川崎沙希の距離感 (満福太郎)
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1.プロローグ

サキサキが可愛くて書いてしまいました。
最後までお付き合いいただけると幸いです。


あの日あいつの言った一言がずっと心に残っている。

 

「愛してるぜ川崎」

 

あいつはなんであんなことを?

あたしのことが好き…?って感じはあれからまったくない。

言われた当初は驚きと焦りで寝つけない日が増えたのを覚えている。

言った本人は何事もなかったかのようで、それこそ訳が分からなくなった。

ずっと聞いてみたいと思ってた。なんであんなことを言ったのか?

でもあれから特に絡みもなく、一言二言会話をするくらい。

もちろん第三者を交えての話しだ。

あー。結局聞けず終いだったな。

あたしとあいつは今日でお別れ。

だって今日は卒業式だから。

 

~~~

 

クラスでの最後のHR。最後の挨拶。皆の涙。

あたしには何も関係ない。

あたしはあいつにふと目をやる。

あの件以来あいつの姿見るの日課みたいになってたっけ。

あいつもあたしと一緒。まったくの無関心。

この騒がしい教室の中であたしとあいつだけが別の世界にいるみたいで少し可笑しかった。

好きだったのか?と聞かれても答えられない。

あたし自身も答えを教えて欲しいくらいだ。

 

沙希「帰るか…」

 

あたしは教室を後にする。最後にチラッと目をやると…たまたま目が合った。

ただそれだけ。私はスッと目を逸らすと教室を出た。

お互い他人に干渉されることを嫌っている。

これでいい。たぶん二人の距離感はこれで正解だ。

 

 

沙希「…比企谷…八幡。」

 

校門を出た所でふと声に出る。

なんだろうこの気持ちは。

あいつが出てくるのを待とうか?

それで声をかけるか?

なんて?今さら話すことなんてないだろうに。

こんな最後の最後でなんでこんなことを考えてしまうんだろう。

 

沙希「あぁ。やっぱり好き…だったのかな。」

 

これが本当の答えなのかはわからない。

でももう二度と会うことはないだろう。

お互い同窓会とかってガラでもないし。

街でばったりとかも絶対にない。

きっとこれが本当に最後。

 

沙希「まぁいっか。」クスッ

 

お互いの距離が縮んでいれば違った結果になっていたんだろうか。

そうすればあたしにも青春と呼ばれるものがあったのか。

まったく…。始まる前に終わる青春って。

その矛盾が可笑しかったのか久々に家以外で微笑んだ。

 

 

 

全てが終わった。そう思っていた。

 

 

 

沙希「あ、あんた…!?」

 

八幡「か、川…?川崎…!?」

 

とあるアパートの前。

絶対に会うこともないだろうと思ってからまだ1ヶ月。

まさかの顔と遭遇した。

 

あたしは近くの大学に通うことになりこのアパートに今日引っ越してきた。

部屋の周りにはまだ運び込まなければいけない荷物が散乱している。

あいつが立っている隣の部屋の周りにも引越しの荷物とおぼしきものがある。

 

沙希「え…?あんたなんで隣…。」

 

八幡「う、嘘だろ…。」

 

誰がどう見てもそういうことだ。

こんな偶然があるのだろうか。

高校の同級生と隣同士になることなんてあるのか?

しかも…好き?だったかもしれないやつのとなりに。

 

 

心の中がざわつく。

今まで経験したことのないような感情が渦巻く。

 

 

あぁ。私の青春は終わってなかったのか。

 

 

つづく



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2.川崎沙希の青春が始まる

一向に心が落ち着かない。

なんであいつが隣に?冗談抜きで?

こんなに早く再会ってなんなの?

あの卒業式の別れってなんだったのさ!

 

八幡「お、おい…川崎?」

 

沙希「な、なんだっ!」ギロッ

 

八幡「おわっ!?」

 

気付けば拳を握り怒鳴り付けているあたし。

あいつからすれば見慣れたものだろうね。

 

八幡「い、いや。固まってたから…」

 

そりゃあ固まるに決まってるじゃない。

逆にあんたはなんでそんな普通に話しかけてこれるのよ?

 

沙希「あ、ごめん。ついびっくりして…」

 

八幡「つい。で拳握るんじゃねぇよ…」ブツブツ

 

沙希「…何か言った?」ジロッ

 

八幡「…何でもねぇよ。」

 

 

どうやら話をまとめると。

同じ大学。同じアパートらしい。

まとめるほどのものではないけれどそういうことらしい。

 

 

沙希「あんたなんで同じ大学だって言わなかったのよ?」

 

八幡「俺も川崎が同じだとは聞いてない。その言葉そっくりそのまま返してやる。」

 

沙希「うざっ…。もういい。作業にもどるわ。」

 

久しぶりに会話をしたかと思えばこんな感じ。

普段から他人と関わらないもの同士だとこんなものなのか?

一人で部屋の片づけをしていると猛烈なくやしさが込み上げてくる。

 

沙希「もうちょっと、”よろしくな!”とか”元気か?”とかないのかよー…」

 

もう高校生ではない。

しかし高校時代のままのやりとりで何も変わってないことを痛感させられる。

もう少し大人びたやりとりにならないものかと考えたが、

少し前まで高校生だったのだから仕方ないのだろう。

 

沙希「ん~っ…」

 

あたしは外に出て背伸びをする。

考え事をしていたら作業が思いのほか捗った。

もう少しで終わりそうな勢い。

 

チラッと横目であいつの部屋の方を見る。

あいつ全然片付いてないじゃん…。

まだまだ部屋の外に荷物が置いてある。

汗をかきながらあいつが荷物を運んでる姿を見たら可哀想になった。

 

沙希「ねぇ。」

 

八幡「あ?今、はぁはぁ…忙しいから後にしてくれ…」

 

沙希「手伝ってあげる。」

 

 

 

~~~

 

気付けば夕方。ようやくお互いの部屋が片付き一息いれる。

初めて入る異性の部屋。

といってもダンボールだらけだけどね。

 

八幡「あ~マジ疲れた…。」

 

沙希「あんた荷物多くない?整理するのゾッとしそう。」

 

あたしの倍はあるのではと思うほどの量。

普通女の方が多そうな感じがするけど。

まぁ、お互い普通から外れてるからこんなものなんだろうか。

 

八幡「整理はボチボチやるわ。それより川崎助かった。すまんかった。」

 

沙希「いや、別に…。あたしの方はだいたい片付いてたし…。」

 

なんだ。素直にお礼言えるんだ。

もっとひねくれてると思ってたけど常識はあるらしい。

予想外の言葉だったから案外嬉しいものだ。

 

八幡「あ、そうだ。」

 

ガサゴソとダンボールを漁り始める。

1箱、2箱、3箱目。ようやくお目当てが見つかったらしい。

ダンボールに何が入ってるか書いてたらいいのに。

 

八幡「ほれ。」

 

沙希「おっと…。何これ?」

 

八幡「マッカン。」

 

沙希「いや、知ってるけども…。」

 

八幡「手伝ってもらったからお茶くらいはって思ったんだが今はそれしかねぇんだよ。」

 

沙希「あ、ありがと。」

 

てっきり終わったら即解散くらい覚悟はしていた。

でもどうやらまだここに居てもいいらしい。

てかあんたそのダンボールの中マッカンしか入ってないじゃん。

どんだけ好きなのよ…と思いつつ缶をあける。

 

沙希「うっわ…あま…。」

 

八幡「疲れた体にはこれが一番いいんだ。」

 

表情こそ変わらないけどおいしそう・・に飲んでいるんだろう。

二人して無言でマッカンを飲んでいる。

男と女が二人きりで部屋にいるっていうのにそれはどうなのさ。

二人きり…。急に恥ずかしくなってきた。

こんな状況想像なんてしてなかった。

 

八幡「俺後でコンビニに晩飯買いに行くけどついでになんか買ってくるか?」

 

優しさからなのだろうか。それとも気を遣ってのことなのだろうか。

後者なのだとしたらなんか嫌だな。

やっぱり気を遣わせてしまう相手なんだろうな。

それもそうか。今までの距離感からすれば当然のことなんだろう。

 

沙希「あたしはいいよ。自分で作るから。」

 

八幡「初日から自炊とかすげぇな…」

 

沙希「あんたって自炊とかしなさそうだよね。ずっとコンビニ弁当食べてそう。」

 

八幡「うっせ。」

 

たわいもない会話。だけど心地いい。

人と喋るのは苦手だけど今はもっと喋りたい。

あいつはどう思っているんだろう。

好きだからこうやって気になるんだろうか?

あまり好きって感情がいまいちわからない。

付き合いたいって思ってる?それもわからない。

なにせ初めての経験だから自分がどうしたいとかがはっきり言えない。

 

沙希「なんだったらあんたの分も作ってあげるけど。」

 

ふいに出た言葉。自分でも驚いている。

自分の口からこんな言葉が出るなんて。

 

八幡「いいのか?そりゃ助かるけど。」

 

沙希「簡単なもんしかできないけどそれで良ければ。」

 

八幡「じゃあ、お願いします…。」

 

沙希「じゃあ準備してくるから出来たら呼びにくるよ。」

 

八幡「すまんな。」

 

あいつの部屋を出たとたん汗がどっと出た。

あ、あたしなんてこと言っちゃったんだろう…。

変に思われなかっただろうか。

特に親しくしてた間柄でもない私にあんなこと言われて不愉快にならなかっただろうか。

対人スキルが乏しいあたしは嫌なことばかり考えてしまう。

嫌われたくない?あたしがあいつに?

自分の中で少しずつ何かが形になっていくのがわかった。

 

 

~~~

 

スゥ~。あいつの部屋の前で深呼吸をする。

なんで呼ぶだけでこんなに緊張しなくちゃいけないのよ。

あたしは高鳴る心臓を抑え込みノックする。

 

沙希「できたんだけど。」

 

八幡「おう。」

 

初めて異性の部屋に入り初めて異性を部屋に招いた。

1日でこれほどまでの事件が起こったことはない。

 

八幡「すげぇ片付いてるな…」

 

沙希「普通だから。そこ座って。」

 

誰かを招くことなど考えてもいなかったから二人でいっぱいいっぱいのテーブルに座る。

お互いの距離が近い。

 

八幡「そばか。」

 

沙希「言ったでしょ?簡単なものしか出来ないって。」

 

八幡「いや、ダシ作れる時点ですげぇよ。俺には無理だ。」

 

沙希「あんたほんとに大丈夫?」

 

八幡「まぁ炒めるくらいは出来るから問題ないだろう。」

 

沙希「栄養バランス偏りそうね…。」

 

八幡「そんなバランスまで考えて作れるか。主婦じゃねぇんだ。」

 

沙希「はいはい。それじゃ頂きます。」

 

八幡「…頂きます。」

 

まさか二人きりでご飯を食べる日がこようとは。

てかあんた何か感想言いなさいよ!

そんな黙って食べられたら緊張するじゃない。

不味…くはないよね?

いや、ホント。何か言ってよ…。

 

八幡「ごちそうさん。」

 

沙希「あ、置いといて。あたし片付けるから。」

 

八幡「いや、ごちそうになった訳だからこんくらいはする。」

 

沙希「う、うん。」

 

さっきも思ったけど割と義理堅い。

そういう家で育ったんだろうか。

でもそれなら味の感想くらい言ってくれたっていいのに。

すごいモヤモヤする。

 

八幡「じゃ、そろそろ部屋戻るわ。」

 

沙希「あ、うん。」

 

帰ってしまう。もう少し一緒に居たい。

でも、もう一緒にいる理由がない。

理由がないと一緒にいることの出来ない中途半端な間柄が憎い。

 

八幡「じゃあな。」

 

沙希「おやすみ。」

 

あいつは別れ際思い出したかのように呟いた。

 

八幡「そば美味かった。おやすみ。」

 

あたしは自分の目が丸くなってるのがわかった。

あいつは逃げるように自分の部屋に戻っていった。

恥ずかしくて言い出せなかったんだろうか。

 

沙希「もっと早く言いなさいよバカ。」クスッ

 

 

 

あいつのいなくなった部屋であたしは考える。

もう結論は出た。

自分の中の訳の分からない感情がはっきり理解できた。

 

あたしは恋をしている。

 

あいつに。比企谷八幡に恋をしているんだ。

一緒に居たい。もっと喋りたい。嫌われたくない。

こんなこと今まで誰にも感じたことはない。

そう、これが恋なんだ。

 

いざ答えが分かると視界がクリアになる。

さぁあたしはどうする?

ただ眺めてるだけじゃ世界は変わらない。

 

よし。あたしは小さく呟く。

 

近くもなく遠くもない二人の距離感。

この邪魔な距離をどうにかしないと。

 

沙希「やるぞあたし。距離感0にしてやろうじゃない。」クスッ

 

ようやくスタートラインに立てた気がした。

あたしの青春はここから始まる。

 

つづく

 



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3.川崎沙希は苦悩する

3話目です。
いろいろな意見あるかと思いますが
読んで頂ければ幸いです。


数日前あれだけあたしは覚悟を決め決断したのにも関わらず、

いきなり挫折しそうだった。

大学の入学を控えた今特にすることはない。

時間はあるはず。あるはずなんだけど…。

まったく出会わない。

部屋は隣どうしでしょ?もう少し何かあってもいいんじゃないの?

 

沙希「あー…暇。っていうか距離感詰めるって具体的にどうするのよ…。」

 

根本的な問題が解決していない。

いったいどうすれば距離感が近づくのか。

ここにきて自分の恋愛経験の無さを痛感する。

 

沙希「ご飯でも作って持って行ってみようかな…」

 

沙希「買い物に付き合ってとか?」

 

沙希「暇だから遊びに行かない?とか。」

 

沙希「だー!無理無理無理!あたしにそんな度胸ないっての!」

 

もう時計の針は15時を指している。

こうやって悩んでいるだけでこの時間だ。

一体あたしは何をしてるんだ…。

 

沙希「もういい。スーパー行こう。」

 

諦めた。今日はとりあえず諦める。

一旦仕切り直しだ。

出会えないものは仕方ないもんね。

そう都合よく解釈しアパートを出る。

 

ガチャッ。ガチャッ。

 

ドアを開ける音が2つ聞こえる。

当然1つはあたしだ。もう1つは…。

 

八幡「ん?」

 

沙希「あ…。」

 

偶然にもほどがあるだろうというタイミング。

お互い部屋から出たところでばっちり目が合う。

 

八幡「出掛けるのか?」

 

沙希「あ、お、おはよう!」

 

テンパってた。突然のことで頭がついていかなかった。

 

八幡「おはよう?もう15時なんだが…。まさか今起きたのか?」

 

沙希「そ、そんな訳ないじゃん!急だったからびっくりして!」

 

八幡「そ、そうか…」

 

おそらくすごく挙動不審に見えただろう。

せっかく会えたのに出だし最悪…。

 

沙希「こ、コンビニでも行くの?」

 

八幡「いや?スーパーに買い出しに行こうかと思って。」

 

チャンス!そう聞こえた気がした。

勇気だせあたし!一緒に行こうって言うんだ!

 

沙希「あ、あのさ。あたしもスーパー行くつもりだから良かったら一緒に…」

 

沙希「行ってあげてもいいよ!」

 

あ…これはダメなやつだ。自分でも分かる。

なんでこんな高圧的な言い方しかできないんだろあたし…。

一緒に行こうよでいいじゃないのよ…。

 

八幡「そりゃ助かる。買う量とかいまいちわからんくて教えて欲しかったところだ。」

 

沙希「え?ほ、ほんとに?」

 

八幡「おう。たぶん俺1人だったら変な買い方しそうだからな。」

 

沙希「しょ…しょうがないなー!あたしが教えてやるよ。行こう!」

 

八幡「おう。」

 

危なかった。なんとか乗り切った。

でも間違いは間違いで反省しないと…。

そんなことじゃいつまでたっても距離は縮まらない。

しっかりしないと。

 

 

