は、「辛うじて」俺達が勝った。

 

 

呼吸の荒い俺達とは違って、ソイツは息ひとつで呼吸を整える。

...なんかムカつく。コイツ、やたら戦闘慣れしてねえ?。

「刀」とか持ってるし、悪魔呼ぶし、何なんだ?。

 

お互い何も言わぬまま、じっとにらみあっていると「黒猫」が前に出る。

 

 

「...「ライドウ」が認めるその力、なかなかのものだ」

『なあ。さっきから喋ってたの、アンタか』

「...いかにも。今、お前と戦ったのは「ライドウ」。そして俺は「ゴウト」」

 

 

 

しがない探偵だというソイツ等に、驚きを隠せない。

「黒猫」は、ある「老紳士」の依頼を受けて俺を探りにきたと言った。

俺を、「人に非ず、悪魔に非ず、故に「人修羅」か」と、存在づける。

そして、事と次第によってはもう一度コイツと「手合わせ」するかもしれないと。

それまでその命、大事にしろと言って....「2人?」は去った。

茫然と見送る俺は、こみ上げるものを堰を着るように吐き出す。

 

 

 

『なあ、猫ってしゃべらねえよな。高校生はフツー、刀なんか装備しねえよな』

「....どうした、アラト。目つきやべぇぞ、落ちつけよ?」

『あんな制服のガッコなんて無いし、悪魔呼べるとか「氷川」かよ!』

「....お、おい。アラト??」

『しかも何だよ、猫なのにあの、始終上から目線!!』

「....。あー、うん」

『学生で探偵とか、ワケわかんねぇ!戦闘慣れしてるとか、おかしいだろ!!』

「....主。イヤ、イイ。スキナダケ吐ケ」

『守秘義務はどうしたんだよ!いいのか標的に洩らしても!それでも探偵か!』

「....取り敢えず、泉の聖女の元に参りましょう。お疲れなのですから」

「....そんで、暫く休憩とるぞ。いいか、アラト?」

 

 

俺は、言うだけ言って、こくりと頷き階段を下りて行った。

そんな俺をじっと見ていたマネカタが、言った。

 

 

 

「悪魔は何だか色々あって大変そう。生きるのも死ぬのも何だか大変そう」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

....悪魔に限ったことじゃないけどな。





「人でもなく悪魔でもない」は「人でもあり悪魔でもある」と同義語だと思うのは
おこがましい、間違いだろうか?。悪足掻きでしか無い、だろうか。




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天淵に至りしは、火水にも似たり

未だ、眠れし「双竜」とは、かくもありや。


見渡す限り、砂と瓦礫と街の痕跡を僅かに残す場所だった。

1人の男がこれだけの事を起こすとは、俄かには信じがたいが

目の前に広がる風景が、それを如実に物語っていた。

 

「東京受胎」。すべての始まり。そして。

生き延びた「人間」による「次に生まれる世界」を巡る、覇権争い。

今、ここでは「創世」とやらを目指す者達による、争いが始まっている。

 

 

その中に、今回「依頼」された「調査対象」がいるのだ。

 

 

あの日、事務所に現れた「喪服の若い女と老紳士」からの「依頼」を受けて

「回廊」を通り、ゴウトさんと共に、ここへ来た。

そして病院から出てきた、後ろ姿ではあったが、件の「調査対象」を見つけた。

仕掛けるには既に遠ざかっており、着いた直後ということも相まってしばらくは

調査を兼ねた様子見に、徹したのだ。

 

そうして、悪魔でもなく人でもないという「それ」を、追う。

およそ悪魔らしくない行動をとる理由が分からずにいたが、調べてみれば

「それ」は、もともと「人間」であったというから驚いた。

確かに人が悪魔化する例は、あるにはある。だがほとんどは、自我を喰われて

人を襲うイキモノになり果ててしまう。

 

けれども。「それ」には、その兆候もなければ凶暴化の発露さえ無い。

それどころか、僕と同様に「悪魔を使役する」ことができるのだ。

「悪魔召喚士」でもなく、ましてや人でもない悪魔が何故?。

その特殊性こそが、「人修羅」という存在の証なのだということか。

 

遭遇した悪魔との闘いぶりを見たけれど、あまりにもお粗末だと思った。

闘い慣れしていないのだと気付いたのは、かなり後になってからだったが。

理由は、調べを進めるうちにわかってきた。....何のことは無い。

かつてのこの世界は、悪魔など出ることもなく平和で賑やかな所だったという。

それ故に、単なる闘いにも、ましてや悪魔との闘いなどに至っては

不慣れなのは「当たり前」以前のこと、なのだと。

 

 

それでも、この世界で生き延びる為に。その為だけに。

自分の手を悪魔の血に染める。僕が、この刀を悪魔の血で染めるのと同じように。

 

 

「悪魔」は、「討伐」するべき存在だと、分かっている。

「使役」できるのは、継いできた血と継がれてきた「能力」を持つからだ。

けれど「それ」は、今まで見てきたどんな悪魔たちとも違っていた。

 

 

****

 

 

「仕事」より「私情」が上回ることなど、あってはならない。

それは鉄則であり、基本であるから。そして、命に係るからだ。

 

 

追っていた「それ」の行方を、見失ったときがあった。

焦りはしたけれども、直に、そのワケは判明したのだが。

 

 

「む?。「人修羅」の気配が失せたな」

「そのことですが、どうやら「アマラ深界」に潜っているようです」

「....ほう?」

「あそこは強くなるという目的無くば、到底居れません」

「....ふむ。おい、ライドウ」

「はい。何でしょう?ゴウトさん」

「....好敵手にするでないぞ。アレは、悪魔だからな」

「?。仰る意味が、わかりかねますが」

 

 

その時は、何故そんなことを言うのかが、全く分からなかった。

 

 

そして、ようやく相対するに至った、つい先程の時。

「イケブクロ」なる地の建物の前の大きな階段の下で、先に張らせていた

仲魔とのやり取りを伺う。ゴウトさんの指示を聞き、階段を駆け上がって跳ぶ。

相手は1人で、しかも丸腰。但し、未知数とは言え悪魔である以上、気は抜けない。

一撃で倒せるとは思ってはいないが、手応えや如何に。

 

 

………などど、軽く言える相手ではなかった。

実際は、とんでもない者だと知ることになったのだ。

 

 

滞空中に「人修羅」の立つ床の周囲に、光る輪が幾つか生じた。召喚陣だ。

だが、おかしい。詠唱する暇など与えてはいないのに、何故呼べる!?。

一番早く生じた陣の中から現れた悪魔の剣が、僕の刀を弾いて返す。

ついで、女神が現れ「人修羅」の手を引いた。白い獣がひらりと舞い降りる。

 

何故、主が呼びもしないのに出て来れた?!。

まさか、主の危機に反応して「盟約の拘束」を破ったのか?!。そんな事があり得るのか。

 

響く、刃まぜの音。このままでは押し切られる。ならば。

息をつき、胸元のホルダーからひとつ、「管」を抜いて詠唱する。

「呼ぶ」のは「赤き鎧武者」。猛る将、「ヨシツネ」。

 

 

「よくぞ俺を呼んだ。如何ようにもしてやるぜ、任せろ!」

「殺してはだめだ。戦況を、今より五分に持ち込んでくれ」

「承知。だがその為には、手駒を増やせ!押し返す!」

「ああ!」

 

 

どの程度か見るだけのつもりが、まさかの総力戦になるとは思わなかった。

成程、「人修羅」。侮りがたし存在だ。一戦終えてゴウトさんが呟いた。

 

 

 

 

「ライドウ。これは、この案件は、一筋縄ではいくまいな。気をしめてかかるぞ」

「....ええ、そうですね」

 

 

 

この一戦後。この先、この「依頼」のせいで。

僕は、「仕事」を超えた「私情」を持つことになるとは、思わなかった。

ゴウトさんが言ったことの「意味」を、知ることになるなど思いもしなかった。






「誰か」の思惑に、乗せられているのは「どちら」だ?


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鎮魂歌(たましずめのうた)、誰が為に紡がれしや

それとも、言祝ぎなのか。それは誰に向けられたのか?。




一度は会えた、「もう1人の級友」を探した。

 

 

「決闘裁判」の後、「人間」が殺されたという話はきいてないから

恐らくは、まだ囚われたままの筈だ。走って階段を駆け降り、牢への扉を開けると

見張りだか、牢番だかの悪魔が台座の上に座っている。

なんかガタガタ言ってるけれど、「新田」を見つけるのが先だと、無視して進んだ。

程なくして本人がいる牢の前に辿り着き、どう見ても開きそうにないことに愕然とする。

 

俺が来た事に気付いた「新田」は、マントラ軍のNo.2の悪魔に殴られた体の痛みを

訴えながらも、囚われてはいるが直ぐに殺されることはないらしいことを告げた。

 

この時、「今は殺されない理由」に気付いていれば。

 

俺は「新田」を、「級友」をこの世界の在り方の意味で「失わずに済んだ」筈なんだ。

だけど、運命の糸ってモノは時にどうやっても「絡んで中々解けない」らしい。

それが、予め「仕組まれたこと」ならば....尚更、頑丈で。

最もこの時は、そんなことになんか気付ける筈もなく、ただ何とかしたかった。

 

 

『くっそ、開かねえか』

「現人(アラト)、そんなことより聞けよ!」

 

 

自分よりも、「先生」を助けに行ってくれと言いだした「新田」は矢継ぎ早に言う。

俺がギンザで聞いた「ニヒロ機構の巫女」が、「高尾先生」なのだと。

そして、もう幾許もしないうちにマントラ軍がニヒロ機構に攻め入る事を。

 

 

「先生、捕まったらやられちゃうよ!頼むよ、今のお前なら出来ない事じゃないだろ!」

 

 

自分には出来ないからと、唇を噛んで小さくなる語尾が「新田」の無力さを表す。

かつて「今が楽しけりゃいいんだよ」と、うそぶいてた利己的な性分は、今は見えない。

「新田」の頼みを聞くことを了承し、取りあえずマントラ軍の「親分」に会わなくては

話が進まないと判断し、そこを離れた。

 

****

 

こういう場合、組織のトップというものは最上階にいるのがよくある話と聞く。

....聞くが、ここの最上階は64階だ。しかもエレベーターを出るとあろうことか、いきなり

外回りかよ。高所恐怖症じゃなくても普通に怖いんじゃないかと思う。

更に、恐る恐る下が見えるかってとこまで近づくと何故か「飛び降り場」が設置してある。

....悪魔なら飛び降りても死なないだろってか?。んなワケあるか。

 

なんでそんなものがあるのか、意味が分からなかった。

分からなかったが、まさかそれが、この後直ぐに役立つとは。

 

階段を昇り切った先の大扉の奥の扉の前に立つと、威圧感に満ちた「妖気」が伝わる。

力を全てとする悪魔たちを束ねるのは、どんな悪魔なんだと思いながら扉を開けた。

入った先は、祭壇のような場所だった。キィン!、と、突然張り詰める空気。

 

見ると、誰かがうずくまっている。じゃらり、と金属音がした。そこにいたのは

両手を長い鎖で拘束され、赤い縄で頭部をぐるぐるに巻かれ、両目を塞がれたマネカタ。

その異様な姿にたじろいだ俺の耳に、男とも女ともつかない「声」が聞こえた。

マネカタは、ずるり、と体を起こしてがくがくと震えながら俯いたまま何かを呟き始める.

 

 

 

「天地に 来揺らかすは さ揺らかす 神吾がも 神こそは 来ね聞こう 来揺らならば....」

 

 

 

大きく両手を掲げ、天を仰ぎみるマネカタに応えるように、篝火に火が灯っていく。

つられて顔を上げると、巨大な偶像?がそこにあった。上半身をマガツヒで覆われた

この巨像が、「ゴズテンノウ」?。マジか、悪魔じゃないのか。

そう思った途端、突然、大気が揺れて頭の中に「声」が響く。

 

「ゴズテンノウ」は、俺の来訪を喜び、その力を示すかのように神気を放った。

俺の能力の値を上げ、使役できる仲魔の数を増やした「ゴズテンノウ」は、自分に

尽くせば更なる力を授けてやると、それならマントラに与するのに異存は無いだろうと

問うてくる。

 

....俺は、返事を保留にした。

 

決められないと言った俺に、釈然としないヤツだと言いながらも悪魔として自分達の

働きを見た後で再び決めればよいと、俺に選択肢を残した。....働きを見る?。

何か嫌な予感がする。話を進める「ゴズテンノウ」の言葉に、それはやがて確信へと

変わる。

 

既に、襲撃の命は降されていた。一足遅かったらしい。

「ゴズテンノウ」の話を聞き終えるや、俺はそこを飛び出していた。

 

 

『いちいち階段で下りてたんじゃ間に合わねえ!全員「ストック」に戻れ!』

「!?ちょ、おま、待てって!おい?!まさかっ!!」

『こっから、飛び降りるっ!!』

「!!!」

 

 

「飛び降り場」を目指して走りながら、全員が「戻った」のを感じた俺は躊躇う事なく跳んだ。

不思議と怖さは全然なくて、寧ろ加速できないことに歯噛みしながら落下していった。

 

****

 

....悪魔の体は、伊達じゃなかった。幸いな事に激突死には至らなかった。

そのかわり、体を巡る緑色の刻印が赤く変化して明滅していた。所謂、「瀕死」という状態だったらしい。苦しい息を吐きながら、あー今、襲われたらヤバいなと、呑気に思っていたら詠唱抜きで飛び出してきたピクシーが、真っ青になって魔力を全部使って回復魔法を唱えまくる。

 

 

それでも厳しいから、すぐに泉の聖女のもとへ行って回復した。

そのあとは....まぁ言わずもがな、というべきか。

ピクシーの往復ビンタと仲魔全員からの説教が待っていたが、場合が場合なので

「ギンザ」への道すがらで勘弁してもらった。

 

 

それでも説教を避けるべく戻す気でいた俺を見抜いていたのか、皆は絶対戻すなと

言い切り、全員で「ターミナル」を出て、外へとひた走る。

 

 

 

 

「てめぇ大概にしろよ!俺らまで巻き添えにすんな!」

『だから戻らせただろっ!緊急だ、諦めろ!』

「今回ダケダ!次ハ無イ!」

「ほんっと、勘弁してよね!今度やったら放置するから!」

 

 

 

 

....思ったより便利だという事は言わない方がいい、よな。




後で「聖(ヒジリ)さん」に聞いたら、鎮魂歌なのだと言った。
あの時にうたわれた「それ」は....誰の魂を,鎮める歌になるのか。


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力に溺れしもの、謀略に惑いて愚に堕ちぬや〈静〉

力に偏りし者と知略に偏りし者は、どちらに軍配が上がりしか?


 

「イケブクロ」から「ギンザ」へ。

「ターミナル」で移動し、地下街を抜け、砂漠をひた走り。

「ニヒロ機構」の扉を開けて、俺は愕然となった。

 

いたるところに、これでもかといわんばかりの破壊の爪痕。

そこここで、あがっている白煙。崩れた壁やらの瓦礫。空っぽの宝箱。

略奪と破壊行為の愉悦と、己が勝利の歓喜に興奮しているマントラ軍の悪魔たち。

それを、俺は釈然としない思いで眺めていた。

 

 

「....あんだけ厳重にしてた拠点が、こうもアッサリ破られるとはな」

「ウム。ヤハリ人間ノ総司令トヤラ、悪魔ニハ敵ワナンダカ」

『(そんなワケ無ぇよ。あいつが、あの「氷川」が、こんな簡単に終わるわけが無え)』

「主さま?如何しました?」

『....下の階へ行く。見落としてることがあるかもしれないからな』

 

 

地下3階もあらん限りの破壊の跡があった。ここでも愉悦に浸る悪魔たちがいる。

けど、そのうちの一匹が気になる事を言った。上の階で聞いた事と併せると俺の疑念は

ただの疑念から、確信めいたものに変わる。

 

 

「総司令と巫女が見当たらない」

「中枢部への入り口を開くには、キーラとかいう4本のカギが必要らしいがガセだったのか?」

 

 

もう1つの扉を開けると、通路が無造作に回転していて先へは進めない。

....何でこんな状態の通路があるのか?。答えは1つだろう。

じゃあ、この通路を正常にするにはと考えるが、どうしたものか。

すると、中枢部の扉の奥から音がした。まさか、と思いながら、ある人物が浮かぶ。

扉を開けると予想を裏切らない確率で、「その人」がいた。

俺を見るや、ビクリとするのは相変わらずか。

 

 

『やっぱり、聖(ヒジリ)さんでしたか』

「何だよお前か。脅かすなよ、待ち伏せされたかと思ったじゃないか」

 

 

そう言って、アマラ経絡落下の件を謝罪してくれたあと。

もし成功していたら、たった1人でここに放り込んでしまう所だったと言い、その結果を思い至って身震いしていた「聖(ヒジリ)さん」は、だいたいの状況は把握していると言う。

そして、マントラ軍の襲撃に乗じる形で、目立たずに来れたとも。

そんなやり取りのあと、思いもよらない事を聞かれて驚いたけれど。

 

 

「....なあ。まさかとは思うんだが、お前がマントラ軍に付いたって噂は本当か?」

『....は?。いや、勧誘はされたけど付いてなんかいませんよ。どっから出たんですかそんなの』

「そうか。やっぱり只の噂か。いや、お前が「力」に目覚めたんならそういう事もあるかもなとは思いはしたのさ」

 

 

俺の答えに安堵したのか、中枢にある「装置」を見ながら状況を説明してくれる。

ここは「マガツヒ」を集める装置らしく、傍目にはどう見ても中枢部にしか見えないと。

その為、マントラ軍の悪魔たちは、よってたかってここを壊したのだという。

事実、大量の「マガツヒ」で満たされていたから、疑う余地などなかったのだろう。

そして、「聖(ヒジリ)さん」は徐に言い放った。

 

 

「....連中、今しがた意気揚々と帰ってったぜ。....「氷川」のヤツに嵌められたとも知らずにな」

 

 

アマラ経絡を通って来たことで気付いたらしい理由は、「マガツヒ」の流れが妙だったこと。

それが、巧みに似せてはいるがこの建物のどこか別に中枢部がある筈だという事へと導いたと。

 

突然、轟音が響いたかと思うと、目の前の装置の揺れが酷くなる。

「聖(ヒジリ)さん」は舌打ちし、騒ぎが収まりつつある現状から引き返すしかなさそうだと悔しげに言った。あいつの顔は拝んでやりたいが、命が幾つあっても足りないと。

 

 

「外に通れない通路があったろ?アレのロックをさっき外しといた。俺にはこれぐらいしかできないからな」

 

 

真顔になった「聖(ヒジリ)さん」は、俺に告げる。

 

 

 

「....この先で「氷川」とどう向かい合うかは、お前に任せる。ここまで来たんだ、悔いだけは残すなよな。....じゃあな」

 

 

 

 

 

 

俺は、あいつに、「氷川」に会いに行く。全ての「元凶」であるあいつに。

そして、「先生」に、これまでの聞きたい事を問う為に。

 

 

....あいつの抜け目無さで、返り討ちに合うとも知らず。




やっぱりあいつは、甘くもなければ抜け目も無ぇな。
「大人」と「子ども」の差は、開きっぱなしだ。


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力に溺れしもの、謀略に惑いて愚に堕ちぬや(動)

目指すものの為に、降すは「裁き」の奔流なり。


ロックを外され、安定した通路を走る。

エレベーターでB10Fへと降りた先に、小さい天狗のような悪魔といつか「ヨヨギ」で見た

視界の暴力みたいな悪魔が、マントラ軍のことを嘲笑っていた。

ソイツ等は、俺がここへ来た事に驚きながらも嘲笑を崩さず、捕食者の目で。

マントラの手応えの無さに退屈していたと言って、向かってきた。

 

****

 

目の前の台座には、光の色が違う穴がある。

おそらく、ここに4つのキーラとやらを鍵として差し込むのだろう。

当然、それを守る者たちがいる筈だが....まさかソイツ等に至る為に

その前に、ソイツ等がいる各階のギミックに悩まされることになるとは。

 

マガツヒ貯蔵庫に組まれた個々の区切られた小さな部屋を行き来して

正しいルートを辿り、安置された階へと行くのだが、そこはなんというか。

造ったヤツ、或いは、ここを支配しているあいつの性格を表すが如く。

厭らしいほど面倒な手順を踏まなければならない場所だった。

しかも、行く先々で待ち伏せされて戦闘になったり、持ち逃げした守り手を

追いかけたら尽くダミーだったりで、イラつき、辟易しながら進んだ。

 

そうしてようやく集めた全てのキーラを、各色の穴に差し込むと

それまで床だった所が螺旋状に沈み、隠し通路が現れる。

螺旋状の道を下って扉を開けた先から、中枢部へのエレベーターへ。

エレベーターを出て本中枢部へとのびる道を進み扉の前に立てば

異様な妖気が漂っていた。間違いない、ここだと確信する。

 

