とある中佐の悪あがき (銀峰)
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一年戦争後
原作改変に失敗した日


世界征服系SSが無いから自分で書く。

あとスターダストメモリーも


「なんだと!ギレン総帥が戦死したのか・・・!!」

 

「はっ!!司令部からからギレン様が戦死され、これからはキシリア様の指示の元奮戦されたしとのことです」

 

「・・・そうか」

 

チベ級の艦長席に着いていた男が、艦長席から立ちあがりその報告を聞く。

その胸には、ジオン軍中佐ということを表す勲章が輝いている。

聞かされた男より、そのことをつげたオペレーターの方が動揺しているのかもしれない。

語尾が微かに震えていた。

ブリッジクルーが動揺するなか、中佐は腕を組み目をつぶる。

その姿勢はギレン総帥の死を悼み悲しんでいる様に見えた。

中佐は少し動揺したようだが仁王立ちし、艦橋静かになるで待つ。

 

総大将の死。

どんな熟練した司令官であっても動揺してしまう出来事。

総大将の死は負けとほぼイコールだからだ。

そのことを良く知っている、熟練司令官の方が取り乱すかもしれない一報。

 

その一報を一年戦争初期からの参戦者である、この男は少し動じはしたが部下が落ち着くのを待つ余裕さえ持ち合わせているように見えた___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ。ギレン総帥が死んだか。十中八苦キシリア様が殺したんだろう。

 

別に__ものすごいショック、というわけでもない。

こうなることは予想できていたし、いまさらだ。

それこそ、この世界に生まれる前から。

だから出てきた思考も

キシリア様にはそれとなく釘を刺していたのだがなあ、残念だ。

という事だったし。

 

視線を動かし、眼前に広がるこのア・バオア・クーとそれの周りに広がっている戦場を眺める。

できればこの風景は見たくはなかった。

ジオンを勝たせるためにあれこれ尽くしてきたが、この戦いが広がっているということはもう原作で言うと最終決戦、この戦い負けが近い。

せめてギレンが生きていれば、ドロスとの連携で大打撃を与えられたかもしれないのに・・・

そんな考えが浮かんでくるが所詮はもしも、現実は非情だ。

ギレン総帥は死んだ!なぜだ!?

父親殺しだからさ。

 

 

そんなことを考えているあいだに戦況は進んでいく。

すぐ近くで他部隊のザクとジム、ボール2機が交戦している。

モビルスーツ打ち合い相手と鍔迫り合い、均衡しているが支援についていたボール2機がバズーカを連発し鍔迫り合いをしていたザクは離れようとするが間に合わず直撃、爆散する。

うわぁえげつねぇ。

その勝利で調子に乗ったのか、初めからこのチべ級を落とそうとしたのかわからないがさっきのジムとボールが接近してくる。

接近してくるジムを直援機のドムが迎撃。回避して鍔迫り合いさっきと同じ光景が展開されると思ったが、こちらのドムが拡散ビーム砲(胸部装甲に着いてるやつ)を放ち目くらまし。

その隙にバズーカをボールに当て発砲。

ジムは近くにいたもう一機のボールごとヒートサーベルで叩き切った。

 

撃破しその振動が伝わってくる。

前世だったらおびえて座り込んだのかもしれないが、もうなれた。

人殺しも戦争も。

部下の死だけはいまだになれないが・・・

 

さっきの戦闘を見るにうちのパイロットは基本的に高練度である。

ドムを発案したおかげで早く回ってきて、すぐ慣熟訓練をさせたのが良かったのかもしれない。

全員エースとまでは言わないが準エース級の実力はもっている・・・とおもう。

 

親ばかじゃないし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ静まってきたが、整理のため今までの人生を少し振り返ってみる

 

いきなりだが、俺はいわゆる"転生者"という奴である。

前世の記憶はあるが自分の家族構成や交友関係は思い出せない。

名前が少し思い出せるぐらいだ。親が名を付けてくれなかったから今の名前はそのもじり。

ユーセル・ツヴァイ。上はもじりで、下は二度目の人生だから二番(ツヴァイ)単純だろ?

話を戻そう。

どこに出かけたとかどこで死んだとかは思い出せるが、顔がマジックで塗りつぶしたように思い出せない。

まあそれが辛いかと言われれば、生きていくのにそこらへんは関係ないので割り切っている。

幸いといっていいのか、この機動戦士ガンダムの世界を覚えていたので、この世界でジオン軍中佐という立場にたどりつけた。

スペースノイドに生まれた俺は、スラム街に生まれて金を稼いで必死に勉強して士官学校に入った。

底辺の立場だったので、この後起こる戦争に鉄砲玉としてまきこまれかねないと考えたからだ。

歴史を変えようとジオン軍有利に戦争を終わらせようと働きかけたりしたが・・・

その甲斐あってジャブロー戦でドムぐらいまでは作成して相当数、参戦させたのだが、結局は小ざかしいとでも言うように負けた。完膚なきまでに。

少し被害が大きくなりここまでくるまでが少し伸びたぐらいだ。

 

「ハハッ」

 

笑える。所詮一個人の力ではこの程度ノイズどまりいやノイズすら走ってないのかもしれない。

そんなことを考えながら艦長席に座りなおす。

 

さてこれからどうするか・・・

もうあの戦火の中に飛び込みいくらか敵をつぶした後死ぬのも、案外悪くはないのかもしれない。

 

「中佐・・・?」

 

不穏な空気を察したのか俺の副官が声を掛けてくる。

そういえばこいつも戦争初期からの付き合いだ。

それをいったらこのチベ級に乗船している奴等大抵そうなのだが。

 

「・・・・?」

 

いかんいかん。

俺はこいつらの命をあずかっているんだ最後まで責任をもて!

一年も一緒にいると流石に情もわくし、死なせたくもなくなってくる。

極論。部下にそこで死んで来いというのが上官の仕事であるが、負けが確定した戦いに無理して突っ込ませる気もしないし、させるつもりもない。

その基本精神で、ここまでやってきたんだ。

戦線も先ほどまで要塞を包むように戦火が広がっていたのだが、今は要塞の表面を嘗めるように戦火が広がっている。だいぶ連邦軍に進行されてしまっている…

くそっ

 

「撤退準備だ!戦闘中のわが艦隊のモビルスーツを集結させろ!この戦域を離脱だ」

 

 

「っ・・・いやしかし・・・いえ了解しました!!各艦に通信を入れろ!」

 

 

反対されると思っていたんだが案外素直に引いてくれた。

ふう。

はあ。なさけねぇ。

 

まるでこれはスターダストメモリーのデラーズ艦隊みたいだな。

ハハッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んんっ?

 

そうだよ!!

内から変えるから時間が足りなくて、こんな結果になったんだ。

なら自分で勢力を作ってこれ以上の戦争や歴史を変えればいい。

一年戦争では変えられなかったが、今は自分で一から築き上げた俺自慢の艦隊も持っている。

勢力を築くには少ないが、それはこれからあつめればいい。

 

そうだそうだよ!ふは、ふははははははっごほごほ。こほん。

 

 

待っていろ原作め。

今度こそ必ず俺の前に膝を着かせてやる。

 

俺の冒険はこれからだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まずはこの小説を読んでくださってありがとうございます

良かったら誤字修正、感想、評価どんどん送ってください。

送ってくださったらないて喜びます。


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中佐仲間を得てみた

むしゃくしゃして(投稿)やった。
後悔はしていない。


「ふうむ」

 

旗艦チベ級重巡洋艦に乗る男、艦隊の司令官ユーセル中佐は思考する。

 

「どうしたものか・・・」

 

彼の視線の先には、いずれ後世に名を残すであろうジオン軍と地球連邦軍の最終決戦があった地、ア・バオア・クー宙域が広がっている。

 

「はぁ」

 

ひとつため息をつきこれからのことに思いをはせる。

ほんとどうした物か。

 

 

あの戦いの後、我が艦隊は戦闘の混乱のなか戦場を離脱した。

独立を(勝手に)決めたのはいいが、まず戦力も足りないし先だつものが必要になってくる。

始めはこの後の最大勢力のデラーズ艦隊を見つけ着いていこうとしたのだが、ミノフスキー粒子や戦場特有の誤情報などで目当ての一つを見つけることなどできず。見失った。

 

アニメでは、ギレン総帥が戦死した報を受け、図ったな・・!キシリア・・・!!などと言ってどこかにいくという情報しかない。そら見つけられるわけ無いがな。

名案とばかりに「そこらへんにデラーズ艦隊がいるはずだ。探せえぃ!!」などと某海賊王の態度で言い放った俺。

そのあと副官やオペレーターに、「何でそんなこと知ってるんですか?」とか「この混乱の中で一つの艦隊探すのは無理です。いくつあるとおもってるんですか?一瞬で何百ぐらい通信が飛び交ってるんですよ。それの履歴となると膨大すぎて分かりません。バカなんですか作業量考えてください」とか突っ込まれてそりゃそうだと納得してしまった。

ノリノリで言わなきゃ良かったと後悔した。

 

でも一応で検索させてみた。

かすかな可能性にかけてみたのだ。

見つかったら最上、見つからなくても選択肢はある方がいい。

そう考えての選択だ。

チャレンジ精神大事。すごく。

 

いや、けっしてオペレーターの言葉に苛立ったからではないゾ。

 

 

 

 

 

結論から言うと普通に逃げた。

見つかったのは見つかったが既に離脱していて行方は分からないとの事。

 

どや顔で、みつけました!と言ってきたときは素直に驚いた。

バームクーヘンか何かかと見間違えるくらいの紙の巻きものを空高く掲げて、胸を張るオペ子。

あまりに自信満々だったのでブリッチクルーみんなで拍手してしまったほどだ。

こちらを見て、にやりとでも擬音が付きそうな笑顔を向けられた。

 

ビシッ!(次こそは!次こそはぁ!くそぅくそぅ

 

ハッ!(ふっふっふ・・・艦隊の司令ともあろうお方が…

 

一瞬の交差。

 

この敗北を胸に再戦を誓う。

 

何をやっているんですと言って頭を抱える俺の副官。

すまんすまん。これからきちんとするからさ、各艦に撤退準備させい。

えっ、やりました?モビルスーツ回収信号も・・・やった。そ、そうキチンと他艦隊にばれない様に・・・

秘匿通信で・・・どったのオペレーター?私がやった?あ、そう。

俺たちがこんなことしてる間に各艦にいろいろ指示を出していたようだ。

 

もう君らが艦長でいいんじゃないかな。

でもそうなると俺の存在価値っていったい・・・?

 

そんなもん無いって?はは、黙れオペレーター。

 

と、とりあえず優秀な子達でぼかぁは嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

何も無い空間に浮いていたら攻撃されること待ったなしなので、結局は暗礁宙域に身を隠している。

いつまでもここに入れるわけでもないので落ち着ける場所、拠点を決めてしまいたい。

ジオン軍の拠点を思い浮かべる。

一番近いのが、

 

ア・バオア・クー。論外

 

グラナダ?却下終戦条約締結中で連邦軍が集まっている。なし

 

サイド3。連邦軍の占領下だが軍はいない。

 

茨の園。出来てすらない。なぜ思いついた。

 

現状維持。本末転倒。

 

並べてみると割りとあれだな。うーむ。

やっぱサイド3かな。占領されるまでにいって補給を受けておきたい。

うーん。そうだ。

 

「各艦の艦長を呼び出してくれ」

 

こういうときは相談するに限る。

オペ子に命じて数回コールさせる。

この艦隊は俺の乗艦のチベ級とムサイ級が三隻だ。

そのうちの一番艦の艦長が割と早く出てきてくれた。

 

「なんでしょうか」

 

モニターに出てくる中年のオヤジ。名をルドルフ。階級は大尉。本人は否定しているが戦闘キチの疑いあり。

不機嫌そうに眉を顰めている男が画面に映る。

理由は多分ジオンの最終決戦で、早々で撤退したのを根に持ってるんだろう。

 

「すまない大尉。今後の方針について話し合おうと思ってな。呼び出させてもらった」

 

「そうですか他の二人は?」

 

「いやまだだ。もうすぐだと思うが」

 

「それで中佐。なぜ撤退したのか自分はまだ納得できていません。あれ___」

 

「ごめんなさい遅くなりました」

 

「すまん遅くなった!」

 

大尉の発言をさえぎって二人の男がモニターに入り、画面が四分割される。

一人は二十歳代の外観の女。額には汗が滲み、荒い息を吐いている様はなかなか世の男たちを悩ましくさせる事だろう。名をヘルタ・フォン・グライペル。ムサイ級二番艦の艦長で、階級は少佐。俺の士官学校の同期生だ。

正式ジオン軍軍服を少し、本人曰くオシャレに改造している。

根が真面目だからだろうか、オシャレと言っても女子学生が靴下の色を変えている程度の改造であるが……

違いがよく分からんと言ったら、これだから素人はと言わんばかりに首を振られた。……今思い出してもムカつくな。こんな奴が軍の中ではモテてるんだから世の中不思議なもんである。

 

もう一人は一番艦の艦長と同じくらいの歳で、これまたオヤジだ。名をコートニーと言う。階級は少佐。

結構な歳らしいが、本人に聞いても中々教えてくれない。男は秘密があった方がモテるんだぞ。とか言われたが、歳を考えた方がいいと思う。スキンヘッドの大男が笑い皺を作りながら、一々大声で叫ぶのは正直最初は怖かった。……軍学校の嫌な思い出が蘇る。

 

ルドルフ大尉の追及を逃れるのに、この2人が来てくれたのは正直助かった。と言うか撤退するときに一応理由いったんだけど。

このまま敗北するより戦力を温存して次の機会を待つと。

敵討ちであるとか言っていくのを止めるのが大変だった。

本人曰くスペースノイドの自治確立を実現なさろうとするギレン閣下に感銘を受け、永遠の忠誠を誓っているんだとか。

 

「いやいい。それより何かあったのか?」

 

「いやこっちの方はエンジンの回転数が落ちてきていてな。それの確認にいっていた!この船もわしと同じく年代ものなんで今にも、くたばりそうじゃ!がはははは!」

 

コートニーは背を逸らし、深く刻まれた笑い皺を作った。

 

「私の方は被弾箇所の確認。……コートニーさんは後十年はいけるでしょ」

 

ヘルタが、昔絞られた仲だ。爺さんの元気さを一番知ってる。ジト目で何を言ってるんだとコートニーを見た。

 

「まったくだな」

 

激しく同意だ。

 

「いやそうか!そうだな!いや分からん!じゃあヘルタよ。ユーセル。ヘルタ。どうだ?一杯。歳をとってくると、寂しくてなぁ」

 

「無理です。その日は忙しいので」

 

「勘弁してください。俺も忙しいです」

 

「日付すら言っとらんのだが……」

 

ヘルタと断りの文言を入れるのはほぼ同時だった。あれは……地獄だ。前に一回誘われて言ったが、上を脱いで艦中を走り回るわ。酒飲んだまま、モビルスーツ乗り回そうとするわ。大変だった。まだあるが、あんまり思い出したくも無い。

 

「ヘルタも、ユーセルもつれないのぉ。まぁええか。艦のやつ誘お」

 

コートニーが呟いた瞬間、コートニーのムサイのモニターの端に写っているクルーが、一斉に目を逸らした。……どんだけ知れ渡ってんだよ。爺さんの酒癖の悪さ。

 

「あ、司令。暇だなーってぼやいてたじゃ無いですか。言ってあげたら……フゴ」

 

「ちょっと黙ろうか……!オペ子」

 

「フゴ……何す……ガブッと」

 

「いったい!噛むなよ!」

 

「失礼かみました」

 

「わざとだ」

 

「しりましぁん。しふいがわりいとおもいまふ」

 

わざとじゃ無い!?

まぁええや。

うちのオペレ―ターよ…くそぅ、バカにされまくっとんなぁ。まぁ、俺が無茶ぶり振りも、なんだかんだきちんと仕事してくれる。だから無茶ぶりする指令の俺としては頭あがらんのだか…、

でもやっぱムカつくのでこれからは名前で呼んでやらんぞ、オペ子で十分だ。

 

「オペ子ちゃんとかどう?」

 

「ごめんなさい」

 

秒だった。コートニーがよよよ、としなだれて目元を抑える。

 

「振られてしまったの・・・この歳になっても失恋とはつらいものよぉ」

 

「いや少佐奥さんいたのでは?あんまり、度が過ぎてたらダメですよ。話進めましょうよ」

 

ルドルフ大尉が、沈黙をやぶり、苦言を呈す。やるじゃ無いか見直したぞ。その姿勢に感動しながら見守っていたが、コートニーは眉を顰めると、人差し指を勢いよくルドルフに突きつけた。

 

「おおぅ。そんな簡単に男の秘密をばらすもんじゃないぞ。だから女にもてんのだ。大尉。このことをよ~く胸に刻んでおけ!!これは上官命令だ!!」

 

「は、はぁ。関係ない様な気がしますけど……まぁ了解です」

 

「何だと!?声が小さい!!貴様の○○はそんなにちいさいのか!あんまりにも舐めた態度を取っていると、○○○○を煮滾った○に付けて、貴様に食わせてやる!○○○をされたく無かったら全部俺の返事には勢いよく返事をしろ!分かったか!?」

 

「り、了解です。サー」

 

「声が小さいぞ!?」

 

「了解です!サー!!」

 

「うむ。よろしい」

 

「ご教授ありがとうございます!」

 

「うむ精進しろよ」

 

「イエス・サー!……ん?あれ?」

 

少佐って結婚していたのか、なんか意外だ。

ごまかされた大尉は首を捻る。

って言うか大尉・・・

 

「っていうか大尉かわいそうよ。間違ったこと言ってないのにねぇ」

 

「悪い人じゃないんだけどなぁ……純粋なのではないかと。後勢い。コートニーさん怖えもん」

 

「激しく同意」

 

ヘルタと、2人でこそこそと話す。あぁ士官学校でのトラウマが……

 

「何か言ったか!?」

 

「ノー・サー!」

 

ヘルタと息ぴったりに返事をする。あれ?俺がトップの筈だよな?

大尉が哀れすぎるのと、のろのろしてるとこっちにも被害が来そうなので、でさっさと本題に入ることにする。

パンパン。

手を叩きこちらに注目してもらう。

 

「はいはい。話が逸れてる!本題に入ります。この艦隊の事後の行動方針をどうするか。そこら辺決めたいと思います」

 

ここらへんは流石仕官クラスまで上り詰めただけのことは有る。切り替えは早い。

三人とも会話をやめ、こちらを注目してくる。

 

「司令どうとは?」

 

「これからの行動、まずはサイド3にいって補給を受けようと思う。クルーの中で降りたい人がいたら除隊させてあげたいし、戦争はもう終わった。各自自由にしてくれてかまわない。無理やりつき合わせる気はないし、追いかけもしない」

 

これは本気だ。原作改変の為の戦力はほしいが、これは自分の勝手で無理心中みたいなもんだ。

こいつらにはこいつらの人生がある。

原作では名前も出てないモブでもおれにとっての戦友だ。

そこらへんはきっちりしておきたい。

もう先にこの艦のクルーには確認を取っている。

抜けるなら俺の船の指揮経験のあるクルーを、かわりに艦長代理にすれば良い。

……痛いのは相当痛いが、代理が育つまでどのくらい掛かるのやら。

 

「とりあえずサイド3につくまでにきめてく__」

 

「別にいいですよ。帰っても他にする事ないし、水臭いわよ」

 

「わしも。帰っても仕事ないだろうしな。こっちにいた方が面白そうじゃ」

 

「べつにかまわない。ギレン総帥の敵討ちもしてないし」

 

「えっ。ほ、本当か?」

 

笑顔で、3人とも即答してくれた。

よかった。

だって一年間ほぼ一緒にここまできて絆みたいなものを感じてるのは、俺だけじゃないかって不安があって嫌われて無いかって・・・

絆と言う糸が向こうとつながっているような気がした。

でも付いてきてくれるって事は俺のことを好意的に見てくれてるってことだろ。

流石に嫌いなやつの下についてくるって事無いだろう。

っやっばい。素直に嬉しい。

だってそれって俺を慕ってってことだよな。

 

「あれぇ泣いてるの?ユーセル」

 

「なっ泣いてねえしヘルタ。う、嬉しいだけだし」

 

「どうしよう。からかうつもりで言ったら、思ったよりドストレートの返事が返ってきた。……困るなぁ」

 

ヘルタが口では困ると言いながら、ニヤニヤと揶揄ってくる。

困るのはこっちだ。流石にこの歳で泣くのは恥ずかしいのでぐっと我慢。正直泣きそうだが。

ほかの2人のほほえましい物でも見たとでも言うような目線が辛い。

 

「じゃあからかう出ないわ。ばか者」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ」

 

「え、私が悪いんですか!?」

 

今度はヘルタが揶揄われる番だった。突然男2人組から、集中攻撃を受け心外だとでもいう様に声を出す。

 

「うむ」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ」

 

「いや、これは違うでしょ。ええぇ」

 

「お、困っとる。困っとる。そういうところは変わってないの」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ」

 

「えっと…えっと…」

 

「うろたえてる姿も可愛いの。孫を見とる気分じゃ」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ」

 

なんか知らん内に男二人が、あたふたとしているヘルタを追い詰めてる。

なんかヘルタ。ごめん。

後ルドルフ大尉。それ言えばいいってもんでもないですから。縛ってる?結構便利そうですね。

でも、後ろの二回性癖のカミングアウトになってますから。

 

「いやいいよ」

 

「おっ復活したか。あんまりにも遅いからヘルタが、泣いてしまったじゃないか」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ」

 

「いや俺の所為ですか」

 

げんなりとしながら、すっかりいじめっ子なっている2人に返事をする。

 

「……違うかもなぁ。じゃあ悪いのはルドルフって事で」

 

「そうだな。少佐の言うとおりだ……ってあれ?」

 

「そうだ!・・・とでもいうと思って繰り返したけど外しちゃった感じですね」

 

なんか急に矛先を変えられたルドルフ大尉が、困惑した様な声を上げた。急にコートニーは劇画タッチの顔になり、腕を組む。

 

「ふはは!!引っかかったな!アホォが。それだからおまえは大尉止まりなのだー!!」

 

「くっ流石師匠。不覚をとりました」

 

くっ、殺せ。とかの吹き出しが似合いそうな顔になりながら、ルドルフ大尉が膝を突く。

 

「ふっ。精進せいよ。弟子よ」

 

「はっ!師匠!」

 

東方の不敗の方ですか?

そんな会話を交わしながら時間が過ぎていく。

 

まぁ。いいや。仲間の絆を再確認できた。それを確認できただけで今日は良い日だったと思う。

 

「じゃあ、これからの話を…」

 

いやその前に。これ聞いておかなければ。

 

「ふと…気になったんだけどさ。みんな俺のどこが良くて付いてきてくれたの?」

 

「へっ?そうねー…。うーん。うーーーーん」

 

「……ゴクリ」

 

「あ、顔は悪くないと思う。スルメ顔っていうか。味がある感じ。美人は3日で云々ってやつ」

 

「え?散々唸って結論それ?ディスられてる?」

 

ヘルタは地味に酷かった。ちょっと涙目になりながら、ルドルフ大尉に尋ねる。

 

「大尉は?どうして?」

 

「そうだなぁ。……暴れられそうだから?」

 

「……ん?」

 

まさかの感想だった。俺関係なくない?いや、コートニー少佐に希望をたくそう。恩師と言えば恩師だし、きっとなんかある筈、

 

「まあ。他のとこでも良かったが……探すのめんどくさい」

 

「そんな、定年後の再就職先探すの怠いから身内のとかでいいや。みたいなノリ」

 

「まぁ、気にするな。がはははは」

 

「あ、誤魔化された」

 

その日俺は自室で、人知れず泣いた。

 

 




ユーセル:結局話できてないなぁ


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海賊の時間だ!by主人公

ミサイルが飛び交いビーム砲の光が宇宙を照らす。

一筋のビームがすれすれに通り過ぎるたびに船は傷つき速度が落ちる。

その繰り返し、また中にいる人間の絶叫が響く___

 

方や輸送艦方や2隻の軽巡洋艦。

初めから決まっている勝負。

今でこそ一定の距離をとって走行しているが距離が離れてもいない。

いや追いつかれてすらいる。

軽巡洋艦は速度を早くして戦艦を狩るように設定されている。

輸送艦はもともと積荷をたくさんつみ安全な航路をゆっくり進むようにできている。

例外もあるが、大方そのとおりだ。

まず設計思想が違う。この艦も例外ではない。

むしろ軽巡洋艦におわれてここまで、逃げていられるのは艦の操縦士の腕がいいのか、はたまた敵の砲撃主の腕が悪いのか・・・はたまた誰かの策略か・・・

そんなことはこの輸送艦の一角に閉じ込められている少女には関係なかった。

窓も無い部屋でうずくまっている少女には外の様子など分かりはしない。

だが予想はできる。艦が揺れるたび少女の体がボールのように跳ね部屋のあちこちにぶつかる。

なにもない部屋だったのが幸いしたのかもしれない。

家具などがあったら打撲の上に切り傷まで追加されていたかもしれない。

そもそもつかまるものが無いからボールのように跳ねているのだが・・・

 

揺れるたびに少女は数々の実験で色素が薄くなった髪が広がり、整っている顔をしかめる。

どうせ生きのこったところでこの艦に乗っているかぎりつらい訓練の繰り返しなのだから、いや辛いとすら思ってもいないのかもしれない。知らない薬を飲んで機械を動かして敵を破壊する。

その生活も終わる。

よく逃げているがいずれあたり私ごとこいつらも死ぬ。そのときはざまぁとも思うかも知れないが・・・いや思わないのかもしれない。そのときは私は肉片になってるだろう、いや欠片ひとつないのかもしれない

もう関係ない。私は____

 

 

 

 

バンッ!

ある女性はいらだっていた。

さっきから後ろについているサラミス級がうざい。

すれすれに掠って行く光を見るたびにうるせぇ!!とでも叫びたくなる。

苛立ちすぎて蹴り上げた私は、悪くわない。

だから嫌だったんだ!ア・バオア・クーへの移送任務など!!

いや混乱しすぎだ落ち着け。頭を冷やせ!なんていった声も女性には届かない。

女性を抑えようとしたメガネをかけたひょろい男性が、暴れる女性にヒールで股間を蹴り上げられて悲鳴を上げる。

ブリッチにいた男性が悲鳴と潰される本能的恐怖にみな股間をガードする。

そうしてる間にも攻撃はつづいている。

 

こちら貨物船エーデルワイウ敵サラミス級の攻撃を受けている!!この___

 

我に返った女性が通信機に飛びつき救難信号を出してはいるが、助けになど来ないだろう。

助けに来る軍などもう降伏したし、これは連邦軍のストレス発散だ。

弱者をいたぶりやられた恨みを晴らす。

別に歴史を見ればこんなことをやってる軍隊など珍しくない。

しないのはよっぽど教育が行き届いた軍だけだ。

荒い軍など止めようとする上官を無視、いや口封じに刺すと言ったこともあったそうだ。

一応捕虜を捕るようにいわれてはいるが監視の目がゆるいこんな辺境ではとこんなことも起きてしまう。

ただそれだけのこと。

 

爆発音。

 

その追いかけっこもついに終わる。

ついにエンジン部分に直撃弾が出たのだ。

大きく揺れる艦橋。

艦長はで迎撃と言う選択肢が浮かんできたがモビルスーツと変なモビルアーマー一機ずつしか積んでいない。モビルアーマーは一機でモビルスーツ五機分の戦力になるといわれているが、あいては一隻に五機は積んでいる。どう考えても負ける。

賭けても良いが逃げ切れないそれじゃあ。かすかな希望をかけて救援を待ってこの鬼ごっこを続けていた方がいくらかマシだ。そう結論付けてこう叫んだ。

修理急がせい!!

 

そんな中、女性はゲージが振り切れたのか、逆に静かになってしまう。

そして覚束無い足取りでどこかへ消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「救難信号?」

 

「はい。結構近いです。HK-23ポイント。これですお聞きになりますか?」

 

「ああ流してくれ。」

 

こちら貨・・エー・・・・・敵サラミ・・の攻・・・・受け・・・!!こちら___

 

いくらか雑音が流れた後かすかに分かる断片的な情報。

 

こちら貨物船エ……敵サラミス級の攻撃を受けている。救援を

 

だろうな、たぶん。

救援信号が送られてきた方向に目を向けてみる。

両隣には偽装作業中の艦隊。

 

ふーむ。どうしたものか・・・

 

 

 

 

あの後俺たちはサイド3に行くのを取りやめ、少し離れたデブリ地点で簡易拠点を作り潜むことを選択した。

え?サイド3に行かなかっただって?

いきなり艦隊を動かすわけにも行かず、先に偵察機を出したがサイド3駐屯軍が大規模に動いているのを確認した。偵察機にはその監視を命じてある。

全軍ではないようだったがサイド3はほぼもぬけの殻状態になっていて補給を受けられそうになかったからな。

補給は諦めた。

三艦の全クルーに確認を取ったが全員付いてきてくれるんだそう。

それならわざわざ行く意味もない。

 

あの会話の後少しぐれた俺は転生うんぬんをぼかして、これからの世の中の動きと

 

 

「スペースノイド(自分の欲望)のために俺は連邦(世界)に戦争を仕掛け、差別の無い平和な(俺の)世の中にしてみせる。だから俺に付いて来てくれ!」

 

 

と(本音)の言葉は抜かして宣言してやった。

兵の大半は俺の言葉にわりと感銘を受けてくれたようだった。まぁ、艦長たちや艦橋のみんなにはばれてそうだっが、皆苦笑していた。

 

でも、まぁそういうことならと考えを出してくれた。

 

 

曰く、

「それなら戦力が必要よね。じゃあこの(ア・バオア・クー)空域に残って(ジオン)残存勢力を回収したらどうか」と

 

 

割と目から鱗だった。

俺的にはデラーズ艦隊に合流して、コロニー落としの後の戦力を集めて配下にする予定だったが(シーマ艦隊とか)そう言ったら、

 

「人望無いんだし。()()海兵隊のシーマ・ガラハウがうちの司令官ごときについて来てくれるわけ無いじゃん(思いますけど)(思うぞ)」

 

君ら息ぴったりだね!俺、君たちの上官なんだが!もっと敬ってくれよ!

割と傷つく。そんな俺の姿見て更に笑ってやがった。

傷つく。

 

と言うわけで、戦争は終わったがまだ連邦に下るのを良しとしない艦隊や戦力はいっぱいいる。

そいつらを助けながら集めたり、併合することになった。

確かによく考えれば確かにそのほうがいい。

連邦軍の追撃を逃れるために戦力増強をしておいてもいいし。

もちろん増加した分、発見される確立は大きくなるが、ある程度固まっていたほうが相手がパトロール艦隊なら攻撃を躊躇する。

本格的な攻撃なら散開して逃れるなり迎撃したりできるメリットは大きい。

あの戦いに生き残ってまだ反抗するやつは、骨が有りそうだし、即戦力が手に入る。

なかなかいい事ずくめだ。

 

 

 

 

それからはたびたび逃げてくる同胞のやつらを救ったり、連邦の輸送艦隊を襲いながら生計を立て生活している。

なんで補給部隊が必要かって?

戦争は終わったしそう考えると要らないのかもしれないが、ア・バオア・クーを手に入れてまだ日が浅いし完全に分かってない部分もあるんだろう。

 

そのうえ大きい反乱勢力が居座っている。

 

そう我が艦隊である。

こいつらはジオン軍残党をまとめて補給物資を奪っていく。

連邦にとっては目の上のタンコブだろう。

 

今は補給がなくなっていく連邦軍は焦って、それぞれ艦隊を分けばらばらに荷を運ぶ作戦を取っている。

これは正直悪手だと思う。戦力を分けたらほぼ確実に奪われるし取られる。

 

俺たちを討伐しようとしてもパトロール艦隊じゃ手に負えないし、大規模討伐軍を差し向けても、パトロール艦隊は撃破された上に、もう逃げられている。

その討伐戦力確保の為艦隊が引き上げられない。

むしろやられてるから補充する。物資が足りなくなる。

補給部隊を派遣する。また奪われる。

見事な悪循環だ。しかも相手は時間がたてばたつほど残党を回収し大きくなる。

いまごろ

 

「どんな無理ゲーだ」

 

と、連邦軍の上層部の偉い方は涙目で頭でも抱えているころだろう。

はっはっは。ざまぁ。

 

そのおかげで懐は結構ウハウハだ。

あまりに多すぎて

 

もうこっちの弾もったいなくね?

 

みたいな発想が出てきてモビルスーツの武装が連邦製になってるぐらいだ。

 

なんかもう、いっそのことモーレツな宇宙海賊にでも転職でもしてしまおうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を戻そう。

輸送船を助けるか助けないかだ。

 

正直こんなこと言うとすべてうまく言ってるように聞こえるが、現状は割と苦しい。

回収した奴等は激しい戦闘から逃げてきただけあって結構、損害が激しい。

逃げるときもそいつらに足並みそろえてやる必要があるから全体速度が落ちる。

昨日の戦闘なんてあと五分遅かったら討伐隊に追いつかれて宇宙の藻屑になるところだった。

それに最近は規模が大きくなり襲撃回数が多くなってきた。

 

そろそろ潮時だろうか・・・?

 

いや別に助けてやりたいとも思うし、いきたいのが今は拠点偽装建造中で艦隊規模の艦を動かすとなると(現在の戦力=チべ級1隻にムサイ級14隻、小中補給艦、補助艦15隻)これだけの数が動くと流石にばれてしまう。絶対。

だから必然的に一隻だけということになる。

そうなると出すのは成功率を上げるため我が艦隊の最高戦力であるチベ級になる。

サラミス級は一隻とは限らないし武装解除させるのも手間がかかる。結局は沈めるしかない。

となると物資も奪えない。

そうなると弾は減る。燃料も減る機械の寿命だってくる。

最近の攻撃回数が増えた所為でクルーの疲れも溜まっている。

動かすのもたたじゃないのだ。

無い無いずくしだ。

 

「どうするべきだと思う?」

 

元々の我が艦隊、三人の衆に相談してみる。

コートニー少佐、うちの艦の艦長。ルドルフ大尉、ヘルタだ。

 

「ワシは助けるべきだとは思うぞ!同胞を見捨てては置けんしなぁ近いので直ぐに行けるのだろう?」

 

「そうだな少佐の言うとおりだ。味方は見捨てて置けないだろう。だが近すぎるのも問題だ。流石にこの規模の艦隊を動かすとなると発見されてしまうだろう?」

 

「むぅ、言いだしっぺとしては、やっぱり助けないといけないと思うのだけれど。こちらの損ばかりでいいことは無いよね。近いからこそ、見つかってこの簡易拠点が報告されるかもしれないし。反対・・・かなぁ」

 

「うん。賛成が二で反対一か・・・そうだね。大尉、だから助けに行くなら速度が一番速いこのチベ級で行こうかなとは考えている」

 

「一隻だけじゃ不安じゃないかのう?」

 

「そうだな少佐の言うとおりだ」

 

「全体的には行くみたいな雰囲気ね・・・それでもいかないべきだと私は思う。最近は私たちの所為でパトーロール艦が二隻以上になってるし、それにつかまったんだ…と思う。一隻で行くならなおさら危険だ」

 

「たしかにヘルタの言う通りだなぁ。それなら途中までチベ級が向かって、撃破されてたら人命救助。されてなくて助けられそうなら、交戦して殲滅する。これでどうだ?」

 

まあ見捨てるのも後味が悪い。

どの道、通信があったのはほんとに目と鼻の先だ。

見つからないならいいが見つかったら増援を呼ばれる。

見捨ててもこっちが見つかるかもしれない。

そうなると、どの道どうせ艦隊は移動しなければいけない。

どうせなら気持ちのいいほうを選んだほうがいい。

それならと言って肯いてくる三人。

 

「各員。第一戦闘配備!これより我が艦は、味方輸送船の救援に向かう!!」

 

「了解!各部署に連絡。船を出すぞ!」

 

俺の指示で艦内が慌しく動き出す。

 

こうして俺は味方輸送艦の救援に向かった。

それ自体が罠だと知らずに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




???:「かかりおったな!野蛮な猿共が!」




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え。強すぎ?・・・仕様です。

私はとあるこの艦にある一室に向かっていた。

もう足元はふらふらで生存本能にしたがって動いていた。

冷静な部分がダメだと叫んでいるが、あいつを出せば割と最新鋭機だ。

連邦にもまだそんなに手に入れてないはずだ。

いまさら手に入れられてもたいした痛手でもない。

モビルアーマーの方はすぐには動かないが、モビルスーツの方は動く。

あいつを入れて放り出せば二隻の内一隻くらい落とせるかもしれない。

その場合、私の最高傑作失うのは辛いがを私の命には代えられない。

 

いつの間にかドアの前にたどり着いていた。

此処は私とひょろいメガネ男ぐらいしかあけられない。

鍵を差込みパスを打ち込む。

 

My treasure

 

あのメガネが打ち込んだパスだが、その宝物を知らないところで放り出されるとは、皮肉でしかない。

あとで何か言われるだろうが、あいにく今の私は少し大きめの買い物で散発したときの高揚感ぐらいしかない。

ドアがスライドし暗い殺風景な室内が照らされる。

 

いない・・・

 

「逃げたのか?」

 

あのメガネが?いやそんなことはない。ほかに部屋もないし。

カンカンと音を鳴らし部屋に踏み入る。

暗くて目がなれない。誰だこんな設定したの!!

部屋が暗いのは出すとき、空けた瞬間逃げようとした捕虜をライトの光に目をくらませその隙に捕まえるためなのだとか言っていたが今は関係ない。

 

目が慣れてきた。

 

「いた・・・」

 

目的のものがボールのように丸まって浮かんでいた。

近くによって襟掴み歩き出す。

行き先は格納庫だ。

 

急がなければ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首が苦しい。

せめて死ぬときに痛みがないよう寝ていたのだが・・・・

痛みには慣れているが、息苦しいのはなんか新鮮。グエッ。いやなれてないかも。

このままだと流石に苦しいので、空気をえるために首を上に向ける。

ぷはぁ。んー、ガンッ。

背伸びしたら腕をぶつけた。痛い、いや痛くないかな。ガンッやっぱ痛い。

もうぶつけたくないので体を丸める。

あの部屋掴まる所も何ないので艦の振動であちこちぶつけたのだろう。痣ができてる。

はぁ

ため息をつく。ガンッ嫌がらせかな。

 

どうやら私はどこかに運ばれてるようだ。

まあ襲われてるみたいだから出撃しろとでも言うのかな。いや言わないのかな。

出撃するとしたら乗る機体は多分、前乗った魔女の帽子みたいなモビルアーマー・・・じゃないね。

調整が不十分とかで少し完成してないらしいし。

じゃあその護衛機のゲルググかな。

まったぶんそうだろうな。いや今出たら高速離脱中のこの船に帰ってこれないと思う。

そんなひどいこと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもどおりか。

着くまで眠らせてもらおう。お休み。

ガンッ・・・・イタイ

 

 

 

 

「乗りなさい」

 

格納庫に着いた。

やっぱりゲルググだった。

ペイッ。

ゴミでも捨てるみたいに放り投げられた。

ベタッっと全身でくっつく。

逆らってもいいことないのでさっさと体を滑り込まして乗り込む。

ゲルググ系の機体は始めて乗るが、まあできないこともないだろう。いやできないかな?

っていうか実戦自体が始めてだ。

起動スイッチを押して各種確認レバーをオンに、すぐに機体の動力が動き出す。

うん問題ない。

 

「起動できたらすぐに出なさい」

 

無理を言う。まあ行くけど、武装を手に取り(ビームライフルとシールド)挟まっているせいで下敷きになっている。詰めれればいいと思ってるな。

隣にあるモビルアーマーが邪魔。

大きすぎる。いやこの船が小さいのかしら。

仕方がない。

モビルアーマーの接続を少しはずして武装を引っ張り出す。

準備完了。いや機体の周りについてる出撃前にはずすことってかいてある札を剥がしてないし、完了してないのかしら。ま、いい。

 

「いっきまー___」

 

最後まで言わせてもらえずに私は宇宙空間に放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにが起こった!」

 

「それが・・・コンテナのひとつが開いて中に入っていたMS…ゲルググが放出!」

 

「それは分かっている!!誰か乗っているのか!?」

 

「不明です!!」

 

 

正規のパイロットのはずがない。そのパイロットは今通信機に張り付いている。

混乱した艦長は頭をバリバリとかきむしった。

ちなみに艦長は捕虜室の中に閉じ込められているパイロットのことを知らない

 

「そうだ!あなたはなにか・・・?あれ?」

 

艦長はさき程から黙り込んでいる女性に声をかけるも、どこに行ったのか、影も形もない。

 

「ええぃ」

 

仕方がない。知り合いっぽいメガネ男のほうに声をかける。

が先ほどから出撃したゲルググの映像を眺めている。

二三回呼びかけてはっとしたようにすまないといって此方をみる。

その顔は信じられないとでも言いたげだ。

 

「お前はあのゲルググのパイロットを知っているのか!?」

 

「いや、知らないかもしれないし知っているかもしれない」

 

どっちなんだよ。その突っ込みを抑えて先を促す。

 

 

それで、と。あのパイロットはいったい誰なんだ?とも

 

 

その問いを受けたメガネ男は、それを無視し目の前で突然、ポケットから携帯端末を取り出し弄り始める。

これだから研究者という人種は!!その叫びを押さえ込んでたえる。

 

そもそもあの女とこの男は研究者らしいのだが、この艦にある魔女の帽子のようなモビルアーマーを戦場に連れていけと上官に命令されて一緒に連れてきたのだが、

こいつらは最終兵器だの革新的な兵器などわめきア・バオア・クー戦に参戦しようとしたのだが間に合わず。ついた頃にはもう味方はとっくに降伏していた。

俺たちも降伏しようとしたが、あれを渡すわけにはいかないと騒ぎ立てやもなく停船。

それは何だと聞いても黙秘していいやがらねえ。

挙句の果てに行き場がなく漂っているところに奴等にみつかりこの事態だ。

 

段々腹が立ってきた。

いっそのこと撃ち殺してやろうかと思っていて所に、やっぱりとつぶやいて男が顔を上げこちらを向いてくる。

 

 

「あれは___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てきたのはいいのだけれどどうしよう」

 

MS、ゲルググに乗っている少女はそう呟く。

何の説明もなくいきなり乗せられたので状況など分かるはずもない。

目を瞑り、周りを確認。

ふうん?

 

 

少女の駆るゲルググは、とりあえずあいつら撃破すればいいんだろうと言わんばかりに、そこまで距離がはがれてなかったサラミス級に襲い掛かる。

 

ビームライフルを三連射。

 

高速移動中に撃ったこととそこまで距離が近くないこともあって三発中二発は外れてしまった。

当たった弾は艦に貼り付けてあるジムの一機にあたり中破させた。

爆散してドミノみたいに倒せないかと思ったがそれはさすがに都合が良すぎたようだ。

いきなり出てきたことが幸いしてまだジムは出てきてない。

 

今の内に取り付いて破壊する。

 

そう決め弾幕を潜り抜け接近する。

 

サラミス級なんてマゼラン級に比べればちょろい。

 

簡単に言うが確かにサラミス級は弾幕が薄いが、それは全方面に向けているときの話で、今の一機だけを狙っているという状況はエースパイロットが専用機をもっていても躊躇うものだ。

そのなかに一般機のゲルググで簡単に突っ込んでいったのだ。

これを見ていたものに、あの機体に乗っているパイロットは今日初実戦なのだといってもだれも信じはしないか、悪い冗談だとでもいって笑い飛ばすだろう。

 

「・・・・」

 

一気に近寄りブリッジにビームライフルを突きつけてやる。

その状況に驚いているようだった。

音が聞こえたなら馬鹿な!!とでも叫んでいることだろう。

というか実際に叫んでいた。

 

引き金を絞る。

 

ブリッジのガラスにヒビが入り、艦橋が爆散する。

まだビーム砲や機関砲は生きているが頭を潰したので、その狙いはまだらだ。

速度も落ちている。

 

この船はもう無視してかまわないだろう。

 

「一隻目・・・___ッ」

 

この艦のジムがもう動き出したか。いやいまさらかな。母艦はやられたのだし。

二機か・・・いや今下側からもう三機出てきた。

 

合計5機。

 

こいつ等をほおって置いてもう一隻の撃破に向かいたいが、撃破できたとしても向こうに搭載してある六機とこの5機追いかけてきて挟まれたら、十一対一になる。

流石に無理な相談だ。

というわけで却下。

迎撃しておくことにする。

その間にもう一隻は離れて追いつけなくなるだろうが、仕方ない。

あきらめて貰うしかない。いやあきらめてないから、私を出撃させたのかな。

 

うおっと。ごめんね。無視して。いや謝る必要あるのかしら?

無造作にビームライフルをジムに向け発砲。

頭部に命中。

よろめいてる隙に、ビームナギナタを一刀両断。いや突きだけど。

こっちのほうがカッコいいじゃない。いや悪いのかしら。

 

撃破。

 

仲間がやられて慌ててる。

ジムの一機に向け、数発撃ってみたが、シールドで防がれてしまった。

同じ手を食う程馬鹿ではない!ということか。

一当てして撤退する。する場所ないんだけど。

そろそろサラミス級から放たれる迎撃がしつこくなってきたから、場所を変えるだけだ。

一定の場所にずっと撃ち続けてるけてるから、障害物みたいになっていて少し邪魔なのだ。

これで一機ずつ追いかけてくれれば、各個撃破すればいい。

幸い此処は見晴らしがいい。

追いかけてこなくても、ジムのビ-ムスプレーガンよりこっちのビームライフルのほうが射程が長い。

射程外から撃てば一方的に撃破できる。

そう思って相手の射程外まで距離をとる。

 

追いかけてはこなかった。

あたふたしていて、まるでダメだ。

振り返って狙撃用スコープをとりだし、狙いを定める。

これで終わり。まあこの戦闘が終わっても帰れないから私の人生も終わりでしょうけど・・・

 

ちぇっくめいと。

 

爆発。

 

私が撃ったのではない。むしろ逆だ。こちらが爆発したのだ。

モニターから見える風景が二転三転する。

スコープを覗き込んだまま回ったので気分が悪い。

望遠鏡をのぞきながら、ジェットコースターに乗ったような気分だ。

回るだけでもきついのに、倍プッシュである。

 

本能がここから動けと言っているのでそれに従い、機体のフットペダルを踏む。

視界の片隅にピンク色の閃光が走るのが見える。

姿勢が安定しないまま移動したのでさらに気持ち悪い。

吐きそう。

うっ

 

「けっほ・・・げほ・・・!」

 

胃に吐くものが無かったので、空えずきだけだ。

こっちの方がきつい。

コクピットみたいな空間で吐かなくてよかったのかもしれない。

そう考えることにする。じゃないとやってられない。

 

スコープを外し、ダメージを確認する。

右脚部が丸々無くなっていた。

これは・・・とてもまずい

 

モビルスーツのAMBACシステムがはたらきにくいと言うのもあるし、なによりゲルググというMSは下半身にスラスターが集中している。

腰、右足部、左足部だ。

この三分の一が失われたのだから、単純計算で三十パーセントの推力ダウンだ。

 

ロックオンアラート。

 

さらに後ろに5機。

どうやらもう一隻から味方を助ける為、こちらに駆けつけてきたんだろう。

避けてはいるが先ほどより動きが鈍い。

こんなのはただの時間稼ぎだ。いずれ当たる。

 

「はぁ・・・」

 

目をつぶり、覚悟を決め撃破される時を待つ。

 

「・・・・?」

 

おかしい攻撃がやんだ。

 

私をねらっていたジムが光に貫かれ爆散。

味方・・・?

いやあれは戦艦の主砲クラスの光だ。

 

ここらへんに戦艦なんていないし。たぶん誤射だろう。

それで助かったわけだが、助かったというより「味方の攻撃に当たるなんてバカな奴だ」とぼんやりと考えていた。

そもそも戦艦がモビルスーツサイズの小さな的を当てるのは不可能に近い。

だから戦争初期、数に勝る連邦軍がジオンのザクに負けたのだ。

だがどうだろう。その考えを裏切るように次々とジムが貫かれ破壊されている。

 

そんなバカな。

ビームが放たれてくる方向を見る。豆粒みたいな距離だ。

当たっている確率は十六発中二発だろうか。

少なくなんて無いむしろ奇跡だ。

ふつうはかすりすらしないものなのだから。

 

考えてるうちに、あの戦艦の艦載機であろうモビルスーツのスラスターの光。

接近してくる。段々見えてきた。

ジオン系列の機体特徴的であるモノアイ。

ジャケットを着ているようなずんぐりとしたシルエット。

とある少佐(当時)が提唱し、一年戦争中期に開発された機体。

当時はジェネレータの問題があったそうだが、時間を掛けエンジンの改良を重ね、その問題を解決。

ジオン軍ではビーム系統の装備が一番始めに、装備された機体でもある。

総帥自ら、この機体が後一ヶ月早く生産されていれば、ジオン軍は勝利していたのではないかと絶賛された、ザクに次ぐジオン軍のベストセラー機。

実際この機体の所為で今連邦は戦力不足に悩ませている。

連邦軍やその上層部にとっては恐怖の象徴だ。

そのベストセラー機のドムをコストダウンや軽量化を目的に作られたのがゲルググである。

 

それが一、二、三機。

 

三機のリックドムが残りの三機のジムを撃破していく。

最後の抵抗とばかりに、本来黒色の部分を白く塗装してあり手に持っているジャイアントバズーカの他に細長い筒のような武器を背負ったドム(おそらく隊長機だろう)に狙いを定め、発砲。

白いリックドムはバレルロールしながらそれを回避。

主武器であるバズーカをむけ、発砲。

まるで吸い込まれるように、放った砲弾はジムが構えたシールドに命中。

シールドを構えた右腕ごと吹き飛ばす。

うわぁ。えげつない。

最後はビームサーベルを取り出し、鍔迫り合い。ジムの方が押されている。

ジムの方は片腕しかないのが響いているのか、それともドムの方が高出力だからか。

きっと後者だろう。たとえジムが両手が使え、万全の状態だったとしても。

ジムのサーベルが洗礼された刀だとしたら、リックドムの方は丸太である。

達人だったなら刀で丸太を切れるだろうが、常人がやっても切りかかったほうが折れてしまう。

それは火を見るよりあきらかで、

結果はジムが押し切られる形で、サーベルごと真っ二つになってしまった。

 

そうして謎の機体は、私が散々てこずったジムをあっさり撃破してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作キャラはよ出したい・・・・(直ぐ出すとは言っていない)


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とある少女との出会い

出す前に小説情報見たら、五十件以上でした。
お気に入りが何気に一話、十件ペースぅ!

ビックリしたのと同時にすごくテンションあがりました!
これからもこの作品をよろしくお願いします!



「・・・うっわ・・・」

 

思わず声が漏れてしまう。

これはひどい。

もし自分があのジムのパイロットであったならきっと同じような感想を抱いたことだろう。

モビルスーツのモノアイがゆっくりこちらを向く。

 

ここから逃げろと私の本能が次げている。いやどうせこのゲルググは改良機と言っても所詮、ドムの劣化版だ。損傷もしている。

逃げられるわけ無い。

助けてくれたのだと、いうことは理解できるが、これは条件反射のようなものだ

冷や汗が出るのがとめられない。

怖い・・・

久しぶりに恐怖というものを味わった。

リックドムのこちらを眺める一つ目、気をつけていなければ吸い込まれそうだ。

こちらをすべて見透かしてくるような目。

あの女に味わらせられた物より断然強い。

 

「お・・・い・・・返事を・・・」

 

通信機から通信が入っているが、今の私の耳には聞こえない。

怖い・・・

 

この後母艦に回収されコクピットから出されるまで、私はただ・・・ただふるえ続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困った・・・」

 

救援信号を受け、救援に向かった俺たちはサラミス級一隻とジム約十機と戦闘。殲滅した。

先に出て、戦闘していたゲルググがサラミス級を無効化していたこともあり、すぐゲルググの援護に向かえた。

右足を失ってジム五機に追われていたゲルググをビームバズーカでチベ級と一緒に砲撃。

混乱しているうちにゲルググを救出し、残りの四機も直ぐに殲滅した。

後は追われていた輸送艦を救出。

後はモビルスーツがないサラミス級なんてすぐ轟沈できた。

自分の船に帰るように指示したが、なぜかゲルググのパイロットの反応が無かったんで仕方なく連れてきた。

ここまではいい。

せいぜい格納庫が少し狭くなるぐらいだ。

 

問題はここから、

俺は、俺のモビルスーツである専用機のドムから降りた後、あのジム十機の迎撃を受けても生き残り更にサラミス級を難なく撃破した凄腕パイロットの顔を拝んでやろうと思ったところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

ガコンッ!

 

機体がハンガーに固定されたのを確認して、専用機であるリックドムのハッチを空ける。

圧縮酸素がコクピット内から格納庫に出て行き、少しの風を巻き起こす。

少し疲れた。モビルスーツ戦闘なんてほんとに久しぶりだ。

いつもは戦場にモビルスーツに乗り、出ない俺だが、たまには出撃しないと腕がなまるからな。

だからこうしてこまめにモビルスーツに乗るようにしている。

最近、重要な戦いばかりで艦長席に座ってることが多いからな。

格納庫内に出ておれの専用機である機体を眺める。

格納庫内にあるドムと少し比べる。俺が介入したおかげでこの世界のドムは少し原作より強化されてる。

 

 

 

 

回想。

 

 

始めはもとの世界で一年早く作られたらジオンが勝利していた!と言われるジオン軍の最高傑作ゲルググを作ろうと、ない頭絞って開発部に設計図を提出。

 

これで勝てるだろと家でふんぞり返ってたら、甘かった。

発想がなかったからできてなかったんだろ?とでもおもって、自信満々で渡したのに・・・

後日こんなのは無理!!といって返却された。

 

ビーム系統の技術がこんなに小型化できないから今困ってるんだぞ!ごらぁ!

 

ってぶち切れた研究員が家に乗り込んできた。

設計図があっても技術が追いついてないと作れないんだねぇと言う考えにたどり着いてなかった俺は、まだつたなかった・・・

仕方ないだろ・・・まだ若いんだ・・・

 

こうなったら仕方ないと思って目標を切り替えた。

そうここでドムだ。

ドムは戦争最後まで生き残ったいい機体だ。

地上の機動力は言わずもがなだし、少し弄るだけで宇宙にもいける。

 

前世でギレンの野望をやっていた俺は、ドムの前がグフフライトタイプだというのは分かっていた。

この機体は簡単に言うと、モビルスーツは空を飛べるんだ!!とか考えたとある科学者が開発。

または跳んでみせろや。おんどりゃ(モビルスーツ)!!なんて言った上の無茶ぶりに答えた結果。

結局少ししか飛べませんでしたーってなって、あれこれ機動力抜群じゃね?やばくね?マジやばくね?

ってなった機体を弄って開発したのがドムである。

 

幸いグフは出来ていて、グフフライトタイプは開発中だったんで、これを地を這うタイプに変えてくれない?ってお願いして少し早く作ってもらった。

で、段々改良させて行って、

 

ビームが使えないのが初期型。

これが原作で言うノーマルドム。

 

ビームバズーカが使えるのが中期型。

ガトー少佐とかが乗ってたやつ。

 

ビームバズーカのエネルギーを外付けじゃなくて本体に移動。

武装の小型化に成功したタイプが後期型。

もっとも生産数が多いタイプ。

こっちで言うドムはこれのこと。

 

ビーム兵器全体を使えるのが後期完成型。

俺が介入した結果作られたドム。

提案者権限で優先的に回して貰った。

エースパイロット用ドム。

 

 

ってな感じになった。

 

 

回想終わり!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして出来た結果である、俺の機体を眺める。

各所に白く塗られたカラーリング。普通のドムとは違い出力が強化されており、強弱ができるバズーカにビームサーベル。

サーベルは背中に背負う必要がなくなったので、ゲルググのように隊長機にはバックパックが追加されている。

自分の好きに改造したプラモを見てる気分だ。こっちは本物の機体だ。

小市民の俺は感動も一押しである。

 

かっこいいなぁ・・・

 

「おいゲルググのパイロット!ハッチを空けて出て来い!」

 

ん?

整備員の叫びが余韻に浸っている俺を現実にひき戻してくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「あっ!中佐お疲れ様です!」

 

「あっうん。おつかれ」

 

答えになってない。叫んでた内容的に状況は分かるんだけど・・・

 

回収したゲルググのパイロットが降りてこない。

 

声をかけようと思っていたのだがすっかり悦に浸っていたから忘れてた・・・

 

「まあ。なにか出られない事情があるんだろう」

 

「しかしいくら呼びかけても出てこないんで・・・なにかあったんじゃあ?」

 

「ふうん?」

 

格納庫の壁をけり浮遊。ゲルググのコクピットに取り付く。

連れて帰るときも返事が無かったし、司令官の義務的にも連れてきた責任的な意味でも俺が相手をした方がいい・・・とおもう。

それにあれだけの戦闘を展開していたんだ。

腕はいいんだろう。出来ればスカウトしておきたい。

装甲板を叩き中にいる奴に声をかける。

 

・・・・・・

 

返事はなしか。

流石に篭もりっぱなしはよくないし、通信機も壊れて、ハッチの開閉スイッチがこわれてるのかも知れん。

手で合図して人を退避させる。

乗り口近くにある強制開放レバーを持ち、思いっきり引っ張る。

パシュ!

 

短く空気がぬける音がしてハッチが行きおいよく外れる。

あぶねっ!

 

「あ、艦長まっ…」

 

「司令ーいつまでも格納庫でドム眺めてないで戻って・・・・ふぎゅ!」

 

あっ様子を見に来た副官にハッチが当たった・・・

っていうかよく俺が出撃終わった後ドムみてるってわかったな。

不運な奴・・・

って言うかわざわざ呼びにこなくても格納庫の奴らに頼べば良かったのに、なんでわざわざ来たんだ。

お前艦橋にいなきゃいかんだろう。←人の事いえない

 

まっあいつには後で謝るとして・・・整備長が向かってたし大丈夫だろう。

いまはそれよりこっちだ。

中を覗き込み中の奴に声をかけた。

 

「おい。大丈夫か?・・・っ!」

 

・・・・・はっ!

フリーズしてた。

いやいやだって団子虫状態でまるまって、震えてる女の子をいったいどうせいと言うんだ?

前世でも彼女いなかったし今世も女といえば、そこで伸びてる奴とレビィとオペ子ぐらい・・・

なんか・・・・悲しくなってきた。

と、とりあえず肩をつんつん。

こっち向いてキミ。

つんつん。

 

「大丈夫か?」

 

つんつん。

自分の肩を叩いてくる存在に気が付いたのか、ゆっくりと顔を上げる。

中学生ぐらいの歳だろうか。幼い顔立ちをしている。

ただ世の中学生とは違い、

 

「っ____」

 

伸びきってまともな手入れもしてないであろう髪の下には、何かに疲れたような不健康な表情がそこにはあり。

 

 

どこか見覚えのあるそれに、俺は_____

 

 

こつん。

狭いコクピットの内壁に頭を軽くぶつけ、ぼやけていた意識が覚醒する。

 

「・・・あっ・・・」

 

少女は驚いたように体を震わし、後ずさるように体を動かしたが、ここはコクピットの中、移動するスペースなんて無い。

 

「お、おい。大丈夫か!?」

 

「こないでくれ・・・・・・!」

 

「えっ・・・いや俺は・・・」

 

「っ・・・!?」

 

少女は体を震わせ、頭を守るように抱え、蹲る。

なぜこうなったのかは分からないが・・・

 

「・・・だが」

 

推測は出来る。

 

先ほどの戦闘。

 

ここは機動戦士ガンダムの世界。

 

民間人の子供がモビルースーツに乗るなんて例はいくらでも有る。

こんな幼い少女が殺しあいをして、乗ってる機体は損傷。

俺たちが助けに入らなかったら、殺されかけていた寸前だった。

トラウマになっていても仕方ないのでは無いか?

だから実際、今もこうして震えている。

 

「・・・・・・・」

 

このままでは話も出来ないと思い、少女の頭を軽く撫でてみる。

ぴく、ぴく、と手を動かす度に微かに反応するが、顔を上げる気配もない

少女の髪は手入れをされてないためか少し硬く、それでも自分の頭よりもはるかに小さいその感触が、女の子なんだと伝えてきて来ているようで、なんだか気恥ずかしかった。

 

 

面倒だなと思いつつ、少女の震えが止まるまで、俺は彼女の頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもより少し短いです。




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銭湯で飲む牛乳ってたまに飲みたくなるよね。(再投稿)

すいません。

作業途中で間違って出してしまって、修正して投稿しなおしました。

本当にすいませんでした。


「・・・・・なんのつもりなんだい?」

 

艦の中にある人気の少ない休憩スペースに連れてきて、備えつきの自動販売機で買ってあげた飲み物に口をつけ、一瞬顔を顰め、膝の上におきこちらを見てきた少女の第一声がそれだった。

 

「ん?・・・さっき渡したイチゴ牛乳のことか?たしかに甘すぎるよなソレ」

 

「いやイチゴ牛乳の話じゃないんだけど・・・」

 

「それとも俺が飲んでるコーヒー牛乳のほうが良いか?」

 

「いや。だからそうじゃ・・・・うん。それじゃ少し飲ませてもらおうかな」

 

「ほれ。甘いぞ」

 

今飲んでる牛乳をトレード。

イチゴ牛乳を一口。ん。激甘い!もう一杯!・・・・・うん。やっぱいらね。

販売機に近寄ってフルーツ牛乳のボタンを押す。なんでまた牛乳だって?

ここ牛乳系しか置いてないんだよね。

 

「ん。・・・・・そうだね。甘すぎるよ、コレ」

 

「だろ?・・・・・ちなみにココ全部甘いし、コーヒー牛乳が一番マシで、次点でフルーツ牛乳。で一番甘いのがイチゴ牛乳」

 

「貴方は初対面の人間に一番不味いもの飲ませたのか・・・・・ん。確かにマシだね」

 

「だろう?」

 

「でもそんなにいらないかな・・・」と彼女は呟いて瓶を膝の上におく。

確かにそんなにガブガブ飲むもんじゃないだろう。

これ個人的には好きなんだけどなぁ。コレ。

いや、一般的に好まれるもんじゃ無いとは分かってるけどね?