~~~

 

沙希「で?結局あたしの言うこときいてないんだけど?」

 

八幡「お前ガチすぎるんだよ!主婦の領域じゃねぇか!」

 

スーパーからの帰り道。昔みたいな言い争い。

だってこいつあたしの言うこと聞かないんだもん。

全然野菜買わないし。すぐに惣菜系に手を出したがるし。

そんなんで体壊されたら…困る。

 

八幡「てか買い過ぎだろ。何作る気だよ。」

 

沙希「普通だし。大量に作ってたらいざって時便利なのよ。」

 

八幡「そうかよ…。ほれ。」

 

あいつはあたしに手を差し伸べてくる。

 

沙希「え?な、何?」

 

八幡「袋一つ持ってやる。」

 

沙希「いや!別にこれくらいいいって!」

 

八幡「構わん。」

 

そういうとあいつはあたしの手から袋を奪いとる。

初めて目の当りにする優しさに思わず頬が緩む。

 

八幡「何笑ってんだ?」

 

沙希「え?いや、その…あ、ありがと…」

 

夕暮れ時の帰り道。

こうして二人並んで歩いていると恋人に見えるんだろうか。

まぁ、実際は恋人どころか友達かどうかさえ怪しいんだけどね。

 

沙希「あたし今日カレー作るんだけどあんたも食べる?」

 

まただ。以前もこうやって勝手に口からとんでもない言葉が出た。

どうやら無意識な時のもう1人のあたしはずいぶん積極的らしい。

 

八幡「いいのか?前も世話になったけど。」

 

沙希「あんたほっといたら変なもんばっか食べそうだし。」

 

八幡「いちいちうるせぇな。まぁ作ってくれるんなら頂くわ。」

 

沙希「ん。」

 

良かった。断られたらどうしようかと思った。

これでまだこいつと一緒に居られる。

それがすごく嬉しかった。

 

沙希「じゃあ出来たら呼びに行くから待ってて。」

 

八幡「え?いや、俺も手伝うけど。」

 

沙希「え!?な、なんで!?」

 

八幡「いや、飯作ってもらうのに黙って待ってるっていうのも…」

 

まぁ、たしかに気を遣ってしまうんだろうね。

でもなんでこいつはそんなセリフをポンポン出せるのよ。

あたしは恥ずかしくってなかなか上手く言えないってのに。

 

沙希「…いいの?」

 

八幡「おぉ。とりあえず荷物片づけてから行くわ。」

 

そう言って部屋に戻っていく。

やっぱりあたしのことなんて眼中にないからあんなセリフ言えるのかな?

いや、違う。眼中にないなんて初めからわかってることだ。

それをどうにかするのがあたしでしょ?

距離感を詰めるのはどうするかわからなかったけど、今はわかる。

 

沙希「まずはあいつと友達にならないと…。」

 

ただの知り合いから友達に。

いきなり距離を詰めることだけ考えすぎて焦りすぎてた。

まずは1つ1つ確実に進まなきゃ。

 

 

~~~

 

あいつが部屋にきてカレー作りを始めて驚いた。

こいつ意外と料理できる。

ちょっと料理のやり方を教えてあげたりしてポイントを稼ごうって思ってたんだけど。

 

沙希「あんた料理普通に出来るじゃん!」

 

八幡「おかしなやつだな?できないなんて一言も言ってない。やろうとしないだけだ。」

 

沙希「威張って言うことじゃないっての!」

 

八幡「親が帰ってくるのが遅いから飯は俺か妹かで作ってたからな。」

 

沙希「妹…?あぁ大志の同級生の。」

 

八幡「あいつにお兄さんはやめろと伝えておいてくれ。」

 

でももしあたしとこいつが結婚したらお兄さんでもいいよね?

やばい。ニヤニヤが止まらない。

 

八幡「…おい。焦げるぞ。」

 

沙希「え?うわぁっ!」

 

危ない…考え事に夢中になってた。集中しないと。

でも二人でご飯作るって状況の時点で集中なんてできないっての。

 

沙希「後は1人でできるからテレビでも見てて待っててよ。」

 

八幡「おう。悪いな。」

 

一緒に居たらまたミスしそうだから早々に退散してもらう。

あいつはテレビを見ててあたしは料理を作っている。

あ…なんかいいなこういうの。

付き合ったりしたらこんな感じなのかな・・?

またニヤニヤしてるんだと思う。

あいつと一緒にいるとこんなのばっかで困る。

 

~~~

 

沙希「いただきます。」

 

八幡「いただきます。」

 

例により小さいテーブルでカレーを食べる。

相変わらず距離が近い。

 

沙希「おかわりいっぱいあるから。」

 

八幡「ん。」

 

相変わらずこいつは無表情で食べるな。

それで相変わらず会話がない。

 

沙希「ねぇ。感想とかない訳?」

 

八幡「ん?うまい。」

 

一言かよ。まぁこいつらしいけど。

 

沙希「……。」ジッ

 

八幡「な、なんだよ人のことジロジロと。」

 

実はあたしはどうしてもこいつに言いたいことがあった。

勇気出せあたし。逃げるな。今言わないといつ言うのよ!

 

沙希「あ、あのさ…大学なんだけど…。」

 

八幡「ん?」

 

沙希「い…一緒に行かないっ!?」

 

言えた。人生で一番緊張したかもしれない。

お願い…断らないで…。

 

八幡「大学?別に構わんけど。」

 

沙希「ほ、ホントに!?」

 

八幡「おぉ。でもいいのか?他の友達とは…」

 

沙希「友達いるように見える?あんたと一緒よ。」

 

八幡「お前失礼すぎるだろ。」

 

沙希「え…?まさか一緒に行く友達が…?」

 

八幡「…いないけど。」

 

沙希「知ってる。」クスッ

 

二人でクスクス笑う。

こうして二人で笑うのは初めてかもしれない。

勇気出して言って良かった。

やればできるじゃんあたし。

 

八幡「ごちそうさん。」

 

沙希「じゃあ片づけるよ。コーヒーでも入れるから待ってて。」

 

八幡「何から何まで悪いな。」

 

よし。さりげなく一緒にいる時間の引き伸ばしに成功。

少しでも長く一緒に居たい。

隣同士でもチャンスなんてそうそう無いことは十分わかったからね。

 

沙希「はい。砂糖とミルクは自分で入れて。」

 

八幡「サンキュ。」

 

おいおい何個砂糖入れるのよ。

 

八幡「あ、そうだ。ほれ。」

 

あいつは思い出したかのように何かを投げてくる。

 

沙希「わわっ!…っと携帯?」

 

八幡「時間とかまた連絡することもあるだろうから登録しといてくれ。」

 

またこいつはさらっとこういうことをする。

内心ドキドキした。あたしも連絡先の交換はしたいと思ってたから。

 

沙希「い、いいけど…。登録ってどうするの?」

 

八幡「は?」

 

沙希「えっ?」

 

お互い自分で登録するような経験がなかったから四苦八苦しながらお互いの連絡先を登録した。

 

八幡「こ、これで大丈夫だと思う。」

 

沙希「う、うん。」

 

初めての家族以外の連絡先。

まぁ、あいつは違うみたいだけど。

あの”二人”のこともまた聞かないといけないな。

 

八幡「じゃあそろそろ帰るわ。」

 

沙希「うん。また連絡する!」

 

八幡「おう。んじゃごちそうさんでした。」

 

あいつは照れ臭そうにお礼を言うと帰って行った。

 

沙希「はー…緊張したー…。」

 

一人部屋で今日の事を振り返る。

順調。なんだろうな。

少しあいつに近づけた気がする。

この調子で少しずつ近づけていけたらいいな。

 

沙希「一緒に大学行けるんだ。」

 

改めて思い返すと照れ臭い。

でも、楽しみだな。

 

初めての恋。

乙女って柄じゃないけど恋する乙女ってこんな感じなのかな。

さっきから胸のドキドキが止まらない。

恥ずかしさのあまり枕を抱きしめながらゴロゴロする。

 

沙希「絶対振り向かせてやるんだから。」

 

大学入学まであと少し。

またあたしの戦いが始まる。

 

つづく

 



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4.川崎沙希は困惑する

感想評価頂ければ励みになります。


大学入学当日。

あたしは部屋の前でドアにもたれかかりあいつを待つ。

 

沙希「この服変じゃないかな。」

 

スーツ姿っていうのが馴染みがないから似合ってるかどうかはわからない。

まぁきっとあいつは一言も服装には触れないんだろうけど。

でもあたしは言ってやる。似合ってるよって。

 

八幡「悪い待たせた。」

 

部屋から出てきたあいつは意外にも本当にスーツが似合ってた。

あたしは少し見とれてしまう。

なんだよ。カッコいいじゃん。

あたしは軽く深呼吸する。

 

沙希「よく似合ってるじゃん。」ニコッ

 

八幡「そうか?」

 

良かった。ちゃんと言えた。

少しはあたしも成長してるらしい。

 

八幡「川崎も似合ってるじゃねぇか。」

 

沙希「!?」

 

お世辞なのかな?あたしが褒めたからついでに?

でも今はどっちでもいいや。

素直に嬉しい。

 

沙希「あ、ありがと…」モジモジ

 

きっと顔すごく赤くなってると思う。

 

八幡「じゃ、行くか。」

 

沙希「うん。」ニコ

 

大学までは徒歩なら20分くらいで行ける。

交通機関もあるけれどあたしたちは徒歩を選んだ。

まだ少し風が肌寒い。あたしたちは並木道を二人で歩く。

まだ隣を歩くのは恥ずかしくって1歩後ろからついていく。

相変わらず何も話さないやつだけど、今はいいや。

あたしの心はこの現状に満ち足りていた。

 

八幡「てか今日って式だけで終わりなんだろ?」

 

沙希「うん。たぶん終わったら解散だと思う。」

 

八幡「ふーん。」

 

20分なんてあっという間だった。

気付けば大学は目前だ。

ここであたしたちの新しい生活が待ってるのか。

 

沙希「ねぇあんたって今日予定あるの?」

 

八幡「いや?特には。」

 

あたしは勇気を出して問いかける。

 

沙希「じゃ、じゃあさ。終わったらご飯でも食べにいかない?」

 

八幡「アパートじゃなくてか?」

 

沙希「う、うん。せっかく入学したんだしお祝いも兼ねてどうかなって…。」

 

八幡「……。」

 

あ、あれっ?返事がない。

やっぱり迷惑だったのかな…。

 

八幡「そうだな。行くか。」

 

沙希「い、いいの?悩んでたけどホントはなんかあるんじゃ…?」

 

八幡「飯を炊いてた気がしたんだ。」

 

沙希「…はい?」

 

八幡「たぶん忘れてる。出る時スイッチ押した記憶がない。」

 

沙希「う、うん。」

 

八幡「帰ってもなんもないから丁度いい。終わったらこの門とこで待ってるわ。」

 

紛らわしい!ちょっと泣きそうだったじゃん!

心臓にわるいよもう…。

 

沙希「わかった。じゃ、またここに集合ってことで!」

 

八幡「なんかあったら連絡してくれ。」

 

沙希「わかった。」ニコッ

 

これは友達って言ってもいいのかな?

周りにはそう見えると思う。

っていうか友達の定義ってなんなの?

ご飯一緒に食べたら友達?

それともこの人は友達ですって宣言されないとダメなの?

っていう風に考えてたらいつのまにか式は終わっていた。

まったく頭に残らない入学式。ホント何やってるんだか…。

 

 

~~~

 

沙希「あれ?まだ居ない…?あたし結構遅れちゃったと思ったんだけど。」

 

沙希「もしかして先に帰っちゃったとか?」

 

いやさすがにそんなことする訳ない…はずなんだけど。

あたしはキョロキョロあたりを見回す。

すると人ごみのなかにあいつの姿を見つけた。

 

沙希「ちょっと門のところって言った…のに…?」

 

声をかけながら違和感を感じる。

誰?この女。

由比ヶ浜でも雪ノ下でもない。

ましてや高校では見たことない女と会話をしていた。

 

???「あれっ?比企谷の知り合い?」

 

八幡「ん?あぁ遅かったな。」

 

沙希「え?えっ?」

 

状況が理解出来ない。

誰?友達?勧誘?ナンパ?まさか彼女!?

突然の出来事に頭が破裂しそうになる。

いや、勝手に彼女がいないと思い込んでただけで実際確認してないし…。

 

八幡「お、おい。何固まってるんだ?」

 

沙希「あ!いや…えっと…。」

 

折本「どうもはじめまして!比企谷の中学の同級生の折本かおりです!」

 

沙希「あ…同級生。あたしは高校の同級生の川崎沙希です…。」

 

折本「なになに~?比企谷!?彼女?ねぇ彼女なの!?」

 

八幡「いや、友達だ。」

 

沙希「!?」

 

折本「なんだつまんない。じゃあ友達も一緒にどう?」

 

沙希「一緒?」

 

八幡「いや、なんかカラオケ行くらしいから一緒にどうかって誘われてんだけど。」

 

沙希「あー…あんた行ってきなよ!あたしはまたでいいからさ!」

 

八幡「いや。折本悪いな。川崎と予定あるからやめとくわ。」

 

折本「いやいや!予定なくてもどうせ来なかったっしょ?」ケラケラ

 

八幡「まぁな。行くか川崎。」

 

沙希「ほ、ホントにいいの?」チラッ

 

折本「あたしらは気にしないでいいよ~!こっちこそ邪魔しちゃってごめんね?」

 

沙希「……。」ペコッ

 

八幡「じゃあな。」

 

折本「またね比企谷!」

 

なんか頭ごちゃごちゃだけど…。

友達だ。あいつはそう言ってくれた。

それがすごく嬉しかった。

ほんとは折本?って人が気になったけど今はどうでもいい。

友達…。うん。あいつの中でのあたしは友達になった。

再会してまだ少ししかたってないけどすごい進歩だ。

帰り道のあたしの足取りはすごく軽く、すごく浮かれていたと思う。

 

女生徒「かおりー?行くよー?」

 

折本「今行くー!」

 

折本「ふーん?川崎さん…ね。」

 

 