ここに、あいつが。「先生」を、俺を、こんな事に巻き込んだ「氷川」がいる。

呼吸を整え、気持ちを落ち着かせながら意を決して扉を開けた。

 

****

 

静かに、緩やかに回転する、「ターミナル」に似たオブジェ。

「アマラの転輪鼓」の回転方向に沿って、ゆっくりと下へ流れていくマガツヒ。

その「装置」の前に立ち、それらを眺めている、忘れもしない男の後ろ姿。

「氷川」は、ここへ辿り着く者がいるかと感心し、背中を向けたままで

マントラも愚直なばかりではないようだと言う。

そう言ってくるりと振り向けば、マントラ軍の悪魔ではなく「俺がいた」事に

ほんの一瞬だが表情を変え、素直に驚きを隠さなかった。

 

そして、自分に会いに来たのかと問われてそうだと言えば。

目的の為なら一度は自分を殺そうとした者の元へ赴くかと、妙な感心のされ方をした。

たった1人でここへ辿り着いた健闘を称えようと言った「氷川」は、この世界の

真実を知るがいいと語り出す。

 

マガツヒについて知らないということは、死んでいるのと同義だと言い切って。

 

マガツヒは「神」への供物であり、「創世の守護神」を招く為の力。

思想を「コトワリ」として広め、大量のマガツヒを手中にせし時こそ。

「神」は立ち現れ、世界の成り立ちさえもが「書き換わる」。

今の混沌とした世界は、自分の手によって「創世」を目的とに生み出したモノ。

そして間もなく「氷川」が目指す世界が。

時の営みと最も調和した、静寂の円環だという「シジマ」の世界が

もう間もなく生まれるのだと、歓喜に満ちた顔で言う。

 

だが、と表情を一変させた「氷川」はマントラ軍に報いを受けさせると言った。

ニヒロ機構に牙を向ければどうなるかを、この世界に知らしめるために。

残ったマガツヒを使い「新たな力」を呼び起こす、と言って「氷川」は

天を見つめ、両手を広げる。そして。

 

「さあ、今こそ目を覚ませ!ナイトメア・システムよ!」

 

「氷川」の呼びかけに応えるように、螺旋状の道沿いの壁一面に満ちていた

マガツヒが急速に下の方に集められていき、「装置」が轟音とともに揺れ出す。

そして、凝縮されたマガツヒはまるでビームか何かのように天へと撃ち出された。

 

「....わかるかね。世界中のマガツヒの流れを支配し、全てをこの手に集めるシステム。

先ずはマントラ軍、彼らの本営イケブクロを目標とした。このまま彼の地の

マガツヒが消え失せれば、マントラ軍は朽ちゆくだろう。」

 

満足げな「氷川」は、俺に、更に恐ろしい事を言い放った。

 

「そうそう、このシステムは「高尾裕子」を媒体としているのだよ」

『....何だと?。「先生」を媒体って...どういう意味だ』

「彼女は実に役だっている。流石は「創世の巫女」といった所か」

『....質問に答える気は、無しか』

「裕子先生のことが、心配かね?生徒としては」

『....だったら何だよ。悪いか』

 

 

「氷川」は至極残念そうに、俺と「先生」が会う事はもう無いと言う。

そして、俺に「受胎」を生き残るべきでは無かったと言い放ち、更に俺を生かした

「先生」の甘さを許すべきではなかったと悔いて。

前の世界に未練を残す者には、成し得ることなど1つも無いと言うや豹の姿をした

双剣を構える悪魔を呼び出した。

 

「...少年。君の苦しみ、私がここで終わらせよう」

「...さあ行くがいい。君が失いし、古き者たちの元へ」

 

****

 

苦戦はしたが、「堕天使・オセ」という悪魔を撃破した。

剣を床に突き立て、片膝をついて荒い息を吐いているソイツが顔を上げる。

 

 

「....俺が、敗れるとはな。だが勘違いするなよ。俺がここで敗れたとて

お前が司令や巫女に2度と会う事が出来ん事に、変わりは無いのだとな!」

「何だとテメェ!。どういう意味だ!?」

「ナイトメア・システムは発動した!間もなくここは閉ざされる!」

「!?。ナンダト!!」

「巫女へと至る道は断たれる!立ち去れ悪魔!世界を創るのは我らニヒロ機構だ!」

 

 

ソイツの最期と重なって叫ばれた後。

途端、眩しい光と共に体に凄まじい圧力が掛かった。そして。

弾き出されるような感覚を感じたと思ったら、気付けば外の入り口にいた。

 

『!?。くそっ、開かねえ!!』

 

ガンガンと叩いてみるがビクともしない扉を蹴って、ため息をつく。

完全に、ここではもうやれる事がなくなってしまったのだ。

 

 

「....アラト。マントラ本営に行ってみようぜ。イヤな予感がしやがる」

『ああ。ナイトメア・システムってのが気になるしな。行こう」

 

 

****

 

 

急いでイケブクロへと戻った俺達の眼前に映ったのは、1つの組織を率いて

事を成さんとする「氷川」の恐ろしさを、震撼とさせる光景だった。

ビルだった建物から、マガツヒが天へ向かって抜けていくのが止まらない。

生きながらに命の灯を抜かれていく。それを自分ではどうにもできない。

じわじわと忍び寄る「死」に抗えない。....想像を絶する状態だった。

 

 

「....酷でぇ。マガツヒが、抜かれてるなんてカワイイもんじゃねえ」

「ナイトメア・システムとやら、何と恐ろしきものを....」

 

 

 

すぐに「ゴズテンノウ」の元へと向かう為に大扉を開けた、そこに。

こんな状況で、思いもしない人物が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何で....こんなとこにいるんだ、「橘」』

「....久しぶりね、現人(アラト)くん」

 

 

 















お前は、先に行ってしまうんだな。今はまだ、拙くても。


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楔穿たれし人の身よ、汝、抗えぬを知れ

「彼ら」は皆、お前のための「贄」なのだ。
今は未だ、弱き人の身でもある、お前の為の。


遠目からでも気付けた、「異常現象」。

 

どこからともなく大雨のごとく、「マガツヒ」が、あの高い建物に降り注ぐ。

そして、雨があがるかのように、「マガツヒ」が、じわりじわりと天へ昇っていく。

まるで何かに吸い上げられていくかのように、どこかへ消えていく。

それを、離れたところから見た2人?が、動いた。

 

「....あれは、イケブクロとかいう所だな」

「ええ。調べに行きましょう。...嫌な感じが、します」

 

砂塵舞う砂漠を駆け、「人修羅」と初めて対面した大層高いビルヂングへ向かう。

その「異常事態」によって、依頼以外のことにまで関わる事になるなど。

僕も、ゴウトさんにも予想など出来よう筈も無かった。

 

 

****

 

 

実際に現場に来てみれば、目の前で起きている現象はさらに凄まじきものだった。

ゴウトさんが低く呻いて、見据えた視線の先では マントラ軍の悪魔たちが息も

絶え絶えに苦しみ、震え、それでも膝をつかないのは力を誇示する者の意地なのか。

 

「....ニヒロ機構とやら、よくもここまで非道なことを」

「悪魔には、できない芸当でしょうね」

「....「人間」だからこそ可能な蛮行、か」

「本人は蛮行などと思ってはいますまい。寧ろ正当防衛だと言いそうだ」

「....確かにな。先に仕掛けしは、マントラの方だからな」

「.......!!」

 

どうした、と言いかけたゴウトさんを掴みあげて、物陰に身を隠す。

僕の視線を追うように、そこへ目を向けたゴウトさんの翠の目が見開かれた。

遠くから、こつりこつりと響いてくる「靴音」。

悪魔だらけのこの世界で、自分以外の靴音など久しぶりに聞いた気がする。

それは、その音を出せるのは、「人間」の証だからだ。

勿論、悪魔にも服や靴を身につけている者はいる。

 

だけれど、「人間」が出す音とは明らかに違うのだ。だから「分かった」。

ここに近づきつつあるのは、「受胎」を生き延びた「人間」のうちの誰か、だと。

 

 

「(....あれは、生き延びた1人だな。若い娘ということは。)」

「(ええ。「人修羅」と共に生き残った、「級友」とやらでしょう。)」

「(....どうするライドウ。ああ見えて「人修羅」と同じだったら。)」

「(それは無いかと。依頼主も言っていたでしょう、彼だけだと。)」

「(....ふん、つまらぬ。動じないのはいいがな。で、どうする?。)」

 

 

やってきたのは、僕とそう変わらない年頃の少女だった。

華奢で弱々しげながらも、その瞳には力強い「意志」を宿している。

何を思って、こんな所へきたのだろうか。

もしくは、誰かに会う為に....危険な世界を歩いてきたのか。

....だとしたら、「誰に?」。

滅びゆくマントラ軍の盟主に?。今、この時に、わざわざ?。

....そうではあるまい。

彼女は、「彼」に会いに来たのだ。今のイケブクロを、「彼」が見落とす筈は無い。

ならば、近く「彼」はここにくる。....緻密に編まれた定めに従って。

 

「(どうもしません。取り敢えずこのままで。おそらく幾許もせぬうちに、来ますよ)」

「(....ほう。)」

 

そうこう言っているうちに、バタバタと走ってくる音がした。

 

 

****

 

 

「彼」はそのまま出てこなかったが、かわりに少女がでてきた。

暫くして、マントラ軍No2の悪魔も出てきた。

少女の目的は何だったのか。何処へ向かうのだろうか。

その瞳に揺るがぬ「意志」を宿して。

あれは、何かを目指す者の眼差し。ならば、それは。

 

 

「これでこの世界の創世は、「氷川」とやらの1人勝ちで実行されるか」

「....どうでしょうね。「人間」の生き残りは5人いますから」

「お前はあの若い娘が、「創世」できると?」

「確固たる「意志」と「大量のマガツヒ」を持つ「人間」であることが「条件」です」

「....あの娘に足りぬのは、「マガツヒ」だけというのか」

「ゴズテンノウは、「コトワリ」と「マガツヒ」は持っていましたが」

「....「人間」ではなかった、な」

 

 

おそらく、暫しこのまま、ニヒロ機構の独走状態にはなるだろうが。

いずれ、何らかの形を以て、他の生き残りが台頭してくるに違い無い。

そしてそこに、「人修羅」は深く関わることになるだろう。

 

 

「....やれやれ。あの依頼主は、碌でも無い依頼をしてきたものだ」

「依頼達成だけなら直ぐにも終えられたでしょうが、結局は「彼」に関わらねば

ならなくなってきましたからね」

 

 

この卵の世界の行く末と命運をかけし、覇権をめぐる争い。

誰が、そこへ至る為にもっとも近き道を見出し、出し抜き、先へと至るのか。

 

 

 

 

 

 

「....そういえばライドウ。「人修羅」をヒトのように言うようになったな」

「他意はありませんよ。「彼」は悪魔でもあり、人でもありますから」

「....だいぶ感化されておるか?この世界に」

「ゴウトさん、先に行きますね」

「!!。こら、またんかライドウ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その争いの果てで、僕は「どこ」にいるのだろう。












今はまだ、定まらずとも。


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泥梨への顎(あぎと)、開かれん


目指すは、遥かな「高み」の筈だ。
そう信じて進むから、気付かない。


何でだ、と、詰め寄りそうになるのを必死で堪えた。

お前まで、「それ」を目指すのか、と。「氷川」と同じように。

どう言えば止められたのか、今もわからないままだけれど。

きっと、俺が止めても無駄だったのだけは分かってた。

友達として、幼馴染として、お前の気持ちも分かるから。

 

そして、決めたら、お前は振り返らない。

 

だけど、「それ」は予め用意されていた「事」であって。

お前は自分で決めた、と言うけれど。

「それ」を目指すか、「野垂れ死ぬ」かしかないのなら。

「それ」を「選択する」しかないだろうが。

 

いつものお前なら、絶対に気付いたはずの「騙し絵」に今のお前は囚われてる。

言いなりに動いてるだけに過ぎないだけな事に気付かぬまま、歩き出す。

こういう時は、俺の声も届かない。何度言っても聞こえない。いつもそうだった。

 

「私ね、この世界の決まりごとに従う事にしたのよ」

『....?。「橘」....?。お前、なにを』

「私、「創世」をやってみようと思うの。おかしなこと言ってるって思う?」

『....「橘」が、「創世」を?』

 

 

世界が変わるあの時に、「橘」は「選択せよ」という声を聞いたらしい。

そして、この世界でどうすればいいか、ばかりではなく。

なぜ、世界はこんなになったのかを考えた時に、見えてきたことがある、と。

それは....「東京受胎前の世界」が、不要な存在を許容できなくなり。

創り出すこともなくなり、ただ、何もない時間だけが、流れていく世界だったのだと。

 

そして、今も胸に残る、全てを失った悲しみ。

それを飲み下すことさえできれば、この世界では無限の可能性が広がり、

自分に与えられ、受胎を生き残った意味を知る事が出来る。

....「創世」をする「力」を得られるのだと。

 

「橘」は、この世界を生きる為に「コトワリ」を持ってしまった。

強く、優秀な者だけで築かれた「それ」を、楽園と呼ぶ表情は明るい。

そして俺に、その「ヨスガ」という「コトワリ」と世界観への理解を求めた。

 

....けれどここでも俺は、返事を保留にした。

 

そんな俺に、「橘」はいつかわかってくれる、信じていると言って。

自分が掲げた強者の「コトワリ」のもと、自分の力でやれるところまでやると。

「マガツヒ」を集め、「創世」を目指すと強い意志で言い切る。

 

「また会いましょう、現人(アラト)くん。生き残った者どうしなら、きっと

 この先も、どこかで道は重なっているはずだから」

 

ゆっくりとすれ違って行く俺と「橘」の距離が、遠くなる。

篝火が、2人の影を照らし、引き離してゆく。

 

その距離が、そのまま二度と元には戻らないなんて思いもしない。

お互い、振り返らぬまま、歩いていく。今、目の前に在るものの為に。

 

 

****

 

「帰って来たんだな、現人(アラト)」

『....すまない、その』

「先生、連れて帰れなかったか。お前の力に、結構期待してたんだけど、な」

『....「新田」』

 

ニヒロ機構の「ナイトメア・システム」発動で、崩壊したマントラ軍。

これからは、そのニヒロ機構が先を行くのが目に見えている。

先生の行方は知れないままの、混沌とした世界で振り回されている身が

歯がゆいばかりだと、俯いたままの「新田」が自虐に嗤う。

 

けれど「新田」は、噂で聞いた「とある存在」に賭けると、顔を上げた。

マントラ軍の崩壊を予知した為に、捕囚所に入れられたというマネカタがいる。

その不可思議な力で、これからの事や「先生」の事を見出すと。

どこにいても危険には違いないのなら、「可能性のある方」へ行く。

それは、実に「新田」らしい言い方だった。

 

....そう、聞き様によっては、とても前向きなように聞こえる。けれど。

自分で決めたかのような口ぶりに隠れているのは、あくまでも他力本願な本音。

分かってはいたけれど、付き合いが長いから慣れてはいたけれど。

お前は....いつになったら、依存をやめられるんだろうな。

俺が言う事聞かなきゃいいんだろうけど、あんまり苦じゃなかったから。

お前の本心がどこにあるかくらいは、友達としてわかっているつもりだから。

 

 

けど、俺がダメだったら「次」が見つかるその強運さは、天性なのか?。

 

 

「じゃあな、俺は行くよ」

 

 

そう言って解放された入口へと歩いて行く「新田」と、取り残されて

動けない俺との距離も、ただ、離れ、広がるばかりだった。

 

 

 

 

『俺も、進むしかないんだ。今は、行かなきゃな』





....「創世」できない俺だけが、「真実」に近いのは。
....もはや何の皮肉だろう。







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愚なる力の脈絡、彷徨えりて時を待たん



ひとつの終わりを告げるのは、オマエだ。


両手を拘束する鎖が、小刻みにジャラジャラと音をたてている。

がくがくと震えながら、座り込んだまま両手を床について項垂れているマネカタ。

後ろのゴズテンノウの体からは、その身に溜めたマガツヒがゆらゆらと抜け出ていく。

あれほど生気と威厳に満ちていた偶像は、今や崩れ落ちる寸前だった。

 

 

「....戻ったか、猛る悪魔よ。そなたもしかと見たであろう。

ニヒロの根城が、我が軍勢にて堕ちたる様を。...それが....それが、何故....!!」

 

氷川の策略に乗せられ、それを見抜けなかったマントラ軍。

「力」に拘り、過信した結果が....自滅という最悪の事態を招いた。

盟主でありながら、敵の掌で踊らされた事実に打ちのめされているのか。

 

「おのれ...っ、憎しやニヒロっ!!いかなるカラクリを使いしか!!...たばかられたわ...」

 

床につけていた手を振り上げて叩きつけ、悔しげに怒りを吐くマネカタの頭が

ふいに上がり、ここではないどこかを塞がれた両目で凝視する。

 

「....見える。....マガツヒ集まりゆく真芯に....ニンゲンの巫女が....見える。

されど....っ、今となりては....抗う事叶わじ...っ!!」

 

もはや、滅びを待つだけの自分たちと盟主であるゴズテンノウを案じ、おいたわしやと嘆く

マネカタの言葉を、この期に及んで、当のゴズテンノウが否定する。

 

 

「....否!!。我は滅びぬ!!この体は滅しようとも、我が精は死なず!!」

 

 

いつか、自分の力を得るに相応しい者が現れる。その者を介して必ず復活する、と。

そう言った時、轟音と共に偶像のあちこちにイヤな音がして、ひびが入り始めた。

もうその姿を保てるだけのマガツヒさえ、その体には残っていないのだろう。

ゴズテンノウは、今わの際、最期に怒りの咆哮と呪詛を吐いた。

 

「....静寂の世など創らせはせぬ....!!力無き世に、何の価値があろうか!!....