たまに・・・・こう、無性に飲みたくなるんだよね。

結構広い場所なのに、人がいない理由ここにあるとおもうね。

実際俺以外にココの牛乳飲んでるの見たことないし。

 

「・・・・・なんのつもりなんだい?」か・・・・

 

 

「君が女の子だったからかな?」

 

「え・・・・どうしたんだい?やぶから棒に」

 

「いやほら最初の、「何のつもり?」あたりのくだり」

 

「?・・・ああそうそう。すっかり忘れてたよ。激甘牛乳の所為で」

 

小さく笑って、手の中の瓶を円を書くように揺らし始める。

それにあわせて、琥珀色の液体がチャプチャプと音を鳴らす。

 

「ふうぅん?・・・・・ははっじゃあ貴方は困ってる女の子が目の前にいたら、私じゃなくても助けるのかな?」

 

「うーん。そうかな?そうじゃないかもしれないし、そうかもしれない」

 

「どっちなんだい・・・・?」

 

彼の優柔不断な態度に、呆れたような目を向ける少女。

いや俺のほうを向いているようで、彼女の目はココじゃない何処か遠くをみている・・・そんな感じがする。

 

 

すこし考えてみる。

実際声を掛けた訳なんて分かんない。

 

なんかちっちゃい子が震えてるのを見て、なんとなくほおって置けないとおもって、軽いノリでした自分の勝手なお節介。そもそもただのおせっかいに理由なんてあるわけが無い。

 

 

彼女は、俺が喋りだすのを待っている。

ポンッ、と何かを誤魔化すように、少女の頭に手を置く。

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっちだろうねぇ。自分でもわかんないや・・・」

 

 

いや。違う、嘘だ___ほんとは、きっと、分かっている。

 

・・・・・・ちゃぷ

 

「そうかい」

 

 

____ただ、なぜそんな顔をしているのか知りたかった。

 

・・・・・・ちゃぷ

 

 

「そうだよ」

 

 

____ただ、泣きそうな顔をしていたこの子を

 

・・・・・・ちゃぷ

 

 

「あなたがそういうなら。そう、なんだろうね」

 

 

____見捨て、られないと思った。助けて、やりたいと思った。

 

・・・とぷん・・・・

 

「そうさ」

 

ハハッ、と彼は軽く笑う。不思議そうに彼女は首を傾げる。

そのまま手を動かし、少し硬い彼女の髪をなでて、離す。

 

「・・・・」

 

出会って数時間も経ってない仲といえばそのとおりだ。

冷静に考えれば、民間コロニーも無い、あんなところに偶然、モビルスーツに乗っていたなんて事はありえない。何より落ち着きすぎているし、確実に場慣れしている。怪しさ満開だ。

そう考えると、この少女が段々信用できなくなってきてしまう。

 

でもそんな推測なんてひっくり返るほど、この胸の中の感情が叫んでいる。

 

自分をどうでもいいもののように扱っている。

人の善意が無いものだと思っている。

いや悪意ばっかりに接していた所為で、そもそも分からないともいえる。

救うなんて口が裂けても言えないけれど、彼女のためにできる限りのことはしてあげたい。

 

 

 

「・・・・・なぁ」

 

 

 

 

 

 

「うちの・・・・いや・・・そうだな・・・」

 

「・・・・?」

 

「キミさえ良かったら、さ。この艦隊にこないか?」

 

「・・・・・」

 

「きみは腕はいいし」

 

 

 

戦闘機パイロットとしてではなく___

 

 

 

「俺も話し相手がほしいし」

 

 

 

ただの話し相手ではなく___

 

 

 

「俺の元に来てほしい」

 

 

 

 

ここに来てほしい___

 

 

「どうだ?」

 

 

 

手を自分の前に差し伸べられた、手に彼女は呆然としたように、しばらく固まり。

手を開いたり握ったり、俯いたりしている。

 

 

 

「私は____

 

 

 

やがて顔を上げ、そろそろと手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

そうしてあと少しで手が触れそうな距離になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビィーーーーーーー!!!!!!

 

 

だがその返事に割り込むように、なりだした警報が二人の間を遮ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時間の少し前に戻る。

 

 

「・・・・・いたい」

 

体を起こす。

ん、暗い・・・

 

「だっ大丈夫ですか?艦長」

 

「え、ああ」

 

だれだ?

一瞬誰だかわから無かったが、相手はこっちのことを知っていたみたいだったので、確認の意味で顔をよく見てみる。

ふーむ・・・・

 

「・・・・・ああ、整備長か!」

 

「それ以外の誰に見えるんです・・・?」

 

目の前の男が誰だとわかったところで周りを見渡す。「・・・・無視ですか」

私が整備長といった男をはじめ結構な数に囲まれている。

暗かったのはこの所為だったようだ。

 

「まぁいいでしょう。それで思い出しました?」

 

状況確認。

なかなか上がってこない司令官に痺れを切らして、呼びに来たんだったわね。確か。

それで・・・・入った瞬間なんか緑色の壁が飛んできて・・・・

 

「うっ!頭が・・・」

 

「思い出したのか・・・・はたまた頭が痛いのか・・・わっしの取るべき反応ははたして・・・?」

 

「両方です。・・・心配してもらっておいて悪いのですが、まずベットに連れて行くべきでは?」

 

「いやぁ艦長。元気そうで何よりですわぁ!」

 

「いま露骨に誤魔化しましたね・・・大事無いのでいいですが」

 

「ははっすいません」

 

てへぺろでっさぁ。

となんか男がやっても、誰とくぅ?なポーズをとり謝ってくる男。

ぶっちゃけ気持ち悪い。

ほら周りの奴等、後ずさってんじゃないですか・・・

 

「素直にいうと気持ち悪いですそのポーズ。・・・・・さっきも言いましたが大事無いのでいいです」

 

「ですよねー」

 

クックックと腹を押さえて笑う整備長。

そこだけ見ると、この男の外観と合わさって、なかなか絵に成っている。

いつもそんなんだったら、少しはかっこいいのに・・・・・こんなヤツだったかなぁ。

 

「はぁ。貴方もそんなことやる男じゃ無かったでしょう?・・・・昔は、もっと・・・こう・・・・頑固オヤジみたいな感じだったでしょう」

 

「まあ、自分の体より突っ込みを優先する。副指令もだいぶアレだととおもいますがね・・・・艦長だって、昔はもっと、こう・・・ピリピリしていて、傲慢勝気な感じだったじゃないですか?」

 

「むっ。そんなこと無いですよ?・・・おらおらやろうどもきりきり働かんかぁ!が口癖でレンチブン投げて部下の頭に当ててた貴方に言われたくは無いです。司令が言ってました」

 

「はは。そんなことやってませんって・・・・貴方たち!ここんとこ間違ってるわよ!こんなことも出来ないのか屑が!とかほざいてたのにねえ?・・・ち、あいつめ余計なことを」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・もうやめましょうか」

 

「・・・・そうだな。この話題を続けてもいい事はなのもんねぇな」

 

・・・そういや司令探してたんだった。

途中からの会話の流れから、いつ衝突するのではとびくびくしていた周りの整備員に一言謝って去る。

 

「あっそうだ」

 

「ん?なんだ」

 

「司令知りません?探しにきたんですけど」

 

「ああ、司令ならほれ、あそこのゲルググのコクピットに居たんだが、・・・・・そういやいないな。どっか行っちまったよ」

 

弱った・・・・

やっぱり船が停止中だからって持ち場を離れないで、放送で呼べばよかったかなぁ。

でも司令、専用機のドム眺めてる時は放送ごときじゃあ反応しないから・・・

多分入れ違いにでもなったんだろう。・・・・私が気絶してる間に。

戻るか。

 

「それじゃあ戻ります。ありがとうございました」

 

「おう!じゃあな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てない?」

 

「ええ司令ならまだ帰って来てないけど?呼びに行ったんじゃないの?」

 

「はぁはぁ・・・居なかったから、入れ違いになったかと思って急いで戻ってきたの」

 

焦って急ぎ戻ってきた私の問いに、司令にオペ子って呼ばれてる子に聞いてみるが、返ってきたのはそんな返事だった。

外にはサラミス級の残骸と救難信号を出してきた輸送艦がとまっている。

追われてた時に受けた被害が甚大で自力航行出来ない状況にあの艦は陥っており、今はチベ級でワイヤーをくっ付け引っ張ろうとしている。

もう直ぐ作業完了の予定だ。

被害が悪すぎるため、乗務員だけでもこちらの艦に移動してもらおうと提案したのだが、拒否されてしまった。

 

 

「はぁまったくあの司令は・・・艦内放送で呼びかけてみる?」

 

「ええお願い」

 

 

ん、お疲れ様、とを私をねぎらいながらモニターに向き合う彼女、時折きついことを言うがこういうところは素直にいい人だと思う。

ちなみに息が切れていたのは格納庫から全力疾走したからであって、私が貧弱だからではない。

走るのは鍛えていても、別の苦しさがあるよね。・・・・鍛えなおさなきゃなあ・・・

放送ボタンを押し込んで呼ぼうとした瞬間、電文が届けられたことを知らせる緑ランプが光る。

少し迷ったようだったが、電文のほうを優先したようだ。

彼女がカタカタとモニターを操作する音が響く。

こういう操作は私にはわからないから、その操作を後ろから黙って見つめる。

 

「・・・・・」

 

電子音が鳴り、小さな紙が印刷され出てくる。

それに目を通したとたん、ピタッと彼女の体が唐突に止まる。

 

「どうしたの?他の三艦長から?」

 

「・・・嘘」

 

「え?」

 

「・・・・」

 

「へ?なに」

 

ぐいっと紙を私に押し付けて、彼女は艦内に緊急時第一級警報を知らせる黒いボタンを押そうとする。

それを見た私はあわてて彼女の腕を掴む。

 

「なにしてるの!?それは艦長の私か、司令しか押せないやつよ!?」

 

「・・・・・・」

 

「ほんとどうしたの?三艦長からの伝言に何かあった?」

 

何処か様子かおかしい。

多分この紙の所為だろう、強い力で握られたからだろう手の中にあるしわくちゃになっている紙に目を通す。

それを見た私は___

 

「・・・・・嘘」

 

黒いボタンをそっと押し込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにがあった!?」

 

警報を聞いて司令が艦橋に乗り込んでくる。

なぜか傍らに小さな中学生ぐらいの女の子をつれている。

 

「その女の子は誰です?」

 

「帰還するときに回収した。さっきの船に乗ってた子だろう・・・・たぶん」

 

「そうですか。これを・・・」

 

最後のほうは聞こえなかったがそういうのならそうなんだろう。いまは時間が無い。

しわくちゃになった例の紙を差し出す。

紙を受け取り、読み始めた。

この人はいつもは少し駄目人間でも、重要な知らせが来た時(最近で言うとギレン総帥が戦死なされたときとか)でもいつも冷静に対処をしていた。

 

「ふむ・・・この空域周辺に多数のスラスターの光」

 

だから今回もこの状況を冷静に分析し、打開する一手を考え付くに違いない・・・!

この人は伊達に二十代という若さで出世したわけでは無いのだ。

 

「戦艦、巡洋艦クラスのものと推定。その数・・・」

 

ごくりと唾を飲み干し、続ける。

 

 

 

「_____約三十隻以上・・・・」

 

 

 

ほーうとうなずき、流れるような動作でオペレーター席に歩いていって、ボタンをおす。

艦内に警報が流れ始める。

 

「もう押しました」

 

「・・・・そうか」

 

 

あっ、もう駄目かも知れない・・・・

 



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もう駄目だって言う時は、まだまだ駄目じゃないっていうけど、もう流石にこれは駄目だと思う

なぜかお気に入りが百件以上、金曜から日曜日の間になにがあったんでしょう?

すごく嬉しいんですけど・・・ほんと・・・なにがあったの・・・?


ユーセル・ツヴァイ中佐は転生者である。

 

それの記憶に、性格の大部分を構成するところにその影響が出ている。

スラム街に生まれながら、その劣悪な環境に根性が捻じ曲がる事も無く、やや善性の性格に寄ったことが何よりの証明であろう。

 

少年期に記憶が発現し、混乱することもあったが、元もとの頭の出来は良く、直ぐに理解できはじめ、優越を感じ始めたりしちゃったりして、いままで店の商品を盗んだり、近所の悪がきをまとめたりしていたのをぴたりとやめ、そのことを謝罪したりしたりもした。

周囲の人間はそれまでは、彼はいわゆる扱いに困る悪がきだったので、その悪がきがぴたりといたずらをやめたので、ぶきみがったり、それに魅力を感じ何故か舎弟が集まったりしたりもした。

今日までこの記憶を利用し、これから出てくる出来事を予想し株で稼いだこともあった。

簡単なのから言うと、と大きな戦争があると軍が食料を買い込む。

その商品を作っている会社にインして、儲ける。それの繰り返し。結構稼げた。

その金でドム作ったりね。一仕官(当時)だった彼の言うことを素直に聞いてくれるわけが無い。

お願いを聞いてもらうために開発者とO☆HA☆NA☆SIでいろいろ作ってもらったり、渡る世間は金ばかりである。

上に書いたとおり若干いけいけ状態だった彼だがオデッサ陥落から、人生ままならないもんだと絶望し、少し性格が丸くなったりもした。

 

 

でココまで書いてなにが言いたいかというと___

 

 

落ち着いて見えるのは原作で描写されてるから予測できて落ち着いているんであって、こういう事態には少し弱いのである。

内心慌てているが表情に出さないように考える。

 

「ふむ・・・索敵しろオペ子」

 

「分かりました・・・・・どうやらこのチベ級を囲むようにように四方向に十隻づつ展開しているようです」

 

はやいね!考える時間を稼ぐために言ったのに!

優秀すぎるのも考え物だよ。ちくせう。

しかも四方向とかなめてやがる。

 

「ふん・・・味方との距離は?」

 

「艦隊はチベ級が出た時には撤退準備を始めていたはずなので、さっきの戦闘が始まった時点で撤退完了しているはずです」

 

「何分経ったの?」

 

「戦闘がはじまるまで十分、それに始まってから終了まで五分、ワイヤーつなげる作業始めてから五分」

 

「艦隊が救援に来るまで二十分。それに安全圏まで損害艦を移動させなきゃなんないから短く見積もってもあと二十分はかかる」

 

「合計四十分はこのチベ級一隻で三十隻も相手しなきゃいけないのですか・・・」

 

「そうなります」

 

ずいぶん絶望的な数字だ。

しかもこの艦隊を味方艦隊に引き合わせたら全滅だ。

せめてあいつ等を生かすために、この艦は違う方向に逃走し、敵を撒かなきゃいかん。

 

「味方の方向は?艦長」

 

「この艦から見て正面。では・・・・正面にいる艦隊を敵第一、右にいる敵艦隊を第二、後ろを第三、左にいるのが第四艦隊と呼称しますが、よろしいでしょうか」

 

「許可する。なら私は、我が艦は真後ろにいる敵第三艦隊を突破し、遠回りのルートで味方に合流することを提案する」

 

「流石に真後ろに逃げると合流しにくいですし。味方艦隊の位置が敵に分かってしまうのでは?」

 

「なら右か左ですか?といいますか突破できることを前提に話し合っておられますが、この艦の戦力はモビルスーツ、ドムが六機だけです。・・・・いやあの壊れかけのゲルググ入れて七機です。言いたくないですが流石に絶望的かとおもいます」

 

『・・・・・』

 

オペ子の鋭い指摘に、三人の間に暗い影が落ちる。

ほんとにこの一艦分の戦力でどうにかするしかない。

他の艦がいても突破できるかどうか分からないこの数を・・・・

 

 

 

 

「おかしいと思いません?・・・・そもそもなんでこれだけの数がこの空域に集まれたんでしょうね?」

 

「たしかに・・・」

 

副官の言うとおりだ。ア・バオア・クーに駐屯している戦力は大体三十隻から五十隻。

日頃の艦の出入りからしてそんなものだろう。

そう考えるとおかしい。

パトロール艦隊が連絡したとして発進準備するのに十分。

パトロール艦隊規模の艦隊なら十五分程度はかかるだろう。更に到着するまで二十分程度はかかる。

でもこの規模の出撃となると上層部に報告、決定まで四十分。更に足並みそろえて現場に着くのにどんなに早くても三十分以上はかかる。

俺たちが来てから三十分も経ってない。

明らかに早すぎるのだ。

おかしすぎる・・・

 

まるでこの空域に来るのを知っていたかのように___

 

 

 

「くはははは。そうかそうか」

 

「ど、どうしたんですか。司令!?あまりの絶望的状況におかしくなっちゃいました!?」

 

「・・・・おかしいのは元からでは?」

 

失礼な物言いだが俺は今気分がいいので、許す。

 

「・・・お前等はおかしいとは思わなかったのか?」

 

「司令の頭がですか?」

 

「わたしは、実は少し・・・」

 

「いやそっちじゃなくて、この状況が、だ!オペ子はともかくおまえもか!」

 

「ともかくって・・・」

 

「す、すいません・・・」

 

こほん。気を取り直して、手をばっと左右に広げてふたりをみる。

気分はすっかりシャーロット・ホームズ。

 

「ふっこれは罠だよ。この艦隊をねらったね・・・」

 

「そんなのは分かってますが?」

 

「そうですね」

 

「・・・・・我が艦隊にさんざん被害を被った連邦が仕組んだ策略なのだよ・・・!」

 

「そうでしょうね」

 

「というか他にいないです」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「じゃないとこんな規模の艦隊がここにいるなんておかしいです」

 

「なぜかは分からないですが・・・」

 

がばっその一言を聞いて復活する。

まだだ!まだやれるよ!

 

「そんなことも分からんのかね?わが助手よ・・・ワシは悲しい」

 

「コートニー少佐みたいになってますけど」

 

「たしかに副官なので、ある意味助手ですけど・・・もしかしてホームズのつもりですか?」

 

「・・・・・・・・おかしかったのだ。そもそもただの輸送船が、こんなに時間が経っているのに撃破されていないというのは」

 

「そうですね。たしかに。」

 

「でもそれが今の状況になにか関係があるのですか?」

 

「それがあるのだよ。助手よ。最近のわれわれの行動を振り返ってみたまえ」

 

ふたりに我々の行動を振り返るように促す。

確認するように呟く。

ふっ思い当たったようだな。

 

「・・・・残存ジオン軍を助けて、勢力拡大して」

 

「宇宙海賊をやったりしてましたね」

 

「そうそれだ!それこそがこの状況をつくりだしたのだ!」

 

「それで?」

 

「まさか我々を倒すために・・・?」

 

「そうなのだよ助手よ!わざと輸送艦を見逃し私たちが救援に来るのを待ちかまえていたのだぁ!」

 

「・・・・まあ確かにそれなら、この状況も分かりますね」

 

「なるほど。それが分かったということは、もう司令は突破口をひらける作戦を思いついたのですね!さすがです!もったいぶらないで教えてくださいよ?」

 

うっ思いついてなんかいない。

相手の作戦が分かっただけだ。

解決策なんてごり押ししか思いつかない。数も無いからそれも出来んし。

敵船は三十隻しかも、四方向に十隻づつ展開しているそれを突破するとか、正直無理ゲー過ぎる。

黒の騎士団たすけてー。

 

「んっ?」

 

「どうした?」

 

「いえ正面の敵第一艦隊から通信です。出しますか?」

 

「ああ・・・何のつもりなんだ?」

 

なんだか知らんが助かった。

オペ子に命じて正面のメインモニターに出させる。

流石に立ちっぱなしは相手になめられる。

艦長席に座り、相手が出るのを待つ。

 

 

 

『やあ・・・始めましてかな?ユーセル・ツヴァイ中佐』

 

 

 

 

画面に映ったのは、紅茶でおなじみ、腐敗した連邦軍の将校と描かれていはいるが全くの無能ではなく、星の屑作戦に際してシーマ・ガラハウからの密約に応じて情報を引き出そうとしたり策士的な一面も見せている。 0083の終盤では二号機の核の餌食になった男。

ゆったりと席に腰掛け、こちらを見定めてくるような目線を投げかけてくる。

それをみた瞬間、おもわず席を立ちかけるが席を強く掴んで抑え、規模は少ないが我が軍のトップとしてそれに毅然とした態度で対峙する。

 

 

 

「ほーうこれはこれは・・・・こちらこそはじめましてですかなグリーン・ワイアット中将?こんなしがない中佐の名前を覚えてを貰えていたとは光栄ですな」

 

 

この作戦はこいつの立案したものなのか・・・・!?

 

 

『ははっ謙遜は美しいがこの場では相応しくはないな。中佐?恥ずかしながらキミがココにきたことで我が軍はぼろぼろでね・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

『___だからこの私が、動くことになった』

 

 

 

 

 

言葉こそ丁寧だが、迫力のようなものがモニター越しに伝わってくる。

背中に冷や汗が伝う。

しっかりしろ。階級では下だが、俺はこいつ等のトップだ。

ばれないように、オペ子に指示して、こっそり逆探知してグリーン・ワイアット中将が乗ってる艦を特定してもらう。

もし乗ってるなら撃破すれば逃げ口ができる。

相手に見えない画面外から手の平をチョキの形にされる。

二分か。俺の役目はそのための時間を稼ぐこと。

 

「・・・なるほどこの作戦を発案したのは貴方ですか」

 

『ほう。分かっていたのかね。昔から野獣を仕留めるには罠を仕掛けると相場は決まっているものだよ」

 

あっさりばらしたな。

その程度はばらしても良いという事かもしれないが。

この規模、総大将がいることからして、こちらが全軍いると思っていたが、この艦だけだということで拍子抜けして降伏勧告でもしに来たか・・・?

 

「野獣ですか。ずいぶん私を買ってもらっているようで?どちらかというと猫のほうが個人的には好きですな」

 

『はは。キミとは趣味が合うな。猫を膝の上におきながら紅茶を飲む・・・なかなか絵に成るものだな』

 

「はぁ」

 

『そう思うと猫を飼うのもいいかもしれないな。中佐どう思う?」

 

「そうですな。好きになさったらよいかと」

 

いきなり何なのだろうか?

腕を組みうなずくグリーン・ワイアット中将。

猫を膝の上におくのはジーン・コリニー提督だったはずだが?

意味が分かってない私に、ワイアットは小さく笑って続ける。

 

『・・・・さてあいさつはここまでにしておこうか。分かってるとは思うがいま私たちは貴殿らを四方向で包囲している。隙は無い、中佐もここにいない中佐の部下も、今降伏するなら殺さず、私の膝の上で飼ってあげるのもやぶさかではない。どうかね?』

 

「・・・・・」

 

『なに直ぐにとは言わんよ。きっかり十分後にまたかけよう。紳士は時間に正確ではなくてはな。よい返事を期待している』

 

ブツンと画面が切れる。

何だと思ったが猫云々は降伏の誘いだったのか・・・

 

「どうします?降伏の件?」

 

「しないさ。もちろん」

 

「でも四方向八方敵だらけですよ!?」

 

「分かってるオペレーター敵大将の乗艦は?」

 

「正面ど真ん中のマゼラン級です」

 

分かったところで、たしかに三十隻相手はきつい。

まず勝てない。副官が言ったとおり、四方向八方敵だらけ・・・・

そこまで考えたところで頭に電撃が走る。

 

三十隻で、四方向に、十隻ずつ、展開している?

 

おかしい数が合わない。

 

「なあオペ子。相手は四方向に十隻ずつ展開してるんだよな?」

 

「はい。そのはずです」

 

「確認させましたがそれで間違いありません」

 

「なのに三艦長からは三十隻と・・・」

 

「数え間違いでは?」

 

「確認しましたがたしかに四方向に十隻づつ展開しています」

 

ふーん。

俺の顔に笑みが浮かぶ。

突破口が見えたかもしれない。




今回は会話だけ。
原作キャラの口調がわかんないです。

誰か、教えてださい・・・・


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ユーセル・ツヴァイ地球連邦軍に武力介入を開始する。

またしても会話だけ・・・




「どうしますかな彼等は」

 

とあるマゼラン級の艦内、一人の仕官は暇つぶしのために、この作戦の発案者であるグリーンワイアット中将に意見を聞く。

はたして彼はどのようなことを考え、ジオン軍のいや、我が軍の補給艦を襲い、もはや海賊と化している奴等に降伏勧告など出したのだろうか気になったからだ。

 

「ふむ・・・・降伏はしないだろうな」

 

「え!?ではなぜ奴等に降伏勧告など!?時間の無駄では!?」

 

「・・・大佐。少しは落ち着きたまえ、紅茶でもどうだね?・・・きみ私にはダージリンを」

 

「はっはぁ・・・では私はコーヒーを」

 

落ち着くように何か飲めと促してくる中将。

私のために進めてくれたんであって、決して・・・けっしてっ自分が飲みたいわけではないのだろう。

艦にいる士官が、もはやワイアット中将の艦には当たり前のように置いてあるチューブのダージリンとコーヒーを取ってくれる。

ちゅー。うんあったかい。無駄な所に金使ってるなぁ。

他の艦だったら冷たいのになあ。

というかそもそもこんな物普通常備してないのになぁ。

 

「落ち着いたかね?」

 

「ええ。(国民の血税がどこに行ってるかを目の当たりにして)すごい冷静になれました」

 

「それは良かった。いつも紳士たるものは冷静ではなくてはな」

 

そういって少し笑うワイアット中将。

ちゅー。うんやっぱあったかい。

 

「では降伏勧告の件だったな?」

 

「ええ」

 

「彼等が優秀だから・・・では不満かね?」

 

「そんな理由で!?」

 

「ほら落ち着きたまえ」

 

ちゅー。うんあったかい

 

「ぷはっ失礼ながら、そんな理由では兵たちは納得しないでしょう」

 

「実際彼_ユーセル・ツヴァイ中佐率いる部隊はジャブロー、オデッサ、ソロモン、ア・バオア・クーの戦いに参加しながらも、生き残り我々を散々苦しめてくれた。今では赤い彗星やソロモンの悪夢などの突出したパイロット特性こそはないが、白い彼のモビルスーツ(ドム)率いる部隊はみな準エースの腕を持っておると有名なのだよ。白いドムというと彼の名前ではなく、彼の部隊の名が出てくるぐらいだな」

 

「ほうそれは確かに、ユーセル・ツヴァイ中佐という名は聞いたことはありませんが、白いドム部隊は確かに有名ですな・・・」

 

ふうむ。確かにそう考えると配下にすると心強いな・・・

ユーセル・ツヴァイ中佐の名前はほんとに知らなかったが・・・

 

「だからですか?そのユーセル・・・・何某中佐を配下にするおつもりで?」

 

「いや・・・彼自体は民衆の前で階段を上ってもらう予定だ」

 

「階段?・・・ああ公開処刑ですか」

 

「ああ、彼自体に利用価値はない。いるのは彼の部下だけだ。所詮彼は準エースよりぎり上エース以下といった所だろう生かす価値はないな。危険要素が強すぎる」

 

「でもユー・・・何某中佐が死んだらその部下たちもついてこなくなるのでは?」

 

「それは部下たちには隠して、言うことをきかなければ、彼をころs・・・失礼、処刑するといって従わせれば良い」

 

うっわとんだ紳士(笑)である。

怖すぎ。やり方がえげつない。

「彼は地球連邦政府のための礎となるのだ」などと呟いている。

ちゅー。ぬるくなってきた。

あっ温めてくれる?ありがと。

ちゅー。あったかいなー

 

「ふむ。まだ時間はあるな。ところで大佐。こんなイギリスの言葉を知っておるかね。イギリス人は恋と戦争には手段を選ばないと」

 

「はい。有名なことわざですね」

 

「それに従うとそういうことになるな」

 

「そうですね」

 

「・・・実は私は最初からこんな紳士だったわけではないのだ」

 

「そうですか」

 

どうしたんだ急に?

そんなことも言えないから、立場的に。

軍は縦社会で厳しいのである。

早く終わんないかなと思いつつ、適当に相槌を打っておく。

まだかなぁ。

 

「あれは十年前、とあるイギリス貴族の友人のお宅にお邪魔してな」

 

「はい。それでどうしたのです?」

 

「とあるジオリ作品の元ネタになったパイや他の料理の数々をいただいたのだ」

 

「はい?」

 

ん?なんか話の流れがおかしい。

それ以上はいかん!なにがいかんとはいえないけど!宅急便が最近あったからって!

その話題方面はいかん!ちなみに全部みました。すごく感動しましたよ。ええ!

気球船のワイヤーを一人になっても離さないとか、あいつはガッツがある。鳥肌がたった!

 

「その・・・あまり言ってはいけないと分かってはおるのだがな・・・あまり美味しそうにはみえなかったのだ・・・」

 

「・・・・・・・・つづけてください」

 

「私はフレッシュチップスなど無難な選択をしてな・・・失礼だとは思っているが食べるのを避けていたんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

「友人は黙々と料理を平らげていてな、無言で・・・気まずかったのだ」

 

「・・・・昔のイギリスの貴族は食事中に喋ることをノーマナーとしてるらしいですからね」

 

「私はその時まだ若くてな、友人は私が料理を食べないの腹を立てているのかとおもってな」

 

「・・・・・」

 

「その・・・・食べたのだ」

 

「・・・・・うわぁ」

 

「私は食べたのさ・・・必死に!」

 

「ちょっとバナージ君ぽいですね・・・・・」

 

バナージって誰だ?

電波が・・・疲れてんのかな?

あれ視界が・・・ぼやけるよ・・・

 

「悶えてる私に友人は、苦笑いを向けてくれくれたんだ・・・・」

 

「良いご友人ですね」

 

「私は感動したのだ!その友人のあり方に!あれを食べながら自分は顔色ひとつかえず!私を庇う様な強さを持っている彼に!」

 

「・・・・・」

 

「あれ以来だ。私がイギリス紳士の忍耐強さ、強靭さ、優雅さを見習おうと思ったのは・・・」

 

「・・・・・」

 

「すまんな。すっかりつまらん話をしてしまった」

 

「・・・・いえ。大変興味深い話を聞かせてもらいました」

 

「そう言ってもらえると助かるな・・・そろそろ時間だ」

 

「はい!紳士は時間に正確でなくてはならないですね!」

 

「はは。そうだな。分かってるじゃないか・・・・メインモニターにだしたまえ」

 

この人を見る目が変わった気がする。

私は一生この人についていこうとおもった・・・

紅茶云々もそう思うとなんか憎めない・・・かもしんない。

いややっぱコレは要らんでしょう。

オペレーターに命じて通信を入れさせる。

 

「時間だ・・・何とか中佐に通信を入れろ」

 

「・・・ぐす。分かりました。ユーセル・ツヴァイ中佐に通信をいれます」

 

泣くなよ。確かに無言の食卓であんまり美味しくない料理食べてるの想像したら泣けるよね。

普通はもう食べたくないってなるのにこうなった、ワイアット中将は尊敬に値するな。

 

『時間ぴったりですな・・・あれ、どうしたんですか?その暗い雰囲気?それって普通こっちの空気じゃないの?』

 

「いや少し昔話をしていてね。気にしないでほしい」

 

『そっそうか』

 

重い過去臭が漂っているこちらに心配そうな視線を向けてくる中佐。

割と良いヤツなのかもしれないな。

実際は・・・ワイアット中将が過去にまz・・・・あんまり美味しくない料理を食べただけだというだけなのに。

 

「それでどうするのかね?降伏は?このまま宇宙の藻屑になるのはキミも望むまい」

 

『いや。その提案はありがたいが・・・あいにく私には野望がある、それにここで降伏したらついてきてくれた部下にも申し訳が立たない』

 

「そうか・・・残念だ。これで別れだな。キミの墓前には紅茶セットを送ってやろう」

 

『ははっそれはありがたいな。では!』

 

ビシッと連邦とは違う、きれいなジオン式の敬礼をして通信が切られる。

その姿が連邦には膝を着かない拒絶や、彼の意地のようなものを感じさせた。

 

「ふっ面白い男だ。恨み言も言わず、あの状況の中で震えもせずきれいな敬礼すらして見せた。惜しい男を亡くすものだな。大佐?・・・敬意を表して先手は譲ってやりたまえ。全艦攻撃準備」

 

「は!全かーん!攻撃準備!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーむ此方も突撃準備!この空域から離脱するぞ!」

 

指揮を副指令に任せ俺はモビルスーツに移る。

六機のうちの貴重な一機だ。

今この艦にモビルスーツを遊ばせておく余裕なんてないからな。

それに艦橋にいてもすることはない。

 

「電圧チェック。各推進剤満タン。各武装エネルギー充電完了」

 

パチパチパチと手馴れた操作で各種出撃前点検項目の確認をする。

要注意の張り紙を剥がし完了を確認する。

 

「オールグリーン(すべて問題なし)」

 

総て問題がないのを確認して発進ハッチを空けさせる。

 

「出るぞ!お前等!これからこの艦は高速戦闘に入る。振り落とされても回収は出来んぞ!しっかり命綱の確認をしておけ!」

 

『おう!』

 

通信越しに帰ってくる野太い声。

この状況は、普通だったら怖いだろうにジャブロー、オデッサ、ソロモン、ア・バオア・クーなどの負け戦から生き残ってきたのだという、自信がこいつらを支えている。

怯えの表情をしているものなど誰もいない。

 

「よし最後のイタチっぺだ!連邦の奴等に目に物見せてやれ!」

 

『あれ?猫好きだったのでは?』

 

「聞いてたのか!?」

 

『自分も猫好きですよ?司令?・・・・猫だましにします?』

 

「そんなんどうでもいいだろ!?・・・ああもう緊張感がない!」

 

『自分は犬好きです!・・・犬掻きにします?』

 

「お前もか!?それと犬掻きはただは泳いでるだけだろ・・・!?・・・いやばたばたみっともなくあがくってところは一緒か?」

 

『自分は・・・』

 

「えーい!そろそろ黙れ!」

 

『くっ~くくく!!』

 

「えーい・・・クソ!」

 

ある意味緊張のし過ぎは悪くないかも知れんな・・・

そう思うとこれで良いんだよ・・・可愛げが無い・・・最初のころは初々しくて可愛かったのになあ・・・あまりの扱いにおじさん泣きそうです。

そういや出撃前にビシッと決めたことってないなぁ。ないなぁ。

ビシッと決めてみたいなぁ。一回ぐらいなぁ。

 

「管制室!ユーセルだ!出るぞ!」

 

『どうぞ!ご武運をお祈りしております!司令!』

 

「ああ、そちらこそな!」

 

発進ハッチからゆっくり出る。

別に逃げたわけではない。ほんとだよ?急がなきゃだからね?

まだ攻撃は始まってはいないな。

先手は此方に譲る・・・ということだろうか?

余裕ぶりやがって・・・

輸送艦のワイヤー固定作業は完了している。

後ろに着いて来ている形だ。

こっそり、とあるものに手に持っているハーケンを突き立てる。

背後の発進ハッチから、部下たちの機体も順次出てきた。

軽くハンドサインで指示を出し、部下たちは俺に習いそれにハーケンを突き立てる。

 

「・・・・・・」

 

これで準備は良い。

ワイアット将軍に目に物を見せてやろうではないか

 

 

さて______

 

 

さあ___

 

 

 

 

『公開処刑を____

 

 

 

 

「戦闘を______

 

 

 

 

 

「『始めようか』」

 

 

 

 

 

 

戦端が開き、チベ級に特大の衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イギリス紳士云々は自分の妄想です。

決してイギリスの方をバカにしているわけではないです。
日本も納豆や刺し身も外国から嫌ってる人もいるみたいですし。
日本も納豆や刺し身以外も美味しい物あるよ!
みたいな感じで偏見だとは思ってます。


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さらば。サラミス忌まわしい記憶と共に!

「っ・・・!」

 

とある少女の口から声にならない叫びがもれる。

今、少女が乗っている船の周りには大量の閃光が飛び交っている。

その光景は他者(傍観者)からみたら大層美しい光景だっただろう。

実際叫び声を上げた少女も、少しきれいだとは感じている。

この閃光の一つ一つが、今乗艦している船に当たったら、洒落にならないぐらいの威力でなかったのなら、ここから降りてこの光景を作り出している者に拍手喝采を浴びせたであろう。

そう考えているうちに第・・・何射目か多すぎて覚えてない一斉射がくる。確か十五は超えていたかな・・・?いや超えてないのかもしれない。閃光が絶え間なく続いていて、正確な数など数えられないのだ。

艦橋スレスレに艦砲が通っていって、後方に流れる。

背中に冷や汗が垂れる。

 

「・・・・」

 

艦橋にいるクルーはさっきから叫び声一つ上げていない。・・・怖くはないのだろうか?

さっき副指令と呼ばれていた女性は拳を青くなるまで握り締め、前方を見据えている。

オペレーター席についている女性はインカムを押さえ、何かの数字を呟いている。

その様子は、少女には何をしているかあまり理解出来なかったが、ただ自分に与えられた役割を必死にやろうとしているのは、分る。

自分たちが着いてきた男がこの状況をどうにかしてくれると、信じて・・・・

 

「・・・・・?」

 

なぜあの男にそこまでして着いてくのだろうか?

彼女は疑問に思い、自分が彼と会った時のことを思い出してみる。

純粋に此方を心配し、頭を撫でてもらった。

その時彼が考えていることも、彼の手のひらからなんとなく伝わってきた。

 

____見捨て、_____。____いと___た。

 

「・・・っ!」

 

何故か顔に熱が集まって来たので、手で押さえて冷やす。

ぜんぜん収まらない。頭を振ってその考えを何処かに押しやる。

何故かこれ以上考えてはいけない気がする・・・

 

だいぶ収まってきた。周りを見てさっきの行動を見られてないか確認。

胸を撫で下ろす。それぞれ集中していて、こっちををみてはいないようだ。

すごい気迫である。なんだかひどく自分が場違いな気がする・・・

さっきまでの顔の熱が急激に引く。

 

「なにしてんだろうね。私・・・」

 

その空気に当てられたわけではないが両手を合わせて祈る。

私に出来ることはこれぐらいしかないから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせい!」

 

おっさん臭い掛け声と共に、ワイヤーを引っ張る。

部下の機体も船体に取り付きながら、ワイヤーをひっぱりそれはチベ級とドッキング。

飛んできた敵弾をぎりぎり防ぐ。

 

「・・・間に合ったか」

 

『はぁ・・・』

 

心臓に悪い。胸を撫で下ろしながら次の指示を出す。

 

「各員船体に取り付き、全力防御!急げよ!」

 

第一射は防いだ。それぞれの機体が移動したところで船が高速移動を開始する。

機体が振り落としそうになるが、機体に接続されている命綱を握り締めさせ、なんとか落とされずにすんだ。

後は・・・

後の指示を考えながら艦の行動を思い浮かべる。

 

 

 

唐突だがジオン軍の艦船の特徴というものを知っているだろうか?

いや優れている所といったほうが良いか。

 

ジオン軍の艦船は連邦軍の艦船より航続距離が長い。

 

ペガサス級といった例外はあるがこの場にはいないので、問題ないので無視させてもらう。

連邦軍のサラミス級やマゼラン級には火力面では到底勝てない。

そう考えたスペースノイドはミノフスキー粒子やモビルスーツを開発し、先のルウム戦役に勝利したのは周知の事実である。

 

根本にある開発思考が違うのだ。

どう違うかというと、地球連邦の艦艇は総じてジオンよりも強力な火砲を装備している。

これは単にビーム兵器技術が連邦側の方が上だということも確かにあった。

もともと連邦の想定していた宇宙での戦いが「超長距離での艦隊同士による撃ち合いで決まるものである」というのが当時の官僚の主な考えであったためだ。

だからあまり動かず、ポイントに移動して固定砲台の役目に徹するのが、与えられた役割だったため航続距離は短い。

 

これに対して、ジオン軍の艦船は撃ち合いでは勝てないから、確実に勝てるモビルスーツを戦場まで運搬する補助兵器。というザビ家が考えたジオン軍の艦船の基本姿勢だ。

ムサイ級が輸送船を利用した粗末な改造船だったのが、この考えの証明になるのではなかろうか。

というか輸送船すら狩り出さないといけないジオンの貧しい財布事情、というのが正しいかもしれないが。

突っ込んでモビルスーツを吐き出す片道列車、というのは言いすぎだろうが・・・

ともかく、より優れているこのチベ級は、諸説あるとは思うが大体ムサイ級の上位変換である。

無論、航続距離は長い。

 

航続距離が長くて何になるのだ、と思うだろうが簡単に言うとジオン軍の艦船は早いのだ。

最近(?)昔の日本軍の艦船を女体化して、有名になっているゲームに登場する。

昔最速の名をほしいままにしていた島風だって、他の艦船と最高速度はあんまり変わらないのだ。

だから他の船にだって最高速度を出せば、一時的に島風にだって追いつけるのだ。

ただ最高速度を出したまま長く航行できるから島風は最速の艦と呼ばれるのだ。

 

これもこのチベ級にも同じことが言えるんじゃないかな?と考え、(微妙に違うかもしれんが)俺が考えたのは、速い速度を生かしての戦域突破だ。

ただ決めたのはいいが、まず連邦の船と追いかけっこになる前に、か!く!じ!つ!に!蜂の巣になるのが目に見えている。

それで考えたのが、

 

たかだか一隻に耐えられる弾の数は限られている?ならもう一隻足せばいいじゃない、と。

 

「危険ですよ!?そんなことしたら衝撃でサラミス級の弾薬とかに引火して最悪、こっちも爆発するかも知れ無いんですよ!?」

 

副官に反対されたが、ほかに手もない。

決行した。

 

さっきの戦闘で艦橋がつぶれ無効化したサラミス級に、ハーケンを取り付け開戦と共に思いっきり引っ張って、チベ級の艦首に盾としてくっ付けたのだ。

地上なら自分と同じ物体を引っ張るなど出来ないだろうが、ここは宇宙だ。

重さなんて関係はない。

ガスッと音がなって、一瞬止まりはしたが、力強く進んでいる。

これで前方の艦砲射撃は防げる。

いやガスガス言ってて怖いけど。

問題は両隣にいる敵第二艦隊と敵第四艦隊だ。

後ろにいる奴は無視していい。

何故かというと艦が縦に長くなっている構造上、被弾しにくいからだ。

それに後ろにいる輸送船には壊れかけのエンジンを吹かしてもらい、煙を出させて絶賛目くらまし中だ。

まず当たらないだろう・・・たぶん。きっと。

 

両隣にいる奴の砲撃は、我が艦隊が誇るドムが防いでいる。

どうかって?

 

「うわっ!」

 

機体すれすれにビームが掠れていき、冷や汗が垂れる。

 

「殺す気か!」

 

殺す気なんだろうなぁ。

なに言ってんだろ。

危機的状況で気が動転してんだよそうに違いない。

 

「くらえ!」

 

また船体に命中しそうな閃光に向け、搭載されている武装を当てる。

それで相殺され、ビームが消える。

 

『それ!』

 

部下の機体も順調に迎撃できている。

ふはははは。

 

実は私は。

 

 

 

 

 

吸血kじゃなかったチート保持者だったのだーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナッナンダッテーー!

そうなのだよ。

転生して神に会って特典でこのチートを貰ってから、こんな力を授かってしまった。

好きな二次元キャラの力を自由に使えるようになっているのだ。

しかもその力を他人にも譲渡できるっていうね・・・

今は次元大介の弾打ち落としを譲渡している。

ふははまさにチート!

部下たちが弾を打ち落としている光景に思わず悦に浸る。

 

 

 

 

 

ふはふあはははははっはあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ははは、はぁ。

 

『いまの信じたバカどのくらいいる?』

 

というかチートなんて貰ってないし、譲渡なんて出来ないです。勘弁してください。

ふはっは。バーカ。

あっごめんなさい。石投げないで!自分が悪かったです!気が動転してたんです!

堪忍して!かんにんやぁーーー!

まっことにもうし訳ありませんでしたぁ!(聖帝十字陵からのフライング土下座)ぐはぁ。

 

 

・・・・実際は出力が上がったドムの胸部拡散ビーム砲を当てて威力散らしてるだけなんですけどね!

あんな凄腕ガンマンみたいに弾に弾を当てるなんて出来ないです。無理です。

マジ尊敬します。昔エアガンでやって見たけど、無理でした。あたんないんでし。

出力が上がったから威力もまあまあ増しになったし、艦砲の威力がガンダムのライフルからジムのビームスプレーガンぐらいに下がる。

なにより当てやすいし、俺のドムは一般機より出力が上がってるから機銃ぐらいには威力が下がる。

というわけで、この作戦でこの大艦隊を攻略中である。

うお!あぶなぁ!殺す気かぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばかな・・・」

 

思わず自分の口からそんな声が漏れる。

 

「うぐぅこの野蛮人共がぁ!」

 

ワイアット中将が席から立ち上がり、そんな発言が聞こえる。

実際、目の前の光景は囮に使った味方サラミス級の片方を盾にとって此方に突撃してくるチベ級の姿が見える。

ひどいものだ・・・

今も砲撃を与えているが、いまいち決めきれない。

当然だ。味方を人質にとられながらこっちに走ってくるのだ。

当たる度に、まるで子供が砂山をけるように、サラミス級の装甲が削れていく。

そのたびにチベ級の姿が明らかになって、弾があたるようになるが、あまりは気分がよろしくない。

こっちに向かってまっすぐ突撃してくる。

 

「・・・やはり艦砲の威力を上げ、一撃で叩き伏せられる戦艦を作らなければな・・・」

 

「なんですか!?」

 

「いや何も無い。それより敵の横面にいる味方艦隊は何をしている!?」

 

何事か呟いているワイアット中将に聞き返すが、はぐらかされてしまった。

確かにいまはそんなことは関係はない。

いまはどうやってあの忌まわしい船を沈めるかだ。

予定ではとっくの昔に沈めていたはずなのに・・・

オペレーターに報告を求める。

 

「それがチカチカ光る謎の光に邪魔されて決定打を与えられないそうです!」

 

「なんだそれは!?」

 

「不明です!・・・・っ!」

 

部下の報告にあった光を確認ようとしたオペレータが敵船をみて、慌てて何かを計算する。

顔を上げて私に向かって叫ぶ。

 

「大佐!このままのコースでは敵チベ級は本艦にぶつかります!」

 

なに!?

確かに此方に接近しているが、目的はこの船との心中か!?

確かにさっきより近くなっている・・・が・・・

 

「なにをしている!?回避だ!緊急回避!!」

 

いつの間にかもう目と鼻の先にまで接近していた敵船を見て、慌てて回避命令を出す。

マゼラン級は慌てて横に回避運動をするが、突っ込んでくる敵船に比べたらはるかにその動きは鈍い。

・・・あたるか・・・!?

 

「全員対ショックぼうぎょぉ!!」

 

叫んだ数瞬後、マゼラン級の艦橋がミシリという嫌な音を立てた・・・・

 



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とある紳士の成り上がり

こっそり投稿。




『67・・・45・・21・・・・9・・・今です!』

 

カウントダウンをしていたオペ子の声がゼロになったとたん、頃合いを見計らって部下に指示を出す。

 

「切り離せ!」

 

『了解!くらえやオラァ!』

 

俺は叫び、部下たちの機体と共に、盾にしていたサラミス級とチベ級を繋いでいたワイヤーをサーベルで切り離す。

巨大な弾頭に見立てたサラミス級の残骸がまっすぐ敵大将のワイアット将軍乗艦マゼラン級に突っ込んでいく。

最後まで最大活用!である。

マゼラン級は慌てて横に回避運動をするが、突っ込んでいくサラミス級の残骸に比べたらはるかにその動きは鈍い。

 

『全員対ショックぼうぎょぉ!!』

 

回線が混雑しているのか、見知らぬ男の声が聞こえた数瞬後、敵マゼラン級の艦橋が轟音と共にミシリという嫌な音を立てた。

マゼラン級が途中で斜めに回避運動をした所為で、一番いいまっすぐブリッチに突っ込んで、破壊するとはならなかったが十分大打撃だ。

後は逃げるのみ。

 

「急いでこの宙域を離脱する!この敵第一艦隊を抜けたら俺たちの勝ちだ!」

 

『了解!』

 

敵両翼の艦隊は射線に味方第一艦隊が居るので撃てない。

今船はサラミス級をぶつけ、そのまま横をすり抜けている。

ちょうどこの敵が密集しているところを通っていて、今撃ったら味方に当たるからなうかつには撃てないだろう。俗に言う混戦状態というヤツだろうか。

撃ったらよほど腕に自信があるヤツか、味方を切り捨てる冷酷な鬼軍曹だな。・・・軍曹じゃ艦長やれないけど。

敵艦隊は横から見ると棒状だ。

縦に広く船を配置し、艦砲を効率よく撃てる形になっていて、横は短い。

その後ろに数隻控えてるが、こいつらは多分攻撃はしてこない。

報告通りに数が三十ならこいつらは多分ダミー、こけおどしだ。

 

こっちの艦隊は約三十隻、あちらの駐屯兵力は三十から五十隻。

此方は補給艦も含めてだが数的には連邦の兵力に迫る勢いだ。

それに場所を転々としていた所為でこっちの正確な戦力などわかるはずも無い。

下手したら三十隻全部がムサイ級またはチベ級などと思っているかもしれない。

この作戦に参加しているのは敵三十隻。

流石にこっちがこのア・バオア・クー宙域最大の勢力だからって全軍で来る訳にはいかない。

俺たちのほかにも、流石にモビルスーツは持ってないかもしれないが、海賊などもいるのだ。

 

でかい賊退治しに行ったら他の海賊に拠点が占拠されてました!では笑えない。

いや占拠までとは行かないでも、物資が奪われてました!はあるかもしれない。

留守番の部隊が最低十隻・・・は心伴いから十五隻から二十隻くらいはいるだろう。

 

となると出せるのは三十隻から三十五隻これ以上は出せない。

本当はこちらの全戦力が来ると思って、何らかの手段で囲んだのはいいが、少なすぎると突破されるし今の数だと不安が残る。

そのためのダミーだ。

数が多いと人間というものは、数の多さに恐怖を覚えて降参してしまいたくなってしまうものだ。

まさに戦いは数だよ!である。

大体一艦隊にダミーは二つから三つくらいだろう。

少し遠い距離に見える敵サラミス級三隻を良く見てみると三隻中一隻の砲台が無い。

準備不足か時間が無かったか、どちらにせよその砲台は虚空を見つめてはいても砲弾が出る気配は無い。

 

「その三隻はダミーだ!無視していい!こっちからの攻撃はなるべくするなよ。後ろからの船体に向かってくる敵弾だけを優先して落とせ!機銃などの細かいのは無視しろ!狙いは敵主砲の弾だけだ!」

 

『了解!二番から六番機後方に向かいます』

 

「ああ頼む」

 

ふう。これで大体安心だ。

敵射程に入ってはいるが、敵大将艦の沈黙によりそれぞれの行動はばらばらだ。

慌てて何もしない、こちらを追おうとする、味方の混乱を纏めようとするもの、千差万別だ。

追ってこようとするやつは、滅多なことが無い限りこのチベ級には追いつけないだろう。

スペック差がある上にこちらが一歩リードしている。

まず追いつけない。

 

「はぁぁぁぁぁ・・・・」

 

これでほぼ逃げ切った・・・何も無ければ無事に逃げ切れますな。

ため息をつき、モビルスーツのシートに腰を深く落とす。

まだ部下は戦っているが、さっきもいったが撃ち落とすだけだし、輸送船の煙幕も継続して張っている。

そんなに危険も無い。

五秒だけだ。少しの間、許してほしい。

 

「そういや彼女の名前聞きそびれたな・・・」

 

まあ。いい、逃げ切れたのだ。

時間はあるし、後で聞けばいいだろう。

 

この後はあの子のところに行って、輸送船の中身拝見して・・・あっ三艦長にも心配かけたし後で連絡しないとなぁ・・・

連戦や三十隻の衝撃で自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたらしい、段々視界がぼやけてくる。

目を擦り、意識を呼び戻す。

船後方にいる部下たちの機体を援護しようと、モノアイを動かし様子を見る。

視界に移るドムもかすかに動きが鈍くなっている。

一つ間違えば、この船が沈むかもしれないぎりぎりの神経を使う戦闘をしていたんだ。

疲れもあるのだろう。

そろそろ格納庫に移して交互に休息を取らせたほうがいいだろか。

機体を近づけ、近いところにいたドムの肩を叩き、通信を入れる。

 

「三番機。四番機格納庫に戻り交互に休息をとれ」

 

『自分は、まだ、やれます!』

 

「息切れてんじゃないか、さっさといけ。・・・・お前がいかないと他のやつらが休めないだろうが」

 

『しかし・・・そう、ですね。分りました。戻ります』

 

三番機のパイロットは素直に戻ったが、四番機のパイロットが少しぐずったので、遠まわしに邪魔だと告げて休憩させる。

四番機のパイロットが一番若い、前の四番のヤツは戦死して今のは補充できた学徒兵だ。

疲労も一番あるだろう。今倒れてもらったら困るのだ。

艦のハッチから格納庫に戻るところまで一応見る。

収納を確認。ん素直でよろしい。

 

向かってくるビームを適当に打ち消しながら、そういや前にいたダミーのサラミス級はどうなったかと思い出し前方を確認。

んっサラミス級三隻だいぶ近づいてきた。

あれを超えればこの艦隊から逃げられる。

現在後方にいる敵第一艦隊はやっと混乱から回復し、こちらに船の先頭を向けて来ているところだ。

真ん中にいる奴が、ばらばらだった艦隊をまとめた艦なのだろう。・・・・邪魔だな。

 

「おい。二番機。リオル隊長」

 

『何でしょうか司令』

 

「少しの間迎撃を任せる」

 

『?・・・・ああ了解です』

 

「頼むぞ」

 

背中に背負っているビームバズーカを背中にあるレールに伝わせて、肩に装着。

がちりと接続音がして、ロックがかかる。

 

「接続完了。エネルギーライン構築」

 

腰にあるエネルギーライン接続用のケーブルを取り出し、ビームバズーカの取り付け部分に接続。

かちりと音がしてビームバズーカに充填を開始。・・・完了。

つまみを回し出力を最大に設定。

スコープを取り出し狙いを定める。

狙いは真ん中の指揮官らしきサラミス級。

これだけ離れていても、十分バズーカの射程内だ。

船の主砲だったら当てにくい事この上ないだろうが、こっちはモビルスーツだ。狙いもつけやすい。

少しゆれているが、問題はない。

ちょうど艦橋にあたり、敵サラミス級を沈黙させられるだろう。

 

「・・・くらいやがれ・・・!」

 

引き金を引く。

背負っているビームバズーカから視界がまぶしくなるほどの熱があふれ、光の槍になった閃光が、艦橋・・・の近くの主砲のすれすれを通り抜け、その熱量でサラミス級の主砲が曲がる。

通り過ぎて、行き場を失った光は少しの間そのまま直進して、消えていった。

 

 

 

 

 

 

『うっわぁ』

 

部下の哀れむような視線が痛い。

いや別に、はずしたんじゃない。

わざと近くに掠らせてこっちを砲撃できないようにしたんだよ。本当だよ?

だからその、あんだけかっこつけといて外すとか無いわ~見たいな視線を向けるのをやめなさい。

 

「も、もう一回!」

 

バズーカに接続しなおして、もう一回砲撃体制に入る。

今度は外さない。かちりと引き金が引かれ、それと同時にビーとなにかを知らせるブザーがなる。

ゆっくりと残量ゲージに目を向ける。

さっきまで七割はあったエネルギーが四割切っていた。

散々迎撃でエネルギー使ったし、元々満タンでも二発しか撃てないやつ撃ったんだから、当たり前か・・・

 

「・・・・・・」

 

『・・・・あーその・・・ドンマイです』

 

「・・・・・ありがと」

 

外しては、心にしみる、部下の声。作ユー

しょうも無い俳句を作って今の心情を表現してみました。

・・・むなしい。

 

そんなことをしている内に、ダミーサラミス級を通過し、チベ級は最大船速でこの戦域を離脱していくのだった。

 

 

 

 

 

 

「ううぅ・・・」

 

口からうめき声が漏れ、その自分が出した声で意識が覚醒した。

目が覚め、痛む頭をさすりつつ顔を上げた。

どうやら自分は倒れていたらしい、手を地面につき体を起こす。

 

「いつっっ」

 

体を動かすことで、ふせているときにはわからなかった痛みが体に走り抜けた。

その痛みで一瞬顔が歪むが、耐え周りを見渡す。

自分がいるマゼラン級のブリッチはずたずたに破壊され、直ぐ横にサラミス級の下半分だろうか?赤い線が外に見える。

思わずその大きさに驚愕する。

あれが当たっていて、よく無事だったなと逆に感心してしまいそうだ。

・・・無事じゃないが、命があっただけいいことなのだろう。

乗務員も大抵が無事のようだ。

 

「ふぅ・・・・むぅ」

 

安堵のため息をついて、そういえばあの敵船のチベ級はどうなったかと思い、ひび割れが比較的少ない箇所から確認する。

敵船は見えないがそばにいる僚艦が発砲してないところからすると、もう逃げられたのだろう。

目で追うのはあきらめてクルーの救出に向かう。

ため息を一つ漏らし、彼は気絶しているクルーの意識を戻すところから始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてこの戦いは終わり、生き残ったワイアット中将はこの作戦に参加した将兵に緘口令を実施。

この戦いで海賊と化していた敵ジオン軍残党を殲滅したと連邦軍上層部には報告。

実際に、このア・バオア・クー宙域での、ユーセル中佐率いる最大の勢力は確認されなくなり、その報告は信じられた。

被害はマゼラン級中破とサラミス級二隻轟沈という、敵船三十隻に対して軽微な損傷と取られ、智将とワイアット中将は称えられた。

この功績によりワイアット中将は大将に昇格。

さらにワイアット大将は軍内部で勢力を拡大する結果に終わることとなったのだった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後兵たちの間で、超弩級大型艦が建造されているとの噂が流れたが、そんなものいまさら作る必要ないだろと笑い飛ばされて直ぐにその噂は消えていった・・・

 

 

 

 



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トイボックス

いろいろきついです・・・タイトル付けとか・・・内容とか・・えっそれは元々?


結果から言おう。逃走成功しました。

無理させすぎて輸送船のエンジンが壊れ、煙吹きっぱなしになって焦ったぐらい・・・というか今も吹いてる。

追いかけようとはしていたみたいだが、ぶっちぎりでした。やっぱりジオン軍の船は早かった(実証済み)

でもこれ以上は流石に、輸送船を引っ張ってはちょっとやばそうだったのでチベ級に移ってもらうことにする。さっきのこともあるし、今にも爆発しそうだ。

こっちの船に来てもらうよう言ってはいるのだが、なかなか来てくれないのだ。

それで今はなにか輸送船の中にあるのか、確認と交渉の意味をこめて船に行く小型船の中だ。

 

「なにがあるんだろうな・・・」

 

お宝冒険に行く探検者の気分だ。

まだあの輸送船の中身は見ていないし、先の戦闘のいざこざで聞けてもいない。

別に損得勘定だけで助けたわけじゃ無いが、あんだけの事があったのだから別に少しぐらい良い物が入っていてもいいんじゃないだろうか。

別に輸送船に美人が乗っていて、キャー!ユーセル様ー!みたいなことがあっても良いけど。

・・・むしろそっちの展開希望です。

 

「べつに何も無いよ」

 

「・・・やっぱり?」

 

俺の呟きが聞こえたのか、隣の座席からそんな言葉が帰ってきた。

そちらに視線を向けると、中学生ぐらいの年齢の少女が行儀良くちょこんと座席に収まっている。

行くついでになにかこの少女のことが聞けないかと思い連れてきたのだ。

その少女は無表情で、かすかな報酬を期待していたユーセルの少年心を砕いていった。

いや・・・

 

「きれいな女の人はいるかい?」

 

「いるといえばいるかな。研究主任のたしか・・・って言う人」

 

よっし!

まだ希望はあるのだ。その一言で、下がっていたテンションがやや右肩上がりである。

いまいちきこえづらかったがまぁいい。

その女研究主任と出会って、

 

「助けてもらったご恩もありますしぃ。今晩研究室でどうです?お酒でも一緒に飲みませんかぁ」

 

そう酔った主任がしだれかかってきて、…ちゃったりして、

それで酔った二人はベットの上で組んず解れつ・・・みたいな!

