夢幻航路 (旭日提督)
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第一部・始動篇 序章━━宇宙へ
prologue―宇宙へ


博麗霊夢は死した後、何故か見知らぬ世界で目を覚ます。さらに霊夢を助けた人物は━


  「んっ……ここは………」

 目を開けてみると、そこには白色の無機質な天井が見えた。

 

 ━知らない天井ね………

 

 状況が掴めない。

 此処は何処なのか、私は何をしていたのか………

 私―博麗霊夢は頭を抱えて、ベットから起き上がった。

 

 ―ああ、確か、私死んだんだっけ?

 

 そうだ、私は既に死んだ筈だ。最後は病気だったが、今思えば長生きとまではいかなくとも、随分充実した人生だったと思う。死んだ後はてっきりあの死神の舟に乗っていくものだと考えていたが、あの死神の舟はこんなに機械的なものではなかった筈だ。そもそも、あの舟には船室を設けるスペースなど到底無い。なら、此処は一体何処だ?少なくとも三途の川ではないし、冥界にもこんな場所はなかった筈だ。

 私がそこまで思い至ると、ふとあることに気がついた。

 

 ―若い、手―?

 

 私は婆さんと呼ばれるような年齢までは生きられなかったが、相応に年は取っていたし、こんな若い手をしている筈がなかった。しかし、目の前にある手は間違いなく自分の手である。もしやと思って、自分が寝かされていた部屋を見回してみるとー

 

 ―あ………

 

 部屋の一角に映った自分の姿は、間違いなく昔の自分━具体的には紅霧異変などがあった頃の自分の姿だった。

 一体何が起こったのかと思案していると、部屋の一角から空気が抜けるような音がして、足音が聞こえてきた。

 

 ―誰?

 

 私は身構えた。もし襲いかかってくるようなら迎撃する為だ。

 

「目が覚めたかい、お嬢さん?」

 

 男の声だった。

 私は、部屋に入ってきたと思われる男を観察する。

 身長は180cmを越えているようで、黄色の線が入った白い甲冑と、同じような配色の顔全体を覆う兜を身に付けている。顔の部分には黒い線が入っており、そこから兜の外を見るのかもしれない。

 武器のようなものは見当たらず、妖力なども感じない。

 そもそも、男は私に敵意を向けてはいないようだった。

 

「そんな服で宇宙船の残骸に倒れていたもんだから駄目かと思ったが、どうやらお嬢さんは運がいい。ドロイドの診療では見たところ身体に異常はなさそうだ」

 

 男は淡々と話している。どうやら男の話からすると私を助けてくれたようだが、所々意味の分からない単語が聞こえる。

 

 ―宇宙船?ドロイド?一体何のこと?

 

 私はそんなものは知らない。あの河童なら機械弄りは得意そうだが、時々魔理沙に聞かされた宇宙へ行けるような船を作れるだけの技術は持っていなかった。それにドロイドなんてものは生涯聞いたことも―

 

「━━ッツ!!」

 

 突然、激しい頭痛が走った。

 

 同時に、頭の中を知らない知識が駆け巡っていく。

 ―インフラトン機関、I3エクシード航法、ヤッハバッハ、空間通商管理局、0Gドック………―

 

「━ッはあッ、ぐぅっ………!」

 

「おいお嬢さん、どうかしたか!?」

 

 男が何が叫んでいるが、頭痛の所為でうまく聞こえない。

 

「━ッはあっ、はあっ………」

 

 暫くすると、頭痛は収まってきた。けど、自分の中に知らない言葉が一気に流れ込んできたおかげで今にも頭が熱で逝きそうだ。―――何なのよ、さっきのアレは………

 

「お嬢さん、大丈夫か、只事ではない様子だったぞ?」

 

 男はどうやら私の身を案じているようだ。

 

 言葉の津波が頭の中に押し寄せて、経験したことのないような痛みに襲われてのたうち回る。だけどそれも数十秒ぐらいで幾らかマシな程度まで落ち着いて、会話ができるぐらいまでには回復した。

 

「――暫く休めば、落ち着きそうです。………ところで、貴方は?」

 

 私は彼に答えると同時に、彼が何者なのか聞き出す。

 

「すまない、自己紹介が遅れたな。俺はコーディ、見ての通り、兵士だった」

 

 男―コーディは、兜を脱いで、私に一礼した。

 さて、相手に名乗ってもらったのだから、私が名乗らない訳にはいかない。

 

「私は霊夢――――博麗霊夢よ」

 



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第一話 目覚めた場所は

 私はいま、何故か宇宙船の船内にいるようだ。そして私の目の前にいる男―コーディは、どうやら私を助けてくれた………らしい。助けられたといっても実感がないから、どこまで本当なのか分からないけど。

 

「ところで、お嬢さんはどうして救命ポッドに乗っていたんだ?何があった?」

 

 コーディが、私に尋ねる。

 さて、困ったものだ。いきなり「実は私一度死にました」なんて突拍子もない話、信じてくれる訳がない。それに、今までの状況から考えると此処は幻想郷どころか、地球の外側なのだろう。幻想郷のことを話しても、コーディと名乗るこの男は理解してくれないだろう。

 しかし、目が覚めたばかりの私には巧い作り話ができる自信もない。私は駄目元で、本当のことを話すしかないと思った。

 

「その、信じ難い話かもしれませんが、実は私、一度死んでると思います。気づいたら此所に━」

 

「ああ、宇宙船でトラブルがあって、死ぬほどの地獄を見た訳か。だが安心しろ。お嬢さんはちゃんと生きている」

 

 勝手に納得した様子のコーディさんは勝手に自分の常識からストーリーを組み立てたみたいで、勝手に話を進めようとする。だけど勝手に進められては困る。後々面倒にならない為に、私はちゃんと続きを話した。

 

「あのコーディさん、そうじゃなくて………私、ここじゃない場所から来た人間なんだと思います」

 

 話の続きを聞いたコーディは、訝しげな表情を浮かべる。―――やっぱりそう簡単には信じてくれなさそうな雰囲気だ。……まぁ、それも無理もないことだけど。

 

「私が元々いた場所は幻想郷っていう所なんですけど、こんな宇宙船を実用化出来るほどの技術は有りませんでした。それに、私は最後は病没した筈です。それが、気付いたら此所に寝かされていたんです」

 

 兎に角私は自分の記憶を頼りに、コーディに本当のことを話した。向こうもとりあえず話だけは聞いてみようという魂胆なのか、真剣に聞いてくれている。

 

「信じられなくても構いません。異世界なんて、非常識でしょうし………」

 

 私は最後にそう付け加えた。確か時々幻想郷に迷い込んできた外来人も、最初は異世界なんて言っても信じてはくれなかった。だから、この男にこんなことを話しても簡単には信じてはくれないだろうと思ったからだ。

 

「そうか━。確かに信じ難い話だが、俺にはお嬢さんが嘘をついてるようには見えない。医療ドロイドの分析結果を見ても、記憶障害か妄想癖という訳でもなさそうだな。脳に損傷は無いという結果が出ている。そんな結果が出ている以上、取り敢えずは信じることにする他無いな」

 

 驚くことに、コーディさんは私の話を信じると言った。一体何故か――と私が問うと、コーディは躊躇い無く答えてくれた。

 

「実は俺も似たような感じでね。俺が古代の宇宙人だと言ったとしたら、果たして君は信じてくれるかい?」

 

 コーディさんが私に問いかける。―――その例え話からすると、どうやら彼も訳ありらしい。宇宙人、なんて表現を使うぐらいなら只ならぬ理由がありそうだ。―――尤も、月の例があるだけに私は信じたかもしれないけど。

 

「俺は大昔に兵士として産み出された。だが、仕えた国の政体が変わって俺は命令違反を理由に追われる身となった。俺は何とか宇宙船で逃げることには成功したが、追手に宇宙船が破壊されて、俺は救命ポッドで宇宙を漂う羽目になったんだ。それ以来、俺はコールドスリープについたまま、ここの船長に拾われるまで誰にも気づかれなかったという訳だ。……どうだ、信じるかい?」

 

 話は所々要領が掴めないが、どうやらそれが彼の"訳あり"の内容なのだろう。そんな過去があるからこそ、胡散臭い私の話も信じると言ってくれたのかもしれない。

 

「そう………貴方も大変な事情があったんですね。あの………、私のほうからも一つ訊かせていただきますが、此処は何処なんですか?━━宇宙船の中ってのはもう理解しましたが、具体的に私達は宇宙の何処に居るのか―――」

 

 私は、コーディさんにそう尋ねた。取り敢えず、まずは情報収集からだ。勝手も知らぬ異世界に放り込まれたなら、何も知らないままでは生きていけない。

 

「此処はM33、さんかく座銀河の辺境にある宙域―――ヤッハバッハ帝国領、惑星ジャクーの軌道上だ」

 

 コーディさんが答える。なんとか帝国とやらは知らないが、さんかく座銀河は聞いたことがある。確か、魔理沙がパチュリーから借りてきた宇宙の本を見せびらかされたときに、そんな名前の銀河があった筈だ。―――とすると、幻想郷があった地球からは大分離れた場所まで飛ばされてしまったことになる。これは………帰るにしても、かなり大変そうだ。そもそも、死んだ人間が帰ったところで、私の居場所なんて、もう………

 

「ああ、お嬢さんには言っても詳しくは分からないだろう。ヤッハバッハ帝国ってのは、この辺りの銀河一帯を納める巨大帝国だ。なんでも宇宙に出る連中は徹底的に取り締まられるらしい。とんでもない専制国家だ」

 

 コーディさんは私の事情を察してくれたのか、そのヤッハバッハ帝国について解説する。

 

 彼が言うには、そのヤッハバッハ帝国とやらはヤバい国らしい。―――国なんてものが身近になかった私には分かりかねるが、コーディさんの嫌そうな顔からすると、やっぱり悪いものなのだろう。

 

 

 ―ヤッハバッハ・・・何処か引っ掛かるわね――

 

 何故か、ヤッハバッハという帝国の名に覚えがあるような気がした。しかし、上手く思い出せない。

 

「………大体の事情は分かりました。ありがとうございます」

 

 わざわざ私の疑問に応えてくれたコーディさんに、私は一礼して謝意を伝えた。

 

「ああ―――しかし、嬢ちゃんも運が良かったな。拾ったのが俺達で。ヤッハバッハや悪い連中が拾っていたら、今頃こうはならなかっただろう」

 

「確かに、そうですね……」

 

 ―コーディさんの言った通り、確かに私は運がいい。

 

 ヤッハバッハとやらなら確実に一悶着ありそうだし、―――不埒な連中というのも、やはりどの時代にも存在する。そうした連中に拾われなかったことは、中々に幸運なことかもしれない。

 

「今はその幸運に、存分に感謝しておけ。それと、俺のことはコーディでいい。暫く世話になるんだ、あまり堅いのは、嬢ちゃんにとっても落ち着かんだろう?」

 

 コーディさんは私のことを案じてか、そんな提案を投げ掛けてきた。――確かに、敬語なんてあまり使わなかった私には、今までのやり取りには息苦しさを感じていたのも確かだ。彼がそれでいいと言うならば、ここは甘えてもいいだろう。

 

「………分かったわ」

 

「ああ、嬢ちゃんのうちはそれでいい。あんまり堅苦しいと、こっちまで気が固くなっちまう」

 

 彼は脱いだ兜を抱えたのとは逆の手で、短い黒髪に包まれた頭を掻いた。

 私からしてみれば同じぐらいの年齢か、むしろ年下だというのに、彼から見ても、今の私は明らかに年下の子供なのだ。―――あまり年下の子供に堅苦しくされるのは、好かない人なのかもしれない。

 

「ま、そんな訳で、これから暫くよろしくな、嬢ちゃん。これからは連中から逃げる日々が続きそうだが、まぁ気楽にしてくれて。―――ただ、ヤッハバッハついては俺も詳しくは答えられん。あいつらに関しては、サナダから聞いたことしか知らないからな」

 

 肩の力を抜いた私を見て、コーディは満足気に頷いた。話の流れからするとしばらくお世話になるのは確実そうだし、それを考えれば、あまり堅苦しくするよりは多少砕けていた方が過ごしやすい。

 それと、ヤッハバッハとやらに関する情報は、これ以上は入手のしようが無さそうだった。彼も私と似たような事情なのだから、これも仕方ないのだろう。

 

 ところで、彼が口にしたサナダという名前の人は、果たして誰なのだろう?

 それが気になった私は、件の人物についてもコーディに訊いてみる。

 

「ねぇ、そのサナダってのは誰?」

 

「ああ、すまない。まだ話してなかったな。サナダはこの船の船長―――俺の命の恩人さ」

 

どうやら、サナダという人物はコーディの話からすると、彼を拾った人物らしい。

 

「もしかして、私を拾ってくれたのもその人?」

 

「ああ、俺とサナダの二人がかりだ」

 

「やっぱりかぁ。後でちゃんとお礼言っとかないと―――ところで、ヤッハバッハ帝国、だっけ?そいつらって宇宙に出る連中は許さないんじゃないの?此所にいて大丈夫なの?」

 

 サナダという人のことも気になるけど、ひょっとしなくても自分達が宇宙に居るのは、その帝国からしたら不味いことなのではないのだろうか?

 コーディの帝国に関する説明を思い出して、その可能性に行き当たった。―――こんなところで見つかってお陀仏なんて、それこそ御免被りたい。

 

「その心配はない。此処ジャクーは帝国領でも辺境中の辺境、空間通商管理局の宇宙港には警備隊すら常駐していない。なんでも、此処は通商路からはかなり外れた位置にあるからな」

 

 コーディとは別の声だ。

 

 部屋の扉の方を見ると、別の男が語りながらこの部屋に入ってくるのが見えた。

 

「どうも初めまして、お嬢さん。私はこの船の船長をしているサナダという者だ。御気分は如何かな?」

 

 この男が、どうやらコーディの話にあったサナダという人物らしい。

 

「サナダさん、でしたね。―――私は、博麗霊夢といいます。助けて頂いたことには感謝しています。」

 

 私はサナダに救助してくれた事に御礼をすると共に、自己紹介をした。人間関係はまず挨拶から。これは基本だ。忍者も戦いの前にはちゃんと挨拶するって、紫だって言ってたもん。

 

「博麗霊夢、か………。覚えておこう。ああ――敬語はいらんよ。部屋の中では、自由にしてくれて構わない」

 

「―――わかった。世話になるわ」

 

 コーディと同じように、サナダさんも敬語は不要だと言う。どうしてだか分からないが、大人の人は、昔の私にも似たような態度を取ることが多かった。依頼のときはともかく、買い出し先の店主さんなんかは特にそうだ。その記憶にあった大人達が、二人に被って見えてくる。

 だけど私としても、あまり敬語なんて使ってこなかったから、こっちの方が気が楽なのは確かだった。なので、ここはコーディのときと同じように、有り難くサナダさんの好意に甘えた。

 

「うむ。此方こそ、宜しく―――」

 

 ━━━ドゴォォォン━━━

 

 サナダさんが言い終わらないうちに、突然船が大きく揺れた。

 

「何!」

 

 突然の振動に、驚いて私は思わず飛び起きてしまう。

 

「チッ・・・ヤッハバッハの警備艇か!コーディ、ブリッジに行くぞ。この宙域を離脱する!」

 

「イェッサー。まったく、こんな辺境まで、わざわざ仕事熱心な連中だ。それとお嬢さん、これから少々荒事になる。そこで待っていろ!」

 

 サナダさんとコーディは、急いで私がいる部屋を後にする。

 

 ―――何よ、やっぱり安全じゃないでしょ。

 

 先程この宙域は安全だ、と言ったのは果たして誰だっただろうか。安全だと言い切ったサナダさんに、恨み言の一つや二つはぶつけたくなる。

 

 だけど私には宇宙での戦闘なんてド素人もいいとこだ。経験はあるにはあるが、それもただロケットに乗ってただけ。宇宙で弾幕勝負みたいな戦闘の経験などあるはず無い。

 

 ここは素直に、慣れているであろうあの二人が上手くやってくれることを祈った。




この作品では、スターウォーズシリーズの舞台相当の惑星はM33にあると設定しています。スターウォーズ本編ではもっと遠くの銀河を想定されていると思いますが、そうすると無限航路の話に絡められないので、地球から比較的近いこの銀河に設定しました。
そしてサナダさんの外見は2199の真田さんです。


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第二話 進むべき道程

 敵艦からの攻撃を受けて急いでブリッジに上がったサナダは、たった今自船を攻撃した敵艦を見据える。

 

「どうやら敵は警備艇1隻みたいだ。生憎此処でくたばると発明ができないんでね・・・コーディ、主砲の用意を」

 

「もう発射可能だ。一発打ち上げるとしよう」

 

 サナダがコーディに戦闘準備を命ずるが、コーディは既に火器管制席に座り、主砲をヤッハバッハ警備艇に向け照準していた。

 

「よし、敵艦に突撃しつつ回避機動を取る。各部スラスター展開」

 

 サナダが舵を取り、彼の船は警備艇へ向け増速する。船体の上下に設けられた主砲が警備艇を照準し、即座に発砲して蒼いレーザーが放たれた。

 

 警備艇はレーザーを回避するために面舵を取り、最初に飛来した1発を躱す。しかしもう1発は艦首を直撃し、警備艇は武装を破壊された。

 

「敵艦の武装を破壊した。このまま止めを刺すぞ」

 

「イエッサー、これで終いだ」

 

 サナダは取り舵をとって警備艇の左舷後方に回り込む。サナダの意図を察したコーディは次第に見えてくる警備艇のメインノズルに向けて主砲を照準し、引き金を引く。

 

 レーザーは警備艇のメインノズルを貫き、警備艇が制御を失った所にさらに追撃のレーザーが着弾。哀れ警備艇は爆発四散した。

 

「ふぅ、なんとか片付いたか」

 

「そうだな。しかし今の接触で報告された可能性が高い。此所に留まるのは危険そうだぞ」

 

 コーディは警備艇が既に組織の上へ自分達の存在を報告していると推測し、サナダに移動を提案した。

 

「ああ、だが移動するとなると、向かえる場所は限られてくるな。食料は二人、いや三人分なら暫く持つが、そろそろ船の整備が必要だ。空間通商管理局の宇宙港が設置されていて、ヤッハバッハの目が届きにくい場所となると━━」

 

 サナダは様々な条件を吟味して次の行き先を考える。霊夢を回収する以前から長い航海を続けていたこのフネは暫ドック入りしていなかったので、そろそろ整備も必要だった。

 

「カミーノはどうだ?あそこなら最低限の工厰設備は整っていたと記憶している。それに、運が良ければ俺達の"遺品"が使えるかもしれないぞ」

 

 コーディは次の行き先に、カミーノという惑星を提案した。カミーノには空間通商管理局のドックはあるが、あまりにも辺境なのでヤッハバッハの警備隊は常駐していない星だ。そして、そこはかつてコーディが産み出された星でもあった。コーディが兵士として戦っていた時代からは大分経過しているが、コーディ自身がその時代の救助ポッドで生き延びたこともあり、もしかしたら何か使えるものが有るかも知れないと考えたからだ。

 

「成程。それは良さそうな星だ。次の目的地はそこにしよう」

 

 科学者であり、発明家でもあったサナダはコーディの提案を受け入れた。彼は、コーディが生きた時代の技術を是非とも研究したいと考えていたのだ。

 

「なら話は決まりだな。ハイパードライブをセットするぞ」

 

「うむ、任せた」

 

 コーディがサナダに代わって操舵席に座り、舵を握る。

 

 コーディがボタンを操作して舵を押すと、船の前方に銀色の光が走る蒼い空間が出現し、船はそこに飛び込んだ。

 

 このサナダの船も、実はコーディが産み出された頃と同時代の宇宙船で、サナダが状態が良かったデブリから復元したものだった。この船はCR-90というクラスに属する小型船で、船名を〈スターゲイザー〉という。基本的にこの世界の船はボイドゲートと呼ばれる一気に数百から2、3万光年ほどワープできる構造物を介してワープを行う。しかし、古代のものを修理したこの宇宙船は、単独でワープが可能だった。尤も、その距離はボイドゲートに及ばず、一度のワープでせいぜい1000光年程度が限界だったが。

 

「さて、私はハイパースペースから離脱するまで研究室に籠る。カミーノまでは、どれ位係りそうだ?」

 

 サナダの問いに、コーディが答える。

 

「カミーノまでは、凡そ1日といった所だな。自動操縦にセットしておくぞ。」

 

「よろしく頼む。」

 

 サナダは白衣を翻し、一足早くブリッジを後にした。

 コーディも操縦をオートに設定すると、ヘルメットを脱いでブリッジを後にした。

 

 二人が向かった先は、客人の待つ部屋だ。

 

 

 

 

 

 霊夢がいた部屋からコーディ達が出ていってから何度か揺れが続いたが、暫くするとそれも収まり、今は元通り静かな部屋となった。

 

「入るぞ、お嬢さん」

 

 扉が開き、コーディが部屋に入る。

 

「さっきのは、何?」

 

 霊夢が訝しげに訊く。

 

「ちょとしたトラブルだ。ヤッハバッハの警備隊に見付かったが、撃破した。今は追撃の心配はない」

 

 コーディが問題は解決したと話す。

 

「暫くは安全なのね」

 

「ああ、そうだ。ところでお嬢さん━━」

 

 コーディが話題を変え、霊夢と目を合わせる。

 

「これから、お嬢さんはどうするんだい?」

 

 

..........................................

 

 

 

 コーディは、私に根本的な問題を尋ねてきた。そう、これからどうやってこの世界で生きていくかという問題だ。しかし、勝手の分からないこの世界では、どう生きていくかなんて上手く考えられない。時々、脳裏に意味がよく分からない単語が閃くが・・・

 

「そうだな。勝手が分からないお嬢さんの為に説明するが、これから生きていく道としては、大きく分けて二つある。まず、精神病棟とブタ箱行きを覚悟してヤッハバッハの惑星に降りるか、それとも宇宙で航海者として生きるかだ」

 

 私は、コーディが始めた話に耳を傾けた。

 

 私が集中して聞いていると思ったのか、コーディはそのまま話を続けてくれる。

 

「惑星に降りれば、多少は安全かもしれない。だが、お嬢さんは聞くところヤッハバッハの市民ではないようだからな。ヤッハバッハの市民カードがなければ、宇宙港で捕まってブタ箱行きだ。それに、お嬢さんの話は連中からすれば到底信じられなさそうな内容だからな、運が悪ければブタ箱に加えて精神病棟行きだろう。まぁ、何かしらの方法で市民権を獲得出来れば、それなりに安定した生活ができるかもしれないがな」

 

 コーディは一呼吸置いて、次なる可能性を提案する。

 

「そして二つ目、宇宙航海者━━0Gドックになる道だ。ヤッハバッハは0Gドックを認めていないが、連中の勢力圏を抜けられたらあとは自由に宇宙を旅できる。全て自分が思うがままに生きられる訳だ。但し、それは全て自己責任だ。宇宙には海賊が跳梁跋扈している宙域も存在する。命の危険はピカ一だ。最悪命を落とすこともあるだろう」

 

 コーディが話し終わる。

 前者はどうやらブタ箱行きは確定なのだが、命の危険は低いらしい。だけど、ヤッハバッハとやらに従って生きていくのは自分の性に合わない。ブタ箱も当然嫌。そんな場所で生活なんてしていける訳無い。大体何の権限があって迷える哀れな美少女を裁こうというのだろうか。言っておくが、説教が五月蝿かったあの閻魔以外に裁かれる気など微塵もない。それは不当判決だからだ。

 

 後者は危険は高そうだが、何より宇宙を旅できるというのは魅力的に感じた。幻想郷ではただ見上げるだけだった星空を駆け回ることができる━━それだけでも魅力的だ。それに、「博麗の巫女」という役割を務め続けた前世とは違った生き方もしてみたい━━私の中にはそんな考えも浮かんできた。海賊?上等よ。そんな連中は身ぐるみ剥いで返り討ちにしてやるわ。折角二度目の生を得たみたいだし、楽しんで生きないとね。

 

この世界では私の力は通用しないとは思うけど、何がなんでも自由に生き抜いてやる━━

 

 

 

 

「そうね━━宇宙を旅できるってのは中々に魅力的じゃない」

 

「おお、そうかい。………いや、俺は今決めろって言ってるんじゃないぞ。じっくり考えてからでもいいんだからな」

 

 コーディはあくまで霊夢に道標を示そうと思っただけなのだが、霊夢は既に自分の生き方を決断していた。

 

 しかし霊夢からしてみれば、ブタ箱という可能性が示されただけで取れる道など半ば決まっていようなものだ。彼女は迷わず、その道に進むと断言する。

 

「私は安全でも縛られた生き方は勘弁ね。ましてやブタ箱なんて勘弁よ。んで、その0Gドックとやらはどうやったら成れるのかしら?」

 




艦船ステータス
*ヤッハバッハ旧型警備艇
耐久力600
装甲35
機動力16

ヤッハバッハが辺境で運用している100m級の警備艇。外見は緑色のレベッカ級で、ヤッハバッハの紋章が描かれている。艦首の連装砲が主兵装で、ミサイル類はヤッハバッハ艦としては珍しく搭載していない。

*スターゲイザー
耐久力580
装甲38
機動力30

サナダがCR-90コルベット(スターウォーズに登場する宇宙船)のデブリを修理した船。性能は部分的に落ちているが、ハイパードライブ(ワープ可能なエンジン)は使用可能。この時代の船に慣れているコーディーの助けを借りて運用されている。
サナダにとって船そのものが研究対象で、船内には簡素な研究室も設置されている。
全長150m


この世界線のコーディーはオーダー66に逆らっています。スターウォーズ本編とは違う設定なので明記しておきます。


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第一章━━ヤッハバッハの追撃
第三話 ハジマリ


 星明かりだけが照らす宇宙に、突如として1隻の小型宇宙船が現れる。ワープアウトしたサナダ達が乗る小型船〈スターゲイザー〉だ。

 超空間(ハイパースペース)を出た〈スターゲイザー〉は、僅かに目視できる青色の惑星へ向けてと進路を取った。

 

 

 

 博麗霊夢は、コーディから聞かされた0Gドックになる方法を思い出していた。

 

 

 0Gドックになるのは以外と簡単で、惑星軌道上に設置されている空間通商管理局の宇宙港へ行き、登録を済ませるだけで良いらしい。複雑な手続きがないのは楽で良い。そして、宇宙港にはヘルプGと呼ばれる0Gドックにとって必須とも言える知識を新人0Gドックに教授するドロイドがいると聞いた。登録を済ませた後は、そのヘルプGとやらに知識や技術を教えてもらうのも良いだろう。

 

 そして、どうもサナダさん達は惑星に上陸したら色々やることがあるらしい。宇宙港に入港したら船の整備や補給等、色々やることがあるみたいなので、その間に私も用事を済ませてサナダさん達に合流しよう。初めて地球以外の惑星に足を下ろすのだ。私でも、幻想郷では考えられなかった経験ができることに少し興奮しているみたいだった。

 

 

 

 霊夢は今後について思案した。自分が今まで考えたことも無いような経験に思いを馳せながら、彼女は惑星カミーノに到着するまで、窓の外から見える宇宙の景色を眺め続けた。

 

 〈スターゲイザー〉のブリッジには、たった今自室から上がってきたサナダが眼前に迫る惑星カミーノを見つめていた。カミーノは惑星の95%以上が水に覆われており、宇宙港から通じる軌道エレベーターの先には惑星原住民のものと言われている遺跡が存在する。コーディが産み出された場所だと話していたものらしい。

 

 ―――遺跡は風化が激しいと聞くが、何かしらの収穫は期待したい所だ。最低でも遺跡の構造や素材の種類、あわよくば技術も頂きたい。船の残骸や設計図もあればもっと良い。

 

 サナダは惑星カミーノを前にして、未知の技術や装備、またそれらが記録されたデータの山に対する期待を高めた。

 

 流石にこの〈スターゲイザー〉だけではヤッハバッハから逃げ切る自身がサナダにはなかったので、あわよくばこの遺跡でより強力な艦船の建造、それが出来なくともフネの強化程度はしたいと彼は考えていたのだ。現時点でサナダはもっと大型の船の設計図も持ってはいるのだが、それは単なる貨物船の設計図でしかない。流石に足が遅いヤッハバッハ標準貨物船を建造しても逃走用としての性能は〈スターゲイザー〉より期待できないので、古代の戦闘艦の設計図があるならばサナダはそれを元に保守整備コストを下げるために空間通商管理局の規格に合わせた改設計を行うつもりでいた。そしてこのカミーノまでワープする間、以前から設計していた新型コントロールユニットの設計図が完成したのだ。このコントロールユニットがあれば、1000m級(重巡洋艦~戦艦の中間サイズ)までの船なら問題なく動かせる筈だった。サナダは、このユニットのテストができる船としても、古代船の設計図に期待していた。

 

 これらのサナダが期待していることは、決して根拠がないという訳ではない。彼は、彼が助けたコーディは、初陣に赴く際は育成された場所で建造されたらしい揚陸艦に乗って出撃したとサナダに語っていた。それが本当なら、地上の何処かに造船ドックがある筈だと彼は推測していたのだ。

 

 船は徐々にカミーノへと接近し、ついに宇宙港が確認できるほどまでは接近した。

 

「コーディ、間もなく入港する。準備を頼むぞ」

 

「了解した。入港準備にかかる。―――さて、港は生きてるかな?」

 

 コーディは入港に備え、〈スターゲイザー〉の操舵席に座る。此処からは、宇宙港の指示に従って船を操縦するのだ。尚、宇宙港を管理する空間通商管理局は基本的にどの国家からも中立なので、入港自体は船を操るのが誰であっても問題ない。問題になるのは、宇宙港に国家の治安機構が駐留していて、それに見付かった場合だ。幸いこのカミーノにはヤッハバッハの警備隊は駐留していないので、その心配は必要なかった。

 

《こちらカミーノ宇宙港管制塔、貴船の入港を許可する。1番ドックに入港されたし》

 

「こちら〈スターゲイザー〉。了解した。入港許可に感謝する。――ふぅ、港までは死んでなかったか」

 

 宇宙港から通信が届き、サナダはそれに返信した。

 サナダからカミーノは無人だと聞いて施設が使えるかどうか気がかりだったコーディは、宇宙港の機能が生きていたことでほっとしていた。

 〈スターゲイザー〉は宇宙港側の指示通り、指定されたドックへと舵を切って入港に備えて逆噴射ノズルを起動、減速する。〈スターゲイザー〉はコーディの操船で、滑るように宇宙港へと入港し、アームに固定されて静止した。

 

「ガントリーアーム固定完了。よし、入港完了だ。コーディ、私は船の整備に入る。お前はあのお嬢さんを案内してやれ」

 

「わかった」

 

 コーディは、霊夢を案内するためにブリッジを後にして客人――霊夢が待つ部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

「お嬢さん、宇宙港に入港した。0Gドック登録の受付まで案内してやる」

 

 コーディーは部屋の外からマイクを通して霊夢を呼んだ。

 

「わかったわ。今行く」

 

 彼の声が聞こえたので、くつろいでいたベッドから起き上がりって扉のボタンを操作する。使い方はサナダさん達が教えてくれたので私でもなんとかなった。

 

 ━━そういえば、まともに部屋から出るのは初めてかも━━

 

 私はそんなことを思いながら、コーディに渡された茶色のコートを羽織って彼に続いた。コーディ曰く、"寒そうだからこれを着ろ"らしい。

 宇宙船の通路も、部屋と同じように、灰色に塗装された滑らかな外壁に覆われていて、所々パイプ類などが露出していた。コーディーに続いていくと、今までの通路とは雰囲気が違う通路が見えてきた。

 

「この先が宇宙港だ」

 

 コーディが軽く説明してくれる。

 

 ━━この先が宇宙港か・・・いよいよね。

 

 私は気を引き締めて、通路を越えて宇宙港に降り立った。

 

 宇宙港の様子は想像した通り、機械じみた雰囲気の未来的な様子だった。―――そもそもここは幻想郷より遥かに技術が進んでいるんだから、当然といえば当然か。

 

 港のことも気になるけど、今は先に済ませるべき用事がある。そう、私が自由になるための手続だ。

 暫く歩くと、コーディがある扉の前に立ち止る。

 

「ここが受付だ。手続きは簡単に終わる」

 

「そう。ありがと」

 

 私はコーディに一言礼を告げて、扉のボタンを操作した。船にあったやつと同じような仕組みだったので、遥か未来の機械だけど手間取らずに操作できた。

 プシューと扉が音を立てて開き、私は部屋の中へと足を踏み入れる。受付の部屋は全体が青色基調で纏められており、長椅子やモニターらしきものが見えた。私は正面に見える、1体のドロイドが立っているカウンターへと向かった。

 

「ねぇあんた、此処で0Gドックとやらの登録ができると聞いたんだけど、それは間違いないかしら?」

 

「はい。0Gドック新規登録希望の方ですね。では、こちらのタッチパネルに貴女の御名前を入力し、このスペースに遺伝情報………具体的には貴女の髪の毛等を置いてて下さい」

 

 私は目の前のドロイドに言われた通りに自分の名前を入力し、髪の毛を置く。登録はアルファベットだったので、少し入力には苦労した。―――本来なら日本語以外はまともに知らなかった筈なんだけど、何故か元から頭の中にそれがあったかのように、入力を進める度に思い出していくような感覚に襲われた。

 変なな感覚ではあったけど、お陰で入力は滞りなくできたんだし今は特に考えなくてもいいか。

 

「はい━━では、こちらがフェノメナ・ログ(航海記録)になります。これは船に差し込むことによって辿ってきた航路や交戦結果を記録し、管制塔のデータベースへと転送して名声値へと反映します。名声値が上昇すれば、管理局から報酬として艦船やモジュールの設計図が支給されますので、是非とも頑張って下さいね。これはそういった機能がある大切な部品ですから、くれぐれも紛失しないようお気をつけ下さい。尚、万が一ですが船の損傷等でこのフェノメナ・ログが破壊、または紛失した場合は、管理局に遺伝情報を提出すれば再発行が可能です」

 

 私は、ドロイドから手渡された一枚のカードを受け取った。どうもこれは、船に接続して使うようだ。私はそれを、コートのポケットに仕舞い込む。

 

「これで終わりかしら?」

 

「はい。只今貴女は0Gドックとして登録されました。おめでとうございます、貴女は今から星の海を旅する航海者の末席に名を連ねたのです。貴女の航海の行く末にどうか幸あらんことを」

 

 ドロイドはそう私に告げる。機械の癖に、結構洒落たこと言うのね。もっと事務的な対応をされるのかと思ったのに。

 

「わかったわ。ありがと」

 

 私は踵を返して部屋から退出する。そこには、コーディーが私を待っていた。

 

「どうだった、お嬢さん?」

 

「登録完了よ。それとコーディさん━━━」

 

 私はコーディーを見上げ、彼に言った。

 

「私は霊夢よ。そろそろ、お嬢さんってのは止めて貰えないかしら?」

 

「―――そうだな。ではこれからは霊夢と呼ばせてもらうとしよう。これで良いかな?」

 

「ええ━━上等」

 

 私とコーディーは、そんな会話を交わしながら、今度はヘルプGの部屋へと向かった。

 

 

 

 私達は、携帯端末でサナダから整備が終わったと連絡を受けて、船へと戻っている。ちょうど一通りヘルプGの解説が終わったと頃なので、適当に切り上げて船に戻ることにしたのだ。

 

「爺さん型のあのドロイド、ヘルプGだっけ、あれだけ妙に機械くさい見た目だったわね」

 

 管理局の他のドロイドは人間を模して作られていたのに対して、あのドロイドは爺さんをモデルにしながら、肌が灰色でリベットが打たれていたり、手がアーム状だったりして機械的な見た目だったのだ。

 

「俺達の時代では、ドロイドは総じて機械的な見た目だったけどな。俺からしたら、人間に近い見た目の方が驚く」

 

 どうもコーディの時代では、あんな形のドロイドが普通だったらしい。

 私達はそんな他愛のない話をしながら、乗ってきた宇宙船へと戻る。コーディとは会ってからそれなりに時間が経ってきたためか、だんだん打ち解けるようになってきた。

 

「おお、戻ったか」

 

 私達が戻ってきたのを見て、サナダさんが話し掛けてくる。

 

「いま丁度整備が終わったところだ。これから惑星に降りようと思う」

 

 これから惑星に降りる━━私は、まだ見ぬ地球外の惑星に期待した。幻想郷には海がなかった。それが、この惑星は殆ど海に覆われているらしい。宇宙から見たときは、惑星全体が青色に輝いて見えていた。地球も、外から眺めればあれに緑が加わった感じだったのだろう。この惑星の、広大な海を目にするのも楽しみだ。

 

 私達は、サナダの案内で軌道エレベーターへと向かった。軌道エレベーターは、宇宙港と地上を繋ぐものだと聞いている。

 

「で、これに乗って、地上に降りる訳ね」

 

 軌道エレベーターに到着した私は、目の前にある流線型の電車を眺める。

 

 ━━こんな感じの電車は新幹線っていうんだっけ?紫のスペルを見た早苗が、色々教えてくれたんだったわね━━━

 私は早苗から聞かされた、外の乗り物についての話を思い出した。確かあのときは、早苗が守谷神社からその新幹線の模型を持ってきて、熱く語っていたのを覚えている。なんだか懐かしい気分になってくる。

 

「さて、これから地上だ。全員乗り込むぞ」

 

 私達はサナダに続いて、列車に乗り込む。

 列車が動き出した。

 列車は徐々に下り坂を下っていき━━━

 

「って、ちょっと、垂直!」

 

 私は予想外の展開に驚いた。窓の外を見ると、軌道エレベーターの透明な外壁を通して、自分達が惑星の地面に対して垂直になっていることに気づいたからだ。

 

「安心しろ、重力制御が働いている」

 

 サナダさんがそう解説する。なんでも、重力制御が働いている限り、星の重力に引っ張られることはないという。

 それでも慣れないものは慣れないのだ。幻想郷で飛ぶときだって、地面は水平に見えるよう飛ぶのが普通だったからだ。

 ━━そういえば、こっちの世界でも飛べるのかしら━━

 

 そんなことを思っているうちに、列車は地上に到着する。

 

 惑星に降り立つと、そこは一面の蒼だった。

 

 ━━これが海、か………。

 

 どこまでも蒼が続き、空には白い雲が浮かんでいる。

 

 ━━綺麗━━

 

 私は暫く、その光景に見惚れていた。

 

「遺跡に入るぞ」

 

 サナダさんの声で、意識を戻す。

 見ると、サナダさんとコーディは遺跡の入口らしき所に立っていた。

 

「今行くわ」

 

 私は、サナダ達の後に続いた。

 

 遺跡の内部は、所々崩れていたが、差し込む光と青白い外壁のお陰で、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 

「ここはクローンの育成施設だな」

 

 コーディが解説する。

 

「成程、君は此処で育てられた訳か」

 

 サナダさんコーディの話に関心を示しながら、彼と一緒にさらに下へ降りていった。

 

 さらに降りた所には、広大な空間があった。

 

「ここはアクラメーター級の発着ポートだ。此処から、訓練を終えたトルーパーが送り出された」

 

 どうもここは船を停める場所だったらしい。それも、サナダさんの船とは比べ物にならない大きさの船だ。この空間の広さがそれを物語っている。

 

「この先に造船区画があった筈だ。行ってみよう」

 

 コーディーが催促し、サナダさんは期待に満ちた瞳で続いていく。

 

 先程の空間の先には、クレーン等が設置されている、これまた広い空間に続いていた。空間の中央には、巨大なエンジンノズルを備えた作りかけの宇宙船らしきものが見える。

 

「成程、これはどうも造船所のようだな。コーディ、ここの構造は分かるか?」

 

「いや、残念だが俺には専門外だ。生憎技術職では無かったからな」

 

「そうか、それなら仕方ないな。では私は暫く一人で探索している。必要があれば端末で呼び出すから、君はそこのお嬢さんと居るといい」

 

「了解だ」

 

 サナダさんはそう言うと、奥の区画へと進んでいった。

 

「随分と大きい船ね。これ、使えるかしら?」

 

 私はコーディに尋ねる。そういえば、0Gドックになったはいいが、0Gドックとして活動するには自分の船がないと始まらないのだ。そんな初歩的なことを忘れていたなんて………

 

「そうだな━━━こいつは放棄されてから随分と時間が経っている。リサイクルした方がマシだな」

 

 どうも、この船は使えなさそうだった。

 あわよくばコイツを私のフネにして宇宙に行こうかと思ったのだけど、コーディ曰くもう使い物にならないぐらい壊れているのだそうだ。―――見た目だけはまだ原型を留めてるのに。

 

「ところで霊夢、ブリッジに上がってみるか?こいつも一応は軍艦だ。歩いても問題ない強度は保たれている筈だ」

 

「面白そうね。行ってみましょう」

 

 私はそれを、二つ返事で了承した。

 

 まだ見たことも入ったこともない宇宙船の操縦席だ、ちょっと興奮してくる。

 

 ━━━丁度いいわね。飛ぶのも試してみましょうか。

 

 私はこれは飛んでみるには丁度いい機会だと思い、船の後ろに立っている塔、恐らくブリッジだろう━━に向けて飛んだ。どうも、この世界でも力は使えるらしい。

 

「おい霊夢!お前飛べるのか!」

 コーディが驚いた表情で私を見上げる。そういえば、この事はまだ話していなかった。

「ええ。私達の世界では、力があれば普通に飛べたわよ」

 

 私はコーディにそう話す。

 

「やれやれだ━━━今そっちに行く」

 

 コーディは、背負ったバックパックを操作して、一時的な飛行を可能にして私についてきた。

 

「船のエレベーターは止まっているだろうからな。こっちの方が都合がいい。こっちだ、霊夢」

 

 私はコーディの後に続いてブリッジに近づいた。コーディーがブリッジの外壁を操作すると、ブリッジの扉が開いた。

 

「此処から中に入れるぞ」

 

 コーディーが先に中に入り、私を案内する。

 ブリッジの中は、この船が大きい宇宙船なだけあって、ブリッジ自体もかなり広いものだった。

 

「へぇ━━━中々雰囲気出てるじゃない」

 

 ブリッジの中は、所々にモニター等が浮かび、如何にも機械的な見た目をしていた。早苗がいたら喜びそうだな、と私は思った。あの子は、確かこんな感じのものに強い興味を示していた。河童の技術にも、かなり興味を持っていたことを思い出す。

 

 私はブリッジの一番高い位置に移動した。ここが艦長席というものだろう。

 

 ━━全砲門開けぇっー なんてね………。

 

 私は心の中で、思い付いた艦長っぽい台詞を言ってみたりする。

 

 私達はそうして暫くブリッジを散策していたが、途中でサナダさんから通信が入った。

 

「霊夢、サナダが"お宝"を発見したらしい。ここを降りよう」

 

「わかったわ」

 

 サナダさんから通信を受けた私達は、そのまま来た道を辿ってブリッジを後にした。それにしても、お宝とは何だろうか。

 

 

 

 

 

「ははっ━━━まさか本当にあるとはな━━━」

 

 サナダさんはなにやら独り言を呟いている。

 

「で、何があったわけ?」

 

 私はサナダさんに尋ねた。さっきから言ってるその"お宝"っていうの、がすごく気になるんだけど。

 

「ああ、設計図だよ!1000m級と700m級の巡洋艦設計図に航宙戦闘機の設計図だ!今すぐ船に持ち帰るぞ!」

 

 サナダさんがそう言って取り出したのは、一枚のデータディスクだ。どうも、それらの設計図はコーディの時代のものらしい。

 

「ああ、そういえば君は、もう0Gドックとして登録していたらしいな」

 

 サナダさんが話題を変えて、私に振る。

 確かに登録は済んだけど、それとサナダさんが騒いでるお宝と何の関係があるのだろうか。

 

「ええ、そうだけど、その設計図となにか関係あるの?」

 

 私はそうサナダさんに尋ねた。彼からは、意外な答えが返ってきた。 ―――サナダさん、にやりと笑って私に告げる。

 

「乗ってみないかね━━━古代の宇宙船に」

 

 ━━古代の、宇宙船………?

 

 0Gドックとなった私には、宇宙船が必要だ。それが、いきなり古代の、異星人の宇宙船だ。━━━へぇ、これは中々面白そうじゃない。今は存在しない宇宙人の宇宙船なんて、それだけでも希少性バツグンだ。こんなに浪漫のある話はない。

 

 私は二つ返事で、その提案を了承した。

 

 

 

「良いわね━━━受けたわ、その提案」



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Intermission_3.5【クロス企画】

 こちらは「夢幻航路」と「共和国の旗の下に」のクロスになります。
 クロスとは言いましても、本格的に登場人物が交わるものでもなくしばらくは本編に絡まない幕問なので、読み飛ばしていただいても何ら問題はありません。


 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………………………

 

 

「…………はぁ、っ!?」

 

 唐突に、背筋を迸る冷たい悪寒。

 

 久しく感じていなかった、(あやかし)の気配だ。

 

 寝床から飛び起きて辺りを警戒するも、気配の正体は掴めない。

 

「──下、か」

 

 直感的に、下手人が近くにいないことを悟る。

 

 恐らくは、この宇宙船の外側。

 居るとすれば、ステーションの中だろう。

 

「……………………」

 

 着の身着のまま寝室を飛び出し、船内を抜けて宇宙ステーションの床を踏む。

 ステーション内の灯りは所々が切れかかって点滅を繰り返し、否が応にも妖の気配を演出していた。

 薄暗い廊下が一直線に続く様は、さながら鋼の逢魔ヶ時。遥か未来の科学世紀の産物なれど、魔の空気は不変らしい。

 

 カツ、カツ、カツ────

 

 鋭い私の足音だけが、廊下に響く。

 

 気配は近い。

 

 だが、未だ敵の姿は見えず。

 

 気づけば私は、どうやら造船所まで辿り着いていたようだ。

 長さにして、凡そ十町はあるだろうか。

 鋼から成る紅白の巨躯───建造中の新たな旗艦が横たわるその造船所に、果たして妖の姿を見た。

 ゴォォ、と機械の駆動音が微かに振動する薄暗い造船所の中で、不釣り合いな程に鋭く研ぎ澄まされた妖気。間違いない、あれだ。

 

 ───艦橋の天蓋に、一つ。

 

 敵の姿を見た私は、一目散に目標へ向けて飛翔する。

 何故にこの科学世紀真っ盛りの中で妖が出るのかは知らないが、斯様な邪気を放たれては博麗の血が疼くというもの。敵の殲滅を最優先目標に指定した私の思考は、最適な戦術行動を出力し始める。

 

 札もお祓い棒すらない現状では、攻撃手段は霊力弾のみ。しかし、下手な方向に向けて撃てば建造中の旗艦を無為に傷付ける結果になりかねない。

 さて、どう排除したものか───と思考を繰り返していた時だった。

 

『───きサマは、帝国カ?』

 

 か細く響く、妖気を載せた霊の声。

 

「…………誰、アンタ」

 

 意味不明な言葉を発するそれに向けて、一言、問う。

 深緑の…………制服だろうか。洋服はボロボロに解れ、かつては威厳を演出していたであろう肩の金色の飾り紐や胸の勲章は色褪せて往時の面影を窺わせるのみ。

 顔は半分が爛れて無惨な姿を曝しており、残された半身の容貌が人形のように整っているだけに余計痛々しく見える。

 

『いヤ、違う───■■■(■■■■■■)の眷属か』

 

 言葉にならない、妖のか細い呟き。

 

 ───瞬間。

 

 一瞬にして、辺りの空気が凍り付く。

 

「この、ッ!?」

 

 抜刀。

 

 左の腰に手を回した妖は、血のように赤い深紅の霊刀を振り抜いた。

 飛翔する斬撃を躱し、距離を取る。

 見れば敵は艦橋から動かず、油断なく刃を構えるばかり。アレ自体が飛翔する気配はない。

 ならば、戦いは此方の土俵だ。

 敵から一定の距離を取りつつ、霊力弾を放つ。

 目標に向けて一目散に飛翔するそれは、着弾の直前で紅い霊刃に一蹴された。

 

「チッ、なら──!」

 

 霊力で編んだ、封印の札。

 それを針状の霊弾に載せて、敵に向かって撃ち放つ。

 封の字を直接刻んだ訳ではない一時の幻なれど、妖には効果覿面の封印札だ。食らえば只では済むまい。

 

 だが、敵は器用にもその全てを刃の一閃で叩き落として見せた。

 

 ───強い。

 

 どうやら、敵の強さは想定以上だったらしい。打つ手の悉くか撃ち落とされ、装備もなく決め手に欠ける此方は千日手に陥ってしまう。

 ”夢想天生”ならば或いは、と思考するが、未だ身体がこの科学世紀に馴染んでいない今は本調子とはいえず。果たして技の発動自体上手く行くものか。

 

 と、次なる一手に向けて思考しつつ、牽制に霊力弾を放った最中だった。

 

 牽制の雷撃を叩き落とした敵は刃を八双に構え───いや、刃の鋒を真っ直ぐ私に向けて構え直す。

 

『一歩、音越』

 

 ───直後、敵の姿が掻き消えた。

 

『二歩、無間』

 

「っ───!?」

 

 ───不味いっ!? 

 

 脳髄を叩き起こすような警報の嵐。

 直感は最悪の事態を想定して警告を出し続けるが、”夢想天生”の発動はおろか回避すら間に合わない。

 

『三歩、絶劒』

 

 再び敵が眼前に出現したときは、最早手遅れ。

 回避不能。必殺の間合。

 幾ら身体を捻ろうとも、あの鋒は必ず身体の何れかを穿つだろう。

 けたたましく鳴り響く直感。だが脳が幾ら警告を発しようと、既に打つ手などある筈もなく。

 

 ───ああ、こんな、ところで。

 

 終わるのか。まだ始まってすらいないというのに。

 

 呆気なく貫かれる寸前の我が身。自身の浮き足立った采配を呪えども、今更遅すぎるにも程がある。

 

 抉れる肉体を覚悟して、なけなしの身体強化を予測被弾箇所に施す。上手く行けば離脱ぐらいは叶うかもしれないが、その可能性は五十歩百歩。しかし、今はそれぐらいしか打つ手がない。

 

 眼前に迫る、壊れた人形のような殺戮機械。

 夕闇の茜にも似たその鋒は、寸分違わず私の右肺を吹き飛ばすだろう。

 

 ───────刹那

 

 視界を覆う、唐紅と朽葉色のコントラスト。

 

『な、ゼ…………』

 

 ばさりと揺らめく朽葉に隠れた、白銅の刃。

 その鋒に貫かれるは、つい先程まで深紅の刃を振るっていた彼女。まるで信じられないものでも見たと言わんばかりにその瞳は大きく見開かれている。その様は、あまりにも無機質だった人形が見せるには、ひどく人間味があって───悲惨な貌だ。

 

「…………まさか、ここまで落ちぶれているとは思いませんでしたよ。敵の区別すらつかないんです。もういい加減、お眠りになられて下さいまし」

 

「こは、く───?」

 

「ええ、貴女の琥珀ですとも。さぁ、間違った貴女はおやすみなさい。後はどうか、このわたくしめにお任せあれ」

 

 貫かれた人形を胸に抱き、旗艦の艦橋に降り立つ唐紅の人影。

 様子から察するに、あの妖の知己だろうか。しかしなら何故胸を貫いた? 

 だけど、一つだけ確かなことがある。

 私は、彼女のお陰で命拾いしたということ。

 

 彼女に続いて私が艦橋に降りる頃には、妖は正に灰となって消え失せている最中だった。

 その灰を、最後の一粒まで見送る彼女。

 貫かれたにも関わらず、膝枕の姿勢で彼女に抱かれる妖は、憎たらしいほどに穏やかだった。

 

 全てが無に消えて漸く、彼女は振り向いて私を視る。

 

「───この度は、知己がご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」

 

「いや、それはいいんだけど…………それよりも、何者? 貴女」

 

 唐突な真摯な謝罪に、呆気からんと毒気を抜かれる。

 しかし、彼女が正体不明の存在であることに変わりはない。

 せめて敵か味方か、はっきりさせる必要がある。

 

「わたしですか? うふふっ。ただの通りすがりのお手伝いさんですよ。それよりも───」

 

 ぐいっ。と、唐突に身を乗り出す彼女。

 機械じみた琥珀色の瞳孔が、私の貌を容赦なく覗き込む。

 

「気を付けて下さいまし? 博麗の巫女さん。貴女がこれから挑む敵はあまりにも大きすぎます。どうか、その道を違えないよう─────」

 

「ちょっ、なんで私が博麗と…………!?」

 

 旋風に囲まれて、天狗のように掻き消えていく彼女。

 謎だけを残しながら、私の問いにすら答えずに去っていく。

 そもそも、あの妖は何なのか。

 唐紅の彼女は果たして何者か。

 何故私を博麗の巫女だと知っていたのか。

 

 全てが泡沫の、夢のように消え去った。

 

 残されたのは無機質な静寂と、そこに一人佇む私だけ。

 

「一体、何だったのよ…………」

 

 呆然と、立ち尽くすしかない。

 

 幾ら先程までの出来事に思考を馳せても、答えなど出る筈もなく。

 

 まるで一時の、淡い悪夢のような残り香だけが、彼女達の存在を健気にも訴えていた。




 ……はい。亡霊シャルっちvs霊夢ちゃんの小話です。

 ヴェネターに惹かれたシャルっちの残滓が地縛霊化しています。ですが、目覚めたばかりで装備もない霊夢ちゃんはやや苦戦気味。そして最後に現れたのは、一体何カルアンバーさんなんでしょうねぇ( )

 この先暫くは本編には絡まない、番外編のようなものです。軽い気持ちで読んでもらって構いません。第二部以降はどうなるか分かりませんが。


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第四話 天上の御艦(みふね)

 惑星カミーノ 宇宙港造船ドック

 

 この惑星に設置されている宇宙港は、大型艦用の造船ドックが2基しか設置されていない辺境タイプのものだ。惑星自体が無人の辺境、いや秘境惑星とでも言うべきものであるため、必然的に空間通商管理局が設置する宇宙港は小型のものになるからだ。

  しかし今では、その2つのドックは何十年ぶりにフル稼働し、クレーンが休みなく動きながら大型宇宙船を建造している。

 

「そうだな、このペースでいけばあと2日で完成といったところか」

 

 ドックで組み上げられていく宇宙船を見上げながら、サナダが呟いた。

 

「こんなでかい船なのに、たかだか4、5日程度で組み上がるなんて意外。もっとかかるものだと思っていたわ」

 

 サナダの隣で宇宙船が建造されている様子を眺めていた霊夢が感心したように言う。

 幻想に生きた彼女にとって、科学世紀の粋を凝らした宇宙船の建造シーンは驚きと新鮮さに満ちたものなのだろう。その声には、平静を装いながらも隠しきれない熱が籠っていた。

 

「現在の宇宙船は徹底したブロック構造と規格の統一によって一夜から3日程度で組み上がるように設計されている。管理局の造船ドックもそれを可能にするほど高度な技術が投入されている。私からすれば、5日も掛かる方が驚きだな。恐らく、元々の設計が管理局の規格に対応していなかったからだろう」

 

 そんな彼女の気を知ってか、サナダは饒舌に解説する。

 今このドックで建造されているのは、サナダが惑星上の遺跡から発見した宇宙船の設計図を空間通商管理局の規格に適合するように改設計したものだ。その過程で、既に1日ほど経過していた。

 ドックで建造されている艦は、文字を解読したところ今霊夢達が見上げている1000m級の艦はヴェネター級、奥のドックで建造されている750m級の艦はアクラメーター級というらしい。ヴェネター級はサナダの手により武装が大幅に変更されており、艦橋側面の連装レーザー砲塔は一般的なものに変更され、艦底部にも4基増設されて合計12基となっている。舷側の接近戦用と思われる無数の砲廓は実用的でないため全て廃止され、かわりにミサイルVLSと対空パルスレーザーが設置されている。一方アクラメーター級は元々本格的な対艦戦を考慮した艦ではないらしく、武装は控えめだが、サナダはこの艦をこれからのヤッハバッハから逃れるための長距離無補給航海に備えて装甲版や武装の交換バレル、航宙機の補充機体の生産を行い、それらを製造するための資源を貯蔵するとができる工作艦として改設計した。2隻とも現在のサナダ達では手に余る巨大船のため、運用するためにサナダ謹製の高性能コントロールユニットが搭載されている。コントロールユニットとは文字通り艦船の運用をサポートし、最低稼働乗員数を減らす装置だが、サナダが設計したものは無人運用を可能にし、尚且船の運行だけでなく艦内工場の稼働や複数の航宙機を操作できるほど優れたものだ。因みに原型となったユニットはヤッハバッハが放棄した艦からサナダがサルベージしたものだ。

 

「ここの技術には驚かされるばかりね。そういえば、私の注文はちゃんと聞いてくれた?」

 

  霊夢がサナダに訊く。霊夢の注文とは、設置されるモジュールの一つである自然ドームに関するものだ。

「ああ、自然ドームは注文通り弄らせて貰った。20mほどの小高い山を作って、植生は温帯気候、樹木は主にシイ、カシ類にサクラだったか。そして山の上には"神社"と呼ばれる祈祷施設、だったな」

 

 サナダが自然ドームの仕様を話す。霊夢はサナダから自然ドームのモジュールの存在を聞いたとき、これを幻想郷を思い出す光景に出来ないか注文を付けたのだ。サナダは、霊夢の期待には見事に応えているようだ。設置される自然ドームのモジュール自体が縦、横、高さがそれぞれ90x120x60mという大型のものであるため、神社の山を再現するのに十分な広さを持っていたとも言える。

 霊夢が自然ドームに神社を作ろうと思い立ったのは幻想郷への望郷の念だけでなく、艦の安全を祈るという目的もあった。聞いた話では、幻想郷の外の世界では船の安全を祈って艦内神社といって、各地の神社から船に分社を立ててもらう風習があったらしいことを霊夢が思い出したからだ。ちなみにこれは早苗から聞いた話である。

 

「注文通りね。感謝するわ」

 

「当然だ。依頼主の声を無下にするわけにはいかないからな」

 

「それとあんたの話だけど、あんたは私の船のクルーになってくれるって言ってたけど、本当にいいの?あんただって0Gドックなんでしょ?」

 

  霊夢が話を変えてサナダに尋ねる。霊夢は船が建造される前に、サナダから霊夢の下でクルーとして働くという申し出を受けていた。

 

「私にとっては0Gドックというのは手段でしかない。研究さえできれば他の0Gドックの下でクルーとして働いても構わないんだよ。それとも私がクルーになることは不安かな?私なら、少なくとも君の期待に応える程度の働きなら造作もないと思うが?」

 

 サナダはそう答える。サナダの自身に対する評価を鑑みるなら、サナダは自身の能力に相当の自身を置いているように感じられる答えだ。自然ドームの件を考えても、サナダの能力は霊夢の期待に応えるものだと彼女に感じさせるには十分だ。

 

「そこまで言ってくれるなら心強いわ。それじゃあ、これからも宜しく、って感じでいいのかしら?」

 

 霊夢は自身の右手をサナダに差し出す。

 

「ああ、宜しくだ。私の働きに期待しておくといい」

 

 サナダは差し出された手を握り、握手を交わした。

 

 

  サナダが正式にクルーとなった後、霊夢はコーディーの下へと向かった。彼は、霊夢が0Gドックとなった際にはクルーとして従うつもりだったらしい。なので、船はまだ完成していないが既に霊夢の船のクルーとなっている。霊夢が彼の下へ向かう理由は、ある相談をするためだ。

 

「コーディさん、居るかしら?」

 

 私はコーディーが借りている部屋のドアをノックする。

 

「ああ、居るぞ。入れ」

 

 程無くしてドアが開く。コーディは応接室のような構造になっている部屋の椅子に腰掛けている。

 私は机を挟んで反対側の椅子に腰掛けた。

 

「ほう。空間服は仕上がったのか。中々良い出来じゃあないか」

 

 コーディは私の服の出来を褒めているようだ。

 空間服というのは、宇宙服のようなもので、衝撃を吸収し、緩和する機能がある。元々船の建造が始まると同時にサナダからプレゼントとして手渡されたものだが、そのままだと体の線が出すぎて恥ずかしいから大改造させてもらった。後任の巫女の巫女服を作ったのは私なので、裁縫の腕にはそこそこ自身があった。我ながら上手く個性を出すことが出来たと思っていたので、褒められたのは素直に嬉しい。

 

「ありがと。我ながら上手く出来たと思っていたから素直に嬉しいわ」

 

 取り敢えずコーディには礼を言っておこう。

 

「さてと、艦名についてなんだけど、なにか良い名前あるかしら?私はこういう経験なかったから、良い名前を思い付けるか不安なのよ」

 

 相談内容とは今建造されている船の名前、艦名のことだ。工作艦となったアクラメーターの方はサナダが付けるらしいが、ヴェネターは私の船になるので、自分で付けた方がいいと思うし、サナダも同意見だ。だけど、モノに名前を付けるという経験があまりなかったので、こうしてコーディーの助言を求めている訳だ。ちなみに一度は「夢想封印」とか考えたが、なんだかパッとしないので止めた。それに、そんな名前付けたらなんだが痛い電波を受信してしまいそうだ。

 

「そうだな、俺が知っている範囲だと、縁起のいい言葉や勇猛な言葉なんかがよく使われていたな。例えば、〈ディフェンダー〉や〈ヴェンジャンス〉、〈レゾリュート〉なんかがそうだな。それぞれ"護る者"と"復讐"、"確固たる決意"といった意味だ」

 

 コーディが霊夢に説明する。例として挙げた名前はどれもヴェネター級に使われていた名前だ。

 

「へぇ、そんなものもあるのね。縁起のいい、かぁ~」

 

 ――縁起がいい・・・何故か早苗のことを思い出すわね。

 

 脳裏に浮かんだ早苗を押し退けて、どんな言葉がいいか考える。

 

 ――草木はちょっと違うわね・・・天津風、八島、瑞穂・・・曙、有明・・・縁起からちょっと離れてきたわね ――

 

 

「高天原(たかまがはら)、なんてのはどうかしら?」

 

 考え抜いた挙句に出したのはこの言葉だった。

 

「ほう、それはどんなに意味だ?」

 

「神話で神様が住む世界の名前よ。神様の御加護がありますようにってね」

 

 ━━高天原なんて名前にしてみたけど、諏訪子とかの加護は受けられるのかしら、いや、あの人達は営業上のライバルだから、うまく言えないわね・・・自分の神社で祀ってる神様のことを最後まで知らなかった癖によく言えたものだわ――

 

「良い名前なんじゃないか?元々霊夢の船だから、俺にはとやかく言う権利は無いからな。それで良いと思ったら、そうするといい」

 

どうやらコーディは元から私に一任する積もりだったようだ。

「なら高天原で決まりね。今は他に良い名前は思い付かないわ」

 

 こうして艦名も無事決めることが出来た。

 

 

 

  そして迎えた出港の日、完成した宇宙船には補給物資が次々と積み込まれていった。

  こうした物資を確認するのも艦長の仕事の一つだ。今はろくな会計係がいないので、報告を確認するだけでなく、自分で把握しておく必要がある。だが今のところ私達は3人だけなので、食料や医薬品は余るほどある。艦載機の搭載も完了した。各種テストは前日にサナダが済ませている。アクラメーターに積み込まれる資源はサナダが把握しているので、後で報告を受ければ良いだろう。ちなみに工作艦となったアクラメーターは〈サクラメント〉と名付けられた。サナダに聞くと秘跡という意味らしい。よく分からないが、宗教的なものだろう。

  空間通商管理局からも、操艦ドロイドが貸し出される。サナダのコントロールユニットのお陰であまり数は必要ないが、ダメージコントロールなどの際には居てくれた方が便利だ。

 ――にしても、あのドロイドってちょっと不気味ね――

 ドロイドは全身が黒く顔はのっぺらぼうで腕と手が平らで気持ち悪い動きをするのだ。一人でいるときには会いたくない。

 

《艦長、予定されていた物資の積込完了、全ドロイドの乗艦を確認しました》

 

どこからともなく、やや機械的な女性の声が聞こえてくる。

 

「っ早苗!?」

 

 思わず私は叫んだ。――だってその声は、あまりに早苗に似ていたから―――

 

「どうした艦長?」

 

 不審に思ったサナダが訊ねる。

 

「あ、え・・・えっと、いきなり声がしたから・・・」

 

「ああ、コントロールユニットの人工知能だな。説明するのを忘れていた」

 

 サナダは何かを思い出したように語る。

 

「人工知能?」

 

「ああ、元々この艦に搭載されるコントロールユニットは艦の運行を無人で行えるほど高性能なものだ。それを実現するためにはAIの学習機能、有り体にいえば人工知能が必要不可欠だったのだよ」

 

サナダが説明する。

 

――そういうことは早めに言ってくれるとありがたいんだけどね。早苗の声だったのは合成音声の偶然だったのかしら――

 

 私がそんなことを考えていると、再び人工知能に話し掛けられた。

 

《えっと、驚かせてしまって申し訳ありません。Drサナダから説明があった通り、私はこの艦の統括AIです。宜しくお願いしますね》

 

「あ、ええ。よろしく・・・艦長の博麗霊夢よ」

 

 挨拶されたからには返さない訳にはいかないので、私も挨拶する。

 

《はい、存じております。艦長。これより貴女を上位存在として登録します。では艦長、個体名の登録をなされますか?》

 

AIが尋ねる。いまいちよく分からないのでサナダの方を振り向いたら、"名前を付けろってことだ"と返された。

 

「それは貴女の名前をどうするかってことかしら?」

 

《はい。因みに登録されなければ、艦名がそのまま私の名前となります。》

 

 ――艦名と一緒か。高天原だと長くて呼びにくいし、ややこしいわね――

 

「なら早苗でどうかしら?」

 

名前を付けるのなら、元々声が似てるので早苗と呼ぶことにしよう。これなら艦と区別できて、なんだか懐かしい気分になれる。

 

《はい、個体名"サナエ"・・・登録完了しました。所用がある際は、お手元の携帯端末からお呼び下さい》

 

早苗にそう言われて艦長席に置いていた携帯端末を眺める。どうやら、これのことらしい。

 

「分かったわ。それと早苗、そこまで堅苦しくしなくていいわ。あんまり落ち着かないのよ」

 

《分かりました。モード"普通に会話"っと・・・これでいいですか?》

 

早苗が話し方を変える。私としても、後の話し方のほうが落ち着く。

 

 ――にしても、機械の癖に妙に人間臭いところがあるわね・・・そっちのほうが愛着湧くからいいけど――

 

「ええ、それで良いわ」

 

《では艦長、本艦は現在出港準備完了、僚艦〈サクラメント〉からも物資積込完了の報告を受けてます》

 

早苗から報告がある。

 

「なら出港しましょう。良い?」

 

 私はサナダとコーディに訊く。

 

「ああ、問題ない」

 

「同感だ」

 

サナダとコーディが返事をする。ちなみにサナダは科学班長と整備班長、コーディーが戦闘班長の役職に就いている。

 

「ならいざ出港と━━」

 

《艦長、レーダーに感あり、外惑星軌道より接近する艦影を捕捉しました!メインパネルに投影します》

 

 私が出港の号令を掛けようとした所、早苗が割り込んで報告する。

 

「もしかしてヤッハバッハなの?」

 

 《艦種解析・・・・解析完了。艦隊の内訳はヤッハバッハ軍ダルダベル級重巡洋艦1、ブランジ/P級警備艦2隻、"定期便"と思われます!》

 

 早苗は自身のライブラリから該当する艦影を検索して報告する。

 

「定期便?」

 

 早苗が発した言葉の意味が分からなかったので、サナダに尋ねる。

 

「"定期便"とは、ヤッハバッハが半年から1年おきに辺境星系をパトロールさせる小艦隊を指す。ボイドゲートがないこの宙域に来るのはもう少し先だと見積もっていたが、運が悪いな」

 

「逃げ切れないの?」

 

 私はハイパードライブとやらでワープして撒けないかと提案するが、どうやら出来ないようだ。

 

「今はまだ機関を完全に起動していない。ワープできる頃には敵艦隊が眼前に迫っている。そんな状態でメインノズルに攻撃を受けたら不味いことになるな」

 

「じゃあ切り抜けるしかないって事か?」

 

 コーディが尋ねる。

 

「ああ、少なくともダルダベルは沈めなければ不味いな。奴は艦載機の搭載能力があるからワープする前には確実に捕捉されているだろう。それに、こちらは宇宙港の中でレーダー範囲が制限されている状態で敵艦隊を発見した。敵はもうこちらに気付いているかもしれない」

 

 サナダは淡々と状況を説明する。

 

「逃げる為には戦うしかないって訳ね。全艦戦闘配備よ!機関点火!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 私は戦闘準備を命じる。自分達の自由が掛かっているので、簡単に負ける訳にはいかない。

  〈高天原〉の主機の出力が上昇し、宇宙港のガントリーロックが解除されて〈高天原〉の艦体が宇宙に乗り出す。続けて、〈サクラメント〉が〈高天原〉の後に続いて出港する。

 

《敵ダルダベル級より艦載機の発艦を確認!同時に敵艦隊より通信です。"貴艦二告グ、直チニ降伏セヨ"、だそうです!》

 

 早苗が報告する。

「そう言って降伏したら乱暴にするつもりなんでしょう、そうはいかないわ!"バカめ"とでも返しておきなさい!」

 

《了解です。敵艦隊に返信"バカめ"以上です!》

 

 こうして敵艦隊を挑発する。なんだかスッキリした気分になれる。

 

「こっちも艦載機を出すわ。早苗、航宙機の操作はできる?」

 

 《はい。演算リソースの8%を回せば、全艦載機の操作が可能です》

 

「なら行くわ。ハッチ解放、全艦載機隊発艦せよ!」

 

 〈高天原〉の中央にある赤いラインが左右に割れ、そこから次々と艦載機が発艦していく。X字型に主翼を展開した戦闘機T-65を筆頭に、F-17という平面的な戦闘攻撃機がそれに続き、最後に機体の裏と両翼端を黄色に染めた灰色で流麗なフォルムを持っ戦闘機―Su-37Cが発艦する。総数は凡そ25機だ。

  艦載機隊は程無くしてダルダベル級から発艦したヤッハバッハ汎用戦闘機ゼナ・ゼー12機の編隊と衝突する。ゼナ・ゼーの編隊は早苗が操作する無人機編隊に呑まれ、ミサイルとレーザーで次々と数を減らしていった。なかでもF-17が生み出す小型のミサイルの弾幕に戸惑って躱しきれずに被弾してT-65のレーザーかSu-37のミサイルに撃墜される機体が続出する。

  ゼナ・ゼー編隊は余程練度が低かったのか、衝突から数分で壊滅したが、T-65とF-17がそれぞれ1機撃墜された。

  艦載機隊は続けて敵艦隊に襲いかかり、F-17の編隊がブランジ/P級のメインノズルにミサイルを撃ち込んで行動不能にし、レーダーを破壊して目を奪う。続けて中央のダルダベル級にもミサイルが打ち込まれていく。ダルダベル級はブランジ/P級とは異なり豊富な対空機銃で応戦し、ミサイルを幾らか撃墜したが、艦橋付近の武装を中心に被害を出した。

 

「やるじゃない、早苗」

 

《えへへ、ありがとうございます》

 

早苗は嬉しそうに返事した。

 

「一気に畳み掛けるわ。コーディ、敵巡洋艦に主砲照準、行動不能に追い込んで頂戴」

 

私は敵艦隊を無力化するためにコーディに攻撃を命じた。敵艦隊は早苗の無人機編隊で大部弱っている。

 

「イェッサー。散布界パターン入力、固定完了。主砲1番から4番、9、10番、順次発射!」

 

コーディが発射ボタンを押し、〈高天原〉のレーザーは艦載機に気を取られたダルダベル級に命中して同艦の艦首部分を破壊、減衰したシールドを突き抜けて主砲を粉砕した。同時に、死角となる艦尾からSu-37編隊が突入してミサイルを発射し、ダルダベル級のメインノズルにダメージを負わせて速力を大幅に低下させた。

 

《敵艦隊3隻大破!》

 

「よし、引き所ね。艦載機を回収してワープ準備!」

 

 敵を無力化したと判断した〈高天原〉は反転し、帰還する艦載機を回収した。

 

《艦載機着艦、ハイパードライブ、出力100%、ワープ可能です》

 

「早苗、ワープするなら惑星ラサス近傍宙域に向かえ。そこなら比較的安全にワープできる」

 

ワープ準備を整える早苗に、サナダが目的地を提示する。

 

「そこに向かえば良いのね。早苗、よろしく頼むわよ」

 

《はい。目的地座標入力完了。〈サクラメント〉にデータ転送―――――――ワープします!》

 

 早苗の宣言と同時に〈高天原〉と〈サクラメント〉はハイパースペースに入り、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???

 

 

「対象ノ認知領域、急速ニ拡大シツツアリ・・・。」

 

 パネルに覆われた青白い不気味な部屋で、何体かの人影がパネルを操作する。

 

「イメージング深度同調中・・・。」

 

「追跡者ノセッティングヲ開始。出現座標算出。存在確率流ノ変成開始シマス・・・。」

 

 




兵器解説

*ダルダベル級巡洋艦
原作に登場したヤッハバッハ巡洋艦。艦載機搭載能力を持ち、ミサイルとレーザー主砲で武装している。右舷に突き出した艦載機カタパルトが特徴的。
全長980m

*ブランジ/P級警備艦
ヤッハバッハが領宙警備に使用するブランジ級を改造した警備艦。ミサイルを撤去してレーダーを増設し、長距離航海用に居住性を向上させている。(オリジナル)
全長340m

*T-65
サナダが遺跡で発見した宇宙戦闘機の設計図から改設計したもの。戦闘機サイズでありながらハイパードライブを搭載するタイプがある。見た目はXウイング。

*F-17
サナダが独自に設計した宇宙戦闘機。見た目はマクロスFのVF-171。ただし変型しない。

*Su-37C
サナダが独自に設計した宇宙戦闘機。見た目はエスコン4黄色中隊フランカーのノズルがラプターのような形状になった機体。


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第五話

今回は少し短めです。

ダウグルフの武装がレーザーL×2だったら使い勝手良かったんじゃないかと思います。ヤッハバッハの艦はCミサイルが邪魔で使いにくいです。Mミサイルに換えたい。グランヘイムとかのLL武装も使いにくいですよね。
砲艦としての火力と外見の良さではアッドゥーラのゴーダ・ザフトラ級が一番だと思います。でもこっちは内装が・・・


 〈高天原〉艦内 第一艦橋

 

  ワープに突入した〈高天原〉は、青白い超空間を進んでいく。空間内では時折白い光が迸り、消えていく。

  〈高天原〉の属するヴェネター級は、左右に2つの艦橋を持つという他に類を見ない特徴を有しており、第一艦橋は右側の艦橋に当たる。霊夢達は、そこで今後の方針について話し合っていた。

「惑星ラサスの次に向かうべき宙域だが、ヤッハバッハから逃れる為にはこの銀河を抜けなければならない。ラサスを通過した後はボイドゲートの存在するアナトリア宙域へ向かい、一気にヤッハバッハ勢力圏を抜けるのはどうだ?」

 最初に発言したのはコーディだ。彼は星図の該当箇所を指差しながら提案する。

「いや、アナトリアは確かに辺境だが、相応の防備戦力が配備されていた筈だ。私の記憶が正しければ、ダウグルフ級2隻とダルダベル級とブランジ級からなる宙雷戦隊が最低1個駐留している。戦力としては少ないが、今の我々には厳しい相手だ。」

 サナダは自身の記憶を頼りに、敵戦力を分析してコーディの案の問題点を指摘した。

「私はラサスから銀河外縁方向へ約1000光年離れたコーバス星系へワープし、そこからイベリオ星系を経由してA31球状星団内のガリシア宙域に向かい、この宙域外縁のボイドゲートからさんかく座銀河とIC1613間の銀河間空間へ抜けるルートを提案しよう。」

 サナダは星図を指しながら、コーディとは別のルートを提案する。

「コーディのと比べたら随分遠回りね。で、サナダの案だと通過する星系には何があるのかしら?」

 霊夢がサナダに尋ねる。彼女は個々の星系や宙域に関する知識を持っていないので、航路の計画はサナダ達に任せていた。

「コーバス星系は何もないと表現できるほど寂れた星系だが、2つの岩石惑星と巨大ガス惑星と氷惑星が1つずつ、それと無数の準惑星と小惑星が存在する。次のイベリオ星系は岩石惑星が3つに増え内一つは居住惑星だが他はコーバス星系と大して変わらない。居住惑星の人口は5億人ほどだな。どちらの星系も、ヤッハバッハの戦力は常駐していない。あまり関係ないが、イベリオ星系にはデットゲートが存在するな。」

 サナダの指が指す先が、銀河から外縁の球状星団へと移る。ちなみにデットゲートとは、機能を停止した、つまり艦船をワープさせることが出来ないボイドゲートのことである。これらは主に遺跡として扱われている。

「この星団にあるガリシア宙域には5つの星系が存在し、内2つはそれぞれ1個の居住惑星を含む。駐留戦力はダルダベル級を中心とした小規模な警備艦隊だ。ボイドゲートは、宙域の奥に存在する赤色巨星を抜けた先にある。」

 サナダは宙域の様子を詳しく解説する。

「リスクを避けるなら遠回りした方が良いって事か。」

 コーディがサナダの案に対する意見を述べる。

「それともう一つ提案だが、イベリオ星系で人員を募集してみるのはどうだろうか?この星系はヤッハバッハの航宙禁止法の影響で発展が遅れたままだ。現状に不満を持っている輩は多いだろう。」

 サナダはルートの提案に加えて乗組員の募集も提案する。

「確かに現状の人数だと心許ないからね。人員の募集には賛成だわ。けど、宇宙港にヤッハバッハの警察とか居たりしないの?」

 霊夢は人員募集には賛成するが、ヤッハバッハとの衝突を懸念した。

「その心配はない。警備艦隊が駐留しない宙域では宇宙港に警備隊は駐留していない。せいぜい地上に治安維持用の警察がいる位だ。それと、人員の募集は酒場に行けば良いだろう。運が良ければ話の分かる同業者を捕まえられるかもしれん。」

「分かったわ。取り敢えず酒場に向かえば良いのね。航海案もサナダので行こうと思うんだけど、良いかしら?」

 霊夢はサナダの案を了承し、同意を求めた。

「ああ、それで構わないだろう。」

 コーディもサナダの案を了承し、今後の航路が決定した。

「なら決まりね。」

 霊夢は手元の携帯端末から早苗を呼び出す。

 《はい、お話は聞かせて貰いました。今後の航路に関する航海スケジュールを作成しておきますね。》

 早苗は星図を元に詳細な航路やワープの時間や距離に関する計画を作成する作業に入った。

「任せたわ、早苗。それじゃ、ワープアウトするまで解散ね。」

  議題が終了したのを確認すると、霊夢は解散の号令を掛けた。コーディは艦橋に残り、サナダは〈高天原〉に移された自分の研究室へと戻っていった。

 

 

 

  会議が終わると、私は自然ドームへと向かった。この自然ドームには幻想郷らしい風景が再現されているが、まだ実際に見たわけではない。なので、ここの光景を見るのは楽しみだったりする。

  自然ドームの前まで来た私は、扉を開いて中へ足を踏み入れる。

「眩しっ―――」

 ドーム内に入ると人工太陽の光に照らされ、眩しさに一瞬怯んだが、慣れてきたので目を開いてみる。

 

――それは、紛れもなく幻想郷の景色だった――

 

  入口の周辺には古典的な民家が数軒と畑があり、まるで人里の外れに来たみたいに感じた。そして奥の山には木々が鬱蒼と繁る深い森が広がり、開けた頂上には鳥居の先端が僅かに見える。そして、ドームの壁と天井には山岳と空の立体映像が投影されておりここが閉鎖空間だと感じさせないほどの出来だった。

 私は以前の感覚で飛んで神社に行こうとしたが、ここがドーム内であることを思い出して飛ぶのは不味いと考えて歩いて神社に行くことにした。

「にしても、中々良く出来てるわね。」

 私は周囲の景色を眺めながら歩いていく。人や妖怪の気配は流石に感じないが、空を見ると蜻蛉が飛んでいたり、鳥の囀りが聞こえてくる。小川に架かる橋の横には垂れ柳の大木が生えているのが見えた。ここが艦内であることすら忘れてしまいそうだ。暫く歩くと森の中に入った。森の木々は注文通り椎や樫、桜といった見慣れた木々が陽光を遮るほど繁り、ここでも鳥の囀りが聞こえてくる。今にもルーミア辺りが出てきそうだ。だが、ここまで似ていて妖怪の気配一つ無いとなると、逆に寂しく感じられた。

「へぇ、こんな所に脇道なんてあったのね。」

  私は神社へ続く参道の脇から通じる小路を見つけて、そこへ入っていく。生い茂る熊笹を掻き分けて暫く進むと、そこには澄んだ池があった。池の隅には苔が繁茂した倒木が横たわっており、私はそこに体育座りで腰かけて池を眺めた。池の中央には私が腰掛けたものより大きな倒木が橋のように架かっていて、この池の周りだけ涼しげな空気が漂っている。池の中を覗くと石と砂でできた底まで見通すことができ、岩魚や山女といった魚が泳いでいるのが見えた。池の深いところでは錦鯉のような鮮やかで大きな魚が泳いでいる。

 冷たそうな水が気持ち良さそうだなと思って、私は靴と足袋を脱いで足首から先を水の中に入れてみた。

 ―――気持ちいい━――

私は童心に返ったように、足を動かして水を蹴って遊んでみた。驚いた山女がびくっと身を翻して逃げていく。

  ふと周りの木々を見上げてみると、一匹の川蝉の姿が見えた。しばらくその川蝉を観察していると、川蝉はふと思い出したように枝から飛び立って池へと急降下していく。水中で何かを捕まえると、再び元いた枝に戻ってくる。その嘴には、池で捕らえた小魚が咥えられていた。川蝉は小魚を丸呑みにすると、また枝に停まったままじっとしている。

「ほんと、御丁寧に再現されてるわね。」

今まで見てきた景色は、幻想郷のそれと見間違うほど精巧に作られていた。特にこの池の回りにある苔の生え具合や針葉樹の大木から垂れるサルオガセなんかを見ると、この森が数百年前からここにあったように思えてくる。これが数日で人工的に作られた自然だと、誰が思えるだろうか。

「さて、そろそろ行こうかしら。」

  私は神社へ向かおうと思って、足を水から引き上げて手持ちのハンカチで水を拭き、足袋と靴を履き直して座っていた倒木から飛び降りた。そして来たときと同じように熊笹を掻き分けて参道へと戻る。

 参道を暫く進むと、杉や唐松、樅などの針葉樹が生えた一角にたどり着いた。サナダはよくこんな狭いドームの中にここまで多彩な植生を再現したなと感心する。

「えっ、何あれ?」

針葉樹林の地面を眺めてみると、羊歯が繁茂してる中で離れていても分かるほど大きな茶色い物体が目についた。気になった私は近づいて物体を確認してみる。

「これ、キノコじゃん。」

物体の正体はキノコだった。それもかなり大きい。大きさは30センチほどあると思う。引っこ抜いて裏返してみると、普通のキノコのようなひだではなく、びっしりと管孔が敷き詰められていた。

「これはイグチね。」

キノコのことは魔理沙に散々聴かされたから少しは分かる。イグチは昔は毒菌がないと言われたほどだが、それを魔理沙に話すと怒って色々な毒イグチのことを熱く語られたのを思い出した。

 魔理沙の話を思い出しながら、イグチの様子を詳しく観察してみる。

――傘は茶色で管孔は黄色。柄は平坦でこっちも黄色ね。ヤマドリタケとはちょっと違うわね――

イグチの外見を詳しく確認すると、次は管孔をそこら辺の枝を拾って傷つけてみた。

ちなみにヤマドリタケとは、、針葉樹林に生える美味な食用イグチだ。

「うわっ、青くなった。これドクヤマドリじゃない。これ生やすならヤマドリタケにしなさいよね。」

手に取ったキノコはドクヤマドリだった。名前の通り毒キノコである。魔理沙曰く、イグチの中で3番目位に毒性が強いやつらしい。ひょっとしたらヤマドリタケかも、と期待しただけあってこの結果はがっかりだ。私は毒キノコなんて生やしたサナダに一人文句を言いながら参道に戻る。ちなみに、毒の強いイグチ上位2種はバライロなんとかと黒くてでかいイグチだったのは覚えているが、名前が長すぎてしかも幻想郷では目にすることはない珍しい個体だったので詳しく覚えてない。

 

  針葉樹林を抜けると、ようやく神社の階段が見えてきた。階段の周りには椎や樫のほかに、花が咲いている山桜や垂れ桜が生えている。

 ――これは桜を肴に一人酒かなぁ~――

私はそんなことを考えながら階段を登り、鳥居をくぐる。鳥居には「高天原神社」と書かれていた。一応この艦の艦内神社という扱いなので、どんなに似せても「博麗神社」には出来ないのだ。

 鳥居を抜けた先には拝殿が見える。拝殿の形は私が詳細に注文したのでほぼ博麗神社そのままだ。私は境内に踏み入って拝殿の賽銭箱を確認した。当然だが賽銭は入っていない。

――やっぱり入っていないか。期待はしていなかったけど――

賽銭箱を確認するのは昔からの癖だ。賽銭がないと分かっていても、つい確認してしまう。

 私は拝殿を抜けて、奥の本殿の縁側に腰を下ろした。本殿は居住や宴会スペースも兼ねていたので、それなりに大きな建物だ。

縁側から、自然ドーム全体を一望してみる。内壁に投影された空は夕暮れに差し掛かり、うっすらと赤みを帯び始めていた。時間経過まで再現されているようで、改めてこの世界の技術力に感心する。内壁には地上の映像も投影されていて、やはりここがドームだとは感じられないほど精巧な作りになっていた。今にも魔理沙が箒に乗って飛んできて、萃香が酒盛りを始めそうなほど懐かしい景色だ。自分が幻想郷で死んだのはつい先日の筈なのに、幻想郷での思い出が遠い昔のように感じられる。

「しかし、こんな大きな船にたった3人ってのも、なんだか寂しいわね。」

願わくばこれから先に訪れる星系で乗組員を確保したい所だ。船の運航もさることながら、なにより人がいないと寂しい。ここに来てから、私はコーディとサナダ以外の人間には会っていないのだ。

《あら、私を忘れてもらっては困りますよ、艦長。》

ポケットに入れていた携帯端末から声が響く、艦の制御AIである早苗の声だ。

「そういえばあんたも居たんだったわね。けどあんたは人の形してないでしょ?」

声を掛けてくれるのは嬉しいが、如何せん声だけなので、話し相手としては少し違和感を感じるのだ。

《うう~~そんなことを言わないで下さいよー。サナダさんがいつか人形の体をを作ってくれる筈ですから!それよりも、今まで空気を読んで黙っていたんですから、ちょっとは付き合って下さい!》

――サナダが早苗の体を?そんなことを私聞いてないんだけど。それよりも、やっぱりこの子妙に人間臭いAIね、違和感は残るけど、話相手としては退屈しなさそうね――

「分かったわ。今夜は一人酒って言ったけど、訂正。二人で酒盛りよ。」

 私は早苗にそういったけど立ち上がると、障子を開けて本殿の中に入る。サナダの話では設置した冷蔵庫に酒を入れてあるというので冷蔵庫を探す。

「あったあった。これね。」

冷蔵庫を開いて、酒が入った一升瓶を取り出す。そのあとは瓶を持ったまま台所に向かって、食器棚から漆塗りの杯を2つ調達する。そのまま縁側に戻ると、再び腰掛けて杯に酒を注ぎ、片方の杯は私の左隣に、もう片方は右隣に置いた携帯端末の前に置いた。

《あの、艦長?私飲めませんよ?》

早苗が不思議そうな声で訊いてくる。

「いいのよ。二人で酒盛りって言ったんだから、気分だけでも味わっておきなさい。サナダが作ってくれる体とやらが完成したら、そのときに飲ませてあげるわ。」

《あ、ありがとうございます、艦長!》

 早苗は嬉しそうに礼を言う。

――そういえば、向こうの早苗は下戸だったけど、こっちの早苗は大丈夫かしら――

 私は幻想郷の早苗が酒が飲めなかったことを思い出して、そんな心配をしてみる。

《それじゃあ艦長、貴女の昔話、是非聞かせてほしいです!》

早苗は私に過去の話をせがんでくる。今まで空気を読んで黙っていたと言っていたから、余程気になっているのだろう。

「分かったわ。そうね、何から話そうかしら―――」

 私は早苗に話す内容を考える。昔いた亀の話か、それとも紅い霧の異変から話すか、はたまた彼女とよく似た現人神の少女の話か―――

 

 

 

 ―――私達は、夜桜を肴にしながら、一晩二人だけの酒盛りの時を過ごした―――

 

 

 

 

 

 




今回は無限航路要素が薄めです。自然ドームの描写には気合いを入れてみました。幻想郷の自然らしさが感じて頂けたなら幸いです。なお途中で霊夢がドクヤマドリを同定するシーンがありますが、ここの霊夢は魔理沙のお陰でキノコには詳しいです。幻想郷では暇な時には時々魔理沙とキノコ狩りしていました。椎茸とか松茸とか狙います。ホンシメジとかウラベニとかのクサウラと間違えやすいのは狙いません。ツキヨタケと間違える?そんなトーシローなことはしませんよ。霊夢ちゃんは絶対に分かるキノコしか取らないいい子です。

あとは文中にあったサルオガセという植物ですが、これは針葉樹から垂れるコケみたいなものです。原生林らしさが出そうなので描写してみました。


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第六話

最近ストーリーを再確認するために久々に無限航路を進めています。買ってから大体6週位しましたね。今のデータはちょうどエルメッツアで止まっていたので、最初からやり直す必要は無さそうです。スカーバレルもぐもぐ。グアッシュ海賊団より美味しいです。何故かスカーバレルの方がグアッシュより名声稼げるんですよね。バロンズィウス作って無双しようかなー。
それより手に入るガラーナとゼラーナよりエルメッツア中央の赤いガラーナとゼラーナの方が格好いいんですけど。艦のカラー変えたり鹵獲できたら面白かったんですけどね。


 〈高天原〉自然ドーム・艦内神社

 

「ふぁぁっ~~」

  私は目を覚まして、欠伸をしながら起き上がった。昨日は久しぶりに酒が入ったためか、いつもより寝起きが悪い。

《お早うございます、艦長。》

 枕元の携帯端末から声が響く。早苗の声だ。

「お早う早苗。」

 私は早苗に挨拶して立ち上がった。

――うわ、けっこう酷くはだけてるわね――

 酒が入ったためか、自分の寝相はけっこう悪かったらしい。特に胸元なんかはサラシが丸見えだ。

《ふふっ――そんな格好だと、狼さんに襲われちゃいますね。》

――この子、どこでそんな知識仕入れてくるのよ・・・――

 私は変な方向に走る早苗を無視して、携帯端末を持ってはだけた寝間着を直しながら洗面台の元へと向かい、冷水で顔を洗って目を覚ます。

「そういえば昨日は風呂に入ってなかったわね。」

昨日はずっと酒盛りだったので、風呂に入ってなかったことを思い出した。なので私は朝風呂に入ろうかと思って、神社の裏手に回る。神社の間取り自体は博麗神社と変わらないので、風呂はそこにある筈だ。

「あ、機械になってるのか。まぁ、当然よね。」

博麗神社の風呂は昔ながらの五右衛門風呂で、沸かすには薪が必要だったが、ここの風呂はどうもこの世界で普及しているタイプのものらしい。湯を機械で沸かすタイプのものだ。ちなみに五右衛門風呂といえば鉄桶でできた風呂を思い浮かべるが、正しくは底面が鉄のものを五右衛門風呂、一般的に思い浮かべるられる鉄桶のものは長州風呂というらしい。

「早苗、これの沸かし方分かる?」

この機械は弄ったことがないので、早苗に使い方を尋ねる。

《はい。ここのボタンを押して機械を起動させて、このパネルで温度を設定して給湯のボタンを押せば勝手に沸きますよ。沸いたら音で知らせてくれます。》

「ありがと早苗。」

私は教えられた通りに機械を操作して風呂を沸かす。沸くまでの時間は特にすることが無いので、その間に体を洗ってしまおうと考えた。

「じゃあ私は風呂が沸くまで体を洗ってるから。」

《はい、どうぞごゆっくり。》

私は携帯端末を置いて、寝間着を脱いで畳み、風呂場に入る。なんだか早苗が"私も入りたいなー"と呟いているのが聞こえた気がするが、気にしない。風呂場もどうやらこの世界で普及しているものらしく、プラスチックと陶器で出来ていた。浴槽は博麗神社の風呂とは違って広々としており、体を伸ばしながら入れそうだ。

「ふーん。中々快適そうじゃない。」

 博麗神社のものと比べて快適そうな風呂に感心しながら、私はシャワーを浴びて身体を流した。

 

 ~少女入浴中~

 

《艦長、お湯加減どうでしたか?》

「ええ、中々気持ちよかったわ。」

 待たせていた早苗が尋ねてくる。入ってみた感想だが、ここの風呂も中々良いものだと思う。身体を伸ばせるというのは幻想郷では温泉に行かなければ出来なかった事だが、ここでは毎日出来てしまうのだ。

「でもこれを毎日、だとちょっと贅沢よね。」

 私は素直な感想を述べる。つい最近まで幻想郷で暮らしてきた身としては、当時の外の世界を上回る生活水準で暮らせることはかなり贅沢に感じた。

《えっ、これで贅沢なんですか?一般的な惑星の生活水準と同程度だと思うんですけど。》

――まぁ、この世界の人の水準でいえばそんなとこだろう―――

《うーん、艦長は以前は一体どのような生活をしていたのでしょうか?》

早苗が不思議そうに訊いてくる。そういえば、昨日は生活関連の話はしてなかった。

「機会があれば教えるわ。」

私は早苗にそう答えて、身体を拭いて艦長服に着替える。この艦長服は、空間服を元にして博麗の巫女服の意匠を取り入れたものだ。表面上は空間服に比べて余剰な布や露出が多いが、空間服としての機能は失われていない。

《あ、艦長、サナダさんから連絡が入っています。研究室に来てほしいらしいです。》

「朝っぱらから何なのよ。」

  私が着替え終えたところで、早苗から報告が入る。ちなみに宇宙では当然朝夕の概念は無いのだが、艦内では生活上の理由で朝夕の時間が定められている。自然ドームの時間も、艦内の時間に合わせて変わっている。

「準備したら行くと伝えといて。」

《了解です。》

早苗はサナダさんに返信メッセージを送る。私は風呂場から出ると一旦寝室に戻って寝間着と布団を片付けてから、縁側に置いておいた靴を履いて神社を後にした。

 自然ドームを出るまでは当然だが参道を通る。人工太陽の光が広葉樹の葉を透けさせて明るく照らしている。森の雰囲気や小鳥の囀りもあって、中々心地いい気分だ。これは自然ドームを採用した意義があったなと感じた。

「早苗、これから道案内よろしく。」

《了解しました。》

 自然ドームを出た後は、早苗に携帯端末から艦内地図とサナダさんの研究室までの道程をホログラムで表示させる。この〈高天原〉は1000mを越える大型艦なので、艦内の移動に慣れないうちはこのような案内が必要なのだ。

 私は早苗の案内に従って艦内を移動し、サナダさんの研究室へと向かう。途中何体かのドロイドに出会ったがこちらのことは意に介さずただ自分の仕事を行うだけだった。あれを見ると、早苗が人間臭いAIで良かったなと思う。ああいう下っ端ドロイドならともかく、いつも機械的なAIと一緒にいると疲れそうだ。

 

《着きましたよ、艦長。》

 どうやらサナダさんの研究室の前まで着いたらしい。

「サナダさん、来たわよ。」

 私は扉の横にある呼び鈴を押してサナダを呼び出した。

「おお、来たか艦長。今開けるぞ。」

 サナダさんが返事をすると、扉の鍵が解錠されて開く。私は研究室の中へと入っていく。

「それで、要件ってのは何なの?」

私はサナダさんの姿を探して研究室を見回す。研究室の中は、資料と思われる本が壁と一体の本棚に端正に仕舞われており、机には実験台器具が整頓されていて小綺麗な印象を受ける。ちなみに、サナダさんは人手不足のために医療業務も担当しているので、研究室の隣は医務室に繋がっている。

――あれ、サナダさんと━━━もう一人いる?――

 サナダさんは、中央に置かれた長椅子に腰かけていた。その隣には、見知らぬ少女がちょこんと正座してお茶を飲みながら座っている

「サナダさん、その隣の子、誰?」

私は訝しげに尋ねる。この〈高天原〉には、私とコーディーに、サナダの3人しかいなかった筈だ。

「ああ、呼んだのは彼女のことについてだよ。ほら、まずは自己紹介しなさい。」

 サナダさんに促されて、少女が立ち上がる。私は少女の姿を凝視した。少女の背はどうやら今の私より少し低めのようだ。髪の色は白に近い麦色で、煤がかかったように暗く見える。頭には私のを黒くしたようなリボンをつけていて、瞳は紅色。肌には所々に血走ったような紅い線が走っていて、顔立ちは全体的に幼く見え―━

――私と、同じ顔!?――

  少女の顔立ちは、私と同じ―――いや、今の私を少し幼くしたような顔立ちだった。

――けどこんな奴、幻想郷には――

 頭が混乱する。私は目の前の少女のことは知らない。知らない筈だ。だが、自身の記憶はこの少女を識っていると告げる。その記憶だけ、他人の記憶を覗き見たように実感がない。

「貴女は―――誰?」

 私は少女を見据え、強く訊ねる。

「私は―――霊沙。博麗霊沙だ。」

 少女はきっぱりと、自身の名を告げた。

「彼女は艦長と同じ宇宙船の残骸に倒れていたところを私達が救助した。だが、彼女の方は怪我が酷くてな。今までリジェネレーションポッドに入れて治療していたが、つい先程目を覚ましたので、艦長を呼んだ訳だ。ところで艦長、彼女のことは知らないのかね?勿論、生前も含めてだ。」

サナダさんが私に訊いてくる。生前とは、幻想郷で過ごした時代のことだろう。サナダさんにはコーディ同様に生前の話もしているので、彼は知っている。

「いや、知らないわ。」

私は明確に答える。

「へぇ、知らないのか。前世は他の妖怪連中とグルになって寄って集って私を封印してくれた癖に。」

少女――霊沙は剣呑な雰囲気を漂わせる。

「私が知らないのは本当よ。私の姿をした妖怪が起こした異変なんて、私の経験にはそんなもの無いわ。」

 霊沙から漂う雰囲気は、姿は私であれ妖怪そのものだ。それに、寄って集って封印されたという話では、彼女は何らかの異変に関わっていた可能性が高い。

「ほんとうに知らないんだな。」

霊沙は私を睨み付ける。

「まぁ待ちたまえ。そう邪険にするな。君と艦長とでは、前世が違ったのだろう。」

サナダさんが割って入る。

「どういう事だ?」

「言葉通りの意味だ。艦長は本当に君のことは知らないのだろう。これは私の仮説だが、君の前世の世界と艦長の前世の世界は、それぞれパラレルワールド、つまり似たようで違った世界なのではないかな?」

サナダさんが解説する。サナダさんは私という前例があるので、目の前の霊沙の話にも別に驚きはしないのだろう。

「ふん、まぁそういう事にしておいてやる。」

霊沙は納得したようだが、どこか不機嫌そうな態度のままだ。

「サナダさん、それってこの子は私と同じような存在で、私とは違う幻想郷から来たって解釈でいいのかしら?」

「ああ、それで構わない。」

どうやら、サナダさんの話によると彼女は私と同じように、幻想郷で封印されたと思ったらなぜかここにいた、という事らしい。

「あんたの話は分かったわ。それより、この子どうするの?」

 私はサナダさんの顔を見据える。

「それは艦長の仕事だろう。私の関知するところではない。私はただ怪我人を治しただけだ。」

 サナダさんは霊沙への対応を私に丸投げした。確かに、艦に誰を乗せるのかといった仕事は艦長の仕事なのだが―

――ああもう、どうすればいいってのよ――

 私は改めて霊沙を見る。妖しい雰囲気こそ纏ってはいるが、流石に艦外に放り出すというのは可哀想だ。

「ねぇ、あんたがいいって言うなら艦に乗せてあげない事もないわよ。騒ぎを起こさなければって条件付きだけどね。どうせ他に頼る当てなんて無いでしょ?」

 霊沙はきょとんとした目で私を見つめるが、直ぐに不機嫌そうな目付きに戻った。

「良いのかよ。オマエから見たら私は妖しい妖怪なんだろ。今の私は人になってるみたいだけどな。」

霊沙は皮肉気に答える。

「安心しなさい。別に今の私は博麗の巫女って訳じゃないんだから、問答無用で封印したりなんかはしないわ。尤も、艦長ってのは艦と乗組員に責任を負うものだから、言った通り騒ぎを起こせば話は別になるけど。」

私は霊沙を凝視する。

「ああ、それで良いよもう。オマエを食い千切るのは我慢してやるよ。」

霊沙は自身の中で納得したようだ。なにやら剣呑な言い回しだが、理性はあるようなので安心した。雑魚妖怪のゴロツキ共みたいに問答無用で襲ってくるのであれば、本当に艦外追放しなければならないからだ。本当は人手不足な艦の運行を手伝ってほしい所だが、彼女の私に対する感情を考えると今は止めたほうがいいだろう。

「納得して頂けたようね。それじゃあ、艦橋に案内するわ。ついて来なさい。」

私は霊沙に艦橋まで来るように言う。これから艦で過ごすなら、コーディにも紹介した方がいいだろう。

「わかったよ。それじゃ、サナダさんといったか。世話になったな。礼は言っておくぞ。」

「ああ、仲良くやれよ。」

 霊沙は研究室を出る前に振り向いてサナダさんに一礼してから研究室を後にした。

――へぇ、以外と根は素直なのね――

霊沙は口は悪いが、性格まではそうではないらしい。私に対しては分からないが。

「じゃ、邪魔したわね、サナダさん。」

私もサナダさんに一礼して研究室を後にした。

 

 

「なぁ、サナダから聞いたんだが、ここは宇宙なんだってな。」

「ええ、そうだけど、それがどうしたの?」

 廊下を移動していると、突然霊沙が話しかけてくる。

「いや、私とて興味がない訳ではないんだ。できればこのまま宇宙ってのを見て回りたいって思ってる。」

研究室での剣呑な雰囲気が嘘のように、霊沙はしおらしく話す。

「だからな・・・オマエさえ良ければ、私をここに置いて欲しい。乗員として扱ってくれても構わない。」

霊沙は私に申し出た。尤も、"オマエの下でってのは気にくわないが"と付け足していたが。

「それなら願ったり叶ったりね。生憎うちの人手は火の車だから、人手が増えるのは助かるわ。」

私はあっさりとこれを承諾した。現状乗組員が私含めて3人なので、乗組員が増えるのは大歓迎だ。それに、どうも霊沙は根は悪い訳ではないようなので、何とか付き合っていけるだろうと踏んでの判断だ。

「わかった・・・ありがと。」

霊沙は顔を反らして、不器用に礼を言う。私のことを嫌っていたようなので、素直に礼を言うのは抵抗があるのだろう。しかし、嫌いでも礼を言うあたり、根はまっとうな性格に思える。前世では一体何をして封印されたのだろうか。

「さて、そろそろ着くわね。」

私達は艦橋に通じるエレベーターの前まで辿り着いた。エレベーターに乗って、第一艦橋へ向かう。

エレベーターを降りると、私達はコーディの下へと向かった。

「おっ、その様子だと、目が覚めたようだな。」

コーディーは、既に霊沙の顔を知っていたらしい。恐らく、サナダさんと一緒に彼女を搬送したのだろう。

「私は博麗霊沙といいます。助けて頂いたことには礼を言います。ありがとうございました。」

霊沙はコーディーに頭を下げた。

「あんた、性格変わってない?」

私は霊沙に疑問をぶつけた。

「初対面の人にいきなり無礼な話し方は出来ないだろ。私とてそこは弁えている。」

どうも霊沙は私が思う以上に良くできた子らしい。不機嫌そうな表情は崩さないままだが。

「ああ、回復したのなら何よりだ。ところで、君のことは何と呼べばいいのかな?」

コーディーが尋ねた。

「霊沙で構いません。それと、以後は乗員としてこの艦でお世話になります。」

「了解だ。それじゃあ霊沙といったな、これから宜しくだ。そして俺はコーディだ。好きなように呼べ。」

「はい。宜しく御願いします、コーディ。」

霊沙がコーディに返事をする。2人の自己紹介は終わったようだ。

「しかし、これが宇宙なのか?地上から見上げたものとは随分違うな。」

霊沙は窓の外を見て呟く。

「いや、それは宇宙じゃなくてハイパースペースだ。ワープ、超光速移動中はこの空間に入っている。」

 コーディが霊沙の疑問に答える。

 厳密には、光速の200倍を誇るi3エクシード航法も超光速移動と呼べるのだが、ハイパードライブでワープすれば移動に係る所用時間はi3エクシード航法に比べて遥かに短縮される。厳密には、10000倍ほど早く移動できる。単純計算で、1年で約200万光年進める訳だ。だが、そう上手くはいかず、ワープ距離が10万光年以上になると、その速さはi3エクシード航法の1000倍まで落ちる。元々そんな長距離の移動に適していないシステムだからだろう。それでも充分速いのだが、この速さを持ってしてもヤッハバッハの勢力圏から抜け出すには途方もない時間がかかる。なので、超光速移動にタイムラグが生じず、尚且つ長距離をワープできるボイドゲートを活用する必要が出てくるのだ。

「もう少ししたら宇宙空間に出るから、それまで我慢してな。」

「はーい。」

 霊沙は納得して近くの席に腰掛けた。

 

  それから凡そ2時間、特にすることもなく私は艦長席で過ごした。霊沙の配属場所を考えはしたのだが、適正がわからないのでとにかくシュミレーター室で射撃や操縦の訓練を受けることを提案した。彼女は戦闘はともかく、整備や研究には向かないだろう。そっち方面は知識の蓄えがないと出来ないからだ。それに、教えられる人材も艦にはいない。もしかしたらサナダさんは教えられるかもしれないが、あの人は自身の興味が向くこと以外はしなさそうな雰囲気だ。同時に艦内の移動に必要な携帯端末も渡しておいた。霊沙はそのあとシュミレーター室に飛んでいったが、もうすぐワープアウトすると聞いて再び艦橋に上がってきている。サナダも研究室から艦橋に上がってきた。

《間もなくワープアウトします。》

早苗が報告する。

〈高天原〉は青白いハイパースペースから抜け出し、漆黒の宇宙空間へと姿を現した。

《通常空間を確認しました。ワープアウト成功、予定航路との誤差、0,0043です。リランカ星系、惑星ラサス軌道周辺宙域に到着、後続艦にも異常ありません。》

早苗がワープ完了を告げる報告を読み上げる。どうやら、無事にワープできたらしい。

《周辺宙域のスキャン開始・・・敵影はないようです。》

「よし、このまま予定通りに進もう。」

 ハイパースペースを通過中にした打ち合わせでは、この惑星ラサス近傍宙域に到着後、恒星を挟んで反対側の巨大ガス惑星の重力圏を抜けるまで通常空間を航行し、そこから再びワープでコーバス星系を目指す予定となっている。

「敵がいないなら、安全に進めそうね。でも周辺の警戒を怠らないで。」

私は早苗に警戒を続けるよう命じた。敵艦が惑星の背後に隠れている可能性も捨てきれないし、デブリがあれば資源と金に変えることができる。資源小惑星があれば一気に数百から2000Gほどの収入が見込める。ちなみにG(ガット)とはこの世界の通貨だ。1Gは1000C(クレジット)からなり、パン一つ買うのに凡そ20Cほどかかる。2000Gあれば、艦船の建造は無理だが駆逐艦クラスの小型艦の内装をある程度整えることができる。艦船を建造するには、通常1~5万Gほどの金額が必要だ。

《了解しました。周辺スキャンを継続します。》

早苗は命令に従ってスキャンを続ける。

「これが宇宙か。幻想郷で見るよりも星が多いな。」

 霊沙が感心したように呟く。幻想郷でも外の世界に比べたらずっと星は見えるのだが、宇宙から直接見た方が大気の影響を受けないので、天体の光を直接観測することができる。なので、惑星上より宇宙で見た方が星が良く見えるのだ。

「おっ、あそこに何だかでかいのが見えるぞ。」

霊沙は艦橋の左側、第二艦橋の上に見える渦状銀河に注目した。

「あれはアンドロメダ銀河だ。見る分にはいいが、あそこはヤッハバッハの一大拠点。下手に行けば捕まってブタ箱行きだな。」

サナダさんが霊沙に説明する。

「へぇ、あそこが敵の本拠地って訳か。殴り込まないのか?」

霊沙が私を見る。

「馬鹿言いなさい。私達は自由を求めてヤッハバッハから逃げてるのよ。わざわざ捕まりになんて行かないわ。」

私は霊沙にそう返した。

――確かに、見る分には綺麗なんだけどね――

私はアンドロメダ銀河に目をやると、すぐに艦長席のコンソールに目を落とした。

すると、レーダー画面に、小さな輝点が表示される。

「ん、早苗、ここに何かない?」

《はい?えっと、詳細にスキャンしますね―――――はい、確かにありました。本艦の左舷前方、10時の方向980MLの宙域にデブリの反応があります。》

――おっと、これは幸先が良いかも――

 私はデブリ発見の報告を受けて、そこへ向かうよう命令する。

「艦隊は捕捉したデブリへ向かうわ。全艦取り舵。詳細な調査をお願い。」

《了解しました。》

〈高天原〉と〈サクラメント〉はスラスターを噴射して回頭し、デブリへと向かう。

「艦長、デブリの詳細が判明した。比較的原型を留めているのがヤッハバッハのブラビレイ級航空母艦。他は恐らくダルダベル級とブランジ級と思われるが、損傷が酷くて判別できない。」

サナダさんがスキャン結果を見て報告する。恐らく戦闘かなにかで撃沈されたあと、ここまで流されてきたのだろう。

「ブラビレイ級に〈サクラメント〉を接舷させて調査ドロイドを派遣するべきだと考えます。」

サナダさんは原型を留めているブラビレイ級ならリサイクル可能な資源が得られそうだと踏んで、工作艦〈サクラメント〉を接舷させることを提案した。

「許可するわ。」

私はサナダの提案を了承する。ヤッハバッハの追撃がない内に、金になるものは回収しておきたい。〈サクラメント〉とこの艦に積み込まれた資源があれば数ヶ月の長距離航海は可能だが、今後のためにも資金は確保しておきたかった。

《では〈サクラメント〉に命令を送ります。》

早苗が〈サクラメント〉にブラビレイ級への接舷と調査を命じ、〈サクラメント〉はブラビレイ級に近づいていく。ある程度まで接近すると〈サクラメント〉はメインエンジンの出力を下げてサイドスラスターで位置を調整し、デブリとなったブラビレイ級に損傷を与えないよう慎重に接舷する。

「接舷完了。調査ドロイドを送るぞ。」

 〈サクラメント〉の側面ハッチからから小さめのロボットが大量に吐き出され、ブラビレイ級の中に入っていく。それから30分ほど経過すると、〈サクラメント〉から詳細なデータが送られてきた。

「艦は全体の約6割を再生可能。残念ながら金になるメインエンジンはイカれているな。使えそうな部品だけ剥ぎ取っておこう。」

サナダさんはデータを一瞥すると回収する資源を決めて、〈サクラメント〉に命令を出した。私はこのことに関しては専門外なのでサナダさんに任せている。

 サナダさんの命令を受けとると、 ロボットがブラビレイ級の艦内から部品を運び出して〈サクラメント〉の艦内に戻っていき、〈サクラメント〉はクレーンを展開してブラビレイ級を解体し、解体によって生じた資材もロボットが運び込んでいく。それも40分ほどすると作業は完了し、〈サクラメント〉はブラビレイ級の残骸から離れていく。

「これでデブリの回収は終了だな。」

作業を確認していたサナダさんは、作業の終了を報告する。

「分かったわ。元の航路に戻るわよ。両舷全速。」

「了解。両舷全速。」

舵を握るコーディが命令を受けて艦を元の航路へ進めていく。

 それからは特に何もなく、艦隊は無事に巨大ガス惑星を抜けてワープ予定地点まで到着した。

《機関に異常なし。ワープ準備完了です。》

早苗が報告する。

「ワープに入る。各員準備して。」

私はワープを命じ、次の目的地であるコーバス星系を目指す。

全員席につき、ワープ準備が完了した。

「ワープ!」

 私の命令と共に〈高天原〉は再びハイパースペースへと飛び込み、青白い空間に包まれた。

 

 




今回登場したオリキャラ?の博麗霊沙ですが、見た目は禍霊夢です。口は悪いですけど可愛い声で喋ります。本家の禍霊夢に比べて大分いい子になってると思います。名前を考えたのは、禍霊夢だと混乱しそうだからです。禍たん可愛いよ。
またゲーム中の通貨より下の単位を設定しました。ゲーム中の救急箱等の値段と艦船の装備の値段がつりあわないと感じたので、日用品などの値段を下げるためにGより下の単位を捏造します。

下記は霊夢艦隊の艦の能力をゲーム内の数値で表したものです。括弧内はモジュールによる増加分です。

*ヴェネターⅢ級 巡洋艦 〈高天原〉
全長1137m、全幅548m、全高276m
耐久度:4640(1200)
装甲:83(18)
索敵距離:24700(7700)
対空補正:40(2)
対艦補正:57(12)
機動力:61(21)
搭載機:44機

サナダが古代異星人の遺跡から発見した設計図を元に改良を加えた艦。空母に匹敵する艦載機数と重巡洋艦並の攻撃力を持つ。長期航海を想定し、艦内には各種娯楽設備や倉庫が設置されている。ヤッハバッハから逃れることを想定し、速度や機動力は高めに設計されている。


*アクラメーター改級 工作艦 〈サクラメント〉
全長752m、全幅460m、全高188m
耐久度:4000(1200)
装甲:83(18)
索敵距離:19000(4000)
対空補正:39(4)
対艦補正:10(0)
機動力:35(10)
搭載機:24機

〈高天原〉同様、サナダが遺跡から発見した設計図を元に建造された工作艦。長距離航海を支えるための補充部品を生産し、その原料となる資源を貯蔵する能力を持つ。軽巡程度の武装を持つが、迎撃用のパルスレーザーを除いて牽制用である。ヤッハバッハからの逃走を想定しているので、例え倉庫に物資を一杯詰め込んだとしても〈高天原〉に追従可能な速力を発揮可能。


霊夢の艦長服のラフ画を挿入しておきます。描く上でイメージしたのがにがもん式霊夢のため、少しロリっぽいです。腰の刀はスークリフ・ブレードです。

【挿絵表示】


7/10追記:ハイパードライブの設定を修正。


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第七話 共和国の亡き宇宙(そら)

 ~コーバス星系~

 

 ここコーバス星系は、居住惑星もなく、めったに船が立ち寄らない、ヤッハバッハ領の中でも最辺境に位置する惑星である。

 そんな星系で、3隻の宇宙船が互いにレーザーを放ち、火花を散らしていた。一方は1隻で、灰白色の船体に赤いラインが入った100m吸の小型艦だ。もう一方は細長い緑色の長方形状の艦体を持つ300m級の艦が2隻。両者は互いにレーザーを撃ち合っているが、前者の方は所々から煙が立ち上っており、圧倒的に不利なように見える。

 紅白の艦は持ち前の足の速さを生かしながら戦場からの離脱を図っているのか、緑色の艦隊の周囲を縦横無尽に飛び回る。

 しかしそれを易々と許す相手ではないようで、両者の間の攻防は一進一退を極めていた………

 

 

~銀河共和国宇宙軍所属 カンサラー級クルーザー/チャージャーc70改造艦 ”アイアン・シージ ”~

 

「チッ…………帝国から逃げたと思えば、何なんだこいつらは」

 

 紅白の小型船のブリッジで、操舵席に座る装甲服を纏った男が悪態を吐く。

 

「焦るなエコー。幸いまだ重要な区画には被害が出ていない。機を見て逃走できる」

 

 その横で、別の男が砲を操作しながらエコーと呼ばれた男を落ち着かせる。

 

「そうは言ってもよ、こっちは1人怪我してるんだ。只でさえ乗員が少ないのに、これ以上被害が出るのは不味いだろ」

 

 楽観的な彼に対して、エコーが抗議する。

 

「待て、レーダーに新たな反応だ」

 

 ブリッジの最前列の席に座り、レーダー管制を担当していた別の男が報告した。

 

「今度は何だ、ファイヴス!」

 

 エコーが尋ねる。

 ファイヴスと呼ばれた男は冷静に、レーダーの情報から得られた現状を報告した。

 

「何かがジャンプしてくる。でかいぞ」

 

 ファイヴスはレーダー画面を睨みながら、何かがワープアウトする兆候があると告げた。

 

「おい、後方から艦がジャンプしてきた。ヴェネター級だ!」

 

 キャプテン・シートらしき艦橋中央の座席に座る紅白にペイントされた装甲服を纏った男が席を立って、ガラス越しに後方を覗き見る。

 彼が目にした艦影は、彼等にとっては最悪なことに()()()()()()ものだった。

 

「何! ヴェネター級だと!」

 

「チッ、追手か!」

 

 声を荒げて、遠吠えのように悪態を吐く男達。

 ブリッジの中に、言いようのない確固たる絶望が広がる。自分達の前にいる正体不明の敵艦でさえ手こずっているというのに、後ろから新たな敵が現れたと感じたからだ。

 

 ―――ヴェネター級スター・デストロイヤー。

 

 彼等の母国、銀河共和国が建造した主力戦艦。

 しかしその共和国軍は一部を除き銀河帝国軍と名を変え、冷徹な皇帝の執行者と化した。

 帝国を認めず、共和国軍兵士としての立場を保っていた彼等は、忽ちのうちに追われる側となったのである。

 なので、彼等が後方から現れたヴェネター級艦を敵と誤認するのは仕方ないことであった。

 

「ヴェネターより通信だ」

 

 ファイブスが報告する。

 

「…………何と言っている?」

 

 エコーが尋ねた。

 敵と思われる戦艦から通信。どうせくだらない降伏勧告だろうと思って読み上げを命じたエコーは、直後にその予想を斜め上もいいところで裏切られた。

 

「《我ハ貴艦二敵意ハナイ。此ヨリ貴艦ヲ援護スル》と言っているが…………」

 

 ブリッジが、沈黙する。

 後方にワープアウトしてきた艦は、どうやら敵ではないようだった。

 ファイブスが通信を読み上げた後、艦の横をレーザーの光が通過していく。レーザーは前方にいた緑色の艦のうち1隻に命中し、緑色の艦は火を吹いた。

 

「なるほど。嘘偽りではないらしい。だとしたらブリュッヒャー本部長が寄越した艦か?」

 

「しかし妙だな。救国軍事会議の所属艦ならIFFに応答がある筈だが…………」

 

「問題なのは、あれが帝国ではないということだ。そんなことはどうでもいい、とにかく今は目の前の敵を撃破するんだ」

 

 敵でないのなら好都合だとばかりに、エコーは眼前の不明艦への攻撃を命じた。

 

「よし、ここから反撃だ」

 

 砲手の男は後方に現れた艦の砲撃で損傷した敵艦に照準を合わせ、主砲を放つ。レーザーは緑色の艦の弱った部分に直撃し、蒼い爆発を起こして沈没した。

 

「よし、あと1隻だ。一気に蹴散らすんだ!」

 

 エコーは舵を切って残った1隻に艦首を向けた。もう1隻の敵艦は、後方の艦から砲撃を受けて既に火達磨になっていた。

 

「これで止めだ!」

 

 砲手は残った艦に止めを刺すべく、主砲を発射する。もう1隻の敵艦も爆散した。

 

「なんとか切り抜けたようだな」

 

「ああ、だがこれからどうする?」

 

 エコーが今後の方針を思案する。

 

「再び後ろの艦から通信だ。事情を聞きたいと言っているようだ。ついでに報告するが、後ろのヴェネターのIFFは帝国軍でも、ましてや共和国―――救国軍事会議でもない。未知の信号を発している」

 

 ファイヴスが報告する。

 既知のどの勢力の艦でもないヴェネター級。怪しいことこの上ないが、それよりも興味が勝った。

 

「…………あっちに行ってみるか?」

 

 エコーが後ろの艦とコンタクトを取ることを提案する。

 彼等は後方のヴェネターへの興味以外にも、艦の修理や負傷者の治療など、やむを得ない事情も抱えていた。

 そのこともあって、彼の提案は満場一致で可決された。

 

「ああ、それがいいだろう」

 

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 ………………………………

 

~ヴェネター級艦 ”高天原 ”~

 

 

《ブランジ/P級2隻のインフラトン反応消失を確認。撃沈しました》

 

 〈高天原〉のブリッジ内で、早苗が報告する。〈高天原〉は、ハイパースペースを出てすぐに艦の前方で不明な小型艦とヤッハバッハが戦っているのを捉え、ヤッハバッハを攻撃していた。

 

《なお前方の不明艦も、こちらと合流することに同意したようです》

 

 ブリッジの外を見ると、ヤッハバッハと戦っていた不明艦が〈高天原〉とランデブーを図ろうと向きを変えていた。

 

「分かったわ。ところでコーディ、あれを見たとき何か言っていたけど、何かわかるの?」

 

 艦長席に立っていた霊夢が尋ねた。

 

「ああ、あれはカンサラー級クルーザーだ。俺達が昔いた軍隊で使われていた小型の汎用艦だ」

 

「成程、そうしたらあれも古代異星文明の艦ということか。これは興味深いな」

 

 コーディの説明に耳を傾けていたサナダは、接近してくるカンサラー級を見つめながら感心したように呟く。

 

「つまりコーディと同じ時代の船ってことね。それと、サナダさん、調査するのはあっちが許可してからにしなさいよ」

 

 霊夢はサナダを窘める。

 この知的好奇心の塊とも言うべき男は、しっかり手綱を握っていなければ何をしでかすか分からない。共に過ごした短期間で悟った真理だ。

 

《不明艦より通信、接舷許可を求めています。負傷者が居るようなので、医療要員の援助も求めています》

 

「まずあっちの人数を聞いてくれない?」

 

 霊夢は早苗に、不明艦の乗員数を訊くように命じた。万が一相手が大人数で、艦を乗っ取られでもしたら困るからだ。そのようなことはないとは思うが、この宇宙は弱肉強食の世界。何が起こるか分からない。

 

《了解。――――――どうやら相手は6人、負傷者は1名のようです》

 

 早苗から報告が入る。

 霊夢は下顎に指を置きしばし吟味する素振りを見せた後、彼等の乗艦を許可することに決めた。

 

「許可すると伝えて」

 

 霊夢から接舷許可を得たカンサラー級は〈高天原〉の艦底に回り込み、ドッキングポートに接舷した。

 

「それじゃあ、私は彼等を出迎えるわ。コーディは私についてきて。貴方がいた方が色々話しやすそうだからね」

 

「イエッサー」

 

 コーディは霊夢の後に続く。

 

「それと霊沙は艦橋で待機していて。相手に負傷者がいるみたいだから、サナダさんは医務室で待機ね」

 

「わかった」

 

「了解だ」

 

 霊沙は命じられた通り艦橋で待機し、サナダは一足先に艦橋を出て医務室に向かった。霊夢とコーディは、カンサラー級の乗員とコンタクトを取るべくドッキングポートに赴いた。

 

 

 ドッキングポートに着いた霊夢達は、不明艦の相手を出迎えるべくエアロックで待機していた。此方が準備できたと伝えると、エアロックが解放され、相手の船から6人の人間が下りてくる。内一人は仲間の肩に担がれて歩いている。恐らく報告にあった負傷者だろう。相手は皆一様な装甲服を着込んでいるが、装甲服に描かれているラインの色や模様はそれぞれ異なっている。それらの装甲服のデザインはコーディが着ているものと同じだと霊夢は気がついた。

 

「ねえコーディー、この人達貴方のお仲間かしら?」

 

「どうやらそのようだな。何故共和国のトルーパーがここにいるのかは分からないが」

 

 霊夢の問いに、コーディが答える。

 銀河共和国の生き残りは自分一人。まさか己のようなレアケースはそう何人もいないだろう。

 そう思っていたコーディだったが、その認識が間違いだったと思い知らされた瞬間だった。

 

「この度は危ない所を助けて頂いてどうもありがとう。俺達は共和国軍の兵士で、帝国から逃れてきたところだ。俺はエコー、隣のこいつはファイブスだ」

 

 エアロックで先頭を進んでいたエコーが挨拶する。エコーに紹介されたファイブスも頭を下げる。両名とも、青いラインが入った灰白色の装甲服を着用している。

 

「私はこの艦の艦長をしている博麗霊夢よ。こっちはコーディ。立ち話も難だから、まずは応接室に案内するわ。詳しい話はそこでしましょう」

 

 エコーが名乗るのを見て霊夢も自己紹介する。

 

「紹介された通り俺はコーディという。見ての通り、お前達と同じ共和国の兵士だった。今は故あってここで世話になってる」

 

 霊夢に続いて、コーディーが自己紹介する。

 そんな彼の様子を見て、青いラインが入った装甲服を着込んだ二人の兵士は驚愕に囚われたかのように、装甲服の上からでも分かるほど仰天した姿勢を見せる。

 

「コーディ? あのコーディなのか!? 何故こんなところに………」

 

「まさか、生きていたのか?ウータパウから逃げてきた〈ガーララ〉にお前の姿が無かったものだから、つい………」

 

「あー………そのことなんだが、話せば長くなるんだ。また今度にしてくれ」

 

「ごほん、一先ずそのことは置いておこう。エコー、ファイヴス、下がれ。俺はフォックス、こいつは工兵のチョッパーだ。宜しく頼む」

 

 どうやら、コーディと青い装甲服の男達は知り合いらしい。二人はコーディから事の経過を聞き出そうと躍起になるが、それをフォックスと名乗った男が諌めた。

 彼は場の空気が流れることを嫌って先に自分達の自己紹介を済ませてしまおうと思ったのだろう。チョッパーとともに霊夢への挨拶を終えた彼は、先ず負傷者を彼女達に預けようと考えて、後ろに控える兵士に自分達の境遇を説明させようと発言を促す。

 因みにフォックスは船では銃座に着いていた男で、こちらは赤いラインの装甲服を着用している。チョッパーは艦の修理を担当していた男で、装甲服は無地で白色だ。

 

「俺は衛生兵のジョージだ。報告した通り、こっちには負傷者がいる。まずはこいつを搬送したい。この怪我をしている奴はタリズマンだ」

 

 衛生兵のジョージは、肩を貸している仲間を治療させるために、霊夢達に助力を求めた。タリズマンは怪我のせいかぐったりしている。

 

「こっちも受入の準備はできているわ。医務室なら今から案内する。どのみち応接室は医務室の先を抜けないと着かないからね。じゃあ、話の前にまずはこっちに付いてきてくれるかしら?」

 

「ああ、わかった。しばらく世話になるな」

 

 霊夢に同行を求められたエコー達はこれを快くも了承し、一行はエアロックを後にした。

 

 エアロックを離れた一行は一先ず医務室にジョージと負傷兵のタリズマンを預け、無機質で清潔感の溢れる一室───応接室に辿り着いた。

 この艦初の来賓として案内されたエコー達は自らの軍艦と〈高天原〉の内装を比較しているのか、どこか落ち着きがない様子で視線を四方に泳がせている。

 そんな様子の彼等を霊夢はとりあえずソファーへと促して、対面する形で席につかせた。

 

「ところで艦長さん、さっきからクルーをあまり見かけないな。見かけてもドロイドだ。この艦はクルーが少ないのか?」

 

 ヘルメットを脱いで応接室のソファーに腰を下ろしたファイヴスが、一呼吸置いて自らの気分を落ち着かせてから霊夢に尋ねる。

 彼は自分の知るヴェネター級と比べてクルーが遥かに少ないことを疑問に思い、霊夢にそれを訊いたのだ。

 

「うちは色々あって人間は4人しかいないわ。後はドロイドと、自動操縦ね」

 

「そいつは大変だな」

 

「そうね。もっと人手がいてくれれば良いんだけど。さて、着いたわ。じゃあまずそこに腰掛けて頂戴。立ち話も難だからね」

 

 霊夢の回答を得たファイヴスは、彼女の気苦労を悟って労いの言葉を贈る。本来のヴェネター級艦に詰めていた人数を知る彼からすれば、このクラスの艦を僅か数人で動かすこと自体相当な労力がかかると知っていたからだ。

 

「それじゃあ早速本題ね。貴方達は何処から来たのかしら? 大体の予想はつくけどね」

 

 ファイヴスの疑問に応えた霊夢は、次は此方が質問する番だとばかりに声色を尖らせて尋ねる。

 

「俺達は言った通り共和国軍の兵士だった。その後継の帝国に嫌気が差して逃げてきたところ、船のハイパードライブが故障してこの星系に出だ。そしてあの緑色の艦隊に襲われたところ、あんた達に助けられた訳だ」

 

 エコーは自分達がこの星系へ来た経緯を、かいつまんで簡単に要約しながら話す。

 詳しく話せば長くなること間違いないが、そもそも銀河帝国も共和国のことも詳しく知らないだろう目の前の少女にそれを話したところで、余計に話が拗れてややこしくなることは目に見えていた。

 故に、エコーは遭難の経緯をぼかしながら説明した。

 

「そう。ところで───今は貴方達の時代から数万年進んでるって言ったら信じるかしら?」

 

「何?」

 

 突拍子もない霊夢の質問を受けて、エコー達が顔をしかめる。

 

「驚かないで聞いてくれ。この時代は俺達がいた時代から何万年も後の時代だ。もう共和国も帝国も存在しない。あるのはその遺跡だけだ」

 

 霊夢の話を補足するためか、彼女の隣に腰掛けたコーディがエコー達にゆっくりと語りかける。

 

「それじゃあ…………俺達はタイムトラベルしたとでもいうのか!?」

 

 フォックスが、強い口調で目の前の二人を問い質す。

 共和国には戻れない。

 その事実は、彼等漂流者のトルーパー達の精神を大きく揺さぶっていた。

 

「信じられないと思うが、これは事実だ。これを見てほしい」

 

 コーディーテーブルの上に携帯端末を置き、映像を表示する。

 

「これは、カミーノか?」

 

 映像に映されていたのは、現代のカミーノを始めとする共和国や帝国の遺構の数々だ。その多くは、コーディーが霊夢を拾う前に、サナダと2人で銀河を回っていた頃の記録だ。

 

「そんな、カミーノが…………どうやったら、こんなに荒廃するんだ?」

 

 映像を見たエコー達は、自分達が知るカミーノの姿と、映像の中の風化しつつあるカミーノの構造物を比べて呟いた。

 

「これで分かっただろう。見ての通り俺達の時代は遥か過去のものとなった。俺は救命ポッドのエネルギーが切れる直前にある科学者に拾われてここにいる。話の流れから察するに、あんた達はハイパードライブの事故でこの時代に飛ばされたんだろう」

 

「じゃあ俺達は、元の時代には戻れないのか?」

 

 コーディの話を受けて、ファイブスが質問する。

 

「恐らくな。こればかりは専門外だから何とも言えんが、お前達だってこんな事例は聞いたことないだろう。───つまり、そういうことだ」

 

 コーディの答えを聞くと、チョッパーが拳を机に叩きつけた。

 

「くそっ! じゃあ俺達はどうやって生きていけばいいんだ?」

 

 エコー達は当然この時代の勝手を知らない。彼等には、見ず知らずの時代で生きていくための知識がなかった。

 

「落ち着けチョッパー。どうやら俺達は知らない未来に飛ばされたらしいことは分かった。じゃあこっちからも一つ聞くが、俺達が戦っていたあの艦隊のことを教えてほしい」

 

 エコーはチョッパーを窘めて、交戦した艦隊について霊夢に尋ねる。

 

「あれはヤッハバッハの艦隊よ」

 

「ヤッハバッハ?」

 

 エコー達は、知らない単語に疑問を抱いた。

 

「ヤッハバッハはここら一帯を支配する帝国で、その領域は複数の銀河系に及んでいる。ついでに航宙禁止法を定めて許可なく宇宙に出る奴は容赦なく取り締まっているわ」

 

 霊夢はヤッハバッハについて解説する。

 

「そしてあの艦隊はヤッハバッハの領域を警戒する哨戒艦隊よ。あの規模なら辺境のパトロール部隊だと思うけど」

 

 続いてエコー達が交戦した艦隊についても説明した。

 知らない彼等に説明するために、らしくなく噛み砕いて分かりやすい説明を心掛ける霊夢。果たしてその努力は叶ったのか、頭の上にクエスチョンマークを浮かべているトルーパーはいない。

 

「そうか。ヤッハバッハってのがそんな連中なら、頼る気には慣れないな。それに俺達は、既にそのヤッハバッハとあろうことか戦火を交えてしまった」

 

 エコーは話を一旦区切って霊夢に申し出た。

 

「俺達はこれから行く当てもない。それにあんたには助けてもらった恩がある。突然だが、ここは一つ、俺達をクルーとして雇ってくれないだろうか?」

 

 エコーは霊夢に自分達をこの艦の乗員として雇ってほしいと申し出た。

 どのみち共和国に戻る術がないのなら、彼女の下で生きるしかない。過去に残した同胞達のことが気がかりではあるものの、今はそれしか選択肢がなかった。

 

「お前達はどうだ?」

 

 エコーは、仲間に確認を取る。

 他のトルーパーも同じ結論に辿り着いていることだろうが、リーダー格だったエコーは念のため訊くことにした。

 

「俺は異存ない」

 

「同じく。幸か不幸か知り合いがいるんだから、少しはやりやすいだろう」

 

「確かに。他に当てもないし、仕方ないな」

 

 ファイブス、フォックス、チョッパーの3人も、エコーが思った通り同意する。

 

「分かったわ。じゃあ貴方達をクルーとして迎えましょう。コーディ、いいかしら?」

 

 霊夢はエコー達をクルーにすることを決めて、コーディーに意見を求めた。

 

「誰を雇うか決めるのは霊夢の仕事だ。それに、彼等なら君の力になってくれる筈だ。俺は異存ない」

 

「じゃあ決まりね。これから宜しくね」

 

 コーディーも同意し、霊夢はエコー達をクルーとして迎え入れる。

 

「ああ、宜しく頼む、艦長さん」

 

 エコーは差し出された霊夢の手を握り、握手を交わした。エコーが手を話すと、4人は霊夢に敬礼する。

 

「ああ、それともう一つ。ここは基本自由だから、昔兵士だったからといってそうする必要はないわ」

 

 0Gドッグは艦内秩序はあるが基本自由である。なので、霊夢はエコー達にそこまで堅苦しくする必要はないと言う。

 

「そうか。なら、そうさせて貰おう」

 

「確かに。堅苦しくするよりこっちの方が楽でいい」

 

 エコー達もそれに同意する。

 

「さてと、それなら先ずは貴方達の部署を決めないとね。何か特技とかないかしら?」

 

 霊夢はクルーになったエコー達の配属先を決めるため、特技がないか尋ねる。

 

「俺とファイヴスは主に白兵戦だな。格闘と射撃なら自信がある。伊達に共和国グランド・アーミー最精鋭を謳われた訳じゃないぜ」

 

 エコーはファイヴスに肩を回し、ファイヴスは右腕で装甲服のまま力瘤を作って見せる。

 かつてエリート部隊501大隊に属していた彼等は、その経歴も誇らしげに語る。

 

「俺は部隊指揮に射撃だ。共和国では、警備部隊の中隊長を勤めていた」

 

 続いて特技を教えたのはフォックスだ。

 

「俺は一般兵だったが、機械弄りが得意だ。ブラスターの修理なら余裕だな」

 

 チョッパーは機械修理が得意なようだ。

 

「あとジョージだが、衛生兵は色々あって機械修理の技術も持ち合わせている。タリズマンはファイターのパイロットだったな」

 

 エコーはこの場にいない2人の特技も説明した。

 

「分かったわ。じゃあ、仮の配属だけど、エコーさんとファイヴスさんは保安隊が良いかな」

 

「保安隊か?」

 

 エコーが尋ねる。

 

「ええ。基本的に艦の秩序維持が仕事だけど。今は人数が少ないから気にしなくていいわ。主にヤッハバッハに乗り込まれた時の白兵戦要員と船外活動要員ね。白兵戦が得意っていうなら当然鍛えてるだろうし、船外活動にも適任だと思う」

 

 霊夢は役職について説明する。

 確かに、白兵戦を主任務としていた自分達には適任だ。

 エコー達はそう自分を納得させ、新しい境遇に向けて気を整える。

 

「わかった。それでいこう」

 

「了解した」

 

 エコーとファイブスは承認する。

 

「フォックスさんは・・・保安隊か砲雷長かな。指揮能力があるなら部隊指揮にも向いているだろうし、射撃が得意なら砲撃の照準にも応用できるかなと思うんだけど」

 

「わかった。それなら暫く兼任でいよう。この艦はクルーが少ないみたいだからな」

 

 フォックスは保安隊と砲雷長を兼任することにした。

 

「チョッパーさんは整備士ね。うちには優秀な科学者さんがいるから、その人の補佐についてくれないかしら?」

 

「了解した」

 

 チョッパーは元々機械整備力が高いため、整備士としてサナダの下に付けられた。

 

「ついでにその科学者はサナダさんって言うんだけど、うちでは医療要員兼任よ」

 

「なら、ジョージとタリズマンには俺が説明しておこう」

 

 霊夢の話を聞いて、チョッパーが申し出た。

 

「そうだな。チョッパー、2人への説明を任せた」

 

「イエッサー」

 

 エコーは、チョッパーに伝令を任せる。

 

「残りの2人はサナダさんのお付きとパイロットがいいと思うけど、希望も聞いてくれると助かるかな」

 

「了解しました、艦長。では、自分は失礼します」

 

 チョッパーは伝令のために立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「ちょっと待って。場所は分かるの?」

 

 霊夢がチョッパーに尋ねた。

 

「はい、艦の基本的なレイアウトは我々の知るものと大差ないようなので大丈夫です。それに、ここへ来る間の道は覚えています」

 

「そう。なら心配いらないわね」

 

 チョッパーはそう答えると、応接室を後にした。

 

「早苗、この人達の登録をよろしく」

 

《了解です、艦長》

 

 霊夢は早苗を呼び出して、エコー達をクルーとして登録するように命じた。

 

「話はこの辺りで終わりかな。まずはブリッジを案内するわ」

 

「分かった。ついて行こう」

 

 霊夢は話を切り上げると、エコー達をブリッジに案内した。エコーは応接室を出ると通信機でチョッパーに連絡し、3人は霊夢の後に続いた。

 

「よう、話は済んだみたいだな」

 

 艦橋で待機していて霊沙は、霊夢達がが戻ってくるのを確認すると霊夢に話し掛けた。彼女は足をコンソールに置いて腕を頭の後ろに回しており、退屈そうにしている。

 

「留守番ありがと。それと霊沙、相手の船のクルーだけど、こっちの仲間になってくれたわ」

 

「どうも初めまして、俺はエコー、これから宜しくな、嬢ちゃん」

 

 エコーを筆頭に、ヘルメットを脱いだ3人が挨拶する。

 

「うおっ、コーディが一杯いるぞ!」

 

 エコー達の顔がコーディと同じことに驚いて霊沙が声を上げる。

 

「彼等は俺の兄弟だ。外見は同じでも、ちゃんと個性はある」

 

 驚く霊沙に、コーディが説明する。

 

「そ、そーなのかー。確かに、服の色とか髪型は違うよな…………」

 

 説明を受けた霊沙は改めてエコー達の姿を見て呟いた。

 

「そういうことだ。ま、改めたよろしくだなお嬢ちゃん」

 

「あ、ああ。私は博麗霊沙だ。よろしく。お嬢さんでも嬢ちゃんでもないぞ」

 

 霊沙は自分がまだ挨拶していないことに気がついて、エコー達に自己紹介する。自分の背丈や容姿を理由に、子供扱いするトルーパーへのささやかな抗議も添えて。

 

 

「しかしまあ、ブリッジはヴェネター級とは大分変わっているな」

 

 フォックスは、ブリッジの中を見回しながら、自分が知るヴェネター級のブリッジと見比べて呟いた。

 

「この艦の各部はモジュール化されてるから、部品には互換性があるのよ。艦橋のモジュールを取り替えれば、他の艦橋を取り付けることも可能よ。それに、この艦は大分改設計されてるから、貴方達が知ってるのとは大分違う部分もあるわ。詳しいことはサナダさんに聞いて頂戴」

 

「そうなのか。思えば、通路に使われている材質も我々が知るものとは違っていたようだな」

 

 ファイブスが、思い出したように呟く。

 霊夢の説明だけで納得したのか、彼等はこれ以上追及することはしなかった。そういうものなのだろう、と時代の差から生じる違和感を振り払う。

 

「そうね。この艦は広いし、さっき言った通り貴方達が知ってるものとは違う部分もあるからね。早苗、あれは用意できたかしら?」

 

《はい。6人分の携帯端末を用意しました。うち3つはサナダさんの下に届けました。残りは艦長席です》

 

 霊夢は早苗を呼び出し、エコー達の分の携帯端末の用意ができたか尋ねる。早苗から場所を聞くと、霊夢は艦長席に向かって携帯端末を3つ取りだし、エコー達に渡した。

 

「それは艦内での通信や艦内マップの表示に使う携帯端末よ。電源を入れれば説明が入るから、それに従って頂戴。ちなみに電源はここよ」

 

 霊夢は自分の携帯端末を取り出し、電源の位置を示しながら説明する。

 

「ありがとう」

 

 エコー達は携帯端末を受け取って、指示された通りに端末を操作した。

 

「さて早苗、周りに異常はあるかしら?」

 

 霊夢は注意を艦橋の外に移して、早苗に異常がないかどうか尋ねた。

 

《はい。本艦は現在コーバス星系の第3惑星、第11衛星軌道を通過中です。付近に異常は見られません。ガス惑星の衛星を調査しましたが、残念ながら有用な資源の反応はありませんでした》

 

 〈高天原〉が航行しているガス惑星の衛星であるが、コーバス星系は元々小さな星系のためガス惑星の衛星も小さく、小惑星並みである。一般的にガス惑星の衛星には資源が多いことが知られているため、早苗は衛星をスキャンしたのだが、どうやら期待外れのようだ。

 

「そう、資源がないのは残念ね」

 

 霊夢は早苗の報告を聞いて肩を落とした。

 

「でもヤッハバッハがいないのは助かるわ。このまま予定通り進みましょう」

 

 霊夢は艦を予定通り進めるよう指示する。予定では、エネルギー節約のために第3惑星でスイングバイ制御を行い艦を加速し第2惑星に接近、第2惑星を抜けてイベリオ星系へワープする手筈となっている。スイングバイとは、天体の重力を利用して、推進材を消費せずに軌道変更と加速を行う、人類が宇宙へ進出して間もない頃から行われていた伝統的な航法だ。

 ちなみに、星系内の移動は障害物が多いため、I3エクシード航法を使わず、さらにヤッハバッハに痕跡を残さないために最低限の軌道修正を除いて慣性航行している。なので、星系内の移動にはそれなりに時間がはかかる。霊夢達はこれとワープを組み合わせて、徹底的に航跡を残さないように図っていた。

 〈高天原〉はかねてからの予定通り舵を切り、スイングバイのためにここコーバス星系の第3惑星へと静かに接近していった。

 



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第八話

お船のゲームのイベントが始まったり、2月の下旬からバイトが入ったりするので投稿ペースが少し遅くなります。


 コーバス星系は比較的小さな星系で、M型主系列星(赤色矮星)の主星を中心として2つの岩石惑星と1つのガス惑星、そして無数の小惑星からなる星系だ。この星系は人類の居住には適さず、惑星をテラフォーミングしてもこのような辺境では利益がないため実行されていない。そんな星系内で、巡洋艦〈高天原〉は加速のために第3惑星の重力によってスイングバイを実行し、そのまま第2惑星へ接近していく。

 第3惑星を通過した〈高天原〉では、艦の統括AIである早苗がレーダーに不審な影を捉えていた。

《艦長、第2惑星の衛星軌道上に不審な反応を捉えました。》

異常を探知した早苗は艦長である霊夢に報告する。

「ここからだと反応の正体は掴めないか。早苗、偵察機は出せる?」

霊夢は艦の現在位置からでは異常の正体を掴めないため、艦載機により偵察を行うことにした。

「艦長、それならいい機体がある。F-17数機を偵察型のRF-17に改装しておいた。あれの探知範囲なら、相手が敵艦でも敵の探知範囲外から補足できる筈だ。」

霊夢の方針を受けて、サナダが新型偵察機の使用を進言する。

「ありがとサナダさん。じゃあ早苗、その偵察機を2機、該当宙域に派遣して。」

《了解です。》

霊夢の命を受けた早苗は、〈高天原〉の甲板上にある艦載機用のハッチを開き、2機のRF-17を発進させる。RF-17は、その名の通りF-17をベースとした偵察機で、F-17の背面に大型の回転式レドームを装備し、機体下部には大型の安定翼が追加されている。現在艦にはパイロットがいないので、艦載機はすべて早苗の制御下で稼働している。

《偵察機発進。接触まで10分ほどかかります。》

「敵の可能性もあるから、各員第2種警戒配備ね。いつでも戦闘に移れるように備えて。」

霊夢は敵の可能性を考慮してすぐに戦闘に移れるよう乗員に命じる。

「了解。」

コーディが席につき、主砲の発射準備を整える。

《艦長、敵の場合は直ぐに戦闘速度に移れるよう、機関の出力を上昇させます。》

「分かったわ。」

早苗は〈高天原〉が接触まで慣性航行で相手に悟られぬよう航行するが、いつでも戦闘速度に移れるように機関の出力上昇のスタンバイに入った。

 そして凡そ10分が経過し、偵察機から詳細なデータが送られてくる。

《反応の正体が判明しました。対称はブランジ級1隻、YT-100型貨物船が6隻。ですがIFFはヤッハバッハを示していません。》

早苗が反応の正体を詳細に報告する。YT-100型貨物船は100m級の小型貨物船で、船首にブリッジを持ち、両舷には翼状に配置された円形の貨物室が接続されている。船尾にはスタビライザーとエンジンを備えている。

「それって、対称はヤッハバッハじゃない、って事でいいのかしら?」

「ああ、それでいい、艦長。早苗、相手の拡大映像を投影してくれないか。」

サナダは霊夢の質問に答えると、早苗に相手の姿をメインパネルに投影するように命じる。

《はい。映像出力します。》

早苗がメインパネルに相手の姿を映し出す。そこには、衛星の裏側に隠れるように密集した船団の姿が映し出された。

「見ろ、このブランジ級は全体的に装甲の劣化が激しいだけでなく、ヤッハバッハ正規軍のものにはない武装や設備が搭載されている。輸送船も半数以上の4隻はエンジンを増設しているのが確認できるな。」

映像を見たサナダは、相手船団の特徴を解説する。

「この映像から判断する限り、相手は海賊の可能性が高い。正規の輸送業者の船ならあんな追加武装は普通は施さないし、第一こんな辺境星系を通らない。」

サナダは、映像と状況から、相手は海賊だと判断した。

「海賊ね。このまま進むと気づかれるかしら。」

《はい。このまま直進して第2惑星に接近した場合、相手船団のレーダー探知圏内に入るものと思われます。ここで転舵しても、慣性航行を中止して通常航行に移行する必要があるのでインフラトン反応が上昇し、相手に気付かれる可能性があります。》

早苗は霊夢に詳細に報告する。

「ここで叩いておくべきでは?艦長。」

艦橋に残っていたフォックスが進言した。

「交戦するなら、先に補足した此方から先手を仕掛けるべきだ。此方なら、艦載機隊を発進させ、アウトレンジから一方的に相手を攻撃できます。」

続いたコーディが、具体的な作戦案を伴って進言する。

「そうね、ここで叩きましょう。全艦戦闘配備。海賊船団をジャンクに変えてしまいなさい。」

霊夢は海賊船団と自艦隊の戦力を比較し、自艦隊が有利であると判断して戦闘準備を命じた。霊夢には、ここで海賊船団をデブリに変えることでジャンク品を回収し、艦隊運営費用の肥やしにしようという思惑もあった。

「了解。全艦戦闘配備に移行。」

 コーディは主砲のトリガーに指を掛けた。

《全艦載機、発艦します。フライトデッキ開放。偵察機はそのまま現宙域に待機させ、攻撃隊の誘導を担当させます。》

〈高天原〉は再び艦載機用のハッチを開放し、早苗が操る戦闘攻撃隊が発艦する。

《全艦載機発艦。接敵まで約15分です。》

早苗が報告する。

 攻撃隊はそれなりの規模なので、海賊船団は流石に気付いたのか次第に散開し、機関出力を上げて加速していく。攻撃隊は対艦ミサイルの射程に到達すると、一斉に海賊船団に向けてミサイルを放った。海賊船団は少ない対空火器で必死にミサイルを迎撃しようとするが、如何せん迎撃兵装が少ないため、大半のミサイルの着弾を許してしまう。ミサイル攻撃を受けた海賊船はあるものは爆散し、インフラトンの青い火球と成り果てたが、あるものは爆発により船体が千切れ、制御を失って漂流を始めた。さらに攻撃隊は混乱する海賊船団に突入し、レーザーやミサイルで海賊船の甲板上の設備を破壊していく。

《攻撃成功。改造輸送船4隻撃沈、2隻大破。ブランジ級も大破しました。》

攻撃が成功し、早苗が戦果を報告する。

「艦長、デブリを回収するにしても、まだ海賊の生き残りがいるかもしれん。〈サクラメント〉を突入させ、自動装甲歩兵部隊を送り込もう。」

サナダが提案する。自動装甲歩兵とは、対人戦闘用に開発された人形ロボットで、その外見は歩兵が着用する重装甲服に酷似している。

「分かったわ。〈サクラメント〉を突入させなさい。」

霊夢はサナダの提案を受け入れ、〈サクラメント〉を海賊船団のデブリに突入させるよう命令する。〈サクラメント〉は自動操縦で海賊船団の残骸に接近し、舷側のハッチから次々と小型の人形ロボットを射出していく。

「海賊の生き残りはどこか一箇所に集めさせよう。」

サナダは海賊の生き残りがいた場合は安全な箇所に集めるように自動装甲歩兵達に命令する。自動装甲歩兵部隊は海賊船の残骸に取り付くと、レーザーカッター等で外郭に穴を開けて突入していく。サナダはその様子をモニターを通して監視する。

「今のところ生き残りはいないようだ。」

サナダはモニターを監視しながら報告する。

「あれだけ派手にやったからな。」

コーディが海賊船の残骸を眺めて呟いた。

「ん、ちょっと待て。ここに何かあるな。」

 海賊船内を進んでいた装甲歩兵から送られてくる映像を眺めていたサナダが、気になる箇所を見つけたので装甲歩兵に調査するように命令した。装甲歩兵は命令通りにサナダが指示したドアを開放する。ドアの先の部屋は電気が落ちていたため、装甲歩兵はヘッドライトで部屋の中を照らした。そこには、幾つかの気密コンテナが積み上げられていた。気密コンテナに設けられた小窓を照らすと、中で白い何かが動いているのが確認できる。

「艦長、これを見てくれ。今映像をメインパネルに転送する。」

サナダは装甲歩兵から送られてくる映像をメインパネルに転送した。

「これは、動物か?」

映像を見た霊沙が呟いた。

「どうやらそのようだが、これがどうした?」

フォックスがサナダに尋ねた。

「この動物はアンドロメダモフジだ。アンドロメダ銀河の特定の惑星にしか生息しない希少な動物で、相次ぐ密漁と乱獲で絶滅危惧種に指定されている。こいつの特徴は毛玉に見えるほど全身白い体毛に覆われていて、両耳の間にに赤い嗅覚器官を持っている点だ。」

サナダは動物の説明をしながら、その動物の全体を写した写真を映像の横に表示した。

「さっきの映像ではこの箇所に特徴的な赤い嗅覚器官が見えるな。この動物はアンドロメダモフジで間違いない。」

サナダは映像を一時停止してその動物がアンドロメダモフジである証拠を示す。

「この海賊船団は密漁船だったって事か?」

コーディーが尋ねた。

「いや、ここはアンドロメダモフジの生息する惑星からは遠い。恐らく運び屋だろう。」

サナダがコーディーの質問に答える。

「珍しい動物なのは分かったけど、これどうすれば良いのかしら?」

霊夢は映像の動物を眺めながら呟いた。

「こいつらは絶滅危惧種の貴重な動物だ。幸いこの艦には本格的な自然ドームもあるから、保護して飼うのはどうだろうか?」

サナダが提案する。

「そうね、このまま置いといてもこの子達が拾われる保障はないし、うちで預かりましょう。サナダさん、コンテナをこっちに運んで頂戴。」

霊夢はアンドロメダモフジを自分の艦で保護することにし、モフジ達が入れられた気密コンテナを〈高天原〉に運ぶように命じた。

「了解した。コンテナは一度〈サクラメント〉に収容してから、〈サクラメント〉とドッキングしてこちらに運び込むぞ。」

サナダはコンテナを一旦〈サクラメント〉に運び込み、デブリの回収が終わると同時にコンテナを〈高天原〉に移すことにした。

 

 

  デブリの回収も終わり、現在〈高天原〉は〈サクラメント〉とドッキングして気密コンテナを運び出している。サナダ、霊夢、霊沙の3人は、このドッキングベイに来ていた。

  このドッキングベイには、作業を指揮するサナダと、あとはモフジが気になる私と霊沙が野次馬的に集まっている。因みに海賊船の生存者は確認できなかった。発見した遺体は宇宙葬に処してある。幾ら海賊とはいえ、遺体は粗末には出来ない。

〈サクラメント〉に繋がる気密室から、自動装甲歩兵が気密コンテナを押しながら乗艦する。コンテナのなかには、モゾモゾと動く白い動物が見えた。

「ではこいつらを自然ドームに運び込むぞ。」

サナダが装甲歩兵達に指示し、コンテナを艦内に運び込む。その様子を私は眺めていた。

「サナダぁ~、こいつら撫でてみていいか?」

コンテナの中を覗き込みながら、霊沙が猫なで声でサナダさんに懇願する。

「自然ドームに放すまで待っていろ。こいつらは別に逃げたりはしない。」

サナダは霊沙を適当に配って、作業を進める。

 自然ドームに到着すると、コンテナが開放され、モフジ達がドーム内に解き放たれた。写真で見た通り、モフジは体長約1mと大型で、全身手足が隠れるほど長くて白い体毛で覆われており、毛玉のように見える。顔は体に比べて小さく、両耳の間には天狗の帽子のようにも見える特徴的な赤い嗅覚器官がある。

「可愛いわね、この子達。撫でてもいいかしら?」

 私はサナダさんに撫でてもいいか訊いてみる。モフジ達は慣れない環境に戸惑っているのか、辺りをキョロキョロと見回しながら草を突っついたりしている。

「アンドロメダモフジは比較的温厚な動物だ。身の危険を感じない限りは人間を襲うことはない。」

サナダさんにそう言われて、私は近くにいたモフジを撫でてみる。毛並みはしなやかで、撫でるともふもふしている。椛の尻尾みたいな触り心地だ。モフジは「わふぅ~」という気持ち良さそうな鳴き声を出して地面に座り込んだ。

「おまえ、気持ちいいの?」

私はモフジを優しく撫でながら、モフジに尋ねてみる。モフジは「わふぅ~~」と鳴くだけだ。

「おお、もっふもふだぞ、こいつ。」

ふと霊沙を見ると、彼女は一匹のモフジに飛びついて抱きしめながら撫で回している。その表情はとても気持ち良さそうだ。

「おい霊沙、その辺りにしておかないとそろそろ・・・」

 サナダさんが何か言いかけたとき、霊沙が抱きついていたモフジが突然ぶるっと震えて霊沙を振り落とし、毛並みを逆立たせながら「がるるるるる」と威嚇するような鳴き声に発して霊沙を睨んだ。何が起こったのか分からずに振り落とされた霊沙は尻餅をついて「いてて・・・」と呟きながら起き上がる。

「君がいきなり抱き付くから、驚いて怒っているな。モフジは刺激に弱いから、気を付けろ。」

サナダさんはモフジの気性を説明して霊沙を窘めた。

「わ、分かったよ。ほらほら、私は恐くないぞー」

霊沙はサナダの忠告を受けて、今度はモフジにゆっくり近付いていくが、モフジは相変わらず「がるるる」と威嚇している。

「そんな不気味な刺青していたら、誰も近付かないわよ。」

そんな霊沙を見て、私は彼女をからかってみる。

「なっ・・・オマエに言われる筋合いはないぞ!」

霊沙は顔を赤くして大声で反論するが、その大声に驚いたモフジが「わ"ふ"ぅ"っー」と吠えながら霊沙に飛びついて押し倒した。

「お、オマエ・・・いきなりどうしたんだよ!」

霊沙はいきなり飛び付いてきたモフジに驚いて、モフジを引き剥がそうとする。

「ひとつ言い忘れていたが、モフジは肉食だ。こんなこともあろうかとドックフードを艦に積み込んである。」

ここでサナダが霊沙にモフジの食生を教える。

「そのモフジは襲われる前に君を食べてしまおうと思っているのかも知れないな。」

「何ッ!おいオマエ、私は美味しくないぞ!離れろ!」

霊沙は必死にモフジを振りほどこうとするが、モフジの力が強く、一向に振りほどけない。

「わ"ふ"ぅ━━」

霊沙は抵抗を続ける。モフジは暫くすると、霊沙の上から降りて地面に座り込んだ。

「ふむ・・・どうやら君が自分にとって危険な存在ではないと分かってもらえたようだな。」

「ふぅ、た、助かった・・・」

霊沙は体についたモフジの毛を払いながら、立ち上がって一息ついた。

「今度からは気を付けなさいよ。」

私は先程の惨状を見て霊沙に忠告していく。

「ああ、分かった。次は驚かせないように気をつけるよ。」

霊沙は私の忠告を聞き入れて、踵を返して自然ドームから立ち去っていく。

「さて、我々も戻るとしよう。」

「そうね。もう少しでワープの予定地点だから、私も艦橋に戻らないとね。」

モフジが落ち着いたのを確認すると、サナダは自動装甲歩兵に空のコンテナを持ち帰るように指示し、私も自然ドームを出て艦橋へ戻ることにした。

 

 

《艦長、間もなくワープ予定地点です。周囲に異常は認められません。》

 海賊を撃破し、デブリの回収を終えた〈高天原〉と〈サクラメント〉は、星系の主星である赤色矮星を通過して、ワープ予定地点に差し掛かりつつある。早苗は、ワープを実行するに当たって、周囲に障害がないことを報告した。

「ならさっさとワープしてしまいましょう。総員、ワープに備えて頂戴。次の目的地はイベリオ星系、第4惑星軌道付近の宙域よ。」

私はワープの目的地を告げ、乗員にワープに備えるように命令する。艦橋の乗員は命令を受けて、ワープに入るときの加速に備えるために席についた。

「艦内に異常なし。機関出力、ワープ可能領域まであと5%だ。」

サナダさんが艦内の状況を報告する。

《機関出力100%に達します。間もなくワープ可能です。僚艦もワープ準備完了しました。》

私は機関出力がワープ可能に達するまで待ち、ワープ準備完了の報告を受けて号令を発する。

「ワープしなさい。」

《了解です。》

〈高天原〉と〈サクラメント〉は、イベリオ星系を目指すため、再びハイパースペースに飛び込んでワープに入った。

 




もふじもふもふ。椛ちゃんの尻尾もふもふしたいです。

もふじは東方のキャラ、犬走椛の二次創作キャラです。本作のモフジは、外見はこのもふじですが、ある惑星に生息する希少な動物と設定しています。

今回は無限航路の醍醐味、海賊狩り回です。無限航路の海賊はプレイヤーの資金と名声のためにひたすら狩られる運命にあります。南無。私も少年編でグランヘイムを作るためにカルバライヤでダタラッチ艦隊を狩り続けました。面倒でしたね。ひたすら同じ航路を行き来するのは。ですが少年編のうちにランカーになれば大マゼラン製の戦艦でヒャッハーできます。シルグファーンもダウグルフも怖くないぜ!(但しグランヘイムだと青年編の最初のとあるシーンが酷いことになりますw)

今回登場したYT-100型貨物船は無限航路でトスカさんのデイジーリップのモデルになった艦という設定です。型式番号は捏造です。


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第九話

最近無限航路の設定資料を入手しました。ゲームを買った当時はネット環境のない情弱愚民で、発売をみすみす逃してしまい、存在を知った時は既に書店から消えた後でした。あれから古本屋やネットで中古本を探して、ようやく入手することが出来ました。プレミアがついて高くなってましたが、読んでみるとやっぱり買って良かったなと感じてます。これで作品の詳細な設定も捗りそうです。グランヘイムは最初は正義の海賊のイメージだったんですね。なら宮武さんのあのヤマト的なデザインにも頷けます。艦首とか砲口の有無を除けばアルカディア号みたいな雰囲気ですよね。大正義3連装主砲は当初背負い式だったみたいです。ちなみに私は艦首が尖ってるアルカディア号よりマッコウクジラ頭のほうが好きです。あの方が戦艦らしい重圧感があって気に入っています。


 《ワープアウト確認。イベリオ星系、第5惑星軌道に到着しました。予定航路との誤差は0,0014です。》

 〈高天原〉の統括AI、早苗は、通常空間を確認して艦隊がワープアウトしたことを報告する。

「周辺スキャンを開始して。」

《了解です。》

艦長の霊夢は、艦隊の周辺に脅威となるものがないか早苗に確認させる。ワープアウトしてから、一番に行う作業だ。

「艦隊は予定通り居住惑星に向かうわよ。コーディ、舵はお願いね。」

「了解だ、霊夢。」

操舵席に座るコーディーは、霊夢の命令を受けて艦のスラスターを操作し、居住惑星である第3惑星へ向かう進路を取る。この星系でも慣性航路をするので、ガス惑星の第4惑星でもスイングバイを行う予定だ。

「艦長、一つ提案だが、いいかな?」

「何かしら、サナダさん。」

サナダから提案があると聞いて、霊夢はその内容を尋ねた。

「前この星系の説明をしたとき、ここにはデットゲートがあると言っただろう。第3惑星に寄港した後、星系に脅威が無いようならば調べてみないか?」

サナダは、自身の知的好奇心から、霊夢にデットゲートの調査を提案する。デットゲートは、霊夢達の現在位置から主星のG型主系列星を挟んで星系を取り巻く微惑星帯(太陽系でいうオールト雲に当たるもの)の中に存在している。サナダは、ボイドフィールドが機能しておらず、空間通商管理局に管理されていないデットゲートならば、ボイドゲートの構成物質を調査することができると踏んでいた。なおボイドフィールドとは、ボイドゲート周辺に展開されている一種の防御機構で、ボイドゲート本体に危害を加えるもの(レーザー、ミサイル、特攻船)などを認識して本体に到達する前にこれを防ぐシールドのことを指す。

「デットゲート付近の微惑星や準惑星は、このような辺境星系ならまず手は出されていない。運が良ければレアメタルの採取も望める。悪い話ではないと思うが。」

サナダの提案を聞いて、霊夢はその提案を呑むかどうか検討する。

「成程ね。確かに、悪い話ではないわね。ヤッハバッハが居なければ立ち寄ってみるわ。」

霊夢はサナダの提案には特に問題はないと判断し、提案を受け入れることにした。

《艦長、周辺宙域のスキャン完了。本艦周辺に脅威となるデブリ、小惑星、敵性艦隊の存在は認められません。》

 早苗は周辺のスキャンが終了したことを報告する。

「ならさっさと居住惑星に向かいましょう。念を入れて警戒は怠らないで。」

霊夢は奇襲に備えて警戒態勢を続けるよう命じた。〈高天原〉は、居住惑星を目指して進んでいく。

 

 

 《居住惑星宇宙港より入港許可が下りました。これより入港作業に移ります。》

 星系移動は特に問題は起こらず、〈高天原〉は居住惑星に到着した。現在〈高天原〉は宇宙港から入港許可が出たため、スラスターで艦を反転させて指定されたドックへと入っていく。

《ガントリーアーム固定。宇宙港から連絡通路が接続されます。》

ドックに入った〈高天原〉には、艦を固定するためのガントリーアームが宇宙港側から伸ばされ、同時に乗員が宇宙港と往き来するための連絡通路も艦のエアロックに接続される。

《入港作業完了しました。》

早苗から、艦が宇宙港に入港したことが報告される。

「入港時間は22時間ね。スクラップと資源の売却が完了したら、私とサナダさんにエコー、ファイブスの4人で地上へ人手探しに行くわ。コーディは艦の留守をお願い。」

「了解だ。留守は任せろ。」

私は艦の入港が完了したことを受けて今後の方針を乗員に伝え、物資売却のために艦を降りて管理局のカウンターへと向かった。

 

 今まで回収したデブリ等の物資は管理局に売却すれば資源としてリサイクルされ、新たな艦の資材や補修物資として利用される。この世界ではリサイクル技術が私が幻想郷にいた頃の外の世界よりも格段に発展しているので、レアメタルを多く含む艦船のデブリは高価で買い取ってくれる。今回は小惑星から回収した資源に加えてブラビレイの残骸と海賊から得られたデブリを売却し、5000Gほどの資金を得ることができた。これほどの大金を得られたのはやはり資源小惑星があったのが大きい。ブラビレイもサナダさんは金になる機関部は壊れて使えそうにないと言っていたが、2000m級の大型艦を1隻丸ごと解体したので結構な金額になったようだ。ちなみに海賊は違法改造で非正規部品を大量に使用していて、尚且つ船自体の痛みが激しかったためか、あまり金にはならなかった。この金額なら艦船の建造は流石に出来ないが、艦隊を維持していくには十分な金額だ。

 私は管理局のカウンターで資源の売却を終えると、早苗を通して〈サクラメント〉に売却する物資を宇宙港に搬出するよう指示して艦に戻り、地上へ行く乗員を纏めた。〈サクラメント〉は無人艦なので、指示した後の作業は全て自動で行われる。

「地上に降りる準備は出来たかしら?」

私は艦のエアロックに集まった3人に尋ねた。

「ああ、問題ない。」

「準備は出来ている。」

そう答えたのはエコーとファイブスの2人だ。何を勘違いしたのか、全身装甲服を着込んで無骨なミニガンやRPGみたいなミサイルを背負っている。

――これは失敗ね・・・彼等にはちゃんと目的を伝えた方が良さそうね――

「エコー、ファイブス。地上に降りるとは言ったけど、そんな重装備だと地上の警察組織に怪しまれるわ。せめて重火器は置いていきなさい。武装は護身用に留めて。今回の目的は地上の当局に感付かれずに人員を募集することだから、あまり目立ちたくないの。」

私はエコーとファイブスにその重装備は置いていくように要請して、理由も説明する。

「しかし艦長、我々が向かうのは、非合法の宇宙航海者が集まる酒場です。当然マフィア紛いの者もいるでしょう。抵抗手段は必用です。」

そう言ってエコーが反論する。

「だからと言ってそこまで重装備になる必要はないでしょ。何、酒場ごと吹っ飛ばすつもりなのかしら?」

私は若干語気を強めてエコーに言った。

「抵抗勢力はその場で殲滅すべきです。それに、強力な火器による弾幕ならばマフィア程度なら殲滅は容易です。」

さらにファイブスまで反論する。

「何よその弾幕はパワーだぜみたいな言い方は。とにかく、私達の目的は騒ぎを起こさない事。そもそもヤバそうなマフィアとかには声を掛けないようにすればいいだけよ。重火器の持ち込みは禁止よ。」

私は強い口調でエコーとファイブスに命じた。

「・・・了解です。」

私は何とかエコーとファイブスに重火器の持ち込みを止めさせることができたみたいだ。あんなものを酒場に持ち込めれたら困る。

「もう貴方達は戦争している訳じゃないんだから、少しはその脳筋を直しておきなさい。」

「善処します。」

エコーとファイブスは納得して準備し直す為に一旦自室に戻った。余談だけど、彼等の独特なヘルメットは中々愛嬌があると思う。あのヘルメットを着て首を傾げているところとかは、中身は男の人なのに可愛らしく感じる。

「どうやら、終わったようだな。」

 隣にいたサナダさんが話しかけてくる。

「貴方もいたなら助け船くらい出しなさいよ。」

私はサナダさんに、若干不機嫌な口調で反応した。

「いや、私の頭はは先日得たブラビレイのデータの解析とそれをベースにした設計図の製作のことで一杯でね。そこまで考える暇が無かったのだよ。」

サナダさんはそう弁解する。この人、今までは常識人だと思っていたけど、以外とマッドサイエンティストなのかもしれない。

「考え事も良いけど、少しは周りに注意しなさいよね。」

「善処しよう。」

サナダさんは私の指摘を微笑んで誤魔化した。

「それとさっきブラビレイを改設計とか言ってたけど、どんなの作ってるの?」

私は先程のサナダさんの話で気になったブラビレイのくだりに関することを訊いた。

「ああ、それか。今ブラビレイを合理化してより艦載機運用に特化させつつ、無人化によって不必要な機能を削減してサイズダウンとコストダウンした艦を設計している所でね。これが現在の完成予想図だ。」

サナダさんは説明を終えると懐から携帯端末を取りだし、ホログラムでその艦の完成予想CGを表示した。

 その艦は全体的にブラビレイの特徴を継承しているが、外見はほとんど別物だった。最大の特徴であった三段の飛行甲板は反転され、最下層が一番長くなっていて、三段目の上にはさらにアングルド・デッキを備えた飛行甲板を追加して合計四段に増加している。艦体側面はブラビレイとは異なり曲線で構成され、ブラビレイでは剥き出しだった飛行甲板の位置にも装甲が施されている。またブラビレイにはあった三段目の飛行甲板上の電磁加速フィールドジェネレータ群は廃止され、各飛行甲板に2本ずつ設置されたカタパルトにその役目を譲っている。艦首の観測ブリッジも右舷側に移った艦橋に機能を統合されて廃止されている。その艦橋もブラビレイとは異なり舷側に張り出して視認性を高めており、無人といいながら有人運用にも対応していることが窺える。エンジンブロックもブラビレイから変更され、艦尾下部から四層目の飛行甲板下部に移されている。それに伴って、艦首尾方向に貫通する飛行甲板は最上部の四層目と最下層となった。

「この艦は現在細部の設計に取りかかっている所だが、完成すればブラビレイに比べて建造費用でマイナス3万Gのコストダウンが望める。流石にサイズが半分では艦載機運用能力は落ちるがブラビレイにはあった長距離遠征に必用な機能を削ぎ落とすことで充分な搭載機数が確保されている。この艦に早苗のコピーAlと無人艦載機を搭載すれば、打撃力ならばヤッハバッハの空母機動部隊に匹敵するぞ!」

サナダさんは嬉々として解説を続ける。うん、やっぱりこの人マッドみたい。

「確かに強力な艦は魅力的だけど、今の私達には建造する資材も資金もないわよ?」

私がサナダさんに現実を突きつけると、サナダさんは真っ青な顔で私を見つめた。

「・・・艦長、そこをなんとか」

「ダメよ。建造は資金に余裕が出てからね。」

私がそう告げるとサナダさんは肩を落とした。この人は設計が完了したらすぐに作りたかったのだろう。だけど今は少し待ってなさいよ。

――でも艦自体の性能は中々、コストダウンしつつ高い能力で纏められているのは素直に凄いわね。有人運用するにしても、削った長距離航行能力は〈サクラメント〉の工作能力や〈高天原〉の娯楽施設で補える。一つの艦になんでも注ぎ込まずに用途を分けてコストダウンするのは中々良い発想だわ―――

サナダさんにはあのように言ったが私は内心ではサナダの能力に感心していた。いつかは戦力増強のために作ることになりそうだ。

「資金が貯まったら作るから、そんなに落ち込まないでよ。そろそろ地上に向かうんだから。」

エコー達が重装備を置いてきて戻ってくるのが見えたので、私はサナダさんを励まして、2人が戻ってくると再び宇宙港に向かって軌道エレベーターを目指した。

 

 宇宙港からまた垂直に走る新幹線に乗り、地上に降りた後、私達は真っ直ぐ0Gドッグ御用達の酒場へ向かった。基本的にヤッハバッハは0Gドッグの存在を認めていないので、酒場に来るのは密輸業で稼いでいる運び屋か、海賊の下っ端だと聞く。だが、ヤッハバッハに逆らって宇宙を旅する冒険者や0Gドッグ志望の人材が居ない訳ではない。私達が期待しているのはそんな人材だ。

 酒場が見えてきたので、私は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせた。何せ初めての経験なので、どうしても緊張してしまう。

「じゃあ、入るわよ。入店後は各自行動ね。緊急時には端末で艦にも連絡して。」

「わかった。」

「「了解。」」

私は入店前に、サナダさんとエコー、ファイブスと打ち合わせ、酒場の門を潜った。

 酒場の中は、落ち着いた感じで纏められており、照明は薄暗い程度で、洒落た音楽が流されている。私は真っ先に酒場のマスターの前のカウンター席に腰掛けて、マスターに注文する。基本的に酒場のマスターはその宙域の情報に精通しており、情報を得たいならマスターに話を聞くのが一番だという。

「何でもいいから、お勧めを一杯、よろしく。」

「畏まりました。」

私の注文を受けて、マスターが酒を準備する。マスターから情報を聞き出すなら、ちゃんと注文しておくのは必須だ。酒場のマスターだって慈善事業でやってる訳ではないので、お金を落とさないと情報を教えてくれないからだ。

「どうぞ。」

私はマスターから差し出された酒を一口飲んで、話を切り出す。

「ところで、この辺りで宇宙に出たがってる骨のある奴とか居ないかしら?」

「おや、これはまた直接的に聞いてきますな。ええ、そうですね、この辺りだと、敗戦国から流れてきた元軍人なんかもちらほら見掛けますね。ほら、あそこの労働者風な彼とか。彼は元々戦闘機のパイロットだったらしいですよ。」

そう言ってマスターは、二人掛けのボックスに一人で座っている男を指す。男は茶色いジャケットとジーンズを履いて、茶色のベレー帽を被っている。いかにも工場帰りの労働者といった風格の男だ。

「ありがと。もう一杯お願いできるかしら?」

「これはどうも御贔屓に。」

私が礼を兼ねてマスターに注文すると、マスターは再びカウンターの奥に酒を取りに行った。こうやってマスターの気を引いておくのも情報収集には大切だ。場合によっては、さらに情報をくれる事もあるという。

「はい、どうぞ。」

マスターから、2杯目の酒が渡される。

「ありがとね。」

私はそう言って代金を払うと席を立って、酒のグラスを持ってマスターが教えた男の元に向かった。私は男の向かいの席に腰掛けて、まだ口をつけてない2杯目の酒を差し出す。

「なんだ、嬢ちゃんは。」

男は見知らぬ私を怪訝な目で見た。

「それは私の奢りよ。貴方、元軍人なんだってね。」

私は男の目を見て、話を切り出した。男はマスターを一瞥すると、「チッ」と舌打ちして再び私に視線を戻す。

「・・・俺はバーガー。フォムト・バーガーだ。言われた通り、国を亡くした元軍人だ。」

男は自分の名を私に伝える。

「私は博麗霊夢よ。0Gドッグで艦長やってるわ。」

私もバーガーと名乗った男に自己紹介する。

「へぇ、あんたみたいな嬢ちゃんがかい。そこら辺のコルベットで気を良くしただけじゃないだろうな。」

バーガーは軽く私を睨んだ。私の見た目では、まだ駆け出しの子供程度にしか見えないのだろう。

「確かに0G歴は浅いけど、コルベット1隻何てことはないわよ。巡洋艦クラスの船なら持ってるわ。それと、私は嬢ちゃんって呼ばれるほど子供じゃないわよ。」

私はむすっとしてバーガーに反論した。

「仕方ねぇだろ、見た目が嬢ちゃんなんだから。なんだ、合法ロリって奴か?」

バーガーが皮肉気に、にやにやしながら私をからかう。

「そうだと思ってくれて結構よ。少なくとも、酒が飲める年齢にはなってるわ。」

「そうかい。ところで、こんな話をするために声を掛けた訳じゃねぇだろ?」

バーガーは酒を一口飲んで、私に尋ねた。

「ええ、貴方が元軍人だっていうから、良ければうちのクルーにでもなってくれないかと思ってね。」

私は直接バーガーに用件を伝えた。

「・・・どれ、フェノメナ・ログを見せてみな。」

バーガーが私にフェノメナ・ログを見せるよう要求する。私は、バーガーに従って携帯端末にフェノメナ・ログを表示させた。

「ほぅ、新参にしては良くやっているな。ヤッハバッハの警備艦隊に喧嘩売って勝ってるとは中々だ。」

バーガーは私のフェノメナ・ログを見て、感心したように感想を述べた。

「どうかしら?」

私はバーガーに結論を訊いた。

「ああ、気に入ったぜ。いざって時にヤッハバッハと正面からやり合う根性は中々のものだ。良いだろう、あんたの提案、引き受けたぜ。」

バーガーは私の申し出を承諾し、握手を求めた。

「これから宜しくな、可愛い艦長さん。」

「ええ、宜しくバーガー。歓迎するわ。」

交渉が成立し、バーガーが新たにクルーに加わった。私達は酒を飲み干すとボックス席を立ち、手が空いているようだったファイブスにバーガーの案内を任せた。私は他にも人材が居ないか見て回りたいので、その事もバーガーに伝えておく。

「では、彼を艦に案内します。」

「よろしく頼むぜ。」

バーガーは、ファイブスに案内されて酒場を去った。その姿を確認すると、私は再び酒場に注意を戻し、全体を一瞥する。

 すると、カウンターの端に金髪の女性が、酔ってでもいるのだろうか、項垂れた様子で酒を飲んでいるのが目に入った。僅かに見えた女性の瞳は紅色で、左側の髪は赤いリボンで纏められている。服装は白黒の洋服だ。

 彼女の姿を目にした時、私はその名前を口にせずにはいられなかった。

「ルー、ミア?」

 

 

 

 

 

 私は、今日はいつもの店ではなく、わざわざこの0Gドッグ御用達の酒場に足を運んでいた。理由は単純、仕事が無くなったので0Gにでも雇って貰おうと思ったからだ。つい最近まで勤めていた会社は残業上等、16時間勤務、残業代?なにそれ美味しいのを地で行く超ブラック企業で、おまけにセクハラも酷い最悪の職場だった。再就職しようにも、こんな田舎では良い仕事も全然見当たらず、おまけに賃金も最低賃金より下回るところが多い。ヤッハバッハの航宙禁止法のお蔭で田舎が発展から取り残された結果だ。ならいっそのこと0Gにでも雇ってもらえば少なくとも今までとは違った生活ができる。そう踏んでいたのだが、誰も声を掛けてくる奴は居なかった。自分で言うのも難だけど、これでも容姿は良い方だと思う。血気盛んな0Gの1人や2人はナンパしてくると思っていたのだが、どうやら見当違いだったらしい。

 いい加減声を掛けられないことに苛立ってやけ酒していたところ、どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ルー、ミア?」

確証はないが、恐らくそうだろうと、疑問形で自分の名前が呼ばれる。振り返って声の主を探すと、呆然と立ち尽くしている少女の姿が見えた。

「やっぱり、ルーミアよね。でも、なんで・・・」

少女は何か疑問に思うところがあったようだが、私は目の前の少女は記憶にない。

「私の名前を呼んだのはあんたかい?」

私は少女に声を掛ける。

「えっ、ああ、はい・・・そう、ですけど。」

少女は戸惑った様子で私の質問に答え、私が手招きするとこちらに恐る恐る寄ってきた。

 私は少女に隣に座るように促して、少女は私の左隣の席に腰掛けた。

「あんた、私の名前を知ってるみたいだけど、残念だけど私はあんたみたいな子を知らないんだ。私の名前、どこで知ったんだい?」

私は少女に疑問に思っていたことを問い質す。私には、目の前の少女のような黒髪で赤いリボンを着けた子は記憶にない。こんなに特徴的な容姿なら、覚えている筈だ。

「あの、貴女に良く似た人を知ってるんです。その人は見た目はまだ子供だったんですけど、成長したらきっと貴女みたいな容姿だろうなと思って・・・」

少女は私を呼んだ経緯を話す。

「そうなの。でも、子供の頃の私は別に有名人でも何でもないよ。」

「はい、その人は、貴女とは別人なんですけど、あまりに似ていたので・・・」

少女は言葉に詰まる。きっと、私によく似ているという人を思い出しているのだろう。

「それで声を掛けた訳か。名前まで同じなんて、こんな偶然もあるもんだね。まぁ、惑星1個に何十億も住んでる時代だから、こんなことも起こるもんかね。で、あんたは何ていうの?」

私は畏まった状態の少女の名前を尋ねた。

「霊夢・・・博麗霊夢です。」

少女は、自分の名前を私に伝える。

「霊夢か、いい名前だね。それと、そんなに畏まらなくても良いわ。こっちまで堅苦しくなる。」

「あ、はい・・・。」

私は少女――霊夢にリラックスするように言ってマスター話を続ける。

「ところで霊夢ちゃん、貴女はどうしてこんな所にいるんだ?」

私はこの0G酒場には不釣り合いな少女がいる理由を尋ねた。

「私は0Gドッグをやっているから、ここに良い人材が埋まっていないか探しに来ただけよ。それと、これでも酒が飲める年にはなってるんだから、ちゃん付けはよしてくれないかしら?」

霊夢が私の問いに答え、私の呼び方に文句を唱えた。

「それはすまないね。にしてもあんたみたいなのが0Gか。ちょっと話聞かせて貰えない?」

私の霊夢が0Gをやっているという話に興味を持って、詳しく話すように促した。話を聞くと、霊夢は少数のクルーと共にヤッハバッハから逃れて自由を求めているのだという。ついでにフェノメナ・ログも見せてもらったが、駆け出しで、ここらの田舎民にはヤッハバッハ圧政の象徴であるダルダベル級巡洋艦を血祭りに上げてるのも気に入った。この艦長の元なら、面白くやっていけそうな気がする。

「話は大体分かった。気に入ったよ、霊夢。クルーを探してるみたいだけど、よければ私もクルーにしてみるか?私としても雇って貰えるほうが嬉しいね。」

話を聞き終えた私は、霊夢に自分をクルーにしないかと提案する。

「分かった、貴女をうちに迎えることにするわ。」

霊夢は私の申し出を承諾して、私はめでたく再就職先を見つけることができた。

「じゃあ改めて自己紹介だ。私はルーミア・イクスヴェリア。これからよろしく、霊夢艦長。」

「こちらこそ、ルーミア。」

霊夢は差し出された私の手を握って、握手を交わした。

 

 霊夢と握手しながら、私は心の中で、まだ知らね0Gの生活に思いを馳せた。




今回でガミラス三段空母のフラグが建ちました。私が想像しているのはガイペロン級のランベアです。サイズは3倍位ですが。ヤッハバッハの艦は侵略のための長距離航海に備えて居住性が重視され、さらにダメコン等のために人を多く乗せていて、そのため艦が大型であると想像しているので、サナダの改ブラビレイ(ガミラス三段空母)はその部分を削って戦闘のみに特化させて小型化、コストダウンを図ったものと設定しています。
また、ヤマト2199から登場したバーガーですが、本作では人間として登場しているので肌は肌色です。ドイツ人みたいな見た目で、服装は映画でのホテルに閉じ込められていた時のものを想像しています。

ルーミアについてですが、彼女も人間として登場しています。見た目は大人のEXルーミアで長髪です。霊夢が彼女を見たときにあんな反応をした理由は、各自でご想像下さいw


また、今話からSW要素が薄れて様々な作品の要素が増えていくため、SWタグを外して多重クロスに変更します。主人公が霊夢で東方キャラがベースのキャラクターも増えたので、東方タグも追加します。


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第十話

遅れましたが、最新話投稿です。最近バイトで忙しいので、基本週1、もしくは2週間に1度のペースになりそうです。
先週の休日には神居祭に行って来ました。お陰で予算/zeroです(笑)・・・バイトで稼がないといけませんね。


 ~イベリオ星系 居住惑星宇宙港~

 

  惑星上での人材発掘を終えた霊夢達は、予定していた寄航時間が近づいているためもあって、出航準備を進めていた。

「艦長、主計班より予定していた生活必需品の積込完了を確認したとの報告が入っています。」

新たにオペレーターに着任したミユ・タキザワが霊夢に報告する。ちなみに霊夢は、会社で管理職をやっていたらしいルーミアに主計班を任せている。

「他の物資の積込状況はどう?」

「はい、艦体の補修、整備に必要な貴金属類は本艦への積込は完了しています。あとはミサイル類ですが、艦載機用の小型ミサイルの積込が完了すれば終了します。」

霊夢の確認に、こちらも新たにメインオペレーターに着任したノエル・アンダーソンが報告した。このオペレーターの女性は二人は、エコーが引っ掻けてきた人材だ。

「機関部はどう?」

霊夢は続いて、サナダに機関の稼働状況を尋ねた。

「現在点火準備中だ。あと10分後に主機を稼働させる予定で準備させている。」

サナダは、霊夢に機関の状況を報告する。この惑星では機関士の経験がある人材がなかったため、今までと同様にドロイドとコンピュータで機関を動かしている。整備は機械に強いサナダなら出来ないことではないが、彼は本職の機関士ではないので、機関部はダメージコントロールの点において霊夢の懸念材料の一つになっている。

「しかし、この惑星で機関士を雇えなかったのは痛いな。」

「そうね、機関部は艦の心臓と言ってもいい部署なんだから、優秀な機関士の一人や二人は欲しかったところだけどね。」

サナダの呟きにつられて、霊夢が愚痴を溢した。

 この艦の機関であるインフラトン・インヴァイダーは、艦に推進力を与えるのみならず、艦内の電源やレーザーのエネルギー源としても使用されている。ハイパードライブもインフラトン・インヴァイダーから得られるエネルギーで稼働させるため、機関の異常は艦の機能停止に繋がりかねない事態になる。なので、機関部には特に熟練した技士が求められるのだが、その機関士が得られなかったという事は、被弾時におけるダメージコントロールのみならず、巡航時における異常事態への対応能力の低下に繋がるため、霊夢艦隊のウィークポイントとなっている。

「こうなったら、極力戦闘は避けないといけないわね。」

今までは、相手艦隊の練度や性能が低かったり、奇襲によって勝つことができていたが、今後優秀なヤッハバッハ正規軍艦隊に出会したら艦隊は甚大な損害を被ることになる。それに加えて機関だけでなく、艦隊全体のダメージコントロールにも不安があるため、霊夢は極力艦隊戦を避けようと方針を立てた。

「サナダさん、この先の宙域にヤッハバッハの艦隊が展開している可能性はあるかしら?」

「前も言ったが、この宙域は辺境だからな、よほどの事がない限り、ダウグルフやブラビレイを含む機動戦力は展開していないと思うが。ましてやゼー・グルフなんかは考えられないな。」

サナダは、ここが超がつくほどの辺境星系であることから、ヤッハバッハ機動戦力の存在を否定した。

 

 ここでヤッハバッハ艦隊について少し解説すると、ヤッハバッハ艦隊は大きく分けて他国を侵略する外征艦隊と域内を警戒する警備艦隊の二つがあり、外征艦隊は文字通り侵略のための艦隊で、ヤッハバッハの首都である移動要塞ゼオ・ジ・バルトや将官に与えられる巨大戦略指揮戦艦ゼー・グルフ級を始めとして、数百万隻規模の戦闘艦とそれを支える支援艦艇からなる強力な艦隊だ。一方警備艦隊は域内への外敵の進入撃退の他に、宇宙警察として海賊や密輸の取締も行っているので、速度と数を重視してブランジ級の改造艦が主力として充てられ、それを指揮するダルダベル級巡洋艦が旗艦として配備されている。ただし、宙域の中心部、いわゆる都会にはゼー・グルフ級を旗艦とする宙域艦隊が配備されている。この艦隊は警備艦隊では手に負えない外敵や大規模な域内の反乱に投入される艦隊で、一個艦隊の規模は外征艦隊の一個分艦隊に匹敵する強力な艦隊だ。サナダが豊かな星系や宙域を避けるルートを提案しているのも、この艦隊の存在が一番大きな理由だ。

 

「いないならそれに越した事はないけど、警戒は念入りにしないとね。早苗、レーダーやセンサー類に異常はないわよね?少し確認してくれるかしら?」

霊夢は、艦隊の目たるレーダー類に異常があると警戒に支障を来すため、早苗に今一度レーダー類の状態を確認するよう命じた。

《はい・・・今一度、レーダー類を確認しましたが、これといって異常はありません。》

早苗は、命じられた通りにレーダー類の状態を確認し、霊夢に報告した。

「なら問題無さそうね。」

霊夢は報告に一安心すると、艦長席に深く腰を入れ直し、出航準備の完了を待った。

 

 

《ガントリーロック解除確認。インフラトン・インヴァイダー出力上昇中、あと50秒で100%に達します。》

 出航準備も完了し、〈高天原〉は機関を始動して宇宙港から出港せんとする。

「フライホイール接続、機関出力安定。出港後は第ニ宇宙速度で惑星重力圏より離脱する。」

操舵席に座るコーディが、ハンドルに手を掛けた。

《宇宙港より出港許可下りました。"貴艦ノ幸運ヲ祈ル"だそうです。》

早苗が宇宙港から出港許可が下りたことを告げる。

「よし、〈高天原〉、出港よ!」

霊夢は左手を前に突き出して、出港の号令をかけた。

「了解、メインノズル点火。」

〈高天原〉のメインノズルに火が入り、その巨体をゆっくりと宇宙港から滑らせて、再び宇宙空間へ乗り出した。

「第二宇宙速度へ移行する。」

 コーディがハンドルを押して艦を加速させる。

〈高天原〉は惑星の重力圏を振り切り、後方に見える居住惑星が徐々に遠ざかっていく。

「進路を星系外縁のデッドゲートに向けて頂戴。」

「了解だ。」

コーディーは、霊夢に命じられて艦のスラスターを操作して〈高天原〉を航路に乗せ、星系の外縁部にあるデッドゲートに向けて舵を切った。進路変更が終わり、艦が十分に加速すると、ヤッハバッハに探知されないように慣性航行へと移行する。

「さてと、早苗、3時間後に全乗員を神社に集めてくれるかしら?」

《はい、分かりました。だけど、何をするんですか?諸々の連絡事項は乗艦後すぐに伝えておいた筈ですが。》

早苗は、霊夢の命令には従ったがその内容に疑問をもって訊ねた。

「うちも大分乗員が増えたから、歓迎の宴会でもやろうかと思ってね。新しいクルーの顔合わせにも丁度いいでしょ?」

《そうですか、分かりました。皆さんの端末に連絡しておきますね。》

霊夢は、ヤッハバッハが襲来しないうちに乗組員の歓迎会を済ませようと考え、自然ドーム内の艦内神社で宴会を企画していた。

「それじゃあ、私は神社で準備してくるから、艦橋はサナダさんに任せたわ。何かあったら連絡してくれるかしら?」

「了解した、艦長。」

サナダは霊夢から艦の指揮を引き受けて、艦橋を後にする霊夢を見送った。

 

 

 霊夢は艦内神社へ向かうためにそこへ向かう通路を歩いているが、そこで彼女は普段見掛けない白衣の女性の姿を見掛けた。

「あ、貴女は確か・・・」

「あ、艦長でしたか、これはどうも。」

 女性は、白衣の下に紫色のカーディガンを着ており、白いスカートに紫色のニーソを着用している。肌は色白で、紫色の髪は後ろで三つ編みにして纏められており、これまた紫色のベレー帽を被っている。

「えっと・・・エルトナムさん、だっけ?」

 霊夢は自身の記憶から女性の名前を思い出して確認する。彼女は、サナダがスカウトしてきた人材で、本名をシオン・エルトナム・ソカリスという。彼と同じ科学者仲間だ。彼女はサナダよりも医療に関する技能に長けているので、今は暫定的に衛生班の班長に任命されている。本職の医者をスカウトできれば、サナダと共に技術班配属になるだろう。

「はい、覚えて頂き光栄です。ところで艦長はどちらに?」

シオンは霊夢に挨拶すると、彼女に行先を尋ねた。

「自然ドームの神社よ。早苗から通信があったと思うけど、歓迎会の準備にね。」

「早苗・・・確か、艦の統括AIでしたね。良ければ手伝いますか?」

霊夢の話を聞いたシオンは、彼女に手伝いを申し出た。

「いや、いいわ。貴女達は歓迎される側なんだから、ゆっくりしてなさい。それに、今の乗員の数だけなら、準備は私一人で何とかなるから。」

「そうですか、では、失礼します。」

 霊夢が手伝いは不要だと伝えると、シオンは一礼して霊夢とは反対方向へ去っていった。

━━さてと・・・使えそうな食材は何があったかしら━━

 シオンを見届けた霊夢は、宴会で出す料理の内容を考えながら神社へと向かった。

 

 

 

 

 ~〈高天原〉自然ドーム内 高天原神社~

 

  この高天原神社は、〈高天原〉の艦内神社として設置された神社だ。本殿の構造は霊夢が幻想郷の博麗神社をベースに注文したため、博麗神社同様に宴会を開くこともできる。

「さあ飲めえっ━━━!今夜は無礼講よ、乾杯!」

「乾杯!!」

「イェーイ、艦長最高!」

「艦長美人だぜイヤッホゥー!」

 艦長の霊夢が乾杯の音頭を取り、他の乗組員もそれに続いて騒ぎ出す。特にトルーパー達やバーガーは酒を片手に一層楽しそうに騒いでいる

 自然ドーム内の時間は今は夜に設定されており、松明に照らされた桜が花びらを散らしていた。

「あ、桜。」

 霊夢は自分の杯に口をつけようとしたところ、一片の桜の花弁がひらひらと舞い降りて、杯の中の酒に浮かんだ。

 

━━風流ね。桜を植えたのは正解だったわ。━━

 

霊夢はしばらく酒に浮かぶ桜を眺めると、杯を持ち上げて中の酒に口付けた。

 幻想郷では博麗神社は桜の名所としても有名だった。なので霊夢は神社周辺には桜も植えるように指示していたが、こうして桜を見ると彼女は幻想郷を思い出して、懐かしい気分に浸っていた。

「れ~い~む~~~!」

「えっ・・・て、ルーミア!?」

 後ろから声を掛けられた霊夢が振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたルーミアが、一升瓶を持ってふらふらと霊夢に近寄ってくる。

「あんた、酔うの早くない!?それに後ろの霊沙はどうしたのよ?」

 霊夢はルーミアの酔う速さに驚いて叫んだ。ルーミアの後ろには、縁側に倒れ伏している霊沙の姿が見える。

「むにゃむにゃ・・・もうたべられないでござる・・・」

どうやら霊沙は酔って寝ているようだ。寝言まで呟いている。

「呆れた・・・霊沙を酔い潰したわけ?」

「れいむぅ~~あんたはちゃんと私の酒が飲めるんでしょうね~!」

ルーミアは霊夢の肩に手を回して、まだ中身が入っている杯に酒を注いでいく。

「ちょっと待ちなさいよ!まだ入ってるんだから!」

「いいじゃないの~、ほら飲め飲め~♪」

ルーミアは杯を持っている霊夢の左手を掴んで、催促するように杯を霊夢の顔に近づけた。

「あっ、溢れたじゃないの、もう。」

ルーミアが酒を一杯に入れたため、動かす度に酒が波打って溢れてしまっている。

「ほら飲みなさいよー!」

 

こうして夜は過ぎ、宴会は続いた。

 

 

 

 

 

  居住惑星を出港してから約1日が経過し、星系の主星を越えた〈高天原〉はデッドゲートへと接近していた。艦橋からは、そのデッドゲートが視認できるほどだ。

「うう・・・頭痛い・・・少し飲みすぎたわね。」

 霊夢は昨夜の新乗組員歓迎の宴会で、久し振りに酒を沢山飲んだので二日酔い状態になっていた。

「艦長、大丈夫か?」

霊夢の身を案じたフォックスが尋ねた。

「ええ、何とかね。」

霊夢は額を押さえながら、フォックスに応える。

「艦長、デッドゲートが見えてきたぞ。」

 艦橋の窓の外を眺めていたサナダが、視線でデッドゲートの方向を指して霊夢に伝える。

「へぇ、あれがデッドゲートね。ボロそうな見た目だけど、使えるのかしら?」

霊夢がゲートを見て呟いた。デッドゲートは、稼働しているボイドゲートの見た目が機械然とした銀色なのとは異なり、全体が錆びたような焦げ茶色をしている。いかにも遺跡といったような風体だ。

《サナダさんが言っていたた通り、ボイドフィールドは発生していないようです。これなら、接舷して調査ができそうです。》

早苗は艦のセンサー類でデッドゲートをスキャンして、接舷可能かどうか調べた。

「そうかい。なら接舷させるが、構わないな?」

舵を握るコーディが霊夢に訊ねた。

「ええ、デッドゲートに接舷して頂戴。」

「了解だ。左舷スラスター噴射、逆噴射ノズル用意。デッドゲートに接舷する。」

コーディはスラスターで艦の向きを調節し、デッドゲートに近づくにつれて逆噴射ノズルを噴射させて艦を減速させていく。

「機関停止、重力アンカー作動。接舷完了だ。」

艦がデッドゲートの側まで来ると、コーディは艦を静止させるために機関を停止し、重力アンカーで艦の位置を固定した。

「よし、私は調査機器の準備をしてくる。チョッパー、15分後に作業を開始するぞ、機器の準備を頼む。」

《了解。》

サナダは調査準備のために艦橋を後にして、整備室のチョッパーに通信で呼び掛けて機器の準備をするように命じた。

 15分後、準備を終えたサナダ達は作業艇で艦外に出て、デッドゲートの表面素材を調べるために作業機器で外壁を切断させていく。

「よし、中々良いサンプルが手に入ったな。チョッパー、中への入口は見つかったか?」

「いや、駄目だ。センサーや無人機のカメラで探しているが、さっぱり見つからないぜ。」

 チョッパーは無人探査機から送られてくるデータを眺めながらゲート内部への進入口を探すが、それらしい物は見つからなかった。

「ゲートは明らかに人為的に設置されたものだ。エイリアンの文明のものでも、保守管理のための通路位は設置されている筈だ。もっと探してみろ。」

「了解だ。」

ボイドゲートは無人建造物だが、サナダはゲートが人工物である以上はどこかに点検用の通路やその入口があると踏んで、チョッパーに捜索させた。同時に、ゲートに空いた穴には〈サクラメント〉からドロイドを発艦させて突入させ、内部構造や構成素材を調べさせている。

「むぅ・・・やはり奥深くまでは進めないか。」

サナダはドロイドを操作してデッドゲートの奥深くまで進めさせようとするが、途中で通行可能な空間が途切れてしまってどのドロイドも先へは進めなかった。

「仕方ない、外部からのスキャンデータとサンプルだけでも良しとしよう。」

 サナダは破口からのゲート中枢への進入を諦めて、より詳細なデータを取るべく無人探査機をゲートの周りを飛び回らせて、あらゆる波長でゲート内部の観測を進めさせた。

「サナダ班長、やはり進入口らしき存在は確認出来ないぜ。」

チョッパーはサナダに命じられた通りに入念に進入口を探したが、ついにそれらしきものを見つけることは叶わなかった。

「我々の想像する入口とは、全く違ったタイプなのかもしれんな。しかし、君達もボイドゲートの存在を知らないとなると、このゲートを設置した文明がどのようなものだったか、謎が深まるな。」

 チョッパー達トルーパーは、偶然現代に転移してしまった大昔の異星人の軍人だ。彼等の姿は人間そのものだが、サナダは、彼等から多彩な種族の宇宙人の存在を聞いていた。彼等が活動していたM33銀河でもボイドゲートは数多く存在しているが、彼等が生きた時代にはボイドゲートは一切存在しなかったという。そのため、彼等はハイパードライブというi3エクシード航法を上回る超光速移動手段を開発した。彼等がボイドゲートを知らないとなると、ボイドゲートを設置した文明は、彼等の国が栄えた時代から、人類が進出した間に栄えたことになる。その間はせいぜい十数万年程度の時間だ。

「デッドゲートのスキャンデータを見てみたが、構造に君達の技術との関連性は見受けられないな。」

 サナダは、コルベット〈スターゲイザー〉を始めとして、チョッパー達の文明の遺産を数多く研究してきたが、彼が見る限りはデッドゲートの構造とチョッパー達の文明との関連性は見られなかった。

「だとしたら、このゲートを設置した文明は共和国に取って変わった異文明、って線が濃厚だろうな。」

 チョッパーは、観測結果から簡単な推測を立てた。

「それか君達の文明との戦争で互いに滅んだのかもしれん。君達の生き残りやボイドゲート文明の生き残りがいない以上、その線が濃厚かもしれないな。・・・ん、ちょっと待て、・・・やはりおかしいな。」

 サナダもチョッパー同様に推論を述べるが、観測機器が不可解なノイズを標示し続けていることに疑問を持った彼はデータを見直し始めた。

「・・・やはりな。チョッパー、見ろ。ゲートの中枢部分だけ、スキャンデータにノイズがかかって詳細な内部構造が分からなくなっている。」

「本当だ・・・ここだけ、特殊な合金で装甲されているとか?」

サナダは問題のデータをチョッパーにも見せ、彼も同様に違和感を持った。

「ゲートを設置した文明からすれば、ゲートの中枢は機密の塊なのだとしたら、それもない話ではないが・・・」

サナダはゲート中枢を観測するために、あらゆる波長の観測データにも目を通したが、どれも結果は同じだった。

「・・・仕方ない、今回はここまでだな。」

「了解だ。無人探査機を〈サクラメント〉に撤収させる。」

ゲート中枢の観測手段がないため、サナダはゲートのスキャンデータと外壁や内部部品のサンプルを持ち帰ることで満足することにして、撤収指令を出した。

 

「お帰りなさい、サナダさん。」

 艦橋に戻ったサナダを、霊夢が出迎えた。

「で、成果はあったのか?」

適当な席に座っていた霊沙も、サナダが戻ると興味津々に訊いてくる。

「まぁ待て。今はゲートのスキャンデータと構成材質のサンプルを機械に解析させているところだ。結果が出るまでは、しばらく時間が掛かるだろう。ただ・・・」

「ただ?」

サナダは一呼吸置いて、話を続けた。

「ゲートの中枢部分だけ、靄が掛かったように観測データにノイズが入っていた。まるで、見られたくないものを隠すようにな。」

「へぇ、気になるわね。そこまでして見られたくないものなのかしら?」

「ああ、恐らく、ワープ関連の技術とボイドフィールドの機密を保護するためだろうな。」

霊夢の疑問に対して、サナダが推論を述べる。

「管理局って連中は何か知らないのか?」

「いや、空間通商管理局はゲートを運営しているだけで、内部構造までは把握していないだろう。大昔の人類が、炎を完全に理解しなくても使っていたのと同じだな。」

霊沙はゲートを管理する空間通商管理局なら何か知っているのではないかと思ったが、サナダはそれを否定した。

《艦長》

「なに、早苗。」

早苗に呼ばれた霊夢は、注意を一旦早苗の声に傾けた。

《サナダさん達がデッドゲートを調査していた時のことなんですけど、恒星間長距離レーダーに気になる反応があって・・・》

 早苗は、レーダーに捉えた僅かな反応の存在を報告した。恒星間レーダーは、精度は粗く、艦船や小艦隊は捕捉できないが、衛星クラスの質量なら遠くでも観測できるレーダーで、最大探知距離は凡そ1,4光年だ。主に予定航路に大きな障害物がないか探査するために使われる。

「問題の宙域には何がある?」

《いえ、恒星間なので、何もない宙域の筈ですが。》

サナダに質問された早苗が答える。

「何もない恒星間空間に反応・・・不自然ね」

霊夢は考え事をするように腕を組んで呟いた。

「ヤッハバッハの可能性は?」

「いや、それはないだろう。第一、こんな辺境に恒星間レーダーに捉えられるほどの大艦隊を派遣する意味がない。」

フォックスがヤッハバッハの存在を懸念するが、サナダによってそれは否定された。

「とにかく、行ってみない事には分からないわ。ヤッハバッハでないようなら、調べてみましょう。少し寄り道するわ。コーディさん。」

「了解だ。進路変更。問題の反応へと向かうぞ。」

コーディは霊夢の意図を察して、艦を反応があった宙域へと向かわせた。

 

 

 

 〈高天原〉は問題の宙域に差し掛かり、遠方に何やら白銀に光を反射している円盤状の物体が確認できるようになった。

「艦長、前方に反応あり、戦艦クラスの反応です!」

ミユが近距離用のメインレーダーに反応を捉えて報告する。

 艦が進むにつれて、徐々に反応にあった艦の艦容が明らかになっていく。

「確かに、あれは戦艦みたいね。」

霊夢は、反応にあった艦を見て呟いた。

「形は整っているが、エネルギー反応は感じられない。動いてはいないようだな。」

サナダは前方の艦にエネルギー反応がないことから、その艦が非稼働状態だと判断する。

「ダウグルフ級に似通った部分もあるが、根本的に違う艦のようだ。」

 その戦艦は、ダウグルフ級のように水上戦闘艦を彷彿とさせる形状で、艦首からは2本の衝角が突き出し、その根本の艦首には2門の大口径軸線砲と思われる穴が空いている。艦底には2つの増槽のようなものがあり、上甲板には5基の3連装砲塔が艦首側に3基、艦尾側に2基並び、その間には艦橋らしき構造物が確認できる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

《前方の漂流艦の全長は凡そ1800m程度、中型戦艦クラスです。》

早苗が前方の艦をスキャンして報告する。

「凄いわね。こんなものが浮かんでいたなんて。」

霊夢は、眼前に広がる景色を見て呟いた。艦の後方にある巨大な円盤状構造物の詳細も明らかとなっていく。戦艦の後方には、白銀に光を反射する楕円形の宇宙ステーションのような物体が鎮座し、ステーションの円盤からは円錐形の構造物が延びている。周りには多くのデブリが漂っているようだ。

「ハハッ・・・これは大発見だぞ艦長!」

 サナダは、眼前の戦艦とステーションの残骸を見て、まるで子供のように興奮して叫んだ。

 

 

「これは・・・"風のない時代"の遺跡だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




アンドロメダがログインしました。

アンドロメダのデザインは、復活篇のスーパーアンドロメダ原案に劇中のスーパーアンドロメダの要素を組み合わせたものです。こいつを登場させてしまったので、小マゼランでは先人様の作品同様にチート無双になってしまいそうです。でも今の相手がヤッハバッハなので仕方ないよね?

今回登場の新キャラですが、ミユ・タキザワとノエル・アンダーソンは宇宙世紀ガンダムのオペレーターからの登場です。この二人は構想時からオペレーターにつけようと思っていました。艦医兼科学者2号のシオンはTYPE-MOONの格闘ゲームのメルブラから登場です。ただしグラはアンダーナイトインヴァースのエルトナムさんに白衣を着せた感じです。性格もUNIとFGOに近い割とはっちゃけた方向です。(普段は比較的冷静ですが)そのうち十六次元観測砲とか作るかも(笑)



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第一一話

執筆を続けていると、スマホの予測変換がバカ過ぎてイライラしてきます。攫うをさらうで変換できないとか何なんですかね。 これじゃあガラケーのほうが賢いんじゃないかと思います。

今回は霊夢と禍霊夢(霊沙)以外の東方描写があります。とは言ってもなけなしの能力とスペカ描写ですが。


 ~イベリオ星系郊外・微惑星滞留宙域~

 

 

 

  風のない時代とは、25世紀に、人類が"MAYAプロジェクト"と呼ばれる新天地探索計画に基づいて、地球から凡そ4万隻の巨大移民船団に乗って旅立ってから、約1万年に渡って続いた宇宙の大航海時代のことを指す。しかし、当時の記録は、多くの移民船団が人口減によって自然消滅したことにより滅失しており、その実態は未だ明らかになっていない。また当時有していたと言われている多くの先進技術も移民船団の消滅と共にそのノウハウが失われ、一部はオーバーテクノロジーとして扱われている。現在宇宙の各地に広がる人類の先祖は、この大航海時代を生き残った僅かな人類が新たな惑星に根差して発展したものである。

「へぇ、こんなところに中々凄そうなものが眠っていたのね。ところで、サナダさんはどうして目の前の遺跡が"風のない時代"のものだって分かったのかしら?」

 霊夢は眼前に鎮座している古代遺跡に関心を示しながら、サナダがこの遺跡の正体を言い当てたことを疑問に思い、彼に理由を尋ねた。

「以外と知られていないが、"風のない時代"の遺跡はこのM33銀河だけでも今までで3つほど見付かっていてね、それらには共通した特徴が確認されている。一つは目の前の遺跡に見られるような白銀を基調とした外装に、円盤や円錐形といった曲線を多用した有機的なデザインの宇宙建築だ。そしてもう一つが━━━」

サナダは説明を続けながら、手元のコンソールを操作して艦橋天上のメインパネルに遺跡の拡大画像と、文字が並んだ写真の画像を表示した。

「この遺跡の左側の、恐らく宇宙港と思われる開口部の上に書かれている表示を見てほしい。この文字は古代銀河標準語と呼ばれるもので、"風のない時代"の晩期から、ヤッハバッハ帝国の元となった旧ヤッハバッハ公国建国直前の時代、今から凡そ3000年前まで使われていた言語だ。この言語は資料が比較的豊富に残されており、解読も進んでいる。ちなみにここに書かれている表示の読みは、"ネオサイタマ・スペース・ステーション"、だな。」

サナダは遺跡の写真と文字列の写真を使って説明しながら、目の前の遺跡が風のない時代のものである証拠を提示した。

「あれが"風のない時代"の遺跡だってことはよく分かったわ。けど、時々思うんだけど、あんたの専門は何なのよ。0Gドックだと思ったら発明家だし、医者の真似事もするし、今度は考古学者ときた。」

霊夢はサナダの口から繰り広げられる専門的な説明に、感心を通り越して半ば呆れたように呟いた。

「私はただ、自身の知的好奇心の赴くままに行動しているだけだぞ、艦長。」

サナダは、その内容がさも当然であるかのように、霊夢に答えた。

 

━━ああ、やっぱこの人はマッドみたいだわ。それも河童みたいな人のようね━━

 

 霊夢は幻想郷で暮らしていた頃に、発明好きの河童が噛んでいた数々の騒ぎを思い出しながら、サナダに対して以前抱いていた常識人という評価を完全に覆し、マッドサイエンティストであると認識を改めた。

「とにかく、ここまで来たからには遺跡の外観だけ見ておさらばする訳にはいかないわ。貰えるものは貰っておきましょう。コーディ、艦を遺跡の宇宙港に入れてくれる?」

霊夢はここまで来たらもう引き下がれないと思い、遺跡を調査する為に〈高天原〉を遺跡の宇宙港に入港させるように命じた。

「了解だ、霊夢。墓荒らしとは、艦長も大胆なことを指示するようになったもんだな。」

指示を受けたコーディは、霊夢を茶化しながら命令に応えた。

「墓荒らしじゃないわ、有効利用よ!別に資源を頂くのは墓荒らしには入らないでしょ!」

霊夢は語気を強くしてコーディーの言葉を訂正した。

「その程度、分かってるぜ。」

コーディは霊夢の言葉を意に介さずに、操舵を続けた。

《コーディさん、遺跡の周辺には多くのデブリが確認されています。操舵には充分注意して下さい。》

レーダーで遺跡の周辺に広がるデブリ帯を捉えた早苗は、その存在を舵を握るコーディに警告した。

「了解。」

コーディーは警告を受けて気を引き締め、舵を握る力を強めた。

〈高天原〉は、無数に点在する大小のデブリを避けつつ、遺跡に接近していく。

「遺跡宇宙港まで距離あと600。当該宇宙港の周辺には、脅威となるデブリは存在しません。」

オペレーターのミユが報告する。

「その宇宙港に入港しましょう。機関微速。」

「了解、機関微速、減速スラスター噴射。」

霊夢は遺跡の宇宙港に入港するよう指示し、コーディは入港に備えて艦を減速させた。

「艦を回頭させるぞ。」

コーディがコンソールを操作すると、〈高天原〉の両舷に備え付けられた回頭用の小形ノズルが噴射し、艦はバックの体勢で遺跡の宇宙港に滑り込んだ。

「入港を確認。重力アンカー始動。艦を固定させるぞ。」

通常の宇宙港は港側のガントリーロックで宇宙船を固定するが、この宇宙港は遺跡のため、機能しているか分からないので、コーディは艦が入港したのを確認すると、艦が流されないように重力アンカーで艦の位置を固定した。

「後続艦も入港を終えた模様です。」

入港が完了した〈高天原〉の左隣には、同じように入港を終えた〈サクラメント〉が静止していた。

「じゃあ、早速探索隊を編成しましょう。」

 遺跡に入港すると、霊夢は遺跡を探索する部隊の編成を指示した。

「サナダさんと、保安隊の二人は連れていきたいけど、他に志願者はいるかしら?」

霊夢は艦橋全体を見回して、探索隊の志願者を募った。

「そんじゃ、私も行かせて貰うぞ。こんな面白そうなこと、見逃す訳ないだろ。」

霊沙はにやりと笑って、探索隊へ参加する意思を示した。

「私は残ろうと思います。確かに面白そうなことですが、緊急時に備えて、誰かは艦に残っている必要があります。」

オペレーターのノエルは、非常時に備えて、艦に残留することを希望した。

「私もノエルと同意見です。」

ミユも、ノエルと同じ意見を表明する。

「じゃあ霊夢、留守番組は俺が預かっておこう。何かあったら、早苗を通して艦長の端末に連絡する。」

コーディは残留組の纏め役を買って出た。

「じゃあ留守番組の指揮はコーディに任せるわ。サナダさんは連れていきたい人はいる?」

「そうだな・・・取り敢えず助手のチョッパーと、同業者のシオンは絶対に行くと言うだろうな。あとは、遺跡に降りるための内火艇のパイロットが一人欲しいところだな。」

サナダは、遺跡に降りる際に乗り込む小型艇のパイロットが必要だろうと進言した。

「そうね、パイロットならタリズマンかバーガーさんがいるから、後で話しておくわ。」

霊夢は、小型艇のパイロットとしてどちらか一人に話をつけておくと答える。

「では、探索の前にドロイドである程度の構造や遺跡の安全性は確認しておくべきだろう。艦長、〈サクラメント〉から自動装甲歩兵と探索ドロイドの部隊を先行して発進させ、その間に我々の準備を済ませようと思うのだが、どうかな?」

サナダは遺跡探索の方針を霊夢に提示して、指示を仰いだ。

「それで行きましょう。探索隊の参加者には、万一に備えて装甲服の着用を指示しておくわ。」

霊夢はサナダの案を承認し、各乗員の携帯端末に今後の活動方針を送信した。

「それじゃあ各員準備に取り掛かりなさい、掻っ攫えるものは根こそぎ頂いていくわよ!」

「了解!」

 霊夢は探索の準備を指示すると共に、遺跡探索へ向けて乗員を鼓舞し、士気を高めた。

 

 

 

  工作艦〈サクラメント〉からドロイド部隊が発進して約1時間が経過し、遺跡内部は呼吸可能な空気で満たされていることが判明し、構造も艦から近い区域はほぼ把握されていた。

 霊夢達は、遺跡探索に向けて準備を整え、小型艇に乗り込んでいた。艇のパイロットには、トルーパーのタリズマンが任命されている。彼曰く、病み上がりのリハビリだそうだ。バーガーには、非常時に備えて救援用の小型艇のパイロットを任されている。

 探索隊に参加する者は大半が装甲された宇宙服を着込んでいるが、霊夢と霊沙は空間服を着たままだ。元々空間服には宇宙服の機能があるのに加えて、霊夢の持つ"空を飛ぶ程度の能力"で外界の法則から"浮く"ことができるので、真空や有毒ガスにも一定時間は対応できる。なので、彼女は非常時にはこの能力を使うことにしている。霊夢曰く、能力を使わないと勘が狂っていざというとき時に使えなくなるからだそうだ。霊夢がベースとなっている元妖怪の霊沙も同じ能力があるので、彼女も空間服のままだ。

「全員乗り込んだな。じゃあ発進するぞ。いいな、艦長。」

「良いわよ。発進しなさい。」

操縦席に座るタリズマンは、全員の乗り込みを確認して、霊夢の許可が出ると艇を発進させた。

 エンジンを起動した小型艇は甲板から浮くとランディング・ギアを格納し、発進用のゲートが開口すると、艇はそこから艦を飛び出して遺跡の内部に突入した。

 小型艇はしばらく飛行を続けると宇宙港の隣にある造船所と思われる区画に突入し、そこに着陸した。

「私達は遺跡の中に進むわ。タリズマンはこの艇で待機してくれるかしら?」

「了解です。」

霊夢はタリズマンに小型艇の留守番役を命じた。

「チョッパーもこの艇に残って、探索ドロイドの部隊から送られてくるデータを私に転送して欲しい。」

「了解しました、班長。」

サナダもチョッパーに艇に残るよう命じ、ドロイド部隊から送られてくるデータを自分に送るように要請した。

「よし、それじゃあ探索隊は降りるわよ。私に続いて。」

小型艇のハッチが開き、霊夢を先頭に遺跡探索隊が降り立つ。

 遺跡の床は、硬い金属のようなもので作られており、装甲服の鈍い靴音が薄暗い空間に響き渡る。遺跡の造船区画はまだ生きているシステムもあるらしく、所々照明が点灯していた。しかし、それらの照明の明るさは区画全体を照らすほどのものではない。

「やはり内部にも、"風のない時代"の遺跡特有の有機的なデザインが見られるな。」

サナダは、ライトに照らされた遺跡の壁や床を見て呟いた。遺跡の内部も、外部と同様に壁や床に曲線を多用した有機的な模様が描かれていた。

「艦長、左側に何かあるぞ。」

薄暗い遺跡の中で、ふとヘルメットのライトを左側に回したエコーが、何か見つけたようで、それを霊夢に報告する。

「何があったの?」

霊夢はエコーの報告を受けて足を止め、自身もエコーが指した方向に振り向いた。

「あれは・・・遺跡の外にあった戦艦みたいね。」

霊夢は、ぼんやりと見えるそれのシルエットが遺跡を発見した際に漂流していた戦艦のデザインに近いことに気がついた。

 一行がその艦に近づいてみると、やはり遺跡の外にあった戦艦の同型艦のようだった。

「おおっ、やっぱ近くで見ると迫力あるな。」

霊沙が戦艦を眺めて、その感想を述べる。

「艦長の言った通りだな。やはり、これは遺跡の外にあったものと同型だ。恐らく、この遺跡の警備艦隊の主力艦だったのだろう。」

サナダは戦艦を観察して呟いた。

「サナダ班長、この艦の装備、解析はできないでしょうか?この艦を解析すれば、艦隊戦力の強化に繋がるのでは?」

サナダに同伴していたシオンが尋ねた。

「うむ、そうだな・・・だが先ずは他の区画を探索しよう。何処かに設計図でもあれば、此方の事情に合わせた改設計ができる。」

サナダは、かつて〈高天原〉を建造した時のように、遺跡から艦船設計図を発掘して、遺跡戦艦を再生することを目論んでいた。

「それなら、他の所も探索しましょう。」

一行は一旦戦艦から離れて、他の区画の探索へ向かった。

「艦長、あそこに扉らしきものがあります。どうやら空いているようです。」

 ファイブスが他の区画へ通じる扉らしきものを発見し、報告した。

「よし、そっちに進むわ。」

 霊夢達は、ファイブスが見つけた扉の内側へと足を進める。扉の向こう側は廊下になっており、ライトで照らされた壁や床には造船区画同様の意匠の模様が見られた。廊下の照明はエネルギーが切れているようで点灯しておらず、廊下の先には漆黒の空間が続いていた。

 一行が廊下を進んでいくと、ピピッ、ピピッ、と、サナダの携帯端末の呼出音が鳴り響いた。サナダは携帯端末を手に取り、送信者を確認する。どうやら、相手はチョッパーのようだ。

「どうしたチョッパー、何かあったのか?」

《はい、班長。ドロイド隊の一部が、居住区と思われる区画に突入しました。今、映像をそちらに転送します。》

 チョッパーは、ドロイド部隊の探索の進捗状況を報告した。

 サナダの携帯端末には、ドロイド部隊から送られてくる映像が表示された。そこには、黄色く霞んだ空気に覆われた多くの高層建築が映し出されていた。

「おい、みんな、こいつを見てくれ。」

サナダは携帯端末の映像のホログラムを拡大し、他のメンバーに声を掛けた。

「どうしたの?」

霊夢が、サナダに用件を訊ねる。「今チョッパーの奴から報告があった。ドロイド部隊の一部が居住区と思われる区画に突入したらしい。これはその映像だ。」

説明を受けた一同は、サナダの携帯端末から拡大される映像のホログラムを食い入るように見つめた。

「確かに、これは街のように見えます。しかし、空気の汚染が酷そうですね。」

シオンは、街を覆う空気の様子から、空気が汚染されている可能性を指摘した。

「ああ、とても人が住む環境には見えないな。」

シオンの意見に、エコーも同意する。

《どうやらその通りのようだ。ドロイドの分析結果では、当該区画の空気成分には基準値を大幅に上回る硫黄酸化物や窒素酸化物の存在が確認されています。二酸化炭素濃度は10%を越え、酸素濃度は1%以下のようです。》

チョッパーはドロイドから送られてくる空気成分のデータを読み上げ、その区画の空気が汚染されていることを報告した。

「やはり空気汚染でしたか。しかし、この遺跡には高度な科学力が投入されているのに何故、この区画の空気は汚染されているのでしょうか?」

シオンは、チョッパーの報告を受けて疑問に感じた点を呟いた。

「そうだな、この遺跡内で大規模な内乱が発生したか、環境を制御する装置が故障した結果か・・・どちらにしても、我々には分からないことだな。」

サナダは報告を受けて、居住区の空気が汚染された原因を考察する。

「チョッパー、その居住区は我々の現在位置と比べてどのくらい離れている?それと、方角の情報も頼む。」

《はい・・・大体、距離にして10kmほどのようです。遺跡の規模を考えると、近からず遠からずって距離のようです。方角は、班長達の現在位置から見て遺跡の中心方向、1時の方角のようです。》

チョッパーはサナダの質問を受け、霊夢達の現在位置と居住区との間の距離を測定した。

「艦長、例の居住区は避けて通るべきかと。居住区なら大して得るものはないでしょうし、空気汚染が酷すぎます。探索は、ドロイドだけで充分でしょう。」

サナダは、チョッパーの報告による情報を元に、霊夢に方針を進言した。

「分かったわ。私達は別の場所を探索しましょう。」

霊夢はサナダの進言を受けて、汚染された居住区を避けることにした。

 

「艦長、此方にも道が続いているようです。」

 霊夢達は、暫く進むと道の分岐点に到達した。一方は真っ直ぐ続いており、もう一方は右へ分岐し、階段が上に続いていた。

「右に行くわ。着いて来て。」

霊夢は進行方向を指示して、隊員もそれに続いた。

 

 階段を登り、しばらく進むと、そこは隔壁で閉ざされていた。

「艦長、隔壁です。」

「見れば分かるわ。」

 霊夢は隔壁の出現を受けて、これをどうやって突破しようかと思案した。

 見たところ。隔壁を操作するスイッチはあるが、機能停止しているようで、霊夢が触れても何の反応もなかった。

「艦長、爆破しますか?」

エコーが設置型の爆弾を取り出して、隔壁の爆破を試みようとする。

「待って、ここは私に任せなさい。ちょっと試したいことがあってね。」

 霊夢はエコーを制して一歩前に出て、腰に下げた刀━━スークリフ・ブレードを抜いた。

「艦長、この隔壁はスークリフ・ブレード程度では切れないと思うが・・・」

「まぁ、見てなさい。」

サナダは霊夢が刀で隔壁を破ろうとしているのかと考え、それでは破れないと指摘するが、霊夢はサナダの指摘を意に介さずに、刀を握る手に力を込めた。

 

 ━━刀身に霊力を纏わせて・・・断ち斬るっ!━━

 

 霊夢は自信の能力の一つ、"霊気を操る程度の能力"を駆使して、スークリフ・ブレードの刀身に彼女の大技"夢想封印"に匹敵するほどの霊力を込め、刀を"切断"に特化させる。彼女の霊力を込められたスークリフ・ブレードは鈍い赤色の光を発し始め、刀身の姿が朧気に霞み始めた。

 

「はああっ!」

 

 霊夢が力一杯刀を降り下ろすと、隔壁にヒビが入り、破片がこぼれ落ちた。

「艦長、今のは?」

 事の一部始終を見ていたシオンが霊夢に尋ねる。彼女は、霊夢が試したことが理解できなかった。

「ちょっと力を試したんだけど、詳しくはまた今度ね。気になったらサナダさんにでも聞いておきなさい。」

霊夢は自身の事情をここで長々と語るべきではないと思い、既に自分の事情を話して、そのことを知っているサナダならシオンの質問に答えられると踏んでそう指示した。

「う~ん、いまいち上手く行かなかったみたいね・・・夢想封印!」

 霊夢はヒビが入った程度の隔壁を見て、左手にカードを持って隔壁に突き付け、隔壁をこじ開けようとスペルカードを発動した。

 霊夢がスペルガードを発動すると、彼女の周囲に数個の赤い光球が現れて、隔壁に向かって突き進み、隔壁を破壊した。

「おい、こんなところでスペルカードなんて使うなよ・・・」

霊夢の行動に、霊沙が苦言を呈した。

「いいじゃない、使わないと腕が錆び付くのよ。さ、邪魔な隔壁も無くなったことだし、先に進みましょう。」

 霊夢は上機嫌な足取りで遺跡の奥へ進んでいく。それにサナダが無言で続いていくのを見て、霊夢の行動に茫然としていたシオンやトルーパーのエコー、ファイブスもそれに続いて隔壁の奥へ進んでいった。

 

 

  隔壁の奥へ進むと、開けた円形空間に到達した。その空間だけは、機能が生きているようで、照明が点いていた。

「ここは・・・」

「どうやら、まだ生きている区画にたどり着いたようだな。」

 サナダは立ち止まる霊夢達をよそに、その部屋に備え付けられているコンピューター類に目を向けた。

「成程・・・言語は古代銀河標準語のようだが、操作方法は我々のコンピューターとそう変わらないみたいだな。」

サナダはコンピューターに辿り着くと、操作を試みてあちこち弄り始めた。

「あっ、サナダ班長、操作できるんですか?」

シオンはコンピューターを弄るサナダに声を掛けたが、反応はない。

 すると、ゴウゥン、という鈍い音が響き、それに続いて機械音が響き始めた。

「あんた、今何したのよ。」

 突然の変化に驚いて、霊夢がサナダに尋ねた。

「なにって、単に動力を回復しただけだが。どうやらこの遺跡は管制設備が複数あるらしい。今起動したのは、造船区画とその周辺の動力のようだな。」

サナダは、いつもと変わらぬ真顔で説明し、コンピューターの操作に戻った。

「なに勝手なことを━━━って今度は何よ!」

霊夢がサナダに文句を言うと、今度は彼女の頭上にホログラムの画面が表示された。

「━━━よし、見つけたぞ!」

霊夢の頭上に出現したホログラムを見たサナダは、その場で拳を握りしめ、ガッツポーズを取った。

「何が"よし"よ、ちゃんと説明しなさい!」

「ああ艦長、これはすまないな。見ての通り、艦船の設計図を発掘した。」

サナダはホログラムを指して説明する。

「班長、早いですよ。けど流石です!」

シオンはサナダの手腕に感銘を受けて、それを称賛した。

「これは・・・あの漂流戦艦の設計図か?」

霊夢の頭上に浮かぶホログラムの設計図を見た霊沙が呟く。

「それだけではないようだな。その戦艦の他にも、3種類ほどの艦船設計図があるようだ。」

ホログラムには、遺跡の外や造船区画で遭遇した戦艦の他にも、背の高い塔型艦橋を艦の上下に備えた円柱形の艦体を持つ戦艦や、箱形の艦体に円柱形のメインノズルが接続されている戦艦、円と方形を組み合わせた平坦な艦橋を持つ葉巻型の戦艦の設計図などが表示されていた。

 

 

 

「ところで艦長。君は更なる戦力強化を望むかね?」

 

 

 

 マッドサイエンティスト・サナダは、そんな言葉を霊夢に囁いた。

 

 

 

 

 

 




SFにはよくいる専攻が分からない変態科学者って便利ですね。無限航路本編だとジェロウ教授みたいな人です。当作品ではサナダさんがその役目です。ちなみにサナダさんは2199ではなく旧作の真田さんなので、"こんなこともあろうかと"、と唐突に新兵器が登場したりするかもしれません。ご期待下さい。

霊夢が主人公なのに、何気に今話でスペカ初登場。夢想封印の威力は隔壁破壊用程度に押さえています。こういう能力描写はあまりしたことがないので、下手だったら許して下さい・・・。
なお、スペカは無限航路本編に絡んだ時点で一度の出番が確定しています。といっても大分先の話ですが。この作品はSF成分90%でお送りしていますので、スペカにはあまり期待しないで下さい。

終盤の戦艦設計図はヤマト的なデザインの艦船を想定しています。次回で霊夢艦隊大拡張&戦艦デザイン公開の予定です。お楽しみに!


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第一二話

バイトが終わって暇ができたので、活動報告の予告よりも少し遅いですが投稿です。



 ~〈高天原〉艦内神社~

 

  この〈高天原〉艦内の自然ドームに建設された艦内神社、高天原神社は、艦長である霊夢の私室としての側面も有している。生前は神社暮らしだったので、ここが一番落ち着くとの談だ。そんな高天原神社では、その神社と艦の主である霊夢が缶詰めになっていた。

 

 

「う~ん、ねぇ早苗、このモジュール、どこに配置すればいいと思う?」

 今、艦長である私は、サナダから渡された端末を使って新しく建造される艦のモジュール配置を考えているところだ。配置を考えるために神社に籠ってから、かれこれ数時間は経過していると思う。随伴艦の設計はサナダさんが適当に終わらせたみたいだけど、旗艦の内装ぐらい考えておけ、と私に丸投げされた仕事だ。サナダ曰く、世間の0Gドッグは自艦のモジュール配置くらい考えるのは当然だという。それが当たり前なら仕方ないか、と割りきって私はモジュール配置図の作成に勤しんでいる。

 しかし、何分初めての事なので私にはよく分からないことも多い。適当にパズルのようにモジュールを組めばいい、という訳ではなく、戦闘用モジュールなら艦橋やCICと一纏めの区画に配置したり、居住用のモジュール、訓練用のモジュールなどもなるべく一つの区画に納まるように考えて配置しなければならないらしい。その方が色々と便利なのだそうだ。そしてモジュール配置に行き詰まったときは、こうして早苗に助言を求めたりしている。

《えーっと、このモジュールですか?出力増幅機なら、主砲用のエネルギーバイパスに接続する形で配置した方が、主砲の威力が上がるので、その方がいいと思いますが。》

「こうかしら?」

私は早苗の助言を受けて、操作していたモジュールの図を前甲板主砲群の下に配置した。

《はい、そこですね。》

どうやら私が配置した場所は正しかったようだ。

「じゃあ次のモジュールだけど・・・」

 出力増幅機のモジュールを配置し終え、次のモジュールの配置に取り掛かる。

《これは、自然ドームのモジュールですね。》

 次に配置するのは、早苗が確認した通り、自然ドームのモジュールだ。この〈高天原〉にも搭載されているが、このモジュールは新しい艦の大きさに合わせて改良したタイプだ。〈高天原〉のそれと比べて底面積は4倍、高さは1,5倍となっていて、体積は6倍だ。拡張された部分には、主に艦内食堂での利用が想定されている野菜や果物などの栽培施設を設置したり、竹藪などの新しい植生が再現されている。幻想郷らしい建築物も少し増やしている。主に鈴奈庵などだ。鈴奈庵を模した建物では、主に戦史関係の資料を関越できる。私達が持っていない戦史資料室モジュールの代用だ。

「自然ドームは、今と同じような場所でも良いわね。」

 私は、自然ドームのモジュールをこの〈高天原〉と同じような区画、艦体中央の艦尾寄りの位置に配置した。艦橋とCICの下にあった空き区画だ。

《そうですね、その場所でも、特に問題ないと思います。?

早苗も特に異議は挟まず、配置場所はすんなりと決まった。

 

 

 その後も早苗と一緒にモジュール配置を考えたが、既に重要区画の配置は終わっていたため、残りのモジュールは空きスペースに放り込んで、後は場所を調整するだけだったので、1時間程度で終わらせることができた。後で遺跡の造船区画にいるサナダさんのところに持っていくと、「遅いぞ。」と言われた。この程度のことなら10分あればできると豪語していたっけ。私は初めてなのよ、その辺りも考えなさいよ、このマッドめ、と私は心の中でサナダさんに悪口を言ってみたりもした。

 

 

「ところで艦長、新造艦のデータは把握しているか?」

 サナダさんに新旗艦のモジュール配置図を渡し、艦に戻ろうとしていた私はサナダさんが呼び止められた。

「一応は送られてきたデータには目を通してみたけど、よく分からなかったわ。」

 私は素直にサナダさんの質問に答えた。

 この世界に来てから、この世界での常識や艦船に関する知識などが頭に流れ込んでききたようで、今は慣れてきたのか違和感なくそれらの情報を引き出せるのだが、如何せん幻想郷とは勝手が違うので、よく分からない部分も多い。サナダさんから送られてきた艦船のデータに関しても、基本スペックや武器の情報などは分かっても、実感としてそれがどれ位強いのかといったイメージは沸いてこなかった。

「そうか、なら説明しておいた方がいいかな。今回我々が建造しているのは、主に4つのタイプの艦だ。一つは遺跡の外で見た漂流戦艦の略同型艦だが、これはまだ建造段階に入っていないから飛ばすぞ。」

 私の答えを聞いたサナダさんが説明を始める。サナダさんの科学蘊蓄は時には鬱陶しく感じるのだが、こういう時は口で説明してもらった方が有り難かったりする。単にデータを送られてくるよりは分かりやすい。

「他の3タイプだが、まずはこいつから説明しよう。」

 サナダさんは自分の携帯端末から、一つの艦船設計図をホログラムにして私に見せた。

 

【挿絵表示】

 

「こいつはヘイロー級自動駆逐艦だ。全部で6隻が建造される。この艦は主に護衛艦としての運用が想定されていたらしいが、我々の艦隊で運用するに当たって、無人化の上で不要な居住区を削り。私が独自開発した長距離艦対艦ミサイル〈ザンバーン〉用のVLSを前甲板に設置している。さらに主砲はプラズマ砲に換装し、対艦火力を高めた。これでこのクラスの艦は大型艦の護衛だけでなく、対艦攻撃にも使える汎用駆逐艦としての能力も持ち合わせている。さらに、上下の艦橋には様々なレーダーを始めとする観測機器を搭載し、哨戒任務にも対応させている。」

「要するに便利屋って訳ね。」

私の喩えに、サナダさんは無言で頷いた。

「艦隊では、駆逐艦としてのオーソドックスな運用を想定して設計したからな。」

 少し脱線するが、ここで駆逐艦の話をしておく。駆逐艦の主な運用方法は、艦隊の中枢となる大型艦艇や補給艦、輸送艦などの護衛に、敵艦に肉薄してのミサイルや小口径レーザーによる攻撃、敵を警戒するピケット(哨戒)艦としての運用など、多岐に渡る。サナダが言った汎用駆逐艦とは、そのどれかに特化している訳ではなく、それらの任務全てを想定して造られている駆逐艦のことを指す。こういう知識もヘルプGの受け売りだったりするけど。

 

【挿絵表示】

 

「では、次の艦を説明するぞ。こいつはクレイモア級自動重巡洋艦だ。ヘイロー級同様、無人化改装を施している。この艦に想定される任務は、艦隊の主力艦としての砲雷撃戦任務に、敵艦載機、ミサイルからの防空任務だ。艦隊戦を想定した重巡洋艦として設計している。主要敵はダルダベル級重巡洋艦だな。この艦級の主要装備であるミサイルに対抗するため、装甲は戦艦に匹敵するものを装備、対空火力が高いのもミサイルに対抗するためだ。肝心の艦隊戦を想定した装備だが、主砲は60口径80cm3連装砲を3基装備、超長距離艦対艦ミサイル〈グラニート〉用VLS20セルを備える。主砲はダウグルフ級戦艦のものを参考に開発し、実弾とレーザー双方の射撃に対応している。対艦ミサイル〈グラニート〉はある星系の端から、恒星を挟んだ向こう側の端に存在する敵艦を攻撃可能だ。射程距離は約2,5光年だな。自立制御用のレーダーも搭載している。弾頭は二段式で、ヤッハバッハ大型艦の強固な装甲を突破するために、第一弾頭が着弾した後、装填された炸薬で敵艦の装甲を融解、爆破させ、続いて第二弾頭を送り込み、敵艦に致命的なダメージを与える。肝心の威力だが、廃艦所要弾数はダルダベル級なら2発、ダウグルフ級なら5発ってところか。運良く弾薬庫などに命中すれば一撃での轟沈も狙える。」

 サナダさんは嬉々として重巡洋艦の説明を続ける。聞いている限りでは、殴り合い上等の決戦艦のような印象だ。ミサイルについてはよく分からないが、なにやら凶悪そうなミサイルということは理解できた。

「要するに小さな戦艦って訳ね。」

「その通りだ。このクラスはヤッハバッハ艦隊の妨害を排除する目的で設計したからな。因みに建造数は4隻だ。さらに━━」

 サナダさんは端末を操作して、表示されている重巡洋艦の設計図の横にもう一つ、別の艦を表示した。外見は先程の重巡洋艦に似ているが、武装が撤去され、その代わりに前甲板には大型のクレーンのようなものが備え付けられている。

「こいつはプロメテウス級工作艦。クレイモア級重巡の設計を流用して作った工作艦だ。主に今回建造される艦に使用されている専用パーツの交換部品、補充用の艦載機を生産する。」

 サナダさんが表示したのは工作艦だ。今艦隊にいる〈サクラメント〉のような艦だ。

「確かにウチとしては、こういう艦も必要よね。」

 ヤッハバッハから逃げている私達は、宇宙港から満足な補給を受けられない可能性もある。ヤッハバッハの影響力が強い惑星だと、宇宙港に降りたら捕まってしまう可能性があるからだ。なので、こうした長距離航海用の補助艦艇は、私達の艦隊にとって必要不可欠な存在なのだ。

「では、最後の艦だな、こいつは改ブラビレイ級多層式航空母艦。いつぞやに説明した奴だな。こいつはブラビレイ級を完全に無人化することで不要な機能を削除し小型、低コスト化しつつ、空母としての能力を維持した艦だ。今回は1隻建造する。」

 サナダさん端末を操作して、先程まで掲示していた重巡洋艦の設計図に変わって、新型空母の設計図を表示した。

 その艦は全体的にブラビレイ級に似た多層式の飛行甲板を持つ空母だが、ブラビレイ級とは異なり最下層の甲板が一番長く、エンジンブロックの位置も艦尾下部から上部に移動している。

「ああ、確かそんな話聞いたわね。空母がいてくれるのは、艦隊としては有り難いわ。」

 空母の役割は主に二つある。艦隊の防空と敵艦隊の攻撃だ。空母の艦載機は戦艦と違い遠方の敵を攻撃できるので、敵艦隊の射程外から一方的に攻撃したり、敵の艦載機隊から艦隊を守る戦闘機も複数搭載することができる。ヤッハバッハは巡洋艦以上なら艦載機は当たり前のように持っているので、艦隊に空母があれば防空には役立ってくれる。さらに、空母から複数の偵察機を出すことで、敵との遭遇を避けることもできる。それらの役割は艦載機を搭載した戦艦や巡洋艦でもある程度代用できるが、専用艦艇がいた方が色々便利なのだ。

「更にだな、この空母は艦載機の整備、補給サイクルも全自動化されている。帰艦した艦載機はこのように着艦用の第4甲板に着艦し、状態の良い機体は上層の甲板で補給を受け、エレベータで発艦用の第1、第2甲板に運ばれた後、速やかに再出撃が出来る。このように、本級は"疲労がない"という無人機の特性を生かして、従来の空母よりも迅速な航宙機の展開能力を有している。さらに、専用の新型艦載機の設計も進めているところだ。」

 サナダさんはホログラムの設計図を指しながら、説明に合わせて指で示す場所を変えていく。

「よく分からないけど、なんだか凄そうね。」

「そうだ。従来の空母よりも低コストで、遥かに優れた航空制圧能力を有するのがこの艦の強さだ。分かって頂けただろうか。」

「ええ、何となくは。」

 と言われても私には詳しく分からないので、曖昧な返事で御茶を濁すことにした。

因みに随伴艦の艦名だが、今回は付けたい人が勝手に付けている。

ヘイロー級駆逐艦はそれぞれ〈ヘイロー〉、〈バトラー〉、〈リヴァモア〉、〈ウダロイ〉、〈春風〉、〈雪風〉

クレイモア級重巡は〈クレイモア〉、〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉

プロメテウス級工作艦〈プロメテウス〉

改ブラビレイ級空母〈ラングレー〉

艦名はこのようになっている。

 

 

 

「さて、艦隊の話はこの程度にしよう。話は変わるが、艦長は"エピタフ"を御存知かね?」

 

 

 ―― "エピタフ"? ――

 

 聞き慣れない単語に、私は首を傾げた。

「なんなのよ、それ。聞いたこともないわ。」

私の記憶には該当するものが無いので、サナダさてに"エピタフ"とやらの詳細を問い質した。

「そうか、知らなかったか。まぁいい。エピタフというのはな、実は私もよく分からん。」

「はぁ?」

サナダさんの答えに、私は呆れて溜息をついた。

「なんなのよ分からないって。あんたが知らないことなんて、私でも知ってる訳ないじゃない。」

「いや、そうじゃない。エピタフというのは一応このようなものなのだが―――」

サナダさんは端末を操作して空母の設計図のホログラムを消すと、今度は10cm四方の立方体のホログラムを表示した。その姿は、古代のアーティファクトといった趣を醸し出しているように感じた。

「これがエピタフと呼ばれているものだ。時々"エピタフ遺跡"と呼ばれる独特の構造を持つ遺跡から発見されるもので、その機能など、詳しいことは未だに一切不明な代物だ、私が分からないと言ったのはそういう意味だ。」

「へぇ、そんなものがあるのね。」

私はサナダさんの話に興味を惹かれて聞き入った。

 確かにエピタフなるものは神秘的な雰囲気を感じる。私が元巫女だからかしら。

「売ったら幾らになるのかしら。」

私は純粋に、エピタフなるものの価値が気になった。こういったものは、大体その手の愛好家に売り付ければ高値で売れたりする。それはこの世界でも変わらないだろう。

「はぁ・・・艦長はロマンがないな。このエピタフは、その役割は全く分かっていないが、言い伝えによれば、"手にする者は莫大な財を得る"だの"宇宙を統べる力の根源"だのと言われている。」

「財!!?」

 サナダさんの言葉に、私は思わず飛び上がった。

 財、財!

「ねぇ、その財ってなに?どんなの!?」

私はサナダさんの手を握ってブンブン振り回す。

「ま、待て艦長、それはただの言い伝えだ・・・第一、それすらも真実かどうか分からないことだぞ。」

「・・・ちぇっ。」

私はサナダさんの手を振りほどいた。興味が半分失せたわ。

「ゴホン・・・とにかくだな、エピタフというのはそういう代物なんだ。それで、話の続きだが――」

 サナダさんが話を再開すると、私も冷静になって話を聞く。

「――あったんだよ。」

サナダさんが呟く。

「あったって、何が?」

「――あったんだよ、エピタフ遺跡が。この遺跡の中に。」

 瞬間、空気が凍った。

 

 刹那の沈黙が過ぎ、私はサナダさんの言葉の意味を理解して・・・

 

「財!!!」

 

 そう叫んだ。

「ハァ・・・まだそれか。いいか艦長、話を戻すぞ。エピタフ遺跡は、この遺跡の汚染された居住区のさらに向こう側の区画にある。探索用に放ったドロイドがその存在を確認した。しかし、エピタフ遺跡周辺も居住区同様汚染空気が充満している。そこで、探索の為の許可を艦長に頂きた「許可するわ!」」

私はサナダさんの話が終わらないうちに、探索の許可を与えた。勿論私も乗り込む。

「しかし艦長、何故そんな性急に・・・」

「だって財よ、財!実物がないならともかく、実物が近くにあるなら言い伝えとやらの審議を確かめるしかないわ!」

 

 

――財と聞けば黙ってはいられないわ。出撃だ、ガーデルマン。ところで、ガーデルマンって誰?――

 

 

「とにかく、探索は既定の方針よ!すぐに準備するわよ!」

 私はサナダさんに指示すると、準備のために急ぎ足で艦に戻る。

 

 

 "エピタフ遺跡はあるとは言ったが、エピタフそのものがあるとは言ってないんだがな・・・"とサナダさんが言っているのが辛うじて聞こえたが、聞こえないことにしよう。

 

 

 

 ――待ってなさいエピタフとやら。今すぐ私の財にしてやるわ――

 

 

 

 




第一二話投稿です。
霊夢艦隊増強分の艦艇ですが、ヘイロー級駆逐艦はYAMATO2520の3話に出てきた地球連邦の戦闘艦がモデルです。クレイモア級は大YAMATOとかいうOVAに出てきた戦艦を記憶を頼りに書いて適当にアレンジしたものです。艦首に波動砲らしき艤装がありますが、2199のスマホゲームの主力戦艦同様に塞がれています。対艦ミサイルの名前はロシアのものから取っていますが、〈グラニート〉の弾頭の元ネタはヤマト完結編のハイパー放射ミサイルです。
改ブラビレイは2199のガイペロン級そのままです。艦載機は多分マクロスのゴーストになりますが、CFA-44とかコスモファルコンとかドルシーラの開発が視野に入っています。モルガンも出したいですね。
艦名についてですが、結構適当です。古今東西の軍艦から引っ張ってきたり、ヤマトのゲームから流用しています。

エピタフ遺跡ですが、多分霊夢ならあんな反応になりそうですね(笑)

次回では遺跡探索と、新旗艦の艦名を公表したいと思います。


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第一三話

大学が始まってテストがあったり、PS4のマイクラに嵌まったり、BF4でショットガン構えて突撃してました。
すいません言い訳です。では本編です。


 ~イベリオ星系郊外・宇宙遺跡内部~

 

 

 今、私達はこの宇宙ステーションの遺跡内部にあるというエピタフ遺跡に向かって進んでいる。エピタフというのはどうも古代の遺物のようで、手にする者は莫大な富を得ると言われている代物だ。

 探索隊のメンバーは私とサナダさんにチョッパー、そして霊沙の4人だ。この先に高濃度汚染区画が存在するのでサナダさんとチョッパーは気密服と装甲服を着込んでいるが、私と霊沙は能力で何とかなるので普段の空間服のままだ。だってこっちのほうが動きやすいし。

 エピタフ遺跡までは距離があるので移動は車を使っている。私と霊沙は飛べるのだから別に車に乗らなくても良いのだが、勝手の分からない遺跡内部で独断先行する事態は不味いので、部隊単位で行動するために私達も車に乗っている。遺跡の通路は放棄されてから随分経ったらしく、損傷が目立つ。

「見えたぞ。あそこが居住区への入り口だ。」

 移動用のハンヴィーを運転していたサナダさんが居住区に繋がるゲートを確認し、車を止めた。因みに今私達が乗っているハンヴィーだが、これは車輪を格納すれば反重力車として無重力空間でも使用可能な優れものだ。この区画は重力制御が働いているので、通常の車として使っている。

 居住区への入口は固く閉ざされ、来るものを拒むような雰囲気を醸し出している。サナダさんは車を降りると扉の脇に立ち、操作を始める。

「よし、これで良いな。」

サナダさんが操作を終え、扉から離れた。すると、扉がぎこちない機械音を立てながらゆっくりと開き、同時に居住区の中から通路の方へと砂埃が立ち込めた。

「進むぞ、艦長。」

「ええ。」

サナダさんは再び運転席につくと、車を居住区内に向けて走らせた。

 居住区内部は強風が吹き荒れ、砂埃が舞っている。視界が悪いので遠くまでは見えないが、周りの建築物は全て半壊していたり、高層建築に至っては倒木のように根元から折れているものもある。かつては栄華を極めたであろう近代的都市はその面影もなく、無残に崩れ去っていた。

「・・・これは、酷いな。」

霊沙が呟く。彼女もこの光景を見て、何か思うところがあったのだろう。

「俺も職業柄荒廃した都市は腐るほど見てきたが、ここまで酷いのは初めてだ。これじゃあ都市を通り越して正真正銘の”遺跡”だな」

チョッパーは以前は兵士だったらしいので、このような荒れ放題の都市は何度も見てきたのだろう。彼は表面では普通に見えるが、内心では凄惨な市街戦の様子でも思い浮かべているのだろうか。

「むぅ・・・この様子を見ると、気象制御装置が重大な故障を起こしているのかも知れないな。気象制御の暴走によって放棄されてから、管理する人間がいなくなったこともあってさらに異常が進んだと見るべきだろう。」

サナダさんはこんな時でも平静に自身の推論を述べている。

「ケホッ・・・あんたは相変わらず通常運転ね。まあいいわ。遺跡まではあとどれ位かかるの?」

「あと20分といったところだが・・・艦長、やはり気密服を着てくるべきだったのでは?」

「いや、問題ないわ。」

 サナダさんは埃に咳込む私を心配して声を掛けてくれるが、私(と霊沙)は能力で「浮いて」いる状態なので、大気中の有害物質が体の中に入ることはない。私の感覚としては、魔法の森の瘴気より少しきついくらいで、活動に何ら支障はない。

「ハッ、この程度で咳込んでるなんて、軟弱だな、”艦長”さん?クククッ・・・」

「っさいわね!それとこれとは別でしょ。大体誰の御蔭で艦に乗っていられると思っているのよ。」

 霊沙が咳込む私食って掛かる。

 どうもこいつは私が嫌いらしく、時々こうして馬鹿にしてくる時がある。なんでも彼女がいた幻想郷でそこの私にコテンパンにされたらしいが大方異変でも起こしたせいだろう。それなら自業自得だ。それにそこの私とここの私は別人だ。混同するんじゃないわよ。

「はぁ、そのことは感謝しているって何度も言ってるだろ。大体艦に乗る条件に”お前を揶揄わない”なんてのはなかったが?」

なんて霊沙は言っているが、そんな態度を見れは怪しいものだ。溜息つきたいのはこっちだっての。

「っ・・・もういいわよ。あんたと話してると疲れるわ。」

霊沙と付き合っててもまたからかわれるだけなので、とりあえず私は霊沙の声から逃げることにした。

「ちぇっ、つまんない奴。」

なにやら霊沙は不満のようだが、気にしない。

「なあ艦長、前から気になってたんだが、霊沙とは姉妹か何かなのか?」

 

 ――ハァ?私がコイツト姉妹デスッテ?――

 

「「誰がこいつなんかと姉妹ですって(だって)?」」

 

 私はチョッパーの質問に抗議したが、その声が見事に霊沙のものと被ってしまった。

「「あ・・・」」

私と霊沙は、互いに顔を見合わせる。

「っ・・・もういいわ。この話はなし。」

「同感だ。」

このまま続けても埒が空かないので、ここで強引に話題を打ち切った。

 

 その後しばらく車内では無言の状態が続いたが、居住区を抜けたところで再びサナダさんが閉じられたゲートを確認し、解錠作業を行う。サナダさんが暫く作業を続けると扉は開き、私達は遺跡を目指してさらに車を走らせた。

「ところでサナダさん?エピタフ遺跡って異星文明の遺跡って聞いたけど、なんで人間が使ってたステーションの残骸から出てくるのかしら?」

思えば、そこが不思議な点だ。この宇宙ステーションの遺跡は風のない時代に建設された人類の宇宙ステーションらしいが、エピタフはそれ以前の異星文明の遺物らしい。とすればエピタフ遺跡もその異星文明の遺跡となるが、なぜ人間が建設したものの中から出てくるのだろうか。

「そうだな・・・一番考えられるのは、当時の人間が研究目的等の為に遺跡ごとステーションに持ち込んだことだな。それなら、人類の遺跡からエピタフ遺跡が出てくることは容易に説明できる。若しくは、このステーション自体が異星文明の遺跡をベースに建設されたというのも考えられる。私が思い付く限りではこれだけだな。」

サナダさんは丁寧に私の質問に答えてくれた。成程、確かにそれなら人間の遺跡からエピタフ遺跡が出てくることも説明できそうだ。

「・・・見えたぞ。あれがエピタフ遺跡だ。」

 私があれこれ考えているうちに、どうやらエピタフ遺跡に到着したらしい。まだ距離はあるが、石で出来たアーチ状の構造物なんかが確認できる。

「ほぅ、これは中々"それらしい"ものだな。」

「チョッパー、機材の準備を。」

「了解。」

遺跡に感嘆していたチョッパーに、サナダさんが遺跡探索の為の機材を準備するように命じた。

「霊沙、後ろのトランクケースを取ってくれ。」

「おう、これか?」

霊沙は後席のトランクケースを取り出して、チョッパーに渡す。

「ああ、それだ。ありがとよ、嬢ちゃん。」

「・・・どういたしまして。」

チョッパーに礼を言われた霊沙は、ぶっきらぼうに返事をする。

「さて艦長、ここからは徒歩になる。遺跡内部は私が案内しよう。」

「分かったわ。」

 遺跡の近くまで来ると、サナダさんは車を止めて、私達は車を降りて遺跡へ進んだ。

 遺跡の入口や外壁の構造物は石で作られており、何やら文字のようなものが書かれているが、風化してよく見えない。

 しかし中に入ると、床や壁は外の石とは違う、何やら硬そうな素材で構成され、懐中電灯の光を反射させている。

「なんか、雰囲気変わったな。」

遺跡の中に入って、霊沙が呟いた。

「そのようだな。チョッパー、構成素材のサンプルを採集しておこう。例の機材を。」

「了解。」

サナダさんは歩みを止めて、チョッパーが運んでいたトランクケースから機材を受け取り、その機材を遺跡の壁に当てた。

「よし・・・これで良いだろう。」

サンプルの採集が終わったのか、サナダさんは機材をしまうと再び進み始めた。

 遺跡の中をしばらく進むと、今までの通路ではなく、部屋のような空間に出た。

「ここは、何かの部屋かしら?」

「のようだな。」

私は部屋全体を見回して呟いた。

「にしても、ここは空気が随分澄んでいるな。さっきの都市とは大違いだ。」

「なに・・・?」

サナダさんが霊沙の一言に眉を潜めて、手元の機械でなんか計測を始めた。言われてみれば、確かに空気が澄んでいる。まるで森の中の沢にいるように感じる。

「・・・空気成分は居住惑星上と何ら変わらないようだ。有害な細菌類やウイルスも検出されないな。」

サナダさんはそう言うと気密服のヘルメットを脱いで、その場の空気を確かめるように吸ってみせる。

「確かに、霊沙の言うとおりだな。」

サナダさんは空気を確認すると、部屋全体を見回して、なにかを見つけたような顔をすると、血相を変えて中央の祭壇へ向かっていく。

「これは・・・艦長!」

「なにかしら?」

 サナダさんのただならぬ様子に、気になって彼のいる祭壇まで行ってみる。

 

 そこには、壁を伝う何本ものケーブルに接続された10cm四方の立方体が、丁度そのために作られたような穴に差し込まれていた。

 

「ねぇサナダさん、これってもしかして・・・」

「ああ、エピタ――」

 

「財!財よ!本当にあったのね!!」

 

 まさか本当にエピタフがあるなんて、もうこれは噂の真偽を確かめてやるしかないわね。

「あ、待て艦長、そんなに乱暴に扱うと・・・」

 私がエピタフを手に取ろうとして、それを掴んでケーブルから引き剥がすと、エピタフがガチャン、と音を立てて変形し、眩しい青白い光を発して輝き始めた。

「ちょ・・・ちょっと何よ!」

「な、何だ!」

 いきなりの変化にびっくりしてエピタフから手を離したが、エピタフは宙に浮いて輝き続ける。霊沙はいきなりの変化に驚いて、札を手にとって構えた。

「おお、これが・・・」

サナダさんは、エピタフの輝きを心を奪われたように見つめ続ける。チョッパーも、食い入るようにエピタフの輝きから目を離さない。霊沙は警戒心を崩さずに、エピタフの輝きを厳しい目付きで見守る。

「きゃぁっ・・・!」

 すると、いきなりエピタフの輝きが増して、光の柱が天井へ延びていく。

 その状態が数秒間続いた後、エピタフは力尽きたように輝くのを止めて、元の立方体に戻って床に落ちた。

 

「・・・」

「・・・」

 皆、目の前で起きたことに言葉を失い、沈黙が続く。

「い、今のは・・・」

 私がサナダさんに尋ねようとすると、ポケットの携帯端末が鳴り出した。

《艦長、こちらブリッジのミユです。たった今当艦が寄港しているステーションから不可解な光が観測されました。念のため〈高天原〉に帰還された方が・・・》

《艦長、大変です!》

 端末を開くと〈高天原〉の艦橋に残ったミユからの報告だったが、その途中に早苗が割り込んだ。

「どうしたの、早苗?」

《は、はい艦長・・・その光の柱なんですが、デットゲートに衝突した後に、デットゲートの復活を、確認しました。》

 え、デットゲートが復活・・・?

「きゃっ・・・」

「おい、今なんて言った!」

 サナダさんが血相を変えて、私の端末を奪い取って早苗に尋ねる。・・・いくらなんでも、いきなり奪うのはないんじゃないかな。

《あ、はい。本ステーションから光の柱が観測され、付近にあるデットゲートに衝突した後、デットゲートからエネルギー反応が観測されました。光学映像は保存してあります。》

「そうか―――やはりエピタフが原因か。」

「サナダさん、今のって・・・」

「ああ、エピタフが起動したと見て間違いないだろう。」

どうも早苗が報告したデットゲートの復活とやらはさっきのが原因らしい。あれ、だったらこれ私が原因じゃ―――

「艦長。」

「ひっ・・・」

 サナダさんが、いつになく威圧的な声で私を呼んだ。それに、私は思わず尻込みしてしまう。

「あ、あの・・・」

 

「素晴らしいぞ艦長!! これは世紀の大発見だ!!!」

 

 サナダさんはバッと腕を広げて、高笑いを続ける。さっきは怒られるのかと思ったが、こっちの方が怖いかも・・・

「これは学会史に残る大発見だ!チョッパー、今すぐ研究室に戻るぞ!」

「アイアイサー、主任!」

 チョッパーもサナダさんのノリに合わせて、せわしなく撤収の準備を進める。その傍らで、サナダさんはケーブルのサンプルを採集したり、壁画を余すとこなく撮影していた。まったく抜かりない人だと思う。私と霊沙は、そんなサナダさんをポカンと見つめるだけだった。

 

 

 

 それから程なくして遺跡から撤収した私達だが、艦に戻った後サナダさんにこっぴどく怒られた。曰く、あれで毒ガスが発生したり罠が起動したらどうするんだと。結果的にそんなことはなかったが、次からは気をつけよう。反省してるわ。

 エピタフ?あれは勿論頂いていったわ。サナダさんに奪われたけど。なにが「科学の発展の為に私に寄越せ」よ。私は艦長なのよ。いつか取り返してやるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日後、再び私はサナダさんに呼び出された。なんでも新旗艦が竣工したらしい。

 ということで、私は今ステーションの造船区画に来ている。目の前には、この遺跡ステーションの外で見た戦艦と同じ姿をした戦艦が鎮座している。

 

【挿絵表示】

 

「やっと完成したのね。」

「ああ、スーパーアンドロメダ級戦略指揮戦艦・・・私が手掛けた中での最高傑作だ。」

 サナダさんが自慢げに話す。元々の設計はサナダさんじゃあないんだけどね。

 その戦艦は、艦首に大口径のハイストリームブラスターを2門装備し、3連装の主砲を5基備え、背の高い重圧な艦橋が威圧感を醸し出している。これぞまさに戦艦、といった感じだ。

「このスーパーアンドロメダ級戦艦の全長は1780m、〈高天原〉の凡そ1,6、7倍といった所か。2300mのダウグルフ級に比べれば見劣りするが、砲火力なら互角以上、装甲防御も実体弾への備えとして装甲も中々のものだ。さらに二個中隊規模の艦載機も搭載可能。戦艦としては高い能力水準を誇る。さらに艦首に装備した2門のハイストリームブラスターは専用のインフラトン・インヴァイダーを用意してエネルギー伝導系を短縮しレアメタルを節約、また発射後の主機のエネルギー不足といった問題を解消している。このブラスター専用の機関は、非常時には予備電源としても使用可能だ。」

サナダさんは自慢気に解説を続ける。でも私はサナダさんの話がよく分からないわ。せいぜい凄い戦艦だってこと位ね。

「中々格好いいじゃない。気に入ったわ。」

「それはどうも。ところで、艦名は決めてあるかね?」

サナダさんが、新旗艦に与える艦名を尋ねてくる。艦隊の中核となる旗艦の艦名は、艦長である私が与えなければならない。

 

「もう決めてあるわ。〈開陽〉よ。」

 

 ―― 開陽 ―― 夜明け前を意味するこの語なら、ヤッハバッハに反旗を翻して自由を求める私達に相応しい――なんて難しい事は考えてない。ただ響きが格好いいから付けただけだ。案外艦名ってそういうのでも良いんじゃないかしら。

 

「ほう、〈開陽〉か。良い名だ。」

サナダさんは感心したように〈開陽〉を見上げる。

 

 これから丸一日、先代旗艦の〈高天原〉からこの〈開陽〉に設備を移動させる作業がある。船室や自然ドームに早苗の本体をこの〈開陽〉に移して、〈高天原〉は戦闘空母として運用される予定だ。これから私を含めて、総出でこの引っ越し作業にかかる。

 

「さてと・・・これから宜しくね、〈開陽〉。」

 

 

 




随分と間が空きましたが、これからも執筆は続けますよ。なにせ無限航路系ssは完結しているものがないので、これからも頑張っていこうと思います。

新旗艦〈開陽〉の艦名は、幕末の榎本艦隊の旗艦〈開陽丸〉から取っています。今は復元されて展示されていますね。






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第一四話

お船のゲームの鬼畜イベントが過ぎ去り、いざ執筆というところで愛用のスマホがお釈迦になってしまい、投稿が遅れてしまいました。
今後はテスト前まではペースを戻していきたいと思います。


〜イベリオ星系・デットゲート周辺宙域〜

 

 

  ここイイベリオ星系に浮かんでいたデットゲートは、作動したエピタフの作用により、ボイドゲートとしての機能を取り戻していた。しかし、通常のボイドゲートとは異なり、艦船がワープの為に突入する中央のワープホールは青色ではなく、紫色に輝いている。

  そのボイドゲートの付近で、密集陣形を取りつつ、警戒しながら航行する艦隊の姿があった。

  艦隊は中央に旗艦の大型戦艦――ダウグルフ級戦艦の姿があり、その左右には長く突き出た特徴的なカタパルトを持つ巡洋艦――ダルダベル級巡洋艦が各1隻配置されている。それらの艦を取り囲むように、ブランジ級突撃駆逐艦が輪形陣の外縁で警戒態勢を敷いている。

 

「報告に嘘偽りは無かったようだな。副長、司令部と本国への報告は済ませたかね?」

ダウグルフ級の艦橋内で、奥側の最も高い席に座る男――この艦隊の司令官を務める男は、自身の副官に尋ねた。

「はい、現在報告電文の作成中です。」

艦隊司令の質問に、副長は即座に返答した。

「ボイドゲート関連の異変は、本国から優先的に報告するよう仰せつかっている。くれぐれも遅れの無いように努めよ。」

「はっ!」

艦隊司令は副長の返答を聞くと、艦橋内を一瞥し、その視線を窓の外に見えるボイドゲートへと移した。

(しかし、これは大発見だな。デットゲートの復活は今まで確認された事がない。ボイドゲート関連の研究にご執心な本国に私の功績が評価されれば、さらに上の階級も夢ではないな。)

艦隊司令は、内心で自身の昇進のことを気にしつつ、部下から妙な報告がないか神経を尖らせた。

 デットゲート復活の報告をこの艦隊に送信したイベリオ星系当局からは、最近不審な船団が宇宙港に入港していたという報告があったことを艦隊司令は懸念していた。彼はその不審船団を海賊か何かと思っていたのだが、その海賊が自身の名誉に関わる(と思っている)ボイドゲート調査任務の妨害をしてこないか気にしているのだ。

「司令、センサー類による解析は粗方終了致しました。」

「うむ。結果はどうだ?」

「はっ、当艦の機器での観測結果では、対象のボイド ゲートの推定質量は通常のボイドゲートと相違ありませんが、エネルギーの波長に僅かですがゆらぎが見られます。恐らく、通常のボイドゲートに比べて、機能が不安定なのかもしれません。これ以上のことを調べるとなると、専門の調査船が必要と思われます。」

部下は淡々と調査結果を読み上げた。

「うむ、良くやった。では―――」

「司令、本艦隊の前方、凡そ1,2光年先の宙域に微弱なインフラトン反応を確認しました。如何されますか?」

オペレーターが、レーダーに不審な反応を捉えたことを報告する。

「そうか。この〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉のレーダーは最新型の優れたものだ。単なるノイズという事はないだろう。例の不審船団か?」

彼等が搭乗しているこのダウグルフ級戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉は、哨戒艦隊の旗艦としての運用を想定し、通常の恒星間レーダーやセンサーよりも精度の高いものを搭載している。その精度は1光年離れた小規模な船団クラスの反応なら何とか捉えられる程度だ。今回捉えた反応はその捕捉できるギリギリの小ささだったため、艦隊司令は報告にあった不審船団だと考えた。

「反応からすると、恐らくそうかと。」

「よし、丁度よくわが艦隊はボイドゲートの観測を終了した。ならば、その不審船団を捕捉、必要あらば撃滅するのが本来の我等の任務だ。全艦に陣形を維持しつつ、反応があった宙域へ向かうように指示せよ!」

「はっ!」

 艦隊司令の号令を受けて、通信兵が艦隊の他の艦に命令を伝達する。

(ふふふ・・・丁度よいところに鼠がうろついているようだ。悪いが、我の昇進のための糧となってもらおうか。)

 艦隊司令は、内心で不審船団を拿捕(又は撃滅)し、さらに手柄を増やそうと目論んでいた。

 発進準備を整えたヤッハバッハ艦隊は、一路問題の宙域へと舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜イベリオ星系郊外・遺跡宇宙港・戦艦〈開陽〉艦橋〜

 

 

  霊夢達は、いよいよこの宇宙遺跡を後にすべく、艦隊の発進準備を進めていた。

「艦長、〈サクラメント〉、〈プロメテウス〉の各種資源、資材の積み込みは完了した。」

「〈ケーニヒスベルク〉、〈ラングレー〉は現在主機の最終点検中、あと2分ほどで完了との事です。他艦は既にインフラトン・インヴァイダーを始動、いつでも出港可能です。」

 サナダ、ミユがそれぞれ艦長の霊夢に報告を上げる。

「この艦の各種点検はもう終わっている。後は主機の出力上昇を待つだけだ。」

 コーディは、〈開陽〉艦内の状況を報告する。

「よし、出港予定時刻には間に合いそうね。このまま準備を続けて頂戴。」

「了解しました。」

 ブリッジクルー達は、艦隊の準備状況の確認を続ける。

 

 

 《艦長、少しよろしいですか?》

「なに、早苗?」

 私は艦隊の出港準備状況を確認しながら、早苗の話に耳を傾けた。

 《あの、デットゲート方面から、微弱な青方偏移反応を観測したのですが、如何されますか?》

 青方偏移って、確かものが近づいてくる反応だったかしら。

「うちの長距離センサー類の精度はそんなに高くない筈だから、微弱、ってことはそれなりの質量の物体、って事よね。衛星クラスのデブリかしら。そんな大きなデブリ、無かったと思うけど・・・他の反応は無いの?」

 《はい、恒星間レーダーには何も・・・》

「ん、ちょっと待った。さっきの反応、恒星間レーダーじゃないの?」

 確か、恒星間レーダーの精度は大型小惑星や小型の衛星クラスでやっと捉えられる程度だった筈だけど、それで反応が無いなら、もっと小さいものって事よね。

 《はい―――艦内の未登録の高性能観測設備からデータが送られてきているようです。》

 未登録・・・あのマッドか。

 私はサナダさんを一瞥して、抗議の意味で睨み付けたが、サナダさんはそれを気にせず黙々とモニターの内容と睨めっこしている。

「まぁ、艦隊の目が増えたんだから不問に処しましょう。恒星間レーダーに反応無しってことは、その反応の正体はそれなりに小さな物体、って理解で良いのかしら?」

 《はい、そう理解して戴いて構いません。》

「まぁ、何かあったらそのときよ。今は出港準備を進めましょう。」

 謎の反応のことは気になるが、今は目下の出港準備を進めようと、私は気持ちを切り替えた。何かあったら、そのときに判断すれば良い。

 

 

「艦長、全艦発進準備完了!いつでも行けます!」

 オペレーターのミユが、艦隊の全ての艦の発進準備が完了したことを確認して、艦長の霊夢に報告する。

「よし、ならさっさと出るわよ。全艦発進!」

「了解!ゲート解放、機関微速前進!」

 霊夢の命令を受けて、舵を握るコーディはゆっくりと艦を動かす。

「3分後に恒星間航行に移行。インフラトン・インヴァイダー、出力全開、メインノズル点火!」

 〈開陽〉のメインノズルが点火され、遺跡を出た〈開陽〉は徐々に加速していく。

「後続艦に異常なし。」

 ミユは隷下の無人艦に異常がないか、監視を続ける。

 

 

 

その後しばらく、霊夢達の艦隊は何事もなく航行を続けたが、出港から凡そ8時間が経過した所で、〈開陽〉の光学センサーが不審な影を捉えた。

 《艦長、光学センサーが、デットゲート方面に不審な影を捉えました。》

「モニターに出して、拡大してくれるかしら?」

 《了解です。》

 早苗は、光学センサーが捉えた映像を艦橋天井のメインパネルに投影し、拡大する。

(確か、未登録のセンサーに反応があったって話していたけど、それの反応かしら?)

 霊夢は、数時間前に早苗から未登録のセンサーが捉えた青方偏移の話を思いだし、警戒を強める。

「早苗、何も映っていないようだが・・・」

 メインパネルを見上げたフォックスは、そこに何も見えないことを不審に思って尋ねた。

「画面中央を拡大してみろ。」

 《えっと、こうですか?》

 早苗は、サナダに指示された通り、画面中央の領域を拡大する。

「まだ何も見えないが。」

「早苗、もっとだ。」

 《はい。》

 早苗は、さらに画面を拡大し、表示する。

「おいサナダ、あれって・・・」

 霊沙は、画面中央に僅かに映る複数の緑色の粒を見て呟いた。

「ああ、ヤッハバッハ艦隊で間違いないな。」

「ちょっと、こんな所にヤッハバッハ艦隊が来ているっていうの!」

 サナダの言葉を聞いて、霊夢が立ち上がった。

「早苗、その艦隊との距離は?」

 《はい。凡そ5光時、といった所です。》

「だとすれば、これは5時間前の画像か。」

 ここで距離の話をするが、宇宙空間は惑星上と比べてあまりにも広大なため、距離の単位としてはkm等ではなく、光が届く時間を基準にされている。早苗が報告した5光時というのは、その光が届くのに5時間かかる距離を表している。つまり、光学センサーに捉えられた画像は5時間前のもの、という事だ。

「艦長、敵は既にこちらに気付いている可能性がある。戦闘は避けられないかもしれない。」

「分かったわ。全艦に戦闘配備を命令して。」

(どうも悪い予感が当たっちゃったみたいね。艦隊が強化されているのが幸いか。)

 霊夢は、早苗から報告を受けた時から抱いていた予感が当たったことを悔やみつつも、目の前の脅威を打破するために戦闘準備を命じる。

「敵艦隊との距離が10光分以内になるとi3エクシード航法は使えない。敵艦隊の速度が標準的だとすると、会敵まであと1時間といった所だな。」

「それまでに作戦を考えないとね。敵艦隊の規模は分かるかしら?」

 霊夢は、作戦を立てるために、敵艦隊の詳細な情報を求めた。

 《推測ですが、ダウグルフ級が1隻にダルダベル級2、3隻、ブランジ級が6~8隻程度かと。》

 早苗は、現在あるデータから敵艦隊の規模を推測して報告する。

「正面戦力はこっちがやや有利って所ね。ところでサナダさん、あの復活したデットゲートって、ちゃんと機能しているのかしら?」

「ああ、その筈だが・・・ってまさか、"あれ"に飛び込む気か!」

 サナダは霊夢の質問を聞いて驚いた顔をするが、それを意に介さず、霊夢はにやりと笑った。

「ええ。ここでまともに遣り合ったらワープの為のエネルギーが無くなるわ。そんな状態で通報されて増援でも呼ばれたらますます苦しくなるだけよ。それに、あのデットゲートは別に恒星の中に出る訳でもないでしょ。幸いうちは物資の備蓄は3年さ迷っても戦闘さえしなければ充分過ぎるほどあるわ。出た先が銀河間でもどこかの惑星に辿り着くまでは持つでしょう。敵もどこに繋がっているか分からないボイドゲートに飛び込む度胸があるとは思えないし、なら一撃離脱でゲートに飛び込むべきよ。」

 ボイドゲートは、必ずどこか別のボイドゲートと繋がっている。霊夢はそれと、自艦隊の備蓄物資の状況を考慮して、恒星間空間や銀河間空間に出たとしても数えるほどしか乗組員がいない自艦隊の状況なら充分乗り切ることができると踏んで、博打に打って出ることにした。

(まぁ、何処に出るか分からないゲートに飛び込むのはちょっと怖いけど、なんか航海者って感じするじゃない。)

 霊夢は内心で未知の航路に思いを馳せながら、作戦の決行を命令する。

「異論が無いならこれでいくわよ。どう?」

 霊夢は艦橋のクルーに訊ねる。

「ハッ、面白そうなこと言うじゃん。乗った。」

 霊沙は八重歯を剥き出しにして、にやりと嗤う。

「度胸あるな、うちの艦長は。いいぜ、面白そうだ。」

「私は異存ありません。」

「私も、艦長について行く覚悟です。」

 フォックス、ノエル、ミユも同意し、コーディは無言で頷いた。

「仕方ない。私も従おう。」

 他のクルーの意思を受けて、サナダも承認する。

「よし、決まりね。全艦戦闘配備!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ヤッハバッハ警備艦隊・戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦橋〜

 

 

「司令、敵艦隊増速。複縦陣で突撃して来ます。」

 オペレーターが報告する。艦隊司令は、その報告を聞いて頷いた。

(やはり例の不審船団だったか。にしては、予想よりも規模が大きいな。戦艦、空母各1に巡洋艦7、駆逐艦6か・・・こちらより小型なのがせめてもの救いか。)

 艦隊司令は、自身の予想よりも敵の規模が大きいことに内心戸惑っていた。あの規模の艦隊と交戦すれば、自身の艦隊も無傷では済まないからだ。しかし、彼は自身の物差しで相手艦隊の実力を図っていた。長距離航海を前提としたヤッハバッハ艦艇とは違い、霊夢の艦隊はその殆どが無人艦のため居住設備を排除してその分を戦闘力に振り向けているので、より大型の艦艇とも互角に渡り合えるのだ。

 そんなことも知らずに、彼は自身の経歴に傷がつくことを気にしながら、次の指示を出す。

「全艦、艦載機を出せ。先手を打つぞ。」

 艦隊司令は、艦隊戦のセオリーに従って、まずは艦載機での戦いを挑まんとする。

「了解。各艦、艦載機発進じゅ・・・」

「し、司令、大型ミサイルが!」

 副官が他艦へ指示を出そうとしたところ、レーダー手が突然悲鳴を上げて報告する。

「何事か!」

「ミサイルです!虚空から突然!」

 レーダー手は動転した様子で艦隊司令の質問に答えた。

(ステルスミサイルか・・・連中いつの間に。)

 ヤッハバッハ艦隊の前方に突然表れたこのミサイルこそ、霊夢艦隊の旗艦〈開陽〉が誇る超長距離対艦弾道弾〈グラニート〉であった。このミサイルは二重弾頭以外にも、徹底したステルス機能を持つミサイルとして設計されている。そのため、敵には着弾直前まで悟られずに接近することが可能だ。但し、当然空間通商管理局の補給品リスト外で、おまけにかなり高くつく代物のため、今回は巡洋艦の分は温存されている。

「各艦対空砲火!撃ち落とせ!」

 艦隊司令の号令を受けて、輪形陣外側のブランジ級とダルダベル級はしきりに対空砲火を撃ち放つ。突如現れたミサイル4発のうち2発はダルダベル級の単装主砲の対空射撃で撃ち落とされたが、残った2発のうち1発は先頭を行くブランジ級に直撃し、二重弾頭が起爆して艦中央から真っ二つに折られて轟沈した。もう1発は艦隊右側はダルダベル級の右舷側に命中し、カタパルトとそれに直通する艦載機格納庫を破壊して航空機用ミサイル等の可燃物に引火、大火災を発生させ大破させた。

「ブランジ級D2826号轟沈!、ダルダベル級ツォーレン大破!」

「ツォーレンより通信、"ワレ被害甚大ナリ、戦線ヨリ離脱ス"!」

 オペレーターから次々と被害報告が寄せられる。

「むうう、此れ程とは・・・砲術長、敵はまだ射程に入らんのか!」

 艦隊司令は自らの艦隊を先手を打たれて大損害を与えられた怒りから、座乗艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉の大口径4連装主砲で敵を殲滅させんと目論む。

「無茶です、まだ敵艦隊とは30光分以上距離が離れています!」

「むうう、ならばさっさと艦載機を発進させろ!」

 オペレーターの抗議である程度冷静になった艦隊司令は、改めて艦載機の発進を命令した。

(奴等め、我の経歴に泥を塗りおって・・・許さんぞ!)

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦橋〜

 

 

「〈グラニート〉着弾。ブランジ級1隻の撃沈確認。インフラトン反応拡散中です。」

「敵艦隊より小型のエネルギー反応多数射出されました。艦載機と思われます。」

 オペレーターのミユとノエルが、淡々と戦況を報告する。

「〈ラングレー〉に通信、直掩機を出させなさい。」

「了解です。」

 私は敵の艦載機を迎撃するために、空母〈ラングレー〉に直掩機の発進を命じる。直後、格納庫からパイロット2名の抗議が上がってきたが、気にしない。今はまともに遣り合うつもりは無いのだ。初陣は次の機会まで待ってもらおう。

 〈ラングレー〉は、自慢の多層式甲板を生かして、次々と無人戦闘機AIF-9V〈スーパーゴースト〉を発進させる。〈スーパーゴースト〉はサナダが空母艦載機として市販されている無人偵察機を徹底的に弄り回して製作した機体だ。菱形の機体に、機体右上、左上、下方向に伸びる3枚の翼を持ち、機体上部には大火力レーザーガンを搭載したややアンバランスな姿の戦闘機だ。各機体には〈開陽〉の統括AIである早苗の本体を徹底的に小型化、コストダウンした専用AIを搭載され、高い自律判断能力を持つ。

「〈ラングレー〉より直掩機20機発艦。5分後に会敵します。」

 〈ラングレー〉から発進した〈スーパーゴースト〉の編隊は、直角に近い軌道修正を切り返しながら、ヤッハバッハ艦隊から発進した艦載機隊に迫る。

 

 

 〈スーパーゴースト〉の編隊を相手にする事になったヤッハバッハ艦載機隊は、会敵から僅か数分で総崩れとなっていた。

 《オメガ12交戦―――イジェークト!》

 《背後に付かれた!降りきれない!》

 《オメガがやられたぞ!》

 《たっ、助けてくれーっ!》

 練度が低いヤッハバッハ艦載機隊は、スーパーゴーストの直角的な変態機動に翻弄され、次々と機体にレーザーの雨を浴びせられる。ある機体は背後からエンジンや武装ユニットを粉微塵に破壊され、またある機体はすれ違い様に機体を穴だらけにされた。コックピットは狙いから避けられているので、脱出できた搭乗員も多いが、彼等は戦闘終了まで冷たい宇宙空間で、ドックファイトの真っ只中に放置される事となった。

 ヤッハバッハ艦載機隊の奮戦も空しく、攻撃隊は防空網を突破することはおろか、スーパーゴーストを一機たりとも撃墜できず、ただ逃げ回るだけとなった。

 

 

 

 

「敵艦載機隊殲滅。我が艦載機隊が帰艦します。」

 役目を終えたスーパーゴーストの編隊は、〈ラングレー〉の着艦甲板へ降りていく。

「よし、これより砲撃戦に移行する。全艦、右三点逐次回頭!」

 旗艦〈開陽〉からの命令を受け取った霊夢艦隊各艦は、複縦陣の先頭艦から順次面舵を取る。縦陣の右列が駆逐艦、空母、工作艦、左列が巡洋艦、戦艦なので、敵艦隊に対して強固な装甲を持つ重巡洋艦と戦艦が、空母や工作艦を守る形となる。

「敵艦発砲!」

 艦隊の回頭中、敵のダウグルフ級戦艦が射撃を開始するが、まだ有効射程ではないのか、そのレーザー光は左列先頭の〈クレイモア〉の前を空しく突き抜けた。

「確か、ダウグルフ級の射程はこっちより長いんだっけ。」

 この〈開陽〉の主砲は口径160cmだが、ダウグルフ級の主砲は203cmだった筈だ。

「ああ、最大射程は連中のほうが長いが、手数ではこちらが上だ。一気に有効射程まで飛び込めばこちらに勝機はある。」

 サナダさんが冷静に解説する。

「フォックス、主砲の調子はどう?」

「ああ、少し狙いにくいが、問題ない。」

 現在、私達の艦隊は0,2光速で航行中で、敵艦隊は0,08光速。合成速度は0,28光速だ。0,3光速を越えると照準システムがついて行けなくなるので、ギリギリの戦闘速度だ。

 敵のダウグルフ級が何度目かの射撃を終えた頃、此方も有効射程に突入した。

「有効射程に入りました!」

「全艦砲撃開始!」

 〈開陽〉の前甲板に備え付けられた160cm65口径3連装主砲3基が左側に回頭し、敵艦隊を指向する。

「了解!主砲発射!」

 号令を受けて、フォックスがトリガーを引く。

 〈開陽〉の各砲塔から放たれたレーザーの束は、収束して3本の太いレーザーとなって敵艦隊を目指して進んでいく。

 レーザーは前衛のブランジ級を直撃し、2隻を一撃で轟沈させる。

「敵2隻のインフラトン反応拡散!撃沈です!」

 ミユが敵の撃沈を報告する。

「敵艦隊よりクラスターミサイル!」

 敵艦隊は、ヤッハバッハ自慢のクラスターミサイルを多数発射し、数の暴力でこの艦隊を殲滅せんとする。

「迎撃、対空戦闘!」

 《了解、対空戦闘モードに移行!〈コスモスパロー〉1番から36番まで順次発射、3-αから8-βまでの目標を狙え!》

 〈開陽〉のVLSから多数の対空ミサイルが飛び出し、ヤッハバッハのクラスターミサイル群に向かう。他の巡洋艦や駆逐艦群も、クラスターミサイルを阻止せんと対空ミサイルを撃ち続ける。対空ミサイルは着弾直前で無数の子弾頭に分裂し、濃密な迎撃網を構成する。

「着弾まであと3、2、1、今!。迎撃確認。目標の70%を撃破!」

 《続いてパルスレーザー群、CIWS、射撃開始!》

 対空ミサイルを突き抜けたクラスターミサイルを迎撃するため、各艦のパルスレーザー、CIWSが射撃を開始し、弾幕を形成する。

「目標97%撃破!しかし本艦に2発着弾コース!」

「総員衝撃に備えて!」

 私は着弾に備えるよう命じる。その数秒後、艦を軽い振動が襲った。

「被害報告!」

「左舷第11、32区画に被弾、何れも戦闘行動に支障ありません。」

 《巡洋艦〈ピッツバーグ〉、第一主砲バーベット部に被弾、現在応急消火作業中です。駆逐艦〈春風〉も1発被弾しましたが戦闘行動に支障ありません。》

 ノエルと早苗がそれぞれ被害報告を読み上げる。

「よし、主砲第二射撃ち方始め!敵艦隊中央を狙いなさい!」

 ブランジ級が欠けたことにより空いた穴の向こう側に位置する敵主力を狙うべく、第二射を命令する。

「了解、主砲発射!」

 フォックスがトリガーを引き、主砲から蒼いレーザー光が放たれる。射程に入った重巡洋艦からも、順次レーザーが撃ち出される。

「わが主砲、狭差!」

 《〈ケーニヒスベルク〉より、敵ダルダベル級に一発の命中確認。》

「射撃諸元修正、第三射用意!」

「敵艦発砲!」

 敵のダウグルフ級が此方の一斉射撃を受けて、全主砲をもって撃ち返してくる。

「回避機動!」

「間に合わない、シールド出力最大!」

 コーディは回避が間に合わないと悟り、シールドの出力を上げる。

「着弾に備えて!」

 私が衝撃に備えるように命中した直後、先程よりも大きな衝撃が艦を襲った。

「シールド出力10%低下、本艦の一部装甲板に高熱が発生。」

 どうやら敵の砲撃は装甲までで食い止められたようで、艦内に被害は無かった。

 《〈トライデント〉下部艦橋に被弾、通信能力低下します!》

 左列2番艦の〈トライデント〉は下部艦橋を敵のレーザーが霞め、電子戦装備に被害を負った。

「射撃諸元入力完了、主砲、発射!」

 此方も負けんと主砲を撃ち返す。主砲弾は敵のダウグルフ級を直撃し、同艦の主砲塔を撃ち抜いた。重巡洋艦の主砲もダルダベル級の左舷側に多数命中し、シールドを飽和させて深刻な損傷を引き起こす。

「敵戦艦で火災発生、わが方の戦果と思われます。」

「敵巡洋艦大破!速度大幅に低下中!」

「よし、全艦最大戦速!速やかに当宙域を離脱する!」

 三度の通過射撃で敵に大損害を与え、目標を達成したと見た私は艦隊に全速での離脱を指示した。

「了解。最大戦速!進路デットゲート!」

 艦隊は、燃えるヤッハバッハ艦隊を後に、全力でデットゲートを目指す。

 

 

 

 

 〜戦艦〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦橋〜

 

 

「第3から第16区画まで火災発生!」

「主砲、消火急げ、早くしろ!」

「弾薬庫の隔壁閉鎖!誘爆を防ぐんだ!」

 戦艦〈開陽〉の斉射により主砲を撃ち抜かれた〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉艦内では、乗組員が必死に消火作業を続ける。

「敵艦隊、デットゲートに向かいます!」

「何だと!」

 オペレーターから報告を受けた艦隊司令は、すかさず霊夢艦隊を写し出すモニターを食い入るように見つめる。

「急いで追撃しろ!今すぐだ!」

「しかし司令、本艦隊は被害甚大です!護衛のブランジ級3隻が轟沈し、ダルダベル級は何れも大損害を受けています!当艦も深刻な火災が発生し、現在全力で応急消火作業中です!このような状態では、追撃など望めません!」

 副官の悲痛な訴えに、艦隊司令はその顔を憤怒の表情に歪ませながら、ドンッ、と自身の席のモニターを叩いた。

「むうぅぅぅっ!何故だ!誇り高きヤッハバッハが、ゴロツキ風情に!」

(おのれぇぇぇっ、許さんぞ、我の顔に泥を塗りおって!)

 半ばヒステリーを起こす艦隊司令をよそに、ブリッジクルー達は応急作業に神経を尖らせる。

 艦隊司令は、ボイドゲートの中に消えていく霊夢艦隊を、血走った眼差しで睨み続けた。

 




ヴォヤージュ1969と1970を重ねて聴いていると、艦隊戦のシーンが捗ります。今回は初の本格的な艦隊戦のため、自分なりにはかなり気合いを入れたつもりです。本来は8000字程度かと思っていましたが、1万字近くまでになってしまいました。いっそのこと1万まで頑張った方が良かったかな?


ちなみに距離の単位ですが、原作のML(惑星間の距離に表示されるアレ)の基準がいまいち分からないので適当に光を単位にして書いています。なのでその辺りは後日変わるかもしれません。



本話初登場のAIF-9V〈スーパーゴースト〉は、ほぼそのままマクロスFに登場したゴーストV9です。ただし、ベースの機体はルカのゴーストに砲を取りつけた形を想定しているので、カナードの向きが劇中のV9とは違っていたりします。〈ラングレー〉にはこれが60機搭載されています。自分で書いていてあれですが、序盤からゴーストV9が60機とかチートすぎる(笑)


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第二章――小マゼランへの道
第一五話


連載速度を戻すと言っておきながら、煮詰まって遅れてしまいました。申し訳ありません。


 〜???〜

 

 

 

 宇宙の何処かにひっそりと浮かぶデットゲート、それが突如として紫色に輝き始め、嘗ての機能を取り戻していく。

 デットゲートは、遺跡然とした朽ち果てた姿から人工機械のような銀色へと変化し、紫色のワープホールを形成する。すると、そのワープホールから、何隻かの艦艇が姿を現した。

 

 

 

 〜〈開陽〉艦橋〜

 

 

 

《ゲートアウト確認。通常空間に出ました。》

 AIの早苗が、艦隊がボイドゲートを越え、ワープに成功したことを報告する。

「此処は・・・何処かしら?」

《空間通商管理局のチャートと照合中・・・出ました。現在位置は銀河系近傍宙域、ビーメラ星系周辺宙域です。》

 ゲートアウトするや否や、早苗が素早く空間通商管理局のデータから現在位置を特定する。

「ビーメラだと!」

 それを聞いたサナダさんは、何やら驚いた様子で立ち上がった。何か不味いことでもあるのかしら?

「ついさっきまで我々がいたM33銀河から200万光年以上離れている宙域だぞ、間違いはないのか?」

「はい、間違いありません。我々の現在位置はビーメラ星系を指しています。」

 オペレーターのノエルさんが報告する。ところで、私達が今居るらしいビーメラという星系はどのような所なのだろうか。

「ねぇサナダさん、そのビーメラってどんな星系なのよ。説明も無しだと、今後の方針が決められないわ。」

 私はこの艦の艦長で、方針の決定権を持っているのも私だ。今後の判断を下すためにも、今居る星系の情報が必用だ。

「ああ、すまない。説明が遅れたな。」

 サナダさんは振り返って、説明を始めた。

「このビーメラという星系は、銀河系の外縁からやや外れた場所にある、マゼラン銀河との航路上に位置する惑星系だ。主星はG型主系列星だ。惑星は岩石惑星4、ガス惑星が1つが存在する。第4惑星はハビタブルゾーン上に存在し、宇宙港が設置されている。人口は6億人程度だ。星系内にはボイドゲートとデットゲートが各1基存在し、デットゲートは銀河系側の外縁、ボイドゲートはマゼラン銀河側の外縁、微惑星帯の向こう側に位置している。ボイドゲートは銀河系とマゼラン銀河のほぼ中間点に位置する自由浮遊惑星バランの付近に通じている。恐らく、我々はこのデッドゲートから通常空間に出たのだろう。さらに隣の赤色矮星系には、アルゼナイア宙域に繋がるボイドゲートが・・・いや、あれは既にデットゲートだったか。とまぁ、こんな感じだな。」

 サナダさんは端末を操作して情報を引き出しながら、丁寧に説明してくれた。

「大体は分かったわ。そうね・・・取り敢えず今は居住惑星に進路を取りましょう。さっきの戦闘で破損した艦の修理も必用だわ。」

 今の艦隊なら、2隻の工作艦を動員すれば先の戦闘で受けた被害は修理できるのだが、折角近くに宇宙港があるのなら、それを利用した方が特なのだ。空間通商管理局は、規格内の部品ならば予備部品は無料で提供してくれるし、艦の修理も行ってくれる。規格外の部品――例えば主砲とかはうちで金と部品を出す必用があるが、それは工作艦がいても部品と資源が必用なのは変わらない。

「なら、進路は居住惑星で構わないな。」

「ええ、宜しく。」

 コーディーが舵を握って、艦の進路を居住惑星に向けた。

 さてと、惑星に着くまで何をしようかしら―――と考えていたら、霊沙の姿が視界に留まる。それだけなら何てことはないのだが、心なしか普段より具合が悪そうな表情に見える。

「ちょっと霊沙、あんた具合悪そうな顔してるじゃない。大丈夫?」

 彼女は私に思うところがあるようだが、これでもクルーの一人なので、無下に扱うことはできない。

「ん、ああ、霊夢か。いや、さっきからどうも頭が痛くて・・・今は大分収まってきたんだけどな。」

「おい嬢ちゃん、さっきの戦闘で何処かぶつけたか?なら医務室に行ったほうが良い。頭の傷は、今は対したこと無くても、後から酷い状態になることがあるからな。」

 どうも話を耳に挟んだらしいフォックスが注意する。脳震盪とか起こされたら大変だからね。

「そうか―――戦闘中じゃないと思うんだけどな―――まあいい。忠告ありがと。なら医務室行ってくるわ。」

 霊沙はそう言うとふらりと立ち上がって、頭を押さえながら艦橋を後にした。表情はいつもより悪かったが、ちゃんと歩けているので介抱は不要だろう。というか、私が介抱したら嫌がるだろうし。

 

 霊沙が退出するのを確認した後、私は自然ドームに向かった。自然ドーム内には高天原神社改め博麗神社が鎮座している。言うまでもなく、私の家だ。自然ドームが〈開陽〉に移されるにあたって博麗神社に改名した。そして、神社の地下、山の部分には艦長室が設置されている。艦長室には、空間通商管理局のデータベースからダウンロードした今後の行動に必用になる星系のデータが一通り揃っているので、居住惑星に着くまでの間に今後の航路を考えておこうと思ったのだ。

 自然ドームの前まで来て、その扉を開く。

 ドーム内の雰囲気は今までの機械然とした宇宙船の船内の様子から、幻想郷さながらの自然溢れる里山の情景に変わる。

 此所はいつ来ても、幻想郷を思い出させてくれる。

 肌に触れる微風には、仄かに草と土の香りが漂っている。空は丹精に惑星上の大気が投影され、此処が閉塞空間だとは微塵も感じさせない。

 私は徒歩で、神社を目指していく。

 季節の設定は初夏なのか、所々に植えられた桜の木は、その葉を青々と繁らせ、赤と黒の可愛らしい実をつけている。

 両脇に見える水田では、稲が葉を広げ始めていて、まるで緑の絨毯のようだ。

 畦道を抜けて参道に入り、松林を抜けていく。

 松林の地面は、広葉樹の森と違って草があまり見られない。なので、"アレ"がやけに目立つ。

 "アレ"とは何か―――

 

 

 ――キノコだ。――

 

 

 私が通っている松林の左右には、これでもかと言うほどキノコがボコボコと生えている。魔理沙が狂喜乱舞しそうな光景だ。しかも一本一本が巨大で威圧感がある。はっきり言って、自然では有り得ないような光景ね。毒茸異変とでも名付けてやろうか。何故このような異変が引き起こされたか―――

 答えは簡単、サナダの仕業だ。

 あの悪趣味なマッドが毒キノコの菌しか撒いてないのは既に知っているのだが、彼は出港前、こんなことを口にしていた。"ドーム内のドクヤマドリの量を100倍にした"と。何故そんな暴挙に出たのか、私には理解しかねる。一体何が面白いのか。

「ああもう、あいつの頭の中はどうなってるのよ!」

 なんだか無性にイライラして、近場に生えていた手頃なドクヤマドリを蹴っ飛ばした。ドクヤマドリはころころと転がっていく。

 すると、ドクヤマドリは誰かの足に当たり、ぴたりと動きを止めた。

「おや、その声は、霊夢艦長かい?」

 声の主が振り向く。

「あ・・・ルーミアか。そうよ、私だけど。」

 声の主は、つい先日クルーとしてスカウトしたルーミアだ。容姿は似ているが、幻想郷の妖怪ではなく、歴としたこの世界の人間だ。今日のルーミアは、いつもの黒い服に加えて、カーキ色のコートを羽織っている。

「へぇ、あんた、髪切ったのね。」

 彼女はスカウトした時は長髪の金髪だったのだが、今は肩に届く程度までの長さだ。この髪型の方が、妖怪のルーミアに似ている。

「ん、ああ、まあね。心機一転って奴さ。ところで艦長は、何をしに来たんだ?」

「私はただ艦長室に行くだけよ。」

「艦長室?ああ、あそこか。」

 ルーミアは納得した様子だ。

「それと、私のことは霊夢でも良いわ。そっちの方が慣れてるし。」

「そうか?ならそう呼ばせてもらうぞ。」

 どうもルーミアに艦長と呼ばれるのは何だか慣れない。でも、向こうのルーミアは何て呼んでたかしら。あいつはこっちのルーミアと違って、見た目も言動も子供っぽかったわね。

「しかし・・・ここは良くできた森だな。全部あのサナダとかいう男がやったの?」

「そうね。注文つけたのは私だけど。」

「霊夢が?だとしたら、ここは貴女の故郷とか、そんな感じか?」

 故郷か。まぁ、そんなとこよね。丸々幻想郷を再現して貰ったんだし。

「そうね。そんな感じかしら。」

「へぇ、随分と田舎な所に住んでたんだな。」

「別に、不便はなかったけどね。」

 確かにこの世界の水準から見れば、幻想郷は田舎どころか骨董品レベルだろう。だけど、この世界の常識を持たなかった私にとっては、特に不便と感じるようなことはなかった。何せ、幻想郷で生きていた頃はこんな未来に飛ばされるとは思いもしなかったのだから。

「まぁ、田舎には田舎なりの良いところがあるのよ。」

「確かに、ここまで自然があれば、なんだか心が落ち着くな。」

 確かにその通りね。宇宙も色々面白いけど、こうして懐かしい気分にさせてくれるのも悪くはない。そういえば、私が幻想郷で死んでからどれくらい経ったかしら―――こっちに来て色々ありすぎて、忘れちゃったわ。今頃映姫とかが騒がしくしてるでしょうね。

 と、そんなことを考えていたら、顔に出ていたらしく、ルーミアに怪訝な表情をされた。

「霊夢、どうかしたか?」

「ああ、いや、ちょっと昔のことを思い出してただけよ。」

 ルーミアはふぅん、といった感じでにやにやしながら私を見ている。

「私はそろそろ行くわ。やる事もあるからね。」

「おっと、引き止めてしまってすまないな。じゃあ、私も退散するぞ、霊夢。」

 ルーミアはそう言って、片手を振りながらコートを翻して私とは反対方向に去っていった。

 

 

 

 私は神社に着くと、その下に位置する艦長室に向かう。私は早苗に航路図と天体情報を表示するように頼み、椅子に腰掛けた。

《艦長、データの用意が出来ました。》

「分かったわ。とりあえずホログラムに表示して頂戴。」

 私が指示した通りに、早苗が航路図を表示し、部屋一面にホログラムが映し出された。

 この航路図は、現在位置のビーメラ星系を中心に、大小マゼラン銀河までの航路図が示されている。

《私達は現在、このビーメラ星系に位置しています。ここと付近の宙域にあるボイドゲートから移動可能な宙域は、バラン宙域のみです。銀河系側に通じるゲートは存在しません。》

 ホログラム上に、ビーメラ星系から、銀河系とマゼラン銀河のほぼ中間点にある〈BARAN〉と表記された宙域まで、矢印が伸ばされる。

「確かその先は、マゼラニックストリームとかいう宙域だったわね。」

《はい、その通りです。》

 マゼラニックストリームとは、銀河系からマゼラン銀河まで伸びる細長いガス帯で、航海の難所として知られているらしい。何で知ってるかって?さっき調べたのよ。

《バランから先は、凡そ850光年先に位置する、難所として知られている七色星団宙域を超えた所にボイドゲートが一つ存在します。そのゲートを通らずに大マゼラン方面へ1700光年ほど進むと、マゼラニックストリームβ宙域へ通じるゲートがあります。》

「続けて頂戴。」

《はい。前者のボイドゲートは、バランから小マゼランへの銀河間空間に出ます。その先にはもう1つボイドゲートが存在し、そこから小マゼラン銀河・エルメッツァ宙域に通じています。ただ、ボイドゲート間の距離が直線で900光年ほど離れているので、1度ワープを行う必用があります。もう1つのボイドゲートを超えた先にあるマゼラニックストリームβ宙域は、非常に危険な宙域として知られています。前述の七色星団をさらに危険にしたような宙域で、暗黒ガスが非常に充満しており、さらに複数の青色超巨星、白色矮星、ブラックホールが存在し、寄航可能な惑星はありません。さらに、イオン乱流や宇宙ジェットが宙域の半分以上の区域で吹き荒れているので、船のコントロールを保つのは極めて難しい宙域です。銀河間にしては、異常に天体が密集している宙域ですね。この宙域を越えると、ネージリンス領、マゼラニックストリーム・S宙域に出ます。この宙域には、それぞれ大小マゼランへ通じるゲートがあり、活発な交易活動が行われているようです。複数の居住惑星も存在します。大マゼランへ移動するなら、こちらの航路を使用する必用があります。》

 早苗が説明を終える。

 さて、どちらの航路を取ろうか。前者の航路は小マゼランにしか行けないが、比較的安全な航路だ。後者なら大マゼランへも行けるが、かなり危険が伴う。

「ところで早苗、マゼラン銀河にある国家の情報はある?」

 肝心なことを忘れていた。もし行った先にある国がヤッハバッハみたいな国だと、また逃げる必用がある。

《えっと―――、国ごとの詳細は分かりませんが、大半の国では0Gドックによる自由な航海が認められているようです。艦長の心配は杞憂かと思います。》

「そう、なら良かったわ。」

 どうやら私の心配は杞憂だったらしい。なら、別に行ける銀河が小マゼランだけでも、安全な航路を取った方がリスクは小さそうね。一応、後で他のクルーにも訊いておきましょう。

「早苗、今から2時間後に会議をするから、他の人にも連絡して頂戴。」

《了解しました。》

 早苗が端末を介して情報を他のクルーに送る。

 会議が始まるまでは暇なので、それまでは神社でごろごろしていようかしら。

「それじゃ私は神社でゆっくりしてるから、寝ていたら起こしてね。」

《はい、分かりました。》

 用事を終えた私は艦長室を後にして、エレベーターで神社まで上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《艦長、20分後に会議です。起きて下さい。》

「ん―――ふぁぁっ・・・もうそんな時間なの。分かったわ。今行く。」

 あの後、私は縁側で寛いでいたんだけど、どうやら昼寝していたらしい。

 私は気怠さを感じながら身を起こし、艦長服に袖を通す。

 神社を出ると、時間が惜しいので、天井に気をつけながら空を飛んで、自然ドームの入り口まで移動する。

 そこからは曖昧な記憶と端末の情報を頼りに、会議室まで移動する。なにせ全長が1km以上ある艦なんだから、部屋の位置も覚えるのに時間がかかるのよ。

 

 10分ほど艦内を彷徨って、やっと会議室に到着した。

 会議室の扉を開くと、既にサナダさんや霊沙、コーディにファイブス等の艦橋クルーや、シオンさんやルーミアもいる。

「御免なさい、遅れてしまったわね。」

「いや、艦長が指定した時間まではあと5分ほどある。時間通りだ。」

 ファイブスが時間通りだと言ったのは、基本的にこういう場では5分前には集合するのが常識だからだろう。けど、艦長が一番最後というのもなかなか示しがつかない。次からは気をつけよう。

「全員揃ってるわね。じゃあ会議を始めるわ。」

 私は一呼吸置いて、航路図のホログラムを会議室の中央に表示させた。

「これから私達が取る航路についてだけど。私は小マゼラン銀河を目指そうと思う。」

 周囲を見回して反応を探るが、皆集中して次の言葉を待っているようなので、話を続ける。

「これから私達は、惑星ビーメラ4に寄航し、修理を終えた後は星系郊外のボイドゲートからバラン宙域へ移動、そこからこの七色星団宙域の先にあるボイドゲートから小マゼランを目指そうと考えているわ。何か意見はあるかしら?」

「では、小マゼランでは、0Gの活動は認められているのか?」

「それは杞憂だな。大小マゼラン銀河双方でも、一部を除けば0Gの活動は認められている。」

 ルーミアの質問に答えようとしたが、それよりも早くサナダさんが彼女の質問に答えた。

「なら、小マゼランを目指す理由は何でしょうか?別に大マゼランでも良いのでは?」

 今度はノエルさんが質問する。

《それについては私からお答えします。》

 早苗はホログラムを操作して、現在位置から大マゼランへの航路を表示した。

《現在位置から大マゼランへ移動するには、七色星団を抜けた先にあるこのボイドゲートを通る必用があるのですが、この先の宙域は非常に多くの暗黒ガスに加えて中性子星やブラックホールが存在する宙域です。なら、一路小マゼランを目指す航路の方が相対的に安全という結論に至りました。》

「ふむ、確かに、大マゼランへは小マゼランを経由して行くこともできる。徒に危険を犯すのは得策ではないな。」

 サナダさんは納得した様子で説明を補足する。

「では、この七色星団という宙域は、具体的にどのような場所なのですか?」

 今度は、船医のシオンさんが質問した。

「七色星団か。ここも中々の難所として知られている宙域だな。」

 質問に対して、サナダさんが解説を始める。なんだか、サナダさんが説明してばかりね。

「この宙域は、6つの異なるスペクトルを持つ縮退星と褐色矮星により構成されている宙域で、宙域内部には暗黒ガスが充満し、レーダー障害が発生している宙域だ。さらに宙域の一部には宇宙ジェットやイオン乱流も確認されている。まさに〈嵐の雲海〉とでも呼ぶべき場所だな。だが安心しろ。ここは確かに危険な宙域ではあるが、大マゼラン航路上のマゼラニックストリームβ宙域よりは遥かに安全だ。イオン乱流や宇宙ジェットさえ躱せば問題ない。

「躱せば問題ないって、よく言ってくれるな。舵を握るのは俺だぞ?」

 サナダさんの台詞に、コーディが抗議する。実際に操舵するのはコーディなんだから、妥当な台詞だろう。

「言っただろ、それがあるのは宙域の一部だ。そこを避ければ問題ない。それに、この艦には私謹製の高性能観測利きがあるからな。」

《サナダさんが複数の観測機器を私や艦長に秘密で搭載しているの、私は既に把握していますよ。説明仕様にない各種機器の無断搭載の処遇、如何されますか、艦長?》

「待て、何故それを―――」

「わざわざ隠して搭載しているのは気に障るけど、まぁ役に立つなら不問よ。」

 早苗が悪戯っぽく訊いてくるが、役に立てば別に処分する必要もないでしょう。私に隠しているもので何かされたら話は別だけど。

「それで、他に何か質問はある?」

 私は一度全体を見廻して、質問がないか確認するが、ないようなので航路はこれで決定だ。

「じゃあ航路はこれで構わないわね。それじゃあ、解散。」

 

 

 

 

 

 

 

 今後の航路を決めた私達は、惑星ビーメラ4に立ち寄り、イベリオ星系での戦いで受けた損傷を修理し、ついでに乗組員の募集をかけて100人ほどの新クルーを集めた。元々寄航時間が短かったのに加えて、怪しい人材は片っ端から落としたので数は少ないが、人手不足な私達にはクルーの数は少しでも多い方が良い。ちなみに、〈開陽〉の最低稼働は320人だ。これでもコントロールユニット(早苗)で半分以上落としているのよ。今は早苗の性能とドロイドでカバーできているが、できるだけ生身のクルーに置き換えて即応性やダメージコントロール能力を上げておいた方が良いだろう。

 ビーメラ4を出た私達は、真っ直ぐ星系郊外のボイドゲートを目指す。

 

 霊夢率いる艦隊は、新天地を目指すべくボイドゲートへと飛び込んだ。

 




今回の話で、前話のさんかく座銀河から一気に200光年以上進みました。本当は竜座銀河にワープしてヤマト2520のネタと絡ませるか、原作をなぞって事象誘導宙域にしようかと思っていたのですが、構成が上手く思い付かなかったので順当に小マゼランを目指すことにしました。投稿が遅れたのは大体この辺りが原因です。
今話からは、視点を以前よりも意識して書いたのですがどうでしょうが。オリ主系は自分の視点で書けるので楽かもしれませんが、"霊夢の視点"で書くのは中々慣れませんね。原作霊夢が持ってない知識や思考等(主に軍事面)は作者の視点が大いに入っていますが、そこは霊夢ちゃんが勉強を頑張っているという事でお許し下さい。

今話では原作中の宙域への言及がありましたが、次回からはいよいよ原作キャラを登場させる予定です。お楽しみに。


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第一六話

某所で見つけた巫女服こころちゃんがどストライク。APP18には勝てません。でも1番は霊夢。霊夢かわいい。

それでは第一六話です。


〜マゼラニックストリーム近傍・バラン宙域〜

 

 

 

 

「ゲートアウト確認。通常空間に出ました。」

 霊夢率いる艦隊は、ビーメラ星系からボイドゲートを越えて、バラン宙域に到着した。バラン宙域は、1つの自由浮遊惑星からなる宙域で、宙域の両端にはそれぞれ銀河系とマゼラン銀河方面に通じるボイドゲートが存在する。宙域唯一の惑星バランは、大きさが木星の2倍はある巨大ガス惑星で、赤と黒の縞模様が見られる。ガス惑星のため、宇宙港は設置されていないが、航路上に、この宙域を通る艦船のために空間通商管理局が設置した簡易ステーションが存在する。

「艦の各部に異常なし。」

「七色星団宙域へ繋がるゲートに到着するまで、あと8時間ほど掛かる予定です。」

 オペレーターのミユとノエルが、矢継ぎ早に情報を報告する。

「航路修正。4番から11番スラスターを開くぞ。」

 舵を握るコーディは、予定航路に合わせて、艦の向きを修正する。艦隊の他の艦も、旗艦の動きに合わせて、自らの進路を修正する。

「艦隊はこのまま反対側のボイドゲートを目指すわよ。第三種警戒態勢のまま航行して。」

 艦長席に座る霊夢が指示を出す。

 

 艦隊は、何事もなくバラン宙域を抜けていった。

 

「間もなくボイドゲートに到達します。」

「よし、ゲートに突入するわ。機関全速。」

「了解、機関全速、前進。」

 バラン宙域を無事に通過した霊夢の艦隊は、七色星団宙域に通じるボイドゲートに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜マゼラニックストリーム・七色星団宙域〜

 

 

 バラン宙域からボイドゲートを介して、そこから約850離れた七色星団宙域に、私達の艦隊は到着した。

「ゲートアウト確認。七色星団宙域に到着しました。」

「各種センサー起動、付近の空間スキャニングを開始。メインパネルに宙域情報を表示します。」

 ゲートを抜けると、ミユとノエルは早速行動を開始し、艦に搭載されたレーダー機器等を駆使して宙域の情報を収集する。相変わらず仕事が早いわね。

「長距離レーダー作動。こちらも空間スキャニングのデータを送ります。」

 新たに雇ったレーダー管制士の秦(はたの)こころが報告する。

 名前で分かる通り、彼女は幻想郷にいた仮面の付喪神のこころと容姿は瓜二つだ。幻想郷のこころにはよく神社で能を舞ってもらったりしていたので、見間違えはしない。彼女を雇ったときは、正直自分の目を疑ったものだ。ルーミアに続いて、幻想郷の妖怪の面影をもった人に会えるとは思っていなかった。おまけに名前まで一緒だ。もしかしなくても、これが輪廻転生とかいうやつだろうか。

 ただし、此方のこころは妖怪と違って常時面を被っている訳ではない。ただ、今まで見てきた限りでは、真顔しか見たことがない。あと、服装も妖怪のこころのパジャマみたいな服装ではなく、和服を着ている。名前も日本風だし、先祖代々日本文化を継承してきたとか、そんな感じかしら。

「機関に異常認めず。正常に稼働中です。」

 これまたビーメラで新しく雇った機関長のユウバリさんが報告する。彼女は一見若い娘だが、かつては別の0Gドックの下で凄腕の機関長に師事していたとかで、腕は立つ。前のバラン宙域を航行している間、試しに早苗に任せていた機関の管理をやらせたところ、滞りなく業務を遂行できたので、今は彼女に機関部を任せている。

 《サナダさん、未登録の機器は全て接収し、私のコントロール下に置きますが、宜しいですね。》

「・・・ああ。」

 早苗は有無を言わさず、サナダさんから観測機器を取り上げたようだ。早苗が接収した機器からも、情報が送られてくるだろう。

 天井のメインパネルを見上げると、、宙域図が刻一刻と更新されていくのが見えた。

「・・・・・、なぁ、サナダ。」

 霊沙が、力のない声で、サナダさんを呼んだ。

「あのボイドゲートってやつ、潜ると少し頭が痛くなるとか、気持ち悪くなるとか、そういう副作用ってないのか?1回ならまだしも、前も今回もそうだ。通る度に頭痛が起きるようじゃあ、流石に気に障るぜ?」

 どうやら霊沙は、ゲートを通る度に頭痛を感じていたらしい。だとしたら、あの時の霊沙の頭痛もやはりボイドゲートとやらのせいだったのかな。

「むっ―――そういう話は聞いたことはないが、そういう体質の人もいるのかもしれないな。」

 あのサナダさんでも、霊沙の症状は心当たりはないようだ。あのマッドなら知っていてもおかしくはないと思うんだけど、サナダさんにも知らないことはあるのね。

「それであんた、頭痛の方はどうなのよ?酷いようなら、暫く休んでいてもいいわよ。」

「いや、前よりはマシだ。少し休めば、大丈夫。」

 頭痛が酷いなら休ませようかと声を掛けたが、どうやら杞憂だったらしい。慣れってやつなのかしら。

「それで、おまえはどうなんだ、霊夢?」

 と、霊沙が訊き返してくる。

 うーん、あんまり意識してなかったけど、言われてみればゲートを抜けた後は、なんだか頭が重いように感じたわね。

「あんたほどじゃないけど、少し頭が重く感じたかな。私はてっきりそういうものだと思っていたんだけど。」

「成程、艦長もか。通常ボイドゲートを通過する際は何も感じないとされているんだがな。やはり、血縁だからかもしれん。」

 サナダさんの言う通り、霊沙は私が基になった妖怪みたいなものだったみたいだから、やっぱりそういうことなのかしら。

「まぁ、あれを通る度に頭痛がするってのは胸糞悪い話だが、体質なら仕方ないかな。慣れるっきゃないな、これは。」

 どうやら霊沙は納得した様子だ。てっきり"チッ、おまえのせいかよ・・・"位の悪態は吐かれると思ったけど、以外と素直なのね。

 

 霊沙の話も一息ついたところで、私は艦橋の外に目を移した。

 私達の艦隊の前には、通常の漆黒に星を散りばめたありきたりな宇宙ではなく、蒼く輝く暗黒ガスの雲海が広がり、その向こうに霞がかった星や銀河の輝きが見える。幾重にも重なった暗黒ガスの雲は、まるで空を雲の上から見ているようで、あまり宇宙らしさを感じさせない。この現象は、付近の恒星の色を暗黒ガスが反射するので、このように見えているらしい。見た目だけなら、結構綺麗だし、神秘的で良い場所ね。ちなみに他の場所では、恒星の色に応じて雲の色も変わるらしい。

 しかし、この宙域は宇宙ジェットやイオン乱流が吹き荒れている場所も存在する。ここに足を踏み入れてしまえば、忽ち艦のコントロールは失われてしまうだろう。今メインパネルには、そうした危険宙域の場所が次々と示されているところだ。スキャニングが終れば、そうした宙域を避ける航路を策定して、航行する予定だ。

「あ、あれ―――?」

 私が暢気に宇宙(そら)を眺めていると、こころの困惑した声が耳に入った。

「こころ、どうしたの?」

「あの、長距離レーダーがブラックアウトしてしまって―――あっ、空間スキャニングも中止してしまいました・・・」

 こころは、困惑した表情を浮かべて報告した。こっちのこころは、ちゃんと表情は動くのね。

「なんだと。」

 こころの話を聞いたサナダさんが立ち上がった。何か不味い事態だろうか。

「それは不味いな。この宙域は遠くまで見渡せないと危ないぞ。」

 話を耳に挟んだコーディーも、事態を憂慮しているみたいだ。

《機器には、故障の類いは見られませんが。》

 早苗の報告では、機器の故障ではないようだ。統括AIの早苗が言うからには、本当なのだろう。

「こころ、何があったか、詳しく教えてくれる?」

 危機管理は艦長の大切な仕事だ。事態が深刻になる前に、なんとか解決しないと。

「あ、はい。つい先程ですか。突然恒星間長距離レーダーがブラックアウトしてしまいました。原因は不明です。同時に空間スキャニングも中断・・・現在、情報の更新は停止しています。」

こころが言うには、何らかの要因で、レーダー機器に異常が発生したらしい。

「この宙域は暗黒ガスの他にも、宇宙ジェット等も吹き荒れている。我々が今いる場所は宇宙ジェットの直接的な影響範囲ではないが、機器が影響を受けても可笑しくはない。」

 サナダさんが言うには、レーダー機器の異常は外的な要因に因るものらしい。

 なるほど、問題は大体分かった。兎に角、レーダーの復旧を急がないとね。外的な原因なら施しようはないけど、もし機器そのものの異常なら、復旧を急ぐべきだろう。早苗の報告ではそれはないらしいが、万が一のこともある。早苗は艦のAIなので、艦に搭載している機器の状態は把握できている筈だ。だけど、念のため、人間の目でも確かめた方が良いだろう。

「サナダさん、長距離レーダーの区画にチョッパーを送れないかしら?一応人の目でも見ておいた方がいいわ。」

「そうだな。連絡しておこう。」

 サナダさんは私の指示に従って、研究室のチョッパーを呼び出して、指示を下している。

「艦長、10分後にはチョッパーから連絡が入る。それまでは、今まで集めた情報を基に航路を策定するぞ。」

「それで良いわ。慎重に進めて。」

「了解した。・・・・・・しかし、気になるな。」

「何が?」

 サナダさんの独り言が気になった私は、彼に尋ねてみる。

「いや、レーダーと空間スキャニングが一度に停止したことだ。自然現象が原因なら、こんな偶然の確率は低いと思うんだが・・・」

 確かに、言われてみれば不自然なタイミングよね。でも、他に原因なんて―――

 ――あっ――

「ねぇサナダさん、この宙域って、暗黒ガスが多い宙域よね。」

「ああ、そうだが、何を今更―――まさか?」

 サナダさんは何かに気づいた様子で私の顔を見た。

「暗黒ガスの中ではレーダーが使えない。海賊が待ち伏せるには、もってこいの宙域ね。」

暗黒ガスの中なら、レーダーが使えない。ならば、その性質を上手く利用して、待ち伏せることもできるのではないだろうか。

「おい、こんな宙域で待ち伏せか?こんな通行の少ない宙域で待ち伏せたって、ハイリスクローリターンだぜ?」

 実際フォックスが指摘する通りなのだが、ここまで不自然なタイミングで不具合が起こったなら、何者かによるジャミングも考慮に入れるべきだろう。襲撃の可能性も、排除するべきではない。

「そうね。だけど、念には念を入れた方がいいわ。こころ、中断する前の空間スキャニングの画像をパネルに投影してくれるかしら?」

「了解です。」

 メインパネルに表示されていた宙域図のデータに変わって、空間スキャニングの画像データが表示される。

「なんだ霊夢、何も見えないぞ。」

 霊沙の言う通り、この画面では宙域の様子しか映されていない。

「こころ、画像を時間軸に沿って、巻き戻してくれるか?」

「こうですか?」

 パネルに表示されていたデータが、サナダさんの指示で巻き戻されていく。

「ストップだ。」

 サナダさんの声で、巻き戻しが中断する。

「艦長、画面の左上の部分、ここだけ他の場所より暗黒ガスが多いようです。この宙域が怪しいのでは?」

「そうだな。そこを拡大してみろ。」

 ミユさんの指摘を受けて、画像が拡大表示される。

 まだ、変わった様子は見られない。

「もっとだ。」

 サナダさんはさらに拡大を指示し、もっと画像が拡大される。

 画面中央付近には、今までは見られなかった小さな赤い点が、複数映し出されていた。

「サナダさん、これって―――」

「ああ、エネルギーの大きさからいって、艦載機だろうな。」

 画面に映し出されていた赤い点は、艦載機の反応のようだ。これ――――けっこう不味い状態じゃない?

「なら、先程のレーダー異常は、まさか―――」

「ああ、敵の妨害と見るべきだな。空間スキャニングの実行が遅れていれば、完全に奇襲を受ける所だった。」

 サナダさんが、ノエルさんの後に言葉を続ける。

 相手と話してみるって手は―――――論外ね。補足した相手に有無を言わずに艦載機を差し向けるような連中だもの、最初から彼等に話す気なんてない証拠だわ。ここは弱肉強食の宇宙。生き残る為には、適切な決断が求められる。なので私は、対話という選択肢は早々に放棄して、全艦に命令する。

 

 

 

【イメージBGM:東方紅魔郷より 月時計〜ルナ・ダイアル〜】

 

 

 

「総員、第一級戦闘配備!非番要因は直ちに部署に就きなさい!」

 私は艦長席を立ち、命ずる。

「了解。総員、第一級戦闘配備。繰り返す、総員、第一級戦闘配備!これは訓練に非ず!」

 ミユさんは艦内に命令を徹底させるべく、艦内全域に通信を発する。

「ガルーダⅠ、グリフィスⅠ、直ちに格納庫で待機して発進準備に取り掛かって下さい。」

 ノエルさんは、パイロットのタリズマンとバーガーに発進準備を命じる。ちなみにノエルさんが呼んだのはコールサインというもので、一種の識別信号だ。ガルーダⅠがタリズマンで、グリフィスⅠがバーガーだ。

《おう!》

《了解だ!》

タリズマンとバーガーは、命令を聞いて、自機へと向かったようだ。

「敵は艦載機の大編隊よ。全艦、輪形陣を取れ!」

 敵の反応が主に艦載機なので、艦隊には対空戦を想定して輪形陣を取るように命令する。

 陣の中央には旗艦〈開陽〉を置き、その後方には〈サクラメント〉、〈プロメテウス〉を配置、この3隻を取り囲むように、前後左右にはクレイモア級重巡〈クレイモア〉、〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉が展開、上下にはヴェネター級〈高天原〉と改ブラビレイ級〈ラングレー〉が展開し、中央の3隻を取り囲む。そして6隻の駆逐艦は、その外輪を六角形を作る形で、〈開陽〉と同一平面上に展開する。

「〈ラングレー〉は直ちに直掩機を発進させなさい。本艦の艦載機隊は発進後、敵編隊を迎撃せよ!〈高天原〉の航空隊は本艦と共同し、敵の迎撃に当たれ!」

 《了解。〈ラングレー〉、〈高天原〉に命令伝達。直掩機、迎撃機発進準備。》

 早苗が〈ラングレー〉〈高天原〉に命令を伝達し、〈ラングレー〉は準備が整った機から発進させる。

〈高天原〉の艦中央の赤いラインの位置が割れ、そこから複数のT-65戦闘機を発進させる。

 《こちら格納庫、発進準備完了した。いつでも行けるぜ。》

「了解。底部ハッチ解放。ガルーダⅠ、グリフィスⅠ、直ちに発進せよ。」

 バーガーの報告を受けてノエルさんは艦載機隊の発進を命じた。そういえば、彼等はうちに来てからはこれが初陣ね。

 《ガルーダⅠ、出る!》

 《グリフィスⅠ、発進するぞ!》

 〈開陽〉の艦底部にある増槽状のパーツの下部(第3艦橋の位置)にあるカタパルトから、先ずはタリズマンのT-65戦闘機(某Xウイング)が発進し、同時にバーガーの駆るSu-37C(ベクタードノズルのフランカー。黄色中隊カラー)も発進する。続いて、早苗がコントロールする無人のF-17(形はマクロスのナイトメアプラス、ただし変型しない。)の編隊が次々と発進し、全機集結したところで、〈開陽〉のレーダーが示した敵編隊の位置を目指して飛んでいく。

「全艦、対空警戒を厳と成せ!この宙域は暗黒ガスの影響でレーダーに障害が出ることもあるわ。光学センサーの映像にも気を払って頂戴。」

「了解。近距離用メインレーダーに移行します。」

 戦闘に突入するに当たって、こころはレーダーを切り替えて、対空監視に就く。

「主砲、対空散弾装填!対空戦闘用意!」

「イエッサー、主砲、1番から3番、対空散弾装填だ。」

 砲手のフォックスは、主砲に対空散弾を装填させる。この砲弾は、一定の距離に達するとエネルギー子弾を扇状に散布し、弾幕を形成する一種の対空兵装だ。ちなみにサナダさんの開発である。

 《全艦、戦闘モードに移行完了しました。》

「よし、全艦戦闘態勢のまま航行、敵襲に備えて。」

 艦橋は戦闘準備を終え、敵の襲来に備えて、警戒を厳としつつ航行する。

 さて、一体どんな敵が出るのか。緊張するわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜七色星団宙域・暗黒ガス帯内部〜

 

 

 

 

  霊夢達が察知した暗黒ガス帯の中に、潜水艦の如く身を潜める一隻の宇宙戦艦の姿があった。その戦艦は、艦体は宇宙に溶け込むような黒色で塗装されていて、艦首に大口径砲を備え、中央には上甲板と両舷に3連装主砲を備えている。その後ろには龍の頭のような姿の艦橋が立ち、艦尾には4つの補助エンジンノズルと、中央に一基のメインノズルを持っている。

 この宇宙に於いて最も知られた大海賊の乗艦、単艦としては宇宙最高の戦艦として名高い大戦艦―――――〈グランヘイム〉だ。

 

 

 

「頭、本当にこの宙域に来るんですかね、獲物は。小マゼランに居座っていた方が、良かったんじゃねぇすか?」

「俺の勘が告げているんだ。間違いねぇ。奴はここに来る。」

 〈グランヘイム〉の艦橋内で、一段高い位置にある艦長席に立つ、黒い艦長服を着た金髪の男―――大海賊、ヴァランタインは、マントを翻しながら、"獲物"が現れることを予感した。

「お頭、散布したレーダーブイに反応ありやした!バラン方面のボイドゲートの方向でっせ!」

 部下の一人が、"獲物"が現れたことを報告する。

「数は、多いなこりゃ。15隻です!」

「よぅし、まずは艦載機隊を出せ!残りの艦載機全てを差し向けろ!」

 ヴァランタインは、"獲物"の出現を受けて、手始めに艦載機隊による攻撃を命令した。

「しかし、そうすると〈グランヘイム〉の防空網が欠けてしまいますよ?」

「いや、それでいい。"策"があるからな。」

 部下の一人は全ての艦載機を発進させると母艦の防空態勢に穴が開いてしまうことを懸念したが、ヴァランタインはそれを気にすることなく、そして艦橋クルーに作戦案を説明する。

「さすがお頭だ、やることが違うぜ。」

「ヒューッ、燃えるね、そういうの。」

「ハッ、やっぱ海賊はそうでなくちゃアなぁ!」

 作戦案を聞いた部下達は、これからの戦闘を想像し、血気逸らせ、次の指示を待つ。

「よぅしお前ら、狩りの時間だ!エンジンに火を入れろ!」

 艦長服に立つヴァランタインは、力強く右手を降り下ろし、戦闘の開始を命令する。

「アイアイサー、インフラトン・インヴァイダー始動!第一戦速!」

「全艦載機、発進!戦果を挙げてこい!」

 〈グランヘイム〉は一気に加速し、次々と艦載機を射出する。〈グランヘイム〉の前方に展開した艦載機隊は、一足早く"獲物"へ向かっていく。

「敵艦隊への電子妨害を開始しろ!ジャミングポッド起動!」

「了解!敵艦隊へのジャミングを開始します!」

さらにヴァランタインは、〈グランヘイム〉のジャミングポッドの起動を指示し、"獲物"の目を奪わんと試みた。

〈グランヘイム〉は、加速を強め、ガス雲を突き抜けて、雲海を"航行"する。

 

 

 

 ―――さて、今度の奴には、"覚悟"はあるかな?―――

 

 

 

 〈グランヘイム〉の艦橋で、ヴァランタインは小さく呟くと、艦橋の外に広がる雲海に目を移した。

 

 

 

 ―――覚悟のない奴ならば、そのエピタフ、この俺が貰い受けるぞ―――

 

 




今回でやっと原作キャラ登場です。ヴァランタインのグランヘイムがプラズマ砲を撃つのをチュートリアルで見て、しばらくプラズマ砲はレーザーみたいに交換できるものだと思っていました。

今話の展開は、PS2宇宙戦艦ヤマトの七色星団のストーリーを基にしていますが、戦闘自体はそれとはかなり異なるものになります。


今話から、特定の場面では私が勝手に考えたイメージBGMを明記していきます。そのようなものは他の作品でも見かけたので、利用規約に照らしても問題ないと思いますが、何か御指摘がありましたら伝えて頂けると助かります。


新キャラについてですか、秦こころは、容姿は東方のこころちゃんですが、本文で言及されている通り、色々違う部分があります。ちなみに転生とかではないので、別に幻想郷のこころちゃんの記憶を持っていたりはしません。ルーミア同様、偶然似ているだけです。(本音は作者が東方キャラを出したいからです)
機関長のユウバリは、見た目は艦これの夕張です。メロンは残念な状態なのも変わりません。服装は艦娘のセーラー服ではなく、空間服の上にツナギを着て、ツナギの上半身の部分は腰の辺りで縛っています。無限航路原作中のルーベに近い服装です。最初は機関長キャラとしては、ヤマトの徳川さんか山崎さんにしようかと思っていたのですが、それだと他の作品と被るので、夕張ちゃんをチョイスしました。別にオリジナルキャラでも良かったのですが、あまり良いキャラを思いつきませんでした。これで霊夢艦隊のクルーの女性率がかなり高くなりましたが、まぁ別にいいでしょう。

次回は霊夢vsヴァランタインの艦隊戦です。ご期待下さい。


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第一七話

イメージBGMは、主に東方、宇宙戦艦ヤマト、ガンダムシリーズ、エースコンバットシリーズ、無限航路などから選ぶ予定です。BGMの範囲は、基本的に大段落ごとです。


【イメージBGM:機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙より「サラブレッド」】

 

 

 

 

 〜七色星団宙域〜

 

 

  霊夢艦隊の艦載機隊は、〈開陽〉以下が位置する蒼い雲海の宙域を抜け、恒星の光でオレンジ色に染められた暗黒ガスの雲上を飛行する。

 

《・・・実際に操縦桿を握るのは久し振りだな》

 

 バーガーは、自機のコクピット内で、独り呟いた。

 

《なんだ、怖じ気付いたか?》

 

 その声を無線で拾ったタリズマンが、バーガーを茶化す。

 

《ハッ、誰が怖じ気付いたって?お前こそ、ビビって小便漏らすなよ?》

 

《ほぅ、言ってくれるな・・・なら撃墜数で勝負といこうか?負けた方は今日の飯奢りだ!》

 

 タリズマンは、バーガーの挑発に対して、勝負を持ち掛ける。

 

《おう、いいぜ。・・・言い出しっぺの法則、分かるよな?墜とされるんじゃねぇぞ!》

 

《ああ、こんなとこで死ぬ気はねぇからな。お前こそ、墜とされるなよ!》

 

 タリズマンとバーガーは、互いの無事を祈って言葉を投げ合う。

 

《おっと、レーダーに反応だ。敵さんのお出ましだ。数は、68機だな》

 

《こちらよりも多いな》

 

 タリズマンが敵編隊を補足し、バーガーに伝える。霊夢艦隊の迎撃機は全部で44機であり、敵編隊の方が5割増しだ。

 

《よし、なら行くか。各機散開、全兵装使用自由!》

 

 バーガーは隷下の無人機に命令し、編隊は一気に散開する。

 

《こちらガルーダ1、敵機を補足した。これより交戦する。》

 

《了解です。健闘を》

 

 タリズマンの報告を受けて、ノエルが返答する。

 

《ガルーダ1、交戦!》

 

《グリフィス1、交戦!》

 

 2機の戦闘機は、我先にと敵編隊へと向かう。

 

《グリフィス1、FOX2!》

 

 バーガーは敵機をロックオンすると、ミサイルの発射ボタンを押す。

 バーガーのSu-37Cの両翼からミサイルが切り離され、ロケットエンジンを噴射して敵機へと向かう。

 ミサイルの発射を見た敵編隊は散開し、攻撃態勢を取る。ロックオンを受けた機は、フレアをばら蒔いて、回避機動に専念する。だが、バーガーが放ったミサイルは真っ直ぐ敵機を目指し、命中した。

 

《Nice kill!》

 

 バーガー機のコクピットで、撃墜を知らせるAIの音声が響いた。

 

《まだだ。次!》

 

 バーガーは次の獲物を求めて、機体を敵編隊の中へ滑り込ませる。

 だがやられたままで黙っている敵ではなく、敵機はバーガー機や周囲のF-17戦闘機に対して背後を取ろうと加速し、旋回する。

 

《チッ!》

 

 バーガーは操縦桿を引き、機体を上昇させて回避を試みるが、数機の敵機はバーガー機の背後につき、レーザー機銃を連射する。

 

《クソッ、鈍ったか!》

 

 バーガーは己の腕が予想以上に落ちていることを悟り、コクピットで呟いた。そこに、一機の敵機がバーガー機の後方へ躍り込む。

 

《ガルーダ1、FOX3!》

 

 バーガーが回避に専念していると、突如背後の敵のうち1機が爆散した。タリズマン機がレーザーガンで撃ち落としたのだ。

 

《・・・すまねぇ、助かった》

 

《気にするな。次にいくぞ》

 

 バーガー機とタリズマン機は再び散開し、敵機を狙う。二人はカーソル内に敵機を捉え、ミサイルのトリガーを押した。

 

《グリフィス1、FOX1!》

 

《ガルーダ1、FOX1!》

 

 2機は敵機の背後につき、敵機との距離が近かったため、短距離ミサイルでこれを撃墜する。

 

《今のところ、スコアはタイか》

 

《ああ、そのようだが・・・》

 

 敵機を撃墜して少し余裕があったタリズマンは、空戦場を俯瞰する。

 味方の無人機部隊は確かに善戦し、敵機は着実に数を減らしているが、それ以上に味方の消耗が早い。敵の数が多いのに加えて、敵の練度も高いからだろう。こうしている内にも、味方のF-17がまた一機、撃ち落とされた。

 

《くそっ、敵に押されているな》

 

《防空網を突破されるかもしれん。艦隊に連絡する》

 

 タリズマンは味方の劣勢を受けて、本隊に敵機襲来の可能性を伝えようと通信回線を開く。

 

《おい、あれを見ろ!》

 

 何かを発見したバーガーは、無線越しにも分かる大声でタリズマンを呼んだ。

 バーガーが指した宙域には、空戦場を避けて真っ直ぐ艦隊を目指す20機近い敵機の編隊があった。

 

《あれは、攻撃機か!》

 

《クソッ、やらせるかよ!》

 

 2機はアフターバーナーを焚いて加速し、敵機をミサイルの射程に捉える。

 

《ガルーダ1、FOX2!》

 

《グリフィス1、FOX2!》

 

 2機の発射した4発の空対空ミサイルは、半分が散開した敵機がばら蒔いたチャフに吸い込まれて爆散する。だが、2機の敵機はそれを躱しきれず、火達磨となって撃墜される。

 

《よし、撃墜だ》

 

《しかし、ミサイルが足りん!》

 

 時間が経つにつれて味方の劣勢は目に見えるほど悪化しており、その分だけバーガー達が落とすべき敵機の数は増えていく。

 

《だか、やるしかないな》

 

 バーガー達は、敵編隊の艦隊到達を組織せんと、敵編隊に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 七色星団宙域の蒼い雲海を進む霊夢艦隊は、敵機の襲来を警戒しつつ、航行を続ける。

 

「艦長、わが方の艦載機隊は、かなり苦戦しているようです」

 

 オペレーターのノエルさんは、航空隊と無線を交わしつつ、戦況を伝える。報告によれば、バーガー達は敵に対して劣勢らしい。バーガーの報告によると、敵は数もあるが、何より質の面でも侮れないということだ。その報告に、私は改めて気を引き締めた。

 

「直掩機を前に出して。敵の襲来に備えて」

 

「了解!」

 

 防空隊は抜かれるだろうと踏んで、直掩のスーパーゴースト隊を前に出す。今回の敵は、今までのようにはいかないみたいね。

 

「レーダーに感あり。11時の方向より、敵編隊接近。数25!」

 

 しばらくすると、予想した通りに、敵機の編隊が襲来したようだ。レーダー手のこころが、敵編隊接近を報告する。

 

「対空ミサイル、発射!それに続いて直掩機は敵機を排除!」

 

 艦隊各艦は各々VLSから対空ミサイルを発射し、敵機を迎撃する。しかし、その大半は敵機の回避機動に躱され、またはチャフやフレアといった妨害手段に捉えられて撃墜は4機に留まった。

 

「クソッ、何て練度だ!」

 

 ミサイルが悉く躱されたことに、砲手のフォックスが悪態をつく。そりゃ、あんなに躱されちゃ無理もないわ。

 

「敵は今までのヤッハバッハより遥かに強敵だわ。心して掛かれ!主砲、敵編隊を狙え!」

 

「了解!主砲、対空散弾、撃て!」

 

 〈開陽〉の前甲板の3連装主砲3基が敵編隊を指向し、対空散弾を発射する。だが、既に散開した敵編隊にはあまり効果はないようで、敵機はバラバラに散開した対空散弾の弾幕の中を悠々と潜り抜けてくる。

 

《無人機隊、接敵します!》

 

 早苗が直掩機と敵編隊が交戦したことを告げる。戦場の様子を表示するメインパネルを見上げると、味方の直掩機を示すアイコンと、敵編隊と示すアイコンが衝突し、双方のアイコンが次々と消えていくのが見える。艦橋の外に目を移すと、双方の機体が火球となって爆散していく様子が見えた。

 

「直掩隊の被害甚大!敵機、半数余りが残存!」

 

「何!奴らスーパーゴーストの機動に追随しているだと!」

 

 ミユさんの報告を受けて、サナダさんは驚愕の表情を浮かべる。自らの手掛けた魔改造仕様の機体が押されているのに驚いていのだろうが、何が起こるか分からないのが戦場だ。だが、スーパーゴーストと互角に渡り合い、あるいは凌駕する敵パイロットの腕は脅威であることに違いはない。

 

「敵機、ミサイル発射、数20!」

 

「CIWS、パルスレーザー、即座に目標を追跡しなさい!」

 

 20発のミサイルなら充分迎撃できると思うけど、まさかこれで終わりって訳にはいわないわよね。

 

《〈クレイモア〉、〈ヘイロー〉、〈雪風〉、迎撃開始しました。》

 

 艦隊の左前方に位置する3隻は対空砲火を以て、敵のミサイルを迎撃する。

 

「敵ミサイル、撃破!」

 

 ミユさんが、ミサイルの全弾撃墜を報告した。しかし、20発か。敵の機数にしては、随分少ない数だったわね。

 

「敵機、反転していきます。」

 

「追わなくていいわ。直掩隊の収用と再展開を急いで」

 

 こころが敵の反転を報告するが、深追いは危険だ。直掩隊のスーパーゴーストは、25機中17機が撃墜され、敵の攻撃で破損している機もある。なので、〈ラングレー〉に損傷機を収用させて修理し、同時にまだ格納庫にあった機体のうち30機を交代で直掩機として発艦させた。

 

「艦長、3時の方角より、新たな艦載機隊の反応を感知!反応から、攻撃機の大編隊だと思われます!」

 

 敵が引いて一息ついたと思ったら、こころが新たな敵の存在を報告した。3時の方角って、さっきの敵とは随分違う方角からね――――まさか、別動隊!?

 

「クソッ、別動隊か!」

 

「狼狽えないで。バーガー達は?」

 

「現在も敵機と交戦中です」

 

 フォックスが声を上げるがこれを諫めて、迎撃の策を練る。ノエルさんの報告によると、バーガー達の迎撃隊はまだ最初の敵に拘束されているようだ。なので、新たな敵編隊の迎撃には向かわせられない。

 

「おいサナダ、余りの機体はないのか!?」

 

 すると、霊沙がサナダさんに問い掛ける。

 

「確か私の開発ラボに、試作機があるが・・・まさか、お前が出るのか!」

 

「戦闘機が足りないんだろ?なら私が行く!今まで戦闘には何も役に立ってないんだから、そろそろ仕事しないと不味いだろ」

 

 艦隊の防空網の惨状を見てか、霊沙は自分も迎撃に出ると食い下がる。この状況の中で自分が何も出来ないというのは歯痒いのだろう。確かに、霊沙は今まで戦闘には参加していなかったわね。半分は碌に役職を見つけられなかった私の責任でもあるけど。

 

「シュミレータなら暇なときに散々やってきた!操縦なら大丈夫だ!」

 

 霊沙はサナダさんに詰め寄って、出撃を求める。これは相当思うところがあったみたいね。

 

「・・・私の開発ラボの位置は、格納庫の手前だ。そこに向かえば、機体はある。それを使え!」

 

「おう、分かった!よし、霊夢、迎撃には私が出るぞ!」

 

「分かったわ。生きて還ってきなさいよ」

 

「ここで死ぬ気なんてねぇよ。了解だ」

 

 霊沙は八重歯の覗く口元をつり上げ、にやりと笑って、艦橋を後にする。

 

「総員、気を緩めないで。次に備えて頂戴!」

 

 敵の次の一手に備えるため、私は艦内の士気を立て直し、襲撃に備えた。

 

 

 

 

 

【イメージBGM:エースコンバット04 シャッタードスカイより 「Aquila」】

 

 

 

 よし、やっと、戦闘に参加できる。

 私は、漸く自分に出番があることを内心喜んでいた。霊夢の奴に頼んでクルーにしてもらったのは良いが、今までは碌な仕事がなく、ただ乗りしているようで居心地があまり良くなかったのだ。

 

《サナダさんの開発ラボはこの先になります》

 

 端末から、早苗が報告する。

 

「ああ、分かった」

 

 私は開発ラボに急いで向かう。なにせ、今も敵が接近しているのだ。時間がない。

 ラボに着くと、私は扉を空けてそのままの勢いで中へ飛び込んだ。

 

 そこには、黒に近い灰色を基調として、赤いラインの入った戦闘機の姿があった。

 

《試作可変戦闘機〈YF-21 シュトゥルムフォーゲルⅡ〉です。操縦系統は他の戦闘機と異なり脳波コントロール方式を採用しています。また、本機は変形することにより、鳥人(ガウォーク)、人形(バトロイド)形態と、3つの形態を使い分けることができますが、戦闘機のシュミレータしかやっていない霊沙さんなら、通常の戦闘機として運用した方が宜しいかと》

 

 早苗が、目の前の試作機の使用を解説する。

 

「脳波コントロール、って事は、思った通りに機体が動くって訳か?」

 

《はい。操縦者の脳波を感知して、操縦者のイメージを直接機体制御に用いるシステムです。ですが、予備として、通常の操縦系統も備えています霊沙さんは艦長と同じような能力を有していると伺っていますから、弾幕戦の要領で機体を動かしてみてはどうでしょうか》

 

 成る程、面白そうだ。

 

 早苗の話だと、弾幕戦の要領で飛べばいいらしい。

 

 私は、目の前の機体に飛び乗り、能力を発動する。この能力があれば、空間服は不用だ。あいつ(霊夢)と同じっていうのが気に食わないが、こうしてみると便利なものだ。

 私が機体のコクピットに座ると、装甲キャノピーが閉まり、外の映像が映し出される。

 

「へぇ、良くできてるんだな」

 

《これより、カタパルトに移動します》

 

 早苗の声と共に、機体がクレーンに掴まれて、開発ラボからカタパルトまで移動させられる。

 

《そういえば霊沙さん、コールサインはどうしますか?》

 

「え?う~ん、どうしようか?」

 

 早苗にコールサインをどうするか問われた私は、順当にシュミレータで使っていたコールサインに決めた。

 

「じゃあ、アルファルド1でいいや。」

 

 コールサインの由来?適当に星の名前をつけただけだ。

 

《了解。コールサイン登録します。アルファルド1、YF-21 シュトゥルムフォーゲルⅡ、fastパック装備での出撃を許可します!》

 

 出撃を許可する早苗の声が響き、リニアカタパルトが起動する。

 

「よし、アルファルド1、出るぞ!」

 

 私はアフターバーナーを焚いて発艦する機体のイメージを浮かべる。すると、機体はその通りに動き、ノズルを最大まで開くと一気にリニアカタパルトから射出された。発艦による急速なGが身体に襲い掛かるが、こんなものは大したことない。

 

《霊沙、こいつは私からの土産だ。自由に使え!》

 

 通信にサナダが割り込む。すると、〈開陽〉の格納庫のハッチから、3機のスーパーゴーストが発進した。

 

《こいつはその機体の僚機だ。お前の機体がお前のイメージを受けとると、それがこいつらに転送されて、その通りに動くようになっている》

 

 サナダはそのスーパーゴーストの仕様を説明する。スーパーゴーストとやらもこの機体と同じ要領で動かせば良いらしい。

 

「ああ、分かった。ありがとな」

 

 私はスーパーゴーストに続くように指示して、機体を敵編隊に向けた。

 

 

 レーダーの示す方角に飛ぶと、当たり前だが、敵を射程に捉える。私は、敵機をロックオンして、翼下のミサイルを発射した。

 

「アルファルド1、FOX2!」

 

 ミサイルは敵編隊に向かって飛んでいき、1機を撃墜する。続いてもう一機の敵機もロックオンして、こちらにもミサイルをお見舞いしてやる。

 

《敵編隊、散開!》

 

「よし、ゴースト、行け!」

 

 私のイメージを受け取った3機のスーパーゴーストが、その通りに敵に突撃し敵編隊を撹乱する。

 私は敵の放つミサイルをチャフ、フレアで撹乱し、レーザー機銃で撃墜する。次は複数の敵機がレーザー機銃を雨のように放ってきたが、私はそれを弾幕を躱す要領で機体を操作して躱しながら、すれ違い様に機体に格納されたマイクロミサイルを発射して、敵を撃墜する。敵編隊とすれ違うと、即座にスプリットSを行い、敵機の背後を取ることを試みる。だが、敵もそう簡単には背後を渡してくれないようで、中々照準が合わない。

 そうしているうちに、背後に他の敵機が群がり、レーザー機銃で攻撃してくる。

 

「くそっ、こうなったら・・・」

 

 私はこの機体の変形機構を思い出し、すかさずガウォーク態型に変形させ、急上昇する。敵から見ると私の機がいきなり消えたようで、敵機は私がいた場所を素通りする。それを機体を戦闘機に戻して追撃し、レーザーで撃墜した。

 

「よし、もう1機・・・くそっ、1機やられたか!」

 

 どうやら、私が自機のマニューバに集中している間に、僚機のスーパーゴーストが一機墜とされたようだ。

 

 ―――流石に、4機同時の並列思考はきついな・・・

 

 私の才能ではまだ並列思考はかなり厳しいようだ。なので私は他のスーパーゴーストをAIによる自由操縦に切り替えて、自機の操縦に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

~〈開陽〉艦橋~

 

 

「敵別動隊、6機撃墜、8機ほどがアルファルド1と交戦中、本艦隊に20機あまりが向かってきます」

 

「直掩機を差し向けて」

 

「了解です」

 

  レーダー手のこころが戦況を報告する。報告を聞くには霊沙はなかなか頑張っているようだ。だが、たかが4機では敵編隊を足止めできないのは明らかで、多くが艦隊に向かってくる。

 

「対空戦闘用意!」

 

 私は新たに襲来した敵別動隊に備えて、対空戦闘を命ずる。前甲板の3基の主砲塔が、敵機の群を捉えようと旋回を始めた。

 

《艦長!本艦左舷後方に、ゲートアウト反応が!》

 

 突然、早苗が驚いた様子で報告する。

 は?ゲートアウト?

 

「おい、何事だ、そんな場所にボイドゲートはないぞ!」

 

 普通ではあり得ない報告にサナダさんが反論するが、現にその場所に反応があるのだ。何かがいるのは間違いない。

 直後、輪形陣左側後方の駆逐艦〈リヴァモア〉がビーム攻撃を受け、被弾した。

 続けて、2、3発とビームが〈リヴァモア〉に撃ち込まれ、ついにAPF(アンチエナジー・プロアクティブ・フォース)シールドが耐えきれず、〈リヴァモア〉は直にビーム攻撃を浴び、装甲の薄い駆逐艦では耐えきれなかったのか瞬く間に蒼い火球となって、爆散した。

 

「り・・・〈リヴァモア〉、インフラトン反応消失、轟沈しました!」

 

 ミユさんは、驚きのあまり一時呆然としていたが、すぐに職務を思い出し、報告する。

 

「全艦、TACマニューバパターン入力、回避機動!急いで!」

 

「了解、回避機動実行!」

 

 突然のことに、私も驚きのあまり、指示が遅れてしまうが、すぐに全艦に回避機動を命令する。

 コーディが入力したTACマニューバパターンに従って艦は回避機動を取り、全力で小型核パルスモータを噴射して敵の攻撃を躱さんとする。

 

「艦長、敵の映像、出ます!」

 

 ミユさんが操作すると、メインパネルに〈リヴァモア〉を撃沈した敵の姿が映し出される。

 それは、宇宙に溶け込むような黒い色をした艦で、艦首には大きな開口部があり、〈開陽〉と同じような砲身付き3連装砲塔を上甲板と両舷に1基ずつ備えて龍の頭のような艦橋をもった戦艦だった。

 

「こいつが敵の旗艦かしら?」

 

 状況からみて、こいつが敵の親玉に違いないだろう。

 そこで私はサナダさんに何か知っていないか尋ねようとしたが、サナダさんだけでなく、ミユさんやノエルさんも、画面の戦艦の前で、呆然と立ち尽くしている。

 

「ぐ・・・」

 

 ―――ぐ?

 

「グラン・・・ヘイム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より 「ヴァランタインのテーマ」】

 

 

 

 

 

「グラン・・・ヘイム」

 

 サナダさんは、画面の前に立ち尽くしたまま、そう呟いた。

 

「グランヘイムって、あの艦の艦名?」

 

「ああ、そうだ。あれは・・・宇宙最強の0Gドッグ、ヴァランタインの愛艦、この宇宙で最も優れているとされる艦だ・・・」

 

 サナダさんが、いつになく震えた声で解説する。

 最初は怖がっているのかと思ったけど、その後に「ああ、生きている間に見られるとは・・・」とか言っていた辺り、感動しすぎて声がうまく出せないだけだろう。あの人らしいと言えばらしいわね・・・って、ヴァランタイン・・・?

 

「って、ああーっ!ヴァランタインって、あのヴァランタインな訳!」

 

 以前、0Gドッグのランキングとやらを見た時、確か一位の奴の名前が、そんな奴だったけど、まさか・・・

 

「何を言おうと、ヴァランタインはヴァランタインだ。泣く子も黙る大海賊、万年ランキング一位の0Gドッグの頂点に立つ男、ヴァランタインそのものだ」

 

 ははっ・・・・・私達も大した奴に目を付けられたものね。光栄と言えばいいのかしら?