必ずや....必ずや....「力」の国を再興せん....っ!!!グゥオオオオオオッ...!!」

 

その首に、ビシリ!と大きな亀裂が幾筋も走り、砕けた。

支えを失くした首は、落下してマネカタを押し潰し、そのまま俺をも潰す勢いで

転がって来たけれど....寸前で止まり、その大きな顔面の眼から光が消え、物言わぬ瓦礫

となった。

 

それが、「力」を求めたものの末路だった。

憐れみさえ浮かばない、あまりにも愚かな最期だった。

 

「橘」は、こんなものを求めるのか?。ふと、そう思って首を振る。

あいつは、こうはならない。そんな気がした。

けれど俺は、「それ」を求めてはいない。少なくとも今は。

 

****

 

外に出ると、声をかけられて見下ろした先にNo2の悪魔がいた。

確か、「鬼神・トール」と言ったか。そいつは、感情の無い目で俺を見る。

 

マントラ軍とニヒロ機構の思想と力の根源の差を、それによって起こった現実と

現状を、少しの憐憫と自嘲を込めて語る。

 

〔トウキョウの支配以上の思想と、多方向に練られし計画と遂行する力〕

〔暴力で統制を図る、恐怖政治〕

 

 

「....その差は歴然だったと、今なら分かる。マントラはその枠を超えられなかった。

だから敗れたのだよ。ゴズテンノウの威光が失われたる今、同胞と信じた者たちも皆、

ここを見捨て、出て行った。もはやこんな場所に意味などないからな」

 

そして俺に、後はどうなりと好きにするがいいと言って去っていく。

 

「....真の強者のみが生きる世界を求めて、私は旅立つ。きさまが真の強者ならば

いずれまた、会おう。では、さらばだ」

 

 

その背を見送る俺に、仲魔が聞いてきた。

 

 

「....このまま、氷川とかいうヤツの世界が生まれるのかねぇ」

『どうだろうな。「橘・新田・高尾先生」、あと「聖(ヒジリ)さん」も、いたな』

「では、氷川も含めて彼らが創世を目指すと?」

『それも分からねえ。「コトワリ」を持ってるかどうかも定かじゃないしな』

 

仲魔達は俺を含めなかった事に気が付いていて、それ以上は聞かない。

自分で言っといてなんだけれど、今の俺は「悪魔」であることは事実で。

 

    ....「高尾先生」は、何で俺を生かしたかったんだろう。

    まさか、「悪魔」になって生き延びるとは思っちゃいなかっただろうけど。

    俺に、この卵の世界で何をさせたいのか。会って聞かなけりゃならない。

    ....あの人の事は、あんまり好きじゃないけれど。

    寧ろ嫌いなとこのほうがある、けど。

    

 

時折、視線がかち合う事が気のせいじゃない事は気付いてた。

でもそれは、けして「そういうもの」じゃないことは、いくら鈍感な俺でも分かる。

....なぜなら、俺を見る目に「熱」が籠って無いから。

 

なんで俺をそんな目で見るのか、いつか聞いてみるつもりだった。

聞けないまま、こんな事になっちまったけれど。

 

 

「で?どうすんだ。あの小娘を追うのか?それとも」

『取り敢えず、「新田」を追う。未来が見えるマネカタの事も気になるしな』

「未来が見える、ですか。疑わしいですが、先程のマネカタの事もありますし」

『ああ。だから、行ってみようぜ。その「捕囚所」とやらにな』

 

 

 

俺の行先は、未だ定まらない。ただ、流されているだけなのかもしれない。

けれど、活路を見いだせない今は、それしか手立てがないんだ。

結果的に、後手後手にまわるしかなくても。

 

俺は....俺でしかないし、それ以上でもそれ以下でもない。

「今」は、何者にもならない「俺」だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






新たなきっかけが生まれ、それはひとつの「目覚め」となることなんか
知る由もないまま、進む道は、別れを目指すものだとしても。


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骸骨が誘いしは、波羅夷(はらい)への道行き

死を超えて、死の使いを超えて、至れ。
堕とされたる黒き翼持ちし、あの方の御許へ。


「新田」を追う道すがら、そういえば、と思い返した。

 

....あれは、アマラ経絡の出口の先。赤と黒の視界の先で見たもの。

初めて落ちた時から時々行くけれど、未だに分かりかねている事がある。

疑問符しか浮かばない、最初から今でも。

 

 

異様な妖気が漂うこんな場所に、冗談だろ?と思った。

....あり得ない。ここがどこだか知らないけれど。

なんで「あんた」が、ここにいる?。

いや、「あんた」は本当に「高尾先生」なのか?。

 

聞きたいのに声が出ない。どうして。

 

 

****

 

 

「覗き穴」の先には、演劇のような張りぼての舞台セット。

調度品なんかは本物ぽい。視線を動かしあちこち見ていてふと気が付く。

壁に貼られた幾つもの写真に、見覚えがあるなんてもんじゃなかった。

目に入る写真は。あれも、あれも、間違いない。

すべて、「東京受胎」の時のものだった。

しかも、それだけじゃない。他の写真には、俺が写っている。

 

キイキイと軋ませて幕が開いた舞台にいたのは、アマラ経絡とやらで

いつか見た、「喪服の女と老紳士」だった。

俯いていた「老紳士」が顔を上げ、こっちを見た瞬間ものすごい圧力が

矢のように俺の全身を貫いて、踏ん張るのがやっとだった。

やがて側に立っていた「喪服の女」が視線を寄越した。

....とは言っても、黒いレースの短めのベールに隠れていて

その表情は読めず、口元からしか窺えなかったのだが。

 

彼の女は、どこまでも「高尾先生」に、気味が悪いほどそっくりで。

その姿だけじゃなくよく似た声で、ここが何処なのかを教えてくれた。

俺が来たのは所謂「魔界」で、神から貶められた者たちはここを

仮初めの住処にして、刻を待っているのだと。

そう言った時、口角が僅かに上がったのは何故だったのか。

 

ここから出るすべがないんだと思っていると、察していたのか。

まだ弱い俺が、迷子同然でここに来た事はわかっているし、ましてや

ここですべきことは「今の弱い俺」では何も無いから、送ってやると。

 

「....ですけれど、これは渡しておきましょう」

 

そう言われて左手に何かが握られる感触に、目を向けると

いつのまに手にしていたのか、見るからに古めかしい「燭台」が

「メノラー」と言われたそれが、俺の手の中にあった。

迷いが生じたとき、手掛かりを与えてくれるのだというそれは

言っちゃあなんだけど、そんな大層なモノには見えなかった。

 

       

 

       ....宿命が望むだって?。曖昧な言い方だな。

       それより「アンタ」は、本当に「先生」じゃないのか?。

 

 

 

答えは無いままに、キイキイと幕が下ろされていく。

幕の向こう側にいる「喪服の女と老紳士」が、完全に隠された直後

俺の意識もそれに倣うかのように、ブラックアウトした。

 

 

****

 

 

あの後は、気付けばギンザに着いていた。

何だったんだと釈然としない出来事に考え込んでいたから

「聖(ヒジリ)さん」にやたらと心配されてしまったけれど。

 

 

 

 

『こんなもの、ホントに役立つのか』

「アラトおめー、それ捨てる気じゃないだろな?」

『....捨てないけどさ。イヤな感じがするんだよなぁ』

「では、お捨てになりますか?」

『....いや、持っとくよ。何かあっても何とかなるだろ』

 

 

 

 

ただの燭台ではないソレを持ち続ける意味。そして。

「メノラー」が、その形状のままの意味だけではないモノだという事を

俺が知るのは....これから向かう先々に「現れる」ものによってだとは

俺だけが、知る由もなかった。

 

 

 

****

 

 

「で、で、で、でっ....出たあああああっ!!」

「「死神」がっ....「死神」が出たああああっ!!」

「この先!この先っ!!」

 

 

ギンザ大地下道。

 

腰を抜かしたマネカタが、指し示すその先に。

とてつもなく恐ろしい悪魔の気配がした。

次の瞬間には、床にずるりと引き摺りこまれて。

 

落ちた先は、赤い砂舞う荒れ地。どこからか、「声」がする。

 

 

「....メノラーの炎が、私を戦いへと駆り立てる」

「....貴公が誰かは知らぬが、メノラーを持つ以上、戦いは避けられぬ道と知れ」

「故に、誰にも邪魔はさせぬ。私の結界内で雌雄を決しようではないか!!」

 

 

地面から黒い霧が噴出し、現れたモノ。

赤いムレ―タを振る後ろ姿は、「闘牛士」にしか見えない。

....但し、正面を向いたその「顔」は。

 

「死神」でありながら、「魔人」の証でもあるという

「骸骨(されこうべ)」そのものだった。

 

 

 

 

 

「さればこの剣とカポーテにかけて、今宵もまた勝利を誓わん!!」

 








全ての悪魔は、「あの御方」の眷属。
契約主よりも、「あの御方」は絶対上位存在。
結果的に契約主を騙すことになるは、必定でございます。

....それが、不本意であろうとも。


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馮河なる望み、叶わじ泡影(ほうよう)を拒まん


永き時の果て、切に、願いたる力の具現。
此度こそは、惑う果てに、行きつかんことを。


「....やはり、メノラーどうしは引き合いましたか」

 

どこからか、「喪服の女」の声がする。

どう聞いても「高尾先生」なんじゃないかと思わせた。

けれど違うと言い切れる根拠もなく、逡巡する。

 

そんな思考に囚われ、あさっての方向に行っていた意識が

「喪服の女」からの単語ひとつで呼び戻された。

 

「現人(アラト)」

 

このメノラーを持って、あの二人のいる場所へ来いと言われた。

急ぎはしないというわりに、急かされた気になるのは何でだろうな。

 

****

 

「あの魔人から、メノラーを取り戻してくれたのね、現人(アラト)くん」

ドクン、と心臓がなった。その口調は。

「(....待てよ、何だよ。)」

「私が....ずっと前から思っていた通りに、君は私の力になってくれるのね」

鼓動が早鐘を打ち、じわり、と手が汗ばむ。

「(....本人、か?)」

あり得ないと否定する思考を、粉々にするかのように俺に向けられる言葉。

この世界で「高尾先生」に会う事が出来たら、本人が言うであろう言葉の羅列。

 

「そう信じていたわ。例え世界が変わってしまっても....って」

 

せんせい、と口を開きかけた時、隣の「車椅子の老紳士」が彼の女を見やった。

それを受けてコクリとひとつ頷き、次に言葉を発した時には居を正すかのように。

 

「....我が主の言葉をお伝えします」と、改めた。

 

****

 

アマラ深界の流脈を制御する為の、命の炎。それが10と1本。

「魔人」と呼ばれる、異なる者達から取り戻し各階層を照らせ。

それをすれば、閉ざされしアマラ深界への出入りを許す、と。

 

「喪服の女」は、それだけを告げると俺の返事を待つ。

....確かに損にはならない。けれど、そうなれば必然的に。

あの「魔人」とやらとの、死を超える闘いが前提になる。

他の悪魔たちとの闘いとは違う、よりシビアな命のやり取りが。

 

....何者かにならなければならない俺を、定める「鍵」になるか。

 

そう考えて、応えると彼の女の口角があがった。

 

「ありがとう、現人(アラト)くん。君なら....いえ、あなたならば

迷おうとも間違いなくそう言ってくれると、我々は信じていました」

 

引き合うメノラーの特性をもってすれば、いずれ全てのメノラーを見つけ出せる。

各階に配するたびに、その働きに対し相応の報いで応えると条件を告げた。

いい様に使われている気がしなくもないけれど、今のままでは弱いから。

今の俺には、足りないものがあるから。その為なら。

 

 

ターミナルにメノラーをかざせば、トウキョウと、ここを行き来できる。

そう言って降りていく幕の向こうに消えた2人の、その後に続いた言葉は。

幕に遮られ、俺の耳には届くはずもなかった。

 

俺の背中に向けられた、望まれし者へ至る望みを乞われたことなど。

それを、密かに願われたことなど、気付く筈もなかった。

 

 

「....これで、準備は全て整いました。この先、我らが選びし魔人が

全ての死を乗り越えられるのか。そして我らが真に望む「新たな悪魔」が

誕生するのか....我らはここから、静かに...見守る事に致しましょう」

 

 

「喪服の女」は、そう言って隣をちらりと見る。

「車椅子の老紳士」は、その口元に薄い笑みを浮かべて瞑目した。

 

 

****

 

上の、赤と黒を基調とした階とはうって変わって。

ワープゾーンの先。降りてきた場所は、白と金を基調とした階層だった。

 

入口の思念体が告げる、深淵へ至らんとする者への警告。

 

「ここはアマラ深界。キミのいたボルテクス界とは全く異なる世界」

「カルパと呼ばれる層に分かれ、その一番下に混沌の者たちを統べるあの御方がいる」

「....人として創世を目指すのなら、あまり長居はしないことだ」

 

 

 

 

 

 

 

なんでそんな事を言うんだ?。

「創世」は人間だけができるんだろ?。

今の俺には、悪魔化した俺には、「創世」は、できないんじゃねえのか?。




願え、望め、贄となり糧となれ。
我らは、オマエの為に、屍の山と為ろう。

道無き道を、ゆく者よ。
道無き道を、拓く希望たれ。


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久遠なりし連理の枝、冥暗を渡らん

遥かなる原初から始まるは。
深き溝にて 分かたれる相違なり。
それ即ち、どこまでも深き、「業」なり。


ボルテクス界のどこか。

 

 

現世と次元のあわいに、かの御方は、今は坐す。

天より堕とされし黒き翼持つ、絶対悪の御身は美しき闇。

吹雪く凍える氷の瞳が見つめるは、忌まわしき天の果て。

 

此度こそ、その御手に。光り無き世界を。

我らが主の、かの御方の為に、この身を捧げる。

 

....その為に、受け容れた「業」。

在りし日の罪の、連鎖の「罰」と共に。

 

 

****

 

....「喪服の老婆」は、目の前に浮かぶそれを見ていた。

淡く仄かに光るそれは、何かを収めた曇り無き水晶玉であった。

 

黒いレースに隠す濁った眼が、妬み嫉みに歪んでいく。

皺だらけの手が、高まる感情に従い小刻みに震え始めた。

伸ばした指先をぎゅっと、握りこんで抑え込む。

 

  

  ....この感情は、あの御方には不要なもの。

  これを見なければ、それで済む。それなのに。

  忘れられぬ罪が、咎が、この身を焦がす。

 

 

思い出せばいつもいつも、彼の人の傍に在るは「あの女」。

寄り添い支え、時に死を以って、彼の人に留まる「あの女」。

許し難い、憎んで呪ってなお余りある、「連理の枝」。

 

   

  ....違う。そこは「私」の場所。

  そこにいていいのは、「私」だけだ。

 

 

震える指先が、意志とは逆に動く。目の前の水晶玉に向かって。

引き寄せられるように、その手を伸ばし、取ろうと。

 

壊しても隠しても、この身を焼き続ける業火は消せない。

ならば、在りし日の罪と業に燃え尽きてしまいたい。

怒りに燃える、彼の人のその手で終わらせてもらえたら。

 

....あと少しで届く、その刹那。その耳元に。

永久凍土の地獄に吹き荒ぶ風よりも、冷たく凍える声がした。

 

 

  「いけないよ。それは、ぼくのものだ」

 

 

耳元に届いた声で、全身が凍りついたかのように固まる。

 

 

  「....くやしいかい?。じぶんじゃないことが」

 

 

このまま、凍りついた身を砕かれる気がした。....けれども。

握られた手は、まるで「ヒト」のように暖かくて。

 

 

  「これは、もしものための、ぼくのきりふだ、だからね」

  「こわしてはいけないよ」

 

 

 

ゆっくりと顔を下げれば。金の髪の、こどもがそこにいた。

にっこりと、この上もない、極上の微笑みを浮かべて。

幼い顔立ちに恐ろしいほど不似合いな、蟲惑的な声で。

 

 

....忘れてなどいない。彼の人と、永遠に分かたれた日から。

この命も、この身も、構築する細胞の一片、魂のひとかけらまで。

全ては、目の前にいる金の髪の、幼いこどもの モノ。

 

あまねく世界をその御手におさめ、いと高き天を大いなる力で穿ち。

色という色を全て真っ黒に塗りつぶし、何もかもをひとつに為される。

その手足となるが為に、ここにいるのだ。

 

 

 

  「はい、ぼっちゃま」

 「うん」

 

 

 

「喪服の老婆」は、老いた体の膝を曲げて、こどもの前に屈みこむ。

そして。恭しくその御手を取り、頭を垂れて赦しを乞うた。

 

 

   「かれが、きおくにのこす、ひとなのだから」

   「ああ、なまえは....たしか」

 

 

****

 

 

アマラ深界、第一カルパ。

 

 

ボルテクス界では、未だ見た事のない悪魔たちが出現する。

マガタマの中にはアナライズ機能を持つものがある。けれども。

それは、一度闘わないと意味が無いという面倒なもので。

 

そういえば、と、現人(アラト)は思い出す。

 

級友に、やたらと天使とか悪魔とか系に詳しい女子がいた。

幼馴染の「橘 千晶」以外で親しい女子は、彼女だけだった。

オカルト好きを前面に出さなければ、気が合うのは。

 

もし「東京受胎」を生き延びて、共に歩けていたなら。

ビビりながらも「あ、知ってる!」と、教えてくれただろうか。

最初から、そんな道中を進めたら良かったのに。

 

 

   『(....何考えてんだ、俺は)』

 

 

「あいつら」以外の「人間」など、とうに居ない。

思念体にさえなれなかった他の人間と共に、死んでいるのに。

こんな世界になっても、まだその名を覚えている。

 

 

 

 

 

   『あいつの名は....「真幸 明夜」』

   「かのじょのなは、「まさき めいや」」

 




神が定めし、拘束されたる運命の女。
如何なる時も、定めの男の傍にありて
汝が務めを、速やかに果たし、導け。

神が定めし、運命を棄てて、自由を得た女。
如何なる時も、定めの男より離れても尚、
汝が務めを、速やかに、果たせ。


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混迷の道、艶冶なる惑いに逢わん

惑いて 惑いて 惑わすは悪魔のみならず
哀れなる残滓の誘いを 受け容れよ

されば 仮初めの甘き夢
泡沫に惑いて 現へと帰さん


「アマラ深界のどこを探しても、安心な場所なんて無いわよ」

 

ある思念体が、事も無げにそう言い切った。そして。

ここの悪魔たちは皆、1つの目的の為に集まっているから

けして仲魔にはならない、とも。

 

ボルテクス界では見ない悪魔たちがいたから交渉してみたが

全然ダメだったのは....その所為かと知った。

だから、エネミーアピアランスゲージが赤くなって出現した

悪魔とは、問答無用で闘うか逃げるしかないってワケか。

 

....それは、なかなかに過酷ではないのか。だが。

 

『下手な戦略じゃ全滅もアリ、か』

「基本、俺らはアラトの指示で動くからな」

「力押しで勝てる程、ここは甘くは無いという事かと」

「今まで以上にシビアな闘い方が必要って話ね」

「オマエノ器ガ試サレル。ガンバレ主」

 

 

そんなやり取りのあと、地道にここの攻略を始めたんだけど。

 

 

....シビアなんてもんじゃ無い。闘い方以前の話だった。

入る部屋やエリアのギミックが、ボルテクス界のそれらとは

ケタ違いに面倒臭いというか、凝り過ぎている。

一見すると、やたらだだっ広いのに近づくと見えてくる壁に

囲まれていて、遠回りを余儀なくされるくらいならまだ良い。

 

 

こう行けば近いなと踏み出した先に落とし穴とか、さらには

落ちた場所が一面、ダメージゾーンとか、そこを抜けるのに

体力削られまくって死にかけるなんて当たり前だとか。

再チャレンジで別の所を踏み出したら、そこも落とし穴とか。

試されてるなんてもんじゃ無い。心をへし折る気満々だろ。

 

この迷路は、そこかしこに悪意しか感じない。

それを確かなものにさせたのは。

 

 

『....幾ら、一瞬で戻れるとはいってもな』

「....まァな。悪質っちゃ、悪質だけどよ」

「かつてのトウキョウには、よく在ったと聞きましたが」

「キレイどころには要注意って事ね。男って大変だこと」

『まさか、この歳で』

 

 

....ぼったくりバーとやらを、体験するなんて。

 

 

****

 

 

迷路攻略中の、疲労困憊な俺達はある思念体に気付いた。

 

他の思念体とは色が違っていて、薄いピンク色をしていた。

何だ?と思って近づけば、どうやら幾らか払えば回復をして

くれるらしかったから、渡りに船とばかりに頼んだのだ。

 

ピクシーは、その思念体に夜の女悪魔を見たと言って止めた。

....らしいけど。後で全然覚えていない俺に、むくれていた。

ともかく回復しないと、ここから出ることさえままならない。

そう思い直し、一杯のソレを飲んでみた。

 

そうしたら意外な事に、出てきたソレはとても美味くて。

回復は勿論、何故だか気分も良くなってきて勧められるまま

かなりの量を飲んでしまってたと思う。

 

目の前が、ふわふわしてきて何だか気持ちよくて。

思念体の声がだんだん遠くなって、どんどん霞んでいって。

そこで俺の意識は、完全に途切れた。

 

....気が付けば、入口に戻されていて。

それは助かったのだが。すっきりしない思考を巡らせてると

ある事に気付いて、顔面蒼白、愕然となった。

 

 

『....ウソだろ。やられたってヤツかこれ』

「どした。....って、おい!。所持金、減り過ぎだろ!」

「まさかとは思いましたが、あの思念体」

「だから一杯で止めときなさいって、言ったでしょお!!」

「ウウ...面目ナイ。我モ気付カナンダ」

 

悪魔の体になってから、「大人の世界」を垣間見てきたから

もう怖い事なんかねえと開き直ってた....んだけど。

つくづく、俺の認識は甘かったと知った。やっぱ、子供だと。

 

 

『アレ、ぼったくりバー、だったんだな....』

 

 

それから、二度と使うかと心に決めたんだけれど。

 

迷路の造り主は、よほど人心掌握に長けているらしい。

絶妙な場所に居させているから、腹が立つし、何より。

どうあっても、利用せずにはいられない状況になるのを

図っているとしか思えない。策略にも程がある。

 

 

けれど、闘うか逃げるしかない、そこは非情にも。

弱かった俺を確実に、より、悪魔として強くしていった。

出会う悪魔を斃す為に、持てる知恵と得る経験を活かす。

それらが、俺が生き残る為の力に変えた。そして。

 

長居はするなと言われた理由が、分かった気がした。

ここは、強くならなければ....生きられない場所だから。

まるでそうなるように、仕向けられているのかと勘ぐるに

至らないのは、それだけハードだからだったのだが。

 

****

 

ある思念体が、俺を見て問うた。どっちだ、と。

 

悪魔でもあり、人でもあり、悪魔でもなく、人でもない。

俺は未だ、何にも為れてはいない。

馬鹿正直に答えると、そいつはひとしきり笑っていたが

じ、と俺を見てひどく諭すかのように言った。

 

 

 

「人は、死して学ぶ魂を持つもの」

「悪魔は、死せず学ばぬ魂を持つもの」

「....ならば。悪魔であり、人であるオマエは」

「人修羅と呼ばれるオマエは、どうなんだろうな」

 

 

 

 

 

....わからねぇよ。今も、まだ....な。





真実は、おまえのそこには無い
真実は、おまえが得るものであり

「あの御方」が、おまえに「与えるもの」だ

それ以上でもそれ以下でもない



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忍び寄りし暗翳(あんえい)、冥道を開きたり

銀の扉のその先の 誰も通わぬ墓の前
真白き獣は 待っている 強くなりし彼の者を
「死」を超え 「死者」を斃しゆく者を
真白き獣は 待っている 強くなりゆく彼の者を