いい、いいなぁ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・?」

 

急に、にこにこ始めたユーセルを見て少女は不思議そうな顔をするが、なにもできないのでただ眺めるだけしかできない。

どうせ会ってもテンパってまともに話せないと思うが、妄想するのはただなのである。

少年心は砕かれたが、少年心とは遠く離れた気持ちが顔に出ている。

中学生ぐらいの少女の隣でニコニコ笑顔の男、けっこう危ない図である。

 

部下になめられている要因の一つでもある。

尊敬してもらいたかったら、そういうところから直して出直してきてください。

どこかから嘲るようなオペ子の声が聞こえた気がした。

なぜか震えが…

 

機から聞こえてきた到着の合図で意識が戻る。

座席から立ち上がり、シャトルから出ようとして隣の少女に声を掛ける。

少女の名前を呼び、立ち上がるのを手伝おうとして、ふと気づく。

 

「・・・・そういや、名前聞いて無かったな」

 

「どうしたんだい?」

 

「いや名前聞いてなかったと思ってな」

 

「ああそういえば言ってなかったね。私の名前は、・・・クーディ」

 

「クーディね。知ってるとは思うけど俺はユーセル・ツヴァイ、ユーでもツヴァイでも好きに呼んでくれ」

 

「知らなかったよ。違う人が呼んでるのは聞こえたけど、中佐って呼んでたから」

 

「ん。そうか、じゃあ降りようかクーディ」

 

「ああツバャ・・ツリャ・・・・ツヴァイさん」

 

「・・・言いにくいならツヴァイじゃ無くてもいいぞ」

 

別に言いにくいわけじゃないと思うんだけどな。

というか何で俺は数字の二というツヴァイにしたんだろうな。

誰もツヴァイさんと呼んでくれないし、大体が軍隊にはいってから階級何だよなぁ。中佐とか司令とか。

名前も訳したら二三だし・・・

・・・子供時代は、親もいないし、友人も作らないで働きまくってたからなぁ。あれもしかして俺、名前…まともに呼ばれたことない…?ソンナバカナ

 

「・・・ごめんなさい。じゃあユーさん」

 

「・・・・何か久しぶりの感覚だなぁ」

 

「なんだい?」

 

「いやなんでもない・・・まぁいいか」

 

「?」

 

足が軽くなったような気分だ。

今度こそ手を引いてシャトルから降りる。

少し時間が掛かってしまった。

 

「なんで降りなきゃいけないのよ!」

 

「ですからここは危ないんですって…」

 

「そんなの知らないわよ!」

 

突然の大声に、さっきまで上がっていたテンションが大幅に下がるのをかんじつつ、声がしたほうを振り返る。

先に操縦士が降りて説得を試みているようだ。

タラップを伝ってブリッチに降りる。

 

「だから・・・!」

 

「そうは言われましても・・・」

 

大小の荷物を背負っている人々のなか、如何にも研究員といった、30前後の白衣を着た女が家のクルーに食い掛かっている。

どうやらあの女性が癇癪を起こして、避難するのを嫌がっているようだ。

嫌な予感がする。まさか・・・・

 

「なぁまさかとは、万が一つ、違うとは思うけど、あれがいってた人?」

 

「・・・そうだけど?」

 

オウゥ!ジーザス!神は死んだ・・・

密かに楽しみにしていたあれこれの妄想が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

「はぁぁぁぁ」

 

ああゆうのをみると少し厳しい…正直苦手です。

周りに他の女性がいないか見てみたが、あの人以外にいないようだ。想像してたような色気はないが十分に美人の部類にはいるだろう。あんな風に顔を怒らせて怒鳴ってなければ、はぁ。

もう女性とのあれこれは期待しないから、せめてありがとうございます!的な声援を貰いたいです…

腰の当たりを引っ張られる感覚。

視線をおろすとクーディがくっついていた。よく見ると小さく手が震えていた。

 

「・・・クーディどうした?」

 

「いや、なんでも」

 

「なんでもってことは…ああ」

 

未だに怒鳴っている方を見て納得する。

引き返す訳にもいかないしなぁ。丁度タラップの中央で言い合いをしている男女がじゃまで通れん、ため息をつく。クーディをシャトルにのこすと万が一説得されて鉢合わせ!なんてことになったらやっかいだ。

クーディを背に隠しつつ、通せんぼしている二人に近づいていく。

 

「どうしたんだ」

 

「あっ中佐それがですね。この人がなかなか降りてくれなくて、他の人はいつでも降りてくださるそうですけど」

 

「ふうん」

 

説得に当たっているやつの肩を叩いて、事情を聞く。

まあ大体予想どうりだ。

問題はどうして降りてくれないかだが・・・

荷物か?

 

「この船はもう危険な状態です。避難してもらわないと。荷物を持ち出せるだけの猶予はつくりますが」

 

「それじゃないのよ!荷物はそんなに無いからこれだけでいいけど!あれは持ち出せないの!」

 

「あれとは?」

 

「うっ・・・それは、どうでもいいじゃない。それよりあのチベでこの船を引っ張っていけばいいだけじゃない」

 

女性は一瞬言いよどみ、後ろに数歩下がる。

それを好機と見たのか、すかさずさっきまで説得に当たっていたやつが割り込んでくる。

 

「ですからもうこの船は危険な状態なんです。避難してもらわないと」

 

「それを__」

 

埒があかない。

この言いようから察するに個人レベルの荷ではなく、大きい研究資材かモビルスーツモビルアーマーの類ではないだろうか。

その程度ならできるだけ運び込めばいいだけだ。

面倒くさい。頭を少し掻く。

ともかく実物を見せてもらう、そうで無ければ判断がつかない。

それがあるのは格納庫かこの人の個室か、個室はたぶん無い。

大型のものは入らないし、持ち込めないだろう。

さっきの攻防のお陰で人二人分の道があいた。

というわけで格納庫に行くことにする。

 

「おい説得頼むぞ」

 

「えっちょっと中佐・・・」

 

「よろ」

 

「いやよろじゃなくて・・・あーもうなにしに来たんですかあなた!」

 

後ろから悲鳴が聞こえるが、あれは嬉しい悲鳴だろう、美人と一緒に話せてよかったね。

変わりたいとは思わないけど。

格納庫らしき方向にあるドアを開き、クーディを連れてここからでる。

見たところ狭い艦内だし直ぐに着けるだろう。

 

「なんで私まで?」

 

「いやあそこに残しといたら、めんどくさいことに成りそうだったし、連れてきたほうが良いかと思ってな。後案内役」

 

「ふうん。でも艦内のことならユーさんより多少詳しいから案内も多分できるよ。こっち」

 

「ああ頼む」

 

研究員から離れて少しは落ち着いたらしい、俺の背から離れ艦後方の方角を指す。

彼女の向かう方向に従って、可動式の手すりを掴んで移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだよ」

 

格納庫に着き、何か大きいものが鎮座しているのが見える。

シルエットはチューリップかなにかだろうか?

暗くてよく見えない。

 

「電源は?」

 

「たしかそこの近くに・・・」

 

二人で電源を探して付ける。

緑色の機体、モビルアーマーだ。

アニメでは一機しかでてないから、あの人の専用機と思っていたのだが・・・

 

「ほうこれは」

 

「っ・・・!」

 

機体前面はパイロット保護のため厚い装甲板で覆われている。

さらに長距離射撃用メガ粒子砲が2門装備してあるはずだが、取り外されたのだろう。

あるべき物が無く空白である。

機体全体に中から破裂したような後が数箇所見られ、まともに動きそうな状態ではない。

だがこの機体自体はビットの運用目的に特化したもの。

本体はバーニアなどの推進器などで占められてあるはずだ。

最悪ビットが無事なら本体はいらないともいえる。

たぶん・・・

 

「・・・」

 

あんまり傷ついていない装甲板に近づいて、形式番号を探してみる。

全体的に、ぼろぼろすぎて見つからない。

探すのは諦めて、そばにあるモニターを操作して検索する。

幸いなことにつけっ放しでロックが掛かっていない。

ヒット。

 

詳細なデータが出てきた。

型式番号;MAN-08(MAN-X8)

所属;ジオン公国軍

操縦士;未定

全高;47.7m

全長;8__

___

__

我がフラナガン機関のニュータイプ搭乗を前提とし、本機をブラウ・ブロの思想を更に押し進め、完全なるニュータイプ専用機として開発する。

1基のメインバーニアと無数に配置された姿勢制御バーニアにより高い機動性を実現。

ミノフスキー粒子格子の振動波をサイコミュで制御。

ミノフスキー通信によりビットを無線誘導し、長距離からの攻撃もしくは攻撃対象に対して予期せぬ方向からの攻撃を目的に計画されたものである。

 

なお本機は一号機であり、後に建設中の二号機三号機のテスト機である。

テストベースといってもほぼほぼ完成体であるので実戦投入には問題無いと思われる。

パイロットはやや高いニュータイプ能力を持つクーディ・アルミスト曹長を搭乗させ、最終実験を実施する。

最終テストは本日一一○○に開始予定である___

 

 

 

「ふーむ」

 

最後の一文で読むのを止め額を押さえる。日付けは半月前ぐらいか?

大体知ってることばかりだった性能云々だろう。

原作に出てきたエルメスの試作機なのだろうというのは分るが、なんでこんな状態になってるんだ?

しかもクーディって・・・

ちらりと隣に立っている少女を盗み見る。

彼女は無表情でただ突っ立っていて、何を考えているのか分らない。

 

「なぁ・・・これってお前のことなのか」

 

「・・・そうだよ」

 

このままじゃ埒が明かないと、思い切って切り込んでみる。

彼女はすこし驚いたようだったが、ゆっくりとうなずく。

 

「私はこれに乗った」

 

「・・・続きいいか。駄目とかだったら別にいいが」

 

「いや大丈夫だよ。むしろ聞いて欲しいかな」

 

「・・・そうか」

 

クーディは俯きぽつりぽつりと話し始めた。

 

「私ニュータイプって言うんだって」

 

 

 

 

 

 









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___大きらい、なんだ。

自分がフラナガン機関の研究材料だったこと。

別に研究材料と一言で言っても、人体解剖や脳を弄りまわされたりはしてないらしい。

 

「らしい?」

 

「そう。らしい。私研究所にいたころから後の記憶しかないから」

 

「・・・どうしてか聞いていいのか?」

 

「だから良いよ気にしないで、直ぐ終わるから」

 

気にするだろうと言いたかったが、話の腰を折りたくなかったので、黙って先を促す。

どうやら記憶が無いのは彼女の心の問題のほう・・・なんだそうだ。

 

「訓練が嫌に成ったとかそういうことじゃなくてね」

 

「私の性格って結構臆病だったみたいなんだよね」

 

訓練の方は、ビット操作や機体の操縦に耐えるための基礎体力訓練だったそう。

 

「私の体いくつぐらいに見える?」

 

急に手を軽く広げ、体をこちらに向けてきた。

女性の年齢をあれこれ言うのは、タブーだという言葉が浮かんできたが、素直に答えた。

 

「・・・中学生くらいか?いまはそうは見えないが」

 

「そう中学生。中学生ぐらいの女の子が、しかも臆病な子が突然、連れて行かれて軍事訓練の真似事をやらされたんだ」

 

「・・・」

 

「一応訓練自体は全員一緒でそんなに厳しくはなかった・・・という話らしいけど」

 

まぁたしかに、中学生ぐらいの女の子がいきなり知らない所に連れてこられて、あれこれやれ見たいなことをいわれたら困惑するのは当然だろう。臆病な子ならなおさら。

しかも同年代の相手がいなかったらしい。

頼れる相手も無く、友達も居らず、訓練ばかりの日々、よっぽど堪えたんだろう。

そこまで考えてふと気づく、

じゃあこの目の前に居るこの少女はいったい・・・?

 

「・・・・」

 

「じゃあお前は誰なんだっていう顔してるね。私は正真正銘本物のクーディ・アルミストだよ。体だけね」

 

「・・・体だけ?」

 

「そう体だけ」

 

そう少し微笑み、体を壁にくっつけて目を俺から外す。

その壊れけたエルメスを眺める目は、嫌悪?・・・それとも、後悔?

 

「そこの最後に写ってる一文に、クーディ・アルミスト曹長を搭乗させ、最終実験を実施って書いてあるよね」

 

「・・・あああるな」

 

薄暗く光るモニターにもう一度眼を向け、確認する。

最終テストは本日一一○○に開始予定である___

この後の記録は無い、多分この後に何かがあったんだろう。

こうなるような何か

 

「ここらへんはぼんやりだけど、覚えてる。その時点で彼女の心が結構、限界だったみたいでね。擦り切れかけていた彼女が・・・妄想、とでも言うのかな。頼れる存在を欲した少女が、自分を守るために生み出した。都合のいい幻想」

 

「・・・それが今の君だと?」

 

「そうなるのかな?」

 

そう言って肩をすくめて、よくわからないといったジェスチャーをしてくる。

動作こそ軽いものだが、表情は何処かぎこちない。

 

「正直、頭がどこか壊れてるんじゃないかと笑われても仕方がないけど・・・一応言っておくね」

 

「信じるさ」

 

「・・・どうして?ただの頭のおかしい子供の戯言かもしれないよ?」

 

「理由が必要か?一つ。大人びすぎていること」

 

その程度なら。と反論してくるクーディを手で制して続ける。

 

「二つ目。戦いに出て行った時落ち着きすぎている。艦橋が、というか艦橋だけが破壊されてるサラミス級があったな。直接その現場を見てはいない推測だが、あれは近くに接近して直接ライフルを撃ち込んであった。新兵であんな真似はできない」

 

教本では、まず戦艦などの船は懐に飛び込んで、敵が反撃できない位置から破壊するのがベストと書いてあるが新兵はそんなことはできない。

普通はビビッて、遠くから撃って破壊していくものだ。

それがあのサラミス級は艦橋だけを狙って撃っていた。

一般機のゲルググでそんな長距離射撃はできないし、あの艦橋の窓の割れ方は細い孔が開いているだけだった。遠くから撃ったならああはならない。

ビームがライフルから出て、目標に当たるまでに多少は拡散していき、近くで撃った時よりはるかに孔は大きくなるのだ。

到着したとき沈黙しているサラミスにまったく外傷が無いのが気になって、帰りにちらりと確認してきた時に見つけた。

 

「・・・あれは研究所で__」

 

「研究所で訓練したから?違うな。さっきおまえ自身が口を滑らせたこと___」

 

彼女の肩を両手でつかんで、その小さい体を回転させる。

 

「なにを__」

 

「首。厚くない」

 

抗議の声が途中でぴたりと止まる。

実戦なれしている?研究所で訓練した?

モビルスーツに長く乗っていると首の皮が厚くなる。

それは操縦時にかかるGに耐えるために使うのは、どちらかといえば首が一番負荷がかかる。

その影響で首がえらく厚くなるのだモビルスーツパイロットというのは。大なり小なり。

 

「じゃあ。なぜあんなに訓練してないのにできたのか?それはおまえが、いろいろな事に耐えかねてるクーディが精神的にどっしり構えてまったく動じないよな、そんな自分の理想を具現化したものだから。元のクーディの相談役みたいな事もやってたんじゃないか?」

 

「・・・・」

 

多分図星だったのだろう、黙り込んでしまった。

その姿を見てはっとする。

すこし熱くなりすぎていたかもしれない。

でもなぜこんなに熱くなってしまったのか・・・

頬をぽりぽりと掻きながら、考えるが・・・うーん。

とはいえこのままではあれなので、ずらしてしまった話の軌道修正を試みる。

 

「まあ。これは想像で合ってるかはわからないからな。すまん話の腰を折って続き、聞かせてくれないか」

 

「っ・・・そうだね」

 

振り向き、前の事を無かったかの事にするように話を再開する。

振り返りこちらを見てくる瞳は・・・かすかに潤んでいる?

 

「彼女が別その日付の日の午前中、急に呼び出されてこの機体に乗せられたんだ・・・乗せた後何処かに移動しているみたいだった」

 

「・・・」

 

「特殊なノーマルスーツを着せられてね。あの青くてきれいな球からふつふつと出てくる四角い的を打ち落とせって言われて、その通りにした」

 

青くて綺麗な球?出てくる的?何のことなんだ。

青い球・・・青い球・・・もしかして地球か!?

ならたぶん、出てくる的というのは連邦の攻撃艦隊だろう。

実験と実益を兼ねて上がってくる連邦軍を叩いたのか、それなら打ち上げ中の事故として片付けられるし、打ち上げを阻止しようとする部隊も居たはずだから、ビットの事がばれる心配も無い。

エルメスの存在が露出しない様にするには、相当の遠距離からの攻撃が必須なはずだが、劇中でララァもそんな事をやっていたし、たぶん可能なのだろう。

 

「それをやるだけで何か頭痛みたいな痛みが走っていたみたいでね。痛かったけど、訴えても意味がない気がしたからいわなかったんだけどね。でもそれ以上に気になったのはその実験の途中で、四角い的を破壊するたびに何か変な声がするんだ」

 

「声?」

 

「そう声。鮮明に言葉となって聞こえたわけじゃなかったんだけど、表現しがたいナニカ。強い感情の塊というのが近いかな」

 

「・・・」

 

頭にいろいろな波が流れ込んできて・・・苦しかったんだろうね。

必死にもがいてたそれを見ていられなくてね。彼女の辛さが少しでも和らげばいいと抱きしめようとした。

でも所詮は妄想の中の存在。必死に手を伸ばしたけど・・・ははっ想像の手が、届くわけ無いよね。

 

私が手をこまねいているうちに、彼女はどんどん息が荒くなって頭を抱え込んで・・・その後はあんまり覚えてない。

聞いた話だとその後は収納していた予備のビットがいきなり暴走して半壊。

今の状態に成ったらしいよ。

 

 

 

 

彼女はそう語り終えて、ふうと軽く息を吐いた。

なるほどエルメスのこの状態は、そういうことだったのか。

だがその話だと彼女がなぜこうなったかの話が抜けている。・・・・予想はできる気がするが・・・・

俺の言いたいことを察したのか、こちらを向いて続けてくる。

 

「私がこうなったのは彼女、本来のクーディ・アルミストが限界を迎えたから」

 

「限界?なにの」

 

「いろいろな、さ。彼女の人格は何処かに姿を消して、なぜか代わりに出てきたのが作り物の私・・・」

 

「・・・」

 

「彼女の居場所を奪って、何故かここにいる。私は、最低だよ・・・」

 

俯いて拳を握り締めるクーディ。

きっと元の彼女に戻れるようにいろいろやっては、みたのだろう。

それでも駄目だった。

きっと今彼女は本来の彼女に対しての後悔か懺悔で一杯なのだ。

だからこんな顔をする。

でも・・・

 

「それでも!お前のおかげで元のクーディがすこしでも救われたなら・・・頼ったのがお前だったんだろ!?」

 

「・・・救いなんかじゃないさ。私が出てこなかったらこの後にある戦後の人生だってきっと普通の女の子として楽しんでいたんじゃないかな」

 

「それはもしもだろう!必ずしもそうなると決まっているわけではないだろう!?悪くなる可能性だって__」

 

「私が出てきたから!そのもしもすら彼女から奪ってしまった!彼女の明日を!未来を!」

 

っ!

俺の言った言葉が彼女の触ってはいけない琴線に触れたのだろう、俺の言葉を遮ってきた。

襟を掴んで力をこめてくる。身長的が俺より低いので、足が付いていない。

そのせいで踏ん張れないのだろう。掴む力は少し弱かった。

それでも俺は思いっきり殴られたたかのような衝撃を受けた。

必然的に近くなった顔を見る、彼女は泣いていた。

 

「私にはどうすることもできないんだ!」

 

「・・・っ!」

 

「彼女に謝ることも!謝るだけで戻ってきてくれるなら何度だってするさ!何なら土下座だってしてもいい!それでも彼女は戻ってきてはくれない!!」

 

「・・・」

 

「ユーさんにわかるかい!?この喪失感!救いとして作られた存在が!頼ってきた人すら救えずに!挙句の果てにはその人の人生まで台無しにした!!」

 

「・・・・」

 

「・・・私は、どうしたら良いんだ・・・」

 

最後にぽつりと言葉を吐いて俯く。

その姿は今にも消えてしまいそうなほどに、脆く俺の目には映った。

 

「・・・ぁ・・・っ・・・」

 

そんな彼女に声を掛けようとするが言葉が出ない。

何を言えばいいのか、分らない。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

その姿勢のまま薄暗い格納庫内が静まり返る。

何もしゃべらないまま、時間が過ぎる。

その時間が俺には、とてつもなく長いものに感じられた。

いや、実際には数分ぐらいだったのだろう。

彼女は、顔を上げて、こちらを見つめてくる。

 

「・・・ごめんね。変な話して・・・」

 

嗚呼。変わってない。初めにあったときからなにも。

話を聞いていて、ようやく分った。

 

彼女は自分が、嫌いなのだ。

彼女のために何もできなかった自分が_

 

「先に__」

 

でも、それでもここにいるお前は_

 

「戻ってるから」

 

嗚呼。良く分った。俺はこの少女が、クーディが_

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___大きらい、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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よろしく!

もう前回の投稿から1年以上・・・これはひどい。内容も…

あとほんと遅れてすいません・・・




___大きらい、なんだ。

 

今でこそ気にしないで、というかむしろ使っている。

自分の中から浮かび上がってきた、誰とも知れないこの記憶

に自分の今まで生きてきた人生を、生き方を否定するかのように出てきたこの記憶。

誰かが俺の意識をのっとって繰るような感覚。

今まで踏んできた道が突然消えていくような表現しがたい感覚

 

ああ。やっとわかった。熱くなった原因。

そうだ。やっぱり、似ている。

幼少期の俺に・・・

今まで踏んできた道が突然消えていくような表現しがたい感覚。

自分の今まで生きてきた人生を、生き方を否定するかのように出てきた、記憶が顕現して来た頃。

 

 

「待ってくれ」

 

懐から離れ、格納庫から出て行こうとするクーディに、声を掛ける。

 

 

 

「すまない。さっきの言葉はたしかに俺が、悪かった」

 

「・・・・」

 

「・・・確かにお前は本当のクーディ・アルミストじゃないのかもしれない」

 

「・・・・」

 

彼女は黙って俺の言葉に耳を傾けている。

そんな彼女に対して俺は言ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

「でも!そんなこと関係ねぇ!」

 

「えっ?」

 

 

戸惑いの声が目の前の彼女から漏れる。

責められるとでも思っていたのだろうか、勢い良く顔を上げて驚く。

気にせず続ける。

 

 

「お前は自分が気に入らないんだろう!?なら気にするのを止めろ!」

 

「えっ?」

 

自分でもむちゃくちゃなことを言ってると、自覚しているが続ける。

気になってるから、ここまで悩んでるとでも言いたげだな。

まったく昔の俺そっくりだ。この記憶が発症する

前の、親に捨てられて暗い路地裏で途方に暮れていたあの頃の俺に。

 

「お前は前の人格に負い目があるのだろう?なら逆にその体で人生を楽しめ!」

 

「彼女のことを差し置いて私だけ楽しむなんて・・・・」

 

「要は、嫌な事があって引きこもってる箱入り娘クーディちゃんを部屋から出せばいいんだろう?」

 

「・・・は、箱入り娘って」

 

俺の言葉に、口の辺りがひくひくなっているクーディ。

むうちょっと面白い。それを見て少し口元が緩みそうになるが、きっと引き締める。

 

「アマテラスって知っているか?大昔の太陽の神様でな。なにか嫌な事があって、一度引きこもったんだ」

 

「・・・それに何の関係があるんだい?」

 

「まあ黙って聞け。それで太陽の神がいなくなったからみんな困ってな。そりゃ作物とか作れないし。で、困った周りの神様たちが一計を案じたんだ」

 

「・・・それで?」

 

話を黙って聞けといわれたからか素直に聞いている。

どうして急にこんな話をし始めたのか、少しが気になっているようだった。

 

「そのアマテラスの周りでお祭りをしてな。そのアマテラスよりすごいやつがきた!って言ってな」

 

「・・・で、実際にそのすごい神様を呼んだのが、周りの神様たちが一計を案じた結果なの?というか太陽よりすごい神様っているのかい?もしかしてそのアマノウズメが私で、そのすごい神様が元のクーディ・アルミストのことで、私が引きこもれば解決だといいたいの?」

 

「そうだな。まあ、俺の言い方ではそう言われればそう聞こえるかもしれないが、ちg・・・って待て待て待て!」

 

少しそういう解釈の仕方ができるなんてどれだけ自分が嫌いなんだよ・・・

すこし俺が考え込んでしまった瞬間、彼女はエルメスに乗り込もうとするのを、慌てて止める。

当時を再現して、廃人になる気か!?それだけ大事と言うことなのだろうが。

不満げに、なんだとこちらを見てくる彼女をなだめながら、慌てて話を続ける。

 

「すまん俺が悪かった。続きはその自分よりえらい神と言うのが気になって、すこし出てきたアマテラスを掴んでみんなで引きずり出したんだ。えらい神と言うのは鏡に映った自分自身のことだったんだよ」

 

「ひどいやつらだな」

 

「俺もそう思う。で、要はお前も気にしないで人生を謳歌して、前の人格が出てきたくなるようにするんだ!」

 

「いやそれは・・・」

 

しかめっ面をしながら、腕を組み考えこむクーディ。

やはり納得できないとでも言いたげだ。

そこを考えるようになったら、あともう少しだ

 

「でもそんなこと、私には、できない。普通の女の子として生きることもできない。」

 

「そうだろうな。だが誰がそんな生き方をしろといった」

 

「え?でもそんなふうに・・・?」

 

彼女はニュータイプだ。もしそんな生き方ができたとしても、すぐに戦争に巻き込まれることだろう。

運が良くて、次のデラーズ紛争は逃げ切れるかもしれない。だがZ時代になってくるとダメだ。

研究所やらやなんやらに見つかり、すぐMSに乗せられ戦争に駆り出されるのが落ちだ。

 

・・・それじゃあ、ダメなんだ。

 

どうせこの後の世界は100年の争いが、戦いの連鎖が止まることはない。

それがこの世界だ。嗚呼そんなくそったれな世界だ。

スペースノイドの自治確立を目指し、ジオンの怨念は戦いをやめることは、消えることはない。

言い換えれば、ガンダムとは

 

ジオン軍が負け続けてきた物語、なのだ。それをジオンが勝ったら…?

 

ああ、そうだ。

 

「俺は世界に名を残す男!ユーセル中佐だ!その懐刀としてお前の名前も残そう!そこらへんの一般人では到底できない!その偉業を!それって最高の人生だと思わないか?」

 

「・・・いったいなにを言って・・・」

 

「俺は地球連邦政府を転覆させる!大革命だ!これまでだれも成し遂げてきたことがないことをする!」

 

戦いの連鎖を止めるためには、どうしたらいいか?

とても単純なことだ、勝てばいい。

 

あの、地球連邦政府に。

 

俺の言葉がすぐには理解できなかったのか、少しの間彼女は呆然とする。

そしてすぐに小さく首を振って、小さく

 

「・・・無理だ」

確かに、地球連邦政府を倒せたらそれは名が残る。とてつもないことだ。

だが、無理だ。偉業というものは誰にもできないことだから偉業というのだ。

それほどまでに大きいのだ。地球連邦政府というものは、確かに彼らは強いのだろう。それこそ30隻もの大艦隊を前にしてたった一隻の船で敵中突破して生き残れるぐらいには・・・

だが勝てはしない。あれだけの艦隊ですら地球連邦の一軍。氷山の一角。

それだけの軍隊を相手に一艦隊程度で勝てるはずはない・・・

それでも彼は続ける。

 

「そうだな、無理だ」

 

「・・・おぃ」

 

「・・・だがそれは今の状態で、だ」

 

まさかのうなずきながら肯定する言葉に一瞬ゆるみそうになるが、後に続く言葉でハッとする。

彼はこちらを見て発言する。

 

「あと数年は動けない。だがその後とてつもなく大きな波が来る、とても大きな波だ。連邦が、いや地球が沈むほどの大きな」

「それまでに戦力を整える。いや、揃えてみせる」

 

なおも続ける彼の眼は少女を見ている。

いや彼女を通じてどこか、遠い場所を見つめているような・・・

ふと思う。

なぜそんなことがわかる。

先ほどから戦力を整えるなど言っているが、別に無理をして戦わなくてもいい。戦争は終わったのだ。

もし、本当に連邦に勝つというのなら、別に連邦を戦争で倒さなくてもいい。

戦争というものは、あくまで国家間での交渉の一種なのだ。

スペースノイドの最終目的は、サイドの独立だ。

たとえば、難しいだろうがサイドの国会議員などになって交渉で独立を勝ち取るのも、一種の手だ。

もちろん、国家間戦争で敗れた国が独立するにはとてつもない苦労があるだろうが。なくはない

戦争するより、話し合いで行ったほうが断然いいだろう。

 

「・・・」

 

もしや彼はただ戦争がしたいだけ・・・?戦争に取りつかれた人間だったのだろうか・・・

彼を知る人間だったらそんなことはない!と言ってくれるのだろうが、今は数時間前に知り合ったばかりの少女にそれを求めるのは酷というものだろう。

 

「・・・っ」

 

「・・・どうした?」

 

「・・・いや」

 

「いや?・・・ああうんそうか」

 

少しおびえた顔をして、半歩引く彼女に気づき、少し自分を振り返る。

ああ、しまった。ひかせちゃったな。

自分の胸あたりまでしかない子供を怖がらせて、何したい。

ちがう。いいたいことはこうじゃないのだ。

 

「くっそ・・・あー!」

 

「・・・っ」

 

急に奇声を上げた男に、びっくっと揺れるのを見ながら乱雑に頭をかく。

 

「そうだな、結局何が言いたいかと云うとお前を幸せにしてやるってことだ」

 

「・・・っ!はぁっ!?」

 

いきなり何を言い出すのだろうか、この男は・・・

でも不意にこれまでのことが思い出される。不器用だがこちらの事を気遣ってくれている。今も底に沈んでいた自分を引っ張り上げてくれた。少なくとも悪意を持って言っているのではないだろう。

戦争しろとか言ってるのはともかく・・・

 

「あ、おい・・・」

 

どうすればいいかと悩んでいる彼を見ていると、不意にくすくすと笑い声が漏れる。

 

「・・・?」

 

あの時話を聞いてしまった時点で私の負けだったのかもしれない。

これからすることもない。彼についていくのも魅力的だと思える。

・・・よし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くすくすと急に笑い出した彼女に対してどうしたらいいのかと悩んでる間に、彼女は笑うのをやめくるっと回り背中をむける。

やっぱり幸せ云々は言い過ぎたかと思いつつ手を伸ばす。背中に触れるか触れないかのところで彼女が声を上げる。

 

「ねえ!ほんとーに彼女は出てくると思う?」

 

こんな彼女の言葉に俺は、手を伸ばすのをやめ背筋を伸ばして答える。

 

「そうだな、絶対に・・・とはいえないな」

 

「でも!」

 

そんな俺の言葉に、ビクッと小さい体を震わせるクーディ、肩を怒らせ話が違うとばかりに振り向いてくるところで言葉を続ける。

 

「出て来るまで付き合うよ、ずっーとずぅーーと、な」

 

そういうと彼女は少しうつむいた後、やがて顔を上げ彼女らしい晴れやかな笑みで

 

「そこまで言うなら付き合って、彼女が出て来るまでずーっとずぅーっとね!」



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カラマポイント

やっと0083の主な人物が出せました。
アナザー?やzからも数人出てきますが、少しマイナーですかね…?


「・・・・・」

 

 

ここはとあるジオン軍戦艦,いや旧ジオン軍の戦艦グワジンのとある一室。

明かりを最小減に落とし、重々しい雰囲気に包まれている

その部屋に設置してある円卓を囲うように6人の人間が座っている。

その後ろに数人付き人。

 

右側から、エギーユ・デラーズ大佐

 

その隣に、ユーリー・ハスラー少将

 

その隣に政治家、マハラジャ・カーン

 

サイド3司令官補佐、アルスラーン・レイヂジェ少将

 

月のグラナダ方面軍司令官補佐官ミスタチア・クリスタ少将

 

そして私ユーセル・ツヴァイ中佐

 

である。

 

明らかに場違いじゃないですかね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにいるきっかけは、あの後3艦長と合流した後の話だ。

もう流石に、これ以上は流石にアバオアクー領域に用はない。

ギレン総帥率いるジオン軍の最終決戦が終了してから半月程度だ。もう流石に残存兵はこちらで回収したか、故郷サイド3に帰還しているだろう。

方針を決めかねていた俺たちは、アバオアクーを離れ、サイド3に近い暗礁宙域に身を潜めて連邦軍やジオン軍の動きを監視していた。

そんな矢先、オペ子から

 

「なに?グラナダで小競り合い?」

 

「はい。前に出した偵察隊から。報告によると港近くで銃撃戦。膠着状態だそうです」

 

「見せてみろ」

 

モニターが映る。電波状況が悪いのかずいぶん荒いが間違いはなさそうだ。

偵察隊やサイド3に潜入させている工作員から情報は随時おくられてくる。

・・・今はジオン軍拠点、月のグナラダは連邦軍との休戦条約で、連邦宇宙軍艦隊が集まっているはずだ。

ただでさえピリピリしているのだ。

現に、つい先日終戦条約のためグラナダに向かっていたダルシア・バハロ首相の乗る艦隊が襲撃されたばかりだ。

そんな中この騒ぎ。この後終戦条約も控えている。サイド3は戦場になっていないし、ほとんど被害もない。

だからまだ戦えると勘違いしている馬鹿どもが騒いでるんだろう。まあ連邦軍にすぐ鎮圧されるだうが。

そんな奴らに部下が巻き込まれてはたまらん。引き上げさせようと口を開きかけ、

 

「グラナダの港にいる諜報員から追加情報!議員のマハラジャ・カーンではとのことです」

 

・・・なんでまだいるんだお前。アクシズにいるはずだろ・・・

結構マハラジャは大事な人物だったはず。確かアクシズのトップだ。

見殺しにするわけにもいかんだろうなぁ。ええい。

幸い?艦も近い。そう時間もかからないか・・・

 

「オペ子他のムサイ艦艦長たちに連絡。動くぞ。あとサイド3にいる諜報員にも時間を稼ぐよう伝えろ。このチベも動くぞ!各員戦闘配置につけ!ぼさぼさするな!あとそこの曹長!私のねぼすけな副官を起こしてきてくれ。すぐ艦を動かすとな!急げ!」

 

「は、はい!」

 

にわかに艦内があわただしくなる。

暇そうに突っ立っていた兵に、うちの艦の艦長を呼びに行かせる。急に呼ばれた男は慌てて艦橋を出た。

うちの艦の艦長は、今交代でさっき艦橋を出たばっかりだ。徹夜明けだったから、眠そうにしていたからなあ。

今頃部屋で熟睡してるだろう。

オペ子も急な命令に驚いたが、緊急時だと悟ったのか素直に聞く。

 

「諜報員に連絡。三艦長にも動くよう伝えます」

 

この後俺たちはサイド3に向かい、マハラジャ氏を回収した。

どこにでもいる有能そう政治家といった風情の、40か50過ぎの男だ。

名を名乗り、助けてくれた事への感謝、情勢が良くないこと、それからアクシズに向かう旨を少し話す。

無事助けたマハラジャ氏は二人の子供を連れていた。

その子は銃撃戦がよほど怖かったのか、少し震えていたがその胸には彼女の妹らしき赤ん坊を抱えていた。

よほどその子が大事なのか、シャトルを降りチベについた後も放そうとはせずマハラジャ氏から言われておずおずといった様子で、赤ん坊を女性クルーに預ける。そんな娘の様子を見て少し顔を暗くしため息をついた。

あまり親子仲がいいわけでは無いのかもしれない。

彼は艦の女性クルーに赤ん坊を大事に扱ってくれ、とても高貴なお方だとことづける。

マハラジャ氏を送り届ける為残存艦隊が集結しているカラマポイントへ向った。

 

 

 

 

 

何でここにいる目線がすごい。

こいつがいるから話すすまねぇんだよこらという目で見られてるな・・・←被害妄想です

助けて目線をデラーズさんに送るが何を勘違いしたのかうむとでもいいたげに肯く。

そうじゃないんです。そうじゃないんですよデラーズ閣下!!

 

「なぜ彼はここにいるのです?」

 

重圧に耐えきれず冷や汗かいてたら、誰も触れようとしないというのがわかったのか、ミスタチア・クリスタ少将がデラーズ大佐に質問する。

 

「うむ。彼はア・バオア・クーで痛手を負った兵たちを救い、さらには連邦に手痛い反撃を与えておる。誰にでもできることではなく。見事。その功績でワシがこの席によんだ。・・・やも・儂は、見捨てたも、同然の・・・」

 

「はぁ、そうですか。あと最後にはなんと・・・?」

 

「いやなんでもない。それにそしてマハラジャ・カーン議員の脱出の際にも大きな助力をしておる」

 

「まあ。そういうことでしたら・・・」

 

納得がいってないようだったが、これ以上引きずっても得がないと思ったのだろう。

とりあえず保留にしたようだ。どうでもいいといった風にも取れるが。

そこらへん流石キシリア様の配下とでもいうべきか切り替えが早い。

静まりかえったのを確認してデラーズ大佐が立ち上がり発言する。

 

「うむ。ではこれよりわれわれジオン軍残存戦力合同方針会議を開始する」

 

そうこの会議は上の発言のとおりジオン軍残党の行動指針だ。

各軍の現最高指揮官が、連れてきた戦力をどうするかその話し合いだ。

もちろんここにいる人たち以外にもいるのだが、連邦に囲まれて来れないか地上にいるか。

 

「いきなりですまないがそんなに時間があるわけでもなかろう。連邦艦隊に動きがある。各自の残存戦力を教えてくれ」

 

元からいた艦隊は大体把握しているだろうが、俺の隊は先ほど来たばかりで正確な数がわかっていない。

大半は別行動中だしな。あとは再確認の意味を兼ねてだろう。

 

「元々のサイド3駐屯戦力の約7割を連れてきている」

 

と、アルスラーン少将。

多いな。サイド3はある意味聖地だから、大方熱狂的なジオン信者が集まったんだろう。

 

「グラナダ駐屯戦力はキシリア様の援護で出ていたドロス搭載数が4割弱で残った6割中半分を連れてきました」

 

すこし少ないかな。終戦協定で連邦艦隊が向かっていたという話だったしその目を潜り抜けて、半数もつれてくるぐらいが限界だったんだろう。

 

「ユーセルです。元々ア・バオア・クー戦域の戦力をできる限り集めて、34隻の艦艇を有しています」

 

「ほう・・・」

 

数人が関心したような目線を向けてくる。

ミスタチア少将は懐疑の目を向けて来ているが。

何もしてないはずなのだが嫌われたのだろうか?

隣のデラーズ大佐はうむと感心したように小さく首を動かす。

でもまあ、実際の内情は30隻数中半分が戦えれば良いほうだ。それこそピンからきりまで無傷の船もあるし何で沈んでないのかというものまで。

本来のうちの4隻(チベ級1隻ムサイ級3隻)艦隊はあまり目立った外傷はないが、後から合流した船はムサイ級だったら砲門がつぶれていたり、なにかしら不調があったりだ。

十何隻ぐらいは補給艦なのでまともに戦えるのは実際には10隻以下かもしれない。

改めて思うと30隻相手に遭遇していたら、間違いなく全滅していただろう。

 

「ではそれぞれの戦力を把握したところでどうするかだが」

 

「マハラジャだ。・・・・これは提案なのだが。以前からギレン閣下の命を受け、私が開発している小惑星アクシズに艦隊を集結させ、地球圏の見方をうかがうというのはどうだろうか。このまま地球にいても逃げまわるだけで、ろくに抵抗できまい。いずれ押しつぶされるのが目に見えている。戦力をズタズタにされすぎた。それならアクシズで再起するときを待ちその後地球圏に舞い戻ってくればよかろう」

 

「アクシズに行くというのも悪くはないわね」

 

「兵たちの間にも抗戦派と温厚策の者に分かれ紛糾している。迷いがある。だからこそこのカラマポイントなどというところで、連邦に発見されるリスクを負ってまでこんなところでくすぶっていたのだ」

 

「いいかげん決めないと連邦艦隊に発見されるのも時間の問題」

 

「むう・・・」

 

会議は盛り上がっているが、大半がアクシズ行きが魅力的だと思っているんだろう。

だがぶっちゃけ俺は違う。

0083の後はzガンダムだ。アクシズは作業用MSで戦わなければならずティターンズやエゥーゴは人材が豊富だ。

この前のワイアット将軍の件で思い知った。

原作キャラは危険だ。

この後のゼータなんてキャラ数ワラワラ。

そうなると、しがないモブのおれなんて時の流れの中においてかれてしまうだろう。

または戦艦やMSに乗っているときにカミーユやジェリドに殺されるのが落ちだ。

0083ならまだ技術的優位も、俺がドムの件で水準は本来より高い。ギリ残っているだろう。

まあ、この後の歴史上でいうと、デラーズは残る!

あとは俺もそれに賛同して地球に残るだけだ。

 

デラーズが口を開くのを待つ。

 

「…」

 

・・・少し長いな。割って入るタイミングを見逃しているのか?それとも静かになるのを待ってるだけ?

会議は残って戦う派とアクシズ行とでかなり揉めている。何しろ命が懸かっているのだ。しばらくは止まないだろう。強引にでも割り込まないと意見は言えまい。

隣の大佐を盗み見る。

 

「・・・」

 

顔を伏せる。おいおいおい!

地球に残ったはずのデラーズ大佐もアクシズ行きに賛同しそうな雰囲気だ。

いや、賛同とは言えずただただ迷っているのか?デラーズはギレンの親衛隊だ。ザビ家に強い忠誠を誓っている。だからこそ地球圏に残り最後まで抵抗して、コロニー落としまで実行したんだ。

そのデラーズが迷う理由?なにがある・・・

様子をうかがっていると、デラーズは少しだけちらりとマハラジャ・カーンの方を向きやがて戻す。

 

「?・・・っ」

 

なんだ。彼は何を悩んでいる。マハラジャとデラーズの接点?いやあまりないはず・・・あえて言うならどちらともギレンの派閥というぐらいだ。そういえば会議の前に、二人で話をしていたな。だが同じ派閥といってもデラーズ個人はザビ家に忠誠を・・・忠誠・・・何に?ザビ家にだ。

何も見逃している?

 

考えろ

 

・・・考えろ!

そうか!もしかして・・・

 

「・・・ミネバ様か」

 

「・・・っ!」

 

ギレン総帥を支え続けた歴戦の戦士は、俺のつぶやきを耳にしたのか驚いた様子でこちらも向く。

当たりか・・・くっ最悪だ。これからどうする。

もし、もしだ。デラーズが残らないとなると俺の艦隊だけで戦争せねばならなくなる。これはきつい。

たとえばトリントンでの潜水艦ユーコンへの参戦依頼やもろもろあれはデラーズがギレンの親衛隊というわかりやすい立場があるから命令できたのだ。

デラーズが少将まで階級を上げたように俺も将官クラスまで上げる?ダメだ。その場合自称将軍に近い。古代アジアのエンジュツ(なぜか変換できない)かよ。第一誰も認めないし、現時点で俺の知名度なんてほとんど無名に近い。俺の名を知ってる奴なんてよほどドムに愛着が深いパイロットかジャブローやオデッサで助けた奴らぐらいだろう。

明らかに怪しすぎる。誰もついて来やしないだろう。

背中を垂れる汗。

 

これしかない、か。最悪撃ち殺されるな・・・

ええい。ままよ。

大きく椅子を鳴らし立ち上がる。

 

「・・・ぇない。ええい!情けないぞ!諸君!」

 

緊張して声が出にくい、一声が詰まってしまった。

会議室のざわめきがやみ、こちらに視線が集まる。

いきなりの罵声に怒るというよりも戸惑っているような感じだ。

いきなり一左官が我々に怒鳴ったというのを想定してなかったのだろう。

だが流石に一つの都市を預かる将官たち、といったところすぐに話を中断させた者に叫ぶ。

 

「無礼だぞ中佐!この席に座ることを許されているからといってあまり調子に・・・

 

「情けないといった!」

 

反論などさせたらこちらが不利だ。さえぎるようにして、言葉をつないでいく。

 

「我々ジオン軍はスペースノイドの為に立ち、戦った!我々は一度の敗北で身を引くべきではない!事を起こしたのなら最後までスペースノイドの為戦いつづけるべきだ!」

 

「ほう。それで?理想論など結構だ。あてもなくこの宙域の中さまよい続け連邦に下るか?」

 

キシリア配下のミスタチア・クリスタ少将が鋭い視線をこちらに向けながら問う。

流石キシリア配下のものだ。場数を踏んでいるのだろう。過去には怒鳴り込んでくる部下の対処などお手の物なのだろう。ほかのものと違いえらく冷静だ。視線を受けているだけで少したじろいでしまいそうになる。

隙は見せるな。堂々と語れ!

 

「馬鹿馬鹿しい。自殺希望ならよそにいきなさい。そうね。現状がわかっていないようだから教えてあげましょうか、あなたの艦でサイド3の駐屯軍に向かいなさい。彼我の戦力差がわかるでしょう」

 

心底くだらない物を見たかの用にため息をつき話を終わらせにかかる。

 

「では、逆に聞こう!あなた方はその程度の覚悟もなしにこの戦争に参画されたのか!」

 

「・・・っ」

 

このやり取りをみまもっていた諸侯がが気圧されたようにうなる。

本音はどうあれ、ここでそうだ!と叫べるものはいないだろう。

ここにいる全員が軍隊という組織に所属している以上、仕方のない問題だ。

下士官なら叫べたのかもしれないが、あいにくここにいるのは大人ばかりだ。

決定的なセリフは吐かない。

この隙に続ける。

 

「昔を思い出せ!コロニーには自治権がなく地球の連邦政府が行政を握っており、産業政策、貿易条件などはすべて地球側が有利になるよう定められていた!その結果、特権階級や大地主など富める者は地球に残り、移民組との貧富の差が拡大していく。地球組の中にはこともあろうに宇宙移民者を差別する者までいた始末だ!」

 

「この状況を打開する為ダイクン公は独立を宣言された!だが地球連邦政府は、「サイド3の独立を認めれば他のサイドも次々独立しかねない」と我々の独立宣言を完全に無視、逆にサイド3に建国を撤回させるべく非情な経済圧力を加えた!」

 

「そんな中!ザビ家の長男でありジオン公国のギレン・ザビ総帥は、「保身に明け暮れる無能な連邦政府に人類を統治する資格はない。サイド3だけでなく地球圏すべてがスペースノイドによって導かれるべき」と説かれ先の戦争をおこされた!我々はその遺志を継ぎ、地球圏へ残り連邦に徹底抗戦するべき、ケホッ」

 

しまった。なれない長台詞でむせてしまった。

咳が止まらん。

 

「スペースノイドに、ゲホっ。我々は夢を見せた責任を取るべきだケホ、だからこそ、」

 

「中佐、もういい」

 

「デラーズ大佐・・・」

 

なおも言い積もろうとした彼の肩を叩き、老将は立ち上がる。

 

「デラーズ艦隊はこの地球圏に留まる決断をする!そして再びジオンの中興をなすためにこの地で機を待つのだ!賛同するものは我とともに行かん・・・!」

 

静まり返る会議室。

この状況を創り出した老将は、先ほどまで語っていた若き軍人をつれ諸侯に背を向け、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

「よろしかったのですか、大佐」

 

「ああ、そのままではつらかろう。医務室まで運ぼう」

 

「いえそうではなく・・・ミネバ様は、」

 

「いうな。これでいいのだ。これでな。・・・難しく考える必要などなかった。つまりな中佐。儂はどこまでいってもギレン総帥の親衛隊ということだ。どれ肩を貸そう」

 

「?…あどうも…あ、いえ。そこまでしてもらうわけには」

 

「いい。大事な事を思い出させてくれた礼だ。受け取っておけ」

 

「?そういうことでしたら」

 

そういって老将は晴れやかな笑みを浮かべ、優しく彼を医務室まで運ぶのだった。

 




。シーマ様まで行く予定でしたが長くなったので切ります
口調とか不安だ・・・


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それぞれの針路へ

シリアス?が最近多い気がします・・・
相変わらず口調が不安、、、


「デラーズ閣下!」

 

「おお、ガトーか!どうした」

 

会議終了から半時エギーユ・デラーズ大佐の発言によって会議は収束。

抗戦派はデラーズ艦隊に併合されることになり、それ以外の艦隊はアクシズへの針路をとる事が決定した。

会議出席者は配下の者にその旨を伝え、おおよその者がどちらかの道を選択するものとなった。

 

そんな中、俺_ユーセル・ツヴァイはデラーズ大佐の好意によってグワジンの医務室まで運ばれた。

今回の顛末を通信で三艦長や副官に話しすぐ艦に戻ろうとしたのだが、もう腹は決まっていたようで地球に残るそうだ。それならと全体の行動が決まるまでと部下に断って、少し話したいというデラーズ大佐の提案を受けることにした。

医務室で少し休息を取りつつデラーズ大佐と過去の経歴(ドム開発に携わっていたことや、ギレン総帥の親衛隊にドムを新規開発して納入したこともあるといったら、どうやら知らず知らずのうちにデラーズ大佐の専用機の開発に携わっていたことが判明したり)今後の方針について話しつつ、親睦を深めていた頃に一人の武人が飛び込んできた。

 

「それが・・・っ失礼しました!」

 

 

もう一人室内にいた士官服を着た男とその男が着けている中佐の階級章を見て、少し慌てた様子でいたがすぐにきれいできちっとしたとした敬礼をしてくる20代くらいの男性。大尉の階級章をつけている。軍服を見事に着こなしていて、侍の髷を髣髴させる長い銀髪を後ろで結ったヘアースタイル。まさに武人といった雰囲気の男だ。

俺がベットに腰かけている姿と怪我人だとでも思われたのだろうか?

 

「いや、いいぞ。別に怪我をして寝ていた訳では無いからな」

 

腰掛けていたベットから立ち上がり、平気だと言う様に軽く体を動かす。実際少しむせただけで、なんで居るんだお前らレベルである。医者からも異常なしといわれたしなんとなく居座っているだけだ。医者は流石に気まずいのか、診察した後奥に引っ込んでしまった。

男は、それでもともう一度謝罪し、敬礼する。ビシッとでも聞こえてきそうな敬礼だ。律儀な性分なのだろう。

 

武人調の男はアナベル・ガトーと名乗った。

 

「ほぅ。あなたがあのソロモンの悪夢、兵たちから噂は聞いています。なんでも戦艦8隻を沈め、MS200を撃破したとか・・・私はユーセル・ツヴァイ、階級は中佐。よろしく」

 

これからは長い付き合いになるだろう。これからよろしくという意味合いを兼ねて手を差し出す。

ガトー大尉はこちらの腰の低さに驚いたのか、少し驚いた様子を見せたが最後にはきっちりとした態度で返してきた。握手の時までまじめな人だな、と苦笑する。たぶん見た限りでは年も近い、これから仲良くしていけたらと思いつつ、ソロモンの悪夢アナベルガトーとの初対面を終えた。

 

 

 

 

 

「それで、ガトーよ。なにか大事でも起きたか」

 

「いえ、閣下。大事というほどではないのですが一部の兵、海兵隊の者が騒いでおり、それに影響され兵達が浮足立っています。MSまで動かそうとする動きがありましたので、早めに指示を仰ごうかと」

 

「うむ・・・すまんが、ここに外の様子が見れるものがあるか、様子が見たい」

 

老将は少しうなり声をあげ、奥にいた医者に声をかけた。こちらからでは見えないが、奥でもぞもぞと何かが動くような気配がした。

少しした後、外部へと繋がっているモニターが映った。

艦船の姿が映る。茶色の大きい弾頭の先端をくりぬいてロケットエンジンをつけたような形、あれはザンジバル級だ。わが艦隊の旗艦チベや、今乗っているグワジン級とは違い大気圏内(いわゆる地球の空)でも活動できる優れた船だ。あれはもしかして・・・

 

『・・っ・ざけるな!!俺たちをなんだと思っていやがる!!!』

 

「うぉっ」

 

男の叫び声が医務室に響き渡る。少し音量が大きい。少しずつ叫び声が小さくなっていく。

大方奥にいる医者が気を利かせて下げてくれたんだろう。

男の声が後ろに下がり、今度は別の叫び声が割り込んできた。

20代後半ぐらいの女の声だ。

 

『なぜであります!?我々海兵隊にはアクシズへ脱出の権利がないのでありますか!!』

 

『何度も言った通りだ!貴様らは軍紀を逸脱しすぎた!栄光あるジオン軍にお前たちはふさわしくない!』

 

『逸脱!?我々の行動はすべて、本国からの命令です!それがなぜ_』

 

『知らんな!戦死なさったキシリア様の独断かもしれん』

 

しばらく言い争う声。女の相手はどうやら上官のようだ。

聞き覚えがある、確かアサクラとかいう情報部の人間だったか?

ちなみに原作にもコロニーレーザーを撃つときに、そこのムサイどけ、ソーラシステムの出力が下がる!とか言ってたやつもアサクラという関連性は分かってない。

女性は何とか言い募るが、上官らしき男は一向に認めようとはしない。

同じようなやり取りを繰り返すのに飽きたのか、男は一方的に話を切り上げにかかった。

 

『ともかく迷惑だ!お前も軍人なら自分の事ぐらい自分でどうにかするんだな!!以上だ!!』

 

『アサクラ大佐!!』

 

女性は通信を切った上官の名をほとんど悲鳴に近い声で叫ぶ。

その声には、自分たちを捨てた上官への憎しみと世の中の理不尽さがこもっていた。

ふざけるな。すべてお前たちの命令だろう。自分の立場を守るためにトカゲの尻尾きりかい!ふざけるんじゃない!

艦の側面部についているカタパルトが開いていく。

出撃する気か・・・・

とめんと大事になる。

今の彼女は正常な状態ではない。

行かねば。

 

「申し訳ありません。デラーズ大佐この艦にある機体をお借りしてよいですか」

 

「・・・行くか中佐」

 

「彼女を止めねばならんでしょう」

 

「ふむ。まぁ仕方あるまいな、儂の機体を使え、といいたいがガトーが飛び出して行ってしまってな。無い」

 

「えっ」

 

少し周りを見渡す。

そういえばいつの間にか居なくなってるな。

 

「ふはは。あやつめ。ガトーめ、やりおる。先手を取られたな中佐?貴公がモニターに食いいるように見ておったときにな。機体を借りると言って出ていきおったよ」

 

「・・・」

 

何がおかしいのか若人が肩を落とす様子を見て、豪快に肩を動かしつつずいぶん年を重ねたが老人が笑う。

空いたままのドアをちらりと見つつ、云う。口ぶりは困った部下に苦労をかけさせられて困っている上司といった感じだが、その目は孫を見る叔父のようだ。

まぁ、彼女・・・シーマガラハウの機体を止めれるのは、大尉ぐらいだしな・・・うん。

 

「知り合いかね?」

 

「いえ。こちらが一方的に知ってるだけです。向こうは・・・多分知らないと思います。こっちが勝手に親近感を感じてるだけで」

 

俺が彼女について知っているのはこのくらいだ。シーマガラハウ中佐。性格は大胆不敵で、非常に好戦的、らしい。モビルスーツのパイロットとしても非常に優秀な腕を持っており、一年戦争時の撃墜スコアは56機。

0083の妙齢の美女でヒロイン的存在とも呼ばれる。

一年戦争時は主に破壊工作を行っており、一年戦争緒戦において、スペースコロニーへの毒ガス注入、いわゆる「コロニー潰し」に従事していた。

シーマとその艦隊は破壊活動や虐殺など公国宇宙軍の「汚れ仕事」の実行者であったという。

その後何らかの出来事がきっかけで海賊稼業をすることとなる。

なお海賊稼業は好んでしていた訳ではなく生きる為に必死だっただけだろう。

彼女はいわば時代の被害者だ。俺やクーディのように・・・俺だって一歩間違えたらシーマ・ガラハウのようになっていただろう。記憶が来たからうまくいっていただけで。本来なら鉄砲玉で死んでいたか、それこそサイド3の薄暗い路地で冷たくなって、今でも鮮明に思い出せる。そうだ俺は、いや僕はあの男につられて・・そう。あの場所はとても暗くて、寒かった。そうだよ。待ってて言ったから僕は・・・

・・・僕・・・いい子で待って・・ら!・・絶対だ・・・よ。あぁ・・絶対だ。僕待ってるから。ずっと、ずっと・・・

 

「・・・ちゅ・・・い・・・中佐!しっかりせんか!」

 

「・・・っ!」

 

「…大丈夫か?」

 

「・・・ええ。すいません」

 

「誠か?儂には貴公が脆い泡沫のように見えるぞ」

 

「え、ええ。大丈夫です」

 

「何かあったら言いなさい。出会ったばっかりだがな。貴公と儂は・・・そうだな。これから共に戦場に立つ。いわば戦友だ。先ほども大事な事を思い出させて貰ったばかりだ。借りたままではどうも納得いかない性分なのだ。なんでも言ってくれ。力になろう」

 

そう心配そうに顔を覗きこんでくる顔に不意に、昔にがある優しい男の顔が重なりかけ・・・

頭を振って考え直す。何考えてんだ。あったばかりの上官に失礼にもほどがあるだろ。

ただ自分だけの為にぶった演説がそんな風に思ってくれているとは、申し訳なくなるな。

だが・・・ありがたい。

 

「・・・じゃぁお言葉に甘えて・・・」

 

「おや、中佐。目が赤く・・・」

 

「頼みがあります!」

 

急に叫んだ彼に少し驚いた老人は、その後にされた「お願い」を聞き、少しまた驚いた後笑ってその「お願い」を聞いてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シーマ様!?」

 

「直に談判してくるだけだ!お前たちはここを動くんじゃない!手も出させるんじゃないよ!」

 

身を翻してザンジバル(リリーマルレーン、昔の曲名からとったこの船の名前だ)の艦橋から出ていこうとする彼女・シーマガラハウ中佐を、彼女の部下デトローフ・コッセルが呼び止める。が、彼女は短くいこうとする場所を伝え、格納庫への道を急ぐ。何百回と通った道が今は遠く感じる。なぜ。上官のアサクラに疎まれているのは知っていたし、あたしもアサクラをはっきりとは言わないが嫌いだった。が、アクシズ行きを資格がないなどと言うとは予想していなかった。格納庫についたころにはあたしの機体、Ms14Fe(一般的にはゲルググといわれる機体がいつでも出撃できるような状態にされていた。コッセルが根回ししてくれていたのだろう。

すぐさま乗り込み、機体を発進口に向かわせる。本来なら出撃前にしなければならない点検項目も武装もすべて蚊帳の外だった。

 

「知らなかったんだ・・・あたしはただ催眠ガスとだけ」

「きかされていなかったんだよ!あれが毒ガスだなんて!」

アサクラの乗るムサイめがけ一直線に機体を動かす。

 

『下がれ中佐!何をする気だ!』

 

異変を察知した偵察機かそれともアサクラの私兵か旧式のザクⅠが1機と、ザクⅡが一機接近してくる。

取り押さえる気だ。

 

「この手で毒ガスを・・・あの時コロニーの内部で見た阿鼻叫喚・・・気が付けば大量虐殺を強いられ・・・」

 

倒れていく兵士、いや兵士だけでないコロニーにいた女子供も。全員・・・MSのコクピットに座っていると思い出す。その時乗っていたのはザクⅠのコクピットだった。あの頃の若き自分何も知らずに軍に志願し海兵隊の司令にまでのし上がって、突然の命令。特務だ中佐。

 

取り押さえる気か、それとも返事がない相手を心配してだったのか、旧ザクが手を伸ばしてくる。

『しらなかったんだっ!毒ガスだなんてしらなかったんだよおぉ!』

 

「その後も汚れ仕事ばかり散々やらされて・・・」

 

『返事をしろ!シーマガラハウ中佐!』

 

「その結果が・・・!その結果がこれかい!」

 

伸ばしてきたザクⅠの腕をつかみ、もう一機の並行して飛んでいたザクに投げるようにして叩きつける。

前方のムサイあれがアサクラの乗る艦だ。MSの腕を艦に向けスラスターを全開にする。

 

「すべて軍が、貴様が命じてきたことだろうが!!!アサクラァ!!!」

 

ガンッ!

機体が揺れる。ぶつかってきた機体はあまり強い勢いではなかったが、高速移動中のMS同士がぶつかったのだ。

反動がある。

 

「くっ」

 

誰だ!乱入してきた機体を睨みつける。ずんぐりとしたシルエット。武装はしておらず丸腰の機体ドム、か?