~~~

 

帰り道あたしとあいつはこ洒落た喫茶店へと立ち寄った。

 

沙希「ホントに良かったの?断って。」

 

八幡「そもそも行く気もなかったから構わん。」

 

沙希「でも可愛い子だったじゃん。」ムスッ

 

八幡「…。いいんだよもう。」

 

沙希「う、うん。それよりさっきあたしのこと友達って…?」

 

八幡「え?す、すまん!俺が勝手に思ってただけで!その…」

 

沙希「ううん。いいよ。なんか変な感じだよね。」

 

八幡「え?」

 

沙希「だって高校ではそんなにだったのに今さらって感じがして。」クス

 

八幡「まぁ、人生色々ってことだな…。」

 

沙希「なにそれ。」クスッ

 

たわいもない会話。

昔のあたしたちにしたら考えられないことだ。

今なら聞ける気がするあの事。

いや、今聞いておかなきゃならない。

私が前に進む為にも。

 

沙希「あの…さ。」

 

八幡「なんだ?」

 

沙希「あんたって由比ヶ浜と雪ノ下振ったってホント?」

 

ピタッ。あいつの手が止まるのがわかった。

 

八幡「……なんで知ってる。」

 

沙希「あんだけ教室で三浦が騒いでたら嫌でも耳に入るっての。」

 

一時期由比ヶ浜のやつが目を腫らしてた時があった。

それに対して三浦のやつがこいつにつっかかってたのはよく覚えている。

だからなんで知ってると聞かれても必然だったと答えるしかない。

 

八幡「…事実だよ。」

 

沙希「なんで?二人ともあんたにはもったいないくらいの上玉じゃん。」

 

八幡「あの3人で一緒に居ようと思ったらあれが最善だった。」

 

沙希「なんで?」

 

八幡「どちらと付き合ってもあの部は崩れる。」

 

八幡「あの二人の関係を俺は壊したくなかった。ただそれだけだ。」

 

沙希「後悔してないの?」

 

八幡「しそうになった。でもこれで良かったんだ。」

 

八幡「結果的に奉仕部はそれからも変わらずにいつもの関係が続いた。」

 

沙希「それってあんたが犠牲になっただけじゃん…。」

 

八幡「でも仲良くしてる二人を見るとあれで正解だったんだよ。」

 

沙希「ふーん…。じゃあ今は誰とも付き合ってないんだ?」

 

八幡「お前俺に彼女が居るように見えるか?見えるなら眼科に行った方がいいな。」

 

沙希「そっか。」クスッ

 

八幡「何だよ…。」

 

沙希「なんでもないよ。そろそろ帰ろっか!」

 

八幡「おぉ…?」

 

彼女はいない。私にもチャンスはある。

アパートまでの帰り道そんなことばかり考えていた。

1歩先にはあたしの好きな人。

相変わらず無言の帰路だったけれど、あたしはこれから先が楽しみになった。

そう。あんなことがあるまでは。

 

 

~~~

 

折本「あっれ~!?比企谷と川崎さんじゃん!」

 

アパートの2階から聞こえる聞き覚えのある声。

ふと見上げると折本かおりが2階の廊下から身を乗り出してこちらを見ていた。

 

八幡「お、折本!?」

 

折本「え?まさか二人もこのアパートな訳!?マジうけるー!」ケラケラ

 

全然気づかなかった。気付こうともしてなかった。

隣にこいつがいるってだけで他の住人のことまで見ていなかった。

 

八幡「折本…。このアパートに住んでんのか?」

 

折本「そだよ~。あたし二階ね?二人は何階?」ニコニコ

 

八幡「俺らは1階だ。」

 

折本「へー!もしかして隣同士!?すっごい偶然じゃん!」ケラケラ

 

汗が出そうになる。

なんだろうこの感覚は。

青春なんて甘いものばかりではない。

そんな言葉が脳裏をよぎる。

甘かった。このままあたしの青春はすんなり終わりそうもない。

 

折本「女同士よろしくね?川崎さん。」ニコッ

 

そう言って上から笑顔を向けてくる折本かおりの目は笑っていなかった気がした。

 

つづく

 



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5.川崎沙希は決意する

なんなの?この状況。

自分の置かれている状況が全然理解できないんだけど。

隣の部屋には好きな人がいて。

真上の階には好きな人の中学の同級生?

その同級生の目が笑ってなかった気がして…。

 

沙希「あー!なんなのよもうっ!」

 

ピンポーン。

 

チャイムが鳴る。嫌な予感しかしない。

出たくない。なんとなく出たらいけない気がする。

 

ピンポーン。

 

再びチャイムがなる。

もうどうにでもなれ。あたしはヤケになりドアを開ける。

 

沙希「…はい。」

 

折本「やっ!」

 

まぁそうだろう。この人だとは思ってた。

思ってたけど行動するの早いなこの人。

たぶん。いや、間違いなく苦手なタイプだ。

三浦のチャラチャラした感じと相模の軽い感じが合わさったような印象。

 

沙希「…なんすか?」

 

折本「うっわ!いきなり無愛想でウケる!」ケラケラ

 

沙希「…どうも失礼。何か用?」イラッ

 

折本「そんなに睨まなくてもいいじゃん。ちょっとお話ししたいなって思って!」

 

うざい。前言撤回。苦手なタイプじゃない。

こいつ嫌いなタイプ。マジうざい。

 

沙希「…いいよ。入って。」

 

折本「お邪魔しまーす!」ニコニコ

 

沙希「座ってて。コーヒー入れるから。」

 

折本「ありがと。へー?綺麗な部屋だね!」

 

こいつ何しに来たの?

部屋の感想言う為に来たの?

なんだろう。品定めされてるみたいですごくイライラする。

 

沙希「ありがとう。はいどうぞ。」

 

折本「ありがと!あちち…。」

 

沙希「で?話しって?」

 

さっさと話し終わらせて帰って欲しい。

これ以上こいつと居たくない。

 

折本「んー。川崎さんって比企谷のこと好きなの?」

 

ストレートすぎるでしょ。

もっとなんかこうオブラートに包めよって感じ。

 

沙希「なんでそう思うの?」

 

折本「ん?なんか比企谷と居る時の川崎さんって女の顔してたから。」

 

なによ女の顔って。

その言い方なんかいやらしいんだけど。

 

沙希「別にどっちでもいいでしょ?折本さんに何か関係ある?」

 

折本「別に関係はないけど気になるんだよねー。ほらあたし比企谷に昔告られたことあるから!」ケラケラ

 

ドクン!心臓が高鳴ったのがわかった。

 

沙希「は…?えっ?あいつに…?」

 

やばい動揺してるのがバレる。

落ち着けあたし。

 

折本「そうそう!まぁ中学の時だけどね!あ、もちろん振ったけど。」ケラケラ

 

ああ。こいつこれが言いたかったのか。

道理で比企谷に折本の話しをした時言葉を濁す訳だ。

 

沙希「へ、へー…。そうなんだ…。でも振ったんだったら別にもういいんじゃないの?」

 

折本「そうなんだけどねー。意外にいい男になってたから気になっちゃって。」ニコニコ

 

あぁ。そうか。こいつはあたしにケンカ売ってるんだ。

久しくそういう相手が居なかったからこの感覚忘れてた。

 

沙希「はぁ…。あんたケンカ売ってるの?どうせあたしが好きなのわかってて言ってるんでしょ?」

 

折本「そうだよ?一応ちょっかいかけていいのか確認しにきてあげたんじゃん!」ケラケラ

 

沙希「好きにすれば?今さらあんたが出てきたところであいつが揺らぐとも思えないし。」

 

折本「ホントにいいんだ?昔好きだった女と一緒の大学で内心浮かれてるかもよ?」クスクス

 

沙希「だから好きにすればって言ってるじゃん!!」

 

つい声を荒げてしまう。

 

折本「……。」

 

沙希「……。」

 

折本「…いいよ。じゃあ戦争だ。」ニコッ

 

沙希「は?」

 

折本「自信あるんでしょ?あたしに取られない自信。」クスクス

 

沙希「それは…」

 

折本「さぞかし経験豊富なんでしょね!」

 

沙希「うるさい…」

 

折本「あんな冴えない男落とすなんて訳ないって?」

 

沙希「うるさい。」

 

折本「あたしも本気出さないとヤバいかなー。」クスクス

 

沙希「だからうるさいっての!!」

 

折本「そ、そんなにムキにならなくてもいいじゃない。」

 

沙希「初恋なんだから邪魔しないでよ~!うわあぁぁん!」

 

折本「…は?」

 

~~~

 

みっともない姿を見られてしまった。

敵に涙を見せるなんて…。

そもそも泣いたのなんていつ以来だろう。

 

折本「…落ち着いた?」

 

沙希「…ごめん。」

 

折本「今頃初恋とかちょーウケる。」クスクス

 

沙希「…。」

 

折本「冗談よ。」

 

沙希「え?」

 

折本「比企谷のこと!取ったりしないから安心して。」クスッ

 

沙希「…どういうことよ。」ジロッ

 

折本「ちょっとからかっただけじゃん!本気にしちゃうんだから。」クスクス

 

沙希「なっ…!?」

 

折本「でも川崎さんとお話ししたかったのはホント。」

 

折本「なんか動揺してたからちょっと意地悪したくなっちゃって。」ケラケラ

 

沙希「…人が悪いわね。」

 

折本「いやー。でも初恋とは!ほんとウケる!」ケラケラ

 

沙希「…殴るよ。」ジロッ

 

折本「うわ…こわっ!ねぇ川崎さんあたしと友達になってよ!」

 

沙希「嫌。」

 

折本「即答!?あたしその為に訪ねてきたんだけど!」

 

沙希「嫌。帰れ。」

 

折本「いいじゃん!せっかく同じアパート同じ大学で同年代なんだからさー。」

 

沙希「あんたとは仲良くなれそうにないから。」

 

折本「ひどっ!もっとオブラートに包もうよー。」

 

沙希「お前が言うな。とにかくもう帰って!」

 

折本「はーい…。まぁまた来るからね!」ケラケラ

 

沙希「もう来るなー!!!」

 

バタン!あいつを部屋から追い出しその場にへたれこむ。

 

沙希「勘弁してよー…。」

 

落ち込んでるのも束の間。

ガチャッ。追い出したはずの折本が戻ってくる。

 

折本「あ。あんまり川崎さんがモタモタしてたらホントに比企谷取っちゃうかもだからそのつもりで!」ケラケラ

 

バタン…。それだけ言うと折本は帰って言った。

 

沙希「まじで勘弁してよ…。」

 

あたしはベッドに倒れ込む。

疲れた。大学にじゃない。折本かおりに疲れた。

なんなのよあいつ…。

 

比企谷…あいつのことが好きだったんだ。

今どんな気持ちなんだろう。

折本の言う通り浮かれているんだろうか?

なんだろう。すっごいくやしい。

あたしの知らない比企谷を知っている折本のせい?

それとも浮かれているかもしれない比企谷のせい?

いいや違う。

あたしは折本の問いかけから逃げた。

勝負すれば負けると思ったから泣いて逃げた。

それがくやしいんだ。

 

半端な覚悟じゃダメだ。

自分に自信を持たないとダメだ。

胸を張ってあいつが好きだと言えるくらい強くならないと。

 

沙希「見てなさいよ折本かおり。あたしが弱い女じゃないところ見せてやるんだから!」

 

決意新たに波乱の生活がまた始まる。

 

つづく

 



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6.折本かおりは宣言する

大学生活が始まってもうすぐ1ヶ月。

あたしとあいつの仲はまったく進展していない。

大学で姿を見かけることもなく、

部屋からは生活をしている気配を感じない。

会うのは大学に通う20分くらい。

あいつ気配消すのうますぎ。

特に何も変わらず日々が過ぎていく。

いや、変わったことが1つあった。

 

折本「ね~沙希~?この雑誌見てよ!ちょー可愛いんだけど!」ケラケラ

 

こいつが部屋に入り浸るようになった。

 

沙希「折本。いいかげん帰りなさいよ。あたし寝たいんだけど。」

 

折本「え~?部屋帰るのめんどいからここで寝ていいでしょ?」

 

沙希「あんた部屋上じゃん。ほら帰れ。」

 

折本「絶対嫌!」

 

沙希「あんた何がしたいの?あたしと居ても楽しくないでしょ?」

 

折本「恋敵の動向は常にチェックしとかないとね~。」

 

沙希「またそういうこという…。」

 

折本「っていうか沙希。さいきん比企谷とどうなん?あたしあいつ全然見ないんだけど。」

 

沙希「別に。特に変わりないっての。あたしもあんまり見ないし。」

 

折本「でも一緒には通ってるんでしょ?」

 

沙希「まぁ一応…。前よりは会話がはずむようにはなったかな。」

 

折本「ほぉ~!少しは前に進んでるってことね。」ケラケラ

 

沙希「お願いだから変なチャチャだけはやめてよね。」

 

折本「さて、どうかな~?あたしも地味に狙ってるからねー。」ケラケラ

 

沙希「…別にいいよ。絶対負けないし。」

 

折本「お?今回はえらく自信満々じゃん!」

 

沙希「うるさい!絶対負けないからね!おやすみ!」

 

って感じで比企谷より先に折本と急接近してしまった。

あいつ今何してるんだろ。

もうすぐGWだけどどっか遊びに誘ってみようかな?

あいつ部屋から出なさそうだし嫌がるかな?

あーなんかいい案ないかなー…。

 

 

~~~

 

折本「で?恋敵に相談ってどうよ?」クスクス

 

沙希「し、仕方ないじゃん!あたしもどうすればいいかまったくわかんないんだから!」

 

折本「なりふり構っていらんないって?」

 

沙希「…利用できるもんは全部利用させてもらう。」

 

折本「友達を利用ってあんた!」ケラケラ

 

沙希「いや。友達じゃないし。」

 

折本「あんたってほんとひどいよね。」

 

沙希「で?なんかGW使ったいい案ない?」

 

折本「ん~?やっぱりデートじゃない?」

 

沙希「…どんなとこに行けばいいの?」

 

折本「そこから!?そんなのいっぱいあるじゃん!」

 

沙希「い、いいから教えてよ!」

 

折本「買い物でしょー?映画でしょー?カラオケとかー。遊園地とか!」

 

沙希「遊園地…。いいかも。」

 

折本「でも絶対比企谷来ないよねー!」ケラケラ

 

沙希「そうだよねー…。」

 

折本「でもさ。誘わないと絶対実現できないよ?」

 

沙希「…うん。わかってる。」

 

折本「ダメ元でもさ。可能性は0じゃないんだから。」

 

沙希「…知ってる。」

 

折本「逃げてばっかりじゃ手に入るものも手に入らないよ?」

 

沙希「あんたってさ・・・。たまにいいこと言うよね。たまに。」

 

折本「たまにとか言うなっての!」

 

折本「でも遊園地…。ふむ…。」

 

沙希「折本?」

 

折本「ははーん。」ニヤリ

 

沙希「うわ…。すっごい悪い顔。」

 

折本「感謝しなさいよ沙希!あたしに任せて頂戴!」

 

沙希「え?な、何を?」

 

折本「そ・の・か・わ・り!あたしの条件も飲んでもらうからね!」

 

折本は不吉な笑みを浮かべて部屋に帰っていった。

なんか嫌な予感がする。

 

沙希「ホントに大丈夫なの…?」

 

 

~~~

 

GW初日。あたしは普段はしないような小奇麗な格好で部屋の前にたたずむ。

あたしの手には遊園地のチケットが握られている。

そう。比企谷と遊園地に行くことが現実となったのだ。

朝から何着も服を着替えて髪型をととのえて今回の初デート?に臨む。

時間はじっくりとかけたつもりだがいまいち自信がない。

こんな格好普段しないからね。似合ってなかったらどうしよう…。

 

八幡「お。早いな。準備できてるなら呼んでくれたらよかったのに。」

 

沙希「お、おはよう比企谷!」

 

八幡「ん?お前が俺を名前で呼ぶの珍しくねぇか?いや。初めて?」

 

沙希「き、気のせいだって!ご、ごめんねわざわざ休みなのに。」

 

八幡「いや。どうせやることなかったし…。」

 

今から楽しい楽しい遊園地デートが待ってる!