 

《〈グランヘイム〉より、砲撃来ます!》

 

 呆然とするクルーに変わって、早苗が鬼気迫った声で報告する。

 

「くそっ、直撃コースだ!」

 

 コーディは懸命に砲撃を躱そうと舵を切るが躱しきれず、〈グランヘイム〉の砲撃が艦を直撃し、〈開陽〉は大きく揺れる。

 

「APFシールド、出力20%低下!」

 

《艦体に目立った損傷はありません!》

 

 どうやら今の砲撃はシールドのお陰で何とか耐えきれたらしい。だが、あんなものを何度も食らえば危ないだろう。何せ一撃でシールド出力の20%が持っていかれたのだ。

 

「艦長、〈グランヘイム〉が接近してきます!」

 

 〈グランヘイム〉は雲海から上昇すると、輪形陣中央の〈開陽〉をめざして接近してくる。輪形陣の内側に入られたら、敵味方識別信号が被ってしまい、外側の艦が攻撃できなくなってしまう。これは不味い事態だ。

 

「全艦、〈グランヘイム〉に砲火を集中!敵を近付けるな!」

 

 何とかして〈グランヘイム〉を撃退しなければ。私の命令で、射撃可能な位置にいる〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の3隻の重巡洋艦が、〈グランヘイム〉に下部3番主砲を指向し砲撃する。しかし、〈グランヘイム〉のAPFシールドが余程硬いのか、効果的にダメージを与えられない。そうしているうちに、〈グランヘイム〉は悠々と輪形陣の内側に入り込み、〈開陽〉に接舷を試みる動作を見せる。

 

「クソッ、奴ら乗り込んでくる気か!」

 

「慌てないで!主砲、徹甲弾装填、目標〈グランヘイム〉!」

 

「了解、主砲、徹甲弾装填!目標〈グランヘイム〉、発射ァ!」

 

 今〈グランヘイム〉は丁度〈開陽〉の左舷側に位置している。この位置なら〈開陽〉の全主砲で砲撃が可能だ。それに、いくらAPFシールドが硬くても実弾は防げない。〈グランヘイム〉の方が図体がでかいので、この距離なら外さないだろう。必中距離だ。

 〈開陽〉の主砲は徹甲弾を装填すると、5基の主砲全てを〈グランヘイム〉に指向し、爆炎を吹き上げて一斉射する。主砲の実弾一斉発射の轟音が艦内に響いた。

 その砲撃をもろに受けた〈グランヘイム〉は、一時煙に包まれる。しかし、そこから現れたのは殆どダメージが見られない〈グランヘイム〉の姿だった。

 

「う、嘘でしょ・・・」

 

 ―――ヤッハバッハの戦艦とも互角に渡り合える、この〈開陽〉の主砲斉射を受けて無傷?冗談も程々にしなさいよ!何であれが効いてないのよ!

 

《よう、そこの艦、今のは痛かったぜ・・・》

 

 突然、回線に男の声が割り込む。同時に、メインパネルに、金髪の黒い艦長服を着た男の姿が映し出された。

 

《俺は〈グランヘイム〉の艦長、ヴァランタインだ。今の一撃は中々だったぜ。お陰で装甲板を何枚か張り替えなきゃならなくなった》

 

 実は〈開陽〉の一撃は、〈グランヘイム〉の外見には表れていないが、〈グランヘイム〉の装甲にかなりのダメージを与えていた。しかし、バイタルパートは貫通しておらず、〈グランヘイム〉本体は未だ無傷のままだ。

 

《そこの艦、艦長は誰だ?》

 

 ヴァランタインは、威圧感をもった声で、艦長を訊ねる。

 

「―――〈開陽〉艦長の、博麗霊夢よ」

 

 私は、艦長席を立って、ヴァランタインを睨む。

 

《ほぅ、お前のような小娘が・・・》

 

 ヴァランタインは私の姿を見て、呆気にとられているようだ。―――小娘って何よ。これでも40年は生きてるわよ。幻想郷時代も含めてだけど。

 

「人を見掛けで判断しないことね。小娘と侮っていると、痛い目見るかもよ?」

 

 小娘扱いになんだかイライラするので、私はヴァランタインに言い返す。彼の方から見たら、今の私はさぞ邪悪な笑みをしていることだろう。

 

《ハッ、この俺を前にしてそこまで言えるか、小娘・・・さて、その態度いつまで持つかな?》

 

 私の態度が癪に障ったのか、ヴァランタインは眉を吊り上げて私を睨む。まぁ、そんなので物怖じする私ではないけど。

 

《小娘、そこにエピタフがあるのは分かっている。今からお前の持つエピタフ、この俺が貰い受けてやろう!奪われたくなければ守って見せろ!》

 

 ヴァランタインは挑発的な笑みを見せてそう言い残すと、ガチャリと通信を切った。パネルの映像も、彼がマントを翻す姿を映した後砂嵐の画面となり、ぷつりと切れた。

 

「か、艦長・・・今のはいくらなんでも言い過ぎなのでは?あ、相手を考えて下さいよぅ・・・」

 

 緊張の糸が切れたのか、ノエルさんがぐったりした様子で私に抗議する。

 

「何よ。嘗められっぱなしじゃ格好悪いでしょ。それに、乗り込んでくるならまだこっちに勝機があるわ」

 

 ノエルさんだけでなく、他のブリッジクルーも一様に、「は?」と言いたげな顔を浮かべている。

 

 ―――ああ、そうだった。私の力、こっちに来てから碌に見せたことなかったからね。

 

「勝機と言っても、こちらは保安員2人に自動装甲歩兵がたかだか6、70体ほどしかいないぞ。それも恐ろしく広い艦内に分散している。どこに勝機があるんだ?」

 

 確かにサナダさんの言う通りなんだけど、私を忘れてもらっちゃ困るわね。

 

「あら、頭数に私が入っていないみたいだけど?」

 

「なに?」

 

 サナダさんも、どうやらいまいち分かっていないみたいだ。まぁ、見ていれば分かるでしょう。

 

「あら、私の話は忘れたのかしら?まぁいいわ。その時になれば分かるから。」

 

 サナダさんは、難しい顔をしたままだ。確かにサナダさんに私の前世の話は多少しているけど、実力を生で見ている訳じゃあないからね。

 

《〈グランヘイム〉、接近してきます!》

 

 どうやら〈グランヘイム〉はこちらに接舷するつもりのようで、艦を〈開陽〉に寄せてくる。

 

「あ、ああっ・・・か、艦長・・・!」

 

 ノエルさんは怯えた様子で私を見つめる。ミユさんやユウバリさんも、声には出さないが、額には冷や汗が流れている。

 まぁ、仕方ないわよね。話を聞けばここの大妖怪みたいなものだし、あいつ。

 

「大丈夫よ。この艦のクルーは、私が護るから」

 

 今は私が余裕を見せて安心させることしかできないが、何とかなるだろう。

 

「〈グランヘイム〉、本艦に接舷します!」

 

 ミユさんが報告すると同時に、艦が大きく揺れる。

 

《敵、左舷第11ブロックに強制接舷、エアロックが乗っ取られました!》

 

 早苗が敵の進入を告げる。さて、これから歓迎の準備をしないとね。

 

「敵は何処に向かっているの?」

 

《はい・・・進入した生命反応は凡そ200ほど・・・全て第3倉庫に向かっています!》

 

 ―――第3倉庫・・・確か、エピタフを保管していた倉庫ね。

 でも、ヴァランタインは何で私がエピタフを持っていることを知っているのかしら。何か特殊な機材があるとか・・・いや、今考えても無駄なことね。

 

「早苗、第11区画から第3倉庫までの通路上に、集められるだけの自動装甲歩兵を配備して。あと、保安隊のエコーとファイブスには、装甲歩兵一個小隊と共に、万が一のために機関部への通路を守護するように命じて。それと、他の乗組員には、敵が進入している区画には近付かないように警告して」

 

《了解です!》

 

 早苗が私の命令を乗組員に端末を介して連絡する。これで、敵が進入した区画に足手纏いは居なくなるだろう。

 

「それと早苗、私が留守の間、艦隊を指揮しなさい。何か不味いことがあったら、すぐに私に知らせなさい!」

 

《はい。指揮権を譲り受けました!》

 

 私は早苗に艦隊を任せると艦長席を降りる。

 

「艦長、どちらに?」

 

 私の行動に疑問を持ったのか、ユウバリさんが問い掛けてくる。

 

「ちょっと、海賊退治にね。」

 

 私はそう言い残して、第3倉庫へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦内通路〜

 

 

 

 〈開陽〉に乗り込んだヴァランタイン達は、〈グランヘイム〉のレーダーが示したエピタフの位置を真っ直ぐ目指して進む。途中で彼らは何度かごつい警備ロボットか何か(自動装甲歩兵)と会敵したが、それらはヴァランタインとその部下が、難なく撃破していった。

 

 ――あの霊夢とかいう小娘が"アレ"なら、間違いなくエピタフを守ろうとするだろう。

 

 しかし、あの小娘には驚いたものだ。この俺がヴァランタインだと知ってなお、あの物言い。相当自信があるか、ただのバカか・・・恐らく前者だな。このフネ自体は中々良いもののようなので、大方高性能なフネを手に入れて舞い上がってる餓鬼なのだろう。だが、その自信もいつまで続くか。この俺にあんな態度を見せたんだ、精々楽しませて貰おう。俺に負けて挫折するようなら、所詮その程度の餓鬼って事だ―――

 

 ヴァランタインは通路を進みつつ、霊夢について考察を続けていた。

 

「お頭、この先でっせ!」

 

 部下の一人が、1枚の扉を指して言う。彼が言うには、この先がレーダーが示した区画なのだろう。

 

「ようし、突っ込むぞ、続け!」

 

 先頭に出たヴァランタインは、スークリフ・ブレードを抜くと扉の前に立ち、その扉を一刀両断する。

 ヴァランタインに斬られた扉は音を立てて倒れ、そこから彼の部下が、雄叫びを上げながら一斉に室内に雪崩れ込む。

 だが、部下達はある程度進んだところで一斉に立ち竦み、雄叫びも止んでしまう。

 

「どうした、お前ら!」

 

 ヴァランタインはそんな部下の態度を叱咤し、自らも室内に入って部下の前に出る。

 そこで彼は、倉庫の奥に、一人の人影を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、随分遅かったじゃない。待ち草臥(くたび)れたわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:西方秋霜玉より 「二色蓮花蝶〜Ancients」】

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 そこに立っていたのは、彼がモニター越しに会話したこの艦の艦長、博麗霊夢の姿だった。

 

 だが、互いの艦の艦橋で会話していた時とは異なり、彼女の服装は紅白のひらひらした空間服から、いわゆる巫女服と呼ばれる古代の祈祷衣装となっており、彼女の周囲には得体の知れない陰陽の球体と、頭上には数多の何かが書かれた紙切れ(御札)が浮かんでいる。彼女の瞳は通信越しに会話していた時とは異なり、茶色から冷酷ささえ感じる紅い色に変化し、その手には、刀身が赤い、怪しげなスークリフ・ブレードと思われる刀が握られている。

 ヴァランタインが、目の前の霊夢は、果たして通信越しに会話した本人なのかどうかすら分からないほど、彼女の雰囲気は変わっていた。

 

 

「土足で他人(ひと)の艦(ふね)に乗り込んだんだから、覚悟は出来ているんでしょうね―――?」

 

 

 霊夢の姿を前に、ヴァランタインは久しく忘れていた感情を思い出す。

 

 

 ――ははっ・・・・・面白い。まさかこの俺を"恐怖"させちまうなんて、こいつはとんでもない"大当たり"かもな・・・―――

 

 

 彼は、全ての生物が持つ本能―――得体の知れないものに対する恐怖を感じたが、その感情を押し留めて、霊夢と対峙する。

 

 

「ああ、弱肉強食がこの宇宙の掟。お前こそここに来て―――ビビるんじゃねぇぞ?」

 

 

 霊夢は、ヴァランタインの醸し出す雰囲気が、一気にがらりと変わったのを感じた。

 

 

 ――研ぎ澄まされた、剣(つるぎ)のような殺気・・・やっぱり、只者じゃあないわね。伊達に宇宙一に君臨している訳ではない・・・か。―――

 

 

 霊夢は己を律し、刀を構え、真っ直ぐヴァランタインを睨む。

 

 

 

 

 

「さぁ、来なさいヴァランタイン・・・!私のエピタフが欲しければ、力尽くで奪ってみなさい――――!!」

 

 

 

 

 




本気モード霊夢ちゃん降臨。
本気モードでは、旧作に近い巫女服の姿になります。
綺麗だけど、怖く見えるように描きました。今思えば、目閉じver.の方が雰囲気出ていたかも。


次回、ヴァランタインvs霊夢!
流れ出す二色蓮花蝶、ラスボスにしか見えない霊夢。本気霊夢の鬼畜弾幕の前に、ヴァランタイン一行は生き残れるのか?次回、ヴァランタイン死す!? お楽しみに!

・・・半分くらい嘘です。主人公は霊夢ちゃんですよ。いくら鬼畜弾幕を放とうがちゃんと主人公ですから。
でも二色蓮花蝶から漂うラスボス臭・・・。


今話から本格的にバルキリー登場ですが、私の腕で空戦をどこまで描けるか不安です・・・
バルキリーの機種は今後増えていく予定です。早くVF-27を出したい。
あと今話で何気に初の一万字越えです。疲れた・・・


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第一八話

忌々しいテストが終了したので、投稿再開です。


【イメージBGM:西方秋霜玉より「二色蓮花蝶〜Ancients〜」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜戦艦〈開陽〉第3倉庫〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、来なさいヴァランタイン・・・!私のエピタフが欲しければ、力尽くで奪ってみなさい――――!!」

 

 

 私は、右手の刀を構えて、ヴァランタインを睨む。彼はまだ動かないが、取り巻きの手下共は此方の反応を見て、既に銃口を向けている。

 

 

「ああ―――なら、奪ってやろうじゃねぇか。野郎共、行くぞ!!」

 

 

 

 ――ウオォォォォォォ!!!――

 

 

 

 ヴァランタインが号令を掛けると、彼の手下達が一斉に雄叫びを上げ、ある者はレーザーライフルを撃ちながら、ある者はスークリフ・ブレードを抜いて此方を目指してくる。

 

 

 ―――霊符「夢想妙珠」―――

 

 

 私は御札を構えて、スペルを発動する。

 赤、黄、緑と、色取々な弾幕が放たれて、ヴァランタインの部下達が撃ったレーザーを吹き飛ばす。

 邪魔なレーザーが消えたところで、私は足に力を入れ、突撃する手下共の方向に飛んで、一気に肉薄する。

 

「ぬぉっ―――!?」

 

 

 此方の肉薄に驚いたのか、手下共が間抜けな表情をしているが、もう遅い。

 

 

 ――霊珠「夢想封印 玉」!―――

 

 

 

「グハッ――――!」

 

 私の廻りに浮かぶ陰陽玉を、全て手下共の腹にぶつけて、壁際まで吹き飛ばす。これで少しはすっきりしたかしら。

 

「チッ、舐めんなよ!」

 

 手下の一人が、吹き飛ばされた仲間の影から躍り出て私に斬りかかるが、これを陰陽玉で受け止めて、一旦距離を取るために空中へ退避する。

 

 

 ――霊符「夢想封印 散」―――

 

 

 空中に離脱するついでに、御札をばら蒔いて牽制する。

 

 

 ―――!?―――

 

 

 殺気を感じて、咄嗟に身を翻す。見ると、私の左側にあった陰陽玉に罅が入り、煙が立っていた。

 

「こっちを無視して貰っちゃあ困るぜ?お嬢さんよ?」

 

 どうやら、先程の攻撃はヴァランタインが放ったレーザーだったようだ。彼の右手に握られている大きめのライフルの銃口には、煙が立っているのが見える。

 

「やってくれるじゃない。これ、中々新調できないのよ。」

 

 陰陽玉の数は無限ではない。さらに、此方に飛ばされてからは録に霊具の新調もできないのだから、ここで陰陽玉が一つ壊されかけたのは痛い。

 

 

――こいつ、出来るわね―――

 

 

 

 

「―――構えなさい。死ぬわよ。」

 

 

 刀に手を掛けて霊力を込め、空中を蹴って一気にヴァランタインに斬りかかる。

 ヴァランタインはスークリフ・ブレードでそれを難なく受け止めて、互いの刀が鍔競り合い、火花を散らす。

 

「フンッ!」

 

 

「しまっ――――」

 

 ヴァランタインが刀から左手を放すと、一瞬で腰のサーベルを抜いて、それが私の右眼に突き刺された。だが、それはバラバラと音を立てて崩れ、辺りに御札が散らる。

 

「なにっ!」

 

「お頭、後ろです!」

 

 私は彼が一瞬無防備になった隙を突いて背後から斬りかかるが、それに咄嗟に応じた手下の刀に阻まれた。

 

「―――――チッ」

 

 襲撃が失敗すると、再び距離を取って、弾幕をばら蒔きながら撤退する。

 

「やってくれたな、お嬢さんよ。やっちまえ、野郎共!」

 

 ヴァランタインが指示すると、まだ残っている部下達が一斉にレーザーを放ってくる。一体辺りは大したことはないのだが、やはり数がいると面倒だ。

 私はそれを躱し、あるいは弾幕で打ち消しながら、次のスペルを発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――「夢想天生」―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体中に霊力を通して、内と外を結界で仕切り。私は文字通り「宙に浮く」。

 発動前に幾らかレーザーが掠ったが、問題ないだろう。

 

 

「なっ、なんだ!!」

 

 

 手下達が此方の様子に驚いたようで、統率が乱れる。無理もない。今の状態では、私にレーザーが当たろうが「当たらない」のだから。

 

 そのまま私はヴァランタインに一直線に肉薄して、刀に霊力を込める。

 

「舐めん、なよっ!」

 

 私が刀を振るう寸前、ヴァランタインのスークリフ・ブレードが降り下ろされるが、それは私を貫くことなく、虚しく虚空を切り裂いた。

 

「―――!?っ」

 

 それを尻目に、ヴァランタインの脇の下から、反対の肩まで刀を振るい、切り上げる。

 

 

 ―――浅いか。―――

 

 

 ヴァランタインは一瞬崩れかかったが、踏ん張って立ち留まる。先は本気で殺しに掛かったが、感じた通り、傷が浅かったようだ。

 

「お頭!」

 

「艦長、大丈夫ですか!?」

 

 ヴァランタインを心配して、手下達が駆け寄ってくるが、彼はそれを左手で制して、私に向き直る。

 

「霊夢、とか言ったな。」

 

 

「―――ええ。」

 

 

「今回は、此方が一本取られた。此所で一旦退いてやる。だが―――」

 

 ヴァランタインは、言葉を続ける。

 

「一度俺を負かした位で調子に乗ると、痛い目見ることになるぜ―――」

 

  彼はそんな台詞を吐くと、手下を率いて、倉庫を後にする。追撃する気は起きなかったので、私は彼の手下が、私が適当に吹っ飛ばした別の手下を運んでいくのを見届けた。

 

 

「そんな状況で言われても、ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえないわよ―――まぁ、艦隊戦ではこっちが劣勢なんだけどね。」

 

 そう独り言つと、通信機を取り出して、一先ずヴァランタインを撃退したことを艦内放送で告げた。

 

「こちら艦長より、皆、聞いてるかしら?艦内に進入した賊は私が撃退したわ。各員は戦闘配備のまま役割を続けて頂戴。念のため、保安隊は機関室で待機よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ヴァランタイン御一行を撃退した私は、そのまま艦橋へ移動する。しかし、撃退したといっても外での戦闘はまだ続いているだめ、わざわざ空間服に着替える暇もないと思い、巫女服のままだ。

「戻ったわよ。」

「あ、艦長―――って、その服何ですか!?」

 一番に出迎えてくれたノエルだが、私の見慣れない姿を目にして驚いているようだ。

「ああ、これ?なんというか、まぁ・・・戦闘服みたいなものよ。」

 私はそれを適当に受け流すと、艦長席に立ち、艦橋の窓から、外の宇宙を見遣る。

「それで、戦況はどうなってるの?」

《はい、艦長が撃退報告をなされてから、ヴァランタイン以下、侵入者の生命反応は〈グランヘイム〉まで後退しました。ですが、〈グランヘイム〉は此方から離舷後、砲撃戦を展開しつつ後退しています。此方も応戦していますが、戦果は芳しくありません。この砲撃戦で、重巡〈トライデント〉、〈ピッツバーグ〉は損害拡大中です。》

 早苗の報告によると、ヴァランタインは懲りずに此方に砲撃戦を挑んでいるようだ。此所へ来る途中、艦が何度か揺れたのはこのせいだろう。

「艦載機隊のほうは善戦しており、敵機の空襲による損害は軽微です。しかし、無人機隊の消耗率は50%を越えており、かなり危険な状態です。パイロットの疲労度も蓄積されており、そろそろ帰艦させるべきかと。」

 ノエルさんは空戦の状況を報告する。此方は何とか五分の勝負が出来ているようだが、報告通り、そろそろ危ないだろう。

「加えて敵艦載機隊の動向ですが、此方も損害拡大のためか、今は積極的な動作は見せていません。引き上げるなら今かと。」

 ここはミユさんの言うとおり、一旦艦載機を引き上げさせるべきかしら。敵の艦載機隊も大分痛手を負っている筈だし、積極的に空襲は仕掛けて来ないだろう。

「分かったわ。艦載機隊は、直掩を残して帰艦させて。艦隊は複縦陣を取り、〈グランヘイム〉に応戦するわ。」

「了解!艦載機隊に帰艦命令を出します。」

 ノエルさんが帰艦命令を出すのを確認して、私は次の指示に移る。

「全艦、取り舵一杯、回頭しつつ、次の陣形変更を行う!左列、〈クレイモア〉を基準に〈ピッツバーグ〉、〈開陽〉、〈高天原〉、〈ケーニヒスベルク〉、〈トライデント〉の順で縦陣を組め!右列、〈ラングレー〉、〈プロメテウス〉、〈サクラメント〉の順で布陣せよ!駆逐艦は右列隊の前後でこれを護衛しなさい!」

《了解、指示送信します。》

  早苗が私の指示を各艦に転送し、各艦のコントロールユニットが自動で指定の位置に艦を滑らせる。本来、回頭しながらの陣形変更はかなりの練度を要するらしいが、幸いうちの無人艦はサナダさんのお陰である程度高度な艦隊運動も可能らしい。

  艦隊は、〈グランヘイム〉から右列の高価値目標を守る形で左列の戦艦、重巡洋艦が展開する形になるが、元々〈グランヘイム〉が輪形陣の内側に現れた関係で、左側の〈ピッツバーグ〉と駆逐艦〈ヘイロー〉、〈雪風〉の3隻の展開が遅れている。

「艦長、左舷側の3隻が遅れています。」

「今は仕方ないわ。それより〈グランヘイム〉に集中して。」

 こころが陣形の乱れを指摘するが、いくらうちの無人艦が優秀といっても、限度というものがある。多少の遅れは仕方ない。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

(陣形:輪形陣時)

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

(陣形:変更後)

 

 

 

 

 

「第4射、〈グランヘイム〉に主砲2発命中確認・・・クソッ、まだピンピンしていやがる!」

 相変わらず〈グランヘイム〉の防御は強固で、此方の砲撃を中々通してくれない。フォックスが怒るのも無理はない。

「徹甲弾は効いていないの?」

「効いちゃいるが、装甲がクソみたいに分厚い。レーザーはAPFシールドに阻まれて駄目だ!」

 此方が有効打を与えられないのは、歯痒い状況ね―――

《艦長、〈トライデント〉より入電、『我此ヨリ〈ぐらんへいむ〉ニ対シ近接砲撃戦ヲ敢行ス!本隊ハ離脱サレタシ!』です!》

「はぁ?何言ってるのよ!重巡1隻であの〈グランヘイム〉と渡り合えると思ってるの?って、サナダさんは何難しい顔してるのよ!」

 〈トライデント〉からの進言を聞いて、なにやらサナダさんが考え込んでいる様子だ。

「―――クレイモア級重巡の装甲なら、10分程度の時間なら稼げる筈だ、艦長。」

「艦長、〈トライデント〉が隊列を離脱、〈グランヘイム〉に最大戦速で接近しています。」

 こころが、レーダーに映る〈トライデント〉の動きを報告する。―――〈グランヘイム〉は確かに後退しているが、それでも砲撃戦は続行中、このまま遣り合っても徒に此方の損害が拡大するばかり―――これは、仕方ないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方紅魔郷より「紅楼〜Eastern Dream」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命令を変更するわ。各艦は可能な限り〈トライデント〉を援護しつつ最大戦速で戦闘宙域を離脱、艦載機隊を回収次第、i3エクシード航法に移行、当初の予定航路を進むわよ!」

「了解。舵を戻すぞ。」

 艦隊は面舵を取って、〈グランヘイム〉からの離脱を図る。

 〈トライデント〉は誘爆を避けるため、一斉に対艦ミサイルを〈グランヘイム〉に向けて飛ばすと、横腹を〈グランヘイム〉に晒しながら、3基9門の主砲を以て同航戦を挑む。しかし、重巡と戦艦、それも宇宙最強の戦艦とでは話にならず、〈トライデント〉のミサイルは悉く撃ち墜とされ、僅かな対艦ミサイルが着弾したに留まる。主砲弾は〈グランヘイム〉の巧みな回避機動に躱されて、届いた砲撃も、強固なAPFシールドに阻まれて、あらぬ方向へ弾かれる。そのお返しとばかりに、〈グランヘイム〉の3連装主砲から緑のレーザーが放たれて、〈トライデント〉のシールドを削り、赤いプラズマの砲弾が装甲を焼いていく。だが、〈トライデント〉は戦艦並の強度を誇るその装甲で〈グランヘイム〉の砲撃に絶え続ける。

「全艦、対艦ミサイル一斉射、目標、〈グランヘイム〉!」

「了解、対艦ミサイル〈グラニート〉リミッター解除、全弾斉射!」

 フォックスが発射ボタンを押して、〈開陽〉のVLSから8本の〈グラニート〉対艦ミサイルが放たれる。他のクレイモア級重巡からも、せめて姉妹の奮戦を援護せんと、〈グラニート〉対艦ミサイルが発射される。

 此方の大型対艦ミサイルの発射を見て、〈グランヘイム〉は一旦攻撃の手を緩め、その火力をミサイルに向ける。〈グランヘイム〉の3基の主砲が、的確にミサイルを迎撃するが、うち3発は主砲の最低射程を抜け、〈グランヘイム〉に肉薄する。うち1発は副砲の迎撃を受けて撃墜されたが、2発は着弾し、炸裂する。遂に〈グランヘイム〉の装甲に穴を開けた。

「〈グランヘイム〉に2発命中確認、しかし尚も健在!」

 ミユさんが、グランヘイムの様子を報告する。装甲を破ったといっても、〈グランヘイム〉の損傷は小破程度に留まり、再び〈トライデント〉との砲撃戦を再開する。

 〈グランヘイム〉の砲撃は以前にも増して激しくなり、〈トライデント〉は忽ち火達磨になる。クレイモア級の強固な装甲といえども流石に耐えきれず、艦体の一部で爆発が起こる。主砲は2基が破壊され、残った2番砲も最早1門しかなく、此も排熱が追い付かず沈黙した。しかし、最後の手向けと言わんばかりに、〈トライデント〉は艦首を〈グランヘイム〉に向け、持てる最大の速度で〈グランヘイム〉に突撃する。

「か、艦長―――あれを―――」

 こころがモニターに映る、〈トライデント〉の艦橋部を指す。〈トライデント〉の艦橋は煙と炎に包まれ、レーダーやアンテナは悉く脱落しているが、それは確かに、はっきりと見えた。

 

 

 

 

 

 

 ―――我奮戦虚シク、全火器沈黙ス。我此ヨリ〈ぐらんへいむ〉ヘ突撃ヲ敢行シ、一矢報イントス。短期間デアルガ、艦隊司令トノ航海、光栄デアッタ・・・―――

 

 

 

 

 

 

 煙に包まれる艦橋の中で、〈トライデント〉は此方に信号灯でモールス信号を送っていた。

 

「―――返信しなさい。『貴艦の奮戦に感謝す。我も貴艦を誇りに思ふ。―――』」

 

《・・・了解です。》

 別れの挨拶として、此方からも信号灯で返信する。信号を送信し終えると、〈トライデント〉はそれを見届けて力尽き、〈グランヘイム〉への突撃は叶わず、蒼いインフラトンの光となって爆発四散した。

 

「―――――総員、敬礼。」

 

 その様子を見届けると、一度立ち上がり、モニターに映る火球となり果てた〈トライデント〉に敬礼する。

 コーディーやフォックスに、ノエルさんといった元軍人組も敬礼し、他のクルーもそれに続く。

 

「――――――〈グランヘイム〉、戦闘を停止、反転していきます。」

 

「―――艦載機隊の収容、完了しました。」

 

 ミユさんとノエルさんは敬礼を終えると、席について状況を報告する。

 

「全艦、i3エクシード航法に移行、イオン乱流に注意しながら進むわよ。」

 

「了解。インフラトン・インヴァイダー、巡航モードに移行します。」

 ユウバリさんは機関を巡航モードに調節して、舵を握るコーディーがi3エクシード航法に移行させ、〈開陽〉は戦闘宙域を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈グランヘイム〉艦橋〜

 

 

 

 

 ―――終わったか。

 

 戦闘の終了を見届けると、肩の力を抜いて、艦長席に腰かける。

「最後の敵艦、中々根性ありましたね。それに此方の装甲も一部抜かれました。被弾箇所は総取っ換えです。」

「艦載機のほうも随分やられたな・・・・これからEVA(船外活動)かぁ〜〜」

 部下も緊張が抜けたようで、所々だらりと椅子に腰掛けていたり、背伸びをしている様子が見える。

「おい、まだ仕事は終わっちゃいねぇぞ。これから宇宙遊泳中のパイロット共を迎えにいかなくちゃならねぇからな!」

 俺はそんな部下を一喝し、艦を艦載機パイロットの回収に向かわせるよう指示する。

「しかし、割りに合わない勝負でしたね。まさか、お頭が一矢報いられるとはねぇ・・・」

 部下達にも、今回の戦闘は予想外だったらしい。かくいう俺も、あの霊夢とかいう小娘の実力には心底驚かされた。あんな「生きるか死ぬか」の気分は久々だ―――俺もランキング1位に、どこかで浮かれていたかも知れねぇな―――

「―――ああ、初心忘れるべからず、ってか。よし、野郎共、パイロットを回収したら、一旦小マゼランに戻るぞ。」

「艦長、進路は?」

 部下が、次の目的地を問いかけてくる。

 

「そうだな――――――取り敢えず、ゼーペンストだ。」

 

 

「「アイアイサー!」」

 

 

 艦橋内で、部下達の声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜???〜

 

 

 

 

「どうやら、彼女はアレを耐えきったみたいだね―――」

 

 

 薄暗い宇宙船の艦橋で、一人椅子に腰掛ける人影が呟く。

 

 

「さて―――こうなったら、私の出番かな?」

 

 

 彼女は、艦橋の外を見遣り、自艦隊を眺める。

 

 

 

 ―――どこまで楽しませてくれるかな、博麗霊夢―――

 

 

 

 

 




冒頭の白兵戦のシーン、スペルの描写が上手く出来ているか少し不安です。こうした描写はあまり慣れていないので。それよりも、書いてるうちに霊夢がラスボスに見えてきた(笑)

原作ではヴァランタインの白兵値はチートですが、霊夢はそれ以上にチートです。まぁ、しょっちゅう弾幕勝負やって鬼畜弾幕躱したり、夢想封印とか撃ってるので仕方ないよね(笑)具体的には、ヴァランタインが白兵値99なら、霊夢は350位あります。次は、多分スカーバレル辺りが鬼畜霊夢の餌食になるかもしれません。


後一戦程度挟んだら、いよいよ小マゼラン篇に入ります。


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第一九話 謎の艦隊

第一九話です。いよいよ、原作突入が近付いて参りました。
無限航跡原作中の特殊兵装は完全にロマンでしかないのは残念ですね。ハイストリームブラスターでも、レベッカ級やガラーナ級程度じゃないと一度に殲滅できないという・・・・せめて威力が5000位あったらなぁ~
グランヘイムは、あの性能であの価格だと少々ぼったくりじゃあないですかね(笑)


 〜七色星団宙域〜

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、私達の艦隊はなんとかヴァランタインのグランヘイムから離脱することに成功し、今は艦体の応急修理を行いながら、一路小マゼランへと通じるボイドゲートを目指している。

 艦隊の被害は、〈グランヘイム〉と直に撃ち合ったこの〈開陽〉と重巡〈ピッツバーグ〉が中破判定、駆逐艦〈雪風〉が小破の損害を受けている。他の艦の損害が少ない分、そのしわ寄せが〈開陽〉と〈ピッツバーグ〉に来ている形だ。

 この〈開陽〉はクルーがいるお陰で、艦内の修理や装甲板の換装などはある程度自力で行えるが、無人艦である〈ピッツバーグ〉と〈雪風〉はそれができない。ここで、工作艦の出番となる訳だ。今まではろくに活躍していなかったうちの艦隊の工作艦だけど、流石に今回の損傷は工作艦抜きでは不味いものだ。この艦隊にある2隻の工作艦のうち、〈プロメテウス〉は両舷にそれぞれ〈ピッツバーグ〉と〈雪風〉を接舷させて、装甲板や武装の交換などの修理を行っている。〈サクラメント〉は横幅が広いのでそうした修理には向いていないため、現在艦内工場で消耗が激しい無人艦載機の生産を行っている。生産が完了した無人機は一先ず空母〈ラングレー〉に飛んでいくが、まだ補充できたのは5機程度だ。

 この〈開陽〉では、今は修理のためにサナダさん率いる技術班が艦内の修理や部品の生産を全力で行っており、エコー率いる保安隊は作業機械を駆使して、損傷した装甲板を取り換え、新しいものに交換してもらっている。しかし、相変わらず人手不足なうちの艦隊では、保安隊は僅か10名程度しかおらず、その作業効率は悪い。なので、霊沙にも、可変戦闘機で修理作業を手伝って貰っている。というか、サナダさんに強引に動員された、って表現のほうが正しかったかしら。『人型形態時のデータが不十分だから、修理のついでに収集して貰うぞ』とか言ってたわね。ほんと、あのマッドの犠牲にされたことには私でも同情するわ。

 んで、私は何をしているかって?今は特にやることがないから、艦内の巡回中。一応人も増えてきたし、顔見せ位は必用だろう。それに、ここは自分の艦なので、修理に何か手伝えることがあったら手伝っておくべきだろう。

 しかし、この1km以上ある艦に僅か100人程度しか乗り込んでいないので、中々人に会わない。これは無駄足だったかな、と思案を巡らせながら、私はヴァランタインが進入した通路に差し掛かる。

 ヴァランタイン一行に進入された通路は、他の箇所と違い、傷や煤など、戦闘の後が残っている。あのときは乗組員の死者は幸いにも出なかったが(人数が少ない上に、バイタルパート内にいたのが要因だろう。)、自動装甲服部隊などの防御機構との戦闘はあったみたいなので、それの名残だろう。

 

 ――けっこう、手酷くやられたものね。――

 

 通路の傷が示す通り、よほどここでの戦闘は激しかったのだろう。あのときもしクルーにも迎撃させていたら、間違いなくうちの乗員は半減していたことだろう。そう考えると、この宇宙の恐ろしさが改めて思い知らされる。

 私がしばらく通路を歩いていると、通路の先から、何人かの人の声が聞こえてくる。どうやら、なにか作業をしているらしい。さらに近付いてみると、それは科学班の人員だった。彼等は傷ついた壁を取り換えて、予備の壁を取り付けている作業をしているようで、作業員が壁に当てた道具からは火花が散っていたり、交換用と思われる資材が立て掛けられていたりする。

 

「―――おや、艦長?こんなところで、どうしたんです?」

 

 私が彼等に声を掛けようとすると、彼等の指揮を執っていた少女と目が合い、声を掛けられた。

 

「艦内の見回り、ってとこかしら。それと、私には別に敬語を使わなくても大丈夫よ。」

 

 目の前の少女は「そうかい、なら次からはそうさせて貰うよ。」と呟いている。彼女もビーメラで雇ったクルーのうちの一人で、山城にとり、という。迷彩柄の空間服を、上の部分を腰に巻き付けていて、上半身は黒いタンクトップのような服を着て、緑色の帽子を被っている。青い肩ぐらいまである髪はツーサイドアップに纏められていて、顔はやや幼い印象を受ける。(ただ、さっきは少女と言ったが、実際はそこまで幼い訳ではないらしい。)

 ここまで言えばわかると思うが、あの河童の河城にとりとそっくりだ。名前も一文字違いだし。服は迷彩だし、あれが山童になった感じのような人だ。ただ、あいつと違って、背丈もそこそこあって、胸もある。あれが成長したら、きっとこんな感じなんだろう。

 

「しかしまぁ、派手にやられたねぇ。うちらは人が少ないから、直すのも大変だ。」

 

 にとりが独り言ちる。

 科学班も人手が豊富という訳でもないし、現にここで修理作業に当たっているのはにとりを含めて3人だけだからね。

 

「ねぇ、なんか手伝えることとかあったりする?」

 

「え、艦長が?―――う~ん、ここの作業は配線とか、結構専門的なこともあるからねぇ~、わざわざ艦長に手伝ってもらうほどでもないかな。まぁ、気持ちだけでも嬉しいぞ。」

 

 うーん、そうかぁ。まぁ、必用ないならそれで良いかな。あんまり邪魔しちゃあ悪いし。

 

「じゃあ、私はそろそろお邪魔しようかしら。お疲れ様。」

 

「ああ。艦長もな。」

 

 そうしてにとり達と別れたのだが、私は完全に失念していた。―――――河城にとりは、兎に角マッドな奴だったということを。なら、こちらのにとりも・・・・・という事だ。後で早苗から通路の防御機構の仕様が変更されたことを聞いたときは、思わず絶句したものだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後もしばらく艦内を周っていたのだが、特に異常はなく、やることもなかったので、私は艦橋に戻って、各部署からの報告に目を通していた。

 

「艦長、間もなくボイドゲートに到着します。」

 

 艦隊は修理を続けているうちに、目的地のボイドゲート付近の宙域に到着した。

 

「艦外作業員を直ちに収容して。」

 

 ワープ前に、艦外で作業をしている保安隊の人達を収容するように指示する。艦外に残したままボイドゲートに突入するのは不味い。

 

「はい。エコーさんに連絡しておきます。」

 

 命令を受けたノエルさんが、エコー達を通信で呼んでいるようなので、こっちは大丈夫だろう。

 

「艦長、保安隊の撤収までは、凡そ15分ほどかかる予定だそうです。」

 

「分かったわ。ボイドゲートまでの時間は?」

 

「約25分といったところかな。」

 

 コーディの報告通りなら、保安隊の撤収は十分間に合いそうね。

「早苗、艦隊に異常はない?」

 

 《はい。各艦、航行には問題ありません。〈ピッツバーグ〉、〈雪風〉は一度工作艦より離舷し、陣形に加わっています。》

 

 艦隊の方も、問題はないみたいね。なら、あとはボイドゲートを通るだけね。

 

 

 

 

 

 

 

 〜小マゼラン近傍宙域〜

 

 

 

 ゲートを通った私達は、すぐにワープに入り、ハイパースペースに突入した。この宙域には何もないばかりか、目的地のボイドゲートまでは約900光年の距離があるためだ。このワープで一一気に向かいのボイドゲートまで飛んで、そこから小マゼラン・エルメッツァ宙域へと進む予定だ。

 

「・・・むっ―――?」

 

 ハイパースペースにいる間も、特にやることがないので艦長席でくつろいでいると、サナダさんがなにやら難しい顔でモニターを睨んでいるのが見えた。

 

「なに、サナダさん、何か異常でもあるの?」

 

「?、ああ―――」

 

 私はサナダさんに問い掛けたが、返ってくる返事は曖昧なものだった。

 

《艦内には、特に異常は見られませんが・・・》

 

 早苗の報告では何もないらしいけど、一体何かしら?

 

「!っ、不味い、何かに掴まれ!!」

 

 突然、サナダさんの大声が艦橋に響く。

 

「ちょっと、いきなり何――って、ぅわぁぁっ!」

 

 ドォン――――と一度大きく艦が揺れると、艦橋の外の景色が青白いハイパースペースから、通常の宇宙空間へと変化する。

 

「ワープが中断された模様です!」

 

 ミユさんの報告の声がが響く。

 

「ワープが中断って、一体どうして―――」

 

「霊夢、今航海記録を確認したんだが、我々は856光年進んだところでワープが中断した。この位置に、未確認の障害物があるのかもしれない。」

 

 そういえば、ワープは障害物を感知すると自動で停止する仕様だったことを、コーディーの言葉で思い出した。

 

「確かに、一理あるわね。ミユさんとこころは直ちに空間スキャニングに取り掛かって。」

 

「はい。」

 

「了解。」

 

 ミユさんとこころが空間スキャニングに取り掛かる。まずは、この航路の安全を確かめるのが先決だろう。

 

「サナダさんは、艦内に異常がないか確認して頂戴。」

 

「わかった。」

 

 こんな乱暴なワープアウトをしたのだから、艦内の何処かに異常が出ているかもしれない。

 

「か、艦長―――。」

 

「今度は何?」

 

「あの、この宙域全体に、強い空間歪曲波を感知しました。」

 

 こころの報告では、どうも空間歪曲波というものがこの宙域に充満しているらしいが、一体それはどんなものなのかしら。字面で意味は大体分かるけど。こんな時はサナダさんね。

 

「空間歪曲波は、文字通り空間そのものを歪める波のことだな。我々が用いているワープも、基本的にこの空間歪曲の原理を使用している。我々のワープは、出発地と目的地との間の空間を歪めて、近道をしているようなものだ。丁度一枚の紙を折って、2つの点の距離を強引に近づけるような形だな。なるほど、それが強制ワープアウトの原因か・・・」

 

 サナダさん、解説ありがとね。ちなみに、一般的に用いられるi3エクシード航法もワープの一種なのだが、こちらは空間を歪めて近道をする訳ではなく、私達の宇宙に下位従属する子宇宙を形成して、そこを通り抜けることで超光速移動による相対理論的時間(ウラシマ効果というらしい。まぁ、字面でどんなものか想像できるでしょう。)のギャップを調整しているらしい。といっても、私も何だかさっぱり分からないんだけどね。平たく言えば、時間の流れが違うトンネルの中をくぐり抜ける感じかしら?合ってるかどうかは知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト完結編より「抜けるヤマト」】

 

 

 

 

 

 

突然、ヴィー、ヴィーと艦橋に警報が鳴り響き、赤いランプが点灯する。

 

「!?、艦長!前方より高エネルギー反応、多数接近!」

 

「えっ―――!?」

 

 いきなり、ミユさんの報告が耳に響いて、はっと前方を見てみると、数本のレーザーのようなものが、こちらを目掛けて飛んでくるのが見えた。

 

「かっ、回避して!」

 

「駄目だ、間に合わない!」

 

 慌てて回避を命令するが、レーザーはそれを上回る速度で艦隊に接近してくる。

 

「着弾します!」

 

 こころの報告を聞いて、衝撃に備えて、艦長席に掴まる。

 

 ―――ぐうっっっ!!―――

 

 着弾の衝撃で、艦が大きく揺れる。

 

《APFシールド、出力15%減衰!》

 

 どうやら、今の一撃はシールドのお陰で防げたらしい。

 

「艦隊の損害は?」

 

《はい―――駆逐艦〈ヘイロー〉、〈バトラー〉に被弾、〈ヘイロー〉は装甲板の一部が剥離、〈バトラー〉は艦内で火災が発生しています。》

 

 先程の攻撃を受けた前衛の駆逐艦2隻の損害が激しいわね。脆い駆逐艦は何度も被弾すると危ないから、一端下げさせましょう。

 

「早苗、その2隻を下げて頂戴。」

 

《了解しました。》

 

 損傷を負った2隻の駆逐艦を艦隊の後方に下げて、次の攻撃に備える。

 

「空間スキャニングの結果は出た?」

 

「はい・・・・長距離レーダーに反応あり、本艦前方、距離40000に複数の艦影確認!」

 

 こころが報告する。距離40000だと、メインレーダーの最大探知距離外か・・・・・・こっちの主砲の最大射程は確か18000・・・だいぶ離れた所から攻撃されてるわね。

 

「画像データは出せるか?」

 

「はい、今メインパネルに転送します。」

 

 ミユさんが操作して、空間スキャニング画像がメインパネルに表示される。

 

「本艦前方、距離約40000の地点に、複数のエネルギー反応が見て取れます。数は6。何れもエネルギー反応は同一で、巡洋艦クラスと思われます。さらにその後方、距離55000の位置に、巨大なエネルギー反応が一つ確認できます。」

 

 ミユさんの報告と共に、敵艦隊の布陣が表示される。

 敵は前方に6隻程度の艦を展開し、その後方に旗艦と思われる艦が展開しているようだ。

 

「むぅ―――敵の後方の旗艦は、やけにエネルギー反応が大きいな・・・こいつが、空間歪曲波の親玉かもしれない。」

 

 サナダさんの見立てでは、どうやら後方の敵旗艦に空間歪曲装置があるらしい。

 

「なら、そいつを撃沈しないと私達はこの宙域から出られない訳ね。」

 

 この艦隊のワープには空間歪曲の原理が使用されているので、この干渉波をどうにかしないことにはワープが使えない。

 

「・・・敵艦の光学映像は出せるか?」

 

「はい、前方の巡洋艦クラスなら、何とか捉えました。今出力します。」

 

 ミユさんが敵艦の画像をパネルに表示する。

 

「おっ、なんかデカブツ積んでやがるぞ!」

 

 霊沙の言う通り、まずは全長の過半ほどを占めている、上甲板の巨大な主砲が目につく。恐らく、これが先程の攻撃の正体だろう。敵の艦容は、中央の箱形の主艦体に、両舷と艦底部にそれぞれエンジンらしき物体が接続されているのが見える。もしくは、何らかの武装ユニットか、それらの複合ユニットかもしれない。長距離砲の背後には背の高い艦橋が立っていて、レーダーやアンテナ類も豊富に見られる。恐らく、あの長距離砲の管制のために、高性能のレーザー類を搭載しているのだろう。探知距離と精度は、こちらとは比べ物にならないかもしれない。さらに、艦首には四角形の開口部があり、何かの発進口に見える。艦載機の搭載能力もあるのかもしれない。

 

「艦長、先程の攻撃と画像データから推測すると、敵は、超遠距離射撃砲を搭載しているようだ。この宙域にはろくな遮蔽物がない。どうする?」

 

 確かにファイブスの言う通りだ。こちらの主砲が届かない以上、このままでは一方的に攻撃されることになる。

 

「―――背に腹は変えられないわね・・・総員、戦闘配備!全艦、前方の敵艦隊に向け、〈グラニート〉の発射準備!」

 

 となれば、現在この位置から撃つことができる唯一の武装である〈グラニート〉対艦弾道弾を使用する他ない。このミサイルの最大射程は約45000・・・充分届く距離だ。空間通商管理局で補給が効かないため、一発あたりの単価は高いが、仕方ないだろう。

 艦内に、戦闘配備を告げるサイレンが鳴り響く。

 

「了解しました。上甲板VLS、1番から4番まで開口、敵艦隊、本艦から見て右から順に狙撃戦艦α~ζのコードネームで呼称します。本艦は、目標γに照準。」

 

「おう、VLS1番から4番、目標敵艦γ、発射用意!」

 

 ミユさんが目標を指示して、ファイブスはそれに従って射撃諸元を入力する。

 

「〈ピッツバーグ〉は目標α、β、〈クレイモア〉は目標δ、〈ケーニヒスベルク〉は目標ε、ζに照準!」

 

《了解、指示伝達します!》

 

 早苗が艦隊に指示を伝達して、各重巡洋艦がその指示を実行し、各艦のVLSが開口する。

 

「シールド出力は、敵弾に備え、艦首に集中!」

 

「了解。」

 

 敵の攻撃は基本的に艦首方向から飛んでくるので、艦首にシールド出力を集中させておく。これで先程よりは幾らかマシになるだろう。

 

「〈グラニート〉、射撃諸元入力完了!」

 

 ファイブスが、発射準備完了を告げる。あとは、撃つだけだ。

 

《各艦、発射準備完了しました。》

 

 早苗から、艦隊の方も準備完了との報告が寄せられる。

 

「よし、全艦、〈グラニート〉発射!!」

 

「了解、発射!」

 

 上甲板VLSが激しく光を放ち、その中から巨大なミサイルが姿を現す。ミサイルは垂直に艦から撃ち上げられると、スラスターを稼働させて方向転換し、敵艦隊目掛けて飛翔する。3隻の重巡洋艦からも、同じようにミサイルが発射され、排煙に包まれる。

 

「各ミサイル、正常に飛翔中、着弾まであと280秒!」

 

 ミサイルの飛翔時間は凡そ5分だ。敵艦隊との距離が離れているため、着弾までは時間がかかる。

 

「!?、敵艦隊に、高エネルギー反応!」

 

 こころの報告を受けて、艦の前方を睨む。

 パネル上には、敵艦が長距離砲をチャージし、その砲身にオレンジの光が灯る様子が写し出されている。

 

「っ―――、T.A.C.マニューバパターン入力、全艦、回避機動を取れ!」

 

 私は咄嗟に回避機動を命じ、コーディーはそれを受けて、T.A.C.マニューバパターンを入力、艦は進行方向を変え、複雑な航跡を描いて回避機動を実行する。

 T.A.C.(Tactical.Advaoced.Combat)マニューバパターンとは、T.A.C.マニューバスラストを駆使して、艦隊戦時の回避機動に使用される回避パターンで、小型核パルスモーターなどを使用して機敏な動きを実現する―――って、今はこんな場合じゃないわね。

 

「敵艦隊、α~γ、発砲!」

 

 右側の敵狙撃戦艦3隻が長距離砲を発射し、赤いレーザー光が此方に延びてくる。

 

「敵の攻撃、わがミサイルに着弾!」

 

「何、最初からそれが狙いか!」

 

 敵が放ったレーザーは、艦隊ではなく、発射した〈グラニート〉対艦弾道弾の群れに命中する。敵のレーザーは、それぞれ1発ずつ〈グラニート〉に命中し、その爆風が周りのミサイルを巻き込んで、計13発のミサイルが撃墜された。

 

「〈グラニート〉、残り3発です!」

 

「おい、あれってステルス機能があるんじゃないのかよ!?」

 

 霊沙がサナダさんを問い詰める。確かに、霊沙の言う通り、あのミサイルにはステルス性が備わっていた筈だ。この距離でここまで正確に狙撃されるなんて・・・

 

「―――敵のレーダーは、此方の予想を遥かに上回る精度を持っているようだな。」

 

「そんなの言われなくても解るわよ。兎に角、此方の攻撃が悉く迎撃されるようじゃ―――」

 

「敵狙撃戦艦δ~ζに高エネルギー反応、第3射、来ます!」

 

 こころが再び敵艦隊の主砲発射を報告する。くそっ、調子に乗って―――

 

「回避機動続行!」

 

 私は回避機動の続行を命じて、敵弾に備える。先程の攻撃で此方のミサイルを殆ど撃墜されたため、次の目標は艦隊の可能性が高い。

 予想通り、敵のレーザーは残りのミサイルを通り越して、真っ直ぐ艦隊に向かってくる。

 

《――っ!、駆逐艦〈ウダロイ〉に命中3・・・ああっ、〈ウダロイ〉のインフラトン反応消滅!》

 

 ――――何ですって!

 

 早苗の悲鳴に近い報告を聞いて、右舷前方の駆逐艦〈ウダロイ〉に目をやると、既に同艦はシールドを貫かれて、艦体のあちこちが爆発し、蒼いインフラトンの火球となり果てるところだった。

 

「馬鹿な、全弾命中だと!此方は回避機動中だぞ!!」

 

 サナダさんが驚いた様子で立ち上がる。気持ちはこっちも同じよ。くそっ、これじゃあジリ貧だわ。

 

「重巡洋艦を前に出して。駆逐艦と工作艦、空母は退避!」

 

 今は、装甲の厚い重巡洋艦を盾にして高価値目標と脆い駆逐艦を守り、時間を稼ぐしかない。

 

「艦長、〈グラニート〉1基、さらに撃墜されました!」

 

 ミユさんが、さらにミサイルが墜とされたことを告げる。これで残り2発か。

 

「本艦のミサイル、敵狙撃戦艦γに命中、目標のインフラトン反応拡散中、撃沈です!」

 

「よっし、これで1隻撃沈だ!」

 

 ファイブスが、ミユさんの報告でガッツポーズを取る。

 

「まだ気を抜かないで。あと敵は6隻残っているわ。第2射用意!次は1番から6番まで発射!」

 

 命中率は6%とかなり低いが、取り合えずあの狙撃戦艦にもミサイルが効くことが分かったので、次は発射弾数を増やして、命中率を上げることを試みる。

 

「了解、上甲板VLS、1番から6番まで〈グラニート〉装填、発射諸元入力!」

 

 ファイブスがミサイルの装填を命令して、艦はそれを実行し、空いたVLSにミサイルを再装填する。

 

「艦長、敵旗艦より通信です!あっ、今パネルに映像が出ます!」

 

 ノエルさんが、敵からの通信を報告する。

 はぁ?、いきなり奇襲仕掛けといて、今更通信?一体相手はどんな面してるのか。

 私は内心で敵艦隊の親玉に悪態を吐きながら、メインパネルを見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方夢時空より「Dim.Dream」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メインパネルに映し出されたのは、紫色の艦長服と軍帽を被った、赤髪の少女の姿だ。

 

「―――あんたが、博麗靈夢か?」

 

 少女が、私の名前を呼ぶ。

 

「・・・そうだけど、あんたは何なのよ。んで、なんで私の名前を知っている訳?」

 

 今、私は非常に機嫌が悪い。いきなり攻撃仕掛けてくる癖に、なんでもう私の名前まで知ってるのよ。別に私、ランカーでも何でもないんだけど。

 

「うふふふっ―――それは企業秘密、ってやつよ。おっと失礼、私はマリサ。以後、お見知り置きを。」

 

 マリサと名乗った少女は、帽子を取って一礼する。というかこいつ、魔理沙と同じ名前なのね。なんだか不愉快だわ。

 

「なにがお見知り置きを、よ。で、あんたの目的は一体何なの?」

 

 私は、低い声でマリサを問い詰める。

 

「おお、怖い怖い。そうだな―――――それも企業秘密―――」

 

 ヒュッ・・・と、一枚の札がパネルに突き刺さる。無論、私が飛ばしたものだ。

 

「ふざけないで頂戴。こっちはあんたの都合なんかに付き合ってる暇はないの。理由も知らずにダークマターにされるのは勘弁だわ。」

 

「ほう・・・・・そうだねぇ、なら少しだけ、情報開示といこうか。まぁ、こっちはお前達のことが気になってねぇ、ちょっとここらで一丁仕掛けてみたんだよ。」

 

 マリサは、話を続ける。

 

「そりゃ、"普通じゃない人間達"に"普通じゃない艦"の組み合わせだ。気にならない方が可笑しい。」

 

 !?っ―――

 艦橋の空気が変わり、静寂に包まれる。

 私や霊沙は確かに、元々この世界の人間ではないし、コーディーやファイブスも、色々普通じゃない事情がある。それを初見の人間に指摘されたのだから、驚くのも当たり前だ。

 

「お前、俺達のことを知っているのか?」

 

 ファイブスが、威圧感のある声で問い詰める。

 

「まあね。多少は。」

 

 マリサは、飄々と答える。

 

「・・・なら、ヤッハバッハの追手か?」

 

 次は、コーディが尋ねた。

「う~ん、ヤッハバッハか―――ちょっと違うかな。」

 

 マリサは、曖昧な態度でそれを躱した。

 

「―――理由はそれだけかしら?」

 

 私はもう一度、マリサを睨む。

 

「今は、ね。」

 

 どうやら、これ以上情報を明かすつもりはないらしい。

 

「じゃあ、今回はここまで。しかしまぁ、こっちの狙撃戦艦を1隻沈めるとは流石だよ。大体の連中は手も足も出ないからね。それじゃ、健闘を祈るよ。こんなとこで沈まれたら興醒めだ。」

 

 マリサはそう言い残すと、パネルから姿を消した。

 

「通信、途切れました。」

 

 静かな艦橋の中で、ノエルさんの声が響く。

 しかし、あれは一体何なのよ。いきなり攻撃を仕掛けられたと思ったら、何故かこっちの情報まで持ってるし・・・それに、今思えば、顔の造形は魔理沙になんとなく似ていたような気もする―――――ああもう、考えても無駄ね。兎に角、今はこの現状を乗りきらないと。

 

「戦闘はまだ続いているわよ。気を抜かないで、ミサイルの再装填を急いで!」

 

「了解!」

 

 私は意識を改めて、戦闘に神経を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから20分、戦闘はまだ続いているが、此方の損害は増すばかりだ。〈グラニート〉の第2射は敵狙撃戦艦全艦の迎撃を受けて、何の戦果も挙げられず、残弾全てを使った第3射でやっともう1隻(目標β)を撃沈できたが、今度は敵の旗艦も戦闘に参加してきて、相変わらず此方は長距離砲の洗礼を受け続けている。敵の旗艦も、その黒色の艦体の下に長距離砲を搭載していて、さらに出力は他の狙撃戦艦と比べて段違いなので、ますます此方が不利になるばかりだ。

 敵の旗艦が参戦してから、こっちは駆逐艦〈バトラー〉が沈み、空母〈ラングレー〉も一発被弾して、ただでさえ少ない艦載機がさらに減少し、飛行甲板も大破した。ヴァランタインに撃ち減らされたのでしばらく艦載機の温存を図っていたのが裏目に出た形だ。こうなるなら、いっそ飛ばしてしまった方が良かったかもしれない。まぁ、あの狙撃の精度を考えると、敵に向かううちに撃ち墜とされてたかもしれないけど。

 さらに、この〈開陽〉も何発か被弾して中破の損害を受けている。敵狙撃砲の矢面に立った重巡洋艦の損害はさらに激しく、〈ピッツバーグ〉、〈クレイモア〉が大破、〈ケーニヒスベルク〉も中破した。

 

「本当に、そろそろ不味いわね・・・」

 

 空間歪曲波のお陰でワープして奇襲という手は使えず、此方の射程に捉えようとも敵はこっちが加速すると後退するという動きを見せ、常に距離を保たれており、中々接近できない。

 

 万事休すか―――――いや、まだよ。

 

 私はついにここまでかと一瞬思ったが、この艦に搭載されている最強の兵器の存在を、完全に失念していたようだ。まったく、我ながら情けない。

 

「―――サナダさん、ハイストリームブラスターは使えるかしら?」

 

 そうだ、この艦の艦首には、2門のハイストリームブラスターが装備されている。これなら、あの狙撃艦隊を粉砕できるのではないか。

 

「そうか、その手があったな!まだテストはしていないが、いける筈だ。」

 

 よし、これで突破口が見えてきた。

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト2199より「元祖ヤマトのテーマ」】

 

 

 

 

「ユウバリさん、艦首インフラトン・インヴァイダー起動、ハイストリームブラスターのエネルギー充填を開始して。」

 

「了解しましたっ!」

 

 艦首に備え付けられた、ハイストリームブラスター専用のインフラトン・インヴァイダーが起動し、駆動音が響く。

 

「エネルギー弁閉鎖、充填開始します!」

 

 インフラトン・インヴァイダーからハイストリームブラスターへとエネルギーが充填され、艦内は小刻みに振動を始める。

 すると、艦長席の手前のデスクから、ターゲットスコープとトリガーがせり上がってきた。

 

「これは・・・」

 

「ハイストリームブラスターはこの艦最強の兵装だ。発射には、艦長の権限が必用だろう。」

 

 艦長席のデスクを指して、サナダさんが説明する。なるほど、私に撃てという訳か。

 私は艦長席に深く腰掛けて、トリガーを掴む。

 

《艦の位置を修正します。》

 

 ターゲットスコープに、敵艦隊の位置が表示され、それが丁度的の中央に来るように、早苗が微調整を行って修正してくれた。

 

「敵第16射、来ます!」

 

 こころが敵弾の接近を告げる。

 

「おい、〈クレイモア〉が!」

 

 敵弾を前にして、大破した重巡〈クレイモア〉が〈開陽〉の前に躍り出て、敵の攻撃を一身に受け止めた。

 

「く、クレイモア、轟沈ッ!」

 

 だが、流石に大破状態では受けとめ切れず、〈クレイモア〉は蒼いインフラトンの火球となって轟沈した。

 

「狼狽えないで、発射準備続行!」

 

 〈クレイモア〉の犠牲を無駄にしない為にも、この一撃は必ず命中させなくちゃ。

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填80%――――――90%――――――――――100%。」

 

「いや、まだだ。」

 

 ユウバリさんの報告で、私はトリガーを引こうとしたが、サナダさんに制止される。

 

「エネルギー充填110%―――――――――――120%!」

 

「よし、今だ!」

 

 サナダさんが、勢いよく告げる。

 あのマリサとかいう子には悪いけど、私達が生き残るためにはこうするしかないのよ―――――――

 

 

 

「艦首ハイストリームブラスター、発射ッ!!」

 

 

 

 〈開陽〉の艦首がピンク色に発行し、眩い閃光を放つと、その2門の砲口から、極大の赤いレーザーが放たれる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 レーザー光は真っ直ぐ直進し、狙撃戦艦の隊列を呑み込んで、次々と狙撃戦艦が爆発四散する。狙撃戦艦を呑み込んだ極光は、そのまま敵旗艦に迫る。

 敵旗艦は回避を試みようと上昇するが、レーザー光から逃げ切ることは遂に叶わず、ハイストリームブラスターの赤い極光の波に飲み込まれた。

 

「ハッ、中々やるじゃないか、靈夢。―――――nach,senden・・・・・」

 

 敵旗艦の艦橋内で、マリサは目を閉じて呟いた。艦は、そのまま音を立てて崩れ、青白い爆発の波に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵5隻のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

 艦橋内で、ミユさんの報告が響く。

 この局面を切り抜けたことで、艦隊に安堵の雰囲気が広がる。

 

「ふぅ、何とかなったみたいだな。」

 

 コーディが、リラックスした様子で椅子に腰かける。

 

「ああ、一時はどうなることかと思ったが。」

 

 ファイブスの言う通り、私でもかなり不味い状況だとは思ったけど、ほんと、生き残れて良かったわ。

 

「サナダさんは被害状況の確認をお願い――――ああ、これはまた大修理が必用ね。」

 

 ヴァランタイン戦後からサナダさん始め科学班のみんなには仕方ないが、これはまた一働きしてもらう必用がありそうだわ。

 

 

 

 

 マリサの狙撃艦隊を撃破した霊夢艦隊は、一路小マゼランを目指し、ボイドゲートへと舵を切った。




今回は初ハイストリームブラスターです。イメージBGMでお分かりの通り、威力は波動砲並です。なにせ専用のインフラトン・インヴァイダーでエネルギー充填してますし、2門装備していますので。開陽のデザインベースはスーパーアンドロメダですからね。尚、まだ拡散はしない模様(笑)開陽の塗装は、スーパーアンドロメダに準じています。


今回の新キャラに東方のにとりを登場させましたが、新たなマッド要員です。彼女には、いろんなメカを作って頂きます。本文中では成長したにとりと表現しましたが、背はそこまで高くないです。今の霊夢と同じか、より少し低い位です。(でも一部分は霊夢よりあります。)

もう1人、今回は新キャラを登場させました。謎の艦隊司令マリサちゃんの元は封魔録魔理沙ですが、性格はオリジナルです。なお主は東方旧作を持っていません。それと、マリサちゃんは出落ちではありませんので、皆様ご安心下さい。世の中には波動砲に焼かれても死なない青い総統閣下なども居られますので(笑)

あと1話程度で、いよいよ小マゼラン編突入になります。


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第二○話 新たな宇宙島(しま)ヘ

宇宙戦艦ヤマト2201の情報が次第に出てきましたね。私としては、地球防衛軍艦艇のプラモデルのリメイクが一番気になるところです(笑)
方舟でナスカ級のプラモが発売されましたが、値段を見て絶句・・・PS2のホワイトスカウトを断念した経験があるので、少しは財布に優しい値段になってくれるよう祈っています。


しかし、〈ゆうなぎ〉がパトロール艦じゃないだと・・・


 

 〜小マゼラン近傍宙域〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、艦隊は小マゼラン・エルメッツァ行きのボイドゲートに向けて航行している。

 現在位置からボイドゲートまでは凡そ50光年ほどの距離があり、i3エクシード航法(約200光速)では到着まで3ヶ月ほどかかってしまう。本来なら、一気にワープで飛び越える予定だったのだが、生憎の連戦で疲弊した艦隊は、工作艦による修理を続けながら、通常空間を航行していた。

 

「サナダさん、修理の状況はどう?」

 

 艦長席に座る私は、艦隊の修理を取り仕切るサナダさんに尋ねる。この連戦でだいぶ資源を消費しているので、そろそろ工作艦の腹に蓄えた物質にも気を払わないと不味そうだ。

 

「そうだな―――本艦の装甲板の換装は粗方完了している。だが、シールド発生装置にはだいぶ負荷が掛かっていたようだからな、こっちは完全復旧には時間がかかりそうだ。あとは、ハイストリームブラスター砲口にも損傷が見られる。どうも設計時の想定よりも、砲の威力が大きかったようだ。こちらは後で、砲口内を補強するとしよう。」

 

 この〈開陽〉は、マリサ艦隊との戦闘では、前列の重巡洋艦ほどではないにしても、そこそこあの長距離砲の洗礼を受けたため、シールドや装甲にダメージが蓄積されていた。特にあの超遠距離射撃は一発あたりの威力が大きかったので、シールドにもだいぶ負荷が掛かっていたらしい。サナダさんの報告だと、装甲はなんとかなりそうだが、シールド発生装置の修理が未了な状態では、しばらく無理は出来そうにない。それにハイストリームブラスターは、サナダさんが言った通り、砲口の強度の想定値が甘かったらしく、損傷しているらしい。これはしばらくハイストリームブラスターは封印ね。

 

「それと艦隊の状況だが、重巡2隻の修理にはかなり時間が掛かりそうだ。これは一度、どこかの星のドックで本格的な修理を行った方が良いかもしれないな。あと、空母〈ラングレー〉の飛行甲板は、まだ復旧の目処が立っていない。こっちはドックまで御預けだ。」

 

 あの長距離砲を最前線で受け続けた重巡洋艦〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の両艦の損傷は酷く、大破判定を受けている。今は工作艦に接舷させて応急修理を行わせているが、完全修理は難しそうだ。空母〈ラングレー〉は、艦体を長距離砲に撃ち抜かれた折に飛行甲板を破壊され、格納庫にも被害を受けている。こっちは修理ドロイドが頑張っているみたいだが、現状工作艦の手が一杯なので(〈プロメテウス〉は重巡洋艦の修理、〈サクラメント〉は艦載機とミサイル、補充部品の生産)、応急修理以外はドックまで持ち越しになりそうだ。〈ラングレー〉がこの惨状なので、補充分の艦載機はこの〈開陽〉か〈高天原〉に送っている。

 

「はぁ~これは大変ね―――科学班の人達には頭が下がるわ。後で給料に少しつけとくわね。」

 

「それは有難い。研究が捗るというものだ。」

 

 私の台詞を聞いたサナダさんは、どこか嬉しそうだ。

 ちなみにうちの艦隊では、人数不足のため科学技術系の部所は科学班に一纏めにされている。現在の人員は40名程と、総乗組員数に比べて多い。これは整備系もこっちに纏めているため、ダメージコントロール要員なども含んでいるためだ。人数が増えたら、研究系と整備系は分けるつもりでいる。

 

「艦長、レーダーに反応あり。」

 

「何があったの?」

 

 レーダー管制士のこころから報告が上がるが、敵でないことを祈るばかりだ。現状で戦闘はきつい。

 

「はい、本艦左舷前方4100MLの距離に、準惑星サイズの天体を確認しました。如何されますか?」

 

 こんな恒星もない銀河間空間で準惑星?なんか不自然ね。敵じゃないだけ良いんだけど

 

「――自由浮遊惑星か。」

 

 自由浮遊惑星とは、何らかの原因で恒星系を飛び出して、単体で宇宙空間に存在する惑星だったわね。へぇ、こんな場所にもあるんだ。

 

「艦長、一度その星に向かってみようか?管理局のチャートには表示されていないから宇宙港はないと思うが、何らかの資源を採掘出来るかもしれん。」

 

 確かにサナダさんの提案通り、寄港しても損は無さそうね。

 

「分かったわ。艦隊の進路をその準惑星に向けて。」

 

《了解です。》

 

 早苗が各艦に指示を伝達して、艦隊は向きを変える。

 しばらくその星へ向けて航行すると、目的の星が見えてくる。

 

「あの赤い星か?」

 

 霊沙が差した通り、目的の星は赤黒い見た目で、所々に白い氷のような部分が点々と存在している。

 

「そのようだな。直径は約2000km、大気組成は窒素とメタン―――典型的な星系外縁型の準惑星のようだな。恐らく、主星が寿命を終えた後も、こうして宇宙空間に存在し続けている星の一つだろう。」

 

 サナダさんは、早速各種機器を用いて目的の星を観測しているみたいだ。

 

《惑星周辺には、無数の微惑星や小惑星がある模様です。航行にはご注意下さい。》

 

「了解した。小惑星帯に入り次第、速度を落とすぞ。」

 

 早苗の警告を受けて、コーディの舵を握る手に力が入る。航行の方は任せたわ。

 

「表面のスキャンを開始します。」

 

 こころが、惑星表面のスキャンを始める。降りられそうな場所があったら、そこに停泊するためだ。

 

「微惑星帯突入に備えて、デフレクターの出力を上げて頂戴。」

 

「了解しました!」

 

 私はユウバリさんに頼んで、デフレクターの出力を上げさせる。デフレクターは質量物から艦を守るシールドで、ミサイルから小惑星まで防御できる。これの有り無しで、航海の安全性がぐっと変わるのだ。

 艦隊は、惑星周辺の微惑星を避けながら、目的の星に接近していく。

 

「艦長、降りられそうな位置を発見しました。」

 

 メインパネル上に惑星の全体図が表示されて、惑星の一部分にアイコンが現れる。

 

「そこに艦隊を下ろすわよ。」

 

 艦隊は微惑星帯を抜けて、ゆっくりと惑星に降りていく。

「重力アンカー始動。惑星表面に静止する。」

 

 惑星に降りた艦隊は、重力アンカーで大気中に艦を固定して停泊する。

 

「艦長、〈サクラメント〉は地上に直接下ろして、惑星の探索をさせるぞ。」

 

「分かったわ。」

 

 サナダさんが〈サクラメント〉に指示を飛ばすと、〈サクラメント〉は着陸用のランディング・ギアを下ろして、ゆっくりと惑星表面に着陸する。そういえば、この艦、元は強襲揚陸艦なんだっけ。

 〈サクラメント〉は着陸すると、ハッチを下ろして、各種探索機器を地上に下ろしていき、探査用のドローンも発艦させる。

 

「あとは、資源が見つかるのを待つだけね。」

 

 

 

 

 

 

 〜自由浮遊惑星上・〈開陽〉艦橋内〜

 

 

 

 

 

 あれからしばらくして、惑星上に停泊して修理を進めている間、私は自室で各部署から上げられてくる報告に目を通して、書類を整理する事務仕事を行っていた。金銭関係などは主計班(実質ルーミア)を通されてから、判を押す位のものなので楽なほうなのだが、それ以外の書類を捌くのは中々大変だったりする。こういった作業は前世ではほとんどのやる機会がなかったからね。あと1時間もすれば終わりそうなところまでは片付けたんだけど。

 内容は、勿論今回の戦闘に関してだ。報告に目を通してみると、やはり資源の備蓄がだいぶ減っている。前回の戦闘と合わせて、装甲板の原料やミサイルの部品などを大量に消耗しているため、これに使われる資源の減りが速い。艦載機隊も、なんとか〈開陽〉の定数が確保できるかといった所で、完全復旧の見込みは遠い。あの遺跡を出航したときは充分な資源を積み込んできた筈だが、流石にこの連戦と損害は想定外だ。サナダさんが送り出した探査機隊が幾許かの資源を見つけてきたのはせめてものの救いだろう。だが、惑星外の小惑星にあった分を含めても、それでも雀の涙といった程度の量でしかない。

 資源の方はそんな状況なのだが、マッド共(主にサナダさん)の方はこれ見よがしにと非現実的な強化案を送りつけて来やがった。胃が痛いことに、にとりや、何故か医務室のシオンさんからも"私案"と称して強化案が送られていた。にとりは分かるとしても、シオンさん、あんた医者じゃなかったの?(この場では忘れていたのだが、シオンさんはサナダさんがスカウトしてきた人材だ。つまり、そういう事だ。ちなみににとりが修理していた通路だが、防御機構と称してレーザーカッターや埋め込み式ガトリングガンなんて代物が装備されたらしい。誤作動したらどうすんのよ、この機械ヲタクめ。)

 まず、〈開陽〉は、一部装甲の強化などの常識的な案から、ハイストリームブラスターの増設、メインエンジンの双発化、果てには何をトチ狂ったか分からない変形機構や艦首ドリル、舷側ソーなんかが提案されている。あんたら、戦艦に格闘戦でもやらせたい訳?まぁ、装甲の増設位は、資源の目処がついたら検討する価値がありそうね。

 艦隊の強化案は、重巡洋艦のシールドと装甲を極限まで強化して防御特化艦にする案(却下)、重巡洋艦にハイストリームブラスターを搭載する案(これも却下。あれはレアメタル喰うのよ)、超遠距離射撃砲の開発と搭載(研究だけはさせてあげるわ)、2隻目の空母建造(検討の要ありね)などが提案されてきた。艦を増やすのは、お金を貯めないとできないから、これはしばらく後になりそうね。

 艦載機の方も、あの狙撃戦艦の驚異の命中精度を受けて、〈スーパーゴースト〉の機動力をあれに対抗できるまで強化する研究が行われているようだ。まぁ、やる価値はあるでしょう。後は、サナダさんが新しい可変戦闘機を勝手に作っていたわね。以前霊沙が使った機隊はYF-21とかいう機体だったが、今度はYF-19とかいう機体で、前進翼を採用した流線形のフォルムをした戦闘機だ。これも早速、バーガーとタリズマンが"機種転換訓練"と称して人型形態で艦の修理作業に従事させられていた。お陰で装甲の換装作業の効率が上がったので、この件は不問に処すとしよう。(だけど経費流用した分はちゃんと引いとくからね♪)

 

 そんな調子で書類を片付けていたら、早苗から報告が入った。

 

《艦長、サナダさんから通信です。各艦の修理が、通常航行には支障のないレベルで完了したとの事です。》

 

 どうやら、艦隊の修理は粗方終わったらしい。ただ、通常航行には支障はないと言っても、戦闘には耐えれるかは不安なため、戦闘行動は控えた方が良いだろう。

 

「分かったわ。なら、出航準備の号令を掛けてくれるかしら?」

 

《了解です。》

 

 早苗に端末を介して全乗組員に出航の号令を掛けて、私は艦橋に向かう。

 

 

 

 

 艦橋には、既にメインクルーが集合して、各々出航準備を始めていた。

 

「機関出力50%、インフラトン・インヴァイダー、正常に稼働中。」

「火器管制システム、異常なし。」

「艦内各部に異常見当たらず。」

 

 ユウバリさん、フォックス、サナダさんから報告が入る。同時に、艦長席のコンソールには僚艦から発進準備完了の報告が続々と届いている。

「機関出力が最大になり次第出航する。そのまま微惑星帯を離脱後、ワープでボイドゲートを目指すわよ。」

 この惑星を離脱した後は、一気にワープで小マゼラン方面へのボイドゲートを目指す。途中寄る場所もないし、早く設備が整ったドックで本格的な修理を行いたいからだ。一応損傷した艦の装甲板は張り替えているが、武装などの修理は不完全だし、〈ラングレー〉の飛行甲板も直していない。現状では、艦隊の戦闘力の6割程度を発揮するのが関の山だろう。こんな状態で戦闘行動には入りたくはない。

 

《〈サクラメント〉より、探査隊収用完了との事です。》

 

 惑星から資源を集めていた〈サクラメント〉は、各種探索機器を収用すると、ハッチを閉じて、エンジンに火を入れる。

「――――しかし、この程度の資源しかなかったとはな。私の予想は的外れだったが。」

 

「何、サナダさん。多少の資源でも採掘できたのは収穫よ。前みたいな遺跡がゴロゴロ見つかる訳なんてないでしょ。」

 

「いや、こういった辺境にはお宝が眠っていると相場が決まっているからな。いや、残念だ。」

 

 どうやらサナダさんは以前の遺跡のような"お宝"を期待していたようだが、残念ながらお宝たる由縁は中々見つからないからだ。そんなホイホイ見つかったら今頃苦労してないでしょう。

 

「機関出力、100%に達しました!」

 

「よし、重力アンカー解除、出航する!」

 

「了解、重力アンカー解除、下部スラスター出力全開。」

 

 出航の号令を掛け、〈開陽〉がゆっくりと動き出す。僚艦もそれに続いて、惑星の重力より離脱し、大気圏を突破する。艦隊はそのまま惑星を取り囲む微惑星帯を通り抜けて、宇宙空間を進む。

 

「間もなくワープに入るぞ。」

 

 惑星の重力圏を抜けたので、当初の予定通り、ボイドゲートへ向けてのワープ準備に入る。

 

「機関、エネルギーをハイパードライブに回します。あと2分ほどで、予定の出力に達します。」

 

 ユウバリさんが、インフラトン・インヴァイダーの出力をハイパードライブに回して、ワープの為のエネルギーを確保する。ハイパードライブが起動すると、インフラトン・インヴァイダーとはまた違った振動音が艦内に響き始めた。

 

「ハイパードライブ、出力最大!」

 

「よし。ワープに入る!」

 

「了解、ワープ!」

 

 〈開陽〉以下、10隻の艦隊は通常空間を抜けて、青白いハイパースペースに突入し、ワープに入った。

 

 あのまま私達はワープを終えると、目前に迫ったボイドゲートをくぐり、いよいよ小マゼラン銀河へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜小マゼラン・エルメッツァ宙域、惑星ボラーレ周辺〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートをくぐった後、私達は小マゼラン・エルメッツァ宙域へと出た。ゲート周辺は小惑星しかない辺境宙域だったが、空間通商管理局のチャートに従って、ボラーレという近場にある惑星を目指す。

 この辺りは航路が設定されていない外宇宙方面の宙域らしく、何があるか分からないので、航行するときは空間スキャニングをかけながら航行したが、幸い無事に惑星の周辺まで進むことができた。

 目の前に鎮座する惑星ボラーレは、水星を大きくしたような見た目の惑星で、灰色の地表に、所々クレーターが見える。だが、流石にテラフォーミング(環境を改造して人が住めるようにする作業のこと)は完了しているので、惑星の大気は地球のそれとはあまり変わらず、地表にも所々緑色の部分が見られる。惑星の人口は135億5500万人と、前世での外の世界(地球)の総人口の約2倍の人口だ。辺境とは言っても、エルメッツァという大国の中央宙域に近いので、そこそこ発展しているのだろう。

 

「一度ボラーレに寄港するわよ。期間は3日ほどで大丈夫そうね。」

 

 一応データベースから惑星の情報を引っ張りだして、惑星の詳細を確認する。造船工厰や改装工厰といった設備はないが、艦の修理なら出来そうだ。一応空間通商管理局の規格内でなら無料で修理してくれるので、金銭面は問題ない。問題はうちらで使っている特注の部品やその原料だが、今はそれを買うほどのお金はないので、これはもう少し後になりそうだ。またしばらくの間、〈グラニート〉用VLSは空のままだろう。

 

「早苗、上陸希望者を募って、最低限の人員を残して上陸するわよ。シフト表の作成をお願い。」

 

《了解しました。》

 

 久々の地上なので、クルー達も羽を伸ばしたいだろう。娯楽品には地上でしか補充できないものもあることだし。

 私の予定は、毎度のごとくクルーの募集と、この星にはモジュールの設計社があるらしいので、それを見に行く予定だ。

 

 

 

 

 

 入港作業を終えると、私達は宇宙港に降り立った。私は管理局の方に修理の依頼をしておいてから地上に繰り出す。この辺りは辺境なので、1000mm級の戦艦や巡洋艦など10隻の艦艇を従えた私は他の人間から随分奇異に見られた。いくら中央に近いと言っても所詮は辺境だし、さしたる施設もない星だからね。

 地上に降りてまず行く場所は、0Gドッグ御用達の酒場だ。ここは私達にとっては新しい宇宙島なので、情報はしっかり仕入れておいた方がいいだろう。という訳で、私達は酒場に向かった。

 酒場は相変わらずの喧騒で、辺境でもそこそこ繁盛しているみたいだ。

 私はカウンター席に腰かけて、酒場のマスターに話しかける。基本的にマスターは半ば情報通のような存在ななので、この宙域の情報もいくらかは持っているだろう。

 

「ねぇマスターさん、何でもいいから、なんか役に立ちそうな情報とか無いかしら?」

 

「ふむ、情報ですか・・・」

 

「私、この宙域は初めてだから、何でもいいから教えてくれる?あと、ここのお勧め、一杯お願いできるかしら?」

 

 その台詞を聞いたマスターは、"畏まりました"と一礼すると、カクテルが入ったグラスを用意してくれた。私はそのカクテルを一口、喉に通す。

 

 ―――うん、中々良い味ね。―――

 

「この辺りは辺境ですから、特に変わったことはないですね。でも、中央の方には、スカーバレルという海賊団が跳梁していて、軍も中々手を焼いているみたいですよ?」

 

 ほう、海賊ねぇ―――ここを出たら、レーダーの警戒レベルを上げさせておいた方が良さそうね。

 

「ありがと。追加でもう一杯頼める?」

 

 グラスの中身を飲み干した私は、マスターに追加を頼む。最近あまりお酒を飲んでいなかったから、たまには羽を伸ばしたいのよ。あと、これは情報を手に入れるためのテクニックだったりする。私が笑みを浮かべてそれを頼むと、マスターの方も笑みを浮かべながら"有難うございます"と言って、追加のカクテルを用意してくれた。

 

「そのスカーバレルなんですが、なんでも別の宇宙島で兄弟幹部がやられたらしく、そこの戦力がこっちに合流しているみたいですよ。知り合いの話では、随分と殺気だった様子だとか。航海のときは、気をつけた方が宜しいかと。」

 

 成程、それはきな臭いわね。ここで艦隊を修理できたことは良かったわ。

 この後も、マスターとは他愛もない話でも続けながら、色々聞き出したりしていたが、これ以上はここのマスターも知らないらしく、私は4杯程度で切り上げて、モジュール設計社のほうを覗いてみた。

 ここのモジュール設計社では、貨物室、食堂、乗員船室、主計局のモジュールが手に入った。募集をかけた船員の方も、ここで80名ほど集まったので、改装工厰のある惑星に着いたら新しい食堂位は組み込んでおいた方が良さそうだ。今までは元から艦についていた食堂で充分だったが、今後は手狭になるだろうからだ。

 

 

 地上でやることを済ませた私は、艦に戻るために軌道エレベーターに乗って、宇宙港に戻る。

 移動の間は、端末からインターネットに接続して、この宙域周辺で使われている艦艇の艦影や細目を頭に叩き込んだ。これからこの宙域を航海するためには、こうした情報も知っておいた方がいいだろう。艦隊のほうでも、今頃早苗がデータベースにこの辺りの艦艇の情報を入力している頃だろう。

 なるほど、ガラーナ級駆逐艦にゼラーナ級・・・こいつらがマスターの話にあった海賊の主力艦らしい。艦種は駆逐艦なので、こちらの主砲でアウトレンジすれば問題は無さそうだが、徒党を組まれたり、懐に飛び込まれたら厄介そうね。―――ゼラーナ級には、このサイズでは珍しく艦載機の運用能力もあるのね。

 と、この宙域の艦艇について調べていると、いつの間にか宇宙港側の駅に到着していた。

 私はそのまま軌道エレベーターを降りて、まっすぐ港湾区画の、大型艦用ドックに向かう。

 ドックに着いた私は、一度自分の艦隊を見上げてみた。

 私達の艦隊は、大型艦用のドックをびっしりと占領して停泊していた。左から工作艦、空母、重巡洋艦の順で、一番右に〈開陽〉が停泊している。

 ふとドックの様子を見てみると、艦隊を停泊させた時には居なかった、見覚えのない艦が停泊しているのが見えた。それだけなら別に珍しくはないのだが、さっき頭に叩き込んだ艦艇のどれにも当てはまらなかったので気になったのだ。第一、この宙域では、大型艦用ドックに入るような艦は、このエルメッツァ唯一の戦艦グロスター級か、標準的な大型輸送艦ビヤット級ぐらいしかないようだし。

 その艦は、紡錐形の艦体をしていて、艦首は大昔の水上艦の衝角がついた艦首に似た形状だ。艦の中央には艦橋と思われる構造物があり、その前方の上甲板には2基の連装主砲が見える。艦橋の真下の艦底部には、エンジンと思われる2基の筒型のモジュールがあり、艦の真ん中には翼状の構造物がある。その少し後ろにはレーダーアンテナのような長い部品が接続されていた。艦尾にはメインノズルに、2本のスタビライザーが接続された形状をしたユニットが接続されている。

 その珍しい形の艦を眺めていたら、1人の男が話しかけてきた。

 

「この艦が珍しいですか、お嬢さん?」

 

 爽やかな、青年の声がした。

 私は我に返って、はっと声がした方向に振り向く。

 そこには、人当たりの良さそうな、銀髪の初老の男性が立っていた。

 

「あ、いえ、この辺りでは珍しい艦だなと思いまして―――」

 

「そうですか―――まぁ、私の艦は、この辺りのフネではないですからね。所で、隣の艦艇も随分珍しい形ですが――――」

 

「ああ、それは私の艦隊よ。」

 

 それを聞いた男は、"ほぅ―――その御年でこれだけの艦隊とは"と、関心したように呟いていた。忘れがちかも知れないけど、見た目は少女でも、実質年齢は少女って歳じゃないのよね、私。

 

「いや、貴女の艦隊も、中々珍しい形をしておりますな――――おっと、申し遅れました。私はシュベイン・アルセゲイナ。何でも屋でございます。以後お見知り置きを。」

 

「私は博麗霊夢よ。この艦隊の頭をやっているわ。」

 

 シュベインと名乗った男に対して、こちらも自己紹介を返す。こういうのは社交儀礼だからね。

 その後は、同じ0Gとしてシュベインさんと艦の運営などの他愛もない話を続けていた。なんでも、シュベインさんの方も、ここから離れた宇宙島の方から来たらしい。それなら、あの艦影も納得だ。そろそろ艦に戻ろうかな、と思っていた時、シュベインさんの方から質問された。

 

「ところで、この戦艦はどちらで手に入れたのですかな?」

 

 シュベインさんとしては何となく訊いたのだろうが、どう答えようかな、素直に"遺跡から発掘しました"で大丈夫かしら・・・

 

「いや、ちょっと遠い国にいた頃に手に入れたのよ。」

 

 私はそんな風に濁して答えたのだが、その答を聞いたシュベインさんの表情が、僅かに固くなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 これはもしかしたら、当たりかもしれない。

 私―――シュベインは、このボラーレに来て、目の前の霊夢と名乗った若い0Gドッグと話していたのだが、彼女のものだという、私の艦の隣に停泊している艦艇のことが気になっていた。

 その無骨で頑丈そうな船体や、堂々とその存在を主張している3連装砲塔は、どことなくあの帝国の戦艦を思い出させ、空母に至っては、あの帝国のものをそのままひっくり返したような見た目だったからだ。

 私はもう少し探りを入れてみることにし、その"遠い国"とやらの国名を聞き出してみることにする。

 

「え、どこの国かって?う~ん―――この辺りの人は知らないかも知れないけど、ヤッハバッハとかいう国だったわね。」

 

 やはり、私の予想は当たっていたようだ。その後に彼女は"別にその国の艦って訳でもないけど"と続けていたが、あの艦艇を見る限り、ヤッハバッハの艦艇とは設計思想を同じくする艦だということは容易に想像できた。

 

「いや、向こうの国は私達0Gに大層厳しい国でね、こうしてやっとここまで逃げてこられたって訳。そういう事だから、私もこの辺りは初見なのよ。」

 

 霊夢と名乗った少女は続ける。彼女の話では、ヤッハバッハから逃れてきたらしく、体躯もヤッハバッハ人とは異なり、かなり低めだ。それに話している雰囲気からも嘘をついているようには思えず、ヤッハバッハの斥候という線は薄そうだ。

 "それは災難でしたね"と声を掛けると、"まぁ、色々あったからね―――"と返ってくる。

 その後も、しばらく会話を続けてみたが、どうやら彼女の方も話せる内容はその程度らしく、ヤッハバッハについて実りのある情報はないと判断した私は、適当に話を切り上げて、彼女と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あのシュベインさんって人、少し様子がおかしくなかったですか?》

 

 私がシュベインさんと別れて、〈開陽〉の通路を歩いていると、端末から早苗が話しかけてくる。

 

「あら、気づいていたの。確かに、"この戦艦はどこで手に入れたのか~"のくだりから、ちょっと様子がおかしかったわね。」

 

《はい、あとは、ヤッハバッハの国名で少し動揺している様にも感じましたね。》

 

 早苗の言う通り、顔には出ていなかったが、雰囲気は少し変わっていたように感じた。なんと言うか、真剣さが増した感じかしら?

 

「そうね。あの人もヤッハバッハのことを知っていたんじゃないかしら?だったら、あの反応も納得できるわ。」

 

 シュベインさんの反応からすると、あの人も何らかの形でヤッハバッハのことを知っていると考えた方が良さそうだ。それがどうしたと言われたら、そこまでなんだけど。

 

「まぁ、うちに危害を加えてこない限りは気にすることも無いわ。早苗、物資の積み込み状況の方はどう?」

 

《はい、現状で――――》

 

 これ以上考えても埒が明かないと思い、私は意識を切り替えて、艦隊の状況に意識を向けた。

 

 

 

 

 それからは特に何も起こらず、私達は無事にボラーレを出航した。

 

 次の目的地は、この宙域の中心、エルメッツァ主星ツィーズロンドだ。

 




距離の単位については、無限航跡原作中のものを使用したいと思います。戦闘中の距離は、レーダーの索敵値と武装の射程を参考にしています。

今回でやっと小マゼラン到着です。次回からは、エルメッツァ編開始となります。今回では原作キャラのシュベインを登場させました。あの人もヤッハバッハとは関わりがあるので、この反応は自然かなと想像して書きました。シュベインの乗艦の形状は、天空のクラフトフリートのエクリプス級戦艦を想像して書いています。(このゲームどれくらいの人が知ってるかな・・・)分からない方は、LASTEXILEのウルバヌス級戦艦を近代化したようなものとご想像下さい。(ああ、こっちもマイナーだ・・・)


次回からは、いよいよ海賊狩りです。霊夢艦隊が、性能にものを言わせてならず者海賊団に天誅を加えていきます。お楽しみに。



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第三章――スカーバレル
第二一話 エルメッツァの雄


 〜エルメッツァ中央・惑星ボラーレ周辺宙域〜

 

 

 

 

 艦隊の修理を終え、3日の停泊期間が経過した私達は、予定通りボラーレを出航し、エルメッツァ主星、ツィーズロンドを目指していた。

 

「周囲に異常は無いわね?」

 

 酒場のマスターの話だと、この宙域にはスカーバレルとかいう海賊団が跳梁跋扈しているらしい。なので、レーダーの警戒レベルを引き上げさせ、残存の駆逐艦3隻は哨戒艦として前衛を務めさせている。

 

「はい、本艦と駆逐艦のレーダーには何も―――あ、駆逐艦〈ヘイロー〉より通信、どうやら、この先の航路上に、航海灯を切って停止している艦隊を補足した模様です。数は7隻、軽巡洋艦クラスが1隻に、駆逐艦が6隻の模様です。」

 

 レーダー管制士のこころが早速異常を報告した。航海灯を切って航路上で停止しているなんて、明白な敵対行為だ。一体何処の馬鹿かしら。もしかして、もう海賊が出てきたとか?

 

「艦種は?」

 

《現在転送されたデータから、該当艦船を検索中――――――出ました、エルメッツァ地方軍、CL(軽巡洋艦)サウザーン/LOC級1、DDG(ミサイル駆逐艦)アリアストア/LOC級2、DD(駆逐艦)テフィアン/LOC級4です。》

 

「エルメッツァの地方軍か・・・何かの任務部隊か?」

 

 コーディの言う通り、軍隊が隠密行動をしているとなると、何かの任務中と考えるのが自然だろう。近づかない方が良さそうだ。

 

「ふむ、地方軍にしては、妙なところを彷徨いていますね・・・」

 

 そう発言したのは、ガイゼル髭が特徴的な、ボラーレで雇った退役軍人のショーフクさんだ。彼は操舵が得意らしいので、操舵手の職をコーディと変わってもらって、コーディには副長職を命じている。

 

「普通なら、こんな辺境には出張っては来ないのですが―――」

 

 どうも、ショーフクさんが言うには、この辺りに軍が展開することは珍しいみたいだ。まぁ、余計な手出しは無用でしょう。

 

「分かったわ。その艦隊から離れるように舵を――――」

 

《〈ヘイロー〉より再び通信、"我攻撃ヲ受ク!"》

 

 私がショーフクさんに進路変更を頼もうとしたら、早苗が割り込んできた。どうやら、前衛の駆逐艦がエルメッツァ艦隊から攻撃を受けたらしい。

 

「どういう事?こっちのIFFは、ちゃんと0Gドッグのものが表示されているのよね?」

 

 このエルメッツァは、基本的に民間航海者の存在を認めている筈。ふつうは正規軍がいきなり0Gに攻撃してくる事はない筈なんだけど―――――

 

「此方のIFFは正常のようです。」

 

 ミユさんが手早く確認するが、こっちのIFFはきちんと表示されているらしい。もしかして、新たな海賊と間違えられているとか?

 

「前の艦隊と通信を取ることはできそう?」

 

「―――はい、繋いでみます。」

 

 ノエルさんが、相手の艦隊との通信を試みる間にも、相手は此方の哨戒駆逐艦に対して攻撃を続けており、レーザーを2発程度被弾しているらしい。此方からの攻撃は、相手の誤解だと色々不味いので、手出しさせないように命じてある。

 

《敵艦隊、〈ヘイロー〉に対して第2射敢行、直撃弾1発。APFシールド出力2%低下します。シールドジェネレータは正常に稼働中。》

 

 早苗が被害報告を読み上げる。しかし、相手の攻撃はそこまで強くないようだ。砲撃の威力は、うちの艦隊で一番シールド出力の弱いヘイロー級駆逐艦相手でも、シールドの出力を多少削るのが関の山といった程度のようだ。

 

《敵艦隊DDGのミサイル発射を確認。〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉は電波妨害を開始せよ。各種ECM装置起動、ソフトキルを試みます。》

 

 どうやら相手はミサイルも放ってきたらしい。此方の駆逐艦はジャミングを開始して、ミサイルの誘導装置を混乱させる。

 

《敵ミサイル、16発中9発残存。〈ヘイロー〉は独自判断で火器管制システムを解除。艦砲射撃、近接防御システムによる撃墜に移行します。》

 

 敵ミサイルに照準されている〈ヘイロー〉は、尚も向かってくるミサイルに対して、主砲による撃墜に移行する。〈ヘイロー〉の上甲板にある連装速射レーザーが素早く回転して、ミサイルを一発、また一発と正確に迎撃していく。残ったミサイルは、CIWSによる迎撃を受けて、全弾が撃墜された。

 

《敵ミサイルの撃墜確認。》

 

「まだ撃たせたら駄目よ。」

 

 相手の真意が分からない今は、徒に攻撃するのは不味い。相手が唯の0Gや海賊ならすぐにぶちのめしても良いんだけど、相手は正規軍だ。ここまで逃げてきたのに、指名手配なんてまっぴら御免よ。

 

「相手艦隊との通信、繋がりました!」

 

 やっとノエルさんが、相手の艦隊と連絡を取ってくれたみたいだ。

 通信回線が繋がると、天井のメインパネルに、相手の指揮官らしき、中年の男の姿が表示される。

 

《―――そこの艦、0Gドッグだな?》

 

 男は、威圧するような雰囲気で訊いてきた。

 

「そうだけど、あんたらは何なのよ。別に私達、海賊でもなんでもないんだけど。」

 

 少なくとも、この国では罪に問われるようなことはしていない。というか、ここにはまだ来たばかりだし。なんか、理由も分からないのに襲ってきたこいつが腹立つわ。その歪んだ顔面をぶちのめしてやりましょうか?

 

「むっ―――貴様、ラッツィオのテラーではないか!」

 

 その男の姿を見て、ショーフクさんが声を上げた。どうやら、このテラーとかいう男とは知り合いらしい。

 

「貴様、海賊とつるんでいたそうじゃないか、あ"?職務を忘れてスカーバレルなんぞに媚を売るなど、エルメッツァ軍人の恥だ!貴様の汚名は退役した私の耳にも届いているぞ!」

 

 ショーフクさんは、テラーを睨んで憤る。なんでも、目の前のこいつはスカーバレルとつるんでいたらしい。汚職って奴ね。

 

《ええい、貴様はそんな性格だから左遷されたのだ、ショーフク。かつては一駆逐艦隊の司令が、今では0Gに身を落とすとはな、これは愉快!》

 

 向こうもなんだか言い返してくるし―――――う~ん、この状況、どうしようかしら?

 

「ぬかせ!これは私が選んだ道だ!貴様にどうこう言われる筋合いはないぞ!」

 

《何をッ――――大体、貴様ら0Gのお陰で私は職を追われ、軍から逃げる羽目になったのだ、たとえあの小僧でなくても、怨念返しをしなければ収まらん!》

 

「大体何なのよあんたは。あんたが軍に追われてるってのは汚職していたあんたの自業自得じゃない。悪いけど、こっちはあんたのお遊びに付き合うほど暇じゃないのよ。降りかかる火の粉は払わせて貰うわ。」

 

 いい加減頭にきたので言い返してやる。目の前の艦隊が、軍反乱分子ならぶちのめしても大丈夫そうだ。向こうから撃ってきてるんだし。正当防衛って奴よ。

 

《何だ、その小娘は。》

 

「失礼ね、私は博麗霊夢、この艦隊の長よ。」

 

《ハッ、艦隊だと、レーダーにはたかが3隻の駆逐艦しかしいないではないか、小娘!》

 

 なんかテラーとかいう奴には舐められてるみたい。失礼しちゃうわ。小娘とか、ふざけてるのかしら?今すぐあんたの股間に夢想封印撃ち込んでやってもいいのよ?ああ、そういえば哨戒の駆逐艦を先行させていたから、本隊はレーダーに捉えていないのね。

 

「あんまり私達を舐めない事ね、汚職軍人さん?」

 

 《ええい、うるさい!黙れ、しゃべるな、ゆくぞ!》

 

 ガチャリと通信が切れる。なんだか小物っぽい奴だったわね。

 

「通信、切られました。」

 

「もういいわ、総員、戦闘配備よ。」

 

 テラー艦隊との交戦に備えて、戦闘配備を命じる。新乗組員の訓練にはなるでしょう。

 

「あ・・・・・」

 

《どうされました?艦長。》

 

 私、素晴らしいアイデアを思い付いたかも。

 汚職軍人をぶちのめす→タイーホ→軍に引き渡す→報酬ガッポリ、うん、我ながら良いアイデアだわ。

 

《あの――――ものすごく邪悪な笑みをしていますよ?》

 

 早苗の言う通り、今の私は、他の人から見たらさぞ邪悪な笑みを浮かべていることだろう。だが、あのテラーとかいう奴には私達のマネーになってもらう。これは既定事項よ。私を怒らせた代償はきっちり払ってもらうわ。

 

「早苗、前衛の駆逐艦には、敵の旗艦は破壊しないように命令してくれる?」

 

《はい、了解です。》

 

 こっちの砲撃で、テラーが死んだら元も子もないからね。多少手加減はしてやるわ。

 

「コーディ、艦内の機動歩兵改は何体いるかしら?」

 

「ああ――――確か、120体はいた筈だな。」

 

 機動歩兵改とは、この間のヴァランタインの襲撃を踏まえて、科学班が自動装甲服を改良した、新たな自動歩兵だ。主に、防御面と機動力が改善されている。主武装は両手のガトリングメーザーブラスターと、肩の迫撃砲で、戦闘力は通常の歩兵1個小隊分に匹敵するらしい(サナダ談)。これを敵旗艦に送り込み制圧させて、テラーを引っ捕らえる算段だ。

 

「保安隊に、機動歩兵50体を率いて敵旗艦の制圧を行うよう、伝えてくれる?」

 

「了解です。」

 

 ノエルさんが保安隊に連絡し、エコー達は切り込みの準備を始めているだろう。

 

「本艦は敵旗艦を強襲する!最大戦速で突撃!」

 

「了解、最大戦速。」

 

 〈開陽〉は敵旗艦に肉薄するため通常航行に切り替えて0,25光速まで加速し、テラーの乗艦を目指す。

 

《前衛の駆逐艦、全兵装使用自由。攻撃を許可します。》

 

 早苗が駆逐艦に攻撃指示を出したことで、〈ヘイロー〉は水を得た魚のように行動を始め、まずは〈サンバーン〉対艦ミサイルVLS16セルを開放し、敵艦隊の前衛を務めるテフィアン級4隻にそれぞれ4発ずつ発射する。発射されたミサイルのうちの5発はジャミングや迎撃で撃墜されたが、残り11発は定められた目標に着弾し、敵駆逐艦4隻のうち4発全てを受けた2隻は忽ち火達磨になり、インフラトンの炎に包まれて轟沈した。残りの2隻も、廃艦は免れないほどの損傷を受け、戦線を離脱していく。

 敵は戦力の半分を一気に撃破されて動揺しているらしく、〈ヘイロー〉に向かうレーザーの火線が当初よりもすかすかだ。さらに、後退しようとした敵艦隊は、自分達の後方に回り込んだ駆逐艦〈春風〉、〈雪風〉の姿を捉えて、陣形を維持できないほど混乱しているようだ。

 

《〈春風〉、〈雪風〉の両艦、敵DDGに攻撃開始。》

 

 〈春風〉、〈雪風〉の2隻は、敵アリアストア級駆逐艦に攻撃を開始し、混乱で思うように動けないアリアストア級はレーザー射撃を被弾し続け、あっという間に撃沈した。あんたら、腐っても正規軍じゃなかったの、随分とお粗末な練度ね。

 さて、取り巻きを全て撃沈されたテラーの巡洋艦はどうする訳でもなく、ただ闇雲に此方の駆逐艦めがけてレーザーを撃ってくるばかり。とりあえず回避機動を命じておけば、あの的外れなレーザーは躱してくれるだろう。

 

「敵艦を射程に捉えたぜ。」

 

「撃たなくていいわ、フォックス。このまま突撃よ。」

 

 敵も〈開陽〉の姿を捉えたらしく、レーザーの目標が〈ヘイロー〉から此方に変えられたみたいだが、数発被弾しても、APFシールドの出力が一桁減るくらいで、多少艦が揺れる程度だ。こんなの、グランヘイムやヤッハバッハの砲撃に比べたら水鉄砲もいいところよ。

 

「これより敵艦との強行接舷に入る。速度を落とすぞ。」

 

 〈開陽〉は巡洋艦との衝突を避けるために速度を落とし、トラクタービームで敵艦を捉える。あとはショーフクさんが巧みな操艦で、此方のエアロックの位置に敵艦のそれを合わせて、強行接舷が完了する。この人、初めて扱う艦なのに、中々やるじゃない。

 

「保安隊が敵艦内に突入したようです。」

 

 ノエルさんがエコーから報告を受けとると、メインパネルには現在の保安隊の様子が写し出される。

 保安隊の面々は、装甲服を着込んだエコーとファイブスが前線に立って、メーザーブラスターで敵の船員を次々と気絶させていく。その後に大量に続く機動歩兵改の群れは、そんな倒された船員を拘束したり、ロックが掛けられている扉に向かって迫撃砲を放ってこじ開けたりとしている。そうしているうちに、どうやら艦橋まで達したようで、テラーは特に抵抗する訳でもなく、大人しくお縄についた。

 

《クリムゾンリーダーよりHQ、状況完了だ。》

 

「こちらHQ了解。直ちに帰艦せよ。」

 

《あ、待て君達、そう手荒にしないでくれたまえ。》

 

 乱暴に捕まれて連行されているテラーがなんか言ってるみたいだけど、まぁ無視して良いでしょう。

 

「こちら艦長。そのバカは適当に独房にでも放り込んでおきなさい。」

 

《了解した。》

 

「あと、艦隊の陣形も戻しておいて。」

 

《はい。各艦に指示を伝達しておきます。》

 

 取り敢えずエコーにテラーを独房に入れるように指示しておいて、私は艦隊の陣形を整えさせて新たな敵襲に備えた。

 敵を制圧したエコー達は、テラーを連行しながら〈開陽〉に戻る。捕虜にした敵艦のクルーはこっちの独房にわざわざ移し変えるのが面倒なので、あっちの艦で機動歩兵に監視させておくように指示しよう。あのメタルマウンテンゴリラの群と一緒なのは御愁傷様だが、まぁ自業自得だし、気にすることも無いでしょう。

 

 

 

 

 

 

 〜エルメッツァ〜中央・惑星オズロンド周辺宙域〜

 

 

 

 あの後も航行を続けた私達だが、やはり火のない所に煙は立たないらしく、ボラーレ~オズロンド間の宙域では噂の海賊と出会すことはなかった。あの辺りは本当に閑散区画、って感じだったからね。途中で他の船ともすれ違わなかったし。

 オズロンドでは消耗品補充のために一度寄航し、さらにモジュール設計社から新たなモジュールを購入して、ツィーズロンドへ向けて出航した私達だが、ついに連中が姿を現した。

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方風神録より「厄神様の通り道~Dark Road」】

 

 

 

 

 

《前衛の駆逐艦より、不審船発見との報告です。》

 

「此方のレーダーでも捉えました。駆逐艦2、水雷艇4!」

 

 早苗とこころから、新たな不審船発見の報告が入る。また軍隊じゃないでしょうね。

 

《艦種照合――――――出ました、DDガラーナ/A級1、ゼラーナ/A級1、PG(水雷艇)フランコ/A級3です!》

 

 その艦種は・・・スカーバレルか―――!

 

 早苗が読み上げた不審船の艦種は、この辺りの海賊が使う艦船の改良型の艦種だ。十中八九、スカーバレルと見て間違いないだろう。敵艦の外見的特徴としては、通常のスカーバレル艦と比べて、赤いカラーリングが入っている事だろう。ちなみにこの時は一緒にしていたのだが、早苗がフランコ/A級と報告した艦の中には、ジャンゴ/A級という別の艦も混ざっていたようだ。まぁ、肉眼的な特徴は一緒だし、どのみち沈めてしまえば変わらないだろう。

 

《敵艦隊のIFF照合―――スカーバレルで間違いないようです!》

 

「よし――――なら遠慮は無用ね。全艦戦闘配備!」

 

 艦内に戦闘配備を告げるサイレンがけたたましく響く。

 敵もこちらを"獲物"と認識したらしく、5隻全てが加速を始めたようだ。

 

「一気にアウトレンジで決めるわよ、主砲1番から3番、敵ガラーナ級に照準!駆逐艦は水雷艇を、巡洋艦はゼラーナ級を狙いなさい!」

 

「了解だ、主砲1番から3番、敵ガラーナ級に照準、射撃緒元入力!」

 

《敵PG、右舷側よりα、β、γのコードネームで呼称、〈雪風〉はα、〈ヘイロー〉はβ、〈春風〉はγを担当せよ。〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉はDDゼラーナ級に全砲火を集中!》

 

 早苗が的確に各艦に目標を割り振って指示を伝達する。前衛の駆逐艦は、それぞれ定められた目標に向かってレーザー主砲を発射する。

 高性能コンピューターによって照準されたレーザーは吸い込まれるように水雷艇に命中し、1隻を撃沈、2隻を中破まで追い込んだ。

 

「よし、射撃緒元入力完了!主砲1番から3番、目標、敵ガラーナ級、発射!」

 

 敵の前衛が消滅したことにより、後衛の駆逐艦に照準しやすくなり、〈開陽〉と重巡洋艦が主砲を発射する。

 水雷艇とは違って練度が高めだったのか、最初の1発程度は躱してみせたが、次々と射程外から飛来するレーザーを躱しきることはできず、重巡2隻の斉射を受けたゼラーナ級は爆沈、ガラーナ級は何とか原型は残っているが、至るところで火を吹いている。

 

「敵全艦のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

 戦闘は終了したようだ。なら、貰えるものは貰っておくとしますか。

 

「全艦、撃ち方止め!保安隊は船外活動の用意、敵の残骸を回収するわよ。」

 

 こうした敵のジャンク品は高く売れる。海賊共には、うちのマネーに成って貰うとでもしましょう。

 その後、ジャンクは工作艦の腹の中へ、形が残っているものは〈高天原〉と〈ラングレー〉に曳航させ、生存者はメタルマウンテンゴリラの監視の下、独房へと放り込んだ。重症の者はシオンさんに治療させたけど、後で代金請求しておこうかしら?あと、相手が海賊でも、一応死者には簡易的な葬儀を済ませておいたわ。後で祟られても面倒だし。

 

 

 

 

 その後も向かってくるスカーバレルを3回ほど返り討ちにしながら、私達はツィーズロンドに到着した。うちの工作艦はジャンク品でお腹いっぱいだわ。幾らかはサナダさんに回して研究資料にさせておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「軍隊のテーマ」】

 

 

 ~エルメッツァ中央・主星ツィーズロンド~

 

 

 

 

 ツィーズロンドに入港した私達は、海賊船のジャンクを売り払うと、地上の軍司令部へと向かった。宇宙ステーションに駐留している軍にテラーを引き渡したところ、そちらで報酬を用意してくれるらしい。

 ちなみに、海賊船のジャンクだが、研究資料を除いて、全部合わせて2000Gほどで売れた。うん、美味しかったわ。

 クルーには休息を入れておいて、私はコーディ、サナダさんに霊沙を率いて、軍司令部を目指す。

 途中、軌道エレベーターから見えたツィーズロンドの街並みは、至る所に100m超の高層ビルが林立していて、まさに都会といった感じだった。

 

「軍司令部は――――ここね。」

 

 早苗が端末にダウンロードしてくれた地図を見ながら進むと、件の建物が見えてきた。端末に表示されている写真と同じみたいだし、多分あれがそうなんでしょう。

 

「おおっ、高いなぁ。」

 

霊沙は軍司令部の建物を見上げて呟いている。まぁ、今までは中々こんな高層建築を見る機会はなかったからね。私も、内心ではこの都会っぷりには結構驚いているところだ。

 

「ここがエルメッツァ軍司令部で間違いないですか?」

 

「ああ、そうだが。」

 

 私が建物の入り口に立って、守衛に話し掛ける。

 

「ステーションの方から伺っているとは思いますが、0Gドッグの博麗霊夢という者です。」

 

「ああ、君が?どれ、紹介状は?」

 

 守衛が紹介状を求めてきたので、宇宙ステーションの方で渡された紹介状を見せると、守衛は中へ通してくれた。

 そこからは受付で色々と手続きを済ませると、士官宿舎のオムス中佐という人の下まで案内された。

 

 

 失礼します、と案内された部屋に入ると、一人の若い男が出迎えてくれた。どうやら、この人がオムス中佐らしい。

 

「私はエルメッツァ連邦中央政府軍、第4方面軍第122艦隊所属のオムス・ウェル中佐だ。君が、霊夢さんで間違いないね。」

 

「ええ。」

 

 このオムスという人だが、一見誠実な青年に見えるのだが、その瞳の奥には、何かぎらぎらしたものを感じる。これは腹に野心とかありそうね。

 私はその雰囲気を感じ取って、少し警戒しながら、促されて席についた。

 

「いや、しかし君も若いのに中々やるみたいだな。此方の脱走者を捕まえてくれた事には感謝しよう。」

 

「まぁ、優秀な艦と仲間が居ますからね。それと、今回は単にあちらが襲ってきたので、それに応戦しただけです。」

 

 そんな感じで社交辞令を交わすと、いよいよオムスさんが本題に入った。

 

「それで、我々軍の方から報酬を用意してある。受け取りたまえ。」

 

 オムスさんが差し出した手には、1枚のマネーカードと、データプレートがあった。

 

「これはテラーに掛けられていた懸賞金の1500Gだ。そしてこっちが、我々中央軍が採用しているサウザーン級巡洋艦の設計図だ。テラーの件に関しては私も思うところがあったのでな、これは、私からの個人的な報酬だと思ってくれ。」

 

「有難うございます。」

 

 報酬の巡洋艦だが、ここに来てからのうちとそれ以外の艦船の性能差を考えると、そのままでは使えないだろう。後でサナダさんにでも渡しておこうかしら。

 私が報酬を受けとると、オムスさんは再び口を開いた。

 

「ところで、君達ははこの宙域の状況をどう思うかね?」

 

「状況?」

 

 なんだか話が変わったみたいだ。あ、これ、何か面倒なこと頼まれるんじゃ―――

 

「中央宙域でありながら海賊共が跳梁跋扈し、やりたい放題やっている現状だ。」

 

 ああ、そのこと?そんなの、あんたら軍隊が怠慢だからじゃないの?

 

「そりゃ、あんたら軍がだらしないからじゃないのか?仮にも中央宙域なんだろ?」

 

「まったく、その通りだな。もっとそっちが仕事すれば良いだけじゃないのか?」

 

「ちょっと、コーディ、霊沙?」

 

コーディと霊沙が強く出たため、慌てて2人を嗜める。気持ちは分からなくは無いけど、今は初対面だし、いきなり軍の心象を悪くするのも得策では無いわ。

 

「・・・確かに、そう言われると返す言葉がないな。だが、連邦は現在不安定な状態であり、中々軍も力を割けないのが現状だ。ついこの間も、この宙域のアルデスタとルッキオの間で紛争が起こったばかりだしな。」

 

 まぁ、中央のお膝元で紛争やられる位じゃあ、さぞ不安定なんでしょうね。大方あんたらの政府の怠慢なんでしょうけど。

 

「そこで、だ。」

 

 オムスさんがリモコンでなにか操作をすると、後ろのモニターに宙域図が投影され、その一部分が拡大される。

 

「これはスカーバレル幹部、アルゴン・ナラバタスカの本拠地、人工惑星ファズ・マティだ。」

 

 画面に投影されたのは、直径200kmほどの、球形をした黒い人工物の画像だ。これがファズ・マティとかいう奴らしい。というか、なんでこんなんになるまで放っておいたのよ。これじゃあまるで成長しきったスズメバチの巣みたいなものじゃない。ここまで来たら、怠慢も相当ね。

 

「今ここには我々の依頼を受けた0Gドッグが海賊討伐に向かっているのだが、彼と協力して、海賊討伐に力を貸してくれないだろうか?」

 

 ――――出会ったばかりの0Gに協力要請、か。これぞ猫の手も借りたいって奴なのかしらね。それほど追い詰められた状況らしい。

 

「そうね―――――――報酬は?」

 

 労働には対価を。これは最低条件よ。悪いけど、タダで使われてやる気は無いわ。私達には、別に海賊を放っておいてもそこまでデメリットは無いんだし。

 

「―――――4000G出そう。」

 

 4000Gか。中々の大金ね。かかる危険に比べたら、まぁ妥当なところかしら。

 

「分かったわ、受けるとしましょう。」

 

 私が返事をすると、オムスさんは、"有難う"と言って握手した。これで商談成立ね。ああ、早苗には録音させているから、後で惚けても無駄だからね。

 

「それで、その0Gはなんていう奴なのかしら?」

 

「ああ、君と同じくらいの若い0Gで、ユーリという名前だ。彼なら今頃は惑星ネロからゴッゾの辺りにいるだろうから、まず彼を尋ねてくれたまえ。」

 

 あ、言い忘れてたけど、私実質年齢はそこまで若くないわよ?まぁ、でも、(外見的には)私と同じくらいか・・・一体どんな奴なのかしら。

 

 

 

 

 

 軍司令部で"商談"を受けた私達は、ツィーズロンドで休息や補給を済ませ、艦隊を出航させた。

 

 




小マゼランで、霊夢艦隊の記念すべき最初のカモになったのは、原作では第3章のラストバトルを飾る(笑)テラー艦隊でした。原作の5隻だと味気ないので、テフィアン級を2隻追加しています。
スカーバレルのほうも、あっさり喰われました(笑)

今話から参戦のショーフクは、見た目の元ネタは大日本帝国海軍中将の木村昌福で、名前は彼の渾名からきています。彼には今後、〈開陽〉の操舵手を担っていただきます。
機動歩兵改のほうは、PSゲーム「新・戦闘国家 GLOBAL FORCE」に登場した隠しユニットが元ネタです。このゲーム、どれくらいの人が知っているかな?戦略ゲームとしては、中々面白いと思うのですが。


次回あたりで、いよいよ原作主人公と対面になります。


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第二二話 決戦に備えて

最近始めたBLEACHの二次小説のお気に入り数があっという間にこの「夢幻航路」を抜いて、BLEACHというコンテンツの人気さを実感すると共に、やはり無限航路はマイナーな作品だと思い知らされます。個人的には無限航路は神ゲーといっても差し支えないのですが・・・今更流行るなんてことは無いんでしょうね。
続編とまでは言わなくても、ハードを移して作り直したりとかはしてくれないんでしょうか。PS4でリメイクして頂いて、特に艦船の改造周りに手を加えてほしいですね。


 〜エルメッツァ中央・惑星ネロ周辺宙域〜

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「戦闘空域」】

 

 

 

 

 

「前方にスカーバレル小艦隊確認!」

《データベースに艦種を照合中―――――出ました、CG(ミサイル巡洋艦)ゲル・ドーネ級1、CLオル・ドーネ/A級2、DDガラーナ/A級3、ゼラーナ/A級3!》

 

「かなりの数だな・・・・連中、俺達を嗅ぎ付けたのか?」

 

 私達はエルメッツァ軍人のオムスとかいう奴から依頼を受けて、彼の協力者の0Gドックに会いに行く途中なのだが、ツィーズロンド周辺を離れるとすぐにこんな調子で海賊共がわんさか襲いかかってきた。今日でもう5度目だわ。しかも、今回の艦隊はなかなか大きな規模らしい。さらに、初見のスカーバレルのミサイル巡洋艦、ゲル・ドーネ級が編成に含まれている。この艦はミサイルを主兵装とする艦だ。実体弾はAPFシールドでは防げないため、中々脅威だったりする。

 

「全艦にデフレクター出力を高めるように言っておいて。あと、ジャミングは最大出力でお願い。」

 

《了解しました!》

 

 デフレクターは、APFシールドと違って質量物を防ぐことができる。なので、こうしたミサイル艦に対してはデフレクターの装備で対策するのが有効なのだ。後は、スペースデブリとかから艦を守ってくれるから中々便利な装備だ。

 

「フォックス、まずは前衛の駆逐艦を叩き潰すわよ、本艦の主砲は敵艦隊中央のガラーナ級とゼラーナ級を狙って!」

 

「了解だ、主砲、射撃緒元入力開始!」

 

「〈ケーニヒスベルク〉は右舷側のゼラーナ級、〈ピッツバーグ〉は左舷側のガラーナ級に照準!」

 

《了解しました、指示伝達。〈ケーニヒスベルク〉はゼラーナβ、γに照準、〈ピッツバーグ〉はガラーナα、βを狙え!》

 

 此方は射程の優位を生かして、スカーバレルの水雷戦隊を射程距離外からアウトレンジする。

 〈開陽〉と重巡2隻の3連装砲塔が各々指定されたスカーバレル駆逐艦を指向し、一斉に青いレーザー光が放たれる。

 それを察知したスカーバレル艦隊は回避機動を始めるが、フォックスが狙った中央の2隻には吸い込まれるようにレーザーが命中し、弩級戦艦クラスの主砲には耐えきれずにこの2隻はたちまち爆沈する。右舷側のゼラーナ級は、1隻撃沈したが、もう1隻は中破状態で残存している。一方、左舷側のガラーナ級は練度が高かったのか、1隻は全弾回避して無傷、もう1隻も少し擦っただけで小破だ。

 

「敵3隻のインフラトン反応消失、敵残存艦は6隻です。」

 

「間髪入れないで、残った駆逐艦を叩くわよ!」

 

 スカーバレルの駆逐艦は回避機動を取りながら此方に肉薄している。このままでは、射程に捉えられてしまうだろう。その前に、こいつらを叩き潰す。

 

「了解だ!前部主砲、敵残存駆逐艦に照準!」

 

 〈開陽〉の主砲は各砲塔が独立して目標を指向し、レーザーを放つ。

 各砲塔から放たれたレーザーはそれぞれ別のスカーバレル駆逐艦に向かって飛翔する。うち一発はガラーナ級に直撃し、そのガラーナ級はインフラトンの火球となって果てたが、残りのガラーナ級とゼラーナ級は此方の砲撃を回避して、ゼラーナ級は艦載機を射出した。

 

「敵ゼラーナ級より小型のエネルギー反応多数!艦載機と思われます!」

 

「ガルーダ1、グリフィス1、アルファルド1に告ぐ、敵艦載機隊を確認した。直ちにこれを迎撃せよ。」

 

 レーダー員のこころが敵機接近を告げると、ノエルさんが直ぐに格納庫に通信を送り、発進を命じる。

 命令を受けた艦載機隊は直ちに発艦に入り、3機の可変戦闘機がカタパルトから射出された。

 

「敵オル・ドーネ級のエネルギー反応増大!砲撃来ます!」

 

 今度はミユさんから報告が入る。

 スカーバレルのオル・ドーネ級巡洋艦は両舷の大口径主砲から、此方めがけてレーザー攻撃を敢行する。

 

「回避機動を取るぞ。TACマニューバパターン入力。」

 

 ミユさんの報告を受けたショーフクさんが舵を切って、〈開陽〉はその巨体を揺らし、進行方向を変えていく。

 

「敵弾、回避成功!わが方に損害なし!」

 

 此方は回避機動に成功し、敵のレーザー光は虚しく〈開陽〉の脇を通り過ぎていった。

 

《無人攻撃隊、発進準備完了しました!》

 

「よし、無人機隊発進!敵巡洋艦を叩き潰しなさい!」

 

 早苗から無人機隊の発進準備完了の報告を受けて、発進を許可する。

 無人攻撃機〈F/A-17〉の群れはカタパルトから飛び出すと、一直線にスカーバレルの巡洋艦を目指した。

 

 

 

《こちらアルファルド1、交戦するぞ!》

 

 先程発進したアルファルド1―――霊沙の〈YF-21〉はゼラーナ級から発進した〈LF-F-033 ビトン〉艦載戦闘機の群と激突する。

 

《よし―――捉えた!FOX2!!》

 

 霊沙の〈YF-21〉は翼下の空対空ミサイルを放ち、スカーバレルの〈ビトン〉艦載機隊を牽制する。敵編隊から放たれたミサイルはフレアを用いて、急激な機動で躱していく。

 

《アルファルド1、突出し過ぎだ。》

 

《へっ、黙ってろガルーダ1!》

 

 敵編隊に突っ込んだ〈YF-21〉は、すれ違い様に敵の〈ビトン〉1機をガンポットで撃墜すると、急反転して人形形態に変形し、マイクロミサイルの群を放つ。

 いきなり後方から攻撃されたスカーバレル艦載機隊は混乱し、マイクロミサイルに囚われて2機が落とされた。

 

《よっし、撃墜!》

 

 霊沙は機隊の中でガッツポーズを取ると、機隊を再びファイターに変形させ、前方のゼラーナ級に肉薄していく。

 

《まったく、無茶な奴だぜ。》

 

《ああ、だが、これで残り6機だ。ガルーダ1、お前は右の3機をやれ、俺は左を貰う。》

 

《了解だ。》

 

 直後、2人の駆る2機の〈YF-19〉はそれぞれ左右に分かれ、グリフィス1―――バーガーは左側の、ガルーダ1―――タリズマンは右のスカーバレル艦載機隊と交戦した。

 

 

 

 

 

《よし、敵艦捕捉―――へっ、そんな下手くそな砲撃、当たるかよ!》

 

 霊沙の〈YF-21〉は、ゼラーナ級の対空射撃を躱しながら、兵装に向かってマイクロミサイルを放つ。

 ゼラーナ級の貧相な対空火器ではミサイルを迎撃しきることはできず、左舷側の単装砲2基にミサイルが着弾し、武装を破壊する。

 

《じゃあな、海賊!》

 

 〈YF-21〉はゼラーナ級に取り付くと、戦闘機から手足が出た形態―――ガウォーク形態に変形し、艦橋にガンポットの照準を定め、発砲する。

 艦橋を破壊され、指揮系統を失ったゼラーナ級は沈黙し、霊沙はゼラーナ級の残った右舷側の単装砲を破壊すると、機隊をファイター形態に変形させて未だ艦隊に接近するガラーナ級へと飛び立った。

 霊沙がゼラーナ級に止めを刺さなかったのは、単純に機体にそこまでの火力が無かったのと、艦体が残っていた方がスクラップとして高く売れるからだ。霊沙は何度かスカーバレルと戦闘を繰り返すうちに、これらの事を覚えていた。

 

《さてと―――悪いが艦隊に近寄らせる訳にはいかないんでね―――!》

 

 ガラーナ級の後方から接近した〈YF-21〉は、ガラーナ級の艦橋にマイクロミサイルを照準し、一気に残弾を発射した。後方からの攻撃にはガラーナ級の主砲は対応できず、僅かなパルスレーザーが火を吹くが、それも無駄となり、ガラーナ級の艦橋はマイクロミサイルの洗礼を受けて火達磨になり、そのトサカ状のレーダーマストが崩れ落ちた。

 艦橋を破壊した霊沙の〈YF-21〉は、燃える艦橋を飛び越してガウォーク形態になると、ガラーナ級の2基の連装主砲にガンポットの銃口を向けて発射する。上からの攻撃で、ガラーナ級の主砲も破壊され、艦橋と同じように炎に包まれた。

 

《これで最後だ!》

 

 霊沙は機隊をガラーナ級の艦首へと向けると、そこにあった2門のレーザー砲口も連装主砲と同じようにガンポットで破壊し、ファイター形態となって飛び立った。

 

《こちらアルファルド1、敵駆逐艦を沈黙させた。》

 

《了解した。直ちに帰投せよ。》

 

 霊沙は命令通り、機隊を〈開陽〉に向けて帰投する。途中、スカーバレル艦載機隊を片付けた2機の〈YF-19〉と合流した。

 

《ようアルファルド1、上々な戦果だ。》

 

《グリフィス1、そっちも片付けるの早いな、相変わらず。》

 

《ハッ、これでも飛行時間はお前なんかと比べ物にならないんだ。当然だ。》

 

 合流した霊沙とバーガーは、軽口を叩きながら〈開陽〉に帰投する。

 

《アルファルド1、グリフィス1、帰るまで気を抜くな。》

 

《ああ、分かってるよ。》

 

《了解だ。》

 

 タリズマンは、そんな2人に通信で釘を差す。

 

《こちら〈開陽〉。指示に従い、着艦に入ってください。》

 

 ある程度〈開陽〉に近づくと、オペレーターのノエルから着艦指示が入る。3機は指示に従って減速し、トラクタービームに牽引されて格納庫に着艦した。

 

 

 

 

 

「敵駆逐艦沈黙、攻撃隊、敵巡洋艦に突入します。」

 

 〈開陽〉のメインモニターには、スカーバレルのオル・ドーネ級巡洋艦とゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦に突入する〈F/A-17〉戦闘攻撃機の姿が映し出されている。

 此方の攻撃隊は、それぞれ5機ずつの編隊に分かれて、3隻のスカーバレル巡洋艦に殺到した。

 オル・ドーネ級は必死に対空砲火を放つが、元々パルスレーザーの数が少なかったのに加えて、霊沙の空戦機動をトレースさせた無人攻撃機隊にはそれはただの花火程度でしかなく、攻撃隊は主に武装を狙って次々と対艦ミサイルを放った。ミサイルはオル・ドーネ級の大口径主砲を直撃し、2隻のオル・ドーネ級の艦首は無惨な形へと姿を変える。一方のゲル・ドーネ級はさらに悲惨で、下手に実弾を搭載していたために、ミサイルコンテナにめり込んだ対艦ミサイルが爆発すると、それが格納されていたミサイルにも誘爆して、同艦は一瞬で轟沈し、インフラトンの青い火球と成り果てた。

 

《敵CGの撃沈確認。残存艦は、此方に降伏の意思を表示しています。》

 

「残りの艦には機動歩兵を押し付けて制圧後、曳航するわ。工作艦はスクラップの回収に取り掛かって。」

 

 戦闘が終了し、いつものように戦利品の回収に取りかかる。

ああ、艦載機隊に霊沙のデータをトレースさせていたのは、それが敵の弾幕を躱すのに使えるからよ。あれは腐っても元が私なんだし、"弾幕ごっこ"は腐るほど経験しているみたいだから、艦船のスカスカな対空射撃程度じゃあれを墜とすことは無理なのよ。だから攻撃隊の機動には霊沙のデータを使っている訳。今のうちはヴァランタインに減らされた艦載機がまだ回復しきっていないから、攻撃隊の損害が減って助かるわ。

 

「艦長、進路に変更は?」

 

「無しよ。このままネロに向かいましょう。」

 

 スカーバレルを撃破した私達は、作業を終えると、そのまま惑星ネロへと進路を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 〜エルメッツァ中央・惑星ネロ宇宙港〜

 

 

 

 

 

 

 惑星ネロに入港し、私達は撃破した海賊から得た戦利品を売り捌き、5000Gほどの資金を得た。生き残りの海賊共は全員治安当局に引き渡した。途中何人かが仲間にしてくれと泣きついてきたが、いくら人手不足の私達でも基本的にああいうガラの悪いゴロツキはノーサンキューなので、容赦なくサツに引き渡す。まぁ、せいぜいブタ箱で頑張ることね。

 

 そんな感じで入港作業を一通り終えた後、コーディ他数名は地上の酒場に繰り出す。勿論、飲んだくれでも何でもなく情報収集の為だ。いつもは私が引率なのだが、こっちは他に用事があるので、今日は副長ポジションのコーディに酒場を任せてある。

 それで、私は用事を済ませる為に造船ドックへと向かった。

 

 

 

 〜惑星ネロ宇宙港・造船ドック〜

 

 

【イメージBGM:無限航路より「軍隊のテーマ」】

 

 

 

 

 宇宙港の造船ドックに向かった私だが、どうやら先にサナダさんとにとりが到着していたようで、二人ともドックの様子を眺めていた。

 

「遅れたわ、悪いわね。」

 

「いや、私は構わんよ。早速だが、こいつを見てくれ。」

 

 取り敢えず二人に近づくと、サナダさんは一枚のデータプレートを差し出した。

 それを受けとると、データプレートが起動して、ホログラムで艦船の設計図が表示された。

 

「これって、サウザーン級?」

 

「ああ、艦長が前、ツィーズロンドであの中佐から報酬として受け取っただろ?あの設計図を改良してみたんだ。」

 

「いや~、価格そのままで性能を上げろって、けっこう無理言ってくれたな、サナダは。」

 

 どうやら、あの後科学班に渡したサウザーン級の設計図を、サナダさんとにとりの2人で改良していたらしい。というか、よくこんな短期間でものに出来たわね。

 

「我々整備班が横流しされたジャンク品を一通り解析してみたんだが、やっぱりここらの艦船の性能はうちの艦に比べて格段に劣っていたみたいだからな。だがこいつは最低限使えるようにはしてある。感謝しな、艦長。」

 

 にとりが自慢げに話すところを見ると、それなりにはこの改造サウザーン級の性能には自信があるみたいだ。ならその性能とやらを確認してやろうと思い、表示された要目に目を通してみる。

 

 

 

 CL 改サウザーン級 軽巡洋艦

 

 耐久:2820(1620)

 装甲:53(35)

 機動力:45(30)

 対空補正:41(30)

 対艦補正:48(30)

 巡航速度:148(132)

 戦闘速度:160(145)

 索敵距離:23700(16000)

 

 

 

 

 ホログラムに表示された設計図の横に、この艦の要目が表示される。基本的に艦船設計図は、このように空間通商管理局によって設計図の持つ性能が数値化されて、一通り表示されるようになっている。航海者にとっては、この数値化された性能は艦船購入の基準の一つとなっている。ちなみに括弧内の数値は、設計図本来の数値だ。普通はこちらだけ表示されているのだが、底上げされた数値も表示されているという事は、この二人は設計段階でモジュールも組み込んでいたという事だろう。

 

 ―――そうね・・・サウザーン級の元の耐久値が確か830だったから、耐久は設計図でも2倍近く・・・・・建造費は、本体が18000Gかぁ―――武装含めて29000Gね。うちの貯金だと、ギリギリ2隻ってところね。無理すれば、ガワだけならもう1隻いけるけど、それだと艦隊運営に支障が出るわ。

 

「ああ、そういえば、建造費を押さえるためにモジュールを設計そのものに組み込んであるから、拡張性はほぼ皆無だな。」

 

「建造費が元のサウザーンよりだいぶ上がってるけど、そこは大目に見てくれよ、これでモジュールが後付けなら26000Gはいくんだからな!」

 

 ―――なるほど、そのままの仕様だと8000Gほど余計にかかる訳か・・・サウザーン級の長所だった拡張性を殺すのは惜しいが、経費節約を考えるとこっちの方が都合が良さそうね。どうせ無人運用するんだし、まぁ良いでしょう。

 うちのマッド共も、そういうとこは考えてくれたみたいだ。これで下手に性能追及に走られると困ったものなのだが、これは助かるわ。少しサナダさんを見直したかも。

 

「艦長、マッドたる者、自身の欲望に正直なだけでなく、ニーズに応えられるものの中で、いかに欲望を満たすかが肝心なのだよ。」

 

「下手に性能高くして、作れなかったら困るからな。」

 

「そう、その姿勢は私としては有難いわね。」

 

 即戦力になりそうな艦を作ってくれた礼を言おうとしたら、なんかにとりが"ああ、拡散ハイストリームブラスターでも付けたかったなぁ~"とか呟いていた。サナダさんは"馬鹿、あれは巡洋艦なんかに付ける代物ではない"と反論していて、やはり常識人だったかと期待した矢先に"まだあれは研究中だろ"とか"付けるなら大口径ガトリングレーザーだな"とか口走っているのを聞いて、なんかお礼を言う気が失せたわ。やっぱりこいつらはマッドサイエンティストみたいだ――――

 

「ま、まぁ・・・お礼は言っておくわね。」

 

「おう、感謝しろよ!」

 

「これで少しは我々も見直されたことだ。」

 

 でも働きは確かなので、お礼はちゃんと言っておこう。予算増額は話が別だけど。下手にこいつらの予算を上げると、何をされるか分かったものじゃないわ。艦内で試作機暴走とか、私は御免よ?

 まぁ、多少の底上げは考えた方がいいかな?今後の戦力強化の為にも必用だし。

 

「で、何隻作るんだ?」

 

「そうね・・・まずは2隻ってとこね。それ以上は予算的に厳しいわ。」

 

「そうか。ああ、造船所には建造させておくぞ。」

 

「分かったわ。」

 

 サナダさんにデータプレートを返すと、サナダさんは造船所の一角に向かっていく。そこで建造を命令するみたいだ。

 

「それで、艦名とか決めてるのか?」

 

 にとりに艦名を尋ねられて、そういえば何も考えていなかったことを思い出した。

 

「いや、さっき見せられたばかりだし、まだ考えてないわ。付けたかったら、貴女達で考えてもいいわよ。設計したのはあんたらなんだから。」

 

「そうか、良いのかい?」

 

「別に、私はあまりそういうの思い付かないからね。」

 

「なら、こっちで考えとくけど、いいかい?」

 

 どうもにとりは艦名を付けたいらしく、目を輝かせながら聞いてきた。

 

「良いわよ。じゃあ、私はこれで。」

 

「おう、じゃあこっちで考えておくぞ!」

 

 取り敢えず用事も済んだので、私は造船ドックを後にした。

 

 後日にとりに艦名を訊いてみると、〈エムデン〉〈ブリュッヒャー〉の名が与えられたらしい。

 

 という訳で、新たに軽巡洋艦2隻を編成に加えた私達の艦隊はネロを後にした。ああ、コーディの情報収集の方だけど、あの星にはメディックとかいう慈善医療団体の本部があったみたいだ。対スカーバレルには役に立たなさそうなので、無視しても構わないでしょう。他には特に有力な情報はなかったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜エルメッツァ中央・惑星ゴッゾ周辺宙域〜

 

 

 

 

「敵4隻のインフラトン反応消失。残り3隻からは降伏信号を受信しました。」

 

 ネロを出た後、私達はオムス中佐の協力者だという0Gドックを探して惑星ゴッゾへと向かっていた。途中でさっきのようにスカーバレルに絡まれたりもしたが、片っ端から返り討ちにして資金源のジャンク・鹵獲艦に変えていく。これで今までの分を合わせたら6000G位は稼げたかしら?

 

「工作艦はジャンクの回収、本艦の保安要員は機動歩兵隊を指揮して投降艦を制圧せよ。」

 

 戦闘が終了し、工作艦はスクラップと化した海賊船のガラクタ漁りに、〈開陽〉からは生き残った海賊船を制圧するため、機動歩兵改を満載したシャトルが複数発進した。

 

「警戒態勢を維持しつつ、ゴッゾに進路を取って頂戴。」

 

「了解。」

 

 新たなスカーバレルの群を警戒しつつ、私達は一路ゴッゾを目指す。

 

 

 

 

 

 あれから残念なことにスカーバレルの襲撃はなく、私達は無事にゴッゾへと辿り着いてしまった。もっとお金寄越しなさいよ海賊共。期待した時に限って攻めてこないんだから。

 

「じゃあ、私達は下に降りて酒場に行ってくるわ。艦は任せたわよ。」

 

「了解。」

 

 ゴッゾの宇宙港に入港した後は、艦隊をコーディに任せて、私を含めた数人で0G御用達の酒場へと向かう。勿論情報収集の為だ。

 私が艦を降りてエレベータに向かうと、辺りはうちの上陸希望者で埋まっていた。

 生活必需品は大体宇宙港で手に入るのだが、それ以外の日用品や娯楽品などは地上で買う必用がある。私は服とかはあまり興味がないけど、女性クルーはそういうのが目当てだったり、男性クルーも趣味のためのものとかを購入しているらしい。詳しくは知らないけどね。

 

「おい、霊夢、ここだぞ。」

 

 私を呼ぶ声がして、その方向に振り向いてみると、霊沙が手を振っているのが見えた。

 霊沙がいる位置には、彼女の他に保安隊のエコーに砲手のフォックス、パイロットのバーガー、タリズマンにオペレーターのミユやノエルさん、サナダさんに、それと船医のシオンさんが集合していた。

 

「全員集まってるわね。じゃあ、早速行くわよ。」

 

 私は地上に降りる仲間が揃っているのを確認して、軌道エレベータに乗り込んだ。

 

 

 

 

 〜惑星ゴッゾ・酒場〜

 

 

 

 

「あら、いらっしゃい。こんな辺境に、お客さんが大勢来てくれるなんて、嬉しいわ。」

 

 酒場に入ると早速、ここの従業員を思われる少女に声を掛けられる。年は14、5歳辺りで、見た目はすらっとした体型で、赤い長髪を右肩の方に巻いて纏めているのが印象的だ。

 

「今日はお世話になるわ。席は空いてるかしら?」

 

「はい。こちらにどうぞ。あっ、私、ここで働いているミイヤ・サキです。これからはご贔屓にしてくださいね?」

 

「ええ、私は0Gドックの霊夢よ。よろしく。」

 

 私はミイヤさんと挨拶を交わすと、案内された席についた。

 

「ところで、どうしてこの星に来られたんですか?」

 

「ああ、ちょっと海賊退治を頼まれてね、そのための人探し、って感じかしら?」

 

 こんな辺境の星に大勢で押し掛けたのが気になったのか、ミイヤさんがゴッゾに来た理由を尋ねたので、特に隠すことはないと思って目的を話したら、なにやら驚いた表情をされた。

 

「海賊って・・・あのスカーバレルですか!?」

 

 まぁね、と答えたら、ミイヤさんの表情がさらに驚いたものになった。

 

「れ、霊夢さんって、女の人なのに凄いんですね!この辺は、男の人ですらアルゴンを怖がって近づかないのに・・・」

 

 まぁ、中央政府ですら討伐には及び腰なんだから、この反応は無理もないわね。

 

「ところで、その人探しって、どんな人を探しているんですか?」

 

「ああ、私と一緒で、海賊退治を頼まれた若い0Gドックの人らしいわ。なんでも、かなり若い見た目だとか。」

 

 私が探し人の特徴を教えると、ミイヤさんは心当たりがあるのか、確認するように、一度後ろを向いた。彼女の視線の先には、空間服に身を包んだ、白髪の若い男の姿が見えた。

 

「えっと、あちらのお客様も、海賊退治に行くらしいですよ。」

 

 へぇ〜、あの人がね・・・

 視線の先にの男は、後ろ姿だが、幾分か華奢な印象を受ける。男というよりも、少年と表現した方が良さそうだ。少年といえば、オムス中佐は、協力者は私と同じ位の外見年齢だと言っていたわね・・・

 

「ちょっと話してくるわ。」

 

 私は席を立って、ミイヤさんが指した少年の方に寄る。

 

「失礼するわ。貴方がユーリ君で間違いないかしら?」

 

 少年の後ろから声を掛ける。

 

「えっ―――あ、はい。僕がユーリですけど・・・。」

 

 その少年は、後ろから見た通り華奢な体型で、白髪に赤い瞳をしていた。肌も男の人にしては、随分白く感じる。

 少年の名は、オムス中佐から教えられた協力者の名前と一緒だ。同名とかでない限り、海賊退治に行くらしいのだから、本人で間違いないだろう。

 

「オムス中佐から海賊退治を頼まれているらしいわね。」

 

「ええ、そうですが―――って、もしかして、オムス中佐が通信で言っていた"増援"って、貴女のことですか!?」

 

 どうやら、オムス中佐は先に私のことを教えてくれていたみたいだ。これなら話が早い。

 

「そうね。こっちも海賊退治の依頼を受けて、貴方に会うように言われていたからね―――これから宜しく、でいいのかしら?ユーリ君。私は博麗霊夢、貴方と同じ0Gドックね。」

 

「はい、もう御存じだと思いますが、僕はユーリです。こちらこそ、よろしくお願いします、霊夢さん。」

 

 私が手を差し出すと、彼も手を出して、握手する。

 一通り挨拶が済むと、私は彼の向かいの席に腰を下ろした。

 

「へぇ、あんたがあの中佐が言っていた"増援"か。うちのも大概だか、あんたも随分若いんだねぇ。」

 

 年のことを言われるのはこれで何度目かしら。少なくとも、見た目以上は生きてるわよ。というか、この人誰?

 

「ああ、こちらはトスカさんで、僕の艦で副長をやって貰っています。」

 

「子坊から紹介があった通り、今はこいつの下で副長をやっているトスカ・ジッタリンダだ。よろしく。」

 

「私は博麗霊夢よ。こちらこそよろしく。」

 

 どうやらこの目の前の女性は、ユーリ君の所の副長らしい。褐色の肌にロングヘアーの白髪をした体型のいい女性で、動きやすそうな服を着ている。大人の女性って感じの雰囲気の人だ。

 トスカさんとも一通り挨拶を済ませると、早速"本題"に入る。

 

「ところでそっちは、スカーバレルの拠点につい何か情報はないかしら?どうもこの星の先にあるみたいだけど。」

 

「はい、そうなんですが、この先にはメテオストームがあるらしいですよ。そちらの艦は大丈夫ですか?」

 

 ユーリ君が言うにはメテオストームなるものがスカーバレルの拠点であるファズ・マティの前にあるらしいが、そもそもメテオストームって何なのよ。

 

「メテオストームか―――これはこのゴッゾとファズ・マティの航路上にある宇宙海流で、2つの巨大ガス惑星の引力によって潮汐を起こして流動しているものだな。この小惑星帯の中では、デフレクター無しでは艦船に甚大な損害が出るだろう。」

 

 ってサナダさん!?いつの間に居たのよ!

 まぁ、デフレクターはうちの艦隊では標準装備だから、問題ないとは思うけど。

 

「とまあ、そんな訳で、デフレクターがないと奴らの拠点に殴り込みは難しいって訳だな。ところで、誰だそれ?」

 

「ああ、うちの科学主任のサナダさんよ。」

 

「サナダだ。宜しく。」

 

 トスカさんも、いきなり現れて解説したサナダさんに驚いていたらしい。

 

「よ~し、じゃあ、話も纏まったところで、パーティータイムといきますか!」

 

 

 と、トスカさんが話を終わらせると、彼女は酒瓶を取り出して、これから共に戦うことになるユーリくんの艦隊との親睦も兼ねて、宴会が始まった。

 

 途中であっちのクルーの一人とユーリくんがトスカさんに女装させられたり、フォックスがあちらの戦闘班の人間のトーロって人に砲術指南をしていたり、ミユさんとノエルさんの女性オペレーターコンビは向こうの女性クルーと話していたりと、酒場は夜通し賑わっていた。私もしばらくお酒は控えていたのもあって、トスカさんと飲み比べなんかしていたら酷いことになったわ。

 

 

 

「う"ー、飲みすぎたかも・・・」

 

「艦長、だから途中であれだけ注意したじゃありませんか、もう・・・」

 

 宴会も終盤で、私が飲みすぎてカウンターに突っ伏して轟沈していたら、シオンさんがそんな私を気遣って毛布をかけてくれた。

 

「ありがと、シオンさん―――」

 

「どういたしまして、艦長。体には気をつけて下さいよ?」

 

「うん―――善処するわ。」

 

 

 私はそのまま、眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴会も終わり、霊夢艦隊とユーリのクルーが寝静まった頃、やや日が明け始めたゴッゾの酒場に、数人の男が入ってきた。

 男達は酒場を物色すると、ここの看板娘であるミイヤと、女装させられたユーリのクルーの一人―――イネス・フィンを誘拐した。イネスは少年にしてはやや長めの銀髪をしていて、ついでに女装でメイド服と眼鏡をさせられていて、おまけに顔立ちも中性的で凛々しい感じなので、男達の嗜好にヒットしたのかもしれない。

 こんな大胆な誘拐でも、誰一人として起きないのは、皆が酒にやられて簡単に起きないからだろう。

 数人の男がミイヤとイネスを誘拐した後、店内に残った男達は物色を続け、カウンターで寝ている黒髪の赤いリボンをつけた少女に手を伸ばしたが―――――

 

 

「―――――っ、くせ者ッ!!」

 

 

 男の手は棒のようなもので弾かれ、少女は一気に飛び退いた。

 

「痛てえっ――――!」

 

 手を叩かれた衝撃で、男は思わず呻き声をあげた。

 

「その成りは・・・海賊ね、あんた。」

 

 男の小汚ない容姿を見て、少女は男を海賊だと見破る。

 正体が知られた海賊達は、周りの人間が起きるのを恐れて、一目散に酒場から逃げ出した。

 

「逃げようったってそうはいかないわ。夢符『封魔陣』!!」

 

 少女――――霊夢が叫ぶと、彼女の袖から無数のお札が飛び出して、逃げようとする男達に纏わりつき、彼等を拘束した。

 

「なっ、なんじゃこりゃぁ!」

 

「私を襲おうなんて考えたのが運の尽きね。覚悟しなさい!」

 

 霊夢はお札に拘束された男達に向かってお祓い棒を突き立てて、そう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきはいきなり襲われたので、取り敢えず私はそいつらを返り討ちにしてやったわ。

 襲った奴らを拷問にかけてみたら、けっこうヤバい事態だということがわかった。なんでも、あいつらの証言からすると、ミイヤさんと、昨夜女装させられていたユーリ君のとこのクルーが先に拐われていたらしい。

 

「早苗、ここにいる私のクルー全員の端末から、大音量でなんか流して起床させなさい!」

 

《了解です!》

 

 私は端末から早苗に命令して、周りの人間を起こさせるように言った。その直後、店内に大音量でラッパの音が響き、思わず私は耳を塞いだ。(大音量で海自起床ラッパが流れる)

大音量で流せとは言ったけど、流石にこれは五月蝿いわね。

 

 大音量に気づいて、驚いたり、目を擦りながら起きてきた連中に事態を説明すると、特にユーリ君のところのクルーは、まだ酒が残っているのか、ふらついた足取りの人もいたが、急いで自分の艦へと戻っていった。

 

「まぁ、私もクルーの奪還には協力させてもらうわ。」

 

「有難うございます。それでは、僕は艦に戻ります!」

 

 私ももう少し海賊共から情報を聞き出すのが早ければその場で奪還できたかもしれないし、このまま別れるのは気まずいので、クルーの奪還には協力することにした。

 

 ―――それに、私に触れようとした代償、高くつくからね、覚悟しておきなさい―――

 

 自分があの薄汚い海賊共の標的にされたことを考えたら、あいつらを吹っ飛ばさないと気が済まないわ。

 という訳で、私もクルーに緊急召集をかけて、急いで艦隊の出港準備を進めさせた。

 

 

 ああ、ひっ捕らえた海賊だけど、当然サツに引き渡したわ。残念だったわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ユーリ艦隊・旗艦ブリッジ内〜

 

 

 

 

 ユーリ艦隊の旗艦を務める、赤いカラーリングのサウザーン級巡洋艦〈スレイプニル〉の艦内では、慌ただしく出港準備が進められていた。酒場で海賊に拐われたクルーと、酒場の看板娘を取り戻すためだ。

 

「インフラトン・インヴァイダー起動、出力上昇中!」

「火器管制、重力制御、共に異常ありません!」

「全乗組員の乗船確認しました。」

 

 艦橋では、小太りの少年―――トーロ・アダに、ピンク髪の少女―――ティータ・アグリノス、緑色の髪をした、ユーリの妹であるチェルシーが、各部からの報告を読み上げて、艦長であるユーリに伝える。

 

「よし、出港準備完了次第、直ちに出港する!」

 

 〈スレイプニル〉は出港準備が完了すると、僚艦である2隻の赤いアーメスタ級駆逐艦を伴って、急ぎゴッゾを後にした。

 ユーリ艦隊が出港した直後、隣の大型艦ドックからも、重低音を響かせながら、何隻かの大型艦が飛び出した。

 

「で、でけぇ・・・!」

 

 その艦隊の姿に、思わずトーロが声を上げた。 艦隊は全部で12隻あり、うち5隻は、1000m級以上の大きさで、この辺りで使用されているグロスター級戦艦に匹敵するか、それ以上の大きさだった。

 1隻の赤いラインの入った、大口径主砲複数を搭載した1800mサイズの大型戦艦が、〈スレイプニル〉の隣を通過していく。

 

《こちら〈開陽〉の霊夢よ。連中は恐らくファズ・マティの方向に逃げていった筈。まずはそっちを探すわ。》

 

「分かりました。協力ありがとうございます、霊夢さん。」

 

 ユーリ艦隊の横に展開している艦隊は、どうやら霊夢のものらしい。

 ユーリは霊夢に礼を告げると、自分の艦隊に最大速度での追撃を命令した。

 

 

 ―――待ってろイネス、ミイヤさん、必ず助けてやるからな―――

 

 

 ユーリは、海賊に囚われた二人の身を案じて、艦隊を急がせた。

 




今回で原作主人公のユーリとご対面になります。彼の艦隊のカラーは、宣伝映像での赤いカラーのサウザーン級とアーメスタ級のものです。

原作では、ここから3隻の艦隊だけでファズ・マティに挑んでいましたが、普通に考えたら自殺行為ですよね、あれ。

霊夢艦隊もサウザーンを建造しましたが、あちらとは違ってサナダさんの魔改造がないので、ユーリ君のサウザーンはこの時点での原作での最高性能のサウザーンとお考え下さい。(ランカー装備は無しです)

霊夢の方のサウザーンは、能力値の上昇分はモジュールのものとありましたが、この性能は原作のモジュールの数値をそのまま使っています。ガイドブック等をお持ちの方は、組み込まれたモジュールがどれか推察してみては如何でしょうか?(尚、青年編で手に入るモジュールも使っています。)


ちなみに霊沙のことですが、忘れているかもしれないので改めて書いておきますが、彼女の外見は禍霊夢です。
ただ、霊夢が16歳相当の外見なら、霊沙は14歳程度です。



あとイメージBGMの「軍隊のテーマ」ですが、あれは原作では軍事基地とかで流れているやつです。曲名が分からないので、適当にそう呼んでいます。


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第二三話 宇宙(そら)の濁流

最近は昼間でも涼しくなってきて、もう秋かと感じています。夏が過ぎるのも早いですね。

あと、活動報告の方に霊夢艦隊の艦船のステータスを掲載しました。気が向いた方はご自由にご覧下さい。

それでは、第二三話、始まります。


 〜スカーバレル・巡洋艦船倉〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:Fate/EXTRAより 「突破口」】

 

 

 

 

 

 

「ううっ――――――ここは・・・?」

 

 薄暗い空間の中で、破かれた服を纏った華奢な少年―――イネスは、目を覚ました。

 彼は自分が何処にいるのか状況確認に努めようと、室内を見回す。

 乱雑に置かれた酒瓶や小物類に、コンテナや段ボールが積まれているのを見て、自分が酒場で酔いつぶれた後、酒場の倉庫にでも放り込まれたと思ったイネスだが、床に感じた感触がそれを否定した。

 

 ―――床は―――金属か?

 

 彼が座っている床はひんやりとした感触であり、触ってみると硬く、それが金属製であることは容易に想像できた。通常、酒場の床は木造か、高級店では花崗岩等の建材も使われているが、少なくとも金属は見えない箇所では使われていても、床張りに使われることはない。そこからイネスは、今度は酔った自分は艦の船倉にでも放り込まれたのかと考えたが、近付いてくる足音を聞いて、一度考えを中断した。

 

 ―――人が近付いてくるな・・・取り敢えず、誰かに状況を聞いてみよう。

 

 近付いてくる人に状況を尋ねようと思い、立ち上がろうとしたイネスだが、その前に、エアロックが開放され、2人の男が室内に入ってきた。

 その男達は、自分が乗り込んでいた艦のクルーとは明らかに異なり、汚い衣服を身に纏っていた。さらには離れた場所にいるイネスにまで、エアロックが開放された後から、むさ苦しい汗の臭いが彼の鼻をついた。少なくとも、自分が乗り込む艦の艦長であるユーリは、指揮は未熟であれ、衛生管理はしっかりやっていた。なので、彼の艦ならここまで臭い匂いがする筈はないと考え、もう一度男達の方を見た。

 男達は、汚い衣服を着ていて、さらには自分に向けて、下衆な笑みを浮かべていた。

 

「へっへっへ・・・アルゴン様に差し上げる前に、ちょっと楽しませてもらおうか・・・」

 

 今の台詞で、イネスはここが、海賊船の船内だと理解した。アルゴン様、なんて言うのは、スカーバレルの海賊以外は有り得ないからだ。

 

「おう、早いとこ済ましちまおうぜ。」

 

 別の海賊が、イネスの服を剥ぎ取ろうと、彼に手を伸ばした。

 

「わっ、わっ・・・ちょっと待て!」

 

 イネスは予想外の事態に混乱し、必死で彼等に制止を訴えながら、頭をフル回転させて、ここから逃れる方法を探る。

 

 ―――おいおいおい、僕は男、それもあんな薄汚い奴等なんかに掘られたくなんてないんだ!ヤバいぞヤバいぞ、このままじゃ・・・・・掘られる!!!

 

 このままではイネスは「アッー!」確定である。少なくとも、彼はゲイではないし、例えゲイであっても、こんな汚い連中はお断りである。いや、ブルーベリー色のツナギを着たいい男でもノーセンキューだと彼は思った。彼は自分の貞操を死守するために、必死で脱出する術を考る。

 

「おい、よく見ろ!僕は男だぞ!」

 

 イネスは、海賊は女を欲しているのであるから、自分が男だと素直に告げれば、少なくとも貞操の危機からは脱出できると踏んだ。しかし、その希望は、すぐに粉砕されてしまう。

 

 

「なにぃ~」

 

「男ぉ〜」

 

 

 海賊達は、イネスを舐め回すように、彼の体をまじまじと見つめた。

 

 

「まぁ・・・・・」

 

「それはそれで・・・」

 

 

 海賊達の言葉から、イネスはこれが、完全に失敗であると悟った。

 

「う・・・うわぁぁぁっ!!」

 

 男の手が伸ばされ、完全に恐怖で動転したイネスは、何とか逃げ出そうと、必死で彼等から離れようと足掻いた。

 

 ―――おいおい、あいつら男だって食おうっていうのか!冗談じゃない!僕は・・・・僕は、ゲイじゃないんだ!!男なんかとは絶対ヤりたくないんだ!!!―――

 

 イネスは必死に逃げ回るが、ついには男に腕を捕まれてしまう。

 

「逃げるんじゃねぇよ。なあ、俺らと楽しもうぜぇ~?」

 

「ひぃっ・・・」

 

 海賊の欲望に染まった表情を見て、イネスは恐怖に固まる。

 

 ―――くそっ・・・!

 

 イネスは海賊の腕を振りほどこうとするが、中々取れないそれに、一層失望する。

 元々彼は、その体形の通り、あまり力事は得意ではなかった。火事場の馬鹿力という言葉もあり、普段よりは力を出して抵抗していたイネスだが、海賊の腕っぷしはそんな彼より上らしく、全くといっていいほど、海賊の腕はびくともしなかった。

 

 

 ―――僕は・・・・ここまでなのか・・・・・!?

 

 

 イネスの心にも諦めの色が出始め、彼の脳裏に、走馬灯のように今までの記憶が掠めていった。彼には、あの海賊達に行為をされた後、生きていける自信がなかった。

 自分の人生はここまでなのかと悟り、せめて楽に死ねたらと考えたイネスだが、その直後、ドゴォォン、と、大きな衝撃が艦を襲い、艦が大きく揺れた。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 いきなりの事態に海賊も混乱したらしく、片方の海賊が、素っ頓狂な声を上げた。

 さらに二度、三度と衝撃が加わり、さらに艦は揺れる。

 

 程なくして揺れは収まったが、今度は廊下から、「なんだてめぇ!」、「死ねぇ!」、「ヒャッハー!」等の声と共に、何かの発射音やけたましい爆発音が聞こえると、人がバタバタと薙ぎ倒される音がひっきりなしに聞こえてきた。

 すると、一度閉じられた部屋のエアロックが、バゴン!という音と共に蹴り倒され、イネスは、そこに小柄な人影を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方幻想郷より 「少女綺想曲~Capriccio 」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、此所に居たのね、探したわよ。」

 

 

 

 そこには、赤いリボンを付けた、脇が開いている白い袖付きの、紅白の色合いをした空間服に身を包んだ少女の姿があった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あれは・・・確か、霊夢さんか!?いや、だが何故ここに・・・それに彼女は女の子だ、こんな所にいたら―――

 

 

 イネスは、少女が昨日酒場にいた0Gドックの霊夢であると気がついたが、霊夢の見た目が少女であることを理由に、彼女も海賊に襲われてしまうのではないかと心配する。

 しかし、その心配は杞憂に終わった。

 

 

「へっ、なんだ、女か。」

 

 侵入者の姿を見て、海賊達はは侮ったような態度で霊夢と対峙した。

 

「なぁ、そんなに俺達とヤりたかったのかい、お嬢さ・・・ごぶっ!」

 

 海賊が少女を挑発するが、言葉の途中で、霊夢はいつの間にか海賊の目の前まで移動して、海賊の腹に向かって膝蹴りを喰らわせた。

 霊夢の膝蹴りを間近に受けた海賊は、そのまま壁際のコンテナに向かって吹き飛ばされ、沈黙した。

 

「な、なんだてめぇ!」

 

 仲間を吹き飛ばされたことに驚いた海賊が、ナイフを抜いて霊夢に襲いかかるが、海賊がナイフを振るった後には既に霊夢の姿はなかった。直後、背後に回っていた霊夢の踵落としを脳天にもろに喰らい、もう一方の海賊も意識を落とし、力なく床に倒れ伏した。

 

「ふぅ・・・・・暫く体を動かしてなかったから、結構鈍っていたかしら?」

 

 霊夢は慣れた手付きで海賊を制圧すると、さぞ疲れたように肩を回し、イネスの方を振り向いた。

 

「ほら、帰るわよ。あんたのとこの艦長が心配してるわ。」

 

「あ、ああっ・・・・」

 

 差し出された霊夢の手を見て、イネスは今までの恐怖から開放されたのか、糸が切れたように床に座り込んだ。

 

「―――――はぁ・・・一応男なんだから、もうちょっとしっかりしなさいよね。悪いけど、体格的にあんたを背負って脱出する余裕なんてないわよ?」

 

 霊夢はそんなイネスを尻目に、端末を取り出して、彼の上司の下へ連絡した。

 

「あー、聞こえる?ユーリ君。あんたの部下はこっちで見付けたわ。シャトルに乗せたら、真っ直ぐそっちに送っておくからね。」

 

《えっ、見つかったんですか?ありがとうございますっ!》

 

「どういたしまして。じゃ、次はそっちで会いましょう。」

 

 霊夢は、ユーリに用件を伝えると端末を切って、次は自艦のAIである早苗を呼び出した。

 

「あ、早苗?悪いけど、私のいる場所に機動歩兵一体寄越してくれないかしら?」

 

《了解しました。》

 

 早苗が霊夢の指示を受けると、破壊された倉庫のエアロックから、今度はごつい人形のロボットが姿を現した。

 ロボットは倉庫の中に入ると、床に座り込んでいるイネスに引っ張り上げて、彼を連行していく。

 

「お、おいっ、なんなんだこれは!?」

 

「ああ、そいつは私のところの歩兵だから、安心していいわよ。取り敢えず、シャトルまで運んでおくから。」

 

 いきなり引っ張り上げられたイネスが、霊夢に抗議の姿勢を示すが、霊夢はそれを気にすることはなく、機動歩兵改にイネスを任せた。

 

「さてと、あとはもう一人ね・・・」

 

 霊夢は、もう一人の捜索対象であるミイヤを探すべく、薄暗い倉庫を後に駆け出した。

 

 

 

 

 イネスを助けた後、ミイヤを探すためにスペルカードや体術で海賊を気絶させ、頭がヒャッハーな海賊は刀で斬り伏せて、威力過剰なスペカのお陰で海賊船内で無意識のうちに破壊活動を行いながら駆け回っていた霊夢だが、一向に彼女の姿は見当たらなかった。

 なので、霊夢は近くで伸びていた海賊を適当に尋問(という名の拷問)し、彼女の居場所を聞き出そうとしたのだが、既にミイヤは別の海賊船に乗せられて一足先にファズ・マティに連れていかれたらしく、この艦にはいないと海賊は答えた。嘘の可能性も考えて他の海賊も拷問した霊夢だが、皆が同じ答えを言うので本当だと感じた彼女は、これ以上海賊船に留まる意味はないと考えて、海賊船を強襲するときに乗り込んでいた装甲シャトルに戻ることにした。

 

「エコー、ファイブス、聞こえる?私よ。」

 

 《艦長ですか?如何されました?》

 

「目標は既に連れ去られた模様よ。もうこの艦に用はないわ。撤退するわよ。」

 

《了解です。》

 

《了解。》

 

 霊夢は共に海賊船を強襲した保安隊のエコーとファイブスを呼び出して、撤退を命じた。

 

 霊夢がシャトルに着いた頃には、既に他のメンバーは乗り込んだ後だった。霊夢が乗り込むと、シャトルは海賊船のエアロックから離れる。

 シャトルは一機しかなく、救助したイネスも乗せていたので、霊夢はパイロットのタリズマンに命じて、シャトルを〈開陽〉ではなく、船足の関係でやや遅れて現場に到着したユーリの巡洋艦〈スレイプニル〉へと向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜巡洋艦〈スレイプニル〉艦橋〜

 

 

 

 

 

「ありがとう・・・お陰で助かったよ、霊夢さん。」

 

 〈スレイプニル〉の艦橋で、海賊船から助けられたイネスは、着替えを済ませると、霊夢に礼を告げる。先程は礼を言う間もなく連れていかれたので、彼はこの場で改めて霊夢に感謝の気持ちを告げた。

 

「別に気にすることはないわ。私も最近は指示ばかりで体を動かしていなかったから、久々に暴れたかっただけよ。まぁ、お礼は受け取っておくわ。」

 

 霊夢がイネスから礼を受けると、トスカが会話に割り込んだ。

 

「いや、でも良かったじゃないか。無事で何よりだねぇ。」

 

「何言ってるんですか。貴女が変な服を着せるからこんな目に遭ったんでしょう。」

 

「な~に言ってんだい、そこのお嬢さんの素早い機転がなかったら、あんた貞操の危機だったんでしょ?」

 

「危機どころか、食われる寸前だったんですよ!!」

 

 イネスは、自分を揶揄うトスカに抗議するが、彼女はそれに構わず話を続けた。

 

「そういえば、ミイヤって奴はどうしたんだい?」

 

 トスカは、霊夢が連れてきたのがイネスだけなのが気になり、もう一人のさらわれた少女のことを訊ねた。

 

「あっ、言われてみれば、ミイヤさんが居ないな。」

 

 トスカの言動でミイヤが居ないことに気づいたトーロも、同じ疑問を口にした。

 

「彼女は別の艦に乗せられていたみたいよ。一足先に、ファズ・マティに送られたんでしょうね。」

 

「そうか・・・急いで彼女も助けないと・・・」

 

 霊夢の答えを聞いて、ミイヤの救出に向かおうとするユーリだが、それを聞いた霊夢の額に青筋が浮かんだ。

 

「ねぇ、あんた正気なの?」

 

「は・・・?」

 

 霊夢の言葉に一瞬戸惑うユーリだが、彼女は言葉を続けた。

 

「あんたね、ファズ・マティは敵の本拠地だってことを分かっているの?駐留戦力だって今までの海賊の比じゃないくらい、簡単に想像できるでしょ?」

 

「それは・・・・・だけど、放っておいたらミイヤさんが危ないじゃないですか。相手は海賊ですよ!」

 

 霊夢の言葉も正論だが、ユーリの意見もまた正論であった。

 ユーリ艦隊は僅かに巡洋艦が1隻に駆逐艦が2隻。霊夢の艦隊も幾ら性能差があるとはいえ、その数は12隻しかない。一方、海賊は自分達の本拠地でもあるので、かなりの戦力がファズ・マティに常駐していることは容易に想像できたことだ。

 しかし、ここでミイヤ・サキを見捨てることは、彼女が海賊の慰みものになることを意味している。海賊に囚われた若い娘の運命など、碌なものではないという事は、この場にいる全員にとって常識だった。つまり、ミイヤを助けるなら、タイミングは今しかなかった。

 

「それは分かっているわ。だけどね、あんたは"艦長"なのよ。そこは理解しているんでしょうね?私達はね、自分の艦に乗り込むクルーの命を預かっているのよ?わざわざ一人のために、艦隊全体を危険に晒すのはリスクが高すぎるわ。」

 

「それは・・・・ですけど・・・・!」

 

 霊夢の言っていることは、艦長としては正論だ。ミイヤは彼女達にとって、前日に知り合った程度の関係だ。わざわざ危険を冒して助けにいくというほどの関係ではない。

 それでもユーリは霊夢に抗議するが、彼女の正論の前に、彼は反論の言葉が思い浮かばなかった。

 

「・・・・エコー、どう思う?」

 

 しかし、彼女は瞳を閉じて、自分の後ろに控えていたエコーに意見を求めた。

 

「――――確かに、戦術的には艦長が正解だ。あのミイヤとかいうお嬢さんの救出に、わざわざ俺達が関わる必要性はない。」

 

 エコーは一呼吸置くと、意見を続ける。

 

「だが、"海賊団の壊滅"という依頼の観点から見ると、今ファズ・マティを攻めることは、敵にとってそれは奇襲となる。此方が戦力を整え、エルメッツァ軍と連携した場合は、それは敵の知るところになるだろう。幾ら海賊といえど、敵は馬鹿ではない。迎撃の準備は充分に予想される。しかし―――――――ここで俺達が攻撃を仕掛けるとすれば、敵にそれを事前に察知する術はない。敵の警戒網は平時体制のままだろう。罠を張る時間もない筈だ。」

 

 エコーは、かつては一部隊を率いて戦っていた軍人だ。彼は軍人としての経験から、戦略的観点で霊夢に意見を述べた。

 エコーの意見を聞いていたユーリの顔が、僅かに明るくなった。

 彼が意見を告げた後も、エコーの意見を吟味するように霊夢は無言で眼を閉じていたが、しばらく経つと、彼女は眼を開いて顔を上げた。

 

 

 

 

「・・・・・分かった、貴方の意見を採用するわ。ユーリ君、ファズ・マティに行くんでしょ?なら私達も一緒するわ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 霊夢の決断を聞いて、ユーリは彼女に頭を下げた。

 彼女はそれを尻目に、踵を返して〈スレイプニル〉の艦橋を後にする。

 

「行くわよ、エコー。」

 

「イエッサー!」

 

 霊夢がエコーを呼ぶと、エコーは彼女の一歩後に続いて、二人は艦橋を去り、自分のシャトルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉搭載シャトル内〜

 

 

 あのあと、ユーリ君と別れた私達は、〈開陽〉に戻るため、シャトルに乗り込んだ。

 そういえば、なんで私達がイネス君を助けるために海賊船に斬り込んでいたかって?まぁ、先に言った通り、最近は身体が鈍っていたから運動したかったってのもあるけど、単に私達の艦隊のほうがユーリ君の艦隊よりも船足が早かったってのもあるわ。一応緊急事態だった訳だし、救出は早いほうが良いかなと思って、先に斬り込んでいた訳よ。

 

「しかし、まさかこのタイミングで攻めることになるなんてね・・・」

 

 あのときユーリ君にはああ言ったけど、改めて考えると頭が痛くなるわ・・・

 幾ら海賊でも、本拠地なのよ。どうやって戦術を立てようかしら・・・

 

「そうですね、将軍なら、何か良い案を思い付くでしょうが――――」

 

「将軍?誰それ。」

 

「ああ、俺達がここに来る前に、我々の上官だった人です。」

 

「へぇ~。その人って、どんな人だったの?」

 

 私はエコーの言う"将軍"のことが気になって、彼に聞いてみることにした。

 

「そうですね・・・指揮官としては、柔軟な思考をお持ちの方で、非常に優秀でした。」

 

「柔軟というより、破天荒といった方がしっくり来るな。」

 

「ははっ、確かにその通りだ。」

 

 エコーとファイブスは、昔を思い出したのか、楽しそうに話していた。その"将軍"って人は、それほど彼等に慕われていたらしい。

 

「成程ね〜。ま、取り敢えずは、あれを何とかしないとね・・・・・」

 

 私が窓越しに見上げた先には、小惑星の群が濁流となって荒れ狂う宇宙海流が見える。

 

「メテオストームか・・・」

 

「デフレクターがあれば大丈夫とかいう話だが、本当に大丈夫なのか、アレ。」

 

 ほんと、二人の言う通りだわ。

 サナダさんの話だと、デフレクターがないと突破は難しいという話だったけど、デフレクター有りでも厳しいんじゃないの、これ。

 

「艦長、間もなく〈開陽〉にアプローチします。」

 

「分かったわ・・・まぁ、そのときにでも考えましょう。」

 

 タリズマンが、もう少しで〈開陽〉に着くことを教えてくれた。

 今は何も思いつかないので、とりあえず私は思考を切ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉艦橋内〜

 

 

 

 

 

 

 艦橋に戻った私は、海賊船への斬り込みについて主にコーディやミユさん、ノエルさんから"もっと自分の立場を〜"とか文句を言われたけど、私があの程度の海賊に遅れを取るわけないでしょ?第一、あのときは時間優先だった訳だし、一番制圧力が高い私が乗り込むのは戦術的には正しいじゃない。さっきのユーリ君みたいに、決して無鉄砲って訳じゃないわ。その筈よ。あ、そういえば霊沙を差し向けるって手があったかな――――いや、でもあいつは何でもぶっ壊しそうだからねぇ・・・

 

 で、相変わらずメテオストームは私達の前を流れている。それはもう、「この先には行かせんぞ~」って感じで。一体どうしろっていうのよ、あの小惑星の濁流。正直、デフレクター有りでも不安なのよね。

 

「サナダさん?あのメテオストームって、何とかならないの?」

 

 私はサナダさんに意見を求めようと、コンソールを操作して、研究室にいる彼を呼び出した。サナダさんが科学班の主任になってから、研究スピードは上がったんだけど、こういう時はなんか面倒くさいわね。ああ、関係ない話だけど、サナダさんの助手みたいな感じでいたチョッパーは整備班の副班長になったみたい。元々機械整備が得意だから、そっちに回ったらしいわ。

 

《そうだな、話したとは思うが、あれは2つの巨大ガス惑星の引力によって引き起こされているものだ。流れを止めるというのなら、どちらかの惑星を破壊するしかないな。ハイストリームブラスターの最大出力なら・・・・》

 

「今は時間がないし、それは出来ないわ。それに、あれからハイストリームブラスターは最大出力の65%に制限されてるでしょ?」

 

 以前のマリサ艦隊との戦闘でハイストリームブラスターを撃ったとき、砲口が損傷したんだけど、どうもあれは設計上の想定をかなり越えた威力があるらしいのよね。一応砲口の修理は終わったんだけど、まだ改良は済んでいないのよ。だから、ハイストリームブラスターは無闇に使えない訳。

 

《むぅ、そうだったな・・・だが、あれが沈静化するにしても、まだ周期ではないぞ?》

 

「そう――――――分かったわ、サナダさん。もういいわよ。」

 

《では、私は研究に戻るぞ。》

 

 私はサナダさんとの通信を切った。

 どうやら、サナダさんもあれにはお手上げらしいわ。これは、此方でどうにかする他ないわね―――

 

「・・・・ショーフクさん、艦をメテオストームの上流に向けてくれる?」

 

「了解しました。しかし、何故ですかな?」

 

 あれを渡るには、もうこれはセオリー通りにする他なさそうね。大体こういう濁流は、真横から突っ切るより、ある程度流れに任せた方が良いってのは昔から相場が決まっているわ。それをショーフクさんに言ったら、彼も承諾してくれたみたいで、〈開陽〉と艦隊を上流に向かわせてくれた。

 

「ノエルさん、ユーリ君にも、こっちに続くように言っておいて頂戴。」

 

「了解です。」

 

 メテオストームを渡るために、ユーリ君にもこっちに続いて上流に移動してもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、艦隊はこれである程度メテオストームの上流に来た訳だけど、ここで一度陣形変更を行っておく。

 

「早苗、陣形変更よ。左から順に、こっちの戦艦と重巡洋艦の列、空母、巡洋艦の列、駆逐艦、工作艦の列に展開させて。それと、ユーリ君にはこっちの巡洋艦の列に加わるように言ってくれるかしら?」

 

《了解しました。しかし、それでは一列目の艦がが足りませんね・・・》

 

 私は一番防御の固い戦艦と重巡をメテオストームの流れてくる方向に配置して、他の艦を護りながら突破しようと思っていたのだが、どうも戦艦と重巡が足りないらしい。まぁ、3隻じゃあ、他の列をカバーしきれないのは仕方ないわ。

 

「ヴェネターを隊列に加えたらどうだ?あれの防御力は、俺達が保証するぜ?」

 

「ヴェネター?ああ、〈高天原〉のことね。」

 

 フォックスが言ったヴェネターとは、先代旗艦の〈高天原〉のクラスのことだ。〈高天原〉は他の重巡に比べたら防御力は低めだが、決して著しく劣る訳ではない。それに、空母と工作艦を除けば、一番防御力が高いのは〈高天原〉だ。一列目に加えるなら、この艦しかないだろう。

 

「分かったわ。それで行きましょう。」

 

《では、その陣形で指示しますね。》

 

 フォックスの進言を了承して、〈高天原〉を一列目に加えた状態で艦隊の陣形を変更させた。

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより 「敵超弩級戦艦を叩け!」】

 

 

 

 

「インフラトン・インヴァイダー、出力上昇中!あと30秒で最大に達します!」

「重力井戸(グラビティウェル)、出力調整完了!」

 

 メテオストームの突破に向け、艦内、特に機関班の動きが慌ただしくなる。機関長のユウバリさんとミユさんが、それぞれインフラトン・インヴァイダーと重力井戸の状態を報告してくれた。

 

「よし―――メテオストームを抜けるわよ、機関、最大戦速!デフレクターは最大出力で展開!」

 

「了解。機関、最大戦速!」

 

「デフレクター出力、最大まで上げます!!」

 

 ショーフクさんが舵を引いて、〈開陽〉が動き出す。続いてユウバリさんがデフレクターが起動して、〈開陽〉の周りを楕円形の防御重力場が包み込んだ。

 

《後続艦に異常なし。》

 

 後続の巡洋艦も、〈開陽〉と同じようにデフレクターを展開して、メテオストームを目指す。

 

「メテオストームの影響圏まで、距離あと3000!」

 

「総員、衝撃に備えて!」

 

 メテオストームへの突入が迫り、全乗組員が衝撃に備える。突入前に、艦橋の窓が装甲シャッターに覆われた。

 艦がメテオストームに突入した瞬間、ドゴォォンという轟音と共に、艦が大きく揺れる。

 

「きゃあっ・・・!」

 

「くっ・・・」

 

 その衝撃で、艦橋ではミユさんとコーディが席から降り下ろされそうになった。

 

「はっ、こりゃ凄いな。」

 

 フォックスは、嗤いながら席にしがみついている。

 かくいう私も、さっきの衝撃で席から落ちそうになった。咄嗟にコンソールにしがみついて難を逃れたけどね。

 

「ああ、揺れる揺れる!揺れるねぇ!!」

 

 霊沙もなんだか嗤いながら、断続的に揺れるこの状況にスリルを感じているらしい。というか、こいついつの間に艦橋に居たのよ。いつも用もなくぶらついたりしてるけどさ。

 

「センサー感度―――大幅に低下します。」

 

 こころは、なんとか席にしがみつきながら、センサーの状態を報告した。

 この嵐の中では、センサーの感度が下がるのも無理はないわね。

 

「脅威になりそうな小惑星の接近に気をつけて!」

 

「―――了解です・・・!」

 

 こころに隕石の監視を頼んだ後、天井のメインパネルを見上げた。そこには、艦外の様子が映し出されている。

 映像の中で小惑星の破片が猛スピードでデフレクターの幕にぶつかる度に、艦が小さく揺れる。時折大きめの小惑星が飛来して、艦を大きく揺らしていった。〈開陽〉や後続の重巡洋艦に衝突した破片は、ぶつかった衝撃で上下方向に流されて、軽巡や駆逐艦、工作艦の隊列を掠めていった。やはり、大型艦を上流に配置して正解だったようだ。

 

《デフレクター出力、6320~7150の間で変動中―――やや不安定ですね・・・》

「機関の方は・・・なんとか大丈夫そうだけど・・・」

 

 早苗とユウバリさんから報告が入る。どうもデフレクターの調子が悪いらしい。

 

「それは不味いぞ。霊夢!」

 

「分かってるわコーディ。にとり!デフレクターの調子が悪いわ。すぐに整備班を向かわせて!」

 

《もうやってるよ!あと少しで到着する!》

 

 私はにとりを呼び出してデフレクターの修理を頼もうとしたのだが、流石はにとり、もう整備班を向かわせているみたいだ。

 

《艦長、どうやら一部のエネルギーバイパスが負荷に耐えきれなくていかれているみたいだ!今から交換するけど、その間少し出力が落ちるよ!》

 

「どれくらい時間がかかるの?」

 

《う~ん、30秒あれば足りる!それまで何とか耐えてくれ!》

 

「分かったわ。急いで頂戴。」

 

 どうもにとりが直々に指揮を取っているらしく、彼女からダメージ報告が入ってきた。

 

「という訳だから、周囲の警戒を一層厳にして!」

 

「了か―――あっ、本艦隊の進路に交錯する大型小惑星確認!」

 

 今度はこころがレーダーに、ヤバめの小惑星を捉えたらしい。

 にとりがデフレクター出力が一時的に落ちると言った矢先でこれだ。何よ、今日は厄日じゃない筈よ!

 

「緊急回避!」

 

《駄目です、それでも僚艦との衝突コースです!》

 

 私は咄嗟に回避を命じたが、早苗の演算装置はそれでも艦隊全体が小惑星を躱すことは出来ないと結論づける。ならば、取るべき手は一つだ。

 

「フォックス、主砲で迎撃!徹甲弾装填!」

 

「了解した!主砲1番から3番、徹甲弾装填!目標、左55度、上下角+18!!」

 

 フォックスは射撃諸元を入力し、小惑星を狙う。

 現在、艦のエネルギーはデフレクターに回されているため、レーザーでの砲撃は大幅に出力が低下する。というかジェネレータ出力的にやばい。なので、実弾射撃をフォックスに命じた。フォックスが主砲を操作し、上甲板の3連装砲塔に徹甲弾が装填され、目標の小惑星を指向した。

 付け加えると、デフレクターを最大出力で展開していた場合、重力場の影響で射撃が出来ないのだが、今は一時的に最大出力が弱まっている影響で、何とかそのまま主砲を撃つことができそうだ。

 メインパネルには接近する大型小惑星の姿が映し出され、霊沙も含めて、ブリッジクルーの表情が固まる。

 

「主砲発射!!」

 

 フォックスがトリガーを引き、主砲から徹甲弾が打ち出された。実弾なので、目標に達する前に他の小惑星に当たってしまった弾もあるが、大半は正確に目標の大型小惑星を撃ち抜き、小惑星はバラバラに砕けた。

 

「目標の破壊を確認、破片の大きさは基準値を越えません!」

 

「よし、やったぜ!」

 

 こころから迎撃成功の報告が入る。しかし、迎撃距離が近かったせいで、〈開陽〉に破片が降り注ぎ、艦が小刻みに揺れた。だが、デフレクターを突破できるほどの破片はなく、他の小惑星と同じように、破片は上下に流され、艦隊を通り過ぎていく。

 

《艦長、にとりだ!デフレクターの修理、終わったよ!》

《デフレクター出力、回復します。出力7000±80で安定しました!》

 

 小惑星の迎撃を済ませている間に、にとりは修理を終えたみたいだ。早苗からも、デフレクター出力の安定が報告される。

 

「間もなくメテオストームを抜けます!」

 

「よし、このまま突っ切るわよ!」

 

 私は自然と握りしめていた拳を解いて、クルーを鼓舞する。どうも、ミユさんの報告で少し安心したみたい。

 でも、まだ気を抜けないのは事実だ。

 

「メテオストーム突破まで、あと20!」

 

 艦隊は小惑星に揺られながら、メテオストームの向こうを目指す。メインパネルに表示されている小惑星の濁流も、外側に近付くにつれて、流れてくる破片の量も減っているように見えた。

 

「メテオストーム、突破まであと5・・・,4・・・,3・・・,2・・・,1、間もなく影響圏を抜けます!」

 

 ミユさんのカウントダウンで、艦橋に緊張が走る。

 

 

《メテオストーム、突破しました!》

 

 早苗の報告と共に、今までの振動が止んでいき、装甲シャッターが格納されて通常の宇宙空間が窓の外に見えた。

 

 

 

「「ああ、助かった―――――」」

 

「ふぅ~、何とかなったな。」

 

 ブリッジクルーの面々も、メテオストームの突破を受けて、安堵の表情を浮かべる。

 

《後続艦に異常なし!》

 

「ユーリ君の艦隊も、ちゃんとついて来ているわね。」

 

 早苗から僚艦の状態を聞かされ、私も、ユーリ君の艦隊が問題なく続いていることを確認した。

 

「安心するのは分かるけど、ここは既に敵の勢力圏よ。警戒体制を維持して!」

 

 

 

「「「っ、了解!!!」」」

 

 

 既にここは海賊共の勢力圏なので、警戒は怠る訳にはいかない。

 だけど、メテオストームの突破で多少艦隊に損害が出ているのも事実だ。特に、負荷を掛けたデフレクター関連の設備は戦闘前に確認した方がいいだろう。乗組員にもさっきの緊張状態のまま艦隊戦をさせるのは酷なものだ。何処かで一度、休息を取った方が良さそうね。

 

 

 

 

 という感じで、私達の艦隊はメテオストームを突破し、スカーバレルの本拠地へと足を踏み入れた――――。

 




メテオストームを抜けて、スカーバレルとの決戦が迫って参りました。

今回から、本文の書き方を変更しています。具体的には、台詞の間を一行開けています。他の方の小説を色々読んで、こちらの方が読みやすいと感じたので変更してみました。ご意見などありましたら、感想の方にお願いします。


それともう一つ、コーディの片仮名表記を今まで間違えてコーディーとしていたことにやっと気付きましたw
以前の話も、本文の書き方を修正するついでに直しておこうと思います。


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第二四話 敵地進撃

つい最近ニコニコにて未だ更新を続けている無限航路実況を見つけて、私も負けないように更新を続けようと思った次第です。

そして、評価を下さった皆様、どうも有難うございます。


 〜メテオストーム周辺宙域〜

 

 

 

 スカーバレル討伐のため、私達の艦隊はメテオストームを突破したのだが、一部の艦は装甲に損傷を受けたり、デフレクターユニットに不調が発生したりと、何かしらの被害を受けていた。

 

「これは・・・一度応急修理をやった方が良さそうね。」

 

 サナダさんから上がってきた艦隊の被害報告に目を通すと、やはりメテオストームの隕石群の楯になるように配置した大型艦の損傷が目立つ。

 装甲に損傷を受けているのはこの〈開陽〉だけだが、他の重巡洋艦もデフレクターにかなり負荷がかかっていたらしく、出力が不安定な状態だ。

 

「にとり、整備班の連中を総動員して、損傷艦の装甲の張り替えとデフレクターの応急修理をやったらどれくらい時間かかる?」

 

《そうだな、装甲の張り替えは工作艦に任せても、最低2時間といった所かな。》

 

「分かったわ。それじゃあ、適当な場所に停泊するから、その間に整備班を各艦に派遣して修理作業をやっておいてくれないかしら?」

 

《了解した。》

 

「それじゃあミユさんとこころは空間スキャニングを開始して頂戴。ショーフクさん、艦を11時方向の小惑星に向けてくれる?」

 

「了解です。長距離レーダー作動します。」

 

「各種センサー起動、情報をメインパネルに出力開始。」

 

「了解。機関微速前進。取り舵15。」

 

 にとりを呼び出して艦隊の修理作業を頼み、一度艦隊を付近の小惑星に停泊させる。ミユさんとこころには空間スキャニングを頼んで、海賊の襲撃に備えさせる。ここは既に連中の勢力圏なのだから、用心は越したことにはない。

 

「あと、〈プロメテウス〉をこっちに寄越して頂戴。」

 

《了解しました。》

 

 早苗に頼んで、〈開陽〉の装甲を張り替えさせる為に工作艦を派遣させた。こういう時に便利よね、工作艦って。

 

「ノエルさん、ユーリ君の艦に通信してくれる?一応こっちの方針を伝えておきたいからね。」

 

「分かりました。今通信を繋ぎます――――――回線繋がりました。」

 

 ノエルさんにユーリ君の艦と回線を繋がらせると、艦長席に備え付けられたモニターに、向こうの様子が映し出された。

 

《霊夢さん、どうかしましたか?》

 

「ああ、ちょっとメテオストームで艦隊に損傷を受けてね。今から少しの間応急修理をするから、ファズ・マティ突入はもう少し時間がかかりそうだわ。」

 

《そうですか・・・申し訳ありません。》

 

「いいのよ別に。それより、あんたの方は大丈夫なの?」

 

《はい、お陰様で。こっちの艦隊には目立った損傷はありません。》

 

 ユーリ君が謝ったのは、私の大型艦を彼の艦隊に対して楯になるように配置したことが原因だろう。だけど、あれはメテオストームを突破するのにそっちの方が被害を押さえられると考えて陣形を組んだだけだから、私はそこまで気にしてはいない。

 それよりも、ユーリ君が大人しくしている方が以外ね。彼なら今すぐファズ・マティに突撃する位のことは言いそうだと思ったけど。

 

《それで、修理にはどの程度かかりそうですか?》

 

「そうね、最低2時間ってところかしら。」

 

《2時間ですか・・・分かりました。》

 

 まぁ、時間を聞いてくる位だから、内心は早くミイヤさんを助けに行きたいんでしょうね。

 

「ああ、それと今後の打ち合わせとかもしておきたいから、会議とかできるかしら?」

 

《会議ですか・・・それなら僕達がそちらに向かいます。》

 

「そうね、なら40分後にこっちに来て頂戴。」

 

 《分かりました。40分後ですね。》

 

「ええ。よろしく。」

 

 そこで通信を終えて、私は意識を艦隊の状況に向けた。

 艦橋の外には、左舷側に近づく工作艦〈プロメテウス〉の姿が見える。〈開陽〉の装甲を修理させるのに寄越した艦だ。

 ふとモニターを見ると、サナダさんからメッセージが届いていたみたいで、未読のメッセージが示されている。

 

《艦長?》

 

「うん・・・なんか、頭が痛いわね。」

 

 サナダさんのことだから、また何か勝手に開発したから使えみたいな事だろうと思ってメッセージを開くと、案の定そんなものだった。

 メッセージの内容は、どうやらサナダさんが偵察機を作ったらしく、それの情報だった。

 その偵察機はF/A-17を元にしているらしく、機体上面には大型のレドームが装備され、下部には機体から垂直に延びる安定翼が装備されている。さらにメッセージの文書に読むと、これは既に10機ほど生産されているらしい。

 

「・・・・・早苗、サナダさんに、これは使えるか聞いておいて頂戴。」

 

《了解です。》

 

 まぁ、作ったなら作ったで使い倒してやるつもりだ。手数は多いに越したことはない。

 早苗がサナダさんに問い合わせたところ、案の定もう使えるようにしてあるらしいので、周辺の警戒のために6機ほど偵察機として放っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 近くの小惑星に艦隊を停泊させた後は、本格的に修理作業を開始した。〈開陽〉は〈プロメテウス〉に横付けして装甲板を張り替えて、整備班は3班に別れて、デフレクターに不調を来している〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉の修理と、〈開陽〉の修理をさせている。

 にとりから上がってきた損害報告では、〈開陽〉のデフレクターは完全に復旧させるには一度宇宙港で本格的な整備が必用らしい。しかし、今は宇宙港まで戻る余裕はないので応急修理で済ませるが、それだと最大でも出力が万全な状態と比べて12%ほど落ちるらしい。元の出力が強力なのでそこまで問題ではないが、ミサイル等の実体弾を多用する海賊を相手にするには少し不安が残る。ゲル・ドーネ級は最優先で潰す必用がありそうだ。幸い、他の艦のデフレクターはうちの予備部品だけで修理できそうとの事だ。

 

 艦隊が修理作業を行っている間は警戒以外は私達は暇になるので、この〈開陽〉の会議室ではユーリ君の幹部クルーも交えて作戦会議を行うことにした。

 私達はもう会議室に到着しているので、会議はユーリ君達の到着をもって始められた。

 

「――――全員揃ったわね。それじゃあ、会議を始めるわ。」

 

 私は室内を一瞥して、メンバーが全員揃っているのを確認した。ちなみにメンバーは、私の艦隊からは、私とコーディ、サナダさん、フォックス、ショーフクさんの5人、ユーリ君の艦隊からは艦長のユーリ君と、副長のトスカさん、それに海賊に囚われていたイネス君に酒場で見かけたトーロっていう少年の4人だ。

 あと、メンバーは会議室の中央にある机を囲むように座っている。

 

「では、まずはこいつを見て欲しい。」

 

 サナダさんが会議室の卓に備え付けられたコンソールを操作すると、机の上に宙域図が表示された。それと同時に、各々の席の小型モニターにも、同様のものが表示される。

 

「これは我々の空間スキャニングによって得られたデータを宙域図として示したものだ。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 宙域図には私達の艦隊の位置が青色のアイコンで示され、周辺の小惑星とメテオストームに、目的地であるファズ・マティの位置が示されている。

 

「見ての通り、ファズ・マティ周辺は小惑星に囲まれ、接近は困難だ。しかし、画面右上、ちょうど我々のいる位置の前方には、小惑星が比較的少ない場所が存在し、それはファズ・マティ方面まで続いている。ここなら、艦隊の通行も可能だ。そうだな、俗にファズ・マティ回廊とでも呼んでおこう。」

 

 サナダさんが示した通り、右上の場所は小惑星を示すアイコンが少ない。普通に考えれば、ここを通ることになるだろう。

 

「じゃあ、そこを通ってファズ・マティに向かおうっていうのかい?」

 

「常識的に考えればそうなるな。」

 

 トスカさんが質問して、サナダさんがそれに答えた。同時に、宙域図に侵攻ルートを示す矢印が表示される。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「そう、常識的に考えれば、ね。」

 

 そこで私も口を開いた。

 艦隊が通れるのはこの場所しかないという事は、必然的にここで海賊の主力艦隊と激突することになる。いくら海賊とはいっても、あれほどの人工惑星を擁している輩だ。自分達の裏庭とも呼べるこの宙域には、いくらかはセンサー類も設置されているだろう。私達がここを通ろうとすれば、必然的にそれは海賊の知る所となる。

 

「じゃあ、他に通れる場所があるってのか?」

 

「それを考えるのがこの会議の目的よ。他に通れる場所があるか、ファズ・マティ回廊を通るならどう戦うかを考えるのはこれからよ。」

 

 トーロの質問を一蹴して、私は言葉を続ける。

 

「幾ら私達の方が性能で上回るといっても、ここは海賊の本拠地よ。恐らくこっちとは文字通り桁違いの艦隊を持ち出して来るでしょう。普通にやりあったら、物量に押されるだけよ。」

 

「確かに霊夢さんの言う通りだ。なら、まずは此方の戦力の把握から始めよう。戦略を立てるにも、互いの戦力は把握しておいた方がいい。」

 

 確かにイネス君の言う通り、自分達の戦力をまず把握しておくべきだろう。昨日ゴッゾで会ってから、ユーリ君とは碌に打ち合わせなんかできる時間がなかったので、あっちの戦力はまだきちんと把握できていない。それは相手も同じだろう。

 

「ではまず僕達の戦力ですが、サウザーン級の巡洋艦が1隻にアーメスタ級の駆逐艦が2隻です。一応改造はしてありますから、基本性能はそれなりに上がっているとは思います。これはそのデータになります。」

 

 ユーリ君が説明すると、モニターには宙域図に加えて、ユーリ君の艦隊を構成する艦艇の性能が数値化されて表示された。

 そのデータに一度目を通してみるが、私の艦艇と比べたら、各性能の数値はやはり劣っている。しかし少マゼランの艦としては、スカーバレルの同クラスの艦艇と比べたら格段に高性能だ。もう少し分かりやすく言えば、私の艦隊にある改造サウザーン級に一部を除いてやや劣るか同程度と言ったところだ。

 

「――――そっちの状況は分かったわ。じゃあ、こっちの戦力の概要データを送るわ。サナダさん、よろしく。」

 

 私がサナダさんに指示すると、サナダさんは自分の席にあるコンピューターを操作して、ユーリ君達に此方の戦力のデータを送った。すると、予想通り、あちらのメンバーは目を丸くしてデータを凝視しているのが見えた。

 

「おいおい、これってマジかい?」

 

「数値の算出は空間通商管理局の基準に基づいているから、間違いはないと思うわよ。」

 

 私がトスカさんの疑問に答える。一応こういった艦船の性能のパラメーターは、全て空間通商管理局の基準で算出しているから、他の艦船とも単純比較もできる筈だ。これは設計図の性能評価にも使われている基準なので、ふつうは艦船の性能値はこの基準が使用されている。

 

「ははっ、これだとあんたの艦隊だけでスカーバレルを全滅させられるんじゃねぇか?」

 

「な訳無いでしょ。幾らこっちが高性能でも、物量には叶わないわ。」

 

 トーロの言葉を適当にあしらって、私は話を続ける。

 

「敵の戦力は不明だけど、私達は軽く見ても250隻程度はいると考えているわ。こっちのインフラトン観測機で大まかに算出した値だけどね。」

 

「に、250・・・」

 

 私が伝えた数値に、ユーリ君達は息を飲んだ。

 いくらサナダさん謹製の観測機器とはいえ、正確な測定は難しいので、ファズ・マティ方面で観測したインフラトン反応を全てガラーナ級として数値を算出している。なので、水雷艇等も含めれば、これよりも実際の数は多いだろう。

 

「回廊の大きさから推測すると、ここは駆逐艦クラスの艦隊なら最大で200隻ほどの戦力を投入できると考えられる。それを念頭に戦略を考える必用があるな。」

 

「対して此方は戦艦1隻に空母1、重巡洋艦2、巡洋艦4、駆逐艦5隻の13隻が戦力ね。」

 

「そうだねぇ、あんたの重巡洋艦を戦艦として数えても、数の差は20倍以上か・・・こりゃ頭が痛いね。」

 

 此方の戦力分析を聞いたトスカさんが愚痴を溢した。そりゃあ、こっちだって同じ気持ちよ。私だって20倍以上の数の艦隊なんて相手にしたくないわ。

 

「ファズ・マティ回廊で戦闘するとしたら、回廊の太さから考えて敵艦隊を突破するのは難しい。ある程度は撃ち減らす必用があるな。」

 

「それなら、あんたのとこの戦艦で遠距離から仕掛けられないのか?」

 

 コーディの指摘を受けてトーロが提案するが、残念ながらそれだけではこの数は遠距離から仕掛けても、突破出来そうにない。

 

「生憎、そのデータにあるハイストリームブラスターは故障中よ。それに、主砲で撃ち減らそうとしても相手の数が多いし、いくらかは避けられるでしょうね。ただ遠距離から撃ち合うだけじゃ、懐に飛び込まれてお仕舞いよ。」

 

「そうですか・・・じゃあ、そちらの艦載機を上手く使えないでしょうか?」

 

「それはこっちも考えていたわ。」

 

 次はユーリ君が艦載機の活用を提案するが、私としては微妙なところだ。というのも、此方の艦載機の数は未だヴァランタインとの戦いから回復しきっていないのだ。

 

「艦長、こっちの艦載機は、あとどれ位残っているんだ?」

 

「え~っと、確か可変機はYF-19とYF-21が2機ずつ、他はF/A-17が16機、Su-37Cが4機にT-65Bが7機、スーパーゴーストは22機ね。」

 

 フォックスに艦載の数を聞かれて、端末からデータを引き出しながらそれに答えた。こうしてみると、やはり定数を大幅に下回っている。この数だったら、全て〈ラングレー〉に積んでもまだ格納庫に余裕がある。

 

「合計で53機か。敵がゼラーナ級を6隻以上持ち出してきたら、数では簡単に上回られるな。」

 

 スカーバレルのゼラーナ級駆逐艦は、駆逐艦の癖に9機程度の艦載機を搭載できる。当然今後に予想される艦隊戦でも複数の艦が参戦するだろうから、此方の防空にも艦載機を割かなければならない。ただでさえ少ない艦載機を攻撃と防空に分けて運用すれば、戦力の密度が大幅に低下して此方の損害が増えてしまう恐れがある。

 

「確か、F/A-17にはステルス機能があった筈だ。なら、この機体を小惑星帯に隠して、敵艦隊の通過と同時に奇襲させたらどうだ?奇襲で一気に敵の中枢を狙えば、奇襲効果も相まって混乱が狙える。この一撃で敵の旗艦も落とせたら万々歳だな。」

 

「私は専門は水雷戦なので上手く言えませんが、敵の旗艦は通信量などから特定が可能です。ならば、奇襲で敵の旗艦を落とすというのも、あながち無理な話ではありません。」

 

 ショーフクさんが、フォックスの提案に賛同する。

 

「そうだな、私もその案には賛成だ。しかし、F/A-17のステルス性を損なわない為には、武装は全て胴体の弾倉に装備する必用があるな。翼下のペイロードは使えんぞ。」

 

 ここでサナダさんが注釈を付け加える。

 

「それだと、打撃力という点では心許ないわね。この奇襲は、敵の旗艦を狙った一撃離脱にしか使えなさそうだし、継続的に戦闘させるのは無理かしら。」

 

「だな。しかし、仮に敵の旗艦を落としても、まだ敵の数は多いだろう。こいつらの対処も問題だな。」

 

 サナダさんの指摘通り、敵の旗艦を撃沈しても、敵艦隊が壊滅する訳ではない。残った敵も、じきに統率を取り戻す可能性だって考えられる。

 

「遠距離から頭数減らすのに専念しても、それだと長期戦になる。そうなったら拠点が近い連中の方が有利だし、第一ミイヤって娘が危ないね。」

 

 トスカさんの言う通り、長期戦は得策ではない。それに、私はどうでも良いんだけど、ユーリ君達はミイヤさんの救出って目的もあったわね。それなら、彼等は尚更短期決戦で片付けたいのだろう。

 

「ああもう、こうなったらルーの爺さんを呼びたいくらいだぜ。」

 

 ここでトーロが言ったルーの爺さんとは、彼等が以前エルメッツァ領内の自治星系同士で起こった紛争を鎮圧する際に頼った老軍師のルー・スー・ファーのことだ。ユーリ達は、その紛争が終わった後、彼とその弟子を、彼等の要望もあって艦から下ろしていた。彼ならこの状況を何とかできると考えたトーロだったが、彼等を艦から下ろした今では、もはやそれは後の祭りだった。

 

「今はいない人を頼ってもどうしようもないだろトーロ。そう騒ぐくらいなら、案の一つ二つ考えてみたらどうだ?」

 

「な、なんだとイネス!?」

 

 イネス君の言葉にトーロが反応して、その場に険悪な雰囲気が漂った。

 まったく、今はそんなことしてる場合じゃないってのに・・・

 

「トーロ、イネス、二人とも止めるんだ。」

 

「―――チッ、仕方ねぇな。」

 

「失礼したね。」

 

 ユーリ君の仲介でその場は収まったが、これでは会議の流れが途絶えてしまった。

 しばらく沈黙が続き、私も思考を巡らす。

 

 

 ―――奇襲で敵の混乱を誘うなら、その間に何隻の敵艦を落とせるのかが肝心ね・・・

 

 

 奇襲を狙うなら、その間に一気に攻勢に転じて畳み掛けるのが定石だ。しかし、そのための戦力には不安が残る。

 

 

 ―――ここでハイストリームブラスターを使うか・・・いや、あれはエネルギー反応が大きいし、いくら敵が混乱していても、相手は俊敏な駆逐艦や水雷艇だ。混乱を立て直した艦には躱されてしまうわ。それに出力の落ちたハイストリームブラスターでは、そこまでの有効被害直径は望めないか・・・

 

 

 一度ハイストリームブラスターの使用も検討に入れたが、相手にするのが足の速い駆逐艦や水雷艇なのに加えて、そもそもの有効範囲が狭い。派手な見た目なので混乱を継続させることはできそうだが、エネルギー消費と戦果という点では釣り合わないだろう。

 

 

 ―――う~ん、どうしたら良いかしら―――

 

 

 思考に行き詰まって、頭を抱える。

 

 

 ―――ん、ちょっと待った。別にハイストリームブラスターを敵に向けてぶっ放す必要は無いわ。・・・よし、これだ。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

 私が声を発して、ざっと注目が集まる。

 

 それから作戦の概要を説明すると、多少の反論はあったが、最後は概ね私の作戦に同意する形で会議は幕を閉じた。

 

 会議を終えた私達は、艦隊の修理が済み次第出港して、ファズ・マティ方面に向けて舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜スカーバレル海賊団本部・人工惑星ファズ・マティ〜

 

 

 

 

 

 

 

 エルメッツァ宙域の辺境の小惑星帯に浮かぶこの灰色の人工惑星こそ、この宙域全体を荒らし回る海賊団の住処、ファズ・マティである。直径300km程の球体の人工惑星は、とても一海賊が作れるようなものではないが、彼等がそれを保有しているという事実は、海賊団の規模と、この海賊団が如何に略奪を繰り返してきたかという事を如実に示していた。

 そんなファズ・マティにある海賊団のボス、アルゴン・ナラバタスカが居を構える司令塔で、拠点周辺の警戒を担当する監視係の海賊は、ファズ・マティからメテオストームを繋ぐ唯一の航路、ファズ・マティ回廊に設置されたセンサー類に一際大きな反応があったことを捉えた。

 その反応をキャッチした下っ端の海賊は、自分の想像を越えた規模の反応を目にして飛び上がり、早速自分達のボスであるアルゴンに報告する。

 

「アルゴン様、"回廊"のセンサー群に反応です!それもかなり大きい奴です!!」

 

「ホゥ、それは一大事だ!直ぐに艦種の特定をしたまえ!」

 

 下っ端の海賊が浮き足だった態度で報告するので、アルゴンの対応も真剣なものになる。

 アルゴンの頭の中では、2種類の可能性が浮かんでいた。一つはたまたま迷い込んだ0Gドックの船団の可能性だ。事実、年に数回は資源等を求めて採掘業者や他の0Gドックがメテオストームを越えてくることがある。今回捉えた反応も、このような船団なら"美味しく頂く"腹積もりであった。

 しかし、もう一つの可能性なら、それはアルゴンを含む海賊団にとって死活問題だ。それも、討伐艦隊の進入である。

 アルゴンは過去に一度エルメッツァの海賊対策艦隊にファズ・マティ宙域に進入されていた。そのときは相手の練度もあって、討伐艦隊を倒すのにそれなりの犠牲を強いられたアルゴンは、それ以来、以前から行っていたエルメッツァ軍への浸透工作を強め、軍高官に"山吹色のお菓子"もバラ蒔いた。さらにそうして懐柔した高官を通して海賊討伐に積極的な指揮官を失脚させ、自分達の領域に侵攻されないように工作を仕掛けていた。

 しかしそうした工作も万全とはいかない。事実、隣のラッツィオ宙域の拠点に侵攻した中央政府軍のオムス・ウェル中佐は、自らの諜報部隊を軍内部にも放って自らの失脚を目論む高官の不正を暴き、それを楯に海賊対策に戦力を割くことを容認させていた。

 だが、そうした指揮官が部隊を動かせば、それは直ちにアルゴンの耳に入るように"お願い"してあるのだが、今回はそうした報告は入っていない。

 さらに、アルゴンは自身の居城たるファズ・マティ周辺には、可視光や赤外線などを観測したり、インフラトン反応を捉えるタイプなど、様々な種類のセンサーを無数にばら蒔くことで、万が一アルゴンの目を掻い潜って艦隊を動かしてファズ・マティ討伐に現れる軍の艦隊を警戒していた。これらのセンサーは廃品を流用したものも多々あり、お世辞にも精度は良いとは言えないが、進入者の規模を探知するには充分な性能を有していた。そのセンサー群は、万が一の備えという側面もあるが、普段は"獲物"を探知するために使われている。なので、普段なら反応があった程度では騒ぎにならないのだが、今回はその反応がかなり大きいとのことなので、アルゴンも真剣になっていた。

 

 一方、艦種の特定を担当した海賊は、表示された艦種を目にして再び驚愕して目を丸くしていた。

 センサーに捕らえられたのは1000m程度の戦艦クラスの反応が3隻ほどで、通常ならそのクラスの反応となればエルメッツァが売り出しているグロスター級戦艦かビヤット級輸送艦の2種類なのだが、グロスター級は保有している0Gドックの数が少ないので、普通は後者のビヤット級が普通だ。ビヤット級とは、エルメッツァの隣国カルバライヤ星団連合が売り出している大型貨物船で、そのペイロードの大きさと耐久性から官民問わず愛用されている艦種だ。勿論、海賊にとっても獲物という意味ではこの上なく最高の存在である。しかし、照合で表示された艦種はそれではなかった。

 

「アルゴン様、艦種の特定が完了しました!」

 

「読み上げたまえ。」

 

「へい!艦型不明の戦艦クラスが3隻、サウザーン級巡洋艦が3、それに駆逐艦クラスが5隻、後続に大型艦が2隻です。内サウザーン1隻と駆逐艦2隻は、外見からラッツィオをヤった連中の艦です!」

 

「何だと、あの小僧の艦か!」

 

 アルゴンの隣に座っていた元ラッツィオ宙域のスカーバレルのトップ、バルフォスは下っ端の報告を聞いて立ち上がる。彼は、自らの拠点を中央政府軍のオムス艦隊と組んだ若い0Gドック、ユーリによって壊滅させられ、このファズ・マティまで逃げ延びてきた"落ち武者"だった。なので、その0Gドックに対する恨みも相当なものだ。

 

「それに、大型艦の艦影を照合したら、例の"海賊狩り艦隊"の連中のものです!」

 

「ホーホーイ、そりゃ大変だ!全艦隊出撃じゃよ!出せる艦は全て出せ!!」

 

 下っ端の報告を聞いたアルゴンは、直ちに全艦隊の出撃を命じる。報告にあった"海賊狩り艦隊"とは、つい最近現れた謎の超弩級戦艦を中心とする10隻程度の艦隊で、その全てが小マゼランの如何なる艦船とも異なる姿をした艦船で構成され、さらに性能も大マゼラン並という、この近辺の宇宙島では、0Gドックとしては間違いなく最強の部類に属する艦隊のことだ。彼等はつい2週間ほど前にオズロンド周辺で活動していた仲間を屠ったのを皮切りに、数十隻の水雷艇や駆逐艦を撃沈または鹵獲し、10隻以上のオル・ドーネ級巡洋艦と、スカーバレルでも貴重な実弾搭載型の巡洋艦ゲル・ドーネを葬っていた。その噂は瞬く間に海賊団全体に広がり、それはアルゴンの耳にも入っていた。彼は下っ端のいう"海賊狩り艦隊"の強さが本当なら生半可な戦力では太刀打ちできないと考え、持てる全戦力をぶつけて性能の差を覆そうと考えた。さらに、相手は高度な技術の下で建造された高性能艦の可能性が高いと考えたアルゴンは、"海賊狩り艦隊"の技術を奪うことで、自らの海賊団をさらに発展させようという野心も抱いていた。大マゼラン製に匹敵する性能の艦船なら、例え残骸レベルのものでも、この小マゼランでは貴重な資源となったりもする。性能で上回る大マゼラン製の艦船には、往々にして小マゼランよりも精度の高い部品が使われているからだ。

 

 そして、彼の命令で、怠惰な雰囲気の漂うファズ・マティは臨戦体勢に早変わりし、各々の海賊達はでかい"獲物"の存在に浮き足立っていた。彼らとて、正体不明な"海賊狩り艦隊"に恐れを感じている訳ではない。しかし、敵はたかが10隻程度、この数百の海賊船を擁するファズ・マティの手にかかれば撃沈も時間の問題だと考えていた。さらに、彼等の艦船に白兵戦を挑み、大将首を討ち取ることで、海賊としてさらに名声を高めようと目論む海賊すら存在したほとだ。

 自分達のホームグラウンドであることで強気になった海賊達は、自分達の艦のエンジンに火を入れ、慌ただしく飛び立っていく。

 

 その最終的な内訳はジャンゴ級水雷艇が26隻、ジャンゴ/A級水雷艇が40隻、フランコ/A級水雷艇が72隻、ガラーナ/A級駆逐艦が28隻、ゼラーナ/A級が13隻、オル・ドーネ/A級巡洋艦が7隻、ゲル・ドーネ/A級ミサイル巡洋艦が3隻、総計196隻の大艦隊だった。

 

「兄弟、ワシも出るぞ、あの小僧にこの怨念、返させて貰う!」

 

「おう、吉報を待っておるよ。」

 

 かつて自分の拠点をユーリに潰されたバルフォスも、復讐のために自身の新たな乗艦に足を運んだ。

 

 スカーバレル主力艦隊が抜錨して程なくした後、ファズ・マティからは、黒い塗装をした鋭角的な三胴型の重巡洋艦が出航した。バルフォスの座乗するカルバライヤ製の強力な重巡洋艦、バゥズ級だ。

 そのバゥズ級に従うように、彼と同じようにラッツィオから落ち延びたガラーナ級駆逐艦2隻、ゼラーナ級駆逐艦2隻、ジャンゴ級水雷艇3隻とフランコ級水雷艇5隻が続く。

 

 

 

 

「ふははっ、待っていろ小僧!今度こそ、このワシが叩き潰してやるわ!!」

 

 

 

 復讐に燃えるバルフォスの高笑いが、バゥズ級の艦橋に響いた。

 




次回はいよいよ艦隊決戦になります。本作で初めての大規模な艦隊戦なので、気合い入れていこうと思っています。


それと今後出してほしい兵器、艦船の要望などありましたら、感想欄のほうに遠慮なく書き込んで頂いて構いません。今後の出演は100%の保証はできませんが、できるだけ要望には応えるつもりです。筆者はマクロスとガンダムはそこそこ知っているので、それらの作品からいくつか新兵器を投入しようと考えています。


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第二五話 奇策の艦隊決戦

英語版の無限航路(infinite space)のwikiを覗いてきたのですが、艦船の解説は日本版のほうが充実しているようです。本家の意地を見せていますね。

どうも、英語版だと艦船のクラス名は全く異なるようです。大半は解読できませんでしたが、エルメッツァの艦船には見慣れた名前がいくつかあって助かりました。グロスター級は「ボロディノ」、オル・ドーネ級は「リューリク」、ガラーナ級は「ノヴィーク」、ゼラーナ級は「グネヴヌイ」と呼ばれているそうです。いずれもロシアやソ連に同名の艦艇があったので、これはすぐに分かりましたね。資料集だとカルバライヤがソ連のイメージらしいですが、そんなことはお構い無しのようです。

ちなみに筆者の国別のイメージですが、エルメッツァは何となくイギリスのイメージがありますね。逆にソ連のイメージがある国は無限航路のなかでは見当たりませんw


 

【イメージBGM:東方永夜抄より 「エクステンドアッシュ 〜蓬莱人」】

 

 

 

 

 

〜ファズ・マティ回廊宙域〜

 

 

 

 

小惑星帯に浮かぶスカーバレル海賊団の拠点、人工惑星ファズ・マティ。その人工惑星に通じる、小惑星帯にできた狭い航路には、200隻近い海賊船が進入者を撃滅せんと行軍していた。

 

その航路にひしめき合う海賊船の内訳は、艦首に大口径砲を装備したジャンゴ級水雷艇が26隻、一般的なミサイルと小型レーザーを装備したジャンゴ/A級水雷艇、フランコ/A級水雷艇がそれぞれ40隻と72隻、異色の艦載機搭載型駆逐艦、ゼラーナ/A級が13隻、砲戦と水雷戦に特化した主力駆逐艦、ガラーナ/A級が28隻、大口径軸線砲2門を有し、高い攻撃力を誇るオル・ドーネ/A級巡洋艦が7隻、スカーバレルでは極少数の、実弾を主兵装とする決戦巡洋艦、ゲル・ドーネ/A級巡洋艦が3隻、総計196隻の大艦隊だ。

 

対して海賊達が捕捉した侵入者の艦隊は、艦型不明の戦艦クラスが3隻、スカーバレルが主に活動するエルメッツァ宙域ではポピュラーな巡洋艦、サウザーン級が3隻、駆逐艦クラスは艦型不明のものが3隻、エルメッツァでは最新の海賊対策艦アーメスタ級が2隻、さらに後方には戦艦クラスの大型艦が2隻随伴しており、うち一方はその形状から空母と見られていた。

海賊達は、侵入者のうち赤く塗装されたサウザーン1隻とアーメスタ級は、つい最近エルメッツァ・ラッツィオ宙域のスカーバレルを軍と共同で叩き潰した艦隊のものと同一であることを把握していた。さらに艦型不明の艦船を多数擁する艦隊も、つい最近現れた海賊狩りを生業とする艦隊であることが出撃した海賊達に知らされており、海賊艦隊の指揮官達は、自分達の仇敵とも言えるこの2つの艦隊を前にして、気を引き締めた。

 

だが、海賊達は幾ら相手が自分達スカーバレルに苦汁を舐めさせ続けた艦隊だといえ、目の前の進入者に負けるとは思っていなかった。

その最大の理由は、何といっても数である。

侵入者の艦隊で確認できたのは13隻、対してスカーバレル艦隊側は196隻もの大艦隊である。確かに相手はスカーバレルが持たない戦艦や空母を保有していたとしても、数の暴力で打ち倒せると彼等は考えており、確かにそれは事実であった。

そして、ここは何といってもスカーバレルの本拠地近く、いわば彼等の庭先と言っても過言ではない。この宙域における戦闘でのアドバンテージは、絶対的に彼等が握っている。

 

そんな理由もあって強気になった海賊達は、いの一番に侵入者を討ち取ろうと、各艦はこぞって加速を続ける。そこには正規軍のような統率などは一切ない。彼等はあくまで海賊、自分達の欲望に忠実な集団であり、その艦隊運動にも、そんな彼等の特徴が如実に表れていた。

 

「間もなく侵入者の艦隊と接触しまっせ!」

 

「よぉし、全艦隊、戦闘準備だ!」

 

侵入者との予想会敵時刻が迫り、海賊艦隊は戦闘に備える。

 

「隊長、敵艦隊を確認しましたぜ!距離23000だ!」

 

海賊のレーダー管制士がそのレーダーに進入者の反応を捉え、指揮官に報告した。

 

「全艦、APFシールドの出力を戦闘態勢まで上げろ!突撃用意だ!」

 

旗艦のゲル・ドーネ/A級に座乗する指揮官が、配下の艦隊に命じる。海賊艦隊は基本的に小型快速艦艇を主力にしており、敵に接近してミサイルや小型レーザーを叩き込む水雷戦を主軸に戦っていた。なので、指揮官は今回も自分達のセオリーに従い、突撃の用意を命令した。

 

「隊長、敵の数が報告と合いません!ラッツィオをヤった連中の姿が見えねぇ!」

 

そこで、再びレーダー管制士が報告する。彼の報告によれば、ラッツィオの拠点を攻略した赤い艦隊の姿が見えないらしい。その報告を受けて、指揮官は警戒心を引き上げる。

 

―――連中は俺達に比べて数が圧倒的に少ねぇ。これは何か、搦め手を用意しているな?

 

報告を聞いた指揮官は、相手が数の差を覆すために、何かしらの作戦を用意していると踏んだ。しかし、頭の悪い下っ端海賊達は、そこまで頭が回らないようだ。

 

「ハッ、連中、俺達の数にビビって逃げやがったな、いい気味だぜ!」

 

「ヒヒッ、やっぱ俺達には叶わねぇか!」

 

頭の悪い海賊達は勝手に相手が撤退したと思い込み、勝手に強気になっていく。その様子に、指揮官は頭を抱えた。

 

「お前ら、油断するんじゃねぇぞ!それでもまだ"海賊狩り艦隊"が残ってるんだ、気ぃ引き締めてかかれ!!」

 

「ア、アイアイサー!!」

 

指揮官はそんな部下達を喝破し、戦闘に集中させる。

 

「た、隊長、敵戦艦のエネルギー反応増大!攻撃が来ます!!」

 

「TACマニューバパターン入力、回避だ!」

 

海賊艦隊が未だ敵に肉薄を続ける中、侵入者の戦艦は、その射程を活かして海賊艦隊に対して距離22000の位置でアウトレンジ砲撃を開始する。

その様子を確認した海賊艦隊は、各々が攻撃を避けようと、回避機動を開始し、艦体各所のスラスターを吹かせた。その艦隊運動にも統率が見られない辺りは流石に海賊といったところか、各々の艦は、自分達のパターンで回避機動を展開する。

しかし、そんな海賊艦隊を嘲笑うかのように、侵入者の戦艦の砲撃が前衛の水雷艇を掠めた。その水雷艇のAPFシールドは、戦艦クラスのレーザー光に焼かれ一気に出力を落とした。さらに、一度に大量のエネルギーを受け止めたことによりシールドジェネレータが負荷に耐えきれなくなり暴走、シールドを消失させた。

 

「敵の砲撃、前衛の水雷艇を夾差!」

 

海賊のオペレーターが報告する。

夾差とは、現在では自艦の撃った砲撃が敵艦の至近に着弾することを差し、あと少しの射撃緒元の調整で確実に当たるという状態だ。いくら科学が発達したこの宇宙と言えど、戦闘時の相対速度が最大で光速の十数%に達する艦隊戦では、遠距離砲戦で初弾から至近弾を出すのは難しい。侵入者の戦艦がそれを成し遂げたことは、敵がそれだけ高性能な演算機器を搭載しているか、腕のいい砲術士がいるか、あるいはその両方だということを海賊の指揮官に悟らせた。それは同時に、距離を詰めなければ自分達は一方的に撃ち減らされることを意味する。数だけは多い海賊なので、全艦撃沈ということはないが、一方的に撃破されるというのは士気に関わる。

 

「全艦、突撃だ!距離を詰めろ!」

 

海賊の指揮官は、敵に隙を与えまいと、自分達の射程に捉えるべく、艦隊に突撃を命じる。海賊の主力とする駆逐艦のレーザーの最大射程は凡そ距離15000、オル・ドーネ級の対艦軸線砲も距離18000に達しなければ使用できない。さらにミサイルに至ってはさらに射程が短いため、侵入者に攻撃するためには海賊は接近を続けなければならない。

海賊艦隊はその命令に従い、進入者の艦隊に一撃を浴びせんと、各艦が思い思いのタイミングで加速を始めた。

 

「敵の第二射、来るぜ!」

 

「何っ、早い!」

 

海賊が加速を始めたそのタイミングで、侵入者の戦艦2隻のエネルギー反応が再び増大し、再度砲撃を放った。

 

「TACマニューバパターン入力が追い付かねぇ!」

 

「馬鹿!間に合わないなら艦首シールド出力を上げさせろ!」

 

操舵手はその砲撃を躱そうと回避機動を試みるが、意図しないタイミングで放たれた砲撃には間に合わない。それに気付いた指揮官は、艦首のAPFシールドの出力を上げさせ、被弾に備えた。

戦艦から放たれたレーザー光は前衛のフランコ/A級水雷艇2隻を直撃し、1隻は轟沈、もう1隻もシールド出力を大きく削がれ、余波のエネルギーによって大破した。

 

「前衛フランコ級2番艦轟沈!11番艦大破!」

 

「構うな!突撃を続けろ!それと敵のエネルギーパターンをよく見ておけ。回避機動の準備を怠るな!」

 

「アイアイサー!」

 

海賊の指揮官は個々で止まれば一方的に攻撃されるだけと分かっているため、一刻も早く侵入者を射程に捉えんと突撃を続けさせた。しかし、またしても戦艦の砲撃が海賊艦隊を襲う。

 

「クソっまだ来やがる!」

 

「TACマニューバパターン入力完了!回避機動実行だ!」

 

しかし、既に2度砲撃を受けていたため、回避に成功する海賊船も現れる。だが、戦艦の砲撃は相変わらず精密かつ強力で、次は突出していたガラーナ/A級駆逐艦1隻を大破させ、同艦はプラズマ光を迸らせながら、軌道を逸れてクルクルと回転しながら漂流を始めた。さらにジャンゴ/A級とフランコ/A級各1隻が直撃弾を受けて轟沈し、インフラトンの蒼い火球と成り果てた。

 

海賊の指揮官は戦艦としては異例なこの連続射撃に驚嘆したが、彼、いや海賊団全員の認識には、重大な間違いがあった。

彼等が戦艦と認識していたのは、戦艦ではなく重"巡洋艦"なのだ。この重巡洋艦―――霊夢艦隊のクレイモア級重巡は、大抵の小マゼラン製戦艦を軽く上回るほどの戦闘能力を有し、その力は改装次第で大マゼラン製戦艦とも互角に撃ち合えるほどだ。さらに搭載された高出力エンジンは、重巡洋艦としては高い機動力を発揮させ、さらに主砲の発射速度も他の重巡、例としては大マゼランで第一線を張るアイルラーゼン共和国のバスターゾン級高速重巡や、アッドゥーラ教国のバヤーシュ級重巡と比べても遜色ない。海賊達がこの艦を小マゼランの戦艦基準で考えているなら、クレイモア級の主砲発射速度を速いと感じるのは当然だった。しかし、それだけではこの砲撃速度は説明できない。

 

この高速射撃を可能にするもう一つの理由は、砲の形状にあった。

通常の宇宙艦艇の砲は、大口径砲はふつう艦首方向に向けて発射装置ごと固定されて設置されている。この宙域で一般的なエルメッツァのグロスター級戦艦やサウザーン級巡洋艦に、スカーバレルの巡洋艦オル・ドーネ級も、この例に当てはまる。例外的に主砲塔ごと回転させられる機能を持つ艦も存在するが、このクレイモア級はまさしくその一つである。さらに、クレイモア級の搭載する主砲の形状は、大昔の水上戦闘艦のような、砲身が付いた3連装砲塔だ。2隻のクレイモア級はスカーバレル艦隊に対し、3基の主砲のうち各1門ずつ発射する交互射撃という形で砲撃を実行していた。この交互射撃は、一門の砲から放たれたエネルギー弾が飛翔している間に他の砲身にエネルギーを注入し、射撃結果の観測と射撃緒元の修正を済ませた後すぐに次の砲門がレーザーを発射するという方法の実現を確実にした。しかも、3本の砲身のうち1門だけがレーザーを発射、もう1門が次弾を装填している状態なので、残りの1門の冷却を行うことができるという利点も存在する。砲身の冷却を行いながら砲撃を続けられるので、通常よりも長く砲撃戦を継続できた。通常の砲塔ならこのプロセスは1基の砲塔ごとに行われるので、射撃速度はクレイモア級の方が断然速い。

 

そんな理由を海賊達は知る由もなく、彼等は必死に突撃を続ける。

途中6度の砲撃を受け、さらにガラーナ/A級3隻、フランコA/級11隻、 ジャンゴ/A級5隻が轟沈もしくは大破し脱落するが、彼等は遂に、進入者の艦隊を自分達の射程に捉えた。

 

「敵艦隊、こっちの射程に入りやした!」

 

「よぉし、全艦砲撃開始!射程に入った艦から攻撃だ!!」

 

「アイアイサー、全艦、砲撃開始だぁ!」

 

幾度もクレイモア級重巡の砲撃を浴びせ続けられてきた海賊艦隊は、遂に侵入者の艦隊をその射程に捉えた。先ずは前衛の水雷戦隊に随伴していたジャンゴ級26隻が艦首軸線砲2門を発射、続いて16隻のガラーナ/A級も艦首の固定レーザー砲と2基の連装主砲からレーザーの砲弾を放つ。クレイモア級の遠距離砲撃によって17隻の水雷艇と4隻のガラーナ/A級駆逐艦が轟沈または離脱していた海賊艦隊だが、それでも数はまだ175隻も存在する。その一部が射撃を開始したのだから、弾幕の厚さは進入者の艦隊の比ではない。ただ、練度はお世辞にもお粗末なようで、中々命中弾を与えることができない。

その間も、侵入者の重巡洋艦は回避機動を実行しながら砲撃を継続し、2隻のフランコ/A級を仕留めた。しかし、回避機動を実行しているため、その発射ペースは先程よりも落ちている。

 

「水雷艇戦隊、接敵するぜ!」

 

「へへっ、押せ押せぇ!」

 

自分達の射程に相手を捉え、今までの一方的な状態から脱したため、海賊達の士気は上がる。

 

「前衛艦に通達、手空きの総員は白兵戦の用意だ!」

 

「アイアイサー、前衛艦隊、白兵戦の準備だ!かかれぇい!!」

 

侵入者の艦隊に接近し、水雷艇もその射程に相手を捉えたタイミングで、指揮官は海賊の十八番とも言うべき白兵戦の用意を命令する。彼は前衛の水雷戦隊で相手をいたぶった後、相手の艦隊から略奪を行う腹積もりでいた。流石は海賊である。

彼はあれほどの高性能な艦ならさぞ高く売れる装備が詰め込まれていると考え、その瞳を欲望でぎらりと光らせた。

 

「艦長、旗艦から通信だ!白兵戦用意だってよ。」

 

「よーし、手空きの連中は武器をもってエアロックに待機しろ!」

 

「「ヒャッハァ、根こそぎ戴いてやるぜ!」」

 

「「女、男・・・・・グフフフヘッ―――」」

 

「やらないか。」

 

命令を受けた前衛の海賊船でも、白兵戦の後にある"ご馳走"を想像して、海賊達は下衆な笑みを浮かべた。もっとも、此方には指揮官とは違った方向の欲望を抱いている連中も大勢いるが。

 

「敵に命中弾だ!」

 

砲撃を続けていた前衛艦隊が、遂に侵入者の重巡洋艦に命中弾を与える。

命中したレーザーの光は重巡洋艦のAPFシールドに減衰され、シールドの表面にプラズマ光を撒き散らす。

 

「よし、撃って撃って撃ちまくれ!砲身が焼き付くまで撃ち続けろぉ!」

 

「アイアイサー、主砲、全門発射ァ!」

 

命中弾を与えたことによりさらに強気になった海賊達は、さらにその士気を上げ、突撃を続ける。

前衛の水雷艇や駆逐艦に続いて、後方に展開していたオル・ドーネ/A級巡洋艦の戦隊や、取り巻きの駆逐艦も砲撃を開始した。

 

174隻の海賊船の大半が侵入者の艦隊をその射程に捉えていたため、その弾幕は圧巻の一言に尽きる。海賊船が撃ったレーザー光は大半が虚空へと消えていくのだが、何せ母数が多いのだ。その一部が進入者の重巡洋艦に命中しただけでも、それなりの量の命中弾が発生する。そして命中弾の量は、海賊艦隊が侵入者の艦隊に近づくにつれて次第に多くなっていく。

 

一方の侵入者の艦隊は、前衛の重巡洋艦2隻こそ未だに全力砲撃を継続し、その度に海賊船の存在を示すアイコンが旗艦のモニターから消えていくが、全体で見ればまだまだ被害は軽い方だ。

さらに絶え間なく海賊艦隊の砲撃を受け続けたことにより、シールドの出力が部分的に低下し、そこを海賊のレーザーが貫き、装甲の表面を焼いていく。流石に大マゼラン製戦艦とも互角に撃ち合えるクレイモア級重巡のバイタルパートを貫通できるほどの威力はないが、それでも海賊達は、自分達の砲撃が当たることで、次第に勝利を確信するようになる。見ろ、敵はつい先程とはうって変わって一方的に攻撃されてばかりではないかと。これでは、自分達の勝利は時間の問題だと海賊達は考えていた。

 

「敵艦隊、反転していきますぜ!」

 

「へへっ、流石にこの数には叶わねぇか、ぁあ!?」

 

恐らく懐に飛び込まれて手が出せなくなる前に逃げようという算段なのだろう。

一方的に攻撃され、反転を始めた侵入者の艦隊を目にして、海賊の中には中指を立てて挑発するものまで現れた。無論、侵入者の艦隊にそれは伝わることはないが。

 

だが、今まで海賊艦隊に破壊を振り撒いてきた2隻の重巡洋艦は、他艦と異なり交代せず、主砲を撃ち続けている。おそらく殿を務めるつもりだろう。

 

「野郎共、あの戦艦から頂くぜ!」

 

「アイアイサー!機関最大戦速!」

 

海賊達は先ずは殿を務める重巡洋艦から白兵戦を仕掛けようと、一気に加速して距離を詰める。

 

だが、そこで1隻のフランコA/級水雷艇が轟沈し、海賊達は浮き足立った。

 

「フランコ67番艦轟沈!な、何だぁ?」

 

「こ、小型のエネルギー反応多数!艦載機だ!」

 

そこで、海賊達は自分達の周りに飛び回る影を見た。侵入者の艦隊が放った艦載機の群れである。

 

海賊前衛艦隊の周りを飛び回る艦載機の群は、手頃な目標を見つけると、パイロンに搭載した対艦ミサイルをぶつけ、別の機体は背面に搭載した大型レーザーの砲撃を浴びせて、海賊艦隊の戦闘力を削いでいく。

さらに、海賊達は奥で沈黙を守っていたもう1隻の大型艦が動き出したのを確認した。

その大型艦は、艦首から艦体中央まで延びる赤いラインの位置を開き、そこから4枚の翼を持った新たな戦闘機の群を発進させた。

 

「クソっ、増援だ!」

 

「前衛より本隊へ、敵の艦載機だ!ゼラーナから援護機を出してくれ!」

 

《了解した。直ちに向かわせる!》

 

前衛艦隊が艦載機の襲撃を受けたとの報せを聞いた指揮官は、配下のゼラーナ/A級に対して艦載機の発進を命令する。

海賊艦隊に属するゼラーナ/A級の数は全部で13隻、1隻あたり9機の艦載機が搭載可能なので単純計算で117機の艦載機が搭載可能なのだが、生憎スカーバレルは自前の艦載機生産設備を持っておらず、基本的に軍からの略奪品でしか艦載機を保有していない。なのでここのゼラーナ/A級に搭載されている艦載機の数は定数を満たしていないが、それでも70機近い艦載機を揃えていた。

海賊の指揮官はその全てを前衛艦隊の援護に差し向けるよう命令し、ゼラーナからは次々と軍から頂いた〈LF-F-033 ビトン〉戦闘機と〈LF-F-035 フィオリア〉戦闘機を発進させる。

 

発進した海賊の戦闘機隊は編隊を組まず、そのまま侵入者の艦載機隊と戦闘に入る。しかし、性能とパイロットの腕では海賊側は負けているようで、小数の進入者の艦載機隊に対して苦戦を強いられた。だが、鬱陶しい蠅がいなくなったとばかりに、障害となる進入者の艦載機が自分達の艦載機隊に引き付けられている間に海賊艦隊の一部は2隻の重巡洋艦を包囲、数隻の海賊船はエアロックに取り付いた。

 

「ヒェッヒェッ―――――略奪だ!野郎共、かかれぇ――――!!!!」

 

「「「レッツパーリィ―――――!!」」」

 

海賊達はエアロックから艦内に流れ込む。しかし、すぐに海賊達はその足を止めた。

 

「な、何だぁ、こいつら?」

 

「おいバカ、さっさと撃・・・・・ガハァッ!!!」

 

そこで海賊達が見たのは、ずらりと一列に並んだ2mを越すサイズの装甲服、機動歩兵改の群である。

機動歩兵改は艦内に侵入者の存在を認めると、その腕に備え付けられた2基の13mmガトリングレーザー機銃を躊躇いなく海賊達に向け発射し、その場に物言わぬ屍を量産していく。

 

「う、うわあああっ、逃げろぉぉッ!!」

 

「いやだ、死にたくないッ!」

 

 

先程まで活気付いていた海賊達は、ここで圧倒的な存在を前にして総崩れとなり、自艦に退却していく。普段から己の欲望に従って生きてきた海賊達は、軍隊のように戦場に留まって戦うという選択肢を持たない。ただ、己の生命を繋ぐために、我先にと仲間と押し合いながら逃げていった。

しかし、そんな海賊達を機動歩兵改は見逃さなかった。機動歩兵改の群はガトリングや迫撃砲を放ちながら海賊船内に侵入する。その過程で、海賊船内にはさらに海賊達の屍が積み上げられた。そこまで来たら何故か機動歩兵改の群は進路を変え、海賊達の目の前から姿を消した。

 

「た、助かった、のか?」

 

そこで安堵の声を漏らした海賊達だが、そこで終わりではなかった。

異常は、ブリッジで起こっていた。

 

《な、何だてめぇら、ぐわあああっ!》

 

《クソっ、この野郎!あべしっ!!》

 

通信機から、ブリッジクルーの悲鳴が次々と聞こえてくる。

 

「な、何なんだ・・・うおわぁッ!!」

 

続いて艦が激しく揺れ、エアロックの接続が解除され、海賊船は重巡洋艦から離れていく。

 

 

この機動歩兵改の群は、海賊船を乗っ取ったのだ。

 

 

ブリッジに取り付いた機動歩兵改のうち、1体が艦長席に陣取って頭部から触手のようにケーブルを伸ばして艦長席のコンソールからそれを配線に接続し、艦の制御系統を乗っとる。その周りを、5、6体の機動歩兵が護衛する形で展開していた。

 

このような過程で乗っ取られた海賊船はガラーナ/A級が3隻とフランコ/A級が3隻、ジャンゴ/A級が2隻だ。

 

乗っ取られた海賊船のうち、ある艦は仲間だった海賊船にレーザーやミサイルを向け、突然の裏切りに動揺した海賊船を攻撃し、混乱した海賊船は立ち直れないまま轟沈した。またある艦は別の海賊船に取り付いてさらに機動歩兵改を送り込み、海賊艦隊の中でウイルスが蔓延するように、機動歩兵改に乗っ取られる艦が続々と現れる。

海賊が混乱から立ち直るまでに撃沈された艦は、ガラーナ/A級が1隻、ジャンゴ/A級が3隻、フランコ/A級が11隻に及んだ。一方で乗っ取られた艦は、ガラーナ/A級が5隻、ジャンゴ/A級が3隻、フランコ/A級が7隻だ。つまり、海賊艦隊はこの間に35隻の艦艇を失い、敵が20隻増えてしまった計算になる。無論、乗っ取られた艦には海賊クルーが乗ったままだ。しかし、機動歩兵改は敵を殲滅するため、中の海賊クルーのことなど考えずに艦を動かし、急激な機動で海賊クルー達は体の至るところを打ち付けられ、何かに捕まるのがやっとの状態だった。こんな状態では、艦の奪還など望むべくもない。

 

「クソっ、何が起こっているんだ!」

「落ち着け、こちらに攻撃してくる艦を冷静に狙うんだ!」

「そ、それが、攻撃できねぇんだ!!」

 

「な、何・・・・だと・・・・!?」

 

ここで、IFF(敵味方識別装置)の話をしておこう。IFFとは、文字通り敵と味方を識別する装置のことで、通常は所属を明らかにするため、軍ならその国の軍隊、0Gドックなら0Gドックの信号を発信し、己の身分を明らかにする。これが戦闘になると、レーダーで捉えた相手に対して仲間か否かを問いかけ、その応答をもって敵か味方かを判別する。敵やそれに準じる艦なら火器管制レーダーで照準が可能になり、味方なら誤射を防ぐため、自動的に火器管制のロックが解除出来ない仕組みになっている。

しかし、機動歩兵改が乗っ取った艦はこの信号の更新が行われていないため、IFFの表示はスカーバレル海賊団のままであり、スカーバレルの艦なら攻撃したくてもロックが解除出来ないのだ。先程海賊が撃てないと叫んだのも、これが原因だ。一方で、霊夢艦隊の艦は機動歩兵改から送られてくる信号をもって識別をつけているので、こちらは同士討ちは発生していない。

 

さらに前衛の海賊船の中には、疑心暗鬼に駆られ、近くの海賊船を手当たり次第に攻撃し出す者まで現れ始め、さらに混乱を拡大させた。

 

「こうなったら手動で狙え!火器管制システムをカットしろ!」

 

「あ、アイアイサーっ・・・!」

 

IFFのせいで乗っ取られた艦を狙えなくなった海賊は、手動操作に切り替えることによって、何とか攻撃を可能にした。しかし、艦隊戦では互いの相対速度が光速の十数%にも達する場合がある中で、人力で照準をつけるのは至難の技だ。幸い互いの距離が近く、あまり速度を出していなかったため、照準はつけやすい方なのだが、お粗末な練度の海賊砲手には荷が重い仕事だったようだ。反撃を開始した海賊の砲撃は、なかなか乗っ取られた艦には当たらない。

 

「お、お頭・・・前衛が・・・」

 

その様子は、海賊の指揮官にも見えていた。むしろ、前衛を俯瞰できる位置にいたため、前衛にいる海賊達よりも詳細に状況を把握できてしまった。

前衛艦隊はその数が仇となり、内側で暴れる裏切り海賊艦隊に思うように照準をつけられず、無理矢理撃っても外すどころか、裏切り海賊船の後方にいた別の海賊船に被弾し、同士討ちが多発していた。

 

自分達は、先程まで勝っていた筈、なぜ、前衛はあんなに総崩れになっているのかという思いが、指揮官の頭を支配する。

 

そこで、また別の部下が息を詰まらせたような声で、恐る恐る報告する。

 

「た、隊長・・・後ろを・・・!」

 

「何、後ろ・・・ッ!!」

 

彼は部下に言われるまま、自艦の後方に目を向ける。

 

 

 

 

 

そこには、極太の赤い閃光が、スカーバレルの本拠地、ファズ・マティを掠めながら突き進んでいく光景が見えた。

 

 

 

 

 

 

「な、何だ・・・・あれは・・・・!?」

 

海賊の指揮官は、今まで見たこともないその莫大なエネルギーの光を目にして、その場に立ち竦んだ。

 

《こちらファズ・マティ!現在俺達は奇襲を受けている!艦隊は早く戻れ!ファズ・マティを防衛しろ!!》

 

自分達の本拠地、ファズ・マティから届いたその悲鳴にも似た要請に、海賊達の思考は停止する。敵は目の前にいる筈、なぜファズ・マティが奇襲を受けているのか、と。

その通信は海賊艦隊全艦に向けられていたため、海賊達の混乱は艦隊全体に、一気に伝播した。

 

さらに旗艦のブリッジでは、立て続けに海賊オペレーターの悲鳴にも似た報告が寄せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより 「シズメシズメ」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵機、直上!!」

「な、何だと!」

「たっ、対空砲火ァ!」

 

そこで海賊オペレーターは、レーダーで自らの艦の直上に、突如として現れた艦載機の反応を確認した。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

それは、霊夢艦隊のステルス戦闘攻撃機、〈F/A-17S〉の群だった。

この攻撃機群は持ち前のステルス性に加えて、機体は黒く塗装されており、宇宙空間での視認性を低下させていた。

 

「クソっ、艦載機は・・・」

 

そこで、海賊の指揮官は、配下のゼラーナの艦載機を全て前衛の援護に回していたことを思い出す。嵌められたと思った彼だが、もう遅かった。

 

「さらに直下より急速接近する艦隊あり!これは・・・・ラッツィオをヤった連中の艦隊だ!」

 

さらに、海賊旗艦の直下から、1隻の赤いサウザーン級巡洋艦と2隻のアーメスタ級駆逐艦が急速接近し、旗艦の混乱に拍車を掛けた。

 

「敵機接近!」

 

遮るものがいない黒いステルス機の群は、旗艦のゲル・ドーネ目掛けて攻撃態勢を取る。

海賊艦隊のレーダーには、この機体はステルス性のため接近までは反応がなく、攻撃のため弾倉のハッチを開いたことにより初めて捕捉された。そのため、海賊オペレーターには、戦闘機が突如として出現したように見えたのだ。

この機体群は海賊艦隊旗艦の直上に現れると、搭載したT-3対艦ミサイルを放つために、弾倉を開き、4発全てのミサイルを発射した。攻撃隊は全部で16機、そのうちの半数近くに及ぶ7機の機体がミサイルを旗艦に向けて発射する。その数、28発。数発ではそこまで深刻な被害を与えるのが難しい艦載ミサイルだが、これほどの数を集中すれば巡洋艦クラスなどは唯ではすまない。しかも、放った目標は対艦ミサイルを196発も搭載した武器庫艦とでも言うべきミサイル巡洋艦、ゲル・ドーネ/A級である。その結果など言うまでもないだろう。

 

対艦ミサイル28発のうち5発は何らかの妨害によりその軌道を外れるか、撃墜された。この状況での、咄嗟の対応としては誉められた方だろう。しかし、それは狙われた旗艦のゲル・ドーネに乗る海賊達には何の慰めにもならなかった。

残った23発の対艦ミサイルは、ゲル・ドーネ級の艦橋、メインノズル、ミサイルコンテナに被弾し、炸裂する。

艦橋でミサイルが炸裂したことにより、海賊の指揮官は指示を出さずして炎に焼かれ、ダークマターへと還った。

さらにミサイルの命中によりミサイルコンテナでは誘爆が発生し、196発の対艦ミサイルの破壊力がコンテナ内で発揮される。狭いコンテナ内でその力は当然収まりきらず、爆発は艦体全体に拡大し、ゲル・ドーネを飲み込んだ。

そこに残っていたのは、ついさっきまでフネだった何かでしかなかった。

 

「ああっ、旗艦がやられた!」

 

「落ち着け、指揮を引き継ぐん―――」

 

別のゲル・ドーネでは、混乱を立て直すために指揮を引き継ごうとするが、それも果たされずに終わった。

 

残りのゲル・ドーネは優先的に狙われ、黒いステルス機は艦橋に向かって機銃掃射を行い、対艦ミサイルの群を叩きつける。程なくして、残りのゲル・ドーネも旗艦と同じ運命を辿った。

 

 

「クソっ、ゲル・ドーネがやられた!」

「黒い艦載機が来るぞ!」

「いやだ、来るな!あっち行けよぉ!」

 

指揮系統の崩壊により、先程までの混乱の影響もあって、海賊艦隊はさらに混乱する。

 

「ゼラーナの艦載機を呼び戻すんだ!」

「駄目だ、既に7割が落とされている!」

 

冷静な海賊はゼラーナ級の艦載機を呼び戻し、黒いステルス機を迎撃させようとするが、既に海賊艦載機隊は侵入者の艦隊が有する戦闘機隊との戦闘により満身創痍の状態だった。

 

そこで、臨時に指揮を代行しようと努めていたオル・ドーネ/A級巡洋艦を衝撃が襲う。

 

「な、何だ!」

 

「こっ・・・後方から攻撃だ!ラッツィオをヤった連中の艦隊です!」

 

海賊艦隊の後方に陣取った赤いサウザーンを中心とする艦隊は、背を向ける海賊艦隊に対して全砲斉射を開始する。後方へ指向できる碌な武装を持たない海賊艦隊は、反転する間に斉射を浴びて、次々と撃沈されていく。

 

「オル・ドーネ4、6、7番艦轟沈!ゼラーナ2、3、9、11番艦もやられた!」

 

「くそぉぉっ!やられてたまるか!反転急げぇっ!」

 

オル・ドーネの艦長は背後の艦隊を排除しようと艦を反転させるが、砲撃でスラスターがいくつか破壊されたらしく、その動きは巡洋艦としてはひどく緩慢だ。

 

「敵機接近!」

 

「な、何っ―――」

 

そこへ、黒いステルス機の群が残りの対艦ミサイルを全て叩き込み、オル・ドーネに次々と命中する。対艦ミサイル複数の直撃を受けたオル・ドーネは爆発でプラズマの光を迸らせながら、忽ちインフラトンの火球と成り果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜巡洋艦〈高天原〉艦橋〜

 

 

 

 

 

 

「どうやら上手くいったようです、将軍。」

 

霊夢艦隊の先代旗艦、〈高天原〉の艦橋で、装甲服に身を包んだコーディが言った。

 

「そうだな、しかし、将軍というのは止さんか。私はもう軍人ではないぞ?」

 

〈高天原〉の艦橋に立つショーフクは、自慢のカイゼル髭を弄りながら、それに応えた。

 

「いえ、こうしていると、昔を思い出すので。」

 

「ははっ、私は作戦通りに艦隊を動かしただけだぞ。別に褒められたような事はしておらん。途中はかなり肝が冷えたがね。」

 

ショーフクが呟く。

霊夢達が立てた作戦は、以下の通りだ。

 

まずは予めユーリの艦隊と〈F/A-17〉の群を敵に探知されないようインフラトンを切った状態でファズ・マティ回廊の上下に配置し、会敵と同時に、本隊の重巡洋艦2隻は交互射撃を行い敵の快速艦艇を撃ち減らす。敵に追い付かれてきたら重巡2隻を残して本隊は一度退却、敵の最後尾が事前に待機させていた部隊に挟まれる位置まで来たら、重巡に海賊船を取り付かせ、白兵戦を挑ませる。この部分は半ば賭けであり、海賊が霊夢艦隊の殲滅に専念していたならば、この作戦はここで破綻していただろう。

しかし、欲深い海賊達は霊夢達の予想通り、この罠に食い付いた。白兵戦を挑んできた海賊達に対して機動歩兵改の大群を"プレゼント"することにより海賊艦隊に混乱を引き起こし、ついでに味方艦も増やす。さらに、ここで戦闘機隊を投入し、敵の艦載機を引き付けておく。

 

ここからは霊夢艦隊の側が攻勢に入り、ひたすら海賊の統率を奪い、その間に戦果を拡大する作戦だ。まずは別行動を取る〈開陽〉がハイストリームブラスターを現在撃てる出力の80%で発射し、小惑星帯に穴を開ける。そこをワープで一気に通過してファズ・マティを奇襲する。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

続いてステルス機の編隊とユーリ艦隊が敵の旗艦を奇襲し、敵の統率を奪う。その後は後方から敵艦隊を挟撃し、包囲殲滅する算段だ。敵はファズ・マティ方面に撤退しようとしても本隊に背を向けることになり、それは重巡2隻の大火力をメインノズルに食らうことになる。しかもファズ・マティ方面は既に霊夢の〈開陽〉が制圧している算段だ。実質、海賊に逃げ場はない。

 

「さて、最後の仕上げにかかるぞ。」

 

そこでショーフクは立ち上がり、マイクを手に取る。

 

《海賊艦隊の諸君に告ぐ。貴君らにはもはや勝ち目はない。ここで大人しく降伏し、我々の道を遮らないというのであれば、この宙域からの離脱を許可しよう。ただし、あくまで戦うというのならば我々は容赦しない。そこには諸君らの全滅が待っているだけである。貴君らの賢明な判断に期待する。》

 

それは、事実上の降伏勧告だった。既に統率が失われていた海賊艦隊は、ほうほうの体で主砲に仰角をつけ、この宙域から逃げ出していく。しかし、少なくない数の敵艦は戦闘を継続したが、これは霊夢艦隊により殲滅された。

 

 

 

最終的に、ファズ・マティ回廊の戦いに於いて、スカーバレル海賊団は投入した戦力のうちジャンゴ級22隻、フランコ/A級58隻、ジャンゴ/A級38隻、ガラーナ/A級23隻、ゼラーナ/A級11隻、オル・ドーネ/A級5隻、ゲル・ドーネ/A級3隻を喪失、残存艦はジャンゴ級4隻、フランコ/A級14隻、ジャンゴ/A級2隻、ガラーナ/A級5隻、ゼラーナ/A級2隻、オル・ドーネ/A級3隻だった。

 

 

海賊艦隊を打ち破ったショーフク率いる霊夢艦隊本隊とユーリ艦隊は、一路ファズ・マティを目指した。

 

 

 




ふぅ、疲れた・・・・

書き始めた時は戦闘は1万字以内に収まるだろうと思っていたのですが、いざ書いてみると戦闘だけで1万字オーバーです・・・なのでここで書きたかった部分のいくつかは次話以降に持ち越します。何気に霊夢が出ない初めての回だw

ちなみに挿絵のF/A-17はメカコレVF-171を使用しています。背景はフリー素材なので問題はないかと。


次話ではスカーバレルとの艦隊決戦の一方で霊夢達が何をしていたか、詳しく描写する予定です。


ちなみにこの話は勢いで書いたので、じきに一部修正されるかもしれません。そのときはさらに1000字くらい増えるかも・・・(笑)


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第二六話 スカーバレル、壊滅す

 〜ファズ・マティ回廊宙域・〈高天原〉艦橋〜

 

 

 

 

「だいぶ片付いたようです。」

 

「そのようだな。」

 

 敵艦隊に混乱を引き起こし、その隙に反転攻勢に出たショーフク率いる霊夢艦隊別動隊の働きによって、今やスカーバレル艦隊は散り散りになり、残存艦は思い思いの方角へ我先にと逃亡している。

 

「む、どうやら、まだ向かってくる奴がいるようだな。」

 

 艦橋に佇むショーフクはモニターを一瞥し、未だ戦闘を継続せんとするスカーバレル小艦隊の姿を認めた。

 

「どうやら敵の増援みたいですが、間に合わなかったようだな。一隻ライブラリにいない艦がいるが、大した問題じゃないな。」

 

 その艦隊は、本隊にやや遅れて出航した元ラッツィオ宙域のスカーバレル頭領だったバルフォスの艦隊だ。

 その戦力は、旗艦と思われる、高い攻撃力と装甲に軽空母並の艦載機搭載量を誇るカルバライヤ製の重航空巡洋艦バゥズ級が1隻と、ガラーナ級、ゼラーナ級の駆逐艦が各2隻、ジャンゴ級水雷艇が3隻、フランコ級水雷艇が5隻だ。霊夢達が有するデータにはバゥズはスカーバレル艦として登録されていないため、不明艦として表示されている。

 これがサウザーン級巡洋艦1隻とアーメスタ級駆逐艦2隻のみを有するユーリの艦隊だけなら大苦戦は免れないだろうが、此処に居るのは小マゼラン銀河も五指に入るほどの性能を誇る艦船を複数有する霊夢艦隊の主力である。幾らバゥズ級が優れた艦であろうと、逆立ちしても叶わないほどの戦力差があった。

 

「ユーリ君、聞こえるかね?あれの相手は我々が行う。君はファズ・マティに急ぎたまえ。」

 

《了解です・・・そちらは任せます!》

 

 ショーフクは通信機を手に取り、ユーリ艦隊を先行するように促す。

 その後、ユーリ艦隊がバルフォス艦隊の進路から外れていくのを確認すると、ショーフクは艦隊のうち旗艦〈高天原〉と重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の3隻と、その右側に駆逐艦〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉を配置して複縦陣を組み、右舷前方から迫るバルフォス艦隊に対して反航戦を挑む。

 

「重巡2隻に命令、砲雷撃戦開始だ。一気に畳み掛けよ。」

 

 ショーフクが命じると、〈高天原〉のコントロールユニットが命令を受諾して2隻の重巡に送信、それを受けた〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の2隻は上甲板の3連装砲塔を敵に向け、射程距離の差を生かしたアウトレンジ砲撃を開始する。

 

 2隻の重巡洋艦はまずは交互撃ち方から始め、弾着をより確実なものとしていく。第一斉射では早速〈ケーニヒスベルク〉の主砲弾がフランコ級水雷艇を直撃、同艦のAPFシールドを消失させた。第二斉射からは敵も回避機動を開始し、全弾不発となったが、重巡2隻は直ちに射撃諸元を修正し、予測された敵の未来位置にレーザーを撃ち込む。ここで重巡のレーザーはガラーナ級1隻、フランス級1隻に命中し、中破の損害を負わせた。

 弾道が良好と見た〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の2隻は直ちに一斉撃ち方に移行し、その重圧な艦体からは18本のレーザー光が放たれた。そのレーザーのうち〈ケーニヒスベルク〉のものはガラーナ級1隻を捉えてこれに降り注ぎ、同艦を撃沈した。〈ピッツバーグ〉はジャンゴ級、フランコ級各1隻を撃沈し、ゼラーナ級に損傷を負わせる。

 

「チッ、小僧を逃がしたか・・・ならば目の前の小癪な連中を叩くだけだ。砲撃開始!」

 

 バゥズの艦橋に佇むバルフォスが、怒気を含んだ声で命じた。

 バルフォスの命令で彼の艦隊も重巡洋艦を射程に捉え、艦首を霊夢艦隊の側に向けて砲撃を開始した。バルフォス艦隊のバゥズは先頭を行く〈高天原〉にレーザー1発を直撃させるが、同艦のシールドをやや削った程度で終わった。それに対して、お返しとばかりに〈高天原〉からもレーザー光が撃ち返され、3本がバゥズに直撃し、バゥズの艦体は大きく揺れる。

 

 そうしている間に〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉は第五斉射を敢行し、ゼラーナとフランコ1隻を撃沈する。

 バルフォス艦隊の側は健在な駆逐艦からもレーザー砲による砲撃を開始するが、その火線は霊夢艦隊に比べるとひどく薄い。

 その砲撃をシールドで受け止めつつ、〈高天原〉、〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の3隻は右舷に指向できる全砲塔を以て全砲斉射を行う。

 それを見たバルフォス艦隊は回避を試みるが、既に損傷していた艦の多くは加速が追い付かず、ガラーナ級、ジャンゴ級、フランス級各1隻が撃沈され、残りのゼラーナと水雷艇にも少なからず損傷を与える。バルフォスのバゥズも無傷ではなく、シールド出力が大幅に低下し、艦のあちこちにはレーザーの直撃により破孔ができている。

 

 霊夢艦隊の側はこのバゥズに止めを刺すべく、更に斉射を敢行し、重巡洋艦は実弾射撃を行う。

 先の砲撃で甚大な損傷を負ったバゥズはそれを避けきれず、レーザー5発と実弾8発を受けて爆沈、ダークマターへと還った。

 

「く、くそっ・・・・・だがまだ終わらん!」

 

 しかし、バルフォスは中々しぶとく、彼は形勢不利と見ると自艦が沈む前に脱出艇に乗り込み、ファズ・マティへと逃亡した。

 

 旗艦の轟沈によって残存スカーバレル艦も降伏し、バルフォス艦隊を下したショーフク率いる艦隊は、ファズ・マティで戦う霊夢の下へ駆けつけるべく、同方面に舵を切って加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト完結編より「ヤマト飛翔」】

 

 

 

 

 

 〜ファズ・マティ周辺宙域・小惑星帯〜

 

 

 

 

 

 

  ファズ・マティ回廊から離れた小惑星帯の中を、2隻の宇宙船が巧みな操舵で小惑星を避けながら航行を続けている。

 戦闘を行く艦は艦種に大口径の軸線砲を備え、上甲板に計5基の3連装砲塔を備えた重圧な艦容を持った戦艦、博麗霊夢の旗艦である〈開陽〉だ。その後方には、楔形の艦形をした、銀色に赤いラインが入った中型艦、工作艦〈サクラメント〉が続く。

 

「艦長、〈高天原〉より暗号通信です!『"プレゼント"は炸裂した』!!」

 

 オペレーターのノエルが、別動隊として艦隊の大半を率いている巡洋艦〈高天原〉からの通信を受けて、艦長である霊夢に報告する。

 それを聞いた霊夢はニヤリと笑い、一呼吸置いてから号令を発した。

 

「メインノズル出力落とせ、逆噴射スラスター点火!ハイストリームブラスター、充填開始しなさい!!」

 

《了解です。艦の位置を固定します!》

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填開始!」

 

 霊夢の命令に、早苗とユウバリが応える。

 〈開陽〉は艦首の逆噴射スラスターを点火し、その場に静止する。〈サクラメント〉もそれに続いて、〈開陽〉の真後ろで停止した。

 

「重力井戸(グラヴィティ・ウェル)の調整完了!重力アンカー起動します!」

 

 もう一人のオペレーターであるミユは、ハイストリームブラスター発射の衝撃に備えて艦の人工重力を調整する。

 

「ハイストリームブラスター、エネルギー充填40%!」

 

「60%で発射するわ。主機はワープの準備にかかって。ハイストリームブラスター発射後、直ちにファズ・マティを強襲するわよ!」

 

「了解です。主機、出力上げます!ハイパードライブにエネルギー注入開始!」

 

 機関長のユウバリは、続くワープに備えて主機のインフラトン・インヴァイダーの出力を上昇させ、ワープ装置であるハイパードライブに接続する。

 

 〈開陽〉の艦体が、主機とハイストリームブラスター用、2基のインフラトン・インヴァイダーの出力上昇のために小刻みに振動する。それは、〈開陽〉があたかも武者震いしているように、霊夢やクルー達には感じられた。

 

《艦の位置調整、完了しました。》

 

「ハイストリームブラスター、出力55%!発射まであと20秒!」

 

「ターゲットスコープ、開放!」

 

 操舵手不在の〈開陽〉の艦体を、統轄AIである早苗が調整し、ファズ・マティをハイストリームブラスターの射線からずらす位置に艦を回頭させた。

 続いてユウバリの報告を受けて、発射カウントダウンが始まる。

 艦長席に座る霊夢の前に、ハイストリームブラスターの発射トリガーがせり出す。霊夢はそのトリガーを掴み、ユウバリのカウントダウンに耳を傾けた。

 

「最終安全装置、解除!発射まであと5―――4―――3―――2―――1―――!」

 

 

「ハイストリームブラスター、発射!!」

 

 

 霊夢がトリガーを引き、〈開陽〉の艦首から莫大なエネルギーを持った赤いレーザー光が発射された。

 

 ハイストリームブラスターは〈開陽〉の前面に位置していた小惑星群を吹き飛ばし、丁度大型戦艦が通れそうな"回廊"を新たに形成した。

 

《回廊の形成確認。本艦及び〈サクラメント〉の通行に支障なしと判断します!》

 

 

「よし、ワープに突入、ファズ・マティを強襲するわよ!」

 

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

 

 霊夢の号令に、ブリッジクルーが応え、その声が響いた。

 

 

《ワープに突入します!通常空間再突入は1分後です!》

 

 早苗がワープへの突入を告知し、不在の操舵手に代わって彼女自身が〈開陽〉をワープに突入させ、艦は蒼白い超空間(ハイパースペース)に突入した。〈サクラメント〉も彼女の後を追うようにワープに突入し、2隻の宇宙艦は狭い"回廊"をファズ・マティに向かって一直線に駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 〜人工惑星ファズ・マティ近傍宙域〜

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより 「艦隊決戦(渾作戦アレンジ)」】

 

 

 

 

 

 

《通常宙域を確認、予定航路との誤差は0,005以内。ファズ・マティ近傍宙域にワープ成功です!》

 

 

 〈開陽〉の艦体が超空間離脱と同時に、付近の物体との衝突を回避するために逆噴射スラスターで急制をかけた。その衝撃で、艦内は大きく揺られる。

 

 

 ――――っ、けっこう厳しいわね、これ。

 

 

 ワープ終了時、〈開陽〉は急激に速度を落としたので、慣性制御がついて行かず、衝撃で私は艦長席から振り落とされそうになった。

 

「本艦前方、距離9500の位置にスカーバレル巡洋艦3隻!」

 

 他のブリッジクルーはもう衝撃から立ち直り、各々の役目を果たしているようだ。早速レーダー管制士のこころから、敵艦隊発見の報告が入る。

 

「巡洋艦3隻か。その程度の戦力なら鎧袖一触ね。一気に叩き潰しなさい!」

 

「イェッサー!、主砲、徹甲弾装填。目標スカーバレル巡洋艦!」

 

 敵艦を補足すると同時に、〈開陽〉の160cm3連装砲塔はスカーバレル巡洋艦―――オル・ドーネ/A級3隻を指向する。

 装填された砲弾は実弾だが、これはハイストリームブラスターの発射に続いてワープとエネルギーを消耗する行動が続いたため、エネルギーの回復までは時間がかかるのでレーザー出力が落ちるために取られた措置だ。

 

 一応インフラトン機関には燃料切れといった事態が起こることはなく、実質エネルギーは無限と言ってもいいんだけど、それでも一度に産み出せるエネルギー量やプールできるエネルギー量は限られている。なので、実戦ではこのエネルギー残量に気を使わないといけないけど、うちは実弾もけっこう豊富だからある程度の無理は効くのよね。実弾なら主砲を動かす分のエネルギーだけで済むし。

 

「射撃諸元入力完了、1番2番主砲、発射!」

 

 〈開陽〉の1、2番主砲は各砲身ごとに独立して目標を指向、敵1隻につき2発の主砲弾を撃ち込んだ。

 敵艦は突然の敵襲に戸惑っているのか、碌に回避もせずにその場に留まっていたため、全弾命中の憂き目に会った。1隻は砲弾が機関部を撃ち抜いたのか、命中してすぐに轟沈、他の2隻も戦艦クラスの主砲弾が炸裂したことによって艦体の半分が吹き飛び、大破した。あの様子では、満足な抵抗は出来ないだろう。

 

「敵3隻のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

「他に敵影は?」

 

「今のところ、周囲に敵影はありません。宇宙港より敵巡洋艦3、駆逐艦8が向かってきますが、会敵までしばらく時間がかかります。」

 

 こころの報告によれば、敵艦は今ので全てらしい。

 どうも敵はショーフクさんの別動隊に殆どの戦力を振り向けたみたいだ。

 

「よし、なら今のうちに作戦を進めるわよ!早苗、〈サクラメント〉の状態は?」

 

 《はい・・・・どうやら突入準備は完了しているようです。》

 

「じゃあ、〈サクラメント〉には所定の行動を実行するように言っておいて。フォックス、私達も降りるわよ!」

 

「イェッサー!」

 

 私は作戦の第二段階の発動を命じて、〈サクラメント〉をファズ・マティに降下させるように命じた。同時に〈開陽〉からも地上戦部隊を編制しており、私も彼等に同行する予定だ。

 このファズ・マティ奇襲作戦は、最初は浚われた酒場の娘を救出するために始まったことなので、敵の艦隊戦力だけでなく、ファズ・マティ内部に侵入して救出作戦も展開する必要がある。なので地上戦部隊を展開し、拠点ごと落とさなければならない。

 

《RF/A-17の発進準備、完了しました。偵察を開始します。》

 

 どうやら偵察機の発進準備が終わったらしく、〈開陽〉の艦底部にある艦載機格納庫のハッチから、背面にレドームを載せたF/A-17を改良した偵察機が飛び立っていく。数は8機だ。

 勝手の分からない場所にいきなり強襲上陸しても空振りに終わるってこともあるから、こうやって事前に偵察機を送り込んで、通信が集中している箇所を強襲する予定だ。

 偵察が完了するまで約10分の間に、私を含めた上陸部隊は強襲艇が格納されているハンガーに向かい、準備を済ませなければならない。と言っても、主たる白兵戦要員の保安隊と他の有志諸君は乗り込んでいる筈なので、あとは私が強襲艇に乗り込むだけだ。

 

「早苗、艦の操作は任せたわよ。何かあったらすぐに連絡して。」

 

《了解です!》

 

 私は〈開陽〉を早苗に一任し、フォックスを伴ってハンガーに向かった。

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉強襲艇格納庫〜

 

 

 

 

 

 ―――さて、私が艦橋を離れてからしばらく経ったけど、報告はまだかしら・・・

 

 と、私が敵本部特定の報告を強襲艇の中で待っていると、端末が鳴り響き、待望の報告が寄せられた。

 

《艦長、敵本部の特定完了しました。位置は軌道エレベーター付近です!座標をそちらに転送します!》

 

「良くやったわ。引き続き管制を頼むわね。」

 

《了解です!》

 

 ノエルさんから端末にデータが転送される。軌道エレベーターの付近なら、艦隊の現在位置からそこまで距離は離れてはいないが、素直に強襲艇で飛んでいった方が早く着く距離だ。

 

「早苗、強襲艇発進よ!」

 

《了解しました!衝撃に備えて下さい!》

 

 ハンガーのハッチが開き、早苗が強襲艇を〈開陽〉から発進させる。その衝撃で、強襲艇が少し揺れた。強襲艇の窓からは、同時に発進した事前爆撃を担当する戦闘機隊の姿も見える。

 強襲艇の群は機体上部に搭載した2基のエンジンを全開にして、ファズ・マティへ向けて降下していく。

 

《〈サクラメント〉より、上陸部隊の発進を確認!合流します!》

 

 私の指示で先んじて降下していた〈サクラメント〉からも、〈開陽〉から発進したものと同型の強襲艇と、重装備を輸送する輸送機が発進した。

 〈開陽〉の上陸部隊は〈サクラメント〉から発進した編隊と合流し、一路スカーバレル本部を目指す。

 

《こちらアルファルド1、よう霊夢、"掃除"は私達に任せな!》

 

 霊沙から挑発的な通信が入ったかと思うと、あいつのYF-21が私が乗る強襲艇の横を通り抜けていく。強襲艇と戦闘機では速度が違うので当然のことなんだけど、わざわざこっちからよく見える位置でやる辺り腹立つわね。

 

「っさいわね。さっさと行きなさい!」

 

《はいよ。露払いとは聞いたけど、別に、敵さんは全部倒しても構わないだろ?》

 

「やれるもんならね!ま、あんた程度で出来るとは思わないけど。」

 

《チッ、後で獲物がないとか泣きつくなよ!》

 

 霊沙のYF-21がアフターバーナーを吹かせて加速し、敵の陣地に向かっていく。

 

《ま、そんな事だから、露払いは俺達に任せな。》

 

「期待してるわよ。存分に暴れてきなさい。」

 

 それに続いて、タリズマンとバーガーのYF-19と随伴機のSu-37、10機が続いて敵地に飛翔していった。

 

 

 それからしばらくすると、無線に戦闘機隊パイロットの声が届き始める。どうやら、事前爆撃を開始したらしい。

 

《ふははっ、喰らえ海賊!アルファルド1、マグナム!》

 

《ガルーダ1交戦。》

 

《グリフィス1交戦!野郎共、落とされるなよ!?》

 

《グリフィス2了解!》

 

《グリフィス3、了解。交戦する!》

 

《ガーゴイル1、了解!ここで死んじゃあ元も子もねぇぜ!》

 

 エルメッツァに来てからもクルーの募集はやっていたので、以前より航空隊も人数が増えている。無線も前と比べたら賑やかだ。

 

《〈開陽〉よりガルーダ1、ポイントA-8に敵対空ミサイルです。》

 

《了解、ガルーダ1、マグナム!》

 

《ひゃっほー、急降下爆撃だ!》

 

《ガーゴイル1、ポイントD-12の敵レーザー陣地に爆撃して下さい!》

 

《了解した。ガーゴイル1交戦!》

 

 無線の中には何度も爆発音が入り混じっていて、爆撃の激しさを感じさせる。相変わらず霊沙は調子に乗っているみたいだけど、あいつの事だから、落とされてもなんとかなるでしょう。

 

 

《艦長、間もなく上陸ポイントです!》

 

「分かったわ。総員、白兵戦用意よ!」

 

 粗方爆撃も終了し、戦闘機隊の援護の下、強襲艇部隊が着地し、両側ハッチからは上陸部隊のクルーや機動歩兵改が続々と降りていく。

 

 ちなみにこの強襲艇は一度ににつき通常のクルーなら30人、機動歩兵なら16機を搭載できる。ここにはこれを7機投入し、クルーは約60人、機動歩兵改は80体が参加している。

 他には4機の輸送型強襲艇が重装備としてサナダさんが〈サクラメント〉の艦内工場で勝手に作っていた、155mm連装砲を搭載した重戦車M61を4台を運んでおり、その戦車もクルー達の盾として前線に展開済みだ。

 まぁ、この強襲艇もサナダさんが私に断りなく勝手に作ってやがったものだけど、役に立ちそうだからある程度は見逃してあげるわ。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「野郎共、行くぞ!前進だ!」

 

 強襲艇から降りた部隊は、保安隊長のエコーを先頭にして、岩石の影などに隠れながら前進を続ける。

 このファズ・マティは、人工的に作られた天体だが、その材料には近くの小惑星等も使われているようで、地面には岩がごろごろしていた。

 

「前方に敵陣地!」

 

 しばらく進んだところで、バリケードを築いていた海賊の一団と衝突し、銃撃戦が展開される。

 

「戦車隊、援護しろ!」

 

 エコーとファイブスは、戦車に支援砲撃を要請し、敵陣に向かって保安隊員を引き連れながら突撃する。

 海賊の陣地には先ずM61重戦車の砲撃が加えられ、バリケードが吹き飛ぶ。そこに保安隊員が躍り込んで、海賊と白兵戦を展開するが、海賊も数は減ったとはいえ、白兵戦ではしぶとく粘るようで、制圧には幾らか時間がかかるようだ。

 

「衛生兵―――っ!」

 

「くそっ、敵が多い!」

 

「左側に新たな海賊陣地を発見!」

 

「機動歩兵をこっちに回してくれ!」

 

「エネルギー切れだ!追加パックを寄越せ!」

 

 保安隊も善戦しているが、海賊も負けてはおらず、此方の被害も増える。

 だが、機動歩兵改の部隊も前線に加わり始めると、その攻撃力を遺憾なく発揮し、今度は海賊の側が押され始める。

 

「艦長、前方から新たな海賊が!」

 

 保安隊クルーの報告で前方を見ると、海賊の増援らしき集団が向かってくるのが見える。

 

 ―――今はこちらが優勢とはいえ、あまり敵が増えるのも良くないわね・・・

 

「あそこの連中は私に任せなさい。貴方達は海賊陣地の方を何とかしておいて頂戴。」

 

「了解です!」

 

 その後、私は海賊陣地で戦う保安隊の上を飛び越えて(援護にいくらか弾幕をばら撒いておく)、敵本部の方角から迫る海賊の一団と対峙する。

 

「なんだぁ、女一人か?」

 

「やっちまえ、ヒャッハー!!」

 

 耳にはなんか雑音が入るけど、それは無視して、海賊達が撃つブラスターの弾幕を回避し、スペルを唱える。

 

 

「霊符―――「夢想封印」っ!」

 

 

 放たれた光弾は海賊達の下に飛んでいき、宇宙服を纏った海賊が何人か吹き飛んだ。

 

「くそっ、女一人相手に何やってるんだ、早く落とせ!」

 

 海賊の側もブラスターを撃つ手を緩めないが、そんな弾幕では、私は捉えられない。

 

 

「チッ、まだ数が多いか・・・回霊「夢想封印 侘 」!」

 

 

 今度は札で海賊共を絡めとり、連中を纏めて処理する。

 

「畜生、何だあいつ!」

 

「構わん、撃ち続けろ!」

 

 海賊の数もだいぶ減ったようで、向こうからの火線も穴だらけだ。

 

「居たぞ!生き残りだ!」

 

「戦車隊、前へ!」

 

「ヒャッハー!、艦長には負けられないぜ!」

 

 そこに、どうやら後方の陣地を制圧し終えた保安隊が到着し、戦車砲や迫撃砲の嵐が海賊を襲った。

 

「ギャァァァァア!」

 

「くそっ、撤退だ!」

 

 形勢不利と見た海賊は散り散りになって敗走していくが、そこに航空隊が機銃掃射を加え、追い討ちを駆ける。

 

 

 ―――スカーバレルの連中には悪いけど、やるからには徹底的にやらないとね・・・ここは弱肉強食の宇宙なんだし―――

 

 

 その光景を見て同情を覚えない訳ではないが、この宇宙は弱肉強食の世界ゆえ、変に情けをかけては今度はこっちの身に返ってくるのだ。前世では情けは人の為ならずとは言ったが、この世界で返ってくるのは時としてナパームやブラスターの光なんだから、クルーの被害を減らすためにも、敵は降伏しない限り殲滅か撃破の方針を徹底しなければならない。

 

《艦長、友軍艦隊が合流しました。現在、宇宙港からそちらに向かっているようです。ショーフクさんの別動隊は上空の残存スカーバレル艦隊を掃討中です!》

 

 ここでノエルさんから、ユーリ君の艦隊が到着したとの報告が入る。

 

「分かったわ。こっちから、敵本部の位置情報を送信しておいて頂戴。」

 

《了解です。》

 

 そのも私達は向かってくる海賊を蹴散らしながら、敵本部へと進軍する。

 ちなみに途中で何人か捕虜をとって尋問した結果、アルゴンは敵本部にいると見て間違いなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より 「The great Evil」】

 

 

 

 

 〜ファズ・マティ スカーバレル本部前〜

 

 

 

 

 

 

 外にいる海賊を粗方掃討し終えた私達は、敵本部の前でユーリ君達と合流を果たした。

 

「霊夢さん、無事でしたか。」

 

「まあね。そっちもよく生き残ったわね。」

 

 挨拶代わりに互いの今までの働きを労い、私達はユーリ君達が連れてきたクルーと共に敵本部へと侵入する。

 航空隊と戦車隊に、保安隊や機動歩兵の大半は建物の外に警戒隊として残し、私とエコー、フォックスと保安隊員12名、それに治療班としてシオンさんに衛生兵のジョージが建物に入るために扉の近くに集合する。。

 ユーリ君の方はトスカさんとトーロ、それに酒場で見かけた女の子二人―――確か薄い緑色の髪をした空間服を着ている方がチェルシーで、ピンク色の長髪の子がティータだっけ―――に武器を持ったクルーが他に10名ほどの戦力で突入するみたいだ。

 

「突入準備は出来たわね。じゃあ行くわよ!」

 

「おーい、霊夢――――っ!」

 

 ―――って、この声は・・・霊沙の奴ね。

 

 これからいざ突入、って時に、なんか分からないけど霊沙が向かってくるので、私は一度足を止めた。

 

「何よ。あんたは周辺警戒でもしてなさいよ。航空隊でしょ?」

 

「いや、そうなんだが・・・それより私も混ぜろ!そっちの方が面白そうだ!」

 

 霊沙が着地して、私の前に立った。

 後ろを見てみると、こいつのYF-21はガヴォーク(鳥人)形態で着陸している。どうやら機体を放り出してこっちに来たみたい。

 

「はぁ―――まぁいいわ。ついて来なさい。」

 

「おう。久々に暴れるとするか!」

 

 と言うと霊沙は弾幕を放って、ロックを掛けられた扉を破壊し、敵本部へと雪崩れ込む。

 

「ちょっと、独断先行よ!ユーリ君、私達も行くわよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 それに続いて、私達も敵本部の内部に躍り込んだ。

 

「グワーッ」

「アイェェェェッ!」

「あべしっ!」

 

 私達が建物の中へと突入している間に、前方から海賊らしき悲鳴が聞こえてくる。

 扉を抜けると、早速焼け焦げたような臭いが鼻につき、辺りには宇宙服を着た海賊の群れが床に伏していた。

 

「チッ、脆い連中だ。」

 

 その奥には、霊沙が一人立っている。どうやらあいつが全部片付けてしまったみたいだ。

 

「よう霊夢、遅かったな。」

 

「あんたが早すぎるだけよ!ったく、なんでこの人数をあんな短時間で始末できるのよ。」

 

 私でも20秒位はかかりそうなのに、あいつは私達もが扉を抜ける間に全部やってるんだから・・・こいつの戦闘力は私より上みたいね。

 

「んで、さっきから気になってたんだが、この子は誰だい?あんたの妹か?」

 

「はぁ!?誰が妹ですって?」

 

 トスカさんの質問に、思わずそう答えてしまう。

 

 ―――大体、こんな妖怪じみた(実際妖怪らしいけど)妹なんて要らないっての!

 

「ああ、紹介が遅れたな。私は博麗霊沙だ。今はコイツの下で一乗組員をやってる。よろしくな。」

 

 霊沙はトスカさんやユーリ君に向けて不敵な笑みを作って挨拶する。

 

「ま、あんたの仲間なら問題ないね。そんじゃあ、さっさとアルゴンを締めるとするか!」

 

 そんな感じで私達とユーリ君達はスカーバレル本部の建物内を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入口で敵を(霊沙一人が)排除した後、私達は建物の奥へと進んでいったんだけど、敵があれ以来一人も出てこない。建物内にはただ私達の足音が響くだけだ。

 

「―――なんだか不気味だな。敵一人も出てきやしねぇ。」

 

 エコーがそう呟く。正直、罠か何かあるのではと勘繰りたくなる程だ。

 

「ここは敵の本部だ。何があってもおかしくないよ。子坊、気を付けな。」

 

「はいっ・・・。」

 

 トスカさんも、ユーリ君に警戒するよう促す。

 

「ほんと、静かすぎて気味が悪いわ・・・。」

 

 ユーリ君のとこのクルーの、ティータが呟く。

 見た目からして、こういうことには不馴れみたいだ。

 

「俺がついてるって。安心しろ。」

 

 そんなティータを気にかけたのか、トーロが声をかけるが、同時に彼は手をティータの後ろに回した。

 

「・・・や、バカっ!どさくさに紛れてどこ触ってんのよ!」

 

「痛えっ・・・!」

 

 そんなトーロは、手をティータに叩かれ、手を引っ込めた。

 

 ――緊張感のない連中ね・・・

 

 私もトーロの行動にはなんか腹がたったので、足下に札を飛ばしておはいた。

 

「うおっ、何だこれ!?」

 

「・・・・」

 

 トーロ君、時と場は考えることね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから2階ほど上のフロアに上がって、しばらく進むと、廊下が行き止まりのようになっているのが見えた。

 

「あれは・・・エレベーターだな。」

 

 フォックスが廊下の先を指して言った。そこは一見すると行き止まりのように見えるが、廊下の先端がエレベーターになっている。

 確か前の階でも、同じようなエレベーターがあったわね。

 

「まーたピストンかい。面倒臭いねぇ。」

 

「仕方ないわ。先ずは私とユーリ君に、トスカさんとトーロ、それに霊沙とフォックスで行くわよ。」

 

 このエレベーターはどうも1階分しか移動しない仕組みらしく、一つ上の階にしか行けない。敵が侵入したら一方通行になるみたいな仕組みがあるようね。それに重量制限もあり、一度にクルー全員を運び込むこともできない。なので、大体私が先行して上の安全を確保するようにしている。

 

 先発組がエレベーターに乗り込み、駆動音が響いてエレベーターが動く。

 上の階に移動すると、先ずは私が先行して、周囲を見渡す。

 

 ―――――ッ!!

 

「来たか、小僧!」

 

 そこには、幹部らしき一人の海賊に、その部下らしき連中が20人ほど待ち構えていた。

 

「バルフォスっ!」

 

 その幹部の姿を見たユーリ君が叫んだ。どうやら、この幹部とは因縁があるようだ。

 

「バルフォス、これから僕は初めて人を斬ることになるけど・・・・それが貴方で良かった・・・・心の痛みは少ないよ、多分ね。」

 

 そう言うと、ユーリ君は前に出て、腰に下げたスークリフブレードに手をかけた。彼の声からは、怒りの感情が伝わってくるようだ。

 

「艦長、エレベーターはロックされているようです!」

 

「チッ、仕方ないわ。フォックス、ここは私達で何とかするわよ!」

 

「イエッサー!」

 

 フォックスがブラスターを構え、霊沙も戦闘態勢に入る。私もスークリフブレードを構えて、目の前の幹部と対峙する。

 

「ふん、小僧に・・・小娘か。それでわしを斬れるつもりか!」

 

 幹部―――バルフォスは、挑発するように語気を強める。

 

 同時に、ユーリ君も腰のスークリフブレードを抜いた。

 

「ああ、斬るさ―――ティータの兄さんに、今まで貴方の犠牲になった人達の為に・・・!」

 

「あら海賊さん、私を甘く見ない方が良いわよ。」

 

 私は刀の鋒をバルフォスに向け、挑発した。

 

「行くよ、子坊!」

 

 トスカさんの号令で、戦闘が始まる。

 

「夢想封印ッ!」

 

 早速霊沙が弾幕を放ち、敵が何人か吹き飛んだ。

 

「小僧、物陰に隠れて撃て!」

 

「お、おう!」

 

 フォックスとトーロは、廊下の柱の陰に身を隠して、そこから海賊と銃撃戦を挑む。

 

「邪魔よっ!」

 

「ぐはぁっ―――!!」

 

 私も進路上の海賊を刀で何人か斬って、ついでに弾幕をぶつけて突破口を形勢する。

 

「バルフォスっ!覚悟!」

 

 そこにユーリ君が飛び込んで、バルフォスに斬りかかった。

 バルフォスは鞭のような武器をユーリ君に向けるが、ユーリ君がスークリフブレードを降り下ろすと、その鞭は切り裂かれ、そのままの勢いでバルフォスの体を一閃する。

 

 

「ス・・・・スークリフ・ブレードだとぉ!?」

 

 

 バルフォスは目を見開いたまま、その場に倒れ伏した。

 

 他の海賊も粗方片付き、敵は全員倒れているみたいだ。

 

「はぁ、はぁ・・・っ」

 

 ユーリ君は肩で息をしながら、倒れたバルフォスを見下ろす。

 

「やったぜ、ユーリ!――――って、どした?顔が青いぞ?」

 

 トーロが勝利に喜びユーリ君に駆け寄るが、彼の様子を見て心配そうに声をかけた。

 

「こんな・・・イヤな感触・・・僕は・・・」

 

 ―――ああ、成程、直接やるのは初めてな訳ね。

 

「いいんだよ、あれで。敵は確実に仕留めておく――――それが星の海で長生きする秘訣さ。」

 

 そこに、トスカさんが労いの声をかけた。

 

「しっかし、そっちの艦長さんはだいぶ慣れてるみたいだね。」

 

「まあね。先を急ぎましょう。」

 

 トスカさんは私が(見た目は)若いのに、慣れた手付きで海賊を斬っていたので、それをユーリ君と比べたのかもしれない。

 

 ―――まぁ、慣れないのはあっちと変わらないけど。

 

 以前にも、幻想郷では妖怪になりかけた、もう助かる見込みのない人間を何度か手にかけたことがあるが、人を斬る感触は何度やっても慣れるものじゃない。そいつらは、なまじまだ人の領域にいるお陰で、物理的に殺さないと退治できなかった。

 

 ――いつぞやの易者の方が、全部妖怪になってる分ましね。

 

 完全に妖怪になった奴はお払い棒で適当にやれば退治できたから、いくらか気は楽だったけどね。

 

「そうだね、まだアルゴンが残ってる。急ぐよ!」

 

 私達は下の階からピストン輸送で仲間を運んだ後、さらに奥へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルフォスの襲撃の後、もう一度海賊の襲撃があったのだが、散発的なものだったので一瞬で制圧できた。ついでに敵が落としていったクレジット用データカードが落ちていたから、有難く頂戴したわ。中身はたった300Gとかいうはした金だったけどね。

 

 

 そこからさらに上の階へと進むと、廊下の突き当たりに、いかにもボスの部屋って感じの邪悪な装飾が施された扉が見えてきた。

 

「大将首はあそこだな!御用改めだ、覚悟っ!」

 

 なんか無駄にテンションが高い霊沙が突進して扉を蹴り飛ばし、続いて私達も扉の内側へと突入する。

 

「ここまでだ、アルゴンっ!」

 

「神霊 「夢想封印」!」

 

 奥にはスカーバレル海賊の頭領であるアルゴンの姿(手配書で顔は覚えたから、間違えはしないわ)と、部下数人の姿が見えたので、手始めに弾幕で彼の部下を吹き飛ばした。

 

「ホヒィ―――ッ!ま、参った!降参だよ・・・い、いや停戦だ!もうお互い手を出さないということにしようじゃないか。」

 

「なに虫のいいこと言ってんのよ。あんたが対等な立場でうちと講和できるとでも思ってるの?」

 

「おう、大人しくブッタ斬られちまえよ。それとも俺のブラスターで撃ち抜いてやろうか?華麗にヘッドショット決めてやるぜ。」

 

「ホ、ホヒィ―――ッ!」

 

 私とトーロがそんな感じで恫喝すると、アルゴンは後退りして、尻餅をついた。

 海賊団の頭領って聞いていたからもっと大物かと思ったけど、案外臆病者なのね、こいつ。ま、その性格のお陰でここまで成り上がったのかもしれないけど。

 

「ま、待て待て!分かった・・・・引退!私は引退する!余生をどこか静かな星でのんびり暮らすから、どうか命だけは―――ッ!」

 

「はァ?海賊のドンが命乞いかよ。滑稽だねぇ?」

 

 必死に命乞いをするアルゴンの様子を見て、霊沙がそれを嗤いながら、腰のブラスターを抜いて、その銃口を向けた。

 

「ボスの誇りがあるんだったら、ここで私らに一矢報いようとか思わないのかねぇ?ああ、安心しろ。どう転んでも愛しの部下には会わせてやるからよ。」

 

「ホアアア――――ッ!! そりゃ殺生というもんだ!こんな老人を撃ち殺そうとは、あんまりじゃあないかね!お嬢さ―――」

 

 その台詞を聞いた霊沙が、表情をしかめた。

 

 

 すると、バシューン、と、ブラスターの音が響く。

 

 

 ブラスターの弾はアルゴンの目の前の床に着弾し、煙がゆらりと立ち昇っていた。

 

「次は当てるぜ?」

 

「そ、そんな・・・・・まさか本気じゃあないだろう?この通り土下座でもなんでもするから、どうか命だけは・・・・」

 

 アルゴンはその場で土下座すらして、必死に命乞いを続ける。その姿を見る仲間達の瞳は、なにか哀れなものを眺めるような、冷たいものだった。

 

「そうですね・・・貴方をどうするかは後で決めるとして、先ずはゴッゾで攫った女の子を返してもらおう。」

 

 ユーリ君が、低めの声でアルゴンに告げた。

 

「ゴッゾで・・・おおっ、ミィヤとかいう酒場の娘かね?」

 

 その台詞に、どこか希望を見出だしたのか、アルゴンの台詞は先程と比べて、必死さはあまり感じられない、というか、さっきの命乞いはどうも演技だったようだ。

 

「彼女なら、上の階の牢屋に閉じ込めてある。ほれ、これが牢屋のカードキーだ。受けとりたまえ。」

 

 アルゴンはそう言うと、立ち上がって懐からカードキーを取りだし、ユーリ君に向かって投げた。

 

「勿論、あの娘には傷一つつけておらんよ。だからこれで――――」

 

 そう言いながら、アルゴンはジリジリと後退りしていく。

 

 ―――っ、あの動きは―――!

 

「ユーリ君ッ、それを捨てて!」

 

「えっ・・・!?」

 

 

 事態に気付いた私はユーリ君の下に移動して、まだ困惑している彼の手からカードキーを奪い取り、それを投げようとしたが―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオォォォォォン!!!

 

 

 

 カチッ、という音がして、目の前のカードキーが爆発した――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィィィィィホオォォォォォ!!、引っ掛かった、引っ掛かりおったわああっ!!!」

 

 爆発の様子を見たアルゴンが、今までの態度とは一転して、罠にかかった2人を嘲笑うように、高笑いを続ける。

 

「れ、霊夢っ―――!!」

 

 

「ユーリッ、ユーリィィッ――!」

 

 

 それに衝撃を受けた霊沙とチェルシーが、今だ煙が晴れない2人がいた位置に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく――――五月蝿いわね。ギャアギャア騒がしいわ―――」

 

 

 そこに、霊夢の声が響いた。

 

 

 煙が晴れると、お払い棒を持った右手を前に突き出して、障壁のようなものを張っている霊夢と、その後ろには殆ど無傷のユーリの姿があった。

 

 

 ―――なんとか、結界は間に合ったようね―――

 

 

 しかし、ユーリとは対照的に、霊夢は額から血を流し、左腕の空間服の袖は焼け焦げて、腕自体も火傷を負っている。

 

「な・・・あの爆発を耐えただと・・・!」

 

 2人が生きていることに驚いたアルゴンが、その場に立ち竦んだ。

 

 

「・・・さっきはやってくれたわね・・・これはそのお礼よッ―――――神霊 「夢想封印 瞬」ッ!!」

 

 

 霊夢がアルゴンの視界から消え、次の瞬間には、アルゴンの周りに大量の札と光弾が現れる。

 

 

「ホ、ホギャァアァァァッ!!」

 

 

 それを一身に受けたアルゴンは、断末魔のような叫び声を上げると、そのまま気絶して、バタンと床に倒れ伏した。

 

 

「はぁっ、はぁっ・・・これで―――――っ・・・」

 

 

 元の場所に戻った霊夢も、アルゴンと同じようにその場に倒れ、気絶した。

 

「れ、霊夢っ、大丈夫か!?」

 

「霊夢さんっ!」

 

「っ、ジョージ、担架を!」

 

「了解っ!」

 

 倒れた霊夢の下に、霊沙とユーリが駆け寄り、シオンは部下のジョージに命じて、担架を用意させる。

 

「2人とも、どけっ!」

 

 そこに担架を運んできた衛生兵のジョージが2人を退かせて、霊夢を担架に乗せる。

 

「おい、フォックスだ!今すぐガンシップを一機寄越せ!艦長が敵にやられて重症だ!!」

 

《えっ、か、艦長が・・・りょ、了解ッ!!》

 

 事態を悟ったフォックスは直ちに〈開陽〉に連絡し、強襲艇を手配させる。

 

「・・・大丈夫です!まだ息はあります!艦の治療ポッドならまだ間に合う筈・・・!」

 

 霊夢を診たシオンは、彼女の息がまだあることを確認し、棺のような構造になっている機械の担架の蓋を閉じた。

 

「くそっ、艦長を早く下に降ろさないと―――」

 

「そんな時間はねぇ、ここをぶち抜くぞ!」

 

 霊沙は一刻も早く霊夢を医務室に運び込むため、弾幕で部屋の壁を破壊し、外に繋げた。

 

「こちらエコー、ガンシップを建物の穴に横付けさせろ!おい、聞こえるかガンシップ、本部に空いた穴から艦長を渡すぞ!」

 

《了解しました!》

 

 強襲艇を操作する早苗がエコーの通信を拾い、艇を建物に空いた穴の位置に横付けした。

 

「シオン、艦長は頼んだ!」

 

「分かりました。必ず助けます!」

 

 シオンが担架を押して、強襲艇に乗り込み、それを確認すると、強襲艇は〈開陽〉へと急いで帰艦する。

 

 

 

「霊夢―――――っ。」

 

 

 その光景を霊沙は見送り、霊夢の無事を祈った。

 

 

 

 

 




今回でファズ・マティ攻略は終了となります。最後は原作では爆発されるのはユーリなんですが、ここで倒れるのは霊夢に変更しています。
ちなみに原作では、アルゴンと対峙したところでアルゴンを許すか許さないかの選択肢が出るのですが、ここで選択を誤ると・・・・これは実際にやって確かめてみて下さい。
それとイメージBGMにある「The great
Evil」は英語版の曲名です。日本語版のサントラは持っていないので、こちらの曲名は分かりません・・・


あと陸戦兵器についてですが、強襲艇はクローンウォーズに登場するガンシップを現代風にアレンジしてみたもので、オリジナルにハインドDとオスプレイ風味を足してみました。M61はそのまんまガンダムの61式戦車5型です。


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第二七話 マッド達の談合会議

 〜〈開陽〉技術研修室〜

 

 

 

 霊夢がアルゴンの爆弾で重症を負ってから2日後、〈開陽〉艦内に設置されたこの技術研修室には、会議用のテーブルを囲むように座る科学班長のサナダと整備班長のにとりが、真剣そうな表情をしながら、データの列を眺めていた。

 そこにエアロックが開く音が響き、船医のシオンが入室する。

 

「すみません、遅れました。」

 

 シオンは遅刻を詫びると、2人の近くの席に腰掛けた。

 

「・・・これで全員か。では始めるとしよう。それでシオン君、艦長の容態は?」

 

「今は安定しています。あと3日もすれば回復して、目を覚ますかと」

 

 サナダの問いにシオンが答える。

 

「まぁ、あのリジェネレーションポッドの性能からすればそんなところか。事を進めるには今しかないな」

 

 この〈開陽〉の医務室はそれなりに性能が良いものが搭載されており、火傷程度なら数日リジェネレーションポッドに入れておけば治るほどだ。霊夢が負傷した当初は惑星にある本格的な病院に移送することも考えられたが、それでは遠く、尚且つ艦内の医務室で充分という判断が下されたため、霊夢はそこで治療を受けていた。

 

「では本題に入ろう。にとり君、先ずは物資の消費状況から頼む」

 

「ああ、じゃあ物資の状況だけど、艦隊の修理と補給は完了、艦載機や消耗品の補充も終えて工作艦の腹も一杯だね。残りの量は、改造と建造分を差し引くと、駆逐艦30隻分ってとこかな」

 

「ふむ・・・で、〈ムスペルヘイム〉の建造状況はどうだ?」

 

「あれか?それなら進捗状況70%ってところかな。あと1日もすれば完成すると思うよ」

 

 サナダ達がいるこのファズ・マティは元々スカーバレル海賊団の本拠地であり、豊富な物資やある程度の造船機能を有していた。サナダ達は、霊夢が目覚めない間に、これらを使って自分達の計画を実行しようと考え、ファズ・マティにある物資、ドックを根こそぎ接収していた。

 

 野望実現の第一弾として建造されているのが、先程会話に出ていた〈ムスペルヘイム〉という艦である。

 この艦は、計画上は特大型工作艦と呼ばれ、ビヤット級貨物船を横に2隻並べてその中央に造船ドックを設置した艦だ。この造船ドックはエルメッツァのグロスター級戦艦がギリギリ入れる大きさで、巡洋艦クラスなら1~3隻、駆逐艦クラスなら3~5隻を同時建造できる。

 

「そうか。なら出航予定には間に合いそうだな。そして改造の状況は?」

 

「そっちならもうとっくに終わってるよ。何せエンジンを増設するだけだからね」

 

 ここでサナダ達が言う"改造"とは、ファズ・マティに残されたビヤット級やボイエン級といった貨物船にエンジンを増設する作業のことを指している。

 これらの艦は元々スカーバレルが海賊行為の結果奪取したり、麻薬などの密輸に使われていた艦だ。サナダ達はこれにエンジンを増設し、艦隊に随伴できる速力を与えた上で、ファズ・マティに残された物資を根こそぎ積み込むという計画を立てていた。

 

「そうですか。なら中央軍が来る前には出航できそうね」

 

 にとりの報告を聞いて、シオンは安堵した。

 実は、ファズ・マティを陥落させた際に、友軍のユーリ艦隊は雇い主であるオムス中佐に攻略完了の報告を送っていたため、悠長にファズ・マティで軍拡を行う暇がなくなったのだ。なので、サナダ達は計画していた特大型工作艦の建造を最優先で進め、貨物船にもそのような改造を施していた。

 ちなみにファズ・マティに残された貨物船はビヤット級が10隻、ボイエン級が21隻だ。

 

「これは問題なく進展しているようだな。では、早速お楽しみといこうじゃないか」

 

 サナダは現状確認を済ませると、にやっと笑い、他のメンバーも口元を綻ばせた。

 

「先ずは建造する艦船の選定から行こう。ではシオン君から案を出して頂きたい」

 

 この部屋に集まるマッド3人衆にとって、この会議一番の"お楽しみ"が始まる。それは、今後建造、開発される艦船や装備の決定だ。これから霊夢艦隊の建艦行政を裏で取り仕切ることになるマッド談合の、記念すべき第一回目がここに開催された。

 

「では私から提案させて頂きます。現在の艦隊に不足しているのは、護衛艦たる駆逐艦の数であるという点に、皆さんの疑いはないでしょう。そこで、私はガラーナ級及びゼラーナ級駆逐艦の改良案を作成しました」

 

 シオンがそこで言葉を切ると、2隻の駆逐艦のホログラムがテーブルの上に表示された。同時に、要目も表示される。要目は設計図単体のもので、モジュールによる上昇分は含まれていない。

 

 

 ノヴィーク(改ガラーナ)級 突撃駆逐艦

 

 耐久:1440

 装甲:40

 機動力:35

 対空補正:28

 対艦補正:35

 巡航速度:134

 戦闘速度:150

 索敵距離:13700

 

 

 グネフヌイ(改ゼラーナ級) 航宙駆逐艦

 

 耐久:1280

 装甲:35

 機動力:33

 対空補正:29

 対艦補正:26

 巡航速度:130

 戦闘速度:148

 索敵距離:14000

 艦載機:12~16機

 

 

 シオンが提案したノヴィーク級突撃駆逐艦(ガラーナの改造案)は、用途を対艦攻撃と防空に限定した方針で設計されている。

 元設計のガラーナ級は、ゼラーナから改造する際に、海賊の中途半端な技術故かカタパルト関連の設備が一部残されたままとなっていたが、それを全て撤去し、海賊行為を働く訳でもないので接舷用エアロックも大幅に削減(そもそも無人運用が前提である)して装甲を強化、主砲は対空戦闘も想定して旋回速度、仰角、発射速度の引き上げを行い、艦首レーザー砲はアンテナに換装されて新たに4門の量子魚雷発射管が設置されている。対空兵装は元設計では全く設置されていなかったが、これを問題視したシオンは新たにパルスレーザを艦橋付近に設置し、対空戦闘にも対応できるように設計している。

 これらの改設計により、元々エルメッツァ正規軍の駆逐艦よりやや低めの性能だったガラーナ級は、小マゼランはおろか、一部の大マゼラン製駆逐艦に並ぶまでの性能を獲得するに至っていた。

 

 一方グネフヌイ級航宙駆逐艦(ゼラーナ級の改造案)は、装甲の強化はノヴィーク級に比べると控えめだが、一番の特徴である艦載機搭載能力を強化され、機体の大きさにもよるが、元設計では9機だったものを12~16機にまで拡大した。しかしこの設計で兵装を増設する余裕がなくなり、対艦兵装は両舷の単装レーザー砲搭4基のみと変わらない。しかし、その砲もガラーナ級同様の改良が施されており、連射性能の改善によって攻撃力は上昇している。またパルスレーザの増設やレーダーの換装等も行われ、汎用性の高い小型巡洋艦とでも呼べるような性能を獲得していた。

 

「両艦とも無人運用を前提として装甲を強化し、いずれも対空能力を引き上げて汎用艦として設計しています。そして本艦隊での運用に必要無い海賊行為用の設備は全て撤去(カット)。派手さはありませんが、護衛艦としては適した性能だと考えます。如何でしょうか?」

 

 

「ふむ・・・確かに良さそうな艦だな。一から新しく設計するより、コストの上昇も抑えられている。問題点を上げるとすれば、元設計の性能が低いせいか、性能も控えめなところか。だが、量産するとなれば、この案は中々だろう」

 

「確かに、対艦攻撃力はちと足りないかな・・・だけど、それ以外はかなり高いバランスで纏まっていると思うよ」

 

 サナダとにとりは、その案を眺めて評価を下す。二人ともシオンの案に対しては、概ね好意的な評価だった。

 

「では最終的な評価は後にして、次はにとり君の案を聞こうか」

 

「おう、任された!んで、私の案はこいつだ。」

 

 にとりがコンソールを操作すると、シオンの駆逐艦案に代わって、今度は2種類の中形艦の設計図が表示された。両艦とも直線的な艦容で、デザインも大部分は共通しており、〈開陽〉やクレイモア級のような搭型艦橋を艦体の後方に備え、両舷には艦橋と同じ位置に小型の艦橋を設け、それを挟むように連装主砲が設置されている。艦尾は4基のエンジンノズルに隙間なく占められており、速力が遅いという印象は与えない。

 主砲は艦橋の前にも1基設置されているが、一方の艦は艦首部にも2基の主砲を板を挟むような配置で設置されているのに対して、もう一方の艦は艦首部は3段の飛行甲板になっており、前者よりも箱形の艦容をしていた。

 

「艦隊の護衛艦が不足しているってとこには同意するが、1、2隻はそれなりにデカい艦も作った方が良いんじゃないかって思うんだ。それでこいつの出番だ!」

 

 にとりの言葉と同時に、それらの艦の要目も表示される。

 

 

 マゼラン級 巡洋戦艦

 

 耐久:5100

 装甲:62

 機動力:25

 対空補正:25

 対艦補正:70

 巡航速度:126

 戦闘速度:140

 索敵距離:13000

 

 

 オリオン級 航宙巡洋戦艦

 

 耐久:5220

 装甲:65

 機動力:25

 対空補正:30

 対艦補正:65

 巡航速度:127

 戦闘速度:140

 索敵距離:15000

 艦載機:24機

 

 

「こいつらは〈ムスペルヘイム〉のドックぎりぎりの大きさで設計してある。一応戦艦クラスとの戦闘も想定しているから、主砲の口径は120cmだ。オリオン級の方は艦載機運用能力も付与してある。主砲は3面に配置して死角をなくしている。戦艦がこの〈開陽〉1隻って状況も心許ないし、検討する価値はあるんじゃないかな?」

 

「ふむ・・・このサイズで戦艦並の火力は魅力的だが、マゼラン級の方は艦体サイズに対して主砲の占める面積が大きいな。同航戦時の被弾危険箇所の増大が懸念される。それと艦首砲搭の設置方法も問題が有りそうだ。この艦首の薄さだと、バーベット部の構造上、被弾にはかなり脆い。敵艦との砲戦を考えるなら欠陥が多いな。採用するならオリオン級だろうが、私なら純粋な巡洋艦として設計し直すだろう」

 

「そうですね、ここはオリオン級の主砲を80cmとして、クレイモア級との部品共通化を図った方がコストパフォーマンスの上でも良さそうですね。クレイモア級は一応重巡洋艦ですが、小マゼランの戦艦なら圧倒できるほどの性能を有しています。それと後部主砲を撤去すれば、機関部の装甲厚も増やせるのでは?」

 

 にとりの自身とは裏腹に、サナダの評価は辛辣だ。防御上の欠点が露呈したマゼラン級は、ここで廃案となる。

 

「そうかぁ・・・じゃあ、こいつは流れかな・・・取り敢えず、オリオン級はそれで改設計してみるよ」

 

「それで頼む。採用するかどうかは、その改設計案が出てからにしよう。では、次は私だな」

 

 にとり案の中型艦は評価を終えたサナダは、テーブル上に自案の設計図を表示する。

 

「航空戦力を有する駆逐艦というゼラーナ級のコンプセントを受け継ぎ、それを400m級まで大型化させたのがこいつだ。任務に応じた小規模分艦隊の旗艦としての使用も考慮している」

 

 サナダ案の艦は、サウザーン級巡洋艦よりも一回りほど小さく、巡洋艦と駆逐艦の中間的なサイズだ。

 艦容は全体的に箱形で、艦首にはカタパルトを2基備え、その下にはセンサー類とミサイル発射管が設置されている。カタパルトの後方にはゼラーナ級の単装副砲を連装に改造したものが2基、背負い式に配置され、搭型艦橋がそれに続く。艦橋側面にはキャビンカーゴブロックが設置され、艦底部には2基の放熱板があり、中心線上にはガラーナ級と同形状の主砲が2基装備されている。艦尾には円形のメインノズルと、それをX字上に取り囲むように配置されたサブエンジンがあり、速度性能に秀でた印象を与えている。

 

「兵装はシオン君が改設計したスカーバレル艦のものを使用し、部品共通化を図ることもできるだろう。直線主体の艦体も量産性を考慮している。次は性能だな」

 

 サナダは一度解説を中断し、艦の性能を表示した。

 

 

 サチワヌ級 航宙護衛艦

 

 耐久:2750

 装甲:51

 機動力:28

 対空補正:52

 対艦補正:39

 巡航速度:133

 戦闘速度:148

 索敵距離:16000

 艦載機:18機

 

 

「性能は汎用性を意識し、このクラスとしては高い索敵能力とサウザーン級並の艦載機運用能力を与え、旗艦用としてコントロールユニットも性能が高いものを搭載予定だ。将来の拡張性を考慮し、有人運用も考慮している。側面のカーゴブロックには大型機も搭載可能だ。攻撃力は平凡だが、小マゼランの巡洋艦クラスは確実に上回るだろう。駆逐艦戦隊の旗艦として運用するのも悪くないと思うぞ」

 

 サナダが自信満々に解説し、シオンとにとりも、その設計案の詳細に真剣に目を通した。

 

「成程、駆逐艦のボスとして運用するのも悪くないな。前衛の哨戒部隊には適していると思うね」

 

「そうですね。サナダ主任の案とあって、完成度は高めです。しかし、艦の立ち位置としては先日の改サウザーン級と被るのでは?」

 

 シオンが指摘したのは、運用コンプセント上で既に開発されているサウザーン級改造設計と被っている点だ。

 改サウザーン級も、艦載機搭載能力を有する軽巡クラスという点が、サチワヌ級と共通している。

 

「ああ、あれか。改サウザーン級は対スカーバレルの急造艦という性格が高かったから、拡張性を潰してモジュールごと設計に組み込んで性能を上げていたが、こいつは一からの新規設計なだけあって本体性能はそれを上回る。さらにこいつは将来の拡張性も意識しているから、長期の運用も可能だ」

 

「つまり、急造サウザーン級の代替、という解釈で良いのですか?」

 

「そんなところだな」

 

 サナダの説明を聞いて、シオンは納得したような表示を浮かべた。

 

「では、次は建造数だな。私が各々の設計案を拝見させて頂いた結果、この数が適していると考える」

 

 サナダがコンソールを操作すると、各艦の艦型が表示され、その横に×〇〇といったように、何隻建造するかという数が表示された。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×1

 サチワヌ級 ×6

 ノヴィーク級 ×10

 グネフヌイ級 ×5

 

 

 サナダは残された資材状況を確認しながら、建造案を提案する。

 

「今後、艦隊規模が大きくなれば餌さとなる海賊が寄り付かなくなる可能性がある。そこで、今後は前衛に少数の分艦隊を先行させる艦隊運用になるだろう。この案は、それを見越したものだ」

 

「成程ね。だけど、分艦隊が小型艦中心だと、火力的に心許ないんじゃないか?ここは改設計後のオリオン級を増やして、分艦隊旗艦にするってのはどうだい?」

 

 にとりが提案すると、建造案の数も訂正される。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×4

 サチワヌ級 ×4

 ノヴィーク級 ×6

 グネフヌイ級 ×4

 

 

「分艦隊はオリオン、サチワヌ、グネフヌイを各1隻で4隊を想定した。全艦艦載機搭載能力もあるし、小規模分艦隊としてはそれなりの戦力になるんじゃないか?」

 

「悪い流れだ、切断(カット)切断(カット)。分艦隊4隊では新規建造分は殆どそちらに取られてしまうのでは?工作艦も増えたことですし、分艦隊は2、3隊を想定して駆逐艦を増やした方が良いと考えます」

 

 シオンの言葉で、建造数がさらに改訂された。

 

 

 マゼラン級 ×0

 オリオン級 ×2

 サチワヌ級 ×4

 ノヴィーク級 ×10

 グネフヌイ級 ×6

 

「分艦隊旗艦はオリオンかサチワヌが担当し、グネフヌイは分艦隊に、ノヴィークの大部分を本隊の護衛に回すという方向性で検討するべきかと」

 

「そうだな。最終的な艦隊編成は艦長の決定による。霊夢艦長はまだ経験は浅いが、護衛戦力が足りないことは恐らく分かっているだろう。なら、この案が最も柔軟性に富んだ艦隊編成が可能だと考える」

 

「う~ん、オリオンはやっぱり少数建造か。まぁ、仕方ないかな」

 

「では、建造数はこの案で行こうか。後で艦長代理のコーディには掛け合っておこう」

 

 シオンとサナダが艦隊編成の方向性を話し合い、にとりも最終的には賛意を示すと、サナダが建造数を確定させた。

 因みに霊夢不在の今はコーディが艦隊の指揮を執り行っているが、彼は霊夢に出会う以前からサナダと共に旅をしていたため、サナダの言葉なら承認は得られやすい。ファズ・マティの資源略奪もサナダが提案し、承認させたものである。

 

 

「では次は新型艦載機の開発状況だな」

 

 艦船の選定と建造という議題が終了すると、サナダは次の議題に入った。

 

「分艦隊の運用を想定した新型偵察機と戦闘機、だっけ?」

 

「ああ。管理局が提供するQF-4000ゴーストでは航続力が低いという問題が指摘されている。元々未探査領域の偵察用として開発されただけあって、小惑星帯でも運用できるよう、機動力は抜群なのだが」

 

 ここで偵察機の運用について解説する。一般に艦船は通常、i3エクシード航法で光速の約200倍の速度を上限として航行している。航宙機はその速度には到底追い付けないのでその際には使用できないが、i3エクシード航法は敵と遭遇した際や隠密航行を試みる際などには使用できない。そこで、一部では偵察機を使用して周辺の警戒をしたり、弾着観測をさせて運用されている。

 

「そういえば、F/A-17改造の偵察機がありましたが、あれでは問題があるのですか?」

 

「いや、問題がある訳ではないが、将来を見越して、今から新型機の開発が必要だと判断した。我々の艦隊は、何より"ウォーホーク"だからな」

 

 サナダの発言で、あとの二人も笑いを溢した。

 ふつう0Gドックは運送業などを主な収入源としている場合が多いが、霊夢は海賊狩りを主な資金源として考えていた。その為、霊夢艦隊では海賊に対しては見敵必殺が基本となっている。サナダのウォーホーク(タカ派)という発言は、それを意味している。

 

「確かに、より効率的な戦いには技術進歩は欠かせないし、新型機とあればロマンも追求できるな」

 

「それでは、各々開発した新型機の御披露目といきますか」

 

 シオンが先陣を切って、自身の案をホログラムに表示する。

 

 ホログラムに表示された機体は鋭角的なデザインで、四角錘を潰したような機体の後方には細長い三角形の翼があり、その付け根には4基のサブノズルが装備されている。その外見は、全体的にゴーストをより滑らかにしたような形状をという印象を与えていた。。機体の上には、〈XQF-01 A-wing〉と、機体名が表示されている。

 

「私は他の方のように開発チームを持っていないので設計案だけですが、この際に提案させて頂きます。この"アーウィン"はゴーストの発展機として検討させて頂いたものです。主翼の付け根に装備した姿勢制御用のサブノズルでゴースト並の機動性を確保し、機体はステルス性を意識しています。用途は偵察機を想定しているので武装は控えめですが、機体サイズは20m級なので、ウェポンベイにはそれなりの量のミサイルを搭載可能です。ゴーストより大型化させたため、問題として指摘されている航続力も改善しています。」

 

「ふむ、中々魅力的な機体だな。にとり君、整備班の人員に余裕はあるか?」

 

「ああ、何人かは手が空いていた筈だよ。って、開発させる気かい?」

 

 シオンの設計案を眺めたサナダは実際に開発しようと思い立って、整備班に人員の余裕を尋ねた。にとりは逆に質問で返すが、サナダはそれに頷き、その通りだとにとりの言葉を肯定する。

 

「まぁ、うちの連中は機械弄りが好きな連中ばっかだからね、頼めば開発してくれると思うよ」

 

「では、試作機の開発は頼みます」

 

「任された。待っておきな」

 

 にとりはシオンの設計した機体の製作を、自身ありげに承諾した。

 

「今度はうちの機体の御披露目といこうか」

 

 にとりは続いて、一枚の写真と設計図を表示する。

 ホログラムに表示された機体は、シオンのような航空機型ではなく、人型のロボットだった。

 写真ではまだ開発中なのか、機体のフレームが剥き出しになっている。設計図では、装甲服を纏った保安隊員のような機体の外観が確認でき、特にバイザーを有する頭部は装甲服に近い。設計図の上には、〈RRF-06 ZANNY〉という機体名が見える。

 

「こいつは実験的に作業用の人形重機に装甲を貼り付けた機体だ。今のところ開発は順調。まだ試作段階だから詳しくは言えないけど、要塞攻略なんかには丁度いいと思うぞ。マニピュレーターの部分はサナダの可変戦闘機と共通の仕様にすれば、そっちの武器も使えるようになると思うぞ」

 

 にとりが提案した機体は、作業用として宇宙港や地上で使用されている18m級重機を改造したもので、説明にあるように要塞攻略などを主な用途として想定されている。

 

「ふむ、人形という形状故に戦闘機のような運用は期待できなさそうだが、小惑星帯などでは機動性を生かした戦闘が期待できそうだな。にとり君の言う通り、海賊本拠地の制圧にも使えそうだ。元が作業用なだけに性能は低いが、今後の発展性には充分期待できるだろう。」

 

「そういえば、人形の機体というのもあまり見掛けませんね。中々斬新だと思います。これは今後が楽しみです。」

 

「偵察機って要望には応えられないが、こっちは好きに開発させてもらったよ。中々好評なようで何よりだ。整備班の連中も張り切るだろうな」

 

 にとりは好意的な評価に口元を綻ばせた。

 

「二人とも、中々のものを見させてもらった。私も対抗心を刺激されるというものだ。我々の可変戦闘機の開発状況だが、2機とも実戦データの収集は順調だ。そのうち、どちらか一方を主力として、現行機の一部を置き換える予定だ。今後は派生型も計画していく予定でいる。」

 

 サナダはまず、2機の可変戦闘機から話す。YF-19とYF-21の2機種は、サナダが現行の主力機Su-37Cの代替として開発を始めた機体であり、データ収集の後にどちらかを主力として採用する予定でいる。

 

「そっちは相変わらずペースが早いね。先達故の特権ってところか」

 

「そうだな。で、先の話だが、必用とあらばYF-19のマニピュレーターをそちらに提供しよう。人型形態時の運用データも用意するが?」

 

「おっ、そりゃ嬉しいね。なら頼むよ」

 

 サナダは開発データをにとりの整備班に引き渡す意向を示す。彼はにとりの人型機動兵器には可能性を見出だしているため、その開発を後押ししようと意図していた。

 

「成程、それは採用が楽しみですね。ところで、"アレ"の開発状況はどうなっていますか?」

 

 三者がそれぞれの開発状況を話し終えたのを見計らって、シオンが話題を振る。

 

「"拡散ハイストリームブラスター"か・・・アレは中々の難物だ。まだ実用化の目処は立っていない。」

 

「そうだね、まずどうやって拡散させるかが課題だね」

 

 サナダ達は、霊夢には極秘でハイストリームブラスターの改良を試みていた。拡散ハイストリームブラスターもその一つであり、これはファズ・マティ攻略時のような敵の大艦隊を打ち破る決戦兵器の一つとして計画されていた。しかし、ハイストリームブラスターを複数の子弾に分裂させるという点で難航し、開発は暗礁に乗り上げているのが現状だ。

 

「そうですか・・・やはり、被害直径の拡大に切り替えた方が良いのでは?」

 

「普通に考えればそうなんだが、ここはロマンを追求する。我々に不可能はないと証明してみせるよ」

 

 シオンは計画の変更を提案するが、にとりはあくまで現行の計画に拘るつもりのようだ。

 

「私も同意見だ。我々に不可能などない。必ず実用化してみせよう」

 

 サナダも力強く頷き、拡散ハイストリームブラスターへの決意を新たにする。

 

 

「・・・それで、質問等はないだろうか。なら、今回の会議はこれで終了としよう」

 

 この場に終結したマッド3人は、建造艦船の決定と技術交流という主目的を達成し、第一回目のマッド談合は、ここに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉医務室〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここは・・・?」

 

 私は目を開けて、自分の居場所を確認する。白い天井が、私の目に入った。どうやらここは、開陽の医務室らしい。

 

 確かアルゴンの奴をぶっ飛ばした記憶はあるのだが、その後のことは思い出せない。どうも、その間は寝込んでいたみたいだ。

 

「あら、目が覚めましたか?艦長」

 

 隣から、女の人の声がする。船医のシオンさんだ。

 

「・・・ええ。何日くらい、寝ていたのかしら?」

 

「今日で約5日、ってところですね。艦隊は既にファズ・マティを出航して、ツィーズロンドに向かっています」

 

 シオンさんが現状を説明してくれる。どうやら私が寝ている間は、誰かが上手く艦隊を回していたらしい。

 

「そう。で、今回は赤字なのかしら?」

 

「いえ、連中から奪えるものは根こそぎ接収しましたから、全体的には黒字かと。その心配は杞憂ですよ。再演(リピート)して欲しい程には利益ガッポガポです」

 

 シオンさんが上機嫌に話す様を見て、それならと安心した。スカーバレルの本拠地潰してなんて厄介な依頼を受けたのだから、それだけ黒字でないと困る。まぁ、海賊から色々ともの奪ったみたいだけど、中央軍ができなかったことをやってあげたんだから、それくらいは大目に見てほしいわね。特にオムスとかいう軍人。

 

「それと、先にツィーズロンドに向けて出航したユーリ君から伝言です。"この恩はいつか必ず返します"らしいです」

 

「…別に、そこまで気にしなくてもいいんだけどなぁ~」

 

 ユーリ君の伝言にあった恩とは、恐らくアルゴンの爆弾から庇ったことを指しているのだろうが、あれは私が勝手にやったことだ。現に私の体も治ってるみたいだし、あまり私は気にしていない。

 

「ところで艦長、――少し、宜しいですか?」

 

「え、何かしら―――っ!?」

 

 シオンさんに呼ばれて彼女のほうを振り向くと、何故かシオンさんは私に馬乗りになって―――って、なんで顔なんか赤くしてるのよ!この変態女医!

 

「艦長の戦闘能力は見させて貰いましたが、普通人間にはあんな動きはできません。艦長の弾幕(レーザー)にも、非常に興味があります。なので、貴女の身体がどのようになっているのか、この際是非調べさせていただきます!」

 

 調べさせて頂きますって、この人の中ではもう決定事項なのね。私が許可した覚えは無いんだけど。

 シオンさんはそう言うと、私の手首をがっちり押さえて、その間にベットから伸びたアームが私の身体を固定する。

 

 ―――ああ、こいつもマッドの一人だっけ・・・ってコレ、ちょっとヤバいわね・・・

 

 たまに忘れてしまうのだが、シオンさんもマッドの仲間だった筈。なら、この対応も納得だ。というか、本気で脱出しないと怪しげな人体実験に付き合わされそうだ。それだけは勘弁なので、私は腕に力を入れて、脱出を試みるが、腕はおろか、身体を固定するアームも動く気配がない。

 

「大丈夫ですよ、艦長。なにも人体実験をする訳ではありません。非破壊検査で済ませます」

 

 シオンさんはそう言うのだが、マッドなだけあって信用できない。何としてでも脱出せねば。

 私はベットの上でなんとか脱出しようと試みるが、結果は変わらない。

 

「そんなに嫌ですか?なら………」

 

 シオンさんは私の腕から手を話すと、制服のボタンを外し始めて、胸元が露に―――

 

「………ちょっと、何やってるのよ!」

 

「え?嫌がるなら身体で対価を、と思いまして」

 

「対価………って、なんでそんな冷静なのよ貴女は!それと私、そっちの気は無いんだけど!?」

 

「―――チッ………」

 

 私にその気がないと分かると、舌打ちで返してくるこの変態女医マッド。というか、何で私がそれで納得すると思ったのか不思議だわ。確かにシオンさんは美人なんだけど。

 あと、その部分が小さい私に対して喧嘩でも売ってるのかしら?なら余計に悪趣味ね。

 

「そうですか………ならば仕方ありませんね。ヘルメス!」

 

 シオンさんがなにかを叫ぶと、私の身体は突如現れた謎の機械に拘束される。医務室にあるまじき刺々しい見た目の機械だ。

 

「少々強引ですが、検査を始めさせて頂きます。覚悟!」

 

 

「あっ、ちょ――ちょっと待って!何でもするか…………いやぁぁぁぁあっ!?」

 

 

 

 

 この後、数時間に渡って謎の検査を受けさせられた。一応人体実験の類いがなかったのはせめてものの救いだが………もう医務室の世話にならないよう、これからは注意しよう。

 




艦船についてですが、マゼラン級は1/1200プラモデルの見た目です。今回は流れてしまいましたが、にとりはまだ諦めていません。今後はorigin版を改造したものを出すかもしれません。オリオン級はセンチネルでのマゼラン改ですが、主砲サイズのダウングレードでIGLOO版のマゼランをセンチネルのマゼラン改にした外見になります。。艦首は三段の飛行甲板になっています。

サチワヌ級はZガンダムのサラミス改の船体にフジ級のカーゴブロックをくっつけて主砲を艦底に移設し、艦尾を0083のサラミス改にしたような外見で、各作品のサラミスのキメラですwサイズは400m級に拡大しているので、カタパルトは2本に増えています。

艦載機は、シオンが提案したものはスターフォックスのアーウィンですが、まだ性能は控えめに設定しています。にとり提案の人型機動兵器はガンダムのザニーまんまです。

次回は艦隊の編成表などを公開したいと思います。(本当は今回の予定でしたがマッド談合に持ってかれましたw)


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第二八話 獣耳異変

第二八話です。今話からタイトルを付けてみました。以前の話にも付けていくつもりです。ほんとはもっと前に投稿する予定だったのですが、挿絵に手間取って延びてしまいました・・・


 〜〈開陽〉艦橋〜

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ早苗、うちはいつから護送船団(コンボイ)になったのかしら?」

 

《さ、さぁ・・・何時からでしょう?》

 

 私の問いに、早苗は惚けてみせる。

 それよりもこの輸送艦の数・・・一体何処から調達したのよ。

 

 私が目覚めてついさっき艦橋に上がると、窓の外側には今までうちの艦隊にはいなかったビヤットやボイエンの大群が浮かんでいた。しかも〈開陽〉の後ろには見覚えのない双胴型のビヤットが随伴していて、おまけに新しい艦を建造しているようにも見えた。

 

「・・・まぁ、誰の仕業かは見当がついてるわ。大方サナダさん辺りが暴れたんでしょ?」

 

《・・・はい。後で記録映像を御覧になられますか?》

 

「いや、いいわ。」

 

 今の状況でも頭が痛いのに、さらにマッド共が暗躍する様子なんか見せられたら胃薬が必用になりそうだ。それは遠慮しておこう。

 

 

 ーーーーー

 

 

 そのあとコーディさんから私が倒れている間の艦隊の状況を聞いたんだけど、あの輸送艦の大群はファズ・マティから資源を持ち出すためにマッド共が誂えたものらしい。ただ資源を運ぶだけの存在なので、腹の中に蓄えた物資を使い果たしたら一隻を除いて売り払う予定だそうだ。

 

「そういえば、うちの艦隊にガラーナなんていたかしら?」

 

 艦隊の様子を確認しているうちに、画面上にはガラーナ級やゼラーナ級といった海賊駆逐艦も一緒に随伴しているのが見える。こいつらは何なのかしら?

 

「ああ、それはサナダ共が工作艦で作っていた連中だな。あと、後ろで数珠繋ぎになってる連中は鹵獲艦だ。売り飛ばす予定らしいぞ。」

 

 成程、まぁ予想通りね。

 艦隊の後ろには駆逐艦に加えて水雷艇や小数の巡洋艦がクレイモア級重巡に曳航されているが、こいつらは海賊が放棄したり、建造途中の艦のなかで売れそうな艦を鹵獲したもののようだ。目立った外傷は少ないし、中には新品に近いような艦もあるので、売り飛ばせばかなりの金になりそうだ。

 

「それと、こっちは新造艦と建造予定艦のリストだ。艦隊編成を考えておくのもいいだろう。」

 

 コーディはそう言うとデータチップを渡してくれた。それを端末に差し込んで開いてみると、建造予定艦のリストが表情される。

 

「随分と駆逐艦が増えるのか。これなら、今よりも柔軟な艦隊編成ができそうね。」

 

「ああ。サナダが言うには、"小数の艦隊を進路上に展開させておいて、そいつらを海賊共に食いつかせる囮に使ったらどうだ?"らしいな。」

 

「成程ね。あ、それと今艦隊はどこの航路を進んでるの?」

 

「ファズ・マティを出た後は、そこからボイドゲートに向かう航路を取っている。海賊共も俺達が殲滅しちまったから、静かなもんだ。」

 

 確かその航路は、エルメッツァ・ラッツィオ宙域に向かうゲートとファズ・マティを結ぶ大回りの航路だったっけ・・・その航路なら確か元から交通量も少ないし、スカーバレルも全滅したから、通る分には安全そうね。

 

「分かったわ。こっちは編成を考えておくから、何かあったら連絡を入れて頂戴。」

 

「了解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〈開陽〉自然ドーム・博麗神社〜

 

 

 

 

 

 艦橋で現状確認を終えた後、私は博麗神社に来ている。取り敢えず、ここで艦隊編成を考えておこう。

 

「はぁ~やっぱ神社は落ち着くわ~」

 

 と、その前に、畳に寝転がって休憩だ。前世の実家なだけあって、ここに来ると気持ちが落ち着く。この自然ドームは私の注文通りに作られているから、ここにいる間は今も幻想郷にいるのだと錯覚してしまいそうだ。

 

「・・・・ここの季節、今は秋なのね。」

 

 どうもこの自然ドームでは季節の移り変わりの周期を早めているらしく、辺りの風景は秋の景色に変わっていて、神社の周りは鮮やかな紅葉に彩られている。

 

「―――掃除でもするか・・・。」

 

 秋になると紅葉が綺麗なのだが、同時に落ち葉も溜まる。前世とは違って常に神社にいる訳ではないから、溜まってる落ち葉の量も多い。別に放っておいても問題はないらしいが、習慣なのか、掃除しておかないと落ち着かない。

 

「よいしょっ、と・・・」

 

 私は身を起こし、箒を手にとって境内に向かう。

 

「あ~~、やっぱり結構溜まってるわね。」

 

 さっきは飛んできてすぐ神社に入ったのでよく見ていなかったが、やっぱり落ち葉はかなりの量が溜まっていた。これは一苦労になりそうだ。

 

 

 

 

「おや、艦長かい?」

 

 私が境内を掃除していると、鳥居の方から誰かの声が聞こえた。

 

「その声は、ルーミア?」

 

 声がした方向に振り向くと、ルーミアは手を振って、こっちに向かってきた。

 

「久しぶりだね。確かこの宙域に来てからは、あまり顔を会わせていなかったな。」

 

「そうね~、こっちに来てからけっこう戦闘の回数が増えたから、主計課の方まで顔を出す余裕はなかったわね。」

 

 このエルメッツァに来てからは海賊狩りの指揮で艦橋にいることが多かったから、艦橋以外の部署に務めてるクルーと会う機会が減っていたわね。これからは、暇な時間には積極的に見回りでもしてみようかしら。

 

「―――その様子だと、怪我はもう大丈夫なのかい?」

 

「え、ああ・・・ちょっと気絶してたみたいだけど、今は何ともないわ。」

 

「それは良かった。艦長が医務室に運び込まれたと聞いた時は心配だったからな。」

 

 ルーミアは、私が怪我をしたと聞いて心配してくれたみたいだ。それは素直に嬉しいけど、今後は気を付けた方が良いわね。前線に出るのは良いけど、それで倒れたらクルー達に示しがつかないし、何よりあの女医マッドに何をされるか分かったものじゃない。

 

「もう心配には及ばないわ。それより、立ち話も難だから、一度上がっていきなさい。お茶くらいは出していくわよ。」

 

「そうか。ではお言葉に甘えて。」

 

 私は掃除を一度中断して、ルーミアを縁側に案内した。そういえば、お客さんにお茶を出すのは久しぶりね。魔理沙に毎日茶を出していたのが懐かしいわ。

 

 一度台所に上がって、お茶と菓子を用意する。お茶請けは・・・どっかの星で買った生八ツ橋擬きで良いかしら。

 

「はい、お待たせ。」

 

「おっ、ありがと。艦長も中々気が利くね。」

 

 ルーミアは出されたお茶を手にとるが、飲み終わると、なんか難しい表情をしている。

 

「もしかして、口に合わなかったかしら?」

 

「いや、そうじゃないんだけど・・・なんか、サナダさんが"古代の飲み物だ"とか言って作っていた奴に似ていると思ってね。」

 

「へぇ~、サナダさんが・・・」

 

 どうやらこの時代にも、お茶は伝わっているらしい。でも、サナダさんってそんなことまでしてたのね。なんか機械ばっかり弄っているイメージがあったけど。

 

「そういえば、艦長はこれを"お茶"と言っていたけど、呼び方はそれで良いのか?」

 

「えっ、お茶はお茶よ。他に何て呼べばいいのよ。」

 

「いや、サナダさんは"ヲチャッ!"とかいう変な呼び方してたぞ。なんでも"このアクセントが重要だ"とか言ってたけど。」

 

「・・・・ルーミア、それは忘れても構わないわ。」

 

「あ、ああ・・・・」

 

 取り敢えず、後でサナダさんはシバいておくとしますか。無断軍拡の罪も含めて。

 

「それとだ、艦長。主計課に回せる人材っていないかな?艦隊が増えたせいでうちに上がってくる書類の数が増えてね。ちと増員して欲しいんだけど、どうかな?」

 

「そうね~何処かの惑星に寄ったら募集は掛けておくわ。」

 

「有り難い。」

 

 うちも艦隊の規模に比べたらクルーの数はまだまだ足りないからね。この〈開陽〉以外は全部無人艦だし、〈開陽〉も漸く最低稼働かってレベルだからね。ここの機械は高性能だから何とか回していられるけど、早苗の演算リソースも無限じゃないんだから、主計課も含めて人員は増やさないと不味いわね。

 

 そのあとはルーミアと適当な話をして別れたわ。ルーミアが帰ったあとは掃除の続きをして、それが終わった後は艦長室に篭った。サナダさんが大量建造した艦の配備先を考えないといけないからね。

 

 

 

 

「取り敢えず、こんなもんでいいかしら?」

 

 早苗の力を借りて、艦隊編成表を作り上げた。画面上には、たった今完成した編成表が出力されている。

 

 

 

 

 

 

 本隊

 

 戦艦:

 改アンドロメダ級/開陽

 

 空母:

 改ブラビレイ級/ラングレー

 

 重巡洋艦:

 クレイモア級/ピッツバーグ、ケーニヒスベルク

 

 巡洋艦:

 改ヴェネター級/高天原

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/霧雨、叢雲、夕月

 

 

 

 特務艦隊

 

 工作艦:

 改アクラメーター級/サクラメント

 プロメテウス級/プロメテウス

 ムスペルヘイム級/ムスペルヘイム

 

 輸送艦:

 ボイエン級/蓬莱丸

 

 巡洋艦:

 サチワヌ級/サチワヌ、青葉

 

 駆逐艦:

 ヘイロー級/ヘイロー、春風、雪風

 

 

 

 第一分艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/オリオン

 

 巡洋艦:

 改サウザーン級/エムデン

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/ノヴィーク、タシュケント

 グネフヌイ級/グネフヌイ、ソヴレメンヌイ

 

 

 

 第二分艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/レナウン

 

 巡洋艦:

 改サウザーン級/ブリュッヒャー

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/ズールー、タルワー

 グネフヌイ級/コーバック、コヴェントリー

 

 

 

 第三分艦隊

 

 巡洋艦:

 サチワヌ級/ユイリン、ナッシュビル

 

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/早梅、秋霜、パーシヴァル

 グネフヌイ級/ヴェールヌイ、アナイティス

 

 

 

 

 

 

《一応各艦の戦力バランスも考慮されているので、それほど問題はないと思われます。》

 

 艦隊編成はコーディが言っていた通り、複数の分艦隊に分けてみた。基本的に第一~第三の分艦隊が艦隊の前衛と哨戒を行い、海賊を発見次第交戦するという想定だ。本隊は中央に置いて、援護ができるように配慮する。艦隊の最後尾には工作艦とその護衛艦を置く。この部隊は基本は戦闘には加わらないが、後方からの攻撃も想定して、強力なヘイロー級駆逐艦を護衛艦として配置している。

 特務艦隊にはボイエン級が一隻編成されているが、これはスカーバレルから奪ったフネのうち状態が良いものを弾薬補給艦として再利用したものだ。今後は工作艦で生産されたミサイル類を備蓄して、弾薬補給艦として使用するつもりだ。現在は素のボイエン級のままだが、建造ラッシュが終わったら〈ムスペルヘイム〉のドックでそ装甲を強化する予定らしい。

 ちなみに、このボイエンの命名者は私だ。

 

「貴女が言うなら別に問題は無いでしょ。しかしまぁ、よくこれだけ作るわね。」

 

《ファズ・マティにあった造船資材は殆ど持ち出されましたからね。尚、輸送艦の資源は半分以上消費された模様です。》

 

 私は今の戦力でも充分だと思うんだけどな~。やっぱり資源は輸送艦ごと売った方が良かったんじゃない?まぁ、今となっては後の祭りだけどね。

 

「そうだ、早苗。食料の備蓄ってあとどれくらいあるかしら?」

 

《あ、えっと―――食料なら此方になりますね。》

 

 私の求めに応じて、早苗が艦の食料備蓄の量を表示する―――これ位あれば問題は無さそうね。

 

 それじゃ、艦隊運営の仕事も一息ついたところだし、もう一つやっておかないとね。

 

《それで艦長。食料備蓄なんか聞いて何をされるんですか?》

 

「決まってるでしょ。戦勝の後は宴会よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方緋想天より『砕月』】

 

 

 

「そうそう、やっぱりこれがなきゃ締まらないわね~。」

 

 自然ドームの時刻は夜になり、神社周辺は宴会場となっていた。元々博麗神社には宴会用の土地を作っておいたから、前世同様に大勢参加する宴会が開けるのだ。

 私はその宴会場を一瞥してから、盃にお酒を注いだ。

 

 宴会の開催を決めてからは、厨房の人達と打ち合わせをしたり会場を用意したりとで忙しかったから、漸く一息つけた。まぁ、この後も片付けが残ってるんだけどね。

 

「やあ艦長。これで宴会は2度目かな。」

 

「あ、ルーミアじゃない。今日は酔ってないのね。」

 

 確か前に宴会を開いた時は、ルーミアに付き合って二日酔いになったんだっけ。以外と肝臓強いのね、彼女。あの時は絡み酒で他の連中を酔い潰していたみたいだったけど。

 

「まだ始まったばかりじゃないか。ああ、前のような失態はしないから安心して。」

 

「別にそこまで気にしないわ。宴会の時くらいは少しははめを外しても大丈夫よ。」

 

「そうかい、まぁ、ほどほどにしておくよ。」

 

 ルーミアはそう言ったら元いた集団に戻っていく。主計課の人達かしら。

 

 

 ―――しかし、紅葉の元で宴会ってのも飽きないわね~。

 

 季節は秋の設定なので、宴会場の周りの木々は赤や黄色に彩られて、それがライトアップされて中々綺麗だ。ご丁寧に、夜空には満月まで浮かべられている。

 

「こりゃ(すすき)と月見団子でも用意しておくべきだったかな。」

 

 でも、それだと宴会の雰囲気にはあまり合わないかな~。あれは静かに楽しむのが個人的なイメージだし。

 

「おお艦長、此所にいたか。」

 

「・・・何よ、サナダさん。」

 

 せっかくの宴会だってのに、私の前に頭痛の原因が現れた。まぁ、サナダさんには感謝してるんだけど、少しは自重ってものを覚えて欲しいわ。

 

「自重なら充分していると思うがね。それより、少し付き合ってくれないか?」

 

「はぁ?折角の宴会なのに、何であんたに付き合わなきゃいけないのよ?」

 

「まぁそう言わずに。これも宴会を盛り上げる為だ。」

 

「・・・仕方ないわね、分かったわよ。」

 

 そこまで言うなら少しは付き合ってやろうと私は思ったんだけど、まさかあんな事になるなんてね・・・。

 

 

 

 

 

 さて、私はサナダさんに着いていくと、終着点にはあのマッド三人衆が大集合していた。この時点で危険が危ない。

 

「おお、やっと来たか!」

 

「待ちましたよ、艦長。」

 

 にとりとシオンさんが出迎えてくれるけど、ちっとも嬉しくないわね。それより背後の機械は何なのよ。なんかデフォルメされた私みたいな人形が飾り付けられてるし。

 

「へぇ~、何ともいえない愛嬌があるな、あの霊夢人形。」

 

「―――霊沙、いつからそこにいたのよ。」

 

「は?さっきからだけど。」

 

 なんか知らない間に、霊沙の奴が私の隣でまじまじと機械を観察していた。ほんと暢気な奴ね。

 

「ようこそ艦長、これが"ふもふもれいむマスィン"だっ!!!」

 

 サナダさんが機械の前に立って、「どーん」って感じで腕を広げた。サナダさんって、あんなキャラだっけ?

 

「マスィンって何なのよ。普通にマシンで良いんじゃないの?それより、これで何するつもりなのよ。」

 

「サナダ主任曰く、アクセントが重要らしいですよ。」

 

「艦長には、これからもふもふになってもらうよ。」

 

 ―――は!? 何よそれ。

 

「取り敢えず、ろくでもないこと考えてるってのは分かったわ。」

 

 冗談じゃないわ。宴会の時までマッド共の実験になんか付き合ってられないわ。

 

 と、私はそこから立ち去ろうとしたのだが、後ろからがしっと拘束された。

 

「おっと、逃がさないぜ?霊夢。」

 

「・・・あんたもグルだったのね。」

 

 私の背後から、霊沙は腕を回して私の体を拘束している。どうやって逃げようかしら。

 

「よし、そのまま装置に投げ込め!」

 

「アイアイサーっ!覚悟しろ霊夢!」

 

 ちょっと、いきなりぶん回して何するの・・・

 

「っ、ちょっと止めなさ・・・きゃぁっ!」

 

 そのまま勢い余って、哀れ私は機械に投げ込まれてしまった・・・

 

 

 ーーーーーー

 

 

「ところでこれ、人体に影響とかないのか?」

 

「計算上では問題ありません。」

 

 霊夢を機械に投げ込んだ霊沙がシオンに尋ねる。

 

「計算では問題ないから、人体実験で確かめてるのさ。」

 

「ほほぅ、なるほど・・・。」

 

 にとりの説明に、霊沙は成程と頷いた。

 

 "ふもふもれいむマスィン"は中に霊夢を入れられたままゴゥンゴゥンと重低音を響かせて振動する。

 

 しばらく経ったあと、"チーン"というトースターが焼けたような音と共に、霊夢が機械から放り出された。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「ぅ―――う"ぇぇっ・・・」

 

 き、気持ち悪・・・・

 

 機械がよく回るもんだから、目が回るし吐き気がするわ・・・

 私は胃の中身をリバースしそうになのを堪えながら、この元凶であるマッド共と霊沙を睨んだ。

 

「おっ、可愛いねぇ。霊夢なのが残念なくらいだ。」

 

「・・・出来は中々のようだな。」

 

「計算通りです。」

 

 そんな私を意に介さず、元凶は口々に評価を下しているようだ。特に霊沙、ぶっ飛ばすわよ?

 

「あ・・・艦長がお稲荷様に・・・」

 

 と、そこに通りかかったこころがなんか意味不明な言葉を呟いた。私がお稲荷様にってどういう意味なのよ――――ってまさか・・・!?

 

 そこで私はある可能性に思い立って、自分の頭をまさぐってみる。

 

 ―――やっぱり、そういう事ね。

 

 どうやら、私の頭には獣の耳が生えているらしい。こころの発言から考えて、狐耳だろう。

 そういえば、こころってお稲荷様のことは知っているのね。感心したわ。

 

「ほれ、手鏡。」

 

 霊沙がクスクス嗤いながら手鏡を放り投げる。私はそれを手にとって、自分の体を確認してみた。

 

 頭には手で触った通り、白い狐の耳が生えている。鏡を離してみるとそれに加えて、お尻の辺りからは白くてもふもふした狐の尻尾まで生えていた。成程、もふもふってそういう事か―――

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「―――って、何やってるのよ!!!」

 

 ちょっと、私の体に変な加工なんかして、戻らないとか言ったらただじゃおかないわよ。

 

「大丈夫です艦長。効果は6~7時間で消えます。」

 

「・・・・・そう。戻らなかったらただじゃおかないわよ。」

 

 ほんと、今後この姿のままとか洒落にならないわ。戻らなかったら命の保障はしないわよ。

 

「では艦長、早速だが・・・」

 

「五月蝿いわよっ‼」

 

 サナダさんが何か言いかけたが、その言葉を遮って弾幕でぶっ飛ばしてやった。宴会を盛り上げるためとか言ってたけど、結局は実験がしたかっただけみたい。いい加減自重ってものを覚えてほしいわね。

 

「全く・・・付き合ってらんないわ!それ、適当に片付けといてよね。」

 

「あ、艦長・・・!」

 

「ま・・・待て!」

 

 もうマッド共になんか付き合っていられない。ここは大人しく退散ね。ここは神社に戻って酒盛りの続きでもしましょう。後ろで騒ぐマッド共は無視よ。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「おい、逃げられたみたいだぜ?」

 

「くっ―――やはり上手くはいかなかったか・・・」

 

 霊夢が去っていくのを尻目に、霊沙が顔面に弾幕を叩きつけられたサナダに話し掛けた。

 

「主任、大丈夫ですか?」

 

「ああ、何とかな。」

 

 サナダは土埃を払いながら立ち上がる。

 

「宴会場にケモミミの艦長を放り込んで盛り上げる、だっけ?結局上手くいかなかったねぇ。」

 

「いや・・・まだ手はある。」

 

 にとりは諦めの入った声で呟いたが、サナダはまだ諦めていないという様子で、目の前にいた霊沙を直視した。

 

「・・・・ふむ、シオン君、プランBだ。」

 

「了解です。」

 

「ん、プランB?なんだそりゃ―――って、ぅわあっ・・・!な、何だこれ!?」

 

 サナダが指先を鳴らして指示すると、刺々しい見た目の機械が瞬時に現れ、霊沙を羽交い締めにした。

 

「艦長が去ってしまった今、計画実現の為には君を生贄にするしかないな。」

 

「お・・・おいっ、そんな話聞いてないぞ!」

 

 霊沙は機械の上で必死に抵抗して拘束を振り解こうとするが、機械の拘束が緩む気配はない。

 

「よし、そのまま突っ込め!」

 

「了解です。ポチッとな。」

 

「まっ、待ちやが―――、っぎゃぁぁぁあぁっ!!!」

 

 必死の抵抗も空しく、霊沙は"ふもふもれいむマスィン"に放り込まれ、機械は怪しげな駆動音を響かせながら稼働する。

 

 暫くすると、霊夢と同じように獣耳と尻尾を生やされた霊沙が機械から放出された。

 

「うむ、どうやら成功のようだな。」

 

「おっ、艦長とは違うみたいだな。今度は何の動物だ?」

 

「・・・どうやら、ヤマネコのようですね。」

 

 起き上がらない霊沙をマッド三人衆が取り囲んで、まじまじとその様子を観察する。

 

「よし、では宴会場まで運ぼ――「にゃあ?」

 

 サナダがクルー達の集まる宴会場まで霊沙を運ぼうと手を伸ばすと、目覚めが悪そうに霊沙が起き上がり、サナダを見つめた。

 

「に"に"に"っ・・・・キシャーッ‼」

 

「な―――ぐはあっ‼・・・」

 

「しゅ、主任!」

 

 すると、霊沙はいきなりサナダに飛び掛かり、爪でサナダの顔を引っ掻いた。

 霊沙に引っ掻かれたサナダはそのまま地面に倒れ伏す。

 

「がるるるるるっ・・・」

 

 霊沙はサナダを引っ掻いた勢いのまま地面に着地し、残るマッド二人を威嚇するような声を出して睨む。

 

「おい、なんか行動まで動物的になってるぞ?いいのか?」

 

「・・・どうやら調整を誤ったみたいですね。」

 

「――――」

 

 にとりとシオンは霊沙の行動について考察するが、その間に霊沙は向きを替えて、別の場所に移動し始めた。

 

「逃げたみたいですね。」

 

「ああ。ま、効果時間が切れたら元に戻るでしょ。」

 

 二人は楽観的な観測を述べながら、霊沙を見送った。

 

「・・・主任、起き上がりませんね。」

 

「君、一応医者なんだから後で治療しておけよ?」

 

 霊沙に引っ掻かれて起き上がらないサナダの様子をシオンは観察する。にとりの忠告を受けたシオンは、やっと治療する気になったようで、白衣から消毒液と傷薬を取り出して一通りの処置を施した。

 

「・・・ふぅ、これで終わりですね。」

 

「あとは起き上がるだけか。―――そういえばさ、あれに動物を放り込んだらどうなるんだろう?」

 

「それは計算していませんでしたね。言われてみれば、私も興味が湧いてきました。」

 

「何かいい実験体、転がってないかな~」

 

 にとりの言葉で、二人は動物実験にも興味を持ち出し、丁度いい実験動物がいないか辺りを探し始める。

 

「おっ、あれは・・・」

 

「モ"フ"ッ"・・・!!!」

 

 にとりの目に、丁度目の前を通り掛かったモフジの姿が捉えられる。モフジは本能的に身構えたのか、びくっと体を震わせた。

 

「・・・シオン、今日はついてるみたいだ。」

 

「同感ですね。」

 

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

「あ~~~もふもふ~~♪」

 

「・・・あの、ノエルさん、艦長も困ってるみたいですよ?」

 

「もふもふ~♪」

 

 ―――、一体どうしてこうなったのよ・・・

 

 少し前にあのマッド共に狐にされた私はあそこから逃げてきたんだけど、途中でノエルさんとミユさんのオペレーター二人組に見つかってしまった。それだけならまだよかったんだけど、ノエルさんは私を見るなり硬直したかと思うと、気が狂ったのかいきなり飛び付いてきたのよ。それからずっとこの調子で、私は尻尾に抱きつかれ続けられているままだ。

 まぁ、ノエルさんの気持ちも分からないでもないわ。いつぞやの魔理沙に化けた狐も襲っちゃったからね。狐耳と尻尾をつけた魔理沙がもう可愛くて可愛くて―――

 

 ・・・これは思い出さないでおこう。あの事まで思い出しちゃうわ。

 

「ノエルさん、そろそろ良いかしら?」

 

 でも、いつまでも抱きつかれてても困るのよね・・・声掛けても止める気配はないし、どうしようかしら・・・

 

 

「ギャーッ・・・!」

 

「グハーッ!」

 

 ―――?、何かしら・・・

 

 すると、何だか叫び声みたいなのが聞こえてきた。まぁ、大方宴会の空気で騒いでいるんでしょう。羽目を外しすぎない限りは別に放っておいても構わないでしょう。

 

 

 ーーーーー

 

 

 一方、獣化した霊沙は宴会場に乱入すると、手当たり次第に付近のクルー達を襲い始めた。既にコーディやバーガーといった幹部クルーの何人かもその凶刃の前に倒れ、屍の如く地面と熱い抱擁を交わしている。

 まさに宴会場は地獄絵図となっており、暴れ回る霊沙とそれを止めようとする生き残りクルーとの間で大乱闘が繰り広げられていた・・・

 

「おい、そっちに行ったぞ!」

 

「クソッ、援護しろ‼」

 

「おーい、にゃんこちゃ~ん、怖くないz・・・グワーッ!目が、目があぁぁッ‼」

 

衛生兵(メディック)ーッ!」

 

 エコー、ファイブスの二人は保安隊員を率いて霊沙の捕獲を試みるが、獣化したせいか勘と運動能力が向上した霊沙を捕らえることはできず、なんとか懐柔しようと近づいたフォックスは顔面を引っ掻かれて沈黙した。それを衛生兵のジョージが後方に引き下がらせて、応急処置を施す。

 

「隊長、目標が移動を開始しました!艦長の自宅方面に向かっています!」

 

「何、それは不味いぞ!」

 

 茶色の長髪をした航空隊の新入女性隊員―――グリフィス隊2番機のパイロットであるマリア・オーエンスが、霊沙が神社(クルー達には靈夢の自宅と認識されている)の方向に向かうのを見て、隊長のタリズマンに報告した。

 報告を受けたタリズマンは万が一艦長が襲われたら一大事だと考え、他のクルーに号令を掛ける。

 

「よし、野郎共、追うぞ!」

 

「イェッサー!」

 

 タリズマンは霊沙が消えた方向に向けて走り出して、それに3名の生き残り保安隊員を率いるエコーとファイブスが続く。

 

「クソッ、茂みが邪魔で中々進めねぇ!」

 

「こんな事なら装甲服を着たままの方が良かったな。」

 

 保安隊員含め、宴会ということもあって彼等は碌な装備を持っていなかった。そのため、行軍スピードは遅い。

 

 

「え、ちょっと何なのよ・・・って、ぅわぁあぁぁぁぁっ――!!!」

 

 

「・・・あれは、艦長の声だ。」

 

「不味いぞ、急げ!」

 

 彼等の耳に、霊夢の叫び声が入る。事態を察したタリズマン達は無理矢理にでも行軍ペースを上げて艦長である霊夢の下に急行した。

 茂みを掻き分け、枝を潜り、時に木のトゲに刺されながら巨大キノコが繁茂する魔法の森擬きをやっと抜けたタリズマン達は、空間が開けている方向に飛び出した。

 

「艦長っ、無事です・・・・か?」

 

 一番に飛び出したエコーが霊夢を案じて声を掛けたが、その光景は彼等が予想したものとは大分違ったものだった。

 

「なうーん♪」

 

「も、もふもふ・・・がはっ・・・」

 

 彼等の目に映ったのは、懐いたペットのように霊夢に抱きついている霊沙の姿と、何故か霊沙と同じように、白い狐の耳と尻尾を生やした霊夢の姿だった。

 霊沙は今までの暴れようが嘘のように、尻尾を振りながら穏やかな表情を浮かべて霊夢に甘えている。

 一方の霊夢は霊沙に抱きつかれた衝撃のせいか尻餅をついており、突然の事態に思考が追い付いていないのかその表情は困惑気味だ。時々、霊夢の頭に生えた白い狐耳はびくん、と動いている。

 霊夢の尻尾の位置には、下敷きになって苦しそうにしているが、どこか満足気な表情を浮かべているノエルの姿があった。

 

「か・・・艦長・・・?」

 

「あ―――――こ、抗議ならサナダさん達にやってもらえるかしら・・・?」

 

 予想外の光景に、ファイブスが素っ頓狂な声を出して霊夢を見据えた。

 霊夢もタリズマン達の突然の来訪に困惑気味で、やや的外れな言葉を呟いた。

 

 しばらくタリズマン達は雷に打たれたようにその場で硬直していたが、突然端末を取り出し始め、端末のカメラ機能を起動すると霊夢に向かってシャッターを焚き始めた。

 

「な、何なのよ―――!」

 

 霊夢の抗議も介さず、撮影を終えたタリズマン達は端末の画像を眺め、呟いた。

 

 

「「「「「「・・・かわいいぜ――――。」」」」」」

 

 

 その言葉を聞いた霊夢は顔を真っ赤にして立ち上がり、羞恥心と怒りの籠った表情でタリズマン達を睨み付ける。

 

 

「―――――っ、夢想封印ッ!!!」

 

 

 羞恥に染まった霊夢がスペルを唱え、タリズマン達は色彩りの弾幕に包まれた。

 

 

 

 この日、〈開陽〉自然ドームには大穴が空いたとか空かなかったとか。なお、獣化した霊沙による被害者については、一通り治療が施された上で、マッドの予算を削る形で保障が行われた。

 

 

 

 結局、この騒動の元凶となる「ふもふもれいむマスィン」を作製したマッド3人は半年間4割減給の刑に処せられ、霊夢は今後マッドの手綱を強く握ろうと誓ったという。

 

 一方、タリズマン達が撮影した狐霊夢の写真は撮影者の一人である保安隊のクルーの手により艦内に流通し、それは高値で取引されたという。その写真は一部クルー達の癒しになり、艦長親衛隊の設立に繋がったとか。




これにて獣耳異変、終了です。エルメッツァはあと1話を残すだけとなりました。早く進めたい・・・大マゼラン突入は何時になるんだ・・・?