「時」を超えて 待っている


アマラ深界で、鍵がないと開かない扉を見つけた。

 

こういうのが気になる質の俺は、迷路攻略のついでだと言い

銀の扉の「鍵探し」の為に、行動範囲を広げていた。

だが、なかなか見つからないし強い敵も出る。

 

さすがに限界が近いと思った俺は一旦、「鍵探し」を止めて

疲弊していた仲魔と、ボルテクス界へと戻って行った。

 

そして泉で回復して....油断していたんだ。

そのまま、さっさとアマラ深界に戻っていれば。

久しぶりだと、その辺をうろついたりしなければ。

メノラーの炎の揺らぎを、無視すれば。

 

....避ける事は、できた筈だった。

 

確かに、いつかは殺り合う相手の一人だけど。

あんな面妖なやつだとは思いもしなかった。

 

リーン、と....響いたのは、この場にそぐわない程 澄んだ音色。

 

けれどその音色は、聞く者に安寧をもたらすものでは無く。

あの時と同じだ。不吉な予感を手招きし、傍に呼び寄せて

聞く者に、遠からぬ「死」を告げるものだった。

 

****

 

「イケブクロで、坊さんを見た。供養にでも来たのかね」

 

とてつもない気配に応じて、落ちてきた場所はあの時と同じ。そして。

何かがいきなり背後に張り付き、氷のような声で問われた。

 

「暗黒の力に魅入られし魔人とは、汝のことか?」

....振り向いた先には既にいない。だが。

「人はいつか死に、世界はいつか滅ぶ。汝はそれに抗おうとしておる」

....自分の真横に張り付いている。見えない何かが。

 

声のする方に顔を向ければ、その先にソレはゆらりと浮いていた。

法衣と袈裟を纏った骸骨が、カタカタと歯を鳴らしてこちらを見ている。

 

「迷い給もうな、人修羅殿よ。汝のそれは、迷いに過ぎぬ」

『....迷い、だと?』

「如何にも。汝の死への抗いは迷いであり、その迷いの暗黒は、晴れはせぬ」

 

いくらメノラーを手にしたところで、救いは無いと。....だから。

 

「一切衆生の迷いを解くは、我が務め。されば汝が身、我に任せられよ」

『....?。意味わかんねぇぞ、何を言ってる?』

「受け取られい....我が汝にもたらすは、死の救いなり!!」

 

ひときわ高く澄んだ、持鈴の音色が 戦闘開始の合図になった。

 

****

 

....また魔人が出た。闘牛士の次は、大僧正とかいうらしい。

どっかで見たと思っていたらアレだ。所謂、即身仏っていうやつだ。

けど、目の前のやつが、まがりなりにも「魔人」の看板を背負ってるのなら。

その力は、計り知れない。....闘牛士の時に、学んだからな。

 

「さあ....我が経文にて往生されよ。汝が業、我が呪の内に滅するべし」

『させねぇよ。俺はまだ、くたばるワケにはいかないからな!!』

「なんと愚かなり。いつまで生に執着するか....」

『勘違いすんなよ。オマエは救いって言葉に隠してる欲を果たしたいだけだ』

「....そのようなもの、既に持たぬ身の我には戯言よ...ッ!!」

 

死んで学ぶのも、死なずに学ばないのも。どっちも願い下げだ。

俺は生きて学び、死なずに学ぶ。....アレ?。意味同じだろコレ。まぁいいか。

この世界は、闘って負ければ絶たれるのは、自分の命だけじゃ無い。

仲魔の命も、存在も、この先の全てを知ることも、何もかもが終わる。

 

生への執着?。あるさ、諦めて無いからな。

このままじゃ、終われない。終わってたまるかよ。

何度だって言ってやる。....俺は。

 

「汝、煩悩の火に焼かれよ!。喝ぁあっつッ!!」

 

狂信の果てに、「死」を救いだと寝言をほざく悪魔に。

みすみす、やられてやる程ヒマじゃねえ!!。

 

それでもやつの猛攻に、荒い息を吐きながらも、カグツチ齢を見れば。

幸いなことに、今は煌天時。普段は忌々しいカグツチが、味方になる。

 

 

 

『....回復は後回しだ。アレ食らう前に叩くぞ』

「煩悩の火に焼かれろってか。神サマに言う科白じゃねえよ」

「二度はございません。お許しを」

「力が漲るのう。此度はしくじらぬぞ、任せよ」

「コノ爪デ、アノ骸骨ヲ砕イテヤル。粉々ニナ」

 

 

 

この世界で死の象徴が、お前ら魔人だというのなら。

俺は、お前らを蹴り飛ばし、薙ぎ払い、息の根を止める。そして。

その屍を、踏み拉き、振り返らず、乗り越えて「先へ」行く。

 

人であり 悪魔であり 人でもなく 悪魔でもない

未だ「何者」にも為れなくとも 今は定まらずとも

 

俺は....手を伸ばし、掴む。

曖昧の先に、あるものを。

 

 

****

 

 

勝ちに沸く者たちの歓喜の声に混ざり、崩れゆく骸骨の声は

吹き荒ぶ赤き砂塵に消された。呪詛ともつかぬ呟きと共に。

 

 

 

「(....人修羅と呼ばれし者よ....汝がいる、この世界は....。

何ものにも....染まらぬまま生きていける世界では、無い....。

ならば、汝は....汝が進みたる道の果て、行き着いたる意志の先。

....そこで待ちし「色」は....赤か、白か.....それとも....

何もかもを塗り潰す、「黒」か....我は最早、知る由無き事....)」

 

 

 

(...だが、既に冥道は開かれたり....数多の「死」が....やってくる....)




その身に受け容れるか 通り過ぎるか
目指すか 堕ちるか 迷うか 戻るか
未だ定まらぬ 未だ決まらぬ 未だ見つからぬ
だが我らは待っている おまえが生まれるのを

闇を纏いて 生まれてくるのを


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破邪の声音、深淵へ至る照破と為りん

我は祈る その身に 光の加護のあらんことを
お前が力を貸さねば あの者らの「企み」は潰えよう
悪魔の体に 人の心を持ちし稀有なる者よ
混沌の力満ちしその地を離れ 在るべき地に戻れ
道は未だ 続いているのだから



「喪服の女」が語るは、魔人の異能とメノラーを奪い去った切っ掛け。

作ったのは氷川であり、氷川が起こした「東京受胎」であると。

そして、カグツチと創世と、世界という数多の「箱庭」の成り立ちと。

全てを識るもの、そこに在りし、「大いなる意志」のことを。

 

ボルテクス界における、生と死と、命そのものの。

その始まりと終わりまでの、プロセスを。

 

「....それが、大いなる意志のもとに定められたアマラの摂理」

 

俺ら人間にとっては、原初の時まで遡る話だった。

つまりは、「神サマ」の実験場だってか。世界ってやつは。

まるでリセットの効くゲームか何かのようじゃないか。

....「神サマ」にとっての、な。

 

「我が主と共に、幾つもの世界の「興り」と「命の営み」と」

「そして、最後の「滅び」の姿をも見つめてきました」

 

解き得ぬひとつの命題と共に。....そう言って俺を見る。

人間の疑問でもある、命は何処から来て何処へ行くのか。

何故、世界は、命は、生まれ変わるのかを。

それらを識ることは....叶うのか。

 

「....今、まさにその答えを見つけようとしているのやもしれません」

『(何で俺を見る?。俺は....何にも為れていないんだ)』

「その為にはあなたの行動が、その機縁となるでしょう。」

『(?!。俺が?。いや、俺の「行動」が、だと?どういう意味だ)』

「我が主は、あなたに期待しておられます。故に」

 

堕ちたる天使に授けられしその「力」、無にせず命も奪われぬように。

それだけ言って、スルスルと幕が下りてきてしまった。

相変わらず曖昧で核心を濁し、パズルのように言葉を組んで。

そのくせ、いきなり知りたかった事を教えてくる。

 

ある意味、翻弄されてはいるんだろな。ムカつくけど。

....期待、ねぇ。堕ちた天使って、あの金髪のこどものことか?。

そうは見ぇねえけど。ああでも、こどもだけど綺麗な顔してたっけな。

....確かに、白い翼が似合いそうな感じはするか。

 

そんな事をぼんやりと思いながら、第2カルパへと向かう。

そこで、俺の置かれている状況はかなり異様な事を知るのだった。

 

****

 

どこからともなく、「声」が聞こえてきた。頭に直接響くように。

....それだけなら、特に何とも思わなかった。問題は。

 

『?!...っ!。(何だこの凄まじい「圧力」...っ!!)』

 

今まで感じた事の無い、重圧感が全身にかかる。くそ重てぇ。

これは一体何なんだと、歯を食いしばって耐えているといきなり

それが、かき消えた。思わず足がよろめいて膝をつきそうになる。

 

「...お前が、堕天使の意を受けて混沌の企みに手を貸したる、魔人か」

「お前は知っているのか?。自身の行動により己が道を違うやもしれぬと」

 

「喪服の女」も、似たようなことを言っていた。けれど。

俺は「なにものかに為らねばならない」という「声」を聞いた。

未だ迷いながら、模索しているに過ぎない者に、何を言うんだよ?。

 

「闇に魅入られし者、アラト。いと高き意志に、逆らおうとする者よ」

「残された人の心まで暗黒に染まりきる前に、我が声を絶対と信じよ」

 

その声の、有無を言わさない凄まじい「圧力」が、またかかる。

すげぇきつくて思わず、ハイと言ってしまったけどいいのか?。これ。

偽りを言うなとか言われるんじゃないかと身構えたけど、反応は無い。

そのまま、特に不信に思われることなく「声」は聞こえなくなった。

....自らを「神の代弁者」と、名乗って。

 

「なあ。さっきオマエが来た方からすごい声がきこえたぜ」

「....大きな声じゃ言えねえが、まるで大いなる意志そのものだ」

「オマエ、悪魔なのに近くにいて大丈夫だったのか?」

 

入口近くにいた悪魔が、そう言ってぶるぶると震えてた。

....これだけ離れているとこにいても、アレを聞いてこうなるのに。

俺がこの程度で済んだのは、人であることを失っていないせいか。

 

 

『....それにしても。「人間」と「創世」と「悪魔」と「神サマ」かよ』

「アラト、どした?。腹痛てぇのか?。顔歪んでっぞ」

「えー?大丈夫?、何か悪いモノ食べたっけ?」

「なまものは無かった筈ですよ。火は通してましたし」

『....お前らな。ちょっと考え事くらいさせろ』

 

 

ただ巻き込まれただけじゃないのかもしれねぇな、コレは。

 

 

「えー、急にどうしたの?。いつも考えるの放棄するくせに」

「7割がたは、面倒っつって突っ込んでくよな。後先考えてるとか嘘だろ」

「それでもアマラに行く時は、かなり頑張っておられますよ主は」

『....なあ。貶めてんのか褒めてんのか、はっきりしろよ』

 

 

褒めてるんだよーと口を揃える仲魔たちを、ギロリと睨む。

棒読みで言われたって嬉しくも何とも無いっての。

 

....まあいいか、進めばわかることだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに、誰の思惑があろうとも。





「貴公に勝利を! さもなくば喪服を....」

現れしは かつてその手にかかりたる死の影のひとつ
その影を呼び寄せたるは 呪われし「石」
「死の使い」を招きたる その「石」の名を

「死兆石」と 館の主は告げた....


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黒の定め縒る糸、縬(しじら)の織の如く

絡め捕れ 絡み付け 定めの「黒き糸」 爪先から 頭の天辺まで 
緩み無く ぎりぎりと 締め上げて 小指の「赤い糸」に 編みこむように
絡み付き 染まれ 血と闇の色に


ボルテクス界のどこか。現世と次元のあわい。

 

闇の帳に浮かぶ水晶を、じっと見ているのは「金の髪の子ども」。

その顔に浮かべたるは、慈愛と安寧をもたらす清らかなる微笑み。

光の中に在らば、至高の存在たりえる天の御使いに相応しきもの。

 

「....めいや。きみのおもいびとは、すこしずつだけど、きづきはじめているよ」

 

水晶がキラリ、と光ったのを見た子どもは満足げに....ほほ笑んだ。

まるで愛おしいものを見るかのような表情で、見つめながら。

一切の邪気と悪意と妖気を遮断して、あらん限りの慈しみと安らぎを込めて。

まるで、危険ななにものからも子供を守る、父親のように。

 

「....めいやが、かれにあうには。もうすこしのときが、ひつようなんだ」

「....いいこだから、それまで まっておいで。ときが みちたら、でられるよ」

 

キラリキラリと、瞬くように光る水晶を愛しげに撫でる子どもはふと、上を見る。

まるで何かを追うように、そのまま視線を下へと移し、水晶に背を向けた時には。

それまでのとは真逆に、表情も何もかも、がらりと雰囲気を変えていた。

 

「....やれやれ。<あいつ> が、うごいたのか。しょうがないなあ」

「はい、ぼっちゃま。いかが致しましょうか」

 

水晶を挟んで、「金の髪の子ども」が立つ位置の反対側に、「喪服の老婆」が畏まっている。

老婆の目に映る「金の髪の子ども」は、顎に手をやり、うーん、と首を傾げていて。

その様はどこまでも愛らしいのに....凄まじいまでの怒気を、含んでいた。

気を抜けば五体が千切れ飛び、魂さえ消滅しかねないほどの、怒りを。

その、あまりの凄まじさに喪服の老婆がつい、進言してしまったのは不可抗力だった。

 

「....ぼっちゃま。どうかどうか、その御怒りをお静めくださいまし」

「うん?。そうはいうけれど。ぼくのせかいに、<あいつ>がきたんだよ」

 

濃い混沌の力満ちるアマラ深界に、たかが「声」だけとは言え。

忌々しい「天の御使い」が入り込んでくるなど、赦せよう筈が無い。

ましてや、彼の者に直接「言葉」を降すなど。....だが、ふと知りたくなって。

 

「それで?。かれは<あいつ>に、なんてこたえたの?。おしえて、よ」

「....それ、は....」

 

いつもと違い、珍しく歯切れの悪い老婆の様子に、子どもはクスクスと笑っている。

観念した老婆は、消え入るような声で告げた。

 

「....はい、と。あれの言葉を絶対と信じて、ぼっちゃまに従わぬと」

「<あいつ>のあつりょくに、まけちゃったんだ。しかたないよ、それはね」

「....ぼっちゃま。人修羅を、お叱りにならないのですか?」

 

おそるおそる、顔を窺う老婆に子どもの目がすう、と細くなる。だが、すぐに元に戻した。

途端に全方向から老婆に降りかかった、一瞬の「死」の気配が霧散して消えていく。

 

「かれは、ここへくる。そのための「いかいへの、いらい」だよ。それに」

「....彼女が、ぼっちゃまの手に在る限り」

 

その言葉に、子どもらしい笑顔で頷く。思わず、見惚れるような笑顔で。

 

「<あいつ>が、なにをいおうとみちはさだまっている。あとは、まてばいいだけ。でも」

 

もっとかくじつに、おちてこさせるために。このてのなかにしか、いばしょはないのだと。

そうみとめさせるために。きりふだを ふたつ、よういしたのだから。

 

....そのほうが、おもしろくなるだろう?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ、めいや。きみはそれでも、いきたいといったね。

かなえよう、ぼくのちからで。だから、ぼくのねがいものぞみも。

きみが、きみと「かれら」で、かなえてくれるね?。

 




捕えたのは偶然では 無い 捕えられるべくして 捕えられし者よ
なれば 否やは無く 従う他無しと知るだろう
だが それでは到底 果たされはしまい だから望め 
果てなく 強く 望め されば 汝が望み 果たされよう


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罪咎に穿たれし魂に、救いは在りや

背負うのは おまえだ
痛みも傷みも 全ては おまえの糧とならん


「最近ハイウェイに、バイクに乗った亡霊が出るらしいんだよ」

 

そんな怪談話、今に始まったことじゃないだろと思ったが....亡霊と聞いて。

ある仮定というか決定事項に思い至る。見てみたいと言ったら、思念体に呆れられた。

闘牛士、僧侶の即身仏ときて、「次」はどんなのかと思いきや。

 

『....バイクに乗る()()、か。』

 

仲魔達からは散々な言われようだけど、これでも対魔人戦に関してはより慎重に考えるんだぞ。

....それにしたって。バイクって事は、スピード重視の....斬撃、じゃ無くて衝撃系か?。

あれこれ考えながら取り敢えず進んでいくと、案の定、足元が赤黒く溶けた。

 

コケる事無く着地し、辺りをきょろきょろと見回すけれど。

一体何処から来るのか。警戒していると突然響いた、バイクの排気音(エキゾーストノイズ)

思わず体がビクリと跳ねて、あわてて振り返るとこっちに向かって来るバイクが見えた。

 

『....うわー、マジか。ってか、突っ込んでくる気か!?』

 

凄まじいスピードで走ってくるバイクに乗る者の顔は、確かに骸骨だった。

あれ、チョッパーとかいうバイク仕様だよな。それに、あのスピードで止まれるのか?。

蛇行しながら突っ込んでくるバイクの魔人が、俺達に向かって、いや、正確には。

俺に向かって、何かを叫ぶのが聞こえた。途端、バイクの前輪が地面の接地面から離れる。

 

『う、ウィリーだあ?!。あのバイクで出来んのかよ!?。嘘だろっ!!』

「メノラーを寄越(よこ)しな!。そうすりゃ、連れてってやるぜ、スピードの向こう側へッ!!」

 

****

 

「ヘルズエンジェル」という魔人を撃破したあと、一旦、回復に戻った。

たまに地上へ戻れば魔人に出くわし、アマラ深界へ来れば地上よりシビアになる闘い。

戦力強化という意味で、迷宮探索は外せないのだが、何せ総じて高レベルなやつばかりで。

疲弊の度合いは、地上戦の比じゃない。消耗も半端無い。だったら行かなきゃいいけども。

いちおう、メノラーの件があるから魔人との遭遇は、必須だし行かないというわけにもなぁ。

 

それでも俺が深界へと向かうのには、好奇心に勝てないというのもあるが。

もっと言えばヒトの身では知り得ぬ事を知れる、というのが理由だったりする。

人の時には、興味も関心も無かった世界のことが、深界では普通に話の種になるのだ。

それを聞けるのが、案外というか、意外にも面白かったりするからだ。

 

....もっとも、聞いていて気分のいい話じゃ無い事の方が多いのは、仕方ないけど。

仲魔からでは聞けない話もあるから、知識がそれなりに増えていくのも悪くないだろう。

 

『今なら、お前に勝てるかもしれないぜ?。明夜(めいや)....』

 

思い出すと胸が痛くなるのは、亡くしてしまった者への感傷か。それだけだろうか?。

壊れかけた世界で、異形の身で、誰かの過去にさえもなれずに生きていく事への痛みか?。

 

今の俺を見たら、どんな反応をするんだろうな、お前なら。

橘も新田も、ちょっと驚いてたけど俺だってわかって、普通に話せたぞ。

明夜(めいや)は....なんか、目ぇ輝かせて話に食いついてきそうな気がするな。

そんで俺ばっかり喋らせそうだよな、悪魔一体につき30分ぐらいは説明要るかな?。

 

....せめて10分にしてくれるか、30分とか無理だよ。

 

そう言ったら、ええ~?って言いそうながらも笑う顔が、鮮明に思い出される。

あれ?。ヤバい。なんでだ?。無性に、お前の声が、顔が、俺を焦がす。

突然頬を伝う、温い何か。指で掬ってみるとそれは、忘れかけてた、ヒトの「証」。

 

『....なんだよ。俺、()()、泣けるんじゃん』

 

明夜(めいや)を思い出すことで、人である事を自覚できるのか。ならば。

お前の事を忘れてしまったら、俺は悪魔に近づくのか。....なんだそれ、笑えないって。

悪魔であることの痛みを捨てたければ、お前の事を忘れてしまえばいいって事か?。

じゃあ、人であると足掻き続けるためには、お前の事を思い出して違う痛みを刻めという事か。

 

そこまで考えて、ふと()()()へと思い至る。もしかしなくても、俺は....。

亡くした者への感傷とは別物の感情を、明夜(めいや)に持ってたのか。そうなのか?。

 

失くしてしまった時間の向こうで、ヒトの俺と明夜(めいや)が机を挟んで喋ってる。

悪魔の体の俺は....もう、あの中へは行けない。行く事ができない。

それでもお前の事は、今の俺の過去になんてできない。....もっと早く、自覚していたら。

そうしたら、もしかしたら、あの時俺と一緒に先生の見舞いに行ってて、「東京受胎」を共に。

橘や新田と、明夜(めいや)()生き残れたんじゃないか?。

 

『....弱気になってるヒマなんか、無いのにな』

 