と言いたいところだけど…。

 

折本「二人ともおっはよー!」

 

八幡「おう。じゃあ揃ったし行くか。」

 

こいつ(邪魔者)がいる。

なんでこんなことになったかというと。

 

~~~

 

折本「沙希!遊園地決まったよ!」

 

沙希「え?何の話し?」

 

折本「比企谷とデートしたいって言ってたじゃん!」

 

沙希「いや言ったけども…。」

 

折本「はいチケット!」

 

沙希「あ、あんたこれどうしたの?」

 

折本「バイト先の店長にもらった!」

 

沙希「でも比企谷誘ってないけど…。」

 

折本「それも大丈夫!比企谷来るって!」

 

沙希「へっ!?く、来るの!?あいつが!?」

 

折本「うん!ちゃんと言っといたから!」

 

沙希「あ、あんたどうやったのよ?」

 

折本「まあまあ!じゃあ明日8時にアパート前ね!」

 

沙希「う、うん…。って明日!?」

 

折本「そうだけど?」

 

沙希「急すぎるって!あたし何も準備してない!」

 

折本「そんなのいらないって!」ケラケラ

 

沙希「っていうかあんたも来るの!?」

 

折本「当たり前じゃん。」

 

沙希「ちょ、ちょっと待って!二人で行かせてくれるんじゃないの!?」

 

折本「やだよ。二人だけ楽しい思いするのなんて許さないから。」

 

折本「あたしも連れて行く。これが沙希に飲んでもらう条件。」

 

沙希「うぅー…。」

 

折本「飲めないならこの話は終わり。」

 

沙希「…わかった。飲む。」

 

折本「オッケー!じゃあまた明日!」

 

~~~

 

って感じで遊園地行きが決まった。

折本がいるけどせっかく貰ったチャンスだ。

この機会に少しでも距離を縮めないと。

 

沙希「ねぇあんたほんとにどうやって誘い出したのよ?」ボソボソ

 

折本「ん?あぁ。来てくれなかったら昔告白してきたこと皆にバラすって言った。」ボソボソ

 

沙希「お、脅しじゃない!?」ボソボソ

 

折本「いいじゃなのよ。ほら比企谷の隣に行ってきなさい!」ドンッ

 

沙希「うわっ!」

 

八幡「ん?」

 

沙希「あ、あの…」

 

 

折本(あーあー。仲良さそうに喋っちゃって。妬けちゃうねー。

ねぇ沙希?あたしは比企谷に本当はこう言ったんだ。

来てくれなかったら昔告白してきたこと”沙希”にバラすって。

恥ずかしくてバラされたくなかったのか、それとも沙希にはバラされたくなかったのか。

さぁ。どっちなんだろね。なんかヤバいすごいモヤモヤする。

あの時素直に告白受けるべきだったかな。)

 

 

~~~

 

沙希「じゃあまたね!」

 

八幡「お疲れ。」

 

折本「んじゃねー。」

 

別れの挨拶を交わすと各々部屋に戻っていく。

あたしはベッドに倒れ込む。

すっっっごい楽しかった!

あたしは今日の事を思い返しながら布団を転がりまわる。

いっぱいあいつと話せて乗り物にもいっぱい乗って。

あたしはこの上ない幸福感で満たされている。

 

沙希「はー…。今回確実にあいつと仲良くなれた気がする…。」

 

沙希「もういっそのこと告白しちゃおうかなー…。」

 

沙希「…。いやいやいや!絶対まだ早い!焦るな!落ち着け!」

 

沙希「初恋なんだ。もっと大事にいかないと…。」

 

沙希「さてと…。1つ確認しとかないと。」

 

~~~

 

折本「なに?」

 

あたしは折本の部屋を訪ねる。

こいつの部屋を訪ねるのはこれが初めてだ。

むすっとした表情の折本。いつもの笑顔はない。

 

沙希「中入れてよ。」

 

折本「…入って。」

 

汚い部屋。だと思い込んでいた。

意外にも綺麗にされており、普段の折本からは想像できない部屋だった。

 

折本「まさか沙希があたしの部屋に来るとは思ってなかったよ。」

 

沙希「ねぇあんたなんで今日そんなに機嫌悪いの?」

 

折本「あんたらが仲良さそうだったから。」

 

沙希「嘘でしょ。」

 

折本「なんでそう言えんの?」

 

沙希「勘。」

 

折本「勘って。バカみたい。」クスクス

 

沙希「あたし何か悪いことした?」

 

折本「沙希。あたしはたぶん比企谷に惹かれてる。」

 

沙希「…うん。」

 

折本「でもあたしは過去にあいつを振ったから強く攻められない。」

 

沙希「…うん。」

 

折本「でも、もし沙希が振られたり諦めたりしたら…。」

 

折本「そん時は比企谷あたしが貰うから。」

 

沙希「諦めるつもりないし振られるつもりもない。」

 

折本「知ってる。たぶん沙希なら大丈夫よ。」

 

沙希「なんでそんなこと言えるのよ。」

 

折本「勘。」クスクス

 

沙希「あんたくやしくない訳?あたしに取られるの。」

 

折本「くやしいけどあたしは1度自分の手で終わらせてるからね。」

 

折本「だから次は沙希の番。それが終わるまであたしは手を出さない。」

 

沙希「クリスマス。」

 

折本「ん?」

 

沙希「今年のクリスマスにあたし比企谷に告白する。」

 

折本「うん。」

 

沙希「それまでは比企谷との距離を縮めることに専念する。」

 

折本「うん。」

 

沙希「もしクリスマスにあたしが告白できなかったら次はかおりの番だから。」

 

かおり「わかった。期待しないで待ってる。」クスクス

 

かおり「それと、名前呼んでくれてありがと。」ニコッ

 

沙希「まぁライバルだから敬意を表してってことで…。」

 

かおり「なにそれウケる。」クスクス

 

今年のクリスマスあたしは告白する。

かおりには悪いけれどこのチャンスは必ずものにする。

あたしの初恋。あたしの青春。

あと半年程しかないけれど、最後は笑顔で終わらせられたらいいな。

 

つづく

 



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7.川崎沙希は奮闘する

7月。遊園地に遊びに行ってから2ヶ月が過ぎた。

あれからかおりの計らいで3人で遊びに行ったりご飯を食べたりと割と充実した生活を送っていた。

春出会った頃と比べるとずいぶんと仲が深まったように思う。

正直かおりの計らいがなくともあたし自身で比企谷を外に連れ出せるようになっていた。

順調そのものだけどあたしには気がかりがある。

仲はそれなりにいい。いいんだけど…。

なんか比企谷から友達以上の感情が見えない。

たぶん比企谷側からすればあたしが友達以上の感情を持っているってことは気付いてると思う。

でも肝心の比企谷からは一切そういった感情が見えない。

順調なんだけどあたしは正直焦りがあった。

あたしは友達としか見られていない。それ以上にはなれないんじゃないかって。

あたしはかおり、由比ヶ浜、雪ノ下の顔が頭に浮かぶ。

やっぱり未練があるのかな。

あたしのことなんて眼中にないんだろうか。

最近のあたしはそういうことばかり考えてしまう。

 

沙希「あっつ…。」

 

今年は猛暑らしくイライラするほどの暑さが続く。

あたしはスーパーからの帰り道汗を流しながら急いでアパートに帰る。

とてもじゃないけどエアコンの効いた部屋じゃないと生きていけない。

そう思わせる程の暑さだった。

アパートもエアコンがなければ相当な暑さを誇る。

節約だとか思って買うのを渋っていたけれど今は買って良かったと心底思う。

 

沙希「あれ?比企谷?」

 

アパートまで帰ってくると自分の部屋の前でうなだれている比企谷がいた。

汗を流しながら水を片手にいつも以上に腐った目をしていた。

 

沙希「どうしたの?この暑いのに外なんか出て?」

 

八幡「あぁ…川崎…。暑いな今日も…。」

 

沙希「う、うん暑いよね。あんた大丈夫?顔色悪いけど風邪?」

 

八幡「いや…。エアコン壊れた。」

 

沙希「うそ…。この暑いのにヤバいじゃん。」

 

八幡「部屋の中より外の日陰の方がまだ涼しいからここに居るんだ…。」

 

言葉が弱々しい。同じアパートだから部屋がどれほど暑いのかは容易に想像できる。

 

沙希「修理とか頼んだの?」

 

八幡「今忙しいんだとさ。明後日の午前中には伺いますと言われた。」

 

沙希「うわぁ…。」

 

ゾッとした。この暑さの中明後日まで我慢しないといけないとか苦行以外のなにものでもない。

なにかあたしに出来ること…。

 

沙希「あ、じゃあ一緒にプール…行く?」

 

八幡「…プール。あぁいいな。プール。行くかプール。」

 

いつもはどこかに誘った時、一言目は必ず渋るのに今回は即答だ。

暑さで頭がやられているんだろう。

 

沙希「近くに小さくてあんまり綺麗じゃないけど市民プールがあるの。」

 

沙希「あんまり人がいないから比企谷も行けると思って…。」

 

八幡「準備してくる。」

 

そういうと比企谷は部屋に戻って行く。

普段は絶対に見せない俊敏さだ。

あたしは一緒にプールに行けるのが嬉しかったけどなんか不憫に見えた。

 

~~~

 

八幡「はぁ~~~…。プール最高。」

 

比企谷はプールに浮かびながら満足そうな表情を見せる。

良かった。連れてきて。

 

八幡「川崎は入らないのか?」

 

沙希「あたし水着持ってないから水に足浸けとくだけでいいよ。」

 

嘘だ。水着は持ってるけど比企谷の前で水着になる勇気がなかった。

 

八幡「最初にそう言えば先に水着買いに行ったんだが。」

 

沙希「ううん。いいの!こうしてるだけで結構涼しいから。」

 

八幡「そうか?ならいいけど。」

 

沙希「あ、でも今度でいいから水着買うの付き合ってよ!」

 

八幡「おう。今度な。」

 

サラッとデートのお誘い。良かった断られなくて。

あたしも成長したもんだ。

比企谷は相変わらず浮かんで漂っているだけ。

それでもいつもは見せない表情が見れてあたしは嬉しかった。

 

~~~

 

八幡「…。やっぱり帰りは暑いな。」

 

沙希「だねー…。」

 

もう夕方になるけれど一向に暑さはおさまらない。

ニュースでも言ってたな。寝苦しい夜が続くって。

 

沙希「アイスでも買って帰る?」

 

八幡「そうだな。」

 

なんかカップルみたいな会話。思わず頬が緩む。

二人でコンビニでアイスを購入した。

この店員にもカップルに見えてるのかな?

 

沙希「ねぇ。晩御飯ウチで食べなよ。涼しいからさ。」

 

八幡「いいのか?助かる。」

 

よし。今のもナチュラルに誘えた。

一緒にアパートに帰って、同じ部屋に入る。

まるで同棲でもしてるみたい。あたしはまた頬が緩んだ。

 

沙希「ねぇ、何食べたい?あ、なんでもは禁止ね。」

 

八幡「なんか冷たいやつがいい。」

 

沙希「了解。」クスッ

 

~~~

 

八幡「ごちそうさん。」

 

沙希「ねぇ、もうアイス食べる?」

 

八幡「いや、持って帰って風呂上りにでも食うわ。」

 

言っていいのかな?こんなこと。

軽蔑されるのかな?

でもこのままじゃ比企谷可哀想だし…。

 

沙希「ね、ねぇ…。」

 

八幡「ん?」

 

沙希「……。」モジモジ

 

八幡「川崎?」

 

沙希「と、とまっ…。泊まっていきなよ!///」

 

八幡「…はい?」

 

沙希「だって部屋帰ったら暑くて寝れないでしょ!?」

 

八幡「いや…でも俺男なんだけど…。」

 

沙希「そ、そうだけど…。泊まったらなんか…へ、変なことするの…?」

 

八幡「い、いやそれは断じてない!」

 

いやいやそこまで拒否られたらなんか傷つくんだけど。

 

沙希「じゃ、じゃあ別にいいじゃん!」

 

八幡「…。」

 

今日の比企谷は暑さで相当やられている。

男だからだとか関係なくこの提案はすごくそそられるだろう。

 

八幡「…お前ホントにいいのか?」

 

沙希「あたしは全然平気だけど。」

 

平気じゃない!心臓バクバクいってる!

 

八幡「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…。」

 

沙希「う、うん!さすがに一緒にベッドはアレだから布団持ってきてもらえると助かる…。」

 

八幡「お、おぉ。とりあえず風呂入りに帰るわ。布団はその時持ってくる。」

 

沙希「わ、わかった。じゃああたしもお風呂行くから上がったら連絡するね!」

 

比企谷は分かったとだけ言い部屋に戻って行った。

 

沙希「こ、これは正解?失敗?さすがに引かれたかな…?」

 

でも言ってしまったものはしょうがない。

とりあえずあたしもお風呂行こうっと。

 

~~~

 

沙希「いつでも来ていいよ…っと。」

 

あたしは比企谷にメールを送る。

一緒に寝るとか大丈夫かな?