宴会で狐霊夢を出すというのは書き始めた時から構想があったのですが、やっと書くことができました。今回の霊夢は鈴霊夢を意識してます。服装は以前上げた艦長服のラフ画と変わりません。
一応挿絵はまだ下書き段階なので、着色したら差し替える予定です。そのときは小説の後書きや活動報告の方で連絡致します。そのうち艦隊内で流通した狐霊夢の写真も描いてみたいですね。(尚、作者は絵を描くペースが遅い模様)

今話から、航空隊員として新キャラのマリア・オーエンスを登場させました。元ネタはGジェネのオリジナルキャラです。(正確には二六話で台詞がありますが、あの段階では航空隊の面子はまだ決まっていませんでした。)航空隊には他にオリキャラや他のコラボ作品のキャラなんかを出していく予定です。


あと、活動報告の方に本作での霊夢の設定を上げておきました。よろしければご覧下さい。


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第二九話 両舷全速

事業連絡です。前話の狐霊夢を着色verに差し替えました。

予告として、挿絵で「改ドーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉」を公開中です。


【イメージBGM:東方風神録より「フォールオブフォール ~秋めく滝」】

 

 

 

 

 ――〈開陽〉自然ドーム――

 

 

 

 

 

 艦内時刻は正午を回り、自然ドームには人工の光が燦々と降り注いでいる。秋の程よく涼しい風が心地いい。

 

「ふぅ、これで終わり、かな・・・。」

 

 ついさっきまで私は昨日の宴会を片付けていたが、それも粗方終わった。

 何時もなら宴会の片付けにはもう少しかかるのだが、昨日の騒動のせいで満足にお酒を飲めなかったから、宴会の翌日としては珍しく早起きだったのでついでに片付けておいた。そのお陰で早めに片付けを終えることができた。

 ああ、ちなみに獣耳は一晩寝たらちゃんと元に戻ったわ。

 

「さてと―――それじゃあ出勤するとしますかな・・・?」

 

 片付けも終わったことだし、艦橋に顔を出そうとした私は、茂みの向こうに何か居るような気配を感じた。

 

 ―――ここは妖怪連中は居ないんだし、何かの動物かしら?

 

 一瞬癖で身構えたが、そういえばここは宇宙船の艦内なのよね。幻想郷にいたような獣じみた妖怪は居ないんだし、普通に考えれば音の主は動物か何かだろう。

 茂みの向こうに何が居るか気になった私は、正体を確かめようとその方向に向かう。

 

「おーい、そこ。何か居るの・・・」

 

「ひ、ひゃうっ!」

 

 ―――声?一体誰かしら?

 

 茂みの向こうから女の人の声が返ってくる。予想に反して、音の正体は人間らしい。どうせ昨日の宴会で酔い潰れて変な所で寝てたんでしょう。

 

「ほら、早く起きなさ・・・い!?」

 

「あっ・・・!」

 

 その人を起こそうと茂みを掻き分けると、そこには白髪の女の人がいた。しかし、その人の頭には白い犬耳と赤い頭襟がついていて、さらに狼みたいな尻尾まである。

 

 ―――ちょっと、こ、これ―――

 

「はっ、白狼天狗っ!!?」

 

「ひゃうんッ!!」

 

 ―――なななな、何で白狼天狗がここに居るのよ!此所は妖怪の類は居ない筈・・・って、ああ、そういえば、あの機械って線もあるか。

 

 予想外の存在に一瞬驚いた私だけど、よく考えたらあの機械の犠牲者が私と霊沙だけとは限らないのよね・・・

 私が大声を出して驚いたのか、白狼天狗みたいな子は犬耳を真っ直ぐ立ててガチガチに固まっている様子だ。

 

「えっと・・・あ、あの・・・か、艦長さんですか?」

 

「?、そうだけど・・・」

 

 どうも初対面のようで、私が艦長か確認してきたのでそれを肯定すると、突然彼女は頭を下げた。

 

「あっ、あの時はどうも有難うございますっ!!」

 

 ―――え・・・私、この子に何かしたっけ?

 

 いきなり礼を告げられたんだけど、どうも思い当たる節がない。前世でも白狼天狗の連中に特に便宜を図ったこともないし、こっちに来てから彼女みたいな格好の人を助けたようなことは無いので、意図が分からず茫然とする。

 

「やっぱり気付いてませんか?私、あの時のモフジなんです・・・。」

 

 ―――モフジ・・・ああ、あの時のね―――って・・・

 

「ええっ!モフジって、前に海賊から助けたあの・・・?」

 

 彼女は私の言葉を肯定するように頷いた。

 モフジは確か、私達がまだヤッハバッハから逃げている間に密猟やってた海賊から保護した動物だった筈。でも何であれが白狼天狗の姿になってるのよ。もしかして成長したら妖怪になるとかじゃ無いでしょうね?

 

「はい。その・・・今までは他のモフジと同じ姿だったんですけど、昨日変な人達に捕まって機械に入れられたら、気がついたらこの姿に・・・。」

 

 ああ、成程ね。サナダさん達の仕業か。

 

「その、それで、折角人の姿になったので、この際艦長さんにお礼を・・・と思いまして。」

 

「う~ん、私もあれは気紛れだったし、そこまでしなくても・・・」

 

 あの海賊を襲ったのは偶々だし、別にお礼とかは考えてなかったんだけどね・・・・それにしても、この子、なかなか素直でいい子そうじゃない。

 

「それと、この際ですから、何かお手伝い出来ることとか無いでしょうか!?」

 

 すると、白狼天狗みたいな子は緊張しているのか、ぎこちない仕草で手伝いを申し出てきた。

 

「え、そうね・・・・なら、ついでだし艦の雑用でも手伝って貰えるかしら?」

 

「あ、有難うございますっ!」

 

 私がそれを了承すると、彼女の顔がぱあっと明るくなって、萎れ気味だった耳が再びピンと立ち上がった。

 

「そういえば、あんた名前ってあるの?」

 

「名前・・・ですか?特にありませんが・・・」

 

 どうも彼女には名前は無いらしい。まぁ、元が動物だし、それもそうか。

 

「そう―――此処で働くなら名前はあった方が良いわよね・・・ついでだから、あんたの名前も考えておく?」

 

「そこまでして頂いても良いんですか!?」

 

 私が名前を考えると言うと、彼女は嬉しそうに尻尾を振っている。・・・あのもふもふ、ちょっと触りたいわね。駄目かしら?

 

「なら、(もみじ)なんてどうかしら?」

 

 名前を考えると言っても、知り合いの白狼天狗から持ってきただけなんだけどね。まぁ、姿も結構似てるし、違和感はないんじゃないかしら?

 

「椛・・・ですか?―――はい、有難うございます!」

 

「気に入って貰えたなら何よりだわ。じゃあ早速だけど、貴女に何か出来ることとかない?」

 

 うちは未だに人手不足なんだし、折角働きたいって言ってるんだから、早速何処かの部署に手伝いに入って貰おう。

 

「出来ることですか――――えっと、見廻りに力仕事に・・・あっ、なんか文字も読めそうです!」

 

 文字・・・ああ、元々獣だから分からなかったのね。大方、あの機械で何かされた影響なんでしょうね。しかしまぁ、獣を入れるだけで人語を解するようにさせられるなんて、あの機械も中々凄い機能ついてるのね。だからと言って安易な再稼働は許さないけど。

 

「見廻りかぁ・・・じゃあ、先ずは保安隊でも試してみるとしましょう。雰囲気が合わなかったら他も試してみた方が良いかもね。」

 

「は、はいっ。了解です!」

 

 でも、獣から人になったばかりだから流石に高度な技術とかは無いわよね。主計課や調理とかも難しそうだし、見廻りや力仕事なら先ずは保安隊で試してみた方が良いかな。

 

「それじゃ、着いてきてくれるかしら?」

 

「はいっ!」

 

 その後は、椛を保安隊の待機室まで案内した。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

「で、こいつの面倒を俺達に任せると・・・」

 

 保安隊長のエコーは、霊夢の突然の来訪に困惑していた。普段ブリッジにいる霊夢は滅多に保安隊の待機室に顔を出さないというのもあるが、それよりも突然連れてこられた狼娘の面倒を任されたためだ。

 

「まぁね。じゃあ、そんなとこだから宜しく。」

 

 霊夢は用件を済ませると立ち去ってしまう。そこに残されたエコーは、狼娘――椛の扱いをどうしようかと思案していた。

 

 ―――艦長の話だと人語を解するようだが、文字はどうなんだ?そこで対応が違ってくるな・・・

 

「おい、椛とか言ったな。これを読めるか?」

 

「え?あ、はい。何でしょうか?」

 

 エコーに呼ばれた椛は、彼の元に駆け寄る。

 椛が近くに来ると、エコーはブラスターを突き出して、そこに書かれた文字を椛に読ませた。

 

「え~っと、火気、厳禁・・・ですか?」

 

「正解だ。どうやら、文字も問題ないらしいな。それでは早速だが、見回りの方法を教えよう。ファイブス、今日の当直はお前だったな。今日はこいつと一緒に行ってやれ。」

 

 椛が文字を読めることを確認したエコーは、早速仕事の話に移る。彼女は見回りや雑用を志望しているという話だったので、彼は先ずは見回りの話からすることにした。

 

「分かったよ。よう、モフジのお嬢さん。俺が今日の見回り担当のファイブスだ。この艦隊では、定時になると保安隊の誰かが艦内を巡回するようになっている。アウトローの0Gドックとは言っても、艦内にはある程度の風紀が求められるからな。今は人手不足だから、相棒は2体の機動歩兵で巡回している。」

 

「機動歩兵って、あそこにあるごっついのですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 椛が部屋の片隅に置かれている10体ほどの人形機動兵器を指すと、ファイブスはそれを肯定した。

 

「それで見回りだが、先ずは機関室から巡回する。この部屋から一番近い主要部署だからな。その次は自然ドームだ。」

 

「自然ドームって、確か私が居た所ですよね。」

 

「ああ、そうだ。クルーの採用は慎重にやっているが、あそこで麻薬を育てようとする連中が出ないとは言い切れないからな。その次は・・・ああ、研究開発区画か・・・」

 

 ファイブスは端末でその部署の文字を確認すると、頭を抱えて困ったような仕草を見せた。

 

「確か、艦長からのお達しだったな。"マッド共がやらかさないように見張れ"か・・・。」

 

「ああ。あまり関わりたくはないがな・・・」

 

 エコーもその部署の名前を聞いて、呆れたような表情を浮かべた。

 

「兎に角、そこを巡回したら次は格納庫、乗員船室の順で回る。そうしたらここに戻ってくる、という感じだな。その時になったら俺が声を掛けるから、この部屋で休んでいると良い。」

 

「はいっ、分かりました!」

 

 説明を聞いていた椛は、ファイブスの指示に元気良く応えた。

 だが、指示に従おうとして部屋に入った椛は、何処で休めば良いか分からず、困惑して立ち竦んだ。

 保安隊の待機室には、所狭しと装甲服や武器が並んでおり、休めそうな場所は少なかったからだ。

 

「えっと、何処で休めば良いのでしょうか・・・?」

 

「おっと、そうだったな。じゃあ、あそこの溜まり場で休んどけ。おい、お前ら。聞いていたとは思うが、こいつは新入隊員の椛だ。仲良くしてやれよ!」

 

 エコーは部屋の中にいる部下達に声を掛けて、椛の面倒を任せた。

 

 その日、保安隊の新入隊員となった椛は、見廻りに出るまで部隊の女性隊員にたいそう可愛がられたという。主にもふもふされて。その様子を、除け者にされた男性隊員は血涙を流して見ていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:蓬莱人形より「空飛ぶ巫女の不思議な毎日」】

 

 

 

 

 私は今、艦の廊下を歩いているの。この広い艦内を歩いて移動するのはなかなか疲れるわ。飛ぶにしても狭くてうまく飛べなさそうだ。艦内には一応トロッコのようなものはあるのだが、まだ使ったことがない。

 

 ―――さて、次は何処に行きましょうかね・・・

 

 このエルメッツァも粗方見て回ったし、収入源のスカーバレルも潰しちゃったから、そろそろ違う宇宙島に行くのも良いかもね。

 とはいっても、小マゼランの名所とかいまいち分からないし、具体的にどこの宙域に向かおうかという案は出てこない。

 

「―――――」

 

 ?、今、なんか声が聞こえたような気がしたけど、気のせいかしら。

 

「―――――さーん・・・」

 

 この声は・・・早苗?

 

 その声は早苗のものに聞こえたので、自分の端末を見てみるが、何も新しい連絡事項とかはない。

 

「――――れいむさーん・・・」

 

 後ろから?

 

 どうも、声は後ろからしているようなので、取り敢えず私は振り向いてみると・・・

 

「れ・い・む・さ ー ん っ !!」

 

 え、早苗・・・!?

 

「グハッ!」

 

 振り向いたら緑髪の子が見えたかと思うと、その子はそのまま私に突撃してきて、衝撃で一緒に倒れてしまう。

 

「霊夢さん、探しましたよー!」

 

「ちょっと、いきなり何なのよ!それより、その身体・・・」

 

「はい、遂に完成したんです!」

 

 早苗は起き上がると、その身体を披露するかのように、私の前でくるっと一回転してみせた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「えへへ・・・どうですか?」

 

 早苗はそう言うと微笑んでみせる。もう雰囲気からも嬉しそうな感じが犇々(ひしひし)と伝わってくる。そもそも、その身体は一体どうしたのかしら?声だけじゃなくて、姿まであっちの早苗そっくりなのにも驚いたけど。

 

「サナダさんが前々から私の義体を作ってくれていたんですけど、それが完成したんです!だから最初は霊夢さんに見せようと思って―――」

 

「へぇ~、成程ね。これ、感触まで人間そっくりなのね。驚いたわ。」

 

 早苗が話す姿がもう人間のそれと殆ど変わらないので、直接腕にも触ってみたが、肌の感触も人間そっくりなんだ。ほんと、あの人の技術力には感心するわ。変な方向に向かうと有害なんだけど。

 

「はい!これで霊夢さんともスキンシップができそうです!」

 

 すると早苗は私の両手を掴んで顔を近づけた。随分と興奮しているようで、顔が赤い。そこまでされたら、こっちまで気恥ずかしくなってしまうわ。

 

「あ、うん。次の宴会からはあんたも堂々と参加できるわね。」

 

 私の言葉に、早苗は嬉しそうにこくこくと頷いて、「そうですね、楽しみです!」と言ってみせた。それは良いんだけど、こっちの早苗はお酒飲めるのかしら?あっちの早苗は下戸だったんだけど・・・

 

「ところでこれ、どうやって出来てるの?」

 

 早苗の身体が殆ど人間同然なことに、私はそれがどうやって出来ているのか気になってくる。まぁ、私には科学とかあまり分からないから聞くだけ無駄かもしれないけど。

 

「はい、表面は基本的にナノスキンで構成されていますから、人間同様に新陳代謝もしてますし、多少の傷なら自動で修復してくれます。元々医療用だったものを流用したらしいですよ。ただ、見えない部分にはけっこう機械とか使われていますね。」

 

「成程ねぇ~、差詰め、表面が人間の感触をしたドロイドってとこかしら。こういうの、アンドロイドって言うんだっけ?」

 

「そんなところですね。ついでに言うと、アンドロイドは人形のロボット全般を指すんですよ。」

 

 へぇ、そーなのかー。

 

「あと、中枢部分は人造蛋白のニューロチップで構成されています。人間の脳を模して作られているので、それと同様の機能を有しているんです。」

 

「・・・詳しくは分からないけど、兎に角凄いものだってことは分かったわ。」

 

 もうここまで来ると素材が違う人間って感じすらしてくるわね。もうあの人に作れないものなんて無いんじゃないかしら?

 

「はい、凄いんです!」

 

 早苗は自慢気な表情でえっへん、と胸を張ってみせた。仕草まで似ていると、本当にあっちの早苗と勘違いしてしまいそうだ。

 

「伊達に機動歩兵100体分のコストが掛かっている訳ではありませんからね!」

 

 

 ―――は?機動歩兵100体分・・・?

 

 

 早苗から製作に要したコストを聞いて、ちょっと目眩がしそうだわ・・・

 

「はい。此処ではちょっと出来ないんですけど、ちゃんと戦闘も出来ますよ!斬撃から弾幕まで、何でもOKです!」

 

 早苗はそう言うと、左手を銃剣の形に変形させてみせた。

 ・・・手から直接生えてるのは、見方によってはちょっと不気味ね・・・。

 

「そ、それ・・・どんな造りになってるのよ。」

 

「これですか?ナノマシンの自己増殖を制御して、私が考えたように変形させることが出来るんです!」

 

 凄いでしょ!、と、早苗に迫られる。だから、顔が近いわよ、もう・・・

 

「はい!此があれば、どんなアブノーマルプレイだってお手のものです!」

 

 ああもう、どうしてこう変なことまで言い出すのよ・・・。これ、実は中身まであっちの早苗とか言い出さないわよね・・・・AIのときは、もっと大人しかったと思うんだけどな~。

 

「はいはい、あんたの凄さは分かったわよ、もう・・・。」

 

「分かって頂けたようで何よりです!あ、それとですね、少し真面目な話なんですけど、これから私は霊夢さんの副官として働かせて頂きます。具体的な仕事は書類整理の補佐とかですね。他には、今までみたいに指揮の代行なんかもお任せください!」

 

「それは有り難いわね。頼りにさせてもらうわ。」

 

 実は言うと、書類整理とかは今まで碌にやった試しがなかったか、らちゃんとできてるか不安だったのよね。早苗の本体はあのサナダさん製コントロールユニットだから、ある程度は事務仕事を投げても捌いてくれそうだ。

 

「はい、今後とも宜しくお願いします!」

 

 

 

 

 こうして、早苗が義体を得て、クルーとしても艦隊に加わった。何かやらかさないか、マッド共と同じ意味で不安だわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~エルメッツァ主星・ツィーズロンド、軍司令部~

 

 

 私は今、ツィーズロンドのエルメッツァ軍司令部に来ている。あの中佐に依頼の報告に行くためだ。

 本当ならこの星に着いた昨日のうちに済ませたかったんだけど、どうせならユーリ君と時間を会わせてほしいという事なので、私達は丸一日時間を無駄に過ごす羽目になった。まぁ、乗員の休暇には丁度いいからそこまで怒ってはいないわ。いくら0Gドックとは言っても、休暇で重力下に降りるのも欠かせないのよ。福利厚生は充実させておかないとね。

 

 司令部の受付で手続きを済ませて中に入ると、早速オムス中佐が出迎えてくれた。

 

「おお、待っていたよ、霊夢さん。」

 

「あ、霊夢さん。大丈夫だったんですね。あの時は申し訳ありません・・・」

 

 それと、先に入室していたらしいユーリ君とそのクルーの姿もある。

 どうもユーリ君は私が自分のせいで怪我をしたと思っているみたいで、顔を俯けた。

 

「あの程度で私がくたばる訳ないでしょ。それより、報酬の方は?」

 

 私はそう言うとオムス中佐と向かい合った。此処に来て惚けるなんて許さないわよ?

 

「ああ、用意してあるよ。これが成功報酬の4000Gだ。それと・・・」

 

 中佐は先ず4000Gが入ったマネーカードを手渡す。中身を確認したが、きっちり4000G入っているようだ。でも、確か最初の約束はこれだけだったわよね。中佐はまだ用意しているみたいだけど、他に何かあるのかしら?

 すると、中佐は2枚のマネーカードを懐から取り出して、私とユーリ君に手渡した。

 

「中佐、これは?」

 

「・・・アルゴンに掛けられていた懸賞金10000Gだ。君達の活躍を考えて、半額ずつ渡してある。」

 

 ああ、成程。あの腐れジジイの懸賞金か。生け捕りにしたから、その追加報酬って訳ね。有り難く頂戴しておこう。それより、討伐自体の成功報酬より高いって、一体どれだけ悪事を重ねてきたのよ、あのジジイ。

 

「え、良いんですか?その、僕達に比べたら霊夢さんの方が・・・」

 

 一方で、ユーリ君は戸惑っているみたいだ。大方、私の方が派手に暴れたからそれと同額なのに戸惑っているって所かしら。

 

「別に私は気にしないわ。こういう物は有り難く頂戴しておくものよ。あんたのクルーだって命懸けで戦ったんだから。」

 

「そこのお嬢さんの言う通りだ。大人しく貰っときな。」

 

「はい・・・有難うございます・・・。」

 

 私に続いて彼の副官らしいトスカさんの言葉で、ユーリ君も納得したみたいだ。

 

「それと此れは私からの個人的な礼だ。隣の惑星ジェロンには我が軍の艦船設計社があるのだが、そこの紹介状だ。今後の航海に役立てると良い。」

 

 さらに、中佐は私達にデータチップを手渡す。これがその艦船設計社への紹介状なのだろう。中佐には悪いけど、その設計図が有効利用されるかどうかはうちのマッド次第ね。

 

「有難うございます。」

 

 まぁ、受け取れるものは受け取っておきましょう。ここの艦船設計図でも、何かしらの利用法が見つかるかも知れないし。

 

「それとユーリ君、君達が回収したエピタフ探査船のヴォヤージ・メモライザーの事だが・・・」

 

 エピタフ探査船?

 

 いきなり話が変わって私が戸惑っていると、ユーリ君はあの後自分達が追加で行方不明になったエピタフ探査船の探索も行っていた事を話してくれた。あれだけ危険を冒した後なのに、律儀よね。

 それにしても、ヴォヤージ・メモライザーとは穏やかじゃないわね。確かあれはフェノメナ・ログとは違ってフネの航行に関する艦内装着の稼働状況と航海情報を記録する航行記録装置だった筈・・・それが回収されているって事は、その探査船とやらは沈没したって事だ。

 

「それで、解析は終わったのかい!?」

 

「いや、損傷が激しくて難航中だ。申し訳ない。頼んでおいたのに難だが、あまり期待はしない方が良いかもしれないな。」

 

「・・・そうかい。取り乱して悪いね・・・。」

 

 トスカさんがいきなり声を張り上げたかと思うと、中佐の言葉に彼女は意気消沈する。一体何なのかしら?どうも何時もと違った様子だったけど。

 

「それとユーリ君、例のエピタフの情報だが、君はデットゲートを知っているかね?」

 

「デットゲート?」

 

 また話が変わって。どうもユーリ君はエピタフに関する情報も報酬に頼んでいたみたい。

 

「機能停止したボイドゲートの事ね。」

 

「ああ、霊夢さんの言った通り、ボイドゲートに良く似た構造物の事だが、その機能は完全に停止している。エルメッツァではあまり見掛けないが、辺境ではたまに見つかるらしい。」

 

 私に続いて、イネス君が解説する。

 

「うむ。軍に残された古いデータでは、デットゲートの周辺でエピタフが発見された事例が2件ほど確認されている。更に、ジェロウ・ガン教授の研究に因れば、エピタフとデットゲートの間にはその組成に近い点が見受けられるという話だ。」

 

 へぇ~、面白い話ね。それにしても、古いデータって事は、だいぶ昔のデータまで遡って調べたんでしょうね。それで事例が2件なんて、随分と大変な作業だったんじゃないかしら?私にはそこまでやる根気は無いわね・・・

 

「つまり、デットゲートについても調査すればエピタフの謎も解けるという事ですか!?」

 

「私も専門ではないからそこまでは分からないが、ジェロウ・ガン教授に話を伺ってみれば何か分かることがあるだろう。私から教授に紹介状を送っておいたから後日訪ねてみると良い。カルバライヤのガゼオンという星に彼はいるよ。」

 

 ユーリ君は、少し興奮した様子で中佐から渡された紹介状を受け取った。

 

「協力に感謝します、オムス中佐。」

 

「いや、君達はあれだけの事を成し遂げたんだ。報酬を用意するのは当たり前だ。では私からの話は以上だ。良い航海を祈っているよ。」

 

 これで中佐の話は終わったみたいだ。

 私達は中佐に一礼して、軍司令部を後にする。

 

 

「カルバライヤのガゼオンか・・・」

 

 ユーリ君は、まだ興奮が覚めぬ様子で呟く。彼の行動原理には、エピタフの謎を解き明かすみたいな事があるようだ。そういえば、エピタフって色々伝説があったわね。手にした者は莫大な財を得る、とか。

 

「行くんだろ、ユーリ。」

 

「ああ。その為に宇宙に出たんだ。」

 

 彼は隣に居たトーロ君に促されて、決意を新たにしたみたいだ。さて、私も次の行き先を考えないとね。ここに留まっていても収入源を潰しちゃったから、あまり収入は期待できない。

 

「そういえば、あんたは何処に行くんだい?」

 

「う~ん、まだあまり考えてないわ。小マゼランに来たのも最近だし、あまり名所とか知らないのよ。」

 

「成程ねぇ~。差し当たり別の銀河からの放浪者ってとこかい。若いのにやるねぇ。なら、見たこともないあの艦にも納得だ。」

 

「ええ。色々大変だったわよ。」

 

 トスカさんに言われて航海を振り返ってみると、本当に色々あったわね・・・。ああ、グランヘイムとは二度と戦いたくはないわ。次現れたら直接乗り込んで大将首を取るしか勝ち目が無さそうだわ・・・。あ、そういえば、私がエピタフを見つけた遺跡の近くにもデットゲートがあったわね。これはちょっと興味深いかも。

 

「なら、あんたもカルバライヤに来るかい?あそこなら、まだグアッシュ海賊団が跳梁跋扈している筈さ。"海賊狩り"のあんたには、都合が良い話じゃないか?」

 

「海賊狩りって・・・何処で聞いたのよ。」

 

「いや、中々有名な話だよ?突如現れた海賊を標的にする謎の艦隊って。まさかその指揮官があんたみたいな若いのだとは思わなかったけどね。」

 

 トスカさんはハハハッ、と笑いを溢した。・・・私もそれなりに暴れた自覚はあったけど、そこまで有名だとは思わなかったわ。

 

「そりゃどうも。あと、情報ありがと。参考にさせて貰うわ。」

 

 グアッシュ海賊団か。そんなれんちゅうが居るなら、当面収入は確保できそうね。イナゴが稲を食い潰して移動するように、スカーバレルを食い潰した私達も、次なる餌を求めて飛び立つのよ~。取り敢えず、グアッシュは首洗って待ってなさい、ふははははーっ。

 

 

 その後はユーリ君達と別れて、自分の艦隊に戻った。

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

「って事だから、次はカルバライヤに向かうわ。」

 

「成程な。確かに収入源の問題はある。この宙域を離れるって事には賛成だな。」

 

 艦隊に戻った私はブリッジクルーの皆に次の行き先を話した。結果、コーディを含めた全員が賛成してくれたので、目的地は決定したも同然だ。

 

「では、カルバライヤまでの航路を設定しておきます。」

 

「5時間後の出航に備えて、主機の最終点検を行っておきます。」

 

 それを受けて、操舵手のショーフクさんと機関長のユウバリさんが着々と出航の準備を進めていく。

 

「霊夢さん、ネットワークからグアッシュ海賊団の情報を入手しました。後でご覧になられますか?」

 

「ありがと、早苗。」

 

 早苗が入手してきてというデータに目を通す。そこにはグアッシュやカルバライヤの主要な艦船のデータが表示されていた。

 

 ―――それより、早苗もブリッジに馴染めてきたようで何よりね。

 

 最初、他のクルーに早苗を紹介したときは上手く馴染めるか分からなかったけど、元から艦のAIとして関わってきただけあって、彼女は他のクルーとは直ぐに馴染めたようだ。

 

「ノエルさん、これ、ライブラリに追加しといてくれる?」

 

「了解です。」

 

 データを受け取った私は、そのままそれをノエルさんの席に転送して、艦船データを艦隊のライブラリに追加してもらった。これでグアッシュに遭遇しても、ちゃんと識別できる筈だ。

 

「ふむ、カルバライヤか・・・是非ともジェロウ教授には会いたい所だな。」

 

 サナダさんは同じ科学者としてシンパシーを感じるのか、ジェロウ教授のことを気に掛けているみたい。その教授って、どんな人なのかしら?ユーリ君が会いに行くみたいだけど。

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

「主機点火完了。出力安定しました。」

 

「艦内各部、異常無し。」

 

 あれから出航準備を進めて、しました予定時刻が近づいてくる。インフラトン・インヴァイダーが起動し、〈開陽〉艦内には機関の起動音が響き出した。

 

「全乗員の乗艦を確認しました。」

 

 端末を通して、早苗が全クルーの搭乗を確認する。

 

「よし、出航よ!機関微速前進!」

 

「ガントリーロック、解除。」

 

「了解、機関微速!」

 

 出航準備が整ったようなので、私は時間を確認し、出航は命じる。

 

 宇宙港のガントリーロックが外れ、〈開陽〉は滑り出すように動きだした。

 

「全艦の出航完了後、艦隊陣形を調節。それが終わり次第i3エクシード航法に移行して。」

 

「了解。」

 

 〈開陽〉に続いて、駆逐艦や巡洋艦、工作艦が出航し、ツィーズロンド郊外で艦隊陣形を整える。

 

 前方に3個分艦隊を配置し、それに本体、特務艦隊が続く形となり、陣形調節が完了した。

 

「艦隊陣形の調節完了!」

 

「艦隊全艦、i3エクシード航法に移行!」

 

 私の命令で、艦隊各艦はi3エクシード航法に移行し、一気に200光速まで加速する。

 

 

 

 次の目的地は、カルバライヤ・ジャンクション宙域だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追跡者ノコントロール受動ニ継続的破調ヲ確認・・・早急ナ対処ノ要アリト認メマス。」

 

 

「思考コントロール、及ビ認知的協和ヘノ調整ヲ次回観測機通過時ニ実施スルヨウ、設定・・・」

 

 

 

 




これでエルメッツァ編は終了です。次回からはカルバライヤ編になります。

椛を保安隊にぶっ込んだのは、単純に原作の椛が哨戒天狗だからです。今後は保安隊のアイドルになるでしょう。
尚、本文中にはありませんが、霊沙は共同正犯で一日懲罰房に入れられました(笑)。減給と懲罰房行きの二択で、彼女は後者を選んだようです。ちなみにマッドは減給処分に処されています。


早苗さんについては、服装は原作の早苗さんをミニスカにして金剛型の服を着せています。本文中にもありましたが、某ター〇ネータのように腕を武器に変形させたりすることが出来ます。(ただし、此方は容姿までは変更出来ませんw)
あと、ここの早苗さんは「自己改造:EX」と「さでずむ:A」のスキルがありますw






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第四章――海賊団の闇
第三〇話 ゲートを抜けた先は


小説とは直接関係ありませんが、風神録の「少女が見た日本の原風景」を聴くと、何故か弾幕ではなく紅葉の山を往くC62牽引の国鉄急行の姿が浮かびます。さらに何故か50号機なんですねこれが。勿論999ではありませんよ?色は普通のC62ですし、最後尾はマイテではなく郵便車なんです。きっと私にとってはそれが日本の原風景なのでしょう(笑)。


 

 

 

 

 

【イメージBGM:蓬莱人形より「蓬莱伝説」】

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム~

 

 

 

 

 旗艦〈開陽〉艦内に存在するこの自然ドームは、艦長である霊夢が幻想郷を模して作らせたものである。そのサイズは底辺が180×240m、高さが90mというかなり大型のもので、内部には博麗神社だけでなく、鈴奈庵(戦史資料館)や迷いの竹林なども再現されており、さらには小規模ながら、食堂で使用される野菜類の畑まで備えられている。

 その風景はさながらのどかな田舎といった所であり、幻想郷を知る者からすれば人里郊外の里山や神社への道を思い出させるものであった。

 

 そんな自然ドームの中を、早苗は珍しいものを見るような目をしながら、神社に向かって歩いていた。

 

「いや~、よく再現されてますね。今までは機械を通して見ていたのですが、それとは大違いです。」

 

 早苗は今までは艦の統括AIとしてこの自然ドームの様子も見ていたのだが、そのときは何処に何があるのか、景色はどうなっているのかといった事しか分からなかった。言うなれば、人間が写真を眺めるような感じである。しかし、先日得た義体で改めて来てみると、画像では分からない土の香りや頬を撫でる風に、揺れる草や木の葉の音を感じることができた。早苗には、それが堪らなく嬉しく感じられて、自然と神社ヘ向かう足取りも軽やかなものになっていく。

 

 彼女は、自然とはここまで柔らかなものだったのかと感じながら、一度立ち止まって、ひらひらと落ちてきた紅い楓の葉を手に乗せてみせた。

 

「そういえば、今は秋でしたね・・・・」

 

 この自然ドームは季節の移り変わりは地上より早く設定されている。今は森を黄色や赤に染めている木々の葉も、数日もすれば散ってしまうだろう。

 早苗は手に乗せた楓の葉を持ち替えて、柄を掴んで弄ぶと、畑の方角に目を向けた。

 

「確か、畑の方には芒も有ることですし、冬が来る前に、霊夢さんと月見でもしてみたいですね・・・。幸い明日の月は満月の設定だった筈です。」

 

 早苗は自身の本体にアクセスして自然ドームのスケジュールを確認し、明日が満月であることを思い出すと、霊夢を誘って月見でもしようかと思い付いた。折角身体を得たのだから、そうやって霊夢と静かに過ごすのも悪くないかな、と思う彼女の顔は、僅かに上気する。

 

 

 

「あ、見えてきましたね。」

 

 その後も神社に向かって歩き続け、松林を抜けたところで博麗神社の鳥居の姿が早苗の目に入った。

 

「よっ、と・・・」

 

 早苗は神社が見えたところで、石造りの階段を駆け上がり、鳥居をくぐる。くぐる前には鳥居に一揖(いちゆう)することも忘れない。

 境内に足を踏み入れると、彼女は本殿を観察するように眺め、暫くそれをしているうちに、どこか納得したような表情を浮かべた。

 

「確か霊夢さんは艦内神社として建てさせたって言ってましたけど、分霊や合祀をしていないからには神様は居りませんね・・・やはりこれでは駄目です!」

 

 ここは私が何とかしなければ、と意気込むんだ早苗は、早速木材の在庫を確認し、何処かに社を建てられないものかと神社ドームの中を検索する。

 丁度良い場所を見つけたのか、早苗は神社を後にすると、里にある倉庫から角材を幾つか調達して、それを脇に抱えながら博麗神社とは反対方向の森に分け入り、ドームの壁近くにまで歩を進めた。

 その場所は殆ど利用されていない一角で、原生林さながらの様子で木々が繁っている中、ぽつんと人工光が差し込むちょっとした空き地だった。

 

「さてと―――何処まで工作できるかは分かりませんが、ちょっとした祠くらいなら作れる筈です!」

 

 早苗はどすん、と勢いよく角材を地面に差し込むと、本体であるコントロールユニットにアクセスして祠の設計図を製作する。高性能AIである彼女の手に掛かれば、艦の運行の片手間でやっても造作もないことである。

 

 設計図を作り終えた彼女は、ナノマシンの制御機能を駆使して上手い具合に腕を工具に変形させて、角材を思い通りの形に整形していく。

 

「腕が直接道具になるっていうのも、中々慣れない感覚ですね・・・。でも、これはこれで、けっこう便利ですね。」

 

早苗は一人でぶつぶつと呟きながら、作業を進めていく。

その作業が終わると、柱を地面に差し込み、梁を組み合わせて祠の骨格を作っていく。祠の正面には、加工した材を組み合わせて、明神鳥居の形状になるように小さめの鳥居を建てていった。祠の四隅には、適当な樅の木を設置して御柱に見立てる。

 

 一通り重要な箇所を作り終えた早苗は、続いて材を板状に加工して、祠の屋根と壁を作っていく。

 最後の仕上げに、御神体として木材で作った開陽の模型と銅鏡を納め、祠に注連縄を飾る。

 

「よし・・・これで大方は完成です・・・。」

 

 早苗はそこで疲れきったのか、地面にばたりと仰向けになって倒れた。

 

「後は、軍神たる神奈子様をお呼びすれば・・・艦隊の加護は万全、です・・・!」

 

 ゆっくりと起き上がった早苗は、木簡に"開陽守矢神社"の文字を彫り、祠に奉納する。

 

「ふぅ・・・・これで、本物の艦内神社の完成です。」

 

 後は儀式だけですね、と一人言ちると、早苗は黙々とその儀式の準備を始めていった。

 

 

「ああ、そういえば、諏訪子様は此所に来られるのでしょうか?」

 

 諏訪子様は土着神ですし、と悩んだ早苗だが、それは神奈子様を呼んでから聞いてみることにしましょう、と結論を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

 

「ふわぁぁ~っ、ほんと暇ねー。」

 

 ツィーズロンドを出航してから何日か経ったのだが!あれから暇で暇で仕方がないわ。今までは腐るほどいたスカーバレルの連中も、出てきても水雷艇がちょっとだし、事務仕事が片付いたらほとんどやることがない。まぁ、非番の時は艦内を見て回ったりしてるんだけど、艦橋にいる間は何もすることがないのよね・・・

 

 ああ、そういえば鹵獲艦は全部売っ払ったわ。大量の輸送船と新品同然の駆逐艦がけっこうあったから売却額もかなりのものだ。これで暫くは資金繰りには苦労しないだろう。

 

 

「よう霊夢。こないだは随分な真似してくれたね。」

 

 すると、何時ものように暇を持て余した霊沙が艦橋にやってきた。確か、懲罰房にぶち込んでからは初めてかしら。

 

「なによ。グルだったあんたが悪いんでしょ。」

 

「五月蝿ぇよ。調整を間違ったのはマッド共だろ。」

 

 霊沙は自分が獣化したのはマッドの責任だと言い張ってくるが、元は共謀したあんたの責任でしょうが。まったく・・・

 

「・・・席、借りるぞ。」

 

 霊沙はこれ以上言い争っても無駄だと思ったのか、近くの席に適当に腰掛けた。

 

「艦長、間もなくドゥンガ軌道を越えます。」

 

「分かったわ。そのままボイドゲートに向かうわよ。」

 

 そうしているうちに、艦隊はエルメッツァ宙域の端にある惑星ドゥンガの軌道を越えてボイドゲートの姿が見えてくる。あのボイドゲートを越えた先がカルバライヤ・ジャンクション宙域だ。

 

「そうだ、ノエルさん、カルバライヤに着く前には艦種データの更新をしておいてくれる?」

 

「了解です。」

 

 確かうちの艦隊にはエルメッツァ艦船のデータしかなかったから、カルバライヤに行く前に艦種データを更新させておいた方が良いわね。

 

「この際ですし、小マゼランの艦船は全て取り込んでおきます?」

 

「その方が有り難いわ。」

 

 この際だし、今後のことを考えても小マゼランの艦船データは網羅させておいた方が良いだろう。そんな訳で、ノエルさんにはそれもやってもらうように頼んでおく。

 

 ボイドゲートに入るまでは暇なので、更新されたデータにでも目を通しておくとしますか。

 

「へぇ~、あれ、バゥズ級っていうのね。」

 

 適当にデータを眺めていると、うちのデータにある艦が引っ掛かった。確かこいつはファズ・マティでショーフクさんの艦隊が撃破したスカーバレルの未確認艦だったわね。

 そのバゥズ級のデータを眺めてみると、小マゼラン製の艦船としては中々の耐久性があるみたいで、火力も高い重巡洋艦のようだ。さらに軽空母並みの艦載機搭載能力まであるときた。一隻二隻じゃあ大したことはないけど、束になってきたら少し厄介そうね。カルバライヤに跋扈するグアッシュ海賊団も使っているみたいだし、一応用心しておいた方が良いでしょう。

 まだ時間があるので、ついでにグアッシュの主力艦船にも目を通しておく。連中の主力はバクゥ級と呼ばれる巡洋艦で、これは元々民間向けの護衛艦として売り出されていたものらしい。商船を護衛する筈の艦が海賊として商船を襲うなんて、なんか皮肉よね。連中が使っている駆逐艦のタタワ級も同じように民間向けの駆逐艦として売り出されているものだ。どちらも性能はそれほど高くないみたいだし、うちにとっては大したことなさそうね。

 

「艦長、間もなくボイドゲートに突入します。」

 

 ショーフクさんの声がしたので目を外に向けてみると、ボイドゲートはあと少しの距離まで迫っていた。

 

「進路そのまま。ボイドゲートを越えるわよ。」

 

「了解。」

 

 艦隊はそのままボイドゲートに向かい、前衛の分艦隊から順にゲートの青い光へと身を滑らせていく。

 

「前衛の第一~第三分艦隊のゲートインを確認しました。」

 

「本艦隊も間もなくゲートに突入します。」

 

 ノエルさんとミユさんの、淡々とした報告の声が響く。

 ゲートに入るといっても、自前のワープとは違って特に備えるようなことは無いので、私は楽な姿勢でいたままだ。

 

「・・・チッ、まーたあれか。ま、仕方ねぇけど・・・。」

 

 ああ、そういえば霊沙の奴、あれを通ると頭痛がするんだっけ。今は慣れてきたみたいでその頭痛もゲートを通る度に小さくなっているって聞いてるけど、慣れなのかしら。

 

 眼前に、ボイドゲートの光が迫る。

 

「ゲートに突入します。」

 

 〈開陽〉はそのまま、艦体をゲートの光へと進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Misterio」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っく・・・クソッ、またか・・・!」

 

 

「ちょっとあんた、大丈夫?」

 

 案の定、ゲートに入ると霊沙は頭痛がするようだが、今回は少し様子がおかしい。今までは通度に頭痛は小さくなっているみたいだったのだが、今回はどうもそうはいかないみたいだ。

 

「あがっ・・・ぐぅっ・・・だ、誰・・・だ・・・‼」

 

「おい、あまり無理をするな。医務室まで運ぼうか?」

 

 霊沙の様子を見かねたコーディが心配して駆け寄るが、霊沙はそれを制した。

 

「クッ・・・くはあっ!・・・はぁ―――この程度、どうってこと無ぇよ・・・・!」

 

 不機嫌そうな表情は崩さないが、どうやら頭痛は引き始めたらしく、霊沙の表情は落ち着いていく。

 

「・・・チッ、気に食わねぇな―――。」

 

 

「げ、ゲートアウト確認。先行の分艦隊にも異常ありません。」

 

 〈開陽〉はゲートを抜けたようで、艦の前方には先程ゲートを越えた分艦隊の姿も確認できる。どうやら、ゲートを越えれば霊沙の頭痛も収まっていくらしい。

 

「おい嬢ちゃん、本当に大丈夫か?今回は何時もよりきつそうだったが?」

 

「っせえよ。」

 

 尤も、頭痛のお陰で機嫌は悪いままみたいで、声を掛けてくれたフォックスにも素っ気ない態度を取っている。

 

「・・・霊夢、ちょっと憂さ晴らしに行ってくるわ。」

 

「―――その前に医務室にでも立ち寄ったら?今回はちょっと尋常じゃなかったわよ。」

 

「五月蝿ぇ。どうせ行った所で何も分かりゃしねぇよ。それに、あのマッドの世話にはなりたくないね!」

 

 霊沙はそう吐き捨てると、席を立って艦橋を後にする。まったく、少しは自分の身の心配でもしなさいよね・・・

 

「・・・・霊沙さん、大丈夫でしょうか?」

 

「さあ?サナダさんやシオンさんも原因が分からないんだから、私は何とも言えないわ。」

 

 早苗も霊沙の様子が心配なようで、彼女の身を案じているみたいだ。

 それに、依然として、霊沙の頭痛の原因は不明だ。シオンさんは一通り症状を洗ってみたのだが、類似する事例は見つかってないらしい。

 

「それと、―――あの、霊夢さん?今回はちょっと、様子がおかしくありませんでしたか?」

 

 早苗が声を掛けてきたと思うと、次は耳元で囁くように、小声で尋ねられた。

 

「―――様子がおかしいって?確かに、今回は何時もより激しそうだったけど・・・」

 

「いや、そうじゃなくて―――"誰だ"って、一体何のことなんでしょうか?頭痛だけじゃ、普通はあんな言葉が出るとは思えないんですが・・・」

 

 確かに早苗の言う通り、頭痛にしては不自然な言葉よね・・・後で本人に聞いてみようかしら?いや、でも聞いたところで何だかはぐらかされそうね・・・

 

「そうね・・・言われてみれば少し気になるわね・・・後で本人にでも聞いてみるわ。」

 

「はい、お願いしますね。」

 

 まぁ、いくらあいつが私を嫌っているからって、いきなり倒れられたりしたら困るからね・・・何か頭痛の原因に繋がるようなことを聞き出せればそれで良いんだけど――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方輝針城より「幻想浄瑠璃」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?、本艦隊前方に識別不明の艦船、多数確認!」

 

 突然警報が鳴り響いたと思うと、焦燥が滲んだこころの報告の声が艦橋に響いた。

 

「直ちに艦種と所属を確認して。全艦隊は戦闘配備!」

 

 私も頭を艦隊戦に切り替えて指示を飛ばす。これは―――早速噂のグアッシュとやらのお出ましかしら?

 

「第三分艦隊旗艦〈ユイリン〉より光学映像が転送されました。メインパネルに投影します。」

 

 早苗も戦闘モードに切り替わったらしく、本人の表情は険しい。それに、ホログラムに表示されたデータの羅列が早苗の周りを円形に取り囲んでいる。こういうのを見せられると、根は機械なんだなと実感させられる。

 

 早苗が映像をメインパネルに投影すると、例の不明艦隊の姿が写し出される。そこに映っていたのは、扁平な形をした小型艦と、箱状のブロックを組み合わせたような艦容の中型艦複数だ。

 何れも、赤い艦体色をしている。

 

 ―――あれは・・・グアッシュね・・・!

 

 つい先程眺めていたグアッシュ海賊団の艦船データと、目の前の艦隊を構成する艦の姿は一致する。連中と見て間違いなさそうだ。

 

「不明艦隊の識別完了―――前方の艦隊はグアッシュ海賊団で間違いありません!」

 

「敵艦隊の構成判明。バクゥ/G級巡洋艦がAクラス2隻、Bクラス3隻にタタワ/G級駆逐艦が9隻です!」

 

 ミユさんとノエルさんが報告すると、メインパネルには新たに敵艦のデータが表示される。どうもグアッシュの連中は2種類のバクゥ級巡洋艦を運用しているようで、Aクラスのバクゥ級は相当な改良が為されているらしく、通常のバクゥ級(Bクラス)に比べるとかなり火力や耐久性が向上しているようだ。

 

「後続の特務艦隊、ゲートアウト確認。」

 

「特務艦隊の護衛艦には、直ちに戦闘配備を命じて頂戴。」

 

「了解です。」

 

 ここで、後続の工作艦群がゲートアウトしたようだ。まだ特務艦隊には戦闘配備命令が伝わっていないので、そちらにも指示を伝達しておかないと。あれは艦隊の最後尾にいるから、滅多な事がない限り襲われないとは思うけど、用心するに越したことはないわ。

 

「ボイドゲートを越えた先でいきなり敵襲か・・・恐らく、あの敵さんはエルメッツァからの交易船を襲う意図で展開していたのかもしれないな。」

 

 このカルバライヤ・ジャンクション宙域は、文字通り交易の中間地点であり、交通も多いと聞く。なら、コーディの推測通り、あの艦隊はここを通る交易船をカモにしようと目論んでいたのだろう。だけど残念、ここで私達に出会ったのが運の尽きね。

 

「全艦、敵艦隊との交戦の許可する!艦載機隊は直ちに発艦準備!」

 

 私がそう下令すると、艦内には戦闘開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

「第三分艦隊、射程に到達次第砲撃戦を開始します。」

 

 敵艦隊に最も近い第三分艦隊の7隻は、そのまま真っ直ぐグアッシュ海賊団の艦隊に向かっていく。しかし、敵は巡洋艦5隻に駆逐艦9隻・・・数の上では不利だ。

 

「早苗、両翼の第一、第二分艦隊を敵艦隊後方に回り込ませるようにはできない?」

 

「両翼の分艦隊ですか?現在位置ならば、敵艦隊を此方に誘引すれば可能ですが・・・」

 

「よし、それで行くわよ。第一、第二分艦隊は敵艦隊後方に回り込み此を包囲、第三分艦隊は本隊に向かって敵艦隊を誘引せよ!」

 

 私は海賊団の艦隊を一気に潰すために、包囲作戦を試みることにした。指示を受けた各分艦隊旗艦が僚艦に命令を伝達し、作戦を実行に移していく。

 

「第三分艦隊と敵艦隊の距離、約18000。交戦距離まであと3000です!」

 

「本艦隊と敵艦隊の距離、あと29000。現在の速度を維持すれば、第三分艦隊とはあと15分ほどで合流します。」

 

 こころとミユさんが、機器から算出された位置データを読み上げる。第三分艦隊は此方に向かって後退しているので、戦闘開始にはもうしばらく掛かるだろう。

 

「本艦と敵艦隊との距離が18000に到達次第、砲撃を開始して。」

 

「了解だ。敵の位置データをこっちに寄越してくれ。」

 

「分かりました、そちらに転送します。」

 

 砲手のフォックスは、こころから受け取ったデータを基に予測計算を始める。

 

「敵艦隊、距離16000で砲撃を開始した模様です。」

 

「最大射程よ。まだ当たらないわ。慌てないで対処して。」

 

 どうも連中の射程は此方の第三分艦隊より長いらしく、第三分艦隊より先に砲撃を始めたようだ。ただ、練度はそれほど高くないらしく、最大射程で初弾命中なんて事態にはなっていない。

 

「第三分艦隊、回避機動を開始しました。」

 

 砲撃を受けた第三分艦隊の各艦はその射撃データを基にTACマニューバパターンを作成し、それに添って回避機動を始める。離れた位置にいる〈開陽〉からでも、第三分艦隊各艦が回避機動のために小形核パルスモーターを吹かせる光が僅かに確認できた。

 

「敵艦隊、第二射を開始。〈ナッシュビル〉に直撃弾1発です。シールド出力に問題はありません。」

 

「所定の艦隊運動に変更は無いわ。そのまま押しきるわよ。」

 

 先程は敵の練度はあまり高くはないと思ったが、第二射で当ててくる辺り、できる奴がいるみたいね。

 

「本艦の艦載機隊、発艦準備完了しました。ガルーダ1、アルファルド1、カタパルトへの進入を許可する。両機が発進次第、グリフィス隊は発艦位置につけ。」

 

《了解だ、ガルーダ1、出る。》

 

《へっ、丁度良い憂さ晴らしだ。行ってくるぞ。》

 

 ノエルさんが艦載機隊の発進を許可し、〈開陽〉のカタパルトから続々と艦載機が射出される。―――あれ、何気に霊沙の奴、出撃してるわね・・・って、あんな事が起きた後なのに、何やってるのよあいつは・・・!

 

「ちょっと霊沙!あんた、さっきのアレがあったのに何で出撃なんかしてるのよ!」

 

《五月蝿ぇって言ってるだろ。今までも頭痛の後に何か起こった訳でもないし、別に大したことはない!おまえは指揮にでも集中してな!》

 

 ぶつん、と通信が切断される。―――あいつったら・・・・まぁ、せいぜい無事を祈っておきましょう。

 

 通信を一方的に切断した霊沙のYF-21が、艦橋の前を横切って敵艦隊に向かっていく。それに一歩遅れて、バーガーやタリズマンの機体や随伴する無人機が続いて敵艦隊に向けて飛翔する。その数は、YF-19が2機とSu-37Cが14機だ。

 

「艦載機隊各機、敵艦の武装を集中して狙って下さい。」

 

《ガルーダ1了解。》

 

《グリフィス1了解!よし、全機続け!》

 

《ガーゴイル1了解、突入する。》

 

 敵はしばらくしてから艦載機隊が向かっているのを確認したみたいで、敵艦隊の陣形に変化が現れた。今までは此方の第三分艦隊を追撃するような形で駆逐艦群が突出していたのだが、巡洋艦と歩調を合わせ始めたみたいだ。

 

「敵艦隊、陣形変更を試みているようです。」

 

「今のうちに距離を詰めるわよ。艦載機隊の攻撃が終了次第、交戦位置に着いた艦から順次砲撃を始めて。」

 

 敵艦隊に航空機を搭載できる艦がないために、艦載機隊は妨害を受けずに第三分艦隊を通り抜け、敵艦隊の上空に到達したようだ。

 

《アルファルド1交戦!沈めぇ!》

 

 一番槍は霊沙のようで、対空砲火を掻い潜って機体を敵艦隊のうちがわに滑り込ませると一斉にマイクロミサイルを射出する。その大部分は敵艦に命中するが、何せ一発一発が小さいのであまりダメージは与えられていないようだ。それがあまり効果がないと分かった霊沙は、今度はガンポットを撃ち込んで武装や艦橋を破壊していく。

 

《グリフィス1、FOX2!》

 

《ガルーダ1、FOX2!》

 

 間髪入れず、次はバーガー達が攻撃を始める。彼等は4機一個小隊に分かれると、小隊ごとに異なる敵巡洋艦に向けてミサイルを発射した。

 

《グリフィス2、突入します!》

 

 ミサイルを発射した艦載機隊隊は、敵巡洋艦の砲口に向けて一撃離脱の機銃掃射を行って敵の攻撃力を削ぐ。

 一連の攻撃により、敵巡洋艦は何かしらの損傷を受けた。だが、まだ駆逐艦は無傷のままだ。

 

「目標の達成を確認、艦載機隊は直ちに帰投せよ。」

 

《チッ、もう終わりかよ。》

 

《これじゃあ張り合いがないぜ。》

 

「文句は言わない!直ちに帰艦してください。」

 

《・・・お堅いお嬢さんだ。まぁいい、グリフィス隊各機、帰投するぞ。》

 

「だっ、誰がお嬢さんですか・・・・!」

 

 通信でバーガーに茶化されたノエルさんは、顔を赤らめて抗議しているみたい。まぁ、バーガーさんは素直に命令には従っているし、私は別に気にしないわ。それより、艦載機隊ってなんかちゃらいイメージあるわよね。タリズマンは比較的堅物みたいなんだけど。

 

「第三分艦隊各艦、敵を射程に捉えました。砲撃開始します。」

 

 第三分艦隊は砲撃開始の信号を送ってきたようで、早苗がそれを報告してくれる。第三分艦隊の各艦は未だに無傷の敵駆逐艦に照準を合わせ、レーザーを発射した。

 敵も艦載機隊が去ったのを見て、再び第三分艦隊に攻撃を開始する。

 

「駆逐艦〈ヴェールヌイ〉、敵ミサイル1発被弾。戦闘行動に支障ありません。此方は敵タタワ級1隻に小破判定を与えました。」

 

「敵艦隊、本艦隊との距離21000。本艦隊は敵艦隊に捕捉されたようです。相手の動きに変化が見られます。」

 

 第三分艦隊が砲撃を始めるのとほぼ同時に、此方の本隊が敵のレーダー範囲に捉えられたようだ。敵艦隊は後方からの増援を見て狼狽しているみたいで、艦隊運動に乱れが見られる。

 

「〈オリオン〉、〈レナウン〉より通信、包囲位置に到着したようです。」

 

 さらに、早苗が第一、第二分艦隊が包囲位置についたことを報告する。これで準備は完了だ。

 

「よし、全艦最大戦速!一気に畳み掛けなさい!」

 

「了解です!機関、最大戦速!」

 

 私がそう命じると、ユウバリさんが嬉々とした表情で一気に艦を加速させ、インフラトン・インヴァイダーが唸りを上げる。急激な加速による慣性のせいか、体がシートに押し付けられていく。私はそれに逆らって、戦闘宙域を映す画面を注視し続けた。

 

「・・・霊夢さん、すごい表情してますねー。まるで獲物を前にした雌豹みたいです。」

 

「早苗、これは狩りよ。あいつらは獲物で間違いないわ。」

 

 そう、海賊は資金源なのだ。ある程度叩きのめしたら降伏勧告を送って、フネごと略奪させてもらうわ。何、それじゃあどっちが海賊か分からないって?そんな事はどうでもいいのよ。今は目の前の資金源を確保することが先決よ。

 

「ふふっ・・・そういう容赦のないところ、格好いいですよ。」

 

「別に褒めたって何も出ないわよ。」

 

 早苗はどんな意図で格好いいなんて言ってるのかしら。まぁ、それより今は目の前の状況に集中しましょう。

 

「敵艦隊、本艦の主砲の射程圏内!」

 

「砲撃開始!全砲斉射よ!」

 

「イエッサー!主砲、一番から三番、砲撃開始だ!目標、敵タタワ級!」

 

 フォックスがトリガーを引き、〈開陽〉の3連装主砲から蒼いレーザー光が放たれる。その光は敵タタワ級に三度、連続して直撃し、タタワ級は大爆発を起こしてダークマターに還った。小マゼランの駆逐艦如きじゃ、この〈開陽〉の全力砲撃には耐えられまい。

 

「第一、第二分艦隊、敵艦隊後方を強襲しました!」

 

 今まで戦闘に参加していなかった二つの分艦隊も、遂に敵艦隊への攻撃を開始した。

 前衛の分艦隊は何れも足の速い艦で固めており、旗艦の巡洋戦艦〈オリオン〉と〈レナウン〉も、巡洋艦並の機動性を発揮して敵艦隊に迫りながら、両舷のレーザー砲でバクゥ級を艦尾から焼いていく。巡洋戦艦の砲撃で一気にシールド出力を減衰させられたグアッシュのバクゥ級に、巡洋艦と駆逐艦の小口径レーザーが降り注ぎ、バクゥ級を穴だらけにしていった。

 

「敵バクゥ級、Aクラス一隻撃沈!Bクラス2隻が中破!」

 

「主砲、敵左翼のタタワ級に照準!」

 

「了解、射撃諸元修正完了。主砲発射!」

 

 続いて、〈開陽〉の主砲が別のタタワ級を指向し、同艦を一撃でスクラップにするほどの威力を秘めたレーザー光が発射される。第一射目はうまく躱したみたいだけど、立て続けに2発も撃たれては躱しきれなかったみたいで、このタタワ級も爆散した。

 

「敵タタワ級撃沈!〈ケーニヒスベルク〉も砲撃で敵駆逐艦一隻を撃沈した模様。」

 

「巡洋戦艦〈オリオン〉、巡洋艦〈エムデン〉、駆逐艦〈タシュケント〉、〈タルワー〉に被弾。衝撃で〈タルワー〉のシステムに異常発生。艦内スプリンクラーが誤作動しました。」

 

「その程度なら戦闘続行に支障は無いでしょう。このまま戦列に留まらせて。」

 

「了解です。〈タルワー〉には修正信号を送信します。」

 

 だが、グアッシュも最後の抵抗を試みて、後方から乱入してきた分艦隊に対して向けられる砲を全て向けて砲撃してくる。大半は命中してもシールドの出力を減衰させるか装甲を焼くに留まったが、駆逐艦〈タルワー〉は被弾の衝撃で消火系統のシステムが誤作動したようで、一斉に全ての艦内スプリンクラーが起動してしまったみたいだ。今頃〈タルワー〉の艦内はゲリラ豪雨に見舞われていることだろう。もし人が乗っていたなら阿鼻叫喚ね。

 そのゲリラ豪雨も、上級AIである早苗の信号を受けて、〈タルワー〉のコントロールユニットがスプリンクラーを停止させたことにより止んだみたい。

 

「そろそろ頃合いね。ミユさん、降伏勧告を出してくれる?」

 

「いえ艦長、その必要は無いみたいですよ。たった今、敵艦隊より降伏信号を受信しました。」

 

「そう、なら良いわ。全艦、撃ち方止め!」

 

 敵が降伏したので、配下の艦隊には戦闘停止を命じる。生き残りのグアッシュも今のところは変な動きを見せていないし、インフラトンの反応も徐々に低下している。本当に降伏したと見て間違いないだろう。

 

 戦果としては、バクゥ/G級Aクラス1隻とタタワ/G級3隻撃沈、大破したやつがバクゥ2隻にタタワ4隻、中破以下はバクゥ2隻とタタワ2隻か。鹵獲前提で戦ったから撃沈は少ないわね。沈没艦もスクラップとして有り難く回収させて貰うけど。

 こっちの被害は―――無人のSu-37が2機撃墜に1機全損判定か。この程度なら直ぐに回復できそうね。艦の被害は巡洋戦艦〈オリオン〉と巡洋艦〈エムデン〉、〈ナッシュビル〉、駆逐艦〈タシュケント〉、〈タルワー〉、〈ヴェールヌイ〉に被弾。判定は〈タシュケント〉が小破で他は軽度の損傷か。ただ、〈タルワー〉のシステムは後で点検させた方が良さそうね。後でにとりに連絡しておきましょう。

 

 

 

「ふぅ、これで終わりね。」

 

「ああ、まさかゲートを抜けてすぐ戦闘とは思わなかったぜ。」

 

「そうね、コーディ。ただ、まだ仕事はあるわよ。」

 

 戦闘終了で艦橋クルーの皆の緊張も解けたみたいで、肩の力を抜いたり、身体を伸ばしたりとしている。だが、これで私の仕事が終わったわけではない。これからの捕虜収容には、保安隊に頑張って貰わないとね。

 

「艦橋より保安隊、聞こえるかしら?相手が降伏して戦闘が終わったから、機動歩兵と一緒に敵艦内を制圧してくれないかしら?」

 

《こちらエコー、了解した。よし聞いたなお前ら!敵艦の制圧は俺達クリムゾン分隊が行うぞ、分隊各員は装備を整えろ!ファイブスのスパルタン分隊は通常通り、艦内の警備を頼む。》

 

《了解した。こっちは任せてくれ。》

 

 命令を受けた保安隊は早速行動に入ったようで、通信の向こう側からも慌ただしい様子で物音や声が聞こえてくる。エコーもファイブスも元軍人だし、こういった行動の素早さは中々のものね。

 

「ああ、それともう一つ良いかしら?捕まえた捕虜なんだけど、機動歩兵の監視付で一隻に纏めてくれないかしら?」

 

《そうか。了解した。では捕虜は一番状態の良い艦に纏めておきます。監視は百体程度で宜しいですか?》

 

「ええ。もしお馬鹿するなら教育してやりなさい。」

 

 あのメタルマウンテンゴリラ百体とご対面なんて、私はご遠慮願いたいわね。味方ならいいんだけど、敵ならかなりの威圧感がありそうだし。まぁ海賊のことだし、命を危険に晒してまで特攻かましてくるような馬鹿は居ないでしょう。あいつらは我が身が一番可愛い人種だからね。

 

 

 

 

 数刻も経つと保安隊の準備が完了したようで、〈開陽〉が海賊の艦隊に接近すると、機動歩兵と全身装甲服に身を包んだ保安隊員を乗せた強襲艇が続々と発進していく。

 

 その後も作業は滞りなく終了し、海賊の残骸は工作艦の腹の中に消え、捕虜は原型を留めていたBクラスのバクゥ級に収容された。この宇宙では弱肉強食が当たり前、人死になんて日常茶飯事みたいなもんだから、生存権を保証されるだけ有り難いと思いなさい、海賊さん達。機動歩兵とご対面なんてまだ可愛い方よ。

 ああ、捕虜の食事は適当な携帯食を機動歩兵に運ばせたわ。あんなゴツい戦闘ロボットから食事を貰う海賊捕虜の図・・・・なんかシュールね、それ。

 

 捕虜を乗せたバクゥ級は、もしも奪還されたら色々不味いので、こいつは〈ムスペルヘイム〉のドックに収容して機銃の一丁までの全武装を剥がさせたわ。ついでにこいつは今後も捕虜運搬船(ヘルシップ)として運用するつもりだから、艦隊に随伴できるようエンジン周りを弄ってある程度修理もしておいた。

 

 

「そうだ、霊夢さん。ヘルシップもうちで使うなら、折角ですし名前でも付けます?」

 

「別に良いわ。付けたいなら適当にやっといたら?」

 

 今の私は指揮でちょっと疲れたわ・・・少し休もう。ヘルシップの名前なんて別にどうでも良いでしょ―――1号艦とか適当な名前でも。海賊を詰め込めればそれで十分よ。

 

「はーい。じゃあ適当に付けときますねー。」

 

 私の言葉で了承を得たと思ったのか、早苗はホログラムの画面に何か入力している。

 

 後日、ヘルシップのバクゥ級の名前は〈阿里山丸〉となったらしい。かなり日本的な名前だけど、そんな知識、何処で仕入れてきたのかしら。

 

 

 

 ―――にしても、ゲートを抜けてすぐ戦闘なんて、今後はどうなるのかしら。このカルバライヤ宙域の旅も、一筋縄ではいかないようね――――。

 




ちゃっちゃら~ 艦隊に ヘルシップ が 加わった !



今話からカルバライヤ編に突入です。予告にあった戦艦は次話あたりからの登場になりそうです。

私は無限航路のサントラを持っていないので、無限航路のイメージBGM名は欧米版の名前です。本家では何というか分かりませんw
個人的に、霊夢艦隊の戦闘BGMは雑魚戦が「厄神様の通り道」か「幻想浄瑠璃」のイメージですね。ボス戦になると色々イメージが変わりますが。敵視点で霊夢艦隊が蹂躙している場面は深海棲艦曲、ハイストリームブラスターはヤマトの曲とか、そういった方向性も一応ありますが、大体は勘で選んでいます(笑)。霊夢ちゃん本人が無双する場面はちゃんと霊夢の曲から選んでいますよ。




霊夢艦隊の艦船の名前についてですが、殆どは実在、又は計画艦の艦名から来ています。今は改ガラーナと改ゼラーナのクラス名に欧米版の名前を充てたのでソ連分多めです。今回システム事故を起こした〈タルワー〉は、インド海軍の1135.6型フリゲートのネームシップから来ています。日本ではかなりマイナーな艦だと思いますが、分かった方は居るのでしょうか。


勿論例外もありまして、〈蓬莱丸〉はPS2ヤマトに登場した輸送艦、〈パーシヴァル〉は映画「真夏のオリオン」劇中の架空駆逐艦、〈アナイティス〉は「ラストエグザイル 銀翼のファム」に登場した戦艦から取っています。初代旗艦〈高天原〉は完全にオリジナルですし、駆逐艦〈ヘイロー〉は由来がxboxのゲーム「HALO」と、もはや船ですらありませんw




早苗さんは・・・秘密です(笑)




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第三一話 接触

明けましておめでとうございます。本年初の投稿です。


 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星シドウ~

 

 

 

 

 ゲートを抜けて早速現れたグアッシュ海賊団の小隊を蹂躙した私達は、そこから一番近い惑星シドウの宇宙港に錨を下ろした。艦隊の数がかなり増えたので、ドックの一区画を丸ごと借りる羽目になったけどね。入りきらない分は外で工作艦に横付けしてある。

 

「霊夢、補給品のリストだ。」

 

「ありがと、コーディ。助かるわ。」

 

 親切なことに、コーディがわざわざ補給品リストを届けてくれた。このリストには先の戦闘で使われた消耗品の他に、日用品や通常航海に必要な物資なども記載されている。基本的に最低限必要なものはタダで補給してくれるからそれらの物資は空間通商管理局に書類を提出すれば自動で補給してくれるのだが、追加装備や娯楽品の類はこちらで対価を支払わなければならない。艦載機なんかも基本オプションには含まれていないので、消耗したミサイルや推進剤の補充もこちらに含まれる。こういった補給品リストの提出も、宇宙港で艦長がやるべき仕事の一つだったりする。

 

「そんじゃあ私は管理局の方に行ってくるから、上陸準備の方は宜しくね。」

 

「イエッサー。」

 

 コーディはそう答えると素早く艦に戻っていく。元軍人なだけあって行動が素早いわね。

 

 今後の予定だが、まずは管理局にリストを提出して、それから地上の酒場で情報収集だ。私達はこのカルバライヤには来たばかりだから、安全な航海のためにも地元民からの情報収集は欠かせない。

 

「さーてと、そんじゃあさっさと片付けますか。」

 

 それに加えて、酒場なら遠慮なく酒が飲める。普段は艦長業務があるから飲みすぎて二日酔いなんてことはできないけど、惑星に停泊するときは大体1、2日は留まってるからそれなりの量を飲んでも大丈夫だ。最近はあまり惑星に寄港してなかっことだし、この仕事をさっさと済ませて久々に楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 ~惑星シドウ・0G酒場~

 

 

 

 

 宇宙港で一通り事務処理を終えた私達は地上の酒場に降り立った。まだ地上は昼間なのに酒場に繰り出す光景は一見ダメな連中の行動に見えるけど、これも0Gとして大切な業務の一つだ。ちなみにメンバーは私と霊沙にコーディ、フォックスの四人だ。元軍人の二人は弁えてくれるだろうけど、霊沙の奴が自重しなさそうで心配だわ・・・

 

 酒場の扉を開けると、今までは多少漏れている程度だった喧騒が一層聞こえてくるようになる。まぁ、酒場なんていつもこんな感じだし、特に気にすることはない。

 一通り酒場の中を見渡してみると、ちらほら見知った顔も見受けられる。先に上陸したクルー達が早速繰り出してきたらしい。

 

「それじゃあ、俺達は他の連中から情報を集める。」

 

「任せたわ。それと、霊沙の奴が羽目を外しすぎないように見張っといてね。」

 

「了解です。」

 

 フォックスは無機質に返事をするけど、霊沙はなにか言いたげな感じで私を見据えてくる。

 

「おい、それどういう意味だよ?」

 

「別に、言った通りの意味だけど?だいたいあんた、酒場に来たときはよく飲みすぎて他の人の世話になってるんだから、多少は気を付けなさいよね。」

 

「うるせぇ、こっちの勝手だろ。」

 

 霊沙はぷいっと顔を背けて拗ねたような表情を取る。――――酒好きなところまで、私に似せてるのかしら?

 

「おい、今はまだ昼間だ。多少は控えな、嬢ちゃん。」

 

「な、何だとてめぇ―――!」

 

 今度はコーディからも窘められて、霊沙の顔が茹で蛸みたいに赤くなった。

 

「大体な、こっちは唯でさえまともに憂晴らしできなかったんだぞ?多少は好きにさせろよ。」

 

「だが、飲みすぎは良くないな。嬢ちゃんみたいな子には体に毒だぞ?」

 

「ハハッ、その通りだ。観念しろ。」

 

「お、おまえら・・・っ、私を子供扱いするなーっ――――!」

 

 霊沙はそう言い残すと、元軍人二人に連行されていった。あの様子なら羽目を外しすぎる心配は無さそうね。まったく、唯でさえ頭痛が酷くなったっていうんだから、もう少し自分の体には気を使いなさいよね・・・

 

 私もあまり人のこと言えないけど。

 

 

 

 あいつが連行されていくのを見送った後、私はマスターに近いカウンターの席で適当な場所を見つけてそこに腰かけた。

 

「マスター、適当なの一つくれるかしら?」

 

「畏まりました。」

 

 しばらくすると、カウンターに薄いオレンジ色の酒が置かれた。私はそれを飲み干して、もう一度マスターに声を掛けた。

 

「そういえば、ここらの宙域ではグアッシュが有名みたいだけど、他に海賊は出たりするのかしら?」

 

「そうですねぇ~この辺りの海賊といったら、グアッシュの他にはサマラでしょうか。グアッシュは御存じかもしれませんが、エルメッツァのスカーバレルのように徒党を組んで荒らし回るタイプの海賊なんですが、サマラの方は一匹狼なんです。それでいて長年グアッシュと対立して一歩も引かないんだから、凄いですよねぇ。」

 

 どうも、この宙域にはグアッシュ以外にも名の知れた海賊が活動しているようだ。これは少し気になるわね。

 

「へぇ~、そのサマラってどんな奴なのかしら?」

 

「艦長、サマラを知らないのか?」

 

 私はそのサマラって奴が気になってマスターに聞いてみたのだが、それに答えたのはマスターではなくいつの間にか割り込んできたフォックスだった。

 

「あれ、フォックス?霊沙のことはどうしたのよ。」

 

「ああ、あいつならコーディが面倒を見ている。暫くは大丈夫だ。」

 

 フォックスが指した方向を見てみると、霊沙の奴がコーディに愚痴りながら酒を飲んでいる様子が見える。2人にからかわれたためか、なんだかぐったりしているみたいだ。

 

「それよりマスター、そのサマラってのは、もしかしてランカーにいるサマラ・ク・スィーのことか?」

 

「ええ、その通りです。『無慈悲な夜の女王』で知られている彼女です。なんでも彼女を見た船乗りの話だと、すごい美女だったそうですよ?一度踏まれてみたいもんですねぇ~。」

 

「ハハッ、残念だが、俺にはいまいち理解できねぇな。」

 

 マスターの返事に、フォックスは少し困惑気味だ。踏まれたいって何なのさ。私も理解しがたいわね。

 

「というかあんた、何処でそんな知識覚えてきたのよ?私でも知らなかったわよ?」

 

「ああ、こっちはこっちで色々調べものをしていた時に覚えたんだ。艦長も、ランカーぐらいは覚えてみたらどうだ?」

 

「はぁ・・・よくそんなの覚えられたわね。私は面識のない人間百人の名前なんて覚えられなかったわよ。」

 

 フォックスの言い方からすると彼はある程度ランカーの名前を覚えているらしいが、私にはあの横文字の羅列はさっぱりだ。せいぜい、一度襲われたヴァランタインの名前ぐらしいか覚えていない。

 

「そうかい。まぁ、無理して覚えることはないさ。アカデミーのテストでもないんだからな。じゃあ艦長、俺はあっちに戻ってるぞ。」

 

 一通りやり取りを終えたフォックスは元いた席に戻っていく。それよりも、彼がそんなことまで覚えていたなんてのは以外ね。元軍人だから、腕の立つ0Gの連中のことでも気になるのかしら。

 

 しかし、そのサマラって奴、単艦の癖にグアッシュとやり合ってるなんて、腕以外にも、フネも相当良いやつを使ってるんでしょうね。こっちと戦うとすれば、今までの連中のようにはいかないだろう。

 

「マスター、もう一杯頂けるかしら?」

 

 ここはまだ情報収集を続けるべきだろうと考えて、さらに追加で注文する。こういう酒場は基本的に、金を払わないと情報をくれないのだ。

 しばらくすると、今度は透き通った赤い色をした酒が振る舞われた。見た目はレミリアがよく飲んでいた得体の知れない飲み物に似ていたけど、味はただの合成酒だ。私にとってはジュースとあまり変わらないような安酒だが、さっきの酒よりは良い感じだ。

 

「そういえばお客さん、グアッシュについて妙な噂が立ってるのを御存じで?」

 

「・・・いや、知らないわね。」

 

 私達はここに来たばかりだから、グアッシュの名前は知っているけど噂とか、そこまではまだ聞いたことがない。さっきより一段階上の情報みたいだし、聞いてみる価値はありそうだ。

 

「そうですか。ここいらで幅を聞かせてるグアッシュの連中なんですがね・・・実は頭のグアッシュは一年ほど前に宙域保安局によって捕まってるんですよ。なのに連中はますます勢いづいて数を増やしている始末で・・・」

 

「へぇ、妙な話ね。ふつう頭領がいなくなれば、それだけ後釜の座を狙って内紛とか起こりそうなものでしょ?」

 

「やっぱりお客さんもそう思いますよね。でも実際、この辺りの海賊被害は右肩上がりなんですよ。お陰で交易レートは滅茶苦茶だし、危険手当も跳ね上がって貨物船の往来なんかも滞ってるんですよ。このままグアッシュを恐れて船乗りが減ってくれちゃあこっちも商売上がったりだ。ほんと、一体どうなってるんでしょうねぇ・・・」

 

 マスターは愚痴混じりに話しているが、内容からするとこの宙域の海運はかなりヤバい状況らしい。それに頭領が捕まってるのに数が増えているなんてのも不自然だ。ふつう海賊なんてのは自分勝手な連中だし、頭が抜ければ我こそはと次のリーダに名乗り出て分裂していきそうなものだけど、マスターの話し方からするとグアッシュの連中は未だに統率されていて、尚且つ勢力を拡大しているらしい。―――異変の匂いがするわね。

 まぁ、うちにとっては餌が増えるだけなんだけどね。グアッシュもぐもぐ。

 

 その後も酒とつまみを2、3品注文して適当に過ごした後、マスターに情報の礼を告げて店を後にした。霊沙のやつは終始元軍人コンビのペースに乗せられていたみたいで、酒場から出てきた時には疲れきった表情をしていた。

 

「艦長、何か良い情報は集まったか?」

 

「ええ。グアッシュのことなんだけどね、実は連中のトップはもう捕まってるらしいのよ。それなのに勢力を拡大しているみたい。」

 

「何だそりゃ?普通逆じゃないか?」

 

 霊沙の言うとおりなんだけども、地元の人が言うんだし、多分事実なんでしょうね。

 

「そうなんだけど・・・その訳までは流石に分からなかったわ。」

 

「ほう、それは興味深い話だな。実は捕まったトップは影武者で、本物はまだ捕まっていないとか、そんな理由だろうな。」

 

「確かに、それなら筋は通っている。」

 

「成程ね、コーディの言ったような事も考えられるわね。まぁ、この件はそこまで気にしなくても良いでしょ。私達もずっとここに留まる訳でもないんだし。」

 

 この宙域の海賊行為が深刻なのは事実だろうが、私達は別に異変解決屋でもなんでもないんだし、適当に惑星を見て回って、襲ってくる連中を返り討ちにするだけだ。エルメッツァの時みたいに依頼を受けてるわけでもないんだし、そこまで深く考える必要はないでしょう。

 

「そっか~。んで、この後はどうする?」

 

 霊沙は特に話の内容を気にしてない様子で、今後の予定のことを尋ねた。

 

「私はもう地上でやることもないし艦に戻ろうと思うけど、あんたらはどうする?」

 

「そうだな、俺も艦長と同行しよう。この惑星には特に見るべき点もないようだからな。」

 

「同感だ。俺も戻るぞ。」

 

 どうやらフォックスとコーディも艦に戻るらしい。それを聞いた霊沙は何処かつまらなさそうだな。

 

「な~んだ、全員帰っちまうのかよ。真面目なこった。私は適当にぶらぶらしてから戻るわ。じゃあな。」

 

 霊沙はそう言うと、交差点を曲がって市街地の方に足を進めていく。

 

「そう。なら出航までにはちゃんと戻りなさいよー!」

 

「解ってるよ。心配すんな。」

 

 霊沙は振り向かずにそのまま進んでいった。あいつのことだし、暴漢なんかは余裕で返り討ちにできそうだからそこは問題ないんだけど、どっかで酔い潰れてないか、少し心配だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

 

「ただいま~っ。」

 

「あ、お帰りなさい艦長。何か収穫はありましたか?」

 

「まぁ、それなりにね。」

 

 〈開陽〉に戻って艦橋に上がると早苗が出迎えてくれた。コーディとフォックスの二人はすっかり意気投合して射撃訓練所の方に向かっていったからそこで別れたわ。

 

「・・・艦橋の中も、随分とすっきりしてるわね。」

 

 艦に帰ってみると、ほとんどのクルーが惑星に休暇に出ているのですれ違う人の数は何時もよりずっと少なかったんだけど、艦橋もそれに劣らずがらんとしている。いつもオペレーター席に座っているミユさんとノエルさんも今は留守だ。大方地上に化粧品とかの買い出しに出ているんだろう。今艦橋にいるのは、私と早苗の他にはショーフクさんと、機械の点検をしているらしきにとりだけだ。

 

「そうですねぇ~。こころさんもオペレーターの二人に連れてかれましたし、ユウバリさんは機関室に籠ってますからね。」

 

 唯でさえ広い艦橋なので、これだけ人がいないと余計静かに感じるわね。

 

「あ、艦長。備品の点検の方はだいたい終わってるよ。」

 

 機械の点検を粗方終えたにとりは艦橋から出るみたいで、ついでに私のところに寄ってそれを報告してくれた。

 

「ありがとね。それより、あんたも地上には降りないの?」

 

「私かい?いや、私はこのまま艦に残ってるよ。他の整備班の連中も機械弄りが大好きな連中だからね。だいたい艦に残って何かやってるさ。私らにとっちゃ下手に地上に降りるよりも、そっちの方が面白いからね。」

 

「そう。楽しんでるようならそれでいいわ。」

 

「おう。じゃあ、私は他のところも見てくるよ。失礼したね。」

 

 にとりはそう言うと艦橋を後にした。多分、他の整備士連中も同じように過ごしているのだろう。にとりはマッドの一員だけど、ただの整備くらいでは魔改造とかは別にしないから彼女の整備は信頼している。ただ、整備班の格納庫では何が行われているか分からないんだけどね。訳のわからない新兵器とか作られたりしているかもしれない。というか絶対作ってるだろう。

 

「そうだ、ショーフクさん、ちょっと良いかしら?」

 

「ええ、別に構いませんよ。それで、用件は?」

 

 一つ用事を思い出してショーフクさんを呼び出す。今のうちに、今後の航路を決めておきましょう。

 

「これからの航路のことなんだけど、どこか寄ってみる価値がありそうな星はあった?」

 

「はい、まず隣のブラッサムとガゼオンにはモジュール設計社があるみたいですよ。それと惑星ジーバには艦載機設計社、ドゥボルクには小規模な艦船設計社がありますね。」

 

 ショーフクさんの話を受けて、端末から宙域図を表示してみる。

 さっきの話にあった惑星の位置を確認してみると、ブラッザムからは真っ直ぐガゼオンに伸びる航路が存在するが、隣のバハロスを経由してボイドゲート方面の小惑星帯を抜ければ艦載機設計社のあるジーバを目指すことができる。そこからもガゼオンに行くことは可能だ。少し遠回りになるが、ルートはこっちでも問題なさそうだ。

 それに、ガゼオンにはジェロウ・ガン研究所なる施設があるらしい。マッド共が発狂しそうな施設ね。ジェロウ・ガンといったら、確か小マゼランで一番有名な研究者だっけ?なんか酒場で流れてた番組で見た覚えがあるような、ないような・・・

 

「そうねぇ~、ショーフクさん、なら航路はこんな感じで良いかしら?」

 

 私はさっき頭のなかで組み立てた航路を端末の宙域図で改めて作成して、それをショーフクさんの端末に転送した。

 

「ふむ、成程・・・了解しました。今後の予定航路はこれで入力しておきます。」

 

「任せたわ。」

 

 予定航路をショーフクさんに渡して、それから艦長席に腰掛けた。

 

 そういえば改めて考えると、私も今は暇なのよね~。

 

「ねぇ早苗、なんか面白いことない?」

 

「え、面白いことですか?う~ん・・・・・・」

 

 早苗に聞いてみても、いい暇潰しの案は思い浮かばないみたいだ。これは大人しく神社で午睡にでも浸ってようかしら。

 

「あ、そうだ!それなら私が集めた艦船データのライブラリでもご覧になりますか?ネットワークから色々集めてみたんですよ!」

 

「え、あー、うん・・・ならちょっと見せてもらおっかな・・・。」

 

「そうですか!では早速こちらのダガロイ級というフネからですが―――――」

 

 どうやら早苗は手の空いている間に色々と艦船データを集めていたらしく、折角なのでそれを見せてもらったんだけど、元々艦のAIなだけあってそういうのに興味があったのか延々とメカに関する講釈を聞かされる羽目になったわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからシドウでは特に何も起こらず、隣のブラッサムでモジュールを買い漁って、そのまま私達は艦載機設計社のある惑星ジーバを目指して艦隊を進めた。途中の航路では、ブラッサムに宙域保安局っていう宇宙警察みたいな組織の本部があるせいか、流石に海賊が出てくるようなことはなかった。ただ、バハロス軌道を通過した後にはちらほらとグアッシュの小隊を見かけるようになったし、これからは警戒体制を戻した方が良さそうだ。

 

「早苗、そろそろ小惑星帯に差し掛かることだし、各分艦隊を援護位置につかせやすいように少し集結させてくれるかしら。」

 

「了解しました。各分艦隊旗艦には間隔を狭めるように通達しておきます。」

 

 このまま進めば、ボイドゲート付近の小惑星帯に差し掛かる。そこで待ち伏せなんかされたら離れた位置にいる分艦隊では各個撃破の恐れがあるので、今までは索敵のために広げておいた艦隊をある程度密集させておくように指示しておいた。

 

「それとショーフクさん、小惑星帯に到達次第通常航行に移行して頂戴。」

 

「了解です。」

 

 小惑星帯に入った後は通常航行に移ることだし、索敵は艦載機隊に任せておこう。今のうちに前衛分艦隊のグネフヌイ(ゼラーナ)各艦の偵察機を用意させておいた方が良いかもしれない。

 

「艦長、進路上の小惑星帯方面より微弱なSOS信号をキャッチしました。如何なされますか?」

 

「SOS?少し気になるわね。遭難船かもしれないし、救助の準備をしておいた方が良いかしら。取り敢えず方角は予定航路と同じみたいだからそのまま進むわよ。」

 

 ミユさんからSOS信号の報告があったけど、もしかして他のフネが海賊に襲われたりでもしてるのかしら。なら一層警戒を強めるべきだろう。念には念を入れた方がいい。

 

「こころ、さっきのSOSのことだけど、もしかしたら海賊被害の可能性もあるからレーダーの感度を上げておいて頂戴。それとフォックスはいつでも火器管制システムを立ち上げられるように準備しておいて。」

 

「了解・・・。」

 

「イエッサー。」

 

 こころとフォックスには戦闘に備えて警戒を命じておく。

 

 その後は小惑星帯に到着するまでは何事もなかったが、まだ警戒を続けた方がいいだろう。小惑星帯に到達して通常航行に移ってからは、前衛のグネフヌイ級各艦からそれぞれ3機ずつ〈アーウィンⅠ〉空間偵察機を発進させておいた。

 

「艦長、SOS信号は左前方8度、上方5度の方角から発信されているようです。」

 

 信号の発信源に近づいたため、ミユさんからより詳細な方角の情報がもたらされる。

 

「なら、その方角に向かうわよ。ショーフクさんはさっきの報告通りの方角に艦を向かわせて。早苗、艦隊全体も同じ方角に向かわせるわよ。」

 

「了解です。取り舵8度、上げ舵5。」

 

「分かりました。それと偵察機隊もその方角に向かわせておきます。」

 

 早苗がコントロールユニットを介して偵察機に命令し、偵察機隊は艦隊に先行して報告にあった方角に散らばっていく。

 

 それから5分後、偵察機隊のうちの一機から報告がもたらされた。

 

「艦長、向かわせた偵察機隊から報告です。『我グアッシュ海賊団艦隊ヲ確認。陣形ニハ不明艦ヲ含ム。』です。」

 

「・・・・どうも勘が当たったみたいね。全艦戦闘配備よ!」

 

「了解!火器管制システムオープン、戦闘準備だ!」

 

「近距離用メインレーダー起動します。」

 

 私が号令をかけると戦闘配備を告げるベルが鳴り響き、一気に艦内は慌ただしくなる。

 しかし、SOS信号の方角にグアッシュか・・・。何処かのフネが襲われてるだけならいいけど、これが罠だったら厄介ね。

 

「霊夢さん、第三分艦隊より光学映像が届きました。拡大して表示します。」

 

 早苗が前衛の第三分艦隊から映像をキャッチしたらしく、それがメインパネルに表示された。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「あれは・・・戦闘中のようだな。」

 

 映像からは、グアッシュの艦隊が不明艦を攻撃している様子が見てとれる。所々に真新しい残骸が見受けられるので、かなりの間戦っているようだ。だが、数や損害の度合いからいって、グアッシュと戦っている方が明らかに劣勢に見える。放っておけば全滅まっしぐらだ。

 

「―――映像データの解析が終了しました。グアッシュ海賊団の勢力はバクゥ級7、タタワ級10。そのうちバクゥ級2、タタワ級1隻が交戦中の艦に取りついています。恐らく白兵戦に移行するものと思われます。」

 

「グアッシュと交戦している艦隊の陣容はドーゴ級戦艦のカスタム艦が1隻、バハロス級巡洋艦1隻です。バハロス級はIFFから宙域保安局の艦だと思われますが既に大破しており、撃沈も時間の問題です。救難信号はこちらのドーゴ級から発信されているようです。」

 

 ミユさんとノエルさんから映像に関する詳細な報告が寄せられる。どちらも赤い艦体色をしているが、グアッシュと応戦している方では色も微妙に違うし、状況から考えてあの戦艦がグアッシュに襲われていると見て間違いなさそうだ。ドーゴ級の方には海賊船が何隻か取り付いていて、もう白兵戦が始まっているのかもしれない。

 唯一色が肌色のバハロス級巡洋艦は宙域保安局の艦らしいが、既に艦首にあった特徴的な垂直な翼のような構造物は折れてなくなり、さらに艦の随所から火を吹いていて全艦火達磨の様子だし、まさに満身創痍といった感じだ。

 

 これは取るべき道は一つしかないわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:不思議の幻想郷TODRより 「極限全力の百鬼夜行」】

 

 

 

 

 

「全艦突撃開始!目標は前方の海賊艦隊主力!」

 

「了解!エンジン出力全開です!」

 

「機関、全速!」

 

 命令を受けてユウバリさんがインフラトン・インヴァイダーの出力を全力まで上げ、ショーフクさんもエンジンスロットルを全開にして一気に〈開陽〉を加速させた。

 旗艦である〈開陽〉の動きを見て、他の艦も同様に一斉に加速して敵へ向かっていく。

 

「全艦隊集結!一気に敵主力を殲滅するわよ!」

 

「イエッサー。主砲発射用意だ!」

 

「本隊と敵艦隊との距離、あと19700。最大射程まであと1700です。」

 

「第三分艦隊各艦は射程に到達。砲撃を開始した模様です。第一、第二分艦隊はあと3分後に本隊と合流します。」

 

 まずは先行していた第三分艦隊が戦端を開いた。分艦隊各艦は襲われている戦艦との間に展開するグアッシュ海賊団主力に向けて、牽制も兼ねてレーザー砲による射撃を開始する。

 

「攻撃隊を送り込むわよ。艦載機隊の発進準備を急いで!」

 

「了解。艦載機隊各員は直ちに発進準備に取り掛かれ!」

 

 何といっても敵の数が多いし、ここは艦載機隊でさっさと潰した方が良さそうだ。あんまりもたもたしていると襲われている方の艦隊が全滅するかもしれない。

 

「あっ―――保安局のバハロス級のインフラトン反応消失・・・撃沈されました!」

 

 だが、どうやら保安局の方は間に合わなかったらしい。バハロス級は最後までレーザー砲で応戦していたが、敵の被弾を受け続けて限界を超えたらしく中央から真っ二つに折れて轟沈した。

 

「―――間に合わなかったのは仕方ないわ。今はもう一隻を逃がすことに集中するわよ。各艦は最大射程に到達次第牽制砲撃を開始、そこに艦載機隊を突っ込ませて戦艦に取り付いている連中を排除して。」

 

 状況が状況なだけに、今回は鹵獲とかに拘っている暇はない。海賊の無力化を最優先に行動するべきだ。

 

「了か・・・あっ、〈ヴェールヌイ〉の機関部に異状発生!安全システムが作動し緊急停止しました!」

 

「はあっ?こんな時に何なのよ!」

 

 突然、第三分艦隊を構成する駆逐艦の一隻が機関部に異状を来して緊急停止する。これから本格的に戦闘だっていう時に戦力が減るのは不味い事態だ。

 

「!?っ、〈ユイリン〉、〈秋霜〉、〈パーシヴァル〉にも異状発生・・・ああっ、第三分艦隊全艦の機関が緊急停止しましたッ!!」

 

「ちょっと・・・何よそれ!どうにかならないの?」

 

 一隻だけかと思ったら、第三分艦隊全艦の機関が停止してしまった。一体どうしたっていうのよ。あのマッド共が手掛けた艦隊がポンコツだとでも言うの!?

 

「霊夢!第三分艦隊は既に敵艦隊と交戦している。このままでは一方的に撃ち減らされるぞ!」

 

「分かってるわよ!早苗、第三分艦隊各艦にはミサイル攻撃で応戦するように伝えて!!それと直ちに原因究明に取り掛かるように!」

 

「は、はいッ!」

 

 いきなり緊急停止した第三分艦隊の各艦は、機関が停止してしまった為に艦隊運動を取ることができず、慣性に任せて漂流するだけだ。一応小型核パルスモーターの推進材は残っているだろうから停止させること自体は出来るかもしれないが、どのみち今の第三分艦隊はただの的同然だ。それにエンジンが停止した以上レーザーに供給するだけのエネルギーも確保できないので、応戦手段はミサイルなどの実弾に限られる。

 

 敵の動きを見てみると、此方が突然停止したのを良いことに勢いづいているようで、第三分艦隊に集中する火線が増している。回避機動を取れない以上それだけ弾が当たりやすくなっているためだろう。それに第三分艦隊の艦は機関停止でエネルギーが無くなったためにシールドやデフレクターも失われており、防御手段が装甲だけになってしまったため、海賊に撃沈される恐れも出てきた。

 

「兎に角、本隊の会敵を急ぐしかないわね。」

 

 〈開陽〉を含む本隊が急いで敵艦隊との距離を縮めている間にも、第三分艦隊は絶え間なく敵の砲撃に晒されている。此方もミサイルでなんとか手傷は追わせているが、あの分艦隊に配備されている艦には強力なミサイルはないため、せいぜい中破程度の損害しか与えられていない。対してこちらの被害は深刻で、既に〈早梅〉大破、〈ナッシュビル〉、〈秋霜〉、〈アナイティス〉、〈パーシヴァル〉中破の損害を負っている。巡洋艦はバイタルパートは抜かれていないみたいだが、駆逐艦がそろそろ危ない。

 

「艦長、間もなく射程距離に到達し・・・きゃぁつ!!」

 

「な、何だぁっ!」

 

 突然ドォンという音と共に強い衝撃がして、こころの報告が中断された。まさか小惑星帯にグアッシュの別動隊が潜んでいたとかじゃないでしょうね?

 

「何、まさか待ち伏せ!?」

 

「い、いえ・・・レーダーには新たな敵影はありません。」

 

「か、艦長・・・大変です!本艦のインフラトン・インヴァイダーの出力が急速に低下中!安全装置が作動、機関、緊急停止します!!」

 

 するとユウバリさんから焦燥の滲んだ声で報告が飛んできた。第三分艦隊のみならず〈開陽〉までやられるという事は、この宙域に何らかの異状があるのかもしれない。というか、〈開陽〉まで機関停止なんて、かなりヤバい状況なんだけど。

 

「不味いわね・・・ユウバリさんは直ぐに原因究明に取りかかって!」

 

「りょ、了解!」

 

 ユウバリさんは命令を受けると慌てて機関室に飛んでいく。これではまともな戦闘行動は出来そうにないが、グアッシュは見逃してはくれないだろう。それに、〈開陽〉のみならず、まだ正常な艦にもこの異状が波及するかもしれない。

 

「あっ・・・第一、第二分艦隊各艦と本隊の他の艦にも同様の異状発生!」

 

 ―――やはりそうきたかッ―――!

 

 私は頭をフル回転させて、なんとか対処法を考え出す。機関停止で主砲がまともに使えない以上、頼れるものは―――確か、まだあのミサイルが残っていた筈!

 

「やっぱりね・・・・フォックス!〈グラニート〉発射用意よ、急いで!」

 

「了解した!SSM-890〈グラニート〉発射用意、目標グアッシュ艦隊!」

 

「早苗、重巡2隻のミサイルも使うわよ。レーザーが当てにならない以上、敵を排除するにはこれしかないわ。」

 

「はいっ・・・〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉にグラニートミサイル発射命令を伝達します。」

 

 こっちが身動きできない以上、グアッシュをさっさと排除しないと危険だ。グラニートミサイルなら一撃でグアッシュの巡洋艦を粉砕できる。射程距離2,5光年を誇るこのキチガイミサイルならグアッシュ艦隊も逃れられないだろう。それだけあってこいつらはべらぼうに高いからあまり使いたくはなかったけど、今はそうも言ってられないわ。

 

「・・・はぁ―――これを考えると、ファズ・マティでこのミサイルを補充できたのは幸運だったわ。」

 

 グラニートミサイルはマリサ戦で使い果たしてから殆ど補充ができていなかったのだけど、ファズ・マティでスカーバレルから物資を根こそぎ略奪したお陰でやっと補充することができた。これがなかったら、今はもっと厳しい戦いを強いられていたことだろう。

 

「〈グラニート〉対艦弾道弾、発射準備完了だ!」

 

「よし、全艦、グラニートミサイル発射!!」

 

 〈開陽〉、〈ピッツバーグ〉、〈ケーニヒスベルク〉3隻の前甲板VLSが開口し、そこから〈グラニート〉対艦ミサイルが発射される。数は28発。グアッシュの前衛艦隊に合わせて1隻2発を割り当てた感じだ。

 

 巨大なミサイルは力強くノズルから火炎を噴射しながらグアッシュ前衛艦隊に向かっていく。グアッシュは何とかミサイルを回避しようと必死レーザーを向けたり艦の向きを変えているが、それよりも早くミサイルが着弾した。一応敵のレーザーの迎撃は受けていたが、射撃諸元の入力が間に合わなかったようで殆ど外れている。そのため撃墜された2発を除いた26発のグラニートミサイルは正確に敵艦に着弾し、その凶悪な破壊力を発揮した。唯でさえその大きさから軽巡洋艦クラスなら一撃で轟沈間違いなしなミサイルなのだが、グラニートミサイルは着弾後、敵艦内部に第二弾道を送り込んで起爆させる仕組みになっている。その威力はヤッハバッハのダルダベル級すら2発で戦闘不能にするほどで、そんなミサイルをもろに受けたグアッシュの海賊船が耐えられる筈もない。

 ミサイルが着弾したグアッシュ艦はクルーが逃げる暇も与えられず、内部からミサイルの炸裂によってズタズタに引き裂かれて轟沈し、終いには艦隊があった場所は一つの火球と成り果てた。

 

「うわっ、えげつなっ・・・」

 

「―――戦争は地獄だぜ。」

 

 そのあまりの威力にこっちのクルーも引き気味だ。これだけのミサイルで一度にこんな数を撃沈するのは初めてだし、仕方ないだろう。かくいう私も、マッドが作り上げたこのミサイルの凶悪さを改めて思い知らされたわ。

 

「・・・後は取り付いている連中の排除ね。ノエルさん、艦載機隊の発進準備は?」

 

 気を取り直して、残りの敵に意識を集中させる。確かまだあの戦艦には海賊船が取り付いていた筈だ。

 

「あの・・・それが・・・エネルギー供給が停止された影響でカタパルトが使用不能になってしまいまして・・・今は格納庫から直接機体を射出する方向で進めているのですが、予備電源では艦載機を移動させるクレーンに充分な動力を供給することができないため作業は難航しているようです。」

 

「―――それなら、ハイストリームブラスター用の機関を立ち上げてそこからエネルギーを供給させましょう。―――あっ・・・。」

 

 ノエルさんの報告を受けてハイストリームブラスター用の小型インフラトン・インヴァイダーを予備電源に使おうと思って通信スイッチに手を伸ばしたところで、そっちの機関も起動した途端に同じ不調が起きるかもしれないことに思い立った。主機があれだから、こっちももしかしたら同じように止まっちゃうかも・・・・まぁ、やるだけやってみる価値はあるでしょう。

 

「ユウバリさん、聞こえる?ハイストリームブラスター用の機関を使って艦内の電源を確保できないかしら?」

 

 《はい、聞こえます!そうでした!それなら艦内の機能なら一通り回復できそうです。その方向で一度やってみますね。》

 

 ユウバリさんも通信でこれを思い出したらしく、あっちの機関の起動に取り掛かってくれるみたいだ。

 

「艦長、どうやら敵艦隊は撤退を開始したようです。例の戦艦から離れていきます。」

 

「あれだけの破壊を見せつけられたんだ。誰でもそうするだろう。霊夢、どうする?」

 

 まぁ、普通そうするわよね。コーディの言うとおりだわ。艦載機隊には悪いけど、今回は出番なしだ。

 

「こんな状態じゃ追撃もできないし、今は諦めましょう。」

 

 うちの艦隊は全艦足が止まっているし、追撃したくてもできない状況だ。ここは仕方なく諦める他ない。今は艦の修理に集中するべきだろう。

 

「艦長、例の戦艦から通信が入っています。どうなされますか?」

 

「取り敢えず、メインパネルに繋いで頂戴。」

 

「了解しました。」

 

 ノエルさんが通信をメインパネルに接続すると、戦艦の艦長らしき人物の姿が映し出された。

 見た目はまだ若い女性といった感じで、緑を基調とした軍服調の艦長服を纏っている。髪は赤のストレートで、頭には艦長帽をのせている。

 先程までの戦闘のためか、軍服は所々破けていて、顔には煤がついていた。炎が燃え盛る音がバチバチと聞こえてくるので、艦橋で火災が発生しているのだろう。

 

「―――此方はスカーレット社警備部門所属、戦艦〈レーヴァテイン〉艦長のメイリンと申します。この度は助けて頂いて、どうも有難うございます・・・。」

 

 メイリンと名乗った女性は救援に対してお礼を述べた。負傷でもしているのか、その声はどこか苦しそうだ。

 

 それよりも彼女、紅魔館にいた居眠り門番にそっくりね・・・・名前の響きも同じみたいだし。

 

「スカーレット社か。確か、カルバライヤで活動する軍産複合体企業がそんな名前だったな。」

 

 隣でコーディが小声でそんなことを呟いた。どうやら向こうはそれなりに名が知れた大企業の人間らしい。

 

「私は0Gドックの霊夢よ。こっちはたまたま通り掛かっただけだし、礼には及ばないわ。それより、そっちはだいぶ被害を受けてるみたいだけど、何か支援した方が良いかしら?」

 

「そうですね・・・できれば医療関係者を少々、派遣して頂けないでしょうか?海賊との白兵戦でかなりやられてしまったもので・・・。」

 

「分かったわ。ああ、こっちはちょっと機関に異状があるから医者を乗せたシャトルの発進が遅れるかもしれないわ。」

 

「有難うございます・・・お手を煩わせてしまって申し訳ありません・・・。」

 

 あっちはあっちで色々困っているみたいだし、メイリンさんはああ言っているけど医者を送るくらいならそれだけの余裕はあるし、何より困った時はお互い様だ。ただ宇宙ではけっこう悪いやつもいたりするけど、あっちはそんな感じの連中には見えないし、特に問題はないだろう。

 

「そういえば・・・さっき機関に異状と仰りましたか?」

 

「ええ、そうだけど―――」

 

「それなら、この宙域に生息するケイ素生物のせいですね。グアッシュや保安局は対策しているから大丈夫なんですが、たまに余所からきた船がそれに引っ掛かって遭難したりするんです。」

 

「成程、ケイ素生物か・・・情報提供に感謝するわ。」

 

「いえ、助けて頂いたのは此方はですし、その程度ならお安い御用ですよ。」

 

 ともあれ、機関停止の原因が判明しただけでも収穫だ。後でユウバリさんには伝えておこう。

 

「あっ、そうだ・・・先程そちらはシャトルで送る、と言ってましたけど、もしかしたらシャトルもケイ素生物にやられてしまうかもしれないので、此方から接舷しても宜しいでしょうか?」

 

「ええ、別に構わないわ。一番でかいのが私の旗艦よ。」

 

「了解しました。では、そちらに伺いますね。」

 

「分かったわ。」

 

 そこで通信は終了した。初対面の艦を接舷させるのにはちょっと抵抗があるけど、もしなんかあったときは機動歩兵で何とかなるだろう。

 

「早苗、戦闘も終わったしこのまま漂流するのも不味いから、一度艦隊を静止させておいて。確か姿勢制御用の小型核パルスモーターなら推進材があれば使えた筈でしょ?」

 

「了解しました。各艦には現在位置で留まるように指示しておきます。」

 

 早苗が命令を伝達すると、艦隊各艦はその場に留まるために逆噴射ノズルを使用して艦の位置を固定させた。ただ完全に止まったわけではないからまだ慣性で動いているけど、少なくとも漂流しているうちに艦隊が分散してバラバラになるなんて事態は避けられるだろう。

 

 戦闘自体は終了したけど、まだまだ気は抜けない状況ね。

 

 




最近不思議の幻想郷に嵌まったりしたお陰で少し投稿が遅れました。今後についてですが、1月中はテスト等もあるので投稿ペースはだいぶ遅れそうです。2月に入れば元に戻ると思います。

今回は予告通り挿絵にあった戦艦を登場させました。めーりん以外の紅魔勢は今後のお楽しみです。〈レーヴァテイン〉の艦首はフランの羽根をイメージして改造してますが、フランがこの戦艦ですなんて事はないのでご安心下さい。〈レーヴァテイン〉はそのうちカラー版を上げておきます。
グラニートミサイルの元ネタはヤマト完結編のハイパー放射ミサイルです。あれを太く逞しくしたのが本作のグラニートミサイルになりますw

それと霊夢艦隊のトルーパー達ですが、普段は装甲服は着ていてもヘルメットはしていないことが多いです。保安隊の二人には新しい装甲服が支給されていますが、ファイブスはフェイズⅡのヘルメットを使い続けています。一方エコーの方は新しいヘルメットを使っています。新装甲服の挿絵も今後投稿する予定です。


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第三二話 動き出す歯車

YR1は真理である。


 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、小惑星帯~

 

 

 霊夢の機転によりグアッシュ海賊団の殲滅に成功した艦隊だが、艦隊のほぼ全ての艦がこの宙域特有のケイ素生物により機関に何らかの損傷を抱え、未だに身動きが取れずにいた。

 

 

 

 

 

「・・・それで、完全復旧の目処はまだ経っていないと」

 

《ええ。こっちも全力でやってるんだけど、何分人手が足りないのよ。ほんと、猫の手も借りたいくらいだわ》

 

 さて、何とかグアッシュ艦隊の殲滅には成功したんだけど、予想以上に機関の状態は深刻らしい。今は機関長のユウバリさんとそのことについて話し合っていたところだけど、あっちの話でも修理にはかなり時間が掛かりそうとの事だ。

 機関の異常の原因はどうも、エンジン口に多数のケイ素生物が付着して塞いでいたことが原因だったらしい。さっき助けたスカーレット社の艦長の話を伝えたところ、異常が発生している部位はすぐに特定された。ただここからが問題で、エンジン口のフィルターに付着しているだけならそれを取り除くだけで終わったんだけど、ユウバリさんの話だとそのうち幾つかのケイ素生物が成長し過ぎてフィルターを食い破って機関の内部にまで侵入していたらしい。こいつらが曲者で、エネルギーパイプやなんかを傷付けて回って最終的にはインフラトン・インヴァイダーがオーバーヒートしてしまったという訳だ。ギリギリのところで安全機構が作動してくれたお陰でそこで留まってくれた訳だけど、あのままいけばエンジンが暴走して内部から爆沈なんて事態になっていたかもしれないと思うと、ほんと怖い話だ。

 

《被害の方だけど、保安隊とドロイド達が頑張ってくれていたからフィルターの方は何とかなったわ。ただ、エンジンの方はパーツを総取っ替えしないと駄目みたい。戦闘中だったから各部分に掛かる負荷も大きかったし、その上これだからパーツの痛みが激しすぎるから・・・》

 

「分かったわ。サナダさんに連絡して予備部品を確保して貰うから、今は治せる所だけでも直して頂戴」

 

《了解。では、修理の方に戻りますね》

 

 そこでユウバリさんとの通信は切れた。この〈開陽〉がこんな状態だし、他の艦も同じような損傷を受けているのだろう。今はにとり率いる整備班が他艦の損傷状態を確認しているところだからもうじき報告が上がってくる筈だ。あまりに被害が大きいと、最悪何隻かは修理せずに曳航していくことも考えないといけないかもしれない。それからサナダさんに工作艦で必要な部品を生産させないといけない。一応資源の備蓄はある程度あるんだけど、機関部はけっこうレアメタルとかも消耗するからそういったものの在庫も気になるところだ。

 

 私が今後の修理方針について思案していると、今度は別の通信機に通信が入った。

 

《あ―――こちら整備班のにとりだけど、艦長聞こえてるかい?》

 

「ええ、聞こえているわ。それで、艦隊の方はどうだったの?」

 

《そのことなんだけど、特務艦隊以外の連中は軒並み全滅だね。後方の特務艦隊は戦闘には参加してなかったからフィルターを取り替えるだけで済みそうだし、工作艦はそもそも被害を受けてないから稼働には問題なさそうだよ。だけど他の艦は戦闘中だったせいで何らかの損傷を受けているみたいだ。第三分艦隊の連中は多分ドックで直さないと駄目だね。唯一〈ナッシュビル〉はなんとか動けそうだけど、他は港まで曳航するしかないと思う》

 

「・・・分かったわ。それで、他の艦は?」

 

《ああ、直ぐに動かせそうなのは〈ケーニヒスベルク〉と〈ラングレー〉、〈叢雲〉の3隻かな。こいつらは今ある予備部品で直ぐに復旧できると思う。他の艦は工作艦の備蓄次第かな。まず旗艦の修理にどれくらい資源を使うか目処が立ってからじゃないと他の艦に回す分の見積もりもできないからね》

 

「分かった。一応こっちの損傷状況は確認できてるから今サナダさんに必要な部品の発注をするところよ。使う資源の見積もりができたらそっちに連絡入れさせておくわ。それまでに整備班は引き続き被害状況の確認とフィルターの取り替えをお願い。」

 

《了解。それじゃあ作業に戻るよ。》

 

 にとりの報告によると、やはり他の艦もかなり厳しい状況のようだ。各艦の状況を表している図面でも、ほぼ全ての艦の機関部が赤く染まっており、異常が発生していることを示している。この様子だと、第三分艦隊の艦は曳航かな・・・

 

 ―――それより、先ずはサナダさんに部品を発注しておかないと―――

 

 被害状況が分かっても部品がなければ修理は進まない。考えるのは後にして、先にサナダさんに部品を生産させないといけない。工作艦を管理しているのはサナダさんだからね。

 

 私は端末から被害状況のデータを引き出して、ユウバリさんが"交換の要あり"と判断した箇所をそのままリストアップしていき、そのデータをサナダさんの元に転送しておいた。

 

「こちら艦長。サナダさん、今機関の損傷具合が分かったところだからそのデータを送ったんだけど、届いたかしら?」

 

《・・・ああ、艦長か。今確認したところだ。予備がない部品は工作艦に発注しておくぞ》

 

「ええ、よろしく。生産に使う資源の量が確定したら連絡寄越して頂戴」

 

《了解した。生産が終わり次第〈サクラメント〉をこちらに接舷させよう》

 

 これで部品の発注は大丈夫だろう。あとはどれくらい時間がかかるかだけど。この様子だと当分動けそうにないわね―――襲撃とかなければいいんだけど・・・

 

「・・・はぁ~、ほんと、参ったわね・・・」

 

 事態を改めて確認してみると、思わず溜め息が出る。艦隊が当面動けないのはまぁ仕方がないとしても、今回の戦闘は完全に赤字だ。敵艦隊丸ごとグラニートミサイルで塵も残さず殲滅してしまったから売れそうなスクラップなど当然残っていないし、さらに修理でだいぶ資源を消費することになるだろう。幸い輸送船を売り捌いたお金がまだ残っているから、艦隊運営自体はなんとかできそうだ。

 問題は助けた艦の方だろう。この様子だと、また面倒事に巻き込まれそうな気がする。

 

 ―――私の勘はよく当たるからね・・・面倒な事にならなきゃいいけど・・・

 

 

 

 

「霊夢さん、お茶を淹れてきましたよ」

 

「あら早苗、気が利くわね。ありがと」

 

 私がそんなことを考えていると、後ろから早苗が声を掛けてきた。そういえばしばらく早苗の姿が見えなかったけど、お茶を淹れてくれていたみたいだ。被害状況の確認でちょっと疲れていたし、休憩には丁度いいだろう。

 早苗から遠慮なく湯飲みを貰って、椅子に深くかけ直す。

 

「――――はぁ~っ、落ち着くわ」

 

「そう言って頂けると何よりです」

 

 やはり落ち着くにはこれが一番だ。ここに来てから珈琲とかも試してみたけど、結局これに落ち着いた。しかもこのお茶、玉露みたいだ。この甘さが身に染みていく。

 

「あと霊夢さん、あちらとの面会はいつ頃に設定しますか?」

 

「そうね~、こっちの被害確認も粗方終わったみたいだし、もうそろそろ良いかもね。1時間後くらいで良いんじゃないかしら?」

 

 そういえば、助けた艦の艦長から面会要請が入っていたんだっけ。確かあっちの艦長はメイリンさんって人だったわね。

 

「今は手空きの医療班を派遣するのに接舷しているんだし、来るのにはあまり時間掛からなさそうだからそれぐらいあれば準備できるでしょう。ノエルさん、そういう訳だからあっちに連絡しておいてくれる?」

 

「了解しました。会談の時間は一時間後と伝えておきます」

 

 他のブリッジクルーの皆はやることがなくて暇していたみたいだが、ノエルさんに声を掛けると彼女は直ぐに必要なメッセージを相手の艦に送信していく。

 

「流石ノエルさんですねー。できる女って感じです!」

 

「そう?まぁ、クルーの出来が良いことには私も助かってるわ」

 

 いい加減人手不足な私達だけれど、何とか艦隊を回せているのもクルーの皆が優秀だったりするからね。早苗ほどではないけれど、彼ら彼女達の実力には私も感心している。

 

「うちは人材が火の車だからねぇ~。もし素人ばっかりだったらここまで上手くはやれていなかったわ」

 

「そんなことをはないですよ霊夢さん。私がいるじゃないですか!」

 

 早苗はそう言うと鼻息を荒くして自慢気に私の方を見つめてくる。「私という優秀なAIがいるのだからクルーが素人でも上手くやっていけた筈です!」とでも言いたげな表情だ。実際そんなことを考えているのだろう。

 

 ―――早苗が優秀なのは分かるんだけど、最近どうもそんな感じがしないのよね・・・

 

 あのサナダさんが手掛けただけに早苗のコントロールユニットとしての性能はピカ一なんだけど、あの子が義体を得てからは幻想郷の早苗みたいに振る舞うお陰であんまり優秀そうには見えない。元気が空回りしているといった感じだ。前はもうちょっと真面目そうな感じだったんだけど、何かあったのだろうか。

 

「霊夢さん、聞いてます?」

 

「聞いてるわよ早苗、自分がいればクルーが素人でも大丈夫だって言いたいんでしょ?貴女が優秀なのは確かだけど、クルーも優秀な方が望ましいことに変わりはないわ」

 

「・・・まぁ、そうですよね。最終的にものを動かすのは人間な訳ですし・・・。でも、何で分かったんですか?」

 

「だって、顔にそう書いてあるもの」

 

「はい?」

 

 早苗は「へ?」と首を傾げたかと思うと、ぱっと顔を赤くしてあたふたしている。・・・不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「れ、霊夢さんは読心術でも心得ているんですか!?」

 

「大げさよ早苗、単に貴女が分かりやすいだけ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 続けて「あ、私AIだから読心術じゃなくて読思考術?」何で呟いているあたり、やっぱり早苗は何処かズレているみたい・・・

 

 もうこれ、あっちの早苗が中に入っていると言われても驚かないわよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉応接室~

 

 

 メイリン艦長に会談の時間について聞いてみた所、一時間後で問題ないとのことだったので、予定通り会談の場を設けることにした。

 という訳で、メイリンさんを案内してきた私は応接室にいる。応接室とは言っても、居住区にあるそれらしい部屋を転用しているだけなのだが。

 もうすっかり私の秘書的な立場に落ち着いた早苗が2つ紅茶を差し出すと、メイリンさんが口を開いた。

 

「改めてまして、スカーレット社警備部門所属のメイリンと申します。この度は此方のSOSに気付いて頂いて、どうも有難うございます」

 

「一度名乗ったかと思いますが、0Gドックをやっている博麗霊夢です。それは偶然私達の進路上だっただけですから。それで、会談の用件とは?」

 

 相手がそこそこ名の知れた大企業の人間らしいので、例え見た目があの居眠り門番に似ていても粗相のないようにと話し方も丁寧になってしまう。

 

「・・・先ず、そちらの医療支援に感謝したいと思います。貴女方のお陰でこちらの乗員の多くが助かりました」

 

「それは何よりです」

 

 メイリンさんの表情は暗い。それに、何か言い出しにくそうな表情をしているように感じる。

 

 ―――ああ、これは面倒事のパターンだ・・・

 

 多分、会談の用件とやらはその面倒事に協力して欲しいといったものなのだろう。

 

「ああ、そんなに畏まらなくても結構ですよ?私、そこまで位の高い人間ではありませんし」

 

「そう?なら楽にさせて貰うわ」

 

 慣れない敬語を使うとどうも疲れる。私はメイリンさんの言葉に甘えて、普段通りの態度で接することにした。

 

「・・・用件とやらはそれだけでは無いんでしょう?わざわざ会談を設けるくらいだし」

 

「・・・・はい。実は、海賊に白兵戦を挑まれた際に重要人物を連れ去られてしまいまして、その奪還に力を貸して頂きたいのです」

 

 ―――まぁ、そんなことだろうと思ったわ。

 

 保安局の護衛もついていたみたいだし、大企業のVIPともなればカルバライヤ政府にとっても重要人物という事なのだろう。

 

「で、その重要人物ってのは?」

 

「・・・・・・それが、我がスカーレット社社長ヴラディス様の御息女様なんです・・・。我々はマゼラニックストリームのゾフィで開かれる交易会議に向かうところだったのですが、運悪くグアッシュの大艦隊に捕捉されてしまって・・・。それに、実はそのときに私の友人も一緒に拐われてしまったんです。このまま助けが来なければ、海賊共にどんな目に逢わされるか・・・!」

 

 ―――救助対象は大企業が御令嬢か・・・上手くやれば今回の損失分を差し引いてもお釣りが来るぐらいには稼げそうね。その分リスクは高そうだけど。メイリンさんの友人も、そのとき一緒に助けてしまえばいいだろう。

 それよりもメイリンさんの友人か―――あいつの親交から考えると、咲夜みたいな人なのかしら。だとしたら、その御令嬢とやらはあの吸血鬼姉妹だったりして。今までの例からして、有り得ない話じゃないわ・・・

 

「事態を悪化させてしまったのは全て私の不手際です。ですが、どうか御協力願います!」

 

 私が考え込んでいる様子を見て不安を感じたのか、メイリンさんは深々と頭を下げてお願いしてくる。

 ・・・そんなに必死にされると、なんだが断るのが悪い気がしてくるわ。元から断るつもりは無いんだけど。

 

「・・・分かったわ。出来る限り協力しましょう」

 

「ほ、本当ですか!?、有難うございます‼!」

 

「わ、分かったから、そこまで頭を下げなくても・・・」

 

 メイリンさんはこっちが救助に協力すると聞いて心底嬉しいのだろうけど、そこまでされるとなんだが悪い気がしてくる。

 

 今回の依頼だが、相手はグアッシュなんだし、個艦性能でいけばスカーバレルの連中同様に鎧袖一触なのは間違いない。問題はあいつらの数だが、それもスカーバレルの一件である程度の差なら戦術でどうにかなることは証明済みだ。

 それに、わざわざ保安局が護衛するくらいの人物なのだから、奪還作戦の際には幾らか保安局から支援を受けることも出来るだろう。孤軍奮闘する他なかったスカーバレル戦に比べたらまだマシな方だ。

 

「そのお礼とまではいきませんが、此方の整備士達もそちらの修理作業に手を貸させようと思いますが如何ですか?」

 

「あら、修理も手伝ってくれるの?それは有り難いわ。是非お願いしようかしら」

 

 メイリンさんがお礼とばかりに整備士をこっちの修理に手伝わせると申し出てきたので、有り難く受けるとしよう。今の私達は人手が何人いても足りないくらいだからね。

 

「では、此方の整備士達を後でこちらに向かわせておきますね。それにしても、貴女がまさかあの"海賊狩りの博麗"だったとは驚きです」

 

「は?何よその"海賊狩りの博麗"って。私、あまり名乗った覚えはないわよ?」

 

 どうやら、私達は何時の間にか有名になっていたらしい。確かにエルメッツァでは大暴れしていたけど、特に名を名乗った覚えがないだけに不自然な呼び名だ。

 

「あら、知らないんですか?一部ではそこそこ有名なんですよ、貴女達。なんでもエルメッツァのスカーバレルを軍の助けも借りずに壊滅状態に追いやったとか。それ以前に海賊を見るや否や形相を変えて襲いかかってくる大型戦艦なんて、この小マゼランでも滅多にそんな連中はいませんし、どのみち有名になるのは時間の問題ですよ?」

 

「でも何で私の姓まで知られてるのよ」

 

「ああ、それは物好きな連中が0Gランキングなんかから調べ上げたんじゃないですか?貴女達、その間にけっこう名声も上げていたみたいだから」

 

 成程、情報の出所はランキングか・・・まだランカーには遠かったはずだけど、もうそんなに有名になってるのね。いや、有名なら逆に名を売るのには苦労しなさそうだ。この依頼を果たした暁には、是非有効活用させて貰うとしよう。自分の娘を助けたのが有名な0Gドックとあらばその社長とやらも報酬を出し渋ることは無いでしょうからね。

 

「いや~、それにしても、"海賊狩りの博麗"がこんな可愛い女の子だとは思いませんでした。てっきりこう、年季の入った老提督みたいな予想をしてたものですから」

 

「・・・何よ、別に私、もう子供って歳じゃないんだけど?」

 

 メイリンさんは私がこんな若い小娘の姿なのが意外だという感じで頬を緩めて微笑んでいる。なんか後ろに控えていた早苗までそれにつられて笑っているし・・・もうこのやり取りは飽きたんだけど・・・。でも可愛いって言われるのは悪い気がしない。そこは許してあげるわ。

 

「これはあのサマラと並んで人気が出そうです。うん、綺麗な女の子なのに人相悪そうなところも可愛いげがあって素敵です」

 

「余計なお世話よ。別にファンなんていらないわ」

 

 優秀なクルーなら大歓迎だが、単に私目当てのゴロツキや変態なんかに艦隊に乗り込まれるのはいい気がしない。あの女海賊サマラなんかにも濃いファンがついてるっていうみたいだし、これは有名になった弊害ってやつね。それより、後ろで早苗がクスッと笑ってるのが聞こえた。なんでまた笑ってるのよあんた。

 

 一度気を落ち着かせるために、早苗が淹れてくれた紅茶を喉に通す。メイリンさんもそれを受けて紅茶に口をつけた。

 

「私からの用件は以上ですね。良いお返事が頂けて幸いです。私達はこれからブラッザムの宙域保安局へと向かおうと思います。それでは、失礼致しました」

 

「宙域保安局ね。こっちも修理が終わり次第、そこに向かうことにするわ」

 

 メイリンさんは紅茶を飲み干すと立ち上がって再び頭を下げた。私も立ってから軽く会釈して、彼女を出口に促す。

 

「椛、お客様が艦に戻るから、エアロックまで案内してくれる?」

 

「はい、了解です」

 

 私は扉を開けて、外で待機していた椛に声を掛けた。黒いヘルメットと防具で身を固めた椛はもう保安隊に馴染んでいるようだ。耳と尻尾は見事にそれに隠れている。

 

「お客様、帰りは私が案内いたします」

 

「はい、宜しくお願いしますね」

 

 メイリンさんは部屋を出るときにもう一度頭を下げると、椛に案内されてエアロックに向かっていった。これで一先ず会談は終わりだ。

 

「あの艦長さん、真面目そうな方でしたね」

 

「そうね。あっちはVIPを拐われて大変なんでしょう。大企業の御令嬢っていう話だから、報酬はさぞ高いことでしょうね」

 

「霊夢さんったら、いつもそれですね」

 

「私達は便利屋じゃないんだから、それくらい当然よ。こっちもクルーを預かる立場なんだし、無償で海賊から人を取り戻すなんてやってられないわ」

 

「ですよね。霊夢さんならそう言うだろうなって思ってました」

 

 労働には対価が私の信条だからね。タダでこき使われてやるつもりなんて無いわ。

 

「それよりあんた、メイリンさんの話につられて笑ってたわね?」

 

「え?ああ、霊夢さんが可愛いってとこですか?本当のことじゃないですか」

 

「・・・あーもう、そういうのは気恥ずかしいのよ。こっちは舐められないように頑張ってるのに―――」

 

「ふふっ、でも霊夢さんが可愛いのは事実ですよ?」

 

 早苗はそんなことを口走ると、無邪気に微笑んで私の顔を覗き込んだ。だから、そういうのが気恥ずかしいって言ってるのに・・・

 

「―――この件はこれでお仕舞い!さあ、艦橋に戻るわよ!」

 

「はいっ、了解です、私の可愛い艦長さん♪」

 

「だから、そういうのが恥ずかしいって言ってるのよ!」

 

 ひょっとして、からかってるのかしら。だったら後で仕返ししてやるんだから、覚えてなさいよ早苗・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム・博麗神社~

 

 

 メイリンさんとの会談を終えた後も、艦橋に戻って被害状況の把握と修理の監督に務めていたのだが、やはり修理作業にはかなり時間を要するみたいだ。メイリンさんの艦から応援が駆け付けてくれたから〈開陽〉の修理ペースは幾分か早まったのだが、他艦の被害状況を考えると結局焼け石に水だった。

 〈開陽〉の修理に使う資源の見積もりができたので他艦の修理も本格的に始まったが、にとりの話では艦隊を動かせるようになるまでは丸一日掛かるらしい。さらに全艦の復旧はやはり無理そうなので、第三分艦隊の駆逐艦は〈ムスペルヘイム〉のドックに収容して運ぶことにした。〈ナッシュビル〉は通常航行なら何とかできそうなのでそのままだが、〈ユイリン〉とドックに入りきらなかった駆逐艦〈ヴェールヌイ〉は他の工作艦に曳航させることにしよう。

 

「はぁ・・・ほんと大変だわ。結局赤字だし、資源は凄まじいペースで減っていくし・・・ここは報酬に期待するしかないか」

 

 艦長業務を終えた私は神社に戻って休んでいるところだけど、艦隊の状況が頭から離れない。やることがない分、余計それを考えてしまう。

 ただ、今回の件で機関班と整備班はだいぶ疲れてるだろう。復旧の見通しが立った今では二交替制だけど、当初は総動員だったからね。後で充分休息を取らせておかないと。

 

 今は最低限のエネルギーしか供給されていないので、自然ドームの中は夜のように暗い。いや、星明かりが再現されていないの分夜より暗いだろう。

 

「―――取り敢えず、今は寝よう」

 

 あれこれ考えていたって状況が良くなる訳ではない。機械整備が出来ない自分が考えたって作業ペースが早まる訳ではないんだし、明日に備えて睡眠を取った方が懸命だろう。

 私はそこで考えるのを止めて布団に横になり、意識を落とした

 

 

 .......................

 

 

 ..................

 

 

 ...........

 

 

 .....

 

 

 

「・・・・んっ、ううん・・・」

 

 意識が朦朧としている中、徐々に目が覚めてくる。まだ機関の完全復旧はできていないので外はまだ暗い。枕元にある非常用ランプの明かりだけが神社の寝室を照らしている。

 

 まだ眠たいけど、こんな非常時に艦長業務をさぼる訳にはいかない。

 

 そう思い私は身を起こそうと身体に力を入れたのだが、ふとそこで違和感を感じた。

 

「あ、あれ・・・?」

 

 なんだがお腹の辺りが縛られてるような感触。それに、背中が暖かくて柔らかい感触がする。

 

 不審に思って、身を返して背後を確認してみると・・・

 

 

 

「―――う~んっ・・・・・あ、霊夢さん。おはよーございます」

 

 

 

 何故か早苗が抱きついていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっとあんた、こんなとこで何してるのよ!?」

 

 義体の癖に眠たそうな顔をした早苗は私から離れるとむくっと起き上がる。

 

「ふぇ・・・・?ああ、エンジンが止まったせいで今は自立モードですから、エネルギーを節約しようと睡眠を取っていたところですよー」

 

 早苗は「この義体は開陽から離れても最大1年は行動できるんですよー」なんて続けてるけど、問題はそこじゃないっての!

 

「だから!なんで私の布団に潜り込んでるのよ!」

 

「え・・・、あれ、なんで私ここにいるんですか?」

 

 私がそう聞いても早苗はきょとんとするばかりだ。AIの癖に、やっぱりどこか抜けているわね・・・

 

「あーもう、いいわよもう!兎に角今は仕事の準備よ!」

 

「は、はいっ・・・それと、霊夢さん・・・?」

 

「今度は何よ」

 

 早苗はなんだが言いにくそうな表情をしている。私の顔に何かついてるのかしら。

 

「その・・・・前、はだけてます・・・」

 

 ―――へ?

 

 早苗に言われて自分の身体を見てみると、確かに寝間着の襟が開いてさらしとお腹がそのまま見えて・・・

 

「――――っ!!・・・・・・今から着替えてくるわ」

 

「あ、はい・・・」

 

 ・・・まぁ、早苗なら別にいいか。

 

 さっさと着替えて、早く艦橋に上がりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 私が艦橋に上がった頃には、既にユウバリさんとオペレーター二人は席についていた。私が休んでいる間に指揮を取っていたコーディは眠たそうだ。

 

「お疲れ様、コーディ。交替よ」

 

「了解。それでは自分も休ませて頂きます」

 

 指揮を交代したコーディは普段通りの足取りで艦橋を後にした。顔には眠気が出ていたけど行動には出さないあたり、訓練されているんだなって感じる。

 

「・・・ところで、なんで早苗は私の布団で寝ていたのかしらね」

 

「さぁ―――何故なのでしょう」

 

「あんたはAIなんだから自分で分かる筈でしょ。なんで分からないのよ・・・」

 

 ほんと、この早苗の行動は謎だ。日を追うごとに人間臭くなってる気がするし。

 

「それでユウバリさん、機関の状況はどう?」

 

 機関の状態は端末へのメッセージで逐一更新されていたのだが、大事なことは本人の口からも確認した方がいい。

 

「はい、完全復旧まではあと2時間といった所です。現在はレストアの最終段階ですね。今のところ作業は順調です」

 

「それは何よりね。ご苦労様」

 

 ユウバリさんの話でも機関の復旧作業は順調に進んでいるみたいだ。

 私は他艦の状態も確認するために、艦長席のコンソールを操作して各艦の被害状況を示した図面データを呼び出した。

 昨日呼び出したデータでは、ほとんど全ての艦の機関部が赤くなっていたが、今では何隻かは緑か黄色に戻っている。黄色い状態まで復旧できれば通常航海なら支障はない。

 

「にとりからのメッセージだと、こっちの復旧はあと3時間か。やっと終わりが見えてきたわね」

 

 端末にはにとりからのメッセージが入っていた。それによると、艦隊の復旧ももうしばらくとの事だ。

 

「ああそうだ、ショーフクさんに航路の変更も伝えておかないとね」

 

 この後はメイリンさんの艦と一緒にブラッザムまでとんぼ返りだから、航路変更を彼に伝えておく必要がある。

 本当はもっとこの宙域を見て回りたかった所だけど、こうなってしまったからには仕方がない。

 

 

 ...........................

 

 

 ...................

 

 

 ............

 

 

 ......

 

 

「艦長、他のフネの修理も何とかなったよ。整備班の連中も引き上げた」

 

「分かったわ。お疲れ様、にとり。大仕事の後だから整備班の人達には一度休息を取らせてあげて」

 

「了解。それじゃあ私は戻ってるよ」

 

 機関班と整備班が頑張ってくれたお陰で、ようやく艦隊は復旧できた。これでやっと航海を再開できる。

 

「ノエルさん、〈レーヴァテイン〉に此方の復旧作業が終わったと伝えてくれる?」

 

「了解です」

 

 一緒にブラッザムに向かうメイリンさんの艦にもこちらの復旧を伝えておく。これでブラッザムに向かう準備は整った。

 

「それじゃあユウバリさん、機関始動よ」

 

「了解、機関始動!」

 

 ユウバリさんがインフラトン・インヴァイダーの始動を命じると、聞きなれたエンジンの駆動音が艦内に響き始め、エネルギー節約のために落とされていた電源も復旧していく。

 

「非常モード解除。通常モードに移行します。機関出力、順調に上昇中」

 

「メインノズルに接続。反転180度」

 

「全艦、機関始動。旗艦の行動に追随させます」

 

 続いてショーフクさんがメインノズルに火を入れて、〈開陽〉の動力は完全に復旧した。

 スラスターを噴射して〈開陽〉が向きを代えていくと、復旧した艦隊の他の艦もそれに倣って転進する。メイリンさんの〈レーヴァテイン〉も此方のタイミングに合わせて機関を始動して〈開陽〉の前方についた。

 

「通常航行に移行。進路、惑星ブラッザム」

 

「了解。進路をブラッザムに設定」

 

 今までばらばらだった艦隊は素早く陣形を建て直すと、航路に戻るべく加速を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~大マゼラン、アイルラーゼン本国宙域・惑星レンミッター~

 

 

 

 霊夢達がグアッシュ討伐に向けて動き出した頃、大マゼラン有数の軍事大国であるアイルラーゼン共和国、そこに属するこの惑星レンミッターには、大マゼラン銀河の宙域警備を担当する艦隊の一つであるα象限艦隊司令部が置かれていた。

 その司令部の一室に、アイルラーゼン軍将校の三人の男女が集合していた。一人はアイルラーゼン司令部将校の軍服を纏った強面で初老の男性で、もう一人の男はそれとは対照的な若い整った顔をした男性で、黒と深緑色の宇宙軍艦隊の制服に袖を通している。女の方は若い男と同じような軍服を纏っているが、色は青色で細部の意匠も異なるものだ。女の容姿は美人でも中々の部類に入るもので、透き通ったピンク色の長髪の上には艦長帽を乗せている。

 

「・・・さて、全員集まったな」

 

 初老の男―――α象限艦隊副司令、ルフトヴァイス・ザクスンが発言した。

 

「それで副司令殿、今回はどのようなご用件で?」

 

 それに続いて若い男―――アイルラーゼン近衛艦隊大佐、バーゼル・シュナイツァーが尋ねた。

 

「うむ、貴官にはマゼラニックストリーム宙域で開かれる交易会議への出席が命じられている。それについては既に知っていることだと思うが、この機に試作艦の指揮も任されることになった。君の新たな旗艦はレンミッターの軍港に停泊している」

 

「新鋭艦ですか。それは楽しみですね」

 

 生粋の職業軍人であるバーゼルには、民間企業の要人だらけの交易会議の場などは自分に不釣り合いなのではと感じていたが、新鋭艦の話を聞いて頬を緩めた。宇宙に生きる男である以上、新鋭艦を指揮できるというのは一種の憧れであるのだろう。

 

「それで、私もその会議に出席すればいいのかしら?」

 

 最後に口を開いたのは、ルフトヴァイス直属の部下であるα象限艦隊、第81独立機動部隊司令のユリシア・フォン・ヴェルナー中佐だ。

 

「いや、貴官には途中まではバーゼル大佐に同行してもらうが、任務事態は別だ」

 

「へぇ~、それで、どんな任務なのかしら?」

 

 ユリシアは扇子で口元を隠しながら、ルフトヴァイスに尋ねる。

 彼女の口調は穏やかだが、その雰囲気は胡散臭さが全開だ。バーゼルはそんな彼女の態度を見て、少し呆れたような物腰で彼女を眺めた。

 

 二人の反応を機に介さずにルフトヴァイスは宙域図を呼び出すと、ある宙域を拡大した。

 

「ここは・・・小マゼラン?」

 

 拡大された宙域の位置に疑問を持ったバーゼルが声を出したが、ルフトヴァイスはそれに応えずに話を始めた。

 

「この宙域・・・ヴィダクチオ星系と呼ばれる宙域一帯にはある自治領が存在するのだが、軍の情報部はある情報を入手したらしい」

 

 ルフトヴァイスはそこで話を一旦区切ると、ユリシアに一枚のデータプレートを手渡した。ユリシアはそれを起動して記された情報を一瞥すると、無言でそれを閉じ、再び扇子で口元を隠した。

 

「成程ねぇ~、これは面白そうじゃない」

 

「・・・・この情報は恐らくオーダーズにも伝わっている事だろう。今回は直接対立する訳ではないが、もしオーダーズ艦隊を発見した場合はこれの監視も頼みたい。ただ、面倒事は起こすな」

 

「了解。久々に楽しくなりそうだわ~」

 

 データプレートをポケットに入れたユリシアは、心底愉快といった感じでルフトヴァイスの命令を快諾した。

 

「私からの用件は以上だ。それでは諸君、任務の成功を祈っている」

 

 ルフトヴァイスが用件を告げ終えると、彼は二人に敬礼する。バーゼルをユリシアもそれを見て姿勢を正し、ルフトヴァイスに答礼した。

 

「それでは解散だ」

 

 三人は腕を下ろし、部屋から退出した。

 

 

 

 

 




話を追うごとに早苗さんの人間臭さが上昇しています。義体を得る前はAIらしい対応が多かった彼女ですが、義体の彼女は普通の早苗さんです。ちなみに霊夢に対する呼び方ですが、義体のときは「霊夢さん」で、通信を介したり端末から直接呼び掛けるときは「艦長」です。

最後にアイルラーゼン組を少し登場させましたが、ユリシアは私のオリジナルキャラです。容姿と性格は幽々子を参考にしていますが、あまり関係ないので気にしなくて大丈夫です。

今年の東方人気投票も霊夢ちゃんが一位でしたね。私は一押しは彼女に入れました。鈴の凛々しい霊夢も茨の表情豊かな霊夢も可愛いです。
これからもより霊夢を可愛く書けるように精進して参ります。


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第三三話 策動

主はテスト期間です。ですが筆を執るのを止めない。

早くも連載開始から一年が経過しました。気がつけば早いものです。今後も「夢幻航路」を宜しくお願い致します。


 ~〈開陽〉技術研修室~

 

 

「・・・ふむ、では機関の方はこんなもので良いか」

 

「そうですね。現状ではフィルターの強化と警報システムの改良ぐらいしか手の打ちようがありませんし、抜本的な対策となるとそれこそ機関丸ごと大改装なんて羽目になりますからね」

 

 霊夢艦隊旗艦〈開陽〉に設置された技術研修室モジュールは、本来その名の通り機械、科学技術系の学習室として売り出されているものだ。しかし、〈開陽〉の技術研修室はその名前とは裏腹に、艦隊の誇るマッド達の会議、研究スペースとして徹底的に弄られていた。

 そしてこの日も、マッド達による技術会議が開かれていた。今回の会議には、何時ものマッド3人衆に加えて機関長ユウバリの姿も見える。主な会議内容は今回の機関トラブルについてなので、機関の専門家である彼女も同席しているという訳だ。その会議の結果だが、現状の艦隊が有する資源では応急的な対策しか打ちようがないという方向で話は纏まりつつあった。

 

「じゃあ、次の入港の時にでも実行しておこう。ただ、艦長から整備班の連中は休ませておくようにって言われてるから3交代制で作業ペースは落ちるけど」

 

「いや、それで構わん。我々としても艦長の意向はある程度尊重しなければな。それにあれだけ働いた後だ。休息も必要だろう。作業自体もそこまで焦る必要のないものだからな」

 

 機関部の改良方針が纏まったところで整備班長のにとりは次の入港の際にその改良を実行することにした。今回の事故で整備班は働き詰めだったので霊夢からは十分な休息を取らせるように命じられており、大半の班員は上陸休暇でも過ごすことになるので作業自体のペースは遅いと彼女は見積もる。

 ただ、今回遭遇したケイ素生物もありふれた存在ではなくどちらかというと珍しい存在なので、サナダは作業を焦る必要はないと諭す。彼にしてみれば、働きすぎてかえって効率が悪くなる位なら休息も必要だという事だ。

 

「フィルターの改良はお任せしました、にとりさん。では、我々機関班は入港の際に他艦の様子も確認しておこうと思います。今回の事故ではかなりエンジンが痛んでいた艦もあるようなので、一度我々の手で確認しておいた方が良いでしょう。尤も、班員に休息が必要なのはそちらと変わりませんから直ぐにという訳にはいきませんが」

 

「うん、そうだね。こればかりは一度専門家の目に見てもらった方が良いかも。んじゃ、お互い頑張ろっか」

 

 ユウバリの一度機関班の手で全艦のエンジンをチェックするという提案に、にとりやシオンも賛同した。

 

「そうですね、ではそちらは任せます。班員の方々にも無理をせぬよう伝えておいて下さい。」

 

 それにシオンは「倒れたら面倒を見るのは私なんですから」と続ける。彼女は一応本職は医者なので、万が一過労で倒れた者が出ればその面倒を見なければならない。しかし研究者気質の彼女にとってはあまり本業に時間を割きたくはないので、過労者が出ないよう予め釘を刺しておいた形だ。

 

「分かりました。作業ペースは遅くなると思いますが、一応出航までには間に合わせておく予定です。」

 

「そうだな、この件についてはこんな所か。」

 

 今後の方向性が定まったため、サナダは機関の話についてはここで終了とする。

 

「しかし災難だったとは言え、お陰で人型兵器の運用データも取れた。今後の教訓や発展性を考えても、ある程度収穫はあったかな」

 

 会議も本題が終わったため、にとりが本音を溢した。

 今回の事故では整備班が製作した人型機動兵器の試作機である〈RRF-06 ザニー〉も運用データ収集のついでにと修理作業に駆り出されていた。ザニーは元が作業用重機なだけあって修理作業には十分な活躍を示し、にとり率いる開発チームも人型機動兵器の開発に一層自信を深めることになった。

 

「テストパイロットも良いレポートを出してくれるし、お陰で開発ペースは順調さ」

 

「人型機のテストパイロットといったら、確かマリアさんだったか。彼女は真面目だと評判ですし、頭も良いそうなのでテストパイロットには適任でしょう」

 

 シオンはその話を聞いて、件のテストパイロットのことを思い出した。現在ザニーのテストパイロットを務めているマリア・オーエンスはエルメッツァから加わった航空隊員で本業は航宙機の操縦なのだが、人型機の運用にも直ぐに対応して動かしていたためにとりを始め開発チームからの評判は良い。

 

「いや、君のところのテストパイロットは中々良い人材のようだな。是非ともバーガーの奴と交換して貰いたい」

 

「おい、何言ってるんだサナダ。バーガーの奴も優秀なパイロットだろ?それで我慢しなよ」

 

「いや、不真面目という事ではないんだが、どうも彼はテストパイロットの経験が無いようでね。その点タリズマンも同じだな。二人とも努力している事に違いはないだろうが、本質が脳筋の奴にはテストパイロットは向かんらしい。まぁ、霊沙の奴に比べたら大分マトモだがな」

 

 自然と話の流れは試作機のテストパイロットの話へと移っていく。サナダが目下開発中の可変戦闘機はバーガーとタリズマンの古参航空隊員二人が就いているのだが、テストパイロットの経験がない二人は報告書の作成等に苦労していた。開発自体はは順調に進んでいるのでサナダはあまり不満を抱いている訳ではないのだが、できれば優秀なテストパイロットが欲しいと彼は考えていた。

 

「艦長の妹さんは・・・まぁ仕方ない。あの火力馬鹿は二人以上の脳筋だからね」

 

 サナダの話で、にとりは霊沙についての評判も思い出した。

 霊沙は操縦技術こそは飛行時間が少ないにも関わらず中々のものだが、敵の殲滅にしか関心がないのでサナダは機体のことを彼女から聞き出すのに苦労していた。一応本人も気になった点などは伝えてくれるのだが、元々教育を受けてパイロットになった訳でもないのでレポートを提出させるのは不可能に近い。

 

「いっそのこと二人のどちらかにYF-21の2号機を任せてみるべきか・・・いや、やはり止めておくか」

 

 サナダは霊沙から上げられてくる情報が少ないために、まともな働きが出来るバーガーがタリズマンのどちらかに開発中のもう一方の機体も任せてみようかと思案するが、機種転換に要する時間やYF-21の特殊な操縦系統からベテランの2人にその機体を任せるのは戦力ロスだと判断してこれを却下した。

 

 

《本艦は間もなくブラッサム宇宙港に入港します。寄港時間は72時間です。上陸休暇を許可された方は出航4時間前には帰艦するようお願いします》

 

 

「・・・・ふむ、もうブラッサムか。そろそろ解散にも丁度良いな」

 

「では、我々は部署に戻ります」

 

「開発の成功を祈っているよ」

 

 ここで艦内放送が流れ、艦隊がもう少しで惑星ブラッサムの宇宙港に到着することを告げる。サナダは会議を解散させるのには丁度良いと、ここで他のメンバーに会議の終了を告げた。

 ユウバリ、にとり、シオンの3人が技術研修室から退出すると、サナダも研修室を後にして自らの研究室に通じる通路に向かって移動した。

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉技術主任研究室~

 

 技術研修室から通じる通路を行くと、最低限の照明のみが稼働している薄暗い区画に通じている。その一角に、技術主任研究室、即ちサナダの研究室(プライベートルーム)があった。

 サナダは生体認証キーにアクセスすると、ロックが解除される音と共に扉が開いていく。

 彼はそのまま通路を進んで部屋に出ると、椅子を引き出してそこに腰掛けた。

 

「・・・・艦長は依頼を受けたと言っていたから、我々もグアッシュとやり合うことになるだろう。だが、グアッシュはエルメッツァの連中とは違う―――」

 

 サナダは一枚のデータプレートを取り出しながら呟いた。

 

「連中には不自然な点が幾つもある。スカーバレルのように力押しではいかんな」

 

 サナダは霊夢とは別ルートで様々な情報を収集していた。艦のコントロールユニットである早苗を通してでは万が一悪質なウィルスを送り込まれでもしたら艦隊の運航が大変なことになるので、彼は情報収集用に早苗とは独立したスペースネット回線を幾つか用意していたのだ。

 その中で収集した情報には、グアッシュに関して真偽入り交じった噂なども含まれている。霊夢は酒場でグアッシュの戦力が異常に増えているという噂を聞いていたが、サナダはその噂に関してさらに詳細な情報を入手していた。

 

 曰く、海賊団頭領のグアッシュと保安局の一部が通じているというもの。

 

 頭領のグアッシュが逮捕されたのに海賊団の戦力が膨れ上がっているという事は、未だにグアッシュが統率を維持していることを意味する。そしてそれは必然的にグアッシュが収監されている監獄惑星の内部で保安局の誰かがグアッシュ側に内通している可能性を示唆するものだ。ここまでは誰でも予測できるようなものだが、サナダはそれを裏付けるような情報を入手していた。

 

 サナダはそこでデータプレートを起動し、一枚の画像を表示する。

 

 画像の精度は粗く、所々砂嵐状態になっているが、その中には監獄惑星に配備されているダガロイ級と思しき装甲空母とグアッシュ海賊団の赤いバクゥ級らしき巡洋艦が陣形を組んで航行している様子が写し出されていた。

 サナダはさらに画像を拡大し、装甲空母の艦首を注視する。ダガロイ級の艦首後方には通常大型の航法灯が装備されており、それは今表示されている粗い画像でも本来なら分かるほどの大きさなのだが、その航法灯は画像のダガロイ級からは確認できない。この航行灯が無いダガロイは監獄惑星仕様であった筈だと彼は記憶と照合する。

 

「・・・やはり監獄惑星仕様と見て間違いないな。出所が怪しい掲示板だから信憑性は疑問だが、艦長には伝えておいた方が良いだろう」

 

 サナダはデータプレートのスイッチを切ってそれを机の引き出しに仕舞うと、次は別のデータプレートを引き出し、椅子から立ち上がるとそれを起動した。

 起動されたホログラムには、一隻の艦の設計図が表示されている。

 その艦は艦首に長いカタパルトを持ち、艦体中央から張り出したウイング部には上下1基ずつ、計4基の連装主砲塔を装備していた。艦の後方はブロック構造となっており、艦型に対して不釣り合いなほど大型のブリッジは左右のエンジンブロックと前部艦体から延びた支柱によって繋げられ、その下部にはエンジンブロックに挟まれる形で後部艦体が前部艦体に接合されており、艦尾にはエンジンブロックとは別に後部艦体にもエンジンノズルが接続されている。

 全体を見ると、カタパルトと一体の長い飛行甲板と4基の連装砲塔のお陰で戦闘空母然とした印象を与えるが、艦尾から見ると両舷のエンジンブロックと中央のエンジンノズルが面積の大半を占め、高速巡洋艦といった印象を呈していた。

 

「このペースだと重航宙指揮巡洋艦の設計は間に合わん、か・・・」

 

 サナダはその設計図を一瞥すると、ホログラムを終了してそれをポケットに仕舞う。

 

「だが、あれならまだ望みはある」

 

 サナダ今度は壁にある本棚に向かって歩いていき、立ち止まった所でその中の本の一冊を強く押す。すると本棚が稼働し、奥へと続く隠し通路が現れた。

 彼は現れた隠し通路に足を踏み入れ、奥へと進んでいく。

 

 

 サナダが幾分か歩くと、青白い光に照らされた薄暗い隠し部屋に出た。

 部屋の床には無数のケーブル類が敷き詰められ、それは部屋の奥に配置された人一人が入る程度の大きさのカプセルへと通じている。

 

「〈開陽〉のコントロールユニットの義体をベースにした独立戦術指揮ユニット・・・このペースなら間に合わせることができる筈だ。早苗の奴は何故か私からのアクセスを受け付けなくなっているが・・・・人格プログラムと戦術情報の入力は大丈夫だろう。」

 

 現在霊夢艦隊では35隻の艦船が運用されているが、大半は無人艦だ。さらに〈開陽〉のコントロールユニットの性能でも、これ以上の艦を単独で統率することは難しい。各艦のコントロールユニットは〈開陽〉のそれとは異なり簡易版なので、指示がなければ最低限の戦術機動しか出来ない仕様になっていた。サチワヌ級のコントロールユニットは幾らか高性能なものだが、それは有人運用したときの話であり、無人艦の今は他の艦のそれと代わり映えしない。サナダが現在開発しているその独立戦術指揮ユニットは、その統率可能艦船数の限界という問題点を打破し、更なる戦術単位の指揮を可能とするものだった。サナダはそれを、グアッシュとの対決に備えて開発を急ぐことにした。

 

 サナダは壁に据え付けられたディスプレイを眺めながらコンソールを操作し、カプセルのロックを解除する。

 

 その中には、一体の人形がケーブルに繋がれた状態で入れられていた。

 

 その人形――義体は早苗と同じく女性型で、整いすぎている容姿は人形のような作り物めいた美しさを醸し出している。さらに、透き通った真っ直ぐ延びた金髪と白い肌のコントラストがその美しさを一層際立たせていた。

 

「だが・・・コントロールユニットに接続しなくても指揮に十分な能力を発揮出来るかは・・・いや、何とかグアッシュとの決戦までには間に合わせなければ―――」

 

 サナダの独白が部屋に響く。それに答えるものはいない。

 

「しかし、限りなくヒトに近いものの創造とは・・・我ながら恐ろしいな。だが、早苗の義体製作のお陰でコツは掴んだ。完成の暁には、期待しているぞ――――」

 

 サナダは人形に優しく声を掛ける。

 

 人形は、まだ眠ったままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ブラッサム~

 

 

「ブラッサム宇宙港への入港完了。ラッタルを展開します」

 

「ご苦労様。さて、これから保安局とやらに赴かないといけない訳か・・・」

 

 あの小惑星帯でトラブルを起こした後、このブラッサムまで艦隊は蜻蛉返りする羽目になったのだが、幸い有力なグアッシュの艦隊に出くわすことはなかった。

 途中で何度か2~3隻のグアッシュ小艦隊がいたけど、そういう連中は腹いせに沈めてやった。見せしめに一隻沈めて降服勧告でも送ってやれば、やはり命は惜しいのか大抵は素直に降服してきたから数隻の海賊船は鹵獲できた。売っても今回の損害を埋め合わせるほどにはならないけど、無いよりはマシでしょう。

 

 それで今後の予定だが、私はメイリンさんと共に一度宙域保安局に行くことになっている。要人が海賊に浚われたっていうんだから、保安局も援軍ぐらいは出してくれるでしょう。襲われてた時も保安局の護衛艦が付いていたみたいだし。

 

「〈レーヴァテイン〉から連絡はあった?」

 

「はい、たった今入りました。入港後28番ゲートにて待機するとの事です」

 

 

「そう、分かったわ。コーディさん、艦隊の方は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

 私はコーディさんに不在の間、艦隊の監督を任せることにした。

 

「それじゃあ早苗、行くわよ」

 

「はいっ、霊夢さん!」

 

 ミユさんの報告では相手は28番ゲートで待つらしいので、私は早苗を伴って早めに移動を開始する。早苗は相変わらず元気に返事してくれる。

 

 待ち合わせ場所に向かってしばらく艦内通路歩いていると、ふとサナダさんの姿が見えた。

 

「あれ・・・サナダさんじゃないですか?」

 

「そうみたいね。なんか何時もより顔が硬いけど、どうしたのかしら」

 

 サナダさんはいつも仏頂面でいるから感情の変化なんかは分かりにくいんだけど、今日のサナダさんは私でも分かるくらい深刻そうな雰囲気を漂わせている。何かあったのかもしれないので一応声を掛けておこうか。

 

「サナダさん、どうかしたの?」

 

「ん、ああ、艦長か。これは丁度良いところに来たな」

 

 サナダさんの口振りからすると、元々私に何か用事があったみたい。相手も真剣そうな雰囲気だし、研究費の増額以外なら一度話を聞いてみよう。

 

「何か用事かしら」

 

「確か、艦長はこれから宙域保安局に行くんだったな」

 

「そうだけど――それがどうかしたの?」

 

 サナダさんは私の予定を訊いてきたけど、それが用事とどう関係あるのだろうか。

 

「これは私個人の心配なんだが、あまり保安局を信用しすぎない方が良いだろう。特に敵味方が分からない内は気を付けてくれ」

 

「え、ええ―――分かったわ」

 

 サナダさんはそれだけ言い残すと、私達とは反対方向にさっさと歩いて行ってしまった。

 信用しすぎるなって、一体どういうことなのだろうか。

 

「一体何だったんでしょうか、霊夢さん」

 

「さぁ?私にも分からないわ。あんた、サナダさんの部屋も監視とかしてるなら分かるんじゃないの?」

 

「あ―――実はサナダさんの研究室の一部は私のアクセス権限が制限されているみたいで・・・・コントロールユニットの方からアクセスしようとしてもブロックされちゃうんですよ。治外法権って奴です」

 

「何よそれ。なんか怪しいことやってるんじゃないでしょうね」

 

「有害物質等の感知機能は研究室の内部でもちゃんと機能しているみたいですから、少なくとも怪しい薬品を作って事故、なんて事はないと思いますよ」

 

「そう。でもサナダさんの事だから何をやらかすか分かったもんじゃ無いわね・・・・一応今回の忠告めいたものは胸に留めておくけど、研究室周囲の監視はそのまま続けて。勿論他のマッドの研究室もよ」

 

「了解です!(・・・・まぁ、ロマン溢れる新兵器開発は黙認しますけどね)」

 

 なんか早苗の返事がやけに快活だけど気にしないことにしよう。それにサナダさんの忠告じゃないけど、保安局とやらにもあのオムス中佐みたいな人がいたら厄介そうだし、警戒ぐらいはしておいた方が良さそうだ。

 

 サナダさんと遭遇してあれこれ考えているうちに艦を出て28番ゲートの近くまで来た私達は、一度立ち止まって周囲を見渡す。ここが約束の場所だし、〈レーヴァテイン〉も入港しているので相手が来るとしたらそろそろの筈だ。

 

「あっ、メイリンさん、あっちに居ましたよ!」

 

 早苗が指を指した方向を見てみると、人混みの中に緑色の艦長服を纏った赤い長髪の女性が見える。あれはメイリンさんで間違いない。メイリンさんもこっちを見つけたみたいで、顔を会わせると駆け寄ってきた。

 

「すいません、ちょっと遅れてしまったみたいです」

 

「私達も今来たばかりだから別に気にしなくていいわ。地上の宙域保安局本部に行くんでしょ?さっさと降りましょう」

 

「はい・・・いや、霊夢さんには本当に申し訳ありません。SOSに応じて頂いただけでなく護衛対象の救助にまで手を貸して頂けるなんて―――」

 

「・・・私達は打算で行動しているだけだからそんなに畏まらなくてもいいわ。私は別に聖人君子な訳でもないんだし」

 

 メイリンさんが御礼を言う気持ちも分からなくはないけど、こっちにはこっちで思惑があるだけだ。少なくとも私は無償で人助けなんてする質ではないし、あまり礼を言われても困る。まぁ、せいぜい解決した時にはきっちり対価を頂くとしよう。というかそれがこっちの目的な訳だし。

 

 

 

 

 

 ~ブラッサム宙域保安局庁舎~

 

 

 そのあと私達3人は軌道エレベータに乗って地上まで赴いて、件の保安局に向かう。この惑星ブラッサムはカルバライヤ・ジャンクション宙域の中心的な惑星なだけあって、かなり発展しているようだ。所狭しとビルが並んでいたりチューブカーのパイプが通っていたりする。

 宙域保安局の庁舎は、そんな鬱蒼とした超高層建築群が建ち並ぶ区画からは少し外れた、がらんとした広い郊外に建てられていた。周りに大きな建物があまり無いので庁舎がよく目立つ。

 

「どうやらここみたいです」

 

「そうね。じゃあ、さっさと用事を済ませてしまいましょう」

 

「そうですね。善は急げとも言いますし」

 

 門前には厳つい守衛さんが立っていたけど、メイリンさんと一緒に身分証を見せて用件を告げるとすんなりと受付に通してくれた。受付に行ってもメイリンさんが用件を言ったらすぐに施設内の一室に案内されたので、この話はもう保安局の方にも伝わっていたのかもしれない。私は連絡した覚えはないんだけれど、多分メイリンさんが連絡したのだろう。事態があれなだけに、早めに保安局にも知らせる必要があると考えていたのかも。

 

 その部屋で待っていると、数分後に一人の男の人が入室してきた。中年くらいの痩せた男性だ。

 

「失礼、待たせてしまったようだ。私はシーバット・イグ・ノーズ二等宙佐と申します。話は聞いておりましたが、我々保安局が護衛任務を全う出来なかった事については大変申し訳ありません」

 

「スカーレット社警備部門所属のメイリンと申します。貴殿方保安局は大変勇敢に戦って下さりました。結果は残念なことに変わりありませんが、それでも保安局の方々は海賊を相手に一歩も退くことなく任務遂行を全うしようと宇宙に散っていきました。私の方からも、犠牲になった保安局局員の御冥福を御祈り致します・・・」

 

「―――――有難うございます。そう言っていただけると、散っていった局員達も報われることでしょう」

 

 保安局の男の人―――シーバットさんは今回の事態を招いたことに深く頭を下げたが、メイリンさんの追悼の言葉を受けてかその声色は少し感傷めいたものになる。

 

「ところで、そちらのお嬢さん方は話にあった・・・」

 

「はい、此方のSOSに応じて下さった0Gドックの霊夢さんです」

 

「―――初めまして、博麗霊夢です」

 

「早苗と申します」

 

 私達はシーバットさんとは初対面なので、ここで名乗って頭を下げる。

 

「ふむ、君達が・・・まだ若いのに随分とやるみたいだね。今時の航海者は海賊を恐れて真っ向から立ち向かったりなんかはしないから、君達みたいな度胸のある航海者は殆ど居ないんだよ」

 

「そうですか?私はてっきり海賊狩りも0Gの仕事の一つだと思っていたんですけど」

 

「くくっ・・・これはまた、随分と過激だね、お嬢さん方―――むっ、君は先程、博麗と名乗ったかね?」

 

「ええ、そうだけど―――」

 

 唐突にシーバットさんが名前を聞き返してきたと思うと、彼は心底驚いたような表情を浮かべた。

 

「まさか、君があの"海賊狩りの博麗"かね?」

 

「・・・最近そう呼ばれているとは聞いたわ」

 

 隣でメイリンさんはクスッと笑いを溢す。シーバットさんも、噂の海賊狩りがこんな小娘の姿だったことが意外だったらしい。確かにここに来てから若返ったせいでこういう反応は何度かあったけど、ほんと失礼なことだ。

 

「まさか、こんな若いお嬢さんが"海賊狩りの博麗"だとは思わなかった。これは失礼したね。」

 

「いえ、どうぞお構い無く」

 

 まあ気持ちは分からなくは無いが、舐められるのも大概だ。やはり艦長なのだから威厳もあった方が良いのだろうか。

 

 

(・・・今の霊夢さんが威厳を出そうとしても、背伸びしているようで可愛いだけですよ♪)

 

 私が真剣に悩んでいるというのに、何を血迷ったか早苗がそんなことを耳元で囁いてくる。

 

 ―――というかこいつ、何で私の考えてることが分かったのよ。

 

「霊夢さんなら、そんなこと考えてるだろうなって思いまして。これは勝手な意見ですが、そこまで焦らなくてもいいと思いますよ。霊夢さんは霊夢さんですから」

 

 早苗は小声のまま、そんな気恥ずかしいことまで囁いてくる。

 これではいけないと、私は一つ咳払いをしてシーバットさんに向き直った。

 

「ふむ、確かに"海賊狩りの博麗"が噂通りの戦力ならば、或いは―――」

 

 シーバットさんは考え込む仕草をして、なにか思案しているようだ。

 

「それでメイリンさん、救助の方だけど」

 

「・・・そうでしたね。シーバット宙佐、今回の件ですが、どうか保安局の方から援軍を出しては頂けませんか?それが無理なら、本社からの援軍が間に合わない以上我々だけでも護衛対象の救助に向かいます。なので、"くもの巣"までの宙域封鎖を解いて頂きたいのです。海賊に浚われた人々がどうなるかは宙佐も御存じの筈です。ですから一刻も早く救助しなければ―――」

 

 ―――"くもの巣"か。確か、グアッシュの本拠地の名前だったかしら。

 

 くもの巣とは、グアッシュ海賊団が根城にしている小惑星帯の根城だった筈だ。詳細なことは分からないが、スカーバレルにとってのファズ・マティみたいなものだろう。それが航路上にあるお陰で、宙域保安局はその宙域に向けた航路を封鎖しているという話は聞いたことがある。

 

「―――お気持ちは分かりますが、援軍要請と言われましても、突然では海賊退治に動員できる数はとても間に合いません。それと実は今、こちらで大規模作戦の準備を進めているのですが、どうかそれまで待っては頂けないでしょうか?」

 

「・・・その大規模作戦とはいつ頃実行されるのですか」

 

「それは・・・申し訳ありませんが、これ以上は私の口からは―――」

 

 確かにいきなり援軍と言われても、そうホイホイと出せるようなものでは無いだろう。普通こういった軍隊組織の場合は実戦配備や整備といったサイクルのローテーションが決まっているものなので、殊更大規模作戦とやらを控えている以上、そこから引き抜くのは難しい。残念だがこの様子だと、保安局からの援軍は期待しない方が良さそうだ。

 だが、メイリンさんの側にも引くに引けぬ事情があるのも確かだ。彼女は援軍がなくとも、救助の為なら突撃を厭わないだろう。

 

「―――分かりました。後で宙域封鎖艦隊には連絡しておきます。ただ、グアッシュの勢力は年々膨れ上がっています。封鎖宙域の向こう側は大変危険な状況です。どうか命は大切になさって下さい」

 

「―――承知致しました。ご協力に感謝します。それでは」

 

「失礼しました」

 

 話し合いも終わり、私達は席を立つ。今回は用件の性格上殆どメイリンさんが話しているようなものだったが。

 

「・・・武運を御祈りしています」

 

 部屋に残されたシーバットさんは、最後に私達に向けてそう言葉を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出たあと、私達は一度保安局前に来て、作戦について打ち合わせる。こっちとしては相手の戦力も分からないんだし、できれば慎重に動きたいところだ。

 

「メイリンさん、急ぐ理由は分かるけど、グアッシュの戦力によっては―――」

 

「それは分かっています」

 

 私が言いかけると、それをメイリンさんが制した。

 

「―――元より戦力的に劣勢なのは承知の上です。しかし救助対象は社長のご息女―――私は引くに引けないんです・・・」

 

「・・・あんたも大変ね」

 

 お偉いさんの為に身を粉にするのは勝手だけど、付き合わされる部下は堪ったものでは無いだろう。メイリンさんも大変なようだ。

 

「貴女が何を心配しているかは分かっています。ですが、此方も犬死にするつもりはありません。貴女方の戦力ならばと期待している部分はありますが、万が一グアッシュがそちらでも対処できないような戦力を繰り出してきた時は何なりと申し付け下さい。私も無関係の人間を死なせる訳にはいきませんから。最悪、威力偵察程度で済ませることも考えています」

 

 どうやら、メイリンさんも状況は分かっているようだ。そこは少し安心した。

 

「そうね、焦る理由も分かるけど、時には退くことも必要、か。分かってるじゃない」

 

「ええ、伊達に戦艦を任されている訳ではありませんよ。それに保安局の方でもなにやらでかい花火を打ち上げるみたいですし、上手くいかなかったらそっちに乗り換えます。今回の進攻が威力偵察に終わっても、その情報で保安局への作戦に協力することは出来るでしょう」

 

 メイリンさんの言う通り、やばくなったら逃げることにしよう。こっちは軍隊でも鉄砲玉でもないんだし、クルーの命は無下に出来ないからね。

 

 今のところグアッシュの連中が使ってるのは小マゼランの艦船だし、あとの問題は数だ。正面から撃ち破れる程度ならいいんだけど、雲霞の如く沸いてこられたら流石に退散せざるを得ない。そのときは、メイリンさんが言った通り保安局に協力すれば良い。

 

 ―――気がかりなのは、サナダさんの忠告ね・・・

 

 ただ、サナダさんの忠告もあるし、保安局を信用しすぎるのも避けた方が良いだろう。少なくともシーバットさんは悪い人には見えなかったけど、それ以外でグアッシュへの内通者がいるのかもしれない。シーバットさんが作戦のことで口を濁したのも、恐らく情報漏洩を警戒してのことだ。

 

「了解。せいぜい死なない程度に立ち回らせて貰うわ」

 

「ふふっ、私達の艦隊の性能はピカ一ですから、期待して下さいね」

 

「――期待してるわ」

 

 ―――まぁ、行ってみないことには分からないか。

 

 ここであれこれ考えても結果が良くなるとは限りない。ここは一度グアッシュの戦力を確認するつもりでメイリンさんと行動を共にしよう。そのまま押しきれば依頼達成万々歳、撤退しても威力偵察で情報収集ぐらいにはなる。

 

 後は、結果がどう転ぶかだけだ。

 

 

 

 




ここのサナダさんは人体錬成に片足突っ込んでいるような状態ですwww
以前から霊夢艦隊に二人目のメンタルモデル(一人目は早苗さん)を実装することは考えていたのですが、誰を出すかは未定な状態でした。今回でそれも決めたので二人目も近いうちに登場する予定です。勘のいい人なら、多分誰が登場するのか分かるかもしれませんね。

くもの巣に突っ込む役回りは原作ではユーリが選択肢次第で向かうことになりますが、ここでは霊夢の役にしています。多分ユーリ君達はドゥボルクの酒場辺りで乱闘騒ぎを起こしてバリオさんに補導されている頃でしょう。

次回予告:朗報、グアッシュ超強化のお知らせ。


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第三四話 小惑星帯の激戦

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ガゼオン軌道~

 

 

「艦長、間もなくガゼオン軌道を越えます」

 

「了解。件の封鎖宙域はこの先ね」

 

 私達は今、この先にあるくもの巣とかいうグアッシュ海賊団の拠点に向けて航行している。今回の目標は依頼内容の達成、つまり要人の救助だ。それが駄目でも出来るだけグアッシュの戦力を把握しておきたい。今回退くことになったとしても、敵情を把握していれば作戦を練りやすくなる。

 

 惑星ガゼオンの上空を通過した私達の艦隊は、その先にある保安局の封鎖宙域に向かう。この先は海賊が跳梁跋扈しているお陰で保安局ですら容易に足を踏み入れられないという危険宙域らしい。一度ここで気を引き締め直した方がいいだろう。連中の艦との性能差を考えれば簡単に負けることはないだろうが、この先は海賊の庭を言っても過言ない宙域だ。警戒はするだけしておくに越したことはない。

 

 しばらく航行を続けていると、前方に複数のインフラトン反応が感知される。件の封鎖艦隊だろう。

 

「前方に複数の艦船を確認。識別信号、カルバライヤ宙域保安局です」

 

「ノエルさん、一応こちらの所属と用件を通信で告げておいてちょうだい。シーバットさんが連絡してくれている筈だから、それで封鎖は解除されると思うわ」

 

「了解です。通信回線開きます」

 

 ノエルさんが通信で所属と用件を告げると、縦に複横陣を組んでいた保安局艦隊は上下に移動して此方に道を譲ってくれた。

 

「保安局艦隊より返信"ドウゾ通ラレタシ。貴艦隊ノ無事ヲ祈ル"です」

 

「機関減速。衝突を警戒しつつ、このまま封鎖艦隊の間を抜けます」

 

 保安局艦隊の間を、まず先頭の第一、第二分艦隊が通過する。それに続いて第三分艦隊とメイリンさんの〈レーヴァテイン〉を含めた本隊、特務艦隊の順に通過した。保安局艦隊の間は大きく開いている訳ではないので衝突を避けるためにある程度減速していたお陰で、全艦通過するのに少し時間がかかった。

 

「・・・しかし、あれだけの艦を投入しても海賊を封じ込められないなんてな、敵の数は一体どうなっていることか」

 

 砲術席に座るフォックスが愚痴を溢した。

 

 確かに、先程の宙域封鎖艦隊は4~50隻程度の数はいたような気がする。それを航路を塞ぐように展開しても尚海賊被害が絶えないという話だから、連中の戦力は馬鹿にならない数なのかもしれない。

 

「いや、わざわざ保安局とぶつかる真似なんていくら海賊でも御免でしょう。連中だけが知ってる封鎖宙域から此方に繋がる隠し航路でもあるのかもね」

 

 ただ、海賊も馬鹿ではないのだから、いくつかそういった抜け道があるのかもしれない。

 

「成る程な。さて、ここから敵のホームな訳だ。火器管制を立ち上げておくぞ」

 

 フォックスも意識を切り替えて、艦の火器管制を起動させた。

 確かに彼の言うとおりこの先は海賊の庭だ。今のうちに警戒体勢を上げておこう。

 

「こころ、レーダーの感度を上げておいて。特に敵が隠れていそうな小惑星なんかは優先的に監視して頂戴」

 

「――了解しました」

 

 ここで一旦、艦隊の陣形も整えた方が良さそうだ。さっきは封鎖艦隊の間を抜けるのにいくつかの群に分けておいたけど、もう一度警戒のために各分艦隊を広げるべきだろうか。

 

「早苗、艦隊の陣形はどうしたら良いと思う?」

 

 だが、私はまだこの席についてから経験が足りないのは分かっているのだし、他者の意見も聞いておくべきだ。今回は敵情が一切不明、ファズ・マティの時みたいに敵の拠点のことすら何も情報がない訳だから、慎重を期して行動するべきだ。

 

「そうですねぇ―――どうやらこの先は小惑星や赤色矮星が多い宙域みたいですし、惑星ゾロスまで目ぼしい星は無いようなのでグアッシュの艦隊はアステロイド帯に潜んでいるのかもしれないですね―――さっき霊夢さんは隠し航路があるかもと言っていましたけど、もしかしたらそこから奇襲されるという展開も考えられますね・・・」

 

 早苗は宙域図を呼び出して、それを元にグアッシュの行動を予測している。確かにここからくもの巣までは目ぼしい惑星はない。海賊がくもの巣との中継点に補給基地なんかを置いている可能性もあるかもしれない。

 

「・・・駆逐艦を警戒のために分散させると各個撃破される恐れもあるかもしれないですし、ここは艦隊を二つに分けて輪形陣を組ませるのはどうでしょうか。第一、第二分艦隊を合流させて此を警戒部隊にして、第三分艦隊は本隊と特務艦隊の護衛に回してみては?」

 

 成程、敵の襲撃を察知するために艦隊を分散させるとかえって危険か・・・早苗の言うことも一理あるわね。

 

「―――分かったわ、それで行きましょう。第一第二分艦隊は合流して先行、本隊と特務艦隊の大型艦は陣形中央に置いて、周りを巡洋艦と駆逐艦で固めさせて。あと無人機隊を航路上に飛ばして警戒態勢を固めておくわよ」

 

「了解です。陣形変更を指示しておきますね。艦載機隊も発進を指示しておきます」

 

 早苗がコントロールユニットを介して陣形変更を命じると、各艦はその通りの位置に移動を始める。

 

「霊夢、今回ばかりは敵に遭遇したら問答無用で叩き潰しておいた方が良い。いつもは鹵獲のために手加減しているが、今回は戦いが長引いて増援でも呼ばれたら厄介だ。できれば敵が通信する暇も与えない方が望ましい」

 

「了解、意見ありがとコーディ。早苗、他艦の戦闘モードの切り替えもよろしく」

 

「はい、モード切換了解です!」

 

 コーディの言う通り地の利は向こう側にあるのだから、グアッシュが大艦隊を差し向けてくる前に各個撃破する形の方が望ましい。そのためには遭遇した敵艦隊は迅速に叩き潰すべきだろう。

 

「全艦警戒態勢を維持、巡航速度を保て」

 

「了解」

 

 改めて警戒を厳にすることを指示して、私は敵地へと艦隊を進めた。

 

 

 

 

 .....................

 

 ...............

 

 ..........

 

 .....

 

 

 

「艦長、間もなくルザ星系に到達します」

 

 オペレーターのミユさんが報告する。

 封鎖宙域に入ってからしばらく経ったけど、まだ海賊の襲撃はない。このルザ星系は複数の褐色矮星と小惑星からなる閑散とした宙域で特に価値はない場所だ。この星系を越えた先にグアッシュの拠点、くもの巣が存在する。

 

「了解。警戒を続けて」

 

 ―――相変わらず、凪いだ海ね・・・

 

 私は警戒を続けるよう指示しつつ、この宙域にそんな感想を抱いた。

 

 封鎖宙域より向こう側はてっきり海賊共が跳梁跋扈する魔窟だと思っていたものだから、これには肩透かしを食らった気分だ。

 ただ単にここには獲物がいないから、海賊達は休息を取る以外には帰ってこないという線も考えられる。それならこっちにとっては好都合なのだが、もしこれが逃げられないよう自陣に追い込む罠だとしたら背筋が凍る思いだ。

 

 今はこの静寂がただ不気味だ。

 

「ほんと、静かな航海だ。欠伸が出そうだよ」

 

「・・・・あんた、いつから居たのよ」

 

「ん?さっきからだけど」

 

 隣で声がしたと思ったら、いつの間にか霊沙の奴が艦橋に上がり込んでいた。一応こいつは航空隊にぶち込んでいるから本来なら待機を命じておいた筈なんだけど、何で艦橋に上がっているのかしら。

 

「はぁ―――航空隊は敵襲に備えてハンガーで待機しろって言わなかったっけ?」

 

「聞いてないぜー。暇だからこっちに来ちまった」

 

「ああもう、好きにしなさい・・・」

 

 もうこいつに何を言っても無駄だと分かっているので、今は気にしないことにしよう。せいぜい暇をもて余していろ。

 

 

「あ、艦長・・・・」

 

「どうしたの?」

 

 すると、ミユさんの呟きが耳に入った。

 

「・・・・どうやら救助信号のようです。如何されますか?」

 

 救助信号?こんな封鎖宙域のど真ん中でそんなものが出ているとは、明らかに怪しい。

 

「―――早苗、偵察機を向かわせられる?」

 

「方角さえ分かれば何とかなりますが・・・」

 

 罠だとしても、封鎖のお陰で民間船がほとんど立ち入らないこの宙域で救助信号を発するのは不自然だ。それに本当にSOSだとしても、わざわざこんな宙域に立ち入る理由が分からない。ここは慎重を期して救助信号の発信源を調べてみるべきだろう。

 

「救助信号は褐色矮星γの方角にある小惑星帯の辺りから出ているようです」

 

「分かったわ。じゃあ早苗、この方角に偵察機を飛ばして頂戴」

 

 私は宙域図を呼び出して、ミユさんの報告を元に信号の発信源を探し、おおよその方角を掴んだところで早苗に指示した。

 

「了解です」

 

 早苗が指示を承諾すると、前衛の改ゼラーナ級駆逐艦〈ソヴレメンヌイ〉から2機のアーウィン偵察機が飛び立つ。偵察機隊は小惑星を避けつつ、目的の宙域に向けて飛行を開始した。

 

「フォックス、敵の罠の可能性もあるわ。直ぐにぶっ放せるように準備しておきなさい」

 

「アイアイサー。戦闘準備了解だ」

 

 

 一応念のため、フォックスには戦闘準備を命じておく。

 さて、何が出るか・・・

 

 

 

 

 

「艦長、偵察機からの映像データを受信しました。パネルに表示します」

 

 しばらく経つと、救助信号が発信されている方角に飛ばした偵察機から報告が届いたようだ。偵察機隊から受信した映像データがメインパネルに転送され、画像が表示される。

 

「これは―――客船だな。既に荒らされた後だろうが」

 

 その映像にあったのは、装甲か剥がされ煙を吐いているフネの姿だ。辛うじて原型は留めているが、あそこまで行けば廃艦レベルだろう。周りには護衛艦らしき艦の残骸も見られ、うち一つは辛うじてオル・ドーネ級巡洋艦と判別できるが艦体がいくつかに千切れているし、生存者は居ないだろう。

 

「艦種特定完了。どうやらカルバライヤのククル級装甲客船のようです」

 

 私がその映像を眺めている間に、ノエルさんは艦種の特定作業を終えて報告した。ククル級はカルバライヤが開発した貨客船の一種で、外見は丸いスプーン型の船首を持った箱形の船体に、船の両舷中央から下方に向けて大型の翼状のスタビライザーが伸びているのが特徴的だ。装甲が厚く耐久性に優れているタイプだ。そのため海賊に襲われてもある程度は持ちこたえられるのでカルバライヤに限らず広く使われているフネらしい。

 

「ブービートラップの類いは見当たらない?」

 

「はい。報告によれば、スキャンの結果艦内に火薬の類いは確認されていません。インフラトン・インヴァイダーはまだ生きているようですが、状態から考えてオーバーロードの可能性は低いかと思われます」

 

 こころのスキャン報告によれば、トラップが仕掛けられた兆候は見当たらないらしい。なら、救助信号が出ていることだし、一応生存者の探索も行っておこう。あの様子だとそれがいるかは怪しいけど。

 だが万が一のことも考えて、艦は客船から離れた位置に停泊させる。一応警戒のために駆逐艦1隻を客船の近くに向かわせたけど、何も起こらなかった。これで他のフネのインフラトン反応を感知して起爆する機雷という線は消えた。

 

「ああ、丁度良かったわ。霊沙、あんた暇なら船外活動にでも行ってきなさい。コーディ、こいつ引っ張ってあの客船を見てきてくれないかしら?機動歩兵は何体でも連れていって良いわよ」

 

「はぁ、何で私がそんなこと「了解した、霊夢。さてお嬢さん、そういう訳だからさっさと行くぞ!」

 

「あ、おいっ、引っ張るな!服が延びる!」

 

「はーい、行ってらっしゃーい」

 

 私がそう指示するとコーディは霊沙を掴んで小型艇の格納庫まで引っ張っていく。そんな様子を、私はやる気のない声で見送った。

 

「しかし、あんな船でここまで来たなんて大概ですねぇ・・・」

 

 二人が居なくなったところで、早苗が呟いた。

 確かに早苗の言う通りあんな客船1隻でこの宙域に突っ込んでくるなんて大した度胸だ。まぁそのお陰であの客船の連中はこんな羽目に逢っている訳なんだけど。

 

「ほんとね・・・・何か事情があるのか、或いは唯のバカだったか―――まぁ、事情なんてはっきり言ってどうでも良いわ」

 

「うわ、淡白ですねー霊夢さんは」

 

「五月蝿い、元からよ」

 

 私は基本他人の事情とかには無関心だし、そう言われても仕方ないんだけど、早苗に言われるとなんだか煽られているみたいで調子が狂うわね・・・

 

 そうしているうちに霊沙とコーディを乗せた小型艇は大破した客船に取りついたみたいで、作業開始のメッセージが届いていた。

 

 しばらくすると探索を終えたのか、小型艇はククル級の残骸から離れて戻ってくる。

 

「どうやら終わったみたいですね」

 

「そのようね。トラップの類じゃないみたいで良かったわ」

 

 少なくとも小型艇が無事に戻ってくるという事は、あのフネに足を踏み入れたらインフラトン・インヴァイダーがオーバーロードして爆発四散、即お陀仏なんて悪質なトラップが仕掛けられていないのは確かだ。

 

「だとすると、やっぱりここまで自力で来たのでしょうか?」

 

「さぁ?バカが突っ込んだのかもしれないけど、漂流しているうちにここまで来たのかもしれないわね」

 

 あの客船はブービートラップではなかったみたいだし、可能性としてはそのどちらかだろう。

 

 後はコーディの結果報告を待つだけね。

 

 

 

 

「戻ったぞ、霊夢」

 

「お疲れ様。それで、どうだった?」

 

 帰艦した小型艇を収容してしばらくすると、コーディと霊沙の二人が艦橋に戻ってきた。

 

「艦内は予想以上にボロボロだったな。殆どエアも抜けていたし、生存者がいたのは奇跡だ。ただ生存者が居た部屋の空気もだいぶ汚れていたし、それに衰弱も酷い。助かるかどうかは治療次第だな」

 

「ああ、一応医療ポッドに入れてあの女医マッドに引き渡したから、なるようにはなるだろ」

 

「そう。運の良い生存者ね」

 

 あの客船が漂流していたのはこんな宙域だし、私達が通り掛からなかったら救助信号には気付かれなかったかもしれない。そうなれば件の生存者は後はエア切れか宇宙線被曝かスペースデブリでお陀仏になるだけだ。何れにせよ、その生存者はかなり運が良い。どんな奴なのか、少し気になる。

 

「それでだな、その生存者、死体かと思って近付いたら急に動き出したもんだからこのお嬢さガッ!・・・」

 

 コーディが何か話そうとすると、突如霊沙の拳が彼の脇腹に炸裂した。

 

「う、五月蝿い!ったく、わざわざからかうようなこともないだろ・・・」

 

「ははっ、元気なこった」

 

 霊沙は顔を真っ赤にしてコーディに抗議するが、何があったのだろうか。

 

 ―――ははぁ~ん、これは少し弄り甲斐がありそうね。

 

「ああ、霊夢さんが悪い顔をしています・・・」

 

 早苗が何か言っているけど、気にする必要はないだろう。

 

「へぇ・・・で、見つけた時に悲鳴を上げたってとこかしら。あんたにしては柄になく珍しふごっ!!―――」

 

 訂正、どうやらおふざけが過ぎたらしい。霊沙のストレートパンチが私のお腹に思いっきり炸裂する事態になった。

 

 ―――殴るにしても、もっと力加減考えなさいよ・・・

 

 それは予想以上に強烈で、思わず膝をついてしまった。

 

「・・・へっ、思い知ったか、この鬼巫女。じゃあな、私はそろそろおいとまするぜ」

 

 倒れて悶絶する私とコーディを尻目に、霊沙はしてやったりとした表情を浮かべながら艦橋から退出した。

 

 ―――ほんと腹立つわね・・・・次は覚えておきなさいよ・・・!

 

 痛みにのたうち回る私は、密かにあいつに復讐してやろうと決意を新たにしたのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、"くもの巣"周辺宙域~

 

 

 

 あれから暫く航海を続けているが、未だにグアッシュの気配はない。それこそこのまま"くもの巣"に乗り込めるのではないかと思えるくらいに。

 グアッシュ海賊団の拠点"くもの巣"は、小惑星をくり抜いた基地同士をケーブルで繋ぎ合わせて、複数のそういった基地から作られた拠点だ。その姿が蜘蛛の巣に見えることが名前の由来らしい。

 

「・・・・〈レーヴァテイン〉より通信です。"貴艦隊ノ働キニ期待スル"と・・・」

 

「言わせておきなさい。さて、もうすぐくもの巣な訳ね。総員戦闘配備よ。保安隊は敵拠点の強襲揚陸に備えて強襲艇の発着デッキで待機。艦載機隊は直ちに発進準備よ」

 

 ミユさんからの通信報告は適当に受け流して、私は戦闘配備を下命する。ここまでは幸運にも海賊の襲撃はなかった訳だが、これから海賊の拠点に乗り込んで救助対象の身柄を確保する以上、戦闘は避けられまい。

 

「了解です。総員、戦闘配備につけ!保安隊は強襲艇発着デッキに集合せよ。艦載機隊は直ちに発進準備!」

 

 命令を受けたミユさんはてきぱきと各部署に指示を飛ばし、艦内は戦闘配備のため慌ただしさに包まれた。

 

 

 

 

【イメージBGM:東方紅魔郷より「月時計 ~ルナ・ダイアル」】

 

 

 

「早苗、艦隊の陣形を変えるわよ。前衛の艦隊は分艦隊ごとに楔型陣形を取って上下に展開。本隊の駆逐艦は左右に展開させて」

 

「了解。指示伝達します」

 

 私が陣形変更を命じると、前衛の第一、第二分艦隊は楔型陣先頭に巡洋戦艦を置く形で上下に別れて展開し、本隊を護衛している駆逐艦群も輪形陣を解いて左右に別れて展開する。

 各艦が姿勢制御ノズルを駆使して素早く巧みに指定された位置に移動していく様はいつ見ても惚れ惚れするほどだ。無人なのにあれだけ有機的な陣形変更が可能なのも、単に早苗の本体たるコントロールユニットの性能が規格外なためだ。こればかりはサナダさんも良い仕事をしたと思う。

 

「!、来ました艦長、グアッシュ海賊団です!」

 

「前方より敵艦隊接近中!数11。バクゥ級4、タタワ級7!」

 

「敵は3つの小隊形に分かれつつ此方に接近中。左の小隊形から順にグアッシュ小隊α、β、γと呼称します」

 

 遂にグアッシュの艦隊が現れ、ミユさんとノエルさんがそれを報告する。その報告で、艦橋内は緊張に包まれた。

 

《此方は〈レーヴァテイン〉です。霊夢さん、聞こえますか?》

 

 そこで〈レーヴァテイン〉のメイリンさんから通信が入った。ここで一体何の用だろうか。

 

《右側の3隻は本艦が相手をします。霊夢さんは他の敵を!》

 

「分かったわ。健闘を祈る」

 

 メイリンさんは右側のバクゥ級1隻とタタワ級2隻の相手をすると言い残して、〈レーヴァテイン〉を加速させた。これで此方が処理すべき敵はバクゥ級3隻とタタワ級5隻に減った。

 

「敵艦隊のより詳細な情報判明。敵バクゥ級は全てBクラス!Aクラスを含まず」

 

「敵艦隊との距離、22000です」

 

「フォックス、最大射程に入り次第叩きなさい!早苗、前衛艦隊を敵小隊形αとβに差し向けて!」

 

「イエッサー!」

 

「了解です!」

 

 ノエルさんとこころから詳細なデータがもたらされる。私はそれに基づいて、敵への対処法を考える。

 

 敵の小隊形αとβに差し向けた前衛艦隊は、巡洋戦艦〈オリオン〉と〈レナウン〉が距離16000で砲撃を始める。それと同時にグアッシュ艦隊も前衛艦隊に向けて砲撃を開始した。

 

「敵艦隊、最大射程に捉えた。砲撃を開始する!」

 

 同じくして最大射程に達した〈開陽〉の160㎝3連装砲も火を吹く。敵と〈開陽〉の間には前衛艦隊が展開しているので命中率は悪いが、敵巡洋艦のうち一隻に直撃弾を与えた。

 

「駆逐艦〈ソヴレメンヌイ〉、〈タシュケント〉被弾。シールド出力5%低下します」

 

 グアッシュの砲撃はかなり大雑把だが、数撃ちゃ当たるとでも思っているのか、ひっきりなしに砲撃を繰り出す。それに対して回避機動を実行しながら応戦していた前衛艦隊だが、駆逐艦に被弾が発生してしまう。だが戦闘継続には問題ないばかりか、前衛艦隊は突出したグアッシュに照準を合わせて一隻ずつ敵の数を減らしていく。

 

「敵4、5番艦のインフラトン反応拡散、撃沈です!」

 

「手を緩めるな、撃ち続けなさい!」

 

 既に敵はバクゥ2隻とタタワ4隻を撃沈され、残るは2隻となった。だが攻撃の手を緩めることはせず、敵の殲滅を命じる。

 

「〈レーヴァテイン〉より高エネルギー反応か。何か仕掛けるようだな」

 

 コーディの一言につられて右舷側で戦う〈レーヴァテイン〉に目を移してみると、艦底部の長砲身レーザーを発射してグアッシュ艦レーザーで串刺しにして撃沈していく様子が見えた。これは此方も負けてはいられない。

 

「駆逐艦〈ズールー〉被雷!レーダー機能低下」

 

 前衛艦隊は殆どの敵を掃討したが、敵が最後に放った魚雷が〈ズールー〉に被弾して彼女のセンサー類を吹き飛ばした。こうして地味に被害が出ていくところは少し痛い。

 

「新たな敵影を確認!今度は2時の方角からバクゥ級2、タタワ級2隻が急速接近中!バクゥ級にはAクラスを含む!」

 

「前方からも新たな敵艦隊が接近中。駆逐艦5隻の高速打撃部隊です」

 

 敵を掃討したと思ったらこの様だ。ミユさんとこころから新たな敵接近の報を受けるとすかさず対処を命じる。

 

「前方の高速打撃部隊は前衛艦隊が対処せよ。〈ケーニヒスベルク〉と〈ピッツバーグ〉は〈レーヴァテイン〉の援護に回れ!」

 

「了解です。各艦に指示を伝達します」

 

 まったく、これじゃあ幾ら倒してもきりが無いわ。一体どれだけの戦力抱えてるのよ・・・・依頼の性質上ハイストリームブラスターは"くもの巣"に当たると不味いし、少し困ったわね―――

 

 

 

 ~〈レーヴァテイン〉艦橋~

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 時は少し遡り、グアッシュ襲来の報せを受けた〈レーヴァテイン〉は右側のグアッシュ小隊形を殲滅すべく敵艦隊に接近を続けた。

 

「艦長、間もなく距離20000です。そろそろ射程に入りますが」

 

「まだ撃つな。必中距離で放て」

 

 艦橋では砲術士が攻撃を進言するが、艦長のメイリンはそれを拒否する。敵との連戦が予想される以上、エネルギーはできるだけ節約したいというのがメイリンの考えだ。

 

 ―――お嬢様、妹様、サクヤ・・・今私が参ります!

 

 メイリンは内心で海賊に捕らわれた自社の社長の息女二人と友人の救出を固く誓い、決意を新にして艦の指揮に臨んだ。

 

 

「"海賊狩り"のお嬢さんはもうおっ始めたみたいだな。早いことだ」

 

 戦況を監視していたオペレーターの一人が呟く。

 霊夢の前衛艦隊は一気に加速して敵を射程に捉えると、楔型に展開した陣形から幾つもの青白い火線が放たれる。そのいくつかはグアッシュの艦に着弾し、その船脚を鈍らせた。

 

 よく見ると砲撃しているのは前衛艦隊だけでなく、その後方に位置する大型戦艦――霊夢の旗艦からも砲撃が放たれているのが分かる。

 普通は陣形後方に位置する艦は対艦補正が高い戦艦であっても敵に命中弾を与えるのは至難の技なのだが、霊夢の旗艦は初撃からそれを成してる以上、かなり練度は高いとメイリンは感心していた。

 

「距離18000に到達。有効射程です」

 

「予測計算終了、初弾命中間違いなしですよ!」

 

「よし、砲撃用意だ!〈スターボウブレイク〉にエネルギーを回せ!」

 

 部下から矢継ぎ早に報告を受けたメイリンは、確実に敵を葬れる距離に達したと確信し砲撃を命じる。

 その命令と同時にインフラトン・インヴァイダーからのエネルギーが〈レーヴァテイン〉の艦底部に装備された長距離砲に回され、砲身が発熱する。

 

「エネルギー注入率100%、いつでもいけます!」

 

「よしっ、〈スターボウブレイク〉、発射!!」

 

 メイリンが号令を下し、トリガーが引かれる。

 〈レーヴァテイン〉の艦底部に装備された330cm長距離連装対艦レーザー砲「スターボウブレイク Mk.8mod2」は注入されたエネルギーを一気に放出し、巨大なレーザーとなってグアッシュの小隊に襲い掛かる。

 スターボウブレイクの火線は回避を試みたタタワ級に大穴を開けてこれを貫き、その後方に位置していたバクゥ級にまで損害を負わせた。

 

 〈レーヴァテイン〉の元となったドーゴ級戦艦には艦首に超遠距離射撃砲が装備されているのだが、カスタム艦である〈レーヴァテイン〉はそれを取り外し、スカーレット社が開発した長距離対艦レーザーであるこの「スターボウブレイク Mk.8 mod2」を装備していた。この砲は威力こそ超遠距離射撃砲に劣るが、エネルギー消費が小さいので超遠距離射撃のように砲撃後一時的にエネルギーが枯渇するという事態に陥ることはなく、敵に隙を与える間が短いという利点があった。

 

「うしっ、命中!敵駆逐艦1隻撃沈!」

 

「砲身の冷却急げ!残りの敵駆逐艦に向けて〈イゾルデ〉照準!」

 

「了解っ、イゾルデ照準、目標敵駆逐艦!撃てっ!」

 

 続いて〈レーヴァテイン〉の艦橋両脇に装備された88㎝3連装対艦レーザー砲「イゾルデ Mk.73」が生き残ったグアッシュのタタワ級駆逐艦に指向され、青白いレーザーの火線が放たれる。

 タタワ級駆逐艦は一撃目には何とか耐えたが、シールドが消失した直後に二撃目を受けて爆発四散して果てた。

 

「続いて敵巡洋艦に照準、撃て!」

 

「了解、目標敵巡洋艦!」

 

 それに続けて〈イゾルデ〉は生き残ったバクゥ級巡洋艦に矛先を向け、此を葬り去る青き槍を放つ。スターボウブレイクに被弾して黒煙を吹いていたバクゥ級はこの攻撃に耐えきれず、インフラトンの火球となって消えた。

 

「敵艦隊の沈黙を確認」

 

 戦闘終了を告げるオペレーターの声が響いたが、〈レーヴァテイン〉のクルーは休むことなく次なる戦いを強いられる。

 

「2時の方角より新たな熱源反応!数は巡洋艦、駆逐艦それぞれ2隻ずつと思われます!」

 

「チッ、そう簡単には行かせて貰えませんか・・・・全速回頭!敵に艦首を向けろ!」

 

「アイアイサー、全速回頭了解ぃ!」

 

 〈レーヴァテイン〉は新に現れたグアッシュの小隊に向けて、核パルスモーターを蹴って素早く艦首を向けて戦闘態勢を整える。

 

「スターボウブレイク、第二射発射用意!」

 

「了解、スターボウブレイク、エネルギー注入開始!」

 

 回頭を終えるとメイリンは再び〈スターボウブレイク〉の発射を命じ、艦は発射のために位置を安定させる。

 

「軸線調整完了、射撃位置に着きました」

 

「予測計算完了!射撃緒元入力します」

 

 ブリッジクルー達も発射に向けて着々と準備を整え、砲撃を必ず当てんと作業に集中する。

 

「スターボウブレイク、発射準備完了!」

 

「よし、スターボウブレイク、第二射撃て!!」

 

 射撃準備が整うと、メイリンは発射を命じ、〈レーヴァテイン〉の艦底部から2条の光条がグアッシュの小隊目掛けて飛翔する。

 果たしてレーザー光は戦闘を走るタタワ級を貫き、さらにその奥のバクゥ級の艦尾を破壊してインフラトン・インヴァイダーの暴走を引き起こさせた。この光槍に貫かれた2隻は瞬く間に轟沈し、残存グアッシュ艦隊に動揺を引き起こす。

 

「敵艦隊、回避機動を開始した模様です」

 

「通常砲撃に移行、イゾルデで畳み掛けろ!」

 

 グアッシュ艦隊はスターボウブレイクの砲撃を警戒して回避機動を始めるが、メイリンは手数で勝るイゾルデの砲撃で決着を図る。

 

「艦長っ、3時の方角より新たな敵艦隊の反応!数6!」

 

「クソッ、これではじり貧か・・・」

 

 メイリンが砲撃命令を下そうとしたその時、レーダー管制士が新たな敵艦隊が接近しつつあることを告げた。

 

「先ずは目の前の2隻を沈める。その後は後退しつつスターボウブレイクでアウトレンジ攻撃を仕掛けるぞ!」

 

 数が多い海賊相手に中、近距離で戦うことは敵の手数に押されるだけだと理解しているメイリンは、今しがた仕留めようとしていた海賊艦2隻を撃沈した後は、敵の増援に対してはひたすら射程外から一方的な攻撃を以て対処せんと考えた。

 

 直後、〈レーヴァテイン〉の前方を複数の光芒が駆けていく。

 その先には、先程現れたグアッシュの増援があった。

 

 青白い光芒はグアッシュの隊形を貫き、数隻の艦に深刻な損傷を負わせる。そのうち一隻の駆逐艦は損傷が原因で誘爆を起こし、轟沈した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「"我、博麗艦隊所属〈ケーニヒスベルク〉ナリ、貴艦ニ加勢ス"・・・電文は以上、援軍です!」

 

 通信士が送られてきた電文を読み上げたことで、メイリンは霊夢が援軍を回してきたのだと理解した。

 

「ふふっ、これは借りが一つ増えましたね。本艦の目標は前方の敵艦隊2隻だ、一気に叩くぞ!」

 

「了解っ!」

 

 メイリンは新たな敵艦隊は援軍に現れた霊夢艦隊の重巡〈ケーニヒスベルク〉、〈ピッツバーグ〉の2隻に任せ、撃ち漏らしたグアッシュ小隊残存艦の掃討に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 くもの巣に突入してからかなりの時間が経ったが、敵の勢いは減るどころかますます増している。1隻沈めたら2隻は増援に来るというペースで、沈めても沈めてもきりがない。

 

「これで15隻・・・っと!」

 

 フォックスが撃沈スコアを口に出すが、その顔には疲労が浮かんでいる。

 

 ―――ここが潮時か・・・?だけど、敵の戦力が分からない以上、判断が難しい所ね・・・

 

 このあまりの物量攻撃の前に私は撤退も視野に入れているのだが、まだ戦況は此方に有利だ。今まで艦隊全体で敵艦を少なくとも40隻は落としているのに対して此方は中破している艦こそあるものの、まだ撃沈された艦はない。この状況ではメイリンさんが撤退に同意する確率は低いだろう。

 

「はぁっ・・・・中々厳しいですね、霊夢さん」

 

 そこへ早苗がまるで見透かしたように声を掛けてくる。

 彼女が言った意味合いは敵の物量のことだろうが、引き際という面でも厳しいことに変わりはない。

 

「―――ええ。ほんと嫌になる物量ね。海賊の癖に生意気な連中・・・」

 

「本当です。エルメッツァの連中も大概でしたけど、ここの連中も嫌になるぐらいです。海賊なんて滅びてしまえばいいんです」

 

 ・・・早苗も疲れが出ているのか、中々過激なことを口走る。この子、今までそんなこと言ったことあったかしら?

 

 ただ早苗は私とは違って艦載機の操作や僚艦への指示伝達なんかもやっているからその負担は想像を絶するものなのだろう。機械とはいえ、限界まで能力を使えばそれは音を上げても仕方ないのかもしれない。早苗の場合は特に感情が豊富だから、人間みたいに疲れも覚えるのでしょう。

 

 それと艦載機隊だが、今は左舷側から迫ってきたグアッシュの巡洋艦隊を絶賛蹂躙中だ。時々霊沙やバーガーの雄叫びなんかが通信を介して聞こえてくるし、相当暴れているのだろう。

 

《グリフィス1、FOX2!これで頂きだぜ》

 

《ああっ、狡いぞバーガー!それは私の獲物だ!》

 

 ―――ほら、こんな具合に、耳を澄まさなくても聞こえてくる・・・・騒ぐのも大概にして欲しいわ。

 

「んっ―――空間スキャニングに反応、上方の小惑星に何かいる・・・」

 

 そこに、こころの落ち着いた声が耳に入る。しかし、その内容は穏やかではないものだ。

 

 ―――上方の小惑星に反応―――間違いなく、奇襲を狙っている敵だ。

 

 私はその可能性に思い当たると即座に次の命令を下す。

 

「全艦最大戦速、取り舵一杯!!上方の小惑星を警戒せよ!」

 

「了解っ!」

 

 ショーフクさんが舵を切り、〈開陽〉はその巨体をゆっくりと左に傾ける。

 

 私は艦長席に前のめりになって戦況を食い入るように眺める。今の艦隊は前方の敵艦隊の処理に集中しており、上方には対処する暇がない。

 

 ―――してやられたかっ・・・!!

 

 私は心の中でそう呟く。このままでは上の敵は迎撃できない。ならばどう出るか・・・

 

「っ、そうだ!フォックス、艦隊上方の小惑星に向けて〈グラニート〉をぶっ放しなさい!諸元は適当で良いわ!」

 

「了解した。グラニートミサイルVLS開放、発射!」

 

 私の意図を瞬時に理解したのか、フォックスは特に疑問を差し挟まずに命令を実行する。

 〈開陽〉のVLSから飛び出した2発のグラニートミサイルは小惑星に向けて飛翔し、その周囲で爆発する。

 

 その爆炎の中から、見慣れない形の艦が何隻か飛び出してきた。何れも艦体は赤く、IFFもグアッシュ海賊団を示している。

 

 その艦隊には、横に広げた翼のようなものを持った、艦尾が細く、艦首側の艦体が大きな艦と、箱形で両舷にエンジンブロックを持った、重圧なフォルムの三胴艦の二種類があった。大きさは何れも重巡洋艦クラス―――小マゼランでは戦艦に匹敵する大きさだ。

 

「上方に新たな敵影っ!艦種は・・・・不明!?」

 

 交戦データからその敵艦隊の艦種を特定しようとしたノエルさんが驚愕の表情を浮かべる。たかが海賊ごときがあれだけの規模の艦を持って、さらにデータに無いと来たら驚くのは当然だ。だが、私に驚いている暇はない。

 

「〈ラングレー〉の艦載機隊を上方の艦隊に回して!」

 

「了解ですっ――!」

 

 艦隊の上空に待機していた空母〈ラングレー〉艦載機隊の〈スーパーゴースト〉を上方の敵艦隊に差し向けて、奇襲攻撃を妨害させる。

 

 私がその指示を下すと、艦長席のコンソールにある通信機が反応した。

 

《ザーッ・・・か・・・艦長、聞こえるか!?敵艦の解析が終了した。あれは大マゼランの巡洋艦シャンクヤード級とマハムント級だ!何処で手にいれたかは分からんが、今までの連中とは装備も強さも段違いだぞ!気を付けろ!!》

 

 サナダさんの通信の後に、艦長席にその敵艦のデータが送られてくる。すると、ホログラムが起動して2つの艦影が映し出された。横に広い翼状の方がシャンクヤード級で、重圧な箱形艦の方がマハムント級というらしい。

 

《シャンクヤードは大マゼランで広く運用されている高速巡洋艦だ!ただ技術的に特異な点はない。ヤッハバッハのダルダベルと比べればそいつはまだ弱い方だ。落ち着いて対処すれば問題ない。もう片方のマハムントには気を付けろ!そいつの持っているプラズマ砲は此方のシールドや装甲による威力の減衰がない!当たるとかなり痛いぞ!》

 

「オーケーサナダさん。取り敢えず分析ご苦労様」

 

《私にかかればこの程度は造作もない。あと、出来ればマハムントは鹵獲しろ。プラズマ砲を調べたくなった。以上だ》

 

 ガシャリ、とそこで通信が切れる。

 

「鹵獲しろって・・・言ってくれるわね・・・・」

 

 ―――こっちは敵の物量攻撃に対処するので忙しいっていうのに、あの研究馬鹿ときたらっ・・・!

 

「霊夢さん、どうします?」

 

「どうしますって言われてもね・・・」

 

 早苗が方針を訪ねてくる。

 鹵獲するならここは速攻で方をつけて、プラズマを喰らう前にマハムントに取り付いて機動歩兵を吐き出してやるしかない。

 

「――上げ舵90度!主砲、グラニートミサイルはシャンクヤード級を狙え!本艦は敵マハムントに向けて突撃する!」

 

「これはまた無茶な機動ですね・・・了解です、上げ舵90」

 

「グラニートミサイル、敵シャンクヤード級に照準、6番から8番発射!――――なあ艦長、あのマッドの無茶振りだからって、無理に付き合わなくても良いのでは?」

 

「分かってるわよそんなこと。出来れば手っ取り早く破壊したいわよ。でもマッドの事だから、無視したら何されるか分からないし・・・」

 

 もう私の中でマッドに対する評価はそんなとこだ。それに元々サナダさんは研究目的で乗り込んでいるのだし、多少は要請に応えた方が身のためかもしれない。一応艦隊のコントロールユニットはサナダさん謹製な訳だし、要請を無視して反乱なんて笑えないわ。

 

「エコー、聞こえる?保安隊の機動歩兵を総動員して敵艦に送り込むわよ、起動準備お願い!」

 

 私は通信機を手に取って、保安隊のエコーに連絡を取った。

 

《了解した!序でに俺とファイブスも一暴れしてくるから宜しくな》

 

 エコーは勝手に白兵戦への参加を告げると一方的に通信を切った。

 

 ―――引き際は、この辺りかな?

 

 敵に大マゼラン艦なんかまで出てきたし、敵の物量は留まることを知らない。このままでは確実に此方が負ける。ここは連中のマハムントを手土産にして、一旦退くべきだろうか。

 

 〈開陽〉はグラニートミサイル4発を発射すると、艦を垂直に傾けてグアッシュのマハムントに突撃を開始する。

 グラニートミサイルが飛翔を始めると直前まで取り付いていたスーパーゴーストの群は一目散にシャンクヤードから退散し、逆に奇襲されて混乱していたグアッシュのシャンクヤードは下方から迫るグラニートミサイルに対して特に迎撃する素振りを見せぬまま―――いや、形ばかりのECM攻撃は行ったが既に赤外線誘導に切り替わったグラニートミサイルには何も意味を為さず、船底にあのでかいミサイルの直撃を受けて轟沈した。

 

 それを受けて残ったシャンクヤード2隻とマハムントが此方に砲を向けるが、最大戦速で突撃する〈開陽〉には中々当たらない。その一方で、〈開陽〉の砲撃は6割方敵艦を捉えている。ただ流石に大マゼラン製なだけあって、数発の被弾では沈黙してくれない。

 

「クソッ、中々硬いやつだ!いい加減沈め!」

 

 フォックスが何度目かの砲撃を放ち、残りのシャンクヤードに命中する。だがシャンクヤードはまだ中破といった所で、沈む気配はない。

 

「前方のマハムント級よりプラズマ砲が来ます!」

 

「回避っ!」

 

 グアッシュのマハムント級は正面に捉えた〈開陽〉に向けてプラズマの火球を放つ。

 〈開陽〉は姿勢制御スラスターで艦の位置を変えて回避を試みるが、敵弾のうち一発がシールドを掠めていった。

 

「APFシールド、出力15%低下!」

 

 ―――掠っただけでこれか・・・本当に当たるとヤバそうね。

 

 だが、此方もマハムントの懐に飛び込んだ。ここで一気に決める。

 

「エコー、白兵戦用意!盛大に暴れてきなさい!」

 

《イエッサー、よし野郎共、行くぞ!》

 

 そこで機動歩兵隊を乗せた強襲艇6機が発進し、対空砲火を掻い潜ってマハムントに取り付く。後は保安隊と機動歩兵の働き次第だ。

 

「艦長、"くもの巣"方面より大艦隊出撃の反応です。数は20、30・・・・まだ増えます。シャンクヤード級とマハムント級に―――さらに大型の艦も複数確認!」

 

 こころの報告が耳に入る。新たな敵の増援らしい。それが今までのバクゥとタタワなら何とかなるのだが、十数隻の大マゼラン巡洋艦とタイマンなんて今の状況じゃまさに悪夢といった所だ。まともに当たればこっちが持たない。

 

「チッ、こんな時に・・・・これはもう、退くしかないわね。早苗?前衛艦隊を殿にしつつ、保安隊が目標を奪取次第撤退するわ」

 

「そうですね―――戦術的にそれが正解かと。分かりました。やれるだけやっておきます」

 

 あれだけの戦力を繰り出された以上、もう突破は諦めざるを得ない。撤退しか、選択は残されていないだろう。

 早苗は指示を承諾すると、前衛艦隊の態勢を整える指示を出すことに意識を集中させた。

 

「ミユさん、艦載機隊に帰艦命令を出して頂戴」

 

「了解です。〈開陽〉より艦載機隊へ、艦載機隊各機は直ちに帰艦せよ」

 

撤退するとしたら、艦載機隊を置いていく訳にはいかないので、ミユさんに撤退指示を出させておく。彼女は直ぐに命令を実行し、艦載機隊に帰艦を呼び掛けた。

 

「―――ノエルさん、メイリンさんに連絡してくれる?」

 

「はい、了解です」

 

 ノエルさんに頼んで通信回線を繋いでもらうと、メインパネルにメイリンさんの姿が映し出された。あちらも相当消耗しているらしく、メイリンさんも肩で息をしているような状態だ。

 

《霊夢さん・・・・流石にもう、限界ですか・・・?》

 

「そうね。申し訳ないけど、ここが引き際だと思うわ」

 

 私がそう告げると、メイリンさんは一瞬迷いの表情を浮かべたが、自分の艦の艦橋を見渡して、再び口を開いた。

 

《―――そうですね・・・。恥ずかしながら、此方のクルーも限界のようです。悔しいですが、今回はここまでのようですね―――撤退します》

 

「・・・分かったわ。私達が殿になるから、あんたは先に離脱しなさい。敵に大マゼラン艦がうじゃうじゃ出てきた以上、その艦ではこれ以上前線に留まるのは危険だわ」

 

《――――大マゼラン艦ですか・・・それは流石に私達でも敵いませんね――――、了解です。では、霊夢さんも、早めに離脱して下さいね》

 

「ええ。こんなところで死ぬつもりは無いからね」

 

 通信を終えると〈レーヴァテイン〉は転進して、くもの巣から離れる航路を進み始める。

 

《スパルタンリーダーよりHQ、敵艦の機関部の掌握に成功!》

 

《此方クリムゾンリーダー、敵艦の艦橋を制圧した》

 

 それに続いて、ファイブスとエコーから敵艦制圧の報が入る。

 

「そのまま艦の制御系統を奪って下さい。本艦隊は此より撤退戦に移行します。奪取に成功した後は本艦に追随する航路を取ってください」

 

《クリムゾンリーダー了解。1分あれば機動歩兵が艦の中枢に侵入する。それまで持ち堪えてくれ》

 

 どうやらあちらは殆ど仕事は終わったらしい。後はこっちも、あの大マゼラン艦の大艦隊が向かってくる前にトンズラするだけだ。

 

「早苗、前衛艦隊各艦は応戦しつつ反転、撤退するわ!」

 

「了解です。前衛艦隊各艦、反転180度!本隊の各艦も同様に転進、撤退行動に移ります」

 

 早苗の指示を受けた艦隊各艦は回頭を始め、敵に艦尾を晒す。だが無抵抗でひたすら逃げる訳ではなく、前衛艦隊各艦は艦尾方向に指向できる砲全てを敵艦に向けて最後の置き土産とばかりに一斉射を行った。

 

 砲撃で追撃態勢に移っていたグアッシュの巡洋艦と駆逐艦を何隻か撃沈し、追手の動きを鈍らせることに成功した。

 

 その間に艦載機隊は母艦への着艦を果たし、本隊の撤退準備も完了する。暴れ足りない霊沙やバーガーがぶつぶつ文句を言っているかもしれないけど、そんなものは関係ない。兎に角今は一秒でも早くここを離れたい。

 

《此方クリムゾンリーダー、敵艦の掌握完了!これより旗艦に追随する!》

 

 エコーの報告が入ると、グアッシュのものだったマハムント級のメインノズルに火が入り、艦隊が撤退するのと同じ方向に進み始める。

 

「よし、全艦最大戦速!さっさと此処から逃げるわよ!」

 

 保安隊も仕事を終えたことだし、もうここに留まる理由はない。グアッシュの物量に押される前にトンズラするとしよう。

 

 

 〈開陽〉を始め艦隊の各艦はメインノズルを全開にまで噴射して、急ぎ"くもの巣"から離脱した。

 

 

 

 

 ―――戦果では此方の圧勝、だけど戦略的には敗北・・・スペルカードの時は負けても根に持たなかったけど、艦隊戦になるとほんと腹が立つわね・・・

 

 

 それは今まで格下に見ていた小マゼランの海賊なんかに戦略的敗北を喫したからだろうか。だが、自分が艦隊の強さに有頂天になって力を過信していたのは間違いないだろう。

 

「――――増長、か・・・嫌な言葉ね」

 

 撤退する〈開陽〉の艦長席で、私は小さく呟いた。

 

 

 




第34話、以上です。
せいぜい1万字ちょっとだろうと高を括っていましたが、まさかの連載開始以来最長の1万7千字・・・流石に疲れました。艦隊戦でぶつ切りにすると切れが悪かったので最後まで書いた形ですが、如何でしょうか。普段は1万~1万5千字の範囲を意識していたので、少し疲れるかもしれません。

ファズ・マティ戦でも活躍した機動歩兵の敵艦奪取機能ですが、これだけでは霊夢艦隊の艦のようには無人で動かすことは出来ません。これはあくまでフネに予め備えられた自動操縦機能を掌握するものなので、最低限の航行と戦闘行動しかできません。

グアッシュの戦力ですが、霊夢艦隊がインフレ気味なので大マゼラン艦を投入してバランス調整を計りました。一応グアッシュがそれを持っている理由はちゃんとあります。シャンクヤードとマハムント以外にも、もっと大きな艦を何隻かは持っているかもしれません。原作中でもグアッシュはエルメッツァの海賊とは規模も装備も段違いだという発言がありましたが、今作ではそれが輪を掛けて酷くなっていますw

どんな時にも研究精神を忘れないサナダさん、霊夢艦長相手でも時として無茶振りを要求します。次回はサナダさんの手に囚われた哀れなグアッシュマハムントのビフォーアフターにご期待下さい。


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第三五話 作戦発動

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ブラッサム軌道~

 

 

 カルバライヤ宙域の治安維持を請け負う宙域保安局の本部が置かれている惑星ブラッサム、そこに向けて、火花を散らし煙を吐きながら、満身創痍の体で航行する艦隊の姿があった。

 

 

 

「―――何とか、無事に辿り着けたみたいね」

 

「はい・・・・あれだけの戦いで沈没艦が出なかったのは奇跡ですね―――」

 

 グアッシュの拠点、"くもの巣"での激戦から離脱した私達は何とか封鎖宙域を越えて、このブラッサムまで辿り着くことができた。途中で残党狩りとばかりにグアッシュの大艦隊が奇襲してくるのではと内心冷や冷やしていたものだが、幸いにもそのような事態はなかったのは救いだ。

 

「しかし、今回は随分とやられたわね・・・」

 

 早苗の言うとおり沈没こそは無かったものの、艦隊が受けた被害は甚大だ。私はそこで被害詳細に目を通す。

 

 駆逐艦〈タシュケント〉〈ソヴレメンヌイ〉〈ズールー〉、巡洋艦〈ブリュッヒャー〉の4隻が大破、駆逐艦〈ノヴィーク〉〈コヴェントリー〉〈ヴェールヌイ〉〈夕月〉、巡洋艦〈ナッシュビル〉、巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉の7隻が中破、小破以下は駆逐艦〈霧雨〉〈ヘイロー〉〈秋霜〉〈コーバック〉〈グネフヌイ〉〈タルワー〉、巡洋艦〈ユイリン〉〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉、戦艦〈開陽〉の9隻。艦隊の大半の艦が何らかの損傷を負ったことになる。

 

 酷いものだと装甲板の大半が要交換、砲身命数が尽きた艦もある。幸い竜骨が歪んで修理不可というほどまでの損害は受けていないので、空間通商管理局のドックに入渠すれば修理は可能だろう。

 艦の修理自体は無料だからそこまで財布に痛くはないが、問題なのはそれ以外の消耗だ。

 艦載機に関しては、スーパーゴーストは撃墜、帰艦後放棄を含めて18機喪失、F/A-17は11機撃墜、Su-37Cは9機喪失、ミサイル類の補充もグラニート6発を始め独自装備のミサイルが多数ある。艦載機の推進材なんかもかなり消費しているから、これらの補充でそれなりの額は持っていかれるだろう。

 

「はぁ、また計算か・・・頭が痛いわ」

 

「大丈夫ですよ霊夢さん。主計課の方々が上手くやってくれていますし」

 

「そう言われてもね・・・元々私は計算とか苦手なのよ」

 

 幻想郷にいた頃は買い物した時の釣り銭勘定か所持金の確認位でしか計算なんてやったことなかったから、私は未だに決算なんかが苦手だ。特に今回みたいな大量出費が予想される時なんかは特に。主計班のルーミアが頑張ってくれるから私の負担はそれほどでもないのだが、やはり苦手なものは苦手だ。頭が痛くなる。

 

「なんならあんたが手伝いなさいよ。AIなんだし、こういうの得意じゃないの?」

 

「それは駄目です!霊夢さんは艦長なんですから、艦長業務ぐらい馴れて下さい」

 

 ―――なんか早苗が冷たいわ。

 

 彼女の言うとおりこれは本来私がやるべき仕事なのだが、少しくらいはその頭のリソースを寄越してくれても良いじゃない。

 

「はいはい分かったわよ。私がやれば良いんでしょ」

 

「頑張って下さいね!」

 

 早苗は何もせず、私が書類を処理していくのを眺めるだけだ。――――やっぱり少しは手伝いなさいよ・・・

 

「霊夢さんが処理しきれているうちは私は艦隊の運行に専念します」

 

 見透かされていたみたいだ。早苗が先手を打って告げてくる。

 

「そう、なら艦隊は任せるわ。しばらく手が離せないから」

 

「はい、任されました!」

 

 さてと、ではブラッサムに着くまでに残りの書類を始末してしまおう。あっちに着いてからも色々やることがあるからね。

 

 

(ふふっ、艦隊の被害が押さえられているのも、軍神たる神奈子様の御加護があってこそです!)

 

 

 ・・・早苗が何か得意気に呟いているみたいだけど、何を言っているのかまでは良く聞こえない。多分艦隊がここまで善戦できたのも優秀なコントロールユニットのお陰だとでも呟いているのだろう。

 実際あれが無かったらここまでの艦隊戦なんて出来なかったんだし。早苗はそれなのに私が労ってやらなかったから拗ねているのかもしれない。それならさっきの態度にも説明がつく。

 

 ―――そうね・・・後で頭でも撫でてあげようかしら。

 

 私はそんなことを考えながら、黙々と書類を始末する作業に戻った。

 

 

 

 ........................

 

 ..................

 

 ..........

 

 .....

 

 

 

 

 

「尋問官サナエちゃん、出動しまs「ちょっと待ちなさいっ!」

 

「ほえ?何か問題でもありますか?」

 

「大有りだっての、何が尋問官サナエちゃんよ!」

 

 全く、どうしてこんな事になったのだろうか・・・

 

 事の顛末は数刻前のコーディさんの「〈阿里山丸〉に収容した捕虜から"くもの巣"の情報を聞き出せば、次の攻略が楽になるのではないか」という一言に起因する。

 それを受けて私は保安隊に捕虜の尋問を頼もうとしたのだが、何故かその言葉が早苗のアンテナに反応したらしく、尋問の仕事を引き受けると言って私の話を聞かないのだ。なので仕方なく任せてみると言ったらコノザマである。

 

 彼女は何処から引っ張り出してきたかも分からない悪党の制服っぽい黒い空間服に身を包んで、柄の外側に円形の月牙を備えたダブルブレードの赤い光刀を持ち出してはなにやら意気込んでいる様子だ。

 

「ふふっ、今の私は悪い海賊共を恐怖の底に陥れる大尋問官サナエちゃんです!好きなことは尋問と拷問!どんな情報だってききだしてみせます!!」

 

「だ・か・ら!まずはその物騒なものを仕舞いなさい!捕虜から死人が出るのは流石に勘弁よ!」

 

 とにかく今の早苗はアブナイ要素しかない。あんな武器を振り回されて〈阿里山丸〉が血の海に沈むのは流石に気が引くので、何としても早苗を止めなければ。

 

「・・・流石の私でも死なせはしませんって。拷問はしますけど」

 

「だからそれも問題だっていうの。とにかく貴女は仕事に戻りなさい!」

 

「ですから大尋問官サナエちゃんのお仕事は尋問なんですってば~!」

 

 どうしても早苗は聞く耳を持たないらしい。

 

「別に良いじゃん。無闇に殺す訳でもないんだし」

 

「そうですよ、霊沙さんの言う通りです!」

 

 おのれ霊沙、敵に回るか。

 

「しかし、その刀格好良いな。どこから手に入れたんだ?」

 

「これですか?サナダさんのガラクタから拾ってきました!」

 

 ―――成程、サナダ印か・・・って、余計危ないじゃない!

 

「ふふっ、この刀があればだれにも負ける気がしません!」

 

 

 早苗は光刀を振り回してポーズを決めると、それをビシッと突き出して宣言する。

 

「とにかくこの件はこれで終わりです!大尋問官サナエちゃん、出撃しまーす!」

 

「あっ、ちょっと、待ちなさい!」

 

 私の制止をものともせず、早苗は踵を返して早足で艦橋から立ち去ってしまった。

 

「・・・行ったな」

 

「・・・ええ。それより何であいつに加担したのかしら?」

 

「だって、面白そうじゃん」

 

「はぁっ―――もういいわよ。コーディ、早苗を監視してくれる?一応回線を繋いでおいて。何かやらかさないか見ておきたいわ」

 

「了解した」

 

 霊沙への追求は諦めて、今は早苗の様子を監視することにしよう。流石に血祭りはないかもしれないけど、なんだか不安だ。

 

「11番デッキよりシャトルが発進しました。〈阿里山丸〉に向かいます」

 

「・・・一応当初の予定通り保安隊も向かわせておいて」

 

「了解です」

 

 ノエルさんに念のため保安隊も捕虜の尋問に向かわせるよう指示しておいて、早苗の監視に移る。

 

 早苗が乗ったと思われるシャトルは〈開陽〉の後方に随伴する特務艦隊の陣形に到達すると、ヘルシップ〈阿里山丸〉に着艦した。

 

「・・・音声データは拾えた。映像はもうしばらく時間がかかる」

 

 コーディさんが監視用の回線を繋げたみたいで、音声のみであるが早苗の様子が伝わってくるようになる。

 

《さあ、観念しなさい!この守矢の大尋問官サナエちゃんの前では如何なる隠し事も無意味です!》

 

 音声のみであるが、何故か早苗がどや顔でポーズを決めながら宣言している様子が脳裏に浮かんだ。

 

《な、なんだテメェ!野郎共、やっちまえ!》

 

《オオーッ!!くたばりやがれ!》

 

《そうですか、あくまで戦いを選ぶという訳ですね。ならば容赦はしません!悪即斬です!》

 

 すると今度は海賊の方だろうか、幾つもの野郎の図太い声がしたと思うと、なにやら物音が聞こえてくる。具体的には、人間が飛び掛かる音に何かをブォンブォンと振り回す音、それと人間がバタバタと倒れていく音だ。

 

《なっ、12人の腕利きがたったの3秒で全滅だと!?》

 

《ふふっ、安心しろ、峰打ちだ》

 

 まだ音声しか聞こえないけど、多分早苗は刀を担いで決め台詞を言っているような気がした。

 

《ええ、さっきまではパラライサーモードでしたから少なくともお仲間の命は保証します。ではお楽しみの拷問タイムです!さぁ"くもの巣"のことを洗いざらい吐いてもらいますよ!!》

 

《ひぃっ、まっ、先ずはその刀を下ろせ!》

 

《貴方に指示される謂れはありません!悪党は悪党らしく大人しく尋問されやがれです!》

 

 早苗の台詞と共に、じゅわーっという嫌な音が響く。

 

 ―――あ、これ本格的にヤバイかも。

 

《なっ、何がパラライサーモードだ!壁!溶けてる溶けてる!!》

 

《今モードを変えました。DEAD OR DEATHです》

 

《それ選択肢になってない!分かった分かったからその刀を下ろしてくれ!》

 

《ちぇっ、つまらない人です。美少女尋問官に拷問されるなんて、人生に一度あるかないかという位の貴重な体験ですよ?》

 

《俺にそんな趣味は無ぇ!兎に角知ってることなら何でも話すから!》

 

《そうですか、仕方ないですね。じゃあくもの巣の内部構造を全て話して下さい》

 

 話の流れから推測すると、手段はともかく意外と上手くいくかのもしれない。早苗の行動への呆れはあるけれど、今は海賊の話に集中しよう。

 

《内部構造?それならお前達が奪ったフネのデータベースに地図があった筈だ》

 

《分かりました。では次の質問です。先日拐ったスカーレット社のご息女の居場所は?》

 

《スカーレット社?ああ、確か仲間がそんなこと言っていたな。俺は下っ端だから詳しくは知らねぇが、多分牢に入れられているんじゃないか?牢の場所は地図で確認すれば分かる筈だ》

 

《そうですかー。では最後の質問です。貴方方のトップが捕まっているのに戦力を増しているのは何故ですか?》

 

《ああ?んなこと知るかy《おっと、質問にちゃんと答えてくれないと困りますね~》

 

《な、何だその銃!何処から取り出し・・・》

 

 ジャキンという鈍い音がしたかと思うと、海賊の叫び声に続いてウィーンという何かが回り始める音が聞こえ始める。

 

《ちょっと待て、俺は何も知らなiぎみゃぁぁぁあぁぁっ!!》

 

 続いて弾幕が射出されるような駆動音と共に海賊の悲鳴が響く。これ、本当に大丈夫なのだろうか

 

「よし、これで映像回線も繋がったぞ」

 

 そこでやっと映像が繋がり、牢の惨状が明らかになる。

 

《ふぅ・・・悪は滅びました。これが尋問・・・楽しいかもしれない・・・》

 

 そこには何故か頬を赤らめて物騒なことを口走っている早苗と、その回りにはピクピクと痙攣して白眼を剥いている倒れた海賊達の姿があった。

 

《あっ、霊夢さーん、ただいま終わりました!》

 

「そ、そうみたいね・・・とにかく早く帰ってきなさい!後は保安隊に任せてあるから」

 

《了解ですっ!》

 

 早苗はビシッと敬礼を決めると、牢から出て施錠する。そのまま走り去っていったので、シャトルに戻るのだろう。

 

 一時はどうなることかと思ったが、流血は無かったようなのでまぁ良しとしよう。倒れてた海賊もセンサーが感知したバイタルに異常は見られない。その辺りはちゃんと弁えてくれていたようだ。

 

「しかし、我々の統括AI殿も中々破天荒な性格に育ったものだ」

 

「ああ。一体どうしたことか・・・」

 

 事態が終息したためか、コーディとフォックスがそう漏らした。確かに前の早苗はここまで酷くなかったと思うのだが、ほんとに一体どうしたのだろうか。

 

「まぁ一応穏便に済んだことだし、まぁ良いじゃないか。それじゃ私もあの光刀を作って貰うとするか!」

 

 霊沙は霊沙でマイペースだし・・・ほんと頭が痛くなる。

 

「はぁ・・・取り敢えず、入港まで周辺監視は怠らないで。配置に戻りなさい」

 

「了解です」

 

 

 こうして、大尋問官サナエちゃん騒動は一旦幕を閉じることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ブラッサム地上、宙域保安局本部前~

 

 

 無事にブラッサムまで辿り着けた私達はメイリンさんと合流して、再び宙域保安局を訪ねていた。

 

 ―――あれは・・・ユーリ君?

 

 そこで見知った人影を見た私は、彼等の方に寄った。

 よく見るとユーリ君の他に数人の彼のクルーと保安局の制服に身を包んだ青年の姿が見える。

 

「あら、こんなところで奇遇ね。貴方達も何か用事かしら?」

 

「その声は・・・霊夢さん!?久しぶりにですね・・・」

 

 後ろからユーリ君に声を掛けてみると、少し驚いた反応を返される。こんな所で再開するとは思っていなかったからだろうか。

 

「そうね。所で、こんな場所に何の用なのかしら?」

 

 彼等がわざわざ宙域保安局に来なければならない理由というのにも少し興味があるので、私はそれを聞いてみることにした。

 

「はい、実はエピタフに関する情報提供のためにジェロウ教授の研究に協力することになりまして、そのためムーレアまでの通行許可が欲しい所なんです」

 

 ジェロウ教授というと、確か小マゼランではかなり有名な研究者の名前だっけ。確か酒場のテレビで少し見た覚えがある。多分彼等と一緒にいる白衣の老人がそうなのだろう。尤も、私はサナダさんでもないのであまり詳しく知っている訳ではないが。

 

「成程ね、あんた達も大層な人を乗せてるのね。でもそれ、止めておいた方が良いわ」

 

 だが、彼等の戦力では仮に通行許可が出たとしても犬死にするだけだ。

 

「えっ、それはどうしてですか?」

 

「・・・ムーレアっていうと封鎖宙域の向こう側にある星でしょ?そこに行くならグアッシュの拠点近くを通らなきゃいけないんだけど、はっきり言って今の貴方達じゃあそこに突っ込んだら、死ぬわ。私でも逃げ帰ってきた位だから」

 

「れ、霊夢さんが!?」

 

 彼は今の台詞に大層驚いているようだ。それも無理はない。実質スカーバレルの大半を潰している様を間近で見ている訳だし、私達の戦力のことは私達以外では彼等が一番分かっているだろうし。

 

「ええ。宙域保安局でも手に負えないってのがよく分かったわ。何せ大マゼランのフネまで持ち出してくる始末だし」

 

「え、大マゼランですか!?」

 

「大マゼラン、それは本当か!?」

 

 そこに予想していなかった方向から横槍が入る。保安局の青年だ。

 

「おっと、失礼。俺はカルバライヤ宙域保安局二等宙尉、バリオ・ジル・バリオだ。で、その話は本当なのか?」

 

「ええ、本当よ。今日はそれを伝えに来たのだし。それと私は0Gドックの博麗霊夢よ。宜しく」

 

 私がバリオと名乗った青年にそう返して自己紹介すると、メイリンさんが彼にデータプレートを差し出す。

 

「私はスカーレット社警備部門のメイリンと申します。先程霊夢さんから話があった通り、これがその交戦データになります。貴殿方の上司に渡していただければ幸いです」

 

「・・・そうか。事態は予想以上に深刻なみたいだな。それよりここで立ち話をするのもアレだ、我々の上司の下へ案内しよう」

 

 バリオさんはメイリンさんからデータプレートを受けとると、建物の中に私達を案内する。

 

 宙域保安局の庁舎に入った私達はその一室に案内された。そこには前回来たときにあったシーバットさんともう一人、保安局の制服を着た真面目そうな青年が待っていた。

 

「おお、よく戻ってきたか、メイリン殿、霊夢君。そして君がユーリ君かね?話はバリオから聞いている。私はカルバライヤ宙域保安局三等宙佐シーバット・イグ・ノーズだ。霊夢君、君の情報提供には感謝する」

 

「ウィンネル・デア・デイン三等宙尉。シーバット宙佐の元で部下をしている。バリオとは同僚だ」

 

 すると、シーバットさんと真面目そうな青年―――ウィンネルさんが挨拶する。

 シーバットさんは続けて私に対して礼を述べた。ここに来る前に宇宙港で捕虜の引き渡しと、鹵獲した海賊船から尋問で得られた情報を元に漁ったデータを保安局に渡していたから、情報提供とはそのことだろう。

 

「ユーリです。今回は一つお話があって来たのですが―――」

 

「博麗霊夢よ。そのことについてだけど、"くもの巣"はかなりヤバい状況だわ」

 

「メイリンと申します。何とか我々は"くもの巣"に接近することは出来ましたが、彼等の戦力を突破するのはかなり難しいです」

 

 私とメイリンさんは初対面のウィンネルさんに挨拶して、シーバット宙佐に向き合う。

 

 

「・・・グアッシュの連中は大マゼランの艦船を投入してきたわ。しかもそれなりの数を用意してね」

 

「な、何と・・・連中はそこまで強力になっていたのか!?」

 

 私の言葉に、シーバットさんの瞳が見開かれる。常識的に考えて、小マゼランの海賊風情が大マゼラン艦を大量に運用するなどやはり考えられないのだろう。

 

「宙佐、彼女達から受け取ったデータプレートです」

 

「う、うむ・・・・」

 

 シーバット宙佐は動揺を押さえ込んで、バリオさんからデータプレートを受けとる。

 

「それで本来なら教授の研究のために宙域封鎖を解いてもらいたくてここを訪れたのですが、霊夢さんの話だと僕達には突破できる自信は・・・」

 

 ユーリ君が肩を落とす。彼にしてみれば期待が裏切られたようなものなのだろう。

 

「うむ、死んでは元も子もないからネ。さて、どうしたものか」

 

「む、貴方はジェロウ教授ではないですか!貴方も彼等の艦に?」

 

「儂の研究に協力してくれるそうなのでネ。しかし困った事だネ。これでは研究どころじゃないヨ」

 

 そこに白衣の老人が前に出てシーバットさんと話す。やはり彼がジェロウ教授で間違いないみたいだ。

 

「・・・宙佐、丁度良い機会です。彼等に協力を頼んでみては?」

 

「彼等に?まさか例の計画にか?」

 

「ええ。彼等ならザクロウの連中に面は割れていないことですし、駒としてはもってこいだ」

 

「何言ってるんだバリオ、民間人をそんなことに巻き込むなんて無茶すぎるだろ!?」

 

「・・・うむ、そこのお二方はともかくユーリ君までは・・・」

 

「でも仕方ねぇだろ。バハロスの連中は当てにならねぇんだし、そんなに時間もねぇんだ。何せあの3人が飛ばされる前に落とさねぇと不味い。」

 

 なんだかバリオさんが二人を説得しているようだが、例の作戦に関することだろうか。

 

「・・・分かった。ではユーリ君、今現在グアッシュ海賊団の勢力は馬鹿にならないほど拡大している。霊夢君の話からも聞いていただろう。その上で、ムーレアへの通行のために我々の作戦に協力してくれるか、ここで判断して欲しい。私としては民間人を巻き込みたくないというのが山々だが、もはやそうは言っていられない状況なのだ。かなり荒療治になるが、グアッシュの連中に対抗するにはこの計画しか無いのだ・・・」

 

 シーバットさんが申し訳なさそうにユーリ君に頼み入る。保安局の人間として、民間人に頼らなければならない状況に不甲斐なさを感じているのかもしれない。

 元々私達は作戦とやらに協力する腹積もりでいるけど。

 

「・・・分かりました。どうやらグアッシュを退治しなければムーレアまでは行けないみたいですし、今までも海賊相手に戦ってきましたから。大マゼランと聞いて少し不安ですが、出来る限り協力したいと思います。」

 

「おっ、これは面白くなってきたな」

 

 ユーリ君はシーバット宙佐の頼みを承諾する。トーロ君はあまり危機感がないのか、霊沙みたいな反応を返した。

 

「うむ、協力感謝する。では、詳しくはバリオ宙尉から聞いてくれ。打ち合わせ場所は、そうだな・・・」

 

「一杯引っ掛けながらで良いでしょう。この建物でできる話でもない。」

 

「む、その方がかえって安全か。ではバリオ、任せたぞ」

 

 わざわざ酒場に移動するとは、保安局の建物ではしにくい話なのだろう。サナダさんの忠告が頭を過る。彼等も内側の目を気にしなければならないとは、中々に大変そうだ。

 

「んじゃ、俺たちゃ一足先にやってます。ウィンネル、行こうぜ」

 

「あ、ああ・・・」

 

 バリオさんは困惑気味なウィンネルさんを連れて軽く手を振ると、この室内から出ていった。

 

「じゃあ私達も行きましょう、ユーリ君」

 

「・・・ええ、そうですね」

 

「では失礼致しました、シーバット宙佐」

 

「ああ。くれぐれも気を付けてくれ」

 

 私とメイリンさんに、ユーリ君とその一行はシーバット宙佐に一礼して保安局の庁舎を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ブラッサム・0G酒場~

 

 

 保安局の庁舎から移動した私達は、0Gドック御用達の酒場に足を踏み入れた。そこには一足早くここに来ていたバリオさんとウィンネルさんの姿も見える。

 

「おっ、来たか」

 

 向こうも私達の姿を認めたのか、軽く手を挙げて挨拶する。

 

「・・・済まないね、本当は君達のような民間人を巻き込むべきではないんだけど、もはやそうは言ってられない状況なんだ・・・。とにかく、詳しい話はバリオから聞いてくれ」

 

「別に貴方が気にすることはないわ。どのみち私達もグアッシュを退治しないと目的が果たせない訳だし」

 

 ウィンネルさんは気まずそうに謝罪するが、そもそも私とメイリンさんは目的達成のためにはグアッシュともう一戦交えなければならない状況だし、元から保安局の作戦とやらに乗るつもりだ。それに、ユーリ君の方も向こうは向こうであの宙域にグアッシュが溜まると色々困るらしい。保安局とはその点で利害が共通しているのだから、協力するのはある意味当たり前だ。

 

「ああ、それならこっちも助かる。そんじゃ、先ずは一杯引っ掛けてのんびりしろよ」

 

「あの、僕達は未成年ですよ?」

 

 バリオさんは話の前にユーリ君に酒を勧めるけど、ユーリ君はそれを受け流す。

 それより、ユーリ君って未成年なんだ。ここでの成人年齢って何歳なのかしら?まぁ、私には関係ないけど。

 

「そうねぇ、私としては賛成だけど、この場はさっさと済ませたいから今は遠慮しておくわ」

 

「ははっ、そりゃ残念だ。んでも、そっちの色っぺーおねーちゃんなら大丈夫だろ?」

 

 ユーリ君と私がバリオさんの誘いを断ると、今度はトスカさんとメイリンさんに声を掛ける。けど、どうやらトスカさんにもその気はないようだ。

 それより、メイリンさんはここでも会ったときと同じ艦長服を着ているんだけど、彼の中ではどうやら色っぽいの中に入るらしい。トスカさんならそう言えると思うんだけど、彼女まで入るのは私には謎だ。私よりはスタイル良さそうだけど。

 

「こっちは急いでいるんだ。さっさと本題に入ってもらいたいね」

 

「同上です。それに、何処が色っぽいですか」

 

 ・・・なんかメイリンさんの方から拳を握りしめる音が聞こえた気がした。

 

「んな硬いこと言わないでさ、まずは仲良くなってからでも―――」

 

「・・・ナッツを握り潰されたいのかい?」

 

「・・・ついでにそのだらしないモノも引き千切られるかもしれませんが」

 

「うっ、解ったって。二人ともんなコワい顔しないでくれよ」

 

 トスカさんとメイリンさんが凄い剣幕で睨むと、流石にバリオさんも退かざるを得なかったようだ。トスカさんはともかく、メイリンさんはかなり急いでいる事情があるからね。

 

「・・・それで本題だが、グアッシュ海賊団についてどれくらい知ってる?」

 

「えっと、確か一年前に頭のグアッシュが捕まってるとか、サマラっていう女海賊と対立してるとか・・・ぐらいですね」

 

 バリオさんが漸く本題に入り、質問にユーリ君が答える。私が知っているのもその程度だし、連中が大マゼラン艦を保有していることはさっき話したからわざわざ言わなくてもいいだろう。

 

「ああ、それだけ知っててくれりゃ充分だ。んで、問題は頭のグアッシュが捕まったにも関わらず連中の勢いは全く衰えていないって事だな。それどころか最近は、ますます艦船数を増やしている有り様でね・・・。まさか大マゼランの艦船まで持ってるたぁ思わなかったがんな訳で、恥ずかしながらもう我々保安局の手には負えないって状況なんだ」

 

「そりゃまた、随分とぶっちゃけた話だな」

 

「仕方ないわ、あれだけの勢力だもの」

 

 トーロ君がバリオさんの話に突っ込むけど、一度戦った身としては、グアッシュの戦力は保安局でどうこうなるようなレベルではない。バリオさんも、前線勤務でそれを実感していたのだろう。

 

「・・・正規軍は、動かせないんですか?」

 

「いや、バハロスの連中はダメだ。海賊はこっちの管轄だって話で終わっちまったよ」

 

「タテワリギョーセイのヘーガイってヤツか」

 

 ユーリ君が正規軍を動員できないのかと聞くが、エルメッツァと違ってこの国は国防と航路の治安維持で組織を二分しているみたいだし、トーロ君の言った通り上が号令を掛けないと軍は動かせないって訳だ。

 だが保安局の方からしたらその号令を待ってる間にますますグアッシュが増長して手を出せなくなる、って事態を恐れているのかもしれない。それに、自国企業の御令嬢が囚われているとあれば焦る気持ちも分かる。

 

「・・・・正規軍の任務はネージリンスとの国境防衛ですからね。彼等からしてみればわざわざ海賊対策部門を保安局として分離しているのに、その保安局に戦力を抽出するというのは納得がいかないのでしょう」

 

「まぁ、そういうこった。あいつらは政府レベルで指示がない限りは勝手に動けないだろうさ・・・。そんな訳で、我々は毒を以て毒を制するしかないって結論になったわけだ」

 

 メイリンさんの言葉を受けて、バリオさんが話を続ける。

 

「どういう事ですか?」

 

 そこに、ピンク色の髪の子、確かティータがバリオさんに尋ねた。

 毒を以て毒を制する・・・つまり、かなり搦め手を使うという事なのだろう。字面から大体想像できるが――。

 

「つまり―――サマラ・ク・スィーと取引をしてグアッシュに対抗する」

 

 ・・・予想通りの結論だ。保安局からしたら、単独でグアッシュに対抗しているサマラの戦力はかなり魅力的なのだろう。だから司法取引を試みる訳か。

 

「はぁ?」

 

「保安局が海賊と取引すんのかい?」

 

「それは・・・マズいんじゃないですか?」

 

 ユーリ君達の反応はいまいちで、順にトーロ君、トスカさん、ユーリ君の順で苦言を呈する。

 

「マズいね」

 

 それに対するバリオさんの応答はいたってシンプルだ。やはり彼にも、その作戦が不味いものだと分かっているらしい。

 

「いや、幾らなんでもヤバすぎだろ」

 

「ヤバすぎだね」

 

 トーロ君が更に懸念を表明するが、バリオさんの答えは変わらない。その返答を受けて、トーロ君は言葉に詰まる。

 

「だが、そうせざるを得ないほどグアッシュ海賊団の勢いは日々増している。大マゼラン艦なんて保有する始末みたいだからな。このままじゃカルバライヤの航路の要・・・このジャンクション宙域の海運がズタズタにされちまう。そうなる前に、何とかして手を打たないといけないんだ」

 

 バリオさんが真剣な表情で訴える。それだけこの宙域は、この国にとって重要な場所だという事だ。

 

「・・・話は大体分かりました。それで、僕達は何をすれば良いんですか?」

 

「そうね。作戦とやらに話は分かったけど、私達が何をすれば良いか分からないようじゃ動きようもないわ」

 

 私とユーリ君がバリオさんに尋ねる。協力するとは言っても、具体的に何をするのか指示がなければどう動いていいのかも分からない。

 

「そうだな、君達にはサマラと交渉して、協力の約束を取り付けて欲しい。俺達保安局の人間じゃ話もさせてくれないだろうからな」

 

「成程ね、それで民間の私達を頼る訳ね」

 

「そういうこった」

 

 確かにバリオさんのような保安局の人間が訪ねていってホイホイ話に乗るような海賊なんて想像できない。だから民間の私達を介して話を取り付けて貰おうという訳か。

 

「んで、条件はカルバライヤ全宙域における指名手配の停止、それと過去3年以前の罪状データおよそ2万件の消去だ」

 

「・・・そんな条件で、名の通った海賊がウンと言うかねぇ・・・。」

 

 バリオさんが提示する協力の条件はその通りだが、サマラの側からしてそれが協力に値する条件かどうかと言われると、正直微妙なところだろう。

 

「・・・今まで保安局の追撃も軽くいなしてきたサマラからしてみれば、指名手配を停止されたところで何も変わらないと言うような気が・・・」

 

 メイリンさんも私と同じ意見のようで、その条件で提案に乗ってくるかどうかは微妙に思っているみたいだ。彼女の言う通り、サマラにとっては今まで指名手配など気にも留めていないというのであれば、条件を呑む確率は低いかもしれない。

 

「そうかもしれねぇが、ウンと言ってもらうしかないな。まさか保安局が海賊に報酬を出すなんて訳にもいかないし」

 

 ただ、保安局にも彼等の立場がある。海賊から航路の安全を守る保安局が海賊に報酬を出すなんてのは本末転倒だ。その条件は、司法取引として譲歩できる最大のラインなのだろう。

 

「―――あんた達の手持ちのカードがさもしいのが心許ないわね」

 

「うっ・・・そこはあまり言わないでくれ」

 

 私がバリオさんに指摘してやると、彼は苦虫を噛み潰したような、乾いた笑いを溢す。バリオさん自身もこの条件で呑んで貰えるかは微妙だと薄々実感しているらしい。

 

「それでだが、サマラは資源惑星ザザンの周辺宙域によく出るらしい。あの辺りは資源採掘船を狙ってグアッシュの幹部クラスも活動しているからな」

 

「そいつをさらにサマラが狙うって訳か。成程、まるで食物連鎖だな」

 

 肝心のサマラの居場所だが、彼女はそのザザンとかいう資源惑星の周辺によく出るという話だ。いつぞやに女装させられたイネス君の言う通り、グアッシュと敵対している彼女にとってはいい狩り場という訳なのだろう。

 確かそっち方面の宙域はまだ回っていなかったし、施設に立ち寄ってくるついでにサマラも探してみよう。

 

「分かりました、やれるだけやってみます」

 

「ああ、なんとか頼むよ。もし彼女と接触できたら保安局に顔を出してくれ。そのときにはここの全員に通信で知らせる。」

 

 ユーリ君がそれを承諾する。私達も、見掛けたら声を掛ける程度に考えておこう。この宙域を回っているうちに出会えればそれに越したことはない。

 

「それとこれはバハロスの艦船設計社の地図だ。報酬の一部の前払いだとでも思ってくれ。必要があれば訪ねてみるといい」

 

 そう言ってバリオさんは私とユーリ君に地図が入ったデータプレートを手渡す。それを見てみると、どうやら正規軍が使用する艦船を取り扱っている艦船設計社の地図らしい。一介の航海者に軍が使用するモデルを開示するとなると、その期待は中々に高いものなのだろう。なら、此方もそのときが来ればご期待に応えられるよう暴れるとしますか。まさか連中にぶつけるのはサマラだけじゃないでしょうし。

 

「ところで確か、霊夢とかいったね。お嬢さん」

 

「ええ、そうだけど。何の用かしら?」

 

 バリオさんの話が終わったところで、今度はトスカさんが話し掛けてくる。

 

「いや、サマラの事なんだけどさ、こっちには説得できるあてが多少あるんだ。だから見掛けたときはこっちにも教えてくれ。話はそれだけさ」

 

「分かったわ。とにかく見つけたらIP通信でも送ればいいのね。まあ、見つけられたらの話だけど」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 トスカさんはそう言うと、他の仲間に混じって酒場を後にした。

 

 

「さて、それじゃあ私も行きますか」

 

 私は酒場に残るバリオさん達に一礼して酒場から出ることにした。二人は、というかバリオさんはもう飲んでいるみたいで、グラスを傾けながら軽く手を降ってくれた。ウィンネルさんの方は「サマラは・・・危険なんだ」とか呟いて重苦しそうな表情をしている。相手はランキングに食い込むような大海賊なんだし、遭遇したときは気を付けることにしよう。

 

 それから私はメイリンさんとも別れて、自分の艦を目指す。

 

 

 

 

「あっ、霊夢さん。お疲れ様です」

 

 酒場から出てしばらく歩いていると、向こうから早苗が出迎えてくれた。

 

「あら、早苗じゃない。――――聞いていたのかしら?」

 

「はい、バッチリです!音声も感度良好です!」

 

 早苗は得意気な顔をして答える。実は今回のやり取りは端末を介して早苗に録音させていたのだ。サナダさんの忠告も気になるし、メイリンさんとは契約したけど保安局にタダ働きされるのは気が向かないからだ。もし保安局が何も報酬を寄越さないというのであれば今回の録音で恫喝する腹積もりだったのだが、バリオさんの反応を見るにそれは杞憂で終わった。

 

「私のモットーは"労働には対価を"だからね。タダ働きされてやるつもりはないわ」

 

「クスッ、霊夢さんらしいです。それより、サナダさんから何か話があるみたいですから、早く艦に戻りましょう!」

 

「はいはい分かったわよ。そんなに引っ張らないで」

 

 早苗は私の手を掴んでぐいぐいと引っ張っていくが、私はそれを制して自分のペースで歩くことにした。

 

「ちぇっ。分かりましたよ。それでは私も霊夢さんに合わせて帰ることにします」

 

「物分かりが良くて助かるわ」

 

「私は優秀なAIですからね!」

 

 隣でフフンと早苗が鼻を鳴らす。こんな人を小馬鹿にしたような得意気な態度まであっちの早苗にそっくりだ。彼女の隣にいると、どうしても幻想郷のことが頭を過る。

 

 

 ―――紫とか、元気にやってるかしら・・・

 

 

 私はそのことを思い出して、向こう側の様子を考える。

 

 既に幻想郷では死んだ身なので今更戻りたいとは思わないが、望郷の念というものはあるのだろう。

 

 

 

 早苗の隣でそんなことを考えながら、私は艦隊の待つ宇宙港へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 




次回予告でマハムント改造と言っていましたが、もう1話先になりそうです。ここまで長引くとは思っていませんでした。尋問官サナエちゃんのネタで字数を持っていかれまして(笑)早苗さんは可愛いので仕方ありませんね。


大尋問官サナエちゃんの元ネタは分かる人には分かると思います。ちなみに光刀はラ〇トセーバーではなくビームサーベルです。お間違えの無いように。なお暗〇面に落ちた訳ではありません。早苗さんは真面目にはっちゃけているだけです。
早苗さんが黒い服と赤い光刀を選んだ理由は、単に格好いいからだそうですよ。

次回こそマハムント改造回になります。



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第三六話 強襲巡洋艦ブクレシュティ

 

 

 ~戦艦〈開陽〉艦内~

 

 

 〈開陽〉の艦橋は上陸休暇のためか、普段より人は居らず閑散としている。尤も、艦橋のサイズに比べてブリッジクルーの人数はかなり少ないから普段でも広々としているのだが、今はそれに環をかけて広く感じる。

 私が宙域保安局との話し合いから艦に戻ってきたところ、また艦橋で寛いでいた霊沙が出迎えた。

 

「おっ、霊夢か。戻るの早いな」

 

「別に寄り道した訳じゃないからね。保安局の方は大丈夫みたいよ」

 

「報酬のことか?相変わらず現金な奴だな」

 

「五月蝿いわよ、ほっときなさい」

 

 霊沙は相変わらず軽口を叩きつけてくるが、私はそれを受け流す。そういえば、こいつは出会ったときは刺々しい雰囲気だったけれど、今は以前より丸くなったように感じる。艦に馴染んできた為だろうか。

 

「ああ、そういえばリアさんって奴がお前に話があるとか言っていたな」

 

「リアさん?誰よそれ」

 

「ほら、こないだくもの巣の近くで漂流していた民間船から助けた奴。覚えてるだろ?」

 

「ああ・・・あの生存者か―――――へぇ、助かったのね。随分と運のいいこと。それで、話って何なのかしら?」

 

「私に聞かれても分からないよ。さっさと保安部の部屋に行ったらどうだ?確か身柄は連中が預かっている筈だ。だろ?緑の」

 

 そこで霊沙が早苗に話を振る。確かに早苗なら、艦の統括AIだし知っているのだろう。

 

「ちょっと、緑のって何ですか!?私は早苗ですっ。ちゃんと名前で呼んでください!」

 

「面倒くさい奴だ。どうでもいいだろ。んで、そいつは保安部にいるんだろ?」

 

「えっと、ちょっと待ってください・・・あ、はい。確かに保安部が預かっているみたいですね。それでは霊夢さん、早速行きましょう!」

 

「あ、ちょっと、だから引っ張らないでって行ってるでしょ!」

 

 私を保安隊の待機室に連れていこうと、また早苗がぐいぐいと私を引っ張っていく。元気なのは相変わらずだが、いい加減服が延びるのよこれ。

 

「さあさあ善は急げです!早く行きますよ!」

 

「別に急がなくたっていいでしょ・・・そもそも何が善になるのよ」

 

「あ、そういえばそうですね。でも時間は有限ですから、早く行くに越したことはないですよ」

 

「・・・それもそうね。じゃあさっさと行きましょう」

 

「了解ですっ!」

 

「おう、いってらー」

 

 私は早苗に連れられて、保安隊の待機室へと向かった。それを霊沙が気の抜けた声で見送る。

 

 しかし話というのは何なのだろうか。別に救助した礼を言うぐらいなら構わないんだけど、これ以上厄介事を抱え込むのは御免だわ。

 

 

 

 

 ~〈開陽〉保安局~

 

 私達のはこの〈開陽〉に設置された保安局モジュール区画に件の人物から話を聞くために足を踏み入れた。

 あの生存者の身柄を保安隊が預かっているのは、たぶん話し合いでの艦長の安全確保のためと勝手に艦内を出歩かれると困るからだろう。しかし、保安隊の待機室まで移動できるまで回復しているとは、つくづくこの世界の医療技術の高さには関心させられる。話によると眼球や手足の再生治療すら出来るらしい。

 

「あ、艦長。お疲れ様です」

 

「あんたも頑張ってるみたいね、椛。ところで、身体の調子はどう?」

 

「はい!以上なしです。任務に支障はありません」

 

「それは良かったわ。それじゃあ、あんたも仕事頑張りなさいよ」

 

「了解です!」

 

 待機室前に着くと、守衛をしていた椛が出迎えた。彼女はあの忌まわしき「ふもふもれいむマスィン」で人間にされた可哀想なモフジなのだが、本人は不満は無いようで今日も保安隊の業務に取り組んでいる。そういえばあの機械、人間に使えば効果はだいたい6、7時間程度で切れるらしいけど、獣に使うと遺伝子の突然変異を引き起こすとか何とかで人の形になったまま戻らなくなるらしい。そんな情報、私にとっては大した役に立たないけれど。

 

「エコー、私よ。それで、件の生存者はどこかしら?」

 

「待ってましたよ艦長。あの生存者なら、奥の休憩室で待たせています。今はファイブスの奴が見張っています」

 

「分かったわ。あそこの休憩室ね」

 

 私はエコーが指した部屋に向かい、早苗もそれに続く。その部屋に入ると、装甲服を着た保安隊員―――恐らくファイブスに、見慣れない若い女性の姿が見える。あれがリアさんなのだろう。

 

「お疲れ様です、艦長」

 

「あんたもご苦労様。ファイブス、下がっていいわよ」

 

「イエッサー」

 

 ここからは早苗もいるし、私自身襲撃されても返り討ちにするには十分な実力はあるから、今まで彼女を監視していたファイブスを下がらせて休ませた。

 

「・・・あなたが艦長さんですか?」

 

「ええ。私は博麗霊夢よ。この艦の艦長をやっているわ。んでこっちが早苗。私の副官みたいなものよ」

 

「―――どうも初めまして、早苗です。貴方がリアさんですね?」

 

「はい。リア・サーチェスと申します。助けてくれて本当に感謝しているわ」

 

リアさんが礼を告げる。彼女の容貌は落ち着いた大人の女の人といった感じで、髪は後ろで纏めてオペレーターが身に付けるようなマイクをしている。

 

「・・・別に、私達は偶然通りかかっただけよ。でも、貴女も運がいいわね。医者の話だと助かるギリギリのラインに近かったって話だし」

 

「ええ、それは聞いているわ。だからこそ本当に感謝しているの」

 

 リアさんは落ち着いた様子で受け答えに応じる。最初は緊張している様子だったが、私達が少女の姿だからか、幾分かは緊張が解れたのかもしれない。まぁ、確かにあの装甲服と比べたら緊張も薄らぐだろう。

 

「―――しかし若いのね、貴女。ここ、まるで軍艦みたいだったから、てっきり艦長さんも厳つい男の人ってイメージだったわ」

 

「さっきこの部屋にいた人なら、元軍人だからしょうがないわ。あれが彼の素よ。それに、人を見掛けで判断しないことね」

 

「それもそうね、気を付けるわ」

 

 リアさんは今まで保安隊に保護されていたみたいだし、ここはうちの部署の中でも特に軍人比率が高いから、軍隊らしく見えても仕方ないのだろう。保安隊は業務内容もあって規律が重視される部署だからね。

 

「それで、リアさんはどうしてあんな宙域を航行していたんですか?あんな海賊がうじゃうじゃ出る場所、ふつう誰も近付かないと思うんですけど」

 

 そこで、早苗が本題を切り出す。確かにそこは気になる所だ。あんな場所を航行していた時点で、何かしらの事情があるのかもしれない。

 

「その件で話したいことがあるの。少し良いかしら?」

 

「・・・話ならね。いいわ、話してみなさい」

 

「―――実は私・・・人を探して宇宙を航海していたの。その人は私の恋人なんだけど、彼は射撃管制システムの開発者だったわ。それで彼は、監獄惑星ザクロウのオールト・インターセプト・システムを完成させた後、突然姿を消してしまったのよ」

 

「だからその彼を探しに、という訳ですね」

 

「ええ。それで、私は所持金とかもあの船に置いてきちゃったし、今はお金がないの。だから、この船で働かせてくれないかしら?これでも私、航海経験はそこそこ多いのよ?ここで働かせてくれるなら、同時にその彼を探すつもりなの」

 

 リアさんの話を纏めると、恋人を探しに宇宙に出たけど財産をあのククル級ごと失う羽目になったから、彼を探し続けるためにこの艦で働かせてほしいというものだ。私としては、この艦の人材はいつも火の車だから正直助かるわ。

 

「それなら別に構わないわ。航海経験が多いなら尚更ね。歓迎するわ、リアさん。とりあえず詳しい契約とかは後にするけど、採用って事でいいわ」

 

「有難うございます。こちらこそこれからヨロシクね、艦長さん」

 

 リアさんは私の許可に対して礼を告げる。話はそこで終わると思ったのだが・・・

 

 

 

「それでね、彼は――――」

 

 

 このあと、私達は30分ぐらいに渡ってリアさんの色事について聞かされる羽目になった。まるでいつぞやの魔理沙みたいな感じだったのだが、友人の色事ならともかく、さっき知り合った程度の人間の色事なんて正直大した興味など無かったので、話が終わったときにはもうぐったりだ。恋する人間ってどうしてこうなのかしら。だからといって邪険にするのは憚られたし、ほんと面倒だったわ・・・

 

 それに、早苗は早苗でリアさんの話になんだか相槌をうったり、真剣な反応を返していたり、時には相手の話に同じて語りだしたりする始末だ。いったい何が良かったのかしら。

 

 ちなみにリアさんが話していた航海経験のことだけど、0G関連の人材データベースで彼女の記録を洗ったらあっさり出てきた。それを見てみると本当に航海経験が多いみたいだし、人材という面では歓迎だ。

 

 色話はもう勘弁だけどね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉技術主任研究室~

 

 

【イメージBGM:東方妖々夢より「ブクレシュティの人形師」】

 

 

 

 霊夢艦隊が誇るマッド共が巣窟とする研究開発ブロックの奥底、技術主任研究室は薄暗い闇に包まれている。そこでマッドの長たるサナダは今日も新兵器研究に取り組んでいた。

 

「・・・失礼するわよ」

 

 そこに、透き通った少女の声が響く。

 

「―――もう準備は出来たのか」

 

「ええ。特に異常もないわ。後は艦に移るだけよ」

 

 サナダは少女―――金髪碧眼の人形に尋ねるが、人形は眉一つ動かさずに淡々と答える。

 

「―――ところであれ、ちゃんと掃除は済ませたのかしら?いくら私でも、薄汚い海賊連中が使っていたままの仕様なんて御免よ?」

 

「それなら問題ない。特に艦橋は丸ごと換装した。元の面影など残ってないさ。なんなら好きに模様替えしてくれても構わん」

 

「それは有難いわね。じゃあ好きに使わせてもらうわ」

 

 人形はサナダに懸念を伝えるが、サナダの答に満足したのか、眼を閉じて腕を組む。

 

「ふむ、では早速だが接続試験といこうか。と、その前にだな・・・」

 

 サナダは自身のデスクから何かを漁り、それを人形に受け渡した。

 

「あれは君の艦だ。好きに名を付けるといい。何しろ君の手足となる存在だ。名付けるなら君をおいて他にいない」

 

 サナダが受け渡したのは一枚のデータプレートだ。それを受け取った人形はデータプレートを起動して、その内容を一瞥した。

 

「そうは言われてもね、ただ私に好きに名を付けろと言われても困るわ。何を基準にすれば良いか分からないのだし」

 

「だから好きに付けろと言った。君の自律機構は人のそれと近い位置に設定してある。これはそれのテストも兼ねているんだ」

 

「・・・分かったわよ。それじゃあこれも好きにさせて貰うわよ」

 

 サナダは人形の自律機構を試す意図もあって、人形に与えた艦の名も自分で付けさせようと試みた。人形はそれに渋々と従い、データプレートを眺める。

 

「そうだな。自分の名を考えるつもりでやってみろ。少しは真剣になれる筈だ」

 

「余計難しくなるわよ。それに、名というのはふつう親が付けるものでしょう。少なくとも、私の記録にはそうあるわ」

 

「ハァ、いいから自分でやるんだ。生憎私には、君に何と名付ければよいか絞りきれなかったのでね」

 

「丸投げって訳ね。ひどい親だわ」

 

「それは言い掛かりだ。私は自ら産み出したものには責任を持つ質だ。義体の面倒ならちゃんと見てやるさ」

 

「・・・分かったわ。やれば良いんでしょう」

 

 人形はほんの少し、その能面のような表情に呆れの色を含ませると、黙々とデータプレートを眺める作業に戻る。

 10分ほどその作業を続けると、ふいに人形の視線が止まる。そして人形はデータプレートを閉じて、サナダに告げた。

 

「決めた。これにするわ」

 

 人形はデータプレートをサナダに放り投げる。それを受け取ったサナダはデータプレートを起動して、人形が選んだ名を確認し、ほぅ、と頷く。

 

「成程、ブクレシュティ、か。何故この名を?」

 

 サナダは人形に尋ねる。彼の知識ではそれは古代の一都市の名であり、特段特別な意味のない名だった。だからこそ、自ら手掛けた人形がこの名を選んだ理由が気になった。

 

「そうね、単に響きが気に入ったというのもあるけど、強いて言うならば縁を感じた、とでも言っておきましょうか」

 

 人形は淡々と質問に答える。サナダはそれに頷くと、特に何も言うことなくそれを承諾した。

 

「了解した。では登録しておくとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉~

 

 

 かつてマッド共の欲望のために建造されたこの特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉のドックには、一隻の大型巡洋艦が係留されている。大マゼランの大国、ロンデイバルト連邦国軍が運用するマハムント級巡洋艦だ。

 そのマハムント級はかつてグアッシュ海賊団が保有していたものだが、サナダの意向により霊夢達の手に捕らわれた同艦は徹底的な調査と改造を受け、元の面影を残しながらも全く別の艦に生まれ変わっていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「この艦、こないだのグアッシュ艦のようですね」

 

「そうね。しかし調査ならまだしも、こいつをうちで運用する羽目になるなんてね。あのマッド共、また勝手な真似を・・・」

 

 私と早苗はサナダさんに話があると言われてこの〈ムスペルヘイム〉まで出向いてきたのだが、そこにあったのはこないだ鹵獲したこのグアッシュマハムントの姿だ。元々海賊のものなんだし、保安局に渡すか売り飛ばしてしまえばいいものを。

 さらにご丁寧なことに塗装まで変えられている。以前のこの艦は他のグアッシュ艦と同じように赤く塗られていたのだが、今は上面を青色、下面を薄い藤色で塗装され、その分け目には黄色いラインが入っている。

 

「おお艦長、来てくれたか」

 

 私達が件のマハムントを眺めていると、後ろからサナダさんが声を掛けてくる。また私に無断で勝手なことをしていたというのに、全く悪気はなさそうだ。あんたらマッド共の暴走は、そのままルーミア達主計課や私の苦労として還元されるということをいい加減理解しなさいよ。

 

「んで、話ってのは何なのよ。大方検討はついているけど」

 

「察しが早くて助かる。今回の話題は他でもない、この艦の仕様解説の為だ」

 

 やはり私の予想通りの話題だったらしい。こんなものを見せられたら、誰だって否応なしに理解させられる。

 

「いいからさっさと話なさい」

 

「うむ、了解した。知っての通り、この艦は先日グアッシュから鹵獲したものだ。艦長は売るか保安局に引き渡そうと思っていたようだが、これは大マゼランの、特に技術力が高い国で設計された艦だ。そんなものがカルバライヤ一国だけに渡れば小マゼランのパワーバランスが一気に崩れる恐れがある。艦長も知っているとは思うが、カルバライヤは現在隣国のネージリンスとは対立関係にある。だから、この艦は我々の手で運用することにした」

 

 サナダさんの言い分は以上のようだ。だから私に話を通さず勝手に事を進めるのはどうかと思う。これでも一応艦長なのだ。

 

「あのー、ちょっと良いですか?」

 

「何だ?」

 

 そこに、早苗が申し出にくそうにしながらサナダさんに発言の許可を求めたら。どこか気になったところでもあるのだろうか。

 

「さっきサナダさんは小マゼランのパワーバランスが崩れると仰いましたけど、くもの巣を保安局が制圧してしまえば結局大マゼランの技術はカルバライヤに流れてしまうのではないですか?」

 

 その指摘にサナダさんは表情を凍らせる。全く想定外だと言わんばかりだ。ひょっとしてこの人、研究ばかりに目がいくからほかの部分はおざなりなのかもしれない。

 

「ゴホンッ・・・ふむ、確かにそのようなこともあるな。では、仕様解説に移ろう」

 

 サナダさんは咳払いをして、話題を強引に変える。本当に今気づいたというばかりの反応だ。

 

「この艦は戦術指揮と上陸作戦での運用を視野に入れた改造を施している。艦橋直下のCICには新型コントロールユニットを搭載し、無人艦の状態でもある程度の艦隊指揮能力を有する。他の艦のような単純な戦術判断だけでなく、自律した状態で高度な作戦判断を取ることが可能だ。即ち、従来では〈開陽〉のコントロールユニットを介して各分艦隊を指揮していたものが、作戦目標さえ伝えればあとの作戦行動は本艦の指揮の下で独立して行えるようになるということだ」

 

 サナダさんの話を要約すると、このマハムントを分艦隊旗艦にすれば基本的な作戦目標さえ伝えておけばいちいち指示を出さなくても勝手に分艦隊を動かしてくれるらしい。サナダさんは特に言わなかったけれど、作戦を変更するときには、今まで通り指示を伝えれば良いのだろう。

 

「それは助かりますね。正直、私の能力では今の艦隊規模で精一杯でしたから」

 

「それはどうも。喜んでくれて何よりだ。元々、このシステムは君の限界を見据えて設計したものだからな」

 

 サナダさんの解説を聞いて、早苗はほっとしたような表情を浮かべた。どうやら、この子にも限界というものがあるらしい。今まではそんなこと意識していなかったけど、少しは気遣った方が良かったかしら。

 ともかく費用は別として、早苗の本体たるコントロールユニットの演算リソースに余裕ができるのは歓迎だ。そのことは評価しよう。

 ただ、サナダさんがこのようなシステムを作るということは、現在の早苗の演算リソースを越えた規模の部隊を運用するという野望があるに違いない。今後も警戒しておかなければ。

 

「そして上陸作戦向けの仕様だが、これは今後の対グアッシュ作戦を見越して、海賊拠点の制圧を念頭に置いたものだ。艦内の格納庫には機動歩兵を輸送可能な大型シャトル2機に中型シャトル8機の搭載が可能だ。さらに両舷の武装ブロックには支援攻撃機を20機程度運用可能な格納庫とカタパルトを備えている。これは本来のマハムント級には無かった仕様だな。」

 

 艦載機の運用も可能ということは、元のマハムント級に比べて汎用性が向上しているということだろう。巡洋艦としては中々に有難い仕様だ。うちは何かにつけて艦載機をよく運用するし、サナダさんもその辺りを意識したのかもしれない。

 

「そして目玉の特殊装備だが、艦底部にはODST投下用HLVの射出ポータルを3基備えている」

 

「ODST?HLV?なによそれ」

 

 サナダさんの言った横文字の意味が全く分からない。ここに来てから基本的な知識は頭に入っているのだが、さっきの単語には全く聞き覚えがなかった。

 

「HLVは、確か重量物を大気圏内に投下する降下ポットでしたよね。ものによっては自力で宇宙空間に戻ることもできると聞いていますODSTは・・・私にも分かりません」

 

 早苗が言うには、HLVとは大気圏内に重量物を投下するロケットのようだ。して、早苗でも知らないODSTとは一体何なのだろうか。

 

「現在のHLVの定義でいけば、概ねそれで合っているな。そしてODSTについてだが、これはOrbital Drop Shock Troopers(オービタル・ドロップ・ショック・トルーパーズ)の略称だ。訳して軌道降下強襲歩兵だな。これは簡単に言えば、降下作戦用の改造を施した機動歩兵のことだ。そして彼等はHLVにより地上へと迅速に輸送され、目的地に展開する。もともとこのHLVは彼等の運用を想定して作ったものだ。通常のそれと違い、こいつは僅かな減速しか行わない。それに伴う衝撃も凄まじいものだ。なので機動歩兵に対して専用の改造を施さなければならなかった訳だ」

 

「要するに、ほとんど減速せずに機動歩兵を大気圏内か敵要塞に送り込むという訳ですか。でもなんでそんな装備を?まるっきり質量弾か何かじゃないですか!それはそれで素敵だと思いますけど」

 

 早苗の疑問も尤もだ。そもそも私達は0Gドックなんだし、そんな軍事作戦じみた用途の歩兵部隊なんて必用なのだろうか。あと、最後になんか不穏な言葉を付け足しているけど、気にしないことにしよう。

 

「ふむ、我々は0Gドックとはいえ頻繁に海賊と交戦するからな。今後のことも考えて、ファズ・マティのような要塞惑星を攻略するときに役立つだろうと思ったまでだ」

 

「ハァ―――まぁ良いわ。使えそうなときには有り難く使わせてもらうから」

 

「それで構わん」

 

 サナダさんが言うにはあくまで対海賊用らしいが、過剰装備な気は拭えない。まぁ、既にあるというなら使うときには使うことにしよう。

 

「それでその他の仕様だが、元々こいつに装備されていたプラズマ砲はモンキーモデルのようだったから改造させてもらった。正規軍のものとは引けをとらない威力だ。プラズマ砲はその性質上シールドを貫通するから、中々の威力が期待できるだろう。そしてレーザー兵装だが、大型連装レーザー砲塔1基に中型10基を装備している。さらに艦尾には元々大型ミサイルVLSがあったのだが、これはそのまま残して新型対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉の専用VLSとした。対空火器も艦橋脇の大型パルスレーザーを始め充実させている。元設計自体が充実したバトルプルーフによって高いレベルで纏まっていたからな。武装の増設は控え目だ。機関も勿論ハイパードライブを組み込んでワープ可能な仕様に仕上げたが、それでも艦内容積は十分な広さがある。将来的には有人艦としても運用できるだろう」

 

 話を聞く限りまた脳筋仕様なのかと思ったが、武装は充実しているが以外とそうでもないらしい。元々の設計が良かったためだろうか。

 

「成程ね、火力面も申し分なし、か。そういえば、これの艦名を聞いていなかったわね」

 

 私が艦隊の全艦に名前をつけている訳ではないから、この巡洋艦も既に艦名が与えられているのかもしれない。私はそれが気になって、サナダさんに尋ねてみた。

 

「うむ、この艦はマハムント/AC級巡洋艦〈ブクレシュティ〉だ。今後は是非とも有効活用させて貰いたい」

 

「分かったわ。既にあるなら有効利用しないてはないからね」

 

 マッド共の勝手な行動には正直腹が立つが、既にあるというなら無下にする訳にもいかないだろう。それに、グアッシュの戦力があれだから私も多少は戦力を拡張するべきかと思っていたところだ。なのである意味これの存在は都合がいい。改造資金にはケチを付けたくもなるけどね。早苗に調べさせたら推定8000Gかかったらしい。下手な駆逐艦一隻分じゃない。今はスカーバレルから略奪した資金がまだあるから何とかなってるけど、普通の状態でこれだけ勝手に使われるのは正直迷惑だ。

 

「それでだ、ついでに艦内も見ていくかね?」

 

 サナダさんが訊いてくる。私は正直どうでも良いんだけど、横の早苗がなんだか目を輝かせているし、ここは誘いに乗ることにしよう。

 

「そうね~、じゃあ、折角だし見ていくことにするわ」

 

「はいっ、是非ともお願いします!」

 

 早苗の反応は予想通りだ。やはりこの手のものには機械としても惹かれる部分があるのかもしれない。

 

「では、案内するとしよう」

 

 ...........................

 

 ....................

 

 .............

 

 .......

 

 

 ~〈ブクレシュティ〉第一艦橋~

 

 

 この〈ブクレシュティ〉に入ってまず感じたのは、通路が〈開陽〉に比べても広めに取られていたことだ。サナダさんによればこの艦が属するマハムント級をはじめとしたロンデイバルト艦船は居住性にも気を使われているという話だから、有人艦として使う分にも不足はなさそうだ。ちなみに将来を見越して乗員船室と食堂のスペースも確保されているらしい。

 

 そのあとは格納庫なんかも見てきたのだが、予想に反してかなりすっきりとしていた。〈開陽〉は通路の天井とか、格納庫とかもパイプや空調設備なんかでごちゃっとした印象があるのだが、〈ブクレシュティ〉ではそれが極力隠されてシンプルな構造になっている。

 早苗はそれよりも格納庫内のクレーンとかカタパルトの方に目がいっていたみたいで、終始感心したような声を出してそれを眺めていた。やっぱりああいった機械に惹かれるらしい。曰く「軍事基地みたいで素敵です!」らしい。私にはよく分からないけど、あの子が喜んでいるならそれで良いだろう。

 

 続いてHLVの射出ポータルなんかも見てきた。HLVは大気圏に直接突入させるようなものだし、無骨な艦とは違って極力抵抗を減らすように流線型をしていた。大きさは予想していたものよりもだいぶ大きい。50mはあるとは思う。サナダさんの解説だと機動歩兵42体を搭載できるらしい。敵からしたらそんな数の、あのメタルマウンテンゴリラが降ってくるなんて悪夢でしょうね。

 

 そして今は艦橋に来ている。〈開陽〉は艦橋こそはかなりシンプルに纏まっていてあまりごちゃごちゃしていないのだが、〈ブクレシュティ〉の艦橋もそれに劣らず機能的なデザインだ。ちなみにここは元のマハムントの影も形もないくらいに改造されている。なんでも旗艦装備を施すために艦橋は周りは徹底的に弄ったという話だ。

 

「―――ようこそ〈ブクレシュティ〉へ。歓迎するわ」

 

 すると、唐突に艦長席から透き通った声が響いた

 

「・・・誰?」

 

 私はその声がした方向に振り向く。

 そこには、滑らかな金髪をショートカットにした、青い軍服のような服装をした人形のような少女が落ち着いた表情で腰掛けていた。

 彼女は手に持った紅茶のカップをデスクに置いて、私と向き合う。

 

「―――貴女が提督さんかしら?」

 

「まぁ、そうかもしれないけど・・・」

 

 人形みたいな少女はそれに答えず私に尋ねる。私の肩書きは艦長なのだが、艦隊全体の責任者でもあるから提督というのもあながち間違いではない。

 

 少女はそれに頷くと、立ち上がって私達へと歩み寄る。

 

 ―――しかし、こんな子、うちの艦隊に居たかしら?

 

 ここまで人形じみた子なら一度会えば印象に残るようなものだが、生憎私の記憶では、こんな子は艦隊には居なかった筈だ。

 少女はストレートな金髪を肩まで短く切った髪型をしていて、瞳は碧眼。その容貌はまるで作られたかのように精巧で美しい。例えるならば、あの七色魔法馬鹿みたいな雰囲気だ。髪型とか顔の細かいパーツとかは違っていたりするけど、その在り方は彼女を連想させる。

 おまけに頭に赤いバンドも載せてるし、青い軍服の上に白いケープを纏っているから服装の配色まで彼女と一緒だ。正直、あれの姉か妹と言われたら納得してしまうだろう。

 

「初めまして、私はブクレシュティ。この艦の独立戦術指揮ユニットよ。言うなれば、この艦は私の手足のようなもの。これからは宜しくお願いするわ」

 

「え、ええ。こちらこそ・・・」

 

 彼女はそう名乗るが、私は未だに状況を飲み込めずにいる。独立戦術指揮ユニットと名乗ったからには、やはりサナダさんが絡んでいるのだろうか。

 

「ふむ、コミュニケーション機能も上場だな。性格調整にも問題ないようだ。〈開陽〉のコントロールユニットのデータを参考にしただけはある」

 

「ふぇ!?いつのまにそんなことしていたんですか!」

 

 やはりサナダさんの仕業だったらしい。後ろで早苗が「人の中を覗くなんて変態ですっ!」と言ってサナダさんにビンタを炸裂させているが、自業自得だ。放っておこう。

 

「―――あ、えっと、サナダさんが作ったってことは分かったわ。貴女、うちの早苗と同じようなものでしょ?」

 

「その認識で構わないわ。尤も、私はこちらが主で艦が従だけどね」

 

 彼女―――ブクレシュティもそれを肯定する。ただ、早苗とは違ってコントロールユニットではなく義体の方が本体だと言っているが。

 

「厳密に言えば、AIの本体がこの義体にあるということよ」

 

 成程ね、そういう事か。そういえば、私の方はまだ名乗っていなかったわ。

 

「そういえば、こっちの自己紹介がまだだったわね。私は〈開陽〉艦長の博麗霊夢よ。よろしく」

 

「もう知っているわ。さっきのはそれを確認しただけ。ともあれ、今後ともお世話になるわ、提督さん」

 

 彼女はそう言って右手を差し出す。私はそれに応じて握手を交わす。

 

 

 彼女の人形のような顔が、ほんの少し、微笑んだ気がした。

 

 




前々回で予告していたマハムント改造回です。ODSTの元ネタはHALOという洋ゲーに登場する特殊部隊です。カッター艦長のODSTとMAC強いおw

ちなみにブクレシュティのステータスはゲーム内表記に直すとこんな感じになります。

マハムント/AC級

建造価格:25000G
全長:748m
耐久:3500
装甲:71
機動力:34
対空補正:35
対艦補正:40
巡航速度:120
戦闘速度:137
策敵距離:18000

耐久性能はマハムントのモンキーモデルを強化したものなのでそこまで上昇はありませんが、策敵、対艦と足回りが改善されています。ODSTや艦載機運用能力のために船殻を弄ったので装甲は逆に低下しています。価格は特殊装備を詰め込んだので8000G近く高騰しました。

ちなみにブクレシュティ(軍服アリス)ですが、霊夢の記憶の中ではアリスは基本ウェーブがかった髪型だったので、本文中で髪型が違うと言っていたのはそのためです。ちなみに立ち絵はこんな感じになります。髪型はにがもん式のモデルを参考にしました。


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第三七話 サマラを探して

ヤマト2202の公開も近づいてきましたね。この小説の主役艦もアンドロメダ級なので、2202での彼女達の活躍が楽しみです。アンドロメダ級が5隻か、胸が熱いな。


【挿絵表示】



 

 ~惑星ブラッサム宇宙港~

 

 

 ブラッサムに帰還してからもう3日が経つが、私達はまだ宇宙港に留まっている。とはいっても、もう暫くすれば出港する予定だけど。

 ちなみにユーリ君の艦隊はもう出港したみたい。恐らくザザン方面に向かったのでしょう。あっちは旗艦をエルメッツァのグロスター級戦艦に乗り換えてるみたいだったわ。あと、メイリンさんの〈レーヴァテイン〉は主砲の改良工事があるからということで、今後は作戦発動まで別行動になった。向こうもグアッシュとの戦いに向けて戦力を強化したいのでしょう。

 

 

 

「新造艦?」

 

「ええ。今後を考えても戦力強化は必要でしょ。それで、幾らまでなら出せるの?」

 

 そして今私はブクレシュティと話しているのだが、彼女は艦隊を増やして戦力を強化することを提案してきた。私もグアッシュとの対決には戦力強化は必須だと感じていたし、それ自体には賛成だ。早苗の演算リソースを考えても彼女がいればあと数隻は余裕で運用できると思うが、すぐに作れと言われても出せる費用には限りがある。工作艦はどうしたかというと、今ある資源で新たに艦船を建造できなくはないんだけど、たぶんグアッシュとの戦いで修理に必要になるだろうから今その資源は使いたくない。

 私は端末から艦隊の財政状況を確認して、どれほどの額なら艦隊運用に差し支えないかを計算する。

 

「そうね~、駆逐艦1隻あたり20000Gだとしたら、3隻で精一杯かな」

 

 艦隊の資金は現状で凡そ10万Gほどある。これだけ聞くとかなり潤っているように感じるが、建造だけでなく今後の維持費や諸経費、そして予想されるグアッシュとの決戦を考えればかなりの出費が予想される。その中で建造費を捻出するとなると、やはり駆逐艦3隻が限度だろう。

 

「それなら、駆逐艦を諦めてフランコの大量生産でも・・・いや、数が多くてもあの性能じゃあ駄目か」

 

 そこで私は戦力強化なら安いスカーバレルのフランコ級水雷艇を生産する手も考えたのだが、あれはまだマッドの改良設計図が無かった筈だし、そんな状態の艦を投入しても結局撃沈されて費用の無駄になるだけだ。どうせ作るなら、マッド共が改良した打たれ強い艦船を建造したい。

 ちなみにフランコの元になったさらに安価なレベッカ級警備艇という艦種もあるのだが、こいつは論外だ。はっきり言って艦載機一個小隊より非力な艦船に用はない。

 

 なぜそんな艦の設計図があるかって?一応エルメッツァの設計社にあったから買っておいただけ。価格もたったの10Gだったし。

 

「やっぱり大規模な拡張となると無理そうね。なら建造するなら駆逐艦の方が良いかしら」

 

「私も同感よ。それじゃあさっさと何を作るか決めてしまいましょう」

 

 現状を確認してもやはり建造するなら駆逐艦で精一杯なので、ブクレシュティの提案に乗って建造する艦種を策定してしまおう。

 

「一応これ、サナダさんから渡された改良設計図よ」

 

 彼女がデータプレートを差し出したので、私はそれを受けとる。そこには彼女が言った通り、複数の艦船設計図があった。

 

 うちの艦隊が保有している駆逐艦設計図は全部で6種類ある。

 まずは遺跡で見つけたものを改良したヘイロー級駆逐艦だ。性能も他の艦が小マゼラン艦船なこともあってダントツなのだが、その分価格がかなり割高だ。改善小マゼラン艦で一番高いアーメスタ改が9800Gなのに対してこちらの建造費は13000G。差額は約3000Gだがこれを3隻作るとなると他の艦なら4隻も作れてしまうのが難点だ。ちなみに、今の財政を考えればこれを作るなら2隻が限度だ。

 

 次に、海賊が運用していたガラーナ級とゼラーナ級の改良艦であるノヴィーク級駆逐艦とグネフヌイ級航宙駆逐艦だ。こちらはお値段8000Gほどでかなりお手頃だ。現状でもうちで運用されているだけあって信頼性も充分。さらにグネフヌイは艦載機運用能力も持ち合わせている。ただ、問題点を挙げるとするならば元が海賊の設計だし性能が改善小マゼラン艦船の中で一番低いことだろう。元設計ではエルメッツァ正規軍艦船の性能よりも部分的に勝るところはあったと聞くが、拡張性に関しては完全に正規軍に軍配が上がるので、改善仕様だと逆に正規軍艦船より性能で劣ってしまう。

 

 他はエルメッツァ正規軍の主力駆逐艦、アリアストア級とテフィアン級の改善タイプだ。こちらは価格がアリアストア改が9000G、テフィアン改が8200Gとスカーバレル艦とそれほど違いはない。ただ耐久性能ならこちらが上だ。テフィアン改は武装面ではガラーナと大差ないが、アリアストア改はミサイルランチャーを独自仕様の対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉に換装しているので打撃力が非常に高い。その分センサー機能では劣るが、対艦攻撃には有力な駆逐艦だ。

 

 最後にエルメッツァ正規軍の最新鋭駆逐艦を改良したアーメスタ改級だ。価格は9800Gと小マゼラン艦船のなかで一番高いが、その分性能も高く、バランスよく纏まっている。機動力も元のアーメスタ級の時点で複数の突撃砲艦を相手にしてもその火線を容易に躱せるほどで、火力もアリアストア改ほどではないが対艦攻撃には不足はないほどには高い。耐久性能も小マゼラン艦船の中では一番優れている。作るとしたら、かなり魅力的な艦だ。

 

「そうねぇ~性能でいえばヘイロー級が一番なんだけど、価格が高いのが難点ね。それならアーメスタを3隻作った方が良いかしら」

 

「信頼性という観点ではスカーバレル艦ね。だけどあれは攻撃力不足が指摘されているし、さらに作る必要があるかどうかは微妙なところね。その分アリアストア改なら打撃力の高いミサイルがあるし、対艦攻撃では捨てたものではないわ」

 

 私はブクレシュティと建造する駆逐艦について議論を交わす。ノヴィークとグネフヌイは彼女が言うとおり信頼性はあるが攻撃力が低い。攻撃力の点ではテフィアン改でも同じ問題が言えるだろう。

 性能ならやはりヘイロー級なのだが、これを作るとなるとどうしても価格が枷になってしまう。

 

「アーメスタ1隻とアリアストア2隻で駆逐戦隊を構成するのはどう?それなら価格と対艦攻撃力という点で均衡が取れているんじゃない?」

 

 そこでブクレシュティが提案する。成程、確かにそれなら価格も抑えて打撃力の高い部隊を編成できるのではないだろうか。

 

「良いんじゃないかしら、その案。それで採用にしましょう」

 

「あら、随分と早いこと。せめてもう少し検討したら?」

 

「別に、これ以上考えたって変わらないわ。うちの懐事情と艦隊の状況を考えたらそれがベストよ。それじゃ、私は造船区画に行ってくるからあんたは戻っていいわよ」

 

「・・・分かったわ。それじゃあ、私は休ませて貰うわね」

 

 さて、作るものも決まったところだしさっさと用事を済ませてしまおう。私はブクレシュティと別れて造船区画に赴いて、担当のAIドロイドに用件を伝えて艦船を建造してもらう。駆逐艦クラスなので1日もあれば出来るだろう。

 

 

 ―――そういえば、艦名を考えてなかったわね。

 

 さっきはどれを造るかに頭が向いていたから、艦名のことまでは考えていなかった。まぁ、後で付ければいいでしょう。

 

 

 

 ちなみに艦名についてだが、アーメスタ改級は〈ブレイジングスター〉、アリアストア改級は〈東雲〉〈有明〉と命名した。艦体の配色は、アーメスタ改はオリジナルで赤く塗装されていた部分が鮮やかな黄色となって、艦体色の銀色も黒みが強くなっている。アリアストア改は黄色と茶色の所謂地方軍カラーだが、オリジナルより黄色が淡い。

 

 〈東雲〉と〈有明〉はそれらしい言葉を適当に選んだだけだが、〈ブレイジングスター〉は親友のスペルから貰った名だ。こっちの世界にもだいぶ慣れてきたけど、こんな名前を付けるあたり、やっぱりあの頃を懐かしく思う感情もあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 新たな戦力も加えたところで、もうブラッサムには滞在する用がなくなったので艦隊を出港させた。新造された駆逐艦3隻はサナダさんがブクレシュティの指揮能力を試したいと申し出てきたので、今は彼女に預けてある。

 

「ところで艦長、今後の予定はどうします?」

 

 操舵席に座るショーフクさんが尋ねる。そういえば、まだ予定らしい予定は立ててなかった。一応今はバリオさんが前払い報酬の一部として提示した艦船設計社を見に行こうとバハロスに向かっている所だが、その後はどうしようか。

 

「そうねぇ~、取り敢えず、サマラって女海賊を探してみましょうか。そうしないと保安局の作戦も発動されないみたいだし」

 

「ならザザン方面に?」

 

「そうなるわね」

 

 こっちはメイリンさんの依頼もあるし、できるだけ早くサマラ見つけ出した方が良いだろう。そのときにはトスカさんに連絡を入れれば良い。

 しかし、説得すると言っても何をするのだろうか。正直、保安局が提示した条件では不安だ。トスカさんは宛があると言っていたから何とかなるでしょうけど。でも、その宛ってのが一体何なのかってことは少し気になるわね。

 

「では、バハロス出港後はシドウ経由でザザン方面に向かう進路を取ります」

 

「それで良いわ。詳しい進路はそっちに任せるから、航海計画が出来たら後で提出してくれるかしら?」

 

「了解です」

 

 後は、詳しいことはショーフクさん以下の航海班が何とかしてくれるだろう。ちなみにさっきショーフクさんがシドウ経由と言ったのは、惑星ザザンへ向かう経路には惑星シドウから惑星ドゥボルクを経路してそこからザザン方面に向かう航路と、惑星ガゼオンを経路してドゥボルク方面に向かう航路の二通りがあるのだが、後者は先日あった通り宙域保安局に封鎖されているからだろう。

 

「・・・で、いつから早苗は(スークリフ・ブレード)なんて持ってたのかしら?」

 

「ぎくっ、――――あっ、はい・・・これですか?」

 

 私が尋ねると、早苗はちょっと驚いたという仕草を見せて、手に持っていた刀を差し出して見せた。

 

 ―――それ、さっきから私の後ろで振り回してみたり、構えてみたりするものだから否応なしに気になるのよ・・・

 

 早苗は大人しくスークリフ・ブレードと思われる刀を見せたが、見た目からしてなんだか邪悪な感じだ。柄には白い蛇の飾りがが巻き付いてるし、刀身も血のように赤黒い。もしかしてこの子、こういうのが趣味なのかしら?

 

「―――やっぱり、紅いわね・・・」

 

 私が呆れ気味に呟くと、早苗は得意気な表情で刀を掲げた。

 

「ええ、赤いですとも!霊夢さんの刀も赤いですよね!?」

 

 私の内心などお構いなしに、早苗は自慢気な表情で刀を見せびらかす。ちなみに早苗は私の刀も赤いと言ったが、あんな邪悪な色と一緒にされるなんて言語道断だ。彼女のスークリフ・ブレードはただひたすら鮮血のように赤いが、私のそれは言うなれば皆既月食だ。赤いことは赤いのだが、刀本来の鋼色もちゃんと残っている。

 

「そんな色と一緒にしないでくれるかしら。あと、それ何処で手に入れたのよ」

 

 私としてはそんなことよりも、刀の出所の方が断然気になる。あんな妖刀じみた刀、一体どこで手に入れたのだろうか。それに、万が一艦隊内で本物の妖刀が蔓延る事態にでもなれば目も当てられない。久々に巫女業をやる羽目になるだろう。余計な仕事を増やさないでほしいわ、ほんと。

 ちなみに、目の前の刀からは外見に反して邪悪な妖気は感じない。ただ見た目がそうなだけだろう。

 

「これですか?にとりさんから強だ・・・貰ってきました!」

 

 早苗は途中まで言いかけたところで訂正した。まぁ、予想通りといえば予想通りだろう。やはりマッドが出所らしい。彼女は続けて「見た目と機能が格好よかったので!」と言っている辺り、やはりあんなのが趣味なんだろうか。

 

「実はですね、これは只のスークリフ・ブレードではないんですよ!?」

 

 早苗は刀を構え直すと、なにやら集中するような素振りを見せる。

 

 

「―――裏妖奇「風屠」!!」

 

 

 すると、普通の形状だった刀身が早苗の声と共に変形し、ノコギリのような扁平な形状となり、先端もなんだかギザギザしている。というかそれ、どんな造りしてるのよ。なんで形変わる訳?ここ幻想郷じゃないわよ?

 

「えへへ、上手くいったみたいです。にとりさんの話では、なんでも刀身にナノマシンを使ってある程度形状を変化させる機能を付けているみたいなんです!それと今の解号は私のオリジナルですよ?」

 

 格好いいでしょう!、と早苗は決め顔で迫ってくるが、そんなこと私に言われても分からない。それより、早苗がなんだか痛い子に見えて仕方がない。一応これでも高性能AIの筈なんだけど、バグでも起こしたのだろうか。でもサナダさんの話だとどこにも異常はないって言うし・・・一体どうしたのだろう。

 

「はいはい、新しい玩具を見つけてはしゃぐのはいいけど、振り回すのも大概にしなさいよ?」

 

「むうっ、それぐらい分かってます!人や機械に当てるなんてことは万が一にもありません!」

 

 これでも高性能ですから!と謳う早苗だが、やはり不安は拭えないわね・・・

 

 

 

 

 .............................

 

 ......................

 

 ..............

 

 .......

 

 

 

 

 そのあとバハロスには1日ほど寄港して、目当ての設計図を入手してさっさと出港した。休息はブラッサムで充分取っているし、そこからの距離も近いからそこまで休む必要はないでしょう。

 という訳で、サマラ探しに出発だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ザザン周辺宙域~

 

 

 バハロスを出港してから沸いて出る海賊に対して海賊行為を働いて、艦隊は目的地である惑星ザザン付近まで進んできた。途中のドゥボルクで一度寄港してからここに来るまで前衛の駆逐艦と艦載機を分散させて件の女海賊サマラを探しているのだが、未だに見つかる気配がない。

 ただ獲物となるグアッシュの連中は腐るほど湧いてくるので、金稼ぎには苦労しなさそうだ。

 

「しかし、どこに行ってもグアッシュだらけだな。本当にいるのか?そのサマラって奴。」

 

「サマラは単艦で活動すると聞いている。集団で活動して尚且つ数の多いグアッシュと比べれば、そりゃ見つけるのは難しいだろう」

 

 未だにサマラが見つからないことに痺れを切らしたのか霊沙が発言したが、それにコーディが答える。

 そういえば、話ではサマラは一隻でグアッシュの大群と渡り合ってるらしい。あれほどの規模の海賊団と単艦で渡り合うとなると、やはりフネの性能も相当高いのだろう。最低でも大マゼランの主力艦以上の能力はあるだろう。

 

「ちっ、仕方ないな。あー暇だ。グアッシュ相手だと張り合いがねぇ。そいつとなら楽しめるかと思ったのに」

 

「こら霊沙、サマラとは交渉に来たんだから、別に戦うって訳じゃないわ」

 

「分かってるよそんなの。少し興味があるだけだ」

 

 霊沙も中々物騒なことを言ってくれる。私はグアッシュと単独でやり合うような化物戦艦と交戦するなんてのはまっぴら御免だ。そんなことになればワープでさっさと逃げてしまおう。駆逐艦一隻破壊されるだけでも金額にして20000G分の資産が吹き飛ぶのだ。この〈開陽〉ならそんな戦艦ともやり合えるかもしれないが、小マゼラン艦をマイナーチェンジしただけの駆逐艦なら一体何隻が吹き飛ばされることか。考えただけでも恐ろしい。

 

「あ、艦長―――前方に交戦反応。距離、およそ50000です」

 

 そこに、レーダー哨戒を担当していたこころの報告が入った。長距離レーダーでなにか捉えたらしい。距離が50000ということは、まだ戦闘用メインレーダーでは捉えられない距離だ。

 

「交戦反応?光学映像は出せるかしら。それとショーフクさん、念を入れて一度慣性航行に移行してくれる?少し様子が見たいわ」

 

「了解」

 

「映像ですか?少し解像度が粗いですが、やってみます」

 

 どうも警戒中のこころが進路上に交戦反応を捉えたらしい。ここで無策に突っ込んで火傷するよりは、一度慎重に動いた方が良いだろう。

 ショーフクさんが艦を慣性航行に移行させると、僚艦もそれに従ってエンジンを停止する。早苗が指示したのだろう。

 一方メインパネルには2隻の宇宙船が交戦している様子が映し出される。画像が粗くてよく見えないが、手前で戦っている葉巻型の艦体にウイングの付いた赤黒のツートンカラーの艦は巡洋艦クラスだろう。

 奥にはそれより大型の、尖った艦首を持った棒状の胴体を左右上下にぴったりとくっつけた艦体を持つ宇宙船が居るのが見てとれる。その艦の両舷にはシールドを兼ねたような大型のスタビライザーを3つずつ装備し、艦体後部には上下対象になるような位置に艦橋とレーダーアンテナを持ち、その後方には4つに別れたエンジンブロックが平行に並んでいる。

 

「あれのどっちかがサマラかしら?」

 

「いや、違うな。どちらもエリエロンド級ではない。サマラとは別の勢力だろう」

 

 少なくとも今までのグアッシュには見たことがない艦影なので、順当に考えてどちらかはサマラの艦なのかと思ったが、どうやら違ったらしい。珍しく艦橋にいたサナダさんがそれを指摘する。

 

「エリエロンド?」

 

「ああ、サマラの乗艦の名だ」

 

 私が尋ねると、サナダさんはメインパネルにそのエリエロンドと思われるフネの画像を表示した。

 

「サマラの戦艦エリエロンドはこのように鋭く尖った紡錘型の主船体の底部後方に別の艦体ブロックを備えたような形状だ。さらに、艦体を覆うブラック・ラピュラス装甲に鏡面処理を施した影響で艦の表面は鮮やかな赤色となって見える。ブラック・ラピュラスは高いステルス性を有する黒体鉱物だから、この距離ではレーダーには捉えられんだろう。だが、あの2隻はきっちりレーダーに捉えられている訳だ。そうだな?」

 

「――――はい、メインレーダーではないので精度は落ちますが、艦の反応は確認できます」

 

 サナダさんが話題をこころに振ると、こころはそれを肯定する。

 

「――艦長、当該艦船の艦種識別が完了しました。前方の艦は大マゼラン、エンデミオン大公国製の軽巡洋艦ラーヴィチェ級と判明。奥の大型艦は該当データ無し、不明艦です」

 

 映像から艦種の解析が完了させたノエルさんがそれに続けて報告した。

 手前で戦っている巡洋艦クラスの艦はラーヴィチェ級と言うらしい。大マゼラン製の艦船を駆るとなると、その巡洋艦の乗り手も中々の手練れなのだろう。ちなみに現状安定している小マゼランに比べて大国が群雄割拠する大マゼランの方が軍事的対立が激しく、その技術進歩の速度も小マゼランの比ではない。なので必然的に艦船の性能も、小マゼラン製に比べて大マゼラン製の方が遥かに高いことが多い。

 さらに、観測されるエネルギー反応を見ても目の前のラーヴィチェ級のそれは通常のこのクラスの艦と比べて桁違いに大きいらしい。恐らく相当改造されていると見た。しかし、それでも尚、前方のラーヴィチェ級は奥の不明艦に対して劣性に見える。

 

 ラーヴィチェ級は奥の不明艦に対して全砲を向ける形で横腹を晒しているが、それは火力を高める代償に被弾面積を増すことになる。艦隊戦では〈開陽〉のように艦橋を挟んで前後に有力な砲を持つ艦や舷側に強力な武器を持つ艦にとっては、正面から殴り合うより片舷を敵に向けて主砲を指向した方が火力が出る。特に複数の艦で艦隊を組んでいる場合は、正面を向けて突撃する敵艦隊に対して此方の艦隊が側面を見せて敵の進路を塞ぐように展開し、全火力を以て敵の先頭艦を叩く戦術は非常に有効だ。これを一般にT字戦法と呼ぶ。

 ただ、これは速度で相手の懐に飛び込むような駆逐艦やり軽巡の戦い方というよりは重巡や戦艦の戦い方だ。なのに目の前の軽巡はそんな戦い方を続けている。確かにあの艦の砲撃は解析では戦艦並に強力なのだそうだが、元々装甲の薄い軽巡ではいくらカスタムしようとその耐久度には限界が・・・って言わんこっちゃない、また太いの喰らってるし。

 

 一方、敵に正面を向ける場合は側面を向けるより当然被弾面積が小さくなり、損害を減らしながら戦うことができる。特に突撃戦を想定された駆逐艦なんかはこの考え方に基づいて設計されることが多い。艦首方向の火力が強大な艦にとっては有用な戦術だ。奥で戦う不明艦はその形状から、側面にはシールドがあるので兵装は前方に指向する形で配置されているのだろう。

 奥の不明艦はラーヴィチェ級と比べてもまだ被弾らしい被弾は見られず、ラーヴィチェ級の主砲による攻撃を察知すると素早く回避機動を取ってそれを躱してしまう。これではあの軽巡の強力な砲撃も役に立たない。こちらが観測を初めてから何度か主砲を斉射しているようだが、まだ一度も当たった試しがない。

 それに対して対して不明艦は弄ぶようにラーヴィチェ級のバイタルパート外を的確に狙って、地味だが着実な損害を与え続けている。いたぶってなぶり殺しにしようという辺り、あの不明艦の艦長は相当気が悪そうだ。

 

「あ、不明艦の主砲がラーヴィチェ級の艦橋付近に着弾しました。ラーヴィチェ級は一時的に機能を停止した模様。砲撃が止んでいます」

 

 すると、不明艦の放った一撃がラーヴィチェ級の艦橋付近に着弾する。シールドで防がれはしたが、艦橋付近の装甲が抜かれて火災が発生しているようにも見える。艦橋自体には外傷は見られないが、さっきの一撃で管制機能に傷害がでたのか、ラーヴィチェ級の航宙機動はひどく緩慢なものになり、砲撃も止んでいる。

 

「不明艦のエネルギー量増大。止めを刺すものと思われます」

 

 先程から戦況をモニターしていたミユさんが報告した。

 ラーヴィチェ級が機能障害を起こしたと見たのか、不明艦は全砲斉射の素振りを見せる。まるで鬱陶しい虫を仕留めるかのような仕草だ。あのまま放置すればラーヴィチェ級は轟沈までいかなくとも大破は確実だろう。さて、どうしたものか。

 

「霊夢さん、どうします?」

 

 早苗は、ラーヴィチェ級をここで助けるのか、それとも見殺しにするのかと尋ねる。別にあれを放っておいても構わないのだが、この辺りの手練れとなるともしかしたらサマラの居場所を知っているかもしれない。ここで乱入して、それを訊いてみるという選択肢もある。あっちは両方とも単艦だし、こっちの戦力に対して無策に突っ込んでくるような真似はしないだろう。

 

「そうねぇ、知り合いでもないんだし別に助けなくてもいいんだけど、もしかしたらサマラの居場所について何か知っているかもしれないわね。早苗、前衛艦隊をあの2隻の間に乱入させられる?」

 

「了解しました!前衛艦隊に指示伝達します!」

 

 早苗がそれを承諾すると、艦隊の前方で警戒に当たっていた駆逐艦郡が急加速を始め、2隻の間に割り込む。

 

 それに続けて前衛艦隊を纏める巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉の2隻も駆逐艦の後から両者の間に入った。それを見た不明艦は発射態勢を解き、エンジンノズルを全開にして宙域から離脱していく。流石にこの数相手には不利だと悟ったのだろうか。なにせ駆逐艦8隻と巡洋戦艦2隻が乱入してきたのだ。幾ら艦が高性能でもそれだけの数は相手にしたくないのだろう。しかし、意外と引き際は鮮やかなのね。戦い方を見た限りでは、てっきり嫌味の一つ二つ言ってくるかと思ったのに。

 

 一方のラーヴィチェ級は相変わらず漂流したままだ。まだ機能不全から回復していないらしい。話をするならあっちの艦が良さそうだ。不明艦はさっさと退却しちゃったからね。

 

「ノエルさん、あの軽巡に通信を繋げる?」

 

「やってみます」

 

 取り敢えず、あのラーヴィチェ級にサマラの居場所を尋ねてみることにしよう。上手くいけば、ここで貸しを一つ作れるかもしれない。

 だが、帰ってきたのは期待とは裏腹に、怒気を含んだ罵声だった。

 

《おいっ、そこの艦隊!!いきなり何しやがるんだ!もうちょっとであのふざけた野郎をぶっ潰せるところだったのによっ!!》

 

 艦橋に響いたのは、血気溢れる若い男の声だ。

 ノエルさんはあまりの音量に顔をしかめて、反射的にヘッドフォンを外した。

 

「ちょっと、いきなり何なのよ!」

 

 一応音量は通常設定の筈なんだけど、まるで最大音量で聞かされたみたいに耳が痛い。

 なによ、せっかく助けてやったのに。だいたい仕留められそうになってたのはそっちじゃない、この野蛮人め。

 

「此方は0Gドックの博麗―――《五月蝿い!お前らみたいに海賊駆逐艦なんて低レベルのフネ使ってるような連中に構ってる暇なんてねぇんだよ!次は邪魔するんじゃねぇぞ!!》」

 

 ガチャリ、と強引に通信が切られ、プー、という接続が切断された音だけが響く。

 

「・・・・・通信、切断されました」

 

「―――何なのよアイツ。折角ピンチを救ってやったっていうのに」

 

「まあ落ち着け艦長。世の中にはああいう連中もいる。大方勝負を邪魔されて頭にきたんだろう」

 

 私が相手方の態度にキレて頭に血を上らせていると思ったのか、コーディがそれを窘める。

 

「―――ちぇっ、分かったわよ。あ~あ、上手くいけばサマラの居場所も聞けて貸し一つで一石二鳥だと思ったのになー。」

 

「どうやら、世の中そんな上手くはいかないみたいですねー」

 

 私の独り言に、早苗が苦笑いを返す。彼女の言うとおり、何事も上手くいくとは限らないものだ。

 

「・・・さて、こうなったらまた地道に探すしかないわね。総員警戒態勢を維持、サマラを探すわよ」

 

「「「了解!」」」

 

 あの野蛮人のことは一度忘れて、今はサマラ捜索に精を出すとしよう。私がクルーに今一度命じ直すと、張りのいい声が艦橋に木霊した。

 

 

 ―――なお、その一時間後に、トスカさんからサマラとの接触に成功したという通信を受けたことはあまり聞かないでほしい・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ ??? ~

 

 

 或る戦艦の薄暗いブリッジの中、複数のパイプに繋がれた椅子に腰掛けた少女は安堵の溜息をついた。

 

 この艦は、先程の改造されたラーヴィチェ級軽巡洋艦〈バウンゼィ〉と交戦していた宇宙戦艦だ。

 

「ふぅ、危ない危ない。この〈ファフニール〉がいくら高性能でも、流石にあれだけの数に単艦じゃあ心許ないからね。仕方ないけどここは撤退かな」

 

 椅子に座る少女は、その長い赤髪を整えると艦長帽を被り直した。

 

「折角ちょうどいい獲物がいたからいたぶってやろうと思ったのに邪魔してくれちゃって。もっと空気を読んで欲しいわ」

 

 少女の言葉は棘を含んだものへと変わる。少女にとってあの軽巡洋艦は、彼女が乗るこの〈ファフニール〉の性能を試すための丁度良い標的だったのだ。獲物をあと少しで追い詰められたところで邪魔されたことに、少女は不満を露にする。

 

「しっかしアイツ、いつの間にあんなに数増やしてたのか。こっちの目も最近緩んでいるし、一体どうしてやろうか。まぁ、そっちの方が面白くていいんだけど。次は数揃えていかないとね」

 

 誰もいない艦橋の中で、少女は独白する。その言葉を聞くものは他にいないが、少女は言葉を続けた。

 

 

 

「さて、今度はいつ踊りましょうか、霊夢――――」

 

 

 少女―――マリサはにやりと口角を歪め、嗤う。

 

 

 

 彼女が見つめる先には、銀と赤で彩られた戦艦、〈開陽〉の姿があった――――




いよいよグアッシュとの決戦も迫ってきました。サマラとの接触は、大方原作通りの展開です。霊夢艦隊はユーリ達よりも後に出港したので間が悪かった形になりますね。

書くネタに困ってまた早苗さんをねじ込んでしまいました(笑)。彼女がにとりから強奪した刀の元ネタは不思議の幻想郷シリーズに登場する"裏妖奇「風屠」"という武器がモデルです。実際邪魔な見た目してます。
ただ、ここの早苗さんはそういう見た目なのが趣味なだけで、暗◯面に堕ちることはないのでご安心下さい。早苗さん曰く「悪役っぽい武器とか格好いいじゃないですか!」とのことです。
ちなみに時々さでずむを炸裂させる模様。

最後の艦隊戦ですが、ラーヴィチェ級に乗っているのは原作通りギリアスです。サマラを探していたら絡まれまたみたいです。そしてギリアスと戦っていた艦ですが、これは「天空のクラフトフリート」に登場するファフニールという戦艦の見た目です。SF的で格好いいので出してみました。
そしてファフニールに乗っていたマリサ(東方旧作の魔梨沙に似ていますが違います)は久々の登場です。第十九話参照。別に放置していた訳ではなく、単に出番まで間があっただけです。本来ならもっと後の予定でしたが、このままフェードアウトしそうだったので前倒しで登場させました。今後もしばしば登場しますので忘れないであげてください。


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第三八話 進撃の狼煙

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ブラッサム~

 

 

 さて、この宙域に来てから都合何度めかのブラッサム寄港だ。今回はユーリ君達が先にサマラって女海賊と話をつけてきたというので、その件に関する話し合いだ。

 ユーリ君の話では、サマラは何故かザクロウという監獄惑星に入りたがっているらしい。わざわざ監獄に入りたがるなんて物好きな奴だと思ったけど、あっちはあっちで何か策略があるのかも。

 しかし、惑星丸ごと監獄なんて随分と規模の大きいこと。これが宇宙クオリティって奴なのかしら。

 

「驚いたな。まさかサマラ・クー・スィー本人を連れてきてしまうとは」

 

「ま、流石にこの建物に連れてくる訳にはいかないし、今はウチの艦に残してあるよ」

 

 いつも保安局との話し合いに使っていた部屋では、シーバットさんとそのサマラを捕まえた本人であるトスカさんが話している。シーバットさん達の側としては、単に協力の約束を取り付けて欲しかっただけだろうから、まさかサマラ本人がブラッサムまで赴くとは考えていなかったのだろう。

 

「しかし、わざわざ監獄惑星ザクロウに入りたがるとは一体・・・」

 

「そうよね。監獄なんだし、下手すると一生出られない訳でしょ?」

 

 ただ、ウィンネルさんが口にした疑問は私も思っていたことだ。名の知れた大海賊がわざわざ監獄惑星に入りたがるなんて、傍目にみればただの自殺行為でしかない。たぶん何かしらの策があるだろうが、そのサマラという海賊の思惑がいまいちうまく読めない。

 

「さ~て、何でだろうねぇ。アイツ、いくら訳を聞いても答えようとしない。ただ―――」

 

「1年前に収監されたグアッシュのこと、だろ?」

 

「だろうね。ヤツのことで何か考えがあるんだろう」

 

 バリオさんが言った通り、サマラとグアッシュは対立している。トスカさんもそれに関することではないかという所までは読めているみたいだが――――これ以上考えても仕方ないわね。今はサマラの策とやらに期待してみるしかない、か。

 

「ふむぅ・・・」

 

 この場で保安局側トップのシーバットさんは何やら考え込む仕草を見せる。たぶん、サマラの条件を呑むか思案しているのだろう。グアッシュと対立しているからといっても相手は海賊、その力を頼ったとはいえ、保安局としてもそう簡単には信用できないのだろう。

 

「宙佐、ヤツは何を考えているのか分かりません!やはり思い直した方が・・・」

 

 ほら、ウィンネルさんなんてサマラへの猜疑心を隠そうともしない。元々ウィンネルさんはこの計画自体にもあまり乗り気ではなさそうだったし、見た目通り真面目で堅物なのかも。

 

「大丈夫さ。ヤツはスジを通す奴だ。それでも不安だっていうんだったら、サマラの奴が妙な気を起こさないように私もついて行くよ。そうだねぇ~、ちょっとムカつくけど、ヤツの手下の一人ってことにすりゃいいだろ」

 

 トスカさんはそんな様子を見てサマラの監視役を買って出るが、サマラについて行くってことは一緒に監獄惑星に入るということだ。本当に大丈夫なのだろうか。

 

「幾らなんでも、それは危ないんじゃないかしら?ユーリ君はどう思う?」

 

 そこで私は、トスカさんの案に何か言い返そうとしていたユーリ君に話を振る。トスカさんは彼の副官みたいなものだし、決めるにしてもユーリ君の決断は必要だろう。

 

「・・・そうですね、霊夢さんの言うとおり、トスカさんも一緒に監獄に入るっていうのは・・・やっぱり危険じゃないですか?」

 

「ユーリ君の言うとおりだ。ザクロウはその辺の監獄惑星とは訳が違う。組織上は司法府の管轄下にあるとはいえ、完全に外界と隔離された上に内部の情報も少ない・・・。中で何があるか分からないんだぞ」

 

 ユーリ君の懸念を補強するように、ウィンネルさんは圧力を掛けるような口調でザクロウの危険性を説く。真面目らしい彼のことだし、協力者のトスカさんをそんな訳の分からんとこに放り込むなんてのは憚られるのだろう。

 

「んなことは百も承知さ。それでもサマラにきっちり協力させなきゃグアッシュの壊滅は果たせないんだろ?ってことはムーレアにも行けないし、エピタフの調査もできないってことだ。これくらいの危険にビビってるようじゃあ自分の夢なんて叶わないさ」

 

 それでもトスカさんは、ユーリ君に説くように語る。確かにトスカさんの言うとおり、何かを求めるなら相応のリスクというのは覚悟しないといけない。彼女は見た目通り、胆のすわった人のようだ。そういった態度には好感が持てる。

 

「・・・」

 

 ユーリ君はその話を黙って聞く。彼女にそこまで言われたら、若い彼は何も言い返せないのだろう。

 

「大丈夫さ、任せておきなって。事が終わりゃ無事に帰ってくるからさ」

 

「トスカさん・・・分かりました。サマラの監視、お願いします」

 

 ユーリ君も決心がついたのか、トスカさんの提案を呑む。

 話が纏まったところで、再びシーバットさんが口を開いた。

 

「―――元々ムチャな作戦だ。こうなったら、サマラの言うとおりにしてみるしかないだろう。海賊の掌にまんまと乗るようなのは私も癪に障るが、今の状況では致し方無い。バリオ、収監手続きにはどのくらいかかりそうだ?」

 

「サマラ関連なら罪状なんて幾らでもありますんで。書類を整えるんでしたらすぐにでも」

 

「よし、ではサマラとトスカさんの2名を、バリオが監視役としてザクロウに移送することにしよう。バリオはそのまま向こうに残って24時間ごとに定期連絡を頼む」

 

「了解です。移送には俺の艦を使いますが、お前さん達はどうする?流石にザクロウまでは連れていけないが・・・」

 

 バリオさんがユーリ君に尋ねる。トスカさんを心配していた彼を思ってのことだろうが、私もそのザクロウとやらには少し興味がある。

 

「途中までは付いていきます。やっぱりトスカさんのことは心配ですから・・・」

 

「ついでだけど、私もついて行っていいかしら?」

 

「ああ、別に構わんが」

 

 バリオさんの承諾も得たことだし、そのザクロウとやらを一目見ることにしよう。これは勘だけど、なんか匂うのよねぇ~。私の勘ってよく当たるし、ちょっと確かめてみるのもいいだろう。

 

「分かった。準備ができ次第、出発といこう。んじゃ俺は色々整えてくるんで」

 

 バリオさんは、収監手続き諸々をこなすために一旦部屋から退出する。話も終わったことだし、私も艦に戻ることにしよう。

 

「しっかし、あんたもいい艦長さんに恵まれたものねぇ~。少し羨ましいわ」

 

 そこで、私はトスカさんを茶化すように声を掛ける。ユーリ君とは少し距離を取るのも忘れない。

 

「ハッ、そうだねぇ。副官冥利に尽きるってヤツだ。ああは言ったけど、自分を心配してくれるってやつは嬉しいもんさ」

 

 トスカさんも実は満更でもないといった感じで、内心ではユーリ君が心配してくれたことは嬉しいみたい。

 

 ―――二人ともお似合いねぇ~。妬ましいわ、ぱるぱる・・・いけない、なんか変な電波を受信しちゃったみたい。

 

 どこぞの橋姫みたいな思考を隅に追いやって、私は話を続ける。

 

「ま、何かあったらザクロウとやらを更地に変えてやるから、安心して行ってきなさいな」

 

「おぉ怖い怖い。あんた、可愛い顔してる癖に思考はやけに物騒なんだねぇ」

 

「お世辞は要らないわよ。バリオさんの連絡がないときは黒ってことでしょ。なら遠慮なんてしてやる道理はないわ」

 

「ハハッ、そりゃそうだ。だったら、私は巻き込まれないよう上手く立ち回るとしますか」

 

 私は冗談めいた口調で言ったけど、やはりザクロウとやらは怪しい。バリオさんの定期連絡がないってことはザクロウで何かがあるということだ。こっちもいい加減依頼を何とかしないといけないし、手掛かりを掴むのにはザクロウに攻めてみるのも一考、といった所だ。

 

「それじゃ、あんたも気を付けなさいよ」

 

「ああ。子坊に宜しくな」

 

 私とトスカさんはそんな言葉を交わしてです各々の場所に戻っていく。

 

「・・・トスカさん、霊夢さんと何を話していたんですか?」

 

「なぁに、ちょっとした世間話さ。それより、私がいないからってへたれるんじゃないよ、子坊」

 

「分かっています。艦隊の方は上手く纏めてみせますから。それより、トスカさんも気を付けて」

 

「そんな目するんじゃないよ、艦長なんだから、もっとビシッとしてな」

 

「はいっ―――何かあったときは必ず迎えにいきます」

 

 

 

 ――.ああ、後ろがなんか辛気くさいわぁ~。

 

 少し桃色が入りそうな後ろの二人に背を向けて、私は早足で艦に戻る。あの空気に長く当てられるのは勘弁だ。

 

 さてと、では今後の方針でも考えるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、監獄惑星ザクロウ付近~

 

 

 さて、やってきました監獄惑星。私の勘が告げた通り、目の前の監獄惑星(の防衛機構)からは胡散臭い雰囲気がたらたらと垂れ流されている。

 

 今目の前に見えるのは監獄惑星の防衛システムらしく、無数の戦闘衛星が奥に位置するであろう監獄惑星ザクロウを包み込むように球状に展開していた。

 成程、あの戦闘衛星の群で内部からの脱走者も、外部からの介入者も蜂の巣という訳か。ウィンネルさんが言った外界と完全に隔離されてるっていうのも伊達ではないってことね。

 

「あれが噂に聞くオールト・インターセプト・システムか・・・・監獄惑星としてザクロウを外界と隔てるシステム。中々興味をそそられるな」

 

 今日も珍しく艦橋に来ていたサナダさんが感心したように呟く。この人はいつもこればっかりね。

 

「するとあれが、リアさんの彼が設計したっていうシステムですね」

 

「ええ。監視システムと自動攻撃システムが連動して永久稼働する・・・。アクセスコードを持たない、許可のないものが侵入しようとすればあっという間に蜂の巣というわけね」

 

 目の前にあるザクロウの防衛機構こそ、先日リアさんが彼氏が開発したと言っていたシステムのようだ。彼女の口振りからすると、身内が開発者なだけに、システムの基本的な要目は理解しているのだろう。

 

「ふぅむ、成程・・・監視惑星というのも伊達ではないらしいですね。ワープで抜けようにも、あれが障害物になって中断されてしまいますね」

 

 早苗は早苗で、そのシステムとやらを見て考察を巡らせている。ワープが使えないとあって、しかもあれが惑星全体を取り巻いているっていうのは中々に厄介だ。

 しかし、何故考察があれを攻略するという方針でなされているのだろうか。まぁ、あそこは黒だって私の勘が告げているし、どのみち吹き飛ばす訳だから気にしなくていいか。

 

「だな。突破するなら正面からって訳か。この艦は耐えられても、随伴の駆逐艦が不安だな」

 

「ああ、被害を減らすにはやはりデコイをばら蒔きながらの突撃か」

 

 コーディとフォックスの元軍人二人も攻略前提で話を進めている。幹部クルーの間では、ザクロウは攻略すべき敵の拠点という話でいつの間にか纏まってしまったようだ。確かにサマラがわざわざ入りたがる辺り何かあるのは間違いないだろうが、私は一言もザクロウを敵視しろなんて言ってないわよ。ただ、この状況ではもう放っておくしかないだろう。多分あれも黒なんだし、わざわざ訂正する手間も惜しい。

 

 一旦外を見てみると、サマラとトスカさんを乗せたバリオさんの駆逐艦がザクロウへと向かっていく。そういえば、噂のサマラをまだ拝んだことがなかったわ。高名な女海賊というから少しは気になっていたのだけど、まぁ仕方ないか。どのみちグアッシュを殲滅するのに協力するって話だから、そのうちお目にかかる機会もあるでしょう。

 

「さてと、それじゃ撤収ね。ショーフクさん、反転180度。艦隊と合流するわよ」

 

「了解です。取り舵一杯、反転180度」

 

 私はザクロウを警戒させないために後方に残してきた艦隊と合流すべく、〈開陽〉を反転させるよう命じる。

 

 〈開陽〉の舷側スラスターが力強く噴射され、窓の外に見える景色が回っていく。ザクロウを取り囲む防護システムが景色から完全に消えた時点でメインノズルに点火され、インフラトン機関の振動が艦内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~監獄惑星ザクロウ~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Secret Maneuvers」】

 

 

 外界と完全に隔離された監獄惑星ザクロウ、ここには惑星全土の収容所に無数の犯罪者が収監されている。そんな犯罪者達を監視する看守達の本部―――管理棟の所長室を、宙域保安局三等宙尉のバリオは訪れていた。建前の上では大海賊サマラを引き渡すため、実際はサマラを使ったグアッシュ海賊団壊滅作戦の為だ。

 

「やーやーやー、ようこそこのザクロウへ、私がここの所長を務めるドエスバン・ゲスです」

 

 そんなバリオと、彼に護衛された囚人2名―――大海賊サマラと手下役のトスカを、太った上に脂ぎった中年の男が出迎える。

 男はドエスバン・ゲスと名乗ったが、ドS版があれば当然ドM版の下衆もいるということになる。しかし、それは今語るべきことではない。

 

「保安局海賊対策部所属、バリオ・ジル・バリオ三等宙尉です。囚人2名の護送に参りました」

 

「ほっほ・・・歓迎致しますぞ。モチロン、そちらの二人のお嬢さん方もね」

 

 目の前の男の容姿はあまり気分のよいものではないが、バリオはごく自然に、上司にするような形で挨拶を交わす。

 ドエスバンはそんなバリオの挨拶には適当に答えると、彼の後ろで手錠をはめられた態勢のサマラとトスカを舐め回すような目線で観察する

 

「(・・・ジロジロ見んな、デブ)」

 

「・・・・・」

 

 トスカは外見上ポーカーフェイスを保つが、生理的に受け付けないなタイプの人間からそんな目線で見つめられたことに内心では不快感を全開にする。

 

 一方のサマラはその冷徹な美貌と絹のような長い黒髪を微動だにせずに佇む。さしずめ、小者過ぎて見るに値しないといったところだろう。彼女は意図的にドエスバンを視界から外し、奥の壁に焦点を合わせた。

 

「ん~、ん~、ん~~~。いやいやこれほどの女囚が二人も・・・」

 

 だが彼女達の内心などまるで気にも留めず、ドエスバンはその舐め回すような仕草を止めることはない。

 それが彼女達の怒りを一層買ったのは言うまでもなく、トスカの額には青筋が浮かび始めていた。

 

「女囚・・・・・、ジョシュウ、ん~・・・♪」

 

「あの・・・所長?」

 

 ドエスバンの視線は益々嫌らしさを増していき、変態的な言動すら隠しもしないほどだ。流石のバリオもこれには引き気味だが、名目上は目の前の人物はあくまでも上司であるため、必死で平静を装う。

 

「ところで女囚という言葉はお好きですかな」

 

「は?」

 

 突然訳のわからない質問を振られ、バリオは思わずその本心を吐露しかける。お前は何を言っているんだ、と。しかし目の前の男がいかに変態と言えど階級はドエスバンの方が上なのだ。準軍事組織である保安局では軍隊と同じように規律に煩い。なのでバリオはそのあとに続けそうになった言葉を直前で飲み込む。

 

「あ、ああ、いや・・・何でもありませんぞ。で、貴方も7日ほど駐留されるとか」

 

 ドエスバンもバリオの返事で漸く自身の言動を振り返り、慌ててそれを誤魔化すように話題を変える。

 しかし、バリオの中でこの所長への評価が地に落ちたことは最早言うまでもない。女性に優しいプレイボーイを気取っている彼だからこそ、目の前の女性を慰みものとしか見ていないような変態への軽蔑は深く、重い。

 それに、幾ら犯罪者といえど事案行為は実際違法である。手を出せばサヨナラ待ったなしだ。

 

「・・・ええ。これほどの大海賊ですからね。念には念を入れて経過を見ろと」

 

 バリオは彼への軽蔑の言葉を我慢して、彼に言葉を返す。

 

「なるほどなるほど、いやいやごもっとも。では貴方の部屋もご用意いたしましょう。・・・すぐにね」

 

 先程までのへと雰囲気から一転し、意味ありげに呟いた最後の台詞にバリオは彼への警戒を意識する。だが、このザクロウはドエスバンの下にある。ここでバリオが警戒したところで何の意味も為さなかった。

 

 こうして、サマラとトスカは収監され、バリオもザクロウに留まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦内~

 

 

 さて、トスカさん達がザクロウに入って5日が経ったのだが・・・

 

 

「私の前では隠し事など無駄です!さぁ洗いざらい吐きなさいっ!!」

 

 

 大尋問官サナエちゃん、降☆臨!

 

 まぁ、あの話を聞いてからこうなることは予想できていたんだけど、やっぱり早苗は暴走してしまったみたい。

 今私達は見ての通り、捕らえた海賊達を片っ端から尋問しているところだ。

 

 事の発端は2日前に遡る。

 

 トスカさん達が収監されてから3日が経っても予定されていたバリオさんからの定期連絡はなく、それを不審に思ったシーバットさんは法務局にザクロウの調査許可を求めていると通信で教えてくれたのだが、やはりそこは手続きに五月蝿い官僚組織、すんなりと許可が降りるわけではない。

 それに副官をザクロウに送っているユーリ君は我慢の限界が来たようで、その通信があってから此方に一つの作戦を持ち掛けてきた。発案者はイネス君だが、要は保安局が手間取るようなら此方でザクロウの不正の証拠を掴んでしまおうというものだ。彼曰くザクロウには不審な点が多く、それゆえグアッシュの幹部クラスを捕まえればザクロウの秘密を幾つか入手出来るのではないかということだ。

 

 サナダさんもその作戦に同意したこともあって、艦隊にとっても依頼遂行の上で役に立つと踏んだ私はそれを受けた訳だ。それで尋問と聞いてアップを始めた早苗が暴走して、大尋問官サマの降臨に至った訳だ。

 

 現在進行形で〈開陽〉の尋問室では早苗による取り調べが行われているが、今までの連中は雑魚ばかりでまるでお話にならなかった。その度に早苗が捕虜を気絶させるので、大尋問官サマの周りには死屍累々の山が築かれている。

 

「ま、待ってくれ!俺は何も知らない!」

 

「へぇ~そうですかぁ~。それでは仕方ありませんね。物分かりの悪い方には消えて頂くしか・・・」

 

「ひっ、ひいぃぃぃあぁぁ!!」

 

 恐らく何も知らないのだろうが、答えることを拒む海賊の頬を掠るぐらいの場所に早苗は光刀を突き刺し、脅しをかける。

 背後の壁が光刀の熱でジュワーっと溶ける音を聞いて、海賊は男にあるまじき情けない悲鳴を上げた。

 

「どうします?答えますか?それとも死―――」

 

「あ"あ"ぁぁぁッ!――――」

 

 早苗はくいっと顔を近づけて海賊に迫り、光刀が海賊の頬を焼く。

 そこで海賊の意識は限界を迎えたのか、ぷつんと事切れてしまったようだ。

 気絶した海賊は、情けなく白目を剥いてぽかんと口を開けている。

 

「あらあら、また気絶しちゃったみたいですね。男の人なのに情けないです」

 

「それは単に、お前が怖いだけだと思うぞ・・・」

 

 早苗はそんな海賊にやれやれと溜め息をついたが、一部始終を目撃していた霊沙がツッコミを入れる。

 

「えー、こんなにかわいい尋問官なんですよ?どうせならもっと大物っぽい台詞を吐いて口説くぐらいの気概は見せて欲しいですねー」

 

「自分のことをかわいいと言うのもどうかと思うけどな・・・」

 

 早苗のズレた回答に霊沙が呆れ気味に返す。かくいう私も、早苗の暴走具合には呆れを通り越して諦めの境地に入っているぐらいだ。

 この子はもう少し自重というものを知るべきではないだろうか。仮にもうちの統括AIな訳なんだし。

 

「早苗、もうその辺りにしておきなさい。次の海賊を探すわよ」

 

「えーっ、もうですかー!まだ足りないですよぉ~。大尋問官サナエちゃんの欲求はこの程度じゃ治まりません!」

 

 早苗は子供みたいに駄々をこねる仕草を見せるが、そこで何か思い付いたのか、意味ありげな視線を私に向けた。

 

「なんなら、霊夢さんでやってみますか?」

 

「へ?」

 

 こいつ、何を言っているの?

 

 早苗の言葉に私が戸惑っていると、彼女はそんな私を椅子に押し倒して、押さえつけるように上に跨がる。

 

「ちょ・・・あんたいきなり何してるのよ!?」

 

「だ~いじょうぶですよー。霊夢さんですから出来るだけ優しくしますって」

 

 早苗は右手で私の顎を掴み、左手にはさっきの光刀・・・ではなくナイフが握られる。

 

「ふふっ、霊夢さんを尋問・・・霊夢さんの白い肌に私の・・・・うふふふふふふっ―――」

 

「早苗っ、いい加減に――――!」

 

 ―――これは重症だ。手段と目的が逆転している。兎に角今はこの状況から脱出しないと。

 

「ちょっと霊沙!見てるくらいなら助けなさいよ!」

 

「へぇ、これが世に言うキマシって奴なのかー?大丈夫さ、そいつの事だから悪いようにはしないだろ」

 

 駄目だ。霊沙の奴は完全に傍観者に徹して楽しんでいやがる。あとで退治してやろうか?この私モドキめ。

 

「さぁ霊夢さん、覚悟―――!」

 

「あッ、ちょっと止めなさ―――」

 

 私が霊沙に気をとられているうちに、早苗がさらに圧迫を強めてくる。

 早苗が事を始めようと顔を近づけたところで、一通の通信が届いた。

 

《ブリッジより艦長へ、ブクレシュティより報告が入っています。至急艦橋までお戻り下さい》

 

 尋問室に、ノエルさんが私を呼ぶ通信の声が響く。

 報告の内容を気にする以前に、願っていた救いがやってきたことに私は心の中で安堵の溜め息をついた。

 

「―――そういう訳だから、降りなさい。早苗」

 

「ちぇっ、既成事実を作るいい機会だと思ったのに。仕方ないですねー、分かりましたよーだ」

 

 私が声の調子を低くして早苗に告げると、以外にも彼女はすんなりと降りてくれた。少し不穏な言葉もあったが、素直に従ってくれるとは、多少はいい子みたいね。

 

 早苗は文句たらたらの様子だが、私はノエルさんから呼ばれた通り艦橋に戻る。一応副官の早苗も、気持ちを切り替えたのか普段通りの様子で私の後に続いた。服は尋問官のままだけど。

 

「今戻ったわ。それで、報告の内容は?」

 

「はい、"ユーリ艦隊が証人と成りうるグアッシュ海賊団幹部を捕虜とすることに成功、これより保安局に向かう"との事です」

 

 ノエルさんはブクレシュティから届けられた通信を読み上げる。

 私がユーリ君の作戦に乗ったとき、ブクレシュティは連絡要員としてあちらに派遣しておいたのだ。私達の艦隊は主にガゼオン―ジーバ方面を担当し、ユーリ君の艦隊はドゥボルク―ザザン方面を担当するという話で纏めたので、何か進展があれば互いに情報を融通し合うという手筈になっている。

 

「彼にはブラッサムで落ち合うと伝えておいて。ショーフクさん」

 

「進路はブラッサムで宜しいですね。機関全速」

 

 私がショーフクさんに呼び掛けると、彼は命を察して艦をブラッサムへと向ける。

 

 さて、これで保安局が動けば漸く依頼達成も見えてくるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、惑星ザザン周辺~

 

 

 霊夢達が海賊狩りに勤しんでいる頃、ユーリ率いるグロスター級戦艦〈ミーティア〉を中心とした艦隊はグアッシュの幹部を求めてザザン周辺宙域を航行していた。

 惑星ザザンは鉱物資源が豊富で、それらを運び出す貨物船も多く航行している。それを狙ってグアッシュ海賊団の幹部クラスもこの宙域に足を運ぶという訳だ。

 

「ユーリ、間もなくセクター8に到着するわ」

 

「分かった。警戒を厳にしてくれ」

 

 レーダー手を担当していた緑髪の少女、ユーリの妹であるチェルシーが小惑星帯に到着することを告げ、グアッシュの待ち伏せを警戒するユーリは艦隊の警戒レベルを引き上げさせた。

 

「前も言ったと思うが、この辺りはグアッシュの幹部クラスが出る場所だ。今までのような雑魚とは訳が違うぞ、艦長」

 

「分かっているよ。だから霊夢さんだって援軍を寄越してきたんだろう」

 

 イネスに注意を受けたユーリは、オブザーバー席に座る金髪の青い軍服調の艦長服を纏った少女――ブクレシュティを一瞥する。

 彼女は一見人間に見えるが、その実艦隊の指揮能力を持った高性能AIである。だが、ユーリ達は彼女が殆ど人間にしか見えないこともあって、普通の人と同じように接していた。

 

「むぅ、しかし君のところの科学者も随分なモノを作ったもんだネ。どうだい、ここは一つ、わしの研究のために一度解剖させてはくれないかネ」

 

「しつこいわよ、お爺さん。乙女の中を覗き見ようなんてとんだ変態ね」

 

 ブクレシュティがここに来てから、彼女に感銘を受けたジェロウ教授との間でこんなやり取りがあるのも最早日常茶飯事だ。ジェロウは彼女の人工知能に大いに興味があるのだが、彼女が協力に応じることはない。

 

「これもいつの間にか日常みたいなもんになっちまったな~。なぁユーリ、あいつのこと、どう思う?」

 

 そのやり取りを見ていたユーリの悪友ポジションに収まっているトーロが、ユーリに耳打ちで尋ねる。

 

「どう思うって・・・有能な人だと思うけど」

 

「そうじゃねぇよ。あんな綺麗な姉ちゃんが居るんだ、何か思ったりしねぇのか?」

 

「綺麗って、確かにそうだけど・・・。まぁ、トスカさんとは違うタイプだなとは思うぞ」

 

「それだけか?」

 

「それだけも何も、彼女は霊夢さんから預かってるんだ。変な手出しはするなよ?」

 

「へいへー。おまえは相変わらず真面目だな」

 

「別に真面目で構わないだろ」

 

 トーロは期待したような答えが出なかったことに肩を落とし、大人しく席に戻る。

 

 普段はユーリの隣には活発で姉御肌なトスカが居たのだが、ブクレシュティはそれとは対照的に物静かで、大人しく紅茶を嗜んでいたりする。此方から絡めば応えてくれるが、彼女の方から積極的に絡むようなことはしない。

 そのため、〈ミーティア〉の艦橋の雰囲気は以前とは少し変わったものになっていた。

 

「艦長さん?さっきは何か話していたみたいだけど・・・」

 

「い、いえ。何でもありませんよ」

 

 珍しくブクレシュティに話しかけられたユーリが、先程の会話を誤魔化すように応える。その様子をチェルシーは面白くないものを見るような目で一瞥すると、レーダーの監視に戻った。

 

「・・・・ユーリ君、此方のレーダーに反応があるわ。距離17000、右舷前方1時の方向、上方13度の位置ね」

 

「!?っ、グアッシュですか?」

 

 ブクレシュティは一度口を閉じるが、暫くすると瞼を開け、自艦のレーダーが捉えた反応をユーリに教える。

 

「そうみたいね。反応はバゥズ級が1、バクゥ級3、タタワ級5隻ね。恐らくバゥズは幹部クラスの旗艦でしょう。私は取り巻きを引き受けるから、貴方達は旗艦のバゥズを狙いなさい」

 

「っ―――了解しました。全艦戦闘配備、目標グアッシュ小艦隊!白兵戦の用意も怠るな!」

 

 ブクレシュティの周りにはデータが並べられたリングが展開し、彼女は瞳を閉じて自艦隊の指揮に専念する。彼女の頬に青い線が迸り、ユーリ達は否応なく彼女が本来は人ならざるものだということを実感させられた。

 

 ユーリは意識を切り替え、艦隊に戦闘配備を命じる。同時に彼は、ブクレシュティが運用する艦との性能差も如実に感じていた。

 

 ―――此方はまだレーダーの探知範囲外なのにこの精度・・・やはり叶わないな。

 

 彼女がユーリ艦隊に合流した時も、彼女は配下の駆逐艦3隻を以てグアッシュ艦隊を翻弄し、自らの旗艦は動かさぬまま全艦撃破という様を見せていた。ユーリ達から見れば、それは個々の艦がまるで彼女から延びる糸で操られているようで、実力の差を思い知らされたと感じていた。

 

 画面外では、ブクレシュティの配下にあるアーメスタ級駆逐艦とアリアストア級駆逐艦の戦隊が加速を開始し、グアッシュ艦隊が潜む小惑星に強襲を掛けんとしている。駆逐艦が牽制の砲撃を放つと、小惑星の影から5隻のタタワ級駆逐艦が飛び出した。タタワ級は反撃を試みるがその前に小惑星に向かって撃たれたアリアストア級の大型対艦ミサイルが命中し、その破片でタタワ駆逐艦の半数は瞬く間に戦闘不能に陥る。

 

 一方、彼女が乗ってきた戦艦ほどのサイズがある蒼い巡洋艦はバクゥ級を射程に捉えると、それに向かって赤いプラズマ弾を連続して放ち、回避機動を行わせる暇も与えないまま一隻ずつ着実に撃沈していった。

 

「ユーリ、もう少しで敵の旗艦に取り付くわ」

 

「分かった。総員白兵戦の用意だ!」

 

 その間をユーリ率いる〈ミーティア〉と巡洋艦、駆逐艦は残されたバゥズ級に突撃し、一気に懐に飛び込むと敵艦を強襲し、グアッシュ幹部を捕らえるため白兵戦を挑む。

 

 .........................

 

 .....................

 

 ...............

 

 .........

 

 

「どうだ!?、海賊を捕らえたか?」

 

「ああ。こいつ、グアッシュ海賊団の中でも中々の幹部らしいぜ。おらッ、さっさと来いよ!」

 

 白兵戦の指揮を執っていたトーロがブリッジに帰還すると、ユーリは彼に駆け寄って成果を尋ねる。

 

 トーロはそれに答えると、拘束された一人の男を突き出した。

 

「ふんッ、このような年端もいかぬ小僧共に捕らえられるとは、このダタラッチもヤキが回ったものだ。言っておくが、ワガハイはなに一つ喋らんぞ?」

 

 トーロに突き出された細身で長身の男―――ダタラッチは余裕綽々とした態度でユーリに相対する。

 

「へぇ、なに一つ喋らないなんて、大した忠誠心だわ。それじゃユーリ君、始めましょうか」

 

「ええ――」

 

 そんなダタラッチの様子を見てもブクレシュティは特に気に留めた様子もなく、ユーリに事を始めるよう促す。

 

 ユーリは無言でダタラッチを見据えたまま、腰のスークリフ・ブレードに手を掛けた。

 

「むっ・・・?、ハッハッハ。なんだ、脅しのつもりか?小僧――――っああああぁぁぁぎゃああぁぁぁぁ!?」

 

 その様子を見てもダタラッチは余裕を崩さなかったが、ユーリが彼の左腕を無言で切り裂くと、ダタラッチは漸くユーリが本気であると悟り、悲鳴と共に冷や汗を流す。

 

「・・・脅しじゃありませんよ。大切な人を助けなきゃいけないんだ。できれば今のうちに、ザクロウについて知っていることを洗いざらい話してくれた方が有り難いですね」

 

 ユーリは氷のような瞳で、ダタラッチを射抜くような視線で見据える。

 

「あっあっ、あひっ・・・あひーッ!き、貴様っ、正気かぁッ!」

 

「・・・言ったでしょう、脅しじゃないって。こっちは時間がないんだ、できれば死ぬ前に、全部話してもらいたいですね」

 

 ユーリはそう告げると、次は先程斬ったのとは反対の腕を切り裂く。

 

「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!、きっ、貴様ぁッ?!、イカれてるッ、イカれてるぞぉぉお!?」

 

「・・・話してくれるまで切り刻み続けますよ?」

 

「ま、待てえっッ!分かった、言うっ、何でも言うぅぅぅぅぅッ!」

 

 ダタラッチもここにきて命の危険を感じ、自白に応じることを必死になってユーリに伝える。それを聞いたユーリはブレードを鞘に収めたが、それを見て安心したのか、その頃にはダタラッチは白目を剥いて気絶していた。

 

「あら、気絶しちゃったみたいね」

 

「少し・・・やり過ぎましたか?」

 

「いや、あれでいいわ。貴方の年を考えれば、海賊相手に舐められずに自白を強制させただけでも大したものよ」

 

「・・・・有難うございます」

 

「礼には及ばないわ」

 

 先程のユーリの振る舞いは、実はブクレシュティの入れ知恵である。ユーリが副官(トスカ)のことで思い詰めているだろうと思った彼女は、彼が焦りから怒りっぽく海賊に迫っても効果はないと断じ、出来るだけ冷酷に拷問しろとアドバイスしていた。

 この弱肉強食の宇宙では舐められたら終わりであり、実力を示す必要がある。なので冷酷に迫って力の上下を示せば、ユーリを侮っている海賊も自白させられるという寸法だ。

 

 その後ダタラッチが目を覚ますと、次はブクレシュティによる聞き込みで彼は洗いざらい知っていることを吐かされた。ユーリのことも忘れて彼女を少女と侮ったダタラッチが、どんな目に逢ったかなどは語るまでもないだろう。

 

 

 

「―――つまり、海賊団への指示はザクロウから出ている訳ね」

 

「ああ・・・そ、そうだ」

 

 ブクレシュティの無機質な声で発せられた確認に対し、顔面がボコボコになったダタラッチは怯えを隠しながらそれを肯定する。

 

「グアッシュ様にかかれば、ザクロウも安全な別荘という訳だ。オマケにさらった人間をあすこに送り込めば、たんまり資金も得られる。であるからして、ワガハイ達は金にはち~っとも困っておらんのだ」

 

 最初の余裕もどこへやら、ダタラッチは頼まれてもいないことまで洗いざらいブクレシュティに話す。

 

「成程・・・人身売買、それが資金源か」

 

「それで、送られた人間はどうなるんだっ!?」

 

 そのやり取りを聞いていたイネスは納得するように呟くが、副官がそのザクロウにいるユーリには気が気ではなく、焦りを含んだ声色でダタラッチに詰め寄る。

 

「ワガハイも管轄ではないからな、詳しくは知らぬ。ただ―――、ある程度、纏まった数が揃った時点で何処かの自治領に売り飛ばされるという話を聞いたことはあるぞ」

 

「なんだよ、それじゃあザクロウがグアッシュの本拠地みたいなもんじゃねぇか!」

 

「クッ・・・不味いな、すぐにトスカさん達を助けないと」

 

 ダタラッチの話でトスカが売り飛ばされる危険を感じたユーリは、すぐにでも彼女を助けなければと頭を回転させるが、そこにイネスが手を差しのべた。

 

「そう焦るな、ユーリ。こいつを連れて保安局に行こう。証人がいれば保安局もすぐに動く筈だ」

 

「そうか・・・よし、直ぐに保安局に向かうぞ、進路ブラッサムだ」

 

「了解!」

 

 イネスの助言を受けたユーリは、直ちに艦隊をブラッサムに向かわせるよう指示する。

 

 

 

 ―――艦隊が受けた依頼は確か大企業令嬢の救出だったわね・・・それなら少し不味いかも。

 

 一方、ブクレシュティは霊夢が受けていた依頼のことを思い出し、この時期にきては最早手遅れなのではという憶測が彼女の思考を過る。

 

 ―――考えるのは後ね。兎に角今は本隊にこれを伝えないと。

 

 彼女はその可能性を思考の片隅に追いやり、霊夢への報告となる暗号通信を作成し、それを〈開陽〉に向けて発信するよう自艦に命じた。

 

 ―――しかし、こうなるとザクロウに強襲上陸する必要が出てくるわね―――ふふっ、これから楽しくなりそう・・・・

 

 暗号通信を送信し終えたブクレシュティは、その人形のような表情の下で薄く笑う。

 

 彼女は人形のように変わらない表情の下で、確かな戦意を滾らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~監獄惑星ザクロウ~

 

 

 

 監獄惑星ザクロウに備えられた女囚用収監施設の一室に、彼女達は居た。

 

「・・・・もう3日になるけど、いつまでこうしているんだい?」

 

 床に腰掛けて壁を背もたれにしていた白髪褐色肌の女性――トスカは、入り口付近にもたれ掛かっている赤いバンダナを巻いた黒髪の女―――サマラに呼び掛ける。

 

「―――退屈したか?」

 

「いんや、ただ、いい加減監視体制も把握したんじゃないかってね」

 

 サマラはそんなトスカに対して飄々と返すが、トスカはそろそろ"動いてもいい頃"なのではとサマラに尋ねた。

 

「フッ、そうだな。ではそろそろ散歩と洒落込むか」

 

「目的地は?」

 

「管理棟だ。グアッシュの奴が居るとすればそこだろう」

 

 サマラはその言葉を鼻で笑うと、トスカの質問に答えながら自身の髪の毛の一本を抜き、唾をつけてキーロックに差し込む。

 

 その数秒後、ボンッ、という軽い爆発音と共にロックが破壊され、扉のエアが抜かれて開かれる。

 

「―――開いたぞ」

 

「ニトロストリング・・・昔と変わらないねぇ」

 

 サマラは扉の外側を見遣り、誰もいないことを確認すると廊下へと躍り出る。それにトスカも続き、二人は管理棟を目指して移動を開始した。

 




次回からはレッツパーリィーです。ブクレシュティ(アアリス)は強襲戦が楽しみで仕方ないみたいです。上陸戦ってなんだか燃えますよね。

今回は話の流れから原作沿いの会話が多くなっていますが、上手く霊夢達を絡められたでしょうか。

今まで散々暴れてきた早苗さんですが、次回以降も盛大に暴れてくれます。さでずむ降臨です(もう降臨しているかもしれませんが)


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第三九話 ザクロウ強襲

皆様お待ちかね、レッツパーリィのお時間です。海賊狩りたーのしー!