だが細部が異なっている。MS09F・・・ドムトローペンといったか、いや脚部が少しスリムになっているMS10の・・・いやそんな事はいい問題はこの乱入してきた機体をどうするかだ。

この堂々とした威圧感、ただ者ではない。

小さく舌打ちをする。先ほどのザクのようによそ見をくれながら突破できる相手ではなさそうだ。

通信が入る

 

『このような大事の時にご乱心か!?』

 

「なんだキサマは!?」

 

『アナベル・ガトー大尉です。中佐殿には軍人としての節度を持っていただきたい」

 

「ガトー?噂は聞いている。アナベルって名前で生粋の軍人を気取った鼻持ちならない奴がいるってさぁ」

 

ソロモンの悪夢、アナベル・ガトーか。

 

『・・・武装をつけずに飛び出してきたのは正解でしたな。今なら引き返せましょう』

 

「なめるなよ・・・大尉!」

 

腰にマウントされているビームサーベルを引き抜き、目の前にいるドムへと突きつける。

狙いはコクピット上の精密機械が詰まっている上胸部だ。動きさえ止めればいい。

並みのパイロットなら反応できないほどの速度でサーベルが振るわれ、狙い通りコクピットのやや上の部分へと命中・・・しなかった。鈍重な外観に似合わず軽やかに自機を狙ってきた刺突を、上半身を捻って躱し後部バックパックに装備されているヒートサーベルを引き抜いた。相手の機体と自機のサーベルとの間に、ヒートサーベルを潜り込ませ自機から離れさせる。ドムが握っているヒートホークは、本体からの膨大なエネルギーが流れ込み眩い光を発していた。

 

「ガトー!あたしらは貴様の背にいる奴らに…顎で指示だけ下す上官どもにこき使われてこのざまなのさ!」

 

ドムの力が強い。相手にとって自分の胸のあたりという、MSという人体構造上力を入れにくいところで鍔迫り合いをしているというのにこちらがやや押されている。パワー負けしているのだ。有利な位置を取るように剣を押していなかったら、とっくの昔に払われて押し負けていただろう。ガトーもこの状態の不利は分かっているのか位置取りを変えようとしているが、そうはさせない操縦桿を動かし、相手が嫌がるところに機体を滑らせる。もはやほとんど押し付けるような体勢になっている。

 

「さぞ滑稽に見えているだろうさねぇ!」

 

『上官とはいえあえて言わせてもらおう・・・それが軍人だろうがっ!』

 

「あたしらの特務任務は・・・自分は軍人ですと、胸張って答えられるような綺麗な物ばかりじゃなかったのさ・・・」

 

ここまで機体ポテンシャルが違うとは・・・だが黙って負けてやるつもりはない。

 

この世界では、どこぞの士官が関わったおかげでビーム関連やエンジン開発がドムの方がゲルググより圧倒的に早かった。バリエーションが多く派生機も山のように出ている。

生産数はザクには及ばないが、多い。ようはゲルググは出来てからの日が浅いのだ。

ゲルググの開発理由が、大っぴらにされてないがドムのコストパフォーマンスの軽減の為だとか。

口の悪い兵たちの間で、ゲルググがドムの劣化機などと言われているが、シーマが搭乗しているゲルググマリーネも悪くはない。

ただあちらの方が図体が大きいおかげで大規模な機関を積むことができ、パワーがあるというだけだ。

対してゲルググは細身で、機関部の大きさはドムに比べると流石に劣る。その分軽いから素早く移動でき、ドムが大衆機だとしたらゲルググはエース用の機体というわけだ。

 

 

 

『剣を収めよ!ガトー!』

 

デラーズ大佐といったか、ガトーが尊敬する閣下の声に従いヒートサーベルの光を消す。先ほどまで鬱陶しいぐらいに光っていた剣が力を失い、シーマは動きを止めたドムの肩にサーベルを当てる。

 

「上官の命令一つで死ぬことも厭わないって言うのかい?」

 

『デラーズ閣下は思慮深いお方だ。この命は閣下にお預けしている』

 

ガトーの声は落ち着いていていた。

一歩間違えたらサーベルの光に焼かれるというのに。死ぬのが怖くないのか・・・

まるでデラーズの為ならいつ死んでも構わないといった構えだ。

シーマはその物言いに、この男の危ういものを感じた。それと同時に、少しほんの少しだけ・・・

自分にはそう感じる人間に巡り合えなかった・・・

っ!あたしは何を考えている、信頼できる上司?仲間?いらないね。あたしは孤独だ。これまでもそしてこれからも。

 

「っ・・・汚らわしい言い方はやめろ!」

 

『シーマ様・・・』

 

「コッセル?」

 

「もうこんな艦隊なんて知らねえ!いや、逮捕されたって構わねえ!帰りましょう俺たちの故郷マハルへ!」

 

コッセルがそう提案する。ほかに道もない。行くも地獄行かぬも地獄とは誰の言葉だったか。

 

「アクシズなんかの辺境に導かれた日には商売あがったりさね!お宝はこの地球圏にいてこそさね!」

 

そう笑って自らの母艦へ帰還していくシーマ・ガラハウ中佐。

 

この後彼女、シーマガラハウ率いるシーマ艦隊はジオン軍艦隊から離脱。

 

アクシズに向かうものはアステロイドベルトで時期をうかがい。

 

エギーユ・デラーズ率いる艦隊とユーセル・ツヴァイ中佐率いる艦隊は地球圏へと残り、来るべき時まで牙を研ぐ。

 

宇宙世紀0080、1月3日終戦条約が結ばれて2日後の事であった。戦争はまだ終わっていない__

 

 

 

 

 

 




ガトーは初めから少佐説と一年戦争は大尉でデラーズともに階級を上げた説が自分の中ではあります。
でもガトーは作中ではデラーズの右腕的存在であり、デラーズが階級を上げるのにその右腕的存在の人の階級を上げないのはおかしいかなと思い、今は大尉にしました。


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この作品の女性の平均年齢がえらい低い気がする

とりあえずまだカラマポイントです。
もう別れた的な話しといてもうしわけない・・・
いろいろ話してない部分があったんです・・・
あと戦闘シーンが書きたかったので(影も形もない


とある軍艦の艦内の格納庫。十人程度の人間が集まり、何かを話している

 

 

「本当にアクシズには来んのか?」

 

「はい残念ながら、自分の決意は先ほどの会議で申し上げた通りです」

 

「そうか、まぁ気が変わったら何時でも言ってくれよ」

 

目の前の残念そうといった感じで顔をしかめる目の前のおっさん・・・もといアクシズの実質的な司令官マハラジャカーン氏。それに恐縮です、と頭を下げる。

 

目の前の人物から自分の顔が見えない所にきたところで、ほっと息を吐く。

どうやら怒っている訳ではない様だ。

あの会議の時、俺は_エギーユ・デラーズを地球圏に残こす為とはいえ_アクシズに引く者はギレン総帥の遺志を継がない臆病者だ!という内容を大声で叫んでしまった。そのアクシズの統括者の前で、である。

キレられ・・・激昂されてお前なんぞ知るかなんていわれると思って、ビクビクしていたのだ。

会議後あった後に一応謝りに行ったのだがその時は気にしてない、と言われたのだが流石に相手も表情が硬かった・・・ような気がしていた。アクシズと敵対してもいいことなんぞ一個もない。

 

とりあえずは一安心か、と胸を撫でおろし、ふと気づく。

頭を下げた拍子に、視線が下がったので女性の胸に抱かれていた赤ん坊が目に入った。

この赤ん坊もマハラジャ・カーンに並んで、頭が痛い問題でもある。

これからアクシズへ向かう艦に搭乗するクルーが抱えている。少し眠いのか女性クルーの胸の中で、うとうとと舟をこいでいる。マハラジャ氏が救出されてから移動ばかりしていたので疲れたのだろうな。

 

「・・・この子がミネバ様なんだよなあ」

 

「どうした。中佐?」

 

ふとした呟きが耳に入ったのか、訝しんだ様子で聞いてくるマハラジャさん。

その言葉にいえなんでもありませんと、笑いかけながら頭を上げる。

 

救出していた時にこのことに気づかなかったのが、悔やまれる。というかなんとなくの予感があったのだが確信がなかった。

 

ホントだよ?

このことに気づいたのは会議でのデラーズさんの様子と、終ったあとデラーズさんを引き合わせた後のことだ。

まあ引き合わせたといっても、マハラジャ氏と別れの挨拶ということで様子を見に来た時。クルーに抱かれている赤ん坊を凝視していた時に気づいた。あまりにも凝視していたんですぐ気づいたね。あの時の視線にはちょっと孫を見るおじいちゃん以上のものを感じた。

・・・ここまで考えて思ったこと、

 

はい。すいません。若干嘘つきました。

実は察してたぜ的なこと言ってましたが、実は気づいてませんでした。ぶっちゃけ別れの挨拶に来た時点で気づいても遅いです。もうシャトルに搭乗前十分とかだからな!?おそすぎるわ!くそう!ミネバ様にこっそりユーセル中佐はいい奴ぐらいは吹き込んでも良かったのに。まあそれは冗談としてもだ。

Z時代までもし俺が生き残ってたら、おまえはあの時の!的なフラグ立てれたかもしれないのに・・・

ふおぉぉぉぉ・・・

 

後悔のあまり悶えている彼を不思議そうに眺めながらマハラジャカーンは、同じく見送りに来ていたエギーユ・デラーズに話かける。

 

「デラーズも見送りすまないな。忙しいだろうに・・・」

 

「いや、同じギレン総帥の理想の元で戦った同志の見送りだ。お互いに潜伏中に身、このような些細な見送りしかできなく申し訳ない」

 

「いや、直接見送りに来てくれるだけでありがたいよ。それに君もアクシズに来てくれたらとても心強いが・・・」

 

「そういってくれるとこちらも助かる。それに・・_あの方の事は気になるのだがな・・・」

 

「そうだな。・・・ところで・・・(そこの彼にはミネバさm_彼女の事は?」

 

「・・・(いや、言ってはおらぬ。気づいても、おらぬ_と思うよ」

 

「・・・言葉を濁すなんてお前らしくないな。彼は_まあ仕方ないな」

 

途中で話を止め、いまだ悶えている若き将校に目を向ける。

なぜ視線を向けられたのかと、彼はきょとんとした様子だった。

 

「なにを_あー・・・(これこの場にいてはいけないパターンだ。お前には知る資格がない的な)そういえばマハラジャ氏の娘さんがおりませんね。もうすぐシャトルの出発時間ですし、探してまいります!デラーズ大佐、ガトー大尉をお借りします!」

 

「じ、自分もでありますか?」

 

「そうだ!行くぞ大尉!」

 

「はっ了解しました」

 

彼は何かを察したのか、実はデラーズの後ろに控えていた若い武人連れこの場を離れようとする。

察しが良いのも考え物だな。老人二人は軽く笑った。

 

「中佐。まってくれ」

 

「はっなんでありましょう?」

 

「そうだな。ハマーンの件は後でいい。それより、少しこの子を抱いて行ってくれないか」

 

マハラジャ氏は、そばに控えていたミネバ様をクルーから優しく、譲ってもらい。こちらにほい、と軽く肘を突き出す。

 

「なっ・・・」

 

「・・・おい。マハラジャ・・・!」

 

「分かっている・・・だが_これで彼の本性がな」

 

「・・・」

 

デラーズは、マハラジャカーンの発言がよほど気に入らないのか背をつついて抗議している。少し離れているので声は聞こえない。

抗議されている方は、平然とした顔で受け流している。こちらを見る目はまるで、試してやるとでも言わんばかりだ。

なんだ。何が狙いなんだ?一介の将校捕まえて、国の後継者であるミネバ様を抱っこしていけだ?何考えてんだよ・・・

 

「・・・」

 

抱っこした方がいいのか?

くそ!訳が分からん。あまり考えこむといかんかな・・・ええい!

 

「では、失礼させていただいて・・・」

 

「ああ_もちろんだ(決まりだな」

 

どことなく勝ち誇った顔のマハラジャ氏からミネバ様を預かる。

抱っこした時の動きで起こしてしまったかと思ったが、意外なことにすやすやとミネバ様は眠っていた。

案外太い性格なのかもしれないな。ミネバ様は赤ん坊特有のふっくらとした感触で、とても柔らかくて気持ちがいい。

 

「おれはまけんぞ・・・か」

 

確か原作で、ドズルがミネバに対して言っていたセリフだ。対してというかこのセリフを言った後_寝ていたミネバ様があまりの大声に起きて泣き出した、といった感じなので覚えてないかもしれないがな。

この子を見ていたらこのセリフを言った父親(ドズル中将の言葉が分かる気がする。

 

「・・・」

 

知らぬ男の胸に長時間抱かれるとか、ドズル様が知ったらキレられそうだ。

そう思いマハラジャ氏に手渡そうとする。

 

「ありがとうございました。おこk_ん?」

 

お返しします。と続けてミネバ様を手渡そうとしたのだが、おかしい手が離れん。

 

「ああ。どうした?」

(やはりミネバ様の事は知らないか・・・所詮その程度の男。まぁせいぜいこき使わせてもらう)

 

「いえ手が離れなくて」

 

いつの間に起きたのか。腕を見れば、小さい姫様が俺の腕をつかんでこちらを見上げていた。

 

「・・・」

 

じっと、こちらを見つめて来る瞳は何を考えているかわからない。

いや俺を通して違う人を見ているのか・・・

 

「・・・ミネバ様。私はドズル様では、ありませんよ」

 

「・・・」

 

マハラジャ氏に聞こえないように、顔を近づけ小声で話す。

それでも話してはくれない。いやややつかむ力が弱まってきた。まだ赤ん坊なのであまり体力はないからだろう。

力は弱まっても目線は俺の顔を凝視している。

・・・むぅ。こたえるんで止めてほしいっす。悪いことしてるみたいで。

 

「・・・うっ」

 

ダメだ。力で放して貰っても良いが、どうも放してくれそうにない。

 

「・・・ミネバ様。私はドズル様_お父様ではありませんが、あなたの家臣です。・・・ここで別れることになりますが、またお会いするころにはあなたにこの地球圏をプレゼントして見せますよ。そのころまでどうかご健勝でありますよう」

 

「・・・」

 

無反応か・・・まあ赤ん坊に何言ってるんだという話だな。でもまあ0083で決着つけんと俺たぶん死んでるしなぁ。

そろそろ目の前のマハラジャさんが限界そうなので、ちょっと強引に引っぺがすことにする。

がその前に腕が離れる。

 

「・・・?うお」

 

ミネバ様が俺の顔_ほっぺた当たりをつまみ、グイングインと左右に引っ張ってきたのだ。

それを見て面白そうに笑うミネバ様。

 

「えっ・・・ちょ・・・・みねほはっま。やっねましょふへほ」

 

偉いダイナミックだな・・・いいんだ。いいんだ。俺の顔でお前が楽しいなら俺の顔がどうなったって・・・

いてえ。

しばらく俺のほっぺたがもてあそばれ、満足したのかやっと手を放してくれた。

 

「・・・ほっぺたの可動範囲が増えた気がする」

 

「きゃっきゃっ」

 

片手で頬を抑えながらぼやく俺を尻目に、えらい楽しそうなミネバ様。

やっぱ生意気だったかな・・・一国の姫相手に。

 

「・・・ごほん」

 

「あ、すいません」

 

まずい。マハラジャさんがお怒りだよ。

 

いまだ楽しそうに笑っていたミネバ様をマハラジャさんに渡す。

最後に腕の中にいる小さい姫君を見る。

その目を見るその目はまるで、

 

・・・そうですか。

 

「ありがとうございました。ジオンの姫君をお返しします」

 

「ああ。・・・んっ?」

 

「では、そろそろ搭乗時間ですので・・・」

 

「そうか。知っていたのか・・・それでもあえてか。・・・そうだな。操るのは馬鹿がいいが、協力者なら賢いほうがいい!・・・ふは、ふはははは!」

 

後ろで何かいっているマハラジャ氏を置いて、待たせていたガトー大尉と一緒にハマーンカーンの捜索に出る。

そうだな。

 

「ははっ」

 

「どうしました。中佐」

 

「いやなに。ジオンの明日は、明るいと思ってな」

 

「?そうでありますな。デラーズ閣下に付いておれば、悪しき連邦の呪縛など見事に断ち切ってしまえましょう」

 

よく分かっていない大尉をほっといてあたりを見渡す。

ミネバ様の方を振り返る。いまだこちらの方を見られていた。

 

「そうですね」

 

ミネバ様の眼は期待している、とでも言わんばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、俺が連邦倒しちゃったらミネバ様、バナージ君に会えないな・・・」

 

俺はそんな事を考えつつ、ハマーン様を探していた。

(割と大事)恋人引き裂くようなもんだし・・・むぅ。割とひどいな。

 

「見つからん・・・」

 

腕時計を見る。もうあれから5分は経過していた。

部屋に行っても出た後のようでおらず、すれ違いになったのかと引き返し格納庫付近に戻ってきたころ。

 

「甘い!もう一杯!・・・いらない」

 

「なにやってんだ・・・あいつ」

 

前に連れてきたことがある自販機近くで、腰に手を当ててひと昔前の栄養ドリンクか青汁のCMのようなポーズをとっている。わが艦の二重人格ニュータイプ系小柄中学生ヒロイン、クーディを見つけた。

あちらもこっちに気づいたようだ。

 

「・・・いま。なにか失礼なこと考えられたような」

 

「気にすんな。それより何してんだお前」

 

流石はニュータイプ鋭い。だが本人いわくニュータイプとしてはそこそこと言っていた彼女。

思考までは読み切れなかったようだ。カミーユなら考えた瞬間殴られてる。

流石に冗談だ。・・・分からん、よな?

 

「いや、なんか久々に飲みたくなって・・・あと」

 

ちらり、と自販機の裏を確認するしぐさを見せる。

 

「なんかあるのか?」

 

「いや。あるというかないというべきか迷ってる」

 

「言っちゃダメだろ。それ・・・」

 

「そうだね。じゃあ、いまの無しで」

 

「遅いわ!」

 

思わず突っ込んでしまった。ん?

今叫んだ時、自販機の奥で何かが揺れたような・・・

まるでびっくりしたみたいな・・・

 

「まさか・・・」

 

さぼりか、流石にいつもならさぼりぐらい笑って見逃してやるが、今は見送りで忙しそうに働いているんだ。

流石に怒った方がいいか。

 

クーディはただすることがないからいるだけだろう。一応フォローはしとく。彼女はさぼってるんじゃないぞ。最近はいろいろなところに行って仕事を習ったりしているらしい。まじめにするので割と評判はいいらしい。

オペ子のところにも行ったみたいで、筋がいいと褒めていた。珍しいことがあるんだ。オペ子が人を褒めてることなんて滅多にないからな。素直なのがいいんだろうか。

 

「なんだい・・・急に頭なんか撫でてきて・・・」

 

「いや、最近頑張ってるしなーと思って・・・褒めたくなった」

 

「えっと。あ、ありがとう」

 

ぽんぽんと彼女の頭に手を置く。クーディは俺の胸のあたりぐらいの身長なので手がおきやすい。

すっと顔をそらされた。やりすぎてしまったか。

慌てて手をどける。

 

「あっ」

 

「まあとにかくさぼり魔を叱らんとな」

 

ごまかすように自販機の裏に回り込む。どうもあの時の一件から避けられてるみたいだったしな。一週間ぐらいは話しかけても、顔が赤くなって激昂した後何か複雑そうな顔をしたあと、すたこらとさっさと逃げられてたからな。

最近は顔を合わせたら普通に話してくれるんだが・・・これ以上嫌われたら嫌だしな。

裏手に回りこみ叫ぶ。

 

「こら!さぼってんじゃ・・」

 

「ひっ!」

 

そこには予想どおりうちのクルーが・・・

 

「・・・だれ?」

 

おらず。代わりに見つかったのは、髪をツインテールにしたクーディと同じぐらいの年の子だった。

よほどおどろいたのか、腰を抜かしている。

えーと

手を差し出しつつ起き上がらせてやる。

 

「とりあえずすまん。驚かせたな。俺はこの艦の責任者のユーセル中佐だ。君は?」

 

「あ、知ってます。確か助けてもらった人でしたよね?私は・・・マハラジャ・カーンの娘。ハマーン・カーンです。よいしょ」

 

「・・・えっ」

 

「ちょっと手を離さないで・・・きゃっ」

 

「まじか・・・」

 

急に力が抜けたことで、また尻餅をつかされた少女が抗議してくるがいまいち頭に入ってこない。

 

とりあえず思ったこと、なんでセイラさんヘヤーじゃないんだ・・・

 



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諸君らの健闘に期待する

ガンダムNTみたので初投稿です
あと、ひさしぶりにリハビリをかねて


 

 

 


自販機の裏の少女_ハマーン・カーンと名乗った_の話を聞く。

 

どうもあてがわれた部屋から、シャトルへ向かう途中で道に迷い困っているところにクーディと会った。お互いに一瞬でこいつは同郷だと悟ったらしい。

 

それからは意気投合して、盛り上がり仲が良くなったらしい。

 

俺が来る頃には結構な時間がたっており流石にまずいかということで、クーディ協力のもと自販機の裏に隠れてしまったらしい。

 

 

 

それを聞いての俺の感想は、いやなんでだよ。である。

 

なんであった瞬間分かるんだとか、なぜそこから自販機に行くんだとか・・・

 

言いたいことはあるが口には出さない。

 

えらいさんの娘でもあるし、未来のアクシズの女首相でもある。機嫌を損ねてもいいことはないだろう。

 

いや・・・それにしてもなぁ。

 

「これがハマーン・カーン・・・」

 

「?」

 

呆然としてしまう。目の前には正統派ヒロイン調とした美少女が座っておられた。

 

ハマーンは顔に何かついていますか?と小首を傾げていた。ハマーンの桃色をしたツインテールががふわりと宙を舞う。その拍子に士官用の備え付けられたシャンプーと女の子特有のいい香りがミックスされたものが鼻をくすぐる。

 

・・・か、かわいい・・・これがアクシズを統括していた女首相の幼少期かぁ・・・HAHAHA

 

「いや・・・ぜったいにありえねえ・・・」

 

頬を強くつねる。パチン。普通に痛い。どうやら夢じゃない様だ。

 

ハマーン・カーンのことで俺が知っていることは少ない。どちらかというと悪役サイドで、ニュータイプであること、せいぜいZ、ZZで首相(?をしていたというぐらいだ。あとアッガイに乗ってたり・・・は関係ないな。

 

こんな事ならZZまでしっかり見とくんだった!でもぶっちゃけもうガンダムシリーズ見たの二十年くらい前だよ!もはやうろ覚えのレベル。

 

「む・・・」(ふりふり)

 

「どうした?クーディ。急に頭なんか振って」

 

「・・・いや、なんでも?」

 

「の割には怒って_」

 

「なんでもない・・・」

 

そう言って、小柄な彼女は肩をいからせ、プイッとあらぬ方向を向く。

 

どことなく散歩に連れてってくれなくて、拗ねてる猫っぽいなと思いつつ和んでいた。

こいつなんかまれに猫っぽいような動作をすることがある。

なぜかその姿を見るたびに駆け寄っていってぎゅっとしたくなる。

まぁそんな事より・・・

 

時計をちらりと見る予定していた出発時刻より遅れてき始めている。ぼちぼち世間話をしている場合ではないだろう。

 

 

 

「すいません。ハマーン様。そろそろ出発の時間ですのでシャトルの方へお越しください。お父様もお待ちになられてます」

 

「はい。すぐ行きます」

 

「むぅ・・・」

 

なんだかクーディの様子がおかしい。

 

いやまあクーディはさっきから拗ねてるがこの艦にはいない同年代の同性にあったことで気でも緩んでいるんだろうか?

 

「ほら、クーディ。お客さんの前だぞ。しゃんとしろしゃんと」

 

「そうだけど・・・ここはごねとけって勘がささやいているのです。勘がね」

 

「なんだその勘って・・・」

 

「さあ、書いてr_」

 

「それ以上はいけない」

 

「んごもごごごご(これはこれで)」

 

「なんで口抑えてるのに若干うれしそうなんだお前・・・?」

 

「ぷはっ、いやね。・・・前まで施設にいてあんまりこういうことしたりされたりしなかったからね?ちょっと感動して・・・引いちゃった?ごめんね?今後こういうことはしないようにす_」

 

 

 

「・・・ばか。な訳ないだろ?こどもがそんな心配しなくていいよ。おまえは俺の世界征服の右腕なんだしそんなこと俺がいっぱい教えてやるよ」

 

「・・・うん」

 

不安そうにしている彼女。それをぽんぽんと軽く頭を撫でてやる。

 

こんな事しかしてやれんしな…こんぐらいなら

 

「…ずいぶんと仲がよろしいんですね」

 

「っ!…いやいやそんな事ないですよ」

 

「そうそう」

 

放置する形となっていたハマーン様から声がかけられる。ヤバい思いっきり放置してた。

 

慌てて二人とも離れ、そっぽ向いて口笛をふく。まぁ俺はふけもしないのだが。唇から情けなく空気が漏れる音しかしない自分とは対照にクーディは難なく吹いていた。しかも愛戦士たちである。しかし無駄に多才だなこの娘

 

「ヒュー」

 

「フィイフィノフィ」

 

「クスクス。やっぱり仲いいじゃないですか」

 

腹を抱えて笑うハマーン。する者によっては下品すら感じてしまう行為だが目の前の娘からは感じられない。むしろ愛嬌があって可愛らしさすら感じられる。これがお姫様ってやつか…

 

まぁ怒ってはないっぽいかな…?

 

「フフッすいません。余りに可笑しかったものでつい。あー久しぶりに笑った気がします」

 

「確かにいい笑いっぷりだったよ」

 

「もう、からかわないでくださいクーディ」

 

「ふーんだ」

 

「まぁまぁ私はもう帰りますから」

 

時計を見る。確かにこれ以上は出発に間に合うまい。

 

「まぁ…悪い人では無さそうですし…」

 

「?」

 

「いえこちらの話です。行きましょうか」

 

「はい。お父様もお待ちです」

 

「あっ、そうそう。中佐に聞きたいことがあったのです」

 

「なんでしょう?」

 

そう言って未来の首相が問う。

 

「この世界は、好きですか?」

 

どういう意図があってこんな質問をするのかがわらかん。ここは、当たり障りのないこといってごまかして…っ、目が合う。…むぅこれは生半可なこといってごまかせないな。

 

「正直なところ、嫌いです。」

 

なにやっても、ちっとも上手く行かない-

 

「…そう、ですか。ありがとうございますでは…」

 

でもそれですませてたら世界はちっとも良くならない!

 

「でも、だからこそ良くなるように人は前に進みます。今日よりいい明日に、今週が駄目なら来週。今年が駄目なら、来年10年でも20年でも歩み続けます。より良い明日に向かって」

 

「明日…か…」

 

「まぁ、そううまく行かないんですけどね…」

 

「いえ十分参考になりました。私もがんばってみます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別れた後。シャトル発進まで見届け、小さくなっていくアクシズ行きの便を見送る。

 

「何だったんだ…一体?」

 

素直な人だったな。まぁ大きくなりゃ俗物とか言っちゃう人に成長しちゃうんだが…本当謎である。

 

「それで?行き先はサイド3でよかったんですか?」

 

 

ガンダム世界の謎に唸っているとうちの艦の副官がそう問いかけてくる。

 

普通だったらあんな連邦軍の集まってる所に行くという副官の頭を疑う所だが、そうもできない事情があった。

 

「…たのまれちゃったしなぁ…」

 

パサリ、彼の手元で2枚の紙が舞う。その紙にはどこぞの地形が写っており、中心に赤丸がしてある。

 

それだけみると宝地図といったものだか、実際に見方によっては宝の地図なので始末が悪い。

 

しかも地形の一部分しか移っておらずどこだかも分からない。まぁ敵の手に渡った時すぐばれちゃいかんからだろうが。

 

「ジオンの軍事研究施設ねぇ…」

 

どうやらまた厄介な火種が舞い込んできたらしい。

 

どこぞの親父曰わく

 

「私の脱出が遅れたのはこの施設のデータを回収するためでね。このデータが連邦に押収されたら困るどころか連邦のモビルスーツ開発が5年はすすむだろう」

 

「回収もしくは、最悪破壊してもかまわん。なんとしても連邦軍の手に渡るのは阻止せねばならんのだ」

 

「これはギレン閣下の書斎にあった研究所の地図だ。きっと役に立つ。極秘なのでまだ連邦軍にはばれてないと思うが…長引くと分からん」

 

「過酷な任務かもしれないが、そちらが手に入れた物は好きにしてかまわん。すまないがよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だった。

 

それに思わず…おれは…

 

 

 

 

 

「ばかじゃねぇの」

 

 

 

悪態の一言ぐらいでようというものだ。

 

それに副官が反応する。

 

 

 

「えっサイド3に向かわれるといったのは中佐では…」

 

 

 

「あ、いやそうじゃないんだ。こっちの話」

 

 

 

やけに遅いなと思ったらこれかよ。とか結局回収出来てないとか色々いいたいが…

 

 

 

「恩売るチャンスだしなぁ…」

 

 

 

結局の所はこれがでかい。これからの時代アクシズの支援無しではきつい所ではない。これから色々とお世話になることも多いだろう。

 

しかも後数年とはいえアクシズのトップからのお願いだ。下手に断って機嫌損ねても困ることの方が多かろう…

 

まぁ散々愚痴って結局の所は行かなきゃ行けないんだ。報酬はアクシズの支援、あるかわからんが本国の最新モビルスーツまたはそのデータ。

 

そのデータさえあればどのようなものであれ役に立つだろう。

 

「うーん。でも全滅しちゃ世話ないしなぁ。そもそも場所すら解らんし」

 

「さっきから五月蝿いんですけどなんですか。人の顔の前にサイド3の地図なんか広げて、邪魔なんですけど」

 

「おぉう。どうしたオペ子ここは艦長席やぞ、自分の席に戻れよ」

 

「はぁ?ここ通信主の席なんですけど、あと人の頭の上に顎乗っけないでください。痛い」

 

「ん?」

 

確かに視界にはモニターが複数配置されており、少なくとも艦長席から見える景色ではない。

 

どうやら悩みすぎて何か移動してたらしい。

 

「すまんすまん」

 

「まったくですよ…というかなんです。官邸前の地図なんか取り出して」

 

「ちょっとな。とある軍事施設の地図何だが…場所がわからんでな。…ん?ちょいまて今なんて?」

 

「ここ官邸前の地図ですよ。ほら地図端から反対側に繋がっているこの道路が、ほら一年戦争前であった官邸前のパレードで爆発テロがあった場所に酷似して…」

 

「お前天才かよ…」

 

確かに手元にある地図とオペ子がモニターに出した地形は一致している。赤丸は亡くなったサスロ・ザビ様の事故現場を丁度示しており、事件自体は当時政敵だったランバ・ラルの父親のジンバ・ラルが犯人とされ、解決している。が、未だに一般車は立ち入り禁止になっている地域だ。もうちょっと特定に時間がかかると思っていたが、あっさり解決したな。

 

「ど、どうしたんですか急に…ま、まぁ私はてんさいですから?」

 

「うん?」

 

「こんな事お茶の子さいさいなわけです」

 

「うん」

 

「というわけで給料の倍額をですね」

 

「せやなー」

 

「雑」

 

止めたら?この仕事。

 

まぁほんとに止められたらこの艦隊回んなくなるのでそんな事言わんが、正直なところオペ子が残ってくれなかったら相当ヤバかった。こいつ通信意外にも財布事情とか知ってるからな…

 

えっ通信主に財布預けんなよって?知らんこいつが優秀なのが悪い。

 

「うっせーテロリストがまともな給料貰えると思うな」

 

「横暴。でも納得しちゃう。私。流石に正規軍にいたころよりか些細な額でも、貰えてるのが謎なんですけどねー?この給料誰が出してるんでしょうねー?まぁどこぞのちょろい司令がポケットマネーで賄ってるとかじゃないですもんねー?謎だなー?」

 

「…白々しいぞ」

 

指先を顎に当てながらとぼけた顔でそんなことを言ってくるオペ子。こ、こいつ金周りは艦橋のメンツで決めてんだから知ってる癖に…

 

「なんのことだか分かりませんねぇ…まぁこんだけあれば個人としては贅沢しなきゃ暮らせますけど…全体となると膨大な額だし私は止めといた方がいいんじゃな―

 

「…まぁ付いてきてくれてるぶんだけ有り難いからな、それとポケットマネーじゃねぇ元は上からの金だよ。まぁ基本給は無理でもって危険手当ぐらいは…」

 

「まぁ、子供のおこずかい程度の額で満足してるかはともかく」

 

「うぉい」

 

「あっ見えてきまし、ぼちぼちサイド3ですよ。どうせ出発されるんでしょう?早くいってください」

 

「ちょおすなって」

 

「ほら早くいった!」

 

ドンと背を押されて艦橋から追い出される。

 

扱い雑すぎねぇ…?

 

ま、まぁ結局は地位の高い人間がいたほうが指示もとうしやすいだろうしな。出るつもりでは合ったんだが。

 

今回は隠密作戦のためモビルスーツは持って行けない。あんな目立つもん持ってけるか。チベ級の横に付けたランチにガンダム世界特有のビーム銃(?)をもって乗り込む。

 

「出るぞ。ほかのものは準備出来ているな」

 

「はい!あとは司令の作戦開始の合図を待つのみです!」

 

よぉし!

 

「作戦開始!目標はサイド3のモビルスーツ研究施設のデータ。もしくはモビルスーツの回収!諸君等の健闘に期待する!」

 

 

 

 

 

 



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新機体入手までの道のり

ガンダムブレイカーバトロール見たので初投稿です。


モビルスーツ研究施設の場所を特定してサスロ・ザビの埋葬地点に着いたのはいいが…

 

「やっぱり居やがるな…」

 

埋葬地近くには連邦軍の兵士が、巡回している。

ご丁寧に武装までしている者も存在している。幸いなことにモビルスーツの姿は見えないが、連邦軍の本隊は直ぐに到着できる所にある。強硬突破は難しいだろう。

加えて此方の人数は12名。どれも戦闘員でモビルスーツも操縦出来るが武装はあいにく隠し持てる拳銃ぐらいである。まともに戦闘はできないだろう。

そしてもう一人…

 

「…どうしたんだい?」

 

「クーディいるしなぁ…」

 

「むっ足でまといいたいのか?私そこそこ強いよ?船の皆から教わってるからね。ほら、しゅしゅ」

 

そう言ってシャドーボクシングをする彼女。それに合わせてスカートがはらりと舞う。うーん。ちんまい。でもそれとは言え、拳の威力はなかなかに有りそうだ。普通に風が切れる音がしていた。

まぁぶっちゃけると、モビルスーツの操縦が出来るのが少なくチベ級に残す分を考えると人が居なくなるからなのだが。

 

「ともかく潜入せねば話にならんが…しゃーなし」

 

「本当にやるのか…」

 

彼は髪を後ろにかきあげ、懐からあるものを付ける。クーディにぶつを渡す。

後ろの男達にも合図し、いつでも出れるように準備させる。

 

「よし作戦開始…!」

 

 

 

 

 

「ふぁあ。ねみい」

 

そういって手を口に当てながら大きな欠伸を一つ。連邦軍で正式採用されている制服を軽く着崩した服装の青年。その姿からは明らかにやる気というものは感じられない。そしてそれに律儀に返すもう一人の男。よく見ると連邦軍の制服にものりがつけてあるらしい。几帳面な男のようだ。

 

「うっせ。ぼやくな。オレだってねみいし、こんなザビ家の墓なんて警備したくねぇよ」

 

「くっそ。戦争は終わったはずだろ?何でこんなサイド3くんだりで警備なんぞせねばならんのだ」

 

「正確にはまだ条約は締結してねぇよ。その話し合いはほれ」

 

そういって、指を指す。その先にあるのは、でかでかとした逆三角形の建物だ。あれは元はザビ家の官邸だったところだ。今は連邦軍のモビルスーツが我が物顔で居座っており、過去に連邦を苦しめた面影はすっかり見えない。心なしか建物についている顔(窓ガラスが絶妙な配置で設置してあるため顔にみえる)も心なしかしょんぼりしているように見えた。

 

「今偉い人たちが話し合ってるよ」

 

「そんなんわかってンよー。だから危険がないように各地の拠点とか施設に連邦兵が配置されてんだろ?」

 

「そうだ。わかってるじゃないか。俺たちだけここで巡察任務に駆り出されてるわけじゃ無い。そう特別なわけでもねえよ」

 

「ってもなぁ…でも俺たちこんな夜中に連続で巡察してんだよ。もう周りもすっかり暗くなっちまったよ!これで3日目だそ!この任務…しかも警備対象は墓場…ジオンの偉いさんの墓なんだろなんでこんなとこに警備つけるかね」

 

そう言って頭を上の方にあげる。この立ち位置では全体が見えないほど大きい。高さもそれなりにあり、見上げると首が痛くなりそうだ。何も知らぬ人が見れば、ここが墓場だとは思うまい。

 

「知るかよ。ジオンの施設の周りには警備が厳重になってきてる。噂じゃモビルスーツ開発施設がこのサイド3のどこかにあってそれを上の人が探し回ってるってな。…俺らの間じゃ密かな噂になってる」

 

「知ってるよ。まだそれらしき施設が見つかってないし。グラナダに有った。何らかの施設もぜーんぶ爆破されちまってるらしいしな」

 

「まぁ連邦とジオンの技術は、10年ほどあちらのほうが優っている。研究施設の一つや二つ見つければ連邦のモビルスーツの性能も10年は進む…なんてうまい話は無いが大分進むことには変わらないだろうな」

 

「そりゃすげえ!でもよ。もう戦争は終わっちまっただろ?これ以上技術上げてどうなるってんだよ。敵はもういねえだろ」

 

「さぁな。案外まだ残党はいるだろうし、それ対策じゃ無いのか?」

 

「ジオンの亡霊って奴か、怖いねぇ…誰だ!」

 

「敵か!?ってなんだ。ただの草むらじゃねえか」

 

二人とも暗がりに銃を向ける。すわ敵かと思いきや。どうやら敵と誤認したらしい。たしかに一部地面がこんもりしておりそれが人が伏せているように見えなくもない。ん?なんだなんもねえじゃねぇか。

 

「なんてな!びっくりしたか?」

 

「脅かすなよ…」

 

「まぁさっきの話も俺たちには関係ないさ!まさか墓場になんてそんな重要な施設あるわけないんてんだ!罰当たりにもほどかあらぁ」

 

「そうだな。まぁ俺たちは怒られない程度にまじめにしてるさ」

 

「バカ真面目だねぇ。こんな仕事押し付けられてるってのに」

 

「むっ。元はと言えばお前が、勤務をトランプで決めようなんて言い出したのがきっかけだろうが!しかも俺が知らない間に巻き込みやがって!」

 

「わー!ごめんって!ほんとに悪かったよ。でも俺があそこでハートを出してりゃ勝てたんだよ!」

 

「知るかこのギャンブル脳!俺を巻き込んでじゃねーよ!」

 

「ごめんごめん!…

 

言い訳する男にぶちぎれたのか大声を出す。それを見てひたすら謝る相方の男。二人は言い合いをしながら巡察ルートを歩いていく。二人は夜の闇の中に消えていった。そこの近くにややこんもりしてる草むら二つ。

 

「…いったか?」

 

「…どうやら行ったみたい」

 

がさり、草むらから男と背丈が小さい女が出てきた。クーディとユーセル中佐だ。どうやらここで巡察が行くまで隠れていたらしい。所々に草が付いていた。それに気づいたのか二人は、軽く服をはたき草を落とす。

 

「あ、クーディ頭に草付いてる。とるぞ」

 

「うん。ありがとう…というか、よくこれで気づかれないもんだね」

 

「さっきは肝が冷えたけどな」

 

ったく驚かせやがって、ひゃっとしたがただの冗談だったみたいだ。

 

「止まれ!誰だ!」

 

と、思っていたのだが、どうも油断させるための罠だったらしい。さっきの兵士が引き返してきて、誰何してくる。

 

 

 

「怪しいやつだ。とりあえず本部に連絡するか…ってうん?」

 

本部に通信を入れたが、どうにもつながらない。

出てきたのは8人の男達。いや小さい子供もいるな。花束を抱えている。

全員背広姿だ。

 

「どうした?こんな夜中に墓参りって時間ではあるまい」

 

そう問いかける。答えたのは、オールバックにグラサンをかけた男。どうやらコイツがリーダーらしい。

 

「いやーサスロ様のお墓に献花をしにきたのですか、手違いが有りましてね?時間が遅れてしまい…」

 

「そんな話は聞いていないが…」

 

聞いたか?と男は後方に居るはずの相方に声をかける、が…

 

「あれ?いねぇ」

 

後ろに居るはずの相方の姿はこつ然と消えていた。

しまった。油断したこいつらにやられたのか!

直ぐに俺も倒されるだろうが一矢報いてやる。

そう振り返った瞬間…  

 

「てめえら!あいつに何を…」

 

「お嬢ちゃん可愛いねぇ、何歳?へぇ小学校ぐらいかぁ!えらいねーパパのお手伝いできたの?」

 

よく見れば、集団にいた小さな女の子にしゃがんで声を掛けていた。どうやらしゃがんでたせいで見えなかったらしい。

 

「馬鹿が」

 

ガスッ。思わず手にしていた銃の底で頭を叩いていた。

何やってんだ。この男は

 

「いてぇ!」

 

「お前!疲れてるからってあんな子に手だすな!バカか?馬鹿か」

 

「…めっさいてぇ…」

 

相当痛かったらしい。叩かれた方はまだ頭を抱えてうずくまっている。なんだか真面目にしていたのが馬鹿らしくなってきたらしい。あきれた様子の男。

 

「あのーそれで私たちは…」

 

「ん?ああ、まぁ本部には繋がらないし…今コーエン将軍が来ててな。あんまり問題は起こしたくないんだ」

 

「そこを何とか…」

 

「通してやりたいけどねぇ…俺個人じゃどうとも…」

 

困ったように顔をしかめるグラサンをかけた男。どーにもうんさん臭さは拭えない。が、ザビ家の墓だ。そんな事も有るんだろう。

唸っていると接近してくる小さな人影が

 

「おねがい。れんぽーぐんのおにーちゃん…!」

 

背が小さいため一生懸命背伸びをしながら、おねがいして来る女の子。ちいさい背丈と小顔な顔立ちも相まってとても可愛らしい。世の男性なら即座に許可を出してしまいそうだが…

 

「いいじゃねーか通してやりゃあ、どうせ上は忙しくて取り合っちゃくれねーよ」

 

「しかしだな…」

 

いつの間にか回復していた兵士が生真面目な相方に声を掛けた。

 

「おねがい。おにーちゃん」

 

「花を置いてくるだけだろ。さっさといって帰ってこい。それまでは俺たちはなにも見なかった。それでいいだろ」

 

勘弁したかのように両手を上げて背を向ける。

どうやら通すことにしたらしい。

 

「ありがとう!おにーちゃん!」

 

「はいはい。さっさと行け」

 

「うん!」

 

そう言って背広姿の男たちは地下の霊安室に向かっていく。そして階段を下っていったのを確認した後男たちは警備に戻るのだった。

 

「しかしまぁ献花ねぇ…」

 

「…しかし通して良かったのか?」

 

「うっせーロリコン。本当だったらダメに決まってるだろ。でもまぁ、」

 

「でもまぁ?」

 

「コーウェン将軍からはここら辺一帯に今夜侵入するものは-

 

 

 

全員通せといわれているからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしやりましたね!警備がザルにも程がありますよ!」

 

「しっ声がでかい。まぁ確かにそうかもな」

 

グラサンを外して胸ポケットにしまいつつうんさん臭いおとこたち、ユーセル中佐率いる潜入部隊は無事に潜入を果たしていた。

 

「まぁ無事に潜入できたし、良いことだよ。うん」

 

幼女役をしていたクーディが顔を抑えながらそうコメントする。どうやらあの舌足らずな口調が相当恥ずかしかったらしい。耳まで赤くなっている。まぁ彼女のおかげで助かった部分もあるのであえてつっこまないでやろう。

 

「それで?ここにはどんなお宝が眠ってるんですかね?まさか本当に仏さんの顔拝みきたとか?」

 

「ばーか。モビルスーツだよ。モビルスーツ、中佐が作戦前に話されただろう。聞いてなかったのか?」

 

「そりゃ聞いてたけどよ…」

 

背広姿に変装している兵の一人が、身を抱くようにして身体を震わせる。

 

「モビルスーツの研究施設なんてあんのかよ。なんか薄暗いし、不気味だぜ。モビルスーツってより、幽霊でも出てきそうだ」

 

「まぁな、何でこんなとこに研究施設なんて作ったんだか…偉い奴の考えはわかんねえな」

 

一行は建物の中心部に近づいていった。

通路は三人横に並べば一杯いっぱいの狭い通路だ。照明は持ってきたライトが2つのみ。視界は良好とは行かない。入り口から漏れてくる風が低い音を立てる。それが一層気味悪さを感じさせてきた。

 

「ほら、無駄口たたくな。もうすぐサスロ・ザビの寝室だ」

 

ずいぶんと下った頃だろう。通路を降りきった先には、大昔のエジプトのピラミッドの王の部屋を思わせる空間にでた。中心には縦長の箱が安置してある。あれがサスロ・ザビの眠っている所だろう。実際は爆発テロでなくなったらしいので遺体は無いのだろうが…

それでも他人の墓を荒らすような真似はあまりしたくはなかった。こんなことでも無ければ寄ることも無かっただろう。持ってきた花束をそっと献上し、お祈り。

 

「お騒がせします」

 

果たして彼は何を思い、そして死んだのか。今となっては何も分からない。死者は何も語らない。ただそこにあるだけだ。花束から真っ赤なバラの花を取り出す。

どうやら生前サスロ・ザビが好んでいた花らしい。マシュマーかな?

それをメモに示された場所に設置した。

すると、

 

「隠し扉か!」

 

側面の壁が開いていった。どうやらここを進めと言うことらしい。

 

「よし、中に進むぞ。そこの2人は見張りだここに残れ」

 

いち早く進んでいこうとしようとした部下を引き止め、此処に残るように指示する。見張りを命じられた2人は分かりやすく顔を青くしていた。

 

「そりゃないっすよ。中佐…」

 

「俺たちにこんな薄暗い所にいろって…?」

 

「見張りは必要だろ。ほら無線機」

 

ぽん、と懐に隠し持っていた機械を渡した。確かにこの暗さは答えるのかも知れなかった。相当な暗さだ。加えて墓場というのもあった。

 

「しゃーねーな。ほれ」

 

「何ですこれ?」

 

「グラサン、怖さが紛れるぞ」

 

「えぇぇ…」

 

まだ不満を垂れていたが、嫌々そうな顔で真っ黒な眼鏡を掛けた。こんな暗闇の中でそんな光を写しにくいものかけるとどうなるか明らかだ。案の定、

 

「なんも見えないです…」

 

「だろうな」

 

それが分かっていてかけたのか…視界不良のせいかグラサンをかけた兵は分かりやすい程にグラグラしていた。

気が晴れたのなら良かった。…うん。よかった。

 

2人を置いて奥に進む。

どうやらまだ先は長そうだ。通路も先ほどより狭くなっていた。

 

「まだ続くのか…」

 

うんざりとした気分になりながら通路を進む。

しばらく通路を進んでいく。

 

「でもユーさん。こんな所にお宝何て有るのかな?よしんば有ったとしてもモビルスーツなんてなさそうだけど…」

 

小さな人影が、軽やかな足取りで集団の前に出てきた。

クーディだ。確かにこの通路の広さや移動距離からしてあまり大きな施設では無さそうだ。いや、と言うよりこの通路の長さはどこか別の施設に繋がっているのか…

どうやら先は長そうだ。見張りも立てたししばらくは何もなさそうだが、

 

「まだ分からないぞ。入ってから結構歩かされてる。もしかしたら別の施設に繋がってるのかもな」

 

「ふーん。でもそんなの眠ってるのかな?核爆弾でも眠ってる訳じゃ無いだろうし」

 

「お前なぁ、そんなんここにあったら困るどころじゃないだろ…」

 

そんな事を呟くクーディ。一瞬その可能性を危惧して背筋が寒くなるが、そんな事は無いと一蹴する。

 

「そんなのが暴発したらどれだけの規模が吹き飛ぶと思ってんだよ。ジオンの本拠地だぞ。ここ」

 

「まぁ確かに…」

 

「嘘つけ」

 

自分がいった発言が大袈裟だと思っていたのか、すぐ彼女は肩をすくめて笑った。まぁ否定してみたが可能性は無くはない。限りなく低いと言うだけで、何かの手違いが合っただけでコロニーが吹き飛ぶ兵器など誰がすぐ目の前に置いときたがるだろうか。俺ならいやだね。

 

「…まぁ最終決戦用だった!とか言われると有るかもな」

 

「冗談じゃない!そんなのあったら真っ先に逃げ出すよ。私は」

 

「確かに」

 

冗談で言った可能性をまさか肯定されるとは思ってなかったのか、驚いた様子でこちらに振り返ってくる。が、すぐにいかにも知ってました。と言わんばかりに前をむく。どうやら恥ずかしかったらしい。意地っ張りめ。

 

「でもわざわざジオンの膝元でやってた研究だ。それに匹敵する物は有るかもな」

 

「でもそんな前時代の核なみのものがあるとは思えないけど…」

 

サイド3の本拠地で、まさかギレンがこの施設を知らないとは考えにくい。それなりの研究をしているってことだろう。あと核並みではないかもしれないがな。

 

「一瞬で世界のバランスを変えてしまう、知識や情報というものは確かにある」

 

「…たとえば?」

 

「ジオンが最初にやったコロニー落としとか、小惑星を落下させて地球を冷やすとか…さっきいった旧世紀の核爆弾も、ミノフスキー粒子やモビルスーツだってそうだ」

 

小惑星の話は将来の話だ。どこぞの赤い人がやるな。俺も出来なくはないが。ルナツーは…敵の宇宙最大の連邦の拠点だ。もうの時点で手持ちの戦力では無理だ。戦力が増えたら行けるかもな。アクシズは…そもそも地球圏内にない。まぁ、手頃な石っころが合ったらできるかもな。

 

「世界は安定しているように見えても、少しずつ変化している。そういった力のある発明や実験なら、タイミング次第で…」

 

最後に、ボンッと言いながら手のひらを開く。此方の言いたいことが分かったのだろう。彼女は少し考え込むように顔を下に向ける。そういった発明のひとつである強化人間。彼女も戦争の被害者だ。ワッケインが、寒い時代だと言っていたことも分かる。

…まぁ俺はそんな事は言えないし、言えないんだろう。彼女を…クーディを利用している。戦いに駆り出している。もう一年戦争は終わった。次までの戦いには少しだが時間がある。その期間だけでも彼女を平和な世の中を満喫させるべきなのかも知れない。これが終わったら戦争に巻き込まれないサイドに送るべきなのかも知れない。俺の手から離れて自由な暮らしをー…

 

「…どうした」

 

「…」

 

無言で手を握ってきたクーディに、やや目を見開きながら問いかける。

 

「…別に、怖いから手を繋いでいるだけ」

 

「…まぁ、確かに回りは暗いからな。でもお前にも可愛いとこあるじゃないか。さっきまで平気そうな顔してたじゃないか」

 

「う、うるさいな。ほらさっさと歩く!」

 

クーディはどちらかというと、抱え込むタイプだと思っていたのでこれは意外だ。怖くても独りでずんずん先に進むタイプだと思っていたが。

長い髪に覆われて見にくいが、少し耳が赤くなっている。どうやら恥ずかしいらしい。

 

「おい、お前は身長俺より低いんだから手を繋いでると歩きにくいんだけど」

 

「本当にうるさいな。ユーは。言っても後一年ぐらいあればこの身長差はすぐに埋まるだろう?大差ないよ」

 

「流石に胸までしか無いような奴に後数年で追い付かれやしないよ」

 

「そーかい。数年後を楽しみにしてるんだね。…その日が君の命日だ」

 

「物騒だな!このやろう返り討ちにしてやるからな!このちんちくりん!」

 

「いったな!このおたんこなす!」

 

 

ちんちくりん発言に切れたのか、こちらを見返して言い返してくる。怒りのせいか顔が真っ赤だ。

 

「うすばかげろう!」

 

「おたんちん!」

 

「わからん!おたんちんとか初めて聞いたぞ!」

 

しばらく言い合っていたがお互いに息が切れて言いあいがやんだ。疲れる。さっきまで何してたか忘れるてしまうわ。

 

「はぁはぁ。今日は…引き分けで手を打つよ。数年後楽しみにしてるんだね」

 

「はぁはぁ。それでいいぞ。おっきくなったらな」

 

謎に一年後に彼女の成長を見ると言う話で決着がついた。こちらもつい了承したが、こい発言の意味分かっているのか。分かっていってるんだろうな。数年は一緒にいてと言ってるように聞こえるんだが。

 

「…どうしたんだい?」

 

「…いいや。なんでもない」

 

あ、顔そらしやがった。

 

「まぁいいや」

 

案外手を繋ごう云々も此方の思っていることが分かっていたのかもしれない。もしそうなら気を使わせてしまったな…

そんな事してる内に出口が見えてきた。なんだかんだ繋いだままの少女の手を引いて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




せさびさだからなんかひどい


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新機体入手までの道のり2

ストック放出祭。少し時間ができたので書いてみました。


「こいつはすげぇ」

 

サスロザビの墓。施設3キロほど奥にあった。大きな部屋にでた。モビルスーツぐらい軽く入りそうだ。奥の方をよくこらしてみれば、機体もありそうだ。

照明はと、そこにあった端末を操作する。低い音を立てて、コンソールが立ち上がる。パスワードと指紋を要求されたが、伊達にドム等の研究に関わっていない。解除。

開いたままの場面、どうやらこれはモビルスーツの設計図らしい。最初に表示されMS-05 ZAKU 1いわゆる旧ザクだったが、それこそ旧ザクからジオングやドムの最新式のデータまで。これと生産ラインを整えるだけでモビルスーツは作れるだろう。戦争国家の中枢と言っても過言じゃ無いな。

 

「これだけの物が有れば小さい国の一つや二つは買えそうだ。マハラジャ・カーンが頼み込んで来るわけだ」

 

いうならば、ジオンの技術は連邦に比べて10年は進んでいる。これは紛れも無い事実だ。キシリアが劇中でも語っている。この卓越したモビルスーツに関する知識、技術があったからこそ連邦と渡り合えていたにすぎない。そうでなければただの1コロニー国家が地球全土を敵に回して、敗北させる寸前になど行くものか。そこまで良いとこ行って負けた理由?敵の15倍の性能差が有っても、1機で30機の敵には勝てんよ。早期決着できんかった時点で負け負け。戦いは敵が勢い付く前に叩く。又はそれが無理なら良い落とし所に持ってかないとな。戦争は交渉術の一種だ。戦争に勝ってもその領土や国民を餓えさせたら意味がない。

 

「まぁいいデータは根こそぎ持ち帰る!時間がないぞ!徹底的に縛り上げろ!」

 

「了解!」

 

部下たちからの頼もしい返事。荒事があると思って戦闘要員ばかり連れてきてしまったが、モビルスーツも扱える連中ばかりだ。問題ないだろう。あ、誤解なきように言っておくぞ。MS乗りは粗野な連中ばかりと馬鹿にされやすいが、大体の奴らが頭が良い。MSと言うのは実は繊細だ。本当に馬鹿な奴らだと複雑な計器が有るコクピットの中でまともに動かせるものか。

 

「中佐!MS関連のデータを取るだけでも1時間はかかります」

 

「ダメだ!その半分以下で済ませろ!他のデータもとるだけ取れ。迂闊にコロニー内で戦闘出来ないからと行っても、連邦の占領地域内と言うのは変わらないんだからな!」

 

「了解!急ぎます」

 

それでもここにそれだけの時間拘束されると言うのはは大きいな。連邦政府の手はまだここまで来てないだろうが、表に見張りがつけられてたくらいだ。何か異変があったらここにすぐ駆けつけてくるだろうな。まぁそうならないために一応、策は用意してあるが…

 

「…まぁ保険程度。どの位時間稼ぎになるかだな」

 

「なんのこと?…そう言えばここに来るときは、もっと人数は居たよね。後から合流すると思ってたんだけど、きてないね。残りの人たちは何処にいったんだい」

 

「まぁ一応の策って奴だ。お前に言ってなかったか?あいつらは…っておぉ」

 

そんなことを話しながら、奥に進んでいく。部屋が大きく入口からでは奥が見えないのだ。

手持ち無沙汰そうにしていたクーディが横についてくる。おそらく機械も使えないし大人たちの作業を見守ってることしか出来なかったんだろう。

まぁ彼女のことは良い。問題はこの目の前のコレだ。

 

「こりゃすげぇや。これが量産できれば0083時代なんてへでもねぇなぁ…」

 

「そんなにすごいのかい?この機体?ていうか0083って…」

 

「あー気にすんな。そんぐらいすごいってことだよ」

 

すげえのなんの。これが1年戦争時代にできてる時点でだいぶオーバーテクノロジーだろ。やっぱりジオンの科学力は宇宙1はっきりわかんだね。

まぁ好みで言えば、スリムすぎてあんまし好きでもないんだよな。ドムトルーパーぐらいゴテゴテした機体の方が好きだ。わかる奴たぶんいる。というかこれZまでいけるだろ…

おそらく正史では、ここがバレてこの機体のデータが渡ってしまったんだろう。劇中でもガンダムを追い詰めていたくらいだ。相当期待できる。

このデータが連邦にわたってみろ。ただでさえ苦しい戦いがキツくなるな。まぁ俺らが先に見つけたわけだけどな。こんなところにあるとは予想だにもしまい。

コクピットまでのタラップが近くにあったので、クーディと一緒に登ってみる。

コクピット解放スイッチ…ここか、ジオン系の機体なんてだいたい変わらんな。

シートに座り、コンソールを起動してみる。が、どうにも起動が遅い。

まぁ試作品なんてそんなものか

 

「こいつ、動けるのか?」

 

ようやく端末が起動した。それと同時にコクピットの外の光景が周りに広がる。地下なので壁しか見えないのだが。

 

「うごきそうかい?」

 

「システムは立ち上がったが、どうにもうまく融合炉に火が入らない安定はしないな」

 

「bからvの項目どうなってるんだい?ゲルググ系統なら少しは分かるけど?それ多分違うよ。c−系統は…こう。ここが違うところまだ他にもあるけど…うん、だいたい同じみたい」

 

「ほんとか!?いつの間に覚えたんだそんなこと?」

 

余りの詳しさに、驚いて彼女の方を見る。整備士連中に混じって色々教わっていたが、詳しいもんだ。俺は作って運用する側で、整備士たちは受領して、実際に動作をしている側だ。設計者より現場のやつの方が詳しいというのは、良くある。ましてや戦時中の高速でラインを回している状況だ。規格で定められた最低限の基準時間で現場に回している機体も少なくない。そんな機体を、不具合を直してる現場の方が詳しいと言うのは、設計者としては不甲斐ないが…ある。その整備士たちから教わったというのなら本当にわかるのかもしれない。っていうか下手すりゃあ俺よりわかるかもな…

 

「じゃあ任せてもいいか?」

 

「…うん、任せてよ!」

 

彼女は一瞬キョトンとした後、嬉しそうな顔で胸を叩いた。小さな頭を上下に動かしてご満悦の様子だ。可愛いかよ。頼られるのが相当嬉しかったらしい。しっぽが生えてたらブンブンと音を立てて揺れていることだろう。

 

「でも動かせるとは思うけど。どうにも触ったことのない機体だから、どれがどれやら…コクピット的に言えば統合整備計画の機体っぽいけど。うーん。ちょっと時間かかりそう」

 

統合整備計画とは何か?コックピットの操縦系の規格・生産ラインを統一することにより、生産性や整備性の向上、機種転換訓練時間の短縮を図った計画で、兵士の不足による学徒動員などを見越し、操作系のフォーマットを統一することで未熟なパイロットでもMSを効率的に運用することも目的にしてる計画のことだ。

わりかし最新鋭の機体はこのコクピット周りのシステムが応用されている。コクピットの規格が合うから、ザクのシステムをゲルググに移したりもできるわけだ。これはかなり画期的で、うちの艦隊も数機は配備しているのだが、うまく行ってないらしい。

 

「出来るだけ急いでくれ。データだけでもいいが、実物があった方がいい」

 

「やってみる」

 

起動はまぁ最悪出来なくともいい。問題はこれをどうやって輸送するか、デカすぎる。脱出経路は概ね絞ってはいるが、こんな大きいものが街中を闊歩していたらそれはそれは目立つだろう。タラップから降りる。

 

「ハミルトン軍曹!こっちに来てくれ。君はサイド3の出身だったな?このMSを見つからないまま運送する通路等この辺でないか?」

 

「はい。中佐ここの周辺ですと、当該区域から隣のブロックを通過して荷物搬出用のベイがありますが、そこに辿り着くには、約20キロは前進しなければなりません。車両等は問題無く通過できるでしょうが、流石にMSが通過したら目立ちます。なおかつ連邦軍の艦が複数隻コロニー内部に確認されています。港にたどり着いた後が問題かと…」

 

「いやいい。ベイの問題は手段は整えている。ベイについて、宙にさえ出れればこちらのものだ。近くにティべ級を配置している。出てしまえさえすれば問題はない。」

 

「秘密工場らしく秘密の入口とか無いんですかね?」

 

「うーん。区画の見取り図があったがそれっぽいゲートは無かったんだよなぁ。サイド3は本拠地だし、わざわざくりぬく必要もなかったんだろうが…本当地下に作るんなら直接出れるゲート作っとけよ…」

 

「…はぁ。強行突破しかないですか」

 

「そうなりそうだなぁ」

 

2人で頭を抱える。どうにも手っ取り早く脱出できそうにない。地下に作るんなら本当に、それっぽくしろよ。直接浸宙するゲートがないのなら、わざわざ近くのベイまで搬出して宙にだす必要がある。ここの所在が近隣住人に見られそうなもんだが、ここまで攻めることを想定して無かったんだろうなぁ。ただがか20キロで飛ばせばいけそうなもんだが、条件はあちらもかわらん。接敵せずに貨物搬出用ベイまで行けるものだろうかは、ギリギリだ。少なくとも巡察のMSとの戦闘はあるだろう。どうにかスムーズに出れないものか…MSまであるとは想定してなかった。歩兵だけなら行けそうなんだが…最悪機体は破壊しなければなぁ。

 

「一応機体は立ち上げておいてくれ。何かに使えるかもしれん。データの抜き取り急がせろ」

 

「了解」

 

 

幸いここからは入った場所に引き返さなければならないということは無さそうだ。ここから直通で上に出れる通路は見つけた。近くドアに視点を向ける。どのくらいの高さなのか見ておくか。

ドアに近づき、空けて上方向を見る。どんだけ地下なんだ螺旋階段がビルの10階分ぐらいはありそうだ。

 

「うへぇ。こりゃ登るのも大変だな。と…ん?」

 

階段上からカンカンと足音が聞こえる。人はやってない筈だが?作業中の部下を見る。ひふみよ…全員いるな。目を凝らす。灰色の戦闘服にヘルメット。連邦兵だ。その考えに当たった瞬間心臓がドクンと跳ねる。おいおい嘘だろ。どうしてバレた?慌てる気持ちを押さえる。俺は指揮官だ。いかなる時も指揮官は動揺をあまり出さない方がいい。恐怖が部下に伝わるからな。扉をそっと閉め、部下に指示を出す。

 

「おい。作業中止。3人こい」

 

「中佐どうしましたか?まだ終わっていませんが…」

 

「敵だ。後1分も無いうちに来る…!急げ」

 

「へ?…バカな早すぎる…」

 

「来ちまったもんは仕方ないだろ。速やかに集合…!」

 

バレていたとしか思えないが、バレたもんは仕方ない。迎え撃つ。扉の横で張り付き、敵が来るのを待つ。先に発見できたのは僥倖だった。見てなければ直ぐに全滅していただろう。

こちらが配備についたと同時に、敵もどうやら着いたようだ。扉が吹き飛ぶんじゃ無いかと思うほどの勢いで開き、連邦の1人が顔をだす。

 

「連邦軍だ!ジオンの残党諸君!大人しく…うっ」

 

「するかよ」

 

先頭で突入してきた、なかなかの体格の兵士の顔面を裏拳で強打。怯んだところに弾を撃ち込む。

まずは1人。

撃破した兵士を盾にしつつ、他の敵兵にも撃ち込んでいく。狭い通路だ。指揮官がやられて慌てて逃げようとしているもの。こちらに発砲しようとしているものもいるが、指揮の継承ができていない今動きは緩慢だ。

 

「頭はやった!残りも蹴散らせ!」

 

「了解!」

 

残りの3人が射撃を開始する。慌てて隠れようとするも遅い。狭い通路だ。逃げ場はない。ものの数分で制圧。第二波は来なさそうだが、それも時間の余裕は無さそうだ。考えるのは明日でいい。土クレは何も思いはしない。それよりも次だ。次の手を打たなければ…

 

「何だったんだ。こいつら、俺らがここにあるのがバレている様子だったが…まずいな。入口の2人を呼び戻せ!2人はここでデータの抜き出し及びMSの起動!クーディも残れ!余りの者はついて来い!弾補充しとけよ!」

 

「了解。作業している2名以外は速やかに中佐の元へ集合せよ!」

 

「集合しました!前進準備完了です」

 

「よし、階段を上がって、出入り口を確保する!相手に確保されたら我々は脱出出来ない」

 

残留組から一つ弾倉を残してあとは貰う。それでも弾数は心ともない。本格的な戦闘は一回できたらいい方だろう。隠密作戦だ。弾はあまり持ち込めてはいない。全力制圧する気ならMSを持ってきている。

残りの人数を確認。足を動かし、階段を二段飛ばしで上がっていく。おそらく今の敵兵は先遣隊。先遣隊からの連絡がなかったら速やかに本隊が突入してくるだろう。そうなる前に、速く出口を抑えなければ…!