あたし寝れないかもしれない…。

 

ピンポーン

 

沙希「あ、来たかな?」

 

あたしは鍵をあけようと玄関に行った。

そして気付いた。

 

沙希「ご、ごめん比企谷!1分だけ待って!」

 

あっぶなー…。ついいつもの格好で出るところだった。

キャミにノーブラはさすがにまずい。

もうちょっと肌の露出を抑えないと。

 

沙希「ご、ごめんね!」

 

八幡「いや。いい。」

 

いつもの小さいテーブルを隅に寄せ比企谷の布団を敷く。

目の前のありえない光景に思わずドキドキする。

 

沙希「やっぱり部屋暑かった?」

 

八幡「おぉ。正直泊めてもらって助かる。」

 

沙希「あ、明日も別に泊まってもいいから!修理明後日って言ってたし…。」

 

八幡「いや、でもいいのか?」

 

沙希「いいって!明日日中もここに居てもいいから。」

 

いや、むしろ明日もいてください。

 

八幡「何から何まですまんな。川崎がここまで面倒見のいいやつだとは思わなかった。」

 

沙希「そりゃあたしあんたのことが好…」

 

っぶない!好きって言いそうになった!

 

沙希「い、いや!ほらあたし実家ではよくお母さんみたいって言われてたから!」

 

八幡「あー確かに。言われてみたらそんな気がするわ。」

 

沙希「で、でしょ!?」

 

八幡「おぉ。いいお母さんになりそうだわ。」

 

沙希「…っ!///」

 

やばい。今のはキュンときた。

そのお母さんの旦那は比企谷ってところまで想像してしまった。

 

沙希「そ、そうだ!アイス食べよ!アイス!」

 

八幡「おう。」

 

その後二人でアイスを食べながらテレビ見たり喋ったりして時間はあっという間に過ぎていった。

なんで楽しい時間ってのはこんなに早く過ぎてしまうんだろう。

 

沙希「あ、もうこんな時間。そろそろ寝る?」

 

八幡「そうだな。」

 

沙希「じゃあ電気消すから。」

 

八幡「おう。」

 

~~~

 

静かだ。エアコンの音くらいしか聞こえない。

今隣で比企谷が寝てるんだ。

どうしようやっぱり寝れそうにない。

でも。やっぱり比企谷からは何も感じない。

あたしの部屋で寝ることになってもいつも通り。

あたしにはやっぱり恋愛感情が湧かないのかな?

少しくらいソワソワしたりとかあるんじゃないかって思ったんだけど…。

駄目だ。こんな気持ちじゃ進めない。

やっぱり聞かないと。

 

沙希「…まだ起きてる?」

 

八幡「おぉ。」

 

沙希「ぶっちゃけた話しさ。由比ヶ浜と雪ノ下のことまだ未練ある?」

 

本当はかおりのことも聞きたかったけど、あたしはそのこと知らないってことになってるからね。

 

八幡「なんでそんな話しになるんだ。」

 

沙希「ただの興味本位。女ってそういう話し好きだから。」

 

恋愛経験のないあたしの口から言えることじゃないけどね。

 

八幡「未練はない。前も言ったと思うがこれで良かったんだ。」

 

沙希「高校の時、由比ヶ浜は結構泣いてたみたいだけど比企谷はいつも通りだったよね。」

 

八幡「感情ってのはおいそれと人に見せるもんじゃない。」

 

八幡「感情を。自分を表に出してしまったらきっと嫌われる。」

 

八幡「俺はそれで失敗してきたからな。だから俺はいつも通りにするだけだ。」

 

沙希「それって自分の気持ちを殺すってこと?」

 

八幡「過程はどうあれ周りがうまく回ることにこしたことはない。」

 

あぁ。きっとかおりとのことを言ってるんだろうなと思った。

あの時失敗したから。誰にも相談できずに自分で解決した結果がこれなんだろう。

由比ヶ浜と雪ノ下の時も自分を出せなかったんだろうな。

伝えてしまえば壊れるから。

また失敗するんじゃないか。

自分の為に二人が離れてしまうことはない。

だから自分が犠牲になることを選んだ。

でも本人は犠牲だとは思っていない。

それが1番だと。そうすれば皆が幸せになれると。

自分の幸せよりも他人のことばかり気遣っている。

歪んだ幸せの形だ。

 

沙希「でもそれって比企谷はどうやって幸せになるの?」

 

八幡「どういう意味だ。」

 

沙希「自分を押し殺してばかりじゃ幸せにはなれないよってこと。」

 

八幡「俺はこれしかできない。おいそれと変えることなんてできない。」

 

沙希「じゃああたしで練習しなよ。」

 

八幡「え?」

 

沙希「あたしにもっと比企谷の感情を見せて欲しい。」

 

八幡「無理だ。」

 

沙希「なんで?また嫌われるのが怖いから?」

 

八幡「……。」

 

沙希「あたしは嫌ったりなんかしないよ。友達じゃんあたしたち。」ニコッ

 

八幡「……。」

 

どうりで。比企谷からは何も感じないと思ったのはこういうことか。

あたしに嫌われたくないって思ってるんだよね?

だからあたしには何も見せない。

喜怒哀楽も恋愛感情も友情関係すらも。

見せてしまったら失敗すると思ってるんだ。

まぁあたしに恋愛感情があるかどうかは別だけど。

少なくともあたしは嫌われてはいないらしい。

それがわかれば今は十分だ。

 

沙希「もっといろんな比企谷が見てみたいってあたしは思う。」

 

沙希「このままじゃダメだよ。進めるなら進むべきなんだ。」

 

沙希「今だよ比企谷。今なのよ。あたしがしっかり見ていてあげるからいっぱい失敗しなさい。」

 

驚きの表情を浮かべる比企谷。

あれ?あたし何か変なこと言った?

 

八幡「まったく同じセリフを昔ある人に言われたわ。」

 

沙希「そ、そうなの?」

 

八幡「また聞くことになるとはな…。」

 

比企谷はクスっと笑うと「寝る」と一言言い放ちあたしに背を向ける。

結局それから話しかけても何も返してくれなかった。

まぁいっか。少しはあたしの言ったことわかってくれるといいな。

 

その夜気持ちが少し楽になったのか気付けば寝ていた。

次の日かおりにふたりで寝ているところを見られて言い訳が大変だった。

でも言い訳しながらもあたしと比企谷の顔はすっきりしていたと思う。

 

つづく

 



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8.川崎沙希の贈り物

7月も終わりに差し掛かった頃。

日々の暑さも相変わらずひどい。

比企谷はエアコンが復活してから落ち着いて生活を送っている。

あたしはというと今はかおりの対応に追われている。

 

かおり「どっか遊びにいこうよー!」

 

沙希「嫌よ。暑いもん。」

 

かおり「そんなんじゃ比企谷と進展しないよー?」

 

沙希「そうだけど…。この暑さだから遊びに行くのはちょっと…。」

 

沙希「比企谷もたぶん家から出ないよ。」

 

かおり「まぁたしかにねー…。」

 

朝からずっとこんな感じで家にこもっている。

 

かおり「もうすぐ8月かー。早く秋になればいいのにねー。」

 

沙希「うん。とりあえず少し涼しくなって欲しい。」

 

かおり「あ。」

 

沙希「何?」

 

かおり「聞きたい?」ニヤニヤ

 

沙希「なんか怖いからいい。」

 

かおり「聞かないんだ?あたしにありがとう!って言いたくなるのに。」ニヤニヤ

 

沙希「……何よ。」

 

かおり「今度アイス奢ってくれる?」

 

沙希「奢ってあげるから早く言って。」

 

かおり「あのね…。8月8日は比企谷の誕生日なのよ!」

 

沙希「……かおり!ありがとう!!」

 

かおり「ふっふーん!感謝しなさいよね!」

 

沙希「するする!アイス3つ奢ってあげる!」

 

かおり「ラッキー!ちなみにあたしはあげるプレゼント決めてるから。」ニマニマ

 

沙希「は?かおり手出さないって言ったじゃん。」

 

かおり「手は出さないけどプレゼントはあげるよ。」

 

沙希「ち、ちなみに何をあげるの?」

 

かおり「絶対教えない!」ケラケラ

 

沙希「けち!!」

 

かおり「大いに悩みたまえ!」ケラケラ

 

思わぬナイス情報により暑さが吹き飛びやる気が出てきた。

でも人にプレゼントって何あげたらいいんだろう?

妹とかにあげるようなものはなんとなく分かるんだけど…。

大学生だもんね。やっぱりそれなりのもんじゃないと…。

ここからあたしの苦悩が始まる。

 

~~~

 

沙希「これも却下。これも…ダメかなー。」

 

あたしはいろんな雑誌を読み漁りプレゼント候補を絞っていた。

絞ると言ってもまだ案は出ていない。

 

沙希「比企谷って結局何が好きなんだろ?」

 

沙希「そういえばあんまり比企谷のこと知らないなー…。」

 

沙希「マッカンが好きなのは知ってるけど誕生日にマッカンあげたって仕方ないし…。」

 

沙希「やっぱり服とか?でもサイズわからないし好みもあるしなー。」

 

沙希「……。やっぱりあの手しかないか。」

 

 

~~~

 

あたしは喫茶店で人を待っていた。

本当ならこんな手は使いたくなかったんだけど。

でも初めてのプレゼントだから失敗したくないし。

 

???「あ、あのー?こんにちは…。」

 

沙希「あ!ごめん!ボーっとしてて!す、座って!?」

 

???「あ、はい。」

 

沙希「ごめんね?急に呼び出したりして…。えっと小町ちゃん?だよね?」

 

小町「はい!ご無沙汰です!大志君のお姉さん!」

 

沙希「あ、沙希でいいよ。」

 

あたしは大志にお願いして小町ちゃんにあたしが会いたいってことを伝えてもらった。

まぁ普通なら断られてもいいもんだけどちゃんと会いに来てくれた。

 

小町「あのー?沙希さんお話しというのは兄のことですか?」

 

するどい。でも普通に考えたらそれくらいしかないのか。

 

沙希「う、うん。そうなの。あたし今比企谷…君の隣に住んでて割と良くしてもらってるんだ。」

 

小町「そうなんですか!?小町何も聞いてない…。あのごみいちゃんめ。」ボソッ

 

沙希「こ、小町ちゃん?」

 

小町「あ、いえ!じゃあ兄の好きなものが知りたくてですかね?」

 

この子怖い。なんでわかるの?

 

沙希「よ、よくわかったね!」

 

小町「そういえばもうすぐお兄ちゃんの誕生日ですから。」

 

沙希「そうなの。仲良くしてもらってるからプレゼントをね…あげたいな…って。」

 

小町「ほー。」(やるじゃんごみいちゃん!)

 

沙希「あ、あたしあんまり比企谷君のこと詳しくないから何あげたらいいか全然分かんなくって!」

 

小町「なるほどー。」(小町の新しいお義姉ちゃん候補!)

 

沙希「だから小町ちゃんに好きなもの聞きたいなーって思って…。」

 

小町「構いませんけど本当にいいんですか?」

 

沙希「え?何が?」

 

小町「小町お兄ちゃんの好きなもの言うのは簡単ですけど沙希さんがそれでいいのかな?って。」

 

沙希「……。やっぱりそうだよね。」

 

小町「お兄ちゃんは家族以外からプレゼント貰うって経験が皆無に等しいと思うのでもらったらなんでも嬉しいはずです!」

 

小町「それにやっぱり自分で選んで喜んでもらえた方が沙希さんも嬉しいかと。」ニコッ

 

沙希「うん。そうする。ありがとう小町ちゃん。」クスッ

 

小町「でも悩んでおられるならこれは余談ですが、形が全てではないと思います。」

 

沙希「あ…そうか。」

 

小町「そういうことですよ。」ニコッ

 

賢い子だ。とても比企谷の妹だとは思えない。

何かをあげることにこだわりすぎていた。

形にはのこらなくとも記憶に残る。

そういうこともありなんだ。

この短時間で女子高生に気づかされるとは…。

最後に小町ちゃんとは連絡先を交換し別れた。

よし。何か見えてきたきがする!

 

~~~

 

8月8日当日。

大学から帰ってきたあたしは最後の準備にとりかかる。

小町ちゃんいわく、兄が帰ってくる予定はありませんとのこと。

なら比企谷は部屋にいるはず。

あたしは急ピッチで準備をすすめる。

それと同時に比企谷にメールを送る。

ご飯を一緒に食べようと。

わかった。とだけ返信が帰ってくる。

よし。これで下準備はバッチリ。

いろいろ考えたけどあたしにはこれくらいしか出来ない。

 

沙希「いらっしゃい。」

 

八幡「お邪魔します。」

 

沙希「いつものとこに座ってて。」

 

八幡「おう。……ってなんだこれ。すげぇごちそうじゃねぇか。」

 

沙希「でしょ?ちょっと奮発してみた。」

 

八幡「奮発って何かいいことあったのか?」

 

あぁやっぱり。自分の誕生日だってことは頭にないらしい。

 

沙希「今日はいい日だから。比企谷。誕生日おめでとう!」

 

八幡「あ…。」

 

ようやく理解したのか照れ臭そうに視線を逸らす。

こういうところは相変わらずね。

 

八幡「知ってたのか。」

 

沙希「この前たまたまかおりに聞いて。」

 

八幡「そうか。…なんていうか。その。ありがとな。」

 

沙希「いいよ。さぁいっぱい作ったから食べて食べて!」ニコッ

 

八幡「ああ、頂きます。」

 

二人でご飯を食べる。

珍しくうまいうまいと言いながら比企谷は食べてくれた。

良かった。あれから小町ちゃんに比企谷の好きな食べ物聞いておいて正解だった。

 

八幡「ふぅ。ごちそう様。」

 

沙希「お腹いっぱいになった?」

 

八幡「あぁ。でもこの料理俺の好きなもん多かったけど…。」

 

沙希「え?か、かおりに聞いたんだよ!」

 

八幡「折本に言ったことあったか…?」

 

さすがに小町ちゃんに聞いたとは言えなかった。

 

沙希「比企谷。これも良かったら。」

 

八幡「ケーキ?」

 

沙希「うん。甘いの大丈夫でしょ?」

 

八幡「ああ。これもしかして…。」

 

沙希「そう。あたしが作ったの。」

 

八幡「すげぇな。売り物みたいだ。」

 

沙希「ま、まぁ、味の保証はできないけどさ!」

 

八幡「…いただきます。」

 

沙希「ど、どうかな?」

 

八幡「すげぇうまい。」

 

沙希「ほ、ほんとに!?」

 

八幡「ああ。ほんとすげぇわ。」

 

沙希「コーヒーもあるから!」

 

八幡「すまんな。ズズッ…。ん?このコーヒー?」

 

沙希「甘いでしょ?マッカンみたいな感じで作ってみたんだけど…。」

 

八幡「うん。これもうまい。」

 

良かった。よろこんでもらって。

作ったケーキほとんど食べてくれた。

 

八幡「あーもう食えねぇ…。」

 

沙希「いっぱい食べたね。」クスクス

 

八幡「悪かったな。こんな風に祝ってもらって。」

 

沙希「ほんとはプレゼントあげようと思ったんだけど思い浮かばなくって。」クスッ

 

沙希「だからあたしの得意分野の料理がプレゼントってことで。」

 

八幡「十分すぎるプレゼントだ。」

 

沙希「ほんとに?物じゃなくても良かった?」

 