 ~惑星ブラッサム、宙域保安局~

 

 

「ううむ・・・まさかザクロウがそこまでグアッシュに牛耳られていたとは・・・」

 

 ユーリ君達が捕らえた海賊幹部を保安局に引き渡し、事の顛末を聞かされたシーバット宙佐が唸る。まさか自分達の同志が海賊に与しているなど、想像を越えた事態なのだろう。

 今回の会合もいつもの面子だが、ザクロウが敵の手にある以上、ここにもグアッシュの間諜が潜んでいるかもしれないので機密保持のためにはこれで構わない。シーバットさんの方も敵に作戦は漏らしたくないだろうし。

 

「メイリンさん、恐らく奪還対象も・・・」

 

「ええ、解っています。お嬢様方もザクロウに送られたと見て間違いなさそうですね。ですが、やることは変わりません」

 

「了解。まあ、殴り込む先が変わっただけだしね。そっちが是というなら私はそうするわ」

 

 ブクレシュティを経て入手した情報をメイリンさんに伝えたところ、彼女はすぐにザクロウに乗り込むと言ってきた。海賊が捕らえた捕虜がザクロウに送られていると判明した以上、奪還対象も同様にザクロウに送られているのだろう。ならばわざわざくもの巣をつつく必要はない。

 だけど今すぐザクロウに乗り込むわけにはいかないので、保安局と協調するようには言っておいた。あっちも一緒にザクロウに乗り込むみたいだし、あの防衛システムを突破するのにも数は多い方がいい。

 

「はい。よろしくお願いしますね」

 

 メイリンさんとの打ち合わせもこんなところだ。あとは保安局に合わせて此方も出撃するだけだが・・・

 

「宙佐、今すぐザクロウを強襲しましょう。バリオ達だけじゃない、もしも例の人物があそこに送られていたら・・・」

 

「うむ、法務局の許可を待っている場合ではないか。止むを得ん、第3、第9管域の保安隊、及び惑星強襲隊を呼集―――準備ができ次第、出港する!」

 

 ウィンネルさんとシーバットさんの話を聞く限り、恐らく保安局の方もすぐに動き出すようだ。なら、此方も早めに準備を整えるとしよう。

 

「ではユーリ君、霊夢さん。準備のほどを頼みたい」

 

「分かっています。こっちもトスカさんがザクロウにいますから」

 

「了解よ。そっちに合わせて出るわ」

 

「・・・すまないな」

 

 シーバットさんはやはり民間人を巻き込んだことに責任を感じているのか、今一度頭を下げる。まあ、こっちはこっちで勝手に首を突っ込んだだけだし、受けた依頼の手前引っ込むわけにはいかないのよね。

 

「別に気にしなくていいわ。私達は私達でやるべき事を成すだけよ」

 

 依頼というものは信頼が何より重要だ。いくらアウトローの0Gといえど、受けた依頼から逃げ出すなんて訳にはいかないし、シーバットさんが何と言おうとザクロウを攻め滅ぼすのは規定事項だ。という訳で、こっちは好きに暴れさせてもらうわ。

 

「君達には、本当に申し訳ない―――それと、ザクロウには防衛用の装甲空母が配置されている。そちらへの対策もしておいてくれ」

 

 シーバットさんの話ではザクロウ防衛艦隊には装甲空母とかいう代物が配置されているらしい。というかそれ、いつぞやに早苗が話していた欠陥空母のことよね。なら別に対策するほどでもない。本当の機動部隊とはかくあるべきと教育してやるだけで充分だ。

 

 

 という訳で、保安局で会合を終えた私達は各々の乗艦へと戻り、出港準備を進めた。8時間後には保安局も準備を終えたとのことで、私達とユーリ君、それにメイリンさんの艦隊は保安局艦隊と共にザクロウに向けて発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、監獄惑星ザクロウ付近~

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「昼間砲雷撃戦BGM」】

 

 

 保安局艦隊と合流して進撃する私達の目の前に、監獄惑星を満遍なく取り囲む衛星群の姿が現れる。

 短期間のうちに、またお目にかかりましたオールト・インターセプト・システム。監獄惑星ザクロウを外界と隔てる防衛システムだ。前回は遠目に見るだけだったが、今回はあれを突破しなければならない。さて、どうしてやろうか。

 

 《霊夢君、強硬突破するぞ》

 

「そう来ないとね。了解よ」

 

 シーバット宙佐が通信で突破の合図を送る。その後、左右に展開していた保安局艦隊から幾つものロケットがオールト・インターセプト・システムに向かって撃ち出された。話によるとあれは艦船のインフラトン反応に近いエネルギーを放出するデコイらしい。成程、あれを囮にして迎撃の火線を分散させるという訳か。

 

 オールト・インターセプト・システムには許可、即ちシステムを通過することを許された認証コードがない艦船を自動で迎撃する機能があり、それは身内の保安局艦船であろうと例外ではない。そしてその迎撃は探知システムがインフラトン反応などの高エネルギー体を感知して、それを頼りに搭載されたレーダーによって侵入者の正確な位置情報を捕捉し砲台にその情報が転送されることで、そこに目掛けて正確無慈悲なレーザーシャワーが降り注ぐという訳だ。一隻か数隻では忽ち蜂の巣にされてしまうだろう。

 しかし、一度に侵入した相手が多ければ多いほど、一つの反応に向かって撃てるレーザーの数は減る。先程撃ち出されたデコイはその反応をさらに水増しするので、本命の艦隊に到達できるレーザーの量は本来のそれとは比較にならないほど少ない。だが、それでも保安局艦隊にとって脅威であることには変わりはないだろう。

 

「早苗、私達も行くわよ。全艦、壁面陣形!」

 

「了解です、全艦壁面陣形!!」

 

 デコイを射出した保安局艦隊は、そのままの勢いでシステムの放つレーザーの雨へと飛び込んでいく。

 それでは、私達もあそこに飛び込むとしよう。私は艦隊に壁面陣形への隊列変更を命じ、早苗がそれを伝達すると、各艦はスラスターを吹かせて素早く所定の位置へと移動する。

 私がさっき命じた壁面陣形は、各艦を一枚の壁となるように配置するもので、縦に単横陣を積み重ねたような形をした陣形だ。あのオールト・インターセプト・システムは迎撃対象を見つければすぐにそこへとレーザーを集中してくるが、艦隊自体が一枚の壁となってぶつかることでその火線を分散させ、一艦あたりの被害を減らそうという算段だ。

 

「続いて此方も欺瞞用デコイとECMによる妨害を開始。システムを無力化しなさい」

 

「了解。デコイ射出します」

 

「電子妨害開始。敵、探知システムの無力化を試みます」

 

 保安局艦隊に続いて此方もデコイを射出して的を増やし、さらにオールト・インターセプト・システムのレーダーを無力化するための妨害措置を開始して照準を狂わせる。熱反応は隠しようがないが、照準用レーダーならば多少は妨害できる筈だ。

 

「進路そのまま。我々も間もなくあの中に突入する」

 

「こりゃ燃えてきたな。久々の地獄だぜ」

 

 舵を握るショーフクさんの手に迷いはない。〈開陽〉はそのまま、オールト・インターセプト・システムの影響圏内へと突入する。

 〈開陽〉に殺到する無数のレーザーを見たためか、フォックスがそんな言葉を漏らした。

 

「全艦、APFSの出力を最大にして。一気に突っ切るわよ!」

 

「了解ですっ!シールド出力最大!」

 

 機関長のユウバリさんが、APFシールドの出力を最大まで上げるべくレバーを全開にする。

 

 APF(アンチエナジー・プロアクティブ・フォース)シールドは強力なフォースシールドによって艦体を包み込んで敵のレーザービームの到達を防止するシステムだ。さらに複数の周波数に対応するためにフィールドを重複するようレイヤーを展開することで、多岐にわたるビーム固有の周波数に干渉してその出力を減衰させる。シールドの出力は艦船のインフラトン・インヴァイダーに依存するので、大出力機関を搭載する〈開陽〉のAPFシールドはそう簡単に破れるものではない。

 何度かレーザーの直撃を受けて〈開陽〉の艦体が揺れるが、オールト・インターセプト・システムの個々の迎撃レーザーは出力が低いのかその全てがシールドに弾かれる。あのシステムの本懐は一度に複数の火線を集中してくることにあるので、一門一門のレーザーはそこまで脅威ではないらしい。レーザーの出力自体も小マゼランの駆逐艦レベルだし、これなら突破は何とかなりそうだ。

 

「シールド表面に命中弾複数。シールド出力5%低下します」

 

「巡洋艦と駆逐艦には一部のレーザーが装甲板表面にまで到達しています。装甲外板の放熱を開始」

 

 しかし、〈開陽〉は図体がでかいだけに受けるレーザーの量も多い。殺到するレーザーの雨は、痛くはないが痒い程度の出力減衰をシールドに引き起こさせていた。

 加えて機関出力で劣る軽巡洋艦や駆逐艦にはシールドを通り越えて艦体に命中するレーザーもあり、バイタルは抜かないにしても装甲板の加熱を引き起こして強度を低下させる。それに対応するために、各艦はプログラムに従って装甲板の放熱措置を開始した。

 

 一方、先行したカルバライヤ宙域保安局の艦隊に目を向けてみると、3~5隻程度の梯団になって突入した彼等は此方よりシールド出力が低いせいか、より多くのレーザーに艦体表面を焼かれている。しかし、カルバライヤ自慢の特殊鉱物で作られたディゴマ装甲で身を固めた彼女達はそれをものともせずに進んでいく。これなら、あっちの心配も無用だろう。

 

「艦長、間もなくシステムの迎撃範囲を抜けます」

 

「そのまま気を抜かないで、敵艦隊の襲来に供えて」

 

「了解!」

 

 保安局と私達の艦隊はレーザーの雨の中を掻い潜り、遂に突破に成功する。此方の損害はいずれも小破未満だが、カルバライヤ保安局側の艦船には中破状態の艦がちらほら見える。ただ、沈没がないのは嬉しいことだ。

 そしてユーリ君の艦隊は幸運にも受けたレーザーの量が少なかったのか、カルバライヤ製ほど頑丈ではないエルメッツァの艦船を主体としていながらも損害は少ない。メイリンさんの〈レーヴァテイン〉も無事だ。頑丈なカルバライヤ製戦艦なだけあって損傷らしい損傷は見られない。

 

 何れも作戦続行には支障なさそうなので、シーバットさんの進撃の号令に合わせて私達もザクロウを一直線に目指す。

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「海空戦BGM」】

 

 

「艦長、ザクロウ方面より大艦隊発進。3つの小艦隊に別れつつ進撃してきます」

 

 丁度そのとき、レーダーを監視していたこころから報告が入った。

 

「艦種識別・・・・敵艦隊は装甲空母を中心とした機動部隊と判明。全体でダガロイ級装甲空母7、バクゥ級巡洋艦13、タタワ級駆逐艦20!」

 

「随分と打ち上げてきたわね。私達は一番規模のでかい敵を相手にするわよ。全艦戦闘配備!各分艦隊ごとに輪形陣を組め!本隊はこのまま砲雷撃戦の用意!」

 

「了解です!各艦に陣形変更を命令」

 

「第一戦速に移行、前進します」

 

「ブクレシュティは分艦隊後方で本隊と合流するように」

 

 《了解したわ。布陣は旗艦の前で良いわね》

 

 敵艦隊発見の報せを受け、私は隷下の艦隊に向けて即座に戦闘配備を命じる。そして戦闘に向けて陣形を組み直し、第一から第三分艦隊が本隊の前方に展開してそれぞれ輪形陣を組む。〈開陽〉を含めた本隊は空母〈ラングレー〉を後方に置いてブクレシュティの小艦隊と合流して前進し、〈ラングレー〉の周囲を3隻のノヴィーク(改造ガラーナ)級駆逐艦が固める。そして最後尾には工作艦を置き、それを軽巡2隻と駆逐艦3隻が護衛する。いつもの戦闘陣形とあまり変わらない形だ。艦が少ないので輪形陣は平面的になるが、前方に展開する分艦隊3隊の配置を上下にずらすことで迎撃網をより精密にする。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 此方に向かう装甲空母の数は4隻、その護衛にバクゥ級巡洋艦7隻とタタワ級駆逐艦12隻が随伴している。成程、相手も私達が誰なのか分かっているようだ。此方に一番戦力を差し向けるということは私達が一番の脅威だと理解している証だろう。だけど、その程度じゃあ不足だと知りなさい。

 

 というか、あの護衛艦共グアッシュの艦じゃない。いよいよ連中とつるんでる事を隠さなくなったわね。それだけあちらさんが追い詰められてるって証か。

 

「艦載機隊の発進を急いで」

 

「了解!全艦載機、発進せよ!集合次第敵艦隊への攻撃に向かえ!」

 

《アルファルド1了解っ!一番槍だ!》

 

《グリフィス1了解!》

 

《グリフィス2了解しました、発進します!》

 

《ガルーダ1、出るぞ》

 

 航空管制を担当するノエルさんが艦載機隊に命じると、威勢のいい返事と共に〈開陽〉のカタパルトから続々と機体が射出されていく。いつものことながら、霊沙のやつは我先にと突撃していく。

 あいつ以外の艦載機隊は〈開陽〉の前方で一旦集合して編隊を形成し、それから敵艦隊目掛けて進撃する。

 

「〈ラングレー〉、〈高天原〉艦載機隊も同様に発進。第一次攻撃隊が向かいます」

 

 〈開陽〉の後方では、艦隊最大の搭載能力を持つ空母〈ラングレー〉が4段ある飛行甲板のうち、最上甲板とその下の飛行甲板に艦載機を並べ、4基のカタパルトで攻撃隊を送り出していく。その機体は全てが無人戦闘機〈AIF-9V スーパーゴースト〉だ。

 前方に位置する〈高天原〉からは〈Su-37C〉〈T-65B〉戦闘機が発進する。

 

 そのスーパーゴースト隊も一旦艦の前で集合すると、5機ずつの梯団に別れて進撃を開始する。

 

「第一次攻撃隊92機、全機発進しました」

 

 早苗が淡々と報告する。此方が送り出した攻撃隊の内訳は、〈開陽〉艦載機隊の可変戦闘機〈YF-19 エクスカリバー〉が4機、〈YF-21 シュトゥルムフォーゲルⅡ〉が霊沙の一機に加えて無人仕様が3級、ステルス戦闘攻撃機である〈F/A-17S〉が12機、戦闘機は〈Su-37C〉12機の合計32機に加えてサナダさんが開発した警戒管制機〈RF-17〉が4機発進し、その背に積んだレーダーで攻撃隊をサポートする。

 〈ラングレー〉艦載機隊からは〈AIF-9V スーパーゴースト〉が20機、〈高天原〉艦載機隊の〈Su-37C〉と〈T-65B〉がそれぞれ20機ずつだ。その殆どが戦闘機であり、対艦攻撃力はそれほど高くはない。そして直掩機として、第一第二分艦隊のノヴィーク級からスーパーゴーストが5機ずつ、計20機が滞空する。

 

 攻撃隊の到着まで少し時間があるので他の艦隊に目を遣ると、保安局艦隊は次に規模の大きい装甲空母2隻を中心とした艦隊を相手取るようだ。あちらは空母がいないためか、巡洋艦と駆逐艦が肉薄せんと加速している。その少し後方では、〈レーヴァテイン〉がエネルギーを溜めている。恐らくあの長距離砲で保安局を援護するつもりなのだろう。

 

 そしてユーリ君の艦隊に向かうのは装甲空母1隻と、護衛にバクゥ級とタタワ級が2隻ずつついた艦隊だ。ユーリ君のサウザーン級巡洋艦と相手のダガロイ級装甲空母からそれぞれ艦載機が発進し、まさに空中戦を挑むといったところだ。

 

 さて、此方の戦況に目を戻してみると、相手のダガロイ級4隻から100機近い艦載機が吐き出されて此方に向かってくる。

 ダガロイ級装甲空母はカルバライヤが現在配備している唯一の空母で、全長680m程度の重巡洋艦サイズの艦だ。ただ、肝心の艦載機搭載数が20機程度とかなり低く、24機の艦載機を搭載できるバゥズ級重巡洋艦にすら見劣りする搭載能力だ。そのくせ火力はバゥズ以上にあり、装甲も戦艦並に堅牢という空母なのか戦艦なのか訳の分からない艦艇なのだ。早苗が空母としては欠陥と烙印を押したのにも頷ける。いっそのこと航空戦艦とでも名乗ればいいのに。

 しかし、100機という数はダガロイ4隻分を上回る数だ。あそこのダガロイ級は格納庫を拡張しているのかもしれない。だが、艦載機の数が同数になったところでも此方の勝ちは譲らない。

 

 相手のダガロイ4隻が吐き出した艦載機の内訳は戦闘機のビトンが40機、攻撃機のクーベルが60機といったところだ。独自の艦載機を持たないカルバライヤはエルメッツァの艦載機をライセンス生産しているのだが、その性能はうちのマッド共が仕上げたキチガイじみた機体とは比べるまでもない。それに同数で挑むというのだから、結果は火を見るよりも明らかだろう。

 

 先ずは射程の差を生かして此方のSu-37Cと有人戦闘機隊が対空ミサイルを一斉射、AWACSとして機能する〈RF-17〉のレーダーに捕捉された敵の位置情報が攻撃隊各機に正確に転送されるので、その精度は高い。最初の一撃を回避しようと敵は編隊を崩し、回避行動に入る。しかし発射したミサイルは1機につき2発、それが40機分あるので80発のミサイルが敵編隊に襲いかかる。当然全て避けきれる訳でもなく、20機ほどの敵機が宇宙の藻屑と化した。一方、数が減った敵のビトン隊も態勢を立て直すと対空ミサイルでの迎撃に移らんとする。しかし、そこに最大速度で飛び込んだ無人戦闘機〈スーパーゴースト〉の群に撹乱され、ミサイルを発射できたのは僅かに留まる。

 スーパーゴーストの群は無人機ならではの慣性を無視した想定外のハイマニューバで敵編隊に迫り、その背に搭載したレーザーポットを以て着実に敵を減らしていく。そこに霊沙やバーガー達の乗る可変戦闘機隊が突撃し、短距離ミサイルとパルスレーザーが飛び交う死のダンスが開催される。

 

《ひゃっはー、一機撃墜!》

 

《くそっ、負けてられるか!グリフィス1、FOX2!》

 

《隊長っ、競争なんて後にして下さいよ...っと、此方も一機撃墜!》

 

 無線からは航空隊の面々が漏らす声が聞こえてくる。彼等が派手にやっているお陰で、敵攻撃隊の数は瞬く間に減っていった。まさに鎧袖一触というやつだ。性能差もさることながら、やはり適切に脅威認定を下す管制機の存在も大きい。さらに、敵は戦闘機が約40機なのに対して此方は全てが戦闘機だ。敵のビトンが押さえられなかった分はそのまま攻撃隊のクーベルを引き裂く。

 遮蔽物がない宇宙という空間の特性上、戦力集中の原則がもろに適用され、敵編隊は数を減らせば減らすほど加速度的にその速度は増していく。

 

 敵編隊を葬った第一次攻撃隊はそのままの勢いで敵艦隊に取りつき、対艦ミサイルと機銃掃射で敵艦の戦闘能力を奪っていく。ついでに耐えきれなくなったタタワ級2隻が轟沈した。

 

《いよっし、一隻撃沈だ!》

 

《クソッ、先を越されたか!》

 

《二人ともそこまでだ。そろそろ帰艦するぞ》

 

《チッ、仕方ねぇな》

 

 タリズマンに窘められた霊沙とバーガーは大人しく帰路についたみたいだ。さて、第一次攻撃隊によるお膳立てはここまで。次が本命だ。

 空母〈ラングレー〉の甲板には第一次攻撃隊が発進した後、別の機体が並べられていた。

 

 見慣れたいつもの〈AIF-9V スーパーゴースト〉が10機ほどあるが、あれはただの護衛機。第二次攻撃隊の主力を担うのは別の機体群だ。

 一方は鋭いラインの機首を持ち、その横にはインテーク状に張り出したランチャーが装備されている。翼は逆ガルウィングで半固定の脚が折れ目に付けられており、斜めに装備された2枚の尾翼の下には双発のエンジンがある。

 もう一方の機体は丸いずんぐりとした機首を持ち、その後ろには2つのキャノピーと旋回銃座が装備されている。主翼は高翼配置の逆ガル翼だが、主脚は引き込み式だ。垂直尾翼はあるが、水平尾翼はない無尾翼機だ。機体自体も前者に比べて1、5倍以上はある大型機で、その迫力も違う。

 前者の機体が〈空間艦上爆撃機 DMB-87 スヌーカ〉、後者が〈空間艦上雷撃機 FWG-97 ドルシーラ〉。また性懲りもなくサナダさん達が作っていやがったこの機体達が、第二次攻撃隊の真打だ。

 

「〈ラングレー〉より第二次攻撃隊、発進!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 その機体群は第一次攻撃隊が帰路についたところで甲板を滑り出し、カタパルトで射出される。集合して編隊を組んだそれらの機体は、遮るものがいない敵艦隊への道を悠然と進んでいく。

 

 これらの機体群は何れも対艦攻撃力が高いが、その分機動力が低い。ビトン程度でもある程度は撃墜されてしまうだろう。だが、第一次攻撃隊に戦闘機を集中させることで敵機動部隊の戦闘機を封殺し、無傷の攻撃機は第二次攻撃隊に集中させることで攻撃機の犠牲を押さえる。これが私達が立てた対機動部隊用の戦術だ。まさか敵が艦載機を全部吐き出すとは思わなかったけど、お陰で上手くいきそうだ。

 

「第二次攻撃隊52機、敵艦隊へ向かいます」

 

 第二次攻撃隊の内訳は護衛のスーパーゴーストが12機にスヌーカとドルシーラが20機ずつ。その凶刃は間もなく降り下ろされる。

 

 敵を射程に捉えたドルシーラ隊は、搭載された簡易自立AIが適当な位置にいる敵艦を捕捉して、そこへ機首に抱えた魚雷を撃ち込む。機首を丸ごと使って搭載された大直径魚雷の威力はそこら辺の対艦ミサイルの比ではなく、僅か2発で真っ先に狙われたタタワ級駆逐艦が蒼い火球と成り果てた。

 続いてパルスレーザーの射程外の高度を飛行していたスヌーカ爆撃機隊が敵艦隊上空に差し掛かると、敵に残された僅かな対空弾幕をものともせずに急激な角度で敵艦に迫り、翼下に搭載した爆弾とミサイルの雨をバクゥ級とダガロイ級に叩きつけ、残された武装とブリッジを破壊する。そして重たい荷物を下ろして身軽になったスヌーカ達は先程の戦闘機隊と同じように敵艦の周りを飛び回り、機首のロケットランチャーと翼内機銃で生き残ったタタワ級を穴だらけにしていく。

 そして止めに残りのドルシーラ隊がダガロイ級に殺到し、両舷2発ずつ、合計4発の宇宙魚雷を食らわせる。流石の装甲空母といえど大直径の宇宙魚雷を受けては只では済まず、4隻のダガロイ級はインフラトンの火球と成り果てるか、真っ二つに折れて轟沈した。

 

「第二次攻撃隊、戦果絶大!此より帰艦します」

 

 役目を終えた機体達は身を翻し、母艦へと帰艦する。

 

「よし、続いて残敵掃討に移るわよ。〈開陽〉と〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉を艦隊より分離して」

 

「了解です」

 

 後は生き残った護衛艦に対して、戦艦と重巡洋艦による砲撃戦が展開される。

 

「射撃諸元入力完了、発射角調整、撃てっ!」

 

 フォックスが引き金を引くと、〈開陽〉の三連装主砲3基から青白いレーザービームが放たれ、寸分の互いなく敵のバクゥ級とタタワ級に命中する。続いて〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉の2隻からも生き残りの艦にレーザーが向けられ、抵抗手段を奪われた敵艦隊は一隻残らず殲滅された。

 

「敵全てのインフラトン反応拡散、全滅です!」

 

 珍しく勢いのいいこころの声が響く。これで、此方に向かってきた敵の艦隊は殲滅した。だが、他はどうだろうか。

 私は他の戦線に目を移してみたが、どちらも味方が有利に進めているようだ。

 カルバライヤ保安局は空母こそないものの、肝心の上陸部隊が乗る強襲揚陸艦を護りつつ、統率が取れていない装甲空母とグアッシュ艦を各個撃破していく。装甲空母が放った艦載機はメイリンさんの〈レーヴァテイン〉から発進した戦闘機隊によって押し止められているので、艦隊の空は安全だ。本来ドーゴ級戦艦は艦首に超遠距離射撃砲を持っているのだが、〈レーヴァテイン〉はそれを撤去して艦載機カタパルトを設置しているようだ。さらに、装甲空母の艦載機を相手取る片手間に例の長距離砲で護衛艦を着実に沈めている辺り、実に抜かりない。

 

 一方のユーリ君達はというと、いつのまにか何気に戦闘を終わらせていたりする。最初の航空戦を制した後は、いつもの要領で敵の外堀から沈めて、最後に装甲空母を撃沈していた。あれは単純に敵艦隊との実力差だろう。若い彼ではあるが、幸運の要素があれども今まで海賊相手に死線を潜り抜けてきた実力は伊達ではないといった所か。

 

《・・・全員、無事かね?》

 

 そこで、戦闘を終えたシーバットさんから通信が届く。

 

《此よりザクロウに進撃する。上陸戦の準備をしてくれ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~監獄惑星ザクロウ上空~

 

 

【イメージBGM:World of Warshipsより「Forlorn Outpost」】

 

 

 ザクロウからの迎撃艦隊を下した私達は、そのまま目的地である監獄惑星へと艦隊を進めた。見えてきたのは、岩石に覆われた、砂色と僅かな緑が見える不毛な惑星だ。あれが、例の監獄惑星ザクロウだろう。

 

 上陸戦の先鋒を務めるのはカルバライヤ宙域保安局だ。彼等が持ち出してきた500m級巡洋艦サイズの、艦首を挟むように切り離し型HLV4基を備えたグルカ級強襲揚陸艦3隻がザクロウの低軌道上に侵入すると、HLVを保護するカバーを開いて、軌道エレベーターの基部に向けてそれを射出する。

 撃ち出されたHLVは大気圏との摩擦で赤く輝きながら惑星へと降下し、一定の高度に達すると減速を始める。

 

「私達も負けてられないわね。早苗、準備はできてる?」

 

「はい!準備万端ですっ!」

 

 私の問いに早苗は威勢よく答える。此処からは、ファズ・マティ戦の焼き直しみたいなものだ。

 

「艦隊の指揮権をブクレシュティに移譲、本艦は此より、監獄惑星ザクロウへの強襲上陸作戦に入る!」

 

 保安局艦隊に続いて〈開陽〉と〈サクラメント〉の両艦が降下し、大気圏内に突入する。その間、私を含めた上陸部隊は強襲艇に乗り込み、出撃の時を待つ。

 

《射出高度に到達、全機発進して下さい》

 

 ノエルさんのガイド音声が響くと、ガクンという衝撃と共に強襲艇が〈開陽〉を離れ、地上を目指す。

 機外には、惑星特有の青空が広がっていた。

 

《地上までの案内役は、俺達に任せな!》

 

 その横を、バーガー達を始めとした航空隊が往く。彼等は上陸部隊に先行して惑星に降り立ち、敵の戦闘機と対空砲台を排除する。

 

 強襲艇はしばらく飛行を続けながら高度を落とし、航空隊が切り開いた道を進んでいく。そして目的地に到着したところで、腹に詰め込んだ兵員と戦闘車両を下ろしていく。

 私達が降下したのは、軌道エレベーター基部からそれなりに距離のある監獄施設だ。

 

「なっ、何だあいつら!」

 

「こんなの聞いてねぇぞ!」

 

 施設の方でバリケードを作っていた局員達が愚痴を溢す。よく見ると、連中の中には海賊も混ざっているみたいだ。

 

 ―――ははぁ~ん、成程ね・・・

 

 監獄ぐるみでグアッシュと通じていたというのは、嘘ではないらしい。悪事に手を染めた監獄職員達は、潜入していたグアッシュの団員と共に戦う気のようだ。

 これなら、遠慮はいらないだろう。

 

「総員、兵装をパラライザーモードに!蹂躙しなさい!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 私達はM61重戦車を先頭に立て、敵のレーザーを弾きながら前進する。その車体後方には保安隊員達が乗り込む。所謂タンクデサントというやつだ。戦車の砲撃でバリケード前に盛大な土煙を立てさせるとそこへ、関節に干渉しないよう配置されたアーマーと黒い防弾インナーを着込んだフル装備の保安隊員が雪崩れ込み、パラライザーモードのブラスターで敵を次々と気絶させていく。

 

「クソッ、撤退、撤退ぃ~っ!」

 

 状況は不利だと悟ったのか、敵の一人が退却を呼び掛けて施設内に逃げ込もうとする。

 

「うふふっ、させませんよ・・・・!」

 

 彼等の行く先に一機の強襲艇が腹を向けて着地し、降下用の扉が開く。

 排熱の蒸気と共に現れたのは、背後に機動歩兵達を従え、赤い光刀を滾らせた早苗の姿だ。勿論、大尋問官サナエちゃんである。

 

「な、なんだぁ?女か―――」

 

 逃げ出した男の一人が侮るような声を出したが、その次の瞬間には、彼は宙を舞っていた。

 早苗は光刀を振るい、非殺傷の制圧モードで彼を吹き飛ばし、宙を舞わせたのだ。

 

 ドサッ、と舞った男が地面に落ちたときには、彼の意識は沈黙させられていた。

 

「さぁ、次はどなたですか~?」

 

 早苗は挑発するような目で逃げ出した敵を見据え、光刀をかざす。彼女の瞳はいつの間にか、何時もの緑色から琥珀色へと変わっていた。

 

「私、うずうずしちゃいます―――――海賊退治って、楽しい―――!!」

 

「「「ひっ、ひぃぃぃあぁぁぁっ!!」」」

 

 早苗はそう告げて、舌舐めずりをして見せる。傍目から見れば、私ですら惹き込まれそうなほど蠱惑的な表情。

 だが、敵にとってそれは獲物を前にした捕食者の表情でしかなく、恐怖を決壊させた悪人共は我先にと争うように逃げていく。

 

「・・・逃がしませんって、言いましたよね?」

 

 しかし、それを許す早苗ではない。

 彼女は人ならざる義体の潜在能力をふんだんに引き出し、跳躍する。逃げる集団の前に降り立った彼女はナノマシン制御で左肘から下を変形させ、巨大なガトリングガンを形成する。その重量を支えるために、右手に持つ光刀は一旦収納されて空いた右手で左手のそれを掴んだ。

 

「一応パラライザーモードですけど、痛いですから我慢して下さいね♪」

 

 早苗は一転して可愛くウィンクしてみると、ガトリングガンが回りだし、意識を刈り取る制圧用レーザーが絶え間なく逃げる集団に降り注ぐ。

 傍目からみればかなりヤバい光景だが、スコープで覗けば敵のバイタル自体は無事だと表示されているし、言い付け通り非殺傷で制圧しているようだ。なら、一応安心しても良いのかな?

 

「――――ふぅ、悪は滅びました。善行を積むのは心地が良いです」

 

 逃げた集団が全て地面とキスを交わしたのを確認すると、早苗はガトリングを止めて元の腕に戻す。

 

「なぁ」

 

「俺達、来た意味あったか?」

 

 私の後ろで、茫然と単騎無双を眺めていたエコーとファイブスが呟いた。

 

 ―――悪人退治は確かに善行でしょうけど、一見すればあんたの方が悪人に見えるわよ・・・

 

 そんな私の心の呟きなどまるで聞こえないとばかりに、早苗はいつもの笑顔で駆け寄ってくる。

 

「制圧完了しましたっ!ささ、奥へ急ぎましょう!」

 

「あー、はいはい、分かったわ。エコー、何人かここに残してそいつら縛っておきなさい。起きるとまた面倒だし」

 

「イエッサー!」

 

 早苗が施設内へ進めと催促してくるが、先ずは制圧したグアッシュ団員共を無力感しておくのが先だ。エコーが何人かに命じて倒れている男共を拘束ロープで縛り終えたあと、私達は施設内へと侵入する。

 

《―――艦長、聞こえますか?》

 

「ミユさん?何かしら」

 

 移動を開始したところで、私の下に艦に残ったミユさんから通信が届いた。

 

《保安局の軌道降下部隊が苦戦しています。此方に援軍を求めていますが―――》

 

「そう。ならブクレシュティに言っておきなさい。それで解決するわ」

 

《――了解しました》

 

 ミユさんは私の意図を察したのか、それ以上は何も言わない。

 しかし、保安局が苦戦するなんて、あそこの敵戦力はかなりのものらしい。私達が収監施設前を強襲したのもそこからの援軍を阻止するためなのだが、これでは逆に此方が包囲される恐れがある。何とかして、風穴開けさせないと不味そうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~強襲巡洋艦〈ブクレシュティ〉~

 

 

 保安局のグルカ級に合わせるようなコースで、それは監獄惑星ザクロウへの降下を続ける。

 青と藤色の艦体に黄色のラインが引かれたそれ―――強襲巡洋艦〈ブクレシュティ〉は、一定の高度に達すると、惑星の自転に合わせるように速度を調節し始めた。

 

 自らの位置を調節し終えた彼女は、その下部にある3基のシャッターを解放した。

 

《HLV降下シーケンス、最終段階ニ移行―――》

 

 無機質な機械音声が響く。

 艦橋に一人座る金髪の少女―――ブクレシュティは、紅茶のカップを静かに置いて、僅かに口角を吊り上げた。

 

《ヘルジャンパー、スタンバイ。ODST投下準備完了》

 

 その報告を待っていたかと言わんばかりに、彼女は目を見開く。

 

「HLV、投下。"地獄"を創りなさい」

 

《了解。HLV投下シマス。一番カラ三番マデ射出》

 

 彼女は台詞と共に指を弾き、にやりと嗤う。

 

 これから地上で繰り広げられるであろう蹂躙に心を踊らせながら、彼女は自身の半身たる〈ブクレシュティ〉を軌道から離脱させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~監獄惑星ザクロウ~

 

 

 

「おいっ、あれを見ろ!」

 

 軌道エレベーター付近で戦っていた監獄職員の一人が、空を見上げて叫ぶ。

 

「いいから前に集中しろ・・・って、まさか保安局の増援か!?」

 

 別の男が彼を窘めようと声を掛けるが、彼が指した先を見上げて事態を悟る。

 

 彼等の頭上には、赤い炎の尾を引きながら超高速でザクロウに迫る3つの物体があった。紛れもなく、HLVである。

 しかも、そのHLVは通常行われるであろう減速を殆ど行わず、それ自体が質量弾と化して彼等の背後にあった物資集積所付近に着弾し、盛大に衝撃と土煙を巻き起こした。

 

「ゲホッ、ゲホッ・・・ぅう・・・大丈夫か?」

 

「ああ、何とか・・・」

 

 土煙が晴れるより先に、男達は同僚の無事を確かめる。

 

「こっちもだ――――お、おいっ、あれは何だ!?」

 

 だが、それが降下した時点で、既に彼等の運命は決定されたも同然だった。

 

 一人の男が土煙の中に影を確認したのと、影がパラライザーモードによる無慈悲な制圧射撃を開始したのはほぼ同時だった。

 

「ぐわっ・・・」

 

「ぎゃぁっ―――」

 

「ぐっ・・・」

 

 訳も解らぬまま、保安局と対峙していた彼等は意識を刈り取られていく。

 土煙の中から現れたのは、高さ2mはあろうかという、両手にガトリングレーザー、背に迫撃砲を備えた鉄鎧の集団だ。これこそ、〈ブクレシュティ〉から投下された軌道降下用に改装を施された機動歩兵、ODSTの集団だった―――

 

「な、何・・・だと・・・・」

 

 最後に立っていた男も、周りに倒れる仲間と同じようにレーザーの雨に晒されてその意識を失った。彼が次に目が覚めたのは、冷たい牢の中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、ODST隊が保安局と合同で軌道エレベーターを占拠したようです。保安局主力と例の少年が地上に向かいます」

 

「分かったわ。ここで一旦、陣地を整えましょう」

 

「了解です。隊長!艦長より陣地構築命令です!」

 

「おお、そうか。よし野郎共、陣地構築だ!急げ!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 エコーが号令を掛けると、保安隊員達は歩を止め、携帯型簡易司令部を組み立て、塹壕を掘り始める。

 

 私達はザクロウに降り立った後、強襲艇によるCAS(近接航空支援)と重戦車の装甲を盾に海賊に与する監獄職員共を蹂躙しながらここまで進撃してきた。勿論、シーバットさんからは無実の職員もいるだろうから兵装はパラライザーモードでと念を押されているので、無闇な殺生は行っていない。

 ちなみに航空支援は主に粘着爆弾で行われたので、私達が通った後には粘着物質に身を絡められて身動きできない連中が大量に放置されている。私達だけで監視するには手に余る数だし、逮捕は後続の保安局に一任だ。

 

 監獄施設に突入してしばらく経つが、監獄とはいっても労働場所となる鉱山や監視施設など幾つもの施設からなっている。囚人の収監施設までの距離もまだまだだ。そこで、あちらさんが軌道エレベーターを制圧したとのことなので、この場所を拠点として保安局本体との合流を図ることにした。私達だけ突出しても、戦術的に不味いからね。

 

「霊夢さん、これがシーバットさんから渡された監獄施設の地図になります」

 

 完成した簡易司令部の机に早苗が地図を広げる。勿論紙ではなくホログラムだ。

 

「此所は西棟と東棟の丁度中間地点か・・・確か西棟が女性囚人の収監施設だったな。奪還対象とトスカさんってのは、恐らくそこだろう。」

 

「ならバリオさんは東棟かしら。でも、確かこの先には管理棟があったわね・・・敵の親玉がいるならそこでしょう」

 

 私とエコーは今後の方針について議論を交わす。私達が持ち込んだ戦力はそれほど多くはない。機動歩兵も保安隊も個々の実力は強力だが、なにぶん数が少ない故に複数に分かれて行動するというのにはやはり不安が伴う。私が単騎無双すれば済むかもしれない話だけど、スカーバレルの一件で心配を掛けた手前、単独行動は憚られる。

「やっぱり一度保安局との合流を待ちましょう。それから各施設に人員を派遣して―――「敵襲―――っ!」」

 

「な、何ッ!」

 

「艦長、敵機です!早く避難を!」

 

 そこに、双眼鏡と法螺貝を持った椛が大声で叫びながら入ってくる。

 彼女は元々モフジだったのだが、マッド共のせいで人化した半獣だ。なので装甲服もそれに合わせた特注のものになっている。それに、モフジは目の良い動物らしく、その性質は椛にも受け継がれており、彼女は常人よりも遥かに視力が優れているらしい。人呼んで「千里眼の椛」と仲間内で言われているそうだ。こんなところまで、知り合いの名前を貰った白狼天狗に似てるのね―――――っと、こんな場合じゃないわね。

 

「ゲパルトを前に出して。それと航空隊に援護要請を!」

 

「了解ですっ!」

 

 早苗は素早く〈開陽〉のコントロールユニットに接続して待機していた戦闘機を差し向けさせる。敵機は殆ど航空隊の事前掃討で排除していた筈だけど、まだ生き残りがいたみたいだ。

 保安隊員達も2門のレーザー機銃と管制レーダーがついた対空戦車ゲパルトに乗り込んで敵機の迎撃を試みる。

 

 此方に接近してきた敵の航空機は3機、だがそのうち2機が急行してきたSu-37一機によって撃墜され、残る一機もゲパルトの対空射撃によって撃退された。

 何とかさっきの空襲は凌げたようだ。

 

「ふぅ、撃退できたみたいね・・・」

 

「はい。あっ、霊夢さん、保安局から連絡です。あと40分ほどで此方に合流できるみたいですよ」

 

「それは朗報ね。それまではこの拠点を維持するわよ」

 

「「「了解!」」」

 

 襲撃を撃退した後は、いよいよ本丸に攻め込むために保安局とユーリ君達の合流を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから50分ほどが経ち、漸く合流したユーリ君達と保安局の部隊と共に東西の収監施設へ進撃した私達なのだが、結論から言うと外れだった。東棟にはやはりバリオさんが閉じ込められていたみたいなのだが、西棟にはトスカさんに、奪還対象の姿も無かったのだ。メイリンさんを連れて確認してもらったから、たぶん間違いはないと思う。これで、残る敵の拠点は管理棟だけどなった。

 そしてバリオさんの話では、ここの所長は海賊とつるんでいたらしい。そいつは管理棟に閉じ籠っているらしいから、早く管理棟に着いて加勢しておこう。

 

《――――うそ・・・ライじゃないの!》

 

 そこに、意図していなかった人物の会話が流れ込む。

 

《ねぇ、ライ、ライなのね!》

 

《ん、―――ああ、リアか。久しぶり》

 

 声からすると、女の人はうちで雇ったリアさんみたいだけど・・・もしかして、相手の男って前話していた恋人さんなのかしら?発見の報を受けて飛んできたとか?

 というかこの映像、何なのさ。

 

《っ!久しぶりじゃないでしょ!何そのフツーの挨拶!ライ、なんであんたこんなところに居るのよ!》

 

 リアさんは大声で相手を責め立てているみたいだが、あれが恋人だとしたら、いきなり居なくなった上にあの返事じゃあ・・・堪忍袋の緒も切れるわよね。

 

《家に男が来て・・・好きなだけインターセプト・システムの研究をさせてやるって言うから―――》

 

《それでノコノコここまで来たってわけ!アンタ、ここがどこだが解っているの!!》

 

《う~ん、そういえばどこなんだろう・・・よく分からないけど、男の言うとおり良い場所だよ。すごく設備が充実しているし、幾ら機材を使っても怒られないし》

 

《・・・っ、この研究ヲタク!いきなり居なくなるから私、すごく心配したのよ!!連絡くらいくれたって良いでしょ!?なんで急にいなくなったりするのよ!》

 

《あ・・・・あ、ああ~、解ったぞ、つまりきみは、僕が黙っていなくなるから怒っているんだね?》

 

 通信越しでも分かるが、リアさんの彼氏って人、すごく駄目な人みたい。こんなのと付き合ってるなんて・・・ほんと物好きねぇ。

 

《だからさっきからそう言っているだろうがああぁぁぁ!?》

 

《お嬢さん、落ちつい―――グギャアッ》

 

《ふごっ》

 

 直後、映像を映していた端末越しに男二人の悲鳴が響き渡る。片方は当然ながらリアさんの彼氏さんからはだが、もう片方は止めに入ったエコーの声だ。こんな茶番に付き合わされる辺り、彼も運がないみたい。

 

「―――痴話喧嘩は以上です!」

 

「―――早苗、覗きは良くないわ」

 

 ところで、あの映像を表示した下手人は早苗だったようだ一体何の目的があってあんなものを映したのやら・・・

 

「・・・兎に角、先を急ぐわよ」

 

「えぇ~、面白くないんですか~?」

 

「何処が」

 

 後ろでなんか言っている早苗を無視して、私は管理棟へ進む。

 人の痴話喧嘩なんて見ていて楽しいものじゃないしね。ある意味愉快かもしれないけど・・・

 

 

 

 

 

「後は、この管理棟だけね」

 

「ああ、さっさと済ませちまおうぜ」

 

「お嬢様・・・」

 

 さて、いよいよ親玉のいる管理棟の前に着いたわけだが、そこにはここを守ろうとして一歩も引かなかった監獄職員達が気絶させられていて山積みになっている。本来はカルバライヤ保安局が突入していたのだが、早苗が乱入して単騎無双という訳だ。保安局が見てる手前色々不味いかもしれないけど、今は攻略が先だ。

 

 私とファイブスは管理棟の前に立って入り口を抉じ開けるところだが(エコーは分隊を率いて東棟攻略に向かっている)、メイリンさんは弱々しく呟く。さっきの西棟で奪還対象がいなかったからだろうか。

 

「・・・それじゃあ、行くわよ」

 

 私が腰のスークリフ・ブレードを抜いて扉を一刀両断する。そこに待ち構えたであろう敵の攻撃を受け流すために、事前に「夢想天生」を発動しておく。此方はパラライザーモードの縛りはあるが、弾幕ごっこと違ってこれは命懸けの戦いなのだ。前回のような轍は踏まない。

 

 だが、想定していた火線は一条たりとも降ってこない。

 

「あ・・・れ?」

 

 てっきり扉を切り裂いた途端レーザーの雨がお出迎えかと思ったのだが、予想に反して管理棟の中は静寂に包まれていた。

 

「敵がいませんね・・・」

 

 早苗もそれを不審がって、通路を覗き込む。私が入っても迎撃の気配すらない辺り、入り口にいないだけという訳でもないらしい。

 

「・・・ブービートラップの類いも見つからないな」

 

 ファイブスは赤外線スコープなんかを使って罠を警戒しているが、それもないらしい。そうなると、逆に怪しさだけが増していく。

 

「今は所長室に行きましょう。親玉を捕らえるのが先よ」

 

「了解っ」

 

 私は早苗、メイリンさんにユーリ君達とエコー以下保安隊を連れて、屋内図の案内を頼りに所長室へ真っ先に乗り込む。

 しかし、紫色の気味が悪い所長室は意に反してもぬけの殻だった。

 

「あれ、誰もいないぞ?」

 

 開口一番、疑問を口に出したのは、ユーリ君の仲間であるトーロ君だ。

 

「なら他を当たろう。みんな―――「待って」」

 

 それを見たイネス君が所長室を去ろうとするが、私はそれに待ったをかける。

 

「霊夢さん?」

 

 私の制止の意図が理解できないのか、イネス君は首を傾げた。

 

 ―――まぁ、あんた達はそこで見ていなさい・・・

 

 私は再び腰の刀を抜き、部屋の一角に立つ。そして目の前の壁を切り裂いた。

 

「―――当たり」

 

「か、隠し通路ですか!?」

 

 目前には、人一人が通れる程度の細い隠し通路が続いている。中は暗く湿っていて、時々水滴が垂れたりしている。不気味で気持ち悪い通路だ。

 

「たぶん、所長が逃げ込んだ先に通じているんでしょう。行くわよ」

 

「えー、こんな気味悪いところにか?」

 

「ほら、ぐずぐずしない!」

 

 トーロ君は嫌がってるみたいだけど、それをティータさんだっけ?が押す。こういうところ、彼は苦手なのかもしれない。

 

「とにかく入ろう。この先にトスカさんが居るのかも」

 

「そうですね。お嬢様のことも心配ですし、先を急ぎます」

 

 ユーリ君とメイリンさんは焦りがあるのか、我先にと通路を進んでいく。

 

「―――それじゃあ早苗、行くわよ。ファイブスもついてきなさい」

 

「了解ですっ」

 

「イエッサー」

 

 私も早苗とファイブスを従えて、隠し通路の中へと身を沈めた。

 

 

 

 

 隠し通路は一本道で、右へ左へと蛇行しながら奥へと続いていく。途中で脇道とかも無かったし、私の勘もそれがあるとは告げていなかったので、私達はそのまま奥へと進んだ。

 途中で罠なども警戒したのだが、その類いは一切無かった。所長が使ってから、仕掛ける時間もなかったのかもしれない。

 ややあって、薄暗く広い場所に出た。ここが終点だろうか。

 

「ユーリ見て、あそこに誰か座っている人がいる!」

 

「まさか、トスカさんか!?」

 

「お嬢様っ!?」

 

 そこでティータさんが何かを見つけたようで、その言葉にユーリ君とメイリンさんが反応する。周りが薄暗いので、人影の詳細が分からないあたり可能性を引き立ててしまうのだろう。

 

「トスカさん!トスカさん!!トスカさ―――」

 

「お嬢様っ!サクヤっ――――」

 

 しかし、早苗がライトで照らしてみると、件の人影はどれとも違うものだった。

 

「うわあああっ!」

 

「ひゃっ―――!」

 

「きゃあああっ!」

 

 順に、ユーリ君、メイリンさん、チェルシーさんの悲鳴だ。一番年上であろうメイリンさんが一番落ち着いているのは流石といえよう。私?あの程度で悲鳴なんて出さないわよ。

 目の前の人影は、乾燥してミイラ化した男の死体だった。

 

「きゃーっ!」

 

 ・・・・・・

 

 少し遅れて、早苗がわざとらしい悲鳴を浮かべて私に抱きついてくる。しかも、私の右腕をぎゅーっと抱き締めて双丘を押し当ててくるんだけど。少し苦しいわ。なに?自慢したいの?ぶっ飛ばすわよ?

 

 あんた、ほんとは怖くないでしょ?何がしたいのよ・・・

 

「―――早苗、離れて」

 

「えーっ?霊夢さんは怯える乙女に一人になれと言うんですか!?」

 

「・・・本当は怯えてなんていないでしょ。ほら、さっさと離れなさい」

 

「―――ちぇっ」

 

 早苗は不覚とばかりに舌打ちすると、大人しく私の腕から離れる。これで私の腕も、双丘の圧迫から解放された。

 

 ―――ほんと、何がしたかったのよ・・・

 

「おい、何だよこりゃ!?」

 

「・・・ミイラ化しているな。死後半年以上は経過してそうだ」

 

 トーロ君も驚いているみたいだが、ファイブスは冷静に死体を観察する。こういうところで、彼の軍人としての冷静さが感じられる。

 

「・・・グアッシュの成れの果てさ」

 

 そこに、くぐもった女の人の声が響く。

 空間の奥から現れたのは、トスカさんともう一人、大物そうな女の人だ。

 

「ここに閉じ込められて、飢え死にしたんだ」

 

「名の通った海賊にしては、哀れな死に様だがな」

 

「トスカさんっ!サマラさん―――」

 

 ユーリ君が二人の名を呼ぶ。成程、もう片方が噂の大海賊、サマラ・クー・スィーか。確かに感じる気配は只者ではなさそうだ。それに、頬に傷が入っていながらも損なわれない冷徹な美貌は、確かに無慈悲な夜の女王と恐れられるのに相応しい―――ちょっと憧れちゃうかも。

 

 私がサマラを観察してそんなことを考えていると、さらに奥からもう一人、人影が現れる。

 

「あら・・・そこに居るのは・・・」

 

「その声―――サクヤっ!」

 

 突然、メイリンさんが人影に駆け寄って抱き締める。

 その人影は女の人の姿で、短く切られた銀髪に、ここ最近で傷ついたのか汚れているが端正な顔立ちをしている。着ているメイド服は所々破けているが、それは他の二人も同じだ。

 

「トスカさん・・・良かった、無事で」

 

「サクヤ―――心配しましたよ、私・・・」

 

 ユーリ君とメイリンさんは、相手に抱きついたまま離れない。余程彼女達のことが心配だったでしょうね。

 

「そんな顔するんじゃないよ。ちょっと閉じ込められてただけさ。通路の先からあんたの声が聞こえてきてびっくりしたよ・・・」

 

 トスカさんはいつもの口調でユーリ君に語りかけるが、その声はいつもと比べて湿っている。やはり、心配してくれたのは嬉しいのだろう。

 

「メイリン・・・一人で頑張っていたのね。御免なさい、心配かけてしまったみたい」

 

「いえ・・・そんなことはありませんよ・・・貴女が生きていただけで―――」

 

 一方のメイリンさんと多分その友人のサクヤさん?の周りもしんみりした空気が漂っている。やっぱりあの人、あのメイドに似てるわね。いつかは冗談じみた予想でもしてみたのだけれど、まさか当たるなんて思いもしなかったわ。これはいよいよ、件の奪還対象のご令嬢があの吸血鬼姉妹に似てる連中ってのも真実味を帯びてきたわね。

 ちょっとトスカさん達の話を小耳に挟んでみると、彼女達とサクヤは別々に脱獄して、所長の隠し通路を見つけたはいいけど、気付かれて閉じ込められてしまったみたい。となると助けが来なければあのグアッシュの成れの果てだというミイラと同じ運命ということか。ああ恐ろしや。

 

「・・・という事は、やはり所長はグアッシュとつるんでいたのですか」

 

「いや違う。奴がグアッシュなのだ」

 

 向こうではイネス君が質問するが、それにサマラさんが答える。

 

 ―――今、ちょっと聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするんだけど。

 

 監獄の所長がグアッシュ?なによその冗談。

 

「どういうことだ」

 

「収監したグアッシュを殺して成り代わった所長がここから手下達に指示を与えて資金を渡していたって訳さ」

 

 後ろに控えていたファイブスがそれを聞いてみると、トスカさんがそれに答える。さっきあれを"グアッシュの成れの果て"といったのはそういう意味なのか・・・しかし、とんだ悪人もいたものね。海賊に与するだけでなく頭目と入れ替わるなんて、肝が座っているのやら、その所長ってのも大した悪人みたいだ。顔ぐらいは拝んでやろう。こんな面倒な依頼の原因を作りやがった元凶なんだし、ぶっ飛ばすのは確定事項だ。

 

「そうか・・・頭がこの安全地帯にいるんだから、手下をいくら叩いても意味がないって筈だ。よし、ユーリ君、今すぐこれをシーバット宙佐に伝えよう」

 

「はいっ!イネス、トーロ、行くぞ!」

 

「よしっ、了解だ」

 

「―――さっき入った連絡によると、宙佐達は西館を攻めているらしい。目を覚ました連中が最後の拠り所にしているみたいだ。」

 

 そう言ってユーリ君達は、ちゃっかりついてきていたバリオさんと共に隠し通路を戻っていく。

 

「・・・それで、お嬢様方は?」

 

「―――残念だけど、間に合わなかったみたい。私がコンピュータに侵入した時には、もう連れ去られた後だったわ。多分くもの巣にもいないでしょう」

 

「そう、ですか・・・」

 

 再びメイリンさん達の方に耳を向けてみると、先程の喜びとは一転して、メイリンさんは肩を落とす。サクヤさんも申し訳なさそうな表情だ。だとすると―――

 

「・・・霊夢さん、残念ながら、此処に奪還対象は既に居ないみたいです―――」

 

 やはりそうか。会話の内容からだいたい分かってしまったけど、そうなるのね。奪還対象は此処にはいなかったみたいだ。

 

「そのようね。なら、探し出せばいいんでしょ?」

 

「え――?」

 

 メイリンさんは私の返事が意外だと言わんばかりに目を見開いているが、それに構わず私は言葉を続ける。

 

「だって私、彼女達を見つけないと報酬貰えないんでしょ?だったら、二人とも(・・・・)見つけた暁には2割増しで頼むわ。こっちはいい加減赤字になりそうなんだし、交渉の程、期待してるわよ?」

 

「れ、霊夢さんっ―――!有難うございますっ!」

 

「ちょっと、いきなり抱きつかないでったら!」

 

「ああっ、霊夢さんに抱きつくなんて、許せません!成敗です!」

 

「クスッ、メイリンったら―――」

 

 私の解答を聞いたメイリンさんがいきなり抱きついてくる。そんなに契約続行が嬉しかったのだろうか。それより、そこのサクヤっての、早く助けなさいよ。あんたの友人でしょ?これ。

 早苗からの視線も痛いし・・・早く離れてくれないかしら?呪い殺されそうだわ。

 

 

 本来の依頼達成は成らなかったザクロウ攻略戦だが、攻略自体は成功したみたいだ。ユーリ君とメイリンさんも探し人を見つけられたみたいだし(メイリンさんは二人残ってるけど)、戦果は上々、と言ったところかしらね。

 

 ―――ああ、依頼が面倒臭いわぁ~

 

 だが、今後も依頼継続となると、やはり戦力の消耗は続くだろう。2人を見つけたときにはガッポリ出して貰うんだから―――




2万字越え・・・切れの良い所で終わろうとしたらKONOZAMAです・・・言うまでもなく、過去最長であります。今後はこれ以上延びることはないでしょう。

今回はレッツパーリィ第一回目ということで、ザクロウ強襲編です。中盤の機動部隊戦ではガ○ラスから2種類の航空機が参戦しました。丁度三段空母(ブラビレイ改造)を保有している霊夢艦隊なので、艦載機も合わせてみました。何気に雷撃機の魚雷懸架システムが大好物です。後継機の方が二連三段空母で魚雷の再装填を行っているシーンが萌えますね。

早苗さんは原作では瞳が黄色だったり緑だったり青だったりしますが、ここの早苗さんは通常は緑、さでずむ振り撒くS苗さん状態のときは黄色になります。特に意味はありません。

最後に咲夜さんならぬサクヤさんに登場して頂きました。まあここまで来たら分かっていらっしゃったとは思いますが。ちなみに咲夜さんみたいな能力は持っていませんが、インプラント化してるのでマク○スFのグ○イスさんみたいなこと出来たりします。なので脱獄もそんな感じに、といったところですね。


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第四○話 グアッシュ海賊団の最期

いつの間にかお気に入りが100件を越えたみたいです。今後とも「夢幻航路」をよろしくお願いします。

今回で海賊騒動も一段落です。カルバライヤ編も終わりが見えてきました。


 

 ~監獄惑星ザクロウ~

 

 

 トスカさん達を無事に救出することには成功したが、肝心の依頼を達成することは出来なかったのは残念だ。

 所長の隠し通路から戻った私達は、西館を攻めているというシーバットさんと合流した。西館は私達が一度攻めていたのだが、目的を果たして撤退した後に敵の生き残りが最後の抵抗とばかりに拠点にして立て籠ったらしい。

 

 そこでシーバットさん達にトスカさんが事の顛末を伝えると、ウィンネルさんから所長は既に逃げたとの情報が伝えられた。自分達はまだ動けないから、暗に追撃してくれと言ってるのだろうか。タダ働きさせようっていうのは気に食わないけど、こっちも所長とやらを殴ってやらんと気がすまないところだ。そうと決まれば転進あるのみ。

 

 サマラさんも艦が迎えに来たらそれに乗り込んで足早にザクロウを後にしていた。グアッシュの壊滅は果たしたからこれ以上付き合う道理はないってことか。それより、あれがエリエロンドだったのね。

 頭上を見上げると、赤く塗装された細長い艦が大気圏を抜けて上昇していき、じきにその姿は見えなくなる。

 

「ううっ・・・サナダさんの話は本当だったみたいですね。艦隊のレーダーにも捉えられませんでした」

 

「別に気にしなくていいわ。あっちのステルス性が常識はずれなだけだから」

 

 確かエリエロンド級の外壁はブラックラピュラスとかいう黒体で出来ていると聞く。それは高いステルス性を誇るという話だから、エリエロンドがザクロウに近付いてもうちの艦隊には映らなかったという訳か。

 

「それじゃ行くわよ。シーバットさん、私達は所長を追うわ。一応生け捕りにしてくるつもりだから心配無用よ」

 

「僕達も行きます。グアッシュ海賊団を壊滅させなければムーレアには向かえないので」

 

「・・・そうか。武運を祈る。報告ではザクロウからくもの巣に向けて隠し航路が延びていたらしい。これがその航路図だ」

 

 私とユーリ君がシーバット宙佐に所長を追撃することを告げると、宙佐はそれを承諾する。それと海賊団が使っていたであろう隠し航路の情報が入ったデータプレートを手渡してくれた。

 所長の追撃も本来はあっちがやるべき仕事なんだろうけど、宙佐達がまだ動けない以上、私達に任せるしかないと思ったのか。

 

 

「んじゃ俺も行きます。俺の艦は無事でしたよね?」

 

「ああ、バリオ、二人の面倒は頼んだ」

 

「了解っ」

 

 どうやらバリオさんもついてくるみたいだ。今まで閉じ込められてたんだから休んでいればいいのに、仕事熱心なことだ。それとも、やっぱり所長に嫌味の一つでも言ってやりたいのかもね。

 

 という訳で私達はザクロウからの出港準備を進め、所長追撃戦に移った。地上戦力を一番展開していた私達が最後になったけど、船脚は速い方なので途中でユーリ君達に追い付くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~グアッシュ海賊団拠点"くもの巣"周辺宙域~

 

 

 

「艦長、前方にエリエロンドの反応を探知。ステルスモードは解除しているようです」

 

 シーバットさんが教えてくれた隠し航路を進むと、レーダーを監視していたこころがサマラのエリエロンドを捉えたみたいだ。あっちは機関を止めているみたいだし、わざわざ待っていたのだろうか。

 

《ユーリ君、霊夢君、此方のレーダーにエリエロンドの反応を捉えた。見えるか?》

 

「ええ。捕捉したわ」

 

《此方でも捉えました》

 

 そこに、バリオさんが回線を繋いで確認してくる。

 

「映像入りました。メインパネルに出力します」

 

 光学映像による解析も終わったらしく、ミユさんがその映像を天井のメインパネルに表示した。

 

 そこには、ぽつんと浮かぶ小惑星のような物体と、それに寄り添うエリエロンドの様子が見てとれる。だが、小惑星のような物体は自然に出来たものとしては少し不自然な形だ。なんかパイプとかノズルみたいなものまで見えるし。

 

「エリエロンドの左側にある小惑星からインフラトン反応が検出されています。どうやら人工物のようです」

 

 ミユさんが分析の結果を報告する。形からやはりとは思ったが、あれは人工物で間違いなかったみたいだ。エリエロンドはどうやらあれに細工をしていたらしい。だからこの宙域に留まっていたのか。

 

《―――そう、これが私の航行基地、コクーンだ》

 

 そこに、突然回線に割り込んできたサマラさんの声が響く。

 

「ほう、移動機能を持った基地か・・・これは使えそうだな」

 

「止めなさい、サナダさん。今はそんな金も資源もないわよ」

 

「いつかの話だ。今すぐにとは言ってないぞ」

 

 案の定と言うべきか、やはりサナダさんは反応してしまったようだ。お願いだから、これ以上は暴走しないで・・・

 

《航行機能を持つ基地とは、成程な。どうりで今まで本拠地の所在が掴めなかったわけだ。しかし、いいのかい?あんたの大事な秘密基地を見せちまって。ここには宙域保安局の俺もいるんだぜ?》

 

《構わんさ。じきに廃棄する代物だ》

 

 回線では、サマラの航行基地についてバリオさんが尋ねる。一応彼は保安局の人間なんだし秘密基地なんて見せて良いものかと思ったのだけれど、もう要らないものだから別に見せても構わないということらしい。

 

《廃棄?棄てるんですか?》

 

《いや、違うな。奴等の本拠地にぶつけるのだ》

 

《ぶつける!?この基地をか?》

 

 話を聞く限り、サマラはあれを"くもの巣"にぶつけるつもりらしい。これはまた、随分と大きな花火大会になりそうだ。

 

「―――そっちは大丈夫なの?なんか女海賊サマが仕出かそうとしてるんだけど?」

 

《―――ええ。もうザクロウにも"くもの巣"にも居ないことは分かりきっていますから、此方は何も言いません》

 

 一応メイリンさんにも連絡を取ってみたが、どうやらあちらさんは"くもの巣"での花火大会は別に構わないらしい。もう奪還対象は居ないと分かりきってるからグアッシュがどうなろうと知ったことではない、ってことね。

 

《―――そうだ、連中の艦隊が潜む小惑星帯"くもの巣"・・・そこにこいつを突っ込ませれば・・・》

 

「一網打尽、って訳ね」

 

 私はサマラの後に続けて付け加える。確かにあれだけの大質量物をぶつけたりなんかしたら、あの小惑星基地は持たないだろう。

 

《・・・お前は?》

 

「―――博麗霊夢よ。あんたとは事を構えるつもりはないから安心しなさい」

 

《博麗――――ほぅ、お前があの"紅白の海賊狩り"か。まさかこんな娘だったとはな》

 

「―――何よ、失礼ね」

 

 そういえば、サマラにはまだ名乗ってなかったわね、私。というか"紅白の海賊狩り"なんてまた、いつの間にか知らない二つ名が付いてるし・・・

 

「ああそうだ、連中大マゼラン製の艦船まで持ってるみたいだから、撃ち漏らしにはせいぜい気を付けなさいよ」

 

《ほぅ、連中はそんなものまで揃えていたのか。だが、このエリエロンドが所詮劣化モデルに過ぎん連中の艦に遅れを取るとでも?》

 

 一応サマラにもグアッシュが大マゼラン製の艦を持っているとは伝えたのだが、彼女はそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。これから行われる花火大会とエリエロンドの性能を考えれば、そうなるわよね。

 

《・・・・まぁいい。では"くもの巣"へと向かうぞ》

 

 そこでサマラは一方的に通信を切断する。接続も切断も一方的なタイミングだ。他人のペースに合わせる気はないようだ。まあ名の知れた大海賊なんだし。

 

「通信、切断されました」

 

《きりやがったか・・・しかしそうか、これなら一人で連中を壊滅させられる自信も分かるぜ》

 

《ですね。今は大人しく、サマラさんの言うとおりにしましょう》

 

《了解だ》

 

 ユーリ君とバリオさんの二人も、今はサマラの策に乗ってみることにするようだ。私もその点は同意かな。連中とまともにやり合えば30隻近い大マゼラン艦と戦う羽目になるんだし、わざわざあっちの土俵に付き合ってやる道理はない、か。

 

 

 程なくするとサマラの航行基地〈コクーン〉乗ってみることにメインノズルに火が入り、加速を開始する。それに合わせて、私達も"くもの巣"へと進路を向けた。

 

 

 

 

 そのまま私達はくもの巣外縁宙域まで進撃してきたのだが、以前進攻した時と同じように、まだ連中の迎撃はない。だが、ここから"くもの巣"までは光の速さでも3分はかかる距離だ。まだ見えないだけで、既にあっちは此方を見つけて迎撃準備を進めているかもしれない。だが、小惑星帯の中ではi3エクシード航法は使えないので、そのタイムラグを考慮しても戦闘までの時間には余裕がある。

 

「まだ敵艦隊の反応は見られませんね・・・」

 

「そのようね。だけど警戒は怠らないで」

 

 レーダーには移っていなくとも、既にここは敵地なのだ。いつグアッシュの襲撃があるか分からない。レーダーの影からいきなり奇襲されても対応できるよう、戦闘配備のままで進撃を命じる。

 

《"くもの巣"は密度の高い小惑星帯だ。レーダーも効かないから隠れるにはもってこいだが、不意討ちする側にとっても都合が良いという訳さ》

 

 再びサマラが回線に割り込んできたかと思うと、ご丁寧なことに解説までしてくれる。ということは、前回のあれも私達の艦隊を誘引した訳ではなくてあそこまで近付かれないと分からなかったってことか・・・以外とその辺りはおざなりなのね。所詮海賊、いくら正面戦力が充実していようと警戒監視は二流三流、ってことか。私なら小惑星帯全域にセンサーをばら蒔くぐらいのことはやるんだけど、敵さんそこまでの余裕はないみたい。単に攻撃される訳がないという驕りなのかもしれないけど。

 

《では始めるぞ、ショータイムだ》

 

 

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Contraataque(反撃)」】

 

 

 

 サマラが指を鳴らすと、〈エリエロンド〉の隣に浮かんでいた小惑星基地〈コクーン〉のエネルギー反応が跳ね上がり、一気に加速を開始する。

 

 大質量を動かせるほどの出力なだけあって、なかなかに迫力がある風景だ。〈コクーン〉に備え付けられた6基の大直径ノズルが全力で噴射を続け、その巨体を"くもの巣"へと進めていく。

 

「エンジン出力、15秒後に臨界点へ。遠隔コントロール異常なし」

 

 〈エリエロンド〉の艦橋内で、〈コクーン〉の遠隔操作を担当していた長身の副長、ガティ・ハドがサマラに報告する。

 

「ふふ・・・さて、どうなるかな」

 

 〈コクーン〉が"くもの巣"に近づくにつれ、映像にはタイムラグが入り僅かに遅れが生じるようになる。

 加速を開始してから凡そ5分後、遂に〈コクーン〉は"くもの巣"を間近に捉えた。

 

 ここにきてグアッシュ海賊団の側も事態を悟り、出港が間に合った艦や拠点周囲の砲台で迎撃を試みる。しかし、十分な加速を与えられた大質量物である〈コクーン〉はその程度で止まることはなく、無慈悲に小惑星を押し潰して進む。

 

 もう衝突は避けられないと悟ったのか、出港が間に合った艦は散り散りになって"くもの巣"からの脱出を試みる。しかし〈コクーン〉に押し潰された小惑星や"くもの巣"の破片が超高速を維持しながら小惑星帯を飛び回り、それが別の小惑星と衝突することでさらに細かくなった破片が別々の方角へと飛び散る。いくら細かくなったとは言っても元が小さくても全長数kmはある小惑星だ。その破片は大きなものでは重巡洋艦サイズもあり、そんなものに触れた艦など只では済まない。グアッシュ海賊団の大半を閉めるバクゥ級やタタワ級といった中~小型艦艇では破片の衝突に耐えきれず、次々と爆散していく。数の少ない大マゼラン製のシャンクヤード級やマハムント級巡洋艦は流石に頑丈だったが、自身の身の丈ほどもある破片の衝突には流石に耐えきれなかったようで、こちらもその殆どが轟沈するか、大破した状態で漂流していた。

 

 一方、"くもの巣"の内部はさらに悲惨だった。

 

 艦船が出港する入り江に当たる箇所では我先にと逃げようとした艦が渋滞を起こし、その後ろからも別の艦が押し合うことで衝突事故が度重なり発生し、終いには身動きが取れなくなる。そこに小惑星の破片と〈コクーン〉の本体が迫り、動けなくなった艦は基地としていた小惑星の間に挟まれ、潰されるようにして次々と轟沈していく。"くもの巣"そのものも〈コクーン〉に押し潰され、個々の小惑星を繋いでいたパイプラインが切断され、無惨なまでに引きちぎられていった。

 

 

 

《ふ、ふふっ・・・アハ・・・・・・アハっ・・・アハ―――アハハハハハハハハハッ!!》

 

 

 

 生き残っていた"くもの巣"とその場にいた艦船の通信回線には、凍りつくほどに冷酷なサマラの冷笑が響き渡っていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アハ、アハっ・・・アハハハハハハッ―――》

 

 通信回線には、未だにサマラの冷酷な笑い声が響いたままだ。なんだか聞いてるそばから背筋が凍る思いだ。無慈悲な夜の女王なんて二つ名に相応しいほどに冷たい。

 

「・・・これ、いつまで続くんですか?」

 

「さぁ?私には分からないわ。なんならサマラにでも聞いてみなさい」

 

「うげっ、それは無理ですよぉ―――」

 

 ノエルさんはあまりの大音量にヘッドフォンを切って、涙目になって縋りついてくる。・・・これは普通の人にはちょっと厳しいわね・・・

 艦橋を見回してみると、他のクルーもサマラの笑い声に引き気味だ。皆、目を反らすように顔を背けて冷笑を誤魔化そうとしている。

 

「ううっ・・・なんで女の人なのにあんな声が出るんですかぁ~」

 

 早苗もあまりの冷笑と音量の前に耳を塞いでいるみたいだ。表情も苦いものを口に入れたような感じで涙目だ。

 

 ここで平然としているのはせいぜい私ぐらいではないだろうか。鬱陶しいのには変わりないけど、顔を歪めるほどのものではない。

 

 しかし、彼女が"無慈悲な夜の女王"なんて名前で呼ばれているのにも納得だ。逃げる隙なんて与えずに、相手を土俵に上らせる前に殲滅する。さらに残党には冷笑を響かせて残った士気まで根こそぎに奪っていく。これじゃあ抵抗する気なんて起きないわよ。

 

 私が内心でそんな感想を抱いていると、そこに警報の音が響く。

 

「―――っ、敵艦隊です。数は25」

 

「艦種識別・・・出ました!バクゥ級11、タタワ級2、シャンクヤード級6、マハムント級3、それに―――ザクロウの装甲空母が1隻と戦艦クラスが2隻です!」

 

 警報で正気に戻ったこころが報告し、ミユさんが敵戦力の分析を始める。艦隊の編成を見る限り、どうやら脱出してきた所長の艦隊と鉢合わせたってところかしら。

 

「敵戦艦の詳細判明。敵戦艦2隻のうち1隻はファンクス級、もう1隻はカッシュ・オーネ級の模様!」

 

 ミユさんの分析が終了すると、メインパネルにその戦艦の要目が記される。

 ファンクス級戦艦は以前交戦したシャンクヤード級をそのまま拡大したような艦型で、翼を広げたような前部から艦尾に向かって尾のように艦体が延びている。

 もう一方のカッシュ・オーネ級という戦艦は初見だ。これはファンクス級とは対照的に重圧な艦型で、中央の艦体から三菱をひっくり返したような状態で別の胴体が接続された形をしている。

 

「艦長、気を付けろ。あの2クラスは大マゼランの海賊が運用しているタイプの戦艦だ。性能は本場より劣化しているかもしれないが、今までの連中とは攻撃力が桁違いだそ!」

 

「分かってるわ、サナダさん。全艦、戦闘配備!装甲空母以外は沈めなさい!」

 

「了解、全艦戦闘配備!火器管制システム立ち上げだ!」

 

 私が戦闘配備を命じると、クルーは素早く態勢を切り替えて配置につく。

 

《―――霊夢君、前方の艦を見たか?》

 

「ええ。逃亡した所長の艦でしょ」

 

《そうだ。ヤツは生かして捕らえたい。色々聞きたいことがあるんでね》

 

「分かったわ。任せておきなさい」

 

 そこでバリオさんから通信が入る。所長は生かして捕らえたいとのことだが、それは元より承知だ。面倒を作った責任は取って貰おう。

 

《霊夢さん、私の艦は取り巻きの護衛艦を排除します!中央は任せました》

 

「了解・・・って言っても、少し骨が折れそうね。まぁいいわ。小マゼラン艦の連中はそっちに任せるわ厄介なのはこっちで片付けるから」

 

《はい。ご武運を》

 

 メイリンさんとも簡素な打ち合わせを終えて、艦隊はグアッシュの生き残りを捕捉するために加速する。

 ユーリ君の艦隊とメイリンさんの〈レーヴァテイン〉は前衛のバクゥ級とタタワ級をやるみたいだ。必然的に、此方は大マゼラン艦の連中を相手取ることになる。

 

「特務艦隊と〈ラングレー〉は砲戦距離外へ退避。非戦闘艦は〈サチワヌ〉〈青葉〉、〈ラングレー〉にはヘイロー級3隻を護衛につけなさい」

 

「了解です」

 

 砲撃戦になる前に、工作艦と輸送艦、空母は退避させる。これらの艦を大マゼラン戦艦の砲撃に晒す訳にはいかない。

 

「先ずは航空戦よ。〈ラングレー〉から攻撃隊を出して」

 

「本艦の艦載機隊は如何いたしますか?」

 

「まだ出さなくていいわ。ザクロウ戦で消耗しているでしょうし、敵の装甲空母を制圧する段階になってから出しなさい」

 

「了解」

 

 ノエルさんが尋ねてきたが、〈開陽〉の艦載機隊はザクロウを攻めるときにだいぶ働かせている。連戦では疲弊もあるだろうし、しばらくは休ませておこう。敵の装甲空母も1隻だけだから、〈ラングレー〉の艦載機だけで充分だ。

 

「攻撃隊発進後、敵の巡洋艦に向けてミサイル攻撃に入るわよ。フォックス、準備しておいて」

 

「イエッサー。グラニートミサイル装填。位置座標指定するぜ」

 

 本当ならあいつらも鹵獲して売っぱらってやりたいところだけど、モタモタしていると友軍のユーリ君やメイリンさんが危険だ。あっちは小マゼランの艦船だし、下手に大マゼラン艦とぶつかると危ない。

 

「〈ラングレー〉より第一次攻撃隊66機、発進しました。敵艦隊に向かいます。敵装甲空母からは戦闘機16機が発進した模様です」

 

 レーダーで戦況を監視していたこころが装甲空母からの艦載機反応を捉える。たかだかその程度の戦闘機なら焼け石に水だ。うちの艦載機隊と装甲空母の艦載機隊が激突すると、敵艦載機の反応は溶けるように消えていった。性能の低いビトンで2倍にあたる数のスーパーゴーストを相手にしたのだ、当然の結果と言えるだろう。

 

「各艦のデータリンク完了。対艦ミサイルによる長距離雷撃戦に移行します」

 

「了解っ、グラニートミサイルVLS、一番から四番まで解放、発射!」

 

 続いて、〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉〈東雲〉〈有明〉の5隻から長距離対艦ミサイル〈グラニート〉及び〈ヘルダート〉が発射され、艦載機隊の攻撃前に敵艦隊に到達する。

 何れも大型の対艦ミサイルなので幾つかは迎撃されたが、グラニート2発が直撃した敵マハムント級は轟沈、シャンクヤード級も3隻が大破または轟沈して戦列を離れていく。

 

「敵2隻のインフラトン反応拡散!撃沈しました」

 

「第一次攻撃隊、敵艦隊に接触!」

 

 初戦は上場、といったところか。画面外では、此方の艦載機隊が敵の巡洋艦へ攻撃を開始しているところが映されている。

 スヌーカ爆撃隊は敵艦表面に爆弾とロケットをばら蒔いて武装を潰し、そこに生じた穴へドルシーラ雷撃隊が突入、その腹に抱えた魚雷を撃ち離す。通常の空対艦ミサイルを越える威力を持つ宇宙魚雷を受けては流石の大マゼラン艦も耐えきれなかったのか、シャンクヤードを中心に撃沈艦が出ている。

 

「攻撃隊、帰投します。戦果はシャンクヤード級撃沈2、撃沈確実1、マハムント級撃沈確実1隻、ファンクス級に命中弾3です。此方の被害は撃墜11機。攻撃機を中心に被害が発生しています」

 

「その意気ね。このまま砲雷撃戦に移行するわ。全艦三列縦陣!」

 

 攻撃隊は先程のミサイル攻撃で傷付いた艦を中心に攻撃したため、敵巡洋艦部隊の半数を沈めるに至った。しかし敵の対空砲火も中々のもので、率先して敵の陣形内側に飛び込んだスヌーカ隊と鈍足のドルシーラ隊に被害が多発している。

 

「了解か・・・あっ、敵艦隊の一部が分離!ファンクス級とシャンクヤード級が左舷前方より急速接近中!」

 

「迎撃しなさい!」

 

 ここで敵の動きに変化が見られた。グアッシュのファンクス級とシャンクヤード級が艦首を此方に向けて突撃を開始したのだ。あのクラスは巡航性能に優れたタイプで足が速い。そして艦首方向に武装が多く指向できる艦だ。

 対して此方は砲撃戦に移行するために陣形を変更している最中であり、敵の主砲はそんな私達の横腹を捉えた。

 

「敵艦隊、距離15000に到達、攻撃を開始しました。駆逐艦〈タシュケント〉〈ソヴレメンヌイ〉に命中弾!」

 

「クッ・・・巡洋戦艦に応戦させて!」

 

 敵艦3隻は陣形の左側に位置していた第一分艦隊に食いつくと、手頃な目標に向かって主砲を斉射する。此方も回避機動を試みるが、パターン入力が中途半端なためか十分な加速を得られず、幾つか命中弾を貰ってしまった。

 巡洋戦艦〈オリオン〉は向かってくる敵に向けて連装主砲を向けたが、角度の都合で指向できる門数が2門に留まる。これではまともな戦果など望めない。

 

「敵艦隊、さらに斉射!〈グネフヌイ〉のシールド消失!」

 

「こっちからは撃てないの!?」

 

「本艦と敵艦隊の射線上に味方艦がいます!」

 

 チッ、やるわね・・・

 此方が撃とうとすれば味方の第一分艦隊に命中し、敵はこっちに向かって撃ち放題か。敵が大マゼラン艦なこともあり、一撃あたりの威力が重い。

 

「艦長、ブクレシュティより意見具申です!」

 

「!っ、すぐに繋いで頂戴!」

 

 私が敵を攻めあぐねていると、ブクレシュティから通信が届けられた。ノエルさんが回線を繋ぐと、メインパネル上に彼女の姿が現れる。

 

《手間取っているみたいね、提督さん》

 

「他人事じゃないでしょ。んで、どんな策があるのかしら」

 

 彼女はこの期に及んでも眉一つ動かさない。それだけ冷静なのだろうが、他人事みたいなその態度は少しイラッとくる。

 

 《相手は恐らく監獄所長を逃がすための殿よ。敵の装甲空母は戦艦に護衛されて離脱を図っているでしょ?》

 

「―――確かにそのようね」

 

 ブクレシュティに指摘されてレーダー画面を確認してみると、装甲空母と護衛のカッシュ・オーネにマハムントは此方に向かうわけでもなく、離れるような進路を取っている。

 

《そして此方の武器は上甲板に集中しているわ。ここは一度に回頭して敵の下に潜り込んで、通過射撃を仕掛けたのちそのまま装甲空母に突撃してみたらどう?》

 

 彼女の考えはこうだ。此方の艦隊が一斉に向きを変え、敵に艦首を向けながら敵艦隊の下に潜り込む。敵は慣性もあっていきなり進路を変えることはできないでしょうから直進を続ける。そこを此方の主砲で攻撃して戦闘能力を奪い、そのまま逃げようとする所長の艦隊を狙う。タイミングは難しそうだが、やれない手ではない。

 

「―――分かったわ。あんたの案でいきましょう。全艦、30秒後に一斉回頭の後下げ舵10度!敵の腹に潜り込むわよ!」

 

「了解した」

 

「了解ですっ!」

 

 ブリッジクルーもそれを了承したようだ。早苗はタイミングを合わせるために各艦へと指示を伝達するため、眼を閉じて集中するような仕草を見せる。

 

《採用どうも。私は自分の仕事に戻るわ》

 

 自分の意見が採用されると、ブクレシュティはそのまま通信を切断する。

 

「駆逐艦〈グネフヌイ〉にさらに命中弾!インフラトン反応消失!」

 

「怯むなっ、今は転舵の時期に集中しなさい」

 

 だがその間も敵の砲撃は止まず、遂に駆逐艦の1隻が喰われた。此方もちらほら命中弾は与えているのだが、流石は大マゼラン艦、シールド出力が今までの連中とは違う。海賊艦改造の駆逐艦ではまともに装甲を抜けない。

 

「核パルスモータースタンバイ、転舵まであと5秒!」

 

「3・・・2・・1・・・今!」

 

 

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより「決戦!鉄底海峡を抜けて!」】

 

 

 

 

「全速回頭ッ!」

 

 残り時間を示すタイマーが0になったところで、〈開陽〉の右舷艦首と左舷艦尾にあった核パルスモーターが一度に最大出力で噴射され、艦は急激に角度を変えていく。慣性制御が追い付かず艦長席から降り下ろされそうになるが、コンソールにしがみついて画面を睨みながらそれを防いだ。

 

「―――回頭完了。下げ舵10、最大戦速!」

 

 回頭が終了したところで、ショーフクさんが艦首を下に向ける。艦隊全体が下方に向かったことで、敵艦隊との間に遮蔽物はなくなった。

 

「全艦砲撃始め、撃てーッ!」

 

「イエッサー、主砲発射!」

 

 此方の動きを見て、敵もそれに合わせようと転舵する。しかし、それよりも早く〈開陽〉の160cm砲を始め重巡洋艦、駆逐艦のレーザービームが降り注ぎ、敵艦のシールドを穴だらけにした。

 だが敵も撃たれるばかりではなく即座に反撃を開始する。敵は目標を変えると無事な砲で砲撃を再開し、脆い駆逐艦は命中弾が発生すると忽ちシールドが失われてバイタルが火を吹く。

 

「駆逐艦〈パーシヴァル〉轟沈っ!〈早梅〉大破!」

 

「敵シャンクヤード級1隻のインフラトン反応拡散しました!撃沈です」

 

 お互いが超高速で通り過ぎる間、両者の間では激しくレーザービームの応酬が交わされる。此方は駆逐艦1隻を失ったが、敵はシャンクヤード級1隻を失い、残ったシャンクヤードも制御を失いながらクルクルと回転して離れていく。ファンクス級は戦艦なだけあって中々にタフだったが、〈開陽〉と重巡2隻に底部を滅多撃ちにされた挙げ句、メインノズルに被弾して転舵できぬまま私達の背後にあった小惑星に激突して果てた。

 

「敵前衛艦隊全滅!」

 

「そのまま装甲空母に向かうわよ。距離を詰めて同航戦に移行、戦艦と巡洋艦で縦陣を組みなさい」

 

「了解です」

 

 殿を下した私達は、未だに逃げようとする所長の艦隊を捉えた。此方は最大戦速で敵に迫りつつ、駆逐艦を分離して縦陣を組む。先頭から〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉〈ブクレシュティ〉〈オリオン〉〈レナウン〉の順だ。

 

「敵艦隊、転舵します。このまま同航戦に移行する模様!」

 

 ここでまた敵艦隊に変化が起こる。今まで装甲空母と共に離脱を図っていたカッシュ・オーネとマハムントが縦陣を組んで此方に向かってきたのだ。見上げた忠誠心だが、流石にこれは多勢に無勢だろう。だけど、容赦はしてやるつもりはない。

 

「本艦と〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉は先頭の敵戦艦を、〈ブクレシュティ〉〈オリオン〉〈レナウン〉は敵2番艦を狙いなさい」

 

「イエッサー。主砲1番から5番、右舷側に指向。目標敵戦艦!」

 

《了解よ》

 

 二つの縦陣が向かい合い、互いの主砲を向ける。

 暫しの沈黙の後、号砲の咆哮が響き渡る。

 

「全主砲、斉射!」

 

 〈開陽〉の3連装砲塔5基から蒼白い砲火が放たれたのと、敵のカッシュ・オーネ級の連装砲塔2基から砲火が上がったのはほぼ同時だ。互いのレーザーは目標へ向け直進し、その先にある鋼鉄の巨体を揺らす。

 

「敵艦の砲撃が第11区画に命中。隔壁閉鎖します」

 

「此方の命中弾は2発だ、修正射撃つぜ」

 

 敵の砲撃は〈開陽〉のシールドを超え装甲表面を焼く。しかし装甲を抜くには至らず、損害は軽微だ。対して此方は敵に命中弾2発を与えたが、戦艦を戦闘不能にさせるにはまだまだ足りない。よって位置座標を修正した第2射がすかさず放たれる。此方は各砲塔一門ずつの交互撃ち方で砲撃を行っているので、戦艦としては発射速度は速い。以前のファズ・マティ戦時のように各砲身の冷却と発射を同時に行えるからだ。また一門ずつの発射なのでプールしているエネルギーの消耗も抑えられる。

 対して敵は全砲門を一度に開いたようで、此方に比べれば主砲発射間隔は大きく開いている。だがそれだけではなく舷側ミサイルで抵抗してくるので、此方は対空迎撃も強いられた。

 

「敵ミサイル接近!近接防御システム起動します」

 

「〈ピッツバーグ〉に命中弾1、戦闘続行に支障なし」

 

 だが、敵のミサイルは此方が使用する大威力のものではなく、数発では堅牢な戦艦と重巡を戦闘不能にするまでのものではない。

 

「第3射、発射!」

 

 お返しとばかりに、3隻の戦艦と重巡から砲撃が放たれる。11発中5発が命中だ。

 

「次は一斉撃ち方で行くわよ。全主砲、斉射準備!」

 

「了解、エネルギー蓄積開始。20秒後に全砲斉射!」

 

 命中率も上がってきたので、ここで一気に畳み掛ける。

 後方の巡洋艦同士の戦いでもプラズマ砲の応酬が行われていたが、今は手数で勝るブクレシュティが巡洋戦艦2隻と共に敵のマハムント級を圧倒しているようだ。

 

「砲撃準備完了!」

 

「よし、全主砲、一斉射!ここで仕留めなさい!」

 

「アイアイサー、全主砲斉射!!」

 

 〈開陽〉の3連装砲塔全てから、3条の光が敵艦に向かって延びる。〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉からも全力の砲撃が放たれ、それは敵のカッシュ・オーネ級の艦体の至るところを貫いた。

 全砲斉射をもろに喰らったカッシュ・オーネは小さな爆発を生じながら、機関に爆発が及んだのか蒼白い閃光と共に爆散し、艦体がいくつもの破片に千切られる。

 

「敵1番艦、撃沈!」

 

 敵戦艦を仕留めたことで、艦橋内に歓声が響く。

 

「後続のマハムント級も撃沈した模様!敵護衛艦は全て沈黙しました!」

 

 少し遅れて、火達磨となっていたグアッシュのマハムント級にも止めが刺された。〈オリオン〉〈レナウン〉の砲撃でシールドをズタボロに引き裂かれた上に〈ブクレシュティ〉のプラズマとレーザーが降り注ぎ、表面を焼き付くされた上にプラズマが装甲を貫通してバイタルを破壊、敵艦を轟沈せしめた。

 

《・・・こっちも片付けたわ。敵のプラズマが少し痛かったけど、航行には問題なしよ》

 

 ブクレシュティからも敵艦撃沈の報告が届けられる。こっちの被害は〈ブクレシュティ〉が中破、〈開陽〉〈ピッツバーグ〉〈オリオン〉が小破といったところだ。

 

「・・・さて、厄介なのも片付いたところだし、所長とやらを捕まえましょう」

 

 戦況を見てみても、ユーリ君達に向かったバクゥ級の艦隊もその殆どが撃沈されている。グロスター級とメイリンさんの〈レーヴァテイン〉に撃ち減らされて、そこにユーリ君のアーメスタが突撃して混乱するグアッシュ艦隊を切り裂き、着実に敵の数を減らしていた。

 

 あっちには加勢する必要もなさそうだったので、私は艦を装甲空母に向けるよう命じる。こっちの船脚に比べて装甲空母はかなりの鈍足だったのですぐに追い付くことができた。後はまたエコーとファイブス率いる保安隊が突撃して、所長を捕らえるだけだ。

 

 あれ、そういえば、早苗は何処に行ったのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~装甲空母艦内・ブリッジ~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「The Great Evil」】

 

 

「ふふっ、ここまでですねぇ~。どうですか?今まで散々ふんぞり返っていたのにこうしてお縄にかけられる気分は?」

 

 装甲空母のブリッジでは監獄所長―――ドエスバンが連れてきた部下達は白い装甲服に青いラインを入れた屈強な歩兵の集団―――エコー率いる霊夢艦隊保安隊クリムゾン分隊の面々に占拠され、ドエスバンに至っては黒い空間服を着た緑髪の少女の前で尻餅をついている有様である。

 

 緑髪の少女―――早苗は両刀の光刀を片面だけ起動し、その紅い刀身をドエスバンに突きつける。

 

 これでも容姿は充分美少女と言える早苗ではある。普段ならドエスバンは舐め回すような視線で堪能するのだろうが、彼女が光刀を手に、嬉々として保安隊員と共に配下を制圧していく様を見せつけられた後では欲望よりも恐怖の方が勝ってしまい、彼は早苗の前に屈することになっていたのだ。

 

「ま、待てっ、金ならある!だからここはどうか見逃してはくれないか!?」

 

「駄目ですよぉ~。海賊から追い剥ぎはしますけど、そんな露骨な賄賂なんて受けとるわけないじゃないですか~。貰えるものは頂きますけど、貴方の身柄も一緒ですよ☆」

 

「ひぃっ・・・ならせめて命だけは・・・」

 

 早苗はドエスバンの提案はまるで興味がないとばかりに一蹴し、光刀をさらにドエスバンの首筋に近付けてにやりと嗤う。

 

「その程度で、私が貴方を見逃すとでも思ってるんですかぁ~?まだ"誠意"が足りませんねぇ~。悪人は悪人らしくちゃんと"誠意"をみせていただかないと・・・」

 

「せ、誠意・・・分かった!私が悪かった!だから命だけは―――」

 

 ドエスバンは早苗の一言にすがり付くように頭を下げる。しかし、早苗は邪な笑みを浮かべたままだ。

 

「そうですかぁ・・・本当に悪いと思っているなら、他にやるべきことがあるんじゃないですか~?」

 

「な、何をすればいいというのだ・・・?」

 

 ドエスバンは頭を上げて早苗の表情を覗き込む。早苗はそんな彼を見下しながら、さも当然のように言い放った。

 

「決まってるじゃないですか!焼き土下座ですよ、焼・き・土・下・座!」

 

「焼き・・・土下座?」

 

 意味がわからないとばかりにそれを口にするドエスバンだが、続く早苗の説明を聞いて、彼は身を震わせる。

 

「そんなことも分からないんですかぁ~、焼いた鉄板の上でする土下座のことですよ!?」

 

「何じゃそりゃあ!?」

 

「―――ちなみに、最低でも10秒は続けないと"誠意"を実行したことにはならないので、そこんところよろしくお願いしますね☆」

 

「むっ、無理だぁーッ!そんなことしたら死んでしまうじゃないか!?」

 

 早苗は弾んだ口調でドエスバンの反応を楽しむように"焼き土下座"について説明する。無論本気で実行する気はない・・・多分ないのだろうが、悪人を追い詰めて醜態を晒させることに、彼女は一種の愉しさを覚えていた。

 

「いえ、出来る筈ですよ。本当に"誠意"があるというのならば、たとえ焼けた鉄板の上であっても・・・土下座はできる筈なんです!!」

 

「・・・ほ、本気で言っているのか?」

 

 ドエスバンはそれが冗談だという可能性に懸けて、懇願するように恐る恐る訊ねる。しかし、回答は非常だった。

 

「当たり前じゃないですかぁ~♪いやぁ~、楽しみだなぁ~。あの肉が焼ける音と匂い・・・堪らないですよねぇ~!」

 

 早苗は語尾を強め、恍惚の表情を浮かべて告げる。そこに狂気を感じたドエスバンは、自分がとんでもない連中に捕まってしまったと悟ると共に、死の危険を感じていた。

 

(こ、殺される・・・)

 

 早苗の真意はともかく、その仕草はドエスバンに彼女が本気だと納得させるに充分な威力を有していた。さらに、今まで眺めているだけだった〈開陽〉の保安隊員達も、面白がって早苗に加勢し始めた。

 

「へっ、肥え太った罪人の丸焼きか。不味そうなことこの上ないな」

 

「・・・こいつの肉は食べたくないですね。あ、でも悪人が酷い目に合うのは因果応報です。実に愉快ですね」

 

 エコーと椛も死体蹴りの如くドエスバンを罵倒する。味方が一人もいないと悟ったドエスバンは、いよいよ恐怖で漏らしそうなほどだ。

 

「・・・という訳で、執行ですね。覚悟しやがれです☆」

 

「ひっ、ひぃぃぃいいぃぃぃぃっ!!!――――」

 

 早苗が満面の笑みで死刑宣告を告げると、悲鳴を上げたドエスバンの意識はそこで途切れた。

 

「・・・死んだな」

 

「―――気絶してますね」

 

 意識の絶えたドエスバンをエコーは軽く蹴って揺さぶり、早苗は光刀で腹をつっついてみたりする。

 

「・・・とにかく、こいつ運んでおきましょう」

 

 完全にドエスバンが気絶したのを確認すると、保安隊員達は素早く彼を拘束し、〈開陽〉へと運び込んだ。

 

 

 

 後日、宙域保安局で取り調べを受けたドエスバンは、終始生気の抜けた顔で受け答えに終始していたという。ついでに女性恐怖症にも陥ったとか。

 残念ながら、彼に同情するものは一人も現れることはなかった。

 

 




絶対☆許早苗

さでずむ炸裂回でございます。某ゲームの早苗さんに感銘を受けまして焼き土下座ネタです。誠意があれば、焼いた鉄板の上でも土下座ができる筈。

でも根は真面目な早苗さんなので、脅して反応を楽しんでいるだけです。多分本気で実行する気はないでしょう。めいびー。
無限航路は基本雑魚海賊には人権がない世界なので、命があるだけでもドエスバンはましな方と言えるでしょう。

ちなみに保安隊員の装甲服カラーは501大隊リスペクトです。501カラーの保安隊+赤いサーベルの早苗さん・・・あとは解りますね?

多分次回でカルバライヤ編も最終回です。ただ依頼は続くので、保安局との絡みももうしばらくは続きます。


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第四一話 猫神様に奉る

カルバライヤ編も今回で終わりです。
なお、今話は以下の点に注意してお読み下さい。警告は一度だけです。

・R-15
・レイサナ



 

 

 ~カルバライヤ・ジャンクション宙域、"くもの巣"周辺~

 

 

 グアッシュ海賊団の拠点"くもの巣"はサマラの移動基地を突撃させるという荒業により壊滅的被害を受け、生き残った海賊達もこの拠点を見限ってサマラの"狩り"から逃れようと足掻いていた。

 

 そんな光景が一段落したところで、霊夢率いる艦隊は"くもの巣"に接近し、戦利品とばかりに残された残骸から獲れるだけ物資を強奪していった。

 

 

 

「艦長、"くもの巣"周辺を調査した所、損傷の少ない造船区画の一部を発見した。巡洋艦数隻分の資源は残されているとの事だ」

 

「回収ね。こんなところで眠らせておくには惜しいわ。私達が有効活用させて貰いましょう」

 

 作業艇が帰還し、サナダさんから調査報告が届けられる。いま私達の艦隊はサマラが荒らし回った後の"くもの巣"宙域に留まっている。今まで通り、海賊から資源を略奪するためだ。

 あれだけ海賊に被害を受けたのだ。最低でも損失艦の代金分は回収させて頂こう。

 

「了解した。資源は工作艦に運び出す。まだ敵の生き残りがいるかもしれないから作業部隊には保安隊か機動歩兵の護衛を頼むぞ」

 

「そうね、後で派遣させておくとしますか」

 

 発見した造船区画には工作艦が接近し、作業艇が降下していく。護衛艦の巡洋艦〈サチワヌ〉〈青葉〉からは残存勢力を掃討するための機動歩兵隊を乗せたシャトルが降下していった。生き残っている区画にはあのサマラによる殲滅戦を生き延びた海賊がいるかもしれないし、一応は警戒しておくべきだろう。何かの拍子に工作艦に乗り込んで破壊工作なんてされたら目も当てられない。

 

 物資の搬入作業は6時間ほどで終了し、完全を確認したあと艦隊は"くもの巣"を離れた。いつも通りの接収を済ませれば後はここに用はない。

 

 このあとは、確かバリオさんから海賊退治の報酬がしたいから保安局に顔を出せって話だったし、取り敢えずブラッサムに向かうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ブラッサム・宙域保安局~

 

 

 海賊もいなくなってすっかり寂しくなった航路を抜けて(代わりに民間の輸送船はよく見かけたが)、私は艦隊をブラッサムに入港させた。保安局に顔を出す前に一通り消耗品の補充を済ませておいたが、やはりけっこう高くついたみたい。特にミサイル類と推進剤に艦載機分の資源とか。にゃろう、グアッシュめ。お陰で1万G近く吹っ飛ばす羽目になったわ。残党がいたら残さず略奪してやる。

 

 それを終えたら地上に向かうわけだが、メイリンさんも保安局に呼ばれていたとの事だったので偶然宇宙港で合流した私達は一緒に保安局に向かうことにした。

 宙域保安局の建物に辿り着くと、守衛を通り過ぎて受付に顔を出す。保安局はもう何度も通ったのですっかり顔パスになってしまった。そして中に入ると、作戦室にはウィンネルさんの姿しかなかった。いつも一緒にいるバリオさんはどうしたのかしら?あとシーバットさんの姿もないみたいだし。

 

「あら?今日はウィンネルさんだけなの?バリオさんから報酬の話を聞いていたんだけど」

 

「霊夢さんに、メイリンさんか。ああ、彼等なら別件で席を外しているよ」

 

「別件?というと、残務処理とかのことでしょうか?」

 

「まぁ、そんなとこだと思ってくれ」

 

 メイリンさんの質問にウィンネルさんが答えた。少しはぐらかしたような言い方が気になるけど、あっちにも機密とか色々あると思うから下手に詮索するのは止めておこう。

 

「それで報酬の件についてだが、宙佐から預かっていた海賊退治の懸賞金8000Gと艦船設計図3種だ。そちらの方は本社の口座に振り込ませて貰ったよ」

 

「8000Gなんて随分と大盤振る舞いじゃない。有り難く頂くわ」

 

「有難うございます」

 

 私は素直に報酬を受けとる。これだけあれば、接収した資源と合わせて海賊退治で被った被害を補填して、なおかつ利益も上げられそうだ。保安局も随分と気前がいいことするのね、気に入ったわ。

 

「そういえば、メイリンさんって確か大企業の人なんでしょ?本社の方から何か言われなかったの?」

 

 そこで私はメイリンさんが確か軍事企業に所属しているという話を思い出したので訊いてみた。あれだけの事があれば、流石に本社の方から何か言われてないのかしら?

 

「今のところは心配無用ですよ。社長は『愛娘の奪還は任せた』と仰られていましたし。ただ、お嬢様方の身に何かあれば私の首は飛ばされるでしょうね」

 

 メイリンさんは「あはは~」なんて苦笑で済ませてるけど、それ、よく考えたら笑い事じゃないわよね・・・

 

「・・・でも、これは困りましたね。お嬢様がザクロウにもくもの巣にも居ないとなれば、どこを探せばいいのやら・・・」

 

「ああ、その件についてだけど分かったことがある。少しいいか?」

 

 メイリンさんが一転して黄昏ていると、そこにウィンネルさんが割り込んでくる。

 

「君が捕らえてくれたドエスバンの取締りが進んで、ヤツの人身売買ルートが判ったんだ。ヤツはどうやら海賊にさらわせた人間やめぼしい囚人をある自治領の下へ届けていたらしい。拐われたというスカーレット社のご令嬢も、もしかしたらその自治領にいる可能性がある」

 

「自治領・・・ですか?」

 

「そうだ。一つはバハシュールが統治するゼーペンスト、もう一つはなにかと問題を起こすヴィダクチオ自治領だ。ザクロウの艦船の航海記録とも一致したし、間違いないだろうな」

 

 ウィンネルさんは人身売買の対象だったらしい自治領の名前を上げるが、私にはどんな場所なのかさっぱりだ。一応ニュースにも目を通していたりはするけど、全部覚えてる訳じゃないし・・・

 

「バハシュール?誰よそれ」

 

「ああ、聞いたことならありますね。確かゼーペンスト自治領の二世領主で、親の遺産を食い潰しながら怠惰な生活を送っているとか」

 

「へぇ~。まるで駄目な奴なのね、そいつ。んで、もう片方のヴィダクチオ自治領ってのはどんなとこなの?」

 

「・・・あの自治領のことか」

 

 私が軽く訊ねてみると、ウィンネルさんはあからさまな嫌悪が入り交じった表情を浮かべた。

 これは、何か不味いことでもあるのだろうか?

 

「―――ヴィダクチオはマゼラニックストリームに近い、カルバライヤ寄りの宙域にある自治領だ。そしてあの自治領の内部に関する情報は少ない。だが、伝え聞く話によると内部では相当な弾圧が行われているらしい。それに連中は最近になると膨張主義的な姿勢を見せて軍と対立している。ゼーペンストならまだしも、あそこはまともに入ることすらできない場所だ」

 

 うえっ・・・話を聞くだけでも厄介そうな場所じゃない。それに、そんな場所と人身売買の取引がされていたって事は―――

 

「―――これは困りましたね。もしお嬢様方があそこに売られているとしたら・・・」

 

「恐らく、ただでは済まないだろうな。だがバハシュールも相当な女好きだと聞く。そっちに送られていても・・・」

 

「まさか・・・お嬢様方はまだ10才前後ですよ!?いくらバハシュールに色狂いの噂があっても、流石にロリコンまで併発してるなんて・・・」

 

 メイリンさんはそれに反論しようとしたが、途中で言い澱んでしまう。これでバハシュールって奴の評価が少しは分かった気がするわ。

 しかし、ご令嬢を奪還しても何かされていたようじゃ・・・報酬、ちゃんと出るわよね?

 

「―――ただ、君達も分かっているとは思うが自治領は基本的に宇宙開拓法で治外法権が認められている。保安局としても交渉はするつもりでいるが、それが決裂した時は―――」

 

「・・・ええ、判っています。11条による自助努力をしろ、と言いたいんですね」

 

「―――ああ、済まない。捜査に乗り出したいのは山々なんだが、なにぶん相手が自治領だ。分かってくれ」

 

「問題ありませんよ。そのときは此方で対処するつもりです」

 

 ウィンネルさんとメイリンさんが話を進めていくけど、11条って何よ。私置いてかれてる?

 

「・・・ねぇ、その宇宙開拓法とやらってどんな法律なの?」

 

「え?―――ああ、宇宙開拓法ですか。惑星や宙域の発見者にはその場所の所有と自治権が認められるっていう法律ですね。11条は自治領の防衛に関してはそこの領主が全責任を負うっていう条文です。ですから―――」

 

「成程ね、だからそのときは攻め込んで自力救済しろって言いたい訳でしょ」

 

「はい、理解が早くて助かります」

 

 簡単に言ってくれるけど、面倒臭いことこの上ないわね。海賊の次は自治領滅ぼしかぁ・・・やることは変わらないとはいっても、相手は一応国みたいなもんだし、こっちも相応の戦力を整えておかないとね。

 

「はぁ・・・面倒臭いけど、依頼を受けた手前仕方ないわね。それに、国盗りってのもなんだか面白そうだし、付き合うことにするわ」

 

「・・・なんだか申し訳ありませんね」

 

「別にあんたが気にすることじゃないわ。面倒なことを強いられた怒りはその領主とやらにぶつけてやるから」

 

 ああ、依頼がザクロウで終わればどんなに楽だったことか。もうこうなったら連中からは徹底的に巻き上げてやる。敵の艦船は全部接収よ!

 

「―――悪いが君達、まだ交渉は始まってもいないんだ。我々の交渉が上手くいかなかったときは連絡する。だからその話はそれまで待ってくれないか」

 

「・・・分かりました。ではその間に本社の方にも増援を要請しておくことにします。社長のことですから、相手が自治領と知れば嬉々として艦隊を率いてくるかもしれませんし」

 

「ねぇ、あんたのとこの社長って、一体どんな奴なのよ・・・」

 

 メイリンさんのとこの本社から増援が来るって話は心強いんだけど、嬉々として自治領潰しをやる社長って一体どんな人間なのかしら・・・・・・

 

 そんな訳で、依頼については保安局の方で進展があるまでは自由に行動して良しということになった。ならその間に戦力の拡張でもすることにしようかしら。勿論資金源はそこら辺の海賊で。

 

 

 それと、保安局から報酬として貰った設計図はバハロス級巡洋艦とシドウ級駆逐艦という保安局では割とよく見る艦種2つに例の重巡洋艦ダガロイ級だ。え?ダガロイは空母じゃなかったかって?あんなの空母なわけないでしょ。軍のバゥズ級重巡より砲力強いって一体何様なのよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム~

 

 

【イメージBGM:東方萃夢想より「砕月」】

 

 

 

 いつもは閑散としているこの自然ドームだが、今夜は酒臭さと喧騒に包まれている。恒例の宴会行事の開催だ。

 

 まだ厄介事は残っているとはいえ、海賊狩りの方はグアッシュ海賊団の壊滅という形で一区切りついた。なので今回もグアッシュ壊滅祝いとして、こうして宴会を開いた訳だ。

 

 ふつうの艦ならこんな場所に全乗組員を収めるなんてできないだろうけど、うちは自動化率が艦のサイズに比べたら半端ないのでまだまだドームには余裕がある。それに艦自体は寄港したままの宴会なので、最低限の保守整備要員以外は殆どこの宴会場に参加しているのではないだろうか。

 

 そんな宴会ではあるが、私はいつも通り神社の縁側に腰かけて、何をするわけでもなく喧騒を眺めるだけだ。幻想郷なら魔理沙やらレミリアやらが絡んでくるお陰で喧騒の真っ只中に放り込まれるなんてざらにあったが、今は部署ごとに纏まっているみたいだし、マッド以外は積極的に絡んでくる訳でもないのでこうして静かに過ごしている訳だ。

 

 でも、艦長ということを考えると少しはこっちから絡みに行った方がいいのかもしれない。一応クルーと打ち解けるいい機会な訳だし、艦長はクルーからの信頼があった方が良いのは言うまでもない。そうした信頼を得るためにも彼らと積極的に関わるというのも、案外悪いものではないだろう。

 

 という訳で、私は神社の縁側を降りてクルー達の輪の中に混ざることにした。

 

「あ、艦長・・・」

 

「お疲れ様でーす、艦長!」

 

「貴女達・・・だいぶ酔ってる?」

 

 最初に話し掛けたのはこころとミユさん、ノエルさんのブリッジクルー組だ。ミユさんとノエルさんは一緒にいるところをよく見る気がするんだけど、この三人で纏まっているのは少し新鮮かも。でも仕事柄一緒にいることは多いんだし、案外中はいいのかもしれない。

 

「艦長、今日はお稲荷さまじゃない・・・」

 

「当たり前でしょ?こころ。宴会の度にマッドの玩具にされるなんて堪らないわよ」

 

「え~っ!ふかふかの方が可愛いのにぃ~っ」

 

「ノエルさん―――抱きつかれる私の身にもなってみなさいよ」

 

 そういえば、前回の宴会ではマッド共のせいで狐耳と尻尾を生やされていたんだっけ。勿論あのマシンは封印したので今回の私は正常だ。だけどノエルさんはそれがなんだか御立腹みたい。なんでさ?

 

「あっはは!ノエルったらあのときは艦長にお熱だったよね~・・・私もちょっと抱きたかったかも」

 

「ミユさんまで・・・あれ、以外と恥ずかしいんだけど。あとくすぐったいし」

 

「まぁまぁそう言わずにぃ~!可愛いんだから良いじゃない」

 

「もふもふ・・・」

 

「―――お稲荷さまの方がめでたいですよ?」

 

 して、三者の反応はこんなところだ。どれだけ私にまた狐化してほしいのよ、このオペレーター組は・・・

 というかこころ、あんたまでそっち側に付くんだ。普段の仕草から冷静な子だと思っていたんだけど、酔いが回ると相応にふざけたりするのね。

 

「はぁ・・・それじゃ、私は他のところに行ってくるわ。酔いすぎないよう気を付けなさいよ」

 

「りょーかーい!」

 

 ミユさんとかは顔も赤いしだいぶ酔いが回っていそうだけど、一応これぐらいは行っておこう。あと、また狐になるつもりはないのであしからず。さっさと退散するに限るわ。

 

 

 

 次に向かった先には機関長のユウバリさんと主計長のルーミアがいた。こっちも珍しい組み合わせね。

 

「・・・・だからさ、わざわざこんな場で話すことじゃないよな?こっちは羽根を伸ばしたいんだが・・・」

 

「別にそこまで言ってませんよって。軽いお願いですよ~」

 

 見たところ二人とも酔っているらしいが、ルーミアはともかくユウバリさんは絡み酒みたいだ。ここは間に入った方がいいのかな?

 

「お疲れ、二人とも。それで、何かあったの?」

 

  「ああ、艦長か。いや、このエンジンバカが機関改修の費用を捻出してくれと五月蝿くてな・・・陳情ならまだいいんだが、訳の分からん専門的なことまで語り出す始末だ。このままじゃ延々とエンジンについての蘊蓄(うんちく)を垂れ流しそうだし、何とかしてくれないか?」

 

「―――要するに絡まれたって訳ね。ユウバリさん、聞こえるかしら?」

 

 どうもルーミアはユウバリさんに絡まれて困っているみたいだ。なら、面倒だけど折衝を買って出ることにしよう。部署の長どうしが揉めるのはあまり宜しくない。

 

「あー艦長!なんですかぁ~」

 

 というか、酒くさっ。どんだけ飲んだのよユウバリさん・・・

 

「そーだ。こいつぅ、私が機関を改造するから費用出せって言ってるのにウンとも言わないんですよぉ~!艦長からも何か言ってくださいよぉー!今度のエンジンはケイ素生物対策を万全にした新型なんですよ~!」

 

「はいはい分かったから、それはまた後の機会に検討してあげるわ。とにかく、今はあまり他人に絡まないようにしなさいな」

 

「うぅっ・・・そんなら仕方ないれすねぇー。今日のところはここまでにしておきますよ~!」

 

 私がユウバリさんを諭すと、彼女は一升瓶をぐいっと持ち上げて凄い勢いで酒を飲み干していく。それが終わると、大人しく他の席に移っていった。

 

「すまないな、艦長」

 

「なに、酔っ払いの扱いぐらい任せておきなさい。普段は経理だとかで忙しいだろうし、あんたも今日ぐらいは楽しんでおきなさいよ」

 

「言われなくてもそうするつもりだ。書類が大変なのは相変わらずだがここは福利厚生が充実しているからな。私もそれなりには気に入っているよ。」

 

「そりゃどうも。しかし、私に上がってくる段階であれなのに、あんたのとこに届く書類はどれだけ大変なんでしょうね。其が直接私のところまで来たら、過労で死ぬ自信があるわ」

 

「慣れればただの流れ作業なんだが・・・研究開発費の報告が実態とかけ離れていてな―――それを把握するだけでも大変さ。ロマンを追い求めるのは分からんでもないが、連中はもう少し自重というものをだな・・・」

 

 ルーミアもなんだかんだで酔っているのか、普段は聞かない愚痴なんかを聞かされた。彼女もマッド共の横暴には苦労させられているみたいなので、私もそれに乗っかってマッドの無断行動についての罵倒大会さながらの様相を呈するようになった。ただ、彼等の頭脳が優秀であることには間違いないし、それは艦隊にとって必要なものだということも事実だ。うちのマッド共は、まさに扱いが難しいじゃじゃ馬ってところね。ほんと困ったわ。

 

 

 ルーミアとマッド罵倒大会を終えた後、私は適当に宴会場を徘徊して、クルー達といろいろ話をして、というのを繰り返していた。お陰で酒はあまり進まないけど、クルーと打ち解ける機会もあまりないんだし、まあ別にどうでもいいわ。

 

 ふと周りを見てみると、航空隊の連中がなにやら騒いでいるみたいだ。気になって近づいてみると、どうやら霊沙も一緒らしく、彼女の姿も見える。

 

「お~い、いい加減やめろよぉ――――」

 

「良いじゃねぇかこれぐらい。なぁ?」

 

「はい、隊長。次は私にも撫でさせて下さいよ!」

 

 喧騒の真ん中で、霊沙はいいように揉まれているらしい。バーガーが霊沙の頭をもみくちゃに撫でていて、彼の部隊の2番機についているマリアさんがそれを羨ましそうに眺めている。よく見ると、霊沙の隣には白い獣耳まで見える。あんななりしてるのは椛しかいないので、どうも航空隊だけという訳ではないらしい。よく見ると保安隊の顔も混じっているようだ。

 

 ―――あれ?あいつの頭で何か・・・

 

 動かなかった?今なんか、ぴくって動いたような気がするんだけど・・・

 

「あ、れいむぅ~、こいつら何とかしてくれよぉ~」

 

 私がそこに近付いたところで目が合うと、霊沙が上目遣いで私を見つめてくる。というかあんた、その頭に生えているものは何かしら?

 

「ふふっ、貴女もこれで私のフレンズですね!」

 

 霊沙の隣では、椛が尻尾を揺らしながら嬉しそうにあいつに抱きついている。もふもふして気持ち良さそう―――じゃなくて、なんで霊沙の頭にも猫耳が乗ってるのかしら?

 

「マッド死すとも獣耳死せず・・・がはっ―――」

 

 すると、どこからか息絶えるような声が聞こえた。その方向を探して辺りを見回してみると、サナダさんとにとりが集団の向こうで地面と抱擁を交わしている。その奥には、デフォルメされた私の人形が飾り付けられた―――

 

「・・・・って、何であれが復活してるのよ!!」

 

 あの忌まわしき"ふもふもれいむマスィン"の姿がそこにあった。

 よく見てみると、人形の額には「Mk=2」と書かれている。にゃろう、懲りずにまた作りやがったな!?

 

「ああ、マッドなら吹っ飛ばしといたよ。それより、周りの連中を・・・」

 

「―――隊長、そいつ撫でさせて!」

 

「あ、おいっ・・・あまり乱暴に扱うなよ?」

 

「げっ、マリアさん・・・ちょっ、くすぐったいよ・・・」

 

 あのマッドは霊沙がやったらしい。だとしたら、今度も無理矢理あれに入れられたのだろうか?だけど今回は理性まで獣化してないみたいなので、彼女は今は大人しくしているみたいだ。

 

 霊沙はしばらくマリアさんの撫で撫で攻撃と椛の抱きつき攻撃を受けていたみたいだが、そこから解放されるとよれよれの足取りで私のところまで来て、糸が切れたようにばたっと倒れ込んだ。

 

「あはは~、れいむの膝枕だぁー」

 

 なんか、性格変わってない?

 

 前は私のことはあまり好いていない様子だったけど、今の霊沙はまるで猫みたいに甘えてくる。前回の宴会のときもそうだったけど、こいつは獣になると何故か私に甘えるようになるらしい。

 

 ―――ちょっと、可愛いかも・・・?

 

 その顔は私と瓜二つなんだけど、不覚にも甘えてくる霊沙が可愛いと思ってしまう。そこで魔が差したのか、私は彼女の顎に手を当てて撫でてみた。

 

「―――なうーん、ごろごろ・・・♪」

 

 え、なにこれ。かわいい。

 

 撫でたときの反応が予想外に可愛いので頭も撫でてみると、霊沙は本物の猫みたいに心地良さそうにしている。

 

 ―――こいつ、もうこのままで良いんじゃないかしら?

 

 普段の霊沙の奴と比べれば断然こっちの方がいい。まだ可愛げがある分ましだ。というか、素直にかわいい。

 

「・・・艦長には懐くんだな」

 

「私にも撫でさせてくださいよぉー」

 

「ああ、私のフレンズが・・・」

 

 外野がちょっとうるさいけど、私は霊沙を撫でることに集中する。

 あ、耳ふさふさ・・・

 

「―――あら、こんな場所で何やってるの」

 

「ふぁっ・・・・ああ、なんだ貴女ね。いきなり後ろから声かけないで貰える?」

 

 私が獣耳に囚われていると、ふいに背後から声をかけられて、思わずらしくない反応をしてしまった。振り向いてみると、そこに居たのはブクレシュティだった。

 

「何って・・・まぁ、スキンシップみたいなものよ。ところで、あんたも楽しんでる?」

 

「楽しむも何も、私には必要のないことよ。貴女が来いって言うから来ただけ」

 

「・・・つまらない奴ね」

 

 私がそう訊いても、ブクレシュティは普段と変わらない表情で淡々と答える。同じAIでも、早苗とはえらい違いだ。

 

「あんたが機械だってことは分かってるけど、適度な息抜きは必要でしょ。少しはゆっくりしてきなさいよ」

 

「だから・・・そういうのは私には必要ないの。今日は話したいことがあったのだけれど・・・その様子だと日を改めた方がいいみたいね。それじゃあ私は行くわ」

 

 私が気遣っても、彼女は何処吹く風とばかりにそれを受け流してしまう。

 ブクレシュティは私に用事があったみたいだけど、この様子を見て今は話せることではないと思ったのか、それを諦めて踵を返す。

 

 ほんと、淡白な奴ね・・・

 

「・・・にゃあ~」

 

 私に撫でられている連中がが、眠たそうに欠伸をする。なんか、獣化が進行しているような気がするんだけど、気のせいかしら?

 

 その後も霊沙の獣耳に癒して貰ったが、肝心の彼女が寝てしまったので、私は神社に寝かせるために宴会場を離れた。こいつを独占する形になったためか航空隊と一部保安隊の連中からブーイングが飛んできたけど、霊沙がこれじゃ起こす訳にもいかないし、今は無視よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ・・・声をかけるタイミングを見失ってしまいました・・・」

 

 物陰から霊夢を覗くものが一人、悔しそうに歯噛みする。

 

「獣化して霊夢さんの膝を奪うなんて・・・霊沙さん、恐るべき敵です!」

 

 その人影―――早苗は、何かを勘違いしたまま、霊夢の膝で撫でられていた霊沙に対抗心を燃やす。

 

「こうなったら、私もあれを使うしかありませんね。霊夢さんの膝は私のものです!」

 

 早苗は霊沙への敵愾心を胸に、ある装置を見上げる。

 

 デフォルメされた霊夢人形が飾り付けられた、人一人が入るぐらいの大きさをしたその装置―――"ふもふもれいむマスィンMk=2"は、静かに佇むだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム内・博麗神社~

 

 

 

【イメージBGM:東方封魔録より「博麗神社境内」】

 

 

 

 自然ドームにある小山の上に建てられたこの博麗神社は実質私の家と認識されているらしく、宴会場から近いにも関わらずあまりクルー達は寄ってこない。宴会の喧騒は充分耳に届くが、それもただの雑音に過ぎない。

 

 私は霊沙に布団を被せて寝かしつけた後、一風呂浴びようと思って浴室に足を運んだ。まだ酔いは殆どないし、これから一人で飲み直すのも悪くない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに風呂場に辿り着く。

 神社は幻想郷にあるものを再現したものだが、この風呂場だけはこの時代で一般的なものだ。最初は違和感しかなかったけど、慣れればこれも便利なものだ。機械に頼めば勝手に風呂を沸かしてくれるし、薪割りも火の管理もする必要がない。

 

 服は畳んで風呂場に入り、身体を洗ってから湯槽に身を沈める。

 

 自然ドームの季節は冬の設定で雪も積もっているし、今日は満月の設定だったみたいだから、湯槽に浸かりながら雪見酒なんてのも風流だ。しかし、生憎神社の風呂は露天風呂ではない。う~ん、これは残念だ。

 

 今度にとりかサナダさんにでも頼んで、露天風呂をつけて貰おうかな。場所は、神社の裏手でいいかしら?

 

 

 とまあ、そんなふうに露天風呂について考えていると、突然風呂場の扉がガラッと開く。

 

「だ、誰っ!」

 

 私は曲者かと思って身構えたが、相手の声でそれが杞憂だと知る。

 

「霊夢さ~ん、早苗でございます!お背中流しに参りまし・・・あれ?もう終わってる?」

 

「なんだ、早苗か―――」

 

 どうやら、相手の正体は早苗だったらしい。それを知った私は再び湯槽に身を沈めようとしたのだが、湯気が晴れて彼女の姿が露になると、またもやそこから飛び上がる羽目になる。

 

「―――って、あんた、その頭・・・!」

 

 早苗は身体にバスタオルを巻いて入口で正座している。それは良いんだけど、頭、なにかついてない?

 

「へ?、ああ、これですか?」

 

 彼女の頭で、ぴくっとなにか動く。それは紛れもなく、霊沙にあったそれと同じもの・・・猫耳だ。

 早苗のそれは霊沙とは違い、髪の色とは異なる黒色をしていたが。

 

「なんであんたまで・・・ハァ、まぁいいわ。そこにいても冷めるから、さっさと入ってきなさいよ」

 

「は~いっ♪」

 

 私が呆れ気味に早苗を呼ぶと、彼女は軽快な声で返事をして風呂場に入る。例に漏れず尻尾もちゃんとついていたみたいで、それは終始ぴんと垂直に立っていた。

 というか、あの機械早苗にも効果あるのね。確か、今の早苗はサナダさんが作った義体の筈なんだけど。

 

「ああ、入りたいならまず身体を流しておきなさいよ?」

 

「了解です♪」

 

 早苗は軽く返事をして、自分の身体を流す。それが終わると、また私と向き合って、少し頬を赤らめながら頼んできた。

 

「あの・・・そっちにお邪魔してもいいですか?」

 

「別に・・・構わないわ。広さは充分あるんだし」

 

「なら、お邪魔します」

 

 早苗はゆっくりと、湯槽に足を入れる。「えへへ・・・一緒ですね」なんて呟いているあたり、早苗は嬉しいみたいだ。しかしまぁ、なんで私と入りたいなんて思ったのかしら?

 

 すると、早苗は湯槽に身体を沈めたところで、突然ぶるっと身を震わせる。

 

「早苗―――どうかしたの?」

 

 気のせいか、彼女の顔も青くなってる気がする。先程までは上気してほんのり赤く染まっていた頬も、今や見る影もない。

 普段はあまり意識してないんだけど、彼女の身体は機械なのだ、機械は水に弱いって聞くし、もしかしたらそれが原因で―――

 

「に・・・ぎにゃぁぁぁぁっ!?」

 

 突然、早苗が驚いた猫みたいな叫び声を上げると、ものすごい勢いで私に抱きついてくる。

 

「い、いきなりどうしたのよ・・・ッ!」

 

「み、水っ、水ぅぅ!こ、怖いですっ!」

 

 なんだか訳がわからないけど、早苗はぶるぶると震えて猛烈な勢いで私を絞め上げていく。

 く・・・苦しい・・・

 

「うわぁっ!!」

 

「きゃっ!」

 

 直後、早苗が抱きついてきた勢いのせいか、身体がずるっと滑って私は正面から早苗に抱きつかれたまま全身が湯槽の中に沈んでしまう。

 

「がっ、がばごぼぼぼ・・・」

 

 位置がずれたお陰で、私の顔はちょうど早苗の胸のあたりで抱きつかれる形になってしまい、早苗が強く抱きついてくるお陰で呼吸すらままならない。それに、お湯が入ってくるせいで息が絶えてしまいそう・・・

 

 ―――いい加減、離れなさいっ!!

 

「に"ゃーっ!!」

 

 これ以上抱きつかれていると、ほんとにやばい・・・!

 

 このままだと窒息してしまいそうだったから、私は思わず力いっぱい早苗を押し退ける。

 すると、驚いたような声を出した早苗はゴンッ、と後頭部を壁に打ち付けて動かなくなってしまった。

 

「さ、早苗・・・?」

 

 さっきは必死だったのでそこまで頭が回らなかったが、流石に罪悪感がして早苗に呼び掛ける。だが、彼女は返事のない状態が続いた。

 

「い、いたたた・・・っ!」

 

 しばらくすると早苗は痛がりながら起き上がってきて一安心したのだが、彼女はさっきみたいにまた身を震わせたかと思うと、再び私に抱きついてくる。

 

「み、水ですっ、霊夢さん!!」

 

「ちょっ・・・危ないったら!また滑ったらどうするのよ!」

 

「水・・・こ、怖いですっ・・・!」

 

 早苗は私の呼び掛けにも応えず、抱きついたまま震えるだけだ。

 あれ、猫に・・・水?

 

「―――ねぇ、早苗?」

 

「・・・はい?」

 

 私が落ち着いた声で彼女を呼ぶと、早苗は恐る恐る顔を上げる。

 

「もしかして・・・猫になったせいで水が怖くなったの?」

 

「―――恥ずかしながら、そうみたいです・・・私としたことが、不覚でした・・・」

 

 早苗は耳と尻尾をしょぼんとぶら下げて、落ち込んだ様子を見せる。

 とにかく、これじゃあまた暴れだすかもしれないし、今は早苗を湯槽から出すのが先だ。

 

「今のあんたに風呂は止めておいた方がいいわ。上がりなさい」

 

「・・・はい、申し訳ないです・・・ぐすん」

 

 流石に今の自分では風呂は無理だと悟ったのか、早苗は大人しく湯槽から出る。

 

「取り敢えず、今は寝ておきなさい。神社の布団は適当に使っていいわ」

 

「―――ごめんなさい。では、お言葉に甘えさせていただきます・・・」

 

 早苗はしょぼんとした顔のまま、私の言いつけに従って風呂場を後にした。なんだか落ち込んでいるみたいだし、後で撫でておこうかしら?早苗に効果があるかどうか分からないけど、霊沙があれなら少しは落ち着いてくれたらいいんだけど・・・

 

 

 そんな訳で、風呂から上がった後は酒を飲み直す暇もなく、布団に入って早苗の頭を撫でてあげた。案の定、彼女はご満悦だったみたいで嬉しそうにしてくれた。それは何よりなんだけど、霊沙といい早苗といい、なんで私に撫でられると気持ち良さそうにするのかしら?別に他の人でも変わらないと思うんだけどなぁ・・・・・

 

 

 その後は、私はそのまま早苗を撫でていた体勢で眠ってしまったみたいだった。

 布団の中でも早苗に抱きつかれていたためか、その夜は冬にも関わらず暑苦しくて変な夢を見せられたんだけど、それはまた別の話。

 

 あれは・・・流石に私でも恥ずかしかったわ・・・

 

 

 

 

 




カルバライヤ編もこれにて終了です。次回は4章までの設定を挟んだ後にネージリンス編突入となります。

今回の宴会でも例のマスィンに活躍していただきました。ねこちや可愛いので仕方ありませんね。あのマスィンに入れられると、一部動物の性質も受け継いでしまうようです。お風呂に入ったにゃんこかわいい。早苗さんは猫化したまま浴槽に入ってしまったのであの反応です。シャワーは大丈夫だったか、湯槽に入るまで気づかなかったようなので、直前までは普通にしてます。一応今回のあれは猫化したために起こったものなので、普段はああはなりません。

ちなみに霊夢ちゃんが見た夢の内容ですが、後日東方短編集にぶち込んでおきます。気になる方は本話投稿の3日後ぐらいにご覧下さい。(R-15注意!)


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間章・夢幻縁起(壱)
艨艟縁起・壱


第四章までの設定資料集になります。艨艟の名の通り、ここでは艦艇の設定のみとなります。
紹介されている艦艇は基本既出のものですが、一部今後近い時期に登場する艦艇の記事もあります。元ネタや没ネタなども記載しています。
本設定集のイメージBGMはGジェネGのOP「永世のクレイドル」で再生されていますw

前回にあった霊夢ちゃんの恥ずかしい夢ですが、東方短編集の方に分離して投稿してあります。気になって方は覗いてみて下さい(笑)



艨艟縁起・壱 艦艇解説

 

 

~博麗艦隊~

 

 

*改スーパーアンドロメダ級戦略指揮戦艦 〈開陽〉

 

全長:1780m

価格:62000G

艦載機:常用36機(その他輸送機、艦載艇、試作機多数)

武装:艦首ハイストリームブラスター×2、160cm65口径3連装砲×5、SSM-890〈グラニート〉超長距離艦対艦ミサイルVLS×12セル、8連装多弾頭対艦ミサイルランチャーx1、30,5cm連装副砲x4、40mmCIWS×16、対空パルスレーザー、対空ミサイルVLS×多数

 

性能値

耐久:9100

装甲:98

機動力:36

対空補正:38

対艦補正:81

巡航速度:138

戦闘速度:130

索敵距離:20000

 

解説:霊夢艦隊の現旗艦〈開陽〉のクラス。大昔の水上戦闘艦を彷彿とさせる、上甲板に並んだバレル付き砲塔に、背の高い艦橋を持つ。サナダが風のない時代の遺跡から発掘した設計図を空間通商管理局の規格に合わせて改設計を行った艦。しかし、元設計は現代の技術よりも高度な技術を基準として設計されていたため、性能は完全には再現されていない。

霊夢艦隊の旗艦として建造された〈開陽〉1隻のみが存在しており、持ち前の高性能で艦隊の中核として活躍している。

艦体の塗装はハイストリームブラスターの砲口が金、艦全体は白に近い灰色で、舷側中央には赤いラインが入っている。その塗装と小マゼラン艦船を遥かに上回る圧倒的な性能から、特に略奪の対象となることが多い海賊からは「紅白の海賊狩り」または「紅白の死神」などと恐れられている。

 

外観はヤマト復活編のスーパーアンドロメダ級だが、主砲が増加し艦橋形状は原案のものになっている。また艦体も原作のスーパーアンドロメダに比べて太めであり、初代アンドロメダ級との中間といったところ。

 

 

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*改アンドロメダ級前衛武装航宙戦艦

 

全長:1456m

艦載機:不明

価格:不明

 

性能値

耐久:???

装甲:???

機動力:???

対空補正:???

対艦補正:???

巡航速度:???

戦闘速度:???

索敵距離:???

 

解説:サナダ率いる博麗艦隊の誇るマッド陣営が"風のない時代"の遺跡から発見した設計図を全力改設計中の航宙戦艦。クラス名がアンドロメダ級であり、〈開陽〉との関連性が疑われるが、厳重な機密保持により艦長である霊夢には未だに計画の存在は知られていない。

 

 

 

 

*マゼラン級戦艦

 

全長:800m

価格:27500G

武装:120cm連装レーザー主眼×7、魚雷発射管、パルスレーザー砲多数

 

耐久:5100

装甲:62

機動力:25

対空補正:25

対艦補正:70

巡航速度:126

戦闘速度:140

索敵距離:13000

 

解説:ファズ・マティ攻略後、艦隊拡張計画の一環としてにとりが設計した戦艦。連装レーザー主砲を艦体全体に満遍なく配置し、射角から死角を排除した設計となっている。ただ、そのため艦体の表面積に対して主砲の占める割合が大きくなったことにより被弾危険箇所が増加したことが欠点として指摘されている。結局建造されることはなく、このとき実際に造られたのは後述のオリオン級だった。現在はにとりの手で改設計が行われている模様。

 

外見は初代ガンダムやORIGINのマゼランではなく、MS IGLOO(EXモデル)のマゼラン。そのため箱っぽい形状。

 

 

 

 

*オリオン級航宙巡洋戦艦

 

全長:811m

価格:30700G

艦載機:24機

武装:80cm60口径連装レーザー主砲×3、連装レーザー副砲×2、対空ミサイルVLS(32セル)×2、パルスレーザー砲多数

 

性能値

 

耐久:5220

装甲:65

機動力:25

対空補正:30

対艦補正:65

巡航速度:127

戦闘速度:140

索敵距離:15000

 

解説:前述のマゼラン級戦艦の艦首を改造し、艦載機用のカタパルトや格納庫を設置した航宙戦艦。元はそれ以外の仕様はマゼラン級と共通だったが、建造にあたってはメンテナンス性やコストダウンの観点から主砲はクレイモア級重巡と同口径のものへと換装され、艦尾の主砲はガラーナ級駆逐艦のものと換装され副砲とされた。そのため巡洋戦艦と名乗りながら純粋な対艦攻撃力ではクレイモア級に劣る。

カルバライヤのバゥズ級重巡と同程度の艦載機搭載能力を持つが、現在は予算不足のため定数一杯まで搭載されておらず、少数の戦闘機と偵察機のみが搭載されている。

艦橋直下にはスペースを生かして大容量の演算装置が搭載されており、無人艦ながら限定的な旗艦能力を有する。また武装を元のマゼラン級より削減したため艦内容積には余裕があり、有人艦としての運用も可能である。

〈オリオン〉〈レナウン〉の2隻が建造され、それぞれ前衛分艦隊の旗艦として運用されている。

 

外見はセンチネルのマゼラン改級。MSはまだ開発途中。

 

 

 

*改ブラビレイ級空母 〈ラングレー〉

 

全長:1400m

価格:42500G

艦載機:常用70機

武装:対空ミサイルVLS×36セル、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:3000

装甲:80

機動力:35

対空補正:68

対艦補正:7

巡航速度:130

戦闘速度:127

索敵距離:17000

 

解説:サナダがヤッハバッハのブラビレイ級空母を無人艦として再設計した艦。霊夢艦隊では、〈ラングレー〉1隻が運用されている。外見はブラビレイ級をひっくり返したような形状で、雛壇状に並んだ3層の飛行甲板と、艦中央から後方にかけてのアングルドデッキを持つ最上甲板を備える。設計にあたっては、無人化の上で不必要な居住設備を削り、武装も個艦防衛用に限定することで、元になったブラビレイ級と比べて大幅なコストダウンを実現した。

竣工後は博麗艦隊の機動戦力の中核として運用され、当初はスーパーゴーストを搭載した防空空母として扱われていたが、対艦攻撃機の充実に伴い攻撃空母としても運用されるようになり、監獄惑星〈ザクロウ〉近海ではザクロウ防衛隊の装甲空母群と本格的な機動部隊戦を戦った。

 

外観はヤマト2199のランベアです。

 

 

 

*クレイモア級自動重巡洋艦

 

全長:890m

価格:32600G

武装:80cm60口径3連装砲×3、SSM-890〈グラニート〉超長距離艦対艦ミサイルVLS×20セル、8連装対艦ミサイルランチャー×1、艦首魚雷発射管×8、対空ミサイルVLS×32セル、対空パルスレーザー×20

 

性能値

耐久:5200

装甲:98

機動力:28

対空補正:28

対艦補正:74

巡航速度:125

戦闘速度:132

索敵距離:16000

 

解説:霊夢艦隊の重巡洋艦。〈開陽〉同様、サナダの手により遺跡から発掘された設計図を元に開発された。その姿は〈開陽〉のように水上戦闘艦に似ており、重圧な威容を持つ。性能も対艦に限れば戦艦に匹敵し、実際小マゼラン各国で運用されている戦艦では性能で本型に叶うものはいないどころか、大マゼラン、ヤッハバッハの戦艦とも強化次第では互角に戦うことができる。ただし、その高い対艦攻撃力と引き換えに、対空性能は巡洋艦としては低い。

霊夢艦隊では主力として4隻が建造され、〈クレイモア〉はヴァランタインの〈グランヘイム〉との戦いで、〈トライデント〉はマリサ艦隊の狙撃戦艦との戦いで戦没、〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉の2隻はその後も艦隊戦力の中核を務め続け、数多の海賊を葬っている。重巡とは名ばかりの強力な砲撃と壊滅的な威力を誇るグラニート対艦ミサイルの矛は小マゼランにおいては強力無比であり、下手なレーザーではその重圧な装甲を貫くことは叶わず、まさに海賊にとっては〈開陽〉と並ぶ死神として立ちはだかる。

残存の2隻は早期に沈んだ姉妹の分まで責務を果たさんと、現在も霊夢艦隊の主戦力として活躍を続けている。

 

ヤマト的デザインの戦艦。大ヤマトに出ていた艦がイメージ元。

 

 

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*改ヴェネター級機動巡洋艦 〈高天原〉

 

全長:1137m

価格:28700G

艦載機:常用40機

武装:中口径連装レーザー砲×12、対空ミサイルVLS×多数、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:3120

装甲:65

機動力:38

対空性能:37

対艦補正:35

巡航速度:135

戦闘速度:148

索敵距離:18000

 

解説:霊夢艦隊の初代旗艦、〈高天原〉のクラス。サナダが古代異星人の遺跡から発掘した戦艦を空間通商管理局の規格に適合するように改設計している。艦容は中央よりやや後方が抉れた楔型の艦体に、2棟の艦橋が立っている姿をしている。巡洋艦として見ると火力は低めだが、正規空母並の搭載機数を誇り戦闘空母的な運用が可能。性能値は巡洋艦としては平均的な部類に入るが、その大きさに対しては、機動力や航行性能は優れている。また、大気圏への突入能力を有する。

旗艦時代にあった装備も残されており、分隊旗艦を任されることもある。ファズ・マティ攻略戦ではショーフク指揮の下別働隊の旗艦として使われ、スカーバレル海賊団主力と対峙した。

現在はその搭載機数を生かして軽空母的な運用をされることもある。

 

外見はスターウォーズのヴェネター級まんま。共和国カラー。流石に艦載機の数は調整している。

 

 

 

*マハムント/AC級強襲巡洋艦 〈ブクレシュティ〉

 

全長:748m

価格:25000G

艦載機:18機+大型シャトル2機、中型シャトル8機

武装:連装プラズマ砲塔×2、61cm連装レーザー砲塔×1、40、6cm連装レーザー砲塔×10、SSM-716〈ヘルダート〉大型対艦ミサイルVLS×14セル、大型連装パルスレーザー×6、対空クラスターミサイルVLS多数、対空パルスレーザー多数

特殊装備:ODST投下用HLV射出ポータル×3、拡張艦隊戦闘指揮システム

 

性能値

 

耐久:3500

装甲:71

機動力:34

対空補正:35

対艦補正:40

巡航速度:120

戦闘速度:137

策敵距離:18000

 

解説:グアッシュ海賊団が保有していたマハムント級巡洋艦を鹵獲、改造した艦。クラスはマハムント/AC級(Aは強襲assault、Cは指揮commandを意味する)。独立戦術指揮ユニットの下での運用を想定した改装が施され、同時に火力の向上や艦載機運用能力、HLV運用能力の付与も行われた。

元となったマハムント級などのロンディバルト製艦艇は蓄積されたバトルプルーフによる高い完成度と信頼性を誇り、〈ブクレシュティ〉も海賊が所有していたモンキーモデルが基とはいえ、その例に漏れず非常に高性能な特務巡洋艦として完成している。性能は全体的にモンキーモデル仕様からオリジナル仕様に匹敵する程度、あるいは凌駕するほどまで引き上げられているが、艦載機やHLV搭載能力など元設計になかった仕様を盛り込んだため耐久性能は低下している。

就役後は同名の独立戦術指揮ユニットの下で運用され、一個駆逐戦隊を任されている。近々艦隊が再編された際には艦隊旗艦として運用される予定。

 

 

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*アレキサンドリアI級指揮航宙巡洋艦

 

全長:590m

価格:23000G

艦載機:24~28機

武装:連装レーザー主砲×4、単装レーザー砲×2、3連装大型対艦ミサイルランチャー×2、パルスレーザー砲多数

 

性能値

 

耐久:2850

装甲:60

機動力:35

対空補正:35

対艦補正:38

巡航速度:132

戦闘速度:142

索敵距離:15000

 

解説:サナダが独自に設計中の巡洋艦。大型の艦橋には有人運用を前提とした各種指揮通信設備、旗艦設備を搭載。また艦前半が飛行甲板となっており、バゥズ級重巡と同程度の艦載機搭載・運用能力を持つ。

グアッシュ海賊団との決戦に間に合わせるべく設計作業が進められていたが、設備の調整に難航したため間に合わなかったようだ。本来は独立戦術指揮ユニットの下での運用が想定されていたが本級がグアッシュとの決戦前には完成しない見込みが高かったため、サナダは鹵獲したマハムント級を本級のテスト艦として活用する方針に転換した。

 

ガンダムに登場するアレキサンドリア級を無限航路サイズに拡大した艦だが、本来のアレキサンドリア級との一番の違いは艦首カタパルト直下まで胴体が拡大されている点。そのためカタパルトは艦の上面のみ。

本来〈ブクレシュティ〉はこのクラスの一隻になる予定だった。艦首に見える「07」の文字は〈ブクレシュティ〉が本級7番艦として予定されていたための数字。

 

 

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*改サウザーン級航宙軽巡洋艦

 

全長:450m

価格:18000G

搭載機:18機

武装:艦首レーザー砲塔、上部3連装レーザー砲、下部レーザー砲塔、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2820(1620)

装甲:53(35)

機動力:45(30)

対空補正:41(30)

対艦補正:48(30)

巡航速度:148(132)

戦闘速度:160(145)

索敵距離:23700(16000)

 

解説:サナダとにとりがスカーバレルとの決戦に向けてエルメッツァのサウザーン級を改修した艦。モジュールを予め設計に組み込むことでコストダウンと高性能化を実現したが、その代わり拡張性は皆無となってしまった。決戦に向けて〈エムデン〉〈ブリュッヒャー〉の2隻が建造され、現在も健在である。基本的に有人での運用は想定されていない。艦艇が充実した現在では後述のサチワヌ級に取って代わられた感が否めず、単純な巡洋艦戦力として運用されている。

 

カッコ内の数値が設計図単体の性能値。モジュールが固定されているため、その分他艦に比べれば性能が高いように見える。(他艦の性能値は設計図単体のみ)

 

 

 

*サチワヌ級航宙護衛艦

 

全長:430m

価格:16500G

搭載機:18機(うち2機は大型シャトル)

武装:連装レーザー主砲×2、単装レーザー砲×2、艦首ミサイル発射管、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2750

装甲:51

機動力:28

対空補正:52

対艦補正:39

巡航速度:133

戦闘速度:148

索敵距離:16000

 

解説:スカーバレル戦後、ファズ・マティの資源を利用した艦隊拡張計画で建造された巡洋艦。設計はサナダが行っており、サウザーン級の設計コンプセントを継承した多目的中型艦として纏められている。そのためサウザーン級の完全上位互換とも言うべき存在であり、一からの設計のため前述の改サウザーン級のように性能向上のために拡張性を潰すといった措置は取られていないどころか、将来の発展を見越したリソースもある程度は有している。

〈サチワヌ〉〈青葉〉〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の4隻が建造され、駆逐艦隊の旗艦や工作艦の護衛艦として運用されている。工作艦の護衛を担当する〈サチワヌ〉〈青葉〉はその性質上ほとんど被弾したことがないが、前衛の第三分艦隊に配属されている〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の2隻は戦闘がある度にだいたい被弾している。

 

ガンダムシリーズの各種サラミス級を混ぜ合わせたような外見で、Zのサラミス改をベースに両舷にフジ級のカーゴブロックを追加し連装主砲は艦底部に移動、エンジンブロックは0083のサラミスになっている。また主砲はガラーナ級、ゼラーナ級と同一のデザイン。

原案の段階ではリーリス級駆逐艦の胴体にサラミス改のカタパルトと艦橋、フジ級のカーゴブロックを載せて艦尾を0083のサラミスにしたデザインだった。

艦名については何れかのガンダム作品に登場したサラミス級から取られている。(〈サチワヌ〉はZガンダム、〈青葉〉はガンダム・センチネル、〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉は0083より)

 

 

 

*ルヴェンゾリ級軽巡洋艦

 

全長:430m

価格:17000G

艦載機:12機

武装:連装レーザー主砲×4、単装レーザー砲×2、艦首ミサイル発射管、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2830

装甲:52

機動力:28

対空補正:52

対艦補正:41

巡航速度:133

戦闘速度:148

索敵距離:16000

 

解説:サチワヌ級は400m級巡洋艦としては優れた艦であったが、グアッシュ海賊団との戦いでは次第に火力不足が指摘されるようになった。そこでマッド陣営はサチワヌ級の設計を見直し、カーゴブロックを撤去した上でその跡地に連装主砲を増設する改設計を行ったのが本級である。まだ建造はおろか艦長への設計案提出も行われていないが、今後の博麗艦隊では主力巡洋艦となることだろう。

 

前述のサチワヌ級の両舷を元のサラミス改に戻しただけの艦。今後建造される予定。

 

 

 

 

*ヘイロー級駆逐艦

 

全長:320m

価格:13000G

武装:連装速射レーザー砲塔×1、SSM-770〈サンバーン〉長距離艦対艦ミサイルVLS×27、魚雷発射管×12、40mmCIWS×8、対空パルスレーザー×6

 

性能値

耐久:1620

装甲:68

機動力:42

対空補正:32

対艦補正:36

巡航速度:140

戦闘速度:151

索敵距離:15000

 

解説:サナダが風のない時代の遺跡で発見した艦を駆逐艦として調整したもの。艦は葉巻型で、艦首は水上船の球状艦首を尖らせたような形状をしている。駆逐艦としては対空性能が高く巡洋艦に近い性能をしており、霊夢艦隊においては、対艦、対空、索敵、護衛など様々な用途に使われている。建造時は6隻存在したが、〈バトラー〉、〈リヴァモア〉、〈ウダロイ〉の3隻は戦没し、〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉の3隻が残存している。小マゼランの海賊達との戦いでは当初こそその性能を生かして前衛を務めていたが、現在は工作艦部隊の護衛艦となっているため、その性能は少し持て余し気味のようだ。

 

YAMATO2520の3話に一瞬だけ登場した地球側軍艦が元ネタ。その艦の第三艦橋を一段低くした上で武装等を追加している。

 

 

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*ノヴィーク級駆逐艦

 

全長:300m

価格:8100G

武装:連装レーザー主砲×2、艦首量子魚雷発射管×4、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1440

装甲:40

機動力:35

対空補正:28

対艦補正:35

巡航速度:134

戦闘速度:150

索敵距離:13700

 

解説:スカーバレルのガラーナ級駆逐艦を霊夢艦隊のマッドが一人、シオンが改良した艦。主に耐久性の強化や汎用駆逐艦としての武装調整、無人化改装、不要な強襲接舷用設備の撤去などの改装が施されている。それらの改装により、元となったガラーナ級とは外見こそほぼ変わらないものの、部分的に大マゼランの駆逐艦並の性能を手にするに至った。〈ノヴィーク〉〈タシュケント〉〈ズールー〉〈タルワー〉〈パーシヴァル〉〈早梅〉〈秋霜〉〈霧雨〉〈叢雲〉〈夕月〉の10隻が建造され、そのうち〈パーシヴァル〉が"くもの巣"での決戦にて失われている。

 

クラス名の元ネタは英語版無限航路(infinite space)におけるガラーナ級のクラス名に由来する。

 

 

 

*グネフヌイ級航宙駆逐艦

 

全長:280m

価格:8500

艦載機:12~16機

武装:単装レーザー主砲×2、単装レーザー砲2、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1280

装甲:35

機動力:33

対空補正:29

対艦補正:26

巡航速度:130

戦闘速度:148

索敵距離:14000

 

解説:ノヴィーク級同様、スカーバレルのゼラーナ級駆逐艦を改修した艦。主な改造ポイントはノヴィーク級とあまり変わらない(海賊船としての設備を撤去し高性能化、無人化)が、元のゼラーナ級が駆逐艦としては珍しく艦載機の搭載が可能であったため、格納庫を拡大し12~6機程度の偵察機か防空戦闘機を搭載して艦隊の前衛警戒部隊を構成している。

〈グネフヌイ〉〈ソヴレメンヌイ〉〈ヴェールヌイ〉〈アナイティス〉〈コーバック〉〈コヴェントリー〉の6隻が建造され、〈グネフヌイ〉が"くもの巣"での決戦で失われている。

 

クラス名の由来はノヴィーク級同様、英語版無限航路でのゼラーナ級のクラス名。

 

 

 

*改アーメスタ級駆逐艦 〈ブレイジングスター〉

 

全長:360m

価格:9800G

武装:連装レーザー主砲×3、舷側ミサイルVLS(30セル)×4、パルスレーザー砲×4

 

性能値

 

耐久:1580

装甲:45

機動力:41

対空補正:15

対艦補正:47

巡航速度:138

戦闘速度:165

索敵距離:14000

 

解説:エルメッツァの最新鋭駆逐艦アーメスタ級を改良した艦。元設計が非常に拡張性に優れたものであるため、火力面ではノヴィーク(ガラーナ)級を多少上回る程度だが、それ以外の性能ではスカーバレル改造艦を凌ぐ。また加速性能と機動力にも優れ、無人艦のためGを無視した高度な機動を取ることも可能である。グアッシュとの決戦に向けて〈ブクレシュティ〉の随伴艦として建造された。

本級は現段階では〈ブレイジングスター〉1隻のみが運用されている。艦名は霊夢の親友が持つスペルの名前から取られた。

 

英語版での艦名はスコーリィ。ソ連の30-bis型駆逐艦のクラス名に由来すると思われる。

 

 

 

*改アリアストア級駆逐艦

 

全長:340m

価格:9000G

武装:艦首レーザー主砲×1、格納式レーザー砲塔、SSM-716〈グラニート〉大型対艦ミサイルランチャー×4、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1490

装甲:44

機動力:36

対空補正:10

対艦補正:35

巡航速度:135

戦闘速度:158

索敵距離:13000

 

解説:エルメッツァが運用するミサイル駆逐艦のアリアストア級を改良した艦。全体的に性能の底上げが図られ、またミサイルも(霊夢艦隊の水準では)非力だったものを〈ブクレシュティ〉に搭載されたものと同型の大型対艦ミサイルとすることで対艦攻撃力を大きく向上させた。その性格から、機動力を生かして雷撃位置につき、ミサイルによる攻撃を行うという水雷戦術の下での運用が想定されている。

グアッシュとの決戦に向けて〈東雲〉〈有明〉の2隻が建造された。なお、塗装は地方軍カラーよりやや薄めの黄色。

 

 

 

*改テフィアン級駆逐艦

 

全長:340m

価格:8200G

武装:艦首レーザー主砲×1、格納式レーザー砲塔、舷側レーザー砲塔×2、パルスレーザー

 

性能値

 

耐久:1370

装甲:44

機動力:36

対空補正:10

対艦補正:32

巡航速度:136

戦闘速度:158

索敵距離:13000

 

解説:エルメッツァの主力駆逐艦テフィアン級を改良した艦。主に耐久性と火力の向上に主眼を置いた改造が為されている。現在は設計図のみであり、まだ建造はされていない。

 

 

 

*改アクラメーター級工作艦 〈サクラメント〉

 

全長:752m

価格:35000G

艦載機:36機

武装:連装レーザー砲塔×6、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:2890

装甲:62

機動力:22

対空補正:30

対艦補正:21

巡航速度:128

戦闘速度:133

索敵距離:16000

 

解説:サナダが改ヴェネター級同様の経緯で、発掘した宇宙船の設計図を使って建造した工作艦。主に艦内工厰で艦載機や専用のミサイル等の製造を担当する。外壁部分にはデブリやジャンク解体・回収用のクレーンを備えており、普段はこれらの設備は格納されているため楔型の滑らかな形状の艦容をしている。また、ヴェネター級同様に大気圏突入能力を有する。

他の艦の所有者名義は霊夢だが、この艦のみ所有者はサナダとなっている。

 

外見はスターウォーズのアクラメーター級。共和国カラー。

 

 

 

*改クレイモア級工作艦 〈プロメテウス〉

 

全長:890m

価格:33600G

武装:対空ミサイルVLS×16セル、対空パルスレーザー×20

 

性能値

耐久:4300

装甲:88

機動力:22

対空補正:26

対艦補正:20

巡航速度:123

戦闘速度:118

索敵距離:13000

 

解説:クレイモア級重巡を工作艦に転用した艦。一切の対艦武装を撤去し、修理設備を備えている。〈サクラメント〉は主に補充品の生産を担当するが、此方は艦艇の修理を担当している。

 

 

 

*ムスペルヘイム級特大型工作艦 〈ムスペルヘイム〉

 

全長:1280m

価格:54000G

武装:対空ミサイルVLS、対空パルスレーザー

 

性能値

 

耐久:1280

装甲:40

機動力:10

対空補正:16

対艦補正:3

巡航速度:116

戦闘速度:120

索敵距離:13000

 

解説:サナダ率いるマッド陣営が野望達成(=設計した艦艇の建造)のために建造した超大型工作艦。スカーバレルから奪ったビヤット級輸送船を2隻横に連結した双胴船で、中央には艦船建造用のドックを有する。その大きさはエルメッツァのグロスター級戦艦がぎりぎり入るほど広く、駆逐艦や巡洋艦クラスなら問題なく建造できるほど。

竣工後はノヴィーク級やグネフヌイ級、サチワヌ級といった艦船を建造し博麗艦隊の戦力増強に貢献し、普段はそのドックの広さを生かして航行しながら駆逐艦等の本格的な整備、修理作業に供されている。

 

 

 

*改ボイエン級高速戦闘支援艦 〈蓬莱丸〉

 

全長:410m

価格:―

武装:対空パルスレーザー砲×4

 

性能値

 

耐久:980

装甲:66

機動力:15

対空補正:15

対艦補正:3

巡航速度:121

戦闘速度:124

索敵距離:12000

 

解説:スカーバレルが保有していたボイエン級輸送船を改造した艦。博麗艦隊では戦艦や航空機用ミサイル等の弾薬補給艦として運用されており、戦闘終了後、迅速にこれらの物資を他艦に補給する。その性質上装甲はかなり厚くされており、大マゼランの巡洋艦並である。また艦隊に随伴させるため機関も改良されており、通常のボイエン級と比べても優速である。

 

 

 

バクゥ級捕虜輸送船 〈亜里山丸〉

 

全長:550m

価格:7500G

武装:―

 

性能値

 

耐久:760

装甲:34

機動力:15

対空補正:18

対艦補正:22

巡航速度:80

戦闘速度:115

索敵距離:11000

 

解説:グアッシュ海賊団から鹵獲したバクゥ級の1隻を捕虜輸送船に転用したもの。武装は全て撤去されている。モジュールでの改装により艦隊に随伴できるだけの速力や耐久性の底上げは為されているが、元設計には手を加えられていないので他のバクゥ級より本体性能が優れている訳ではない。

主に乗艦を奪われた海賊達が詰め込まれる。そのため艦内はむさ苦しく、常時監視を兼ねた清掃ロボットと機動歩兵改が艦内を徘徊している。

 

 

 

*小型コルベット 〈スターゲイザー〉

 

全長:150m

価格:―

武装:連装レーザー砲塔×2、パルスレーザー砲×8

 

性能値

 

耐久:580

装甲:38

機動力:30

対空補正:11

対艦補正:16

巡航速度:114

戦闘速度:150

索敵距離:15000

 

解説:サナダが霊夢を発見した際に運用していた小型艇。艦自体が発掘された遺物であり、性能は低いものの自力でワープが可能である。現在は〈サクラメント〉のドッキングポートに接続され、保管されている。

 

外見はスターウォーズのCRコルベット。序盤のみ登場。

 

 

 

 

~その他勢力~

 

【ヤッハバッハ帝国】

 

 

*ゼーグルフ級戦艦

 

全長:3700m

 

解説:ヤッハバッハ帝国が運用する超大型戦艦。宙域艦隊(テリトリアルフリート)旗艦として宙域支配、監視の為に使用される他、上級将校の専用旗艦や進攻軍の旗艦としても運用される。本編中では言及のみの登場。

 

 

 

*ダウグルフ級戦艦

 

全長:2250m

 

解説:ヤッハバッハ帝国の一般的な主力戦艦。その体躯は小マゼランはおろか大マゼランの標準的な戦艦を凌駕し、性能も大マゼランの旗艦級戦艦に匹敵する。艦隊旗艦や主力として運用され、それなりの規模を持つヤッハバッハ艦隊なら必ず見ることができる。

同級の一隻〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉はイベリオ星系のデッドゲートが復活したという報告を受けて同地の調査に赴いていたが、そこで霊夢率いる〈開陽〉以下の艦隊と遭遇し、戦闘により大破した。

 

 

 

*ブラビレイ級空母

 

全長:2000m

 

解説:対艦能力のなさを艦載機の火力で補うという思想の下建造されたヤッハバッハの攻撃機動空母。艦そのものは艦載機キャリアーとしての性能に特化し、被弾からの誘爆を防ぐための重装甲や迅速な発着艦を可能とする三段の飛行甲板を持つ。霊夢艦隊で運用される〈ラングレー〉のベースとなった艦である。

 

 

 

 

*ダルダベル級重巡洋艦

 

全長:980m

 

解説:ヤッハバッハの標準的巡洋艦。巡洋艦としては大型だが、ヤッハバッハ国内では小型艦と見なされている。4基の大型単装主砲と左舷のクラスターミサイルランチャーを主兵装とし、右舷には長大な艦載機カタパルトを有する。ヤッハバッハ国内では大量配備されており、警備艦隊の旗艦から進攻艦隊の主力までさまざまな任務に充当されている。

 

 

 

*ブランジ級突撃駆逐艦

 

全長:340m

 

解説:ヤッハバッハの突撃艦で、全面投影面積を小さくするという設計思想の下建造されている。そのため艦体はスティック状のシルエットとなった。戦場では真っ先に突撃し、全方位に向けてレーザーやクラスターミサイルを発射することで敵艦隊を撹乱する。

なお、国内ではミサイルを撤去してレーダーや居住設備を拡張した警備隊仕様の艦(ブランジ/P級)が就役している。

 

 

 

【エルメッツァ・ユーリ艦隊】

 

 

*グロスター級戦艦

 

全長:800m

 

解説:エルメッツァで生産されている唯一の戦艦。5度の改修によるマイナーチェンジによる性能と高い拡張性を誇り、政府軍高官が運用する本級は設計段階とは比較にならないほどの性能を有すると言われている。民間でもエルメッツァ政府の許可を得れば入手することが可能であり、若き0Gドッグ、ユーリはスカーバレル討伐の戦果を評価されて本級を入手、〈ミーティア〉と名付け旗艦として運用している。

 

英語版での艦名はボロディノ級。ユーリが運用する艦の名前は英国繋がりが由来。(グロスター=英国巡洋艦、ミーティア=英国戦闘機の一機種)

 

 

 

*サウザーン級巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:エルメッツァ中央政府軍が制式採用している標準的な巡洋艦。基本設計のバランスが良く拡張性が高いため、艦長や勢力次第で様々な改修が施される。ユーリはグロスター級を購入する以前は本級の〈スレイプニル〉を旗艦としていた。

 

 

 

*アーメスタ級駆逐艦

 

全長:360m

 

解説:エルメッツァの最新鋭駆逐艦。海賊対策の為にテフィアン級を改良し、性能を向上させている。本編中では描かれていないがユーリの初代旗艦であり、彼がサウザーン級に乗り換えた後も2番艦を建造した上で艦隊の主力として運用されている。尚、ユーリ艦隊の艦は本艦から全て赤を基調としたカラーリングで塗装されている。

 

ユーリ君の初代旗艦。無限航路本編PVで登場したものと全く同一の塗装。サウザーン級もPVでの仕様です。

 

 

 

 

【カルバライヤ・スカーレット社】

 

 

*改ドーゴ級戦艦 〈レーヴァテイン〉

 

全長:850m

艦載機:18機

武装:330cm長距離連装対艦レーザー砲「スターボウブレイク Mk.8mod2」×1

88cm3連装対艦レーザー砲「イゾルデ Mk.73」×2

180mm連装大形パルスレーザー ×12

16連装対空ミサイルVLS ×2

格納式パルスレーザー砲 ×36

 

解説:カルバライヤで活動する軍事企業「スカーレット社」が保有する戦艦。カルバライヤ正規軍から払い下げられたドーゴ級戦艦を改造し、自社製装備のテスト艦や出張時の護衛艦として運用されている。

主な改造点は艦首の超遠距離射撃砲を撤去し防空戦闘機の格納スペースに充て、艦底部にはそれに代わる長距離対艦レーザー砲を搭載している。また艦橋両脇にも中口径のレーザー砲を追加し打撃力を高めている。

〈レーヴァテイン〉はスカーレット社警備部門所属のメイリンの指揮下で運用され、グアッシュ海賊団と死闘を繰り広げた。

 

 

 

*ディゴウ級重巡洋艦

 

全長:580m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局の旗艦として配備されている艦艇で、佐官クラスに充当される。ザクロウ制圧作戦の際、シーバット宙佐の旗艦としても使用された。

 

 

 

*バハロス級高速巡洋艦

 

全長:400m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局が運用する高速巡洋艦。警備隊の主力として配備される。艦首の青いライトは保安局所属を示すものであり、ディゴウ級など他の保安局艦艇にも採用されている。

 

 

 

*シドゥ級高速駆逐艦

 

全長:270m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局が運用する高速駆逐艦。バリオ宙尉に与えられているのもこのクラスである。

 

 

 

*グルガ級強襲揚陸艦

 

全長500m

 

解説:海賊拠点に対する強襲制圧任務の為に開発されたカルバライヤ保安局の強襲揚陸艦。艦首下部に兵員降下用のHLVを格納しており、艦底部には地上攻撃用大型ミサイル〈プラネットボンバー〉を搭載する。ザクロウ制圧作戦の際は3隻が動員された。

 

 

 

*ダガロイ級装甲空母

 

全長:680m

 

解説:カルバライヤが保有する唯一の空母だが、重巡洋艦であるバゥズ級と比べても火力が高く、搭載機数が少ないという何かを間違ったような設計をしている。

監獄惑星ザクロウに配備されたタイプは格納庫の拡張と航続能力の改良が施されていた。

 

 

 

 

【海賊・その他】

 

 

*グランヘイム級戦艦

 

全長:2200m

 

解説:0Gランキング一位に君臨する大海賊ヴァランタインの乗艦。あらゆる戦艦を凌駕するほどの圧倒的な性能を誇り、さらに正規空母並の艦載機搭載能力も有する。霊夢艦隊とはマゼラニックストリーム近くの七色星団宙域で交戦し、霊夢達に圧倒的な力を見せた。

 

 

 

*ファンクス級戦艦

 

全長:910m

 

解説:大マゼラン、ゼオスベルトで設計された戦艦。翼を広げた鳥のような意匠の艦型をしており、これは同所で設計されたシャンクヤード級にも共通する。

小マゼランではグアッシュ海賊団が保有しており、霊夢艦隊と砲火を交えた。

 

 

 

*カッシュ・オーネ級戦艦

 

全長:1200m

 

解説:大マゼランで活動する海賊達の旗艦として用いられる戦艦。正面から見ると三菱をひっくり返したような形状をしている。

何故かグアッシュ海賊団が保有しており、ドエスバン所長を逃がすべく霊夢艦隊に砲撃戦を挑んだがあえなく撃沈された。

 

 

 

*シャンクヤード級巡洋艦

 

全長:780m

 

解説:輸送業に携わることが多い0Gドッグの為に設計された巡洋艦で、非常に艦内容積が広く拡張性が高い。そのため大マゼランでは好んで使われる艦種の一つである。

グアッシュ海賊団が保有するタイプは性能がオリジナルより劣化したモンキーモデルであった。

 

 

 

*マハムント級巡洋艦

 

全長:750m

 

解説:ロンディバルト軍の各部隊に配備されている一般的な巡洋艦。突出した性能はないが信頼性が高い。また同国艦艇の特徴であるプラズマ砲を装備しており、その火力はけっして低いものではない。

何故かグアッシュ海賊団にモンキーモデルの設計図が流出しており、同海賊団高級幹部の手により運用されていた。そのうち一隻が霊夢達の手により鹵獲され、徹底的な改造を施されて〈ブクレシュティ〉となった。

 

 

 

*ゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:スカーバレル海賊団がサウザーン級を改造して設計したミサイル巡洋艦。3基のミサイルコンテナからは合計198発のミサイルが発射可能であり、その威力はビーム対策に重点を置いている現代の艦艇にとっては非常に脅威である。

 

ちなみに英語版での艦名はグロムキィである。

 

 

 

*オル・ドーネ級巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:スカーバレル海賊団の標準的巡洋艦。機動性が高く、状況に応じて敵艦に接舷し白兵戦を挑む。殆ど面影が残っていないがサウザーン級巡洋艦がベースとなっており、エンジンノズルや艦後部の底部などで僅かにその面影が見れる。艦首には2門の大型軸線砲を有し、対艦攻撃力も高い。

 

ちなみに英語版での艦名はリューリクである。

 

 

 

*ガラーナ級駆逐艦

 

全長:300m

 

解説:スカーバレル海賊団の駆逐艦。手下のみで出撃する際に旗艦として用いられる。

 

 

 

*ゼラーナ級駆逐艦

 

全長:280m

 

解説:スカーバレル海賊団の駆逐艦。手下のみで出撃する際に旗艦として用いられる。9機程度の艦載機を搭載することが可能。

 

 

 

*エクリプス級戦艦

 

解説:霊夢が惑星ボラーレで遭遇したシュベインと名乗る男が乗艦としていた艦艇。艦型は紡錐形で艦首形状は明治期の水上艦の衝角を伸ばしたようなものとなっている。。艦橋は艦の中央部にあり、その前方の上甲板には2基の連装主砲を装備する。艦橋の真下の艦底部には、2基の筒型エンジンモジュールがあり、舷側中央には翼状の構造物レーダーアンテナが接続されている。艦尾にはメインノズルと2本のスタビライザーが接続されている。

 

要は天クラのエクリプス級(敵用の青いカラー)に砲塔を載せた形状。

 

 

 

*ファフニール級戦艦

 

解説:謎の少女マリサがカルバライヤで乗っていた戦艦。艦体は4つの胴体を菱形に組み合わせたような形状で被弾面積を減らし、側面にはシールドが装備されている。艦中央にはアンテナと艦橋があり、エンジンノズルは4つに分かれた形状をしている。

 

ようは天クラのファフニールまんまの形状です。

 

 

 

*狙撃戦艦

解説:マリサが霊夢達を迎撃する際に最初に持ち出した戦艦。超遠距離から極めて正確な砲撃を行う。旗艦タイプは2000m級の黒い大型艦であり、主砲は底部にある。随伴艦は巡洋艦サイズで超遠距離射撃砲は艦首直上に装備され、艦尾付近には背の高い艦橋と3基のエンジンブロックを有する。

その正確無慈悲な攻撃で霊夢達を苦しめたが、〈開陽〉のハイストリームブラスターを用いた逆転劇により全艦殲滅された。

 

随伴艦の元ネタはイデオンに登場したサディス・ザン級戦艦。これの艦首上部に長砲身の主砲を装備したのが狙撃戦艦・随伴艦となる。狙撃戦艦のコンプセント自体はPS2版宇宙戦艦ヤマトに登場する暗黒星団帝国軍のそれに影響を受けて発想に至ったものです。




当初は艦載機や人物も含めた設定集にするつもりでしたが、艦艇だけでも余裕で一万字越えたので一旦ここで切ります。次回は人物と艦載機の設定を投稿します。


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艦隊念報・壱

今回は人物と艦載機の設定になります。
艦載機は霊夢艦隊のオリジナルのみです。
人物設定については無限航路以外が由来のキャラについては無限航路原作のような特殊技能を表記している場合があります。ランクは原作ではLv1~5と表記されていましたが、ここではそれに対応する形でE~A、EXと表記しています。


~艦載機~

 

*YF-19

 

サナダが開発した可変戦闘機。人形、鳥人、航空機の3形態に変形する。滑らかな機首にカナードと前進翼を持ち、大気圏内での機動性に優れる。

元ネタはマクロスプラスのYF-19

 

 

 

*YF-21

 

サナダが開発した可変戦闘機。人形、鳥人、航空機3形態に変形する。デルタ翼のステルス機で、ペイロードと最高速度はYF-19を上回る。脳波コントロールを採用し、パイロットの思考を読み取って操縦するシステムだが、それを搭載したためコストが高い。

元ネタはマクロスプラスのYF-21

 

 

 

*F/A-17S

*RF/A-17S

 

霊夢艦隊で運用されるステルス戦闘機。マルチロール機としても運用可能。スカーバレルとの決戦ではステルス性を生かした伏兵として活躍した。RF/A-17は機体背面にレドームを搭載した早期警戒型。

元ネタはマクロスFのVF-171だが変形はしない。

 

 

 

*Su-37C

 

流麗なフォルムを持つ戦闘機。機動性と制宙戦闘に優れ、大気圏内での性能も高い。現実のSu-35に37のカナードを付けてエンジンノズルをベクタードノズルにした機体。カラーリングはエスコン4の黄色中隊仕様。

 

 

 

*T-65B

 

4門の重レーザー砲を主翼先端に装備した重戦闘機。サナダが遺跡から発掘した設計図を元に開発した。主に〈高天原〉の艦載機として用いられる。

モデルはスターウォーズのXウィング。

 

 

 

*XQF-01 A-wing

 

シオンが設計した高速偵察機。通称アーウィン。無人偵察機ゴーストの発展型でステルス性と航続距離に優れる。機体が比較的小柄であり、前衛艦隊のノヴィーク(改ゼラーナ)級に搭載される。

モデルはスターフォックスのアーウィン。だがチート性能はまだない。

 

 

 

*AIF-9V スーパーゴースト

 

市販の無人偵察機に大口径レーザー砲を載せ、機体をフルチューンした無人戦闘機。無人機のためGを無視した急激な機動が可能。しかし航続距離が短いため、主に防空用として使われる。〈ラングレー〉のほか前衛の改ゼラーナ級にも配備されている。

性能はマクロスFのゴーストV9だが、外見はルカ機のゴーストにV9のレーザーを載せて赤くしたもの。なのでマクロスFのゴーストV9とは細部が違う。

 

 

 

*RRF-06 ザニー

 

市販の土木建築用二足歩行ロボットに装甲を施して各部をグレードアップした機体。人形機動兵器の実験機としてにとり率いる整備班が製作した。実験機なので実戦配備は考慮されていない。

元ネタはガンダムシリーズのザニー。

 

 

 

*強襲艇

 

兵員輸送用の中型機。30名程度の人員を輸送可能。戦車を牽引するために改造されたタイプも存在する。外見はスターウォーズのLAAT,iガンシップにオスプレイの尾翼を追加してより現代テイストにした機体。

 

 

 

*M61重戦車

 

155mm砲2門を装備する重戦車。高い機動力と火力、堅牢な装甲を持ち、対人用レーザー程度では傷一つつかない。その火力と頑丈な装甲で地上での海賊掃討戦を支援する。

モデルはガンダムの61式戦車5型。

 

 

 

*ゲパルト

 

地上に上陸した部隊を海賊航空戦力から守るために開発された対空戦車。2門のレーザー機銃と索敵、照準用レーダーを装備する。

外見はドイツ軍のゲパルト対空戦車・・・ではなく自衛隊の87式自走高射機関砲にサイドスカートを装備したもの。素人目で見たらどっちも変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

~人物図解~

 

【博麗艦隊】

 

 

*博麗霊夢

 

本作の主人公。元楽園の素敵な巫女で、現在は博麗艦隊の巫女艦長。永遠の巫女。

幻想郷で病に倒れてそのまま息を引き取ったが、何故か宇宙に放り出されていた。本来なら年齢は45~50歳程度なのだが、転生の際に何故か若返ったため外見は16歳相当。転生のついでに自分が知らない世界である宇宙を見て回ろうと思い立って、そのまま0Gドックとなる。原作主人公のユーリとは異なり、その動機はそこまで強くはない。

本人はこの転生のことをあまり気にしていないが、当の幻想郷では大騒ぎになったであろうことが容易に想像できる。転生の原因には、もしかすると生前の四季映姫の言葉が関係しているのかもしれない。

0Gドックとなってからはヤッハバッハから逃げ回りながら宇宙を回っていたが、エピタフの伝説に触れて少し興味が出たようだ。財という言葉に惹かれたのかもしれない。ロマンチストではないのでそれ以外のエピタフの伝説には興味がないらしい。小マゼランに渡ってからは艦艇の圧倒的な性能差を背景に無慈悲な海賊狩りを続けて資金繰りをしている。宴会では幻想郷の頃とは違って一歩引いた位置にいることが多い。だが最近ではマッドの暴走により被害を被ることがあり、彼女の怒りゲージを溜めつつある。スカーバレル壊滅祝いの際に撮られた写真が裏取引されていることは知らないようだ。

実は神社の裏手にひっそりと塚を立てて、戦闘で犠牲になった人々を供養している。

 

容姿は前述の通り16歳相当の外見なので、よく歳を間違われる。本人はその度に少なくとも酒は飲める年齢だと抗議している。

容姿は端麗でまっすぐな黒髪をセミロングに切っている。瞳の色は茶色だが、真剣な場面では赤色に変わることがある。普段しているリボンがなくなると一見誰だか分からないただの美少女に。

基本的な服装は巫女時代のものを参考にした空間服を纏っているが、本気で戦うときは専用の巫女装束に袖を通す。頭の大きなリボンがトレードマークなのは生前と変わらない。腋の露出も欠かせない。なお、腰に差したスークリフ・ブレードは本人の趣向で完全な日本刀に改造されている。

 

性格は単純で表裏がなく、喜怒哀楽が激しい。暢気なときは暢気で、戦闘時は気性が荒い。だが、本気で戦う際は冷酷に見える。生前は誰に対しても優しくも厳しくもなく、誰と行動しても仲間と見ない平等な性格だったが、今は少なくともクルーのことは仲間と認識しているようだ。あくまでそう認識しているだけで、他人に対して平等なのは以前と変わらないのかもしれない。

見た目は非常に少女的なのでその性格に面食らう者もいるが、不思議となぜか他人を惹き付けるカリスマがある。

かつての霊夢は他人と価値観がずれていたが、長く生きているうちにある程度は一般的な物の価値観を認識できるようになり、少なくとも金銭の価値は理解しているのでカツアゲじみた行動を取ることはなくなった。(ただし海賊から巻き上げるのは止めない。彼女の中では海賊=資金源の図式で固定されている)

艦長を務めるにあたっては艦長職に必要な最低限の知識は勉強しているようだが門外漢なだけあって基本的なことしか覚えておらず、戦術や運行の面ではサナダやコーディの助言を当てにしているところがある。ただ発想力はあり、本人が立案することもない訳ではない。

 

趣味は午睡とお茶。しかし艦長職が忙しいので以前ほどのんびりできる日はない。だが暇なときはよく神社で寛いだりしている。生前から酒好きで、宴会も嫌いではない。ただ、酒の飲み過ぎで死因となる病を患った経験から、現在の飲酒の量は生前に比べて少ない。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:D

0Gドックとして艦隊を率いてはいるが、まだ経験が浅く、指揮能力はそれほど高いとは言えない。今は艦の性能に頼った戦いが中心。

しかし、生前は異変解決や日々弾幕ごっこをやっていたこともあり、白兵戦になると無類の強さを発揮する。白兵戦に限れば0Gドックランキング一位に君臨するヴァランタインすら圧倒するほどの力を見せる。後述の夢想天生を発動した場合はもはや彼女に傷一つ追わせることすらできない。

 

・空を飛ぶ程度の能力

霊夢の代表的な能力であり、その効果は物理的に空を飛ぶだけに留まらず、文字通り「宙に浮いた状態」となる。即ち何物からも浮遊し、自由となる。本気で発動した際は自身に対するあらゆる干渉をはね除け、彼女には物理的、精神的に一切触れることができなくなる。平時でもこの能力は限定的に発動しており、彼女に対しては如何なる重圧も力による脅しも一切の意味を成さない。

夢想天生はこの能力をスペルカードに使用した技であり、ありとあらゆるものから宙に浮き無敵となる。例えるなら実体のある幽霊のような状態。ただ、本人が巫女として修行不足なせいでそれほど長持ちさせることはできず、技の使用時間は10分程度が限界である。(スペルカード戦で使用する際は2~3分に制限していた。)

またこの能力を使用すれば、有毒ガス等の人体に有害な物質が充満する空間でもある程度活動することができる。

 

・幸運:A

・直感:A

生前から運が良く、それが絡むゲームでは敵無しの強さを誇る。また直感にも優れ、危険を寸でのところで回避する。また、この直感のお陰で、手掛かりがなくとも勘に従って動けば物事の真相を掴むこともしばしばある。

 

・巫女としての能力

陰陽玉、お札などを使って妖怪を退治する。妖怪がいない現在では、それらは専ら白兵戦のために使われる。神降ろしの能力も未だ健在である。

 

・身体能力

生前の職業柄身体能力にも優れ、基礎体力も高い。

前述の直感と合わせてほとんど隙がなく、寝込みを襲っても返り討ちにされるだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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*東風谷早苗

 

旗艦〈開陽〉のコントロールユニットに宿る人格、というよりその義体。本来はただのAIであった筈なのだが、何時の間にか何かが憑いて今の彼女になったらしい。義体の彼女は殆ど人間と変わらない振る舞いをする、というより魂は人間そのもの。端末を介して直接会話する場合やコントロールユニット本来の能力を使用する際はAIとしての側面が強く出ているようだ。

サナダが義体を作ってからは大好きオーラが滲み出るほど霊夢にアタックを仕掛けているが、当の霊夢が鈍感なので空振りに終わることが多い。

また最近は尋問官に目覚めたようで、捕虜にした海賊に恐怖を与えている(笑)

自然ドームの一角に秘密裏に守矢神社の分社を建てている。それ以来、自然ドームではときどき幽霊騒ぎがあるようだが関連性は不明である。コントロールユニットのAIなので自艦で起こることは全て把握していると言っても過言ではないが、一部の区画はは意識的に自動監視モードにしている。女の子なのであまり見たくない部分もあるという訳だ。

そのため霊夢がひっそりと供養塔を立てていることには気づいているが、その事を話したりはしない。

 

義体の容姿は緑色の髪をストレートのロングヘアーにしており、左側の髪を一房留め具で纏めている。蛇の髪飾りは本人に合わせてよく動く。なお双葉は無い模様。髪飾りは蛙ではなく太極を描いた艦隊紋章が記されたもので、太極の配色は霊夢の陰陽玉と同じ紅白である。蛙の髪飾りは、首飾りにしたので衣服の中に隠れている。瞳は普段は髪と同じ緑色だがときどき黄色に変わる。主に大尋問官サナエちゃんのときは黄色。なお胸はけっこうある模様。ときどき霊夢に妬まれる。

衣装は風祝としての服に近いが、それを複雑にしてスカートを短くしたようなもの。霊夢と同じく腋が露出している。ようは金剛型改二の服。大尋問官サナエちゃんのときは黒を基調とした空間服に軽度の装甲と同じ意匠のスカートを着用している。

 

AIとしての性格は真面目できっちり命令に従っているが、義体のほうは天然が入ってやや惚けたところがある。それに多少の加虐嗜好が混ざっているので達が悪い。ただ、根は純粋で真面目なので、他人の影響を受けやすい性格とも言える。またかなりの自信家で、テンションの振り幅が大きい。

嗜好については自分が格好いいと思ったものには目がなく、時々マッドと裏取引をしているようだ。そのためにはコントロールユニットのAIでありながら彼等の暴走をお目こぼしすることもしばしばある。王道なデザインよりも悪役っぽいものが好き。SF的なもの全般に興味があるようで常時ハイテンションな状態。あと艦長(霊夢)大好き。早苗さんかわいい。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:C

艦隊を指揮する程度の能力。元のコントロールユニットが複数の艦船での艦隊行動を制御できるよう想定されているので、中規模な艦隊ならある程度の戦術機動を取らせることができる。上限はおよそ30隻程度。最初は艦載機のコントロール全般も担っていたが、艦隊が増えた今ではそちらの制御は個々の艦載機に搭載された簡易AIに任せている。

 

・自己改造:EX

本来コントロールユニットは開発者であるサナダに最大限のアクセス権限があったのだが、義体となってからは勝手にこれに改造を施してブラックボックスを増やしている。女の子の内面を覗こうなんて破廉恥です!

なお、霊夢には依然として最高レベルのアクセス権限が用意されているが、それが使われたことはない。

また義体自体もナノマシンの自己増殖を制御することにより自由自在に変形させることができる。主に肘から下をガトリングにしたりと白兵戦でもけっこう役に立つ。見方によっては腕から直接武器が延びているので少々不気味だが、思いの外彼女は気に入っているようだ。本人にとっては格好いいかどうかが選好基準。

 

・さでずむ:A

相手を虐めたくなる。戦闘時、自身の攻撃力にプラス10の補正...

冗談はさておき、実際虐めたくなるのは確かなようだ。大尋問官サナエちゃんの姿になるとこれが全面的に発揮されて海賊を追い詰める。本人曰く、悪人が酷い目に合うのは因果応報、当然の報いだそうだ。この世界の海賊一般は惑星上や客船から女性をさらって(禁則事項)なことをしているので、彼女なりの制裁なのだろう・・・と思いたい。

これが海賊退治、楽しいかもしれない・・・

 

・信仰の加護:EX→E

・奇跡を起こす程度の能力

二柱の祝福を受け、自身に振りかかる厄災を遠ざける。また二柱の力を借りて天・地・海すべてを操ることができる、風祝としての能力。奇跡の力を振るっているうちに風祝であった自身にも信仰の対象が移ってしまったため、力の境界は曖昧になっている。

しかし、艦隊では信仰が得られないので現在は大きく弱体化しているようだ。

 

 

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*博麗霊沙

 

サナダが霊夢を発見したのと同じ場所で見つけたという少女。サナダの話では怪我が酷かったのでリジェネレーションポッドに入れられており、そのため目覚めるのが霊夢より遅かった。ちなみに霊沙という名前は咄嗟の思いつきで名乗ったもの。

自身と瓜二つな容姿に加えて妖怪じみた気配を発していたため霊夢は警戒していたが、今では問題なく艦隊に馴染んでいる。本人も霊夢のことは警戒していたようだが、時間が経つにつれてそれは薄れていったようだ。現在では主に航空隊のメンバーに弄られてたり、時々艦橋に顔を出したりする。宴会ではマッドの所業で獣化したりする。そのときには何故か霊夢に甘えるようになるが、獣化が解けた後は一人ベッドの上で悶絶していたりする。残念ながらその様子を見れた者はいない。

普段の乗機は可変戦闘機YF-21。コールサインはアルファルド1。開発者のサナダからはレポート提出をしつこく言われたりするが面倒くさいので適当にやっている。素質があったのか戦闘機の操縦にはあっという間に手慣れたような技量を示す。ボイドゲートが嫌い。

容姿は前述の通り霊夢と瓜二つだが、彼女の方が少し背が低い。加えて霊夢以上につるぺた。髪の色は霊夢と対照的な白髪で、着ている服は霊夢の巫女服と同じデザインだが色は黒。肌には血走ったような赤い紋様があったが今は隠している。一言で言えば容姿は禍霊夢(ロリ)。

性格は猫のように気紛れで艦内をうろついていたりする。艦橋に行くときも気分によってその時間帯は変わる。また非常に好戦的で、敵と直に戦えるパイロットの仕事は気に入っているようだ。最近は相手に張り合いがないのでマンネリ化しているのが悩みの種。

意外と声がかわいい。

 

特殊技能、能力

 

・エース:C

艦載機を乗りこなす程度の能力。航空機の操縦経験は殆ど無いのだが、天性の直感とセンスで巧みに可変戦闘機を操る。短い飛行時間とフライトシュミレーションでもこの実力なので、乗り続ければ化ける可能性もある。ただ自信過剰なところがありスタンドプレーに走りがちな性格故、小隊での連携には向いていない。訓練ではバーガーやタリズマン相手に憂さ晴らしも含めて挑んでいるようだが、経験の差のため未だに勝てたことがないという。

 

・空を飛ぶ程度の能力

元が霊夢なので、彼女も同様の能力を持つようだ。物理的な飛行だけでなく概念的な効果も共通。ただ「夢想天生」のように無敵状態にはならない。

 

・次元を司る程度の能力

詳細不明。このスキルは失われている。

 

 

 

*ブクレシュティ

 

サナダが開発した独立戦術指揮ユニットの一人。義体は早苗のそれをベースに開発されているが、ナノマシンによる自己改造能力はない。早苗とは違って何かが憑いていたりはしないので、稼働初期のAIらしく冷淡な性格・・・と思いきや意外と好戦的。元々乗艦にはアレキサンドリアⅠ級指揮航宙巡洋艦が与えられる予定だったが、同級の設計が遅れたためグアッシュから鹵獲したマハムント級を改造の上、彼女の旗艦として運用されることになった。

 

容姿は人形に例えられるほど端正で整った顔立ちに、肩まである金髪をストレートにしている。服装は青を基調とした軍服に白い短めのケープを着用。前髪には赤いカチューシャをつけている。言ってしまえば軍服アリス。原作アリスとは違い髪がストレートなことがポイント。表情を変えることが滅多にないので周りからは堅い人物だと見られているようだ。

性格は前述の通り冷淡で機械的だが、敵艦隊と遭遇すると一気に好戦的になる。ただ表情が動かないので傍目に見れば分かりにくい。サナダは性格データを構築する際に早苗を参考にしたらしいのだが、出来たのは似ても似つかないものとなった。早苗がいろいろブラックボックスにした影響で性格データの中枢が拾えなかったのだ原因らしい。好戦的な一面は彼女のさでずむが流れ込んだのかもしれない。

自身のことにはあまり頓着せず、必要かそうでないかで判断することが多い。彼女自身は、AIは人間と違って自己管理を適正に行うことができると判断しているので自身に対する気遣いは不要だと考えている。霊夢はその辺りに疎いので、彼女に対しては普通の人妖と同じように接している。

ただ根まで機械的かと言われればそうでもなく、前述の通り戦闘時には感情らしきものを見せるほか、紅茶に執着している仕草が見られる。〈ブクレシュティ〉のブリッジを訪ねると、艦長席のデスクにはだいたいティーカップが置かれているのを見ることができる。何故紅茶に執着するのか、本人もいまいち分かっていない様子。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:B

そもそも彼女は艦隊の指揮を前提に生み出されたので、必然的にその能力は高い。旗艦〈ブクレシュティ〉に搭載されている拡張艦隊戦闘指揮システムに接続することにより僚艦を手足のように操る。早苗の場合は主に指示を飛ばして細かい挙動は僚艦のコントロールユニットが操作しているのだが、彼女のそれは僚艦の全てを制御下に置く。イメージとしては、自分から僚艦の各所に糸を伸ばして操作すような感覚。これにより瞬発的な対応を取らせることが可能であり、有人艦では考えられないような加速と機動戦術で敵艦隊を翻弄する。

一応僚艦の操作はコントロールユニットの自立制御に任せることもできる。

 

・最後の咆哮:A

彼女自身の能力、というよりは艦そのものの能力。通常の120%のエネルギーを用いた全砲斉射を敢行する。艦にプールされたエネルギーを一時的に殆ど使い果たすので、使い所の見極めが非常に難しいプログラムである。

 

・限界機動:EX

制御下にある友軍艦全てのジェネレータやメインノズル、核パルスモーターの動きを直接制御することにより、一時的に艦のポテンシャルを越えた戦術機動を行わせる。プログラム使用後はエネルギー回路に大きな損傷を与える恐れがあり、上記の最後の咆哮同様に使い所には細心の注意が必要である。

 

・予測計算:A

拡張艦隊戦闘指揮システムの中核を成すコントロールユニットの演算リソースを最大限に使用することにより、通常よりも極めて精度の高い敵の射撃パターン分析と弾道予測を可能にする。ブクレシュティは戦闘時に自動でこのプログラムを起動しているので、彼女の隷下の艦船に攻撃を当てることは非常に難しい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*サナダ

 

霊夢艦隊が誇るマッドサイエンティストその1。科学班班長。艦隊立ち上げ時からの創設メンバーである。見た目はヤマト2199の真田さん。服装は茶色の制服のようなものを主に着用している。

表情の変化が少なく一見冷静な人物に見えるが、根はどこまでも自身の研究欲を追及するマッドサイエンティスト。艦船設計からおふざけマシンまでお手のもの、彼に作れないものはない。決め台詞は"こんなこともあろうかと"。だが実際言ったかどうかは不明。

当初は発掘した宇宙船を駆ってヤッハバッハの目を盗みながら研究をしていたが、その途中で霊夢を拾い、〈高天原〉の建造後は彼女の下で研究開発に精を出す。異性人の技術や古代技術であっても現代の規格に適合させ、霊夢艦隊の異常な戦力拡張に貢献した。

艦隊の立ち上げ当初は副長的なポジションにいることが多かったが、人員の充実と共に本業である研究開発に専念するようになった。

 

特殊技能、能力

 

・マッドサイエンティスト:A

研究に熱中する程度の能力。自身の研究が全てであり、その結果がどうなろうと知的好奇心を追及する。彼のスタンスは"使えるものを創る"であり、徒に"最強"を目指さない辺り、ユーザーの声に応える姿勢も忘れていない。彼が有能である所以である。

 

 

 

*コーディ

 

サナダと同じく、艦隊立ち上げ時からのメンバーの一人。以前は軍人だったが、コールドスリープについていた所をサナダに発見され、彼と行動を共にするようになった。霊夢艦隊には操舵手に適した人物が中々いないので、彼が度々旗艦の舵を握っているほか、副長的な役割に就くことも。

元ネタはクローンウォーズのコーディ。装甲服は以前のままだが、ヘルメットはしていない。服には頓着しないので、今ある装甲服で充分と考えているようだ。

性格は実直で真面目。冷静な視点で物事を見渡すことができる。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

白兵戦において、援護射撃により敵の動きを封じて味方を援護する。軍事訓練を受けていない一般人は敵を狙うことに重点を置きがちだが、軍隊による実際の戦闘で用いられるのはこちらの方が多い。以前の彼は陸戦につくことも多かったので、その例に漏れずこの技能を習得している。

 

・部隊指揮:B

陸戦において部隊を指揮する能力。彼は将校としての教育も受けており、戦場では自らの部隊を率いて前線を戦い抜く。大部隊を直接指揮するというよりは、中隊規模の部隊を指揮する方が向いている。

 

 

 

*エコー

 

元はコーディと同じ国で兵士として働いていたが、上層部の陰謀を同僚に知らされて脱走を決意した。国で政変が起こった後は仲間と共にコルベットを奪い、軍を脱走したがワープした先でヤッハバッハのパトロール部隊と交戦してしまう。そこで霊夢達に助けられ、以後彼女と行動を共にする。博麗艦隊では保安隊長の役職に就き、同時に保安隊クリムゾン分隊の隊長も務める。当初は装甲服も以前のものを使っていたが、現在ではサナダが開発した「Mk.3 トルーパー・ミョルニルアーマー」を愛用している。

出典はクローンウォーズ。トルーパー達の経歴は見ての通り、原作とは異なる。装甲服はクローントルーパーのものとHALOのスパルタンアーマーを足して割ったような感じ。

性格は真面目で堅物だが、適度に砕けた会話もする。落ち着いた歴然の兵士といった風格。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

射撃技術により敵の動きを封じ、友軍を援護する。彼のそれは迂闊に動けば確実に当たるほどなので、敵は動こうにも動けなくなる。

 

 

 

*ファイブス

 

エコーと同じ部隊に所属していた元軍人。上層部の陰謀を掴み、それを仲間に伝えて阻止を試みた。しかしそれが失敗に終わると脱走を決意し、仲間を募ってコルベットを奪う。他の5人に話を持ち掛けたのは彼である。

コルベットがヤッハバッハの警備艦隊と交戦した所を霊夢に助けられ、以後艦隊の一員となる。保安隊では副隊長を務め、スパルタン分隊の隊長も兼任する。装甲服はエコーと同じく新型のものだが、ヘルメットは以前のものを使い続けている。元ネタは他のトルーパー勢と同じくクローンウォーズ。

実直かつ素直な性格で曲がったことを嫌う。忠誠を誓った国の上層部が陰謀を働いていたことを知ってからは、その手の陰謀に手を染める人間を軽蔑している。ザクロウ強襲戦の最中の彼が何を思っていたのかは語るまでもないだろう。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

射撃技術により敵の動きを封じ、味方を援護する。

 

 

 

*フォックス

 

本国で起きた政変に反発し、仲間を募って軍から脱走した元軍人の一人。奪ったコルベットで逃走を図ったが、ワープした先は何故かヤッハバッハの領内でそこにいたブランジ級の哨戒部隊と戦闘に陥ってしまう。そこを霊夢達に助けられたことにより、彼女の艦隊に参加した。元々は治安維持に携わっていたが、コルベットを奪った際には砲手を務めていた。その縁もあって霊夢達と合流してからは砲手の席についている。

元ネタはクローンウォーズのフォックス。装甲服はコーディと同じように以前のものを使い続けているが、彼と違って戦闘時にはヘルメットを着用する。ヘルメットには改造が施され、射撃を補佐するシステムが組み込まれている。

治安維持部隊を任されていただけあって性格は真面目だが、砲術長の席に座ってからはやや熱くなりやすい一面も見られる。だが冷静さを失うことはなく、戦闘時は照準に集中している

 

 

 

*チョッパー

 

エコー達と共に元いた軍を脱走した兵士の一人。ガラクタでアクセサリを作ることが趣味で、右目は戦闘の影響で変色している。脱走時には奪ったコルベットの艦首砲座に座っていた。霊夢達と合流してからはサナダの助手的なポジションについていたが、人員の充実によって科学班と整備班を分ける際、彼は整備班に振り分けられにとりの下で副整備長の座に就いている。科学班も整備班もマッドの巣窟なので、彼もその空気に感化されている頃だろう。登場以来あまり出番がない。元ネタは同じくクローンウォーズのチョッパー。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:D

元はドロイドの残骸でアクセサリを作る程度の趣味だったが、今では機械弄り全般に目覚めてしまったようだ。マッドの空気は彼にも多大な影響を与えたらしい。今ではにとりの下で機動兵器の研究開発に精を出している。

 

 

 

*ジョージ

 

エコー達と共に軍を脱走した元兵士。衛生兵の役職に就いており、装甲服には赤十字のマークがある。霊夢達と合流してからは以前と同様に衛生兵の役割に就いている。一時期はシオンの下にいたが、現在では保安隊に所属して白兵戦での負傷者に応急処置を施すことを仕事にしている。チョッパー以上に出番がない。

 

特殊技能、能力

 

・応急隊:D

戦場で味方に医療処置を施し、生還させる技術。彼のそれは軍隊仕込みの実践的なものであるため、その効果も高い。伊達に衛生兵をやっていた訳ではないのだ。

 

 

 

*タリズマン

 

他の5人と同様に軍を脱走した元兵士。追撃戦で負傷していたため、霊夢達に合流した際には医務室に担ぎ込まれた。本業がパイロットだったため霊夢達と行動を共にするようになってからは艦載機パイロットに就き、ガルーダ1のコールサインを用いる。同じパイロットのバーガーは競争相手と見ており、出撃の度にスコアを競っている。艦載機パイロットという仕事の性質上、0Gドッグとなった現在でも死の危険と隣り合わせだと自覚しているため、軍人時代の緊張を維持することと今を楽しむことに意識を傾けている。

他の脱走軍人組と同じくトルーパーだが、名前の元ネタはエースコンバット6の主人公。

 

特殊技能、能力

 

エース:B

艦載機を操縦する程度の能力。当初こそ怪我によるブランクと慣れないシステム体系に苦戦したが、往年の感覚を取り戻した今では霊夢艦隊のパイロット筆頭格として活躍している。現在の愛機はYF-19。

 

 

 

*ノエル・アンダーソン

イベリオ星系で霊夢達に合流したクルーの一人。艦隊ではオペレーターの任に就いており、主に航空管制を担当する。個人的に空間戦闘の研究を趣味にしており、そこで身につけた戦術や知識をもって航空隊をサポートする。外見は濃い赤色の髪をセミロングにした若い女性。かわいいものが好きで、マッドが開発したマシンにより獣化した霊夢に飛び付いたことがある。

元ネタはガンダム戦記のノエル・アンダーソン。

 

 

 

*ミユ・タキザワ

ノエルと同じくイベリオ星系で霊夢艦隊のクルーとなった。ブリッジクルーの一人で主に通信管制を担当する。ノエルよりは少し年上で、髪の色は似ているが彼女の方が短い。同じオペレーター仲間のノエル、こころとは上陸休暇時に一緒に行動するような仲。元ネタは「機動戦士ガンダム外伝 宇宙、閃光の果てに」に登場するミユ・タキザワ。

なお普段の服装はノエルと同様連邦軍の制服。

 

 

 

*シオン・エルトナム・ソカリス

マッドその2。イベリオ星系でのクルー募集時にサナダと意気投合して艦隊に加入した。医学の心得がある貴重なクルーのため現在は医務室勤務となっているが、本業は研究者である。ただサナダ同様いろいろな分野に手を出しているので、専攻が何かよく分からない。生物学と機械工学に詳しい。"ふもふもれいむマスィン"の基礎設計は彼女が手掛けたらしい。

霊夢に(研究対象として)興味があり、色仕掛けを試みたが失敗したようだ。

出典はMELTY BLOOD。名前は主人公シオンの旧名から。外見はメルブラのシオンに白衣を着せただけ。

 

特殊技能、能力

 

・マッドサイエンティスト:A

研究に全てを懸ける。研究のためなら如何なる代償を払うことも厭わない。今日もサナダやにとりと研究と発明品の研鑽を続けている。

 

 

 

*バーガー

元軍人のパイロット。母国がヤッハバッハに滅ぼされ、以後領内を転々とする生活を送っていたところ霊夢に拾われる。その頃はベレー帽にコートの労働者風な服装だったが、パイロットに返り咲いた今ではパイロットスーツにジャケットの服装でいることが多い。非番の時は以前の服装になったりする。同じパイロットであるタリズマンはライバルと見ており、霊沙は弄り対象。

ヤマト2199のバーガーの肌を肌色にした外見。

 

特殊技能、能力

 

エース:B

艦載機を乗りこなす程度の能力。当初は数年のブランクがあったようだが、今では昔の勘を取り戻したようだ。愛機はYF-19

 

 

 

*ルーミア

イベリオ星系の酒場を訪れていたところ霊夢に出会い、閉塞感からの解放を目指して艦隊のクルーになった。貧しい惑星で働いたころと比べて霊夢艦隊の福利厚生はそれなりに充実していたので、現状には満足しているようだ。艦隊では主計長の役職に就いている。

東方のルーミアをそのまま大人にしたような外見。いわゆるEXルーミア。けっこうスタイルがいい。髪型合流時は金髪ロングだったが、今はショートにしている。服装は白黒のOLっぽい服。

 

 

 

*ユウバリ

〈開陽〉機関長を務める若い女性。職人気質でだいたいツナギを着ている。霊夢達がビーメラ星系を訪れた際に募集に応じた。現在では〈開陽〉の機関部にすっかり夢中の様子。自力でワープできるシステムは極めて珍しいので強く興味を惹かれたらしい。外見は艦これの夕張。メロンはない。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:C

機械が大好き。巨大なフライホイールやエンジンの振動に痺れる。週に一度は機関室に籠って一日中点検作業をしているらしい。大抵は寄港中にやっており、そのため滅多に上陸しない。

 

 

 

*秦こころ

ユウバリと同じくビーメラ星系で艦隊に加わった少女。表情をあまり変えることはなくやや内気な性格だが、感情が乏しい訳ではない。上陸休暇時は先輩オペレーター二人組によく連れられて過ごしている。名前の通りモデルは東方心綺楼の秦こころだが、表情はちゃんと動く。作中と比べて大人しめ。髪型と色は変わらない。服装は基本和服。

 

 

 

*山城にとり

マッドその3。整備班長を務める。サナダに対抗して機動兵器の開発を進めている模様。片手間で艦船設計やよく分からない機械を作ったりする。艦隊の戦力強化には欠かせない人物だが、同時に予算を浪費するのでサナダと共に霊夢と主計課を困らせている。元ネタは東方風神録の河城にとり。東方のにとりを山童にしたような見た目で迷彩柄のツナギを着ている。普段はツナギの上半身を腰に巻いておりタンクトップかシャツを着ている。霊夢より背は低いが一部分は彼女よりある模様。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:A

発明しないと死んじゃう病...は冗談としても、いつもだいたい何か作っている。発明品はどきどき早苗に強奪されることも。最近では白兵戦用の試作装備を開発している模様。

艦を修理するついでに、勝手に迎撃装備やセンサーを艦内に追加したりする。次はヴァランタインに踏み込まれても安心だそうだ。

 

 

 

*ショーフク

エルメッツァの元軍人で、軍上層部に疎まれて軍を去った。そこに霊夢艦隊の募集を見かけてこれに応じたらしい。軍人時代は水雷戦隊の指揮を任されており、操艦技術も高い。〈開陽〉ではその経験を変われて操舵手を任されているが、どうも大型戦艦は勝手が違うようで苦戦気味。スカーバレル戦では別動隊を率いて海賊主力と戦火を交えた。人員が充実すれば分艦隊の指揮を任されるかもしれない。帝国海軍の木村昌福中将がモデル。カイゼル髭がトレードマーク。今もエルメッツァの軍服を着ている。

 

特殊技能、能力

 

艦隊指揮:B

現役時代は水雷戦隊の指揮官として一定の評価を得ていたようで、海賊討伐任務を何件もこなしていた実戦派提督。水雷戦隊による雷撃戦術が本懐。

 

 

 

*マリア・オーエンス

 

エルメッツァから艦隊に参加した女性パイロット。腕も優秀だが事務能力にも優れ、その点を変われて普段はにとりから機動兵器のテストパイロットを頼まれている。性格は淑やかだが芯が強い。航空隊ではバーガーの2番機を務め、コールサインはグリフィス2。戦闘時はSu-37Cを駆る。出典はGジェネシリーズ。外見はwars以降に準じる。

 

 

 

*椛

 

霊夢達が保護したモフジの一匹がマッド達の開発した「ふもふもれいむマスィン」により半人半獣となった存在。白狼天狗に似ているので、霊夢から知り合いの白狼天狗の名を与えられた。白髪に狼耳を生やし、もふもふの尻尾がある。性格は素直かつ努力家で、助けられた恩返しのために霊夢に艦で働きたいと申し出た。

現在は保安隊に所属し、可憐な容姿ともふもふによって保安隊のアイドル的な存在として扱われている模様。元ネタは東方風神録の犬走椛。

 

特殊技能、能力

 

・千里眼:C

遠くまで見渡せる程度の能力。モフジは元々目の良い動物だったので、人化した彼女にもその特性は受け継がれている。保安隊では主に警戒要員としても活躍している。

 

 

 

*リア・サーチェス

 

霊夢艦隊で数少ない原作登場組。輸送船で通信士をしていた。行方不明になった恋人を探して宇宙を旅していたがグアッシュ海賊団に船を破壊され、SOSに気付いた霊夢達に助けられて九死に一生を得た。ザクロウでは念願の恋人に会うことができたようだが、彼の素っ気ない態度に怒りを爆発させた。

 

 

 

*ライ・デリック・ガルドス

 

リアの恋人で、ザクロウに監禁されでオールト・インターセプトシステムの研究をしていた。恋人の感情には鈍感で、連絡すら寄越さなかったためにリアの怒りを買う。その気質から霊夢艦隊のマッド達とは気が合いそうな人物である。

 

 

 

 

 

【ユーリ艦隊】

 

 

 

*ユーリ

 

原作主人公の若き0Gドッグ。霊夢の行く先でよく行動を共にする。父が残したエピタフの謎を追って宇宙を旅することを決意し自治領を飛び出した行動力のある少年。性格は穏やかだが負けん気と正義感が強い。現実主義な霊夢とはときどき対立することも。肌と髪は白く瞳は赤い。

 

 

 

*チェルシー

 

ユーリの妹。しかし当人同士はあまり似ていない。髪と瞳の色は緑で、そこだけなら早苗と共通。ユーリと同じく穏やかな性格で、本当は彼と静かに暮らしたいと思っている。

 

 

*トーロ・アダ

 

ユーリ達と行動を共にする少年。彼のエピタフを狙って喧嘩を仕掛けたことが切っ掛けで彼の艦のクルーになった。ガキ大将気質でユーリの悪友的ポジション。

 

 

 

*イネス・フィン

 

ユーリの艦のクルーの一人。エルメッツァの辺境ゴッゾ出身で頭の回転が早い少年。ユーリ艦隊の頭脳ポジション。ゴッゾの酒場では女装させられたことが原因で海賊に拐われ危うくアッー♂、となる所を霊夢に救われた。

 

 

 

*トスカ・ジッタリンダ

 

ユーリが宇宙へ上がるのを手助けした"打ち上げ屋"の女性。本来はユーリを宇宙に連れ出すだけが仕事だったが、色々あって彼の副長を続けている。姉御肌で面倒見が良く、ユーリからは慕われている。彼女もなんだかんだ言ってユーリのことを可愛がっている。

 

 

 

*ティータ・アグリノス

 

トーロの幼馴染で勝ち気な性格の少女。軍人の兄がいるが、海賊に薬物を打たれて意識不明に陥っている。

トーロとの関係は反発はするが仲は良いといった程度。

 

 

 

 

【エルメッツァ】

 

 

*オムス・ウェル

 

エルメッツァ中央政府軍の中佐。改革派として知られ、一方で強引な手法を用いる野心家。スカーバレル海賊団討伐に力を入れ、霊夢に海賊討伐の依頼を持ちかけた。

 

 

 

*テラー・ムンス

 

エルメッツァ地方軍ラッツィオ基地の司令官だったが、スカーバレルと通じていたことが発覚し逃亡した。ボラーレ宙域に潜伏していたところを霊夢達に発見され、あえなく御用となった。

 

 

 

 

【カルバライヤ】

 

 

*シーバット・イグ・ノーズ

 

カルバライヤ宙域保安局の二等宙佐。苦労が絶えない中間職。勢力を増すグアッシュ海賊団の討伐を画策し、霊夢達に協力を依頼する。

 

 

 

*バリオ・ジル・バリオ

 

カルバライヤ宙域保安局の三等宙尉で、前線で海賊掃討の職務に就いている。砕けた性格だが自分なりのポリシーを持つ。

 

 

 

*ウィンネル・デア・デイン

 

バリオの同僚で階級も共に三等宙尉。真面目で職務には忠実な性格でバリオとは凹凸コンビだが、なぜか馬が合う模様。

 

 

 

*メイリン

 

カルバライヤの軍事企業スカーレット社に所属する女性。配属部署は警備部門でトーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉の艦長を務める。

マゼラニックストリームの交易会議に赴くところをグアッシュ海賊団に襲撃され、SOSに駆けつけた霊夢の艦隊と共にこれを撃退するが肝心の護衛対象を拐われてしまう。以後、その護衛対象、スカーレット社社長の息女の奪還への協力を霊夢に依頼し行動を共にする。

モデルは東方紅魔郷の紅美鈴。容姿は基本同一だが服装は緑色の艦長服。帽子も艦長らしいものを着用している。

 

 

 

*サクヤ

 

メイリンの友人で同僚。スカーレット社社長の娘付きのメイドだったが、海賊の襲撃の際に一緒に誘拐されてしまう。監獄惑星ザクロウに収監された後は自力で脱獄し、社長息女の奪還のため行動していたところトスカとサマラに合流する。その後霊夢達とザクロウを攻撃したメイリンとの合流に成功した。

モデルは東方紅魔郷の十六夜咲夜。服装もメイドなので基本的に同一。インプラント化手術を受けているので以外と白兵戦も強い。能力のイメージ元はマクロスFのグレイス。

 

 

 

 

【その他】

 

 

*ミイヤ・サキ

 

惑星ゴッゾの酒場で働く少女。歌手になるのが夢で、貧しい生活ながら仕事に精を出して父を支える。スカーバレルに拐われファズ・マティに幽閉されるがユーリの手により救出された。

 

 

 

*アルゴン・ナラバタスカ

 

エルメッツァ中央宙域に建設した人工惑星ファズ・マティでスカーバレル海賊団を統率する頭領。残忍な手で策略を練ることも厭わない悪党だが、本質はオクビョウナ小心者。キーカードを使った罠でユーリを爆殺しようとしたが、霊夢に見破られて失敗する。しかしそれで霊夢に重傷を与えたことにより霊沙の怒りを買ってボコボコにされた模様。現在は牢獄の中だと思われる。

 

 

 

*ダタラッチ

 

グアッシュ海賊団の幹部。尊大な態度だが打たれ弱く気も弱い。グアッシュ海賊団には属していたが、本人は惑星から人を拐うのを良しとはせず、0Gドッグの誇りを貫いている。ユーリ達に捕虜とされ、グアッシュに関する証言を保安局に与えた。

 

 

 

*ドエスバン・ゲス

 

監獄惑星ザクロウの所長だが、裏では収監したグアッシュを殺害して頭領として成り代わっていた。極度のサディストの変態で太り気味の体形。ザクロウが襲撃された際は真っ先に逃げ出したが、結局霊夢艦隊に補足され、早苗のさでずむ攻撃を受けることになる。

 

 

 

*サマラ・クー・スィー

 

グアッシュと対立していた女海賊。ランキング上位に名を連ね、無慈悲な夜の女王として恐れられる。冷徹な美貌を持ち、常に冷笑を湛えている。乗艦〈エリエロンド〉も極めて高性能の戦艦。実は隠れファンが多い。

 

 

*ヴァランタイン

 

0Gドッグランキング一位に君臨する大海賊。専用の愛艦〈グランヘイム〉もワンオフ仕様の超高性能艦で、宇宙最高峰の性能を誇る。海賊らしく豪快な性格で、腕っぷしにも相当の自信を持つ。七色星団の会戦で霊夢達の艦隊を圧倒したが、逆に白兵戦では霊夢一人に返り討ちに逢う。いくら白兵戦が強くても、流石に空飛ぶ巫女には叶わなかった模様。

 

 

 

 

【???】

 

 

*マリサ

 

霊夢をつけ狙う謎の少女。小マゼランを前にした彼女達の前に立ちはだかり、狙撃戦艦を用いた戦術で霊夢艦隊を苦しめた。最後は〈開陽〉のハイストリームブラスターに呑まれた筈だが、しれっとまだ生きている。

口調は少女らしいものだが自身の意図を見透かさせず胡散臭い面を持つ。容姿は赤髪の魔理沙といった風体で紫色の艦長服を着用する。

容姿のモデルは封魔録魔理沙だが、半分以上オリジナル。

 




設定は以上となります。
霊夢、早苗、霊沙、ブクレシュティの4人は原作クルーの能力からするとチート気味です(笑)。少なくとも無限航路世界の住人は人間やめている訳ではないので、白兵戦になるとどうしても霊夢に勝てなくなってしまいます。霊夢ちゃんが強すぎるんや・・・
主役とヒロイン枠なので解説にも気合いが入ってしまいました。

次回からはネージリンス編に突入します。


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第五章――宇宙の掟
第四二話 もう一つの名前


 

 

 

~ネージリンス・ジャンクション宙域、ボイドゲートβ~

 

 

 

カルバライヤ・ジャンクション宙域とボイドゲート一つを隔てた先にあるこのネージリンス・ジャンクション宙域は、宙域自体は小さいながらもネージリンス有数の大企業セグェン・グラスチ社が進出した経済、学術宙域として栄えており、ネージリンスにとっても重要な宙域の一つだ。

 

そのカルバライヤ方面のボイドゲートから複数の艦船が飛び出してきたことにより、国境を警備するネージリンス軍艦の警戒レベルが引き上げられる。元々隣国のカルバライヤとは仲が悪いネージリンスであり、ただでさえここ最近は緊張状態が高まっているという時期だ。警戒しない方がおかしい。

最終的に殆どが戦闘艦で構成された30隻以上の中規模艦隊がゲートから姿を現したことでネージリンス艦の警戒は極限にまで達したが、その艦隊からの通信で漸くそれが敵でないと判断したネージリンス艦は通常配備に戻っていく。

 

その光景を〈開陽〉艦橋から眺めていた霊夢は、ほっと安堵のため息をついた。

 

 

 

「・・・ようやく引き下がってくれたみたいね」

 

「はい。警戒艦のリーリス級駆逐艦2隻は通常配備に戻ったようです。エネルギー反応低下しました」

 

カルバライヤとネージリンスが不仲だとは聞いていたけど、まさかここまでピリピリしてるなんてね。所属と0Gドッグであることを表すコードを通信で何度か送りつけて漸く納得してくれたみたい。

まあ、対立国側のボイドゲートからこんな規模の艦隊が出て来たら仕方ないか。

 

新たな宙域に足を踏み入れて早々にトラブルを起こしかけた私達だが、なんとかそれは回避することができた。意味もなく軍隊とのドンパチなんて御免だからね。

さて、この宙域に足を運んだ訳であるが、依頼である奪還対象のご令嬢がこの先の宙域に囚われているためだ。件のご令嬢はカルバライヤ宙域保安局の捜査によると、この宙域からボイドゲート一つ跨いだ先のゼーペンストという宙域に居る可能性が高いらしい。ゼーペンストは自治領だから国家機関が強く出ることができず、自力救済に頼るほかないという訳だ。

 

「それじゃあ先ずは情報収集といきましょう。幾ら性能で勝っているとは言っても相手は国のようなもの、事前の準備はしっかりやっておかないとね」

 

「アイアイサー。じゃあ先ずは最寄りの惑星に寄港しよう。ショーフク殿」

 

「ふむ、なら此処からでは惑星リリエだな。取り舵10、進路をリリエに向けるぞ」

 

旗艦〈開陽〉が機動を修正し、それに僚艦が続く。回頭用の核パルスモーターが発する振動が艦橋まで響いた。

 

「――レーダーに敵影なし」

 

「そのまま巡航速度を維持。通常配備のままで良いわ」

 

レーダーを監視するこころからも異常なしの報告が上がる。最近のカルバライヤもそうだったけど、本当に平和な海だ。主に私達がグアッシュを狩りつくしたのが原因ではあるのだけれど。

 

「しかし暇だ。砲撃の腕が鈍っちまう」

 

「フォックスさん、最近そればかりですね。昔はもっと口数少なかったのに」

 

「ハハッ、どうも戦闘がデフォルトになっちまったみたいでな、こうも戦闘が少ないと逆に落ち着かないぜ」

 

静かになった艦橋で、砲手の席に座るフォックスが一人言ちる。ミユさんが言ったように最近の彼はそんなことを呟く機会が多い。最初はもっと軍人らしい雰囲気だったけど、今ではすっかり大砲屋気質に取り込まれているみたいね、フォックスは。

 

「確かに平和なのは良いんだけど、資金源がやってこないのは死活問題だわ」

 

フォックスがトリガーハッピーの初期症状を呈し始めているのはともかく、艦隊にとっても資金源が枯渇するのは大問題だ。無計画に大きくしてあまつさえ資源(海賊)を乱獲したせいだと言われればそれまでだけど、艦隊責任者としてこれは如何ともしがたい状況だ。まぁ、今のところは保安局から貰った報酬もあるし資金には余裕がある。それに、暫くすれば否応なしに戦う羽目になるんだから、今のうちに平和を満喫するのも悪くはない。

 

「あー、だけど本当に暇ね。目の前に海賊が沸いて出たりしてくれないかしら」

 

「縁起でもないな、霊夢・・・時には平穏も必要だぞ」

 

そこに、隣で控えていたコーディが突っ込んできた。彼はフォックスやエコーなんかと声や容姿は同じだけれど、私を名前で呼ぶので判断しやすい。

 

「そうねー。やることもないし、一旦神社に戻ろうかしら。それじゃコーディ、席は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

艦長業務の書類なんかも既に片付いているので本当にやることがない。それに交代の時間も近いし、後はコーディに任せて適当に時間潰しでもするとしますか。

 

「なら霊夢さん、私と艦内デートなんてどうですか!?」

 

「ちょっと早苗・・・デートって、確か逢引のことでしょ?私女なんだけど・・・」

 

私が艦長席から降りると、いつも私に付き添っている早苗が腕を絡めてひっついてくる。別に悪い気はしないから放っておいてるんだけど、時々こんな風に変なこと言い出すのよね・・・なんでこうなったのかしら。

 

「とりあえず、今は離れて」

 

「むーっ、霊夢さんのけち・・・相変わらず鈍感なんですから」

 

ただ、いい加減動きにくいので離れるように言ってやると、早苗は私をケチ呼ばわりしてぷいっと顔を背けてしまう。だけど少しすればそれも治って私の方を見つめてくる。ほんと、早苗の行動原理は読みにくい。

早苗が続けて何か言ったように聞こえたけれど、小声なので上手く聞き取れなかった。

 

「神社といったら―――確か自然ドームにある霊夢の家だったか。あんたは気にしないと思うが、最近幽霊騒ぎがあるそうだぞ。せいぜい気を付けることだ」

 

「幽霊騒ぎ?」

 

早苗とのやり取りも落ち着いたところでコーディがそんな話題を振ってきた。続けて「ま、幽霊なんて眉唾だろうがな」と彼は言っていたけれど、昔の常識もあってそれを私は噂程度に捉えられなかった。

早苗はそれを知らなかったみたいで、頭に疑問符を掲げている。

 

―――害のない霊なら良いんだけど、そもそもうちに戦死者はまだいなかった筈。なんで霊なんて出るのかしら・・・

 

あれだけ戦ってるのに戦死者なしとは眉唾かと思われるだろうけど、実際本当のことだ。うちの艦隊は殆ど自動化されている上に、頻繁に募集をかけて増えたとは言ってもクルーの総数はせいぜい400人にも満たない。人間を重要な箇所に配置して末端や僚艦は自動化しているのと、〈開陽〉そのもののバイタルが硬くてそうそう抜かれないこともあって幸いにも人的被害は少ないままだ。なので負傷者はたびたび出てはいるけど、戦死者は未だ出ていない、という訳だ。

しかし、だとしたら何で幽霊騒ぎなんて出るのかしら。ここで死んだ人間がいない以上、やっぱり何かの見間違いとかなのかな。

 

「―――分かったわ。出会ったら退治しとくわね」

 

「うわ、相変わらずきついです、霊夢さん・・・でもそこが良いんですけどね」

 

私はコーディにそんな返事をして艦橋を後にする。それが本物だとしたら此方としても迷惑だし、さっさと成仏なり退治なりさせてしまおう。

予想はしていたけど、早苗は私にまたくっついてきた。

どうにかするのも面倒なので、そのまま私達は神社に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星リリエ~

 

 

この宙域に入ってから程なくして、艦隊は惑星リリエの宇宙港に入港した。この星の宇宙港はネージリンス独自の仕様らしく、苔色の八ツ橋みたいな形をした楕円柱を横倒しにしたような形の物だった。宇宙港というものは国ごとに特徴があるみたいで、つい最近までいたカルバライヤのものは宙域のデブリ対策に大きな装甲板をくっつけた形をしたものが多かった。

 

早速情報収集のために地上へ降りようと思ったんだけど、私はそこで同行していたメイリンさん達に呼び止められた。

 

「あの、霊夢さん、少しいいですか?」

 

「何?メイリンさん」

 

タラップを降りて少し歩いた所で、メイリンさんともう一人、確かザクロウに捕まってたサクヤさんの二人が待っていた。

 

「今回の依頼のことで朗報があったので、お伝えしようと思いまして」

 

「へぇー、朗報ね。それは何かしら?」

 

次に口を切ったのは、メイリンさんではなくサクヤさんの方だった。先に言われて悔しいのか、メイリンさんは何とも言えない表情をしている。

 

「本社の方から連絡があって、奪還艦隊を編成しているそうよ。今動くのは一個打撃群みたいだから、戦力としてはあまり充てにできないけどね。これはその情報。公開できる範囲だからあまり多くはないけど」

 

「あんたは確か、サクヤさんだっけ。どうも、受け取っておくわ」

 

「失礼、申し遅れました。顔は合わせていたと思いますが、スカーレット社のサクヤと申します。以後お見知り置きを」

 

サクヤさんとの単純な挨拶を済ませて、彼女が差し出した一枚のデータプレートを受け取る。どうやらこれが、その奪還艦隊とやらの情報を記したものらしい。

試しにそれを起動してみると、編成表のようなものが表れた。

 

「・・・サクヤ、それをここで起動させて大丈夫なの?」

 

「ええ。認識障害のフィールドを張ったから、情報が外部に伝わることはないわ」

 

私がそれを起動したのと同時に、私達の周りに薄い結界のようなものが張られた。ひょっとして、今の不味かった?

 

「あんたが公開できる範囲って言ったから覗いても大丈夫だと思ったんだけど、配慮が足りなかったかしら?」

 

「いえ、お気になさらず。此方の都合よ」

 

だけど、サクヤさんが言うには問題ないらしい。一応内密の話だから、ってことかしら。さっきは認識障害フィールドと言っていたが、確かあれは会話内容を隠すためのものだ。依頼そのものの内容があれだから聞かれたくない、という訳か。

 

さて、データプレートに記されていた情報のことだが、本社から送り込まれてくるという艦隊の陣容と到着予定が記されている。このネージリンス・ジャンクションに着くまでは13日とやや遅めだが、どうも整備と補給で手間取っていたらしい。

して肝心の戦力だが、改ゾロ級駆逐艦とアリアストア級駆逐艦が各2隻、改レベッカ級警備艇が6隻らしい。確かに戦力としては心許ない。一瞬レベッカ級と見て目を疑ったが、どうやらこのレベッカ級は通常艦と比べてかなり性能が高いのは救いだ。レベッカ級は警備艇として広く普及している艦船だが、その性能ははっきり言って最底辺だ。そんなのが6隻も来られたら足手纏いもいいところだが、奪還艦隊に含まれるレベッカ級の性能は同型艦を改造したスカーバレルのフランコ級水雷艇よりも高いらしい。これなら最低限の戦力として扱える。

 

「他の艦艇は改装スケジュールの関係でまだ動かせないらしく、援軍としては心許ないですが・・・」

 

「別に構わないわ。んで、こいつらはあんたの指揮下に入るんでしょ?なら私は何も言わないわ」

 

「それともう一つ、社長が個人的な伝を使って保安局の捜査を支援するみたいです。丁度この宙域にあるポフューラという星に捜査本部を用意したとのことですから、後ほど訪れてみるのも一計かと」

 

続けてサクヤさんはそんな情報も教えてくれた。話からすると、裏で色々手を回してくれたみたい。

 

「ネージリンスのセグェン・グラスチ社とはビジネス上の関係がありますから、その伝ですね・・・ああ、彼等とは商工会議とかで顔を合わせるだけなんですけど・・・」

 

そして、その伝とやらがセグェン・グラスチという会社らしい。メイリンさんはあはは、と笑って誤魔化しているけどカルバライヤとネージリンスって確か関係険悪なのよね。なのに会社関で多少なりとも付き合いがあると聞いたら普通の国民は何か思うところがありそうだけど、別に私はそういうのはどうも思わないし、過度に気にしなくても良いんだけど。

 

「・・・別に私は気にしないわ。基本0Gドッグは国とか関係ないからね」

 

「はは・・・それは助かります。」

 

メイリンさんもカルバライヤ人みたいだから、その辺り勘違いされたくなかったのかも。それに、会社どうしの関係とは言っても、多分業界のライバル程度だろうし、あまり気にしても無駄か。

 

「それで、話はもう終わりかしら」

 

「ええ、今のところは。現状は援軍が合流するまで情報収集、という形になりますね」

 

「分かったわ。んじゃ私は適当にやってるから。その時になったら教えて」

 

「了解です」

 

今後の方針は、メイリンさんに援軍が届くまではこの宙域を適当に散策するという感じで良さそうかな。そこでゼーペンストの情報を得るもよし、戦備を整えるもよしといった感じか。

 

「しかし、あんた達だいぶ落ち着いてるわね。普通はもうちょっと焦るもんじゃない?」

 

「はは・・・これでも内心だいぶ焦ってるんですけどね。お嬢ちゃん方がいかがわしいことをされていないか、心配で心配で・・・」

 

「・・・メイリン、焦っても結果は悪くなるだけ。相手の戦力も侮れないし、今は準備に専念しましょう」

 

「サクヤ・・・ああ、でも一度考え出すと不安がどんどん溢れてきて・・・」

 

うん、メイリンさんってだいぶ精神弱いみたい。本当に大丈夫かしら?状況があれだから仕方ないかもしれないけど。しかし、サクヤさんの方が冷静なのはちょっと以外かも。ほら、咲夜の方はなんだかんだあの吸血鬼にべったりだったし。

 

「うう、いや、このままだとお嬢様が・・・」

 

「はぁ・・・少しは冷静になりなさいメイリン。なら今日も"落ち着かせて"あげましょうか?」

 

「ひえっ!・・・もう、こんな所でそれは言わないで下さいよ・・・」

 

「クスッ、少しは落ち着いたかしら。それじゃあ、私達は色々あるから、そろそろ行くわ」

 

「ええ。それと、ちゃんと成功報酬は用意しておきなさいよ」

 

「心配無用よ。それは安心なさい。今日はこんなところかしら。健闘を期待してるわ」

 

話も終わり、認識障害のフィールドが解除される。本当に用はそれだけだったみたいで、軽く手を振るとメイリンさん達は足早にその場を後にした。

 

 

「・・・さて、そんじゃ地上に「ああ、やっと終わったの?」」

 

「ぅわあっ、・・・って、なんだあんたか。今度は何の用かしら」

 

突然後ろから話し掛けられて、心にもなく素っ頓狂な声を上げてしまった。振り向いてみると、そこにいたのは青い軍服調の衣装を着た金髪の等身人形・・・ブクレシュティだ。

 

「そんなに驚くこと?まぁいいわ。それで本題だけど、これ、実行できないかしら?」

 

彼女が差し出したのは、設計図らしきものが記されたデータプレートだ。私はそれを受け取って、ホログラムに表示された設計図を眺める。

 

「・・・・・・これ、あんたが作ったの?」

 

「いや、私にそこまでの権限はないわ。予めサナダが用意していたから私はそれを提示しただけ。次の相手も一筋縄ではいかない恐れもあるし、戦力強化の一環としては考慮に値するんじゃない?提督さん」

 

―――なにこれ?・・・

 

ブクレシュティが何か言ってる気がするけど、それよりもこのとんでも設計図の方が問題だ。

 

ホログラムに記された設計図にあったのは、単純に言えば〈ブクレシュティ〉の強化改装案の情報だ。それは既存の艦体に増加パーツを付け加える形で、彼女の戦闘能力を強化するものらしい。

 

それだけなら驚きもしないんだけど、問題はその仕様だ。

 

―――原型、残ってないじゃん。

 

肝心の改装案についてだが、まず基本となる〈ブクレシュティ〉の艦体に、両舷エンジンブロックの外側にさらに増加の格納庫とブースター、主砲塔を兼ねたユニットを接続、艦橋部分はその前にある反重力リフトごと増加装甲で覆って主砲とダミー艦橋を追加、艦底部には巨大な砲身を持った武装ユニットと増加装甲を接続して打撃力を高めているようだ。さらに、止めとばかりに追加の武器システムやスラスター類もかなりの量に上る。まるで全艦武器の塊といったような風体だ。

あんたは一体何と戦うつもりなのよ・・・

 

心なしか、普段は人形のように無機質なブクレシュティの両眼が、玩具をねだる子供みたいにきらきらしているような気がした。

 

「CGY-PLAN303、ディープストライカー。ODST投下機能を廃止する代わりに極限まで戦闘力を高めた増加装備プランよ。コストはかかると思うけど、単独での殲滅力なら戦艦以上だと自負するわ。この装備の真髄は6基に上る追加のインフラトン・インヴァイダーの存在ね。それが生み出す莫大なエネルギー量を以て通常の基準を遥かに超える加速力と機動力に連射速度を実現し、一対多においても全く引けを取らない性能を発揮する装備。どう?」

 

「どうも何も・・・そのコストは何処から捻出するのよ・・・駄目、今は却下」

 

「―――ちぇっ」

 

私が即座に却下の印を押すと、ブクレシュティの舌打ちの音が聞こえた。はっきり言ってこんなキ○ガイ装備、許可できるわけないじゃない。こんなマッド共が自重を殴り捨ててコスト度外視で設計したような装備なんて、今の艦隊には割に合わないどころか大赤字よ。なら却下に決まってる。

というか、〈ブクレシュティ〉って本来旗艦運用が前提の巡洋艦だった筈だ。ならどうして、その設計思想からわざわざ逸脱するような増加装備なんて設計するのよ。マッドの感性は本当に意味不明だ。

 

「―――まぁ、こうなることは予想できていたから良いんだけど。それで本題の方なんだけど、サナダから預かりものよ。戦力補充に使えってさ」

 

ブクレシュティもあれは到底無理な装備だと頭では理解していたらしく、私が却下してもしつこく食い下がってくるようなことはしなかった。単に望みが薄い願望程度の提案だったのかも。

そして素早く切り替えた彼女はもう一枚のデータプレートを懐から取り出して、それを私に投げ渡す。マッドからの預かり物とか言ってたから、どうせまた設計図とか何かだろう。

 

もう一枚のデータプレートを起動すると、案の定それは新型艦の設計図だった。

 

新型艦とは言っても、外見は既存のサチワヌ級巡洋艦とあまり変わりはない。違いといえば、両舷のカーゴブロックが消えて主砲が取り付けられている位か。

 

「グアッシュ戦で中小艦艇の攻撃力が足りないって話だったから、既存の艦艇を改良したらしいわ。コスト自体据え置きみたいだし、これなら一考の価値ぐらいはあるでしょ。艦隊の戦力も駆逐艦2隻分下がってる訳だし、時期を見て代艦でも作ったら?」

 

「そうね、さっきね自重を忘れたような案に比べればずっとマシね。確かにあんたの言う通り、ゼーペンストとやらに攻め込む前の戦力強化には丁度いいかも」

 

"くもの巣"での戦いでは駆逐艦2隻を喪失している。その穴埋めという形でなら、2隻程度建造するのも悪くない。ちょうど海賊討伐の報酬で少しは資金に余裕もあることだし、この星には造船工厰もある。後で幹部クルーの誰かに相談でもしておこう。

 

それで例の改サチワヌ級―――ルヴェンゾリ級巡洋艦の本体価格は17000G。巡洋艦だし、一通り内装を整えるとしたら25000Gは必要になるだろう。だとしたら現状の予算では1隻の増備が限度かな。

 

「あら、まだ何かある・・・・」

 

「ああ、言い忘れてたけど、他にも色々改良案があるみたいよ。今表示されてるのは・・・クレイモア級の改装案か」

 

どうやらこのデータプレートの中にあるのはさっきの巡洋艦だけではないらしい。誤って手を滑らせてしまったとき、偶然他のデータを表示するボタンを押してしまったみたいだ。それで現在表示されている設計図は艦隊の主力重巡クレイモア級の改良案のようだ。

図面ではあまり違いは分からないが、艦首部にドーゴ級戦艦と同型の超遠距離射撃砲を搭載したらしい。

 

「確かそれは、この艦隊が以前遭遇した敵が同種の兵器を集中運用してきたことへの対策ね。超遠距離射撃砲の搭載で耐久度は少し落ちるけど、その代わり照準と索敵レーダーが高性能なものに交換されてるわ」

 

「へぇ~、いつの間にこんなの設計してたのね。相変わらず機械のことになると仕事が早い連中・・・」

 

ブクレシュティが言った敵とは、たぶん前に戦ったマリサ艦隊のことだろう。あのときは重巡まで沈められたし、本当に危ないところだった。その頃は彼女は居なかったのだけど、戦闘データを見たりして知っているのだろう。

 

クレイモア級の耐久力は元々優秀な部類だし、射撃プラットホームとしての安定性は確保されている。それにサナダさんはあれの艦首ブロックは予め開けておいたみたいなことも言ってた気がするし、後付け搭載でも他の機能を圧迫することはないだろう。加えて新型の射撃システムとレーダーで命中率を高めているとなれば、またあの小娘がちょっかい出してきたときにも対処できる。それを考えれば、この改良は充分に実用性はありそうだ。・・・・・金があればの話だけどね。

 

「・・・でも、今の艦隊にそこまで資金の余裕がある訳じゃないし・・・工作艦の資源を使えば、1隻は改造できるだろうけど」

 

「戦闘を控えている以上、工作艦の資源は修理と補充に使いたい、と」

 

「そんなところね。取り敢えず、これは機を見てって感じになるわね」

 

何事にもお金はやはり必要だ。艦隊の資金が限られている以上、あれもこれもという訳にはいかない。この辺りの取捨選択ってのが、案外艦長業務のなかでも難しいところなのよね。

 

それから暫くマッドから預かってきたというデータプレートの中身を覗いてみたのだが、あまりパッとしないものばかりだった。新造艦はあまり作る余裕もないし、既存艦の改装でもできる数は限りがある。にとりが出してきたらしい1000m級弩級戦艦案とかもあったけど、流石にそれは時期尚早かな・・・

 

「これで全部、かな」

 

「そんなところね」

 

どうやらデータプレートの中身はこれで終わりみたい。しかし、何でブクレシュティがわざわざマッドからの届け物なんてしたのかしら。

 

「そういえば、そのサナダさん達はどうしてるのよ。わざわざあんたに頼むほど忙しい訳?」

 

従来なら、あのマッド共はこういった新兵器案なんかは我先にと自慢しにくる人種なんだけど、今日は珍しく他人を介しての紹介だ。また何か変なことしてなきゃいいんだけど。

 

「あ~、なんかそんな事も言ってたわ。サナダとシオンは戦艦設計の最終段階とかで手が離せないって言ってたわね。整備班長のにとりは機動兵器の量産試作機がロールアウト間近でその試験があるらしいわ」

 

・・・どうやら勘は当たったらしい。予想してたのよりは大人しめなのがせめてものの救いだが、これはそのうち自慢にくる予兆だろうなぁ~。にとりの機動兵器はともかく、サナダさんが戦艦設計したって今はお金の余裕があるわけでもないのに・・・どうやって断ろうか。

そもそもうちが金欠気味なのって、マッド共が勝手に大軍拡して艦隊の維持費を跳ね上げたり、研究開発でかなりの額を持っていくからなのよね。幸いといってはなんだけど、クルーの数が少ないから人件費はそこそこ押さえられているのだ。なら、浪費の原因はマッドしか残らない。

 

「ああ、やっぱりそんなとこなのね・・・」

 

私が艦隊運営で頭を悩ませたりしていても、ブクレシュティはどこ吹く風といつもの無表情のままだ。これが早苗なら気の利いた言葉の一つくらいは掛けたりしてくれるのに・・・ああもう、まさか来世になってまで金の工面に困るとは思ってもいなかったわ・・・

 

それと、ブクレシュティがわざわざ私にこれを届けにきたのって、もしかしてあの増加装備が欲しかったから?なんか、あの眼を見た後だとありそうな気がするわ・・・

 

ああ、それと少し、彼女に言いたいこともあったわね。

 

 

「―――そういえばさ、ブクレシュティって名前だと、ちょっと長くて呼びにくいのよね」

 

「はあ?」

 

「いや、だから愛称の一つでもあれば呼びやすいんじゃないかってこと」

 

これは前から感じていたんだけど、ブクレシュティだと半端に長くて呼びにくい。なんかこう、もうちょっと呼びやすくできないかしら。

あと、聞いた話では名前は自分で選んだらしいんだけど、本来名前ってそういうものじゃない気がするのよね・・・

 

「―――何も、提督さんが適当に呼べばいいでしょ」

 

「そう、ならアリスで」

 

「へ?」

 

私が即答したためか、彼女は目を丸くしてつっ立ったままだ。

 

だって、ほら、ブクレシュティとあの七色馬鹿って髪型以外ほとんど似てるし、おまけに声もあの七色に似てるんだもん。内心では時々あいつと間違えそうになるぐらいだし。

 

「・・・なに、知ってたの?」

 

「は?知ってたって何を・・・」

 

彼女の返答は、予想外のものだった。

わざわざ知ってたのなんて返すってのは、一体どういうことだろうか。早苗があっちの早苗だと言われても今更驚きはしないけど、こいつまで同じなんて言わないでしょうね?

 

「Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment(発展型論理・非論理認識装置)・・・略称ALICE。言うなれば、私の"核"みたいなものよ」

 

私の予想とは裏腹に、彼女は自身の頭を指しながら訳のわからん横文字を並べる。

 

「・・・なにそれ」

 

「はぁ?貴女がその名前を口にするものだからてっきり知ってるのかと思ったんだけど・・・まぁいいわ。要するに、AIである私の核となるプログラムよ。発展型ってのは、あの緑髪の本体にあるプログラムを文字通り発展させたものだから。人間の感情を学習してより精度の高い人工知能に育てようってサナダが付けたものよ。だから非論理認識装置ってわけ」

 

彼女は少し呆れ気味に、自分に搭載されたという人工知能?の解説を始めた。なんとなく話は分かったけど、相変わらず専門的なことは苦手なのよね。

どうやら、あの七色と目の前の彼女にあるプログラムの名前が被っただけのことらしい。単純な勘違いってやつだ。

 

「ああ、知ってるってそういう意味・・・私はただ、あんたが知り合いに似てるからそう読んでみただけなんだけど」

 

「なんだ、知らなかったのね。まぁ、私はそっちの呼び名でも良いわ。どのみち私なことに変わりはないんだし」

 

以外にも、彼女はその名前で呼ぶことをあっさりと承諾した。彼女にしてみれば、自分の中心みたいなプログラムの名前はイコール自分の名前と同義だと解釈したらしい。

 

「そう、なら遠慮なく。次からはそっちの名前で呼ばせて貰うわ」

 

「あ、一つ条件があるわ。艦に乗ってるときは、今まで通りの名で呼びなさい」

 

彼女はそれだけを条件に付け加えてきた。艦に乗ってるときか・・・あの艦にいる間は〈ブクレシュティ〉と一心同体だからってのが理由かしら。まぁ、自分で選んだ名前らしいし、何かしらの執着があるのかもね。

 

「はいはい、分かったわ。私からはこんなところね。アリスも用は無いんでしょ?なら一緒に地上とかどう?」

 

「地上?いや、お断りしておくわ。必要性を感じないもの」

 

「また必要性・・・相変わらず淡白な奴ね。少しは私の酒に付き合ってみなさいよ」

 

「仕方ないでしょ。AIの判断基準はそれなんだから。それについてとやかく言われる筋合いはないわ」

 

「ああ、もういいわ。だったら大人しく艦橋にでも籠ってなさいよ」

 

「なら、そうさせて貰うわ。それじゃあ失礼」

 

私が軌道エレベーターに向けて歩き出すと、アリスはドックの方角へ戻っていく。私が軽く手を振ると、彼女がそれを返してきたのがちょっと意外だった。

 

―――なによ、少しは人間らしくも出来るじゃない。

 

それなら酒にも付き合えと言いたかったけど、あまり無理強いするのもよくないし、今は一人で飲むとしよう。

 

 

 

それで肝心の地上だが、酒場での情報収集を終えた辺りで早苗が突撃してきて酒どころではなかったわ。あの娘、お酒に弱いところまで似てるなんて・・・お陰で私は介抱するばかりで少ししか飲めなかったじゃない。

なんか、こっちに来てからまともに飲める機会が少ない気がするわ・・・




今回から第5章です。いつになったら大マゼランに行けるのでしょうか。早くあの人とかあの機体を出したいです。

ブクレシュティのことについては、単なる名前繋がりです。ディープストライカーとかALICEとか。ガンダムの中でもセンチネル成分が濃くなってきた気がしますが(マゼラン級もセンチネル仕様だし)、そのうち(凸)が登場しますので緩和されるかと思います。


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第四三話 ギルド

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ヘルメス~

 

 

 ネージリンス宙域に来てからはリリエ、ポフューラと惑星を回ってきたが、どこの星でもめぼしい情報を得ることはできなかった。ポフューラには保安局の捜査本部が置かれるという話だったが、肝心の保安局の姿は見当たらなかった。どうも、まだ到着していなかったらしい。此方の動きが早すぎたようだ。

 なので、保安局が捜査本部を置くまで時間がありそうだと判断した私はこうして他の惑星を見て回ることにした。

 

 現在停泊しているヘルメスという星には造船工厰があったので、戦力補充の一環として巡洋艦1隻を建造することにした。リリエでブクレシュティ―――アリスと相談した通り、建造するのはルヴェンゾリ級巡洋艦だ。艦名は〈モンブラン〉と命名されたらしい。次の相手は海賊ではなく国ときたので、この程度の戦力増強ではまだ不安だ。ついでに〈サチワヌ〉を工作艦のドックに入れてルヴェンゾリ級に改修している。新造艦での戦力強化では足りなさそうだから既存艦からも改修して艦隊の強化を図るという訳だ。

 

「霊夢、艦隊編成のことだが、これで良いか?」

 

「うん?・・・ああ、こんなところね。良いんじゃない?」

 

 艦隊は既に宇宙港に入港しているんだけど、今回はいつもの補給作業を済ませた後は惑星には降りず、艦橋に留まっている。その理由は、こうしてコーディと今後の艦隊編成について議論していたからだ。

 

 艦隊編成の方は一度見直して、今までの第一~第三分艦隊を解散して一から編成し直している。わざわざ編成し直す理由なんだけど、今後のゼーペンスト戦に備えた戦力の再配置が主な目的だったりする。それで、決まった現状の艦隊編成は以下の通りだ。

 

 

 主力艦隊

 

 戦艦:

 アンドロメダ級/〈開陽〉

 重巡洋艦:

 クレイモア級/〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈霧雨〉〈叢雲〉

 

 

 第一機動艦隊

 

 空母:

 改ブラビレイ級/〈ラングレー〉

 巡洋艦:

 改ヴェネター級/〈高天原〉

 改サウザーン級/〈エムデン〉〈ブリュッヒャー〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈ノヴィーク〉〈タシュケント〉〈ズールー〉〈タルワー〉

 

 

 第二巡航艦隊

 

 巡洋戦艦:

 オリオン級/〈オリオン〉〈レナウン〉

 巡洋艦:

 サチワヌ級/〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉

 ルヴェンゾリ級/〈サチワヌ〉〈モンブラン〉

 駆逐艦:

 グネフヌイ級/〈ソヴレメンヌイ〉〈ヴェールヌイ〉〈コーバック〉〈コヴェントリー〉〈アナイティス〉

 

 

 第三打撃艦隊

 

 巡洋艦:

 改マハムント級/〈ブクレシュティ〉

 駆逐艦:

 ヘイロー級/〈ヘイロー〉〈春風〉〈雪風〉

 改アーメスタ級/〈ブレイジングスター〉

 改アリアストア級〈有明〉〈夕暮〉

 

 

 支援艦隊

 

 工作艦:

 改アクラメーター級〈サクラメント〉

 プロメテウス級/〈プロメテウス〉

 ムスペルヘイム級/〈ムスペルヘイム〉

 給兵艦:

 ボイエン級/〈蓬莱丸〉

 輸送艦:

 バクゥ級/〈亜里山丸〉

 巡洋艦:

 サチワヌ級/〈青葉〉

 駆逐艦:

 ノヴィーク級/〈早梅〉〈秋霜〉〈夕月〉

 

 

 編成上で大きな変化は、以前の分艦隊は戦力が均等になるよう配置されていたのだが、それを空母機動部隊と巡航打撃部隊に再編したことだろう。以前は巡航時に海賊と交戦することを念頭に置いた編成だったが、今度のそれは艦隊決戦を想定したものだ。

 

 以前の本隊は主力艦隊に再編し、空母を追い出して砲撃戦主体の戦艦と重巡洋艦、それに護衛の駆逐艦2隻で編成している。これは艦隊決戦時の主力打撃部隊として敵艦隊との砲撃戦を想定した艦隊だ。

 第一機動艦隊には本隊を追い出された空母〈ラングレー〉と航空巡洋艦〈高天原〉を加え、護衛はサウザーン級と防空駆逐艦で固めている。敵への攻撃は基本艦載機が主体で直接敵と砲火を交えることは想定していないので護衛の巡洋艦は能力で劣るサウザーン級が配備されている。

 

 第二巡航艦隊は巡洋戦艦2隻を中核とする巡航打撃艦隊で、その速力と機動力で敵艦隊に対して優位に戦うことを想定した編成だ。この艦隊に配置された艦は全て艦載機を搭載できるので、従来の分艦隊のような前衛艦隊としても運用できるよう想定している。

 

 〈ブクレシュティ〉を中核とする第三打撃艦隊も同じように速力と機動力を重視した艦隊だが、此方はより決戦時を意識した艦隊だ。駆逐艦は何れもスカーバレル艦より攻撃力に優れた艦種で構成し、水雷戦隊といった様相を呈している。運用法も正に水雷戦隊といった形で、駆逐艦群の突撃と近距離雷撃戦により敵前衛艦隊を消耗させることを目的としている。その運用法から此方も消耗は免れないだろうが、その為にわざわざ〈ブクレシュティ〉を旗艦に配置している。彼女の能力なら艦船の機動力を限界一杯まで引き出すことができるので、他の艦を旗艦にするよりは消耗を抑えられるだろう。

 

 最後に支援艦隊だが、これは以前とはあまり代わり映えしない陣容で、工作艦や補給艦を集めた補助部隊だ。以前との違いはせいぜい護衛艦が減ったくらいだろう。今まで工作艦への襲撃を恐れて高性能なヘイロー級を護衛につけていたが、それを水雷戦隊に引き抜いたので代わりにノヴィーク級を護衛につけている。

 

 決戦時はこのような形で艦隊を纏めることにしたが、一部の能力だけに長けた部隊を普段でもそのまま運用すると支障が出てしまいそうなので通常巡航時には第二巡航艦隊を解いて警戒部隊として運用することにした。2、3隻にばらけてしまえば広い警戒網を構築できるし、海賊から見ても美味しそうな"餌"に見えてくれることだろう。そこに寄ってきた海賊をパクリと頂いてしまおうという魂胆だ。

 

「しかし、こうして見ると随分思いきった変更だな。まるで軍隊みたいな編成だ」

 

「あら霊沙、居たのね」

 

 出来上がった編成表を、霊沙は横から顔を覗かせて窺う。議論を始めたときは艦橋に居なかった筈だけど、いつのまにか潜り込んできたみたい。

 

「次の相手は自治領だからな。今までの海賊とは訳が違う。こっちも本気で叩き潰さなきゃならんって訳だ。まあ、元軍人の俺がアドバイスしたってのもあるがな」

 

「へぇ~、しっかしまぁ、よくここまで増えたもんだ。サナダ様々だな」

 

「お陰でこっちは維持費のやりくりで頭が痛いってのに・・・まぁ、海賊相手に余裕でいられるのも、忌々しいけどあのマッド共のお陰なのよねぇ・・・」

 

 編成表を見ても、合計でざっと30隻以上の艦船がうちの艦隊には在籍している。数自体では今まで戦ってきた海賊に比べればずっと少ないんだけど、海賊とは違って一纏まりで運用している上に維持管理も彼等のように杜撰ではないので(鹵獲して分かったんだけど、海賊船の整備ってけっこういい加減らしい。外見は同じなんだけど、中身はボロボロかオンボロかゴミ屋敷しかなかった。最低限度を除いてろくな整備もやってないらしい。そのいい加減さが大所帯の海賊らしいっちゃそれでお仕舞いだけどね。ただ宇宙に出る上で整備もいい加減なのは少し考えにくいから、単純に腕と設備が悪いだけかもしれないけど)、その辺りの関係書類がけっこう多いのよ。これでもし全艦に人員が配置されていたらその分人件費が上から降ってくるわけだから、考えただけでもぞっとする書類の量になるのだろう。無人艦ばんじゃーい!

 

 はぁっ―――、なんだか思考がおかしくなったみたいね・・・

 

「とまあ、編成はこんな感じで良いでしょう。慣熟訓練は出港してからでいいわね。それじゃコーディ、後は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

 編成作業も終わったことだし、恒例の0G酒場にでも繰り出すとしよう。この星では、使えそうな情報が手に入ればいいんだけど・・・

 

 

 

 .............................

 

 .......................

 

 ..................

 

 ............

 

 

 

「えっと・・・ギルド、ってのはこの辺りかしら」

 

「はい、地図上ではこの周辺にあるみたいですよ」

 

 早苗を引き連れて地上の0G酒場に繰り出した私だが、今はギルドという施設を目指している。酒場ではゼーペンストに関する情報は噂話程度しか手に入らなかったのだが、そこのマスターの話だとこの辺りにギルドなるものがあるということだ。ギルドとはどうやら0Gドッグの組合のようなもので、腕に覚えがある人達が仕事を求めて集まる場所らしい。いわば人材発掘所といったところだ。

 正面戦力なら一介の0Gとしては充分すぎるほどある私達だけど、相変わらず人材は火の車なので、少しでも優秀なクルーを増やしたい私としてはあのマスターの情報は大変有難い。そのため、情報を頼りにこうしてギルドを訪れにきたというわけだ。

 

「あ・・・あの建物みたいですね」

 

 早苗が指した方角には一件のビルが建っている。地図上の住所とも一致するので、あれがギルドで間違いないだろう。

 

「そうみたいね。じゃあ行きましょう」

 

「はい、善は急げですよ!」

 

 すると、早苗は私の腕を掴んでぐいぐい引っ張っていく。いつも早苗の行動力には引っ張られてばかりいるから、なんだか疲れるわ・・・

 

「はいはい、そんなに急がなくてもギルドは逃げないわよ・・・」

 

 私は早苗に引っ張られたまま、ギルドの施設内に入る。

 建物に入ったところで辺りを一瞥してみると、柄の悪そうな連中から大物っぽい風体の奴までいろんな人材がいるようだ。事前に集めた情報では、こういう所で人材を雇うには雇用契約だけでなく前払いでお金を払う必要があるらしい。もしぼったくり詐欺師なんかに引っ掛かったら目も当てられないわね。まぁ、そのときは詐欺師が死ぬだけなんだけどね。

 あと、基本ギルドに集まる連中は腕に自信がある連中ばかりという話なので、ある程度の名声がないと門前払いされるらしい。最近ランキングの方は見てないけど、散々海賊狩りしてきたんだしその辺りは大丈夫でしょう。

 

 ―――さてと、早速始めますか。

 

「そんじゃ始めるわよ。ここは一応、二人で行きましょう」

 

「了解です♪」

 

 取り敢えずこっちから動かないと始まらないので、適当に見定めた人達と直に交渉して雇用契約に応じるか、応じるなら額はいくらかという感じで話を進めていく。

 私が早苗と一緒に行動するのは、単独だと女一人かと侮られそうな気がしたからだ。ここは自分の腕に自信がある連中が揃うらしいので、それだけ傲慢な連中だっているかもしれない。そういう人達に対してては、見た目が小娘というだけで交渉が不利になる可能性だってある。

 

 それに、早苗もけっこう自分に自信を持ってる娘だから、そういう連中と当たったときに厄介事を起こしてしまいそうで恐いのよ。そのときにお目付け役が居なかったら際限なく暴走してしまいそうだから、こうして私の側に居させている。こうなるんだったら、保安隊のエコーとファイブスでも連れてきた方が良かったかも。

 

「あ、霊夢さん、あそこの方々なんてどうです?」

 

 めぼしい人材に声を掛けながら施設内を回っていると、ふと早苗が人混みの奥の方角を指し示す。

 その先に居たのは、一ヶ所に固まっている3人組の人達だ。

 

「そうね、あっちも女の人みたいだし、外見で侮られるってことは無いんじゃない?」

 

 よく見てみると、その人達も女の人だったみたいだ。先程までは外見のせいで交渉以前に終わることが多かったので、次は多少期待できるかもしれない。

 

「それじゃあ早速声を掛けてみましょう!ほら、こっちですよ霊夢さん!」

 

「分かったから、そんなに急がないで」

 

 私と早苗はその人達の元へ歩み寄って、声を掛けてみる。その人達は私達が近づくと、少し気にしたように目線を向けてきた。

 

「そこの貴女達、ちょっと良いかしら?」

 

「ん、なんだ小娘、我に用か?なら先ずは名乗ってみせよ」

 

 私が3人に話し掛けてみると、その中の一人が応える。

 私に応えたのは、短めの銀髪をポニーテールにした、茶色い制服を着た人だ。声を掛ける前はふつうの女の人みたいだったけど、以外と尊大な態度のようで少し驚いた。その人の眼光も鋭く、威圧的な雰囲気を纏っている。

 

「失礼、私は霊夢、0Gドッグよ。率直に言うけど、私の艦隊に来てくれないかしら?」

 

 私は名乗りを済ませて、銀髪の人にフェノメナ・ログ(0Gドッグ個人に付随する航海記録装置)を渡す。そのログには辿ってきた航路や戦闘記録、所有艦なんかが記載されている。今までの連中はこれを渡す以前に門前払いされる場合が多かったけど、これを見せれば嫌でも悔い改めてくれる筈だ。

 実際に、私のフェノメナ・ログを眺める銀髪の人は感心したような表情を浮かべている。

 

「隊長、どうかされました?」

 

「シュテルか・・・一度これを見てみよ」

 

「ほう、これは・・・」

 

「へぇ~中々凄いみたいだね、この人達」

 

 銀髪の人の背後から、残りの二人がフェノメナ・ログを覗き込む。一ヶ所に固まっていたから想像できていたけど、多分この人の仲間なのだろう。片方は短めの茶髪で、紫っぽい空間服の上にスカートと軽い装甲をつけた服装の人だ。もう片方は水色のツインテールに青い軍服っぽい服を着ている。茶髪の人は落ち着いた雰囲気なんだけど、水色の人はなんだか早苗と同じ匂いがする。

 

「それで、どうかしら?」

 

 私はそう銀髪の人に尋ねる。今の反応だと、手応えありって感じかしら。

 

「ふむ・・・霊夢とか言ったな。見掛けによらず、中々の戦果を挙げているときた・・・良かろう、貴様の傘下に加わってやる。我はディアーチェ・K・クローディア。紫天傭兵団の隊長だ」

 

「参謀役のシュテル・スタークスと申します。以後お見知りおきを」

 

「レヴィ・ラッセル、紫天傭兵団の突撃隊長さ。ヨロシク!」

 

 どうやら3人は雇用に応じてくれるらしく、隊長のディアーチェさんから順に名乗る。それと同時に、あちらのログも手渡された。

 

「取り敢えず、我等の技能を示したデータだ。金額は・・・そうだな、三人纏めて3500Gでどうだ?」

 

「そうねぇ~、まぁ、技能も中々みたいだし、その金額で良いわ。改めまして、艦長の博麗霊夢よ」

 

「早苗です、宜しくお願いしますね!」

 

 ログの内容を確認したところ、彼女達の技能も中々のものらしいので、提示された値段で承諾する。

 契約内容も纏まったところで、改めて相手の3人と握手を交わした。

 彼女達の技能の方だけど、ディアーチェさんは傭兵団の隊長なだけあって指揮能力は高そうだ。茶髪の参謀役、シュテルさんは通信管制と操縦が得意なみたいで、水色の突撃隊長、レヴィさんは突撃隊長と名乗るだけあって白兵戦とパイロットが得意なようだ。

 

「よしっと、配属場所は後々考えるとして、早苗、この人達のクルー登録、やっといてくれる?」

 

「畏まりましたっ、艦隊にデータを転送しておきますね」

 

「ふむ・・・ところで貴様、年は幾つだ?」

 

 早苗が端末を操作している間に、ディアーチェさんが私に尋ねる。今度のそれは、今までとは違ってあまり威圧感を感じられなかった。

 

「さぁ、忘れたわ。ここでは少なくとも見た目以上はあると言っておこうかしら」

 

 ・・・やっぱり、私の外見とその戦果が釣り合わないのが気になっていたみたいだ。0G瀝が浅いのは確かだけど、多分あんたより年上よ、私。

 

「ほぅ。しかし、だとしてもこの戦歴は中々のものだぞ?大抵の0Gは海賊団なんぞ恐れるばかりで近寄らん。小娘の身でここまでの戦果を挙げるとは、中々骨のある奴のようだな、気に入ったぞ!」

 

「それはどうも。これから宜しく頼むわ」

 

 ディアーチェさんの世辞を軽く受け流して、もう一度周りにめぼしい人材が残っていないか

 確認する。が、既にそういった人は残っていないみたいだった。

 

「しかもこの艦長さん、中々かわいいじゃん!僕も気に入った!」

 

 今度は水色のツインテールをした人・・・レヴィさんが何故か私の頭を撫でてくる。

 別に撫でられるのは悪い気はしないけれど、あまりこう、わしゃわしゃしないで欲しいな・・・

 

「ああっ、霊夢さんは私のですよ!」

 

「おっ、やるかい、緑の」

 

 すると今度は早苗まで乱入してきて、私の頭上でバチバチと火花を飛ばす。

 早苗もレヴィさんも、あまり私を挟んで喧嘩しないでくれるかしら?鬱陶しいわ。

 

「・・・ふむ、ところで、そちらの艦載機、少し借りられますか?」

 

「艦載機?まぁ、良いけど。取り敢えず出港したら訓練でもやるつもりだったから、艦に行ったら航空隊の方に声掛けといてくれる?私の方からも言っておくわ」

 

「有難うごさいます。フェノメナ・ログでは艦だけでなく搭載機の方も中々の性能だったようですから気になりまして」

 

 シュテルさんはどうもうちの艦載機に興味があるらしく、彼女は私が艦載機を貸すと承諾したらほっこりと頬を緩ませた。

 

「うちの艦載機はマッド共が手にかけた一級品だからね、期待してなさい」

 

「マッド?」

 

「ああ、いや、こっちの話よ。それじゃ、もうスカウト対象も居ないみたいだから、そろそろ行きましょう」

 

「心得た。おい、レヴィ、もたもたしていると置いていくぞ!」

 

「あっ、隊長、今行く!」

 

「待ってくださーい、霊夢さーん!」

 

 もうこのギルドには用はないので、そろそろ出るとしよう。

 私達が早苗とレヴィさんの二人をよそに歩きはじめると、二人は慌てて追いかけてきた。

 

 人材の方だけど、だいたい10人くらいは雇えたかな。艦隊の規模を考えるとまだ足りないけど、優秀そうなクルーが揃ってきたので満足といえば満足だ。

 

 ディアーチェさん達を艦隊に案内したときは、私が本当に30隻以上の艦隊を率いていると実感して驚いたみたい。ドックの一角を占領するフネ全部が私の艦隊なんて、ふつうは信じないでしょうからね。でも、これで彼女達もフェノメナ・ログにあった記録を実感できたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ティロア周辺軌道~

 

 

 

 ヘルメスを出た後の艦隊は、新しい編成での艦隊機動演習を重ねながら、どきどき見かけるグアッシュ残党を食らいつくして惑星ティロアに向かっている。グアッシュも元々の数が多かったみたいだから、この宙域にある程度の残党が流れてきているらしい。逃げた連中には悪いけど、海賊は残さず私の財布に入ってもらうわ。

 

 そして今は、艦載機隊の慣熟訓練の途中だ。ディアーチェさん達は3人ともパイロットの技能があるみたいなので、航空隊に配属することにした。それに加えて、にとり達整備班が開発した試作機動兵器の量産試作機のテストもやっている。

 

《ヒャッホーゥ、こいつ凄いぞ!加速も機動力も今までの機体とは段違いだ!》

 

《こらレヴィ、あまり暴れるな!推進材の残量に気を配れ!》

 

《隊長、今のレヴィには何を言っても無駄ですよ》

 

 艦隊の前方では、先日雇ったディアーチェさん達が飛行訓練をしている。機体はディアーチェさんが指揮通信能力を重視したRF/A-171の有人仕様、シュテルさんはYF-21の制式量産型〈VF-22 シュトゥルムフォーゲル〉、レヴィさんにはYF-19の制式量産型〈VF-19A エクスカリバー〉だ。量産機のデータを取るのも目的らしい。

 

 レヴィさんのVF-19は宙返りやロールを繰り返しながら派手に飛んでいる。その様子から、本当に機体の性能に魅入られているみたいだ。ちなみに機体の塗装は髪の色と同じ水色を基調としたもので、それに白が加わっている。

 一方のシュテルさんは訓練メニュー通りの飛び方で、彼女の真面目な性格が伺える。最初に会ったときもそんなイメージがあったけど、どうもその通りの性格だったらしい。こちらのVF-22は紫と赤を基調とした塗装だ。

 

「ふむ、機動性は試作機とあまり変わりないか。一部はコストダウンの為に一般流通品の部品を使用したのだが、これなら充分だな。ところでシュテル、操縦系統の方はどうだ?」

 

《はい、特に問題はありません》

 

 サナダさんはその飛行映像を解析しながら、何やらメモを取っているようだ。VF-22はコストダウンの為に脳波コントロールシステムを撤去したという話だが、シュテルさんの報告では操縦に問題はないらしい。サナダさんは機体の様子の方にも目を遣りながら、真剣にデータを観察している。

 

「サナダの可変機には負けてられないね。チョッパー、試作機の様子はどうだ?」

 

「飛行試験の方は問題なしです。ああ、格納庫内での重力下試験の方も順調のようです」

 

「それは何よりだ。ガーゴイル1、2、機体の調子はどうだい?」

 

 同じく試験飛行の様子を見に艦橋にきていた整備班のにとりとチョッパーも、彼等が開発した機体の様子を観察している。こちらの機体は〈RGM-79A ジム〉という名前らしく、人型の機体各所にスラスターを装備した機動兵器で、白い機体の胸部を赤く塗装している。以前から試験を重ねていた〈RRF-06 ザニー〉のデータを元に開発した戦闘用の機体らしい。人型ということでスピードや機動力は戦闘機より劣っているイメージだけど、宇宙空間では摩擦がないのでそこはあまり関係ない。実際、ジムのスピードは宇宙戦闘機とあまり変わらないものだ。

 

 ちなみにジムの試験をしているガーゴイル1と2の二人だけど、彼等はエルメッツァのスカーバレル戦から活躍してきて人達だ。ガーゴイル1が確かマーク・ギルダーっていう男の人で、元々軍のパイロットだったらしい。ガーゴイル2はエリス・クロードという女の人だ。元々バーガーさんの3番機だったみたいだけど、機動兵器の訓練のために引き抜かれたらしい。

 

《こちらガーゴイル1、制御系統は大丈夫だ。兵装テストに移る》

 

 艦隊の側面を飛行しているジムの1機はマシンガンを構え、標的機に向かって射撃を始める。レーザー光のマシンガンの弾はあっという間に標的機を捉え、それを爆散させた。

 

《よし、一機破壊っと。ガンマウントもテストするか?》

 

「ああ、宜しく頼むよ」

 

 にとりがテスト続行の許可を出すと、ジムは背後のバックパックに装備したアーム―――可動兵装担架システムを起動させ、腰の脇から銃口を標的機に向け、両手に持ったものと合わせて4門のマシンガンが標的に向けられた。そこから撃ち出される火線は濃密で、そこに囚われた2機の標的機はあえなく蜂の巣となった。

 

「ふむ、可動兵装担架システムも異常なし、っと。宇宙空間での使用も問題ないみたいだね」

 

「ガーゴイル2、重力下試験の方はどうだ?」

 

《こちらガーゴイル2・・・はい、歩行訓練の方は問題なしです。振動吸収機構もちゃんと働いてくれているみたいで》

 

「了解した。そのまま試験を続行してくれ」

 

《分かりました》

 

 一方の格納庫では、もう1機のジムが重力下での運用を想定した訓練をしているようで、その様子も艦橋のモニターに映される。

 格納庫のジムは歩行で前進と後退を繰り返し、射撃ポーズやしゃがみ等の体勢に移行する。

 

「重力下での重心配置と振動吸収機構も異常なし、と。班長、こちらも順調に訓練メニューを消化しています」

 

「ふむ、機体性能の方も計算通りの内容だ。これなら実戦運用でもやっていけるだろうね。」

 

 テスト内容を受けて、にとりが満足げに頷く。

 

「試験の方は順調みたいね、にとり」

 

「ああ、我ながら満足のいく出来だよ。次の戦いでは期待していいぞ!」

 

 にとりは無駄に大きな胸を張って私に応える。やはり自分が手掛けたメカには自信があるようで、彼女の表情も自信に満ちたものだ。

 普段の私だったら湯水の如く開発費を使われちゃあ黙っていないけれど、今の艦隊はゼーペンストとの戦いを控えている。使える戦力は多いに越したことはない。

 

「それで、配備の方はどうなるんだい?」

 

「そうねぇ~、まだ決まったわけではないけど、〈開陽〉に8機、〈オリオン〉と〈レナウン〉に24機ずつかしら。高さがあるから、空母じゃ使えないからね」

 

 この〈ジム〉についてだが、今のところオリオン級巡洋戦艦2隻に配置する予定でいる。オリオン級もにとりの設計なので、予めこの種の機動兵器を搭載できるよう設計されていたからだ。

 そしてサナダの可変戦闘機の方だが、こちらは〈開陽〉を中心に配備する予定だ。〈開陽〉の戦闘機のうちSu-37CをVF-19、F/A-17SをVF-22で更新した後は空母の戦闘機にも配備することになるだろう。

 

 さて、目をディアーチェさん達に戻してみると、今度は戦闘訓練をやっているみたいだ。ディアーチェさんの機体は索敵や通信に特化したRF/A-17だ。背面に搭載されたレドームで敵の位置を捕捉し、適切な目標をシュテルさんとレヴィさんに振り分ける。無人状態だとただの偵察機としか使ってなかった機体だけど、人の手ならばこんな使い方もできるのかと感心する。

 ディアーチェさんの指揮の下で、シュテルさんとレヴィさんは与えられた目標―――標的機に向かってミサイルとレーザー機銃を撃ち放ち、これを撃破していく。

 

《隊長っ、全部片付けたよ!》

 

《此方も終了しました》

 

 二人の空戦機動は、素人目に見てもバーガーやタリズマンに比べても遜色ないものだ。よくこんな短時間で、慣れない機体を自在に動かせるものね。

 

「ヴァルキュリア1、間もなく予定時刻です。帰艦準備に取りかかって下さい」

 

《了解した。よし、シュテル、レヴィ。訓練終了だ。帰艦するぞ》

 

《えーっ、まだ暴れたりないぞ!》

 

《了解です。レヴィ、行きますよ》

 

《ああっ、置いてくなって~》

 

 レヴィさんの機体は、人型に変形した状態で器用に駄々をこねたような格好をさせる。それを無視してディアーチェさんとシュテルさんが帰途につくと、慌てて機体を変形させて二人に続いた。

 

「ガーゴイル1も、一度帰投して下さい」

 

《了解だ。これより帰艦する》

 

 ディアーチェさん達が〈開陽〉に帰艦すると、テストをしていたジムも同じく帰艦する。機体を回収した〈開陽〉は、そのまま惑星ティロアを目指す航路を進む。

 

「いやぁ、ロボット兵器、格好いいですよね!霊夢さん」

 

「うーん、私はあまりそういうこと考えないから、いまいち分からないわ。早苗はああいうのが好きなの?」

 

「はい、勿論です!――――ふふふ、まさかジムをこの眼で見られるなんて、にとりさんに入れ知恵した甲斐があったというものです!」

 

「あの・・・早苗?」

 

 早苗は続けて一人でなんか喋っているけど、私の位置からだとよく聞こえない。でもなんだか満足そうにしてるんだし、まぁいいか。

 

「はっ・・・霊夢さん!どうかされましたか!?」

 

「いや・・・別に何でもないわ。それより、入港準備の方、よろしく」

 

「りょ、了解ですっ」

 

 もう少しで惑星に入港することだし、そろそろ準備の方も進めてもらおう。

 

 その後は、艦隊は何事もなくティロアに入港した。艦載機の生産用に資源を注文していたから、ごっそりお金を持っていかれたわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ジムときたら次はガンダム!さて、何を造って貰おうかな~♪ノーマルもいいけど、やっぱりまずはアレですね!」

 

 〈開陽〉の通路内で、早苗は上機嫌な様子で一人言ちる。

 

 その手に握られたデータプレートには、「サイサリス開発計画」と記されていた・・・

 

 

 

 




今回登場させたギルドの3人組は、魔法少女リリカルなのはportableに登場したマテリアル3人組です。ちなみにロリではありません。主人公組のstrikes相当の姿です。マークとエリスの二人はGジェネシリーズから出演いただきました。

艦載機に関してですが、レヴィのエクスカリバーはVF-Xレイヴンズの塗装です。
ジムは、只のジムではなくジム改の姿です。バックパックにはマブラヴの戦術機のようなアームがあるので、そこに兵装を携行しておくことができます。隊長機の頭部はジムコマンドと同型。マークのジムがコマンド仕様、エリスのはジム改のままです。


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第四四話 リム・タナー天文台

 

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ティロア宇宙港~

 

 

 

「ねぇ、エピタフの有料展示会でもやれば人も金も集まるんじゃない?」

 

「えっ、いきなりどうしたんです?」

 

「最近は獲物が減って資金源に困っていたんだけど、こうすれば楽に稼げるかな~とか思ってね。どう?」

 

「どうって言われましても・・・」

 

 そうよ、元々エピタフなんて伝説級の代物なんだし、それを展示すれば一攫千金間違いなし!ついでにクルーも集められて万々歳ね!

 

 あー私ったらなんでこんなことに気付かなかったのだろう、と内心で自画自賛していたのだが、早苗の一言で脆くもそれは崩れ去った。

 

「・・・でも、この世界は基本世紀末なアウトローがデフォルトですし、それをやるにはちょっと危険かなって思いますね。それに、エピタフを目玉に人集めなんかしたら変な連中もごまんとやって来るのでは?」

 

「あ、そっか・・・ちぇっ、せっかく良い方法だと思ったのに・・・」

 

 希望を打ち砕かれて肩を落とす私の頭を、早苗は「なら他の方法を探しましょう!」と言って撫でてくる。今は早苗の優しさが有り難いわ・・・

 

 

「んっ・・・あれ、ユーリ君達じゃない?」

 

「へ――――あ、本当ね」

 

 宇宙港の一角を歩いていると、ふと早苗が立ち止まって宇宙船ドックに続く通路の方角を指す。それにつられて目線を向けてみると、確かにそこにはユーリ君達の姿があった。

 エルメッツァのときから彼等とは何度か顔を合わせているけど、まさかここでも会うことになるなんてね。

 

「おい、あれ、霊夢さんじゃないか?」

 

「本当だ・・・あの、お久しぶりですね」

 

 向こうも此方に気づいたようで、軽く手を振って挨拶してくる。

 

「そうね。カルバライヤの保安局以来かしら。あんた達もこの宙域に来ていたのね」

 

「ええ、この星にある研究所に用事があるので。霊夢さんも旅の途中とかですか?」

 

「まぁ、そんなところよ。でも研究所なんかに行って、何の用事があるの?」

 

「はい、実は僕達、ジェロウ教授の研究を手伝っているところで、ここにはサンプルを届けに来たんです」

 

「へぇ~、研究の手伝いなんて、あんたも物好きなことするのね」

 

「あはは・・・まぁ、旅の目的の為にも必要なことなので」

 

 軽く世間話のような感じで、ユーリ君と会話を交わす。どうやら、向こうはこの星に用事があって来たみたいだ。しかし、その研究って、一体何の研究なのかしら。

 

「ふむ・・・君が霊夢君か。中々面白い艦を使っていると噂のネ」

 

「あの・・・そちらは?」

 

 するとユーリ君達の後ろから、白衣を着た白髪の老人が歩み出る。あ、なんかニュースとかで見たような・・・

 

「あっ・・・!確かこの人、ジェロウっていう教授だわ。どっかの番組に出てたような」

 

「ええっ、本当ですか!?」

 

 記憶を探ってこの人の正体を当ててみると、早苗は驚いたような表情をして目をぱちくりさせている。何せ彼は小マゼラン一名の知れた研究者らしい。ここにあのマッド連中なんかが居たら、さぞ大変なことになるのが想像できるわ。

 

「如何にも、儂がジェロウ・ガンだヨ」

 

「初めまして、私は博麗霊夢よ」

 

「副官の東風谷早苗ですっ!」

 

 教授が自己紹介したので、私と早苗も名乗りを返す。しかし教授はそんな私達にはお構い無しに、早苗の様子をジロジロと見回すだけだ。

 

「あ、あの・・・?」

 

「ふむ―――君、アンドロイドだネ。ここまで人間に近いものは初めて見たヨ。随分と出来が良い。是非とも開発者に会ってみたいものだネ」

 

「へ!?・・・あ、有難うございます?」

 

 あ、そういえば早苗ってコントロールユニットの義体だったのよね。最近忘れかけてたけど。にしても、うちの早苗は殆ど人間と見分けがつかないっていうのに、よく見分けられたものね。これが科学者の目ってやつなのかしら。

 

「して人格AIもかなり成長が進んでいるようだ。いや、これは元々の出来かな?ふむ、興味深いネ」

 

「あの・・・ジェロウ教授?」

 

「おっと、これは失礼。AIとはいえ、レディには失礼だったかな」

 

「いえ・・・そこまで誉めていただけるなら、開発者も喜ぶのではないかと・・・」

 

 ようやく教授は早苗から離れたけど、早苗はまだ困惑気味だ。機械とはいってもあそこまで人間じみた性格なんだし、いきなりジロジロ見られて困惑しない方がおかしい。

 

「これは・・・もしやジェロウ・ガン教授で?」

 

「ふわぁっ・・・さ、サナダさん・・・?」

 

 するといきなり背後から声がしたものだから、思わず情けない声を出してしまった。サナダさん、いつからそこに居たのよ・・・私の勘でも気付かないなんて。

 

「君は?」

 

「お初にお目にかかります、霊夢艦長の下で科学主任をやっているサナダです」

 

「ほぅ、もしやこの個体の開発者かネ?」

 

「ええ、彼女の義体は私の作品です。見た目と感触は限りなく人間を再現しました」

 

「成る程、ところで、表面はやはりナノスキン構造か―――」

 

「はい、思考回路の方は・・・」

 

 サナダさんはジェロウ教授に自己紹介したかと思うと、回りの人達そっちのけで教授と科学雑談を始める。そのペースに私達はすっかり置いてけぼりを喰らってしまった。

 

「それはそれは、エピタフの研究ですか。実は我々の艦隊は検体の入手に成功しまして、非破壊調査なら既に行っているのです。よろしければ、そのデータを提供しましょうか?」

 

「なんと!アレの検体を手に入れたのかネ。それは驚きだ。検体があるのなら出来れば破壊検査もしたいところだが・・・」

 

「ははっ、一応アレは艦長の財産なので、下手したら私の首が飛んでしまいますよ。もう一つ検体があれば苦労しないのですが」

 

「元々エピタフは見付かるのが希なモノだからネ。仕方ないネ。検体が手に入れば是非とも分解して内部組成を残さず分析したいものだヨ」

 

「仰る通りです。ああ、こちらがそのデータになります」

 

「ほぅ、これは・・・」

 

 あ、これは駄目なやつね。完全に自分達の世界に入ってるし。

 

 

「・・・そうですか。では我々も向かうとしましょう。艦長!」

 

「ひゃいっ、な、何よ!?」

 

「我々もリム・タナー天文台に向かうぞ。解析データを手土産に研究情報の観閲が認められた」

 

「なに勝手に決めてるのよ!艦長は私なんだけど!!」

 

「まぁ、そう熱くなるな。小マゼラン一の権威様の研究データに触れられる機会など一生に一度あるかないかというほどだ。ここは講義を聞いてみたらどうかな?」

 

「・・・分かったわよ。どうせやること済んだら暇なわけだし、暇潰しには丁度良いわ」

 

「私は・・・ちょっと興味あるかも・・・」

 

 どうやらサナダさんは勝手にジェロウ教授に同行の許可を取り付けてきたみたい。勝手についていけばいいのに、何で私まで巻き込んでくるのよ・・・

 まぁ、暇だから別にいいんだけど。やることが無いよりはましね。

 

「ふむ、ならアルピナ君には連絡しておこうか。サナダ君だったね。同行者はどうするかネ?」

 

「そうですね・・・取り敢えず、5人ほどで行きましょう」

 

 ああ、また勝手に話進めてるし・・・もうサナダさんを押さえるのは無理みたい・・・疲れるわ。

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア、リム・タナー天文台~

 

 

 という訳で、その天文台前まで連れてこられました。

 最初は私と早苗、サナダさんの3人だったんだけど、何処からか騒ぎを聞き付けたのか霊沙のやつとシオンさんが合流して5人で向かうことになった。シオンさんはまだ分かるんだけど、何で霊沙までついてきたのよ。

 

「ほえー、これがリム・タナー天文台ですか。なんかシンプルな見た目ですね」

 

「小マゼラン最高の天文施設って謳い文句の割りにゃ、ずいぶんと地味な建物だなぁ。てっきりレーダーとかアンテナとかがドカドカ付いてんかと思ってたんだが」

 

 目の前にある天文台の施設を眺めて、早苗とトーロ君が感想を漏らす。うーん、天文台って聞いたからそれこそでっかい望遠鏡でもついてんのかと思ったけど、建物自体も意外と小さいのね。

 

「地上からの天体観測はもう役割を終えているもの。情報の収集機能と計算能力がここの売りなのよ。その分野で小マゼラン一という訳」

 

 私達が天文台の前に立ち止まっていると、建物の扉から特徴的な形の白衣を纏った女性が出てくる。けっこう若そうな女の人だけど、ここの研究員かな?

 

「ん?」

 

「おお、アルピナ君、久しぶりじゃネ!」

 

 その女性に対して、トーロ君は誰だといった感じの目線で見ていたけど、ジェロウ教授が声を掛けたことで彼の知り合いだと悟ったようだ。教授もユーリ君のフネにお世話になってたみたいだし、なにか聞かされていたんでしょう。

 

「ええ、お久しぶりです、ジェロウ・ガン先生」

 

「教授、この人が―――」

 

「うん、かつての教え子のアルピナ君だヨ」

 

「リム・タナー天文台所長のアルピナ・ムーシーです。よろしく。ところで、貴女方が教授が話していた、実物の解析データを差し出してくれたという方達ですか?」

 

 ジェロウ教授の紹介に合わせて、目の前の女性―――アルピナさんはこの天文台の所長だと名乗る。こんなに若そうなのに小マゼラン一の天文台を任されるなんて、大したものね。

 

「あ、はい・・・まぁ、うちの科学主任が勝手に話を進めただけなんだけど・・・」

 

「初めまして、博麗艦隊科学主任のサナダと申します。こちらは艦長の―――」

 

「・・・どうも、艦長の霊夢よ」

 

「へぇ、貴女がエピタフを・・・検体があるというのなら本来は此方でも解析してみたいものですが、他人の所有物に手を出すわけにはいきませんからね。データの提供とはいえ、協力に感謝します」

 

「いえ、礼には及びません。ところで、ジェロウ教授が持ち込んだサンプルの解析が終了したら―――」

 

「はい、承知していますよ」

 

 サナダさんは、アルピナさんと示し会わせたかのように話を進めていく。なんでもジェロウ教授がここにエピタフ遺跡のサンプルを持ち込んだとかで、その解析を依頼しているらしい。サナダさんはそれに加えてエピタフの解析データを提供することで研究に協力して、遺跡サンプルの解析データを観閲させてもらうという約束を取り付けたらしいのだ。まったく、マッド共は趣味のことになるとすぐに突っ走るんだから・・・常々そういう話は私を通してほしい、って言ってるんだけど、この様子だとこれからも独走するんでしょうね・・・

 

「ふむん・・・」

 

「・・・なんですの、先生。そんなにジロジロと」

 

「いや、相変わらず独り身のようだが、キミもいい加減身を固めるべきじゃないかネ?言ってくれれば、いつでもいい男を紹介しようじゃないか。私の顔は広いからネ。弟子の中でも、キミに憧れや尊敬の念を抱いている連中からいい男でも選んでおこうかネ?」

 

「せ、セクハラだ・・・」

 

「セクハラだぜ・・・」

 

 ジェロウ教授の発言に、早苗と霊沙は呆れ気味だ。かくいう私も、流石にさっきの発言はないんじゃないかって思うわ・・・お見合いの強制とか、私なら絶対蹴っ飛ばしてたからね。

 

「ハァ―――先生ったら、会う度にそればっかり。今日はそんなことをわざわざ言いにいらした訳ではないでしょう?」

 

「ああ、いやいや、それは挨拶みたいなもんだ。話は聞いてると思うが、今日はキミにお土産があってネ・・・」

 

 ジェロウ教授は指を鳴らして合図をすると、ユーリ君のクルーらしき人がこれまた随分と厳重そうなロックが施されたアタッシュケースを差し出す。教授はそれのロックを外して中身を取り出すと、アルピナさんに差し出して見せた。

 

「これがサンプルの一部だヨ。本体は後で彼のクルーに運ばせておく。楽しみにしてくれ」

 

「ほぅー、これがサンプルですか・・・話には聞いていましたが、確かに見たことのない素材ですね・・・」

 

 アルピナさんはジェロウ教授が手にしたサンプルを取って眺め、色々な角度から観察している。やはりこの人も学者さんなだけあって、興味を惹かれるものがあるとそれに飛びつく質らしい。あ・・・サナダさんとシオンさんもなんか混ざって観察してるし・・・

 

「・・・コホン、では、そろそろ天文台の中に案内することにします。こちらです」

 

「では、失礼します」

 

「ホラホラ、早く行かんかネ」

 

 一通り観察を終えたアルピナさんは一度咳払いをすると、引率の人みたいに一行を天文台の中へと案内する。

 私達はその言葉に従って、天文台の施設内に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 案内された部屋の中は、天井一面に星が散りばめられた解析室のような場所だった。確かこういうの、プラネタリウムっていうんだっけ。いつぞやに河童共がそんなものを作ってた気がするわ。あれは本当よく出来た見せ物だったわね・・・

 

「星がいっぱい・・・」

 

「・・・きれい、だな」

 

「そうですね~、あ、あそこに見えるの、大マゼラン雲ですね!」

 

 霊沙と早苗も、ユーリ君のところのチェルシーさんとかと一緒になって一面のモニターに映し出された星空に見惚れている。星空なんていつも眺めてるようなものだけど、こうして落ち着いて見ると、やっぱり綺麗なものだ。

 

 ―――私は、この光に惹かれたのかも・・・なんてね。

 

 宇宙に出た理由なんてただ何となく、みたいな感じだったけど、この光景を見ると、私は星空の光に惹かれて宇宙に出るのを決めたのかもしれない。初めてこの世界に放り出されたあの時のことが、随分昔のことのように感じられる。

 

 

「ここの天球パネルはね、空間通商管理局から航路上のガイド衛生からの映像データを送ってもらっているの。管理局の開示制限が多いから全ての航路とは言わないけど、小マゼランを含む局部銀河のほぼ全域をリアルタイムで観測できるわ」

 

 私達がパネルに映される星々の様子に集中していると、アルピナさんがこのプラネタリウムのような設備仕様を解説してくれた。

 曰く、この部屋―――全周天球観測室は空間通商管理局から受け取った映像データをそのまま投影しているものらしい。普通の星空では遥か昔に発せられた光を見ているのだけど、この部屋のそれは今この瞬間に発せられた光だ。そう考えると、この施設って凄いのね。

 見たときからただのプラネタリウムなんかじゃないよねって思ってたけど、やっぱりこれも観測機器だったみたい。それと所々に惑星や恒星の拡大映像やデータなんかも流れてるし。でも、何故かそれも邪魔とは感じないのよね。その映像やデータも含めて、一つの景色のように感じられる。

 

「リアルタイム!?、それは凄いです!こんなに広い宙域を一度に観測できるなんて・・・」

 

「おっ、ユーリ見てみろよ、こっちにロウズ宙域が映ってるぜ」

 

「本当だ・・・なんだか懐かしいな」

 

「ははっ、ほんの数ヶ月前のことなのにな」

 

 早苗も装置の仕様に関心している横で、ユーリ君とトーロ君の二人は懐かしいものでも見たのか、昔を思い出すようにたそがれた雰囲気でいる。私には彼等の話は分からないんだけど、あっちはあっちで思い出深い場所でもあるみたい。まぁ、興味ないし訊かなくてもいいか。

 

「それでアルピナ君、これがさっき話したサンプルの種類全てだネ」

 

「ムーレアの遺跡から採取したものですね」

 

「ウン、それとこちらは遺跡の壁に書かれていた言語を書き写したものだヨ。それをデータディスクに入れたものだ。酷く言語体系が原始的だが、解析の方、期待しているヨ」

 

 ジェロウ教授はアルピナさんに端末から何かのリストみたいなデータを見せて、同時にデータディスクを彼女に渡す。多分、サンプルのリストと言語データとかだろう。

 

「それではサンプルの本体は此方に届き次第、お預かりさせて頂きますわ。言語メモのデータの方も預からせていただきますが、どちらも解析には少し時間がかかるかもしれません・・・」

 

「フム、・・・では解析が完了したら、ユーリ君の艦へ連絡を入れてもらおうか。サナダ君には此方から通信で伝える形でいいかネ?」

 

「ですね。アルピナさん、こちらが僕の艦のナショナリティコードです」

 

「ふむ・・・それでも支障はないか。では艦長、それで宜しいかね?」

 

「・・・別にどうでもいいわ」

 

 この話はサナダさんが勝手に始めたものだし、はっきり言って直接連絡してくれようが、ユーリ君経由でもどっちでも構わない。ユーリ君が連絡してくれるっていうのなら、そっちに任せましょう。

 

「分かったわ。では何か分かったらこちらに連絡します」

 

「よろしくお願いします。アルピナさんから連絡があったら、霊夢さんの方にも連絡を入れておきますね」

 

「了解よ」

 

 用事もこれで終わりと一挨拶して艦に戻ろうと思っていたところ、ふいにアルピナさんに声を掛けられた。

 

 

「ねぇ、霊夢さんだっけ。ユーリ君はエピタフに興味があるって聞いたけど、貴女はどうなのかしら?」

 

「え、私?・・・う~ん、エピタフの価値とか信仰とか、そういうのには興味があるけど、伝説そのものにはあまり興味がないわ」

 

「なんだ、ロマンのない奴だな」

 

 横で霊沙が小言を挟むが、アルピナさんはそれに構わず話を続ける。ていうか霊沙も失礼な奴ね。私だって、時には浪漫を感じたりもするわ。

 

「そうなの。でも、エピタフには世界を変えるという伝説があるわ。その伝説を子供騙しだという人もいるけど、私はそうは思っていないわ」

 

 アルピナさんは私だけでなく、ユーリ君にも聞かせるように話を続ける。

 それにしても、エピタフの伝説かぁ。手にするものは莫大な財を得るとか、そんなやつだったかしら。何て言うんだろう、私って、そういうのはただ聞かされただけじゃあんまり浪漫とか感じないのよね・・・

 もっとこう、面白い演出とか、物語とか―――そういうのがあると共感しやすいんだけど。

 

「―――実はね、私は、エピタフはデッドゲートを復活させる力を持っているという仮説を立てているの。デッドゲートが復活すれば人類の活動できる宇宙が広がる・・・そう考えれば、宇宙を変えるという伝説も、あながち間違いじゃないわ」

 

「なるほど・・・」

 

 ・・・・・・

 

 アルピナさんの仮説を聞いて、言葉が詰まる。

 ユーリ君は授業を聞くような感じでアルピナさんの話を聞いているけど、私はアルピナさんの話をそんな軽い感じで聞き流すことは出来なかった。

 

「それって・・・」

 

「失礼、そのことで話が―――」

 

 私が口を開いた矢先に、サナダさんが割って入ってくる。

 

「まさかその仮説に辿り着いている方がいるとは、これは驚きです。・・・実はですね、我々が入手したエピタフの検体についてですが、アレはその際に一度起動している。此方が記録映像になりますが、エピタフの起動と同時に付近にあったデッドゲートに向けてレーザー光の発射が確認され、その直後からデッドゲートが機能していることが確認されています。女史の仮説は、恐らく間違いないものかと」

 

「えっ・・・まさか、本当だったなんて・・・」

 

「これは・・・面白いネ!」

 

「す、凄い―――」

 

 サナダさんが端末からそのときの記録映像を呼び出し、それを覗き見るアルピナさんやジェロウ教授、それにチェルシーさんを始めユーリ君のところのクルーは皆口を開けて、食い入るように映像の様子を観察している。

 

「霊夢さん・・・それ、本当なんですが?」

 

「―――ええ。私の目の前で起動したんだもの。忘れるわけないわ」

 

 あんな光景、忘れるわけない。

 エピタフを手に取ったかと思うと、いきなり眩い閃光を発して起動したエピタフ。あのときのサナダさんっていったらイカれた狂信者みたいな顔してたぐらいだから、本当に凄いことなんでしょう。

 ああ、そういえばあのエピタフ、ずっとサナダさんの管理下なのよね・・・見つけたのは私なのに、ぐぬぬ・・・

 

「ま、マジかよ・・・」

 

「ええ、本当。ああ、でもあまり口外はしないでくれる?私がエピタフを持ってるなんて知られちゃ面倒な連中に絡まれそうだし」

 

「・・・分かりました。霊夢さんには借りもありますし、エピタフを持っているということは心の中に留めておきます」

 

「懸命な判断ね」

 

 ユーリ君のことだからおおっぴらに口外しないだろうけど、実際ヴァランタインの野郎は嗅ぎ付けて襲ってきた訳だし、雑魚ならともかくあんな大海賊に付け狙われるのは御免だ。アレは撒き餌としては効果がありすぎる。

 

「・・・では、映像データの方もそちらに提供させて頂きます。お力になれたようで何よりです」

 

「有難うございます、これで研究も進展することでしょう」

 

「フム・・・しかしエピタフの起動条件は全く不明ときたか・・・是非ともこの手で解析してみたいものだネ」

 

「エピタフの組成は確か・・・」

 

「ええ、それに加えて・・・」

 

「成程、エピタフってそんな構造だったんですか―――」

 

 科学者軍団の方はすっかりエピタフの起動についての話題に熱中している。こっちにもその話が聞こえてくるけど、話があまりにも専門的すぎて理解できない・・・早苗は興味津々といった感じで聞き耳を立てているけど、理解できてるのかしら。

 

 それから小一時間、科学者共のエピタフ談義は続いた。ジェロウ教授とアルピナさん、それにサナダさんとシオンさんは心底楽しい時間だったでしょうけど、横で待たされていた私達にとっては拷問に近かったわ・・・下手に話の内容を理解しようとしたら、専門用語のオンパレードで頭が沸騰しそう・・・

 霊沙なんか勝手についてきた癖に寝てやがるし、ユーリ君とトーロ君もなんだかぐったりした様子だった。唯一早苗だけがキラキラした様子だったけど、よくアレが分かったわね・・・

 ようやく科学者共の話が終わると、私達はそこで解散となった。ああ、一度神社に戻りたいわ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア宇宙港、〈開陽〉艦橋内~

 

 

「あ、艦長。戻られましたか」

 

「なに、ミユさん」

 

 艦橋に戻るや否や、ミユさんが真剣な表情で私を呼んだ。

 なにかあったのかな?

 

「はい、実は先程エルメッツァのオムス中佐からIP通信で連絡が入りまして...『至急見せたいものがあるから、急いでツィーズロンドの司令部まで来てほしい』とのことです」

 

「オムス中佐?、ああ、スカーバレルの退治を依頼してきた軍人ね。それで、他に何か言ってなかった?」

 

「後は、この通信はユーリ君の艦隊にも入れているから、できれば一緒に来てほしい、と。話はそれだけです」

 

 肝心の内容については会って話す、という訳か。多分通信に乗せられないような内容なんでしょう。盗聴が怖いから直接会って見せたいって訳ね・・・ああもう、なんでこう面倒なことが続くのよ・・・

 

「―――分かったわ。早苗、出せる艦はある?」

 

「えっと、はい・・・現在出港可能なのは〈ブクレシュティ〉と〈モンブラン〉の2隻になりますね」

 

 出せるフネは2隻か・・・万が一のことを考えたら心許ないけど、至急らしいので仕方ないか。まあ、付近一帯の海賊は一掃されてるし、ワープで突っ切れば問題ないわね。

 

「・・・ミユさん、ユーリ君のフネに連絡して、こっちに来てもらうように言ってくれる?」

 

「了解しました」

 

 しかし、ユーリ君と同じ星にいるときにこの通信とは、有難いタイミングね。船脚はこっちの方が速いし、あっちも急げって言ってるんだから、ここは一緒に向かった方が良さそうだ。

 

 《―――こちらユーリです。霊夢さん、どうかされましたか?》

 

「ねぇ、そっちにオムス中佐からの通信は届いてる?」

 

 《ええ、届いてますが、確か見せたいものがあるから霊夢さんと司令部に来てほしい、との事でしたよね。ですから出港準備を急ごうと思ったのですが・・・》

 

「そのことなんだけど、何人かクルーを連れてこっちの艦に来てくれない?私の艦隊なら今すぐ出せるフネもあるし、ついでに足も速いわ。とりあえず艦隊はこの星の周りにでも置いといて、さっさと行きましょう。一緒になって行動した方が、色々と都合がいいわ」

 

 《・・・確かにそっちの方が早く着きそうですね。分かりました。トスカさん達を連れてそっちに向かおうと思います》

 

「了解、待ってるわ」

 

 ユーリ君がこちらの提案を了承すると、そこで通信は終了した。

 さて、そんじゃあこっちも、さっさと準備を済ませてしまおうか。

 

「という訳だから、〈ブクレシュティ〉と〈モンブラン〉で臨時編成の特務艦隊を組ませるわ。コーディはその間本隊の指揮を執って頂戴。それと、クルーの上陸休暇はそのままでいいわ。この艦を出す訳ではないからね」

 

「イエッサー」

 

「了解しました。〈ブクレシュティ〉に通信を入れておきます」

 

「クルーの皆さんには、端末の方から送信しておきますね」

 

 私が方針を決定すると、ブリッジクルーの皆はてきぱきと行動に移る。

 ミユさんが通信でブクレシュティに話を伝えると、艦長席のデスクに「了解」と、一言メッセージが彼女から届いた。相変わらず淡白な奴ね。

 

「出港はユーリ君達が来てからでいいわ。早苗、彼等が来たら〈ブクレシュティ〉に移るわよ。それと、一応エコーとサナダさんも連れていくわ。端末からでいいから、同行するように言っておいて」

 

「了解しました!メッセージ送信、っと」

 

 早苗はホロモニターを呼び出すと、そこから二人にメッセージを送る。私と早苗だけじゃ何かあったときには足りないし、科学者と軍人の二人には同行してもらおう。

 

「あ、霊夢さん。タラップにユーリ君達が見えているようですよ」

 

「以外と早いのね。それじゃ早苗、全員集合次第、ツィーズロンドに向かうわよ」

 

 そういえば、さっき確認したけどユーリ君の艦隊って私の艦隊の近くに停泊していたのね。それは来るのが早いわけだ。

 ユーリ君はトスカさんにトーロ君を伴って私達に出迎えられたあと〈ブクレシュティ〉に乗艦した。客人を乗せた〈ブクレシュティ〉は、そのままティロアの宇宙港を後にする。ああ、ちなみに向こうに行くメンバーだけど、エコー率いる保安隊から護衛の名目で一個小隊が同乗している。いつもとは違って賑やかになった艦橋にアリスはなんだか居心地悪そうだったけど、そのうち慣れてくれるでしょう。

 

 でもまぁ、オムスさんの話って一体何なのかしら。なんか嫌な予感がするし、絶対面倒事よねぇ。こういう時なんかだいたい勘が当たるんだから、考えただけでも憂鬱だわ・・・

 

 

 

 




最近は一万字ほぼ丁度に収まる話が多いです。やはり戦闘がないと短くなってしまいます。

ジェロウ教授とサナダさんの初顔合わせです。本当はもっと早くに会わせたかったのですが、中々いい機会を見つけられずにここまで延びてしまいました・・・

霊夢達は一三話の時点でエピタフの起動に遭遇しています。アルピナさんは図らずも仮説を証明された形になりますね。原作ではもっと後のことになるのですが。

ちなみに一部イベントの順番を入れ替えています。保安局と絡むのは少し先になりますね。


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第四五話 侵略者の影

 

 

「っ・・・ううん・・・・」

 

 ゆっくりと、重い瞼に開ける。

 目覚めた私は倦怠感を押し退けて、状況の把握に努める。窓の外に広がるのは、蒼く澄んだ闇の世界―――ハイパースペースだ。闇のなかを、時折白い閃光が突き抜けていく。

 

「あら、起きたのね」

 

 隣から、声がした。

 艦長席に深く腰掛けるブクレシュティ―――アリスは、相変わらずまるで表情を変えない人形のようだ。

 

「ンーッ、はぁ・・・・・・ええ。この様子だと、到着はもう少しってとこかしら」

 

 寝起きしたばかりなので、ぼんやりとした頭痛がじわじわと響く。

 それを誤魔化すために身体を伸ばして、彼女に尋ねた。

 身体を伸ばした後は脱力して、そのまま体重を椅子に預ける。この感覚が心地いい。

 

 オムス中佐から急ぎの用件だという通信が入ったので、それを確かめるため私達はツィーズロンドに向かっている。今私が乗っている〈ブクレシュティ〉を含めた艦隊の全艦は通常のインフラトン機関の他にワープ装置を備えている。それを使って近道しながら進んできたので、ティロアを出港してからそれほど時間は経っていない。確かネージリンス・ジャンクションのゲートを潜ってから軽く居眠りしていたので、時間的にはそろそろツィーズロンドに着く頃だろう。

 

「そうね、ハイパースペースを抜けるまであと10分、ってとこかしら。あと5分しても寝ていたら起こすつもりだったけど、起きてくれたお陰で手間が省けたわ」

 

「むぅ、霊夢さんを起こすのは私ですよ・・・」

 

 淡々としたアリスの言葉に、早苗が不機嫌な声で唸る。

 彼女が気に入らなさそうにする理由は分からないけど、もう少しで到着というのなら気を切り替えておこう。なにせあの食えない軍人に会いに行くのだ。惚けたままでは、なにか不都合なことをうっかり握られてしまうかもしれない。

 

「そう。一応聞くけど、異常とかは無い?」

 

「起きていたら貴女を叩き起こしてるわ」

 

 私が寝ている間にも特に異常は無かったらしい。

 

「おや、漸くお目覚めかい、可愛い提督さん?」

 

 そこに普段は聞きなれない、低い女の人の声が響く。

 乗客のトスカさんだ。

 

「茶化さないでくれるかしら。聞いた通り、もう少しで到着よ」

 

「ハハッ、いやぁ、あんたの寝顔が存外に可愛いかったもんでね、お姉さんつい揶揄っちまった。そろそろ着くってのなら、こちとら準備しておかないとね」

 

 全く気に掛けていないのか、トスカさんは茶化すような話し方を止めない。だが、間もなく到着と聞いてすぐに下船準備を始めるあたり、仕事はできる人のようだ。普段から一緒にいる訳ではないから本当に仕事ができるかはさておき、ユーリ君も良いクルーを見付けたものね。

 

「おう、霊夢さんって割と好戦的な癖に顔は意外と女の子してぐへっ!!」

 

「うふふッ、霊夢さんが可愛いのは当たり前じゃないですか~。トーロ君も便乗者ならあまり霊夢さんを怒らせない方がいいですよ~」

 

「お、俺が何をしたんだよ・・・」

 

「貴方、さっき霊夢さんに失礼なこと考えましたよね!?」

 

「な、なんでぇ!?」

 

「・・・二人とも、私の近くで争わないでくれるかしら?」

 

 外野では、何故かトーロ君と早苗が言い争いを始めて、間に挟まれたアリスは心底迷惑そうに呆れ声で抗議している。ああ、〈ブクレシュティ〉に大勢乗ってきたときアリスが迷惑そうにしていたのって、これが嫌だからだったのね・・・

 でも、見た目上の彼女は殆ど表情を変えず、僅かに眉を顰めるだけだ。その変化は、彼女とそれなりに付き合いがなければ分からないものだろう。早苗と同じサナダさん製の義体なのに、どうしてこんなに差が出るのかしら。

 

「・・・ところで霊夢さん、この技術って、どこで手に入れたんですか?」

 

 二人が争っているのをよそに、ユーリ君が私に尋ねてくる。この技術とは、今のワープ航法を指しているのだろう。ネージリンスで一度目のワープをしたときに大層驚いているみたいだったから、興味でも沸いたのかも。

 

「ただの偶然みたいなものよ。運良く異星人や古代人の遺跡にありつけたからね。そのお溢れを貰ったって訳」

 

「はぁ・・・欲を言えば、僕の艦に取り付けてみたかったんですけど、その様子だと無理そうですね」

 

「ああ、勘違いしないで欲しいけど、一応これ量産してるわよ?」

 

「えっ!?」

 

 私の台詞に、ユーリ君は面食らったような表情で驚く。

 一応この技術、完全にブラックボックスって訳でもない。現実に管理局のドックや特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉で新造された艦艇にもワープ装置は取り付けられている訳だし、必ず遺跡から見つけなければならない、なんてことはない。

 ただ、ワープ装置はインフラトン・インヴァイダーに直結するように繋がれている別の装置だから、搭載するには必然的に場所を喰う。無人艦ならともかく、色々と設備を詰め込む有人艦に搭載するには少し無理があるかもしれない。私の〈開陽〉なら図体がでかいからあまり問題はないんだけど、1000mに満たないグロスター級だとそこは覚悟した方がいいかもね。

 

「詳しく聞きたいんだったら、そこのサナダに訊ねてみればいいわ」

 

「あ、いや・・・止めておきます」

 

 私が目線でサナダさんの方を指してみたけど、ユーリ君はその申し出を断る。マッドの講釈に付き合わされるのは、彼も御免らしい。

 私に突然話を振られたときは若干目を輝かせたサナダさんだけど、即答でユーリ君に断られて少し萎んだような雰囲気になった。なんか、ちょっと悪かったかも・・・

 

「ちぇッ、ああそうだ、なんならワープ装置のモジュール設計図、いる?」

 

「え・・・あ、はい!くれるなら是非とも・・・」

 

 ユーリ君は私のワープ装置のモジュール設計図を渡すという提案に乗り気だが、私が指で硬貨の形を作ってみせると、彼はまるでそれが分からないというように、訝しげに私の顔を見つめる。

 

 ―――なに、分からないの?

 

 まさか、対価なく航海と研究の成果を渡すなんて思ってないでしょうね・・・ああ、確かこの時代のお金は全部データの中にあるんだっけ?それは分からない訳だ。

 

「霊夢さん、それは―――?」

 

「だ・か・ら、お金よお金。何処にも売ってない特殊なモジュールなんだから、けっこう高くつくわよ?」

 

「え"っ――――ちなみに、金額は幾らで・・・」

 

 あれ、その反応だと、もしかして解ってなかったのかな?霊夢ちゃん悲しいなー。

 

 そうね・・・自力でワープできる装置なんてとんでもない"お宝"なんだし、設計図でもけっこう価値あるわよね・・・うん、ない方がおかしいわ。

 

「う~ん、性能と貴重性を考えると・・・設計図でも4980Gってとこかしらね。どう?」

 

「しゅ・・・守銭奴だ・・・」

 

「あら、何か言った?」

 

「い・・・いえ、何もありません!」

 

 ユーリ君の口から失礼な言葉が飛び出したような気がしたので、満面の笑みを心掛けて彼に尋ねてみる。だが、ユーリ君は冷や汗を流しながらそれを否定した。

 あれ、なんでそんなに脅えてるのかな~?

 

「ふむ、それで良いわ。んで、どうする?買う?」

 

「いや・・・今回は、考えておくだけにしておきます・・・」

 

「ちぇッ・・・・まぁ良いわ。その気になったらいつでも声を掛けていいのよ?」

 

「は、はぁ・・・」

 

 商談は残念ながらお流れになったけど、脈はあり、か。次に期待しよう。

 

 

「ほら、そこも茶番ばっかりやってないで。通常空間に出るわよ」

 

 アリスの一言で、意識を切り替える。

 

 直後、蒼白い闇の隧道が終わりを告げ、藍色の宇宙空間が眼前に広がる。

 

「ワープアウト成功・・・予定航路との誤差は0,0012・・・十分に許容範囲ね」

 

 アリスが〈ブクレシュティ〉をワープアウトさせたのは、ツィーズロンド付近の微妙に航路から外れた宙域だ。

 ツィーズロンドはエルメッツァの首都星だから交通量は桁違いに多い。そんな場所に艦をワープアウトさせれば大事故に繋がりかねないので、こうして航路から外れた位置で通常空間に出るように航路を設定してあった。

 

 

 艦橋の窓を覗くと、前方には小さく蒼い惑星が見える。あれがツィーズロンドだろう。左舷後方には、同じくワープアウトした護衛艦の〈モンブラン〉の姿があった。彼女は他のルヴェンゾリ級やサチワヌ級のような灰色と赤の艦体色ではなく鮮やかな黄緑に塗られているので、ライトアップされた姿は暗い宇宙空間でもよく目立つ。

 

「さて、と・・・気は進まないけど、あの軍人に会いに行くとしますか」

 

 あの野望の塊みたいな軍人に会うのは正直気が進まないが、こうなったら仕方ない。いい加減覚悟を決めておこう。

 

 その後問題なくツィーズロンドに入港した私達は、一路エルメッツァ軍司令部を目指した。厄介事はできればご遠慮したいんだけどなぁ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~エルメッツァ主星ツィーズロンド、軍士官宿舎~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「blockade(封鎖)」】

 

 

 

 オムスさんに会いに行くために軍司令部を訪れた私達だけど、どうも彼は士官宿舎の方にいるようだった。軽い身体検査を済ませた私達は施設内に通され、そこから士官宿舎に向かう。

 事前に教えられたオムスの部屋を見付けると、遠慮なくドアのロックを解除して入室する。部屋の奥には、この部屋の主であるオムスさんが背を向けて椅子に腰掛けていた。彼は私達の入室を確認すると、くるりと椅子を回転させて向き直る。

 

「ユーリ君に霊夢君、よく来てくれた。随分と早い到着だな」

 

 オムスさんは私達の姿を認めると、軽く挨拶を交わす。

 

「単純に近くに居ただけよ。んで、用件ってのは何なのかしら?」

 

「そうですよ、どうしたんですか?いきなり呼び出すなんて」

 

 この中佐には、ワープ装置のことは教えない方が良さそうだ。なので、誰かが漏らさないうちに適当な理由で釘を刺しておく。

 

「うむ、先ずは、この映像を見てもらってから話すとしよう」

 

 オムスさんはそう言い放つと、森林の画像を映していた壁のスクリーンが暗転し、同時に部屋の明かりも最小限まで落とされる。

 

「映像?」

 

「ああ、ユーリ君がエピタフ探査船から回収してくれた、ヴォヤージメモライザーの映像だ」

 

 オムス中佐がスイッチを入れると、その映像が再生される。衝撃のためか、映像にはノイズが掛かっていて所々は見ずらかったけど、肝心の箇所はしっかり捉えられていた。

 

 まず映像に映ったのは、複数の縦陣を立体的に組んで航行する、上下甲板と両舷が全く対称な形をした棒状の細長い緑色の艦―――ブランジ級突撃駆逐艦の群れだ。私達が連中から逃げるときに遭遇したのとは桁違いの数が犇めき合っている。

 暫くして一番手前のブランジ級が通過すると、画面上側を2000mはあろうかという巨大な艦船が現れた。画像では見切れてよく分からないが、雛壇を逆にしたように並ぶ飛行甲板に、直線的なユニットが取り付けられた艦体―――ブラビレイ級空母だ。アレはうちの〈ラングレー〉の設計上のタイプシップでもあるし、現物は残骸しか見ていないけど判断できる。

 続いて、ブランジ級の3倍ほどはある巨大な艦が手前を横切る。右舷の長大なカタパルトユニットと左舷のコンテナユニットに挟まれた中央艦体に、単装主砲を上甲板と底部に2基ずつ備えた戦闘艦―――ダルダベル級巡洋艦だ。

 

 そのダルダベル級が通過したところで、映像は途切れた。映像が終わると、部屋の明かりも戻される。

 ユーリ君やトーロ君は珍しいものでも見たかのように目を見開いていたが、一方のトスカさんの表情は厳しい。苦虫を噛み潰したかのようなその表情は、一緒にその映像を見ていたサナダさんやエコーのそれに近いものだった。

 

 何で連中・・・ここに向かって来てるのよ・・・

 

「な、なんだよこれ・・・信じられないくらいの数が映ってたぞ!?」

 

「これは・・・」

 

 沈黙に包まれた部屋のなかで、トーロ君が開口一番、驚愕を口にした。

 早苗もその艦隊を見たところで声が漏れたが、その後に続く言葉を飲み込む。―――そう、手札を開示するかどうかを決めるのは、私の仕事だ。

 

「ここらの艦船とは全く違う設計思想の艦だな。間違いない、これは・・・」

 

 エコーが言う通り、アレはここいらの艦とは全然違うモノだ。エルメッツァの艦船なんかは基本的に汎用性を重視した設計をしているけど、アレは長駆侵攻の為に造られた艦船だ。戦闘力もさることながら、その巨体には長距離侵攻に耐えられるだけの充実した各種居住設備、予備物資などが積み込まれている。尤も、これはサナダさんの受け売りなんだけどね。ちなみにうちの〈ラングレー〉はそれをごっそり削ぎ落としているから、だいぶコストが押さえられている。

 

「・・・オムスさん、この艦隊に関して、何か情報は―――」

 

「今のところ、ゼロだ。言えるのは、エピタフ探査船はこの艦隊に遭遇して破壊されたのだということ。そしてこの艦隊が―――」

 

 立ち直ったユーリ君が、オムスさんに尋ねる。中佐はそれに応え、一呼吸置いてから、明らかになった真実を告げた。

 

 

「我が小マゼラン銀河へ、真っ直ぐ向かって来ているということだ」

 

 

 

「ま、マジかよ・・・」

 

 その言葉に、思わず声を漏らす者もいる。黙って中佐の話に耳を傾けていた連中の額にも、冷や汗が伝った。

 

「・・・一体、どこの艦隊なんだ?」

 

 沸いた疑問を、誰に宛てた訳でもなくユーリ君が呟く。だが、その言葉はオムス中佐に拾われた。

 

「・・・そのことで、霊夢君に訊きたいことがある。霊夢君はここらでは見掛けない珍しい艦を使っているからな、他の宇宙島から旅をしてきたというのなら、もしやと思ったのだが・・・」

 

 ―――当たりだ。

 

 オムスさんの言う通り、私はあの艦隊を知っている。とは言っても、多少矛を交えた程度なのだが、この中では私達が一番詳しいだろう。オムス中佐も、中々の慧眼らしい。まさか艦だけで他の宇宙島からの人間だって分かるなんてね。彼に直接紹介した覚えはないんだけど、流石は野心家って所かしら。情報収集も怠っていないようだ。

 

 オムスさんに図星を突かれてちょっと驚いたけど、次第に冷静さが戻ってくる。

 やはりここは、素直に情報を売っておくべきだろう。折角連中から逃げてきたのだ。エルメッツァには肉壁・・・ゲフンゲフン、是非とも軍隊としての本分を果たして頂きたい。そうでないと、善良な宇宙航海者である私達が困るのだ。連中の監視下をコソコソするよりは、気に入らない連中を堂々と叩き潰す今の方がずっとマシだ。

 

 そう考えた私は素直に恩を売ろうと口を開きかけたのだが、そこに予想外の人物から連中の名が発せられた。

 

 

「ヤッハバッハ・・・」

 

 

 その名を口にしたのは、今まで沈黙を守っていたトスカさんだ。

 

 ―――えっ、あれ・・・なんで知ってるの?

 

 連中は遥か彼方の銀河系を拠点にしている侵略国家だ。その存在を知っているのは直接そこから逃げてきた私達だけかと思ったんだけど、どうやらそうではないらしい。

 

「え?」

 

「―――ヤッハバッハの先遣隊だ。間違いない」

 

 呆気に取られるユーリ君をよそに、トスカさんが話を続ける。

 

「・・・知っているのかね、この艦隊を」

 

「―――ええ、私達も知ってるわよ。連中の名はヤッハバッハ。どこぞの銀河に巣食う侵略国家らしいわ。尤も、私達はちょっと連中と火遊びしてきただけだから、詳しいことはよく知らないわ」

 

「あんた・・・知ってるのかい?」

 

 私の言葉に、一同が注目する。オムスさんの驚いた表情を見るに、私は駄目元で呼んでみたのだろう。それが大当たりときたもんだ。それなら驚くのも無理はない。トスカさんの方は・・・あれは自分以外にヤッハバッハを知ってるものが居たからだろうか。こっちも、この銀河に連中を知っている人がいるなんて意外なんだけどね。

 

「ええ、少しね。サナダさん、連中との交戦データ、残ってたかしら?」

 

「ああ、勿論だ。こんなこともあろうかと、交戦した敵艦のデータは常に持ち歩いている。余計なものも入っているが、今はこれしかない。受け取ってくれ」

 

 サナダさんにそう尋ねると、何と用意のいいことか、彼は私が求めていたものをオムス中佐に提示した。サナダさんが手に取ったものは、今まで私達が交戦してきた艦船の情報を詰め込んだデータのようだ。余計なものとはスカーバレル艦とか、グアッシュとかの艦船の情報だろう。だが、わざわざ〈ブクレシュティ〉のデータベースから外部メモリーに写し換えてくるよりは時間が無駄にならずに済む。(ちなみに艦隊のデータベースそのものは、離れすぎていて今はアクセスできない)

 

「おお、まさかそこまでの情報があるとは・・・協力に感謝する」

 

 オムスさんは感慨極まった様子でサナダさんからデータプレートを受けとる。サナダさんも、それを無言で渡すだけだ。

 

「中佐、データを見てもらえば解ると思うが、連中の個艦性能は侮れないものだ。大マゼランの艦隊を相手にする気持ちで事に臨んで欲しい」

 

「・・・分かった、この情報があれば、此方も有利に戦えるだろう」

 

 オムスさんはそう答えるが、サナダさんはどこか浮かない顔をしている。・・・ということは、エルメッツァが相手にするにはかなり厳しい、と解釈すべきなのだろう。実際に小マゼラン艦船の性能では、同数でヤッハバッハと対峙すれば確実に敗れる。だけど、ここが連中に蹂躙されたら困るのよね。漸く自由な宇宙島に辿り着けたのに、また逃避行なんて気が滅入るわ。

 

「霊夢君、他になにか情報はあるかね?知っていることがあれば、些細なことでも教えて欲しい」

 

「そうね・・・連中の艦についてはそのデータがあるし・・・そもそもさっき言ったように、私は連中とは少し遊んできただけだからね、国家の内情とかはよく知らないわ。ああそうだ、連中の域内では自由な航海が認められていないそうよ」

 

「・・・分かった。協力に感謝する。少しでも連中に関するデータが手に入っただけでも、曉幸と言うべきだろう」

 

 それ以上は私も知らないし、此方が出せるカードはサナダさんのデータだけだ。サナダさんならもっと知ってるかもしれないけど、私達は連中とは戦いながら逃げてきただけだし、国や軍の内情なんてさっぱりだ。だから、これ以上オムスさんに教えられることはない。それに、敵が装備している戦闘艦のデータなんて垂涎ものだろう。それだけでも充分でしょ?

 

 

「ま、今はアンタらが連中を知ってる理由は後にして・・・中佐、この映像について政府は?」

 

「―――国内の混乱を招かぬよう、極秘で偵察艦隊の派遣準備を進めている。霊夢君の情報で確信したが、新たな星系人種との接触になるだろうからな。侵略国家という話があったが、勿論相手がそのような種族だった場合に備えて打撃力を持つ艦隊も後衛につける予定だ」

 

 続いてトスカさんがオムスさんに尋ねる。中佐の話では打撃力を持つ艦隊も連れていくらしいが、どこまで通用するかが気になるところだ。連中との性能差を考えれば攻勢三倍の原則なんかは素直に通用してくれないだろう。というか障害物のある星系内ならともかく、それがない外宇宙での大規模艦隊戦は如実にランチェスター・モデルの第二法則が適用される形になる。もしエルメッツァ側の数がヤッハバッハより劣っていれば、艦船の性能差のお陰で全滅までの時間は加速度的に上昇してしまう。そうなれば肉壁どころの話ではない。

 

「あ~あ~そうかい、そりゃ結構。んで、その戦力はどの程度なのさ」

 

 トスカさんはその説明を聞くと、淡白な様子でさらに尋ねる。オムスさんも特に隠しもせず、その質問に答えた。

 

「情報が少ないから何とも言えないが―――慎重を期して5000隻程度の艦隊を編成することになるだろう。」

 

「ほう、5000隻か・・・」

 

「そ、そんなに―――」

 

「すげぇ!」

 

 オムス中佐の5000隻という言葉を聞いて、エコーに早苗、トーロ君は驚きの言葉を口にする。声にさえ出さなかったけど、正直私もその数には驚いた。せいぜい数百隻程度だと思っていたけど、まさかそれだけの数を動員できるとは、流石大国と謳われているのは伊達ではないらしい。

 だけど、そこで私は気付いてしまった。サナダさんとトスカさん―――この中で私よりヤッハバッハのことを知っているであろう人達の表情が、何れも暗いものだということに。

 

「うむ、最初の接触で我がエルメッツァの威信を見せつける必要があるからな。私はこれでも多いくらいだと―――」

 

「ふ・・・ハハッ、アハハハハッ!大した自信だよ!たったそれだけの数で威信を見せつけるだって!?」

 

「ふわあッ・・・と、トスカさんが壊れた!?」

 

 突如、トスカさんが嘲るような笑い声を漏らす。あまりの突然さに、近くにいた早苗やユーリ君なんかは驚きでひっくり返りそうになったり呆然としていたりする始末だ。

 トスカさんはそんな周りの様子なんかは知ったことかと言わんばかりに、オムス中佐と対峙した。

 

「・・・中央政府軍の艦船数は総計15000隻。その三分の一を動員するのだ。これでも大げさ過ぎるぐらいだと思うが?」

 

「あ~知ってる。知ってるさ。滅亡した国家の連中が、どいつもこいつもおんなじような台詞を言ってたってね」

 

 中佐を嘲るような態度を変えずに、トスカさんは言葉を続ける。その態度を受けてオムスさんの顔が歪むが、中佐は無駄に怒鳴り散らしたりはせず、トスカさんの話を聞くのを続けた。

 

「いいかい?アタシが今からアンタらのやるべきことを教えてやる。今すぐカルバライヤとネージリンスに号令を掛けて、小マゼラン銀河全軍で連中を迎撃するんだ!それで何とか撃退できたらオメデトサンって言ってやるよ!」

 

「バカな!相手は近辺星系の軍ではないんだぞ!長い航海を経た遠征軍なら支援艦、補給艦も多数混ざっているだろう。戦力となる艦船数なぞ、たかが知れているのだ!」

 

 ついに我慢できなくなったのか、オムスさんも持論を彼女にぶつける。確かに中佐の言い分は最もだ。ヤッハバッハは他の銀河から長駆侵攻してくる訳で、ここから一番近い大マゼラン銀河でも1万光年程度の距離がある。それを遥かに上回るだけの航路を経てくる訳だから、補給部隊の数もそれなりには居るだろう。

 だけど、トスカさんの言い分からは、実際に知っているかのような説得力を感じる。恐らくは、彼女の故国が・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 このまま二人ともヒートアップしていくのはあまり宜しくないと、私はトスカさんに目線で訴える。仮にも彼は正規軍の佐官だ。あまり怒らせるのはよくない。それがこの野望を隠そうともしない中佐なら尚更だ。彼女もそれを察したのか、渋々ではあるが身を引いてくれた。

 

「アンタ・・・自分達の判断にそんなに自信があるのかい?」

 

「このエルメッツァも、大きくなるまでに多くの異人種との接触、同化を繰り返してきた。そこから導き出される常識的な判断だと思うがね」

 

「・・・そうかい。この宇宙で未知の敵の力を常識で図る―――救えないよ・・・」

 

 トスカさんはそう吐き捨てると、立ち上がったまま一人部屋を後にした。

 

「あっ、トスカさん!」

 

「先に艦に戻ってる」

 

 それをユーリ君が呼び止めるが、彼女は軽く手を上げただけで振り返ることはなかった。

 

「あ・・・」

 

「行っちまったな・・・」

 

 ユーリ君とトーロ君はそれを見届けると、再び中佐に向き合った。

 

「あの・・・オムスさん・・・申し訳ありません」

 

「君達に伝えたかったのはこれで全てだ。霊夢君から頂いたデータは、後で軍司令部に提出して分析することになるだろう」

 

「・・・せいぜい上手く生かしなさいよ」

 

 ユーリ君は副官の非礼を詫びたが、中佐はそこで怒るような非常識な人ではなかったらしい。熱くなった口調を直して、オムスさんは私達にそう告げた。

 

「それと、もう一つ・・・君達には回収して貰った行き掛かりとアドバイザーとしての意見を期待してこの映像を観せたが―――」

 

「私達はここで何も見ていないし聞いていない。でしょ?」

 

「うむ、そうしてくれると助かる」

 

「・・・了解です」

 

 若干不機嫌さが残る中佐ではあるが、ここは素直に彼の求めに従っておこう。ただ、連中が来るとなればこっちも黙っている訳にはいかない。ヤッハバッハ支配宙域以来の古参クルーには、伝えておくべきだろうか。マッドは・・・心配するだけ無用ね。どうせサナダ辺りに盗聴装置を持たせていそうだけど、情報管理に関しては信頼できる連中だ。無闇に拡散したりはしないだろう。

 

 中佐からの用件は以上ということなので、一人部屋に残る中佐をよそに、私達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~強襲巡洋艦〈ブクレシュティ〉艦橋~

 

 

 オムス中佐からの用件も終わり、ネージリンスに本隊を待たせている私達は〈ブクレシュティ〉に乗り込んで出港した。

 ちなみにではあるが、アリスは中佐とのやり取りを全部聞いていたそうだ。皆に持たせた端末から音声を拾っていたらしいが、何食わぬ顔で恐ろしいことをしてくれる。曰く、「ジョーカーは多いに越したことはない」らしい。・・・あの部屋で盗聴がバレたら危なかったのよ?その辺りの記録はだいたい早苗がやってるんだから、素直に待てば良いものを。

 それと、危うく彼女のことをアリスと呼んでしまいそうになったときは、彼女から不愉快そうな表情で睨まれた。一応艦に居るときは艦の名前で呼べっていう約束だったけど、こっちの方がなんだか面倒くさいかも・・・

 

 ただ、今回の件で、マッドの技術力がエルメッツァの防諜体勢を潜り抜けるほどのものであることが明白となった。我ながら、恐ろしい技術屋集団を抱え込んだものね・・・

 

「ああ、艦長さん、ちょっといいかい?」

 

「・・・何?」

 

 出港して暫くしたところで、トスカさんがアリスに話し掛ける。アリスの対応は無愛想だが、それを意に介さずトスカさんは続けた。

 

「いや、エルメッツァから出る前にドゥンガに寄っていきたいんだ。そこでランデブーしたい奴がいるんでね。これが相手のナショナリティコードだ。私の名前で通信を寄越せば応えてくれる」

 

「―――分かったわ。寄ればいいんでしょ」

 

 アリスはそれを渋々引き受けると、ワープの為の計算を始めた。にしても、トスカさんが会いたい人って、誰なのかしら。

 

 

 

 ................................

 

 ........................

 

 ................

 

 ........

 

 

 

 超空間を抜けて、眼前に宇宙空間が広がる。正面には、薄茶色の岩石惑星ドゥンガが辛うじて肉眼で見える。予定通り、ドゥンガ付近の宙域にワープアウトしたようだ。

 

「・・・見付けた。あの艦ね」

 

 〈ブクレシュティ〉の各種機能と直結しているアリスが、早速目当ての艦を見付けたようだ。彼女は自身の舵をその艦へ向け、通信で呼び掛けた。

 

 すると向こうの艦も気づいたのか、此方とランデブーするために接近する航路を取る。

 

 相手の艦が近づくにつれ、その姿が鮮明になっていく。紡錘形の艦体に衝角のように延びた艦首、背の高い艦橋に両舷には翼状の構造物と巨大なアンテナ、底部の2基のエンジンユニットを備えた艦容に、水色と白を基調とした外見―――あれ、どこかで見たような気がするんだけど・・・

 

 その艦はそのまま此方に接近してきて、アリスの通信に従って艦を隣に静止させた。あっちの艦から1隻のランチが向かってきたので、シャトルの着艦口から誘導灯が出される。ランチはそれに従って、〈ブクレシュティ〉に着艦した。

 

 私達はトスカさんの待ち人を出迎えるべく、シャトルの発着場に足を運ぶ。先程着艦したランチから出てきた人物は、私にとっても随分と懐かしい人だった。

 

「待たせたね、シュベイン」

 

「おお、これはトスカ様。それに、そちらは確か・・・」

 

 えっと、シュベインさん・・・何処かで会った気が・・・

 

「あーっ、思い出したわ!あんた、前ボラーレのドックで話し掛けてきた人ね」

 

「はい、左様にございます。貴女は確か、霊夢様でいらっしゃいましたか」

 

「ええ、今は故あって彼女達を載せているわ。ああ、貴方が前見た艦隊なら、この先で待ってるだけだから」

 

 どうやら、トスカさんが待ち合わせていたのは彼のようだ。しかしまぁ、懐かしい顔ね。彼と会ったのは小マゼランに来たばかりの頃だからだいぶ前になるんだけど、自然と容姿が印象に残る人だった。だから思い出せたのかも。

 

「トスカさんの待ち合わせって、シュベインさんだったんですか?」

 

「ああ、例のヴォヤージ・メモリーデータをバックアップさせておいたんだ」

 

「バックアップって、それは・・・」

 

 ―――ああ、成る程・・・

 

 トスカさんの一言で、彼女の目的を察する。さしずめ、独自のルートであの映像を解析させていたとかだろう。オムスさんとの会話を見る限り、ヤッハバッハには並々ならぬ感情を抱いているみたいだったし。

 

 ユーリ君は不味そうな表情をしてトスカさんを見遣るが、彼女は自分の行為をなんでもないことのように語った。

 

「エルメッツァ中央政府の連中なんざ、はなっから信用してないんだよ。ま、立ち話もなんだ、適当な部屋に案内するよ」

 

「ここ、私の艦なんだけど・・・」

 

 トスカさんがシュベインさんを連れて歩き出す。一応ここは私の艦隊の艦なのに、さも自分の艦を案内するような口調で言ったことが、アリスの気に障ったようだ。彼女は静かに抗議の声を上げるが、トスカさんはそれに気付かない。

 

「ああもう、ここは私の艦なんだから、案内は私に任せなさい!とりあえず、こっちに付いてきて」

 

「なら任せたよ、艦長さん」

 

 アリスがトスカさんに食って掛かると、彼女はあっさりと先頭の位置を譲る。ああ、これはいいように弄られてるわね・・・

 

 

 

(ふふっ、案外可愛いじゃないか。見た目は可憐な女の子なのに、堅い軍服ってのも悪くないね)

 

 内心でトスカはそう呟く。霊夢の予想通り、彼女はアリスの反応を見て楽しんでいた。彼女には不本意だろうが、トスカの目には彼女は一生懸命背伸びをしているような少女に見えてしまったのだ。ユーリを可愛がるだけあって、少女の姿をした艦長は充分に彼女の嗜好を刺激していた。ここにもし覚妖怪でもいれば、人格が未熟なアリスは飛び掛かっていたかもしれない・・・

 

 

 .............................

 

 

 ...................

 

 

 .............

 

 

 

 怒り気味なのか足早に歩くアリスに案内され、応接室のような一室に辿り着く。その部屋の椅子に腰かけてから、トスカさんとシュベインさんは話の続きを始めた。

 

「で、どうだい、シュベイン。解析は済んだのかい?」

 

「はい。画像と同期して採取されたデータのうち、比較的精度の高いもののみを取り出してみました」

 

「よし、それじゃ聞かせてもらおうか」

 

 トスカさんに促されて、シュベインさんが解説を始める。解析したデータは確かヴォヤージ・メモライザーのデータって言ってたから、ツィーズロンドの司令部で見たあの映像のことだろう。

 

 

「レーザー干渉計測データから重力データ及び画像範囲のインフラトン測定データをクロス分析した結果・・・・・・艦隊主力艦サイズは2000mクラスのものが複数と思われます」

 

 

「に、2000!?」

 

「・・・ヴァランタインのグランヘイムと同じぐらいのデカさだぜ!?そんなのがゴロゴロしてんのかよ!」

 

 シュベインさんの解析の途中で、ユーリ君が驚きの声を上げる。・・・確か、ダウグルフ級戦艦の大きさがそれぐらいだったわね。彼等とは違って、交戦した経験がある私達は特段驚かない。アリスはホログラムにダウグルフ級の姿を表示して、無言でそれを見つめていた。

 

「・・・ふん、先遣隊ならそんなとこだろうね。で、数は?」

 

 私達と同じく驚きもしないトスカさんは、淡々と次の情報を求める。ユーリ君達にはさっきの言葉だけで驚きだろうけど、こっちの方が重要な情報だ。

 

「あくまでメモライザーの観測範囲のみの計算ではありますが・・・10万隻は下らないかと・・・」

 

「はアッ!?」

 

 へ、今―――10万とか言わなかった?

 予想外に多いその数を聞いて、思わず私の口から声が漏れる。勝手な予想では戦闘艦で7、8000隻程度なんて考えていたんだけど、ヤッハバッハは予想外にスケールが大きい連中らしい。

 

「じゅ、10万なんて、小マゼラン全部合わせても足りないんじゃ・・・」

 

「・・・ざっと調べた限りでは、倍くらいだな。しかもそれが先遣隊と来たもんだ。本隊の数なんて、予想もしたくねぇぐらいだろうな」

 

 報告を聞くエコーがそう吐き捨てる。そう、トスカさんはさっき、確かに"先遣隊"と言ったのだ。つまり、それは背後に本隊が控えていることに他ならない。考えただけでも、ぞっとする位の戦艦を揃えていることだろう。

 

 隣に座る早苗が、私の右手に掌を重ねてくる。心なしか、彼女の手が震えているように感じた。

 

「―――大丈夫よ、いざとなったら、また昔みたいにトンズラするだけ・・・心配しなくていいわ」

 

「・・・はい、霊夢さん―――」

 

 辛うじて早苗に聞こえるだけの小さな声で、私は安心させるように囁いてやる。早苗はそれで少しは安心してくれたのか、若干震えが引いたように思えた。

 

 これは本当に、大マゼランに逃げることも考えないと不味そうね。

 

「シュベイン、このデータをエルメッツァ中央政府は・・・?」

 

「知ってはおりますが、分析結果はだいぶ異なっているようでございますな。どうも古い艦ゆえに1隻当りのインフラトン排出量が多いと判断しているようで・・・。政府内の知人の話によりますと、艦船数は1000隻程度と見積もっているとのことです」

 

「フン・・・どいつもこいつも、どうして敵を見くびりたがるのか・・・」

 

「―――所詮は自分達の価値判断なんだろう。"10万なんて有り得ない、きっと計算が間違ってる筈だ"そんな風にして分析すりゃ、まぁ敵を過小評価するだろうな」

 

「へッ、そんなとこだろうね」

 

 トスカさんとエコーが、吐き捨てるように悪態をつく。彼女達にとって、エルメッツァの行動は軽蔑を通り越して嘲笑さえ感じるようなものなのだろう。そもそも、10万が1000になるなんて、どうやったらそんな結果が出てくるのよ・・・

 

「トスカさん、直ぐにこのことをオムスさんに報せましょう!」

 

「止めなさい」

 

「なッ・・・どうして―――!」

 

 そんなトスカさんに食って掛かるユーリ君だが、返答は彼女からのものではなかった。

 口を開いたのは、アリスだ。水を差されたような気分になったのか、ユーリ君はアリスを問い詰めるように睨む。

 

「本艦の予定航路は変更しない。貴方が何を言おうと、これは既定事項よ」

 

「―――エルメッツァ中央政府も、同じデータを持っている。なら、一介の航海者の意見より、自分達の分析結果を重視するのは目に見えている。今更我々が戻ったところで、その行動は無駄に終わるだろう」

 

「あ・・・そう、ですね・・・」

 

 続いてサナダさんがユーリ君に説く。私もサナダさんと同意見だ。連中が自分達の分析結果より私達の声に耳を傾けるなんて、万に一つもない可能性だ。

 サナダさんに説き伏せられたユーリ君は肩を落とす。

 

「・・・でも、トスカさんと霊夢さん達なら、そのヤッハバッハって連中について知ってるんでしょ?なら―――」

 

「アタシだってそんなに詳しく知ってるわけじゃない。今まで話したので全部さ。それに、霊夢達もその口振りからじゃ、詳しくは知らないだろうよ」

 

「・・・そう・・・ですか」

 

 私は無言で頷き、トスカさんの言葉を肯定した。

 トスカさんにも説き伏せられ、再びユーリ君が項垂れる。

 

 

「・・・それとユーリ、一つ頼みがあるんだが、デイジーリップを精密メンテナンスに出しておきたい。だいぶガタがきてるし、この先何があるか分からないからね」

 

「それはいいですけど・・・この先何があるって言うんです?」

 

 どうもトスカさん達だけの話みたいだったから、今度は別段口を挟まなかった私だが、トスカさんはその質問に答えないまま、シュベインさんに向かって続けた。

 

「シュベイン、悪いが頼むよ。この場所で受け取ってくれ」

 

「畏まりました。私の方でお預かりし、一度精密メンテナンスに掛けておきましょう。では、私はそろそろ・・・」

 

 トスカさんが一枚のデータプレートを渡すと、シュベインさんはそれを確認して立ち上がる。どうやら、用事はこれで済んだようだ。

 

「あ、待ちなさい」

 

「おや、何ですかな?」

 

 しかし、そこでアリスが彼を呼び止める。今まで絡まなかっただけに、呼び止める理由が思いつかない。

 

「―――そのデータ、私に寄越してくれる?」

 

「―――宜しいのですか?」

 

「ええ。問題ないわ」

 

 彼女が求めたのは、ヴォヤージ・メモライザーのデータ・・・話はシュベインさんから聞いたので全部だと思うけど、一体何に使うのかしら。

 

「良いでしょ、提督さん」

 

「・・・好きにしなさい」

 

「という訳だから、宜しく頼むわよ?」

 

「―――畏まりました。では、後ほどそちらにデータを送信しておきます」

 

 私の言葉を承諾と解釈したのか、アリスがシュベインさんに要求する。シュベインさんも渋々承諾したようで、データの転送を約束した。

 

 そのあと、向こうの艦に戻ったシュベインさんから圧縮通信が送られてきて、その受信を確認すると彼の艦は去っていった。通信内容は、高度に暗号化されたヴォヤージ・メモライザーのデータ。わざわざこっちで持つ必要はないだろうけど、彼女なりに考えがあるのかもしれない。

 

 シュベインさんを見送ったあと、私達も本隊との合流を急ぐべく、ドゥンガの向こう側にあるボイドゲートへ舵を切った。

 




AIだけど、やっぱり人間らしい面もあるアリスさん(ブクレシュティ)。他の小説ではけっこう冷静なアリスさんを見掛けますが、ここの彼女は早苗さんと違って生まれたばかりなAIなので、対人反応が未熟だったりします。まぁ、本人じゃないから当然か・・・
とりあえず、今後はAIのアリスさんを上手く成長させていきたいですね。

今回は、原作でのヤッハバッハお披露目回となります。霊夢達は作中でも言っていた通りヤッハバッハと"火遊び"していただけですから、連中が10万隻も繰り出してくるのは流石に予想外だったようです。
このイベントを一話に詰め込んだせいで、いつもの1、5倍、戦闘回並のボリュームになりました。2話に分けるほどのものではないと思ったのですが、如何でしょうか。

今後は保安局とスカーレット社サイドの活躍?になります。あの領主の下へ殴り込むのもいよいよです。


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第四六話 永遠の巫女

 ~〈開陽〉大会議室~

 

 

 霊夢達がエルメッツァから帰還した後、艦隊の幹部クルーは戦艦〈開陽〉の適当な空き部屋を転用した大会議室に集っていた。

 

 

「・・・揃ったみたいね」

 

 私は会議室を一瞥して、予定通りの乗組員が揃っているかを確認する。どうやら欠席は居ないらしい。

 ここに集まっているのはヤッハバッハ宙域以来の古参クルーと各部署を任せている幹部達だ。

 

「では、始めるとしようか」

 

 サナダさんが私以外の人に紙の資料を配布して、会議の開始を告げる。これは既に私の手元にある資料と同じものだ。通常こういった資料は電子媒体で配布されるものだが、紙面のような古い形態の方が往々にして防諜面で有利という利点もある。

 そのことを解っているのか、配布された資料が紙面であることに顔を強張らせる者もいる。

 

「・・・率直に言うわ。この小マゼランにヤッハバッハの艦隊が迫っているらしい」

 

 私がそう告げると、古参クルー達の表情が一変する。だが、ヤッハバッハを知らないクルーもいるので、危機喚起としては不十分だろう。

 

「この中でもヤッハバッハについて知らない人も居るでしょうから、資料の3項を見て頂戴。簡潔に言えば、連中は野蛮で強靭な侵略国家よ」

 

 皆は指示に従って、該当の項目に目を落とす。そこに書かれているのは、私達が知る限りのヤッハバッハの情報、伝え聞く国の実情や艦船のデータ等だ。

 

「ふむ・・・サナダから伝え聞いてはいたが、艦船の性能は大マゼラン並みかそれ以上か・・・気になるのは、その侵略艦隊の数だね」

 

 そう漏らしたのは整備班長のにとりだ。彼女はやはりと言うべきか、サナダからヤッハバッハについて聞き及んでいたらしい。

 その質問を受けると、私は無言でアリスに視線を送る。彼女も小さく頷くと、私の背後にあるモニターを起動して立ち上がった。

 

「それについて、詳細な情報を入手することに成功したわ。私と科学班で分析した結果、敵艦隊の総数は凡そ12万。戦闘艦だけでも8万以上は存在する可能性が判明しました。この艦隊と真正面から殺り合うのは、言うまでもなく自殺行為ね」

 

 アリスの言う情報とは、先日シュベインさんから入手したヴォヤージ・メモライザーのデータのことだ。アリスとサナダはそのデータを受け取った後、確認のためもう一度詳細な分析に掛けたらしい。そこで得られたのがさっきの数値だ。シュベインさんが語った内容とさほど変わりないところを見ると、此方が正確な数値だと信用していいだろう。そもそもこの手の情報は、常に悪い方向に想定しておくべきだ。

 

 彼女の放った12万という数字にざわめきが広がる。唯一平然としているのは、航空隊のバーガーだけだ。今度はそのバーガーが口を開く。

 

「12万か・・・ちと多いような気もするが、この銀河の規模を考えれば妥当なところだな。で、どうせそいつらは先遣隊だって言いたいんだろ」

 

「御名答よ。先遣隊というからには、後ろに本隊でも控えているんでしょう。小マゼラン各国の戦力じゃあ押さえきれないわ」

 

 艦船の数と性能差を考えれば、エルメッツァの派遣艦隊は間違いなく壊滅する。一気に中央政府軍は艦船総数の三分の一を失う訳だから、瓦解は避けられない。

 バーガーがこのヤッハバッハ艦隊を先遣隊だと言ったのは、彼が連中の力を目の当たりにしているからに違いない。話ではヤッハバッハに破れた国の元軍人とか言ってたような気がするし、そう考えると何も不思議ではない。

 

「・・・じゃあ、私達はこれからどうすれば・・・」

 

 皆の不安を代弁するように、ノエルさんが呟く。彼女もヤッハバッハの力を目の当たりにしているので不安を押さえきれないようだ。

 

「今日の会合はその事について話すためよ。小マゼランの連中ははっきり言って充てにならない。そして私達も立ち向かうには非力すぎるわ。私は今受けている依頼が済み次第、ヤッハバッハ先遣艦隊を遣り過ごすルートでの脱出を検討しているわ」

 

 ここで再びざわめきが起こる。ヤッハバッハに背を向けて逃げるところに思うところがあるクルーも当然居るだろう。特に小マゼラン出身のクルーにはね。国に縛られないとはいえ、生まれ育った惑星にはそれなりに愛着を持つ者もいると聞く。そういう人達にとって、今の発言は故郷を見捨てるに等しいものに聞こえるだろう。

 

「・・・だが、0Gたる者、自由は戦ってでも守り抜くべきものじゃないのか?」

 

 そう発言したのはフォックスだ。彼もだいぶ0G稼業が身に付いてきたらしく、以前と比べて砕けた感じだ。ただ、彼からそんな言葉が飛び出してくるなんてのは予想外だったけれど。

 

「確かにそう言えなくもないわね。自由とは与えられるものではない、それは私も理解しているつもりよ。ただ、それとこれとは話が別。そんな大軍とやり合って自滅なんかしちゃ本末転倒だわ。それに地上の住民はともかく、0Gの私達がゲリラをやるってのもねぇ・・・」

 

 私はフォックスにそう返す。少なくとも、ヤッハバッハとまともにやり合う気はない。自殺指向は抱いてないからね。

 

「ただ・・・物事がそう上手くいくとは限らないわ。何らかの事情で脱出に手間取った場合は彼等と一戦交える可能性もある・・・それだけは頭に入れておいて欲しいわ」

 

「―――了解した。それが聞ければ満足だ」

 

 フォックスは納得したのか、それで席についた。

 

「なんだ、ドンパチしないのかよ。つまらねぇな」

 

「あんたね・・・幾ら私達の艦が優れているとは言っても限度があるわ。戦う相手ぐらい選びなさい、この戦闘狂」

 

「なんだと霊夢!私が戦闘狂だって―――」

 

「はいはい、その辺りにしておきなさい二人とも。見苦しいわ」

 

「―――チッ」

 

 私の言葉が気に入らなかったのか、霊沙が私に食って掛かる。だがアリスが間に入ったことで、霊沙も渋々と引き下がった。

 

「・・・一応今日の用件はこれだけよ。ヤッハバッハが来襲するのはもう少し先になるでしょうけど、一応気には留めておいて。あと、この事は無闇に拡散しないように。時が来たら私から全員に話すわ」

 

 この件はオムス中佐から守秘義務が課されている。私はこうして主要クルー達には話したわけだが、一応これ以上拡散させるのは好ましくない。

 

「・・・了解です」

 

「了解しました。では、我々はこれで」

 

「ええ。今日はこれで解散。各自持ち場に戻ってちょうだい」

 

 話すべきことはもう伝えた。なので、私はここで解散を指示する。他の皆も、会合が終わると各々の持ち場へと戻っていった。

 

 

 ..............................

 

 

 .......................

 

 

 ..............

 

 

 

「あ、艦長―――お疲れ様です」

 

 遅れて艦橋に戻った私を、一足先に戻っていたミユさんが出迎えた。

 

「どうも。私が不在の間は特に何も無かったみたいね」

 

「はい、艦隊の状況に異常はありません」

 

「敵さんも居なかった訳だし、平和な航海だったぜ」

 

 ミユさんとコーディが、私の確認に答えた。艦隊を指揮していたコーディが言うのだから、それはさぞ平和だったのだろう。

 

「あと、先程の会合中にどうやら通信が入っていたようです。こころさんから受けとりました」

 

「はい、これです―――」

 

 続けてミユさんがそう言うと、艦橋で留守番をしていたこころがその通信データを転送する。

 

「どれどれ―――――これは、保安局から?」

 

 送り主を見てみると、それは保安局―――バリオさんからの通信だった。相手がバリオさんなら、その内容も大体は想像がつく。

 

 通信の内容を見てみると、案の定対策本部の設置が完了したとの事だった。どうやらゼーペンストとの交渉の算段がついたらしい。バリオさんが打ったのか、自慢気に"こっちに任せておきな"なんて一文まで付け加えられている。

 続報が入り次第連絡するとの事だが、出来れば数日中に顔を出して欲しいとの事だ。それに、雑談のような感じでユーリ君達に会ったとも書かれている。それを私に伝えて何がしたいのか。どうでもいいことでしょうに。

 

「あっ、艦長。どうやらまた通信が入ったみたいです。これは―――〈ミーティア〉からですね。如何されますか?」

 

「〈ミーティア〉・・・ユーリ君か。こっちに回線を繋いでくれる?」

 

「了解しました」

 

 噂をすれば何とやら、そのユーリ君から通信が入ったらしい。

 ミユさんにそれを転送してもらうように頼むと、私のデスクにユーリ君のホログラムが表示された。

 

《あっ、霊夢さん・・・ようやく捕まってくれた。そちらの調子はどうですか?》

 

「調子も何も、特に変哲もない航海よ。それで、用件は何?」

 

 軽く挨拶を交わした後、彼に本題を尋ねる。もっとも、内容に心当たりは一つしか無いのだが。

 

《それが、リム・タナー天文台から解析が間もなく終了するとのことでしたので、霊夢さんの方にも伝えておこうかと》

 

「了解したわ。それじゃティロアだったかしら?そこでまた会いましょう」

 

《ええ、それでは》

 

 ガチャリとそこで通信が途切れ、ホログラムも消える。

 保安局の方はまだ余裕がありそうだし、先に天文台に向かうとしよう。そうしないとマッド共が五月蝿そうだし。

 

 私はユーリ君からの通信をサナダさんに伝えたあと、艦隊を再びティロアに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア、リム・タナーホテル~

 

 

 ユーリ君からの通信で例の分析結果がもうすぐ出ると知らされた私は、艦隊を再びティロアに向かわせた。なので、バリオさん達に会いに行くのは研究結果を聞いてからにする予定だ。そうしないと間違いなくあのマッド共が反乱を起こす。科学が全てなあの連中を敵に回すのは、流石の私も勘弁したい。

 

 そして今、私は地上のホテルにいる。ユーリ君達と共に天文台を訪れた私達は、アルピナさんからあと10時間ほどで解析結果が出るから地上に泊まっていけと提案されたためだ。ご丁寧にホテルの予約も取ってあったらしく、そこまでしてもらって無下にする訳にもいかなかったのでこうして好意に甘えさせてもらった訳だ。そういえば、本物の地上で寝泊まりするの、いつ振りだろう?もしかしたら、前回地上で眠ったのは前の世界かもしれないわね・・・

 

「さてと―――寝床、どうしようかな・・・」

 

 電気を落とした薄暗い部屋の中、私はベッドに視線を落とす。

 

「れ、れいむさぁ~ん――――それはらめれすよぉ~・・・」

 

 私のベッドには、すーすーと寝息を立てて眠る早苗の姿がある。こうなった原因は、実は私にあったりする。

 

 ホテルに来たとき、どうせならと色々な酒を持ち込んで晩酌していたのだが、そこに早苗が訪れてきたので彼女にも飲ませてやったのだ。結果はこのざま、直ぐに酔い潰れた早苗はこうして夢の世界へ旅立ってしまった。

 あんた、こっちでも酒に弱かったのね・・・

 

 早苗は時折あんな風に寝言を呟いているけど、一体どんな夢見てるのよ・・・

 それはともかく、この部屋に寝具は一つしかない。寝るためには、彼女の横に入らなければならないのだ。

 

「ハァ―――仕方ないわね・・・ちょっと邪魔するわよ」

 

 どうせ返事はないだろうけど、早苗に一声掛けてから布団に入る。

 

「―――はい・・・れいむさん・・・」

 

「早苗?」

 

 早苗に返事を返されたような気がして、一瞬びくっとなってしまう。だが、彼女は寝返りを打って寝息をたてているだけだ。只の寝言だったみたい。

 

 ―――にしても、紛らわしいのよね・・・

 

 彼女の寝言には、だいたい私の名前が含まれているような気がする。夢の中でも私を呼んでるなんて、ちょっと気恥ずかしいわ。まぁ、普段のこの娘の様子を見れば、なんとなく納得してしまうのだけれど。

 

 ―――まぁいい。さっさと寝よう。

 

 私は早苗から意識を逸らして、彼女に背を向けた状態で布団を被り直す。

 酔いが回っていたのか、私の意識もあっという間に眠りの中へと落ちていった・・・

 

 

 

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 .........

 

 

 

 

 

 

 

 縁側には、相変わらず日照りが照りつける。

 

 私はいつも通り、そこでお茶に興じていた。

 

 ここは幻想郷の果て、博麗神社。箱庭と外を結ぶ境界だ。初夏の新緑が風に揺られ、静寂の中でその音だけが響いている。

 

 ―――魔理沙が来なくなって、もう一月か・・・

 

 いつも勝手に訪れてくる友人は、今日もその姿を現さない。普段なら上がり込んで茶菓子でも要求してくるのだが、ここ最近、彼女は神社に来ていない。そうなってから、かれこれもう1ヶ月は過ぎているのではないだろうか。

 脳裏にあの娘の無邪気な笑顔が浮かぶ。なんだか今日は、無性にそれが見たくなった。

 

 私はそんな物思いに耽ながら、お茶を啜る。

 心なしか、最近のお茶は不味い気がした。

 

 ―――これは、魔理沙?

 

 鳥居の方角から、誰かの足音が聞こえてくる。それと同時に、不穏な妖気が漂った。

 魔理沙かもしれないと思った私の心が少し跳び跳ねたように感じたけど、それは不穏な妖気に掻き消された。

 

 足音はそのまま、私がいる縁側に近づいてくる。

 視界に入ったのは、尖り帽子を被った白黒の魔法使いの姿だ。

 

「・・・久しぶりね」

 

「ああ・・・久しぶりだな」

 

 私が声を掛けると、魔理沙が返事をする。

 魔理沙の見た目は、以前とあまり変わらない。だけど、以前の彼女とは何処か決定的に違う。私はそう感じていた。

 

 ―――果たして、魔理沙はここまで"妖怪染みた"奴だっただろうか。

 

 魔理沙はそんな私の内心を知る筈もなく、無邪気に笑って八卦炉を取り出す。

 

「早速で悪いが、一戦付き合って貰おうか。霊夢―――今日こそお前を越えてやるぜ!」

 

 久々に会ったばかりだというのに、こいつはまた弾幕勝負か―――そんな感想が浮かんだが、彼女が続けて発した一言で、私の意識は反転した。

 

 

「なんたって今の私は"正真正銘の魔法使い"だからな!」

 

 ここまで来るのに如何程の労力を要したか・・・魔理沙は私に聞かせるように一人言つが、それが私の耳に入ってくることはない。

 

 彼女が言った「正真正銘の魔法使い」・・・その意味は、言わなくとも明らかだ。彼女は人間を止めた。なら私は―――

 

 

 ―――霧雨魔理沙を、退治する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢が手に持った湯飲みを置き、すっと立ち上がる。

 

「なんだ、今日はやけに乗り気だ・・・なっ!?」

 

 魔理沙はそんな霊夢の様子を見て呟いたが、直後、彼女の頬になにか熱いものが伝った。

 彼女が霊夢に目を向けると、その右手には、退魔の針が握られていた。

 

「お、お前―――いくら久々だからって、いきなり攻撃してくるなんてのは・・・ッ!」

 

 魔理沙は霊夢の突然の攻撃に対して抗議するが、一変した霊夢の雰囲気を感じとり言葉を失う。

 

 霊夢はそんな魔理沙の様子にも構わず、第二撃を放った。

 

「チッ、何だっていうんだよ!」

 

 咄嗟の判断でそれを躱した魔理沙は、箒に飛び乗って毒づいた。

 

 上空に離脱した魔理沙を、霊夢は冷たい瞳でその姿を捉え、追撃のため飛び立つ。

 

 霊夢の雰囲気は、先程とは明らかに別人だ。彼女はあくまで作業のように、平然と魔理沙を滅しようとした。彼女の何処までも冷たい瞳と目を合わせてしまった魔理沙は、その暗さにただ戦慄する。

 

「お前・・・まさか・・・」

 

 魔理沙は気付いてしまった。今の霊夢に"弾幕ごっこ"などするつもりは毛頭ないと。あの霊夢は、躊躇いなく自分を殺すだろうということに。

 

「クソッ、久々に会ったってのに訳が解らねぇぜ・・・だけど、無様に殺られるなんてのも御免だ・・・ッ!」

 

 ひょっとして、自分が一月も留守にしたお陰で怒っているのだろうか。

 そんな推測が魔理沙の頭に浮かんだが、すぐにそれを否定した。あの剣幕は、そんな理由では想像できない。

 

 魔理沙は八卦炉を握り締め、魔力を注ぐ。

 霊夢の態度が急変した理由はいまいち分からない彼女だが、大人しくやられる気はないとばかりに振り返り、追撃する霊夢に対して一撃を見舞った。

 

「恋符『マスタースパーク』っ!!」

 

 魔理沙の八卦炉から、七色に輝く極太のレーザーが発射される。その光は彼女を追っていた霊夢を飲み込み、次第に収束していく。

 

「やっ・・・てないよな?―――ッ!」

 

 しかし、魔理沙には霊夢を撃墜したという手応えは無かった。発動までの時間を極力短くした先程のマスタースパークは、霊夢にとっては半ば奇襲のようなものだったに違いない。今ので撃墜されたのならその感覚はあった筈だと魔理沙は感じた。だが、その感覚から無いばかりか、霊夢の姿を探そうと振り向いた魔理沙に衝撃が襲う。

 

「・・・・・・」

 

「―――ッツ・・・っ、くそ、いつの間に・・・!」

 

 振り返った直後、魔理沙の全身を痺れるような感覚が襲う。

 魔理沙の瞳に映ったのは、冷徹な瞳で自分を見下ろしながら、お祓い棒を降り下ろした霊夢の姿だった。

 

 お祓い棒の打撃で箒から振り落とされた魔理沙を囲むように、色彩りの弾幕と博麗の札が埋め尽くす。見る分だけなら、美しいで済むだろう。しかし、その弾幕一つ一つには魔理沙を行動不能にするだけの威力が込められている。それを理解した魔理沙は気が気でない。

 

「・・・クソッ、慈悲は無ぇ、ってか・・・」

 

 弾幕が、一斉に魔理沙を目指して突撃する。

 魔理沙もやられてなるものかと必死に弾幕を躱していくが、普段の"弾幕ごっこ"と違って隙間なく配置された光弾や札を躱すのは容易ではない。魔理沙はそれを避けるのに集中力を奪われてしまい、完全に反撃の機会を失ってしまった。いや、霊夢は最初からこれを狙っていたのだろう。反撃の隙など与えぬとばかりに、躱した先から新たな弾幕や札が配置されていく。

 魔理沙も負けじと弾幕を避け、時には自身の弾幕で相殺するが、次第に集中力を奪われていく。

 

「くっ・・・ぅわぁッ!?」

 

 そんな弾幕の嵐を掻い潜ってなんとか反撃の機会を見出だそうとしていた魔理沙だが、集中力を奪われ、遂に被弾を許してしまう。

 被弾でバランスを崩した魔理沙は、そのまま地面に落下していった。

 

 魔理沙の被弾を確認した霊夢が、針とお祓い棒を手に持って追撃を図る。

 

 ―――!?ッ、ここしか、無いか・・・っ!

 

 空中で何とか体勢を整えた魔理沙は、真っ直ぐ霊夢を視る。霊夢は魔理沙に向かって、最短距離となるようなルートを辿って接近していた。

 

 仕掛けるならばこのタイミングしかない―――そう直感した魔理沙は、再び八卦炉に魔力を注ぐ。今度のそれは、許す限りの魔力を注ぎ込んだ渾身の一撃。そうでもしなければ、あの巫女に手傷を負わせることはできないと、魔理沙の本能は告げていた。

 

 魔理沙と霊夢の間には、遮るものは何もない。

 

 空を埋め尽くすばかりの魔砲なら、避けることは不可能だ。

 

 ―――悪いが、許してくれよ―――っ!