いくら俺でも、「たられば」は、慰めにさえならない無意味な事だと分かっている。

更なる「痛み」を重ねるだけだと、分かっている。....分かってんだよ、そんなことは。

それでも思い出せば、まだ「俺」でいられていると自覚できるし、忘れたくない。

 

人だけが、「創世」への資格を持つ以上、今の俺にその資格は無い。なのに。

悪魔の体にされてなお、何故、この世界で生きるのかを知る為に。全てを知る為に。

俺は、仲魔を得てここに立っている。先へ、進んでいる。まだ、先へ行く。

だから....ここで「人」をやめたら「俺」は居なくなり、ただの悪魔に成り下がるだけだな。

 

『....そんなのは、死んでるのと同じだ。冗談じゃ無えよ』

 

口に出して、ふと思った。

 

弱気になったり強気になったり、忙しないな....俺。

ああでも、これって「人」も「悪魔」もあんまり変わんねえんじゃないか。

何だか少しだけ、気が楽になった感じがする。いいよな、あんまり張り詰めてなくたって。

....迷宮探索中と戦闘中は、張り詰めてなきゃ死ぬからそれ以外は、な。それから。

 

『....明夜(めいや)。忘れたくないから、忘れてやらねぇ。俺の最大の未練、だからな』

 

「人修羅」という呼び名の意味を、今更ながらに思い出した。

今は未だ、彷徨い巡るだけで精一杯で、ここまで来ても、確かな事はこの手には無いけど。

俺は....先ずはあいつらに、追いつく。先生を見つける。全てを知る。その為に、生きてる。

全てを知ってどうするかは、そんな事は、知った時に考えればいいだろ。

 

****

 

「ち、何匹か逃がしちまった。悪りぃ」

『構わなくていい。逃げられたって事は、そいつの運があるって事だからな』

「....!。いいのか、追わなくて」

『いいよ。深追いして、反撃とか食らったら意味無えだろ』

「そりゃそうだけどよ....なぁ、アラト。お前、何かあったか?」

『あ?。いや、特には何も無えよ。あ、変なモン食べても無いからな!』

「....なら、いい」

 

()()で、仲魔が集まる。アラトは眠っているから気付かない。今のうちに。

皆、何かしら思う所があるらしい。早速タケミカヅチが、口火を切った。

 

「なぁ、アイツ、マジでどうしたよ?」

「分かんないわ。何もない筈だけど」

「コレ、いい傾向なのか?」

「微妙じゃのう。ヒトの部分は計れぬからの」

「様子見か、やっぱし」

「マダ、ナ。」

()()()は、流石に無しだと良いがな」

「…………………勘弁しろよ」

 

 

まだ早計だ。まだ、断ずるには早い。

まだ、生き残った人間どもが「創世」を成すまでに、時はある。

だから、待とう。我らは、我らの意思でここにいるのだ。

あの者を、主と定めたその意思を以って。

 

だが。あの者に救いをもたらすのは。他の誰でも無い。彼の御方だけだ。

 

 

 

『なんだよ、みんな神妙な顔して』

「なあ、ホントに何も....」

『無いって。何だよ、何を気にしてんだ?』

 





在りし日が お前を苦しめる いいのか?
お前は 「楽」に なりたくはないのか?

聞こえるのは 悪魔の囁き


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成劫(じょうこう)を待ちし世界、担い手を呼ばん

ヒトが まろび まどいて あゆむ道には
大小様々な 石が落ちておるよ
よけて かわして またいで 見落として
足を引っ掛けてころぶ様は なんと面白きかな
おろかなり おろかなり ヒトは どこまでも

おろかであわれな イキモノよ


「見ての通り、アマラ深界には様々な思念が多く集まっておる」

「この辺りにいるやつは....やれガイアだのメシアだのと絶えず、言い争ってばかりじゃな」

「まるで演説のようじゃよ。ここに来てまで勧誘とは、仕事熱心なことだのう」

 

そう言われて一通り話しかけてみれば、確かに「彼ら」は死んだ後も生前の記憶に従っている。

断片的な、一方的な、会話にさえならない、情報のみを伝えるだけの思念体も少なくは無いのに。

思念体がこれだけハッキリ、生前のことを再現できているのはどういうわけなのか。

 

「聞けよ民衆たち!。世界は支配する神に虐げられ、従い、甘えたが故に自らの力を失った」

「それ故に今、滅びの道を辿ろうとしている。だが案ずる事はない!。何故なら!」

「我らガイアの教えは人に強さをもたらし、真に生きる術を指し示す。故にっ!」

「世界を、古の強さへと再生させるのは!我らガイア教団なのだ!」

 

「如何なる時でも神への祈りを忘れてはなりません」

「そうすれば、例え何が起こっても神は、我々を見守ってくれます」

「死した後に、神の御許に導かれる為にも。さあ、祈りなさい」

 

....どっちもどっちだと、正直、思った。こういうやり取りは、たぶん昔からなのだろう。

両極端なのは、彼らが信ずる存在が対極に在るからだ。そして俺は、その真っ只中にいる。

....なんで俺なんだろうなと、余裕ができたせいか色々と考えるようになった。

意図的に選ばれる程、優れてるわけじゃない。特化した何かがあるワケでも、無い。

どこにでもいる、平凡な男子高校生だぜ?。それが....なぁ。

あの「金の髪の子ども」は、俺に何を見出したんだか。分かった所で今更意味も無いけれど。

 

「悪魔との共存は望むところだ。我々は、それを阻止せんとするメシア教団と対立していた」

「....本当の敵は、教団内部にいたとも気付かずにな。愚かしい事だが」

 

「我々ハ、神ノ御告、聞イタ。東京ニ、破滅起コル、知ッタ」

「ソレ、止メル為、ガイア教徒、追ッタ。シカシ、アノ悪魔使イニ、シテヤラレタヨ」

「....ヒカワ、イウ男、トテモ危険ネ。我ラ、ソレニ、気付ケ無カッタ」

 

****

 

メノラーを回収し、階層を進んだ先で、人の身では知り得る事の無い氷川の過去を。

忌まわしい、東京受胎の裏側を語るのは、舞台の向こうに立つ「喪服の女」。

死という純化で生じた彼らと氷川の関わりは深く、因縁の糸が多重に絡んでいた。

あらゆる思想を自らの物とし、混沌の中に真理を見出そうとする集団「ガイア教団」本部。

その中にいてなお、異端と言われたというアイツは....何を以って、世界を壊したのか。

 

<現実の中に理想はあり、理想は、その手で作り出さねば成らない>

 

その強い意志が目論見へと変わり、人の則を越えて、運命を引き寄せ、現実へ転じさせた。

誰の目にも触れぬまま忘れられていた「ミロク教典」という書物を、見つけてしまった。

そこに示された、()()()()()()()()()()()()()「東京受胎」という「審判」を知ってしまった。

それは、所謂「神」と呼ばれし存在によるのか、それとも「悪魔」という存在によるのかは分からない。そこまで知った所為(せい)なのか。アイツは....その「審判」を、世界の滅びと再生という避けられない運命を、神でもなく悪魔でもなく、ヒトである自分の意の下に置いて動かす決意をしたのだと「喪服の女」は語った。

 

自分の思想に反する教団の仲間、行動を止めようとするメシア教徒、邪魔する者全てを、自ら従えた魔の者を使って葬り去り、予言の通り....否、教典を読み解いた氷川の思惑通りに。

世界は、たったひとりの男の手によってその時を迎えたのだと。そして、東京が卵の状態になったあの時、氷川が望んだ自分の為の施設「ニヒロ機構」も産まれたのだと。

 

ニヒロ....ラテン語で「虚無」を意味する言葉だと、仲魔が教えてくれた。

 

新しい世界を創らんとする者が掲げるのが「虚無」とはな。アイツは創世をどうしたいのか。

叶ったとして、そこには自分にもヒトにとっても、何も無いんじゃないかと漠然とそう思った。

それは、そんな世界を創ることは、何の意味がある?。敢えてする必要があったのか。

その事に気を取られて、「喪服の女」が締めくくるように言った言葉の意味を、その時の俺は勘ぐる事さえしなかった。

 

「あの者の考えたとおり、受胎は起こり、創世が為されようとしています」

「けれど、それがこの先どうなるか。まだ未来は定まってはいません。ですから」

 

女は、そこで言葉を一旦切った。そして。

 

「....繰り返される創世の輪から、解き放たれることもある。と、私どもは信じてあなたを見守っていましょう」

 

その言葉を合図に、舞台の幕が下りてくるのを見送った俺は先へ進んだ。

ワープゾーンを抜けた先、次の階層へと至る場所で....「選択」を迫られるとは知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上から馬の嘶き(いななき)と共に聞こえてきた、死を呼ぶものの、声。

 

「お前が、人修羅と呼ばれし者か?」

 

 




夢も希望も必要無い世界で ヒトはどうあるべきか?
ただ 生きていればいいのか それだけなのなら
もはや ヒトで在る必要すら 無いではないか


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馳せるは 駆けるは 彼の在りし約束の地

望んで 望んで 蒔かれた種子
芽吹く時は 今少し


かつて在りし場所から堕とされ、輝ける身を失い。

おぞましき或いは醜き姿に変えられて、天駆ける羽を切られて。

余りあるほど受けし信仰の恩恵をも失い、地を這いまわる虫にさえ劣る

屈辱と侮蔑を受けてなお生かされし己を嘆く日々は、疾うに捨て去った。

全き光からは遥かに遠き深淵たる闇の底で、気の遠くなるような時間を過ぎる

この身に逆巻くは、憤怒の颶風(ぐふう)と復讐の(ほむら)

 

渦巻く地(ボルテクス)」の下、アマラ深界の最下層を仮初めの住処とし、或いはそこに投げ入れられし

かつての神々は、真の闇を司る「彼の御方」の、止まった時を動かす「始まりを告げる声」を

待ち続ける。幾つもの夜と幾つもの昼を越えて。....幾つもの、幾つもの世界の崩壊を越えて。

 

そこに、現れたるは、数多の「悪魔」の、その中に在る「異質」。

いつからかは知れないが、「魔人」と呼ばれるようになった「骸骨」。

かつてヒトであり、闇へ魔道へと堕ちたりし、命の成れの果て。

 

****

 

アマラ深界の、最下層。張りぼての舞台の上。下ろされようとした幕が止まる。

車椅子を押そうとした、「喪服の女」の手が止まった。

 

「?。如何なさいました?」

「....客が来た。招かれざる、な」

 

馬の嘶く声と共に、降りてくる黒き気配が「車椅子の老人」の前に、その姿を現した。

カツカツと空間を蹴って、魔馬に乗った四騎士と呼ばれし魔人のひとつが、同じ位置にまで近く。

そして徐に馬から降り、少し離れた場所にて片膝をついて「車椅子の老人」を見上げた。

淀みなくするりと今しがたあったことを、疑問に変えてそのままに伝える。そして、問う。

目の前の存在が、何者かを知った上で。

 

「....あの者、真の黒き希望の器とは」

「それは未だヒトなれば、詮無き事。だが....根拠は何か」

「....我が問いに、「ない」と答えたが故に」

 

意味を悟った「喪服の女」の、手がピクリと震えた。だが、「車椅子の老人」の表情は動かず。

咎められる言葉を発されなかった事に安堵したのか、魔人は続けて言った。

 

「....故に我ら、彼の地にてあの者を迎え撃たんと」

「そうか。それもまた、選び取りし道。加減は、要らぬ」

「....!!。」

「あれは、真に斃されはせぬ。その胸の内に在るものは、如何なるものにも消せぬ故に」

「....。それほどのものがあの者に、在りと」

「然り。今はまだ、その過程に過ぎぬ。....不服か、己の「役」が」

「....!。否。」

「いずれ解る。時満ちて、ここに堕ちて来たれば。....それを促すのは誰か」

 

その言葉を聞き、すうっと魔人の姿が消えていく。それを見届けて、くくっ、と僅かに響く声。

 

「どこまでも自らを由とするが、ヒトよ。故に、侮れば我が身に返る」

「....あの魔人は。未だ信じ難いようですが」

「それでよい。今は、な」

 

するすると閉じられゆく幕の向こうに、二つの影は消えた。

 

****

 

第3カルパ。燭台を置く場所で、禍々しい声と共に姿を現した連中に臨戦態勢をとった。けど。

 

「よく来たな。オマエがこの地に来た事で、運命の歯車は回り始めたぞ」

「輪廻とは、かくも巡りて繰り返す事よのう。されど我ら、その運命を越えんとする為に」

「堕ちた天使に導かれておる。オマエとて、我らと「同じ」であろう?」

「メノラー奪還に遣わされし魔人よ。わしらに勝てば、それらは汝の手に収まろうな」

 

現れては一方的に語りかけ、消えるそいつらに困惑していると4人目が、言った。

 

「幾つかの死を越えて来たる魔人・アラト。オマエに問おう」

 

メノラー争奪戦に、最終的に勝ち残る事。それが、「堕ちた天使」の望みに沿うと。

その時、「堕ちた天使」は、「最終決戦」とやらに赴く決意をすると。

そして、闘い続ければ....俺は、身も心人為らざるモノになるのだと。

それでも、連中と闘い続ける意思と覚悟があるか、と。

 

「無ぇよ、そんなもん」

 

いきなり現れてゴチャゴチャ言われて、簡単に返事出来るような事かよ。ふざけんな。

そう思ってきっぱり言い切ると、待っていた答えでは無かったのだろう。

そいつから、静かに怒りの感情が湧き上がるのが分かった。だが、戦闘にはならず。

 

「....そうか。ならばオマエに用は無い」

「あの御方の望みも混沌の悪魔の悲願も、()()()()()()()潰えるのみ」

「されど我らの希望を摘みとりしオマエを、許すわけにはいかぬ」

「覚悟せよ。我ら四騎士、混沌たるボルテクスの地にて汝の命を奪おう!!」

 

当然の成り行きだが、俺に宣戦布告をして、そいつらは消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、知ってない。だから、言った。それだけだ。

 




歯車は 回る 軋みながら 天を思って
我らは 駒に過ぎぬ だが 我らとて 意思は在る
故に許さぬ この死は 越えさせぬ
越えさせは せぬ 我らの全てで 阻もう


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捻じれし欲、高じて有漏(うろ)に満たさん

世界の片隅で 失せし威光を以って 嗜虐に浸り 
悦に籠りたる 水蛇在り 操りしは 蛤の玉なる秘宝 

水煙が変えたるそこは 全てが逆さま 水蛇の眷属が 
擬人を捕えて離さぬ獄 今日も 絶えぬ悲鳴が こだまする
 


「気ぃつけろ。ゴズテンノウが倒れてから捕囚所は」

 

マントラ軍の残党により、スラム化していると。ただでさえ気性の荒い連中は

トップの圧力から解放されて。そこでは、どいつもやりたい放題なのだという。

 

「ええ?何も無いただのビルだろって?いーや、ここは...」

 

立派な捕囚所だと、マネカタ達がわんさと捕まっていると。思念体は、きっぱり言った。

けれど。その気配は微塵も無い。あちこち開けてもみたが、何も、誰もいない。

 

「どーいうこった?だれもいねぇじゃねーかよ」

「思念体が嘘をつくとは、思えませんが」

『何かある筈なんだけどな、あーくそ、分からん』

 

....これは情報が間違っていたかと、思い始めた矢先。ある部屋を開けた時だった。

微かに聞こえた、「声」。かすかに、かすかに、途切れ途切れに。この耳に届いた。

 

「ミズチは....蜃気楼を使って....ボクらを閉じ込めて」

「....ダレか、蜃気楼の中に....助けに来て....っ!」

 

全員の顔が、それかと納得した。だが肝心の出入り口が無い。その辺りを一通り回って

廊下の角まで近づいた時だった。「何か」がいる。それに気付いて背筋に緊張が走った。

 

「アラト?どうし....むぐっ?!」

『しっ!静かにしろ、何かいる!』

 

そっと覗いてみれば一体の悪魔が、奇妙なモノの前に立っている。聞こえた下卑た声。

 

「ここはミズチ様の天下だ。待ってろよ、マネカタども」

 

僅かな隙に、どこかへ消えてしまった悪魔を追うものの何かが必要なのだと分かった。

結局、振り出しに戻った。装置を動かすための「鍵」。それが何なのかを知らねば。

 

「ホラホラぁ、頑張らねーと裂けちゃうぜええ~!!」

「ぎゃあーーーーーっ!!痛い痛い痛いですううっ!」

「止めてほしいかぁ?やめてほしいかぁ?イヤだね!」

「うぎゃあああああああーーーーーっ!!!」

 

そう思った時に聞こえてきたやり取りと悲鳴。あまりに悪趣味なソレに皆の目が据わる。

 

「....なんかよお、スッゲぇイラるんですけどぉ?」

「....奇遇だな、我もだ」

「聞きだすついでに、この際だしボコっちゃおうか」

「さーんせーい。フルボッコでいい人、挙手してー」

 

満場一致で、胸糞悪いあの悪魔を潰すと決めた。()()は生かしておけないモノ。

 

「オレは“コイツ”を持ってるから、いつでもここに来れるぞぉ」

 

しかも何か、鍵になるモノを持ってるらしい。ならば。全員が異論無く静かに頷く。

 

「な、なんだキサマ!って....もしや、キサマが()()っ!?」

『あの、ってのはどーいう意味だ。ああ?』

「あれだよ、決闘裁判の勝者とニヒロ攻めの事を言ってんだろ」

「そうなのかっ?そうなのかっ??」

 

そうだと答えると、ソイツは怯みながら武器を構えなおす。そして悪趣味過ぎるセリフを

吐いて突っ込んできた。ヤバイ、主がキレる。仲魔たちが天を仰ぎ見た。

 

「ここはマントラ悪魔の歓楽街だっ!ニヒロ攻めの武勇伝なんてっ!」

「どーする気だぁ?勝てると思ってんのかよ、腐れ外道が」

()()()()()()()で、帳消しにしてやるーーーーっ!」

 

それを聞いたアラトの目が据わり、こめかみに青筋を立ててこれでもかと怒鳴った。

 

『やっかましいわっ、この変態悪魔あああっ!!』

 

****

 

その後、ソイツは生かしてはおかずにボコボコにした。多勢に無勢もあるもんか。

そして俺がボソリと言った言葉が、その場にいた皆の気持ちを代弁したようなもの。

 

「マントラの連中って、こんなんばっかだな」

「決闘裁判の時も、そうだったよねえ」

「力に特化するとこうなるのか?我は、なれんぞ」

「んん?どうしたの、アラト」

 

『....俺は、変態は許さねえ。ここの親玉、絶対ぇブチのめす』

 

怒りではなく、気色悪さのあまり拳を震わせて呟いたソレは全員が思ったことだったが

流石に目的がすり替わってんじゃないかと、己が主にツッコミを入れる者は皆無だった。

 

****

 

ウムギの玉とやらを使うと、装置から煙が噴き出す。周囲から色という色が抜け落ちて

上下が逆さまになっていく。部屋だった場所はすべて牢獄として現れ、そこには。

 

「助けて!ここから出して!マガツヒを吸い取られて」

「ゾウシガヤに捨てられるのは、イヤです!!」

「やっぱりマネカタは....苦しむしかないんですか?」

 

階が下の牢獄に囚われたマネカタは、まだマシだった。上に行くほど生きているのかさえ

まるで分からない。響き渡るのは生きながらマガツヒを搾取されるマネカタ達の絶叫。

 

「チョット前に人間が来ましたよ。少年でした」

「ソイツは我らのリーダーと同じ、最上階にいます」

「人間は、マガツヒを沢山絞れるんです」

 

それを聞いて、「新田」が無事でいるかは正直分からないが行かなければ。マネカタの悲鳴が

心と耳を苛む中を、重い足取りで走る。頼む、無事でいてくれとひたすらに願いながら。

 

「....なあアラト。あのマネカタ、何してんだ?」

 

そう聞かれて、牢の1つを覗いてみると。こちらに背を向けて怪しい動きをしている。

だが声をかけてしまったのが悪かった。ポキリという嫌な音とマネカタの絶叫が響く。

 

「!!。げげげっ、スプーンが折れたあああああっ!!」

『す、スプーン??。そんなもんで、何をしてたんだよ』

 

ギッと生気のない目で睨み怒鳴りつけるマネカタは責任を取れと。ここの穴を掘るのに

スプーンが必要だと、マガツヒを搾取されながらも力の限り俺達に向かって、喚いた。

 

「どこかの牢獄に、何でも持ってるガラクタ集めがいる」

『!?。あいつがここにいるのか!』

「知り合いか、なら話は早い。そいつから貰って来い!」

 

責任だぞ!!と言って待ちの体制を取るマネカタに逆らえず、捜したが見当たらなくて。

 

「なあ、これって蜃気楼と現実を行き来しなきゃ」

『....そうみたいだな。行くぞ、絶対ブチのめす』

 