 

「見えた出口だ」

 

階段を上がると、雑居ビルのような内装の建物に出た。その内の一室。一部屋改造して地下室に繋がる道を作っていたようだ。

入り口からはだいぶ離れたところに来たようだ。窓からの景色は随分と違う。横に少し嫌なものが映る。

慌てて、ビルの出口に繋がる扉の前に立ち、少しだか隙間を開けて、周りを観察する。そこには…

 

「嘘だろ。小隊規模じゃ効かないぞ…」

 

ビルの周りには、中隊規模の部隊がこちらを包囲していた。

 

 

 




??「あれは存在してはならない兵器なのだ」


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コーエン将軍との激闘

すいません。再投稿です


すぐ近くで爆発

 

うて。この出入り口に近づけさせるな!

 

部下に指示を出しながら、自分も顔を出し大体の方向に向けて数発発砲。撃たれた連邦兵はは顔を隠す。が、数が違いすぎる多方面からこちら側に打ち返してくる。その後敵の見えないであろう位置に戻る。

 

くそ。きりがない。せめてMSがあったら。

 

幸い敵は歩兵ばかりだ。MSはいない。そしてここは占領したばかりのコロニーの中だ。ロケットランチャーや対ms誘導弾とかは打ち込んではこないだろう。そんなことをしたら市民感情がどうなるかわからない。最悪反乱の可能性などあるしな。

それに戦争は終わって勝ち戦の戦後で命を落としたくはないだろう。遠くから撃ってくるばかりでこちらに突入はしてこない。その心理が助かっている。戦争中だったらこうは行かないだろう。

 

だが、しかし…くそ。このままでもつのか?

そんなことを考えている中、拡張器で何者かの声が聞こえた。

 

撃ち方まて!

1人の連邦軍高官が名乗りを挙げる。階級は少将か?

 

「私はジョンコーウェン少将である。噂には聞いていたがこのようなところまで来るとは思わなかっかったぞ。もう戦争は終わったのだ。死に急ぐことはあるまい。ジオン兵の諸君。大人しく投降したまえ。君たちが持っているデータを渡しさえすれば君たちの命は保証する。」

 

一筋汗が落ちる。大物が出てきたな。しかも、こちらのことを詳しく知られているようだ。

彼の知っている俺の情報は一応ある。

ジョンコーエン中将といえば、ガンダム開発計画総責任者であり、アルビオン隊にとって数少ない理解者。連邦軍の少数派に属し、改革派の一部。エギーユ・デラーズの『星の屑作戦』にできる限りの対応を行ったとか。その後のちのティターンズのトップ、ジャミトフに蹴落とされた人物。

蹴落とされたからと言って舐めてはいけない。この頃はまだ普通に健在で、のちのガンダム開発等に関わられてしまうと連邦軍の技術レベルが上がり、おおっぴらに新兵器を開発できないジオンとの差が縮まってしまう。

ここで潰すか、捕虜にしておきたい。

物陰から様子をみる。

出口付近は完全に封鎖されていて、一際防護が厚いところにジョンコーエンがいる。ここから飛び出して倒すのは困難だろう。

いきなりキングは取れねぇだろうよぃ、との名言もある。落ち着いていこう。

こちらは俺以外に4人、彼方はコーエン将軍が来たことで中隊規模程度はいそうだ。

 

「繰り返す返答がない場合、その遺跡を破壊する。所属、階級、氏名を述べ。データを渡し投降せよ」

 

「まずいな。時間をかけすぎてる。増援が来るぞ」

 

「これは最後通告である。速やかに返答せよ」

 

「くっ、アレの機体立ち上げに時間がかかり過ぎだ。仕方ない。あまり目立つマネはしたく無いが…

了解した!こちらはジオン軍宇宙攻撃軍所属のユーセル中佐だ!破壊をやめてもらいたい!」

 

「…む。高々工作部隊の小物等を想定していたが、とんだやつが出てきたな。ここら辺の区域のやつは、ワイアットの正面担当のやつが討伐したと聞いたが…まだこんな軍事活動をできる余裕がある組織がいたとはな…

まぁいい。それは君たちの態度次第だ。速やかにデータを渡したのち遺跡から出てくるきたまえ」

 

投降する気など一切ないし、時間稼ぎのために返答したのだが、どうやら俺の名前は、コーエン将軍にまで名前が響いていたらしい。どうやら俺は死んだことになってるっぽい。ワイアットのやつがどうやら撃退して我の艦隊を撃破したことになっている。まぁワイアットも30隻も動員して敵の艦隊10隻そこらを撃退できなかったとすれば、降格もあり得る話だ。それはそれで好都合だったな。…あ、しまった。名前名乗っちゃった。偽名使えば良かったかな?

部下の方に向いて人差し指と小指を立てて、耳に当てる動作をしてみる。後方の残存組から連絡は?部下は伝わったのか、首を振る。どうやら来てないようだ。あの機体さえ起動できれば状況を打開できそうなものだが…

時間を稼ぐしかないか

 

「いや、俺たちの安全の確保の方が先だ!出て行って殺されたんじゃ都合が悪い!兵を引いて貰いたい!」

 

「そんな要求が通るものか!状況がわかっていないようだな?こちらは中隊規模、そちらは数人だ!どちらが不利か見てわかると思うが、早く投降したまえもう戦争は終わった、もう戦う必要もない。戦争は終わったのだ。もう悲劇は繰り返してはならなぬ。もう誰も死傷者を出す必要はない。なぜそうまでして血を求める?」

 

「ああ?戦争は終わった?いいやまだ終わってなんてないね!お前ら連邦がスペースノイドに対する態度を変えない限りそれに反抗を続けるものはいる。俺たちの、スペースノイドの意思はだれにも止められない!」

 

頭に来る。お前らからすれば俺らか悪かもしれないが、話し合いを、ジオンズムダイクンが発した抗議を民衆の声をお前らが潰したのだ。軍事活動で!そんなのを頭から信じ込んでないが、これは戦争だ。どちらが悪いとかではない。

どっちも悪いのだ。

俺は転生者だが、この戦争が始まってから関わってきた人がいる。関わってきた歴史がある。それを頭ごなしに否定されてはいくら穏便な俺でもプッンとくるなぁ。だからジオンにいる訳だし、何も関係なかったら、負ける国になんていないよ。あ、あとMSがかっこいいな。それだけでもいる価値あるわ。

 

「そうか残念だ。ジム隊も到着した。その思想とともに潰えるがいい。ドズル麾下の亡霊よ。中隊撃ち方用意」

 

と、まだまだ言い返してやりたいが、どうにも旗色が悪い。今は中隊規模だが、これはほんの一部の先見部隊だろう。先程顔を出した時、MSジム2台が奥に見えた。持っている武装はどうやら90ミリマシンガン。こちらがドムになっている時はとるに足らない相手だが、今はすごい脅威だ。

もうすぐ近くの方からの増援が来るだろう、結構近くのベイから距離があるがあと10分ほどでMSの増援が来るかもしれない。別働隊の工作が上手く行っているといいが…

いやあのマシンガンを撃たれただけでこんな建物の意味などない。90ミリの前にはこんな壁ないようなもんだ。

発砲。

どうやら痺れを切らした敵さんが撃ってきたらしい。耳のそばで銃弾が飛んでくる。そばの壁が轟音を立てて崩れる。どうやら90ミリも散発的に撃ってきているようだ。フルオートで撃ってきてないのはまだ、回収できるものがあると踏んであまり崩さないようにしているんだろう。

しかしこれでは数分も持たないだろう。

後ろにいる隊員の顔を見る。

 

「あれが起動するまであとどのくらいだ!?連絡はあったか?」

 

「いえ、ありません。中佐。どうも立ち上げに時間がかかるそうで、どうも終戦後から動かしてないであろう機体なので…」

 

「急がせろ。まだMSが来てない今がチャンスだ。敵MSが来たんだ!俺たちがいるこんな小さな出入り口なんてすぐ破壊されてしまうぞ」

 

「起動できないことには…いえ、どうやら来たようです」

 

「来てくれたか!」

 

どうやら奥にあった機体のアレの起動が済んだらしい

轟音を立てて後方の、格納庫があった地面が崩れていく。

 

「な、何が起きている!何をした!中佐!アレはゲルググか?…このようなところに隠してあるとは…」

 

いいね。いいタイミングだ。特徴的なモノアイに豚鼻。ロールアウトしたばかりの新緑に輝く機体色。連邦軍のガンダムに匹敵する性能を有するゲルググと、そのゲルググと次期主力機の座を巡り競合したギャンの特性を合わせ持つ。 ジオンの技術は10年進んでいるとはこの機体の事一つとっても、間違いではないだろう。しかもこれ以外にもバリエーシャンはあるのだ。ジオンの科学力は宇宙一、あながち間違いでもないな。

時代はZまで引っ張れる最新鋭機の中の最新兵器!

 

「ガルバルディα!動いてくれたか!」

 

「お待たせ。ユーさん、どうにも手間取っちゃって、ほらヒーローは遅れてやってくるものだから、怪我してない?」

 

「言い返してやりたいが、ナイスタイミングだ!かましてやるぞ!連邦の奴等に目に物みせてやれ。さぁ、反撃開始と行こうかぁ!」

 

「了解」

 

我らが部隊の誇る一番の腕利きだ。この程度はどうとでもなる。

戦乙女が新緑の機を操る

それに応えるのかのように、機体が轟音を立て敵機に突進していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうにも初めてのこの子の初陣だ。ユーさんも危ないしすぐ黙らせる。…ってちょっと…!」

 

フットペダルを蹴り、敵機に接近していく。ガルバルディがスラスターを吹かし一気に周りの景色が後ろに流れていく。

どうもゲルググと同じ感覚で操縦したが、思ったよりも反応がいい。推進力では、ゲルググはこのガルバルディの足元にも及ばないだろう。他の人はドムの騎乗経験はあるが、ゲルググ系統の機体は経験が浅い。それならと立候補したがどうにも、経験は無駄になりそうだ。性能が違いすぎる。

ガルバルディの膨大な加速力は、ビル数十の幅を一瞬で弾き飛ばす。

眼前の敵機が慌ててこちらに銃を向けるももう遅い。もう、格闘武器の間合いだ。通信が混線しているのか、敵の通信が流れる。

 

「はゃ…すぎ…でも、まずは一機いただき」

 

「なんだこの機体!データにないぞ!…もう目の前に、はっ、はやすぎる」

 

「遅いよ」

 

ジムが発砲。

敵の弾を潜りつつ、ビームサーベルを抜刀。胴体部を真っ二つにする。

ジムは上半身と下半身が分かれていく。綺麗な断面をのぞかせ、機体が二つに割れる。

爆発がガルバルディの装甲を照らし、無機質なモノアイは残りの敵機を見据える。

 

「一機撃破。残りは2機か」

 

 

 

 

 

 

 

ジムが次々とやられていく中、遺跡の中から戦果を確認したが…

すっかりガルバルディにコーエン将軍たちの目がそれた。こちらにもう構っている暇などないのか、こちらへの発砲は無くなった。

 

「すごいもんだな。ガルバルディ、実物を見たのは初めてだが、アレほどまでとは…」

 

「はい。中佐すごいものです。アレがあれば連邦など恐れることはないでしょう!」

 

部下の嬉しそうな声。まぁ気持ちはわからなくはない。あの機動性に旋回性能、ゲルググの後継機らしくビーム兵装も扱える。火力の発揮も十分できるだろう。本当に1年戦争時代にはなかなかの代物だ。

 

「…数がないからどうしようもないんだけどな」

 

問題は数だ。どれほど高性能な機体でも数がないと、作戦に組み込まない。一機だけで戦争は勝てない。まぁアムロみたいなエースがいたら変わってくるのだろうが、

馬鹿な!戦術が戦略を上回るなど!?ってやつだな。ジオンは少数精鋭で路線選択したからMAをいっぱい作って有利を作ろうとしたんだがな。結果はまぁ、言わなくてもわかるだろう。やっぱり戦いは数だよ兄貴。

 

「最後のジムもやったみたいだな。…おーと、コーエン将軍をお待たせしてしまっているな。挨拶にでも行こうかな?」

 

ガルバルディを見てばっかりだったが、コーエン将軍との戦いの最中だったな。先程までコーエン将軍がいたところに視線を移す。ジムの爆発に巻き込まれたのか倒れている兵士たち。その奥に固まって何かを守っている集団がいた。あれはコーエン将軍を守ってる一団か、

 

「クーディ!よくやった!こっちに戻ってこい!コーエン将軍を確保するぞ」

 

「了解」

 

状況がこちらに傾いたようだな。こちらは数人だが、MSがある。対して敵は一個小隊ほど、MSはなし。先程は考えつくことすらなかったが、コーエンを捕虜にすることも可能な状態だ。MSがいれば確保までするできるだろう。連邦軍高官を確保するというアドバンテージはかなりデカい。情報も聞き出せるし、何かの交渉材料にもなる。いいことづくしだし、ガンダムもGP計画も出来ないだろう。2号機は…まぁザクに核武装させればいいだろ。実質2号機。声をかける。

 

「コーエン将軍!貴様は先程俺たちの戦争は終わっていないと言ったな!俺たちの戦争はまだ終わってはいない。悪いがこちらに同行してもらおうか、」

 

「この残党どもめ…お前らの好きにはさせん…!」

 

やはりいた。集団の奥からコーエン将軍の姿が出てきた。褐色の年配の男、いかにも軍人といった風貌で、アジア系の顔つきだ。負傷したせいで頭から血を流している。返答はできているから、意識はある。すぐ死ぬということはなさそうだが、出血が激しい。早く確保しなければならないかもな。

 

 

「どうにも状況がわかっていないようだな?こちらはMSがあり、そちらにはMSはない。決定的だ。降伏を勧めますがね?」

 

先程のコーエン将軍の言葉を真似て喋ってみる。どうも気分が高揚しているようだ。まぁ、こんな大物を捕虜にできる機会などない。しかも原作で出てくる人物だ!これはかなりの歴史の分岐点になるだろう。ガンダム2号機のサイサリスができないのが痛いが、その分ステイメンガンダム3号機もできずに、被害を抑えられると考えればトントンだろう。

ガンダム3号機の性能は圧倒的だからな。ガトーでも苦労したくらいだ。勝てても辛勝になる。

 

「くっ敵の有利材料になるくらいならば…」

 

「おっとこちらを攻撃しようとしても無駄ですよ。上のガルバルディがそちらを狙っている。撃たれても次の瞬間にはミンチ肉だ」

 

「…何をする気だ?今更貴様程度の艦隊…30隻程度だったか、その程度では何も出来まい。先程の戦闘も、貴様らが大きな顔をしてられるのも今だけだ。いくら技術面で優位に立とうとも、すぐに連邦は追いつく。このわしがが追いつかせてみせる。先程のゲルググもどきよりも、高性能な機体をな…!テロリストども!貴様らには、勝ち目はないぞ」

 

先程は死にかけそうと言った印象だったが思ったよりピンピンしてるな。技術面の有利?そんなの高々数年で、開発。量産まで行けるものか、Zまだかかるだろうな。

 

「何をバカな、今から我々の捕虜になろうとされる方がそんなことできるはずがないでしょう。」

 

「…今更ワシを捕虜にしたところで状態は変わらん。停戦はなるだろう。この身も無数にいる高官の1人でしかない。…歴史は変わらんぞ」

 

「いいや?変えてみせるさ。好きだろう?みんな。圧倒的強者を倒し、弱者が勝つ物語。スペースノイドの自治確立。これは妄言ではない。さぁ世界征服の始まりだ」

 

 

 




??「ええぃ。こうも歩かされてはキャノンが!」


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覚醒?

「世界征服のために」

 

「バカな。たかだか一師団艦隊規模で何ができる。こちらはまだ数倍の戦力を保有しているのだぞ。もう戦争は終わったのだ!…これ以上の血を流してはいかん…!」

 

「いいえ。コーエン将軍。まだこちらには余力がある」

 

「なにをバカなことを、ジオンの総帥ザビ家は全滅。宇宙のサイド3にもグラナダにも連邦軍が軍を送っている状況だ。完全に敗戦国の末路ではないか」

 

まぁそれはそうだ。この状態でこの時代の敗北者はジオンだ。しかし勝者側の連邦軍も深く傷つき宇宙軍の再編もまだろくに進んでもいない。

 

「数倍の戦力差?絶望的?違うね。たかだか数倍の戦力差だ!無傷のジオン本国と、グラナダを残している。それも含めればどうなるかな?ジオンは負けたが、まだまだ余力があるのだ!だだ頭をやられただけで本当に負けたとは言えないよなぁ?」

 

本来なら俺の艦隊の規模なんて、戦力比率。連邦の艦隊の数パーセントだ。何百倍の戦力差が高々数倍になっている。それでも差があるのはそうだが、ここまで被害を受けているのは大きい。だから戦術レベルの戦いの話で、情勢が変わる。0083はそのような時代なのだ。戦略レベル…例えば、ジムの生産体制の確立とか?国家規模のプロジェクト。にまでいかなくても良いそれが利点だ。

しかも連邦はこんだけボロボロにされた宇宙軍の再建に手間取っている。今後数年は新しい機体を開発する力や新型戦艦を作る力は小さい。

 

…アルビオン?…バーミンガム?なにそれぇ?

 

うるさい。金があるとこにはあるんだよ。

しかもこちらはザビ家の御旗の存在を隠している。今は公開時期ではないのは、確実だが。強いカードは強い場面で切る。今ではない。まぁ言わなくていいことは、無理に言わなくてもいい。

 

「バカな。もう戦争は終わった。国家も解体され、ザビ家という旗頭を失い。南極条約も批准できない。何度でも言う!貴様らは負けたのだ…ただのテロリストだよ…!構わん撃て!」

 

「…バカなことを!クーディMSで護衛を引き離せ!」

 

話し合いで血が昇ったか、出血が激しいコーエン将軍。周りにいた敵護衛小隊がこちらに発砲。撃たれる前に身を隠しておく。

クーディの乗るガルバルディが護衛小隊を排除しようと腕部を近づける。

 

「わかった。ごめんねちょっと痛いかも。…ってうわ」

 

 

 

 

「やらせるかよ!宇宙人ども!」

 

上空から降下してきたジム改が、ガルバルディにむけマシンガンを発砲。咄嗟にガルバルディは回避運動を取り、ビルの影に隠れる。

軍港に配備中の部隊が駆けつけてきたようだ。コーエン将軍を前に喜びすぎたな。時間をかけすぎたらしい。しかもこの声なんか聞いたことあるな。

 

「おいモンシア!何を勝手に撃っている。味方に当てたら、どうするつもりだ!」

 

「ですがね?バニング中尉。どうもそうも言ってられない状況のようで」

 

「これは…確かに言ってられん状況のようだな。しかもあの新型のゲルググか?」

 

カメレオンとIVをモチーフとした部隊章って。

うぉい!不死身の第4小隊!しかもよく見たらジム改じゃねえか。

一年戦争末期に配備された機体。ガルバルディも同時期だが…0083には地球連邦軍の主力MSとして運用され、ジムIIの登場まで主力機を務めた。連邦のなかなか優秀な機体だ。

先頭で撃ってきたのはモンシアのやつか!それにうしろはバニング中尉?まだ大尉じゃないのか。…哨戒部隊のやつがたまたま来たのか、厄介だな。ベイはもう、俺の部下たちがサラミス級を横転させて封鎖している。外はともかく。中には来れない筈だ。ん?不死身の第4小隊ってことは、2機の筈が…

 

「避けろ!クーディ!」

 

 

 

 

 

「避けろ。クーディ!」

 

「!…了解」

 

フットペダルを蹴飛ばし、急いで後方に離脱する。

直後先程まで盾にしていた建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ。背中に嫌な汗が流れる。直撃していたら、いくらガルバルディといえど、木っ端微塵になっていた。撃ってきた敵方を確認する。先程の砲撃のあとを見るにどうやら、120ミリキャノン砲の攻撃のようだ。

コンソールを叩き、モニターで遠方を拡大する。離れているがキャノン砲をつけたジム改が一機。その横にジム改、バーズカを持っている。

そして増援の2機にも、カメレオンとIVをモチーフとした部隊章。どうやらこの四機が、将来アルビオン隊の精鋭中の精鋭。不死身の第四小隊…!

 

 

 

 

 

 

 

「どうも中尉は無鉄砲でいけません。あの人に学習の文字は無いんでしょうか」

 

ジム・キャノンのパイロット、チャップ・アデルはそう言ってスコープを覗き込み。砲撃。前方のバニング中尉を援護する。

不死身の第四小隊の一員で、ちなみに言うと既婚者である。

 

「そう言ってやるなよ。アデル。それがあいつのいいところサ。見てて飽きないね」

 

そうアデル機に返すのは、アルファ・A・ベイト。不死身の第四小隊一員で、モンシアとはよくバカやる仲である。原作でも、アルビオンの着艦デッキ壁面の基板に悪戯してコウのコアファイターIIの着艦を妨害し、大事故につながる寸前の事をやったりしていた。

 

「しかしベイト中尉。哨戒任務中にこんな場面に出くわすとは、戦争は終わった筈では?」

 

「そう言うなよ。まだ連中は戦争がしたいのさ。本拠地まで攻められてもまだ負けた気でいねえんだよ。ったく。敵さんの往生際の悪さだけは一丁前だぜ」

 

 

 

 

 

「クーディ!アレは不死身の第4小隊だ!かなりの手練れだぞ!合流予定ポイントまでいけるか!?すぐに離脱しろ!その機体なら離脱できる!」

 

「…?不死身の第四小隊?有名なのかい?じゃあ離脱したいのはやまやまなんだけどねー」

 

下に視線を落とすと、数人固る味方がいる。ガルバルディがここを離れると、彼らは全滅だろう。

 

「…あはは。ちょっと苦しそう。とりあえずユーさんは逃げてよ。戦いにくい」

 

「くっ…ここにいても全滅か。足枷にしかならんとは…」

 

離れたところにアレはベイト中尉?とアデル?という連邦兵らしい。しかしこんなツーマンセル2ペア編成?っていうのかな?ちょっとわからないけどどうにも隙がない。二機でお互いの死角をカバーしあっているようだ。こちらから仕掛けたら十中八九こちらが撃墜されそうだ。ベテランというのは本当みたい。

眼下の彼に目を向けるとどうやら、撤退してくれている模様だ。切り替えてもらわなければ困るのだが、その心配は無用だったよう。少しだけ寂しさを覚えたが、彼は生身だ。無理も言えない。

車を止めてあるから、搭乗して15分程度は離脱に時間がかかる。

時間を稼がなければ。歩兵組を逃がしてしまえば、あとはこのガルバルディの推力なら逃げられる。

 

「…よし」

 

軽く息を吸う。バニングとやらとモンシアとやらのジムは護衛に徹しているようだ。いや一機だけか?

護衛中の2機は適当に射撃しておけば、こちらには来れないだろう。

ビルの影を利用しながら移動。コーエン将軍のいるであろうポイントに射撃。もちろん2機は持っているシールドで防ぐ。が、 目論見通りだ。このまま、護衛の二機は、張り付きにできる。無力化したも同然だろう。

あとはジムキャノン、ジム改、私の順で敵の射線が味方にかぶるように位置してやればいい。さっきのキャノンも撃てはしないだろう。

キャノン組も射線を確保しようとするが、移動先のアデルの乗るキャノン機にライフルで牽制射撃。ベイト機に防がれる。でも、これでいい。常に対角線上に敵が来るように誘導を続ける。これなら動けばしないだろう。あとはどちらが我慢できなくなった方の負けだ。このままこう着状態が続けば楽なのだけれど…

 

「…ちっ!ちょこまかと!鬱陶しい奴だ!」

 

「モンシア!あくまでも護衛が最優先だ!先走るなよ!」

 

「了解です。バニング中尉。ただ自衛は構わんのでしょう。バカスカ撃たれたままでおとなしくする気はないんでね」

 

「おい何する気だ!モンシア!」

 

「要はこいつをやっちまえばいいんだ!たった一機!」

 

釣れた。分離してくれたらこっちのものだ。各個撃破に持ち込む。高速移動する敵機を盾にするような軌道は取り続け、そしてベテランの敵と対敵する!ああ、どうにも疲れる仕事だ。

 

「でも、こんなものゲルググで艦隊に挑んだ時と比べれば!」

 

ジム改がスラスタを吹かして、接近してくる。こちらにライフルを向けてきた。ジムの装備火器、ジムマシンガン90ミリだ。

発砲。

 

此方も負けじと接近するジム改に向け、トリガーを絞る。

ジム改は盾で防ぐが、ここまでは想定通りだ。少しでもこちらの姿が見えなくなればいい。

フットペダルを蹴り、全速力。意識を持ってかれそうになるが、耐える。この機体の性能を持ってすれば、敵機の裏を取ることなど容易だ。

 

「ど、どこに行きやがっー「モンシア後ろだ!」」

 

「遅い!」 

 

「なにぃ!」

 

「…まずは一機!」

 

サーベルを振り抜く。完全に背後からバックパックを狙ったつもりだったんだけど、身を捻り避けられてしまった。残念。損害が思ったより小さい。

追撃を仕掛ける。シールドを引き裂き、ジム改の右手を両断する。続けて畳みかけるようにビームライフルを撃つが、3発ほど撃ったあたりでキャノンからのロックオンアラート。

 

「逃がさない。……正確な射撃。こんなに敵機と密着してる状態での精密射撃だなんて。…あと一撃で倒せたのに」

 

「モンシア中尉!」

 

アデルのキャノンから砲撃を受ける。これ以上は追撃は不可能だ。

ビルを盾にしつつ射線が切れるところまで移動する。

連携が上手い。並の隊なら撃破できていた。タイムリミットまであと7分。時間は稼げそうだけど…あとは離脱も考えなければいけない。キャノンが厄介だ。他のジムは振り切れるだろう。でも長距離射程を持つキャノンを放っておいていいのか?間違いなく背中を狙い撃たれる。

撃破しておきたい。とは言ってもこちらの武装は、シールドとビームライフルだけ手が足りない。少しカメラを出し、敵の様子を伺う。どうにもさっきのジムは胴体部には弾は命中していない。モンシア?とか言うパイロットも生きていそうだ。はっきりとは確認してないが、おそらくはもうモンシア機は、戦線に復帰できてないだろう。

少しづつ他の機体も距離を詰めてきている。撃破した機体に近いのはキャノンか…

発砲。顔を出したところが射撃を受ける。反応が早い。腕部で、ビルを掴み、握った破片をサーベルで少し焼く。ライフルの残弾も少ない。

先程見た時、敵小隊がジリジリと包囲を縮めてきているのが見えた。

ここまま黙って指を咥えているつもりはない。逆に言えば撃破のチャンスだ。混戦に持ち込めばまだ勝機はある。

 

「うーん。ちょっと合流できそうに無いかなぁ…これ。でも、やるしかないか…!」

 

深呼吸をして前方を注視する。いや前方だけじゃなく360度視野を広げて

操縦桿を動かし勢いよく、盾にしていたビルの影を飛び上がるようにして急加速。濁流のように周りの景色が流れる。その中で状況を確認。バニング機は動いていない。ビームライフルでバニング機を牽制。それと同時に握っていた瓦礫をモンシア機に投擲。瓦礫を熱を持たせて、グレネードと誤認させる作戦。お願い…ひっかかってーー

 

「…やった!釣れてくれた。キャノンの護衛を剥がせた!」

 

ガルバルディが何かを投擲した瞬間。ベイト機がスラスタを吹かし、モンシア機に接近。モビルスーツの手のひらサイズの物体を弾き飛ばす。シールドでモンシア機を庇うように構えるが爆発はしない。それはそうだただの温めた瓦礫なのだから。だけど邪魔な護衛は離せた…!

 

「ここからでは狙えない」

 

機体のスラスタをふかし、高度をあげる。いた。キャノン機に向け照準。此方が飛び上がった時にはもうシールドを構えられていた。このままでは致命的なダメージは与えられないだろう。このライフルではジム改のシールドを抜けないのは先程のモンシア機との交戦で確認済みだ。

…構わない。照準を少しずらし、発砲。

案の定、此方の射撃はシールドで防がれてしまった。キャノン機の損害はほぼゼロ。

 

でも、その後ろの機体はどうかな?

 

先の戦闘で撃破したジムに向けて、緑の閃光が吸い込まれるように命中。ジムの機体に命中したビームは鋼鉄の機体に食らいつき、燃料に引火。

爆発。あたりを黒煙がおおいつくし、アデルの駆るキャノン機は視認できなくなる。

融合炉に誘爆させるつもりだったが、どうやら機体の当たりどころが悪い。大きな爆発は起きなかった。

爆発に巻き込むつもりだったが…

終わりだ。ビームライフルの弾は後一発。これでは撤退したとしても、キャノンに狙い撃ちされて終わりだ。いやそもそも自分の機体は射界を確保するために上空に飛んでいる。着地した瞬間には煙は晴れ、下にいる2機に狙い撃ちされるだろう。

 

あぁ、ここで終わりか

 

頭が真っ白になる。

そう思うと、不思議と怖くはなかった。どうにも生に執着しないタイプだと、自分でも思っていた。

 

でも、頭に思い出されるのは、彼の言った言葉

 

お前は前の人格に負い目があるのだろう?なら逆にその体で人生を楽しめ!

俺は地球連邦政府を転覆させる!大革命だ!これまでだれも成し遂げてきたことがないことをする!いや言いたいのはこうじゃ無いな。わるい。

ああもう!何が言いたいかと云うとお前を幸せにしてやるってことだ!

 

自信満々に言う姿は、今の私には眩しすぎて…

 

いや諦めてたまるもんか!こんなところで死んでなんかられない!元のクーディにも謝れてない!何より彼の行先を見ていたい。あと、私にもう一度のチャンスを。

 

一気に血が周り、視界がクリアになる。モニターには見えない。見えないはずだ。なのに地上の2機の動きが分かる。黒煙の中の人影すらも手にとるように分かる。

何故か自分でもわからないが、はっきりと見えないはずのキャノン砲がみえる!本体の盾だけでは防ぎきれない。その大きな砲塔は…!

 

「当たって…!」

 

引き金を絞り、ガルバルディのライフルの銃口から熱源が発射される。常に位置が変わる。落下しながらの射撃だ。高難易度当たる筈のない周りを見れば大勢がそう答える。が、彼女にははっきりと見えていた。

 

それは必然か

 

過去の様々なエースパイロットたちは、射撃に優れていたから、格闘の当て感が優れているからエースなのか? 

否。強烈なGに耐えられるから?それらだけでは無い。生への執念。それらが合わさる事によって、エースパイロットの扉は開かれる!

ではさらに上のニュータイプは?

ニュータイプの観測されている能力。 超人的な直感力と洞察力を併せ持ち、空間認識能力を事項に付け加えたのならば?

 

その一撃は必中の一撃となる!

 

 

 

 

「くっ、こうも視界を遮られてはキャノンが!だが落下地点は予想できる」

 

煙で見えなくとも、落下位置は予想できる。伊達に長く戦場に居ない。アデル中尉の駆るジムキャノンが、予想地点に砲塔はを向ける。

こんな黒煙の中こちらの位置は分かるまい。モンシア中尉がやられたのは誤算だが、確実に仕留める。

 

「終わりだー…なに!?馬鹿な!こちらの位置は見えない筈だ!この煙の中で!見えるはずが!」

 

深翠の高熱原体が、構えていた砲塔を食い破る。

誘爆。急いでキャノンを切り離し、たが間に合わない。ジムキャノンのキャノンはバックパックに近い位置にある。弾薬もだ。激しくきりもみしながら前方に投げ出される。コクピット内に破片が飛び散り、四肢を傷つける。18mもの巨大な物体が横転したのだ。ただでは済まない。パイロットの身体は激しくシェイクされ、頭部を強く打つ。

 

「…ばか…な…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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ジオン公国から共和国に?おいおい滅んだわあいつ

「やった!」

 

これであとは逃げるだけ!急降下する機体の中彼女は暴れる機体をどうにか制御していた。

ビル群の死角に足を下ろす。スラスターを吹かし、斜め前のビルに着地。さらに前へ。脱出ポイントまでの距離を詰める。

 

「追わないでくれるといいのだけど……」

 

高速離脱中の機体から後方を確認する。どうやらこれ以上追手は来ないようだ。

安堵のため息を吐く。時間は稼いだ。後は離脱するだけ操縦桿を握りしめて、思い切り足元のフットペダルを踏み込む。

 

「どうやら。今回も勝ちみたいだね。ユーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

「アデル!モンシア!生きているな!」

 

サウス、バニング中尉は自分の小隊を確認する。手ひどくやられた。

損害を確認する。屈指の激戦であるソロモン攻略戦やア・バオア・クー攻略戦の中においても、1人の戦死者も出さずに終戦まで戦い抜いたことに由来する。この不死身の第四小隊が…

酷い有り様だ。モンシアのやつは……無事だな。胴体部以外の損傷が酷いが、重要な部分は守り通している。本人も別状は無さそうだ。

モンシアをアデルの方に救援に行かせる。逆にアデルのやつは生死不明だ。一番損傷が大きい。弾薬と燃料が詰まったバックパックに、直撃をもらってしまった。無事だといいが…

 

「ここら辺が潮時か、ベイト。アデル、モンシアを連れて離脱だ。急げ!」

 

「バニング中尉!しかし敵は一機で連戦に次ぐ連戦。弾薬も尽きているはず!今追撃すればやれます!」

 

「先程メインのドッキングベイから、出入り不可能との連絡が来た」

 

「…?増援がないというのは承知しました。ですが敵の弾はない。機体性能がジムとは比べ物にならない!あの機体が敵の手にそのまま渡れば…」

 

「ベイト!頭を冷やせ!…あの敵はどこからきたのか、そしてどこへ逃げたのか。あの機体は高性能だが、単独では長距離を移動はできない。回収隊がいる。追撃を仕掛けて、その先には待ち伏せ隊がいる。俺の感がそう言っている」

 

「…くっ。このままやられっぱなしか!」

 

バンッと何かを叩く音が聞こえる。ベイトがモニターを殴った音だ。

 

「…悔しいのは俺も同じだ。この件は上に挙げておく。敵の新型モビルスーツ性能差。それでコーエン将軍の方にも伝わるだろう。俺たちの任務はここまでだ。モンシアとベイトを回収して離脱する」

 

「…了解」

 

不服そうなベイトを連れ、モンシアとアデルの回収に向かう。満身創痍のバニング隊、とは別に追撃を仕掛ける部隊もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホテルコントロール。ホテルコントロールこちら、ウィスキー1。ウィスキー1。ジム3機がガルバルディの後方5000を追尾中。攻撃許可求む」

 

『ウィスキー1こちらホテルコントロール。こちらでも確認した。ポイントにつき次第攻撃を開始せよ』

 

「ウィスキー1了解」

 

ユーセル中佐麾下の機体3機が、敵の接近経路上に待ち伏せをしている。ウィスキー1が隊長機、それ以降が2と3らしい。

三機それぞれのポイントを通過した際にいつでも攻撃できる体制だ。

 

「ウィスキー小隊各機。攻撃開始」

 

『ウィスキー2了解』

 

『ウィスキー3了解』

 

待ち伏せ側攻撃開始線をジムが気づかず超えた時、三機は一斉にそれぞれの火器で襲いかかる。

離脱してきたガルバルディの追撃隊三機の内の一機。隊の後方を前進してきたジムをサーベルで後ろから貫く。

引き抜き、距離を取る。と、同時に爆発。スペースデブリを明るく照らす。

慌てて他の二機も気づくが、遅い。ウィスキー2とウィスキー3がそれぞれビームバズーカで応戦。

 

『貰いだ』

 

二機が放った弾は、対応できていないジム2機に吸い込まれるように命中。誘爆。撃破。

残るのは味方のドム2機と、物言わぬジムの残骸のみ。

 

「ホテルコントロール。敵は撃破した、追敵もない。ジュリエット1…ガルバルディを回収して帰投する」

 

『ホテルコントロール了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死身の第四小隊は追撃にこなかったか……」

 

ティべ級の艦橋に立ちながらこの艦隊の司令ユーセル中佐はつぶやく。

眼下には、帰投するドム3機が映る。

彼らの報告には撃破したのは通常のジムばかりで、改良型のジム改はいなかったそうだ。

未来の原作開始のことを考えると、アルビオン隊の戦力を削っておきたかったが……

それに……

 

「コーエン将軍を逃したのは大きかったなぁ」

 

彼を逃したおかげで、ガンダム開発計画は続行。(今から実行されるかは分からないが)ガルバルディの性能、あの一瞬で機体の後ろを取れる。性能の鱗片を敵も感じたはずだ。この技術差、連邦はこれを埋めるために必死になるだろう。

 

「まぁ、その差は元々敵は知っていた。こちらもガルバルディの性能を知れただけでもよしとしよう」

 

まぁどうしようも無いことはどうしようも無い。頭の片隅に入れておく程度でいいだろう。

そんなことを考えていると、ブリッヂに繋がる扉が開き、今回の小隊長が鞄状の端末を持ってきた。

 

「……問題はこれだな」

 

「中佐。これが手に入りましたデータになります。全部とはいきませんでしたが、8割ほどの情報は抜き取れました。」

 

「わかった。ご苦労。下がって今回作戦に参加したものは休め」

 

「了解しました」

 

小隊長を下がらせて、受け取った分厚い端末を受け取る。ずしりと重い感覚が持った瞬間伝わる。どうも軍隊の物品は頑丈さを求めて大きくなるのがいけない。オペレーターに渡しデータを表示させる。

 

「すごいな」

 

オペ子に奪ったデータを表示させた瞬間、膨大なモビルスーツのデータ及びモビルアーマーの情報が濁流の如く表示される。

それこそザク1からガルバルディまで

 

「はい、司令これほどの情報があれば、一からモビルスーツを作れるぐらいです。それこそジオン再興も夢じゃありませんね!」

 

オペ子が興奮したように、こちらに話しかけてくる。たしかにこのデータがあればいくらでも作れる。まぁ問題は……

 

「そうなんだけど…問題は金がなぁ」

 

「あぁ……実質無一文ですもんね私たち。こんだけ設計図があってもこんな高価な物大量に製造できないですよねぇ」

 

問題は金と資材である。茨の園ができたのなら資材はなんとかなりそうだけど、デラーズ閣下に甘えるのもちょっと、って感じだ。あちらも規模は大きいが、更に我が艦隊規模を加えてモビルスーツ製造は厳しいのではなかろうか?原作ではドラッツェとか製造していたからいけそうではあるが……でもあれも完全新規の機体ってわけではなくて、胴体はザクのパーツを使い、脚部にはガトルのスラスターを付けた簡易MSで、哨戒程度しか出来ない。直線加速はなかなかのものだが、そんなに使い勝手いいわけでは無い。宇宙でしか使えないしな。

 

「はぁ…どこかに金塊でも落ちてて、簡単にモビルスーツ作らせてくれるとか無いかなぁ」

 

「司令。疲れすぎですよそんな都合のいいとこあるわけじゃ無いじゃ無いですか、ジオニック社もツィマット社も金がないと、作ってくれないですよ、流石に」

 

「そうだよなぁ。そもそもその会社ももうそろ連邦に吸収される運命だろうしなぁ」

 

ジオニック社とジオニック社はジオン公国、お抱えの軍需産業の会社でそれぞれザクとかドムとかを製造している会社だ。それぞれライバル関係で、モビルスーツの開発でやり合っている仲だ。

ジオンのモビルスーツの大体の製造はこの2社が手がけている。

ため息をつく。うまくいかないもんだなぁ。これだけのデータがありながら、何もできない。

 

「ん?吸収される?まだされてませんよ?あの2社は軍需会社ですけど軍と同じ扱いじゃないです。軍なら戦犯で問答無用で戦犯ですけど、その会社はあくまで、国に所有されている会社で、強制押収はできません。接収というより売却という形で連邦傘下になるでしょうしね」

 

「いまはまだジオン公国の傘下だし、お願いしたら作ってくれないかなぁ」

 

「無理でしょうね。ア・バオア・クー戦の後で、ジオン公国の不利な状態です。しかも我々の海賊騒ぎや今回の騒ぎで、不安定な土台が崩れかかってるんです。これ以上継戦の疑いが掛かるようなことは避けなければいけないでしょうね」

 

「……うっせ。いってみただけだよ」

 

「……やけにならないでくださいよ。ただでさえジオン本国が解体されて、共和国になろうとしている動きがあるんです。そんなんじゃ艦隊に動揺が広まってしまいます」

 

「……なに?初耳だぞ」

 

「今日の日刊です。出撃部隊にお願いしておきました」

 

「……抜かりないなお前」

 

えっへん、とでも聞こえそうなポーズで胸を張るオペ子。なかなかやるなお前。受け取った新聞を受け取り、広げる。

見出しはと、

 

「ジオン共和国としての新たなる一歩!連邦政府との休戦。宇宙世紀0080年1月1日、グラナダにて終戦協定、か」

 

新聞で見ると、負けを自覚してしまうな。ジオン公国軍人としては残り数週間か。この記事を見るだけで、いろいろな思い出が蘇る。今まで戦い抜いてきた記憶。艦隊も大きくなった。俺は、戦うことを決意した。だが部下達はどうか?これを見せたら離反していくものも出るだろう。

とはいえ伝えないわけにもいかない。

 

「これを艦のみんなに伝えますか?」

 

「……あぁ、わかってるよ。国は降伏した。艦を降りるものは民間人になる。被害を受けるのは軍人だけで十分だ」

 

「……司令」

 

静けかえる艦橋、空気が重くなった気がする。そう、心配そうな顔で見るなよ。騙し騙しやってきたが、ここが潮時かも知れない。まだまだ戦闘を続けるだけの力は残っているが、今がピークで、これ以降は下がっていくばかりで回復の見込みはない。補給も断たれ、国も負け公国から共和国になり、連邦に降伏した。モビルスーツのデータというなんとかできるかも知れないという希望を見せられた後で、この事実は、くる、ものがある。

 

「ユーさん。ただいま!」

 

その中ブリッヂの扉が開き、一人の少女が入ってくる。

クーディだ。帰還して、医務室の検査が終わり、艦橋に登ってきたようだ。

 

「クーディ!無事でよかった!怪我ないか?」

 

先程のことはとりあえず脇に置き、今は彼女の帰還を喜ぶ。彼女には無理をさせた。

帰還した彼女の元に駆け寄り、その小さな身体を抱き止める。

 

「よしよしどうどう。ほーら大丈夫だよ」

 

「ごめんな。無理させて。怪我なかったか?」

 

「全然!むしろ役に立てて嬉しいよ」

 

彼女は、ゲガをしてないというように体をくるりと回し、ニパーと笑った。

彼女の体を上から下に観察する。

ほっ、安堵の息をつく。とりあえずどこも怪我をしたりしてはいなそうだ。

 

「……そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど」

 

ずっと眺めすぎだようだ。顔を赤くしてそっぽをむかれた。

慌てて謝る。

 

「悪い」

 

「……別に構わないよ」

 

そら好きでもないやつに、ジロジロ見られるのも気分が悪いだろう。

少し気まず気持ちになったが、彼女はモニターに展開しているデータに気付いたようだ。

 

「うわー。すごいものだね。これだけのデータが有ればモビルスーツ作り放題じゃないの?」

 

「それがそうでもないんだよ。データだけじゃ資源がないと」

 

「へぇーでもお金があれば作れるんでしょ?前ユーさんに借りたゲームだったら店のおじさんにお金渡すだけで、戦車とか作ってたよ?」

 

「……そりゃゲームだからな」

 

ちなみにそのゲームは昔の第ニ時世界大戦の時の戦争を追体験できるものだ。ちなみに俺は独裁者のいる国を選んでプレイしていた。戦車とか強いし、最初から落下傘部隊を作れるからいいんだよな。かなり重宝していた。

 

「そうなのかい?意味がないの?」

 

「意味がないわけじゃないけどなぁ、そら金だけ渡して作ってくれるところがあったら助かるけどな……って、ん?」

 

「どうしたんだい?」

 

なんか引っかかる。いるんじゃないのか?金を渡すだけで武器モビルスーツを作ってくれる所が、この時代に。いやもう少し先か。死の武器商人。そんな企業が。どうして忘れてたんだ。今まで申請するだけでモビルスーツが手に入る軍という環境にいたから忘れていた。

 

「オペ子。さっきの新聞貸してくれ」

 

「?はい」

 

「さんきゅ」

 

企業一覧。これであの会社がなかったら終わりだ。いや確実にいるはずだ。

新聞を探し、しばらく経つ。

 

「……ははっいけるかもしれない。金もモビルスーツ製造の環境も一気に手に入る方法!やったぞ!クーディナイスだ!」

 

「えっえっ?そりゃよかった。……ちょっと振り回さないで」

 

テンションが上がり、クーディの両手を掴み、ブンブンと振る。

その拍子に新聞が彼の手から落ちる。

その新聞の夥しい文字の中にはA.Eという文字が踊っていた。

 

 



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変遷

「この情報を全世界に配信する。……いや我々の仲間に、かな?」

 

 悪魔のように、目の前の男は囁いた。

 ユーセル中佐率いる艦隊諸軍は、終戦条約から数日。()()()()()()()()()()()()()に再度訪れていた。前回の招かれざる客とは違い、客人としてだ。

 

「……」

 

煌びやかな装飾品。腰掛ければ沈むようなソファ。所々に客ももてなす為の心使いが観て取れる。国賓を元々は受け入れるための部屋だ。

相対するのは、ジオン公国軍の宇宙突撃機動隊中佐の階級章をつけた男。本来なら中佐程度の軍人が入れるような場所ではない。

もてなしている側の男、ダルシア・バハロ。肩書きとしてはジオン公国の首相だが、実質的な権力はなく、デギン公王と共に象徴として置かれた傀儡に過ぎない。宇宙世紀0080年1月1日に共和国の首相として地球連邦と終戦協定を結ぶ。

そんな男が一介の軍人を相手にしているのはひとえに手元の情報の重大さ故にだ。

40過ぎの男_ダルシア・バハロがわなわなと肩を動かしながら、呟かように口を開く。

 

「……何故だ。君もスペースノイドだろう。あまりに……このようなことをされてはサイドは、いやスペースノイドの民は滅ぶ」

 

「なに、簡単なことさただ我々に少しだけ、ほんの少しだけ融通してくれればいい。それだけのこと」

 

「虚仮ににするのも大概にしろ…いくら分野外の方でもこの案件の価値ぐらいわかる!その価値もな到底今の我々が出せる額からはとうに過ぎている」

 

愕然としてほとんど悲鳴のような声を漏らす男に、客人ユーセル・ツヴァイは無表情のまま佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

時を少し戻す。

目の前に広げられているのは一枚の新聞雑誌だ。

ジオン共和国が、ある企業の株式取引の文字がデカデカと踊っていた。

 

「これがどうかしたのかい?」

 

「まぁ……ただの記事だよ」

 

新聞を見ている彼に、そう問いかけたのはクーディだ。戦闘が終わって、ふらふらと手持ち無沙汰そうにしていたので、艦橋に遊びに来たのだろう。

 

「まぁ、何でもない情報の一つですね。()()()()だったら」

 

「……?」

 

そう呟いたのはこの艦のオペレーターのオペ子だ。先程まで気難しそうな顔でルービックキューブをいじっていたが、完成したらしい。

傍らに置かれたそれは、綺麗に面が揃っていた。

 

「どういうことだい?」

 

「……そもそもジオンという国は負けて、戦時債務というものを抱えているこれは分かるか?」

 

「まぁ分かるけど……借金みたいなものだよね?」

 

「そうだ。それも膨大_って言い方もアレだな。ジオンのしたことから見ると最小限の額だが、決して小さくは無い負債だ」

 

「うん」

 

「財政的に緊迫していた連邦政府はジオンを吸収することができなかったんだ。開戦前のように併合すると、ジオンは連邦の一部だ。ジオンの負債は連邦政府が払わなければいけなくなってしまう」

 

「でもジオンの名前は残っても、莫大な負債は残ってるね」

 

正解だ。と褒めるようにクーディの頭を撫でる。

あんまりいい話ではないが、一般ニュースに載っている情報だ。いずれ知られる事だ。

 

「そうだな、だからその負債をどうにか出来る程の価値のあるものを売却するしかない」

 

「でも、資材や小惑星だって殆ど今回の戦争で連邦に占領されてるって聞いてるよ」

 

やはり彼女は聡明だ。10代半ばですぐにこの考えに至るやつはなかなかいないだろう。思わず口元が緩みながら、さらに続ける。

 

「いいや、ジオンにしかないある()()があるのさ」

 

「それって」

 

 

「ジオニック社の技術企業の売却だよ」

 

 

 

 

 

 

 

「虚仮ににするのも大概にしろ…いくら分野外の方でもこの案件の価値ぐらいわかる!その価値もな到底今の我々が出せる額からはとうに過ぎている」

 

「ならば仕方ありませんね」

 

俺が考えたのは、手に入れたザクからMAまで様々な機体の設計図。そしてその使い道。これさえ有ればちょっとした資金と資材を持っているだけで、戦争を仕掛けられるようになる。モビルスーツを手に入れられるのだ。

そんな物を横から売却先の企業に安く渡したら?もしくはただ同然で売り払ったら?

ジオニック社に価値が残らないとは言わないが、話は変わってくるだろう。技術者のノウハウなどは手に入るが、機体を作って運用すれば、何もジオンの人間を雇わなくても済む。作って動かしてみるだけで問題点はすぐ出てくるだろう。

_そしてそれはジオニック社を売却して、国の負債に当てようとしているジオンにとって面白くない。

 

「ではアナハイム・エレクトロニクスに売りに行きましょうかね。彼方の方が高く買ってくれるでしょう」

 

「アナハイム・エレクトロニクスとは密約をもう交わしている。後は渡すだけだ。今更変更はできない……」

 

「そうなのか?じゃあ別の方法を取るよ。このデータを全世界にばら撒く。価値は無くなるだろうね。何簡単な要求だ。ジオニック社を売却した資金の半分を我々に譲って頂きたい。」

 

もちろんはったりだが、相手にとっていたい手には変わらないだろう。

こちらにもうけがない。恨みを買うだけだしな。

しかし考えていなかったわけではない。数年後のジオンは何故あんなにも苦しんでいたのか、補給がなかったのもあるが、新しい機体を用意できなかったからだ。しかしこれを残党やマンハンターに追い詰められた人たちに配るだけで。ちょっとの資金と資材が有れば……モビルスーツを使ってくるテロリストの大量発生だ。連邦政府はその対応に追われて復興も、遅れる事だろう。

どちらにしても、得はある。損も大きいが……

 

「取引はしてもらっても良い。その後の資金を融通してくれるだけで良いのだ。全部取るわけではない」

 

「……わかった。前向きに検討する。後もう少しだけ時間をくれないか」

 

こちらが本気だということが伝わったのか、ガクリと項垂れジオンの国家元首は絞り出すような声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

「いやー上手いくいったな」

 

「いつかユーさんは後ろから刺されると思うね」

 

「怖いこと言うなよ」

 

はぁ、と溜息をついてくる。クーディ。無事交渉を終わらせて、艦に戻ってきた。後はジオンとアナハイムが取引し終わった後に受け取れば良い。

どうにもやり方が悪かったが金はあるところからむしり取らないとな。

 

「それにアナハイムだけが買い取り先ということもないだろう」

 

「どう言うこと?」

 

「考えてもみろ。ジオンの技術は10年は進んでいる。その技術をただの連邦の下請け企業のアナハイムが獲得して、ハッピーエンド。ってなわけにも行かんだろう。必ず連邦が介入してくる」

 

「じゃあ連邦に交渉に行ったが良かったんじゃあ……」

 

「アナハイムも負けてないさ。あの連邦軍の下請けといってもこの一年戦争で大幅に利益を上げている急成長企業だ。資金も負けてないだろうな。株価見てみろ?すごい右肩上がりだぞ」

 

「あんまり株は分からないよ」

 

「見ておいた方がいいぞ。だいぶ儲けた」

 

転生者とは便利な物である。これから上がる会社がわかるんだからな。

まぁ、かけてるのはアナハイムだけではないのだが。個人の資産なんて高が知れている。

 

「資金は手に入った。あとは新技術だな」

 

「今回手に入れたデータじゃダメなの?」

 

「まぁ、いけなくはないが、運用には長けた奴らはいるが、開発陣はいない。だからアクシズとの連携を取ったわけなんだが、生産拠点がなぁ……まぁ」

 

そこら辺はデラーズ閣下にお願いすればいいだろう。

問題は山積みだ。だが目処は立った。後は連邦政府を潰すだけだ。

思わず口元が緩むのを感じる。

ここからだ。やっとスタートラインに立てそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁニナさん!調子どう?」

 

そう笑って、アナハイムの上位の指にはいる聡明な女性に声をかける。

ニナ・パープルトンさんだ。ガンダム1号機・2号機の開発に携わっているアナハイム・エレクトロニクスのシステムエンジニアで、一見清楚に見えて実は結構な変人気質である。

 

「あら、ユーセルさん。ガンダムの操縦テスター抜擢されたそうでおめでとうございます」

 

「いやいや、どうにもみんなの力がないとここまで来れなかったよ。今度こそはガンダムを完成に」

 

「はい。私のガンダムも完成に近づいています。ドム系統の技術を盛り込み、2号機は完成に近づいています。装甲を増した事による機動力の低下それを見越しての提案、そして関連技術者の引き抜き。とても見事な手腕でした。本当に外部引き抜きの技術者とは思えないくらいですわ」

 

「はは」

 

ずい、と体を接近させそう語ってくれるニナさん。女性の香りにドギマギとしつつ笑って流す。毎回褒めてくれるが、大したことはしていない。俺に技術は無い、だが提案問題点を見つけれるアイデアは挙げられる。あとはそれを実現できる技術者を連れてくるだけだ。

あの件からしばらく経った後、俺はアナハイムに入社していた。

今やアナハイムは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けている。

 

(スプーンから宇宙戦艦まで)

 

そのキャッチフレーズは伊達では無かったらしい。様々な分野に顔を出し、今やアナハイムの製品を店で見ない日は無いほどだ。

そしてもちろんモビルスーツも……

 

「じゃあ自分は、これで」

 

「あら、分かりました。今度ガンダムの事で意見交換したいのですが、暇な時間ありますか?1号機の事で意見を聞きたくて……」

 

「ガンダム2号機の方で手一杯でして、またの機会に」

 

「そうですか……」

 

少し肩を落とす彼女。どうにも心が痛むが、連邦の機体は専門外だ。ボロが出てはいけないので、毎回断っている。ニナさんは美人だし凄い心惹かれるんだけどなぁ……ちなみに断られなくて一回だけ参加したが高度すぎてついていけなかった。延々とこの動力はこう、アンバックシステムの過去に不備があった事案。まじで長かった。この女モビルスーツにしか興味ないんじゃ無いだろうか。

軽く手を振り移動する。大きい会社だ。長い通路を通路に備え付けてあるグリップを握り、格納庫まで到着。格納庫は重力が1Gよりも遥かに下だ。体が浮き上がるように機体の前に出る。

 

「ガンダム2号機0083の始まりとなった機体……」

 

俺は今ガンダム2号機の開発に携わっている。連邦軍の機体ということでうまく行かないのでは無いかと、心配していた。ジオン系列の技術を使っての機体ということもあり、慣れた技術を大いに使いなかなか良い出来に仕上がった物では無いかと思っている。しかもホバーだし、実質ドムである。

 

「さて、逃げてきた訳だが特に用事は無いんだよなぁ」

 

「あ、ユーセルさん」

 

「オービルか、調子どうだ?」

 

「ぼちぼちですね。今週末に控えている。ガンダムの実戦データ収集の為に少し気になることがあって」

 

「そうか。真面目だなぁおまえ」

 

「いえ自分がジオンの役に立てる機会です、一生懸命やるだけですよ」

 

そう言って引き攣ったような笑みを浮かべるのは、ニック・オービルジオニック社の技術者の一人でガンダム2号機の開発スタッフの一員だ。

謙虚で良いやつなんだが、どうにも危ういところがある。腕は確かだ。

 

「少し手伝うよ。何をすれば良い?」

 

「では、シミュレーターになって軽く動かしてもらっても?どうにも動かすのは専門外で」

 

「了解」

 

2号機に乗り込み。軽くシュミレーターをして帰ることにした。

 

 

 

「ただいま」

 

「あ。お帰りなさいユーさん」

 

間借りしているアパートに帰ってきて早々、そう言って迎えにきてくれたのは、クーディだ。特にここ最近はすることもないし艦隊も今は潜伏期間に入っている。どうにも無いので、二人で住んでいる。

 

「今夜はカレーだよー。上手くいったから早く食べてみてほしいな」

 

「くうくう。やったぜ」

 

「はーい。もう並べてますからね」

 

「なんで分かったんだよ」

 

「そりゃあご飯作ってたら帰ってくる姿が見えたからね。準備しておいた」

 

ここから帰り道の道路が見えるのは500は先で。ほんの一瞬しか映らない。もしかしてずっと見てたのだろうか?