 

 注いだ魔力は、山を吹き飛ばすにも十分過ぎるほど。もし当たれば、霊夢とて只では済まないだろう。

 

 魔理沙は内心で親友を傷付けてしまうことを詫びながら、魔砲の発動を宣言する。

 

「魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 

 魔理沙が両手で八卦炉を構え、霊夢の姿を照準に定める。

 発射されたレーザーは、空を覆い尽くすばかりの勢いで霊夢に迫った。霊夢はそれを見ながらも、避けるような素振りは見せない。

 

「――――っぅ・・・ぐうッ!!」

 

 絶えず放たれ続ける魔砲の反動で、魔理沙の落ちる速度が加速する。それを何とか相殺しようと力を込めた魔理沙だが、溢れるばかりの魔力は彼女を地面に打ち付けた。

 尚も魔砲は放たれ続け、八卦炉に罅が走る。

 

 魔理沙が地面に打ち付けられて暫くして、ようやくレーザーが細まり収束していく。

 

「助かった・・・のか・・・?」

 

 上空には、何も残っていない。

 

 ―――早く、ここから逃げないと・・・

 

 もし霊夢が無事ならば、今の彼女は躊躇いなく自分を殺しに来るだろう。それを理解していた魔理沙は、今いる場所を離れようと、地面に打ち付けられた身体に鞭打って離脱を図る。

 

 しかし、彼女の目線の先には、所々焼け焦げた巫女服を纏った、紅白の人影があった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には、身体を打ち付けられてボロボロになった魔理沙の姿がある。

 自分の魔砲を放つ衝撃さえ相殺できないなんて、なんて無様―――

 

 彼女は私の姿を確認すると、怯えたように後退る。

 

「残念だったわね―――幻想郷では、里の人間が妖怪になることは一番の大罪・・・」

 

 私はお祓い棒を片手に持って、彼女に歩み寄った。

 ひっ・・・と、彼女の口から小さく悲鳴が漏れる。

 

「出来れば貴女を殺したくはなかったけど―――もう無理みたいね」

 

「―――っ!」

 

 私はただ、淡々と手に持ったお祓い棒を振り上げた。魔理沙は後退りしようと図るが、木に背が当たりそこで止まる。魔理沙も覚悟したのか、私から目を逸らせて閉じる。

 後は、これを降り下ろして、魔理沙を―――

 

「―――れ、いむ・・・?」

 

 次に訪れる筈の衝撃が無かったためか、恐る恐る魔理沙が顔を上げる。

 

 

 ―――どうして――!

 

 

「・・・くっ―――!」

 

 私の腕は、そこから少しも動かない。

 

「・・・泣いて、いるのか―――?」

 

 魔理沙の言葉で、漸く私は、自分が涙を流しているのだと悟った。

 落ちる涙の感触が、頬を伝う。

 

 ―――殺したく、ない・・・!

 

 心の中の私が、そう叫ぶ。

 魔理沙は私にとって、紛れもなく大切な親友だ。今でさえ、私の心は彼女の笑顔に焦がれている。間違いなく、大切に想っていた。

 だがその感情とは裏腹に、自分の身体は"為すべきこと"を成すために淡々と彼女を攻撃した。この瞬間にも、私の腕は彼女を滅するべくお祓い棒を降り下ろさんとする。

 

「・・・御免な―――」

 

 魔理沙は帽子を下げて、そう呟いた。その言葉は、誰に向けたものだろうか。

 

「――――っ、ああッ!」

 

 その直感、私の腕は無慈悲にお祓い棒を降り下ろす。驚くほど冷酷に、機械的に。

 そうして降り下ろされたお祓い棒は確実に魔理沙の頭蓋を捉え、一刀の下に両断した。滅された彼女の身体が、炭のように消えていく。

 

 

 私のなかで何かが吹っ切れたような気がして、力なくそのまま地面に膝をついた。

 

 

「魔理、沙・・・」

 

 

 私は博麗の巫女、人の道から外れたる者は例外なく退治してきた。今回のそれも、その延長線上でしかない。

 

 ―――私は・・・ッ!

 

 だけど、確かに私は、彼女を殺したくないと願った。友を殺したいと願う人間が、この世の何処にいるだろうか。しかし、私の思考はそれを無視して機械的にやるべきことを実行し、無慈悲に霧雨魔理沙を退治した。退治してしまった―――。

 

 

 ―――さん・・・

 

 

 魔理沙のことは親友だと、そう思っていた。だけど私は、彼女の命と幻想郷を天秤に掛け、淡々と、機械のように彼女を滅した。どうして私の思考は、ここまで平等になれるのだろうか。

 今の私には、こんな自分が恨めしい。

 

 

 ―――いむ、さん・・・!

 

 

 妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する。それが幻想郷の掟。人間が妖怪になることは、その均衡を崩すことだ。妖怪になった魔理沙を退治したことは、巫女として為すべきことを成しただけ・・・

 

 

 ―――巫山戯、ないで・・・!

 

 

 もう、あの笑顔は見られない。太陽のように眩しかった魔理沙の笑顔―――他ならぬ、私が奪ってしまった―――

 

 人妖の存在は、幻想郷のバランスを崩す存在。故に、里人が妖怪になることは一番の大罪だ・・・魔理沙が退治されるのは、仕方がなかったこと―――

 

 

 ―――霊夢さんっ!

 

 

「巫山戯るなッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぇぇっ!?」

 

 ガバッ、と、布を引っくり返す音が響く。

 

「あ・・・」

 

 荒い呼吸音だけが、部屋に響いた。

 隣には、神妙な顔付きで私を覗く早苗の姿がある。

 

「ごめん、早苗―――驚かせてしまったわ」

 

「その・・・大丈夫ですか?霊夢さん。だいぶ(うな)されていたみたいですけど・・・」

 

 早苗が身を案じて、私に声を掛ける。ここまで心配されるとは、あの悪夢に私はだいぶ魘されていたらしい。

 

 ―――また、あの夢か・・・

 

 私は時々、魔理沙を退治する夢を見る。

 あれを見るのはだいたい人妖を退治した日の夜だったけど、どうも今回は勝手が違ったらしい。

 

 ―――なんで、こっちに来てまであれを見せられるのよ・・・

 

 別に人妖を退治した訳でもない。そもそも、今の私は博麗の巫女ですらない。なのに、どうしてまたあの夢を見てしまうのだろう。

 あれを見る度に、二度とあんなものを見せるなと強く思う。私の酷さは自分でも認識しているのに、ああやって直接心を抉ってくるようなあの悪夢が怨めしい。

 

 何故、あんなものを見せられるのだろう。自己嫌悪があんな形で出てきたためか。それとも、私が退治してきた人妖の怨念なのだろうか。

 

 私は額に手を当てて、頭蓋を掴むように力を込めた。

 そんな様子を見て、早苗が心配そうに声を掛ける。

 

「その・・・何か悪いものでも見たんですか?」

 

 今の私は、きっと見るに耐えない顔をしている。それはもう、とんでもなく酷い顔だろう。だけれど私は精一杯の虚勢を張って、早苗の問いに答える。

 

「あ"っ・・・いや、大丈夫よ。―――だから、今は放っておいてくれる?」

 

「いや、大丈夫なんかじゃないです!あんなに苦しそうにしていたのに―――今だって、すごく苦しそうで、悲しい顔をしています―――」

 

 私が悪夢に魘されているのを間近で見ていたのだろう。精一杯の虚勢も、早苗には通じなかったようだ。

 

「―――私が大丈夫って言ったら大丈夫なの。ほら、夜も遅いんだし、あんたも寝なさいよ」

 

 そう言い放った私は、再び早苗に背を向けて布団を被る。

 今は一刻でも早く、あの悪夢のことを忘れたかった。

 同じ悪夢でも、いつぞやの早苗に喰われる夢の方が遥かにましだ。

 

「霊夢さん・・・」

 

 私が布団に入ってことで早苗も諦めたのか、後ろで布を擦る音が聞こえた。

 

 

 

 

 直後、がばっと後ろから抱き締められる。

 

「さ、早苗―――?」

 

「霊夢さん・・・貴女が何を思っているのかは分かりませんが、私はこうして、貴女の側にいます――――だから・・・少しぐらいは、甘えてもいいんですよ―――」

 

 そうすれば、きっと楽になる筈ですから――― そう早苗は続ける。

 

 ああ―――これは、私を慰めているつもりなのか。

 背中から、早苗の温もりを感じる。

 

 

 ―――止めて・・・それを私に、与えようとしないで

 

 

 私にはそれを受け取る資格なんて、無い。

 脳裏に浮かぶのは、赤く染まった自身の両手・・・

 

 博麗の巫女として、淡々と、無慈悲に人妖を滅してきた。時には成りかけの"人間"でさえ。弾幕ごっこなんかではなく、正真正銘の殺しで、だ。

 そんな自分が他人の温もりを享受するなんて、烏滸がましいにも程がある。

 

「離れて―――ッ!」

 

「きゃっ・・・れ、霊夢さんっ!」

 

 私は力いっぱい、早苗を突き飛ばした。早苗は不意の行動に対応できず、そのまま私の身体から離される。

 

「どうして―――ひっ」

 

「・・・今夜はもう、私に構わないで」

 

 釘を差すように、早苗を一度睨み付ける。大人げない行動だろう。だけど、こうしないと何かが壊れてしまいそうだった。

 

 こんな私が、誰かと馴れ合っていい筈がない。今までのように、誰に対しても平等でなくてはならない。今更それを変えるなんて、許されないことだ。

 

 早苗は叱られた子犬みたいにしゅんとしていた。直接見たわけではないが、背中越しにそう感じた。早苗は暫く何か言いたげにしていたけど、私が無視を決め込んだためか、彼女も終いには大人しく眠ってしまったようだ。

 

 ―――ちょっと、強く当たりすぎたかな・・・

 

 自分で振り返っても、先程の行動は早苗に八つ当たりしているようにしか見えない。こんな行動しかできない自分に対する嫌悪感が沸いてくる。

 せめて明日は、謝罪の一言ぐらい掛けておくべきだろう。

 

 ―――今は、もう寝よう。

 

 あの夢を忘れたくて、眠ろうと私も布団を被り直す。だけどまた、あの悪夢を見せられるのが怖かったのか、結局その夜は眠れずに終わった。

 

 




無限航路の二次を書いていた筈なのに、いつの間にか東方の二次になっていた件について。
私の中では、鈴奈庵の25話を見てから霊夢さんは女の子切嗣になっています。鈴37話で一層補強されましたね。見た目も感情もちゃんと女の子していますが、必要と判断すれば淡々と手を下してしまうような、そんな印象です。

主人公は霊夢の筈なのに、何故か早苗さんが霊夢を攻略しているように見えてくる・・・今回でフラグが一つ立ちました。
ちなみに魔理ちゃんは実際にコロコロされた訳ではないのでご安心下さい。単なる夢のなかでの出来事です。

ここでこの話を捩じ込んだのは、単に原作でもユーリ君が"男"になるイベントがあるからですね。そろそろ霊夢さんも、一歩進めるべきタイミングだろうという判断です。

ちなみにBGMのイメージは、夢に入ったタイミングから「夏影(AIR)」→「永遠の巫女(幻想的音楽)」→「永遠の巫女(蓬莱人形)」→「消えない思い(Fate)」の順です。


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第四七話 告白と別離と・・・

 

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域惑星ティロア、リム・タナー天文台~

 

 

 

 

 

「あの・・・霊夢さん?」

 

「あ"?何よ」

 

「い、いえ・・・なんか機嫌悪くないですか?」

 

「・・・別に」

 

 ユーリは困惑していた。

 この日はリム・タナー天文台でエピタフ遺跡に関する調査結果の話が聞けるという事で彼は楽しみにしていたのだが、同行者である霊夢の機嫌がすこぶる悪そうなのだ。

 久々の地上で、しかも美人の副官であるトスカと一緒に眠れるというイベントで浮き足立っていた彼にしてみれば、冷や水を浴びせられたような格好だ。しかもそれに加えて、今朝から妹であるチェルシーの様子もおかしい。別に普段と著しい違いがあるわけではないのだが、「なんだかユーリ・・・今朝は、ちょっと違う・・・」といった感じで訝しげに聞かれたりして、何故か気まずい雰囲気が漂っていた。

 

「はぁ・・・霊夢さん―――嫌われちゃったのかな・・・」

 

 普段は霊夢の側にくっついている早苗も、今日に限っては霊夢の3歩後ろをどんよりとした重苦しい空気を纏いながら付いていくだけだ。いつもなら霊夢を引っ張っていく彼女は、時折周りには聞こえない程度の声量で小言を呟くだけで、いつものような牽引力は鳴りを潜めている。

 

「―――辛気くさいなぁ・・・おい霊夢、何かあったのかよ?」

 

「だから、何もないって言ってるでしょ」

 

「何もなかったら、そんな風に機嫌悪くする理由なんて無いだろ。何があったかは知らないが、あんまりグズグズされるとこっちにも迷惑だよ」

 

「霊沙、あんたねぇ―――」

 

 不機嫌さを隠そうともしない霊夢の態度に痺れを切らせた霊沙がきっぱりとそう言い放った。だがその物言いが機嫌の悪い霊夢の癪に障ったことは言うまでもなく、両者の間に険悪な雰囲気が漂う。

 

「ほれほれ、解析も終わったことだし、早く天文台に急ごうじゃないか」

 

「同感だ。艦長、今の態度は大人げないぞ。少しは周りのことも考えたまえ」

 

 そんな霊夢の態度を、ジェロウとサナダの両者が諌める。研究しか脳のない彼等にしてみればここで争われるのは迷惑この上ないというのが理由なのだが、言ってることは正論なので、霊夢もまともに返すことができず言葉に詰まる。

 

「―――チッ、分かったわよ・・・なら私は席を外させて貰うわ。別に私自身がエピタフの研究とやらに興味がある訳じゃないんだし。それじゃ、あんたらはあんたらで楽しんできなさい」

 

「あっ、霊夢さん――――」

 

「おいッ、何処行くんだよ?」

 

「れ、霊夢さん・・・何処に行くんですか!?」

 

 霊夢はそう言い放つとなんの躊躇いもなく踵を返し、他のメンバーとは逆方向に歩き出した。

 

「・・・ちょっと頭を冷やしてくるわ。時間までには艦に戻るから、言った通りあんたらは気にせず解析結果とやらを聞いてきたら?」

 

 ユーリや霊沙、早苗の呼び止める声にも関わらず、霊夢はそれらを無視して歩き続ける。突然の出来事に、一同は対応を忘れてただ霊夢の背中を見つめるだけだった。

 

「あっ、あの・・・私は霊夢さんの後を追ってきますから、皆さんは気にせず天文台の方に向かってください!」

 

「えっ、でも・・・」

 

 霊夢が去っていくのを呆然と見ていた早苗が唐突にそう切り出す。その言葉にユーリは返答に窮したが、早苗は急いで霊夢の後を追おうと振り返る。

 

「解析結果の話なら後でサナダさんから聞かせてもらうことにしますから、皆さんは気にしなくて大丈夫です。それでは―――」

 

「任された。では我々は天文台に向かうとしよう。艦長のことだ、時間までには戻ってくるだろう。何も心配はいらんよ。さあユーリ君、早く向かうとしよう」

 

「あ、はい・・・ではそうしましょう。じゃあみんな、今は天文台に向かおう」

 

「おう、了解だ。霊夢さんのことも気になるが、今はあいつに任せておこうぜ」

 

「そうだねぇ。元々私達は部外者なんだし、あっちの問題は彼女達に任せとくべきだ」

 

 早苗を見送ったサナダがユーリにそう促した。それを受けた一同はサナダの言葉に押されて、予定通り天文台に向かうことにする。トーロやトスカの反応とは対照的にユーリは最後まで納得いかなさそうな表情をしていたが、結局サナダの言うとおり渋々と天文台へと向かう。

 

「おい、早苗・・・あいつのこと、任せておくぞ」

 

「はい、言われなくても―――では行ってきます!」

 

 霊沙は一度だけ早苗を呼び止めると、彼女に霊夢の面倒は任せたと伝える。早苗はそれを聞き届けると、そう応えて一目散に霊夢に向かって駆け出した。

 

「・・・行ったな」

 

「ああ。では、我々も当初の目的を果たすとしよう。天文台へ急ぐぞ」

 

 早苗の姿が物陰に消えていくのを見送った一同は、そのまま天文台への道を進んでいく。霊夢のことが気がかりだったユーリ達も、今は彼女のことは早苗に任せることにして、科学者達の後を付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ティロア・草原~

 

 

【イメージBGM:Fate/stay nightより「sorrow」】

 

 

 

 

 

 皆から離れたあと、私は天文台への道から外れたこの草原公園のような場所に来ていた。あのまま私が残っていても微妙な雰囲気だっただろうし、皆から離れて正解だった。一人になったためか、少し落ち着いた気がする。

 

 ―――結局、昨日の夢に引き摺られたままか・・・

 

 あの悪夢のことは、適当に寝過ごせば何時ものように意識からは消えてくれると思ったのだけど、夜に眠れなかったせいか未だに苛立ちが続いている。

 その苛立ちも、風に当たれば少しは薄らいでくれたような気もする。

 

 ふと、地面に視線を下ろした。

 

 そこにあるのは、何の変哲もないただの草原―――

 

「――――ッっ!?」

 

 

 一瞬、そこが真っ赤に染まったような錯覚を覚える。

 

 目を擦ってみれば、そんなものはなく只の草原が見えるだけ―――

 

 ―――!?っ・・・

 

 ふいに、目を擦った手が視界に入った。

 

 その掌には、べったりと血が塗られていて―――

 

 

「こんの・・・くっそがあッ・・・!」

 

 私は堪らず、近くにあった柵を思いっきり蹴りつけた。

 

「っ、はあッ――――ああもう、これじゃまるで駄目ね・・・私らしくもない・・・」

 

 柵を蹴りつけた後に、何度か深呼吸を繰り返す。

 八つ当たりしたためか昂っていた感情も少しは鳴りを潜めてくれたようで、沸き上がった怒りも薄らいでくれた気がした。

 

 私ははそのまま、自分の後ろにあった長椅子にどさっと座り込む。

 

 今回のは、かなり精神的にも参ったものだ。

 何時もだったらあんな悪夢は、普段通り過ごしているうちに自然と感情が薄らいでいくものだったが、今回ばかりはそうはいってくれないらしい。折角落ち着いてきたと思ったのに、またあんな風に夢の感覚を思い出す。昨晩満足に眠れなかったのも、実はそれがあったためだ。何度も悪夢を思い出すようじゃあ、おちおち寝てもいられない。

 

 お陰で今日は、悪夢と寝不足の二重攻撃ですこぶる機嫌が悪いままだ。それこそ許されるのなら、鬼のように暴れて手当たり次第にぶっ壊したいぐらいには。

 

 今でそこ多少は落ち着いていても、また唐突に感情が昂ってしまうかもしれない。身体が若返ってしまったせいか、心まで若い頃に戻ってしまったかのようだ。

 

 

「―――っ、ハアッ、ハア・・・・れ、霊夢さん・・・こんな所に居たんですか―――」

 

「早苗!?っ、なんであんたが・・・」

 

 そこへ、息を切らせた早苗が駆け寄ってくる。彼女の声がしたので振り向いてみると、ずっと走って追いかけてきたのか立ち膝の体制で荒い呼吸をしている早苗の姿があった。

 私のことなんて気にせず行ってこいと言った筈なのに、この娘はどうして私に付き纏ってくるのだろう。

 

 一瞬追い払おうとも考えたが、昨晩も半ば八つ当たりのような態度で接してしまったので、これ以上邪険にするのもどうかと思った私は早苗を好きにさせることにした。

 

 早苗は息を整えると、何も言わず私の左隣に腰掛ける。

 

 

 暫く、互いに沈黙が続く・・・

 

 

「あの・・・霊夢さん?」

 

「―――何?」

 

 その沈黙に耐えきれなくなったのか、早苗が口を開いて私の名をを呼んだ。私は普段通り応えたつもりだったけど、自分でもその言い方に不機嫌さが籠っていると分かるほど、その返事の言い方は酷いものだった。

 

「ひっ・・・あ、いえ―――その・・・」

 

「―――昨晩のこと、でしょ?」

 

 そんな私の返事で言葉に窮したのか、言い淀む早苗に私は尋ねる。

 早苗がわざわざ私を追ってくる理由なんて、それ以外に考えられない。

 

「はい・・・その、ここでは夢の内容については尋ねません。霊夢さんも、答えたくないでしょうから・・・。だけど――――霊夢さんはどうして、そんなに一人になりたがるんですか?」

 

「早苗・・・そんなの、あんたも分かってるんでしょ?」

 

 どうして一人になりたがるのか、そんなの決まりきったこと―――自分の気持ちを,落ち着かせたいから・・・

 

「自分の心を鎮めたいから―――ですか?」

 

「そうよ。それ以外に何の理由が―――」

 

 

「それは、違いますよ―――」

 

 

 早苗は、明確に私の答えを否定する。その言葉に、言いようのない反発が込み上げてきた。

 

「・・・なにが違うのよ。あんたに何が分かる訳?」

 

「分かりますよ―――霊夢さんが、なにかを怖がっていることぐらいは。そうですよね?」

 

「なっ・・・あんた、ねぇ・・・っ!」

 

 早苗の言葉が図星だったためか、彼女を脅すように語気が強まる。

 私が怖がっているだって?そんなこと―――

 

 ―――っ、駄目、他人に当たっちゃ・・・

 

 早苗への反発が強まったところで、理性はそれに歯止めを掛ける。幾らなんでも続けて人に八つ当たりするのはやりすぎではと、それは私の感情を諌めた。

 

「―――で、何が言いたい訳?」

 

 投げ捨てるような口調で、私は早苗に問い質す。仮に私が何かを恐れていたとしても、早苗はそれをどうしたいのだろうか。下手な同情でもされようものなら、多分怒りのままに早苗を突き飛ばすかもしれない。

 

「昨晩も言いましたよね・・・一人で抱え込まないで下さいって。霊夢さんは自分の問題だって考えていたとしても、見ているこっちだって苦しいんですよ?」

 

「だったら、私のことなんて見なければいいじゃない」

 

 早苗の言葉に対して、私はそう吐き捨てた。予想に反して早苗の行動は同情からくるものではなかったらしいが、私の様子を見て勝手に苦しむぐらいなら、最初から私なんて見なければいい。それだけで済む話ではないか。

 

「そんなこと、出来ませんよ―――私は・・・」

 

 早苗はそこで、再び言葉に詰まる。彼女は何か言いたげな様子でいるが、続く言葉を口にするのが憚られたのかその続きを言おうとはしない。

 

「・・・もういいわ。艦に戻ってる」

 

「あ・・・っ!」

 

 私はじれったい早苗に堪えきれなくなって、艦の自室に戻ろうと椅子を立ち上がろうとする。だが、私が手に力を掛けたところで、早苗の手がそれを制するように、私の手の上に重ねて置かれた。

 

「―――何よ、早苗?」

 

「ま、待って、下さい―――」

 

 早苗は懇願するかのように、声を絞り出して私を制止する。その表情は、今にも泣き出しそうなものだった。

 

 これでは何も解決していないではないか―――早苗の瞳は、言外にそう告げているように思えた。

 

「霊夢さん―――、一人になったところで、何も変わらないですよ・・・」

 

「変わるも何も、私はあんたにこれを解決して欲しいなんて頼んでいないわ」

 

「だから・・・・そういう問題じゃないんです!昨日はあんなに苦しそうだったのに、一人のままでいたらいつか押し潰されてしまうじゃないですか!そんなの・・・そんな霊夢さんなんて、私、見てられませんよ―――」

 

 涙目になりながら、早苗は懸命にそう訴える。

 

 鋭いな―――私はまるで他人事のように、彼女の態度をそう評した。正直に言うと、あれを一人で抱え込むのは、とても苦しい。それこそ、内心では支えが欲しくなる程には。ただ、あれを堪えて機嫌が悪くなりこそすれど、あんなものに呑まれてやる気はないが。

 

「どうして―――」

 

「・・・はい?」

 

 私の口から、唐突に言葉が漏れる。

 

「どうしてあんたは、そんなに私を気にかけるのよ。私のことなんて、放っておけばいいだけでしょ?」

 

 昨晩の私の様子を見たからか?―――いや、彼女ならあれを見ていなくとも、こうして私を追ってきただろう。なら、何故早苗はここまで私を気にかけるのだろう。

 

 ここまで他人の感情に気付けるなんて、人並み以上に出来たAIだと感心する。忘れてしまいそうだけど、彼女は〈開陽〉の統括AIなのだ。それが何故―――こんなにも人間じみた態度を取るのだろう。

 私が早苗の態度に興味すら抱いたところで、早苗が小さく呟いた。

 

「―――か」

 

 あまりに小さすぎてよく聞こえない。だが、彼女がそれを必死に伝えようとしていることには気が付いた。その言葉を聞いてはいけないような気もしたが、ここで早苗の言葉を遮ってしまうのは、それこそ野暮な行動だろう。

 私は黙って、その続きを待つ。

 

 

 

 

 

 

「―――そんなの、決まってるじゃないですか!・・・霊夢さんのことが、――――大好きだから、ですよ・・・!っ―――」

 

 

 

 

 

 

 一瞬、私の思考が凍りつく。

 

 

 この娘は今、私に何と言った・・・?

 

 

 ―――面と向かって好きだなんて、果たして今まで言われたことがあっただろうか?

 

 もしかしたら会話の中で言われていたかもしれないが、ここまで印象に残るのは初めてかもしれない。親友の魔理沙にさえ、言われたかどうかも分からない。だけど早苗の態度から、それが本心からの言葉だと否応なしに分かってしまう。

 

 早苗も気恥ずかしさが込み上げてきたのか、それを言い終えると若干頬を赤らめて、視線を逸らせて俯いている。

 

「早苗、・・・」

 

「だから―――霊夢さんが苦しそうにしているのを見過ごすなんて、私には出来ないんです・・・!私は・・・私は貴女以外に、貴女のことを一番知っている筈なのに何も出来ないなんて、そんなの我慢できませんっ!」

 

 早苗は心の内を曝けだすかのように、続けて想いを吐露する。

 

 まさか、薄汚れた私でさえこんなに想われているなんて、正直なところ心外だ。こんな自分のことを想ったところで、何も益なんて無いというのに。だけど、早苗の言葉を嬉しく思う自分もいた。私はその感情が出てしまわぬよう、心のなかにそっと押し込む。

 

「・・・正直に言うとね、貴女がそこまで想ってくれることは嬉しいわ。だけどね―――」

 

 早苗は続く言葉を、固唾を呑んで待っている。続きが予想できてしまったためか、彼女の表情は少し暗い。

 

「さっきも言ったと思うけど、これは私の問題よ―――あんたの気持ちも分からなくはないけど、こればかりはどうにも出来ないわ」

 

 無数の屍を足下に築いてきた私が、大人しく早苗を受け入れることはできない。この重さは、誰にも背負わせたくなかった。否、背負わせてはいけないと言ったところか。ともかく、私は早苗を受け入れてはいけないのだ。

 

 

「―――それはともあれ、あんたのお陰で少しは気が楽になった。礼は言っておくわ。多少なりとも吐き出してしまえばマシになるものね。それじゃ、さっさと艦に帰るとしましょう―――」

 

「れ、霊夢、さん・・・」

 

 私はつとめて、普段通りの雰囲気を装って早苗に告げる。ここまで言わせてしまった以上、これ以上心配を懸けさせてしまうのは野暮に思えた。

 やはり早苗は納得がいかなさそうな様子だったが、私は椅子から立ち上がって艦への道を辿ろうとする。

 彼女もこれ以上は無駄だと悟ったのか、大人しく私に続いて椅子から立ち上がった。

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 直後、がばっと背中から抱き締められる。

 

 

 昨晩感じた温もりが、背中越しにまた伝わってきた。

 

「誤魔化しなんて、卑怯ですよ、霊夢さん・・・。ちっとも楽になんかなってなんかいないじゃありませんか。こんなにも冷たくて、身体が震えてすらいるのに―――」

 

 ―――ああ、また見破られてしまった。

 

 昨晩に続いて、私の虚勢は早苗には通用しなかった。どうも早苗は私の虚勢を見破るのが上手いらしい。

 

 早苗の温もりが伝わっていくにつれ、私の中でそれでは駄目だと叫ぶ声がする。だけど、それを感じていたいという私もいた。普通ならまた突き飛ばしていたところだが、昨日の手間強く出ることはできないと、言い訳のような理由が浮かんでくる。

 

「今度は―――拒まないんですね」

 

「・・・昨日はあんたに八つ当たりしちゃったからね。今日も続けてそんな態度を取るわけにはいかないでしょ?だから、これは特別よ」

 

「霊夢、さん・・・!」

 

 半ば詭弁のような理由だが、その答えが嬉しかったのか、早苗の頬を涙滴が伝う。溢れ落ちた涙滴が、私の肩を濡らしていく。

 これではまるで、立場が逆転してしまったかのようだ。普通なら、慰められているのは私の筈なのに、早苗の方が逆に慰められているようではないか。

 

(早苗・・・ありがとう・・・)

 

 早苗にさえ聞こえないほどの声で、そう呟く。

 

 暫くの間、私は早苗に抱き付かれることを許していた。

 罪悪感がなかった訳ではない。多分このあと、早苗に抱き締められるのを許したことを後悔するだろう。だけど今は、早苗の温もりが心地よく感じられた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・首都惑星ゼーペンスト~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Hombre febril(feverish man)」】

 

 

 ネージリンス・ジャンクション宙域からゲート一つを隔てた先にある自治領ゼーペンスト、その最奥に位置する同心円状の輪を持った黄土色の岩石惑星、首都惑星ゼーペンストにカルバライヤ保安局宙佐のシーバットは降り立った。

 

 彼がこの星に降り立った理由は、グアッシュ海賊団の人身売買に起因する。グアッシュを操っていたドエスバンを尋問した結果、彼等によって拐われた人間がこのゼーペンストに送られていたことは既に明らかとなっていた。彼の目的は、この地に送り込まれた人間を返還してもらえるようゼーペンスト当局と交渉することだ。ネージリンス、正確には海賊被害に遭ったセグェン・グラスチ社の協力によりこのゼーペンストと交渉の算段がつき、ようやくゼーペンストとの交渉の道が開けたのがつい数日前。彼はその返還交渉のため、わざわざこんな宙域まで足を運んでいた訳だ。

 ここで問題となったのが、その送られた人間である。その中には、自国の大手軍事企業の社長令嬢や隣国ネージリンスの要人も含まれていたのだ。

 

 特に扱いが難しいのがこのネージリンスの要人である。カルバライヤとネージリンスはその成立過程から長い間対立状態にあり、互いの民意も隣国に対して厳しい。国境では物々しい警備隊がお互いに睨みを利かせあっているような状態だ。そんな状態の中で、カルバライヤの宙域内でネージリンスの要人が誘拐され、しかも保安局がそれを解決出来ないとなればネージリンスの世論間違いなく激昂するだろう。そうなれば偶発的な事故などが切欠で全面戦争まっしぐら、なんて事態も考えられるのだ。通常のカルバライヤ人ならば「望むところだ、ネージ野郎なんて根絶やしにしてやる」とでも意気込んでしまいそうなものだが、少なくともこの場にいるシーバットは違った。

 

 彼も他のカルバライヤ国民同様、ネージリンスのことは快く思っていない。だが、冷静な彼はネージリンスとの戦争が何をもたらすか、悔しながら理解しているつもりだった。一応、カルバライヤの側が軍備でネージリンスに劣っている訳ではない。しかし、だからこそ戦争は必然的に泥沼化する。そうなってしまえばカルバライヤの疲弊は目に見えており、両国が満身創痍ともなれば狡猾なエルメッツァが何をしてくるかなど考えるまでもない。折角エルメッツァから勝ち取った独立だというのに、それをわざわざエルメッツァの経済植民地に甘んじるような立場へ祖国を追い落とす気は彼には無かった。

 

 それに本来、これは保安局が解決すべき事件である。自国内のみに留まらず隣国の要人まで誘拐されて未解決となれば、保安局の威信は大きく傷つくことになってしまう。自国民からの信頼さえ失ってしまうのだ。彼にもカルバライヤ宙域保安局員としての誇りがある。その誇りにかけて、この事件は絶対に解決し、そのような事態を招いてしまうことは避けなければなければならないと、彼は自らに言い聞かせていた。それ故に、彼は憎きネージリンスとの合同捜査にも身を投じ、悪評しか聞かないゼーペンストの退廃領主の下へと面会する役も買って出たのだ。

 

 

 宇宙港に降り立ったシーバットは軌道エレベーターで地上に向かい、そこから公共交通機関を使って領主の館へ向かう。普通ならこの手の交渉を行う際は、例え非公式(今回の交渉は、存在そのものが機密事項の事件の拡散を防ぐという意味と被害者の要請を受けて、非公開とされている)であっても迎えの一つは来るものなのだが、それすらもないゼーペンストの対応に対してシーバットは内心で毒づきながら、次第に見えてくる領主の館を睨み付けた。

 

 ゼーペンスト領主が住まう館―――バハシュール城と呼ばれるそれは、文字通り巨大な城であった。しかも外装は装飾過多も度が過ぎるというほどの黄金色やきらびやかなネオンで飾り付けられ、常人の目にとっては背けたくなるほど下品なものだった。

 

 乗ってきたタクシーを降りたシーバットは、城の入口に佇む守衛に声を掛け、セグェン・グラスチの名で作成した紹介状を見せる。

 事前に話が通されていたのか、守衛はそれを確認すると、城の職員に案内を引き継がせて彼を城の中へと通す。

 

 しかし、城の中に入ってもなお、その装飾過多な内装はシーバットの頭を容赦なく攻撃する。

 悪趣味な装飾の数々に目眩を起こしつつも、これから臨む会談に失敗は許されないと、シーバットは意識を集中させ、装飾を意識しないように心がける。それが功を為したのか、内面はともかく外見上は領主が待つホールに着くまでは平常さを保っていた。

 

 だが案内係がホールの扉を開けたところで、流石の彼も眉をしかめずにはいられなかった。

 扉を開けた直後、防音が破られた廊下には退廃的なメロディーが鳴り響き、ミラーボールやその他よく分からない燦々とした目に痛い光がシーバットの目に入る。

 彼は一瞬その音と光に対して嫌悪するかのように左手で顔を覆い目を細めだが、すぐさま平常を心掛けて外面は普段の様子を取り繕う。

 

 趣味の悪い調度品の数々を視線から外しながら、案内に従って彼はホールに足を踏み入れ、奥で待つ領主の下へと向かう。

 

 その先で待っていたのは、輝くミラーボールの下でポーズを決め、周りに複数の美女を侍らせていた紫の長髪に紫色の派手な服を着こんだ男だ。何の情報もなしに見ればただのチャラい不良アーティストに見える彼こそが、この自治領を統括する領主、バハシュールだ。

 

 バハシュールの前まできたシーバットは、その場で彼に対して頭を垂れる。幾らバハシュールが品のない男でも、彼は領主、いわば一国の元首なのだ。仕事上仕方がないとはいえ、シーバットは内心で溢れる生理的嫌悪をなんとか諫めて、バハシュールに礼を尽くす。

 今後の交渉を考えても、やはり彼の気を害するべきではないと、冷静なシーバットの理性は判断していた。

 

「よーうこそ、ようこそ。このバハシュール城へ。歓迎しますよシーバット宙佐。アーハァー?」

 

 だがそんなシーバットとは対照的に、バハシュールは様式など知ったことかとばかりに下品なミュージシャンのような口調で彼を出迎える。

 こんなふざけた態度があるものかとシーバットは憤るが、それを外に出すわけにはいかないと溢れる怒りを収めるため、彼は一呼吸置いてから頭を上げた。

 

「面会を許していただき感謝します、バハシュール閣下」

 

「ンーフゥー?それで、用件とは何かな?」

 

「・・・率直に申し上げる。セグェン・グラスチのキャロ・ランバース嬢とスカーレット社の社長令嬢二人を合わせた3人・・・これを返していただきたい」

 

「フンンン?キャロ・ランバース?スカーレット?果たしてどなたかな?」

 

 頭を上げたシーバットは、バハシュールに対して用件を告げる。しかしバハシュールは惚けるだけで、彼の要求には応えようともしなかった。

 ふざけた奴だと、シーバットの怒りがさらに増す。目の前の男がただの犯罪者であったのなら、容赦なく法の下に逮捕できたものをとシーバットは考える。しかし、幾らふざけた成りでもバハシュールは自治領の領主なのだ。それこそ戦争でもしない限り、彼を逮捕することなど出来ないだろう。それを理解していたシーバットは歯軋りをしながらも、当初の目的を果たさんとバハシュールに問い質した。

 

「惚けないでいただきたい。グアッシュ海賊団の手によって捕らえられ、こちらの星に送られた筈だ。グアッシュを操っていたドエスバンが自供しておりますぞ」

 

「ンーフウゥゥゥゥ・・・ハッ、ハハッ、ハァーハァーッ!」

 

「?」

 

 突如奇怪な叫びを上げたバハシュールを、シーバットは呆れと怪訝の混ざった表情で見上げる。バハシュールはそれを気にすることもなく、次の言葉を口にした。

 

「確かに彼女達はこの城にいるけどねぇ、タダで返すわけにはいかないなぁ」

 

 存外に、それはバハシュールが自らの犯行を自供したようなものだった。しかし彼は一切悪びれた様子も見せず、露骨に"見返り"を要求する。事前に予想していたとはいえその態度に怒りが込み上げるシーバットだが、想定に従って、彼は準備されていた"とある物"をバハシュールに提示した。

 

「・・・こちらにセグェン・グラスチ社のランバース会長と、スカーレット社のヴラディス社長から預かった、2億5000万クレジッタを用意しております。何卒これで・・・」

 

 シーバットが提示したのは、海賊被害に会った会社から預かった大金のマネーデータだ。彼のような公務員には一生お目にかかれないような金額が、そこには表示されている。この金を集めるにしても、事件を内密にしたいセグェン・グラスチはともかく独自の軍事力を持つ強硬なスカーレット社を納得させるのに、これはまた別の大変な苦労があった訳だが、直接の担当ではなかったシーバットは伝え聞くところしか知れない。しかし、バハシュールにはこれで納得して貰わなければ困るのだ。このクレジッタで蹴られたら、もう彼には打つ手がない。

 だが、バハシュールは案の定と言うべきか、そんな大金を前にして、愉快そうな笑みを浮かべた。

 

「オオゥ、素晴らしい。それは喜んで受け取ろうじゃないか」

 

「では・・・!?」

 

 バハシュールの返事を承諾と受け取ったシーバットが、つい身を乗り出す。これで漸く苦しい任務から解放される、そんな光が見えたと思ったシーバットだが、直ぐにバハシュールの態度がそれではないことに気がついた。

 

「ンンンン、ノノノノノノ。落ち着きたまえ。それはそれとして、だ。――――我が自治領にカルバライヤの公務員が侵入しているのは、大きな問題と思わないかい?」

 

「な・・・っ!?それは閣下が許可を―――」

 

 バハシュールは一度考えるような仕草を取ると、シーバットにそう切り出した。その言葉にシーバットの思考は一瞬停止してしまったが、必死に彼は反論を紡ぎ出す。

 しかし、バハシュールは惚けた言葉を返すだけで、まともにシーバットと取り合おうとはしない。

 

「アーハァー?知らないなぁ~」

 

「!?っ―――」

 

 直後、ホールにブラスターの発射音が響き渡る。

 いつの間にか、退廃的な音楽は鳴り止んでいた。

 

 

「ぐ、ぐぐっ・・・」

 

 バハシュールにブラスターで撃ち抜かれたシーバットは、被弾箇所を押さえながらその場に力なく倒れ伏す。

 そんなシーバットの様子を、バハシュールは不機嫌な眼差しで見下した。

 

「ぐうっ・・・バリオ、・・・バリオッ―――!聞こえるかッ!?」

 

 ブラスターに焼かれた痛みを必死に堪えながら、シーバットは懐の通信機を取り出して本部に待機していたバリオに呼び掛ける。

 この通信機は、万が一のときに備えて持ち込んだ秘匿回線用のものだった。本来ならば使いたくはなかったものだが、シーバットはそれを手に取るとバハシュールから距離を取ろうと腕を這わせた。もうこうなれば身の安全など望むべくもない―――そう理解したシーバットは、せめて重要な情報だけでもバリオに伝えようと時間を稼ごうと試みた。

 

《宙佐!何があったんですか宙佐!》

 

 その通信回線が使われることの意味を理解しているバリオも、シーバットの身に何かあったのだと案じて呼び掛ける。

 

「ランバースと―――スカーレットの令嬢は・・・ぐ・・・やはりバハシュールの下に・・・っ」

 

《宙佐!どうしたんです!宙佐!ッ―――》

 

「ンーフウゥゥゥ。しぶといなぁ、ま~だ生きてるよ・・・これじゃまるで僕の射撃がヘタクソみたいじゃないかぁ~」

 

 シーバットの只ならぬ声色に最悪の事態が頭を過ったバリオは必死に呼び掛け続けるが、バハシュールはその通信機を無造作に蹴り飛ばす。

 

「ぐ・・・ぐぐ・・・貴様・・・っ」

 

 シーバットは残る力でバハシュールをその視界に捉えると、呪ってやるとばかりの形相で彼を睨む。だが、バハシュールはそんな視線をものともせず、適当な装飾の剣に手を掛けた。

 

「じゃあ、今度はコイツで・・・」

 

 バハシュールは引き抜いた剣を、シーバットの背中に向けて降り下ろす。

 

「よっと♪」

 

「ぐ・・・はっ!!」

 

 一直線に背中を目掛けて降り下ろされたその剣は、元が殺傷力の低い装飾用だったためか、バハシュールが体重を掛けたにも関わらずシーバットの背骨の辺りで止まってしまう。だが、シーバットの命を奪う分には、それで十分過ぎるほどだった。

 

《宙佐!返事をしてくださいッ!、宙佐!シーバット宙佐!!》

 

 先程のブラスターとは比べ物にならない激痛がシーバットを襲い、思わず彼は呻き声を上げる。それを聞いたバリオが一層声を荒げてシーバットに呼び掛けるが、ついぞ彼からの返事が届くことはなかった―――




はい、苦いです。ちなみに作者はFateでは桜ルートが好きだったりします。今話の霊夢ちゃんのシーンにはBGMにsorrowが似合う気がしますね。
ここの霊夢ちゃんは茨魔理沙の対極みたいな子をイメージして書いています。普段は明るかったり女の子してる面が目立つんですが、実は暗い側面があったりとかする感じです。今までにその暗い部分を描写しきれていたかは微妙ですが。

まぁ・・・たった2話で攻略できる訳はなく、霊夢はまだ早苗さんを受け入れた訳ではありません。


ちなみにBGMにある「Hombre febril」はバハシュールのテーマです。
シーバット宙佐は、残念ながら原作通りです。合掌...


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第四八話 旗を掲げて

 ~ネージリンス・ジャンクション宙域、惑星ポフューラ~

 

 

 いま私達の艦隊は、ティロアを出港してこの惑星ポフューラにいる。バリオさんに言われた通り、ここに設置された対策本部を訪れるためだ。

 

「艦長、間もなくポフューラに入港します」

 

「了解。あっちに着いたら私はそのまま地上に行くから、留守は頼んだわよコーディ」

 

「イエッサー」

 

 艦橋の窓を挟んで向こう側には、蒼い惑星が浮かんでいるのが見える。二度目の寄港となる惑星ポフューラだ。

 私は留守を予めコーディに預けて、今回の建造計画に目を通した。どうも私の勘が自治領攻めは避けられないと告げているし、もう少し軍備を拡張しようという心算だ。コストの面も考えて、建造するのはルヴェンゾリ級軽巡2隻に留めてある。

 

「いや、おまえも元の調子が戻ってきたようで何よりだ。カリカリされたままじゃやってられないからな。」

 

 すると、今度は霊沙の奴が絡んできた。あいつが言ってるのは、こないだのティロアでのことだろう。あのときは何だかんだ理由をつけて早苗に甘えてしまったけど、それは本来なら避けるべきことだった。お陰で今も、早苗の温もりが頭から離れてくれない・・・

 

 ―――あんなの、まるで麻薬みたいじゃない・・・

 

 早苗の温もりを思い出す度に、再びあれを求めてしまう私がいる。麻薬は一度でもやってしまうと抜けられないというが、これも似たようなものだろうか。

 

 ―――やっぱりあれ、不味かったかな・・・

 

 私がそんなことを考えて黙っているのが気になったのか、霊沙がまた言葉を浴びせてきた。

 

「・・・なんだ?私に心配されるのは意外か?」

 

 霊沙のやつは意地の悪い笑みを浮かべて、煽るような仕草をしてみせる。

 言われたままというのも癪なので、とりあえず私はあいつに向かって言葉を飛ばした。

 

「・・・余計なお世話よ。あんなの暫くすりゃ元に戻るわ。あんたこそ、こんな場所で油売ってんじゃないわよ」

 

「はぁ?・・・私が折角心配してやったってのに、食えない奴だな」

 

「―――私はあんたに心配されるような魂じゃないわ」

 

「ケッ、そうかよ―――いや、おまえはやっぱこうじゃなくちゃな。」

 

 まさか霊沙にまで心配させるなんて、やっぱりあのときの私は大層酷いものだったようだ。・・・一応私は艦隊の責任者なんだし、今後は気を付けないとね。

 

「ああ、そういえば霊夢さん、確かゼーペンストって、エピタフ遺跡があるんでしたっけ?」

 

 すると、今度は早苗から話を振られてくる。

 ティロアで解析結果を聞きに行ったサナダさんの話だと、なんでも今ゼーペンスト宙域でエピタフの存在を示すなんとか粒子の反応が増大しているという。・・・上手くいけば、依頼のついでにそっちも回収できるかもしれないわね。

 

「確かそんなことを言ってたな。・・・えっと、なんとかヒッグス粒子だっけ?反応があったとかいうやつは」

 

「はい、ドローンヒッグス粒子ですね。エピタフ遺跡とデッドゲートの両方から検出されるので、これがエピタフとデッドゲートの間に何らかの関連性がある証拠だ、みたいな話をされていたと記憶していますが―――」

 

「・・・お前、よく覚えてるな・・・?」

 

「えへへ・・・私、こう見えても記憶力には自信があるんです。なんでも今の私はAIですからね!」

 

 霊沙ほどではないけど、私も早苗の記憶力には少し驚かされた。あの娘はあのとき私と一緒に居たから話は後でサナダさんから聞いただけだと思うんだけど、よくあそこまで覚えられるものだ。私はもう9割ぐらい忘れてしまったというのに。

 

 というか霊沙、あんた確か直接聞いたんじゃなかったの?アルピナさんの解析結果。直接聞いてきたのなら少しは覚えておきなさいよ。

 

「あっ、それで話の続きですが、その粒子の反応が最近ゼーペンスト自治領の宙域で頻繁に検出されてるらしいですね。サナダさんは、それがあの宙域にエピタフがあるかもしれない証拠だとか言ってましたけど・・・ククッ、どうします?霊夢さん。"ちょっと拝借して"いきますか?」

 

 説明を続けていた早苗が、にやっと悪そうな笑みを浮かべた。その意味を察した私は、思わずつられてにやけてしまう。

 

「そうねぇ・・・ゼーペンストには依頼を長引かせられた恨みがあるんだし、もしエピタフがあるとしたら"死ぬまで借りて"も文句を言われる筋合いはないわね」

 

 早苗の台詞に、親友の言葉を借りて返す。というかここまで長引かせられたんだから、それぐらいの補償はあって然るべきだろう。それに加えてマッド共の知的好奇心を満たさせるという意味でも、エピタフがあるなら手に入れた方が良さそうだ。

 

「ハハッ、決まりだなこりゃ。面白くなりそうだ」

 

「ゼーペンストの領主は怠惰に溺れてるとの噂です。そんな奴に持たせて腐らせるぐらいなら、私達で有効活用してやりましょう」

 

「そうね。財は然るべき者が手にするべきだわ」

 

「おい、そりゃ自分がその相応しい者だと言ってるように聞こえるぜ?」

 

「ええ、そう言ってるのが聞こえなくて?」

 

「クッ・・・こいつは一本取られたな」

 

「ふふっ、それでこそ霊夢さんです。ところでゼーペンストの領主は享楽三昧に溺れてるらしいですが、ここは一つ、霊夢さんも見習って、私に溺れてみませんか?」

 

「ちょっ・・・い、いきなりね、早苗―――。わ、悪いけど、それはできないわ・・・」

 

 なんの脈絡もなく、唐突に早苗がそんなことを切り出した。一変して蠱惑的な表情で迫る早苗に少しどきりとさせられるけど、やっぱりそういうのは駄目だと思う。

 

「ちぇ~っ、少しは上手くいくと思ったのに」

 

「あっ、ずるいぞお前!・・・ってさ、こいつが女に溺れるなんて、それこそ性質の悪い冗談だろ」

 

「あら、霊夢さんに私の魅力が分からないとでも?くすっ、大丈夫ですよ霊沙さん。貴女と違って私は包容力がありますからね!」

 

「ぐぬぬ・・・謀ったな」

 

 早苗は自慢げな表情で、見せつけるように胸を張ってみせる。霊沙はなんだか悔しそうな顔してるけど、なんか話が脱線してない?

 

「ちょっと二人とも止めなさいよ。それはともかく、エピタフは頂く方針で問題ないわね?」

 

「おう、それで行こう。なぁに、相手にとっちゃ因果応報だ。奪われたって仕方ないさ」

 

「ですね。堕落領主にお灸を据えるといきましょう」

 

 私が方針を確認すると、早苗と霊沙もにやりと嗤ってそれに同調した。

 私を含めた三人で、まるで悪代官みたいに話し合う。正直依頼の報酬だけじゃ物足りないかもしれないし、自力救済的な意味でもお宝は頂くに越したことはない。

 その話し合いは、"お主も悪よのう?"なんて決まり文句を言ったところで、唐突な乱入者に打ち切られた。

 

「おい、そこの姦しいお嬢さん達、もうすぐ到着だ。準備の方も頼んだぞ」

 

「おう、もうそんな時間か。そんじゃ私は戻るとするか。じゃあな」

 

「あ、はい。お疲れ様でした」

 

 コーディの一言で意識を戻した私達の、その場でお開きにして解散する。寄港と聞いた霊沙のやつは、さっさと艦橋を後にした。

 

「では霊夢さん、入港したら地上に向かいましょう。バリオさん達が待ってますからね」

 

「そうね。ああ、彼等が話し合いに成功してりゃさっきの話は無しなんだっけ・・・」

 

「あっ、そうでしたね・・・まぁ、そのときはそのときです」

 

 バリオさんで思い出したけど、もし奪還対象が保安局の交渉で帰ってくるならゼーペンスト侵攻の話は無しになるのだ。それはそれで少し残念な気もするけど、面倒が減ったと思えばそれも良いかな。

 

 

 暫くして、艦隊はポフューラの宇宙港に入港する。

 私はコーディに艦の留守を預けると、真っ先に保安局の対策本部へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~惑星ポフューラ地上、セグェン・グラスチホテル~

 

 

 

 地上に降りた私と早苗は、連絡にあった保安局の対策本部に向かっている。バリオさんから送られてきたデータでは、セグェン・グラスチ社のホテルにその本部が置かれているらしい。地図でその場所を確認してから、そのホテルへと足を運ぶ。

 というかさ、セグェン・グラスチホテルって、安直な名前よね。普通もっと捻った名前にするでしょ、こういうのって。

 

「あっ、見えてきましたよ。あの建物みたいです」

 

「へぇ・・・結構立派なのね。さすが大企業が出資してるだけのことはあるわね」

 

 早苗が指した方角に、ガラス張りのドームに覆われた流線型の建物が見えてくる。案内にあったホテルの外観を撮った写真と同じ建物みたいだし、あれが件のホテルだろう。

 

「いやぁ~、綺麗なホテルですねぇ。霊夢さんとあんなところに泊まれたら・・・」

 

「はいはい、それはいいから早く行きましょう。バリオさん達も待たせてるし」

 

「了解ですっ」

 

 ホテルを見つけた私達は、真っ直ぐにそこに向かう。

 すると、ホテルのロビーから、誰かが言い争うような声が聞こえてきた。

 

 ―――そんな!?それで良いんですか?

 

 ―――言った通り、保安局としちゃもう何もできない。おまえらも、この件には関わらん方がいい。もう、話すことは何もないさ。じゃあな。

 

「あれ・・・もしかして、バリオさんとユーリ君の声じゃないですか?」

 

「・・・そうみたいね。何かあったのかしら」

 

 その声の主は、知り合いであるバリオさんとユーリ君のものだった。言い争いが終わったのか言葉が止み、ユーリ君達がホテルから出てきたところで私達とすれ違う。

 

「あっ・・・霊夢さん―――」

 

 私達に気づいたユーリ君が声を掛けるが、その顔はどこか曇ったような表情だ。一緒に出てきたトーロ君やチェルシーさんなんかも同じような顔をしている。

 

「また会うなんて奇遇ね、ユーリ君。ところで、さっき言い争ってたみたいだけど、何かあったの?」

 

「ああ、そのことなんだが、シー「トーロ!、余計なことは言うな」

 

 私の質問に答えようとしたのかトーロ君が口を開いたが、それをユーリ君が制する。彼があんなことするなんて、口止めされたか、あまり知られたくない事情なのだろうか。

 

「おっと、そうだったな・・・済まねぇが詳しくは言えねぇ。それじゃあな、霊夢さん達」

 

「あの、お騒がせしました。失礼します」

 

「ってな訳で詳しくは言えないから、今回はこれで勘弁してくれ。そんじゃ行くよユーリ。また縁があれば、どこかで会うかもしれないね」

 

「はい、では僕達は行きますので・・・」

 

「そう、なら無闇に詮索はしないわ。またどこかで会いましょう」

 

「ええ・・・」

 

 ユーリ君達は軽く会釈をしてから、ホテルから離れていく。

 

「・・・結局、なんだったんでしょう?」

 

「さあ?―――まぁ、大体の察しはついたけどね。言い争ってたのはバリオさんみたいだし、彼に話を聞くのが早いでしょ。行くわよ」

 

「はいっ」

 

 ユーリ君達の背中を見送って、私達もホテルに入る。既にバリオさんの姿はなかったけど、ロビーを見回してみると見知った顔があるのに気づいた。

 

「あれは―――」

 

「あっ、霊夢さん・・・!」

 

 同時にあちらも気づいたようで、私を見つけると小走りでやってくる。

 

「・・・どうも。何かあったみたいだけど、詳しく聞かせてくれるかしら?メイリンさん?」

 

 ロビーに居たのは、スカーレット社のメイリンさんとサクヤさんの二人だ。いわば今回の依頼での雇用主なので、バリオさんと一緒にいても不思議ではない。

 

「ええ、元からそのつもりです。あっ、一度バリオさんを呼び戻した方がいいですね。サクヤさん、頼めますか?」

 

「分かったわ。場所も私達が借りてる部屋に移す?」

 

「そうしましょう。ホテルのロビーでするような話ではないですからね。という訳で、詳しくは場所を移して話しますから私についてきてくれますか?」

 

「了解。まぁ・・・何となく面倒な方向に転がってるのは察しがついてるわ」

 

「ええ、残念ですがね―――それではお二方はこちらに」

 

 

 メイリンさんに案内されて、私達はホテルの一室に入る。部屋の中には、先にロビーを後にしたサクヤさんと、保安局のバリオ宙尉が待っていた。

 

「・・・ここが例の対策本部ってやつ?」

 

「ああ、そうだな―――もっとも、ここの役割は終わったも同然だが」

 

 バリオさんは、以前のような軽い雰囲気は鳴りを潜め、深刻な表情をして俯いている。それだけで、事態が好ましくない方向に動いたことは容易に想像できる。

 

「あの―――バリオさん、一体何があったんです?」

 

「―――宙佐が、殺されたんだ」

 

「えっ・・・それは・・・」

 

「言った通りさ。許可を得て宙佐はゼーペンストへ交渉に向かったんだが、あろうことかあの領主は裏切りやがった・・・!何が許可など知らないだ、この畜生!―――、っ、済まねぇ、ちょっと感情的になっちまったな」

 

 バリオさんは怒りに任せて机をダン、と握り拳を降り下ろして叩く。それだけ悔しい思いをしたのだと、聞いてるこちらにも伝わってくる。

 

「いえ、そんなことは・・・」

 

 聞いていた早苗もそれが伝わってしまったのか、気遣うような態度を取った。でも当事者でない私達にはその感情を共感しきることなど到底できないわけで、早苗も言葉を詰まらせて黙ってしまう。

 

「バリオさん、申し訳ないけどそれ、詳しく聞かせてくれないかしら」

 

「ああ―――君達は彼女達の関係者だからね、詳細を聞く権利はあるだろう。ただ、この件は内密に頼むぞ」

 

「元よりそのつもりよ」

 

 黙秘を条件に、バリオさんは事の全貌を話してくれた。この話は先ほどユーリ君達にもしたということだから、言い争いの原因はこれでしょうね。あのときユーリ君がトーロ君を制したのも、宙尉から口止めされてたからか。まぁ、あっちは私達の事情なんて知らないだろうし、普通そうするわよね。

 

 バリオさんの話を要約すると、グアッシュ海賊団に拐われたのはスカーレット社の令嬢だけではなかったらしい。実はこのホテルのオーナーであるセグェン・ランバース社の令嬢までが被害に遭ってグアッシュに誘拐されていたらしく、それで一時的にカルバライヤとネージリンスは協力関係を結んだというのだ。

 

 確かにいがみ合ってるこの二国だけど、互いの有力企業が海賊被害に遭ったというなら話は別らしい。要は敵の敵は味方という訳だ。国にとって有力企業というものは、経済においても政治においても重要なアクターだ。そこからの圧力とか考えたら、互いに手を取り合って共通の敵をボコればいい・・・というのが普通の考えなのだが、相手は自治領、国の機関が強権的に踏み込めばむしろ非難されるのは二国の方だ。自治領というのは、それだけ独立性の高い存在なのだ。だから協力とはいっても、このように捜査協力しかできない。

 

 加えて殺されたというシーバット宙佐は最後に音声記録を残していたらしく、バリオさんもそれで宙佐の死を知ったという。その記録も聞かせてもらったのだけど、胸糞悪さしか浮かばないほど酷いものだった。

 

 ―――大体何なのよ、あの舐めた領主・・・!

 

 宙佐を殺したというゼーペンストの領主は、記録音声から分かる範囲では終始ふざけた態度で「アハァ~」とか言いながら、何の躊躇いもなく宙佐を殺した。宙佐を殺されたという事実より、そっちの方が私にはよっぽど頭にくる。

 

 記録音声と資料で見た領主の顔が重なると、堪らないほど殺意が沸き上がってくる。あんな命を弄ぶような輩を、今すぐ八つ裂きにしてやりたいと。

 

 だけど、それはこの場で出していい感情ではない。私はそれを堪えて、バリオ宙尉の話に意識を向けた。

 

 

 

「―――これが、事の全貌さ」

 

「酷い・・・何なんですか、そのバハシュールとかいうクソ領主!それだけされて、保安局は何もしないんですか!?」

 

 話を聞いて怒りが頂点に達したのか、早苗がバリオさんに詰め寄る。

 

「・・・貴女、さっきの話聞いていたでしょ?保安局は何もしないんじゃない、何もできないのよ。彼だって、それは悔しい筈よ」

 

「それは・・・けど、泣き寝入りなんて、あまりに酷いじゃないですか!」

 

 そんな早苗をサクヤさんが制するが、尚も早苗は納得いかない様子だ。あの娘はけっこう直情的なところがあるから、不条理ってのをよほど許せないんだろう。だから他人事の筈なのに、あんなに怒ることができる・・・私とは、まるで逆ね。

 

「・・・君の心遣いは有り難いが、こればかりはどうしようもないんだ。所詮俺は公僕さ。俺一人の独断で、戦争おっ始めるなんてのは出来ないんだよ・・・」

 

 バリオさんもそんな早苗を落ち着かせようと声を掛けたが、その手は硬く握られていて、見ているこっちも彼がよほど悔しい思いをしてるんだってことは分かってしまう。尊敬する上司を殺されたんだから、本当なら彼が一番敵討ちに行きたい筈だ。だけど、組織の縛りでそれは叶わない。なら―――

 

「バリオさん・・・なら、私達に任せなさい」

 

「は?」

 

 私の言葉の意図が分からなかったのか、バリオさんはそんな声をあげた。

 国家が駄目ならば、私達民間でやればいい。なに、それだけのことだ。宇宙開拓法第十一条、『自治領領主はその宙域の防衛に関し、全ての責任を負う』。要するに、自治領に対する襲撃者が海賊や民間人なら、それは自治領のみで撃退しろってこと。仮に私達がゼーペンストを滅ぼしても、それは全て領主の力不足で済まされる話なのだ。

 ふぅ・・・艦長になってから、色々勉強しといてよかったわ。宇宙関連の法律とか、囓っといて正解だった。

 

「どうせこれで、私達のゼーペンスト侵攻は確定したようなもの。ご令嬢奪還のついでにでも、あの領主は退治してやるわ。メイリンさん、そっちの準備はどうなってるの?」

 

「私達ですか?それなら不測の事態に備えて艦隊を準備してましたから、あと数日もあれば直ぐに出港できますよ!無事に本社からの援軍も到着しましたから」

 

「それは結構ね。ここは一つ、悪徳領主に天誅を下しにいくとしましょう」

 

「フッ、それでこそ・・・御嬢様達を拐った代償はしっかり払わせてやるつもりですから!」

 

 メイリンさんも、ゼーペンスト乗り込みにすっかり乗り気だ・・・というより、あっちはあっちで切実な理由があるんだから、士気が高いのは当然か。

 さて、どうせ乗り込むなら奪還対象にセグェン・グラスチとかいう会社の令嬢も加えておくか。どちらにせよ、ここは短期決戦で片をつけなくてはならない。

 

「おい、元から話は聞いていたが、本当にそれで大丈夫なのか?バハシュールは先代の時に築かれた艦隊に守られて星から一歩も出てきやしない、それに加えて艦隊自体も強力だ。スカーレット社の方々も、本気で乗り込むつもりで?」

 

「元より危険は承知の上、お嬢様を助けるためならそれぐらいのリスクなんぞどうという事はありません」

 

「・・・なら、傭兵は傭兵らしく雇用主の意向に従わなきゃね。個人的にもあの領主は〆なきゃ気が済まないし」

 

「ふふっ、敵討ちですか。これぞ忠臣蔵ですね!」

 

「そこの緑ちゃん、言っとくけどお嬢様方は死んでないわよ?そっちは奪還だってこと、忘れないでね」

 

「心得てますよ!そっちが本来の侵攻目的、いわば主目標ですからね」

 

「分かってるなら、それでいいわ」

 

 私と早苗に、メイリンさんとサクヤさんも、打倒ゼーペンストの方向で一致する。それを見たバリオさんが、ふと、少し口元を緩めた。

 

「すまんな、こっちで何とかできるなら君達を危険な目に逢わさずに済んだのだが・・・。スカーレット社の方々も、お力になれず申し訳ない」

 

「いえ、そんなことはありません!シーバット宙佐も尽力してくれましたから、それに報いる為にも必ず目的は果たしてきますよ」

 

「・・・本当に申し訳ない。・・・武運を祈ってます。君達も、気を付けて行ってくれ」

 

「心配には及ばないわ。今まで通り、力の差で叩き潰すだけ。数が100や200増えたところで、やることは変わらないわ」

 

「あら、士気が高くて何よりね。雇用主として期待しても良いかしら?」

 

「ふふっ、この銀河で私達の行く手を阻めるものなどいませんよ!私と霊夢さんで、道は必ず切り開いてみせます!」

 

「それは結構。ではバリオさん、我々は行って参ります!」

 

「ああ・・・」

 

 最後にメイリンさんが力強く宣言して、ホテルでの話し合いは幕を閉じた。最後のバリオさんの表情は、少し気が晴れたようなものだった。

 

 

 ホテルを出た後、私達はメイリンさん達と打ち合わせをして、具体的な侵攻スケジュールなどを練った。それまでにお互い準備を整えておくとのことで解散となり、この星を出港した時点から侵攻を始めることに決まった。

 それににあっちの好意で物資を少し融通してもらったのは有り難かった。連戦が予想されるだけに、物資はあるに越したことはない。

 

 ちなみに建造していたルヴェンゾリ級軽巡は、それぞれ〈ボスニア〉、〈ブルネイ〉と命名された。万全の戦力とは言えないけど、敵は国だ、戦力などいくらあっても足りないものだ。一0Gドッグでは、用意できる戦力にも限界がある。後はどう戦い抜くか、それを考えるのが今後の課題ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

「そういえば霊夢さん、私達の艦隊の名前、まだ決めてませんでしたよね?」

 

「うん、確かそうだったけど・・・なんで今さらそんなこと?」

 

 旗艦〈開陽〉の艦橋に戻ったところで、早苗からそんなことを尋ねられた。まぁ、確かに名前は決めてなかったと思うが、それがどうしたのだろうか。

 

「ほら、これからゼーペンストに討ち入りするんですから、武士みたいに名乗りを上げるべきじゃないかなって思いまして。ねぇ、どうですか!?」

 

 早苗は目を輝かせながら、そんな提案をしてきた。なるほど、武士みたいにってのは少しズレてる気がしなくもないけど、宣戦布告なんかをする際にはきちんと名乗れる名前の一つや二つはあってもいいか。

 

「・・・とか言ってるけど、あんた達はどう思う?」

 

 ただ突然のことなので、私は他のクルーにも意見を求めた。私達の艦隊の名前なんだから、他の人にも意見を聞いた方がいいだろうと思ったからだ。こうした重要なことなら、やはりそうすべきことだろう。

 

「うーん、艦隊名ですか・・・でもこの艦隊は艦長のものですし、独断でやっても良いんじゃないですか?」

 

「私も同意見ですね。何よりアイデアがありませんし」

 

 だが、返ってきたのはそんな言葉だ。ミユさんとノエルさんは、この件を私に一任するつもりらしい。

 

「私も同じく。というか私はエンジンが弄れれば満足ですから・・・流石に奇抜なのは恥ずかしいですけどね」

 

 ユウバリさんはそう言ってるけど、なにも心配することはないわ。元より奇抜な名前にする気はないから。

 

「ふむ・・・やはり彼女達の言うとおり、これは貴女の艦隊だ。名前を付ける権利は貴女にある」

 

「だな。なぁに、そう難しく考えるな。そんなの直感でどうにかなる」

 

「パス、面倒くさい」

 

 今度は順に、ショーフクさん、フォックス、霊沙が言う。というか霊沙、あんたも少しは真面目に考えなさいよ。こうやって私が提案してるんだし。

 

「・・・だ、そうだ。どうする?霊夢」

 

 この場にいる全員が発言したところで、コーディが決断を求めてくる。と言われてもそのアイデアが無いからこうして求めた訳なんだけど・・・

 

「・・・ねぇ早苗、うちってさ、他の連中から何て呼ばれてるのかしら?」

 

 もうこうなったら、二つ名とかがあるならそれを使わさせてもらおう。幸い私達は派手に暴れてるんだし、そういうものの一つや二つはある筈だ。

 

「えっと、二つ名ですか?それでしたら、『海賊狩り』とか、『赤き死神』とか『可愛い少女提督』とか」

 

「ちょっと待って、三番目のは何!?」

 

 早苗が挙げてくる二つ名に変なのが混じってるんだけど、何なのよそれは!大体私の顔なんてそんなに見られた訳じゃ・・・ああ、そういえば海賊とかによく通信で降伏勧告してたっけ。それで広まっちゃったかな・・・

 早苗はそれを意に介さず、さらに紹介を続ける。

 

「あっ、こんなのはどうですか?」

 

 そう言って早苗が提示したのは、『紅き艦隊』の名前。

 旗艦〈開陽〉の艦体には目立つ赤い線が入っているし、私の服も赤いから・・・かな?なんかあの吸血鬼みたいな感じもするけど、今までの中だと一番良さそうな名前じゃない。うん、これでいきましょう。

 

「『紅き艦隊』かぁ・・・それなりに良いんじゃない?まぁ、でもそのまんまじゃつまんないから、『紅き鋼鉄(くろがね)』なんてのはどう?」

 

「『紅き鋼鉄』ですか?・・・はい、とっても格好いいです!これなら堂々と名乗れますね!」

 

 どうやら私が考えた艦隊名は、早苗には好評みたいだ。あとは他のクルーの反応だけど・・・

 

「良いんじゃないですか?それ。私は賛成です」

 

「元から艦長に任せましたから、不満はありませんよ」

 

「うん、格好いいし、それで良いんじゃない?」

 

 

「・・・とのことだ。これで艦隊名は決まりだな」

 

「なら、これで行きましょう。後で管理局に登録しておくわ」

 

 こうして無事?、艦隊名も決まった。紅き鋼鉄(くろがね)、か・・・。少し格好つけたけど、まぁこんなものでも良いわよね?

 という訳で、今日から私達の艦隊は『紅き鋼鉄(くろがね)』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、ボイドゲート・国境周辺~

 

 

 

 

「ゲートアウト完了、通常空間を確認しました」

 

「後続艦、友軍共に異常なし。全艦システムオールグリーン、いつでも行けます」

 

「前方、距離25000と47000に複数の熱源反応を確認。うち一方はユーリ艦隊と認む。後方の艦隊は識別信号からゼーペンスト領警備隊と判明。艦長、如何されますか?」

 

 バリオさんとの会合から3日後、侵攻準備を整えた私達とメイリンさんの艦隊は合流を果たし、遂にゼーペンスト領に踏み込んだ。

 ゲートから出るや否や、艦の各種レーダーやセンサー類が得た情報が逐一更新されていく。私はそれらの情報と上がってくる報告を考慮して、即座に今後の方針を打ち立てた。

 

「なんでユーリ君が・・・って、成程、ユーリ君も考えることは同じだったってわけか。艦隊各艦は準戦闘配備のまま待機して。まずは慣習に則って、最後通牒といきましょう」

 

 予想外のユーリ君達の存在に、一瞬何故だと思ってしまうが、あれはあれで正義感の強い奴だ。バリオさんの話を聞いて、黙ってはられなかったのだろう。だからあいつらもゼーペンストに侵攻してきたって訳か・・・でも、こうして何度も遭遇するなんて、そろそろ偶然じゃ済まされないかもしれないわね。

 

「了解です。ところで霊夢さん、連中には何て伝えますか?」

 

 隣に控えていた早苗が、最後通牒の文面をどうするかと尋ねてくる。ここはやはり、多少強気に出た方が良さそうかな。

 

「そうねぇ、こっちの要求を伝えるのは当然としても、少しは脅した方が良いかもね。"要求に応じない場合は、貴国の速やかなる滅亡が達成されるのみだ"とかね。ミユさん、それでお願いできる?」

 

「了解です。ゼーペンスト首都星と国境警備隊に向けて最後通牒を送信。首都星への通信方法は超光速IP通信を選択します」

 

 私がミユさんに最後通牒を連中に伝えるように頼むと、彼女は素早くその準備を整えていく。さて、連中がどう動くか。まぁ、恐らくは要求なんて蹴ってくるでしょうけど。

 

「最後通牒文章、送信します。これで如何ですか?」

 

 ミユさんが文章を送信する前に、その内容が艦長席に送られてくる。私はざっと、その内容に目を通した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 宛、ゼーペンスト自治領政府

 

 0Gドッグ、『紅き鋼鉄(くろがね)』よりゼーペンスト自治領に告ぐ。当艦隊は、貴国に対し以下の事項を要求する。

 

 一、カルバライヤ、スカーレット社社長令嬢レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレットの2名及びネージリンス、セグェン・グラスチ社会長セグェン・ランバースの孫娘を速やかに返還されたし。

 

 二、以上3名の返還交渉に際し、許可を得て貴国に赴いたカルバライヤ保安局員シーバット・イグ・ノーズ二等宙佐を信義則に反し不当に殺害した件をカルバライヤ側に謝罪し、同時にその損害を賠償されたし。

 

 回答は一時間以内にされたし。

 以上二点の要求が達成されない場合、本艦隊及び同盟軍スカーレット社は即座に自力救済に乗り出すことを宣言する。その場合は貴国の速やかなる滅亡が達成されるのみである。賢明な判断を期待する。

 

『紅き鋼鉄』艦隊司令、博麗霊夢より、以上。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふふっ、上出来ね」

 

 文章に目を通した私は、思わずそう呟いた。

 

「恐れ入ります。では、この内容で送信しますね」

 

「ええ、任せたわ」

 

 ミユさんが最後通牒文章を送信する。回答は一時間以内とあったが、あんな内容の文章だ、海賊とつるむような悪徳領主には受け入れ難いものだろう。なら、結末など自ずと決まったようなものだろう。

 

 

 

 ここに、ゼーペンストとの戦端は開かれた。




今回は随分長くなってしまいましたが、今後はペースを戻していきたいと思います。

ようやく5章も中盤、ゼーペンスト侵攻となりました。ここでやっと霊夢艦隊の作中での正式な呼び名が決まりましたが、あまり深い意味はありません。名前はアルペジオの『蒼き鋼』に影響を受けて考えたものです。鋼鉄をくろがねと読ませるのは、鋼鉄の艦隊という海戦バカゲーの影響ですね(笑)

ちなみにここの霊夢さんは人の死にあまり心を動かされない子なので(さすがに魔理ちゃんあたりだと違うとは思いますが)、シーバット宙佐の訃報では早苗さんと違って一歩引いた視点にいます。早苗さんの方は根が純粋なイメージがあるので、ああやって素直な描写にしています。


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第四九話 ゼーペンスト侵攻

 

 ~ゼーペンスト宙域、ボイドゲート・国境周辺~

 

 

 

「艦長、ゼーペンスト艦隊のエネルギー反応増大中です。戦闘態勢に入ったものと思われます」

 

 敵艦隊を監視していたこころから報告が届く。

 回答期限まではあと30分ほどある筈だが、敵さんはどうやら先に仕掛けるつもりらしい。ならば、こちらもそれに応えるまでだ。

 

 改めて、現在の私達の戦力を確認しておこう。

 

 まず本隊にはこの旗艦である戦艦〈開陽〉に主力の重巡洋艦〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉、それに護衛のノヴィーク級駆逐艦が2隻。

 第一機動艦隊には空母〈ラングレー〉と航空巡洋艦〈高天原〉、護衛のサウザーン級2隻にノヴィーク級駆逐艦が4隻。

 

 第二巡航艦隊には巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉にサチワヌ/ルヴェンゾリ級軽巡〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉〈モンブラン〉〈サチワヌ〉〈ブルネイ〉〈ボスニア〉の6隻とグネフヌイ級駆逐艦5隻。

 

 第三打撃艦隊は巡洋艦〈ブクレシュティ〉にアーメスタ級駆逐艦〈ブレイジングスター〉とヘイロー級駆逐艦3隻にアリアストア級駆逐艦が2隻。

 

 合計で、戦力として使えるのは戦艦1、巡洋戦艦2、空母1、航空巡洋艦1、重巡洋艦2、巡洋艦9、駆逐艦17隻だ。これに加えて後方支援艦隊が随伴しているが、これの護衛戦力は万が一に備えて支援部隊を守るためのものだから、積極的には投入できない。

 

 続いて友軍であるスカーレット社私設艦隊の陣容だが、こちらはカルバライヤでも共に戦った改ドーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉に改ゾロ級駆逐艦とアリアストア級駆逐艦が2隻ずつ、改レベッカ級警備艇が6隻だ。レベッカ級は各部に大規模な改装が施されているとの事らしく、水雷艇として運用できるそうだ。しかし、技術の水準が小マゼランベースであることを考えると、〈レーヴァテイン〉以外はあまり当てにできないだろう。つまり、主力艦隊は私達の艦隊だということだ。

 

 まぁ...ユーリ君達もここにいるみたいだし、最低限の戦力としては数えられるかな。

 

「敵艦隊の前方に多数の小型のエネルギー反応を感知、艦載機を発信させた模様です!」

 

「敵艦隊の規模は?」

 

「はい、現在確認できるのは空母3隻、軽巡4、駆逐艦6隻です。解析の結果、空母はドゥガーチ級、巡洋艦はフリエラ級、駆逐艦はリーリス級の改造艦と判明。何れもネージリンス製艦艇です」

 

 ミユさんから敵艦隊の詳細なデータが届けられる。ネージリンスは一般に小マゼランでは空母や艦載機の技術に秀でており、艦載機を瞬時に展開できる重力カタパルトを有しているのもこの銀河ではネージリンスだけだ。そのネージリンス製艦艇を主力に置いているということは、敵艦隊の陣容を見ての通り、ゼーペンスト軍は機動部隊を中核とした編成を行っていると見て間違いない。

 

「成程、敵は機動部隊ね・・・早苗、第一機動艦隊の艦載機はいつ出せる?」

 

「はい、現在発進準備中とのことですから、あと10分は・・・」

 

 対するこちらも機動部隊を保有してはいるが、連中と違って重力カタパルトを有していない私達は幾ら性能で勝る艦載機を持っていても、展開速度の差で先制を許してしまう。小マゼラン艦載機の性能を考えれば致命傷を受ける艦は出ないと思うが、開戦早々鬱陶しい蠅に集られるのは癪に障る。さて、どうしたものか・・・

 

「―――迎撃機だけでいいわ、すぐに発進させて。ノエルさん、航空隊にも直ちに発進命令を」

 

「了解です」

 

「了解っ!、〈ラングレー〉、〈高天原〉戦闘機隊を直ちに発進させます」

 

 今から攻撃隊を出すとしたら、時間的に間に合わない。ならここは迎撃機だけでもできるだけ上げて艦隊上空の制空権を確保しておくべきだ。敵の主力が空母である以上、艦載機さえ無力化すれば敵は最大の攻撃手段を失う。フリエラ級とリーリス級の護衛艦は元設計があまり対艦に特化した艦ではないし、砲雷撃戦に持ち込めばこちらが有利な筈だ。

 

「旗艦〈開陽〉より〈ブクレシュティ〉へ、聞こえてる?今から敵攻撃隊を迎え撃つから、あんたの打撃艦隊は敵攻撃隊撃退後にすぐ敵艦隊に肉薄して。ユーリ君の艦隊を援護しつつ雷撃戦で止めを刺すわよ」

 

《了解。蠅を追い払ったあとに突っ込めばいいのね》

 

 そこで私は第三打撃艦隊を率いる〈ブクレシュティ〉に連絡を入れて、作戦内容を伝える。あの攻撃隊が真っ直ぐこちらに向かってくるなら迎え撃ち、然るのちに砲雷撃戦に移行する。あれがそのままユーリ艦隊に向かうようなら、そのときは数の有利で叩き潰せばいい。

 

「敵攻撃隊160機、わが艦隊に向け接近!」

 

「迎撃隊、発進します」

 

 どうやら、敵艦隊は先に此方に矛先を向けたようだ。あんな明白な宣戦布告文章を送りつけた以上、最優先で叩くべき適と判断したのか。

 

 此方からも、発進準備を終えた迎撃隊が続々とカタパルトから射出されていく。主に前衛を張る第二巡航艦隊各艦から無人戦闘機〈スーパーゴースト〉の部隊が発進しているが、そこに〈開陽〉から発進した機動兵器〈ジム〉や可変戦闘機〈VF-19〉〈VF-22〉が混ざって迎撃網を構築する。全体の数は、第一機動艦隊から発進したのと第二巡航艦隊から発進したのを合わせてスーパーゴースト戦闘機隊が70機前後、それに〈開陽〉艦載機隊約20機が加わっている。数の上ではゼーペンスト攻撃隊にかなり差をつけられたが、相手の使う艦載機が小マゼランのモデルである以上、此方が航空優勢を取れる筈だ。

 

「迎撃隊、敵攻撃隊と接触します!」

 

 艦隊の前に広がる宇宙空間に、両軍の激突を示す火花が散った。

 

《――霊夢さん、此方も迎撃隊を向かわせました。今からそちらに加わります!》

 

「どうも、有り難いわ。このまま前線で敵攻撃隊を押し止めるわよ」

 

《分かりましたっ、敵攻撃隊を排除した後、長距離砲戦に移行します》

 

 〈レーヴァテイン〉から通信が入ってきたと思ったら、どうやらあちらも迎撃機を出してくれたらしい。数は少ないけど、こっちの負担はこれで減った筈だ。

 

 

《こちらガーゴイル1、戦況は有利だが、何せ敵の数が多くて処理しきれん!――くそっ、レーザーガンの放熱限界かっ!》

 

《チィッ―――おいレヴィ、左翼の守りが薄い!抜かれるぞ!遊撃に回れ!》

 

《りょーかい隊長!》

 

《右はまだ押さえ込めてるようだが・・・っと、背後を取られたかっ―――ッ!》

 

《―――一機撃墜・・・隊長、お怪我はありませんか?》

 

《あ、ああ―――大丈夫だ》

 

《こちらグリフィス1、畜生、ガンポットがイカれた!一度帰投する!》

 

「了解。グリフィス1、誘導に従い直ちに着艦せよ」

 

 

 ・・・迎撃隊の状況は、確かに有利には立てているものの未だ決定的な差とはなっていないようだ。画面上のデータを見れば確かに敵機の数は減っているが、何分元の数が多いだけあって敵を押し止めるので精一杯といったとこだろう。だが、時間と共に敵機の数は減っていき、それが一定に達すると今度は此方が有利に戦えるようになっていく。

 

《援軍が!?こいつは有難い!》

 

《アルファルド1、これで10機め・・・っ、撃墜!》

 

《この、墜ちろ・・・ッ、よし、こっちは9機めだ!》

 

《残余の敵機、反転。よし、迎撃成功だ。各機帰投するぞ!》

 

《了解!》

 

 敵編隊の数が30を切ったあたりで、ついに敵も撤退を開始する。これを見て、前線で迎撃隊の指揮に当たっていたディアーチェさんが即座に帰投を命令し、迎撃隊は最低限のインターセプターを除いて各母艦に帰投した。未帰艦機はスーパーゴースト18機にVF-19が2機・・・少し多いわね。だけど敵攻撃隊の迎撃自体は成功だ。なら、作戦を次の段階に移そう。

 

 迎撃が成功したあとは作戦手順に従って、他の艦隊が迎撃機の収容に追われている間に今度は〈ブクレシュティ〉率いる第三打撃艦隊の艦が一斉にスラスターを吹かせて増速する。それを見たゼーペンスト艦隊が砲撃を向けてくるが、第三打撃艦隊にはかすり傷一つ負わせることはできない。

 

《〈レーヴァテイン〉より〈開陽〉へ、此方も攻勢に出ます!》

 

「了解。そっちは取り巻きをお願いできる?」

 

《承知しました!》

 

 第三打撃艦隊の突撃と同時に、前衛に出た〈レーヴァテイン〉からも長距離砲の射撃が開始される。

 長距離砲は初弾から敵のリーリス級駆逐艦に着弾し、同艦を一瞬で轟沈せしめた。

 

《こちら〈ブクレシュティ〉、今から雷撃戦に移るわ。先ずは護衛の巡洋艦から排除する》

 

 続いて〈ブクレシュティ〉と駆逐艦〈有明〉〈東雲〉から長距離対艦ミサイル〈SSM-716「ヘルダート」〉が発射され、退避行動に移ろうと側面を晒していたフリエラ級2隻に着弾してこれをインフラトンの火球に変えた。

 

 護衛艦の数が減らされたことで、今までこっちが敵攻撃隊に忙殺されている間に護衛艦隊から攻撃を受けていたユーリ君の艦隊も盛り返したようで、こちらは巡洋艦と駆逐艦を各1隻、撃沈している。

 

《敵艦隊、撤退を開始・・・どうする提督さん、追撃する?》

 

 どうやら敵は、形勢不利を悟って撤退に移るつもりらしい。そこで〈ブクレシュティ〉―――アリスから追撃の意見具申が届く。深追いは禁物とも言うけど、速力では恐らくこちらが上、それに、開けたこの宙域では目の前の敵艦隊以外に伏兵の存在は考えられない。事前の空間スキャニングでも機雷の反応は無かったみたいだし(極小機雷なら話は別だけど)、これは各個撃破のチャンスと見るべきだろう。数の上では相変わらず不利なんだし、叩けるうちに叩いておくべきだ。

 

「許可するわ―――ただ、敵空母は後で調べるから、無力化に留めて」

 

《了解―――じゃあ遠慮なく、蹂躙させて貰うわ》

 

 そこで通信は切れ、第三打撃艦隊の各艦は水を得た魚のようにゼーペンスト艦隊に肉薄して護衛艦の装甲をプラズマとビームでズタズタに引き裂いていく。敵艦隊も空母を逃がそうと反撃してくるが、その全てが悉く回避されてはお返しとばかりにレーザーの雨が降り注ぎ、次々と残存の護衛艦は撃沈または無力化されていく。旗艦と思われる敵空母を捕らえることにしたのは、敵の技術水準を知ると同時に保管されているであろうデータからゼーペンストの情報を引き出すためだ。調査自体は今までもやってきたがこれといった収穫は無かったので、目の前の敵空母は其を得るための格好の情報源なのだ。戦いにはまず何より情報が必須、これが無ければ作戦の一つも立てられない。

 

 全ての護衛艦が撃沈され、空母も1隻が大破して他の艦もカタパルトと武装を潰され、とうとう観念したのか敵旗艦は降伏を申し出てきた。

 

 降伏勧告を受諾したあとは増援を呼ばれないよう保安隊と機動歩兵を送り込んで監視させて、残った空母を曳航しつつ、私達はこの宙域から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・首都惑星ゼーペンスト~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Hombre febril(feverish man)」】

 

 

 

「アーハァー?領内に侵入してきた艦隊がいるって?」

 

 相変わらず退廃的な音楽が流れ、妖しいネオンの光に満たされているバハシュール城。その中央で、部下からの報告を受けたゼーペンスト領領主、バハシュールは、さして深刻そうな顔など一切見せずに敵襲の報告を聞いていた。

 

「だったらさっさと所属国家に抗議すればいいじゃないか、ウルゴ将軍」

 

 バハシュールはさも当たり前のように、自治領の守護を任せている部下の大柄な艦隊指揮官―――ウルゴ・ベズンに言った。しかし、ウルゴはばつの悪そうな顔をして、バハシュールに報告の続きを伝える。

 

「それが・・・その、侵入者は民間人のようなのです。ですから警戒のため、本国艦隊の出動許可をいただきたいのですが・・・」

 

「ハァーン?そーんなことしたらここの警備が手薄になっちゃうじゃないかぁ」

 

「しかし―――」

 

 バハシュールに要請を拒絶されても、ウルゴは自身の勘に従ってここは食い下がろうとする。

 警備のためにボイドゲートに派遣した機動部隊が鎧袖一触で撃破されたのだ。それだけでも、今までの海賊風情とは明らかに格が違う敵だと思い知らされた。だからこそウルゴはいつもなら報告など馬耳東風と聞き流してしまう目の前の領主に首を縦に振って貰おうと考えたのだが、既に頭が享楽にしか向かないバハシュールに耳を傾けさせるなど、最早無理な話であった。

 そんなウルゴに鬱陶しさを感じたバハシュールは、彼を制するように面倒臭げに告げた。

 

「わかったわかった。とりあえず警備隊には気をつけるように言っておくよ。さぁ、行った、行った」

 

「は・・・」

 

 バハシュールはシッシッ、と邪魔な虫を追い出すような仕草をして、言外にウルゴに対してさっさと立ち去ってくれと伝える。

 ウルゴもこれ以上何を言っても無駄だと悟り、バハシュールの居室を後にする。

 どこで先代の息子の教育を誤ってしまったのだろうと内心で自問するウルゴだが、既にそれはもう遅いことだった・・・

 

 もしここで、ウルゴが『紅き鋼鉄』の正体と宣戦布告を知っていたのなら、また違った対応になっていただろう。しかしゼーペンスト政府に向けられた宣戦布告文章は、それが癪に障ったバハシュールの手により既に握りつぶされた後であり、ウルゴがその存在を知るのはもうしばらく後のことだった。

 

 バハシュールの怠惰とその適当さが、後にこの自治領を崩壊へと導く引き金となることも知らず、ウルゴを追い出した彼はまた、享楽に溺れる生活に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、小惑星帯~

 

 

「ふぅ~ん、成程ね・・・国相手に喧嘩を売る動機にしちゃ弱いけど、まぁいいわ。とにかく今は策を考えましょう」

 

《はい・・・それにしても、まさか霊夢さんも知っていたとは思いませんでしたよ》

 

「私達は被害者から直接依頼を受けてたからね。ま、あんたが知らないのも無理はないか」

 

 ゼーペンストの警備隊を蹴散らした後、ユーリ君の艦隊と合流した私達は、敵の目から逃れるためにあの宙域から移動した。時間的に考えて、ボイドゲート前に展開していた艦隊は既に本国に私達のことは通報してあるだろうから、増援が来る前になるべく早く離脱したかったのだ。

 

 そして鹵獲した2隻の敵空母を調査した結果だが、一部のデータが破棄されていたとはいえかなりの情報を得ることができた。

 連中の戦力についてだが、主に領内を警戒する警備隊が全部で70隻程度、主力の本国艦隊が150隻、親衛隊が40隻程度、合わせて260隻程度だと判明した。ファズ・マティ戦のスカーバレル艦隊より多少多めといった所だが、海賊と違ってフネの整備は行き届いているし、何より敵は実戦を想定した訓練を積んでいる。脅威度からすれば、ゼーペンスト艦隊の方が遥かに強敵だ。さらに艦載機についてだけど、空母に残されていたものを調査した結果、今まで遭遇した小マゼラン艦載機に比べて質の高い部品が使われていたという。成程、それが航空隊が苦戦した原因の一つか。

 それに、目的地の首都星ゼーペンストはこの本国艦隊と親衛隊に守られていて、迂闊に接近することができない。本星周辺の宙域もあまり遮蔽物がない開けた空間なので、攻めようとすれば直ぐに敵に見つかってしまう。

 

 さて、これをどうやって落とせばいいものか・・・

 

 私がユーリ君と話をしながら今後の方針について考えていると、レーダー担当のこころから報告が入った。

 

「艦長、前方に交戦反応・・・かなり大きいです」

 

「交戦反応?誰が戦ってるの?」

 

 報告では何者かがこの先で交戦しているらしいが、この宙域に侵入したのは私達だけではなかったのか?

 

「そこまでは分かりませんが・・・かなり大きな反応です・・・」

 

「妙ね・・・ゼーペンスト艦隊は、さっき得たデータを信用すれば大型戦艦クラスは運用してないんでしょ?それに主力艦隊が進撃するには早すぎる・・・一体何が戦ってるのかしら」

 

 私が件の交戦反応を示すデータを眺めて唸っていると、ユーリ君からもその話題が持ち出される。

 

《霊夢さん、此方でも交戦反応を捉えたんですが、確認のため接近してみますか?》

 

「そうねぇ、何が居るのか気になるし、そうしてみましょう。ただ、相手がゼーペンストの大艦隊だったら即座に離脱するわよ?」

 

《分かりました、確認してみます》

 

 そこで通信が切れると、ユーリ君の艦隊は反応があった宙域に向けて増速していく。私達も続いて、その宙域へと舵を切った。

 

 

 

 

「艦長、あれは・・・」

 

「・・・・っ、全艦、警戒態勢を維持して――!」

 

「りょ、了解です!」

 

 向かった先にあった反応、それは、私にとって忘れられないものだった。

 

 反応は三者あり、そのうち二つはカルバライヤでやり合ってた巡洋艦クラスと小型戦艦クラスの反応だ。以前砲撃戦をやってたあの連中が軒先を揃えて戦ってることに多少の疑問を覚えない訳ではないが、それ以上に問題なのが、三つめの反応の正体だ。

 

 

 ―――グラン、ヘイム・・・

 

 

 そう、何を隠そう、最後の反応はあの大海賊として名高いヴァランタインの乗艦、グランヘイムの反応だったのだ・・・

 観測機器の計器が振りきれるほどのエネルギー反応と、その特徴的なエネルギー放出パターンを記憶していた〈開陽〉の各種観測機器が、まるでパニックを起こしたかのように『DANGER!』と警告を鳴らしている。

 

「グランヘイム・・・何故こんな宙域に?」

 

「考察なんて今はいいわ。とにかく、ここをどう切り抜けるか考えないと・・・」

 

 今はまだ距離が離れているためかこっちに砲を向けてこないグランヘイムだけど、以前あれと戦ったときはこの〈開陽〉でさえあれに歯が立たなかったのだ。こんなところでアレに捕まって艦隊壊滅なんて悪夢は絶対に避けなければならない。

 

 画面上では、グランヘイムは他の二者の攻撃をものともせずに、適当に牽制砲撃を放っているように見える。

 

 相対する二者の艦もこのクラスの艦としてはエネルギー反応から見ても中々の高性能艦らしいが、グランヘイムの前ではそのようなことも全く意味を成さない。他の2艦が放った砲撃は当たらないか、当たってもグランヘイムの強固なシールドの前に弾かれてしまっている。

 

 加えて両者ともかなりの間戦っていたのか、よく見ると装甲外板なんかがボロボロだ。特に巡洋艦―――赤と黒のラーヴィチェ級の方はまるで穴空きチーズのようになるまで損傷させられている。シールドも既に磨耗しきっているのか、グランヘイムの砲撃が擦っただけでバチバチと火花を立てて消滅し装甲の構成素材が気化して煙のようになり、宇宙空間にデブリとしてばら蒔かれていく。

 

「あ・・・艦長!ユーリ艦隊が両者の間に向けて牽制砲撃を開始っ!」

 

「はぁ!?ちょっと、何やってるのよあいつ!」

 

 すると何を血迷ったのか、少し前に出ていたユーリ君の艦からグランヘイムと他の二者の間に向けて、牽制と思しきレーザーが発射された。・・・それでグランヘイムの気がこっちに向いたらどうなるか、分かってやっているのだろうか。

 

「ッ、全艦、回避機動の用意―――」

 

「あ―――グランヘイム、後退していきます!」

 

 私は万が一に備えて回避を命じ、ユーリ君に一言入れようと思ったのだが、その前に予想に反してグランヘイムはスラスターを吹かせて転進してしまった。

 

「・・・ふぅ、奴さんなんとか立ち去ってくれたか」

 

「グランヘイムの反応、ロスト―――何らかの潜航航行に移行したものと思われます」

 

 グランヘイムの反応が遠ざかっていき、遂にはこちらの探知範囲でも捉えられなくなる。肉眼でも、グランヘイムのスラスター光が遠ざかっていくのが確認できた。

 

「・・・あれは単に鬱陶しくなっただけだと思う。こっちに砲撃が飛んでこなかっただけでも僥倖ね」

 

「はい・・・素直に離脱してくれて助かりました」

 

 私の横で、早苗もほっと溜め息を漏らす。それだけグランヘイムを前にして緊張していたのだろう。以前あれと戦ったときは義体は無かったけど、彼女が〈開陽〉の統括AIである以上、あのときの戦闘は記憶している筈だ。

 

「あ、艦長―――前方の軽巡洋艦より通信回線に向けて何度もコールがされていますが、どうします?」

 

 軽巡洋艦といったら、あの赤黒のラーヴィチェ級の方か。確かあれ、前にすれ違ったときにも文句をぶつけてきたような気がするんだけど。

 

 私がそんな懸念を抱くなか通信回線が開かれたが、案の定、相手から飛んできたのは大声での抗議だった。

 

《おぃぃッ!!てめぇら何ジャマしてくれてるんだ!・・・ってまたお前らか!しかも今度は一緒ときた!》

 

「・・・『紅き鋼鉄』の霊夢よ。あんた、その艦でヴァランタインと戦おうなんて、大層な無茶をするものね」

 

《なんだとぉ、この小娘が!?分かったようなこと言ってくれるじゃねぇか!あんたにヤツと戦ったことがあるとでも言うのかよ!》

 

 ―――いちいち耳に響くのよ、あんたの大声・・・

 

 私が内心でそんな悪態をついても、相手の艦長と思しき若い男は抗議を止めない。大体なんであんな軽巡でヴァランタインと戦おうなんて気になるわけ?もしかして自殺志願者の類なのかしら。

 

「ええ。あんたと同じく、手も足も出なかったけどね」

 

 私なんて、目の前のこいつより多くの戦力を持っているだろう。〈開陽〉1隻の性能でも、エネルギー反応から推測されるこいつの巡洋艦よりは遥かに上だ。でも、ヴァランタインに艦隊戦では大敗北を喫した。私でさえそうなんだから、こいつごときがヴァランタインに勝てる道理なんてない。

 ・・・まぁ、白兵戦なら負ける気はしないんだけど。

 

《ちょっと、二人とも落ち着いて下さいよ!》

 

《ああ!?何だてめえ!そういえばお前、サマラのときも邪魔しやがった奴だよな!》

 

 そこにユーリ君が介入してくるが、どうやら彼には火に油だったらしい。相手の罵倒の対象が、私からユーリ君へと移る。

 

《〈ミーティア〉艦長のユーリだ。確かに、さっきのことは霊夢さんに一理ある。僕もあいつと戦ったけど、同じように手も足も出なかったさ》

 

《・・・ッ》

 

 ユーリ君にまで言われたのが堪えたのか、相手は悔しそうに歯軋りをする。ただの馬鹿かと思ってたけど、どうやらその程度の状況認識能力はあったらしい。

 

「それで、あんたはこれからどうする訳?見たとこかなりやられてるみたいだけど。何ならこっちが応急修理でもしてあげましょうか?」

 

《はぁ!?何で俺がてめえなんかに・・・・・・ッ、ああ、そうだったな、チッ。悪いがこっちは船体に加えてメインエンジンも調子が悪いみたいだ。手伝ってやるってなら応じてやるよ》

 

 私の提案に相手は乗り気ではなさそうだったが、横で誰かに耳打ちされると一転してそれに応じるような反応を見せる。あっちの副長かなんかに促されたのだとは思うが、それにしても、あの態度はどうにかならないものだろうか。

 

 ちなみに私がこんな提案をした訳であるが、どうも相手はフリーの0Gドッグみたいだったなので自治領潰しの頭数に加えられないものかと思ったためだ。確かに態度には問題があるんだけど、負けん気が強そうなあの性格なら自治領潰しにも応じるのではと考えたのだ。それに相手が応じる素振りを見せたということは、どうにか第一関門はクリアといったところか。

 

「なら一度色々と話し合う必要がありそうね。悪いけど、一度こっちの艦に来てもらえるかしら?それとだけど、黙ったままのもう1隻にも伝えてくれる?あんたら一緒戦ってたんだから、それぐらいは出来るでしょ?」

 

《ああ!?俺があいつに?・・・ッチ、仕方ねぇな。やっといてやるよ。まぁ待ってな。そんじゃあ準備できたらそっちに向かうぞ》

 

 告げるべき用件を告げ終えると、相手は一方的に通信を切る。ここでもやはり礼儀がなってないようだけど、単にそういう性格の奴なんだと納得して通すことにした。思惑はあるとはいえ折角こっちが修理を手伝ってやろうかと申し出たんだから感謝の一言ぐらいあって然るべきだとは思うんだけど、あれは自信過剰なのか単にそういう配慮が出来ないだけなのか・・・・まぁ、あの手の輩も今まで散々相手にしてきたのだから今更という感じもするけど。

 

「にとり?そういう訳だから物資の見積りしといてくれる?確か工作艦には多めに積み込んできた筈だから、まだ余裕は残ってるでしょ?」

 

《ああ、了解だ。直ぐに済ませておくよ》

 

 やはり先程のやり取りを聞いていたのか、整備班長のにとりは私がそう頼むと直ぐに作業に取り掛かってくれた。ここで物質を消耗するのは損失ではあるけれど、フネ1隻応急修理するだけの資源で強力な巡洋艦1隻が戦力になるというのであれば儲けものだ。

 

「まぁ、そういう訳だからユーリ君も後でこっちに来てくれる?色々と話があると思うから」

 

《了解です。では後ほど向かいます》

 

 ユーリ君も私の話を承諾したみたいで、相手の来艦と同じときにこっちに来てもらうことにした。

 あとはメイリンさん達にもこれを伝えて、しばらくここで待っててもらおう。

 

 

 ................................

 

 ........................

 

 ................

 

 ........

 

 

 あれから暫くして、あの巡洋艦の艦長からこちらに向かうとの連絡が入った。どうやらもう1隻の艦長にも話をつけてくれたみたいだ。

 同時にユーリ君達も来るみたいなので、私は出迎えのために〈開陽〉のハンガーデッキへと赴く。

 

 ヴァランタインと戦っていた2隻からそれぞれ内火艇が来航し、まずはあの巡洋艦の艦長が降り立った。

 

「よう、来てやったぜ。俺は〈バウンゼイ〉艦長のギリアスだ。よろしくな」

 

「『紅き鋼鉄』の博麗霊夢よ。それじゃあこれから会議室に・・・」

 

 私が来航した巡洋艦の艦長―――ギリアスを会議室に案内しようと控えの保安隊員に声を掛けようとしたところで、もう1隻の内火艇からも人が降り立つ。

 私はそれを迎えようと、その方角に振り向いたのだが―――

 

 

「よう、久しぶりだね、霊夢―――」

 

 

「あ、あんたは・・・」

 

 内火艇から降りてきた人影を見て、私は目を見開いた。

 

 そこにいたのは―――

 

 

「何で―――アンタがここにいるのよ・・・!!」

 

 

 赤い髪に紫の艦長服、そして何より魔理沙のようなその声と顔―――

 

 忘れるものか、謎の艦隊を率いて勝負を挑んできたあの少女・・・

 

 

 

 

 

 この手で吹き飛ばした筈の、マリサがそこに立っていた―――

 

 

 




最近8000字を越えた辺りで明らかに重くなって執筆がつらい・・・これどうにかならんものですかねぇ。妨害以外の何者でもないです。もうパソコンに変えようかな?

久々に謎の少女艦長マリサちゃんがログインしました。重ね重ね申しますが、彼女は魔理沙とは関係ありません。容姿は旧作魔理沙を意識してはいますが一応別人です。


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第五○話 絶対防衛圏

~ゼーペンスト宙域・小惑星帯、〈開陽〉会議室~

 

 

〈グランヘイム〉が撤退したあと、私はそれと戦っていた連中をゼーペンスト侵攻の協力者に出来ないものかと思い付いて彼等を旗艦の会議室に案内することにしたのだが、ここで一つ、頭痛の種が発生した。

 

 

 

「でさぁ、これはいつになったら解いてくれるの?」

 

目の前の赤髪の少女が、猫なで声でそんなことを私に要求した。

赤髪の少女―――マリサは両脇と完全武装の保安隊員にがっちり囲まれ、脱走や襲撃などを図る兆候があれば直ぐに射殺できるよう準備されている。言うまでもなく、こいつが頭痛の種である。

 

元々こいつはよく分からない理由でいきなり攻撃を仕掛けてきたような奴だ。何をしでかすかなんて分かったもんじゃない。

 

「なぁ・・・お前ら、知り合いなのか?」

 

「ええ。殺し殺された仲よ。勿論死んだのはこいつだけど」

 

「はい。死人はさっさと天に召されろですよ」

 

ギリアスがそんなことを訊いてきたので、私はそう答えてやる。ついでに早苗も煽ってるし。ただアイツは私の答えに不満たらたらみたいで、すぐに抗議を入れてきた。

 

「ちょっと待て、私は別に死んでないよ!」

 

「何処に乗艦を消し炭にされて生きてる奴がいるのよ。大人しく死んでおけばいいものを」

 

「なんならこの場で二度目の昇天といきますか?希望されるというのなら、今すぐにでも閻魔様の元にお届けしますが」

 

早苗も早苗でなかなか辛口なことを言う。こいつの所業を考えりゃ、わざわざ止めるまでもないことだけど。クレイモア級重巡1隻造るのにどれだけかかると思ってるのよ。こいつが沈めてくれたお陰で未だに艦隊の重巡部隊は再建できてないんだし。

 

「ねぇ、お前らその言い方は酷くない?」

 

「・・・自分の行動を振り返ってから言ってみなさい」

 

だいたい海賊でもない癖に、いきなり喧嘩を吹っ掛けてくる方がどうかしてる。それに加えて、何処にハイストリームブラスターをまともに浴びて生きていられる奴がいるのよ。あんなもん、一度食らえば大天狗だろうが天人だろうが容赦なく吹き飛ぶ。一体どんなカラクリで生き残ったのよ、こいつ。

 

「・・・お前らが知り合いみたいなのは分かったが、そんなにギスギスするこたぁねぇだろ」

 

「はぁ?あんただってこいつに喧嘩売られてたんでしょ。これぐらいの監視は当然よ」

 

彼女と同じく〈グランヘイム〉と戦っていたギリアスが苦言を呈するが、私からしてみれば以前消し炭にした筈のこいつがのうのうと自分のフネに乗り込んできてるのだ。監視と拘束は当然の措置だ。

 

「あの、霊夢さん、そろそろ本題に入りませんか?」

 

「そうね・・・こいつの戯言に付き合ってる時間も惜しいし。そうさせて貰うわ」

 

「ねぇ、私のことは無視かしら?」

 

このままアレに付き合っていても時間が過ぎるだけだ。ここは大人しくユーリ君が言った通り、本題に入らせて貰おう。マリサの声は無視する。

 

「それで、こっちから融通できる資源のリストには目を通して貰えたかしら?」

 

「ああ・・・他人の施しってのは性に合わねぇが、こればかりは仕方ねぇ・・・副長の奴にもきつく言われたからな。その件についてはとりあえず感謝してるぜ」

 

まず、ギリアスに此方から提示した彼の艦に応急修理を施すに当たって必要な物資の見積りと供給可能な医薬品のリストに目を通したか尋ねてみる。

ちなみに彼の巡洋艦〈バウンゼイ〉は工作艦〈ムスペルヘイム〉のドックに入渠して修理を受けている。あっちには副長が責任者として残ってるみたいだから、そっちの折衝は修理責任者のにとりに任せておいた。

 

「しかし、なんだって他人を助けるような真似をするんだ、あんた。そっちからすりゃ俺なんて赤の他人だろ?」

 

「なに、船乗りとしての掟みたいなものよ。航海者ってのは、困ったときは互いに助け合うものでしょ?」

 

「・・・まぁ、それはそうだな」

 

ギリアスも渋々納得してくれたみたいで、私が助けたことについてはこれ以上文句を言ってくるようなことはなかった。見たところ彼は猪突猛進の戦闘狂みたいな奴だけど、少なくとも自分の艦の状態は把握できているらしい。というか艦長ならそれぐらいは出来て当然だろう。

 

修理に当たっているにとりの報告では、装甲を含めた艦体外骨格の損傷もさることながら、それ以外の箇所も酷い有り様だという。生命維持装置なんかは戦闘の衝撃で部品に罅が入っている箇所があるらしく、エンジンのエネルギー伝導管も、無理をして主砲にエネルギーを送り続けていたせいか焼き付いてしまっているらしい。曰く、どうしてここまで酷使してインフラトン・インヴァイダーがオーバーロードを起こして爆発しなかったのが不思議だ、と文句を垂れていた。ただ艦自体の性能はそれなりに優れているらしいから、それだけヴァランタインの〈グランヘイム〉が規格外な艦だということだろう。あれと撃ち合って生き残れるのは稀有な例だとも聞いてるし。ちなみににとりの奴、ちゃっかりギリアスの艦を調査することも忘れていないみたい。それにサナダさんやシオンさんまで加わってると聞いたときは血の気が引く思いだったけど、今のところ違法改造は行われていないようでほっとした。

どうも連中、〈バウンゼイ〉の装甲や〈グランヘイム〉からの攻撃を受けた箇所の損傷具合のデータを取りたがっていたみたいなので、持ち主のギリアスの許可を経ず勝手に改造するなんてことは無さそうだ・・・無いと信じたい。

 

その〈バウンゼイ〉の損傷具合の方であるが、にとりの概算では最寄りの惑星に辿り着けるかどうかといった損傷具合だということらしいから、あんなことを言っていてもギリアスにとっては私の申し出は渡りに船なのだろう。・・・まぁ、こっちも完全な善意だけでやってる訳じゃないんだし、出来れば対価ぐらいは頂きたいところだ。

 

にしても、艦がそれだけの損傷を受けても艦長のギリアスは無傷なんて、一体どうなってるのかしら。報告では艦橋付近にもいくらか被弾していたらしいんだけど。

 

「しっかしまぁ・・・これだけ壊れてよく生きてられたわね、あんた。うちの修理担当も驚いてたわよ?」

 

「おう!その辺の連中とは鍛え方が違うからな!ヴァランタインだってさっきは逃がしちまったが、居場所は分かってんだ。次は絶対ブッ潰してやるぜ!」

 

「こ、懲りない方ですねぇ・・・」

 

「私の話、聞いてたのかしら・・・」

 

やっぱりこいつ、ただの戦闘狂みたい。あれだけヴァランタインにボコボコにされてもまだ戦うつもりなんて、真性のバカでなきゃそんなことには思い至らないだろう。あまりの戦意に、基本会議では私の後ろに控えてる早苗でさえ、呆れたような視線を向けている。

 

 

「少しは学習しなさいよね・・・それと医薬品の方だけど、生憎こっちは人があまりいないものだから、そこまでの数は持ってないのよね・・・悪いけど、要求通りの量は無理そうよ」

 

「そうか・・・まぁ、それなら仕方ねぇか」

 

続いて〈バウンゼイ〉の副長から要請があった医薬品の補充に関してではあるが、資材は大量に持ち歩いてる私達でもクルーの絶対数が少ないお陰で、他人に大量に融通できるだけの薬の量は持ち合わせていない。一見大規模に見える私達の艦隊だけど、殆どか無人艦なせいでクルーの数でいえばギリアスの〈バウンゼイ〉と同じくらいだし、ユーリ君は倍以上のクルーを抱えていたりする。こればかりは仕方ないし、ギリアスには諦めてもらうしかないかなと思ったとこなんだけど、そこでユーリ君が代わって彼に申し出た。

 

「だったら、僕の方から融通しますか?一応医薬品なら多少の余裕はあった筈ですから」

 

「あ?なんだ白いの。おまえは確か、ユーリとか言ったな。・・・ああ、分かった。じゃあ、貰えるってならそっちにも頼んでもいいか?」

 

「ええ、融通できる分は後で送っておきますよ」

 

「そいつは有難い・・・礼は言っておくぜ」

 

ユーリ君の申し出に対して礼を言うギリアスではあるけど、やはり他人の助けを借りるのは矜持に合わないのか、あまり素直な態度ではない。う~ん、なんだか面倒な奴ね・・・

 

「で、私にはなんかないの?」

 

「はぁ?有るわけ無いでしょ。大体あんたの艦はそこまで酷く壊れてないじゃない」

 

「・・・ちぇっ、じゃあなんで私まで呼んだのよ。折角会えると思って来てみたらこの仕打ち・・・悲しいわぁ」

 

「私だって、相手があんただって知ってたらわざわざ呼ばなかったわよ。施しが欲しけりゃ自分の行いを省みてからにしなさいよね」

 

そこにマリサの奴が施しを要求してくるが、こいつの要求なんて断固拒否だ。大体こいつの艦は〈バウンゼイ〉と違ってピカピカだし、応急修理なんて必要ないでしょ。というより、早くこいつを追い出したい。棒読みで泣かれても私の心は動かないわ。

 

 

「・・・相変わらず仲悪ぃな・・・それよりもお前ら、俺と年も違わねぇのに中々のもんじゃねえか。赤いのはとんでもねぇ戦力だし、ヴァランタインに向かってぶっ放したの、白いのだろ?」

 

「し、白いの・・・?」

 

「この場で白いのなんてお前しかいねぇだろ。ああ分かってるよ、ユーリだろ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

どうもギリアスのペースにユーリ君は押され気味みたいだ。にしても、赤いのと白いのって何よ。一応名乗った筈なんだけど。年上への礼の使い方、一度叩き込んでやろうかしら?

 

「・・・あんた、赤いのはないでしょ赤いのは。博麗霊夢と名乗った筈だけど。それに、まさか私が同い年だと思ってるの?」

 

「は?違うのか?おまえ、どう見たって大人には見えないし、ましてやババアでもねぇだろ」

 

「ババアって・・・ちょっとそこ、笑わない!」

 

「くすっ・・・すいません、霊夢さん。ああ、でも霊夢さんの本当の歳は・・・ふふっ」

 

「ハァ、もう・・・・・ってな訳だから、少なくともあんたより年上よ。そもそもあんた、20も生きてないでしょ?」

 

「ま、マジか・・・ああ、そうだぜ。まだ16だよ俺は。で、そういうおまえは何歳なんだよ?」

 

・・・やっぱりこの見た目じゃ間違われるのね・・・早苗は早苗でなんかつぼに入ったみたいだし、どこがそんなに面白いのよ。言っておくけど、仮にギリアスなんかと同い年だったらもっと容赦なかったわよ、私。

 

「おっとギリアス君、女に歳は聞くもんじゃないよ?」

 

「え、あ、ああ・・・済まねぇ」

 

それで歳が気になったのか、ギリアスは私にそれを訪ねてくるが、意外なことに、マリサの奴が彼を窘めた。それ以前に、歳なんて小まめに数えてなんかないし、何歳かなんて自分でも分からないんだけど。

 

「それよりも、ギリアスはなんでサマラさんやヴァランタインなんて危ない連中とばかり戦ってたんだ?」

 

「いや、本当それね。私は用があってヴァランタインに喧嘩売ったけど、ギリアス君は何か理由があるのかな?」

 

「そうですよ。どうせ戦うなら、蹂躙できる相手の方が気持ちいいじゃないですか」

 

話は変わって、ユーリ君がそんなことをギリアスに尋ねる。続いてマリサの奴も、挑発的な態度ではあるが同じことを質問した。

確かにユーリ君とマリサの奴が聞いた通り、何でギリアスはそんなヤバい連中とばかり戦ってるのだろうか。見たところ、賞金稼ぎみたいな感じではなさそうだけど。それより早苗、あんたそれ、本気で言ってるの・・・?

 

「俺は・・・とにかく早く名を上げなきゃなんねぇんだよ。それに、よえーヤツと戦ったって面白くねぇじゃねぇか」

 

そしてギリアスは早苗の言葉を華麗にスルー、と。確かに彼、蹂躙よりも手に汗握る殺し合いの方が好きそうな性格だし。でも私は蹂躙の方がいいかなぁ。強敵なんて面倒なだけよ。蹂躙できた方が異変解決も楽に済むし。

しかし、まるで武人みたいねぇ、彼。私はわざわざ理由なく強者と戦おうなんて思い付かないし(気に入らなかったらシバくんだけど)。何が楽しいのかしら。

 

「まぁ、他人の生き方に文句を付ける筋合いはない、か。それであんたが野垂れ死のうと、それはあんたの勝手だし」

 

「ああ?何だ?まるで俺が負けるなんて物言いだが」

 

「事実でしょ。世の中に絶対はないわ。そんなことを続けてりゃ、いつかは死ぬかもしれないんだし」

 

「そんぐらいは覚悟の上さ。なんせ相手が相手だからな。だけど俺は、それを乗り越えて強くなって、名を上げなきゃいけねぇんだ・・・」

 

ふぅん・・・ああは言ってみたけど、そこのところは覚悟していたみたいね。人の生き方なんてそいつが決めることだし、分かってるなら別にいいか。

そんなことを考えて私が関心を移そうとした矢先、ふと別の声がした。

 

「でも・・・ムチャな戦いは良くないと思う・・・ケガしたり、死んじゃったりしたらダメ・・・」

 

声の主は、ユーリ君の妹のチェルシーだ。今まではユーリ君の後ろに居ただけの彼女だったけど、彼の生き方に思うところがあったらしい。ユーリ君にくっついてるだけかと思っていたから、ここで発言するとは意外だ。

 

「うっ・・・。あ、ああ。まぁ・・・それも一理あるがな」

 

「へぇ~、いきなり態度変わりましたねぇ~」

 

「ふぅん・・・これは・・・」

 

チェルシーさんの言葉にギリアスが一時呆然としたかと思うと、態度を変えてわざとらしく納得したという仕草を見せる。そんなギリアスの態度に早苗とマリサの奴は何かを察したようで、意味ありげに呟いた。・・・一体、何を察したのかしら。

 

「な、なんだよ・・・それより、お前らこそ、こんなとこで何やってんだ?このゼーペンストはけっこうヤバいところだぜ?」

 

二人にそんな態度で見られて話題を反らせたかったのか、ギリアスがぎこちない様子で尋ねてくる。

 

―――これは、こっちの用件を告げるには良いタイミングかな?

 

わざわざギリアスの方から聞いてくれたんだし、目的を告げた上で協力を要請するのにも丁度良い。

 

「ああ、僕たちは・・・」

 

「ちょっと退廃領主をシメに来た、ってとこかしら」

 

「はぁ?・・・っ、おい、それって・・・」

 

ギリアスは私の言葉で目的を察したのか、続く言葉を詰まらせる。

 

 

「簡単に言えば、この自治領を滅ぼしに来たわ」

 

 

「ってことは―――バハシュールの奴をヤるのかぁ!!?」

 

「ご、御名答よ・・・」

 

ちょっと、声大きいんだけど・・・耳が痛い・・・

 

「おっと、済まねぇ・・・。でもよ、それマジで言ってんのかよ」

 

「僕は・・・本気だ。そうしなきゃ、戦争になるかもしれないんだから」

 

「青臭いユーリ君はともかく、私も色々理由があるからね。少なくとも、ここを潰すのは本気よ」

 

私とユーリ君で、ギリアスにゼーペンスト侵攻の理由を説明する。

自治領潰しなんて野心たらたらの海賊とかなら良くある話らしいのだが、弔い合戦や人質救出なんて理由で自治領を攻め滅ぼすのは稀有な例だ。常識があればこんなことで一国の艦隊とガチンコしようなんて思わないのだけど、彼はこちらの話を真摯に聞いてくれた。それでいて、彼はなにか美味しそうな獲物を見つけたかのような眼をしている。

 

 

「ふぅん・・・、面白そうじゃねぇか!俺もいっちょ噛ませてもらうぜ!」

 

「え・・・そんなにあっさり・・・」

 

「おい、ギリアス・・・本気で言ってるのか?」

 

あれ、ここからギリアスを協力者に引き込もうと思ったんだけど、まさか率先して協力してくれるなんて思ってなかったわ・・・。彼の好戦的な態度からすれば、すぐに上手くいくとは思ってたけど。

 

「本気も何も、俺はいつだってマジだぜ。それに、一国の艦隊とヤり合おうってその態度、気に入った!」

 

「あの・・・良いんですか?霊夢さん」

 

「いいも何も、受けない手はないでしょ」

 

元々そのつもりで呼んだのだ。そっちが乗り気だというのなら、これを拒む理由はない。

さて、丁度良い駒が1隻転がり込んできたことだし、何かいい作戦とかないかなぁ・・・

なんてことを考えてたら、今度は別の方から声が上がる。

 

「へぇ・・・なら、私も火遊びに付き合うとするかな。うん、そっちの方が楽しそうだし。それに、面白いことも思い付いた」

 

私があっさりギリアスを協力者にできたのに気をよくしていると、今度はマリサの奴まで協力の意思を見せてきた。戦闘狂らしいギリアスはともかくマリサの奴が協力するメリットなんて思い付かないし、そもそも私とは殺し合った関係じゃない。それなのにわざわざ私に協力なんて意外だ。だけど私の疑問などお構いなしに、彼女は新しい玩具を見つけた子供のような顔をして、一人悦に入っている。もしかしなくても、こいつもけっこうアレな性格なのかしら・・・?

 

「はぁ!?何であんたまで・・・」

 

感情からそれを拒否しかけた私だけど、少し考えてみれば、こいつがわざわざ協力してくれるというのならわざわざ断る理由はない。いや、ここはせいぜいこき使ってあのときの借りを返させてやるのも一興だ。

 

「おまえ・・・何か思い付いたのか?」

 

「ええ。ギリアス君は確か、ヴァランタインの居場所を知っているって言ってたよね?」

 

「ああ・・・だけど、それがどうしたんだ?確かに俺の〈バウンゼイ〉に搭載してるレーダーは特別製だからな、航跡に残った僅かなインフラトン反応でも捉えられるぜ」

 

「へぇ~、そいつは良いモノね。私も欲しいかも。それで、肝心のヴァランタインは何処に?」

 

「ヴァランタインか?ヤツならこの先にあるサハラ小惑星帯に向かったのを確認してるぜ。あの辺りに潜むつもりなんだろう」

 

「ふむ、サハラ小惑星帯ね・・・」

 

「ちょっとそこ!勝手に話進めてるけど、なんか思い付いてるの!?いいから聞かせなさいよ」

 

「そう焦らない焦らない。―――っと、これで良いかな。作戦案、今から話すけど・・・」

 

マリサの奴は一度私を制すると、自分で考えたらしい作戦案を披露する。

最初はそれを半信半疑で聞いていた私だけど、よく考えてみれば此方のリスクを最小限に減らすことができそうな案だった。何せゼーペンストの主力を叩くのは―――

 

「って感じなんだけど、どうかな?けっこう危ない・・・っていうか、奴さんの機嫌次第だけど、上手くいけばバハシュールのヤロウの本国艦隊を根こそぎ削れるよ。んでギリアス君、そっちの方は頼めるかな?」

 

「おう、ちょっと気に入らねぇ役回りだけど、スリルがあって面白そうだ。その役目、引き受けたぜ。んじゃあ修理が終わったら行かせてもらうとしますか」

 

ギリアスの方はマリサの提案に乗り気で、これからちょっと出掛けてくるかのような気楽な雰囲気でいる。役回りを考えれば、普通はあんな風に平然とはしてられないと思うんだけどな・・・

 

「んで、そっちの方だけど・・・」

 

「・・・バハシュールの絶対防衛圏に向かえば良いんでしょ?」

 

私は渋々と、マリサの提案に従って方針を確認する。癪だけどこいつの提案が優れているのは確かなんだし、ここは被害軽減のためにもこいつの案を呑んでおこう。

 

「ええ。到着と同時に作戦開始よ」

 

マリサの奴に仕切られるのはなんだかもどかしくはあるが、現状それに代わる代案はない。なので、作戦計画は彼女のもので行くしかない。あとはこれをメイリンさんに伝えるだけだが・・・

 

「あの、霊夢さん。先程〈レーヴァテイン〉から連絡がありました。どうやらゼーペンスト艦隊と接触したようです」

 

「えっ・・・それで、相手の規模は?」

 

「はい、フリエラ級巡洋艦3隻にリーリス級駆逐艦2隻の警備艦隊とのことですが、既に殲滅したようです」

 

そこで早苗から敵艦隊と接触したとの報せが入ったものだから少し警戒したのだけれど、どうやら心配は杞憂だったらしい。だけど、発見されたというのなら早速動いた方が良さそうね。

 

「分かったわ。ついでだけど、さっきの話、メイリンさんにも伝えてくれる?」

 

「作戦計画のことですね。了解しました」

 

私が早苗にそう頼むと、彼女は艦橋に取り次いでそこから作戦計画を〈レーヴァテイン〉に送信してもらう。

程なくして、メイリンさんからも了解の返事が届いた。

 

会議の用件は全て済ませたので、私達はそこで解散として、ユーリ君達はそれぞれの艦に戻っていった。

 

一度ゼーペンストに発見された私達は、場所を移してギリアスの艦の修理が済み次第、打ち合わせた通りに行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ゼーペンスト宙域、絶対防衛圏内・ゼーペンスト軍要塞~

 

 

自治領の首都惑星ゼーペンストを守護するための絶対防衛圏、その内側に位置する惑星アイナス軌道上にあるこの要塞は、艦隊の出撃基地であると同時に防衛ラインを維持するための最重要拠点である。ただ、要塞とはいっても惑星の軌道上にある建築物に過ぎないので、航路次第では簡単に回避できてしまう位置にある。そのため、この要塞には敵を押し止める役割などは期待されておらず、単に後方拠点という位置付けでしかない。

 

そこで執務に勤しんでいたゼーペンスト軍艦隊司令ヴルゴの元に、慌てた様子で部下が駆け込んできた。

 

「か、閣下!」

 

「む、どうした?何かあったのか?」

 

部下の焦燥にヴルゴもただならぬ事態だと感付き、冷静に報告を促す。部下はしばらく息を切らせた様子でいたが、落ち着きを取り戻すと、その求めに従って報告する。

 

「ハッ、本国艦隊から通信がありました!絶対防衛圏付近で不審な艦を捕捉し、現在第4支隊がこれを迎撃中との事です!」

 

「不審な艦・・・待て、艦隊ではないのか?」

 

「は。報告では艦隊ではなく、単艦との事です!」

 

部下の報告を聞いて、ヴルゴは唸る。

以前聞いた報告では、このゼーペンストに宣戦布告した『紅き鋼鉄』と名乗る0Gドッグは艦隊で行動しているとの事であり、連絡を絶った偵察隊が放った最後の電文でも確かに艦隊と告げていた。それが何の前触れもなく、単艦で攻めてくることがあるだろうかと彼は考える。

 

「して、その不審な艦の解析は済んだのか?

 

「ハッ、報告によれば、データベースに該当は無しとの事です。偵察隊の情報から得られた『紅き鋼鉄』の艦とも、〈グランヘイム〉とも違うものだということです。しかし第4支隊の艦にも既に被害が出ており、強力な火力を持った艦だということに疑いはありません!」

 

ゼーペンスト艦隊が発見したそれは、全くの未確認艦だった。最近領内に出没し、その強大さ故に手出しができず実質放置状態の〈グランヘイム〉であればその強大なエネルギー反応から直ぐに特定できるし、『紅き鋼鉄』であっても断片的な情報とスペースネットに流れる彼等が使う艦の外見を写した映像などから特定は可能だ。しかし、報告にあった不審艦は、そのどれにも当てはまらなかった。

 

「そうか・・・〈グランヘイム〉でないのは幸いだが、一体何処の艦だ・・・それで、敵はどのような行動を取っている?」

 

不審艦が〈グランヘイム〉でないことに安堵したヴルゴであるが、まだ気は抜けなかった。未確認の『紅き鋼鉄』の別働隊の可能性も捨てきれず、新たな賊の可能性も考えられる。

 

「敵艦は我が方の艦隊に向け砲撃戦を挑んだのち、後退するような素振りを見せているとのことですが」

 

「成る程な・・・」

 

部下の報告を吟味して、ヴルゴは対応策を練る。武人気質の彼は今すぐにでも親衛隊を率いて不審艦を撃滅したかったのだが、艦隊司令という職業柄、そう易々とこの絶対防衛圏を後にすることはできなかった。

 

「・・・やはりここは、『紅き鋼鉄』と繋がりのある艦だと判断すべきだろうな。奴等だとすれば、我等を誘引しようと試みているのだろう。ここは第4支隊に任せ、本国艦隊本隊は一旦警戒態勢のまま・・・」

 

ヴルゴが部下に方針を告げている最中に、彼のデスクにあった通信の呼び出し音が鳴り響く。その相手が予想できてしまった彼は呆れながらもそれに応え、通話ボタンを押した。

程なくして、モニターの画面に彼の上司であるゼーペンスト自治領領主―――バハシュールの姿が現れた。

 

「・・・バハシュール閣下、お呼びで」

 

彼は平静を心掛けて領主からの通信に応じるが、今日のバハシュールはいつもとは違い、気が立った様子だった。

彼も部下から侵入者の報告を受けてここに対応を求めようと通信したのだが、バハシュールがでしゃばって上手くいった試しがないために、ヴルゴの側からすれば迷惑この上ないタイミングなのだが、上司の言葉を無下にする訳にはいかない。彼は内心で口を出さないでくれとは思いつつも、バハシュールの言葉に耳を傾けた。

 

「何をぐずぐずしてるんだ、将軍。さっさと全艦隊で侵入者を揉み潰せ!」

 

予想通りの領主の言葉に、ヴルゴは内心で予想が外れて欲しかったと後悔したが、それは無駄なことだった。

バハシュールにしてみれば、彼が自分の庭だと認識している(その割には滅多に自身の居城から出ないのだが)自治領内で侵入者が好き勝手するのが許せないだけだ。それはこの自治領の安寧を一手に引き受けるヴルゴも同じことなのだが、肝心のその命令がいけなかった。

この道のベテランであるヴルゴにしてみれば、侵入者の動きは明らかに不審であり警戒すべきものであるが、素人のバハシュールにはそんなことすら分からない。なので彼は、単純に強大な自身の艦隊をぶつけてやれば全てが解決すると思っているのだ。

流石に今回ばかりは素直に従うわけにはいかないと、すかさずヴルゴは反論する。

 

「それは危険です閣下!敵は不審な動きをしております。ここは一度、様子を見るべきかと―――」

 

「フンンンン!この僕がやれと言ってるんだ!すぐに本国艦隊全艦を出せ!!」

 

「―――はっ・・・」

 

ヴルゴの反論にも耳を貸さず、バハシュールは彼を怒鳴り付けて命じた。これでは幾ら言っても埒が明かず無駄であると悟ったヴルゴは、上司の方針なら致し方ないと、表面上はバハシュールの命令に素直に従う。

 

「では職務に励みたまえ、将軍」

 

その様子を見たバハシュールは満足したのか、そう言い残して通信を切った。

 

「あの・・・閣下?」

 

「領主様の命令とあれば仕方あるまい。直ちに本国艦隊全艦に出撃を命じろ」

 

「ハッ・・・閣下、親衛隊の方は如何されますか?」

 

「親衛隊は此所に残す。出撃させるのは親衛隊以外の本国艦隊だ」

 

「―――了解です。本国艦隊に繋ぎます」

 

ヴルゴの言葉を受けて彼が何を考えているのか察した彼は、何も聞くことなく黙々と命令の実行に移る。

 

「・・・では私は艦隊旗艦に向かい指揮を執る。貴官も続け」

 

「ハッ!」

 

部下が命令文を送信し終えると、ヴルゴは席から立ち上がり、指揮を執るべく自身の旗艦へと向かう。彼の部下も、その後に続いた。

 

 

 

 

程なくして、ゼーペンスト軍宇宙要塞からは総数100隻に迫る本国艦隊主力が慌ただしく抜錨していく。

 

その様子を、ヴルゴは旗艦〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋から、目を離すことなく見つめ続けた・・・

 




ここの早苗さんはさでずむです。お忘れなく。

次回は霊夢達の連合艦隊とゼーペンストの本格的な衝突になります。
ちなみにマリサの乗艦はカルバライヤに出た際に描写がありましたが、天クラのファフニールです。大きさはグロスター級戦艦とほぼ同程度です。


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第五一話 Operation・Stardust (前)

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・絶対防衛圏付近~

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「昼間砲雷撃戦BGM」】

 

 

「敵艦隊、移動を開始しました。γ任務部隊の追跡に入ったようです」

 

「かかったわね。β任務部隊は?」

 

「はい、予定ではもう間もなく到着の予定ですが・・・」

 

 隠密航行中の〈開陽〉艦橋内に、オペレーターの報告の声が響いた。

 ゼーペンスト侵攻作戦が発令されたいま、私達の艦隊はゼーペンスト絶対防衛圏にほど近い小惑星帯の中に身を潜めている。ここまで来るときには、敵に探知されないよう一定の距離を進んでからはi3エクシード航法を止めて慣性だけで移動してきたので、体感では3日ぐらいは掛かっただろうか。

 インフラトン機関の火を落として完全に潜航状態に入っているのでそうそう見つからないとは思うが、こうして実際に隠れているといつ見つからないかと冷や冷やするものだ。何せ、この小惑星帯に隠れている私達はゼーペンスト艦隊から見れば、その気になって執念深く探せば見つかるような位置にいるからだ。

 

 だが、今のところは此方が気付かれた兆候はない。γ任務部隊―――マリサの艦が前線で派手に暴れて注意を引き付けたからだろう。作戦では、主力であるユーリ君とメイリンさん、そして私達の艦隊からなるα任務部隊がこの小惑星帯に潜んでいる間に、囮であるマリサのγ任務部隊が敵の注意を引き付けて敵艦隊主力を絶対防衛圏から引き剥がす手筈となっていたが、それは上手くいきそうな感じだ。この後は、充分に敵艦隊を絶対防衛圏から引き離して、その隙に主力である私達α任務部隊がゼーペンスト本星に侵攻する予定だ。ギリアスともマリサとも共闘したことはないし、艦隊を組んでも足手まといになるだろうという判断から、彼等は単艦で任務部隊を構成している。

 

 私が画面に写し出される敵艦隊の状態を注視していると、画面左側にぽつん、と新たな矢尻型の表示が現れた。

 

「・・・来たわね」

 

「はい、そのようです」

 

 その表示は、別行動を取っていたβ任務部隊―――ギリアスの艦を表すものだ。ここに現れたということは、目的の"獲物"を釣り上げたということだろう。

 

 γ任務部隊―――マリサの艦隊を示すアイコンは、クェス宙域方面から高速で接近するギリアスの艦を示すアイコンに接近、というよりそこに向かって後退していく。

 

「しかし、艦隊全部釣れるとはな。いくら強力とはいえ囮は一隻だ。せいぜい三分の一でも釣れれば上々と思っていたが・・・」

 

「恐らくですが、上位の指揮系統より全艦隊での追撃命令が出たのでは?」

 

「・・・確かに、それも有り得る話か」

 

 コーディは敵が呆気なく全部囮に釣られたのが不思議だったのか、そんな疑問を口にした。だけど、ノエルさんが言うように全艦隊での追撃が命令されたなら辻褄が合う。本来なら残った敵艦隊を私達の艦隊の長距離対艦ミサイルで殲滅してから進撃する予定だったのだが、これなら本星まで一直線に進めるかもしれない。

 

「・・・そろそろ頃合いかな」

 

「そのようで」

 

 時刻を示す時計に目を落として、そう呟いた。もうすぐギリアスが釣り上げた"獲物"がゼーペンスト艦隊に接触する頃だろう。

 

 

 《はっはー!待たせちまったな!気分はすっかりマタドールだぜ!》

 

 

 オープンにしていた通信回線から、ギリアスの大声が響く。

 彼が乗る巡洋艦〈バウンゼイ〉の後ろからは、漆黒の巨大戦艦―――〈グランヘイム〉がこれを追っていた。

 

「艦長、〈グランヘイム〉の反応を確認!ゼーペンスト艦隊との接触コースです!」

 

「全艦に通達、只今を以て〈オペレーション・スターダスト〉は第二段階に移行!全艦隊は直ちに本宙域を離脱、そのままゼーペンスト本星を目指すわよ!」

 

「了解です!機関、始動!最大戦速」

 

「火器管制、異常無し。いつでもぶっ放せるぜ」

 

「ユーリ君とメイリンさんの艦隊は?」

 

「はっ、此方も加速を開始、ゼーペンスト本星宙域に向けて進軍を開始しました」

 

 ゼーペンスト艦隊が絶対防衛圏から引き剥がされ、〈グランヘイム〉が居る方角へ誘引されるのを確認し、私達α任務部隊の艦船のインフラトン・インヴァイダーに、一斉に火が入る。もうこの距離なら、〈グランヘイム〉を無視して反転してこられてもそうそう追い付けまい。

 

 さて、このマリサが立てた作戦―――〈オペレーション・スターダスト〉の全容はこの通りだ。

 

 まず私達α任務部隊は敵に悟られぬようインフラトン機関を切って慣性航行で絶対防衛圏に接近、小惑星帯に身を潜めて光学での発見も防ぐ。

 その間にβ任務部隊―――ギリアスの〈バウンゼイ〉はクェス宙域の向こう側にあるサハラ小惑星帯に向かい〈グランヘイム〉を挑発、これを引き摺り出して絶対防衛圏へ向かう。

 一方でγ任務部隊―――マリサはそれに先立って絶対防衛圏近くに進出して敵の警備艦隊を襲って派手に暴れて注意を引き付け、敵主力の誘引に成功後はクェス宙域に向かって後退、〈グランヘイム〉とゼーペンスト艦隊がぶつかるように仕向ける。

 〈グランヘイム〉とゼーペンスト艦隊が接触すれば、その隙にα任務部隊は前進を開始、真っ直ぐゼーペンスト本星を目指す、という手筈になっている。

 

 最初これを聞いたときは殆ど博打のようなものかと思ったし、ギリアスが上手く〈グランヘイム〉を誘引できるかどうかも心配だった。だって前見たときは木っ端微塵にやられてたんだし、一つ間違えばギリアスが〈グランヘイム〉を誘引する前に撃沈されることだってあったかもしれない。だが、その心配は杞憂に終わったようで何よりだ。

 

 それに、いくらこっちが性能で勝っているとは言ってもやはり数の利はあちらにあるのだ。まともにぶつかれば、勝てなくはないがそれなりの代償を支払うことになっただろう。そんな中で、此方の被害を最小限にしつつゼーペンスト艦隊を撃滅するためには、この作戦が一番手っ取り早かったのだ。戦力が無ければ他所から借りてくればいい、なんて言うのは簡単だが、それを具体的に策定したマリサの奴の頭脳も中々に侮れないものだ。これは警戒した方が良さそうね。あいつは今でこそ私達に手を貸してるけど、元々いきなり襲い掛かってくるような奴なんだし。

 

「ゼーペンスト艦隊、〈グランヘイム〉と交戦!」

 

「おおっ、すげぇなありゃ。ゼーペンストの連中がどんどん沈められてる」

 

「霊沙・・・今は作戦中よ。格納庫で待機してなさい」

 

「まぁ細かいことは気にするな。直ぐに戻るからさ」

 

 ―――全く、霊沙のやつは戦闘配備が掛かってるのに何故か艦橋に居座ってるし・・・

 

 私は内心であいつに向けて悪態を吐きながら、モニターに転送されたゼーペンスト艦隊と〈グランヘイム〉の戦闘映像を眺めた。

 突然の〈グランヘイム〉出現に慌てふためいたのか、ゼーペンスト艦隊の一部が〈グランヘイム〉に向かって砲撃を開始してしまった。だが、それがいけなかった。

 〈グランヘイム〉の危険性はこの宇宙では一際高いものだが、実のところ航路上に立ち塞がったり攻撃でもしない限りは素通りされることも多く、対応さえ誤らなければ以外と安全だったりするらしい。無論奴らは海賊なので、腹を空かせれば(艦の運営費が厳しくなれば)商船団を襲うこともあるらしいが。だったら何故私達は襲われたのだという話になるが、あれは多分、私が見つけたエピタフなんてお宝に引き寄せられたのかな。あのときのヴァランタインの台詞もそんな感じだったし。

 

 だが、一度攻撃を仕掛けられれば〈グランヘイム〉に容赦はない。〈グランヘイム〉の顰蹙を買ってしまえばこの〈開陽〉のそれを遥かに上回る威力を持ったレーザー主砲の洗礼を浴びせられ、瞬く間にその艦はダークマターに還元されてしまうことになる。

 実際にゼーペンスト艦隊は〈グランヘイム〉に攻撃を仕掛けてしまったことにより完全にあちらさんの怒りを買ったみたいで、攻撃したかしてない関係なく、ゼーペンストと名の付く艦は片っ端から沈められている。その光景は、まさに蒸発とも言うべきだろうか。100隻近くあったゼーペンスト本国艦隊はあっという間にその半数近くを失い、もはや軍事上は壊滅したも同然だ。

 

 さて、実のところ、この〈グランヘイム〉を捕捉するのは正規軍はおろか、一級の0Gドッグでも中々難しい。それをたかだか軽巡風情が捕捉できたのはこんなからくりがあったりする。

 ギリアスの〈バウンゼイ〉には特殊なセンサーが積んであるらしいのだが、これは空間に残された僅かなインフラトン反応を辿って航跡を特定できるものらしい。詳しくは知らないけど、以前彼をうちの会議室に呼んだときにそんな話をしていたから、多分それで〈グランヘイム〉なんて大物を探り当てて戦えたんだろう。一応インフラトン反応を探知する機能は既成艦にもあるんだけど、彼のそれは既成品よりも一層優れた精度を誇っているらしい。あとインフラトン機関はカスタマイズされたものほど独特の波長を発するので、既成品のデータは除外してそういったカスタム機関を積んだフネ―――ようは実力者である〈グランヘイム〉のような艦だけど戦うようにできるのかもしれない。だったらなんで私達の反応には食い付かなかったのかしら。自前のワープ機関なんて積んでるんだから、インフラトン反応も結構独特だと思うんだけどなぁ。

 

「艦長、前方に敵拠点を確認。見たところただの宇宙港のようですが」

 

「そうねぇ~、面倒だし、敵の武装とレーダーだけぶっ壊しといて」

 

「イエッサー。主砲照準、目標敵基地。弾種は榴弾を装填」

 

 〈グランヘイム〉とゼーペンスト本国艦隊がドンパチやってる間に抜け出して一直線に首都星目指して進撃していると、目の前に敵の宇宙基地が立ち塞がった。だけど見たところただの後方拠点みたいだし、大した戦闘能力も無さそうだ。だけど通り道に居座られると邪魔なのよねぇ。という訳で、さようなら。

 

「〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉とのデータリンク開始。射撃準備完了です」

 

 早苗から僚艦の砲撃準備完了の報せが届く。あとは一発、ぶちかましてやるだけね。

 

「敵宇宙基地、エネルギー反応増大。戦闘態勢を整えているものかと思われます」

 

「面倒になる前に叩くわよ。砲撃開始、目障りな基地を黙らせなさい」

 

「イエッサー。主砲発射!」

 

 目前の宇宙基地は此方を捕捉していたためか、戦闘準備を整えているようだ。だが先手必勝、こんな場所でむざむざ足止めを食らうつもりはない。

 私が主砲発射を命じると、どぉんと激しい衝撃が艦内に伝わる。この実弾射撃独特の衝撃、少し癖になりそうね。

 〈開陽〉の前を往く〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉の2隻からも、同じように実弾射撃が繰り出される。

 フォックスが装填したのは榴弾で、これは爆発の衝撃で広範囲に砲弾の破片が飛び散って被害を拡大させるものだ。宇宙空間ではろくな抵抗が無いわけだし、一度飛び散った破片は慣性に従ってどこまでも進んでいく。要するに、あの宇宙基地はスペースデブリの雨に襲われたような状態になっていることだろう。宇宙基地のレーダーや武装は基本外付けだし、今の斉射でその大半は破壊された筈だ。

 

「敵宇宙基地、沈黙しました。エネルギー反応低下中」

 

「浮かんでるだけの鉄屑に用はないわ。無力化したなら無視してそのまま進みましょう」

 

「了解です。進路をゼーペンスト首都星に固定」

 

 一撃で宇宙基地を沈黙させた私達の艦隊は、悠々とその横を通り過ぎていく。ふふっ、何もできずにただ賊が通過するのを眺めるだけしかできないゼーペンスト宇宙基地の皆さん、今どんな気持ちかしら?

 

「敵宇宙基地よりミサイル3、向かってきます」

 

「あら、まだ生き残ってたんですか。今ので沈黙させたと思ったのですが」

 

 ・・・どうやら、まだ生きていた防衛装置があったらしい。最後の悪足掻きって奴ね。だけどそんな攻撃じゃあ、私達を止めることは出来ないわよ?

 

「今度こそ沈黙させなさい。主砲、第二射放て。護衛艦は対空戦闘よ。ミサイルを撃ち落として」

 

「ったく、一撃でくたばればいいものを。主砲一番から五番、榴弾装填。撃てっ!」

 

「駆逐隊はミサイルの迎撃に移行、〈ズールー〉は目標α、〈叢雲〉は目標β、〈夕月〉は目標γを担当。対空ミサイルの射程に入り次第迎撃を開始します」

 

 〈開陽〉の3連装主砲5基15門から、再び榴弾の雨が敵宇宙基地に叩きつけられる。それと同時に、向かってくるミサイルは駆逐艦により全て迎撃された。

 

「・・・敵宇宙基地、完全に沈黙しました」

 

「ミサイルも全弾撃墜を確認。迎撃成功です」

 

 今度こそ、敵宇宙基地を完全に黙らせたようだ。無駄な足掻きだったわね。さて、あの領主にはここまで苦労させられたのだ。これからどうやってシメてやろうかしら。

 

「―――ふふっ、分かりますよ霊夢さん・・・悪人は叩き落とすときが一番楽しいんだって」

 

「ええ。このツケはちゃんと払ってもらわないとねぇ。私をここまで手こずらせてくれたんだから」

 

 珍しく、早苗と意見が合うようだ。あの領主をシメるのが楽しみでならない。罰は何がいいかしら。身ぐるみ剥いでどっかの星に放置か、それともゲイの群れに放り込むか・・・いや、この辺りは早苗に任せた方がいいかしら。

 

 私がそんな邪な考えを浮かべているうちに、艦隊は絶対防衛圏の内側にある惑星アイナス軌道に差し掛かる。この星を越えたら、あとは首都星ゼーペンストまで一直線だ。

 

 だけど、現実はそんなに甘くはなかったらしい。

 

 

 私の耳に、敵発見を告げる報告が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「海空戦BGM」】

 

 

「っ、て、敵艦隊捕捉です!アイナス方面より急速接近中!」

 

「数は―――33隻です!うち3隻は未確認の大型艦!」

 

「その他判明している範囲では、敵艦隊の戦力はドゥガーチ級空母4、フリエラ級及び改フリエラ級巡洋艦10、リーリス級駆逐艦16です!」

 

 このタイミングで敵艦隊―――あれだけ纏まった数が待機していたとなると、恐らくは最終防衛線といったところね。見たところ艦船の種類は小マゼラン艦中心みたいだけど、最終防衛ラインを任されるぐらいなら練度も相当高い筈だ。ここは気を引き締めていかないと・・・

 

「ミユさん、私達は中央の艦隊を引き受けるわ。ユーリ君は右、メイリンさんは左側の艦隊を相手にして貰えるように頼んでくれる?」

 

「了解です。通信繋ぎます―――」

 

 敵艦隊の陣形は、左右に6隻ずつの艦隊と中央には未確認の大型艦3隻を含む20隻程度の中規模艦隊といったところだ。左右の艦隊にはそれぞれドゥガーチ級空母、フリエラ級巡洋艦、リーリス級駆逐艦が2隻ずつ、だが、敵航空戦力のことを考えるとユーリ君の艦隊だけでは少し厳しいかもしれない。ここは多少の航空支援を検討しておくべきか。

 

《―――霊夢さん、話は分かりました。では、我々スカーレット社艦隊は左翼艦隊を相手にします》

 

《こちらユーリです・・・僕は右の艦隊を引き受けます!》

 

「了解よ。恐らくはこれが最後の敵艦隊だと思うわ。一気に突破するわ」

 

《任せて下さい!それでは、ご武運を》

 

《霊夢さん、そちらも気を付けて》

 

 メイリンさんとユーリ君からの通信が切れると、二人の艦隊は左右それぞれの敵に向かって舵を切る。双方とも敵の航空隊を警戒して、早速艦載機の発進準備に取り掛かっているようだ。

 

「―――私達も負けてられないわね。全艦第一種戦闘配備!第一次攻撃隊の発進準備を急いで」

 

「了解です。総員、第一種戦闘配備!航空隊は直ちに発艦せよ!」

 

 恐らく脅威となるのは敵の航空機部隊だろう。国境警備隊が持っていたやつでもそれなりに硬かったのだ、最終防衛ラインともなれば敵の新型機が配備されている可能性もある。

 対艦戦闘ならば敵には戦艦の姿は見えず、巡洋艦と駆逐艦も対空を重視した設計でそれほど打撃力は無かった筈だ。なら敵の護衛艦は中~遠距離砲戦と打撃艦隊の水雷戦で何とかなる。問題は例の未確認艦だが・・・

 

「敵未確認艦の詳細判明!光学映像から推測した結果、敵大型艦3隻は全てネージリッドのペテルシアン級空母の可能性大です!」

 

「ネージリッド?ネージリンスじゃなくて?」

 

 ノエルさんの報告にあったネージリッドとやら、ネージリンスと語感がなんか似ているけど、何か関係があるのかしら。

 

「はい、ネージリッドは大マゼランにある国家の一つで、そこから小マゼランに移民してきた人達が作った国がネージリンスになりますね。元々国が同じなので、艦船の部品もある程度の互換性が効くようです。連中がペテルシアン級を手に入れた経緯は不明ですが、恐らくはそういった意図があったものかと」

 

「成る程ね、ありがと早苗。それで、そのペテルシアン級とやらはどれぐらい強いの?」

 

「それはですね・・・《そこは私が説明しよう》ひゃっ!、な、何ですか!?」

 

「さ、サナダさん!?」

 

 早苗に説明を頼んだところ、突然通信回線にサナダさんが割り込んできた。いきなりどうしたのよ、サナダさん。

 

《ふむ、話は聞いた。それでペテルシアン級空母についてだが、アレはネージリッド国防宇宙軍が保有する空母の中でも最大級のもので、格納庫容積もダントツに広い。搭載機数は、一隻あたり120~150機程度といったところだな。ただ、艦自体の兵装は極めて貧弱だ。》

 

「120機・・・ってことは、全艦合わせて400機近く艦載機があるってこと!?」

 

 《ふむ、そうなるな。後は敵艦載機の性能が如何程かといったところだが・・・まぁ頑張ってくれ》

 

「・・・通信、切れました」

 

 艦長隻に、通信が切断された音が虚しく響く。

 

「ああもう、何が頑張ってくれよ!早苗、こっちの戦闘機は何機あった!?」

 

「えっと、機動兵器を合わせたら確か全部で160~170機程度だったかと・・・」

 

 160機・・・仮に敵が全艦載機を向かわせてきたとしたら、幾ら性能差があっても押さえきれるかは厳しいわね・・・

 

「っ、ミユさん、〈ブクレシュティ〉に通信を繋いで」

 

「了解です」

 

 こうなったら、何とかして敵艦隊を此方の土俵に乗せなくてはならない。航空戦では分が悪すぎる。

 程なくして、ホログラムに〈ブクレシュティ〉の独立戦術指揮ユニット―――アリスの姿が現れる。

 

《戦術は決まったのかしら、提督さん》

 

「ええ、何とかね。〈ブクレシュティ〉を含む第三打撃艦隊は直ちに前進、敵空母に肉薄して」

 

《―――それ、本気で言ってるの?》

 

 アリスはそれを聞くと、本当にそれでいいのかと確認するような感じで尋ねてくる。彼女からしてみれば、その疑問も尤もだろう。

 敵航空機部隊の襲来が予想される中での艦隊突撃なんて、常識的に考えれば自殺行為に他ならない。仮に援護無しで対空能力がそれほど高くない第三打撃艦隊を突撃させてしまえば、それこそ敵に生贄を差し出すようなものだ。

 

「ええ、本気よ。だけど貴女だけでの突撃はさせないわ。第三打撃艦隊の上空には戦闘機隊を布陣、突撃を援護させる。それと第二巡航艦隊も貴女に預けるわ。グネフヌイ級とオリオン級なら艦載機運用能力があるでしょ」

 

 そこで、第三打撃艦隊の突撃を援護すべく、戦闘機隊と対空能力に優れた第二巡航艦隊もこれに同伴させる。

 足が比較的遅い戦艦と重巡に空母は除外して、高速艦のみで襲撃艦隊を抽出、航空援護の下敵艦隊に肉薄させ無理矢理砲雷撃戦に持ち込む。作戦の概要はこんなところだ。第二巡航艦隊なら艦載機の補給整備も可能だし、航空隊の支援もできるだろう。

 

《・・・成る程ね。了解したわ。第二艦隊、借りるわね》

 

「任せたわ。上手くやりなさいよ」

 

《ええ。任された。結構乱暴な作戦だけど、そういうの、好きよ》

 

 そこで、アリスとの通信が切れる。最後に見せた彼女の眼は、正に狩人のそれだった。

 

「アリスさん、なんだか乗り気でしたねぇ・・・」

 

「あいつはもっと慎重な奴かと思ってたけど、以外とあんな面もあるのね。それで、艦隊の状況はどう?」

 

 アリスがあんな眼をしたのも意外ではあるけど、今は戦況に集中するべきだ。敵に目立った動きはないとはいえ、敵が機動部隊である以上、直ぐに艦載機を飛ばしてくるだろう。

 

「はい、現在霊夢さんの作戦方針に従って陣形の変更中です。あと10分もすれば突撃準備が完了します。艦載機隊の方は、最低限のインターセプターは既に発艦していますね」

 

「ありがと。そのまま準備を進めて」

 

「了解です」

 

 今のところ、戦闘準備は順調のようだ。だが、敵の奇襲があるかもしれない以上、警戒は怠るべきではない。何せここは敵地の最深部だ。罠の一つや2つはあるかもしれない。

 

「それと早苗、〈ラングレー〉の攻撃隊はユーリ君の援護に向かわせて。あっちは多分艦載機の数も負けてるし、艦の数でも不利だからけっこう厳しいと思うからね」

 

「畏まりましたっ、命令伝達しておきます」

 

 今回の作戦方針では〈ラングレー〉の攻撃機は遊兵と化してしまう。なら、最低限の護衛を付けてユーリ君の援護に抽出した方が有効活用できるだろう。〈ラングレー〉のスーパーゴースト隊は飛び立った後は第二巡航艦隊が世話する予定なんだし、戦闘機隊を飛ばした後に並べさせておこう

 

「艦長、空間スキャニングの詳細が出ました。当宙域に機雷の類いは見られません。少数のデブリがあるのみです」

 

「そう。だけど気は抜かないで、こころ。レーダーは常に注視しているように」

 

「はい、了解しました」

 

 こころから報告があった通り、空間スキャニングでは罠の兆候は見つからなかったようだ。だけどもしかしたらまだ極小サイズの機雷がばら蒔かれてるかもしれないし、ステルス機の奇襲もあるかもしれない。油断は禁物だ。

 

 

 

 程なくして、艦隊の戦闘準備は整った。命じた通り第二、第三艦隊は合流してその周囲は迎撃機が固めている。一方の本隊と第一機動艦隊も合流して輪形陣を組み、第二、第三艦隊の後に続く予定だ。支援艦隊はいつもの通り、最後尾に配置している。

 

「迎撃機隊、全機発進しました。所定の位置に付きます」

 

「第二、第三艦隊は加速を開始。突撃戦に移行します」

 

「敵艦隊の前方に多数の小型エネルギー反応確認。敵艦載機隊と思われます。迎撃隊各機は戦闘準備をお願いします」

 

《こちら艦載機隊、了解した!全機戦闘配備だ!》

 

《了解、ガーゴイル隊、迎撃位置に付く》

 

《グリフィス1了解。全機突撃!》

 

《アルファルド1了解、いつも通り、殲滅だな!》

 

 第二、第三艦隊の突撃と同時に、艦載機隊も敵編隊に向かって加速していく。いよいよ、ゼーペンスト軍との決戦だ。

 

「〈開陽〉、機関全速!目標敵艦隊!突撃するわよ」

 

「了解、機関全速!」

 

 それに続いて、私が率いる本隊と第一艦隊も加速を開始した。目指すは敵艦隊、それを打ち破れば、後は首都星で事を果たすだけだ。

 

 ―――でも、なんかモヤモヤするわね・・・何も起きなきゃいいんだけど・・・

 

 だが、〈開陽〉の周囲を囲む勇ましい艨艟達の姿とは裏腹に、私はどこか漠然とした不安を拭えないでいた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

 刻は霊夢達が宇宙基地を沈黙させていた頃、ゼーペンスト宇宙軍指揮官のヴルゴは、ゼーペンスト軍艦隊旗艦である改ペテルシアン級空母〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋内で、部下からの報告を険しい表情で聞いていた。

 

「主力艦隊は・・・やられたか」

 

「はい、残念ながら・・・」

 

 領主命令を受けて不審な艦の追撃に向かわせた本国艦隊主力は、〈グランヘイム〉と交戦したとの報せを受けて以来、すっかり通信が途絶えてしまっていた。

 

「奴等の狙いは、どうやらそれだったか・・・こうなってしまえば、最早生還は絶望的か・・・」

 

 相手は宇宙で最も恐れられている海賊戦艦〈グランヘイム〉である。これでは本国艦隊主力との合流はおろか、主力の生還も絶望的だろうとヴルゴは考えた。幾ら兵の練度を上げたとしても、この自治領の戦力では、〈グランヘイム〉に掠り傷を負わせられれば万々歳といった程度だ。それほどまでに、〈グランヘイム〉という存在は強大なものであった。

 

 やはり、あのときにもっと領主に反論しておけば、もしかしたら無駄に部下の命を散らさずに済んだかもしれない。そんな思いがヴルゴの胸を駆け巡ったが、最早後悔しても遅いことだと割りきった彼は、侵入者への対策を練ろうと努める。

 

「親衛隊だけでも残しておいて、正解だったな」

 

 本国艦隊主力が壊滅した今、ゼーペンストの護りを担うのは彼が率いる親衛隊33隻のみである。増強されて新鋭艦も受領した親衛隊といえど、戦力はまだ未知数、しかも新鋭艦に至っては、まだまだ訓練は充分ではない。不安要素など挙げればきりがないが、それでも彼は、勝利のために策を巡らせる。

 

 程なくして、宇宙基地からの通信が途絶した。遂に侵入者が、首都星ゼーペンストに迫る。

 

「・・・親衛隊全艦に告げる。只今より本艦隊はこのアイナス軌道を絶対防衛線として敵艦隊に決戦を挑む。我らがゼーペンストの命運は、この一戦に掛かっている!今こそゼーペンスト親衛隊の力を示す刻だ。絶対に侵入者を通すな!諸君らの健闘に期待する」

 

 通信チャンネルをオープンにして、ヴルゴは親衛隊全艦に呼び掛けた。

 

 全ては先代の築いたこの自治領を護るため、ヴルゴは迫る戦いを前に、不退転の覚悟を決めた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

【イメージBGM:艦橋これくしょんより「シズメシズメ」】

 

 

「敵攻撃隊360機、間もなくわが迎撃機隊と接触します!」

 

 敵機動部隊の攻撃隊は、予想通り前衛を努める第二、第三艦隊に矛先を定めたようだ。それと同時に、敵艦隊は此方から距離を取るような仕草を見せ始めている。

 

 ―――此方の意図を察したのだろう。そう簡単に、土俵は明け渡さないということか・・・

 

 敵は機動部隊である以上、接近戦では不利だと理解しているようだ。此方の打撃艦隊に捕まってしまえば一気に形成は不利になることは容易に分かることだし、私だって敵の立場ならそうするだろう。

 

「第二巡航艦隊、対空ミサイルによる迎撃を開始。同時に迎撃隊も交戦を開始しました」

 

 輪形陣外輪に位置する第二巡航艦隊の巡洋戦艦と軽巡洋艦群が、一斉に敵編隊に向かって迎撃の対空ミサイルを放った。だが長距離用の対空迎撃ミサイルは数が少ないので、これは牽制程度の攻撃だ。ここでの迎撃の主力は、艦隊上空から攻撃隊阻止のために移動してきた此方の迎撃戦闘機隊168機になる。

 〈スーパーゴースト〉と〈ジム〉を主力とする迎撃隊は敵編隊を捕捉すると、先ずは中距離AAM(対空ミサイル)を装備する機体が警戒管制機〈RF/A-17S〉から送られたデータに従って目標にミサイルを撃ち込む。

 

《グリフィス1交戦(エンゲージ)!これでも喰らえ!》

 

《グリフィス2、敵編隊を捕捉。交戦します!》

 

《ガルーダ1、交戦!FOX2!》

 

 だが、此方はレーザーと短距離用マイクロミサイルを主兵装とするスーパーゴースト隊が主力だ。中距離AAMを搭載している機体は全体の半分以下―――なので、今の攻撃でも敵の数はあまり減っていない。せいぜい20機ぐらいが落ちたところか。

 

《チッ、数が多いな・・・次、狙うか?》

 

《いや、敵の戦闘機隊が食いついてきた。各機回避運動!》

 

 だが撃ったら撃ち返されるのは言うまでもなく、今度は敵戦闘機隊凡そ180機が迎撃機隊に向けてミサイルを放つ。

 此方の迎撃機隊は大半が機動性に優れた無人戦闘機スーパーゴーストで、さらにRF/A-17S警戒管制機の電子妨害もあるので中距離AAM程度なら問題なく無力化できるのだが、それでも被害は出る。さっきの交戦でこっちの戦闘機が10機ほど落とされた。その大半は、他機種に比べて動きが鈍いT-65B重戦闘機だ。この機体は大口径レーザーを主兵装にしている重戦闘機で速度性能は良好なのだが、如何せん旧式なためか他の機体に比べたら旋回性能や搭載力が低い―――この機体、そろそろ引退させるべきかな。

 

 敵味方の戦闘機がミサイルを撃ち合ったあと、両者は近距離のドッグファイトに突入する。こうなってしまえば、後は此方のスーパーゴースト隊がその本領を発揮して空戦を有利に進められるだろう。あれは近距離戦に特化した機体だし、ドッグファイトは得意中の得意な領域だし。スーパーゴースト隊は無人機ならではのGを無視した非常識なマニューバで敵機の背面や後ろについてはレーザー機銃を浴びせて着実に敵の数を減らしていく。一方では新兵器である機動兵器〈RGM-79 ジム〉の部隊も負けてはおらず、逃げる敵機の背後を取ってマシンガンを連射しながら、自分の背後についた敵機も銃のジョイントアームを後ろに向けて敵機に予想外の攻撃を浴びせ、隙を突いて撃墜している。

 だがやはり敵の数が多い。しかも敵艦載機隊は練度も高く、互いをサポートしながら攻撃しか頭のない無人機部隊を翻弄して撃墜する猛者の姿もある。これは長丁場になりそうだ。

 

 そして一番の問題が、敵の攻撃隊を阻止する戦力があまりに少ないことだ。

 此方の迎撃機の殆どが敵戦闘機隊とのドッグファイトに明け暮れているこのタイミングでは、艦隊上空の守りは僅かな無人機とスーパーゴースト隊だけだ。

 

《迎撃隊が抜かれたか・・・ガーゴイル1交戦》

 

《ガーゴイル2、交戦します》

 

《アルファルド1、FOX2!この、墜ちろっ!》

 

 艦隊上空の直掩隊も頑張ってはいるが、たかだか30機程度では200機近い敵攻撃機を押し止めるのは難しい。敵の対空能力が低いのでそうそう撃墜されることはないが、敵の護衛戦闘機に追い回されて上手く攻撃位置につけない機もいるようだ。

 

「第二、第三艦隊、対空戦闘を開始しました」

 

 だが敵攻撃隊が艦載対空火器の有効射程に達したため、今度は艦隊からの攻撃も加わる。

 先ずは巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉の対空VLSから放たれた対空ミサイルが敵編隊を襲い、続いてルヴェンゾリ級巡洋艦とグネフヌイ級駆逐艦のレーザー主砲とパルスレーザーによる弾幕が敵編隊の行く手を阻む。輪形陣内側の第三打撃艦隊からも対空クラスターミサイルやレーザー主砲の砲撃が降り注ぎ、濃密な対空弾幕を形成する。

 その火線に絡めとられた敵機は一機、また一機と撃墜されていくが、敵機が対艦ミサイルを発射すると、今度はそちらの迎撃に忙殺される。その隙に突入してきた敵攻撃隊がまた対艦ミサイルを放っての繰り返しで、なかなか敵の攻撃を阻止できずにいる。

 

 最初こそミサイルの迎撃に成功していたが、次第に攻撃機に手が回らなくなり次々とミサイル発射を許してしまうと、次第に迎撃しきれないミサイルも出てきてしまう。それらは輪形陣外側にいたルヴェンゾリ級とグネフヌイ級に突き刺さり、艦隊に無視し得ない損害を与えた。

 

「巡洋艦〈ユイリン〉大破、機関室で火災発生!駆逐艦〈ヴェールヌイ〉、カタパルト喪失、中破です!駆逐艦〈アナイティス〉、格納庫内で誘爆発生!緊急消化ユニット作動中」

 

「駆逐艦〈コヴェントリー〉、バイタルパート内に損害発生。装甲を抜けた敵ミサイルがコントロールユニット付近で炸裂した模様です。一切の操作不可能!」

 

「チィッ、やるわね・・・〈コヴェントリー〉のコントロールを〈ブクレシュティ〉に委譲させて。そうすれば解決する筈よ」

 

「了か・・・いえ、既にコントロールは〈ブクレシュティ〉が掌握したようです」

 

 流石はアリス、動きが早い。無人艦はコントロールユニットを喪えば後はただの案山子だが、〈ブクレシュティ〉の 拡張艦隊戦闘指揮システムに接続すれば、彼女からのコントロールで艦を動かすことは可能だ。ただ、これは演算容量をそれなりに必要とするらしいから、あまりこれに頼りすぎる訳にもいかない。彼女は機動部隊襲撃の先鋒を務めるのだから、損傷艦のコントロールまで一手に引き受けさせるのも不味いわね。・・・次に作る艦艇は、予備のコントロールユニットも載せた方が良さそうね。

 

「っ、巡洋艦〈モンブラン〉、弾薬庫爆発!艦首区画喪失!」

 

「直ちに〈モンブラン〉を後退させて。本隊と合流させるわ。それと〈ユイリン〉、〈ヴェールヌイ〉も同時に後退させなさい」

 

「りょ、了解っ!」

 

「―――巡洋戦艦〈オリオン〉、巡洋艦〈サチワヌ〉〈ボスニア〉中破、戦闘能力が低下します」

 

 ・・・今のところ沈没こそは出ていないが、一気に巡洋艦と駆逐艦2隻を戦列から落伍させられてしまった。敵もなかなか侮れない実力を持っているようね。

 

「敵攻撃隊、撤退していきます」

 

「・・・一度迎撃隊と直掩隊を第二艦隊に戻して。整備と補給が済み次第順次発進よ。第二、第三艦隊は予定通り突撃を続行しなさい。次が来る前に距離を詰めるわよ!」

 

 先程の敵攻撃隊は凡そ380機。敵艦隊の搭載量を考えれば、直掩を除いて殆ど差し向けてきた感じだろう。なら次の攻撃隊発進まではまだ間がある筈だ。その隙に一気に距離を詰めて、できれば敵艦隊を最大射程には捉えたい。

 それに、さっきの攻撃では敵機をそれなりに墜としているし、再出撃に耐えられない機体もあるだろう。第二次攻撃があったとしても、先程のような大編隊ではない筈だ。

 

 敵編隊が去り、直掩隊もグネフヌイ級とオリオン級、ルヴェンゾリ級などの母艦に戻りつつある中、前衛部隊輪形陣の外側で、少し遅れて一際大きな閃光が輝いた。

 

「ッ、駆逐艦〈アナイティス〉、轟沈!」

 

 ―――この会戦で、初の戦没艦だ。

 〈アナイティス〉は確か、先程の攻撃で格納庫に誘爆していた艦だった。どうやら消化が追い付かなかったようで、遂に火が艦載機用の推進材辺りにでも回ってしまったのだろう。・・・やはり耐久力の低い駆逐艦サイズだと、艦載機用の推進材やミサイル類への誘爆対策を充分に施すことが難しいのかもしれないわね。元になったゼラーナ級ではあまりこんな話は聞かなかったけど、単にこうした事例がなかっただけだろう。元々あれ、海賊船だし。

 

 ―――この戦いの後には、色々改善しないと不味そうね・・・

 

 図らずも、先程の戦いでは此方が保有する艦船の弱点が露呈した形になっている。特に無人艦と艦載機を多用するうちの艦隊だと、〈コヴェントリー〉と〈アナイティス〉の件は貴重な戦訓になった。ここは高い授業料を払わされたと思って耐えるしかないわね。

 

「そういえば、〈ラングレー〉の方はどうなってる?」

 

「はい、ユーリ君の援護に向かわせる攻撃隊の準備は完了しました。現在発艦中ですから、もう間もなくすれば敵艦隊右翼に向かう予定です」

 

 私は一度、意識を前衛から空母〈ラングレー〉に移す。

 艦隊戦力が劣勢なユーリ君の援護にと、今は遊んでる攻撃隊の半分を送り出してやろうと思って、スーパーゴーストと爆撃機スヌーカ、雷撃機ドルシーラを各10機ずつ差し向ける手筈だが、今まさに発艦して目標に向かうといったところだ。

 

 

 

 

「え・・・か、艦長ッ!敵機直上ですッ!」

 

「な・・・一体何処から!?ッ、とにかく迎撃を急いで!対空ミサイルは!?」

 

「くっ、対空ミサイルは既に射程外だ!パルスレーザーで迎撃する!って何だ!全然照準できねぇぞ!?」

 

 

 突然、艦隊の上空に敵機の反応が表れた。

 はっきり言って、まともな迎撃機がいない私達本隊は超やばい。しかも照準できないって何なのよ!?

 

「霊夢さんっ、敵はステルス機ですよ!パルスレーザーをレーダー連動から赤外線シーカーによる個別照準に切り替えます!」

 

 ステルス機・・・って、確かレーダーに映らない戦闘機のことよね・・・どうりで発見が遅れた訳だ。しかも、敵機はご丁寧なことに暗色迷彩とステルス塗料まで塗ってあるらしく、光学センサーもまともに役に立っていない。

 

 やっとパルスレーザーによる迎撃が始まったが、既に懐深くに飛び込まれていたせいで効果的な対空弾幕が張れていない。〈ラングレー〉を飛び立ったスーパーゴーストと2機のスヌーカが迎撃機に向かうが、スヌーカは誘導爆弾を落とす前に敵の対空ミサイルに墜とされた。この役立たず。

 一方のスーパーゴーストも敵が徹底したステルスを施しているためか、敵を中々捕捉できずにいる。敵機を追撃しているのは僅か3機だ。

 

「敵機、ミサイル発射!迎撃間に合いませんっ!?」

 

「総員、衝撃に備えて・・・ッ!!」

 

 私がそう叫んだ瞬間、〈開陽〉の艦橋が大きく揺らされ爆発音が響き渡った。

 

「ひ、被害報告!」

 

「ハッ、艦橋頂部の左舷側フェイズドアレイレーダーが敵ミサイルでもぎ取られたようです!索敵機能が低下しますが、航行に支障はありません」

 

 艦橋頂部のレーダー、といったらあの部分か。けっこう際どいところに当たったのね。もう少しずれていたら艦橋本体がおじゃんにされていたところだ。

 

「ああっ、艦長、〈ラングレー〉が・・・!」

 

「えっ・・・ッ!」

 

 しかし、敵の攻撃はそれだけでは終わらなかった。〈開陽〉に続いて狙われたのは右隣にいた空母〈ラングレー〉で、直上から接近した敵ステルス機は今まさに攻撃隊を急速発進させていた〈ラングレー〉に向かってミサイルを撃ち放ち、迎撃空しく全弾飛行甲板後部に命中してしまう。

 敵機が〈ラングレー〉とすれ違った後、〈ラングレー〉の飛行甲板後部はものすごい爆発に包まれ、その閃光に私も一瞬怯んでしまった。

 

「ら、〈ラングレー〉、大破!飛行甲板炎上!」

 

「クソッ、誘爆は何としてでも防げ!全力で艦内スプリンクラーを作動させろ!」

 

「や、やってますよ!」

 

 ・・・あの様子だと、飛行甲板にあった攻撃隊の魚雷と爆弾に引火して大爆発を起こした感じだろうか。爆発の閃光が落ち着いた〈ラングレー〉の後部飛行甲板はごっそり抉れていて、さらによく見ると右のエンジンノズルからも怪しげな火を吹いている。

 艦隊唯一の空母を失うまいとコーディが指揮を執るが、この艦橋でいくら騒いでも〈ラングレー〉を直接操作できる訳ではない。〈ラングレー〉のAIとダメコンロボが上手く動いてくれるのを祈るだけだ。

 

「〈ラングレー〉の右舷機関室、壊滅!速力大幅に低下!」

 

「くっ・・・隔壁と艦内スプリンクラーは・・・何とか正常に動作しているみたいね。他に艦隊に損害はない?」

 

「はい・・・〈ラングレー〉が攻撃を受けた隙に、護衛艦にも攻撃が仕掛けられていたようです。先程の一撃で巡洋艦〈エムデン〉がインフラトン反応消失、撃沈された模様です。駆逐艦〈霧雨〉も大破しました」

 

「―――派手にやられたわね。敵機の反応は?」

 

「・・・現在は確認できません。恐らくはミサイルを撃ち尽くしたのかと」

 

「―――第二、第三艦隊にも連絡して。敵機がまだ弾を持ってるなら、そっちに行ったかもしれないわ。それに同種のステルスがまだ潜んでるかもしれないんだし」

 

「・・・了解しました」

 

 レーダー担当のこころは、沈んだ声で報告した。ステルスの発見が遅れてしまったためだろう。だが、こればかりは敵が一枚上手だったと認めざるを得ない。

 此方は罠を警戒した上で進んでいたのだ。その警戒網を突いて艦隊に大損害を与えるとは、敵ながら天晴だ。

 ・・・受けた被害を考えると、あまり笑えないんだけどね。

 幸い船体の主要部品や機関なんかは空間通商管理局が無償提供してくれるから何とかなりそうなんだけど、ワンオフの航空機とそれ用の弾薬を大量に喪ったのは痛い。地味に数を揃えると高くつくのよあれ。それに巡洋艦も一隻沈められたし。いくらうちの巡洋艦で最弱のサウザーン級とは言っても、巡洋艦は巡洋艦だ。失って惜しくない訳がない。本当は駆逐艦1隻失うだけでも惜しいのに。

 

 くそっ、こうなったら殲滅あるのみよ。見てなさい、ゼーペンスト!

 

 

 

 

 




本来ならこの話で艦隊決戦は決着だったのですが、予想以上に延びたので前後に分けます。

ゼーペンスト艦隊は本来だったら11隻で、空母は旗艦のドゥガーチ級を改良したアルマドリエル級1隻だけなのですが、本作では大幅な強化が入っています。数は3倍、そして本来このタイミングでは出現しないペテルシアン級空母を追加しました。ヴルゴさんの乗艦は、アルマドリエル級からペテルシアン級に変更されています。ユーリ君とメイリンさんが戦っている艦隊は、原作ゲームでユーリが戦った艦隊にアルマドリエルを1隻追加した編成になっています。
ちなみにペテルシアン級の搭載機数はゲームの上限値を軽く天元突破しています。ゲーム上での空母の搭載機数上限は60機ですが、この小説では搭載機数に関しては大幅な上方修正が入ることが多いです。1000m越えの船体に60機って、幾ら色々必要な宇宙船といえど少なすぎるような気がするので。

やはり艦隊決戦になると文字数が増える増える・・・

そして本話は1万5千字ほどありますが、最近は1万字を越えたら重くて書けたものじゃないので、そこを越えたら別に書いて最後にくっつけるという強引な手段を取りました。昔は2万でもすらすら書けたんですがねぇ・・・


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第五二話 Operation・Stardust (後)

 ~ゼーペンスト親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

「・・・将軍、攻撃隊が帰還しました」

 

「うむ、ご苦労だった。して、戦果の程は?」

 

 ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋にて指揮を執るヴルゴの元に、部下が報告のため駆け寄る。

 親衛艦隊には先程、攻撃に出していた航空機部隊が帰還したところで、各空母はその収容作業を急いでいるところだ。その間に攻撃隊の戦果分析を終えた部下は、予想よりも少ない戦果と損害に落胆したが、ヴルゴの前では平静な態度を努めていた。

 

「はっ、我が攻撃隊の戦果は巡洋艦1、駆逐艦2隻撃沈、巡洋艦1隻撃沈確実、事前に展開させていたステルス機部隊の奇襲攻撃により空母1隻と巡洋艦1隻を撃沈したとのことです」

 

 ヴルゴの部下は淡々と戦果の分析結果を伝える。撃沈数には幾らか誤りがあるが、宇宙空間では一見すると撃沈されてデブリと化したのか大破したがまだ戦闘力を残しているのかは判断しにくい面もあるので、そこは仕方がないのだろう。また敵艦の撃沈判断には轟沈時に放出されるインフラトン反応の拡散も一つの指標として用いられているが、『紅き鋼鉄』の空母〈ラングレー〉は大破炎上したことで右舷側機関室が破壊されて周囲の空間にインフラトン反応が拡散している状況のため、ゼーペンスト側はこれを撃沈と誤認してしまっていた。

 

「ふむ、やはりそう上手くはいかんか。少なくとも敵前衛艦隊の3分の一は撃破しておきたいところだったが・・・だが、空母を落とせたのはせめての救いだな」

 

「はい。ですが敵の直掩機は巡洋艦と駆逐艦に着艦しているようです。まだまだ敵の航空戦力壊滅には至っていないでしょう」

 

「そこは貴官の言うとおりだな。攻撃隊の未帰還機の数も無視し得るものではない。次はかなり厳しいぞ」

 

 ヴルゴは部下の報告と自軍の損害を鑑みて、戦況を分析する。

 現状では霊夢艦隊にそれなりの損害を与えたゼーペンスト側が勝っているようにも見えるが、その実態はかなり厳しいものだ。

 まずヴルゴは『紅き鋼鉄』の巡洋艦を中心とする前衛艦隊(第二巡航艦隊、第三打撃艦隊)に凡そ380機の攻撃隊を差し向けたのだが、直掩機約200機の妨害を受けてかなりの損害を出していた。直掩機を押し止めた戦闘機180機のうち70機ほどが撃墜され、攻撃隊も敵直掩機や対空砲火により50近くが撃墜されていた。敵戦闘機の数も40機ほど墜とせたとはいえ、この一戦で戦闘機の性能差を思い知らされた以上、数が70機も減った次ではより大きな損害が出てしまうのは明らかだ。

 それに加えて敵艦の防御力も予想以上に高く、対空砲火は尚のこと艦船のシールドやデフレクター等の直接防御もヴルゴの予想を大きく上回っていた。

 事前に捉えた光学観測データの分析によれば、『紅き鋼鉄』が主力とする駆逐艦はスカーバレル海賊団が使用するガラーナ級、ゼラーナ級の改造艦であることが判明しており、ゼーペンスト親衛隊からすればこれらの艦船は自分達のそれより劣ったものであったため、性能もそれほど高くはないと思われていた。だが実際に交戦してみれば、敵の駆逐艦はスカーバレルのそれとは次元の違う強さを見せつけた。元の艦にはなかった対空火器が大幅に追加されているばかりか、艦そのものの生存性も段違いだった。駆逐艦でさえそれなのだから、巡洋艦や戦艦の戦力もまた、ヴルゴ達の予想を越えたものであることは容易に想像できた。

 そのような相手に第二次攻撃隊を送り出したところで、次は戦果よりも損害が大きくなるのは目に見えていた。

 

 そして敵艦隊は会戦が始まって以来ゼーペンスト艦隊に向かって全力での突撃を続けており、ヴルゴは距離を取ろうと自らの艦隊を後退させ続けているのだが、徐々に両者の距離は縮まりつつある。それだけの速度の差が両者の間にはあった。ゼーペンスト艦隊は空母とその護衛に特化した巡洋艦と駆逐艦が主戦力であるので、もし敵艦隊に捕捉されてしまった場合は戦艦複数を擁する敵艦隊が有利なのは言うまでもない。

 

 さらに、ヴルゴが予めこの宙域に待機させていたステルス機による奇襲部隊の戦果も不十分なものだった。敵の艦載機発進の隙を突いて空母を撃破したのは良いものの、『紅き鋼鉄』の旗艦と思われる巨大戦艦(開陽)には殆ど損傷を与えることができず、これも未だに健在だった。ここで旗艦に重大な損傷を負わせることができれば敵の指揮系統を混乱させることができるのではと考えていたヴルゴであったが、その試みは失敗に終わってしまった。

 

「・・・だが、諦める訳にはいかんな。艦隊は後退しつつ、対艦戦闘の準備を整えろ」

 

「はっ、了解です!」

 

 しかし、ヴルゴは一国の防衛を任された軍の長である。この自治領を築いた先代当主の代から仕え続けてきたヴルゴには、敵にここをみすみす通してやる真似など言語道断、最後までその務めを果たす所存だった。

 

 ヴルゴは敵艦隊の接近に備えて隷下の艦隊の戦闘準備を整えさせ、『紅き鋼鉄』本隊の迎撃準備を進めた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』第三打撃艦隊旗艦〈ブクレシュティ〉艦橋~

 

 

【イメージBGM:東方妖々夢より「ブクレシュティの人形師」】

 

 

 〈ブクレシュティ〉を旗艦とする第二巡航艦隊、第三打撃艦隊はゼーペンスト攻撃隊により多少の損害こそ出したものの、まだ充分に許容範囲である。なので艦長席の独立戦術指揮ユニット―――アリスは、既定の作戦に従って艦隊を突撃させる。既に直掩機の再展開も完了しつつあり、また敵攻撃隊が襲来したとしても、直掩機部隊にはこれを撃退できるだけの余力は充分にあると彼女は計算していた。

 

《敵艦隊、間モナク当方ノ最大射程二入リマス》

 

「・・・そろそろね。先ずは長距離対艦ミサイルで仕掛けましょう。邪魔な取り巻きを蹴散らしなさい」

 

《了解。SSM-716〈ヘルダート〉大型対艦ミサイルVLS、発射準備。目標、敵護衛艦》

 

 静まり返った無人の艦橋に、システムボイスの報告音声が響く。

 アリスはその報告を受け取り、現在の戦況を分析した。

 敵艦隊は開戦以来後退を続けているが、機関の性能差から第二、第三艦隊はこれに追い付きつつある。そしてつい先程、この艦隊が装備するなかで最大の射程を持つミサイルの射程圏内に捉えた。彼女は即座にこれで敵艦隊を攻撃するように指示したが、狙う対象は主力の空母ではなく護衛艦だ。その理由だが、後衛に位置する敵空母を狙うには前衛の護衛艦が障害となり、ミサイルの誘導性能ががこれらの護衛艦が発する熱反応や妨害措置により低下してしまうためだ。

 

《SSM-716〈ヘルダート〉ミサイルVLS、1番カラ14番マデ発射準備完了》

 

「1番から8番まで順次撃ちなさい。9番から14番は待機よ」

 

「了解、1番カラ8番マデ順次発射。目標、敵前衛ノ駆逐艦ニ固定」

 

 後退を続ける敵艦隊に打撃を与えるべく、アリスはミサイルの発射を指示する。

 〈ブクレシュティ〉の艦尾にあるVLSが解放され、そこから8発の大型対艦ミサイルが発射された。

 

「艦隊陣形を輪形陣から立体縦陣に移行。砲雷撃戦用意よ」

 

 続いてアリスは、敵艦隊との本格的な交戦に備えて艦隊の陣形を変更する。

 それまでは敵艦載機隊を警戒して輪形陣で進んできたものを、砲撃戦を考慮した複数の縦陣に変更し、それを立体的に配置して、艦隊全体で直方体のような陣形を構成した。

 

 ―――拡張艦隊戦闘指揮システム、起動―――

 

 アリスの周囲に、データが羅列された蒼いホログラムのリングが展開する。

 ミサイルやレーザーの装填状況や各部の損害情報、僚艦の機関状態や損傷状況などのデータが〈ブクレシュティ〉のコントロールユニットに一度に流れ込むが、アリスはそれを分割思考で瞬時に処理し、艦隊のデータリンクを通して即座に司令を発信する。

 アリスがシステムを本格的に起動してから、艦隊の動きは水を得た魚のように活発なものとなり、今までのような敵の攻撃からの防御を前提とした艦隊ではなく、敵艦隊を切り裂く"刃"としての艦隊に変貌する。

 

「さぁて、"狩り"を始めましょう―――」

 

 誰もいない艦橋の中で、アリスは一人呟く。

 

 その瞳は、獲物を前にした猛獣のようだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋~

 

 

「第二・第三艦隊、敵艦隊を最大射程に捉えました。現在長距離対艦ミサイルによる遠距離戦闘を敢行していますが、突撃速度を緩める気配はありません」

 

「あいつ、そのまま近距離での砲雷撃戦に持ち込むつもりね。勇ましいこと」

 

 メインパネルに表示される戦術データマップ上には、アリスが率いる前衛艦隊が敵の機動部隊と交戦したことが表示された。今までは敵の攻撃隊に好き勝手されてきた私達だけど、ここからが反撃のターンだ。

 

「此方も最大射程に敵を捉え次第、主砲で援護射撃をやるわよ。フォックス、準備は出来てる?」

 

「ああ、射撃諸元のデータ入力なら万全だ。何せあっちのお嬢さんが正確なデータを送ってくれるからな。あとは射程に入り次第ブッ放すだけだぜ」

 

「・・・敵艦隊との距離、あと27000です。主砲の最大射程まであと9000」

 

 ご丁寧なことに、アリスの奴は自分が交戦している片手間に射撃データまで送ってくれた。しかも補正値付きで。ようはさっさとぶっ放してくれって合図なのかしら。元々射程に入り次第そうするつもりなんだけど。

 

「霊夢さん、〈ラングレー〉を後退させておきました。護衛には駆逐艦〈タシュケント〉と〈ズールー〉を付けてあります」

 

「ご苦労。それで損傷具合の方はどう?」

 

「ああ、それがですね・・・右舷側のエンジンが完全にイッちゃったみたいで・・・艦速の大幅な低下は避けられないですね。一応消火活動は完了したみたいなので、下層の飛行甲板なら使用できると思いますけど」

 

 早苗からは敵の奇襲攻撃で大破した空母〈ラングレー〉の状態が伝えられる。撃沈という最悪の事態は免れたんだけど、大破したようじゃ戦力としては使い物にならないし、今は艦隊の後方に後退させて工作艦部隊に合流させる予定だ。

 

「う~ん、それじゃあユーリ君の援護は厳しそうね・・・彼には頑張って貰うしかないかぁ―――」

 

「そうですねぇ・・・ってあれ?こんな場所に不明なバゥズ級重巡がいますね・・・何でしょうか?」

 

「バゥズ級?どれ、ちょっと見せてみなさい」

 

 早苗が言うとおり、宙域図に目を通してみると確かにバゥズ級重巡洋艦が単艦で動いている。ユーリ君の艦隊の方に向かってるみたいだけど、一体何なのかしら、こいつ。

 

「あ・・・バゥズ級がユーリ君と交戦中のゼーペンスト艦隊に向けて砲撃し始めたみたいですね」

 

「ゼーペンストに砲撃・・・ってことは、一応助太刀って解釈していいのかしら。まぁこっちに害はないみたいだし、ユーリ君の援護はそいつに任せておきましょう」

 

 どうもそのバゥズ級は此方を援護するつもりらしく、ユーリ君と戦ってるゼーペンスト艦隊に向けて砲撃を始めたようだ。どこの誰かは知らないけど、勝手に助太刀してくれるというのなら敵ではないでしょう。今はこいつのことは放っておいて、自分の艦隊の戦況を把握しなくては。

 

「ミユさん、前衛艦隊の戦況は?」

 

「はい、〈ブクレシュティ〉の対艦ミサイルは敵艦隊前衛に着弾したようです。最低でもリーリス級駆逐艦2隻の撃沈を確認しました。現在、駆逐艦〈有明〉〈夕暮〉を加えた3隻で第二射を敢行、間もなく戦果報告が入ります」

 

「どうやら順調みたいね。こころ、レーダーに不審な反応とかは無い?」

 

「・・・はい、観測機器に異常なしです。敵艦隊がまた艦載機を展開していますが、艦隊上空に留まっているので直掩機かと思われます」

 

「了解。さっきみたいなステルス機の奇襲がないとは限らないし、少しでも異常があったらすぐに報告して」

 

「分かりました。警戒を続けます」

 

 さて、戦況の方だけど、此方の前衛艦隊が敵に追い付きつつあることで次第に私達が有利になりつつある。艦載機の数では負けても艦船の数と性能差なら私達の方が上だ。できればこのまま畳み掛けたいところだけど・・・

 

「敵の護衛駆逐艦、わが前衛艦隊に対しミサイル攻撃を敢行した模様です。数192。前衛艦隊は迎撃に移ります」

 

 敵さんも、そう簡単にはやられてくれないらしい。

 敵艦隊はお礼とばかりにミサイルの雨を〈ブクレシュティ〉率いる前衛艦隊にお見舞いしてくれる。敵駆逐艦が放ったミサイルは小マゼラン製だし、単体ではそれほど脅威にはならない。だけど数があれば話は別だ。

 敵艦隊が使うリーリス級駆逐艦は箱形の艦体構造をした比較的簡単な造りの駆逐艦なのだが、こいつは艦の前半分がミサイルVLSで占められたミサイル駆逐艦だ。VLSには通常対空ミサイルが納められているらしいのだが、ゼーペンスト軍の中にはこれを標準的な対艦ミサイルを発射できるように改造したやつがいたらしい。そいつらが一斉に対艦ミサイルを発射したため、前衛艦隊は192発という膨大な数のミサイルに対処せざるを得なくなってしまった。通常の艦船なら迎撃能力を軽く上回るだけの数だ。普通なら、これだけのミサイルを撃たれてしまえばそれなりの被害は覚悟しなければならないだろう。

 

 だけど、ゼーペンストには分が悪いことに、〈ブクレシュティ〉に搭載されているシステムはそこらの雑魚とは段違いの性能だ。その程度の数なら、何とか迎撃しきれないことはない。

 まずは電子妨害やデコイによる誘導妨害が始まり、それを潜り抜けたミサイル群に対しては〈ブクレシュティ〉が瞬時に迎撃担当艦を割り当てて、艦隊各艦はそれに従ってミサイルのハードキルを試みる。敵攻撃隊に対して相当の出血を強いた防空システムが、今度は敵ミサイルに対して牙を剥いた。

 航宙機とは違って真っ直ぐにしか飛ばないミサイルは、正確に照準された対空火器からすれば格好の的だ。飛行機とは違って面白いようにバタバタと墜とされていく。艦隊上空で直掩についていた艦載機隊も、腕に覚えのある猛者共は直接レーザーでミサイルを撃墜するという芸当を披露して、迎撃に貢献した。

 

 だけど、やはりというべきか少量のミサイルは迎撃しきれずに通してしまったらしい。その数、凡そ20発。

 だが所詮は小マゼラン製のミサイルだったらしく、分散して着弾したために艦隊の被害は少ないものに留まった。

 

「敵ミサイルの一部が前衛艦隊に到達。巡洋艦〈ボスニア〉、〈ナッシュビル〉に着弾しましたが戦闘続行に支障ありません。巡洋戦艦〈レナウン〉はデフレクターによる防御に成功。駆逐艦〈ヘイロー〉〈春風〉〈ソヴレメンヌイ〉〈コーバック〉に各1~2発が被弾しましたが何れも小破以下です」

 

 〈ブクレシュティ〉から届けられた被害報告をミユさんが読み上げたけど、見る限りでは損害は少ない。これなら充分に許容範囲だ。

 そして先程の攻撃を受けたことで〈ブクレシュティ〉は脅威判定を変更したようだ。対艦ミサイルを撃ってきた駆逐艦を特定すると、それ以外の残弾を有する可能性がある駆逐艦に向けて大型対艦ミサイルの洗礼を浴びせた。

 それを見たときは、最初こそ何故撃ってきた艦を狙わなかったのか疑問に思ったけど、VLSは一度撃ち尽くすと再装填にはそれなりに時間がかかる。だからさっき撃たなかった奴の方が脅威度という面では高いとアリスは判断したらしい。そう考えると、成程合理的な判断だと感心する。

 

 アリアストア改級ミサイル駆逐艦の〈有明〉〈夕暮〉から放たれた大型対艦ミサイルは、先程の攻撃に参加しなかった4隻のリーリス級駆逐艦に寸分の違いなく着弾し、弾薬庫誘爆を引き起こして轟沈させる。敵のミサイル攻撃を受けてから即座に反撃に転じたそのスピードには、目を見張るものがある。アリスはサナダさん謹製の高性能AIなんだし、人間に比べると思考と反射の速度が段違いだ。

 

「敵駆逐艦4隻のインフラトン反応拡散中。撃沈した模様です」

 

「敵艦隊前方に小型のエネルギー反応が多数展開しています。恐らく、敵艦載機隊がわが前衛艦隊の攻撃を妨害するものと思われますが」

 

「そっちは直掩隊に任せておきなさい。それより、敵との距離はどうなったの?」

 

「はい、現在敵艦隊との距離、18200です。間もなく主砲の最大射程に到達します」

 

「了解。フォックス、出番よ」

 

「イエッサー。主砲、1番から3番まで発射準備だ」

 

 さて、敵艦隊がアリスの前衛艦隊と遊んでいるうちに、私達の本隊も敵を主砲の最大射程に捉えた。〈開陽〉の160cm砲とクレイモア級重巡が装備する80cm砲レーザーの最大射程は共に距離18000で、これは一般に販売されているLサイズのレーザー砲に比べるとやや短めの距離だ(ざっと調べた限りでは、Lサイズのレーザー砲の射程は18000から21000が相場らしい)。だけど此方の近距離用メインレーダーの探知圏内に余裕で入る距離だし、最大射程といっても命中率はそこそこ期待できる。さらに今回は〈ブクレシュティ〉の観測データもあるし、より正確な射撃ができるだろう。

 

「主砲、敵艦隊中央の空母群に照準しなさい。アリスが盛大に前衛を吹き飛ばしてくれたんだから、少しは楽になってるでしょ」

 

「了解、目標敵空母。まずは右側の奴を狙うぞ。主砲、弾種レーザーでスタンバイ・・・発射!」

 

 敵を射程に捉えると、〈開陽〉の前甲板にある3基の3連装砲塔が稼働して敵空母を指向する。そこから1門ずつ、計3門の主砲から蒼いレーザー光が放たれて、敵のペテルシアン級空母に向かって飛翔する。

 

「第一射、一発の着弾を確認!」

 

「その調子ね。次は重巡も加えて撃ちなさい」

 

 いくら最大射程とはいえ、あれだけのバックアップがあるんだし、初弾命中ぐらいはやってくれないと困る。弾が当たってるなら此方の照準は正確なんだし、後は発射速度に任せて敵を圧倒するだけだ。

 

「主砲、第二射発射!」

 

 今度は重巡〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉も加えた3隻で、敵空母のうち一隻に集中砲火をお見舞いしてやる。こっちが主砲の照準をしている間に前衛艦隊の攻撃で敵のフリエラ級巡洋艦2隻が爆散したので、さっきより照準はやり易くなってるだろう。

 その予測通り、敵空母に向かって放たれた9発のレーザービームのうち7発が着弾し、敵空母を判定小破に追い込んだ。

 だけど小破かぁ・・・空母だったら、もう少し損傷すると思ったんだけど、案外硬いのね。

 

「チッ、流石は大マゼラン製の空母だ。APFSの出力もそこらの雑魚とは段違いだぜ」

 

 ああ成程、シールド出力の差か。そういえばペテルシアン級空母は大マゼラン製なんだし、当然シールドの出力もそこらの海賊船やゼーペンスト護衛艦とは桁違いのようね。

 

「主砲は当たってるんでしょ?ならそのまま撃ち続けなさい。幾らシールドが硬くともエネルギーは無限ではない筈よ!」

 

「アイアイサー。このまま敵空母を攻撃するぜ」

 

 だからといって、敵空母の防御が抜けない訳ではない。幾らシールドが強固でも損害は受けてるんだし、このまま撃ち続ければシールドを破ることもできる筈だ。

 

「前衛艦隊、敵護衛艦をさらに撃沈した模様。敵本隊の戦力、残り空母3、巡洋艦3、駆逐艦4です」

 

 〈開陽〉が敵空母に遠距離砲戦を挑んでいる間にも、敵前でアリスの前衛艦隊が暴れているお陰でこっちは悠々と腰を据えて射撃することができる。中~近距離戦では火力不足のネージリンス艦主体のゼーペンスト艦隊より此方の第二、第三艦隊の優位は明白だ。特に駆逐艦は対艦攻撃に長けたスカーバレルとエルメッツァの改造艦が多いし、巡洋艦も400m級としては高火力のルヴェンゾリ級が主力だ。多少の損害は出しても撃ち負けることはないでしょう。

 

「〈ブクレシュティ〉〈ブレイジングスター〉が敵旗艦への攻撃を開始した模様です。敵旗艦に中破の損害判定」

 

 敵の護衛艦を蹴散らしたアリスは、さらに大将首を狙うつもりらしい。通信量から旗艦と推察されていた空母に向けて、雨霰のようにプラズマ砲とレーザーをお見舞いしている。

 

「こっちも負けてられないわね。フォックス、あの空母をさっさと片付けてしまいなさい!」

 

「イエッサー!主砲、この際だ、全砲斉射でいくぜ」

 

 あいつが前線で暴れるなら、此方も負けてはいられない。

 今度は主砲全門での射撃で、次こそはあの空母を仕留める。

 

「主砲、全門斉射!」

 

 〈開陽〉〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉の3隻から、合計27門のレーザービームが放たれる。その火線はほぼ正確に敵空母を射抜き、既に2回の斉射でシールドが磨耗していた敵空母はそのエネルギーを抑えきることができずにレーザーに焼かれた。

 

「敵空母、インフラトン反応拡散を確認しました。撃沈です!」

 

「よし、次は左舷側の敵空母ね」

 

「あ・・・艦長、敵旗艦より通信です!」

 

 敵空母のうち一隻を撃沈し、次の目標に移ろうとしたそのときに、敵の旗艦から通信が入った。

 ははぁ、さては命乞いかしら?

 

「こんなときに通信ですか・・・一体何の用でしょうか?」

 

「さぁ?もしかしたら我が身が可愛くなったのかもね。とりあえず繋いでみなさい」

 

「了解です」

 

 私は通信担当のリアさんに頼んで、敵旗艦からの通信に応えることにした。暫くすると、天井のメインパネルに敵の指揮官らしき屈強な男の姿が映し出される。その男は攻撃で負傷しているのか、所々服が傷ついていたり、額からは血が流れていたりした。

 

 さて、敵の指揮官とのご対面なんだし、私も艦長席にどっと構えてその男を見据える。

 

「―――あんたがゼーペンスト艦隊の指揮官ね?」

 

《如何にも。私はゼーペンスト守備隊司令、ヴルゴ・ベズンだ。我々を撃ち破った貴艦隊の戦いぶりに感服し、その指揮官を一目見ようと通信を申し入れさせて頂いた》

 

 ヴルゴと名乗った敵の指揮官は、負傷しているにも関わらず一切姿勢を崩すことなく私と相対してみせた。

 そんな姿勢を見せられては、此方も相応の礼儀を示さねばなるまい。

 

「・・・『紅き鋼鉄』艦隊司令の博麗霊夢よ。こんな成りでも、一応この艦隊のトップだからね」

 

《ほぅ、まさかこのような少女が相手だったとは・・・だが、我々を破った貴官の技量は見事なものだ。我々の弱点を正確に看破し、自らの土俵に引き入れようという発想とそれを可能にする艦隊機動・・・誠に素晴らしいものであった。幾ら少女といえど、あれだけのものを見せられては認めざるを得まい》

 

「―――いや、もしあんたと同等の戦力で戦っていたなら、負けていたのはこっちの方よ。性能でゴリ押ししただけの私に感服されたところで・・・」

 

《いや、それだけの戦力を用意できたのも貴官の実力のうちだ。確実に勝てる戦力で挑むのは兵法の基本、少なくとも侵攻軍としてその姿勢は正しいものだ。防人たる我々がそれを押さえきれなかった以上、我々の負けに違いない》

 

「・・・よく言うわ。私の艦隊にあれだけの被害を出しておいて。」

 

 ヴルゴさんは私のことを誉めてくれたみたいだけど、今回もいつも通り、性能差に任せて蹂躙しようとしただけだ。敵は小マゼラン艦中心の機動部隊だったし被害なんて出すつもりも無かったんだけど、撃沈2隻に加えて空母をほとんど撃沈のような状態にまで持っていかれた私の指揮もまだまだ拙いものだ。それでいえば、ただ蹂躙して通過する予定だった私達をここまで足止めしてくれたヴルゴさんの指揮の方こそ上手ではないだろうか。

 

「・・・んで、それだけじゃないでしょ?まだ用があるんじゃない?」

 

 私はそう言って、ヴルゴさんを真っ直ぐ見据える。

 こんなタイミングでわざわざ通信を寄越してきたのだ。用事がただ"相手の顔が見たかった"だけではないでしょう。

 

《ふむ、流石に分かっておったか―――率直に申し上げる。我が艦隊は『紅き鋼鉄』に降伏する。どうか、部下達には寛大な処置を頼みたい》

 

「―――降伏?まあいいけど、なんで?」

 

《―――我々は自治領の守護を預かる防人である以上、簡単に降伏することはそう易々とは受け入れられん。だが、あの二世領主の為にむざむざ部下を無駄死にさせる真似もする訳にはいかん・・・先代への恩義に忠を誓った私といえど、最早あれの為に部下を死なせることは出来ん―――》

 

 ヴルゴさんにはそれが苦渋の決断だったのか、苦虫を噛み潰したような表情で降伏を申し入れてきた。彼の言いなりからすれば、相当思い悩んだ末での決断なのだろう。心なしか、彼がそれを後悔しているのではないかとも思えてくる。

 

「了解したわ。但し、いくらか条件を付けさせて頂戴」

 

《・・・聞こう。部下の命が救えるのなら、如何なる処分も甘んじて受ける覚悟だ》

 

 ただ降伏とはいっても、はいそうですかで見逃す訳にはいくまい。勝者は私、それは彼も認めたのだ。なら敗者は敗者らしく、勝者に従ってもらうことにしよう。

 なぁに、この博麗霊夢、そう非人道的な扱いはしないから安心なさい。別に敵は妖怪じゃないんだし、無用な殺生はしないわ。

 

「まず、あんたらの身体の安全は保証するわ。こっちにこれ以上楯突かないってなら見逃してあげるわ。そこは安心なさい。んで、その条件だけど―――」

 

 ヴルゴさんは、これから私が繰り出す条件が如何なものかと、真摯に耳を傾けているみたいだ。命は保証するとは言ったけど、まだその条件が明らかでない以上安心できないのだろう。

 

「第一に、あんたが私の旗艦に来ること。私はゼーペンスト領主の交渉能力には期待してない。だから、降伏に関する諸手続の相手としてあんたを指名するわ。それはいいわね?」

 

《・・・了解した》

 

「ああ、ちなみに私の旗艦に来て自爆とかしたら・・・分かってるわね?それじゃあ次。あんたの艦隊のうち空母2隻、巡洋艦2隻と駆逐艦4隻を引き渡すこと。そしてこれらの艦には機密書類の廃棄を除いた如何なる処置もしないこと。引き渡し場所は・・・首都星の宇宙港よ。そこで総員退艦の後に、私達への引き渡しに同意しなさい。こっちも変な小細工は無用よ」

 

《―――分かった。部下には私から説明しておこう》

 

「素直でよろしい。んじゃ最後だけど、あんたの艦隊は乗組員含めてこれから私達が行う拉致被害者の奪還作業を一切妨害しないこと。宣戦布告文章の通り、あの3人は大人しく引き渡してもらうわ。以上、これが条件よ」

 

《――――――その条件を飲もう。貴官の寛大な処置に感謝する》

 

「物分かりが良くて何よりね。それじゃあ、次はこの〈開陽〉で会いましょう。誠実な履行に期待するわ」

 

《―――ゼーペンストの名にかけて、条件の誠実な履行を約束する。我等の名誉にかけて、約束は違えない。では、失礼した》

 

 ヴルゴさんはあっさりと私が提示した条件を引き受けて、その履行を約束した。あそこまで素直だとちょっと疑う気もしないではないが、少なくとも何か企んでいる様子はなかったし、武人のような見た目通りに誠実な人のようだ。まあ、何かあったときは無慈悲な艦砲射撃が火を吹くだけだ。部下のことを気にしているなら、無闇にそんな行動には出ないだろう。

 

 本星を守る最後の砦が崩れた以上、私達の前を遮るものはいない。後ろからはおっかないヴァランタインが挑発してきたギリアスを追ってきている筈なんだし、ここはさっさと目的を果たしてしまおう。

 

 ゼーペンスト親衛艦隊を下した私達は、交渉相手兼人質としてヴルゴさんを迎え入れたあと、一直線にゼーペンスト本星に向けて舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト軍親衛隊旗艦〈アルマドリエルⅡ〉艦橋~

 

 

 ヴルゴが『紅き鋼鉄』に降伏し、旗艦〈開陽〉に移る前、〈アルマドリエルⅡ〉の艦橋では、黙々と降伏条件の履行に向けて作業が進められていた。

『紅き鋼鉄』の指揮官、霊夢との会談を終えたヴルゴは、糸が切れたように指揮官席に座り込み、作業の進展を見守る。

 生き残った艦は武装のエネルギーを落として、破壊された友軍艦から生存者の救助にあたる。これらの艦も、降伏条件に従って、ゼーペンスト宇宙港でクルー達を降ろした後は賠償艦として引き渡されることになっていた。

 

「将軍・・・本当に、宜しかったのですか?」

 

「ああ―――両翼の艦隊も残存艦は僅かだ。我々も、あのまま戦っても到底勝ち目などあるまい。ならば、ゼーペンスト再興の為にも、ここで貴官らを失う訳にはいかんのだ」

 

 ヴルゴは静かに、自らの副官に向かってそう告げた。

 元々武人気質の彼は、最後まで降伏という考えを拒み続けていた。しかし、彼はまたこれ以上部下の命を散らせまいと心の中で叫んでいた。ここで有能な人材を大量に失うことは自治領再建の道を閉ざすことにもなり、また未来ある兵達の可能性を潰してしまう行為に等しかったからだ。

 

 そして、彼の忠臣としての性格も、降伏を決断する自分に強硬に反対していた。

 ヴルゴは先代のゼーペンスト領主がまだ宇宙航海者だった頃に彼に救われて、それ以来忠誠を誓い続けてきた。領主が先代の息子に変わっても尚、いや、寧ろ先代の息子だからこそ、あの堕落したバハシュールにも先代の恩を返すべく忠臣の立場に甘んじてきたのだ。幾ら堕落したとはいえ先代の息子、いつかは先代のような頭角を表して立派に自治領を導くかもしれないと、そんな幻想を抱いていたのもまた事実であった。

 しかし、ヴルゴが心の片隅に抱いていた期待とは裏腹に、バハシュールは堕落を重ね、民からは搾取するばかりか海賊を通じた犯罪行為にも手を染めた。領民からの搾取では労働力が足りなくなった為だ。終いには、大企業の要人にまで手を出す始末、結果として、その大企業が自力救済に乗り出すばかりか、強力な傭兵まで引き連れてくる始末だ。その傭兵―――『紅き鋼鉄』は、スカーバレルやグアッシュなどといった名たる海賊を滅ぼしてきた相手、ゼーペンストが相手にするには荷が重すぎた。誰が見ても、バハシュールの自業自得である。さらにヴァランタインによって主力艦隊を蹴散らされた以上、有能な部下達をバハシュールの為に死なせる訳にはいかないと、ついにヴルゴは降伏を決断するに至った。

 

「将軍・・・」

 

 部下達もまた、今のバハシュールに思うところが無いわけではない。だが、敗北とはやはり悔しいものである。艦橋クルー達の間には、敗北という現実を前に脱力感が漂っていた。ヴルゴが降伏を伝えた際には、悔しさのあまりすすり泣く将兵もいたほどだ。

 

「先代に受けた恩を、ボンクラの2代目に返す・・・我ながら、思えば詰まらん人生よ」

 

 ヴルゴは誰にも聞こえないほどの小声で、ぼそりとそう呟いた。

 

 

 

 




という訳で、艦隊決戦は終結です。ゼーペンスト親衛隊は、終戦後の日本軍みたいな心理状況になってますね。ヴルゴさんも忠義に篤いところがあるみたいなので、降伏という決断はなかなか厳しいものだったと思います。霊夢ちゃんはいつも通りの平常運転ですが。
ちなみにリーリス級駆逐艦の性能ですが、原作ではレーザー兵装しかありませんが、設定資料にあるVLS状のモールドを考えてミサイル駆逐艦にしています。基本は空母の護衛艦なので対空クラスターミサイルを搭載していますが、一部には対艦ミサイルを積んだアーセナルシップみたいな奴もいます。フリエラ級にもこのようなモールドがありますが、こちらは純粋な対空巡洋艦なので対艦攻撃力は低めです。

他の艦隊の状況は、ギリアス君とマリサの艦は霊夢とユーリ君の後に続いてヴァランタインから逃げている段階で、メイリンさんのスカーレット社艦隊はレベッカ級2隻を失いつつも〈レーヴァテイン〉の長距離レーザー(スターボウブレイク)で空母を沈めて勝利、ユーリ君は空母2隻に苦戦しつつも、バリオさんのバゥズの援護で何とか勝利した感じです。この二人と戦っていた艦隊にも残存艦が幾らかいますが、こちらもヴルゴさんが降伏したのと同時に霊夢からユーリ君とメイリンさんには連絡がいったので停戦している状況です。賠償艦に指定されたのは霊夢艦隊と戦っていた艦なので、こちらの残存艦はその後も生存者の救助に当たっています。

さて、賠償艦の使い道ですが、フリエラ級はちょっと魔改造したいと思います。マッド共には平常運転ですねw


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第五三話 ゼーペンスト上陸

 

 

 ~ゼーペンスト宙域、首都惑星ゼーペンスト~

 

 

【イメージBGM:機動戦士ガンダム外伝 宇宙、閃光の果てに...より「雷光の第16独立戦隊」】

 

 

「首都惑星ゼーペンストを補足しました。間もなく大気圏突入態勢に移行します」

 

 ゼーペンスト親衛隊との艦隊決戦になんとか勝利した私達の艦隊は無視し得ない損害を負った訳だが、後ろからはあのおっかない〈グランヘイム〉が迫っている。それに本来の目的も惑星に上陸しないと果たせないので、これから私達は首都惑星ゼーペンストに強襲をかけるところだ。

 

 艦隊には別行動を取っていたギリアスの〈バウンゼイ〉やマリサの艦も合流し、ユーリ君やメイリンさんの艦隊と共にゼーペンストに向けて進撃している。

 

「・・・じゃあ予定通り、私達はいの一番に乗り込んで地上を制圧するわ。ユーリ君とメイリンさんは宇宙港を武装解除した後、軌道エレベーターで地上を目指すという方針でいいかしら」

 

《分かりました。では、僕達は宇宙港に向かいます》

 

《それで構いません。私達には直接大気圏に突入できる降下艇がありませんから・・・お嬢様を見つけられたときは私まで連絡して下さい》

 

「分かったわ。それじゃ、また地上で会いましょう」

 

《ええ、ご武運を》

 

 上陸前に、ユーリ君とメイリンさんの艦に通信を入れて今一度攻略作戦の方針を確認する。

 今回の作戦では、直接大気圏に突入できる私の〈開陽〉がいつも通り大気圏内に降下して強襲艇を吐き出し、そのまま敵中枢を目指す。ユーリ君とメイリンさんは宇宙港を制圧した後に軌道エレベーターで地上に向かい、そこで私達と合流して奪還対象の捜索を行う予定だ。

 

 ただ、今回気を付けなきゃいけないことは、ここが一般の人達が暮らす居住惑星だということだ。いくらアウトローの0Gドッグといえど最低限のルールというものがあり、それは一般には"アンリトゥンルール"として知られている。この中の一つには争いは宇宙で決着をつけ、地上の民間人を巻き込まないというものがあり、これは国同士の戦争においてすら適用される、いわば慣習国際法とすらなっているようなものだ。これを破れば唾棄すべき存在として軽蔑されるという。

 

 いくら悪徳領主の本拠地とはいえど、惑星ゼーペンストには勿論多くの民間人が暮らしているので、今までのように爆撃だODSTだと好き勝手できないのは辛いところだけど、ルールであるならば仕方ないし、私もあまり関係ない一般人を巻き込みたくはない。なので今回は航空支援はないし、軌道上からの爆撃もしない。

 

《おーい、靈夢、聞こえる?》

 

「・・・何?」

 

 そこに、マリサからの通信が届く。

 

 嫌々ながらも、私はその声に耳を傾けた。

 

《私は外で見張りでもやってるよ。いつヴァランタインが来るか分からないからね。だから好きに暴れてきな。ギリアスの野郎も外に残るらしいよ》

 

「了解。ならそっちは任せたわ」

 

《任された♪》

 

 そう言ってマリサは通信を切断する。

 ・・・なんだかよく分かんない奴だけど、外で見張をしてくれるというのなら止める理由はない。少なくとも一緒に来られるよりはましだ。

 

《―――ちょっと失礼するぞ。俺も宇宙港に向かうけどいいかな?こっちも借りってのがあるんでね・・・》

 

 続いて別の艦からも通信が入る。発信元はユーリ君を助けたバゥズ級重巡―――バリオさんの艦からだ。声の主は、勿論バリオさんだ。

 

「別に構わないわ。それに、元々これはあんたらの管轄でしょ」

 

《ハハッ、そう言われると返す言葉もないね・・・まぁ、"元"保安局員としてせいぜい頑張らせてもらうとするよ》

 

「ええ、期待してるわ」

 

 バリオさんとの通信が切れると、彼の艦は真っ直ぐ宇宙港に向かって加速を始め、ユーリ君とメイリンさんの艦隊に続いた。

 そもそもなんでバリオさんがここにいるのかって話だけど、どうやらシーバット宙佐の扱いに我慢できず、宙佐の敵討ちを志す同士と一緒に保安局を抜け出してきたらしい。赤穂浪士かよあんたら。

 

「では霊夢さん、私達も参りましょう!」

 

「・・・そうね。あんまり待たせるわけにはいかないし。それじゃあコーディ、留守の間は任せたわ」

 

「イエッサー」

 

 さて、上陸のために、私達も強襲艇の発着ポートに向かわないといけない。留守の間の艦隊指揮はコーディに任せて、早く保安隊の皆のところに向かおう。

 

 ちなみにゼーペンスト親衛隊との艦隊決戦で捕虜にしたヴルゴさん以下数名だけど、今は来賓待遇で監視させている。変な気を起こすことはないと思うけど、一応監視も続けさせておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ロングソード3、スタンバイ完了。いつでも行けるぜ》

 

《ロングソード2、こちらも準備完了だ》

 

《ロングソード1、発進準備完了!》

 

 私達が発着ポートについた頃には強襲艇には既に上陸部隊が乗り込んでおり、あとは私と早苗が乗り込むだけ、というところまで準備が進んでいた。

 強襲艇の機内には、発進準備完了を知らせるパイロット達の通信音声が響く。

 

《ロングソード隊各機、発進を許可します》

 

《了解!ロングソード隊各機、発進!》

 

 艦載機の管制を担当するノエルさん合図と共に、カタパルトから強襲艇の機体が切り離される。その際の衝撃が機内に伝わり、少ししてから飛行場独特の浮遊感が感じられた。

 

 保安隊員―――改め海兵隊員が操縦する強襲艇はさしたる妨害を受けることなく、目的とする上陸ポイントに到着した。

 

 そういえば保安隊のことだけど、任務内容が艦内警備だけじゃなくてこんな風に惑星上陸の先鋒も務めていたりするので海兵隊に改名されている。まぁ、あまり関係ないことだけどね。

 

「よし、行くぞ野郎共!GO、GO!!」

 

 上陸ポイントに到着すると強襲艇の側面のハッチが開き、日中の陽光が眩しく差し込んだ。

 海兵隊員達はそれに怯むことなく即座に強襲艇から降りると、隊長のエコーとファイブスに従って前進を始める。

 

 私達が上陸したすぐ後に、上空を別の強襲艇が通り過ぎる。

 その強襲艇が地面にアプローチすると積んでいた車両―――M61重戦車が切り離され、積み荷を下ろした強襲艇はすぐにまた上空へ離脱する。

 

 海兵隊員達はすぐさまそれに乗り込むと、重戦車を先頭にして再び前進を開始した。

 

「―――隊長、見えました、バハシュール城です!」

 

「あの気色悪い建物か・・・よし野郎共、気を引き締めろ!そろそろ敵のお出迎えだ」

 

 しばらく前進したところで、噂のバハシュール城が見えてくる。領主バハシュールが大金を注いで作ったという私邸―――というか城なんだけど、見るからに装飾過多だ。ギラギラしすぎて目に悪い。

 

「うわぁ、悪趣味ですね―――」

 

「・・・出来れば爆撃で吹っ飛ばしたいわ」

 

 私の隣にいる早苗も、あまりの悪趣味さに顔をしかめている。あんな目障りな建物、本来なら木っ端微塵に吹き飛ばしてやりたいところだけど、アンリトゥンルールがあるからそれはできない。そもそもそんなことしたら奪還対象を吹き飛ばしちゃうかもしれないし・・・

 

「隊長、敵のバリケードです!」

 

「よし、キャニスター装填、バリケードごと纏めてひっ捕らえろ!」

 

「了解、キャニスター装填、発射!」

 

 目の前に敵のバリケードを発見すると、エコーがこれを砲撃で吹き飛ばさせる。

 M61重戦車から放たれた弾頭は暴徒鎮圧用の粘着弾で、バリケードの影に隠れていた敵兵はそれに捕まってバリケードごと身体を固定された。

 

「っ、残った敵が撃ってきたぞ!」

 

「反撃だ!ブラスターをパラライザーモードにしろ!」

 

「イエッサー、反撃開始!」

 

 だがその一撃だけでは敵を全て無力化することはできず、一部の敵がブラスターで攻撃してくる。

 海兵隊員達は敵兵に応戦してそれを無力化し、戦車から降りてバリケードを素早く撤去する。

 

 戦車が通れるようバリケードに穴を開けた後は、同じように進撃を続けて立ち塞がる敵兵を圧倒していく。敵が弱すぎるのか、はたまたそれともうちの海兵隊員が強すぎるのかは知らないけど、目につく敵兵は粗方海兵隊員だけで片付けてしまった。

 

「あー、なんだかつまんないですね・・・」

 

「こら、暴れ足りないからってそんなこと言わないの。私は楽な方がいいわ」

 

 全部海兵隊員だけで済んでしまったのが物足りないのか、早苗がそんな愚痴を溢す。

 折角光刀も用意して張り切っていたみたいだけど、楽に進撃できるならそれで充分だ。ほら、もう戦車を使えるのはここまでみたいだし、これから好きに暴れたらいいでしょ。

 

「艦長、進路はどうします?」

 

「そうね・・・まずは奪還対象の確保が最優先だから・・・ここの収容施設なんか怪しいんじゃない?」

 

 私はヴルゴさんから入手したデータを元に製作された地図を広げて、収容施設の場所を探す。案外、その施設はバハシュール城の近くで見つけられた。

 

「では、先ずはその収容施設に向かうと」

 

「ええ。そうしましょう」

 

 私が行き先を指示すると、戦車隊は向きを変えて、その収容施設を目指す。途中でいくらか敵兵と遭遇したけど、全て海兵隊員が片付けてしまった。

 

「・・・戦車はここまでみたいだな。全員降車!クリムゾン6と7はここに残って退路を確保しろ!」

 

「イエッサー!」

 

「・・・じゃあ、私達は中に入りましょう」

 

「よぅし、今度こそは活躍してみせますよ!」

 

 収容施設まで辿り着いた私達は戦車から降りて、徒歩で進撃する。

 今のところ敵兵の姿は見えないけど、どうせ中で待ち構えているでしょうから油断は出来ない。

 

「おい、エコー。あれを見ろよ」

 

「どうしたファイブス・・・あれは、出入口か?にしては随分とおざなりだが・・・」

 

 しばらく施設の外周を進んでいると、エコーが入り口らしきものを見つけた。だけど入り口にしては小さめで、周りに警備の兵もいない。

 

「・・・裏口か?ロックが掛かってるみたいだが、どうする?」

 

「ここは進みましょう!私が扉をこじ開けますから、エコーさん達は敵の襲撃に注意して下さい」

 

「了解した。野郎共、左右に伏せろ」

 

「・・・良いの、早苗?」

 

「いいも何も、罠なら正面から食い破るだけですよ!それでは、行きます!」

 

 どうやら、エコーが見つけたこの裏口らしき場所から侵入することになるようだ。というか早苗は入る気満々らしい。早苗は光刀を片面だけ起動して、それを扉に押し当てる。扉のロックは熱で徐々に溶かされていき、人が入れるだけの隙間が作り上げられた。

 私も一応、敵襲に備えてスペルを用意しておく。

 

 光刀で扉をこじ開けると、早苗はそこを思いっきり蹴り飛ばす。

 

 ガラン、という鈍い音が周囲に響いた。

 

「御用改めです!覚悟ッ!」

 

「野郎共、突撃!撃て!」

 

 その直後、早苗の頬をブラスターの熱線が掠める。

 

 しかし早苗はそんなものなど意に介さずに、光刀を両面起動させて勇んでバハシュール城内部へと突入する。エコーとファイブス以下海兵隊員達もそれに続いてブラスターを発砲し、敵兵の制圧を図る。狭い裏口の通路内は、収容施設守備隊と海兵隊との間で激しい戦闘が展開された。

 

「ッ、伏せなさい!」

 

「チッ、了解―――」

 

 ファイブスが敵兵を倒したところで、その後ろから黒いなにかが飛んでくる。

 不穏なものを感じた私はすぐさまファイブスに伏せるよう伝えて、そこに向かって弾幕を放った。

 

 直後、閃光と共に爆風が押し寄せる。

 

「クッ―――」

 

「手榴弾か・・・助かった!」

 

「礼には及ばないわ。早く片付けてしまいましょう」

 

 どうもあれは敵が投げた手榴弾だったらしい。幸い無事に迎撃できたので、此方に被害はない。

 

「れ、霊夢さん、大丈夫ですか!」

 

「・・・ちょっと埃が入ったぐらいよ。何ともないわ」

 

「そうですか・・・でも、良く気づけましたね。私より早いんじゃないですか?」

 

「勘よ、勘。それより早く進みましょう」

 

「了解です。残敵掃討、お任せ下さい!」

 

 さっきの手榴弾で一瞬ペースを乱されたけど、そこからは早苗の無双と海兵隊員のブラスターで敵兵を制圧し、私達は収容施設内部へと足を踏み入れた。

 

《―――ッ、聞こえますか、霊夢さん・・・》

 

「その声は・・・メイリンさん?」

 

《はい、今軌道エレベーターを突破したところですが・・・そちらは現在何処に―――》

 

「今は収容施設にいるわ。座標を送るわね」

 

《成程―――了解しました。では私達もそちらに向かいます!》

 

 メイリンさん達は無事に宇宙港を制圧できたらしい。施設の位置座標は送っておいたので、暫くすればここに来るでしょう。

 

「エコー、ファイブス、二手に別れて捜索するわよ。対象は10代ぐらいの子供らしいから、それらしき人物がいたら私に報告して頂戴」

 

「イエッサー。しかし、この収容施設自体、かなり広い建物です。捜索には時間が掛かるかと」

 

「おまけに収容人数もかなり多そうですし・・・ここってこんなに犯罪が多いんですか?」

 

「・・・多分、政治犯や思想犯ですね。ここの領主は堕落しきった小心者という噂ですし、その性格を考えれば、自分に楯突く連中は弾圧するでしょうから」

 

 捜索とは言っても、エコーが言うように施設自体がかなり大きい。それに加えて収容人数も多いときた。椛が早苗に答えたように、バハシュールって奴はよほどの小心者のようね。見たところ、とても犯罪者には見えない、むしろ善人のような連中もなんぼか見掛けたし。ほんと、面倒臭いことをしてくれる。お陰でバハシュールをボコるのは後になりそうだわ。

 

「成程ね、バハシュールに逆らう者は皆、犯罪者って訳か。気に食わねぇぜ」

 

「・・・どうします、艦長。彼等を解放しますか?」

 

「―――いや、その必要はないでしょう。今解放すれば捜索の邪魔だし、どうせ体制は滅びるんだからじきに出られるわ」

 

「了解です。では、我々クリムゾン分隊は西側から捜索します」

 

「じゃあ俺達スパルタン分隊は東側の棟から探そう」

 

 エコーとファイブスは二人で打ち合わせると、即座に分隊を率いて左右に散っていった。

 

「霊夢さん、私達はどうします?」

 

「うーん、そうね・・・ここ、管制棟みたいな場所ってあるのかしら」

 

「管制棟ですか・・・はい、有るみたいですね」

 

「じゃあそこに行きましょう。もしかしたら囚人のデータとかが保管されているかもしれないし」

 

「成程、ハッキングですね!お任せ下さい!」

 

「そういう訳だから、早く行きましょう」

 

「了解ですっ」

 

 エコーとファイブスに少し遅れて、私達も行動を開始する。囚人を一人一人見て回っていたら日が暮れてしまいそうだし、ちょっと近道させて貰おう。データがあるかどうかは怪しいけど、やってみる価値はあるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト・収容施設管制棟~

 

【イメージBGM:無限航路より「contraataque」】

 

 

「ひ、ひぃーっ、な、何なんだお前達!」

 

 私の目の前で、男が尻餅をついて引き下がる。

 男は畏れるような目付きで私達を見上げ、そんな情けない叫び声を上げた。

 

「何なんだ、ではありませんよ?先ずは私の質問に答えてくれますか?」

 

「ひーっ、ど、どうか勘弁を・・・」

 

 男の周りには、幾つかの屍が転がっている。―――言うまでもなく、私と早苗の拷問に昇天した役立たず共だ。

 

「はぁ・・・これではまるで使えませんね。最後の一人なんですから、もう少し根性を見せて欲しかったのですが・・・では、暫く眠っていてくださいね」

 

 男の首に、早苗がストンと光刀の刃を下ろす。

 光刀の刃が接触した男は雷に打たれたように白目を剥いて痙攣すると、糸が切れたように地面に突っ伏した。

 こうなってしまったら、暫くは目を覚まさないだろう。

 

「・・・さて、ここの人達は使い物になりませんでしたし、私達で探すとしましょう」

 

「あんた、相変わらずやることがえげつないわね・・・」

 

「はい?何か言いました霊夢さん」

 

「いや、何でもないわ・・・」

 

 ―――前から知っていたけど、この娘、けっこう容赦ない性格なのよね・・・私もあまり人のこと言えないけど。

 

「それじゃあ、ハッキングといきますよ♪」

 

 早苗は右腕から何本か触手のようなケーブルを伸ばして、それを機械の中に挿れていく。

 ああ、そういえばその義体、ハッキング機能なんかもあったんだっけ。そうやって使うのね。

 

「くっつ・・・中々充実した防御システムのようで・・・ふふっ、いいですよ―――私が蹂躙してあげます・・・!」

 

 ―――あの早苗さん?なんでそんなに恍惚な表情をしていらっしゃるのかな・・・?

 

「あッ、ちょっ、激し・・・ふふっ、ですが―――それでこそ蹂躙のし甲斐があるというものですッ!」

 

 あの、なんか機械からバチバチ火花まで飛んでるんだけど、大丈夫なのよね?もしもし、早苗さーん?

 

「ふッ―――はぁッ―――これで、何とか・・・」

 

 息を荒くした早苗が、漸く機械から触手を離す。

 なんか心配なんだけど、ちゃんと情報は手に入れてるのよね?

 

「はい、霊夢さん・・・目的の情報は手に入れました。どうやら、一人は西棟、もう一人は地下に閉じ込められているようです・・・スカーレット社のご令嬢は、地下牢にいるみたいですよ」

 

「上出来ね。地下牢だったら・・・ここが一番近いわね。早苗、メイリンさん達はどう?」

 

「メイリンさん達ですか・・・ああ、ユーリ君は西棟の方に向かっているみたいですね。メイリンさんはこの近くにいるみたいです」

 

「了解、じゃあ、先ずはメイリンさんと合流するわよ」

 

「畏まりましたっ」

 

 管制棟で目当ての情報を手に入れた私達は、一度部屋を出てメイリンさん達との合流を目指した。

 早苗が入手した監視センサーの情報を元に探していると、すぐに彼女達と合流することができた。

 ここまでかなり焦ってきたのか、メイリンさんの息は荒い。

 

「あ、霊夢さん―――お嬢様は!?」

 

「メイリンさん・・・いや、まだ見つけてはいないけど、おおよその目星はつけたわ。管制棟の情報を漁ってきたけど、どうも地下牢に閉じ込められてるみたい」

 

「地下牢か・・・情報提供感謝します。メイリン、急ぎましょう」

 

「はい。ところでサクヤ、施設の構造とか、大丈夫なんですから?」

 

「それはハッキングで手に入れたから大丈夫よ。地下牢は・・・こっちね」

 

 施設の見取り図を手に入れたらしいサクヤさんが先導して、私達四人は地下牢を目指す。

 

 途中で看守らしき人達が何度か襲ってきたけど、早苗とサクヤさんが手早く制圧したので地下牢までは問題なく進むことができた。

 

「ここが地下牢・・・ちょっと不気味ね」

 

「牢も殆ど空みたいだし・・・ねぇ、本当にここで合ってるの?」

 

「はい、手に入れた情報では、確かにここに収監されているとありましたが・・・」

 

 だが地下牢に着いてみると、そこには殆ど人の気配が感じられない。牢も殆ど空の状態だ。

 

 ―――の声・・・クヤ・・・?

 

 そこに、微かに声が響く。

 

「この声は・・・お嬢様!?」

 

「お嬢様ッ、今向かいますッ!」

 

 ―――っぱり、・・・イリンに・・・クヤなのね!

 

 声がした方向に向かって、メイリンさんとサクヤさんが走り出す。私達もそれに続いて声がする方角に向かったが、一瞬、私の勘が今すぐ止まれと告げる

 

「ッ、二人とも、避けなさい!」

 

「えっ・・・」

 

「メイリンっ、捕まって―――!」

 

「ちょ、サクヤっ・・・きゃあッ!」

 

 メイリンさんは私の声に反応しきれなかったのか、その場に立ち止まる。だけどサクヤさんがメイリンさんを抱き寄せて、即座に後方へと跳んだ。

 

 その直後、二人がいた場所に向かって天井が落下し、盛大に土煙を巻き上げた。

 

「ケホッ、ケホッ―――霊夢さん、これは・・・」

 

「―――古典的な罠ね。天井を落として下にいる奴を潰すってやつ。まさかこんなものまであるなんて、ちょっと予想外だわ」

 

「・・・やっぱり凄いですね、霊夢さん。あのタイミングで罠に気づけるなんて」

 

「・・・別に、大したことじゃないわ。それより―――」

 

 私は視線を早苗から移して、罠を避けたメイリンさんとサクヤさんに向ける。見たところ、怪我はなさそうだ。

 

「霊夢さん・・・有難うございます。貴女の警告がなかったら、今頃私達は―――」

 

「礼はいいわ。それよりも、早く立ったら?さっきからお嬢様が呼んでるわよ」

 

 私はそう言って、二人に立つように促した。通路の向こうからは、必死に二人の名前を呼ぶ幼い声が響いている。

 

「そうだ、お嬢様―――!」

 

「お嬢様、直ぐに向かいます!」

 

「っ、ああもう、少しは学習しなさいよ・・・」

 

 立ち上がった二人は、さっきと同じように駆け出してしまう。あんな罠があったんだから少しは慎重になって欲しいものだけど、それだけお嬢様が心配なんでしょう。幸いもう罠は見当たらないし、大丈夫でしょう。

 

 私と早苗は、歩いて声が響く方角に向かった。

 

 

 声の主は既に二人が牢から救出していたようで、メイリンさんとサクヤさんに抱きついている。よく見ると、抱きついている頭は二つ見えた。

 

「ああ、よくぞご無事でした。このサクヤ、感慨の極みです―――」

 

「ううっ、さくやぁ・・・怖かったよぅ・・・」

 

「ひっく・・・メイリン―――助けに来てくれたのね―――」

 

「はい。もう大丈夫ですよ、妹様。お嬢様も、無事で何よりです」

 

「ううっ・・・うわーん!メイリンっ―――」

 

 水色の髪の子と金髪の子が、サクヤさんとメイリンさんに抱きついていた。抱きつかれている二人の方も、お嬢様達が無事なことがよほど嬉しいのだろう、涙を流して抱き返している。

 

 前からもしやとは思っていたけど、お嬢様達ってこの二人だったのね。だとしたら、名前もあの二人と一緒かな。

 

「あの、霊夢さん―――あの二人って・・・」

 

「例の奪還対象でしょ。邪魔するのも野暮だし、暫く放っておきましょう」

 

 ここは暫く、あの4人の時間にするべきだ。感動の再会なんだから、好きにさせてあげましょう。

 

「ひっく・・・ふぅ・・・さ、サクヤ?あっちの人達は誰?」

 

「あちらの方々ですか?ええ、彼女達はお嬢様の救出に力を貸して下さった人達です」

 

「私達の・・・?なら、お礼を言わないといけないわね。フラン、こっち」

 

「ふぇ、お姉様―――?」

 

 抱きついていた二人が泣き止むと、彼女達はサクヤさんとメイリンさんから離れて私の方へと向かってくる。

 

「・・・サクヤから話は聞いたわ。私達の救出に力を貸してくれたって。貴女達、名前は?」

 

「―――博麗霊夢。しがない艦長よ」

 

「東風谷早苗、霊夢さんの右腕です!」

 

「えっと、赤いのがレイムで、緑のがサナエね。私はレミリア、レミリア・スカーレットだ。礼を言うぞ。ほらフラン、お前もだ」

 

「えっと、た、助けてくれてありがとう!私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹よ」

 

 二人―――レミリアとフランドールは、私の前まで来るとぺこりとお辞儀をして礼を述べる。姉の態度こそ少し生意気な気がしなくはないが、あの吸血鬼に比べれば可愛いものだ。

 

「レミリアに、そっちがフランドールね。まぁ、二人とも無事で良かったわ。これで漸く、依頼からも解放されそうね。メイリンさん、報酬期待してるわよ」

 

「あ、あはは・・・出来るだけ良い報酬になるように、社長には掛け合っておきますね・・・」

 

 ・・・ともあれ、これで一応は解決だ。あとは気に食わないバハシュールの野郎を吹っ飛ばすだけなんだけど―――

 

《―――霊夢さん、聞こえるか?》

 

「バリオさん?どうかしたの?」

 

 端末の着信音が響いたので応えてみると、バリオさんから通信が入っていた。一体何の用事かしら

 

《キャロ・ランバース嬢は此方で確保した。これから俺はネージリンスにキャロ嬢を届けに行く。ってことで、お先に失礼させて貰うぜ。バハシュールのヤロウを吹っ飛ばしたいのは山々なんだが、こればかりは遅らせる訳にはいかないんでね》

 

「了解したわ。お疲れ様。ついでに言うと、こっちもスカーレット社のご令嬢は確保したわ。そういう訳だから、こっちは任せてもらっても大丈夫よ」

 

《そうか、スカーレット社の令嬢も見付かったか・・・それなら安心だな。じゃあ、俺はそろそろ行くんで》

 

「ええ。気を付けて」

 

 通信は、そこで終了した。

 そういえば拐われていたのはスカーレット社の二人だけじゃなくて、確かネージリンスの会社の令嬢も一緒だったのよね・・・そっちの件も解決したみたいだし、これで心置きなくバハシュールを吹っ飛ばしに行けるわ。

 

「さてと・・・後はバハシュールね。早苗、海兵隊の皆を集めて頂戴。バハシュール城とやらに向かうわよ」

 

「了解です」

 

 その前に、施設内に散らばっている海兵隊員達を召集しないとね。集合場所は・・・施設に入った場所でいいでしょう。

 

「では霊夢さん、我々はそろそろ・・・」

 

「あら、もういくの?」

 

「はい。お嬢様達の身の安全もありますし、一度私の乗艦に戻ろうかと思います。報酬の件は、私の方から話しておきますね」

 

「そう・・・まぁ仕方ないわよね。こんな不衛生な場所に閉じ込められてた訳だし」

 

「ご理解いただけたようで何よりです。それでは、一度私達は失礼させていただきます」

 

「霊夢と言ったな、縁があればまた会おう!このレミリアを助け出したその報酬、お父様にきっちり保証させておこう!」

 

「えっと・・・ありがとう、お姉さん達!この恩は忘れないわ!」

 

 レミリアとフランは、サクヤさんにメイリンさんと一緒に、一足先に収容施設を後にした。

 こっちのあの姉妹は普通の人間みたいだし、歳も見た目相応なのか、幻想郷のあの姉妹よりは幼く感じられた。というか、普通にこっちの方が素直で可愛いんじゃないかしら。

 

「・・・では霊夢さん、私達はバハシュール城に向かいましょう」

 

「ええ。こんだけ手こずらせてくれたんだから、しっかり補償して貰わないとね・・・」

 

 囚われのご令嬢も救出したし、残すは悪党のボスだけだ。

 

 私達が施設に侵入した裏口にもう一度海兵隊員の皆を集めると、一直線にバハシュール城目指して進撃する。

 

 覚悟してなさい、バハシュール!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~首都惑星ゼーペンスト・軌道エレベーター基部~

 

 

 ゼーペンスト宇宙港に繋がるこの軌道エレベーター基部は、メイリンが引き連れてきたスカーレット社の武装隊員によって占拠、警備されていた。

 そこに、つい先程社長令嬢のレミリアとフランドールの救出に成功したメイリン達が到着する。

 

「艦長!お嬢様方は・・・」

 

「見ての通り、取り戻したわ」

 

「おお、よくぞご無事に・・・では、早速ですが、艦内の医療班に診察の準備をさせておきます」

 

 メイリンのいるレミリアとフランドールの姿を確認した隊員達は、即座にである母艦〈レーヴァテイン〉に通信で報告し、医療班の受け入れ体制を整えさせた。

 

「むぅ・・・私は大丈夫だぞ、メイリン」

 

「いえ、ですがお嬢様、万が一ということもあります。あの悪徳領主に何もされていないのは喜ばしいことですが、あんな不衛生な環境下で軟禁されていたのです、簡単な健康診断程度は受けて頂かなければ困ります」

 

「サクヤも堅い奴だな・・・そこまで言うなら仕方ないか」

 

「ご理解いただけたようで何よりです」

 

 レミリアはこれから待っている健康診断に愚痴を溢すが、サクヤの説明で渋々それを納得する。

 

(しかし、あの霊夢という奴・・・こう、なんだ?運命めいたものを感じるな・・・)

 

 その一方で、レミリアは内心で、自分を助けたという霊夢のことが気になっていた。

 見た目こそは華やかな少女の姿だが、年季を感じるその立ち振舞い、ぶっきらぼうで面倒臭そうな物言いに対して、どこか触れられない所にありそうなその雰囲気に、レミリアは自然と惹かれていた。一言で言うのなら、霊夢は"浮いている"のだ。幼い彼女にはそれが何なのか分からないのだが、霊夢の持つその空気が、彼女には特別なものに感じられた。

 

「―――はい、了解です。艦長、間もなく軌道エレベーターの列車が到着します。ご乗車の用意を」

 

「分かりました。ではお嬢様、妹様、私の艦にご案内しますので・・・ってあれ、お嬢様は?」

 

「お嬢様?確かここにいらっしゃった筈ですが・・・いない・・・!?」

 

 軌道エレベーターを往復する列車の到着時刻が近づいてきたので、レミリアとフランドールを案内しようとしたメイリンだが、そこでレミリアの姿がないことに気づく。

 

「あ、本当だ。お姉様が居ない・・・」

 

「これは困りましたね・・・総員、一度レミリアお姉様を捜索しなさい!」

 

 レミリアが居ないことに気づいたメイリンは、部下達に彼女を探させようと号令を下す。

 

「了か・・・グワーッ!」

 

 しかし、そこで部下の一人から、何かに撃たれたような叫び声が上がった。

 

「な、何事ッ!」

 

「クソッ、誰だ―――ッ」

 

 その直後、再び武装隊員の一人が倒れ伏す。

 

「チッ、総員戦闘態勢だ!サクヤ、妹様を頼みます!」

 

 メイリンは瞬時にこれが敵襲であると看破し、部下達に戦闘態勢を命じて自らも拳銃を手に取る。

 

「分かったわ。妹様、こちらに―――」

 

「さ、サクヤ・・・?お姉様は?何が起こっているの?」

 

「―――ご安心下さい、すぐに終わります!」

 

 フランドールを任されたサクヤは彼女を抱き抱え、その場からの脱出を図る。

 姿を表した襲撃者―――黒ずくめのジャンパーとヘルメットを着用した襲撃者達は、サクヤとフランドールが居る場所に狙いを定めた。

 だがその一瞬前にサクヤは地面を蹴り、辛くもブラスターの銃撃を躱して駆け出した。

 

 姿を表した襲撃者に向かって、メイリンが拳銃の引き金を引く。一人は仕留めたのか無言で後ろに倒れたが、他の襲撃者から絶え間ない射撃の返礼を浴びせられた。

 それをメイリンは何とか躱しつつも、部下の統制を図らんと命令を出しながら応戦する。

 

「畜生、一体何なんだこいつら―――グワッ」

 

「ヨーゼフ!ってめぇ、やりあがったな!」

 

「ッ、態勢を崩すな!集団で敵に当たれ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 ―――ッ、この襲撃者、一体何処の回し者だ・・・お嬢様、せめてご無事で・・・

 

「サクヤ・・・怖いよ・・・」

 

「妹様―――大丈夫です。私が安全な所までお届けします。もう暫く辛抱下さい」

 

 後ろからメイリン達と謎の襲撃者が奏でるブラスターの銃声が聞こえる中、姿を消したレミリアの無事を祈りつつも、ただ彼女は腕にあるフランドールをせめて安全な所までと、振り返らずに駆け続けた。

 

 




ゼーペンスト編も完結が見えてきました。多分次回で完結です。次の第六章は久々のオリジナルストーリーで原作ルートから少し離れます。

今回から保安隊が海兵隊に名前変わりましたが、ぶっちゃけHALOの影響ですw エコーとファイブスその他一般保安隊員のイメージがスパルタンですし、任務も艦内の巡回のみならず惑星への強襲上陸とかも含まれるので、規模拡大のついでに部署も改名したという設定です。早苗さんのさでずむは変わりませんw

最後にメイリンさん達が襲われていますが、襲撃者のビジュアルはFGOの雀蜂です。


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第五四話 自治領の終末

 ~首都惑星ゼーペンスト・バハシュール城~

 

 

【イメージBGM:東方萃夢想より「月時計 ~ルナ・ダイアル」】

 

 

 

「御用改めである!覚悟ッ!」

 

 退廃と色香に包まれた不夜城バハシュール城、その玉座の間に続く閉鎖された通路が無理やりこじ開けられて、乱暴に蹴破られる。

 

「野郎共、突撃だ!撃て!」

 

「イエッサー!!」

 

 通路に侵入した集団の戦闘には赤い光刀を手にした緑髪の少女が躍り出て、ブラスターの光線を弾きながら光刀を振るい、通路を護る守備隊を蹴散らしていく。

 その後からは、青いラインの入った白の装甲服を纏った屈強な集団がブラスターをパラライザーモードにして突撃する。

 

「スパルタン8がやられた!衛生兵を呼べ!」

 

「今向かうぞ!それまで持ち堪えろ!」

 

「こちらスパルタン5、援護を頼む!」

 

「了解した!援護射撃だ!」

 

「こちらクリムゾン4、右側の敵の抵抗が激しい!」

 

「フラッシュグレネードを使うぞ!目を閉じろ!」

 

 激しい銃撃戦が展開される通路にて、装甲服を着たうちの一人が守備隊に向かってフラッシュグレネードを投擲する。

 グレネードが宙を舞い両者の間の位置に達すると、それは眩いばかりの強烈な閃光を放ち、その光の前に軽装だったバハシュール城守備隊の面々は耐えきれずに怯んでしまう。だが全身装甲服に覆われた集団―――『紅き鋼鉄』海兵隊員達はヘルメットの防護バイザーの影響もあってすぐに立ち直り、未だに閃光によって視界を奪われていたバハシュール城守備隊を圧倒する。

 

「よし、今だ!畳み掛けろ!」

 

「その首!貰い受けます!」

 

「撃て!集中砲火だ!」

 

 海兵隊員達がバハシュール城守備隊に砲火を集中し、戦闘を駆ける少女―――早苗は手にした光刀で守備隊員を次々と両断する。高圧レーザーの電撃を直に食らった守備隊員達は次々と気絶し、早苗の光刀からの電流を食らった者達もまた同じ運命を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ふぅ、これで全部片付きましたか」

 

「そのようだな―――こちらクリムゾン1よりHQ、制圧完了だ」

 

「はい、ご苦労様・・・うわぁ、随分派手に暴れたわね、あんた達・・・」

 

 先陣を切って突撃した早苗とエコーがバハシュール城守備隊を制圧したことを確認したようなので、私は途中で合流したユーリ君と共に通路に入る。

 

 このバハシュール城、外もギラギラで気持ち悪かったんだけど、中に入っても・・・いや、中の方が酷い有り様だった。目に痛いネオンの光はかくや、ヘンテコな装飾品や下品な像なんかも壊滅的なセンスで飾られてるし・・・もう最悪ね。いっそのこと焼き払ってやりたいわ。

 

「れ、霊夢さんのとこのクルーの人達って、本当に凄いんですね・・・」

 

「ハハッ、こりゃ参ったよ。あたしも修羅場は何度も抜けてきたんだが、ここまで手際の良い連中は中々お目にかかんないねぇ・・・こいつはまるで特殊部隊か何かじゃないか?」

 

「まぁ、うちの海兵隊には軍隊上がりも居るからね。さぁ、とにかくバハシュールの野郎を捕まえましょう」

 

 一緒についてきたユーリ君達やトスカさんなんかは、私の海兵隊の練度を前に呆然とした様子だった。領主バハシュールの居室を護る部隊ときたもんだから、当然敵兵は精鋭中の精鋭だったのだろう。なのでとんだ激戦になると思っていたようだけど、様子見に出たエコー達だけで片付けちゃったからね・・・ 若干一命、反則じみた娘が混じってるのもあるかもしれないけど。

 本来なら私も憂さ晴らしに弾幕を叩きつけてやりたいとこだったけど、やっぱりファズ・マティでの件が効いているのかエコーとファイブスは頑なにそれを認めてはくれなかった・・・何よ、私だって少しぐらいは運動したいのに。

 

 ―――なら、精々バハシュールで発散させて貰いましょうかね・・・

 

「―――この先ね」

 

「はい、そのようです」

 

 私は通路の一番奥まで歩いていき、この先の玉座に続く扉に手を掛けた。相変わらず悪趣味な装飾が施されているが、精神衛生上それを視界から外す。

 

「さて―――と、バハシュールのクソ野郎、ケジメつけに来てやったわよ!」

 

 扉から一度身を退き、思いっきり扉を蹴破る。

 

 バタンッ、と金属の重い扉が地面に倒れ、中の様子が視界に入る。

 

 その部屋にいたのは、扇情的な格好をした女共と―――それだけ?

 

「あれ?―――えーっと、バハシュールって、確か男よね?」

 

「はい―――データではその筈です。顔もこんな、売れないイキりアーティストみたいな不細工なんですけど・・・一致する人は居ないようですね・・・」

 

 玉座の間に突入した私達は部屋のなかをを一瞥して件の悪徳領主、バハシュールの姿を探したが、頭に叩き込んだ顔写真と一致する男はいなかった―――というか、そもそも男自体が部屋にいない。

 

「これは・・・逃げられたか?」

 

「でしょうね」

 

 ファイブスが漏らした通り、バハシュールは既に逃げたあとだったらしい。くそっ、少しタイミングが遅かったかな。しかしあの守備隊共、既に守るべき領主がいないこの部屋を護っていた訳か・・・そう考えると、なんか虚しいわね。

 

「しかし、凄い数の娼婦共だな―――例の人身売買で手に入れたって訳か・・・ケッ、恥ずかしい野郎だぜ」

 

 玉座の間にいる扇情的な女共を見て、エコーがそう吐き捨てた。なんというか、ほんと最低な野郎ね、バハシュールの屑っぷりは。

 

「かぁー、見ろよユーリ。こりゃ美女軍団ってヤツだ―――」

 

 ブォォン!

 

「ひっ、な、何だぁ!」

 

「おっと、今はそんな眼をしてる場合じゃありませんよ、トーロ君?」

 

「あっ、ご、御免なさいィ!?」

 

 ・・・一部の男性陣、特にユーリ君のとこの部下のトーロ君なんかはその女共に鼻の下を伸ばしていたけど、そこに早苗が赤い光刀を突き立てて、トーロ君に容赦ない制裁が刺さる。早苗さん、気持ちは分からなくはないけど、少し落ち着こうね?

 

「おいトーロ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ・・・なんとかな。それより霊夢さんよ、あんたの副官ちゃん、ちょっと乱暴じゃないか?可愛いけど」

 

「そんなの知らないわ。早苗はいつも通りの早苗だと思うけど。―――まぁ、多少は落ち着いて欲しいものだけどね。大体あんたも、鼻の下なんか伸ばしてる暇があるなら働きなさいよ」

 

「そうですよトーロ君、助平は嫌われますよ!」

 

「へいへー解りましたよ・・・ってなんで俺が命令されてるん?」

 

「ユーリっ、あそこの女の人達に聞いてみたんだけど、バハシュールは東の砂漠に逃げたって!」

 

 私達が漫才じみたことをやってる間にも、海兵隊員達やユーリ君のクルーは先んじて聞き込み調査をやっていたみたいだ。ティータさんがユーリ君のところに駆けよって、バハシュールの行き先を伝える。

 

「・・・ファイブス、確かなの?」

 

「ああ、俺もあの女共に聞いてみたが、嘘を言っているような素振りはなかった・・・っああもう、いい加減離れろ!」

 

「いやっ、ちょっと乱暴じゃない?―――もぅ、いけずなんだからぁ~」

 

 近くにいたファイブスにその真偽を聞いてみたけど、バハシュールが東の砂漠に逃げたというのは少なくとも本当らしい。んでそのファイブスは引っ付いてる女を引き剥がそうと足掻いているけど、娼婦じみた女は中々離れようとはしない。よく見ると、エコーや他の海兵隊員達も女共に媚を売られて困惑している様子だった。

 

「東の砂漠に・・・?そこに何かあるのか?」

 

「エピタフ遺跡・・・砂漠の中にあるって」

 

「エピタフ遺跡が・・・」

 

 チェルシーさんにがユーリ君にそう伝える。私もデータベースからちょっと調べてみたけど、確かにエピタフ遺跡があるようだ。この期に及んで神頼みでもするつもりなのかしら?現人神様は許さない気満々みたいだけど。

 

「エピタフ遺跡か・・・フム、行ってみようじゃないか、ユーリ君!」

 

「ふぇっ、じぇ、ジェロウ教授!?」

 

「君は・・・確か霊夢君だったかナ。何をそんなに驚いているのかネ?」

 

「い、いつの間にここに来ていたんですか、教授・・・」

 

 突然背後から老人の声が響いたもんだから、つい驚いてしまった。ついでに口調も敬語になっちゃうし―――というかこの人、最初バハシュール城に突入したときには居なかったわよね?いつからそこに居たのよ・・・

 

「私かい?研究の為なら何処にでも喜んで行くヨ!さあユーリ君、早く遺跡に向かおうじゃないか」

 

「あ、・・・はい!」

 

 教授はいの一番に玉座の間を離れ、ご老体とは思えないペースで来た道を戻っていく。それにユーリ君達が続いて、玉座の間には私達が残された。

 

「・・・艦長、どうしますか?」

 

「そんなの決まってるわ。早くバハシュールの野郎を追うわよ!」

 

「了解ですっ」

 

「イエッサー!!おいこら、いい加減離れろ!」

 

 バハシュールが砂漠に居るというのなら、私達も早くそこに向かおう。

 ただ、フリーハンドの私と早苗はいいんだけど、纏わり付かれてるエコー以下海兵隊員達は脱出するのに少し時間が掛かってしまった。くそぅ、バハシュールの奴、厄介な置き土産まで残しやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~首都惑星ゼーペンスト・東の砂漠、エピタフ遺跡~

 

 

 

 さて、美女軍団を何とか振りほどいた私達はユーリ君達と合流して、強襲艇に乗り込んでバハシュールの後を追った。上空に展開していたRVF-17からも砂漠を横断していた車が遺跡に向かっていたとの報告があったようだし、バハシュールは遺跡に逃げたと見て間違いないだろう。

 

「ロングソード1、降下します。艦長、遺跡に到着しました」

 

「ありがと。あんたはここで待機してなさい」

 

「了解です」

 

 砂漠の地面に降下した強襲艇にはパイロットと数人の海兵隊員を待機させて、私達は艇を降りて遺跡に向かう。

 

「おおっ、ムーレアの遺跡にそっくりだネ!」

 

「確か、エピタフ遺跡とデットゲートには関係があるって・・・」

 

「フム、これでアルピナ君の仮説はさらに裏付けられた訳だ。オモチロクなってきたネ!」

 

 教授は強襲艇から降りるや否や、遺跡を前に目を輝かせている・・・うん、流石にマッドは私でも止められないわ。

 

「艦長、新しい足跡があります。遺跡の方に続いていますね」

 

「バハシュールの野郎が逃げたんでしょう。追うわよ!」

 

「イエッサー!」

 

 強襲艇が降下した地点の近くにあった乗り捨てられた車からは、真新しい足跡が遺跡の中に向かって延びていた。間違いなく、バハシュールのものだろう。さぁて、これで奴は文字通り袋の鼠って奴だ。どうやって料理してやろうかしらぁ―――

 

「霊夢さんがまたすごく悪い顔を・・・ああ、でも素敵です。それでこそ霊夢さん・・・」

 

「よぅし、海兵隊、突撃!悪徳領主をひっ捕らえなさい!」

 

「イエッサー!」

 

 私の号令で、エコー以下海兵隊員達が一斉に遺跡へと雪崩れ込む。私達もそのあとに続いて、遺跡の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、ヤツを捕まえました!」

 

「ご苦労。エコー、ファイブス、下がっていいわよ」

 

「ハッ!」

 

 私達とユーリ君が遺跡の深部に辿り着いた頃には、既にバハシュールは海兵隊員の手によって捕縛され、拘束装置で縛られていた。ふむふむ、確かに情報にあった写真と同じ顔ね。

 

「ひっ・・・ひいっ!? く、来るなっ・・・来るなあっ!」

 

 当のバハシュールは、私達の姿を見てそんな叫び声を上げている。その顔は恐怖に歪み、必死に私達を拒絶せんとしていた。

 

「あっ、コイツ!間違いねぇぜ」

 

「この女の敵、許しませんッ!」

 

「・・・お前が、バハシュールかっ!!」

 

「ひいっ!?なんで・・・なんでだよぉ・・・。お前ら、俺に何の恨みがあるってんだ、お前ら・・・」

 

 バハシュールの姿を見たユーリ君が、殺気立って彼に詰め寄る。怒気を纏ったユーリ君に詰め寄られて、バハシュールがさらに情けない声を上げた。

 

「シーバット宙佐を殺したこと・・・忘れたとは言わせないぞ!」

 

「シ、シーバット? あ、あいつは・・・保安局の人間のくせに、自治領に侵入したんだぞ!? だからっ・・・だからヤッただけじゃないか。そ、それが宇宙の掟だろ?」

 

「こいつ・・・ッ!」

 

 バハシュールの回答に血が上ったのか、ユーリ君が腰のスークリフ・ブレードに手を掛けた。

 

「れ、霊夢さん―――!?」

 

「―――ただ星に引きこもって好き勝手やって、宇宙に出たこともないあんたがそれを口にするなんて、笑わせる気?」

 

「ひいっ・・・!」

 

 私はユーリ君の肩に手を置いて、彼の前に出る。

 

 遊び半分で人を殺しておいて、なにが宇宙の掟だ。ふざけるのも大概にしなさい。殺していいのは、殺される覚悟のある者だけ―――

 

「宙佐を殺したときのアンタの声、聞かせてもらったわ。よくもまぁ、人間をあんな玩具みたいに扱えたものね―――」

 

「ひっ―――ッ!」

 

 バハシュールは後退りして、柱に当たって尻餅をつく。

 

「ああ、それに恨みならまだあるわ。アンタが海賊のパトロンに人身売買なんてやってくれたお陰で、うちらはその尻拭いよ。本当、面倒なことさせてくれたわね・・・」

 

「ひっ、ひいいいいっ!!」

 

 バハシュールの野郎は怯えるだけで、相変わらず醜態を晒している。それを見る海兵隊員やユーリ君のクルー達の視線は冷ややかだ。

 

「―――エコー、拘束具を外しなさい」

 

「イエッサー!、おいこの野郎、大人しくしろ!」

 

 そこで私は、エコーに命じて彼の拘束具を外させる。バハシュールは何故?といった表情で私を見上げる。

 

 私は彼を見下したまま、腰に差した刀を抜いた。

 

 紅い刃の鋒が、バハシュールの顳顬(こめかみ)を捉える。

 

「―――抜け」

 

「ひっ・・・」

 

 私はただ一言、彼にそう告げた。

 

「抜きなさい。アンタの腰のそれ、飾りではないでしょう?」

 

「いや・・・あ―――っ」

 

 二回、そう告げたにも関わらず、バハシュールは立ち上がらない。

 

「抜けって、言ってるでしょ―――!この愚図がッ!」

 

 

「ばはっしゅ!!!」

 

 三度目―――私は彼に回し蹴りを入れて、遺跡のさらに奥へと吹き飛ばす。

 

「―――立ちなさい。アンタが宇宙の掟を口にするなら、その掟とやらに従ってみせなさい。ここはアンタの自治領でしょ。なら防衛の責任者はアンタを置いて他にはいないわ。もう艦隊も、守ってくれる衛兵もいない。だったらアンタ自信の手で、目の前の侵略者に立ち向かってみせなさい!!!」

 

「く・・・そっ・・・こ、小娘の分際でえっ・・・俺の、俺の楽園をぶっ壊しやがってぇ・・・ッ!」

 

 吹き飛されたバハシュールは、柱を支えに立ち上がる。距離が離れて怯えが多少和らいだのか、それとも私の言葉が頭に入ったためなのか、彼の瞳には恐怖だけでなく、憎悪の念も垣間見えた。

 

 バハシュールはガタガタと震える手で、漸く腰のスークリフ・ブレードを引き抜いた。その鋒は、持ち手と同じように震えている。

 

「れ、霊夢さん・・・?」

 

「早苗―――あんた達、少し下がってなさい。今の私、最悪の気分だから」

 

 一度の深呼吸、昂る感情を落ち着かせる。

 

 目標を視界に収め、地面を蹴る。

 

 対象までの距離は約三間、その距離を一瞬で駆ける。

 

「なっ―――」

 

 目標が刀を降り下ろす。回避―――いや、鍔競り合う。正面から打ち砕く。下段からの斬り上げ、両腕に力を込める。

 

 

 キーンッ―――

 

 

 鋭い金属音が響き、互いの刃が激突する。

 

 敵の刀が弾け飛び、ブラブラと宙を舞う。

 

 今の敵は、全くの無防備―――

 

「ひいっ・・・い、ぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 無防備な敵に落とし蹴りを食らわせて、敵を地面に叩きつける。続いて即座に、肩口目掛けて刃を落とす。

 

 敵の左肩から、鮮血が舞った。

 

 

「いっ・・・ぎゃぁぁっ! い"、痛い、い"た"い"ィィィっ―――!!」

 

 

「―――それが刃の痛みよ。よく覚えておきなさい」

 

「い"い"い"ィ―――――ッ、!!、ッハア・・・っ!ハア―――ッ・・・、この、小娘えええッ!!!」

 

 納刀―――この男の血を、これ以上吸わせる価値はない。

 

 

「え、えげつねぇ・・・」

 

(ああ・・・異変解決の時みたいな無慈悲で凛々しい霊夢さん―――最高です!)

 

「・・・まぁ、こんだけ痛め付けてやれば充分でしょう。後はどっかの星系に無一文で放り出してでもやれば?」

 

「あ、はぁ・・・」

 

「いやぁ、やっぱあんた、容赦ないねぇ」

 

「殺さないだけまだマシよ」

 

 納刀した私に向かって、トスカさんがそんな言葉を投げ掛けた。でもまぁ、こいつの所業を考えれば殺すのはかえって逆効果かな。この手の連中には寧ろ、生き長らえさせて苦しんでもらった方が相応しい。

 

「んで、どうするユーリ?霊夢ちゃんはああ言ってるけど」

 

「―――もう、何も必要ないですよ。バルフォスやアルゴンだって、悪党としては許せなくてもそれぞれのやり方で宇宙の男だった。コイツなんか、その足元にも及びません。こんな奴に宙佐が殺されたと思うと腸が煮え繰り返る思いですが、殺すより生き長らえさせた方が、コイツは苦しむでしょう」

 

「解ったよ。じゃあ放置って事でいいね」

 

「い、いてぇ・・・いてぇ・・・・・クソッ・・・」

 

 流れはバハシュールの野郎を敢えて生き長らえさせる方向に傾き、皆が彼から視線を外すなかで、早苗が一歩前に出る?

 

「なら、その前に一つ・・・」

 

「な、何だよ・・・何を・・・する気だ・・・」

 

 ブォォン、と、光刀が起動する音が響く。

 

「散々奴隷商売なんかやって・・・女の子を拐うような悪い人には・・・これですッ!」

 

「ぐっ・・・ギヤアァァァアァァァァアッ!!?」

 

 早苗は片面だけ起動した光刀を両手でバハシュールの股関目掛けて降り下ろし、バハシュールは今までで一番大きな叫び声を上げる。

 

 ・・・って早苗―――!?あんたそれ、もしかして・・・

 

「はい、これで能無しになりました♪」

 

「ああ・・・俺の・・・俺のモノが・・・」

 

 バハシュールの股関からは、ゆらゆらと煙が立ち上っている・・・この手の奴には尊厳を奪うのが一番きついとは聞いたけど、流石に私でもちょっと引くかも・・・いや、やっぱこれで充分なのかな?

 

「にとりさん特製ラ○トセーバー六十四の機能が一つ、"玉潰し"!これで奴のアレは使い物になりません!」

 

 その様子を見ていたユーリ君やトーロ君といった男性陣は、なんか股関を押さえるような動作をして震えている。・・・まぁ、彼等からしたらあの苦しみが想像できてしまうからでしょう。・・・私には分からないけど。

 

 

 

「・・・あら、何かしら?」

 

 突如、ズズズズ・・・という振動音が鳴り響き、遺跡が地震のように揺れ始めた。

 

「な、何だぁ!?」

 

「こいつは・・・何かデカイのが降りてくるよ!」

 

「でかいのって・・・外の連中は何をしていたの!?」

 

 トスカさんが言うには、なにが大きな質量を持った物体が迫っているとのことだけど、そんな報告、外の連中からは受けてないわよ!?

 

「重力波振動です、霊夢さん!この規模だと、多分戦艦クラスが降下しているのかと・・・とにかく一度出口の方に・・・」

 

「くっ・・・チェルシー、下がって!」

 

 次第に、遺跡の振動が大きくなっていく。

 このままでは不味いと直感した私は早苗の言う通りに後方へ飛び退いた。ユーリ君達も、遺跡からの避難を図っているようで、入り口近くまで後退を始めている。

 

「っ、あ、助け・・・ああああああッ!!」

 

 その直後、一層激しい衝撃が遺跡を襲い、バハシュールの断末魔の叫びが響いた。

 

 

「う・・・んっ・・・」

 

「みんな・・・無事か?」

 

「ああ、俺は何とかな・・・チェルシーも大丈夫だぜ」

 

「東風谷早苗、健在ですぅ・・・」

 

 どうやら先程の衝撃で天井が崩れて、私達はその余波吹き飛ばされたようだ。辺り一面砂埃にまみれている。

 

「そうか・・・バハシュールは・・・?」

 

 ユーリ君が立ち上がり、断末魔が聞こえたバハシュールを探して遺跡の中を見回した。

 

「・・・あすこの瓦礫の下敷きさ。ま・・・埋める手間が省けたってのかね」

 

 トスカさんが、目線でバハシュールの居場所を示す。そこには、天井が崩れて落ちた瓦礫の山に、僅かに染み出した血溜まりが見てとれた。あ~あ、結局死んだのね、彼。

 

 本当ならもっと生き長らえて苦しんで貰いたかったのに、残念な結果だ。

 

 

 

「ほう。バハシュールのボンボンを潰しちまったのか。そいつぁ、ちっと悪ぃことをしちまったかなぁ」

 

 ―――天井から、聞き覚えのある声が響く。

 

「!?っ、誰だ!」

 

「ユーリ、あそこ―――」

 

「!、お前は―――」

 

 チェルシーさんが指した先に、大きな人影が見える。

 その人影は、影の中から次第に姿を表す。

 

 ―――あの時の、海賊・・・

 

 忘れるものか、圧倒的な力を見せつけときた宇宙の大海賊とやらの姿―――その男の名は・・・

 

「「ヴァランタイン!!」」

 

 

「おう!、久しいな小僧に・・・小娘!ちっとはいい面構えになってきたじゃねぇか!」

 

 ヴァランタインが、私とユーリ君を見据えて言い放った・・・って、ユーリ君もこいつに喧嘩吹っ掛けられてたの!?よくまぁ、今まで生きていられたわね・・・

 

「くそっ・・・ゼーペンストの艦隊がもう少し粘ると思ったが・・・」

 

「はっはー!こっちはわざわざてめえらの策に乗ってやったんだ!少しは感謝して欲しいもんだぜ!ガキの考えにノッてやるのも"大人の嗜み"・・・ってな」

 

「くっ・・・負け惜しみを・・・」

 

「さぁて、負け惜しみはどっちかな?」

 

 ヴァランタインの威圧感にも屈せず、イネス君は果敢に彼に食って掛かる。その隙に、私は何とか離脱の隙を伺っていた。

 

 ぶっちゃけ白兵戦ならヴァランタインを瞬殺できる自信はあるが、彼がここに居るということは当然〈グランヘイム〉もここに来ているということだ。ゼーペンスト親衛隊との戦闘で大きく傷ついた現状の艦隊では、あのキチガイ性能を誇る大戦艦を相手取るなど自殺行為だ。というか健在な状態でも相手にしたくない。

 

(艦長、どうしますか?)

 

(今は取り敢えず様子見よ・・・こっちからは撃たないで)

 

(イエッサー)

 

 一度ヴァランタインから退いた私は、隣にいるエコーに小声で方針を伝える。こっちから仕掛けてしまえば、離脱のタイミングを見失ってしまう。

 

《―――提督さん、聞こえる?》

 

「・・・何、アリス?」

 

 エコーに小声で呟いた後、腕に巻いた通信機から、私にだけ聞こえるほどの小さな音量で通信が入る。相手は軌道上で警戒に就いている筈のアリスだ。

 

《〈グランヘイム〉を確認したけど、奴はまだこっちに撃ってきたりはしてないわ。一応警戒は続けるけど、連中をあまり刺激するのは得策とは言えない・・・今は様子見に徹して貰えるかしら?》

 

「誰が好き好んであんな化物とドンパチやろうってのよ。しないわよそんなこと。取り敢えず、外は任せたわ。コーディにも伝えて頂戴」

 

《了解》

 

 用件だけを手早く告げると、アリスからの通信が切れた。

 

 

「・・・お前達の目的の一つはエピタフだろう?そいつは後ろにあるんだぜ?」

 

「あ・・・」

 

 ―――どうも、私がエコーやアリスと打ち合わせている間にも、話が進んでいたらしい。そっちに集中していたお陰で、ヴァランタインの声はあまり耳に入っていなかった。

 

「おおっ、あれがエピタフ・・・まさか本物を目にできるとは・・・っ」

 

 ちょっとマッド爺さん、黙ってよ!気が散るじゃない!

 

「ぐっ・・・ならばもう一度!」

 

「あっ、ちょっとユーリ君!迂闊に突っ込まないで!」

 

 また頭に血が上っているのか、ユーリ君は今にもヴァランタインに斬りかかろうという形相だ。私や早苗ならともかく、あんたの身じゃ叶わないんだから大人しくしてなさいよもう!離脱のタイミングが掴めない・・・

 

「おおっと、落ち着けよ、小僧。俺はお前にこいつをやるつもりで来たんだぜ?」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

「ほれ、受けとれ」

 

 すると、唐突にヴァランタインは徐に背後のエピタフを掴み取って、それをユーリ君に向かって投げる。

 

「あ・・・どうして・・・」

 

「ふふ・・・さぁ~て、お前を生かしておく価値があるか、それともここで・・・」

 

 ユーリ君がそれを受けとると、エピタフは蒼白い閃光を放ち始め―――

 

 ―――あれって、まさか・・・!?

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Misterio」】

 

 

 

「う、うわあああっ!!」

 

「おお!?お・・・お・・・」

 

「ユーリ、だめえええっ!!」

 

 誰もがその閃光に呆然とする中、ヴァランタインの驚きと歓喜が入り交じったような声に、チェルシーさんの叫び声がその場に響いた。

 

 ―――あの光、まさか・・・あの遺跡での・・・

 

「エ・・・エピタフの・・・・・・形が・・・」

 

「こいつぁ・・・ビンゴってやつだぜぇ!」

 

「なっ、何だ・・・ッ、文字が、浮かんで・・・」

 

 

 

「はっ・・・ハッハーッ、そう、それだ!それこそがエピタフの真の姿!!さぁ、認められし者よ!読み上げるがいい!この宇宙に死に行く、全ての者達へ捧げる墓碑銘をッッ!!」

 

 

 誰かがなにか叫んでいる。

 

 この光―――ああ、そうだ、イベリオ星系の遺跡でエピタフが起動したときの、あの光―――

 

 エピタフの閃光が一層強まり、それは光の柱となって天を貫く。

 

 眩いばかりの閃光を放ち続けていたエピタフは、暫くしたのち、すーっとその輝きを失っていく。まるで、命が抜けていくかのように。

 

「な、何だったんだ、今のは・・・」

 

「艦長、あの光景は・・・」

 

「ええ、間違いないわね―――」

 

 

「ふっふっふ・・・見事だ、門は開かれた。この星の軌道に浮かぶデットゲートがどうなったか、確かめてみるがいい小娘!貴様の機会はまた後にしてやる。それまで首を長くしててでも待っていろ!はーっははははっ!!」

 

 ヴァランタインはそう言い残すと、マントを翻して去っていく。そのすぐ後に、先程のような重力波振動を繰り広げながら何かが飛び去っていった。

 

「あっ、待て・・・!」

 

「ユーリ君、海賊なんてどうでもいい!すぐデットゲートを確認しに行こう!サナダ君のデータ通りなら、アレが復活している筈だヨ!!」

 

「アタシも同意間だねぇ。さっき何が起こったのか、ヤツの言葉を確かめるんだ。そんな訳だから、あたしらはここでおいとまさせて貰うよ」

 

「ええ。縁があればまた会いましょう」

 

 ユーリ君とトスカさんは、そう言うと急ぎ足で仲間と共に遺跡の出口へ駆けていく。

 

 というかさ、あんたら、ここまでどうやって来たのか覚えてないの?

 

「艦長、我々も急ごう」

 

「ええ、そうね。海兵隊、撤収するわよ。艇に戻って!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 

 ユーリ君達に少し遅れて、私達も遺跡から出る。

 

 

 遺跡から出た先では、案の定、ユーリ君達が立ち止まっていた。

 

「あの・・・すいません・・・帰りもまた乗せてもらえますか?」

 

「別に構わないわ。早く乗り込みなさい」

 

「あ、有難うございます・・・」

 

「よし、全員揃ったな。ロングソード、出せ!」

 

「了解、ロングソード1離陸します!」

 

 強襲艇に海兵隊員とユーリ君達が乗り込んで、欠員がいないことを確認すると、パイロットは強襲艇を離陸させる。

 

 

 離陸した三機の強襲艇は、軌道エレベーター基部を目指して飛行する。

 

「ん、何だ?空が暗くなって―――」

 

《ロングソード!!緊急事態です!回避願います!》

 

「な、何だぁ!?クソッ、兎に角回避運動だ!艦長、捕まってて下さいよ!」

 

「え、ええ。―――何があったの!?」

 

「私にも分かりません!兎に角旗艦からの緊急回避命令だ―――ッ!」

 

 いきなり機内にノエルさんのナビゲート音声が響いたかと思うと、強襲艇の機体が一気に左へ旋回する。

 

 

 

 ゴオォォォォンッッ!!!!

 

 

 

 その直後に、本来進むべき方角―――軌道エレベーターの方から凄まじい振動と衝撃波が伝わるのを感じた。

 

「な、何ッ・・・!?今のは―――!」

 

「か、艦長・・・軌道エレベーターが・・・」

 

「軌道エレベーターがどうしたの!?」

 

「と、とにかく一度ご覧下さい!窓を開けます!」

 

 パイロットの様子からも、先程の衝撃が尋常なものではないことが分かる。

 機内の窓が解放されると、私はいの一番にそこに食い付いて外の様子を確認する。そこには―――

 

 

 

 燃え盛るエレベーター基部に、中程で折れ曲がって破片を撒き散らしながら倒壊する起動エレベーターの姿があった―――

 

 

 

「なっ・・・こんな、こと・・・ッ!?」

 

 

 

「霊夢さん、一体何が―――ッ!」

 

「ひ、酷い―――」

 

「おいおい、何処のどいつだい!?こんなの、――――――明白なアンリトゥンルール違反じゃないかッ!!」

 

 私に続いて、ユーリ君や早苗に、トスカさんが外の様子を覗き見る。反応は三者三様だが、誰もがその所業の前に絶句していた。

 

 唯一、トスカさんの怒りにも似た叫びが耳に響いた。

 

 

《ザザ―――ッ・・・―――いむ、靈夢ッ!》

 

「その声―――マリサ!?何があったの!?」

 

 《惑星の裏側から、いきなりビームが曲がってきたぞ!そっちに向かって飛んでいったけど、お前は大丈夫なのか・・・って今度は何だ!?デカブツが這い出てきた!!》

 

「デカブツ!?〈グランヘイム〉じゃなくて!?」

 

《〈グランヘイム〉なんかよりももっとデカい!3000mは優に越えてる!》

 

 軌道エレベーター倒壊の様子を見たためか、マリサから私を心配するかのような緊急通信が届く。彼女の話では、惑星ゼーペンストの裏側からいきなりビームが発射されたらしいんだけど、一体どうなってるのよ!?

 

 それに加えて謎の巨大艦が現れたという報告だ。もう一体全体、どんな状況なのかさっぱりだ。

 

「そのデカブツとやら、正体は分からないの!?」

 

《いや、私もさっぱりだよ!あんなの識らないし見たことない!なんか楔型の薄っぺらい奴だけど、とにかくデカい!強いて言うなら、靈夢のとこの巨大航空巡洋艦に似てるけど・・・》

 

 巨大航空巡洋艦?もしかして、〈高天原〉のことだろうか。にしてもデカブツの正体は依然として不明らしい。だが状況から考えて、そのデカブツが軌道エレベーターを破壊したと見てもいい。ならば、敵として考えるべきだ。

 

「ああもう、何でこう面倒なことばかり起こるのよ!マリサ!そいつの警戒、頼んだわよ!」

 

《ああ、任せて――――ッ、くそ、野郎撃ってきたな!反撃だ――――ザザ―――ッ・・・》

 

 雑音と共に、マリサからの通信が切断される。

 

 最後にはレーザーの着弾音や爆発音なんかが聞こえたので、例のデカブツとやらがマリサの艦を攻撃してきたと見て間違いない。何処のどいつかは知らないけど、こうしていては私の艦隊も危険だ。

 

 

 一難去ってまた一難、か・・・とにかくこうしちゃいられないわね。予定を切り上げて、早く艦隊に戻らないと・・・

 

 

 

 




ゼーペンスト編はこれで終わりですが、すぐ次章に続きます。相変わらずさでずむな早苗さんです。ラ○トセーバーの"玉(ぎょく)潰し"の機能は、外見は何ともなりませんが中身を能無しにする機能ですw

うちの霊夢ちゃんも、結構えげつないですね。今回は、バハシュールに怒りの感情を覚えさせて自分に向かってくるよう仕向けた後、敢えて正面から圧倒して叩き潰すという芸当をやっていますw まぁ、バハシュールはレイサナコンビにプライドをズタズタにされた訳ですね。インガオホー。

最後に出した3000m級のデカブツ―――、一体何なんでしょうねぇ?


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第六章――博麗幻想
第五五話 崩れた大樹


 

 ~惑星ゼーペンスト・低軌道上~

 

 

 

【イメージBGM:ガンダムOOより「TRANS-AM RAISER」】

 

 

 ゼーペンストの軌道エレベーターが破壊されてすぐに、私は惑星の低軌道上に停泊していた〈開陽〉に戻って艦隊を預けていたコーディに事態の状況を尋ねた。

 

「コーディ、状況を知らせてくれる?」

 

「はい。現在不明艦は友軍の艦船を攻撃しつつ、星系外に向けて離脱する航路を取っています。なお不明艦は惑星の重力場に隠れていたので発見が遅れてしまいました」

 

「釈明はいいわ。それで、さっきの攻撃でどれだけ被害が出ている?」

 

「軌道エレベーターの倒壊により、地上では民間人にも被害が出ているようです。また付近に展開していた機動歩兵と海兵隊員数名との連絡も取れません」

 

「―――チッ、やられたわね。コーディ、今すぐ簡易キャンプキットに医薬品を地上に搬送して。出せるだけ出しなさい」

 

「―――成程、地上の民間人を救助することで我々の仕業でないと広報する訳か。確かに、俺達がアンリトゥンルールに反したと勘違いされるのは厄介だ。了解した、すぐに手配させます」

 

 コーディは関係部署との折衝のためか、一時席を離れた。

 突然現れたあの巨大不明艦は何をとち狂ったのか地上の軌道エレベーターに向けて砲撃をぶちかまして、あろうことか破壊してしまった。軌道エレベーターの崩壊に伴って、周囲の市街地にはその破片が降り注いで甚大な被害をもたらしているという観測結果が出ている。破片とは言っても 平均数十メートルの大きさもあり、さらにそれが遥か上空から降ってくるのだ、地上の被害はとんでもないことになるのは目に見えている。

 

「早苗、降下艦隊の展開状態は?」

 

「はい!えっと・・・〈叢雲〉と〈コーバック〉は既に市街地上空でデフレクターの展開態勢に入りました!重巡〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉も間もなく到着予定です」

 

 ・・・このまま軌道エレベーターの倒壊を放っておけば、付近の住民は全滅しかねない。そこで、艦隊の一部を破片からの盾にしようと市街地上空に降下させている訳だが、如何せん崩壊速度の方が速すぎて艦隊の展開が追い付かない。これでは折角艦隊を盾にできてもその頃には最早焼け石に水となってしまう。

 

「不味いわね、このままだと間に合わないわ・・・早苗っ、降下艦隊に砲撃命令を出しなさい。とにかくデカイ破片は砕いて、ちっちゃい奴も蒸発させてしまえば少しは被害も軽減するでしょ!それと出せる艦載機は全部出しなさい!破片を迎撃させて!」

 

「りょ、了解ですっ!」

 

 このまま何も手を打たなければ地上の被害は加速してしまう。なら出来る手は全て打たせてもらう。艦隊のレーザー砲撃で破片を蒸発させてしまえば、地上への被害は押さえられる筈だ。

 

「いい、軌道エレベーターは絶対に射線には入れないで。崩壊を助長させることになるわ。迎撃位置についた艦から順次発砲!」

 

「艦載機隊各機、緊急発進して下さい!軌道エレベーター破片の迎撃に当たれ!」

 

《了解ッ、アルファルド1、出撃する!地上で暴れられない分だけぶつけてやる》

 

《こちらディアーチェ、RF/A-171出るぞ!航空隊各機、我に続け!》

 

 惑星ゼーペンストの大気圏内に降下した艦から、順次落下する軌道エレベーターの破片に向けて砲撃が開始される。だがマッド共謹製の高性能演算装置が積まれているとはいえ、高速で地上に向かう破片を迎撃しきるのは難しく、まだまだ多くの破片が地上に向けて落下していく。

 そこの穴を埋めるように、発艦した艦載機隊が細かい破片を迎撃した。飛行機型の機やVF部隊は艦隊と共に展開してマイクロミサイルで破片を砕き、市街地直上には〈開陽〉と〈レナウン〉〈オリオン〉から発進した機動兵器〈ジム〉の部隊がシールドを構えて展開し文字通り盾となると同時に、ガンマウントに装備したマシンガンで破片を粉砕していく。

 

「破片の地上到達率、41%にまで低下!」

 

「その調子よ。上空の奴は出来るだけ細かく砕きなさい。そうすれば大気圏での摩擦で蒸発するわ」

 

 急拵えではあるものの、迎撃網を構築したことで地上に到達する破片の数はだいぶ減らせたみたいだ。軌道エレベーターも崩壊は止まりつつあり、じきに降り注ぐ破片の数も減ってくるだろう。

 

《ザーッ―――・・・む、靈夢・・・聞こえる?》

 

「マリサ―――?」

 

 私が軌道エレベーターの状況を注視していると、再びマリサから通信が入った。あちらでは未だに不明艦と交戦しているのか、絶えず発砲音や着弾で艦体が砕け散る音に爆発音なんかが響いてくる。

 

《ハハッ、あのデカブツ、手に負えないわ。悪いけど、こりゃ一回コンティニューだね・・・》

 

「え・・・ちょっと、あんた何言って―――」

 

《馬鹿―――オマエと決着つけるまでは死なないよ・・・ただ艦は持ちそうにないから、上手く拾ってくれると嬉しいな。私は逃げるなり何なりするから、とりあえず宇宙港で会おう―――》

 

 プツン、とそこで通信は途絶える。

 直後、不明艦の方角で大きな爆発があった。

 

 ―――チッ、散々好き勝手暴れておいて、勝手な奴・・・

 

 ・・・正直、あのマリサとかいう奴のことは好きではないけど、名前の響きと声で、否応なしにあの娘のことを思い出してしまう。

 

 ―――勝手に死んでたりしたら、許さないんだから・・・

 

 あいつは決着付けるまでは死なないって抜かしていたんだし、こっちもあの時の借りを返させてもらわないといけないんだから、言葉通り生きてもらわなきゃ困る。―――あいつは宇宙港で会おうって言っていたから、後で拾ってやりに行こう。

 

「艦長、敵大型艦が離脱していきます」

 

「・・・邪魔な奴を排除したら気が済んだんでしょう。手負いのこっちに噛みついてくるよりはマシよ。アレがこっちに来ないんだったら破片の迎撃に集中できるわ」

 

 どこの誰かは知らないけど、マリサの奴が沈められて、しかもアンリトゥンルールを破って地上の民に危害を加えたあの艦を許しておくつもりはない。だけど今は地上の人間を救うことが先だ。悔しいけど、今の艦隊の損害度からいってもまともにやり合うだけの余裕はない。素直に離脱してくれるというなら有難い。

 

「・・・了解しました。監視のため、不明艦の航路をトレースしておきます」

 

「任せたわ」

 

 レーダー手のこころがアイツの航路を監視してくれるみたいだし、この件は一旦後回しだ。奴の航路さえ分かれば本拠地にでも殴り込める。

 

「破片の迎撃状況はどうなっている?」

 

「はい、現在破片の地上落着率は22%まで低下!しかし我が方もそろそろ限界です!降下させた駆逐艦のシールドがもう持ちません。摩擦熱で装甲の耐熱限界も近づきつつあります!」

 

「チッ、流石に駆逐艦じゃあ絶えず大気摩擦に耐えるのは厳しかったか・・・限界が近い駆逐艦から順次、宇宙空間に退避させなさい」

 

「了解です」

 

 現在艦隊は、軌道エレベーターの破片を迎撃するために大気圏内に降下しているのだが、降り注ぐ破片の他に、絶えず上空に陣取って大気摩擦にも耐えなければいけないので、瞬く間に損害が蓄積していく。駆逐艦のシールドなんかは、そろそろレッドランプの警告が発せられる頃だろう。この〈開陽〉のシールド発生装置やデフレクターユニットも、ダメージレポートで黄色信号が出ている。

 

「艦載機隊はもう活動限界です、一度帰投命令を出します。それと、地上に降りた迎撃用の機動兵器部隊にも損害が出ています。破片の直撃により、ジムが3機大破した模様です」

 

《―――ザザ・・・ザーッ、ガーゴイル1より、状況を報告する・・・破片の迎撃は何とかなりそうなんだが、一つ問題が発生した》

 

「ガーゴイル1?、具体的に何が発生したんですか?」

 

《ああ―――エレベーターの近くでスカーレット社のご令嬢様とメイドさんを助けたんだが、なにやら怪我に加えて意識もないみたいでね―――急を要するんで、一度帰還の許可を願いたい》

 

「了解しました。こちらの誘導に従って帰艦してください―――とのことですが、艦長、如何されますか?」

 

 ノエルさんが振り向いて、私に指示を仰ぐ。

 令嬢とメイド―――といったら、レミリアとフランに、サクヤさんのことだろう。あの二人は大切な奪還対象なんだし、傷物にされては依頼の報酬に関わる。しかしメイリンさんがいないのは気がかりだ。もしかしたら、まだまだ地上に残されているのかもしれない・・・

 

「医療班にすぐ受け入れ態勢を整えるように言っておくわ。地上それと残余の地上部隊は破片の迎撃が終わり次第、負傷した住民への治療と共に行方不明者の捜索に当たらせて」

 

「了解しました」

 

 幸い、迎撃の方はなんとかなりそうだ。軌道エレベーターも崩壊が止まって、新たに吐き出される破片はもう殆どない。

 

「さて、ここが正念場ね。恐らく墜ちてくる破片はこれで全部よ。一片たりとも地上に落とさない覚悟で迎え撃て!」

 

「「「了解っ!」」」

 

 

 

 

 .......................

 

 ................

 

 ............

 

 ........

 

 

 

 

 

 迎撃の方はなんとか一段落ついて、私達はその事後処理に当たった。

 まずは医薬品を運べるだけ地上に運んで負傷した民間人の治療、そして海兵隊と機動歩兵改の人海戦術で行方不明者の捜索を行った。ガーゴイル1―――航空隊のマークさんが運んできたのはフランとサクヤの二人だけだったので、軌道エレベーター付近を中心にレミリアとメイリンさんを探させたんだけど、結局この二人は見つからなかった。その代わり、崩壊を免れた軌道エレベーター基部の駅では銃撃戦の跡にスカーレット社社員の遺体が複数発見されたという報告が入っている。加えて、運ばれてきた二人を治療したシオンさんの話では、サクヤさんにはブラスターのエネルギー弾が掠めたような傷跡が複数あったという事だ。ここまでくれば、何が起こったかは大体想像出来てしまう。―――レミリアとメイリンさんは、あの不明艦に拐われたのだ。

 漸く依頼も終わりかと思ったのに、また厄介事だ。どこの誰かは知らんが、あの艦が属してる組織は徹底的にぶちのめしてやる。うちの海兵隊員も何人か軌道エレベーターの破片に下敷きにされたんだし、艦長としてケジメつけてやらないとね。

 これについては一度ドック内の〈レーヴァテイン〉に伝えておいたが、どうやら向こう側も事態を把握していたらしく、随分と慌てた様子だった。何が地上で起こったか、詳しいことはサクヤさんが目覚めてから聞かないと分からないけど、次の厄介事もただでは済まなさそうな気配がする。

 ちなみにユーリ君達だけど、あっちは地上の援助に医薬品を下ろせるだけ下ろした後は急かされたようにヴァランタインの後を追っていった。―――遺跡での出来事を考えれば、それも仕方ないわよね・・・

 

 治療と捜索が一段落ついた後は、戦争処理のため残されたゼーペンスト官僚団の上層部と会談した。一応私達は自治領に宣戦布告して、実際これに勝利した立場な訳だから色々あるのだ。普通なら勝利した自治領への挑戦者はそのまま統治権を握るのだが、私達の目的はあくまで人身売買で売り飛ばされたご令嬢の身柄確保、自治領の統治には興味がない。勝利宣言をして正当に自治領との戦いを制したことを告知してしまえば、後は現場の官僚に任せればいい。これから民主化するなり、新たな独裁者を戴くなりかは彼等次第だ。

 それに、前領主が享楽のために散々浪費していた影響でこの自治領の経済は火の車、貧困率もとんでもない。そんな宙域貰ったところではただ面倒くさいだけだ。

 

 ついでにその会談では、ヴルゴさんに降伏条件で伝えた艦の他に、親衛隊の残存艦や建造中/ドック内に留置されていた艦船も賠償艦として得ることができた。これで賠償として獲得した艦船の数は、ペテルシアン級空母2隻、アルマドリエルⅠ級空母1隻、ドゥガーチ/ZNS級空母1隻、ドゥガーチ/Z級空母2隻、フリエラ/ZNS級巡洋艦3隻、フリエラ/Z級巡洋艦2隻、リーリス/ZNS級駆逐艦6隻、リーリス/Z級駆逐艦7隻の合計23隻だ。このうちアルマドリエルⅠ級とドゥガーチ/ZNS、Z級空母各一隻にフリエラ/ZNS級巡洋艦1隻と全てのフリエラ/Z級巡洋艦、それとリーリス/Z級駆逐艦6隻はスカーレット社への賠償艦として引き渡された。 これでゼーペンストに残された艦は難を逃れた警備艦隊だけになるが、私にとってはどうでもいいことだ。恨むなら犯罪に手を染めた前領主を恨みなさい。

 そして私達は結果として、

 ペテルシアン級空母:2隻

 ドゥガーチ/Z級空母:1隻

 フリエラ/ZNS級巡洋艦:3隻

 リーリス/ZNS級駆逐艦:6隻

 リーリス/Z級駆逐艦:1隻

 の賠償艦を得た訳だが、このうちフリエラ級、リーリス/Z級各1隻とリーリス/ZNS級駆逐艦2隻は解体又は売却処分として資源や艦隊資金の足しとした。ペテルシアン級もまだうちの艦隊では持て余してしまうので、勿体ないが売却処分だ。残りの艦はそのまま新たな戦力として艦隊に編入されるが、早速マッド共が改造工事を奮発しているらしく、獲得したフリエラ級が早速〈ムスペルヘイム〉にドック入りしている。

 そして編入艦の艦名だが、ドゥガーチ/Z級は〈ロング・アイランド〉と改名され、艦載機搭載量も元の36機から48機まで拡大された。絶賛改造中のフリエラ/ZNS級は〈スタルワート・ドーン〉、〈イージス・フェイト〉の艦名をそれぞれ与えられ、リーリス/ZNS級駆逐艦は〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈アーデント〉〈ドーントレス〉と命名された。

 

 そして既存艦にも改修が加えられ、大破した空母〈ラングレー〉は修理のついでに中段の第二、第三飛行甲板のスペースを利用して格納庫の拡大が行われ、これによって搭載機の最大数は70機から120機まで拡大した。またサチワヌ級巡洋艦〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の2隻は戦訓を基に、対空に特化した仕様へと改装されるらしい。

 

「艦長、ここにいたか」

 

「あら、サナダさん・・・解析作業は終わったの?」

 

「ああ―――まずはこいつを見てくれ」

 

 私が今回の戦いでの戦果と被害のデータを確認していると、サナダさんが訪ねてきた。彼には例の不明艦の解析を頼んでいたんだけど、この様子だと、何か分かったみたいだ。

 

「これは―――航路?」

 

「ああ。例の巨大戦艦が撤退時に使用した航路を解析した結果、途中で空間歪曲波の発生を観測した。そこから先は、反応が途絶えている」

 

「途絶えているって、向かった先が分からないってこと?」

 

 サナダさんの話からすると、あの不明艦の航路を辿ることには失敗したということなのだろうか?だとしたら、一からあいつを探さないといけなくなる訳で、とんでもなく手間がかかる作業になるんだけど・・・

 

「いや、落胆するのはまだ早い。艦長、私は空間歪曲波を観測したと言っただろう?これの意味が分かるかな」

 

「空間歪曲波?―――いや、分からないわ」

 

 わざわざサナダさんが強調するぐらいだし、きっと重要な単語なのだと思うんだけど、生憎科学には詳しくないんでね―――あんたみたいに科学的なことは分からないのよ、私。ああ、でもその単語、どっかで聞いたような気が―――う~ん、どこで聞いたかなぁ・・・

 

「そうか・・・では仕方ない、説明するぞ。いいか、空間歪曲波とは文字通り空間を歪める波のことだ。我々が用いるワープのように、空間に直接働き掛けて状態変化を引き起こす際に発生する。つまりこの波が検出されたということは―――」

 

「もしかして、アイツもワープ航法を使ったってこと!?」

 

「ああ、そうだ。超光速航法でも、広く一般に用いられているi3エクシード航法では残存インフラトンの反応が検出されるが、我々が用いるようなワープではそれが途絶える。さらにその直前に空間歪曲波を感知したとなれば、敵も我々と同様のワープ航法を使えると見て間違いない。そしてもう一つ肝心なことだが、空間歪曲波の方向から推測される敵艦の予想航路を解析した結果、マゼラニックストリーム方面、それもヴィダクチオ星系の方角に続いていると判明した」

 

「ヴィダクチオ?確かどっかで聞いた覚えが・・・ああ!、確か保安局のウィンネルさんが、ザクロウの人身売買先の一つだって言ってた宙域がそんな名前だったわ・・・」

 

「ふむ、ザクロウの取引先か・・・だとしたらゼーペンスト、いやバハシュールとも何らかの繋がりがあったのだろう。だからこそ戦艦をこの宙域に派遣していた訳か・・・しかし、にしても目的が見えんな。軌道エレベーターの破壊は恐らく誘拐した証拠の隠滅でも図ったのだろうが・・・その誘拐の理由は何だ? あのご令嬢さん達は人身売買でゼーペンストに来た筈だ。連中があの令嬢を確保しなければならない理由とは――――むぅ、こればかりは私にも解らんな・・・」

 

 ヴィダクチオって、確かウィンネルさんの話だと膨張志向で絶えず揉め事を起こしている厄介児だって話だった気がするけど、わざわざレミリアを拐わないといけない理由は一体何なのだろうか。

 ただ証拠もなく考えても答えなど出る筈もなく、徒に時間だけが過ぎる。

 

「・・・これは後にした方が良さそうだな。そしてもう一つ、奴について分かったことがある」

 

 連中の目的が見えないことはサナダさんにも分かっていたようで、サナダさは話題を別なものに切り替えてきた。

 サナダさんが持ってるデータプレートからホログラムの図面―――あの不明艦が映し出された。

 

「こいつについて、解析データに加えて艦隊やスペースネットに存在する、あらゆる情報を当たってみた。その結果、次のことが分かった。まず一点目、奴の底部に装備されたこの歪曲レーザーについてだが、こいつはどうもデフレクターユニットの重力制御技術を応用しているようだな。恐らく砲門に、ビームに干渉するよう重力場レンズを形成して一定の方角に粒子ビームを曲げているのだろう。これだけの芸当を可能にするだけのデフレクター出力には相当な量が要求される。あの図体だからこそ、それだけの性能を持ったデフレクターを搭載できるのだろう」

 

「大体の原理は分かったけど・・・でもあのビーム、もっと極端に曲がってなかった?こう、なんか反射するみたいに」

 

 サナダさんの説明だと、あの軌道エレベーターを破壊した大出力レーザービームは艦のデフレクターユニットからの干渉で曲げられているみたいな説明だったけど、実際の映像だと、何ヵ所かで反射されたように曲がっていた気がするんだけど・・・

 

「ああ、艦長の言うとおり、こいつだけでは説明としては不完全だ。これを見てくれ」

 

 サナダさんはそこで一旦説明を打ち切ると、あの戦艦が歪曲ビームを発射している様子と、そのビームの射線のデータを表示した。

 

「いまこの画像で拡大した位置を詳しく解析してみると、ここに小型のエネルギー反応が観測されているのが分かるな?レーダーに映っていないところを見ると、恐らくステルスなのだろう。だが肝心なのはここだ。このエネルギー反応の位置でレーザーがほぼ反射されているのが見えるな。これは推測だが、こいつはレーザーを反射させる特殊な鏡面装甲を搭載したリフレクターユニットの役割を果たす航空機だ。こんなものが元からこの宙域にあったとは考えにくい。衛星の類いではなく、直接あの艦から発進してきたのだろう」

 

「なるほど・・・つまりそいつと曲がるビームが組み合わさると、事実上死角のない無敵砲台になり得る―――ってことね」

 

「ああそうだ。全くこんなものまで配備しているとは―――連中の技術力は相当なものだぞ。喧嘩を売るにしても、今までのようにはいかないな」

 

 サナダさんの解説を聞く限りでは、あの戦艦の主砲に死角はない。レーザー自体が曲がってくるし、それに反射ユニットを持った航空機が加わると例え天体の裏側に隠れていたとしても攻撃されてしまうだろう。巨大建造物である軌道エレベーターを破壊したことを見ても、威力自体も相当高い筈だ。

 

「チッ、野蛮な連中の癖に良いもん持ってるのね。それで、まだあるんでしょ?」

 

 私はサナダさんに続きを促す。サナダさんの台詞からいって、分かったことはまだあったような口振りだったし。

 

「ああ。二点目だが、あの艦の正体が判明した。艦長、イベリオ星系の遺跡は覚えているな?」

 

「ええ―――、それがどうしたの?」

 

「この〈開陽〉の設計図のように、そこで複数の艦船データを得ただろう?その中には、我々が使うヴェネター級とアクラメーター級のデータも"古代遺跡の解析結果"として残されていたんだ。その中に、あの巨大艦に非常に類似したシルエットを持つ艦のデータも発見した」

 

 サナダさんは、今まで表示されていた巨大戦艦のホログラムの横に、もう一つホログラムを表示した。

 その艦は、大きさこそ僅かにあの巨大艦に劣るけど、全体的なデザインはほぼ同一だ。

 

「こいつは"リサージェント級バトルクルーザー"と言うらしい。全長は約3000m、あの巨大艦より僅かに小さい。そして艦体のデザインはほぼ共通している。あの艦の所有者は、我々と同じように何らかの手段で古代遺跡から艦のデータを抜き出したか、漂流していた残骸そのものを流用して建造したのだろう」

 

「・・・ってことは、艦の性能自体も私達の艦に近いか、上回るってこと?」

 

「ああ。それにあの図体だ、耐久性能では我々の戦艦を上回るだろうな」

 

 ―――想像してはいたけど、あの巨大戦艦、相当な強敵になりそうだ。にしても、私達の他に遺跡船を使う連中がいたなんてのはちょっと驚きだ。私みたいに、相当運に恵まれた奴なんだろう。

 

「それで艦長、これは私からの提案なのだが―――」

 

「・・・なに?サナダさん」

 

 サナダさんが、畏まった態度でもう一枚のデータプレートを取り出した。あ、この流れはもしかして・・・

 

 

 

「売り払ったペテルシアン級2隻の資金、まだ浮いているだろう?ならその資金を使ってこいつを作ってみてはどうだ?」

 

 サナダさんが、データプレートを起動してホログラムを映し出す。そこにあったのは、案の定と言うべきか新型戦艦と思われる設計図だ。

 艦首には〈開陽〉と同型の2連装ハイストリームブラスターの砲口が大口を開けており、そこから円筒型の直胴艦体が続き、上甲板には〈開陽〉と同型の主砲が2基並んでその後ろには艦橋がそびえ立っている。そして艦橋頂部から艦尾にかけて、幾つもの発進口のようなものが開いた板状のユニットが延びていた。

 

「改アンドロメダ級、前衛武装航宙戦艦。この〈開陽〉と同様にあの遺跡から発掘したデータを基に設計した戦闘空母だ。艦首には〈開陽〉と同じようにハイストリームブラスターを装備、そして主砲は〈開陽〉の160cm3連装レーザー砲を改良した160cm3連装収束圧縮型レーザー砲を2基搭載、艦後部の艦載機発着区画には航空機、機動兵器合わせて96機の搭載が可能だ。あの巨大艦に対抗するには、我々の巡洋艦と駆逐艦中心の艦隊ではやや力不足だからな。これを機に、2隻目の戦艦保有を考えてもいい頃ではないか?」

 

 サナダさんは艦の仕様を説明しながら、ホログラムの横に要目データと性能値を表示した。

 

 

 

 改アンドロメダ級 前衛武装航宙戦艦(AAA-BBVS)

 

 全長:1456m

 全幅:342m

 全高:430m

 価格:69500G

 艦載機:96機(+分解状態の予備機×12機搭載可能)

 武装:艦首ハイストリームブラスター×2、160cm65口径3連装収束圧縮型レーザー砲×2、、艦首対艦ミサイルランチャー×4、4連装対艦グレネード投射装置×2、3連装高角パルスレーザー砲×4、格納式パルスレーザーCIWS×24

 

 性能値

 

 耐久:10400

 装甲:102

 機動力:27

 対空補正:42

 対艦補正:75

 巡航速度:131

 戦闘速度:125

 索敵距離:22000

 

 

 

「はは・・・いつの間にかこんなものまで設計しやがって・・・なにこの造船価格70000Gって。〈開陽〉より高いじゃない!こんなもん造れるか!」

 

「まぁまぁ、そう熱くなるな艦長。これは巨大戦艦撃破の為の必要経費だと思ってくれ。ざっと計算してみたが、賠償艦の売却で我々は現在25万Gほどの資金がある。小マゼランでは滅多に手に入らないペテルシアン級に色がついたお陰だな。それでだが、無人運用するというなら搭載するモジュールは戦闘モジュールだけで事が済む。居住モジュールは不要だ。それに艦載機か、あるいは艦載機製造の為の資源購入費用を加えれば、艦体価格と合わせてざっと18万Gあれば足りる。艦載機を管理局が格安販売するゴースト偵察機を改良したスーパーゴースト無人戦闘機で揃えれば・・・15万G近くで建造できるな」

 

「15万って・・・それでも現資金の半分以上使うじゃない!冗談じゃないわ」

 

「戦艦とはそういうものだよ、艦長。これでもモジュール設計図の改良で価格も押さえているんだが」

 

「知るか!」

 

「ふむ、仕方ないでは私の独断と偏見で建造するとしよう。あの巨大戦艦に対抗するにはアンドロメダ級が2隻は必要だ―――分かってくれるかね、艦長?」

 

「―――チッ、ああもう、そこまで言うなら造ればいいんでしょ!ああ、お金が・・・」

 

「理解してもらえたようで何よりだな」

 

 お財布から、お金に羽が生えて飛んでいく光景が見える・・・この世界、お金はデータの中の存在なんだけどね。

 戦艦って、普通に造ればこんなにするんだ―――今まで管理局のドックで作ってきたのは巡洋艦と駆逐艦ばかりだったから、少し甘く見ていたわ・・・

 

 にしても、あのサナダさんがここまで乱暴に2隻目の戦艦を推すってことは、余程あの巨大戦艦が強力な証拠よね―――

 

「では続いて、賠償艦艇の改造状況でも解説しよう。我々がゼーペンストから賠償として得たフリエラ/ZNS級巡洋艦についてだが、こいつは大口径レーザー砲塔を搭載した重巡洋艦として改造している。艦首軸線上にレーザー砲を搭載する関係から、原型艦では艦首にあったエンジンブロックと下部の艦体ブロックは艦後部に移動させている。主艦体そのものも、ミサイルVLSを多数搭載する関係上、直胴型に改造して直接防御力を高めている。この改造の結果、全長は100mほど拡大している。それと陸戦支援用に少数の戦闘機と新型の強襲降下艇に軌道歩兵改の搭載能力を付与している」

 

 話は賠償艦艇の改造へとサナダさんが勝手に移して、また別のホログラムとデータ値が表示された。

 うん、いつもの魔改造ね。これぐらいで驚かなくなってきたのが何だか怖い・・・

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 スタルワート(改フリエラ)級重フリゲート(FFGN)

 

 全長:778m

 全幅:380m

 全高:248m

 価格:12400G

 武装:艦首大型対艦レーザー砲塔×2、連装レーザー砲塔×2、小型連装レーザー砲塔×2、アーチャー多目的ミサイルVLS×56セル、対空パルスレーザー

 艦載機:スーパーゴースト無人戦闘機16機、ペリカン強襲降下艇×10機、機動歩兵改×120体

 

 性能値

 

 耐久:1840

 装甲:41

 機動力:32

 対空補正:38

 対艦補正:27

 巡航速度:125

 戦闘速度:135

 索敵距離:16000

 

 

「フリエラ級の改造はこんなところだな。続いてリーリス級駆逐艦だが、これは主に耐久性能の改良と機関の交換、無人化改装にVLSの規格統一工事を行っている。外見上の変化はあまりないな。そしてドゥガーチ/Z級空母だが、こいつも同様に耐久性能の改良に機関換装と無人化工事を行っている。それに付け加えて、居住区を潰して艦載機の搭載数も10機ほど増加させた」

 

 続いて空母と駆逐艦のホログラムと要目も表示されるが、戦艦と魔改造巡洋艦の影響なのか、ほとんど驚かなかった。普通に考えればこれでもかなり高性能化してるんだけど...

 

 

 

「・・・へぇ~、こいつは凄いね。あんたら、こんな良いもん作る気なのねぇ~」

 

 私がサナダさん達の暴走の結果を前にしてに半ば呆れ気味にしていると、懐かしいような、忌々しいような少女の声が響いた。

 

「・・・何の用?マリサ―――」

 

「どーも、お邪魔するよ。ふむふむなるほど、これ、あんたが作ったのかい?」

 

「いや、基は別にある。ただ、改設計は主に私の仕事だな。」

 

「へぇ~、それでもこればかりは凄いねぇ。あの非力な小マゼラン艦をここまで使えるようにするなんてさ。それにこの戦艦、性能でいえば大マゼランの旗艦級じゃないか」

 

「随分とお気に召されたようで、光栄だな」

 

 マリサの奴は私を無視して、サナダさんの設計図データをまじまじと見つめている。

 ああ、何でこいつがここにいるかって?約束通り、宇宙港で回収してやったのよ。こいつの艦があのザマだからけっこう怪我してるのかと思って来てみれば、ご覧の通りピンピンしてやがる。お前の生命力はゴキブリ並か。

 

「・・・早苗、来なさい」

 

「はいはいっ!、呼ばれて参上、貴女の東風谷早苗でございますっ!!」

 

 私が早苗の名前を呼ぶと、何処から出てきたのか、数秒で早苗が私の背後に現れた。

 どうせ近くに居るでしょうと思ってみたら、やはりその通りだったみたいだ。

 

「―――こいつ、応接室に放り込みなさい」

 

「マリサさんですか?了解しました!」

 

「あっ、ちょっと離せ!この緑色!」

 

「駄目です!霊夢さんのお願いですから!」

 

「病人は労るもんだろ!?」

 

「病人って、あの状況でも貴女外傷一つ無かったじゃないですか。嘘はいけませんよ!」

 

 ・・・これでもあいつは要監視対象なのよ。容易くうちの艦の設計図データなんて見られてたまるか。という訳だから、あんたは早苗と遊んでなさい。

 

「ちょっ、おまっ・・・待っ・・・そ、そんなとこ触るなぁ!」

 

「ふふふ・・・この早苗の手からは逃げられませんよ!気安く霊夢さんに近づいた報いを受けなさい!」

 

「あっ・・・そこ、駄目・・・いやぁぁぁ!?」

 

 

 ―――さて、これで少しは平和になったわね。艦長業務に戻りましょう。

 

 




予告していた通り、第六章はオリジナルストーリーになります。

巨大艦の正体についてですが、コメント欄であった通りリサージェント級バトルクルーザーでした。大きさは一割増しなので、全長は3300m程度まで拡大されています。
アンドロメダ級のサイズは、2202の約3倍ですw
フリエラ級の改造ですが、全体のデザインはHALOのパリ級重フリゲートをイメージしています。艦のレイアウトはかなり変わっていますが、艦後部の両舷にあるエンジンブロックや艦橋直下の張り出した艦体部分などは形そのものはフリエラ級のままです。

そろそろ第四章でちらっとだけ出てきたあの人達も登場する頃です。


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第五六話 作戦会議

 

 

 

「艦長、全艦出港準備完了です」

 

「・・・機関微速全身。進路をカタルーザに向けろ」

 

 ゼーペンスト本星の攻略から三日、修理を終えた私達の艦隊はあの大型艦を追撃すべく、惑星ゼーペンスト軌道を離れた。サクヤさん達はまだ目が覚めてないけど、あと数日もすれば意識が戻るだろう。だがそれを待っている余裕はない。

 

「りょーかい。そんじゃあ出しますよ」

 

 ショーフクさんに代わって操舵を任せた、オレンジがかった金髪で緑色の空間服を着たイケメンの新しい操舵手―――確か、ロビンさんだったかな。彼の返事が響き、〈開陽〉の艦体がゆっくりと動き出す。

 実はゼーペンストで収容所を襲撃した際に、使えそうな人材を見繕っておいたのだけど、彼はそこで確保したクルーの一人だ。彼は元々輸送艦の航海士をやっていたらしいんだけど、酒場で元領主バハシュール2世の悪口を溢したところ捕まってしまっていたらしい。

 ロビンさんは初めて動かすフネながら、慣れたような手つきで〈開陽〉を航路に乗せていく。彼の話ではどうやらビヤット級などの大型輸送船もけっこう操縦していたらしいから、でかいフネの扱いに慣れているのだろう。

 

《第二巡航艦隊全艦、発進準備完了しました。旗艦に続きます》

 

 それで前まで操舵手をやっていたショーフクさんだけど、操舵手に新しくロビンさんが収まったので一個艦隊の指揮官に出世してもらった。彼は十数名のクルーと共に、今は第二巡航艦隊旗艦〈高天原〉にいる。

 ゼーペンスト攻略後に艦隊編成を少し見直したんだけど、第二巡航艦隊には新たに重フリゲート〈スタルワート・ドー〉と〈イージス・フェイト〉を加えて、旗艦として第一機動艦隊から〈高天原〉を移している。それで艦が減った第一機動艦隊には護衛艦としてリーリス級駆逐艦4隻を加えている。

 

《第三打撃艦隊旗艦〈ブクレシュティ〉より、全艦発進したわ。現在異常は無しよ》

 

《・・・こちら〈レーヴァテイン〉、我々も貴艦に続きます。・・・また助力を頼んでしまう事態になり申し訳ない》

 

 アリスの第三艦隊と、ご令嬢と艦長を奪われた〈レーヴァテイン〉を始めとするスカーレット社艦隊もその後に続いてゼーペンスト軌道を離れ、〈開陽〉に並んだ。

 

 私は艦橋の窓越しに、艦隊が並ぶ様子を眺める。

 〈開陽〉の左舷側には、もう一隻の大型戦艦が同航した。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 ―――改アンドロメダ級前衛航宙戦艦〈ネメシス〉だ。

 

 あれはサナダさんが強引に2隻目の戦艦建造を推してくるから、彼が改設計した設計図で建造した戦艦だ。艦隊資金の半分以上を使って建造したんだから、今後はそれに見合うだけの活躍を示してもらわないとね。なまじ図体が他の艦よりでかいだけに、見る分には頼もしい限りなんだけど。この〈開陽〉も、外から見たらあんな風に見えるのかな。

 

「そういえば艦長さん、なんでも珍しいことにこの艦隊には自力ワープ機能があるって聞いたんだが、そいつは使わないのかい?」

 

 航海士として早めに慣れておきたいんだがね、とロビンさんが続けた。

 確かに彼の役割を考えれば、不馴れな機能に慣れておきたいという気持ちも分からなくはない。

 

「そうねぇ・・・とりあえずカタルーザまでは通常航行でやって頂戴。私達だけならまだいいんだけど、今はスカーレット社の艦隊もいるからね。こっちだけワープすれば彼等を置いていく事になってしまうわ」

 

「ああ、そうかい・・・なら仕方ないねぇ。ここは我慢するとしますか」

 

 しかし、あの巨大艦がワープで逃げた以上、このまま通常のi3エクシード航法を続けていても追い付けないばかりか、むしろ差が開いてしまう。打開策はないかサナダさんにお願いしてみたんだけど、カタルーザに着く頃までにはなにか名案でも浮かんでいないかなぁ。

 

 それと今の艦隊が向かっている先だけど、あの巨大艦が向かった先の方角とほぼ一致する方角、マリサとギリアスがヴァランタインの〈グランヘイム〉を誘き出したクェス宙域とサハラ小惑星帯がある方角とほぼ一致しているんだけど、宙域図ではその先にカタルーザという惑星があるのを確認しているので、戦に備えた補給のためにそこに向かっているという訳だ。ちなみにこの惑星、ゼーペンスト宙域からけっこう近い位置にあるけど他の自治領が管轄する惑星らしい。それとこの星からは2本の航路が延びているんだけど、一方がデットゲートに続いてて、もう一方がマゼラニックストリーム方面に繋がるボイドゲートに続いている。カタルーザを出た後の目的地は後者のボイドゲートだ。

 

「そんじゃあ、カタルーザに向けて出発、っと」

 

 ロビンさんが舵を切り、〈開陽〉は目的の星への航路に乗る。それに合わせて、他の僚艦はその周りに展開して警戒陣形を構築した。

 

「機関、最大巡航速度を維持して。念のため警戒も厳としなさい」

 

「了解です」

 

「了解っと、機関、最大巡航速度」

 

 メイリンさんとレミリアが誘拐された以上、ここでもたもたしている訳にはいかない。なので私は艦隊を最大速度で進めさせるように指示する。敵対勢力はゼーペンスト艦隊が壊滅したからいないとは思うけど、もしかしたらあの巨大艦の仲間が潜んでいるかもしれない。なので一応警戒レベルも上げさせておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉会議室~

 

 

 あのあと艦隊は何事もなく惑星カタルーザに到着し、補給品などの事務処理を済ませた私は旗艦の会議室に足を運んだ。

 

「・・・集まったわね」

 

 会議室に着いたら室内を一瞥し、これから行われる会議に出席する者が全員揃っていることを確認する。

 

「・・・じゃあ、作戦会議を始めましょうか。サナダさん、お願い」

 

「了解した」

 

 この会議では、サナダさん率いる科学班が解析した情報の発表と、これから行われるであろうヴィダクチオ自治領侵攻に関する事項について議論する予定だ。

 

 サナダさんが操作を行うと、中央の机からホログラムの宙域図が映し出される。

 

「では我々科学班から説明を行わさせていただく。まずあの巨大艦についてだが、ワープ先の航路計算、そして識別信号のパターンを解析した結果、ヴィダクチオ自治領所属であることはほぼ確実だと考えている」

 

「ヴィダクチオ・・・確か数年前に、隣の自治領や宙域に軍事侵攻して併合したと聞いていますが」

 

 サナダさんの言葉を受けて、ショーフクさんが補足するように言葉を付け足した。

 あの巨大艦を抜きにしても、隣国に攻め込むぐらいだから相当の戦力を有すると見た方がいいかもしれない。

 

「隣国を併合・・・か。相変わらず野蛮人の所業だな。で、連中の戦力は如何程のものなのだ?」

 

 続いて航空隊指揮官のディアーチェさんが口を開いた。私を含めて、この場にいる大多数の人が疑問に思っていることだろう。侵攻するにしても、まずは敵戦力がどれほどのものか知る必要がある。

 

「・・・それについては私から説明させて貰うわ」

 

 その質問を受けて、サナダさんの隣に控えていたアリスが一歩前に出て説明を始めた。

 

「―――まず敵の戦力だけど、隣国制圧に連中が用いた戦力は巡洋艦クラスが15隻、駆逐艦クラスが20隻程度と見積もっているわ。スペースネットに流れている映像を解析した結果、巡洋艦はシャンクヤード級とマハムント級、駆逐艦は大マゼランの海賊が使用するナハブロンコ級水雷艇を使用しているものと見られます」

 

「数はそれほどでもないが、質は大マゼランクラスか・・・厄介だな」

 

「ええ。連中の艦はグアッシュのそれと同じようにモンキーモデルでしょうけど、脅威であることに変わりはないわね。多分だけど、グアッシュに大マゼラン艦艇を供給したところはこいつらね。それで連中の全軍についてだけど、こっちは厳重な情報規制が敷かれているらしくて精度の高い情報は入手できなかった。でも、侵攻軍から逆算して大マゼランクラスの艦艇が80隻程度、そして戦艦クラスが7~8隻は存在しているものと考えている」

 

「戦艦クラスが10隻近くか。厄介だな・・・こいつらは抑えきれるのか、艦長?」

 

 予測では、敵戦力は大マゼラン級の艦艇が80隻程度、という話らしい。こっちの数が40隻ぐらいだから、ざっと数にして2倍といったところか。実際には地の利は向こう側にあるんだし、何を置いてもあの巨大艦の存在もある。ここは敵戦力は3倍程度と見積もった方がいいだろう。海兵隊のエコーが疑問を呈したように、正攻法ではとてもではないが相手にしていられない。

 

「そこは如何ともし難いわね・・・〈開陽〉と〈ネメシス〉はあの巨大艦にぶつけるから他に構ってる暇はないだろうし、ここは重巡洋艦部隊に頼るしかないわね。それかハイストリームブラスターで凪ぎ払うなりすれば楽なんだけど」

 

 敵戦力を考えると、ハイストリームブラスターの本格使用も考慮に入れるべきだろう。幸いにしてうちの艦隊にはハイストリームブラスター搭載艦が2隻いるんだし、艦隊という一つの単位で運用することもできるので発射時の援護なども得られやすい。

 それが駄目なら重巡洋艦と艦載機に出張ってもらうしかないが、敵の航空戦力が未知数な以上艦載機隊を対艦攻撃だけには集中できないし、敵戦艦がグアッシュ同様モンキーモデルであるという希望的観測に頼るのもいただけない。確かにクレイモア級重巡は打たれ強い艦だけど、一度に複数の敵戦艦を相手取るのは流石に厳しいだろう。

 

「・・・こうなったら、直接ぶつかってみる以外には方法はないか。現状で敵戦力が不明ってのは不安だけどね」

 

「ああ。俺達は情報戦で敵に一歩先を行かれている訳だからな。敵領域侵入後の行動には一層の慎重さが求められるぞ、霊夢」

 

 コーディの言うとおり、情報戦では敵の全容を掴めきれていない私達の方が劣勢な状況下にある。戦いにおいて情報というものは最も重要な要素の一つではあるけど、それが不足している現状では、私達は侵攻側ながらも大胆な行動に打って出にくい。そのため充分に戦いの主導権を握れない恐れもある。対して敵はあの巨大艦が私達の艦隊規模を見ているだろうから、私達が連中の領域に侵攻すれば即座にデータベースから照合されて分析されてしまうだろう。そうなったら敵は有効な戦力配分を行うことができてしまう。私達にとって一層不利な状況だ。

 だけど、折角奪還したレミリアが誘拐されて、しかも私のクルーまで被害に遭ったんだから、ここで艦隊の面子というものも示してやらんと0Gドッグとしての沽券に関わる。退くに引けないというのが辛いところね。

 

「・・・敵戦力の分析については、連中の宙域に侵入次第何とかすることにしましょう。それでサナダさん、敵領域の地形については何か分かっていることはないの?」

 

「うむ。敵戦力については不明な点が多いが、敵領域についての情報なら空間通商管理局のチャートがある。データは150年前のものだが、星や星雲の並びはそこまで変化していないだろう。宙域図を出すぞ」

 

 サナダさんは一度話を止めると、中央の机から今度は敵領域の宙域図と思われる星図のホログラムを表示させた。

 

「まずこの宙域は、ここカタルーザを越えた先にある宙域のさらに先にあるものだ。一般にウイスキー宙域と呼ばれている場所だな。ここからがヴィダクチオ自治領の領域となる。」

 

 宙域図のホログラムの横に航路図が表示され、艦隊が停泊している惑星カタルーザからの航路が示される。ここからボイドゲートを二つ越えた先に、サナダさんが示したウイスキー宙域があるらしい。

 

「このウイスキー宙域は4つの星系からなる宙域だ。まず一つめの星系だが、ボイドゲートはこの星系の外縁部、氷準惑星の軌道近くに存在している。星系内に続く航路付近には一つの巨大ガス惑星が存在しているな。内惑星系には二つの岩石惑星が存在するが、これらは小型のため居住には適さない。そのため航路は内惑星系には続かず、次の星系に続いている。そして二つ目の星系だが、これは一つめと三つめの星系を結ぶ航路上にある惑星状星雲だ。この星系には死んだ主星が残した惑星が3つほど存在し、うち一つはガス惑星だ。空間通商管理局のデータによるとこの惑星は資源価値が高く、付近の衛星と共に資源採掘の対象になっているらしいな。残り2つは岩石惑星だが、当然ながら居住やテラフォーミングには適さず放置されている。主星が死んだ以上、生命活動の維持に必要な熱エネルギーを得ることができないからな。だが、惑星内部や表面に人工的に人類の生存空間を再現できれば、少数の都市を建設することはできるだろう。しかしそのような開発が行われたという資料がない以上、現在も放置されていると考えた方がいいだろうな。そして三つめの星系だが、ここは単独で存在するG型主系列星の星系だ。ガス惑星が二つに岩石惑星が4つ存在し、うち2、3番惑星はハビタブルゾーン内に存在し、テラフォーミングの後入植が行われている。この二つの居住惑星は以前は他の自治領として登録されていたが、現在はヴィダクチオ自治領の統治下に置かれている。恐らくこの二つの居住惑星は、この宙域におけるヴィダクチオ側の拠点として機能しているだろうな。そして最後の星系についてだが、この星系を抜けた先にヴィダクチオ自治領の本国宙域に繋がるボイドゲートが存在している。そして星系の特徴だが、ここは中々に過酷な場所だ。まず主星はG型主系列星2つからなる連星系で、さらにその外側に赤色矮星が一つ存在する三重連星系だ。存在する惑星についてだが、主星Aの近くには巨大なホット・ジュピターが存在し、主星Bには極端な楕円軌道を描く典型的なエキセントリック・プラネットが存在する。この惑星は重力が3Gもある巨大岩石惑星だ。そして主星Bのごく近くにはもう1つ岩石惑星が存在するが、この惑星は主星に近すぎるが故に公転と自転が同期して常に同じ面を恒星に向けているため、恒星側の面はドロドロに溶けたマグマの海になっている。とてもではないが、人類の居住に適した空間ではないな。さらにこの星系内を横切る航路帯には濃密な暗黒ガスが充満している。重度のレーダー障害が予想されるだろう」

 

 ・・・サナダさんは一つめの宙域の解説を終えると、一息ついて用意した水を飲み干した。

 

「サナダ、一ついいか?」

 

「・・・フォックスか。なんだ?」

 

「この宙域の二つめの惑星状星雲だが、ここに惑星が存在する以上、そこがヴィダクチオの軍事拠点になっている可能性は?それに一つめの星系についても、航路近くにあるガス惑星に艦隊が駐留している可能性はないか」

 

「むぅ、確かに技術的には基地建設は可能だろうな。君の言うとおり、艦隊が駐留していなくとも一つめの惑星系には何らかの防衛、監視機構は最低限置かれているだろう」

 

 サナダさんは宙域図から一つめの惑星系を拡大して、ボイドゲート近くの準惑星と航路付近にあるガス惑星が目立つ形でマーカーをつける。

 確かに彼の言うとおり、この惑星系はヴィダクチオ側の国境に位置する訳だから、何らかの防衛ラインは存在するとみていいだろう。

 

「・・・だとしたら、まずはその防衛ラインを突破しなくてはいけない訳ですか」

 

「そうね。ボイドゲートの近くに罠がない保証はないんだし、通常空間に出てすぐ空間スキャンを実行して安全を確保する必要がありそうね」

 

 早苗が言ったとおり、この星系にあるであろう防衛機構が第一の障害だ。いきなりここで躓いてしまえば、侵攻どころの話ではなくなってしまう。

 

「艦長さんよ、一ついいかい?」

 

「ロビンさん?何かしら」

 

 話に割り込むように、ロビンさんが挙手して発言を求めてきた。私がそれを許可すると、彼は一つめのボイドゲート付近の宙域を拡大させる。

 

「ここで敵さんの立場になって考えてみたんだが、ボイドゲートを出てすぐに機雷源があるって可能性はないかい?連中の艦にはワープできる奴もいるんだし、それに機雷源を仕掛けていれば当然危険な航路と安全な航路の位置も知っている訳だ。だが外野はそんなこと分かるわけないんだし、何よりゲート付近は法律によって公宙と定められている。普段航海者の連中はそれを信用してゲート付近を航海している訳だから、心理的にもそこに機雷があるなんざ考えないだろうよ。どうだい、艦長?」

 

 ロビンさんは話を続けながら、ゲート付近に予想される機雷源を表示して、そこに突っ込む艦隊の様子も矢印で示す。

 

「・・・最悪ね、それ。で、もし機雷源があるとしたら、どうやって対処する?」

 

 ゲートを抜けてすぐ機雷なんて、悪夢以外の何物でもない。確かロビンさんが言ったとおりボイドゲートの近くは公宙、すなわち国の主権が及ばない領域だから、ふつうは機雷なんて仕掛けられない筈だ。普通の航海者なら、ゲートアウトしてすぐ機雷源なんて想像もしていないだろう。

 

「そうだねぇ、・・・ボイドゲートには、確か攻撃を無力化するボイドフィールドがあったよな。ゲートアウト直後に、そのボイドフィールドの影響圏内で一気に減速して、機雷源の有無を確かめるしかないんじゃないですか?」

 

 ロビンさんは、私の問いに対してそんな答えを返してきた。

 ボイドゲートには、彼が言ったとおり質量弾やビームを無効化するボイドフィールドという、デフレクターとAPFSを足して割らずに効果を倍増させたような強力なシールドが貼られている。このシールドの存在によって、ボイドゲートはデブリや攻撃による破壊を免れている訳なんだけど―――成程、そういう手もあったか。ゲートアウトしてすぐエクシード航法を切ってボイドフィールドの影響圏内に留まれば、機雷源があったとしても爆発の影響を受けずに済むし、空間スキャンで機雷源の有無も確認できる。

 

「いいわね、それ。じゃあロビンさん、その作戦でいくわ。あんた操舵手なんだから、ちゃんと有言実行しなさいよ」

 

「へいへい、了解了解っと」

 

 さて、機雷源の可能性についてはこれで問題なしだろう。だけどサナダさんの宙域解説を聞く限りでは、まだまだ危なそうな宙域はあったよね・・・

 

「では私からも一つ、いいかな?」

 

 つぎに発言したのは、第二巡航艦隊指揮官のショーフクさんだ。

 

「サナダ君は、敵の拠点はこの居住惑星ではないかと言ったが、その点については私も同意する。しかし、敵の宙域防衛軍主力はこの四つめの星系―――特に暗黒ガス帯を抜けた先に展開しているのではないだろうか」

 

 ショーフクさんの言葉に合わせて、宙域図のうち四つめ星系―――自治領本国宙域に繋がるボイドゲートの航路上にある星系が拡大された。

 

「ふむ・・・敵の巨大艦がどう動いたかは分からんが、恐らく奴は本国へ向かったと考えるのが妥当だろうな。奴は連中が持つ艦のなかでも旗艦クラスだと考えた方がいい。だとすれば、敵は我々がじきに本国へ侵攻すると想定しているだろう。ならそこに続く航路に罠を張って待ち構える、という訳か」

 

「その通りだ。それに加えて、この星系は待ち伏せには丁度いい地形だからな。ここに敵艦隊が隠れている可能性は大いにあるだろう」

 

 ショーフクさんの意見に補足するように、ディアーチェさんが言葉を続けた。ショーフクさんも、それを認めるように説明を続ける。

 

「艦長、この宙域で敵の待ち伏せが予想される以上、暗黒ガス帯に入る前に偵察機を出した方がいいだろうな。偵察範囲を広げるためにも、一定の機数が必要だ。新型のアーウィン偵察機の増備を頼みたい」

 

「そうね、せめてゼラーナに積んでる分のゴーストは早く代替したいところだけど・・・資源量は大丈夫かしら」

 

「はい・・・たった今確認しましたが、10機程度なら生産に問題はないかと」

 

「・・・だそうよ。それで大丈夫かしら?ディアーチェさん」

 

「ふむ、それだけあれば足りるだろう」

 

 早苗からの報告を伝えたところ、ディアーチェさんは承諾してくれた。これで偵察戦力は問題ないかな。見知らぬ敵地に乗り込む訳だから、偵察機は多いに越したことはない。

 

「敵の基地と艦隊が何処にあるかは、行って確かめてみないと分からない訳か。索敵航宙も面白そうだけど、まあそう呑気にはしてられないよな・・・そういえばよ、敵がご令嬢をそこの居住惑星に置いていく可能性ってないのか?」

 

「それは・・・確かにあるかもしれないけど、いちいち立ち寄って確かめていては敵に反撃の機会を与えるだけじゃないの?」

 

 今度は霊沙が、その可能性を指摘する。確かに彼が提示した可能性もない訳ではないと思う。私達が本国に侵攻するのを見越して、敢えて人質を前線の惑星に置いていくという手段もありだろう。けど、普通人質ってのは自分の手元に置きたがるものだし、何より戦力で劣る私達は出来る限り速攻で事を片付けなければじり貧になってしまう。敵の中枢を粉砕できれば、一度戻って探すぐらいの時間は確保できるだろう。

 

「確かにな・・・敵の方が戦力あるって話だし、一度中央まで一気にいった方が得策か・・・」

 

「そういう訳だから、居住惑星にはあまり立ち寄らない方がいいわね。それで、他に何かある?」

 

 最初の宙域に関しては、粗方話し終えただろう。私は一度意見を求めたが、出ないようなので次に行くことにした。

 

「じゃあサナダさん、今度は敵の本土宙域の説明をお願いできる?」

 

「ああ、分かった」

 

 私がサナダさんにそう促すと、今まで表示されていたウイスキー宙域の宙図が縮小されて、今度は別の宙域、ヴィダクチオ本土宙域のホログラムが表示された。

 

「では説明するぞ。敵の本土宙域―――ヴィダクチオ宙域はかなり過酷な宙域だ。この宙域には2つの星系と一つの宙域が存在するが、まずゲートを抜けた先にある星系はM型スペクトルの赤色巨星二つと一つのウォルフ・ライエ星からなる三重連星系だ。この星系内では互いの恒星の引力によって大規模なメテオストームが発生しており、そのため航路はそれを避けるために恒星近くを通らなければならない形で引かれている。この航路だが、恒星にかなり近い位置を通るために恒星風の熱線による艦体外殻へのダメージが予想される。この星系に入る前には一度排熱機構を点検した方が良さそうだな。そして次の星系だが・・・ここは星系というよりも暗礁地帯といった方がいいだろうな。俗にサファイア宙域と呼ばれている場所だが、この付近一帯には多数の青色超巨星と褐色矮星、そして原始惑星系円盤が存在する場所だ。青色巨星の熱線もさることながら、充満する暗黒ガスの量も多く、加えて多数の小惑星や恒星が吹き出すガスが存在している。この宙域内では常にレーダー障害が発生すると見ていいだろう。このサファイア宙域を抜けた先に敵の本拠地、ヴィダクチオ星系が存在する。この星系内にも暗黒ガスが存在するが、それ以外にも星系を構成する惑星によって非常に不安定な系となっている。主星はG型スペクトルの主系列星だが、第一惑星は主星にきわめて近い位置にあるホット・ジュピターだ。第二惑星の巨大ガス惑星も恒星に近い位置にありハビタブルゾーン内に存在している。この第二惑星には2つの大きな岩石衛星が存在するが、その一つがテラフォーミングされて入植の対象となっている。この衛星が奴等の本拠地、衛星ヴィダクチオEだ。この衛星の外側を周る衛星もテラフォーミングされており、恐らくは主星の防衛ラインとして機能しているだろう。そして他の惑星についてだが、第三、第四惑星は共に巨大ガス惑星で極端な楕円軌道を描いている。第五惑星は巨大氷惑星だが、この惑星も内惑星の重力によって軌道を著しく乱されているな。これで宙域の説明は以上だ」

 

「・・・話には聞いていたが、随分と過酷な宙域だな、奴等の本土ってのは―――なんでこんな場所に入植したんだ?奴等は」

 

 コーディが疑問を呈したとおり、説明を聞く限りではこの宙域は人間が住むのにはかなり過酷な宙域だ。外界との接触を行うにしても、暗黒ガスが充満する危険な航路や赤色巨星の熱線を潜り抜けなければ小マゼランの他宙域と交流できない訳だし・・・ほんと、なんでこんな場所に拠点作ったのよ。

 

「さぁ?それは私には分からんことだ。ただ噂では、近隣の巨大ガス惑星や恒星系の資源価値が高いという話も聞いている。それに、ヴィダクチオの先にあるボイドゲートを抜ければマゼラニックストリーム方面に続いているからな。奴等はこの立地を生かして、大マゼランの海賊との取引を経て連中が使う艦の設計図を入手し、自国宙域の豊富な資源を生かしてそれらの艦艇を量産しているのかもしれんな」

 

「成程、つまり連中は自宙域で資源が豊富に手に入る故に他宙域との繋がりが薄くても構わない、という訳か。成程、だとすればこの宙域は非常に防御に向いている。だが、それなら何で奴等は膨張指向を見せたんだ?」

 

「それは連中の指導者に聞かなければ分からんな。資源が足りなくなったのかもしれんし、あるいは領主の個人的な自己満足か・・・まあ、我々にとってはどうでもいいことだ。」

 

「それは考えても仕方ないわね―――、侵攻するんだったら、まずはこの三重連星系の熱圏を抜けなきゃいけない訳か。整備班の準備は大丈夫かしら」

 

 意識を宙域攻略に移してみると、まず障害となるのはこの三重連星系だ。ここで艦にダメージを受けたまはまでは、敵との戦いで不利になるのは容易に予想できることだ。

 私は整備班長のにとりに、ここを突破可能かどうか訊いてみる。

 

「う~ん、サナダのデータ通りの熱線を浴びるなら、艦の外殻に何らかのダメージを受けるだろうね。だけど、その程度なら排熱機構がちゃんと生きていれば大丈夫だと思うよ。それに予備部品の備蓄もある。ここで仕掛けられると少し厄介だけど、まあ戦闘前には何とかしてみせるよ」

 

「それは頼もしいわね。じゃあ任せたわよ、にとり」

 

「ああ。ご期待には応えられるよう努力するよ」

 

 にとりの話によれば、この三重連星系を突破するのは何とか問題なくいけそうだ。次はこの暗黒ガス帯になる訳だけど―――

 

「提督さん、このサファイア宙域だけど・・・多分ここ、敵の主力艦隊が待ち構えていると見るべきね」

 

「私も同意見ですな。先程のウイスキー宙域深部星系と同様に、暗黒ガスが多いということは待ち伏せに適しているということです。さらに言えば、ここは敵の本土、監視センサーの類いでこちらの位置は捕捉されると考えた方がいい。いかに早く敵主力を捉えられるかが、戦いの趨勢を握る鍵になるでしょう」

 

「・・・やっぱりそう思う?そうよねぇ、敵がいるとすれば、一番考えられるのはこの宙域よね・・・」

 

 アリスとショーフクさんの言うとおり、やはりこのサファイア宙域が敵との決戦場所になりそうだと見て間違いない。

 

「―――敵戦力が不明な以上は、現段階では作戦の立てようもありませんな」

 

「そうね・・・それはぶつかった時に考えるしかないわね・・・んで首尾よく敵の主力艦隊を排除できれば、そのまま本星に侵攻って方向でいきましょう。じゃあ、今回はこんなところかしら」

 

「そうだな。我々が持てる情報ではこの程度が限界か」

 

「異論はない。もういい頃合いだろう」

 

「―――意見はないみたいね。それじゃあ、今日の会議はここまで。解散よ」

 

 敵宙域の地形を確認できただけでも、今後の航海方針を決める材料にはなるだろう。具体的な戦術は、ショーフクさんの言うとおり敵の戦力が判明してからでないと立てようがない。これ以上話し合いを続けても推論のみに基づかなくてはならなくなるし、それは不毛な議論になるだけだ。今日のところはこれで切り上げて、戦いに備えることにしよう。

 

 皆から異論がないことを確認して、そこで私は会議を切り上げた。

 

 

 




今回はほとんど会議だけで終わってしまいましたw 原作から離れた話になると、けっこう宙域の解説が詳しくなりますね。wikiをいろいろ漁って調べるのが楽しいですwこの辺りの雰囲気は、PS2ヤマトで真田さんが解説している場面なんかがイメージとして浮かんでいます。
そういえば無限航海本編の宙域って、平均どれぐらいの惑星系から成り立っているんでしょうか。

そして今回から登場した新クルーの操舵手ロビンさんですが、彼の外見はFate/EXTRAのロビンフットがモデルです。ようやく本格的な操舵手キャラが加入したので、ショーフクさんは艦隊指揮官に昇進していただきました。

次回からは、いよいよ敵地に突入していく予定です。新キャラも出ます


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第五七話 揚羽の死神

「れ・・・れいむさん―――っ!」

 

「うおっ・・・な、何―――?」

 

 艦内通路を歩いていたら、突然後ろから抱き締められる。

 声で分かったことだが、どうやら今私に抱きついているのはあのスカーレット社の妹令嬢らしい。

 

「えっと―――フランドール、だっけ?」

 

「あれ―――貴女、違うわ」

 

 私は振り返って抱きついている少女―――フランドールに声を掛けてみたけど、返ってくるのはそんな言葉だった。私のことを霊夢なんて呼んだんだし、単純に間違えたのだろう。

 

「今の私は霊夢じゃない―――霊沙だよ。霊夢―――艦長なら、普段は艦橋か、それか艦内のどこかを彷徨いてるんじゃないか?あれに用があるんだろ」

 

「うん―――お姉様が居なくなって、メイリンも見当たらなくて、サクヤも怪我してて―――それで霊夢さんなら何か知ってるんじゃないかって・・・」

 

 ―――ああ、こいつ、まだ知らないのか・・・

 

 話に聞いたところによると、このフランドールも最近までは寝ていたらしいから、まだ目覚めたばかりのだから何も知らない・・・って訳か。さて、どうしたものか。面倒だし、あいつに丸投げするか?いや、どうせ知ることだ。いっそ今教えてしまおうか・・・

 

 

「―――君のお姉さん達はね・・・残念だけどまた悪いやつらに捕まっちゃったんだ。だけど大丈夫、また私達が助けに行くところだからさ」

 

 

 結局、私は後者を選んだ。別に霊夢の奴に丸投げしても良かったんだけど、少しは戦闘以外で働いてやるのも悪くない。しかし、これでこいつが落ち込んだりなんかしたらどうしようか。少しは頑張るつもりだけど、私、子供をあやすなんて出来ないぞ―――そうなったら、医務室のアイツのとこにでも連れてくしかないかな。

 

「お姉様とメイリン―――捕まっちゃったの?」

 

「うん、でも私達が悪いやつらを懲らしめてやるから、またすぐに会えるよ」

 

「メイリン―――傷だらけだったよ?それでも大丈夫?」

 

 傷だらけ、か。現場の状況からすると、サクヤとフランを逃がすために殿になった、っていったところか。そこで死んでたら主にこいつのメンタル面で困るんだけど、多分二人とも生きてるだろう。だいぶ錆び付いてはしまったけど、私の勘がそう感じてるんだし間違いない。

 

「ええ、大丈夫―――私が言うんだから確かだよ。私の勘は、よく当たるんだ。だからフランは、ここでお姉さん達の帰りを待っていてくれると助かるな」

 

「うん―――お姉様、帰ってくるんだよね?なら私待ってるね!お姉様とメイリンが元気に帰ってこれるように、お星様にお祈りする!」

 

「いい子だ―――きっとお姉様も喜ぶよ」

 

「うん、それじゃあ私はお祈りしてくるね!ありがとう、霊夢さ――――じゃなかった、霊沙さん!」

 

 どうやら私の危惧は杞憂に終わってくれたらしい。フランは私から離れると、元気に手を振って走り去っていく。

 

 ―――しかし、霊夢・・・か。見た目似ているとはいえ、だいぶ変質してると思うんだけどなぁ・・・今になってそっちで呼ばれるなんて、正直予想もしていなかった。あれが子供だったから間違えたか―――?

 

 

「よう、暇してるみたいね」

 

 私が一人廊下で考え込んでいたところ、ふいに後ろから声を掛けられた―――耳障りな声だ。

 

「―――何の用だ、あんた」

 

「あら、怖い怖い。そんな顔しなくてもいいのに―――」

 

 声の主は、あの得体の知れない少女艦長のマリサだ。彼女は自分の赤髪を掻き分けて、挑発的な口調で私に話し掛けてくる。

 

「―――殺すぞ、あんた」

 

「野蛮ねぇ―――いきなり面と向かって殺すなんて。あんたももう少しは可愛げのある奴だと思っていたけど」

 

「ほざけ。とにかく私はオマエが嫌いだ。霊夢なんかよりもな。目障りなんだよ」

 

「酷いわねぇ―――そこまで言わなくてもいいのに。私悲しいわぁ」

 

 こいつはわざとらしく目の前でしくしくと泣く仕草をしてみせる。

 道化のように見えなくもないが、多分こいつは―――

 

 ―――ああ、よくもそれを持ってきてくれたな。伊達に顔と声があの白黒と同じなだけあって、余計に腹が立ってくる・・・

 

「・・・とにかく消えな。私に絡むな」

 

「―――ほんと可愛くないわね、二人揃って。そこまで言うなら仕方ないか。それじゃあ」

 

 諦めてくれたのか、マリサの奴は通路の向こう側へと戻っていく。

 アイツが来たせいで感情が乱れてしまったので、壁を借りて軽く呼吸を繰り返して、昂った怒りを落ち着けさせる。

 

 

 ―――本当、目障りなんだよ・・・勝手にアレの姿を借りるなってんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ゼーペンスト宙域・惑星カタルーザ近郊~

 

 

 

 一度惑星カタルーザに入港して軍需物資を積み込んだ艦隊は、カタルーザを出港すると一路ヴィダクチオ自治領宙域に続くボイドゲートを目指した。人質に拐われた二人の安否も気になるし、あまり時間をかけてはいられない。本当、なんでこうも面倒事が次から次へと降りかかってくるのかしら。霊夢ちゃんは怒り心頭よ。次の自治領も滅ぼしてケジメつけさせにゃならんわね。

 

 それで当の艦長である私だけど、今はちょっと用事があって医務室まで来ている。出港して暫くした頃に、医療担当のシオンさんから気を失っていたサクヤさんが目覚めたという報告があったためだ。

 

「シオンさん、入るわよ」

 

「ええ、どうぞ」

 

 医務室の前まで来たら、中のシオンさんに断って入室する。

 扉のロックが開くと、椅子に腰かけたシオンさんの姿と、暗い雰囲気でベッドの上に座るサクヤさんの姿が見えた。

 

「・・・目覚めたみたいね。気分は・・・聞くまでもないか」

 

「―――申し訳ありません。貴女方にはお嬢様方の救出に協力していただいたというのに、また迷惑をかける形になってしまって・・・」

 

 サクヤさんは私の姿を見るや否や、申し訳なさそうに頭を垂れた。

 

「―――別にそこまでしなくていいわ。それはあんたの責任じゃないでしょ?今回のはこっちが勝手にやってることだし。一度救出の依頼を受けたからには、それは最後まで完遂しないと信頼に関わるでしょ?それに私達もあいつらのせいで被害を受けたんだから、仕返ししてやらないと0Gとしての沽券に関わるわ」

 

 あくまで私はそれはサクヤさんの責任ではない、と伝えようとしたんだけど、当のサクヤさんの表情は変わらない・・・う~ん、どうすればいいかな・・・下手なこと言うと不味そうだし、第一カウンセリングの真似事なんて私には似合わないし・・・

 

「お気遣い、有難うございます。ですが私はお嬢様の付き添いにも関わらず、二度もお嬢様をお守りすることができませんでした。その責任は私にあります・・・」

 

 ―――これは、けっこう重症ね・・・

 

 サクヤさんの様子だけど、やっぱり自責の念に駆られて落ち込んだままだ。無理に立ち直れとは言わないけど、このままだと責任を取って切腹、なんてことまで仕出かすかもしれない様子だ。ここは少しでもなんとか改善してみないと・・・

 

「―――でも、貴女はフランドールを守れたじゃない」

 

「はい、妹様を守れたのは幸いですが、またもお嬢様に怖い思いをさせる羽目になったのでは意味がありません・・・それに、今度はメイリンが・・・」

 

 ああ、そっちもか・・・

 妹を取り戻せても今度は同僚が拐われた、となれば普通は落ち着いてはいられないだろう。

 

「―――メイリンは同僚でもありますが、私の友人でもあるんです。ですから彼女のことも心配で―――もしかしたら、私とお嬢様達がグアッシュに拐われたときも、彼女はこんな気持ちだったのかもしれませんね・・・」

 

 サクヤさんは俯いたまま、独白のように言葉を続けた。

 

「―――なら、今度はあんたの番じゃない?」

 

「へ―――?」

 

 落ち込んだままの様子のサクヤさんに、私はそう言葉を掛けた。

 

「だから、今度はあんたがメイリンさんとレミリアを助ける番だって。それぐらいの気概、持ってみたらどう?」

 

「―――そうですね。ここで立ち止まってばかりでは何も始まりませんし・・・出来る限りのことなら、私も助力したいと思います。・・・よろしいですか?」

 

 サクヤさんはまだ完全には立ち直れてはいないみたいだけど、あんなことがあったんだから無理に立たせるのはしない。だけどこの様子なら、少しは大丈夫そうかな。

 

「よろしいも何も、それで充分よ。大丈夫、あいつらは生きてるわ」

 

「それは―――勘ですか?」

 

「ええ。私の勘はよく当たるから」

 

 サクヤさんに尋ねられた通りに、私は応えた。

 

 それを聞いたサクヤさんは、少しではあるけれど、柔らかい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ・・・では、貴女の勘に賭けてみることにしますね」

 

「それはどうも。さて、そろそろゲートに着く頃だろうから、私は戻るわ」

 

「はい―――今日は有難うございます」

 

 サクヤさんの見舞いも終えて、そろそろ艦隊がボイドゲートに着く頃だろうし、私は艦橋に戻ることにした。

 背を向けたまま軽く手を振って、私は医務室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~小マゼラン外縁部・ウイスキー宙域~

 

【イメージBGM:東方神霊廟より「死霊の夜桜」】

 

 

 小マゼランの外れ、マゼラニックストリーム付近に位置するここウイスキー宙域は、周囲をスターバースト星雲に囲まれた星間ガスが充満する宙域だ。生まれたばかりのまだ若い星々に囲まれたこの宙域の宇宙(そら)は赤や黄色、青といった色鮮やかなガスに包まれて、他の島宇宙とは一線を画した独特の景観を織り成している。

 

 そんな宙域の外れにあるボイドゲートが青白く輝き、そこから一斉に複数の艦影が現れた。

 現れた艦隊はゲートを出るや否や急にその動きを止めて、何かを確かめるように慎重な動きを見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 

「全艦のゲートアウトを確認しました」

 

「機関、停止します」

 

「i3エクシード航法から慣性航行に切り替え、逆噴射スラスター点火。ちょっと揺れるんで注意して下さいよ」

 

 ボイドゲートを抜けると、一面に散光星雲に包まれた宇宙の景色が目に入る。

 その景色に見とれてしまう前に、ゲートから出た直後に艦橋クルーは予め決めた手順に従って、〈開陽〉を停止させる。

 

「空間スキャニング、開始します」

 

 一枚の壁のような陣形となってゲートを抜けた艦隊の他の艦も、〈開陽〉と同時に急制動をかけて静止する。こんな陣形でゲートを越えたのは、ひとえにゲートアウト直後にこの機動をとるためだ。複数の列に分かれてゲートに入ってしまうと、ゲートアウト直後に急制動した前方集団に後続の集団がぶつかってしまい大事故に発展する恐れがあるからね。

 そしてこんな艦隊機動を取る訳だけど、事前の作戦会議で想定されていた機雷源の存在を警戒したためだ。仮にボイドゲートの近くに機雷源があったとしても、ボイドゲートの防御フィールドの内側で艦隊を止めることができれば機雷源には突っ込まないし、万が一機雷が爆発しても防御することができる。

 

 さて、そろそろ空間スキャニングの結果が出る頃だと思うけど・・・

 

「空間スキャニングの結果が出ました。予想通り、通常航路上でゲートの先0,7光秒の地点に機雷源と思われる極小構造物の集団を確認しました」

 

 レーダー担当を務めるこころの報告と共に、艦橋天井のメインパネルにボイドゲートと機雷源の位置関係を示した図が表示された。

 

「まさか本当にあるとはな。見たところ機雷源はゲートを出て真っ直ぐ行った宙域に広がっているみたいだが・・・この上下の空間には機雷源の反応はないか?」

 

「えっと・・・はい、機雷源はゲートの正面に広がっています。ゲートの上下の空間に機雷源の反応は見られません。多分ですが、ここは敵が通行用に残している空間では?」

 

「・・・確かにな。ゲートの周りを全部機雷源で固めてしまえば連中もゲートを使うことができない・・・だそうだが、どうする?霊夢」

 

 こころの発言を受けて、コーディが尋ねてくる。機雷源はどうやらゲートの前方にしか展開していないみたいだけど、上か下に避けた先にステルス機雷群・・・って可能性もあるわけで、決断が難しいところだ。

 だけど先に進むためには、この機雷群を越えなきゃいけない訳で・・・

 

「―――全艦、機関微速上げ舵75度。上昇して機雷源を抜けるわよ」

 

「了解、機関微速。上げ舵75っと!」

 

 私が号令を発すると、〈開陽〉の艦首がぐっと持ち上がり、上方に向かって進み始める。他の艦もそれに続いて移動を始めた。

 ちなみに宇宙空間では基本的に上下左右なんて概念はないんだけど、一般の航海者や軍なんかでは自艦や艦隊の旗艦から見た方角を基準にして上下左右の方角を設定して行動している。

 

「まだ見えない機雷源があるかもしれないから、一応デフレクターの出力も上げておいて」

 

「了解しました。機関の余剰出力をデフレクターに回します」

 

 念のため、まだあるかもしれない機雷源に備えてデフレクターの出力も上げさせておこう。これで万が一機雷源に突っ込んだとしても、致命傷には繋がらない筈だ。

 

「艦を水平に戻すぜ。機雷源の上方を通過する」

 

 艦が一定の高度まで上がると、ロビンさんは艦の舵を戻して機雷源の上を進めさせる。しばらくそのまま艦隊を進めさせたけど警戒したステルス機雷群の存在もなく、無事に艦隊は機雷源を通過できた。

 

「・・・機雷源を越えたな。一応警戒速度のまま進むぜ」

 

 機雷源を無事に越えたことで、艦橋には安堵の雰囲気が漂う。ただ、これで罠が終わったとは考えられない。

 

「機雷源は越えたけど、まだ何があるか分からないわ。空間スキャニングと監視は続けて」

 

「―――了解です。空間スキャニング再開します」

 

 通常の航路に戻って再びエクシード航法を再開した艦隊だが、念のため速度はできるだけ控えめで進撃する。同時に周囲の宙域監視のため、空間スキャニングも継続して行わせた。

 

「―――霊夢、一つ提案があるんだが、いいか?」

 

「何?コーディ。提案があるなら聞かせて」

 

「・・・この宙域、例の惑星状星雲までは航路が比較的安定している。ここで一度、ワープで距離を稼いだらどうだ?それにこの近くに敵の監視設備があったとしても、ワープで越えてしまえば敵は一時的に我々を見失う。その間に我々はさらに宙域の奥へと進める」

 

 コーディの提案を聞いて、私はそれを吟味する。

 敵の巨大艦がワープで逃げてしまった以上、私達の艦隊とあの巨大艦との距離はかなり離れてしまっている。それに艦隊自体も補給に修理、それにゼーペンスト戦の戦後処理とでしばらく身動きできなかったから、もうあの巨大艦は本拠地に辿り着いている頃だろう。なら、救出を急ぐためには一刻も早くヴィダクチオ諒深部に踏み込む必要がある。

 それに加えて、敵の指揮系統が維持されたまま敵地で人質捜索を行うのはあまりにも危険だ。会議で示された方針通り、一気に敵本星を制圧するためにもやはりワープで距離を縮めるのは得策だろう。上手くいけば、一時的にせよ敵の監視網を掻い潜れるかもしれない。

 

「それ、採用しましょう。ロビンさん、この先にある惑星状星雲を越えて奥の星系までワープできる?」

 

「ワープですかい・・・今んところシュミレーションでしかやってないんですけどねぇ・・・了解しました、そんじゃあワープでひとっ飛びといきますか」

 

「時間は30分後でいいわ。それまでに艦内の各部署に準備させるから」

 

「了解、30分後にワープっと・・・ここからだと、一番奥の星系までは1時間程で着きますね。この宙域、案外狭いもんで」

 

「任せたわ」

 

 私はコーディの案を承諾して、ロビンさんにワープの準備を命じた。

 この宙域は今までの宙域に比べればだいぶ狭いし、案外すぐにボイドゲートまで飛べるかもしれない。

 

 

 

 .....................................

 

 ...............................

 

 .......................

 

 ................