八幡「おう。俺がボケない限り今日のことは忘れない。」

 

沙希「あ、ありがと…///」

 

忘れないって言ってくれた。

それがとても嬉しかった。

少なくとも比企谷の心の中にあたしは入り込めた。

今はまだ小さいかもしれない。

でもこれからもっと大きな存在になれるように頑張らないと。

 

八幡「じゃあ。きょうはありがとな。」

 

沙希「うん。また明日ね!」

 

 

~~~

 

かおり「比企谷!」

 

八幡「ん?おわっ!?」

 

かおり「ナイスキャッチ!それあたしからのプレゼント。」クスッ

 

八幡「ありがたいけど投げるなよ…。」

 

かおり「いいじゃん別に。それより沙希のプレゼントどうだった?」

 

八幡「まぁうまかった。」

 

かおり「何それウケる。」クスクス

 

八幡「まぁプレゼントありがたく受け取っとくよ。じゃあな。」

 

かおり「比企谷。」

 

八幡「…なんだ?」

 

かおり「あたしが言うのもなんだけどさ。ちゃんとしてあげてね。」

 

八幡「……。」

 

かおり「比企谷って案外賢いからさ。なんとなくわかってると思うんだけど。」

 

八幡「……。」

 

かおり「だからこそ中途半端なことはやめてね。」

 

八幡「……なんの話しかわからん。じゃあな。」

 

かおり「最後に1つだけ。一応今さらって感じだけど…。あたしもだから。それだけ!じゃあおやすみ!」

 

八幡「……。」ガチャン

 

かおり「ふぅ。ほんと頼むよ比企谷。逃げないでちゃんと決めてね。」

 

つづく

 



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9.川崎沙希はまたも苦悩する

9月も中旬に差し掛かった頃。

まだ寝苦しい日々が続く中あたしは悩んでいた。

比企谷の誕生日を祝ってから次の一手が浮かばないのだ。

距離は確実に縮んでいる。しかし決め手に欠ける。

定期的にご飯をたべたり出かけたりはしている。

でももっと踏み込む何かが欲しい。

じゃないと今のままじゃ良いお友達止まりで終わってしまいそうで怖い。

 

沙希「あー。何かいいイベントでもないかなー…。」

 

あたしはテレビを見ながら今後の事に思い悩む。

 

沙希「こんなドラマみたいな恋愛ってありえないよね。」

 

現実ではありえないようなドラマの展開にあたしは苛立つ。

もっと為になるようなドラマってないんだろうか。

あたしはチャンネルを変える。こんなの見ても仕方ないから。

チャンネルを変える手が止まる。

テレビに映し出されるアレ。

あたしは叫ばずにはいられなかった。

 

沙希「いやああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

~~~

 

八幡「で?チャンネルを変えたらホラー映画だったと。」

 

沙希「……。」コクコク

 

八幡「はー…。そんなことか。何事かと思っちまったじゃねぇか。」

 

沙希「あ、あたしにとったらそんなことじゃない!」

 

八幡「強盗か何かかと思って包丁持ってきちまったよ。」

 

あたしが叫んだ後すぐに比企谷は飛んできた。包丁を握りしめて。

そりゃそうだろう。隣の部屋から尋常じゃない叫び声が聞こえるんだから。

あたしにとったら飛んできてくれたことは嬉しいはずなんだけど今はそれどころじゃない。

 

八幡「そういや昔修学旅行のお化け屋敷でも怖がってたな。」

 

沙希「あ、あたしホントにこういうのダメなんだって!」

 

八幡「まぁテレビ見る時は気を付けるんだな。じゃあな。」

 

沙希「…え?」

 

八幡「…なんだ?」

 

沙希「も、もう帰るの?」

 

八幡「…お前まさかまだ怖いのか?」

 

沙希「ち、違う!いや…違わない。怖い…。助けて…。」

 

八幡「助けても何も俺にできることなんて…。」

 

沙希「ひ、一人にしないで!お願い泊まっていって!」

 

八幡「お前…。子供じゃないんだから…。」

 

沙希「無理無理無理!子供でもなんでもいいからお願い!」

 

八幡「無理だ。前は理由があったが今回のは理由にならん。」

 

沙希「お願いだから~!うわぁああん!」

 

八幡「…はぁ。」

 

~~~

 

比企谷は諦めたのか泊まってくれることになった。

布団を取りに戻る時あたしも当然付いて行った。

怖すぎて一人になれないもの。

 

沙希「ご、ごめんね?とりあえずコーヒー入れるから。」

 

八幡「大学生にもなってお化けが怖いとか…。」

 

沙希「も、もういいじゃん!ほんとごめんってば!」

 

自分でも情けない。

でも嫌いなものは嫌いなんだから…。

 

沙希「ね、ねぇ。あたしお風呂入りたいんだけど…。」

 

八幡「んじゃ一旦帰るからまた連絡してくれ。」

 

沙希「違う。逆。お風呂入るけど怖いからここに居て。」

 

八幡「…それはダメだろ。」

 

沙希「べ、別に比企谷の前で脱ぐ訳じゃないから!」

 

八幡「当たり前だ。女としてどうなんだって話だ。」

 

沙希「そんなのどうだっていいからお願い…。」

 

八幡「そんなのって…。」

 

沙希「別に覗かれたって怒らないからお願い!」

 

八幡「覗かねぇよ!」

 

沙希「そ、そんなに拒否らなくてもいいじゃない!」

 

沙希「ちょっとくらい覗こうとかない訳!?そりゃあたしの裸なんて見てもおもしろくないかもだけど…。」

 

八幡「わかった!わかったから!ここに居るから早く行ってくれ!」

 

 

~~~

 

沙希「…ただいま。」

 

八幡「…おかえり。」

 

沙希「ほんとに覗きに来なかったんだ。」

 

八幡「もういいだろその話は。」

 

覗きに来られても困るけど来なかったら来なかったで女としての魅力が無いのかなって思ってしまう。

 

八幡「んじゃ寝るか。」

 

沙希「ちょっと!早いよ!まだ10時なんだけど?お風呂あがったところなんだけど?」

 

八幡「別にもうすることなんてないだろう。」

 

沙希「比企谷。もうちょっとその性格なんとかならないの?」

 

八幡「うるさい。俺はこれが通常運転だ。」

 

沙希「ちょっとくらいお話ししようよ。」

 

八幡「…ちょっとだけだぞ。」

 

沙希「大学入ってから友達できた?」

 

八幡「別に。いなくとも問題ない。」

 

沙希「でしょうね。大学で比企谷が誰かと居るところみたことないから。」

 

八幡「わかってるなら聞くなよ。」

 

沙希「でも大学生なんだからさ。か、彼女が欲しいとか思ったりしないの?」

 

八幡「別に思わん。養ってくれる物珍しい人間が居たら別だが。」

 

沙希「まだそんなこと言ってるんだ。」

 

八幡「当たり前だ。そこは譲らん。」

 

沙希「じゃ、じゃあ養ってあげるって娘がいたら付き合う?」

 

八幡「まぁ人によるかな。」

 

沙希「何それ。理想高すぎ。」

 

八幡「夢を見るのは自由だからな。」

 

沙希「じゃあ自分が人を好きになることってないの?」

 

八幡「ないな。振られるのがわかりきってて好きになるとか拷問だろ。」

 

沙希「でもかおりには告白したんでしょ?」

 

沙希「…あ。」

 

八幡「…やっぱり聞いてたのか。」

 

沙希「ご、ごめん!言い出しにくくてその…。」

 

八幡「あれは気の迷いだ。今でもなんであんなことしたのかわからん。」

 

沙希「…今でもかおりのこと気になるの?」

 

八幡「別にもう終わった話だ。今さら関係ないさ。」

 

沙希「…もしかおりに今告白されたらどうするの?」

 

八幡「この話はもういいだろ。そろそろ寝るぞ。俺は眠い。」

 

沙希「え?ひ、比企谷?」

 

そういうと比企谷は布団にもぐり込んだ。

何かから逃げるように。

なんで否定してくれなかったの?

やっぱりかおりのことがまだ好きなの?

それとも由比ヶ浜や雪ノ下が忘れられない?

いつもそうだ。恋愛話になるとすぐにごまかして逃げる。

何か隠してることがあるんでしょ?

胸がチクチクする。

勝手に距離が縮んだって思い込んでただけなのかもしれない。

きっとあたしは仲のいい友達止まりなんだろう。

そう思うと涙が出る。

これが失恋っていうものなのかな?

でも直接振られた訳じゃないけど…。

けど比企谷は何か隠してる。それは確実だ。

思い返せば不審なところはいくつもあった。

あたしが踏み込もうとするとうまくかわされる。

まるであたしに近づいてきてほしくないように。

なかなか縮まらないと思ってた距離。

縮まらないんじゃなくて縮めさせてもらえないんだ。

それは何故?

あたしには恋愛感情がないから?

好きな人がいるから?

もしくは…。

 

沙希「もしかして彼女いるの…?」ボソッ

 

寝息をたてる比企谷にボソッとつぶやく。

考えないようにしてたけれど彼女がいるなら踏み込ませてもらえない理由になる。

いないにしても好きな人がいれば説明がつく。

心がざわつく。なんだか久しぶりに味わう感覚。

そんな心のざわつきを遮るように携帯の音が響く。

 

沙希「あたしのじゃない?比企谷の携帯か。」

 

テーブルの上で音を立てる携帯。

こんな時間に誰なんだろう?

 

沙希「比企谷?け、携帯鳴ってるよ?」

 

声をかけても起きない。

駄目だってわかっている。でもこの衝動を抑えきれない。

 

沙希「比企谷?出ないの?」

 

意味のない問いかけだとわかっている。

聞いたのは少なからず罪悪感を減らしたかったからだろう。

後悔するかもしれない。

でもあたしはもう自分自身を止めることは出来なかった。

鳴り続ける携帯。

あたしはそっと携帯を覗き込む。

そこに表示されていた着信者の名前を見る為に。

 

 

~~~

 

八幡「…ん?」

 

沙希「あ、おはよう比企谷。」

 

八幡「もう朝か…。」

 

沙希「今朝ごはん作ってるからちょっと待ってて。」

 

八幡「悪いな。よく眠れたか?」

 

沙希「おかげさまで。助かったよ。」ニコッ

 

八幡「そりゃよかった。」

 

~~~

 

八幡「ごちそうさん。」

 

沙希「どういたしまして。」

 

八幡「悪いけど今日予定あるから帰るわ。」

 

沙希「珍しいじゃん。あ、そういえば比企谷寝た後携帯鳴ってたよ?」

 

八幡「え?あ、ほんとだ。」

 

沙希「もしかして彼女とか?」ニヤニヤ

 

八幡「ちげぇよ。妹からだ。」

 

沙希「つまんないの。」

 

八幡「んじゃ。またな。」

 

沙希「うん。気を付けて。」

 

部屋を後にする比企谷。

 

沙希「……嘘つき。」

 

誰もいなくなった部屋であたしは呟く。

 

沙希「着信小町ちゃんじゃないじゃん。」

 

ひとり浮かれててなんかバカみたいだ。

 

沙希「今日の予定って何よ?」

 

涙があふれてくる。

 

沙希「なんで嘘つくのよ…。」グスッ

 

やっぱり見るんじゃなかった。

あんな浅ましい真似をしてしまった自分が憎い。

あたしが見た着信者の名前は小町ちゃんではなかった。

嘘をつかれたってことはそういうことなんでしょ?

そこにあった名前は…。

 

”由比ヶ浜”だった。

 

つづく

 



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10.川崎沙希の涙

ようやく10月中旬になるとひんやりとしてきた。

比企谷の携帯を見てしまってからあたしは距離を置いている。

振られた訳ではないのだけれど振られたかのような感じだ。

 

かおり「ねー?沙希最近元気なくない?」

 

沙希「別に。いつも通りだよ。」

 

かおり「嘘。比企谷とケンカでもした?」

 

沙希「ケンカだったらまだ良かったんだけど…。」

 

かおり「なに?」

 

沙希「なんでもない。」

 

由比ヶ浜の件、比企谷に確認したかった。

でも嘘をつかれた以上聞くことはできない。

二人は付き合っているんだろうか。

比企谷はどちらも振ったって話しだけどその後の話しはあたしは知らない。

もしかしたら由比ヶ浜と雪ノ下で話し合って由比ヶ浜と付き合うことになったのかもしれない。

もしそうなら比企谷もまんざらじゃないだろうな。

あたしから見ても由比ヶ浜は可愛いし良いヤツだと思う。

あたしなんかじゃ到底太刀打ちできない。

最近比企谷も留守が多くなっているから由比ヶ浜と会ったりしてるのだろう。

すごく寂しくて悲しい。

 

沙希「ねぇかおり。あたし今度比企谷に告白するよ。」

 

かおり「どしたの?クリスマスまだ先だけど。」

 

沙希「ちょっと振られそうな感じするからさ。どうせ振られるなら早い方がいいから。」

 

かおり「理由…。聞かない方がいいのかな?」

 

沙希「そうしてくれたら助かる。」

 

かおり「そっか。頑張りな。」ニコッ

 

沙希「うん。」

 

こんなことになって覚悟が決まった。

振られるとわかってても言わないと。

じゃないとあたしが前に進めなくなる。

言おう。比企谷にあたしの気持ち。

 

かおり(沙希が振られる?そんなことないと思うんだけど…。)

 

かおり(比企谷。あんた一体何してるのよ?)