嫌も応も無く、捕囚所の攻略に踏み出した。ミズチとやらをブチのめす事を心に誓って。




嗜好を理解するのは 難しい 常識も 理性をも 払い除ければ
或いは可能やもしれまいが その先に在りしは 禁忌の扉のみ
ヒト為らざる身ならば 躊躇いなど もはや とうにあるまいが 

ヒトで在りたくば けして開けるべからず


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水泡(みなわ)舞いたる清き流れ、主を得ん

忘れられない痛み 居場所無き者ゆえの それでも 
共に在りし時 間違う事なくあたう限り 持てる全てで  
守りたかった 小さき世界 私は きみに なりたかった


現実と蜃気楼世界を、手に入れたウムギの玉を使って、行き来する。

 

色という色が失せた反転世界は、マガツヒの色だけが鮮明で聞こえるマネカタ達の

悲鳴が、より心に強い恐怖心を煽る。但し、ここにいるのが普通の人間なら、だが。

 

『ガラクタ!生きてるか?』

 

1つの牢屋を覗きこめば、そこには確かに彼がいた。ただ、ここが薄暗い所為(せい)

その表情までは流石にまったく読めないけれど、生きていてくれた事に安堵する。

 

ゲホッと咳をしたガラクタに経緯を説明し、スプーンを持ってないかと問いかければ

千円札探しでの礼だと言い、たまたま持っていたというスプーンを取り出したのだが。

 

それをただのスプーンと呼ぶには....かなり、禍々しいモノをくれた。

 

「....これ、スプーンって言っていいの?」

「どっちかってーと、スコップじゃねーのか?」

「こんなもん、どこに持ってたんだコイツ」

 

あくまでスプーンだと言うガラクタに、首を捻る仲魔たち。首狩りスプーンという

ソレはどうみてもその域を越えていたが、これで納得してもらおうという事にした。

 

ついでに助けてくれると嬉しいと言うガラクタに、ちょっと待ってろと告げる。

手短に、ここで優先してやらなくてはならない事があるという事情を説明して。

 

「わかったよ。きみたちが来るのを待ってる」

 

足早に元来た道を戻って、あのマネカタの所へとひた走った。持ってきたスプーンを

見て随分と驚いていたが、さあ掘るぞと床を掘り始め最初のひと当てで大きな穴が。

 

「!!。すごい掘れ味だ、一瞬だったな。よおし、これで」

 

こんな所ともオサラバだ!と叫んで、勢いよく穴から飛び降りた。だが、簡単に済む

筈がないと暫く経って分かった。そこを後にして移動中に聞こえた声がそれを教える。

 

「ちくしょう!。牢獄からは出られても蜃気楼からは」

 

捕囚所のトップであるミズチを斃さないと出られないと、悔しがる声がした。

 

そうして蜃気楼と現実を彷徨い、漸く辿り着いたそこには巨大な半透明の大蛇の姿を

した悪魔が悠然と待ち構えていた。だが。手下が手下ならボスもボスだと呆れ果てた。

 

それは、ソイツが俺達に言い放った言葉の所為なのだが。

 

「....どいつもこいつも拷問だなんだと」

 

他に言う事無えのか。力に心酔するヤツはその強さで以て、弱い者をどうにでもして

いいとでも思ってんのか。その理不尽な行為に対して抑えられない怒りが、猛り狂う。

 

けれどなぜ、これほどに激しい怒りが湧くのか。今と同じ感覚に憶えがあるのは何故か。

だが、そんな事を疑問に思い....気にしたのは、ほんの一瞬だけだった。

 

 

「ン?。ナンダカ オマエ、デカクナッテナイカ??」

 

気付けば攻撃を受けた所為で少し縮んだミズチと、俺の視線が近づいていく。

気のせいだと虚勢を張りながらも、段々()()は目に見えて分かり始める。

 

「ヤッパリ オマエ、デカクナッテナイ???....イヤ、モシカシテ」

 

そのうち、とうとう俺らの目線よりも下になって初めて、ミズチの顔色が変わった。

 

「!!。ヌヌ----ッ!?。ワシガ シボンデルノ?!」

『遅っせえんだよ、気付くの!!これで終わりだっ!!』

 

最後の一撃を食らったミズチが絶叫し、断末魔と共にかき消えて蜃気楼の仕掛けが

解けていき、もともとのあるべき現実世界へと周囲の様子が戻っていった。

 

『....くそったれが。反吐が出んだよ、お前らみたいなのは』

「アラト、息上がってんぞ。力みすぎたんじゃねーか?」

 

同じように、ぜーはーと呼吸が荒いお前らが言ってもな。説得力無いだろうと笑った。

そうしたら何言ってやがるんだよと返されてから、ど突かれた。主にすることか?。

 

やれやれと思いながら立ち上がる。ミズチは斃したが、「新田」はどこだろう?。

 

「部屋は二つ。アラトのダチはどっちにいるんだ....って」

 

仲魔が言いかけたその時。二つの部屋のうち1つの扉がガラリ、と開いた。

 

すると何故だか。どこで鳴らされたのかすらわからない非現実的なほどの涼やかな

鈴の音色と共に、この世界になってからは永遠に失われて久しい、そう思える様な。

 

とても清浄な、水の匂いがした。風でも空気でも無く、水と思ったのは何故なのか。

 

そしてそれはギンザの噴水のものでもなく、回復の泉のものでもない。

この世界がまだ「東京」だった頃に、県外の自然に溢れた山奥の水源で嗅いだもの。

冷たくてきれいな事に感動した、記憶の欠片が頭の中を()ぎっていった。

 

『....なあ、今さ、鈴の音しなかったか?』

「はあ?。なんもしねーぞ。耳、大丈夫かよお前」

『....だよな。気のせいか、やっぱ』

「!!。ちょっと、誰か出てくるよ!!」

 

仲魔のひとりが気付いてそう言うと、全員に一斉に緊張感が走った。

視線をそっちに向けて見てみれば探してる新田かと思ったら、違った。

 

そいつは、一瞬だけどマネカタの格好をした「人間」に見えた。

 

少し長めの黒髪をてっぺんで結い上げていて、他のマネカタには無い雰囲気を持つ。

何より目が生きてるというか。聡明、と言えばいいのか。理知的で明晰、と言うか。

 

マネカタなのに今まで会った彼らの中で最も「人間」に近い、そう思った時だった。

 

低くて凛とした声で、そいつは俺に向かって言った。

 

 

「私はフトミミ。知っているかもしれないが、少しばかり未来を視る力を持っている」

 

 

また、涼やかな鈴の音が聞こえたような気がした。

 

 




憧れたるは 真逆なる存在 焦がれたるは 孤独無き世界
私は 俺は 必要とされたかった もう一度 もし 叶うのならば
夢に見た そこで 生きたいと 願って願って 願い果てた


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遍(あまね)く輝きを消し、堕ち来たるは誰ぞ

聞け 定まらぬ者よ 汝 このまま向かわば 彼の地にて
その名に 相応しき最期と為ろう 然らば 堕ちたる種子の
階となりて 汝 その命の輝きを失せし時こそ 我が胸に
その全てを 迎え容れようぞ




「人のような、悪魔のような。君が"人修羅"か」

 

そう言う、マネカタにしては何かが違うそいつは俺に礼を云いそういえばと。

言葉を足して告げたのは、この向かいの部屋に捕らわれた"人間"がいると。

 

そして何の根拠があるのか妙な事を言った。()()()()()()()()()()()()から

直ぐに会えと。妙な気って何だよ?。何だかよくわかんねーな。

 

「他のマネカタが気になるので、私はここで」

 

失礼するよ、と言って足早にソイツはここから出て行く。本当にマネカタか?。

あまりにマネカタらしくない、と言うと、それはそれでおかしな話になるけど。

 

「(「新田」がどうしたって云うんだ?まさか)」

 

首の後ろがざわり、何故か嫌な感じがしてガラリと扉を開けたそこには。

 

淡く光りながら回転するターミナルに手をかざして何かを読んでいるように

見える「新田」が、立っていた。ターミナルに刻まれた文字だか記号だかが淡く

光を帯びて回り続けていたが、俺が入って来た事でその動きを止めた。

 

その途端、「新田」が俺に気付いて振り返った。尤も。驚いていたのは最初だけ。

直ぐに、いつもの態度に。そして....責めるような、苛立ちを隠さない言葉。

 

「もう....オマエとか「裕子先生」とかアテにしねぇし」

 

関係無い、と。表情を曇らせながら言った。こんな世界である以上、誰もが

自分の事で手一杯で、助けてくれる者などいない現実を思い知ったと言って。

 

1人で生き延びて行くしかないんだと、俯いた。だが直ぐに顔を上げて

挑むような眼差しで俺を睨んだ時、また1つ、何かが定まった気がした。

 

流されず意思を灯らせた新田に応えるように。まるで移動時のように高速で

ターミナルが音をたてて、回り始める。何処かに、行先を決めたかのように。

 

「真理を求めよ、って声を聞いたんだ」

 

そう言われ思い出す。ここに来る時に俺も橘も内容は違えど声を聞いた事を。

それが、「新田」にも聞こえたってのか。なら、「新田」も。「橘」と同じ様に行くのか。

 

「俺は、誰の手も借りずに道を開いた。俺を導く力へ、な」

 

真理なんてもんは、自分の中に見つけるしかないんだと。今、自分が求めてる

その真理とやらなモノは、どうしてかアマラ経絡の向こうに在るんだと言って。

 

一際眩しく光った瞬間、ターミナルに吸い込まれて行ってしまった。

思わず後を追おうと手で触れたが、俺には全く反応しなかったけど。

 

「....「新田」まで,コトワリを目指すのかよ」

 

()()()()()()()()()()()()()。一瞬()ぎった事に、その時は気にも留めずに

つい、ターミナルを蹴った。分かっていても蹴らずにはいられなくて。

 

どうしてだ。俺が来るのが遅かった所為(せい)か?。後手後手に回って「橘」と同様

また取りこぼしてしまったのか。この手から。思わず、拳を握り込んだ。

 

「アラト、大丈夫?」

「あのヤロウ、消える前にぶちのめせりゃ」

 

『....大丈夫だ、何ともねえから』

 

ガラリ、と扉を開けて表に出ると生き延びたマネカタ達とフトミミとかいう

リーダーのマネカタが立っていた。さっさと逃げればいいものを俺に世話に

なったからと改めて礼を言いにきたんだと聞いて、ちょっと驚いたな。

 

ずいぶん律儀だなと半ば感心しているとソイツがまた妙な仕草で目を閉じて

何かを聞いていた。マネカタ達が苦しむ事のないよう生きるにはどうすれば

いいかを考える為に皆で旅立つと告げたあと、ソイツは。

 

「君を待っている男がギンザにいる」

 

だから会いに行くといい、と。そう言って去って行った。....予言、ね。

信じ難いけど他に何かあるでなし。何とも不思議なマネカタだと思った。

 

アイツだけが何故違う?。今は考えても仕方ねーかなと考えるのを止めた。

そして言われた通り、取り敢えず皆でギンザへと向かう、その道すがらで。

 

俺を待っている男、と聞いて何となくというよりは思い当たる相手について。

もしやという予感めいたものではなくて、確信といってもいいものはあった。

 

****

 

『俺を待ってるヤツって言ったら誰だろな』

 

「....アタシ、1人知ってるんだけど」

「....偶然だな。オレも1人、いるぜ」

「ワレモ、1人知ッテイルゾ」

「てゆーか、アイツしかいないだろーが!!」

 

 

全員で顔を見合わせて「だよなー、やっぱり」と吹き出した。

 

 

「まぁた、何か頼まれるんじゃねーの?」

『そうかもな。でも次への切っ掛けにはなるぜ』

「アタシ、アラトがパシリに使われるのイヤよ」

「パシリゆーな。情報源って言ってやれよ」

 

『なんだっていいさ。手を(こまね)くよりはマシだ』

 

前向きなんだか後ろ向きなんだかわかんねーな、主はと仲魔からそう言われて。

そうか?と首を捻ったけど。....本当はな、あんまり好きじゃねーんだけどさ。

 

あの時。フトミミが言った、仇名?種族名?だかの、俺の名を。

"人修羅"という呼び名の意味を、その時垣間見た気がしたんだ。

 

今の俺は、人であり悪魔であり、そのどちらでも無いイキモノだ。

それでも未だ心は、「人」だと思っている。その理由は....。

 

「おい、何ボサッとしてやがる。行かねーのか?」

『....悪い。よし、サクッと行ってみようぜ』

「ハズレタラ、罰ゲームカ?」

「今回はハズレ無しよ、さすがに」

「無い無い。全員当たりだろ、()()()()()だよなー」

 

そうそうー♪と、全員が満面の笑みとか、ノリいいよなホント。

 

****

 

そのまま、なんかよくわかんねーノリで、ギンザに着いた。そして。

ターミナルに、必ずいると言えるかもしれない()()()が立っていた。

 

 

「おっ?。アラトじゃないか」

 

 

期待を裏切らねえなあ、と思ったのは秘密だ。




来い 来い 来い 全てを け散らし その名の如き 
漆黒の闇を纏いて ここへ 二度と出られぬ 果てへ
至れ 道を違わず 全ては その為の布石 堕ちて来い
我らは ここで おまえが足掻く様を 見ているぞ 


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闇に淡き蛍火、路を照らす燐光にあらん

昏き希望よ 我らが闇を真の闇へ 堕とす者よ
まだ来ぬか まだ来れぬか 未だ足りぬか
あとどれだけの 赤き霊(ヒ)を お前の身に
捧げれば 事足りるか まだ足りぬか 測れぬ

未だ整わぬ かの女の 代わりには


前後左右、当たり前だけど真っ暗だよなぁと思いながら。

 

駅員さんの思念体が言ってた「坑道」を歩く俺ら。幸い、ライトマ持ちもいれば

光玉も持ってたから良かったけど、まさか地下鉄を歩く羽目になるとは。しかも。

「長ーーーーーーーーい穴」っつーから、一本道かと思ってたら大間違いだった。

 

ダメージを受ける床とか長すぎるだろ。それにハシゴで降りて行くって、何なの。

まるでモグラか蟻の巣じゃねーかよ、穴は穴だけどな。それに何が不便ってなあ。

 

『!!。あーーっ、消えちまった!。あーもうっ!!』

 

静天になると魔法もアイテムも、効果が切れてしまうという事。こうなると後は。

 

「適当に進むんじゃねーよ、アラトっ!」

『しょーがねえだろ!。カグツチが動かねえことには使えないだろが!』

「だからって落とし穴めがけて行ってはなりません、アラト殿!」

「好きで行ってるワケじゃないから許してやってーー!」

 

思わぬ所に落ちたり辿りついたりを繰り返して少しずつでも歩を進めるしかない。

アイテムが尽きないように、逃げる事も必然になった。そうやって進んで行って。

そして「岩戸」を開けた先にいたのは駅にいたオニが言ってた「強そうなオニ」。

 

力が全てなマントラ軍を追われたとは言え、確かに3体とも強かった。

個人的には、魔法を使えるヤツもいたけど総じて腕力バカばっかだなという印象。

けれどソイツ等の兄貴分とやらが最後に現れた時、明らかに段違いの強さを見た。

ただの腕力バカかと思いきや、魔法とは明らかに違う"異能"持ちな事に驚いたな。

 

「身の程知らずな、たわけ者め。我が幻術を以って己が浅はかさを味わえ!」

 

その兄貴分のオニ、オンギョウキが何事かを呟くとその姿が四つに分かれた。

(まこと)は1つとは限らない、憶えておけと言った事にムカついたのはよく見れば

とある現象に、気付いたからに他ならないのだが。

 

「くそう!。どれが本物じゃーーーーっ!」

「外してばっかじゃん!。ジリ貧じゃないの!」

「おい、アラト!。何ぼーっと....」

 

自分達の攻撃を尽くかわされて苛立つ仲魔を尻目に、渾身の一撃を叩き込んで皆を

悩ませている"分身"を解かせて、ほくそ笑む俺に。驚いたオンギョウキと、仲魔の

視線が一気に集まってくる。気付けば簡単な事だけど、意外と見落とすもんだよな。

 

『いつもは、くそ忌々しいカグツチが俺らの味方って事だ!』

 

その術、見切ったぜ!と、してやったりな顔の俺にまんまと術を破られたソイツは

物凄く激怒したが、もう遅い。分かってしまえば無効化したも同然だ、()()()()()

 

『俺が指すヤツが本体だ!。今度は外すなよ!!』

「何かよくわかんねーけど、分かった!」

「後で教えてよね!。行くわよ!」

 

"分身"を無効化する事は出来ても、伊達に兄貴分やってねーな。ホント強かった。

どうにかこうにか斃せた時には俺らもダウン寸前だしな。....要強化、だよなぁ。

移動事項が生じる度に、そこに向かう前にはそれなりに強化してきたけど。

 

思った以上に、強化すべき点が....まだ足りないのか。全員のスキル、見直すか。

そんな事を考えながら回復アイテムで一息ついてた所に、仲魔達が件の"分身"を

見破れた理由を聞きに来た。....あー、そういや説明するって言ったっけ、確か。

 

人差し指を上に向けたけど、そんだけじゃ分からないか。説明文が要るかやっぱ。

上を指差したまま、簡単な事だと前置きして大した事じゃねーよと一応付け足す。

 

『突入時のカグツチが、煌天だったんで足下に影が出来てたんだよ』

「!!。よく見てんな。やるじゃねーか、さすが主」

「我ら皆、そこまで見てはおりませなんだ。感服致しましたぞ!」

「はー。見てる所が違うわね、驚いたわ」

 

初見で気付ければ、もっとダメージを軽減出来た筈だったからそこは悪かったと

素直に詫びれば、素直過ぎて気持ち悪いと返されるとかお前ら酷くねーか?おい。

 

『ともあれ、オニ退治は無事終了だ。さっさと抜けて、外に出ようぜ』

「おー。もう穴ぐら探検は暫くやりたくねー」

「ですが、新たな発見もありましたな」

「ああ、そうね。確かにアレはビックリしたけど」

 

新たな発見?。何の事か分からなくて聞いてみると、はあ?な答えが返ってきた。

 

「主どのの御身にあるその紋様が、闇の中では」

「淡ーーーーく、光るんだけどよ」

「らいとまノ、カワリニハ、ナラヌトイウ事実ダ」

 

あまりにも、しょーもない発見とやらにがっくりと項垂れたがその内ムカついて。

 

『....お前らな。本気か、おちょくってんのかどっちだ!!』

「ほらあ!。やっぱり怒ったじゃないの!」

「アラト殿!。落ち着かれませ、けしてからかっているわけでは」

「最後まで聞けや、単細胞主!!」

「悪気ハ無イ!」

 

落ち着けと宥められながら歩くイケブクロ坑道の、出口に近づいた辺りで肩に乗る

ピクシーが俺にこっそりと耳打ちして、さっきの続きを教えてくれたけれどそれは。

 

「あのね、蛍火みたいで綺麗ねって話してたのよ」

 

は?。....何だよそれ。聞いた俺の方が恥ずかしくなるだろ。

もっと早く、できれば坑道にいる内に言ってくれよ恥ずいわ!。

 

「?。どしたー?。顔赤いぞ、風邪でも引いたか」

「あほか、おぬしは。我が主が風邪など召される筈がなかろう」

「何だとう!。おい、表出ろ!。へこませてやらぁ!」

「ふふん。我に勝負事で勝とうなど、1000年早い!」

「ヤメヌカ、単細胞ドモ!。アアモウ、面倒ナ」

 

赤面する俺を尻目にぎゃあぎゃあと言い合いながら仲魔達が我先にと出口へ走った。

....あのさあ、一応お前達の主な俺よりも先に出てくヤツがあるか。聞けよおい!。

 

そうして仲魔達を追いかけて外に出てみれば、久々の、砂漠の風。

 

どこまでも砂と砂塵が舞うこの砂漠に、嘗ての「浅草」だった場所がある筈だ。

マネカタたちが、自分達の街だと定めた「アサクサ」に至る道へと踏み出した。

 

けれど。そこでまた、闘う羽目になる事をすっかり失念していたのは今ならば

完全に俺の油断だったと言うしかなかった。忘れていた、と言うのが正しいか。

 

 

 

 

 

「ははっ!。また会えたな、アラトっ!!」

 

 

 

 

 




さあ 我らと巡り会えたる事を 喜べ
我らは皆 あの御方に応えんが為に 殉じる
手は抜かぬ 生き残る道を捨て 斃れる身でも
お前の目覚めを呼ぶ者を 導く担い手と為らん


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泥土の偽命、界繋(かいけ)に囚われ

泥人形は覚めやらぬ夢に 酔いしれ
誰も未だ気付かぬは もはや必定か
ひたひたと忍び寄りしは 世界を壊す者
汝らを贄として 喰らいつくす御使い也
 


「ようこそ!マネカタの街、アサクサへ!」

 