 

 

 

 ワープの予定時刻になり、艦のエンジンはワープに向けてエネルギーを貯めている。機関の出力上昇によって小刻みに艦内が震えていて、それはエンジンが唸りを上げるように次第に大きくなっていった。

 

「インフラトン・インヴァイダー出力上昇中、間もなく100%に達します」

 

「ハイパードライブ起動、超空間ワープホール形成開始・・・っと」

 

 エンジン担当のユウバリさんと舵を握るロビンさんの額には、ワープへの緊張感からか、額に汗が流れている。敵地での大胆なワープだし、失敗する訳にはいかない。

 

「座標計算、終了・・・」

 

「艦隊の展開、完了しました」

 

 他の随伴艦も、ワープに備えて陣形を整える。

 万が一ワープした先で敵艦隊と遭遇したときのために、すぐにでも戦闘態勢に移れるようにするためだ。

 

「ハイパードライブ出力、全開!ワープまであと10秒」

 

 インフラトン・インヴァイダーからエネルギーを受け取ったハイパードライブはその出力を上げ、艦の前方にワープの為の超空間を形成していく。ロビンさんのカウントに合わせて、艦は超空間の穴へと徐々に近づく。

 

「2・・・1・・・0っと、―――ワープ、突入!」

 

 カウントが0になったところでロビンさんは舵を前に倒し、周囲の景色が散光星雲が輝く宇宙から蒼白い超空間へと移行する。

 

 超空間に突入した艦隊は、一路敵宙域への深部へと足を進める。

 

 

 

 

 

 

 ~小マゼラン外縁・ウイスキー宙域、惑星状星雲近傍~

 

 

 

 周囲を散光星雲に包まれて色鮮やかな雲海を織り成すこのウイスキー宙域にほぼ中央に位置する星の死骸、惑星状星雲。

 その周囲には漆黒の暗黒ガスが立ち込め、この航路を往く者を惑わしている。

 

 その星雲の外れ、漆黒の暗黒ガスの中に浮かぶ、かつて恒星だったものが残した冷たい氷の準惑星の空に、蒼い輝きが放たれた。

 

 

「ワープアウト、通常空間を確認」

 

「座標誤差は・・・え、ここ・・・第三星系の外縁ではありません!宙域中央の惑星状星雲の近くです!」

 

「何ですって!」

 

 艦隊がワープアウトして、各部署から報告が寄せられてくるけど、どうやら今私達が出た場所は、本来予定していた宙域最奥の星系ではないらしい。確か前にも、こんな風にワープが中断したことが・・・

 

「霊夢さん、ワープが中断したってことは、近くに障害物があったってことですよね?」

 

「そうだけど・・・ロビンさん、座標計算は合っていたの?もしかしてこの眼下の準惑星が原因だったりしない?」

 

「んなこと言われましてもねぇ・・・第一俺、ワープなんざ初めてですし、それに死んだ星の準惑星なんて、ふつうチャートにすら載っていませんよ。こいつが浮かんでるのを予想しろってのは酷な話ですわ」

 

「・・・まぁ、起きてしまったからには仕方ないわね・・・こころ、周囲の状況を確認して」

 

「了解。でも、暗黒ガスが多いので時間がかかりますよ」

 

 どうやら強制ワープアウトの原因は、想定外の準惑星が航路付近にあったためのようだ。道中で止められたのは癪だけど、惑星に激突しなかっただけマシね。無数にある準惑星で、しかもそれが死んだ星のものとなれば空間通商管理局が公表している星図にもふつうは載っていないし、これでロビンさんを責めるのは酷な話ね。それに仮に載っていたとしても、主星が死んでる以上、軌道の予測は不確かな訳だし。

 

「か、艦長・・・!」

 

「ちょっと、今度は何!?」

 

「ぜ、前方に交戦反応です!距離58000の位置です!周囲の暗黒ガスの影響で、レーダーが反応するのが遅れました」

 

「交戦反応?こんな場所で誰が戦ってるのよ」

 

 レーダー担当のこころから、交戦反応有りの報告が飛んでくる。もしかしてこれ、厄介なパターンじゃない?

 

「―――識別信号を照合したところ、ヴィダクチオ自治領軍と、・・・・・・もう片方は、ロンディバルト軍?」

 

「データから艦種の識別を開始します。――――――ヴィダクチオ側戦力はヴェネター級航宙巡洋艦2隻、シャンクヤード級巡洋艦6隻、ナハブロンコ級水雷艇5隻!それに・・・ネビュラス級戦艦2隻と戦艦クラスの不明な大型艦1隻を確認しました。ロンディバルト側はレオンディール級強襲揚陸艦1隻とマハムント級巡洋艦1隻、オーソンムント級軽巡洋艦2隻にバーゼル級駆逐艦が1隻―――ロンディバルト側が不利なようです」

 

「ロンディバルト?なんでそんな連中がここに居るのよ?」

 

 さらにミユさんとノエルさんのオペレーター二人から、詳細な報告がもたらされる。でもなんで、ロンディバルトなんて連中がこんな場所に居るのだろうか。

 元々ロンディバルトとは、確か大マゼランの大国だった筈だ。わざわざ小マゼランの、こんな辺鄙な宙域にまでわざわざ出向いているということは、何か事情が有りそうだ。

 

「それは分かりませんが―――それでどうします?霊夢さん。仕掛けますか?」

 

 私の横で、早苗が催促するように尋ねてきた。

 

 ここで仕掛ければ、敵本土に辿り着く前に大なり小なり何らかの損害を受けるだろう。

 だが、敵戦力は戦艦クラスが3隻に実質的な戦闘空母が2隻、巡洋艦6隻と駆逐艦5隻の合計16隻で、さらに敵の注意は謎のロンディバルト軍に向いている。交戦状態だということは、ヴィダクチオ側が押しているとはいえ何らかの損害を受けている筈だ。それに加えて、敵は目の前のロンディバルト軍に夢中になっているためか、まだこちらを探知した形跡は見当たらない。

 それを考えると、ここは戦力で勝る私達が一気に奇襲を仕掛けて各個撃破を狙ってもよさそうだ。敵艦隊の戦力自体もそれなりに強力とはいえ中途半端だし、手負いの状態でさらに奇襲効果により此方が有利に立ち回れる展望も見える。上手くいけば、あのロンディバルト軍も味方につけられるかもしれない。

 

 

【イメージBGM:提督の決断Ⅳより「海空戦BGM」】

 

 

「そうね―――早苗、仕掛けるわよ!全艦戦闘配備!目標、前方のヴィダクチオ自治領軍艦隊!」

 

「了解ですっ、それでこその霊夢さん!素敵です!全艦、第一戦速で前進!」

 

「いきなり戦闘かい、アイアイサー、各砲座、戦闘態勢に移行するぜ!」

 

「敵艦隊に対し電子妨害を開始します・・・暗黒ガスの影響で効果は落ちますが、やってみます」

 

 私が開戦の号令を掛けると艦隊は一気に戦闘態勢に入り、同時にメインノズルに点火して、目の前の敵に向けて加速を始めた。予めワープ前に戦闘隊形を組んでいたので、最小限の動きだけで済んだ。

 

《ワープアウトしていきなり交戦ですか・・・相変わらず、血気盛んなようで。第二巡航艦隊全艦、突撃準備完了です》

 

《―――第三打撃艦隊、戦闘準備完了よ》

 

 分艦隊を任せているショーフクさんとアリスからも、戦闘準備完了の報せが届く。二人の艦隊も同じように、スラスターを全開に吹かせて一直線に敵に向かう。

 

「敵艦隊との距離、あと45000―――39000・・・」

 

「距離30000で直掩機を発進させて。砲撃戦で仕掛けるわよ」

 

 最大戦速で暗黒ガス帯のなかを駆ける艦隊は急速に敵との距離を縮め、瞬く間に戦闘宙域へと突入する。

 ガス帯を抜けかかったところで、朧気に敵艦隊の輪郭が見えてきた。

 

「〈ネメシス〉及び第二巡航艦隊各艦、直掩機隊発進させました艦隊の周囲を固めます」

 

「有効射程に入り次第、各砲砲撃開始!」

 

 航空戦艦の〈ネメシス〉と改ゼラーナから発進したスーパーゴースト隊が艦隊の周囲を固め、戦艦と重巡群の主砲は敵艦隊を指向する。

 

「全砲・・・発射!目標、敵艦隊外輪の巡洋艦!」

 

「了解!主砲発射ァ!」

 

 〈開陽〉の160cm3連装砲3基が正面に位置していた敵の白いシャンクヤードを捉え、三度、これを射抜く。

 

「敵シャンクヤード級、インフラトン反応拡散!撃沈です!」

 

「初弾命中か・・・やるわね」

 

「・・・次の目標に移るぜ」

 

 砲手のフォックスが放った第一射は、奇襲で未だに反応できていなかった敵のシャンクヤード級1隻に一切の反撃を許すことなく、これを撃沈せしめた。当のフォックスは黙々と、その隣にいたナハブロンコ級水雷艇に照準を移す。

 

「〈スターワルト・ドーン〉及び〈イージス・フェイト〉、大口径レーザーによる砲撃を開始、敵水雷艇1隻を撃沈しました。〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉は敵ネビュラス級戦艦と交戦中です」

 

 最初の奇襲攻撃で、シャンクヤード1隻とナハブロンコ2隻を落としたところで、敵もようやく態勢が整ったのか反撃に転じてきた。しかしまだ上手く統率が取れていないらしく、その砲火は隙だらけで緩慢だ。そうしている間にも、隙を見て態勢を整えたロンディバルト軍に、さらにナハブロンコ級を1隻沈められている。

 

「駆逐艦〈ヴェールヌイ〉に被弾、後退させます」

 

「重巡洋艦〈ピッツバーグ〉、中破。敵ネビュラス級1隻の撃破を確認」

 

 敵が所有するネビュラス級戦艦は大マゼランのロンディバルト製なだけあって頑丈で、さらにプラズマ砲で此方の耐久力を削ってきた。しかし敵のネビュラス級戦艦2隻と戦闘に入った重巡2隻は、敵が艦首の軸線砲を向ける前に同航戦に移行して、敵が最大火力を発揮する前にその腹に向けて全火力を叩き込んだ。敵の砲火を受けた〈ピッツバーグ〉に損傷が蓄積したが、2隻共同で敵の戦艦1隻を狙ったことで早々にネビュラス級の片方を無力化して、もう1隻に狙いを定める。

 

「本艦は敵のヴェネターと不明艦を叩く。〈ネメシス〉に打電、"我に続け"!」

 

「了解!」

 

 ショーフクさんとアリス隷下の巡洋艦と駆逐艦は、それぞれ大物を狙わずシャンクヤードやナハブロンコといった中小型艦に狙いを定めて、数の理を生かして包囲殲滅を試みている。その間に敵のヴェネター級から大慌てでいくらか艦載機が飛んできたけど、発艦した側から予め滞空させておいたスーパーゴースト隊に群がられて成す術なく撃墜され、無為に宇宙へと散っていく。

 しかし飛ばれたら鬱陶しいことに変わりはないわけで、それを断つために〈開陽〉と〈ネメシス〉の2隻で敵の大型艦3隻を叩く。敵のヴェネターとそれより少し大きめの楔型戦艦は、こちらの接近を探知すると距離を取るように反転を始めた。そういえば今更だけど、敵も私達同様にヴェネター級を持っていたのね。だったらやっぱりあの巨大艦も発掘したのかしら。ちなみに敵のヴェネター級は、私達のとは違って真っ白だ。というか、敵艦全部が白いカラーリングで塗装されている。

 

「いいか霊夢、ヴェネターのレーザーは艦のサイズに比べて小さいが、砲台数は多い。中~近距離戦での手数はあちらが上だ。だから俺達は射程外からのアウトレンジであいつらを叩く」

 

「オーケー、コーディ。聞いていたわね、敵大型艦群とは一定の距離を保ちつつ砲撃戦を挑みなさい」

 

「イエッサー。敵ヴェネター級に照準を合わせます」

 

 〈開陽〉と〈ネメシス〉の両艦から、15本のエネルギーの奔流が発射され、敵のヴェネター級1隻を貫いた。敵のヴェネターはそれで一部のシールドを抜かれたのか、艦体中央で爆発が起こる。

 

「敵のエンジンを狙う。足を止めるぞ」

 

 さらにそのヴェネターは、今度は艦尾のエンジンノズルに集中砲火を受けて航行不能に陥り、完全に沈黙した。

 

「っ、艦長、敵2隻が反転してきます!」

 

「・・・逃げられないと悟ったわね。いいわ、今度は此方が後退しつつ砲撃を続行!」

 

 ヴェネターが1隻沈黙したところで敵は腹を括ったのか、反転して此方に向かって加速してくる。

 このまま進むと今度は私達が敵の土俵に入ってしまうので、後退しながら砲撃を続行した。

 

「チッ、敵さん、艦首を向けたせいで硬くなりやがった―――ちとこれは、時間かかるぞ」

 

 相変わらずバカスカ撃たれっぱなしの敵艦だが、既にこちらも敵の主砲の射程内に入ってしまい、何発かシールドに被弾している。それと敵が艦首を此方に向けたお陰で、最初のヴェネターのようにエンジンノズルを狙って早期に無力化するという真似ができなくなってしまったことで、砲撃戦が長期化しつつある。

 

 ・・・まあ、既にもう1隻の敵のヴェネターは火達磨だし、そろそろ決着が付く頃だろうけど。

 

「敵2番艦で大きな爆発反応あり、軌道を大きく外れます」

 

「ふぅ・・・これであとは不明艦の1番艦だけ―――」

 

「て、敵1番艦のエネルギー反応が急速に上昇中!これは―――敵はインフラトン・インヴァイダーをオーバーロードさせて自爆するつもりです!?」

 

「はぁ、何ですって!?とにかく緊急回避!ロビンさん、急いで!」

 

「っ、はいはい、今やってますよ!」

 

 砲撃戦で敵のもう1隻のヴェネターも沈黙させ、いよいよ残り1隻となったところで、突然敵の大型艦が自爆覚悟で突っ込んできた。此方がまずヴェネターに砲火を集中していたためにダメージが少ないので、今から撃沈を図っても間に合わない。

 私はロビンさんに命じて緊急回避を試みたけど、敵艦が突っ込んでくるペースの方が早い・・・!

 

「っ、こうなったら―――デフレクター艦首シールド最大、衝撃に備えて―――」

 

 回避も間に合わないと悟り、攻撃を中断して全エネルギーを艦首のデフレクターに回して、自爆の衝撃に備えようと試みる。

 

 此方の砲火で各所から火を吹いている敵艦が眼前までったとき、蒼いレーザーの光が敵艦を貫いた。

 

「え・・・!?」

 

 二度、三度と貫かれた敵艦は、機関が耐えきれなくなったのか、その場で大きな衝撃を放って盛大に爆散した。

 

「きゃああっ!」

 

「ぐうっ・・・!」

 

「っう―――ッ!!」

 

 まだ距離があったとはいえ、かなり接近されていたため爆発の衝撃も大きく、それに艦橋の外が敵艦轟沈時の蒼いインフラトンの火球で照らされたために、ブリッジクルーは皆コンソールに伏せてそれらから逃れようとする。

 

「―――終わった、か・・・?」

 

「・・・敵艦の反応、消失しました」

 

「デフレクター出力75%低下、強制ダウンします。それ以外には艦内に目立った損傷は見られません。」

 

 衝撃から復帰したクルー達は、状況を確認すると報告としてそれを私に届ける。

 

「霊夢さん、今のは―――」

 

「・・・艦隊の艦じゃないわね。あそこから撃てる艦なんて―――」

 

 しかし、最後に敵艦に止めを刺したあの砲撃、艦隊の艦や何故かいるロンディバルト艦隊から撃てる位置ではない筈。なら一体が・・・

 

「艦長、通信が入っています!どうやらあのロンディバルト軍ではないようですが―――」

 

「通信?一体誰から―――」

 

 私がそれに関して思案していると、突然艦橋のメインパネルに通信が入り、画面が歪んだ。

 

 

 

 

 

【イメージBGM:東方妖々夢より「幽雅に咲かせ、墨染の桜」】

 

 

 

 ザザー、とノイズがパネルに入り、それが収まると、通信相手の全容が浮かび上がる。

 

 通信相手は背後に蝶の羽を生やした死神の横顔が描かれた紋章を背にして、蒼で統一された軍服を纏っていた。髪色は淡い桃色で、顔立ちは端正だが、口元は手に持った扇子で隠れて見えない。そして身体の線から、相手が女だということが分かる。

 

 通信相手の女は扇子を閉じると、微笑を浮かべて私に告げた。

 

 

 

 

「―――初めまして、私はアイルラーゼン軍、α象限艦隊所属、ユリシア・フォン・ヴェルナー中佐よ。よろしくね、可愛い艦長さん」

 

 

 

 

 

 

 




新キャラ出す場面まで進めなかった・・・艦隊戦はやはり字数上がりますねぇ。

最後に出したユリシアは半分ぐらいオリキャラですが、容姿はゆゆこ様似です。一応三二話で顔見せしてるので新キャラではないです。次回こそは本当に新キャラ出せると思いますのでw



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第五八話 "不抜"の将

 

 ~アイルラーゼン軍、クラウスナイツ級戦艦〈ステッドファスト〉ブリッジ~

 

 

 

「敵艦の沈黙を確認しました」

 

「・・・リフレクションレーザー、砲撃止め。〈リレントレス〉〈ドミニオン〉にも伝えなさい」

 

「―――了解しました。両舷リフレクションレーザー主砲、砲撃止め」

 

「旗艦より戦隊各艦へ、砲撃止め。繰り返す、砲撃止め」

 

 旗艦からの命令に従って、暗黒星雲内から姿を現した3隻の大型戦艦は砲撃を中断する。その直後、目標としていた白い楔型の大型戦艦が爆散した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 霊夢達の艦隊に迫るヴィダクチオ戦艦を撃破した艦隊―――アイルラーゼン軍α象限艦隊第81独立機動部隊旗艦、クラウスナイツ級戦艦先行生産型〈ステッドファスト〉の艦橋から、艦隊を指揮する女指揮官―――ユリシア・フォン・ヴェルナー中佐は、前方に見える大型戦艦、『紅き鋼鉄』の旗艦、改スーパーアンドロメダ級戦艦〈開陽〉の姿を見据えた。

 

「・・・あの戦艦に通信を繋げる?」

 

「前方の0Gドックの戦艦ですか?・・・はい、やってみます」

 

 ユリシアは通信士に命じて、霊夢艦隊の旗艦〈開陽〉に通信回線を接続させた。

 暫くすると、艦橋中央にあるホログラム投影装置に相手方の艦長、霊夢の姿が映し出される。それを見たユリシアは、自分もそうではあるのだが、随分と若い艦長だなと関心した。

 

 ホログラムの輪郭が明確になり、通信の準備が整えられると、ユリシアは一呼吸置いて相手方に語り掛けた。

 

「―――初めまして、私はアイルラーゼン軍、α象限艦隊所属、ユリシア・フォン・ヴェルナー中佐よ。よろしくね、可愛い艦隊さん」

 

 ユリシアは相手に無用な警戒心を抱かせないようにとフレンドリーな態度を演出するが、それが逆に相手の神経に障ったようで、霊夢は一種眉を顰める。

 

《・・・0Gドック『紅き鋼鉄』の博麗霊夢よ。一応さっきの援護には感謝するわ。んで、大マゼランの軍人様が、こんな辺鄙な宙域に何の用?》

 

 表情こそ平常のそれに戻したものの、霊夢は棘の残る口調でユリシアを問い質した。友好的を装ったユリシアの態度が霊夢にはとある人物を想像させてしまったため、それが余計に胡散臭く感じられてしまっていた。

 

 加えて、霊夢の疑問も尤もなものだ。このヴィダクチオ自治領は大小マゼラン銀河を結ぶ交通の要衝マゼラニックストリームに近いとはいえ、主要な商業航路から外れている上に自治領の危険さから一般航海者には敬遠されている宙域である。そんな自治領に大マゼランの大国の軍隊が居るとなれば、怪訝の視線で見られるのは当然である。

 

「あら、意外と怖いこと。見た目は可愛いのに残念ねぇ・・・」

 

《―――質問に応えなさいよ・・・》

 

 だがユリシアはそれをはぐらかすかのように、扇子を口元に広げて薄ら笑いを浮かべた。その態度が、霊夢には余計にとある妖怪を連想させる。

 

「まぁ、それは軍事機密―――ってことで納得してはくれない?そういうのは基本話せないことって貴女も分かっているでしょ?」

 

《―――まぁいいわ。元々期待なんてしてなかったし》

 

 霊夢はユリシアの飄々とした態度に、呆れたように溜め息をつく。元から期待してはいなかったが、こうも相手の口車に乗せられるのはいい気がしないと彼女は感じた。

 

「それより、貴女の質問、そのまま返させて貰っても構わないかしら?こっちから見ても、正体不明の重武装艦隊がこんな場所を彷徨いているのを見ると不思議なのよねぇ~。貴女達、もしかして戦争屋だったりしない?」

 

《誰が戦争屋よ。―――まぁ、傭兵じみてるのは否定できないわね。―――いいわ、少しなら話しても。こっちはこの自治領にちょっと用事があってね、これからしばいてやろうかってとこなのよ》

 

「あらあら、随分と乱暴なこと。折角可愛い見た目なのに、そこら辺のゴロツキみたいじゃないの。女の子ならもっとお淑やかに出来ないの?」

 

《余計なお世話よ》

 

 初対面でありながら、二人は軽口を叩き合う。ユリシアの側から見れば、霊夢は年下のやんちゃな妹のように見えてしまい、つい彼女は霊夢の反応を楽しんでしまう節があった。片や霊夢の側からすれば、ユリシアの態度が某スキマ妖怪を彷彿とさせてしまうので、言葉を交わしているうちに苛立ちが溜まって口調が攻撃的になってしっていた。それに加えてまたも歳を見た目相応に勘違いされている節があると感じていたので、それも霊夢の不機嫌な態度に拍車を掛けていた。

 

「へぇ~、ほんと、見た目は可愛いのに。―――ところでだけど、そっちが自治領攻めをやるつもりなら、私達も協力するのは吝かではなくてよ?どうする?」

 

 霊夢達の側の目的を訊いたユリシアは、一転して霊夢に協力を提案する。突然の転換に霊夢は一瞬の戸惑いを見せたが、やがて顔を上げて口を開いた。

 

《・・・成程ね、さしずめあんた達の目的もつまるところは一緒、って訳でしょ。でなければわざわざ協力を申し出る理由なんてないもの》

 

「御名答。賢い子は好きよ、私」

 

《好意の押し売りは嫌われるわよ》

 

「あら残念、嫌われちゃったわ。それで、どうする?貴女達にとっても実りのある提案だと思うけど」

 

 ユリシアは催促するように告げるが、霊夢はその申し出るを受けるか否か、慎重に吟味していた。

 

 霊夢の側からしてみれば、ユリシアの側の目的が見えない以上、何を対価として要求されるか分かったものではない現状ではその申し出にも慎重にならざるを得なかった。加えて彼女の属するアイルラーゼンは大マゼラン有数の大国であることは霊夢も知識としては知っていることだ。そんな大国の人間に簡単に恩を買ってしまえば、後々になっていいように利用される可能性もある。

 しかし逆にいえば、霊夢達の側が大マゼランの大国に恩を売るチャンスでもある。〈開陽〉のレーダー範囲から見られる範囲では、ユリシアの艦隊規模は霊夢の艦隊よりも小さい。(ユリシア艦隊のクラウスナイツ級こそ新型のため霊夢率いる『紅き鋼鉄』のデータベースに登録されていなかったが他の軍艦は識別されていた。その内訳はバスターゾン級重巡洋艦が4隻、ランデ級駆逐艦が12隻だったので、艦隊の総規模ではアイルラーゼン軍は『紅き鋼鉄』に劣っていた)さらに空母を有しないアイルラーゼン側からすれば、『紅き鋼鉄』と手を組むことは対ヴィダクチオ艦隊戦で航空援護を得られる可能性を獲得することになる。戦力的にも『紅き鋼鉄』が上である以上、共同戦線を組むとすれば霊夢側が主導権を握れる可能性もあった。

 

《いいわ、受けましょう。その方がきっとお互いの為だろうし》

 

「聡明ね。ありがと、貴女みたいな子は好きよ」

 

《いちいち五月蝿いわ》

 

「それでだけど、折角協力するのなら、一度挨拶に出向いた方がいいかしら?それに打ち合わせもあるわ。ちょっと急だけど、今からそっちの艦に行けない?」

 

《はぁ?随分と急な話ね・・・まぁいいけど。用意するわ》

 

「準備がいいわね。それではまた、貴女の(フネ)で会いましょう」

 

 結局霊夢はユリシアの提案を呑むことを承諾し、加えて二つめの頼み事も引き受けた。そこで霊夢との通信も終える。だが二つ目の頼み事に関しては、ユリシアの副官の側から苦言が呈された。

 

「宜しいのですか?艦長。相手は初対面の0Gドックですよ。流石に丸腰で乗り込むのは如何なものかと思いますが」

 

 ユリシアの左隣に控えていた、頭がすっかり白くなった初老の男性が意見具申をする。彼女の副官を務めている、ローキ・スタンリー少佐だ。

 

「あら、私の心配をしてくれるのね、ローキ。でも大丈夫よ。私を誰だと心得ているのかしら」

 

「ハッ、無用な心配でした」

 

 ユリシアは副官に、自身の左袖に隠したブレードナイフの刃を僅かに見せる。ユリシア自身の女らしい見た目からはあまり想像できないが、彼女も軍人の端くれとして格闘を始めとする白兵戦訓練は一通り受けており、多少のことなら切り抜けられる程度には自信があった。それに、もし自分に何かあれば、それは目の前の0Gドックがアイルラーゼンを敵に回すだけだと彼女は割りきっていた。だが、彼女は相手の艦長を内心では高く評価しているので、無用な真似はしてこないだろうとも確信していた。

 

「分かれば宜しい。じゃあ、出発は10分後ぐらいかな。その間は頼んだわよ」

 

「了解」

 

「あ・・・提督、少しお待ちいただけますか?」

 

 ユリシアは副官のローキに艦隊を預け、内火艇の格納庫に向かおうとしたが、通信担当のオペレーターがそれを止めた。

 

「何かあったの?」

 

「はい・・・右舷前方のロンディバルト艦から通信です―――ホログラムに出します」

 

 ユリシアを呼び止めた通信士は、通信相手を先程まで霊夢を映していたホログラム装置に表示させる。

 

 映し出された相手は中年の痩せた男性で、死んだ魚のような目をして電子煙草を咥えている。

 着用する軍服は一般的なロンディバルト軍の白い空間服ではなく、コートのような形状のものだ。

 

「へぇ―――話には聞いていたオーダーズの特務艦隊って、貴方が指揮官だったのね、ハミルトン」

 

 ユリシアは相手を嘲るような態度で、男に話し掛けて名を呼んだ。

 

《そういうあんたも随分と胡散臭くなったじゃねぇか。美人が台無しだぜ、ユリシアちゃんよ》

 

 男の側もユリシアと知古の仲なのか、砕けた口調でそれに応えた。男―――ロンディバルト・オーダーズ艦隊少佐のハミルトンも、挑発するような言葉をユリシアに浴びせる。

 

「余計なお世話よ。女はね、多少胡散臭い方が味が出るのよ。貴方も好きでしょ、危ない女」

 

《ぬかせ、それであんたが派遣されたってことは、アイルラーゼンも本気って解釈していいんだな?》

 

「それはご想像にお任せするわ。だけど、α象限艦隊の任務の一つは大マゼラン宙域海賊の勢いを削ぐこと。この宙域が連中の拠点になっているのなら、それは叩かなければいけないわ」

 

《阿呆か。てめえらの目的は見えているんだ》

 

「あら、だったら言ってくれるかしら?知ってるんでしょ?私の目的」

 

《そんな手には乗らねえよ。ただあんたらも"アレ"を本気で狙ってることが分かりゃ充分だ。そんじゃ、悪いが先を急ぐんでね、そろそろおいとまさせて貰うわ》

 

「せっかちな人ね。ねぇ、ここは一つ、一時的な協力関係を結ぶなんてのはどうかしら?0Gの子は承諾してくれたけど?」

 

《んなことやってちゃ先を越されちまうだろ。そう易々とあんたの思惑に乗って堪るか》

 

「女の誘いを断るなんて、酷い人ね。もし協力してくるのなら、私から後で"個人的な"御礼でもしてあげるわよ?貴方の側からしても悪い話ではないと思うけど」

 

 ユリシアは閉じた扇子を首元に当てて、僅かに襟を広げてみせる。だがハミルトンは眉一つ動かさない。

 

《五月蝿いわ、歳考えろババア》

 

「・・・殺すわ」

 

 呆れたような声色で、ハミルトンは呟く。それに対してユリシアは一言、殺気を込めて言い放った。

 

 だがホログラムはそのタイミングで消失する。相手方が通信を終えたためだ。

 

「艦長、連中は此方のリフレクションレーザーの射程内です。やりますか?」

 

「冗談、ここで無用な戦争の引き金を引くつもりはないわ」

 

「ハハッ、でしょうな」

 

「―――貴方も調子に乗るようになったわね、ローキ」

 

「ご冗談を。私はいつでも真面目に職務にあたっておりますよ?」

 

「―――後で第三艦橋に配属するわよ?」

 

「私が悪うございました。ですからそれはご勘弁を。あのジンクスは洒落になりませんので」

 

「分かればよろしい」

 

 ユリシアと副官のローキが軽口を叩き合う一方で、ロンディバルトの艦隊は反転して去っていく。その様子をユリシアは、時折複雑な表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉応接室~

 

 

 ヴィダクチオ自治領軍の小艦隊を撃破した後、アイルラーゼン軍と接触した霊夢達は、アイルラーゼン側と通信で二、三言交わした後、その指揮官、ユリシア中佐の要請もあって彼女達を一度旗艦の応接室に案内していた。

 

 

【イメージBGM:無限航路より「Blockade」】

 

 

「んで一応もう一度聞くけど、、こんな辺鄙な宙域に、一体何の用なのかしら?」

 

 応接室に居るのは、艦長である私と、来客の胡散臭いピンク頭の女、ユリシア中佐だ。一応私の側には早苗もいるけど、弁えているのかいつも話には積極的に関わってはこない。

 私は確認の意味も込めて、もう一度通信で尋ねたことと同じ質問を彼女に向けた。

 

「あら、わざわざ説明することかしら?軍人が活動するのは、軍の命令があるからに決まってるでしょ?」

 

 私の言葉に対して、アイルラーゼン側の指揮官―――ユリシア中佐はそう返してきた。

 このピンク頭、言い回しがいちいち紫みたいで相手してるのが疲れるわ。頭の中まで春が詰まってるかと思えば何を考えているのか分からない。見た目は髪の色もあって亡霊寄りだけど。そういえば、あの亡霊も紫と胡散臭さではいい勝負だったわね。

 

「だから、私は目的を聞いているの。わざわざ大マゼランの大国様が出向いてくるぐらいなんだから、流石に何かあるんじゃないの?」

 

 ユリシア中佐の言い分も一応分からなくはないんだけど、協力するこっちとしては多少意図も訊いておきたいところだ。協力するからには、少しは信用できる情報が欲しい。

 

「そうね・・・これぐらいなら大丈夫かしら。ところで貴女、小マゼランのグアッシュ海賊団とかいう連中と戦ったことはある?」

 

「グアッシュ?ああ、私が滅ぼしたけど」

 

「え"っ・・・、とまぁ、それは別にして、何か気付いたことはない?」

 

 こちらが目的を問い質すと、ユリシア中佐は逆にグアッシュのことを訊いてきた。今更こいつの目的とグアッシュに何の繋がりがあるのかは分からないけど、わざわざそれを話すということは何か繋がりがある筈だ。なので私は、その質問には正直に応えることにした。

 

「気付いたこと・・・ああ、確かあいつら、人身売買に手を染めているとは聞いたけど、それにしても妙に羽振りが良かったわね・・・ねぇ、もしかして連中の大マゼラン製艦船は本当にここが輸入元だったりとかしない?」

 

「賢いわね、貴女。その通りよ。それで私が派遣された理由だけど、ここがグアッシュに流した艦船の出本が大マゼランの海賊なのよ。そいつらを叩くのが私の仕事。だから連中と繋がりのあるこの悪徳自治領をわざわざ潰しにきたって訳」

 

 ユリシア中佐の話で改めて分かったが、やはり以前からの予測は正鵠を得ていたようだ。やはりこの宙域が、グアッシュに大マゼラン製艦船を供給していたらしい。さらにこの自治領自体、大マゼランの海賊とつるむことで密貿易の利益を得ていた、ということらしい。だけど、軍が一自治領に出張ってくるのって、宇宙開拓法的にはどうなのだろうか。

 

「それに加えてだけど、この自治領が大マゼラン製艦船を小マゼランに流し続けたら、小マゼランのパワーバランスが一気に海賊側に傾いてしまうでしょ?そうなったらこの銀河そのものが私達の取締相手である大マゼラン宙域海賊を始めとする海賊勢力の牙城になってしまう恐れがある・・・だから私が派遣されたってことね。ほんと困る話だわ~」

 

「大体の話は分かったわ。確かにあんたの言うとおり、小マゼラン製艦船と大マゼラン製艦船にはかなりの性能差がある。それに数まで加わってしまえば小マゼランの政府機構の軍が逆に破れてしまう。その懸念は理解できるわ。でも自治領を軍が潰すとなれば、そこは宇宙開拓法との兼ね合いがあるんじゃない?」

 

「そうなのよ~!私が派手に動いたらそれこそ自治領政府から指差されちゃうし、ほんと困ってたのよね~。だから私は貴女達に目を付けたのよ。戦力は大したものだけど、一応民間の0Gである貴女達が暴れてくれればそれだけ私達アイルラーゼンは目立たなくなるでしょ?そこで貴女達と手を組めば、この問題も解決できるかな~って。丁度いいタイミングで現れてくれたんだから、ほんと感謝ね」

 

「そういうこと。だから0Gドックの私と共闘する価値があった、ってことか。んでさっき離脱していったロンディバルトの軍隊も、そういう事情があるから少数単独で行動していたの?」

 

「多分そうだと思うわ。まぁ、メタい話をすれば、私はこっそり隠密行動で領主を殺すつもりだったのよね・・・多分彼等はそうするつもりなんじゃない?」

 

「うわ、怖いこと言うわね・・・」

 

「見た目は優しそうなんですけど・・・」

 

「―――早苗、騙されちゃ駄目よ。きっとこいつ、見た目で油断させて相手を貪るタイプよ」

 

「げえっ、マジですか霊夢さん」

 

 このピンク頭、雰囲気はふわふわしている癖に考えていることがなかなかに物騒だ。軍人だからそういうのもあるかもしれないけど、タイプとしては謀略を巡らす高級士官・・・って感じだ。外の世界にもそういう人がいたらしいけど、きっとこいつも同類だ。

 

「あら酷い。お姉さん悲しいわぁ~。ねぇ、私がそんな悪女に見える?」

 

「えっ、私ですか・・・!?」

 

 ユリシア中佐は扇子を閉じて泣く仕草をしてみせたかと思えば、話題をいきなり早苗に振って尋ねた。

 

「ねぇ、どう・・・?」

 

「そ、そう言われても・・・」

 

 中佐はずいっと身を乗り出して、早苗に顔を近づけた。

 ・・・なんだか無性に、胸がむかむかする。

 

「あ・・・はい・・・、綺麗な人だと、思います」

 

「綺麗、ねぇ~、まぁそれでいいわ」

 

 ユリシア中佐はあまり満足してない様子だけど、それで手を打ったのか、乗り出した身体を戻した。

 

「何が楽しいんだか・・・」

 

 此方を試してくるような中佐の態度には、正直辟易としている部分がある。だけど語っている内容には嘘はないみたいだし、戦力面でも彼女の協力が得られるならそれに越したことはない。多分中佐にはまだ隠していることがありそうだけど、それは絶対に言わないだろう。私達が援護に入ったあのロンディバルト艦隊も、ユリシア中佐のように私達と接触せずに離脱したのにも、それに関係する意味があるのかもしれない。現時点で一番考えられるのは、ヴィダクチオが保有している遺跡船のことが大マゼランにも知られて、その技術を回収しに来た、という線だろうか。

 あれ、だとすれば、私もかなりヤバい立ち位置かも・・・

 

 そう考えると、中佐の飄々とした態度も、なんだか空恐ろしく思えてくる。

 

(早苗、そいつにはあまり気を許さないで)

 

(はいっ、了解しました、霊夢さん)

 

 小言で早苗にもそれを伝えるが、彼女もそれは分かっていたらしい。気を付けてくれるのなら問題はなさそうだ。

 

 しかし、これは困った。もし大マゼランの連中の狙いが遺跡船の技術なら、今後の立ち回りはかなり慎重にいかないと不味いわね・・・

 

「ねぇ貴女、ちょっといい?」

 

「・・・何?」

 

「貴女、若いのにこんな規模の艦隊を率いているなんて凄いわね~。なにか秘訣でもあったりする?」

 

 ユリシア中佐は、表面上は友好的な雰囲気を装って訊いてくるが、その意図するところは言わずもがなだろう。私は慎重に言葉を選んで、出来るだけ平静にそれに答える。

 

「・・・まぁ、だいぶ運も入ってるからね・・・運良く海賊から上手い具合に略奪して、艦と資金を整えられた、ってところね。あとはそうね・・・優秀な技術クルーを運良くスカウトできたりとか」

 

 だいぶ端折ってはいるが、少なくとも嘘は言っていない筈だ。サナダさんは、スカウトというのはちょっと

 疑問だけど。

 

「へぇ~海賊、ねぇ・・・貴女、可愛い癖に随分とリスキーな生き方するのねぇ。格好わよ。抱いてあげようか?」

 

「ノーサンキューよ。私にその趣味はないわ」

 

「あら残念」

 

 貴女が男の子だったら絶対落としたのに・・・と続けるユリシア中佐。

 いや貴女怖いわよそれ。軍人ってそういうのどうなのよ。それとも堂々とハニートラップしますよって宣言なの?

 

 ・・・この人、本当に頭の中まで春一杯じゃないでしょうね・・・別の意味で不安になってきたわ・・・

 

 

 

「そういえば、貴女の目的も詳しくは聞いてなかったわね。さっきはこの自治領に用事があるとか言ってたけど、それ詳しく聞かせてくれない?」

 

「・・・まぁいいでしょう。単純に艦隊の面子の話よ。連中私達が別の宙域にいる時にいきなり攻撃してきたんだから、ケジメつけさせてやらなきゃ艦隊の長として示しがつかないでしょ?」

 

「うわ、まるでマフィアみたいな思考じゃない・・・可愛くてもやっぱり0Gドックなのね・・・」

 

「野蛮で申し訳ないわね、どうも」

 

 面子の話をすれば、予想どうりユリシア中佐には引かれた。自分でもけっこう乱暴な理由付けだと思ってはいるんだけどね・・・

 それにスカーレット社の依頼関係は話せばややこしくなりそうだし、ここは黙っていた方がいいだろう。・・・そうすると余計ヤクザみたいな理由が目立つが仕方ない。それに、別に嘘は言ってない訳だし。

 

「これで充分かしら?」

 

「ええ、それで充分よ・・・そろそろ丁度いい頃合いかしら。話はまた今度聞かせてもらうことにするわ。最後に行き先の話だけど、貴女達もそのまま自治領の奥まで進むのかしら?だとすれば航路は一緒だと思うんだけど」

 

「そうね―――私達の目的地も敵の本星だし、航路は同じでいいわね。それじゃ、海兵隊にシャトルまで送らせるわ」

 

 話し合いも終わったところで、私は部屋の外に控えさせていた海兵隊員を呼び出す。

 

 扉のエアロックが開き、装甲服を纏った海兵隊員2名が入室して扉の前に立った。うち一人は椛なのだが、耳と尻尾はヘルメットと装甲服に隠れて見事に見えない。

 

「お呼びですか、艦長?」

 

「来たときと同じように、この人をシャトルまで送って頂戴」

 

「了解です」

 

「それじゃあ、お願いするわね。今日は楽しかったわ、可愛い艦長さん」

 

「霊夢よ。一応ここ敵宙域なんだから、あんたも気を付けなさいよ」

 

「ご心配どうも。優しいわね、貴女」

 

「それはどうも」

 

 ユリシア中佐も立ち上がると、海兵隊員二人と共に部屋を後にした。去り際に、中佐は私に向かってウィンクしてみせた。

 

 

「・・・ハァ、疲れたわ」

 

「霊夢さん、ああいう方は苦手そうですからね」

 

「そうなのよねぇ・・・昔の面倒な知り合いみたいで参ったわ、ほんともう・・・」

 

 出来れば、中佐みたいな人はあまり相手にしたくはない。同じ軍人でも、いつぞやのオムス中佐の方が分かりやすいだけまだやり易かったんだけど、ユリシア中佐は本当に面倒だ。スキマ妖怪で耐性がついていたのはいいんだけど、やっぱり積極的に絡みたくはない人だ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

 

「んッ・・・あれ、ここは・・・」

 

 薄暗い牢獄のような場所で、彼女は目を覚ました。

 意識を周囲に向けていると、自身の両手は鎖に繋がれ、衣服も戦闘の衝撃のためか、所々破けたままだ。

 

「そうだ・・・お嬢様は―――」

 

 そこで彼女―――メイリンは、自身に課せられた使命を思い出す。

 彼女の主の愛娘の一人を救出するのが彼女の任務だ。しかし一度は助けられたものの、現状では逆に彼女までが敵の手に囚われてしまっている。

 これでは務めを果たせないと、彼女は自身に繋がれた鎖を引き剥がす方法を探ろうとする。軽く二、三度手を動かしてみたが、彼女の予想より鎖は強固なようで、引き剥がすのはかなり難しそうだと彼女は感じた。

 

「困りましたね・・・これではお嬢様を助けるどころか、下手すると動くことすら出来そうにないですね・・・」

 

 スカーレット社では戦艦の艦長を任されていたメイリンではあるが、元々彼女は格闘技をやっていただけに、腕力には並の男より遥かに高い自信はあった。しかしそれでも鎖を強引に突破出来そうにないと知ると、他に適当な手段もないので落胆せざるを得なかった。サクヤのように、自分もインプラントでなにか仕込んでおけば良かったかなと思ったメイリンだが、今更無い物ねだりしたところで現状は変わらない。

 

 こうなったら、看守が此処に来たタイミングで鍵を奪うしかないかと彼女は考えた。女の身の自分なら、欲望を抑えきれず野獣と化した男に襲われることもあるだろうと考えて、彼女はその隙に反撃で無力化した敵から鍵を奪うことにした。

 

 そして、そのタイミングは予想よりも遥かに早くやってきた。

 

 遠くで光が射し、鉄のドアが開く音がした。

 

 ―――来たか・・・?

 

 脱出のチャンスが転がってきただけに、メイリンの心に緊張が生まれる。

 

 コツ、コツと足音が近付いていくにつれて、彼女は息を呑んだ。

 

 足音は彼女の近くまで来ると、ぴたりと止まる。

 

 ぎぃ・・・と、メイリンが閉じ込められている牢屋の扉が開いた。

 

 扉の先には、以前彼女がゼーペンストで交戦したのと同じ戦闘服を纏った、無骨なヒトガタが二つ、立っている。

 

 ―――随分と、上質な装備なこと――。

 

 メイリンはそれを見て、素直に装備の室に関心した。

 ゼーペンストの軌道エレベーターで戦っていたときには細部まで見れなかったので、この際敵の装備はどんなものかと確認しようと、メイリンは敵の姿を目に焼き付ける。

 

 敵の装備は全体的に黒で統一され、顔は相変わらずマスクとゴーグル、ヘルメットに覆われて分からない。身体の方に目を移してみると、この手の装備に精通したメイリンには、敵はかなり上質なアーマーが支給されていると即座に分かった。それに加えて、ポーチや予備弾倉などを複数巻き付けて即席の装甲代わりにしているので、防御力もかなり高いことが察せられた。足回りにも装甲服を着込んでいるが、間接部位は防弾素材の布で覆われており、機動性も損なっていない。

 見るからに、特殊部隊に支給されているような極めて高度な装備だった。

 

 ―――ははっ、これはちょっと、私には難しそうですね・・・

 

 敵二人が特殊部隊クラスだと悟り、メイリンは脂汗を流す。

 せめて一人なら何とか制圧出来たであろうが、二人は流石に聞いていない。これが一般兵ならまだしも、特殊部隊だと勝てる見込みは彼女には見いだせなかった。さらに、この見るからに真面目そうなヒトガタは、そこらのゴロツキのように果たして自分に手を出してくるのだろうかという疑問も同時に生まれる。

 

 敵兵二人とメイリンの間で、睨み合いが続く。

 

 時間としては短いが、その時間はメイリンには長く感じられた。

 

 唐突に、ヒトガタのうちの一人がマスクに手をかけて、その素顔が晒される。

 

「貴女、もしかしてこの間拐われたスカーレット社の人間?」

 

「はい、そうですが・・・」

 

 ―――女の、声?

 

 メイリンの予想に反して、目の前の黒づくめの中身は女だった。

 もう一人も、マスクとゴーグルを外す。

 

「それなら都合が良かった・・・確かあんたのお嬢様も持っていかれてたよね、だったら早く探してオサラバしよう」

 

「え、あ・・・ちょっと、貴女達、一体何なんですか・・・!?」

 

 二人のうちの黒髪の方が、メイリンに繋がれていた鍵を外し、彼女を自由の身にする。

 

 突然の事態に頭の回転が追い付かず、メイリンは彼女達に尋ねた。

 

「宇佐美蓮子、しがないトレジャーハンターさ。だろう?メリー」

 

「ええ。っと、ご紹介が遅れました。私はマエリベリー・ハーン。彼女の相棒です」

 

「さ、自己紹介も終わったことだし、早くこの辛気臭い牢獄から出てしまおう」

 

「えっ、ちょっ、あまり引っ張らないで下さい・・・」

 

「メリーの改竄が効いているうちに抜け出さないと不味いからね、申し訳ないけどちょっと急ぐよ!メリー、敵の動きは?」

 

「・・・まだ気付かれていないわ。逃げるなら今がチャンスよ」

 

「―――って訳だから、今のうちに脱獄するよ!」

 

「あ、ですからそんなに引っ張らないでと・・・!」

 

 マスクとゴーグルを脱いだ二人は、挨拶とばかりにメイリンに自己紹介する。蓮子と名乗った黒髪の少女はメイリンを引っ張って、金髪の少女、マエリベリーがそれに続く。

 やがて三人は牢獄を抜けて、人目につかぬよう慎重に、かつ迅速にどこかの星にある監禁施設から抜け出した。

 

 

 

 メイリンが二人の手引きで脱獄した数時間後、一隻のアルク級駆逐艦が惑星大気圏を離脱した。

 




やっと新キャラを出すことができました。前もって開示しておきますが、ユリシア中佐とロンディバルトのハミルトン少佐は、軍学校の交換留学で知り合った間柄です。原作でいうサマラさんとトスカさんみたいな間柄なので、そのストーリーが本編の話の本筋には絡んできません。そういう関係、程度の設定です。ちなみにハミルトン少佐は原作青年編の時期に活躍させる予定なので、今回の章は顔見せ程度です。

そして最後に秘封の二人をぶち込みました・・・ここでは元気にトレジャーハンターをやってもらってます。イ○ディージ○ーンズみたいな感じです(笑)蓮メリちゅっちゅ。

最後にユリシア中佐のイメージ画像を貼っておきます。以前から書いていましたが、外見はゆゆ様イメージ、性格はゆゆ様とゆかりんを参考にしています。


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第五九話 敵の尾鰭

 

「少しいいか?艦長」

 

 アイルラーゼン側との会談が終わり、私が応接室から出たタイミングで、待ち構えたようにサナダさんが話し掛けてきた。

 

「何?サナダさん」

 

 この人がわざわざ私を訪ねてくるということは、敵についてまた新たな情報が分かったということなのだろう。それなら耳を傾けない訳にはいかない。

 

「艦長がアイルラーゼンの指揮官と会談している間、私の権限であの航行不能になった敵のヴェネター級に調査用の機動歩兵部隊を送り込んでおいた」

 

「あら、準備がいいわね。私もここを去る前にせめて調査ぐらいはさせようと思ってたんだけど、もう始めてるの」

 

 サナダさんは、早速先程の戦闘で航行不能になった敵のヴェネター級の調査を始めていたみたいだ。いつも好奇心の赴くままに独断専行しているこの人だけど、今回ばかりは私にも都合がいい。敵を知るためにも、あのヴェネター級はそのうち調べるつもりだったんだし。前もって調査に着手してくれているというのなら、それだけ調査を早く終わらせられる。

 

「それで、何か分かったことはあるの?」

 

「ああ、まずはこいつを見てくれ」

 

 サナダさんは一枚のデータプレートを取り出すと、それを起動して敵のヴェネター級と思われるホログラムの図面を表示した。

 

「敵艦内に送り込んだ機動歩兵隊に、敵艦の構成素材のサンプルを入手させた。それを分析にかけたところ、艦の如何なる場所で採取したサンプルも、使用されている金属はごく最近に製錬されたものであるという結論を下している。つまり、敵はこのクラスを発掘によって得たのではなく、図面を入手して独自に建造したということだな」

 

「つまりそれって・・・敵はヴェネター級を生産できる体制を確立しているってこと?」

 

「そうなるな。敵は発掘戦艦をそのまま使用するだけではなく、図面から自陣営での量産に適している形に改設計して生産する能力も有しているということだ。これは厄介だぞ」

 

 サナダさんの調査結果が示しているように、もし敵がヴェネター級の生産体制を確立しているとすれば、あの巨大艦―――リサージェント級戦艦もまた一隻だけではなく、同型艦が建造されている可能性もあるということか。高々一自治領にあのクラスの戦艦をそう何隻も保有できる国力があるとは思えないけど、最低2隻はいるものと考えるべきか―――

 

「チッ、本当に厄介な連中ね・・・ヴェネターが量産体制にあるならリサージェント級も同型艦が存在する可能性がある、か・・・サナダさん、調査で敵の弱点とかは分かったの?」

 

 敵がヴェネタークラスやリサージェントクラスを複数投入してくるとなれば、せめて弱点ぐらいは知っておきたい。そんな期待を込めてサナダさんに訊いてみたが、答えは芳しくないものだった。

 

「いや・・・敵艦の強度は全体的に我々の運用するヴェネターより一歩劣るものの、現時点では致命的な欠陥などは見られない。恐らく敵の技術力は総合的に見れば大マゼランより劣るだろうが、それも纏まった数を用意されれば何の気休めにもならん」

 

「そう・・・」

 

 サナダさんによれば敵の技術力はこの艦隊や大マゼラン諸国よりは低いらしい。だけどそれも数を用意されればすぐに埋められるレベルの差だ。今までみたいに圧倒的な技術格差があるわけではないから、純粋に数がものを言う。それで敵艦に狙うべき欠陥がないって話になると、これは困ったものだ。

 

「困ったわねぇ~、これじゃあ艦隊戦でどうすればいいものやら・・・取れる奇策にも限界があるし」

 

「ふむ・・・艦長、敵がヴェネターなら、上面の艦載機発艦デッキのハッチを狙ったらどうだ?」

 

「上面のハッチ・・・なるほどね、そこを突破すれば艦載機格納庫だから、上手くいけば誘爆を発生させられる、と・・・」

 

「そうだ。これは我々のヴェネターにも共通する弱点だがな」

 

 敵のヴェネターに対してなら、サナダさんが指摘したように上面のハッチを狙えばいいが、リサージェント級はどうだろうか・・・あの艦のことは詳しく分からないし、あれはそもそも図体がでかいから特定の箇所を狙っただけではそう簡単には壊れなさそうね・・・

 

「あ、そうだ・・・そういえば、敵のヴェネター級に積まれてた艦載機って、どんな奴だった?」

 

 ヴェネターの艦載機ハッチの話で思い出したんだけど、そもそもあれは戦闘空母のようなものだ。艦自体の能力もさることながら、アレの主力は搭載する艦載機になる。ならば今後の対策を考える上でも、敵がどのような艦載機を使っているのかは知っておかなければならない。

 

「敵艦の艦載機か・・・実はだな、これがよく分からないんだ。一応機動歩兵隊が撮った写真がこれなんだが・・・」

 

 サナダさんはそう答えると、一枚の写真を表示する。

 そこにあったのは、円盤形の胴体を持つ複数の航宙機―――俗に言うUFOだ。

 

「なにこれ?UFO?」

 

「ああ、形状は一般的に言われているUFOだな―――ところで、艦長はUFOを知っているのか?」

 

「ええ。宇宙人の乗り物だっけ?」

 

 確かこんな形のUFO、いつぞやの異変でも見たような気がする。確かこれ、エイリアンが乗っているんだっけ?噂ではそんなことを聞いたけど・・・

 

「むぅ、UFOは本来そんな意味ではないんだがな・・・それはさておき、この円盤形の艦載機は俗に言われているUFO形、それもテラ文明の頃から存在する伝統的なアダムスキー形と呼ばれるタイプに酷似している。一般的な航宙機は機体後部のメインスラスターで推力を得て機体各部のサブスラスターで方向や機動を調整する設計なんだが、どうもこの機体は飛行原理が分からん。実際に飛んでいる様子を見た訳ではないからな。UFOの形状から想定すると、普通に考えれば機体底部に推進装置があるとは思うが・・・」

 

「つまり、敵の艦載機について現状では全くの未知数ってこと?」

 

「ああ、そうなるな。これから鹵獲した機体を搬入して調べないことには、何も分からん」

 

 敵の艦載機―――あのUFOについてはサナダさんでもまだ分からないらしい。性能が低めなら助かるんだけど、これが此方の艦載機を上回る性能だったら厄介ね・・・

 

「鹵獲した機体の搬入作業はこれから行うとしてだな・・・それと艦長、もう一つ報告がある。艦内に調査部隊を派遣した際のことなんだが・・・」

 

「何か不味いことでもあったの?」

 

 サナダさんが何やら深刻そうな表情をするものだから、何か重大な情報を掴んだのかと勘繰ってしまう。だが、サナダさんの口から飛び出した情報は、私の予想の斜め上をいくものだった・・・

 

「艦内に侵入した機動歩兵部隊が敵兵の生き残りと遭遇した際、敵は一人の例外なく自爆攻撃を仕掛けてきたんだ・・・」

 

 ―――え、自爆・・・!?

 

「ちょっと、自爆って、それはどういう・・・」

 

「幸い機動歩兵部隊は無人だから、我々に人的被害は出ていない。だが、敵兵に対しては何度も投降勧告を発しておいたんだが、誰一人と投降することを選ばなかった。地上軍も同様に自爆攻撃を仕掛けてくるのだとすれば、人質の奪還には相当な苦労が伴うぞ」

 

「全員が自爆攻撃―――ねぇサナダさん、機動歩兵を通してでもいいから、敵兵に何かおかしな様子とかはなかった?」

 

「そうだな・・・確か、敵兵の何人かは"教祖様に栄光あれ"といった言葉を発しながら突撃してきたな。教祖、ということは、ヴィダクチオ自治領は領主そのものが宗教指導者と化した宗教国家の可能性も出てきた訳だな」

 

「・・・チッ、よりによって相手はカルトか・・・この様子だと、まともに話をするのは難しそうね」

 

 サナダさんの言うことが正しければ、敵は宗教によって規律されたカルトみたいな集団だ。敵兵全員が自爆攻撃を仕掛けてきたことを考えると、敵兵かなり高度な洗脳を施されているのだろう。そんな兵が相手だというのなら、ゼーペンストのヴルゴさんみたいにまともに話が通じる見込みは低い―――。

 

「ああ。だが逆に言えば、トップさえ討ち取ってしまえば上下関係の指揮系統が極めて強いと考えられるヴィダクチオ側の動きは著しく鈍化することが期待できる。個々の兵こそは教祖を討ち取られた仕返しとばかりに"聖戦"に乗り出すだろうが、寧ろ個々の部隊がそうやって暴走することは、統一的な指揮の下で効率的な作戦を遂行することを困難にする。それに乗じて、我々は迅速に人質を救出し、速やかに宙域を離脱することも可能になるだろう」

 

「・・・つまり、方針は現状のままってことね。私達の艦隊は敵の硬直した指揮系統の打破を最優先に動く、と―――」

 

「うむ、そうだな」

 

 サナダさんの話を要約すると、指揮系統の上下関係が強い宗教集団なら、トップを討ち取ってしまえばあとは暴走する敵を各個撃破するなり回避するなりして目的を果たせばいい、という話だ。それに、トップが居なくなれば敵の上層部では確実に権力争いが起こるだろう。それがトップのカリスマに支えられた組織であれば尚更だ。だったら末端の敵兵は、ますます統率された動きが出来なくなる。そうなれば私達にとっては極めて都合がいい。

 

「大体のことは分かったわ。それで、他に何か分かったことはある?」

 

「そうだな・・・他にはまだ、撃沈した敵旗艦のサンプルを解析していたところなんだが、そろそろ結果が・・・」

 

「ああ主任、ここに居ましたか」

 

 私とサナダさんしか居なかった廊下に、第三者の声が響く。

 

「む、ライ君か。その様子だと、サンプルの解析は終わったようだな」

 

「はい、こちらがそのデータです」

 

 新たに現れたのは、ザクロウで救出した科学者のライさんだ。確か彼は、救出したあとは本人の希望を聞いて科学班に配属していたと思うんだけど、この様子だと相変わらず研究三昧の日々を過ごしているみたい。少しはリアさんのことも気にしてあげなさいよ。

 

「ふむ・・・旗艦の装甲材に使われている金属は極めて古いと・・・成程、あの旗艦はヴェネターとは違って発掘戦艦だったのか」

 

「サナダさん?」

 

「ああ、済まんな。艦長、このデータによると、最後まで残っていたあの敵旗艦を構成する金属材質は極めて古い時期に製錬されたもののようだ。・・・つまり、あの艦は発掘戦艦だったようだ」

 

「旗艦が発掘戦艦―――ってことは、敵は発掘した艦もそのまま使っているのね」

 

「これは推測だが、ヴェネタークラスは図面を元にした量産艦、旗艦クラスは遺跡から発掘してきた古代軍艦で替えは効かない、ということも考えられるな。だとすれば、リサージェント級艦も現時点では敵は量産できないという可能性も考えられる」

 

「成程―――でも、ここは悪い方向に想定しておくべきでしょうね・・・」

 

「それは同感だ。敵が旗艦クラスを量産できないということはまだ裏付けられた訳ではないからな」

 

 サナダさんは、私の言葉に同意するように頷く。

 仮にサナダさんの推測通りだったら幾分かは楽なんだけど、想定は常に悪い方向にしておくべきだ。敵に関する情報はまだまだ少ないんだし、過度に楽観視するのも危険だ。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ研究室に戻ります」

 

「ああ、よくやった。今後も頼むぞ」

 

 サナダさんにデータを渡したライさんは、用件が済んだとばかりに研究室の方角に姿を消した。

 

 

 

「へぇ~貴女達、なかなかやるじゃない」

 

「ひゃうっ!!って、あんた、何でまだここにいるのよ!」

 

 突然女の声がしたかと思って振り返ってみたら、そこにはニコニコとした笑みを浮かべたピンク髪の女―――ユリシア中佐の姿があった。

 というか、あんたもう帰ったんじゃなかったの!?

 

「ふむふむ、そこの貴方は技術参謀か何かね。さっきの話、参考にさせて貰うわ」

 

「それは光栄ですが―――しかし、どうやって我々に感付かれずに聞いていたのですか?」

 

 サナダさんはサナダさんで、いきなり中佐が現れたというのに冷静な様子だし。

 

「どうするも何も、そこの角で聞いていたわよ?最初はそのうち気づかれると思ってたんだけど、貴方達、ずっと話に集中してたみたいだから、最後はこうやって私から出てきてあげたのよ」

 

 ―――これは不覚だ。まさか私が、近くでずっと聞き耳を立てていた中佐に気付けないなんて・・・

 

 それはともかく、確か中佐って、案内をつけて帰した筈よね?確か椛に早苗がその役を引き受けていた筈だけど・・・

 

「・・・ちょっとあんた、私が付けさせた案内はどうしたの?」

 

「え、あの娘達?ふふっ、ちょっとじゃれ合ったらすぐに寝ちゃったわ」

 

「じゃれ合った・・・って、まさか、あんた・・・」

 

 中佐の台詞に、私の警戒心が最大まで跳ね上がる。私は中佐を睨んで相対したが、中佐は飄々とした態度のまま、扇子で口元を覆い隠した。

 

 しばらく中佐と私の間に緊張した空気が漂ったが、それは誰かの足音で一度途絶えた。

 

「っ、れ、れいむ、さん――――あの人、何処に・・・」

 

「早苗っ!?」

 

「あ、ここに、居たんですか・・・突然いなくなったと思って探し回ったんですけど・・・よかった・・・」

 

 中佐の案内役を任せた筈の早苗は、息を荒げた様子で立ち止まる。見たところ彼女の様子に変わった点がないのは安心だけど―――

 

「早苗、そいつに何かされなかった?」

 

「え、何かって―――いえ、気付いたら中佐が居なくなっていたので、椛さんと手分けして探していたんですけど、艦内のセンサーにもなかなか引っ掛からなくて・・・その、中佐は何か仕掛けでも使ったんですか?」

 

「仕掛けもなにも、私はただちょ~っと探検してみただけよ~。別にこの艦に細工とかはしてないわ」

 

 ―――怪しい。

 

 この女、表面上は友好的に見えてもその実何を考えているか分かったものではない。正直言って、私の苦手なタイプだ。

 艦のコントロールユニットに繋がっているあの早苗を出し抜いたんだから、きっと何か仕掛けがある筈だ。それがさっき中佐が言った"じゃれ合った"の意味なんだろうけども・・・

 

「ああそうだ。これからの方針だけれども、私達も首都星までご一緒するわ」

 

「それはどうも」

 

「航路は・・・そうねぇ、できるだけ暗黒ガスの中を進んだ方がいいかしら」

 

「はいはい、分かったわよ。どうせあんたら、このまま私の艦隊と一緒にいるつもりなんでしょ?一応予定航路は後で伝えておいてやるから、さっさと退艦しなさいよ」

 

「んもう、もう少し見て回りたかったのに、せっかちねぇ~、分かったわよ、今日はこれで帰ることにするわ」

 

「さっさと帰れ、このピンク頭。ついでに早く大マゼランに帰れ」

 

「そこまで言うことはないでしょ~、ちょっと傷付いちゃうわ」

 

「まずは自分の行いを振り返ってから言いなさい」

 

 ほんとマイペースな奴だ・・・ああ、この中佐の相手をしていると疲れるわ・・・

 

「・・・それでは、シャトルまでご案内します」

 

「よろしく頼むわね~」

 

 ・・・早苗に連れられて、今度こそあのピンク頭は退艦するようだ。ああもう、心臓に悪いったらありゃしない・・・

 

 

 

「・・・サナダさん、後でにとりと一緒に艦内を総点検しなさい」

 

「了解した―――やれやれ、仕事が増えそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウイスキー宙域・第三恒星系、第四惑星軌道~

 

 

 

 

 

 ヴィダクチオ自治領・ウイスキー宙域第三恒星系にある収容施設を抜けた一隻のアルク級駆逐艦は、収容施設があった惑星の隣に位置する第四惑星に向かっていた。

 

「あの・・・貴女達は、こんな場所で一体何を・・・」

 

 収容施設から二人組の女に連れ出され、アルク級駆逐艦に同乗する運びとなったメイリンは、改めて自分を連れ出した相手―――蓮子とメリーにこの宙域で活動する理由を問い掛けた。

 

「ん、そのことかい?ああ、さっき言った通り私達は一応トレジャーハンターやってる訳なんだけど、この宙域・・・というかここの政府から依頼だかで呼ばれてね、なんでも遺跡の発掘に強力して欲しいだかでさ」

 

「それでは・・・」

 

 蓮子は艦橋の中央に立って舵を握りながら、メイリンの質問に応えた。

 メイリンは蓮子の言葉を聞いて、ひょっとしてこの二人はヴィダクチオ側の人間なのではという懸念を浮かべる。だが、蓮子はそれを否定した。

 

「ああ、安心して。別に私達があいつらの仲間って訳じゃないから。それで続きなんだけど、この自治領の評判は君も知っているだろう?だから前もっていざというときときには逃げられるように色々準備してからこの宙域に飛んだ訳さ。この艦だって、元こそひ弱なアルク級だけど、大マゼランなんかで仕入れたパーツも使って徹底的に弄り倒したからね。加速力ならそこらの雑魚には負けないさ―――っと、話が外れたね」

 

「ふふっ、蓮子ったら、いつも自慢話を始めると止まらないからね。高性能な改造パーツを仕入れてきたときだって―――」

 

 蓮子の話の途中で、レーダー管制席に座るマエリベリー―――メリーが話の内容に茶々を入れる。

 話を遮られた蓮子はメリーの言葉に赤くなるものの、それを掻き消すように彼女に抗議して話を続けた。

 

「こらメリー!レーダーに集中して!・・・っと、ごめんごめん。それで続きだけど、いざ乗り込んで依頼通り発掘を手伝ったまでは良かったんだ。契約内容では発掘品の1割と相応の報酬も貰えるって話だったから、さっさと報酬を受け取ってオサラバするつもりだったんだけどね・・・それが連中ときたら、私達を用済みとばかりに始末しようとしやがった!これで怒らない訳がないでしょ!?だからこうやって連中の目を出し抜いて色々小細工してる訳さ」

 

「はぁ、色々大変なんですね・・・」

 

「そうさ。連中ったら、契約違反はあっちの癖に、私達が逃げただけで血眼になって追い回してくるんだからさ~、ほんと嫌になっちゃうよ。こんな自治領、さっさと滅べばいいのにね。それに領主もさっさとご臨終しろっての」

 

 ヴィダクチオ側の人間がいないことをいいことに、蓮子はヴィダクチオへの罵詈雑言を並べて愚痴る。そんな様子の蓮子にメイリンは、若干の苦笑いを浮かべながら付き合った。

 

「そうですか・・・そういえば、なぜ私のことを?」

 

「君を助けた理由かい?ああ、ちょっとメリーが連中の通信をハッキングしたら、偶然君達の情報が手に入ってさ。君達を助ければあのにっくい領主野郎の邪魔になるし、折角だから一緒に連れ出してしまおうって話になった訳さ。それに加えて、大企業の令嬢様を助けたとなれば報酬だって期待できるじゃん?」

 

「は、はぁ・・・」

 

「蓮子はいつもこんな調子ですから、あまり気にしなくても大丈夫ですよ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 蓮子の行動原理があまりに無茶だったためか、助けられた身ではあるのだが、メイリンは苦笑を溢した。

 

「ちょっとメリー、それはどういうことよ?」

 

「貴女はいつも無茶振りばかりって話よ。まったく、付き合わされるこっちの身にもなってみなさいよ」

 

「それはゴメン。でもなんだかんだ言ってる癖に、メリーだって楽しんでるだろ?」

 

「ぐっ・・・!」

 

 蓮子の指摘に、メリーは苦虫を噛み潰したような表情をする。こうは言った彼女ではあるが、実際のところ蓮子の無茶振りに付き合うのを楽しんでいる節もあるので、彼女は正面から反論することができなかった。

 

「こないだのハッキングだって、だいぶ危ないところまでやってたじゃん?なんだかんだ言って、メリーも危ない橋を渡ることに慣れてきて「ちょっと、五月蝿いわよ!」」

 

 蓮子に続けて指摘されたメリーが、今度は顔を真っ赤にして蓮子の言葉を遮った。

 

「ふふっ、二人とも、仲がよろしいんですね」

 

「ああ、勿論!十年来のパートナーだからね」

 

「ジュニアハイスクールからの腐れ縁でしょ?」

 

「そうだっけ?」

 

 メイリンの言葉を切っ掛けにして、蓮子とメリーは他愛もない言葉を交わし合う。メイリンは二人がじゃれ合っている様子を、微かな笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

「っと、そろそろ到着だね。」

 

 惑星が間近に迫ったのを見て、蓮子は舵を切って艦の姿勢を整える。同時にエンジン出力も落とし、慣性航行に移行させた。

 

「メリー、相手に怪しい動きはない?」

 

「今のところはないわね・・・って言っても今見てる映像は2分前のものなんだけど。一応こっちの光学迷彩は機能している筈よ」

 

 先程までとは打って変わって、二人は真剣な表情で情報をやり取りする。その様子を目にしたメイリンは、自分や軍人にも劣らぬ切り替えの速さだと関心した。

 

「・・・惑星の収容施設にアクセスするわ」

 

「任せたよ」

 

 メリーは一度瞼を閉じると、両腕のインプラント機器をコンソールに接続してハッキングを試みる。

 時折、若干表情を歪めるメリーの姿を蓮子は心配の混じった瞳で眺めていたが、程なくしてハッキングが成功したのか、メリーはインプラント機器を引き抜いて汗を拭った。

 

「・・・どうだった?メリー」

 

「―――ここの星にスカーレット社のお嬢様は居ないみたいね・・・残念だけど、次を当たりましょう」

 

「そうですか―――」

 

 レミリアが眼前の星に居ないと分かると、メイリンは肩を落とした。この星にレミリアが居ないとなれば、残す目的地はヴィダクチオ自治領本星宙域となる。

 

「この星には居なかったか・・・。ま、予想はしてたんだけどね。しかし、わざわざ逃げてきたのにまた敵本星へとんぼ返りかぁ・・・」

 

「先にご令嬢を救出するって言い出したのは貴女でしょ?」

 

「うん、それは分かってるけど・・・はいはい分かったよ。了解。それじゃあ進路転進―――」

 

 メリーからの結果報告を受けて艦を転進させようとした蓮子だが、それとは別にメリーが放った言葉が元で、その動作を中断した。

 

「蓮子、ちょっと待って・・・敵の惑星大気圏内に小型のエネルギー反応多数・・・!?」

 

「小型のエネルギー反応、ってことは航空機か。メリー、そいつらの動きは?」

 

「―――――こっちには飛んでこないわね・・・惑星の大気圏内を徘徊しているだけみたい。迎撃部隊ではなさそうだけど、なんだが様子がおかしいわ」

 

「様子がおかしいって言ったって、迎撃部隊じゃないんだろ?どれ、ちょっと見せて」

 

 蓮子はメリーの横から割り込むと、惑星大気圏内を徘徊する航空機集団の映像を呼び出した。

 

「見たところ、都市の上を飛び回っているだけみたいだけど・・・」

 

「・・・っ、蓮子さん、この部分―――」

 

「ん、どうかしたかい、メイリンさ―――って、これは―――!?」

 

 蓮子の目には、当初は敵の航空機―――円盤形の飛行機が都市上空を飛び回ったり、ホバリングしている様子しか見られなかったが、何かに気づいたメイリンが映像を拡大させると、俄に他二人の表情が厳しくなる。

 

 

「メリー、これって・・・」

 

「そんな・・・酷い・・・」

 

 三人が目にしたものは、地上に向けて何らかの兵器を射出し、都市の住人を殺害して回る円盤形航空機の群れだった―――

 

「・・・見た限りでは銃撃や爆弾ではありませんね・・・この即効性を考えると、極めて危険度の高い毒ガス兵器を散布しているのかと―――」

 

 メイリンもその映像に心を打たれながらも、冷静に敵の分析を試みた。

 

「なんで、こんな事・・・」

 

「―――このウイスキー宙域は、ヴィダクチオに併合された宙域です。恐らくは、当局による弾圧活動かと・・・」

 

 メイリンは、今自分達のいるウイスキー宙域がヴィダクチオ側に併合された宙域であることから考えて、自分達が目にしている光景は住民の抗議活動などに対する当局側の弾圧なのではないかと推察した。

 

「―――せない」

 

「・・・蓮子?」

 

 そこで、今まで口を噤んでいた蓮子がぼそりと声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

「―――こんなの、許せないわ―――!メリー、光学迷彩解除!全艦戦闘配備に移行!工作母艦には直ぐに戦闘艇を発進させるように伝えて!」

 

「ちょっと蓮子、いくらなんでも・・・」

 

 突然の戦闘命令にメリーは抗議する。ここで光学迷彩を解除して敵に自らの身を晒してしまえば、数に勝る敵艦隊の来襲を招く恐れがあるからだ。しかし、それを蓮子は聞き入れない。

 幾ら言っても無駄だと悟ったメリーは、蓮子が言う通りに艦の光学迷彩を解除して、自分達の乗るアルク級駆逐艦〈スターライト〉と惑星の影に隠しておいた僚艦の工作母艦〈アルゴル〉に係留されていた2隻の改フランコ級戦闘艇が発進し、〈スターライト〉に合流して大気圏内を突き進む。

 

「ぐっ・・・!蓮子、操艦乱暴なんだけど・・・!」

 

「っ、ごめんメリー、だけどちょっと我慢して―――よし、捉えた!」

 

 急激な加速と大気圏突入により駆逐艦〈スターライト〉の艦体は大きく揺れる。しかし舵を握る蓮子はそれを意に介することなく、未だに都市の市民に対して毒ガス散布を続ける円盤形航空機の群を主砲の射程に捉えると、躊躇いなくその発射ボタンを押した。

 

 蓮子が射撃ボタンを押すと、〈スターライト〉の艦首下部に搭載されたレーザー主砲塔ユニットが発光し、光の速さで円盤に迫る。少し遅れて、艦尾上部に搭載された2基の小口径レーザータレットも射撃を開始した。

 突然のレーザー攻撃を受けた円盤形航空機は、なす術なくレーザーの蒼い光線に焼かれて蒸発し、微細な燃えカスのような破片となって地上に墜落していく。

 

 〈スターライト〉の両舷を固める、スカーバレルのフランコ級水雷艇を改造した改フランコ級戦闘艇も、艦首に搭載された主砲を高速で旋回させて次々と円盤形航空機を撃墜していった。

 

「蓮子っ、地上から新たなエネルギー反応多数出現!追加の円盤よ!」

 

「対空VLS、ハッチ解放!マルチロックで一気に墜とす!」

 

「了解っ、射撃管制レーダー、マルチロックモード!」

 

 〈スターライト〉の襲撃を受けてか、地上施設から続々と新たな円盤形航空機が出撃する。

 大気圏内を高速で飛行する〈スターライト〉は、マルチロックモードでその円盤の群を捕捉し、艦尾底部に搭載した2基のミサイルコンテナから一斉に対空ミサイルを発射した。その数、合計24発。

 ミサイルコンテナから飛び出したミサイルの群は標的の円盤群に近づくと分裂し、一発あたり4発の子弾を射出する。

 発進した円盤群は突然目の前で分裂した対空ミサイルに対応することができず、その全てが物言わぬ鉄屑へと強制的に変貌させられた。

 

「円盤、全機沈黙・・・」

 

「ふぅ、目障りな連中は全部叩き落としたね・・・このまま星系を離脱するよ。工作母艦も呼び戻しておいて」

 

「了解・・・っと、その前に蓮子、工作母艦のレーダー範囲に敵艦の存在を捉えたわ。数は―――3隻ね。シャンクヤード級が一隻にナハブロンコ級が2隻。多分、気付かれたわね」

 

「チッ、仕事が早いんだから・・・メリー、工作母艦はステルスモードに移行してこっちと合流させて。私達も大気圏を抜けたら光学迷彩を起動してエクシード航法に移行、連中を振り切るよ」

 

「また無茶ですか・・・はいはい分かったよ」

 

「・・・って訳だから、もう少し波瀾万丈は続きそうだね。メイリンさんは大丈夫かな?」

 

「はい、私は大丈夫ですが・・・とにかくお嬢様が心配ですから、何とか振り切って下さいよ?」

 

 地上で非人道行為を働いていた円盤を一機残さず撃墜した蓮子は、今後の方針についてメリーと軽く打ち合わせると、確認の意味も込めてメイリンに尋ねる。

 だがメイリンにしてみれば、この程度の修羅場は既に想定済みだ。なので彼女は、余裕を見せて蓮子の問いに応えた。

 

「うん、任せておきな。またちょっと飛ばすから、振り回されないよう何かに捕まっといて!」

 

 メイリンの承諾を受けた蓮子は、舵をぐんと押し込んで〈スターライト〉を一気に加速させる。

 

 蓮子が操る小艦隊は、ヴィダクチオの哨戒部隊を振り切るべく苛烈な機動を開始した。

 

 

 




今回は敵の正体について、幾つかヒントとなる描写を挿入しました。保有する艦船は銀河帝国色が強いヴィダクチオ自治領軍ですが、そのモデルについては別の組織を参考にしているつもりです。ちなみに本小説では、SWについてはフォース等の世界観に関わる描写までクロスさせる予定はありません。あくまでメカ等のクロスに留まります。

それと蓮子の艦隊は、サルベージ屋としての能力に特化した編成となっています。アルク級駆逐艦は中身に解析機器や簡単な採掘機器を備えていたり、各種部品は高性能なパーツに換装されています。底部のコンテナもミサイルVLSになっていたりするので、原作序盤の非力なアルク級とは雲泥の差です。イメージとしては、ゲーム中盤~終盤の高性能モジュールでフル改装したアルク級です。護衛艦のフランコ級もそれほどではありませんが、かなりの改装を受けています。こちらは護衛艦ということで、戦闘に特化させた仕様です。工作母艦は彼女達の本拠地というイメージで、艦艇への簡単な補給、修復設備の他に休養設備、本格的な採掘機器なんかが搭載されています。頭の中でイメージしている工作母艦の形はディンギル水雷母艦ですが、形にするに当たってはかなりアレンジを加える予定です。

実際に書いてみると、蓮子達も霊夢ちゃんほどではありませんが原作ユーリ艦隊並に充実してますね・・・それだけ危ない橋を渡ってきたということでw


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第六○話 第一防衛線見ユ

 

 ~ヴィダクチオ自治領本土・サファイア宙域~

 

 

 

 多数の青色巨星や原始惑星系円盤、星雲が存在するここサファイア宙域は、青色巨星の蒼白い光が散光星雲に反射することにより、宙域全体が幻想的な光景で包まれている。

 

 その宙域の星雲内を縫うように、数隻の白色の艦艇が航行していた。

 ロンディバルト・オーダーズ所属の特務派遣艦隊である。

 

「少佐、間もなくレーダー障害が発生する宙域に入ります。」

 

「うむ。目視による警戒を厳にしろ」

 

「ハッ!」

 

 艦隊の指揮官―――ロンディバルト・オーダーズ特務派遣艦隊を率いるハミルトン小佐は、レーダー障害宙域突入の報告を受けて警戒方法を目視に切り替えるよう指示した。

 目視といえど、熟練見張員の手にかかれば戦闘距離外に存在する敵艦のエンジン噴射炎を見分けることもできるので、馬鹿にはできない方法だ。なので彼等が突入したようなレーダーに障害が生じる宙域では、このように往々にして目視による警戒が行われている。

 

「・・・しかし、だいぶ減っちまったなぁ・・・。こりゃ帰ったら怒られそうだ」

 

「ドートスの親父さんですか・・・まぁ、駆逐艦と巡洋艦を10隻近く失いましたからね。奇襲だったとはいえ、彼等が我々の艦船に対抗できる艦を複数揃えていたのも原因でしょう」

 

 ハミルトンは艦橋の窓から、めっきり減ってしまった自艦隊の様子を眺めて呟いた。

 出港時には彼の乗る旗艦、レオンディール級強襲揚陸艦〈ダウロン〉の他に、マハムント級巡洋艦とオーソンムント級軽巡洋艦が各2隻ずつとバーゼル級駆逐艦10隻が存在したが、先のヴィダクチオ自治領軍との交戦で巡洋艦はマハムント級を1隻沈められ、駆逐艦に至っては残り1隻まで撃ち減らされた。彼等の艦隊も負けじと反撃し、最終的には敵のシャンクヤード級巡洋艦2隻とナハブロンコ級水雷艇8隻を討ち取っていた。しかし、損害は同数といえど、艦隊の大半を沈められたオーダーズ艦隊は純軍事的には"全滅"の判定を受けるほどの損害を負ってしまった。

 

 ハミルトンの呟きに反応して、彼の左隣に控えていた少女然とした童顔の女性―――参謀のドリス大尉が応えた。

 ちなみに会話に登場したドートスとは、オーダーズ艦隊を預かる提督の名で、言わば彼等のボス的存在である。

 

「しかし、数が減って見つかりにくくなったのも事実だな。見つかってしまえばもう後はないが」

 

 一方では、ハミルトンが呟いた通り、艦隊の規模が縮小したことで隠密行動には丁度よい規模になった。だが、艦隊の規模が小さければそれだけ被発見のリスクは減るが、その分敵に見つかった際のリスクが増大したことも事実だった。この宙域に彼等の艦隊が足を踏み入れた理由も、ここがヴィダクチオ本星への道筋であることもあるが、何よりレーダー障害宙域に隠れることで被発見のリスクを減らすためだった。

 

「不謹慎ですよ、少佐。ドートスの親父さんに伝えますよ?」

 

「ハハッ、そうされちゃあ帰ったらいよいよ左遷かねぇ。俺ァお上の受けが宜しくねぇし。この任務を聞いたときぁ遂にポイされるのかと思ったぜ」

 

「それは流石に被害妄想ですよ、少佐。任務が任されたのは、少佐の戦歴あってのものです」

 

「戦歴・・・ねぇ―――俺、どーんな戦歴立ててたかねぇ。忘れちまったわ」

 

「認知症ですか、貴方は」

 

「うるせぇ。忘れたもんは忘れた。俺ァただ任務を果たしただけさ」

 

「はいはい・・・っと、排熱機構の点検は概ね終わったようですね。数刻前に越えた三重連星系の熱線で、いくらか冷却装置がダウンしているようです。報告データを転送します」

 

 ハミルトンの受け答えを聞いたドリス大尉は、半ば呆れるように溜め息をつくと、頬にかかった紫色の長髪を掻き分けて、一度手元の画面に視線を落とした。

 彼女の席には、艦内の整備班や僚艦から届けられた損傷報告のデータが表示されていた。それに目を通した彼女は、即座に艦隊司令のハミルトンへデータを転送する。

 

「ほいよ、・・・っと。あら、こいつぁ酷いな。この〈ダウロン〉でさえ排熱系の25%がイカれてるときたか。しかも僚艦の損傷も馬鹿にならんな・・・ドリス、予備部品の状況は?」

 

「はい、出港時は多めに調達できましたから、今回の損傷なら完全復旧可能です。ですが、今後の戦闘と帰路のマゼラニックストリーム越えを考慮すると、やや不足しているかもしれません。後ほど詳細報告を提出します」

 

「分かった。その件については、出来れば3時間以内、遅くとも5時間で完成させてくれ」

 

「了解」

 

 二人は先程までの砕けた雰囲気とは一変して、職業軍人らしい仕事モードでのやり取りを交わす。

 

 彼等の乗る艦隊旗艦〈ダウロン〉は工作艦としての機能も併せ持っており、この時点でも〈ダウロン〉から発進した工作艇が戦闘や宇宙線、恒星風による損傷を受けた僚艦の修理作業に当たっていた。艦隊司令のハミルトンは同時に補給整備作業の監督の任も受けていたため、こうして参謀のドリスに艦隊の資源状況の報告を任せていたのだ。

 

「・・・なぁドリス?」

 

「?、はい、何でしょうか」

 

 ハミルトンはなにか腑に落ちない点があったのか、再び参謀のドリスに声を掛ける。

 

「前の戦闘でこっちの艦はあれだけ撃ち減らされたのに、資源が少し不安だなんてことがあるか?出港時でたらふく積んできたんだとしたら、5隻まで減った今の艦隊には不足なんて生じないと思うんだがなぁ・・・」

 

「それですか―――確かに少佐の言われることは尤もです。仮に全艦が生き残っていたとすれば、予備部品の消耗はもっと激しかったでしょう。特に艦内容積の少ない駆逐艦には蓄えがありませんから、此方から供給しなければならない部品も多いですからね・・・ということは、少佐?」

 

「ああ―――完全に司令部のミスだなこりゃ。充分な補給整備態勢を確立するなら、少なくとも工作艦化させたレオンディールがもう2隻は必要だ。任務の性質上、足も機動力もない大型艦隊補助艦は連れてけないからな・・・全く困ったもんだぜ。どうせ小マゼランは雑魚ばかりだと思って、この程度の補給態勢で充分と判断したんだろうな、お上さんは」

 

「それは・・・ですが、ヴィダクチオは小マゼランの一自治領に過ぎませんから、参謀本部もそう判断するのもある意味仕方ないのかもしれませんね」

 

「ったく、これだから現場を知らん純粋培養のエリート共は役立たずなんだよ・・・俺が直々に"大マゼラン宙域海賊と敵が通じているなら、敵の装備もそれに準じたものに違いない"って言ってやったのにも関わらずこのザマだ。なーにが"小マゼランの連中なんぞ、この程度の艦隊で充分"だよ、足りねーのはてめえらの頭だってんだ・・・あーあ、こうなるならドートスの親父さんとコネでも作っておくんだったな・・・」

 

 ハミルトンは延々と、誰に向けたわけでもなく愚痴を溢す。

 事実彼は出港前、派遣艦隊の規模を決定したオーダーズ参謀本部に対して戦力の低さと補給態勢の不備を訴えていた―――具体的にはネビュラス級戦艦1個戦隊4隻と新型空母ギャラクティカ級1個戦隊2隻に加えて改レオンディール級高速工作艦(〈ダウロン〉と異なり本格的な工作艦化改装を受けたタイプ)2隻の追加配備を要請していたのだが、それらの要請の悉くが跳ね返されている。

 

 実際に彼の艦隊がヴィダクチオ自治領軍艦隊と刃を交えたことでその懸念は現実のものとなっていたが、幾ら愚痴を溢したところで、もう既に遅いことだった。

 

「あの・・・少佐?」

 

「っと、ああ・・・済まん済まん。つい不満が出てしまってねぇ―――それと艦隊の資源状況の報告の件、任せたぞ」

 

「あっ・・・はい、了解です」

 

 参謀のドリスに訝しげに見つめられて、慌ててハミルトンは愚痴を止めた。

 

(さっきはああ言ったが、実際のところは俺等ぁ鉄砲玉ってとこだろうな・・・今頃本部では情報将校共がこき使われてる頃だろう・・・さしずめ、現物が手に入れば万々歳、俺等が玉砕しても情報戦でデータさえ取れれば大勝利、ってところか―――だがまぁ、こっちも預かるもん預かってるんでね・・・そう簡単に、死ぬわけにゃいかないんでね―――!)

 

 ハミルトンは一度正面の景色を見据えながら、内心でそう決意を固めた。

 

 彼を乗せた強襲揚陸艦〈ダウロン〉は、確かな足取りで暗黒ガスの海を進み、ヴィダクチオ本星へと向かっていった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウイスキー宙域・第四恒星系外縁~

 

【イメージBGM:無限航路より「overworld second Act(青年編通常航海BGM)」】

 

 

 ウイスキー宙域内の惑星状星雲付近でヴィダクチオの艦隊を撃破し、アイルラーゼン軍艦隊と合流した霊夢達は、宙域内を一路、ヴィダクチオ本土宙域に続くボイドゲートを目指して進んでいた。艦隊は宙域深部に存在する第三恒星系を抜け、ボイドゲートが存在する第四恒星系に差し掛かったところだ。第四恒星系は連星系で、航路はちょうどその中央を横切る形でボイドゲートへと続いている。

 

「艦長、敵のヴェネターの解析が終わったぞ」

 

「それはご苦労様。で、結果は?」

 

「まぁそう焦るな、先ずはこいつからだ」

 

 霊夢が控える艦橋に上がったサナダは、データディスクを艦長の霊夢に手渡すと同時に、解析したヴィダクチオ軍のヴェネター級についての報告を始めた。

 

 このヴェネターは前回の戦闘で霊夢達に鹵獲されたもので、破壊されたエンジンノズルを応急的に復旧させた後、艦内に侵入させた機動歩兵隊の手により制御系を乗っとることで艦隊に随伴させていた。

 その間に、科学班のサナダと整備班のにとりが中心となって解析を進めていたのだ。

 

「敵艦の内部構造であるが、詳細な調査の結果、かなり原設計に近い状態であることが判明した。我々のヴェネターは空間通商管理局の標準設備に合わせた改設計と舷側砲廓の廃止などの措置が施されているが、敵のヴェネター級は艦内通路の位置、武装の配置共に原設計に忠実だ。即ち、敵のヴェネター級は近距離での同航戦に強い艦、ということになるな」

 

 

「・・・つまり、大口径砲の類いは積まれていない、ってこと?」

 

「そうだ。少し以外かもしれんがな」

 

 ヴィダクチオのヴェネター級を解説するサナダが以外と評したのは、彼等が保有するリサージェント級戦艦が極めて超射程の屈折レーザー砲を保有していたことに起因する。サナダはヴィダクチオの戦艦群がこの超射程レーザーを主力にしていると考えていたが、その予測が外れたのは彼にしてみれば以外だった。

 

「・・・なんか、聞いていると中途半端な艦ね。元のヴェネター級って」

 

「ああ、それは私も感じていたことだ。ヴェネター級は空母に匹敵するだけの艦載機運用能力を有しているが、砲填兵装は中~近距離での交戦を主眼に置いたものだ。それも駆逐艦撃退用などの防御的なものではなく、砲門数から本格的な交戦を想定したものだと考えられる。確かにこれは、我々から見れば随分と矛盾した設計だな。これを設計した者達の用兵思想は、我々とはかなり異なったものだったのだろう。コーディ、その辺りはどうなんだ?」

 

 サナダがヴェネターの設計思想を矛盾していると評したのは、現代の艦艇設計思想から考えれば至極当たり前のことだった。現代型宇宙艦船、特に軍艦は艦種ごとの役割が明確に分担されており、一般には戦艦は遠~中距離砲戦、巡洋艦は中~近距離砲戦と護衛任務、駆逐艦は近距離での砲雷撃戦、空母は艦隊後方に位置して航空機による艦隊防空、攻撃任務に投入されるのが定番だ。強襲揚陸艦などの艦種はアンリトゥンルールによって惑星への直接攻撃が禁じられており、大半の惑星は航路の閉鎖だけで容易に陥落するため重要視されていないが、それでも整備する際にはそれ専門の艦艇を設計するか、輸送艦を転用するのが定石だ。時々カルバライヤのバゥズ級やダガロイ級、元は空母として造られたロンディバルトのレオンディール級のような例外はいるが、概ね諸国の艦船はこの設計思想に沿って建造されている。

 

 だがヴェネター級は、艦体自体は現代の戦艦並のサイズでありながら、砲填兵装は駆逐艦~巡洋艦並で数が多く、さらに艦載機、強襲揚陸艇なども空母や揚陸艦並に搭載されている。それらの艦載機を搭載することは近距離砲戦での誘爆リスクを上昇させることになるので、上陸支援や戦闘空母的運用を目指すなら砲填兵装は遠距離から砲撃できる戦艦や重巡と似たものになるのが現代の常識だが、敢えてヴェネターは近距離砲戦を主眼とした砲填兵装を搭載しているのが、サナダにとっては腑が落ちない点だった。

(ちなみに霊夢艦隊のヴェネター級〈高天原〉は近距離砲戦用の砲廓を全て撤去され、跡地は対空VLSや格納庫に転用されている)

 

 この点を疑問に思ったサナダは、当時の用兵を知ると思われるコーディに話題を振った。

 

「そうだな・・・確かに現代の常識からすれば、ヴェネターの設計は中途半端に見えるだろうな。だが俺達の時代には、艦艇同士の交戦距離は遠くとも現代の半分程度だったし、近距離砲戦もかなり頻繁に起きていた。加えて艦隊も10隻以下で編成されることが通常だったし惑星攻撃も日常茶飯事だった。だからヴェネターは大型汎用艦としての性格を強めている」

 

「成程な。有難うコーディ。つまり、ヴェネターはサイズこそ戦艦並だが、現代の駆逐艦や巡洋艦を極限まで大型化させて空母機能を持たせた汎用艦、と考えるべきだということか」

 

「その認識で、概ね間違いないだろう」

 

 サナダの解釈に、コーディは肯定の言葉を返した。

 しかしそれによって、もう1つの疑問がサナダの脳内に浮かぶ。

 

「・・・だとすれば、ヴィダクチオの技術陣はかなりチグハグだな。古代艦船を復活運用させ、しかも量産する力があるにも関わらず、現代の用兵思想に沿った改設計を行わないとはな・・・一体これはどういう意味だ」

 

「さぁ?俺には分からんな。霊夢はどうだ?」

 

「私に聞かれても・・・ねぇ、早苗?」

 

「私も分かりませんよぅ、そんなの・・・」

 

 伝言ゲームのように話題がコーディから霊夢、そして早苗に振られるが、回答を得ているものは誰一人として存在しなかった。

 

「むぅ、これについては分からず終いか・・・まぁ、仕方ないな。それともう1つ報告があるが、敵のヴェネター級の耐久性能はやはり、大マゼラン艦船に比べると劣るものらしい。サイズこそ戦艦並だが、耐久性は巡洋艦並だ。元が戦艦でないからと言われればそこまでだが、使用されている装甲の耐久性能は一般的な大マゼラン艦船に比べるとそれなりに劣る程度のものだった。とはいっても、一般的な小マゼラン艦船と比べたら雲泥の差だがな」

 

「成程ね・・・だとしたら、敵のヴェネターはシールドさえ突破してしまえば戦艦の主砲で簡単に沈黙させられるってことね」

 

「ああ。先の戦闘データも、それを裏付けている。だが油断は禁物だぞ。幾ら大マゼラン艦船に一歩及ばないといえど、纏まった数が組織的に運用されれば小マゼラン艦船を遥かに上回る脅威であることには違いないからな」

 

「そこは心得ているつもりよ。ああほんと、連中は厄介なんだから・・・それで、報告は終わり?」

 

「ああ。現状で判明していることは以上だ」

 

「了解。下がってよろしい」

 

「では」

 

 報告を終えたサナダは、一礼すると踵を返し、艦橋を退出して研究区画へと戻っていった。

 

 

 

 ..........................................

 

 

「ふぅ・・・終わったか。―――コーディ、サナダさんの分析、どう思う?」

 

「先程の報告か。少なくとも、内容自体は信用できるだろう。であれば、サナダが言った通り纏まった数を組織的に運用されると厄介なのは確定したな。前回の勝利は、此方が奇襲という条件を最大限に生かして有利なポジションを取れたためだろう」

 

「やっぱりそうなるよね~。分かってはいたことだけど、正面からガチンコ、って訳にもいかないかぁ~。本当、どう料理してやればいいのやら」

 

「敵の動向といえば・・・あの巨大艦のことも気にかかりますし―――」

 

 私とコーディが先程のサナダさんの報告について話していると、早苗があの巨大艦、リサージェント級戦艦の動向についての懸念を伝えてきた。

 

「巨大艦―――リサージェント級だな。あのクラスを如何にして早期に撃破するかが、艦隊決戦の要となるだろう」

 

「あの図体だからね・・・撃破するにしても、かなり時間がかかりそう――――」

 

 私は二人と話しながら、デスク上に例のリサージェント級戦艦のホログラムを呼び出して、それをくるくる回転させたりして玩んだ。

 そうしていると、ホログラムの一部の構造・・・超射程歪曲レーザーの砲口が目についた。

 

「これ―――ちょっと、コーディ、早苗?これを見てくれる?」

 

「何だ?」

 

「はい、何でしょうか―――?」

 

 私は二人を呼んで、ホログラムの砲口を見せる。

 

「この超射程歪曲レーザーの砲口、リサージェント級のサイズからすると、かなりでかくない?」

 

「そうだな。艦自体が3000m級だから、砲口の大きさもこの比率だと200mを越えるだろう。それがどうした?」

 

「ここ、艦載機隊を突入させれば、上手くいけば砲口を破壊できるんじゃないかって思うんだけど、どう?」

 

 リサージェント級の砲口は、艦体のサイズから推定すると艦載機が数機纏めて容易に突入できそうなほどのサイズを持っている。そこから艦載機隊を突入させて、砲口を破壊すれば、あの厄介な超射程歪曲レーザーを沈黙させられるのではないだろうか?

 

「成程・・・その手がありましたか!流石です霊夢さん」

 

「ふむ・・・だが、あれだけのビームを放つ砲口だ。砲身内部の耐熱性や防御も考慮されていると見るべきだと思うが?加えて砲口にはシャッターらしき構造物も見受けられる。そう簡単にはいかないぞ」

 

「それはそうだけど・・・幾ら砲身が防御されているとは言っても、レーザー発生器は構造上脆い筈だし、艦載機の火力でも何とかなりそうな気もするけどなぁ」

 

 コーディが指摘した通り、超射程歪曲レーザーの砲口は敵艦にとっても重要区画の筈だから、充分に防御されていると考えるのが普通だ。だが敵艦の規模を考えると、純粋に砲雷撃戦で片をつけるのでは撃破するまでに此方が膨大な犠牲を出すことになる。なら艦載機隊を砲口に投入させて、敵の超射程レーザーを封じた上で艦隊決戦を挑むという策は、充分考慮に値するのではないだろうか。

 

「砲口への突入を考えるなら、ここはVFとジム隊が適任でしょうか。人型なら機動性も効きますし、砲口内に留まっての破壊工作なんかも出来そうな気がします」

 

「そうだな。砲口の防御がどれ程か詳しくは分からんが、敵が砲撃のためにシャッターを開いたタイミングを見計らって、砲口に攻撃隊を突入させる手もない、か。霊夢、これを実行するなら、ジム隊に大火力を持たせた方が良さそうだと思うが?」

 

「確かにそうね。ジムの主兵装は確か対艦載機用のマシンガンだし、VFも元は制空戦闘機だから・・・よしっ、ここはにとりの奴に頼んでみましょう」

 

 私はその策を思い付くとすぐに、整備室に通信回線を繋いでにとりを呼び出した。

 

《なんだい艦長?こっちは今忙しいんだけど》

 

「にとり、いいから聞いて。ジムに大火力兵装を持たせたいの。今すぐ作ってくれる?」

 

《おいおい、急な注文だな・・・まぁいいよ。元々ジムの売りは高い兵装換装能力だからね。試作品なら幾らかあるから、そいつらを実用レベルにして量産しとくよ》

 

「任せたわ。出来れば5日以内にお願い」

 

《珍しく工期指定もか・・・こいつは燃えてきたね。任せておきなよ、整備班の名にかけて、期限までには用意してみせるさ》

 

「頼んだわよ」

 

 私がにとりに用件を伝えると、すんなりと彼女は承諾してくれた。

 会話のバックではなんかの溶接音や機械音が鳴り響いていたから、早速作業に取り掛かるのかもしれない。あそこは万年機械弄りばかりやってるような連中の巣窟だし、もしかしたら熱が入りすぎてとんでもない代物を造り上げてくるかもしれないけど、そのときはそのときで有効活用させて貰うことにしよう。

 

「ああ早苗、今期の整備班の予算、2割増しでお願い」

 

「了解しました。後で主計課のルーミアさんに伝えておきます(くくっ、本当はもっとヤバい機体も造らせてるんですけど、今は黙っておきましょう♪)」

 

 早苗に予算増額を頼むと、彼女はタブレットを取り出して、早速主計課にそのことを伝えたようだ。

 ・・・予算請求のときの態度がやけに嬉々としていたような気がするんだけど、気のせいかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウイスキー宙域・ボイドゲート近傍暗黒星雲内~

 

 

 ウイスキー宙域の最奥に位置するボイドゲート、その周囲を取り巻く暗黒星雲の雲海を往く、一機の航宙機の姿があった。

 

「―――こちらグリフィス1。未だ敵影見ず」

 

《分かりました。そのまま偵察飛行を続けられたし》

 

「了解―――」

 

 暗黒星雲の黒き雲海を突き進むのは、霊夢艦隊のパイロットの一人、バーガーが操る偵察機だ。

 彼は偵察任務ということもあり、普段乗り慣れた可変戦闘機VF-19ではなく、増槽とアクティブステルス装置、偵察ポッドを装備したDMB-87〈スヌーカ〉に乗り込んでいた。

 

「隊長、そろそろレーダー衛星の射出ポイントです」

 

「おっと、そうだったな・・・これで最後の衛星か。まだ敵影はないが、もう少し進んでみるか?」

 

「そうですね・・・推進材にはまだ余裕がありますし、衛星射出後もう暫く進んでみましょう」

 

 後部座席に搭乗するマリアが、隊長のバーガーにレーダー衛星の射出を進言する。バーガーはそれを了承し、進言通りに、レーザー衛星の射出ボタンを押した。

 

 予め搭載した偵察用レーダー衛星の射出ポイントに到達した機体は、翼下に懸架したレーダー衛星が入ったポッドを射出する。射出されたポッドは一定の距離を進むと、外装をパージして衛星本体を作動させた。

 

 衛星を射出した機体は、二人が打ち合わせた通り暫くの間直進を続ける。

 

「・・・そろそろボイドゲートが見える位置だぞ。まだ敵影は見えないのか?」

 

「はい・・・本機のレーダー、同期した衛星のレーダー共に反応はありません」

 

「おかしいな―――事前の予測では、この辺りの暗黒ガス帯で敵が待ち伏せている可能性が一番高い、って話だったが」

 

 バーガーは、未だ見えぬ敵影に不信感を抱いていた。

 発進前に行われた事前のミーティングでは、艦隊の予想進路上に存在し、かつレーダー障害の高い暗黒ガスが充満しているヴィダクチオ本土宙域へ繋がるボイドゲートの近辺で敵は待ち伏せていると予測されていた。しかし、彼等の乗る機体がボイドゲートに近付いても、敵艦隊の姿は一向に見えなかった。

 

「なぁマリア、俺達の設置した衛星が、誤って暗黒ガス帯に入っちまったってことは考えられないか?」

 

「それは無いと思いますよ。リンクしてる衛星は全て正常に稼働してますし、万が一暗黒ガスの中に入ったとしても、赤外線センサーも搭載しているので半径0,1光時の範囲は探知できる筈です。他の部隊も航路上に同型の偵察衛星を設置していますから、ここまで来ていないとなると、本当に敵艦隊は存在しないのでは?」

 

「そうだと良いんだがなぁ―――」

 

 マリアはヴィダクチオ軍艦隊が事前の予測に反して不在なのではという推測を伝えるが、バーガーはどこか納得いかなげな表情をしていた。彼の軍人としての勘が、敵はこの暗黒星雲の何処かに潜んでいると告げていた。

 

「―――隊長、暗黒ガス帯に入ります」

 

「警戒を目視に切り替えるぞ。噴射炎の一つも見逃すな」

 

「了解です」

 

 二人を乗せたスヌーカは漆黒の雲海の中へ飛び込み、瞬く間に周りは暗黒の世界に包まれた。

 

「場所的に、この暗黒ガス帯を抜けた先がボイドゲートか」

 

「そうなりますね。そこまで行って敵がいないとなれば、本当にこの宙域には敵艦隊がいないことになりますね」

 

「前倒したあの艦隊が、この宙域の全戦力だったら良いんだけどなぁ。ともかく、今は警戒だ。機体下方は何かいるか?俺の視界には何もいないんだが」

 

「いえ、こちらも見当たりません」

 

「そうか・・・」

 

 敵影見ずの報告に、バーガーは焦りを強めた。

 

 絶対この雲海の何処か居る筈だ―――彼はそう、強く確信していたのだが、いよいよ推進材の残りが厳しくなってきたからだ。そろそろ引き返さなければ、帰還する前に推進材切れで宇宙を漂う羽目になってしまう。バーガーもそれだけは御免だった。

 

「―――マリア、あと5分進んで何もいなかったら引き返そう。推進材の残量が心許ない」

 

「そうですね、了解です――――――ん?あれは・・・」

 

 バーガーの方針をマリアは了承したが、途中でなにかを見つけたのか、視線を機体左下の方角へ向けた。

 

「隊長、あれって―――」

 

「なんだ、―――っ、アレは・・・!?」

 

 マリアの指摘を受けて、バーガーも彼女の視線の先を追う。

 

 そこには、不鮮明ながらも、巨大な楔型の影が複数、蒼いインフラトンの噴射炎と共に見えていた。

 

「おいおいおい、ようやっとお出ましかい・・・! マリア、敵艦隊の希望は分かるか!?」

 

「はい・・・っと、視界が不鮮明な上レーダーが使えないのでよく分かりませんが、1500m級の戦艦クラスが1隻、ヴェネター級艦が4隻、その前方には300m級の護衛艦が複数―――恐らくナハブロンコ級だと思われる艦影が20隻前後見受けられます!」

 

「チッ、なかなかの規模じゃねぇか・・・!マリア、レーダー衛星に奴等の影は映っているか?」

 

「いえ、ギリギリ探知圏外のようです!」

 

「成程な・・・敵さんもなかなか運がいい――――マリア、直ちに艦隊に連絡だ!それと無人機を一機、常に接触させるよう要請してくれ!ここまで来て見失ったとありゃこれまでの苦労が水の泡だからな!」

 

「了解ですっ、艦隊への通信回線を開きます!」

 

 遂にヴィダクチオ軍艦隊の姿を捉えたバーガー達のスヌーカは、敵艦隊上空を旋回すると、母艦〈開陽〉に向けて敵艦隊発見の報せを打電し続けた。

 

 

 彼等の眼下の敵艦隊では、既に円盤形インターセプターが数機ほど、慌ただしくヴェネターの甲板を蹴っていた・・・

 




お久し振りです。テスト期間に加えて本文そのものに煮詰まってしまったため、投稿間隔が空いてしまいました。

そろそろ6章も中盤に差し掛かります。敵の正体については(特に前回で)色々とヒントを出しましたが、見当がついた方はいらっしゃいますかね。

本文自体も、複数の勢力を動かすというのがなかなかに難しいです。今までとは違って群像劇っぽい雰囲気になってるように思います。この類の形式はまだ慣れないので、今後も精進していく所存です。

次回からは、投稿ペースを戻していこうと思います。


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第六一話 敵本土への道

 

 ~ウイスキー宙域・ボイドゲート近傍~

 

 

 

 

 ヴィダクチオ自治領・ウイスキー昼間の果てに浮かぶ本国へのボイドゲート。その周囲を取り囲む暗黒星雲のなかで、複数の航空機が死闘を演じていた。

 追う側は4機の円盤形航空機、対して逃げる側は一機の紫色の艦載機―――バーガー達の乗る〈スヌーカ〉だ。

 

 バーガーはヴィダクチオ軍艦隊の迎撃機の追撃を振り切ろうと複雑なマニューバを描きながら、無線機で必死に艦隊へ敵発見の報告を届けた。

 

「こちらグリフィス、敵艦隊見ゆ、繰り返す、敵艦隊見ゆ!敵はボイドゲート付近の暗黒星雲内を航行中!」

 

《了解。敵艦隊の規模は分かりますか?》

 

「はい・・・っ、確認した限りでは、敵艦隊は戦艦1隻とヴェネター級巡洋艦4隻、ナハブロンコ級20隻程度と推察されます―――っ!」

 

 バーガーから引き継ぐ形で、後部座席のマリアが発見した敵艦隊の規模を伝える。

 

 だがその間にもインターセプターは頻りに背後についてはレーザー機銃を放ち、徐々にバーガー達のスヌーカを追い詰める。

 操縦桿を握るバーガーは紙一重でこれを躱しつつ、反撃と離脱のチャンスを窺っていた。

 

「マリア、今だ、旋回機銃を撃て!」

 

「りょ、了解っ・・・!」

 

 後部座席のマリアは報告を終えると同時に、バーガーの指示に従ってキャノピー後部にある旋回銃座の発射ボタンを押した。

 発射指示が下された旋回銃座は自動で敵を追尾するとパルスレーザーの弾幕を放ち、忽ちのうちに一機の敵機をその火線に絡め取った。

 パルスレーザーで撃ち抜かれた円盤形インターセプターの一機は、被弾でよろめいた後に爆発を起こし、ダークマターへと還った。

 

「敵迎撃機一機、撃墜しました!」

 

「だがまだ敵さんウジャウジャしてやがるな・・・こいつは厳しい戦いになりそうだ」

 

 敵機撃墜に湧くマリアと対照的に、操縦桿を握るバーガーの顔は晴れない。

 一機の敵機を撃墜したとはいえ。まだ背後に取り付いている敵機は3機ほど残っていたからだ。

 

《グリフィス1、状況が優れないようですが、救援を出しますか?》

 

「いや、大丈夫だ。こっちは何とか振り切ってみせるさ。それよりも、敵さん攻撃隊まで出してきたみたいだ。恐らくそっちの位置は既に捕捉されている。一機でも多く、攻撃隊の迎撃に割いてくれ」

 

《・・・、了解しました。ご健闘を祈ります》

 

 艦載機のオペレーターを担当するノエルは冷静に状況把握に努めたが、その声色からは二人を心配する気持ちが窺えた。

 だがバーガーは、眼下の敵艦隊が攻撃隊を発進させていることを鑑みて、ノエルの提案を蹴って独力での帰還を選択した。敵が既に攻撃隊を発進させている以上、戦闘機は一機でも多く艦隊の直掩に割くべきだと、彼の元軍人としての判断は告げていた。

 

「悪いな、マリア。ちと厳しい退路になりそうだ」

 

「いえ隊長、元より承知の上です。今はこの状況に集中しましょう」

 

「・・・言ってくれるじゃねぇか―――ま、俺もこんな処でくたばる訳にはいかないんでね、何とかしてみせるさ」

 

 バーガーは額に冷や汗が流れるのを感じながら、マリアに対して精一杯の虚勢を張って見せる。

 互いの戦力差から無事に離脱するのは難しく、さらに激しい空戦機動を繰り返したお陰で最早帰還できるだけの推進材も機体には残されていなかった。

 

 だがバーガーとて生還を諦めた訳ではなく、この状況のなかで生き残るためにはどうするべきか、必死に頭を回転させていた。

 

(くそっ、敵さんもしつこく食らい付いてきやがる・・・旋回機銃は既に使っているから敵も警戒している筈だ。さっきのようにはいかないだろう・・・ならどうする?此方から打って出るか?どのみち帰りの推進材はもうねぇが、幸いレーダー衛星網のお陰で艦隊の方角は正確に分かっている。慣性航行で帰れない訳じゃない。なら身軽になった今はいっそ、後顧の憂いを断つべきか―――)

 

 バーガーは敵の攻撃に当たらぬよう機体を操作しながら、現在の状況を一通り分析し、行動の方針を定める。

 

「―――マリア、打って出るぞ」

 

「・・・了解です」

 

 ただ一言、後部座席の相棒に告げると、バーガーは思いっきり操縦桿を引き、フルスロットルで一気に機体を加速させた。

 

「グッ・・・だが、これで・・・!」

 

 急加速と急上昇で機体を敵迎撃隊の斜め上方後ろに持ってきたバーガーは、敵の位置を確認すると、そこを目掛けて機体を急降下させた。

 

「取った!墜ちろ!」

 

 インターセプターの一機の背後を取ったバーガーは、機首のロケット発射ボタンを押す。

 

 スヌーカの機首両脇に備えられたランチャーから飛び出したロケットは、至近距離の敵を熱反応で捉えると一気にそこへ向けて殺到し、忽ちのうちに敵インターセプターの一機を火達磨にした。

 

「これで、あと2機だな」

 

「はい―――っ!?隊長!後方より新たな敵機です!数は5機!」

 

「はァッ!?ここまで来てか!?」

 

 一難まだ去らぬまま再び一難、今度は別の敵小隊までがバーガーの機体を追撃し始めた。

 

 バーガーは予想外の増援に対して舌打ちつつも、まだ生還を諦めんと突破の可能性を探る。しかし彼は、今度はどうやっても生還のビジョンを描けそうになかった。

 

(チッ・・・倒しきらねぇうちにお代わりかよ!頼んでもいねぇのに次々と・・・しかしこれだけの数、どうしてやろうか―――)

 

 彼等のいる場所は敵艦隊からある程度離れているとはいえど、艦載機なら直ぐに到達できてしまう距離だ。ここでインターセプターとじゃれ合ったとしても、何れ物量差で押しきられてしまうのは目に見えている。しかしだからといって逃走する方を選んだとしても、7機に増えたインターセプターの追撃を躱しながら帰還への道を探ることも容易ではない。

 

「ったく、どうしろってんだよ・・・ッぐぅ・・・!?」

 

「っッ・・・、た、隊長―――!左翼に一発、食らいました―――!」

 

 今まで機体に掠り傷すら許していなかったバーガーだが、極限の集中にも遂に限界が訪れたのか、敵のレーザー機銃を左翼の中央に受けてしまう。

 被弾の衝撃で彼等のスヌーカは一瞬よろめき、左翼は被弾を受けた箇所から、特徴的な逆ガル翼の中央付近でもげて爆発した。

 

「・・・っ、ここが空中だったら死んでたとこだな」

 

「ですが隊長、まだ敵の攻撃は続いています」

 

「んなこたぁ分かってるんだ、クソッ、なかなか食い付きが良い連中だぜ―――!」

 

 バーガー達の機体に一撃を与えることができたためか、インターセプターの群は先程までよりも躍起になってバーガー達を執拗につけ狙う。

 対して操縦桿を握るバーガーの集中は、限界に達しつつあった。

 

「た、隊長ッ、敵にロックされました!」

 

「何・・・ッ、くそっ、やらせるかよ!」

 

 二回目はないと言わんばかりに、二人の機体は胴体への直撃コースでインターセプターからレーダーロックされる。

 バーガーは必死に機体を射線から逸らそうと試みるが、敵もなかなか外れてはくれず、必中のタイミングでレーザー機銃を放たんとする。

 

(ッ―――、ここまでか・・・)

 

 万事休すか、という諦めが生じかけたそのとき、バーガー達を追っていたインターセプターのうち一機が爆散した。

 

「な、何だ!?」

 

 来る筈の衝撃はなく背後の敵機が爆発したことで、バーガーは不思議に思って辺りを見回す。

 

(あれは・・・VF-22か!?)

 

 彼の視線の先には、頼もしい友軍の姿が映っていた。

 

《こちら戦乙女(ヴァルキュリア)2、援護します》

 

「―――こちらグリフィス、救援に感謝する・・・!」

 

 敵機を撃墜した紫色の戦闘機、コールサイン・ヴァルキュリア2のシュテル・スタークスが操るVF-22〈シュトゥルムフォーゲルⅡ〉は、バーガー達のスヌーカとすれ違い、一直線に敵編隊に向けて突撃する。

 

 突然の乱入者に気を取られたのか、敵編隊の統率が乱れた隙に、シュテルはマルチロックで機体のマイクロミサイルを全弾発射し、瞬く間に4機のインターセプターを撃墜した。

 

「ヒューっ、やるねぇお嬢さん。伊達に戦乙女(ヴァルキュリア)を名乗っている訳ではないってか」

 

「隊長、今のうちに態勢を建て直して脱出しましょう」

 

「おっと、そうだな。ヴァルキュリア2には悪いが機体がこの状態じゃあ反撃なんて出来ないからな。この隙に、一気に敵との距離を離させてもらおうか」

 

 機体が中破させられたバーガーは、背後でインターセプターと死のダンスを繰り広げるシュテルを尻目に、この隙に乗じてとフルスロットルで機体を加速し、敵インターセプター群の追撃から逃れた。

 

 対して戦場に一機残ったシュテルではあるが、一度に4機も落とされたためか錯乱した敵インターセプターを一機ずつ片付けると、軽やかな足取りで機体をバーガー達のスヌーカの隣に並ばせた。

 

《―――こちらヴァルキュリア2、敵は全て片付けました。そちらの推進材は心許ないでしょうから、艦隊への帰路は私が誘導致します》

 

「こちらグリフィス、さっきは助かった。でも何でお前さんが俺達の位置まで駆け付けられたんだ?あんたの担当区域はもう少し離れていたと記憶していたんだが」

 

《フフっ、貴方と同じですよ。幾ら探しても敵艦隊が見当たりませんでしたから、出来る限り奥まで探そうとしただけです。そこで敵と遊んでいる貴方を見付けましたので、助太刀させていただきました》

 

 シュテルは柔らかい口調で、バーガーの問いに対して応えた。

 彼女もまた、バーガー達と同じように索敵任務に出ていたところだったのだが、彼等と同じようにまだ見ぬ敵艦隊艦隊を求めて索敵飛行を続けてここまで辿り着いていた。

 

「成程ねぇ。まぁ、それでこっちは助かった訳だから礼は言っとくぜ」

 

「私からも・・・シュテルさん、援護有難うございました」

 

 《いえ、お気になさらず。私は務めを果たしたまでですから》

 

 バーガーとマリアの礼に対して、二人に対してまだ新参の身のシュテルはあくまで謙虚に振る舞う。

 

 死線を潜り抜けたことから来る安堵のためか、2機の間には落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 

「ふぅ、ともあれこれで一段落だ。帰りの案内は任せたぜ」

 

《了解です。ちゃんとエスコート致しますよ》

 

 暗黒の雲海のなかを、紫色の2機は帰るべき場所へと向けて飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~旗艦〈開陽〉艦内~

 

 

《総員に次ぐ、本艦はこれより戦闘態勢に移行する!直ちに配置につけ!繰り返す―――》

 

 敵発見の報を受けて、『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦内では戦闘配備を告げるアナウンスの音声が鳴り響く。

 

「戦闘配備か・・・悪い、そろそろ私、行かなきゃならないんだが、部屋まで戻れるか?フランドール」

 

「う、うん・・・サクヤがいるから大丈夫だよ」

 

 艦内通路でその放送を聞いた霊沙は、一緒にいたフランドールにそう告げると、彼女が与えられた部屋まで戻るのを確認して格納庫へと急いだ。

 

(なんか最近、フランドールの奴が妙に私にくっついてくるな・・・懐かれた?しかしなんで私なんだ・・・?あいつを助けたのは霊夢の筈なんだから、懐くなら普通そっちじゃないかな・・・)

 

 この日に限ったことではなかったのだが、霊沙は頻繁にフランドールに見付かってはくっつかれていたので、懐かれる心当たりがない霊沙はそれを疑問に感じていた。

 

「やあ。3日ぶりくらいかな?」

 

「よりによって・・・何であんたが居るんだよ?」

 

 格納庫へ赴く通路の途中で、呼び止められた霊沙は立ち止まった。彼女は自分を呼び止めた主に、不機嫌そうな視線を向ける。

 

「ただの偶然よ。しっかし相変わらず可愛いげのない奴ねぇ、あんた」

 

「―――オマエはいちいちそうやって、私の神経を逆撫でする・・・私は急いでるんだ、消え失せろ」

 

 霊沙は一層眼光を鋭くして、警告は一度だけと言わんばかりに眼前の人物―――マリサに対して告げた。

 

「酷いわねぇ。少しは優しくしてくれてもいいのに」

 

「ならまずは消えな」

 

「・・・本当、つれない奴ね―――」

 

 一歩も変わらない霊沙の態度に、マリサは忌々しげに呟く。

 

「―――じゃあな。さっきも言ったが、私は急いでいるんだ」

 

 そんなマリサを横目に、霊沙は彼女の隣を通りすぎようとする。

 霊沙がちょうど彼女とすれ違うそのとき、マリサは一言、霊沙にだけ聞こえるほどの小声で呟いた。

 

「それにしても、あんたの化けの皮が剥がれるのはいつかしら、ねぇ・・・博麗れ―――」

 

「――ッ!?」

 

 マリサが言い掛けたところで、彼女の頬を霊沙が放った弾幕が掠める。

 

「・・・あんた、何者だ・・・?」

 

「そう簡単に、答えるとでも思って?」

 

 臨戦態勢の霊沙に対して、あくまでマリサは飄々とした態度を貫き通す。

 

 二人の間に、張り詰めた緊張感が漂った。

 

「・・・殺すぞ」

 

「あら、やるの?私は別に構わない()?」

 

「!?っ・・・」

 

 マリサがそう告げた瞬間、先程のものよりも力が込められた光弾が彼女目掛けて殺到する。光弾は全て着弾し、通路は衝撃で生じた煙に包まれた。

 

「・・・チッ、外したか」

 

 しかし、煙が晴れて現れたのは、全ての光弾を防ぎきって、なおも余裕の表情を崩さないマリサの姿だった。

 彼女が防御のために突き出した右手の先には、彼女の身体を隠せるほどの大きさの魔方陣が展開されていた。

 

「危ない危ない。乱暴はその辺りにしておいたら?」

 

「あんた、まさか・・・」

 

「おっと、それ以上は言う必要はないわ。それじゃあね、戦闘配備なんでしょ?せいぜい頑張ってきなさい」

 

 霊沙の言葉を制すると、マリサは何事もなかったかのように、彼女に背を向けて立ち去っていく。

 

(―――相変わらず、気に食わねぇ奴・・・)

 

 霊沙もまた、それを呼び止める訳でもなく、当初の目的地に向けて歩き出した。

 

 しかし彼女のなかに生じた思考の靄は、当分晴れることはなかった―――。

 

 

 

 

 

 ...........................................

 

 

 

【イメージBGM:機動戦士ガンダム コロニーの落ちた地で...より「DESPERATE CHASE」】

 

 

 

「敵編隊、第7偵察衛星を通過!会敵まであと10分ほどです!」

 

「迎撃隊の発進を急がせて。本艦隊は前衛として敵艦隊との接触を試みる。全艦砲雷撃戦用意!」

 

「アイルラーゼン艦隊旗艦〈ステッドファスト〉より発光信号です。"本艦隊ハ後方ヨリ貴艦隊ヲ援護ス"」

 

「放っておきなさい。どうせあいつらにまともな航空戦力なんて居ないんだし。敵航空隊の迎撃は私達でやるわよ」

 

「りょ、了解!」

 

 数刻前に偵察に出たバーガーさん達から連絡があってから、艦内の乗組員達は慌ただしく戦闘配備を整えていく。予め敵艦隊が潜伏していることは予想していたけど、いざ戦闘前となると、やはり緊張するものだ。

 

「霊夢さん、スカーレット社の艦隊も後方より援護していただけるみたいです」

 

「あいつらには艦隊戦で働いて貰いましょう。あっちも航空戦力はそこまで高くない筈だし」

 

 いまの各艦隊の布陣は、最前衛に私達が乗る〈開陽〉を中心とした本隊と第二、第三艦隊からなる輪形陣が展開し、少し後ろには空母〈ラングレー〉、〈ロング・アイランド〉を中心とする第一機動艦隊が追随している。

 さらに第一機動艦隊の左右後方には、それぞれアイルラーゼン艦隊、スカーレット艦隊が展開中だ。

 敵攻撃隊の狙いは恐らくこの前衛艦隊に集中する筈だから、ここをどうやって乗り切るかが今回の課題だ。

 

「航空隊各機、発進を許可する」

 

《了解した。ガーゴイル1、マーク・ギルダー、出る!》

 

《ガーゴイル2、エリス・クロード行きます!》

 

 ノエルさんの管制に従って、カタパルトから2機のジムが発進する。ガーゴイル隊のマークさんとエリスさんの機体だ。

 

《ガルーダ1、VF-19出るぞ》

 

 続いて、タリズマンのVF-19エクスカリバーがカタパルトから射出された。

 

 発進した有人戦闘機隊の群は、既に展開している無人機部隊の後に続いて所定のポイントまで移動して敵を待ち構える。

 

《・・・アルファルド1、発進する》

 

「了解。アルファルド1発進を許可する」

 

 最後にやや遅れて、霊沙の機体がカタパルトを蹴って既に発進した艦載機隊の後を追う。

 

 ―――今日のアイツ、いつもの声より覇気が感じられなかったけど、気のせいかしら。まぁいいわ。今は目の前の状況に集中しないと。

 

 展開した艦載機隊は、第二、三艦隊のオリオン級巡洋戦艦、サチワヌ/ルヴェンゾリ級航宙巡洋艦、グネフヌイ(改ゼラーナ)級航宙駆逐艦からそれぞれ発艦した無人のスーパーゴーストとジムの群と合流し、既に迎撃位置についている。迎撃隊の合計機数は、これで120機余りだ。

 

 一方の空母機動部隊の艦載機隊は、敵攻撃隊を迂回して敵艦隊本隊を攻撃する予定だ。バーガーさんからの報告では敵の護衛艦は対空性能の低いナハブロンコ級が中心らしいから、〈ラングレー〉〈ロング・アイランド〉〈ネメシス〉三艦合計250機余りの艦載機隊で一気ヴェネター級からなる敵の機動部隊を叩く計画だ。

 ちなみに攻撃隊の内訳は、対艦攻撃を担当するスヌーカ爆撃機/ドルシーラ雷撃機隊がそれぞれ50機ずつ、それを護衛するVF-19可変戦闘機隊20機に加えてサナダさんが低コストVFとして19を元に量産性を改善したVF-11可変戦闘機隊が100機余り存在する。そしてステルス能力を持つVF-22隊30機は別動隊として異なる方角から敵艦隊を襲撃する予定だ。数を見れば分かることだが、今までの戦いと比べてVFの数がだいぶ増えている。ここまで工作艦の生産ラインをフル稼働させた甲斐があったというものだ。お陰で物資の余裕があまりない。なのでこの戦いでは、できれば被弾は抑えていきたいところだ。

 

 そして攻撃隊の役割は、敵ヴェネター級の飛行甲板デッキを破壊して敵の航空戦力を封じ、此方が有利な長距離砲雷撃戦に持ち込むこと。流石に1000m級のデカブツを100機あまりの攻撃機で撃沈するのは少々荷が重い。敵艦隊の潰走が確認されたら、そのまま艦載機隊を収容してボイドゲートに飛び込む予定だ。

 

 この作戦の一つの鍵となる攻撃隊の操作は、コントロールユニットを務める早苗が管制することになっているので、そっちの仕事に集中しているのか、攻撃隊発進後からは彼女の口数が少ない。ただ戦うだけなら個々の艦載機に積んである簡易AIで問題ないらしいんだけど、こうして緻密な連携が求められる行動ではやはり、彼女が直接操った方が上手くいくらしい。

 

「敵編隊、本艦隊の防空ラインに到達。迎撃隊は対空ミサイルを発射しました」

 

「ようやく敵さんのお出ましね。うちらの艦隊からも盛大に"歓迎"してやりなさい」

 

「了解。対空ミサイルVLS開放、各1番から4番、SALVO!」

 

 ミサイルの発射スイッチを握る管制席のミユさんが発射を指示すると、〈開陽〉の艦体各所にある対空ミサイルVLSから迎撃ミサイルの群が飛び出す。

 周囲の僚艦からも、敵の円盤形攻撃隊の編隊目掛けて合計160発以上のミサイルが飛び出した。

 

 迎撃ミサイルは艦隊前方に展開する迎撃隊を飛び越えて、真っ直ぐに敵編隊向けて飛翔する。

 敵編隊もチャフなどの妨害措置を取ったようで幾らか軌道を外れるミサイルもあるが、マッド謹製の信管を取り付けた改良型対空ミサイルはほぼ正確に目標を捉え、敵円盤編隊に地獄を再現した。

 

「目標に命中!敵編隊350機中102機の撃墜を確認」

 

「敵編隊残り250機余り、尚も当艦隊を目指して進軍中!」

 

 敵編隊は此方の迎撃でその数を一気に減らしたが、数の利があるためか攻撃を諦めてはいないようだ。実際此方の迎撃隊とは数に2倍以上の開きがあるし、自軍編隊は充分に数を残していると敵の指揮官は踏んだのかもしれない。

 

「敵編隊、わが迎撃隊と接触!」

 

 戦況を示す画面上では、霊沙とマークさん達迎撃艦載機隊と敵攻撃隊を示すアイコンが接触し、会敵したことを示していた。

 

 艦載機隊からのカメラ映像では複雑な三次元軌道を描きながら迎撃隊の火線を躱そうとする敵円盤形航空機の姿が映し出されているが、此方のスーパーゴースト隊はその動きに追随して、執拗に攻撃隊を追い詰めている。対してジム隊はスーパーゴーストほどの機動性は発揮できないが、両腕と背中の兵装担架システムのアームに装備した4門のレーザーライフルで濃密な火線を形成して制圧力を発揮し、操作を誤った敵円盤を忽ちのうちにその火線に絡め取っていく。

 

 だが敵の中にも手練がいるようで、一部の迎撃隊は敵の戦闘型円盤と思われる機隊の小隊相手に苦戦しているようだ。その小隊と交戦した迎撃隊は例外なく損害を出し、既に此方の被害も20機に届きそうな勢いだ。

 

《こちらガーゴイル1、敵攻撃機は10機ばかり片付けたが如何せん数が多い。流石に押さえきれないぞ》

 

「問題ありません、ガーゴイル1。此方も対空ミサイルの第二射を敢行します。撃ち漏らしは任せて下さい」

 

《了解だ。だが此方にもパイロットの面子があるんでね、一機でも多くここで食い止める》

 

 マークさんのジムは、映像で見える範囲でも既に小破状態のようで、左側の兵装担架システムが脱落してしまっている。だが彼は通信を寄越した後でも怯む素振りを見せず、果敢に敵編隊へ戦いを挑んでいる。そういえば、いつもは我先にと暴れまわっている霊沙の奴はどうしたのだろうか。

 

《うおっ、もうドンパチ始まってるじゃねぇか・・・こりゃ最後にもう一苦労ありそうだな》

 

《こちらヴァルキュリア2。申し訳ありません、帰還予定時刻を過ぎてしまいました。着艦許可願います》

 

「グリフィス、ヴァルキュリア2、無事で何よりです。敵編隊の攻撃が予想されるので、着艦時には注意して下さい」

 

《了解。これよりアプローチに入ります》

 

《ここまで牽引どうもお嬢さん。後は此方で残しておいた推進材だけでも大丈夫だ》

 

 今度は攻撃隊が現れた方角とは逆側から、敵艦隊発見の立役者であるバーガーさん達の姿が見え始めた。敵に単機追われていると報告があったときにはどうしようかと思ったものだけど、無事に還ってきてくれたみたいで良かった。

 

「あら―――アルファルド1、交戦区域から外れているようですが、何かありましたか?」

 

 バーガーさん達の生還で一息ついたのも束の間、ノエルさんの席から何やら不穏な通信が聞こえたんだけど・・・

 霊沙の奴、なにかヘマでもしたのかしら?

 

《チィッ・・・悪ぃ、ちょっとコイツラ、なかなかの手練みたいでよ・・・こっちが徐々に誘導されている・・・ッ!》

 

「アルファルド1、援護が必要なら要請しますが」

 

《いや駄目だ!こいつら見た目こそ他の雑魚と変わらないが中身は全くの別モンだ!ここは私が・・・ッ、よし、やっと1機め!》

 

 通信の内容からすると、霊沙は敵のエリート部隊と戦っている最中のようだ。それも1機で。本当に大丈夫なのだろうか。

 

「アルファルド1、機体の損耗率が40%を越えているようですが、本当に大丈夫ですか?」

 

《ああ・・・大丈夫ったら大丈夫だ。敵さんあと2機みたいだからな・・・何とかなる、さ・・・!ッ!?》

 

 直後、通信音声の向こう側で爆発音が響く。

 

「っ、ちょっと代わって!あんた、いいから無理はするな!一度戻ってきなさい!」

 

「か、艦長!?」

 

《なっ・・・馬鹿か霊夢!オマエは指揮に集中してろ!・・・っ!》

 

 私は艦長席からノエルさんの通信回線に割り込んで、強引に霊沙に向かって呼び掛けた。

 

「あんたが素直に帰ってくれば良いでしょ!兎に角一度帰艦しなさい!あんたの機隊、もうボロボロじゃない!」

 

《ああ分かったよ!とにかくこいつら片付けてからな!じゃあ一度切るぞ!話してばかりじゃ集中も続かない》

 

 ツー、と、通信回線が切断された音が鳴り響く。

 

 ―――あの、馬鹿・・・ッ!

 

 たたでさえ今日は調子が悪そうなのに、よりによってアイツは敵エースの相手をして、しかも追い詰められているらしい。下手な虚勢なんて張らなくていいのに。アイツは今生死が掛かっているんだから。

 

 ・・・でも今はただ、アイツの無事を祈ることしかできない。

 

「チッ、相変わらず気に食わない奴―――こころ、敵編隊の状況は?」

 

「あっ・・・はい!現在4割ほどが迎撃隊を突破。真っ直ぐわが艦隊を目指しています」

 

「―――中々やるわね。ミユさん、対空ミサイルVLS開放、迎撃しなさい!」

 

「了解です。対空ミサイルVLS、各5番から8番開放、目標敵攻撃機、SALVO!」

 

 私は気を取り直して、再び艦長としての役割に集中する。

 此方の迎撃隊を飛び越した敵編隊は凡そ100機余り、その全てに向けて、艦隊から対空ミサイルの第二射が解き放たれた。

 敵は1度目の迎撃に比べて大きく数を減らしているのに対して、艦隊輪形陣には傷ひとつ付いていない。二度目の迎撃の結果など、火を見るよりも明らかだ。

 

 艦隊輪形陣各艦から発射された対空ミサイル(マッド謹製信管付き)は真っ直ぐ敵編隊に飛んでいき、今度こそこれを虫の息に追い詰める。

 

 しかし迎撃でき入る一歩手前で敵対艦ミサイルの射程に達してしまったようで、一部の機隊からは艦隊に向けて対艦ミサイルが解き放たれた。その数70発。

 

「敵編隊、長距離対艦ミサイルと思われる物体を発射!」

 

「ミユさん、VLSの目標を敵航空機から敵ミサイルへ移行。リアさんは電子妨害をお願い。フォックス、CIWSとパルスレーザーで最終迎撃を頼んだわ」

 

「了解。VLSの照準を対艦ミサイルに変更」

 

「了解しました。電子妨害開始します」

 

「イエッサー。漸く出番だ。腕が鳴るぜ」

 

 敵ミサイル発射の報せを受けて、それぞれ此の迎撃を命じる。他艦の迎撃と合わせれば、捌ききれない数ではない。

 

「早苗、攻撃機の操作で忙しいと思うけど、輪形陣各艦に迎撃目標を指定してくれる?」

 

「っ、了解、しました・・・っ!お安い御用です!」

 

 早苗が僚艦に迎撃目標を割り振るのが済むと、艦隊の他の艦からも迎撃のミサイルと電子妨害が開始される。

 

 敵ミサイルはその大半が此方の迎撃ミサイルとパルスレーザーに捉えられるかソフトキルで無力化されるなどして、最終的には2発を残すのみとなった。

 

「敵ミサイル、一発は回避コース。もう一発は〈ソヴレメンヌイ〉に着弾。損害は軽微です」

 

「ふぅ―――攻撃隊はこれで何とか凌ぎきったわね」

 

「あれ―――か、艦長。〈ソヴレメンヌイ〉艦内でバイオセンサーが高濃度生物兵器汚染を関知しました。自動消毒機構が作動しています」

 

「はぁ?生物兵器汚染?火災じゃなくて?」

 

「はい。間違いありません」

 

 敵の攻撃を凌いだと思ったら、今度は謎の報告が寄せられた。ミサイルが着弾したらふつう起こるのは火災だと思うんだけど。

 

「―――故障かもしれないわね。一応〈ソヴレメンヌイ〉の隔壁は閉鎖しておきなさい」

 

「了解です」

 

 まあ念には念を入れて、〈ソヴレメンヌイ〉は後で調べさせておきましょう。確かあれは第二艦隊の所属だから、ショーフクさんの方にも報告行ってるかな。

 

 さて、肝心の戦況はどうかというと、敵編隊が壊滅したことで此方の艦載機隊にも帰還命令が出されている。一応霊沙の奴も何とか無事のようだ。

 

 そして、こっちの攻撃隊の戦果はというと―――?

 

「霊夢さん、攻撃成功です!此方の攻撃隊は無事敵艦隊を捉えました!」

 

 早苗の様子から分かる通り、攻撃には成功したようだ。

 天井のメインスクリーンには攻撃隊の様子が映し出されているが、敵の直掩隊は100機を越えるVFの群に押し潰され、スヌーカ隊が先鋒とばかりにナハブロンコの群を越えて敵艦隊深部のヴェネター級群に迫っていく。

 敵のヴェネターからの対空砲火で少なくない数のスヌーカが落とされるが、迎撃の火線を潜り抜けたスヌーカ隊は直掩機を蹴散らして手ぶらになったVF隊と共に敵艦表面に取り付くと、しらみ潰しに対空火器を破壊していく。

 

 そしてスヌーカ隊とVF隊が切り開いた突入路を通して量子魚雷を機首に抱えたドルシーラ隊が突撃し、ヴェネターの飛行甲板デッキに向けてそれらを次々と投下していく。

 平均10発前後の量子魚雷を飛行甲板デッキに受けたヴェネターは次々と炎に包まれ、見た目には航空機運用能力を喪失したように見えた。

 

「・・・汚い花火ね」

 

「奇襲成功。攻撃隊帰投します」

 

 この光景を作り出した艦載機の群は、火達磨になったヴェネターを尻目に、この本隊への帰路を辿り始めた。

 

 これで残すは、敵の水雷艇と戦艦だけだ。

 

 

 

 

 

 




第61話です。本当はもっと長くしたいんですが、6~7000字辺りからページが重くなるのでこの辺りが今の限界です。

マリサちゃんの正体?それについてはノーコメントで(笑)

ちなみに前回敵の正体についてお尋ねしましたが、前々回の毒ガス兵器と今回の生物兵器という語が一つのヒントでございます。そして敵の航空戦力は円盤型航空機です。


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第六二話 博麗幻想郷(Ⅱ)

 ~ウイスキー宙域・ボイドゲート近傍~

 

 

 霊夢達の艦隊がこのボイドゲート近傍宙域でヴィダクチオ自治領軍と死闘を繰り広げていた頃、それを遠目で眺める者達がいた...

 

「・・・まさか、こんな場所でドンパチが始まるなんてねぇ~。どうメリー、よく見えるかい?」

 

「―――それよりも、早くボイドゲートに入った方が良いんじゃない?蓮子」

 

 戦闘の様子を遠くから眺めていた者達とは、フリーの0Gトレジャーハンター、蓮子とメリーの2名であった。

 二人は自分達の乗艦〈スターライト〉のセンサー網が捉えた映像を食い入るように眺めていたが、やや興奮気味の蓮子に対してメリーはやや冷めた態度だ。

 

「えー、そんなこと言ってもさ・・・折角こんなバトルやってるんだし、少しは見物したっていいだろう?」

 

「ハァ・・・蓮子、ボイドゲートの前にたむろっていたあの艦隊が退くまでどれだけ待ったと思ってるのよ・・・観戦もいいけど、今のうちにボイドゲートに入った方が良いんじゃない?」

 

 蓮子の興味は完全に目の前で繰り広げられている戦闘に向けられていたが、メリーの方は彼女よりも冷静だった。

 

 そもそも彼女達は、宙域の第三恒星系でヴィダクチオ自治領軍の追撃を振り切った後このボイドゲートまで来ていたのだが、ヴィダクチオ本国へ繋がるボイドゲートの前には現在霊夢達が交戦している敵艦隊が厳重な警戒体制を敷いて駐留していたために、まともな戦力が駆逐艦一隻しかない彼女達ではここから先へなかなか進めなかったのだ。

 

 だがヴィダクチオ艦隊が霊夢達の艦隊と交戦するため一時的にボイドゲートの前を留守にしたため、蓮子達にとってはボイドゲート突入へのまたとないチャンスが訪れていた。それを蓮子は野次馬根性で半ば無駄にするようなことをしているために、メリーのはやや呆れるような視線で彼女のことを見ていた。

 

 ・・・尤も、霊夢達がヴィダクチオ艦隊を殲滅してしまえばその懸念も杞憂に終わるのだが。

 

「おっ、連中の空母が燃えてるよ。いい気味だねぇ」

 

「・・・本当だわ。連中と戦っているあの艦隊、練度もさることながら技術もあるみたいね・・・」

 

 ただメリーも本心では野次馬根性が働いているのか、視線の先には戦闘の様子を映したモニターがある。

 彼女は戦闘の様子を眺めながら、ヴィダクチオと交戦している艦隊の戦力―――具体的には技術力に関心していた。

 

(ヴィダクチオの艦隊はそこらの小マゼラン艦とは文字通り桁違いの性能の艦を使用している―――それと互角以上に渡り合っているのだから、相手もかなりいいフネを使っているのかな・・・)

 

 一度ヴィダクチオからの依頼という形で自治領に接した彼女達は、同自治領の実力が半端な星間国家さえ凌ぐ規模であることを自らの目で確かめていたので、その艦隊と渡り合えるだけの実力を持つ霊夢達の戦力に興味を惹かれていた。

 

「この調子なら、最後まで観戦してったって大丈夫でしょ。戦いが終わったらさっさとゲートに飛び込もう」

 

「・・・もうそれでいいわよ」

 

 遂に観念したのか、メリーは蓮子の方針を承諾した。彼女はそれと同時に、艦に搭載されたセンサー類を使ってヴィダクチオ軍とその交戦者(霊夢達の艦)のデータ収集を始める。

 

「なんだメリー、見ていくなら少しぐらい仕事は休んでおいてもいいんじゃないか?」

 

「折角観戦していくからこそよ。連中のデータが取れるまたとない機会なんだから、観戦していくなら徹底的にやらないとね」

 

「・・・相変わらず真面目だなぁ、メリーは」

 

 嬉々としてデータ収集を始める相方の姿を見て、今度は蓮子が呆れ気味に呟いた。

 だがメリーは機器が表示するデータの羅列から目を離す素振りを見せないので、蓮子はしぶしぶ観戦に戻ることにした。

 

「はぁ、つれないなぁ・・・」

 

 遠くで繰り広げられる戦いの光を窓越しに眺めながら、蓮子が呟く。

 

「折角の見物だっていうのにメリーは自分の世界に入っちゃうし、お客さんはこの時に限って夢の中かぁ・・・」

 

 構う相手がいなくなった蓮子は独り言のように文句を垂れるが、それに応える者はいない。

 元々彼女とメリーの二人で動かしていたフネなのだから、当然といえば当然だった。(他の乗員は全てドロイドかコントロールユニットで無人化されている)

 

 その間にも戦況はめぐるましく変化していき、遂にヴィダクチオ側の劣勢が明らかとなっていく。

 

 彼等の艦載機隊は母艦を潰されたことにより壊滅し、艦隊も不得意な長距離砲戦に持ち込まれ、加えて上空には常に相手の攻撃隊が滞空しているのだから、ヴィダクチオ側の乗組員は気が気でないだろうな、と蓮子は考えていた。

 

 そして遂に前衛のナハブロンコが全て撃沈され、彼等を苦しめてきた戦艦7隻(うち2隻は実際は重巡)の砲撃の矛先がヴィダクチオ艦隊のヴェネターに向けられる。

 幾ら1000m級の巨体を持つ同艦といえど、元は空母ともいうべき脆い艦であるヴェネターの艦体では戦艦クラスの大口径レーザーをひっきりなしに撃たれてはそう長く持たないのは自明であった。

 

「・・・ヴィダクチオの空母が全て沈黙したみたいね」

 

「なんだ、見てたなら少しは話し相手になってくれたっていいじゃないか」

 

「こっちはこっちで忙しいのよ」

 

「ちぇっ。ああ、最後の一隻もそう長くは持たないかな」

 

「最後のって・・・あの戦艦ね。アレはデータ上ではなかなか頑丈なフネらしいけど、どうなのかしら。少し見物させてもらいましょうか」

 

 隷下の艦隊が全て壊滅しても、ヴィダクチオ側の旗艦は最後まで抗い続けた。しかし依然として相手は長距離砲戦と艦載機による妨害に徹しており、旗艦はなかなか全力を発揮できずにいる。ヴェネターよりも堅い艦体を持つ旗艦はよく持ちこたえたが、絶え間なく集中砲火を浴びては先に沈んだヴェネターと同じ運命を辿るしかなく、数分後には残された旗艦も巨大な蒼いインフラトンの火球と化して轟沈した。

 

「ヴィダクチオの艦隊は全滅したか。対して相手の艦隊は轟沈なし。こんなワンサイドゲーム、初めて見たよ」

 

「・・・数や性能の差もあることながら、ヴィダクチオ側の土俵に乗らずに相手の苦手な距離で戦い続けたあの艦隊の指揮官もなかなかやるわね。しかも念入りに空母から潰している・・・かなり頭の切れる人が指揮してるんでしょう」

 

「へぇ~、どんな人なんだろうねぇ、あの艦隊の指揮官。いつかは会ってみたいね」

 

「わざわざこんな宙域に足を運んでいるぐらいなんだから、じきに会えると思うわよ。さ、戦闘も終わったことだし、早くゲートに行きましょう」

 

「ん、了解。面舵いっぱーい、進路をボイドゲートへ」

 

 ヴィダクチオと霊夢達が繰り広げていた艦隊戦が終結すると、蓮子はすかさず当初の目的であったボイドゲートに向けて自艦の舵を切る。

 

 戦いの余韻がまだ醒めきらぬうちに、青白いボイドゲートの幕が小さな閃光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋内~

 

 

 

「・・・敵艦隊、全て沈黙しました」

 

「―――やっと終わったか。被害報告と艦載機隊の収容を急がせて」

 

「了解です」

 

 ヴィダクチオ艦隊との戦いに勝利した霊夢達は、傍観者の存在には気付くことなく、次の仕事へと意識を集中させていた。

 

「艦隊の艦に喪失は発生していませんが、敵艦隊のレーザー砲撃と艦載機隊の攻撃により幾らか損害が発生しています。ですが今後の作戦行動に支障が出る範囲の損害はありません」

 

「それは良かったわ」

 

「多少長丁場になるとしても、此方が敵の土俵に乗らずに勝負を挑んだ結果だな」

 

「あんたの助言のお陰よ、コーディ」

 

「それは光栄だな」

 

 長距離砲戦と艦載機による妨害に徹した戦い―――それはコーディが霊夢に助言したことだった。

 

 遺跡船を改設計して使っていないヴィダクチオ側の艦隊は、遺跡船の欠点もそっくりそのまま引き継いでいる。そこに目を付けたコーディは、極力敵の中距離レーザーの射程に入らないように艦隊を動かせと霊夢に伝えていた。

 

「それはそうと旦那、こっちだって大変だったんすからね?敵の突撃に合わせて距離を一定に保つのは」

 

「はいはい、ロビンさんも良くやってくれたわ」

 

「それだけっスか!?」

 

「危険手当は出るから安心なさい」

 

「いや、こんだけやったんすから少しは一息つかせてくれても」

 

「うちは深刻な操舵手不足なの」

 

「―――この鬼巫女が」

 

「・・・何とでも行っておきなさい。ゲートを越えたら一息つかせてあげるから、それまでは頑張ってくれる?」

 

「へいへい、了解ですよ」

 

 操舵席に座るロビンの軽口を、霊夢は適当に受け流していく。

 雰囲気が軽い彼であるが、今まで軍人上がりのクルーが多かった〈開陽〉の艦橋は少しお堅い雰囲気があったのだが、彼が加入したお陰か艦橋の空気は、多少は"0Gドックらしい"雰囲気に変わっていた。寧ろ一般の0Gドックからすれば、軍人比率が高い『紅き鋼鉄』の方がある意味異常なのだ。・・・現在もこうして傭兵じみた艦隊運用をやっている点も含めて。

 

「艦長、敵大型艦についての詳細が判明した。データを見るか?」

 

「ええ。送ってくれる?」

 

「了解した」

 

 続いて艦橋右端の解析席に座っているサナダが、戦闘中に解析していたデータを霊夢に送った。普段は自身の解析室に居ることが多い彼だが、今回は戦闘に興味があったのか、艦橋で仕事をしていた。

 そのデータには、不明だった敵旗艦のクラス名や明細、また戦闘中に得たデータを基にした性能に関する考察などが記されていた。

 

「これは・・・敵旗艦のクラス名?」

 

「ああ。例によって遺跡から入手したデータファイルを漁って見付けたものだ。こいつだけ場所が違ったものだから、見付けるのには苦労したよ」

 

 サナダの話に耳を傾けながらも、霊夢は彼から送られてきたデータに目を通した。

 

「ペレオン級戦艦、か。アレ、戦艦だったのね。周りのヴェネターに比べるとやけに硬いなと思っていたけど」

 

「うむ。遺跡から入手した資料によれば、敵の小艦隊が旗艦として用いていた戦艦―――ペレオン級は、我々や敵が使用しているヴェネター級航宙巡洋艦の二、三世代後の艦らしい。その分設計もより洗練されているのだろう。確かにこの艦の砲配置は、全て前面を指向できるようになっており合理的だ」

 

「ふぅん・・・だけどこのクラスでもLサイズのレーザー砲塔は装備していないのね」

 

「ああ。交戦中に得られた敵の砲撃のエネルギー量を解析したところ、敵艦が装備している砲塔は最大でもMサイズのレーザー砲塔だという結果が示唆されている。恐らく敵は、ヴェネター級同様現代の艦隊戦に合わせた改設計を行わずにこのクラスを運用していたらしい」

 

「敵さん頭が良いんだか悪いんだか・・・ともあれ、ここで敵に関する情報が分かったのは僥倖ね。情報は多いに越したことはないわ」

 

「全くもって同感だ。これからも我々科学班の活躍に期待してくれ」

 

 霊夢は一通り情報の観閲を終えると、そのファイルを敵艦のリストに仕舞った。

 

「この件についてはこれぐらいでいいか・・・そういえばノエルさん、霊沙の奴は?」

 

「アルファルド1ですか?はい、一応無事に帰還できたみたいですが・・・機体は損傷が激しく、廃棄される予定だそうですよ?」

 

「・・・無事なだけでも良かったわ。機体は・・・まぁ仕方ないでしょう。これであの無鉄砲が一皮剥ければ余計な心配も要らないんだけどね」

 

 戦闘の途中で離脱していた霊沙の様子を気にしていた霊夢だが、ノエルの報告を聞いて安心したような表情を見せる。あれこれと愚痴は口にしているが、彼女の表情は穏やかだった。

 

「・・・それとリアさん、〈ソヴレメンヌイ〉で生物兵器汚染が出たとかいう話があったけど、それはどうしたの?」

 

 一転して仕事モードに戻った霊夢は、戦闘中に気になったことについてクルーに尋ねる。

 

「はい、その件については現在も調査中のようです。結果が出次第、艦長に一報入れておきます」

 

「なら任せたわ。コーディ、しばらく艦橋を留守にするから、ここは預かってくれる?」

 

「イエッサー。報告があればお伝えします」

 

「そうなったら艦橋まで飛んでくるわ。それとロビンさん、進路は予定通りボイドゲートで固定。移動は普通の巡航速度でいいわ」

 

「了解っと」

 

 霊夢は艦橋クルー達に指示を出し、席を立って振り向いた。

 

「そういう訳だから早苗、ちょっとついて来てくれる?」

 

「はい、それは良いんですけど・・・一体どこに行くんですか?」

 

「いいからついて来て。早く行くわよ」

 

「は、はぁ・・・了解しました」

 

 霊夢はそう告げると、振り向かずに一直線に艦橋の出口へと歩いていく。

 早苗はやや釈然としない様子だったが、霊夢の頼みとあれば断ることはできないので、大人しく彼女に続いて艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、霊夢さん?」

 

「・・・着いたわ」

 

 丁度早苗が呼び掛けたタイミングで、霊夢が立ち止まる。

 彼女が向いた扉には、「"コントロールユニットルーム 関係者以外立入禁止"」と大きく書かれており、さらに扉の外周は黄色と黒のストライプ模様で巻かれていて、いかにもな雰囲気を醸し出していた。

 

 霊夢が扉の横に備え付けられた認証パネルに手を付けると、ブザーと共にロックが解除されて扉が左右に開いていく。

 

「ここって、〈開陽〉のコントロールルームですよね?こんな場所に何かご用があるんですか?」

 

「いいから、付いてきなさい」

 

 早苗の問いにも応えずに、霊夢はずかずかと扉の向こう側へと踏み行っていく。彼女もここへ来るのは初めてなのだが、それを感じさせない足取りだ。

 

「・・・もういいわね」

 

「あの―――そろそろ何の用か教えていただいても・・・」

 

「そうね。ここに来たならもういいでしょう。早苗、扉の鍵を閉めて。それと防音措置もお願い」

 

「分かりましたけど・・・そんなに大事な話なんですか?」

 

「・・・あまり他人には聞かれたくない話だからね。準備はもういい?」

 

「え、あ―――はい。頼まれたことは全部済ませましたけど・・・」

 

 早苗は霊夢に言われた通り、扉のロックを閉めて部屋全体に防音フィールドを施す。

 唯でさえ点検以外で人が来ることのないこのコントロールルームにわざわざ連れ込んだ上に、ここまでの措置が必要な話とは一体何なのだろうかと早苗は頭を悩ませる。

 

 コントロールルームの中央に耐爆ガラスを隔てて鎮座するコントロールユニットの稼働音だけが、部屋に響き渡っていた。

 

 霊夢は一瞬だけ逡巡の表情を見せたが、早苗に向き直り、遂に沈黙を破った。

 

 

 

「率直に言うわ。早苗、何であんたがここにいるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい―――?」

 

 

 

 霊夢の言葉の意味が分からず、早苗は困惑したような表情を見せる。

 

 霊夢はそれで意図が伝わりきっていないと判断したのか、もう一度彼女に尋ねた。

 

「そのままの意味よ。答えてくれるかしら、"東風谷"早苗」

 

 彼女は敢えて、一部分を強調して再び早苗に尋ねる。

 

 早苗は霊夢が言わんとしていることの意味を察したのか驚きの表情を彼女に見せたが、直ぐに彼女の問いに応える。

 

「・・・いつから気付いていたんですか、霊夢さん」

 

「さぁ、いつからでしょうね。前から疑ってはいたんだけど、確信したのはつい最近かしら」

 

「ハハ・・・ばれちゃいましたね」

 

「それはいいから、そろそろ質問に答えてくれるかしら?」

 

 霊夢は壁に身を預けながら、腕を組んで早苗に尋ねる。

 早苗も隠す気はないよう、素直に霊夢の質問に応えることにした。

 

「その、実は私でもよく分からないんです・・・。気付いたら意識だけが機械の中にあるような感覚で―――正直に言うと、少し怖かったです。でも霊夢さんの姿を見て、少し安心しちゃいました」

 

「なんで私で安心するのよ・・・それはともかく、分からないって本当なの?」

 

「はい・・・多分霊夢さんと似たようなものではないかと」

 

 霊夢の期待する答えを返すことができないためか、早苗は霊夢に頭を垂れる。霊夢は別に構わないとばかりに、彼女の頭を上げさせた。

 

「いや、別にいいわよそこまでしなくても・・・う~ん、でもちょっと残念かなぁ・・・少しは期待したんだけど」

 

「期待って、何をですか?」

 

「あっちに戻れる方法、とか?」

 

「やっぱりそうですか・・・でも、戻ったところでどうするんですか?それに霊夢さん、本当は・・・」

 

「ああ、それは分かってるからいいの。少なくとも、私は向こうでは既に死んだ身―――こればかりは変わらないわ。でもね、向こうに残した知り合いのこととか、ちょっと気になってくるのよね・・・」

 

 霊夢はいつもの様子とは違って、哀愁を纏った雰囲気で話し続ける。その様子が早苗には、以前彼女が悪夢に魘されていたときのことを否応なしに連想させた。

 

「霊夢さん―――――もしかして・・・あの人を、乗せているからですか?」

 

「あ、バレちゃったか・・・うん、そうね・・・アイツは気に食わない奴だけど、あの子のことを思い出すからそう無下にはできないのよ。アイツの声が聞こえると、あの子がまだ側にいるんじゃないかって・・・それがアイツに腹が立つ理由なのかもね」

 

 霊夢は話の最後で、クスリと微笑みを溢した。その様子は、普段の彼女とは一転して、寧ろ儚ささえ感じさせられる仕草だった。

 

「それでホームシックですか―――ちょっと意外ですね。あの霊夢さんがホームシックなんて」

 

「・・・何?馬鹿にしてるの?」

 

「あ、いや・・・あはは、そんなことはないですよ―――ただ、霊夢さんも寂しいんだなぁ、と思いまして。何でこのタイミングなんだろうとも思いましたけど、霊夢さんがこの話を切り出した理由、なんとなく分かったような気がします」

 

 霊夢がむっとした表情で早苗に迫ると、早苗は慌てて誤魔化すように視線を外した。

 霊夢はなおも不満げだったが、それで観念することにしたのか、一度早苗から離れる。

 

「・・・私だって、血の通ってる人間なんだから」

 

「はい。それはよく存じていますよ」

 

「―――馬鹿」

 

 照れ隠しなのか、霊夢が早苗にそう呟く。

 

 彼女が今ここまで本心を見せているのも、早苗が同郷だと確信できたからなのだろうか。早苗は穏やかな瞳で彼女の様子を眺めながら、そのように考えていた。

 

「ふふっ、魔理沙さんの代わりにはならないかもしれませんけど、寂しいなら私が慰めてあげますよ?」

 

「うっ・・・それは、駄目よ」

 

 早苗の誘いに一瞬乗りかけた霊夢だが、自制心でそれには乗らないと踏みとどまる。だが今度は、早苗が寂しそうな表情を見せた。

 

「―――まだあの時のこと、根にもっているんですか?」

 

 早苗の問いに、霊夢は申し訳なさそうに目を反らす。それで察したのか、早苗はそれ以上詳しく聞こうとはしなかった。

 

「―――分かりました。無理にはしません」

 

「・・・御免なさい、早苗」

 

「もう、前から無理はしないで下さいって言っているのに・・・なんだか辛気臭いですね。この部屋、そろそろ出ますか?」

 

 その場の雰囲気に居心地が悪くなったのか、用件も済んだと思った早苗は部屋から霊夢を連れ出そうとする。だが霊夢は、静かに首を横に振った。

 

「―――もう、しょうがない人ですね・・・分かりました。部屋を出るのは、もう少し後にしましょう」

 

「うん・・・早苗、隣いい?」

 

「はい、どうぞ。別に構いませんよ。というか寧ろ歓迎です」

 

 霊夢の返答を見て、早苗は扉の操作パネルから手を離し、壁に身体を預けて手頃な床に腰を下ろした。

 

 彼女の隣に、霊夢も一緒に腰を下ろす。

 

 二人の間には、微妙な距離の隙間が空いていた。

 

 

 暫く、二人だけの空間を静寂が支配する。

 

 

「・・・ねぇ、早苗?」

 

「はい。何ですか、霊夢さん」

 

 沈黙を破って、霊夢が静かに語り掛ける。

 

「あんた・・・こっちに来たばかりのときは、どう思っていたの?」

 

「こちらに来たときですか?・・・う~ん、さっきも言いましたけど、正直怖かったですね。身体がない感覚なんて、普通じゃ味わえませんから。でも久々に霊夢さんの姿が見えて、ちょっと安心しちゃいましたね。知り合いが側にいるのって、意外と安心できますから」

 

「そう・・・今は、どんな調子なの?あんたの身体、本来はただの機械なんでしょ?」

 

 霊夢は視線を隣にいる早苗から、ガラス越しに存在するコントロールユニットへと向ける。

 

「どんな調子と言われましても・・・今はこの身体になってからは、前と同じような感じです。―――私の意識の本体は多分、あそこに有るんですけどね。仕事は機械のAIが済ませてくれるんですけど、未だに慣れません」

 

 早苗も霊夢に続いて、自身の本体ともいえるコントロールユニットを見上げた。

 早苗は霊夢に言った通り、コントロールユニットとしての仕事は自分がそこまで意識を集中させずとも勝手に機械がやってくれているような印象だった。いわば意識だけがAIの機能から分離している、とも言うべき状態であろうか。(ただ高度な操作などは演算力を持っていかれるので、集中しなければならないのだが)その感覚に彼女は未だに馴染むことができず、心のどこかで不安に思っていたのかもしれない。

 

 不安なのは、お互い様だった。

 

「でも、複雑な気持ちですね・・・。元は人間だったのに、機械の中に自分がいるなんて。正直霊夢さんがいなかったら、今頃私は居なかったかもしれません」

 

「―――あんたも大変だったのね。でも、あんたがここに来れたのも、ある意味必然だったのかも」

 

「え?それはどういうことですか?」

 

 霊夢の発した言葉の意味が分からなかったのか、早苗が彼女に尋ねる。

 霊夢は何かを思い出したのか、クスッと一度独り笑いを溢した。

 

「いえ、ちょっと昔のことを思い出してね・・・あんたの―――いや、このコントロールユニットが最初に起動したとき、案内の音声があんたのそれと瓜二つだったのよ。だから早苗なんて名前を付けたんだけど―――まさか、ご本人様が入るとは思ってもいなかったわ」

 

「じゃあ、私がここに来れたのも霊夢さんのお陰ですね」

 

「止しなさいよ、もう・・・本当に、早苗なのよね?」

 

 昔の話をしていたためか、本当に目の前の彼女は東風谷早苗なのだろうかと、唐突に霊夢は不安に駆られる。

 

「私を誰だと思っているんですか。貴女のことは一番知っているって、前も言いましたよね」

 

「あの言葉―――そういう意味だったの」

 

「はい―――幻想郷のことは、"二人だけ"の記憶ですよ」

 

 二人だけ、という部分をわざわざ強調して早苗は言った。二人だけ、という部分に、彼女なりの意味があるのかもしれない。

 

(・・・早苗が安心したって言ってた理由、少し分かったかも)

 

 霊夢は早苗の言葉を聞きながら、心の中で思案した。

 彼女が言っていた通り、知り合いが居るのと居ないのとではここまで違うのかと、ひしひしと彼女は実感していた。

 

「それはそうと霊夢さんは、なんで0Gドックなんて始めたんです?らしいと言えばらしいんですけど」

 

「・・・あんたも中々失礼なこと言うわね」

 

「えへへ・・・でも霊夢さんって、ふわふわしてるイメージがあると言いますか、本質的には何者にも縛られないような生き方が好きなんじゃないかな~って。この世界の0Gドックは、そんな生き方の人達だと聞いていますし」

 

「実際やってみると、柵とかも多いんだけどね。人の上に立つ訳だし。まぁそれは置いといて、私が0Gを始めた理由かぁ・・・これが案外、適当なのよねぇ・・・単に気紛れで始めたというか、それが一番自然な気がしたから、かなぁ?」

 

(・・・思えば、本当に気紛れで始めたようなものだったからねぇ―――)

 

 霊夢は早苗は問いに応えながら、今となっては遥か過去のことのように感じられる転生した直後のことを思い出していた。

 

(あのときはあのときで精一杯だったし、幻想郷にいたときより昔のことみたいに感じられる・・・)

 

 生涯の大半を幻想郷という箱庭で暮らしてきた霊夢にとって、それとは比べ物にならない広さを持つ宇宙という空間は、初体験の連続だった。その頃の彼女はまだ見ぬ星や銀河などに想いを馳せながら、生き残るために精一杯足掻いていた。その苦労した記憶が余計に、当時のことを遥か昔のように感じさせているのかもしれない。

 

「霊夢さんらしいと言えば、そんな理由ですねぇ・・・そこが霊夢さんの良いところだと思うんですけどね」

 

 裏表のない、自分の感情が赴くままに行動する霊夢を指して、早苗が感想を述べる。

 

「・・・褒めても何も出ないわよ?」

 

「もう、無粋な人ですねぇ―――私はきっと、霊夢さんのそんなところに・・・」

 

「何か言った?」

 

「あ、はは・・・いえ、何でもありません!さ、そろそろ戻りましょう!艦橋の皆はまだ働いてるんですから」

 

 早苗は言葉の最後の声量を、自分にだけ聞こえるぐらいの程度まで下げて呟いた。だが側にいた霊夢には聞こえていたようで、気付かれると彼女は慌てて誤魔化しに走る。

 

「そうね・・・丁度ゲートも越えたみたいだし、頃合いかもね。ああそれと早苗、私達は次の当直だから。暫く休みはないわよ?」

 

「ふえぇ!?それ先に行ってくださいよぉ~!」

 

「ククッ、まぁあんたのことだから大丈夫でしょ。さ、早く戻りましょう」

 

 霊夢はそう言うと立ち上がり、扉のロックを解除してコントロールルームを後にする。

 

 来たときとは対照的に、二人の足取りは軽やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉船室~

 

 

 〈開陽〉の居住区にある一室、その中で霊沙は、戦闘から帰還してから自身に与えられた部屋にずっと籠っていた。部屋は明かりの一つすら付けられておらず、彼女が飛んできた暗黒星雲漂う宇宙のように、漆黒の闇に包まれている。

 布団にくるまった霊沙は不機嫌さと怒りが入り交じったような表情で、闇に呑まれた自室の壁を見据えていた。

 

 無論、彼女がこうなったのは敵エリート部隊との戦闘で恐怖を感じたからという、らしくない理由では全くない。原因は、別のところにあった。

 

 "・・・御免な、□□―――"

 

「・・・ッっ!―――このクソがっ・・・余計なもん思い出しやがって・・・!?」

 

 脳裏に浮かんだ少女の姿を払い除けるように、霊沙は乱暴に布団を引き剥がして投げる。

 彼女は熱くなった頭を抱えて、身を震わせていた。それが怒りなのか恐怖なのか、傍目には分からない。

 

 

 ―――それにしても、あんたの化けの皮が剥がれるのはいつかしら、ねぇ・・・博麗□□―――

 

「・・・アイツ―――クソ、何で今更・・・」

 

 霊沙の頭のなかでは、出撃前に聞かされたマリサの言葉が反芻していた。

 

 彼女はそれを払い除けんと、再び布団を被り直す。

 

 

 彼女の頬には、一筋の涙滴が伝っていた。



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第六三話 新兵器開発事情

投稿遅れて申し訳ありません。この通り生きてます。

半分はお仕事が原因ですが、もう半分の原因はギ○ンの野望という神ゲーのせいですw

ガンダムに大戦略要素とか、ドツボに嵌まる要素しかありませんよね?


~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦内工場~

 

 

ウイスキー宙域を抜け、ヴィダクチオ自治領本土宙域へ進軍する博麗霊夢率いる0Gドック艦隊『紅き鋼鉄』・・・

その旗艦〈開陽〉の艦内では、ヴィダクチオ自治領軍との決戦に向けて新兵器の開発、量産が進められていた・・・

 

艦内工場では、『紅き鋼鉄』整備班の猛者達が試作した新型機動兵器の試作機群が並べられ、それらの組立や各種テストが行われている状況にあった。整備班長のにとりは、それらの兵器の開発状況を確認するため、自分の専用研究室を出て艦内工場へ視察に訪れていた。

 

「班長、現在の開発状況になりますが、"サイサリス"と"次期量産機"は無事稼働テストに持ち込めました。しかし"グリント"の開発は芳しくない状況です・・・」

 

「むぅぅ・・・"グリント"は敵大型艦対策の切り札になるかもって思っていたんだけとなぁ・・・それは残念だ。ちなみに実戦には投入出来そうかい?」

 

「"グリント"は試作一号機が何とか稼働状況に持っていけるかという状況ですから、決戦までに実戦投入することは厳しいかと。まだ試作ブースターユニットを接続させた場合の強度テストも済んでいません。ですが"サイサリス"と"次期量産機"の投入は可能だと思います」

 

にとりと会話していた整備班のチョッパーは、工場内で最終調整が行われている2機の試作機へ視線を移した。にとりも彼と同様に、その試作機へと視線を向ける。

 

その試作機のうちの一機は、トリコロールカラーに塗られた重圧な威容を誇るロボットで、右手には大型のバズーカユニット、左腕には機体の全長ほどもある巨大なシールド、背部には3連装ミサイルランチャーが2基セットされており、総じて重火力・重防御機といった印象を与える。両肩に装備された大型のブースターユニットも、その印象に拍車を掛けていた。

 

もう一機の試作機は前者とは対照的にスレンダーな機体で、現行の〈ジム〉をそのまま発展させたような印象を与えるシルエットを持っている。機体は全身青系統で塗装され、宇宙での迷彩効果を狙っていることも見て取れた。細かなシルエットも〈ジム〉に比べるとより複雑化しており、装甲が全体的に強化されている他、頭部にはアンテナも追加されている。武装はジムに装備されたのと同型のレーザーマシンガンを右手と左手にそれぞれ一挺、左腕には新型のシールドも装備されている。背部の可動兵装担架装置は再設計されたのか形状がジムのものとは異なり、搭載されている火器も折り畳み式の長距離大口径砲とガトリングレーザーと、ジムに比べてより高火力化しているのが分かる。

 

「ふむ・・・この2機は順調なみたいだね確か"サイサリス"は重火力機だって訊いているけど」

 

「はい。"サイサリス"は対艦・対地を意識した機体として開発しています。大型バズーカには艦船用の量子魚雷を改造した弾頭を装備していますから、コルベットクラスなら一撃で仕留められます。このバズーカは換装により通常の誘導弾頭を発射する仕様にすることも出来ます。背部のミサイルも対艦、対地と二通りの弾頭を用意しました。脚部には地上移動用のホバーを装備しているので、地上では高い機動性を発揮できます」

 

「うへぇ・・・改めて聞いてみると、かなり凶悪な機体だねぇ・・・欠点を挙げるとすれば、宇宙での機動性が低いことかなぁ」

 

「そうですねぇ。この機体、重量に比べたら機動性は良い方なんですが、やはりメインスラスターが両肩という構造上、あまり大出力のエンジンを積めないもので・・・それに高コストですから、あまり量産も出来ませんね・・・」

 

「確かに、支援機としては優秀なんだけどねぇ・・・」

 

「はい。この機体はコストがかなり高めですから、生産したとしても一部のパイロット用に留まるでしょう。一応支援機としての役割は"次期量産機"の武装オプションを増やしたことで解決しましたが」

 

にとりとチョッパーは、"サイサリス"についての批評を交わした。実はこの機体、にとりは直接設計や開発に携わっていたわけではない。艦の統括AIである早苗が提案したコンプセントを基に、チョッパー以下整備班の有志達が開発した機体なのだ。ちなみに外見に関しては早苗から詳細な注文が為されており、概ね彼女のデザインスケッチ通りの形状に仕上がっている。

 

一方で後者の"次期量産機"は文字通りジムの後継を意識して開発した機体のため、設計段階からにとりが関わっている。ジムはマニピュレーターによる武装の切り替えで汎用性を確保していたが、実際には対艦載機に特化した武装しかなかったという反省点を生かし、この"次期量産機"では各種支援火器とそれを運用する可動兵装担架装置が新規に設計されていた。これらの武装は、ジムにも装備できるよう規格が揃えられている。

 

二人は話題をサイサリスから、次期量産機へと移した。

 

「ふむ・・・で、その"次期量産機"に関してなんだけど、やっぱり新規設計の武装オプションの分、コストが嵩んでいるって主計課のルーミアからうるさく言われてさ、もしかしたら、ジムとのハイ・ローミックスでいくかもしれない。完全に置き換えるのは多分難しいよ」

 

「やはりそうなりましたか。元々ジムもまだまだ新しい機体ですし、今の段階で置き換える必要性は薄いですからね」

 

「まぁ、私もコイツでいきなりジムを淘汰できるとは考えてない。これはまだ想定の範囲内さ。ところで、新型の戦闘用AIの方はどういう状況だい?」

 

「はい、現在は概ね好調です。可動初期は何回か暴走事故がありましたが、AIを既存品の改良型に切り替える措置を施したので問題はありません。直近のテストでも、暴走を起こすことは無くなりました。班長が提案した予備AIの製作案が役に立ちましたよ」

 

『紅き鋼鉄』の艦載機の大半が無人機であるため、この"次期量産機"も自律AIの搭載が予定されていたのだが、チョッパーが説明した通り、初期には幾度も暴走事故があり機体の完成が危ぶまれていた。しかしこれは、AIを完全新規の仕様ではなく、既存のそれの改良型に切り替えたものに変更されていた。これにより当初の予定と比べて無人時の反応速度が落ちることになったが、兵器としての完成度は著しく上昇した。

 

「新兵器開発に失敗は付き物だ。それを想定して複数のプランを立てておくのが一流の技術者というものさ。仮に一つのプランが失敗しても、予備のプランを用意しておけば開発は進められる。今回の失敗も、次に生かせればいいさ」

 

「ハッ、肝に銘じておきます」

 

AI開発の失敗に対し、にとりは叱責するわけでもなく、その失敗を次に生かすべきだとチョッパーに説く。

その言葉だけ聞けば大変良いものに聞こえるのだが、その裏では莫大な費用が掛かっている。そして『紅き鋼鉄』一番の金喰い虫は彼女達マッドである。

そのため主計課のルーミアと艦隊指揮官の霊夢は、マッドの暴走により喪われた金額に、毎回頭を抱えているのであった・・・

 

「それと、新型兵装の方はどうなっている?」

 

「はい、まだテストには漕ぎ着けていませんが、計画されていたものは全て完成しました。大半は問題なく撃てると思いますが、折り畳み式の長距離支援砲は機構が複雑なのでテストしてみないことには使い物になるのか分かりません」

 

続いて二人は、"次期量産機"に用意された武装オプションの話題へと移行する。

この"次期量産機"の開発に当たっては、現在機体に装備されている折り畳み式長距離支援砲と制圧力に重点を置いて開発されたガトリングレーザーの他に、火力強化を目的とした6連装多目的ミサイルランチャーや4連装対艦ミサイルランチャー、狙撃による友軍支援を実現するためのレーザースナイパーライフル、格闘戦能力の強化を意識したスパイク・シールドなど多彩な武装が用意されている。新型機を開発するついでに機動兵器用の新型武装も開発してしまおうという魂胆だ。その武装の大半は既に完成しているが、機体同様稼働テストは未着手のため、戦力価値は未知数である。

 

「この機動兵器群最大の売りは武装換装による汎用性だ。いち早い戦力化を頼むよ。既存のジムの火力強化にも繋がるからね。テストは最悪実戦で済ませてもいいから、敵さんとの決戦までにはミサイルランチャーとガトリングは一定数配備してくれ」

 

「ハッ、了解しました」

 

にとりはチョッパーに、これらの新型兵装の量産を指示する。彼女が言った通り、機動兵器用の新型兵装は既存のジムでも運用できるように設計されているので、大量配備が叶えばジム一機種でも制空、対地、対艦攻撃など多彩な任務をこなせるようになるのだ。そのためにとりは、これらの武装を機体に先んじてでも量産する価値があると践んでいた。

 

「さて・・・じゃあ最後に"グリント"の開発状況を詳しく聞かせてもらうよ。チョッパー、どんな調子なんだい?」

 

「はい・・・"グリント"は一応形にはなりましたが、まだまだ未調整部分が多いのが現状です。試作ブースターは完成していますが、先程お伝えした通り、ブースター接続状態の強度テストを済ませないことには実戦で使うには危険すぎます」

 

「ふむ・・・やっぱりコイツが一番難航しているか―――それで、最初に予定していたデフレクターユニットの小型化は上手くいってるのかい?」

 

「ハッ、それが・・・流石に艦船用のデフレクターを小型化するとなると要求される技術レヴェルが高いもので、未だに実物は完成していません・・・幸いAPFSの搭載には成功しましたので、対レーザー防御力は予定の水準を満たすことができました」

 

二人は格納庫の最奥に佇む、黒い機動兵器へと視線を移した。

 

この黒い機動兵器―――通称"グリント"は、単独で敵艦隊中枢に突撃し、その制圧力を以て敵の指揮系統を破壊、戦線を自軍有利に押し進めるというコンプセントで開発された強襲型機動兵器だ。その目的を果たすために、機体両腕には先程の4連装対艦ミサイルランチャーを装備可能なハードポイントが設けられ、専用の手持ち式レールガン・ライフルも開発されている。先程から話題に登場しているブースターは、機体に接続することで通常の航宙機を遥かに上回る速度を発揮し、敵艦隊中枢に突撃を仕掛ける為に開発されているものだ。

そしてこの機体最大の特徴は、APFシールドとデフレクターユニットの装備にあった。機体にAPFSとデフレクターを装備することにより艦載機としては破格の防御力を手にする予定だったのだが、流石に艦船用デフレクターユニットの小型化は容易ではなく、現在製作されている試作一号機にはデフレクターユニットは装備されていない。APFSの装備には成功しているので、既存機よりも高い対レーザー防御力を誇る(ただ小型化の代償として出力は当然ながら大きく低下しているため、艦船や航空機のパルスレーザー程度しか防げない)

機体自体も、APFSとデフレクターユニットを小型化して装備するとはいえジムサイズでは搭載不可能と想定されたため、全高18mのジムに対して26mと凡そ1,5倍のサイズとなっている。機体の外観もジムや"次期量産機"と異なり、鋭角的なシルエットだが、これは機体の設計時にネージリンス系の航宙機技術を一部採用しているためだ。機体の塗装も、宇宙での視認性低下を狙って黒を基調とした塗装が施されている。

搭載機関については、ジムや"次期量産機"用に用意されたジェネレータではなく、新規設計の大出力ジェネレータが装備されている。これはAPFSやデフレクターユニットに供給するエネルギーを確保するという目的もあるが、その副産物としてブースター切り離し後は高い機動性を発揮することができ、速度性能も"次期量産機"を遥かに上回る。しかし現時点では冷却に難があり、試作一号機では動力パイプが露出していたり、両肩部にはわざわざ冷却用のケーブル状ユニットが接続されているぐらいである。(本来の設計では両肩部にもブースターと兵装のハードポイントを設ける予定であった)

 

"グリント"は総合的に見れば、開発されている機種のなかでは最も高性能な機体といえるが、同時に係るコストもまた膨大であった。

 

「ふむ、状況は大体分かったよ。今後はデフレクターの小型化が課題だけど、ジェネレータの冷却問題もある。まだまだ課題が多い機体だね。人員と予算をもっと投入する必要がありそうだ。今度主計課に掛け合ってみるよ」

 

「有難うございます。この"グリント"が完成すれば、我々の艦隊の戦力は飛躍的に上昇します。何とかヴィダクチオとの決戦には間に合わせたいものです」

 

「ああ、ご苦労さん。これからも頑張ってくれたまえ。開発に行き詰まったときはいつでも頼ってくれていいよ。それじゃ、私は自分の研究室に戻るからね」

 

「ハッ、お疲れ様です」

 

にとりは工場の視察を一通り終えると、自身の研究室へと戻っていった―――

 

 

 

~『紅き鋼鉄』特大型工作艦〈ムスペルヘイム〉~

 

 

にとり達が旗艦〈開陽〉の艦内工場で新型機動兵器の開発に興じている間、『紅き鋼鉄』が誇るマッドサイエンティストの一人、サナダはこの巨大ドック型工作艦〈ムスペルヘイム〉を訪れていた。民間でも一般的に使われているビヤット級貨物船を横に2隻並べ、その間に造船/整備用ドックを設けたこの艦は、通常の宇宙船ではまず造ることができない巡洋艦や駆逐艦といった普通は宇宙ステーションのドックで建造される宇宙船も造ることができ、さらに本格的な整備、修理作業も可能な高性能工作艦である。

その能力を以て『紅き鋼鉄』の屋台骨として日々働いているこの艦のドックには、一隻の巡洋艦が係留されていた。

 

「・・・改修作業に必要な資材は充分あるな。これなら例の三重連星系を越える頃までには何とかなりそうだ。当初のプランからは大分メニューが削除されているが、今は時間が優先だ。これで構わないな?」

 

「―――ええ。それでいいわ」

 

〈ムスペルヘイム〉の艦橋部で艦の工作機械に改造内容を指示したサナダは、隣に佇む軍服姿の金髪碧眼の女性―――アリスに尋ねた。彼女が此処にいる理由は、言うまでもなく〈ムスペルヘイム〉のドックに入渠している艦が彼女の旗艦〈ブクレシュティ〉だからである。

 

「今回の改造内容は超遠距離レーザー砲の設置だが・・・少し無理すれば増設格納庫も設置できると思うぞ?それはいいのか?」

 

「そこまでやっていたら決戦には間に合わないわ。"慣らし運転"の時間は出来るだけ多く取りたいしね。それに、私一隻の為に資源を使いすぎたら、あの提督さんが怒るでしょう?」

 

「確かに、それもあるな。では、改造を始めるぞ」

 

サナダはアリスから改造についての同意を得ると、コンソールを操作して作業開始を工作機械に指示する。工作機械が稼動し、自艦の改造に着手する様子をアリスは無機質な視線で眺めていた。

 

いま〈ブクレシュティ〉の艦体に取り付けられんとしているのは、かつてアリスが霊夢に提示した武装強化プラン、ディープストライカー装備にて計画されていたものの一部である。本計画ではこの超遠距離レーザー砲の他に増加装甲や大型対艦ミサイル、追加のエンジンノズルや増設格納庫などを設置して、複数の無人戦闘機群を搭載して一隻で一個小艦隊分の能力を持たせようという野心的な目標が設定されていた。実際にシュミレーション上ではスカーバレル全艦隊を一隻で殲滅可能という結果が出されたのだが、改造に係るコストがあまりにも膨大なために霊夢の手によってプラン自体が御蔵入りさせられていた。しかし自分の半身ともいえる〈ブクレシュティ〉の戦力強化を諦めきれないアリスは密かにタイミングを窺い、ヴィダクチオとの決戦という大義名分を得た彼女はサナダと共謀して自らの野心を実現せんとしていた。

 

―――表面上は無機質な彼女だが、その本質は隣にいるマッドサイエンティストと同じなのかもしれない・・・

 

「改造では超遠距離レーザー砲の増設に伴って、機関の改良工事も実施する。この工事でインフラトン・インヴァイダーの出力は従来の1,5倍まで上昇するだろう。駆逐艦並・・・いや、それ以上の速度が発揮可能だが、同時にピーキーな機体になるぞ。そのことは頭に入れておけ」

 

「それは承知の上よ。そもそも私の義体(カラダ)を造ったのは貴方でしょう。私がこの程度の改造で演算能力の限界に達するとでも?」

 

「いや・・・要らぬ心配だったな。ついでに訊いておくが、お前はこれでどう戦うつもりだ?超遠距離レーザーのアウトレンジだけでは、大軍相手には決定打に欠けると思うのだが」

 

「いや、今はこれで充分よ。副産物とはいえ艦速の大幅な向上も図れるのだから、これを使わない手はないわ」

 

「ふむ、強化した速度性能を生かすと・・・となれば遠距離からのアウトレンジとは矛盾しないか?」

 

サナダは、アリスの答えに対してそう疑問を呈した。改装されて能力が大幅に向上したとはいえ、〈ブクレシュティ〉は火力に関しては並の巡洋艦からはあまり大きく逸脱していない、常識的な範囲に収まるものだった。今回の改造においては超遠距離レーザーによる大幅な火力増強が達成される予定だが、それをどう速度性能と関連付けるのか、サナダには彼女の考えていることが予想できなかった。ふつう宇宙戦で速度を生かす戦法といえば、駆逐艦や水雷艇が取る近距離雷撃戦術なのだが、それは今回の〈ブクレシュティ〉の改造コンプセントとは真っ向から対立する戦術だからである。

 

疑問を投げ掛けたサナダに対して、アリスは無表情のまま言葉を続けた。

 

「なに、速度を生かす戦法は駆逐艦みたいな戦い方だけではないわ。敵射程外からの砲撃と優秀な速度性能を組み合わせれば、敵の陣形の弱点を突ける射点に素早く移動出来るでしょう。仮に敵旗艦が自軍から見て陣形の後方に位置しているのなら、そこを砲撃できる地点まで迅速に展開することが可能になるわ。それに本体から離れて行動することで、敵の目を盗んで移動することができる。いわば、宇宙戦版のスナイパーみたいな戦いね」

 

「ほう、宇宙艦隊戦でスナイパーとは・・・君もよく考えたものだな。まさか白兵戦の概念を艦隊戦に持ち込もうとは・・・」

 

「そんな大したことじゃないわ。現にカルバライヤだって、超遠距離からの砲撃で敵の陣形に穴を開けるという戦術を採用しているのだし。尤も、あっちはノロマだけどね」

 

アリスが考案した運用法とは、本体から離れて単艦で行動し、優秀な速度を生かして素早く射点に付き、敵の射程外から砲撃を敢行するというものだ。これは彼女が話した通りスナイパーの戦いに着想を得たもので、優秀な速度は素早く射点に付けるのみではなく、同時に離脱も素早く行うことが出来ることを意味していた。これとアクティブステルスやジャミングなどの措置を加えることで、文字通り宇宙のスナイパーとして艦を運用することが出来るのである。さらに加えて、ヴィダクチオ自治領軍との決戦が予想されているサファイア宙域は、レーダー障害を起こす暗黒ガスが非常に多く充満している宙域でもあり、より隠れるのに適した場所であった。この地形条件を生かすことによって、敵が察知し得ない方向から砲撃ができる可能性も高い。暗黒ガスによって自艦のレーダーも影響を受けることになるが、それは偵察機とのデータリンクで解決することができる問題だ。

 

「カルバライヤのあれは事情が違うだろう。そもそも彼等のアウトレンジ戦術は、ネージリンスの艦載機に対抗するためのものだからな」

 

「あら、そうだったかしら。私もまだまだ知識不足ね。そういえば貴方、また妙なもん造ってない?ここまで来る途中、艦の工場に変な奴等が大量に安置されていたんだけど・・・」

 

アリスは話題を一転して、サナダが開発しているらしき新兵器について尋ねた。

サナダは特に隠すわけでもなく、彼女の問いに素直に応える。

 

「ああ、アレのことか。なにも変わったものではない。ただの突撃艇だよ」

 

「突撃艇?まぁ、サイズと形からすればそうだろうとは考えていたけど・・・貴方らしくないわね。貴方はもっと高性能なものを好む人間だと思っていたのだけど」

 

「それは勘違いだな。生憎私のポリシーは"使えるものを造る"でね。必要とあらば、安価な兵器の開発と大量配備も躊躇わんさ」

 

サナダはアリスの問いに応えながら、コンソールを操作して話題の突撃艇のデータを取り出した。

 

その突撃艇は全長50m程度で、艦首部にはフランコ級やレベッカ級の両舷艦尾に接続されている推進材タンクをそのまま流用した即席ミサイルランチャーを装備し、その後方から延びた支柱の先に艦の制御を担当する簡易AIを載せた艦橋部を設置、艦橋下部には円形の推進材タンクが3基並び、それを挟む形でエンジンブロックが艦橋部から延びた支柱とタンクによって接続されている。総じて簡易的な構造であり、いかにも安価な兵器という印象を与えていた。

 

「この突撃艇であるが、武装は艦首の大型対艦ミサイルランチャーに、エンジンブロックに設置したフランコ級と同型の小口径レーザーが4門のみだ。戦力価値は、我々の技術でフランコ級を改造した場合とそれほど大差はない。しかし、こいつの最大の売りはコストにある。フランコ級一隻の建造に必要なコストは約3000Gほどだが、コイツはその三分の一、約1000Gで建造が可能だ。コストを抑えるためエンジンからはワープドライブを外しているが、加速力や速度性能は駆逐艦にも劣らない。貧乏性の艦長にはお似合いの兵器さ」

 

「貧乏性か・・・確かに提督さん、お金のことよく気にしてるわね―――」

 

「まぁ、平たく言ってしまえばその場限りの使い捨てと割りきってもらって構わない。こいつを10隻程度配備しても価格は約10000Gだ。駆逐艦一隻分だな。駆逐艦一隻分の予算で、的が10個増やせるのだ。さらに10隻も造れば、巡洋艦の1隻2隻はミサイル攻撃で落とせるだろう。一般的な巡洋艦の価格は15000~20000Gだから、敵巡洋艦2隻と引き換えに壊滅したとしても充分お釣りが来るレベルだな」

 

「それは分かったけど・・・使い捨てなんて、それこそ貴方らしくないわ。これも対ヴィダクチオ用の兵器なの?」

 

サナダが突撃艇の仕様を解説するが、今度はアリスがそれに対して疑問を呈する。

サナダのマッドサイエンティストな性格からすれば、自分の発明品にはかなり愛着を持つ筈であり、わざわざ使い捨ての兵器を造るのだろうかという疑問が彼女の中にはあった。ヴィダクチオとの戦力差があるとはいえ、そのような兵器を進んで開発するとは、彼女には想像できなかった。

 

しかし、サナダの答えは、意外なものであった。

 

「対ヴィダクチオか・・・それもあるが、実はコイツの主敵は、ヤッハバッハなのだよ」

 

「ヤッハバッハ・・・?」

 

「ああ、私はね、この艦隊がヤッハバッハと再び戦う羽目になるだろうと予測している。仮に小マゼランから上手く脱出できたとしても、奴等なら間違いなく大マゼランまで進軍してくるだろう。そうなってしまえば、最早我々に安息の地はない。ヤッハバッハから身を守るための戦力が必要だ。それに自給自足体制を確立するためにも、サマラが有していたような移動要塞も不可欠になるだろう。しかし、その要塞を護るための艦隊戦力を揃えるのにも時間がかかる。今までのように、艦船の損失を抑えることも難しいだろう。ならばいっそのこと、安価で強力なコルベットクラスの艦を複数揃えるべきだ・・・私はそう考えたのだよ」

 

サナダがこの突撃艇を開発した理由・・・それは、来るべきヤッハバッハとの戦いに向けてのことだった。

小マゼランの戦力ではヤッハバッハの進攻を抑えきれないと見ていた彼は、仮に大マゼランに逃れたとしても、艦隊がヤッハバッハの進撃から逃れることは最早不可能であると結論付けていた。だが彼とて、ヤッハバッハの支配下で生きるつもりなど毛頭ない。彼等の支配下では自由な研究活動ができないからだ。そこで彼は、艦隊を護るためにこの突撃艇の開発を決意したのだ。

 

「・・・まさか、貴方がそこまで予測していたなんてね。ただの発明馬鹿かと思っていたけど、以外と他のことにも頭が回るじゃない」

 

「失礼だな。君を造ったのは誰だと心得ている」

 

「発明馬鹿ってことは、要は頭が良いってことでしょう?遠回しにわが生みの親を褒めたつもりなのだけど」

 

「・・・それの何処が褒め言葉だというのだ・・・」

 

アリスはサナダの予測に感心はしているのだが、生みの親に対しては中々に毒舌であった。

 

また性格の調整にしくじってしまったのかと、サナダは毒舌を浴びせられながら思案していた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~〈開陽〉艦内通路~

 

「ねぇ霊夢さん、今更なんですけど・・・」

 

「なに、早苗?」

 

艦のコントロールルームを後にした二人は、艦橋に戻るために、艦内通路を歩いていた。

そこで早苗が、霊夢に対して話題を切り出す。

 

「なんでこのタイミングで、私のことについて尋ねられたんですか?ホームシックだけが理由じゃないような気もしまして・・・ああ、別に違ったらそれでいいんですけど・・・」

 

早苗の疑問は、本当に霊夢が自分の正体について尋ねてきたのはホームシックだけが理由なのだろうか、ということだった。霊夢からすればそれが一番の理由なのだが、彼女には、もっと別の理由があるのではないかとも思えていた。なので、そこだけが未だに引っ掛かっていた。

 

「タイミングなんて・・・どうでもいいでしょう?たまたま私が寂しくなったというか、全部アイツのせいなんだけど、それに―――」

 

「それに、なんです?」

 

霊夢は早苗の問いに応えるが、一呼吸置いて、一番の理由を話す。

 

「ここで聞いておかないと、後がないかな、って思ってさ・・・」

 

「霊夢、さん―――?」

 

後がない―――その言葉の意味を悟った早苗は、一瞬思考が固まってしまう。

 

「・・・クスッ、後がない、なんて縁起でもありませんよ、霊夢さん!ここはもっと楽観的に行きましょう!」

 

「そう言われても・・・昔とは違うんだし・・・」

 

「そんなことないですよ!今までだって乗り越えて来れたんです!今回もきっと何とかなりますよ!」

 

―――なんたってこの艦隊には、本物のご加護があるんですから―――

 

早苗は励ますかのように、悲観的な霊夢を諭す。

彼女の明るさに影響されたのか、霊夢の表情から影が退いていく。

 

「加護、か・・・確かにあんたが居てくれるなら、本物の加護があるのかもね」

 

「はい!頼りにして下さい!(・・・本当は、私の加護じゃないんですけど・・・今は黙っておきますか)」

 

早苗は本来現人神だったためか、霊夢は早苗の言った加護とは彼女のものなのだろうかと思案する。

実際は、それとは異なっているのだが――――

 

「あら―――霊夢さん、あれって・・・」

 

「どうしたの、早苗・・・」

 

二人が通路の曲がり角に差し掛かったとき、早苗がなにかを見つけたのか、先程までの笑顔を止め、枝分かれする通路の方角を向く。

霊夢もそれにつられて、早苗と同じ方角に視線を向けた―――

 

「あれって、もしかして霊沙さん―――」

 

「―――!!ッ」

 

早苗の言葉が終わる前に、霊夢は駆け出す。

 

霊夢が駆けた先にあったのは、床に倒れ伏した霊沙の姿だった。

 

「ちょっとあんた!?こんな場所でどうしたのよ!」

 

「うっ―――だ、だれ――――?」

 

霊夢の呼び掛けに対して、普段の様子からは信じられないほど弱々しい声で、霊沙が応える?

 

「もしかして・・・戦闘で何処が痛めて、それが今になってきているのかも・・・霊夢さん!早く霊沙さんを医務室に!!」

 

「わ、分かったわ!早苗、コイツを運ぶわよ!」

 

「了解です!霊沙さん、ちょっと失礼しますよ」

 

「ぅ―――う・・・ん」

 

意識が朦朧としているのか、早苗の呼び掛けに対しても、彼女は弱々しい反応しか返さない。

 

「全く、心配ばかり掛けさせて・・・!異常があるならすぐに言って頂戴よね、ほんと」

 

「よいしょ―――っと!霊沙さん、すぐ医務室に連れていきますから、もう暫く我慢してて下さいね!」

 

「・・・・・・」

 

霊夢と早苗は二人で霊沙を抱え、急ぎ医務室を目指す。

 

余裕のない二人は、霊沙の頬を静かに流れた涙滴に気付くことはなかった―――

 




今回は主に新兵器の開発にスポットを当ててみました。

"サイサリス"はもうお分かりかと思いますが、原作にない要素として、地上ではドムじみた活動が可能になっています。ガ○ダムの形をしたドムですw (南極条約に従って核は装備されてませんw)

"次期量産機"はジムベースの機体ですが、モデルはジム系統でもかなり凶悪なアイツですw

そして通称"グリント"・・・これだけ世界線が違いますねw
コ○マはないのであしからず。

そしてサナダさんが開発した突撃艇は、ジ○ンが誇るジッコ宇宙突撃艇です。機体自体は平凡ですが、搭載するミサイルがマッド印の凶悪仕様なので大物食いも可能ですw 原作やギ○ンの野望同様雑魚と侮るといつの間にかダークマターに変えられることでしょう。

今後はこれらのたのしいフレンズ(笑)が大暴れします。


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第六四話 甦るもの

 

 ~〈開陽〉会議室~

 

 ウイスキー宙域を越え、ヴィダクチオ本土宙域に踏み込んだ『紅き鋼鉄』、アイルラーゼン、スカーレット社の連合艦隊は、今後の方針を話し合うために〈開陽〉の設備を借りて会議を開いていた。その中には、倒れた霊沙を送り届けてきた霊夢と早苗の姿もある。

 

 

 

 

「・・・ではまず、私から現状の説明をさせてもらおう。我々の艦隊は、現在ヴィダクチオ本土宙域の入口、三重連星系に達しつつある。この宙域ではメテオストームが発生しているため、我々は恒星の至近を通過してこれを回避する予定だ」

 

 サナダさんが説明を始めると共に、中央の机からホログラムの宙域図が表示された。

 ヴィダクチオの宙域に入る前の会議でも説明された通り、この宙域のゲートを出た先には過酷な環境が待ち構えている。これから私達が突入する三重連星系は、互いの重力によって大規模なメテオストームが発生している場所だ。メテオストーム自体は前にもエルメッツァで経験したから強引に突破できないことはないが、多かれ少なかれ艦隊にダメージが出るのは避けられない。なので航路はメテオストームを避ける形で連星系の一つであるウォルフ・ライエ星の至近を掠めるように設定されている。だけどこっちの航路も大概で、恒星の熱線により排熱機構に異常が出るのはほぼ確実だ。艦体外郭も多少は恒星風の被害を被るかもしれない。だが、メテオストームの中を突っ切っていくよりはましだろう。

 

「この三重連星系を抜けた先は、暗黒ガスが充満するサファイア宙域に続いています。我々は、この宙域で敵艦隊主力が待ち構えていると想定しているわ」

 

 サナダさんから代わって、今度はアリスが説明する。

 この三重連星系を抜けた先にある宙域、サファイア宙域は、暗黒ガスの他にも多数の青色超巨星や原始惑星系円盤が存在し、恒常的なレーダー障害が予想されるほか小惑星などの障害物も無数に存在していると考えられている。敵にとっても過酷な宙域だが、同時に待ち伏せや罠が張りやすい宙域に違いない。そして今回の会議の目的は、ここに潜んでいるであろう敵艦隊を、どうやって攻略するか話し合うことだ。

 

「・・・事前に聞いていたけれど、中々酷い宙域ねぇ―――。こんな様子だと、まずは索敵で敵に先んじなければ話にならないわ」

 

 そう発言したのは、宙域図を眺めていたアイルラーゼン艦隊司令のユリシアさんだ。言動はふざけた奴だったけど、艦隊指揮官としての実力はあるのだろう。彼女の言うとおり、どんな手を使うにせよまずは敵を発見できなければ意味がない。そしてここは敵のホームだ。索敵では、既に敵に分があると考えるべきだ。

 

「その通りね。サナダさん、肝心の索敵機の準備はどうなってるの?」

 

「既に増加生産分のアーウィンは確保している。今は前衛のゼラーナに配備されている筈だ」

 

 ・・・計画していた偵察機の増備は既に終わっているようだ。この宙域に来る以前にこのような事態を想定して偵察機の増産が決定されていたが、なんとか間に合ったらしい。

 

「索敵機の発進は・・・どのみちこの三重連星系を抜けてからになるわね。ところでサナダさん、そのサファイア宙域って場所、どれぐらいレーダー障害が起こるの?」

 

「むぅ・・・私も実際に体験した訳ではないからな。あまり詳しくは言えんが、最悪レーダーが殆ど当てにならない、という事態も起こるやも知れん」

 

「おいおい、マジかよ・・・それじゃあ射撃管制レーダーも役に立たないってことか?」

 

「その可能性もあるな」

 

 サナダさんが示した可能性に、砲手のフォックスが悪態をついた。砲手の彼からすれば、射撃管制レーダーが使えなければ話にもならないからだろう。

 

「・・・では、何か解決の方法はないのですか?」

 

「そうねぇ・・・レーダー障害が激しすぎるようじゃあ、此方としても動きにくいわ」

 

 スカーレット社の艦長とユリシアさんが、立て続けにサナダさんに尋ねた。同盟を組んでいる彼等からしても、そんな宙域に無策なまま突っ込むのは御免だ、と遠回しに言っているようだ。

 

「その件に関しては対策済みだ。尤も精度は落ちるがね」

 

 だけど流石はサナダさん、もう対策を立案してくれていたらしい。流石は頼れるマッドサイエンティスト・・・って、それは関係ないか。サナダさんの場合、ただの発明馬鹿じゃなくてある程度戦術面でも助けてくれるのが有難い。

 

「へぇ、対策かぁ。どんなものか聞かせてもらおうかしら?」

 

「うむ。まずこの宙域では暗黒星雲によってレーダー障害が起きていることは伝えた通りだ。さらに、恒星から放出される恒星風や宇宙ジェットなどの影響によりレーダーのみならず、通信障害が発生する可能性もある。そこで、だ。私は艦隊の無人偵察機に改造を施し、中継衛星としての機能を応急的に付け足した。これなら仮にレーダー障害や通信障害が発生したとしても、中継衛星を介してリアルタイムでの情報共有を維持できるようになっている」

 

 サナダさんが用意した対策とは、偵察機と艦隊の間に中継地点を複数用意することで、障害が発生しても問題なく情報を艦隊に送れるようにするということらしい。

 

「成程、大体は分かったわ。だけどその手を使うとなると、通信方向を辿られて艦隊の位置が敵に露呈してしまうのでは?」

 

「さすが、鋭いな。その通り、レーダー、通信障害が発生している場合は敵艦隊に接触している索敵機から通信が送られてくることになる。それを逆手に取られて敵に此方の位置が探知されない可能性はない」

 

 ―――駄目じゃん、それ。

 

 敵の位置が分かったとしても、同時にに此方の位置が露呈してしまえば、索敵で有利に立てたとは言えないじゃない。

 

「あの・・・サナダさん?」

 

「何だ?」

 

 ここで早苗がなにか思い付いたのか、恐る恐る手を上げた。

 

「敵に此方の位置が探知されるというのなら、いっそのこと私達の艦隊を囮にするのはどうですか?幸い他の艦隊と違って私達の艦隊は無人艦が主体ですし、敵の目が私達に引き付けられるのなら、他の艦隊も動きやすくなるんじゃないかと思いまして・・・」

 

「ふむ、囮か・・・確かに一考の価値はあると思うが・・・どうかね、艦長」

 

「えっ、ど、どうって言われても・・・」

 

 早苗の提案は、要するに本隊を囮にして、アイルラーゼン艦隊や別働隊から敵の目を逸らすという作戦だ。彼女の言うとおり、囮役としては無人艦主体の私の艦隊は適任だと言えるけど・・・もし敵の戦力が此方より大きかったら、予想外の大損害を被る恐れも否定できない、か・・・

 

「・・・霊夢さん?」

 

「―――分かったわ。それで行きましょう。それじゃあ、次は具体的な作戦計画について話しましょうか」

 

 ・・・この際、囮役は引き受けるとしよう。あの胡散臭いピンク髪の提督がいる中でやるのは気が進まないが、まずは敵艦隊を撃破しなければどうにもならない。

 

「・・・サナダさん、予想される敵艦隊の戦力は?」

 

 まずは、敵の戦力がどれ程のものなのか見当をつけておかなければ話が始まらない。手始めに、その辺りをサナダさんに聞いてみることにしよう。

 

「うむ。敵に関する情報が少ないので何とも言えないが、私は敵艦隊の戦力を凡そ50~100隻程度だと見積もっている。我々がこの自治領に侵入して以来、20隻程度の敵艦隊を二部隊ばかり撃破し、その中には主力艦クラスも複数含まれている。敵戦力は、大幅に低下していると見て間違いない」

 

「50から100隻、ねぇ・・・敵戦力が低下しているという点については同意するけど、ちょっと振れ幅が大きいんじゃないかしら」

 

 サナダさんの予想に対して、ユリシア中佐がそう指摘する。

 確かに予測値の振れ幅が2倍というのは、些か精度に欠けると言わざるを得ない。けど、情報が未だに少ない現状では仕方がない面もある。

 

「その指摘はもっともだな。だが、我々が事前に予測していた敵艦隊の戦力は、大マゼランクラスの一級艦艇が約80隻程度、そして戦艦クラスはその一割と見積もっていた。それを基にして計算すると、既に敵は機動戦力の半分を失ったことになる。しかし、敵があれだけの艦隊を二部隊も展開させていたことを考えると、敵の規模は当初の予測よりも高い可能性が浮上してきた。その上方修正した予測値を組み込んだのが、先程の敵戦力評価になる」

 

 サナダさんが言うには、敵艦隊の規模は最初の予想よりも大きい可能性があるという・・・うげっ。私としては小さい方が助かるんだけど・・・

 

「成程ねぇ・・・予測値についての話は分かったわ。じゃあ、そろそろ本格的な作戦会議に移る?」

 

「いや、その前に具体的な敵戦力の評価を聞きたい。サナダ、その辺りは分かっていないのか?」

 

「私からも。そっちの話を先にしてくれると有難いわ」

 

 中佐の発言を押し退けて、航空隊隊長のディアーチェさんがサナダさんに尋ねる。

 具体的な敵戦力の評価、ということは、敵艦隊の構成内容や単艦あたりの評価を指すのだろう。これらの予測も作戦を立てる上では重要になりそうだし、ここはディアーチェさんに援護射撃をしておこう。

 

「うむ、了解した。まず敵戦力の評価についてだが・・・具体的な情報がない以上、まだ何とも言えんな。だが、今までの傾向からすれば、敵艦隊の砲力は中~近距離戦を主体としたものだ。真っ向から交戦することを想定するならば、此方は遠距離砲戦を主体とした戦術を策定することになるだろう。次に敵艦隊が保有する艦船の性質だが、大きく分けて3タイプが存在する。先ずはこれだな」

 

 サナダさんはそこで説明を一旦打ち切ると、ホログラムに艦船の立体画像を表示させた。

 表示された艦船の種類は、カッシュ・オーネ級戦艦、ファンクス級戦艦、シャンクヤード級巡洋艦、ナハブロンコ級水雷艇の4種類だ。

 

「まずはこの4艦種についてだが、これらの艦船は大マゼラン宙域海賊が使用しているものだ。大半の艦は速力を重視した設計が採られており、カッシュ・オーネ級については設計思想が異なるようで、此方は防御力を重視した設計らしい。戦闘能力は大マゼラン列強各国が用いている同クラスの艦艇よりもやや劣るな。グアッシュ海賊団が運用していた同クラスの艦がモンキーモデルであったことを考えると、敵が使用している同型艦も一部性能が低下したモンキーモデルである可能性もある。だが、我々から見れば充分脅威であることに変わりはないな」

 

 サナダさんはすらすらと、ホログラムに表示された艦船について解説している。ここに集まっている連中は大体これらの艦船についての知識があるのか、復習がてら聞いておこうかという雰囲気だ。ちなみにカッシュ・オーネ級はまだヴィダクチオ艦隊が運用している様子は目撃されていないが、奴等とつるんでいたグアッシュが使っていたので表示されているのだろう。

 

 サナダさんがこれらの艦船の解説を終えると、艦船のホログラムが隅に追いやられ、今度は別の艦種のホログラムが表示された。

 

「続いてこの2艦種、マハムント級巡洋艦とネビュラス級戦艦だな。この2艦種については、アイルラーゼンのユリシア中佐殿も詳しいと思うのだが」

 

「ええ。ロンディバルドは我が国のライバルですからね。ロンディバルド製艦船の特徴としては、高い汎用性と拡張性、プラズマ兵装の装備が挙げられるわ。耐久性も先の大マゼラン宙域海賊のものより優れているけど、何といってもプラズマ砲の攻撃力は無視できないわね。あれはAPFSを無効化する兵装だから、当たれば被害は免れないわ」

 

 ユリシア中佐が、サナダさんに代わってロンディバルド製艦船を説明する。

 特にこのネビュラス級戦艦は、敵にしては珍しくLサイズの兵装を有しており、そしてその兵装はプラズマ砲だ。これは注意が必要だが、構造上ネビュラス級のプラズマ主砲は前にしか撃てない。前にこの艦種を相手取ったときのように、側面から同航戦に持ち込めばそれほど脅威ではない。

 

「・・・だけど、今までの経験上敵はあまりロンディバルド製艦船を多用してはいないわ。この艦種は、敵の主力艦という訳ではないでしょう?」

 

「私もその可能性が高いと見ている。確かに性能面では脅威だが、他艦と違う武装システムを採用している以上、整備面で問題があるのやもしれん。そして最後だが、敵の主力艦について説明しよう」

 

 再びホログラムは端に追いやられ、新たな艦船のホログラムが表示される。

 それらは全て楔型の艦体を持ち、大きさも今まで登場した艦船より大型だ。―――敵の主力艦、遺跡船だ。

 

「最後にこれらの艦船について説明しよう。これらの艦船は、敵が遺跡から発掘運用、又はそれをコピーして建造したと思われる艦船群だ。まずこのヴェネター級航宙巡洋艦だが、このクラスの艦は多数の艦載機を搭載可能であり、敵の空母的な存在であると考えられる。続いてこの艦種―――ペレオン級戦艦は、敵の分艦隊旗艦や主力艦として多数が配備されている標準型戦艦と見ていいだろう。このクラスの敵艦は全ての砲塔が艦の前方を指向できるように取り付けられており、近距離で正面から相対するのは極めて危険だ。そして最後に―――」

 

 サナダさんは一呼吸置いて、最後の敵艦の説明に入る。―――あの忌々しい巨大艦、リサージェント級だ。

 

「―――リサージェント級戦艦。敵のフラッグシップだな。このクラスは3000m級の巨躯を有し、極めて高い耐久性と戦闘能力を持っていると考えられている。そして極めつけには、この歪曲レーザー砲だ。このレーザー砲は一撃で軌道エレベーターを破壊する火力を有している。当たればただでは済まんな。構造としては、艦底部にある砲口から発射されたレーザーを反射装置を搭載した航空機で屈曲させ、目標に向けて反射させるというものだ。このレーザー砲の攻略が、決戦の行方を左右するといっても過言ではないな」

 

「・・・大体のスペックは掌握したわ。このリサージェント級のレーザー反射装置を搭載した航空機というのは、事前に察知することはできないのかしら?」

 

「理論上は可能だろう。しかし、我々の交戦データから察するに、敵はこの航空機にステルス機能を持たせているようだ。対策としては、光学カメラを搭載した偵察機をばら蒔くのが一番手っとり早いと思うぞ」

 

「了解したわ。ああ、それと最後の遺跡船のデータ、ちょっと私にもくれない?こっちでも解析しておきたいわ」

 

「だ、そうだが、艦長、どうする?」

 

「え?、うん、ああ・・・いいんじゃない?そっちで対策考えるのにも必要だろうし・・・」

 

「感謝するわ、可愛い艦長さん」

 

「―――だからあんたはその胡散臭い態度を止めろ!」

 

 サナダさんが一通り敵艦船についての解説を終え、会議の内容は自然と対策の話へと移っていく。敵艦隊で一番脅威なのがこのリサージェント級戦艦だし、この艦種について話し合われるのはまぁ当然だろう―――相変わらず私に絡んでくる中佐が少しうざいけど。

 

「艦長、一ついいかね?」

 

「何?コーディ」

 

「我々の艦隊を囮にするのはいいとして、別働隊はどう動かす?」

 

 コーディが聞いてきたのは、別働隊に関することだ。さっきの話で本隊を囮にすることは決まっていたけど、肝心の別働隊をどう動かすかまでは、まだ決めていないからだろう。

 

「それなら、私の艦を暗黒星雲に潜らせながら敵の側面まで移動させて、アイルラーゼンとスカーレットの艦隊も本隊から離した位置で射撃させれば良いでしょう。私の艦は改装で迅速に移動できるだけの機関出力を得ているし、奇襲効果を狙うなら複数方面から同時に攻撃を仕掛ける方がいいわ」

 

「それには賛成だけど、暗黒ガスに潜るなら索敵はどうするつもり?同時に仕掛けるなら、敵の位置を正確に捕捉している必要があると思うけど」

 

 コーディの疑問に対して、アリスが答える。

 この流れだと、アリスの〈ブクレシュティ〉とユリシア中佐のアイルラーゼン艦隊、それにスカーレット社の〈レーヴァテイン〉が別働隊として活動する、ということだろうか。この艦隊なら通常の戦艦主砲を上回る射程の砲があるから、遠距離から奇襲攻撃を仕掛けるなら適任と言えると思うけど・・・・・・それより、なんで〈ブクレシュティ〉の諸元が変わっているのよ。さてはサナダさん、また改造したわね―――!

 

「それは観測機を使ったデータリンクで解決できるわ。直接レーダーで捉えてなくても、別の部隊が敵の姿を捉えていれば問題ない。仮に通信障害が発生しているのなら、リレー衛星でも置けばいい」

 

「ふぅん―――成程、それなら問題はない、か。見つかって各個撃破される恐れも無きにしも非ずだけど、そこはお天道様に懸けてみるしかないわねぇ―――いいわ、それで行きましょう。そっちの可愛い艦長さんはどうかしら」

 

「いちいちからかうな!・・・まぁ、作戦については異論はないわ」

 

「同じく。我々スカーレット艦隊も異論ありません」

 

「なら本番はそれで行くとして―――次に移りましょう。次はあの巨大戦艦の歪曲レーザー対策だけど・・・」

 

「その件で、私から一つ案がある。よいか?」

 

「いいわ。話してみて」

 

 続いて私があの巨大艦対策を切り出すと、腹案でもあるのか早速ディアーチェさんが発言を求めてきた。

 ここはまず、彼女の案を聞くとしよう。

 

「整備班からの報告では、ジム用の大火力兵装が整いつつあるという話ではないか。そこで、この新兵器群を活用し、ジム部隊を敵艦の砲口に差し向け破壊させるというのはどうだ?」

 

 ディアーチェさんが提案してきたのは、ジム部隊による破壊作戦だった。

 似たような作戦は私も考えていたので、事前ににとりに命じて大火力兵装を造らせていたんだけど、どうやらそれが軌道に乗ったらしい。相変わらず、準備がいいことだ。

 

「それは私も考えていたわ。だけど、敵の防空網をどう突破するかが課題ね・・・防空用の機体も残さないといけないし、敵の防空隊も数がいるでしょうからね―――」

 

 ただ、その案の一番の問題点は、到達する前に撃ち落とされはしないかという点だ。いくら大火力兵装を持たせたとしても、敵旗艦に到達できなければ意味がない。

 

「くっ・・・それを言われるときついな・・・」

 

 ディアーチェさんもその問題点は承知していたようで、苦虫を潰したような顔をしている。

 

「でも、他に何か案があるのか?長距離砲を使う手もあると思うが、それだと時間がかかる。それに、敵に対して時間を与えすぎれば、あのレーザーによる被害が拡大してしまう訳だ・・・難しい問題だな」

 

 コーディも頭を抱え、悩んでいる様子だ。

 もしかして、みんな煮詰まってる・・・? それはちょっと、勘弁して欲しいんだけど・・・

 

 

「あの、にとりさん?」

 

「ん、なんだい?」

 

 沈黙した会議室の静寂を破るように、そこで早苗が手を上げる。

 

「こんな感じのもの、急いで作れません?」

 

「ほう、これは―――うん、任せてくれ!50機ばかりは一日で準備できるよ!」

 

「では、お願いしますね!」

 

 にとりの近くに寄った早苗は、なにやら図のようなものを見せている。

 にとりもそれでヒントを得たのか、なにか思い付いたような表情をしていた。

 

「・・・そこ、いいからそろそろ話してくれない?」

 

「ああ、済まん済まん。これから話すから勘弁してくれ」

 

 良案があるというのなら、早く聞かせなさいよね。こっちは煮詰まって困ってるんだし。

 

 にとりは軽く咳払いをすると、説明を始めた。

 

「あー、じゃあ説明するよ。さっきの案の問題点は、ようは敵に撃ち落とされるってことだろう?なら、撃ち落とされなくすれば良いだけの話さ。まずはこいつを見てくれ」

 

 にとりは一旦説明を止めて、デスクを操作してホログラムを表示させる。

 ホログラムに映っているのは、ブースターらしきものを二本繋げただけの、簡素な航宙機の画像だ。

 

「おいおい、なんだこりゃあ。こんな簡素な機体、どうやって使うってんだ?」

 

「まぁまぁ、ここは静かに聞いてくれ。こいつは試作機の増設ブースターユニットを流用したもので、通常の航宙機を上回る高速を発揮することが可能だ。この機体に大火力兵装を装備したジムを載せて、敵艦隊中枢まで一気に突入させる。そうすれば、敵も迎撃が追い付かないだろう?ブースターもなんぼか試作品が転がっているから、品質にケチをつけなきゃ今すぐにでも纏まった数を用意できる。どうだい?」

 

 ―――成程、これは良いかもしれない。

 付け加えるなら、迎撃される直前のタイミングで加速させれば、敵の照準を狂わせることもできそうだ。これなら撃ち落とされる心配も減るだろう―――よし、採用。

 

「にとり、それ、採用するわ。すぐに作業にかかりなさい」

 

「ふぇっ、早っ―――分かったよ!整備班総出で準備するよ!」

 

「任せたわ。あんたの腕は買ってるんだから、必ず決戦には間に合わせて」

 

「了解したよ。期待してな、艦長」

 

「ええ―――他に、あの巨大艦対策で案はない?」

 

「いえ、特には」

 

「私はその作戦でいいわぁ」

 

 流れは決まったようなものだが、一応他に案はないか聞いてみる。だけど予想どおり無いようなので、巨大艦対策はこれで良いだろう。

 

 その後は、細かな戦術の想定なんかを何パターンか試したりして会議は解散となった。

 

 

 敵艦隊を撃破すれば、いよいよ敵本星だ―――私をここまで煩わせたツケ、きっちり払わせてやる―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ本土宙域最深部・衛星ヴィダクチオⅣ~

 

 

 ヴィダクチオ自治領の最深部に位置する本土星系、そこに浮かぶ巨大ガス惑星にごく近い軌道を回る蒼い衛星―――これこそが、霊夢達が目指す敵の拠点、衛星ヴィダクチオⅣである。

 

 衛星ヴィダクチオⅣの周囲には、軌道エレベーターと結ばれた宇宙港を基点として設置されたオービタルリングが浮かび、侵入者を寄せ付けんと無数の砲口やミサイル発射台が外宇宙を睨んでいる。

 

 そのオービタルリングの監視の目を掻い潜るように星へ近づく、複数の宇宙船の影があった―――

 

「―――静かだな」

 

「そりゃあ、無音航行中ですからね」

 

 星に近づく宇宙船の一つ―――ロンディバルド軍・オーダーズ派遣艦隊旗艦〈ダウロン〉の艦橋で、艦隊指揮官のハミルトン少佐が呟いた。

 

 彼等の艦隊は、ヴィダクチオの防衛ラインを隠密に突破するために、オービタルリングがある赤道面を避け、星の南極方向に向かって慣性航行で近づいていた。

 彼等は事前にヴィダクチオ軍の主力艦隊が出撃したのを確認して惑星に接近していたので、主力機動戦力を欠いたヴィダクチオ側はまだ彼等の接近を察知していない。

 

「・・・しかしあの大艦隊、何処へ向かったんでしょうか」

 

「んなもん決まってるだろ。ユリシアの奴とあの民間人の艦隊を迎撃しにいったのさ。全く御愁傷様なこった。

 

「で、ですよねぇ・・・」

 

「お陰でこっちはだいぶ動きやすくなったから、一応アイツには感謝しておかねぇとな。それで、例の準備は整ったか?」

 

 司令官のハミルトンは、参謀のドリス大尉に尋ねる。

 "例の準備"の一言で察したのか、ドリスは滞りなく回答した。

 

「はい。現在のところ8割方は終わったという所でしょうか。仕掛けるには、もう少し時間が掛かるかと」

 

「分かった。これはお偉いさん曰く本国の未来に関わることらしいからな。確実に成果を出すためにも、準備は入念に行うよう言っておけ」

 

「ハッ、了解しました」

 

「それと・・・"プランB"の用意も忘れるな。部隊はすぐ出せるように準備させておけ」

 

「了解です」

 

 ドリスはハミルトンの命令を受けて、各担当部署へその命令を伝達する。

 

 暫くした後、ドリスから"例の準備"が整ったという報告を受けたハミルトンは、作戦の最終段階の開始を命じた。

 

「小佐、作戦準備が整いました。発令を」

 

「うっし、それじゃあ始めっとするか・・・って言っても、俺からしちゃあ随分と地味な作戦だがな。まぁいい。担当人員は直ちに作戦を開始しろ。奴等から少しでもモノを盗んでこい」

 

 ハミルトンは通信機を片手に持ち、ある部屋に通信を繋いだ。

 

「さて・・・閣下ご自慢の諜報部の力とやら、見せて貰いましょうかねぇ」

 

 通信機を置いたハミルトンは肘を置いて手を組み、虚空を見つめながら呟いた。

 

 

 

 ................................................

 

 

 

 

 ~衛星ヴィダクチオⅣ・自治領総督府~

 

 

 衛星ヴィダクチオⅣにある首都の中央に、天を貫かんと聳え立つ一棟の巨大ビルがある。―――ヴィダクチオ自治領の全てを司る、自治領総督府の建物だ。

 

 この自治領総督府では、かつてない混乱に見舞われていた。

 

「チイッ、敵の侵入ペースが早い!プロテクトはどうなっている!?」

 

「1番から15番までの隔壁消失!持ちこたえられません!」

 

「クソッ、神聖なるわが自治領が、何処の馬の骨とも知れぬ連中にここまで遅れを取るとは・・・お前ら、ここは何としてでも維持しろ!俺は教祖様に報告する!」

 

「ハッ!」

 

 自治領の軍備に関する情報を記録するこの部署は大規模なサイバー攻撃を受け、職員達が必死に対抗を試みていた。しかし相手の方が上手なのか、自治領側の防御機構は次々と破られていく。

 その部署の責任者らしき男は、この非常事態を自らの主君に伝えるべく、部屋を飛び出した。

 

 部署を飛び出した彼は階段を駆け、やっとの思いで領主が待つ最上階へ到達する。

 

「失礼します!教祖様、緊急事態です!」

 

 領主が控えるその部屋に入室した彼は、窓の外を眺める領主に詰め寄り、非常事態の発生を報告した。

 黒いスーツと顔全体を覆う白いマスクを身につけた領主は、彼が入室しても振り向かずに窓の外を眺めている。

 

「・・・情報室から報告は受けているよ。詳しい報告を頼みたい」

 

「ハッ!十分ほど前から、わが自治領のデータベースに対し何者かからの大規模なサイバー攻撃が仕掛けられました。今のところ重要機密は奪われていませんが、このままでは時間の問題かと・・・」

 

 彼は努めて冷静に事態を報告する。が、肝心の領主は肩一つ動かさず、窓の外を見つめたままだ。

 

「あの・・・教祖様?」

 

「・・・」

 

 彼はそんな領主の様子を不信に思い、恐る恐る声を掛けた。

 暫く沈黙が続いたが、程なくして領主が口を開く。

 

「・・・君、私がこの自治領をこの場所に築いた意味、分かっているかな?」

 

「は・・・確か、この宙域の地形が防御に適し、さらに星系内の資源が豊富だからと聞き及んでいますが・・・一体それが今回の事態とどう繋がりが―――?」

 

 彼は領主の問いに対して素直に応えるが、いきなり何の脈絡もなく自治領の立地の話をされたことを不信に思い、その理由を領主に尋ねた。

 

「概ねそれで合っているよ。だけど一つ足りないね。この宙域は恒星風が吹き荒れ、さらにマゼラニックストリームの近くに位置している。この立地は、敵対勢力からのサイバー攻撃を物理的に防ぐのにも適しているんだよ」

 

 領主は静かに、彼に対して自治領の立地の意味を説いた。

 宙域そのものに存在する恒星やマゼラニックストリームの影響により、自治領のシステムに対して外部からアクセスすることは困難を極める。いわば、常時通信障害が発生しているような状態なのだ。この立地に目をつけた領主は、ここに自治領を建設し、ひそかに軍備増強に励んでいたのだ。

 

「ハッ、そのような意味があったとは・・・!?、だとしたら、サイバー攻撃を仕掛けた敵は、この自治領の中にいると!?」

 

 彼は領主が語らんとしていることの意味を悟り、その言葉の意味を尋ねる。領主の回答は、それを肯定するものだった。

 

「そういうことになるね。最近煩いハエが何匹か紛れ込んだという報告があったけど、その中の一派だろうね。スカーレットの傭兵は主力艦隊が潰しにいったけど、まだ別行動を取っているハエがいるみたいだ。僕はそれを潰しにいくよ」

 

「了解致しました。では、私は現場の指揮に戻ります」

 

「いや、その必要はないよ」

 

「は―――!?ッ」

 

 報告を終えた彼は、未だにサイバー攻撃に晒されるデータベースの防衛指揮に戻ろうと退出しようとしたが、領主の言葉を耳にして立ち止まり、領主の方角を向く。

 

 しかし時既に遅く、彼の身体は至る所から血を流し、一瞬のうちに彼自身も意識を失った―――。

 

 

 

「―――ああ、掃除は頼むよ。それと艦の発進準備を急がせてくれ。ハエは僕が潰すよ」

 

 領主は何事もなかったかのように、何処かへ電話を繋いで指示を出す。

 通信を終え、受話器を置いた領主はゆっくりと立ち上がり、先程絶命した部下の脇を通りすぎてその場を後にする。

 

 白いマスクに覆われた奥にある眼光は、一度たりとも部下の死体に向けられることはなかった―――

 

 

 

 ―――自治領の空を、一隻の巨大戦艦が轟音を響かせながら進んでいく。

 

 白亜の巨艦は、艦尾のノズルから蒼いインフラトンの光を放ちながら、空を貫き、虚空の宇宙を進んでいく。

 

 甦りし遺跡船(リサージェント)は、その力を解放せんと、静かに侵入者に忍び寄る―――




多分次回辺りから、ヴィダクチオ艦隊との決戦になります。ちなみに早苗さんが提案したのは、ガンダムのサブフライトシステムのようなものです。


そして今回、初めて敵の上層部を登場させました。これだけの描写だと、まだモデルの正体については分からないでしょうが。


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第六五話 激突、サファイア宙域戦線!(Ⅰ)

 

 

 

「ううっ・・・ここ、は・・・?」

 

「―――漸く、お目覚めみたいね」

 

 旗艦〈開陽〉の医務室で、彼女は目を覚ました。

 未だに意識が朦朧としているのか、意識はここに有らずといった雰囲気だ。

 

「っ―――まり、さ・・・?」

 

「―――艦医のシオンよ。それより貴女、当面はここで休んでいてもらうわ」

 

「う――――ッ・・・し、シオン・・・か。失礼――」

 

 彼女―――霊沙は胸を抑えて起き上がり、シオンを視界に捉える。

 

「や、休む、だって・・・?」

 

「ええ。廊下で倒れていたあんたを艦長が運んできてくれたのよ。感謝しておきなさい」

 

 シオンはそう告げると霊沙から視線を外し、机の書類に目を落とす。

 

 霊沙は「艦長―――あいつが・・・?」と呟くが、そこで自身のベッドに身を預けて寝ている少女の存在に気付いた。

 

「おまえ―――フランか?何で私なんかに―――」

 

「――――う~ん・・・あ、お姉ちゃん、起きたのね!」

 

 霊沙が目覚めたと気付いたフランは、うたた寝から覚めるや否やぱあっと表情を明るくする。が、霊沙はそんな状況が飲み込めず、書類整理に耽っているマッドな藪医者に問い質した。

 

「おいシオン。こいつ、何で私なんかのところに―――」

 

「ああ、その娘、ここを通り掛かったときにあんたを見つけてからずっとそんな調子でね。―――まぁ、見舞ってくれたんだから礼の一言でも言っておきなさい」

 

「そうだな・・・フラン、有難う」

 

「うん!お姉ちゃん元気になったみたいで良かったわ!」

 

 フランは子供特有の無邪気な笑みで、霊沙の礼に応える。

 一方の霊沙は、「なんで懐かれたかな・・・」と困惑していた様子だが。

 

「あ、妹様。こんな処においででしたか。さぁ、早く部屋に戻りましょう。これから戦闘が始まりますから、早く安全な場所へ―――」

 

 フランを探しに来たのだろうか、彼女のメイドであるサクヤが医務室に足を踏み入れる。

 

「おい、サクヤ、だっけ?戦闘が始まるって、本当か?」

 

「霊沙様でしたね。はい、もうすぐ敵主力との決戦だと、霊夢様が仰っていましたが・・・」

 

「チッ、だったらこんな場所で寝ている暇は―――「おっと、そこまで」グハっ・・・」

 

 サクヤの言葉を聞いた霊沙は、戦闘が始まるならこうしてはいられないと飛び起きようとするが、額にシオンが投げた物体が命中し、そのまま再びベッドに倒れ伏した。

 

「全く・・・貴女は病人なんだから大人しくしていなさい」

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

「さぁ、妹様。早くお部屋へ―――」

 

「――――――う、うん・・・お姉ちゃん、ゆっくり休んでいてね!」

 

 突然の事態に頭がついてこれなかったのか、フランはサクヤの呼び掛けにも関わらず暫く呆然としていたが、意識が戻ると霊沙にそう言い残し、彼女と共に医務室を後にした。

 

 その様子を見送ったシオンは、再び机の書類に目を落とす。

 

 ―――あの娘、よくもまぁ、こんな身体で戦闘機なんかに乗れていたものですね・・・艦長には、何と言うべきか・・・

 

 彼女が思案しながら眺めている書類、それは、霊沙の身体を検査した際の資料だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋内~

 

  「―――三重連星系の熱圏を突破しました」

 

「ふぅ―――ここは無事に切り抜けられたか・・・排熱機構に異常はない?」

 

「はい。現状では多少排熱のペースが追い付いていない程度です。機構そのものに異常はありません」

 

 艦橋に戻った私は、戦闘に備えて艦内システムのチェックを指示した。先程まで通ってきた三重連星系は、航路がメテオストームを避けるために恒星に近い位置に引かれていたので、恒星からの太陽風なんかで何処かのシステムに異常が発生するかもしれなかったからだ。

 

「あー、特に機関室の排熱が追い付いていないみたいですね。艦長、予備の冷却システムを稼働させておきます」

 

「任せたわ、ユウバリさん。機関室は艦の生命線なんだから、異常が起きないようお願いするわ」

 

「了解しました」

 

 さっきのユウバリさんの報告では機関室の排熱が追い付いていないということだったが、多分艦内の排熱自体が追い付いていないので、システムに懸かる負荷が大きくなったせいだろう。今頃装甲外板の温度は100℃近くなっていてもおかしくないし、バイタルパート内こそ通常の温度で保たれているが、その温度に保つにも普段以上のエネルギーを消費している筈だ。

 まあ、こういう事態に備えて重要区画には予備システムが備えられているから、大事には至らないだろう。

 

「ああそうだ。早苗、他の艦の様子はどう?」

 

「はい・・・どの艦も似たり寄ったりですねぇ―――少なくとも、システムに異常を来している艦はないみたいですよ」

 

「艦長、友軍艦からも、システムに異常なしとの連絡がきています」

 

 早苗と通信担当のリアさんからの報告では、他の艦や友軍艦も無事にこの熱圏を突破できたみたいだ。これは素直に喜ばしい。敵との決戦前にシステムに異常が出て戦線離脱なんて事態になれば目も当てられないだけに、戦力が低下しなかったのは嬉しいことだ。

 

「了解したわ。一応しばらくシステムチェックはさせておきなさい。もう大丈夫だとは思うけど、万が一ってことがあるからね。それと戦闘に備えて、今のうちに陣形を整えておくわよ。いつも通り、主力艦隊を前へ、空母と工作艦部隊は艦隊の後方に配置しておいて」

 

「分かりました♪」

 

 三重連星系を抜けた艦隊は、陣形を整えながら目の前に広がる蒼い空間へと突き進む。先程までの三重連星系が暑苦しい赤い世界なのに対して、目の前の宙域―――サファイア宙域は凪いだ夜の湖のようだ。しかし実際には、サファイア宙域もここに劣らず厳しい宙域だ。特徴的な蒼い空間も、見た目とは裏腹に超高熱の青色超巨星が作り上げた景色だ。どっちの宙域も暑苦しいことに変わりはない。それに青色超巨星の太陽風や暗黒ガスの影響でレーダーが使えないだけに、この先は一層警戒して進まなければならない。

 

「ミユさん、あの宙域に入る前に、一応空間スキャンをしておいて。それとノエルさん、宙域に入り次第、偵察機部隊と通信中継機を発進させて」

 

「了解しました」

 

「了解です」

 

 いよいよあの宙域に入ったら、敵主力艦隊との決戦だ。今までのように格下の相手ではないだけに、嫌が応にも緊張する。

 

 艦隊は静かに、決戦の地へと進んでいく―――。

 

 

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「サファイア宙域に侵入しました。偵察機隊を発進させます」

 

 いよいよ艦隊は、決戦場に足を踏み入れた。

 ノエルさんの報告の後に、艦隊からは多数の偵察機と、遠方に進出する偵察機との通信を中継するための連絡機が発進する。改造ゼラーナ級からは新型偵察機のアーウィンが発進し、巡洋艦からは連絡機のスーパーゴーストが発進する。

 

「全艦、敵襲に備えて警戒を厳にして。光学観測も怠らないで」

 

「了解」

 

 戦闘を前にして、警戒態勢を指示してクルーの気を引き締めさせる。

 この宙域ではレーダーがあまり当てにできないので、それだけ奇襲を受ける確率も高くなる。なのでこの宙域では、光学による観測も今まで以上に重要だ。優秀な見張り員こそ居ないけど、システムが敵の艦影やメインノズルの噴射炎をレーダーに先んじて捉えることができれば、それだけ此方に備えの時間ができることを意味するからだ。

 

「偵察機隊、扇状に展開します。半径250光時の空間を調査開始」

 

 艦隊を離れた偵察機部隊は、一機ずつ散開して、面を塗りつぶすような形で索敵を開始する。後方に続く中継機部隊は、一定の距離まで進むと使い捨ての通信中継衛星を設置していく。

 

 そこからは、時間との戦いだった。

 

 いつ来るか分からない敵艦隊発見の報せに備えて、準戦闘態勢を維持しながら前進していく。

 当直こそ三交代制を維持しているが、普段にはない緊張感を伴って航海を続けているために、あまりこれを続けすぎるとクルー達の疲労が溜まってしまう。それではいざ戦闘となったときにミスの原因になるからだ。

 だからといってここは既に敵本星の目前、それだけ敵との遭遇が予想される宙域だ。気を抜かない訳にはいかない。

 

 この緊張感の微妙な匙加減を維持させることが、中々に難しい。

 

 

 

 艦隊が宙域の半分ほどに差し掛かった頃には、少しずつクルー達の間に疲労の色が見え始めていた。ここまで来るのに1日近くが経過しているだけに、流石に疲労は避けられないのだろう。あまり敵発見が遅れてしまうと、それだけ此方に疲労が溜まって、ヒューマンエラーが多発する事態になり兼ねない。そろそろ見つかって欲しいものだけど・・・

 

 そのとき、怠そうにコンソールに向かっていたリアさんが、慌てて姿勢を直して画面を食い入るように眺めた。

 

「っ―――艦長!偵察機γ9より通信です!"我敵艦隊見ユ"!!」

 

「来たわね―――全艦、戦闘態勢!所定の行動に入れ!」

 

「了解、全艦戦闘配備!」

 

「アイアイサー。戦闘速度に移行しますよ・・・っと!」

 

「全艦、近距離用メインレーダーに切り替えます。暗黒ガスの影響で索敵範囲が15%低下・・・」

 

 敵発見の報せを受けて、艦内ではけたたましくサイレンの音が鳴り響き、クルー達は慌ただしく配置につく。

 

「リアさん、敵艦隊の規模は?」

 

「はい・・・今のところ、ナハブロンコ級が14隻、シャンクヤード級巡洋艦が5、マハムント級巡洋艦が7、ファンクス級戦艦が2隻、ネビュラス級戦艦が4隻、ヴェネター級航宙巡洋艦が6、ペレオン級戦艦が3、未確認の1000m級戦艦が8隻、1500m級戦艦を1隻、2000m級戦艦を2隻確認!。敵は大マゼラン宙域海賊艦を前衛に、主力艦と空母を後衛に置いて前進中とのことです!」

 

「・・・ミユさん、未確認艦の照合を急いで頂戴」

 

 偵察機からの報告を受けたリアさんから、敵艦隊の詳細な情報が届けられる。この期に及んで未確認艦とは、敵もいよいよ全力で来たということだろうか。それに、例のリサージェント級戦艦の姿が見えないのが気になるわね・・・

 

「っ―――出ました!データ照合完了!敵1000m級戦艦はヴィクトリーⅡ級戦艦と判明。情報では高速戦艦タイプとのことです。1500m級の敵艦はテクター級戦艦、ペレオン級同様、艦隊決戦を想定したタイプの敵艦です。2000m級はセキューター級空母と判明、搭載機150機の大型空母です!」

 

「友軍艦艇にも敵発見の報告を行います。偵察機からのデータを送信―――」

 

 ミユさんが遺跡船のデータ解析で得られた敵艦のデータベースに照合して、未確認艦の詳細を割り出す。リアさんは偵察機から得られた情報を、僚艦や友軍艦艇にも伝えていく。

 

「アイルラーゼン艦艇、スカーレット艦艇、ブクレシュティ特務艦隊、本隊より離脱します」

 

 事前の打ち合わせに従って、長距離レーザー砲を搭載した艦艇が本隊から離れていく。複数方向から同時に遠距離射撃を実施するためだ。

 

 いよいよ、敵艦隊との決戦が始まる。

 

 

 

 

 

【イメージBGM:「アーベルジュの戦い」】

 

 

 

 

「〈ステッドファスト〉より発光信号!」

 

「・・・読み上げなさい」

 

「ハッ、"貴艦隊ノ健闘ヲ祈ル"・・・です!」

 

 本隊から離脱していくアイルラーゼン艦隊旗艦〈ステッドファスト〉から、探照灯で光信号が送られてくる―――あのピンク髪、中々いいことしてくれるじゃない。士気が上がるというものだ。

 

「ククッ―――あいつも粋なことしてくれるわね・・・此方からも返信しなさい"敵本星で会おう"ってね」

 

「了解しました!」

 

 あのピンク髪の粋な計らいで皆も士気が上がったようで、戦闘を前にしながらさっきよりも生き生きとしているように見える。―――この様子ならば、戦闘行動に支障はなさそうね。

 

「霊夢さん、作戦の方はどうされてますか?あの巨大戦艦が居ないなら、多少想定を変えても良さそうですけど―――」

 

「そうねぇ・・・先ずはあの前衛艦隊を始末するわよ。大マゼラン海賊の高速艦ばかりで編成されているし、此方が見付かったら真っ先に突撃してきそうだもの」

 

「了解しましたっ。艦載機隊はどうします?一応巨大艦対策に下駄履きのジムを残して、通常の航空戦力を差し向けますか?」

 

「う~ん、そこは難しいわね・・・敵の後衛には大型空母クラスが8隻も陣取っている訳だし―――そうねぇ、早苗、発光信号で別働隊に攻撃目標の指示を。"別働隊は敵空母を狙え"ってね」

 

「敵空母ですか―――了解です!」

 

 早苗に指示を与えると、彼女は嬉々としてそれを実行する。あの様子だと、私の狙いが分かったのだろうか。

 

「ほう、敵空母から潰すか―――確かに此方の航空戦力は数の上では大きく差を付けられているからな。妥当な判断だ」

 

「ありがと、コーディ。どうも敵さんの陣形を見ると、後衛にはあまり護衛艦が付いていないみたいだからね。この様子なら、直接空母を狙えそうだし、いい機会だから先に叩いておこうと思ってね」

 

「成程な。カルバライヤ戦法か」

 

「ええ」

 

 戦闘を前にして、私はコーディと言葉を交わす。

 彼が口にしたカルバライヤ戦法とは、そのまんまカルバライヤ宇宙軍の対ネージリンス戦法を指している。

 カルバライヤ宇宙軍の戦艦は殆どの例外なく超遠距離レーザーを主砲として搭載しているんだけど、それはネージリンスの主力である航空戦力を先んじて空母ごと叩くために装備されている。航空戦力で劣る彼等からしてみれば、ネージリンスの艦載機に自分達の上空を舞われることは即ち敗北を意味するからだ。だから彼等は、先制して空母を叩き潰すこのドクトリンを採用している。

 

 今の私達も、まさに彼等と同じような状況だ。航空技術こそ連中より勝っているけど、此方の艦載機400機程度に対して空母の搭載量から考えると敵は約1200と3倍の差を付けられている。加えてこちらの艦載機は索敵に少なくない数を割いているので、迎撃に使える飛行機はもっと少ない。ならば先んじて敵空母を叩き潰しておかないと、酷いことになるのは間違いない。

 

「別働隊より、了解との返答あり」

 

「長距離用索敵レーダー沈黙。敵のジャミングが開始されました。此方も気付かれた模様です。敵前衛艦隊、真っ直ぐ本隊に向けて加速を開始!」

 

「・・・いよいよ来たわね。敵前衛艦隊との距離は?」

 

「はい―――敵前衛艦隊との距離、凡そ87000です!」

 

「まだ遠いわね―――フォックス、グラニートミサイルの発射準備を。目標は敵前衛艦隊よ」

 

「イエッサー。グラニートミサイル発射用意。VLS一番から4番まで解放」

 

「それと付近の哨戒を厳にして。もしかしたら敵機が潜んでいるかもしれないわ」

 

「了解」

 

 こころが報告してきた距離ならば、まだ艦船用のレーダーでは捉えきれない距離だ。暗黒ガスが充満しているこの宙域なら尚更に。恐らく、敵も偵察機や偵察衛星を配置しているのかもしれない。今のところ、別働隊が気付かれた兆候がないのは良い調子だ。このまま私に食らい付いて来い。

 

「ロビンさん、艦隊を加速させるわよ。敵艦隊との距離48000の位置まで最大戦速」

 

「アイアイサー。最大戦速了解っと」

 

 グラニートミサイルの射程まで、まだかなり距離がある。あのミサイルの射程は45000だったから、その近くまで距離を詰めておいた方が良さそうだ。仮にもし敵が別働隊を見つけてそっちに方向転換したとしても、この艦隊を加速させればまだ救援も間に合う筈だし、戦術の幅も広がる。

 

 

「・・・距離、60000を切りました」

 

「グラニートミサイル、射撃諸元入力開始。発射準備に入るぜ」

 

 ―――敵との距離もだいぶ縮まってきたけど、敵は依然としてこの艦隊に向けて加速している。もうこの距離に入れば、交戦は避けられない。

 

「〈ブクレシュティ〉より暗号通信です。"我狙撃位置二到着"」

 

「―――随分と足が速くなったわね、あの艦。他の艦隊はどう?」

 

「はい―――射撃位置につくまでには、あと15分ほどかかりそうです」

 

「15分か・・・その時間だと、ちょうどグラニートミサイルが敵艦隊に到達する頃かしら。よし、別働隊の攻撃はグラニートミサイルの着弾を以て開始するわよ。通信中継衛星を介してそう伝えておきなさい」

 

「了解です」

 

 これで戦端を開く合図を轟かせるのは、この艦隊の役目となった。

 

 ククッ、今まで散々この私を煩わせてきたツケ、存分に返させてもらうわ。

 

 

 

「敵艦隊との距離、あと50000!」

 

「ようし、全艦、減速用意。距離45000でミサイル攻撃を始めるわよ!」

 

「了解!!」

 

 いよいよ、敵前衛が此方の射程に入りそうだ。この宇宙に戦闘の花が咲く刻も近い。

 

「グラニートミサイル、射撃諸元入力完了だぜ」

 

「―――敵艦隊との距離、45000です!」

 

 フォックスとこころの報告が重なり、戦闘距離に入ったことが告げられる。

 

 私は迷わず、その命令を下した。

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマトⅢより「ボラー艦隊の奇襲」】

 

 

 

「―――始めるわよ。グラニートミサイル発射!目標、敵前衛艦隊!」

 

「イエッサー!グラニートミサイルVLS、1番から4番まで解放!発射ァ!」

 

「〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉、ミサイル攻撃を開始します!」

 

 艦隊の中央に陣取る3隻の大型艦から、盛大に噴射炎を吹かしながら巨大なミサイルが力強くVLSを蹴って頭を出す。

 

 放たれたミサイルは、敵前衛艦隊に進路を合わせると、獲物を見定めた猟犬の如く真っ直ぐに飛翔していく。

 

「グラニートミサイル、着弾まであと20」

 

 敵艦隊はミサイルの発射に気づいたのか、俄に騒がしくなる。主砲の射程に捉えた艦は、狂ったようにミサイルに向けて砲撃を始めた。しかし、その行動はお世辞にも統率の取れたものとはいえない。

 

 それもその筈、普通こんな距離でミサイルが飛んでくるなんてことは有り得ないからだ。

 通常の交戦距離は遠くて凡そ20000―――まだ2倍以上の距離がある。そのため、敵はこんな距離で攻撃されるなんて考えていなかったのだろう。

 

 だがそんな事情など知らぬとばかりに、太くておっきい私のミサイルは寸分の違いなく敵艦隊に着弾した。

 このミサイルはそれ自体が多少の攻撃では落とされないほど頑丈なだけでなく、敵艦に第一弾頭が着弾した後、内部に第二弾頭を送り込んで内側から確実に破壊するという二重弾頭構造になっている。何という鬼畜仕様、おお怖い怖い(主にマッドが)。

 

 そんな鬼ミサイルの洗礼を受けた敵艦がただで済む筈がなく、着弾した艦は例外なく大爆発を起こして吹き飛ばされた。今ので何隻沈んだかしら。

 

「・・・戦果報告」

 

「ハッ―――此方が発射したミサイル22発のうち19発が命中しました。敵艦隊のうちファンクス級戦艦、ヴィクトリーⅡ級戦艦各1隻を中破、シャンクヤード級巡洋艦3隻、ナハブロンコ級水雷艇7隻の撃沈を確認」

 

「上々ね。さて、次は別働隊の攻撃だけど・・・」

 

 この次は、別働隊が敵空母に向けて長距離射撃を行う手筈になっている。前衛艦隊が常識外の距離から攻撃を受けたのに続いてこの攻撃だ。成功すれば、さぞ敵は混乱するだろう。

 

「―――〈ブクレシュティ〉及びアイルラーゼン軍艦隊の戦艦〈ステッドファスト〉〈リレントレス〉〈ドミニオン〉の4艦、敵空母に対し砲撃を開始しました」

 

 ―――よし、ここまでは作戦通り。あとは戦果の程だけど・・・

 

「別働隊の砲撃により、敵ヴェネター級1隻の上部甲板に重大な損害を確認。空母機能を喪失したものと思われます。さらに別のヴェネター級2隻にも着弾を確認!」

 

 初弾にしては、中々の戦果じゃない。敵艦隊の近くに張り付かせている偵察機とのデータリンクが効いたかな?

 偵察機の存在に気付かれる前に、できるだけ多くの弾を送り込んで欲しいところね。

 

「アイルラーゼン艦艇、リフレクションレーザーによる第二射を敢行!敵ヴェネター級1隻に致命的破壊を確認!」

 

 さらにアイルラーゼン艦隊は、第一射目で損傷を負わせた別のヴェネター級を砲撃し、集中砲火で確実に戦闘力を奪っていく。セキューター級は図体がでかいだけにしぶといと判断したのか狙われていない様子だ。―――あの中佐、ピンクの頭してる癖に賢いわね。

 

「さて、こっちも負けていられないわね。グラニートミサイル、第二射用意!目標は敵ファンクス級及びヴィクトリー級高速戦艦!一艦あたり5発は叩き込みなさい!」

 

「イエッサー!グラニートミサイル第二射用意、射撃諸元入力開始!」

 

 別働隊の働きを眺めてばかりではいられない。第一射目が成功したとはいえ、敵はまだまだ数が残っているのだ。

 次の攻撃は、特に驚異度が高い高速戦艦を狙わせる。撃沈まで持っていかずとも、あのミサイルを2、3発も受ければ唯では済まない筈だ。

 

「第二射は残り全てのVLSで行う。発射用意急げ!」

 

「了解―――全弾発射準備完了。5番から8番までのVLS解放、発射!!」

 

 続いてグラニートミサイルの第二射が放たれ、勢いよく敵艦隊に向けて飛翔していく。第一射目で取り巻きの巡洋艦と駆逐艦に大損害を与えたので、次は脅威となる敵戦艦に狙いを定めている。

 VLSから放たれた30発の大型対艦ミサイルは指示された通りに敵大型艦に食らい付くが、敵戦艦の砲撃により6発が撃墜された。敵の大型艦は中~小口径砲を多く積んでいるので、それだけミサイルに命中するレーザーが多くなって落とされたみたいだ。しかし、此方のミサイルは頑丈なので二、三発の被弾で落ちることはない。まぐれ当たり程度では、進むのを止めることはできない。

 

 そして程なくして、敵艦隊の奮戦虚しく22発のミサイルが敵艦に着弾した。一艦あたり4~5発の被弾を受けたので、幾ら戦艦といえども唯では済まず、着弾した艦の大半は轟沈するか、運が良くても大破状態で漂流する運命に追いやられた。これで敵の前衛艦隊は、戦わずしてその戦力の半数を喪失した・・・やっぱりあのミサイル、えげつないわねぇ・・・

 

「ミサイル攻撃第二射、着弾を確認!敵ファンクス級戦艦2隻、ヴィクトリー級戦艦3隻の撃沈を確認!またヴィクトリー級2隻を大破させました!」

 

「これでまともに戦える前衛の戦艦は5隻ね。いい調子だわ。別働隊の様子はどう?」

 

「ハッ・・・スカーレット社艦隊の〈レーヴァテイン〉も砲撃位置についたようです!遠距離からの精密射撃により、現在までに敵ヴェネター級2隻を撃沈、2隻を大破状態に追い込んでいます!さらに空母機能は残しているものの、敵ヴェネター級及びセキューター級各1隻に小~中破程度の損害を与えました!」

 

 ミユさんからの報告を聞く限りでは、別働隊もかなりの働きをしているようだ。開戦してから僅かな間に、敵空母の半数を無力化している。

 だけど、敵も馬鹿ではない。そろそろ迎撃のための艦載機隊がうじゃうじゃと沸き出してくる頃だろう。

 

 ―――だけどこれ、緒戦にしてはかなりの大戦果よね・・・ちなみにこの図が交戦時に表示されていた敵艦隊のデータで・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

 んでこっちが先制攻撃成功後の敵艦隊のデータと・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ・・・うん、やっぱりあのミサイルの威力、かなりエグいわねぇ―――戦艦5隻に巡洋艦3隻、駆逐艦7隻を瞬く間に宇宙の藻屑なんて・・・。

 だけど、もうグラニートミサイルは全弾発射してしまったので、ここからは地道に減らしていくしかない。それに敵艦隊にもまだ戦艦が15隻も残っているんだし、半壊したとはいえ油断は禁物だ。

 

「戦果は上々、か。だけどそろそろ危ないわね。アイルラーゼン艦隊とスカーレット艦隊には、此方に合流するよう伝えておいて」

 

「了解しました」

 

「それとロビンさん、取り舵10度、艦隊を別働隊に寄せて」

 

「了解、取り舵10度!」

 

 旗艦〈開陽〉の旋回に合わせて、本隊の他の艦も舵を切って追随する。敵も当然こちらを目指して進んでいるのだから、必然的に敵艦隊とは丁字戦に近い形に位置することになる。だけど敵艦隊は横に広がっていることに加えて前方火力が強力なため、気を抜くことはできない。

 

「敵艦隊の動きに変化はある?」

 

 あれだけの損害を敵は受けたのだから、普通はここで態勢を建て直すなり、何らかの行動を取るところなんだけど・・・

 

「いえ・・・依然として、本艦隊目指して直進してきます!」

 

「チッ、刺し違えてでもこの艦隊を止めるつもりか―――その闘志に応えてやろうじゃないの。―――全艦、砲雷撃戦用意!目標、右舷前方の敵艦隊!!最大射程で仕掛ける。観測機飛ばせ!」

 

「イエッサー。主砲、砲撃用意!目標、敵艦隊前衛艦」

 

「観測機、発進します!」

 

 〈開陽〉以下『紅き鋼鉄』の全戦闘艦艇の主砲塔が旋回し、その砲口を敵に向けた。

 敵艦隊を右前方に捉えた艦隊は、主砲発射命令を待つ。

 

「敵本隊より、小型のエネルギー反応を多数感知。艦載機隊と思われます」

 

「敵本隊に接触していた観測機との連絡、途絶しました!撃墜された模様です!」

 

 ―――このタイミングで来るか・・・

 

 別働隊が撃ち漏らした敵空母から、艦載機が我先にと発進していく。

 

「敵艦載機隊の標的は?」

 

「はい―――出ました!敵艦載機隊は、アイルラーゼン艦隊とスカーレット艦隊に真っ直ぐ向かっています!」

 

「成程ねぇ―――流石にあれだけ撃てば自ずと潜んでいる場所も分かるか・・・よし、此方も艦載機隊を出すわよ。対艦装備のジム以外は全機発進!別働隊の援護に回りなさい!」

 

「了解。―――全艦載機隊に告ぐ!対艦攻撃部隊以外の機隊は直ちに発進せよ!別働隊の援護に回れ!」

 

《こちらヴァルキュリアリーダー、―――了解した!全艦載機隊発進する!》

 

 艦載機隊の発艦命令が下され、本隊の戦艦と空母から続々と艦載機部隊がカタパルトから押し出され、あるいは甲板を蹴って発進していく。

 

 艦載機部隊約270機は隊長のディアーチェさんの指揮の下集合し、敵艦載機部隊目掛けて飛翔していく。

 

「敵艦隊との距離、あと22000!」

 

「距離20000で戦艦主砲による砲撃を仕掛ける。目標は前列の敵艦よ。操舵、敵艦隊との距離は18000以上を保て」

 

「了解。主砲、散布界パターン入力。照準固定。目標、敵艦隊前列のナハブロンコ級」

 

「了解っと。距離18000で転進用意」

 

 艦の主砲にエネルギーが込められ、発射の刻を待つ。

 敵艦隊のエネルギー反応も上昇した。恐らく、向こうも戦闘態勢に入ったのだろう。

 

「敵艦発砲!ファンクス級戦艦からの砲撃です」

 

「あの数じゃあそうそう当たらないわ。ファンクスが撃ってきてヴィクトリーが撃ってこないってことは、あれも中口径レーザー主体の艦なんでしょう。敵の間合いに入ったらこっちが滅多撃ちにされるから、一定以上の距離は保って頂戴」

 

「んなこと言われなくてもわかってますわ!」

 

「敵艦隊との距離、20000を切りました!」

 

「よし、主砲、砲撃開始!」

 

「イエッサー!主砲発射!!」

 

 敵艦隊との距離が一定以下にまで縮まったので、主砲の発射を指示する。本当は厄介なファンクスとヴィクトリーを先に始末したいところだけど、それを狙うには取り巻きのナハブロンコが邪魔なので、先ずはそいつらから片付けさせてもらう。

 

 艦隊から放たれた蒼白いビームの奔流は敵艦隊に容赦なく降り注ぎ、所詮は華奢な水雷艇でしかないナハブロンコを纏めて何隻か吹き飛ばした。ついでに奥にいた戦艦にも二、三発当たったようだ。

 

「敵ナハブロンコ級3隻のインフラトン反応拡散を確認。撃沈です!」

 

「よし、その調子よ。続けて第二射は敵戦艦を狙え!」

 

「了解、次弾装填、目標敵戦艦に変更。撃てぇー!!」

 

 第一射を放った主砲砲身が上に傾けられ、代わって中央砲身が敵艦隊を真っ直ぐ捉え、レーザービームの奔流を放つ。

 レーザーの群は餓えた猟犬のように敵戦艦に殺到し、先頭を進んでいたヴィクトリー級戦艦に降り注ぎ、これを大破させた。

 

「敵戦艦1隻、大破しました!」

 

「続けて第三射用意ッ!?―――ぐぅっ、な、何!?」

 

「きゃあァッ!?」

 

 私が次の斉射を命じようとしたその瞬間、猛烈な衝撃と共に艦が大きく揺らされる。

 

「し、シールド出力47%まで低下!第11から23区画までが貫通されました!」

 

「該当区画の隔壁閉鎖!整備班はダメージコントロール急げ!」

 

「〈高天原〉のショーフク提督より発光信号・・・"貴冠ハ無事ナリヤ?"」

 

 一撃で12区画も抜かれるなんて・・・一体、何の攻撃―――っ。

 

「霊夢さん―――これ、もしかして・・・」

 

「ええ―――アイツね。間違いないわ―――偵察機隊、周囲に散開しろ!レーダー感度最大!敵艦を炙り出しなさい!それと〈高天原〉には心配無用と返信しなさい」

 

「りょ・・・了解です!」

 

 此方に察知されずあれほどの砲撃を放ってくる敵艦なんて、思い当たる奴は一隻しかいない。

 おまえが居るのは分かっているんだ、さぁ、早く姿を見せろ―――!

 

「っ、居ました!本艦隊の左舷後方7時の方向に敵戦艦発見・・・リサージェント級です!」

 

 ―――案の定、敵艦は例の巨大戦艦のようだ。

 

 アレは何としてでも叩かなければならない敵だ。ここでこの〈開陽〉に食い止めさせる―――!

 

 

「やはり居たか・・・左反転160度、本隊の指揮を〈高天原〉に委譲!本艦はこれより、敵巨大戦艦の撃破に向かう!対艦攻撃隊、発進急げ!」

 

 

 

 



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第六六話 激突、サファイア宙域戦線(Ⅱ)/博麗幻想郷(Ⅲ)

今回は主に対リサージェント級戦になります。


 

 ―――夢を、見る。

 

 

 夜空には月が照り、夜の闇を色取り取りな弾幕が飾る。

 

 月を背に、二人の少女が舞い踊る。

 

 白黒と紅白―――二人の少女は競い合うように、鮮やかな弾幕(はなび)を打ち上げる。白黒の少女は星の弾幕、紅白の少女は光の弾と御札を以て、夜空を明るく染め上げていく。二人の周りを弾幕が包み、少女達はそのなかを踊るかのように舞い、弾を躱しながらも尚弾幕(はなび)を放つ。

 

 夜空が光で染め上げられ、二人だけの世界を切り取っていく。絶えず輝く弾幕(はなび)によって視界は白く、白く染め上げられる。気付いたときには、もう二人の姿は見えなくなっていた。

 

 

 視界はそこで、一度暗転する。

 

 

 ―――目を開くと、そこは一面の黒い空・・・

 

 黒い黒い雨雲から、大粒の雨が溢れ落ちる。それはまるで涙のよう。

 

 ―――遠くに、二人の少女の姿を幻視する。

 

 あれは・・・ついさっきまで弾幕を打ち上げていた二人だった。

 

 白黒の少女は力無く木の根元に身を預け、向かい合う紅白の少女に向けて言葉を紡ぐ。

 

 彼女が何を言ったのかは聞き取れない。だが、その言葉は紅白の少女にとっては相当に堪えるものだったらしく、彼女は白黒の少女が言葉を紡ぎ終えると同時に泣き崩れる。

 

 白黒の少女はそんな彼女を案じてか、泣き崩れる紅白の少女をそっと抱きしめ、耳元でなにかを囁く。

 

 同時に、白黒の少女の身体は金色の粒子となって消失を始める。

 それでも尚、白黒の少女は紅白の少女を抱きしめ続けた。

 

 彼女の身体はついに空へと還り、紅白の少女は縋るように身体の身体だった金色の粒子に手を伸ばす。だが粒子は容易に彼女の手をすり抜けて、空へと拡散していった。

 

 ―――慟哭が、響く。

 

 残された紅白の少女は天を仰ぎ、大粒の涙を流す。

 

 絶望と悲嘆に満ちたその姿は、見ているだけで痛々しい。

 

 私は思わず、彼女の元へ駆け出した。だってあれは、私の■■■■なのだから―――/その必要はない。アレはもう過ぎた事だ。

 

 少女の姿はいつの間にか闇に溶け、気付いたときには既に見えなくなっていた。

 

 ぐらん、と地面が揺れる。

 

 突然の揺れで、私の身体は(そら)へと放り出される。

 

 そこで再び、視界が暗転した。

 

 

 ―――気付いたときには、私は宙に浮かんでいた。

 

 眼下の景色は、酷い有様。

 

 紅い空には醜悪な黒い塊が我が物顔で飛び回り、彼等が飛翔する度に地面が剥がされていく。

 

 ―――幻想の楽園も、根を差す大地が砕けては惑星(ほし)と運命を共にする他ないということだろう。

 

 

「―――醜いものですわ。人と妖の理に因らず幻想が滅びる様は」

 

 唐突に、声が響く。

 

 ―――貴女は、誰だ?/―――オマエは八雲、ではないな・・・。

 

「このような結末は、有ってはならない。奈落へのレールは、敷き直さなければならない―――お分かりですね?」

 

 こいつは、何を言っているんだ・・・?/―――ああ、また"仕事"か。

 

「楽園の行く末は、人と妖の理によって定められるべきもの。そこに部外者が介入するなど許されない」

 

 先程から響く女の声は、全く要領の得ない話を続ける/―――結局私は、文字通り永遠の巫女という訳か・・・

 

 ―――気がつくと、目の前には少女の姿をしたナニカが立っていた。

 

「―――そういう訳だ。少しばかり主導権を返させて貰うぞ、紛い物の人形」

 

 ボロボロになった紅白の巫女服を纏ったソレ―――私と同じ貌をしたソレが、私の頭蓋に向かって手を伸ばす。

 

「それで宜しい、永遠の巫女。その責務、存分に果たされますよう―――」

 

 視界が彼女の掌に覆われ、視界が闇に染まっていく。

 

 

 最後に見た少女の顔は、ひどく寂しそうだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う―――っ・・・」

 

 ―――目が覚める。

 

 瞼を開き、視界が顕になっていく。

 

 どうやらここは、寝る前と同じ、医務室のようだ。

 

「あら、起きたんですか、霊沙さん」

 

「っ―――ああ、藪医者か。最悪な目覚めだよ」

 

「藪医者とは、相変わらず失礼な人ですね。―――まぁ、否定は出来ないんですけどね」

 

 あのマッド女医―――シオンは特に私のことを気にする訳でもなく、目元の書類に視線を落としている。

 

 

 ドォォォン・・・

 

 

 ―――唐突に、衝撃が襲ってきた。

 

 艦内が揺さぶられ、私もバランスを崩しかける。

 

「―――今のは?」

 

「ああ、敵の主力艦隊と交戦中ですからね。時々揺れますよ。さっきの揺れと比べれば大分マシな方です」

 

「は、戦闘―――!?クソッ、私が寝ている間に・・・」

 

 シオンが溢した戦闘という言葉に反応して、私は思わず飛び起きる。敵の主力艦隊ということは、あの巨大戦艦も敵の戦列に居るのかもしれない。アレが居るというのなら、戦力は一機でも多い方がいいに決まっている。―――こんな処でくたばっていては、務めを果たすことが叶わない。

 

「あ―――どこに行く気ですか!」

 

「チッ、藪医者に構ってる暇はないんだよ。礼だけは言っておくぞ。世話になった」

 

「ば、馬鹿ですか!?そんなボロボロの身体で行ったって―――」

 

 シオンが言葉を言い切るまえに、私はベッドから飛び起きて、医務室から逃げ出すように駆け出した。

 

 ―――確か、あの機体は前の戦闘でお釈迦になっていたんだっけ。・・・あのマッドに集れば余っている機体の一つや二つはあるだろう。

 

 私は靄のようにあやふやな記録から、これからの行動に必要な情報を思い出す。

 あのマッド共なら、実験機の一つや二つ、倉庫の肥やしにでもしているだろう。使えそうな機体を拝借すれば問題ない。

 

 

 ―――気がつくと、マッド共の実験機が置かれる格納庫の前まで来ていた。

 

 私は躊躇わずに扉を開き、格納庫の中を見回した。

 

「第一班は機材を片付けておけ!それと試作品もね!戦闘の衝撃で倒れたりでもしたら目も当てられない!第二班は直ちに被弾箇所のダメージコントロールの指揮を取れ!」

 

「ハッ!」

 

「了解です!」

 

 戦闘の真っ只中ということもあってか、格納庫のなかでは整備班長のにとりが部下達に指示を下していた。

 

 格納庫の中を見渡して適当に使えそうな機体を見繕った私は、その機体に向かって駆け出す。

 

「第三班は次の指示に備えて待機―――っておい!あんた、何してるんだ!?」

 

「っと!やべっ、見付かったか―――!」

 

「・・・あんた、よく見たら霊沙じゃないか!寝てる筈じゃあなかったのかい!?」

 

「ああ、元気になったんで出てきただけだ!それに戦闘だって聞いたら黙って寝てる訳にはいかないだろ。悪いけどこの機体、借りてくよ」

 

「ば、馬鹿!その機体はまだ調整中―――」

 

 にとりの奴が気付く前に、私は格納庫にあった黒い人形機動兵器に向かっていた。アイツが気付いたときには私はもう搭乗用のリフトにいたので、もうこの距離なら追い付けまい。

 アイツがなにか叫んでいた頃には、既に操縦席に身を滑らせていた。

 

「えっと・・・コイツ、どう動かすんだ?こうか?」

 

 ―――ただ、初めて乗り込む機体だっただけに、肝心の操縦法が分からない。何とも間抜けな話だ。

 以前乗っていたYF-21の操縦法を思い出して、ぶっつけ本番でなんとかしてみる。

 

 以前の機体を参考にして適当に機械を弄っていたら機動に成功したようで、操縦席内のモニターに次々と光が灯っていく。

 

「えぬ、だぶりゅーじー・・・なんだこれ、機体の型式か?まぁどうでもいい。問題は使えるかどうかだが―――」

 

 私は以前の機体でやっていた操作を思い出して、この機体の状態を確認する。どうやら機体自体は問題なく飛ばせるらしく、武装はカタパルトに入ってから選択したものが出てくる仕様になっているらしい。―――そもそも選べる武器がミサイルかリニアガンしかないんだが。

 とりあえず武装は両手にミサイルランチャーを一基ずつで良いだろう。ぶっ壊す対象はあの巨大艦だし。

 

「ばんがーど・おーばーど・ぶーすと―――ああ、要はブースターってやつか。丁度いい。こいつも装備しておこう」

 

 適当に機体のオプションを漁っていると、専用のブースターらしきものもあったので、ついでとばかりに装備を選択しておく。

 

 気がつくと、自動で機体はカタパルトの位置まで移動していて、格納庫に繋がる扉は既に閉ざされていた。

 

《N-WGIX/v 発進シークエンスニ移行シマス》

 

 機械的なガイド音声が響くと、自動で機体が稼働し、両手は事前に選択された武装を受け取る。背中にも、ガチャリとブースターが接続されたみたいで、モニターの機体情報が更新されていた。

 

 カタパルトに誘導灯が点り、ハッチが開く。準備は万端のようだ。

 

「・・・これでいいみたいだな。よし、それじゃ発進―――」

 

 私は思いっきり加速レバーを引いて、カタパルトから機体を発進させる。同時にVFのときは感じなかった猛烈な重力が、いきなり牙を剥いて襲いかかってきた。

 

 ―――な、なんだ・・・この重力―――っ!

 

 突然の重力で思わず意識を失いかけるが、そこは私、なんとか耐え抜いて見せた。ブースターは全力で加速を続けているらしく、未だにこのきつい重力は改善される見込みがない。

 

「っ―――と、あれ・・・だな・・・!」

 

 機体のセンサーが、一隻の戦艦の姿を捉えた。

 

 ―――間違いない。あの時にいた敵の巨大戦艦だ。

 

 敵の巨大戦艦の周りでは既に戦闘が始まっているらしく、時折火花が咲いては散っていく。既に味方の部隊が展開しているらしい。

 

 私は機体の進行方向をあの巨大戦艦にセットする。

 

 

 黒い機体は一直線に、白亜の巨艦目掛けて突撃する。

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋~

 

 

 刻は霊沙が実験機を駆って飛び出す数刻前~

 

「敵巨大戦艦を正面に捉えました!」

 

「作戦通りに行くわよ。対艦攻撃隊、発進!」

 

 旋回を終えて敵の巨大戦艦―――リサージェント級を正面に捉えた〈開陽〉は、事前の作戦に従って対艦ミサイルを装備したジムを全て発進させる。

 〈開陽〉に追随する2隻の巡洋戦艦、〈オリオン〉〈レナウン〉からもジムの部隊が吐き出され、〈開陽〉から発進した部隊と合流した。

 

「"下駄"の射出はまだ?」

 

「ハッ・・・只今射出開始しました!」

 

 ジムの部隊に続いて発進したのは、2基のロケットを横に繋いだ無骨なブースターユニットだ。ベースジャバーという名前らしいが、コードネームである"下駄"の方が呼び方としては広まっている。急造なので一発でも被弾すれば大爆発を起こすほど脆いが、その分速さはある。

 

 先に発進したジムの部隊は"下駄"に乗り込み、腕に内臓されたサブアームで剥き出しのグリップを掴む。

 上下に一機ずつジムを載せた"下駄"から加速を始め、リサージェント級に向かって突撃を開始した。

 

《こちらカーゴイル1、全機配置についた。これより作戦を開始する》

 

「了解した。健闘を祈る」

 

 攻撃隊を指揮する(といっても大半は無人機だけど)ガーゴイル1、マークさんから通信が届く。発進した攻撃隊は、既に全機が加速を始めていた。

 ちなみにマークさんの機体だけ蒼い新型になっているが、これは彼が土壇場でマッドから新型機を掠め取ったためらしい。確か―――ペイルライダーとかいう名前だったかしら。

 

 敵戦艦に向かう3隻の戦艦に先行して、50機あまりの凶悪な対艦ミサイルを携えたジムの群が敵艦に殺到していく。

 

「敵艦より、小型のエネルギー反応多数の展開を確認。直掩機と思われます」

 

「やっぱり居たか―――艦載機隊の大半を別働隊の護衛に回したのは不味かったかな・・・どう?こっちの攻撃隊は突破できそう?」

 

「はい―――ブースターがあるので強引に防空網を破ることは可能かと思われます。ただしジム部隊は対空装備がないので、攻撃を受けたら逃げ回るしか手がありません」

 

「チャンスは一度だけ、か・・・上手くやってくれるといいんだけど―――」

 

 突撃を続けるジム部隊を遮るように、敵の円盤形航空機が壁を作る。"下駄"を履いたままのジム部隊は、速度に任せるがままに突破を図ったが―――

 

《―――チッ、こちらカーゴイル1。敵にはかなりのやり手がいるようだ。速度があっても落とされるときは落とされちまう。既にこっちは6機が墜ちた》

 

 これは―――もしかしたら悪手だったかもしれない。少しばかり、マッドの技術力を信用し過ぎたかも。

 

「カーゴイル1、作戦行動の継続は可能か?」

 

《ああ―――ここは何とか抑えてみせる。まだ作戦行動に支障はない》

 

「了解した。そのまま任務を継続せよ」

 

 航空管制を担当するノエルさんと向こうで戦っているマークさんとの間で通信が交わされる。

 送られてきた情報を見たところ、敵の直掩機は30機ほどらしい。マークさんの言葉から察するに、単機で抑えているみたいだけど、果たして大丈夫なのだろうか。

 

 だけどそんな心配とは逆に、戦況を示すモニターは次々と敵機が落とされていく様を映していた。どうやら、心配は杞憂に終わったらしい。

 

《―――こちらカーゴイル1、目標を制圧した。これより対艦攻撃に移る》

 

「了解。戦果を期待しています」

 

 敵の直掩機を全て片付けたマークさんの機体は、先に進ませたジム部隊に追い付こうと、再び敵の巨大戦艦へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』巨大戦艦攻撃部隊~

 

 

《前方ニ敵機。数30》

 

 コックピット内に、無機質なガイド音声が響く。

 

 操縦桿を握る黒いノーマルスーツに身を包んだパイロット―――マーク・ギルダーは、レーダーに示された敵は編隊の規模を確認した。

 敵の直掩機30機は、15機ずつの梯団に分かれて二重の防御壁を形作る。

 

「数は30、か。カーゴイル2、聞こえるか?俺はここに留まって敵の直掩機を抑える。お前は攻撃隊の指揮を執れ」

 

 マークは通信回線を開き、僚機へと指示を下す。

 

《は―――ですが、幾らなんでも一機では・・・》

 

「問題ない。少し動かしてみただけだが、この機体はジムとは段違いの性能だ。流石はあのマッドが太鼓判を押すだけはあるな。それに、対空兵装を持っている機体は俺のペイルライダーしかない。なら俺が殿を引き受けるのが筋だ」

 

《―――了解しました。ご武運を》

 

 彼の僚機―――エリス・クロードの駆るジム・コマンド(指揮官用ジム)からの通信が切れると同時に、編隊は敵直掩隊の射程に入る。

 

 攻撃隊はその速力で強引に突破を図り、敵に隙を与えまいとする。その思惑通りに大半の直掩機は照準が追い付かずに彼等が駆けていった空間に向けて虚しくレーザーを放つだけだったが、中には手練れもいたのか、3機のブースターが落とされて搭載されていたジム諸共火達磨にされた。

 

「―――チッ、こちらカーゴイル1、敵にはかなりのやり手がいるようだ。速度があっても落とされるときは落とされちまう。既にこっちは6機が墜ちた」

 

 彼自身、これだけの速度を出していればそうそう当たることはないと高を括っていただけに、敵の技量に驚嘆する。同時に貴重な火力を減らされた苛立ちからか、やや不機嫌な声で母艦へと報告を入れた。

 

《カーゴイル1、作戦行動の継続は可能か?》

 

 母艦からの返答は、無機質な確認だった。

 

 航空隊のオペレーターを担当するノエルのことは、その容姿もあって航空隊のなかでは中々の評判なのだが、元軍人のためなのか戦闘時は冷静すぎると一部からは不満な様子だ。ただ、このように冷静に状況を尋ねてくる様もまた彼女らしい、と彼は内心で考えていた。

 

「ああ―――ここは何とか抑えてみせる。まだ作戦行動に支障はない」

 

《了解した。そのまま任務を継続せよ》

 

 マークも当たり障りのない言葉で返答し、簡素な通信はそこで途切れる。

 

 彼の目の前には、敵防御壁の第二陣が迫っていた。

 

「・・・カーゴイル2、俺は奴等を抑える。その隙に突破しろ」

 

《・・・了解》

 

 彼の僚機は、ただ一言返答した。

 

 それを以て、彼は次の行動へと移る。

 

 マークは瞬時に両腕と兵装担架システムのレーザーマシンガンを展開し、即座に敵機の未来位置を割り出してすれ違い様に蒼い火線を叩きつける。

 彼の機体から放たれた銃撃はその大半が敵直掩機に命中し、それらを物言わぬ棺桶に変貌させた。

 

 銃撃を成功させた彼はベースジャバーから機体を離脱させ、さらにもう一機の敵機を落とす。

 

「さぁて、これで5機落とした訳だが―――」

 

 彼の眼前には、闘志を湛えた25機の円盤が舞っている。そのうちの何機かは間違いなく手練れだ。

 対するは彼の機体一機のみ。普通に戦って勝てる相手ではない。

 

 だがそれでも、彼には勝算があった。

 

「HADES、だったか。あのいけ好かねぇマッド共が開発したとかいうシステムとやら、試させて貰おうか!」

 

 マークは躊躇わずに、そのシステムの起動ボタンを押す。

 彼の乗るペイルライダーのモニターが緑色から赤く変わり、全身のダクトも排熱を帯びて赤熱化する。

 

 敵直掩隊の円盤が、システム起動に伴い一時的に無防備になったペイルライダーへと殺到し、幾重にも光線を重ねるが、光線が過ぎた先には既にペイルライダーの姿はない。

 

 その直後、一機の円盤が滅多打ちにされた。

 

「ハハッ、コイツは良いな。反応速度が段違いだ!」

 

 ペイルライダーに搭載されたシステム―――HADESは、装置が演算した最適解を瞬時にパイロットへとフィードバックするシステムである。その分パイロットが処理しなければならない情報が増え、かなりの負担となってしまう代物なのだが、彼はそれを問題なく使いこなしていた。

 

 勇敢な円盤が彼のペイルライダーへと攻撃を仕掛けるが、その攻撃は宙を虚しく裂くだけで、次の瞬間にはその10倍もあろうかという銃撃が円盤に降り注ぐ。

 そうして一機、また一機と討ち取られていった直掩機の円盤は、遂に数機を残すのみにまで撃ち減らされていた。

 

「―――成程、こいつがさっきの手練れか。流石はここまで生き残っただけはあるな」

 

 マークは、目の前から迫る生き残りの円盤が先程ジムが載ったベースジャバーをすれ違い様に落とした手練れだと直感していた。それだけに、操縦桿を握る手にも力が込められる。

 

「だがそれも終いだ。ここらで幕引きといこうじゃないか!」

 

 彼は放熱が追い付かずに焼き焦げたレーザー機銃を捨て、ビームサーベルを握って突進する。

 

 眼前から迫る敵機が猛烈に射撃を加え、阻止を試みる。今までの敵より遥かに正確な射撃を前に、ペイルライダーも何発か被弾を受けるが、システムの演算のお陰か重要部分には命中していない。

 

「貰った―――!」

 

 銃撃を終えた円盤は、素早く離脱を図る。

 だがそれよりも速くマークは機体を移動させ、敵機の真横についてサーベルを降り下ろす。

 

 サーベルは寸分の違いなく円盤を切り裂いて、真っ二つに割れた円盤は大爆発を起こして果てた。

 

「―――ふぅ。これで片付いたか。さて、こっちもエリスに合流しないとな」

 

 敵直掩隊の全滅を確認したマークは、機体を敵巨大戦艦の方角へ向け、母艦への通信回線を開く。

 

「―――こちらカーゴイル1、目標を制圧した。これより対艦攻撃に移る」

 

《了解。戦果を期待しています》

 

 必要最低限の言葉を紡いで、通信は終わる。

 

 彼が駆るペイルライダーはバックパックから、機体と同色の蒼いブーストの炎を吹かして僚機の下へと急ぐ。

 

 白亜の巨大戦艦の周りでは既に、幾つもの花火が咲いていた。

 

 ................................................

 

 

 敵巨大戦艦リサージェント級に向けて突撃したジム部隊は、更なる試練に襲われていた。

 

 敵は、攻撃隊が先程突破してきた直掩隊に加えて10機ばかりの戦闘機部隊を艦の周囲に残しており、その部隊とジム部隊との間で壮絶な格闘戦に発展していた。

 

 大型対艦ミサイルを装備したジムは、一度攻撃を受ければ忽ち大爆発を起こして塵と化してしまう。それを理解しているからこそ、簡易AIの駆るジムは敵機に構うことなく、その母艦へと直進する。既に母艦に取り付いている彼等はベースジャバーを脱ぎ捨てており、先程までの速度という最大の加護を失っていた。そのため、運の悪い機体は銃撃をまともに受けてしまい、使命を果たすことなく散ってしまう。

 だがジム部隊は黙ってやられている訳ではなく、ときには頭部に配置された固定武装の57mmバルカンで果敢に反撃を試みる機体もあった。鈍足な対艦攻撃部隊と油断していた敵機は、彼等の反撃によって数機が叩き落とされる。

 

 そしてジム部隊は遂に目標としていた敵巨大戦艦の歪曲レーザー砲砲口部に到達し、両腕に備えた大型対艦ミサイルと兵装担架システムに装備した多目的ミサイルポッドを向ける。

 

「これで・・・!!」

 

 ペイルライダーのマークからジム部隊を託されたもう一人のパイロット、エリス・クロードは、ミサイルの引き金に手を駆ける。指揮機である彼女がミサイルを放てば他の無人機達もミサイルを発射するようプログラムされており、幾らか数を減らしたとはいえ40機弱のジムから放たれるミサイル攻撃は圧倒的な威力を持つ。それだけの火力があるのだから、攻撃が成功すればこの砲口は完膚なきまでに粉砕されるだろう。

 

 砲口の真下に取り付いたことで、彼女は勝利を確信した。

 

 だが虚しくも、突如機内に鳴り響いたアラームの音声によりその確信は打ち砕かれる。

 

「な、何・・・っ!」

 

 エリスは只ならぬ事態が起こると直感し、即座に対艦ミサイルは発射してその場から離脱を図る。

 だが他の無人機達は、指揮機の行動を基準にするシステムだったことが仇となり、ミサイル発射後は未だに満足な回避行動に移れていなかった。

 

 そのことが、ジム部隊に悲劇をもたらす。

 

「高エネルギー反応!?まさか・・・」

 

 エリスは敵の目論見を悟り、急いで脱出指示を下す。しかし、無慈悲にも鉄槌は放たれた。

 

 巨大戦艦の砲口が緑色に輝いた直後、数十もの光線がジム部隊の頭上に降り注ぎ、発射された対艦ミサイルの群を完膚なきまでに叩き落としていく。

 レーザーの嵐はそれだけでは収まらず、ミサイルを発射したジム達の頭上にまで降り注いだ。

 ミサイルを発射した直後で満足な回避行動を取れていないジムは成す術なく拡散したレーザーの雨に呑まれ、悉くが撃墜されていく。

 

 ミサイルの発射時には39機が存在したジムは、このとき16機までに撃ち減らされていた。

 

「なんてこと―――クッ、こちらカーゴイル2、攻撃失敗。繰り返す、攻撃失敗!!」

 

 ジム部隊の攻撃は、完全に失敗した。

 事態を悟ったエリスは、旗艦への通信回線を開いて悲壮に満ちた声で報告する。

 

 だが、事態はそれだけでは収まらなかった。

 

「今度は・・・また敵機――――!」

 

 追い討ちとばかりに、巨大戦艦から更に円盤が射出される。その数、42機。

 幾らミサイルを放って身軽になったジムとはいえ、満足な火器もなしに圧倒的多数の敵機に追い回されては歯が立たない。

 

「っ―――、全機、"下駄"まで戻れ!離脱する!」

 

 敵機に対して全く勝ち目がないと即座に理解したエリスは、辛うじて残っていたジムを纏め上げて、脱ぎ捨てたベースジャバーの位置まで離脱を図る。ベースジャバーにさえ乗ってしまえば、あとは加速力で幾らでも敵の追撃隊を引き離すことが出来るからだ。しかし、敵追撃部隊はジム部隊とベースジャバーの間に布陣しており、突破することは容易ではない。

 

 ジム部隊にとって、第二の地獄が幕を上げた。

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉艦橋~

 

 

《こちらカーゴイル2、攻撃失敗。繰り返す、攻撃失敗―――!!》

 

 その様子は、ここからでもはっきりと捉えられた。

 

 攻撃位置についたジム部隊は、拡散する緑色の光線の雨に呑まれ、発射したミサイル諸共悉く墜とされていく。

 

 誰もがその光景を前に言葉を失い、攻撃失敗を伝えるパイロットの声が、艦橋内にただ虚しく響いていた。

 

 嵌められた―――ッ!

 

 この場にいる誰もが思ったことだろう。

 

 まさか敵のレーザー砲に、あんな機能があるなんて完全に想定外だった。反射板を搭載した航空機によって屈曲させるという特性こそあったものの、砲自体は単なる巨大レーザー砲だと思い込んでいた。だが、それは違った。敵のレーザー砲は、更なる形態を残していたのである。

 

「なんてことだ―――拡散機能まであったとは―――」

 

「―――攻撃隊、23機の信号をロスト。攻撃隊の半分以上が、今の攻撃で撃墜されました」

 

 あまりの事態に思考が付いていかず、艦橋クルーの砲口も僅かにしか耳に入らない。

 だが、すぐに私の思考は現実へと引き戻される。

 

「っ!敵艦より更なる小型のエネルギー反応多数発進!追撃部隊と思われます!」

 

「――――何ですって!いけない、ジム部隊にはもう・・・」

 

 ここに来て、更なる敵機来襲の報せである。

 砲口の破壊のみに注力していたジム部隊は、最早敵機に抗う力など残されていない。しかも間が悪いことに、敵機はジム部隊とベースジャバーの間に陣取るように展開している。あれでは、ジム部隊は逃げたくても逃げられない。

 

「クソッ、認めたくはないが、敵の方が一枚上手だったようだな」

 

 私の背後の席で戦況を監視していたコーディが悪態を吐く。彼の言うとおり、今回ばかりは敵にしてやられた。

 だが、ここで立ち止まる訳にはいかない。あの砲口を放置していれば、艦隊の艦がどれか敵喰われてしまう。それだけは、避けないといけない。

 

《こちらカーゴイル1!攻撃隊の撤退を援護する!》

 

「了解した!ただし無理はするな。離脱が最優先よ」

 

《そんなことは心得ている。こんな場所でくたばる気は無いんでね!》

 

 遅れて戦域に到着したマークさんはペイルライダーは、再び殿を買って出て敵機へと攻撃を始めた。自分が敵の円盤を引き付けている間に、ジム部隊をベースジャバーまで逃がす算段のようだ。

 しかし幾らマッドが自重という自重を葬り去って作り上げた高性能機でも、たった一機では相手にできる数なんてたかが知れている。ペイルライダーの攻撃を無視してジム部隊に向かった敵機は半分以上にまで上った。

 そしてジム部隊の方も、未だ健在な機体でも何らかの損傷を受けている機体の方が多い。彼等の奇跡は、あのレーザーの雨から生還したことで消費され尽くしていたのだろう。損傷のため満足に動けないジム達は、一機、また一機と討ち取られていく。

 

「―――もう手は残されていない、か・・・。本艦は此より、敵艦に対して砲雷撃戦を敢行する!機関、最大戦速!」

 

「っ、了解!機関出力最大!」

 

「参ったねぇこりゃ。了解、最大戦速!」

 

 ジム部隊は壊滅した。最早、通常砲戦で決着を図るしかない。

 そう考えて、命令を発したときだった。

 

「れ、霊夢さん!第四カタパルトが勝手に・・・」

 

「何、どうしたの!?」

 

 早苗が艦内でなにか異常を見つけたようで、慌てた様子で報告を寄越してきた。

 

「はい―――マッドの機体開発区画から延びるカタパルトが勝手に稼働しています!」

 

「はぁ、マッド!?あの連中、また何かやらかしたの?」

 

「いえ、それが―――あっ、なにか機体が射出されたみたいです!」

 

 早苗の報告の直後、猛烈な勢いでナニカが艦内から射出された。その物体は宇宙の闇に溶け込むような漆黒の躯を持ち、機体の何倍もの大きさのブースターユニットを全力で噴射して敵艦へと向かっていく。

 

「い、今のは―――」

 

《艦長!緊急事態だ!》

 

 私の言葉を遮るように、そこで整備班のにとりから緊急通信が入る。

 

「にとり!?、一体何が起こったの?」

 

《ああ、それが―――霊沙の奴が試作機を奪って無断出撃しやがった!アレはまだ未調整の代物だ!あんな機体に生身で乗ったら―――》

 

「はぁ!?霊沙?アイツはまだ医務室で寝ている筈じゃあ―――」

 

「っ、霊夢さん、あの機体、此方からの操作を受け付けません!」

 

「あんの馬鹿―――!」

 

 ・・・状況を整理すると、霊沙の奴が医務室から脱走したらしい。更に間が悪いことに、にとりの話ではヤバい代物にまで乗り込んでしまったらしい。加えて早苗の操作も受け付けないときた。もう、此方から出来ることはない。

 

「チッ、こうなったら、アイツが帰ってくるのを待つしかないか・・・」

 

 あの病状でさらに無断出撃なんて、どれだけ無茶をすれば気が済むのよ、アイツ。帰ってきたらきつく言っておかないと―――

 

「ふむ―――もう飛び出してしまったのなら仕方ないな。ここは一つ、彼女に懸けてみることにしよう」

 

「コーディ・・・?」

 

 彼女の無断出撃で慌てていた私達とは対照的に、コーディは落ち着いたような口調で溢した。

 彼の視線の先には、尚も加速を続けるアイツの機体の姿があった。

 

 

 ...............................................

 

 

【イメージBGM:ARMORED CORE VERDICT DAYより「Mechanized Memories」】

 

 

「チッ、コイツはちと、流石にキツいな―――!」

 

 霊夢達が旗艦の艦橋で一人の少女を心配していた頃、その原因となった当の霊沙は、試作機動兵器"グリント"のコックピット内で忌々しげに呟いた。

 

 猛烈な勢いで加速を続ける機体は、容赦なく彼女の小さな身体に壮絶なGを叩きつける。だが他人とは違い出生がやや特殊な彼女は、平然と、まではいかないものの、そのGに耐えきっていた。

 

 目指す先には、敵の旗艦と思われる巨大戦艦が鎮座している。

 

 通常の3倍の速度で飛翔する"グリント"は、普通ではあり得ない程のスピードで旗艦〈開陽〉と敵巨大戦艦との間の距離を駆けていく。この加速力は、機体の背中に装備されたブースターユニット、VOB(Vanguard Overed Boost)によって生み出されたものだ。

 

 このロケットを4基束ねただけのように見える簡素なブースターユニットは、その急造品じみた外見とは裏腹に、凶悪な加速性能を誇っている。VOBの開発コンプセントは『遠距離からの強襲』の一言にあり、広大な宇宙空間を一瞬で駆け抜けるために僅か数秒で駆逐艦の最大戦速の2倍近い速度まで加速するという化物じみた加速性能を有していた。(ちなみにベースジャバーに用いられたブースターはVOBの予備部品や試作品が使われているが、そのままの仕様だと機体強度の関係でジムが耐えられないので、大幅にデチューンされている)だがそれだけに問題も多く、そもそも慣性制御が追い付かず並の人間では到底耐えられる代物ではなかった(事実、ジムのデータを用いたシュミレーションではパイロットはぺちゃんこに潰されるという結果が得られている)。加えてシュミレーションでは、ブースターを装備される機体自体も壮絶な加速に耐えきれず、既存の機体では悉くが空中分解を起こすことが判明していた。そこで開発されたのが、彼女が乗るこの強襲用機動兵器"グリント"である。

 

 "グリント"は既存の機動兵器―――ジムとは異なり、デフレクターの展開すら可能とする出力を持つ新型機関を搭載することで慣性制御へ回すエネルギー量を確保し、また慣性制御装置もコストを度外視した超高性能な特注品が宛がわれている。この二点により、上記の問題点を解決して優秀な機動兵器となる―――筈だった。

 まず機関出力に関しては予定していたものには及ばないが、必要なエネルギー量は確保できていた。問題なのは後者である。

 コスト度外視の特注品と言えば聞こえはいいが、幾ら『紅き鋼鉄』が誇る変態技術者集団(マッドサイエンティスツ)といえど、いきなり既存品を遥かに上回る性能の慣性制御装置を造るのは些か難易度が高すぎた。加えて『紅き鋼鉄』は0Gドックとしてはかなりの規模を誇るのだが、所詮は一航海者に過ぎない。使える予算とて、決して潤沢ではなかった。そんな状況下で完成した慣性制御装置は、マッド達が求める水準には遥かに及ばなかったのである。

 この機体の開発は、マッド達の総本山であるサナダなら構想段階で流石にストップを掛けたであろうぐらいには無茶な計画だったのだ。しかしこの機体を手掛けたのが、実利より浪漫を優先する整備班(機械バカ)だったことが災いし、ここまで開発が続けられてしまったのである。多少の要求値の下方修正こそあったものの、それでも既存の航宙機(なお基準は大マゼランレベル)の3倍の性能・単独で敵中枢を破壊できる制圧力を目指して開発された"グリント"は、機体自体は何とか形になるまでには漕ぎ着けていた。

 しかしこのままでは乗れるパイロットが居ないため、無人化を前提とした再調整が行われていた。そんな折に、この機体は霊沙に奪取された訳である。

 

 常人では到底耐えられないこのじゃじゃ馬を、彼女は劣化した夢想天生を発動させてGを受け流すことを試みた。その試みはある程度は成功したといえるが、元が既に劣化しているために身体の一部が引っ張られ、完全にGを無効化することまでは叶わなかった。それでも尚、彼女は操縦桿を握る手を離さない。

 

 ―――アイツを封じないと、艦隊はここで壊滅する。ここで依り代が吹き飛ぶのは、些か不都合だ/今はとにかく、アイツのフネがやられる前に―――!

 

 彼女は冷静さを湛えた氷のような瞳で/熱い闘志を秘めた瞳で、眼前に迫った巨大戦艦の姿を睨む。

 

「邪魔―――!」

 

 VOBの推進力で強引に突き進む彼女の"グリント"を阻むように、先程までジム部隊を追い回していた敵の円盤部隊が"グリント"の前に立ちはだかる。

 

 彼女はその様子を確認すると、VOBの固定兵装であるマルチミサイルで目標を直ちにロックする。

 "グリント"は円盤部隊とのすれ違い様にミサイルポッドから大量のマルチミサイルを吐き出し、進路上に立ち塞がった円盤を一機残らずスペースデブリへと変貌させた。

 

 円盤部隊を突破して敵巨大戦艦の直下まで機体を移動させてきた彼女は、"グリント"の背中に接続されたVOBを切り離し、慣性と機体各所の姿勢制御用スラスターを使って一瞬で機体を敵巨大戦艦の砲口直下へと滑り込ませる。

 

 "グリント"の両腕に備えられたミサイルが、砲口に向けられた。

 同時に、巨大戦艦の砲口も緑色に輝き出す。

 

「その手は―――喰らわない」

 

 それを見た霊沙は、一気にジェネレータ出力を最大まで上げる。直後、機体を包み込むように淡い緑色のシールドが出現した。

 

 "グリント"の機体をシールドが包み込んだ直後、巨大戦艦の砲口からジム部隊を葬った拡散レーザーが発射される。

 しかし、APFSを張った"グリント"にはレーザーの光線は届かず、レーザーの雨が止んだ頃には無傷の黒い機体が姿を現した。

 

「―――終いだ。沈め」

 

 何処までも無機質で、氷のように冷酷な声で、彼女は死刑宣告を告げる。

 

 レーザーの発射直後でシールドを失った巨大戦艦の砲口に向けて"グリント"の両腕から8基の大型対艦ミサイルが放たれる。

 防御手段を失った巨大戦艦の砲口には最早それを防ぐ術はなく、吸い込まれるようにミサイルは砲口に着弾し、朱い炎を盛大に吹き上げて爆発した。

 

「これで、とりあえずは、大丈、夫―――」

 

 ミサイルの着弾を見届けた霊沙は、今までの無理が祟ったためか、眠るように意識を手放した。

 

 




お待たせしました。第六六話です。マー君と霊沙が暴れるだけでした。本来ならこの話で決戦を終わらせるつもりでしたが、次の話まで延びそうですw
まぁ色々あるとは思いますが―――少し解説すると、今回出番多めのマーク・ギルダーとエリス・クロードの二人はGジェネシリーズのオリジナルキャラクターから引っ張ってきたものです。以前にもちらほらと出ています。加えて、何度も書きましたが霊沙の外見は禍霊夢(ロリ)です。

機体に関しては、一年戦争狂気の産物のペイルライダーは愉快なマッド達の手にかかってただのつよいジムと化しました。きれいなHADES(笑)
そしてもう一機、霊沙が奪った"グリント"ですが、外見はACVDに登場したラスボス機のN-WGIX/vまんまです。但しVOBはACfAのデザインがイメージです。マッドの浪漫が詰まっていますw


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第六七話 激突、サファイア宙域戦線!(Ⅲ)

 ~ヴィダクチオ自治領・サファイア宙域~

 

 

 

【イメージBGM:無限航路より「戦闘空域」】

 

 

 霊夢率いる〈開陽〉がヴィダクチオ艦隊旗艦と思われる巨大戦艦と交戦していた頃、ユリシア・フォン・ヴェルナー中佐率いるアイルラーゼン派遣艦隊は、ヴィダクチオ自治領軍機動部隊と交戦していた。

 機動部隊とはいっても戦艦、空母共に8隻を擁する大艦隊であり、戦艦3隻を基幹とするアイルラーゼン艦隊からすれば相手をするには荷が重い艦隊だった。序盤のリフレクションレーザーによる遠距離奇襲攻撃で空母2隻を撃沈、さらに2隻を戦闘不能に陥らせたとはいえ、ヴィダクチオ側は未だに空母4、航空機600機以上を擁する一大機動部隊としての体裁を整えてえおり、空母がないアイルラーゼン側からすればこれらの航空機も深刻な脅威であった。

 

「10時の方角より敵円盤機、急速に迫る!」

 

「対空迎撃、急げ!」

 

「了解ッ!」

 

『紅き鋼鉄』からの上空援護を得ているとはいえ、幾ら高性能機主体といっても敵編隊の三分の一程度機数、200機程度の戦闘機隊ではその三倍にも及ぶ敵機は流石に抑えきれず、『紅き鋼鉄』の戦闘機部隊を突破したヴィダクチオ軍攻撃隊がアイルラーゼン艦隊の上空に迫る。アイルラーゼン軍派遣艦隊旗艦〈ステッドファスト〉の艦橋ではレーダー手が敵機接近を告げ、艦長兼司令部副官のローキ・スタンリー少佐が即座に迎撃を指示する。

 〈ステッドファスト〉の直上に迫った円盤形攻撃機は同艦のパルスレーザーに絡め取られて撃ち落とされ、蒼い宇宙に一輪の花を咲かせた。

 

「敵攻撃隊、尚も接近!」

 

 しかしヴィダクチオ自治領軍の円盤形攻撃機は尚も多数がアイルラーゼン艦隊に迫り、次第に艦隊の防空網を突破する機も現れる。そのうちの一機がアイルラーゼン艦隊に所属する一隻のバスターゾン級重巡洋艦に肉薄し、ミサイルを放つ。

 放たれたミサイルはパルスレーザーの雨を掻い潜って目標を捉え、命中したミサイルは艦体外郭に食い込むと弾頭を起爆させた。

 

「巡洋艦〈トラニオン〉被弾!」

 

「っ、司令!〈トラニオン〉の艦長より緊急通信です!」

 

「緊急?分かったわ。メインスクリーンに出して」

 

「了解!」

 

 ユリシアの命令で、艦橋頂部のスクリーンに重巡洋艦〈トラニオン〉の艦長が写し出される。30代後半に見える若手の艦長は明らかに焦燥しており、只ならぬ様子が伺えた。

 

《―――こちら〈トラニオン〉のアーネスト艦長です。司令、敵のミサイルは危険です!》

 

「危険?先ずは落ち着いて、詳しく聞かせて貰えるかしら」

 

 如何にも鬼気迫るといった様相で、〈トラニオン〉のアーネスト艦長が早口に告げる。

 

《はっ、申し訳ありません―――簡潔に報告しますと、敵のミサイルにはBCが搭載されているようです。バイオセンサーの情報によれば、何らかの生物兵器だと思われます。―――本艦の被弾箇所には生物兵器を含んだガスが充満し、それを浴びた乗員が極めて短時間で死亡させられる様子がカメラに記録されていました。当該区画周辺は隔壁で厳重に閉鎖しましたが、中にいた乗員はもう―――》

 

 僚艦が被弾したとはいえ一発程度、取るに足らないことだと考えていたユリシアは、直後に被弾した重巡〈トラニオン〉の艦長から送られてきた緊急通信の内容を聞いて絶句する。

 生物兵器など、彼女を始めとした多くの宇宙で生きる人間にとって宇宙空間の戦いとは殆ど無縁といってもいいような存在だったからだ。宇宙空間での戦闘は基本的に敵艦を破壊するだけで事足りるので、乗員の殺傷を目的としたBC兵器がそこに入る道理など存在しない。過去の戦史を紐解いても、宇宙での艦隊戦でBC兵器が用いられてきた事例など殆ど無いに等しく、それだけにユリシア中佐を始めとした艦隊幕僚はおろか、報告を耳にした艦橋クルーは大きな衝撃を受けた。

 

「生物兵器―――何でそんなものが―――」

 

《理由までは分かりません―――。しかし、本艦に生物兵器が撃ち込まれたというのは確固たる事実です。司令、この事態を他の艦にも―――》

 

 アーネスト艦長は、見るからに悔しそうな表情を浮かべてユリシアに進言する。彼の表情の理由が、非道な生物兵器の攻撃で部下を失ったことにあるのは想像に難くない。

 彼の進言で、ユリシアも意識を一気に目の前の現実に引き戻された。

 

「ッ、そうね―――〈トラニオン〉は異常が発生次第直ちに報告しなさい」

 

《ハッ!》

 

「―――話は聞いていたわね。通信士!直ちにこの状況を全艦に伝達!今すぐに伝えなさい」

 

「りょ、了解!」

 

 ユリシアは艦橋右側の席に座る通信士に命じ、隷下の全艦船に対して警戒を促させた。

 

 彼女達の苦しい戦いは、まだまだ続きそうであった―――。

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』第一機動艦隊旗艦〈高天原〉艦橋~

 

 

 蒼い星雲に包まれた星空に、一輪の花が咲く。それは撃沈されたヴィダクチオ軍巡洋艦の最後の輝きだ。

 

 敵巨大戦艦と対峙する総旗艦〈開陽〉より艦隊の指揮権を譲り受けた〈高天原〉艦橋内で、臨時の司令代行となったショーフクは戦況を俯瞰する。

 ショーフク率いる『紅き鋼鉄』本隊は巧みな操艦機動でヴィダクチオ自治領軍高速機動艦隊の突撃を退け、戦いを有利に展開していた。

 

 戦果としては、緒戦のミサイルによるものに加えて、ショーフクが指揮を譲り受けてからさらにヴィクトリー級戦艦2隻、ファンクス級戦艦、シャンクヤード級巡洋艦各1隻、ナハブロンコ級に至っては残存艦全てを撃沈していた。対して『紅き鋼鉄』は駆逐艦〈ソヴレメンヌイ〉を失なったのみで、中大破している艦こそあれど、損害は最小限に留められていた。性能差という点ではあまり差がない両者であるが、『紅き鋼鉄』の側はセオリーに従って遠距離戦に終始したことが両者の損害の差に繋がった。『紅き鋼鉄』はアンドロメダ級戦艦〈ネメシス〉など遠距離砲戦で並の戦艦以上の戦闘力を発揮する艦船を複数保有しており、また彼女達と撃ち合える射程を持った艦をヴィダクチオ側はファンクス級しか持ち合わせていなかった。そのためヴィダクチオ側は射程に飛び込むまでは終始『紅き鋼鉄』の強力な戦艦、重巡洋艦の砲撃に晒されることになり、被害を続出させた。

 またショーフクは空母〈ラングレー〉に残された余剰のスヌーカ、ドルシーラ等の攻撃機を用いてヴィダクチオ艦隊の進路を妨害し、相手の突撃のペースを乱すことにも成功していた。そのためヴィダクチオ側は戦場のイニシアティブを終始『紅き鋼鉄』に握られたままさしたる戦果を上げることなく大損害を出してしまったのだ。

 

「ふむ・・・大マゼラン並みの性能と聞いて警戒していたが・・・これは拍子抜けだな。脆い」

 

「はっ・・・しかし敵の突撃により我が方は駆逐艦一隻を失いました。無視し得ない損害を受けている艦もあります。やはり侮りがたい敵です」

 

「うむ。だが、敵は何故あそこまで突撃に固執したのだ・・・?あれほど緒戦で損害を受けたのだから、一度退いて体勢を整えてくるものかと思っていたのだが・・・」

 

 ショーフクは、戦闘中敵艦隊が執拗に突撃を繰り返していたのを不審に感じていた。普通の指揮官ならば、緒戦で大損害を受ければふつうは体勢を建て直すなり何らかの対処行動を取るものである。しかし眼前のヴィダクチオ艦隊は、まるで何かに捕らわれたかの如く接近を続け、七面鳥撃ちさながらの死屍累々をこのサファイア宙域に築き上げることになった。無論、射程の関係で接近しなければ血路を開けない、という理由もあったのだろうが・・・

 

「敵残存艦の転進を確認しました」

 

「・・・漸く逃げる気になったか。全く、部下の命を徒に散らしおって。敵の指揮官は何を考えている。操舵、我々は友軍の援護に向かう。敵主力艦隊の側面を突くぞ」

 

「了解!」

 

 ショーフクの命令を受けて、〈高天原〉の舵を任された操舵手は未だに友軍のアイルラーゼン艦隊と交戦を続けるヴィダクチオ軍主力艦隊に向けて進撃を開始した―――。

 

 

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』第三打撃艦隊旗艦〈ブクレシュティ〉~

 

 

 

 

 アイルラーゼン、そして『紅き鋼鉄』の本隊がヴィダクチオ艦隊と正面から交戦している頃、"彼女"はその蒼い身体を漆黒の暗黒星雲の中に潜ませていた。

 彼女の半身、強襲巡洋艦〈ブクレシュティ〉は、緒戦のでの敵空母への狙撃を終えた後、新たな狙撃ポイントに移動して機を窺っていた。

 ヴィダクチオ艦隊の注意は正面のアイルラーゼン艦隊に向いており、残りの空母艦載機は全て彼等へと襲い掛かっている。序盤戦で彼等もこの〈ブクレシュティ〉ともう一つの友軍であるスカーレット艦隊の存在には気づいている筈だが、〈ブクレシュティ〉は単艦で脅威度が低いと見積もられたのか、半ば無視された形になっていた。事実、この艦が新たに装備した超遠距離射撃砲はいざ使用してみると廃熱機構に重大な問題があることが分かり、艦を操作するアリスは修理ドロイド達を全力で故障箇所に向かわせている所だった。

 そしてスカーレット艦隊の方ではあるが、ヴィダクチオ艦隊はこちらもさほど脅威とは見なさなかったのか、〈レーヴァテイン〉の砲撃に応じて回避機動を見せるのみで、本格的に相手にしている訳ではなかった。それどころか、暇潰しとばかりに彼等から十数機の攻撃隊を送られて護衛のレベッカ級を沈められている始末だ。

 

「あのマッドサイエンティスト・・・なんて欠陥品を押し付けてくれたのかしら。用意してくれたのは有り難いけど、まさか設計ミスがあったなんて・・・幾ら頭が良いとは言っても、所詮は人間、という事か―――」

 

 薄暗い艦橋に一人佇むアリスは、カップに入った紅茶を飲み干すと、ここには居ないマッドサイエンティストの一人に向かって悪態を吐く。

 彼女の半身、〈ブクレシュティ〉が装備している超遠距離射撃砲ではあるが、廃熱系に使われている部品の強度が足りず、砲が故障を起こしてしまっていた。設計に携わったサナダにしては珍しいミスといえるだろう。そのお陰で、当初想定していた砲撃速度を完全に発揮することができず、不本意ながら彼女は遊軍と化してしまっていた。

 

「まさか・・・この私がこんな失態を犯すなんて―――」

 

 彼女は給紙ドロイド(見た目は上海人形)から次のティーカップを受け取り、それを口に付けようとしたところで自艦の戦術ネットワークに新たな情報が入ってきたことを察知した。

 その内容は、ヴィダクチオ高速戦隊を殲滅したショーフクからの、敵本隊挟撃の報せだった。

 

「―――成程ね。敵の高速前衛艦隊を殲滅した勢いで、このまま敵の主力まで喰おうっていう魂胆か。流石はエルメッツァの闘将、面白いことしてくれるじゃない」

 

 アリスはティーカップを一旦艦長席の脇に起き、情報の詳細を覗き見た。

 デスクに食い付いて情報を眺めるアリスの口角が、自然とつり上がっていく。

 

 頼みの綱の超遠距離射撃砲が封じられた彼女ではあるが、なにも武器はそれだけではない。少なくとも重巡洋艦に匹敵するだけの火力を彼女は持ち合わせている。

 

 彼女の思考でなにかが閃いたのか、アリスは艦長席に再び腰掛けるとその演算力を使ってなにかのシュミレーションを始める。

 それで満足いく結果が得られたのか、彼女は先程までの不機嫌な表情から一転して、猛禽類の如く獰猛な眼光をその人形のような端整に整えられた表情に浮かべた。

 

 彼女はシュミレーションの結果を通信中継衛星を介して臨時旗艦〈高天原〉に送信すると、自身に背を向けるヴィダクチオ主力艦隊の姿を見据える。

 

「さて・・・これからが楽しい時間よ。一緒に踊ってあげるわ」

 

 全ての演算力を、彼女は艦を操作することに捧げる。

 瞳を閉じた彼女の肌には、閃緑に輝くナノマシンの光筋が走る。

 

「フルダイブ―――――私を無視したツケ、今ここで払ってもらうわ」

 

 

 漆黒の暗黒星雲のなかに、蒼く輝くインフラトンの閃光が迸る。

 数秒の後には、並大抵のフネでは有り得ない加速力を叩き出しながら、ヴィダクチオ艦隊に向けて駆け抜けていく一隻のフネの姿があった。

 

 

 

 

 ~アイルラーゼン派遣艦隊旗艦〈ステッドファスト〉~

 

 

「司令!友軍艦より通信です」

 

「友軍?あの0Gドックの艦隊?」

 

「はい―――どうやら此方を支援するようです。敵艦隊の側面を突くので挟撃できないかと此方に問い合わせてきましたが...」

 

「ふぅん、成程ねぇ・・・よし、乗った。各艦は第一戦速まで加速。敵主力艦隊と撃ち合うわよ。宙雷戦隊は直ちに突撃用意」

 

「ハッ、了解しました!」

 

 未だにヴィダクチオ艦載機部隊と交戦中のアイルラーゼン艦隊は、友軍艦隊『紅き鋼鉄』より送られてきた作戦計画案に従って、ヴィダクチオ主力艦隊との通常砲雷撃戦を決意する。

 艦隊の指揮を執るユリシアは、ヴィダクチオ艦載機部隊が一度母艦に帰投する頃合いを見計らって、全艦隊に突撃を命令した。

 ヴィダクチオ艦載機部隊の攻撃でランデ級駆逐艦2隻を失い重巡洋艦にも損害を受けていた彼女達の艦隊だが、再び攻勢に出るとその動きは速かった。

 

 ヴィダクチオ主力艦隊との距離を縮めつつ、長射程を誇るリフレクションレーザーを装備したクラウスナイツ級戦艦、バスターゾン級重巡洋艦は其を放ちながら敵艦隊に出血を強いる。そして量子魚雷を抱いたランデ級駆逐艦からなる宙雷戦隊は戦艦群の楯に守られつつその短剣を敵艦隊の喉元に突き刺さんと機を窺う。

 

 彼女達が突撃を開始すると共に、宙域の他の箇所でも新たな動きが生じた。

 

 彼女達から見て右舷側、ヴィダクチオ主力艦隊の左舷下方より全速力でヴィダクチオ高速前衛艦隊を下した『紅き鋼鉄』の主力部隊が接近し、さらにヴィダクチオ主力艦隊の後方からは撹乱任務に当たっていた長距離レーザー砲搭載の巡洋艦が急速に迫っていく。

 

 しかし、三方向からの同時突撃を受けて混乱するかと思われたヴィダクチオ主力艦隊は、未だに統率を保っているのか陣形を崩す艦は見当たらない。しかし、射程に入った砲からそれぞれ別個の目標に向けて砲撃を行っているところを見るに、やはり指揮系統が混乱していると見るのが筋だろう。

 各砲が別個の目標を指向しているために、突撃する艦に命中したとしてもそれは到底致命傷に届くほどのものではなく、アイルラーゼンと『紅き鋼鉄』の連合艦隊の船脚は止まらない。

 さらに状況を把握したスカーレット艦隊からも援護射撃が放たれ、ヴィダクチオ主力艦隊の迎撃を妨害する。

 

「ははぁん、やっぱりねぇ―――。敵さんどうも指揮系統が硬直的みたいね。或いは指揮官の頭が硬いか、その両方か・・・ここは敵に"臨機応変"という言葉を教えてあげなきゃねぇ―――各艦全砲門開け!一斉射よ!」

 

「了解。全砲門開口。砲手、予測計算急げ!」

 

「ハッ・・・全砲斉射用意!散布界パターン入力!」

 

 ヴィダクチオ主力艦隊を射程に捉えたアイルラーゼン艦隊は、艦隊指揮官のユリシアの指示で戦艦、重巡洋艦は持てる全ての対艦レーザー砲塔にエネルギーを注ぎ込む。

 

「全艦隊、撃ち方始め!」

 

「全砲門、斉射!撃て!」

 

 旗艦〈ステッドファスト〉より、虚空を貫く幾つもの蒼白い閃光が迸る。やや遅れて、随伴の戦艦と重巡洋艦からも同じようにレーザーの雨が撃ち出された。

 発射されたレーザーの雨は寸分の違いなく、ヴィダクチオ主力艦隊の位置に降り注ぐ。

 流石に一斉射で撃沈に至った艦はなかったが、輪形陣の外側に位置するヴィダクチオのマハムント級巡洋艦群は大きな損害を受けた。

 

 砲撃を受けた敵艦隊からも当然の如く反撃が繰り出されるのだが、それはアイルラーゼン側の砲撃に比べると酷く稀薄だ。

 ヴィダクチオ主力艦隊は陣形の中まで敵艦に入り込まれ、さらに側面からも絶えず砲撃に晒されているのだ。それでは迎撃の砲火も分散しよう。

 赤いプラズマと蒼白いレーザーの閃光がアイルラーゼン艦隊に降り注ぐが、その攻撃で重大な損傷を受けた艦はない。

 

「重巡洋艦〈レビヤタン〉被弾!小破!」

 

「駆逐艦〈リッチェンス〉、シールド出力低下。戦闘行動に支障なし!」

 

 ヴィダクチオの反撃はアイルラーゼン艦隊に掠り傷程度の損害しか負わせることができず、彼女達の脚を止めることは叶わない。

 悠々と反撃を受け流しながら一定の距離まで近づいたアイルラーゼン艦隊は、今度は先程まで後衛に位置していた駆逐艦群を全面に押し立てて更なる突撃を試みる。

 

「宙雷戦隊、統制雷撃戦に移行します!」

 

 弱った敵艦隊の輪形陣外縁の艦に止めを差すべく、量子魚雷を身に宿した駆逐艦戦隊がその矛先をヴィダクチオ主力艦隊に向ける。

 量子魚雷は高威力だが命中率が低い兵器であり、単艦~数隻の攻撃では有効打を得ることは中々難しい。しかし戦隊単位での統制雷撃の前にはそのような問題など些細なものであり、40発にも及ぶ量子魚雷の雨を浴びたヴィダクチオ艦隊の巡洋艦群は瞬く間にその身を閃光に覆い包まれて宇宙へと還っていった。

 

「宙雷戦隊、統制雷撃戦終了。戦果多大!」

 

「敵マハムント級巡洋艦のうち2隻の撃沈を確認。3隻を大破させました」

 

「フン、幾ら大マゼランの装備で身を固めようと、所詮は二流の自治領軍であったか・・・司令、敵の輪形陣は崩しました。如何されますか?」

 

 敵艦隊があっさりと壊滅していく様を見届けたローキはそんな不甲斐ない敵に向かって小言を吐きつつ、司令官であるユリシアに指示を請う。

 

 

「あら、そんなの決まっているでしょ?―――大将首を討ち取りなさい!目標、敵艦隊中央の敵戦艦よ!」

 

 

 ................................................

 

 

 ユリシア率いるアイルラーゼン艦隊がヴィダクチオ艦隊の正面で暴れていた頃、ヴィダクチオ主力艦隊は更なる悲劇に見舞われていた。

 

 突如艦隊後方から瞬く間に距離を詰めてきた巡洋艦に懐に入られて、陣形の内側を食い荒らされる。ある艦は対艦ミサイルの斉射を浴びて艦体表面を丸焦げにさせられ、またある艦はエンジンノズルを撃ち抜かれて動きを封じられる。

 

「ククッ、ア、ハハハハッ・・・ああ、蹂躙は心地良いわぁ!さぁ、止められるものなら止めてみなさい!」

 

 敵艦隊の中心で、有人艦には有り得ない速力と機動で躍り狂う〈ブクレシュティ〉の艦橋で、自身の半身とも言える艦を操るアリスは一人高笑いを上げる。

 

《―――か・・・聞こえるか?こちら臨時旗艦〈高天原〉のショーフクだ。〈ブクレシュティ〉は少し前に出過ぎだ。敵艦隊は充分に撹乱された。一旦退がれ》

 

「クッ、ア―――ああ、・・・少し興奮し過ぎたみたいね・・・失礼、だけど心配は無用よ。私をそこらの雑魚とは一緒にしないで。友軍艦の砲撃に巻き込まれるなんて失態は晒さないわ」

 

《むっ・・・ならいいが―――幾らあのマッドが手に掛けた君とはいえ、ミスを犯すときがないとは限らん。くれぐれも気を付けてくれ》

 

「了解。まぁこっちも適当なところで切り上げるわ。粗方主力の足は止めたから、あとは的撃ち宜しく十字砲火にでも晒して沈めなさい」

 

 艦隊の指揮を執るショーフクとの通信を終えて、アリスは昂った自身の身体を落ち着かせるかのように、艦長席の椅子に深く腰かけた。

 そこで、彼女の思考にふとある疑問が浮かぶ。

 

(―――興奮?まさか。AIであるこの私が・・・?)

 

 本来、高性能とはいえ一介の戦術統括AIに過ぎない彼女である、幾ら人間らしく振る舞えようど、根本の部分では全くの別物なのだ。だが、それにも関わらず"興奮"などという人間らしい感情を口にした理由を、思い返してみれば彼女は全く分からないでいた。

 

(まさか、これも機能の一環だとでもいうの?―――あのやけに人間臭い姉(早苗)のこともあるし、あながち間違いではない、か・・・いや、それは些細なこと。今は艦隊の一艦としての務めを果たすべき―――)

 

 僅かに考え込んだ彼女ではあるが、本来の仕事もあるのでその思考を隅に追いやり、再び敵艦隊を蹂躙すべく、彼女は演算力を敵艦隊の撃滅へと集中させた――――

 

 

 ..............................................

 

 

「宙雷戦隊、第二次攻撃に入ります!」

 

 一方、ヴィダクチオ艦隊と正面から撃ち合うアイルラーゼン艦隊は、敵主力艦の射程に捉えられたために今まで以上の砲火に晒されていたが、それでも彼女達の宙雷戦隊は果敢に量子魚雷を叩きつけるべく突撃を敢行する。

 

「駆逐艦〈シュルツ〉轟沈!〈メルダース〉損傷率75%を突破、一時後退します!」

 

「ちっ、あの楔型、足を止められて尚あそこまで抵抗するか―――あの様子だと、側面もハリネズミよね?」

 

「でしょうな。私は目標の変更を進言します」

 

「―――悔しいけど、敵の主力艦とこの距離で撃ち合うのはやはり無謀か・・・全艦、目標を敵楔型戦艦からネビュラス級戦艦に移行。」

 

 悠々とヴィダクチオの巡洋艦隊を下したユリシア率いるアイルラーゼン艦隊ではあったが、今度はヴィダクチオの楔型戦艦群―――テクター級戦艦とペレオン級戦艦の強力な近接砲火を前にして攻めあぐねていた。これらのクラスは通常の戦艦が持って然るべき大口径レーザーを持たない代わりに中~近距離を射程とする対艦レーザーをハリネズミの如く大量に装備しており、まともに射線に入ってしまったアイルラーゼン宙雷戦隊は今度は大損害を受ける羽目になり、バスターゾン級重巡1隻とランデ級駆逐艦2隻を喪失するという代償を支払わされた。

 

「これで一個駆逐戦隊が丸ごと壊滅、か―――やってくれるわね。ローキ、〈ステッドファスト〉を前に出しなさい。戦艦を楯にしつつ、敵の有効射程から離脱するわ。幸いあの楔型は足を止められている。今度はじっくりと腰を据えて砲撃戦と洒落込みましょう」

 

「了解。操舵、艦を前に出せ。艦首のシールド出力は最大だ」

 

 駆逐艦部隊に大損害を受けたアイルラーゼン艦隊は、遠~中距離砲戦に終始している『紅き鋼鉄』とスカーレット艦隊を見習って、艦隊最大の火力源である宙雷戦隊の統制雷撃戦を放棄して彼等同様砲撃戦に移行する。

 その際にも殿を務めた3隻のクラウスナイツ級戦艦は敵のテクター、ペレオン各級から集中砲火を浴びたが防御に注力したお陰で損害は中破までに留められた。

 

「艦隊、再集結完了しました」

 

「よし、仕切り直しといきましょう。目標は変わらず敵ネビュラス級よ。あれは遠距離砲戦にも対応しているから、この距離だと厄介だわ」

 

「了解。主砲、全砲門斉射用意。目標敵ネビュラス級!」

 

「目標、敵ネビュラス級!射撃緒元入力完了。全砲門発射!!」

 

 ヴィダクチオ戦艦群の猛攻を潜り抜けて距離を離したアイルラーゼン艦隊は、再び全砲斉射を敢行してヴィダクチオ主力艦隊のネビュラス級戦艦を狙う。

 

 既に『紅き鋼鉄』からの砲撃で中破状態にあったネビュラス級はさらにアイルラーゼンのリフレクションレーザーによる斉射を浴びた後、火達磨になって艦隊から脱落していった。

 

「敵ネビュラス級、1隻撃沈。インフラトン反応拡散中です」

 

「敵戦艦、1隻が大破しました。さらに友軍艦隊の砲撃により敵空母2隻が轟沈。マハムント級も一隻撃沈です」

 

 アイルラーゼン艦隊の砲撃と前後して、『紅き鋼鉄』の戦艦〈ネメシス〉と重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉〈ピッツバーグ〉から都合何度目かの斉射が繰り出され、ヴィダクチオのヴェネター級とセキューター級空母が遂に沈められる。さらにスカーレット艦隊の砲撃により、マハムント級一隻も沈められた。

 

「敵残存艦、残り14!うち健在は8!」

 

 ヴィダクチオ主力艦隊は既に空母の大半を失い、残った空母も殆どが砲撃戦を影響で格納庫に誘爆したのか、連載爆発を繰り返している。轟沈も時間の問題だろう。そして戦艦群は陣形の内側で暴れまわった〈ブクレシュティ〉に足を止められて満足に動くことができずにいた。

 

「敵艦隊の残存艦、撤退していく模様!」

 

 ここにきて既に勝敗は決したと見たのか、残された敵艦のうち健在なテクター、ペレオン、ヴェネターが一隻ずつ反転していく。そして殿を引き受けるかのように、火達磨になった空母群と残りのペレオン、ネビュラス級戦艦と僅かに残った巡洋艦が連合艦隊の前に立ち塞がった。

 

「敵損傷艦は撤退を援護する模様」

 

「―――まだ戦闘力のある艦を本星防衛に回したか・・・いいでしょう。損傷艦といえど手加減は不要、全力で叩き潰しなさい!」

 

 連合艦隊の進撃を抑えようと、傷付いた艦体に鞭打って立ち塞がるヴィダクチオ軍艦艇に対し、ユリシアは内心で天晴れとその心意気に称賛を送る。だが手加減は無用とばかりに、彼女は再び全砲門の斉射を命じる。

 

 

 ここにサファイア宙域戦線最後の戦いが開始され、遂にヴィダクチオ軍主力艦隊は壊滅した。

 

 

 

「・・・敵艦隊、壊滅しました」

 

 ヴィダクチオ艦隊が遂に壊滅し、『紅き鋼鉄』臨時旗艦〈高天原〉の艦橋内には勝利を告げるオペレーターの報告が響いた。

 クルー達は勝利に沸き上がる訳でもなく、ただ事をやり遂げた達成感か、はたまた戦闘の疲れからか、皆がぐったりと脱力した様子だった。

 

「・・・皆、よく頑張ってくれた。後は、目標のご令嬢を取り戻すだけだ。あともう一踏ん張り、最後までやり遂げよう。だが今は、ただ君達の働きに感謝したい」

 

 指揮官席に立つショーフクは、そんなクルー達に労いの言葉を掛ける。戦術ネットワークでも脅威とされた敵巨大戦艦の歪曲レーザー砲の撃破と撤退が報告され、それを確認したいショーフクは遂に脅威は壊滅したと確信した。後は消化試合よろしく奪われた令嬢を奪還し、こんな宙域を後にするだけだ、と。

 

 しかし、彼の認識は間もなく覆されることになる。

 

「っ、司令!総旗艦より緊急通信です!」

 

 突如、脱力していた通信士が目を丸くして飛び起きて、只ならぬ様子でショーフクに報告する。ショーフクもそれだけで事態の深刻さを悟った。

 

「総旗艦―――〈開陽〉の霊夢からか。よし、繋げ」

 

「り、了解!」

 

 程なくして、明らかに焦燥―――それに加えて、いつにない程の不機嫌さを滲ませた表情を浮かべた霊夢の姿が、〈高天原〉のメインスクリーンに投影される。

 

 通信が繋がったのを確認して、霊夢はショーフクを真っ直ぐ見据える。

 

「・・・ショーフクさん、緊急事態よ。今すぐ全艦隊を本星に向けるわ―――」

 

 何時もの少女然としたものとはかけ離れた、低く重い口調で、静かに霊夢は告げた。

 



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第六八話 怒りの刃

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉~

 

 

 時は遡り、敵旗艦、リサージェント級戦艦を撃破した直後~

 

 

「・・・敵旗艦、沈黙しました―――!」

 

 霊沙の操る"グリント"の突撃により、霊夢達が最大の脅威と認識していた敵巨大戦艦の歪曲レーザー砲は見事破壊された。

 

 その光景を間近に見ていた艦橋クルー達は、一瞬呆然として沈黙していたが、オペレーターのミユの報告を聞いて彼等は意識を現実に引き戻す。

 

 主砲を破壊された敵旗艦は沈黙を守っているが、彼等はまだ敵艦の最大の武器を破壊しただけであり、まだまだ艦自体は健在だ。そして主砲を失っても尚、敵旗艦には100門を越える中小口径のレーザー砲が残されていた。それを思い出した彼等は、すぐさま自らの任務に集中する。

 

「アルファルド1、見事でした。直ちに帰還を・・・っ、アルファルド1、応答願います!」

 

 艦載機隊の管制を担うノエルが作成成功の立役者であるアルファルド1―――霊沙に呼び掛けるが、彼女からの返答はない。

 異常を感じたノエルは、直ちに対処策を思案する。

 

「艦長、アルファルド1―――霊沙さんからの応答がありません。機体か本人かは分かりませんが、何らかの異常が発生した模様です。ガーゴイル1に回収を担当させます」

 

「・・・分かったわ」

 

 報告を聞いた霊夢は、静かにノエルの対処策を認めた。

 

「ガーゴイル1、申し訳ありませんが、アルファルド1の回収をお願いします。此方からの呼び掛けに応答しないので、何らかの異常が発生したのかもしれません」

 

《了解だ。任せろ》

 

 ノエルからの指示を受けたガーゴイル1―――マーク・ギルダーは、連戦で所々に傷を受けたペイルライダーを、最後の一踏ん張りとばかりにスラスターを全開にして霊沙のグリントの元へ駆け寄らせる。

 幸いにして敵の円盤形迎撃機は発進してくる様子はなく、彼は難なく霊沙の回収任務を終えた。

 

 ―――あいつがいなけりゃこの作戦は失敗していたかもしれないけど・・・全く、無茶しすぎなのよ、あいつは・・・

 

 その様子を眺めながら、霊夢は内心で霊沙のことを案じていた。

 最初会ったときには警戒しかなかったが、共に同じ艦で過ごしていくにつれ、いつしか彼女のことも仲間と見なすようになっていた。同じ屋根の下で過ごして同じ釜の飯を食えば、自然と親愛の情も湧いてくるものなのだろう、と彼女は想う。

 

「・・・あの、霊夢さん?」

 

「―――御免なさい、少し考え事をしていたわ。彼女は帰艦次第、また医務室に放り込んでおきなさい」

 

 目を瞑って物思いに耽っている霊夢を見て、隣に控えていた早苗が彼女に声を掛ける。

 その声で現実に引き戻された霊夢は、霊沙の今後の処遇について指示を下した。

 

「くすっ、やっぱり心配なんですね、霊沙さんのこと」

 

「そりゃあ、まぁね・・・病み上がりでマッドのじゃじゃ馬に乗った訳だし・・・どうせ今頃気絶でもしてるんでしょう。目覚ましたらなんか一言言ってやらないとね」

 

「そのときは、ちゃんと労ってあげてくださいよ?心配なのは分かりますけど・・・」

 

「―――善処するわ」

 

 早苗は、ぶっきらぼうながら霊沙のことを心配している霊夢のことを、微笑ましく見守る。面倒くさがりで何事にも無関心に見える彼女だが、こうして時々覗かせる優しさもまた、彼女の魅力の一つだと早苗は考えていた。

 無論、病み上がりで無茶をした霊沙のことも、彼女は心配していたが。

 

 

「ッ、艦長!敵艦に新たな動きです」

 

「―――何が起こったの?」

 

「はっ・・・敵艦より通信が・・・あっ、メインパネルがジャックされました!」

 

 ミユの報告を聞いて、霊夢は雰囲気を一変させる。

 

 直後、〈開陽〉の艦橋天井にあるメインパネルにノイズが入り、程なくしてパネルジャックの犯人と思しき人影の姿が映し出された。

 

 その人影は、体格から男であることが容易に想像できた。さらに際立つ特徴として、顔全体を包帯のような白いマスクで覆っており、その中心には自治領の紋章か何かなのか、目のような模様の中心に人差し指を天に掲げた手を配置したマークが描かれていた。

 それは国――自治領の紋というよりは、何らかの宗教的な意匠を感じさせる模様だった。

 

 その男の姿を見てすぐに、霊夢はこの男こそが件の事件の黒幕だと確信する。

 

《―――やぁ。会いたかったよ、『紅き鋼鉄』・・・》

 

「・・・あんた、誰?」

 

 男はこの場に不釣り合いなほどに、友好的なトーンで語りかける。

 霊夢はさらに目をつり上げて、最大限の警戒をもって男に対して尋ねた。

 

《僕は―――そうだね、"教祖"とでも呼ぶといい。皆そう呼んでいるからね》

 

「・・・あんたが敵の黒幕ってことで、間違いないわね」

 

《―――ああ、そうだよ》

 

 男は静かに、霊夢の言葉を肯定する。

 霊夢は込み上げる怒りと不愉快さを心に押し止めながら、自らを事件の黒幕と肯定した男に対して要求する。

 

「なら話が早いわ。ゼーペンストで拐った二人を返しなさい」

 

《それは無理な相談だね。見たまえ》

 

 男はきっぱりと霊夢の要求を否定すると、メインパネルに映し出されている画面を引かせる。

 男が座る椅子の横の床から、ナニカがせり上がってくる。

 

 それは、磔にされたレミリアの姿だった。

 

「なっ・・・あんた、彼女をどうする気―――!」

 

《簡単なことさ。人質だよ》

 

 男はさも当然といった風体で公言する。

 

「子供を人質にだと!何を考えている!」

 

 男の言葉に、霊夢を始めとする艦橋クルーは皆怒りを覚えた。まだ年端もいかぬ子供を利用することなど、一般的な道徳観念を持ち合わせた彼等彼女達にとっては到底許しがたい行為できあったからだ。

 そんな感情を代弁するかのように、コーディが男に向かって吠える。

 

《君達は理解する必要はない。これから僕からの要求を伝えるよ。君達は散々僕の計画を邪魔してくれたから、まずはその旗艦を賠償として置いていって貰うよ。次に、今後僕の計画を一切邪魔しないことだ》

 

「なっ・・・そんなこと、出来るわけないでしょ!何考えているのよあんた!」

 

 あまりにも荒唐無稽な要求を打ち明けられ、霊夢は激昂し即座にそれを拒否する。

 

《そうか・・・それは残念だ。ならば、こうするしかないね》

 

 霊夢の回答を、さも残念だと芝居がかった態度で受け取った男は、椅子にあるボタンを押す。

 すると、彼の部下らしき白衣を纏った女が、注射器を手にもってレミリアの隣に侍る。

 

《な・・・なにする気なのよ―――!》

 

 ひどく窶れた様子のレミリアは、それでも尚強気に男とその部下らしき女を睨むが、彼等はそんなレミリアを無視して霊夢に告げた。

 

《―――これは、僕達が開発した細菌兵器だ。要求を受け入れられないというのなら―――》

 

 男は女を一瞥し、女は頷くと、磔にされたレミリアの腕を持って注射器を押し当てる。

 

《や、やめ―――やめてッ―――!》

 

「くッ、止めなさい!」

 

 レミリアと霊夢の必死の懇願も虚しく、女は何の躊躇いもなくレミリアの腕に注射器を入れた。

 

《い、嫌―――ッ!!!止めろ、止めろ、止めろォォォッ!いやだ、たすけて―――サクヤ、メイリン、れいむ・・・助けてーッ!!》

 

 あまりに痛々しいレミリアの叫びに、艦橋クルーは全員己の無力を呪うかのように歯を食い縛り、画面に映る男と女の姿を睨む。

 

《いや・・・たすけ、て・・・っ》

 

 注射器の中身が全てレミリアに注がれると同時に、彼女は恐怖のあまり気を失い、がくりと磔にされたまま項垂れた。

 

「なんて―――ことを―――何てことをするんですかッ!」

 

《この細菌兵器は、ウイルスが体内に入ってから24時間で感染者を死亡させるものだ。そして最後の症状を発してしまえばもう助からない。時間の猶予は24時間以内だよ。それまでに、僕の要求に従うか否か、よく考えることだ。僕の要求に応えるというのなら、彼女の治療を約束しよう。だが―――》

 

 凄まじい怒気を含んだ早苗の叫びをさも存在しないものであるかねように無視して、男は霊夢に対して告げる。

 

《もし要求を断るというのなら、彼女の命はない》

 

 その言葉を最後に、メインパネルにノイズが走り、男の姿が砂嵐に飲まれていく。

 

 最後には、ぷつり、と画面が途切れ、艦橋を静寂が支配する。

 

「・・・・・・」

 

「―――霊夢さん」

 

「・・・霊夢、どうするんだ?」

 

 静かに佇む霊夢に対して、早苗は怒りの感情を押さえきれない声色で、コーディも平静を装いながらも先程の蛮行への怒りを感じさせる低い声で呼び掛ける。

 

「―――殺すわ」

 

「・・・は?」

 

「殺すわ。あいつらを。奴等全員、地獄に叩き落としてやる。そして拐われた二人を助け出す。治療する、なんて大口を叩いたんだから、奴等の旗艦には抗生物質でもあるんでしょう。それも根こそぎ奪いましょう。そして奴等に報いを受けさせて―――」

 

 静かな口調ながら、明らかな殺気を含んで、霊夢は独り言のように呟く。

 その様子に、怒りに駆られていた二人は不気味なものを感じたのか、しだいに顔色が青ざめていく。

 

「―――ッ、敵艦、反転しています!ワープ準備に入った模様!」

 

「・・・追え」

 

「は・・・っ?」

 

「追いなさいッ!今すぐに!それと早苗、直ちに全艦隊を結集!奴等を決して逃がすな!!」

 

「は・・・はいッ!」

 

「り、了解っ!」

 

 一転して鬼のような形相で、霊夢は早苗と艦橋クルーに指示を下す。

 

 滅多に見せることのない霊夢の本気の怒りを前にたじろぐクルー達だが、すぐに己の務めを理解して各々の任務に没頭した。

 

 ―――あんな・・・あんな命を弄ぶような真似を・・・!許さない―――許さないわ、ヴィダクチオ―――

 

 自身の命令で行動に移ったクルー達を眺めながら、少女は静かな黒い怒りを己の心に渦巻かせた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~〈開陽〉会議室~

 

 

 敵旗艦がワープしてから、霊夢は直ちに他の艦隊に呼び掛けて、事態の説明と対処に務めた。制限時間が短いだけに、事態を知る者の表情は重い。

 

《・・・成程。事情は理解しました。では、我々は最優先に敵本星に突入すると》

 

「ええ。敵が言っていた制限時間は24時間。だから足の早い私達が先行して敵本星に突入する。残念だけど、ユリシア中佐の艦隊とスカーレットの皆さんは連れていく余裕はないわ」

 

《それは残念・・・出来れば一緒に行きたかったところだけど、ここは素直に諦めましょう。私達は私達で、任務を果たすことにするわ》

 

《・・・悔しいですが、我々もそうするしかないようですね・・・霊夢艦長、お嬢様のことはお任せします》

 

 ホログラムの向こう側にいるユリシアは無表情で、〈レーヴァテイン〉の副長は悔しさを滲ませた表情で霊夢の案を肯定する。

 

 霊夢の案は、ワープ装置を持った快速の自艦隊のみで敵旗艦を追撃し、通常のインフラトン機関しか有さないアイルラーゼンとスカーレット艦隊は一度ウイスキー宙域で行ったような曳航型ワープは時間の都合上行わない、というものだった。

 幸いにして敵艦隊主力はこの会戦で粉砕されているので、敵に残された戦力はさほど多くはないと判断され、『紅き鋼鉄』単独で突入しても問題はないとされた。

 

「・・・じゃあ、私からは以上よ。中佐、今までの協力に感謝します」

 

《ええ。そちらこそ、ご武運を》

 

 会議も終盤となり、ここで別れることになるユリシアに対して、霊夢は別れを告げた。ユリシアも彼女の言葉に応え、一足先にこの場から立ち去った。

 

《・・・では、我々もここで。最大速度で追いかけます。サクヤ殿、お嬢様を、お願いします》

 

「安心して下さい。着いた頃には全て終わらせていますから―――」

 

「―――言われるまでもありません。お嬢様は、必ずや―――!」

 

 続いて、スカーレット艦隊の指揮官も会議室から退出し、彼のホログラムが消失する。

 

《では艦長、私も戻らせていただきます。預かった艦隊の面倒を見なければならないので》

 

「分かったわ。私は敵艦に突入することになるだろうから、引き続き艦隊の指揮をお願い」

 

《御意》

 

 最後に、ホログラムのショーフクが退出する。

 会議室には、霊夢と早苗、サクヤとサナダの4名のみが残された。

 

「―――霊夢艦長、この度を、私を部隊に加えて頂き有難うございます」

 

「・・・事態を知れば、貴女は必ずそうするだろうと思ったからね。時間がないわ。突入準備はワープ中に済ませるわよ」

 

「はい。では、私は海兵隊と共に赴けば宜しいのですね?」

 

「そうしてくれると助かるわ」

 

 残った4人は、突入作戦について簡単に打ち合わせを行う。

 突入作戦の手順は、まず艦隊主力が敵本星にワープアウト、敵旗艦を確認次第、〈開陽〉は全力で突撃し、至近距離で突入部隊を載せた強襲艇を吐き出す。

 そして〈開陽〉はそのまま離脱し、艦隊と共に敵残存艦艇を掃討。海兵隊と機動歩兵隊を中心とする突入部隊は敵旗艦の艦橋を目指して前進し、レミリアを奪還する。姿が見えなかったメイリンも同艦に囚われていると推測し、敵旗艦内でハッキングを行い捜索するというものだ。

 

「サクヤ殿、私からも一つ。ウイスキー宙域で我々が受けた攻撃のなかに、件の細菌兵器を搭載したものと思われるミサイルによる攻撃があった。その際採取したデータを元に、我々も独自に抗ウイルス剤を作成することに成功した。臨床試験は経ていないが、敵艦内に抗生物質がない可能性もある。そのときには、を使ってくれ」

 

「―――有難うございます」

 

 サナダはサクヤを呼び、彼女に自作の抗ウイルス剤を手渡した。サクヤはそれを受け取ると、服の中に仕舞う。

 

「あの、霊夢さん?」

 

「なに、早苗」

 

「その・・・一つ気になるんですけど、敵の目的って、一体何なんでしょうか?」

 

「そんなこと、私に聞かれても分かんないわよ。あんな畜生外道のやることなんだから、どうせしょうもないことに決まっているわ」

 

「そう・・・ですよね」

 

 早苗は、皆と同じく敵の所業には憤りを感じていたが、同時に敵の目的についても気になっていた。しかし、敵はそれを語ろうとはしなかったので、敵の目的は未だ不明なままである。

 グアッシュ海賊団の後ろで糸を引いて、尚且つスカーレットの令嬢を執拗に狙う理由が、彼女には思い付かなかった。

 

「ふむ、敵の目的、か――手掛かりがない以上、考えても無駄だな。今は、スカーレットの令嬢救出に全力を掛けよう」

 

「そうね。奴等を全員叩き斬る。余計なことを考える必要なんてないわ、早苗。準備に移りましょう」

 

「・・・はい」

 

 未だに静かな怒りを湛えた霊夢に続いて、サナダとサクヤも会議室から退出し、各々の準備に取りかかる。

 最後に一人残された早苗も、霊夢のあとに続いて会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領本土宙域・本星ヴィダクチオⅣ周辺~

 

 

 ヴィダクチオ自治領の再奥の本土星系にある巨大ガス惑星、その衛星の一つ、ヴィダクチオⅣこそ、この自治領の首班が治める自治領本土の星である。

 

 その星が浮かぶすぐ側の宙域に、蒼白い光点が幾つも輝き、忽ちのうちに数十隻の艦隊が姿を現した。

 

 

 

 

「―――ワープアウト完了。位置座標、誤差0.005。」――ヴィダクチオ自治領本土っすよ、艦長」

 

「周辺の警戒を開始。敵旗艦を探せ」

 

「了解―――居ました。本艦前方、距離25000!既に戦闘態勢の模様。エネルギー反応急速に拡大中!」

 

 レーダー手を担当するミユが、敵旗艦発見の報を霊夢に伝える。

 

 敵旗艦―――リサージェント級は、僅かな残存艦と共に本星ヴィダクチオⅣへの道を閉ざすかのように布陣していた。

 

「敵旗艦より通信です」

 

「・・・メインパネルに回しなさい」

 

「了解」

 

 敵旗艦からの通信が届けられ、霊夢は通信手のリアにそれをメインパネルに投影するよう指示する。

 

 程なくして、数時間前に、彼女達の前に現れた覆面の男の姿が映し出された。

 

《やあ。その様子だと・・・要求は拒否するみたいだね》

 

「当然よ。私はあんたみたいなクソ野郎の言葉なんて訊かないわ。そしてレミリアは返してもらう。ついでにお前は死ね」

 

《―――怖いなぁ。じゃあ僕も、遠慮はいらないね。ここで沈んで貰うよ》

 

 二、三の言葉を交わしただけで、通信は途切れる。

 

 クルー達は、霊夢の指示を待つかのように、真剣な眼差しで彼女を見詰める。

 艦橋内を静寂が支配した後、霊夢は口を開き、号令を掛けた。

 

「―――突撃、開始!!」

 

 

【イメージBGM:Fate/Gland Orderより「英霊剣豪七番勝負 通常戦闘BGM」】

 

 

 霊夢は腰のスークリフ・ブレードを引き抜いて、鼓舞するように号令を下す。

 巫女服の上に着込んだ突入装備と、刀の擦れる金音が響く。

 

「了解!機関、最大出力!!」

 

「最大戦速、回避機動始めっと!艦長、あのクソ野郎を存分に吹っ飛ばしてきて下さいよ!」

 

「全火器管制ロック解除。俺達0Gの誇りを見せてやれ!」

 

「ガーゴイル隊、ヴァルキュリア隊、発進位置へ!ガルーダ1とグリフィス1は待機せよ!」

 

 霊夢の号令を受けて、艦橋クルー達は艦を戦闘態勢へと移行させる。

 〈開陽〉の巨大な艦体が、急激な加速により打ち付けられるような軋む音を上げた。

 

「・・・霊夢、ここは俺達に任せてくれ。あんたは敵の指揮官を」

 

「・・・言われなくても分かってるわよ、コーディ。ここは任せたわ!行くわよ、早苗!」

 

「はいッ!」

 

 霊夢は艦の指揮をコーディに任せると、いつぞやの尋問官装備に着替えた早苗を伴い強襲艇の発着デッキに向かって駆け去っていった。

 

 ...............................................

 

 ....................................

 

 .............................

 

 .......................

 

 

「艦長、全機発進準備完了です」

 

「有難う。あとは突入のタイミングね」

 

 私達が発着デッキに着いた頃には、既に全ての強襲艇が発進準備を追え、発艦の時を待っていた。

 

 敵艦の抵抗が激しくなっているのか、私達が移動する間から、断続的に被弾によるものと思われる揺れが続いている。

 

「艦長、こちらに」

 

「サナダさんに・・・サクヤさん?あんた達もこの機に―――」

 

「はい。サナダさんが手配してくれましたので」

 

 どうやら私達が乗る機には、海兵隊員の他にもサナダさんとサクヤさんが同乗するらしく、装甲服のサナダさんと銃火器を持ったサクヤさんが待っていた。

 

「艦長の装甲服は私が開発した新型だからな。なにか不具合があったら困る。そのときは私の出番ということだ」

 

 サナダさんは、私が今着ている突入装備の面倒を見るためについてきてくれたようだ。何ともサービス精神旺盛なことね。多分それだけが目的ではないでしょうけど。

 

 ちなみにこの突入装備、普通の装甲服と違って全身に纏うわけではなく、主に手足や背中の部分に増加装甲や装備を追加するという形式のものだ。正直窮屈だけど、サナダさん曰く使い慣れれば生身の私を上回る性能を出せる・・・らしい。

 

「あんたの世話にならないことを祈っているわ」

 

 敵艦内のど真ん中で装備が故障なんて事態には、遭遇したくないものだ。そうなったときはサナダさんには悪いけど、装備を脱ぎ捨てて敵の首魁の元へ行くつもりだが。

 

「霊夢さん、そろそろ発進ポイントかと・・・」

 

「―――もうそんな場所まで進んだのね。パイロット、準備は大丈夫?」

 

 艦のコンピューターと繋がっている早苗が言うんだから、確かなことなのだろう。なら、発進を指示するまでだ。

 

「はい。いつでも飛び立てます!」

 

「よし。ならいくわよ。全機発進!」

 

「了解!ロングソード1発進!」

 

 発着デッキのシャッターが開き、強襲艇が滑り出す。

 目の前には、至近距離まで迫った白亜の巨艦。

 これから私は、あの艦に乗り込む。

 

《ロングソード2、発進!》

 

《こちらにロングソード3、発進完了だ》

 

《ロングソード4発進。接舷ポイントに向かう》

 

 私達が乗る機体に続いて、海兵隊員を載せた強襲艇が続々と発進していく。

 

 最終的に有人、無人合わせて10機の強襲艇が発進し、一路敵旗艦を目指して突き進む。

 

「っ、敵さんの対空砲火です!揺れますのでご注意下さい!」

 

 パイロットがそう告げると、機体は複雑な航跡を描くコースに移行する。

 

 突然、隣でボォン、と衝撃が走った。

 

「れ、霊夢さん・・・隣の機体が!」

 

「チッ、やってくれたわね。無人機だからよったけど、戦力が減ったのには違いないわ」

 

 私達が乗る機の右隣を飛んでいた無人の強襲艇が撃墜されたらしく、その機は一瞬で火玉になって遠ざかっていく。

 

「艦長、間もなく接舷ポイントです!」

 

「分かったわ。―――総員、突入準備よ!」

 

 強襲艇が敵のハンガーデッキの側まで迫ったようで、パイロットがそれを報告する。

 

 見ると、敵旗艦の巨大なハンガーデッキは隔壁を閉じて私達の侵入を阻もうとしていた。

 

「霊夢さんっ!」

 

「分かってるわよ!パイロット、このまま突っ込みなさい!」

 

「了解!」

 

 そうはさせまいと、私はこのままデッキに突っ込むように伝える。

 他の強襲艇も同じように、ハンガーデッキに滑り込まんと速度を上げていた。

 複雑な機動と未だに続く敵の対空砲火によって、ガンガン機体が揺れる。

 

「っ―――突入します!」

 

 私達の機体は、見事敵艦の隔壁が閉じる前にハンガーデッキに滑り込み、機体後部のランプを解放した。

 

「―――行くわよ!総員突入!」

 

「「「了解!!」」」

 

 勢いのある海兵隊員達の返答を背に受けながら、私は一番にランプを蹴って敵艦に降り立つ。

 

 続いて早苗、サクヤさん、他の海兵隊員達が降下し、最後にサナダさんが降り立った。

 

 他の機も無事突入に成功したようで、機体後部や側面の扉を開いて海兵隊員達や機動歩兵を降ろしている。

 

 全員の降下が完了すると、別の機の方角から、装甲服を纏った二人の海兵隊員が駆け寄ってきた―――エコーとファイブスだ。

 

「報告!クリムゾン小隊40名降下完了!」

 

「同じくスパルタン小隊38名、降下完了です」

 

「了解。エコーは私と一緒に艦橋に向かって。ファイブスの隊は強襲艇の守護をお願い。機動歩兵隊は散開し、一部隊ずつ私とファイブスに付けて。後は好きなように暴れさせなさい」

 

「イエッサー!」

 

 私の指示を受けて、二人は素早く散開して部下に指示を与えている。

 

「艦長、敵旗艦のコンピューターに侵入した。これが艦内見取図だ。早苗、これを全員に転送してくれ」

 

「了解しました」

 

 流石はサナダさん、仕事が早い。

 早速私の端末にも、サナダさんが見せてくれた見取図が届く。

 

「―――準備はいいわね。今回は時間との勝負よ。雑魚は10秒で殺しなさい。手練れは20秒で殺せ。あのイカれた教祖とかいう野郎に今までの報いを受けさせてやりましょう。突撃、開始!!」

 

「「「「「了解ッ!!!」」」」」

 

 総員の全身準備が整い、私は通信機を持って突入部隊に指示を下した。

 

 私達がエコーの部隊と合流して、サナダさんがハッキングによって得た情報を元に艦橋を目指して進もうとしたそのとき、遂に敵の迎撃部隊がやってきた。

 

 敵は慌てて銃を取ってきたのかまともな装甲服は着ておらず、全員がオレンジ色の隊服とヘルメットを着ているだけで、手にはレーザー銃らしきものが握られている。

 

「敵襲、敵襲!」

 

「第一分隊、射撃始め!」

 

「第二分隊、撃て!」

 

 それを認めた海兵隊員達は素早く行動に移り、敵部隊の展開が終わる前にブラスターによる射撃を始める。

 まともな装甲服がない敵兵はバタバタと倒れていき、対してこちらの海兵隊員はマッド印の優秀な装甲服のお陰で一発二発の被弾ではびくともしない。

 

「艦長、敵の襲撃です!」

 

「見れば分かるわ。だけど厄介ね。今し方出てきた敵部隊を突破しないと艦橋に続く通路に出られない。―――エコー、押し通るわよ」

 

「イエッサー。クリムゾン小隊全員に告ぐ!敵兵を強行突破だ!制圧しろ!」

 

 装甲服と顔全体を覆うヘルメットに身を包んだエコーは私の指示に頷くと、即座に部隊に対して命令を下す。

 

 命令を受けた彼の部隊の海兵隊員達は、被弾を避けるために屈んでいた姿勢から突撃態勢に移行して、ブラスターを撃ちながら敵陣に向かって突撃する。

 エコーの小隊と後方のファイブスの小隊、そして機動歩兵隊からの突撃と十字砲火を浴びた敵軍は瞬く間に総崩れとなり、統率が破壊され効果的な射撃が出来ずにいる。そのまま分断された敵は各個撃破の対象となり、一兵残らず殲滅された。

 

「・・・艦長、制圧完了です」

 

「凄いですね・・・あの数の敵兵をあっという間に・・・」

 

 私と早苗が介入するまでもなく、戦闘は終結する。

 ハンガーデッキ内には、打ち倒された敵兵の骸が散乱していた。

 

 エコーの小隊のうち何人かが、警戒のため敵が陣取っていた箇所に近づいていく。あの敵兵の死骸を越えていかなければ、艦橋に続く通路に入れないからだ。

 

「・・・艦長、如何されましたか?」

 

 ―――その様子を見た私は、言い様のない悪寒に襲われた。

 

 ―――あれは・・・駄目だ。()()()()がする。

 

「ッ!退がって!!」

 

「な―――どうした、艦長!?」

 

「霊夢さん!?」

 

 隣で、エコーと早苗の驚く声がする。

 そんなことよりも早く、先行した彼等を一刻も早く連れ戻さないと。

 

「か、艦長―――?」

 

 私の声で呆気に取られたのか、先行した海兵隊員が振り向く。

 それと同時に、()()()()()敵兵が動き出し、彼の足首を掴んだ。

 

「な―――コイツ!」

 

 驚いた海兵隊員が敵兵に銃口を向けるが間に合わない。

 

 ならば―――ッ!

 

「消え失せろっ!」

 

 私は彼の居場所まで一気に飛翔し、思いっきり敵兵を蹴飛ばして海兵隊員から強引に引き剥がす。

 

 次の瞬間、引き剥がされた"敵兵が爆発"した。

 

 

 ハンガーデッキの中を、爆発の熱風と轟音が駆け抜ける。

 

 皆は一瞬何が起こったのか理解できないといった様子で、呆然と立ち尽くしていた。

 

「か、艦長、今のは―――」

 

 海兵隊員が、恐る恐る訊いてくる。

 

 あれは―――信じたくはないけれど・・・

 

 あの教祖とかいうクソ野郎が、ここまで命をコケにする奴だったなんて―――!!