 

「……ほら早く」

 

「はいはい」

 

顔を背けながら、背中を押してくる彼女。

 

「…ふっ」

 

「……なんでわらったんだい?」

 

「いや別に」

 

思わず口元が緩む。狭い玄関を抜けて、居間に入る。

机の上にはカレーが並んでいた。湯気が立ってとても美味しそうだ。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

二人で手を合わせて、カレーを食べる。

うまいわ。

 

「ガンダムの方は上手く行きそう?」

 

「まぁ、後少ししたら、納品だな。近々地球に降りるらしい」

 

「へぇ、遂にか」

 

「俺も行くだろうな。地上部隊とは連絡も付いてる後は仕上げを待つばかりってね」

 

「本当にやるんだね。別にこのまま月で暮らしても良いんじゃ無いかい?」

 

「言っただろ?前からの計画だ。今更辞めるなんてできないさ」

 

彼女はただ一言だけ俺の名前を呟いて、口をつぐんでしまい、この後の会話も返事らしい返事は聞こえなかった。




やっと0083に入れそう


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番外編
月の合間。シーマ・ガラハウとの接触


リリー・マルレーン聴いてたらふと思い浮かんだ。妄想です。シーマ様がでるギャルゲー欲しい


 

宇宙の何処にでもある暗礁宙域。連邦の目から隠れる様に潜むザンジバル級とティベ級が横に並んで停止していた。ティベ級の名をニュンペー。そして、ザンジバルの名をリリーマルレーンと言った。リリーマルレーンの艦内でそれぞれの艦の艦長達は、ブリッヂで向かい合っていた。

 

「あん?海兵隊に仕事の依頼だあ?わざわざシーマ艦隊まで来て、言いたいことはそれかい」

 

形のいい眉を釣り上げて、訝しげな視線を向けるじゅく……美女。シーマ・ガラハウ。

一年戦争開戦直前に編成されたキシリア・ザビ配下のジオン公国軍突撃機動軍海兵隊に、遙任の艦隊司令アサクラ大佐の代理司令官として配属。

麾下艦隊は、「シーマ艦隊」の通称を得て、一年戦争時は主に破壊工作を行っていた。

ちなみにこの女性。最近顔の小皺が目立ってきたのが悩みらしい(オフィシャル)

 

「なめんじゃないよ。ここはこのあたし筆頭に、ならず者の集まりさね。あんたらジオンの奴らから爪弾き者にされた奴らのね。それに今更仕事の依頼だぁ?」

 

「ああ。麗しきシーマ・ガラハウ率いるリリー・マルレーンに用があって来た」

 

「ふん。煽ても無駄だよ。……帰んな。一瞬でも聞こうと思ったあたしが馬鹿だったよ」

 

興味を失ったと言わんばかりに目線をそらし、手に持った扇子でしっし、と払われた。早速にべも無い。

 

「まぁ。ちょっと焦りすぎたな」

 

「焦りも何もないよ。コッセル。お客さんはお帰りだ」

 

「そう慌てないで、手土産を持って来たんだ」

 

「……手土産ぇ?あたしはおせっかいな男は嫌いだよ」

 

にべもない態度なのは変わらなかったが、視線だけ此方にやり期待した様な目のシーマ。その期待に応える様に、俺は後ろに控えにいたクーディから箱を受け取ると、堂々と言い放った。

 

「まず首、肩、腰に効く全自動マッサージ機」

 

「……まぁ。パイロットやってると首や肩が凝るからねぇ。助かるよ」

 

訝しげにしながらも、素直に感謝するシーマ。成功の様だ。

 

「その次に月で流行ってるお茶。とその茶菓子」

 

「へぇ。分かってるじゃないか。なかなかこんな生活だと、甘味は贅沢品だからねぇ」

 

感心した様にうんうん、と頷くシーマ様。美人はずるい。綺麗な女性がそういう動作をしているだけで絵になるから。そして最後に、

 

「そして最後に、30代から始める基礎化粧品の無料サンプルを__」

 

「ぶつよ」

 

目がガチだった。ざわざわ、と困惑する様に、にわかに騒がしくなる艦内。シーマは艦長席から立ち上がると殺気のこもった目で此方を見下す。しまった飛ばしすぎたか。

 

「前言撤回だ。やっぱり返さないよ。あんたはここで__」

 

「今夜は返さないって?え?……いいんですか?やった。艦隊の皆んなと相談しないと」

 

よっしゃとガッツポーズをとり、喜びを表現する。それを見てシーマは訝しむ視線をむけ、何か閃いたかの様に顔をはっ、とさせた。

 

「あん?……いや。美しいとか言ってたし、そういう話かい?」

 

「……?そりゃ。その(仕事)話しかないでしょう。長引かせると心配させるし、最悪朝までかかるかも」

 

「あ、朝まで?やるもんだねぇ。……ここにはそのつもりでここに?」

 

「はい。元々その話で来たんですからね。お互いの(戦力)を詳しく知らないと」

 

「そ、そうかい。あけすけだね。そういうのは風情がなくて嫌いだよ」

 

「風情も何も。ようやく……ようやくシーマ艦隊の居場所を見つけられたんです。本当に長かった」

 

連邦の哨戒網を潜り抜け、神出鬼没のシーマ艦隊を探し出すのにどれだけかかったことか。本当に苦労した。あの時の思い出を噛み締める様に、感極まって目を瞑り上を向く。見えないが、シーマが艦長席で毒気を抜かれたようにため息を吐く気配がした。しばらくの沈黙の後、

 

「……まぁ。良いや。言ってみなよ。いきなりってのは嫌いだよ」

 

「いきなり?」

 

「あんたいきなり。本番に行こうとするつもりだったのかい?呆れるねぇ。よほど女の扱いを知らない様だ」

 

疲れたと言わんばかりに席にドサと座り込むと、手に持っている扇子を広げ口元を隠す。先程とは打って変わって此方を見定めてくる様な目線を向けてくるシーマ。挑戦的な目の奥で、暗黒の様なヘドロが透けて見えた。よく見たことがある目だった。敵の大部隊が四方を囲んでいると無線で流れた時。もう弾がないと言われた時。足の指をタンスの角にぶつけた時……諦観。諦め。もうどうにでもなれと、世界を呪っている者の目だった。

それを利用しようとする自分の汚さを自覚しつつも、勤めて声のトーンを平坦を保つ。

 

「とりあえず、地球に降りようと思ってる。目標はキャルファルニアベースがいい」

 

「いきなり地球かい?まぁ。あそこは海が綺麗で、海鮮も有名らしいね。宇宙暮らしには中々縁が事ないところだ。良いじゃないさ」

 

海鮮?なんで海鮮が関係あるのかわからなかったが、まぁ海兵隊にって言うぐらいだし、海に並々ならぬ興味がありそうだ。話を続ける。

 

「あぁ。降下したらまず観光も良いかもな。中々行けなくなるし」

 

「……それ以外に何があるってんだい?それに中々行けない?」

 

ん?と訝しむ様に此方をみる彼女。その視線に気づかずユーセルは先を続ける。

 

「あぁ。まず見るのは宇宙に打ち上げるためのマスドライバーだ。これを真っ先に目指す」

 

「……呆れた。あんたなっちゃいないね。このシーマと行くのにいきなりそんな何処にでもある様な、マスドライバーに連れてくのは違うだろうに」

 

はぁ、と期待していたプランでは無いと言わんばかりに否定を示し、シーマは首を振った。艦橋にいたコッセル達も「あぁん?」とでも言わんばかりの否定的な視線を此方に向ける。

 

「コッセル。キャルファルニアベースの地図を出しな」

 

「了解です。シーマ様」

 

シーマが艦橋にいたコッセルに指示を出し、該当地区の地図をモニターに表示させる。

 

「まずはここさ。この街に行く」

 

「街?そんなもの_」

 

行く必要がない。と続けようとした所で、シーマがちっちっち、と人差し指指を左右に振った。

 

「甘いね。あんた……えーと」

 

「済まない。名乗るのが遅れた。ユーセル。ユーセル・ヅヴァイ。階級は中佐」

 

「あたしはシーマ。シーマ__」

 

「知ってる。シーマ・ガラハウ。階級は中佐。戦時中56機もの撃墜数を誇り、ジオン軍が誇るトップエース。主に潜入、破壊を得意とする海兵隊の司令で、麗しき女兵士」

 

今度はこっちが遮る番だった。スラスラと此方が知っている情報を喋ると、シーマは驚いたように此方を見つめていた。

 

「詳しいね。まぁわざわざ訪ねてくるんだ。そのくらいは知ってそうなもんだね」

 

「ええ、貴女の高名はずっと前から()()()()()()

 

「高名ね。何やら深みが有りそうじゃないか?あんたも他の奴らと同じように海兵隊を見下してるタチかい」

 

「とんでもない!」

 

慌てて大声をだして否定を示す。見下すなんてむしろ逆だ。

 

「一番誉れ高いか部隊は何処かと聞かれれば、俺は間違いなく海兵隊と答える。汚れ仕事ばかり?言いたい者には言わせておけばいいんだ。己の手を汚す覚悟の無いやつの言葉だよ。それは」

 

少数精鋭的なイメージと実態、事実真っ先に危険な戦場に向かうのは海兵隊なのだ。そんな思いが伝わったのか、目をぱちくり、とさせ驚きの目で見てくるシーマ。しまった。言いすぎたか、と思っていると、シーマは豪快に笑い始めた。

 

「ははっ。いいね。あんたみたいな奴は初めて見たよ」

 

「そうか?」

 

「まぁ本心かはわからないけどね」

 

「む。本心だよ」

 

「ははっ。まぁいいさ。あんたも物好きだねぇ」

 

試すような物言いに、少し反抗しつつユーセルは己の本心を口にした。シーマはそれを受けてまた少し笑うと、目元に浮かんだ涙を人差し指で拭った。

 

「そうさね。話を戻そうか。まずはいろいろ見て回りたいねぇ。こことか街が多くていろいろありそうだ」

 

「……なるほど」

 

シーマがしめした座標は、連邦軍基地からほど近いかなり発展した街だった。このようなところに居れば作戦失敗のリスクが高まるのでは?とユーセルは思った。それを見透かしたのかシーマが言い募る。

 

「納得いって無い顔だね。人混みは嫌いかい?だがね。下手にここから離れちまうと見るもんが無くなる。この地点が何かと都合がいいのさ」

 

「事前偵察ってことか」

 

「野暮な言い方するねぇ。まぁいいさ」

 

ユーセルの物言いに、顔を顰めながらシーマは肯定した。

確かに襲撃前に敵の情報を集めるのは、基本だ。それをしなければ何事もうまくいかない。流石は歴戦の将だ。納得した。

 

「次は海を見たいね。水面に照らされる都市の灯りを見ながら、船旅ってのも乙なもんさ」

 

「!」

 

やっぱり海兵隊だ。偵察の次は潜入の経路まで考えている。確かに夜の暗い海側から侵入する影は見えにくい。迷いそうな時も、陸地の灯りを見れば迷うことはない。流石だ。

 

「なんか噛み合ってない気がするなぁ」

 

納得がいったようにうんうん、と頷くユーセルを見て、後ろに控えていたクーディがぽつりと呟いた言葉は、残念ながら彼の耳には届いていなかった。シーマも自分で言っているうちにテンションが上がって来たのか、説明する声に熱が篭ってきた。

 

「そして最後にここさ!」

 

「マスドライバー」

 

「帰りの足のこともある。それに知ってるかい?だいたいこういう施設には宿泊用の施設があって、夜景を一望することができるのさ」

 

「ん?夜景?宿泊?」

 

疑問符を頭の上にいくつも浮かべて、疑問を口にする。何が致命的に間違っているような……

 

「シーマ様に言わせんじゃ無い。それこそ野暮ってもんだろうが」

 

コッセルが無粋なと言わんばかりに肩をすくめ、リリーマルレーンの艦橋のメンバーも聞くんじゃ無いぞ。若造。と言わんばかりの視線を寄越す。針のむしろに立たされているような気持ちになりながら、一つの疑問を口にした。

 

「えーと、強襲作戦の話だよね?」

 

「またあんたは嫌らしい言い方するねぇ。普通に言いなよ。普通に」

 

「嫌らしいというか、ドストレートと言うか」

 

「呆れたねえ。これだけ言ってもわかんないのかい」

 

シーマは噛み合わない会話に苛立つ様に、手にしている扇子を手のひらで何回も叩く。ユーセルは確認する様に一つ一つ質問していった。

 

「えーと。じゃあリリーマルレーンの方お借りしたいんですけど」

 

「シャトルで行けばいいだろ」

 

「ゲルググも。こちらからもモビルスーツは出します」

 

「いらないだろ別に、邪魔だし」

 

「……?」「……?」

 

ようやく話が噛み合ってないことが伝わったみたいで、2人はしばしの沈黙の後言った。

 

「あーお互いに何言ってるか言い合いません?」

 

「そうさね」

 

___。

 

ぶたれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




??「何だい。またきたのかい。はぁ。もうくるなと言ったんだがねぇ」
??「……あ?機関長が通してくれた?ちっあの耄碌シジイめ」
??「コッセルもオッケーって言ってくれた?……おい。コッセル」
??「たく……露骨に目を晒しやがって」
??「またお土産持ってきた?」
??「……ぶつよ」
??「まったく……毎度毎度」
??「はぁ」
??「まぁいいや。……どうせ暇なんだろ?お茶でも飲んできなよ」


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月面での潜伏
アナハイム入社


思ったより月人気ありそうで困る(照
原作キャラアンチあり。飛ばす人は飛ばしてください


 

「おひさしぶりです!ユーセル中佐!」

 

「おお!ジオニックの主任!おひさしぶりです」

 

月のフォンブラウン、アナハイム・エレクトロニクス社の会議室にユーセルは来ていた。ジオニックの社員だった物も50人程が集まっていた。今日アナハイムから招集があり、集まっているのだ。

 

「まさかまた会えるとは。先日のア・バオア・クーでは激しい戦闘だったと聞いていたのですがね」

 

「残念ながら生きている。幸運だったよ。……あと、中佐は辞めてくれ。今はただのアナハイムの社員だ」

 

「……はぁ。どうして急に?そもそもアナハイムは最近の株価上昇で結構、入社倍率も高いはずでは?良く入れましたな」

 

訝しげな顔をして、こちらをみてくる主任。主任の疑問も尤もだ。最近まで軍人だった奴が、いきなり技術者として、自分と同時にアナハイムに入社するとは思いもしていなかっただろう。

 

「軍人を失業して老後が心配になってね。ジオニックに入社したんだよ。アナハイムに吸収される3日前にね」

 

「!?良くそんなこと出来ましたな。……まぁ良いでしょう。天下のアナハイム社だ。そう悪い扱いを受けるものでも無いでしょうしね」

 

片目を瞑り、愛嬌たっぷりにウインクしてみせる。ユーセルにとって茶目っけのつもりだったのだが、どうも不評だった様だ。主任は乾いた笑いを浮かべて、受け入れた。どうやら詮索しても無駄だと思われたらしい。ユーセルはそれはそれで助かるので、特に突っ込みはしなかった。

 

「そう言えば数が少ないな。前見た時はもっと多かった気がするが?」

 

「ここにいるのは移籍を断れなかった者たちです。他は連絡がつきません。どこで何をしているのやら……」

 

「そうか……」

 

周りと見渡す。前開発室にいた面子が大半だが、もっと数がいたはずだ。今この会議室には暗い顔をしている者。あとは、既婚者とかか?様々な奴らがいる。全体の絶対数は少ないが。

ジオニック社はアナハイム・エレクトロニクス社に吸収され、ジオニックの社員は強制的に移籍させられた。もし断ったとしても敵国のモビルスーツ開発陣だ。自由にこれまでの生活を送れるはずもないし、何かしらの監視か。連邦軍から最悪何かしらの刑をでっち上げられて捕まるだろう。おかげさまで途中入社として、試験もなしに入れたので、こちらとしては好都合である。

 

「まぁ。これだけいれば形にはなるだろう。おいおい考えればいい。これからよろしく頼む。ユーセルさんとでも呼んでくれ」

 

「あぁ。ユーセルさん。これからよろしく」

 

「よろしく頼む」

 

二人で握手を交わす。前途多難そうだが、やれなくはないだろう。これからのことに想いを馳せながら次を待つ。

主任以外の人員ともぽつぽつ話していると、こつり、こつりとブーツを打ち鳴らす音が扉の外から聞こえてきた。

皆私語を辞めて、部屋の中が静まり返る。

ブーツの主は、ジオニックの社員たちの前に回った。

鋭い切れ長の三白眼。まず印象に残ったその眼光とは裏腹にほおは膨らみ、ベルトから贅肉がはみ出している。背は低い。肥え太らせた豚に冷徹な知性を与えたらこの様な感じになるのではないだろうか。

 

「アナハイム・エレクトロニクスへようこそ。フォン・ブラウン支店のオサリバン常務だ。君たちの上司で、不安なことは有るだろうが安心して欲しい。これからの生活はアナハイムが保証しよう」

 

優しそうな声だった。声だけ聴くと良い上司といった様子だが、その眼光は、こちらを値踏みする様だ。嫌な目だ。ユーセルは思った。

 

 

 

 

 

 

オサリバンとの顔合わせを終え、事後の行動や月間予定行動など社のルールその他を指示され、その日は解散になった。初日ということで早めに切りあげ、明日からの仕事に集中してもらいたいとの事だ。今回のジオニック社の吸収で得たモビルスーツや技術をアナハイムで解明、動作点検等するのが主な仕事らしい。

アナハイム社はハービック社やボウワ社、ブラッシュ社など両軍の主要兵器企業を次々に買収し、地球圏の兵器開発・製造業をほぼ独占するそうだ。

リバモア工場など、多数の工場を保有したうえ、宇宙世紀0080年代にはラビアンローズという研究開発施設兼自走ドック艦を建造するとの話も聞いた。この初日ののんびりさは、アナハイムも吸収した企業を、情報として整理したいというのもあるだろう。だがまぁ。休みは休みだ。満喫させてもらおう。

 

 

「さて、何をするか」

 

特に用事も無かった為アナハイム・ビルのゲートを社員証をかざして、門番のにいちゃんに挨拶して通る。

突如降って沸いたちょっとの休暇だ。フォンブラウン郊外の近くの借家に帰ってもいいが……

クーディの顔が浮かぶ。彼女とは月に潜伏するといった時に、艦に残るか聞いたのだが、

 

(ユーさんが行くなら私も行くよ。……約束忘れたの?そんな長い間放置する気?)

 

と、袖を掴まれながら睨みつけられた。月といえばキシリア麾下の部隊がいたところだ。ニュータイプ機関の奴らに目をつけられたらと考えて提案したのだが、間違えてしまったらしい。艦橋の奴らも、やれやれと言わんばかりの様子で首を振っているだけだった。

 

(連れてってあげましょうよ。こちらは司令の作戦計画の通りに進めておきますから)

 

(むしろ司令が居てする事あんまり無いですよ。必要になったら呼びますから)

 

副司令とオペ子から、ぼやくように吐き捨てられた。お前らなぁ……

一応上官では無いが、茨の園にお邪魔させてもらってる都合、デラーズ閣下に相談はした。クーディのことではなく、俺が艦隊を離れて月に向かうことをである。

 

(むう。月のフォンブラウンに?まぁいいだろう。ここ数年は雌伏の時。茨の園もこれだけの規模いれば構築できる。モビルスーツ製造できる様になるまで暫しかかる。戦士にも休息は必要だろう)

 

との事だった。ちなみにアナハイムに入るとは言ってない。どこの世界に30隻はいる艦隊の司令がアナハイムの一社員として行動するというのか。将来的にコネクションを結べればいいな程度だ。金はあるが、モビルスーツのパーツはどこにでも売っているわけではない。アナハイムに頼るぐらいしか入手方法はないだろう。

大体、金さえ有ればモビルスーツ売ってくれるところは他にはない。逆にいうと、対価さえ払えれば売ってくれる。その事実が、正規軍ではなくなってしまった我々には、ありがたいことだった。

 

「ガトーのとこにでも行くか」

 

会社に行くといってすぐ帰ってくると言うのは、まるでリストラされた親父の様でなんとなく気が引けた。

彼はそんなことを考えているが、ちなみに別にクーディは気にはしない。むしろ両手を上げて、喜ぶ事だろう。

 

「さて次のバスは」

 

社から近くのバス停までここから10分は掛かる。折角の自由時間だ。遊ばせてもらおう。

そう決め、口笛を緩く吹きながらバス停へと向かった。

 

 

 

 

 

「ガトー!よう。元気か?」

 

「ちゅ……ユーセルさん」

 

ガトーが、瓦礫の中から顔をだす。どうやら廃棄されたザクの腕を修理している様だ。ザクといっても手の平部分しか無いが。

ガトーは、長髪の白髪に鋭い眼光をしていた。戦場から離れてしばらく立つはずだが、四肢は緩むどころか更に鍛えられているのがわかる。

薄汚れた作業服を着ていたが、軍服を着ている姿を見慣れているせいでどうにもしっくりこない。他所から見ても一目でジャンク屋の親父には見えない。

 

「よう。遊びにきたぞ。しかし似合ってないな。その()()()やっぱり軍服の方が似合ってるよ。あんたは」

 

「私もそう思います。しかし今は雌伏の時。こういう作業もしなければなりますまい」

 

ガトーは小さく鼻を鳴らすと、憮然として黙り込んだ。

 

「まるで、ジャンク屋が悪いかの様な言い様だな。ガトー」

 

「レズナー大尉」

 

黙り込んでしまったガトーの奥。同じく作業服を着た男が顔の汗を肩にかけた手ぬぐいで拭いながらでてきた。ケリー・レズナー大尉。元ジオン公国軍宇宙攻撃軍所属のモビルスーツパイロットで、左腕を失っており、この負傷が原因でモビルスーツの搭乗資格を剥奪されたらしい。

 

「ケリー。いやジャンク屋を虚仮にしたわけではない。ただふと考えてしまうのだ。私の戦場はここではない。戦友と肩を並べ。悪しき連邦の体制を解き、我々の正義の剣によって。それが我が使命。全てはデラーズ閣下の大義の為。この命いつでも捨てれる覚悟だ」

 

ガトーはそう唸る様に吐き捨て、空を見上げる。その瞳は現状への不満。行き場のない想いを溢れさない様に自らを縛っている様だった。

「……ガトー」一言噛み締めるようにケリー・レズナーはガトーを見つめる。

その目は何を思うのか、彼の今はなき左腕のことか、それともその心の中で燻る熱い魂の叫びか、それはケリー・レズナー本人にしか分かりはしないだろう。

 

「……いや。硬いわ」

 

そんな二人を見て、俺は苛立っていた。他所から見ていたら、カッコいいなこいつらで終わっていたのだろうが、何故かその時は引っかかってしまった。

どいつもこいつも、死に急ぐ様なことばかり。とあるモビルアーマーの姿が、フラッシュバックする。それは半身が焼け焦げ、巡洋艦にめり込む様に突撃。巡洋艦と共に爆発する。そして鳥の様な紋章を掲げた組織の出現。

策は、なかなかのものだったと思うが、問題はそれを監視、修正できる組織の消滅だ。中途半端に敵対組織が消滅したせいで、スペースノイドにその矢先が向いてしまった。

 

「……今なんと?我が大義を愚弄するものは許さん。いくら上官であろうともです。撤回してもらいたい」

 

「いや!言わせてもらう。簡単に命を捨てるなんて考えは捨てろ。スペースノイドの剣なんだろう?一回で折れる刀になんの価値がある」

 

「…… 頑陋至愚。それだけでしょうか?それに我々は仕事中でありますので御引き取り願いたい」

 

「仕事ってのはさっきショート操縦系の回線の事か?」

 

「……むっ」

 

先程までガトーがいた位置に箱型のコンデンサーが落ちていた。よく見ると相当弄ったのか配置はバラバラ。固定するべき所が切れており宙ぶらりんな状態になっていた。ジャンクだからとかじゃなく、傍に工具が散らばっていて、固定部分もまだ暖かい。自分で直そうとしたのだろう。

 

「へたっぴぃか。貸してみろ。関節部のここにはめ込むやつか。……後は、n56とy80のここが悪いっぽいな」

 

工具箱を借用。修正されている所を片っ端から解体し、こてでくっつけていく。一手間では行かなそうだが、パーツ交換と回線を繋げ直すだけでいけそうだ。しばらく作業する事1時間以上は弄っただろうか?

 

「これでよし」

 

人間で言う動脈の部分に、電源ケーブルを接続して信号を送ってやる。

すると、人差し指の部分が折り曲げられて完全に閉じられた。

まぁこんな短時間じゃ人差し指が限界だな。

 

「大したもんだ。並のジャンク屋なら他の部位と見比べながら結構な時間がかかるものだが……」

 

ケリーが感心した様に、ザクの手のひらをしみじみと見つめる。ガトーはそれがなんだと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。まぁ。これだけじゃ自分の技術を見せびらかしたやつだな。

 

「ガトー。俺らは戦うだけの剣じゃない。人間だ。こうして直して人々の役に立つこともできる。デラーズ閣下が月に我々を潜伏させているのは、錬成させる為じゃ無い。少しは止まって視野を広げる事を覚えろと言っているんだろう」

 

「デラーズ閣下が……?」

 

もちろんだ。多分。でもおそらくこう言わないとあまり考えは変わらないだろう。デラーズを心酔しているからな。前から思っていた事だ。どうしてコロニーを落とした後は知らんぷりなのか、テロでは何も変わらない。革命を起こしてその後の統治まで面倒みてからの世界だ。事実デラーズ紛争の後はティターンズの台頭を許してしまった。

 

「スペースノイドに夢を見せたのは、我々軍人だ。ならその責任は我々軍人が取らねばならない。この戦争は100年は続くぞ。ただの一矢では終わってはいけないんだ」

 

「……一矢では終わらない、か。考えておきます」

 

さっきまでの勢いは消えて、考え込むガトー。どうやら多少思う所があったらしい。

 

「まったく。いつ殴り合うのかとヒヤヒヤしたぞ。中佐。ガトー」

 

「レズナー大尉」

 

ガトーとの話をしている間、ずっと蚊帳の外だった、ケリーが顔を顰めて話しかけてくる。作業着の上にジャケットを羽織っている。どうやら作業中に取ってきていたらしい。更にガトーにジャケットを無造作に押しつけて告げる。

 

「ケリーでいいです。中佐。……そうだ。もう今日の仕事はこのザクのパーツを治すことだけでしてね!仕事終わりなんだ!良ければ飲みに付き合って頂けないでしょうか?」

 

「……いいのか?」

 

空を見てみると薄暗くなろうとしていた。相当話し込んでいたらしい。

帰ってもいい時間帯だが……

 

「もちろん!ガトーもくるだろう?」

 

「……」

 

そうガトーに問いかける。が、ガトーは表情が押し殺されたようで、読み取ることはできない。

うーん。気まずい。

 

「ちなみに中佐のオゴリだ」

 

「……なら行くとするか。まだ話したいこともあるしな」

 

「決まりだな」

 

ケリーはにっ、と軽快な笑みを浮かべた。彼なりに場を和まそうとしてのことだったのだろう。顔に似合わず気遣いができる男である。ケリーの気遣いに感謝しつつ3人で街に降りることにした。

問題は、いつのまにか俺の奢りになっている事だが……まぁ発端は自分だ。ここは払うとしよう。

 

「フォンブラウンの飲み方ってやつをお教えしますよ」

 

「ほう?それは楽しみだ」

 

「ケリー。お前最近気になっている女いるとか言ってなかったか?」

 

「ばかいえ。ラトーラとはまだそんなんじゃない」

 

ケリーの表面の強気の膜が割れて、戸惑いが透けて見えた。ガトーは反撃開始と言わんばかりに口角を上げて喋る。ラトーラとはもう会ってはいるらしい。そこらへん気になるな。時間はまだある。そこらへんはゆっくりと聞けばいいだろう。そうだ。ガトーにもそこら辺聞いてみよう。今後の事を考えて高揚する気分を抑えつつ、3人は夜の街に入っていった。

 



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模擬戦

『そんな旧型で!』

 

大気が揺れる。50mもの距離を消しとばすようにしてRGM-79C_ジム改が自機に飛びかかる。

 

「!!」

 

咄嗟に手足を動かすと、MS-06F_ザクF型が気が遠くなるほどゆっくり、とのけぞる様にして後ろに跳躍する。

金属の悲鳴。

10数mほどの円錐状フィールドを発振し、高い切断・溶解力を持つ巨人の刃が、ザクの胸部装甲を削る様に孤を描いた。

ザクの背部バーニアを盛大に吹かし、殆ど後ろに転ぶかの様にして後方に距離を取る。ユーセルは機体のライフルを真正面に構えた。殆どめくら撃ちだった。3発立て続けに放たれた砲弾が、奥の建物をずたずたにする。

 

「……奴は!?」

 

『……もらいだ!』

 

「上!……そう簡単にやられるものかよ!」

 

腰部に備え付けられたマウントラッチからヒート・ホークを取り出し後ろに振りかぶる。熱核融合ジェネレータからの出力を受け、赤熱化。降下してくるジム改のサーベルに叩きつける。ビームサーベルとヒートホークの接触点から眩いばかりの熱量が溢れ出し、アイフィールド内に留まれなかったプラズマが、両機の装甲を眩く照らす。

 

(……割りに合わない)

 

背中に冷や汗が垂れる。押しつぶされそうになる機体をどうにか、制御しつつ彼はこの事を後悔していた。

何故こんなギリギリの戦闘をしているのか、入社してしばらく経った後に遡る。

 

 

 

「いやぁ順調ですなぁ」

 

満開の笑顔で、開口一番に言ってきたのはこのアナハイム・エレクトロニクスのジオンモビルスーツ解陣班第一研究班の主任からだった。ちなみに、ジオニック社の引き抜きの人材で、その時からの知り合いでもある。

 

「まぁ、君たちが作ってたモビルスーツ群だからね」

 

そんな主任の様子にユーセルは、やれやれ、というふうに力なく笑った。入社してからここ数ヶ月は、月のフォンブラウンで買収できたモビルスーツの性能テスト、又解析を行っていた。解析といってもこの研究陣は元ジオニック社の社員が大半を占めており、一から情報を収集するというよりも、元から分かっている事を、データに落とし込むという作業ばかりだ。簡単な部類に入る仕事だ。上からの指示も今月までにザクFの解析をしろ。今度はグフ。ドム。といった具合である。わからないことは郊外にある演習場で動かして、データを収集する程度。

 

「今日も早く上がれそうだな」

 

「そうですね。……今夜行きますか?」

 

「……たまにならいいか」

 

「お、そうこなくちゃ!」

 

主任が、右手でクイッと盃を飲みほす動作をする。うーむ。結構誘われているが、同居人の存在もあるので、毎回断っている。壁に掛けてある時計に目を向けると就業時間は過ぎていたが、いつもよりかはだいぶ早い。一軒行って帰ったら遅くなり過ぎないだろう。偶にはこういう付き合いも大切だろう。

 

「他も行くか?」

 

「いいっすねぇ。行きますかぁ」

 

他の同じ班の奴にも声を掛ける。数人はちらほらは賛同し、行く流れの様だ。先程まで立ち上げていた仕事用の端末を落とし、主任や同僚に連れられて、オフィスから出る。

 

「おっとすいません」

 

「……ちっ。金食い虫が」

 

同僚達とたわいもない話をしながら社内の通路を歩いていると、通行人にぶつかり掛けた。一言謝り、道を譲る。通行人は30代くらいの男で、アナハイムの制服を着ていた。うちの部署では見ない顔なので、よそのところだろう。男は吐き捨てる様に言い、そのまま通路を曲がっていった。

 

「なんだありゃ。がら悪いな」

 

「連邦シンパの奴ですよ。会社が元ジオニックの俺たちのことを良く思ってないんです。アナハイムに直接文句も言えない。小心者の集まりですよ」

 

「……俺たちだって好きでこっちに移籍したわけじゃ無いんだがな。移籍しなきゃ。何かしらの制裁を受けるとなれば、選択肢なんてなかった」

 

噛み締める様に呟いて、俯く主任。主任は既婚者でお子さんも居たはずだ。家族を養うためには仕方がない選択肢ではあったのだろう。タガが外れた様に次々と文句が出てくる。

 

「それなのに文句言われてもって感じっすよ。噂じゃ連邦産の機体こそが至高で、それ以外はゴミだってね」

 

「なんだそりゃ?戦線のデータ見てねぇのか?大局では負けたが、戦闘では明らかにこっちの方が優ってる」

 

「おいやめろ。社の中だぞ。聞かれたらどうする。愚痴は店の中で聞く」

 

「かまいやしません。なんだって_

 

「やめろといった」

 

主任は、なお愚痴を吐こうとした部下を睨みつける。

 

「すいません……」

 

「分かればいい。……さぁ行こうか!」

 

主任はわざとらしいほど朗らかな声で、そう告げた。

 

「……」

 

俺は先ほどのやり取りよりも、すれ違った男のことを考えていた。

たしかに元々アナハイムは、()()()連邦軍の下請け企業だった。いきなりジオニックの余所者を受け入れ難いのだろう。

(まぁ時間が解決してくれるだろう)

その時の俺は楽観的に、考えていた。もしかしたらこの時引き止めて話し合っていれば、この時の亀裂はまだ治ったのかもしれない。いや、もう遅かったのか。それはifの話で誰にもわかりはしないのだろう。

 

 

 

 

数日後

 

「模擬戦?ですか……」

 

「実戦データ収集のためだ。機体と技術を手に入れたといっても、我々には実際の運用には関わらない。実戦に近い状況でテストするのも大切だろう」

 

いつものように、機体の詳細情報をフロッピーディスクに入力する作業をしていた俺たち。開口一番、オサリバン常務が言い放った。

 

「はぁそれは構いませんが、機体は?パイロットは誰です?」

 

「機体はこれだ。パイロットは君たちのうちの誰かだ。ジオン系のモビルスーツを動かせる者がいないのでね」

 

「んな馬鹿な、それに機体ってこれ」

 

主任がオサリバンから、タブレット型端末を受け取る。そこに表示されていたのはMS-06F ザク II MASS PRODUCT TYPE とあった。ザクF型ジオン軍で多く使われたF型の初期生産品らしかった。単純にザク、あるいはザクIIと言った場合は本機を指すことが多い。問題は次のファイルだった。

 

「RGM-79Cって、ジム改!連邦の最新鋭じゃないですか!これで戦ったら100%こちらの負けですよ」

 

「別に勝ち負けにこだわる必要は無い。ただの実戦データの確認が主な仕事だ。何も問題なかろう?」

 

型式番号。RGM-79C ジム改。ジム系MSの規格が乱立していたことから開発された機体。ただのジムの改良機と侮ってはいけない。一年戦争末期のU.C.0079年11月から日の目を診。その後、U.C.0083年には地球連邦軍の主力MSとして運用され、ジムIIの登場まで主力機を務めた

 

「それはそうかもしれませんが……。本当にただの模擬戦なのですか?」

 

「ごちゃごちゃうるさいぞ。ジオン野郎。ただの模擬戦だ。大人しく出すんだな」

 

こんな不利な条件で、やってられるか。言外にそう言う雰囲気を纏わせた主任がオサリバンに抗議する。それを遮り、今まで控えていた取り巻きが身を乗り出す。

 

「これは業務命令だ。大人しく従うんだな。それに?お前らジオンの機体が連邦より優ってるって言ってたよな?ならそれを証明できるいい機会じゃねぇか。どっちちが勝ってるか白黒つけようや」

 

「……問題はパイロットだ」

 

ニヤニヤと口元を歪ませながら、男は言い放った。どうやら前会社で話していたことを聞かれていたらしい。主任が言ったわけでは無いが、部下が言ったことだ。勝ち目がないと考えたのか、バツの悪そうな顔をして、論点を逸らしにかかる。うまい手だと思った。確かに技術者という面子は、言っちゃ悪いが筋肉ムキムキのやつは少ない。ダカールで、砂漠の無いところを探すようなもんだ。事実うちの解析班にはそんな奴はいな_____

 

「パイロット?いるじゃないかそこに。ガタイが良いのが」

 

「……ん?」

 

男から人差し指を指す。見落として、居ただろうか?確かにいないは言い過ぎたな。この中で比較的身長がある奴を見る。そいつも不思議なことにこちらを見ていた。?周りを見渡す。さらに不思議なことに解析班全員と目が合う。

 

「俺かよ……一応技術者なんですけど」

 

「他に誰がいるってんだ」

 

いやいるだろ。本属のパイロット連れてこいや。

そんな言葉がギリギリ口から出かけたが、キツく口を結ぶことで我慢する。そんな様子を見た常務は……おっ。渋い顔している。これは中止の流れになりそう_____

 

「いいんじゃないか。自分で弄っている機体だから少しは動かせるだろう。データ収集だ。ベテランが乗った方がいいというのでもあるまい」

 

 

_____なんか戦うことになった。

 

 

 

「ルールは1対1。バズーカの使用はなし。一撃で勝負がついたらデータ収集にならんからな。それ以外なら自身の機体に付いている兵装ならなんでも良い」

 

アナハイム社のシュミレーター室。50メートルほど開けた空間にクレーンのような機械が数機備えつけられていた。クレーンの先が球体になっておりそこにパイロットが乗って操縦できる。関節部分が稼働することによって、搭乗部をふりまわす。それによって擬似的なGも発生させられるらしい。

 

「バズーカ無しか、そりゃきつい」

 

『おう。いいぜ』

 

早くこちらとは対照的に、ジム改のパイロットは、余裕ありげに淡々としたものだった。お互いに一撃必殺で撃破できるようになったら、ギャンブル性が高い。バズーカ抜きとなると、お互いマシンガンしかない。あとは純粋な機体性能の差だとでも思っているのだろう。

 

「……舐めてもらっては困るなぁ」

 

「なんだって?」

 

「いやなんでもない」

 

搭乗部にいる二人から見下せる場所にいる、他のアナハイム社の人だかりが、2つある。ザクサイドとジムサイドだろう。ジム側の人間にこの話の言い出しっぺのやつがいた。ニヤニヤとこちらを見下ろしている。

 

……いや、お前が戦うんやないんかい。

 

こちらは一応技術者枠で来てるのに、あちらは恐らく正規の軍属経験者だろう。そんなに恨みを買ったのだろうか?

 

「まぁ。勝てば良い話だ」

 

ぽつりと呟き、ザクを再現しているコクピット部に乗り込む。

 

「すぅ……よし。やるか」

 

乗り込むと、まず驚いた。ほとんどザクF型のコクピットが再現されている。薄暗い機内に、モニターのやかましいほど眩しい光が照らす。機体の司令塔にあたる電子機器に、指令を送り機体を立ち上げる。

高鳴るエンジン音。

駆動系の力強く軋む音。

 

「すごいな。ゲームみたいなモンだと思っていたが、ここまで再現されてるとは。まるで実機に乗ってるみたいだ。」

 

『すごいもんだろう?これがアナハイムの技術力だ』

 

髭面のハゲ。……我らの常務オサリバンから通信が入る。その顔はニヤニヤとおもちゃを自慢する子供のようだ。相当嬉しそう。足の小指ぶつけて苦しめばいいのに。

くそ不利な条件での、模擬戦の恨み忘れんからな。

 

『ゆくゆくは連邦軍にも普及したいと思っているが、どうにもジオン系の機体やジムの規格に合わせるとなると、コストがかかってねぇ。いい手段があるといいんだが』

 

「……噂の全天周囲モニターを導入されたザクを、作られた時にでも作成すれば一つの資材でいけるとおもいますねぇ」

 

『なんか言ったか?』

 

「いえ。ザクのコクピットそのまま移行したものですからね。最新のものと比べると雑が多いです。そこら辺も要改善ですね」

 

『……分かった伝えておく』

 

「お願いします」

 

『まだかよ。まちくたびれちまう』

 

ジム改のパイロットも準備ができたのだろう。うんざりとした声が割り込んでくる。

 

『よし、それでは開始だ。用意はいいかな?』

 

「いつでも」

 

『こっちも準備良しだ』

 

お互いに報告。オサリバンは頷くと開始を宣言する。

 

『状況開始』

 

 




wiki参照


量産型ザクII (F型)
ZAKU II MASS PRODUCT TYPE
型式番号
MS-06F
全高
17.5m
本体重量
56.2t
全備重量
73.3t
装甲材質
超硬スチール合金
出力
976kW
推力
43,300kg

ジム改
GM TYPE C
型式番号
RGM-79C
所属
地球連邦軍
生産形態
量産機
全高
18.0m[6]
本体重量
41.2t[6]
全備重量
58.8t[6]
装甲材質
チタン・セラミック複合材
出力
1,250kW[6]
推力
12,500kg×4[6]
1,870kg×4[6]
総推力:57,480kg



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それぞれの思惑

「……勝つぞ」

 

操縦桿を強く握り締めながら、呟く。別にこれに負けようと実際に死ぬわけではない。所詮は模擬戦だ。

こちらとあちらの機体差。パイロットの採用。色々な点を見ても分かりきったことだろう。だがあの技官の思惑にのるのは癪だ。

 

「唯一ついい所は、万全な機体状態と言うとこだけだな」

 

コンソールを操作して、武装一覧を出す。

120mmザク・マシンガン

280mmザク・バズーカ ×

ヒート・ホーク

クラッカー

脚部3連装ミサイル・ポッド

175mmマゼラ・トップ砲 ×

ミサイル・ランチャー ×

改めて見ると、多彩な武装集だ。いかにザクが兵から愛され、様々な戦場に対応出来る様にとの要望か。事前に説明があった通り、バズーカは使えない様だった。それ以上の口径の武装もだ。選択できる武装は片っ端から選んでいく。120mmザク・マシンガン。ヒート・ホーク。クラッカー。両脚部に3連装ミサイル・ポッド。

 

「こんなもんか。ミサイルポットは謎だが、使えるだけありがたいな。120mmのマシンガンでも敵に当たれば撃破もしくは、致命傷は与えられる。……決して無理な勝負じゃない」

 

自分に言い聞かせる様にして呟き、武装選択完了のボタンを選択。すると、機体の外の景色が、どこかの船の格納庫の様な場所に変化した。ガウ攻撃空母の中の様だ。想定上は事前に説明があった通り、地球上のどこかに下されるらしい。

 

「ユーセル出撃する」

 

ザクを操り、ガウから降下する。宇宙と違い落下する様相はなかなか慣れない。降下加速。高度を表すカウンターが勢いよく減っていく。

こえぇ。恐怖心を打ち消す様に、口角を上げる。

かの有名な人形もこんな気持ちだったのだろうか、飛んでるんじゃない、落ちてるだけだ。かっこつけてな。懐かしいなぁ。えいがみてぇなぁ。

 

「4500……4000……3200…3000,。今!っつ」

 

高度3キロ地点で減速開始。ブースターを吹かし、機体の加速を緩やかにする。先程までの浮遊感は消え、地上の重力に捕まる。そのまま地上に優しく……とは言わないが無事に降りる。

 

「どこぞの街か?結構簡単に壊れそうだな」

 

モノアイを左右に動かし、周囲を警戒する。どうやらどこぞの放棄された街に降りたらしい。見る限り機体の背丈以上ある建物がちらほら乱雑している。街の外には……砂漠が広がっている。ダカールあたりの地形だろうか?ビルにかかっている黄色の看板が風に煽られて、ぷらぷらと揺れている。

 

「あのジム改は何処だ?」

 

ザクのセンサーをアクティブに。機体に搭載されているセンサは、スペック上は半径3200mを探ることができる。たちまち機体に情報が次々と増加していく。幸いか、ミノフスキー粒子は散布は薄い方だが……

 

「敵影なしか……ちっこのオンボロめ。もたもたしてっと見つかっちまうぞ」

 

画面が荒く乱れている。

どうやら察知できそうにない。ミノフスキー粒子かのことを考えて、ジオンの機体はお世辞にも、良いとは言い難い。まぁ、どうせ使えないものを頼るより、有視界域を強化した方がいいのは分かる。だからモノアイをジオンは多く採用している。連邦製の機体は逆で、センサー類は上等だ。一年戦争時の量産機のジムですら、センサー有効半径6,000m程は有る。

 

「先手は譲ることになるな」

 

ビル群を背にしながら、死角がないよう街の中心部に移動していく。機動力に劣っているこちらが街の外に出て、勝負する気はない。多少障害物がある方が、こちらにとってプラスに_

ロックオンアラート。90mmマシンガンから吐き出された砲弾が、ユーセルの駆るザクに殺到する。アラート鳴り始めるほぼ同時に、彼は機体を動かす。先に発見されるのは分かっていた。が、機体が急な運動に追いつかない。もつれ込むようにして、近くのビルの後ろに回り込む。

 

「お返しだ!」

 

腕部を突き出し、120mmザク・マシンガンを連射。めくら撃ちだが、撃ち返すことに意義ある。マシンガンから打ち出された砲弾が、豪雨の様に敵機のいるであろう方向へ打ち込まれる。30発ほど発砲。撃ち込まれた地形は大きく歪み。土煙が立っている。

 

「……何処に行った?」

 

『……よく避けた!』

 

大気が揺れる。自機の右翼から、50mもの距離を消しとばすようにしてRGM-79C_ジム改が自機に飛びかかる。今の短い時間で、ビル群を回ってきたのだ。

 

「!?_早すぎる!」

 

数瞬間の時間が、何分かの様に引き伸ばされる。もう目と鼻の先だ。

咄嗟に手足を動かすと、MS-06F_ザクF型が気が遠くなるほどゆっくり、とのけぞる様にして後ろに跳躍する。

金属の悲鳴。

10数mほどの円錐状フィールドを発振し、高い切断・溶解力を持つ巨人の刃が、ザクの胸部装甲を削る様に孤を描いた。並のパイロットなら反応できずに、ここでコクピットを真っ二つにされていただろう。

ザクの背部バーニアを盛大に吹かし、殆ど後ろに転ぶかの様にして後方に距離を取る。ユーセルは機体のライフルを真正面に構えた。殆どめくら撃ちだった。3発立て続けに放たれた砲弾が、奥の建物をずたずたにする。

 

「……奴は!?」

 

『……もらいだ!』

 

「上!……そう簡単にやられるものかよ!」

 

腰部に備え付けられたマウントラッチからヒート・ホークを取り出し後ろに振りかぶる。熱核融合ジェネレータからの出力を受け、赤熱化。降下してくるジム改のサーベルに叩きつける。ビームサーベルとヒートホークの接触点から眩いばかりの熱量が溢れ出し、アイフィールド内に留まれなかったプラズマが、両機の装甲を眩く照らす。

 

(……割りに合わない)

 

背中に冷や汗が垂れる。押しつぶされそうになる機体をどうにか、制御しつつ耐える。

 

 

 

 

アナハイム社シュミレーター室。そこを見渡せる様に作られた部屋にオサリバン以下の者はいた。複数の大型ディスプレイが所狭しと並んでおり、二機の戦闘の様子を様々なアングルからモニタリング。記録として、落とし込んでいた。ディスプレイを眺めていた男は、感心した様に肩をすくめた。

 

「なかなかやるもんだな。彼は」

 

ユーセルのザクF型は、地形や障害物を利用してなんとかジム改の猛攻を凌いでいる様子だった。

 

「はい。オサリバン常務。彼も軍属と言うこともあり、ジム改の性能を十分に引き出しています。推進力のデータも想定値の理想に近い。良いパイロットですよ彼は!」

 

「ジムのパイロットもなかなかやるもんだが、そちらでもない。ザクのパイロットの方だ」

 

オサリバン常務と言われた男は、フンと鼻を鳴らす。

 

「そちらですか?ただのジオニック崩れの民間人でしょう?事実逃げ回るしか出来ていない」

 

「連邦くずれのパイロットも、ジム改の良いところを十分に活かしている。それはわかった。ほぼ最初期のザクでよく持っている」

 

ニヤニヤと余裕そうな笑いを崩さないのは、今回の計画書を持ってきた男だ。オサリバンは概ね何を考えているか、事の端末を概ね察している。でなければこの様な性能差のある模擬戦を実施しようなどと、思わないだろう。別にジオニックから合併吸収した奴らから嫌われたいわけではない。彼らの技術力は貴重だし、機体を回収したと言っても、その機体を支援する人員がいないと、修復すら出来はしない。

 

「……あの腕前に名前。余程の馬鹿か、それとも何か考えがあるのか」

 

「はぁ…なにか?」

 

「なんでもない。おしゃべりは終わりだ。仕事に専念しろ」

 

「は、はい」

 

静かだが、どっしりとした声に遮られてそれ以上彼は何も言わなかった。バタバタと怯えた様に仕事に取り掛かる。

一つ意見を通せたからといって、調子に乗ってもらっては困る。一見公開リンチの様なカードを組んだのも、確かめたいことがあったからだ。

 

オサリバンは懐から、木製のシガーケースを取り出した。

滑らかでささくれなどない落ち着いた色合い、葉巻店の店主の一推しの品だ。本当はクーズーの皮で作りたかったのだが、あえてその時は一ランク落とした。

葉巻を咥え、火を付ける。

 

「……さて、これは私への福音か。それとも破滅の笛か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は連邦の最新鋭機。こちらが一つ動く間に2挙動は先をいかれている。……だがこれだけ近ければ!」

 

ザクはビームサーベルを受け流し、機体を急激に離す。ジム改は反発していた力が急に消えたことで、ビームサーベルは空を切る。敵機はやや前のめりの姿勢になり、重心が崩れる。その隙に腰部マウントラッチからクラッカーを取り外し、敵機の前に浮かせる様にして離す。クラッカー《くるみ割り器》の名を表す()()は、放物線を描く様にジム改の前に落ちていく。ジム改は慌てて、シールドを構えようとするが、もう遅い。

爆発。

()()は割れたくるみの様に、破片を周囲に撒き散らす。その破片一つ一つが、時限信管子弾をばら撒くクラスター爆弾だ。

煙が周囲に満ちる。

 

「……煙幕になって見えないか。だが、あれだけ至近距離でクラッカーを爆発させたんだ。やれてない筈がない」

 

クラッカーを投げる際に、急速離脱したとはいえ対応の暇を与えないために十分に離れられていない。通常だったら上空に投げ、その破片が爆散することで広範囲に威力を発揮して相手に損害を出す兵器だ。クラッカーを投げた左腕部が肘から先がなくなっていた。拠点に帰って、修理しないともう使い物にならないだろう。

煙が晴れ、クラッカーが直撃したジム改の無惨な姿が_

 

『よくも!』

 

いや、違う。シールドは失っているが、銃口をこちらに構えて_

 

「!」

 

ジム改が発泡。右肩にマウントされているシールドを構えるのが精一杯だった。

被弾。被弾。被弾。

フルオートで放たれた90mmの砲弾が、自機に殺到する。ジム改の放った砲弾は、主人の恨みを晴らすかの様に、あちこちでザクの装甲を弾き飛ばす。頭部センサ半壊。ザクマシンガンに被弾し、爆発。左肩部全損。ひっきりなしに警告が流れ、被害を報告してくる。これ以上は行動不能になる。もう喰らえない。

 

「まだだ!」

 

ザクに搭載されている火器管制システムが、ロックオンを求めてくる。数秒はかかる。そんな悠長なことはしていられない。ロックオンをキャンセル。

両脚部についている3連装ミサイル・ポッドを3発発射。だが、ろくにロックオンしていないミサイルは目標を失う。ミサイルに搭載してある赤外線センサと熱源センサが目標を再選択する。正面で最も熱を持ち、銃身か赤熱化するほど撃ち続けている。マシンガンに。が、今から軌道を修正するには距離が近すぎた。

ミサイルは命中せず、ジム改の数メートル手前で落下。爆発。地面を大きく穿ち、2機の周囲を爆発が包み込んだ。



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もうやめよう?

誤字修正感想ありがとうございます!


『……まだだ!』

 

「そうだな!」

 

爆音。砲声。

まだジム改は健在だ。シールドを失っているが殆ど五体満足でたっていた。距離を詰める。スラスタを全開に、ジグザグに移動しながら距離を詰める。

ここで撃破できなければこちらは左腕を失っている。長期戦は不利だ。

推進剤残り75%。急激に推進剤が消費され、ゾッとするほどメモリが目減りする。

 

『ザクでドムの真似事かよ!?』

 

「こちとらドムの方が慣れてるんでね!」

 

足裏のスラスタを吹かし、上への推進力を確保。前進は背部バーニア。横移動はアンバックシステムを活かす。時速100キロ近くは出る機体だ。少しでも操縦桿がズレれば、周囲のビル群に突入してしまうだろう。機体が激しく揺さぶられ、全てのディスプレイと警告灯が出たら目に点灯する。

暴れる操縦桿を押さえつけ、急激に距離を詰める。ザクマシンガンの弾倉は先程の銃撃で滑落してしまった。薬室内に残っている砲弾を敵機に発砲。

閃光。爆発。

ジム改の頭部を破壊。片手を失った為もう弾倉は交換できない。ザクマシンガンを捨てる。武装選択。ヒートホーク。

背部に回り込む。

推進剤残り35%

無防備な背中にヒートホークを、叩き込み。ジム改の動力源をズタズタにする。

 

『……嘘だろ』

 

そのまますり抜ける様にして、距離を取る。残りの脚部3連装ミサイル・ポッドをロックオン。発射。

動力部を破壊されては、ろくに回避運動も取れない。吸い込まれる様にして、ミサイルはジム改の無防備な背中に、命中。

誘爆。爆散。

 

「……っ」

 

爆音のこだまが霧散していき、静寂が戻ってくる。ジム改は上半身が弾け飛び、下半身しか残っていない状態だった。

数秒間直立不動の状態を維持した後、急に撃破されたのを思い出したかの様に、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

ジム改が膝から崩れ落ち。ジム改が行動不能になったのを見届けてから、オサリバンは小さく鼻を鳴らした。

 

「勝っちまいやがった」

 

全く大した奴だ。ザクで最新鋭のジムに勝っちまいやがった。あの急激な機動。後半からの巻き上げは、ゆっくりとした軌道に慣れさせてからの動きの緩急で敵を困惑させた。あれに対応できるのはなかなかいないだろう。強引だが、繊細な操縦。ああゆうやつがいたら兵器開発のデータ取りは大幅に進むだろう。

オサリバンは隣の連邦シンパの奴の顔をちらりと見た。

まさかジム改がオンボロのザクF型に負けるとは思っても見なかっただろう。狼狽を隠せない様子で、馬鹿な。奴らはただの技術者だったはずじゃあ。などと呟いていた。可笑しかったが、もはやそちらに興味はない。おそらくクロだろう。

 

「状況終了だ。二人は降りてこい。あと……()()()()は私の事務室前へこい」

 

 

「はぁ……気が重い」

 

模擬戦が終わり数十分後。シンっ。とした室内を抜け、オサリバンの事務室前に来ていた。その時悔しそうな奴の顔を見れたので胸がすく様な思いだったが、すぐにそんな事は霧散していった。重厚な木製の扉の前て立ち止まる。

 

「……あの中佐呼び」

 

それはもう、()()()()()()()()()この先でジオンの将来をきめる案件がある。息を吸って、手のひらを握ったり離したりする。いつものルーティンだ。こうすることで、頭を切り替える。普段の自分から、指揮官としての自分に。数回ノック。

 

「はいるぞ」

 

『あいている。どうぞ』

 

扉を開けると、オサリバンが迎えた。

 

 

 

「ようこそ。ユーセル・ヅヴァイ。いやユーセル中佐と呼んだ方がいいかね?」

 

「……好きに呼ぶと良い」

 

「……ふっ。まぁいい。かけたまえ中佐。何かいるかな」

 

「お構いなく」

 

「そう言うな。ウィスキーでいいかね」

 

そういうと、先ほどまで削っていたアイスボールをグラスに入れ、アイスボールをグラスの中で回す。グラスの表面に水滴が付いていく。何回か回し終わったあと、満足したラインまで行ったのか、ウィスキーを注いでいく。なかなか高そうだ。氷が「ピシッ」と音を立てる様は本格的だ。

 

「いいだろう?最近凝っていてな。客人には振る舞う事にしている」

 

「勤務中に優雅なもんだな」

 

「それも仕事だ。トップが慌ただしくしていては見栄えが悪かろう」

 

オサリバンは肩をすくませて、小さく鼻を鳴らした。

皮肉のつもりだったのだが、うけながされてしまった。くえないおっさんだ。出されたコップを持ち上げ、琥珀色の液体を喉に流し込む。

 

「まぁ。いい。単刀直入に言おう。目的はなんだ?」

 

来た。この答えで今後が決まる。名前も、モビルスーツの操縦技術も隠さずに披露した。バレない方が不思議だ。

 

「連邦の転覆を。ザビ家の敵を取る為に」

 

「……なるほど」

 

嘘だ。正直ザビ家は好みではない。いや、ザビ家の人々は嫌いでは無いが、命をかけて敵討ちをしようとするほど、入れ込んでいるわけでは無い。0083以降の作品を見るに、アナハイムがジオン残党のスポンサーとしてつくのは知っている。イメージはザビ家のイデオロギーを信じ込み戦いたがりな軍人だ。精々、利用相手として考えてもらえれば上々だ。

 

「中佐。こちらは君たちを支援してもいいと考えている」

 

「……なぜ?」

 

ほら来た。疑問を口にしつつ、先を促す。

 

「この月も、できたばかりのもので、社もジオニックの分配した時に手に入れたものだ。戦利品だな」

 

「だから?」

 

「歴史が浅い。それに元は我々は連邦軍の下請け企業としてやっていた最も大きな産業であるそれは、敵がいないと注文がなくなってしまう。その点、君たちがア・バオアクーで暴れてくれたのは連邦軍にとっては痛かったが、こちらとしては稼がせてもらった」

 

要は、儲からないと言う事だろう。仮想敵が居ないと、連邦軍の軍備が収縮してしまう。アナハイムは企業だ。儲けがない話には投資はできないと言う話。

 

「……ところで中佐何故ジオンは数多のモビルスーツバリエーションがあるのに、連邦はジムばっかりだと思う?」

 

「それは……()()()()()()()()()()()()()

 

ジオンがモビルスーツ開発の先駆者だ。開戦前から準備をしていた。時間があった。ノウハウも知識も、準備期間の有無が結果を分けた。

 

「そうだ。準備期間もある。でもたかが1年程度の戦争であれほどのモビルスーツ群を開発できたわけは?その秘密は?」

 

モビルスーツの開発とは本来1ヶ月ほどでポンポンできるわけではない。あれほど巨大な機体を開発するための、膨大な部品の確保。必要なマンパワーの確保と運用化。部材部品毎の開発状況の管理。開発部門との連携。試作品完成後のテストとそのテスト結果をどうフィールドバックするか?etc etc

ジオンには簡素に言うと、好きな性能を打ち込めば、すぐにその機体を作れるネットワーク群があったと言うことだ。昔流行った流行りの3Dプリンタみたいなものだ。好きな形を描けば、その形が現物として現れる。

話せば長くなるので省く。ジョニーライデンの帰還。見よう。

 

「それはジオンがごく高高度に作られた開発システムがあったからだ。そしてそれはこちらの手の内にある」

 

「言って良いのか?それは」

 

「元は君たちの技術だ。知ってはいるだろうに」

 

「それがどうした。要は手に入れたおもちゃで遊びたいだけと言うことか、せっかく高い金をかけて手に入れたのに、ただ腐らせるのは勿体無いと」

 

「まぁ。簡単に言うとそうだな」

 

「そしてそれは敵がいないと、予算も降りないと」

 

ため息を漏らす。

くだらない。所詮は死の商人こちらの思惑通りに_

 

「賢しいな。それだけものを見れるのだ。それにジオン共和国との交渉も見事だった。」

 

「……なんの話だ?」

 

「とぼけなくて良い」

 

オサリバンは続ける。元々はジオン公国はアナハイムと取引する予定だったのだ。知っていてもおかしくはないだろう。

 

「直接言われたわけでは無い。連邦軍の買い取り資産、アナハイムからの資産。膨大な額だ。なのに、それらに比例しない復興状況。全体を知らぬ者にとっては景気が良いように見えるが、どうしてもペースは遅い気がする。少しの違和感だがな」

 

「……なかなか良い耳をお持ちのようで」

 

心でも読まれているのだろうか。そう返すのでいっぱいだった。オサリバンは続ける。

 

「ただのザビ家の敵討ちをしようとする小さな動機の者が、これだけのことをしでかせる筈がない」

 

ドクンと心臓が高鳴る。

 

「もう一度問おう。君の目的はなんだ?」

 

ただの僻地に飛ばされた奴程度に考えていたが、どうにも考えをあらためる必要があるらしい。オサリバンからの問い。

今後100年の争いの始まり。宇宙世紀が続く限り続く争いの連鎖。それはジオンか滅ぼうと、終わることがない。連邦政府が、アースノイドがスペースノイドがいるがぎり火種は尽きないだろう。

ふと、家で待っているクーディの顔が思い浮かんだ。

 

 

 

「私はいや、()は……宇宙世紀をもう一度始めようと考えている_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話合いは終わった。

無事オサリバンとの話もついた。あの後数回の話を経て、協力を取り付けた。条件は、開発陣への協力。それで得たデータの提出。まぁ今までと変わらない。

対価は、艦艇、モビルスーツの提供。その他弾薬。兵器群の提供。茨の園への施設提供。流石アナハイム。兵器群に至っては対価を払えば作ってもらえるそうだ。

これで軍備や開発陣は確保できた。

あとは人材がなぁ。デラーズ。アナベルガトー。ケリーレズナー。人材はいるっちゃいるが、人材不足にはなっている。人も確保しなければならないだろう。

 

「うーん。どこかに良い人材はいないものか」

 

ふと、0083の女傑の事を思い浮かんだが……

 

「協力してくれないだろうなぁ」

 

無理かな。理想論を振りがざすタイプが一番嫌いだろうし、彼女は現実主義だ。そこを責めるといけるかもしれないが……

まぁ0083まであと数年はある。直ぐには動けない。時間は有るだろう。体のいい現実逃避である。

 

「とりあえずは茨の園にもどるか。デラーズ閣下とも要相談だな」

 

まぁいい。とりあえずは前進したのだ。満足感を胸がいっぱいだ。

 

「しかしあのウィスキー美味かったな」

 

久しぶりに酒を呑むもいいな。そんな事を考えながら、アナハイムに背を向け、彼女の待つ家に足を向けた。

 

 

 

 

「ユーさん。……あれ珍しい。普段お酒あんまり飲まないのに」

 

「まぁたまには」

 

「ってもう飲んでるのかい?くちゃい」

 

鼻をつまんで、嫌そうな顔をされた。鼻を摘んでいるせいか、赤ちゃん言葉になっている。袖の匂いを嗅ぐ。うーむ。そんなに臭いだろうか?

 

「そうか?」

 

「うん。風呂入ってきて」

 

ビッと、風呂場を指さされてしまった。大人しく風呂に入る。10分程度で浴び終わり、クーディのが用意してくれたご飯を食べる。ちなみに鯖の味噌煮だった。濃ゆく味付けされた鯖が、食欲をそそる。美味い。

全て食べ終わり、食器を片付けようとしたが「テレビでもみててよ」の一言で座らされてしまった。食い下がるが、しつこいの一言で黙らされてしまった。ちゃぶ台に座る。

 

「……開けるか」

 

かちゃかちゃと彼女の洗い物をする姿を眺めながら、買ってきた瓶の蓋を開ける。ちなみにジンを買ってきた。コップに氷を入れてジンを注ぐ。次にジンジャーエールを注いで、最後にカットしたレモンを蓋に沈める。

ジンバックだ。我ながら上手くできたのでは無いだろうか。一口飲む。

 

「うーん。いい」

 

ジン独特のパンチ力ある風味が炭酸とジンジャーエールの甘みで緩和される。端的に言うと美味い。前にガトー達といったバーで教えてもらったレシピだが、なかなかこれはいいものだ。ちびちび飲んでいると、クーディが台所から、手を拭きながら帰ってきた。もう一個のガラスを用意して、ジンジャーエールを注ぐ。

 

「なんだいそれ?」

 

「ジンバックって言うらしい。結構美味いぞ」

 

「……聞いた事ないなぁ。喉渇いたし、貰おうかな」

 

今思い返すと確認するべきだった。ちょっと飲みすぎてたかもしれない。これがいけなかった。ちなみに度数12パーは有る。飲み慣れてないものにとっては、結構強い度数だ。

止める間も無く用意していたもう一個のグラスの方ではなく、ジンバックの入っている方をクーディが飲んでしまった。

こくこく、と喉を動かして、グラスの半分ほど飲み干してしまった。

 

「結構のんだな」

 

「おいしーねこれ。炭酸がいい感じに効いてる。ひっく」

 

「だろう。って、ん?ひっく?」

 

クーディを見てみると深紅に染まりきった顔を此方に向け、潤んだ瞳で俺を見ていた。ふらふらと頭を動かして、どうにも落ち着きが無い。

 

「えへへ。ユーさんはかっこいいねぇ。ひっく」

 

「おおう。ありがとう?クーディも可愛いぞ?」

 

「どういたしましてぇ。そりゃクーディ(わたし)だからねぇ」

 

頭をポンポンと撫でられながら、急にそんな褒めるような事を言われた。にへーと言う言葉が似合うほど頬を緩ませる彼女。……照れるなオイ。って、いやいや。酔っ払いの言葉だぞ。その状態のまま数秒会話が止まってしまう。普段の彼女からは信じられないぐらいの様相だ。取り敢えず寝かせたが良いだろうか……

 

「布団敷くか……」

 

「あーいっちゃダメだよー」

 

「ちょ、危ない」

 

布団を敷こうと、立ち上がろうとした瞬間。袖を掴まれて引き戻される。思ったより強い力。アルコールで身体制御がうまくいってないのかもしれない。結局。中途半端な姿勢の際にそのまま引っぱられて、バランスを崩してししまい、結局二人とも床に転がってしまった。

こけるとき、軽く頭をぶつけてしまったのか頭が少しクラクラした。目を開けると視界いっぱいに心配そうな彼女の顔。真面目な顔で、謝られた。

 

「……ごめん。大丈夫?」

 

「大丈夫。大丈夫。こんくらい。クーディこそ大丈夫だったか?」

 

「……ユーさん」

 

平気だと言うふうに笑って見せたのだが、クーディは安堵するどころか、眉間に皺が寄っていた。

 

「あー大丈夫、大丈夫、こんぐらい銃弾に比べたら屁でもないよ。ハハハ……ハ」

 

安心させようと思って戯けて見せたが、どうやら間違ってしまったらしい。徐々に表情が強張っていく。彼女はそう、と呟くと、立ち上がりグラスに残っていた酒を、一気に飲み干してしまった。そのまま机にたんと、置く。グラス内に残っている氷が、ガラガラと荒々しい音を立てた。

 

「ユーさん!」

 

「はい?」

 

クーディはバンっと机を叩き、きつく言い放ち此方を見下ろした。だ、大丈夫か?