 

 

~~~

 

沙希「今週遊びに行こうよ…っと。」

 

あたしは週末比企谷を水族館に誘った。

最後に楽しんでから振られよう。

あたしなりの答えだった。

行けたら行く。いつも通りの返信。

でも来なかった日はなかった。

今回もきっと来てくれる。

ごめんね由比ヶ浜。こんな泥棒みたいな真似して。

でもこれが最後だから。

 

 

~~~

 

沙希「へー。結構おっきいねぇ。」

 

八幡「なんだ来たことなかったのか?」

 

あたしたちは近場の水族館に足を運んでいた。

やっぱり文句は言いながらも比企谷は来てくれた。

 

沙希「何?比企谷は来たことあるの?」

 

八幡「え?まあな…。」

 

今の言い方は小町ちゃんとじゃないな。

 

沙希「ふーん?まぁいいや。行こっ!」

 

八幡「お、おい!待てって!」

 

くやしいなぁ。お互い初めてだったら良かったな。

ことあるごとに嫉妬してしまう自分が嫌いだ。

 

沙希「あ、見て比企谷!サメがいる!」

 

八幡「あーサメだな。ありゃサメだ。」

 

沙希「クジラもいるよ!?おっきいよ!」

 

八幡「おー。ありゃでかいな。」

 

沙希「……。」

 

八幡「どうした?」

 

沙希「いつものことだけどさ。もっと楽しそうに出来ない訳!?」

 

八幡「こ、声が大きいって!」

 

沙希「せっかく遊びにきたのにっ!」

 

八幡「お、俺はいつもこんなもんだろ!」

 

沙希「そんなに楽しくない?」

 

八幡「え?」

 

沙希「あたしと居るの。そんなに楽しくないかな。」

 

八幡「…そんなことはねぇけど。」

 

沙希「じゃあもっと楽しそうにしてよ。今日で最後だと思ってさ!」ニコッ

 

八幡「…川崎?」

 

沙希「ほら行くよ!」

 

 

~~~

 

八幡「ぶはー…。もう歩けん…。」

 

比企谷はそういうとベンチに腰掛ける。

 

沙希「まったく…。だらしないんだから。」

 

あたしは全然元気だ。

楽しくって楽しくってまだまだ見て回れそう。

 

八幡「ってかもう夕方じゃねぇか。どんだけ見て回ったんだよ…。」

 

夕日が海に向かって沈もうとしている。

オレンジに染まった景色がとてもきれいだ。

やっぱり楽しい時間って早いな。

そろそろ終わりにしようか。

 

沙希「ねぇ比企谷。聞いて欲しいことがあるんだけど。」

 

ベンチに座っている比企谷に声を掛ける。

あたしは夕日をバックに比企谷をジッと見つめる。

比企谷も何か感じとったのか顔が変わったのが分かった。

決していい顔ではない。困ったような顔をしたように見えた。

駄目だってことはわかってるけどその顔は傷付くなぁ。

比企谷は特に返事をするわけでもなくあたしを見ている。

 

沙希「あたしさ。比企谷と居るとすごく楽しい。」

 

沙希「高校の時からもっとこういう風に過ごすことができてたらって思う。」

 

沙希「なんとなく言いたいことわかってると思うけど。あたしに言われても困るかもだけどさ…。」

 

沙希「あたし比企谷のことが好…」

 

八幡「か、川崎!!」

 

沙希「ひゃいっ!?」ビクン

 

八幡「こ、これ。ちょっと早いけど。」

 

沙希「…何これ?」

 

八幡「もうすぐ誕生日だろ?俺の時も祝ってもらったから。」

 

沙希「あ、ありがと…。えっと…その…あたしの話しは…?」

 

八幡「あ。な、なんだったっけ?」

 

沙希「あ…。」

 

そうか。そういうことか。

 

沙希「ううん!なんでもない!プレゼントありがとね!」

 

八幡「た、たいしたものじゃないけどな。」

 

沙希「もらえたらなんでも嬉し…いからっ…。」グスッ

 

八幡「……。」

 

沙希「ホント…今日はごめんね…。楽し…かった…からっ…。」グスッ

 

沙希「忙し…ヒック…のに…ヒック、付き合せちゃって…ヒック…ホントにごめんねぇ…。」グスッ

 

八幡「…川崎。」

 

沙希「あ、あたしっ!用事あるから先に帰るねっ!」

 

八幡「お、おい!」

 

その後のことはよく覚えていない。

アパートには帰りづらかったから実家に帰った。

大志が心配してたっけ。

あたしは帰るなり布団に飛び込む。

 

沙希「振られたんだ…。」グスッ

 

振られることはわかっていた。

でも言わせてももらえないとは思わなかった。

振られることよりも伝えられなかったことがなにより辛い。

どうせ振られるならはっきり振って欲しかった。

 

沙希「こんなのってないよ…。」グスッ

 

失恋ってこんなに辛いんだ。

胸が張り裂けそう。涙が止まらない。

振られる前は比企谷にあんなにえらそうに言ってた自分が恥ずかしい。

比企谷と一緒だ。失敗するのが怖い。

こんな気持ちだったのか。

 

沙希「あ…。プレゼントもらったんだった。」

 

少し落ち着いたからなのかようやくプレゼントに手を伸ばす。

 

沙希「マフラー…。あったかい。」

 

とんでもなく嬉しい。はずなのに余計涙が溢れてくる。

きっと振った後で渡しにくかったんだろう。

だから遮ってまで先にこれを渡したんだ。

いや、比企谷のことだから告白されることを見越して準備してたのかもしれない。

小町ちゃん経由で大志に聞いたんだろな。

あたしと同じことしてる。

 

沙希「もう会いたくないな…。会うのが怖い。」

 

きっともう今まで通りの生活には戻れない。

あたしたちも今まで通りにはいられない。

意外とあっけなかったな。

 

沙希「あ、そうだ…。かおりに言わないと…。」

 

 

~~~

 

かおり「お、沙希からメール。やっぱりうまくいったんかな?」ニマニマ

 

沙希『バトンタッチ。次はかおりの番よ。』

 

かおり「…は?」

 

かおり「ちょ…ちょっと待ちなさいよ…。」

 

かおり「なんで?比企谷のやつ何考えて…。」

 

後から聞いたらかおりはあたしのメールの後比企谷の部屋に殴り込みに行ったらしい。

 

かおり「比企谷ー?いるんでしょー?」ドンドン

 

かおり「寒いから早くあけてってばー。」ドンドン

 

かおり「…。」ドンッ!

 

かおり「おい。いい加減にしろ。」ドンッ!

 

かおり「ちゃんとしろって言ったぞあたしは。適当なことしてきたんじゃないでしょうね?」ドンッ!

 

かおり「聞こえてんだろ比企谷!」ドンッ!

 

かおり「…。もういい。あんたのこと見損なった。それじゃ。」

 

八幡「……。」

 

 

~~~

 

沙希「これからどうしよう…。」

 

楽しい時間はもう終わり。

自分の中が一気に空っぽになっていくのが分かる。

 

あぁ。あたしの青春は終わったんだ。

 

つづく

 



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11.川崎沙希の青春の行方

この話しで一区切りです。
読んで下さった方ありがとうごさいます。


あれから1週間。あたしは比企谷を避けている。

どんな顔をして会えばいいかわからないし泣いてしまうかもしれない。

振られてからというもの毎日かおりがウチを訪ねてくる。

毎日たわいもない話しで盛り上がる。

かおりは何も聞いてこないし態度もいつも通り。

そんなかおりの姿が今のあたしにとって救いだ。

今まで一人で生きてきたけれど友達っていいものだなって改めて思う。

 

かおり「ねぇねぇ!明日買い物行こうよ!冬服見に行こう!」

 

沙希「そうだね。あたしもそろそろ欲しいって思ってたから。」

 

かおり「じゃあ決まり!んじゃちゃんと朝起こしてね!」

 

沙希「え?また泊まる気?」

 

かおり「ダメなの?」

 

沙希「ううん。ダメじゃない。」

 

かおり「ふふっ。じゃあまた明日ね!」

 

正直この気持ちのままじゃ息が詰まる。

比企谷は明日何するのかな?やっぱり由比ヶ浜とデートなのかな。

振られてから聞いた話しだけど先月比企谷を街で見かけたという友達がいた。

まぁ友達と言っても顔見知り程度の子だけども。

お団子ヘアーの可愛い子と一緒だったよって。

間違いなく由比ヶ浜だろう。

日にちを聞くとあの着信の翌日だった。

今までやってきたことが空回りだったんだと思うと悲しくなる。

世の中の人ってこういう時どうやって乗り越えるんだろうか。

明日かおりと買い物行くことで少しは気晴らしになればいいけど。

 

 

~~~

 

かおり「見て!これめっちゃかわいい!」

 

沙希「ホントだ。かおり似合うと思うよ?」

 

かおり「沙希もこれいけるんじゃない?」

 

沙希「あ、あたしは似合わないよ!」

 

かおり「着てみたらいいじゃん!」

 

沙希「あたしは普通のでいいの!別に誰に見せる訳じゃないんだから。」

 

かおり「…。そっか。」

 

沙希「あ…。その…。」

 

かおり「あたしちょっとお手洗い行ってくるから!荷物見といて!」

 

沙希「う、うん。」

 

しまった。かおりにはあまり落ち込んでるところ見せないように気を付けてたのに。

気を遣ってもらうのも悪いからね。

 

???「あれ?沙希さん?」

 

沙希「ん?あ…。小町ちゃん。」

 

小町「奇遇ですね!沙希さんもお買いものですか?」

 

沙希「う、うん。」

 

なんか気まずい。比企谷とのことは知らないと思うけど。

 

小町「あ、あれからお兄ちゃんとはどうですか?」

 

やっぱりこういう話になるよね…。

 

沙希「あ、まぁ。ぼちぼち…かな?」

 

小町「沙希さん?」

 

沙希「あ!あたし比企谷から誕生日プレゼントもらったの!小町ちゃんが大志に聞いてくれたんでしょ?ありがとね!」

 

小町「え?それは良い話しですけど…。あたしお兄ちゃんに…」

 

かおり「おーい!沙希!行くよー!」

 

沙希「ご、ごめん!友達呼んでるからまた今度ね?」

 

小町「あ、はい!またお話しできたらうれしいです!」

 

沙希「うん。じゃあね!」

 

小町(あれ?あたし沙希さんの誕生日お兄ちゃんに言ったっけ…?)

 

かおり「知り合い?」

 

沙希「うん。ちょっとね。」

 

かおり(あの子どっかで…?)

 

沙希「今からどうする?」

 

かおり「もう結構買ったからどっかでお茶して帰ろうか!」

 

沙希「賛成。」クスッ

 

 

~~~

 

かおり「結構長居しちゃったね。」

 

沙希「そうだね。あ、なんか天気悪くなってきた。」

 

かおり「あー。もしかしたら雨降るかもね。」

 

沙希「急いで帰ろっか。」

 

かおり「振ってきてからじゃ遅いからコンビニで傘買ってくる!ちょっと待ってて!」

 

沙希「あ、待っ…。早っ。」

 

ふー。今日は楽しかったな。少しは落ち着いたかも。

でも当分恋愛はいいかな。

初めての青春は残念な結果に終わったけれどやっぱり心残りだな。

振られてもいいからちゃんと好きって言いたかった。

 

沙希「あ、降ってきた。」

 

まるであたしの心模様の様に雨が降る。

 

沙希「あ…。あれって。」

 

 

~~~

 

かおり「ごめーん!遅くなっちゃって!って沙希?あれ?どこ行った?」

 

店員「あ、先ほどのお連れ様なら走ってどこかに行かれましたよ?」

 

かおり「え?」

 

店員「お荷物お預かりしてます。それと行ってくるって伝えて下さいって。」

 

かおり「…。」

 

店員「あの?お客様?」

 

かおり「あ!なんでもないです!荷物ありがとうございます!」

 

かおり(いってらっしゃい沙希。)クスッ

 

 

~~~

 

はぁはぁ。息が苦しい。なんであたし走ってるんだろう。

あいつに今さら会ってどうするんだろう。

でも見てしまった。出会ってしまった。

ただの偶然なんだろうけど体が勝手に動いてしまった。

雨の降る中。川沿いの堤防でようやくあいつに追いつく。

 

沙希「比企谷!!!」

 

八幡「え…?か、川崎!?お前びしょ濡れじゃねぇか!?」

 

街で比企谷を見かけてあたしは夢中で追いかけてきた。

比企谷はあたしに近寄ってくるが濡れてるのなんてどうでもいい。

 

沙希「それ以上来ないで!」

 

八幡「…!?」ビクン

 

沙希「はぁ…はぁ…。比企谷…聞いて欲しいことあるの…。」

 

八幡「いや、早く帰らないと風邪引く…。」

 

沙希「いいから!!ねぇ比企谷。あたしの声聞こえる?」

 

八幡「あ、あぁ…。」

 

沙希「そう。もう聞こえなかったとか言わせないから。」

 

八幡「ちょ、川崎落ち着けって…。」

 

沙希「うるさい!また逃げるの!?またごまかすの!?ふざけんな!!!」

 

沙希「あたしの言いたいことくらいちゃんと言わせろよ!!!」

 

沙希「よく聞け!比企谷八幡!!」

 

沙希「あたしは!あんたのことが!!好きなんだっつーーーの!!!」

 

沙希「好きで…好きで好きで好きで…仕方ないくらい大好き!!」

 

沙希「…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ちゃんと聞こえた?」

 

八幡「…聞こえた。」

 

沙希「そう。じゃあいいや。ちゃんと言えたからこれで満足。」

 

沙希「ごめんね?由比ヶ浜がいるのにこんなこと言っちゃって。」

 

沙希「でももう言わないから。今までありがとね?じゃあ…。」

 

八幡「ちょ、ちょっと待て!?なんだその由比ヶ浜ってのは!?」

 

沙希「え?付き合ってるんでしょ?」

 

八幡「もうなんでもないって何回も言っただろ俺は!なんでそんな話が出てくる!?」

 

沙希「え?あれ?あんた由比ヶ浜とデートしてたんでしょ?それに電話も…。」

 

八幡「デート…?電話…?」

 

沙希「いや。もうごまかさなくてもいいから。怒ってる訳じゃないし。」

 

八幡「…あ。」

 

沙希「ほら心当たりあるんでしょ?」

 

八幡「あ、あれは違う!誤解だ!」

 

沙希「へー。誤解。じゃあなんなのさ?」

 

八幡「…。」

 

沙希「ほら言えないんじゃん。」

 

八幡「て、手伝ってもらってたんだ…。」

 

沙希「は?何を?」

 

八幡「その…。川崎の誕生日プレゼント選びをだな…。」

 

沙希「へ?」

 

八幡「何プレゼントしていいかわからんかったから…。」

 

八幡「川崎の誕生日聞いたついでに手伝ってもらえないかって…。」

 

沙希「え?小町ちゃんに誕生日聞いたんじゃなかったの…?」

 

八幡「小町?なんで川崎が小町のこと…?」

 

沙希「まぁその。いろいろあって…。」

 

八幡「…?つうか妹になんて恥ずかしくて聞けるか。」

 

沙希「じゃあ何?由比ヶ浜と出掛けたのはあたしのプレゼント買いに?」

 

八幡「…あぁ。」

 

沙希「で、電話は?かかってきてたじゃん。」

 

八幡「見られてたのか。あれは集合場所やら時間の連絡だ。」

 

沙希「何…それ…。あたしの勘違い?」

 

沙希「じゃ、じゃあこの前の水族館ではなんでごまかしたのよ!?」

 

八幡「…。」

 

沙希「告白されたらまずいことでもある訳?」

 

八幡「…。」

 

沙希「やっぱり彼女いるとか?」

 

八幡「それはない。」

 

沙希「なら改めて言うわ。好きです。付き合って下さい。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ダメならダメってはっきり言ってくれる方がありがたいんだけど。」

 

八幡「…川崎。お前折本と最近どうなんだ?」

 

沙希「かおり?かおりがなんの関係が…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…あんたまさか。あたしとかおりを昔の由比ヶ浜と雪ノ下と重ねてるんじゃないでしょうね?」

 

八幡「…。」

 

沙希「ばっかじゃないの!?あたし言ったじゃん!感情はちゃんと出しなさいって!」

 

沙希「そうやって人のことばかり気にしてないで自分の気持ち教えてよ!」

 

八幡「…俺はこんな人間だってわかるだろ?」

 

八幡「選ぶことで何かが崩れるかもしれないのが嫌なんだ。だから…。」

 

沙希「いい加減にして!!!」

 

沙希「由比ヶ浜と雪ノ下はそれで納得したかもしれないけどあたしは違う!」

 

沙希「ちゃんと選んで!比企谷の気持ちちゃんと教えて!」

 

沙希「じゃないとあたしは納得できない!」

 

沙希「このまま別れるのか。友達で居てくれるのか。それともあたしと付き合ってくれるのか。」

 

沙希「あんたが決めて。他の人とか関係なく。比企谷。あんたが決めるのよ。」グスッ

 

八幡「でも…。」

 

沙希「比企谷のせいで壊れるくらい安い関係じゃないのよ?あたしとかおりは。由比ヶ浜と雪ノ下だってそうだったと思う。」

 

沙希「言わんとすることはわかるよ?今選んでしまったら由比ヶ浜と雪ノ下に申し訳ないんでしょ?」

 

沙希「あたしも少しずるいと思う。あの二人は選ばなかったのにあたしの時だけ選んでもらうって。」

 

沙希「でもずるくてもいい。あたしにチャンスがきたんだから。」

 

沙希「お願い比企谷。好きです。大好きです。返事…聞かせて下さい…。」グスッ

 

八幡「…。」

 

八幡「川崎。俺は…―」

 

 

 

 