ああ、何度言ってもイイ響きだぁ~と上機嫌のマネカタの挨拶に驚く。

 

珍しく感情に溢れたマネカタ達に、虐げられてきた暗さは見えない。

悪魔達の糧として、最下層の存在に追いやられ扱われてきた彼らだから。

やっぱり自分達の居場所が出来たって事が余程嬉しいのだろうと思った。

 

表情は相変わらず微動だにしないけれど、明るい言葉の調子が疲弊して

ささくれ立ってた俺の感情を、何となく少しだけ明るくなった気にさせる。

そうして、歩く道すがらに短い会話をしながらターミナルがある引き戸の

前に立った時だった。....ざわり、と背筋が粟立った。

 

....とてつもなく恐ろしい悪魔、"魔人"の気配がしたから。

 

『あっちゃあ....忘れてたぜ』

 

そう思った瞬間、地面に赤黒い穴が生じて俺は真っ逆さまに落ちてった。

毎回変わらねえよなと思う、見渡す限りの赤い砂塵舞う殺風景な場所で

気配を辿ろうと神経を集中しながら、視線だけを動かしていると。

 

カカッ、と馬の蹄が鳴る音と共に天を駆け地を蹴る馬に乗った死神が出た。

ああ、確か四騎士とかいうのの内のどれだっけな、と記憶を辿っていく。

体中に目がある白馬、かなり大きい弓矢を番え濃い灰色のローブを纏った

骸骨なんてもんは下手な悪魔より数段怖いなと思う。それは、何故か?。

 

骸骨(されこうべ)が、間違う事無くヒトに根付く”死の象徴”だからだろう。

 

あくまでもヒトは見下し蔑む対象だとでも言いたげに、目線より上の位置に

滞空しているソイツは俺を目下に見ながら、高らかに嗤って言い放った。

 

「全てはメノラーの導き。その輝きは唯一の主人を望んで引き合い燃え上がり」

 

我らを巡り会わせると嬉々として語るソイツは、まるでこれから

始める事を心待ちにしていたかのように嗤いながら、しかも俺が

全ての魔人を斃してメノラーを手にするなら、それも良しと言う。

 

だが次の瞬間、骸骨でありながら表情が変わったんじゃと思わせる程の

焔のような殺気を噴き上げて弓を構え、その矛先を俺に向けて吠えた。

 

「だがオマエに力無くば、このホワイトライダーの神矢に斃れるまでよ!!」

 

ちょっと待て、死神のくせに増援、しかも天使を召喚するだと!?。

流石に格が上がれば何でもアリか?。ふざけんなよこのヤロウ!!。

 

「攻めて来い!。臆病風な守りなど、俺が許さんっ!」

 

ちっ、増援はヴァーチャーとかいう天使か。面倒くさいスキル持ってるな。

ん?。天使って事は()()が効くか。よっし、先に増援封じてやる。

 

「我は請う、あれなる御使いの脈動止めりて石と為せ。石化眼(ペトラアイ)!!」

 

仲魔が放った呪殺属性の石化魔法は、反属性の天使には高確率で効く。

天使の破魔は厄介だから、先に潰しておかないとヤバい事になるからな。

増援による援護射撃を封じられた所為で、魔人がキレ気味に叫んだ。

 

「おのれ小癪な真似を!。だが俺の攻め手を防げるとは思うなよ!」

『思っちゃいないが敗けるつもりは無い!。来いよ、死神野郎!』

 

 

 

....俺なりに、強化してきたつもりでいたんだけどな。

 

あの後ターミナルに入る前に寄った邪教の館で、俺は溜息をついてた。

 

これまでの魔人戦とはシャレんなんねー闘いを余儀なくされた俺たちは。

スキル強化や戦法を、一考も二考もしなけりゃならない現状を鑑みる事を

改めて思い知らされた。....四騎士って看板は、伊達じゃないらしい。

 

「強化の為の合体じゃろ?。躊躇うでないぞ主」

「そうそう。我らは恐れてなどおらぬ、いい加減分かられよ」

「オメーが強くなってんのに、俺らが弱くてどーすんの」

「でも、あの小娘(ピクシー)は強化に留めなさい。主様には必要ですから」

「ワレラミナ、オマエト共ニアル。ソレヲ覚テオケ」

 

一番最初の仲魔であるピクシーを”変えない”理由は、個人的な感情であって。

それを皆が知っていて、咎めもせずに容認してくれている事は甘えだと思う。

彼女が変えてくれと懇願しているのを、無視している事に他ならないのも。

 

でもこれより....先に進むために、俺は。

 

「どうしても出来ぬか。ならば無理をせずともよいだろう」

 

邪教の館のオヤジが、やれやれと言いながら解除する。

ピクシーが羽音をたてて俺の傍に飛んできて、蹴りを入れた。

 

『....痛ってーな。何すんだよ』

「ホント、馬鹿。アラトってお子ちゃまね」

『....うっさい。子供だろ、未成年なんだぜ俺』

「はいはい。おねーさんが一緒にいてあげるから」

 

ちっさい手で撫でられて、安堵するのも大概どうかと思う。けれどあの時。

悪魔しかいない病院で一緒に行ってあげると言われた時の、あの気持ちを。

 

今も消せないことを弱さというのなら、もう消せなくていい。

ヒトが持つ感情を持ったまま進むのは、より困難な道であっても。

 

『....前も言ったが俺が敗けなきゃいいだけだ。違うか?』

「違わないけど主を支えられないのも辛いのよ?。いつかそれを」

 

()()()()()()()()()ね、と撫でられてしまった。どんな状況になったら

そんな事になるんだよ。苦戦はしたけど、お前ら弱くはねーぞ?と言ったら

全員で顔を見合わせて苦笑いしやがった。理由を聞いても答えてはくれない。

 

(わかんねーけど....いつまでも落ち込んでいられない)

 

気を取り直して、多分来ているであろうあの人を頭に置きながら。

邪教の館を出て、元々の目的地であるターミナルの扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、現人(アラト)。やっと着いたか....って、どうした?」

『....いえ。何でもないです、「聖(ヒジリ)さん」』

 

 

 

 

 

 

 

....もうフラグ回収って事で、いいのか。なあ、金の髪のチビ。

俺が、いっつも後手後手んなるのはさ、そういうことなんだろ?。

 

 




悲しい哉 ヒトの性(さが)よ 
どれだけ機転を利かせ 先を読んだとて 
それは それさえもが 大いなる存在の御手で 
踊るに等しき哉 流した血の多さも そして 
喪った命の輝きも 全ては 彼の御許にて

次なる世界の 糧と為らん 


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末那(まな)持て苦輪に堕ちし、形代なるもの

十重二十重に 業を積みしものよ
汝が罪科 永劫の鎖となりて繋がん
汝が自覚無きは 正しき道理なり

汝 果て無き生々流転を以て 
赦しを請われぬ 己が定めを呪え


ターミナル....否、”アマラの転輪鼓”が淡い光を放ちながら高速で回る。

頭の中に流れ込んでくる映像(ヴィジョン)は、見たことのない景色を映していく。

 

その建物の周囲の地面は有漏(うろ)のように真っ暗で底が見えず、砂が流砂のように底へ落ちて。

離れ小島みたいなその場所に建っているのは、何階あんのか想像もつかない高い高い塔だ。

外側の壁には、まるで血管みたいな線が幾何学模様のように幾筋も走っているのが分かる。

 

....何かこういうの、授業で習ったっつーか教科書で見たっつーか。

いや、テレビか?。エジプトのどっかにあったんじゃなかったっけ。

....でもあれは建物じゃなかったと思うんだけど、違ったか?。

 

そして視線を移すと、空から赤い何かが塔の天辺へと吸い込まれていくのが見えた。

赤い何かは、まるで”何か”に呼ばれているかのように集まり、吸い寄せられていく。

 

「見えるか?。こいつはな、チヨダにあるオベリスクだ」

 

「聖(ヒジリ)さん」の声が映像に被さる。ああ、ここ千代田か....って、オベリスク?!。

何でそんなモンが....って言うだけ無駄だよな。何でもアリだと思えば、驚きも減るぜ。

しっかしイケブクロのビルより全然高っかいだろ。エレベーターが無いとか言うなよな。

 

「ここがナイトメア・システムの核、新たなマガツヒの集積所だ」

 

....「氷川」の、真の拠点。なら、間違いなく先生もいる。今度こそ、会える。

俺は、あの時答えてもらえなかった事を「先生」から聞かなきゃならないんだ。

 

「出来りゃあ自分で乗り込みたいが、俺にそんな強さは無い」

『.............』

「けど、このままにしていればみすみす、世界を「氷川」に渡すようなもんだ」

 

目の前の映像(ヴィジョン)が眩しい光の中に収束した瞬間、転輪鼓は止まってた。

元の薄暗いターミナル部屋で、さっきまでの光の残滓にチカチカする両目を擦る俺に

「聖(ヒジリ)さん」が”次の目的”を寄越したのは、もうあの人の役割のようにも思えた。

 

「どうだ?。現人(アラト)、お前が行ってきてくれないか」

 

オベリスクの作動を止め、マガツヒの流れを本来の元の状態に戻せば少なくとも奴の

このまま独走状態な一人勝ちは、なくなるだろうな。でも、どうやって行けって??。

 

「ニヒロの第2エントランスのターミナルを使ってくれ。ロックは外しとく」

 

仲魔達からパシリだなんだと言われてもあんま腹立たしくならないのは、この人が単に

次への目的を言って終わりじゃなく、その後に続く大人だからこその言葉があるからだ。

例え()()が計算されたもの、或いは逆に他意は無く、儀礼的なものだとしても。

 

「随分な高さだし、どんな悪魔がいるかもわからん。巫女とやらの力も」

 

侵入することそのものが既に命懸けなのも理解した上で、それを言えるのは....なあ。

 

「だが、お前の力ならやれる筈だ。よろしく頼む」

 

ガラリとターミナル部屋の引き戸を開けて、外に出たあと直ぐに向かう気になれず。

俺は魔人との遭遇の所為で、まだやっていないアサクサの街の散策をする事にした。

 

「聖(ヒジリ)さん」は俺という存在を認めているのか怖れているのか、蔑んでいるのか。

それともこの世界の特殊性だからという事なのか、今なお知れずまた、定かではない。

そして、悪魔化してるとは言え、自分よりも年下の未成年(ガキ)に頼らざるを得ない事実を

芯から受け入れているとも思えない。だからこその、”ギブアンドテイク”なのだろう。

 

お前に頼んでおいてなんだけど悪いな、と言いながら大して悪びれもせず、自力で

アサクサのターミナルを攻略して。ここに辿り着いた自分の力を自画自賛する辺りは

まぁ確かに分からないでもなかった。特に誰が褒めてくれるワケでも無いしなぁ。

 

マネカタ達が、ここら辺のドブ川でさらった黒い泥から作られていると言って

彼らの故郷であり復興させようとするのも分かるな、と感心していたっけ。

 

 

「おお!。どこの悪魔かと肝を冷やしたが」

 

大地下道で出会ったアンタじゃないか!と見覚えのある爺さんマネカタが声をかけた。

あーそういや会ったな、懐かしいって程の期間でもないんだけど。勿論、覚えてるぜ。

 

その後どうだ?と聞かれて答えると、爺さんもここでの暮らしが満更ではないようで

やっぱりマネカタらしからぬ言葉とリアクションに、思わず苦笑いしちまったけどな。

 

「フトミミさんには、もう会ったか?」

『いや、まだ来たばっかだし。これから見て回ろうかって』

「そうか。フトミミさんなら我らの聖地、”ミフナシロ”におるぞ。挨拶してこい」

『ミフナシロ?。ってか聖地なんだろ、俺行っていいのか』

「バカモン!。幾らアンタでも中には入れんわ、入口までじゃ」

『ふーん。わかったよサンキュ、じーさん』

 

聖地とやらに向かう道すがら、あちこちで頑張っているマネカタ達に話しかけると

アサクサでの皆の様々な話が聞ける中に1つだけ....妙に、気になることがあった。

 

「皆の和を乱す、悪いマネカタがいるわ。気をつけてね」

『....悪いマネカタなぁ。どんぐらい悪いんだ、ソイツ』

「マネカタの皮を剥ぐ、ヒドーなヤツよ」

『....皮を剥ぐ、ってマジで?』

「悪魔も例外じゃないかもしれないから、気をつけてね」

 

仲間を襲って皮を剥ぐマネカタが、アサクサのどこかにいるらしい。

皮を剥ぐ理由は今一つ分からねえけど、マネカタが仲間を....襲う?。

そんな事、全然想像出来なかった。悪魔に襲われる、ならまだ分かるが。

 

『ともかく、気を付けるに越したことはないか』

 

マネカタだと思ってたら、とんでもない反撃をくらうかもしれないしなと思った。

........それが、正しい判断だと知るのは、ずっと後のことになるのだが。

 

 

 

 

 

「オレはマガツヒを集め....いずれはそれで悪魔を支配してやるつもりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




型に定まらぬもの 定められぬもの
お前は何処に行くか 何処にも行けぬか
未だ彷徨えし 2つの姿持つものよ

惑え 迷え 小さき世界をその手で
みたび血と瓦礫に 変える時まで


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善在りし生に及びて、苦果免れし叶わず

見えまいか 見えまいな お前には
己が身に 絡みつく未来の 黒き糸が
未来と呼ぶ 死出の道への 赤き血の糸が
お前の為に積まれた 泥人形達の屍から

お前の全身に絡まり その四肢を
ただの泥へと 返さんとする様を



壁や天井、床に至るまで夥しい量の血に塗れてマネカタが倒れていた。

そのマネカタに声をかけて起こそうとする俺を、仲魔が止めにかかる。

 

「アラト、よせ!。見るんじゃねえ!!」

『まだ息がある!。今ならまだ助かるかもしれねーだろ!!』

「バカヤロー!。普通のやられ方してねえんだ、お前にゃキツイって!」

『はあ?。何を言って....うっ!?』

 

........悪魔化して、初めて他の悪魔をこの手にかけて以来だ。

 

あまりの惨状に思わず手を離し、口を押さえて隅っこまで走って(うずくま)る。

幸い、あんまり食ってなかったから酷くはならかったんだけど、それでも

仲魔に背中を擦られながら、涙目んなってもうひたすら吐いてた。

 

........こんな感覚は本当に久しぶりで、めちゃキツかった。

 

「あーあ、言わんこっちゃねー。大丈夫か?」

「吐いておしまいなされ。されば楽になりましょう」

「悪魔でも、こんな嗜好を持つヤツはそう多くはないわね」

「マネカタが言ってたヤツではないかのう。ほれ、あの」

「ヒドーなヤツか!。近くにいるかもしれんぞ」

 

そういや言ってたな、じゃあコレはソイツの仕業かよ。胸くそ悪い。

変な話、順応力があるのか吐きまくった所為なのか、そこから先では

しんどいことに変わりはなかったけれども、もう吐くことはなくって。

 

先へ進むとマネカタが血に塗れて震えていた。

この奥で、マネカタが暴れている!と言って。

 

扉の奥から確かに強い妖気が感じられて。一つ頷き、気を引き締める。

そっと扉を開けると、ブツブツ言いながら何かをするマネカタがいた。

よくよく聞いていれば何かを剝がす音と、肉塊を捏ねるような音だ。

気付かれないようにしたつもりだが、思わず凝視してしまったらしい。

 

「~~~~~っ、誰だっ!!」

 

立ち上がり振り返ったマネカタは、明らかに今まで見たのとは違った。

口元を布か何かで縛り隠し、服には何かを縫い込んでいるようだった。

何枚も繋ぎ合わせた物が何なのか遠目では分かりづらく、目を凝らす。

服のあちこちを染めているのは赤黒い血の染みで、返り血を浴びたか。

 

そして、それが何であるかを理解した俺は思わず半眼になった。

口元を隠す布も、服を覆うように縫い付けられたそれらも全て。

 

「なんだあ?。オレ様のコレに興味があるのか、お前」

『マネカタ襲って皮剥いでんの、アンタか?』

「そうだぜ。大人しくマガツヒをよこさねえから、当然だろう」

 

殺された時の苦悶の表情のまま剝がされた、マネカタの顔の皮だった。

苦痛に歪み、虚ろな黒い眼窩はここではないどこかを見てる孔と化して。

 

表で会ったマネカタが「サカハギ」と呼んでいたソイツは、新しく逃げてきた

マネカタ達について愚痴のように語り、ウザったいのがいると吐き捨てた。

イケブクロで殺されてりゃいいものをと、心底鬱陶しいと言わんばかりに。

 

(.....もしかして、今から会いに行くアイツの事か?)

 

ジロジロと値踏みでもするかのように、頭から爪先まで睨め付けていた

その視線がかちあい、蔑むような挑発するような口調で俺に話しかける。

 

「見かけねぇツラだが、オマエも悪魔だろ。なら、欲しくねぇのかあ?」

『?。欲しいって何をだ。マネカタの皮なんざ願い下げだぞ』

「違げぇよ!。マガツヒだ、マ・ガ・ツ・ヒ!。新鮮なマガツヒがよぉ」

『まぁ、確かに欲しいかもな』

 

コイツは俺を悪魔だと思ってるから、下手な事は言わないほうがいいかも

しれないと判断した俺は、さも悪魔らしくそう言うと「サカハギ」は口の端を

釣り上げたんだと思わせる下卑た笑い声をあげて、そうだろそうだろ、と。

納得した顔でそのくせ、明らかに見下しながら噓くさいことを言い放った。

 

「オマエなら良い仲間になってもらえそうだぜ、なあ?」

 

お前が悪魔を支配する気なら、仲間っつーより下僕だろ。

一体どうやりゃ、悪魔が自分達の餌とも言うべきマネカタに従うんだか。

けどそれを踏まえた上でコイツは、自分に不可能はないと思っているかも

しれない気がした。その為に、マガツヒを集めてるって言ってたしな。

 

「サカハギ」は気が済んだのか、足早に去って行き、残された俺はやれやれと

一息つきながらも、どうにかやり過ごせた事に安堵して先に進んで行った。

 

聖地と言うだけあって、かなり入り組んでいる道のりは砂に埋もれてたり

手つかずの場所があったりで結構手こずりながら歩いていくと視線の先に

岩山?のようなところに出てきた。どうやら終点らしい。

 

安堵して入口をはいった途端、その異様さに背筋が伸びた。

 

緑苔むす空間と、さほど大きくは無い鳥居が幾つも道を囲って伸びている。

全ての鳥居には太い注連縄が下げられ、雨粒?混じりの強風に揺れていた。

洞窟の中なのに、何処から雨風が吹き付けてくるのかはわからないけれど。

 

今までにない厳粛な雰囲気に呑まれた俺は、かつて当たり前にしていた

儀礼手順を思い出し、それに則って進んで行く。

 

突き当たったそこは、まるで昔の銅鏡みたいな入口が重々しい雰囲気を醸す。

差し当たり、どうやってあけるんだろうかと考えているとゴウン、と金属の

重たい音がしたかと思うと、見覚えのあるアイツが中から出てきて言った。

 

 

 

 

「やあ、いらっしゃい。やっぱり来たね。私が視た未来の通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




涼やかな水の音色響かせ 清らかな風運び
緑なす苔むした 命湧かす地を 正しき力で
護りたる担い手よ その濁り無き眼をもて

曇りなく 道を見据え 迷える淡き光を
導け その命の輝きを焔に変え 指し示せ
定めに従い 命尽きて 眼を閉じる時まで


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慧眼を曇らせるは、慈悲無き魔障

泥人形だと蔑みながら 必要不可欠と言う
壊して遊ばれ 糧にして棄てられ それを
運命と呼ぶのなら我らは 今度こそ拒もう

創世のもとに 集い抗おう


そいつはマネカタ達のリーダーで、マネカタには珍しい、表情が豊かなやつ。

まあ、豊かっつってもよくよく見れば確かにマネカタには違いない程度だが。

自分が視ていた未来の通りだと言ったそいつは、俺を暫し見た後で。

 

「君とは、これからも少なからず会う事になる”運命”のようだ」

『運命ねぇ....この世界に一番合わない言葉だな」

 

世界が壊されて生まれた”卵の中”で造られたイキモノ(悪魔)だから仕方ない、か。

今、こうしてここにいる事も世界が壊され俺がヒトではなく悪魔になった事も。

あの金の髪の子どもの所為であって。断じて運命だとか認めねえ、絶対にな。

 

「?。....ふむ、君は....ずいぶん複雑なモノを抱えているようだね」

『まぁな。好きで悪魔化し(こんなのになった)たワケじゃないしな』

 

そういや、こいつは未来とやらを一体どこまで見通せるんだろうか。

「新田」が頼ろうとしたくらいだけど、そんな先までわかるのか?。

 