 

「私は心配だよ。ユーさんが遠くに行っちゃうんじゃないかって」

 

バンバンと机を更に叩き、此方をきっ、と睨みつけて来る。我慢させてしまっていたのだろうか?独白は続く。

 

「大事にされてるのは分かるよ?私のこと考えて、忙しいだろうに早く帰ってきてくれるし、料理を作ったら必ず美味しいっていってくれる。たまにお土産もくれるし。ひっく」

 

「取り敢えず横になろう?なっ?」

 

ふらふらとしていかにも倒れそうな勢いだ。こんなこと初めてなので対処が思い浮かばない。そんなこんなしていると、びっと人差し指を地面に向け、彼女はきつく言い放った。

 

「ひっく。……正座」

 

「え?」

 

「いいから正座」

 

取り敢えず刺激するのも良くないだろう。大人しく正座する。

すると後ろに回られて背中に抱きつかれてしまった。酒精のせいだろうか、普段よりも高い体温が背中越しに伝わってくる。

 

「でも、大事なことには関わらせてくれない」

 

コツン、と背中に頭があたる。心配させてしまったのだろか。いや、考えてみれば当たり前だ。彼女はまだ子供なのだ。それに親元とも離れ、会ったばかりの男と暮らしいている。

 

「……そうだ。まだお前は子供だ。もう戦いからは離れるべきだ」

 

「……前に話してくれたよね?幸せにしてくれるって」

 

「……あぁ」

 

彼女の顔は見えない。

 

「夕暮れ時。キッチンでご飯作ってたらさ、ユーさんが帰って来るのが見えるんだ。それで私は慌ててご飯作って、最初こそ焦がしたりもするけど、最近はだいぶ上手く作れるようになったんだ」

 

「……知ってる。いつもありがとうな」

 

「うん。でもやっぱり不安になったりもして、でも。食べてくれた後は必ず美味しいって言ってくれて、不安は晴れて」

 

「うん」

 

静かに相槌を打つ。彼女がこう言う話をして来ることは滅多にない。邪魔したくなかった。

 

「それで。テレビ見てあったかいお風呂入って、上がったらユーさんの会社の話とか昔話とかしたりして、私はそれに相槌を打ったりして、あぁ楽しいなぁって」

 

「うん」

 

「でもいいのかなって。だって本当はこの幸せはクーディ(本当の彼女)のもので、クーディ(偽物の私)のものじゃない」

 

コツンと、彼女の小さな頭が背中に当たる。

 

「ユーさん。もうやめよう?私と一緒に全部ほっといて、どこか遠くに逃げよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




忘却はよりよき前進を生む。

- ニーチェ -


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ターニングポイント

「ユーさん。もうやめよう?私と一緒に全部ほっといて、どこか遠くに逃げよう」

 

彼女の言葉を咄嗟に否定しょうとしたが、それも出来なかった。

すとんと、腑に落ちてしまったのだ。

誰がこの子の幸せを否定できるものか、それに否定しまったら彼女との関係が切れてしまう様な気がした。

ああ、俺は確かにこの月での生活が気に入っていたのだ。

 

「……それも良いかもな」

 

「本当?じゃあ……何処に行こうか?オーストラリア?アメリカ?それともニッポンもいい……」

 

「あぁ……でも今じゃない」

 

「……」

 

「今日オサリバンとも話がついたんだ。それにデラーズ閣下やアクシズとの話も付いている。()()()()()()()()……そうだ。うまく行っている」

 

そうだ。うまく行きすぎている。一年戦争じゃ精々俺の力では、ドムの早期開発ぐらいしかできなかった。それが今やアナハイムにも協力を取り付けて、しかも時間も資金もあるときた。分からないじゃないか!やってみないことには!ここで引く理由がないんだ。

 

「そんなの誰かに任せてしまえばいいじゃないか!ユーさんがするべき事じゃない」

 

「それは……」

 

言葉に詰まる。心の中を掻きむしられるような激しい焦燥を感じる。

一方で、もういいんじゃないか、ここでやめても。もう一人は、そう鎌首をもたげてくる。そうやめるべきだ。そう思っているのに。言葉が急に固い木片にでもなったかのように咽喉につかえていた。

 

「最近夢に見るんだ。青い球体から言われるがまま、出てくる黒いものを撃ち落とす夢。その黒いものを撃ち落とすたびに、誰の意思が記憶が。わかるんだ。憎しみ恨みその輪の中にユーさんが引きづり込まれて、私だけ助かる。そんな夢」

 

「……前にも話してくれた奴か」

 

「……いや、嫌だよ。私にはユーさんだけなんだ。クーディが、私をすがったように。……私にはユーさんしかいないんだ」

 

「……っ」

 

ぽたと水音がした。彼女の小さな体が、震える。

分かった。たったその一言が口にできない。だってどうする。ここは宇宙世紀だ。何度も大きな争いがここから続く。地球圏宇宙の至る所で、戦果が広がる。ここ月だって、安全ではない。ましてや、彼女の才能は稀有だ。各機関の奴らが放っては置かないだろう。ニュータイプとは、祝福では無く、呪いだ。俺だけならどうとでもなるだろう。そこらで野垂れ死ぬとしても、それは俺の人生だ。だけど、彼女は違う。辛い過去を歩んできたのだ。幸せに生きてほしい。その権利が有る。無いとは誰にも言わせはしない。

それには体制を変えるか、力を得るしか無い。連邦にも負けない力。

頭が痛い。

頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

「……なにも、言ってはくれないんだ。いい分かった。でもこれだけは教えて。どうしてやめられ理由があるの?それとも私のことが嫌いかい?」

 

「嫌いなわけがない!」

 

即答だったりそれだけは、違う。体を入れ替えて、彼女を視界に入れる。

 

「ならどうして?そんなに難しいこと?私じゃ役に立たない?」

 

「……いや」

 

瞳がびっくりするほど深く澄み渡っている。透き通っていながら、底が見えないくらい深い泉のようだ。長くのぞき込んでいると、中に自分が吸い込まれてしまいそうだった。

言って信じられるだろうか、それに前世などと。俺もお前も所詮別世界の人間だなんて、言えるはずもない。……言ったところで信じてはくれないだろう。

 

「……信じられてなかったんだ。私」

 

「……そんなことはない」

 

「嘘!嘘だよ!何も言わないのに……!信じてくれだなんて都合が良すぎるよ!私エスパーじゃ無いんだよ!」

 

全身で怒りを表現していた。立ち上がり後ろに下がっていく。明確な拒絶の姿勢。頭をガツンと殴られたかのようだった。

 

「……言ってくれないと、分かんないよ」

 

その一言を最後に彼女は、家を出て行ってしまった。この狭い空間を静寂が戻ってくる。やはり彼女を信じられなかったのだろうか?言えなかったと言うことは、やはりそう言うことなのだ。ふらふらと、出て行った彼女の残滓を追いかけるかのように玄関に向かう。その途中で、何かを踏んですっ転んでしまった。強かに顎をぶつけてしまった。

 

「……痛っ。なんだこれ」

 

頭が先程とは違う意味でクラクラする。何しているんだろうか。そしたら何故か無性に泣けてきた。何をやっているのだろうか。

苛立ちをぶつけるかのように、踏ん付けた物体をみる。キャンディ型のチョコレートだった。

 

「……今日買ってきたやつだ」

 

折角仕事がうまく行ったので記念にと。少し高めのチョコを買ってきていたのだ。二人で食べようと。バタバタしていたのですっかり忘れていた。チョコは時間がたった為か少し溶けており、無惨に砕けてしまっていた。勿体無いので、踏んづけてしまったチョコレートを一つ口に運ぶ。甘党の彼女のために甘いチョコレートを買ってきたはずだったが、少し苦く感じた。

 

「……このままで良いはずがない」

 

いや、今からでも間に合う。追いかけて、話してみよう。そしてチョコレートでも食べよう。そう遠くには行っていないはずだ。

 

「よし」

 

そうと決まれば急がなければ、玄関を開けた。ところで異変に気づいた。連邦軍の軍服を着た男達が、アナハイムの制服を着た男と問答をしていた。あれはアナハイムの連邦シンパの男か?どうしてここに。連邦軍の軍人は全員銃を持っていた。後方に軍が使っているジープの姿も確認できた。まだこちらには着いていない、

数回やりとりをしたのち、スーツ姿の男がこちらの方向を指さした。

まずい。

どうやら狙いは俺らしかった。オサリバンが告げ口したのか、それとも連邦シンパの男の独断か、分からなかった。ただ一つわかるのはこのままではまずいと言うことだ。

 

「……クーディは?」

 

もしかして捕まってしまったのかも知れない。それも探る必要がある。扉をゆっくりと閉め、間に先程の舗装紙を挟んでおく。これに気づいた奴らが少しでも罠と警戒して止まってくれれば良いが……気休め程度だろう。クローゼットの隠し引き戸を開けて中の銃器を取り出す。狭いところに隠すために、銃身を短く切ってあるマシンガンを取り出す。弾倉と弾薬、通信機を入れたバックを背負う。その時床に落ちてしまった複数のチョコレートが目に入った。数個拾ってポケットにねじ込む。

 

「クーディのことは、分からないはずだ」

 

無事だろう。無事であってくれ。

壁にへたり込むようにして座り込む。そう信じたかった。

狭かったはずの部屋は、今はただ広く。そして何の返事も返してはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

真夜中の街中。二人の男が肩を組みながら歩いていた。一人はアナハイムのつなぎをきた男。もう一人は眼鏡をかけており、シャツ一枚にラフな格好をした男。肌は真っ白くいかにも、不健康です。といった見本の様な男だった。

一人の男が悪態を吐きながら、道端のゴミ箱を蹴飛した。中に入っていたゴミが周りに散乱する。周りの通行人が嫌そうな顔をするが、直接たまに入ったりしない。男達が酒臭かったのも有るが、この町では酔っ払い変な行動をすることは日常茶飯事だ。

 

「おれら、アナハイムのエヒートなんだ。何が連邦のパイロットだ。たかがジオンの奴に負けやがって」

 

「耳元でがなりたてぇわなぁ。ういせぇ、」

 

一人は、先程の模擬戦の立案者だ。うまくいかなかったストレスを酒に逃げることで心の平穏を保とうとしていた。もう一人は、そこらへんの店で、会って何となく意気投合して行動を共にしていた。名前も聞いたが、どうせ一夜の中だ。もうお互いにお互いの名前を覚えてはいなかった。

 

「いや、それも仕方ねぇか、何せ……奴はジオン軍の将校様なんだからよう!にゃははは!」

 

「ジオンの将校ときたか!お前やっぱり面白いな!何が将校だ!アナハイムにしょうこうが行くもんか。……って俺の話だよ。連邦軍に俺の有能さを売り込んだ訳!強化人間の第一人者だって!でも実物がねぇと信じられないの一点パリ。やってられねぇよなぁ」

 

眼鏡の男が囃し立てる。が、正直男の耳には右から左だった。

考えるのは今日の出来事。

全て聞いていた。最初は出来心だった。オサリバンの隣でモニタリングしていたのだ。二人の会話が耳に入った。オサリバンはヘッドホンをしていたし、全て聞こえた訳ではないがあの単語。ちゅうさ。

 

『状況終了だ。二人は降りてこい。あと……ちゅ○さ○○○○○へこい』

 

聞こえたのだ。聴こえてしまった。彼も伊達に兵器開発を行なっている一員なだけない。中佐の文字が意味するところは分かる。ジオンのモビルスーツに精通している。しかもあの戦い方、それなりの戦場をくぐり抜けていたのだろう。

 

「そりゃ勝てまへんなぁ。なーにがユーセルだ!」

 

「ん?誰だそれーきいたことあるようなにゃいのうな」

 

「なんて?わはは」

 

もはや自分でも何を言っているか、わかっていなかった。一通り叫び終わると、喉が渇いた。手に持っていた瓶を一気に飲み干す。瓶を飲み干すと、強い酩酊感に襲われ、気分が良くなった。まだまだいけそうだ。

 

「だからぁ、連邦軍に売り込んだんだけど、ニタ研だってぇ。月の施設は取り押さえられてるしぃ」

 

「ん?何処だここ」

 

「聞けよお」

 

気付かぬうちに街を出て、しまっていた様だ。アパートが、乱立しているところに出た。ここも、戦争の被害者の名残りだ。他のサイドから越してきた奴らが暮らしている。普段は立ち寄らない様な所だ。

 

「誰かに任せてしまえばいいじゃないか!ユーさんがするべきことじゃない!」

 

引き返そうとしたところで、ふと男女が争っている声が聴こえた。

 

「ん?誰だこんな時間にうーん……見に行ってみるかぁ」

 

「ええなぁ」

 

もはや自分でも分からなかったが、ふと気になってしまった。ただ歩くのも疲れた。酒のせいで気が強くなっていたのも有るかもしれない。ふらふらとした足取りで、声のする方向に向かった。

 

そこで見てしまった。今日の忌々しい相手が。そして揉めている白髪の女。歳は14.5ぐらいだろうか?何か揉めている様だった。

 

「あれはジオン野郎、連れがいたのか」

 

「……あれは、もしかしてMAN-08の……なんでこんな所に」

 

「あぁなんだって?」

 

眼鏡の男は、「……My treasure」とか「いや。これは福音だ。神はやはり私をみていた」とかなんとか、ぶつぶつと呟き、全く話を聞かない状態になってしまった。こいつは研究者だと自分で名乗っていたが、研究者という人種は皆こうなのだろうか?

 

「……通報しよう。連邦軍に」

 

「あぁ?」

 

急に顔を上げたと思うと、第一声がそれだった。

 

「あの子は私の……なんにするか。……そうだな。養子だ。数ヶ月前に、ジオンの宇宙突撃軍のとある中佐に誘拐された」

 

「おいおい。随分と胡散臭いな。で?とある中佐って?」

 

随分と胡散臭かった。攫われたとの証言も疑わしかったし、第一養子との関係性を言うだけで何故考える必要があるのか?だがあえて聞いた。

うさを晴らす理由も考えてはいたし、誘拐犯それに、その犯人が元ジオン軍人だったら、連邦軍が動いてくれると言う目論見もあった。酒にやられた頭でぼんやりと考える。俺たちは正義のヒーローだ。

眼鏡の男が、その名を読んだ途端。男は歪な笑いを浮かべる。決まりだ。二人は呟くと、何処かに電話をかけ始めた。

 

もしもし。連邦軍ですか。情報提供です。すぐにきてください。ジオン軍の将校を発見したのですが……ええ……ええ。住所は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ターニングポイント2

ちょい短いですあと少しのサービスシーン。グロも飛ばしても構いません。


チャイムがなった。

 

『近所で事件がありまして、2、3個お聞きしたいことがあるのですが』

 

「分かりました」

 

応えたが、玄関には向かわなかった。玄関から死角になる位置に移動。部屋の電灯のスイッチに指をかけ、目を瞑る。ひりひりと肌を焼く様な殺意。とても2.3個の問答で終わる様な雰囲気では無かった。

10秒ほど経過した頃

ベランダに面した窓が突然割れ、手榴弾が飛び込んできた。いや、催涙弾だ。1秒とおかずに、催涙ガスを吹き出した。

催涙弾の次に黒と茶のノーマルスーツで、身を固めた男が飛び込んできた。こちらからはメットの中は見えず、サブマシンガンで武装している。

突入を確認したのち、俺はリビングの明かりを消して発砲した。

突然の暗闇のせいで侵入者の反応が遅れた。まともに銃撃を受け、その場に崩れ落ちた。催涙ガスをものともせず、別方向からの敵に備える。

まだ来る。玄関の先から複数の銃声が聞こえた。ドアの蝶番と取手を銃で弾き飛ばしたのだ。

ドアを蹴破り、玄関から二人の侵入者が押しかけてきた。薄暗い催涙ガス渦巻く霧の向こうに、黒と茶のパイロットスーツの影が二つ見えた。サブマシンガンで武装している。

 

「武器を捨てろ!」

 

先頭の一人が警告する。口ではそう言いながらもその動きは明らかに警告では無かった。部屋にいるこちらに向かって銃口を向ける。撃つ気だ。それの返答は銃声だ。弾倉に残っている弾を全弾叩き込む。短い悲鳴の後、侵入者が倒れた。ベランダ、リビング、玄関、全て見回ったが、他にそれらしき敵は見当たらなかった。

 

「……あぁああぁ……!目が、目がぁぁ」

 

いや通路口で、顔面を押さえて転げ回っている男がいた。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。催涙ガスをモロに顔に受けてしまったのだろう。その男はアナハイムの制服を着てた。直ぐには思い出せなかった。

 

「……そうだ」

 

連邦シンパの模擬戦を提案した奴だったか。忘れていたわけでは無かったが、すぐには思い出せなかった。色々ありすぎた。今日の出来事のはずだったのにいやに昔の出来事に感じた。

 

「何でこんなところに、こいつが言ったのか?おい、返事しろ」

 

「目があぁぁ!」

 

「……はぁ」

 

近所の目も気になる。泣き叫んで転げ回り、とても話ができる状態では無かった。ため息をつき、男を引きずり、部屋へキッチンに向かう。キッチンの換気扇をまわし、頭から冷水を被せてやる、

 

「かはっ……つ、冷た!ゴホ」

 

訓練を受けてない民間人には辛いだろう。しばらくは話せないとみて、玄関に倒れた侵入者に歩み寄る。スーツが優秀だったのだろう、胴体部に受けた弾は貫通していない様だったが、頭部に弾を受け、即死していた。

 

「……」

 

一瞬憐憫の様なものをいだいたが、直ぐに消えた。あちらもこちらを殺そうとしたのだ。殺さなければ、殺されていた。

慣れているつもりだったが、あまり気分の良いものでは無かった。

 

「……」

 

ヘルメットを外して、顔を見る。30年台ほどだろうか、驚きで目を見開いたまま虚に空を見つめていた。手を合わせて、目を閉じてやる。どこぞの特殊部隊だろうか?

他も調べたが、何も分からないということが分かった。

身分が分かるものは何も持っておらず、部隊章もドックタグもない。他の二人もだ。

ようやく落ち着いたのか、先程引きずってきた男が、キッチンから顔を出した。まだ痛いのだろう。都合が良いことに、目は開けてはいなかった。

 

「あ、ありがとう。あなたは一体……?」

 

「んっんん……私は連邦軍の部隊のものだ。質問に答えてくれないか?」

 

「あぁ…はい……」

 

少し喉を押さえて、一段低い声を出す。こちらの方が何かと都合が良さそうだった。

 

「名前は?通報したのはお前か?」

 

「ゆ、ユァンです。は、はい。そうです。私が通報しました。ジオンの将校がここにいるって……彼は、ユーセルの野郎は」

 

「……そうだ。抵抗したので、殺したよ」

 

「そ、そうですか、でも仕方がないですよね。あいつが悪いんだ。ジオニック社の奴だからって、途中で何の苦労もなく入社して、あいつらなんてただの金食い虫だ。いなくなってせいせいした」

 

ユァンと名乗った男の独白は続く。途中から喜色が混じって来ていた。よほど嬉しいのだろうか。

 

「そうだ!俺は正義だ!ジオンの奴らは地球にコロニーを落とした悪魔だ!これは正義の行いなんだ!殺されて当然の……」

 

「……黙れ」

 

それ以上は聞くにに耐えなかった。確かに俺たちは何と言われようが、人殺しだ。綺麗だなんて思っちゃいない。俺の手は汚れている。だがお前はどうなのだ。自分の手も汚さず、人の手を借りて、何が正義だ。ここでお前も撃ち殺してやっても良いのだぞ……!

ドス黒い感情が胸を支配する。

 

「……さむ」

 

室内に冷たい風が入る。ドアも窓も破壊されているためだ。

部屋を見る。あれほど綺麗に掃除されていた室内はあちこちが歪み、床には砕けたガラスが散乱している。ベランダに飾ってあったクーディが大切にしていた花も踏みつけられ、もう原型を留めてはいなかった。

 

「クー……もう一人女の子が居たはずだ。その子はどこへ行った」

 

「あぁ……彼女の事は分からない。もう一人俺の連れがいたんだが、そいつが軍人さんと一緒に連れていっちまった」

 

「どこに行ったか分かるか?」

 

「し、知らない。あんたらの方が詳しいんじゃないのか?連邦軍なんだろう」

 

「……質問しているのはこちらだ……民間人にこれ以上は言えない。それ以上は詮索するともう一つ死体が増えることになる」

 

「わ、分かった」

 

わざと大きな音を立てて、銃のスライドを引く。我ながらくるしい言い訳だと思ったが、ユァンは信じた様だった。こくこくと怯えた様に頭を動かす。

 

「他に知っている事は?何でも良い」

 

「えっと……そ、そうだ!確かMAN-08とか彼女は私の養子だ。だとか言っていた!本当です。……お願い。撃たないで」

 

「……っ!」

 

MAN-08といえばエルメスの形式番号だ。クーディを見て、直ぐにその番号を出てくる奴は、そんなにいないだろう。元ジオンでフラナガン期間出身の人間だ。そこまで分かっているのなら、攫われている可能性が高い。フラナガン機関は確か……月のグラナダ辺りだったか?こんなことになるならそれも調べておくべきだった。

 

「……分かった」

 

これ以上彼からは有益な情報を引き出す事はできないだろう。急がなければ、新手も心配だ。派手に暴れすぎてしまった。あたりには並ばれた三人の遺体と怯えた男が一人。ユァンも目が見える様に慣ればこの惨状を目にして、明らかにおかしいことを悟るだろう。質問していたのは誰だったのか、何を探られたのか、色々吐くことだろう。放置しておけない。

 

「仕方ないか……」

 

そばに置いておいた弾薬類の入ったバックの中から、メディカルポーチをだす。ガーゼ、痛み止め、無針注射器の、セット。今日飲んだアルコールが入った瓶が落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いたい」

 

手首に、食い込む様な痛みで目が覚めた。

 

(……ここはどこ?) 

白いコンクリートで塗装された壁。手の平サイズの小さな小窓から差し込む光。どこかの建物の一室のようだ。ベット脇に点滴のスタンド。医療用のモニター。心電図のコードがどこかにつながっていた。波が痙攣するようにはね、無機質な電子音を奏でていた。

 

「目が覚めたか」

 

男の声がした。その男の声を確認する事はできなかった。身を起こそうとするだけで、頭に酷い頭痛が起きたからだ。手足を動かして、頭を押さえる。手の先からじゃらじゃらと、金属の輪っかを擦る様な音がした。

 

「安静にしたまえ。安定剤を打ったばかりだ。しばらくは頭がぼーとするはずだ」

 

「……ここは?」

 

苦労して身を起こす。頭がズキズキと痛かったが、どうやら身体は何事もないようだった。手に手錠をつけられている以外は。

身体を起こした事で男の姿が目に入った。連邦軍の制服の上に白衣を羽織っている30代くらいの男だった。

 

「……あまり動くな」

 

「教えてくれないかい?ここはどこ」

 

「安静にと言ったのだがな」

 

男ははぁ、とため息をついて肩をすくめた。

私がなぜこのようなところにいるのか、ここに至るまでの経緯を全く思い出せなかった。

 

「……一般市民から通報があった。ジオン軍の将校が私の養子を誘拐していると。それで我々が保護したという形だ。保護してから1日は立っている。1日も寝ていたのは保護する時に使った薬の副作用だろう。その間に色々と調べさせてもらった」

 

これで満足か?とでもいうようにそれだけを言い切って、男は部屋の隅に設置されている椅子に座り込む。横柄な態度だった。

 

「……」

 

自分をよく見ると、青の患者服を着ていた。ご丁寧にブラまで外されている。慌てて胸元を押さえる。遅いのは分かっていたが、こんな無防備な格好を他の男に見られたくはなかった。

 

「……安心しろ。脱がせたのは他の女性スタッフだ。色々調べたいこともある」

 

「……ここから出して」

 

「それはできない。言っただろう。調べる事があると」

 

「……何を?」

 

「色々とだ」

 

男は今度こそ何も言わずに、ヘルメットのようなものを取り出し、見せつけるようにプラプラと振る。見た事があった。これはフラナガン機関の……

押さえつけていた記憶がフラッシュバックする。実験の日々、それは決していい記憶とは言い難かった。

 

「…あ、あぁ」

 

「……知っているのか?まぁいい。数時間後には結果が出る。大人しくしているんだな」

 

男は無機質な目で告げた。

 

 



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反撃の狼煙

そろそろ原作キャラを引っ掻き回していく。これはお忘れかも知れないですがガンダム0083です。……たぶん


 

 

とある町外れのトタン屋根の建物。朝日を反射している屋根は剥がれかけ、ガタガタと、音を立てていた。あたりには倉庫に入り切らなかったのであろう。様々な機械が無造作に放置されている。ケリー・レズナーが経営しているジャンク屋だ。荒れた息を、ぜいぜい、と吐きながらユーセルはジャンク屋の門を潜った。

 

「……ケリーはいるか?」

 

玄関のインターホンを鳴らす。ややあって家主の足音が聞こえて来た。扉が開き、大柄な男が出てきた。ケリー・レズナーだ。

 

「こんなに朝早く一体誰……って中佐。どうしました?」

 

「よう……おっはー。遊びに来たぜ……」

 

時間は朝6時で、心配していたがどうやら起きていたようだった。ケリーは突然の来訪に驚いたように、ユーセルの全身をしげしげと眺める。

彼はいつも着ている服とは異なり、何故かスーツを着ていた。どこにでもいそうなサラリーマンといった装いだった。

 

「そりゃ構わないが……何もこんな早い時間にくるこたないだろう。朝6時ですよ」

 

「ちょっと……急な用事があってな……っくう」

 

「……酷い出血だ。大丈夫か!?おい!」

 

そこだけ言い切るのが限界のようだ。ユーセルは崩れるようにして、前のめりに倒れ込む。酷い状態だ。慌てて、ケリーが脇を握り込むようにして身体を支える。ベチャ、と粘りっこい液体が跳ねる音がした。

 

「………」

 

改めて見ると、所々服が破けており、全身には無数の擦り傷があった。全身脱力し切った様子でユーセルは体をケリーに預けている。呼吸音の中にすやすやと寝息混じり始めていた。寝てしまっただけらしい。

 

「……ひとまず止血だ」

 

何はともあれ怪我の治療をしてやらないといけないだろう。何があったのかまるでケリーにはわからなかったが、厄介事なのは確かだ。ため息を吐き、ケリーは引きずるようにして、家に招く。

 

「おい!ガトー手伝ってくれ」

 

洗面所で歯を磨いているであろう、同居人に向かって声をかける。

長い1日になりそうだった。

 

 

 

 

「それが、ちょっとヘマしちゃいました。テヘ」

 

「はぁ……」

 

彼の目の覚めての一言目がそれだった。頭をコツンと右手で叩いて、テレビのバカっぽいタレントがやるような動作をしていた。ケリーは少しだけ、イラッとしたが、仮にも上官_今は退役しているが_だ。殴るわけにもいくまい。拳を握り、先を促す。

 

「それで?何があった?」

 

「住所を連邦軍に特定されて、特殊部隊の襲撃を受けた。それだけ」

 

「それだけではないでしょう……」

 

まるで、いたずらが親にばれそうになることを恐れている子供のようだった。

彼はそう言って、ガトーが入れた珈琲を一口啜った。少し暑かったのか、身体を小さく痙攣させて、慌てて持っていたマグカップを口から離す。スーツは脱がしていた。脇腹を押さえるようにして、包帯が巻いてあった。一目見るだけで、鍛えられているのがわかるが、今はあちこちに包帯が巻き付けられ、見ていて痛々しい。

 

「それだけでは分かりません。中佐。何があったのか、細部お教え頂きたい」

 

「ガトー」

 

そう言いながら鋭い眼光をした男が、奥から姿を表した。湯を浴びていたのだろう。湯気が立ち、肩まで伸びた白髪を、タオルで荒々しく擦りながら、二人のいる居間に入ってくる。ガトーは椅子にドサ、と荒々しく座り、ユーセルに問いた。

 

「中佐。我々は軍人です。多少の荒事には慣れている。今は潜伏中の身。本来なら明らかに怪しい図体の男を招き入れ、連邦に辺に探られるのも本来は避けねばならない状態です。それをわざわざ招き入れた我々の善意無駄にはしないでいただきたいものです」

 

「うっ」

 

「……おいガトー言いすぎた」

 

ケリーは、ガトーに苦言を呈す。言外に言わないのなら、ここから追い出すと言っているようなものだ。ユーセルは短くうめき、たしろぐ。先ほどまで被っていた軽薄の仮面はとれ、哀愁が透けて見えた。

 

「実は……_

 

 

 

 

 

「特殊部隊の襲撃を受けた上に、家は燃やされて、クーディちゃんが攫われた!?」

 

事情説明した後、ケリーからは驚いたように声を上げられた。ガトーは眉を顰めた程度だった。

 

「まぁ……家は自分で燃やしたようなもんだけど」

 

「それにしてもだ。つけられてないんだろうな……!」

 

ぽつりと呟いた言葉はケリーには届いていないようだった。しきりに頭を動かし、周囲を見渡している。遠くからサイレンの音が微かに聞こえた。

 

「それは大丈夫だ。まず拠点にしてた借り屋をしぶしぶ燃やして、遺体も処分した後。アナハイムの男については静脈にアルコールを注入して、ベロンベロンにした後、銃とライター等も持たせて放火魔に見立てた。後は追手が心配だったので、用意しておいた車でフォンブラウン郊外を抜けて後は自動走行だ。俺にもわからんそこらへんの月面で隠すように設定してあるから足はつかない。用意しておいたコードを入れないと爆発する仕組みだ。後は町外れのスーツ屋に入ってスーツを買って着替えた。あいにく近くに服屋がなくて。ちょっと高かったが……服はそこら辺のゴミ箱の中だ。あとは監視カメラが不安だったので、キルケー……母艦に連絡をとって監視カメラをジャックしてもらった。巻いてから連絡したから1日近くかかったが……外縁に仕掛けておいた中継機が役に立った。オペ子のことだそれなりに_」

 

そこまで話したところで、ケリーはうんざりという様に、こちらの言葉を遮った。

 

「……わかった。とりあえずはいいということだな」

 

「酔っ払いの犯行とでもなっているだろう。相当な量を入れたので、死にはしないが、相当な酩酊状態になっていることだろう。しばらくは目が覚めないだろう」

 

随分とずさんな対応だったが、あの場ではそのくらいしか思い浮かばなかった。しばらくは時間を稼げるだろう。

 

「……中佐の今後の行動は如何にする予定で?」

 

「クーディを取り戻す。それだけだ」

 

ガトーが質問する。答えはすぐに出た。クーデイを乗せた車両が、グラナダ近くの元ジオン軍基地に入って行ったのをカメラの映像から確認できた。場所は分かっている。

 

「クーディは、元キシリア閣下のグラナダの地下基地だ」

 

「……それは無理でありましょう。中佐。グラナダの基地の構造は、放射状に広がった地下都市。大半は民間都市と言っても、今は連邦軍の魔窟だ。大隊規模以上の戦力が駐屯している。一艦隊で突撃をかけるのは無謀としか言えますまい」

 

「いいや、部下たちは連れて行かない。これは俺の個人的な感傷だ。道連れには出来ない」

 

「……死ぬ気ですか?」

 

「……無茶でもやるさ。彼女を放っていけない」

 

ガトーは深く息を吐き、背もたれに重心を預ける。どこか呆れている様だった。

 

「そこまでする価値があの少女にあるのですか?何回か会ったことはあるが、聡明な少女だが、それでも……どこにでもいる普通の少女だ。直接軍事に関わっているというわけではない。火中の栗を拾って火傷するよりも、時期を待てばすぐに釈放されるでしょう?」

 

最もな疑問だった。2人にはニュータイプ関連は話してはいなかった。

悩む。これはジオン軍の暗部。闇と言っても過言ではない。ケリーはともかく、ガトーに言っていいものか……

 

「……」

 

これを知ってガトーがジオン軍に落胆したら?デラーズフリートに参画してくれなかったら?歴史が変わってしまうのではないのか?もしも……もしも……もしも。膝元に目を落とす。

不安と悔恨だらけだった。

考えとも言えない思考が脳裏に走っては消える。いくら考えても思考の靄は、晴れてはくれなかった。

 

「あはは、そうだな。よく考えればそれもそうだ。すぐに釈放されるだろう。邪魔したな。取り敢えず帰ることにするよ。あ、クリーニング代は後で払うよ」

 

「中佐。待ってくれ。まだ話は……」

 

ケリーが制止してくるが、今は話す気にはなれなかった。誤魔化す様に席を立ち、玄関へと向かう。元々一旦休憩するために寄ったのだ。協力を要請する為にきたわけではない。

 

「中佐」

 

「なんだ?ガトー……_」

 

左頬にガトーの拳がめり込んだ。身体がぐらつく。ガトーは彼の胸倉を掴み、引っ張り上げた。口の中を切ったらしく、ぬるりと血の味がした。

 

「お前はいつからそんな、負け犬の様な顔をする男に成り下がった」

 

「何を……」

 

「お前がした事は、デラーズ閣下から聞いている。ア・バオア・クー撤退戦、新型機奪還。その他のあれこれ。先日貴様と話した時も、貴様の価値感を聞いて、その発想。スペースノイドの剣であろうとする姿勢は同じジオン軍人として……聞いていて、正直胸が震えた。ジオンは負けていない。我ら同胞の灯火はまだ消えていないのだと」

 

ガトーは一旦言葉を切る。

 

「それなのに今の貴様は何だ?少し都合が悪いことがあると、物事から逃げようとする餓鬼のそれだ。想像していた人物像からは程遠い。私の思い違いだった様だ」

 

視野が狭くなっていたのか、今日初めてガトーの目を見る。ガトーの爽やかで、整った顔立ちには違和感があるほどに、粘り気のある火が、瞳に浮かんだ。自尊心を傷つけられた憤りがあった。嗚呼、どうやら俺はまた間違えてしまったらしい。クーディが最後に言った言葉を思い出す。

 

「……そうだよな。言わないと分かんないよな」

 

「ガトーもうやめろ!やりすぎだ」

 

「だが……!」

 

ケリーとガトーが激しく揉み合う。俺は口元の血を拭うと、ぽつりと呟くように話し始めた。

 

「クーディは……クーディは解放される事はない。何故なら彼女はフラナガン機関で育成されたニュータイプ。いや、強化人間だからだ」

 

ケリーになだめすかされて、ガトーは落ち着きを取り戻す。

 

「彼女が?強化人間だと?先ほども言ったが普通の女の子だ。あんな小柄な子が動かせる筈が……」

 

「……MAN-08」

 

その言葉に、ケリーが反応する。機は違えど彼はモビルアーマーのパイロットだ。聞いた事はあるのだろう。

 

「……聞いたことがある。MAN-08 エルメス。ニュータイプと呼ばれる者の脳波を利用した機体。サイコミュで遠隔操作されるビットを積んでいて、多方向からのオールレンジ攻撃を仕掛けられるとかいう機体だ」

 

「……詳しいな」

 

「あぁ。俺もソロモン海戦で一度見たことがある。赤いゲルググと共にとても大きなモビルアーマーが、戦艦を次々と落としていた。ビグロのコクピットに座っていたが、冗談抜きで鬼神……とは違うな。まるで神話の中の神の様だった。相対する敵を容赦なく滅ぼす無慈悲な神」

 

ケリーが懐かしむ様に話す。懐かしむといってもそれは決していい表情では無かった。……恐れ、だろうか?

 

「お前にしては偉く詩的な表現だな?ケリー」

 

ガトーからの声に、「揶揄うんじゃあない」と返してケリーは、肩をすくめた。たしかにガンダム世界のエルメスはサイコミュ兵器の(究極)とも呼ばれている兵器だ。そしてそれは、数機で戦局を覆すことができると言われた力。

 

「あぁ、撤退戦の最中ひろった子だ。……それにエルメスのパイロットでもある。上手く扱えなかった様だが、それでも連中には関係がない話だ。何しろ名だたるエースパイロットは皆生死不明だ。ララァ・スン。クスコ・アル。シャア・アズナブル。彼女はその中と比べると一段二段と落ちるだろうが…それでも、連中が放っておくわけではない」

 

静まり帰る部屋。誰かが固唾を飲む。

 

「これが全てだ。手伝ってくれなどと言うつもりはない。こうしている今も彼女は何を受けているか分からない」

 

思い出すのは、とある映画。格納庫の一角で、少女が悲鳴を上げ、窓にガラスに頭を打ち付ける。ガラスは蜘蛛の巣の様にひび割れていき_そして少女はこときれた。髪の毛が、ぶちぶちと千切れる嫌な音だけがやけに印象に残っている。彼女もそうなってしまうかも知れない。

何者かに心臓を鷲掴みにされる感触。それを、人は恐怖というのだろう。

踵を返し、今度こそ玄関に向かう。プランは無かったが、じっとはしてられなかった。何か手がある筈だ。何か……

 

「……あー。待ってくれ。中佐」

 

「どうした?ケリー」

 

「そのですね……あー……」

 

いつもははっきりとものを言うケリーが、後頭部をぽりぽりと掻き、何か言い及んでいる。しばらく言い淀んだ後。何かを決意した様に述べた。

 

「ジャンク屋のって言っても色々な仕事があるんだ。中古や街に下ろしたり、それこそ連邦軍にも下ろしたり、こんな小さな町工場だ。あっちから声がかかるってわけじゃなく、こっちから営業しないとままならないと言うのもあってな」

 

「……?おう」

 

「でも、商品を見せないと、売れなくてな。それを運ぶのに人手がいる。大事な取引だ。人手を雇おうと思っていた。売り込み先は()()()()()()の話だが、グラナダに行こうと思っている」

 

「……それってもしかして」

 

「そいつは月に来たばかりの新参者で、グラナダには来たことがない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そこまで来てようやく企図が読めた。要は手伝ってやると言っているのだ。ケリーのその提案に、俺はすぐに飛びついた。ケリーは強面の面を大きく破顔させ、笑った。

 

「……ありがとう」

 

「ガトーはどうする?」

 

ガトーはふんと、鼻を鳴らし、こちらを一瞥する。

 

「何と杜撰な計画だ……」

 

「そりゃそうだけど……」

 

やはり協力はしてくれなさそうだ。ケリーが協力してくれると聞いて、少し浮かれてしまったかも知れない。

 

「……帰路はどうする?侵入が発見されたときは?モビルスーツがいるだろう」

 

「……ガトー」

 

「ふん。ジオンの国民を守るのは当然のこと。ましてやそれが女子供となればさらにだ」

 

「ありがとう二人とも……」

 

ユーセルの感謝の言葉に、ケリーはバンバンと肩を叩き、ガトーは鼻を鳴らす。その顔は小さく笑っている様だった。

 

 

 

 

 

 

 



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胎動

「ジャンク屋だ。ザクF2型のパーツを売りつけに来た」

 

「……今日の午前中に連絡を取っていたやつか、入れ」

 

月のグラナダ。元ジオン軍のキシリア麾下の拠点があった場所だ。そこの正門に、大型トラックで乗り付ける。荷台にはザクf2型を積んでおいた。その機体の左腕のカラーリングが異なっていた。

 

「……うまく入れたな」

 

「そりゃもう戦争は……あー連邦側は戦争は終わったと思っている。襲われるなんて思ってもみないことだろうな」

 

運転席に座っているケリーが簡単な身分審査で通れた事で、安堵の息を吐く。三人とも薄汚れたグレーの作業服姿。ガトーは変装の為、髪を下ろしている。

出発時にお互いの姿を見ていた時に、

 

「まるで売れないロックミュージシャンが、出稼ぎに来てるみたいだな。女のヒモとかしてそう」

 

「……ふっ。あのソロモンの悪夢が、女のヒモか……」

 

ケリーはそれを聞いて、笑いそうになるのを、口の中を奥歯で嚙むようにし堪えていた。

 

「……」

 

当の本人のガトーは、無言で頭に拳を振り落とされた。正直、前回左頬をぶたれた時より痛かった。苦悶の声を吐きながら、頭を抑えて痛がる俺。ケリーはそれを見て我慢できない、と言った様にカラカラと笑っていたのを思い出した。

 

「こうも呑気だとはな」

 

ガトーが車両のドアから基地の街並みをぼんやりと見つめながら、拍子抜けだと言う様に、ふん、と鼻を鳴らす。それが聞こえた瞬間に、ふと、悪戯心が芽生え、あのセリフを言ってみた。

 

「……連邦はどこもそうですよ」

 

「こんな奴等と戦っていたとは」

 

ガトーが、ぽつりと言った一言に紛れ込む様に言ってみた。口元を隠す様に左手で押さえて、助手席の窓から外を見る。やばい。にやにや、止まらない。あの有名なセリフほどではないが、混ざれた事にちょっとした喜びを感じていた。えっ?オタクくさい?うるさいやい。嬉しいもんは嬉しいんだよ。

 

「見えた。あれがグラナダの格納倉庫だ」

 

正門からしばらく広大な地下内を車を走らせた後、ケリーが目的の場所を指さす。D1と書かれた巨大な扉が目に入った。扉の前に銃を携行した兵士がこちらに大きく手を振っていた。周囲には数人の技術者らしき男たちが立っていた。

 

「こっちだ!」

 

誘導する兵士の前に、トラックを止めた。三人は小さく頷いて、それぞれのドアから降りる。

 

「わざわざ迎えてもらってすまない。これがそうだ。ザクf2型左腕は千切られてはいるが、他の機能に支障はない。ザクfの腕をニコイチで付けて入るそれから……」

 

元々鹵獲品は使える3機のパーツを1機に合体させて、運用するものだ。ニコイチとか言うらしい。ケリーは手慣れた様子でかけていたバックからファイルを取り出すと、スラスラと説明を始めた。その間手持ちぶさななので、なんとなしに2人が交わす会話を眺めていた。

 

「……ガトーガトー」

 

「……どうした新人」

 

黙っていろとでも言いたげなガトー。ケリーのジャンク屋に臨時バイトとして入った。新人。それが今の俺の立場だ。

 

「ケリーって……しっかりしたんだな」

 

「……コケにしているのか?」

 

「いや。そうではなくて、商人みたいだなって」

 

2人でヒソヒソと、話す。あの筋肉モリモリマッチョマンの強面男が、あんなスラスラと、資料をめくりながら機体の説明を続けていた。前に一度、アナハイムの商業マンの営業を見たことあるが、負けずとも劣らない。要は、なかなかサマになっていた。

 

「才があったのだろう。ジャンク屋としての才能が、でなければあれほどの大きさの工房をもち、連邦軍に機体の売りつけに漕ぎ着けることなど、出来なかっただろうな」

 

「ははぁ」

 

関心が漏れる。そんなことを話していると、ふと、ガトーの表情に影が落ちる。

 

「……ケリーがジャンク屋としての道を選ぶのであれば、それも仕方のない事かもしれない……寂しい事ではあるがな」

 

無表情を装っているが、瞳の奥に感傷の色が透けて見えた。……少しガトーの心に触れられた気がした。もしかしたら原作で、ガトーが迎えに来なかったのは……いやよそう。これ以上は本人たちの問題でぽっとでの俺が口を挟む事では無いだろう。

 

「話がついたぞ!調べたいことがあるから少し時間が掛かるらしい。休憩にしよう」

 

「分かった!……おい……どうした。新人」

 

「……あいたた。腹が……」

 

ガトーが片目を瞑り、合図してくる。作戦決行の合図だ。腹を押さえ、腹痛を訴える様に、ガトーの肩にもたれかかる。一同の視線がこちらに集まる。ガトーがわざとらしいくらいの声を上げた。

 

「だから言ったんだ新人。賞味期限が1ヶ月も切れているプリンなんてくうからだ」

 

「……いや。そんなもんくわ……あー。いたた。いいだろぉ。食べたかったんだよぅ」

 

確かにアドリブでとは言ったが、そんなもの食わんわ。この野郎。さっきのヒモ発言の仕返しか。ガトーの肩を、指が食い込むほど強く握り締める。ちょっとした仕返しのつもりだったが、あんまり効いた様子は無かった。

 

「……本当に腹痛なのか?そうは見えないが」

 

疑いの目を向けてくる連邦の兵士。その声をかき消す様に大声をあげる。

 

「いてぇよぉ!しぬ!死んじまう!」

 

「た、大変だ。済まないがトイレの場所を教えてくれないか」

 

ケリーが助け舟を出す様に、連邦の兵士に声をかける。それを受けて男は、仕方ないと言う様にため息をついてユーセルの肩を組む。

 

「はぁ。大丈夫か?面倒くさいがこれも規則だ。連れてってやる」

 

「済まない……あいたたた」

 

「こっちだ」

 

倉庫の裏口にからトイレがあるであろう場所に案内される。たまにがまんできな様子を表現して、別通路に入ろうとしたが、止められてしまった。

 

「そっちじゃ無い。別の場所に行ってしまうぞ」

 

「いたたた。……別の場所ってえと?」

 

軍司令部とか基地の中枢だな。占拠したばかりでまだ俺たちでも掌握できたない部分も、多くてな。まるで迷路みたいになってんだよ」

 

「へぇ」

 

「喋りすぎた。今のは忘れろ。……着いたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

中に人がいないのを確認して、外にいる兵士に声を掛ける。

 

「……すいませんー!ペーパーが無いのですが」

 

入口付近でため息が聞こえて、コツコツと足跡が近ずく。

 

「世話がやける……ほらこれ。……お前何を!ぐはっ」

 

差し出されたトイレットペーパーを取らずに、男の右手首を掴み、組み倒す。そのまま後頭部を掴み、便器の中に押し込む。酸素を求める様に、ジタバタともがくが次第に抵抗は弱くなっていき、男はそのまま気を失った。ユーセルは荒い息を吐いて後、襟をくいっ、と正し、男を見下ろした。

 

「便所にキスして眠ってな」

 

 

 

 

 

 

 

薄暗く照らされた会議室。白衣を着たは右手でタブレット型の端末を保持しスクリーンに映った映像をもとに説明していた。緊張のためか足がかすかに震えていた。

 

「結果として」

 

報告者の内容をながながと30分ほど説明し、研究員は言った。

 

「彼女……被検体kの身体は大きな身体強化はされてはおりません。が、ジオンのフラナガン機関そこでよく使われていたv_52。……失礼。これは一種の精神安定剤としか分かっていませんが、それが検出されました。薬の副作用か……記憶の混濁も見られました。フラナガン機関の実験台だと言うことは疑う余地がありません」

 

4人の男のうちの2人があざける様な声を上げた。2人はグラナダに駐屯している戦隊長。もう1人はマンハンターなどと呼ばれる特殊部隊の指揮官だった。残りの1人はジャミトフ・ハイマン准将。監査官として各地を巡っていた。戦隊長等が不満の声を漏らした理由は明らかだった。すなわち、ジオンの強化人間の実情を聞き、本来触れてはならないはずの人間の禁忌。先程の内容はそれを明らかに、逸脱しているものだったからだ。

 

「忌々しい。このような禁忌に手を出すとは、よほどジオンは緊迫していたとみえる」

 

「到底許せる事では無い。即刻研究は中止。彼女も親元に返すべきだ」

 

手に持っていた資料を、机の上に放り投げた。研究員を汚物を見る様な目で見る2人の戦隊長。研究員はいくらかたじろいだ。

 

「親元といいましても、すでに被検体の過去の系譜は辿れなくなっており、その……」

 

「そこからはこちらから言おう」

 

研究員の言葉を遮り、特殊部隊の指揮官は言った。手元のスイッチを押し込み、眼前に表示されていた場面が切り替わる。

 

「この少女が囚われていたのは、この男だ。元ジオン宇宙突撃軍。階級は中佐。ユーセル。こちらの隊員を三人殺害し、今なお逃走を続けている」

 

「聞いたことがある様な……確か白いドム部隊の指揮官だったかな?」

 

「そうです。ジョン・コーエン将軍麾下の者からの報告によると、サイド3で暴動を起こした後、最近まで行方を絡ましていました」

 

画面が次々と移り変わる。砂塵の中を駆け抜けて紫色の機体_ドムが疾走する。よく見ると所々白いカラーリングを施してあった。ジムの放った弾をひらりとよけ、ジムの上半身を消しとばしていた。画面のはじで同じようなカラーリングを施してある敵機が、味方機のジムや61式戦車を次々と蹂躙していった。飛び交う悲鳴と怒号。無機質な一つ目がこちらを見据えた所で、映像は終わっていた。誰がが喉を鳴らす音がした。

 

「これはオデッサ奪還作戦の時のものです。……残念ながら詳細な姿は撮れておりません。あるにはありますが、CG補正をしてもかなり解像度の低いものになります」

 

画面が切り替わり、全体的に赤みがかった画像が表示された。おそらくビルの上から撮ったものだろう。ビルが乱立しており、あたりは火災が周囲を巻き込まんと荒々しく渦巻いていた。中央には報告書にあったガルバルディとジム改が激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 

「拡大します」

 

特殊作戦の男がそのガルバルディの足元に焦点が当てられていき、数人の人物が表示された。荒れ狂う破片や炎。1人は何かを怒鳴る様に声を上げて、それを危険だと言う様に部下らしき男たちが引き止めていた。顔は見えない。

 

「真ん中の人物です。身長は170ほど髪は黒。おそらく中東系の顔立ちでしょう。画像からは判断出来ませんでした」

 

「ふん……ご苦労なことだ。戦争は終わったと言うのにな」

 

戦隊長の1人が吐き捨てる様に言った。

 

「奴らにとっては終わってはいないのだ。()()()()()()()どもにとってはな」

 

そこで初めてジャミトフ・ハイマン准将が口を開いた。それに反発する様に戦隊長が怒鳴った。

 

「しかし、今なお連邦軍は被害を被り続けている!いつコロニー落としの惨劇が繰り返されるか……」

 

「ジャブローの軍財務高官風情が何を言うか!せめて何かしらの対策を……」

 

()()()()()()

 

ジーン・コリニー配下の軍財務高官_ジャミトフ・ハイマン准将はあくまで冷静だった。

 

「今やジオン残党は各地に広まり、それぞれのサイドに散らばっている。膨大な数だ。それを一人一人尋問して回るかね?それもと疑わしきは罰するか?コロニーに毒ガスでも流し込む?ナンセンスだな」

 

手痛い反撃だった。一年戦争後の連邦とスペースノイドの関係は薄氷の上に成り立っている。精々密告があった者や、テロ、それに関係する物を法の上に裁くのが精々だった。

 

「この宇宙には連邦ジオン両方に反感を持つものが大勢いる。こちらから動きその様なことをして見せれば、様子見しているスペースノイドは……失礼」

 

言葉を切って、ジャミトフ・ハイマンは煙草に火をつけた。うまそうに煙を吐き出す。

 

「……一斉に地球連邦に牙を剥くだろう。一年戦争の再来だ」

 

「……」

 

「……起きた事項を無かったことには出来ない。だが、これから起こる事項への被害を最小限には出来るはずだ」

 

ジャミトフ・ハイマンは煙草を、黒のクリスタルガラスの容器に潰して、火種を消す。

_ジオンなどもはや形骸化しつつある。盛んに抵抗運動を繰り返す者共もいるが、所詮は残党。支援を得られない軍隊ほど脆い物だ。今派手に動いている物共も……動けて一回。それに備えねばならないのはこれからの連邦の課題だろう。それに気づいているものは、連邦の内部に何人いることか……

 

「他には無いか。被検体の話に戻ろう。調査は継続。ワシも監査を終わり帰らねばならない。そうだな……被検体は北米のオークランドまで運んで貰おうか」

 

「……オークランド?その様な辺境に何が……」

 

()()()()()()()()()()()()

 

その一言を最後にジャミトフ・ハイマンは会議室を後にする。室内には彼が吐き出した紫煙がゆらゆらと漂っていた。

 



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彼女との出会い

全然話が進みません。僕はもしかしたら好きな子の前に毛虫を放って楽しんでるようなバカなのかも知らん。
注意。____/223654の表記の後。グロ注意。あとちょっとのホラー。残酷な描写君が、アップを始めたようです。



 

 

 

「しかし広すぎるぞ。この基地」

 

ユーセルは迷っていた。広すぎるのだこの基地は。蟻の巣の様に構成されたグラナダ基地は、通路にある案内板を見なければ、ろくに進めはしない。目の前にひたすらにひろがる光景は、エヴァンゲリオンのジオフロントの様だった。

 

「引き返すか?……いや、こんなチャンスは2度と無い。トイレに縛って放置してある奴が見つかったらアウトだ」

 

前にも使った手だが、アルコールを直接体内に仕込んだ。

エリア88で見た。上等な酒だぜ。味わって飲みな。トムキャットとミッキーすこ。

ベロンベロンに酔っ払った兵士はさまざまな情報を吐いてくれた。最近搬出された怪しい車。クーディの姿は見たことがないと言っていたが、ほぼ確定だろう。細部の詳しい場所は分からなかった。

 

「この先のは地図にも無い空間だったが……」

 

目星をつけるとしたら、地図には拡張工事中と書かれたこの区域以外には分からなかった。自然と駆け出そうとする足を押さえつつ、かつかつと、足を進める。狭い通路を抜けた。

するとまず大きな敷地が目に入った。大きなグラウンド、白亜の校舎。プールなんてものもある。まるで学校のようだったが、一般の建物との大きな違いは__

 

「……これでは牢獄だ」

 

__窓が全て無く、敷地全てに有刺鉄線が張り巡らされている所だろう。

 

「……ここが、フラナガン機関か」

 

真っ黒に塗りつぶされた表札がかかった正門前を通過して、建物の入り口にたどり着く。懐から警護の者から奪った、認識番号が書かれたドックタグを提示する。

 

「ジョージ・ジェー・ロール伍長です。D1倉庫の方で、必要な素材があるということでこちらのほうに受領に来たのですが」

 

もちろん方便だったが、他に侵入できそうな場所も道具もない。正面突破しか、方法は無かった。時間もない。

 

「分かった。しかし悪いが、後にしてくれないか?」

 

「……どうしてです?こちらも仕事なんです。理由もなく帰れません」

 

「……それもそうだな。同じ職場のよしみで、ここだけの話にして欲しいんだが」

 

すわ、こちらが偽物だと暴露してしまったかと慌てたが、どうやらそうではないようだった。兵士は仕切りに背後をチラチラと確認し、小声で話す。

 

「ここにジャブローの上の人が来るのは知ってるな?」

 

「……あぁ」

 

いや、知らん。

 

「最近この施設に運び込まれた人間が、敵の捕虜だったらしいんだがそのお偉いさんに、気に入られたらしくてな。もうすぐ来られるらしい」

 

「……へぇ。ジャブローってぇとゴップ将軍とかか?」

 

「ハハッ。そりゃないぜ。何しろそんな偉い人が、来るわけがないだろ。確か……ジーン・コリニー提督の軍財財務官だったっけかな?」

 

「知らないな。……なんでそんな人がいちいち捕虜を連れてくんだ?」

 

「そりゃこれだろ。ちらっとみただけだが、綺麗な子だったからな。需要があるんだろうな」

 

門番は下衆な笑みを浮かべて、小指を立てた。その言葉は朧げには理解できた。戦場で捕まった捕虜が、なぶられるのはどこの戦争でも同じだ。ユーセルは拳をきつく握って、先を促す。

 

「……へぇ。そんなに綺麗な子だったのか。年はどのくらいだった?背丈は?怪我とか」

 

「……やけに聞きたがるな?」

 

門番の男は先程までのニヤニヤを引っ込めて、こちらを凝視してくる。

首筋に汗が伝わっていくのがわかった。

 

「ジョージ伍長とか言ったな。その響きで言うと、オーストラリアとかそこら辺の発音だな。地元はどこだ?」

 

「……シドニーだよ」

 

オーストラリア=シドニーしか、思い浮かばなかった。脳内で閃きが、起きて、何処かのコロニーでクリスマスを盛大に祝っている映像が流れてきた。コロニーに雪を降らせて、随分と力を入れていた。金髪の青年がぐっ、と親指を立てている姿まで幻視した。

オーストラリアは今ごろ雪で真っ白なんだろうなぁ。

助けてくれるのかバーニィ。ありがとう。

 

「へぇ。シドニー。良いとこだな。クリスマスには、()()のサンタが煙突から入ってくるそうじゃないか」

 

「ははは。そうだな。シドニーのサンタは、うきうきとしながらプレゼント配ってるよ」

 

そこまで言い切ったところで、ふと違和感に気づいたが、門番の男はにこにこ、と笑顔を浮かべる。釣られて俺も笑う。世界は平和になった。

にこにこ、と2人は会話を再開する。どうやら乗り切ったみたいだ。

 

「そうなのか?夢がないなぁ」

 

「ははは。そうだよ。ああゆうのは夢が無いもんだ」

 

「違いねぇ……ところで伍長。お前の所のサンタは、真夏に厚着してサーフィンをするらしいな」

 

「……あ」

 

「おい、シドニー生まれ。オーストラリアは、その時期は夏だぞ」

 

カチリと、何かの安全装置が解かれた音がした。すっと、銃口がこちらを向く。

 

「……まて」

 

「あばよ。ジオン野郎」

 

1発、銃声がフラナガン機関の敷地内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーディが狭苦しいドラムに閉じ込められてから、すでに数時間がたっていた。拘束具で身動きひとつできないために、肩とお尻が痛くてしょうがなかった。何回も止めるように懇願したが、白衣の男たちはまるで取り合ってはくれなかった。

写真や、ノスタルジックな動画。

氷山が、巨人が食べるように崩れた。又は、大勢の人が中央の銅像に向け、祈りを捧げる。又は、少女が裸体のまま心臓にナイフを突きつけて、事切れた。又は……又は……又は__

意味不明な映像は流れ続ける。目を閉じると、相手にはわかるらしく、「目を閉じるな」と、叱られた。

その映像が、前触れもなくぷつり、と途切れた。視界が真っ暗になる。

 

「……」

 

程なくずるり、ずるり、と何かを引きずるような不気味な音が耳元から流れる。妙な不安を感じさせた。

 

 

__気づくといつもの見慣れた部屋に居た。

体を見下ろすといつものフードパーカーとショートパンツのパジャマを着ていた。

右手には小さなじょうろ。あくびをかみころしながら、カーテンを開ける。窓から漏れる朝日が控えめに、彼女と自室をてらした。座り込み、ベランダに面した場所から花に水をやる。ちょろちょろと、じょうろのはず口から、流れる流水を見ながらほおづえをつく。

 

「大きくなったなぁ。ちみは」

 

当時私は得にミニマリストを気取っているわけでは無かったのだが、私物が少なかった。せめてもの暇つぶしでと、彼が買ってきたものだった。別に花が好きと言うわけでは無かったのだが、数ヶ月もすれば流石に愛着が湧いてくる。

 

「私には……これだけで十分だよ」

 

そうひとりごちて、水やりをやめた。大きく弓なりに伸びをする。肺から押し出された空気が、吐息となって口から漏れた。

 

 

__ぱちり、と瞬きを一つすると、いつの間にかクーディはキッチンにいた。キッチンから外に繋がる窓から覗く夕陽が、彼女を照らしていた。何処か遠くでカラスたちがカァカァ、と楽しそうな声を上げていた。

 

「何を……していたんだっけ」

 

手元に視線を下ろす。手に持った包丁がキャベツのなかばほどで、突き刺さって止まっていた。

そうだ。私は今、夕飯の準備をしていたんだ。

鼻腔をくすぐる、焼き魚のいい匂い。濃厚な味噌の香り。コトコト、と鍋がなり、中に入っているわかめが、ぐるぐると底と水面を行ったり来たりしていた。

 

「……寝ちゃってたかな」

 

ふと、違和感を覚えたが、寝不足だろう。

今日は彼の好物の、鯖の味噌煮込みだ。帰ってくる前に、早く作らなければいけない。

__……彼って誰だろう。不思議な事に彼の顔が思い出せなかった。

彼は大事な人、大事な人の筈。私に生きる目標をくれた人。

軽く頭を左右にふり、左手で額を触る。ずきり、と頭の奥で痛みが走った。もしかしてこれは妄想なのだろうか?一人暮らしの女が、見せる都合の良い妄想。

……良いや。そんなはずはない。だってほら、窓の外、500メートルほど先のところで、彼の姿が見えた。リズムに乗るように規則的に身体を揺らして、ゆっくりと自転車を進めていた。彼が良いことがあった時、又はああやってご機嫌なときはあったときは、毎回あんな感じだ。そして必ず何かおみやげを買ってきてくれる。今日は何があったのだろうか、彼の嬉しさが伝わってきたかのように、先程までの思考は何処かへと消えて、私はゴキゲンなナンバーを口ずさむ。

 

「いそがないとね」

 

私は中途半端に切り込みが入ったキャベツを、断ち切るように包丁を滑らせた。

 

__トン

 

 

 

 

 

 

 

 

____/223654

 

 

クーディは小さな額を彼の背中に預ける。意図せず瞳からぽろほろ、と涙が溢れる。

 

「……なにも、言ってはくれないんだ。いい分かった。でもこれだけは教えて。どうしてやめられ理由があるの?それとも私のことが嫌いかい?」

 

それは言ってはいけない言葉だって、分かってはいた。言葉にした勇気は、直ぐに後悔へと変わった。これは彼を縛る言葉だ。私は、クーディと言う人間は不安だったのだ。いくら一緒に暮らしても、どれだけ時を重ねようとも、彼の大事なときにはそばにいられない。

 

1人なら耐えられた。……殻を閉じて、耐えるだけで済んだから

 

彼女がいたから耐えられた。……背中には守る人がいたから。

 

嗚呼、私は弱くなってしまった。なんで忘れていたのだろう。彼の名前を。ユーさん。優しい人、時々変に思う事もあるけどきっと、彼はいつものように直ぐに否定してくれるだろう。なんてずるい、

 

 

__あぁ、嫌いだ

 

 

その言葉は想像していた言葉とは違う、強い否定の言葉だった。信じられず彼の背中から額を離し、のろのろ、と顔を上げて__そして彼と目があった。

 

「……ひっ」

 

180度ぐりん、と彼の顔が背中側に回っていた。思わず引き攣ったような声が漏れる。

 

「嫌いだ。何を勘違いしている。お前はただの拾い子で、ずっと追い出す機会を待っていた。家に帰ればヘラヘラ、とお前が玄関で待つ。その顔を見るたびに虫唾が走った」

 

ぱきぱき、と。小枝をおるような音を立てながら腕が、落ちる。堕ちたそれは蛇のように、くねくね、と絡み付くように床を這った

 

「煩わしかった。誰がお前のような奴を好き好んで、一緒に住むのか、1人が気ままで、楽だった。お前が来たせいで俺は死ぬ。全てお前のせいだ」

 

「こ、来ないで……」

 

思わず身が強張り、彼を、ユーセルだったものを押す。呆気ないほど簡単に彼の体は、前のめりに倒れ込み、べちゃり、と嫌な水音を立てた。

コロコロ、と何かが転がり、クーディのつま先を押す。

それは__私の、クーディの顔をしてにっ、と歪な笑みを浮かべた。

彼女の、瞳と目があった。

 

__お前の存在価値は戦うことしか、無いと言うのに。

 

 

 

 

____/223654

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無機質な電子音が、不吉な調べを奏でた。

クーディは狭苦しいドラムの中で、激しく暴れていた。

 

「大人しくしろ!画面を見ろ!」

 

研究員の声がするが、構わずに足をばたつかせ、頭を動かそうと身悶えする。全身が汗ばみ、呼吸は乱れ、激しい耳鳴りがした。

 

「出してくれ!……私を私をここから出して!」

 

頭が激しく痛み、彼の声が脳裏で不協和音を撒き散らしていた。嘘だ。これは夢だ。体を動かしていないと、頭がどうにかなってしまいそうだった。

あまりに強く暴れたせいで、メットは頭からずれてしまっていた。

 

「いい加減にしろ!」

 

クーディを寝かせてあった台が、ドラムから引き出される。横までやってきた男たちが数人で、彼女の体を押さえつける。男たちの力は凄まじく、一歩間違えれば骨が折れてしまうかと思えた。

 

「嘘!嘘だよ!こんなこと!ユーさん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい」

 

「実験は中止だ!鎮静剤を!」

 

右腕に注射針が押し当てられた。クーディはかくり、と力無く横たわった。

 

 

 

 

コンクリートが打ちっぱなしの無機質な壁。クーディは真っ黒な部屋の床に放られていた。ゆっくりと身を起こす。体の節々がパキパキ、となり、ひどい頭痛がした。

 

「目が覚めたのね」

 

「……だれだい?」

 

背後から声をかけられた。女の人の声だ。苦労して痛む頭を手のひらで押さえながら、声の方向に顔を向けた。薄っすらとする視界の中で、姿を確認する。背丈は私と同じぐらいの、ボブカットの少女だった。

 

「心配しないで、別にとって食べようってわけじゃ無いの」

 

「信用……できないよ……っ」

 

「無理しないで」

 

少女がベットから、心配そうに立ち上がってこちらに歩をすすめる。

 

「彼らにやられたのですか」

 

コツンと、おでこに温かいものが当たった。クーディの頬を女性の毛先が撫で、彼女のうつろな瞳が全てを見透かすように、覗き込んでくる。彼女に触れただけで、不思議と頭の痛みが引いていった。まるで、冷たくなった血が、心臓を__彼女を通して暖かくなって帰ってくるようだった。

 

「……大切な人を失ったのね。私と同じように」

 

「……一体何のこと」

 

「隠さなくても分かるわ。だって貴方は私と同じだもの」

 

まるで瞼に100トンのおもりを付けられたかのようだった。ぼんやりとうすれる視界の中で、彼女は優しげに微笑んだ。

 

「せめて、今は少しだけでも良き夢を__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




??「これで良いんですよね……大尉」

飛ばした人向け、
クーディは連邦軍のニタ研に悪夢を見せられて、錯乱。
大切な人が悪夢となって、彼女に襲いかかる。
牢屋に入れられ、虚な目をした少女に出会う。←いまここ
ユーセル。何してんだお前!早く助けに来い!