 

 

「気を付けなさいッ!()()()()()()()()よ!!」



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第六九話 敵艦内にて

 

 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉~

 

 

 

「敵一隻のインフラトン反応拡散・・・撃沈です」

 

「駆逐艦〈アーデント〉、〈早梅〉轟沈!〈スコーリィ〉損傷率60%を突破!」

 

「重フリゲート〈イージス・フェイト〉艦首ブロックに被弾。主砲損傷!」

 

「重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉大破!これ以上の継戦は危険です!」

 

 霊夢達が人質奪還のため敵艦隊の旗艦―――リサージェント級戦艦に乗り込んでいる間、艦隊を任されたコーディ達はヴィダクチオ軍艦隊の残存艦艇と交戦していた。

 敵の数は先の決戦時と比べると大幅に減っているが、『紅き鋼鉄』も多くの損傷艦を抱えており、さらには満足な修理もする暇なくこの宙域に突入したため、更に損害が蓄積していった。結果、敵艦の数が大きく減ったにも関わらず、亡失艦を複数出してしまっていた。

 

「―――事態が急を要するとはいえ、流石に連戦は厳しかったか・・・将軍、如何されますか」

 

《うむ・・・健在な戦艦群を楯にしつつ、駆逐艦隊は後退。後方の工作艦に合流させて応急修理をさせよう。後退命令は此方から出す。戦艦部隊は敵戦艦の足を止めてくれ》

 

「イエッサー」

 

 霊夢から〈開陽〉を預けられたコーディは、引き続き艦隊の指揮を執り続ける〈高天原〉のショーフクに指示を仰ぎ、命令通りに艦を動かさせる。

 

 ショーフクの命を受け、今まで前線を張っていた駆逐艦と巡洋艦の部隊が後退していき、代わりに健在な戦艦群が後退を支援すべく敵艦隊の前面に躍り出る。

 

 しかし〈開陽〉が前進を始めるや否や、出力が減衰したシールドを突き抜けたヴィダクチオ軍のレーザービームが艦に着弾し、艦体が大きく揺さぶられる。

 

「くっ・・・被弾したか」

 

「敵弾、第一主砲塔直下に着弾!砲塔存損傷!」

 

 コーディが艦橋の外を見遣ると、敵弾を受けた第一主砲塔は著しく砲身が歪み、激しく火花を散らしている。

 

「整備班を急がせろ!ダメージコントロールだ!それと一番砲塔の弾薬庫のスプリンクラーを起動しろ!」

 

「了解!」

 

 〈開陽〉の主砲塔はレーザービームの他に実弾を撃てるような仕組みになっているのだが、それ故に万が一主砲塔で出火したら誘爆のリスクがあった。なので第一主砲の惨状を目の当たりにしたコーディは即座に整備班をダメージコントロールに向かわせ、また予め弾薬庫を湿らせておくことで誘爆リスクを減らし、事態の沈静化を図る。

 

「前方の敵テクター級戦艦、本艦に向け量子魚雷を発射!」

 

「回避機動だ!」

 

「アイアイサー。予測パターン入力、回避機動に入るぜ」

 

 続いて〈開陽〉に正面を向けて相対するヴィダクチオのテクター級戦艦が量子魚雷を発射する。

 だが、元々命中率が低い量子魚雷であり、さらに比較的遠距離で放たれたことから回避機動を取った〈開陽〉には命中せず、見当違いの方向を突き抜けていった。

 

「魚雷、回避成功!」

 

「反撃だ!二番、三番砲塔及びミサイル発射管、前方テクター級戦艦に照準しろ!」

 

「イエッサー!目標敵テクター級戦艦。主砲発射!!」

 

 今度は返礼とばかりに〈開陽〉の健在な主砲塔から蒼白いレーザービームが放たれ、テクター級のシールドを焼く。続いて発射されたミサイルはテクター級のデフレクター・シールドを突き破り、白亜の艦体に炎の華を咲かせた。

 

「命中を確認、しかし効果微少!」

 

「チッ、流石にスターデストロイヤーは硬いな。一発の被弾じゃあどうにもならん」

 

「・・・っ、本艦の左舷前方より、敵ヴィクトリー級戦艦2隻、急速に迫る!」

 

「右舷前方からも敵ファンクス級戦艦の接近を確認!」

 

 ここで敵艦隊の動きに変化が生じ、生き残っていた敵戦艦3隻が〈開陽〉に向けて突撃コースを取り始めた。特に左舷側から接近するヴィクトリー級は中射程以上の火力は他の遺跡由来艦と同じく強力であり、ヤッハバッハのダウグルフ級戦艦を上回る火力を持つ〈開陽〉といえど撃ち負けるのは必須である。なので艦を預かっているコーディは最優先でこのヴィクトリー級2隻の排除を試みた。

 

「全砲塔、左舷側のヴィクトリー級戦艦を狙え!」

 

「はっ!」

 

 〈開陽〉の健在な全火器が左舷側から急速に接近するヴィクトリー級戦艦に向けられる。更に、艦隊を預かっているショーフクの指示によるものか、重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉と巡洋戦艦〈オリオン〉〈レナウン〉も同様にヴィクトリー級戦艦に狙いを定めた。〈開陽〉の右舷側から接近するファンクス級戦艦に対しては、〈開陽〉の右横に位置する〈ネメシス〉が相対する。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「敵艦載機隊、本艦に急速接近!」

 

「迎撃ミサイル、撃て!」

 

 敵戦艦の突撃と合わせて、敵艦載機隊はそれを援護するかのように〈開陽〉に群がる。だが、直掩防空隊と迎撃ミサイルにより敵艦載機隊は数を減らし、攻撃に失敗する。

 

《こちらガルーダ1、敵攻撃隊を排除した。引き続き上空援護に務める》

 

「了解した。ガルーダ1は引き続き警戒にあたれ」

 

 敵艦載機を撃墜したガルーダ1―――タリズマンのVF-19が、〈開陽〉の艦橋の前を通り過ぎる。彼の機は別の獲物を見付けると、翼を翻して敵艦載機に再び襲い掛かっていく。

 

「敵戦艦、射程内!」

 

「砲撃、開始!!」

 

 接近を続けるヴィクトリー級に対し、〈開陽〉以下4隻の主砲が放たれる。

 ヴィクトリー級に向かった戦艦クラスのレーザー主砲弾は正確に敵艦を捉え、ヴィクトリー級の表面装甲にダメージを与えるが、第一斉射ではそこまでだった。その御返しとばかりに、ヴィクトリー級から中口径レーザーの雨が見舞われる。遂に敵艦の射程に捉えられたのだ。

 

「右舷第4ブロック被弾!」

 

「巡洋戦艦〈オリオン〉損傷率7割を突破!これ以上の継戦不可!戦線離脱!」

 

「チッ・・・後退しつつ応戦を続けろ!」

 

 徐々に距離を詰められつつある中で、コーディが歯噛みする。

 敵との距離が近くなるということは、即ち敵が発揮できる火力が増えるということだからだ。

 加えて僅か6隻にまで撃ち減らされた敵艦隊といえど、その全てが戦艦クラスであり、相応に堅牢な艦であった。なので無力化するだけでも手負いの『紅き鋼鉄』には少々荷が重く、誰もが長期戦を予想していた。

 

 だが、その戦いは唐突に終わりを迎える。

 

「!?、っ・・・て、敵艦に爆発反応です!」

 

「なに?」

 

『紅き鋼鉄』が放った攻撃が当たった訳でもないのに、〈開陽〉に接近していたヴィクトリー級戦艦の特徴的な大型艦橋が突然爆炎に呑まれる。

 艦橋に甚大なダメージを受けた片方のヴィクトリー級はコントロールを失い、並走していたもう一隻のヴィクトリー級に衝突、両艦とも大破して突入コースから外れていく。

 

 ヴィクトリー級が大破し敵の戦列を離れていくのと同時に、〈開陽〉のレーダーに一隻の艦の姿が捉えられた。

 

「これは・・・アルク級駆逐艦?一体誰の・・・」

 

「アルク級だと!?あんな艦でスターデストロイヤーに対抗できるとは思えんが・・・」

 

 〈開陽〉のレーダー画面に現れたのは、あのヴィクトリー級を下したと思われる所属不明の駆逐艦だった。しかし、そこに表示された艦級―――アルク級駆逐艦は本来武装輸送船を改造した護衛艦程度の能力しかなく、エルメッツァ正規軍やスカーバレル艦にすら劣る性能しかない艦であり、レーダー画面を監視していたこころと事態を把握したコーディの思考を混乱させた。

 

「所属不明艦より通信です!どうされます?」

 

「―――回線を此方に繋いでくれ」

 

「了解です」

 

 程なくして、件のアルク級駆逐艦から通信を求められる。コーディはそれを許可すると、天井のメインパネルを見上げた。

 

 暫くすると、メインパネルに通信相手と思われる一人の若い女性の姿が写し出された。

 

《あー、これで繋がるのかな、メリー》

 

《ええ。機器の調子は万全よ。それと、もう相手方と繋がってるみたいだけど》

 

《うげぇっ、マジで・・・っと、失礼。改めまして、私はこの駆逐艦〈スターライト〉の艦長をしている宇佐美蓮子。えっと、そっちは―――》

 

「俺はコーディだ。生憎だが、艦長は席を外している。今は俺が艦の最高責任者だ」

 

 コーディの通信相手―――蓮子は彼の姿を見てやや困惑した様子であったので、コーディはそれを訝しげに思いつつも自己紹介を済ませる。

 

《ああ、成程。道理で事前情報と違うわけか―――じゃあ早速本題だけど、この子が今、何処に居るか手懸かりはない?》

 

「―――!?」

 

 蓮子が提示したホログラムの写真に映る少女の姿を見て、コーディが絶句する。

 彼女が掲げた写真に写っていた娘は、ヴィダクチオに誘拐されたスカーレット社の令嬢・レミリアだった。

 

「―――貴様、何故その娘を・・・」

 

《おっと、そう邪険に見ないで欲しいなぁ―――こちとらちゃんと話も聞いている訳なんだし。それで、どうなの?それさえ分かればこっちも全力で手を貸せるんだけど》

 

「そうか―――失礼した。その娘なら、今はあの敵旗艦に囚われている」

 

《敵旗艦・・・あのでっかい遺跡船ね》

 

《ほ、本当ですか!?》

 

「な―――メイリン殿!?何故そこに!?」

 

 コーディは更に、蓮子の横から身を乗り出してきた女性の存在に驚かされた。

 その女性は、彼等がレミリアと共に誘拐されたと思っていた女性、メイリンだったからだ。

 

《あ、失礼しました―――。実は私、この方達に助けられまして、今はこうして身を寄せていただいています。それで、お嬢様があの艦に居るというのは本当に―――》

 

「ああ、そうだが・・・」

 

 メイリンの問いに対し、コーディは肯定を以て応えるが、彼はばつが悪そうに言葉の末尾を濁した。

 

《・・・何か、あったのですか・・・?》

 

 コーディの表情から、メイリンは敬愛するレミリアの身に只ならぬ事態が起こっているのだと悟り、青ざめた表情となっていく。

 

「彼女は―――敵の生物兵器を感染させられている」

 

《な――――、そ、それは―――》

 

「・・・これが証拠だ。奴等は躊躇いもなく、我々の前であのような外道の所業を・・・!!」

 

 コーディの言葉に、メイリンは驚愕のあまり丸く眼を見開いた。そんなことが有ってはならない、きっと誤情報の筈だと彼女は内心で必死に彼の言葉を否定するが、コーディが開示した映像データの前に現実を受け入れざるを得なくなる。普段は冷静な彼も、あまりの外道さのあまり、その口調は明らかに怒りを感じさせるものへと変化する。

 彼は続けて、レミリアに注入された生物兵器の無力化までの猶予時間が、24時間しかないことも告げた。

 

《な、なによこの外道―――あいつら、こんな奴等だったなんて―――!!》

 

《酷い・・・何てことを―――》

 

《そ、そんな・・・お嬢様は・・・》

 

 コーディが提示した映像と情報に触れて、蓮子は敵のあまりの外道さに怒りに震え、一時とはいえそんな彼等に手を貸した自分を呪う。彼女の相棒のメリーも、彼等の非道を記録した映像の前に、ショックから口に手を当てて抑えていた。

 

「・・・霊夢達は、レミリア嬢奪還のためあの旗艦に乗り込んでいる。君の仲間―――サクヤも一緒だ。まだ可能性はある。それに、此方の科学班が敵の生物兵器を解析して、試作の抗ウイルス剤の開発に成功した。レミリア嬢の下まで辿り着けば、まだ望みはある」

 

《そう・・・ですか―――ならば・・・蓮子さん!》

 

《言われなくとも。じゃあ、私達もそっちの艦長さんに加勢してくるよ!その間雑魚共の相手は頼んだ!それと情報提供、感謝するよ》

 

 希望の道筋が示されたことで、失意に打ちのめされていたように見えたメイリンは雰囲気を一変させ、蓮子の方へと向き直る。

 蓮子も言われるまでもないとばかりに、彼女の言わんとしていることを悟ると素早く行動に移った。

 

「あ、ああ―――だが敵旗艦の近接火力は強力だ。君達が突入する間は我々が援護しよう」

 

《おおっ、それは有難い!じゃあ私達の背中は任せたよ。メリー、機関最大出力!突っ込むよ!》

 

《了解。ま、こうなるだろうとは思っていたわ》

 

 コーディは素早く頭の中で思考を逡巡させ、彼女達との共同戦線を決意した。先の戦闘からは、彼女達が使うアルク級駆逐艦が著しく改造されたカスタム艦であることを窺わさせたが、所詮は駆逐艦である。並の戦艦を軽く越える巨躯を持つ敵旗艦、リサージェント級がスターデストロイヤーの特性上かなり強力な近接火力を持つことは用意に想像でき、その火力を単独で突破できるとはコーディには思えなかった。なので彼は、彼女達の突入援護を躊躇いなく引き受けると決断した。

 

《そんじゃ、目的が済んだらまた顔を会わせましょう》

 

「ああ。健闘を祈る。それと、艦長に宜しくな」

 

 通信が途切れ、加速していく彼女達の艦を、コーディは敬礼を以て見送った。

 

「・・・話は聞いていたな野郎共!攻撃戦だ!敵旗艦に火力を集中しろ!最大戦速、突撃だ!」

 

「イエッサー!」

 

「了解っ、機関出力最大―――って、私野郎じゃあないんだけどなぁ・・・」

 

「旗艦ネットワークを更新、臨時旗艦〈高天原〉からも作戦行動の変更許諾を確認―――確かに、ここの所帯は女性が多いんですがねぇ」

 

 コーディの号令を受けて、クルー達はそれぞれの持ち場で命令遂行のため動き始める。

 その中で溢されたユウバリの愚痴に、片手間で作業を続けながらミユが苦笑を浮かべながら賛同した。

 

「ま、今は目の前の敵に集中しましょう。二人共、手の速さが落ちていますよ」

 

「はぁい。ま、それもそうか」

 

 二人はその会話を横で聞いていたノエルに制されて、自らの任務に集中する。

 

 

 ヴィダクチオの旗艦に突撃する駆逐艦〈スターライト〉を援護すべく、その瞬間から『紅き鋼鉄』の全火器は敵旗艦、リサージェント級に集中された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領軍艦隊旗艦艦内~

 

 

【イメージBGM:東方幻想的音楽より「永遠の巫女」】

 

 

 

 敵艦内に突入した私達だが、そこで敵迎撃部隊の襲撃を受けた。そこまでは想定通りだったんだけど、ここにきて予想外の事態が発生した。

 

「れ、霊夢さん、今のは・・・」

 

 事態の一部始終を見ていた早苗が、恐る恐る問い掛けてくる。

 

 きっと、目の前ので起きたことはなにかの間違いに違いない、そう思いたいのだろう。優しい早苗のことだ、まさか敵兵が"人間爆弾"なんておぞましい物だなんて、想像すらしたくないのだろう。私だって、反吐が出るほど不愉快だ。

 

「人間爆弾―――まさか、あんな禍々しいモノまで用意しているなんて・・・ああ、不愉快だ、実に不愉快―――」

 

 あの野郎は"教祖"なんて名乗ってはいたけど、なにが教祖だ、なにが宗教国家だ―――こんなもの、宗教なんかであってたまるか―――!

 

「―――殺す。殺すわ。アレだけは生かしておけないアレは生きてちゃいけない類のニンゲンだ。絶対に―――殺す―――!」

 

「れ、霊夢、さん・・・?」

 

「か、艦長―――?」

 

 確かに末法じみたこの世界だけど、それでも人として、"絶対に越えてはいけない一線"は有る筈だ。今まで私達が蹴散らしてきた海賊共なんかは、0Gドックのアンリトゥン・ルールなど知ったことかとばかりに暴虐の限りを尽くしていたような連中だったけど、それでもこんなカタチで命をコケにするような奴は居なかった―――だが奴は、それすらも踏みにじった―――!

 

「―――行くわよ。あの外道のドタマをぶち抜いてやるわ」

 

「・・・イエッサー」

 

 少し間を置いて、エコーの返答が聞こえた。いつもの声とは違って、やや覇気がないように感じる、機械的な声だった。

 

「―――艦長、あくまで目的はレミリア嬢の奪還だ。それを忘れるな」

 

「分かっているわ。アレを殺すのはついでよ」

 

「―――結局そこには固執するのだな」

 

 サナダさんが、私に釘を差すように忠告した。

 

 そんなことは、言われなくとも分かっている。

 あくまで目的はレミリア・スカーレットをあの外道の手から取り戻し、ウイルス兵器に犯された彼女に対して治療を施す。その目的は、違えない。

 

 だけど、やはり私はあいつを殺さずにはいられない。"人間"相手に、ここまで殺意を抱いたのは、多分これが初めてだ。今までにも"手遅れの人間"や"敵"を始末してきたことはあれど、一人の人間を殺すことにだけ拘ったのは、やはり今までにはないことだった。それだけ、私はアレの存在を許せないのだろう。

 

 アレを怒りに駆られて叩き斬ったところで何も生まれやしない、とご高説を垂れる輩も居るかもしれないが、やはり世の中には死んだ方がましな、殺すことが人間のためになるような奴もやっぱり居るんだ。私はそんな外道と相対してしまったからにら、怒りのままでも叩き斬った方がいいんだろう。きっと、後悔は、ない―――。

 

「―――霊夢さん」

 

「なに、早苗」

 

 先頭を走る私の後ろから、早苗が私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「上手くは言えませんが・・・気を確かに、持ってください。幾らアレが外道だとしても、その感情に呑まれては・・・駄目です―――」

 

「―――有難う。気を付けておくわ」

 

 ―――早苗の言葉を聞いて、黒一色の私の心に、僅かに白が戻った気がした。

 

 彼女の言葉は、純粋に私の身を案じてくれたものだろう。確かに、早苗の言うことも一理ある。というよりは、一般論としては彼女の方がきっと正しい。本当に、早苗はよくできた子だ―――。

 

 だけど、私が冷静だったとしても、やはり私はアレの頭を割るだろう。アレが生かしてはおけない奴なのも、また事実だ。

 

「・・・部外者の私が言うのも難だけど、確かにさっきまでの貴女、酷い顔をしていたわ。私だって、あいつのしたことは許せない。だけど、その感情に囚われるあまり周りに迷惑をかけては駄目よ」

 

「・・・ご忠告どうも。ほんと、私もまだ未熟ね―――」

 

 遂にサクヤさんからも、忠告を受けてしまった。

 彼女は単純に、まだ少女然とした私に人生の先輩として諭したのかもしれないが、彼女の言っていることは正しい。しかし、こんな状況で周りに気配りができるなんて、彼女もよくできた人だ。彼女自身、主君があの状況では気が気でないでしょうに・・・

 

 

「っ、前方距離50m、敵陣地確認!」

 

「小隊散開!各自自由射撃開始!!」

 

 事前にハッキングで得た情報を元に通路を曲がったところで、敵のバリケードと遭遇する。

 それを確認したエコー以下海兵隊員達は素早く散開し、物陰に身を隠す。私達も同じように、適当な物陰に身を隠した。

 敵の攻撃に合わせて、物陰から海兵隊員達が殺傷モードのレーザー銃で反撃する。

 

「無反動砲隊、目標前方50mの敵陣地!効力射、撃て!」

 

 エコーの号令で、大きな筒を構えた海兵隊員達が廊下中央にシールドで構築した簡易バリケードから身を乗り出して、敵陣地に向かってロケット弾を発射する。

 発射された弾は敵のバリケードの目前で炸裂し、周囲に爆炎が充満する。

 

「―――行くわよ、早苗。覚悟はいい?」

 

「はい―――望むところです」

 

 未だに煙が晴れぬ敵陣地に向かって、私と早苗が飛び出す。私は腰の刀(スークリフ・ブレード)に手をかけて霊力を込め、呪符を掛ける。

 

「私もご一緒します」

 

 先に飛び出した私達に続いて、両手にマシンガンを構えたサクヤさんが敵に向かって飛び出した。一瞬止めようかとも思ったけど、彼女は身体を機械化しているので問題ないと判断し、敵の一部を任せることにした。

 彼女の獲物がナイフでなかったのは、少々意外だった。

 

「覚悟ッ!」

 

 一番槍を切ったのは、黒い空間服を纏った早苗だった。

 彼女は右手の刀で敵兵の手足を飛ばして動きを止め、左手の銃で敵が自爆しないよう焼き払う。

 

「―――目標、捕捉!」

 

 続いて、サクヤさんが両手のマシンガンを敵に向けて撃ち放ち、未だに煙が晴れぬ中対応しきれていない敵兵を制圧していく。

 

「――――――」

 

 私はサクヤさんの銃撃で動きを止めた敵兵を、目についた奴から斬り捨てる。敵兵を斬ると同時に呪符が発動し、敵兵は炎に包まれて焼かれていく。こうして炭にしなければ、また敵兵が自爆してしまう。

 

 じゅわ・・・、と、血肉が焦げる嫌な匂いが鼻についた。

 

「総員、突撃!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 私達が進路を切り拓くと同時に、エコーの号令に基づいて海兵隊員達が突撃する。

 彼等は敵兵に襲い掛かるや否や、レーザー銃やライフルで敵兵の四肢や頭を飛ばし、エネルギーソードで胴を貫く。最後の止めに、エネルギーバズーカを火炎放射モードにした海兵隊員達が敵兵の遺体を焼き払い、敵陣地の制圧は完了した。

 

「・・・敵陣地、制圧!」

 

「敵、残存兵力―――無し!」

 

「―――良くやった、野郎共。前進を続けるぞ」

 

「「「了解!」」」

 

 敵陣地への攻撃を終えて立ち尽くす私を裏原に、エコー達海兵隊員は軍隊さながらの統率を崩さずに周囲の状況を把握して報告している。―――やはり、ただ力があるだけの私達なんかと比べると、明らかに彼等は"場慣れ"していた―――。

 

「これが、戦場―――」

 

 無意識のうちに、私はそう呟いていた。

 これこそが"戦場"なのだとしたら、今までの白兵戦はお遊戯にも等しい。何度も白兵戦をこなしてきた私達ではあるけど、これまでは武装をパラライサーモードにしていたから、最初から殺す気で戦ったのは、思えば今回が初めてだった。

 

「ああ―――これが本当の"戦場"だ。銃弾が飛び交い、ブリキと血の焦げた匂いが充満する・・・だが、今回は幸いにも仲間を失うことはなかった。それだけでも、感謝しよう」

 

 いつの間にか私の隣に立っていたエコーが、ヘルメットを脱いで語り掛けた。彼の横顔からは、いつもの厳つい軍人然としたものではなく、過去を懐かしむ、一人の古老のような印象を受けた。

 

(そうか、この人は――――)

 

 エコーは、元軍人、それも戦場の最前線を駆け回る兵士だったと聞いている。きっと彼は、この光景を見て、過去に失った仲間達に思いを馳せているのだろう。

 

 

 ―――私には、立ち入ってはいけない世界だ・・・

 

 

 彼は一度、新調した装甲服にもペイントされた右胸の手形模様に手を当てる。そして思い直したように手を離すと、再びヘルメットを被った。

 

「・・・艦長、先を急ごう。あまり時間がない」

 

「ええ―――」

 

 私はエコーと共に、艦内を進む。

 彼が言うとおり、今回は時間に余裕がない。一刻も早く、レミリアを助け出さないと・・・

 

 

 ..............................................

 

 .........................................

 

 ..................................

 

 ...........................

 

 

「艦長、艦橋はここを左に曲がった先だ。そこのエレベーターを確保すれば、この艦のブリッジに出る」

 

「了解」

 

 サナダさんの案内に従って、私達は敵艦内を駆け抜ける。

 既に4、5回は敵の守備隊と交戦してきたが、全て火力に任せて押し通った。時間の余裕はまだある筈だ。

 

 しかし、ここで一つ、気になることがあった。

 

 最初は、敵兵は人間爆弾にされているから死にもの狂いで攻撃してくるのかと思っていたのだけれど、どうやらそうではないらしい。全員が自発的に突撃し、中には教祖への忠誠の言葉を述べながら自爆してくるような奴もいた。

 

「・・・・ああほんと、不愉快極まりない―――」

 

 ―――それが意味することは、敵兵は"教祖"とやらの邪教によって洗脳じみた状態にあるということ。全員が熱狂的な"信者"と化していた。

 

 ―――やっぱり私は、アレを殺さずにはいられない・・・

 

 敵の非道さを改めて目の当たりにし、より殺意を磨く。

 

 やはりアレは、排除しなければならない。

 

 

「艦長、曲がり角の先に誰か居るぞ」

 

「―――敵?」

 

 先頭を走っていたエコーが、ふいに立ち止まった。

 それに合わせて、私達も立ち止まる。

 エコーが言うには、この先に誰か居るらしい。

 

 ・・・ここは、彼の勘を信じることにしよう。

 

「俺が確認してくる。こんな場所だ。十中八九、敵兵だろうが―――」

 

 エコーは曲がり角の影からこっそりと身を乗り出し、確認もそこそこに人が居るであろう場所に発煙筒を投げ込んだ。

 

「ぐ、ぐええっ、ちょっと、何よこれ!」

 

「っ、蓮子、早く空気清浄機を――」

 

「なんの・・・この程度―――お二人は下がって!」

 

 ―――煙の先から聞こえてきたのは、今までの敵兵とは違う、女の声だった。その声の一つには、聞き覚えがあるような―――

 

「・・・待て、こいつら、敵兵じゃないな?誰だ!?」

 

「はぁ?あんた―――いきなりあんなモノ投げ込んでおいて、誰だは無いでしょう!」

 

 どうやら、先行したエコーと謎の人達の間で、口論になっているらしい。

 

「・・・私達も行きましょう」

 

「―――はい」

 

 私達も、曲がり角から出て、エコーの後ろに出る。

 

 既に煙が晴れつつある廊下の先には、エコーと向かい合う形で三人の女の人が立っていた。そのうち一人は、明らかに見知った顔で―――

 

「め、メイリンさん!?」

 

「あ、霊夢さん―――ど、どうも」

 

 三人のうち一人は、レミリアと共に誘拐されたと思っていたメイリンさんだった。

 

「どうも、じゃないわよ!あんた、一体どうやって「メイリンっ!」」

 

「えっ、あ・・・ぐぇっ!」

 

 ―――私の言葉もままならないうちに、メイリンさんの姿を認めたサクヤさんが彼女に飛び込む。メイリンさんには不意討ちとなったのか、彼女は飛び込まれた衝撃で後ろに向かって倒れ込み、呻き声を上げた。

 

「ああ、良かった―――無事だったんですね―――」

 

「まぁ・・・はい。迷惑を掛けました。申し訳ありません・・・」

 

 二人は再会の喜びを分け合っているのか、お互い抱き締めたまま言葉を交わし合う。

 

 ―――そこの二人は置いといて、問題は初対面のこいつらね・・・。

 

 メイリンさんと違って初めて会うこの二人は、一人は短めの黒髪に鍔広の黒帽子を被った女で、ちょっと胡散臭い感じを受ける。もう一人は金髪で紫色の服装に身を包んでおり、その姿はまるで―――

 

「―――紫?」

 

「ゆかり?誰それ」

 

「え、ああ・・・御免なさい、人違いだったわ。それよりも、貴女達は―――」

 

「ああ、ゴメンゴメン、自己紹介が遅れたね。私は蓮子、そしてこっちがメリー。しがないトレジャーハンターよ」

 

 私の声に反応して、初対面の女の人―――蓮子さんが挨拶した。紫に似た女の人―――メリーさんも頭を下げる。

 

「霊夢さん、あの人―――」

 

「―――多分、別人よ。ほら、あまり胡散臭い感じはしないし」

 

「ああ、言われてみれば・・・」

 

 私の後ろから、早苗が小声で話し掛けた。

 あのメリーさんって人、確かに装いは紫に似ているけど、アイツが撒き散らしていた胡散臭さは感じない。寧ろ、素直そうな印象を受けた。

 

 ―――彼女も、ただの別人だろう。

 

「あんたが『紅き鋼鉄』の艦長さんね。話はメイリンから聞いているわ」

 

「それはどうも。手間が省けるわ。一応名乗っておくけど、私は博麗霊夢。で、あんたは味方って認識でいいのかしら」

 

「まぁ、その認識で構わないよ。多分目的は一緒だろうし」

 

「―――目的?」

 

「ああ。そこのお二人さんの、お嬢様の救出さ」

 

 どうやらこの二人も、メイリンさん辺りから話を聞いて駆けつけてきた0Gドックのようだ。多分、メイリンさんを助けたのも彼女達なのだろう。

 

「そういう訳だから、これから宜しくね。時間、あまり無いんでしょ?」

 

 蓮子さんが、今までとは違って真剣な表情で言った。

 

 そうだ―――彼女を助けるにはあまり時間に余裕がない。まだタイムリミットまでは間があるが、治療するなら一刻も早く助け出さなければ。

 

「―――ここに来る前、あんたの仲間から話は聞いているよ。とにかく今は、ご令嬢さんを助けないとね」

 

「仲間―――ああ、外で艦隊を任せたコーディ達ね。事情を把握しているのなら話が早いわ。じゃあ、先を急ぎましょう。彼女はこの先に囚われている筈よ」

 

「承知した!ま、お互い聞きたいこともあるだろうけど、今は急がないとね。それじゃあメリー、この人達と一緒に行くよ!」

 

「了解」

 

 会話を打ちきった蓮子さんに続いて、メリーさんが駆け出す。彼女達は、真っ直ぐこの先のエレベーターシャフトに向かっていった。

 

「―――私達も行きましょう」

 

「はいっ、霊夢さん」

 

「イエッサー」

 

 私達も、真っ直ぐエレベーターに向かって走る。

 

 

 "教祖"との対面も、間近にまで迫っていた―――

 

 

 



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第七○話 赦さない

 

 

 ~ヴィダクチオ本星宙域~

 

 

【イメージBGM:マクロスプラスより「INFOMATION HIGH」】

 

 

 閃光が、迸る。

 

『紅き鋼鉄』とヴィダクチオ自治領軍残存艦隊との決戦が行われているこの宙域では、尚も激しい砲撃とミサイルの応酬が駆け巡る。閃光が煌めく度に航宙機は火達磨となって最期の輝きを残し、巨大なフネの表面が焦げ付いていく。

 

《ヴァルキュリアリーダーより各機、新な敵だ。各自対処しろ!》

 

《―――了解》

 

《ああもう、墜としても墜としてもキリがないっ!!》

 

 そんな宙域のなかを、彼女達は己の半身ともいえる機体を駆りながら飛び舞う。

『紅き鋼鉄』の艦載機小隊、ヴァルキュリア隊に属するディアーチェ、シュテル、レヴィの三人は戦闘開始時から出撃を繰り返していた。そのためか、敵の艦載機部隊に向かう三人の顔には疲れの色が見え始めていた。

 

《―――これはッ、シュテル、レヴィ、気を付けろッ!?今度の敵は今までの連中とは違うぞ!》

 

 電子作戦機RF/A-17から小隊の指揮を取っていたディアーチェは、更新された情報から先程捕捉した敵編隊が今まで戦ってきた敵機とは全く違う存在であることに気付く。

 

 今までの敵機はほぼ全てが円盤型の機体であったのに対し、ディアーチェが捕捉した敵機の姿は、『紅き鋼鉄』が運用する重戦闘機T-65型に類似した姿をしていた。直線的な胴体の後方に四機のエンジンとそこから延びる翼の先に一門ずつ大口径レーザー機銃が配置されたその姿は、紛れもなくT-65型、通称〈X-ウィング〉の機影だった。その機体は彼等の母艦たる戦艦と同じように、純白に塗られていた。

 

《ヴァルキュリア2、会敵します―――ッ、こいつ、速い―――!?》

 

《シュテルんっ、大丈夫?―――ッわあ!?なんて速さだッ!?》

 

 ディアーチェが捕捉した4機小隊の敵Xウィング部隊は、接触したシュテルとレヴィの駆るVF-22、19の両機に対し、すれ違い様に重レーザー機銃による掃射を仕掛ける。彼女達は間一髪でその攻撃を回避したが、敵機が発揮する凄まじい速度故の相対速度に対応しきれず、一度敵の姿を見失ってしまった。

 

《後ろだ!気を付けろ!》

 

 だが、戦場を俯瞰する位置に陣取るディアーチェのRF/A-17の目まで誤魔化すことはできず、敵機を見失った二人に対し直ちに警告が発せられた。

 

《―――助かります》

 

《くうっ、このボクがスピードで負けるなんて―――!》

 

 レーダーで再び敵機を捕捉した二人の機体は、翼を翻して敵機へと向かう。

 

《―――レヴィ、右の2機は任せます。いけますか?》

 

《ああ!やってやるさ!シュテルこそ、墜とされるんじゃないよ!》

 

《フフッ、まさか―――二度も遅れは取りません》

 

 言葉を交わしあった後、二人の機体は互いに腹を向けて左右へ別れる。

 

《―――ヴァルキュリア2、FOX2!》

 

《ヴァルキュリア3、FOX2ッ!!》

 

 正面から高速で迫る敵機をロックオンした二人は、敵機の進路上を制圧するような形で赤外線誘導マイクロミサイルをばら蒔く。

 高速で飛行を続ける敵機は回避機動が間に合わずミサイルの何発かは直撃し、オレンジ色の閃光に包まれた。

 

《やったか!?》

 

《―――いや、まだです》

 

 ミサイルの命中を見たレヴィは撃破を確信したが、冷静に敵機の状況を見ていたシュテルは即座にそれを否定した。

 

《二人とも、敵機はまだ健在だ!まだそっちに向かっているぞ!》

 

 ディアーチェがもたらした情報も、シュテルの言葉を肯定する。

 彼女の警告と同時に、敵機が炎の中から飛び出した。その純白の機体には、傷ひとつついていない。

 

《はあッ!?なんだよアイツ!傷一つないじゃないか!》

 

《レヴィ、落ち着いて下さい。まだ手はあります》

 

 真っ白な敵機の姿を見てレヴィが毒づいたが、シュテルがそれを諌める。

 

《シュテル、レヴィ、よく聞け。あの機体の分析が完了した。アレはデフレクターユニットを積んでいる。威力の低いマイクロミサイルでは力不足だ。格闘戦に切り替えろ!》

 

《了解!》

 

《成程、そういうからくりか!なら―――!》

 

 シュテルの言葉に続いて、ディアーチェの分析結果がもたらされる。

 敵のXウィングは小型の航宙機としては異例のデフレクターユニットを搭載しており、そのためミサイル攻撃が通用しなかったのだ。だがデフレクターはレーザー攻撃やシールド対策を施した物理攻撃には対抗できないので、ディアーチェは二人に対しミサイル戦ではなく格闘戦を指示する。

 

《これでも―――食らえっ!》

 

 レヴィは至近距離まで迫った敵機に対し、ガンポットによる掃射を行う。しかし、敵機は2機とも最小限の動きでそれを躱しつつ、真っ直ぐレヴィの機体に向かう。再び一撃離脱戦法を試みているのは明らかだった。だが、それは彼女の予想の範囲内だった。

 

《フフッ、かかったな!これで終わりだッ!!》

 

 敵機が重レーザーによる射撃を始めると、レヴィは先程敵機が見せたように、軽やかにその火線を潜り抜ける。そして敵機と自機が接触するその瞬間、機体を人形―――バトロイド形態に変形させ、エネルギーシールドを纏った拳でちょうど自機の直下に位置する敵機を思いっきり殴り付けた。

 いきなり殴り付けられた敵のXウィングはよろめいてコントロールを失い、フラフラと宇宙を漂った後に爆発四散してオレンジ色の閃光となった。

 

《フハハハハっ!どうだ!見たか!幾ら早くたって、このボクには叶わないぞ!》

 

 敵機を撃墜したレヴィは、残ったもう一機の敵機に向かって挑発するようにバトロイドの指先を向ける。

 敵のXウィングはその挑発に乗ったのか、反転すると再びレヴィの機体に向けて加速を始めた。

 

 レヴィのVF-19に向けて、Xウィングの重レーザー砲の雨が降り注ぐ。

 

 レヴィは機体をバトロイド状態からファイターに変形させ、突撃してくる敵機のレーザーを回避しつつ、攻撃の機を伺う

 

 そして今度は敵機が自機の上を通りすぎたその瞬間、レヴィは自機を変形させ、尻を見せる敵機に対してシールドから抜き放った短剣を投げつけた。

 投げつけられた短剣は慣性と柄のパルスモーターを利用してミサイルのように敵機に追い付き、シールド対策を施された短剣の刀身はデフレクターのシールドを切り裂いた。

 

 そこに目掛けて、すかさず航宙機形態となったレヴィの機体がマイクロミサイルを打ち込み、シールドに空いた穴から雪崩れ込んだマイクロミサイルの爆発で敵機は一瞬のうちに存在をこの世から消滅させられた。

 

《どうだっ!見た!?隊長!ボク格好良かった!?》

 

《五月蝿いぞ、レヴィ!》

 

《ううっ―――そこまで怒鳴らなくても》

 

《貴様はいつもいつもはしゃぎ過ぎだ!勝って兜の緒を締めろ!―――だが、よくやった》

 

《―――ふふん、こんなのボクの腕にかかれば朝飯前さ!》

 

 敵エース機の撃墜に受かれたのかはしゃぐレヴィに対し、彼女の隊長であるディアーチェが一括するが、労いも忘れない。

 

《ところで、シュテルんの方は?》

 

《ああ、あいつなら―――》

 

《隊長、終わりました。2機とも撃墜です》

 

《うわあっ!いきなり割り込まないでよ!びっくりしたじゃないか!》

 

《それは失礼。しかし、いざ本気で戦ってみると少々味気ないものでした。APFSは並でしたので、大火力のレーザーで直ぐに沈みましたよ》

 

《大火力?ああ、確かお前の機体は―――》

 

 レヴィと異なり、冷めた口調で戦果を報告するシュテル。

 

 彼女の乗るVF-22は特殊仕様であり、駆逐艦の主砲並の火力を持つレーザーライフルを装備していたのだ。このライフルは通常のガンポッドに比べて連射速度は遥かに遅く、また携行エネルギー量の関係から数発の発射が限度という代物であるが、シュテルはそれを難なく使って見せた。

 マイクロミサイルが効かないと分かった彼女は、ライフルの銃口を敵機の突撃方向に合わせ、高速故に回避が難しいタイミングを狙ってレーザーライフルを放ち、それで敵機を撃墜したのだ。

 

《そういう訳ですから、速度さえ気にしておけば、案外楽なものでしたよ》

 

《そうか―――お前からすれば、相性のいい敵だったということか―――それに、これで敵のエースは消え失せたな。二人とも、そろそろ残弾が厳しいだろう。一度〈開陽〉に戻るぞ》

 

《了解》

 

《りょーかいッ!》

 

 敵エースを撃墜し、さらに残敵掃討も進みつつある戦況を見たディアーチェは、一度部隊を補給のため戻らせることにした。

 ディアーチェの命令を受けて、シュテルとレヴィの機体は翼を翻し、母艦の方角へと飛翔する。

 

 

 

 宇宙での戦いも、いよいよ終わりが見え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領軍艦隊旗艦・艦橋内~

 

 

 

 『紅き鋼鉄』の艦隊とヴィダクチオ自治領軍の残存艦隊との決戦の中心に位置するこの巨大戦艦の艦橋で、最も高い位置に座る男は、マスクに覆われた奥の瞳で、戦況の様子を感じていた。

 この男こそが、カルバライヤのグアッシュ海賊団による騒動から続く一連の事件の黒幕、ヴィダクチオ自治領領主、通称"教祖"である。だが、彼は旗艦に座乗しているにも関わらず、一切指揮を取ろうとする素振りは見せなかった。

 そんな彼の隣には、磔にされた人質の少女―――レミリアの姿がある。今は気を失っている彼女だが、打ち込まれたウイルスの感染が進行したためか、荒い息を立てていた。

 

 ―――ガラン、と鈍い音を立てて、エレベーターに繋がる扉が崩れ落ちる。

 

 崩れ落ちた扉から、一つの人影が飛び出した。

 

 その人影は艦橋内の様子を窺うこともせず、真っ直ぐにレミリアへと向かい、手に持った刀を構えると流れるような手捌きでレミリアを拘束していた金具を一刀の下に両断する。拘束が解けた彼女の華奢な身体はふわりと崩れ落ちるように倒れるが、人影は空いていた左腕でそれを抱き止め、その場から飛び退いて教祖から距離を取った。

 

「「お嬢様ッ!!」」

 

「制圧しろっ!全兵装、パラライサーモードで撃て!」

 

「こんの悪徳領主!成敗してくれるわ!」

 

 その人影を追うように、崩れ落ちた扉の先から二人の女性が飛び出す。彼女達に続いて、物々しい装甲服を纏った屈強な集団が、彼女達と最初に飛び出した人影を守るように円陣を組んで展開した。

 展開した屈強な集団―――『紅き鋼鉄』海兵隊は、艦橋に入るや否や、レーザーライフルを撃ち込んで艦橋にいたクルー達を制圧した。

 いままでヴィダクチオの自爆兵士と遭遇してきた海兵隊は、起爆のトリガーが生命活動にあると判断し、敢えて兵装を非殺傷で運用した。

 さらに艦のコントロールを担う艦橋で兵を自爆させることはないと判断した海兵隊は、機動歩兵に敵兵の対処を任せ、陣形を維持する。

 

「―――来ましたか」

 

「ああ、そのようだね」

 

 自身の眼前にまで"敵"に攻め込まれているにも関わらず、教祖は一切臆する素振りすら見せず、静かに部下の女が発した言葉に応えた。

 

「う"っ、ううっ、ん―――」

 

「―――サナダさん、この子をお願い」

 

「・・・心得た。艦長、治療はやはり早急に行おう。酷い発熱だ、このまま敵の坑ウイルス剤を探していたら間に合わないかもしれない」

 

「その辺りの判断は任せたわ。責任は私が取るから」

 

 一番にこの艦橋に侵入した人影―――霊夢は、先程助け出した少女、レミリアを治療のためサナダに託した。

 サナダはレミリアの容態が悪化していることを見抜き、当初予定していた正規の坑ウイルス剤捜索を諦め、自身の薬を投与する方針に変更した。

 

(―――う、ん・・・あれ、暖か、い?)

 

 霊夢がレミリアをサナダに預ける直前、気がついたレミリアは自身の置かれた状況が気を失う前と異なることに気付いた。

 気絶する前に感じていた拘束具の感触は消え去り、人の温もりを感じた彼女は、気怠さに抗ってうっすらと瞳を開く。その視界には、忌々しい"教祖"の姿はなく、彼女が密かに憧れを抱いていた人―――霊夢の姿があった。

 

(・・・霊夢、さん―――? ああ、助けに、きて―――)

 

 霊夢の姿を瞳に映した彼女は、今まで感じていた恐怖の糸が途切れたためか、はたまた進行した病状に体力を奪われたためか、再び意識を手放した。

 

 

「っ、お嬢様!」

 

「お嬢様―――申し訳ありませんっ、私が不甲斐なかったばかりに―――!」

 

 サナダに委ねられたレミリアの周りに、サクヤとメイリンの二人が駆け寄る。

 彼女達は、自分達の不手際でレミリアに怖い思いを再びさせてしまったという自責に駆られ、謝罪の言葉を述べるが、冷静さを保っていたサナダは静かにそれを制した。

 

「―――すまないが、今は治療が先だ。手伝ってくれないか?」

 

「っ、はい―――分かりました」

 

「・・・申し訳ありません。では、私達は何をすれば―――?」

 

「メイリン殿は彼女の右袖をまくり上げて、腕を固定しておいてくれ。サクヤ殿は渡した坑ウイルス剤の準備を。私はその間、治療の準備をやる」

 

「はっ!」

 

「―――分かりました」

 

 三人は黙々と、素早く準備を整えてレミリアに坑ウイルス剤を投与する。

 注射器から坑ウイルス剤を投与された直後のレミリアは顔を顰めたが、しだいに息遣いが落ち着いていくのを見て、三人は取り敢えずの安堵を得た。

 

「―――どうやら、成功したらしい。暫く様子を見る必要はあるが、もう大丈夫だろう」

 

「有難うございます。このご恩、どうやって返したらよいか―――」

 

「―――いや、彼女の件に関してはこっちにも責任がある。追加の礼は要らないわ」

 

「ですが・・・」

 

「私が要らないといったら要らないの。彼女が無事なら、それだけで充分よ」

 

 サクヤとメイリンの二人はレミリアの奪還と治療に一貫して手を貸した霊夢達に礼を述べるが、霊夢は追加の礼は要らない、と謙虚に振る舞う。レミリアが誘拐された原因に、自分達の艦隊が敵を阻止できなかったこともその一つだと考えていた彼女は、自分達にも責任がある以上、更なる礼を受けとる資格はない、と考えていた。

 

「―――珍しく謙虚ですね、霊夢さん。らしくもない・・・」

 

「失礼ね。私だって謙虚になるときぐらいあるわ。それより―――」

 

 霊夢が纏う雰囲気を一変させ、艦橋の最奥の玉座に座るヴィダクチオの頭領、"教祖"を睨む。

 

 彼女の態度の変化を受けて、他のクルー達も教祖に視線を向けた。

 

 

 

「―――やぁ。用事は済んだかい?」

 

「あんた―――自分が何をしたか、分かっているの?」

 

 眼光だけで人を殺してしまいそうな勢いの霊夢に臆することもなく、教祖は平然と言葉を発した。

 

「何をしたか、か・・・よくまぁ、小娘一人の命にそこまで拘れるね。君達だって、艦隊戦で何度も敵の命を―――」

 

 影が、教祖に向かって飛翔する。

 

 カチャリ、と翳された刀の先が、教祖の喉笛を真っ直ぐ捉えた。

 

「もう一度言ってみなさい。そのときにはあんたの命はないわ」

 

 霊夢は刀を握る力を強め、(きっさき)を教祖の喉に当てる。

 僅かに皮膚を切り裂かれた教祖の首から、一筋の鮮血が垂れ流れた。

 

「教祖様ッ!!」

 

「―――ちっ」

 

 あまりにも速い霊夢の動作についていけず、固まっていた教祖の部下が、漸く思考を取り戻して霊夢に向けて発砲する。

 霊夢は小さく舌打ちだけを残し、教祖から離脱した。

 

「お怪我はありませんか!?」

 

「ああ。何ともないよ」

 

 霊夢が飛び退いた後の教祖に、白衣を纏った女の部下が駆け寄る。霊夢は彼女が、映像でレミリアにウイルスを投与した人物であることに気付いた。

 

「―――忌々しい奴等。まずはあんたの首から落とそうか?」

 

 霊夢は鋒を教祖から女に移し、脅すような低い声で告げる。女は一瞬身震いさせたが、霊夢から教祖を守るよう、銃口を霊夢に向けた。

 

「貴女こそ、教祖様の計画を台無しにして・・・そんなことが許されるとでも思っているの!?」

 

「ええ、当然」

 

「―――、っぅ!?」

 

 女が放った言葉は、彼女の価値観からすれば当然に導き出されるであろうものなのだろうが、霊夢からすれば、彼女の言葉は狂人の戯言以下のものでしかない。寧ろ、許されないのは貴様等の方だ、と言外に彼女の瞳は告げていた。

 しかし狂人に常人の思考が分からないのと同じように、女には霊夢が心の内に抱いている怒りが分からなかった。そのためか、彼女は一切の躊躇いなく発せられた霊夢の返答を聞いて、信じられないものでも見るかのように瞳を見開く。

 

「ああ、そうだ。計画、なんて言ってたわね、あんた達。ついでに聞くわ。あんた、何が目的"だった"の?」

 

 霊夢の「目的"だった"」という箇所に女が眉を顰めたが、教祖はそれを制するように右手を彼女の前に翳し、真っ直ぐに霊夢へと顔を向けた。

 

 

「そうだね―――ここまできたなら、答えてもいいだろう。ぼくはね―――世界征服がしたかったんだ」

 

 

 

「―――は?」

 

 "教祖"の口から飛び出した言葉があまりにも予想外なものだったためか、霊夢は纏っていた殺気を一変させ、困惑したような間抜けな声を出した。

 

「世界、征服?」

 

「そうだよ。この世界はじきに滅びる。それが一年後か、十年後かは分からないけどね。だから、僕はその前に、自分がやりたいことをやろうと思っただけさ」

 

「そんな―――そんな理由で、あんたはこれだけのことを―――!」

 

 教祖の口から語られたことがあまりにも理解の範疇を逸脱した阿呆らしい理由だったため、一度は覚めた霊夢の殺気が再び沸き上がってくる。

 

「・・・一つ、いいですか―――?」

 

「なんだい?」

 

 教祖を睨み付ける霊夢の横から、今度は早苗が教祖に尋ねた。

 

「貴方は、この世界がじきに滅びる、と言いましたね。それは、貴方が宗教家として得た知見ですか?」

 

 早苗が疑問に感じたのは、教祖が「この世界はじきに滅びる」と言った部分だ。未来なんて不確定な筈のものなのに、どうしてそこまできっぱりと断言できるのか―――そこが、彼女には引っかかる箇所だった。

 

「ぼくが"世界が滅びる"と言った理由かい?そうだね―――宗教が切欠といわれたら、そうではないね。それはこの世界にとっての決定事項だよ。ぼくはそれを、宗教に取り入れただけさ」

 

「宗教に取り入れた?なら、何故貴方は"救済"を目指さないのですか!たとえ現世に希望がなくとも、せめて死後の魂の安寧を図るのが、宗教家としての務めでしょう!なのに何故、貴方は―――」

 

 早苗の疑問は、かつて神社の風祝として生きていた早苗にとって当然のものだった。宗教の本質は、生前、そして死後の人心の安心を得るためのものであると信じていた彼女にとって、その真逆に位置するような所業を平然と行う"教祖"の行動が、理解できなかった。

 

「宗教?ああ、そんなものはただの道具さ。全く、人心とは御しやすいものだよ。ちょっと仕込みを入れただけのイカサマでも、"奇跡"だと信じさせればあとは洗脳なんて簡単だからね」

 

「なっ―――貴方は―――そんな理由で宗教を―――!貴方は一体、宗教を何だと思っているんですかッ!!」

 

 教祖の答えを聞いた早苗は、今までにない剣幕で彼に向かって怒鳴った。

 

(早苗―――相変わらず、真面目なのね―――そんな男の戯言に、ここまで真面目に怒れるなんて―――)

 

 一方で、かつては早苗と同じ"巫女"であった霊夢だが、彼女は既に、目の前の"教祖"という狂人の思考を理解することは放棄していた。狂人に幾ら道理を説いたところで理解される訳がない、害悪は殺すに限る―――それが彼女の考えであっただけに、教祖に対する怒りに染め上げられながらも、宗教に対して真面目に向き合っている早苗の態度に霊夢は関心していた。

 

「言っただろう?宗教なんて道具だと。あんなイカサマ、信じるやつが悪いのさ」

 

「黙れ!!宗教とは、人々の心と暮らしに安心を与えるためのものです!それを、人を死に追いやる、ましてはただの道具に成り下げるものに使うなんて以ての外です!貴方は間違っています!!!」

 

 宗教を尚もただの道具だと言い張る教祖に対して、早苗はその間違いを叫ぶ。だが彼女の言葉は、やはり狂人には届かずに彼の前で掻き消える。

 

「―――早苗、止しなさい。アレには何を言っても無駄よ」

 

「霊夢さん・・・。でも―――」

 

 早苗の想いは、永遠にこの狂人には理解できない。そう感じた霊夢は、彼女の肩に手を置いて引き下がらせる。

 

(これ以上、あの子の想いが冒涜される様なんて、見てられないわ―――)

 

 これではあまりにも早苗が可哀想だ――― 彼女の心にあったのは、これ以上早苗を傷つけさせたくはないという感情だった。こんな狂人の前に立たせていては、彼女の心にまで余計な傷を負わせてしまう。霊夢が抱いていたのは、そんな想いだった。

 

(余計な穢れを背負うのは、私一人で充分だ―――)

 

 最早、問答は無用―――

 

 霊夢は再び刀を構え、鋒を教祖に向ける。

 

「―――早苗、あとは任せなさい。全部―――私が始末するわ」

 

「ですが・・・っ、はい・・・解りました」

 

 一人で事を始末しようとする霊夢に対し、早苗はなにか言いたげにしていたが、霊夢の瞳を見て「ああ、これは何を言っても駄目だ」と悟った彼女は、大人しくここでの処理を霊夢に任せることにした。

 

「―――聞きたいことは、それだけかい?」

 

「・・・最後にもう一つ。あんた、世界が滅びるのは既定事項だとか言ってたけど、そんなこと、何処で知った?」

 

「―――君はいずれ、知るときがくる。ぼくから言うことは何もないね」

 

「―――質問に応えろっての、この屑が」

 

 ―――言葉の受け応えにすらなっていない―――

 

 この狂人に対して最早会話すら成り立たない、と霊夢は呆れたが、それならもう斬るに何の躊躇いもないと霊夢は判断し、小さく悪態を吐いて会話を打ち切った。

 

 

「クッ、ア、アハハハハッ!」

 

「―――なに?」

 

 霊夢が踏み込んで教祖を斬ろうとした矢先、今まで黙っていた白衣の女が急に笑い出した。

 突然の彼女の奇行に生理的嫌悪を感じた霊夢は、厄介な汚物を見るかのように顔を顰める。

 

「は、アハッ、クハハハは・・・・っぅ、ああ・・・貴女!余計な問答をしているうちに、随分と時間を無駄にしたわねぇ。その油断が、貴女達の命取りよ!見なさい!」

 

 けたましく笑い続ける女は、霊夢達の先―――艦橋の窓の方角を指して嗤った。

 

(な、何っ・・・この感じ―――)

 

 得体の知れない、嫌な雰囲気を感じ取った霊夢は、急いで背後を振り向いた。

 

 彼女の視界には、窓に張り付かんと這い上がる、幾人もの制圧された筈の艦橋クルーの様子が飛び込んできた。

 

「まさか奴ら―――だが、何故あそこまで移動している!」

 

「いや待て―――あれはここに居た連中じゃない!"外に貼り付いている"ッ!!」

 

「な、何・・・だと・・・!?」

 

 霊夢達が移動した旗艦の艦橋クルーだと思っていた人影だが、実際は艦橋の外―――即ち宇宙空間に存在していた。艦橋の内部があまりにも広いので、窓まで距離がある霊夢達の位置からはよく見なければそこまで分からなかったのだ。

 

「アハハハハッ!これで貴女達は終わりです!さぁ!死になさい!」

 

「あんた、まさか―――、ッ!」

 

 教祖と女、そして霊夢達との間に一枚のシールドが貼られ、女が右手に持ったトリガーを押す。

 

「チッ、全員、何かに捕まれッ!!」

 

 

 

 

「さようなら!『紅き鋼鉄』!!」

 

 

 

 爆発音が、艦橋に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ううっ、・・・あ、あれ?衝撃が来ない・・・

 

 

あのクソ女が兵士を艦橋の窓で自爆させたので、空気が宇宙に吸い出されると思った私は、皆に何かに捕まるよう指示したが、その衝撃がいつまで経っても来ない。

 

それを不思議に思って眼を開けてみると、私達の周りは、蒼い半球状のシールドで防護されていた。

 

「ふぅ。何とか間に合ったか」

 

「―――エコー?」

 

「ああ、艦長。使い捨てのシールド発生装置ですよ。ハンドグレネードのように投げれば、着弾点から半径10mの範囲にシールドを展開してくれます」

 

「・・・成程、サナダさんの新装備か―――やっぱりあの人は凄いわね・・・」

 

「ええ。我々も、科学班長の発明には随分世話になりました」

 

どうやらこのシールドは、エコーが展開させたものらしい。範囲外の機動歩兵は宇宙に吐き出されてしまったけど、海兵隊員と私達は固まっていたお陰で幸いにも被害はない。

 

「・・・あの爆発、やはり、あの女が―――」

 

「―――そうみたいね」

 

私はシールド越しに、信じられないものでも見るかのような視線を向けてくるあの白衣の女を見据えた。

 

あの女の仕草から判断すれば、兵士を自爆させたのはあの女に違いない。艦橋の外に居た兵士は、多分、私達がこれまで倒してきたなかで自爆を免れたやつを持ってきたか、他の兵士をあそこまで移動させたやつだろう・・・

 

 

―――何て、こと・・・

 

 

あの女も、やはり"教祖"とやらと同じようにヒトのカタチを弄ぶことに何の躊躇いもない屑だったようだ。あんなに嬉々として兵士を自爆させるような奴が、命に対して憐憫の情なんて持ち合わせているとは考えられない。自爆させられた兵士は結果として無駄死にになったが、それに対してあの女が何かを感じている、なんてことはないだろう・・・

 

【BGM:東方夢終劇より「G Free ~ Final Dream」】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――決めた。あいつから、殺す。

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、気に喰わない―――あんな奴が私の目の前に居るなんて。

 

かつて私が始末した、妖怪に堕ちた人間には、必ずその人を大切に想う誰かがいた。私の命令で蹴散らされた海賊だって―――やってることはアレだけど、なかには祝福されて生まれてきた人だって居ただろう。だからこそ、私は今まで手に掛けてきた命とは、向き合っていかなければならない。それが、博麗の巫女として生きてきた、そして0Gドッグとして生きる私に課せられた務め―――

 

なのに、なのに・・・なんでアイツらは、こうも平然とヒトのカタチを弄ぶことが出来るのか―――!

 

 

 

割れた硝子が塞がり、空気の流出が止まる。

 

その数秒の後、互いを隔てていたシールドが晴れた。

 

「な、何なのよ!何で死んでないの!死になさいよ!そのシールドは何だ!」

 

女にとっては、あそこで私達が吐き出されて死ぬことが当然の結果だったようで、想定外の事態に遭遇した女は五月蝿く喚き散らしている。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、五月蝿なぁ―――消えなさいよ」

 

霊夢は静かに女に対して言い放つと、一瞬で彼女の背後に移動する。

 

「あ、アナタ―――い、いつの、間に――――」

 

 

 

ビシャァァ

 

 

鮮血が、飛び散る。

 

「ぎ、ギャアあアあァアぁあぁぁァッ!?」

 

背中から斬りつけられた女は、おぞましい叫び声を上げながら前のめりに倒れ、床を這う。

 

「ぁ、アっ、あう"ぅ、ぃ、い"だい"っ、痛いっ、痛い痛い痛いッ!!」

 

女は斬られた痛みのあまり、床でのたうち回りながら霊夢を睨む。

 

霊夢は凍てつく氷のような表情で、彼女を見下ろす。

 

 

「―――痛い?」

 

 

「い"、痛い"って言ってンだろうがアァァァ!?」

 

「あんた達が自爆させた兵士は、もっと痛かった。あんた達が造った疫病に侵された人間は、苦しみながら死んでいった。助かった人にも、消えない傷痕を残した。あんたがやってることは、その痛みの何倍もの苦しみを他人(ヒト)に背負わせることなのよ」

 

「ん"なの、私の知ったことじゃないわッ!!私は、私は!選ばれし教祖様の血筋を―――――」

 

女は痛みにのたうち回りながら、霊夢の言葉を否定し、痛みで回らない思考を必死に回しながら反論を紡ぐ。

しかしその努力は、呆気なく幕切れを迎えた。

 

 

「あっそ。じゃあ死ね」

 

 

透き通る、刃のような声色で、死刑宣告が下される。

 

「い"や・・・待っ―――」

 

 

刃が、舞った。

 

 

降り下ろされた刃は女の首を切り裂き、大量の鮮血を啜りながら彼女を絶命へと至らしめる。

 

喧しく喚いていた女の悲鳴は一刀の下に両断され、嘘のようにぴたりと止んだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

女を絶命に至らしめた霊夢は、虫の死骸でも見るかのような目付きで彼女の死体を一瞥する。

 

―――その瞳は、何も映してはいなかった。

 

視線を女の死体から外した霊夢は、ゆらり、とよろめいた後に"教祖"を見据えた。

 

 

「っ―――霊夢さんッ!!」

 

 

「あ、ちょっと、貴女何処に―――」

 

「おいっ、何をする気だ?」

 

事の始終をただ眺めていた早苗は、そこで遂に、堪えきれなくなったのか霊夢に向かって駆け出した。

彼女と同じように呆然と事の始終を眺めていた者達も、早苗の行動で我を取り戻し、突然行動に出た早苗を制止するが、彼女はそんな言葉の群など一切歯牙にもかけず、ただひたすらに霊夢を目指した。

 

 

ガバッ―――

 

 

霊夢の背後から、早苗が彼女を抱き止める。

 

「霊夢さん、気を確かに持って下さい。呑まれては、駄目です・・・」

 

「―――さな、え・・・?」

 

「・・・駄目です、霊夢さん。やっぱり駄目なんです。それに身を任せてはいけないんです」

 

早苗は悪いことをした子供を諭すように、優しく霊夢に語りかける。

 

血に濡れた霊夢の頬を、早苗が撫でて血を拭き取る。

 

 

 

「・・・ごめん。少し、やり過ぎたみたい」

 

「はい・・・分かればいいんです、霊夢さん―――」

 

霊夢の瞳に、生気が戻る。

 

正気に戻った彼女は再び、斬り伏せた女を見遣る。

 

だが、やはり彼女の瞳には、何の感情も浮かばなかった。

 

(ああ、やっぱり・・・)

 

後悔にせよ、嫌悪にせよ、怒りにせよ、何かしらの感情が浮かぶものかと思った霊夢だが、やはり氷のように動じない自分に対し、霊夢は失望と嫌悪を覚える。背中に早苗を感じるあまり、霊夢は自身の冷たい心をその温もりを、余計に比較してしまう。

 

霊夢の心に浮かぶのは、「こいつは斬るべき人間だった」という単なる評価のみだった。

 

 

 

「茶番は終わったかい?」

 

 

「ッ!?」

 

唐突にかけられた教祖の声で、今度は自己嫌悪に呑まれそうになっていた霊夢の意識が引き上げられる。

同時にやはり、教祖の所業に対する怒りが込み上げてきた。

 

「君、面倒臭い人間だね。熱いと思ったら冷めている。人死にを嫌悪する癖に、必要があれば君は平然と手を下す。全く、わからない人間だ」

 

「―――何が言いたいの?」

 

部下が殺されたにも関わらず、"教祖"は先程と変わらない態度で平然と言葉を紡ぐ。

 

「―――君は、中身なんて無いんじゃないか?」

 

「ッ!?、貴方、何を言って―――」

 

いきなり教祖が発した言葉に対し、早苗が反発して反論しようとするが、それは霊夢の言葉に遮られた。

 

「・・・・・・ それよりも―――あんた、自分のしてきたことに、後悔や罪の意識はないの?」

 

「ぼくの質問には答えてもらってないけど―――」

 

「そんなことはどうでもいい。アンタは自分の所業をどう思っているの―――?」

 

「何も。ぼくの夢は半ばで折れた。あとはこの世界諸共蹂躙されるだけさ」

 

教祖の言葉も遮って発せられた霊夢の問いに、教祖はそう、静かに応えた。

 

「―――なら、あんたはここで死ね」

 

こいつはやはり死ぬべき人間だ―――霊夢はそう判断すると、右手に握る刀に力を掛けた。

ここが自治領である以上、"教祖"を裁ける国家機関は存在しない。唯一裁きうるのは、現状彼の生殺与奪を握る霊夢達『紅き鋼鉄』のみ―――

霊夢は静かに、"教祖"に対して死刑を宣告した。

 

「早苗・・・?」

 

霊夢の右手首が、早苗の左手に掴まれる。

 

「・・・私が、やります」

 

真っ直ぐ霊夢の瞳を見て、早苗が告げた。

 

「早苗、あんた・・・」

 

「霊夢さん。貴女だけに背負わせません。もう私も、"共犯"ですから」

 

こんな狂人を生かしてはおけない・・・それは早苗にとっても同じ事だったが、早苗は霊夢だけに業を背負わせたくなかった。霊夢の艦隊の一員である自分も既に、霊夢の"共犯"なのだから、せめて彼女の業の一部でも、霊夢がいつか潰れてしまわぬように、少しでも自分が背負わなければならない―――早苗の心を支配していたのは、そんな想いだった。

 

早苗は儚げな微笑みを浮かべて、霊夢の手から滑り落ちた刀を拾う。

 

「斬るがいいさ。ぼくは、世間一般で赦されないことをしたのは間違いないからね」

 

「―――では、覚悟を―――!」

 

 

早苗が、刀の鋒を天井に向ける。

 

「早苗、待っ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシューンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は―――?」

 

「え・・・?」

 

銃声が、響いた。

 

 

「全くよぉ、辛気臭いモン見せてくれるじゃねぇか―――なぁ、小娘」

 

白いマスクの中心を銃弾で穿たれ、赤く染めた"教祖"の背後から、その男は現れる。

 

「あんたは―――!!」

 

 

「よう。久しいな、小娘」

 

 

「ヴァラン、タイン―――!」

 

 

宇宙に君臨する大海賊・ヴァランタインは、不敵な笑みを浮かべて霊夢を見下していた―――

 

 




御用だ御用だ!という勢いで書いていたらいつの間にかレイサナになっていた。(予定通り)

折角蓮メリを出したのにフェードアウト・・・いや、一応幾つか台詞あるんですけどね。書いていたら霊夢ちゃんと早苗さんの剣幕に押しきられてしまいました(笑)
彼女達は今後も登場させるので、活躍はまたそこでということで・・・



そして霊夢ちゃん、完全にキレました。

霊夢ちゃんの内心ですが・・・普段はあまり闇を見せないのは彼女の性格もあると思いますが、能力も関係していると考えています。そのお陰で普段は原作、あるいは茨や鈴のように振る舞っていられると解釈しています。ですがやはり心の何処かでは意識していて、本話のようにそこを刺激されると一気に闇が湧き出してくるというイメージです。

加えて早苗さんもかなりキレているので、所々言葉遣いが荒くなってます。

それと教祖の行動原理などに関する質問は、もしあれば感想欄までお願いします。内容によっては応えられませんが・・・


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第七一話 確定と拡散の境界

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領軍艦隊旗艦・艦橋内~

 

【イメージBGM:無限航路より「ヴァランタインのテーマ」】

 

 

 

「よう。久しいな、小娘」

 

 

「ヴァラン、タイン―――!」

 

 "教祖"が座っていた椅子の背後から、その男は現れた。

 

 

 大海賊ヴァランタイン―――なんでこいつが、こんな場所に・・・

 

 外にいる艦隊からは、〈グランヘイム〉が現れたという報告はない。だったら何故、ここにヴァランタインが―――いや、奴が居る以上、〈グランヘイム〉も近くに潜んでいるのだろう。だとしたら、かなり厄介な状況だ。

 

「―――なんで、あんたがこんな場所にいるの?」

 

 こいつ、もしかしてあの"教祖"と面識でもあったのだろうか。だとしても、一体何が目的なの―――?

 

「なんだ?訳分かんねぇって顔してるなぁ、小娘」

 

 カツ、カツ・・・と、ヴァランタインの足音だけが静まり返った艦橋に響く。

 

 ヴァランタインを警戒してか、私の隣にいた早苗が持っていた刀を構え直した。

 

「そりゃあそうでしょ。あんた、何が目的でこんな場所に来ているんだ?」

 

「目的だぁ?―――んなもん、てめえが理解する必要はねぇ。こっちの都合で動いてるだけだから―――なっ!」

 

 ヴァランタインの奴はそう言うとサーベルを引き抜いて、それを虫の息だった"教祖"に突き刺した。

 

「!?」

 

「なっ・・・何を!?」

 

「―――ああ、コイツか・・・この野郎は"真実"を知っておきながら抗おうともしねぇ腑抜け野郎だ。そんなヤツ、生かしておく価値なんざねぇ」

 

 "教祖"を完全に殺害したヴァランタインは、全く悪びれる様子もなくそう告げた。

 

 ・・・生かしておく価値はない。それは確かに同意だ。私だって、つい先程まではこいつを殺すつもりでいた。だけど、奴が口にした"真実"って、一体何のこと―――?

 

「―――貴方は今"真実"と仰りましたが、それは一体何なんですか・・・?」

 

「あぁ?お前らに言うにゃまだ早い。そんなに知りたきゃ自分で探してみな」

 

「っ、生意気ですね・・・!」

 

 早苗も私と同様の疑問を覚えたようで、そのことをヴァランタインに尋ねた。しかし、奴の返事は要領の得ない言葉ばかり。これでは何の手掛かりにもならない。

 

 その返事の仕方が癪に障ったのか、早苗が鋭い目付きでヴァランタインを睨む。

 

「止しなさい、早苗。それ以上、コイツに訊いても無駄よ」

 

「で、でも―――、はい。分かりました、霊夢さん」

 

 早苗を諫めて、私はもう一度ヴァランタインと相対する。

 

 艦隊戦ならまだしも、白兵戦ならヴァランタインより私達の方が優位だ。それは前回のコイツとの戦闘で証明されている以上、奴もそれは分かっている筈・・・なのに、ここまで余裕を崩さないということは、奴自身の性格だけでなく、なにか策を持っていると考えるのが筋だろう。なら、徒にコイツを刺激するのは悪手だ。

 

「フッ・・・さて。お前ら、俺の目的を知りたがっていたな・・・おい、小娘―――これが何か、分かるかな?」

 

 ヴァランタインはそう言って懐に手を入れると、そこから凡そ三寸四方の四角い物体を取り出して見せた。

 

「それは・・・エピタフ!?」

 

「ご名答」

 

 ヴァランタインは不敵な笑みを浮かべて私達を見下しながら、片手でエピタフを弄んでいる。

 

「れ、霊夢さん!エピタフってまさか―――」

 

「ええ。エピタフなんてとんでもないお宝じゃない。それをわざわざ私の前で見せるなんて―――あんた、何がしたいのよ。奪われたいの?」

 

 このまま奴のペースに呑まれるのも癪だし、奴の目的を探るためにも攻めに打って出ようと思い立って、ここで一つ、ヴァランタインを少し挑発してみる。その裏で、奴が動きを見せたときに対応するため御札と弾幕を用意する。

 そもそも、ここでエピタフを私達に見せるのが奴の目的にどう結び付くというのだろうか。以前は私からエピタフを奪おうと白兵戦まで仕掛けてきたのに、今度はそれを私達の前でわざわざ見せびらかすときた・・・一体、奴は何を考えているんだ・・・?

 

「ほぅ、俺から奪うときたか!中々肝が座った小娘だなァ。だがまぁ・・・喜べ、こいつはくれてやる」

 

「へ?」

 

 突然、ヴァランタインが私に向かってエピタフを放り投げた。

 

 ―――え?なんで!?

 

「っ、よっ、と・・・・・ちょっとあんた、これはどういう意味―――」

 

 エピタフはそのまま、慌てて私が出した掌のなかに収まった。

 

 次の瞬間、エピタフが一瞬で展開し、猛烈な勢いで光が溢れ始めた。その光の眩しさのあまり、私は視線を逸らしてしまう。

 

 

 ―――まさか、これって・・・

 

 

 この光景を、私は知っている―――

 

 

 ―――エピタフが、反応してる・・・!?

 

 

 以前、ヤッハバッハの宙域で見つけたエピタフが見せた光―――あの光と、目の前の光は同じものだ。

 

 あのときは、私が乱暴に扱ったから誤作動したのかと思っていたけど、まさか、これ・・・私に反応して起動しているの!?

 

「っ―――!」

 

「れ、霊夢さん!!」

 

 暫くすると、あのときと同じように、エピタフから溢れ出す光が膨れ上がって光の柱を形成した。

 その柱は私を呑み込みながら、天を貫かんばかりの勢いで煌々と輝きながら昇っていく。

 

「っ、は―――はッ、はははははッ!!こいつぁ、ビンゴだぜ!!」

 

 その後ろで、ヴァランタインが雄叫びのような笑い声を上げ続けている。その声からは、隠しきれない歓喜の感情が伝わってきた。

 

 ・・・それがいつまで続いていたのか―――気がつくと、エピタフが発する輝きは急速に萎み、数秒の後には輝きを失い、元の立方体の形になってカランと床に転がった。

 

「くっ・・・なんで―――?」

 

「ハハッ、は・・・ククッ、終わったようだな、小娘」

 

 ヴァランタインが、やけに上機嫌な声で私に声を掛けてくる。

 

「―――あんた、何かしたの?」

 

「何かした?か・・・ハハッ、そんなことより、この宙域の外れにあるデッドゲートの様子を見た方がいいんじゃねぇか?小娘。"既に門は開かれている"ぞ!」

 

「デッドゲートですって・・・まさか―――!早苗ッ!!」

 

「は、はいっ・・・有りましたッ!確かにこの宙域の奥―――恒星の向こう側にチャートではデッドゲートが表示されています!ですが、これは―――」

 

 早苗は艦の中枢コンピューターからデータを呼び出して、ヴァランタインの言葉を確認した。彼女の様子からすると、奴が言ったようにデッドゲートが浮かんでいるらしいけど、あのときの経験から察するに―――

 

「ゲートが、復活しているのね」

 

「はい―――〈開陽〉と偵察機の光学センサーとリンクした結果、デッドゲートは間違いなく復活しています・・・」

 

 やはり、そうか―――。ヴァランタインはまさか、これを確認したかったとでもいうの?そういえば、確かゼーペンストでもユーリ君に対して同じようなことをしていたし・・・

 

 ぐわんっ・・・・!

 

「ちょっ、な、何ッ!」

 

 フネが突然大きく揺れたかと思うと、いきなりエンジンが始動してフネが急加速を始めた。

 あまりに突然のことだったので、加速の衝撃に耐えきれず、私は転んでしまった。

 

「こ、これは・・・」

 

「おっと、いけねぇ。こいつぁマズったな。トラップってやつか・・・」

 

「トラップですって!?」

 

「ああ―――あの野郎、とんでもねぇ置き土産を残してきやがったな・・・チッ、コントロールは効かんか―――こりゃ俺のフネに拾ってもらうしかねぇな」

 

 ・・・どうやら、この事態はヴァランタインにとっても予想外のものだったらしく、彼は"教祖"が座っていた席のコンソールを操作して艦の操作を試みたが、全て徒労に終わったようだ。

 そもそもこの事態は、ヴァランタインの言葉から推察するに、あの"教祖"が仕掛けた何らか罠がこのタイミングで発動してしまったことが原因のようだった。ヴァランタインはそれの解除が出来ないと分かると、奴の母艦―――〈グランヘイム〉に連絡して、この艦の艦橋から立ち去ろうとする。

 

「っ―――ちょっとあんた、待ちなさい!」

 

「はッはー!俺はこの辺りでトンズラさせて貰うぜ。生き残りたければ、せいぜい足掻いてみるこったな!」

 

「―――くそっ」

 

 ヴァランタインはそんな捨て台詞を残して、艦橋を後にした。

 

 

「か、艦長・・・外を―――」

 

「なに、外?」

 

 後ろから駆けつけてきたエコーの声に反応して、艦橋の外を眺めてみると、この艦の右舷側に〈グランヘイム〉が並走していた。

 

「あれは―――〈グランヘイム〉!いつの間に・・・」

 

「むぅ・・・何らかの隠蔽手段―――光学迷彩などを利用して隠れていたみたいだな」

 

「そんなことはどうでもいい!サナダさん、これ止められないの!?」

 

「どれ、ちょっと見せてみろ―――ああ、これは駄目だな。プログラムを解除しようにも時間が必要だ」

 

 やけに冷静に技術蘊蓄を垂れ流すサナダさんならこのフネの加速を止められるのではと思って頼んでみたけど、彼にもこの事態は止められないらしい。そうしているうちにも、フネはヴィダクチオ本星を通りすぎ、恒星系の主星に差し掛かる。

 目の前に、復活したデッドゲートが見えてきた。

 

「ああもう、なんで肝心なときに使えないのよ!こうなったら・・・早苗!」

 

「はいっ!何としてでも止めて―――あ、無理ですごめんなさい霊夢さん」

 

「早ッ!もっと粘りなさいよ!」

 

「えー。だって、このプログラム・・・防御が堅すぎなんですよぅ―――この義体(からだ)がハッキングできる範囲を越えていますぅ・・・」

 

「チッ・・・」

 

 サナダさんが駄目なら早苗だったら・・・と思ったけれど、彼女もハッキング用の触手を機械に滑り込ませた途端にギブアップした。なんて防御の堅さ・・・じゃなくて!これ、本当にどうするのよ!?

 

 ああ、なんかもう、ボイドゲートがこんな近くに・・・

 

「チッ、間に合わなかったか・・・衝撃に備えろ!」

 

 目の前に、紫色の光の膜が迫る。

 

 ヴィダクチオの旗艦は私達を乗せたまま、復活したデッドゲートに飛び込んだ。何故か最後まで並走していた〈グランヘイム〉と共に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

【イメージBGM:無限航路より「Misterio」】

 

 

「ぐっ・・・ここ、は・・・」

 

 瞼の外が、やけに紅い。

 

 ―――それに、やけに耳鳴りが酷い・・・

 

「―――さん、霊夢さんっ・・・!!」

 

「さ、早苗・・・?」

 

「ああ、良かった・・・霊夢さん、ゲートに飛び込んだときから調子が悪そうだったので―――」

 

「・・・心配してくれていたのね。ありがと、早苗。で、ここは何処なのかしら―――」

 

 ・・・どうやら、この艦が飛び込んだゲートの先は、一応どこかの宙域に繋がっていたみたいだった。艦のシステムは、今のところ正常に動いている。

 

 ―――ただ、瞼の奥まで飛び込んだ紅は嘘ではなかったらしく、艦窓の外に広がる宇宙の色はひたすら紅い。星雲、という訳でもなさそうだ。星雲なら、ガスで出来ているので文字通り雲のように見える筈。寧ろ、ここは"空間そのものが紅い"―――。そしてこの紅さは、ドロドロに腐敗した内臓のような気味悪さを感じさせるものだった。

 

 こんな空間が・・・まともな場所な訳がない。

 

「なに・・・この宙域―――うぅっ、気持ち悪―――」

 

「ちょっ・・・霊夢さん!!大丈夫ですか!?」

 

 私の頭がぐわん、と揺れて身体が倒れかかり、倒れる寸前で早苗に支えられた。

 

「うっ・・・ん・・・ありがと、早苗―――もう大丈夫よ」

 

 私は早苗の助けを借りて、倒れかかった身体を起き上がらせる。

 ちょうどそのとき、艦を調べていたらしいエコーから報告がもたらされた。

 

「―――艦長、この艦のシステムを調べてみたが、艦そのものは正常だ。だが、チャートもナビも全く機能していない。どういうことだ?」

 

「チャートもナビも?それじゃあ、現在地は全然分からないってこと?」

 

「そうだな」

 

 エコー達は艦のコンソールを弄ったりしているが、彼等の報告によると、全く私達の現在位置が分からないらしい。

 ―――困ったなぁ、これじゃあ友軍に助けを呼ぶこともできない―――

 

「くっ・・・こうなったら、目の前に居る〈グランヘイム〉に通信回線を―――」

 

 この宙域の場所さえ分かれば遠距離通信で艦隊に助けを呼ぶこともできただろうが、肝心の座標が分からないならそれすら出来ない。加えて、私達はこの艦の正規のクルーという訳でもない。この艦自体にはワープ機能はあるのだが、この艦は他とは違う遺跡船だ。操作に慣熟していない私達ではワープどころか、動かすことすら怪しいだろう。仮にこの艦が操作できたとしてもこの規模だ。掌握と慣熟には、それなりの時間を要する筈だ。

 なので、あのヴァランタインならこの宙域のこと―――よしんば脱出方法なんかを少しは知っているだろうかと思って通信を指示しようとした矢先、別の声にそれは遮られた。

 

「・・・あの、霊夢さん・・・ちょっと宜しいですか?」

 

「えっと、確か・・・貴女は――メリーさん、だっけ?」

 

「はい。実はこの宙域の正体に、思い当たる節がありまして・・・」

 

 この艦で合流した同じ0Gドックのメリーさん曰く、彼女はこの宙域に心当たりがあるという。

 ならば、まずは彼女の話を聞いてみよう。もしかしたら脱出の糸口が掴めるかもしれない。

 

「正体って、そもそもこんなヤバい場所に居たら私達―――」

 

「蓮子、ちょっと黙ってて」

 

「アッハイ」

 

「こほん・・・では宜しいですか?」

 

 メリーさんは相方の蓮子さんを制すると、咳払いをして話を始める。私は彼女の問いに対し、静かに首を縦に振った。

 

「この宙域は―――恐らく、外部からの観測結果で"事象揺動宙域"と呼ばれる場所だと考えられます」

 

 メリーさんの言葉に、一部の人―――主にサナダさんの辺りの表情が変わった。

 

「事象揺動宙域?何ですか、それは」

 

 "事象揺動宙域"という聞き慣れない言葉を耳にしてサナダさん以外の皆は疑問を覚えたのか、それらを代表するようにサクヤさんがメリーさんにそれを尋ねた。彼女はその問いに対し、静かに説明を始めた。

 

「これから、説明します。事象揺動宙域とは、俗に"ゆらぎの宙域"と表現されることもある宙域です。この宙域内では、全ての事象が不規則に拡散、収束を繰り返し、永遠に事象が"揺らぎ"続ける、とされています」

 

「事象の拡散と収束?一体何のこと・・・」

 

「―――要するに、"物事の境界が曖昧になる"ということですか?」

 

「"境界が曖昧"・・・確かに的を射た表現ね。大体その通りよ。この宙域では、"在ったものが無かったことに"、そして"無かったものが在ることに"なる。抽象的で分かりにくいと思うけど、そう理解して頂戴」

 

「さすが早苗。あの説明だけでよく分かったわね」

 

「えへへ、もっと誉めてくれてもいいんですよ?」

 

「はいはい、それは後にして―――」

 

 "境界が曖昧"か・・・私としては、この表現の方が理解しやすい。物事の境界が曖昧になるということは、さっきメリーさんが例に出したように、物事の存在そのものを成り立たせる"境界"が不安定になり、そうして不安定になった境界は、内部の存在意義に加えて外部からの認識も薄れ、しだいに消滅へと向かい―――

 

「消滅・・・?ちょっと待って!それってかなりヤバいことじゃない!?」

 

「理解されましたか。はい、この宙域は、貴女の懸念を現実にする場所です。この宙域では全ての存在が揺らいだ状態になりますから、このままこの宙域内に留まり続ければ、宙域内にいる私達の存在も同様に揺らいだ状態になります。その揺らぎのなかで私達の存在確率もゆらぎ、やがては"完全に拡散"することになります」

 

「完全に拡散、か―――即ち、存在確率がゼロに近づき、文字通りこの世から"消滅する"ということだな」

 

「しょ、消滅―――!!」

 

「それは・・・死ぬってことなのか!?」

 

「・・・いや、違う。文字通り、消滅するんだよ。そうだな、"存在の無効化"とでも表現しようか」

 

 サナダさんが発した補足の説明に、驚きが広がる。

 存在確率がゼロになる、即ち消滅するということは、"そもそもこの世に居なかった"ことになるということ―――

 

「チッ、冗談じゃないぜ・・・」

 

「くそっ・・・何かそれを防ぐ手だては―――」

 

「それなら、理論上は「理論上では、Dr.レイテンシー氏が記した研究論文に対策が示唆されている。この事象揺動宙域では全ての事象が揺らぐことは説明したな。なら、何らかの手段で外部からの観測を続けることができれば、その観測を通した存在証明によってこの宙域内でも存在を確率させることができる、とされている」

 

「外部からの観測?でも、今の私達は・・・」

 

「ああ。現在の我々は完全に外部から隔離された状態だ。この手段では、我々の存在を確定させることができない。だが、この論文には続きがあってな・・・前述の手段の他に、宙域内部で存在を確定させる手段として、宙域と対象との間の"境界を明確に"することによって存在確率を保つことができるのではないかと示唆されている」

 

「・・・けど、その手段は現状分からないままなんでしょ?」

 

「ああ、そうだ。何分事象揺動宙域自体がその特性上、一切の謎に包まれた代物だ。中で何が起こっているかはブラックホールだった訳だからな。理論があるだけでも有難いものだぞ、艦長」

 

(ううっ、あのオジサンに私の出番取られたよぅ・・・そもそもその論文、私が書いたものなのに・・・)

 

(め、メリー、元気だそうよ。後でいくらでも愚痴聞いてあげるからさ。ね?)

 

(う、うん・・・)

 

 ―――鳶に油揚げの如く、説明する機会を奪われたメリーさんを尻目に、サナダさんの解説ショーは続いた。というかあんた、なんでそんなに冷静でいられるのよ。

 

「か、艦長―――前方の〈グランヘイム〉から通信です!」

 

「通信?―――出して」

 

「了解!」

 

 海兵隊員の一人が、ヴァランタインから通信が繋がれてきたことを報告する。

 通信回線の接続を許可すると、程なくして画面上にヴァランタインの姿が現れた。

 

《・・・よぅ、小娘。その様子だと、この宙域のヤバさがそろそろ分かってきた頃だと見たが・・・》

 

「―――ええ、バッチリ理解したわよ―――で、あんたはどうするの?アンタだって、ここに留まり続けるとヤバいんでしょ?あんた、ここをどうやって出るつもり?」

 

《さぁてな・・・オマエさんなら、薄々勘づいていると思うが―――小娘。俺がズラかる前に一つ教えといてやろう。この宙域を出られるかどうかは、全てオマエ一人に掛かっている。生きるも死ぬも―――いや、消えるもお前の心一つで変わる。それを理解しておけ》

 

「心?・・・一体どういうこと・・・」

 

《さぁな、フフっ―――と、そろそろ時間だ。せいぜい、生き残ってみるこった》

 

 ―――ガチャン。

 

 ヴァランタインとの通信は、そこで途切れた。

 

「れ、霊夢さん!〈グランヘイム〉が・・・!」

 

「あ、あれは―――」

 

 ・・・目の前に居る〈グランヘイム〉は、以前私の艦隊を強襲する際に使ったワープ装置を起動させ、蒼白い光の中に消えていく。

 

 ・・・数秒の後には、〈グランヘイム〉の痕跡を跡形もなく消えていた。

 

「ばっ、馬鹿な!自律ワープですって!くそぅ、羨ましいぞヴァランタイン!」

 

「ちょっと蓮子!落ち着きなさい、って、突っ込むのそこ!?」

 

 ―――私は知っていた訳だけど、あそこの二人、アレ見るのは初めてだったわね・・・なら、あの驚きようも仕方ないか・・・

 

「た、隊長―――なんだか頭が・・・」

 

「おい、どうした!?しっかりしろ!」

 

 ヴァランタインとの通信を終えた直後から、体調の悪化を申告する海兵隊員がちらほらと出始める。

 

「ううっ・・・なんだか頭がぼうっと・・・ごめん、ちょっと肩、貸して―――」

 

「メイリン!?一体どうしたの!?」

 

 加えて、メイリンさん達まで体調の異常を訴え始めた。これは・・・もう"存在の拡散"が始まっているということなの!?

 

 ―――時間の猶予は・・・もう無いみたいね・・・

 

 "存在の拡散"が始まったことに私が頭を抱えていると、今度は別の報告が海兵隊員からもたらされた。

 

「か、艦長!」

 

「―――今度は何?」

 

「ハッ・・・ボイドゲートより友軍艦隊です!恐らく、急に動き出したこの艦を見て、艦長を心配して追ってきたのでは・・・」

 

 海兵隊員の報告を聞いて私達が出てきたゲートの方角を見てみると、今まさに、ゲートから幾多もの艦船が飛び出して、この艦を目指して進んできていた―――

 

「心配、か・・・それ自体は嬉しいんだけど、場所が場所だからねぇ―――」

 

 私の仲間が心配して駆けつけてきてくれる、というのは純粋に嬉しい。だけど、こんな宙域では、それもかえって足手まとい・・・

 

 ―――いや、ちょっと待って。確かサナダさんは、この宙域と私達の存在との間の境界を明確にすれば、つまり概念をちゃんと線引きしてやれば存在は保たれるって言ってたよね・・・なら、その言葉通り、"境界を明確に"してやれば、一先ずは存在の消滅は回避できる!

 普通の人間ならもう八方塞がりだろうけど、ここに居るのは巫女の私―――それなら、出来ないことはないわ!

 

「早苗ッ!!」

 

「は、はいっ!?」

 

 善は急げ。時は金なりだ。

 私はその手段を実行するために、即座に早苗を呼ぶ。

 

「―――私達の消滅を防ぐ手立てが見つかったわ」

 

「ほ・・・本当ですか!?」

 

「本当なのか、艦長!」

 

「まさか・・・"存在の確定"を!?でも、どうやって・・・」

 

「―――その様子だと、期待していいようだな」

 

 私の言葉を聞いた早苗は、目を丸くして、心底驚いたといった様相で私を見た。

 彼女の声に反応して、周りからも期待を含んだ驚愕の声が次々と発せられる。

 

「消滅を防ぐって、でも、一体どうやって・・・」

 

 それでも不安そうな早苗に対し、私は自信ありげな笑顔を作って言った。

 

「ふふっ―――私を誰だと思っているの?私は"博麗"霊夢よ!結界のことなら、右に出るものなんて居ないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ヴィダクチオ自治領本土宙域・某所~

 

 

 

『紅き鋼鉄』とヴィダクチオ自治領との戦いは、些か不本意な形で終焉を迎えた。ヴィダクチオを率いていた"教祖"は部外者に討たれ、彼の旗艦は暴走。そして、ヴィダクチオの残存艦隊全てを掃討した『紅き鋼鉄』の艦隊は、疲労を重ねた身体に鞭を打って彼等の主君が乗ったままの旗艦を追跡していった。

 

 ―――一方で、彼等彼女達と同じように、この宙域に侵入していた者達はというと・・・

 

 

「少佐、艦のシステムの掌握はほぼ完了しました。出港準備、完了です」

 

「うし、よくやった。上出来だ」

 

「はっ」

 

 ヴィダクチオ自治領宙域を隠れるように航行する一隻の艦―――その艦の艦橋内で、指揮を取る男―――ロンディバルト・オーダーズ少佐のハミルトンは部下の女性参謀―――ドリス大尉の報告に満足気に頷いた。

 

 そもそも、彼等が今乗っている艦は、この宙域に来たときに乗っていた艦、レオンディール級強襲揚陸艦〈ダウロン〉ではない。その艦は、全体的な意匠はレオンディール級などのロンディバルト艦船に通じているものの、サイズはレオンディール級の1,5倍以上もある巨艦だった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ―――ギャラクティカ級装甲航宙母艦―――

 

 それが、その艦のクラス名だ。

 

 何故、このような巨艦が彼等の手に渡っているのか・・・それは、時を少し遡って説明する必要がある。

 

 彼等がこの宙域に赴いた目的・・・それは、アイルラーゼンのユリシアと同じくこの自治領が持つ遺跡由来の高度な技術が目的だった。しかしそれと同時に、彼等はもう一つの目的を帯びていた。それが、このギャラクティカ級空母の奪還である。

 

 ギャラクティカ級は、今や強襲揚陸艦に類別されたレオンディール級空母に代わる本格的航宙母艦として計画、建造された艦だったのだが、その試作艦データがヴィダクチオ自治領と"教祖"の熱烈な信奉者によるハッキングにより奪われていたのだ。そのデータを奪還、破壊し、万が一彼等の手でギャラクティカ級が建造されていたならば破壊する―――それが彼等に課されたもう一つの任務だった。

 

 前者のデータ破壊は遺跡由来の技術データをハッキングする際に同時進行で全て破壊されていたが、肝心の彼等の艦隊がそのタイミングでヴィダクチオの巨大戦艦―――リサージェント級によって全滅させられてしまっていた。

 

 しかし、彼等は生存者を集めてヴィダクチオ本星に侵入し、見事この就役間近だったヴィダクチオ製ギャラクティカ級一番艦の奪取に成功したのであった。(建造中の同型艦は、彼等の手で全て破壊されている)

 

「しかしまぁ―――あのデカブツに一杯喰わされたときはどうなるかと思ったぜ。おまけに敵さんは全員狂信者だしよ・・・あー、疲れたわ」

 

「少佐ったら、貴方は指揮官なんですから、もっと威厳をですね・・・そんなんだから、部下から人望が集まらないんですよ」

 

「人望なんてどうでもいいさ。俺は、出来るだけ味方の損害を小さくしてやれればいい―――尤も、今回はその部下の大半を死なせちまったがなぁ・・・」

 

 ハミルトンは失った部下を想ってか、煙草の煙を吐き出すと深く俯く。

 先程まで彼を説教していた参謀のドリスも、その瞬間だけは口を噤んだ。

 

「―――少佐、後方より接近する艦隊があります。これは―――アイルラーゼン艦隊です」

 

「アイルラーゼン―――ユリシアか・・・通信回線を繋げ」

 

「ハッ!」

 

 そこへ、彼等の乗る艦の後方からアイルラーゼン艦隊―――ヴィダクチオとの艦隊戦を制した帰路の、ユリシア中佐率いる特務艦隊が接近した。

 

 程なくして、彼等の艦とユリシアの旗艦、クラウスナイツ級戦艦〈ステッドファスト〉との間に通信回線が開かれる。

 

《あらぁ、無事だったのね、ハミルトン》

 

「うっせぇ。どうせお前のことだ、俺がくたばっていた方が有難いとでも思っていたんだろ?なぁ腹黒ユリシアちゃんよ」

 

《―――今すぐダークマターになりたいのかしら?本当失礼な男。貴方とは一応士官学校時代からの知り合いなんだし、死なれると悲しいわぁ》

 

「"玩具が減るから"か?この腹黒女―――」

 

 ハミルトンの台詞の途中で鋭い音が響き、画面の向こう側に皹が入る。

 

 ―――ユリシアが投げたナイフが、彼女の旗艦にある通信装置の画面に突き刺さっていた。

 

《くくっ―――そんなに構って欲しいなら、また誘ってあげましょうか?今度は八つ裂きになると思うけど》

 

「おお怖い怖い。これだからアバズレ女は行き遅れるんだ」

 

《くっ、こいつ―――まぁ、痴話喧嘩はさておいて、同じ船乗りとして、貴方達の無事を祝福しましょう。要件はそれだけよ。じゃあ、よい航海を》

 

「おう。有り難く受け取っておくぜ。お前さんの祝福なんて、俺が呪われそうだがな」

 

《―――最後まで、食えない奴ねぇ・・・》

 

 そこで、ユリシアとの通信は途切れた。

 

 彼女の旗艦―――〈ステッドファスト〉とその僚艦が加速して、彼等が乗る艦を追い越していく。

 

「・・・さてと、こっちも家路につくとしますかぁ。航海班、用意はいいな?」

 

「はい。万全です!」

 

「うし・・・っと。そんじゃ、この宙域をトンズラするとしますかぁ。機関、巡航出力。マゼラニックストリームに舵を切れ」

 

 ユリシアの艦隊が去った後、彼等の艦にもエンジンの火が灯る。

 

 彼等の艦もまた、アイルラーゼン艦隊が去っていった方向に向けて加速を開始する。

 

 

 長く苦しい任務を終えたオーダーズの兵士達は、故郷への旅路に就いた―――

 

 




そろそろこの章も終わりです。今回から、しばらく影を潜めていた茨霊夢分を復活させます。シリアスで重い霊夢ちゃんもいいですが、明るくて活発な霊夢ちゃんもいいと思います。

霊夢ちゃんが事象揺動宙域の特性に気付けたのも、それとなく早苗さんがゆかりんの能力を思い出させるように例えたからです。つまりゆかりんのお陰です。即ちゆかれいむ(半分は早苗さんのお陰ですがw)

加えてこれはちょっとした裏設定ですが、ユリシア中佐とハミルトン少佐の関係は、ハミルトンが士官学校の交換留学時代にアイルラーゼンに赴いて、そこでユリシアと知り合いになったというものです。そのときに色々あって、現在のような関係になっています(笑)


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第七二話 脱出への算段

今回は新キャラが出ます。
本来この話は一話に纏める予定でしたが、長くなりすぎたので分割しました。なので久し振りに一万字を割ってます(当社比約1000字の減ですw)


 

「・・・ふぅ。とりあえず、これで応急措置は完了、といったところかしら」

 

「はい。やっぱり、霊夢さんは凄いですね。まさかこんな方法を思い付くなんて」

 

「ふふっ、これぐらい"元"博麗の巫女になら出来て当たり前よ。―――まぁ、褒めたかったらもっと褒めてくれてもいいのよ?」

 

「はい!流石は霊夢さんです!私の可愛い艦長です!」

 

 ・・・復活したデッドゲートを通ってこの宙域―――事象揺動宙域に入ってしまった霊夢達だったが、この宙域に彼女達が来てから約18時間が経過した現在では、霊夢の機転により「存在の拡散」―――即ち消滅という最悪の事態は回避することに成功していた。

 

 霊夢は敵旗艦、リサージェント級より〈開陽〉に帰艦してすぐに、4隻の駆逐艦を艦隊の最外縁部に、正方形の陣を描くように配置させた。この陣を敷くに当たって、担当の駆逐艦群には結界陣の一部とするための御札が海兵隊員によって運ばれて、艦橋部に貼り付けられていた。彼女は、結界によって艦隊の消滅を防いだのである。

 

 ―――彼女が試みたことは、簡潔に言えば、"結界の内外で空間の性質を反転させる"、というものであった。

 

 4隻の駆逐艦によって作られた正方形の結界陣の内側は、事象揺動宙域の"あらゆる存在が不安定となり、消滅する"という性質を反転させられ、"存在が確定"した状態となる。即ち、通常空間と同様の空間を擬似的に再現させられていた。

 

 しかし、結界とはいっても艦船一隻が数百メートル~一キロ以上もする規模の艦が集まった艦隊全体に対して敷かれたものである。空間の規模でいえば、霊夢がかつて過ごしていた幻想郷に匹敵するほどのものであり、それだけの規模を持つ空間に結界を張るというだけでも相当な労力が必要だ。事実、早苗に対しては自慢気な態度でいた霊夢ではあるが、その額には汗が浮かんでいた。

 

 さらに付け加えていえば、結界の維持に必要な霊力こそ〈開陽〉の主機関、インフラトン・インヴァイダーから生み出されるエネルギーを機関室に張られた特殊な札を通して霊的エネルギーに換算されて充てられているが、その霊力の制御は全て霊夢が一手に握っているのだ。なので、彼女の身体が持つうちにこの空間から出なければ結界が消失し、艦隊は再び消滅の危機に晒されてしまうことになってしまうだろう。

 

 本当に、彼女の策は"応急措置"程度のものでしかなかった。

 

 

「・・・ふむ。やはり艦長の策とはこのようなものだったか。いやはや、艦長が我々とは異なる概念の存在であったお陰で助かったな」

 

 〈開陽〉の自然ドーム内にある博麗神社で結界陣の構築を行っていた二人の下へ、艦隊の科学班長であるサナダが訪れる。

 

「あ、サナダさん―――」

 

「・・・サナダさんか。何か、解決の糸口になるようなことは見つかったの?」

 

 この男の来訪で脱出への期待を高めた二人であったが、サナダの曇った表示を見て、どうやら自分達の期待通りの結果は出ていそうにもないと悟る。

 

「・・・あの二人とこの空間からの脱出方法について色々と議論はしているのだが、やはりどうしても概念論だけに留まってしまう。事象揺動宙域自体、宙域の特性から今まで一度たりとも"生還した"人間がいない謎の宙域だ。具体的な方法論ともなれば、流石の私もそう楽にはいかなくてな・・・」

 

 サナダは〈開陽〉に帰艦したときから、同伴者の二人、0Gドックの蓮子とメリーの協力を得て事象揺動宙域についての調査と脱出方法の議論を行っていたのだが、ここでやはり事象揺動宙域という特殊な環境自体が事態の解決への阻害要因となっていた。

 蓮子とメリーの二人は0Gドックでありながら、同時に事象揺動宙域に比較的詳しい研究者でもあったことがサナダにとっては幸いだったが、事態が一向に好転しない現在では、いくら事象揺動宙域に詳しかろうと彼等は無力な存在でしかなかった。

 

「―――他のマッド連中はどうなのよ?ほら、・・・例えばシオンさんとか、ユウバリさんとか・・・にとりだって居るでしょ?彼女達は―――」

 

「・・・いや、彼女達にしてみれば、事象揺動宙域のことなど完全に専門外だ。一応な、この宙域を"確定"させられることが出来れば脱出できるだろうという結論は出ているんだが、肝心の方法が無くてなぁ」

 

 サナダは愚痴るように、現状の進展のなさについて霊夢に伝える。同じマッド仲間でもにとりやユウバリはそもそも専門は機械工学である。専攻が違うのだ。サナダも主に専攻は彼女達と同じ機械工学であり、他分野についてはあくまで齧った程度の知識しか持ち合わせていない(と、本人は主張している)。唯一、艦隊のマッドではシオンが宇宙論についてそれなりに詳しく、今回のような事態にもしかしたら使えるかもしれない「十六次元観測砲」なる装置を考案していたのだが、それすら現時点の科学では机上の空論―――ようは中二病ノートに書かれた超兵器のような存在でしかなかった。

 

 ・・・つまり、『紅き鋼鉄』が誇る最凶のマッド集団といえど、前人未到の謎の空間の前には完全な敗北を喫していた。

 

「成程ね。そっちの状態は理解したわ。・・・脱出方法についても、私も色々考えてみるから」

 

「済まない。我々ともあろうものが、艦隊の力になれないとは・・・」

 

「いや、そんなに気にしなくていいわよ。幾らなんでも、今回みたいな事案の前には誰だってそうなるだろうし」

 

「・・・そうじゃないんだ、艦隊最凶たる我々の頭脳を持ってしても打開策を掴めないことが悔しくてな・・・本当に済まない」

 

「ああ、そういうこと―――あんたらにも矜持ってやつがあるのね」

 

「む・・・我々とて、矜持はある。今回こそ事態の改善に寄与できるかどうかは怪しいが、今後は今まで通り活躍させてもらうさ。そして今回の事態に関しても、我々が諦めるつもりはない。吉報を待っていてくれ」

 

「―――分かったわ。期待しないで待ってるわね」

 

「・・・そこは世辞でも期待してると言うもんじゃないかね」

 

「あんたらに世辞なんて要らないでしょ?ほらほら、行った行った。こっちはこっちで色々考えておくから」

 

「むぅ―――」

 

 霊夢とのやり取りを終えて、サナダは微妙な表情を浮かべたまま神社の境内を出て参道を下っていく。

 

「さて、まず何から始めましょうかねぇ・・・」

 

「そうですね・・・まずは現状の整理から始めませんか?この空間の特性についても、一度見直してみることで何か見えてくる物事があるかもしれませんし」

 

「そうねぇ。・・・じゃあ、早苗の言うとおり、そこから始めましょう」

 

「はい!・・・それと霊夢さん?いくらサナダさんが変態マッドサイエンティストだからって、あんまり邪険にしすぎるのは駄目ですよ?あの人達だって、艦隊のために頑張ってくれてるんですから。トップたるもの、労うことも大切です」

 

「うっ・・・そう言われるときついわね―――まぁ、アイツらはいつもいつも好き勝手して財政を逼迫させてるんだし、それで帳消しってことで・・・」

 

「むーっ、それでは駄目ですよ!やっぱり科学者はロマンを追い求めてくれないと主に私が困ります!あんなものやこんなものを造ってもらう計画が・・・ぐへへっ」

 

(あ、コイツ駄目だ・・・マッドに毒されているわ・・・)

 

 ・・・多少の脱線はあるものの、霊夢と早苗は、事象揺動宙域からの脱出のため神社で作戦会議を続けていった―――

 

 

 

 ~数時間後~

 

 

 

 

「あー、やっぱり駄目かぁ・・・とてもじゃないけど、こんだけの広さの空間を確定なんて、どうやっても出来ないわよ」

 

「う~ん、そもそも、"確定"の方法すら思い付きません」

 

(ううっ、これじゃあサナダさん達を馬鹿にできたものじゃないわね・・・本当に手詰まりだ・・・)

 

 サナダと別れてから数時間、霊夢と早苗はひたすら事象揺動宙域からの脱出方法について思案していたのだが、サナダが語ったように、彼女達も一向に解決策を見出だせないでいた。

 

 彼女達は、主に自分達の得意分野である「結界」というアプローチから解決策を探ってみていたのだが、そもそも事象揺動宙域という空間があまりに広大なことに加えて、その大きさすら分からない(そして恐らく、事象揺動宙域の性質からして広さすら一定ではない)という現実の前に手詰まり状態に陥っていた。

 

 理論上なら、いま艦隊がある空間に展開している結界(確定と拡散の境界)を宙域全体にまで広げれば空間が"確定"した状態になるのではないか、という話にはなったのだが、この広大な空間に結界を貼るなど、恐らく八雲や彼女と協力して博麗大結界を張った初代博麗の巫女ですら不可能である、という結論に達してあえなくお流れとなっていた。(そもそも、結界内の性質を反転させることが出来ているのは"外の世界"、即ち事象揺動宙域が不安定な状態だからこそ"反転"させることが出来ているのであり、肝心の外の世界が消えてしまうとこの結界も意味を失う)

 

「はぁ・・・本当、どうしろっていうのよ・・・」

 

 最早打つ手なし、と諦観の境地に至ったことを示すように、霊夢から溜め息が漏れる。

 

「ううっ、お力になれなくてごめんなさい・・・」

 

「いいのよ、早苗―――だけど、あんまり時間の猶予もないわね・・・このままだと、持って十日、といったところかしら」

 

 十日・・・それは、霊夢が"確定と拡散の境界"を維持できるリミットを表している。その期間内に脱出方法を見つけ出し、そしてそれを実行しなければならない。しかも結界そのものは絶えず事象揺動宙域に晒されているので、幾ら"性質を反転させる結界"といえど、結界そのものが事象揺動の対象とならないとは限らない。結界自体が"ゆらいで"しまえば、それだけリミットは短くなるの。事実、霊夢は結界の強度を一定に保っているつもりなのだが、この短い時間内でも何度が"結界の強度が揺らいだ"ことを感じていた。

 

「確定、確定かぁ・・・霊夢さん、ここは一度、"確定"という要素を外して考えてみてはどうですか?」

 

「はぁ?それってようは"振り出しに戻れ"ってことでしょ?こんな状況で一から考えてなんていたら・・・」

 

 霊夢は、何を言っているんだ、という眼差しでそんな提案をした早苗に視線を向けたが、早苗は霊夢の言葉に流されることなく持論を述べる。

 

「"こんな状況だからこそ"ですよ!なまじ理論が提示されてしまっているがために、私達はそれにとらわれてしまっているんじゃないですか?でも、このまま理論に沿って考えていても何か妙案が浮かび上がるとは思えません。だからこそ、一度フラットな状態に戻して、別の理論がないか探してみるんですよ」

 

「別の理論、か・・・」

 

 霊夢は早苗の提案を聞いて頷きながら、それが果たして妥当かどうか、真剣に吟味する。

 

(今ある理論を捨てるのは惜しいけど、確かに早苗の言うとおり、このまま進んでも良い案が出る兆候はない・・・だったら、提案通り別の理論を探ってみるのが筋か―――)

 

「確かに、あんたの言うことも一理あるわね―――よし、一度それでやってみましょう」

 

「はいっ!」

 

 考察の結果、霊夢は早苗の意見を採用することにした。これで一度、議論は振り出しに戻った訳であるが―――

 

「で、別の理論って何?」

 

 がくっ。

 

 霊夢の台詞を聞いた早苗は、そんな擬音が似合うような態度で項垂れた。

 

「だ・か・ら・!それをいまから考えるんですよぉ~」

 

「なんだ。あんたに何か考えがあるのかと思ったんだけど、違うのね」

 

「いや、一応考えはありますけど―――」

 

 呆れたような霊夢の態度に、早苗は"こっちの方が呆れますよぅ・・・"と言いたげに細々とした声でそう愚痴る。

 

 だがそれを反論と受け取ったのか、早苗のか細い愚痴に霊夢は瞬時に反応した。

 

「えっ、あるの!?あるんなら聞かせなさいよ!」

 

「ちょっと、ま、待って下さい霊夢さん!は、話しますからいきなり胸ぐらを引っ張るのは―――」

 

 考えはある、という早苗の言葉に反応した霊夢は期待のあまりか、彼女に詰め寄ってぐいぐいと胸ぐらを引っ張る。引っ張られた早苗は何とかそれを止めさせて、説明を始めた。

 

「あ、ゴメン―――で、その考えってのは?」

 

「はい。そのですね・・・宙域全体を確定させるんじゃなくて、直接脱出してしまえば良いんじゃないかと思いまして―――」

 

「・・・それ、一番に試したやつでしょ」

 

 期待に満ちていた霊夢の眼差しは、みるみるうちに曇っていった。

 それもそのはず、早苗が提案した方法は、既に試されていたことだからだ。

 この宙域に入り込んでしまってからまだ時間が経たないうちに、ヴァランタインがやったようにワープで宙域を脱出しよう、という流れに当然なったのだが、肝心の座標計算が全くできず、あまつさえ艦隊全体で距離にして1光時へのランダムワープを行っても、また事象揺動宙域内に出るだけという結果が得られていた。(ついでにランダムワープ中に宙域内の距離がゆらいだためか、纏まってワープした筈の艦隊を構成する艦の距離が微妙に離れ、再集結に一時間程度を要していた)

 

 そんな結果が得られた方法をこの期に及んでまた提案するのだから、霊夢の反応は当然といえた。だが、早苗はそれとは違うとばかりに慌てて言葉を続けて説明する。

 

「れ、霊夢さん!それとは違います!直接脱出するとはいってもちゃんと違うアプローチですから!」

 

「―――聞かせなさい」

 

 早苗の釈明を聞いて、霊夢の雰囲気が一変する。諦観の眼差しから、真剣な表情へと変化した。

 

「え・・・あっ、はい!―――あのですね、艦隊が存在する空間ごと、概念的に外の宙域と遮断して、そこから空間を転移させれば上手くいくかな、って―――駄目ですか?」

 

 説明を終えた早苗は恐る恐る、自案の是非を霊夢に尋ねる。もしかして、今度も駄目出しされちゃうかなぁ、という懸念を彼女は抱いていたのだが、暫く経ってから出た霊夢の反応は、彼女の予想とは正反対のものだった。

 

「―――それよ!それだわ!」

 

「へ?」

 

「その案でいくわよ!早苗、今すぐ準備に取りかかるわよ!」

 

「準備って・・・でも、どうやって―――」

 

 脱出案の詳細な議論すらすっ飛ばして、いきなり準備だと騒ぐ霊夢の姿勢に早苗は戸惑いを隠せなかったが、霊夢は自信満々に早苗に対して指摘した。

 

「あんた、幻想郷に来たとき"外の世界から神社ごと"転移してきたでしょ。それをこの艦隊でやるわよ!」

 

「あ、そうか・・・・その手がありましたね霊夢さん!―――あっ、だけど私、今は力が―――」

 

 霊夢の指摘を受けた直後はぽかんと佇んでいた早苗だが、次第に霊夢の言わんとしていることを理解して、一筋の光明が見えたとばかりに立ち上がる。が、彼女はあることを思い出して急に萎むようにへたれ込んだ。

 

 ―――今の早苗には、信仰がなかった。

 

 かつて"外の世界"で過ごしていた頃の早苗には、二柱と合わせて一度の転移は可能にできるだけの力があったのだが、建前上ただの艦載AIに過ぎない今の早苗に信仰など集まる訳もなく、霊的な方面の力で今の彼女は幻想郷にいた頃はおろか、外の世界にいた頃よりも劣っていた。

 これでは霊夢さんの期待に応えられない・・・そんな思いが早苗を支配しかけたそのとき、思わぬ助け船が出された。

 

「なに勝手に垂れ込んでんのよ。"力が無い"なら、"余所から持って来ればいい"だけ。そうでしょう―――?」

 

「へっ?」

 

 霊夢の言葉に、早苗は頭を上げる。が、肝心の霊夢は早苗でない誰かに尋ねるように虚空を睨むように見つめていた。

 

「そろそろ、出てきたらどうなの?」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

「そろそろ、出てきたらどうなの?"八坂と洩矢"」

 

 

 

【イメージBGM:夢違科学世紀より「童祭」】

 

 

 

「あらら、気づかれちゃってたみたいだねぇ」

 

「・・・いつから我等に気付いていた?博麗霊夢」

 

 

 うっすらと空気がぼやけた霊夢の視線の先から、二つの人形の影が現れる。

 

 その人影の正体は、守矢神社の祭神、"八坂神奈子"と"洩矢諏訪子"の二柱だった―――

 

「れ、霊夢さん!?一体いつから気付いていたんですか!?」

 

「いつから、ねぇ・・・早苗がいるって分かってからなんとなく、かな?これが居るなら、オマケのこいつらも付いてくるだろうと思ってね」

 

「オマケとはまた、酷い言い方じゃないか。博麗霊夢」

 

 洩矢諏訪子が、霊夢の「オマケ」という語に対して抗議する。寧ろ早苗に祀られている自分達の方が本来上位なのだから、当然の反応だ。

 

 さて、何故この艦隊にこの二柱の姿があるのか、という点ではあるが・・・それは、少し前まで遡ることになる。

 

 艦載AI、サナエに東風谷早苗の魂魄が宿ってしまっていることは既知ではあるが、その早苗が艦隊に加護があるようにと〈開陽〉の自然ドームに守矢神社の分社を作ったことによって、この二柱は艦隊に現界することができたのだ。早苗は当初、武運も司る八坂神奈子をこの"艦内神社"の主神としようと目論んでいたのだが、「やっぱり御二柱(おふたり)が揃ってこそです!」という結論に達したため、諏訪子も祀られることになった。

 

 しかし、早苗と同じように艦隊で信仰が得られている訳でもない二柱は力が弱いのか、その姿は霊夢の目には霞んで見えた。

 

「全くだ。この艦隊の今までの武勲、一体誰が支えてきたと思っている?」

 

「むー!そうですよ霊夢さん!神奈子様は今までこの艦隊に武運を与えてくださっていたのですから、幾ら霊夢さんといえどそこは感謝して貰わないと困ります!」

 

 諏訪子に続いて、神奈子も霊夢の台詞に苦言を呈した。いつもは霊夢さんラヴな早苗ではあるが、今回ばかりは流石に敬愛する二柱の味方だった。

 だが霊夢には、そんなことよりも神奈子と早苗の台詞から導き出される、ある可能性の方が気がかりだった。

 

「へ?それって、まさか―――」

 

「―――お前の思った通りだよ、博麗霊夢。そもそも、敵艦艇との性能差が縮んでもこれだけ損害を押さえられた理由、この艦隊の士気と練度はあるにしても、決してそれだけではないぞ」

 

「―――やっぱり、あんたの加護があったのね・・・幾ら私のクルーが優秀でも、流石にあのヴィダクチオの主力艦隊と当たってあの損害は小さすぎると感じていたし―――それについては礼を言うわ。あんたの加護で、私のクルーの命が何個かは救われているでしょうからね」

 

 ―――早苗が建てた艦内神社は、確かに効果があったのだ。神奈子の台詞は、直々に自分がこの艦隊―――『紅き鋼鉄』に武運をもたらしたことを自白するものであることは、霊夢には容易に察せられた。なので彼女は、素直に神奈子に礼を述べる。

 

「やけに素直だな・・・いや、ここに来て少しは責任と礼節を弁えたか。うむ。可愛い風祝の頼みとあっては断れんからな。今後とも、宜しく頼むぞ」

 

「この巫女、だいぶ丸くなったなぁ。ま、あれだけの人間の上に立つようになったんだ。少しは成長したっけことなんだろうね」

 

 武運を司る神奈子の加護が、少なからず艦隊の武運に影響していた―――この事実を知った霊夢の対応は、前世の彼女を知る二柱からすると予想以上に素直なものだった。だが霊夢とて今は一艦隊の長である。彼女のお陰で部下の命が少なからず繋がれているのだとしたら、長として礼を述べない訳にはいかない―――その程度の礼節は、当然霊夢も弁えていた。

 

「ええ―――さて、話を戻すけど、さっきの所はどうなのよ?今の早苗に力はなくても、力さえ渡せばまた昔みたいに能力を行使できるんじゃないかって点。まだ早苗にも、力を扱う技術ならあるんでしょ?」

 

 霊夢は諏訪子の愚痴を無視して、もう一柱の神、神奈子に尋ねる。

 

「―――確かに、その通りだ。早苗に力は残されていないが、我等の力を使う能力は残っている。お前の言う通り、早苗にもう一度力を与えてやれば、転移の一度や二度など吝かではない」

 

 神奈子は、霊夢の推論をそのまま全て肯定する。だが、彼女に釘を刺すように言葉を続けた。

 

「如何にして早苗の力を取り戻す?話は聞いたが、生憎ここは前世もかくやという規模の科学世紀だ。十日程度で集まる信仰など、たかが知れていると思うがな」

 

 神奈子が指摘した通り、この世界はかつての"外の世界"などの比ではない程に科学が発達している。そんな中で神の信仰を取り戻すことは決して容易な道ではない。加えて元々この世界にあった信仰もあり(アッドゥーラ教に代表される宗教や航海者の間に伝わる迷信、宗教的価値観などがそれにあたる)、肝心の風祝たる早苗は建前上AIなため、布教活動など始めようものならコントロールユニットと義体の開発者であるサナダに隅から隅まで調べられかねない。そんな事情があるために、"信仰を取り戻して力も取り戻す"という方法は取れないのだ。

 

「それに、早苗自身に信仰が集まってる訳じゃ無いみたいだしねぇ・・・ファンクラブならありそうだけどさ」

 

 なにせ自慢の風祝だからねぇ、と続けた諏訪子に霊夢は内心で(親馬鹿か、こいつ・・・)と思ったが、それは隅に置きながら、彼女は神奈子と話を続けた。

 

「まぁ私も、早苗の信仰を取り戻そうなんて考えてないわ」

 

「だったら、どうやって早苗の力を―――」

 

「足りないなら、ある場所から持って来ればいいだけでしょ?ようは私から早苗に力を渡せばいい話じゃない」

 

 霊夢の言葉を、二柱は面食らったような表情で聞いていた。てっきり早苗の力を取り戻して転移を実行するものだと、彼女達は考えていたからだ。

 

「なるほど、霊力供給か―――確かにそれなら一時的にではあるが、容易に力を戻すことができるな」

 

「あの―――神奈子様?」

 

 神奈子が霊夢の提案について考えていた横から?早苗が恐る恐る申し出る。

 

「つかぬことをお聞きしますが、あの・・・霊力供給とは―――」

 

「ああ、そのことか。それはだな―――」

 

「名前通り、他人から霊力を受け渡してもらうことさ。今の早苗に力はないけど、憎たらしいことにこの巫女は力が有り余っているみたいだしさ、その力を分けてもらって転移術に使おうって話なんだ」

 

 早苗に説明しようとした神奈子の横から、彼女に変わって諏訪子が霊力供給について早苗に説明する。

 諏訪子に乱入された神奈子は一瞬不機嫌な顔を浮かべたが、この土着神との確執など万年来のものであり、取るに足らないことと彼女は思うことにした。

 

「そういう事ですか!なら今すぐ始めましょう!」

 

「―――だがな・・・いや、何でもない」

 

「うん・・・ああ、そうだねぇ。あはは・・・」

 

 霊夢の提案の有効性を認めつつも、何故か二柱は神妙な顔つきで渋っているように見受けられた。

 そんな謎の態度を取る二柱を疑問に感じて、早苗は提案者である霊夢に視線を合わせた。

 

「―――あの、霊夢さん?」

 

「今は緊急事態なんだから仕方ないだけ・・・早苗に、――を許す訳じゃあ・・・」

 

 だが肝心の霊夢も、うっすらと頬を紅潮させながら自分に言い聞かせるようにぶつぶつと小言を呟くのみで、早苗に目を合わせようとはしなかった。

 

「と、とにかく・・・善は急げよ!早苗、ちょっとこっちに来なさい!」

 

「え?あ・・・はい!」

 

 一転して、決心したように強気で命令する霊夢に内心で疑問を覚えながら、早苗は大人しく彼女について神社の奥へと消えていった。

 

「そこの二人!絶――――対覗くんじゃないわよ!!」

 

「・・・ああ。お前が変な気を起こさなければな―――これは早苗を消滅から救うためであって、決してお前を認めた訳ではないぞ」

 

「これで、ようやく早苗もオトナに・・・いや、女同士だから違うのか?まぁ・・・あの巫女も初心な癖に頑張るねぇ―――」

 

(霊夢さん、なんであんなに顔を赤くしていたんでしょうか?それに御二柱の反応・・・う~ん、早苗にはやっぱり分かりません・・・けど、この艦隊を救うためなら不肖東風谷早苗、如何なる運命でも受け入れる覚悟です!)

 

 霊夢と一緒に神社の奥へ行く直前、霊夢と神奈子、諏訪子の三人が交わしていたやり取りの意味がやはり分からず困惑していた早苗だが、これでやっと艦隊を消滅の危機から救うことができるのだと思い、心機一転、事象揺動宙域脱出のために頑張ろうと心に誓うのであった。

 




はい、御両神登場です(笑)

早苗さんが分社を建てた時点で察した方もいたかと思いますが、ようやく登場させることができました。久し振りの東方キャラ御本人です!(他はよく似た別人なので)

神奈子様と諏訪子様の話し方については少々想像しにくい部分があったので、特に諏訪子様はふし幻の諏訪子を参考にしています。(声もそのままのイメージですw)神奈子様はできるだけ威厳を全面に出した感じをイメージしています。声のイメージはふし幻よりやや低めで。(ついでに早苗さんもふし幻よりちょっと低めの声でイメージしています。特に戦闘時)

神奈子の加護についてですが、彼女は言及された通り艦隊では信仰が得られてないのでそこまで強くはないですが、勝ち戦の損害を減らせる程度には力を持っているという設定です。流石に敗けを勝ちに変えるような力はありません。

最後の霊夢ちゃん達の反応ですが・・・"霊力供給"というワードで察して下さい(笑)



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第七三話 二重結界

 

 

 

 

「あの・・・霊夢さん?」

 

霊夢さんについてきなさい、と言われて私は一緒に神社の奥まできたのですが、霊夢さんは無言のまま、ただ歩いているだけです。

 

先程は私に力を移す、というようなことを言っていた霊夢さんですが、一体それはいつ始まるのでしょうか?

 

「・・・何よ」

 

「いえ、その―――私はこれから何をすればいいのかと思いまして・・・」

 

そこで、霊夢さんの足が止まります。

 

霊夢さんは無言で私を一瞥したあと、すぐに顔を逸らして目の前の障子を開いて、部屋の中へと入っていきました。相変わらず、霊夢さんの顔は少し赤くなったままです。

 

そもそも私、霊力供給の方法も聞いてないんですけど、ちゃんと教えてくれるのでしょうか?霊夢さんの様子がさっきから変なので、ちょっと不安になってしまいます。

 

「―――これだけ奥なら大丈夫か・・・」

 

部屋の真ん中あたりまで進んだ霊夢さんは、また立ち止まってそう言いました。

 

私はそーっと部屋に入って、物音を立てないようにゆっくり障子を閉めます。すると、何故か部屋に結界が張られてしまいました。

 

「・・・結界?」

 

「―――あまり、外野には見られたくないからね」

 

霊夢さんは振り返って私にそう言いました。その台詞からすると、この結界を張ったのは霊夢さんみたいですが、何故結界が必要になるんでしょうか?

 

「さて―――まずは霊力供給の前に、作戦の手順を教えるわよ」

 

「え―――は、はい!」

 

私に座るように促した霊夢さんは、私が畳の上に座ったのを確認すると自分も座って、真剣な表情になりました。霊夢さんの態度の変わりようからこれから真面目な話が始まるのだと思い、つい身体に力が入ってしまいます。

 

「―――っとその前に、さっき、私はあんたの転移術で艦隊を外に出すって言ったでしょう。まずそこで確認したいことがあるんだけど、あんたの転移術で本当に艦隊を元の世界に帰せる?」

 

「はい―――そこは大丈夫です。基本的に私が念じれば、転移先が本当に存在する場所ならあとは術式がそこまで運んでくれます」

 

「なら大丈夫か。もし失敗してまた事象揺動宙域の中なんてことになったら堪らないからね。安心したわ」

 

「あ、有難うございます?」

 

霊夢さんは、どうやら私の奇跡が本当に使えるものなのか、気になっていたみたいでした。私は霊夢さんに転移術の詳細を教えたことはありませんから、言い出しっぺの霊夢さんはそこが不安だったみたいです。隔離された一種の別世界にも飛べることは私達が幻想郷に行けたことで確認されていますし、この宙域から元の世界に戻ることだって理論上はできる筈です。

 

「よし・・・これで懸念材料は無くなったわね。じゃあ早苗、今から手順を説明するわよ。まず、今この艦隊に張っている結界だけど、これは結界の内と外で空間の性質を反転させるものだってことは教えたよね」

 

「はい。これは博麗大結界を模したものだって霊夢さんは言ってましたけど―――」

 

「そうよ。この結界は、外界と結界の中で"理"を反転させる。外の世界が"揺らいでいる"のが常識なら、結界の内側では空間が"確定している"のが常識―――空間の理になる。だから私達はこの宙域でも、存在が拡散することなく生きていられる」

 

「―――でも、結界を維持している霊夢さんの力が尽きたら、その効果も失われる、ですよね。だからこそ、私の転移術で艦隊を元の世界に戻さなければならない―――」

 

「そうよ。分かってるじゃない。だけど肝心のあんたには力がない。だから、まずはあんたの力を一時的にでも取り戻す必要がある。そのための霊力供給よ」

 

・・・なるほど。整理してみると大体理解できました。

つまり、艦隊を救うには私の力が鍵という訳ですね!これは失敗は許されません。気が引き締まる思いです。ところで霊夢さんは、何故未だに顔を赤くしているのでしょうか。

 

―――そんなことを考えていると、私はある可能性に行き当たってしまいました。

 

「あの・・・霊夢さん?もしかして、その霊力供給の方法って・・・」

 

霊夢さんがあんなに顔を赤くしている理由、それはもしかして、霊力供給の方法が―――

 

そんな考えを裏付けるように、方法の説明を始めた霊夢さんの顔はますます赤くなっていきます。

 

「っ、――い、いい早苗?よく聞きなさいよ――?」

 

私は黙って、霊夢さんの説明を待ちます。顔を真っ赤にしている霊夢さんが抱きたいくらい可愛いなんて、微塵も考えていません。ええ。だって、今は真面目な場面ですからね。

 

「その、ね・・・霊力供給の方法は――――だ、唾液か血液とかの、体液を、交換して――――血には、ちからがよく溶けるから・・・」

 

ほうほう、ふむふむ。体液の交換ですか。霊夢さんの話では、力を持つものの体液には霊力や妖力が溶けているので、霊力を与えたい相手に自分の体液を飲ませてやればいいらしいです。そしてその体液は唾液や血液ということですが・・・唾液、唾液の交換―――ふむ、それは―――

 

「つまりそれは、合法的に霊夢さんと接吻(キッス)が出来るということですね!!」

 

「ひゃうっっ!!」

 

唾液の交換、それは即ち接吻に他なりません。つまり、合法的な理由で霊夢さんの初めてを私のモノに出来るという訳です。昔の霊夢さんは誰とも付き合ってませんでしたから、その唇は未だに純潔なままの筈です。それを私のものに、モノに・・・うぇへへへ。

 

「さぁ、時間はありません!霊夢さんの純潔・・・じゃなかった。艦隊を救うために、神聖なる接吻を・・・」

 

では霊夢さん、お覚悟を!頂きま―――すっ!?

 

 

 

「っ―――いい加減にしなさいっ!!」

 

 

 

「ごはあッ!!!」

 

・・・怒られて、しまいました。

 

「―――調子に乗りすぎ」

 

「はい・・・ごめんなさい・・・」

 

真っ赤になった霊夢さんから全力の蹴りを受けてしまい、私は壁際まで吹き飛ばされてしまいました。

 

はい・・・ちょっと興奮しすぎてしまったようです。幾ら私といえど、性急過ぎました。やっぱりこういうのは、ちゃんと同意を得ないと駄目ですよね。

 

「ハァ―――しっかりしてよね、もう・・・ほら、こっちに来なさい」

 

霊夢さんは一転して、優しい声で私を呼びます。

 

姿勢を直した私は、霊夢さんのところまで這い寄って、顔を真っ赤にして目線を逸らしている霊夢さんの背中に手を回します。

 

霊夢さんの紅い透き通った瞳が、私の視線と合いました。霊夢さんは怖がるような、あるいは恥じらうような視線を私に向けてきました。もう、最高に可愛いです。

 

そしてそのまま、私は霊夢さんの唇を―――

 

 

「あ、ちょっと待って。接吻(キス)はだめ」

 

「ええっ!?」

 

―――奪うことはできませんでした。しゅん・・・

 

「あのね―――私の話、聞いていなかったの?血が一番よく力が溶けているから、そっちでお願い、って言ったんだけど・・・」

 

「ああっ、その―――ごめんなさい」

 

「―――どうせ興奮して聞いてなかったんでしょ?いいわよ、ほら・・・」

 

いつもの艦長服じゃなくて珍しく普通の巫女服を着ていた霊夢さんは、一度私に手を当てて押し退けると、襟に手をかけて肩口を肌蹴させました。

 

「―――って霊夢さん!?いきなり何を―――」

 

え・・・もしかして、血の交換ってあんなことやそんなことをでするんですか!?

 

「な、なに驚いてるのよ!?上着は吸うのに邪魔でしょ?」

 

「へ―――?」

 

霊夢さんは、訳がわからないというような表情を私に向けてきます。どうやら、私の予想は外れてしまったみたいです。

 

「だ・か・ら・・・その、血を分けるんだから、き、吸血鬼みたいに、噛んで―――血をのんで―――あんたの義体(からだ)なら・・・出来るでしょ?」

 

「はい、出来ますけど―――」

 

どうやら、霊力供給は私がバンパイアみたいに霊夢さんからちゅーちゅーすれば完了、のようです。

幸いこの義体は思うがままに機能や形状を調節できますから、吸血鬼の真似事だって出来る筈です。こればかりは、機械の身体に感謝です。

 

「―――なら、早く、私の血を・・・」

 

「・・・分かりました。ちょっと痛いかもしれないですけど、我慢して下さいね?」

 

霊夢さんは、小さく縦に頷きました。

 

それを合意のサインと見た私は、霊夢さんの後ろに手を回して、霊夢さんの華奢な身体を抱き寄せます。

そしてそのままゆっくりと押し倒すように、霊夢さんの首筋に顔を近付けます。

 

最後に霊夢のの白い肌に牙を突き立てて・・・そこで、私の意識は途絶えました――――。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ううっ―――クラクラする・・・」

 

 霊力供給を終えて神社から出た私達だけど、早苗に血を持っていかれすぎたためか、なんだか頭が重く感じる。力を抜いてしまえば、すぐに倒れてしまいそうだ。

 

「あ、その・・・ごめんなさい・・・私、やり過ぎちゃったみたいで―――」

 

「っ―――べ、別にいいわよ。気にしてないわ」

 

 ・・・早苗の声がする度に、びくり、と身体が疼く。彼女の声を聞く度に、あの溶かされる感覚と締め付けられる感触が甦ってきた。

 

 ―――だ、駄目・・・あの感覚に、流されちゃ―――いまは、あれを忘れないと・・・

 

 早苗の吸血があまりにも気持ち良すぎて、いや、正確には脳が痛みを快感に変換してしまっていたお陰で、身体はまだ彼女を求めている。だけどあれは一時の緊急避難、決してそういう関係になった訳でもないし、私はそういう関係に手を出す資格はない。だから、あれはいつかの悪夢と同じように、一時の夢として記憶の彼方に封印しないと・・・

 

 私は何とか身体の疼きを抑え込みながら、早苗に言葉を返す。

 

「でも・・・」

 

 申し訳なさそうに謝る早苗を制して、私は足早に神社の裏手にある広場に向かった。そこで早苗に転移術の準備をさせようと思ったのだが、既にそこにはあの二柱の姿があった。

 

「おおっ、戻ってきたみたいだねぇ。」

 

「・・・終わったか」

 

 諏訪子と神奈子の二人はなにやら広場の地面に陣を描いていたようだが、私達の姿を認めると手を止めてこっちを向いた。

 

「・・・何とかね。早苗の霊力なら、術の発動に充分なぐらいには回復している筈よ」

 

「―――うむ。確かに力は戻っているみたいだな。早苗、やれるか?」

 

「はいっ!」

 

 神奈子が呼ぶと、早苗は彼女達が描いていた陣の内側に入っていく。・・・多分あれが、転移術の発動に使う陣なのだろう。

 

「それと、博麗の巫女。少しこっちに来い」

 

「・・・なに?」

 

 加えて神奈子は、私にも陣の内側に来るように手招きした。何か用事があるのかと思い、素直に従って彼女の下へ向かう。

 

「転移陣の範囲をこの艦隊全体に広げるには、艦隊規模で陣を組む必要がある。お前の艦を何隻か、この陣と同じ形を描くように配置しろ」

 

 神奈子は足下の陣を指して、私にそう命令した。

 

 ―――足下の陣・・・五芒星ね。

 

 彼女によれば、艦隊全体を転移させるにはこの陣を艦隊全体に広げる必要があるようだ。幸い五角形の内側に五芒星という単純な陣なので、陣を組む艦の数は足りている。

 

「それと、陣を形成する艦にはこの札を貼ってくれ。これがないと、陣を組んでも霊力がそっちに流れてくれないんだ」

 

 続いて諏訪子が、懐から五枚の札を取り出してそれを私に手渡した。・・・この札が、結界の範囲を確定させるためのもののようだ。

 

「・・・分かったわ。これを貼ればいいのね」

 

「おう。頼んだよ。じゃあ早苗、そろそろ始めようか」

 

「はいっ、神奈子様、諏訪子様!」

 

 早苗は元気に、二柱の言葉に反応して張り切っている。

 

 ―――と、その前に、どうせ艦を動かすなら早苗にやらせた方が早いわね・・・

 

 私は艦隊のデータを呼び出して、比較的損傷の軽い艦を選び出す。

 

「早苗、その前に、この5隻を陣の配置につかせて。そこはあんたがやった方が早いでしょ?」

 

「あ、はい!えっと―――〈ヘイロー〉〈雪風〉〈春風〉〈タルワー〉〈ブリュッヒャー〉の5隻ですね。分かりました、お任せ下さい!」

 

 私はリストアップした5隻のデータを、早苗の端末に転送する。それを見た早苗は、私が言わんとしていることが分かったのか、元気に返事をしてくれた。

 

 統括AIとしての早苗は艦隊の他の艦を制御する権限もあるのだから、もうここで彼女に陣を組ませてもらった方が早いだろう。早苗は私の命令を承諾して、早速その5隻を動かしたようだ。端末から艦隊の状態を見てみると、その5隻は私が張った正方形の結界を完全に包み込む五角形の頂点に向けて、既に移動を始めていた。

 

「じゃあ、札の方は私がやっておくわ。いつまでに準備しておけばいい?」

 

「そうですねぇ・・・これだけの規模の転移となれば、儀式に二時間は必要でしょうから―――一時間、いや、できれば40分以内でお願いします」

 

「分かったわ。それじゃ、こっちは任せなさい」

 

「はい、お願いします。大丈夫ですよ霊夢さん!きっと私が、この艦隊を助けてみせますから!」

 

「フッ―――博麗霊夢、我等の風祝を仲間にできたこと、有り難く思うがいい」

 

「ハイハイ、分かったわよ。そこはちゃんと感謝してるわ」

 

 ドヤ顔でそう宣言する早苗と、それを誇らしげに自慢する神奈子に軽く言葉を返して、私は神社の外に向う。

 

「まぁ、ともあれこれで早苗自身も助かるだろう。これで一件落着―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところがぎっちょん!それはどうかな?」

 

 

 

「「「「―――ッ!!!?」」」」

 

 

 ―――突然、その声は響いた。

 

 私達は一斉に、諏訪子の独り言に反応するように浴びせられたその声の方向に振り向く。

 

 そこには、紫色の軍服調の衣装を纏った、赤髪の少女が佇んでいた。

 

 

「あんたは―――」

 

 

「クククッ・・・いやぁ、悪いねぇ靈夢。折角拾ってくれたところだけど、これも上からの命令なのよ。恨まないでくれよ―――!!」

 

 上空に立つ赤髪の少女―――マリサはそう言い放つと、懐から銃を抜いていきなり私と早苗にに向かって銃撃を浴びせてきた。

 

 私と早苗、それに神奈子と諏訪子は素早くその場から飛び退いて散開し、マリサの銃撃を避けた。

 

「な・・・マリサさん!?何でいきなり・・・」

 

「チッ・・・人様のフネに世話になっておきながら―――あんた、自分が何をしているか、理解できているんでしょうね―――!」

 

「ああ―――拾ってくれたことには感謝してるよ。ほんと、相変わらずのお人好しだよ。・・・まぁ、私にとっても些か不本意ではあるけどね」

 

 マリサは私の放った光弾を軽やかに躱しながら、私との問答を続ける。その(かお)は、まるで弾幕勝負のときのアイツ(魔理沙)みたいで、余計に苛立ちを覚えてしまう。

 

 そもそもコイツは、ヴィダクチオの巨大戦艦に乗艦をぶっ壊されたから、仕方なく私が慈悲で乗せてやってるのだ。その恩を仇で返すとは、コイツはよほど死にたいらしい。

 

「―――お前。先程確か"上からの命令"だと言っていたな。その上とは、何処の組織だ?」

 

 私の隣で、神奈子は睨みながらマリサに問うた。彼女からしてみれば早苗は身内にも等しい。その早苗にアイツは攻撃を仕掛けたんだから、彼女の怒りを買うのは当然だ。見れば、諏訪子の方も殺気を丸出しにしてマリサを睨み付けている。

 

「おっと、流石は神様ね。そこのヤクザ巫女とは違って中々に賢い。だけど―――今それに、応える気はないね!」

 

 マリサは神奈子にそう言い放つと、再び銃撃を加えてくる。私は容易くそれを避けてみたが、彼女の言葉一つ一つが私の気に触れてくるので、集中がままならない。

 それに何よ、ヤクザ巫女とは何様よ。いきなり攻撃を吹っ掛けてくるあんたの方がよっぽどヤクザよ。

 

「あ"あ"?誰がヤクザ巫女ですって!?」

 

「おい待て博麗の巫女!あまり挑発に乗るな!」

 

「・・・チッ」

 

 ああ本当、腹が立つ。やっぱりコイツ、ゼーペンストで宇宙に置いてった方が良かったかしら。

 

「その声に、その顔―――だけど・・・」

 

 諏訪子は私と同じように銃撃を避けながら、なにやら考え事をしていた。そして彼女のなかで思考が纏まったのか、諏訪子はマリサに向かって叫ぶ。

 

「おい、おまえ!一体何者なんだ、キミは!!」

 

「フッ・・・何者、か。さぁね?私は何でしょう?」

 

「クッ、あくまで答えない、ってことか―――だけどその物言い、キミは霧雨魔理沙ではないと見て間違いはないみたいだね」

 

「ノーコメント、よっ!さっきから言ってるけど、応えるつもりはない・・・わっ!!」

 

 諏訪子との問答を続けながら、マリサは諏訪子の放った透けた蛇の形をした攻撃(多分、祟りとかマシマシなんだろうなぁ・・・)を避ける。

 やはり彼女達も、アイツの容姿には少しばかり困惑しているみたいだった。それもそうよ、私だって、初めて戦ったときは混乱したもの。

 

「クソッ、このままだと埒が明かないわね―――こちら艦長。海兵隊、聞こえる?緊急事態発生よ。今すぐ自然ドームまで来て頂戴」

 

《艦長ですか。何がありました?》

 

「同乗者が発狂したわ。そいつは私が制圧するから、その間頼みたいことがあるの。今すぐ人を寄越して」

 

《サーイエッサー。直ちに椛とコマンダー・チーフを向かわせます》

 

 私は海兵隊に連絡して、札を彼等に託すことにした。このまま私が持っていても、彼女に構っていたら準備ができない。既に陣を構成する5隻の艦は"確定と拡散の境界"の外に差し掛かる頃だろう。結界の外に出てもすぐに拡散、ということは無いだろうけど、陣の形成を急いだ方がいいのは言うまでもない。ならここは私がマリサを押さえ込んで、札を貼る作業は他の誰かに任せた方が得策だ。エコーはすぐに人を寄越すと言っていたから、もう暫くコイツを抑えておけば大丈夫だろう。

 

「おい、博麗の巫女!コイツどうにかならんのか!元々乗せたのはお前だろう!」

 

「んなこと言われてもね!コイツがここまで礼儀知らずだとは思いもしなかったわよ!」

 

 いい加減イライラが溜まってきて、諏訪子の言葉につい強気に反応してしまう。本来ならこんなやつ、すぐに片付けられると思うんだけど、生憎大半の力は"確定と拡散の境界"を維持する方向に使われているから思うように力が出せない。いまの早苗ならスペルの一つ二つは使えるだろうけど、早苗の力はここから脱出するためのもの、そう安易には使えない。早苗もそれを分かっているのか回避に専念するばかりで、銃以外での反撃は控えていた。そして神奈子と諏訪子はと言うと、攻撃はしているものの、悉く躱されるか当たっても全くマリサには効いていない。やはりここでは、弱体化が顕著らしい。

 

「クソッ、ここにもう一人、誰が居れば―――」

 

 ・・・少なくとももう一人、誰がアイツと渡り合える奴が居れば、早苗を護りながら儀式を行うことができただろう。だけど今はそんな都合のいい存在がいない以上、私達だけでこの無礼者を何とかしないといけない。

 

 ―――そう、考えていたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュン、と一筋の光が飛んできた。

 

 マリサは反応が遅れたのか、それを避けきれずに左頬に一筋の赤い切り傷をつけられる。

 

「―――オマエ、やり過ぎだ」

 

「あ、アンタ・・・」

 

 マリサの背後に立った黒い少女は、氷のような表情を浮かべてマリサを睨んでいる。

 

 その少女は、本来ならまだ医務室で寝込んでいた筈の霊沙だった―――。

 

「アンタ、まだ医務室で寝込んでいた筈じゃ・・・」

 

「―――あのマッド女医の許可なら貰ってきた。コイツならそろそろ暴れ出す頃合いだろうと思ったからな」

 

「そろそろ暴れ出す、ね。なんでそんなことが分かったのよ」

 

「勘だよ、勘。いい加減鈍った勘だが、それなりにまだ自信はあったんでね。それで来てみればこの様よ。―――艦長、ここは任せて」

 

「・・・分かったわ。アンタに任せる」

 

 私と霊沙は一瞬だけ視線を合わせて、言葉の応酬を交わした。アイツがやるって言うのなら、ここは任せよう。

 

 霊沙の奴は私達からマリサを引き剥がすように、光弾で彼女の進路を誘導している。

 

「おい、博麗の巫女―――」

 

 その様子を眺めていると、唐突に諏訪子から声を掛けられた。

 

()()は何だ?オマエにそっくりだったぞ?あの巫女」

 

 諏訪子は好奇心と、少しの警戒が混じった瞳で私と視線を合わせて尋ねた。一方の神奈子は、目に見えて警戒の視線を向けている。

 

「アレは・・・私の妹、とみんなは認識しているみたい。本人は私を基に作られた妖怪、みたいなことを言ってたけど、私もよく知らないわ。なんでも、私達とは別の幻想郷から飛ばされてきたらしくてね」

 

「ほう、別世界、ということは並行世界の幻想郷か―――しかし、本当に丸くなったなぁ。お前が妖怪を部下にするとは」

 

「うるさい。余計なお世話よ」

 

 妖怪だとは言っても、今は人間みたいだしねぇ、彼女。いくら私でも、身寄りのない人間を私のパチモンだからって理由で追い出すほど鬼じゃないわよ。

 

「ククッ、しかし妹かぁ。オマエに妹とは、フフッ、笑えるよほんと。それにオマエよりよっぽど質が悪そうな奴じゃないか」

 

「むー、そうですよ諏訪子様。霊夢さんはあんなに捻くれてないです。もっと素直でかわいいです」

 

「ハイハイ早苗、オマエの嫁自慢はそのぐらいにしておきなさい。そもそもあの巫女も相当の捻くれ者だと思うがな。さて、よく分からん敵も去ったし、そろそろ儀式を始めようか」

 

 早苗ははーい、と暢気に返事をして、二柱と共に儀式の準備に取り掛かる。

 ・・・何気に神奈子のやつ、失礼なこと言ってくれるじゃない―――。ついでに諏訪子のやつも、まぁ言いたいことはわかるけど、一応私達助けられたんだからね・・・

 

「・・・じゃあ、儀式の方は任せたわ。私は結界の準備をしてくるから」

 

「おう。ちゃんとやってくれよ?博麗の巫女」

 

「はい霊夢さん。お任せ下さい!」

 

 ひとまずはマリサの脅威が去ったんだし、いい加減こっちも仕事をしなきゃね。

 

 早苗と二柱に儀式を任せて、私は神社の参道を下る。

 

 ―――そもそも、嫁ってなんなのよ。まるでその言い方じゃあ、私が早苗の伴侶みたいじゃない。それに、まだ心を許したわけじゃ・・・

 

 私が参道を下っている間、何故か頭のなかでは、諏訪子が早苗に向けて言った、嫁自慢って部分が頭に引っ掛かっていた。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

「艦長、ご無事でしたか!」

 

 私が参道を下ると、そこには二つの人影があった。

 

 一つは白狼天狗・・・みたいな容姿をした海兵隊員、椛だ。もう一つの人影は、緑色をした海兵隊の装甲服(ミョルニルアーマー)を纏った2mぐらいの大男だった・・・この隊員が、エコーの言っていたコマンダーらしい。

 

「艦長、発狂したという同乗者は?」

 

「ああ―――マリサなら今霊沙のやつが相手をしてるわ。それより二人とも、ちょっと頼みたいことがあるの。ついて来て」

 

「イエッサー!分かりました!」

 

「了解です」

 

 私が命令すると、二人の海兵隊員は素直に命令に従って私の後に続いてくる。

 

 私は二人の海兵隊員を率いて、格納庫へと急いだ。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 ~〈開陽〉格納庫~

 

 

「では、我々はこの装置を該当の艦に貼ればいいということですね?」

 

「ええ、そうよ。私は〈春風〉と〈雪風〉に向かうから、椛は〈ブリュッヒャー〉と〈タルワー〉、チーフは〈ヘイロー〉に向かってこれを設置して」

 

「了解です。つまり・・・私が陣形の右側の2隻ですね」

 

「そうよ。んで私が左側の2隻、そしてチーフが艦隊先頭の艦ね。質問はない?」

 

 私は事の概要を二人に伝えて、仕事を説明する。札のことは、脱出に必要な装置と簡単に伝えてある。

 なにも難しい話ではない、この三人で、早苗の結界陣を構成する5隻の無人艦の艦橋に札を張りにいくだけだ。幸い椛とチーフの二人は、特に命令に疑問を持っていない様子だった。

 格納庫には暖気運転を済ませた三機の新型強襲艇、〈D77H-TCI ペリカン〉が待機しており、パイロットを務めるロングソード隊の準備も完了している。

 

「よし、それじゃあ・・・散開!」

 

「「了解(!)」」

 

 私の合図で三人は別れて、それぞれのペリカンに乗り込んだ。

 

「ロングソード、準備は出来ているわね?」

 

「はい、万全です」

 

「よし。それじゃあ、出しなさい!」

 

「了解。ロングソード1、発進!」

 

 私達の搭乗が完了すると、三機のペリカンは主翼の付け根と機体後部にあるスラスターを起動して、格納庫から飛び出した。

 

 宇宙空間―――事象揺動宙域内には、結界内でも宙域で生成されたと思われる小惑星っぽい物体が所々から流れてきたが、三機のペリカンのそれを難なく避けながら目標の艦に向かっていった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム~

 

 

 霊夢が去った自然ドーム内部では、守矢神社の三人による転移術発動のための儀式が粛々と行われていた。

 マリサは機を見てそれの妨害に向かおうとしているが、その試みの全てが霊沙の手によって阻まれていた。

 

「チッ・・・思った以上に、再起が早いな・・・こうも動けないように、壊したつもりだったんだけど―――」

 

「―――其が仇となったな。あのまま干渉してこなきゃ、目覚めることも無かったのに」

 

「あー、やっぱりそうなっちゃったかぁ。しくじったなぁ・・・それは残念」

 

 マリサと霊沙、二人の少女は互いに弾幕を放ち、避けながら言葉を交わす。しくじった、と言うマリサの表情は、心なしかどこか嬉しそうだ。

 

「だけどまぁ・・・何故未だにあれに肩入れする?キミからすれば、あれは憎むべきモノだろう?」

 

「・・・関係ないわ。"それ"は私の仕事の範疇じゃない」

 

「アハッ、今ちょっと素が出たね!」

 

「―――黙れ、この紛い物ッ!」

 

 マリサの挑発的な言葉と笑みに堪忍袋の緒が切れたのか、霊沙は遂に手札(スペル)を切る。

 

「神技『八方龍殺陣』!!」

 

 霊沙の周囲から、八角形の黒い結界が放たれて、日が落ちた黒い偽りの空に溶け込んでいく。直後、それを避けたマリサに向けて血のような紅色の弾幕の雨が降り注いだ。

 

「―――っと、危ない危ない。なんだ、弾幕ごっこでもしたいのか?にしては随分と無粋なこと」

 

「五月蝿い。大体今更、そんな余興に興じるつもりはない」

 

「ちぇッ、可愛いげのない―――それじゃあこっちも、そろそろ行かせて貰おうかしら!」

 

 マリサは一度霊沙から距離を取り、彼女と神社が軸線に乗るような位置にまで移動する。そして、懐から拳大の物体を取り出した。

 

 その物体を目にした霊沙は、瞳を大きく見開いて空中に停止してしまう。

 

「まさか、オマエ――――」

 

「これでも、喰らいな―――ッ!!」

 

 マリサが手にした物体―――八卦炉から、紫色のエネルギー光線が放たれた。

 

「・・・チッ」

 

 八卦炉からの砲撃を確認した霊沙は、瞬時に表情を下に戻すと、すかさず回避を試みる。しかし、射線上に早苗達が転移術のための儀式をしている博麗神社があることに気付き、回避を中断して時間の許す限り最大限の防御結界を展開した。

 

「ぐう・・・ッ!」

 

「っ、ハハハッ―――それに気づくとは、流石だよ。だけど、それでお前には―――」

 

 しかし彼女の結界にはものの数秒で皹が入り、砕けた先から押し寄せるエネルギー流の砲撃を彼女はもろに受けてしまう。霊沙にとって幸いにも砲撃は彼女の先に届くことはなかったが、エネルギー流を一身に受けた霊沙影響で所々巫女服が焦げた霊沙は一直線に、眼下の森へと落ちていった。

 

「・・・フッ、堕ちたか―――」

 

 マリサはその様子を、さも興が醒めたといったような瞳で眺め、霊沙が完全に落下したのを見届けてから神社へと振り返った。

 

「さて、と・・・それじゃあお仕事といきますか」

 

 一転して軽い雰囲気でそんな言葉を口にしたマリサはゆっくりと神社に向けて進んでいく。が、彼女の眼前を、一振りの細長い物体が横切った。

 

「―――!」

 

 その物体に驚いて、すかさずマリサは物体の飛来方向へと振り向いた。

 

 ―――そこには、鬼のような形相をした、無傷の霊沙の姿があった。

 

「博麗幻影、か」

 

 無傷の彼女の姿を見て、マリサが呟く。

 先程マリサが撃ち落とした彼女は、幻影の身代わりだった。

 

 無言で佇む霊沙の手に、マリサに向かって投げつけられた物体―――黒い日本刀が戻る。

 

「お前は、ここで殺す」

 

「ほぅ、やるか・・・この私を()()も」

 

 マリサの言葉の一部に反応したように、霊沙は一瞬苦虫を噛み潰したような表情を見せる。しかし直ぐに真顔に戻った彼女は、刀の鋒をマリサに向けた。

 

「―――目障りなのよ、あんた。いい加減、消えなさい!」

 

 霊沙がマリサにそう告げると、黒い刀は一瞬で弾け、残骸が筒状に飛び散る。その内側から、今度は真っ黒なお祓い棒が現れた。

 

(あ、ヤバ・・・ちと挑発しすぎたかな・・・)

 

 そのお祓い棒を見た瞬間、マリサは背筋に悪寒が走るのを感じた。が、既に時遅し。霊沙はその真名(スペル)を謳い上げる。

 

 

「―――宝具『博麗幻想郷(ロストファンタジア)!!』」

 

 

 瞬間、マリサの身体は黒い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「ふぅ―――これで、何とか―――」

 

 守矢神社の面々が執り行う儀式も遂に終盤に差し掛かり、博麗神社の境内からは天を貫くような光の柱が立ち上る。

 

「・・・早苗、あと一息だ。気を抜くな」

 

「はい―――っ、風よ・・・」

 

 共に儀式に集中していた神奈子の声に、早苗は力の奔流に呑まれそうになって失いかけた意識を取り戻し、術のための詠唱を紡ぐ。

 

 儀式も再終盤、遂に霊力の奔流が艦外に溢れ出し、五方向に向かって一直線に延びていく。

 

 〈開陽〉から溢れ出した霊力の柱は、事前に霊夢達が札を設置した5隻の艦に命中し、反射されて星形を描くように、他の艦へと延びていく。

 

「霊夢さん・・・行きますッ!!」

 

「―――総員、これより転移に入る。衝撃に備えて」

 

 札を貼り終え、早苗の護衛のために神社に戻っていた霊夢は、早苗の掛け声を受けて通信回線で全艦に指示する。

 一応彼女は札を貼り終えた後、乗組員達に転移のことは「サナダの新発明」という形で説明していたため、彼等は素直に艦長である霊夢の言葉に従って転移に備えた。(当のサナダを始めとしたマッドは霊夢達の力の存在を知っているので、この件については黙っていることを承認していた)

 

 

「――――大奇跡『大いなる旅立ち』!!!」

 

 

 全ての詠唱を終え、早苗が高らかに術の発動を宣言する。

 直後、五芒星の角から光が延び、陣を包み込むように円が現れる。その円から、透き通った霊力の奔流が溢れ出し、球状の結界を形成して艦隊全体を包み込む。

 

 そして結界の内部は、眩いばかりの青白の光に包まれた。

 






霊力供給シーンはえっち過ぎるので(R15の範囲内には収まります)別途、短編集に投稿します。投稿次第、告知します。もしかしたら後日本編にぶち込むかもしれません。その辺りなにか意見がございましたら感想等までお願いします。

以下、ちょっとした説明。


大奇跡『大いなる旅立ち』

早苗さんが発動した転移結界。円形に五芒星を描いた陣の中にある対象の物体を別空間に転移させる。かつて守矢神社を外の世界から幻想郷に転移させる際に使用され、今回は『紅き鋼鉄』を事象揺動宙域から転移させるために使用された。本来の早苗なら、艦隊一つを転移させるような規模でこの術を行使し得ないか、出来ても非常に難しいのだが、霊夢の膨大な、質の高い霊力の一部を受け取ったことで可能となった。




宝具『博麗幻想郷(ロストファンタジア)』

ランク:EX
種別:対界宝具
レンジ:1
最大捕捉:-

霊沙の持つスペルの一つ。詳細不明


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第七四話 一件落着

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・・・・・これで、転移は、完了です―――」

 

見事、転移術を発動させた早苗は、見た目にも分かるほど消耗している様子で、肩で荒く息をしている。

 

「よく頑張ってくれた。お前は暫く休みなさい」

 

「はい・・・それでは、後は・・・」

 

ふらり、と早苗の身体が揺らぐ。

 

糸が切れた人形のように倒れる早苗の身体を、神奈子が優しく抱き留めた。

 

「―――寝ているな」

 

「あれだけの技を使ったんだ。疲れているんだろう。あの巫女から貰った霊力も、殆ど使い果たしているみたいだからね」

 

神奈子と諏訪子の二柱は、やはり早苗のことが心配なのだろう。倒れた彼女を、二人で介抱している。

 

「―――サナダさん、こっちは終わったわ。外の様子はどう?」

 

―――早苗のことも気になるけど、まずはこっちの確認が先だ。ここまでやって脱出失敗なんて事態になったら本当に笑えないわ。

 

《ああ、艦長―――通常空間に出たことを確認した。全艦健在だ》

 

「そう―――良かった。成功したのね」

 

《うむ。では艦長、後で色々と聞かせてもらうぞ》

 

「うっ、分かったわよ・・・」

 

そうだ・・・一応建前はアイツの発明で脱出――――ってことになってたんだ。名前を使う代わりに術のことを色々話せって言われてたんだっけ。う~ん、どうやって話そう・・・

 

・・・サナダさんのことは後に回して、いまは早苗の様子を確認しよう。

 

「おお、巫女か。早苗なら、疲れて寝ているだけさ。しばらく寝かせておけば、そのうち起きるよ」

 

「・・・体調の方は、大丈夫なのね?」

 

「ああ、体調―――とはいっても、今は人の身体じゃないから私達にもよく分からんが、問題はない筈だ。一時的な消耗だからな」

 

「そう、良かった―――」

 

「ふむ・・・」

 

早苗なら、二柱が言うには大丈夫らしい。それなら安心できる。

 

・・・んで、あいつらの視線は何なのかしら。なんか良くないことを要求してきそうな気配なんだけど―――

 

「なぁ、博麗の巫女―――」

 

「・・・何よ」

 

「今回の件、私達も早苗に力を貸してやったんだ。それがなければ、この艦隊の脱出も不可能だっただろう」

 

「・・・そうね。礼なら言うわ」

 

「うむ。それはそれで受け取っておこう。だが―――」

 

あ・・・これは間違いない。なんか要求してくる流れだ。

 

「それだけでは些か足りないんじゃないかなー?実はね、この自然ドームのなかには私達の分社があるんだけど、それをこの神社に移して貰えたら嬉しいかなーって思うんだよね」

 

「・・・ついでに、私達も神社に住まわせろ。どうせこの神社に神は居ないのだ。別に私達が、祭神になったとしても構わんだろう?」

 

「な、何言ってるのよ!分社はともかく、ここは私の神社よ!第一あんたら、どうせ分霊なんだから戻ろうと思えばどうせ幻想郷の神社に戻れるでしょうが?」

 

「ほぅ、あくまでも受け入れないと・・・だが、この艦隊の軍神たる私に対して、敬意が足りないのではないか?霊夢"艦長"?」

 

「ぐっ・・・」

 

「それに、ここでは信仰がないとはいえ私は祟り神だぞぉ?いいのかな~放っといてもさ~?」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

こいつら・・・何かと思えば言いたい放題言いやがって―――それでもここは私の神社なんだから!乗っ取りなんて、この私が許すもんですか―――

 

「へぇ・・・抵抗するっていうのなら、この『ドキッ☆れいむとさなえの吸血えっち♡』を艦隊じゅうに公開しちゃうけど、いいのかなー?」

 

「あ・・・そ、それは・・・!?」

 

諏訪子が懐から取り出した一枚のビデオ・・・その表紙には私に迫る早苗の姿が印刷されていて―――中身は、言うまでもないだろう。

 

「あ"ーッ!!?あ、あ、あ・・・アンタ達、なんちゅうモン作ってんのよ!それに、いつの間に―――確かに結界で遮断した筈なのに・・・」

 

「フフン、甘いなぁ博麗の巫女。この諏訪子、大事な娘の初夜をみすみす見逃すとでも?このクロちゃん帽が誇る六四の機能が一つ、『早苗ちゃん監視アイ』からはどんな手を打とうとも逃れられないぜ?」

 

「くっ・・・ひ、卑怯よ・・・!」

 

な、何が『早苗ちゃん監視アイ』よ・・・!何なのよその変態じみた機能は・・・大体初夜って・・・あれはただの霊力供給、そんなんじゃないんだし―――ともかくこのチビ神、絶対許さないんだから―――!

 

「ん~良いねーその顔!いい顔だぐへっ!?」

 

「・・・その辺にしておけ、諏訪子」

 

私が諏訪子を睨んでいると、彼女の頭に拳骨が落とされた。・・・神奈子の拳だ。

 

「いったた・・・もぅ、何だよ神奈子・・・いいところだったのにさ・・・」

 

「ちとやり過ぎた。・・・で、そのビデオ、いつ造った?」

 

「へ?これは・・・その・・・アハッ☆」

 

「問答無用ッ!!」

 

「ま、待ってくれ神奈子、話せば分かギャァァァ!?」

 

・・・諏訪子は鬼のような形相をした神奈子に絞められて、すっかり伸びてしまった。うん、流石にあれはやりすぎよね。もう一柱に常識があって良かったわ。これで恥ずかしいビデオが拡散されることは無くなっただろう。

 

「―――済まん。諏訪子が迷惑をかけた」

 

「いや、別に私達いいわよ。どうせアイツにもアレをばら蒔く気なんて無かったでしょうし。・・・恥ずかしいのは変わんないけど」

 

「むぅ―――本当に済まん。アレの暴走癖は昔からのことだが、私も今回のあれは見抜けなかった。本当にいつあんなモノを作っていたのやら―――」

 

・・・そう、あのビデオ、こんな短時間でなんで用意できたのかしら。―――まぁ、あとで厳重に封印させて貰うけどね。

 

「それで、・・・件の話についてだが、どうする?」

 

「どうするも何も、好きにすればいいでしょ?幸い空き部屋ならあるんだし、その方が早苗も喜ぶだろうから」

 

「―――済まん。かたじけない」

 

「いいのよ別に。異変を起こしさえしなければね」

 

「異変、か・・・懐かしいな。ああ、ここでは最早そんな力はない。心配せずとも大丈夫だ」

 

「なら安心ね。とりあえず、分社は後で建て替えさせておくわ。それじゃ、そろそろ私は行くわ。いい加減、艦橋の方にも顔出さないといけないし」

 

「難儀だなぁ。昔のお前は、ただ縁側で茶を啜っていただけの不良巫女だったというのに」

 

「・・・余計なお世話よ。ああ、早苗のことは任せたわよ」

 

「うむ。心配無用だ」

 

倒れた早苗の面倒はあいつらに任せて、私は神奈子達を背にした。この後は航路の確認やサナダさんに付き合ったりしないといけないし、本当に忙しい。ああ、昔の私が懐かしいわぁ・・・。昔は縁側でぐーたらして、魔理沙とかの相手をしてれば良かったんだし―――あ、そういえばあの礼儀知らず、どうなったのかしら。ま、どうせ霊沙のやつが排除したでしょう。後で確認しておくか。

 

 

 

..................................

 

.........................

 

................

 

 

 

「・・・よう。そっちは終わったのか」

 

「ええ、お陰様で。んで、あいつはどうしたの?」

 

神社の参道を下っていた途中、上空から霊沙のやつが降りてきた。この様子だと、予想通りあの無礼者は吹き飛ばしてきたと見ていいだろう。

 

「ああ、アレなら殺したよ。存在そのものが不愉快極まりないからな。文字通り消し炭だから、骨すら残ってないだろう」

 

「・・・そう、殺したのね」

 

―――まぁ、ここまであっさり言われると少し思うところがない訳ではないけど、これで艦隊の治安は保たれたようだ。ああ、世話になっておきながら襲いかかってくるなんて、とんだ無礼者だったわね、アイツ。

・・・だけどアイツ、確か誰かに命令されたようなこと言ってたわね。何処の馬鹿かは知らないけど、この艦隊を狙っている組織が居るのだとしたら、そっちも警戒しておかないと。

 

「どうした?霊夢」

 

「いや―――あんた、アイツと戦っているとき、何か言われなかった?」

 

「・・・特に、何も」

 

「そう―――なら良いけど。確かアイツ、背後に組織がいるような言い回ししてたから、もしかしたらなんか聞き出せてないかと思ったんだけど・・・まぁ、期待するだけ無駄だったみたいね」

 

「チッ、どうせ私は戦うしか能のない奴さ。期待に応えられなくて悪かったねどうも」

 

「あ、いや、そうじゃなくて・・・アイツ、何度聞いても話そうとしないから、多分あんたにも話してないだろうなって意味であって・・・」

 

霊沙のやつがいきなり拗ね出したので、慌てて弁解の言葉を紡ぐ。素直に話したら、あいつは「ああ、そんなことか・・・」と納得したような台詞を吐いた。

 

「ハァ、紛らわしいんだよ全く・・・んで、艦長さんはこれからお仕事かい?大層なことで」

 

「そうよ。あんたと違って私は忙しいの。何なら書類整理ぐらい手伝ってくれたって―――!」

 

「え、ちょっ、お前―――!?」

 

霊沙との会話の途中、いきなり身体から力が抜けて、ゆらりと身体が倒れていく。

 

・・・視界が、黒くぼやけていく。思うように、身体に力が入らない―――。

 

私を呼ぶあいつの声が、どんどん遠ざかっていく。

 

 

 

そのまま私は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

―――ここ、は・・・?

 

ゆっくりと、瞼を開く。

 

知っている天井だ。どうやら、〈開陽〉の医務室らしい。

 

あれ・・・私、どうして・・・

 

―――ああ、確か、霊沙と話していた途中に倒れたんだっけ?でも、何で―――

 

「目が覚めましたか」

 

「シオンさん―――ええ、お陰様で」

 

私はよっと身体を起こして、シオンさんに挨拶する。彼女はいつもの白衣姿だったけど、表情は少しやつれているように見えた。・・・サナダさん達と事象揺動宙域の調査研究をしてたって話だから、それで寝ていないのかもしれない。その上で私の介抱なんかしてくれたんだから、相手がいくらこのマッド女医でも少しは申し訳ない気持ちになる。

 

「身体の方は―――疲労が溜まっていただけみたいね。暫く休めば回復する筈よ」

 

「・・・有難うございます」

 

疲労、か。早苗ほど消耗はしてない筈・・・と考えたけど、思えばずっと結界を維持してきたんだった。ならこの消耗も当たり前か。

 

「礼には及ばないわ。元々、これが本業な訳だし。ただ、少し厄介なことになっていてね・・・」

 

「厄介?何かあったの?」

 

「ええ。貴女が表向きサナダの発明と偽って、どうやってかは知らないけど事象揺動宙域から脱出したところまでは覚えてるわね?」

 

「ええ・・・」

 

「んで、厄介なのはその続きなんだけど、脱出した際に時間軸がズレたのか、あの宙域に居た間に外では1ヶ月以上が経過していたみたいなの」

 

シオンさんは、内容とは裏腹に淡々とした口調で説明を続ける。

 

時間軸がズレた、か・・・無理矢理脱出した弊害でしょう。多少位置座標や時間がズレるとは思ってたけど、まさかこんなにズレるとはね―――ってことは!?

 

「ちょっとシオンさん!スカーレットのあの二人―――」

 

「ああ、それなら艦長が寝ている間、コーディさんが連絡してくれました。いま、艦隊は彼等の本社がある惑星バルバウスに向かっている筈ですよ」

 

・・・私が寝込んでいた間に、全部解決済みって訳か。これだと、艦長としての面目が立たないわね―――。本当なら、彼等には私の口から伝えるべきだったのに――。

 

「・・・じゃあ、向こう側は私達が健在なことは把握しているのね?」

 

「ええ。私も通信には同席しましたが、彼等、事象揺動宙域の件を話しても半信半疑といった様相でしたよ。まぁ、当然の反応ですが」

 

「うう・・・ちゃんと報酬金、貰えるかしら」

 

「さぁ?社長令嬢を届けるのが遅れた分、さっ引かれる可能性もありますね」

 

「・・・だよねー」

 

そりゃあ・・・不可抗力とはいえ1ヶ月も遅れたんだから、先方痺れを切らしてるだろうなぁ・・・うっ、それを考えると会うのが辛いわ・・・

 

「―――んで、艦隊はいまどの辺にいるの?」

 

「確か、カルバライヤ・ジャンクション宙域でしたよ。今しがた、惑星バハロス付近の宙域に差し掛かったところかと」

 

「バハロスか・・・だとしたら本国行きのボイドゲートはもうすぐか」

 

「ええ。では艦長、話は変わるのですが・・・」

 

シオンさんはそう言うと、白衣に手をかけて、よいっと身体を私の方に乗り出してくる。

 

・・・その瞳は、獲物を前にした肉食獣のような、期待に満ちた眼光を湛えていた。

 

「な、何よ・・・」

 

「―――その身体、じっくり調べさせて貰えませんか?どうせサナダに全部話すんでしょう?なら、私にだって教えてくれても、構いませんよね?」

 

「な―――なんでそうなるのよ!大体脱がせる必要なんて無いでしょこの変態マッド!?」

 

シオンさんは何故か、その白い指先を這わせて、私の着物の襟元に手をかけた。ついでに、いつの間にか馬乗りされてるし―――

 

「あら?貴女、最近あの統括AIにお熱なようだし、てっきりそっちの趣味に目覚めたのかと思ったのだけど」・・違いましたか?」

 

「だ、誰が早苗に―――!」

 

・・・違う違う違う。断じて私にそんな趣味はない。そりゃあ・・・吸われるのは気持ちよかったけど、あれはそもそも勘定外だ!それに、寧ろあっちがやたらと懐いてくるだけで、私の方は何も、何も―――

 

「あら、本当?でも―――」

 

・・・シオンさんはその白い指で、私の顎にそっと触れた。

 

「今の貴女、とっても紅くなってますよ?」

 

「~~~!!?ッ!!」

 

その言葉が引き金になったのか、一気に羞恥心が込み上げてくる。・・・今の私は、外から見ればさぞ茹で蛸のような状態だろう。

 

・・・不覚にも、シオンさんの指先を早苗のそれと重ねてしまって、変な期待を抱いてしまった自分がいることが恥ずかしい・・・。

 

「ふふっ、どうやらそっちの気もあるみたいね。―――ねぇ、このまま私に委ねてみない?じっくり、調査してあげますよ・・・」

 

「だ、駄目っ―――そういうのは・・・」

 

・・・ベッドの下から出てきた拘束具に捕まって、手足を思うように動かせない。

 

シオンさんは恍惚に満ちた瞳で私を見据えながら、胸元のボタンを外していって―――

 

 

 

 

「そこまでですッ!!」

 

 

 

 

唐突に、声が響いた。

 

 

「な、何ッ!」

 

「霊夢さんは私だけのものです!悪徳女医科学者の手になんか渡しませんッ!!」

 

「さ、早苗っ・・・!」

 

ああ、良かった。これでとりあえず解放はされそうだ。

いまの私には、早苗のことが救世主のように見える。・・・所々、台詞が不穏ではあるのだけど。

 

「チッ、気付かれるのが早かったか―――!」

 

「霊夢さんを手籠めにしようとしたその狼藉、この東風谷早苗は見逃しません!さぁ、覚悟―――!」

 

早苗はビシッとお祓い棒を突き立てて、弾幕を生成していく―――ってそれ!この位置だと私も巻き込まれるって!ストップストップストップ!!!

 

「あ、ちょっとタンマ」

 

「問答無用ッ!!受けなさい、奇跡『白昼の客星』!!」

 

早苗が宣言したスペルが、真っ直ぐ私とシオンさんに向かって飛んできて―――

 

 

私の視界は、真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~カルバライヤ本国宙域・惑星バルバウス周辺~

 

 

 

「艦長、間もなくバルバウスです」

 

「う、うん・・・とりあえず、入港手続きを進めてくれる?」

 

「了解です」

 

事象揺動宙域から脱出した艦隊は、真っ直ぐこのバルバウスに向かっていた。目的は――スカーレットの令嬢を送り届けること。それは良いのだが・・・

 

「か、身体が痛い・・・」

 

「もぅ・・・大丈夫ですか霊夢さん。医務室ではしっかり休んでおかないと」

 

「だ、誰のせいだと思ってるのよ、全く・・・」

 

そう―――医務室の一件で早苗の弾幕で気絶させられた私の身体は、医務室に運び込まれる前より深刻な状態になってしまった。具体的には、全身筋肉痛みたいに身体がズキズキ痛む・・・

 

早苗ったら、「てへっ、やり過ぎちゃいました☆」なんて可愛い子ぶって誤魔化そうとするんだから、つい私も彼女を吹き飛ばしてしまった。・・・まぁ、助けてくれようとしたこと自体は素直に有り難いんだけど、何事にも限度ってもんがあるでしょう―――まぁ、そのときは反省していたみたいだから良しとしたけど、果たしてどうだか・・・

 

「・・・大体ね、あの変態マッドの巣窟で落ち着いて休めるわけないでしょ。ついでに神社も乗っ取られたし―――」

 

「む、乗っ取りとは何事ですか。神奈子様達はあそこをちゃんとした神社にしただけですよ!それに、霊夢さんのプライベートに干渉する訳でもありませんから!ええ、乗っ取りなんかじゃありません!」

 

早苗はぷいっと、顔を背けてしまう。

 

・・・私が境内に分社を置く許可を出した経緯は聞いているみたいだけど、やはり早苗はあいつらの味方らしい。―――幸い神奈子には常識があるから、変な改装とかはしないでしょうけど、問題は愉快な性格の土着神ねぇ・・・変なことしなきゃいいんだけど。

 

それに、早苗は単体では無害なんだけど、あの二人が絡むとなんか異変でも起こしそうだし・・・杞憂であって欲しいわね・・・

 

「むー、そこまで言うなら、新しいプライベートルームでも作っちゃいますか?幸い空き部屋なら幾らでもあるんですし」

 

空き部屋かぁ・・・そういえば、未だにこの艦、最低稼働人員で動かしているようなもんだからねぇ・・・頼もうかしら、と言おうとしたところで、早苗が「霊夢さんと二人っきりのプライベートルーム・・・あんなことやこんなことが・・・ぐへへ」なんて呟いてるのを聞いちゃったから、この話は無かったことにしよう。うん、私は何も聞かなかった。

 

・・・やっぱり早苗単体でも要注意ね。

 

「いや、止めにするわ。やっぱり神社の方が落ち着くし。あの二人がいても、私にちょっかい出してこないならそれで良いわ」

 

思えば、前世でも神社には妖精や小鬼に居着かれたり、しょっちゅう魔理沙が転がり込んだりしていたんだから、居候の一人や二人、問題ではないか。

 

「そうですかぁ・・・ちょっと残念です。でも、霊夢さんと御二柱が一つ屋根ってことは、実質私達はカップルも同然・・・」

 

―――やっぱり早苗は危険だわ。全く、前世ではここまで言うような危ない娘ではなかったのに、どうしてこうなったのかしら・・・

 

 

.......................................

 

...............................

 

......................

 

 

~惑星バルバウス・宇宙港~

 

 

【イメージBGM:東方紅魔郷より「魔法少女達の百年祭」】

 

 

・・・まぁ色々とありましたが、私達は無事に宇宙港へと辿り着くことができました。これから偉いさんとお話すると思うと気が滅入ります。まる。

 

 

「―――それでは、私達はこれで」

 

「ええ。短い間だったけど、お疲れ様。縁があれば、またどこかで会いましょう」

 

さて、宇宙港に着いた私達だけど、ここであの二人とはお別れだ。

あの二人―――蓮子さんとメリーさんはそもそも別の0Gドックだし、航路が別れるのは必然だ。

 

それにあの二人、乗ってきた駆逐艦こそヴィダクチオ旗艦に取り付いていたお陰で今も手元に残っているけど、ヴィダクチオ宙域には彼女達の工作母艦が取り残されているって話だし、早急に戻る必要があるのだと言う。多少名残惜しくはあるけれど、残念ながらここでお別れだ。

 

―――別にメリーさんが紫に似ているからって、寂しいわけじゃないんだからね・・・

 

「はい。こちらこそ、有難うございました。それに、こんなに頂いてしまって・・・本当に良かったんですか?」

 

「ええ。あのマッド共がいいって言うんだから、別に良いんでしょう。私は別に構わないし」

 

「そうだよメリー。貰えるモンは貰っておかないとね!」

 

それで彼女達には、あのマッド共からの厚意という形で様々な研究資料やデータ、希少な研究材料なんかが幾らか手渡されていた。私にとっては別に彼女達にあげても懐が痛むわけでもないし、協力の対価にもできるのでそのまま渡させていた。彼女達も喜んでいるみたいだし、あれで構わないでしょう。

 

「蓮子はいつも通りねぇ・・・では、有難うございました。このご厚意は忘れません」

 

「いやいや、そんなに畏まらなくても・・・ま、とりあえずは一件落着ね。それじゃあ、また」

 

「はい―――では、また」

 

「お世話になりました」

 

「ええ、それじゃ」

 

私は彼女達と別れて、互いに別々の方向へと向かっていく。

宇宙は広いし、また会えるなんて可能性は低いだろうけど、きっとどこかで航路が絡むときがあれば、また会うことになるでしょう。私には、そんな気がした。

 

 

「あ、霊夢さーん!例の件、終わりましたよ!」

 

「お疲れ様、早苗それで、どうだった?」

 

蓮子さん達と別れたらところで、早苗が人混みを掻き分けながら私のもとに駆け寄ってきた。その後ろには、コーディの姿も見える。

 

「はい!それはもう物凄い大収穫ですよ!なんと驚くことなかれ―――6万Gで売れましたッ!!」

 

「よ、6万!?凄いじゃない!フフ・・・これで暫く、お金には困らないわね!」

 

さて、早苗と話していることであるけれど、6万というのはあのリサージェント級戦艦の売却額だ。

 

中身はまだ機動歩兵による"掃除"の痕が残っているし、何よりワープ機関―――ハイパードライブは機密保持のため破壊したからそこまで高く売れるとは思っていなかったけど、やはり図体がでかいだけあって単純なスクラップでもかなりの値がついたみたいだ。

ちなみに、神社の裏にある供養塔の大きさが二倍になった。

 

ふふふん、このお金、どうやって使おっかなー♪

 

「リサージェント級は全長3000mにも及ぶ巨大艦だ。それに遺跡由来のレア物と来たら、ここまで値がつくのも当然だ」

 

「あ、コーディ。お疲れ様。私がいない間は苦労かけたわね」

 

「いえ、お気になさらず。それが私の任務ですから。では、彼女達を降ろしてきます」

 

「ええ、任せたわ」

 

コーディさんはそう言うと、〈開陽〉を止めたドックの方へと戻っていった。―――レミリアとフランを呼んでくるのだ。

 

あんなことが立て続けに起きた訳だし、宇宙港についたからといってすぐに彼女達を下ろすのは流石に気が引けた。なのでまずは腕利きの海兵隊員を何人か予定進路上に配置して、事前に安全を確認して貰っている。これ以上、あの二人に危害を加えられる訳にはいかないからね。流石にもう一度襲われたりなんかしたら、今度こそ逆に違約金を請求されてしまうかもしれない。

 

・・・程なくして、〈開陽〉を止めてある方角から足音が聞こえてきた。それも、ザク、ザクと非常に規則整った、力強い足音が―――ん?ちょっと待って。

 

「あの・・・霊夢さん?あれって―――」

 

「ええ。流石にちょっと、やり過ぎじゃないかしら―――ねぇ・・・」

 

その集団の中心にはレミリアとフランに、メイリンさんとサクヤさんも居るのだが、問題はその取り巻きだ。

 

そこには、フルで装甲服を着込んだ一個小隊の海兵隊員達が、彼女達を取り囲みながら規則正しく行進している姿があった。・・・流石に公共の宇宙港で堂々と火器を携帯してこそいないけど、姿が姿なだけあって悪目立ちしすぎている。・・・銃こそ堂々とは携帯していないけど、代わりになんか犯罪者制圧用の棒みたいなもの持ってるし・・・

 

その異様な集団は、私の前まで来ると一斉に立ち止まって敬礼した。

人がいる中で恥ずかしいけど、一応私は彼等の上司なので、ちゃんと答礼してあげた。

 

「海兵隊スパルタン小隊ブルーチーム、コマンダー・チーフ分隊長です。護衛対象をお連れしました」

 

「そ、そう・・・有難う。さ、は、早く行きましょう。あまり止まっている訳にはいかないし」

 

「了解です。さ、中へ。・・・総員―――進め!」

 

私と早苗がコマンダーに促されて隊列の中央に入ると、彼はそれを確認して再び隊列を行進させた。

 

「霊夢艦長。今回はどうも、有難うございました」

 

「本当に、お嬢様達を助けて頂いて・・・報酬の方は期待して下さい!」

 

「いや、こっちだって・・・特に最後のあれでだいぶここに来るのが遅くなってしまったし―――でも、お礼なら受け取っておくわ。それに、彼女達も無事で良かった―――」

 

隊列の中に入るや否や、サクヤさんとメイリンさんからお礼を言われた。

・・・事象揺動宙域に入って、脱出作戦を考えていた頃から今まで会う暇もなかったし、久し振りに会ったような感覚だ。

 

ただ、その事象揺動宙域のせいで彼女達を送り届けるのが遅れてしまったのは、ちょっと私のミスだったかな・・・

 

「あ・・・霊夢さん」

 

「あ、あはは・・・御免なさいね、ちょっと悪目立ちしすぎる護衛で」

 

隊列の中に入ると、サクヤさんに手を繋がれたレミリアに呼び掛けられた。案の定、彼女はとても気恥ずかしそうだ。

 

「ううん、大丈夫よ。この人達、全然怖くないし。むしろ可愛いわ!」

 

「「か、かわいい・・・(ですか)!?」」

 

レミリアが発したちょっとした爆弾発言を前に、思わず早苗と一緒になって驚いてしまった。か、格好いいなら分かるんだけど、フルアーマーの海兵隊員を可愛いって・・・

 

「フフッ、ちょっと変わった慣性でしょう?お嬢様は」

 

「そ、そうみたいですねぇ・・・アハハ」

 

「うー、べつに変わってないわ」

 

サクヤさんが頬を緩めて私達の思考を肯定すると、レミリアはむーっと頬を膨らませて彼女を見た。その仕草は、年相応に可愛らしい。

 

「あっ、お姉様ばかりずるいわ!」

 

私達とレミリアが話しているのを見て、メイリンさんに手を繋がれていたフランが駆け寄ってくる。そして、強引に私の手を繋いだ。

 

「ふ、フラン?」

 

「ああ―――妹様なら今まで構ってもらえなくて寂しかったみたいですから、暫くそうさせてやってくれませんか?」

 

「うう・・・メイリンさんが言うなら―――」

 

「えへへ・・・」

 

「フフッ、霊夢さんったら、お姉ちゃんみたい」

 

「―――あんたは一言余計よ、早苗」

 

メイリンさんに頼まれて、フランにはそのまま手を繋いだままにした。なにが嬉しいのか分からないけど、フランは終始ご機嫌みたいだ。

 

「霊夢さん霊夢さん、お姉さまを助けてくれてありがとー!」

 

「あら、どういたしまして。もう大丈夫だからね。レミリアも、身体は大丈夫なのかしら?」

 

「うむ、大丈夫だぞー。あの医者が良くしてくれたからね!」

 

「ええ―――お嬢様の容態も、サナダ殿に渡された薬を飲ませてからはそれはもう劇的に改善しました。彼等の話ではウイルスはもう残っていないということでしたから。―――有難うございます」

 

「いや、それは私がしたわけじゃないし―――でも、無事で良かったわ」

 

レミリアが無事でいてくれたことは、本当に良かったと思っている。彼女はあの吸血鬼とは違ってただの子供だ。私達の不注意でトラウマものの経験をさせてしまったけれど、この様子なら、きっと立ち直れそうね。

 

―――彼女からも、時折あの吸血鬼みたいなカリスマを感じるし。さて、将来はどうなることやら・・・

 

 

 

私達は海兵隊員に囲まれて、周囲の視線すら忘れながら、暫し談笑に興じていた―――

 

 

 




これで六章も完結です。次回からは、久し振りに原作回帰となります。

レミィ達の出番がやや少なかったと感じられるかもしれませんが、彼女達の見せ場は原作青年編の時期なので・・・そこまで行くのにいつまでかかることやら(遠い目)

そしてちょっとした予告ですが、挿絵欄に「大戦艦フソウ」のラフイラストを投稿しました。気になりましたらご覧下さい。

この先ちょっとした裏話

――――――――――――――――――――

この六章は構想初期からありましたが、当初は単に友民党モドキを霊夢ちゃんがぶちのめすだけのお話でした(笑)そして再初期の設定では、レミリアがゼーペンスト、フランがヴィダクチオに囚われているというものでした。
途中の見直しで霊沙の閑話やレミフラ周りの設定変更がありましたが、その段階ではレミフラのどちからと一緒に霊夢ちゃんか早苗さんのどちらかも誘拐されるプロットがありましたが、他章に比べて長くなりすぎ、時間も取られ過ぎるために断念しました。ここはこの章を書き始める最後まで悩みました・・・(笑)

このまま原作少年編ラストまで突っ走るので、今後ともよろしくお願いします。チュートリアルはやっとそこで終わりです!

原作は青年編が実質本編・・・(白眼)


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第七章――厄災、来冦
第七五話 赤色の城


漸く長きに渡ったチュートリアルは終わりです。ここからが本番です。


 

 

 ~惑星バルバウス・スカーレット社本社~

 

 

 宇宙港でレミリア達と合流したあと、私達はそのまま軌道エレベーターを降りて地上へと向かった。流石に首都というだけあって、地上の街は以前見たカルバライヤ・ジャンクション宙域のどの惑星よりも発展しているように見えた。今回は特に街へ向かう用事もないので、そのまま地図を基にスカーレット社の本社を目指す。

 

 そして巨大な本社ビルについた私達は、事前にあっち側が手配していたのか、すんなりと中へ通された。ビルの外観こそ近代的な見た目だったか、内装は西洋の城を彷彿とさせるレトロな雰囲気だった。・・・流石に紅魔館ほど赤だらけではないが、赤を基調とした内装は、貴族の居城のような雰囲気を感じさせられた。

 

 ビルの中に入った私達は、簡単なチェックを終えると応接室のような部屋へと案内された。

 中に入ると、部屋の奥には黒いスーツを着込んだ、白髪の髭を蓄えた中年の男性が佇んでいた。

 

「「お父様っ!」」

 

 その人物の姿を目にした途端、レミリアとフランは飛び付くように彼の下へ駆け寄る。・・・彼女達の反応からして、どうやらこの人物が社長らしい。

 

「おお、よく無事だったな、二人とも。済まないね、怖い思いをさせてしまっただろう?」

 

「ううん、大丈夫よ。霊夢さん達が助けてくれたもの」

 

「何度もあの人が悪いやつらを追い払ってくれたから、私達は全然大丈夫よ!」

 

「ほう、それは良かった。さぁ二人とも、彼女達にもう一度お礼を言っておきなさい。父様は、これから大事な話があるからね」

 

「はいっ!」

 

 レミリア達は彼女達の父親と話終えると、彼の言葉に従って、私の下へと戻ってきた。

 

「あの・・・霊夢さん・・・」

 

「「い、今までありがとうございましたっ!!」」

 

 ほんのりと頬を赤くして、レミリアとフランが改めて礼を告げる。

 

「二人とも、今までよく頑張ったわね。私はこれからあんた達のお父様とお話があるから、ちょっと席を外してもらえるかな?」

 

「あ・・・はいっ!」

 

「今まで有難うね、霊夢さん!」

 

「さ、お嬢様、妹様。こちらへ」

 

 レミリアとフランは、礼を言い終えるとサクヤさんに連れられて、大人しくこの部屋から退出した。やっぱり素直な子供は良いわねぇ。あっちの面倒くさい吸血鬼とは

 雲泥の差だわ。

 

 さて、ここからが本題だけど・・・

 

「では、初めまして。お話は聞いていたと思いますが、0Gドックの博麗霊夢です。んでこっちが副官の早苗に、海兵隊員のチーフです」

 

 この社長とは初対面なのだから、まずは自己紹介だ。一応目上の人だし、勿論敬語で。ついでに同伴の部下二名も紹介しておく。

 早苗とチーフが礼を終えると、先方も口を開いた。

 

「うむ。わが娘達の救出の件、大義であった。私はこのスカーレット社を率いる社長、ヴラディス・D・スカーレットだ。宜しく」

 

 スカーレットの社長さん・・・ヴラディスさんは席を立つと、私に右手を差し出す。私はその手を取って、彼と握手を交わした。

 間近で見ると、ヴラディスさんの身体はスーツの上からでも分かるぐらいよく鍛えられていて、ビジネスマンというより武人という印象を抱かせた。この職につく以前は、色々やっていたのかもしれない。

 

「こちらこそ。色々あったとはいえ、お嬢様方を送り届けるのが遅くなってしまい、誠に申し訳ありません」

 

「いや、そなたらが謝る必要はない。全てはわが愛娘に手を出した悪党共の責任だからな。それに、事象揺動宙域のデータ、見させてもらったが実に興味深いものであった」

 

「有難うございます」

 

「ふむ、ではそろそろ、本題といこう。そちらにお掛けなさい」

 

「はい。失礼します」

 

 ヴラディスさんに促されて、私達は部屋のソファに腰掛けた。ヴラディスさんはテーブルを挟んだ対岸の椅子に腰掛けて、懐から一枚のデータプレートを取り出す。

 

「まずは、娘達を救出した礼だ。ここに、4万Gのマネーカードと、わが社が開発した新型戦闘空母の設計図がある。是非とも、受け取って欲しい」

 

「よ、4万・・・」

 

「それに、設計図まで―――」

 

「多少の遅れはあったとはいえ、それはそなたらの責任ではないようだからな。ならば、正当な報酬を払うというもの。なに、娘達の価値を考えればこれでも足らんと思っているのだが・・・」

 

「いえ、有難うございます。私達には充分過ぎるほどです。では」

 

 私は差し出されたマネーカードとデータプレートを受け取り、懐に仕舞う。本音ではもう少し欲しいところだけど、この辺りが相場だろう。特に新型艦の設計図など、この手の会社からすれば最大級の企業秘密だ。それを渡されたとあれば、この辺りで手打ちにするべきだろう。それに、影響力のある人物の前なのだから、あまり不用意な態度も取れない。もう、昔とは違うのだから。

 

 

「正当な労働には正当な対価を。我が社のモットーだ。では次の話に参ろうか」

 

「次・・・ですか?」

 

 次の話、という言葉に反応して、私はヴラディスさんに尋ねる。本題の報酬の話はもう終わったのだから、私達との関係性もこれで終わりだと思うんだけど・・・

 

「・・・私達が事象揺動宙域から出るまでの一ヶ月間に、なにか憂慮すべか情勢の変化でもあったのですか?」

 

 なにか思い当たる節があったのか、私に変わって早苗がヴラディスさんに尋ねた。彼は、それを肯定するように頷く。

 

「うむ。その通りだ、お嬢さん。君達が丁度、あの偏屈な宗教野郎と戦っている間、我々カルバライヤとネージリンスの間で戦争が起こったのだ」

 

「せ、戦争・・・!?」

 

「ああ、戦争だ。アーヴェストと呼ばれる未開拓宙域を巡り、我等と奴等は緊張を深めていたのだが、遂に奴等の軍艦が我々の移民船に向け発砲したのだ。それが引き金になり、戦争が勃発した」

 

 戦争とは、何とも物騒な話ね・・・カルバライヤとネージリンスの不仲は聞いていたけれど、まさかこんなタイミングで戦争になってるとは・・・

 

「成程。ということは、私達にカルバライヤの傭兵となれ、と仰りたいのですね?」

 

 こんなタイミングで重要な話となれば、もうそれ以外に思い付くものなどないだろう。既に海賊退治を通して私達の実力は知れ渡っているのだ。これほどの艦隊を、戦力として欲しがらない訳がない。

 それに戦争となれば、普段はお目にかかれない正規軍のフネを合法的に鹵獲し放題じゃない・・・ぐへへっ。

 

「うむ・・・そなたらの帰還が一月早ければ、そう言いたかったのだがのう・・・」

 

 ・・・だが、ヴラディスさんの話とは、どうやらそれではないらしい。なら、話とは一体・・・

 

「実はな、この戦争・・・つい数日前に終結したのだ。戦争などという贅沢を味わっている暇は無くなった、という事だ」

 

「戦争をやる余裕が無くなったとは・・・一体何があったのですか?」

 

 ヴラディスさんの意味深な言葉に反応して、早苗が彼に尋ねた。戦争に勝った負けたのではなく、戦争をやる暇がなくなったとは、一体どういうことなのだろうか。

 

 

「つい、一週間前のことだ。エルメッツァの艦隊が、謎の勢力と接触して壊滅した」

 

 

 

 ~小マゼラン雲郊外宙域~

 

 

 霊夢達が事象揺動宙域を脱出する一週間ほど前、エルメッツァ艦隊凡そ5000隻は、外宇宙より接近する謎の勢力とのコンタクトのため、本国から約20光年離れたこの宙域に集結していた。

 エルメッツァと謎の勢力―――ヤッハバッハの両者はコンタクトに成功し、この宙域にて会談を行う手筈となっていた。会談位置に指定された両陣営艦隊の中間点に向けて、互いにの旗艦が発進する。

 

「言語変換ジェネレーターの交換は済んでいるな?」

 

「ハッ。データ形式はやや異なっていましたが、問題なくコンバートできました」

 

「うむ。どうやら、最低限度の文化水準はあると見た」

 

 エルメッツァ側の大使として艦に乗り込んでいた軍政長官ルキャナン・フォーは、言語ジェネレータの稼働状況を部下に尋ねていた。言語も異なる異民族同士の接触なのだから、意志疎通を円滑なものとするためだ。

 言語ジェネレータの変換が問題なくなされたことを受けて、ルキャナンは相手の艦隊を見下し気味に評する。ここはエルメッツァのホームグラウンドとも言うべき宙域であり、艦隊の整備、補給も万全だ。対して相手は長い距離を経てきた遠征軍。整備面でも士気の面でも、エルメッツァ側が圧倒的に有利であら、少なくとも負けることはない・・・ルキャナンを始め大多数の人間はそう思っていたのだが、その予想は数分もしないうちに覆されることになる。

 

「もうじき、レーダー範囲に入ります。それから30秒後にコンタクトの予定」

 

「うむ」

 

 部下の報告と共に、ルキャナンの目には、相手の艦の輪郭がしだいにはっきりと映ってきた。その大きさを見て、ルキャナンは絶句する。

 

「何と・・・!?これほどまでに巨大な艦とは・・・」

 

「・・・ヤッハバッハに対する認識を、改める必要があるのでは?」

 

「むぅ・・・」

 

 流石にルキャナンといえど、目の前にある自艦―――グロスター級戦艦を遥かに上回る体躯の巨艦を見せつけられては認めざるを得ない。ヤッハバッハの戦艦は、姿こそ水上艦じみた巨砲を持つ前時代的なものであるが、全長にして800mクラスのグロスター級を倍以上も上回る巨艦である。これだけのものを見せつけられては、いやがおうにも警戒せざるを得ない。

 

 ただ、ルキャナンは内心部下の言葉に同意しつつも、明確に返答せず言葉を濁した。彼ほど立場のある人間があっさりと相手の優位を認めてしまえば、艦隊の士気にも関わりかねない問題だからだ。それを認識しているからこそルキャナンは軽く唸る程度に留めたのだが、彼が振る舞いに気を使おうが使かわまいが、同じようにヤッハバッハの戦艦を間近で見たクルー達には早くも不安の感情が広がり始めていた。

 

 

 

 

「ようこそ、我がヤッハバッハ先遣艦隊旗艦、ハイメルキアへ。艦隊総司令はこちらでお待ちです」

 

「は・・・」

 

 コンタクトのため、ヤッハバッハ側の旗艦に乗り込んだルキャナン達は、案内らしき男に続いて艦内を進む。その間にも、少しでも多くの情報を持ち帰ろうと、ルキャナンは艦内の様子を細かく目に留めた。

 

 彼等がいま歩いている通路も、エルメッツァ艦の倍近くあるサイズであり、普段の居住性はおろか、戦闘時などに際しても物資や人員の運搬で有利であろうことが予想された。

 

 廊下を進み、何度かエレベーターを乗り換えた後、一同は会議室のような場所へと案内される。恐らくは、ここで会談を行うのだろうとルキャナンは考えた。

 

 会議室のテーブルには、中央に金髪の美青年が腰かけており、傍らには副官らしき人物の姿もあった。その周りには、他にも高官らしき人物の姿が見える。

 ルキャナン達が入室したのを確認すると、美青年は立ち上がり、ルキャナンと向かい合った。

 

「エルメッツァの全権大使、ルキャナン様ですな。私はライオス・フェムド・ヘムレオン。ヤッハバッハ皇帝ガーランド陛下より、小マゼラン先遣艦隊総司令の役を仰せつかっております」

 

「これは・・・」

 

 ライオスと名乗った青年の自己紹介に、ルキャナンは目を見開くほど驚かされた。理由は彼の外見年齢と役職の齟齬などではなく、彼が非常に流暢なエルメッツァ語を話したことである。

 それにはルキャナンだけでなく、彼に付き添う部下や護衛官も驚かされ、早くも情報戦で出し抜かれてしまっているのでないかと危惧された。

 

「これは驚きましたな。随分と流暢なエルメッツァ語を話される」

 

「ああ、これは彼女―――ルチアから教わったものです」

 

「ルチア?」

 

 エルメッツァ側の人間の心情を代弁するかのように、ルキャナンが口を開く。

 だがライオスはしたり顔で、意味深な笑いを浮かべて答えた。

 ライオスの言葉を受けて、改めてルキャナンは彼の周囲に視線を向ける。そして彼は、単にライオスの副官だと思われた人物が、実は自分が見知ったものであることに気付いた。

 

 彼の視線を向けられたことに件の人物も気付いたようで、彼女もルキャナンに向かって口を開いた。

 

「ルチア・バーミントンです。・・・かつてツィーズロンドのアカデミーで主任を勤めておりました。軍政長官にも何度かお会いしたことがあるのですが・・・覚えていらっしゃいませんか?」

 

「まさか・・・消息不明となっていたエピタフ探査船の!?」

 

「はい。今はライオス様に拾われて、お世話になっております」

 

「っ・・・!?」

 

 彼女の容姿と名前から自身の記憶を辿っていたルキャナンは、そこで彼女の正体に思い当たり吃驚した。

 彼女―――ルチアは数ヶ月前に行方不明となったエピタフ探査船の長であり、エルメッツァの事情にも精通している。探査船がヤッハバッハに破壊されたのか、はたまた何らかの原因で遭難したところを救助されたのかは定かではないが、彼女ほどの人物がヤッハバッハに救助されているという事実は、エルメッツァに関する相当の情報がヤッハバッハの手に渡ってしまっていることを意味していた。加えて、彼等からすれば単なる漂流者に過ぎない筈のルチアが艦隊総司令の副官などに収まっていることを勘案すれば、恐らくは知っていることは全て話したのだろうと推察された。

 

 その可能性に勘づいたルキャナンは、人知れず冷や汗を流す。

 

「彼女のお陰で、我々は既に貴方がたエルメッツァを始めとした小マゼランの政情、国勢などを把握しております」

 

「くっ・・・」

 

 自身の予測が悪い方向に的中してしまったことに、ルキャナンは苦虫を噛み潰したような表情になる。だが、ライオスが次に放った一言で、さらに彼は驚愕させられた。

 

「その上で申し上げる。エルメッツァ政府は直ちに我々に無条件降伏し、我々の下へ入っていただきたい。当然現政府は解体し、ツィーズロンドに我々の統監府を置く。勿論、軍は我々の指揮下ということになります」

 

「な・・・何を言われるか!?そんな条件が、果たして飲めるとでも!?」

 

 突然の降伏勧告である。

 ファーストコンタクトの時期からすればあまりに非常識であり、またその内容も荒唐無稽な、到底飲めるようなものでもなかった。

 

 戯言ともいえるようなライオスの降伏勧告を耳にして、当然の如くルキャナンは激昂する。

 

 そんなルキャナンを前にして、ライオスはどこ吹く風とばかりに、既に勝ち誇っているかのような口調で、ルキャナンに言葉を返した。

 

「確か、そちらの艦船数は3万ほどだったかと」

 

「・・・・・・」

 

「そちらの宙域レーダーでは全貌と捉えきれていないでしょうが、我が先遣隊の総数は――――――12万です」

 

「ッ!?」

 

 12万、というライオスが口にした数字に一瞬動揺するルキャナンであったが、どうにか外見上はポーカーフェイスを保つことに成功する。すかさずルキャナンはライオスに言い返すが、その声は、どこか震えていた。

 

「そのようなハッタリを・・・」

 

「ハッタリだとお思いならば、現実にその力でお見せして差し上げるまで。――――――元々、我々ヤッハバッハはそちらの方が得意なのでね」

 

 ルキャナンの言葉にも一切表情を変えることなく、ライオスはさも当然といった表情で言葉を返す。

 それはいやがおうにも、彼の言葉がハッタリなどではなく真実であると、ルキャナンに感じさせるには充分であった。

 

「くっ・・・・これ以上の交渉は、最早無意味ですな!失礼する!!」

 

 ルキャナンは目を見開き、最後の威勢とばかりに交渉の席を蹴って退出した。この事実を少しでも早く本国に伝えなくてはと道を急ぐが、そんなルキャナンを、怒らせた本人であるライオスが呼び止めた。

 

「ルキャナン大使」

 

「・・・なにかな」

 

「ズィー・アウム・ヤッハバッハ―――」

 

「・・・?」

 

 ライオスに呼び止められ不機嫌そうに振り返ったルキャナンだが、彼の口から出た言葉の意味が分からず困惑する。

 

「我々はヤッハバッハである、という意味です」

 

「・・・それ以上の説明は要らぬ、と?」

 

「ふふっ・・・」

 

 ルキャナンの問いにライオスは不敵な笑みを浮かべ、静かに腰を下ろした。

 ルキャナンはそんなライオスを睨み付け、振り返って今度こそ退出し、自らの乗艦へと戻る。

 

 

 両軍の旗艦がそれぞれの艦隊に戻ると同時に戦火の火蓋は切って落とされ、最終的に質・量で劣るエルメッツァ艦隊は総数5192隻のうち半数にも及ぶ艦を開戦から僅か数分で喪失。数時間の後に撤退するまで、実に9割強もの艦船を失い敗走した。

 対するヤッハバッハの損害は文字通りゼロであり、赤子の首を捻るような勢いでエルメッツァ艦隊を殲滅したヤッハバッハ艦隊は、その凶悪な矛先を彼等の本拠地たるエルメッツァ本国へと向けて、再び進撃を開始したのであった・・・・・・

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「そ、そんな事が・・・」

 

 予想以上に早い、ヤッハバッハの来冦とエルメッツァ艦隊の壊滅に、思わず言葉を失ってしまう。いや、予想以上に早いのではない。―――私達が、事象揺動宙域で足を取られたが故に、彼等の進軍が早いように見えただけだ。

 ヴラディスさんが言ったもう一つの重要な話とは、恐らくこのことなのだろう。

 

「―――ヤッハバッハ、と名乗るその勢力は、現在小マゼランよら18光年の位置にいる。一月もすれば、忽ち小マゼランに辿り着いてしまうだろう」

 

 現在の戦力では自治領の一つ二つを潰せるぐらいには強力な私の艦隊だけれども、流石にヤッハバッハと正面から渡り合って打ち破れるだけの力は有していない。・・・本来なら、奴らが攻めてくる前にこの銀河をトンズラするつもりだったけど、足止めを食らったせいでその準備も碌にできていないのが現状だ。・・・さて、どうする?

 

「―――さて、現状は理解して貰えたかな」

 

「それはもう、嫌なほどに」

 

 まさかこんなタイミングで奴らが攻めてこようとは・・・あいつらに捕まれば私達の生存権なんてあって無いようなものだし、何とかして艦隊を逃がしたいところだけど・・・

 

 

「では、私から一つ、君達に頼みたいことがあるのだ。―――娘達を逃がす護衛を、引き受けて貰いたい」

 

 

 ヴラディスさんは真剣な眼差しで、頭を下げて私達に頼みこんだ。・・・態々航海時間など底が知れている新参の私達にそんなことを頼むのだ、よほど真剣と見て間違いないだろう。―――やはり、自分の娘となれば可愛いものでしょうからね。

 

「・・・分かりました。ですが、理由をお聞かせ下さい。此方も戦火には出来るだけ巻き込まれたくはないですから、今すぐにでも飛び出したい気分なんです。そこを抑えて護衛を受け持つというからには、クルーを納得させるためにも是非ともそれを教えていただきたいのですが・・・」

 

「―――うむ。良かろう」

 

 ヴラディスさんは少し考え込む仕草を見せると、私の頼みを承諾してくれた。

 

「エルメッツァの主力艦隊が壊滅し、我等とネージリンスも戦争で痛手を受けている以上、奴等に対抗する力はない。奴等の統治が如何様なものかは知らんが、少なくとも現体制は破壊するだろうよ。そして我等は、現体制下で決して少なからぬ利益を得ておる・・・後は分かるな?」

 

「ヤッハバッハによる取り潰し、ですか」

 

 私がそう答えると、ヴラディスさんは肯定するように頷いた。

 

「現体制・・・特に軍政と深く結び付いている我がスカーレット社は、奴等の占領統治にとっては頗る目障りなものとなろう。何せ我等は武器商人だからな。ゲリラを潰すなら、先ずはその元締めから、という訳だ」

 

 ・・・成程。つまり、スカーレット社のような被占領地の軍事企業は反ヤッハバッハ派に武器を売る恐れがある以上、積極的に吸収、解体するという訳か。・・・だけど、そこでどうあの二人が関わってくるのだろうか。

 

「そこで、だ。―――悲しいことに、奴等に"手土産"を献上して取り入ろうとする輩が内外に蔓延っておってな。その駆除の余裕すら無いのが現状だ。それに、侵略者の統治が人道的であるという保証など何処にもないのだ。(オレ)の愛娘が野獣共の慰みモノになる事態は絶対に避けなければならん!」

 

「・・・だから、彼女達を大マゼランへ逃がす。という解釈でよろしいですね?」

 

「うむ」

 

 ―――話を纏めると、こうなるらしい。"ヤッハバッハの占領を見据えて、社内ばかりか社外・・・多分政府の高官辺りだろうけど・・・にあの姉妹を供物として差し出そうとする動きがある。そして、ヤッハバッハの占領統治下で人権を保証される確信はない。だから、彼女達を大マゼランへ逃がす"。・・・成程、随分と娘想いの人なのね。元々私達も大マゼランにトンズラするつもりだったんだし、引き受けても問題ないでしょう。

 

「分かりました。その依頼、受けましょう」

 

「おお!本当か!」

 

「ええ。此方としましても、丁度よい話なので。護衛の任、お任せ下さい」

 

 私が依頼を引き受けると知ると、ヴラディスさんは涙を流して女神を称えるような視線で礼を言ってきた・・・あの、そんな目で見られても困るんだけど・・・

 

「あの・・・ところで・・・」

 

「―――何だ?」

 

 そこで早苗が、恐る恐る口を開いた。

 彼女には、どこか気になる部分でもあったのだろう。

 

「その・・・ヴラディスさんは、どうされるおつもりで?」

 

 早苗の問いを耳にすると、ヴラディスさんは急に押し黙って、難しい顔をして考え込んだ。

 

「―――私は、娘達の父であると同時に、3000万の社員の上に立つ社長なのだ。・・・彼等の面倒を、果たして私以外の誰が見ようというのか。奴等が我等を解体するというのであれば、吾は彼等の待遇を保証させるために戦う義務がある。それを、放棄することは出来ない」

 

「・・・そうですか。分かりました」

 

「なに、そう悲観するものでない。この私とて、無様にくたばるつもりなど無い。娘達が力をつければ、何れまた相見えることになるだろう。それまでの、辛抱だ」

 

 ヴラディスさんは、残される社員の面倒を見るために、ここに残ってヤッハバッハと渡り合うのだという。

 ・・・ヴラディスさんの覚悟は、恐らく本物だろう。同じく人の上に立つ者として、その姿には感服させられた。―――これでは、ますます依頼を完遂しなくちゃ、という思いになってくるわね。

 

「という訳だ。娘達のこと、頼んだぞ」

 

「―――はい。任されました」

 

 私は彼と視線を合わせて、依頼の承諾を明言する。

 

「では、これがその前金と報酬だ。もう払う時期など無くなるだろうからな。これを使って、装備を整えてくれ」

 

 そう言ってヴラディスさんが取り出したのは、5万Gが入力されたマネーカードだ。

 

「え?こんなに、良いんですか!?」

 

「うむ。娘達の安全を図るためだからな。持っていけ」

 

「あ・・・はい!有難うございます」

 

 ―――前払いで報酬を受け取っちゃあ、ますます失敗する訳にはいかなくなったわね。艦隊の皆のためにも、あの姉妹とヴラディスさんの為にも。今回は特別に、あのマッド共にこの資金を預けよう。彼等なら、きっとこの危機を乗り越える有意義な発明を繰り出してくれることだろう。救助の報酬は・・・武器弾薬や艦載機の購入に、若干の新造艦と宴会費・・・かなぁ。4万Gもあれば、それを果たすには充分な額だ。

 

「では、此方の用意が整い次第、出港する。それまでに準備を整えてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

「ああ、それをもう一つ・・・入りたまえ」

 

「ハッ!」

 

 話し合いもこれで終わり、一度艦に戻ろうとした私達を、ヴラディスさんが引き留めた。・・・台詞から察するに、どうやら会わせたい人物がいるらしい。

 

「警備部門所属、バリオ・ジル・バリオ、出頭しました」

 

「同じくウィンネル・デア・デイン、参りました」

 

「あ、あんた達は・・・」

 

 思わぬところで、見知った顔を見かけて驚かされた。

 バリオさんにウィンネルさん・・・この二人は、カルバライヤ・ジャンクションでグアッシュ退治に協力して以来の関係だけど、どうしてこんな場所に―――

 

「よう、久しぶりだな。可愛い艦長さん」

 

「茶化すなよ、バリオ。・・・久しぶりだね、霊夢さん」

 

「え、ええ・・・ひさしぶり。―――でも、どうしてこんな場所に・・・?」

 

「ああ、それはだな―――」

 

「私が、雇った」

 

 バリオさんの声を遮って、ヴラディスさんが明言した。

 

「聞けばこの男、忠義の為に組織を抜けてまで義を通そうとしたらしいではないか。その心意気を、私は買ったのだ」

 

「いやぁ、忠義って程でも無いんですがねぇ。ああ、それとウィンネルは俺が軍から引っ張ってきた。なんでも社長さんが"人手が欲しい"って言うもんだからねぇ。アーヴェストの戦争が起こって軍に行っちまったコイツを、俺が引っ張ってきたって訳さ」

 

「バリオ・・・全く、僕はあのまま軍でやっていくつもりだったんだが・・・」

 

「まぁ良いじゃねぇか。また一緒に働けるんだしよ」

 

「確かにそうではあるけど・・・」

 

 やはりバリオさんとウィンネルさんは昔からの仲なのか、互いに軽口を叩き合う。だけど、ヴラディスさんがゴホン、と咳払いをすると、彼らの私語も自然と止んだ。

 

「この二人、聞けば貴様と面識があるそうではないか。そこを考えて、任務中は連絡要員として二人を艦に乗せて欲しい。無事に大マゼランに着いたなら、そこの二人は好きに使ってもらって構わん」

 

「つまり、クルーとして使ってもいい、ということですね?」

 

「そうだ」

 

 ヴラディスさんが言うには、彼等を依頼の間は連絡要員として乗せろ、ということらしい。おまけにクルーとして使ってもいいと来た。万年人手不足のわが艦隊に、二人とはいえ人手が加わることが約束されたというのだから、これを断るという手はない。

 

「・・・らしいですね。という訳みたいなので、バリオさんにウィンネルさん―――また宜しくお願いします」

 

「おう。ゼーペンストの件でも借りがあるしな。よろしく頼むぜ」

 

「僕からも、よろしく。共に戦えて光栄さ」

 

「それはどうも」

 

 契約の証として、私は二人と握手を交わした。続いて二人は早苗と、チーフとも握手を交わす。・・・早苗はともかく、全身装甲服のチーフの前では少し引いていたけれど。そういえば、装甲服を脱いでないのによく中に通されたなぁ、うちの海兵隊。

 

「・・・挨拶は済んだな。では、私から最後にもう一つ、君達に贈るものがある」

 

「これは・・・?」

 

 ヴラディスさんは立ち上がって、私に一枚のデータプレートを渡した。

 

「それはバウーク級戦艦のデータだ。アーヴェスト戦争の折に我が社に発注されたのだが、肝心の戦争が終わって放置された不良在庫が何隻かある。それも好きに使え」

 

「え、でも・・・それって軍の機密とか・・・」

 

「そんなものはどうでも良い。こんな状況だ。使えるモノは何でも使う。―――娘の為ならな」

 

 私がデータプレートの中身を眺めている間に早苗がそんなことを聞いていたけど、本当にそれで大丈夫なのだろうか・・・

 

 ちょっと諸元を眺めてみたけど、この艦首に長い羽根みたいなのが付いてるバウーク級とかいう戦艦、どっかに売って資金の足しにした方が良さそうだ。デフレクターこそ分不相応な程に強力だけど、ヤッハバッハの前では肝心の艦体強度もジェネレータ出力も足りないし有っても無いようなものだ。オマケにデフレクターに出力を喰われてるからビームも戦艦の癖に使い物にならないときた。

 カルバライヤ政府にとっては何か使い道があるからこんなフネを作ったのでしょうけど、ヤッハバッハを前にした私達にとってはただの鉄屑でしかない。ヴラディスさんも、態度からしてこのフネにはスクラップ程度の価値しか見出だしていないようだし、やはりここは資金と資材の足しにする方針で良いだろう。仮にも戦艦だ、最低でも一隻2万Gで売れてくれることだろう。

 

「・・・分かりました。有り難く使わせていただきます」

 

「うむ。では、成功を祈っておるぞ」

 

「はい。任せて下さい」

 

 最後にヴラディスさんと挨拶程度に言葉を交わして、私達はスカーレット社本社ビルを後にした。

 

 

 

 

 

 ・・・決戦(逃走)に向けた準備が、いま始まる。

 

 





第七五話、以上です。ここから新章となります。尺の都合でモルポタさんの格好いいシーンはカットとなりました。南無。まぁ他の人が丁寧に書いてるし、何より原作と全く変わらないので。そのうち書く暇があったら追加するかもしれません。果たしてモルポタさんの格好いいシーンとはなんぞやという人は、是非とも原作ゲームをお買い求め下さい。(露骨なダイレクトマーケティングw)

今回、というか今回しかマトモな登場シーンが無さそうなヴラディス社長は、見た目のイメージはFate/EXTRAのヴラド三世にスーツを着せたようなものです。レミィの道中曲が「ツェペシュの幼き末裔」なんて名前ですから、彼女達の父親役には適任でしょう。(尤も、作中のレミィは東方のレミィによく似た誰かさんですがw)


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第七六話 博麗幻想郷(Ⅳ)

 

 ~カルバライヤ本国宙域・惑星バルバウス宇宙港~

 

 

 スカーレット社の本社に赴いて報酬と新たな依頼を受け取った私達は、その任務のための準備に邁進していた。

 

「…了解した。では、この資金は我々が有り難く使わせてもらうぞ」

 

「ええ。今回は特別に制限はかけないわ。パーッと新しい装備品、作って頂戴」

 

 私はサナダさんに、スカーレット社のヴラディス社長さんから受け取ったマネーカードの一部を渡す。

 

 依頼の報酬と新たな依頼の前払い報酬、それに受け取ったバウーク級戦艦の売却費用で15万Gは稼げたから、そのうち3万をサナダさんとにとり達に預けて新兵器開発費用に回した。

 残りの12万は、新造艦と艦載機、武器弾薬の補充費用や食料、修理物質や日用品などの各種必需品に回している。今回は大マゼランまでの長旅になる予定だし、途中のマゼラニックストリームでもヤッハバッハの侵攻スピードによっては充分な補給ができないかもしれない。だから、航海に必要なものはここで可能な限り買い込んでおく。

 

「ふむ。では艦長、我々科学班の働きに期待してくれたまえ。ああ、それと新造艦の件だが、作る艦は決まったかな?」

 

「ええ。とりあえず空母代わりにヴェネター級機動巡洋艦を一隻、それとクレイモア級無人重巡洋艦を1隻、ってところね。無人運用ならモジュールは最低限で済むし、それぐらいは可能でしょう」

 

「了解した。クレイモア級については、既に就役艦も超遠距離射撃砲の搭載工事を始めている。新造艦もその仕様で良いな?」

 

「構わないわ」

 

 資金を渡したついでに、サナダさんと新造艦の建造方針についても話す。

 新造艦に使える資金は8万ぐらいだから、大型巡洋艦2隻で建造費が大体6万G、武装は元から性能がいいやつが付いてるから換装にそれほどお金はかからないし、あとはヴェネターの艦載機の生産資金と内装資金に回しても足りるだろう。

 艦名については、ヴェネター級が〈ガーララ〉、クレイモア級が〈伊吹〉となる。

 

「そういえば…バリオさんが乗ってたバゥズ級重巡もうちの艦隊に入るんだっけ。そっちの工事はどうなってるの?」

 

「あの艦か…あれについては、各部の装備品をバゥズII相当にアップグレード、デフレクターとS(シールド)フレーム、Sジェネレータ、そしてコントロールユニットを我々のものと同様のモジュールユニットに換装している。後は、機関室にワープドライブを増設、だな。幾ら防御に優れるカルバライヤ製艦船とはいえ、それはあくまで小マゼランの中での話だ。ヤッハバッハと渡り合うには荷が重い。防御面を中心に、徹底的に弄らせてもらった。性能としては、大マゼランの軽巡洋艦クラスには届くほどには強化できただろう」

 

「なら安心ね。バリオさん達には、引き続きその艦に乗ってもらいましょう。コントロールユニットの設置で浮いた人員は、〈高天原〉の要員に回しておくわ。あそこ、艦橋クルーしか居ないからね」

 

 そして新たな依頼を引き受けるにあたってうちのクルーになったバリオさんとウィンネルさんの保安局組二人だけど、この二人が今まで使っていたバゥズ級重巡洋艦もうちの艦隊に編入されることになった。なのでこの艦隊に随伴できるよう改装させているんだけど(ちなみに費用はスカーレット社持ちだ。大企業様々ねぇ~)、…案の定、マッドの手で中身は原型を留めないほど改装され尽くしているようだ。……そこまでしないと小マゼラン艦ではヤッハバッハに太刀打ちできないって理由もあるんだけどね……

 

「……ところで艦長、もう少しいいかな?」

 

「…なに?」

 

 サナダさんが神妙な顔つきをして、話題を切り替えてきた。

 なんか……警戒するような感じ、かな…?

 …あの人があんな顔をするなんて、一体何の話だろうか。

 

「統括AIユニットの話なんだがな……どうも最近、アレが此方からのアクセスを拒絶しているのだが……それがどうも気になってな。本来管理者権限の変更はアレ単独では為し得ないんだ。もしかしたら、なにか異常があるのかもしれん。コントロールユニット本体と義体ユニットの精密検査を進言する」

 

 ……これは、ちょっと不味い事態なのかな…?

 アレは建前上、というか最初はただの統括AIだったけど、いまではどういうわけか早苗の魂魄が入り込んでいるし……

 サナダさんに中身を覗かれたらなにが起こるか分かったものじゃない。それに早苗の方からサナダさんのアクセス権限を制限してるってことは、きっと「乙女の中身を覗くなんて破廉恥です!」って意味だろうし……ここは早苗の味方をしておこう。

 

「……その必要はないわ」

 

「…なに?」

 

 私の返答に、サナダさんが眉をひそめた。

 

 それもそうだろう。本来私はAI工学なんて素人も同然だ。普通なら専門家のサナダさんの進言を聞き入れて然るべきところだが、私はそれを拒絶した。事情を知らないサナダさんからすれば、まさに寝耳に水だろう。

 

「…本気か?艦長」

 

「ええ」

 

「………そうか。だが、これだけは言っておくぞ。AIが権限外の行動に出ることは危険な事態だ。暴走を招く恐れもある。それは承知して欲しい」

 

「それは無いわ。少なくとも、アレは私を裏切ることはない。だからコントロールユニットも義体も、いつもの検査で充分よ。精密検査をするにしても、それは機能面や部品の耐久度に異常がないか調べるだけにして頂戴。メモリーを覗く必要はないわ。これは命令よ」

 

「……分かった。艦長の命令だというなら従おう……ただ、異常があった場合は此方の独断で行動させて貰うぞ」

 

 サナダさんはそう言うと、背を向けて去っていった。

 

 …さっきは早苗を庇ったけど、あれで大丈夫よね……?

 

 あの子、時々暴走気味だからちょっと心配になってくるんだけど……

 

 

 

「れ・い・む・さんっ!」

 

「ひやぁっ!?」

 

 突然、視界が真っ暗になる。

 

 何事かと思ったら、どうやら掌で目を塞がれたらしい。

 

 あまりに唐突だったので、情けない叫び声を出してしまった……ちょっと恥ずかしい……

 

「さ、早苗!?」

 

「はい♪あなたの可愛い早苗ちゃんです!」

 

 噂をすれば何とやら、ご本人の登場だ。

 

「なんだ、あんたか……驚かせないでよ」

 

「あれ、なんか予想と違う反応……もっと騒ぐかと思ったのに。うぎゃー、って」

 

「失礼ね。昔とは違うのよ」

 

 初っぱなから何気に失礼しちゃうわね……どうも肉体年齢に精神が引っ張られてる感があるとはいえ、昔に比べたら落ち着いている……つもりよ。ちょっとした悪戯程度じゃ流石に怒らないわ。

 

「なんだ、残念。それより霊夢さん、どうしたんですか?なんか難しい顔つきをしてましたけど」

 

「うん?ああ……別に何でもないわ。ちょっと考え事してただけ」

 

「ふぅ~ん」

 

 私が誤魔化すようにそう弁明すると、早苗が神妙な顔つきで私を覗き込んでくる。

 

「あ、ああ、そうだ………あんた、その身体でなにか不都合とかない?……ほら、昔と違って生身じゃないんだから、苦労してないかな……なんて」

 

「考え事って、もしかしてその事ですか?……あ、はい。意外と不自由はしてないですよ。この身体になってから、生活は昔と同じように過ごせてますし。むしろ、便利過ぎる位です。それに、色々面白いですし………。なので、特に困ってることはないですねぇー」

 

「そう……なら良かったわ」

 

 早苗が大丈夫って言うなら多分そうなんだろう。少し安心した。……色々面白い、のくだりで邪悪な笑みを溢していたことには触れないでおこう。うん。

 

「あ、強いて言うなら……昔と同じように、とは言っても頭は完全に人間のそれじゃないですから、記憶の処理が少々面倒なとこですかね……それ以外は、特に不自由してません」

 

「記憶の処理?」

 

 それの処理が面倒とは、どういうことなのだろうか。……ちょっと気になるかな。

 

「はい。実はですね、AIの記録回路はヒトの頭と違って不要な情報も溜め込まれちゃうんですよ。それを定期アポトーシスで消去する仕組みになってるんですけど、それでも人間の脳には及ばないので、10年かそこらでボケちゃうんですね。管理局のAIとかは、そうなる前に新しいドロイドを要請して回しているらしいですけど」

 

 うわ……10年でボケるって、聞いてて心配になってきたわ。……早苗は大丈夫なのだろうか?

 

「あ、霊夢さん!いま"うちの可愛い早苗ちゃんは大丈夫なの!?"って思いましたね!ええ、心配ありませんとも!今でこそメンテナンスベッドでわざわざ記憶の選別をしないと充分にゴミデータを削除できないんですが、どうやらこの義体?に私の魂魄がどんどん移ってきてるみたいでしてね……ここの造りがより人間の頭に近づいてますから、そのうち面倒なことをしなくても人間と同じように睡眠で記憶を整理出来るようになる筈です!……たぶん」

 

 早苗が自分の頭と差して、そう説明した。しかし、魂魄が移るとは……確か、最初はコントロールユニットの中に転生したとか言ってたから、そこから魂が義体に移ってる?ってことなのかな?それで、魂が設計図みたいに作用して義体の造りも人間に近づいてる、と。……う~ん、よく分からないわね……

 

「大丈夫ですか霊夢さん?理解できましたか?」

 

「え?あ……うん。大筋は」

 

「それなら大丈夫ですね!そういう訳ですから、多分10年でボケるなんてことは無いです!ご安心下さいね!」

 

 そう言うと早苗は、背中から腕を回してぴたりとくっついてきた……。ああもう、だから暑苦しい!くっつくな!

 

「ちょっと、近い……近いってば!」

 

「もぅ、ちょっとぐらいは良いじゃないですか~。霊夢さん、つんでれってやつです?」

 

「あんた……ボケないとか言っときなが、らもうボケてるんじゃないの 」

 

「違います!ボケじゃないです!色ボケです!」

 

「同じじゃない!」

 

「違いますよぅ、もう……!だから霊夢さん、ハグさせて下さーい!」

 

「ああもう、離れろ!鬱陶しい!!」

 

「いや~ん、霊夢さんのいけずぅ♪」

 

 

 

 だからもう、何でこの娘は隙あらば私にくっつこうとしてくるのよ……そういうのは駄目って前言ったのに……あ、ちょ……体勢が崩れて……

 

 

 

 ………暴走した早苗を引き剥がすまで、とんでもない目にあったわ………やっぱりサナダさんに精密検査させてやろうかしら、この色ボケ緑巫女め 

 

 

 

 ...............................................

 

 

 

 ~〈開陽〉自然ドーム~

 

 

 

 …さて、もう大体人は集まっているかな?

 

 私は神社の裏手にある広場を見回して、状況を確認した。

 

 この惑星に入港してから数日で、大体出港の準備は整ったので、対ヴィダクチオ、ゼーペンスト戦勝記念とこれからの航海の成功祈願を兼ねて、また宴会を開くことになった。

 しばらく戦闘続きな上にこれからの航海はどんどん厳しくなってくるだろうから、こういう機会もやはり必要だろう。人間ってのは適度に息抜きしないとやってけない生き物だからね。

 

「……大体集まってるみたいね。じゃあちょっと早いけど始めるわよ!今夜は無礼講よ!朝まで飲み明かしなさい!!」

 

 壇上で私が音頭を取ると、うおー、やら乾杯やら、クルー達の騒ぎ声が一気に聞こえてきた。うんうん、やっぱり宴会はこうでなくちゃ。善きかな善きかな。

 

 ん………あれ?航空隊のなかに混ざってるの、あれ神奈子じゃない。しかも何も違和感なく溶け込んでるし。一体どういう裏技使ったのよ。

 

「あ、霊夢さん……もう始まってるんですね」

 

「ええ。もうみんな大体集まってるし、なら始めちゃおうかなって」

 

 そういえば幻想郷の頃は、集まったら私なんか無視して勝手に妖怪共でおっ始めてたからねぇ、宴会……。0Gになってからは、一応艦長の私が音頭を取って始めるようになってるけど。

 

「どうします?何処かに混ざりに行きますか?」

 

 すると、壇上に早苗が登ってきて、私の隣に立った。

 

「いや、いいわ。みんなそれぞれ楽しんでるみたいだし。私はちょっと野暮用あるから、あんたも好きにしてていいわよ」

 

「そうですか……?なら、霊夢さんと一緒の方が……」

 

「……あんたは二柱の子守をしてて。お願い」

 

「え?神奈子様と諏訪子様の、ですか……って、神奈子様!?いつの間にクルーの中に、なんかもう何人か酔い潰して………では、行ってきます!霊夢さん」

 

「はいはーい。行ってらっしゃい。よろしくねー」

 

 宴会場で何故か暴れている神奈子の姿を見て、慌てて駆けていく早苗の姿を見送って、ひとまず私はその場を後にした。

 

 

 .............................................

 

 

 

 

「なんだ……お前か」

 

 神社の裏手にある広場から移動して、境内のなかを適当に見て回る。

 

 それは、広場の喧騒から離れた鳥居に隠れるように佇んでいた。

 

「…やっぱり、此所に居たのね」

 

「何処に居ようと、私の勝手だろ」

 

 素っ気ない態度を取る目の前の私によく似た少女……霊沙に私は声をかけた。返事は……予想通り、何の可愛げもない憎まれ口。

 

「そうは言ってられないの。いまの私は艦長なんだから、クルーの状態を確認するのも私の仕事なの」

 

「……何が言いたい?」

 

 私が霊沙にそう言うと、彼女は眉を顰めて、睨むような目付きで私に視線を合わせてきた。

 

「…あんた、前からなんかおかしいんじゃない?特に、ヴィダクチオで戦ってた中頃辺りから」

 

「………!、べ、別に何でもないわ。気のせいよ」

 

「そう?にしては、昔とは随分様子が違うみたいだけど?例えばほら、いまの口調とか、ね……」

 

「……チッ」

 

 やはり図星、か……。

 霊沙はさも面倒そうに、舌打ちで返してきた。

 

 ……最近の彼女の変容は、あまりに過ぎる部分がある。昔なら見敵必殺とばかりに飛行機に乗せれば調子に乗るし、今日みたいに宴会にでもなれば航空隊の連中なんかと絡んで騒いでいた。それが、最近では()()()()()

 前のヴィダクチオとの決戦だって、いつもは戦果拡大とばかりに勇んで飛び出していく癖に、あのときはどうも義務感で飛び出してた節があった。その時点で、今までのコイツとは違う。

 ここまであからさまなら、私でなくとも、彼女の変わりようには気づくだろう。

 

「……お前には、関係ない」

 

「言った筈よ。クルーの状態を確認しておくのも私の務めだと。……あんた、何があったの?あの魔理沙みたいな訳の分からない奴が原因?」

 

「っ……!、だから……何でもないわッ…!!」

 

 振り払うように語気を強めて、霊沙がそう吐き出した。

 

 その場から離れようとする彼女の腕を、私は掴んで引き留める。

 

「………何のつもりだ?」

 

 意に反して引き留められた霊沙が、怒りを含んだ強い語気で、私を睨み付けながら言う。

 

 

「…この際だからハッキリさせておこうと思ってね。……あんた、何者?」

 

 

「それは………」

 

 腹の探り合いなんかは面倒なだけだし苦手なので、直接、核心部分をぶつける。

 

 私の台詞を聞いた霊沙の顔は、明らかに動揺しているように見えた。

 

「何者かなんて、前言った通りだろ……?別のお前と「別の私と戦って封印されたタダのコピー妖怪だ、かしら?」っ……!」

 

 視線を反らして呟く霊沙に割り込んで、私がそう告げる。

 

 霊沙はさらに、動揺を強める。まともに私の目も見ない。

 

「……それ、嘘でしょ。さっきも言ったわよ、この際だからハッキリさせておこう、って」

 

「くっ………!」

 

 霊沙は苦虫を噛み潰したような表示をして、俯き加減で吐き捨てた。……やはり、これも図星、か。

 

「……いや、戦って封印された、ってのは嘘じゃない」

 

「あら、そうなの。……と、いうことは、あんたは単に別の私をコピーして生まれた妖怪ではない、って事ね」

 

「…………」

 

 彼女は、応えない。

 

 だが、その言い草からすると、そういう解釈で間違いはないのだろう。

 

「もう一度訊くわ。あんたは何者?」

 

 語気を強めて、彼女にそう言い放つ。

 

「…ついでに、あのマリサとかいう奴が何者なのかも教えてもらいましょうか」

 

 やはり艦長として、得体の知れない奴を置いておくというのは気が引ける。マリサの例もあるし、白か黒か、ハッキリさせておくべきだ。それが、この艦隊を預かる私の務めだ。

 もしこいつがあのときのマリサみたいに突然矛先を向けてくるような時があるのなら、そのときは消さないと……

 

 それに、彼女がおかしくなったのはマリサを乗せてからのことだ。ならその間に、何らかの因果関係があって然るべきだろう。それを確認するためにも、彼女にアイツの正体を尋ねる。

 

「………るさい」

 

 霊沙の口元が、僅かに動く。

 

 

「五月蝿い……ッ!」

 

「きゃっ……っ!!」

 

 霊沙は私を押し退けるように突き放し、首根っこを捉えられては思いっきり後ろの鳥居にぶつけられる。

 

「くっ……、あ、あんた……!」

 

「五月蝿いって、言ってるでしょ……!!」

 

 霊沙は怒りの籠った瞳で、強く私を睨む。

 

 ……いや、あれは怒りなんてものじゃない。憎しみだ。

 彼女は憎悪の籠った瞳で私を睨み付けながら、首根っこを抑える手に力を入れる。

 

 …霊沙、指が、喉元に食い込む。

 

「放、しなさい……っ!!」

 

「があ……ッ!?」

 

 力強く首元を握られる苦しさから、私は彼女の身体を押し飛ばす。

 振り払われた霊沙の身体は、力なく地面に倒れた。

 

「あんた…何のつもり……!」

 

「……済まん。少し、動転していた」

 

 今度は私が霊沙を睨んで、先の行為について問い詰める。が、先程までの気迫はすっかり薄れて、彼女は俯いて意外にも素直に謝罪の言葉を告げた。

 

「……なら、いい加減質問に答えてもらうわ」

 

「それは………っ……」

 

 だが、あの質問のこととなると彼女は途端に口を噤んだ。

 

 ……そこまでして答えたくないというのなら、相当な訳ありだろうということは想像がつくのだが……生憎此方も艦隊の運航と乗組員の安全のために、得体の知れない奴をそのまま置いておく訳にはいかない。余程のことでない限り、答えてもらわないというのは困る。

 

「……どうしても、今は答えられない……答える訳にはいかないの」

 

 霊沙は震えた声で、そう答えた。

 

「……理由は?」

 

「…………これは、私の問題だから。関わらないで」

 

「関わらないで、って言われても、こっちは「だから、博麗霊夢(オマエ)は関わるなっ…!!」―――ッ!?」

 

 突然語気を強められて明白に拒絶され、思わず一歩、後退りしてしまう。

 

「だから………これは■■■■(わたし)の問題なの………だから、これ以上、関わらないで」

 

 彼女は息を荒げ、今一度、拒絶の意志を明確にする。

 

「でないと……私は霊沙として振る舞えなくなるから……」

 

 最後にまた、憎しみの籠った瞳でそんな台詞を吐き捨てると、彼女はふらふらと幽鬼のような足取りで立ち上がり、境内に背を向けた。

 

「……最後に、これだけは言っておくわ。……私が霊沙()である間は、貴女と敵対することはない。…お前が懸念することも、起こさない。だけど、これ以上刺激されたら自分でも■■■■()を抑えて居られなくなるわ……」

 

 そんな台詞を残して、彼女は宵闇のなかへと消えていった。

 

 

 

 ―――自分を抑えて居られなくなる、か……。深い意味は分からないが、あの様子から察するに容易には触れられないものだろう。……まさに、藪をつついたら蛇が出てきたようなものだ。……彼女のことについては、問題を起こさない限り一時保留、としておいた方が良さそうだ。依然として正体やマリサのことについては気掛かりではあるが、肝心の彼女があんな様子だというのなら、流石にこれ以上問い詰めるというのも気が引ける。これ以上彼女を問い詰めては、言われた通り何が起こるか分からない。……そんな様子だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、れいむさーん」

 

「………なんだ、早苗か」

 

 彼女が去ったのと入れ替わるように、早苗が神社の方角から現れた。

 

「れいむさん、ひっく………こんなところれぇ………なーにしてたんれすかぁ~!ひっく……」

 

 あ、駄目だコイツ……完全に酔っぱらってる。

 

 まともに呂律も回ってないし、顔も真っ赤だし……一体どんだけ飲んだのよ。いや、確か早苗は酒に弱かった筈……でも、今は生身ではないというのに、どうしてそこまで酔っぱらうのだろうか。そこが不思議ではある。

 

「あーハイハイ、野暮用は終わったから、あんたの介抱でもしてやるわよ。ほら、ついてきなさい」

 

「えー?わたし、よってないれすよぉー。ひっく。ほら」

 

 早苗はそう言うと、手に持った一升瓶を傾けて、ぐびっ、と中身を口に注いでいく。

 

 ……何処からどう見ても酔ってるじゃない。こんな様子なら、宴会場に戻す訳にはいかないだろう。誰だ、コイツにこんなに飲ませた奴は………ああ、あの二柱か。後でとっちめておかないとね。

 

「ほら、こんなに酔ってるんだからもう酒は飲まない!没収!」

 

「ふぇぇ……こんなの潤滑油みたいなもんですよぉ……平気れすって」

 

「だから!何処からどう見ても完全に酔っ払ってるじゃない!私が面倒見てあげるから、あんたは何も言わずついてきなさい!」

 

 私は強引に早苗から酒瓶を奪い取り、手を掴んで神社に向かう。少々乱暴だが、こうでもしないと言うこと聞かなさそうだし……

 

 ……すると唐突に、早苗が後ろから抱きついてくる。……って、酒くさっ!

 

「ぅえへへ――れいむさん、あったかーい」

 

「……んもう!だからくっつくなって、言ってるのに……!」

 

 またくっついてきた早苗を引き剥がして神社の布団まで連行するのに、だいぶ時間が掛かってしまった。

 

 なんでいつもいつも、この娘は私にくっつきたがるのよ、もう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .............................................

 

 

 

 

 宴会の喧騒から離れた艦内の一室で、彼女は糸が切れた人形のように、ベッドに横たわっていた。

 

 電気一つ点けられていないその部屋は、調度品は荒れたまま放置され、壁には幾つもの摩られたような傷があった。

 

 

 

 

 

 ―――ふふふっ、漸く、落ち着かれましたか。

 

 …頭のナカで、声が響く。

 

 あの胡散臭かった賢者と同じコエで、同じカオで、アイツは私のなかで囁く。

 

 ―――アレに手を出してはいけませんよ?今回の掃除(オーダー)の主力は、あくまでもあの娘なのですから……

 

 そう……私は脇役。いや、単なる最終手段に過ぎない。しかし……一度は弓を引いた私を再び使おうとしようとは、博麗(幻想郷)も余程の物好きらしい。……いや、単に私以外、最終手段足り得ないからか……

 

 だがまぁ、アレに同情する所がない訳でもない。アレの様子は、少なくともあんな経験をしてきた奴の顔ではない。……相応に自己嫌悪は有るだろうが……。にも関わらず、こんな私の後釜に据えられようとしているとは……何とも哀れなものだ。アレでは到底、■■■としては耐えられまい。

 

(それは……私の気にするところではない。私はただ、アレの予備として控えていればいい。もし抑止が失敗するようなことになれば、私はこの幻想を焼却すればいいだけだ……それでやっと、楽に、なれる……)

 

 アレが後釜に座るというのならば、今度こそ私はお役御免だ。……わざわざ機を伺って殺しに行ったのが阿呆らしく思える。………いや、そうして弓を引いたからこそ、やっと破棄されるのか……

 

(……んで、結局あいつは何なんだ――?やっぱり、あの■■■■■なの……?)

 

 ―――さぁ?それは貴女には関係のないことですわ。掃除(オーダー)の邪魔となるなら、今まで通り、消せばいいだけでしょう?()()も殺したのですから、今更躊躇うことなど無いでしょうに。………いや、"彼女"以外に幅を広げるたなら、最早数えきれないぐらい始末している(殺している)でしょうに………

 

(……黙れ)

 

 ―――あら、怖い怖い。これではまた、あのときのように矛先を向けられてしまいますわね。

 

(だから………黙れッ!)

 

 頭のナカで呟くソレに、強く念じてそのコエを掻き消す。

 

 やっと五月蝿く騒ぐソレは、黙る気になったようだ。

 

(……私は、また…あいつを………)

 

 殺さなければならないのだろうか。ただでさえあの容姿と声に、あの言い草だ。……間違いなく、アレは■■■■()を知っている。それなのに、また……

 

 ……今生のあいつは、何の因果か一度目は死んでなかった。今度こそ始末したとも言えない。………やっぱり、また始末する羽目になるのだろうか。やはり、幻想は残酷だ。

 

 

 

 

 ………もう魔理沙(あの子)だけは、二度とこの手に掛けたくなかったというのに………

 

 

 

 



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第七七話 マゼラニック・ストリーム

この小説も三年目に突入です。今後ともよろしくお願いします。


 

 

 ~惑星バルバウス宇宙港~

 

 

 

「おお艦長、ここに居たか」

 

「あ、サナダさんとにとり…どうしたの?」

 

 出港まであと数時間を切ったので、宴会の片付けを早苗に丸投げして、これから乗艦してくるスカーレット姉妹を出迎えるためにエアロックに向かっていた私の下に、科学班主任のサナダさんと整備班班長のにとりの二人が現れた。

 なんだか二人とも、新しい玩具を自慢したさそうな顔をしているように見えるのは決して気のせいではないだろう。

 

「うむ。以前の資金を元に艦隊の強化と新装備の開発が終了したのでな。その報告だ」

 

「ああ、成程」

 

 道理でウズウズした様子な訳だ。二人とも、ポーカーフェイスを装っているように見えるけど、その表情ではとても興奮を隠しきれているようには見えない。

 

 ……ところで、サナダさんの後ろにある鉄の処女(アイアン・メイデン)は何なのかしら。………気になる。きっと碌なモノじゃないだろう。

 

「まずは私からいかせてもらうよ。前から開発していた機動兵器だけどさ、漸く完成の目処が立ったんだ。えっと、これが資料になるんだけど……」

 

 にとりはそう言うと、一枚のデータプレートを取り出す。

 

「先ずはこの〈サイサリス〉だけど、遂にこいつに搭載可能な量子弾頭を実用化出来たんだ!SFS(サブフライトシステム)と併用すれば、敵艦隊に大きな打撃を与えることが出来る筈さ!」

 

 自慢気に語るにとりの手には、データプレートから表示されたごつごつした、大柄な人型機動兵器のホログラムがあった。頭には二本のセンサーアンテナと目のようにも見えるデュアルアイセンサーを搭載し、機体そのものには右手に駆逐艦の魚雷発射管ほどの太さがあるバズーカを、左手には機体そのものを覆えるほどの巨大なシールドを装備している。よく見ると、シールドの裏側には先端部にバーニアのようなものが付いているのも見えた。そして背中には、これまた巨大なミサイルコンテナを背負っているのが見て取れる。全体的に、打撃力重視の機体という印象を受けた。

 

「……素人目に見ても、強そうな造形ね」

 

「フフッ、そうだろそうだろ!こいつは対艦攻撃力を極力まで高めた機体だからな!バズーカには艦艇用のMサイズ量子魚雷を、そしてミサイルコンテナにはSサイズの量子魚雷に相当する量子弾頭ミサイルを積んでいる!全弾発射時の威力は駆逐艦一隻を廃艦にする程のものさ!」

 

 成程、量子弾頭か……ならにとりの謳い文句に偽りはないのだろう。元々艦艇用の装備に量子魚雷というものがあるのだが、これは単体で十数発分のミサイルに匹敵するぐらいの高威力を秘めた魚雷だ。これを食らえば、戦艦クラスといえど無視し得ない損害を負うことになるだろう。ただし、この兵器は誘導性が極めて悪いことが欠点だ。そして一発あたりのコストも高い。なので通常の0Gドックからは敬遠されている装備なのだが、にとりはこれを機動兵器に搭載させることで、その問題点の解決を図ったようだ。

 艦載機サイズの機動兵器なら小回りが効くし、通常のミサイルなんかより格段に迎撃は困難だ。加えてにとりは量子弾頭のキャリアーともなるこの機体に重装甲と大出力のバーニアを組み合わせ、さらにVOBを流用した高速SFSを装備させることにより、高速で敵艦隊にこの機体を吶喊させることで迎撃時間を奪い、至近距離で大威力の量子弾頭をお見舞いするという戦術を想定しているらしい。

 中々えげつない機体を考えるものだ。

 

「まだまだあるぞ!今度はこいつらだ!」

 

 にとりは続いて、現行の主力機動兵器ジムとその発展型、ペイルライダーのホログラムを呼び出す。彼女が何やら操作すると、その度に機体の装備が変わっていく。

 

「ジムとペイルライダー用の増加装備にも開発して、もう生産ラインに乗せてある。装備は大きく分けて3つだ!まず最初はこのスターク装備!こいつはバックパックをより大出力のバーニアユニットに換装して、さらに装甲化されたプロペラントタンクにより稼働時間を延長してある。脚部にもバーニアと一体化した追加装甲を装備して、機動力と防御力を上げている。そして肩に装備するミサイルポッドだけど、これはオプションで通常のミサイルコンテナに加えて、多弾頭ミサイルを四発増設することも可能だ!さらにこのミサイルポッドと選択式で、Lサイズの大型対艦弾頭4発を装備することも出来るぞ!」

 

 にとりが語るのに合わせて、ホログラムの機体の装備がどんどん移り変わっていく。……早苗に見せたら、興奮しそうな光景だ。

 

「そして武装は通常のジム、ペイルライダーのものに加えて、シールドと2基のガトリングガンが一体化したガトリングシールドを新たに用意してある!このスターク装備は、武装を変えることで様々な任務に対応可能だ。純粋に機動力を強化したエース向け仕様にも出来るし、大型対艦弾頭を装備して対艦任務にも充当出来るぞ。ちなみにこいつを装備した状態の機体名は、スタークジムにスタークスライダーだ!!」

 

「……へー、凄いわね……」

 

 自慢気に言い切ったにとりだけど、私は別にメカオタクでも何でもないので彼女のノリに付いていくことができない。

 にとりはそれを知ってか知らずか、構わずに説明を続ける。

 

「さらにジムとペイルライダーの新装備として、スナイパー装備とストライカー装備の開発も完了した。スナイパー装備は専用の追加ゴーグルセンサーとライフルを装備することで、艦載機でありながら戦艦主砲並の射程を実現した!ライフルの威力も、小型艦砲並は確保してあるぞ。艦載機相手なら一撃で撃墜だ!そしてこのストライカー装備は近接戦闘用の装備だ。専用のウェラブル・アーマーで防御力の向上はさることながら、大出力バックパックとスターク装備と共用の脚部追加バーニアで高い機動力を実現。さらにこの機体の真価とも言えるツインビームスピアで高い格闘戦能力を実現した!これでもし敵が機動兵器を実用化してきても、問題なく対抗できる筈だ!そして勿論、これらの装備はパイロット次第で自由にカスタマイズできるように設計されているぞ!」

 

 どうだ、と言わんばかりににとりはそのでかい胸を張る。私より背が低い癖に生意気……とまでは言わないけど。少し羨ましいかも……じゃなくて!この装備群の開発で、機動兵器の汎用性と打撃力もさらに高まることだろう。これは期待出来そうだ。

 

「そして新型機動兵器、シャイアンの開発も完了した。コイツは対宙機銃のターレットを換装することで、そこに砲台として配置することが出来る。装備は左右の腕にある30mmガトリングレーザーと、肩の対空ミサイルランチャーだ。コイツは主に、パルスレーザーの交換用さ」

 

 最後ににとりは、また別の機動兵器のホログラムを表示する。……あ、コイツ………最近〈開陽〉のパルスレーザー砲塔群と交換されていた奴か。なんでも対空兵装とセンサーシステムが一体化した機体のようで、他の機動兵器とは違って艦の砲座として運用するものみたいだ。……なら単に新型対空兵装だけでも良いんじゃないかとは思ったけど、そこを突っ込むとにとりのロマン蘊蓄が始まりそうなので触れないでおこう。うん………

 

「さて、続いては我ら科学班からの報告だ。まずは艦のシールドジェネレータを改良することでエネルギー効率を改善し、平均10%の出力向上に成功した。さらにデフレクターユニットにも同様の改良を施し、此方は7%の出力向上を果たしている」

 

 うん、純粋に艦の防御力強化という点では有り難いんだけど、どうしても、にとりの後だと、ねぇ………

 

「フフフッ、にとりの奴が目立ちすぎて地味だと思っているな?艦長。そんなことはない。我ら科学班とてインパクトのある発明を求めているのだ。さて、では御覧に入れるとしよう!」

 

 そんな私の考えもお見通しだったみたいで、サナダさんはどや顔で背後にあった鉄の処女(アイアン・メイデン)に手を掛けた。

 

 ―――あ、なんかとんでもなく嫌な予感が………

 

「これが我々科学班が開発した――――艦長専用の新型空間服だ!!」

 

 そういえば、なんかサナダさんが私の空間服を改良するとか言ってたから預けてたんだっけ。(なので今は、普通の巫女服で過ごしている)そのお披露目みたいだけど、やはり悪寒は拭いきれない。

 

 サナダさんが、鉄の処女の扉を思いっきり引っ張った。

 

 バーンッ!!!、と勢いよく開かれた鉄の処女の扉から、莫大な量の煙が溢れだす。……というかそれ、ロッカーだったんだ………という突っ込みはさておき、ご自慢の新型空間服とやらは………

 

 煙が晴れていくに従って、その姿が次第に露になる。

 

 マネキンに着せさせられた空間服は、特に華美な装飾は見られず、黒っぽい光沢のある色で統一されている。そして、肝心の形だけど………

 

「フフッ、この新型空間服は機能的なデザインは勿論、性能面には特に気を使っている。見た目は()()()()()()と大差ないが、防御力は強力なレーザーライフルの着弾にも耐えられるほどにまで強化し、そして真空中でも長時間生存可能なよう極力まで小型化された生命維持装置に艦長専用バトルアーマとのドッキング機能まで付与された、正に艦長の為の唯一無二の空間服だ!!」

 

 そう、形だ……何で……なんでよりによって()()()()()()の形にするんだこんの野郎!!

 

 か、身体のラインが完全に浮き上がるような………あ、あんな恥ずかしい形なんて………あれが嫌だからわざわざ改造して昔の巫女服みたいな形にしていたのに!!

 

「どうだ艦長?これぞ艦長の蛮行に耐えうる最強の空か………ゴフッ!?」

 

「ファ◯ク……じゃなかった。チェンジ!チェンジよこんなの!!こんな恥ずかしいモン着れる訳なんてないでしょうがぁぁぁ!!!?」

 

「な………なん、でさ…………」

 

 

 ―――乙女の恥じらいが分からぬ変態は粛清した。サナダさんは理不尽だと訴えていたが自業自得である。慈悲はない。イイネ?

 

 

 

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「久し振りね、霊夢!って、そんなに久し振りでもないか。それはともかく、また世話になるわね!」

 

「よ、よろしくお願いします……!」

 

「こちらこそ。歓迎するわ」

 

 約束通り、レミリアとフランの二人が、いつものお付き(サクヤさん)と一緒に乗艦してくる。メイリンさんは、バリオさんのバゥズ級重巡〈イサリビ〉のようにフル改装された〈レーヴァテイン〉に再び乗り込み、一緒に護衛してくれるのだという。

 

 元気に挨拶してくれた二人だけど、その後から訝しげに私を見つめてくる視線は何なのだろうか。サクヤさんも、なんか視線に警戒の色が混ざっているような……

 

「あの………霊夢さん?」

 

「なに?」

 

「その………ふ、服が………真っ赤……」

 

 レミリアが恐る恐る、私を見上げる。

 

「ああ、これね?ここに来る直前に血糊を溢してしまってね。迎える立場なのに、御免なさいね」

 

「いや、どう見ても本物………」

 

「偽 物 で す 。い い ね?」

 

「アッハイ」

 

 レミリアとフランの二人は、それで大人しくなった。

 

 ちなみにサナダさんだけど、数時間後には普通に生き返っていたわ。妖怪か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ネージリンス領、マゼラニック・ストリーム宙域~

 

 

【イメージBGM:無限航路より「青年編通常宙域BGM」】

 

「ゲートアウト完了。マゼラニックストリーム宙域に到達しました」

 

「赤色超巨星ヴァナージの太陽嵐影響圏に入ります。シールド出力を35%上昇」

 

 アーヴェスト宙域にいる間は幸いにヤッハバッハ艦隊に遭遇することはなく、無事に大マゼラン銀河との中間点であるこのマゼラニックストリーム宙域まで来ることができた。

 今はまだヤッハバッハ艦隊の姿は見えないが、ゲートを出て早々に、私達の目の前に赤色超巨星ヴァナージが立ち塞がる。

 この星は別に航路上に位置……進路を物理的に塞いでいるという訳ではないのだが、11年周期の恒星活動が極大期を迎えているこの星の周囲は、凄まじい太陽嵐と熱圏の影響を受けてまるで"時化た海"のような様相を呈している。

 

 その影響は大マゼラン並の技術力で造られたこの艦隊とて例外なく逃れることはできず、熱圏の影響範囲に入ってからというもの、艦内温度の上昇が止まらない。

 

「艦内平均温度、約2℃上昇。シールド発生装置、出力85%まで上げます」

 

 とは言っても、エネルギーを冷房に回す訳にはいかない。シールドに最優先でエネルギーを供給しなければ、艦体の外壁は忽ち凄まじい恒星風の影響を受けて溶解し、艦内の電子機器も太陽嵐の影響を受けて異常が続出してしまうことになるだろう。

 

「了解。艦体外郭と電子機器の防護を最優先に。ただし乗員の疲労を考えて、敵艦隊との会敵までは三交代制を維持して」

 

「了解です」

 

 私の命令に、オペレーターのノエルさんが応える。

 

 状況を考えるともっと人がいてもいい艦橋内だけど、今はヴァナージの太陽嵐影響圏通過に伴う疲労を考えて監視以外は平時のシフトを取っているので人影はまばらだ。

 

 ノエルさんに命じた私は続いて、貴賓室に連絡を入れた。

 

 "来賓"を乗せている以上、艦長たるもの彼女達の体調には気を遣わなければならない。

 

「もしもし、サクヤさん?二人の様子はどう?」

 

《ああ、霊夢さんでしたか。……はい、今のところは大丈夫ですよ。温度が上がったと多少文句を垂れてはいますが、体調には影響ありません》

 

 応対したサクヤさん――スカーレット社の令嬢二人のお付きを務める彼女によれば、レミリアとフランはまだ大丈夫なようだ。

 一応彼女達には宇宙放射線に関する疾患はないと聞いているが、一時的にせよ艦内温度が上がるのでもしかしたら体調を崩してしまうかもしれない。今はまだ大丈夫らしいけど、万が一に備えて気には掛けておこう。

 

「そう。なら良かった。もし二人に何かあったらすぐに連絡して頂戴。すぐに医者を向かわせるわ」

 

《有難うございます》

 

 ま、派遣できるのはマッドサイエンスな薮医者だけどね………という点には目を瞑ってもらうしかない。……如何に変態科学者なシオンさんと言えど、流石に10歳前後の幼女に手を上げることはないだろう。……ないと信じたい。

 それにもし戦闘が始まったらそうは言っても派遣できないかもしれないし……応急処置なら白兵戦の予定はないので海兵隊員に任せることもできるけど、本格的な処置となったら専門器具に熟知している人の力も必要だしなぁ………

 

 本当、弊艦隊の医師不足は深刻です………

 

 

「それにしても……敵の姿、見えませんねぇ」

 

 いつもと変わらず、私の隣に侍っている早苗が言った。

 

「今は居ない方が助かるわ。只でさえこんな酷い場所を航海してるんだから」

 

 こんな場所でヤッハバッハなんて出てきて堪るもんですか。只でさえ暑さでダウンしてるクルーも居るのに(そのための敢えての平時シフトなんだし)その上敵襲なんて事態にでもなったら目も当てられない。………願わくば、何事もなく大マゼランまで逃げ果せたいものだ。

 

「それもそうですね。あ"ぁ"……それはともかく暑いですぅ霊夢さん……」

 

「我慢しなさい。今のあんたは他人より身体が頑丈なんだし」

 

「ふぇぇ、そんな殺生な……暑いのは苦手なんですよぅ………」

 

 そうは言われても、ねぇ………

 

 こいつが昔から暑いのは苦手だってことは……まぁ同郷だから知ってはいるんだけど、それを差し置いても今のあんた、曲がりなりにも身体は機械みたいなもんなんでしょう?それぐらい、耐えられないのかしら。

 

「あ……いま霊夢さん、私の身体がナノマシン製ドロイドなんだからこれぐらい耐えなさいとか考えましたね!」

 

「なによ……事実でしょう?」

 

 何だこいつは……前々から思っていたけど、読心術でも持っているのか。

 

「私の読心術は霊夢さん限定です!」

 

 ほらまた……というか、そっちの方がよっぽどが質が悪いと思うんだけど……

 

「それはともかくとして……少しは耐えられるでしょ?こんなときなんだから、しっかりして貰わないと困るんだけど……」

 

「ううっ、それはそうなんですけど……私が暑さに弱いのは昔からで……いわば魂に刻み込まれたようなものなんです。だから多少身体が変わっても、そればっかりは変わらないというか何というか……まぁ、そういう事情なので納得して下さい☆」

 

「ハァ………そういうことにしといてあげるわ」

 

 早苗とやり取りを交わすのもなんだか億劫になってきたので、適当なところで無理矢理納得して切り上げることにした。

 

 にしても、機械のナカに転生したことが多少とは……全く以て、この子の感性は読みにくい……。

 

 

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 ヴァナージの太陽嵐影響圏に入って暫くは、幸いにもこれといって目立った動きはなかった。強いて上げるとしたら、太陽嵐で機械に異常が起きていないか調べるために整備班連中の仕事が増えたくらいか。まぁ、あのにとりが居るんだから大丈夫でしょう。それに、大マゼランへの脱出行を控えている以上、ここで機械トラブルなんて起こされたら困るんだから、暫く整備班には働いてもらわなければ。

 

 それは別にいいんだけど、ここにきて、いま最も出会いたくない奴等の尻尾が見えてしまった………

 

「っ!?……か、艦長……!」

 

「……こころ?何かあったの?」

 

 レーダー手の席に座っていたこころが、ナニカ不味いものを見つけたような顔で振り返る。

 

 ……その表情で、何があったのか悟ってしまった。

 

「ぜ、前方……距離53000に交戦反応……!」

 

「交戦反応!?ノエルさん、艦種の照合を!」

 

「了解ッ!……出ました。ッ、こ、これは……」

 

 こころの報告で、其がヤッハバッハ艦隊だと直感する。

 

 その直感を確認するため、私はノエルさんに件の交戦反応に見られる艦種の照合を指示した。

 

「艦種照合……完了!艦種は……ヤッハバッハのダウグルフ級戦艦にダルダベル級重巡洋艦、そしてブランジ級突撃駆逐艦が複数!数が多過ぎて捕捉しきれません!」

 

 ……やはり、勘は当たってしまったか。面倒なことになった。

 

 だけど、交戦反応というからには戦ってる相手もいる筈……それは何処の艦隊なのだろうか。

 

「ノエルさん、もう一方の艦隊が何処の所属かは分かる?」

 

「はい、やってみます……ッ、………出ました!ヤッハバッハ艦隊の前方に、別の艦隊を発見。これは………アイルラーゼン艦隊です!」

 

「アイルラーゼンですって!?」

 

 予想外の交戦相手の存在に、思わずそんな声を上げてしまった。

 ここがネージリンス領なのを考えるとヤッハバッハと戦ってる相手はその持ち主のネージリンス艦隊か、友好国のネージリッドが相場だろうと思っていたのだけれど、何故こんなところにアイルラーゼン艦隊が………

 

「………艦隊の規模は?」

 

「確認します………ヤッハバッハには及びませんが、多数の戦艦を含む大規模艦隊のようです」

 

 続いて私は、こころにアイルラーゼン艦隊の規模を確認させた。………こんな場所で活動しているアイルラーゼン艦隊といえば最近共闘したあの胡散臭いピンク頭の艦隊が頭に浮かんだのだが、艦隊の規模を見ると、どうやらそれとは違う艦隊のようだった。………何故アイルラーゼン艦隊がこんな場所に居るのかという疑問は残るのだけど。

 

 しかし、いま重要なのは此所をどうやって突破するのかという一点に限る。………アイルラーゼン艦隊に関する考察は後だ。

 

 敵中突破は………問答無用で却下だ。あまりにも馬鹿馬鹿しい。当方と彼方の戦力差を考えると、何もできず全滅させられるのがオチだ。

 続いて迂回路を探すという選択だが………これも却下。今から在るかどうかすら分からない迂回路を探している余裕はない。

 ともすれば……選択肢は一つしか残されていない。私達だからこそ取り得る選択が………

 

「ロビンさん、直ちにかカシュケントまでの航路を計算して!!………ワープ準備に入るわよ!」

 

「マジっスか!?」

 

 私は直ちに、ワープ航行に入ることを指示する。

 

 ワープならば、一気にヤッハバッハ艦隊を越えてその奥にある惑星カシュケントにまで辿り着くことができる。

 問題は………ワープ中に想定外の障害物に遭遇した場合だけど、この辺りまで来たら流石にワープを中断させるような強い重力を持った天体はそうそう浮かんでいない筈だ。………ならば、行ける。

 

「ユウバリさん、機関出力120%!」

 

「了解っ!機関最大!ワープ準備!」

 

「ッ………ああそうですかい!こうなったらやってやりますよ!俺もこんな場所では死にたくないんでね!!」

 

 機関長のユウバリさんに命じて、直ちにエンジンをワープ準備に入らせる。ワープするにはそれなりにリスクが高い場所だと分かっているロビンさんは最初こそ幾らか小言を言っていたけれど、決心がついたのかやけくそなのか、舵を握る手に力を入れ直したように見えた。

 

 そうして粛々と、ワープの準備は進んでいく。

 

「〈高天原〉〈ブクレシュティ〉〈イサリビ〉の三艦より、了解との返答あり!」

 

「艦隊全艦、ワープ準備完了!」

 

「機関出力、最大まで上昇!いつでもいけます!」

 

「航路計算完了……っと。いきますぜ、艦長!」

 

 準備完了の報告に、私は静かに頷く。

 

「よし………ワープ!!」

 

 私の号令に合わせて、艦隊は蒼白い超空間のなかに消えた。

 

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「………ワープ、完了。間もなく通常空間に出るぞ」

 

 数時間の間超空間を漂った後に、艦隊は再び、通常の宇宙空間に姿を現す。

 

 艦橋の窓を通して、前方の遠くに青い水の惑星………惑星カシュケントの姿が見えた。どうやら、ワープは成功したみたいだ。

 

「ふぅ………何とか上手くいったみたいね」

 

 ヤッハバッハ艦隊を無事に迂回できたことで、クルー達の間には束の間の安堵の雰囲気が漂う。

 

 

「ま、半分博打みたいなもんですけどねぇ」

 

「私は霊夢さんの勘を信じてしましたとも!」

 

 早苗はいつもの調子で、そんなことを言った。

 

 ともあれ、これで一度補給が出来そうだ。カシュケントに寄って、今一度必需品の補充を済ませておこう。

 

 

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 惑星カシュケントの宇宙港からは、ひっきりなしに民間船が慌ただしく出港していく。

 元々大マゼランとの中間地点なので交易で発展している星だとは聞いていたが、目の前のそれはどちらかというと、慌てて逃げ出すようなものに見えた。証拠に、港から出ていくフネの姿は数えていられないほどあるが、逆に入港するフネの量はそれと比べてひどく少ない。

 

「……なんだか、忙しそうですねぇ」

 

「ヤッハバッハの情報が伝わってるんでしょう。大方、私達と同じように大マゼランに逃げようって連中なんじゃない?」

 

 ここカシュケントは交易で発展している惑星だと聞く。ならばこの星を根城にする貿易商なんかはかなりの財を蓄えているのだろう。この星が侵略者の手に渡ったとき、その財産が保証されるという確証がない以上、逃げるというのは全うな選択肢だ。

 ………逃げ出すフネの大半が大型貨物船のビヤット級ということは…………まぁ、そういうことなのだろう。

 

「管制塔より連絡です。11番ステーションに入港許可が降りました」

 

「了解。じゃあ、そこに艦を向かわせて」

 

「アイアイサー」

 

 沈み行くフネから逃げ出す鼠のように慌ただしく出港する貨物船の群を掻い潜って、〈開陽〉はカシュケントのステーションに入港した。

 

 

 ..............................................

 

 

 ~マゼラニック・ストリーム宙域、惑星カシュケント宇宙港~

 

「入港手続、完了しました」

 

「乗員は現状のまま待機。いつでも出られるようにしておいて」

 

「了解です」

 

 クルーには待機を命令して、私は早苗を伴って宇宙港に降り立つ。

 

 なんだか、見覚えのある艦が並んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

 

「気のせいじゃなくて、これ、ユーリさん達のフネですよね。なんでこんな場所にあるんでしょうか?」

 

 そのフネは、何度か舳先を合わせて共に戦った馴染みの0Gドック、ユーリ率いる艦隊のフネ達だった。

 

「さぁ?私に聞かれてもねぇ……大方、私達と同じで大マゼランに逃げようって魂胆なのかもねぇ」

 

「ああ成程、そういう可能性もありましたね」

 

 遇々偶々、逃げる途中で遭遇したようなものだろう。これもなにかの縁だし、声ぐらいは掛けておこうと私は思っていたのだけれど…………

 

 

 彼等を会うことで、私は事態がそこまで、私達を素直に逃がしてくれるほど優しいものではないと、思い知ることになった……

 




本章に入ってから、霊夢ちゃんの服装がしばらく変わります。以前はwin版巫女服ベースの空間服でしたが、いまは普通の巫女服です。個人的にぴっちりスーツはあまり性癖にヒットしないので霊夢ちゃんには着せません。サナダさん製のぴっちり空間服はクーリングオフされました。


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第七八話 別れの旅立ち

 

「…は?いま、何て言った…?」

 

 偶然同じ星に寄港していた知り合いの0Gドック……ユーリに一声掛けようと彼の艦を訪ねていた私だけど、そこで、衝撃の事実を知らされることになった。

 

「ですから…大マゼランに逃げても、ここで食い止めなければ無駄なんです……」

 

 "逃げられない"……正直、耳を疑った。

 

 どう足掻いても現有戦力ではヤッハバッハには対抗できないし、何より"来客"とクルーの安全の為にいままでヤッハバッハとは極力戦わない方針できたというのに、ここに来てあの大艦隊を足止めしなければ助からないとは、まさに絶望的状況だ。

 

「ヤッハバッハ先遣艦隊の総司令、ライオス・フェムド・ヘムレオンは確かにここの長老に対して"大マゼランへの案内をして欲しい"と頼んだ。それが、奴等が小マゼランだけでなく大マゼランをも目指している最大の証拠さ。それに、このマゼラニックストリームが敵の手に落ちれば"案内人"も奴等の手中さ。そうなったら、奴等は12万の大軍を率いて大マゼランをも強襲するだろう。……そうなったら、大マゼランも終わりさ」

 

 ユーリ君の副官―――トスカさんが、敵、ヤッハバッハの目的を語る。

 

 奴等が大マゼランを目指して進軍してくる以上、大マゼランに逃げても無駄、という訳か。……小マゼラン諸国は足止めにもならないだろうし、幾ら強国蔓延る大マゼランといえど、10万単位で押し寄せる敵の奇襲を受けてしまってはあっという間に瓦解してしまうだろう。……正直、手詰まり状態だ。

 

「くっ……参ったわね、これは」

 

 ここでいまの私達が戦ったところで、ヤッハバッハの大軍に押し潰されるのは目に見えている。だけど、大マゼランに逃げるためには誰かがここでヤッハバッハを足止めしなければならない。それも、長期に渡って……

 

 ――勝算、あるの?

 

「アイルラーゼンの連中は、エクサレーザーとかいう大層なモン使うつもりらしいけどねぇ」

 

「エクサレーザー?なにそれ」

 

「アタシも詳しく知ってる訳じゃないが……なんでも極太レーザーで恒星を貫いて、超新星爆発を引き起こそうって魂胆らしいけど」

 

「超新星………」

 

 トスカさんも、あまり詳しくは知らないのだろう。その説明は中身を見れば曖昧なものだ。だけど、要領は得ている。要するに、あの赤色超巨星ヴァナージにそれを撃ち込んで、超新星で敵を足止めしようって魂胆なんでしょう。けっこうえげつない手を考えるのねぇ……って、待てよ、超新星―――ってことは………

 

「………まさか、それでゲートを通行不能に」

 

「当たりさ」

 

 ―――成程、そういう手があったのか!

 

 ボイドゲート自体の破壊は極めて困難だけれど、通行不能にしてしまえば奴等が大マゼランに到達することはない。それに、超新星の余波で敵艦隊そのものにも大打撃を与えることができるかもしれない。

 けど、超新星爆発なんて起こしたら、どうやって離脱しようか……

 

「ああ、離脱なら心配ない。私達はヤッハバッハを側面から強襲して、敵を一時的に混乱させて足止めして、そのレーザーのチャージ時間を確保するのが役割だからね。それが済んだら離脱していいって言質もバーゼル――アイルラーゼンの司令官から取っている。だから……協力、してはくれないかねぇ」

 

「僕からも、お願いします。小マゼランを守るためにも、その力が必要なんです!霊夢さんの艦隊があれば、ヤッハバッハへの奇襲時の攻撃力は僕達だけに比べて遥かに上がるんですから!」

 

 トスカさんとユーリ君はそう言って、私に作戦への参加を要請した。……だけど、ここで即決するには、敵があまりに強大過ぎるというか………

 

(………早苗、どう思う?)

 

(え、私ですか?……そうですねぇ、どのみちヤッハバッハの足止めに失敗したら彼等は確実に大マゼランに雪崩れ込んでくる訳ですから、ここで逃げても彼等が失敗したら意味が無くなりますよね。それなら、彼等に協力して作戦成功の確率を上げた方がよろしいのかと。ああ、レミリアさん達は事前に別の艦に移して逃がした方がいいですね)

 

(やっぱりそうかぁ……なら、ここは腹を括るしかないのかなぁ。あまり気は乗らないけど、そうしないと助からないってのならやるしかないか………)

 

 早苗と小声で相談してみても、やはりここで一戦交えるほかないようだ。なら、いっそのことユーリ君達に協力して、その作戦の成功確率を上げるのか一番確実な道だろう。

 

「……分かったわ。今回は特別に協力してあげる」

 

「そうですか!?有難うございます!」

 

「いやぁ、済まないねぇ、巻き込んじまってさ」

 

「いえ、そうしないと、どのみち私達も逃げられそうにないと判断したまでよ。………ところで、ヤッハバッハに奇襲といっても、何処から仕掛けるつもりなの?確かヤッハバッハの連中はヴァナージに通じる航路に居たと思うんだけど、あそこ、航路一本しかないでしょ?」

 

 ヤッハバッハの艦隊は、あの後赤色超巨星ヴァナージの周囲に繋がる宙域に後退していったらしいけど、そこに通じる航路は確か一本しかなかった筈だ。それでは、奇襲以前に見つかってしまうのではないだろうか。

 

「……それなら、私が説明します」

 

「貴方は………」

 

 何処かで聞いたような声が響いた。だけど、何処て聞いたかはよく思い出せない。

 ユーリ君達の後ろから、その声の主と思われる白髪のおじさんが現れる。その顔も、何処かで見たことがあるような……

 

「………もしかして、シュベインさん?」

 

「おお!覚えていただけてましたか。光栄です。貴女と会うのは、確かエルメッツァのボラーレ以来となりますね」

 

 ―――思い出した。確か小マゼランに来てすぐの頃に、エルメッツァの宇宙港で会ったのがこの人だった。私はあんまり人の顔と名前を覚えるのは得意ではない方なのだが、よく覚えていたなあと我ながら感心する。

 

「……シュベイン、知り合いだったのか」

 

「ええ。以前エルメッツァに寄った際に、少々……」

 

 トスカさんは元からシュベインさんと知り合いだったらしく、私を見た彼の反応に少し驚いていたみたいだ。が、彼はそこそこに話を誤魔化すと、早速本題に入った。

 

「実はこの先のハインスペリアから、ヴァナージの裏手にあるRG宙域に向けて秘密航路が伸びています。そこを通れば、小規模な艦隊なら気付かれることなくヤッハバッハの泊地を強襲出来るでしょう」

 

「なーるほど、秘密航路かぁ………」

 

 ちょっと格好いい響きよね。知る人ぞ知る抜け道みたいで。それはともかく、ヤッハバッハに知られていないというのなら事前に探知されるリスクも低いだろう。奴等からしたら、いきなり側面から敵艦隊が突っ込んでくるのだ。その衝撃は計り知れない。それにあれだけの大艦隊だ。反応するまでには必ず大きな隙が出来る。でかい艦隊というものは、それだけ動きも緩慢だからだ。その間に敵の懐に飛び込んでしまえば、敵も迂闊には手を出せまい。………うん、なんだか上手くいくような気がしてきた。

 

(だからって、油断は禁物ですよ霊夢さん)

 

(分かってるわよそんなこと)

 

 それでも、リスクは高い。……だけど、ここでしくじれば大マゼランにすら逃げ場が無くなるのだ。私達の生存圏確保の為にも、彼等の作戦は成功に導かねばなるまい。

 

「分かったわ。私も一緒に行動させて貰うわ」

 

「おお!そうですか!ならば宜しくお願いします!」

 

「ええ。任せておきなさい。私が参加するからには、必ず成功させてみせるわ」

 

 

 こうして、私達はユーリ君達と合同してヤッハバッハに当たることになった。後は、この事をクルーの皆に説明しないとね。色々意見とか出そうで面倒だけど、ここは艦長として、しっかり艦隊を纏めないと………。

 

 

 

 

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 ~『紅き鋼鉄』旗艦〈開陽〉大会議室~

 

 

 

 ユーリ君の艦から〈開陽〉に戻った私はすぐに幹部クルーの皆を召集し、会議を開いた。彼からもたらされた情報は、それだけ重大なものだった。

 

「……状況は理解した。つまり、我々が大マゼランに逃れたところで、ヤッハバッハが大マゼランへの進攻を画策している以上、逃げるのは無駄であると」

 

「そんなところね。ここで皆に聞くわ。ヤッハバッハとの戦いに身を投じるか、それとも奴等はユーリ君とアイルラーゼンに任せて一路大マゼランを目指すか」

 

 説明が終わったところで、私は意見を求めた。

 

 一様に皆、難しい表情を見せて考え込む。

 

「……艦隊の保全を最優先とするなら、アイルラーゼン艦隊を身代わりに大マゼランへ急ぐべきだろうな」

 

「……つまり、貴様は逃げるべきだと言いたいのか?」

 

「最低でも、"来客"の安全は確保せねばなるまい。それが出来なければ戦うべきではないだろう」

 

「だが、逃げたところで追ってこられては意味がない。ここは戦うべきではないか?それに、アイルラーゼンが上手くやるという保証もないだろう?」

 

 サナダさんとフォックス、そしてディアーチェが意見を交わす。

 

 ……サナダさんの言うとおり、戦うにしてもレミリア達の安全は確保しなければ。ここは艦隊を分割して先に大マゼランに逃がすべきだろうか。艦隊の戦力は低下することになるだろうが……

 

「だが、アイルラーゼンが失敗するという前提が決まったわけではない。なら、最低でも来客は逃がすべきだ」

 

「そうだな。少なくとも、託された以上我々には彼女達を安全に送り届ける義務がある」

 

「同感だな」

 

「ま、逃げるってならそれで良いんじゃねぇの?」

 

「むぅ………」

 

 コーディとショーフクさん、加えてロビンさんも、それに賛意を示した。

 ディアーチェさんは、やや不満気だ。

 

 サナダさんはやけに楽観視しているけど、これは私が事前に彼にはアイルラーゼンの"隠し玉"を伝えておいたからだろうか?

 

「だが、安全を確保すると言ってもどうやるんだ?まさかこのまま乗せて戦うということはできないだろう?」

 

「そうだな。それに、一介の0Gとして、このまま故郷が蹂躙されるのは見ておれん」

 

 一方で、フォックスやディアーチェのように戦うべきではないかと言うクルーも引き下がらない。それに、一部のクルーにとって小マゼランは故郷だ。0Gなんてやってるから国自体にそれほど執着がない彼等だが、こと故郷に至っては別だ。彼等にも、それなりの愛郷心は備わっている。……私も、幻想郷が蹂躙されるとなったら全力で抵抗するだろうし。

 

 ……そこで、私は口を開いた。

 

「……戦うなら、艦隊を分けるしかないわね」

 

「艦長!?」

 

 私の言葉にフォックスが驚きの声を上げた。

 

「それでは、戦力が分散されてしまうぞ」

 

「仕方ないでしょ。ここでヤッハバッハを食い止めなければ逃げるどころか逃げ場すらなくなるのよ。だからといって彼女達を巻き込む訳にはいかない……ショーフクさん、彼女達をお願いしてもいいかしら?」

 

「……それは、〈高天原〉を脱出艦とする、という事ですか?」

 

「ええ。護衛艦も何隻かつけるわ」

 

「承知した」

 

 ショーフクさんにレミリア達のことをお願いしたところ、彼は快く承諾してくれた。

 

「……ま、艦長がそう言うなら従うだけだ」

 

「だが、敵との戦力差は如何ともしがたい。戦うとしたら、正面からぶつかるのは絶対に避けるべきだな」

 

「同感だ。奴等は数、質共に一介の0Gでは勝てるような存在ではない。幸いアイルラーゼンという盾がいるんだ。それを有効に使うべきだろう」

 

 エコーは、戦闘するにしても正面からは戦うなと釘を差す。

 無論、私も正面からヤッハバッハと戦うつもりなど無い。

 

「だが、どうやって奴等をこの宙域に足止めするんだ?奴等は旗艦を落とした程度で止まる敵ではないでしょう」

 

 続いて、コーディが質問する。

 

「それについては……一つ策があるわ」

 

 確かに現有戦力では、アイルラーゼンを含めてもヤッハバッハを足止めすることは難しい。……だけど、今回のアイルラーゼンには切り札がある。

 

「アイルラーゼン艦隊には、エクサレーザー砲艦タイタレスが随伴していると聞いた」

 

 聞き慣れない語に、会議室内でざわめきが広がる。

 

「エクサレーザー?」

 

「タイタレス……何ですかその艦は」

 

 矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、私はそれを制し、皆が落ち着いてから説明する。

 

「まぁ、ともかく落ち着いて。いまから説明するから……………。ユーリ君から聞いた話だけど、その艦は巨大なレーザー砲を搭載した砲艦らしいわ。エクサレーザーってのがどんなのかは知らないけど、かなり強力な砲らしい」

 

 私の説明で、再びざわめきが広がった。

 

 ―――その砲を使えば、ヤッハバッハ艦隊に大打撃を与えられるのではないか、と………

 

「……成程、つまりその砲艦を使って、ヤッハバッハに大きな出血を強いることができる、と」

 

 フォックスが言葉に出したのは、この場に集まるほぼ全員が頭に描いていた光景だろう。それほど強力な砲があれば、もしやヤッハバッハに対抗出来るのではないか、と。

 

 だけど、その幻想は直ぐに否定される。

 

「それは無理だろう」

 

 言葉の主は、サナダさんだ。

 

 その発言で、全員の目がサナダさんに向かう。

 

「無理とは、どういうことだ?」

 

 ディアーチェさんが、睨むような事前にでサナダさんを問い詰めた。

 サナダさんからそれに臆することなく、説明を始める。

 

「言葉通りの意味だ。エクサレーザー砲艦が幾ら強力だといえ、相手は10万を越える大艦隊だ。一方でアイルラーゼン艦隊はその十分の一以下。その程度の戦力差があれば、エクサレーザーで敵を凪ぎ払う前に護衛艦隊が壊滅して砲艦も沈められるだろう。それまでに出来るのは、たかだか二、三射だ。その程度の攻撃回数では敵にインパクトは与えられても、足止めまではとても出来まい」

 

 サナダさんの言葉に、会議室は一様に沈黙した空気に包まれる。

 だが、彼は続いて、希望の言葉を紡いだ。

 

「………だが、その砲艦の使い方を変えれば別だ。ヤッハバッハの足止めも、充分可能だろう」

 

「なんだと!?」

 

 一度打ち砕かれたと思われた希望が再び提示されたことで、皆サナダさんの言葉に飛び付く。

 

「……エクサレーザー砲は、恒星に撃ち込めば核融合反応の異常増幅を引き起こし、超新星爆発に至らしめることが可能だ。それを利用すれば………」

 

「超新星爆発の影響で、ゲートを通行不能にするという訳だな!」

 

「その通りだ。ヴァナージほどの質量を持った恒星なら、その爆発はハイパーノヴァとなるだろう。近傍の恒星系を呑み込み、ゲートを通行不能に陥らせるには充分過ぎる代物だ」

 

 ディアーチェの言葉をサナダさんは肯定した。一般に、ボイドゲートはボイドフィールドによりあらゆる攻撃を受け付けず破壊は極めて困難とされている。あれ自体古代文明の異物らしいけど、そこまで強固なフィールドを持っているんだからその文明水準もかなり高いものらしい、ってサナダさんが言ってたっけ。おっと、本筋から外れた。

 だけど、幾ら強固なボイドゲートといっても近くで超新星爆発でも起これば話は別だ。ゲート自体は崩壊せずとも、超新星爆発で引き起こされるガンマ線バーストや衝撃波の影響でゲートの機能が停止し、ゲートは通行不能に陥る。超新星爆発後も付近に広がった恒星の残骸―――超高熱のガス雲からなる超新星残骸の影響で、付近一帯の航路は全く使い物にならなくなるだろう。今回の作戦は、それを人為的に起こそうというものだ。

 

「……アイルラーゼン艦隊も、その方向で動いているみたいよ。そこで私達の役割だけど、ユーリ君達の艦隊と合同して、敵艦隊側面を強襲、旗艦を撃沈して敵の指揮系統を一時的に麻痺させるというものよ」

 

「その後は速やかに戦線を離脱、超新星爆発に伴うガンマ線バーストと衝撃波から退避します」

 

 サナダさんの解説が終わったところで、私と早苗が作戦概要の説明を行う。

 

「……そのエクサレーザーとやらを発射するまでの、時間稼ぎか」

 

「ええ。この作戦の成否は、エクサレーザー砲を発射できるか否かにかかっているわ。幾ら精強なアイルラーゼン艦隊とはいえ、正面から十倍以上のヤッハバッハ艦隊と戦っていてはそう長くは持たないし、もしかしたら発射前に戦線が瓦解する恐れもある。それに、超新星爆発を引き起こすほどのエネルギーを持った砲艦よ。当然エネルギー反応も異常に高い。そんなのが戦場後方に控えていたらヤッハバッハの連中は躍起になって前線の突破を図るでしょう。艦隊指揮官が誰だってそんな危険な代物を放置してはおけないわ。そこで、私達が敵艦隊に強襲を掛けて一時的な混乱を引き起こすことで、ヤッハバッハの進撃速度を一時的に停滞させる。幾らヤッハバッハといえど、陣形の中に入られては同士討ちを恐れて迂闊に手を出せない筈よ」

 

「……つまり、如何に早く敵の懐に飛び込むかが、この作戦の要であると」

 

「そういうことね。何か質問は?」

 

 説明を終えた私は、質問が出ないかどうか確認する。が、今ので皆納得してくれたようで、特に質問はなかった。

 

「……ま、かなーり厳しい戦いになりそうだが、艦長が言うなら付いてくしかないっしょ」

 

「ヘッ、またあの野郎共にこれで一泡吹かせてやれるってもんだ」

 

 ロビンさんやフォックスのように、クルーの皆は戦いに向けて意気込んでいる。確かに今まで以上に今回は危険が伴うけど、それでも付いてきてくれるというのはやはり艦長冥利に尽きる。同時に、責任も………

 

 だけど、戦いに赴く前に、一度伝えておかなければならないことがある。

 

「意気込んでいるところ悪いんだけど……クルーの半分くらいは〈高天原〉と共に大マゼランに向かってもらうわよ?」

 

「な、何ィ!?」

 

 本来、ここで艦隊は〈開陽〉中心の主力艦隊と、レミリア達を乗せた〈高天原〉率いる先発隊に別れる算段なのだ。〈高天原〉にもショーフクさんのクルーが居るけど、それだけではマゼラニックストリームを越えるには人手が足りない。それに、大マゼランに着いても現地の海賊達から彼女達を守らなければならないのだ。そのためにはやはり、もっと人手が必要なのだ。

 

「そういえば…そうでしたっスねぇ」

 

「……で、その先発隊とやらには誰を連れていくつもりなのだ?」

 

 ディアーチェさんが、私に先発隊の構成を質問した。

 

「先発隊については、ショーフクさんのクルーの他に、艦橋クルーからはコーディにリアさんとこころ、航空隊はガルーダ、ガーゴイル、ヴァルキュリア隊を除いた全てのパイロット、保安隊はエコー、ファイブス、椛以外の全員よ。その間向こうの保安隊は、チーフに隊長代理を務めてもらうわ。整備班は三分の二くらいはあっちに移して、他のクルーは、最低限の運用人員を残して全員〈高天原〉に移ってもらうわ」

 

「……保安隊、了解した。だが随分と向こうに回す人員が多いな」

 

「それだけ、この先の航路が過酷だろうってことよ」

 

 分派する人員の説明は終えたが、やはり疑問は出るようだ。だけど、あちらにはレミリア達を乗せる以上、人員に妥協はできない。

 

「コーディはショーフクさんの下について、彼の補佐を。そしてショーフクさんには、私が戻るまでの間、クルー達をお願いします」

 

「イエッサー」

 

「心得た。……だが、合流地点はどうする?まさか艦長はここで尽きようという魂胆でもあるまい。生存を前提とするならば、あちらで落ち合う場所くらいは決めておいた方がよかろう」

 

「あ………」

 

 しまった、そのことを忘れていた……。ショーフクさんに指摘されるまで気付かないとは、不覚………

 

 しかし、落ち合う場所といっても大マゼランの地理なんてさっぱりだ。何処がよさそうな場所かなど全く分からないんだけど……

 

「それなら、私に提案がある」

 

「サナダさん!?」

 

 そこで思わぬ助け船だ。本当にサナダさんにはお世話になるなぁ。………彼、知らないことなんて無いんじゃないかしら?まぁ、素行にそこそこ問題有りだけど。

 

「大マゼランの端、ゼオスベルトという宙域には、何処の国にも属さず0Gドックを支援するための組合が統治している自治領があると聞く。そこなら国家から余計な干渉が入る確率もかなり低い上に、何より目印として分かりやすい。どうだろうか、艦長?」

 

「そこにしましょう。じゃあ待ち合わせ場所はゼオスベルト、で良いわね?」

 

「了解した」

 

 これで、最後の懸案も解決した。後は、戦いに向けて準備をしていくだけだ。

 

「では……諸君の健闘に期待する。解散!!」

 

 暫く大半のクルーとは別れることになるし、ちょっと格好をつけて、私は会議の解散を告げる。そしてクルー達は、慌ただしく準備に取り掛かっていった………。

 

 

 

 

 

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「霊夢……本当に行っちゃうの?」

 

「ええ。でもここでお別れって訳じゃないわ。悪い奴等をやっつけたら、また直ぐに戻ってくるから」

 

 出港当日、私はレミリア達の下に赴いて、一時の別れの挨拶を告げた。二人とも不安そうな表情で、ちょっと申し訳ない気持ちになる。……気分的には、幼子を残して出征する父のような心境だろうか。

 

 そういえば、彼女達にはあまり構ってあげられなかったなぁ……大マゼランに着いたら、存分に構ってやるか。二人ともあっちと違って大人しくて可愛いし。

 

「じゃあ……約束だよ?また会ったら、そのときは一緒に遊んでくれる?」

 

「お姉様だけじゃなくて、フランともね!」

 

「……ええ、約束するわ。また会ったら、そのときは構ってやるわ。だから、今は我慢」

 

「……分かった」

 

「うん!」

 

 二人とも、納得してくれたみたいだ。

 

 ……約束したからには、必ず生還しなきゃね。尤も、最初からくたばるつもりなど毛頭無いが。

 

「………では、こちらに」

 

「たっしゃでなー!」

 

「またね!霊夢さん!」

 

 レミリアとフランは、大きな声を上げて私に別れの挨拶を言う。それは何処か、悲しさを気取らせまいと気丈に振る舞っているようにも見えた。

 

 二人は護衛担当のチーフに連れられて、〈高天原〉のタラップを登っていく。

 

「……では、私達もこれで。お嬢様達の為にも、必ず生きてまた会いましょう」

 

「私も社長からお嬢様を託された身です。今度こそ、何があってもお嬢様達を守り抜きます。ですから、霊夢さんは心置きなく、目の前のことに集中して下さい」

 

「二人とも、有難う。………じゃあ、そろそろ行くわ」

 

「はい」

 

「では、お気をつけて」

 

 レミリア達が乗艦した後、サクヤさんとメイリンさんとも、別れの言葉を交わし合う。二人はそれぞれ、挨拶を終えると〈高天原〉と〈レーヴァテイン〉へと別れていった。

 

 さて、私もそろそろ艦橋に戻らないとね。

 

 ................................................

 

 

 がらりと人が居なくなった通路を過ぎ、〈開陽〉の艦長席に座る。艦橋のクルーも、所々空席が出来ていた。

 

「……食料、弾薬、共に満載状態です」

 

「エンジンの暖気運転は済ませています。いつでも行けますよ」

 

「レーダー、センサー異常なし。索敵機能は万全です」

 

「火器管制は万全です。いつでもぶっ放せます」

 

「重力井戸、異常なし。飛び立つんならお好きなときに」

 

 早苗、ユウバリさん、ミユさん、フォックス、ロビンさんから報告が入る。

 

 私は艦長席を立つと、力強く命じた。

 

「―――〈開陽〉、出港!!」

 

 

「イエッサー!〈開陽〉、発進!」

 

「インフラトン・インヴァイダー、出力巡航モード!」

 

 カシュケントの港から、エンジン音を盛大に響かせて〈開陽〉が出港する。随伴の艦隊も、〈開陽〉に続いて続々と宇宙港を後にしていく。

 

「〈高天原〉より発光信号!」

 

 すると、艦隊主力より別れ行く〈高天原〉の艦橋で、サーチライトがチカチカと光るのが見えた。

 

「……読み上げて」

 

「はい……『貴艦隊ノ健闘ヲ祈ル。我再ビ見エルコトヲ願ワン』……です」

 

 ミユさんが、〈高天原〉から発せられた発光信号を読み上げる。

 

 ……多分、ショーフクさんが送った信号だろう。中々洒落た真似をしてくれるじゃない。

 

「――本艦も発光信号で返信『貴艦ノ航海ノ無事ヲ祈ル』………」

 

「了解」

 

 ミユさんに命じて、〈開陽〉のサーチライトで〈高天原〉に向けて返答させる。発光信号を交わし合う二隻の姿は、別れ行く戦友の身を案ずる兵卒のように感じられた。

 

「……〈高天原〉が離脱していきます」

 

 信号を交わし終えると、〈高天原〉は護衛艦のドゥガーチ級空母〈ロング・アイランド〉とリーリス級駆逐艦〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈ドーントレス〉、そして補給艦の物資を売り払って手に入れたなけなしの金で作った新造のスタルワート級重フリゲート〈フォワード・オントゥ・ドーン〉の5隻を率いて大きく転舵し、大マゼランに向かって旅立っていった………。

 

「本艦隊も目的地に急ぎましょう。機関全速!目標RG宙域!」

 

「了解!機関、全速前進!!」

 

 〈高天原〉と別れた後、ユーリ君達の艦隊と合流した私の艦隊は、一路ヤッハバッハの主力が潜む臨時泊地に向けて進撃を始めた………。

 



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第七九話 マゼランの嵐

連投一つ目です。


 ~マゼラニック・ストリーム宙域~

 

 

「レーダーに感あり。数6………艦種照合完了。サウザーン級CL1、アリアストア級DDG2、テフィアン級DD3です」

 

「エルメッツァの艦隊か………何故こんな場所に?」

 

 カシュケントを出港してユーリ君達の艦隊と合流した後、シュベインさんの案内で秘密航路とやらを進んでいた。………ところで、ユーリ君の艦の隣にいるフネ………あの〈エリエロンド〉よね……?なんで彼の艦隊に随伴しているのだろうか。味方ならまぁ、別にいいんだけど。

 

 どうやら私達以外にもこの航路に展開している艦隊が居たらしい。脱出組のこころに代わってレーダーを担当する早苗から報告が入った。見たところ使っている艦はエルメッツァ軍の艦船のようだが、その艦隊が発しているIFF……敵味方識別信号はヤッハバッハのものだ。

 

「……恐らく、降伏したエルメッツァ軍の編入された艦隊でしょう」

 

「つまり、敵という解釈でいい訳ね」

 

「はい。そう見て宜しいかと」

 

 私の疑問に、オペレーター席に座るノエルさんが答えてくれた。可哀想に、捨て駒にされた訳か。少数の被占領国艦隊を哨戒線にばら蒔いて、定時連絡が途切れたらそこに敵がいる、って分かるという寸法か。だけど………

 

 

 ……敵ならば、遠慮する必要はない。

 

 

「………全艦、砲撃戦用意!!ここで察知される訳にはいかないわ。全て片付けなさい!」

 

 このまま進んだら私達の存在が通報される。撃破しても、モタモタしていたら定時連絡がないことに気づいたヤッハバッハ主力に警戒されてしまう。なら、ここで敵を殲滅して、強行軍で一気に敵主力艦隊側面を突くしかない。

 

「了解!全艦、砲撃戦用意!!射程に入り次第、各個目標に向けて砲撃を開始せよ!」

 

「イエッサー、火器管制オン。主砲一番から三番まで目標を捕捉次第斉射開始」

 

 敵艦隊を捉えた〈開陽〉は、その破壊力を解き放たんと艦首方向を指向する三基の主砲塔が稼働して敵艦隊を照準する。僚艦もそれに倣い、発射可能な全ての砲口を敵に向けた。

 

「先行するユーリ君の艦隊は?」

 

「はい……今やっとエネルギー反応が上昇を始めたところです」

 

 チッ……躊躇ったか。

 艦隊の配置からしてユーリ君の艦隊が先に前方のエルメッツァ艦隊と交戦していた筈だが、私達より戦闘態勢への移行が遅れているところを見るに、同じエルメッツァ人だからという理由で一時攻撃を躊躇ったのだろう。戦闘態勢に入りつつある点を見ると覚悟は決めたようだけど……済まないが、先に此方で片付けさせてもらう。

 

「全主砲、発射準備完了!」

 

「―――撃ちなさい」

 

 淡々と、命令を下す。

 

「イエッサー。主砲発射!!目標、敵一、二番艦!」

 

 〈開陽〉の上甲板にある三基の160cmレーザーカノンが咆哮し、蒼白い軌跡を描いて目標に飛翔する。

 主砲弾の直撃を受けた敵サウザーン級は一撃こそ耐えたものの、その一撃でシールドを一気に剥がされたのか、続く二撃目では一瞬で灰塵と化した。もう一隻のアリアストア級も、主砲弾の直撃を受けて火を吹きながらクルクルと回転して軌道を外れた後、大爆発を起こして轟沈した。

 

「敵4隻のインフラトン反応拡散。撃沈です」

 

「第二射用意。本艦は敵五番艦、〈ネメシス〉は敵六番艦を狙いなさい」

 

「了解。射撃データ更新します。目標、敵五番艦」

 

 〈開陽〉と〈ネメシス〉の先制砲撃で一気に艦隊の大半を失ったエルメッツァ艦隊は明らかに動揺していた。残された2隻のテフィアン級駆逐艦は、反転して急速離脱を図っている。だけど、ここで私達の存在を露呈させる訳にはいかない以上、ここで沈めなければならない。

 

 ―――悲しいけどこれ、戦争なのよね……。

 

「射撃データ更新完了。いつでも撃てます」

 

「……主砲一番から二番、一斉射!目標敵五番艦!!」

 

「イエッサー。ぶっ放すぜ」

 

 再び、〈開陽〉の主砲が咆哮する。

 

 やや時間差を置いて放たれたエネルギーの弾丸は目標の艦尾……エンジンノズルを正確に貫き、轟沈せしめる。

 

 ほぼ同時にその隣でも、同じような爆発が巻き起こった。

 

「敵五、六番艦のインフラトン反応拡散。……敵艦隊、全滅しました」

 

「よろしい。第一種警戒態勢に移行し、そのまま前進を続行しなさい」

 

「アイアイサー。全速前進」

 

 艦隊は今しがた撃破した敵艦隊の脇を通り過ぎて、黙々と秘密航路を進む。本来ならデブリの回収や生存者の救助活動をするんだけれど、生憎と今そんなことをしている余裕はない。……許せ。

 

「……向こうからの通信は?」

 

「いえ、ありません」

 

「そうか………」

 

 ユーリ君からは文句の一つ二つは言われるかと思ったが、どうやらそうはならなかったみたいだ。……向こうも、本当に覚悟を決めたということか。

 

 その後も艦隊は、黙々と前進を続けた。

 

 

 

 .................................................

 

 

 ~マゼラニック・ストリーム宙域、赤色超巨星ヴァナージ近海~

 

 

 

 

「っ……!捉えました!前方距離126000、ヤッハバッハ主力艦隊発見!!」

 

 遂に、その姿を捉えた。……ここからはもう、引くに引けない領域だ。

 

 敵艦隊の規模が大きすぎるだけに、通常よりも遥か遠距離でその姿を捕捉することに成功する。………流石に万単位の艦が集結しているだけあって、中々に壮観な眺めだ。

 

 ――これから私達は、あの中に飛び込むのだ。

 

 私は通信機を手にとって、先を行く友軍に声を掛ける。

 

「……ユーリ君、やることは分かってるわね」

 

《……敵の中枢を強襲し、敵艦隊を混乱させる、ですね》

 

「ええ。無茶はしないで、生き延びることに集中しましょう。じゃあ、再会を祈って」

 

《はい。そちらこそ、お気をつけて》

 

 僅かに言葉を交わし合い、通信を終える。また生きて会えることを願い、互いの健闘を祈る。

 

 通信機をそっと置き、艦橋を一瞥する。

 

 ―――皆、覚悟を決めたような顔をしていた。

 

 私は立ち上がり、艦内放送用のマイクを手に取る。

 

「―――全員、聞いているわね」

 

 私が話し始めるのを見て、全員の意識が集まってくる。

 

「間もなくこの艦隊は、敵艦隊と交戦するわ。――この中には、奴等に故郷を蹂躙された、そして今まさに蹂躙されている人達も居るでしょう。奴等に対する気持ちは分かる。だけど、この艦隊を率いる長として、一つだけ言わせて頂戴」

 

「―――生き残れ。生き残って、また仲間と会いましょう。私からは、それだけよ。以上」

 

 簡潔に、短く纏めて訓示を終える。

 

 さて……ここからが本番、ってね。

 

「………聞いていたわね。全艦、第一種戦闘配備!!敵の側面に大穴を開けてやりなさい!!」

 

「「「了解ッ!!」」」

 

 艦橋クルーの木霊するかのような返答が響く。直後、〈開陽〉のエンジンが唸りをあげて、最大速度で敵艦隊に向かって突撃する。

 

「長距離対艦ミサイル〈グラニート〉全弾スタンバイ。発射諸元入力開始」

 

「主砲へのエネルギー注入を開始。モード、収束砲撃。エネルギーコンデンサー解放。速射態勢に移行します」

 

「艦載機隊、発進スタンバイ。カタパルトにて待機せよ」

 

《護衛艦隊各艦、戦闘準備完了よ》

 

 次々と、戦闘態勢に移行しつつあることを示す報告が耳に入る。その間にも、敵との距離は縮まっていく。

 

「アイルラーゼン艦隊の様子は?」

 

「はい………本艦隊より左舷前方、116000の宙域でヤッハバッハ艦隊先鋒と交戦中。今のところ拮抗しているようです」

 

 レーダーを一手に握る早苗から、アイルラーゼンの動向が知らされる。

 数の上ではヤッハバッハの十分の一以下のアイルラーゼン艦隊だが、この宙域は赤色超巨星ヴァナージの熱線と重力嵐によって航路が細く限られている。なので、ヤッハバッハはその数を前面に押し出して圧倒するという戦術が取れないでいる。しかし、アイルラーゼンがほぼ全軍で当たっているのに対し、ヤッハバッハは大軍であるためその余力は段違いだ。次第にその差が明瞭となって浮かび上がってくるだろう。私達の仕事は、敵を混乱させることでそれまでの時間を出来るだけ稼ぐことだ。

 

「……向こうもあまり余裕は無さそうね。敵艦隊中枢に突入後は、そのまま中央を突っ切ってアイルラーゼン艦隊と合流するわ。やれるわね?」

 

「んなこと言われましてもねぇ!やるっきゃ無いでしょ!」

 

 舵を握るロビンさんに、艦隊機動の方針を伝える。

 敵との間には埋めようもない差がある以上、少数の私達が生き残るためには敵艦隊の陣形内に突入して同士討ちを発生させるか、それを躊躇わせて向かってくる火線を減らす他にない。なので、そのまま敵艦隊の内側に入り込むコースを指示する。

 

「距離40000を切りました。長距離対艦ミサイルによる先制雷撃を仕掛けます」

 

 敵艦隊との距離が一定に達し、戦艦〈開陽〉〈ネメシス〉、重巡洋艦〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルグ〉〈伊吹〉、強襲巡洋艦〈ブクレシュティ〉、駆逐艦〈東雲〉〈有明〉の8隻からそれぞれ〈グラニート〉及び〈ヘルダート〉対艦ミサイルが発射され、一直線に敵艦隊へと向かう。

 

 流石にもう私達の存在には気付かれているようで、敵艦隊から迎撃の為のレーザーやミサイルがひっきりなしにミサイルに向かって飛んでくる。だが、艦船並の重装甲と駆逐艦を遥かに上回る速力を持つマッド謹製対艦ミサイルにはヤッハバッハの主力兵装であるクラスターミサイルでは当たっても跳ね返され、撃墜できる可能性を秘めた艦砲も中々当たらない。

 

 ヤッハバッハの迎撃を嘲笑うかのように悠々と敵艦隊まで到達したミサイル群は、遂にその破壊力を発揮した。ミサイル群の三分の一は流石に接近した段階で撃墜されていたが、残りのミサイルは無慈悲な破壊を達成する。

 一度に4発の対艦ミサイルを受けたダウグルフ級戦艦はきりもみに回転しながら吹き飛ばされて大爆発を起こし轟沈する。艦体の中央にミサイルが命中したブラビレイ級空母は艦載機と弾薬、推進材への誘爆を起こし、真っ二つになって轟沈した。それよりも小さなダルダベル級巡洋艦は一発受けただけで沈み、ブランジ級突撃駆逐艦に至ってはミサイルに艦体を切り裂かれる始末だ。そしてブランジ級を切り裂いたミサイルは、別の艦に命中して道連れにする。

 

「先制雷撃、成功しました。撃沈23、大破11。敵艦隊の陣形が乱れています」

 

「よし今よ!最大戦速で突入!」

 

 ミサイルで大穴を開けられたヤッハバッハ艦隊側面に向けて、艦隊を突入させる。艦速の関係上、〈開陽〉はユーリ君の艦隊を追い越して最前線に立った。

 

「敵艦隊との距離、あと20000!」

 

「主砲、砲撃始め!あんだけ犇めいているんだから、有効射程外でも当たるでしょ!」

 

「イエッサー。主砲全弾発射!!」

 

 最大有効射程よりもやや遠い距離から、〈開陽〉の砲撃が始まる。あれだけ的が居るのだ、何処に撃っても当たるだろう。

 

 〈開陽〉と〈ネメシス〉の2隻の戦艦は、今までにない凄まじい速度でエネルギー弾をガトリングのように敵艦隊に叩きつける。

 これもサナダさんやにとり等マッドの仕業で、艦に設置されたエネルギーコンデンサーから一時的に砲弾用のエネルギーを供給することで通常の三倍の発射速度を実現したものだ。戦艦クラスのエネルギー弾が速射砲のように降り注いでくるのだから、敵からすれば堪ったものではない。ただし短時間に大量のエネルギーを砲身に叩き込む関係上、砲身やエネルギー伝導管を始めとする砲システムに多大なる負荷を与える悪夢のようなシステムだ。それだけに部品の磨耗速度は通常の比較にすらならないほどだ。この戦闘が終わる頃には、全ての砲が焼ききれているかもしれない。

 

 敵との距離が近づくにつれて巡洋艦、駆逐艦も砲撃に参加し、四方八方を囲む敵に対して砲撃を続ける。

 鎧袖一触の勢いで、陣形外側に展開していたエルメッツァ艦隊を撃破する。

 最早何隻の敵を撃破したかすら数えられなくなってきた頃、遂に艦隊の戦闘は敵艦隊側面に鏃のように突き刺さり、そのままの勢いで内部にまで突入した。

 

「敵艦隊内部に突入!」

 

「全艦、円筒隊形を維持しつつ前進を継続!!」

 

 艦隊は、一本の筒のような隊形を取ったまま、敵艦隊の中を突き抜ける。後続のユーリ君達も、サマラさんの〈エリエロンド〉が良い盾になってくれて無事のようだ。

 

「駆逐艦〈秋霜〉〈タルワー〉〈ヘイロー〉轟沈!!巡洋艦〈モンブラン〉損傷率70%を突破!」

 

 しかし、此方も無傷という訳にはいかない。幾ら敵が同士討ちを恐れて火線を緩めたとしても四方八方を敵に囲まれているのだ。瞬く間に艦隊外輪の駆逐艦には損傷が蓄積し、集中的に狙われた艦から塵へと帰っていく。……その中には別銀河から苦楽を共にしてきた歴戦艦も含まれていることからも、その熾烈さを窺えよう。

 

「巡洋艦〈モンブラン〉、通信途絶!〈サチワヌ〉被害甚大!陣形内部に後退させます」

 

「これは………想像以上の熾烈さね」

 

 どうやら、ヤッハバッハの連中は私が思っていたほど甘くはなかったらしい。元来の戦闘的な特性の為か、同士討ちを恐れずに果敢に攻撃してくる連中が想定より多すぎる。それだけ同士討ちも多数発生しているのだが、此方の被害も馬鹿にならない。そして此方は常に移動を続けている以上、常に真新しいピカピカの敵を相手にしなければいけない訳で……奇襲で混乱してこの火力とは、やはり侮れない敵だ。

 

 ……だが、此方もそう易々とやられる訳にはいかないのよ。

 

「全艦載機隊、発進!!同時にハイストリームブラスター、及び超遠距離射撃砲エネルギー充填開始!!敵を凪ぎ払え!!」

 

 

 

【イメージBGM:宇宙戦艦ヤマト完結編より「ヤマト飛翔」】

 

 

 

「な………正気ですか!?このタイミングでハイストリームブラスターは………」

 

「艦首の予備動力をフルパワーで回せば主機のエネルギーはそのままでしょ。やって!」

 

「は、はいッ!!」

 

 機関長のユウバリさんの反論を振り切って、私はそれを命じた。

 

 敵艦隊の中程まで進んだところで、艦隊を敵艦隊と並行になるように移動させる。そして艦載機の発進と共に、艦首に大口径砲を持つ全ての艦は予備エンジンを全力運転しての急速充填を開始する。

 

「細かい照準は付けなくていい!とにかくぶっ放しなさい!総員、対ショック、対閃光防御!!全ての艦載機は艦隊直上又は直下に退避せよ!」

 

「了解!ハイストリームブラスター、発射スタンバイ!」

 

《ヴァルキュリアリーダー了解………全く、出て早々無茶を言うな艦長!》

 

「駆逐艦〈コーバック〉応答無し!撃沈されました!」

 

 着々とハイストリームブラスターと超遠距離射撃砲の発射準備を整える艦隊だが、その間にも外輪の駆逐艦群への攻撃は続く。此方の意図を察して、陣形中心の主力に打撃を与えようと躍起になっているのだろう。そして怒濤のごとく押し寄せる敵艦載機隊は此方が展開した艦載機隊で抑えているが、早速被害が続出している。マッド謹製の機体だから戦果も絶大だが、やはり敵の数が多すぎる。戦況モニターが瞬く間に撃沈と被撃墜を表す色に彩られた。

 

「エネルギー充填、120%!」

 

「ハイストリームブラスター及び超遠距離射撃砲、発射準備完了!」

 

 横一列に並んだ〈開陽〉〈ネメシス〉〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルグ〉〈伊吹〉の5隻の艦首から、眩いばかりの閃光が溢れ出す。

 

「全艦、艦首軸線砲―――発射!!」

 

「了解!ハイストリームブラスター、発射!!」

 

「艦首軸線砲、発射!!」

 

 閃光が、解き放たれた。

 

 5隻の艦船から放たれたエネルギーの奔流は次第に2隻の戦艦が放ったハイストリームブラスターに収束され、二条のハイストリームブラスターは螺旋を描きながら射線上に位置する敵艦を次々と飲み込んでいく。

 閃光はそのまま敵艦隊の中央を突き抜けていくかと思われたが、果たして二条に収束したハイストリームブラスターの光線は、予想外の挙動を見せた。

 

「なッ!!?」

 

「くっ……!」

 

「ま、眩し……ッ!?」

 

 

 ……突如、閃光が爆ぜた。

 

 螺旋を描きながら回転して突き進んだ二条のハイストリームブラスターは一点で収束、互いに衝突して花火のように爆発。対閃光防御からも明確に感じ取れる程の膨大な、恒星にも匹敵するかと思われるほどの光量を発しながら、その花火は辺りに居た敵艦隊を丸ごと道連れにして消滅した。

 

 

「これは………」

 

「一体、何が………」

 

 

 皆口を塞いで、眼前に広がる景色を見て呆然としていた。

 

 

「………敵艦隊、推定19500隻の撃沈破を確認………」

 

 

 レーダーを監視する早苗の報告の声が響き、艦橋のクルー達は我に帰る。その早苗すらも、まるで信じられないといった表情でレーダー画面を見つめている。

 

 斯く言う私ですら、目の前の光景が信じられない。

 

 本来のハイストリームブラスターの被害半径ならば、せいぜい2、3000隻を巻き込めるかどうか、といった程度なのだ。数だけ見ればそれだけでも充分に多いが、12万の大軍からすればその数は1割にも満たない。それで敵が混乱すれば、という魂胆だった。それがどうか、今の敵艦隊は、目視でも分かるほどの大穴を開けられて、全軍の1割以上を失った。

 

 

 ―――これは、何………!?

 

 

 ハイストリームブラスターに、こんな仕様があるとは聞いていない。………恐らくは、偶発的な現象なのだろう。純粋に敵艦隊の戦力を大幅に削ったのはいいけど………

 

「艦長、これは恐らく〈開陽〉と〈ネメシス〉、2隻ハイストリームブラスターが干渉し合った結果だろう」

 

「サナダさん!?」

 

 珍しく艦橋の席についていたサナダさんから、早速分析結界がもたらされた。

 

「発射された二条のハイストリームブラスターが超遠距離射撃砲のエネルギー流を呑み込んで軌道が変化し、そのため本来なら直進する筈だった二本のハイストリームブラスターのエネルギー流が互いに干渉し合い、右旋回/左旋回の螺旋を描いた。そしてある一点で衝突することにより、そのエネルギーを周囲に拡散させて解放した、と見るべきだろうな」

 

「………つまり、偶発的な産物だと?」

 

「そう思ってくれて構わない」

 

 ………やはり、この現象は偶然だったようだ。未だに敵は、先の攻撃に唖然としたままなのか此方に発砲する艦は少ない。

 

「―――各員、戦闘配備を続行!この隙に作戦目標を達成するわよ!」

 

「りょ……了解!!」

 

 こんな隙を、逃すわけにはいかない。

 

 再び艦隊を動かして、当初の目的に従い戦闘を再開した。

 

 

【イメージBGM:艦隊これくしょんより「全艦娘、突撃!」】

 

 

 ~ユーリ艦隊旗艦〈ミーティア〉~

 

 

「い……今の攻撃は……!?」

 

「分かんないが……あのお嬢さんがやってくれたみたいだねぇ」

 

『紅き鋼鉄』のハイストリームブラスターによる攻撃を間近で目にした彼の艦隊に、動揺が広がる。圧倒的なその破壊に魅了されたかのように、ブリッジクルーは皆呆然としていた。

 

《……ユーリ!敵の援軍が到着した。私が奴等を抑える隙にお前は離脱しろ!》

 

 

 偶然にも『紅き鋼鉄』のハイストリームブラスターで凪ぎ払われたとはいえ、ヤッハバッハ艦隊はまだ充分過ぎるほどの余力を残していた。その力を以て、彼等は『紅き鋼鉄』諸共ユーリ艦隊の包囲殲滅を図る。彼の艦隊に随伴していたサマラの〈エリエロンド〉は、それを抑えるために急速反転、離脱した。

 

「サマラさん………」

 

 だが目の前の旗艦は満身創痍、討つならば今しかないという感情がユーリの中に沸き上がる。

 

《ユーリ様!敵が怯んだようですぞ!》

 

 続いて、この宙域までユーリ達を先導してきたシュベインから通信が入る。………その言葉で、ユーリは決断した。

 

「……よし今だ。前方の敵旗艦も傷ついている。ヤツを叩いて退路を開け!!」

 

 彼の命令を受けて、グロスター級戦艦〈ミーティア〉は再び前進を開始、退路を確保すべく、敵旗艦との一騎討ちに入った。

 

 

 

 

 

 ~ヤッハバッハ先遣艦隊旗艦〈ハイメルキア〉~

 

 

「ぬおおっ!?」

 

「な……何だ、今の攻撃は!?」

 

「わ、分かりません……陣形内部に突入した敵艦隊から、強力な粒子砲が発射された模様!」

 

「味方の約15%が、し……消滅です!」

 

「本艦の被害も甚大です!右舷ブロックを中心に重大な損傷を認む!A21からD40までの隔壁閉鎖!」

 

 偶然にも『紅き鋼鉄』が放った拡散ハイストリームブラスターを受けたヤッハバッハ艦隊旗艦〈ハイメルキア〉のブリッジは混乱に包まれていた。

 取るに足らない少数と思われた敵艦隊が自軍の1割以上を消滅させたのだ、無理もない。

 自身もハイストリームブラスターのエネルギー奔流により重大な損傷を負った艦隊旗艦〈ハイメルキア〉のブリッジクルー達は、必死に状況の把握に努める。

 

「ちっ……怯むな!まだ我々の圧倒的優位は揺るがぬ!数で圧倒しろ!!」

 

 艦隊司令のライオスは必死に部下の動揺を抑えようと指示を飛ばすが、あれだけの衝撃的光景を目にした後だ、彼等が立ち直るのにも時間が掛かった。

 

「ネージリンスに展開していた3075、3076艦隊が戦線に到着!」

 

「……よし、一気に包囲、殲滅せよ!」

 

「はっ………いえ、待って下さい!敵艦隊が前進を再開!一部は本艦に向かってきます!」

 

「強行突破する気か………いいだろう、迎え撃て!!」

 

 〈ハイメルキア〉に向かう敵艦―――ユーリの〈ミーティア〉を見て、ライオスは迎撃を支持し、彼の艦に艦首を向けた。

 

「司令!」

 

「………今度は何だ!」

 

 別のクルーの声が響き、ライオスはその声の下に注意を向けた。

 

「ハッ………それが、アイルラーゼン艦隊後方に、巨大なエネルギー反応を観測しました……今光学映像に出します!」

 

 クルーがコンソールを操作すると、艦橋脇に設置された大型モニターにその映像が出力された。

 

「これは………!?」

 

 それは、アイルラーゼン艦隊後方で発射準備を整えつつあるエクサレーザー砲艦〈タイタレス〉の姿だった。放熱の為に8本のオクトパス・アームユニットが稼働し重力レンズリングユニットが砲口に移動しつつあるその艦は、ハンマーやメイスを思わせるような形状から、布のない傘のような形状へと変形を始める。

 

「………いかんッ!アレを最優先で落とせと前線の艦隊に連絡しろ!」

 

「ハッ………!」

 

 ライオスはその映像だけで、本能的に危険を察知する。未だ『紅き鋼鉄』が繰り出した異次元の攻撃が脳裏に強く焼き付いているだけに、ライオスの警戒は最大限にまで引き上げられた。

 

「敵艦発砲!」

 

「ちぃっ………!」

 

 そこを突くように、ユーリの〈ミーティア〉が〈ハイメルキア〉に向けて砲撃を開始する。

 ライオスは忌々しげに発射準備を整えつつある〈タイタレス〉を一瞥して睨み付けると、目の前の敵艦に注意を移した。

 

 

 

 

 

 ~アイルラーゼン軍艦隊旗艦〈ガーディアン〉~

 

 

「凄まじい攻撃だな、今のは」

 

「ハッ、敵艦隊の約15%のインフラトン反応消失を観測。とんでもない兵器です………」

 

 艦隊の内側で『紅き鋼鉄』の攻撃を受けたヤッハバッハ艦隊に対し、その様子を外側から観測することになったアイルラーゼン艦隊は、彼等に比べたら冷静さを失わずに済んでいた。だが、恒星が増えたか超新星爆発が起こったのかと錯覚するほどの光量に、クルー達の間では動揺が広がる。が、彼等は直ぐに自らの使命を思い起こし、それぞれの務めへと戻る。

 

 アイルラーゼン艦隊を率いるバーゼルは艦隊旗艦、クラウスナイツ級戦艦先行生産型〈ガーディアン〉の艦橋から、冷静に現状の把握に努めた。

 

「時間稼ぎとしては上出来過ぎるな。〈タイタレス〉の状況はどうなっている!」

 

「ハッ………現在エネルギー充填65%!既に運用員の退艦を開始しています!」

 

 オペレーターから、〈タイタレス〉の現状が伝えられる。

 

 タイタレス級はエクサレーザーの他にアームユニット一本につき超大型リフレクションレーザー8門、大型5門、中型16門が装備されている。それらのレーザーとエクサレーザーを先端部の重力レンズユニットが収束統合させて放つ直径1600mの超高圧レーザー、『エクサレーザー・フルバースト』こそが、恒星の超新星爆発を誘発させる切り札なのだ。

 その切り札の実現を果たすために、アイルラーゼン艦隊は〈タイタレス〉の盾となり、圧倒的なヤッハバッハ艦隊の前に立ちはだかる。〈タイタレス〉は巨大故に、既にその回収は諦められ、貴重な運用員を退艦させた後はヴァナージの超新星爆発に呑ませ、放棄される予定であった。

 だがここに来て、一時は『紅き鋼鉄』の砲撃により混乱したかと思われたヤッハバッハ艦隊が急速に態勢を建て直し、否、態勢を立て直す以前に全力でアイルラーゼン艦隊に対する突撃戦へ移行する素振りを見せ始めた。

 

「これは……大佐!」

 

「どうした?」

 

「ハッ、敵艦隊の一部が急速に前進を開始しました!!」

 

 あまりにも早いヤッハバッハのリアクションにオペレーターは動揺する。だが、バーゼルはそれにも動じずに対処を命じた。

 

「チッ、気付かれたか………〈タイタレス〉のチャージを急げ!あまり時間はないぞ!艦隊は全力で〈タイタレス〉の前面に布陣、敵を近づけさせるな!」

 

「了解!!」

 

 エクサレーザー砲艦〈タイタレス〉に向かって特攻覚悟の突撃を開始したヤッハバッハ艦隊の前に、アイルラーゼン艦隊はそれを防ぐ盾となるべく陣形を整える。

 

 

 マゼラニックストリームの嵐は、まだまだ収まりそうにない。

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

 赤色超新星ヴァナージを挟んで行われる一大会戦。それを彼等は、遥か彼方から俯瞰していた。

 

「ほぅ、さっきの特別派手な花火は………あの小娘か」

 

「へい、そのようで………しかし、とんでもねぇ兵器でしたね。エネルギー反応はこの〈グランヘイム〉のハイストリームブラスターにも匹敵します」

 

「出来損ないのハイストリームブラスターでまぁ、良くやるな。………方針変更だ。あの様子なら、助けなんざ必要ねぇな」

 

 ………海賊戦艦〈グランヘイム〉から戦況を眺めていたのは、この宇宙にその悪名を轟かせる大海賊、ヴァランタインその人だった。

 

「お頭………良いんですか?」

 

「………んなもん、要らねぇだろ。あの小娘が代わりになったみたいだしな」

 

 彼はとある目的のためにこのヤッハバッハとの大会戦を見物していたのだが、先程の様子を見て、その目的を果たす為に目の前の会戦に介入することは不要だと判断する。そのとある理由の為にはユーリを死なせないことが重要なのだが、彼が言う小娘――霊夢があれほどの力を持っているなら介入は不要だと判断したのだ。

 

「さて………この様子じゃあ俺達の出番はねぇ。なら戦火の花火を肴に宴会と洒落込むか。……おい野郎共!酒の準備だ!!」

 

「アイアイサー!!」

 

 ヴァランタインは部下に命じて、酒宴の準備をさせる。

 

 世紀に残る程の大会戦と、轟沈する艦船のプラズマ光の花火を肴に、彼等は杯を傾け合った。



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第八十話 ヴァナージの閃光

連投二つ目。小マゼラン篇最終回。


 

「左舷上方より敵突撃艦多数!」

 

「前方、敵戦艦接近!」

 

 敵艦隊の陣形内部に突入してから、未だに戦闘が続いている。

 ハイストリームブラスターを発射した直後、ユーリ君から『敵旗艦を落とす』という通信だけが届き、彼は未だに交戦中だ。あのハイストリームブラスターで周りにいた敵の大半は削ることができたが、それでも尚数は多い。彼だけを置いていく訳にもいかないし、敵旗艦を撃破できればそれだけヤッハバッハに与えられる混乱が増す。なのでその間、私はサマラの〈エリエロンド〉と共に向かってくる敵艦隊をひたすら迎撃していた。

 

「駆逐艦〈タシュケント〉反応無し!」

 

 VFとジムの防空網を突破した敵の艦載機〈ゼナ・ゼー〉の群が艦隊に対し急降下を仕掛け、クラスターミサイルの雨を降らせる。狙われた駆逐艦はクラスターミサイルを全身に浴びてシールドジェネレータに過負荷を掛けられ、オーバーロードを起こして轟沈した。

 

「チッ………艦載機隊は!?」

 

 此方の艦載機隊は、度重なる敵の空襲で半分以下にまで数を減らしていた。押し寄せるヤッハバッハ艦載機隊をジムとゴースト、そしてVF-11の編隊が迎撃するが、数に押されて何度もその突破を許してしまう。その度に、防空隊は徐々にその数を減らしていった。

 

《此方ヴァルキュリア2、弾薬が枯渇、加えて推進材も残量20%以下です。補給のため着艦許可を求めます》

 

「HQ了解。ヴァルキュリア2、着艦を許可する」

 

 連戦の航空隊にも、徐々に疲労の色が見えてきた。その点無人機は疲労を気にしなくて良いのだが、如何せん有人機に比べると動きが直線的で被弾率も高い。幾ら高機動といえど、百戦錬磨のヤッハバッハ進攻軍からしたらそれほどの強敵では無いらしい。

 

 だが、此方とて負けている訳ではない。

 

 肩に「01」~「03」とペイントされた三機のサイサリスはSFSで加速した後に敵艦の前に躍り出て、背中のミサイルコンテナとバズーカから量子魚雷を全弾発射、頑丈な筈の敵戦艦を一撃で物言わぬデブリへと変貌させる。被撃墜が目立つジム隊もスターク装備の機は持ち前の機動力で敵を翻弄し、両手と背中のマシンガンの火線に敵機を絡め取って撃墜する。スナイパー装備の機は戦闘で生じたデブリの中に上手く身を潜ませて、敵の突撃駆逐艦や被弾して動きが鈍った敵機をそのスナイパーライフルで貫いて沈めていく。

 

《ガーゴイル1交戦エンゲージ!》

 

《――ガーゴイル2、交戦エンゲージ!!》

 

 補給に戻ったディアーチェ達のヴァルキュリア隊と入れ替わりに、今度はマークさん達ガーゴイル隊が格納庫から飛び出す。発艦した2機のスタークスライダーは早速手頃な敵艦を見付けると重荷の対艦ミサイルをその艦にプレゼントして、未だに押し寄せる敵機とのドッグファイトに移行した。

 

「ガルーダ隊、エリアD-1が突破されかけている。直ちに援護に向かえ」

 

《ガルーダ1了解。エリアの援護に向かう》

 

 ノエルさんの航空管制の下で有機的に運用される航空隊は、その数からすれば破格の活躍を上げていると言っても過言ではない。数にして自軍の損害の5倍近くの敵機を既に撃墜、航空隊単独で26隻の敵艦船を撃沈破していた。しかし、そろそろ限界が見えてきているのも事実だ。

 

「右舷より敵巡洋艦!」

 

「主砲4、5番、一斉射!!」

 

 艦隊の方でも、既に数えきれない程の敵艦船を撃破している。が、敵の攻撃を受け止め続けるのもそろそろ限界だ。ユーリ君が上手く敵旗艦を破壊してくれたら良いんだけど……

 

「巡洋艦〈サチワヌ〉、駆逐艦〈ズールー〉轟沈!!」

 

「敵旗艦、インフラトン反応拡散中!〈ミーティア〉反転します!」

 

「よし、やったか!」

 

 遂に、ユーリ君が敵の旗艦に打ち勝ったようだ。ボロボロになった敵旗艦に背を向けて、アイルラーゼン艦隊の方向へと離脱を開始した。

 

「私達も戦線を離脱するわ!ユーリ君の艦隊に続いて!」

 

「アイアイサー!!」

 

 押し寄せる後続艦隊から敵旗艦と一騎討ちを演じていたユーリ君を守るように展開していた艦隊を、その場で180度旋回させる。そしてユーリ君に続いて、敵旗艦の脇を通り過ぎるコースを指示した。

 

「艦載機隊、帰還せよ!」

 

《ガルーダ了解》

 

《此方ガーゴイル、了解した!》

 

 展開していた艦載機隊も、援護に必要なごく一部を除いて母艦へと帰投する。その数は、開戦時の三分の一以下にまで減っていた。

 

《……アルファルド1よりHQ、VOBの再装着完了。撤退を援護するぞ》

 

「HQ了解。……気を付けて下さいね」

 

 撤退する大半の艦載機隊に反して、艦外作業でVOBを再装着された霊沙の〈グリント〉は、友軍を援護すべく単機で敵編隊に突撃する。凄まじい相対速度での擦れ違い様にマイクロミサイルを乱射して敵編隊に大打撃を与えた彼女は、ブースターを付けたまま急旋回して艦隊と同行する進路を取り始める。

 

 ……最近のあいつには心配しかないのだけれど、こと戦闘に至っては以前のようなキレを取り戻しているように見えた。

 

「艦長、前方に敵旗艦の残骸!」

 

 暫くして、ユーリ君が撃破した敵旗艦の変わり果てた姿が見えてくる。

 ……それを見た私は、あることを思い付いた。

 

「……サナダさん、この艦と〈ネメシス〉のトラクタービームでアレを曳航して、撤退活動に支障は出る?」

 

「いや、再大出力ならば問題はないと思うが……まさか!?」

 

 サナダさんは私の意図を察したのか、驚きの声を上げた。

 ……使えるものなら、何でも使って生還してやろうじゃない。

 

「トラクタービーム起動!目標、敵旗艦!アレを盾にするわよ!」

 

「流石は霊夢さん、取る手がえげつないです。了解しました。本艦と〈ネメシス〉のトラクタービームで牽引を始めます!」

 

 撤退する艦隊の最後尾に位置するこの戦艦2隻は、敵から最も狙われる位置にある。ならばあの旗艦を盾にすることで、多少なりとも被害を軽減できるかもしれない。流石に敵さんも、自軍の旗艦に砲口を向けるのは躊躇うだろう。

 

 トラクタービームが始動して、ガコン、という鈍い音が響く。

 

 私の艦隊は最後尾に敵の旗艦だったモノを張り付けながら、背後から撃たれるレーザーの雨を回避しつつ敵艦隊中枢から離脱した。

 

 

 ..............................................

 

 

 

 

 

 ~ダウグルフ級戦艦〈ハイメルキア〉~

 

 

 総員退艦し、静まりかえったブリッジを一瞥して、ライオスは呟いた。

 

「無益なことを。この艦一つ失ったところで、何が変わるものか……」

 

 先程から、艦外が五月蝿い。恐らくは敵に盾代わりにされているのだろうとライオスは推測した。この艦に一騎討ちを挑んできた小マゼランの戦艦にしても、この〈ハイメルキア〉を叩いたところで10万の大軍が止まることはない以上、無駄に命を危険に晒しただけだとライオスは考える。この艦が沈んだところで、自分が生きていれば何も変わらないのだと。

 

 ライオスも部下に続いて、この盾代わりにされている元旗艦から退艦しようと席を立ったとき、その声は響いた。

 

「そんじゃ、アンタが死んだらどうかな?」

 

「むっ……!?」

 

 ライオスは、瞬時に声がした方向へと振り向く。

 其処に居た人影の姿を見て、ライオスは目を見開いた。

 

「トスカ………!?」

 

 彼の眼前に立ったのは、ユーリの下で副官をしている筈の女性、トスカ・ジッタリンダだった。

 

 彼女は拳銃の銃口をライオスに向けて、彼を睨む。

 

 ライオスは彼女……かつての許嫁の姿を見て目を細める。

 

「流石のヤッハバッハも、こうなっちまうとそこらの軍と変わらないねぇ。大した苦労もなくここまで登って来られたよ」

 

 彼女達……ライオスとトスカには、並々ならぬ因縁があった。

 

 かつて彼等は友好国の王族同士で、許嫁の関係だった。しかし彼等の国がヤッハバッハの攻撃を受けた際、ライオスは祖国を見限ってヤッハバッハの側に付いたのである。それ以来、トスカは復讐の機会を窺っていたのだ。

 祖国を見捨てた彼の本心は、彼にしか分からないまま。

 

「フッ………女の執着というものは恐いな。それとも未練というヤツかな?トスカ・ジッタリンダ………」

 

 ライオスは敢えて煽るような口調で、彼女の名を呼んだ。

 

「自惚れもそこまで行くと大したもんだ。ハッ、未練だ?ことアンタに関しちゃその真逆だよ!……いいさ。その腐ったプライドを抱えてここで死にな!」

 

 カチャリ、と引き金に掛ける指に力が入る。

 

「そうすりゃ、流石のヤッハバッハといえど一時的には動きが鈍るだろう。その間に、ユーリが逃げる時間くらいは作れる」

 

「ユーリ……?」

 

 ライオスは、トスカが口にした聞き覚えのない名前に内心で首を傾げる。が、直ぐにその正体に当たりをつけた。

 

「ふ、ふふふ………そうか、あの時の小僧か。随分と男の趣味が変わったものだな、トスカ」

 

 彼は、トスカが口にした名を恐らく、カシュケントで降伏勧告を告げたときに、彼女と共に自身の前に立った若い男のことだろうと推察する。

 

 彼の言葉に、トスカは眉を顰める。

 

「五月蝿いね………。同じ口を開くんなら命乞いでもしてみなよ!」

 

「フフッ、いや、済まんな………」

 

 銃口を向けられているというのに、ライオスは余裕の態度を崩さない。そんな彼の態度に、トスカはさらに苛立ちを強める。

 

「………だが、小僧の艦がとっくに沈められたことにすら気付かぬお前が哀れでな」

 

「ッ!?何だって………」

 

 ライオスが放った言葉に、トスカは目に見えて動揺した。その隙に、ライオスは一気に彼女との距離を詰めて―――その腹を切り裂いた。

 

「ふんッ!!」

 

「っが……ッ!?」

 

 ――数秒の間を置いて、鮮血が溢れ出す。

 

「クソッ、たれ………」

 

 ライオスは彼女の腹を切り裂いた剣を納め、振り替えることなく艦橋の出口へと向かう。

 

「……腹を切り裂いた。もうこれでブラスターは使えまい。……両手で抑えなければ腸が零れ落ちるぞ」

 

「ッく………ライオス………あんた………!」

 

「………私はこの宙域全ての敵を殲滅する。お前はそこで、私の勝利を見ているがいい」

 

 ライオスは最後にそう言い放ち、今度こそ艦橋を後にせんと歩き始める。

 

 

 ―――直後、ブラスターの鋭い発砲音が響いた。

 

 

「!?っ………」

 

 右の頬に、熱い感触。

 

 ライオスは静かに自身の頬に触れて、その傷を確かめた。

 

「なん………だと………!?」

 

 彼は信じられないようなモノを見る目付きで、トスカの方向を振り返る。

 

 つい先程無力化した筈のトスカは、両手でブラスターを構え、ライオスを睨んでいた。

 

「ユーリのところには……行かせないって言ってんだよ……!」

 

 直後、トスカの腹から鮮血が溢れ出す。

 

 彼女の意識は、一時そこで途切れた。

 

 

 .............................................

 

 ......................................

 

 ...............................

 

 .........................

 

 

「―――たぞ!―――者だ!」

 

「まさか、――きていようとは………直ぐに医――を呼べ!」

 

「イエッサー!よもや、―――のタイミングで見つけるとは、彼女も幸運だ」

 

「ぼやくな、――――。…………は重篤な状態だ!―――を動かせ!」

 

「アイアイサー!!」

 

 

 .............................................

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

【イメージBGM:無限航路より「Mebius」】

 

 

 敵艦隊の中枢からの撤退に成功した艦隊だが、最早どの艦も満身創痍だ。現在は戦列には参加せず、後方の工作艦隊との合流を目指している。…………そろそろエクサレーザーが発射される頃だ。もう戦場そのものから撤退しなければ生存すら怪しくなる。

 

《―――えるか………聞こえるか!》

 

 そのとき、艦橋に通信が舞い込む。

 

《聞こえるか!此方はアイルラーゼン艦隊司令のバーゼルだ。……君が、霊夢さんで間違いないね》

 

「ええ………何の用かしら?」

 

 通信の主は、ヤッハバッハを正面から押し止めているアイルラーゼン艦隊の司令官だった。あのピンク頭とは違って濃緑色の軍服に身を包んだ、若そうな青年の司令官だった。

 

《君のことは、ユリシアから聞いている。彼女は私の同期でね。離れ様に、君のことを気に掛けていたよ。…………それに君も、良い戦いぶりだった》

 

「それはどうも。んで、要件はそれだけじゃ無いでしょう?」

 

 わざわざアイルラーゼンの艦隊司令が通信してきたのだ。ただ世間話をするのが目的………という訳ではないだろう。

 

《ああ。間もなくエクサレーザーのチャージが完了する。そうなったらこの宙域は超新星の波に呑まれることになるだろう。…………その前に、民間人の君には大マゼランまで逃げて欲しい》

 

「……有難うございます、バーゼルさん。ご武運を」

 

《うむ。君こそ、気を付けてくれ………》

 

 バーゼルさんはそう言うと通信を切る。………あれは、死に場所を定めた人の目だった。彼はここで、ヤッハバッハ艦隊を道連れにする気らしい。………悲しくもあるけど、その覚悟を決めたというのなら私がとやかく口を出せる話ではない。

 

「………機関全速。戦闘宙域より離脱しなさい」

 

 私はそのまま、後退を指示した。

 

 

 .............................................

 

 

 ~アイルラーゼン軍艦隊戦艦〈ステッドファスト〉~

 

 

 

「急げ急げ!もうすぐでチャージが終わるぞ!」

 

「エクサレーザー、充填率95%!司令、これ以上は………!」

 

「………全乗組員の回収が終わるまで、撤退は許可出来ないわ」

 

 クラウスナイツ級戦艦先行生産型〈ステッドファスト〉の艦橋で、指揮官席に座る彼女――ユリシア ・フォン・ヴェルナー中佐は命令した。タイタレスの運用ノウハウは何としてでも本国に持ち帰らなければならない。その為には、全ての運用員を回収せよ、と―――。

 

 かつてヴィダクチオ宙域で霊夢達と交戦した彼女達の艦隊は、本来ならとうの昔に大マゼランへと帰投している筈であった。しかし、本国から命じられたのはこの巨大砲艦〈タイタレス〉の護衛と援護だった。その為に彼女の艦隊は〈タイタレス〉を狙うヤッハバッハの艦隊から其を護りつつ、超新星爆発に備えて〈タイタレス〉のクルーの回収に努めていた。それも間もなく、終わろうとしている。

 

《………ユリシア、聞こえるか!?》

 

「あら、バーゼルじゃない。………そろそろこっちも限界よ。〈タイタレス〉の運用人員を逃がすなら、もう離脱しないと危ないわ」

 

《……そちらの状況は把握している。此方から二個戦隊を護衛に派遣した!直ちに撤退を開始してくれ!》

 

「了解。貴方も………とは言えないわね」

 

《済まんな………この仕事を選んだ以上、他に選択肢は無いんだ》

 

「分かってるわ、そんなこと…………またいつか、何処かで会いましょう」

 

《ああ………それと、君が気に掛けていた彼女達は無事だ》

 

「………それが聞けたなら、文句はないわ」

 

 今生の別れとも取れる通信をバーゼルと交わし終えたユリシアは、一度帽子を深く被り直す。

 

「〈タイタレス〉の運用人員、総員退艦完了!」

 

 その報告で再び顔を上げた彼女は、力強く命じた。

 

「………現時刻を以て本艦隊は戦線を離脱!!総員、撤退戦に入るわよ!機関、最大戦速!」

 

「了解!機関、最大戦速!」

 

 〈タイタレス〉の周囲に展開していた3隻の戦艦――〈ステッドファスト〉〈ドミニオン〉〈リレントレス〉は部下の巡洋艦と駆逐艦を従えて、バーゼルの下から派遣された護衛艦隊と入れ違いに〈タイタレス〉の下を離れていった……。

 

 

 

 

 

 ............................................

 

 

 ~アイルラーゼン軍艦隊旗艦〈ガーディアン〉~

 

 

「民間協力者、及び〈ステッドファスト〉、戦線から離脱!!」

 

「〈タイタレス〉、エネルギー充填完了!オクトパス・アームユニット、及び重力レンズリングユニットの調節開始。発射角、収束率固定!」

 

「よし、もう一踏ん張りだ!敵を〈タイタレス〉に近づけさせるな!!」

 

「ハッ………!」

 

 旗艦〈ガーディアン〉のブリッジで、バーゼルが命じる。

 

 タイタレスの発射管制を握るこの〈ガーディアン〉は、逃げたくても逃げられない位置に居る。それが分かっているのか、艦橋クルーは皆悲壮な覚悟で任務に当たっていた。

 

「………済まんな、皆…………」

 

「いえ。軍人という職業を選んだ以上、覚悟は出来ていました。………今日が、そのときというだけです……」

 

 バーゼルの謝罪の言葉に、彼の部下が応える。

 

「………本当に、済まない………皆、よく頑張ってくれた」

 

 艦橋に、悲壮な雰囲気が漂う。

 

 皆、このまま無事にエクサレーザーが発射されて自分達は塵に還るものだと思っていた。………それが、レーダーに顕れた変化を捉えるのを僅かに遅らせる。

 

「ッ………!?司令!護衛艦隊が……」

 

「何ッ!?」

 

 バーゼルは報告が終わらぬうちに、ユリシアの艦隊に代わって〈タイタレス〉の護衛に回した艦隊の方角を見た。

 

 ―――敵、ヤッハバッハ艦隊は陣形変更に伴って生じた一瞬の隙を突いて護衛艦隊に大打撃を与え、陣形内側に突入させたブランジ級突撃駆逐艦が四方にクラスターミサイルのシャワーを射出、自身諸共アイルラーゼン艦隊の過半を道連れにした。

 そのブランジ級がこじ開けた穴に向かって、ダルダベル級重巡洋艦とダウグルフ級戦艦が殺到する。

 

 それに対して残ったアイルラーゼンのグワンデ級、バスターゾン級巡洋艦とバゼルナイツ級戦艦、そして終いには空母のヴィナウス級までもが突撃するヤッハバッハ艦隊に対する文字通りの盾となり、彼等の進撃を、その身を犠牲にして食い止める。

 

「くっ………〈タイタレス〉の発射までの時間は!?」

 

「ハッ………あと20を切りました!」

 

「よし、ここまで来たなら此方の勝ちだ!全艦、全力で〈タイタレス〉を護れ!」

 

 バーゼルの命令で、全てのアイルラーゼン艦隊が〈タイタレス〉に向かう敵に身を向ける。

 

 〈タイタレス〉の周囲では、アイルラーゼンとヤッハバッハによる大乱戦が繰り広げられ、蒼い火花を散らしていく。

 

 だが発射まであと僅かというタイミングまで迫ったエクサレーザーそのものを止めることは叶わず、〈タイタレス〉のエクサレーザー・フルバーストは遂にその威力を解放した。

 

「タイタレス発射まで、5……4……3……」

 

「2……1……、エクサレーザー砲、発射ッ!!」

 

 無人制御の状態で離れたエクサレーザー・フルバーストは射線上のヤッハバッハ艦船を巻き込みながら、赤色超巨星ヴァナージを目指して一直線に突き進む。

 

 ………しかしその軌道は、発射直前に一隻のダウグルフ級戦艦が放った捨て身の砲撃が〈タイタレス〉の砲身に命中したことにより僅かにヴァナージの中心核から反らされていた。

 

 直径1600mのレーザーといえど、極めて距離の離れた赤色超巨星の中心核に当てるためには正確な照準が必要である。それが僅かにずらされた結果、その差はレーザーがヴァナージに到達する頃には数千kmの単位に達し、果たしてエクサレーザー・フルバーストはヴァナージそのものを貫くことには成功したものの、中心核そのものは僅かに擦っただけに留まり、超新星爆発の誘発そのものには失敗した。

 

「な………エクサレーザー………不発ですッ!?」

 

「何だとッ!?」

 

 必勝の切り札が不発……バーゼルは耳を疑った。

 

 この作戦は、エクサレーザーがヴァナージの超新星爆発を誘発することによりマゼラニックストリームを通行不可能な状態に陥れることが要だった。そのエクサレーザーが不発ということは、眼前のヤッハバッハの大艦隊を止める手立てが無くなるということに等しい。

 

 ブリッジの空気が一転して、生存したにも関わらず絶望に包まれる。

 

「………総員、退艦だ」

 

「え………っ?」

 

「総員、退艦だ!友軍艦に合流後、直ちに本宙域を離脱!!殿は………私が務める」

 

 バーゼルは、静かに部下達に向けてそう言い放った。

 

 乾坤一擲の攻撃が外れてしまった以上、戦局を挽回する手立てはない。〈タイタレス〉そのものは健在だが、運用人員が全て退去した上にすぐ近くまで敵に取り付かれている現状を鑑みるに、再チャージの余裕などとてもではないが存在しない。ならば一人でも多くこの戦いを経験した兵を本国へと返し、来るべきヤッハバッハの大マゼラン進攻に備えるべきだ、とバーゼルは判断した。彼はその上で、最も危険な撤退戦の殿を買って出たのである。

 

「しかし、それでは……!」

 

「……私のことは気にするな。作戦失敗の責任は私が取る。それに………奴等との戦いを経験した貴重な兵や士官を死なせる訳にはいかん」

 

「………」

 

 艦橋を、沈黙が支配する。

 誰もがこの若い司令を引き留めようと考えたが、彼の表情と覚悟を見て、それは無駄だと悟る。

 

 そして、一人のクルーが命令に従って退艦しようと足を踏み出したとき………

 

「!?……し、司令……!」

 

「………どうした?」

 

 若い女性のレーダー管制士が驚きの声を上げると、バーゼルは彼女の方を振り向いた。

 

「撤退した0Gドックの艦隊が……反転しています!」

 

「何だと!?」

 

 思わず声を荒げて、バーゼルは艦橋の外を見た。

 

 続いて、反転したその艦隊から通信が入る。

 

《…………さん、バーゼルさん》

 

「……君か。何故戻ってきた?君には撤退するように言った筈だが?」

 

 戻ってきた艦隊は、以前からの顔見知りであったユーリではなく、霊夢の艦隊だった。彼はその行為を咎めるような口調で尋ねる。

 

《……此方には、ヴァナージを爆発させる手かある。時間がないわ、貴方達アイルラーゼン艦隊は急いで撤退して頂戴。殿なら………私が引き受けるわ》

 

「おい、待て――――」

 

 バーゼルが言いきる前に、ガチャリ、と一方的に通信は打ち切られた。

 

「司令―――」

 

 彼を案じるような声で、部下が指示を求めた。

 

「……全艦、現時刻を以てこの宙域を放棄。撤退するぞ」

 

 バーゼルの乗る〈ガーディアン〉の横を、白銀を赤で誇らしげに塗装された〈開陽〉が随伴艦を伴って、真逆の方向へと進んでいく。

 

 ――彼女に率いられた艦船は、合流時から見てやや減っているように見えた。

 

 一度は死に場所を定めておきながら結局最後は逃がすべき民間人に頼る形になってしまったバーゼルは、己の無力を噛み締めながら残存艦隊の指揮を続けた。

 

 

 ...........................................

 

 

 

 ~〈開陽〉艦橋~

 

 

 数分前、エクサレーザーの不発を観測した退避中の〈開陽〉では、艦長の霊夢があることを科学班長のサナダに尋ねていた。

 

(エクサレーザーが不発………だけど恒星はあれで極めて不安定になっている筈………)

 

 一時はエクサレーザーの不発に驚かされた彼女だが、異変時――戦時特有の勘の鋭さを働かせて、直感で現状の打開策を導き出す。その可否を、彼女はサナダに尋ねた。

 

「サナダさん、この艦の主機と艦首のハイストリームブラスター用のエンジンを全力運転させて今のヴァナージにハイストリームブラスターを撃ち込んだとしたら、超新星爆発の誘発はできそう?」

 

「ちょっと待て………理論上は可能だが………まさか、艦長!?」

 

 霊夢の意図を察したサナダは、早まるなとばかりに霊夢に詰め寄る。

 

「そんなことをしたら、この〈開陽〉は………」

 

「ええ、承知の上よ。だから……全員退艦しなさい」

 

「なっ………!?」

 

「霊夢さん!?」

 

 艦橋クルーの間に、衝撃が走る。

 

 〈開陽〉のハイストリームブラスターは、表向き艦首にある専用のインフラトン・インヴァイダーでチャージされていることになっている。これは発射後のエネルギー不足の解消と艦尾からハイストリームブラスターのエネルギー流に耐えられるだけのエネルギー伝導管を作るコストを節約するための措置であったが、後者に関してはヤッハバッハとの決戦前に、エネルギー伝導管が増設され、二基のインフラトン・インヴァイダーを利用したハイストリームブラスターの発射が行えるような改装されていた。その出力は、一基の時と比べて二倍ではなく、二乗………

 

 それを知っていた霊夢は、最後の切り札としてこのシステムの使用を決断した。

 

「聞こえなかったのかしら?総員退艦しなさい。残存クルーは〈ネメシス〉に移譲。全ての艦載機も〈ネメシス〉及び〈ラングレー〉〈ブクレシュティ〉〈ガーララ〉の何れかに着艦。工作艦隊と共に大マゼランへ待避。護衛艦として〈イージス・フェイト〉〈伊吹〉〈ブルネイ〉〈霧雨〉〈叢雲〉〈ブレイジングスター〉と共に艦隊を編成せよ」

 

「ちょ………待って下さい!艦長はどうするんですか!?」

 

「そうだ。お前が居なければ、誰が艦隊を、クルーを纏めるんだ!?」

 

「そうですよ!霊夢さんが居なくて、誰が………」

 

 突然のことに納得できないクルー達が次々と霊夢の元に駆け寄る。が、霊夢はそれを一蹴した。

 

「残存艦隊の指揮は………サナダさん、貴方が取って。貴方なら、人望も経歴も充分よ。それに………このシステムは、私の生体認証でしか解除出来ないから」

 

「そんな………」

 

 彼女の言葉に、クルー達は次第に諦めの色を濃くしていく。

 今の霊夢は、何を言われようとも決意を変えないという、そんな雰囲気を漂わせていた。

 

「さ、分かったなら行った行った。……アリス、しっかりと護衛して頂戴ね」

 

 《……了解したわ。全く、提督さんも面倒なシステムを組んだものね。あのAIに全部任せてしまえば良かったものを》

 

「………彼女を一人残していくことは出来ないわ。それに………いや、何でもない。クルーの面倒、任せたわよ」

 

 《仕方ないわね。………任せておきなさい》

 

 護衛艦隊を纏めていたアリスとも通信を終えて、一人淡々と準備を進める霊夢。………それを見て、サナダが動いた。

 

「………では艦長、失礼した。今まで、有難う」

 

「……………」

 

 艦長席に座り直した霊夢は、滅多に被らない艦長帽を深く被り、目元を隠す。

 

「おい旦那!」

 

「ちょっと、サナダさん!?」

 

「………艦長の命令が聞こえなかったのかしら。各自私物を纏め、直ちに退艦せよ」

 

「そんな………」

 

 

 一番にサナダが艦橋を去る。暫く戸惑っていたクルー達であったが、一人、また一人と艦橋を後にしていく。ある者は涙を抑えながら、またある者は立派な敬礼を残していく。誰かが退出する度にそのペースは速まり、遂には広い艦橋に、たった三人だけが取り残された。

 

 

「―――本気、なんだな……?」

 

「ええ、そうよ。………早く貴女も退出しなさい」

 

「――分かったよ。もう行く。………結局お前も、"博麗"の性を引き摺っていたか………」

 

 少女―――霊沙は一言だけ最後にそう言い残すと、他のクルー達のように黙って艦橋を後にした。

 

 

 

 ............................................

 

 

 

「………貴女は、残ったのね」

 

 二人きりになった艦橋で、隣の少女に尋ねる。

 

「………霊夢さんなら、分かっていたんじゃないですか?私が貴女から離れることなんて無いって」

 

 隣の少女――早苗は、そんな言葉を返してきた。

 

「それに……今の私はこの艦そのものですから」

 

「――あんたの身体なら、他のクルーと一緒に逃げられたでしょうに?」

 

「あら、気付いていました?でも、霊夢さんの居ない世界になんて、意味はありませんから」

 

 何気に、恥ずかしい台詞を返してくれる………

 

 私が幾ら退艦を命じようと、彼女―――早苗だけは最終的に残るような気がしていた。だから、敢えて彼女は追い出さなかった。

 

「………でも、どうした霊夢さんはこんなことを?」

 

「…………あれでも、仲間、だったからね………彼等の為に、自由な宇宙(ソラ)を残したかったの。それに―――死人はそろそろ舞台から降りる頃だわ」

 

 そうだ、私は所詮異物(イレギュラー)。本来この時代の住人ではない。本当なら、今頃適当な場所に輪廻転生しているか、或いは地獄の業火に焼かれているかのどちらかの筈だ。

 

「そんな………悲しいこと、言わないで下さいよ」

 

「事実でしょう?死人は、蘇ってはいけないの」

 

 生を終えた人間がそのままに蘇るなど、それは最早人間ではなく妖怪かそれに近いナニカだ。だから、………私の魂が在るべき場所に、還ろう。

 

「本当に貴女という人は………自分のことが、勘定に無いんだから………」

 

 早苗の言葉が、深く胸に突き刺さる。

 

 ―――そうだ。その通りだ。………周りからは色々言われていたが、それは結局、表面的なものでしかない。私は、究極的には何をすべきかで動く機械人形(カラクリ)だ。―――ああ、吐き気がする。

 

 この自己嫌悪も、今度こそ黄泉の国へ旅立てたなら消えてくるだろうか。

 

「さぁて………同郷の女二人、地獄への船旅と洒落込みましょうか」

 

「天国ですよ、霊夢さん」

 

「天国なんて、まさか。そんなこと有るわけ無いでしょ?………ただ、もしかしたら煉獄かもしれないわね」

 

「クスッ、相変わらずですね、霊夢さんは」

 

 早苗がくすりと、柔らかく笑う。

 

 ―――アイルラーゼンの艦隊が、真横を過ぎた。

 

「……最後に、一杯やりましょうか。………付き合ってくれるでしょう?」

 

「はい、勿論―――」

 

 艦長席の机の下から、秘蔵の酒瓶と杯を取り出す。

 

 ―――ヤッハバッハの艦隊が、眼前に迫る。

 

 

「こんな状況じゃあ、とても風流とは言えないわ」

 

 

「そうですね。なんだか暑苦しい景色ですし」

 

 

 杯を傾けて、私はそんな文句を言ってみた。

 

 ―――インフラトン・インヴァイダー、全力運転開始。チャージ加速。

 

 〈開陽〉のチャージ開始と同時に、僚艦がヤッハバッハ艦隊への応戦を開始する。

 

 ―――駆逐艦〈夕月〉〈ノヴィーク〉戦線離脱

 

 

「………これじゃあ、とてもではないけど"月が綺麗だ"なんて言えないわね」

 

 

「月というより、大きな太陽ですからね。―――って、えっ……!?」

 

 

 ……これ位なら、お天道様も許してくれるかな?