「いいや、残念ながらね。視ようとして視えるのならよかったのだが」

『ふーん。まあでも、あんまり分かっちまうのもどうだろうな』

 

そう言うと、ソイツは首を傾げて俺が変な事を言うと呆れたように

憤慨しているようにも見えた。あんま表情変わって見えねえけどな。

 

「なぜだい?。分かったら悪い未来を変える為に動けるじゃないか」

『....理屈としては、間違っちゃいないんだけどな』

 

"運命"っていうのは、そんなに簡単に変わってくれやしないんだよ。

もがいて足掻いて、血反吐やら何やらを吐いて這いつくばって生きても。

それでも変えられなくて....悔やんでも、悔やみきれずに"たられば"を、

呪うように思わずにはいられない、残酷な選択肢の結果であり過程だ。

 

取り返したくても2度と取り戻せない、何かを連れてゆく。

 

当たり前だと享受していた、日常とかけがえのないものすべてを。

"運命"なんて単語の言葉1つで片付けられないものすべてを俺の手から

叩き落として、嘲笑いながら近寄ってきて耳元でクソ甘い声で囁くんだ。

 

耳を塞いでも三半規管に絡みつくように、残響し続ける()()から

逃げ続けてる俺は....いつか追いつかれる事を知っている。だから。

 

こうしている今も、俺は"ヒト"でいる事を棄ててやしないか。

"ヒト"なら出来て当然の事や感情や行動やらを忘れてないか。

 

隙を突くように忍び寄り這い上ってきて、俺を変えようとする"衝動"に。

委ねればラクになれると知っていて、抗い続けているんだとは言えない。

何故なら、目の前のこいつはあくまでヒトに似せられた人の紛い物であって。

それ故に"(ヒト)"の言う事も、その意味する事も理解する事ができない。

 

それは仕方ないことだし、こいつに非は無い。....無いけれども。

 

『....正論吐かれると、イラつくなぁ。ま、しゃーねえか』

「???。よく分からないが、余計な事を言っただろうか?」

 

『いや、気にすんな。俺の事情だからさ』

「そうか....。なら、いいのだが」

 

1つ頷き、そう言えばと思い出したように俺に視線を戻して聞いてきた。

 

「ああ、アサクサの街は見てくれたかい?。皆、文句も言わずに」

 

悪魔の隷属的存在でしかなかったマネカタが、初めて手に入れた自分達の街。

強い先住者(悪魔たち)がいるけど、上手くやっていくと言って復興に勤しむ彼らを見守る

その眼差しは、親が子を見守るような優しく温かいものに似ていて驚く。

 

悪魔に年功序列的なもんはあって無いのか、それともこいつが未来を視れると

いう特殊性の所為なのか、悪魔を定義するものを知らない俺には分からないが。

 

しげしげとその表情を眺めていると突然、眉根を寄せ厳しい顔になる。

預言者でもなく、親でもなく、守るものがあるリーダーの、顔になる。

その途端、周囲の空気がヒヤリと冷たく変わったような気がした。

 

「——だが、見物はここまでにしてもらうよ。何故ならこの奥には」

 

マネカタ達が生まれる聖地にして、母なる場所があるからだと強い眼差しで訴えた。

そしてハッと我に返り、項垂れてしまったから何事かと思っていたらば顔をあげて。

 

「....すまない。命の恩人であっても通すわけにはいかないんだ」

『聖地なら、当然だろ。いいよ、気にすんなって』

 

そう言うと驚いたものの、ホッとしたように見えた。そしてまた籠ると言って。

マネカタ達が幸せに生きられる世界を創る為に何をすべきか見つけ出すのだと。

 

「それから、サカハギというマネカタには気をつけてくれ」

『サカハギなら、もう会ったぜ。アイツ、ホントにマネカタなのか?』

 

「....ああ。ともかく、普通のマネカタだとは思わないでくれ」

『わかった。アンタも籠りすぎないようにな。でないと』

 

他のマネカタ達が心配するぜと告げれば、ありがとうと笑った....んだよな?。

どうも今ひとつ読めないのは、やっぱり彼もまたマネカタな所為なのだろう、と。

 

重たい銅鏡みたいな扉の奥へと消える背中を見送って踵を返した俺の耳に

何かが割れたような音がした。けれどそれはすぐに風の音に掻き消されて。

 

『....?。気のせい、か』

 

同じ頃、扉の奥へと進む擬人の耳にも同じ音が届いていたが。

 

「....なんの音だろう?。それに今日は、やたら目の前が」

 

暗くなるな、と首を捻っていた。

 

そういえば、と。ここ最近マネカタの未来を見ようと瞼の裏で、眼を凝らすと。

何故だろう。ふっ、と暗い影が射してきて日陰に入ったかのように、その先は

何もかもを真っ黒に塗りつぶしたかのような、闇一色になってしまうのだ。

 

知りたいと焦る所為なのか、若しくはまだ見えるべきでは無いのか、それとも。

マネカタにとって、良し悪しすら分からない事が起こるという、何かの"兆し"か。

未来を視れる筈の自分にも分からないことがとても、もどかしいと思いながらも。

 

————— "そう考える事"。それにすら意味があるのなら、と考えていた。

 

だが。例え、この擬人がどんなに知りたくとも"最期まで叶うことは無い"のだと。

知らず、この世界のルールに則り生きる()達には未だ、誰にも知る由も無かった。

 

全てを仕組みし……唯一無二の存在以外は。

 

 

——— ボルテクス界のどこか。現世と次元のあわい。

 

闇の帳に()()()水晶を、じっと見ているのは「金の髪の子ども」。

その顔に浮かべたるは、慈愛と安寧をもたらす清らかなる微笑み。

光の中に在らば、至高の存在たりえる天の御使いに相応しきもの。

 

「坊ちゃま....ッ!!」

 

「....ころあい、かな?」

 

 

白い小さな手を差し伸べて、嗤った。僅かに、歪んだ笑みで。

 

 

 

「....おはよう、めいや。ぼくのかわいい、ことり」

 

 

 




謳え踊れ かわいらしき人の形よ
愚者へと導き 踏み外させよ
あと一歩 そうすれば 汝の罪は



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海桐花(とべら)の真白き花、暗香の如く

未だ目覚めぬは 儚きにも似て 
手折れるには 容易き小さき花
全てを欺き傾けし 聡明なる才
その身 光在りし世にて得たり

されど稀有にして定まらぬは
光でさえ 見定める事叶わず


 

 

うん?。たいくつだったかい?。きみが そういうだろうとおもってね。

そう。いくつか ()()()()をよういしたよ。ああ、ここには ないんだ。

 

まぁ かわいくはないけれど べつにこわしても かえはきくから。

ほら あれだよ、わかるかな?。泥人形だよ あそんでおいで。

 

うん?。こわくはないよ。うごく泥人形なんだ、めずらしいだろう?。

()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()から だいじょうぶ。

 

—————— そう。なにもこわがることは、ないんだ。

 

****

 

アマラ深界の第一カルパ。その出入口に佇む、2つの影。

 

「....では、擬人(マネカタ)の街の入口付近に放ってくればよろしいので?」

「それまでは傷1つ付ける事無く、守り抜くのです。出来ねばどうなるかは」

 

喪服の老婆が、その悪魔の手のひらの上にある"紅い玉"を見つめてそう言うと

ブルリと身震いした悪魔は言った。その先は聞かずとも理解している、のだと。

かのお方の命令1つさえも果たせぬ無能者は万死に値するも、直々にその御手に

かけられる事などまずありえ無い。そんな無能者はその価値すらも無いからだ。

 

「....我が身に変えましても、必ずや」

 

そう言うや、ひゅるりと一陣の風に吹き消されたかのようにかき消えた。

まるで初めから、そこに誰も居なかったかのように気配さえ消しきって。

 

「坊ちゃまの願いを叶える為に....生きなさい。それが」

 

喪服の老婆の背後には闇が迫り、老婆の姿はそこに溶け込むように消えていく。

その胸の内に在る、逆巻き蠢く感情を圧し殺し、闇に委ねるように目を閉じて

消える寸前に"音"に出した言葉は、あくまで、かのお方を思ってのものだから。

 

—————— 決して、"あの女"を案じてなどいない。

 

今なお消せぬ激情の焔に支配され、この醜き体を駆ける原初より刻まれたる

烙印から伸びて縛る"茨の蔓"が今も、この身を苛み殺し続けているのだから。

その最たる()()を案じるなどあり得ない。そう、()()はあくまでも別の。

 

また1つ、投じられた"石"が起こすが如く小さな波紋の広がりを生むであろう

大きな変化となる()()()()()()()()()()への僅かな....憐憫に、過ぎないのだ。

 

 

 

「……アレ、何だろう?」

 

アサクサの街で1人のマネカタが、訝しげに雷門の方へ目を凝らして見た。

そこに...."何か"がいる。だが、この距離では"何"なのかはわからない。

 

「....ねえ。アレ、何だろう?」

「近くまで行って棒か何かで、つついてみようか」

「やめなよ!。アクマだったらどうすんのさ!」

 

ああだこうだとマネカタ達が言い合うところへ、1人のマネカタが寄って来た。

 

「なんだよ、皆でサボってちゃダメだろ」

 

「あ、ガラクタ。だってさ、"何か"いるんだよ。ホラ、見てあそこ」

「....ホントだ。よし、ボクが見てくる」

 

ガラクタと呼ばれたマネカタは、ポケットから何かを取り出して皆に見せた。

いつか自分の店を開く為に、がらくた集めをしているというこのマネカタは

確かに皆と同様に恐怖心も持ち合わせているも、好奇心旺盛でもあったので。

 

「大丈夫さ。ボクにはコレがあるからね」

 

それは"くらましの玉"というアイテムで、"戦闘離脱"の効果があるものだ。

がらくた探しの時に常に幾つか持って行き、悪魔と遭遇した時に逃げる為の

大事なものだったのだが、まだ手持ちが十分に残っていたことも手伝った。

 

「念のためだ、フトミミさんを呼んできてくれ。じゃ、行ってくる」

「う、うん。すぐ呼んでくるから!」

 

—————— 同じ頃。すべての擬人を育み生み出す、母の胎内(ミフナシロ)

 

大きな岩の上で胡坐をかき、目を閉じていたマネカタの瞼がゆっくりと開いた。

揺れていた焦点が、ピタリと定まり遠くを探るように目を凝らして見つめ続け

やがて弾かれたように慌てて立ち上がり、大岩から飛び降りて駆け出していく。

 

「....何だろうか、この形容し難い感覚は。何かの兆しか?」

 

騒めく、とでも言おうか。不愉快でも怖れでもない。

 

「だが()()は、"彼"の事を視た時に感じたものによく似ている」

 

そんな事をふと考えたあと、物心がつい(生まれ目覚め)た時には既に持っていたこの力の事を

何故、"今"なのかは分からないが。改めて考えていた頃の記憶が蘇ってきた。

 

何の為に悪魔達のような色々な能力を持たず誰よりも何よりも最下層の存在で

いなければならない理由など考えることすら無いだろうマネカタ達の中にいて

なぜここから数多生まれてくるマネカタ達の中で、他の誰も持たず自分だけが。

 

「...."彼"ではないようだね。だが、どこまでも近い」

 

悪魔達でさえも持たない、未来を垣間見る力があるのかは未だ分からない事だ。

全てのマネカタが、何の為に生まれてくるのかも分からないのと同じなように。

 

そんな事、誰も思いもしないだろう。だが、1つ分かっている事がある。

 

悪魔達に搾取されるだけの泥人形と蔑まれ、虐げられる存在だと言われようと。

マネカタにも「心」は在る。無ければ悪魔達から虐げられる行為を受けた所で

恐怖「心」など持つ筈も無い故に、マガツヒを搾取するなど出来ないのだから。

 

 

「ふ、フトミミさ....っ!!」

 

ミフナシロを出てアサクサへの地下通路で、呼びに来たらしいマネカタに遇い

そして悪魔が来たと騒ぐ彼らと共に街に戻って来てみれば、流石に目を疑った。

 

「迂闊な事をしてはいけないと、あれ程言っただろう?」

 

どうやら"何か"に近づこうとしてみたものの、急に動かれて驚き後退った所に

自分は行き当たったらしかったと知り、窘めた変わり者のマネカタを背に庇い

即座に対応出来るように隙を見せずにモゾモゾと動く黒い布の塊を()めつけた。

 

「....素直に答えれば危害は加えない。答えられるだろう?」

 

視た通り....悪魔、ではない。寧ろ、間違いなく"彼"に近いのに。

何なのだろうか、ザワザワと背筋に走る訳の分からないこの感覚は。

 

湧き上がる戸惑いを隠す為に、今は目の前の事態に対処しなければと頭を振って問う。

 

「....きみは何者だ。ここがマネカタの街と知ってて来たのか」

 

声に反応したのか塊が起き上がり、覆っていた黒い布がずれて露わになると

出てきたのは煤けて汚れてはいるものの虜囚所で見た少年と同じ人間だった。

だが雰囲気も体つきも違うその人間が、じいっと眼前の擬人たちを見つめて

発した言葉は、未来を視れる唯一の擬人ですら視る事が出来なかった。

 

 

「....わ、たしは、真幸....明夜....」

 

 

掠れた声で、震える声で、その人間は擬人たちに問いかけるように答えた。

厳密に言えば....()()は、彼等の望む"答え"ではなかったのだが。

 

 

 

 

 

「....祖神くんを....現人(アラト)くんを....知りません、か?」

 

 

 

 

 

 

 

 





混迷を以て 紡がれゆくも
読み切れぬは 光も闇も同じ

盤上の駒と 侮る勿れ

望み得たきなれば 決して
同じ轍を踏みたくなくば

駒と……侮る勿れ


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神へ至る柱、薩埵(さった)の定め手繰りしは

かつてヒトが築きし 傲りの塔
壊れて今は 砂嵐の街に埋もれ
再び命宿せし塔は 卵の世界に
喚び出され 数多の命喰らいて

門と為らんが為 真に目覚める
その時を 未だ待たん



血脈のように幾筋もの赤い光の奔流が建物の床、柱、壁に流れを作っている。

幾何学模様が縦横無尽に走り、綺麗とさえ思えるほどの規律正しい赤い筋は

流れ込む命の鼓動が聞こえるんじゃないか?と思えてならない程にリアルだ。

 

近くにいた思念体に近づくと、ゆらゆらと揺れてぼうっと人影を映し出す。

 

「ここはオベリスク。トウキョウで最も高く」

 

最もカグツチに近づける所だと言う人影が、何故か誇らしげに見えるけど。

アンタが建てたんじゃねえだろがって突っ込みつつ、そうは言ってもまぁ

遠目からでも、オベリスクの高さは大したもんだと思っちゃいたんだよな。

 

だけどやっぱり、中へと入ってみれば全然感覚が違った。

 

『....しっかし、何て高さだよ。どーやって建てたんだ』

「さあな。けど、ここにアラトが探してる人間がいるんなら行くだろ?」

『....ああ。その為に来たんだ。今更、引き返さねえよ』

 

実際に内部に入ってみたら天井が見えねえとか、どーゆー構造だってんだよ。

イケブクロのマントラ軍本営は元々あったビルだけど、あれも結構高かった。

だけどコイツはヒトが造った建造物じゃないから尋常じゃねえんだろう多分。

まぁカグツチに行かなきゃならないんなら、これぐらいの高さは必要ってか。

 

『ったく、何階あるんだろうなコレ。エレベーターあるからいいけど』

 

エレベーターらしきものに乗って上の階へと昇り、少し進んだ辺りだった。

歩みを止めた俺を、仲魔達が訝しんで口を開こうとするのを目配せで制す。

 

『俺に....気付いちゃいるんだろうが、今は殺る気なしか。にしても』

 

隠す気も無いのかダダ洩れの妖気と殺気が、上の方から俺へと向けられてる。

察するにオベリスクを守護するヤツか、と思っていたら悪魔化した俺の耳に

3種類の声が聞こえてきた。けど、なんていうか....女の悪魔なんだろうけど。

 

「ククク....氷川様が予見された通り薄汚いネズミが、のこのこと」

「オベリスクの守護を沙汰された私たち三姉妹、オセの低能のようには」

「侵入者除けのカラクリを、あなたのオツムで解くことが」

 

言いたい放題言われているにも関わらず俺の関心は、全く別の所にあった。

 

「....おい、アラト。どうしたよ。おいって!」

『マジなのか?。3()()ってことらしいけど、1人くらい違うんじゃねえの?』

「はあ?。何がだよ。何言ってやがる」

 

耳をそばだてて、聞こえてくる声が言うことを聞き続けていると。

 

「峻厳なるカグツチは再生と死を繰り返し、お前だけを待ってはくれない」

 

その言葉を最後に何も聞こえなくなり、ダダ洩れだった妖気と殺気も消えた。

そして何事もなかったかのように、周囲に静けさが戻ってきたのだった、が。

 

『はー...「さぁ、来るがいい」って台詞と高笑いとか、もうベタ過ぎ』

「そうだな...じゃなくてよ!。アラトお前、何をそんな気になってたんだ?」

「静かにしておりましたでしょう?。お教えくださいませ、主さま」

 

俺の意思1つで抑えつけていた臨戦態勢のままの仲魔達が、姦しく騒ぎ立てた。

そんな大したことじゃねえし、お前らからしたら超くだらねえかもな事だぜ?。

 

『アイツら、口調からして女の悪魔で間違いないよな』

「マネカタの一部にゃそうじゃねえのがいるけどよ。それがどした?」

『...声が、凄くなかったか?。色んな意味でさ』

 

仲魔達の目が面白いほど揃って点になった様子に思わず俺は、笑ってしまった。

ほらな?、お前らからすりゃくだらねえことだろう?って言うと呆れられたが。

 

『口調と声に、ありえねー差があるっていうか』

「高慢ちきならやたら張り上げるように甲高い、とかか?」

『そうそう。まぁ俺の勝手なイメージだけどな。アイツらは違ったろ』

 

聞いてて吹き出しそうになるのを堪えるのに苦労したぜ、と言って笑ってたら。

 

「....お前、あんな殺気向けられてる最中にそんなくだらねえ事」

「流石は主さま、豪胆でいらっしゃる。頼もしいではありませんか」

「....マア、ソレグライデナクバ我ラヲ束ネルハ、叶ウマイテ」

 

それでこそ主だ!っつって、妙に感心されて背中をバシバシ叩かれて痛かった。

別に和ませる為に言ってないんだけど、まぁいいかと留めてた歩みを再開する。

そして30階まで上がってきた俺たちの前に、妙な仕掛け(パズル)がある事に気付いた。

 

『....カグツチは再生と死を繰り返し、俺を待たない、か。取り敢えず』

 

目の前の光る玉に触れてみると、周囲の空気が一変したのに驚いて思わず固まる。

そしてカグツチの周期齢が凄まじい速度で"静天"に変わっていき、止まっていた。

起こっている事への理解が遅れて足元がもたつき、足元のひし形のパネルを踏む。

 

『うっわ....!。なんだこれ、カグツチ齢と連動してやがる!?』

 

すると更にカグツチ齢が動き、目の前の壁が音を立てて下降し先への道が開いた。

試しに、もう1度踏んでみると開いていた壁が閉じてしまったのでもしやと思い

光る玉に触れてみると、周囲の空気が元に戻ったから。

 

『....ふーん、パネルの模様はカグツチ齢が進む度合いで壁の模様がその状態か』

 

壁の模様になるよう、足元のパネルを前後に踏んだ回数で合わせてカグツチ齢を

進めれば壁が動いて先へ進めるギミックらしい。面倒臭い(トラップ)張りやがって。

こっから先は全部こんなかよ、と軽く頭痛がしてるけど簡単に通れる筈も無いか。

 

『....こりゃあ長丁場んなりそうだ。いい大人が、性格が捻じくれてんなー』

「どっちがだ?。アイツらか、それとも」

『....創世に関わってる大人全部だよ。どいつもこいつもな』

 

だけどそれでも、行かなきゃならない。ここに、先生がいるんだ。だったら。

選択肢は一択しかねえ。東京が壊れる直前に俺に生き延びられる道を残して

俺や皆の日常を、命をも、その手にかけた理由を聞かなきゃならないんだよ。

 

『尤も。先生が何と言おうと、"納得"なんかできやしないって事だけは確かだ』

 

そう思って、最上階を目指して行った俺が辿り着いた先で突きつけられた事実は

俺の思考の斜め上を軽くぶっちぎって、あまりにも理不尽だと思い知るんだけど。

それよりももっと、有り得ない事を聞かされる羽目になるのは...その直後の話。

 

 

 

 

 

 

『....あんた、今何て言った?。それ、本当なのか?』

 

 

 

 




巡り来る邂逅には 歯車が足らぬ
噛み合い嵌まる符号に 今は遠く

些事たるか 戯言たるか量るには
今のお前は分不相応だと 知らず

さて あの御方の真の傀儡は誰か?






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