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その名を

 

 

「出ろ」

 

白髪の男が、鉄格子の向こうから声をかけた。結構な高齢の男で、こめかみを中心に深い皺を刻み、服にはしっかりと糊がかかり、軍服を着こなしていた。その男が顎をさすりながら、こちらを見下ろしていた。背後には銃を背負った男たちがおもちゃの兵隊のように行儀良く並んでいた。

 

「……誰ですか貴方は。彼女は今眠っています。これ以上」

 

まだ幼さが残る少女が、疲れ果て寝てしまったクーディを庇うように抱きしめる。瞳は虚に男を眺めていたが、その瞳の奥には強い拒絶の意思が感じられた。

 

「君たちには今から私と共に来てもらおう」

 

「……何ですって?」

 

「地球圏の秩序を守る為に協力して貰おうか」

 

壮年の男は、自分こそが正義だと受け取れる言葉だったが、少女にとっては得体の知れない不気味さを感じた。

 

「秩序?……戦争は終ったの!このようなことをする必要は」

 

()()()()()()()()()()

 

壮年の男はゾッ、と底冷えする様な音色で少女の言葉を遮った。

 

「弾かれたものの怨念はこの宇宙にへばり付いている。停戦後だというのに、盛んに抵抗を続ける者たちが居るのがその証左だ」

 

「……」

 

「軍事技術の発展が後の世の多くの命を救う。はて、誰の言葉だったか」

 

「……っ!」

 

壮年の男はむすっとへ、の字に結ばれた口を緩めると、何かを思い出すかのように空を眺めた。

 

「フラナガン機関で養成されたニュータイプ候補生。ジオンの執念……ジオン・ダイクンの言葉を都合の良いように組み替えた男達が、産み出したモルモット。それが君だ」

 

「そんな……事は……」

 

「軍の者に優しくされたから、勘違いでもしたかね。戦時中の僚友、確か……アシュレイ大尉と言ったか、素晴らしい考えだ。軍需技術は確かに様々な事を生み出した。旧世紀の核兵器に、ロボット技術、身近なもので言うとインスタントコーヒーだって戦争の賜物だ」

 

「軽々しくアシュレイ大尉を……あの人の名前を口にしないで!」

 

少女は吠える。それは戦争で、信頼できる人を失ったペッシェに取っては触れてはいけない領域だった。男はこたえたふうもなく、硬くヘに結んだ口元を少し緩めて、続けた。

 

「それら以上に並ぶ君は、ジオン、いや地球圏の宝だ。私と共に来い。()()()()()()()()()()()

 

「私は……」

 

その言葉が、最後まで紡がれる事はなかった。懐に抱いていた少女が目を覚まし、彼女の頬を撫でたからだった。渾身の力を振り絞ってだったのだろう、ペッシェを慈しむように撫でる手は、ずるずる、と滑り、数秒後には地に落ちてしまいそうだった。肺の中に残っている空気を絞り出すように、クーディは喘ぐように言葉を紡ぐ。

 

「……だめだよ。ペッシェ……さん」

 

「……あなた」

 

「私は……さっき触れた時にあなたの中の光を見た。とても優しくて、暖かい光。……それはっ……きっとあなたの芯。あなたの心。あなたの中の可能性。とても……安心した。そんな心を伝えられる人が……それが誰にも汚すされることは……っう。あぁ」

 

それは要領を得ない言葉の羅列だった。途切れ途切れに続く言葉は、それ以外の者が聞いたら何を言ってるんだと、一笑にふすことだろう。壮年の男は、忌々しい者を見る様な目で2人を見下ろし、伸びた自身の白髭を撫でた。

 

「抽象的だな。……理解に苦しむ。強化人間とはみなこうなのか」

 

「……黙りなさい」

 

「……何だと?」

 

男は、信じられないとでも言う様に、自身の眉を釣り上げる。ペッシェは、自身の頬から滑り落ちる手を優しく取り、男たちを睨みつける。

 

「私はあなたたちとは行きません。あなたの様に、嫌な感じのする人達とは」

 

「愚かな選択だ」

 

「そう感じるんです」

 

「分からんな。……連れて行け」

 

壮年の男性は、呆れた様に息を吐くと、背後にいた部下に命じる。背後にいた兵士たちは「了解」と、短く空気を吐き出す様に返事をすると、カツカツ、と少女達に近寄る。ペッシェは、クーディを抱き込む様に抱えながら後ずさる。

 

「何を…!どこに連れて行くつもりですか!」

 

「北米に、それ以上の事は()()()()()()()()()()()()

 

壮年の男は興味を失ったかの様に、少女達に背を向げ、歩を進めようとして__出来なかった。1発の銃声が狭い通路に響き、男が見えない力に弾き飛ばされたからだった。

 

「ジャミトフ閣下!」

 

「お守りしろ!盾になっても」

 

少女に手を伸ばそうとしていた男達は慌てふためき、慌てて壮年の男、ジャミトフと呼ばれた男に駆け寄り、庇うように囲みんだ。懐から拳銃を取り出して、音の方向に向ける。その男達に向かって、容赦ない殺意のこもった銃撃。連続した破裂音が鳴り響く。

 

「閣下をお連れしろ!急げ!」

 

兵隊達も素人では無かったが、火力が違いすぎた。数人の男たちが応射。したが、たまらず男達は身を翻した。ほうほうの体で、ずるずる、と壮年の男性を引きずっていった。部屋の中からは見えなくなる。兵隊が発砲。乱入者の音が聞こえなくなる。兵隊が発砲を止めると、あちらからの容赦ない射撃が、男たちを襲う。奇妙な戦闘のリズム。戦場の空気。1人、また1人兵隊達が倒れ__遂には0になった。

 

「……もしかして」

 

「……どうしたのクーディ」

 

ブーツがこまめに地を蹴る音が聞こえる。クーディがのろのろと音の元に手を伸ばした。その手は、失ったものを取り戻そうと足掻く様に、定まらぬまま、空を掻いた。

 

「そんな筈……だって、彼は」

 

乱入者の足跡はどんどん近づいていき、そして、乱入者は部屋の前に立ち止まった。黒髪の青年だった。青年は少女達を見て、安堵した様に息を漏らした。

 

「助けに来たぞ。ごめんな。遅くなって」

 

青年はクーディの前に膝を付き、宙を掻いていた彼女の手を握った。

 

「うん……うんっ。……本当に、ほんとに……遅いんだからユーさん」

 

「……ごめん」

 

「ううん…… 来てくれたから、それだけで良い__いや」

 

ユーセルがたはは、と頬を掻きながら目線を逸らす。クーディはその姿を見て、あることを思いついた。にっ、と震える口元を上げると続きを声に出した。()()はちょっとした悪戯心と、多大な勇気。

 

 

「……やっぱりやだ。許して上げない」

 

握っていた手が、きつく締められる。どれほどそうしていたのだろうか、彼女は腕の力を弱めると、死刑囚のざんげのような告白を口にした。

 

「……もう子供扱いしないで、遠ざけたりしないで。一番怖いのはあなたといられなくなる事だから」

 

それは、どれほどの勇気を振り絞って言った言葉なんだろう。わかる事はできないし、容易に分かったなど言えないだろう。

 

「……それは、んっ」

 

ユーセルが苦しげな表情で告げようとした言葉は、最後まで紡がれる事は無かった。クーディが握っていた手を離し、彼の唇を塞いだからだった。

 

「今は、いい……後でね。私、いっぱい話したい事があるんだ」

 

「分かった。俺からも話したい事があるんだ。今まで言ってこなかった事」

 

「本当?聞きたいな。ユーさんの事」

 

ユーセルはクーディの手を掴み、2人の視線が絡み合う。静寂の時間が流れる。そして__

 

「こほん」

 

もう1人の少女の声で中断された。

 

 

 

 

 

 

「こほん」

 

赤みががった栗色の髪の少女が口に手を当てて、わざとらしい程の咳をした。見つめ合っていた2人はびくん、と頬を朱にそめる。

 

「えーと、そのごめんなさい。でもえーとその……いけないって言うか、やってる場合じゃ無いと言いますか……」

 

真っ赤な顔で、目線を2人からそらしながらおずおず、と申し訳なさそうな表情で声をかけられた。

 

「あーそうだった。そうだった。早く脱出しないとな」

 

「……それでも手は離さないですね」

 

少女がぽつり、と言った言葉はユーセルの耳には届かなかった。

 

「悪い。聞こえなかった。もう一度__」

 

「い、いえ。何でもありません。初めまして、ペッシェ・モンターニュです」

 

「初めまして、ユーセル・ヅヴァイです。ジオンの軍人で、階級は中佐。後は」

 

「大丈夫です。()()()()()()。彼女から……教えてもらいましたから」

 

そう言って少女、ペッシェはクーディの方をチラリ、とみて微笑んだ。

 

「話してないと思うけど……あっ」

 

ペッシェの言葉を受けてクーディは、何か気づいたように口をパクパク、とさせ、頭から湯気が出るんじゃ無いかと心配するほどに顔を赤くした。何を話したんだろうか?悪口とか、言ってないといいが……

 

「まぁ、いいや。取り敢えずここから出よう」

 

「はい」

 

「……うん」

 

具合の悪そうなクーディを背負い、部屋から出て通路を駆け抜ける。ペッシェが、ユーセルに疑問をたずねた。

 

「そう言ってもどこに行くんです?」

 

「そういえば言ってなかったな。今から……伏せろ!」

 

「えっ?」

 

驚くペッシェの手を引いて、誘導する。

 

「いたぞ!こっちだ!」

 

駆けつけた連邦軍の兵士達が、通路奥から現れ容赦なく発砲する。3人は身を翻し、近くの曲がり角の壁を盾にする。通路の電球が弾け飛び、壁に無数の穴を開ける。削れた壁の破片があたりに弾けとんだ。

 

「これからどうする気ですか!?」

 

「後で話す!」

 

ペッシェが怒鳴り、疑問をぶつける。怒っているわけでは無いのだろう、そうしないと銃撃の音でまともに聞こえないのだ。壁からライフルだけを出し、弾倉の球を全て吐き出した。

 

「かはっ」

 

知らない男の悲鳴が聞こえた。ユーセルは懐から弾倉を取り出し、滑らかな動作でレバーを前後させた。

 

「悪いクーディ。ちょっと荒くなる」

 

「だ、大丈夫」

 

クーディをおんぶして、空いている手でライフルを構えると、ユーセルたちは出口へと走った。運良く、先程の兵士の他には人影は見当たらなかった。しばらく走ると、3人は建物の外に飛び出した。

 

「しめた!こっちだ」

 

「は、はい。きゃっ」

 

ライフルを首にかけ、ペッシェの手を引き、近くに止めてあったバギーに走った。

 

「乗って!」

 

2人を後部座席にのせ、エンジンをかける。すぐに発進。駆けつけて着た兵士たちが後ろから発砲を続ける。だがその頃には3人を乗せたバギーは基地の北に向けて、猛スピードで疾走していた。

 

「脱出って言っても何か策でもあるんですか!?もしかして1人で来たんですか!?」

 

「まさか!仲間が居る!それもとびきりの夢を見せてくれる奴がな!」

 

ペッシェと2人で、向かい風に負けない声で叫ぶ。

 

「夢!?なんの事ですか!」

 

 

「連邦にとっての悪夢さ!聞いたことないか、ソロモンの悪夢。アナベル・ガトーの名を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出撃。クラーケン

連続した射撃音が、広大な基地内に響き渡った。周囲がにわかに騒がしくなり、人が慌ただしく駆け回る。D1と書かれた倉庫前で慌ただしく人が動き回っている。ケリィとガトーは発砲音がした方向を眺めていた。

 

「派手にヤっている様だな」

 

「合図だ。いつでも行けるぞ。ガトー」

 

「了解だ。ここは任せる」

 

この騒ぎの中逃げも慌てもしないジャンク屋を不思議に思ったのか、警備兵が声をかける。

 

「おい!ジャンク屋ここは危険だ!早く退避を……」

 

「必要ない」

 

「貴様ら一体何をっ……がはっ」

 

ケリィは感情の無い瞳で、懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出すと、無造作に警備兵に向かって発砲した。何もできず無防備に弾を受けた男は、どさり、と前のめりに倒れた。その銃声はひどく小さく、周りの者の怒号や悲鳴にかき消されて周囲の者達の耳には聞こえなかった。

 

「行け!ガトー!」

 

ガトーは連邦兵の間を駆け抜け、ザクF2型に取り付くと俊敏な動作でコクピットまでよじ登っていく。横になったモビルスーツのコクピットに取り付くのは、そう時間は掛からなかった。

 

「何をしている!そこの男!」

 

ガトーの動きを訝しんだ男が静止する。その時にはもう、ガトーはコクピットハッチの開放レバーを回していた。

高圧空気の漏れる音。

 

「この機体は頂いていく。我が同士との盟約を果たさんが為」

 

「お、おい!」

 

ガトーは、男を一瞥すると、コクピットに滑り込んだ。コクピットハッチを閉鎖。コクピットハッチと機体の装甲がロックされ、金属の軋む音が響く。

 

「ゆくぞ……!」

 

986kWもの出力を出せる融合炉が唸りを上げる。それにより発生した熱を吐き出す様にして、排熱パイプから熱風が当たりに吹き荒んだ。それはまるで神話の中の巨人が、長い眠りから覚め、不機嫌に鼻を鳴らしているかの様だった。

全高17.5m重量49.9tもの巨人が、立つ。

無機質な、深紅の一つ目が怪しく光った。

 

『テロリストだ!撃て!撃てぇ!』

 

『なんでだよ!戦争は終わったはずだろうが!』

 

「無駄なことを……」

 

兵隊達が、持っている銃を巨人に撃ち込む。モビルスーツに小銃の弾など豆鉄砲と同義だ。カンカン、と装甲が球を弾く音。

ザクはゆったりとした動作で、兵隊達の合間に脚を振り下ろした。それだけで蟻の子を散らすかの様に四方に散っていった。

 

「来たか」

 

ピンク色の閃光が倉庫に無数の風穴を空けた。火花が辺りに散る。重たげな足音が迫る。敵のモビルスーツだ。

ガトーは、トラックに搭載してある武器の中からヒートホークを持ち上げると、無造作に投擲した。斧状の武器は格納庫の壁をぶち破り、すぐそこまで迫っていたジムの胸部に突き刺さった。

ジムは周囲の建物をぼろくずのように倒しながら、後ろ向きに倒れた。

爆散。ジムは勢いよく燃え上がり周囲を赤く照らした。周囲の建物を巻き込みながら、轟轟とした黒煙が空高く上がった。

 

「さて……狼煙は上がった。後は行くのみ……!」

 

ガトーは落ち着きのある動作で自身の長髪を後手に縛り、操縦桿を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず凄まじいな」

 

トラックの影からその様子を見守っていたケリィ・レズナーは、思わず声を漏らした。

ガトーの駆る機体は一瞬でジムを撃破した後、トラックに積載していたザクマシンガンを構え、格納庫を出る。外で待ち受けている61式戦車や装甲車に120mmをぶっ放した。1発1発的確で、惜しむ様な射撃。次々と敵車両に風穴が空き、爆散。破片と閃光が飛び散り、周囲を跳ね回った。ガトーはヒートホークを拾った。ケリィの隠れているトラックをびりびり、と爆風が襲った。

 

「まずい……!」

 

ガトーの背後、彼の機体から死角になる位置に三機、新たにジムが姿を見せる。ジムが発砲するのと、ガトーが動くのはほぼ同じタイミングだった。背中を向けたままスラスターで高速移動、右側のビルに隠れた。__いや、隠れずにそのまま高く跳躍。人工太陽を背に飛びかかり、ジムの群れの中央に着地。ヒートホークを一機に叩きつけ、撃破。縦に深々と切り付けられたジムは、青白いスパークを撒き散らしながら膝から崩れ落ちた。突然の事に他の敵機の反応が遅れた。ガトーはそのままマシンガンを薙ぎ払う様に撃った。残りの2機は抵抗するままなく、まともに銃弾を受けて頭部、胸部、両腕を吹き飛ばされ爆発。激しく燃え上がった炎が、ザクの装甲を赤黒く照らした。

 

「流石。ソロモンの悪夢だ。ニコイチのザクであっという間に3機も」

 

「おい!そこで何をしている!」

 

「って……言ってる場合じゃ無いか」

 

ケリィは吹き荒む風から頭を隠さながら、ヒュー、と口笛を吹いた。ニコイチのザクでよくあそこまで動けるもんだ。感心していると、横から兵士に誰何された。

 

「早く避難しろ!ここは大丈夫だ!味方の援軍も来る!」

 

「またか……」

 

「おい早く!」

 

遠くからケリィの姿を見た兵士が、こちらに駆け寄ってくる。ため息をついて懐から拳銃を取り出そうとしたところで、それは現れた。

 

「……後ろだ!」

 

「一体何を……あっ」

 

「こっちに来い!」

 

兵士のすぐ20mほど後ろからさらに2機、90mmマシンガンを装備したジムが姿を表した。ジムは銃を保持している右腕を突き出すと、ガトーのザクに向けて発砲。轟音を立て人ほどの大きさのから薬莢がガラガラ、と雪崩の様にこちらに殺到する。兵士は、必死にこちらに避難しようとして、やがて金色の雪崩に包まれて姿が見えなくなった。

 

「……言わんこっちゃ無い!」

 

ケリィは物言えない気分になりながらも、乗ってきた車に乗り込みエンジンをかけた。居なくなった兵士の言う通りだ。早く逃げ無いと、自分もあの兵隊の仲間入りだ。

 

「それだけは、ごめんだ」

 

戦場に命の貴賤など無い、与えられるのは皆等しい死だけだ。しばらく戦場から離れていたせいで、忘れていたのかも知れない。先程まであれほど高鳴っていた熱が、ひどく冷え切っていくのを感じた。身を潰すほどの無力感。機体が無いパイロットなんてこの様な物だ。

 

「俺はここまでだ。……死ぬなよ。ガトー」

 

ケリィは、緑色の巨人を一瞥しひとりごちた。どのみち矮小な人間の身では、この巨人達の争いに干渉などできやしない。事実、ガトー駆る機体が又1機又1機と。敵のジムの頭部を120mmで吹き飛ばし、ジムが仰け反り返る。敵の機体が倒れ込むのを確認する暇など無い、正面に視界を戻すとハンドルを握りしめて、基地の南。出口の方向に車を走らせた。

 

「……なんだ!?」

 

ケリィが操縦する車とすれ違う様に、巨大な機影が上空スレスレに通過した。ビリビリ、と激しい振動が車体を揺らし、トラックが蛇の様にのたくう。ケリィは跳ね回る車体を苦労して操作しながら、サイドミラー越しに巨大な機影を確認する。

 

「見たことない機体だ。増援か?」

 

見たことないジオン系列特有のモノアイを光らせる、4本足の機体だった。それは月の重力に負けないよう、自身の重い体を引きずる様に、基地の北側に向けて飛行していった。

 

 

 

 

「突っ込むぞ!身を低くして!」

 

「……まさかあの格納庫に?」

 

「あぁ!クーディを抑えててくれ!」

 

「勘弁してくださぁい!」

 

少しだけぐずりながらペッシェがクーディを抱きかかえ身構えるのと、ユーセル達を乗せたバギーが格納庫のシャッターに激突するのは、殆ど同時だった。格納庫のシャッターは簡単にひしゃげた。格納庫内に飛び込んだ車は、巨大な格納庫内を、火花を散らしながら横滑りして、何か巨大な人工物に当たって止まった。シャッターから4本の黒い轍を残しながら、広大な距離を繋いでバギーまで繋がっていた。

ユーセルは運転席から立ち上がり、

 

「大丈夫か?ちょっと荒っぽくなっちまった」

 

「全然。これっぽっちも、ちょっとじゃありません……!」

 

ひっしゃげてぼろぼろになった車から、抗議しながらペッシェが這い出てくる。

 

「すごーい。……まるでワイスピの主人公みたいだね。あたた」

 

クーディの褒め言葉に「だろ?」と返しながら格納庫内を見渡す。彼女の言葉にどこか空空しい響きがあったのは気の所為だろう。正面の壁に大きな影が1つ。隣には黄色い壁だろうか?巨大すぎてここからでは確認できなかった。その人影はパイプやケーブル類に繋がれて、頑丈な骨組みの中に立っていた。紫と黒で塗装された機体で、ずんぐりとしたシルエット。ドムだった。初期型の物だったが、十分だ。

 

「しめた。動いてくれよ」

 

ユーセルは機体の足元まで駆け寄ると、足元の操作板を動かした。コクピットハッチが開く音がして、頭上から一本の紐が落ちて来た。紐の先は三角形になっており、そこに足を入れ、そこから人1人分ほど離れたところに取手が取り付けてある。取手にぶら下がり、巻き取り機のスイッチを押す。力強くワイヤーが巻き取られ、彼の体を上空に釣り上げていった。機体のコクピットハッチまで来たところで、隣にいたものの正体が分かった。

その機体は外見上、半球状のボディに巨大な怪物の顔が大口を開けている様な奇抜なデザインが特徴だった。ザクレロだ。背中にプロペラントタンクやアーム?だろうか記憶にあるものとは形が少し違っていた。ザクレロの方はどうにもぼろぼろで左アームは欠損し、その巨大な怪物の顔には斜めに大きな傷が入り、元の機体とは違った恐ろしさを醸し出していた。ドムのコクピットに滑り込み、機体を慣れた手つきで立ち上げていく。

 

「こりゃすげえや」

 

「MAN-00X-2。ブラレロ。フラナガン機関が開発したサイコミュ搭載型のモビルアーマーです」

 

「聞いたことがないな……」

 

ペッシェに言葉を返しながら、次々と起動に必要な項目をチェックしていった。機体の核融合炉に火が入り、モニターが一気にクリスマスの装飾の様に光り出した。スクリーン上に文字が浮かんでは消える。あと少しだ。

 

「へぇ。詳しいな」

 

「……もう。二度と見ることは無いと思ってました」

 

「……ペッシェ。君はもしかして」

 

ユーセルの口から、言葉は最後まで紡がれることは無かった。格納庫の壁を溶解させ、膨大な熱量の光が室内に満ちたからだった。その光はシャッターから反対側の壁を貫通するだけでは飽き足らず、天井をも蒸発させ空に溶けていった。

 

「メガ粒子砲!?どこの機体だ」

 

「なんだいあれ!?クラーケン?」

 

クーディが随分と風通りが良くなった倉庫の壁から、犯人の姿を追った。それは8本のスラスターからくる膨大な出力を使って、強引にこの月を自在に飛んでいた。その様相からは、近世ノルウェーに伝わっていた海の怪物。クラーケンの姿を彷彿とさせた。

 

「来いよ。化け物。引導を渡してやる」

 

マシンガンを腰部にマウントし、俺はヒートサーベルを抜き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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北へ

怪物はこちらを確認したのか、大回りに旋回しながらこちらにその眼光を向けて来ていた。

 

「ここは危ない!とにかく北に!」

 

「北って!?」

 

「上の街に出れる!とにかく北へ!俺も後から追いつく」

 

コクピットハッチを閉め、操縦桿を握りしめる。紫の巨人はそれに応える様に一つ目を光らせると一歩踏み出した。機体を操作して脇に置いてあったマシンガンを取り、格納庫の外に出る。怪物は旋回を終え、こちらに直進する構えを見せていた。

 

「こっちだ!化け物め!」

 

マシンガンを景気良くぶっ放しながら、格納庫から距離を取る。何発も当たってはいるが距離が遠いのもあってか、大した被害は与えられていない様だった。敵機が疾走するすぐ後方を、捉えきれなかった大量の砲弾があさっての方向に飛び立っていった。が、注意を引くのには十分だった様だ。こちらに侵入角度を変え、猛スピードで突っ込んでくる。マシンガンを腰部のマウントに収納し、ヒートサーベルを抜き放つ。怪物は、正面に両手を掲げると、なんの前触れもなく指先からビームを放った。

相当な威力のビーム砲だったが、あの様なスピードで撃った弾がまともに当たるはずはない。地面を溶かしながらこちらを追従してくるビーム砲は、こちらに命中することなく、10のミミズがのたくった様な跡を残し、地面をえぐった。あちこちを溶解させた熱は、地面を溶かすだけでは飽き足らず周囲の建物を炎上させた。

 

「は、早い」

 

あれだけあった距離が一瞬で消えた。怪物_クラーケンは、ドムの横を悠々とすり抜けると、後ろに抜けていった。ヒートサーベルを振り抜く暇すらなかった。早すぎるのだ。プロの選手でも打率3割有ればいい方だという。そう考えればしゃあない。……しゃーなしだな!

ホバー機構を作動させ、ヒートサーベルを腰だめに構える。機体が浮き、視界が少し高くなる。コクピットというのは大体どの機体も腰か腰より少し上にある、すれ違いざまにさしてホバーですぐに離脱する構えだった。野球バットに弾が当たらないからと、キャッチャーの正面に立つ様な暴挙だったが、こちとらモビルスーツで、しかも重モビルスーツの名は伊達では無い。それに敵は常に止まらず、地面スレスレを飛行し続けている。いくら月が重力が軽いとはいえあの機体は、移動するためには常に動き続けていないといけないのだろう。外れたとしても、体当たりで、動きを止めて手持ちの武装でどうにかすれば良い。確かな勝算を持って、好戦的な笑みが彼の口元に浮かんだ。旋回の終わったクラーケンが、直線の大きな道路上に観測できた。距離がぐんぐん、と近づいてくる。又先ほどと同じ様に怪物は、正面に両手を掲げると、なんの前触れもなく指先からビームを放った。

相当な威力のビーム砲だったが、あの様なスピードで撃った弾がまともに当たるはずはない。先ほどのことでわかっていた。

機体は動かさず、真っ直ぐにヒートサーベルを構え、機体を衝撃に備えさせる。くる。どんどん、画面上の巨体が大きくなっていき__そして画面いっぱいに白が満ちた。

 

「こな……くそ……!」

 

激しい衝撃が機体を襲い、複数の計器がやたらめったらにくるくると暴れ回り、赤い蛍光灯がひっきりなしにひかり、耳障りなアラームが鼓膜を容赦なく揺らした。苦労しながらフットペダルを踏み、機体が健気に、推進剤を燃やしスラスターを全力で、吹かす。ドムの時速100キロ以上で地を駆けることができる推力を持ってしても、完全に止めることは出来なかった。いくつかの建物をなぎ倒しながら、3つほど壊したところでようやく弱まった。ドムの体が機体の腰の高さほどある建物にめり込む。身体が自分の意思とは無関係に、激しく揺られた。シートで固定してなかったら、目の前のモニターが彼だったもので、汚されていたことだろう。それぐらいの激しい衝撃だった。彼の脇腹に血が滲む。

 

「化け物が……!」

 

正面に構えていたヒートサーベルは、敵の腹部、人間でいう右脇腹付近で突き刺さっていた。致命傷に見えたが、まだ敵はこちらを元気に押し返そうとしていた。不気味な赤い一つ目がこちらを見据える。

 

『くくっ。フラナガン機関の秘蔵っ子ってぇもぉ。たいした事ねえなぁ!』

 

「あ?」

 

無線機から声がした。若い男の声だった。

 

『惚けテェんじゃねぇよ。……お前からは同類の匂いがする。美味そうなぷんぷんさせやがって!それで違いますはチガウだろうがよ』

 

「なんの話だ!?」

 

『「ビショップ計画」お前も聞いたことぐらいアンだろう?』

 

無言の肯定と捉えたのか、男は続ける。

 

「くくっ。隠さなくても良いんだぜ。フラナガン機関はそれを達成するために作られた。戦争はニュータイプによって変わるんじゃ無いかってな!しかし嬉しイよ。こんなところで同族に出会えるなんて……いいね。最高だ」

 

耳障りな笑い声が響いた。

 

「ずいぶんと……嬉しそうだな」

 

『そりゃなぁ!ようやく独房みたいな生活が終わる。フラナガン機関の連中は脱走した奴を連れてくれば、自由にしてくれると言った。残りは俺1人だ。お前、連れを何処にやったぁ?1人じゃないハズだ』

 

憎悪に溢れた声だった。この世全てを殺したいと願う男の声。

 

「元から俺1人だ」

 

『誤魔化すなよ?匂いは一人分しか無い。……まぁ良い。お前を始末して、ゆっくりと探させて貰おうか』

 

それ以上男は何も言わなかった。宣言通り此方を潰さんと巨体が力を入れる。ミシミシ、と胸部装甲が悲鳴を上げている。耐えきれなくなるのも時間の問題だった。

ヒートサーベルを保持している右手を体の中央にえぐるように動かそうとしたが、期待に反して、右腕部が間抜けに上下運動を繰り返すばかりで、ヒートサーベルを持ち上げてはくれなかった。ヒートサーベルを保持していた右手の指。5本のマニュピュレーターが衝撃で全て弾け飛んでいたのだ。

 

「勘弁してくれ……」

 

泣きそうな気分になりながらも、何とか軋む機体の左腕を操作して、敵の腕部を掴もうと、機体が動く。マシンガンも今は背中側にマウントされており、瓦礫の下だ。取れそうにもない。

 

(敵機体をひっくり返してやる)

 

位置を入れ替える必要があった。敵の重量に悲鳴をあげる機体を動かして、何とかユーセルは、敵の腕部があるであろう場所にたどり着いて、

 

(あ?無いぞ……)

 

ドムの腕が空を掻いた。無い理由はすぐに理解できた。彼の視界に両側を囲む様に()()()()()()化け物の掌が写ったからだ。

 

「……そりゃ。反則だ」

 

その言葉を最後に、彼の視界は膨大な光に埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

「まだ中佐との連絡は付かんのか!?」

 

ガトーは、揺れまくるコクピットの中で叫んでいた。敵援軍の戦車やジムが怒りに燃え、未だ暴れ回るザクを駆逐せんと迫っていた。近づいてくるジムの頭部を120mmで吹き飛ばしつつ、じくざくに回避運動をとる。

 

『分からん。15分前に目標を奪取したと連絡があったきりだ』

 

困惑した様子のケリィの声が無線機越しに響いた。広い基地だ。地下をくり抜いてできたこの基地はあちこちに地壁が露出しており、全体を見渡せる様にはできてはいなかった。

 

「中佐。まだ掛かるのか」

 

ガトーは無線で呼びかけた。あらかじめ決めておいた周波数は、ケリィの他に3人しか知らない筈だったが、ざぁ、と雑音を流すばかりで応答は無い。迫る装甲車を蹴飛ばす。装甲車は何回か勢いよくバウンドした後、逆さまになって10mほど滑って止まった。。新たに出てきたジムが、こちらに90mmの砲弾をばら撒きながら、接近してくる。接近し、すれ違いざまにヒートホークを胸部に叩きつける。初めて使った時よりもヒートホークの出力が弱い。元々数回しか使えない対艦船用の武器なのだ。数回しか使用を想定していない。短く舌打ちし、機体の探知機のスイッチを押し込んだ。

 

(反応なしか。先程の爆発と何か関係があるのか……)

 

所属不明の機体が、高速ですれ違うのを見た。高速でよく判別できなかったが、昔見たジオングに酷似していた。基地の北で、此方の戦闘ではない爆発がガトーの鼓膜を揺さぶった。それも中佐から連絡があった時期と、多少ズレはするが一致する。嫌な予想はガトーの心中に落ち、ヘドロの様に落ちてはくれなかった。

 

「応答しろ。中佐。早く目標を連れてこい」

 

やはり応答なし。

 

「中佐。聞こえているのか。こちらも弾薬が乏しい。撤収するぞ」

 

返事はない。

 

「中佐!オーバータイムだ!早く撤収しろ!」

 

それでも、ユーセルは応えなかった。

 

 

 

 

「……遅い!」

 

真っ赤な船体を覆い隠す様に黒く偽装された船は、月面軌道上の暗礁宙域に単艦でただずんでいた。そのティべ級の艦長でもあり、中佐_ユーセル中佐の副官でもある女は、内心の不満を露わにしていた。名をフレミング・フッチャーと言った。特に誰も呼んでくれないので彼女自身ですら、自分の名前を忘れかけていたが……

スラリと伸びた脚を交差し、艦長席に横柄な態度で座り込んでいる。

 

「まぁまぁ。遅れたのは此方側もそうなんですから、そう焦らないことです」

 

オペレーター席に座っていた女性が宥める様に、言った。口調こそ柔らかいものだったが、その目線は正面のモニターからは動いてはいなかった。

 

「でも、やっぱり心配と言いますか」

 

「……まぁ、分かりますけどね」

 

それでもと、駄々をこねる様に唇を尖らせる副官に、オペレーターは静かに同意した。オペレーター席を回すと艦長に相対する。

 

「でも、元々は我々の行動はあっちとしても知らないわけで、それを駄々こねられても」

 

「まぁ。そうなのよね」

 

今回のことは中佐は知らない。連絡しようとしたらもう連絡がつかなかったのもあるし、それによって彼がどの様な事をしようとしているのか朧気に分かったからだ。

 

「正直、痛いですよ。クリスマスに別れた元カレから連絡を待ってるめんどくい女みたいで」

 

「……その一言は余計」

 

何か見えない矢が突き刺さったかの様に、大袈裟に胸を押さえて喘ぐ艦長の女性。因みにクリスマスはとっくの昔に過ぎており、もう0080の3月だ。クリスマスに端末を見て、ずっと眠れない夜を過ごしていた何処ぞの人とは特に関係はない。ないったらない。

 

「別に付き合ってた訳じゃないし……」

 

「あら、そうなんですか。てっきり、わざわざ中佐がスカウトしてきたもんだから、付き合ってたもんだと」

 

「別に付き合ってた訳じゃないし!センパイとはただの士官学校の同期!うん。唯の……」

 

「はぁ」

 

必死に否定した挙句、落ち込む女性を眺めながらオペレーターの女性ため息をついた。何か、他の艦橋メンバーの「おい、艦長へこますなよ」とでも言いそうな目線が痛かったのもある。作戦行動中ということを思い出し、オペレーターは話を変えた。

 

「でも、これからどうします?月の通信中継機から中佐のアクセスを察知して、何があるか分かったのは良いですが、ここから近寄れませんよ」

 

「そうなのよね……」

 

オペレーターが4枚のA4用紙大の紙を取り出す。それぞれ、民家が燃える画像。見覚えのある女の子が黒塗りの車に乗せられようとしている画像。黒塗りの車がグラナダに移動している画像。そしてこれまた見覚えのある3人組がザクf2型の乗ったトレーラーで移動していようとしている画像だった。ここまで見せられれば感の良いものでなくても、彼らがやろうとしていることは察しがつくだろう。

 

「相変わらず凄いわね……」

 

「まぁ。これくらいは」

 

特に誇る様子もなく、淡々と事を進める彼女を見て、眉を上げて感心する。艦長_フッチャーにそういう技術はわからない。己の仕事を淡々とこなし、だがその様子を特別誇るわけでもない、専門家らしい姿勢は素直に尊敬できた。

 

「情報を得ないとどうしようもないわね。陸戦隊に通信を入れて」

 

「了解です」

 

オペレーターが何かを操作し、数回のコールの後正面のモニターに陸戦隊の男の顔が表示された。

 

「状況は?何か見える?」

 

『正直、観測できません。何しろグラナダ自体が、巨大な地下基地です。表面上に見える都市の下に出来てるので、表面に出て来てもらわないとなんとも言えませんね』

 

「まぁそうよね……」

 

あまり期待して聞いた訳ではなかったが芳しくない様だ。ため息を吐き肩を落とす。

 

「その」

 

「どうしたの?」

 

陸戦隊の男は言いづらそうに、しばらく考え込んだ後続きを口にした。

 

『陸戦隊も、グラナダ上空で待機させてますが、これ以上の待ちぼうけは危険と言わざるをおえません』

 

「……何が言いたいの?」

 

『撤収も視野に入れなければならないという事です』

 

グラナダ上空で、陸戦隊の指揮を取っているリオル中尉から通信が入る。この艦の艦載機はほとんどグラナダ上空の岩に偽装させて、待機させていた。彼も救出作戦には同意の立場を取っていたが、無駄に部下を死なせる事を容認している訳では無い。

 

「そんなに長い時を待てる訳ではありません。敵の巡洋艦5隻が、モビルスーツを満載して接近して来ています。動かない限り此方が暴露することは有りませんが……」

 

観測者からの報告。艦長は懐に入れているコインをきゅっと握りしめ、正面のスクリーンをまっすぐにらむ。そのコインは士官学校時代にとある人物との掛けで手に入れたものだった。一種の精神安定剤の様なものだ。

 

「でも艦隊の司令はあの人よ。個人的な感情では無い。彼は必要な人なの、それは分かって」

 

『……分かっています。自分たちも中佐には何回も命を救われてきました。オデッサからこっち、中佐が居なければ今ここにはいません』

 

彼女自身でも気付かぬうちに語尾が強くなってしまった。暑くなった頭を冷やす様に額に手を当てる。

 

「……ごめんなさい。こういう事が言いたいんじゃ無いの」

 

『分かります』

 

あくまで冷静な声が通信機から帰ってくる。しっかりしろ、彼が居ない時は自分がこの艦の長だ。落ち着け。部下に当たるなんて情けない。

ここまで艦隊が大きくなったのも、デラーズ艦隊と合流し、決して少なくは無い資源でやりくりできているのも、全て中佐の功績によるものが大きかった。彼が上に居なければ離脱しているものも、多かっただろう。

 

(早く帰って来て下さい。司令)

 

艦橋から見える宇宙は変わらず、ただ矮小な人間の身を嘲笑うかの様に、ただ暗く、ただ広く、何処までいっても底が見えなかった。

 

 

 




ちょっとシリアスが続きすぎて、心がもたなくなってきたので逃げます(何に?


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クーディの決意

浮かぶ掌から放たれた光が、彼の……ユーセルの乗る機体が閃光に包まれるのを見た。見てしまった。

 

「うぁ……ぁ……う、そ」

 

声にならない悲鳴が、クーディの口から漏れた。だが現実は彼女の言葉を否定する。

脇から背部にまでぽっかりと空いた大穴は、向かい側の景色まで一望できた。彼の乗る機体は糸が切れた人形のように、瞳は輝きを失い、懸命に敵を押し返そうとしていた手は力なく地に堕ちた。

 

__ああ、もう!要はお前を幸せにしてやるって事だ。

言い切った後、照れ臭そうに自分の頬を掻いた彼。

その時はまだ全然気にもかけてなかった。まぁ。ついていっても面白いだろう程度の軽い考えだった。

 

「嘘だよ。だって言ってくれたじゃないか。だってっ……」

 

__助けに来たぞ。ごめんな。遅くなって。

そう言って、光の中からこちらに手を差し伸べた彼。

普段は優しくておちゃらけた彼だけど、恥ずかしくてまだ言えないけど……死ぬほど恰好良かった。

……どれだけ私の心を乱せば気が済むのだろうか?この男は。

 

「助けに来て……くれた……のに」

 

__お前が来たせいで俺は死ぬ。全てお前のせいだ。

いつか見た悪夢。それは嫌な予感と共に現実を侵略する。

 

白の機体が何かを探す様に、周囲を見渡す。ゆったりと、緩慢に見えるほど遅く動かされた一つ目の化け物は、そして彼女と目が合った。己の意思とは無関係に額におおつぶの汗が滲み、脚がすくんだ。

 

その時誰かの声が、脳裏から耳裏を抜けていった。

 

(……君は生きろ)

 

それは間違いなく。彼の想いに感じた。

俺はここまでだ。後は、俺の仲間がどうにかしてくれる。君は好きに生きろ。一つの不器用な言葉。死に際に放った、彼の最後の断末魔。

 

「クーディ逃げよう。あれは……だめ」

 

ペッシェが逃げようと言う様に、クーディの手を掴んだ。それは正しい選択だろう。

ここで全員死ぬより、生き残れる者は生きるべきだ。彼女の言葉にはしながったがその想いが透けて見えた。

 

「……クーディ?」

 

長い沈黙。一向に行動を起こそうとしないクーディに戯れ、ユーセルが示した方向に誘導しようとする。

クーディは、その誘いを振り払う様に腕を振った。

 

「……いやだ」

 

「……クーディ。もう彼は」

 

彼女が言った言葉が理解できないと、いった風に声を上げた。クーディは、ぶつん、と何かが切れた音を聞いた。それは、堪忍袋の尾か、それとも何かを封じ込めていた線か、彼女にも分かりはしなかった。

 

「いやだと言ったんだ。ここから逃げてなんて言葉、聞いてあげない」

 

「……残ってどうするの。助けてくれた彼の為を想うなら、貴女は生きるべきよ。ここも安全じゃない」

 

「彼の想い?それはあなたが決めた勝手な解釈だよ」

 

彼女の声に、わずかな怒気がこもった。

 

「それは」

 

「うるさい!」

 

「クーディ!」

 

聞き分けのない子供を諭す様な調子でペッシェが叫んだ。聞きたくないと耳を塞ぎ外部からの声を拒絶する様は、ひどく幼く見えた。

ペッシェは、クーディの身体を引き寄せると思いっきり、彼女の頬を引っ叩いた。

 

「……っ」

 

「しっかりしなさい! あなたがそんな調子で何が救われるの!何が解決するの!?」

 

目の覚める様な一喝を浴びて、クーディは呆然とした。

 

「見なさい」

 

「い、いや」

 

「見るの」

 

ペッシェは拒絶を示す彼女を掴み、格納庫の外を……彼のドムが、ある方向に目を向けさせる。

 

「彼は、あなたを守るために戦ったの。それなのに……あなたはここで何をしているの?」

 

「でも、彼が、ユーさんが居ない世界なんて……」

 

「生きて行けない?」

 

心を読まれたかの様な一言に、クーディは濡れる瞳を見開き彼女の顔を見た。クーディはそこでようやく目を背けていた自分に気づいた。

 

「私の父もパイロットでした」

 

反応を期待して言った言葉では無かったのだろう。彼女の独白は続く。

 

「誰よりも私を大切にしてくれた人でした。けど、新兵器の開発中にグラナダで……」

 

「……っ」

 

続きは口にせずとも分かった。たぶん亡くなったのだろう。思い出すだけでも辛いのだろう。

 

「でも、そんな私の父に似た人が現れたんです。その人は父の友人で、一本の自分の芯を持っている人でした」

 

彼女は自分の胸に手を当てた。

 

「本当に尊敬できる人でした。彼がいなければ私はここには居ないと思います。未熟な私の操縦をサポートしてくれて、人として色々なことを教えてもらいました」

 

「その人って……」

 

クーディが口にしかけた言葉は、途中で止まった。嫌な疑問が浮かんだからだった。どうしてこの話をしてくれるのか、そんな人なのになぜ今彼女の隣にいないのか。……それはきっと()()()()()()()()()()()

最後まで口にせずとも察した様で、ペッシェは肯定する様に頷くと続けた。

 

「察しの通りです。残された者の人生は続いていきます。私たちに出来ることはまず生き残ること。……そして出来るのならその人たちに胸を張って生きて行けたら……きっと良い人生なんだと思います」

 

「それに」と彼女は懐かしむ様に語った。「いなくなった人にも会えるかも知れないですよ」クーディは訳が分からず聞き返した。

 

「どういう事?」

 

「人の命が、どこに行くのか私には分かりませんけど、命というものがもっと自由なんだとしたら、いなくなった人の命にもめぐりあえるのかもしれません」

 

「……そうかな」

 

「きっとそうですよ」

 

「まぁ、これは受け売りなんですけどね」とペッシェは微笑んだ。クーディは漠然とその言葉が、心中にぼんやりと染み渡るのを感じた。

 

彼に恥じない様に。自分が胸を張れる様に。……彼に失望させない様に生きる。

 

たった一言口に出すだけなのに、彼女の意思に反して動いてはくれなかった。彼女の決意とは裏腹に、別の言葉が彼女の唇を震わせた。

 

「……彼は、良く私の頭を撫でるの」

 

ペッシェは何も言わずに、クーディの次の言葉を待った。

 

「別に嫌って訳じゃなかったんだけど。ふと彼の事見てたら、色々な人と握手とか結構するんだ。別に普通の人からしたら気にならないくらいだと思うんだけど。なんか気になっちゃって、ある日聞いたんだ。どうしてって?……そしたらなんて言ったと思う?」

 

「……なんて言ったんですか?」

 

「人の体温とか熱に接したら、安心できるからって」

 

「別に」と、クーディは続ける。

 

「寂しがりやなのかな、とその時思ったんだけど、その時の彼の目が何処か……ここじゃない。遠く。手の届かない場所をぼんやりと眺めてるみたいだった。自分の居場所はここじゃ無い。そんな目」

 

「……故郷を懐かしんでいたんですか?」

 

「ううん。……もっと、遠く。ずっと遠くを見てた」

 

「遠くとは?」

 

「分からない」

 

言葉にする事が出来ない自分をもどかしく思いつつ、彼女は頭を振った。

 

「でも、不安だったんじゃ無いかな。みんなとのズレをどうにか、したかったんじゃなかって……でも、私は臆病だったから……最後まで……きけ、なかった」

 

「クーディ……」

 

温かいものが頬を伝うのが分かった。ぼつぽつ、と言葉を吐き出していくと、同時に何か曇った思いが心中から抜けていくのが分かった。それをひどく、口惜しく思う反面で止められないとも思った。

 

「口に出さないと、分からないなんて……っ。言わなければ良かったっ…あれが最後だって分かってたらっ。言わなかったっ。……いえなかった」

 

「……っ」

 

ぼんやりと滲む視界が栗色に染まる。ふわりと、優しい香りがして、誰かの体温を感じた。抱きしめられたということは、やや遅れて分かった。

ペッシェの暖かさを感じて暖かさを感じたが、同時に胸がひどく苦しかった。

 

「ずるい奴だ。私はっ。……言わないと分からないなんて、自分で言っておきながらっ……私は……私が」

 

「うん。……うんっ」

 

「くるしいの……くるしいよっ。あの人が何処にもいないのっ。もう家で彼の帰りを待っても帰って来ないっ。そんなの……そんなの」

 

「大丈夫っ。大丈夫だからっ!ごめんなさい。もう言わなくて良いの。もう」

 

「嫌だよ。いや、いっ。……うぁああぁあ。あぁあああああぁあああああああぁん」

 

クーディは声を上げて、泣いた。悲しみを押し流す様に、自分の中の気持ちを整理する様に。ペッシェは何も言わずにただ寄り添う様に泣き続ける彼女を抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

……どれだけそうしていたのか。クーディが落ち着くとペッシェはただ一言「……平気?」とだけ彼女に尋ねると、クーディは小さく頷いた。

 

「ありがとう。ペッシェさん。いろいろ自分の中で整理がついた」

 

「良かった。じゃあ行きましょう。早くここから逃げないと」

 

ペッシェは身を翻し、見えている出口まで誘導しようとするが、少し走ったところで彼女がついてきていないのに気がついた。ペッシェは振り返ると、少し苛立ったように彼女に声を掛けた。

 

「何してるんですか。早く行かないと……」

 

「ペッシェさん。あの機体動く?」

 

ペッシェはクーディがこちらを見ているのではなく、背後にある黄色の機体を見上げているのに気づいた。

 

「動くとは思うけど……だめよ」

 

彼女が何を言いたいのか察したペッシェは、ブラレロを彼女の視界から隠す様に彼女の前に立った。

 

「やけになっちゃだめよ。気持ちは、分かるけど……」

 

「ううん。違うよ。やけなんかじゃない」

 

目が合う。そう告げる彼女の目は、先ほどまでとは明らかに違っていた。冷静で冷ややかだったが、その奥には__力強い響きがあった。

 

「私は生きる。志半ばで倒れた彼の代わりに。私が彼の意思を継ぐ」

 

「クーディ……」

 

「そのためには、あそこの化け物をぶっ飛ばして、その一歩にする」

 

自分の中の考えをはっきりさせる様に、彼女は言葉を紡いでいく。

 

「ここで逃げたら、私は一生後悔する。胸を張って歩けない。彼に笑われたく無い。後悔しない生き方をする」

 

彼女は、自分の胸に手を置いた。

 

「私はやるよ。生きる限り足掻いて、戦ってやる。醜いって言われても良い。いくらだって足掻いてやる」

 

「……苦しい道よ」

 

「わかってる。これが私の……」

 

そこまで言ったところで、ふと彼の事が脳裏をよぎった。寂しさを振り切る様に首を振り、言い切った。

 

「これが()の悪あがきだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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月面飛行

「無事か!?中佐!」

 

ガトーの乗るザクが、マシンガンを発砲しながら白い機体__クラーケンに似た敵機に近寄る。敵機はガトーの敵意に気づいていたのかスラスターを吹かし、上空に飛び立った。対面にいたドムの装甲が弾け飛び周囲に散った。

ドムは、人間で言う左上腕部から胸部、右上腕部にかけてビームの溶解跡があった。コクピットハッチも溶解しており暗闇が覗くコクピット内で、彼が生きているかは確認出来なかった。

敵機は上空に飛び立つと両手を突き出し、閃光を放つ。閃光はガトーのザクの周囲を跳ね回り、地面を溶かした。

 

「高出力のビーム砲。だが、狙いが甘い!」

 

ガトーはマシンガンを上空に向け、発砲。軌道修正しながら撃たれた多数の弾丸は上空に離脱する敵機の後を追いかける様に流れ、あさっての方向に流れた。

 

「くっ。自動照準が」

 

全てのモビルスーツには自動照準が搭載されている。これは敵機の軌道を予測してコンピュータが自動的に補正してくれるシステムだったが、熟練した操縦者の不規則な軌道に対応できるほど対応できてはいなかった。ガトーは回避運動を取らせながら、片腕で自動照準を切る。素早く滑らかな動作。通常の操縦兵では立ち止まるか、動きながらでも設定を変えるのに1分以上は掛かる動作だった。

再度敵機に照準する。VCRC形式で給弾された徹甲弾がチェンバーに装填。電気式雷信が発射薬を叩いた。叩かれた発射薬から炎が上がり、徹甲弾が想定した通りに飛翔する。

 

「浅いかっ……弾が切れる」

 

今度は多数の砲弾が命中したが、距離が遠く、砲弾の腹で敵機に当たった。

カチカチと引き金を引いても、マシンガンからは煙が立つだけで、砲弾を吐き出すことは無かった。ザクマシンガンのグリップ底部から前方にから伸びるトリガーガードを右手で掴み、左手でヒートホークを引き抜く。

 

「こうなったら本体を直接叩くしかあるまい」

 

目の前のモニターにぐんぐんとクラーケンが表示される。ガトーは機体を矢様に逸らし、ヒートホークを構える。ヒートホークへの出力供給を最大に。ザクの融合炉から膨大な電力を作り出し、右手のマニュピュレーターからヒートホークに供給される。酷使され続けたヒートホークはエネルギーを受け、バチバチと白い光を撒き散らし、健気に操縦兵の命令に応えていた。

 

(後一太刀だけでも)

 

武装はこれしか残っていない。これを外したら他に手は無い。後もう少し、まだだ、まだ。もう少し……今!

 

「南無三!」

 

ガトーは祈りながら、接近する敵機の胸部に叩きつけた。高温度に熱されたヒートホークが金属が擦れ合うやかましい異音を立てながら敵の装甲に切り込みを入れたが__根元から折れた。

やはりガタが来ていた。おそらく度重なる使用で悲鳴を上げていたヒートホークが、敵機の衝撃でエネルギー供給の回線がひん曲がり、装甲を溶解させることが出来ずに刃だけで当たったのだ。

 

(打つ手なしか)

 

柄だけになったヒートホークを見下ろす。よもや柄だけ投げても元気に飛び回る敵機を撃ち落とすことはできまい。そもそも投げたとしてもザクマシンガンでようやく当たった敵機だ。当たることすら出来ないだろう。

それに、ヒートホークが折れてから警告音が鳴り止まない。機体の状態を表示するモニターを見ると、デフォルメされた機体全体像が表示されている。その機体の左腕の関節部が赤く点滅していた。まだ動くが、反応速度が40%遅れている。この機体は元々はジャンク品。

繋げた左腕部もヒートホークも度重なる使用で、いつ折れてもおかしくは無かった。むしろここまで持ったことを褒めてやるべきだろう。

……もっとも褒めたところで、折れたヒートホークが元に戻る事など無かったのだが。

 

『ガトー!聞こえているか!?』

 

「何だ!?……こっちはまだ戦闘中だ!そちらには支援できないぞ!」

 

離脱中のケリィから通信が入る。ガトーは機体の周囲に次々と着弾する閃光を、避けながら応えた。

 

『そうじゃない。こっちは大丈夫だ!悪い知らせと言うのはっ……うぉっ!』

 

「どうした!?」

 

ケリィの声の向こうで、何か大きな振動音が聞こえた。それも複数。

 

『こちら側から敵機がそちらに侵攻中。数は12機以上だ。……まだ行けるか?』

 

「……不可能だ」

 

ガトーはかぶりをふった。武装がない。せめて弾薬が有ればまだ粘れたのだが……

 

『こちらは……ザッ……予定の……ザッ撤退する!そちらも……』

 

通信機が不快な音を雑音を垂れ流し、ケリィとの通信が切れる。距離が遠くなったか、ようやくあちらも本気になって妨害してきたか。機材が暗転し、瞬きをした。よく見る現象だった。ミノフスキー粒子が散布され始めたのだ。たかが一機と侮っていたらモビルスーツを10機以上と装甲車を多数破壊されたのだ。敵もようやく本腰を入れてきたと言う事だろう。

 

「中佐だけでも……」

 

機体をしきりに動かして、沈黙を保つドムに接近する。上空のクラーケンが発砲。行手を遮る様にして、進行方向を照らす。

上空のクラーケンが、こちらに再接近を仕掛けようと急降下する。

 

__その横を黄色の機体がぶつかる様にして北の方向に弾き飛ばした。

 

「横合い!?誰だ?」

 

あっけに取られるガトーを尻目にあっという間に2機は見えなくなってしまった。

 

(クーディか?……機体を奪ったのか、どうやって。いや、それはいい。今は中佐の回収が最優先だ……生きているといいが……ん?)

 

脳裏から嫌な想像を追い出し、ガトーはドムの元へと向かった。時間がない。敵の大部隊が迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

ブラレロのコクピットでクーディとペッシェが、機体を動かしていた。試作機のこの機体は1人が操縦。もう1人がサイコミュシステムを操作するためにタンデムシートになっていた。

 

「やらせないよ!……こいつを外に連れ出す!」

 

「推進剤は後5分は全力で出せる!それ以上は帰りの燃料が無くなる!」

 

「充分!……帰りの足なんて気にしてられるか……!」

 

ブラレロにぶつかられ、くの字になったクラーケン__サイコミュ高機動試験ザクを押し飛ばす様にして、グラナダ基地の林縁に機体を飛ばす。膨大な出力で押し出された機体はグングンとグラナダと外界を繋ぐ隔壁に急接近する。

 

「隔壁!」

 

「打ち抜く!ペッシェ。」

 

「任せて。有線メガ粒子砲」

 

ペッシェの脳裏で雷の様な閃光が走る。サイコミュを通じて伝達された思考が、機体の後部に取り付けられている2問の砲台に伝わり、砲台から高出力のビーム砲が放たれ、円を描くようにして隔壁に穴を開けた。勢い良く、ブラレロが開けた大穴を2機は通過する。何層もの隔壁を同様にぶち抜きながら、内部から外に繋がっている物資搬入口から宇宙に出る。月面からぐんぐんと距離を離す。高度計を1キロを示す。

 

「外に出たらこっちのもの。さぁて、食べちゃうぞ?」

 

クーディが震える身体を誤魔化すように、口元を歪める。本人は勇ましく笑ったつもりだったが、上手くは行って無かった。

 

ブラレロの口が裂けた。

口部に搭載されている拡散メガ粒子砲にはザクレロの後期型と同様にシャッターが設けられている。

シャッターを開放して露わになったメガ粒子砲が、敵の喉笛を噛み砕かんと、力を溜める。

 

「ばぁ!」

 

クーディは引き金を引く。メガ粒子砲から放たれた閃光が敵機では無く、月の表面を激しく焼いた。

クラーケンが拳を握り、発射前に殴りつけたのだ。コクピットが激しく横殴りに揺れた。

 

「こなくそっ……!」

 

「まだくる!」

 

「……っ間に合わない」

 

ペッシェが警告した。敵機が両手を合わせて握り込み、ブラレロの上部装甲を殴りつける。超硬スチール合金で作られた柔い装甲が大きくひっしゃげた。ブラレロは月地面に近づき、地表スレスレで姿勢を持ち直した。機体はレゴリス(月面のパウダー状の砂)を後方に巻き上げながら、月面を疾走する。追いかけるように白い機体が迫る。

 

「上を取られた。撃ってくるわ……クーディ!」

 

「何とかする!」

 

分厚い手袋をした様な形をした、腕部内臓型のメガ粒子砲からビーム砲がこちらに迫る。クーディは進行方向は変えないまま、左側面を敵方に向けた。被弾面積を小さくするのが狙いだった。狙い通り機体の下部と上部の装甲を擦るように、全弾月面に吸い込まれた。

 

「お返しだ。ペッシェ!」

 

「了解」

 

クーディは衝撃で振動する唇を動かした。左椀部の有線制御式ヒートナタを敵機に照準。射出。

敵機は僅かに角度を変えて回避し、ヒートナタはあらぬ方向に飛ぶ。敵機は回避したヒートナタに目もくれずビーム砲をこちらに放つ。

 

避けられるのは想定内だった。これはサイコミュで操作できる、ヒートナタは敵機の死角になる位置から忍び寄る。気づいた様子もない。クーディは敵弾を避けつつ、静かに勝利を確信した。

……仇取らせてもらうよ。

ヒートナタが敵機に迫る。もう少しで着弾する。今だ。高熱に熱されたヒートナタが敵機の装甲を貫き中の操縦兵を殺傷する、

 

「嘘……気づいてない筈じゃ」

 

筈だった。敵機は分かっていたと言わんばかりに、ひらりとかわすと動揺するブラレロの左腕部を撃ち抜いた。機体を激しい衝撃が襲う。元々ガタが来ていた機体だ。機体後部から激しい振動。当たりどころが悪かったのか、コクピット内に衝撃が走り、いくつかの計器が弾け飛んだ。

 

「きゃ……!」

 

前部座席に座っていたクーディには被害は無かったが、被弾部に一番近かった後部座席から鈍い音がした。

 

「ペッシェ?……ペッシェ!?」

 

「……」

 

小さな呻き声を上げて、それきり彼女は呼び声に応え無かった。

 

「反応して!ペッシェ!……コイツ。しつこい!」

 

振り返って確認する暇は無かった。敵機は盛んに此方の頭を押さえるような射撃を繰り返してくる。回避運動を取るが、被弾の影響か先程より機体の動きが鈍い。いまは仕切りに回避しているが、被弾も時間の問題だった。

 

(ペッシェの容体は?重大な怪我なら、早く手当しないと。それにはまず敵機をどうにかしないと……。どうする。サイコミュで後方のビットを動かして撃つ?いや、上を取られてる。あのヒートナタを避けた相手だ。それに激しい回避運動を取りながら当たれるはずが……残された武装はメガ粒子砲でも真正面しか狙えない。後ろを取らないと、あぁ何か無いのか?何か)

 

焦りが脳を支配して思考が定まらない。負の連鎖が止まらなかった。焦りでフットペダルを踏み外してしまう。機体が逆噴射をかけ、速度が落ちる。慌ててスラスターを蒸すが、どうしても落ちた速度はすぐには戻らなかった。この状態では敵にとって格好の的だった。時間が引き延ばされ、見えないはずの敵の銃口の動きまではっきりと分かった。直撃コースだ。

 

(……ごめん)

 

それはペッシェに対してと、ユーセルに向けたものだったのだろうか。それとも両方か、彼女にも分からなかった。

 

せめて最後まで、悪あがきを。

決めたことだ。恐怖で閉じそうになる瞼を見開き、正面モニターを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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