~~~

 

かおり「おかえりー!ってびしょ濡れじゃん!?」

 

沙希「…。かおり急にいなくなってごめん。」

 

かおり「いや、別にいいって!それより着替え…。」

 

沙希「あ、あのっ!かおり。聞いて欲しいことあるの…。」

 

かおり「…どした?」

 

沙希「あの…あたし…。」

 

かおり「…。」

 

沙希「あたしねっ!その…。」

 

かおり「うん。」

 

沙希「…。あたし比企谷と付き合うことになった…。」

 

かおり「…うれしいことじゃない。なのになんで泣くの?」

 

沙希「ごめん…。かおりの番だとか言っておいて…。」グスッ

 

かおり「いいよ。沙希おめでとう。」ニコッ

 

沙希「あのっ!もし…もしあたしのこと嫌いになったんならあたし出ていくから!」グスッ

 

かおり「沙希。おいで?」

 

沙希「え…?」

 

かおり「…。」ギュッ

 

沙希「か、かおり…?」

 

かおり「沙希のこと嫌いになる訳ないじゃん。よく頑張ったね。」グスッ

 

沙希「かおりぃぃ…。うわぁあああん!」

 

かおり「ほらほら。泣かないの!もっと誇らしくしなさい!」グスッ

 

あたしは泣いた。今まで一番泣いた。

比企谷と付き合えて。かおりのその優しさが嬉しくて。

空っぽだったあたしが満たされていく。

あぁ。あたしは幸せだ。

 

 

~~~

 

翌日。あたしは部屋の前でドアにもたれ掛る。

前髪を弄り、服を整える。

心はどこか落ち着かない。

それもそのはずだ。

 

八幡「…うす。」

 

部屋から出てきた比企谷を見て心臓が高鳴る。

あたしこの人の彼女になったんだ。

 

沙希「お、おはよ…///」

 

八幡「じゃ、じゃあ行くか。」

 

沙希「うん。」

 

今まで一緒に大学に通うことはあったけど今日はいつもと違う。

景色がいつもより輝いてみえる。

季節はもうすぐ冬だけどまるで春のようだ。

 

沙希「ねぇ比企谷。あたしたち付き合ってるんだよね?」

 

八幡「え?あ、あぁ…。」

 

沙希「でも昨日のあれはなくない?」

 

八幡「…。」

 

 

~昨日~

 

八幡「川崎。俺は…―」

 

沙希「俺は…?」

 

八幡「俺はお前のことが…。」

 

沙希「う、うん。」

 

八幡「き、嫌いではない。」

 

沙希「うん?」

 

八幡「だからその…。俺なんかで良かったら…付き合っても…いいけど。」

 

沙希「…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ぷっ。」

 

沙希「あはははっ!何それ!もっと言い方あるでしょ!」クスクス

 

八幡「…うっせ。」

 

沙希「あー…笑ったー!やっぱりそういうとこは比企谷っぽいね。」クスクス

 

八幡「し、仕方ないだろ…。」

 

沙希「あの…よ、よろしくお願いします…///」

 

八幡「お、おう…」

 

 

~~~

 

沙希「き、嫌いじゃないって…」プクク

 

八幡「き、昨日の事だろうが!」

 

沙希「ねぇ。あたしのこと好き?」

 

八幡「…。」

 

沙希「やっぱりちゃんと比企谷の口から聞きたいな。」

 

八幡「…好きだ。」

 

沙希「っ///」

 

沙希「き、聞こえなーい!もう1回!」

 

八幡「なっ!?絶対聞こえてるだろ!!」

 

沙希「おあいこでしょ?もう一回言って。」クスクス

 

八幡「…っ。好きだ川崎!」

 

沙希「あ、あたしも好きだよ…///」モジモジ

 

かおり「そういうの二人の時にやってくれないかな?」ジトッ

 

八幡・沙希『うわぁっ!』

 

かおり「あーやだやだ。もうすぐ冬なのになー。ここはあっついわー。」

 

沙希「いるならいるって言ってよ!」

 

かおり「なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ。」ジトッ

 

沙希・かおり『…ぷっ』

 

沙希・かおり『あははははっ!』

 

八幡「…。」クスッ

 

こうしてあたしの青春は本当に終わりを迎えた。

これからは比企谷とあたしとの新しい生活が始まる。

近すぎず遠すぎなかった二人の距離。

そんなあたしたちの距離は…。

あたしはそっと比企谷の袖を握る。

ほら。これでゼロになった。

 

 

Fin?

 




いかがでしたでしょうか?
次回の後日談でラストにします。


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12.川崎沙希の後日談

最終話です。


12月中旬。比企谷と付き合い始めて1ヶ月とちょっと。

世間はクリスマスの雰囲気が漂いあたしもそわそわしていた。

 

かおり「もうすぐクリスマスだねー。」

 

沙希「そうだね。ってうかかおり当たり前のようにウチにいるよね。」

 

かおり「何?邪魔だって言いたいの?」

 

沙希「そうじゃないってば。」

 

かおり「いーなー!彼氏持ち様は余裕で。あたしはクリスマス過ごす相手なんて居ないってのに。」

 

沙希「もう。そういう言い方やめてよね。」

 

かおり「で?クリスマスはどうするの?」

 

沙希「人多いところ比企谷苦手だからウチでクリスマスパーティしようかなって。」

 

かおり「ふーん?するの?」

 

沙希「…!?」ビクン

 

沙希「な、何を…?」

 

かおり「えっち。」

 

沙希「す、する訳ないじゃん!!」

 

かおり「しないの?クリスマスなのに。」

 

沙希「だ、だってキスだってまだなのに…。」ゴニョゴニョ

 

かおり「え…。マジで?付き合ってるんでしょ?」

 

沙希「そうだけど…。そんな雰囲気っていうか機会もないし…。」

 

かおり「じゃあクリスマスに初チューだね。」ケラケラ

 

沙希「む、無理だって!」

 

かおり「したくないの?キス。」

 

沙希「……すごくしたい。」

 

かおり「正直でよろしい!」ケラケラ

 

沙希「ね、ねぇ?どうしたらいいかな?」

 

かおり「ガーッって押し倒してブッチューってすればいいんだよ。」クスクス

 

沙希「ハードル高すぎでしょ…。」

 

かおり「勢い余って変なことしないでよ?あたしの部屋真上なんだからさ。」

 

かおり「そんなに壁分厚い訳じゃないから沙希の喘ぎ声とか聞こえても困るから。」

 

沙希「だ、だからしないってば!」

 

もうすぐクリスマス。いろいろと期待してしまう。

あんまりまだ付き合った感がないからイチャイチャしてみたいな。

比企谷嫌がるかな?軽い女に見られたら嫌だな。

でもクリスマスなんだし少しくらいいいよね?

 

 

~~~

 

クリスマス当日。

朝から部屋を綺麗に掃除してメイクも髪も服装もばっちりオッケー。

少し緊張しつつ比企谷の部屋をノックする。

 

沙希「お、おはよ!」

 

八幡「おはよう…。」

 

沙希「ど、どうかな?変じゃない?」

 

八幡「あー…なんだ。その…。か、かわいいと思う。」

 

沙希「…あ、ありがと。///」カァァ

 

沙希「じゃ、じゃあパーティの買い出し行こっか?」

 

八幡「おう。」

 

今から二人で夜のパーティ用の買い出しだ。

いつものスーパーではなく少し離れているけどショッピングモールへと足を運ぶ。

たぶんこれが初デートって言ってもいいのかな?

 

沙希「なんか照れるね…。」

 

八幡「べ、別にいつも通りでいいじゃねぇか。」

 

沙希「そうだけどさ…。見て?クリスマスだからカップルばっかり!」

 

八幡「人多すぎだろ…。」

 

沙希「またそういうこと言う!あたしたちもその中の一組なんだからね。」

 

八幡「へいへい。」

 

沙希「もっとしゃきっとして!は、初デートなんだから!」

 

八幡「お、おう。」

 

あたしたちはモールをぶらぶらしながらクリスマスのちょっとした飾り付けを買ったり食材を買ったりと楽しんだ。

クリスマスプレゼントは今回はお互い無しにしようって方向になっている。

お互い経験不足なので恐らく相当悩まないといけないから話し合いの結果そうなった。

 

沙希「よっと。食材もこれでオッケーだね。帰って準備しよっか?」

 

八幡「ん。袋持つよ。」

 

沙希「じゃ、1つお願い…。」

 

八幡「いや。二つとも持つ。」

 

沙希「1つでいいってば!」

 

八幡「別に重くないから構わん。」

 

沙希「そうじゃなくって…。その…。」

 

八幡「なんだよ?」

 

沙希「お互い1つずつ持てば片手余るじゃん…?」

 

八幡「そうだな?」

 

沙希「あの…。手…つなぎたいなって…。///」

 

八幡「!?」

 

沙希「だ、だめかな?」

 

八幡「ダメ…じゃねぇけど。」

 

沙希「ほんとに?じゃ、じゃあ…はいっ。」

 

八幡「おう…。」ギュッ

 

沙希「…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「て、照れるね。///」

 

八幡「そ、そうだな。」

 

うわー!うわー!なにこれ!?すっごい恥ずい!!

でもめちゃくちゃ幸せなんですけど!

帰りの道中はずっと心臓がバクバクしてた。

 

 

~~~

 

沙希「じゃーん!できたよ!」

 

八幡「すっげぇご馳走。」

 

沙希「じゃあ、ジュースだけど乾杯!」

 

八幡「乾杯。」

 

初めての二人でのパーティ。

比企谷はおいしそうに食べてくれるしとっても楽しかった。

ケーキも食べていっぱいおしゃべりもして幸せすぎる時間を過ごせた。

 

~~~

 

八幡「あ、こんな時間か…。俺そろそろ…。」

 

沙希「あ。帰る?も、もう遅いもんね…。」

 

ダメだ。この前かおりとあんな話ししたから変な気持ちになってる。

キスしたい。ダメかな?嫌われちゃうかな?

でも抑えきれない。

 

八幡「じゃあ今日はありがとな。」

 

沙希「ねぇ…。」

 

八幡「ん?」

 

沙希「やっぱりプレゼント欲しいんだけど…。」

 

八幡「なんか欲しいもんあったのか?言ってくれりゃ今日モールで買ったのに。」

 

沙希「そういうんじゃなくて…。」

 

八幡「…?何かわからんが今度見に行くか?」

 

沙希「あの…その…。」

 

八幡「なんだ?はっきり言わんとわからん。」

 

覚悟決めろあたし。

 

沙希「んっ…。」クイッ

 

あたしは目を閉じ唇を比企谷に向ける。

 

八幡「お前…まさか。」

 

沙希「お、お願い…。」

 

八幡「いいのか?」

 

沙希「…。」コクン

 

八幡「じゃ、じゃあ…」チュ

 

沙希「あ…。」

 

すごい。キスってこんななんだ。

幸せな気持ちでいっぱいになる。

すごく満たされていく。

 

沙希「…。」

 

八幡「ど、どうだった?」

 

沙希「ん…。良かった…。」

 

八幡「そ、そうか…。」

 

ダメだ。もう止まらない。

 

沙希「ねぇ。あたしもプレゼントあげる…。」

 

八幡「え?」

 

沙希「ほ、欲しかったら今日泊まっていって…///」カァァ

 

八幡「川崎…。」

 

沙希「どうする…?」

 

八幡「わかった。泊まる…。」

 

沙希「ん。じゃあ布団行こっか。」

 

今日のあたし変だ。こんな大胆なことするなんて。

クリスマスだから?ううん。比企谷が好きだから。

だからいいよね?

 

沙希「あ、あの比企谷…?」

 

八幡「な、なんだ?」

 

沙希「あの…上にかおりがたぶん居るからさ…。」

 

八幡「おう…。」

 

沙希「一応声とか気を付けるつもりだけど…。比企谷も大きい音とかたてないでもらえたら助かる…。」

 

八幡「わかった…。」

 

沙希「そ、それと!優しくしてくれたらもっと助かる…///」カァァ

 

八幡「善処する…。」

 

沙希「あっ…。」

 

 

 

こうしてあたしたちの初めてのクリスマスは終わった。

1年前のあたしはまさかこんなクリスマスになるなんて想像できなかっただろう。

あぁ。今までやってきたことは無駄じゃなかった。

こんなに幸せな1日を送ることができたんだから。

 

 

~~~

 

かおり「で?昨日はどうだったのよ?」

 

沙希「どうって何がよ?」

 

かおり「比企谷とどうだったのって話し。」

 

沙希「べ、別にかおりが聞いて喜ぶようなことは何もなかったってば!」

 

かおり「ふーん?あんなに声荒げてたのに?」

 

沙希「!?!?」

 

沙希「う、嘘っ!?あたしちゃんと気を付けたんだから!!」

 

かおり「え…まじで?冗談のつもりだったのに…。」

 

沙希「だますなんてひどい!」

 

かおり「別に怒ってないって!」ケラケラ

 

沙希「…。」

 

かおり「でも沙希すっごい幸せそう。」ニコッ

 

沙希「うん。勇気出して告白して良かった。」

 

かおり「なんかあたしも嬉しいよ。」クスクス

 

かおり「お幸せに沙希!」

 

沙希「ありがとう。」ニコッ

 

 

 

これから先いっぱい嬉しいこと辛いことがあると思う。

でもあたしはその全てが待ち遠しい。

比企谷と一緒ならどんなことがあっても大丈夫な気がする。

楽しみだな。あたしたちはどんな風になっていくんだろう。

いつまでも二人で歩いていけたらいいな。

神様。素敵な素敵な青春をありがとう。

 

 

Fin

 




読んでくださった方ありがとうごさいました。


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