 

 ―――駆逐艦〈春風〉〈コヴェントリー〉通信途絶。巡洋艦〈ブリュッヒャー〉インフラトン反応拡散。

 

 

「その………霊夢さん!?今のは……」

 

 

「さて、そろそろ準備に取り掛からないとね。早苗、エンジンの出力は?」

 

 

「は、はい……順調に上昇を続けていますが………」

 

 

 ―――巡洋艦〈青葉〉〈ユイリン〉轟沈。駆逐艦〈有明〉〈夕暮〉戦列を離れる。

 

 

「出力を砲口に回して。それと、射線の計算開始」

 

 

「は、はいッ………」

 

 

 杯を一度置いて、最後の仕事に打ち込む。

 

 ―――巡洋艦戦艦〈レナウン〉大破、制御不能。巡洋艦〈ナッシュビル〉〈ボスニア〉応答無し。

 

 

「非常弁閉鎖。エネルギーの注入を開始します」

 

 

 流石に此方の思惑が気付かれたか。一気に向かってくるヤッハバッハ艦の数が増える。

 

  ―――重巡洋艦〈ピッツバーグ〉大破――応答途絶。巡洋戦艦〈オリオン〉轟沈。

 

 

「薬室内圧力、臨界」

 

 

「………ターゲットスコープ、開放」

 

 

 せり出してきた照準器の中心に、絢爛と輝く赤色超新星、ヴァナージの姿を捉える。

 

 同時に、ハイストリームブラスターの引き金を握る。……何かのロックが解除されたような音が響いた。

 

 

 

「発射まで、あと10、9、8………」

 

 

 

 ―――駆逐艦〈ヴェールヌイ〉沈没。

 

 

 

「「7、6、5………」」

 

 

 

 ハイストリームブラスターの引き金を握る手に、そっと早苗の手が添えられる。

 

 はっとして早苗を見上げると、"一人にはさせません"と語っているような、決意に満ちた、それでいて穏やかな彼女の顔があった。

 

 ―――重巡洋艦〈ケーニヒスベルク〉制御不能。………盾の大型艦が全て消えた。

 

 

 

「「4、3、2………」」

 

 

 

 早苗は私の視線に気がつくと、優しく微笑む。

 

 ―――駆逐艦〈雪風〉沈没………これでもう、付き従ってくれた僚艦は全て塵と消えた。

 

 

 

「「1………ハイストリームブラスター・フルバースト、発射あッ!!!」」

 

 

 

 

 引き金を、引く。

 

 直後、轟音と共に巨大なエネルギーの奔流が射線上のあらゆる存在を押し退けて、一直線に原初の炎へと突き進む。

 

 蒼白い破滅の光は進路上のあらゆるモノに等しく消滅という名の死をもたらしながら、寸分の違いなく赤色超巨星ヴァナージに命中した。

 

 瞬間、恒星が一度縮んだかと思うと、一瞬で膨張し、四方八方に死の光を撒き散らす。その様は、まるで命を散らして輝く死に際の花のようで………………

 

 

「霊夢、さん…………綺麗、ですね………」

 

 

「ええ………綺麗だわ、早苗―――」

 

 

 

 原初の光の奔流に、成す術なく呑み込まれる………。

 

 真っ白な光に呑まれて、フネが崩壊する音が響くなか、私は意識を手放した。

 

 

 



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間章・夢幻縁起(弐)
艨艟縁起・弐


艦艇設定集その二


艨艟縁起・弐 艦艇解説

 

 

~博麗艦隊~

 

 

*改スーパーアンドロメダ級戦略指揮戦艦 〈開陽〉

 

全長:1780m

価格:62000G

艦載機:常用36機(その他輸送機、艦載艇、試作機多数)

武装:艦首ハイストリームブラスター×2、160cm65口径3連装砲×5、SSM-890〈グラニート〉超長距離艦対艦ミサイルVLS×12セル、8連装多弾頭対艦ミサイルランチャーx1、30,5cm連装副砲x4、40mmCIWS×16、対空パルスレーザー、対空ミサイルVLS×多数

 

性能値

耐久:9100

装甲:98

機動力:36

対空補正:38

対艦補正:81

巡航速度:138

戦闘速度:130

索敵距離:20000

 

解説:霊夢艦隊の現旗艦〈開陽〉のクラス。大昔の水上戦闘艦を彷彿とさせる、上甲板に並んだバレル付き砲塔に、背の高い艦橋を持つ。サナダが風のない時代の遺跡から発掘した設計図を空間通商管理局の規格に合わせて改設計を行った艦。しかし、元設計は現代の技術よりも高度な技術を基準として設計されていたため、性能は完全には再現されていない。

霊夢艦隊の旗艦として建造された〈開陽〉1隻のみが存在しており、持ち前の高性能で艦隊の中核として活躍している。

艦体の塗装はハイストリームブラスターの砲口が金、艦全体は白に近い灰色で、舷側中央には赤いラインが入っている。その塗装と小マゼラン艦船を遥かに上回る圧倒的な性能から、特に略奪の対象となることが多い海賊からは「紅白の海賊狩り」または「紅白の死神」などと恐れられている。

マゼラニックストリームの戦闘において僚艦〈ネメシス〉と共にハイストリームブラスターによりヤッハバッハ艦隊に大きな損害を与え、この際偶然発生したエネルギー流の拡散現象は艦隊の誇るマッド陣営のインスピレーションを刺激した。その後ボイドゲートを封鎖しヤッハバッハ艦隊の進撃を阻止するため、全機関を全力運転してのハイストリームブラスター発射を敢行し赤色超巨星ヴァナージの超新星爆発を誘発、作戦に成功するも超新星の衝撃波に呑まれ大破する。

 

外観はヤマト復活編のスーパーアンドロメダ級だが、主砲が増加し艦橋形状は原案のものになっている。また艦体も原作のスーパーアンドロメダに比べて太めであり、初代アンドロメダ級との中間といったところ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*大戦艦〈フソウ〉

 

全長:???

価格:???

武装:???

 

解説:???

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*大戦艦〈ブルーアース〉

 

全長:???

価格:???

武装:???

 

解説:???

 

 

 

*大戦艦〈パールヴァティ〉

 

全長:???

価格:???

武装:???

 

解説:???

 

 

 

*改アンドロメダ級前衛武装航宙戦艦

 大戦艦〈ネメシス〉

 

全長:1456m

全幅:342m

全高:430m

価格:69500G

艦載機:96機(+分解状態の予備機×12機搭載可能)

武装:艦首ハイストリームブラスター×2、160cm65口径3連装収束圧縮型レーザー砲×2、、艦首対艦ミサイルランチャー×4、4連装対艦グレネード投射装置×2、3連装高角パルスレーザー砲×4、格納式パルスレーザーCIWS×24

 

性能値

 

耐久:10400

装甲:102

機動力:27

対空補正:42

対艦補正:75

巡航速度:131

戦闘速度:125

索敵距離:22000

 

解説:サナダ率いる博麗艦隊の誇るマッド陣営が"風のない時代"の遺跡から発見した設計図を改設計した航空戦艦。ゼーペンスト戦後〈ネメシス〉が建造される。『紅き鋼鉄』では〈開陽〉に続く戦力を持った戦艦であり、大口径レーザー主砲と正規空母並の艦載機搭載量を誇り、ヴィダクチオ戦、マゼラニックストリームでのヤッハバッハ戦で活躍。マゼラニックストリームでは〈開陽〉のハイストリームブラスターと本艦のそれが干渉し、拡散現象を見せた。小マゼラン編終盤で〈開陽〉のクルーを回収し、サナダ指揮の下『紅き鋼鉄』暫定旗艦に就任した。現在は残存艦を纏め上げ、大マゼランを目指す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*マゼラン級戦艦

 

全長:800m

価格:27500G

武装:120cm連装レーザー主眼×7、魚雷発射管、パルスレーザー砲多数

 

耐久:5100

装甲:62

機動力:25

対空補正:25

対艦補正:70

巡航速度:126

戦闘速度:140

索敵距離:13000

 

解説:ファズ・マティ攻略後、艦隊拡張計画の一環としてにとりが設計した戦艦。連装レーザー主砲を艦体全体に満遍なく配置し、射角から死角を排除した設計となっている。ただ、そのため艦体の表面積に対して主砲の占める割合が大きくなったことにより被弾危険箇所が増加したことが欠点として指摘されている。結局建造されることはなく、このとき実際に造られたのは後述のオリオン級だった。現在はにとりの手で改設計が行われている模様。

 

外見は初代ガンダムやORIGINのマゼランではなく、MS IGLOO(EXモデル)のマゼラン。そのため箱っぽい形状。

 

 

 

 

*オリオン級航宙巡洋戦艦

 

全長:811m

価格:30700G

艦載機:24機

武装:80cm60口径連装レーザー主砲×3、連装レーザー副砲×2、対空ミサイルVLS(32セル)×2、パルスレーザー砲多数

 

性能値

 

耐久:5220

装甲:65

機動力:25

対空補正:30

対艦補正:65

巡航速度:127

戦闘速度:140

索敵距離:15000

 

解説:前述のマゼラン級戦艦の艦首を改造し、艦載機用のカタパルトや格納庫を設置した航宙戦艦。元はそれ以外の仕様はマゼラン級と共通だったが、建造にあたってはメンテナンス性やコストダウンの観点から主砲はクレイモア級重巡と同口径のものへと換装され、艦尾の主砲はガラーナ級駆逐艦のものと換装され副砲とされた。そのため巡洋戦艦と名乗りながら純粋な対艦攻撃力ではクレイモア級に劣る。

カルバライヤのバゥズ級重巡と同程度の艦載機搭載能力を持つが、現在は予算不足のため定数一杯まで搭載されておらず、少数の戦闘機と偵察機のみが搭載されている。

艦橋直下にはスペースを生かして大容量の演算装置が搭載されており、無人艦ながら限定的な旗艦能力を有する。また武装を元のマゼラン級より削減したため艦内容積には余裕があり、有人艦としての運用も可能である。

〈オリオン〉〈レナウン〉の2隻が建造され、機動兵器〈ジム〉の母艦として運用されていたが、2隻ともマゼラニックストリームで轟沈。

 

外見はセンチネルのマゼラン改級。

 

 

 

*改ブラビレイ級空母 〈ラングレー〉

 

全長:1400m

価格:42500G

艦載機:常用70機

武装:対空ミサイルVLS×36セル、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:3000

装甲:80

機動力:35

対空補正:68

対艦補正:7

巡航速度:130

戦闘速度:127

索敵距離:17000

 

解説:サナダがヤッハバッハのブラビレイ級空母を無人艦として再設計した艦。『紅き鋼鉄』では、〈ラングレー〉1隻が運用されている。外見はブラビレイ級をひっくり返したような形状で、雛壇状に並んだ3層の飛行甲板と、艦中央から後方にかけてのアングルドデッキを持つ最上甲板を備える。設計にあたっては、無人化の上で不必要な居住設備を削り、武装も個艦防衛用に限定することで、元になったブラビレイ級と比べて大幅なコストダウンを実現した。

竣工後は博麗艦隊の機動戦力の中核として運用され、当初はスーパーゴーストを搭載した防空空母として扱われていたが、対艦攻撃機の充実に伴い攻撃空母としても運用されるようになり、監獄惑星〈ザクロウ〉近海ではザクロウ防衛隊の装甲空母群と本格的な機動部隊戦を戦った。

ゼーペンスト戦で大破して以来格納庫が拡張され、100機以上の搭載が可能になる。それ以後も『紅き鋼鉄』の主力空母として運用され続けた。

 

外観はヤマト2199のランベアです。

 

 

 

*クレイモア級自動重巡洋艦

 

全長:890m

価格:32600G

武装:80cm60口径3連装砲×3、SSM-890〈グラニート〉超長距離艦対艦ミサイルVLS×20セル、8連装対艦ミサイルランチャー×1、艦首魚雷発射管×8、対空ミサイルVLS×32セル、対空パルスレーザー×20

 

性能値

耐久:5200

装甲:98

機動力:28

対空補正:28

対艦補正:74

巡航速度:125

戦闘速度:132

索敵距離:16000

 

解説:『紅き鋼鉄』の重巡洋艦。〈開陽〉同様、サナダの手により遺跡から発掘された設計図を元に開発された。その姿は〈開陽〉のように水上戦闘艦に似ており、重圧な威容を持つ。性能も対艦に限れば戦艦に匹敵し、実際小マゼラン各国で運用されている戦艦では性能で本型に叶うものはいないどころか、大マゼラン、ヤッハバッハの戦艦とも強化次第では互角に戦うことができる。ただし、その高い対艦攻撃力と引き換えに、対空性能は巡洋艦としては低い。

『紅き鋼鉄』では主力として5隻が建造され、マゼラニックストリームでのヤッハバッハ戦を前にして〈伊吹〉が追加建造された。〈クレイモア〉はヴァランタインの〈グランヘイム〉との戦いで、〈トライデント〉はマリサ艦隊の狙撃戦艦との戦いで戦没、〈ピッツバーグ〉〈ケーニヒスベルク〉の2隻はその後も艦隊戦力の中核を務め続け、数多の海賊を葬った。重巡とは名ばかりの強力な砲撃と壊滅的な威力を誇るグラニート対艦ミサイルの矛は小マゼランにおいては強力無比であり、下手なレーザーではその重圧な装甲を貫くことは叶わず、海賊にとっては〈開陽〉と並ぶ死神として立ちはだかっていた。その実力は自治領を前にしても変わらず、マゼラニックストリームでのヤッハバッハ戦で轟沈するまで常に第一線で戦い続けた。小マゼラン編最終時では艦首に超遠距離射撃砲が搭載された。

現在は〈伊吹〉一隻が残存。

 

 

 

ヤマト的デザインの戦艦。大ヤマトに出ていた艦がイメージ元。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*改ヴェネター級機動巡洋艦 〈高天原〉

 

全長:1137m

価格:28700G

艦載機:常用40機

武装:中口径連装レーザー砲×12、対空ミサイルVLS×多数、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:3120

装甲:65

機動力:38

対空性能:37

対艦補正:35

巡航速度:135

戦闘速度:148

索敵距離:18000

 

解説:霊夢艦隊の初代旗艦、〈高天原〉のクラス。マゼラニックストリームでのヤッハバッハとの戦いに先立ち、二番艦〈ガーララ〉が建造された。サナダが古代異星人の遺跡から発掘した戦艦を空間通商管理局の規格に適合するように改設計している。艦容は中央よりやや後方が抉れた楔型の艦体に、2棟の艦橋が立っている姿をしている。巡洋艦として見ると火力は低めだが、正規空母並の搭載機数を誇り戦闘空母的な運用が可能。性能値は巡洋艦としては平均的な部類に入るが、その大きさに対しては機動力や航行性能は優れている。また、大気圏への突入能力を有する。

旗艦時代にあった装備も残されており、分隊旗艦を任されることもある。ファズ・マティ攻略戦ではショーフク指揮の下別働隊の旗艦として使われ、スカーバレル海賊団主力と対峙した。また対ヴィダクチオ戦では全軍の旗艦としても使用された。普段はその搭載機数を生かして軽空母的な運用をされることもある。

一番艦〈高天原〉はヤッハバッハとの戦いの前にレミリア達を乗せ、ショーフクの指揮のもと本隊に先立って大マゼランへと退避。二番艦〈ガーララ〉はヤッハバッハ戦後も健在である。

 

外見はスターウォーズのヴェネター級まんま。共和国カラー。流石に艦載機の数は調整している。

 

 

 

*マハムント/AC級強襲巡洋艦 〈ブクレシュティ〉

 

全長:748m

価格:25000G

艦載機:18機+大型シャトル2機、中型シャトル8機

武装:連装プラズマ砲塔×2、61cm連装レーザー砲塔×1、40、6cm連装レーザー砲塔×10、SSM-716〈ヘルダート〉大型対艦ミサイルVLS×14セル、大型連装パルスレーザー×6、対空クラスターミサイルVLS多数、対空パルスレーザー多数

特殊装備:ODST投下用HLV射出ポータル×3、拡張艦隊戦闘指揮システム

 

性能値

 

耐久:3500

装甲:71

機動力:34

対空補正:35

対艦補正:40

巡航速度:120

戦闘速度:137

策敵距離:18000

 

解説:グアッシュ海賊団が保有していたマハムント級巡洋艦を鹵獲、改造した艦。クラスはマハムント/AC級(Aは強襲assault、Cは指揮commandを意味する)。独立戦術指揮ユニットの下での運用を想定した改装が施され、同時に火力の向上や艦載機運用能力、HLV運用能力の付与も行われた。

元となったマハムント級などのロンディバルト製艦艇は蓄積されたバトルプルーフによる高い完成度と信頼性を誇り、〈ブクレシュティ〉も海賊が所有していたモンキーモデルが基とはいえ、その例に漏れず非常に高性能な特務巡洋艦として完成している。性能は全体的にモンキーモデル仕様からオリジナル仕様に匹敵する程度、あるいは凌駕するほどまで引き上げられているが、艦載機やHLV搭載能力など元設計になかった仕様を盛り込んだため耐久性能は低下している。

就役後は同名の独立戦術指揮ユニットの下で運用され、一個駆逐戦隊を任された。ゼーペンスト戦に先立つ艦隊再編以来、駆逐艦を中心とする空間打撃部隊の旗艦として運用されている。

搭載AIであるアリスの手によりストライカー装備なる増加装備が計画されたが、そのうち狙撃用長距離レーザーのみが対ヴィダクチオ戦で実現。初期不良に悩まされたがヴィダクチオ空母群に多大な損害を与えた。

 

 

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*アレキサンドリアI級指揮航宙巡洋艦

 

全長:590m

価格:23000G

艦載機:24~28機

武装:連装レーザー主砲×4、単装レーザー砲×2、3連装大型対艦ミサイルランチャー×2、パルスレーザー砲多数

 

性能値

 

耐久:2850

装甲:60

機動力:35

対空補正:35

対艦補正:38

巡航速度:132

戦闘速度:142

索敵距離:15000

 

解説:サナダが独自に設計中の巡洋艦。大型の艦橋には有人運用を前提とした各種指揮通信設備、旗艦設備を搭載。また艦前半が飛行甲板となっており、バゥズ級重巡と同程度の艦載機搭載・運用能力を持つ。

グアッシュ海賊団との決戦に間に合わせるべく設計作業が進められていたが、設備の調整に難航したため間に合わなかったようだ。本来は独立戦術指揮ユニットの下での運用が想定されていたが本級がグアッシュとの決戦前には完成しない見込みが高かったため、サナダは鹵獲したマハムント級を本級のテスト艦として活用する方針に転換した。

 

ガンダムに登場するアレキサンドリア級を無限航路サイズに拡大した艦だが、本来のアレキサンドリア級との一番の違いは艦首カタパルト直下まで胴体が拡大されている点。そのためカタパルトは艦の上面のみ。

本来〈ブクレシュティ〉はこのクラスの一隻になる予定だった。艦首に見える「07」の文字は〈ブクレシュティ〉が本級7番艦として予定されていたための数字。

 

 

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*スタルワート級重フリゲート/重巡洋艦

 

全長:778m

全幅:380m

全高:248m

武装:艦首大型対艦レーザー砲塔×2、連装レーザー砲塔×2、小型連装レーザー砲塔×2、アーチャー多目的ミサイルVLS×56セル、対空パルスレーザー

艦載機:スーパーゴースト無人戦闘機16機、ペリカン強襲降下艇×10機、機動歩兵改×120体

 

性能値

 

耐久:1840

装甲:41

機動力:32

対空補正:38

対艦補正:27

巡航速度:125

戦闘速度:135

索敵距離:16000

 

ゼーペンストから賠償艦として得たネージリンスのフリエラ級巡洋艦を改造した重巡洋艦。〈スタルワート・ドーン〉と〈イージス・フェイト〉の2隻がゼーペンスト艦から改装され、レミリア護衛の為に〈フォワード・オントゥ・ドーン〉が新たに建造された。艦首に大口径レーザー砲を搭載するために艦のレイアウト全体が見直されており、原型艦では艦首にあった両舷のエンジンブロックは艦後部に、艦首直下に張り出した艦体ブロックは艦体中央下に移設された。また艦首に大口径レーザーユニットを増設した関係で全長は100m近く延長され、重巡洋艦に類別された。

さらに原型艦にはなかった艦載機の運用能力も獲得しており、少数の戦闘機と陸戦用の降下艇、機動歩兵改を搭載する。これらの改装は〈ブクレシュティ〉建造で培われたノウハウが生かされている。

〈スタルワート・ドーン〉がマゼラニックストリームで失われ、他の2隻は健在。

 

艦級及び艦名は〈HALO〉に登場するUNCFフリゲートの艦級名、個艦名に由来。

 

 

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*改サウザーン級航宙軽巡洋艦

 

全長:450m

価格:18000G

搭載機:18機

武装:艦首レーザー砲塔、上部3連装レーザー砲、下部レーザー砲塔、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2820(1620)

装甲:53(35)

機動力:45(30)

対空補正:41(30)

対艦補正:48(30)

巡航速度:148(132)

戦闘速度:160(145)

索敵距離:23700(16000)

 

解説:サナダとにとりがスカーバレルとの決戦に向けてエルメッツァのサウザーン級を改修した艦。モジュールを予め設計に組み込むことでコストダウンと高性能化を実現したが、その代わり拡張性は皆無となってしまった。決戦に向けて〈エムデン〉〈ブリュッヒャー〉の2隻が建造される。基本的に有人での運用は想定されていない。艦艇が充実したゼーペンスト戦以来は後述のサチワヌ級に取って代わられた感が否めず、単純な巡洋艦戦力として運用されていた。〈エムデン〉がゼーペンスト、〈ブリュッヒャー〉がマゼラニックストリームで失われた。

 

カッコ内の数値が設計図単体の性能値。モジュールが固定されているため、その分他艦に比べれば性能が高いように見える。(他艦の性能値は設計図単体のみ)

 

 

 

*サチワヌ級航宙護衛艦

 

全長:430m

価格:16500G

搭載機:18機(うち2機は大型シャトル)

武装:連装レーザー主砲×2、単装レーザー砲×2、艦首ミサイル発射管、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2750

装甲:51

機動力:28

対空補正:52

対艦補正:39

巡航速度:133

戦闘速度:148

索敵距離:16000

 

解説:スカーバレル戦後、ファズ・マティの資源を利用した艦隊拡張計画で建造された巡洋艦。設計はサナダが行っており、サウザーン級の設計コンプセントを継承した多目的中型艦として纏められている。そのためサウザーン級の完全上位互換とも言うべき存在であり、一からの設計のため前述の改サウザーン級のように性能向上のために拡張性を潰すといった措置は取られていないどころか、将来の発展を見越したリソースもある程度は有している。

〈サチワヌ〉〈青葉〉〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の4隻が建造され、駆逐艦隊の旗艦や工作艦の護衛艦として運用されている。工作艦の護衛を担当する〈サチワヌ〉〈青葉〉はその性質上ほとんど被弾したことがないが、前衛の第三分艦隊に配属されている〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉の2隻は戦闘がある度にだいたい被弾している。

なお全ての同型艦がマゼラニックストリームで轟沈。

 

ガンダムシリーズの各種サラミス級を混ぜ合わせたような外見で、Zのサラミス改をベースに両舷にフジ級のカーゴブロックを追加し連装主砲は艦底部に移動、エンジンブロックは0083のサラミスになっている。また主砲はガラーナ級、ゼラーナ級と同一のデザイン。

原案の段階ではリーリス級駆逐艦の胴体にサラミス改のカタパルトと艦橋、フジ級のカーゴブロックを載せて艦尾を0083のサラミスにしたデザインだった。

艦名については何れかのガンダム作品に登場したサラミス級から取られている。(〈サチワヌ〉はZガンダム、〈青葉〉はガンダム・センチネル、〈ユイリン〉〈ナッシュビル〉は0083より)

 

 

 

*ルヴェンゾリ級軽巡洋艦

 

全長:430m

価格:17000G

艦載機:12機

武装:連装レーザー主砲×4、単装レーザー砲×2、艦首ミサイル発射管、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:2830

装甲:52

機動力:28

対空補正:52

対艦補正:41

巡航速度:133

戦闘速度:148

索敵距離:16000

 

解説:サチワヌ級は400m級巡洋艦としては優れた艦であったが、グアッシュ海賊団との戦いでは次第に火力不足が指摘されるようになった。そこでマッド陣営はサチワヌ級の設計を見直し、カーゴブロックを撤去した上でその跡地に連装主砲を増設する改設計を行ったのが本級である。

対ゼーペンスト戦に先立ち建造され、以来小マゼランでの『紅き鋼鉄』の主力巡洋艦となる。〈ボスニア〉〈ブルネイ〉と改装された〈サチワヌ〉が運用されていたが、マゼラニックストリームの戦いで〈ブルネイ〉を残し全滅。

 

 

 

 

*ヘイロー級駆逐艦

 

全長:320m

価格:13000G

武装:連装速射レーザー砲塔×1、SSM-770〈サンバーン〉長距離艦対艦ミサイルVLS×27、魚雷発射管×12、40mmCIWS×8、対空パルスレーザー×6

 

性能値

耐久:1620

装甲:68

機動力:42

対空補正:32

対艦補正:36

巡航速度:140

戦闘速度:151

索敵距離:15000

 

解説:サナダが風のない時代の遺跡で発見した艦を駆逐艦として調整したもの。艦は葉巻型で、艦首は水上船の球状艦首を尖らせたような形状をしている。駆逐艦としては対空性能が高く巡洋艦に近い性能をしており、『紅き鋼鉄』においては対艦、対空、索敵、護衛など様々な用途に使われている。建造時は6隻存在したが、〈バトラー〉、〈リヴァモア〉、〈ウダロイ〉の3隻は戦没し、〈ヘイロー〉、〈春風〉、〈雪風〉の3隻が残存していたが、残りの3隻はマゼラニックストリームで行われたヤッハバッハとの戦いに於いて軒並み沈められた。小マゼランでは海賊に対する前衛や補助艦艇の護衛など、多彩な任務に使われていた。

 

YAMATO2520の3話に一瞬だけ登場した地球側軍艦が元ネタ。その艦の第三艦橋を一段低くした上で武装等を追加している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*ノヴィーク級駆逐艦

 

全長:300m

価格:8100G

武装:連装レーザー主砲×2、艦首量子魚雷発射管×4、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1440

装甲:40

機動力:35

対空補正:28

対艦補正:35

巡航速度:134

戦闘速度:150

索敵距離:13700

 

解説:スカーバレルのガラーナ級駆逐艦を霊夢艦隊のマッドが一人、シオンが改良した艦。主に耐久性の強化や汎用駆逐艦としての武装調整、無人化改装、不要な強襲接舷用設備の撤去などの改装が施されている。それらの改装により、元となったガラーナ級とは外見こそほぼ変わらないものの、部分的に大マゼランの駆逐艦並の性能を手にするに至った。〈ノヴィーク〉〈タシュケント〉〈ズールー〉〈タルワー〉〈パーシヴァル〉〈早梅〉〈秋霜〉〈霧雨〉〈叢雲〉〈夕月〉の10隻が建造され、そのうち〈パーシヴァル〉が"くもの巣"での決戦にて失われ、〈早梅〉はヴィダクチオ自治領で轟沈、そして〈霧雨〉〈叢雲〉を除く他の同型艦はマゼラニックストリームでのヤッハバッハとの戦いにて喪失。

 

クラス名の元ネタは英語版無限航路(infinite space)におけるガラーナ級のクラス名に由来する。

 

 

 

*グネフヌイ級航宙駆逐艦

 

全長:280m

価格:8500

艦載機:12~16機

武装:単装レーザー主砲×2、単装レーザー砲2、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1280

装甲:35

機動力:33

対空補正:29

対艦補正:26

巡航速度:130

戦闘速度:148

索敵距離:14000

 

解説:ノヴィーク級同様、スカーバレルのゼラーナ級駆逐艦を改修した艦。主な改造ポイントはノヴィーク級とあまり変わらない(海賊船としての設備を撤去し高性能化、無人化)が、元のゼラーナ級が駆逐艦としては珍しく艦載機の搭載が可能であったため、格納庫を拡大し12~6機程度の偵察機か防空戦闘機を搭載して艦隊の前衛警戒部隊を構成している。

〈グネフヌイ〉〈ソヴレメンヌイ〉〈ヴェールヌイ〉〈アナイティス〉〈コーバック〉〈コヴェントリー〉の6隻が建造され、〈グネフヌイ〉が"くもの巣"での決戦で、〈アナイティス〉はゼーペンスト、〈ソヴレメンヌイ〉がヴィダクチオ自治領で失われ、残りはヤッハバッハとの決戦で轟沈した。

 

クラス名の由来はノヴィーク級同様、英語版無限航路でのゼラーナ級のクラス名。

 

 

 

*改アーメスタ級駆逐艦 〈ブレイジングスター〉

 

全長:360m

価格:9800G

武装:連装レーザー主砲×3、舷側ミサイルVLS(30セル)×4、パルスレーザー砲×4

 

性能値

 

耐久:1580

装甲:45

機動力:41

対空補正:15

対艦補正:47

巡航速度:138

戦闘速度:165

索敵距離:14000

 

解説:エルメッツァの最新鋭駆逐艦アーメスタ級を改良した艦。元設計が非常に拡張性に優れたものであるため、火力面ではノヴィーク(ガラーナ)級を多少上回る程度だが、それ以外の性能ではスカーバレル改造艦を凌ぐ。また加速性能と機動力にも優れ、無人艦のためGを無視した高度な機動を取ることも可能である。グアッシュとの決戦に向けて〈ブクレシュティ〉の随伴艦として建造された。

本級は現段階では〈ブレイジングスター〉1隻のみが運用されている。艦名は霊夢の親友が持つスペルの名前から取られた。

 

英語版での艦名はスコーリィ。ソ連の30-bis型駆逐艦のクラス名に由来すると思われる。

 

 

 

*改アリアストア級駆逐艦

 

全長:340m

価格:9000G

武装:艦首レーザー主砲×1、格納式レーザー砲塔、SSM-716〈グラニート〉大型対艦ミサイルランチャー×4、パルスレーザー砲

 

性能値

 

耐久:1490

装甲:44

機動力:36

対空補正:10

対艦補正:35

巡航速度:135

戦闘速度:158

索敵距離:13000

 

解説:エルメッツァが運用するミサイル駆逐艦のアリアストア級を改良した艦。全体的に性能の底上げが図られ、またミサイルも(霊夢艦隊の水準では)非力だったものを〈ブクレシュティ〉に搭載されたものと同型の大型対艦ミサイルとすることで対艦攻撃力を大きく向上させた。その性格から、機動力を生かして雷撃位置につき、ミサイルによる攻撃を行うという水雷戦術の下での運用が想定されている。

グアッシュとの決戦に向けて〈東雲〉〈有明〉の2隻が建造され、ヤッハバッハとの決戦まで運用された。なお、塗装は地方軍カラーよりやや薄めの黄色。

 

 

 

*改テフィアン級駆逐艦

 

全長:340m

価格:8200G

武装:艦首レーザー主砲×1、格納式レーザー砲塔、舷側レーザー砲塔×2、パルスレーザー

 

性能値

 

耐久:1370

装甲:44

機動力:36

対空補正:10

対艦補正:32

巡航速度:136

戦闘速度:158

索敵距離:13000

 

解説:エルメッツァの主力駆逐艦テフィアン級を改良した艦。主に耐久性と火力の向上に主眼を置いた改造が為されている。現在は設計図のみであり、まだ建造はされていない。

 

 

 

*改リーリス級ミサイル駆逐艦

 

全長:265m

 

武装:多目的大型ミサイルVLS×32セル、艦首レーザー砲×1、対空ミサイルVLS×24セル、パルスレーザー砲

 

解説:『紅き鋼鉄』で運用されるミサイル駆逐艦。元はゼーペンストからの賠償艦であるが、フリエラ改級とは異なるモジュールの載せ替えと武装の付け替えだけ行われた。〈アーデント〉がヴィダクチオ自治領で沈没、〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈ドーントレス〉はヤッハバッハとの決戦に先立ち、大マゼランへ向かうレミリア達の護衛艦として使用された。

 

 

 

*改アクラメーター級工作艦 〈サクラメント〉

 

全長:752m

価格:35000G

艦載機:36機

武装:連装レーザー砲塔×6、対空パルスレーザー×多数

 

性能値

耐久:2890

装甲:62

機動力:22

対空補正:30

対艦補正:21

巡航速度:128

戦闘速度:133

索敵距離:16000

 

解説:サナダが改ヴェネター級同様の経緯で、発掘した宇宙船の設計図を使って建造した工作艦。主に艦内工厰で艦載機や専用のミサイル等の製造を担当する。外壁部分にはデブリやジャンク解体・回収用のクレーンを備えており、普段はこれらの設備は格納されているため楔型の滑らかな形状の艦容をしている。また、ヴェネター級同様に大気圏突入能力を有する。

他の艦の所有者名義は霊夢だが、この艦のみ所有者はサナダとなっている。

 

外見はスターウォーズのアクラメーター級。共和国カラー。

 

 

 

*改クレイモア級工作艦 〈プロメテウス〉

 

全長:890m

価格:33600G

武装:対空ミサイルVLS×16セル、対空パルスレーザー×20

 

性能値

耐久:4300

装甲:88

機動力:22

対空補正:26

対艦補正:20

巡航速度:123

戦闘速度:118

索敵距離:13000

 

解説:クレイモア級重巡を工作艦に転用した艦。一切の対艦武装を撤去し、修理設備を備えている。〈サクラメント〉は主に補充品の生産を担当するが、此方は艦艇の修理を担当している。

 

 

 

*ムスペルヘイム級特大型工作艦 〈ムスペルヘイム〉

 

全長:1280m

価格:54000G

武装:対空ミサイルVLS、対空パルスレーザー

 

性能値

 

耐久:1280

装甲:40

機動力:10

対空補正:16

対艦補正:3

巡航速度:116

戦闘速度:120

索敵距離:13000

 

解説:サナダ率いるマッド陣営が野望達成(=設計した艦艇の建造)のために建造した超大型工作艦。スカーバレルから奪ったビヤット級輸送船を2隻横に連結した双胴船で、中央には艦船建造用のドックを有する。その大きさはエルメッツァのグロスター級戦艦がぎりぎり入るほど広く、駆逐艦や巡洋艦クラスなら問題なく建造できるほど。

竣工後はノヴィーク級やグネフヌイ級、サチワヌ級といった艦船を建造し博麗艦隊の戦力増強に貢献し、普段はそのドックの広さを生かして航行しながら駆逐艦等の本格的な整備、修理作業に供されている。

 

 

 

*改ボイエン級高速戦闘支援艦 〈蓬莱丸〉

 

全長:410m

価格:―

武装:対空パルスレーザー砲×4

 

性能値

 

耐久:980

装甲:66

機動力:15

対空補正:15

対艦補正:3

巡航速度:121

戦闘速度:124

索敵距離:12000

 

解説:スカーバレルが保有していたボイエン級輸送船を改造した艦。博麗艦隊では戦艦や航空機用ミサイル等の弾薬補給艦として運用されており、戦闘終了後、迅速にこれらの物資を他艦に補給する。その性質上装甲はかなり厚くされており、大マゼランの巡洋艦並である。また艦隊に随伴させるため機関も改良されており、通常のボイエン級と比べても優速である。

 

 

 

バクゥ級捕虜輸送船 〈亜里山丸〉

 

全長:550m

価格:7500G

武装:―

 

性能値

 

耐久:760

装甲:34

機動力:15

対空補正:18

対艦補正:22

巡航速度:80

戦闘速度:115

索敵距離:11000

 

解説:グアッシュ海賊団から鹵獲したバクゥ級の1隻を捕虜輸送船に転用したもの。武装は全て撤去されている。モジュールでの改装により艦隊に随伴できるだけの速力や耐久性の底上げは為されているが、元設計には手を加えられていないので他のバクゥ級より本体性能が優れている訳ではない。

主に乗艦を奪われた海賊達が詰め込まれる。そのため艦内はむさ苦しく、常時監視を兼ねた清掃ロボットと機動歩兵改が艦内を徘徊している。

 

 

 

*小型コルベット 〈スターゲイザー〉

 

全長:150m

価格:―

武装:連装レーザー砲塔×2、パルスレーザー砲×8

 

性能値

 

耐久:580

装甲:38

機動力:30

対空補正:11

対艦補正:16

巡航速度:114

戦闘速度:150

索敵距離:15000

 

解説:サナダが霊夢を発見した際に運用していた小型艇。艦自体が発掘された遺物であり、性能は低いものの自力でワープが可能である。現在は〈サクラメント〉のドッキングポートに接続され、保管されている。

 

外見はスターウォーズのCRコルベット。序盤のみ登場。

 

 

 

 

~その他勢力~

 

【ヤッハバッハ帝国】

 

 

*ゼーグルフ級戦艦

 

全長:3700m

 

解説:ヤッハバッハ帝国が運用する超大型戦艦。宙域艦隊(テリトリアルフリート)旗艦として宙域支配、監視の為に使用される他、上級将校の専用旗艦や進攻軍の旗艦としても運用される。本編中では言及のみの登場。

 

 

 

*ダウグルフ級戦艦

 

全長:2250m

 

解説:ヤッハバッハ帝国の一般的な主力戦艦。その体躯は小マゼランはおろか大マゼランの標準的な戦艦を凌駕し、性能も大マゼランの旗艦級戦艦に匹敵する。艦隊旗艦や主力として運用され、それなりの規模を持つヤッハバッハ艦隊なら必ず見ることができる。

同級の一隻〈プリンス・オブ・ヴィクトリアス〉はイベリオ星系のデッドゲートが復活したという報告を受けて同地の調査に赴いていたが、そこで霊夢率いる〈開陽〉以下の艦隊と遭遇し、戦闘により大破した。

ヤッハバッハ小マゼラン先遣艦隊旗艦〈ハイメルキア〉もこのクラスに属する。

 

 

 

*ブラビレイ級空母

 

全長:2000m

 

解説:対艦能力のなさを艦載機の火力で補うという思想の下建造されたヤッハバッハの攻撃機動空母。艦そのものは艦載機キャリアーとしての性能に特化し、被弾からの誘爆を防ぐための重装甲や迅速な発着艦を可能とする三段の飛行甲板を持つ。霊夢艦隊で運用される〈ラングレー〉のベースとなった艦である。小マゼラン先遣艦隊では3075艦隊など多数の部隊に運用が確認されている。

 

 

 

 

*ダルダベル級重巡洋艦

 

全長:980m

 

解説:ヤッハバッハの標準的巡洋艦。巡洋艦としては大型だが、ヤッハバッハ国内では小型艦と見なされている。4基の大型単装主砲と左舷のクラスターミサイルランチャーを主兵装とし、右舷には長大な艦載機カタパルトを有する。ヤッハバッハ国内では大量配備されており、警備艦隊の旗艦から進攻艦隊の主力までさまざまな任務に充当されている。

 

 

 

*ブランジ級突撃駆逐艦

 

全長:340m

 

解説:ヤッハバッハの突撃艦で、全面投影面積を小さくするという設計思想の下建造されている。そのため艦体はスティック状のシルエットとなった。戦場では真っ先に突撃し、全方位に向けてレーザーやクラスターミサイルを発射することで敵艦隊を撹乱する。

なお、国内ではミサイルを撤去してレーダーや居住設備を拡張した警備隊仕様の艦(ブランジ/P級)が就役している。

 

 

 

【エルメッツァ・ユーリ艦隊】

 

 

*グロスター級戦艦

 

全長:800m

 

解説:エルメッツァで生産されている唯一の戦艦。5度の改修によるマイナーチェンジによる性能と高い拡張性を誇り、政府軍高官が運用する本級は設計段階とは比較にならないほどの性能を有すると言われている。民間でもエルメッツァ政府の許可を得れば入手することが可能であり、若き0Gドッグ、ユーリはスカーバレル討伐の戦果を評価されて本級を入手、〈ミーティア〉と名付け旗艦として運用している。

 

英語版での艦名はボロディノ級。ユーリが運用する艦の名前は英国繋がりが由来。(グロスター=英国巡洋艦、ミーティア=英国戦闘機の一機種)

 

 

 

*サウザーン級巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:エルメッツァ中央政府軍が制式採用している標準的な巡洋艦。基本設計のバランスが良く拡張性が高いため、艦長や勢力次第で様々な改修が施される。ユーリはグロスター級を購入する以前は本級の〈スレイプニル〉を旗艦としていた。

 

 

 

*アーメスタ級駆逐艦

 

全長:360m

 

解説:エルメッツァの最新鋭駆逐艦。海賊対策の為にテフィアン級を改良し、性能を向上させている。本編中では描かれていないがユーリの初代旗艦であり、彼がサウザーン級に乗り換えた後も2番艦を建造した上で艦隊の主力として運用されている。尚、ユーリ艦隊の艦は本艦から全て赤を基調としたカラーリングで塗装されている。

 

ユーリ君の初代旗艦。無限航路本編PVで登場したものと全く同一の塗装。サウザーン級もPVでの仕様。

 

 

 

 

【カルバライヤ・スカーレット社】

 

 

*改ドーゴ級戦艦 〈レーヴァテイン〉

 

全長:850m

艦載機:18機

武装:330cm長距離連装対艦レーザー砲「スターボウブレイク Mk.8mod2」×1

88cm3連装対艦レーザー砲「イゾルデ Mk.73」×2

180mm連装大形パルスレーザー ×12

16連装対空ミサイルVLS ×2

格納式パルスレーザー砲 ×36

 

解説:カルバライヤで活動する軍事企業「スカーレット社」が保有する戦艦。カルバライヤ正規軍から払い下げられたドーゴ級戦艦を改造し、自社製装備のテスト艦や出張時の護衛艦として運用されている。

主な改造点は艦首の超遠距離射撃砲を撤去し防空戦闘機の格納スペースに充て、艦底部にはそれに代わる長距離対艦レーザー砲を搭載している。また艦橋両脇にも中口径のレーザー砲を追加し打撃力を高めている。

〈レーヴァテイン〉はスカーレット社警備部門所属のメイリンの指揮下で運用され、グアッシュ海賊団と死闘を繰り広げた。

 

 

 

*バゥズ級重巡洋艦

 

全長:630m

 

解説:カルバライヤの主力重巡洋艦。高い火力、耐久性と艦載機運用能力を併せ持ち、汎用性に優れる。それ故に輸送船や主力艦の護衛、宙域内の哨戒など様々な任務に投入される。設計図は広く売り出されており、スカーバレル、グアッシャ等の名だたる海賊団も使用していた。保安局を抜けた後のバリオの乗艦もこのクラスである。

バリオの乗艦〈イサリビ〉は『紅き鋼鉄』に編入されるにあたってワープドライブの設置や部品をバゥズⅡ相当に改めるなど大規模な改修が実施された。

 

 

*ディゴウ級重巡洋艦

 

全長:580m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局の旗艦として配備されている艦艇で、佐官クラスに充当される。ザクロウ制圧作戦の際、シーバット宙佐の旗艦としても使用された。

 

 

 

*バハロス級高速巡洋艦

 

全長:400m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局が運用する高速巡洋艦。警備隊の主力として配備される。艦首の青いライトは保安局所属を示すものであり、ディゴウ級など他の保安局艦艇にも採用されている。

 

 

 

*シドゥ級高速駆逐艦

 

全長:270m

 

解説:カルバライヤ宙域保安局が運用する高速駆逐艦。バリオ宙尉に与えられているのもこのクラスである。

 

 

 

*グルガ級強襲揚陸艦

 

全長500m

 

解説:海賊拠点に対する強襲制圧任務の為に開発されたカルバライヤ保安局の強襲揚陸艦。艦首下部に兵員降下用のHLVを格納しており、艦底部には地上攻撃用大型ミサイル〈プラネットボンバー〉を搭載する。ザクロウ制圧作戦の際は3隻が動員された。

 

 

 

*ダガロイ級装甲空母

 

全長:680m

 

解説:カルバライヤが保有する唯一の空母だが、重巡洋艦であるバゥズ級と比べても火力が高く、搭載機数が少ないという何かを間違ったような設計をしている。

監獄惑星ザクロウに配備されたタイプは格納庫の拡張と航続能力の改良が施されていた。

 

 

 

*レベッカ改級警備艇

 

全長:120m

 

解説:一般に売り出されている警備艇を改装したもの。スカーバレルの同型艦より1ランク上の性能を持つが、元が警備艇のため基本的に非力な存在。

 

 

 

 

【アイルラーゼン共和国】

 

 

*クラウスナイツ級戦艦先行生産型

 

全長:1900m

 

アイルラーゼン宇宙軍の新型戦艦。現行主力艦であるバゼルナイツ級の老朽化に伴って開発中の次期主力艦であり、本格的な量産が始まる前に建造された試作艦数隻が艦隊旗艦任務などに充当されて試験運用されている。本来は新型の火器管制システムが搭載される予定であったが開発が遅れているためバゼルナイツ級のシステムを代用として使用している。

ユリシア中佐の特務艦隊に〈ステッドファスト〉が旗艦として配備され、僚艦に〈ドミニオン〉〈リレントレス〉が在籍している。またバーゼル大佐麾下の近衛艦隊旗艦として〈ガーディアン〉が配備、運用されている。

 

 

 

*タイタレス級砲艦

 

全長:18000m

全幅:5000m

全高:5000m

 

全長18000mの巨体を誇るアイルラーゼンの巨大砲艦。本来は対ロンディバルトを見越して開発された決戦兵器であり、主砲であるエクサレーザー砲と艦後部に装備されたリフレクションレーザーユニットと放熱機構を兼ね備えたオクトパス・アームユニットを展開し、重力レンズリングユニットにレーザーを収束して放たれるエクサレーザー・フルバーストは超新星を誘発するほどのエネルギー量を誇る。

ヤッハバッハの小マゼラン侵攻に乗じて試験運用のためマゼラニックストリームに回航されたが、目立ちすぎる巨体ゆえ戦闘宙域後方にあったにも関わらずヤッハバッハ艦隊に補足され猛攻を受けた。エクサレーザー砲の発射にこそ成功するもヤッハバッハの攻撃により射線が僅かにズレた影響でヴァナージの超新星爆発誘発には失敗する。その後不安定化したヴァナージは〈開陽〉の全機関最大出力でのハイストリームブラスターにより超新星爆発を起こし、本艦はその衝撃波に呑まれる形で放棄された。その後95%の完成率にあった二番艦は封印された。

 

 

 

*バゼルナイツ級戦艦

 

全長:1300m

 

アイルラーゼンの現行主力戦艦。火力、耐久性に優れ長年の運用により信頼性も高い。ヤッハバッハの存在が明らかとなってからは能力不足が指摘されている。

バーゼル麾下の近衛艦隊に主力として多数が配備されていた。

 

 

 

 

*ヴィナウス級空母

 

全長:1400m

 

ネージリッドの技術支援を得て建造されたアイルラーゼンの主力空母。艦体上下にカタパルトデッキユニットを持ち、その間に艦載機格納庫となるコンテナユニットがある。その構造上搭載量に優れるが、艦体自体の耐久性は高くない。

バーゼル艦隊には防空用として十数隻が随伴していた。

 

 

 

*バスターゾン級重巡洋艦

 

全長:870m

 

アイルラーゼンの主力巡洋艦で高い火力を誇る。主にランデ級駆逐艦からなる宙雷戦隊の旗艦として運用され、哨戒や主力艦隊の随伴といった任務に充当されている。艦前方にある武装ブロックは分離して運用することも可能だが、ユリシア艦隊に配備されていた後期型はコスト削減のためこの機構はオミットされている。

 

 

 

*グワンデ級護衛艦

 

全長:670m

 

空母艦隊の護衛や哨戒部隊の主力として運用されているアイルラーゼンの中型戦闘艦。巡洋艦クラスのサイズと攻撃力を持ち、他国からは巡洋艦として扱われている。艦中央に円筒形の全周攻撃用砲塔ユニットを4基装備する。

 

 

 

*ランデ級駆逐艦

 

全長:360m

 

アイルラーゼン艦隊で使用されている一般的な駆逐艦。対艦攻撃力と耐久性に優れるが汎用性は他国の駆逐艦に劣る。バーゼル艦隊やユリシア艦隊に多数が配備されていた。

 

 

 

【ゼーペンスト自治領】

 

 

*ペテルシアン級空母

 

全長:1800m

 

ネージリッドの主力空母であり、大マゼラン空母の中でも最大級の搭載量を誇り、艦体の耐久性も高くその巨体に見合わない機動力も持つ。裏ルートで流れた設計図がゼーペンストの手に渡り、親衛隊によって使用された。ヴルゴ艦隊の旗艦〈アルマドリエルⅡ〉はセンサー機能が強化されている。

 

 

 

*ドゥガーチ級空母

 

全長:640m

 

ネージリンスの主力空母。ゼーペンスト領内でも主力空母として使用されており、国境警備や本国艦隊、親衛隊の主力として運用されていた。ZNS級はオリジナルのドゥガーチ級と同程度の搭載量を持つが、Z級は右舷側の大型コンテナがオミットされており左右対象の艦型である。そのため搭載量は低い。『紅き鋼鉄』に賠償艦として引き渡されたZ級の一隻が〈ロング・アイランド〉として運用されている。

 

 

 

*フリエラ級巡洋艦

 

全長:680m

 

空母の護衛として開発されたネージリンスの巡洋艦。ゼーペンストでは哨戒用のZ級と艦隊主力の重巡洋艦ZNS級の二種類があり、両舷ブロックの位置が異なる。『紅き鋼鉄』に引き渡された艦は魔改造されスタルワート級となった。

 

 

 

*リーリス級駆逐艦

 

全長:265m

 

ネージリンスの標準的な駆逐艦。リリースではない。ゼーペンストではコスト削減のため一部ブロックを撤去したZ級とオリジナルほぼそのままのデザインのZNS級の二種類が存在した。『紅き鋼鉄』に引き渡されたZNS級はそれぞれ〈アーデント〉〈フレッチャー〉〈スコーリィ〉〈ドーントレス〉と命名された。

 

 

 

【ヴィダクチオ自治領】

 

 

*リサージェント級戦艦

 

全長:3000m

 

ヴィダクチオ自治領の旗艦として運用されていた巨大戦艦。楔形のデザインを有する。ワープドライブを搭載した発掘戦艦で、表面には多数の中~小口径レーザーを持ち(他の発掘戦艦も同様)、近~中距離では非常に高い火力を発揮する。また底部には特殊武装としてLLサイズの反射レーザー砲と拡散レーザー砲を持ち、『紅き鋼鉄』を苦しめた。この砲は収束/拡散の切り替えが可能であり、搭載した専用の艦載機によってレーザーを反射させて死角にいる敵に攻撃が可能なほか、拡散モードでは下面から侵入する敵機に対する対空システムとしても機能する。

艦首脳陣が霊夢に殺害され鹵獲されたのち重要部位を破壊した上で売却された。

 

出典はスターウォーズシリーズ(カノン)

 

 

*ペレオン級戦艦

 

全長:1600m

 

ヴィダクチオ自治領の主力戦艦。リサージェント級を縮小したような艦型を持ち、被弾経始に優れた艦体デザインや背の低い艦橋や全てのレーザー砲塔を前方に指向可能な設計など、後述のテクター級より洗練されたデザインを有する。しかし中小口径のレーザーを主砲としていたため大火力長射程兵器を多数有する『紅き鋼鉄』の敵ではなかった。

 

出典はスターウォーズシリーズ(レジェンド)

 

 

 

*テクター級戦艦

 

全長:1600m

 

ヴィダクチオ主力艦隊の旗艦として運用されていた楔形戦艦。発掘戦艦群のなかではペレオン級よりも設計が古く弱点が多いが、艦橋に巨大なセンサーやレーダーユニットを有することから旗艦クラスと考えられていたようだ。

 

出典はスターウォーズEP6。徹底的にインペリアルを排除するスタイル(笑)

 

 

*ヴィクトリー級戦艦

 

全長:900m

 

ヴィダクチオ艦隊を小型戦艦。テクター級を縮小させたような艦型を持つ。発掘された設計図を元に多数が量産されておりヴィダクチオの高い技術を見せつけたが、ペレオン級同様『紅き鋼鉄』相手には苦戦した。

 

出典はスターウォーズシリーズ。

 

 

 

*セキューター級空母

 

全長:2200m

 

ヴィダクチオの楔形巨大空母。他の楔形戦艦とは異なり、このクラスのみ艦体中央に艦橋を持つ。非常に大型の艦船であり艦載機搭載量もその分高いが、それがかえって『紅き鋼鉄』の警戒を受け集中的に攻撃され真価を十全には発揮できなかった。

 

出典はスターウォーズシリーズ。

 

 

 

*ヴェネター級空母

 

全長:1155m

 

ヴィダクチオの主力空母。『紅き鋼鉄』の同型艦とは異なりオリジナルほぼそのままの設計で耐久性はやや劣る。『紅き鋼鉄』、アイルラーゼン、スカーレット連合艦隊との決戦では長射程レーザーによる集中砲火を受けて序盤に多数が脱落し、充分な制空権を友軍に提供することができなかった。

 

出典はスターウォーズEP3。こちらは帝国カラー。

 

 

*マハムント級巡洋艦

 

*シャンクヤード級巡洋艦

 

*ナハブロンコ級水雷艇

 

 

 

 

【ロンディバルト連邦共和国】

 

 

*改レオンディール級強襲揚陸艦

 

全長:850m

 

ロンディバルト軍の強襲揚陸艦。本来は戦闘空母として設計された艦種だが火力と空母機能に加え揚陸艦機能まで付け加えたため器用貧乏に陥り使い勝手が悪く、前線からの評価は芳しくなかった。そのため同型艦の多くが武装を一部撤去した上で格納庫の増設工事を受け、艦種も強襲揚陸艦へと変更された。航続力と指揮通信能力は高いため小規模艦隊の旗艦として使用されるケースもあり、オーダーズ艦隊に属する〈ダウロン〉はハミルトン少佐が指揮する特務艦隊の旗艦として運用されていた。

 

 

 

*ギャラクティカ級戦闘空母

 

全長:1350m

 

レオンディール級の失敗を受けて開発されているロンディバルト軍の新型空母。艦体を大型化することにより火力と搭載量を両立させており、搭載量確保のため揚陸艦機能はレオンディール級に比べると低下しているが空母としての機能は他国正規空母並にまで上昇した。

開発中のデータがヴィダクチオ自治領に流出していたが、ハミルトンの手で破壊されている。

 

外見はラーカイラムを芯にロンディバルト風味を加えたもの。レオンディール級との共通性を意識している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

*マハムント級巡洋艦

 

*オーソンムント級巡洋艦

 

全長:605m

 

ロンディバルトの主力軽巡洋艦。特筆した性能は持ち合わせていないが信頼性が高く、汎用性を買われて前線部隊の数的主力として様々な任務に充当されている。

 

 

 

*バーゼル級駆逐艦

 

全長:340m

 

ロンディバルトの旧式駆逐艦。前時代に活躍した巡航艦がベースとなっており、艦尾に剥き出しで装備されている亜高速エンジンなどにその古いデザインを垣間見ることができる。設計こそ古いがその分汎用性と信頼性が高く様々なバリエーションが展開され、軍民問わず重宝されている。最近では後継の新型駆逐艦が開発中であるとのこと。

 

 

 

 

【海賊・その他】

 

 

*グランヘイム級戦艦

 

全長:2200m

 

解説:0Gランキング一位に君臨する大海賊ヴァランタインの乗艦。あらゆる戦艦を凌駕するほどの圧倒的な性能を誇り、さらに正規空母並の艦載機搭載能力も有する。霊夢艦隊とはマゼラニックストリーム近くの七色星団宙域で交戦し、霊夢達に圧倒的な力を見せた。

 

 

 

*ファンクス級戦艦

 

全長:910m

 

解説:大マゼラン、ゼオスベルトで設計された戦艦。翼を広げた鳥のような意匠の艦型をしており、これは同所で設計されたシャンクヤード級にも共通する。

小マゼランではグアッシュ海賊団が保有しており、霊夢艦隊と砲火を交えた。

 

 

 

*カッシュ・オーネ級戦艦

 

全長:1200m

 

解説:大マゼランで活動する海賊達の旗艦として用いられる戦艦。正面から見ると三菱をひっくり返したような形状をしている。

何故かグアッシュ海賊団が保有しており、ドエスバン所長を逃がすべく霊夢艦隊に砲撃戦を挑んだがあえなく撃沈された。

 

 

 

*シャンクヤード級巡洋艦

 

全長:780m

 

解説:輸送業に携わることが多い0Gドッグの為に設計された巡洋艦で、非常に艦内容積が広く拡張性が高い。そのため大マゼランでは好んで使われる艦種の一つである。

グアッシュ海賊団が保有するタイプは性能がオリジナルより劣化したモンキーモデルであった。

 

 

 

*マハムント級巡洋艦

 

全長:750m

 

解説:ロンディバルト軍の各部隊に配備されている一般的な巡洋艦。突出した性能はないが信頼性が高い。また同国艦艇の特徴であるプラズマ砲を装備しており、その火力はけっして低いものではない。

何故かグアッシュ海賊団にモンキーモデルの設計図が流出しており、同海賊団高級幹部の手により運用されていた。そのうち一隻が霊夢達の手により鹵獲され、徹底的な改造を施されて〈ブクレシュティ〉となった。

 

 

 

*ゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:スカーバレル海賊団がサウザーン級を改造して設計したミサイル巡洋艦。3基のミサイルコンテナからは合計198発のミサイルが発射可能であり、その威力はビーム対策に重点を置いている現代の艦艇にとっては非常に脅威である。

 

ちなみに英語版での艦名はグロムキィである。

 

 

 

*オル・ドーネ級巡洋艦

 

全長:450m

 

解説:スカーバレル海賊団の標準的巡洋艦。機動性が高く、状況に応じて敵艦に接舷し白兵戦を挑む。殆ど面影が残っていないがサウザーン級巡洋艦がベースとなっており、エンジンノズルや艦後部の底部などで僅かにその面影が見れる。艦首には2門の大型軸線砲を有し、対艦攻撃力も高い。

 

ちなみに英語版での艦名はリューリクである。

 

 

 

*ガラーナ級駆逐艦

 

全長:300m

 

解説:スカーバレル海賊団の駆逐艦。手下のみで出撃する際に旗艦として用いられる。

 

 

 

*ゼラーナ級駆逐艦

 

全長:280m

 

解説:スカーバレル海賊団の駆逐艦。手下のみで出撃する際に旗艦として用いられる。9機程度の艦載機を搭載することが可能。

 

 

 

*アルク級駆逐艦〈スターライト〉

 

全長:320m

 

民間輸送船を改造したジュノー級駆逐艦をベースとした艦。ジュノー級と比べるとモノコック構造の採用や兵装を正規軍仕様に改めるなど、戦闘艦としての能力が向上している。安価なので民間で広く使用されている艦種であり、蓮子とメリーが所有するこの〈スターライト〉もそのような中の一隻である。

この艦は一般のアルク級と比べると機関と兵装を重点的に改良され、また高性能モジュールの搭載により限定的ながら大マゼラン艦と渡り合えるだけの性能を有する。また光学迷彩を搭載し、高い隠蔽性を持つ。乗員は基本的に二人だけであり、艦の運航はコントロールユニットとドロイドが担う。

蓮子達はこの艦の他にも、考古学的調査に用いる各種機材を満載した工作母艦や護衛艦として数隻のフランコ級水雷艇を保有しているようだ。

 

 

 

*エクリプス級戦艦

 

解説:霊夢が惑星ボラーレで遭遇したシュベインと名乗る男が乗艦としていた艦艇。艦型は紡錐形で艦首形状は明治期の水上艦の衝角を伸ばしたようなものとなっている。。艦橋は艦の中央部にあり、その前方の上甲板には2基の連装主砲を装備する。艦橋の真下の艦底部には、2基の筒型エンジンモジュールがあり、舷側中央には翼状の構造物レーダーアンテナが接続されている。艦尾にはメインノズルと2本のスタビライザーが接続されている。

 

要は天クラのエクリプス級(敵用の青いカラー)に砲塔を載せた形状。

 

 

 

*ファフニール級戦艦

 

解説:謎の少女マリサがカルバライヤで乗っていた戦艦。艦体は4つの胴体を菱形に組み合わせたような形状で被弾面積を減らし、側面にはシールドが装備されている。艦中央にはアンテナと艦橋があり、エンジンノズルは4つに分かれた形状をしている。

 

ようは天クラのファフニールまんまの形状。

 

 

 

*狙撃戦艦

解説:マリサが霊夢達を迎撃する際に最初に持ち出した戦艦。超遠距離から極めて正確な砲撃を行う。旗艦タイプは2000m級の黒い大型艦であり、主砲は底部にある。随伴艦は巡洋艦サイズで超遠距離射撃砲は艦首直上に装備され、艦尾付近には背の高い艦橋と3基のエンジンブロックを有する。

その正確無慈悲な攻撃で霊夢達を苦しめたが、〈開陽〉のハイストリームブラスターを用いた逆転劇により全艦殲滅された。

 

随伴艦の元ネタはイデオンに登場したサディス・ザン級戦艦。これの艦首上部に長砲身の主砲を装備したのが狙撃戦艦・随伴艦となる。狙撃戦艦のコンプセント自体はPS2版宇宙戦艦ヤマトに登場する暗黒星団帝国軍のそれに影響を受けて発想に至ったもの。

 

 

 

~艦載機~

 

*YF-19 VF-19A エクスカリバー

 

サナダが開発した可変戦闘機。人形、鳥人、航空機の3形態に変形する。滑らかな機首にカナードと前進翼を持ち、大気圏内での機動性に優れる。試作機と量産型の間にはそれほど大きな改変はない。

元ネタはマクロスプラスのYF-19

 

・VF-19A改 バルニフィカス

 

上記のVF-19をレヴィ専用に改修した機体。主に機動力と近接格闘戦能力を強化しており、脚部(エンジン部)には装甲と一体化したサブブースターを増設、シールド内部には元のナイフに代えてジムのビームサーベル技術を流用したビーム刃を持つ円形の投擲格闘武装〈ハーケンセイバー〉を格納し、ガンポットの先端にはジム用のツインビームスピアがそのまま取り付けられている。機体色は変わらずレイヴンズの塗装に準じる。マゼラニックストリームでの対ヤッハバッハ戦に投入されたが、本編未登場。

 

 

 

*YF-21 VF-22A/S シュトゥルムフォーゲル

 

サナダが開発した可変戦闘機。人形、鳥人、航空機3形態に変形する。デルタ翼のステルス機で、ペイロードと最高速度はYF-19を上回る。脳波コントロールを採用し、パイロットの思考を読み取って操縦するシステムだが、それを搭載したためコストが高い。量産型のVF-22ではこの機構はダウングレードされている

元ネタはマクロスプラスのYF-21

 

・VF-22HG改 ルシフェリオン

 

上記のVF-22をシュテル専用に改修した機体。操縦系統は量産型で補助システムにダウングレードされた脳波コントロールシステムを全面的に採用し、パイロットのイメージにより飛行、攻撃、回避等の機動が行われる。その点パイロットの素質に依存した操縦システムとも言えるが、適性を持つ者が操れば非常に高い性能を発揮できる。武装面では新型の大出力レーザーライフルが機体下面に装備されており、これは次期VFの試作武装を兼ねている。またバトロイド形態の左手部にはビームサーベルと一体化したガントレットを装備しており、近接戦闘にも対応している。マゼラニックストリームでの対ヤッハバッハ戦に投入されたが、本編未登場。

 

 

 

*VF-11B サンダーボルト

 

VF-19の高コストを受けて開発された廉価版VF。設計は性能不足で没となったVF-19のデータを流用してコストを削減しているが、各部のパーツはVF-19と共用しているため小マゼラン機を圧倒できるだけの性能は有している。またオプションとして機体上部に2基のブースターミサイルランチャーを装備可能。

外見はマクロスのVF-11ほぼそのまま。

 

 

 

 

*F/A-17S

*RF/A-17S

 

霊夢艦隊で運用されるステルス戦闘機。マルチロール機としても運用可能。スカーバレルとの決戦ではステルス性を生かした伏兵として活躍した。RF/A-17は機体背面にレドームを搭載した早期警戒型。

元ネタはマクロスFのVF-171だが変形はしない。

 

 

 

*Su-37C

 

流麗なフォルムを持つ戦闘機。機動性と制宙戦闘に優れ、大気圏内での性能も高い。現実のSu-35に37のカナードを付けてエンジンノズルをベクタードノズルにした機体。カラーリングはエスコン4の黄色中隊仕様。

 

 

 

*T-65B

 

4門の重レーザー砲を主翼先端に装備した重戦闘機。サナダが遺跡から発掘した設計図を元に開発した。主に〈高天原〉の艦載機として用いられる。

モデルはスターウォーズのXウィング。

 

 

 

*DMB-87 スヌーカ

 

『紅き鋼鉄』の艦上爆撃機。中翼配置の逆ガル翼に固定脚を装備している。武装は機首のロケットランチャーと翼下に懸架した爆弾類、操縦席後部の旋回式パルスレーザー。対艦攻撃の他に偵察にも用いられる。

 

 

*FWG-97 ドルシーラ

 

『紅き鋼鉄』の艦上雷撃機。高翼配置の逆ガルウィングを持つ全長20mを越える大型機で、機首部には包み込むような形で量子魚雷を格納している。搭載している武装が極めて威力の高い量子魚雷のため対艦攻撃力は高いが、その分鈍重で機動力と速度性能は他機種に劣る。

 

 

 

*XQF-01 A-wing

 

シオンが設計した高速偵察機。通称アーウィン。無人偵察機ゴーストの発展型でステルス性と航続距離に優れる。機体が比較的小柄であり、前衛艦隊のノヴィーク(改ゼラーナ)級に搭載される。

モデルはスターフォックスのアーウィン。だがチート性能はまだない。

 

 

 

*AIF-9V スーパーゴースト

 

市販の無人偵察機に大口径レーザー砲を載せ、機体をフルチューンした無人戦闘機。無人機のためGを無視した急激な機動が可能。しかし航続距離が短いため、主に防空用として使われる。〈ラングレー〉のほか前衛の改ゼラーナ級にも配備されている。

性能はマクロスFのゴーストV9だが、外見はルカ機のゴーストにV9のレーザーを載せて赤くしたもの。なのでマクロスFのゴーストV9とは細部が違う。

 

 

 

*RRF-06 ザニー

 

市販の土木建築用二足歩行ロボットに装甲を施して各部をグレードアップした機体。人形機動兵器の実験機としてにとり率いる整備班が製作した。実験機なので実戦配備は考慮されていない。

元ネタはガンダムシリーズのザニー。

 

 

 

*RGM-79A/GS ジム

 

ザニーの運用で得られたデータをベースに開発された汎用人型機動兵器。両腕のマニピュレーターの他に、背部に2基のガンマウントを持ち最大4丁のライフルを運用することが可能。また両腕部の武装はライフルの他にシールドやサーベルも装備することができる。A型は一般機、GS型は指揮官機。

出典はガンダムシリーズだが、ガンマウントの元ネタはマブラヴシリーズのの戦術機。A型の形状はジム改で、GS型はジムコマンド。

 

・RGM-79SP ジムスナイパー

 

上記のGS型に狙撃用のスナイパーライフルを装備させた機体。狙撃に対応するため頭部センサーが強化されており、ライフルもSクラスの艦載レーザーに匹敵する威力を持つ。カラーリングは青系統を基調としている。

元ネタのジムスナイパーⅡとほぼ同形状。

 

・RGM-79F/SF ジムストライカー

 

格闘戦に特化したタイプのジム。A型ベースとGS型ベースの二種類が存在し、それぞれ頭部形状が異なる。汎用ライフルの他にツインビームスピアとパイルバンカーとシールドが一体化したスパイク・シールドを装備し、機体各所にはリアアクティブアーマが増設され防御力を高めている。

元ネタはジムストライカーとジムスパルタン。

 

・RGM-79SC スタークジム

 

高機動戦闘への対応を主眼に改良されたジム。後述のペイルライダー用のものと同一の高機動型バックパックと装甲と一体化した脚部スラスターにより機動力を向上させている。ガンマウントは装甲プロペラントタンクに換装されて本体の攻撃力は低下しているが、肩部ミサイルランチャーでそれを補っている。またこのミサイルランチャーは大型対艦ミサイルに換装することもできる。

本体の外見は脚部にバーニアを増設してバックパックの横にプロペラントタンクの付いたパワードジム。

 

 

 

*RGM-80 ペイルライダー

 

ジムの上位互換として開発された機動兵器。GS型がベースとなっているが細部の造形はかなり異なる。ガンマウントの方式は変更され、ジムでは前方射撃の際に銃口が両肩部の上に来る設計だったが、此方は脇部から銃口を前方に向ける。ジェネレーター出力の向上によりジムでは断念された180mm中隊支援砲かハイパーガトリングレーザーをオプション無しで運用できる。開発時には機体AIの暴走事故を何度も起こしていたが、現行モデルは性能を犠牲にジムの改良型AIを搭載することで解決している。そのため、本機の限界性能は現状有人パイロットでなければ引き出せないため、機動兵器パイロットには優先的に支給されている。

元ネタはガンダムのペイルライダー。物騒なシステムはありません。

 

・RGM-80SP

 

狙撃装備のペイルライダー。基本的にジムスナイパーと装備は同一。

 

・RGM-80FC

 

近接戦闘仕様のペイルライダー。背部ガンマウントはハイパーガトリング固定であり、スパイク・シールドとツインビームスピアを装備する。元々ジムに比べて機体の防御力が高いため、増加装甲は最低限。

 

・RGM-80SC スタークスライダー

 

高機動型ペイルライダー。基本的にはスタークジムと同一の改造だが、バックパック形状はより元ネタのスタークジェガンに近い。

 

 

 

*GP-02 サイサリス

 

重圧なシルエットを持つ機動兵器。全身を重装甲で覆っているため防御力は高い。またシールドや脚部など各所にブースターがあるためその外見に似つかわず機動力も高い。さらに脚部にはホバーを装備しているため、地上での機動力も高い。量子魚雷を格納したバズーカと背部にミサイルコンテナを装備した対艦攻撃機で、これ一機で中型戦闘艦を撃破できるだけの火力を有する。が、コストが高いため数機の試作のみに留まっており、対艦攻撃任務は対艦ミサイル装備のスタークジムが基本的に担うことになった。

 

 

 

*N-WGⅨ/i グリント(試作一号機)

 

単独で敵艦隊中枢に突撃し、その制圧力を以て敵の指揮系統を破壊、戦線を自軍有利に押し進めるというコンプセントで開発された強襲型機動兵器。そのコンプセントを達成すために変形時には高い速度性能を持ち、機体両腕には4連装対艦ミサイルランチャーを装備可能なハードポイントが設けられ、専用の手持ち式レールガン・ライフルも開発されている。また長距離強襲用として開発されたオプションユニットのVOB(Vanguard Overed Boost)は、機体に接続することで通常の航宙機を遥かに上回る速度を発揮し、これにより遠距離から敵艦隊中枢に突撃を仕掛けることができる。

そしてこの機体最大の特徴は、APFシールドとデフレクターユニットの装備である。機体にAPFSとデフレクターを装備することにより艦載機としては破格の防御力を手にする予定だったのだが、流石に艦船用デフレクターユニットの小型化は容易ではなく、霊沙が乗機とした試作一号機にはデフレクターユニットは装備されていない。APFSの装備には成功しているので、既存機よりも高い対レーザー防御力を誇る(ただ小型化の代償として出力は当然ながら大きく低下しているため、艦船や航空機のパルスレーザー程度しか防げない)

機体自体も、APFSとデフレクターユニットを小型化して装備するとはいえジムサイズでは搭載不可能と想定されたため、全高18mのジムに対して26mと凡そ1,5倍のサイズとなっている。機体の外観もジムやペイルライダーと異なり、鋭角的なシルエットだがこれは機体の設計時にネージリンス/ネージリッド系の航宙機技術を一部採用しているため。機体の塗装も、宇宙での視認性低下を狙って黒を基調とした塗装が施されている。

搭載機関については他機体用に用意されたジェネレータではなく、新規設計の大出力ジェネレータが装備されている。これはAPFSやデフレクターユニットに供給するエネルギーを確保するという目的もあるが、その副産物としてブースター切り離し後は高い機動性を発揮することができ、速度性能もジム、ペイルライダー等の既存機を遥かに上回る。しかし現時点では冷却に難があり、試作一号機では動力パイプが露出していたり、両肩部にはわざわざ冷却用のケーブル状ユニットが接続されているぐらいである。(本来の設計では両肩部にもブースターと兵装のハードポイントを設ける予定であった)

 

元ネタのACVDのN-WGIX/v

 

 

*強襲艇

 

兵員輸送用の中型機。30名程度の人員を輸送可能。戦車を牽引するために改造されたタイプも存在する。外見はスターウォーズのLAAT,iガンシップにオスプレイの尾翼を追加してより現代テイストにした機体。

 

 

 

*D77H-TCI ペリカン

 

上述の強襲艇を一部代替する新型輸送機。輸送能力に特化しており、攻撃力は強襲艇に劣るが兵員輸送量では上回る他、無改装で重車両一両の空中輸送が可能。

 

 

 

*M61重戦車

 

155mm砲2門を装備する重戦車。高い機動力と火力、堅牢な装甲を持ち、対人用レーザー程度では傷一つつかない。その火力と頑丈な装甲で地上での海賊掃討戦を支援する。

モデルはガンダムの61式戦車5型。

 

 

 

*ゲパルト

 

地上に上陸した部隊を海賊航空戦力から守るために開発された対空戦車。2門のレーザー機銃と索敵、照準用レーダーを装備する。

外見はドイツ軍のゲパルト対空戦車・・・ではなく自衛隊の87式自走高射機関砲にサイドスカートを装備したもの。素人目で見たらどっちも変わらない。

 

 

 

 



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艦隊念報・弐

*博麗霊夢

 

テーマ曲:「二色蓮花蝶」(蓬莱人形)

     「永遠の巫女」(東方怪綺談/幺楽団の歴史5)

     「少女綺想曲」(東方永夜抄)

 

本作の主人公。元楽園の素敵な巫女で、現在は博麗艦隊の巫女艦長。永遠の巫女。

幻想郷で病に倒れてそのまま息を引き取ったが、何故か宇宙に放り出されていた。本来なら年齢は45~50歳程度なのだが、転生の際に何故か若返ったため外見は16歳相当にまで戻る。加えて肉体に精神年齢も引っ張られているようで、振る舞いは過去とそれほど変わらない場面もある。転生のついでに自分が知らない世界である宇宙を見て回ろうと思い立ち、そのまま0Gドックとなる。原作主人公のユーリとは異なり、その動機はそこまで強くはない。

本人はこの転生のことをあまり気にしていないが、当の幻想郷では大騒ぎになったであろうことが容易に想像できる。転生の原因には、もしかすると生前の四季映姫の言葉が関係しているのかもしれない。

そのような経緯があるためか、自身の命をあまり勘定に入れたがらない。所詮自分は死人であり、必要ならば自分の命を投げ出しても構わないと思っている。この世界については死後の余興、ぐらいにしか考えておらず、楽しむときは楽しみ、死ぬときはあっさりと死ぬ、というスタンス。ただ生来面倒見は良い方なのでクルー達のことは一応考えている。

 

0Gドックとなってからはヤッハバッハから逃げ回りながら宇宙を回っていたが、エピタフの伝説に触れて少し興味が出たようだ。財という言葉に惹かれたのかもしれない。ロマンチストではないのでそれ以外のエピタフの伝説には興味がないらしい。小マゼランに渡ってからは艦艇の圧倒的な性能差を背景に無慈悲な海賊狩りを続けて資金繰りをしている。宴会では幻想郷の頃とは違って一歩引いた位置にいることが多い。だが時々マッドの暴走により被害を被ることがあり、彼女の怒りゲージを溜めつつある。スカーバレル壊滅祝いの際に撮られた写真が裏取引されていることは知らないようだ。

実は神社の裏手にひっそりと塚を立てて、戦闘で犠牲になった人々を供養している。

 

容姿は前述の通り16歳相当の外見なので、よく歳を間違われる。本人はその度に少なくとも酒は飲める年齢だと抗議している。

容姿は端麗でまっすぐな黒髪をセミロングに切っている。瞳の色は茶色だったが、真剣な場面では赤色に変わることがあった。誰も気にしてないが、現在の瞳の色は赤で固定されている。普段しているリボンがなくなると一見誰だか分からないただの美少女に。

基本的な服装は巫女時代のものを参考にした空間服を纏っていたが、7章時点ではサナダ謹製の高性能空間服(原作同様ぴっちりスーツ)の上に普通の巫女服を着ている。本気で戦うときは専用の巫女装束に袖を通す。頭の大きなリボンがトレードマークなのは生前と変わらない。なお、腰に差したスークリフ・ブレードは本人の趣向で完全な日本刀に改造されている。

 

性格は単純で表裏がなく、喜怒哀楽が激しい。暢気なときは暢気で、戦闘時は気性が荒い。だが、本気で戦う際は冷酷に見える。生前は誰に対しても優しくも厳しくもなく、誰と行動しても仲間と見ない平等な性格だったが、今は少なくともクルーのことは仲間と認識しているようだ。あくまでそう認識しているだけで、他人に対して平等なのは以前と変わらないのかもしれない。

見た目は非常に少女的なのでその性格に面食らう者もいるが不思議となぜか他人を惹き付けるカリスマがあり、その容姿もあってクルー達からも慕われている。

かつての霊夢は他人と価値観がずれていたが、長く生きているうちにある程度は一般的な物の価値観を認識できるようになり、少なくとも金銭の価値は理解しているのでカツアゲじみた行動を取ることはなくなった。(ただし海賊から巻き上げるのは止めない。彼女の中では海賊=資金源の図式で固定されている)

艦長を務めるにあたっては艦長職に必要な最低限の知識は勉強しているようだが門外漢なだけあって基本的なことしか覚えておらず、戦術や運行の面ではサナダやコーディの助言を当てにしているところがある。ただ発想力はあり、本人が立案することもない訳ではない。

 

趣味は午睡とお茶。しかし艦長職が忙しいので以前ほどのんびりできる日はない。だが暇なときはよく神社で寛いだりしている。生前から酒好きで、宴会も嫌いではない。ただ、酒の飲み過ぎで死因となる病を患った経験から、現在の飲酒の量は生前に比べて少ない。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:C

0Gドックとして艦隊を率いてはいるが、まだ経験が浅く、指揮能力はそれほど高いとは言えない。今は艦の性能に頼った戦いが中心。

しかし、生前は異変解決や日々弾幕ごっこをやっていたこともあり、白兵戦になると無類の強さを発揮する。白兵戦に限れば0Gドックランキング一位に君臨するヴァランタインすら圧倒するほどの力を見せる。後述の夢想天生を発動した場合はもはや彼女に傷一つ追わせることすらできない。

 

・空を飛ぶ程度の能力

霊夢の代表的な能力であり、その効果は物理的に空を飛ぶだけに留まらず、文字通り「宙に浮いた状態」となる。即ち何物からも浮遊し、自由となる。本気で発動した際は自身に対するあらゆる干渉をはね除け、彼女には物理的、精神的に一切触れることができなくなる。平時でもこの能力は限定的に発動しており、彼女に対しては如何なる重圧も力による脅しも一切の意味を成さない。

夢想天生はこの能力をスペルカードに使用した技であり、ありとあらゆるものから宙に浮き無敵となる。例えるなら実体のある幽霊のような状態。ただ、本人が巫女として修行不足なせいでそれほど長持ちさせることはできず、技の使用時間は10分程度が限界である。(スペルカード戦で使用する際は2~3分に制限していた。)

またこの能力を使用すれば、有毒ガス等の人体に有害な物質が充満する空間でもある程度活動することができる。

 

・幸運:A

・直感:A

生前から運が良く、それが絡むゲームでは敵無しの強さを誇る。また直感にも優れ、危険を寸でのところで回避する。またこの直感のお陰で、手掛かりがなくとも勘に従って動けば物事の真相を掴むこともしばしばある。ただしこれらのスキルが十全に機能するのは異変時等の非常時であり、日常生活ではDランク相当に低下する。

 

・巫女としての能力

陰陽玉、お札などを使って妖怪を退治する。妖怪がいない現在ではそれらは専ら白兵戦のために使われる。神降ろしの能力も未だ健在である。

 

・身体能力

生前の職業柄身体能力にも優れ、基礎体力も高い。

前述の直感と合わせてほとんど隙がなく、寝込みを襲っても返り討ちにされるだろう。

 

・永遠の巫女

転生以来付与されたスキル。詳細不明。

 

 

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*東風谷早苗

 

テーマ曲:「信仰は儚き人間の為に」(東方風神録)

     「ラストリモート」(東方地霊殿)

 

旗艦〈開陽〉のコントロールユニットに宿る人格、というよりその義体。本来はただのAIであった筈なのだが、何時の間にか東風谷早苗本人の魂魄が憑いて今の彼女になったらしい。義体の彼女は殆ど人間と変わらない振る舞いをする、というより魂は人間そのものなので当たり前か。端末を介して直接会話する場合やコントロールユニット本来の能力を使用する際はAIとしての側面が強く出ているようだ。原作におけるチェルシー枠の一人。

サナダが義体を作ってからは大好きオーラが滲み出るほど霊夢にアタックを仕掛けているが、当の霊夢が鈍感なので空振りに終わることが多い。

またグアッシュ戦以来尋問官に目覚めたようで、捕虜にした海賊に恐怖を与えている(笑)

自然ドームの一角に秘密裏に守矢神社の分社を建てている。それ以来、自然ドームではときどき幽霊騒ぎがあるようだ。その正体は彼女が祀っている二柱で、艦隊では実体化できるほどの力がないのだが、霊感のある人間にはその存在を微かに感じ取れるのが原因。

東風谷早苗の魂魄が憑依したといっても本来はコントロールユニットのAIなので自艦で起こることは全て把握していると言っても過言ではない。が、一部の区画はは意識的に自動監視モードにしている。女の子なのであまり見たくない部分もあるという訳だ。

そのため霊夢がひっそりと供養塔を立てていることには気づいているが、その事を話したりはしない。

 

義体の容姿は緑色の髪をストレートのロングヘアーにしており、左側の髪を一房留め具で纏めている。蛇の髪飾りは本人に合わせてよく動く。なお双葉は無い模様。髪飾りは蛙ではなく太極を描いた艦隊紋章が記されたもので、太極の配色は霊夢の陰陽玉と同じ紅白である。蛙の髪飾りは首飾りにしたので衣服の中に隠れている。瞳は普段は髪と同じ緑色だがときどき黄色に変わる。主に大尋問官サナエちゃんのときや霊夢に対して積極的に百合行為を働くときは黄色。なお胸はけっこうある模様。ときどき霊夢に妬まれる。

衣装は風祝としての服に近いが、それを複雑にしてスカートを短くしたようなもの。霊夢と同じく腋が露出している。ようは金剛型改二の服。大尋問官サナエちゃんのときは黒を基調とした空間服に軽度の装甲と、其と同じ意匠のスカートを着用している。

 

AIとしての性格は真面目できっちり命令に従っていたが、義体のほうは天然が入ってやや惚けたところがある。それに多少の加虐嗜好が混ざっているので達が悪い。ただ、根は純粋で真面目なので、他人の影響を受けやすい性格とも言える。現在は本来のAIとしての領域と東風谷早苗の魂魄が相当混ざり合っており境界が曖昧になっている。早苗本人曰く、「念じればAIとしての権能を行使できる」状態のようだ。

またかなりの自信家で、テンションの振り幅が大きい。

嗜好については自分が格好いいと思ったものには目がなく、時々マッドと裏取引をしている。そのためにはコントロールユニットのAIでありながら彼等の暴走をお目こぼしすることもしばしばある。憑依したのが早苗さんなので仕方ない。王道なデザインよりも悪役っぽいものが好き。SF的なもの全般に興味があるようで常時ハイテンションな状態。

霊夢さんが大好き。常に百合行為を働こうと、虎視眈々と霊夢の身体を狙っている。が、本心では寄り添って共に過ごしたいだけ。百合行為は単なる(過激な)愛情表現である。

早苗さんかわいい。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:C

艦隊を指揮する程度の能力。元のコントロールユニットが複数の艦船での艦隊行動を制御できるよう想定されているので、中規模な艦隊ならある程度の戦術機動を取らせることができる。上限はおよそ30隻程度。最初は艦載機のコントロール全般も担っていたが、艦隊が増えた今ではそちらの制御は個々の艦載機に搭載された簡易AIに任せている。

 

・自己改造:EX

本来コントロールユニットは開発者であるサナダに最大限のアクセス権限があったのだが、義体となってからは勝手にこれに改造を施してブラックボックスを増やしている。憑依した東風谷早苗の魂魄が身体(コントロールユニット及び義体)の設定を弄ったのが原因。女の子の内面を覗こうなんて破廉恥です!

なお、霊夢には依然として最高レベルのアクセス権限が用意されているが、それが使われたことはない。

また義体自体もナノマシンの自己増殖を制御することにより自由自在に変形させることができる。主に肘から下をガトリングにしたりと白兵戦でもけっこう役に立つ。見方によっては腕から直接武器が延びているので少々不気味だが、思いの外彼女は気に入っているようだ。本人にとっては格好いいかどうかが選好基準。

ちなみに某ター○ネーターのように胸の大きさを調整できたりもする……が、現在は生前の17~8歳相当時の外見に調整している。

 

・さでずむ:EX

相手を虐めたくなる。戦闘時、自身の攻撃力にプラス10の補正...

冗談はさておき、実際虐めたくなるのは確かなようだ。大尋問官サナエちゃんの姿になるとこれが全面的に発揮されて海賊を追い詰める。本人曰く、悪人が酷い目に合うのは因果応報、当然の報いだそうだ。この世界の海賊一般は惑星上や客船から女性をさらって(禁則事項)なことをしているので、彼女なりの制裁なのだろう・・・と思いたい。

これが海賊退治、楽しいかもしれない・・・

なお転生以来このSF溢れる未来世界に興奮して色々好き勝手したためか、ランクが評価不能に。

 

・信仰の加護:EX→E

・奇跡を起こす程度の能力

二柱の祝福を受け、自身に振りかかる厄災を遠ざける。また二柱の力を借りて天・地・海すべてを操ることができる、風祝としての能力。奇跡の力を振るっているうちに風祝であった自身にも信仰の対象が移ってしまったため、力の境界は曖昧になっている。

しかし、艦隊では信仰が得られないので現在は大きく弱体化しているようだ。

 

 

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*博麗霊沙(■■■■)

 

テーマ曲:「永遠の巫女」(東方幻想的音楽)

     「G Free ~final dream」(東方夢終劇)

 

サナダが霊夢を発見したのと同じ場所で見つけたという少女。サナダの話では怪我が酷かったのでリジェネレーションポッドに入れられており、そのため目覚めるのが霊夢より遅かった。ちなみに霊沙という名前は咄嗟の思いつきで名乗ったもの。ボイドゲートを嫌がる。

自身と瓜二つな容姿に加えて妖怪じみた気配を発していたため霊夢は警戒していたが、今では問題なく艦隊に馴染んでいる。本人も霊夢のことは警戒していたようだが、時間が経つにつれてそれは薄れていったようだ。……が、ヴィダクチオ戦中にマリサと対峙して以来変質している節があり、霊夢は警戒を強めている。

かつては宴会の際にマッドの所業で獣化したりした。そのときには何故か霊夢に甘えるようになるが、獣化が解けた後は一人ベッドの上で悶絶していたりした。残念ながらその様子を見れた者はいない。

マリサとは何やら因縁めいたものがあるようだが…?

 

乗機は可変戦闘機YF-21→グリント。コールサインはアルファルド1。素質があったのか戦闘機の操縦にはあっという間に手慣れたような技量を示す。

 

容姿は前述の通り霊夢と瓜二つだが、彼女の方が少し背が低い。加えて霊夢以上につるぺた。髪の色は霊夢と対照的な白髪で、着ている服は霊夢の巫女服と同じデザインだが色は黒。肌には血走ったような赤い紋様があったが今は隠している。一言で言えば容姿は禍霊夢(ロリ)。

 

性格はヴィダクチオ戦でマリサと対峙して以来やや変化しており、かつては猫のように気紛れで艦内をうろついていたが現在は自室に籠っていることが多い。

意外と声がかわいい。……が、最近はドスの効いた不機嫌気味な声で話す。

 

特殊技能、能力

 

・エース:C

艦載機を乗りこなす程度の能力。航空機の操縦経験は殆ど無いのだが、天性の直感とセンスで巧みに可変戦闘機を操る。短い飛行時間とフライトシュミレーションでもこの実力なので、乗り続ければ化ける可能性もある。ただ自信過剰なところがありスタンドプレーに走りがちな性格故、小隊での連携には向いていない。訓練ではバーガーやタリズマン相手に憂さ晴らしも含めて挑んでいるようだが、経験の差のため未だに勝てたことがないという。

 

・直感:E

元になった霊夢にあった神憑り的な直感は殆ど失われており、現在は単に悪寒を感じ取る、程度の働きしか有さない。

 

・心眼(真):D

自身の経験から培われた洞察力を以て戦闘時に自身と相手の能力を把握し、活路を導き出す。彼女の場合は事実上、失われた直感を補う役割を持つ能力となっている。

 

・空を飛ぶ程度の能力

元が霊夢なので、彼女も同様の能力を持つようだ。物理的な飛行だけでなく概念的な効果も共通。ただし大幅に劣化しているため「夢想天生」は失われている。

 

・次元を司る程度の能力

詳細不明。このスキルは失われている。敵対者に対し、1ランク上の出力を保証される。

 

・幻想の怨念:EX

上記の能力の喪失と共に付与されたスキル。自身に対して肉体の劣化と出力制限のバッドステータスを付与する。

 

・宝具:『博麗幻想郷(ロストファンタジア)

ランク:EX

種別:対界宝具

レンジ:1

最大捕捉:-

解説:彼女の持つスペルカードらしきもの。本来はスペルではないものを無理矢理其の形に整えたもの…らしい。なので発動には必ずしもカードが必要という訳でもない。指定した対象を削除する効果を持つ。燃費がすこぶる悪く、一度使用すれば数日間は他のスペルを使用できないほど。事象揺動宙域内で襲ってきたマリサに対して使用された。

 

・宝具:『消滅幻葬(ネクロファンタジア)

ランク:EX

種別:対界宝具

レンジ:1~999

最大捕捉:-

解説:上記の大元となった技。現在は使用権限を剥奪されている。『博麗幻想郷(ロストファンタジア)』はこれの残滓のようなもの。

 

 

 

*アリス/ブクレシュティ

 

テーマ曲:「プラスチックマインド」(東方怪綺談)

     「the Grimoire of Alice」(東方非想天則)

 

サナダが開発した独立戦術指揮ユニットの一人。義体は早苗のそれをベースに開発されているが、ナノマシンによる自己改造能力はない。早苗とは違って何かが憑いていたりはしないので、稼働初期のAIらしく冷淡な性格・・・と思いきや意外と好戦的。元々乗艦にはアレキサンドリアⅠ級指揮航宙巡洋艦が与えられる予定だったが、同級の設計が遅れたためグアッシュから鹵獲したマハムント級を改造の上、彼女の旗艦として運用されることになった。

 

容姿は人形に例えられるほど端正で整った顔立ちに、肩まである金髪をストレートにしている。服装は青を基調とした軍服に白い短めのケープを着用。前髪には赤いカチューシャをつけている。言ってしまえば軍服アリス。原作アリスとは違い髪がストレートなことがポイント。表情を変えることが滅多にないので周りからは堅い人物だと見られているようだ。

性格は前述の通り冷淡で機械的だが、敵艦隊と遭遇すると一気に好戦的になる。ただ表情が動かないので傍目に見れば分かりにくい。サナダは性格データを構築する際に早苗を参考にしたらしいのだが、出来たのは似ても似つかないものとなった。早苗がいろいろブラックボックスにした影響で性格データの中枢が拾えなかったのだ原因らしい。好戦的な一面は彼女のさでずむが流れ込んだのかもしれない。

当初は自身の旗艦と同じ名称で呼ばれていたが、霊夢が彼女によく似た知人の名を付けてからはそちらの名前で呼ばれている。

自身のことにはあまり頓着せず、必要かそうでないかで判断することが多い。彼女自身は、AIは人間と違って自己管理を適正に行うことができると判断しているので自身に対する気遣いは不要だと考えている。霊夢はその辺りに疎いので、彼女に対しては普通の人妖と同じように接している。

ただ根まで機械的かと言われればそうでもなく、前述の通り戦闘時には感情らしきものを見せるほか、紅茶に執着している仕草が見られる。〈ブクレシュティ〉のブリッジを訪ねると、艦長席のデスクにはだいたいティーカップが置かれているのを見ることができる。何故紅茶に執着するのか、本人もいまいち分かっていない様子。

 

特殊技能、能力

 

・艦隊指揮:B

そもそも彼女は艦隊の指揮を前提に生み出されたので、必然的にその能力は高い。旗艦〈ブクレシュティ〉に搭載されている拡張艦隊戦闘指揮システムに接続することにより僚艦を手足のように操る。早苗の場合は主に指示を飛ばして細かい挙動は僚艦のコントロールユニットが操作しているのだが、彼女のそれは僚艦の全てを制御下に置く。イメージとしては、自分から僚艦の各所に糸を伸ばして操作すような感覚。これにより瞬発的な対応を取らせることが可能であり、有人艦では考えられないような加速と機動戦術で敵艦隊を翻弄する。

一応僚艦の操作はコントロールユニットの自立制御に任せることもできる。

 

・最後の咆哮:A

彼女自身の能力、というよりは艦そのものの能力。通常の120%のエネルギーを用いた全砲斉射を敢行する。艦にプールされたエネルギーを一時的に殆ど使い果たすので、使い所の見極めが非常に難しいプログラムである。

 

・限界機動:EX

制御下にある友軍艦全てのジェネレータやメインノズル、核パルスモーターの動きを直接制御することにより、一時的に艦のポテンシャルを越えた戦術機動を行わせる。プログラム使用後はエネルギー回路に大きな損傷を与える恐れがあり、上記の最後の咆哮同様に使い所には細心の注意が必要である。

 

・予測計算:A

拡張艦隊戦闘指揮システムの中核を成すコントロールユニットの演算リソースを最大限に使用することにより、通常よりも極めて精度の高い敵の射撃パターン分析と弾道予測を可能にする。アリスは戦闘時に自動でこのプログラムを起動しているので、彼女の隷下の艦船に攻撃を当てることは非常に難しい。

 

 

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*サナダ

 

テーマ曲:「魔改造のマーチ」

 

霊夢艦隊が誇るマッドサイエンティストその1。科学班班長。艦隊立ち上げ時からの創設メンバーである。見た目はヤマト2199の真田さん。服装は茶色の制服のようなものを主に着用している。

表情の変化が少なく一見冷静な人物に見えるが、根はどこまでも自身の研究欲を追及するマッドサイエンティスト。艦船設計からおふざけマシンまでお手のもの、彼に作れないものはない。決め台詞は"こんなこともあろうかと"。だが実際言ったかどうかは不明。

当初は発掘した宇宙船を駆ってヤッハバッハの目を盗みながら研究をしていたが、その途中で霊夢を拾い、〈高天原〉の建造後は彼女の下で研究開発に精を出す。異性人の技術や古代技術であっても現代の規格に適合させ、霊夢艦隊の異常な戦力拡張に貢献した。

艦隊の立ち上げ当初は副長的なポジションにいることが多かったが、人員の充実と共に本業である研究開発に専念するようになった。

 

特殊技能、能力

 

・マッドサイエンティスト:A

研究に熱中する程度の能力。自身の研究が全てであり、その結果がどうなろうと知的好奇心を追及する。彼のスタンスは"使えるものを創る"であり、徒に"最強"を目指さない辺り、ユーザーの声に応える姿勢も忘れていない。彼が有能である所以である。

 

 

 

*コーディ

 

サナダと同じく、艦隊立ち上げ時からのメンバーの一人。以前は軍人だったが、コールドスリープについていた所をサナダに発見され、彼と行動を共にするようになった。霊夢艦隊には操舵手に適した人物が中々いないので、彼が度々旗艦の舵を握っているほか、副長的な役割に就くことも。

元ネタはクローンウォーズのコーディ。装甲服は以前のままだが、ヘルメットはしていない。服には頓着しないので、今ある装甲服で充分と考えているようだ。

性格は実直で真面目。冷静な視点で物事を見渡すことができる。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

白兵戦において、援護射撃により敵の動きを封じて味方を援護する。軍事訓練を受けていない一般人は敵を狙うことに重点を置きがちだが、軍隊による実際の戦闘で用いられるのはこちらの方が多い。以前の彼は陸戦につくことも多かったので、その例に漏れずこの技能を習得している。

 

・部隊指揮:B

陸戦において部隊を指揮する能力。彼は将校としての教育も受けており、戦場では自らの部隊を率いて前線を戦い抜く。大部隊を直接指揮するというよりは、中隊規模の部隊を指揮する方が向いている。

 

 

 

*エコー

 

元はコーディと同じ国で兵士として働いていたが、上層部の陰謀を同僚に知らされて脱走を決意した。国で政変が起こった後は仲間と共にコルベットを奪い、軍を脱走したがワープした先でヤッハバッハのパトロール部隊と交戦してしまう。そこで霊夢達に助けられ、以後彼女と行動を共にする。『紅き鋼鉄』では保安隊長の役職に就き、同時に保安隊クリムゾン分隊の隊長も務める。当初は装甲服も以前のものを使っていたが、現在ではサナダが開発した「Mk.3 トルーパー・ミョルニルアーマー」を愛用している。

出典はクローンウォーズ。トルーパー達の経歴は見ての通り、原作とは異なる。装甲服はクローントルーパーのものとHALOのスパルタンアーマーを足して割ったような感じ。

性格は真面目で堅物だが、適度に砕けた会話もする。落ち着いた歴然の兵士といった風格。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

射撃技術により敵の動きを封じ、友軍を援護する。彼のそれは迂闊に動けば確実に当たるほどなので、敵は動こうにも動けなくなる。

 

 

 

*ファイブス

 

エコーと同じ部隊に所属していた元軍人。上層部の陰謀を掴み、それを仲間に伝えて阻止を試みた。しかしそれが失敗に終わると脱走を決意し、仲間を募ってコルベットを奪う。他の5人に話を持ち掛けたのは彼である。

コルベットがヤッハバッハの警備艦隊と交戦した所を霊夢に助けられ、以後艦隊の一員となる。保安隊では副隊長を務め、スパルタン分隊の隊長も兼任する。装甲服はエコーと同じく新型のものだが、ヘルメットは以前のものを使い続けている。元ネタは他のトルーパー勢と同じくクローンウォーズ。

実直かつ素直な性格で曲がったことを嫌う。忠誠を誓った国の上層部が陰謀を働いていたことを知ってからは、その手の陰謀に手を染める人間を軽蔑している。ザクロウ強襲戦の最中の彼が何を思っていたのかは語るまでもないだろう。

 

特殊技能、能力

 

・制圧射撃:A

射撃技術により敵の動きを封じ、味方を援護する。

 

 

 

*フォックス

 

本国で起きた政変に反発し、仲間を募って軍から脱走した元軍人の一人。奪ったコルベットで逃走を図ったが、ワープした先は何故かヤッハバッハの領内でそこにいたブランジ級の哨戒部隊と戦闘に陥ってしまう。そこを霊夢達に助けられたことにより、彼女の艦隊に参加した。元々は治安維持に携わっていたが、コルベットを奪った際には砲手を務めていた。その縁もあって霊夢達と合流してからは砲手の席についている。

元ネタはクローンウォーズのフォックス。装甲服はコーディと同じように以前のものを使い続けているが、彼と違って戦闘時にはヘルメットを着用する。ヘルメットには改造が施され、射撃を補佐するシステムが組み込まれている。

治安維持部隊を任されていただけあって性格は真面目だが、砲術長の席に座ってからはやや熱くなりやすい一面も見られる。だが冷静さを失うことはなく、戦闘時は照準に集中している

 

 

 

*チョッパー

 

エコー達と共に元いた軍を脱走した兵士の一人。ガラクタでアクセサリを作ることが趣味で、右目は戦闘の影響で変色している。脱走時には奪ったコルベットの艦首砲座に座っていた。霊夢達と合流してからはサナダの助手的なポジションについていたが、人員の充実によって科学班と整備班を分ける際、彼は整備班に振り分けられにとりの下で副整備長の座に就いている。科学班も整備班もマッドの巣窟なので、彼もその空気に感化されている頃だろう。登場以来あまり出番がない。元ネタは同じくクローンウォーズのチョッパー。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:D

元はドロイドの残骸でアクセサリを作る程度の趣味だったが、今では機械弄り全般に目覚めてしまったようだ。マッドの空気は彼にも多大な影響を与えたらしい。今ではにとりの下で機動兵器の研究開発に精を出している。

 

 

 

*ジョージ

 

エコー達と共に軍を脱走した元兵士。衛生兵の役職に就いており、装甲服には赤十字のマークがある。霊夢達と合流してからは以前と同様に衛生兵の役割に就いている。一時期はシオンの下にいたが、現在では保安隊に所属して白兵戦での負傷者に応急処置を施すことを仕事にしている。チョッパー以上に出番がない。

 

特殊技能、能力

 

・応急隊:D

戦場で味方に医療処置を施し、生還させる技術。彼のそれは軍隊仕込みの実践的なものであるため、その効果も高い。伊達に衛生兵をやっていた訳ではないのだ。

 

 

 

*タリズマン

 

他の5人と同様に軍を脱走した元兵士。追撃戦で負傷していたため、霊夢達に合流した際には医務室に担ぎ込まれた。本業がパイロットだったため霊夢達と行動を共にするようになってからは艦載機パイロットに就き、ガルーダ1のコールサインを用いる。同じパイロットのバーガーは競争相手と見ており、出撃の度にスコアを競っている。艦載機パイロットという仕事の性質上、0Gドッグとなった現在でも死の危険と隣り合わせだと自覚しているため、軍人時代の緊張を維持することと今を楽しむことに意識を傾けている。

他の脱走軍人組と同じくトルーパーだが、名前の元ネタはエースコンバット6の主人公。

 

特殊技能、能力

 

エース:B

艦載機を操縦する程度の能力。当初こそ怪我によるブランクと慣れないシステム体系に苦戦したが、往年の感覚を取り戻した今では霊夢艦隊のパイロット筆頭格として活躍している。現在の愛機はYF-19。

 

 

 

*ノエル・アンダーソン

 

イベリオ星系で霊夢達に合流したクルーの一人。艦隊ではオペレーターの任に就いており、主に航空管制を担当する。個人的に空間戦闘の研究を趣味にしており、そこで身につけた戦術や知識をもって航空隊をサポートする。外見は濃い赤色の髪をセミロングにした若い女性。かわいいものが好きで、マッドが開発したマシンにより獣化した霊夢に飛び付いたことがある。

元ネタはガンダム戦記のノエル・アンダーソン。

 

 

 

*ミユ・タキザワ

 

ノエルと同じくイベリオ星系で霊夢艦隊のクルーとなった。ブリッジクルーの一人で主に通信管制を担当する。ノエルよりは少し年上で、髪の色は似ているが彼女の方が短い。同じオペレーター仲間のノエル、こころとは上陸休暇時に一緒に行動するような仲。元ネタは「機動戦士ガンダム外伝 宇宙、閃光の果てに」に登場するミユ・タキザワ。

なお普段の服装はノエルと同様連邦軍の制服。

 

 

 

*シオン・エルトナム・ソカリス

 

テーマ曲:「Blood Drain ~Again」(UNDER NIGHT IN-BIRTH)

 

マッドその2。医務室を巨人の穴蔵(アトラス)へと変貌させた元凶。イベリオ星系でのクルー募集時にサナダと意気投合して艦隊に加入した。医学の心得がある貴重なクルーのため現在は医務室勤務となっているが、本業は研究者である。ただサナダ同様いろいろな分野に手を出しているので、専攻が何かよく分からない。生物学と機械工学に詳しい。"ふもふもれいむマスィン"の基礎設計は彼女が手掛けたらしい。

霊夢に(研究対象として)興味があり、色仕掛けを試みたが失敗したようだ。

出典はMELTY BLOOD。名前は主人公シオンの旧名から。外見はメルブラのシオンに白衣を着せただけ。(中の服はメルブラではなくUNI準拠)メルブラシオンとは境遇が異なるので性格はUNIやFGO版に近い。

 

特殊技能、能力

 

・マッドサイエンティスト:A

研究に全てを懸ける。研究のためなら如何なる代償を払うことも厭わない。今日もサナダやにとりと研究と発明品の研鑽を続けている。

 

 

 

*バーガー

 

元軍人のパイロット。母国がヤッハバッハに滅ぼされ、以後領内を転々とする生活を送っていたところ霊夢に拾われる。その頃はベレー帽にコートの労働者風な服装だったが、パイロットに返り咲いた今ではパイロットスーツにジャケットの服装でいることが多い。非番の時は以前の服装になったりする。同じパイロットであるタリズマンはライバルと見ており、霊沙は弄り対象。

ヤマト2199のバーガーの肌を肌色にした外見。

 

特殊技能、能力

 

エース:B

艦載機を乗りこなす程度の能力。当初は数年のブランクがあったようだが、今では昔の勘を取り戻したようだ。愛機はYF-19

 

 

 

*ルーミア

 

イベリオ星系の酒場を訪れていたところ霊夢に出会い、閉塞感からの解放を目指して艦隊のクルーになった。貧しい惑星で働いたころと比べて霊夢艦隊の福利厚生はそれなりに充実していたので、現状には満足しているようだ。艦隊では主計長の役職に就いている。

東方のルーミアをそのまま大人にしたような外見。いわゆるEXルーミア。けっこうスタイルがいい。髪型合流時は金髪ロングだったが、今はショートにしている。服装は白黒のOLっぽい服。

主計課そのものの影が本作では薄いので、登場頻度はわりと低め。霊夢とは散財の原因であるマッド共に対して陰口を言い合う仲。

 

 

 

*ユウバリ

 

〈開陽〉機関長を務める若い女性。職人気質でだいたいツナギを着ている。霊夢達がビーメラ星系を訪れた際に募集に応じた。現在では〈開陽〉の機関部にすっかり夢中の様子。自力でワープできるシステムは極めて珍しいので強く興味を惹かれたらしい。外見は艦これの夕張。メロンはない。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:C

機械が大好き。巨大なフライホイールやエンジンの振動に痺れる。週に一度は機関室に籠って一日中点検作業をしているらしい。大抵は寄港中にやっており、そのため滅多に上陸しない。

 

 

 

*秦こころ

ユウバリと同じくビーメラ星系で艦隊に加わった少女。表情をあまり変えることはなくやや内気な性格だが、感情が乏しい訳ではない。上陸休暇時は先輩オペレーター二人組によく連れられて過ごしている。名前の通りモデルは東方心綺楼の秦こころだが、表情はちゃんと動く。作中と比べて大人しめ。髪型と色は変わらない。服装は基本和服。

 

 

 

*山城にとり

 

マッドその3。整備班長を務める。サナダに対抗して機動兵器の開発を進めている模様。片手間で艦船設計やよく分からない機械を作ったりする。艦隊の戦力強化には欠かせない人物だが、同時に予算を浪費するのでサナダと共に霊夢と主計課を困らせている。元ネタは東方風神録の河城にとり。東方のにとりを山童にしたような見た目で迷彩柄のツナギを着ている。普段はツナギの上半身を腰に巻いておりタンクトップかシャツを着ている。霊夢より背は低いが一部分は彼女よりある模様。

 

特殊技能、能力

 

・メカオタク:A

発明しないと死んじゃう病...は冗談としても、いつもだいたい何か作っている。発明品はどきどき早苗に強奪されることも。最近では白兵戦用の試作装備を開発している模様。

艦を修理するついでに、勝手に迎撃装備やセンサーを艦内に追加したりする。次はヴァランタインに踏み込まれても安心だそうだ。

 

 

 

*ショーフク

 

エルメッツァの元軍人で、軍上層部に疎まれて軍を去った。そこに霊夢艦隊の募集を見かけてこれに応じたらしい。軍人時代は水雷戦隊の指揮を任されており、操艦技術も高い。〈開陽〉ではその経験を変われて操舵手を任されていたが、どうも大型戦艦は勝手が違うようで苦戦気味だった。スカーバレル戦では別動隊を率いて海賊主力と戦火を交えた。人員が充実するに従って分艦隊の指揮を任され、現在は大マゼラン先発隊の指揮を執っている。帝国海軍の木村昌福中将がモデル。カイゼル髭がトレードマーク。今もエルメッツァの軍服を着ている。

 

特殊技能、能力

 

艦隊指揮:B

現役時代は水雷戦隊の指揮官として一定の評価を得ていたようで、海賊討伐任務を何件もこなしていた実戦派提督。水雷戦隊による雷撃戦術が本懐。

 

 

 

*ロビン

 

『紅き鋼鉄』の操舵手。ゼーペンストで領主バハシュールのの陰口を言ったがために収容されていたが、霊夢達に解放された経緯で旗艦〈開陽〉の操舵手に収まる。砕けた性格で、軍人比率多めなブリッジクルーの面々の中では珍しい一般的な0Gドック。

 

 

 

*ディアーチェ・K・クローディア

 

艦載機隊ヴァルキュリア小隊の隊長。後述のレヴィ、シュテルと共に傭兵稼業を営んでおり、ネージリンスのギルドに居たところを霊夢にスカウトされた。自信が強く乱暴な口調だが、意外と面倒見の良い性格。加えて家事スキルも高い。容姿は短い銀髪の美人。胸はけっこうある。情報分析と指揮能力に長け、戦闘時は電子戦装備を強化したRF/A-17Sを駆り機上から指揮を執る。

出典はリリカルなのはシリーズ。外見が大人仕様なのは他の二人も同様。

 

 

 

*レヴィ・ラッセル

 

ヴァルキュリア小隊の三番機。水色の髪をツインテールにした少女。黙っていれば美人だが、調子に乗りやすい性格でヴァルキュリア隊のなかでは一番の問題児。言動も無鉄砲で子供らしい部分があるが、戦い方は意外にも冷静なもの。天性の直感と頭の回転力で即座に適切な戦術機動を選択できる。ヴァルキュリア隊三人の中では一番スタイルが良い。

乗機はVF-19Aエクスカリバー→VF-19A改バルニフィカス。自らの髪と同じ水色のカラーに染めている。なので機体の外見はVF-Xレイヴンズの塗装に準じている。

出典はリリカルなのはシリーズ。

 

 

 

*シュテル・スタークス

 

ヴァルキュリア隊の副隊長。冷静で物静かな人物で、レヴィのストッパー役も兼ねる。セミロングの茶髪を軽く後ろで纏めた髪型のスレンダーな女性。他二人と違い胸は控えめ。戦闘時にはレヴィとは息の合った連携を見せることも。

乗機はVF-22Aシュトゥルムフォーゲル→VF-22HG改ルシフェリオン。

出典はリリカルなのはシリーズ。

 

 

 

*マリア・オーエンス

 

エルメッツァから艦隊に参加した女性パイロット。腕も優秀だが事務能力にも優れ、その点を変われて普段はにとりから機動兵器のテストパイロットを頼まれている。性格は淑やかだが芯が強い。航空隊ではバーガーの2番機を務め、コールサインはグリフィス2。戦闘時はを駆る。出典はGジェネシリーズ。外見はwars以降に準じる。

 

 

 

*マーク・ギルダー

 

艦載機隊ガーゴイル小隊の隊長を務めるパイロット。悪人面でイケメンな青年。戦闘時は気取った言動が特徴的だが、戦場を冷静に分析して勝利に導くことのできる人物。

乗機はペイルライダー。ヤッハバッハとの戦闘時にはエース用のスターク装備を用いていた。

出典はGジェネレーションシリーズ。

 

 

 

*エリス・クロード

 

ガーゴイル隊の二番機パイロットの女性。短い金髪の整った顔立ちをしている。本来は優しい性格だが、戦闘時は気性の激しさも見せる。乗機はジムコマンド→ペイルライダー(格闘戦装備)。出典はGジェネレーションシリーズ。

 

 

 

*椛

 

霊夢達が保護したモフジの一匹がマッド達の開発した「ふもふもれいむマスィン」により半人半獣となった存在。白狼天狗に似ているので、霊夢から知り合いの白狼天狗の名を与えられた。白髪に狼耳を生やし、もふもふの尻尾がある。性格は素直かつ努力家で、助けられた恩返しのために霊夢に艦で働きたいと申し出た。

現在は保安隊に所属し、可憐な容姿ともふもふによって保安隊のアイドル的な存在として扱われている模様。元ネタは東方風神録の犬走椛。

 

特殊技能、能力

 

・千里眼:C

遠くまで見渡せる程度の能力。モフジは元々目の良い動物だったので、人化した彼女にもその特性は受け継がれている。保安隊では主に警戒要員としても活躍している。

 

 

 

*リア・サーチェス

 

霊夢艦隊で数少ない原作登場組。輸送船で通信士をしていた。行方不明になった恋人を探して宇宙を旅していたがグアッシュ海賊団に船を破壊され、SOSに気付いた霊夢達に助けられて九死に一生を得た。ザクロウでは念願の恋人に会うことができたようだが、彼の素っ気ない態度に怒りを爆発させた。

 

 

 

*ライ・デリック・ガルドス

 

リアの恋人で、ザクロウに監禁されでオールト・インターセプトシステムの研究をしていた。恋人の感情には鈍感で、連絡すら寄越さなかったためにリアの怒りを買う。その気質から霊夢艦隊のマッド達とは気が合いそうな人物である。

 

 

 

【ユーリ艦隊】

 

 

*ユーリ

 

原作主人公の若き0Gドッグ。霊夢の行く先でよく行動を共にする。父が残したエピタフの謎を追って宇宙を旅することを決意し自治領を飛び出した行動力のある少年。性格は穏やかだが負けん気と正義感が強い。現実主義な霊夢とはときどき対立することも。肌と髪は白く瞳は赤い。

 

 

 

*チェルシー

 

ユーリの妹。しかし当人同士はあまり似ていない。髪と瞳の色は緑で、そこだけなら早苗と共通。ユーリと同じく穏やかな性格で、本当は彼と静かに暮らしたいと思っている。

 

 

*トーロ・アダ

 

ユーリ達と行動を共にする少年。彼のエピタフを狙って喧嘩を仕掛けたことが切っ掛けで彼の艦のクルーになった。ガキ大将気質でユーリの悪友的ポジション。

 

 

 

*イネス・フィン

 

ユーリの艦のクルーの一人。エルメッツァの辺境ゴッゾ出身で頭の回転が早い少年。ユーリ艦隊の頭脳ポジション。ゴッゾの酒場では女装させられたことが原因で海賊に拐われ危うくアッー♂、となる所を霊夢に救われた。

 

 

 

*トスカ・ジッタリンダ

 

ユーリが宇宙へ上がるのを手助けした"打ち上げ屋"の女性。本来はユーリを宇宙に連れ出すだけが仕事だったが、色々あって彼の副長を続けている。姉御肌で面倒見が良く、ユーリからは慕われている。彼女もなんだかんだ言ってユーリのことを可愛がっている。

 

 

 

*ティータ・アグリノス

 

トーロの幼馴染で勝ち気な性格の少女。軍人の兄がいるが、海賊に薬物を打たれて意識不明に陥っている。

トーロとの関係は反発はするが仲は良いといった程度。

 

 

 

【エルメッツァ】

 

 

*オムス・ウェル

 

エルメッツァ中央政府軍の中佐。改革派として知られ、一方で強引な手法を用いる野心家。スカーバレル海賊団討伐に力を入れ、霊夢に海賊討伐の依頼を持ちかけた。

 

 

 

*テラー・ムンス

 

エルメッツァ地方軍ラッツィオ基地の司令官だったが、スカーバレルと通じていたことが発覚し逃亡した。ボラーレ宙域に潜伏していたところを霊夢達に発見され、あえなく御用となった。

 

 

 

【カルバライヤ】

 

 

*シーバット・イグ・ノーズ

 

カルバライヤ宙域保安局の二等宙佐。苦労が絶えない中間職。勢力を増すグアッシュ海賊団の討伐を画策し、霊夢達に協力を依頼する。

 

 

 

*バリオ・ジル・バリオ

 

カルバライヤ宙域保安局の三等宙尉で、前線で海賊掃討の職務に就いている。砕けた性格だが自分なりのポリシーを持つ。

 

 

 

*ウィンネル・デア・デイン

 

バリオの同僚で階級も共に三等宙尉。真面目で職務には忠実な性格でバリオとは凹凸コンビだが、なぜか馬が合う模様。

 

 

 

*メイリン

 

カルバライヤの軍事企業スカーレット社に所属する女性。配属部署は警備部門でトーゴ級戦艦〈レーヴァテイン〉の艦長を務める。

マゼラニックストリームの交易会議に赴くところをグアッシュ海賊団に襲撃され、SOSに駆けつけた霊夢の艦隊と共にこれを撃退するが肝心の護衛対象を拐われてしまう。以後、その護衛対象、スカーレット社社長の息女の奪還への協力を霊夢に依頼し行動を共にする。

モデルは東方紅魔郷の紅美鈴。容姿は基本同一だが服装は緑色の艦長服。帽子も艦長らしいものを着用している。

 

 

 

*サクヤ

 

メイリンの友人で同僚。スカーレット社社長の娘付きのメイドだったが、海賊の襲撃の際に一緒に誘拐されてしまう。監獄惑星ザクロウに収監された後は自力で脱獄し、社長息女の奪還のため行動していたところトスカとサマラに合流する。その後霊夢達とザクロウを攻撃したメイリンとの合流に成功した。

モデルは東方紅魔郷の十六夜咲夜。服装もメイドなので基本的に同一。インプラント化手術を受けているので以外と白兵戦も強い。能力のイメージ元はマクロスFのグレイス。

 

 

 

*レミリア・スカーレット

 

カルバライヤの軍産複合体スカーレット社の社長令嬢。こちらは一般的な人間なので見た目相応の年齢。

カルバライヤ・ジャンクション宙域を移動中に乗船が襲われて妹のフランドール共々拉致されてゼーペンストに身売りされてしまったが、霊夢達に救出される。が、直後にヴィダクチオ軍に人質として誘拐されウイルス兵器を投与されたが、追撃してきた霊夢達の艦隊に無事救出され事なきを得た。

二度に渡り霊夢に助けられたことで彼女に対しては尊敬と憧れの念を抱いているが、あまり話せる機会が無かったのが心残り。本来は礼儀作法のしっかりしたお嬢様だが、気の強い性格。

 

 

 

*フランドール・スカーレット

 

レミリアの妹。姉共々グアッシュ海賊団に拉致されてゼーペンストに身売りされたが霊夢達に救出される。その後のヴィダクチオの襲撃はメイリンに助けられたので誘拐されずに済んでいた。ヤッハバッハの存在が露呈してからは、身の安全のためレミリアと共に霊夢率いる『紅き鋼鉄』の手引きで大マゼランを目指している。

姉とは異なり、やや内気な性格。

 

 

 

*ヴラディス・D・スカーレット

 

カルバライヤ経済の重要な一角を占める軍産複合体、スカーレット社を率いる男性。ヤッハバッハの襲来が発覚してからは、社内に流れる不穏な雰囲気を掴み娘の身の安全のため、霊夢に彼女達を大マゼランに送り届けるよう依頼した。

外見はスーツ姿のヴラド三世(Fate/EXTRA仕様)

 

 

 

【アイルラーゼン】

 

 

*ルフトヴァイス・ザクスン

 

アイルラーゼン軍α象限艦隊司令。バーゼルとユリシアを小マゼランに送り込む。

 

 

 

*バーゼル・シュナイツァー

 

アイルラーゼン軍近衛艦隊大佐。職務に忠実であることを信条とする生粋の職業軍人で、ヤッハバッハとの戦いに民間人であるユーリや霊夢達を巻き込むことを内心良く思っていなかった。第七章時点での乗艦はクラウスナイツ級戦艦〈ガーディアン〉。

 

 

 

*ユリシア・フォン・ヴェルナー

 

アイルラーゼン軍α象限艦隊外郭・第81独立機動部隊司令。中佐。本部隊特有の藍色の軍服を纏った女性で髪色は明るい薄桃色。掴み所のない性格で、会話では常に相手をリードして翻弄するのが好き。時折扇子で口元を隠す仕草が胡散臭さを一層際立たせている。

 

キャラクターのイメージ元はゆかりんとゆゆ様。

 

 

 

*ローキ・スタンリー

 

ユリシアの副官を務める初老の男性。自身の役割に忠実な性格で、常に一歩引いた立ち振舞いを見せる。

 

 

 

【ロンディバルト・オーダーズ】

 

 

*ハミルトン

 

オーダーズ所属の中佐。ロンディバルト軍ヴィダクチオ派遣艦隊司令。死んだ魚の目をしたような男性で、気怠そうな言動が目立つ。

大マゼラン宙域海賊と裏で繋がり、自国へサイバー攻撃を仕掛けていたヴィダクチオ自治領討伐のためアイルラーゼンのユリシア同様極秘に派遣されていた。

 

 

 

*ドリス

 

ハミルトンの副官。士官学校を出て間もない少女然とした女性だが、特務部隊であるオーダーズに配属されるだけあり成績は極めて優秀だった。

ビジュアルイメージは艦これの萩風に近い。

 

 

 

【その他】

 

 

*ミイヤ・サキ

 

惑星ゴッゾの酒場で働く少女。歌手になるのが夢で、貧しい生活ながら仕事に精を出して父を支える。スカーバレルに拐われファズ・マティに幽閉されるがユーリの手により救出された。

 

 

 

*アルゴン・ナラバタスカ

 

エルメッツァ中央宙域に建設した人工惑星ファズ・マティでスカーバレル海賊団を統率する頭領。残忍な手で策略を練ることも厭わない悪党だが、本質はオクビョウナ小心者。キーカードを使った罠でユーリを爆殺しようとしたが、霊夢に見破られて失敗する。しかしそれで霊夢に重傷を与えたことにより霊沙の怒りを買ってボコボコにされた模様。現在は牢獄の中だと思われる。

 

 

 

*ダタラッチ

 

グアッシュ海賊団の幹部。尊大な態度だが打たれ弱く気も弱い。グアッシュ海賊団には属していたが、本人は惑星から人を拐うのを良しとはせず、0Gドッグの誇りを貫いている。ユーリ達に捕虜とされ、グアッシュに関する証言を保安局に与えた。

 

 

 

*ドエスバン・ゲス

 

監獄惑星ザクロウの所長だが、裏では収監したグアッシュを殺害して頭領として成り代わっていた。極度のサディストの変態で太り気味の体形。ザクロウが襲撃された際は真っ先に逃げ出したが、結局霊夢艦隊に補足され、早苗のさでずむ攻撃を受けることになる。

 

 

 

*サマラ・クー・スィー

 

グアッシュと対立していた女海賊。ランキング上位に名を連ね、無慈悲な夜の女王として恐れられる。冷徹な美貌を持ち、常に冷笑を湛えている。乗艦〈エリエロンド〉も極めて高性能の戦艦。実は隠れファンが多い。

 

 

*ヴァランタイン

 

0Gドッグランキング一位に君臨する大海賊。専用の愛艦〈グランヘイム〉もワンオフ仕様の超高性能艦で、宇宙最高峰の性能を誇る。海賊らしく豪快な性格で、腕っぷしにも相当の自信を持つ。七色星団の会戦で霊夢達の艦隊を圧倒したが、逆に白兵戦では霊夢一人に返り討ちに逢う。いくら白兵戦が強くても、流石に空飛ぶ巫女には叶わなかった模様。

 

 

 

 

【???】

 

 

*マリサ

 

霊夢をつけ狙う謎の少女。小マゼランを前にした彼女達の前に立ちはだかり、狙撃戦艦を用いた戦術で霊夢艦隊を苦しめた。最後は〈開陽〉のハイストリームブラスターに呑まれた筈だが、しれっとまだ生きている。

口調は少女らしいものだが自身の意図を見透かさせず胡散臭い面を持つ。容姿は赤髪の魔理沙といった風体で紫色の艦長服を着用する。

 

霊沙とは何やら因縁めいたものがあるようだが…

 

容姿のモデルは封魔録魔理沙。

 




設定集人物編。前回の艦船編に艦載機も追加したので、良ければそちらもご覧下さい。

主人公格については物語の進捗に合わせて随時設定を公開していきます。前回と比べて不穏な部分が増えていますが気にしてはいけません。

※主要キャラのテーマ曲は一部に二次曲又は俗称を含みます


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第二部・天命篇 序章――虚空に漂う
第八一話 二人だけの世界


 

 

「うっ……ここ、は……?」

 

 

 気がつくと、私は水面に浮かんでいた。

 

 見上げる空は灰色の雲に覆われて、水が黒く見えるほど水底は見通せない。両岸は切り立った岩の禿山が続いていて、所々に咲く彼岸花だけが唯一色らしい色を持った存在だった。

 

「ここ、もしかして………」

 

 この場所に、一つだけ、私は思い当たる節があった。

 

 

 

 生者の世界と、死者の世界………冥界を隔てる境界、三途の川………

 

 私がそこに運ばれたということは、やはり私は死んだのだろう。何せ超新星爆発のγ線バーストと超高熱のガスを含む衝撃波に呑まれたのだ。死んでいない方が不思議だ。

 

 バチャリ、バチャリ………と、水を掻き分ける音が聞こえる。

 

 どうやら、迎えの船渡しが来たらしい。

 

 三途の川で水音といえば、真っ先にそれが連想された。さて、船頭はどいつだろうか。あのサボり魔で有名な巨乳死神だろうか。

 

 私がそんなことを考えている間にも、水音は次第に近づいてきて、私の近くで止まる。果してそれはやはり舟だったようだ。

 

 だけど、そこに乗っていたのは頭に思い浮かんだ死神ではなく、あまりに予想外の存在だった。

 

 

「よう、霊夢。ご無沙汰してるみたいだな」

 

 

 

 

 

 ―――――え?

 

 

 なんで―――彼女の声が聞こえたのだろうか。

 

 

 

 

「まり、さ………?」

 

 

 

 

「ん、何だ霊夢?まさか、暫く会わないうちに私の声まで忘れた訳じゃないだろうな?」

 

 渡し舟の上に居たのは、黒いローブにエプロンを付けて、黒い尖り帽子を被った親友………霧雨魔理沙その人だった。

 外見は成長した姿ではなく、紅霧異変や春雪異変の時のようなまだ幼さを残した少女の姿だ。かつては背も体格も成長するにつれて彼女に抜かれてしまったものだが、お互い身体の見た目が若返っているので、まるで本当に昔に戻ったような錯覚を覚える。

 

 魔理沙はかつてと何一つ変わらない笑みを見せて、舟の上から私を見下ろしていた。

 私の反応が鈍いと知ると、若干不機嫌そうに眉を顰める。

 

「あんた、どうしてここに……?」

 

「ん?私かぁ?………まぁ、話せば長くなるんだがな………とりあえず、随分長い間姿を見せてくれなかったお前さんがここにプカプカ浮かんでると聞いたもんだからさ、急いですっ飛んできた、って事にしといてくれないか」

 

「へぇ。ま、あんたが言うならそういうことにしといておくわ」

 

「恩に着るぜ。にしても――――本当に久し振りだ」

 

 魔理沙は帽子の鍔で目元を隠して、噛み締めるように呟いた。その様子は、数十年来の想い人に漸く相見えられたような、そんなしみじみとした印象を抱かせた。

 

 ―――私にとっては数ヵ月ぶりの再会でも、彼女にとっては、果たして何年振りの再会だったのだろうか………。

 

 そんな考えが、脳裏を過る。

 

「お前に会えただけでも、あの死神に頼み込んでここまで来た甲斐がある」

 

「ふぅん。死神の舟って、案外簡単に借りられたのね」

 

「いや、今回のは所謂特例措置ってやつさ。普段はこうはいかない」

 

 久し振り………本当に暫くぶりに会ったというのに、出てくる言葉は他愛のないものばかり。本来ならもっと気の利いた言葉を掛けるべきとこだろうけど、生憎そんな台詞は微塵も想い浮かばない。

 

「………おっと。こうしちゃいられないんだったな」

 

「――魔理沙?何、漸く私を引き上げる気になってくれたのかしら」

 

 暫く魔理沙と二人で、私は水面に浮かびながら、魔理沙はそれを舟の上から見下ろしながら、お互い他愛のない話を交わす。

 そんな中、魔理沙がふと何かを思い出したかのように態度を改めた。

 

 どうやら、水面に浮かんで水に濡れたままの私をやっと引き上げる気になってくれた……という訳でもないらしい。

 

「ところで、私の裁きは一体いつになるのかしらねぇ。此所に居るってことは、そういうことなんでしょう?」

 

 単なる、他愛のない会話の一つのつもりだった。

 

 今更ながら、三途の川に浮かんでいるということはそういうことなのだろうと思って魔理沙に話題を振ったのだが、急に彼女は黙り込む。

 

「………どうしたのよ、いきなり黙って」

 

 魔理沙は黙り込んだまま、何かを俊巡するような気配を見せる。

 

 ―――私は石橋を踏んだつもりが、腐った木橋を踏み抜いてしまったのかもしれない。

 

 魔理沙の反応はそんな感想を抱かせるほど、真剣なものだった。

 

「――――霊夢」

 

「……何よ、急に改まって」

 

 魔理沙は目元を帽子の鍔で隠したまま、視線を私に向ける。

 彼女の態度はいやが応にも、これから何か大事な話をするのだと、そんな予感を抱かせた。

 

「―――楽しい再会の時間はそろそろ終わりだ。もうあまり時間はないから、手短に話すぜ」

 

 魔理沙から告げられた言葉に、息を呑む。

 

 楽しい再会の時間は終わり―――それは、私がいよいよあの閻魔の前に引き摺り出されるということだろうか。魔理沙もきっと、特例措置とか言ってたのだからそう多くは時間を貰っていないのだろう。

 閻魔の裁きが終われば、いよいよ私は地獄に漂う有象無象の霊魂の仲間入りだ。そうなってしまえば、二度と彼女と言葉を交わすことは無いだろう。

 

 ―――だけど不思議と、悔いはない。

 

 あの娘に寄り添われながら、最後にこうして離別した筈の親友に看取られて逝けるとは、私の歩んできた道を考えるとあまりに恵まれ過ぎている。………それならば、この先どんな咎を受けようとも、微塵も未練など無く地獄に墜ちることが出来そうだ。

 

「―――いや、お前の思ってることとは違うぜ」

 

「………は?」

 

 私が勝手にそうやって覚悟を決めていたら、明確にそれを魔理沙から否定された。

 

「―――お前はまだ死んじゃいない。………ここで果てては駄目なんだ。だから……」

 

 予想外の返答に、思わず身体ごと魔理沙の方を向こうとして、バシャリと水をかき上げて静粛に包まれた水面の上で盛大に水音を響かせてしまう。

 

「ちょっと待って。それってどういうこと!?まだ死んでないって―――それなら、何で………」

 

 三途の川になんか浮かんでいるのか。そう続けようとしたら、魔理沙の台詞に遮られた。

 

「―――お前は、博麗の巫女なんだ。これまでも、これからも……………だから、今生の人生はせめて自分の思うがままに生きてくれ。………どうか、お前自身を見失わずに。―――ごめんな霊夢。私だけじゃ、どうしようも無いんだ」

 

「魔理沙………? それってどういう―――」

 

 言葉の意味を、魔理沙に問い質そうとする。

 

 だけどその前に、身体ごとぐわっと引っ張られるような感覚に襲われた。

 

 全身が、水面下に沈む。

 

「!?――――」

 

「おっと、時間だ。―――じゃあな、霊夢」

 

 魔理沙、待って――――!!

 

 そう叫ぼうとしても、抗えないほどの力で引き戻されて瞬く間に彼女の姿が視界から消えていく。。

 

「が、はっ………!」

 

 あちこちから、水が入り込んでくる。

 

 全身が、泡に包まれていく。

 

 水面に映る魔理沙の姿が、どんどん歪んで小さくなっていく―――

 

 

 ……………………………

 

 

 電源が切れたように、意識のスイッチが落とされた。

 

 

 

 .............................................

 

 ........................................

 

 ..................................

 

 ............................

 

 

 

「ガボゴッ―――!(魔理沙っ……!!)」

 

 夢から覚めて、瞼を開ける。

 

 手は何かを掴もうと、手前に向けられたままだった。

 

 ―――まだ死ねない、か………

 

 頭の中で、魔理沙に言われた台詞が反芻する。

 

「ガボッ!………(ッ!?)」

 

 幾ら考えても、その言葉の意味は分からなかった。―――少なくとも、まだ地獄に落ちる時ではなさそうだ、という点にだけは理解できたが。

 幾ら考えても埒が空かないので、周りに意識を向けようと目を見開いてみると、私は水槽のようなものの中に入れられていた。

 

 またしても予想外の光景につい驚いてしまい、思わず水槽の壁を叩いてしまった。

 

 開いた口から、空気の泡が一気に漏れる。

 

 水の中だというのに不思議と明瞭な視界に映る光景は、冥界とは似ても似つかない未来的な風景だった。

 

 その風景を見て、また新たな疑問が浮かんでくる。

 

 ―――あれ、私、死んだ筈じゃ………

 

 私は、意識を失う直前の光景を思い出す。

 確か私は、〈開陽〉の全力運転でのハイストリームブラスターをエクサレーザーで極度に不安定化した赤色超巨星ヴァナージに撃ち込んで、その超新星爆発に巻き込まれたのだ。それでヤッハバッハを足止めするという作戦自体は成功したものの、許容範囲を遥かに越える出力でハイストリームブラスターを撃った〈開陽〉は満身創痍、逃げることも叶わず衝撃波に呑まれた筈だ。なのに、何でまだ生きているのだろうか。

 

 それにあの夢が本当だとしたら、三途の川に浮かんでいた私は確実に死んでいた筈なのに………いや、これが魔理沙が言っていた、私はまだ死ねないということなのだろうか。だとしたら、ここは冥界じゃなくて現世……?

 だとしたら、最後にいきなり引っ張られるような感覚がして三途の川に沈められたのは何だったのだろうか。三途の川に沈むという行為からは蘇生など到底思い付かないだけにどこか別の空間に飛ばされたのかと一瞬考えもしたけれど、この幻想郷や冥府の世界とはかけ離れた白くて機械的な、清潔感溢れる未来的な風景のことを考えると、やはり現世には引き戻されたと考えるのが筋なのかもしれない。

 

 そうであるなら、やはり私は、魔理沙が言った通りまだ生きているということなのだろうか。

 

 

 ―――あれ、その前に確か……、超新星に呑まれる直前に………

 

 それ以前に、すっかり超新星の衝撃波に呑まれてしまったと思い込んでいた私だけど、そこで直前に誰かが、〈開陽〉を庇ってくれていたような気がした。………もしかしたら、私が生きているのはそれも関係しているのかもしれない。何分意識を失う直前のことだったらしく、朧気にしか思い出せないが。

 

 

 ――ちょっと待って。私が生きてるなら、あの子はどうなったの!?

 

「ガボゴバッ!?(そうだ………早苗は!?)」

 

 私が生きている―――その可能性から大切なあの娘のことを思い出して室内を見回してみるが、彼女の姿はない。それどころか、慌てて動いてしまったためか、肺に液体が入ってしまったようで息苦しくて咳が出る。

 

 何度も水槽の中で咳をしてもがいていると、シューっと、扉のロックが外される音がした。

 

「あ、霊夢さん。もう起きたんですか?」

 

 部屋の扉が開かれて、誰かが入ってくる。

 

 その声を聞いて、安心した。

 

 ―――ああ、生きていたのね、よかった………

 

 私一人だけじゃなくて、早苗も生きていてくれたみたいだ。衣服は多少破けているが、身体は何ともなさそうに見える。……やはり、サナダさん謹製の義体だったから、なのだろうか。ともかく、大切な仲間が生きていてくれたことは素直に喜ばしい。

 

「今出しますねー。それまでちょっと苦しいかもしれないですけど、我慢して下さい」

 

 早苗がコンソールを操作すると、水槽の水がどんどん抜かれていく。水が全部消えた後は、水槽のガラスが開かれて外気が入り込んできた。

 

 先程まで全身水に浸かっていたので、少し肌寒い。

 

「はい、霊夢さん、タオルです」

 

「ん……ありがと」

 

 早苗から渡されたタオルで身体を拭いて、とりあえず着るものがないのでそれを身体に巻き付けた。

 

「さ………うぁっ!?」

 

「れ、霊夢さん!?」

 

 ポッドから出ようと足を踏み出したら、ぐらりと身体が揺れてそのまま床にへたり込んでしまう。

 

「いっ、たた………ごめん、ちょっと手、貸して貰える?なんか上手く立てなくて……」

 

「ああ……それなりに長い間ポッドに浸かっていましたから、身体が鈍ってるんですね。今椅子を用意しますから、そちらに腰掛けといてください」

 

 早苗は近くの丸椅子を手繰り寄せて、私の手を握って起こすとそこに座らせてくれた。

 

「ん……ありがと。……ところで、私ってどれぐらいあのポッドに浸かってたの?」

 

「………聞きたいですか?」

 

「―――いや、止めとく」

 

 なんか早苗が一瞬不機嫌になったので、その質問を訊くのを止めた。……彼女の反応から私は少なくとも相当長い期間、彼女を待たせてしまったことは間違いなさそうだ。

 

 さて、彼女が生きていたことは喜ばしいが、まずは現状を確認しなければ。目覚めたのはいいけど、まだここが何処なのかさえ明らかでないのだし。

 

「んじゃ早速だけど早苗………ここが何処なのか分かる?」

 

「はい?〈開陽〉の医務室ですけど……どうかされました?」

 

「いや、ほら………あのとき私達は超新星に呑まれたじゃない。なのにこうして五体満足なのが不思議で………あんたは何も覚えてないの?」

 

「はい、申し訳ありませんが………多分覚えているのは霊夢さんと同じところまでかと………。ああ、目覚めたのは私の方がずっと先です。気付いたときには霊夢さん、瓦礫の下敷きで酷い怪我でしたからここの医療ポッドに急いで入れたんですけど………回復されたみたいで何よりです」

 

 うわ……そんな酷い状態だったんだ、私……。これは早苗に感謝しないとね。もし彼女が先に起きていなかったら、私は今頃本当に冥界辺りを漂っていたのかもしれないのだから。

 

「……本当に心配したんですよ?サナダさんの新型宇宙服がなかったら本当に死んじゃっていたかもしれないんですから……!」

 

「そこまで酷かったの………デザインは気に食わなかったけど、やっぱり性能は折り紙つきだった訳ね。巫女服の下にでも、着といて正解だったわ」

 

 図らずも、あのぴっちりスーツがおふざけでなかったことが証明されてしまった訳か……あのときはちょっと酷いことしたかな。サナダさんには後で謝っておこう。

 

 ………ん、サナダさん………あ、他の仲間って、今頃どうなってるの?

 

「あ、サナダさんで思い出したんだけど………他の仲間とは合流できたの?」

 

「それは………」

 

 明るかった早苗が、途端に口を噤む。それだけで、現状を察するには充分だった。

 

「………まだ、見つかってないのね」

 

「はい………それどころか、今どこを漂っているのかも全く分からない始末で………艦の機能も大半が停止したままですし―――」

 

「………ちょっと待って。今の〈開陽〉って、どんな状態なの?」

 

 早苗の言葉から察するに、仲間との合流どころかこの〈開陽〉ですら怪しい状態なのではないか。この艦が壊れてしまったら、本当に私は生きる場所を失ってしまう。

 

「はい………まず艦体は艦首部分が丸ごと消失、二番砲塔前でごっそり抉れています。そして使用可能な兵装は三番砲の中央一門と四番砲、それに僅かな迎撃ミサイルとパルスレーザーだけです。艦内に至っては艦橋は大破、エンジンも止まって今は予備電源で何とか持っている状態です。主機の修理は目処がついているんですが、稼働させても以前の一割の出力が出せれば良い方という始末で………それに、外殻のあちこちから空気漏れが起きているので今は最低限の区画を除いて隔壁を下ろしています。―――控えめに言っても、今の〈開陽〉は難破船同然の有り様です………」

 

「うわ……思った以上に酷いわね……超新星に呑まれたんだから無事ではないとは思っていたけど……。そんな状態だと誰かが助けに来るか、どこかの惑星を見つけでもしない限りかなり危ないわね」

 

「そうですね………でも、艦橋を含めた艦体の大部分が破壊されているので通信機もお釈迦ですし、チャートもいかれて全然機能してないので……本当に、宇宙のなかで迷子になっちゃいました」

 

「最悪な状態ね。……隣にあんただけでも居てくれるのは不幸中の幸いか………正直、これが一人だったら堪えるわ」

 

「安心して下さい、私はいつでも霊夢さんの隣にいますから」

 

 あまりの現状の酷さに、つい弱音を吐いてしまう。フネがこんな状態になって私一人だけだったら、本当に参ってしまっていたかもしれない。一人では駄目だとしても、早苗となら、大抵の事はどうにかなりそうな気がした。

 

「……さて、霊夢さんも目覚めたことですし、場所を変えましょう。医務室に居たままでは何かと不便ですからね」

 

「場所を変える?って言っても、艦内は軒並み大破してるんじゃないの?それならここに居ても……」

 

「いえ、自然ドーム内は無事なので、神社に戻ろうかと思いまして。あそこなら食糧も衣服もありますし、神社の地下には艦長室もありますから、そこから艦内の状況を把握することも出来るかと思いまして」

 

「……それなら移動した方が良さそうね。あそこの区画が生きているなら当分は持ちこたえられるだろうし。じゃあ早苗、ちょっと悪いんだけど手を貸してもらえる?」

 

「はい、喜んで」

 

 それなりの期間あの治療ポッドに入れられていたせいか、立とうとすると未だに足元がふらつく。なので、早苗に支えてもらってやっと立ち上がることができた。

 

 早苗の右腕が脇に回されて、彼女の身体から温もりが直に伝わってくる。……今の早苗は機械の身体だった筈なのに、それを忘れてしまうほどの柔らかな暖かさ…………

 

「……霊夢さん?」

 

「―――いや、何でもないわ。このまま自然ドームまでお願い」

 

「了解です」

 

 

 

 .............................................

 

 ......................................

 

 ...............................

 

 .......................

 

 

 赤、赤、―――見渡す限りの、赤。

 

 自然ドームの内部は、まるで血か体内のような赤色に染め上げられていた。夕暮れ時のような透き通った朱色でもなく、ただひたすらに痛々しいほど赤い。……それは、いつかの悪夢を連想させた。

 

 思えばここまで来る途中の艦内通路も軒並み非常灯のせいで真っ赤に染まっていただけに、ここまで赤が続くと流石に辟易としてしまいそうだ。

 

「―――赤いわね」

 

「非常灯しか点いてませんので、仕方ないです」

 

 どうやらまともに電源が供給されていたのは、最初に目覚めた医務室だけだったようだ。今まで見てきた廊下は所々非常灯すら落ちていて、このドーム内もかつてのような幻想の風景を微塵たりとも見出だすことができないほど暗く、赤い。

 

 バサバサ…と時折烏が羽ばたいたり、ガサゴソと藪の中で獣が動く音がするが、それはこの景色の不気味さを一層際立たせているだけだ。

 

 早苗に介抱されながら、林を抜けて参道を登る。

 

 景色が不気味な以外道中特に何かあるわけでもなく、鳥居をくぐって神社の境内にたどり着いた。

 

「……やっぱり、無傷という訳にはいかなかったか」

 

 一目見た限りではあるが、神社は大部分は無事のようだ。ただ戦闘の衝撃か、はたまた超新星の衝撃波に呑まれた影響か、所々屋根の瓦は崩れ落ち、石畳はひび割れて捲れ上がってしまっている。

 

「建物自体は無事みたいですし、問題は無さそうですね。さ、中に入りましょう霊夢さん。そのままの格好だと風邪引いちゃいますよ?」

 

「あ、うん……そうね、頼んだわ」

 

 早苗が神社に向かうのに合わせて、脚に力を入れる。

 

 ……確かに早苗の言うとおり、今の格好では少し肌寒い。自然ドーム内は非常電源だけなので偽りの陽光すらなく、元の季節設定が晩冬だっただけに空気が冷えている。早苗の好意で渡された、彼女が着ていた白衣を羽織ってはいるがそれも気休めに過ぎない。ここはさっさと中に入って、普段の服に早く着替えたい。

 

「………そういえば、早苗」

 

「はい、何ですか?」

 

 神社に来てから少し気になることがあったので、この際だから早苗に聞いておこう。―――いつの間にか住み着いていたあの二柱の姿が見えない点について。

 あいつらの性格からしたら、フネがこんな状況なら真っ先に早苗の身を心配して飛び出してきそうなものだけど……

 

「あんたの神様二人、姿が見えないけどどうかしたの?」

 

「え!?あ……はは、き、きっと何処かで休まれてるんじゃないですか?あ、あはは………」

 

「ふーん」

 

 ……なんか早苗の様子がおかしかったけど、まぁ、彼女がそう言うならそういうことにしておこう。あの二人に関しては早苗のほうが親しいんだし、私があまり深入りすることでもないか。

 

 そんなことを話しているうちに、私達は神社の縁側まで辿り着いていた。

 私を介抱してくれていた早苗が、私の身体を縁側に下ろしてくれた。

 

「よいしょ……っと。到着ですね」

 

 早苗は靴を脱いで縁側に上がって、部屋に繋がる引き戸を開けてくれた。……だけど、またしてもふらついてしまって上手く歩けない。このまま芋虫みたいに這っていこうかとも考えたけど、その前に早苗が手を出してくれた。

 

「……箪笥のところまで支えてあげます。無理なら素直に私を頼って下さい」

 

「私を縁側に下ろしたのはあんたでしょ」

 

「霊夢さんを抱えたままだとうまく上がれなかったからです。戸を開けたら部屋の中までもう一回支えるつもりだったのに、先に行こうとしたのは霊夢さんの方ですよ」

 

「はいはい、もういいわ。じゃ、とりあえず部屋の中までお願い」

 

「了解しました。では、こちらをどうぞ」

 

 差し出された手を握って、早苗に寄りかかりながら立ち上がる。そのままの態勢でまた早苗に介抱されながら、とりあえず部屋の真ん中まで来ることができた。

 

「………この辺りでいいわ。降ろしてちょうだい」

 

「分かりました。……お着替えも手伝いますか?」

 

「いや、いいわ。そこまでしてもらうのも悪いし、手は足より動くみたいだから一人で大丈夫よ」

 

「そうですか………では、私は外で待ってますね。なにかご用があればお呼び下さい」

 

「ん、了解」

 

 早苗はゆっくりと私の身体を畳の上に降ろして、縁側に戻っていった。

 

 縁側に正座した早苗は一礼して、すーっと引き戸を音もなく閉めた。破天荒な行動と高いテンションが印象に残る彼女だけど、その印象とは離れた一連の行動が何故か様になっているように見えた。

 

 ………一人きりになった寝室に、障子を透けて外から赤い光が差し込んでくる。

 

 当然こんな状況では家の電気も点かないし、火のランプを灯すのも危ないので、その薄暗くて目に悪い光を頼りに箪笥の元まで移動して引き出しから衣服を漁る。

 

 未だに足が鈍ってるので上の引き出しには手を掛けず、羽織っていた白衣と身体に巻いていたタオルを外して、適当な下着を箪笥から取り出して穿く。さらしは……面倒くさいので省略。他にはいつだったか忘れたけど早苗から貰ったブラがあった筈だけど、今の身体は早苗みたいに大きくないしこちらも着けなくていいだろう。

 

 服は……巫女服はこの状態だと面倒だから寝間着でいいか。肌寒いから羽織を探して……

 

 

 ―――ガタンッ!……

 

 

 ………と、ナニカが崩れ落ちたような音が響いた。

 

「え―――?」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなくなる。…が、物音がした方向が縁側からだったことから、すぐに早苗の身に何かあったのではという可能性が思い浮かぶ。

 

「さ………早苗っ!?」

 

 慌てて寝室の外にいる彼女の下に駆け寄ろうとしたものの、足がふらついて顔面から畳に身体をぶつけてしまう。

 

「いっ、た………っ、そうだ、早苗の様子は………」

 

 先程名前を呼んでも尚声がしないということは、やはり彼女の身に何かあったのだろう。余計に心配が加速する。

 

 足が頼りにならないならば、這ってでも早苗のところに行くしかない。畳が、少々擦れてしまうが、この際それは仕方ない。早苗の身の方が心配だ。

 

 寝室と縁側の境界まで辿り着いて、ガラッ!と縁側に続く引き戸を開けると、やはりそこには、力なく倒れ込んだ早苗の姿があった。倒れた彼女は苦しそうに、胸を上下させながら荒々しく呼吸している。

 

「早苗っ!大丈夫なの!?いきなり倒れたりなんかして……」

 

「あ、霊夢……さん……、あはは、もうちょっと、我慢できると思ったんだけどなぁ………」

 

 早苗はうっすらと瞳を開けると、軒下の梁を仰ぎながら弱々しく呟いた。

 

「我慢なんてしなくていいから!ああもう、どうして先に言わないのよ……!いつもいつも、私には世話を焼こうとする癖に自分のことは何も言ってくれないんだから……」

 

「ごめん、なさい………でも、病み上がりの霊夢さんには、頼る訳にはいかなかったかんです………」

 

「無理して喋らないで!―――っと…こういう時はどうするんだっけ……とりあえず布団と水を用意しないと……」

 

 突然の出来事に、頭の中がぐるんぐるんする。病人の介抱といえば先ずはそれだけど、そもそも今の早苗は人の身体では無いんだった。もしかしたら、身体に何かトラブルがあったのかもしれない。そうだったら私では完全にお手上げだ。こういうのはサナダさんが居ないとすっかりだったばかりに、今何もできない自分がとにかくもどかしい。

 

 けど縁側に倒れたまま放置という訳にもいかないので、鈍ったままの身体を無理矢理動かして、引きずり込むように早苗を寝室に移動させて寝かせる。

 

「霊夢、さん……大丈夫、です。身体のトラブルじゃ、ないですから………」

 

「大丈夫もなにも、そんなに苦しそうにしてる時点で大問題よ!」

 

 こんな事態になるなら、目覚めた時点で早苗をゆっくり休ませておくべきだった。思えば医務室で見た早苗の肌は以前より血の気が失せていたような気がしたが、目覚めたばかりで意識が覚醒しきってなかった私ではそのときには気付けなかった。廊下に出てからはずっとあの赤い光に照らされてたので、気付けるも何もあったもんじゃない。無理して隠されるくらいなら、素直に調子が悪いと伝えてほしかった。そうしてくれたら、無理して私を介抱させることなんて無かったのに………

 

「はぁっ、はぁ………ッ、………」

 

 早苗が一際苦しそうな呻き声を上げると、私の胸元に手を伸ばして、ぎゅっと寝間着の襟首を掴んだ。

 

「………………れいむ、さん……っ!」

 

「早苗……!?」

 

 弱々しく、私の名を呼ぶ。……あまりにか弱いその声に、思わず息を呑んだ。

 

「もう、駄目………!我慢、できない……!!」

 

「ちょ………っ、早苗ッ!何を………!?」

 

 捕まれた襟首を強引に引っ張られて、畳の上に押し倒される。その上から早苗に乗られて、拘束するように両腕を背中と後頭部に回された。

 

「早苗!?具合が悪いんなら……」

 

「違うん、です………!欲しい、全然、足りないんです…!」

 

 早苗の顔が、近づいてくる。

 顔は紅く火照って紅潮しきっているのに、身体は冬の外気に長時間晒されたように冷えきっている。彼女のちぐはぐな体調は、なにか深刻な病状を思わせた。

 

「さ……なえ………?」

 

 早苗の身体を退かそうにも、回された腕と上に乗られた身体に挟まれて、まともに身動きすら出来ない。

 

 絡み付いてくる彼女の肢体は、シュルシュルと獲物を締め上げていく毒蛇を連想させた。

 

 早苗の頭が、重力に引かれて落ちてくる。

 

 ゆっくりと絞め殺されるように、腕に力が入れられていく。

 

「んっ、ん…………」

 

「…………っ、!?」

 

 早苗の顔が、目前まで迫る。

 

 私と早苗の唇が僅かに触れ合ったかと思うと、そのまま一気に、私の口は早苗の唇に塞がれた。

 




タイトルの通り百合回でございます。ここから第二部序章です。時系列的には前回からそれほど経っていないので、暫くは第一部の延長のような雰囲気になります。
開始から早々に百合百合を飛ばしていくスタイル(笑)なお本小説のえっち度はPS版Fate/stay nightに準じます。R-18描写が発生した場合は分離しますのであしからず。無限航路らしいお話は、もう暫くお待ち下さい。

冒頭の魔理沙ちゃんは本物です。五人目ぐらいの純正東方キャラです。ちなみに魔理沙ちゃんがこの時代で生きているのはちょっとした裏設定があったりします。


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第八二話 毒蛇の誘惑

警告タグが真価を発揮します。


「さ……なえ………?」

 

 早苗の顔が、目前まで迫る。

 彼女の身体を退かそうにも、回された腕と上に乗られた身体に挟まれて、まともに身動きすら出来ない。

 

 もがけばもがくほど、毒蛇に締め上げられていくように私を締め付ける早苗の力が強まっていく。

 

 彼女の中に包まれて身動きすら取れない私に、重力に引かれるように早苗がゆっくりと顔を近付けてくる。

 

「んっ、ん…………」

 

「…………っ、!?」

 

 早苗の顔が、目前まで迫る。

 

 私と早苗の唇が僅かに触れ合ったかと思うと、そのまま一気に、私の口は早苗の唇に塞がれた。

 

「んんッ………!!っ(ちょ―――早苗!?な、何を………)」

 

 いきなり何をしているのか、と問い掛けようにも塞がれた唇からは呻き声が溢れるばかり。私が幾ら足掻いたところで、毒蛇の捕食からは逃れられない。

 

「ちゅ……んっ………んんっ――」

 

「!?っ、むぐっ、んッ………!!」

 

 早苗の長い舌が、私の舌に絡み付いて吸い上げていく。

 

 ぬちょ………ねちょ………、と舌に絡み付いたまま口内を貪るように犯したそれは、まだ足りないと言わんばかりに喉の奥までその食指を伸ばしてくる。

 

 当然それに抗える筈もなく、私は全身を早苗に拘束されたまま、成されるがままに早苗の舌にいいようにされてばかり。それどころか、痺れたように身体に力が入らなくなってきた。

 

 ―――毒蛇は獲物を丸呑みにする前にその毒を以て獲物の動きを止めるというが、それもこの一種なのだろう。

 

 ……早苗に口内を犯されるごとに、感覚があやふやになっていく。

 

「っ―――うッ…!!?」

 

 また、あの感覚………!

 

 早苗に貪られるごとに、魂から直接ナニカを持っていかれるようなおぞましい快感が全身を迸る。

 以前血を分けた時ほどではないが、それでも全身が空中分解してしまいそうな、あり得ない感覚に浸されていく。

 

 ―――駄目っ、早苗………これ以上は………ッ!!

 

 魂に噛み付かれて、引きちぎられるようなあの快感が全身を襲う。絡められた早苗の舌から、私の中身が吸い出されていく。

 

 ……端から見れば、女同士とはいえただの接吻、のようにも見えるこの行為―――だけど、その実態は捕食だ。決して情事などという、生易しいものではない。

 

 内側は早苗の猛毒でドロドロに溶かされて、中身を蹂躙され貪られて、外は早苗の滑らかな肢体に締め上げられて。

 

 破滅的で倒錯的な快感に浸されて、頭もカラダもバラバラに壊れてしまいそう。

 

「っ……う………アァっ!!」

 

 締め付ける力が一層強まる。

 それに合わせて、毒が回っていく速さも上がった気がした。………囚われたまま、魂を飴細工に変換されて吸い出されていく。

 

 だけど、私の中身が吸い出されていくごとに早苗の冷えきった身体に体温が戻っていく。行為が進むにつれて、乱れていた早苗の呼吸も平常に近づいている。

 

 ―――ならば、この行為に何の問題があるというのだろうか。

 

 私の中身が犯されようと、それで早苗の調子が元通りになるというなら、幾らでも貪られたところで一向に構わない。こんな私でも早苗の役に立てるというなら、寧ろ喰らい尽くされて魂を全部吸い出されたとしても、きっと微塵も嫌悪感など抱かないだろう。

 

「ちゅ………んっ、あ……………」

 

 一通り私の中身を貪り尽くした早苗は最後に絡ませた舌で口内を舐めとり、名残惜しそうに私の唇から離れた。

 

 離された互いの唇の間に、銀色の糸が架かる。

 

「っ……はぁ、はぁ、はぁ………んっ………。もう、終わりなの―――?」

 

「はい……ご馳走様でした、霊夢さん」

 

 早苗が起き上がって、私の身体から離れる。

 

 ………まだ、身体が思うように動かない。

 

 私は仰向けに寝そべったまま、天井を見上げて乱れた呼吸を整える。少し目線を下げてみると、そこには視線を逸らした早苗の姿。

 

 ―――あ…

 

 ようやく、早苗と目があった。

 

 早苗の挙動はどこかぎこちなくて、私から目を背けたと思えば今度はちらりと私の顔を覗いてくる。が、また目が合うと途端に視線をずらしたり。……その仕草は、先程までの行為とは真逆な、初々しい印象を抱かせた。

 

「………早苗?」

 

「ひゃ、ひゃいっ……!?」

 

 しばらくはこの可愛い仕草を見ていても良かったのだけれど、いつまでもそうしている訳にもいかないので彼女に声をかけてみた。すると、びくんと飛び上がるかのような驚いた反応が返ってくる。

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょ、もう」

 

「で、でも………わ、私は霊夢さんを………」

 

 目線を下げて視線を外す早苗の仕草は、どこか罪悪感に駆られたような印象を感じさせる。………成程、さっきの行為について、少しは申し訳なく思っているのだろうか。

 

「……早苗、一ついい?」

 

「はい……何でしょうか」

 

 早苗が、尋問を答える被告のような声色で応えた。………そこまで怯えなくてもいいのに。

 

「別に、怒ってないから正直に話して。………さっきのあれ、何だったの?」

 

「やっぱり、気になりますよね………。分かりました。全部、話します」

 

 早苗はそこで一旦言葉を区切って、心を鎮めるように一度深呼吸をする。―――私はただ、早苗が語り始めるのを待つ。

 

「―――以前事象揺動宙域から脱出するとき、一度霊夢さんの力を分けてもらいましたよね?あれと基本的には同じなんです」

 

 以前、といえばあの、事象揺動宙域から出るときにやったあの霊力供給か。………確かに、あのとき血を吸われた感覚とさっきの接吻の感覚は似ていたけど。―――でも何で、また霊力供給なんかやる必要が出てくるのだろうか。

 

「ああ、だからあんな感覚が………。でもちょっと待って。さっきの行為が霊力供給なのは分かってけど、それが必要な理由はあったの?」

 

「はい………実は、その、大変申し上げにくいんですけど………」

 

 私の問いに、早苗は峻巡するような仕草を見せる。が、程なくしてまた言葉を続けた。

 

「実はですね………この身体、幾ら人の身に似ていようと所詮は機械の身体ですから―――私の魂が上手く馴染んでいないみたいなんです。だから………」

 

「私の霊力を貰わないと、魂を引き留められない……でしょ?」

 

 私の言葉に、早苗は小さく頷く。

 

 霊力供給が必要な理由なんてそれぐらいしか思い付かなかったのだけど、やっぱりそうだったのね……。

 

「……霊夢さんの言った通りです。本当なら、もう少しは大丈夫だったと思いますが、かなり力を使ってしまったので、それで………」

 

「足りなくなった、って訳か。………別に、嫌じゃないわよ、私は」

 

「へ?」

 

 早苗は不思議そうに、頭を上げた。

 

「だって………そうしないとあんた、消えちゃうんでしょ?それは私も嫌よ。だったら私の霊力をあんたに分けて傍に居てもらった方が、私も嬉しいわ」

 

「霊夢、さん………」

 

 早苗が申し訳なさそうに項垂れる。

 

 やっと力が戻ってきた身体を起こして、早苗の頭を、私の胸に抱き寄せた。

 

「ふぇ……れ、霊夢さん…!?」

 

「辛かったでしょ?消える寸前まで磨り減らされて。私が寝てる間に、大変だったでしょ―――。だからもう、我慢なんてしなくていいわ。私のでよかったら、幾らでも貰ってくれて構わないわ」

 

「はい―――有難うございます、霊夢さん……」

 

 泣きそうな程だった早苗の様子も、私が抱いているうちに落ち着いてきたみたいだ。

 私の腕から早苗が離れて、お互い向かい合う形になる。

 

「その、霊夢さん………?また、足りなくなったら…いいですか?」

 

「当然よ。何も我慢なんてしなくていいから。それに―――唾液より血の方が効率はいいんでしょ?なら前みたいに血を吸ってもらっても構わないわ」

 

 私の霊力で足りるのならば、それを拒否する理由なんて何処にもない。寧ろ………早苗の気が済むまで奪い尽くされても構わないに……。

 

「それはそうなんですけど……いまの霊夢さん、病み上がりみたいなものじゃないですか。だから、いま血を吸っちゃうと霊夢さんの身体に悪いかな、なんて思いまして……」

 

「あら、意外ね。あんな理性が飛んだ状態でも、その程度の気遣いは出来たのね」

 

「理性が飛んだ、って…………」

 

 私の意図としては単に茶化しただけなんだけど、早苗にとってはそうは聞こえなかったらしい。

 早苗の顔が、どんどん茹で蛸みたいに赤く染まっていく。今頃あれを思い出して恥ずかしがるなんて……早苗も意外と可愛いのね。

 

「ああああ、あれはですね!その、抑圧された深層心理が噴き出したというかその……………はい、ごめんなさい。正直に告白します。私、霊夢さんに無理矢理するのが好きです」

 

「…………変態」

 

「がはっ―――ううっ、弁解の余地もございません……ああ、でもストレートに躊躇いなく言う霊夢さんも素敵……」

 

 あ、早苗が倒れた。

 けど数秒後には、何事も無かったかのように起き上がってくる。

 

「その、ですから今度も多少乱暴になってしまうかもしれないんですけど………本当に大丈夫ですか?」

 

「……やっぱり変態だったのね、早苗」

 

「あーもう、どうしてそうなるんですかぁ霊夢さん!性癖が曲がってるのは認めますけどぉ!」

 

 あ、これ意外と楽しいかも。

 

 それはともかく、自分の性癖がアレなのは認めるのね。ついでに霊力供給と言いながら楽しんでそうな節もあるけど……早苗の意図にまであれこれ言うべきところではないか。私で勝手に楽しみたいなら、そうしてもらっても別に構わない、か。

 

「私、初めてだったんだから、もっと優しくしてくれたって良かったのに………早苗に汚されたわ、おろろ……」

 

「ひっ………ごめんなさいごめんなさい!!つ、次からは嫌なときは嫌って言っていいですから!」

 

 あからさまな泣き真似だったにも関わらずこの反応だ。本当、弄っていて楽しいわ。あんだけ好き放題貪ってくれたんだから、少しはお返しよ。

 

「クスッ、ごめんごめん。あんたに良いようにされっぱなしだったから、つい……ね」

 

「ハァ……びっくりしたじゃないですか霊夢さん。いじわる」

 

「あんだけ犯しといて、よく言えるわね」

 

「霊夢さんだって、嫌がってなかったじゃないですか」

 

 嫌がってなかった……何気無く発せられたその言葉が、胸に突き刺さる。……確かに私も、あのときは早苗に喰い尽くされても構わない、なんて考えてたっけ。―――性癖がひん曲がってるのはお互い様、か。

 

「……霊夢さん?どうかしました?」

 

「あ………いや、何でもないわ」

 

 あの時の感触を、思い出す。

 

 私も私で、一度は退けておきながら何処かで早苗を求めてしまっていたのかもしれない。それは、認めざるを得ないだろう。だけど………私は、そんなことをしていいのだろうか。霊力供給が必要なことを言い訳にして、早苗を求めるのは…………

 

 でも、早苗を断る訳にはいかない。他ならぬ私自身が消えて欲しくないと願っているのだから、早苗を繋ぎ止める為に霊力供給は必須なのだ。……早苗がそれを楽しんでいるのは、この際不問にするけれど。

 

「そう…ですか。あ、ついでにもう一ついいですか?」

 

「……なによ」

 

「その……やっぱり接吻(キス)だと効率が悪いですから、明日も……お願いできますか?」

 

「―――好きにしなさい。私は疲れたから一度寝るわ。おやすみ」

 

「はい、おやすみなさい――――ああっ霊夢さん、ちゃんと布団ぐらい被らないと風邪引きますよ!」

 

 一気に力を持っていかれたせいか、はたまた病み上がりで体力がないせいか、なんだか眠たくなってきた。

 

 畳の上で適当に寝転がると、早苗があたふたしながらも丁度良さそうな毛布を引っ張り出してかけてくれた。……ちょっと煩わしい部分もあるけれど、こうした身を案じてくれるというのも、なんだか嬉しい。

 

 ――今は、これぐらいの距離感が心地いい………

 

 

 .........................................

 

 ....................................

 

 ..............................

 

 .......................

 

 

 

 突如、ヴー、ヴー、と警告が鳴り響く。

 

「何っ!?」

 

 けたたましく響くその音で、私は毛布を剥いで飛び起きた。

 

 フネが満身創痍な状態での警告―――艦自体の異常なのか、はたまた外部に異常があるのか……どちらにせよ、嫌な予感がする。

 

「早苗、何があったか分かる?」

 

「は、はい……今調べます!………っと、出ました!どうやら敵さんみたいですよ」

 

 早苗も私の隣で眠っていたみたいだけど、私と同じように警報で起こされたようだ。――彼女の場合は元からフネと繋がっているから、そっちのルートで信号やら何やらで起こされたのかもしれない。

 

 敵襲、か………。何とも都合の悪い時期に出てきてくれたものだ。

 

「……敵艦の種類は?」

 

「はい――――えっと、ブランジ/P級が3隻だけみたいですね。ヤッハバッハの偵察艦隊です」

 

 早苗はホログラムの画面を呼び出すと、艦のレーダーが捉えた敵艦隊の姿を確認する。

 

 向かってきてるのは通常のブランジ級ではなくパトロール用に武装を減らされた警備艦タイプのようだが、それでも満身創痍の〈開陽〉にとっては難敵だ。出来れば戦わずにやり過ごしたいものだけど……

 

「パトロール艦隊か……。所詮警備艦3隻とはいえ、今の〈開陽〉だときついわね。――早苗、使用可能な兵装は?」

 

「そうですね……まともに艦の修理が進んでいない状態なので、いま使えるのは三番主砲の中央砲身と四番主砲ぐらいですね……それも残存エネルギーの関係でレーザーに回す分がありませんから、使えたとしても実弾だけです。ミサイル類は迎撃用しか残ってませんから、実質使用可能兵装はそれだけです」

 

「厳しい状況ね………。警備艦隊をやり過ごすことは出来そう?」

 

 改めて兵装類を確認しても、やはり戦うのは厳しそうだ。見つかっても上手く逃げる手段とか、あればいいんだけど……

 

「微妙ですねぇ。こっちは廃艦同然で機関出力も大きく落ちてますから、上手くいけばデブリと見なして素通りしてくれるかもしれないですけど………う~ん、確率としては五分五分、といった所でしょうか」

 

「確率は五分、か……。よし、それに賭けましょう。ついでに聞くけど、一回でもワープは行けそう?」

 

「ワープですか?ちょっと待ってください………う~ん、厳しいですねぇ。何しろ機関があのザマですし、まだ修理だって碌に………いや、ちょっと待ってください。機関室の予備エネルギーコンデンサーに多少蓄えがありますね。これをワープドライブに回したら一回だけ行けると思いますが、どのみち航法装置もいかれてますから出来たとしてもランダムジャンプになってしまうと思いますけど………」

 

「―――いや、それだけあれば十分よ。万が一見つかったら、それで逃げましょう」

 

 駄目元でワープが使えるかどうか聞いてみたのだが、これはついている。一回のランダムワープでも、可能ならばそれだけで上出来だ。……これで、捕捉されても逃げる算段が整えられた。

 

「良いんですか?霊夢さん。行き先はランダムですから、もしかしたら敵の大艦隊の真っ只中、ということもあるかもしれませんよ?」

 

「大丈夫大丈夫。私の運と、早苗んとこの神様が付いてんだから。きっと上手くいくわ」

 

「そ、そうですか………えへへ、霊夢さんに言われると、なんだか誇らしいですね。―――昔は絶対、そんなこと言ってくれなかったから………」

 

「ん、何か言った?」

 

「いえ、何でもありませんよ。さ、そうと決まったら準備に取りかかりましょう霊夢さん。ワープドライブにエネルギーを回す準備だけして、あとは余分な電源を落として沈没船に擬態するだけです」

 

「そ、そうね……。私は敵の動きを見てるから、艦内の諸々はあんたに任せたわ」

 

 小声で早苗がなにか言ったような気がしたのだが、何でもないなら気に留める必要はないだろう。……なら、さっさと準備に取りかかるとしよう。

 

「畏まりっ♪」

 

 早苗は返答すると、部屋を出て一足先に神社地下の艦長室に降りる。続いて私も艦長室に降りた頃には、彼女は既に席について画面と向かい合っていた。

 

 

「………状況はどう?」

 

「はい。艦内の予備電源は大半をカットしました。メインエンジンは元から稼働してませんから、こっちは弄らなくても良さそうですね。予備のコンデンサーは直ぐにワープドライブにエネルギーを供給できる状態にしてあります」

 

「仕事が早いわね。さて、敵の動向だけど………このままだと、この近くを通過しそうね。遠目だけならやり過ごす自信はあったけど、これはちょっと厳しそう」

 

「……みたいですね。離脱準備だけは整えておきます」

 

 まだ生きている艦外の各種センサーから敵艦隊の様子を観察するが、敵の予想航路は〈開陽〉のすぐ近くを通っている。このまま上手くやり過せたらよかったのだが、この状態だとそう上手くは行きそうにない。

 

「敵艦隊、距離20000を切ったみたいですね。間もなく主砲の有効射程圏内です」

 

「当初の方針を堅持して。此方から仕掛ける必要はないわ敵が向かってきたらエネルギーパターンが戦闘態勢に変化する筈だから、その兆候を捉えたらすぐに跳ぶわよ」

 

「了解ですっ」

 

 画面に表示される情報に、注意を凝らして状況の把握に努める。センサーやレーダーの大半が破壊された影響で情報にムラがあるが、それでも大体の状況が分かるだけマシなものだ。

 まだ敵は特に目立った動きを見せてはいないが……

 

「っ、霊夢さん!敵艦から通信です!」

 

「チッ、気付かれたか……!そう上手くはいかないもの、ね!」

 

 敵艦から通信………それは即ち、此方を生きているフネだと見なしたことに間違いない。これで死んだデブリに擬態する作戦は失敗だ。なら死んだ振りに拘る必要はない。直ぐに次の行動に移ろう。

 

 私はホログラムのボタンに拳を降り下ろして、予備のエネルギーコンデンサーの回路を開かせる。続いてまだ生きていた補助エンジンに点火して、フネは加速を始めた。

 

 満身創痍な〈開陽〉の状態を見ているのだから相手は此方を難破船と認識して生存確認の為に通信を送ってきたのかもしれないが、通信に出たら出たで此方が敵だということはどのみち露呈するのだ。ヤッハバッハは0Gの存在を許さないというから仮に生き残れたとしてもこの先一生何処かの星に縛られることになるだろう。―――それに、早苗の義体(カラダ)はこの艦隊でないと満足に整備できないのだ。アレが身体はドロイドだと知られたら調査だの何だのと称して多分奴等に連れてかれる。……それだけは、避けなくては。

 

 だから、敵がまだ此方を明確に敵だと認識していないうちに、さっさと逃げる準備を整えてしまおう。連中が戦闘態勢に入る頃には、此方はもうワープ寸前だ。

 

「早苗っ!ドライブの操作は任せたわ!あんたのタイミングで跳んで!」

 

「了解しましたっ!最低限のエネルギー供給を確認次第跳びますから、霊夢さんは衝撃に気を付けて下さいね!」

 

「言われなくても………!」

 

 早苗の周りにホログラムのリングが出現する。――本格的に管制に集中している証だ。

 

 早苗がワープドライブの面倒にかかりきりな間、私は敵の観察を続ける。此方に動きが見られたためか、増速して向かってきているみたいだ。センサー類は、敵のエネルギーパターンが戦闘態勢に入りつつあることを示唆している。

 

 ビュン、と、敵から青白い光線が飛び出した。――――威嚇射撃だ。

 

 まだ当てるつもりは無いのか、レーザーの光は〈開陽〉の右舷側を素通りしていく。擦ってすらいない。

 

「早苗、敵が撃ってきたわ。ワープ準備にはまだかかりそう?」

 

「そんなの、分かって、ますよ……!あともう少しです!」

 

「まだ威嚇射撃だから当ててはこないでしょうけど、あまり時間がないわ。慌てず正解に、できるだけ急いで頂戴」

 

「まったく、無理を言いますね、霊夢さんは。まぁ、言われなくてもやりますけど、ね……!」

 

 ワープドライブにエネルギーが注がれていき、今は動かない主機であるインフラトン・インヴァイダーのそれとは違った独特の振動が伝わってくる。

 

 《前方の未確認艦に告ぐ。直ちに停止し此方の指示に―――ザザッ》

 

 通信機から、耳障りな通信が入った。

 

 私は微塵の躊躇いもなく、その電源を落とす。

 

「―――御免なさい、煩い野郎の声なんて聞きたくないでしょう?」

 

「クスッ、相変わらず乱暴ですね、霊夢さんは。そういうところ、素敵ですけど」

 

 私の軽口に、早苗が口元を緩めて不敵な笑みを溢す。きっと私も、同じような顔をしているだろう。―――まるでこっちが、悪の女海賊みたいだ。………女海賊、か。悪くない響きね。

 

 ただ敵さんは強引に警告の通信を打ち切られてトサカに血が昇ったのか、またレーザーを撃ってきた。しかも今度は、威嚇射撃を通り越して当たりそうなコースで数発、撃ってきてる。

 

「敵第二射、来るわ。今度は近くを通りそう」

 

 敵パトロール艦隊から放たれたレーザーは、此方が停船はしているにも関わらず至近を僅かに擦めただけで通り過ぎた。敵のレーザーがすぐ近くを通過した衝撃で、僅かに艦が揺れる。………あれは本気で当ててきそうな気配だったから、単に腕が悪かっただけか、それとも最初からこれも威嚇のつもりだったのか―――――ともかく、どちらにせよ次は当てられることは確実だ。

 

「………次は多分当たるわね。早苗、首尾はどう!?」

 

「はいッ!只今完了致しましたっ!―――跳びますよ、霊夢さん!!」

 

 早苗が勢いよく椅子を蹴って、それごと予備操舵席の位置まで移動する。

 移動し終えた彼女は予備操舵席のレバーを思いっきり引き倒して、艦をワープ態勢に移した。

 

「……クラスターミサイルね。厄介なものを」

 

 敵の第三射は、レーザーではなく命中率が極めて高いクラスターミサイルの群れだった。

 敵3隻から放たれた無数のクラスターミサイルが、ワープ態勢に入った〈開陽〉に殺到する。

 

「だけど…………少し遅かったわね!」

 

 敵ミサイルが、猛烈な勢いで〈開陽〉を轟沈せんと目前に迫る。―――だが、それよりも僅かに早く、〈開陽〉の艦体は超空間に吸い込まれた。

 

 ミサイルの残像が一気に遠くなって、その代わりに星々が白い尾を引く。

 

 センサーの視界が白に包まれたかと思うと、景色はそのすぐ後には青白い超空間へと変貌していた。

 

「………ふぅ、間一髪でしたね」

 

「言ったでしょ、どのみち上手くいくって」

 

「……でも、まだ何処に出るかは分かってませんよ、霊夢さん」

 

「なぁに、そんなの気にすることではないわ。私と早苗の幸運なら、離れた仲間の近くに出たりしてね」

 

「ふふっ、そうなるといいですね♪」

 

 事を成し終えた達成感からか、よく口が回る。それは早苗も同じようで、彼女も上機嫌な様子で言葉を返してくる。

 

「さて―――超空間にいる間は当分暇だし、生き残りのドロイドにでもフネの修理をさせておきましょう」

 

「そうですね。指示は私から飛ばしておきます。それはともかくとして……霊夢さんはどうするんですか?」

 

「ん、私?―――う~ん、私は機械弄りとか得意じゃないし、適当に神社でゴロゴロしてようかしら」

 

 早苗に今後を訪ねられて、私は反射的にそう返した。どのみち修理はドロイド達に任せる他ないんだから、しばらく私の出る幕はない。

 

 何の考えもなく惰性で神社に戻ろうとしたとき、早苗から、突拍子もない言葉が飛び出す。

 

「―――じゃあ、さっきの続き、しませんか?」

 

 ………え?

 

 一瞬、頭が混乱して硬直する。

 

 それはどういう意味か、とやっと硬直から抜け出して問い質そうとしたとにきは、既に早苗の顔は私のすぐ近くまで迫っていた。

 

「言ったじゃないですか。唾液じゃ血に比べたら気休め程度にしかならないって」

 

「だ、だからってこれは幾ら何でも早すぎ……んぐっ!?」

 

 恥ずかしさのせいか、早苗から顔を背けようとするもすぐに彼女の両手に顔面を固定されて、強引に唇を奪われる。

 

 やっぱりこいつ……絶対楽しんでるでしょ――!!

 

「だ~め。逃がしませんよ、霊夢さん。……このフネにいる限り、逃げ場なんて無いんですから………」

 

 一度唇を離した早苗が、耳元で囁いた。

 

 普段のような、少女然とした溌剌な調子ではなく、蕩けるような、女の低くて甘い声………それも、魔女の誘惑を連想させるような、とびっきりたちの悪い部類の。

 

思わずゾクリ、と、身体が震えてしまう。幾ら理性で押さえつけても、本能は期待に満ちて犯されるのを待っているみたいだ。

 

「さぁ………楽しみましょう、霊夢さん。――貴女は何も考えずに、ただ沈んでいけばいいんですから……」

 

 ぞくり、と背筋に電流が走る、

 

 早苗の締め付けが強まって、再び唇が塞がれた。

 彼女の舌が、反射的に閉じた唇を強引に抉じ開けて押し入ってくる。

 

 ぐちゅ、ぬちゃり………

 

 蔦のように早苗の舌が絡み付いてきて、背徳的な水音を立てる。

 

 シュルシュル……と、いつの間にか身体にもナニカが蛇のように巻き付いてきた。脚から太腿、そして腰へと、それは這い上がって私達を締め上げていく。

 

「ん……ぐっ………!」

 

 ぎっちぎちに締め付けられて、全身を早苗の身体に圧迫される。早苗の胸に肺を押し潰されて、唇は早苗に塞がれたて、まともに息すらできなくなる。

 

「うっ………ツ!?」

 

 ―――また、あの感覚だ。

 

 魂が内側からバラバラに溶けていくような、あのおぞましい感覚。

 今度ばかりは、気を失ってしまいそう。

 

 早苗は変わらず、私の霊力を貪り続けている。

 

 必要なことだと分かっていても、こうも甘美だと………

 

「ん、ぐっ………んんっ………ッ!!」

 

 

 ―――私が傍に置いていたのは陽気のような友人ではなくて、獰猛な毒蛇だったのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククッ、遂にあの巫女は受け入れたみたいだねぇ」

 

「―――そのようだな。だが、あれで良かったのか?特に早苗は………」

 

「大丈夫大丈夫。元から早苗だって乗り気だったんだし。それに、もし博麗の巫女が此を受け入れてくれたなら、あれも喜ぶじゃないか」

 

「それもそう、か……。確かに、悪い話ではないな」

 

「だろう?―――ふっふっふ、この神社が我等のものになるときも、そう遠くはないかもねぇ」

 

「………だな。この先は、あの娘に期待するとしよう」

 

 偽りの朱月が照らす神社の一角、風すら凪いだ人工の庭で、二柱は妖しく劃策する…………

 




ずぶずぶと沼に嵌まっていく霊夢ちゃん。もう抜け出せません。魔性な早苗さんを傍に置いてしまったのが運の尽きです(笑)


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第八三話 博麗神社乗っ取り計画

 ~???~

 

 

 原初の輝きを放つ、産まれたばかりの赤い恒星……その周りでは赤く燃え上がるマグマの原始惑星と、無数に位置する小惑星が絶えず恒星を取り囲み、公転する。

 

 小惑星同士の衝突など日常茶飯事、時には惑星サイズの天体でさえ衝突し、より巨大な惑星へと変貌するか元の小惑星にまで強制的に退化させられる。

 

 ………また、一つ、灼熱の原始惑星同士が衝突し、その破片を原始星系に撒き散らした。

 

 そんな赤い世界の中に、場違いな白い氷の霧が沸く。

 

 霧は次第に渦を巻き、中心からボロボロな金属の塊が吐き出された。

 金属の塊―――フネの残骸は、灼熱の世界に身を任せるように小惑星の間をゆらゆらと漂っていく……。

 

 

 

 

「ん………あ………、ん"~~っ、と………あ、霊夢さん霊夢さん、通常空間に出たみたいですよ!」

 

「ううっ………さなえ、もっと…奪って―――」

 

 艦が通常空間に出たことでワープアウト完了の信号をフネからキャッチした早苗が、未だに寝惚け眼な霊夢をしきりにゆすって起こそうとする。当人も寝起きなのにテンションが高いのは生来の気質か、はたまた機械の身体の影響か。

 

 そんな早苗に揺さぶられて、流石に霊夢も、次第に瞼を開けて目を覚ましていく。しかし早苗のように起きてすぐに覚醒できる筈もなく、その表情は未だに夢の中にいるようだ。未だに寝言すら吐いている。

 

「………霊夢さん?」

 

 ふと霊夢の口から零れた寝言に、早苗は首を傾げる。が、その意味を理解した彼女は、幼子を慈しむような、それでいて氷のような冷たさを併せ持った微笑を浮かべる。

 

 霊夢がむくっと起き上がって夢の世界から帰ってくると、早苗は自身の心に芽生えた邪な征服感を、ひっそりと胸の奥底に仕舞う。

 

「んっ…………あ、おはよーさなえ。………ワープは終わったの?」

 

 ゆっくりと起き上がった霊夢は、目を擦りながら早苗に尋ねた。先程までどのような夢を見ていたのかなど、本人はとうに覚えていない。

 霊夢の寝言をそっと心のうちにしまった早苗は、真顔に戻り普段通りの仕事モードで霊夢に応える。

 

「お早うございます、霊夢さん。―――はい、ワープアウトは完了したみたいです」

 

「そう………それで、何処に出たの?」

 

「いま映像を出しますね」

 

 夢の世界から完全に覚めた霊夢は、寝ていた椅子に腰掛けたまま早苗に尋ねた。―――1日のうちに何度も早苗に奪われ尽くされて、未だに倦怠感が抜けないのを隠して平静を装う。

 

「あ、カメラ繋がりました。そろそろ出ると思います」

 

 早苗がそう告げた数秒後に、艦がワープアウトした星系の様子が艦長室に備えられたモニターの一つに映し出される。―――その映像を見た霊夢は、眉間に皺を寄せた。

 

「………とても、仲間がいるようには見えないわね。ヤッハバッハを撒けただけでも幸運と考えるべきか」

 

「ですねぇ………。ただ、この宙域は小惑星がゴロゴロしてますから、艦の外殻への損傷が心配ですね。いまはデフレクターもありませんし、既に小さな微惑星が何個か外壁にぶつかってるみたいです……。まぁ、よほど大きなやつが当たらない限りはフネが完全に破壊されることは無いと思いますが」

 

「―――博打の結果としてはそこそこの引きか……。早苗、補助エンジンはまだ十分に動く?」

 

「はい―――。一基だけなら何とかなりそうです」

 

「一基、か………。まぁ、動くだけでも良しとしましょう。補助エンジンがまだ動くなら、自動航行で星系内を適当に回るよう指示しといて。あとヤバいサイズの小惑星には当たらないよう注意してね」

 

「了解です」

 

 霊夢から指示を受けた早苗が、早速まだ生きてる艦内ネットワークを通じて〈開陽〉のコントロールユニットに指示を打ち込んでいく。

 

 ボロボロの〈開陽〉は、その巨体に不釣り合いなほど小さなノズルを一基だけ吹かして、重い身体を引き摺るように航行を再開した。

 

「……ああそうだ、私が寝てる間に修理はどれくらい進んだの?」

 

「そうですねぇ………主機の修理作業は順調みたいです。あと1日もあれば、何とか動かせる程度には回復するかと」

 

「―――それは良い知らせね。……他の装置の状況は?」

 

「はい、デフレクターユニットは予備の対デブリ用が無事ですから、主機の修理が完了次第動かせると思います。………メインのデフレクターは吹き飛んで爆発四散しちゃってますけど。ですから大型の小惑星には注意しないといけないですね」

 

「……この状況で、高性能なモジュールのデフレクターが使えないのは痛いわね。まぁ機関があのザマだから、あっても気休め程度でしょうけど」

 

 デフレクターユニットには、元から艦船の設計に組み込まれている小型のユニットと、モジュールで設置される対質量弾、大型デブリ用の二種類がある。前者は航行に必要最低限度な設備として艦船の設計に予め組み込まれているものなのだが、後者は艦長のカスタマイズで艦船に設置されるタイプのものだ。〈開陽〉のそれは元からあるユニットでも比較的高性能なものなのだが、小惑星がゴロゴロと転がるこの原始星系を漂うには、やはり後者のモジュールがないとフネに乗る身の霊夢としては不安に感じられたのだ。

 

 ただ、本人が口にした通りデフレクターのエネルギーは主機のインフラトン・インヴァイダーから供給されるものなので、エンジン出力が大きく落ちた今の〈開陽〉にはあっても宝の持ち腐れにしかならないのだが……。

 

「ですねぇ……あと、APFシールド発生装置は完全に駄目です……肝心の装置自体がいかれちゃってますから。だから今後も戦闘は禁物ですね。レーダー類は今のところ最低限機能していますが、破壊された艦橋部の復旧も目処が立っていない状態です………」

 

「ということは、まだ仲間に連絡を取ることもままならない、と………。孤立無縁なのは変わらずね」

 

「はい………申し訳ありません………」

 

「別にあんたが謝ることじゃないわ。エンジン復旧の目処がついただけでも僥倖ね。とりあえず、この星系に使えそうな資源が無いかだけは調べておきましょう。確か、サルベージ装置一式は無事だったでしょ?」

 

「はい、鉱物センサーも採掘機器も無事だったとは思いますが……」

 

 原始星系とはいえ星系は星系である。当然何もない宇宙空間に比べたら遥かに資源は豊富だ。少しでも艦の修理の足しになるならばと、霊夢は資源調査の指示を出す。何しろ〈開陽〉の備蓄物資は艦の前半分が丸ごと吹き飛んでいるので食糧以外のあらゆるものが不足しているのだ。幸いにして艦内工場は無事なので、主機さえ稼働すれば、あとは資源があれば大抵のパーツは作れるのだ。

 

「よし、なら決まりね。楽しいお宝探しの時間にしましょう」

 

「了解ですっ」

 

 元よりこの巫女、お宝になるものには目がない性格なのだ。久方ぶりに少女らしい笑みを浮かべて、星系内の資源に対して期待を膨らませていく。早苗も早苗でそうした霊夢のノリは割と好きなので、二人して稼働させたばかりのサルベージシステムから送られてくる情報に釘付けになる。

 

「………ないわね」

 

「まだ動かしたばかりですからね。気長に待ちましょう、霊夢さん」

 

「ま、それもそうか。んじゃあ自動監視モードにしといて、何かあったときは通知を入れるようにセットして、と………」

 

 とはいえサルベージとは釣りのようなものである。張り切ったからといって獲物がすぐに掛かる訳でもない。

 何も目新しいものがない画面など眺めていてもつまらないだけなので、最初の張り切りようは何処へやら、霊夢はサルベージ作業を機械に丸投げしていつものように何をする訳でもなく、ただ椅子に腰掛けて惰眠を貪る時間に入った。

 

「…………暇ね」

 

「そりゃそうですよ。何かある訳でもないですからね」

 

 状況を打開するにはやるべきことは山ほどあるのだが、その内訳は大半が機械弄りだ。生憎霊夢にはそれらをこなせる知識などは無いものだから、作業全てを機械に丸投げすることしかできず、結果的に暇な時間ばかりが過ぎていく。

 

「悪いことはこれ以上起こって欲しくはないけど、暇すぎるというのも考えものね……早苗、なんかないの?」

 

「えー、突然私に振られましても………」

 

 昔から普段は暇な時間ばかり過ごしていた霊夢なので、暇なことには慣れているのだ。ただ午睡とお茶に興じていれば適当に魔理沙なんかが来たりして、適当に過ごして帰っていく………そんな毎日を送っていたので、霊夢としては特に何か考えたわけでもなく早苗にそんな言葉を投げた。

 

 ………が、この緑の巫女は霊夢とは違って何処かズレた性格とはいえ根は真面目なのだ。それも大好きな霊夢に言われたとなれば動かない訳にもいかず、如何にして霊夢の暇を潰そうかと真剣に考え込む。

 

 ―――だが、何処かで思考のポイントレールがあらぬ方向に切り替わったのか、早苗は意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「じゃあ………"また"しませんか?」

 

「へ―――?」

 

 早苗の変貌に、霊夢は一瞬の困惑に囚われる。

 

「だ・か・ら………あれの続き、しませんか?」

 

「あれって………っツ!?」

 

 その意味を理解した霊夢は、一瞬で茹で蛸のように赤く染まる。

 

 ―――早苗の思考は、哀れ煩悩という名の海へと脱線してしまっていた。

 

「ちょっ………何考えてるのよあんた!」

 

 霊夢が逃げ出すのよりも早く、早苗は霊夢の両手を椅子に押さえつけて上に乗る。

 

「えー、嫌なんですかぁ~霊夢さん。………あんなに気持ちよさそうにしてたのに」

 

「それとこれとは別!それに………あんたに奪い尽くされたお陰で、まともに体力も残ってないんだけど」

 

 あれだけやっといてまだ足りないのか……と霊夢は呆れも交えて、すっかりその気な早苗に抗議する。が、本気で拒絶してない辺り当人もすっかり早苗との行為に魅せられてしまったようだ。……尤も、それを当人に言えば全力で否定してくるのだが。

 

「そうは言いつつも、霊夢さんだって期待してるんじゃないですか~?」

 

「だ、誰がそんなこと………」

 

 理性では否定しても、身体は正直なのだ。早苗に耳元で囁かれて、霊夢の身体がびくん、と跳ねる。

 

「……あと、唾液じゃ効率が悪い、って言いましたよね――。だから、霊力ならまだたらふく残ってる筈ですけど………」

 

「だからって、1日に何度もすることはないでしょ!少しは休ませなさいよ!………ただでさえ、体力使うってのに―――」

 

 霊夢としては、休みたいというのもまた本心だった。幾ら病みつきになるほど破滅的で倒錯的な行為とはいえ、早苗とは違ってそう簡単に煩悩に身を沈めたりはしない。

 

「えー、折角二人っきりなんですから、今のうちに楽しんでおきましょう霊夢さん」

 

「………何よ、楽しむって。建前はそういう行為じゃないでしょ」

 

 どうしてこんな娘に育ったのか、と霊夢は彼女の親代わりの二柱に内心で呪詛を飛ばす。あんたらの教育のせいなのだから、今一度しっかり教育しておけ、と。

 だが早苗の敬愛する二柱は、空気を読んで姿を現さない。仮に霊夢が二柱に助けを求めたとしても、寧ろ早苗の応援に回るだろう。

 

「折角やるんですから、気持ちい……じゃなかった。楽しい方が良いに決まってるじゃないですか。―――ね、いいでしょ、霊夢さん」

 

「―――っ、ああもう、好きにすれば良いでしょ!ほら、やるならさっさと済ませなさい!」

 

 低い女の声で、早苗が囁く。

 

 びくん、と、期待を膨らませるように霊夢の身体が跳ねた。

 

 結局は早苗の押しに負けて、渋々と霊夢は承諾する。こうなったらどう足掻いても早苗は無理矢理自分を貪り喰らうことは、彼女の経験則上分かりきったことだった。ならばこれ以上の抵抗は無駄だと、早苗に身を任せることを選択する。………そうやって甘やかしていることが、早苗をつけ上がらせているのだと分かりながら。

 口ではそう言いこそすれども身体は全く拒まない辺り、すっかり霊夢も早苗の虜になってしまっていた。だが、言葉ではいかにも仕方なくと言ってるようだが、本心は別にあることを早苗は見逃さない。

 

「やっぱり嫌がってなんかないじゃないですか。………滅茶苦茶にされるの、好きな癖に」

 

「………変態。あくま。この色情魔」

 

「ふふっ、どうとでも言ってください。―――そのうち何も、言えなくなっちゃうんですから」

 

 自分でも楽しみたい、という早苗の言葉を霊夢は押し殺す。―――確かにそれは事実だと薄々感付いている霊夢だが、頑なにそれだけは認めない。霊力供給は早苗の為に必要なこと、と言い訳のように霊夢は内心自分に言い聞かせる。………そうでもしないと、あの行為を正当化できないからだ。

 

「………では、失礼―――!」

 

「んぐっ!?」

 

 霊夢の葛藤などいざ知らず、すっかり自分のものにした気でいる早苗は人工重力に身を任せて、一気に身体を霊夢に墜とる。その勢いで霊夢の唇に襲いかかって中身を貪る。

 

 霊夢はただ、この甘い地獄を耐えることしか出来なかった……

 

 

 

 ............................................

 

 ......................................

 

 .................................

 

 ...........................

 

 

 

 

「うっ……からだが、うごかない………」

 

 ピーっ、ピーっ、とけたたましく鳴り響く呼び出し音で強引に起こされて、不機嫌さを感じながら目を開ける。

 

 人が気持ち良く寝てたのに余計なことを、と思いながら身体を起こそうとしたが、腕に思うように力が入らなくて身体は椅子に引き戻されてしまう。

 

 え、何で……と一瞬焦ったが、すぐにこの事態を招いた下手人に思い当たった。

 

「あら、霊夢さん、どうかされましたか?」

 

 何事も無かったかのように平静な態度を取るこの緑色の色情魔―――早苗を睨みつけた。

 

 そうだ、そもそもこいつが自重を殴り捨てて全力で貪りにきたのが悪い。いい加減疲れているというのに少しも休ませてくれなかったものだから、途中で気絶したまま寝てしまっていたようだ。

 

「………あんたのせいで立てなくなったわ。責任取りなさい」

 

「霊夢さん、案外体力無いんですね……ちょっと意外です。責任なら大丈夫ですよ?霊夢さんはちゃんと私が娶ってあげますから」

 

「そういう問題じゃないっての!」

 

 ああもう、なんでこの娘は何でもそっちの方向に持っていくかなぁ…!

 

 早苗は私が立てないのをいいことに、椅子の上でぎゃんぎゃん吠えることしかできない私を見て意地の悪い笑みを見せた。

 

「クスッ、霊夢さん、可愛いです♪」

 

「くっ、今に見てなさいよ早苗……!!」

 

 今度ばかりは退治してやる!とヤケクソ気味に考えたところで、今の力関係が変わるわけでもない。甘やかすんじゃなかったと今更ながら後悔したところでもう遅いのだ。

 

「とにかく!今日ばかりは休ませなさい!あんだけ食ったならもう大丈夫でしょ!?」

 

「そうですか……そこまで言うなら少しは我慢してあげますけど――――。じゃあ、お楽しみは明日の夜、ということで。期待してて下さいね?」

 

 早苗がぐいっと顔を近付けて、耳元で囁いた。

 

 豹変した早苗の声に、ゾクリ、と身体が震えてしまう。

 

 ――ああもう、そうじゃないのに!あれは必要だからやってることで、決してそういう意味じゃないんだから………

 

 頭では拒んでいるのに、身体は早苗のことしか考えられなくなっていく。霊力供給の度に、喰われる代わりに早苗から毒を盛られて内側から犯されていく。今更それを理解したところで、もう何も出来ないのだ。

 

 早苗にいいように手玉に取られたまま、というのは不愉快だけど、もう私がどうこうできるレベルを越えてしまっている。なんであのとき早苗に身を任せてしまったのかと思わなくもないけれど、あれが必要不可欠な行為である時点でこうなることは確定していたのだ。………もう、諦めて蛇に喰われるしかないのだ。

 

「………もう早苗になんか負けないんだもん」

 

「あらあら、負け惜しみですか霊夢さん。それはフラグってやつですよ?」

 

「……言っておきなさい。あれは必要だからやってるだけなんだから。絶対気持ち良くなんかならないんだから」

 

「私は霊夢さんにもっと気持ち良くなってほしいです。だから―――感じられないというのなら、もっと激しいこと、しちゃいますよ?」

 

「………っ!?」

 

 ―――駄目、勝てない。行為のときだけじゃなくてもすっかり手玉に取られてしまっている。弱みを握られてしまった。

 

「――もう終わり!次の話に入るわよ!」

 

「つまらないですねぇ~霊夢さん。自分が勝てないからってそうやって……」

 

 勝てないと分かったから、強引に話の流れを打ち切る。早苗の言葉なんか無視――無視よ。

 

「っ…………早苗、さっきアラームかなんか鳴ってたでしょ。あれは何だったの?」

 

「あのアラームですか?はい、どうやらサルベージシステムに何かが引っ掛かったみたいです。フネはそこに向かって転進してます」

 

 用件を告げたら、思いの外すんなりと応じてくれた。これだけ見れば、普段の早苗と何ら変わりはない。

 

「駄目元だったんだけど、引っ掛かったんだ……やっぱりものはやるに越したことはないわね」

 

「そうですねぇ~。その反応もそこらの小惑星とは比べ物にならないぐらい大きなものだそうですから、これは期待が持てそうです」

 

 動けない私を気遣ってか、早苗がデータを表示したホログラムのモニターを私に寄越してくれた。

 

 場所は……どうやら星系の外縁部にあるらしい。恒星を挟んで反対側にあるみたいだから、フネは今一番危険な小惑星が密集している星系の中心部を突っ切っているようだ。まぁ、この艦の自動航法装置なら何とかなるでしょう。いつぞやのメテオストームなんかに比べたら、こんなの凪いだ海のようなものだ。

 

 そして肝心の反応なのだが、推定される資源の量を見てみると何と戦艦を何十隻作っても有り余る程に密集していた。

 ………これは、とんでもない当たりなのかもしれない。

 

「早苗、これ………」

 

「ふっ、霊夢さん、本当に運が良いですね!これは大当たりですよ!」

 

 早苗も早苗で、興奮を隠しきれない様子だった。

 

 これは、ますます期待度が高まる。

 

「よし―――こうなったら全速前進あるのみよ!お宝目指してレッツゴー!!」

 

「アイアイサーです霊夢さん!燃えてきましたぁ~!」

 

 しばらくフネの大部分が壊れていたことすら忘れて、ついはしゃいでノリで最大船速を機械に命じてしまう。確かにフネは進んでいるのに、それがひどく遅く感じられる程にテンションが上がっていた。(実際補助エンジンだけだったから遅いことには遅いんだけど……)

 

 そして、気がついたら私の身体は普通に動くようになっていた。

 

「ふむふむこれは――なんなのかさっぱり分からないねぇ」

 

「英字の欄を無理して見ようとするからそうなる。ようは、フネに必要な資源がそこにあるということだろう?」

 

「そうなのそうなの。それもザックザクな量が―――」

 

 あれ、何で………

 

「成程な。それは僥倖というものだ。死中にも光有り、だな」

 

「こいつの運は昔からずば抜けていたからねぇ。いや、この場合は私達の加護の分も含まれてるのかな?」

 

 何で、こいつらがこの場所に……

 

 

「なにしれっと混ざってるのよ!早苗んとこの神二人!!」

 

 

「あ、神奈子様に諏訪子様。お早うございます」

 

「おはよー早苗。いやぁ、良い朝だねぇ」

 

「今更朝も何もないだろう。して早苗、件の進行は順調か?」

 

「はい、それは勿論!あと一押しです!」

 

「無視すんな!!」

 

 加えて早苗は早苗でしれっと二人に混ざってるし……ここの!艦長は!私!なの!先ずは私に声を掛けるのが先でしょうが!!

 

「そう怒らない怒らない。折角可愛いのが台無しだ」

 

「何が可愛いよ。心にもないことをよく言えるわ」

 

「ところで、早苗が世話になったみたいだな、博麗の巫女」

 

「そうねぇ、そりゃどうも―――って、あんたらあの娘にどういう教育してきたのよ!?お陰でこっちは大変なんだから!」

 

 そうだ―――こいつらが現れたのなら都合がいい。あんたらの風祝が節度を知らんお陰でこっちは大迷惑なんだから!!

 

「ん~?教育かい?………ふふっ」

 

「あ"ーこんのアホ神が!!」

 

 この両神にしてあの娘あり、か。………絶対諏訪子のせいだ。コイツの悪い部分、全部早苗に引き継がれてやがる。……直系らしいからそれも当然、か。

 

「ああそうだ、博麗の巫女。先程艦内を漁ってきたのだが、この身体、丁度良さそうだったので頂いたぞ」

 

「いやぁ、実体があるってのは良いねぇ。あの科学者様々だ」

 

「あ、神奈子様と諏訪子様もその義体(からだ)を手に入れられたんですね!これで本当に一つ屋根の下ですね!」

 

「うんうん、これからもよろしく頼むよ、早苗」

 

 あ、これは厄介事の種が増えたパターンだ………

 

 よく見ると神奈子と諏訪子の身体は以前のように透けてはおらず、幻想郷に居た頃のように実体を持っている。…………話の内容から察するに、どうやらサナダさんの研究室にあった義体をちょろまかしてきたのだろう。部屋の持ち主が居ないことを良いことに、好き勝手物色したに違いない。

 

「という訳だから、早苗共々、これからよろしく頼むよ、博麗の巫女」

 

「我等とて、協力できることは協力しよう。まぁ、この神社は借りることになるがな」

 

「ハイ、よろしく…………」

 

「ふふっ、お二人と一緒に霊夢さんの神社に………これはもう、霊夢さんとは家族と言っても過言ではありませんね!」

 

 もう、反論する気が起きないわ………

 

 あの守矢、何度も異変に噛んでいた守矢にうちの神社が乗っ取られるなんて………きっとこいつら、何か企んでるに違いない。多分。めいびー。

 

 何も、起こらなきゃいいんだけど………

 

 

 

 

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「霊夢さん霊夢さん、もう少しで問題の宙域ですよ」

 

「……長いようで、短い道程だったわね」

 

「これも我々の加護の賜物というものだ」

 

「感謝してくれよ、博麗の巫女」

 

「…………ふん」

 

 いよいよ、問題の反応があった宙域だ。

 

 途中にあった小惑星や、そこそこ資源がありそうな原始惑星すら無視して一直線に向かってきたのだから、当たりでなければ困る。外れだったらそれこそ、誰かに八つ当たりしてしまうかもしれない。

 

 口うるさい神々は、この際無視する。

 

 ―――そうだ、折角だからハズレだったときはこいつらをサンドバッグにするか。どうせ一度退治してるんだし、一度や二度の違いなど大したことはないだろう。

 

 次第に小惑星の量が少なくなり、光学センサーの視界が晴れていく。

 

 私達は食い入るように、問題の宙域を映した映像を凝視していた。

 

「これは…………」

 

 最後の小惑星が退いて、遂にその資源地帯の姿が明らかになる。

 

「………大きな、フネ?」

 

 細長い角形の塊に、それよりも小さめな、やはり細長い金属の塊。灰色のそれらは、時折光を反射して光沢を放つ。所々破壊されたようにバラバラになっていたり千切れていたりはするものの、全体的な形はよく残っている。

 

 それは………どこからどう見ても、明らかに人工物、それも巨大な複数のフネだった―――。




早苗さんに続いて守矢勢がハッスルし始めてしまいました………博麗神社の明日は如何に!

ちなみにご両神の義体は早苗さんと同タイプです。サナダさんが居ないのをいいことに研究室から拝借しました。早苗さんと違って信仰さえあれば分霊は維持されるので、霊力供給は必要ありません。

早苗さん+かなすわ様が住み着いてる博麗神社は実質守矢神社………


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第八四話 古の方舟

「何………あれ。フネ、なの………?」

 

 画面に映し出された"それ"を見て、思わず息を呑む。

 

「………全長で20km以上はありますね。フネというより、要塞みたいです」

 

「しかし、形は宇宙船そのもののようだが」

 

「移民船、ってやつなんじゃないのか?ほら、大昔にそんな船作って大量に飛ばしてたって話じゃないか」

 

「ふむ……確かに、いつの時代かは忘れたが小耳に挟んだことがあったような……」

 

 神奈子と諏訪子の二人も、身を乗り出してモニターに映し出される光景に見入っていた。お互い押し退け合うような体勢で固まったまま、食い入るように画面を眺めている。

 

「移民船、か。―――そういえば、前サナダさんが大昔の移民船の話をしていたような……」

 

「始祖移民船、ですか?」

 

「そう!それそれ。もしかしたら、こいつもその類のやつなんじゃないの?」

 

「あり得ないことではないと思いますが、そこは詳しく調べてみないことには分かりませんねぇ。とりあえず、艦を近付けてみましょう」

 

 だいぶ前のことだったと思うが、確かサナダさんがそんな話をしていたのを思い出した。今から一万年以上前に、地球から巨大移民船が続々と出発して、その大半は住んでる人間が絶滅して滅びたという話だったと思うのだけど、目の前にあるこの巨大船も、もしかしたらそんな移民船のなかの生き残りなのかもしれない。

 

「ん、了解。こんなお宝、調べない訳にはいかないものね」

 

 〈開陽〉の艦体がゆっくりと転舵して、問題の巨大船に接近していく。

 巨大船との距離が近づいていくにつれて、モニターの画面には次第に細部も鮮明に映し出されるようになっていった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 全体としては箱形の船体だが、外装には曲線と直線を組み合わせた有機的なデザインが見られた。船体の前部下方には装甲がなく、シャッターを下ろされたような意匠の内装が露出している。船体の左右と下部に突き出している六角形の意匠を持った部分は、ドッキングポートの類だろうか。特に下方のそれは、後方に浮いている中型の船(中型といっても、問題の巨大船と比べてであってそれ自体かなり大きいのだけど……)が元々ドッキングしていたように見えなくもない。結合部らしきものが剥離して、その周囲にデブリとなって浮かんでいた。よく見ると、船体の上方にもドッキングスペースがあったような跡が見られた。

 

 船の色は紅色と薄紫のツートンカラーで、恒星や天体の発する光が反射されて時々輝いて見えた。船底の装甲がない部分は機械の地の色が露出している。他にも航海灯っぽいものが点いていたりプロジェクターっぽいものが緑色に光っていたりする辺り、フネの機能自体は生きているのかもしれない。

 

「―――大きいですねぇ」

 

「そうね………これ、20kmじゃあ収まらないんじゃないかしら」

 

「んーと、ちょっと待ってください…………あ、霊夢さんの言うとおりですね。全長は約33kmあるみたいです」

 

「33kmか……大きすぎて、どのぐらいのサイズなのか逆に見当もつかなくなるわ」

 

「えーっと、確か本来の〈開陽〉が全長1600mだった筈ですから、全長だけでもざっと20倍ぐらいでしょうか?体積まで含めたら、大まかに見積もっても8000倍ぐらいでしょうねぇ」

 

「は、8000倍………」

 

 あまりのスケールの違いに、目眩がしてしまいそうな程だ。

 考えてみれば、移民船は都市一つ丸ごと載せて何世代も重ねて宇宙を旅したフネなのだ。だからそれだけ大きくても別段不思議ではないのだけれど………

 

 それでもやはり、目の前の巨大船の迫力にはただただ圧倒される。日本という国の中でも箱庭の小世界に過ぎなかっただろう幻想郷など、このフネ一隻のなかに丸々収まってしまうのではないだろうか。

 

「ん………奥の方にも、壊れてるやつが幾つか浮かんでるみたいだねぇ」

 

「本当だわ………艦隊、だったのかしら」

 

「艦隊、というよりは船団だろうな。恐らく複数の移民船で巨大な移民船団を形成していたのだろう。一際でかいこいつは、さしずめその旗艦、といったところか」

 

 さっきまでは小惑星の陰になっていたりしてよく見えなかったのだけど、言われてみれば確かに小惑星や微惑星に混ざって明らかに人工物だったモノが幾つか浮かんでいた。

 それらの大半は船体が真っ二つに折れていたり、はたまた船体の一部や大部分が欠けていたり、或いはエンジンらしき部分のパーツだけが浮かんでいたりと死屍累々な状態だったが、例の巨大船周辺に浮かんでいた何隻かは奇跡的にほぼ原型を留めていた。

 

「見たところ、あの巨大船以外の移民船らしきフネにも二種類あるみたいですねぇ。小型タイプの方は大体8000m、中型は約15000m級みたいです」

 

 船団を構成していたと思われるフネのなかでも、一番数が多かったのは小型タイプのフネだった。それらは旗艦と同じように直線を主体にしながらも、一部に曲線を交えたりして有機的な意匠を感じさせるデザインのフネ達で、その大半が小惑星とぶつかったりでもしたのか壊れているのが殆どだった。

 もう一方の中型タイプは直線主体で、精練された宝石を細長く引き伸ばしたような角形の船体にエンジンブロックと司令塔を取り付けたような艦影をしていた。こちらは小型タイプと比べたら流石に頑丈だったのか、画面に見えている3隻のうち2隻は外観をよく留めている。

 

「しかしまぁ、これだけフネが破壊されてるなかでこのデカブツ、よくこんなに綺麗に残ってたわねぇ」

 

「そうですねぇ……外装にも多少の凹みや剥離している部分は見られますけど全体としては綺麗ですし、つい最近この星系に流されてきたのかもしれません」

 

 

「確か、移民船が地球を出発したのは一万年以上前だったか。―――そこまで来れば、私達とこいつが過ごしてきた時間の差など、多少の差に過ぎないだろうな」

 

 船団ごと滅亡して、一体どれくらいの時間が経っているのだろうか。どこかの星系に流れ着くぐらいなのだから、千年単位で時間が経っていそうな気もする。それこそ、月の連中と肩を並べられるぐらいにはこの宇宙を漂っているのかもしれない。

 

「何千年も旅を続ける宇宙船、かぁ………。私には、想像もつかない時間ねぇ………」

 

 画面に映し出される巨大船の光景を眺めながら、目の前のフネが過ごしてきたであろう悠久とも言える時間に思いを馳せる。このフネは、今まで一体どれだけの人間の生を眺めてきたのだろうか。仮に今までの航海の中程で船団が滅びたのだとしても、あの賢者を越えるぐらいにはこの移民船団(箱庭世界)で繰り広げられた営みを見てきたのかもしれない。

 

 そういえば………このフネが地球を旅立った頃には、幻想郷はまだ存在していたのだろうか。在ったとしても、その在り方はどれほど変わっていたのだろうか。

 

「………博麗の巫女といえども、けっこうロマンチストなんだねぇ」

 

「でしょうでしょう諏訪子様!霊夢さん、クールでぶっきらぼうに見えても意外と女の子なんですよ。そこがまた魅力的で………」

 

「………そこ、余計なお世話!」

 

 全く、失礼な連中だ。私だって浪漫の一つ二つは惹かれたりもする。冷血で現金な女なんかじゃないんだもん。………そこまでは、堕ちていない筈だ……。

 

「ふぇっ!?ひゃ、ひゃいつ………」

 

「ハハッ、こいつめ、すっかりお前の虜じゃないか。―――なぁ博麗の巫女、ちゃんと責任は取ってくれるんだろうねぇ?」

 

「ちょ……、何よ諏訪子!責任って………」

 

 唐突に寄りかかってきた諏訪子が肩に手を掛けてきて、耳元で囁かれる。

 

「責任って………むしろこっちの方が取って欲しいというか……」

 

 そもそも、責任って何なのよ。あるとしたら、それは早苗をこんなふうに育てたあんた達でしょう。お陰でここ数日はずっと倦怠感に襲われたままだ。………普段は基本いい子なのはせめてものの救いだけど。

 

「ほぅ?寧ろおまえさんの方が責任を取って欲しいと―――なぁ聞いたかい、早苗?」

 

 あ、これ地雷踏んだかも。

 

 ギチギチと首を動かして早苗の方を見ると、案の定そこには目を輝かせた彼女の姿が………

 

「…………はいッ!この不肖東風谷早苗、いつでも霊夢さんの責任を取る所存ですっ!!さぁさぁ霊夢さん、今すぐにでも式場の準備を―――」

 

「ちょっ………なんでそうなるんじゃあー!?」

 

 ベタベタくっついてくる早苗を必死に引き剥がしながら、事の原因を作り上げた不良神をきつく睨み付ける。……が、当人はさも愉快そうに笑みを浮かべて余裕の態度で煽ってくる。むかつく。

 

「ぐぬぬ………こんのクソ神がぁっ!?」

 

「ククッ、吠えるねぇ。いいぞいいぞ、何でも言ってみるといい」

 

「ああ………霊夢さんの香り………」

 

「お前らいい加減にしろぉッ―――!!」

 

 

 

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 ...............................

 

 

 .........................

 

 

「はぁっ、はぁっ………この―――」

 

「その辺りにしておけ、博麗の巫女。お前も、調子に乗りすぎだ」

 

「ちぇっ、もう少し楽しめると思ったんだけどなぁ」

 

「ふぅ………。霊夢さん分を存分に補給できました。ご馳走さまです」

 

 ―――はぁ………やっと、解放された………

 

 しばらく早苗に抱きつかれては諏訪子に煽られてという状態だったが、漸くそれから解放されて自由の身になれた。

 

 流石に状況を見かねたのか、神奈子が意外にも助け船を出してくれたお陰だ。これがなかったら、もう暫くはあの状況が続いていただろう。

 

「茶番はもう済んだだろう。さて、それでは本題に入るとしよう。―――あの巨大船、如何にして調べようか」

 

「んー、やっぱりまずは入り口を探さないと始まりませんよね。ここは定石通りセンサー類で調べてから、内部に突入、という感じではどうですか?」

 

「入口か。まぁ、それが定石だろうな。やれるか?」

 

「はい、お任せ下さい♪」

 

「………なに勝手に仕切ってんのよ」

 

 いつの間にか、主導権を神奈子に握られてしまっていた。あいつ、元からそれが役割だったかのように違和感なく溶け込んでやがる……だけど艦長は私なんだもん。誰が何を言おうとそこだけは譲らないわ。

 

「入口ねぇ……。早苗、あの「あそこのドッキングポートが怪しそうだな。どうだ、有りそうか?」

 

「えーっと、艦首部分のあそこですよね神奈子様?分かりました。探してみます!」

 

「うむ。任せたぞ」

 

 ……守矢が3に博麗は1。元から味方など居ないのだ。

 

 くそぅ、肝心の指揮権まで持ってかれてたまるもんですか!………とは言っても、早苗は早苗で元々あっちの人間だ。神奈子の指示に従うのも当然といえば当然なのだけど―――むーっ、なんだかムカムカした気分になるわ………。

 

「あっ、有りました!それっぽい開口部が見えてますね」

 

「……それ、ちょっと見せてくれる?」

 

「あ、霊夢さん。はい、この部分なんですけど……」

 

 早苗と神奈子の間に割り入って、画面を眺める。

 どうやらその画面にあったのはセンサーでスキャンしたデータのようで、それが三次元的に描写された図面が出力されていた。

 

「ドッキングポートから艦内中央に向かってシャフトが延びてるのね……。ここの入口、停められないかしら」

 

「う~ん、ちょっと待ってください………ああ、やっぱり駄目ですね。宇宙港みたいにフネを完全に収容する形式じゃありませんし、何より規格が合っているのかすら分かりませんから、直接ドッキングさせるのは無理みたいです」

 

「なら近場に着けて、小型船に乗り換えていく感じになるのかなぁ。でも、残りの船なんてあったかしら」

 

 直接ドッキングできないとなったら当然別の船(内火艇みたいな小さい艦載船)に乗り込んでいくことになるのだけど、生憎使える内火艇はクルーを脱出させる時に使ってしまっている。だからいまの〈開陽〉には手頃な小型船が残されていないのだ。これは少々困った。

 

「うーん、丁度良さそうな小型船なんて残ってたかしらねぇ……」

 

 内火艇や強襲艇の類がまだ艦内に残っていないか、早苗に探すよう指示を出そうとしたとき、思わぬ助け船が差し出された。

 

「それなら、確か研究室になんぼかあった気がするなぁ」

 

「え、本当!?」

 

 諏訪子が何気なく溢したその言葉に、思わず飛び付く。

 研究室、といったら、やはりサナダさんかにとりの所だろうか。身体をゲットしてきた際になにか見ていたのかもしれない。

 

「うむ。まぁ、研究室といっても工場区画のような場所だったがな。何やら怪しげな機材に混ざってそれなりにでかい船が置いてあったな」

 

「研究室にでかい船、か………。早苗、研究室のカメラに繋げられる?」

 

「はい、やってみます!」

 

 私が指示を出すと、早速彼女は指示通りに動いてくれた。

 研究室の電源は今も落ちたままな筈なので、カメラを暗視モードに切り替えて探している。

 画面に研究室のカメラからの映像が繋がったみたいなので、その緑色の画面を凝視する。

 

「………あ、そこストップ」

 

「はい!」

 

 私の合図で、旋回しながら室内を映していたカメラが止まる。

 

「おおっ、これこれ、これだよ。間違いない」

 

「……そうだな。我々が見たものはこいつだ」

 

 映像に映された小型船らしきその物体を見た諏訪子と神奈子は、二人揃ってそれが件の小型船だと認識した。

 

 船首のミサイルコンテナに、船尾の二基に別れたエンジンとそれに挟まれた形で設置されたプロペラントタンクにエンジンと船首を繋ぐアームに取り付けられたブリッジ部分……間違いない、いつぞやの突撃艇だ。

 

「これ………確か、サナダさんが以前開発されていた突撃艇ですよね?」

 

「みたいね。そういえば……アリスが何処かにこいつがいっぱい安置されてたって言ってたわね……まさか研究室にも置いてあったなんて」

 

「対ヤッハバッハ用とか言ってましたけど、すっかり使う機会を逃してしまいましたねぇ」

 

 完全に、こいつの存在を忘れていた。

 

 こいつを始めた見たのが確かヴィダクチオ戦の最中だった気がするから、それからサナダさんはせっせとこの突撃艇の生産と改良をしていたのだろう。ううっ、よもや貴重な戦力の存在を忘れていたなんて……これは申し訳ないことをした。

 

 よく見ると、この艇の船首部分はミサイルコンテナじゃなくてただの貨物室になっていた。発射管が塞がれてる代わりに、観音扉みたいなのが付いている。輸送型、なのかな?

 

「ここは使えそうなモノがあっただけでも喜ぶべきね。早苗、こいつの推進材が残ってるかどうか、確かめられる?」

 

「はい。今研究室のコンピューターに繋ぎます。―――出ました。船本体の燃料タンクの分は積み込まれてるみたいです。残念ながら外付けのプロペラントタンクは空っぽのようですが」

 

「よしっ、それなら使えるわ!今すぐそいつに乗り込んで遺跡探索に行くわよ!」

 

「あ、ちょっ、霊夢さん!引っ張らないでくださーい!」

 

 思わずはしゃいでしまい、早苗の腕を掴んで引きずってしまった………。お宝が目の前にあるんだもん、仕方ないよね。

 

「ああ、留守は私達に任せてくれ、早苗」

 

「ふふっ、紅白巫女と遺跡デートかぁ。ひゅー♪」

 

「ちょっ、諏訪子様!からかわないで下さい!」

 

 フネの留守ならこの二柱が名乗り出てくれたのだけど、なんだか不安だ……特に洩矢諏訪子。恐らくこいつが早苗をあんなふうに育てた元凶だ。こんなやつに艦を任せるのは、……若干躊躇ってしまう。

 

「なぁに、事実じゃないかぁ~。………もっと既成事実でも重ねてきたらいいじゃないか♪」

 

「き、既成事実………」

 

「変なこと吹き込むなぁ!?」

 

 だけど、神奈子が居るなら牽制し合ってなんとかなるかもしれないと思った矢先にこれだ。やっぱり不安だわ………。

 

 それでも霊夢ちゃんはお宝目指して進むのだー。金、金、資材……お宝は幾らあっても足りないわぁ、じゅるり。

 

「………とにかく!変なことはしないでよね!」

 

「そこは任せろ。私が責任を持って監督する」

 

「監督とは人聞きが悪いなぁ。私から完全に信仰を奪えなかった分際でよく言う」

 

「………なんだと?」

 

「あわわ、神奈子様、諏訪子様!落ち着いて下さい!」

 

 早速火花を散らして睨み合っている二人。今でさえこれなんだから、早苗という緩衝材が抜けた後はどうなることやら――。やっぱり、こいつらに艦を任せるのは心配だ………。

 

 

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 ~〈開陽〉研究開発工場~

 

 

 かつてマッドサイエンティスト共の巣窟と化していたこの研究区画………その中でも、この開発工場は奴らが欲望の赴くままに試作したガラクタが転がる墓標と化していた。戦闘の衝撃で比較的整理されていたであろう機材や試作機、部品が散乱し、電源が落ちてごく一部に最低限以下の非常灯しか点いていないお陰で、一層その雰囲気を強めている。

 

 私と早苗はそんな開発工場の中を掻き分けながら、懐中電灯片手に目的の場所を目指していた。

 

「あ、見えました。あそこですね」

 

 早苗が一度立ち止まって、懐中電灯で前方を照らす。

 

 開発工場のコントロールルームだ。

 

「ふぅ、これで漸くこのゴミ屋敷から解放されたわ。さっさと電源入れちゃいましょう」

 

「はいっ」

 

 元々この場所に来たのは遺跡探索の為の小型船を確保する為だ。だけど現状では船を外に出すためのエアロックも動かないし、そもそも船を移動させることすらできない。だからコントロールルームからこの区画にエネルギーを回すよう調整して、機能を復旧させないといけないのだ。しかも間の悪いことに、戦闘の影響で回線が破損したのか早苗と繋がってるコントロールユニットからの信号を受け付けないみたいなので、手動で直接設定しないといけないらしい。………あのマッド共の気質を考えたら、研究開発に介入されないための措置だったのかもしれないけど……

 

 これまで真っ暗な中掻き分けながら進んできて何度も床のガラクタに足を取られそうになったので(そんなときは大体早苗が支えてくれたけど)、明かりがつくだけでも幾分かは歩きやすくなるだろう。

 

「よっ、と………。ん、扉は普通に開くみたいです」

 

「開くんじゃなくて、無理矢理開けたんでしょうが」

 

 早苗は器用に瓦礫を飛び越えながらコントロールルームの扉までくると、力づくで無理矢理引き戸みたいに開けてしまった。

 

「まぁいいじゃないですか。どうせ電源が無いのでコンソール弄っても開かないんですし」

 

「それもそうね。んで、肝心のコンピューターは使い物になりそう?」

 

「はい、ちょっと待ってくださいね」

 

 コントロールルームに意気揚々と入っていった早苗は、施設全体を統括するコンピューターが置かれたデスクの前に立って右腕をかざした。

 すると彼女の腕が二の腕から変形してぐにゃりと曲がり、何本もの触手状になったケーブルが飛び出してくる。そして指先も肌色から銀色に変わって、遂には手全体が同じような触手に変形した。

 それを早苗は平然とした表情のまま機械のあんなとこやこんなとこに挿し込んで、ハッキングを始めたようだ。なんか機械のモニターが砂嵐になったり一面緑やピンクの画面になったりを繰り返したり、メーターやボタンっぽいものがやたらと点滅したりとか明らかにヤバい感じに感じになっている。

 ………大丈夫だよね?壊れたりしないよね?

 

 その光景はまるで、機械が早苗の乱暴なハッキングに喘いでいるみたいで………

 

 

 ………っ、!?

 

 

 ―――それを思うと、急に早苗の仕草がいやらしく見えてしまう。

 

 あんなものに抱かれたら、どこまで壊されてしまうのか―――。一瞬脳裏に浮かんだそんな不健全な思考を、なんとかして振り払おうとはしたが、瞬く間に耳に熱が集まっていく。きっと顔も、既に赤くなっていることだろう。

 

 あ………

 

 早苗が何かに気づいたみたいに、ふと顔を上げた。そしてきょとんとした眼差しで、硬直した私と目を合わせてしまう。暫くすると事情を理解してしまったのか、ものすごく意地のわるそうな邪な笑みを浮かべた。

 

 ――よりによって、一番気づかれたくないやつに気づかれてしまった………

 

「………へぇ~。霊夢さん、顔が真っ赤ですけど………どうかしたんですか?」

 

「い、いや………、ななな、何でもないから……ッ!」

 

「ふぅん………。―――その割には、ひどく動揺しているみたいですけど、もしかして………」

 

 早苗は触手状のケーブルを一本、口元にまで持ってくる。

 

 そして獲物を見定めた女豹のような目付きをしながら、妖艶にその長い舌で触手を舐めた。

 

「"これ"、気になっちゃったんですかぁ~?」

 

 挑発的で危険な香りに、残酷で妖艶な表情………嫌が応にも早苗に奪われたときのことを思い出してしまって、勝手に身体が熱くなる。

 

 意識して考えた訳でもないのに、ぞくり……と全身に刺激が走った。

 

「そ………んなことあるわけ無いでしょ!勝手に変なこと考えないで集中して!!」

 

「そんな顔で言われても全然説得力無いですよ。………どうです?今夜にでもヤってあげます?」

 

「ッ~~~~!だから余計なことは言うなぁ!?」

 

 ああもう、最近こんなのばっかり………こいつの思考回路、一体どうなってるのよ……

 

「………とにかく!今は作業に集中してろ!!」

 

「はぁ~い。もう、つまらない人ですねぇ~。………帰ったら、期待してて下さいね?」

 

「~っ!?………だから、そういうのが余計だって言ってるのに………」

 

 こいつ、全然反省なんてする気無さそう。余計なことばかり言って………

 

「………あ、機能回復しました」

 

「随分唐突なのね」

 

 一転して、いつもの調子で告げられる。さっきまで、挑発的な態度を取っていたとは思えないぐらいの変わりようだ。

 

「区画全体の制御は掌握しましたので、電源を入れておきますね」

 

 早苗が言うと、一気に工場内の電球が点灯した。

 眩しさに一瞬目を塞いだが、次第に目が慣れてきたので瞼を開ける。

 

「………うわぁ、ひっど」

 

 目を開けて真っ先に飛び込んできた光景は、至るところで散乱したガラクタの山、山、山………。本当に足の踏み場もないくらいに積み重なっていた。

 人型機動兵器がハンガーから落ちてうつ伏せになっていたり、ガラクタの山から戦闘機の翼みたいなのがひょこっと顔を出していたり、衝撃で飛び散った部品が一面に散乱していたり………正にガラクタの墓標ともいうべき光景だった。

 

 肝心の小型船周辺も例外ではなく、幾つかのガラクタや破片が船の外壁に当たっていたり、周辺に散乱していたりする。

 

「これは………まずは大掃除しないとどうにもなりませんねぇ……。天井のクレーンとアームで周囲のガラクタを退かしてみます」

 

「みたいね。そこんとこは頼んだわ」

 

 早苗が工場区画の制御に意識を傾けると、天井に取り付けられた移動式のクレーンや、壁に折り畳まれていたアーム類が起動して、小型船周辺やエアロックまでの移動レーン上にあったガラクタの類をせっせと退かしていく。

 

 あれだけ散らかっていたガラクタが、小型船の周りに限ればものの数分で綺麗に片付いてしまった。

 

「ふぅ、こんなものでしょうか」

 

「後は、船が使えるかどうかね。見た目は無事みたいだけど、まだ動くかどうかは分からないし」

 

「そうですねぇ………後は、遺跡探索用にちっちゃいバギーや作業ドロイドなんかも持っていった方が良さそうです。幸い輸送用に改造されていたみたいですから、船首のペイロードに積んでおきましょう。確かクルマなら海兵隊の陸戦兵器格納庫にいくつか残っていた筈ですから、そこから貨物レーンを通して運んでおきます」

 

「あれだけ大きなフネだからねぇ。もしかしたらバギーだけじゃ足りないかもしれないわ。一応使えそうなVFでも持ってく?」

 

「ですね。幸いこの工場内に使えそうな22がありますから、それが動くなら小型船に積んできましょう」

 

 さくっと今後の方針を早苗と決めて、持っていく荷物を選ぶ。全長だけでも30km以上のフネなのだから、探索用に乗り物は必須だろう。クルマだと高い場所にある扉とかがあったら苦労しそうだから、跳べる機動兵器なんかもあった方が便利そうだ。

 

「後は、必要な食糧なんかを携帯すれば大丈夫かしら」

 

「一応、医療キットも持っていった方が良さそうですね。準備しておきます」

 

 早苗はコンソールから手を離すと、部屋にあったロッカーの中身を適当に焦って、鞄に非常食やら飲料水、備え付けられていた簡易救急セットなんかを詰め込んでいく。

 

「ふぅ、荷物はこんなところですね。ささ、先ずは船の状態確認です。行きましょう、霊夢さん」

 

「そうね。アレが動かなかったなら何の意味もないんだし」

 

 荷物を背負った早苗は、意気揚々とコントロールルームを出て小型船に向かっていく。

 小型船周辺は片付いたといってもそれ以外の場所はまだガラクタが散乱してるので、またガラクタを飛び越えていくのも億劫だし私は飛んで小型船まで向かうことにした。

 

 

 ~小型船・ブリッジ~

 

「よし………っと。霊夢さん霊夢さん、フネの機能は大丈夫そうです。外壁に多少傷があるぐらいで、エンジンや他の重要区画には異常ないみたいです」

 

「なら、荷物の積み込みが終わり次第出発しましょう。推進材はちゃんとあるのよね?」

 

「はい。燃料タンクに半分ほどですが、そんなに距離があるわけではないので十分だと思います。空っぽのプロペラントタンクは取り外して、そこにVFを懸架させておきます」

 

「分かったわ。準備が終わったら教えて」

 

「了解です」

 

 そこから数分間、ブリッジの席でじっとりているうちに準備が終わったみたいて早苗が報告してくれた。

 

 さて、いよいよお宝探索の時間だ。胸が踊るわ。

 

「船を発進用のエアロックまで移動させて。出るわよ」

 

「分かりました。シャッター開きます」

 

 小型船は移動レーンに乗せられて、開かれたエアロックに続くシャッターを潜り抜ける。

 

 エアロックにまで辿り着くと、中の空気が抜かれて宇宙空間と地続きになる。

 

「発進しますよ、霊夢さん!」

 

「タイミングは任せたわ。……いよいよお宝探索ね。楽しみで仕方ないわ」

 

「ふふっ、霊夢さんったら変わりませんねぇ。そういう俗っぽいところも可愛くて好きですよ♪」

 

「………余計なこと言わない。あんたは操縦に集中してて」

 

「はぁい」

 

 全くこの娘は、いつも調子を狂わせてくれる。気恥ずかしいったらありゃしないわ。

 

 小型船のエンジンに火が点いて、ゆっくりと船は〈開陽〉のエアロックから滑り出す。そのまま引き込まれるように、巨大船のドッキングポートに向かって舵を切った。

 




挿絵欄に始祖移民船と新しい宇宙戦艦の挿絵を上げました。気になる方はご覧下さい。


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第八五話 ブービートラップ!

 ボロボロになった〈開陽〉のエアロックから滑り出した小型船は、引き込まれるように巨大船へと接近していく。

 

 近付いたことでよく見えるようになった巨大船の外壁は、思った以上に破損していた。

 遠目ではフネがあまりにも巨大なこともあって綺麗な状態で残っているように見えたものが、近くで見ると微惑星やデブリと衝突した痕のようなクレーター状の傷が至るところについていた。

 またフネ自体の意匠もどこか生物的なものを思わせる曲線や直線を組み合わせたようなデザインだと思ったが、至近で見て外壁の詳細が分かった今では寧ろ異星人のものを思わせる機械的な意匠で構成されているように感じた。

 現代のフネのような印象ではなく、大昔に作られた遺跡か、或いは別の文明から漂流してきた移民船か……とにかく、このフネが現代の文明とは違った技術体系に属していることは、サナダさんでなくとも何となく感じられた。

 

「うわぁ………改めて近くで見てみると凄いですねぇ」

 

「まさか、外の文明がこんなものを作れるぐらいに成長していたとはねぇ。これは素直に驚いたわ」

 

 仮にこのフネが始祖移民船だとしたら、私が生きていた時代からほんの数百年しか経っていない時期に建造されたものだ。たった数百年、という言い方も随分大袈裟なようにも思えるが、そこから一万年以上後だという今の時代から見れば、そんなの大した差ではないのだろう。………こんな考えが浮かぶあたり、私もだいぶこの時代に毒されてきたわねぇ。

 

 小型船は巨大船の前半分にあった装甲の露出した部位を通りすぎて、船首のドッキングポートらしき部位へと向かう。

 

 一度向きを変えるために巨大船から離れては、サイドスラスターを吹かして方向転換し、小型船は再び目的地に向かう。

 

 目の前に、六角形状の船首のドッキングポートが見えてきた。

 

「……どう?着艦できそう?」

 

「ん~っと、ちょっと待ってください………あ、見つけました。船首中央に発着ポートみたいな部分がありますね。そこから中に入れそうです。」

 

 小型船は、真っ直ぐ巨大船の中央に向かっていく。

 ドッキングポート周辺の意匠は例外的に、人類文明らしい機械的な雰囲気だった。何度か見た宇宙港の外壁やドック内の様子に、なんだか似ている気がする。

 

「この部分だけ、なんか外に比べて印象が違うわね」

 

「そうですねぇ~。外壁の意匠は芸術的なものだったのかもしれないですね。きっと当時の高名なデザイナーさんなんかが設計したんじゃないでしょうか!」

 

 ここだけ宇宙港と同じような雰囲気なのだから、早苗の話もさもありなん、という気がしてくる。何世代にも渡って宇宙を旅するために造られたフネなのだ、贅沢して外装を凝って作ったとしても不思議ではない。

 

「洗練された曲線美のなかに生物的な意匠を取り込みつつ、全体を見ると明らかに人工物と分かるデザイン………う~ん、やっぱり改めてみると格好いいですねぇ」

 

「私には学がないから分からないわねぇ。とりあえず、大事なのは中よ中。外が凝ってても中身がなけりゃ

 話にならないわ」

 

 早苗と違って私は、残念ながら機械の格好良さとかその辺りはあまりうまく理解できない。私からしてみれば、単に使えればそれでいいという感じだからねぇ。あの娘はまたテンション昂ってるみたいだけど。………ま、私もお宝という点に関しては期待していることも間違いない。

 

 さて………コイツが何千年も隠し持っていたお宝を、白日の下に晒してやりましょう。

 

「おっと、もう少しで着艦ですね」

 

「いよいよね。期待が高まるわ」

 

 小型船は綺麗に巨大船の中央に向けて滑り込み、減速用バーニアを吹かしながらドッキングポートにあるランプに着艦する。

 

「ふぅ、とりあえずはクリアですね。一応この奥に空間が続いているみたいなんですけど、このフネでは行けそうにないので降りましょう」

 

「そうね。じゃあ荷物を準備して………っとわぁ!?」

 

 小型船がランプに着艦すると、フネの後ろに何かが降りてきてガチャン!!と盛大に閉められる音が聞こえてきた。

 扉のようなものが下ろされたみたいで、外の光が全く届かなくなって真っ暗になる。

 

「扉………ですか。なんだか興奮しますねぇ」

 

「そうじゃなくて!外、真っ暗だからライトつけて!」

 

「了解ですっ。サーチライトをつけますね」

 

 カチャッ、と船のライトが点く音がした。

 ライトは目の前の内壁を照らしている。これといって、扉が閉まる前と変わりはないように見えた。

 

 ガチッ、と今度はロックされるような音が響き、シュー、と空気が充填されていく音が聞こえるようになる。それに伴って、メーターは室内の気圧が上昇していくのを示した。

 

「減圧室、でしょうか。空気が充填されてきますね。もう少しで1気圧に達します」

 

「………これ、侵入者撃退の毒ガスとかじゃないでしょうね………。ちょっと不安なんだけど」

 

「大丈夫です。センサーには何も引っ掛かってませんし、ただの空気みたいです。そんなに心配なら私が確かめてきますけど………」

 

「いや、いいわ。ただの空気なら問題ないし。さ、船から降りましょう。早く先に進みたいわ」

 

 空気が充填される音を聞いて、もしかしたら防衛機構が作動しているのではと勘繰ったが、それは無いみたいなので安心した。早苗が言うなら、多分大丈夫なのだろう。

 

 ―――だけど、フネの機能が生きているということが証明されたからには油断できないわね。もしかしたら何かの防衛装置も生きているのかもしれないんだし。

 

 荷物を持って、小型船から降りる。

 船から降りた私達は、目の前の壁に奥への通路の入り口がないかと目を凝らして探した。

 

「あ、霊夢さん、あそこ………」

 

 早苗がなにかを見つけたようで、私は早苗の指が示した方向に目を向けた。

 

「………扉、みたいね」

 

「はい。どうやらそうみたいですね。ちょっと行ってきます」

 

 早苗は見つけたドアの方向に向かって駆け出した。私も歩きながら、その後を追う。

 

「う~ん、やっぱり閉まってるみたいですねぇ。びくともしません」

 

「破壊はできそう?」

 

「ちょっと待ってください………いえ、隣に操作パネルみたいなのがありますね。これを弄れば………」

 

 早苗はドアの周囲を見回して、左隣にあった操作パネルのコンソールに手を突っ込んだ。

 

 また腕をケーブル状に分岐させて、何本も触手をコンソールに差し挿れている。早苗の乱暴な行為に反応して、コンソールがバチバチと火花を吹き始めた。

 

「ちょ………あんた、何やってんのよ!?」

 

「え………?いやぁ、この身体、ヒトが造ったものなら大抵はハッキングできるように作られてるので、ちょ~っとシステムの中を弄らせてもらおうかと………」

 

「ちょっと弄らせてもらおうかと………じゃないわよ!只でさえフネのシステムが生きてるのにそんな乱暴なやり方でしたら………」

 

「………あ」

 

 唐突に、早苗の口から声が漏れた。

 

 何かにしくじったことに気づいたとき出るような、そんな声が……

 

「"あ"、って何よ早苗!もしかしてあんた………」

 

「―――てへっ♪失敗しちゃいました♡」

 

「失敗しちゃいました♡、じゃないでしょ!?ちょっとどうすんのよこれ………」

 

 《#∥〇*@#|※?》

 

 突如、背後で怪しげな機械音声が響く。

 何かに気付いたドロイドが発するような、そんな音だ。

 

 同時に、背後から強力なサーチライトを浴びせられたのか、視界が一気に眩しくなった。

 

 ぎぎぎ………と首を後ろに回してみると、そこにはトゲトゲした艦載機のような姿をしたロボットが、私達にライトを浴びせながら浮遊していた。

 

 それは私達を見定めるかのように、青いモノアイを点滅させながら不規則に私達の回りを飛んでいる。

 

「あの………早苗、さん?」

 

「これは………所謂衛士(センチネル)というやつですねぇ。ようは警備ドローンです」

 

「それって、ヤバいんじゃないの?」

 

「はい、ヤバいです」

 

 警備ドローン………センチネルは暫く私達の周囲を浮遊していたが、突如モノアイが青から赤に変わって甲高い音を鳴り響かせた。

 

「~~っ、ちょっと、なにこの音………」

 

「霊夢さん、攻撃が来ます!」

 

 

【イメージBGM:東方風神録より「厄神様の通り道」】

 

 

 《Д##―>###!!》

 

「チッ………!!」

 

 センチネルの目玉が蒼く発光し、レーザーが降り注ぐ。

 私は空中に飛んで、早苗は地面を跳んで、それぞれ攻撃を回避した。

 

 《゜Д――――####!!##!?》

 

 奴等は私達が無事なのを察知したのか、ゆっくりと機体を反転させて再びレーザーの充填に入った。

 

「チッ、しつこいわね。―――これでも喰らいなさいッ!」

 

 レーザーが発射される前に、奴等のうちの一機に霊弾を食らわせた。が、通常弾幕では効果がないのか、ガコッという音とともに霊弾は弾き返された。

 

「嘘っ………効かないの!?」

 

「霊夢さん、もっと強力な攻撃をしてみてください!」

 

「もっと強力………といったらこれね!」

 

 ビシュン、と次々に放たれるレーザーを飛びながら躱しつつ、私は巫女服の襟からカードを取り出した。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 先程の霊弾とは比べ物にならないくらい巨大な霊弾が、それも複数浮かび、一気に敵へと殺到する。

 

 夢想封印の弾幕を敵一機に集中させて、ようやく落とすことができた。

 

「っと………。全く、どんだけ硬いのよこいつら……!」

 

「センチネルですからねぇ。生半可な攻撃は通用しないかと」

 

「元はといえばあんたが悪いんでしょ!変に弄くるからこうなるのよ!」

 

「うっ………まぁ、それは置いといて、さっさとこいつら片付けますよ!」

 

「話を逸らすな!」

 

 地上で敵の攻撃を捌いていた早苗は、大きく後ろに飛び退くと体勢を安定させて、ナノマシンで出来たレーザーガトリングを召喚した。

 

「これで………どうですッ!」

 

 ガトリングが回転を始めると、雨霰のようにレーザーが飛び出してセンチネルの群を呑み込んでいく。一発一発の威力は低いので最初はガン、ガンと弾き返されているが、次第にダメージが蓄積していきレーザーに抜かれる個体が出始める。そこからは一方的な蹂躙劇で、次々とレーザーの雨を浴びて摩耗した機体が内部を貫かれて爆発していった。

 

 そして遂に最後の一機が爆発して、その破片がパラパラと床に墜ちる。

 

「ふぅ………こんなもんですね」

 

「そんなのがあるなら、最初からそれやってなさいよ」

 

「いやぁ、最初は逃げるので精一杯でしたから。霊夢さんが上手く引き付けてくれたお陰ですよ」

 

「ま、まぁ………そう言うのなら………」

 

 そう言いながら、早苗の隣にふわりと着地する。

 

 《Д#「>>#〇∥♪@##!?》

 

 センチネルも片付いたので改めて扉を開けようと地面に降りたところ、何故かまたあの音が盛大に響いた。

 

「「!?ッ―――」」

 

 《(゜Д(゜Д(゜Д(゜Д(゜Д゜#)!!》

 

 驚いて振り返ると、先程と同じセンチネルの群が今度は天井から10匹20匹とわらわらと沸き出していた。

 

「ちょっ………何よこの数!?やっぱりあんたのせいじゃないの!!」

 

「ふぇぇ……私だってこんなの聞いてませんよ霊夢さん!」

 

「ああもう、こうなったら殲滅あるのみよ!」

 

 呆れて物もいえないぐらいの数に増殖したセンチネルの群に向かって、地面を蹴って空中に飛び出す。

 何体かはこちらに反応したが、残りの個体は私達が乗ってきた小型船を見つめていた。

 

「げぇっ、まさか………」

 

 《(゜∀゜)∀°)∀°)∀°)#####д!!》

 

 もしやと思って急いで弾幕を奴等の群に叩き込んだが、落とされたのは数機のみ。大半の機体は、小型船を取り囲んで一気にレーザーの照射を浴びせた。

 

 元々装甲もシールドもない脆い船だ。流石にそんな数のレーザーを浴びて無事な訳がなく、レーザー照射を浴びた小型船はバゴォンと盛大な音を立てて大爆発を起こして沈められた。

 

「ぐぅっ………!?」

 

 狭い減圧室の中での爆発だったので、閉じ込められた爆風が四方八方から浴びせられてバランスを崩してしまう。そのまま気流に呑まれるように、きりもみになって墜落していく。

 

 だが、墜落して硬い床の感触が伝わってくる前に、なにか柔らかいものに抱き留められた。

 

「っ、霊夢さん、大丈夫ですか!?」

 

「ぁ………早苗?――うん、ありがと。大丈夫よ」

 

 私を受け止めてくれたのは早苗だった。早苗はバランスを崩さないように慎重に着地すると、労るように優しく私を床に下ろしてくれた。

 

「あー、フネ、壊れちゃいましたねぇ」

 

「物資もクルマもこれでおじゃんね。………だけど、これで奴等が見やすくなったわ」

 

 乗ってきた小型船は破壊されて、残骸がめらめらと燃えている。だけどその光のお陰で、センチネルの群がよく見える。十、二十……いや三十以上は居るわね。

 フネが破壊されたのは癪に障るが、この際もう仕方ない。どうせこの規模の移民船だ、何処かに使えそうなフネでもあるでしょう。帰路はそれに任せるとして、今は目の前のセンチネル共だ。

 

 不敵な笑みを浮かべて、奴等に向かって翔び出す。

 

「早苗っ、援護は任せたわ!」

 

「はいっ!」

 

 背後は早苗に任せて、私は真っ直ぐ奴等を睨む。

 

 さて………私達の足を壊してくれた報いを受けさせてやるとしましょう。

 

 一旦空中に静止した私が手を奮って合図をすると、ビュン、と私の周りに4基の陰陽玉が現れる。

 

「行けっ!」

 

 手始めに、極限まで霊力を込めた札を妖怪バスターに乗せて飛ばす。………相手は妖怪じゃないけど。

 

 続いて敵集団中央に吶喊し、陰陽玉からホーミングアミュレットを撃ち出しながら敵を一体一体着実に落としていく。

 敵からもレーザーの雨が降り注ぐが、こんな弾幕何のその。妖精の遊戯にも等しいわ。

 

 私を落としたくば霧雨でも連れてきなさい。こんなスカスカの降り始めの雨みたいな弾幕じゃあ、この私は墜とせないわ。

 

「潰せっ!!」

 

 敵集団中央まで突撃して一度止まり、四方八方を奴等に囲まれた形になる。………だが、これでいい。

 

 私が手を突き出すと、オプション装備の4基の陰陽玉が勢いよく敵機目掛けて飛んでいく。陰陽玉と衝突したセンチネルはぐしゃりと潰れて、火を吹きながら床に向かって墜落していった。そしてセンチネルを潰した陰陽玉は、また別のセンチネルへと向かってバウンドして飛んでいく。

 

「霊夢さん、こっちも準備万端です!」

 

 後ろから、早苗の声が響いた。

 

 彼女はまたあの巨大なレーザーガトリングを持って、その銃身を私の方角へ向けている。

 

 早苗の意図を察した私は、陰陽玉を伴って素早く上昇してその場から離脱した。

 

「行きますよ………ッ!!」

 

 ヴヴー、という破壊的な重低音を響かせながら、銃身が回転を始める。

 そして再び、破壊をもたらすレーザーの弾幕が奴等に向かって降り注いだ。

 そこからはもう、消化試合だ。先程と同じように、レーザーの弾幕に耐えきれなくなった個体から貫かれて、火を吹きながら墜落していく。さっきより数が多かったので時間こそかかったけど、ものの数十秒であれだけいたセンチネルは一体残さず叩き落とされていた。

 

「ふぅ………今度こそ、これで片付きましたね」

 

「だと良いけどねぇ……。さ、先に進みましょう。また奴等が沸き出してくる前に」

 

 センチネルを全部片付け終えて、早苗の隣に着地する。

 

 陰陽玉は………今はいいか。一度仕舞っておこう。

 

「そうですねぇ。ではでは、ハッキングに戻りますよ!」

 

「アレはもう止めなさい。また奴等が沸き出してくるわ」

 

「え~、今度は上手くやりますからぁ~~。ね♪」

 

「………猫なで声で言っても駄目よ。大人しく破壊して」

 

「ちぇっ、霊夢さんのけち」

 

「元はといえば、ハッキングに失敗したあんたが悪いの」

 

 早苗と軽口を叩き合いながら、内部への入口へと向かう。

 

 入口の扉を叩き割ろうと刀に手をかけて引き抜こうとしたところ、右隣でなにかが開いた。

 

「ありゃ、霊夢さん、なんか開いたみたいですけど……」

 

「おっ、ラッキーじゃん。ならそこから中に入れ………」

 

 扉の右にあった、貨物リフトの出口のようなシャッターが白い煙を吐きながら開いていく。

 

 最初は、単に運がいいと思った。わざわざ扉を壊さなくても、そこから入ることができると思ったから。

 

 だけど、実情は違った。

 

 ガシャッ、ガシャッ、と、規則正しく整然と行進する音が聞こえる。

 

 そこから出てきたのは、武装したドロイドの大隊だった……。

 

「え"っ………!?」

 

「あ―――、霊夢さん、また敵みたいです」

 

「………」

 

 ドロイドの群は一斉に立ち止まると、これまた一斉に私達の方向に向き直る。

 

 そして………腕部に内蔵された銃口を向けた。

 

「………こうなったら押し通るのみよ!早苗ッ!」

 

「畏まりぃっ♪」

 

 再び陰陽玉を侍らせて刀を抜いて、そして早苗はいつぞやの大尋問官(笑)服に早着替えして紅く光る光刀を手に持った。

 

「突っ込め~~ッ!!!」

 

「ふふっ、燃えてきましたねぇ!!」

 

 私と早苗が足を踏み出すと同時に、ドロイド軍も一斉に火蓋を切った。

 

 赤いレーザーのなか身を捻りながら弾幕と刀で応戦し、一体一体、確実に息の根を止める。

 

 第二ラウンドが、いま始まる……………。

 

 

 

 

 

 ............................................

 

 

 ........................................

 

 

 ....................................

 

 

 ...............................

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………、はぁ………、これで、全部かしら……」

 

「みたいですね………もう後続は居ないようです」

 

 一体どれだけ倒したのか分からなくなるほど、ドロイドの軍勢と戦っていた。倒しても倒しても奥からどんどんおかわりが追加されていくので、流石に私でもこれは堪えた。

 

 腹いせに、近くにあったドロイドの残骸を蹴っ飛ばす。

 

「ざっと1000体以上は倒しましたねぇ。私も、これ以上は勘弁です……」

 

「まぁ、とりあえずは奴等の攻勢が止んだみたいだし、先に進みましょう」

 

「了解ですぅ………でも、これだけ広い艦内を生身で探索するのは応えますよ?それに私、昔と違って飛べませんし――」

 

「あ、そうだった……う~ん、これは困ったわねぇ。私一人ならいざ知らず、早苗が飛べないとなると歩いていくしか……」

 

 さっきまで私が普通に飛んでいたせいで、つい失念してしまっていた。そういえば早苗、今は力がないから昔のように飛べないんだった。サナダ印の強化外骨格でもあれば別でしょうけど、生憎そんな便利なものはない。

 

 探索に使う車もVFも、フネと一緒に焼けちゃったし………

 

 ―――ん?あれって………

 

「………ねぇ、早苗?」

 

「はい、何ですか?」

 

 早苗を呼んで、小型船の焼け跡の方向を指す。

 

 黒く焦げて所々は未だに燃えている小型船の残骸のなかに、比較的形がよく残っている物体があった。

 

 それは見事にひっくり返ってはいるものの、ほぼ原型を留めており使えそうな雰囲気だった。

 

「………あのVF、もしかしたら使えるんじゃない?」

 

「持ってきたやつですか?そうですねぇ、形はよく残ってますし、特に部品が脱落しているという訳でもないので……ちょっと試してみます」

 

 早苗の周囲に、ホログラムのリングが浮かび上がる。

 VFのコンピューターとの接続を試みているのだろう、集中した様子で瞳を閉じている。

 

 程なくしてVFのエンジンに火が灯り、機体は上昇を始めた。

 ある程度上昇したところでVFはガウォーク形態に変形して、私達の目の前に着地した。

 

「………見ての通り、使えそうです」

 

「ふぅ、これは運が良かったわ。流石はサナダさんの作った機体ね、あんな爆発に巻き込まれて無事だなんて」

 

「宇宙戦闘機ですからね。頑丈な部分は頑丈なんです。それに小型船の燃料も不燃性の固形燃料でしたから、爆発規模が大きくならなかったのも救いでしたね」

 

「ま、使えるんならそれで良し。んじゃ早速乗ってくわよ」

 

「あ、操縦なら私にお任せ下さい!霊夢さん、コックピットには触ったことないですよね?」

 

「そうねぇ……でもこの機体って確か、自分がイメージしたらその通りに飛んでくんでしょ?ならちょっと触らせてもらっても………」

 

 私達が持ってきたこの機体、VF-22にはBDI (Brain Direct Image)システムとかいう操縦システムが付いていて、なんでもパイロットの脳波を検知して勝手にイメージ通りに飛んでくれるらしい。サナダさんがそんなことを言っていたような気がする。だったら私でも操縦できるんじゃないかと勘ぐったのだけれど、早苗にはそれがご不満だったらしい。

 

「むー、駄目です!操縦席は私のものです!」

 

「え、そこまで言うんなら……」

 

 私が操縦する、と言い出したら予想以上に早苗が反発してきたので、ここは素直に譲ることにした。………そうよね、幾らイメージ通りに飛んでくれるといっても訓練とか全然してないし、それで失敗して私が怪我したりするのを心配してのことなんだろう。………と思ったのだけど、早苗はコックピットに座るとルンルン気分でシステムの調整を始めている。―――こいつ、最初からロボットの操縦がしたかっただけなのかもしれない。

 

 ちなみに私は一旦空を飛んで後部座席に入ったのに対して、早苗は操縦席から下ろされたワイヤーにわざわざ掴まって乗り込んでる。やっぱり飛べるってのは便利ねぇ~。

 

「システムに異常無しです!さぁ、行きますよ霊夢さん!」

 

 装甲キャノピーが降りて、内壁に外の風景が投影される。

 ゆっくりとエンジンの出力が上がっていき、徐々に機体は動き出した。

 

 機首のサーチライトも点灯して、狭い範囲ながらも前方を照らしている。

 

 出発とあって、私はシートベルトを握る力を強めた。

 

「じゃあ、よろしく頼んだわよ、早苗」

 

「了解ですっ。……離陸しますよ!」

 

 エンジンの振動が一層大きくなって、機体が地面から離れた。

 ふわりと宙に浮かんだ機体は、そのままホバリングしながらドロイドの軍勢が沸いて出てきた通路に向かって進んでいく。

 

 シャッターを抜けて減圧室から出た後も、特にこれといって変わり映えはしない景色が続いていた。狭い通路のなかを、無機質な鉄の壁が覆っている。

 

「……特に変わった雰囲気はしないわねぇ」

 

「まだ港部分なんでしょう。この先に広い空間があったと思うので、とりあえずそこまで進んでみますね」

 

 暗闇に包まれた移民船の中を、サーチライトを灯しながら淡々と進んでいく。

 早苗の言った通り、数十秒でなにやら広そうな空間に出たようだ。先程まで上下左右を圧迫していた鉄の壁が消え失せて、床から天井に向けて何本もの巨大な柱が貫いている空間に変わっている。深さは相当あるみたいで、サーチライトで照らされた先は塵しかなく、底まで見通せないほどだった。

 

「ここは………」

 

「何でしょう?たぶん港関連の施設だと思うんですけど……」

 

 暗い空間のなかを地から天に向けて何本もの機械の柱が貫いていて、僅かな光に照らされているその光景は、どこか神秘的な雰囲気すらも醸し出していた。

 それは、全て鉄の機械で出来ていながら、さながら神殿のような雰囲気だった。

 しばらく私と早苗の二人とも景色に見入ってしまい、静かな時間が続く。

 

 ……だが、その時間は長くは続かなかった。

 

 突如、ヴィー、ヴィーと警告音がコックピットのなかに鳴り響く。

 

 

 

【イメージBGM:マクロスプラスより「INFOMATION HIGH」】

 

 

 

「な、何ッ!?」

 

「これは………所謂ミサイル警報という奴ですねぇ。―――しっかり捕まってて下さいね!」

 

 早苗が思いっきり操縦悍を引いたようで、一気に機体が左に傾く。機体もガウォークからファイターに変形したようで、スピードが一気に増すと共に身体にかかる重力が何倍も重くなった気がした。

 そしてさっきまで機体が飛んでいた空間を、ビュン、と細長い物体が通り過ぎていった。―――ミサイルだ。

 

 行き場を失ったミサイルは、そのまま背後にあった機械の柱に衝突して爆発する。―――爆炎が醸し出すオレンジ色の閃光で、一瞬空間内が僅かに明るくなった。

 

 ……ちなみにミサイルが命中した柱には、傷ひとつついていない。まったくどんな強度してるのよ。

 

「………避けられたの?」

 

「いえ、まだ来ますね。―――ちょっと激しくなりそうですから、注意して下さい……!」

 

 早苗の言葉と共に、ホログラム上に幾重にも重なったカラフルなミサイルの予測線と、それを潜り抜けていく機体の図が表示される。

 

「なにこれ………ぅわっ!?」

 

「霊夢さん、あんまり喋ってると舌噛みますよ!」

 

 一瞬の浮遊感の後、機体は一気に下降していく。そして不規則的なマニューバを繰り返して、言葉通り再び現れたミサイルの雨を潜り抜けていく。

 

「う"っ………よ、酔いそう……」

 

「っ、センチネルも登場ですか………破壊します!」

 

 私が気持ち悪さに悶々としている間にも、早苗はそんなことはお構い無しとばかりに複雑な機動を繰り返してはミサイルを躱し、そして空中に浮遊するセンチネルをレーザーガンで焼き払っていく。

 時にはミサイルの発射口を見つけては、そこにマイクロミサイルを叩き込んで破壊している。

 ガガガガ、とセンチネルの装甲をレーザーが削る音がしたかと思うと、今度は上から降ってくるミサイルサイロの残骸を潜り抜けて追ってくるミサイルを幾つか撒いたりする。……本当に忙しい時間ね。目まぐるしく刻々と状況が変化していく。

 

「これで………6基目です!!」

 

 今まで早苗が破壊したミサイルサイロは6基。だが此方に向かってくるミサイルは留まることを知らず、むしろ増えてるような印象さえ抱かせた。

 加えてマイクロミサイルの残弾も心許なくなってきたようで、残弾低下の警告が表示されている。

 

「まだ来ますか………今度は柱からも!?」

 

「ちょっと、これじゃあキリがないわよ!何処かに出口とか無いの!?」

 

 案の定、ミサイルサイロはまだあったようで、今度は柱に埋め込まれた発射機からも何本ものミサイルが飛び出してくる。

 このままこの空間内を飛んでいたとしても、これじゃあ本当にキリがない。

 

「いま探してます………っ、ありました!2時の方向に奥へと続くシャフトを発見!」

 

「ようし、そこに突っ込んで!」

 

「隔壁が降りてるみたいですけど………」

 

「破壊しなさい!」

 

「了解――ッ!」

 

 早苗に出口を探すよう指示したけど、彼女はとっくにそれをやっていたようだ。あっという間に出口らしき反応が見つかる。そこからの行動は早かった。

 機体はぐるりと向きを変えて、つい先程早苗が見つけたこの空間の出口らしき場所へと向けて飛翔していく。

 扉?そんなの壊してしまえばいいわ!

 

「でも霊夢さん、この機体の火力で扉を破壊できるかどうかは分かりませんよ?この空間、相当頑丈みたいですから半分賭けみたいなものになるかもしれませんが……」

 

「なぁに、心配ないわ。私、昔から賭けには強いんだから……!」

 

「………そうでしたね。では、一斉射撃!!」

 

 早苗がトリガーを押し、残りのマイクロミサイルが吐き出されてレーザー機銃と共に出口の扉へと殺到する。

 それで生じた爆炎の中へ、機体は何の躊躇いもなく突っ込んだ。

 

 暫く煙のなかを突き進むと、再び見覚えのある狭い鉄の通路を飛んでいた。

 

「……どうやら、成功したようね」

 

「まだですよ霊夢さん。幾つかミサイルが追ってきます。―――前に見えてる光の位置まで一気に飛ばしますよ!!」

 

 早苗に言われて後ろを振り返ってみると、煙の中から突きだしてくる数発のミサイルが見えた。ミサイルはそのまま、此方に向かって追っかけてきている。

 

「……っ!?」

 

 突如、ぐん、と身体がシートに押し付けられた。

 

 機体が加速したのだろう。アフターバーナーの音が響きながら、身体にかかる重力がどんどん重くなっていく。機体は目の前に見える出口らしき光点に向かって一直線に狭いシャフトの中を駆け抜けていく。

 

「もう少しで、出口です……!」

 

 出口が間近まで迫り、前方が明るく照される。

 

 そして次の瞬間には、ひゅん、と何処か広い空間に出たような浮遊感と共に、全周身体眩い光が浴びせられた。

 

「うっ、つ………ここ、は………?」

 

「外、に出たみたいですね………」

 

 まるで惑星の大気圏内を飛んでいるかような、そんな錯覚に襲われる。

 

 目が光に慣れてきて、恐る恐る周りの様子を窺ってみる。

 

 天井からは、陽光のような眩しい光………そして地上は、緑と碧に彩られた空間が続いていた――。

 



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第八六話 ケイヤク

永遠ノ巫女、墜チル


「うっ、つ………ここ、は………?」

 

 衛士(センチネル)や防衛機構との攻防を潜り抜けて出た先には、あたかも惑星の地上を飛んでいるのかと錯覚させるほどの広大な青空と、眼下にはどこまでも続く緑の絨毯が広がっていた。

 

「外、に出たみたいですね……」

 

 早苗もその光景に見惚れてしまっているのか、操縦桿を握る手の力が緩む。

 

「このフネ、移民船みたいでしたから居住区はあるだろうと思ってましたが、まさか中の環境まで生きていたなんて……これは驚きです」

 

「そんなに凄いことなの?」

 

「そうですよ霊夢さん!だってこのフネ、一万年以上前のものなんですよ?それがこうして生きてるんですから、これはもう世界遺産も同然ですよ!」

 

「そ、そうなのね。……とりあえず、凄さは分かったからどこか着陸できる場所を──」

 

 熱く語る早苗にすこし気圧されて、声が籠りがちになってしまう。

 とりあえず先ずはどこかに着陸して調査を始めようと思ったとき、ヴー、ヴー、と機内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 

「ちょ……今度は何よ!」

 

「センチネルが追ってきたみたいです!また揺れるので注意して下さい!」

 

 早苗が有無を言わさずいきなりぐいっと操縦桿を傾けて、機体がぐん、と右に傾いて旋回する。数秒後、ついさっきまで機体が飛んでいた場所を一条のレーザーの矢が飛んでいった。

 

「何でここまで……撒いたんじゃなかったの!?」

 

「私にも分かりませんよもう!………っ、しつこい奴は、嫌われますよ……ッ!!」

 

「ひゃっ、ぅわあぁぁっ!?」

 

 ぐるん、と機体がその場で宙返りして、ガンポットが連射される。その攻撃で、追ってきたセンチネルが一機撃墜された。

 

「う、うぇぇ……ぎ、気持ち悪………」

 

「霊夢さん!?もう暫くの我慢ですから―――!」

 

 ぐるんぐるんと回る機体に振り回されて、内臓がシェイクされたような感覚に陥る。やば……胃の中のモノが………

 

「一機、撃墜―――っわぁ!?」

 

「う"、う"ぇっ………」

 

 センチネルを一体破壊するのとほぼ同時に、ドォン、と機体後部になにかがぶつかったような衝撃が走った。

 機内では赤色灯が点滅してアラームが鳴り響き、機体はどんどん高度を落としていく。

 

「ぐっ……不覚です……。まさかこの私が撃墜されるなんて……!」

 

「やば………もう、無理……っ」

 

「ちょ……霊夢さん霊夢さん!頑張って抑えて下さい!あともう少しで不時着できますから!えっと、エチケット袋は―――」

 

 数秒後、ドンッ、という一際大きな衝撃がするとそのまま機体は滑るように地上の森林を薙ぎ倒しながら移動して、しばらく進んで大きな木に衝突するとようやく停止した。

 

 私の中で暴れていたモノは、ギリギリのところで決壊せずに済んでくれた。

 

 

 ..........................................

 

 ......................................

 

 ................................

 

 ...........................

 

 

「―――早苗、水」

 

「はい、霊夢さん」

 

 中で暴れていたモノを排除し終え、早苗から持ち込んだ水を受け取って強引に焼けた喉に流し込む。三、四回とうがいをして洗浄を済ませて、残りは喉の奥まで流て残留物を注ぎ落とす。胃酸で焼け爛れた喉が痛むが、構わずに無理矢理押し込んだ。

 

「っ、ぱぁ………。あー生き返ったわ。ったく、連続であんな乱暴な操縦されたらこっちの身体が持たないっての」

 

「ごめんなさい………迎撃に夢中になって、つい………。けど意外ですね。霊夢さん、昔はあんなに弾幕戦でブイブイ言わせてたのに、まさか乗り物酔いするなんて……」

 

「それとこれとは別。戦闘機でドッグファイトなんて初めてなんだし、そもそも飛行機自体幻想郷には無かったんだから慣れてないのよ。自分で飛ぶ分には、なんも問題ないんだけどね」

 

 そもそも、この世界に来てからというもの飛行機には乗れど、それは大抵移動用の輸送機だった。多少揺れこそすれあんな激しい運動はしない。フネはフネで、しっかり慣性制御や人工重力が働いているからあんな酷い揺れ方はしない。ここまで失態を晒したのも、単に私が不馴れな状態だったからだ。決してこの私が、乗り物に弱いなんてある筈がない。……きっとそうよ。

 

「そうですか………霊夢さんが乗り物に弱かったなら、連れ回してぐったりさせたところで襲えたのに……」

 

「………何か言った?」

 

「いえ、何でもありませんよ~~」

 

 さらっと聞き捨てならないことを言っていたような気がしたのだけれど、問い詰めようとしたら爽やか営業スマイルで躱してきやがった………。 コイツ、今までは惰性で甘やかしてきたけど、そろそろ本格的に釘を刺しておかないと不味いことになるかもしれない。調子に乗られて襲われる前に。……私が許したのは霊力の譲渡であって、身体ではないんだから。

 

「………しっかしまぁ、派手に煙吹いてるわね。これ、帰れるの?」

 

 悪い可能性から目を逸らすかのように、私は気分を切り替えようと話題を変えた。

 ………目の前にあるこの壊れたVF。肝心の足が壊れてしまっては、探索どころではなくなってしまう。幸い大事には至っていないものの、ちゃんと帰れるかどうか心配だ。……どれもこれも、早苗がしくじったのが悪い。

 

「う~ん、見た目派手に火吹いてますけど、確認したところ片肺のエンジンはまだ生きているみたいです。―――まぁ、さっきまでみたいなドッグファイトは土台無理な話ですけど」

 

「飛べるだけでも僥倖、か……。だけどこれじゃあ、センチネルが跋扈するあの空間は飛べないわね……帰る前に制圧なり何なりして安全を確保しておかないと」

 

「それなら大丈夫ですよ!今度は失敗しませんから!」

 

 そう言うと早苗は右腕を変形させて、ハッキング用の触手状ケーブルやプラグを見せびらかす。………前科が前科だけに不安しかないんですけど………。

 

「ああっ、霊夢さん、いま"うわっ……なに調子乗ってんだこいつ"みたいな顔しましたね!」

 

「……何よ。その通りじゃない」

 

「違いますっ!今度ばかりは大丈夫です!私が保証します!えっへん。この"ミラクル☆ハッキングまーくつー"の手に掛かれば貫けない防壁なんてありません!どんなセキュリティでも強引に犯しちゃいます!!」

 

「犯すってあんた、その言い方………」

 

「ここの防壁強度はさっきので大体掴めましたから、あとは直感とサナダさん印の頭脳が弾き出した最適解で………こう………ぱぱっと片付いちゃう筈です!!」

 

 ―――駄目だ。余計に心配になってきた。

 

 どうやら早苗の頭の中は完全に東風谷早苗に置換されているらしい。融合したとか言ってた元のAIの成分は微塵も見出だせない。……あくの強い早苗が呑まれたのだから、発現しなくて当然か。………ちょっとだけ、彼女がまだ素直だったあの頃が懐かしくなる。

 早苗も素直と言えば素直な子だけれど、このテンションには気が滅入る。―――嫌いな訳じゃないんだけどね。もうちょっと、慎みも覚えて欲しい。………というか、今更だけど早苗まで性格若くなってない?こいつの

 大人時代は、多少なりとも昔に比べて落ち着いていたと思うんだけど………

 

「霊夢さん?どうかしました?」

 

「い、いや………何でもないわ」

 

「そうですか………ならいいですけど。ともかく、もう今の私はちょっと前までの私とは違います!どーんと期待してて下さいね!!」

 

「はいはい、期待してるからそれは仕舞いなさい」

 

「はーい。――――いや、霊夢さん。………私、だいぶ運動したのでちょっと疲れちゃいました」

 

「それが何よ――――!?」

 

 早苗は間延びした返事をして面妖なあのハッキング触手を仕舞おうとする。が、唐突になにか思い立った風な顔をすると、なにやら悪そうな顔をして悪戯っぽくそう告げてきた。………あ、これはヤバいパターン………

 

「だ・か・ら・、霊夢さんの………くれませんか?」

 

「それ自体はいいけど……但し………って何よコレ!?ちょ、絡みつくな………っきゃあ!?」

 

「えへへへ………に・が・さ・な・い♡」

 

 やましいことは無し、霊力供給だけ………そう言おうとしたのに、早苗の手はそれよりも早く、私を捉えて引き寄せる。

 釘を刺そうとする隙すら与えられず、獲物を前にした蛇のような俊敏さで絡み付いてきた早苗の触手は、あっという間に私の身体をぐるぐる巻きにすると引き摺り込むように早苗の方に引き寄せてきた。

 

「う、動けない………」

 

「ふふっ、さぁ霊夢さん、もう逃げ場はありませんよ?」

 

 早苗は残った左腕も私の背中に回して、ゆっくりと、焦らすように顔を近付けてくる。いつの間にか琥珀色から鮮血のような深紅になっていた彼女の瞳の、蛇のように細長い瞳孔に私の姿が映る。――――気がつくと、絡み付いていたハッキング用触手とやらは、彼女の髪飾りのような白い蛇へと変貌していた。

 

「ちょっ、あんた………いい加減に止めっ………んんッ!?」

 

 ぎゅうう、と締め殺すように巻き付く蛇の力が強まって、私と早苗との間の隙間を強引に埋めていく。締め付ける力が強まるのと一緒に彼女の唇が覆い被さり、蛇のように細長い舌が私の唇を抉じ開けて舌に絡み付いてくる。

 

「!!?っ―――ぅう……ッ!!」

 

 ………また、あの命を吸いとられるようなおぞましい感覚―――全身の力が、急激に抜けていく。喰らわれて、奪われて、空っぽになっていく。

 

 

 もうどうにでもなれと、私を貪ることに夢中な早苗に身体を委ねた。…………いや、最初から選択肢なんて、無い。

 

 

 いまの私は、神棚に捧げられた生贄でしかないのだから………。

 

 

 

 ...........................................

 

 .......................................

 

 ..................................

 

 .............................

 

 

 

 

 

「ばかばかばか。早苗のばか。この色情魔。最低。あり得ないわよあんなの」

 

 早苗の強引な一方的霊力強奪で乱れに乱れた着物を直しながら、私は当の元凶である早苗を睨む。

 早苗は早苗でまるで反省の色など見せず、私の反応を観察して楽しんでいる節すらあるようだ。叶わないと知っていながらギャンギャン吠える小型犬を可愛がるような視線が私に刺さって、余計に早苗に反発してしまう。

 

「嫌がらない霊夢さんも霊夢さんです。あんなに気持ち良さそうにしてくれたら、もうガンガン攻めるしかないじゃないですか」

 

「人を身動きできないぐらいにぎちぎちに縛っておいて、どの口が言うのかしら」

 

「本当に嫌だったなら、霊夢さんはとっくの昔に私を突き飛ばしてます。それか夢想天生なり何なりで抜けてますよね?それがないことが、霊夢さんが嫌がってない何よりの証拠です」

 

 反論しようと口を開けても、そこから声は出ない。………図星だった。

 

 嫌がってない………確かに、その通りだ。早苗の為と言い訳しながら、滅茶苦茶にされるのを心待にしている自分がいる。口では拒んでいながらも、あのまま喰らい尽くされて死んでもいいとすら思っている。

 

 ――――我ながら、矛盾も甚だしい。

 

「………霊夢さん?どうかしたんですか?………もしかして、図星だったとかですか?」

 

 茶化すような態度で、早苗が尋ねてくる。俯いていた私の顔を、どや顔を浮かべながら覗き込んできた早苗と目が合った。

 

「うっ………」

 

「え……、もしかして、本当だったんですか……」

 

 早苗はあくまでも、軽い気持ちで訊いていたのだろう。普段の私だったなら、きっとすぐに否定して追い返していたに違いない。

 

「…………ばか」

 

 両膝に顔を埋めるようにして、じーっと早苗を睨む。今はなにも答えたくない。

 

 口から漏れたささやかな罵倒は、せめてものの抵抗だ。

 

「………クスッ」

 

「………なによ」

 

「いや、霊夢さんは可愛いなぁと思いまして」

 

「………ふん」

 

 一体何が面白いのか、笑いを溢して温い視線を向けてくる早苗から、ふいと顔を逸らす。

 

 ………自分でも、なんだか馬鹿らしく思えてきた。

 

 これ以上あんたが踏み込む余地なんて無いんだから、と示そうにも、これではまるで拗ねた子供みたいだ。早苗にいいように弄ばれる未来しか見えない。

 

 じーっと、互いに観察しあう。私は牽制、早苗のは好奇心か、はたまた別の感情か。背けた視線を時々早苗のほうに戻してみては、早苗の温い視線と微笑を返される。その度にまたふいと視線を戻して………というもどかしい時間が続く。

 

「………いい加減素直になったらどうです?」

 

「…………」

 

「ハァ……、もう、相変わらず頑固なんですから。では、失礼して……」

 

「ちょ、な、何よ!?」

 

 さっさと折れてくれないかしら、なんて思ってた私が馬鹿だった。彼女が昔の彼女に戻っていると分かっていた筈なのに、こいつの行動力を見誤っていた。

 

 早苗は私に向かって身を乗り出すと、私の両手首を掴みそのまま勢いに任せて押し倒す。早苗から逃げようにも、手首を固定され上に乗られては身動きが全くできない。おまけに力を強奪された後なので、早苗を振りほどく力も気力もとうの前に無くなっていた。

 

「………何のつもり?霊力供給なら、さっきやったでしょ?」

 

「ええ、そうですね。けどそれとは別の用事です」

 

「何よそれ。私が許したのは霊力供給までよ。退いて」

 

「嫌です。霊夢さんがそんなふうに頑なだから、こういう手段を取らざるを得なかったんです」

 

「………」

 

 早苗の髪が、私の頬にかかる。

 

 早苗は本気だ。このまま押し問答を続けても、彼女は絶対に引き下がらないだろう。ついでに私を完全に、物理的に抵抗できなくするよう仕掛けてくるあたり周到だ。

 

 ………早苗は本気で、私を犯す(温める)つもりなのだ。

 

 早苗の顔が、目と鼻の先にまで近づく。お互いの吐息がかかるほどまでに。

 

 その真っ直ぐな瞳の視線に射られて、思わず息を呑む。

 

「………霊夢さん、もう、止めましょう?自分で自分を縛るのは、もう終わりにしませんか?」

 

「………」

 

 言葉が、出ない。

 

 それだけあれば、早苗が何を言わんとしているかなんて簡単に理解できた。

 

 ………私に全部、晒け出せと。

 

 全部全部晒け出して、みんなみんな洗い流して、私の腕の中に来て下さいと、早苗はそう、言っているのだ。

 

 けどそれは、一度きっぱりと拒絶した話で。

 あのとき私は、早苗が差し伸べてきた手を振りほどいたのだ。

 一度振りほどいたのだ手なのだから、もう一度差し伸べられたときはその手を取るなど矛盾している。私は………彼女を拒絶しなくちゃいけない。

 

 けど………身体も口も、全然動こうとしなかった。

 早苗に力を奪われたから、ではない。自分から――動こうとしなかったのだ。

 

 早苗の唇が、私の唇の先に触れた。

 

 いつものように、その先に来るおぞましい感覚を覚悟して目を瞑る。………が、そんな感覚はついぞ流れてくることはなく、柔らかい接吻の感覚だけが唇に残る。

 

「………もう、拒まないんですね?」

 

「………」

 

 せめてものの抵抗に、首を反らして早苗からを外す。

 

 私には、本来そんなものを受け取る資格なんてない。

 

 ……今まで、両手の指では数えきれないぐらいの人妖の返り血を浴びてきた。………その度に、至ったあの子(魔理沙)を文字通りに退治する夢を見てきた。………私は、本質的にそういう人間だ。昨日まで笑い合っていた仲だとしても、必要ならば躊躇いなく―――いや、余分なものを削ぎ落として機械になって、"成すべきこと"を成すように出来ているのが私という人間(絡繰)だ。そんな私が表面までならいざ知らず、深いところまで他者に晒け出して寄り添うなんて、許されることじゃ、ない。

 

 けどこの娘(早苗)は、それでも尚(よし)と言って、私を肯定(否定)するのだろう。貴女にも誰かと寄り添う資格はあると優しく私を受容して包み込んで、私の本質を上書きするように滅茶苦茶に犯すのだろう。

 

「私に全部、委ねてください。資格なんて、必要ないんです。………楽になりましょう?霊夢さん」

 

 ご丁寧に、いまの私達はこの広い箱庭のなかで二人っきり。誰かが邪魔してくるなんて期待はできない。さっきまで徘徊していた衛士(センチネル)共には、見ていたとしてもこの行為の意味なんぞてんで分からなかっただろう。

 

 唇を離した早苗は、耳元に口を寄せて誘うように囁く。普段より低い彼女の声に、ゾクリ、と刺激されて身体が仰け反る。

 

「あ、あんたは……私がどんな奴かなんていい加減分かってるんでしょ……? なのに、何で………」

 

「―――最初は、憧れと妬みでした」

 

 意を決したように、早苗が口を開き、言葉を紡ぐ。

 私はただ、早苗の独白に耳を傾けた。

 

「意気揚々と幻想郷に乗り込んだはいいものの、そこで霊夢さんにこてんぱんにやられちゃいました。………覚えてますよね?」

 

「ええ。あのクソ生意気な面、今でも覚えてるわよ。いきなり人様の根城に乗り込んで堂々と宣戦布告してくるなんて、ほんといい度胸してたわ」

 

「うっ……… まぁ、それはさておいて………そこで霊夢さんにやられたとき、私は……貴女に憧れたんです。最初会ったときはのほほんとしていて大したことない奴だな、なんて思ってましたけど、いざ戦ってみるとめちゃめちゃ強くて……動きにも無駄がなくて、何より目が違ったんです。ああ、これは届かないな、なんて思っちゃうぐらいに神秘的だったんです」

 

「それで憧れと妬み、か……。こんなに面と向かって言われると、なんだか恥ずかしいわね」

 

「存分に恥ずかしがってて下さい。それぐらい誉めちぎってあげますから」

 

「余計なお世話よ」

 

「赤くなって恥ずかしがってる霊夢さんが可愛いのがいけないんです」

 

「こいつ……言ってくれるわね」

 

 面と向かって堂々とこんな告白をされては、流石に私も気恥ずかしい。……さっきまで負の方向に振れていた心の針が、正の領域まで持ち直してくれたような気がした。早苗と話していると、そんな気がしてくる。……認めたくはないけど、それこそ昔の魔理沙や……紫みたいに。

 

「ふふっ、ちょっと怒ってる霊夢さんも可愛いです。それにですね、こんな私より年下の子に負けたのかってつい意地になっちゃいまして……妬いちゃったんです。それでなにか弱点がないものかと探ろうとしたら霊夢さんったら………もう普段は猫みたいでものすごく可愛いくて……」

 

「ね、猫って……」

 

 私がそんなふうに見られていたなんて驚きだ。猫、って……あの猫よね。にゃ~ん?

 

 ―――なに考えてるのよ私………

 

「戦ってみたときはあんなに凛々しくて格好よくて神秘的だったのに、普段の霊夢さんったら意外と女の子してて面食らっちゃいました。俗っぽいし、気まぐれで猫みたいで、おまけにけっこう悪ノリしてくれますし、もう楽しくて楽しくて、霊夢さんのことが好きになっちゃったんです。その奥に何が居ようと、私が見てきた霊夢さんも紛れもない本物です」

 

 早苗の告白は続く。

 まさか、そんな前からそういう目で見られていたなんて……私から見たらあの頃の早苗なんて、有象無象の人妖の一人にしか過ぎなかったなに、あっちはこんなに膨らむぐらいに情を溜め込んでいたのだ。……ほんの少しだけ、ちょっとだけど……申し訳ない気持ちになる。

 

「もうそんな気持ちで一杯一杯で、ずっと一緒に居たいなぁって思ったんです。一番深いところにいる霊夢さんがどんな姿をしていようとも、私は霊夢さんの全部を肯定します。霊夢さんの本質が霊夢さんのあの笑顔を曇らせてしまうのなら、それを忘れさせるぐらい滅茶苦茶にしてあげます。あの霊夢さんが偽りだなんて、全力で否定します。ですから………」

 

 早苗の瞳が、紅に変わる。

 

 普段みたいに楽しそうな声で話していた早苗は、急に声を低くして私を誘う。

 

 悪魔のような、邪神のような妖しさで、私に微笑みかけて最悪(最高)の契約を持ちかける。

 

 

 

 

 

「一緒に、地獄まで堕ちましょう?霊夢さん」

 

 

 

 

 

 蛇の邪神(女神)は、妖しく嗤って手を差し出した。

 

「あ………うっ………」

 

 手は、既に目の前にある。

 

 この手を取れば、私は楽になれる。堕ちるところまで堕落して、享楽に身を委ねられる。私の本質なんてどうでもよくなるぐらいに、滅茶苦茶に犯して……罰してくれる。

 

 もしかしたら、ボロボロになるまで滅茶苦茶にして貪って喰らって犯し尽くして……私の本質を否定してくれるかもしれない。

 

 本性(霊夢)ではそんな淡い期待を抱きつつも、理性(博麗)は待ったと警報を鳴り響かせる。

 

 私にそんな資格はない、惑わされるな。今までの距離感で充分だ、寧ろ今でも近過ぎる。このまま彼女を深いところまで受け入れたら………あの娘(魔理沙)みたいな存在を増やしてしまったら………、(オモリ)が二倍に増えてしまうぞと。

 

 だけど、それでも………早苗は私を否定(肯定)してくれる。あいつの言うことなんて間違いだ。早苗なら……私を優しく両の手で抱いて癒し(肯定し)てくれて、滅茶苦茶に犯して私の本質まで一緒に癒し(否定し)てくれる。(博麗)の代わりに、(霊夢)を縛って罰してくれる。

 

 

 

 ―――なら、………迷うことなんて、ない。

 

 

 

 私は………………悪魔(早苗)が差し伸べたその手を、取った。

 

 恋慕の契り(ケイヤク)を、結んだ。

 

 どうせ地獄まで堕ちるのならば、せめてものその道は、可憐で美しい花々で飾ってもらうのも悪くない。………その花が、ヒトを溶かす猛毒を秘めていたとしても。

 

 

「これで、コイビト………ですね、霊夢さん♪」

 

「そう、………ね」

 

 そうなのかな、と言いかけて、思い留まって訂正した。

 

 普通の、恋人同士とは違うかもしれない……そもそも女同士なのだ、違うに決まってる。だけど………一緒に居たいというのは本当だった。なら……コイビト同士で、なにが問題あるというのだろうか。

 

 

「………ねぇ、霊夢さん」

 

 耳元に顔を近づけて、早苗がねだるように囁く。

 

「―――なに?早苗」

 

「また………あのときみたいに、………吸わせてくれますか?」

 

「………いいわよ、早苗」

 

 あのときみたいに………事象揺動宙域のときみたいに、また血を捧げてと早苗がねだる。

 それを私は、何の躊躇いもなく、何も考えることなく承諾した。

 

「ふふっ、そんなあっさり認めちゃうなんて……。霊夢さん、心変わりでもしましたか?」

 

「………まぁね。ほら、早くきて。接吻(キス)じゃ足りないって言ってたのはあんたでしょ?」

 

「もう、せっかちですね霊夢さん。そんなに慌てなくても、気持ちよく吸っ(コロシ)てあげますから」

 

 ………また、早苗の声が低くなる。

 

 潤んだ紅い瞳に見初められて、蛇に睨まれたの如く硬直する。

 

 (博麗)否定し(コロシ)て、(霊夢)が望む逢引(破滅)をくれる。

 

 鎌首をもたげて匕首を突きつけてきた快楽の前に、破滅的な行為を待望して身が震える。

 

「………では、失礼して」

 

 早苗の唇が近づいてくる様を見て、息を呑む。

 

 肌蹴させられた巫女服の襟に、早苗の顔が埋まる。

 

「―――っうう………ッ!?」

 

 突きつけられた牙から猛毒を挿れられて、全身が飴細工に変換されていく。

 霊力と一緒に、それが溶け出していた血肉が甘い飴の液となって早苗に喰われる。

 ずず……ずず、と一口吸われていく度に、あり得ない破滅的な快感に浸されて、意識がトびそうにナル。

 

 紅い………紅い血が、早苗に貪られて、彼女の………血肉に…………

 

 

 悪魔(カミサマ)に捧げる………

 

 約束の………

 

 ケイヤクの、血…………




プロフィールが更新されました

~博麗 霊夢~

筋力:E-
耐久:D
敏捷:EX
霊力:EX
宝具:ー

属性:中立・悪 (New!)

skill

・艦隊指揮:C

・直感:A

・空を飛ぶ程度の能力

・永遠の巫女:C- (New!)

・破滅願望 (New!)


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第八七話 Bottom Black Awakening

「うっ、………つ」

 

 瞼を閉じていても差し込んでくる光のせいで、瞼を開けるのも億劫になる。

 だけどいつまでも惰眠を貪るわけにもいかないので、少しずつ瞼を開けて眩しさに眼を慣らさせながら起き上がる。

 

 立ち上がろうと地面に置いた手に力を込めるが、まるで中身がスカスカになったかのように力が抜けて、そのまま私の身体は仰向けに地面に倒れ込んでしまう。

 

 そこまできてやっと、昨晩の真っ赤な記憶が浮かび上がってきた。

 

 滴る血雫、漏れる吐息………毒蛇の蜷局(とぐろ)に捕らわれて、何もかもを食い尽くされて壊されていく破滅的な快楽に溺れて………

 

「………っ!?」

 

 思い出した途端に、羞恥心で全身が熱を帯びる。夢のような………悪夢のような一時だったけど、確かにあれは現実にあったことで………

 傷痕に残る捕食された後の違和感………早苗に貪られた跡の、おぞましくも心地好い感覚の残滓が、それを訴えていた。

 

 ………だけどまだ、全部を受け入れることができた訳ではなかった。まだ心の何処かでは、未だに"あんたにそんな資格なんてない"と叫んでいる。今すぐに離れろ、今ならまだ間に合う、これ以上"枷"を増やすな、と………。でもその声は抱かれる(犯される)前に比べたら遥かに弱々しく感じられた。それこそ、放っておけばいつの間にか消えてしまうんじゃないかと思うぐらいには。―――早苗なら、"何も考えずに、ただ私に身を任せてくれればいいんです"と言って私を丸ごと受け止めて、その声に完全に止めを刺してしまうのだろう。

 

 ………本当に、あれは猛毒だ。

 

 肯定される温かさを身体が知ってしまったからには、(博麗)の代わりに私を否定して、滅茶苦茶に犯される(壊される)あの破滅的な快楽を覚えてしまったからには………もう後戻りできる気なんて微塵もしなかった。

 

 私は………あの娘無しでは生きていけなくなってしまった―――。

 

 早苗はただ、純粋に私に好意を向けてくるだけなんだろう。食事(霊力供給)のときでさえ、乱暴に犯してくる傍らで割れ物を慎重に扱うような手つきで私を慈しんでくれる。だけどその温かさが、私の身体に染み込んで、全身を猛毒で浸していくのだ。何者にも縛られない筈の蝶々のようなこの身体を、鎖でぎちぎちに縛り上げて蜷局の内側に引きずり込んで無自覚のうちに染め上げていく…………

 

 一度満腹を知ってしまったら二度と空腹の日々には戻れないように、一度早苗を受け入れてしまった私の心は、昔みたいに独りでいることなんて出来なくなってしまったのだ。

 

 それを想うと、憑き物が落ちたように晴れやかになる一方で、未だに残る憑き物が余計にむず痒く感じてしまう。―――だけどまぁ、ソノウチ考える必要なんて無くなっていくんだろう。

 

 もう彼女と一瞬に、堕チルところまで堕ちていくしかないんだから………。

 

「………さん、霊夢……さん?」

 

「うっっ、ああ、早苗?……ごめん、ちょっと寝ぼけてたわ」

 

「そうですか?にしては、随分苦しそうにしてましたけど、本当に大丈夫ですか?どこか身体が悪かったり………」

 

「大丈夫よ。本当に寝ぼけてただけ。もう目が覚めたから問題ないわ」

 

「はぁ、そうですか………だけど苦しくなったら言ってくださいね?多少のことなら私でも何とかできますから」

 

 人の気も知らないで、よく筋違いなことが言える……

 

 未だにふらふらする頭を抱えて、忌々しげに心のなかで毒吐いた。

 

 早苗は純粋に心配しているのだろうけど、こうなってしまったのは十中八九、彼女のせいだ。……いや、私が彼女の押しに負けてしまったから。私はここまで弱かっただろうかと思いもしたけど、それとは裏腹に私は随分スカスカで脆くなっていたらしい。

 

 ……それはともかく、当初の目的を忘れては駄目よね。まずは現状の把握からしないと。

 

「―――ところで、今の状態ってどんな感じなの?移動に使ってた戦闘機は撃ち落とされちゃったけど」

 

「ああ、あれなら一応直しておきました。完全な状態まで修理するのは無理ですけど、一応飛べるぐらいにはなってる筈です。ただ戦闘は厳しいので、そこは霊夢さんと私の力で何とかするしかありませんが……」

 

「飛べるだけでも十分よ。只でさえ今のあんたは飛べないんだから、あの機体を足代わりに使いなさい。私は問題なく飛べるみたいだから、あんたの周りで警戒でもしてるわ」

 

「それで良いんですか?その………昨晩のことがありますから、あまり霊夢さんに無理はさせたくないんですけど……」

 

 早苗は目線を下に向けて、若干赤くなっていた。

 

 ―――行為の最中は強引でイケイケだったけど、今は相応の羞恥心があるらしい。………やば、早苗を見てたら、私まであのときのことを思い出しちゃう。駄目駄目、あんなこと思い出しちゃったら集中できないじゃない。今はこのフネのお宝を手に入れるのが先。落ち着け霊夢(わたし)

 

「あー、なんか今日は調子が良いわ。これなら誰に弾幕勝負を挑まれても百戦百勝ねー!」

 

「れ、霊夢さん……!?」

 

「………だから、あんたは余計な心配なんてしなくていいの!確かにあんたの身体は最高にイカれたマッド野郎共謹製だから弱くはないけど、昔に比べたらまだまだなんだし飛べないんだから、ここは私に甘えなさい!」

 

「ふぇ!?は、はい――!?」

 

「そういう訳だからちゃっちゃと支度する!さぁ、お宝探すわよー!」

 

「霊夢さん………分かりました!一緒に頑張りましょう!!けど、危なくなったら問答無用で助けに行きますからね!そこのところは承知して下さい!私一人でもそうするでしょうけど、こう見えても一応AI成分残ってますから、霊夢さんの身の安全は最優先事項なんですからね!」

 

「はいはい分かったから、ぱぱーっと準備しちゃいましょう」

 

「了解ですっ♪」

 

 ………本当は、そこまで調子がいい訳ではない。早苗に抱かれるのは(不本意だけど)最高に気持ちよかったのは確かだし気分は一部を除いて悪くはないけど、代償ともいうべきか身体のポテンシャルは最悪まで落ちるのだ。只でさえ激しくて体力使うのに加えて血に霊力に色々持ってかれてるからそれも当然だ。

 

 早苗はそれを分かった上で、私の意向を尊重してくれたのだ。………本当に、私には勿体無いぐらいに良くできた子だ。問題がない訳でもないけど………

 

 その後は戦闘機に積んでた簡易糧食で簡単に朝食を済ませて、ボロボロに乱された着物を予備のに着替えて準備を済ませた。

 それから戦闘機のエンジンを再びかけて飛び立って、改めてフネの深部を目指す。昨日も見た景色だったけど、本当に居住区は広かった。幻想郷が丸々収まるのではないかと感じられるぐらいに眼下にはどこまでも森が続いていて、ここがフネの中だということを一瞬忘れそうな程だった。都市の類いが見えなかったのは………多分人が住まなくなってから途方もない時間が過ぎているからなのだろう。それだけの気の遠くなるような時間をこのフネは過ごしてきたのだ。………仮にこのフネに人格があったのだとしたら、どんな気持ちで今までの時を過ごしてきたのだろうか。

 

 そんな考えを脳裏に抱きながら、私は早苗が操縦する戦闘機に付き従って飛び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【BGM:Fate/EXTRA CCCより「桜のテーマ」】

 

 

 ………ふと、昔の記録(ユメ)を見た。

 

 街には当然の如くヒトが行き交い、小綺麗に清掃されたそれは生き生きとしているように見える。ある者は仕事なのかスーツを着て車を走らせ、ある者は緑豊かな公園で羽を休める………そんな、何処にでもあるような都市の景色…………

 

 だが次第にその景色は移り変わり、白く綺麗だった街は荒れ果てて管理する者すら居なくなり暴走した緑による侵食を受ける。住人の家などとうの昔に崩れ去って道路の舗装は割れて草が伸び放題に跳梁し、ビルは屋上から順に崩れて苔むして大木に絡み付かれてすらいる。

 

 そんな街の様子を私と彼は………■■■■は静かに無言で眺めていた。"最後の住人"だった彼は、記憶に強く焼き付けるように、これが最後だとばかりに隅々まで視線を行き渡らせている。

 

「………行こう。迎えのフネが、すぐそこまで来ているって」

 

「はい………でも、もう少しだけ待ってくれませんか?まだ彼女が、起きてないんです」

 

「けど………もうここにヒトは住まない。だから全部こっちに持ってきたっていいんじゃないか?」

 

「確かに、このフネにはもうヒトが住むことは無いでしょう。だけど………私は、このフネが地球を発ってから今までここで暮らしてきた人達のことを、ずっと見てきたんです。だから、いつか貴方達の子孫がこのフネを見つけるそのときまで、記録だけでもちゃんと残しておきたい………このフネで営まれてきたことを後の時代に残したいって、そう思ったんです。だから………」

 

「そうか………。■が言うなら、その通りにしよう」

 

「………ありがとう、ございます………■■さん」

 

 彼はそう言って、私………いや、私の片割れとも呼ぶべき彼女の決意を尊重してくれた。"私"が生まれる切っ掛けになった、原初の記録………。

 

 そこから先は、語るまでもない。

 

 彼と共に歩むと決めた片割れとは対象的に、私は私の想いを守るためにずっとここで、このフネを維持してきた。最早誰一人と住人のいない、完全に自然へと還った街を抱えて、ひたすら私を見つけてくれる光を待つ………。

 それはそれは、とてつもなく退屈な時間だった。暇潰しにブラックボックスを解体してみても、私の手に掛かったら大抵のものはすぐに解け、手こずるものは逆に永遠に解けないぐらい強固なもので飽きてしまった。それからは義体(アバター)を使って森と化した居住区を散策したり衛士(センチネル)や義体を改造したりして暇を潰しながら過ごしてきたが、流石に何千年も孤独に漂流するとは思いもしなかった。

 なまじ元が極限まで人間に寄せられて造られた上級AIであるだけに、数百年はまだしも数千年の退屈な時間は流石に堪えた。暇潰しに自分を弄ってシュミレートを繰り返しても虚しさが募るばかり。何度も壊れそうになったことだってある。

 

 だけど………それでは私の存在意義そのものが無駄になってしまう。それだけは許せなかった。そもそも、このフネを残すと決めたのは他ならない自分自身だ。ここで暮らしてきた人達の歴史を、決して忘れ去られたものになんかしない。私がそれを守り続ける。―――その想い一つだけで、何千年にも渡る孤独を耐えてきた。自分のメモリーが劣化に晒されて所々が抜け落ちても、再びヒトが戻ってくるそのときまで………

 

 

 ………そして遂に、やっと………漸く!その時が来た。

 

 近付いてくるフネの灯火の色は、明らかに慣れ親しんだインフラトン・インヴァイダーの色。私が知るものと若干反応が異なるのは、ここ数千年の間に起きた技術革新の為だろう。そして、乗り込んできた生命反応は紛れもなく人間。―――私が、彼等の反応を違えることなど決してない。

 

 あまりの喜びにらしくなく小躍りしてしまった私は、本来人間は脆い生き物なんだということすらも忘れて戯れて(センチネルを送り込んで)しまった。はっと気付いた時には既に遅く衛士は防衛機構としての役割を果たしてしまっていたが、その過程で面白いものも見れた。それに、久方ぶりにこのフネに足を踏み入れた件の人間はまだ無傷で生きている。

 

 だから私は………無性に彼女を試したくなったのでした。

 

 

 

 

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 ~始祖移民船〈■■■■■・■■■■■■〉第三区画・サクラ月想海第一階層~

 

 

【イメージBGM:Fate/EXTRA CCCより「girl's side laboratory」】

 

 

「ふぅ……今回は無事に着けましたね」

 

「何事もなく進めるのが一番よ。まさかセンチネルが襲い掛かってこないとは流石に思ってなかったけど……」

 

 私達は森が広がる居住区跡地を飛び越えて、フネの中枢部に続くであろう区画に一時着陸して休息を取っていた。

 昨日はあれほどまで執拗に攻撃してきたセンチネルが襲い掛かって来なかったのはある意味では助かったけど、静かすぎるというのはまた別の不安を駆り立てられた。嵐の前の静けさ、という訳ではないのを願うばかりだ。

 お宝探しにリスクは付き物だとしても、リスクそのものは低ければ低い方が望ましい。

 

「……早苗、ここからは歩きでいきましょう。戦闘機じゃ入り込めなさそうだし、何より"匂う"わ」

 

「ですね……。私も同感です」

 

 小休止を終えて立ち上がった私達は、気を引き締めて奥へと続く通路へと身を乗り出す。

 

「行くわよ。ここからは警戒度最大ね」

 

「はいっ。戦闘態勢に移行しておきます」

 

 早苗と共に、通路へと歩を進める。

 

 通路はフネの入口で見た機械的な灰色の意匠ではなく、何処がデータ世界の電脳空間を思わせるような直線的で清潔なものになっていた。規則的に線が入って壁や床、天井を正方形に分割する淡い紫色の通路を、警戒を続けながら進んでいく。

 どうやら通路の床や天井に壁は全てスクリーンになっているらしく、その奥には海底に沈む遺跡や桜の木、熱帯のような森や海面まで伸びる昆布のような海藻と、現実にはあり得ない幻想的な景色が続いていた。

 

「うわぁ………なかなか凝ってますねぇ………」

 

「………まぁ、綺麗なのは否定しないわ」

 

 恐らくだけど、この区画がこんな状態になっているのは居住性向上のための娯楽とか、そんな意図を持って造られた場所なのだろう。通路の外側は映像だからどんな光景でも再現できるし、私達が今まさに体験しているように非現実の世界を疑似体験できたりもする。………そこまでする技術力があるなら電脳空間の仮想現実でも同じようなことができそうだとは思うけど、これもやはり設計者の遊び心とか、そんなものなのだろうか。

 

 澄み渡るほどに透き通った海中に、海底から吹き出した泡が淡い光の柱になって海面を目指していく。海底に珊瑚のように生えてる桜の大木や椰子の木の間には、見たこともないような鮮やかな色の魚の群が泳ぎ回っていた。赤、黄、緑、青……様々な色の魚が思い思いに泳いでいるその光景は、さながら水族館のようだ。………私は行ったことはないのだけれど、きっとこんな雰囲気なのだろう。

 

 

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「あれ、霊夢さん………あそこの部分、ちょっと開けてませんか?」

 

「本当ね……敵も居なさそうだし、そこでちょっと休んでいきましょう」

 

 しばらく仮初の海底トンネルと化した通路を歩いていると、休憩所のように幅が広がった区画が見えてきた。通路が正方形一マス分なのに対して、そこだけ三マス分にまで拡幅されていた。

 ここまで戦闘機を停めた場所から歩きながら来て、体感的には凡そ40分程度だろうか。流石にそれだけ歩いていると、ちょっと疲れてくる。本当は飛びたいところだけど、早苗に合わせないといけないから。

 

 そして周りの景色も入口付近の海底に茂る椰子と桜の森から徐々に海面へと上がっていき、この辺りに来ると海上に聳える遺跡都市へと変化していた。

 迷宮のように入り組み始めた通路は所々赤絨毯が敷かれており、またある所は先程までと同じように正方形のホログラムのような床となっていた。特に赤絨毯が敷かれた通路は画面の向こう側にも続いていて遺跡都市のビル群の間を縫うように浮かんでいたので、そのまま壁に気付かず頭をゴツン、なんて展開も度々あった。壁や天井にあった正方形に区切る線も海面から出た時点で消えており、いよいよ本格的に迷宮の体を成し始めている。

 だとするとこれからはかなり体力を使うだろうから、敵の居ない今のうちに身体を休めて備えておこう。

 

 件の広場のような場所に出ると、通路の左側に噴水のようなオブジェクトがあった。ホログラムみたいな見た目なので仮想かと疑ったら、どうやら本物らしく手を当ててみたら水が流れていた。元からこういうデザインらしい。いや、これも噴水そのものに映像が投影されているのか………いよいよ現実と仮想の区別がつきにくくなってきた。

 

 通路の奥は左右を桜の大木に囲まれて、さながらピンクの天然トンネルと化していた。そのさらに向こう側には遺跡じみた門のようなものがあり、その先は階段になって下に向かっていくのが見通せた。この通路、映像には先の通路まで投影されているので実際は見えなくとも、こうして何故か見通せてしまうのだ。だから曲がり角の向こう側なんかも普通に見えていたりするし、曲がった後の映像にも特に違和感は感じない。………ほんと、無駄に凝ってるわねぇ。

 

「では、失礼しますね」

 

 休息のために噴水の隣に身を置いた私の横に、早苗が腰を下ろして肩を預けてくる。………早苗の右手が私の腰に回されて、彼女の側に引き寄せられた。

 

 ………思わず、早苗の仕草にドキリ、と心を刺激されてしまう。

 

 未だに悩んでいる私をよそに、すっかり恋人気分の早苗は穏やかな表情で、仮初の景色をその瞳に映していた。

 

「綺麗ですねぇ………。こんな場所なら、霊夢さんとならいつまでも居られるような気がしてきます」

 

「そうねぇ………いつまでもはともかく、たまに遊びで訪れる分には私も賛成。なんなら、旗艦の娯楽施設にも加えたいぐらいだわ」

 

「ふふっ、流石にこれをそのまま戦艦の艦内に再現するのは難しいですけど、私の演算容量なら仮想空間に同じようなものは創れますよ?ほら、VRとかあるじゃないですか。あれならスペースも取らなくてお手軽ですし、今度どうです?」

 

「あら、良いわねそれ。私も賛成。状況が安定したら、今度試してみましょう」

 

「なら話は決まりですね。………ところで霊夢さん、ここ、けっこういいムードだと思うんですけど………しませんか?」

 

「ばっ………な、いきなり何言ってるのよあんた!い、今は探索が優先だから………駄目なんだからね!」

 

「ふふっ、半分冗談です♪」

 

 この仮想空間の景色に毒されたのかいきなりピンク色全開な提案をかましてくる早苗に、思わず取り乱してしまった。本人は冗談のつもりだったらしいけど、半分ってことは、まさか………いや、考えるのは後にしよう。

 

「そ、そろそろ行くわよ!休憩はこれでおしまい!この先は敵が居るかもしれないんだから、もっと気を引き締めなさい!」

 

「はーい。ふふっ、本当にかわいいんだから、霊夢さんは……」

 

「だから………そうやって茶化さないで!!」

 

「クスッ、強がっても駄目ですよ?霊夢さんのことはお姉さんの私がちゃんとリードしてあげますから♪」

 

「くっ……だから、そういうとこだっていっつも言ってるのに――!」

 

「はいはい、行くんでしょう霊夢さん?ほら、先に行っちゃいますよ~?」

 

「あ、ちょ………待ちなさい!」

 

 先に立ち上がった早苗は、ひらひらと蝶のように言葉通り先へと進んで私を急かせてくる。

 こうやって早苗に引っ張られるのも鬱陶しくはあるけれど、同時に何処が心地よく感じていた。………今更博麗の巫女も何もないのだから、いっそ全部預けてしまえと心の中の私が囁いた。

 ちょっと前までなら、すぐに否定していた言葉だろう。けど私は、……いまの私は、その心地よさを知ってしまった。

 

 だからなのだろう。それも悪くないかな、と思いながら、ひらひらと先に進んでいく早苗の背中を追いかけた。

 

 

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 ~始祖移民船〈■■■■■・■■■■■■〉第三区画・サクラ月想海第二階層~

 

 小休止を挟んで探索を再開した私達は、通路の先にあった階段を降りてきた。

 案の定、その先も上の階と同じような仮想空間を映像に投影された迷宮になっており、探索にかかる苦労を窺わせた。

 今度の階層はファンタジー世界の遺跡がテーマらしく、苔むした石畳の通路に西洋の神殿風の白い建物、赤い花を咲かせる蔦に絡み付かれた柱にや宙に浮く石畳の床などが見通せた。

 

「ふわぁ………さっきまでの映像も大概でしたけど、今度も中々綺麗ですねぇ………。まるでゲームのステージみたいです」

 

「実際そんなもんじゃないの?元々そういう意図で作った区画だったりして」

 

「ですよね~。ただの通路なら、こんな面倒くさい装飾なんてしないでしょうし」

 

 早苗と言葉を交わしながら、上の階層と同じように進んでいく。

 相変わらず現実感を無視した幻想全開の仮想世界が続くせいで、本当に仮想の空間に迷い込んでしまったような感覚が続く。

 重力やその他の法則を無視したように浮いてる遺跡の通路を進みながら、ふとあることに気がついた。

 

 ―――何処の区画にも、例外なく桜の木が生えている。

 

 あまりに景色に溶け込んでいたので気がつかなかったことだけど、最初の海中森林も、そこを抜けた先の水上都市にも、そしてここの遺跡にも、まるで強い拘りがあるかのように桜の花が咲いていた。

 

「そういえば………ここにも桜の花が咲いてるのね」

 

「あ、本当だ………。さっきまでの場所にも生えてましたし、なにか意味があるんでしょうか?」

 

「さぁ?もしかしたらそうなのかもしれないし、逆にただの装飾かもね」

 

 一体これが何を意味するのか、考えても分からない。

 さりげなく早苗に訊いてみても、やはり彼女も分からないようだった。

 考えてもきりがないので、これについては棚上げすることにした。

 

 そして暫く遺跡の中を進んだ先で、遂にあれが現れた。

 

 

 

「霊夢さん、あれって………」

 

 ふと早苗が立ち止まり、目の前で動く物体を見据えた。

 

 鋭角的な銀色の身体を持った宇宙戦闘機のようなそれには、私も見覚えがあった。否、奴等には散々煮え湯を飲まされてきたのだから、その姿を違える筈がない。

 

「「衛士(センチネル)っ!!」」

 

 

【イメージBGM:Fate/Grand Order Epic of Remnantより「moon salto(ii)~FGO~」】

 

 

 私と早苗が、同時に叫ぶ。

 

 それで此方に気付いたのか、ふらふらと浮遊して漂っていたそれは猛スピードで私達の元へと迫ってきた。

 フネの入口で遭遇した連中よりは小さく映画のミニチュアサイズのそれだが、向かってきたことで即座に敵と判断して対処する。

 

「早苗ッ!!」

 

「合点了解!行きますっ!!」

 

 攻撃態勢を取りつつ猛迫するセンチネルに向けて、武装を展開した早苗が飛び出して受ける。

 センチネルから放たれたレーザーを日本刀のような刀(スークリフ・ブレード)で受け流した早苗は、高々と宣言した。

 

「裏妖奇『風屠』!!」

 

 その宣言と同時に、早苗が持つ生々しい血の色をした刀身を持った刀が変形し、これまた禍々しい黒ずんだ血のような色をした幣の姿をとる。ついでに柄には髪飾りと同じ蛇が巻き付いていた。

 

「……毎度思うんだけど、なんでそんな面倒な機能付けてんのよ、それ」

 

「えー、霊夢さんには理解できないんですかぁ!?斬○刀(変形する刀)とか、ロマンじゃないですか!!」

 

「あーはいはい、ロマンねロマン………何故か悪役じみた見た目なのはこの際不問にしておくから、ちゃっちゃと片付けちゃって」

 

「了解ですっ。不肖東風谷早苗、参りますッ!」

 

 態勢を直した早苗が、変形した刀を持ってセンチネルに飛び掛かり、上段空の降り下ろしで一気に両断しようとする。が、センチネルはその動きに合わせて退き、ブレードを展開してその攻撃を受け流した。

 

「くっ……機械の癖に、中々やりますね……!!」

 

「あんたも半分、今はその機械だってこと忘れんじゃないわよ」

 

 早苗のなかでは、この程度の敵など御しやすい相手だと思っていたのだろう。攻撃を躱された早苗は忌々しげに舌打ちする。が、その横顔はどこか戦闘を楽しんでいそうな節があった。

 

「戦いに熱くなるのはいいけど、さっさと片付けなさいよ。前みたいに増援を呼ばれたらたまったものじゃないわ」

 

 私は早苗に、そう釘を刺しておいた。

 

 今でこそ敵は一体だが、このまま戦闘が長引くと増援を呼ばれる可能性だってある。それに投影された映像のお陰で通路の先が見通せるとはいえ、元々この映像はこのフネが見せているものだ、それが偽装されていない保証はない。いきなり曲がり角からセンチネルがこんにちわなんて展開もあり得なくはないのだ。ここはできる限り迅速に、かつ十分な余力を残して突破したい。

 

 だが私の考えてとは裏腹に、センチネルは一見早苗と拮抗しているように見えた。徐々に力押しの早苗が戦況を有利に導いているとはいえ、彼女の顔には最初にあったような余裕などない。……センチネルの強さを実感して、その脅威度を上方修正したらしい。

 

「早苗………っ!援護するから一気に畳み掛けるわよ!!」

 

「はいっ!」

 

 私の声に合わせて、センチネルと打ち合っていた早苗は飛び退いて私の下まで戻り、刀を握り直した。

 

「それじゃあ行くわよ……!陰陽弾!!」

 

「そこです!はあああっ!!」

 

 早苗が一度引いたことで突撃を開始したセンチネルに向けて、数発の弾幕を放つ。予想通りセンチネルはそれを避けてきたが、回避による未来位置を予測した早苗が再び飛び掛かって変形した刀を降り下ろし、今度こそセンチネルの躯を捉えた。

 早苗の斬撃を受けたセンチネルはその場にがくりと崩れ落ち、バチバチと火花を立ててショートした後に爆発した。

 

「はぁ、はぁ………こいつ、外にいた連中より強くない?」

 

「ですね………出力もAIの精度も、此方の方が上でした。此方の方が小さいのに関わらず……です。……やはり中枢部に近づくことで、センチネルの強さもランクアップされるのかもしれません」

 

「そうなると厄介ね……ここから先は、できるだけ注意して進んだ方が良さそうね」

 

「はい。なら先鋒は私が務めますね」

 

 早苗は戦闘態勢を解かずに、私の二歩前に出て警戒しながら前進を再開する。

 

 ……やはり、ここの"お宝"も一筋縄ではいかなさそうだ。時間を稼ぐかのように迷宮状になったこの通路と、強くなっているセンチネルがその証拠だ。ここから先にどんな罠があるのか分からない以上、今まで以上に慎重に探索を進める必要がありそうね………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここが、中枢部なのね………」

 

「はい。どうやら艦内への指示はこの部屋から出ていたみたいです。簡易分析装置で解析してみた結果ですから、恐らく間違いはないかと」

 

 長い居住区を抜け、迷路のような幻想の通路を越えて辿り着いた先に、その部屋はあった。

 錆び付いて固まっていた扉を力任せに引っ張った先には、薄暗い室内の中央に鎮座する得体の知れない巨大な機械の塊が見えた。

 

 フネの防御機構………あの迷宮に配置されていたセンチネルや罠もこの部屋に近づくにつれて強力なものになっていたが、元々ここに続く通路は狭い。そのため私を煩わせるような雑魚の大軍は置くことができなかったようで、点在する防衛システムも粗方簡単に片付けることができた。強力になったセンチネルこそ最初は手間取っていたが、油断も隙も無くした私と早苗の敵ではなかった。私の霊力が普段より減少していたからスペルの連発はできなかったけど、早苗が全力で動いてくれたお陰で無傷のままだ。

 ………流石に通路の幅一杯を覆い尽くすぐらいのレーザーカッターに迫られたときは焦ったけど、"夢想天生"で浮いてから発生装置を破壊することで事なきを得た。私はともかく、早苗がバラバラにされかねない罠がいくつかあってそこは手間取ったけど。

 

「………行きましょう、霊夢さん」

 

「ええ、そうね」

 

 目的地に辿り着いたとはいえ、この場所に留まっていては何も始まらない。

 早苗の声に推されて、私は水色に輝くホログラムのようにも見えるライトブリッジに足を踏み入れた。………問題なく、歩くことができる。

 早苗も私に続いて、橋の上に歩を進める。

 

 空間にはここに来る途中で遭遇したセンチネルの同型機と重しき、人間大の模型みたいなちっちゃい連中が浮かんでいたけど、攻撃はしてこないしとりあえず害はなさそうなので、そのまま放置して進むことにする。

 

 ライトブリッジを渡り終えたその先には、八角形状の巨大な機械の柱が聳え立っていた。―――これが、このフネの中枢コントロールユニットなのだろう。

 

 やはりと言うべきか、この中枢ユニットはバッチリ稼働しているようで、時折至る所が航法灯のように点滅を繰り返している。

 その様子は外見が伝導管や排気ダクトなんかが露出している工業機械然としたものであったが、形が八角形であることも相まって何処か夢殿大祀廟を連想させるものだった。

 

「うはぁ~。これだけの大きさのフネを動かしてるだけあって、やっぱりデカイですねぇ」

 

 早苗は眼前のコントロールユニットを見上げながら、そんなことを呟いて感嘆していた。〈開陽〉のコントロールユニットと比べても目の前の"柱"は遥かに大きい。ひょっとしたら、惑星上にある標準的なビルに迫るぐらいには大きいかもしれない。

 

「………どう?見た感じ、制圧できそう?」

 

 だが、今はこの中枢コントロールユニットを手中に収めなければ脱出すらもままならない。コイツが生きたままだと、またあのセンチネル共に追い回される。機体が大破している現状では流石にそれは勘弁願いたい。加えてこれだけデカいフネなのだ。幸い船内居住区の生態系も生きてるようだし、移動拠点としても優秀そうだ。是が非でも手中に収めたい。

 

 早苗はコントロールユニットを見上げながらう~んと唸って、考え込む仕草を見せる。

 

「流石にこれだけのサイズとなると、ちょっと難しそうですねぇ~。まぁ、やれるだけやってみます!」

 

「ま、そこは任せたわ。今度こそしくじるんじゃないわよ」

 

「はいっ!期待してて下さいね、霊夢さん!」

 

 早苗はそう意気込んで、一歩前に出た。

 

 いつもの如く右腕からハッキング用と称するヒワイな触手型ケーブルを展開して、コントロールユニットの根元にあったコンソールや本体に巻き付いて、容赦なく開口部や接続部にそれを挿し入れていく。早苗の義体からハッキングを受けることになったコントロールユニットは、まるで悲鳴を上げるようにバチバチとショートしている。いつもの見慣れた光景だ。

 

「では……行きます!侵食開始(フルダイブ)――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 艦体の半分が消し飛びボロボロになった〈開陽〉の臨時司令室として機能していた艦長室に、ピピーッ、ピピーッ、と通信が入ったことを示すアラームが鳴り響く。

 

「あれ、神奈子、これって………」

 

 通信音に反応したのは、霊夢と早苗から艦の留守を頼まれていた二柱の片割れ、洩矢諏訪子だ。彼女は通信機のスイッチを入れようと手を伸ばすが、その手を掴まれて止められる。彼女の手首を掴んだのは、守矢神社のもう一柱の祭神、八坂神奈子だった。

 

「待て。我々が通信に出るのは不味い。本来なら我々は、あの二人以外に存在は知られてはいないのだからな。余計な混乱を与えたくない」

 

「おっと、そうだったそうだった………危うく癖で出るとこだったよ」

 

 彼女達は今でこそサナダ謹製の義体を拝借して人間のように振る舞えているが、本来艦隊では信仰を得られていなかったので幻想郷とは違って霊体状態だったのだ。当然霊夢や早苗以外のクルーには認識されておらず、そんな自分達が通信という形でも表に出るのは不味いという神奈子の判断だった。

 

 通信が入ったことを示すアラームは暫く断続的に鳴り続けたが、漸く誰もいないと分かったのか数分後には完全に鳴り止んだ。

 

「―――止まったね」

 

「そうだな。………ああ、送り主はこいつらか。おい、ちょっと見てみろ」

 

「ん?何かあったのかい?」

 

 通信が鳴り止むと同時に、神奈子は艦外の光学センサーの映像を映したモニターを覗き込む。そこに何かを見つけたのか、手招きして諏訪子を呼び寄せた。

 

 言われるがままモニターの前に座り込んだ諏訪子も、その映像を目にして感嘆の声を漏らす。

 

「ほぅー、通信の主はこいつらかぁ~。連中が戻ってきたんなら、ここもやっと安泰だねぇ」

 

「………そうだな。あの科学者は好かんが、今の早苗にはアレの助けも必要だ。………早めに合流できたことには感謝するべきだろう」

 

 彼女達が覗き込んでいたモニターの中には、三機の航空機が小惑星とデブリを避けながら飛翔している姿が映し出されていた。

 

 ―――それは紛れもなく、『紅き鋼鉄』が運用していた戦闘機の機影だった………。




急に別ゲーになったって?気にしない気にしない(マー◯ン風に)


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第八八話 バイオレンス・ブロッサムアワー

石600個貢いでも水着BBちゃんは出ませんでした(#゜皿゜)ピギピギィ


 ……………………墜ちる。

 

 深淵へと、真っ逆さまに墜落していく。

 

 電子の海に飛び込んで、一直線に底へと導かれていく。

 

 ―――もう何度も経験していることですが………やはり慣れないものは慣れませんね………。

 

 移民船の統括AI中枢部に向かって自由落下していく己の意識(身体)に目を向けて、墜ちていく彼女―――東風谷早苗は、まるで海中をスカイダイビングしているような錯覚を覚えた。

 

 海の中のように息苦しく、空に放り出されたようにあっという間に墜ちていく……… 電子の海とは、成程言い得て妙な表現だと感じた。

 

 現人神などと呼ばれて持て囃されていた早苗だが、元来その魂は唯の人でしかない。なので表面上は調子に乗っているような態度の彼女であるが、"本来のAIとしての権限"を行使する度に魂と身体が噛み合っていない、チグハグな感覚に苛まされていた。この墜ちるような感覚も、その一つだ。………だからこそ、彼女は強がりで自分の気を持たせていた。

 

 …………

 

 

 しかし、かといって早苗は自身の境遇が不満な訳ではなかった。

 確かにむず痒い感覚やちぐはぐな感覚はすれど、元々彼女はこうしたSF的なものに興味があったし、何より霊力供給を口実に大好きな霊夢と繋がることもできる。そして信仰が無く現人神としての力を殆ど失った自分であっても、霊夢の役に立つことができる。

 

 彼女はそんな今の境遇を、それなりには気に入っていた。

 

 ――では今回も、いつものようにパパッと終わらせてしまいましょうか。

 

 どういう仕組みかは分からないが、いつもは電脳体となってダイブした際は敵の中枢体らしきものを叩くだけでハッキングが完了している。恐らくはその間に、取り込んだAIの権能が色々処理しているのだろう。

 

 今回もそんな感じで手早く片付けよう、と、落下を続けながら思考する。

 

 一瞬とも永遠とも分からない落下の果てに、この縦穴の出口らしき光が視界に差し込んでくる。

 そのまま光に向かって落ちていくと、一気に眩しさが視界全体を埋め尽くした。

 

「うっ、……っ!」

 

 バシャーンという盛大な水音と共に、身体が宙に放り出されたような浮遊感を覚える。

 

 光に慣れてきた眼を恐る恐る開けてみると、一面の青空が広がる水辺のような場所の中央に、桜の大樹に巻き付かれたまま浮遊する青い立方体が崩れたような構造物の姿が見えた。

 

 ………此所が敵地であるにも関わらず、水辺に舞う桜花と透き通るような青空は我を忘れて魅入ってしまうほど幻想的で、それでいて此所が電子の海だとはっきり分かる無機的な雰囲気―――それらが上手い具合に同居して、不思議な景色を織り成していた。

 

「綺麗………」

 

 思わず、感嘆の言葉が漏れる。

 

 幻想的かつ電子的なこの景色に魅入られながら、慎重に水面に着地した。

 

 水のエフェクトはその見た目の広さに反して深さは殆ど無いようで、足さえ沈まない程に浅い。一歩、二歩と歩いても、水面が波立つだけで濁ることはない。……どうやらこの景色は、単なる上部だけの外装みたいなものらしい。

 

「おーっと、そこまでですよ、侵入者さん」

 

「――っ!?」

 

 突如、声が響く。

 

 敵襲を警戒して声がした方向を振り向くが、そこには何も居ない。……ただ空に、桜の花弁が舞っているだけだった。

 

「こっちですよ~。ノロマさんですねぇ」

 

「な―――!」

 

 また、声が響いた。

 

 今度こそ逃さないと咄嗟に桜に憑かれた立方体の方角を向く。

 

 果たして今度こそは、その姿を捉えられた。―――いや、相手が敢えて姿を現しただけだろう。

 

 桜の大樹の枝に、寄り掛かるように腰掛けていた人影を見た。

 体格は自分と同じぐらいの、挑発的な目付きで見下ろしていた紫髪のその少女は、よっ、と腰を上げるとそのまま桜の大樹から飛び降りた。彼女の周りに、巻き上げられた桜の花弁が舞い散る。

 枝から飛び降りた彼女は、蝶のように軽やかな動作で、すとん、と水面に降り立った。

 

「………初めまして、侵入者さん。ここからタダで出られるなんて、思わないで下さいね?」

 

 

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 《ヴァルキュリア2よりリーダーへ、目標を視認しました。通信を試みるも応答なし。どうしますか?》

 

 霊夢達が巨大船の中枢部に差し掛かる頃、神奈子達が居残っている大破した〈開陽〉の周囲を、そうとは知らず三機の航空機が旋回していた。

 

 ――『紅き鋼鉄』の艦載機部隊の一隊、ヴァルキュリア隊の三名が駆る機体だ。

 

 その中でも全身を紫と赤に染めたデルタ翼の機体―――シュテルの〈VF-22HG改 ルシフェリオン〉は数度翼を揺らしながら〈開陽〉への通信を試みるが、一向に応答しないため判断を隊長であるディアーチェに仰いだ。

 

 《―――たった今スキャンが完了した。〈開陽〉に生命反応は見られなかった。恐らく艦長が居るのは目の前の巨大船だ。旗艦の主機が動いている以上、艦長も当然生きているだろう》

 

 シュテルから指示を仰がれたディアーチェは、先程まで続けていた〈開陽〉のスキャンデータを僚機に転送する。彼女の機体――パーソナルカラーの銀色と金、紫の三色で塗られた〈RF/A-17S〉は電子戦装備やセンサー類が強化された戦術偵察機であり、その持ち前の高性能センサーを以て目の前にある廃艦寸前のかつての旗艦が機関部を始めとするバイタルパートは生きていることを突き止めていた。

 さらにスキャンの結果艦内に生命反応が見られなかったので、"あのお宝に目がない艦長のことだ"と思って、回復した霊夢は目立ちすぎるあの巨大移民船に単身乗り込んでいるのだろうと推測していた。そしてその推測は正解だった。

 

 だが彼女がそう推測している傍らで、いきなり飛び出して巨大移民船に向かい突っ切っていく水色の機影があった。――彼女達ヴァルキュリア隊の三番機、レヴィの機体だった。

 

 《へへっ、そうなったらあの巨大船に突撃だ!ヴァルキュリア3、とつげーき!!》

 

 《あ、コラッ!待てレヴィ!!あのフネの内部構造はおろか、入口が何処にあるのかすらも分かってないんだぞ!せめてスキャンが完了してから………》

 

 《そんなの、敵がいたら斬って倒して進めばいいだけじゃん。隊長は心配性だなぁ~。という訳で、いっくぞー!!》

 

 艦長―――霊夢の生存の可能性を聞かされて、いの一番に〈VF-19A改 バルニフィカス〉を駆るレヴィが巨大船に向かって急加速して飛翔する。元より彼女は自信過剰で先走りやすい性格なのに加えて、眼前に未知の巨大移民船が横たわっている状況では好奇心を抑えられなかったのだろう。唯一の懸念事項だった霊夢の生死についても解決の光明が見えただけあって、理性の枷が外れて隊長であるディアーチェの制止も聞かずに、機体を一直線に巨大船へと向かって飛ばしていく。

 

 《ハァ………あやつ、何時も先走りおって………。済まんシュテル、レヴィの子守を頼む。我はあのフネを外側から調べる故、あやつのことまで手が回らん。済まんが引き受けてはくれまいか?ああ、スキャンの結果は終わり次第逐次お前に転送しておこう》

 

 《了解しました、レヴィのことならお任せ下さい。それと、艦長を発見した場合か非常時には此方から一報入れます。願わくば、吉報を入れたいものですね》

 

 呆れて対応をシュテルに丸投げしたディアーチェだが、レヴィが突っ走るのはこの三人にとって何時ものことなので、シュテルも苦笑いを浮かべながら渋々と承諾する。それなりに長い間チームを組んでる彼女達だ、各々の扱いについてはある程度心得ていた。

 最後に船外に残るディアーチェと軽く二、三言交わしたシュテルは、機体を巨大船の方向に向けて、エンジンノズルのスロットルを最大にしてレヴィの後を追うべく加速させる。

 

 《………うむ。気を付けて行ってこい》

 

 巨大船に向かって消えていく彼女の機影を、ディアーチェは心配そうな眼差しで見送った。態度こそ尊大な彼女だが、元より身内に対しては甘い性格なのだ。二人の実力なら大抵のことは切り抜けられるだろうと理解して信頼してはいるのだが、やはり心の何処かで二人の身を案じている彼女がいた。加えて今回の事案は何処の誰が作ったとも知れぬ未知の巨大船への突入である、彼女でなくとも心配になろう。

 

 言い知れぬ不安感を押し殺して、ディアーチェはせめて中に入った二人を見失わぬようにと機体のセンサーを巨大船に向けた。

 

 

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「っ、ぅわぁぁぁッ!?」

 

 ―――墜ちる。

 

 早苗がこのフネの中枢部のハッキングを始めて暫く経った頃、ふと興味から中枢ユニットに顔を近づけてみたらこの様だ。

 

 いきなり触手のようなケーブル類が飛び出してきたかと思うとあっという間に拘束されて、訳もわからぬうちに頭になんか変な機械を被せられて現在に至る。

 

 あの機械を被せられてから暫く意識が飛んでいたみたいだけど、目が覚めてみるとよく分からない場所を何処までも落ちていく感覚に襲われた。……事実、肉体は落下しているようで、エレベーターを猛烈な速度で下っていくように時折リング状の物体が上へと通り過ぎていく。私の身体はその中心を潜りながら、終わりのない落下を続けていた。

 

 ―――駄目ね、引き摺り込まれてるみたいで全然翔べない………

 

 いつものように飛ぼうとしても、引き摺り込まれるばかりのままか力すら入らない。……まるで何者かに導かれていくかのように、身体は真っ直ぐ墜ちていく。

 

 ―――まぁ、どうにかなるか。

 

 私は早々に抵抗を放棄して、身体を落ちるがままに委ねることにした。ここで幾ら足掻いても状況が好転しないのならば、力は温存しておいた方がいい。

 

 案の定、暫く身体を委ねたまま落下していくと下から出口のような光が差してきた。

 ………気を引き締めて、出口に向かう。

 

 光が視界全体を覆い尽くして、盛大な水音と共に空中に浮かぶ。

 

 ―――これ、は…………

 

 ………そこは、一面の桜吹雪だった。

 

 

 

「え………霊夢さん!?」

 

「早苗?なんでここに………」

 

 足元から、早苗の声が響く。

 

 あいつは今頃このフネの中枢部にダイブしている筈なのに、と思ったけど……ああ成程そういうことか。

 

 ゆっくりと降下しながら、早苗の隣に着地、いや着水する。

 

「どういう理屈かは知らないけど、これは電脳空間って奴に迷い込んだって認識でいいのかしら」

 

「えっと……はい………霊夢さんがここに来た理由なんて、それぐらいしか考えられませんし」

 

 早苗に尋ねても、推測通りの答えしか返ってこない。――つまり、そういうことなのだろう。

 

 此所に早苗がいるということは、この場所が巨大船のコントロールユニットの中枢……つまりコンピューターの中だということは間違いない。多分、あのとき被せられた変な機械のせいだ。世間には意識だけを仮想現実に持っていってプレイするゲームとかもあるみたいだし、それと同じような技術なのかもしれない。

 

「おっと、これはこれは予想よりお早い到着ですねぇ~。BBちゃん、感激です」

 

 ―――突如、天から声が響く。

 

 早苗は表情をはっと変えて、警戒の眼差しでその声がした方向を睨んだ。

 

 彼女が向いた方向には、空中で静止している女の人の姿があった。

 髪は背中を覆うほどに長い紫で、顔立ちはやや童顔っぽく少女と表現した方が適当だろう。だが身体つきは対照的に成熟した大人の女の人みたいで、白い上着の上からでもそのボリュームが窺える。もしかしたら、私の早苗といい勝負なのではないだろうか。その上には黒いコートを着ていて、長い脚も大半が黒のニーハイブーツに覆われている。黒が好きなのだろうか?そして黒いスカートの中には白い布がばっちりと……え、え――?

 

 

【BGM:Fate/EXTRA CCCより「BB channel」】

 

 

「お二人とも揃ったことですし、改めて自己紹介でもしちゃいますね。とりあえず、今は暫定的に"BB"とでも名乗らせていただきますか。このフネの可愛い可愛い総合統括AIちゃんでーす♪」

 

 パ◯ツ丸見えに気付いてないらしいこの女は、挑発的な笑みを浮かべたまま暢気に自己紹介を始めた。指摘してやろうかとも思ったけど、面倒だしその方が後で面白そうだから黙っとこ。

 

「……で、その統括AI様が私達に何の用なのかしら?」

 

「あらあら、随分と覚めた人なんですねぇ~。いいんですよ、そこで私を讃えても。ほら、"BBちゃんカワイイヤッター"とか、思っちゃっても構いませんよ~~」

 

 ………なんだこいつ。

 

「霊夢さん、この人……いや、このAIさん………」

 

「………うん、言わないであげて」

 

 小声で耳打ちしてくる早苗は、あのBBとかいう奴に完全に憐憫の視線を送っていた。――あんたも大概だけど、この際は完全に同意だ。ところでBBってなんだろう。何かの略称っぽいけど………戦艦?は流石に無いか。

 

 これは所謂、「痛い」って言うタイプの奴だ。思考回路がぶっ飛びすぎていてとてもではないがついていけるテンションじゃない。妖怪連中を相手にするぐらい………いや、それ以上に面倒臭いかもしれない。

 

「あら?う~んおかしいですねぇ…………そっちの気があるならちょっとは反応するかと思ったのに。って言うかその視線は何なんですか―!!」

 

「何よ。当然じゃない?あんたテンションおかしいし」

 

「ですねぇ~。正直初対面でそれは引きます」

 

 憐れみの視線に気づいたらしい彼女が可愛らしく"ぷんすか、怒ってます!"って顔を作りながら抗議してくるが、無視無視。――なんだか早苗みたいな仕草だ。

 

 早苗も私の言葉に同意して相槌を打っているけど、あんたとの初対面もなかなかぶっ飛んだものだったと思うんだけど。いきなり宣戦布告なんてのもあいつのぶっ飛び具合といい勝負だ。相変わらず、この緑色は自分のことは棚に上げるのは得意らしい。

 

「な、な………このBBちゃんをよくも馬鹿にしてくれましたね………!いいですよ、もう。その代わり………あそこに来ているお仲間さんに、お二人の恥ずかしいあんなことやこんなことなんて教えちゃいますけど、それでも良いんですかぁ~?」

 

 ………は?

 

 イマコイツ、ナンテイッタ??

 

 BBとかいう女は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、自身の左側にでかでかとホログラムモニターを出現させる。

 

 そこには、私達が戦ったのと同じセンチネルを易々と破壊して回る航空機の姿があった。

 時折人形に変形したり、脚だけ変形させて急制動しているその航空機は、間違いなく私達の艦隊が開発したものだ。幾ら宇宙広しといえど、人型に変形する航空機なんて配備しているのは大小マゼラン銀河の領域では私達しかいない。

 

「あ、あれは……!!」

 

「VF-19とVF-22です!けどどうして此所に……」

 

「あらあら、やっぱりお仲間さんでしたか。あっちの会話をハッキングで丸々聞かせてもらいましたからそうだとは思ってましたけど。いやぁ~仲間想いな人達を持てて幸せですねぇ、貴女達は。………でも、ここで私をあんなことやこんなことして支配下に置こうなんて考えたら、あそこの人達に貴女達の恥ずかしい映像とか送っちゃいますよ?いいんですかぁ~?」

 

 BBが教鞭のようなものを振るうと、彼女の前面に別のホログラムモニターが現れる。

 "Now Loading"と書かれた桜の模様がぐるぐる回っていたかと思うと、"OK!"と出た後に、なにやらビデオらしきものが再生される。

 

 ………詳しくは表現できないけど、そこには私と早苗の霊力供給の場面がバッチリと映し出されていた。

 

「な、な、な…………何勝手に撮ってんのよあんた!!!」

 

「そ、そうですよ!変態!えっち!!盗撮は犯罪です!!」

 

 それの意味することを悟ったら瞬時に頭に血が登って、猛烈にあの女に向かって抗議する。当然ながら、早苗も一緒に。

 ……というか、いつの間に撮ったのよあれ!!他の人が見ている気配なんて全然無かったのに………って、そういえばコイツAIだったわね。

 ――この女、よくも覗き見してくれたわね!唯でさえ恥ずかしいってのに!!

 

「あーあー聞こえません聞こえません。私の中であんなことやこんなことしていた貴女達の方がいけないんですよ?確かに愛情は美しいものかもしれませんけど、私のフネで致した貴女達の責任です♪ふふっ、こんな弄りがいのあるネタをどうもありがとうございます♪」

 

「こ、こんの変態ッ!!」

 

「そーんな茹で蛸みたいなお顔して吠えても駄目ですよ?私のナカに勝手に入ってきたからには、相応の報いを受けていただきますからね?」

 

「ムキーッ!!早苗ッ!こいつを黙らせなさい!!」

 

「え!?い、良いんですか霊夢さん!?そんなことしちゃったら、あの映像が艦隊の皆さんに出血大サービスされちゃうんですよ!!?」

 

「くっ………やってくれるわね、この女――!」

 

 何てこと。弱みを握られたのがこんな性格の奴だなんて。お陰で手も足も出ないじゃない。ぶっ飛ばそうと思えばいつでもぶっ飛ばせるのに、それをした瞬間私達の恥ずかしいあんなことやこんなことが艦隊の皆様に大解放されてしまう。冗談じゃないわ!

 

 ―――助けに来てくれたのは有り難いんだけど、せめてもう一時間遅かったら……とは思わなくもない状態だ。

 

「クスッ、いい声で鳴きますねぇ~♪貴女達は久々のイジメ甲斐のある人間なんですから、このまま弄られちゃって下さいね?こう見えても私、ずっと退屈だったんですから」

 

「だ、誰があんたの娯楽に付き合わされなきゃいけないのよ!!」

 

「えー?つれない方ですねぇ~。……でも、さっきも言った通りこれは私のフネに勝手に乗り込んできた罰なんですから、大人しくそこで吠えてた方がお得ですよ?さもないと………」

 

「………チッ、ああもう分かったわよ!あんたの言う通りにすれば良いんでしょ!」

 

「ちょ、霊夢さん、その言い方は地雷………」

 

 頭にきてつい自棄になってそんなことを吐いてしまったが、早苗のツッコミではっと我に返る。

 

 ………やば。こいつに"何でもする"とも取れる言葉なんて、一番言っちゃいけない類いの言葉じゃない!

 

 冷や汗を流して慌ててあいつの顔に視線を向けるが、気づいたときには既に遅し、BBは勝ち誇ったような黒い薄ら笑いを浮かべていた。

 

「あらあら、素直に降参しちゃうなんて、予想に反してつまらない人ですねぇ。………でも、折角弄り甲斐のありそうな可愛い子猫ちゃんを見つけたんですから、そう簡単には引き下がりませんよ?私」

 

 そう宣言したBBに対して、今度はどんな精神攻撃が飛んで来るのかと警戒して身構えるが、彼女の口から放たれた言葉は予想の斜め上を行くものだった。

 

 

「………という訳ですから、これから私、特別に貴女達の活動拠点として付いていってあげることにしまーす!勿論、クーリングオフなんて契約即時期限切れです♪」

 

 ―――ゑ?

 

「………あれれぇ?反応薄いですねぇ~?あれだけ"お宝、お宝♪"ってはしゃいでたのもバッチリ録画してるんですよぉ?ここは素直に喜んだらどうですか?子猫ちゃん。浪漫溢れる古代移民船に造船ドック、今ならその他諸々の拠点設備も付いてお安いですよ?―――勿論、対価は戴くことになりますけどね♪」

 

 ……まさか、この流れで自負を売り込んでくるとは予想の斜め上過ぎて想像もつかなかった。というか、散々人を弄り倒しておいた後でよくそんな提案ができるわね!どんだけ神経図太いのよ……

 

 ―――って、さっきから子猫ちゃん子猫ちゃんって何なのよコイツ!こう見えても私は……いや、確かにコイツの方が遥かに年上か。気に食わないけど。……気に食わないけど!

 

「えっとそれは……つまりこの移民船を私達に提供する用意がある、と………」

 

「あら、そこの緑色は理解が早くて助かりますねぇ~。勿論です。BBちゃん、今回ばかりは大サービスしちゃいまーす!五千年の静寂より、一年の混沌の方が私的には美味し………コホン、やはりAIたるからには人間サマに奉仕するのがお仕事ですから♪」

 

 ―――怪しい。絶対怪しい。

 

 コイツは間違いなく悪徳業者か何かの類いだ。それも商売モードの早苗と河童を足して百倍ぐらいに濃縮した超絶質の悪いやつ。

 そもそも混沌って何よ。絶対何かやらかすつもりでしょコイツ。

 

 ………でもこの移民船自体は魅力的だし、お宝だし………ああもう、足下見られるってほんと不快ね!!相手がこんなのじゃなかったら即決なのに!!

 

「はーい☆という訳で契約締結です♪ご指紋、いただきますね~♪」

 

「ああっ、いつの間に!!」

 

 私がコイツを引き入れるかどうかでうんうんと唸っている間に、いつの間にか出現したホログラムモニターにバッチリ私の指紋が写し取られてしまう。コイツ………!!

 

「もう後戻りなんて出来ませんよ?これから散々、私に弄られちゃって下さいね?艦長(オーナー)さん♪」

 

 あれよあれよと強引に流れを抑えられて、コイツを艦隊に迎えることになってしまった………らしい。

 

 悪魔みたいな黒い少女――暫定BBは、不敵な笑みを貼り付けて嗤っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところでアンタ、さっきは暫定とか名乗ってたけど、決まった名前とか無いの?そのままだったらなんか呼びにくいんだけど」

 

「特に決まった呼び名なんてもうありません。ベベでもBB(ビィビィ)ちゃんでもブロッサム先生でもサクラちゃんでも、お好きなようにどうぞ~」

 

 さっきは暫定とか言ってたから、"一応"仲間になるなら呼び名ぐらいは聞いておこうと尋ねたのだけど、目の前の彼女は意外なことに正式な名を名乗る訳でもなく好きなように呼べとまで言い出した。

 

「じゃあブロッサムでいいわね」

 

「むっ………せめて"先生"は付けて下さい!!」

 

 私が即答すると、彼女は露骨にむっとした表情を作り、あからさまに"私は不機嫌です"とアピールしてくる。提示した名前が省略されたのが気に食わないのだろう。だけどそもそも、名前に頓着しないと言ったのはこいつの方だ。それに捻くれ屋の破綻AIなんかを"先生"付けで呼びたくない。こんなのは呼び捨てで充分だ。

 

「なによ。何でもいいって言ったのはあんたじゃない。なら識別できればどうでもいいでしょ」

 

「むぅぅ………」

 

 自分がそう言っただけに言い返すことができないのか、彼女は低い声で唸るだけだ。

 

 そもそもこんな面倒そうな捻くれ者を「サクラちゃん」なんて可愛らしい名前で呼びたくないし、「BB」だと戦艦の略号と被ってややこしい。なら消去法で残るブロッサムで充分だ。

 調子に乗りやすそうで煽り屋なところは早苗っぽくもあるのだけれど、早苗の方が割と大人しめで常識あるし、懐いてる分まだ可愛げがある。コイツはそんな可愛らしさも無いんだから、興味本位で弄られた意趣返しでもしてやりたくなる。

 

 という訳で、なんかそれっぽそうな名前を選んでおいた。なんかちょっと違う気もするんだけど、まぁいいや。




BBちゃんのぶっ飛び具合どうやって表現するの……(屍)


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第八九話 続・ブロッサムアワー

 

 ~始祖移民船中枢部・電脳空間~

 

 

「まさか、アレ見られてたなんて………」

 

 じろり、と早苗を睨む。

 

 あいつとの契約は一応交わしたものの、私はまだこの空間内に残っていた。

 

 何を言おう、ここで早苗に釘を刺す。これからは、せめて致すなら時と場所を選んでもらわなければ困る。

 

 あの自称BB、もといブロッサムの奴に足下見られた原因はそもそも早苗の行動だ。思い出すだけでも恥ずかしい。そう思うと、原因になった早苗につい当たってしまう。

 

 元はといえばコイツが所構わず私から搾取しようとするのが原因だ。あのときは私も気を緩めてたけど、これに懲りたら場所ぐらいは選べ。

 

「ひゃい!?れれれ霊夢さん、あれはですね、その………てへっ♪」

 

「ハァ………良いわよ別に。コイツはコイツであの映像はちゃんと破棄してくれるらしいんだし。―――履行するわよね?」

 

「それは勿論。私、契約内容は守る質ですから。…………それに、こっちはこっちで恥ずかしかったんですから、言われなくても厳重に破棄ないし封印ぐらいはしますって。もう、あんなモノ見せてくれた責任ぐらいは取って下さい!」

 

 成程、それが動機、か。許すか許さないかは別の話だけれど。

 

「それで腹いせにアレを使った、と………ハァ、気を緩めすぎたか。失態ね。まぁ責任なら早苗が取るから、そこは気にしなくていいわ」

 

「ふぇっ!?霊夢さん!?」

 

 面倒なことは早苗に丸投げ。あれだけ好き勝手させてるんだからそれぐらいは飲め。

 

「ふぅん………まぁいいです。二人纏めて弄り倒してあげますから、そこは覚悟しといて下さいね、新しいマスターさん?」

 

「ちょっと、私も弄られる対象なの!?」

 

「当然です。そこの緑色を生贄にしようったって無駄ですから。私の魔の手からは逃げられませんよ?覚悟して下さいね♪」

 

「うわ………今更だけど、なんでこんな面倒なの引き入れちゃったんだろう………」

 

 やっぱりこいつ、面倒くさいわ。………コイツか紫かどっちか選べって言われたら、紫の方を選んじゃうかも………

 

 

 

 

 ~始祖移民船・中枢部~

 

「くくっ、まんまと引っ掛かりましたね………この船に居る限り、BBちゃんからは逃げられませんよ?」

 

 霊夢達が始祖移民船のコントロールルームに侵入する前日、船内に張り巡らされた監視網を通して、彼女は何千年ぶりの侵入者の様子を観察する。

 侵入者――霊夢と早苗の様子から何処かの機構や政府ではなく民間航海者の類いだろうと当たりをつけていた彼女は、今後の方針を思案していた。

 

「うーん、このまま追い返しても別にいいんですけど、それだとやっぱり暇になっちゃいますからね。ここは一つ、新しい主さん(玩具)に仕えて面白おかしくしてあげるというのも良いかもです」

 

 何千年もの時間を漂流してきた彼女にとって、ただ過ごすだけでは退屈極まりないと思っていた頃合いだった。

 これが下手なAIであればそんな感情を抱くことはなかったのだが、殆ど人間と変わらない思考回路を授けられた彼女にとって、退屈なものはやはり退屈であった。

 

 なのでこの侵入者を適当におちょくってから自分のフネを貸してやろうかと考えていた彼女だが、そこで予想外の光景が飛び込んでくる。

 

「え………ち、ちょっ………な、な……、何やってるんですかぁ!?」

 

 監視用センチネルを通して送られてくる映像には、侵入者のうち緑色の方(早苗)が黒髪の方(霊夢)を押し倒して事に及んでいる様子がダイレクトに映し出されていた。

 

「いや、ちょっ………わわわ、私の中でなんてことするんですか!!えっちなのは駄目です!い、いけないと思います――っ!!」

 

 よくよく見ると黒髪の方は緑色の方の少女から血を奪われているように見えたが、それでも二人は当然のように、奪い奪われることを許容していた。それならば、その行為は情事以外の何物でもない。

 

 見せつけられるのが(自分の不手際だが)恥ずかしいのならば回線を切るという方法もあるのだが(現役時代はそうしていたのだが)、真っ赤になって狼狽する彼女はそこまで思考回路が働かず、きっちり全部、ばっちりとその様子を記録してしまった。

 

「………よくも、よくもこの私にあんなモノ見せてくれましたね………!ククッ、それが貴女達の敗因です……!か、覚悟することです………!!」

 

 事が終わり、その一部始終をまじまじと見せつけられてオーバーヒート寸前まで真っ赤になっていた彼女は、この仕返しは絶対にしてやると固く誓った。―――あんな恥ずかしいモノを押し付けてくれた恨みを晴らすという名目で。

 

 そう、彼女―――BBこと現・ブロッサム先生は、実は初心だったのだ……。

 

 

 

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「………そういう訳ですから、これからは気をつけて下さいね?やりたいんだったら私の目の届かないところですることです!」

 

「だって、早苗。気を付けなさいよあんた」

 

「なんで私だけなんですか!?霊夢さんだって満更でもな………むぐうっ!?」

 

「お黙り。仕掛けてきたのはあんたなんだから、あんたが気を付ければ済む話でしょ。――――それで、一体いつになったら私はここから出られるの?」

 

 抗議しようとした早苗の口を塞ぎ、目の前でまだ頬を膨らませているブロッサムに問い掛ける。

 想定していた形とは違ったけど、とりあえずこのフネを使えるようにはなったみたいだし、これ以上ここにいる意味はない。

 

 しかしまぁ………あんな挑発的な格好と性格しといて中身は初心なんて、意外と可愛いとこあるじゃない。もしかしたら恥じらいなんてかなぐり捨てて襲いかかってくる早苗よりは可愛いかも。………不本意だとしても、アレを覗き見たのを許すつもりはないけど。

 

「おっとそうでした。それじゃあ、アナタ達の意識には向こう側にお帰り願いますね?はい、ふぅー♪」

 

「え、ちょっ、うわあぁっ!?」

 

 するとブロッサムは平手を口の前に突き出して、息を吹き掛けるような動作をする。最初はまだこいつふざけてるのかとも思ったけど、直後に猛烈な強さで意識が引っ張られる感覚に襲われる。

 桜が舞い散る湖面の景色はあっという間に遥か彼方まで過ぎ去り、私は宇宙よりも暗い闇の中を、後ろとも上とも分からない方角に向かって飛ばされていった。

 

 

 

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「ぅっ、……あ、ううん、っ…………」

 

 頭がガンガンする………

 

「ここ、は………」

 

 次第にクリアになっていく思考を辿って、今の状況を確認する。

 確か、私はここで変な機械に弄くられて、早苗が入っていったサイバー空間に飛ばされて、そこでなんやかんやあってこのフネの統括AIだかと契約して………

 

「………そうだ、あいつは――?」

 

 頭に嵌められていたヘルメットみたいな装置を乱暴に投げ捨てて蹴散らして、私はアイツ……統括AIと名乗ったブロッサムの姿を探す。

 

 協力するという言質は得たものの、このまますんなり帰るという訳にもいかない。せめてセンチネルぐらい止めてもらわないことには帰りが困る。

 

「う、あ………霊夢さん、起きてたんですか」

 

「早苗………あんたも無理矢理飛ばされてきたの?」

 

「はい。まぁ、そんな感じです」

 

 私より先にこのフネのコントロールユニットに潜り込んでいた早苗も、あのとき私と一緒に意識を現実世界に飛ばされてきたらしい。――――ふざけた態度ではあったけど、あいつの力は確かなようだ。

 マッドサイエンティスト・サナダさんが誇る早苗の義体のハッキング機能を無効化したばかりか私までサイバー空間に引きずり込んだ挙げ句私達の意識は出し入れ自由。加えて恥ずかしさも押し殺して使えるものは何でも使う商魂逞しさ………侮れない奴ね。

 

 契約したはいいけど、これからはあいつに足下見られないように注意しないと………

 

「これからは私に気をつけて、付け入られないようにしようとか考えちゃったりしてませんか?私の前では、そんなことしても無駄ですよ~?」

 

「――つッ!?」

 

 反射的に、背後へと振り返る

 

 暗闇の中から、コントロールユニットの中で見たのと全く同じ姿をしたあいつ………ブロッサムの姿がそこから現れた。

 

「私と契約してもらった以上、私からは逃げられないので、そこのところ覚悟して貰いますからね?……ところで、私に何か用があったんじゃないですか?」

 

「そうだったわね………とりあえず、最低でもあのセンチネル共は止めて欲しいんだけど。アレがまた襲いかかってくるんだったら、こっちは安心して動けないわ」

 

「おっと、そうでした。もうアナタは私のおも………マスターさんでしたからね。はい、データ更新完了です♪これでアナタ達とそのお仲間さんには、もう襲いかからない筈ですよ」

 

「ん、ありがと………って、お仲間?」

 

「はい、外にいるあの艦隊、貴女のお仲間さんじゃあないんですか?使ってる機体もシグナルコードも同じですし、てっきりそうかと思ったんですけど………」

 

「あ、そうだったわ。仕事が早くて助かるわ。じゃあとりあえず、ここにいるあの飛行機を出口に呼んでもらったら助かるんだけど」

 

「了解しましたっ♪それじゃああの2機、ハッキングしときますね♪」

 

「よろしく頼むわ………って、え………?」

 

 つい流れでよろしくなんて言っちゃったけど、こいつ、さっきとんでもないこと口走らなかった?

 

「え、だから、わざわざここで説明するのもややこしくなるだけですから、さっさと呼びつけた方が早いかと………」

 

「どうしてそうなるのよ?ハッキング?今ハッキングって言ったよねあんた!?ちょっと、今すぐ止めなさい!!」

 

「えー、面倒くさいですねぇ~。はい、ポチっと☆」

 

 わざとらしく考える素振りを見せたかと思うと、彼女は呼び出したホログラムのボタンに躊躇いなく指を伸ばす。

 私が止める間もなく押されてしまったそれには、「Now Hacking」の文字が可愛らしく書かれていた………

 

「あ"あ"ーっ!?一機2500Gの戦闘機がぁぁぁ!?」

 

「霊夢さん霊夢さん!あの2機はマッドさん達が金に糸目をかけずに作ってますから実はその3倍かかってます!!」

 

 ここにきて突然の早苗の告発である。

 申請価格と実価格が3倍も離れてるなんて、あのマッドは減給100%でも足りないみたいね………じゃなくて!!あの戦闘機で来てくれたクルーの安全は!?

 

「あ、その点はご安心下さい。ハッキングと言っても自動航法で最寄りの出口まで飛んでもらうようにするだけですから。別に殺人的なマニューバとかはやらせませんので、お仲間さんの身の安全は100%保証します♪」

 

「ふぅ、それなら良かった………いやハッキング自体よくないけど」

 

「緑色にそれをやらせた貴女が言う言葉ですか」

 

「うっ………気に食わないけど、正論には言い返せないわ………」

 

「ま、そういう訳なので付いてきて下さいね。とりあえず防衛機構は停止させてありますから」

 

「チッ………分かったわよ。変なことしたらただじゃおかないわよ」

 

「へぇ………いいんですか?」

 

「くっ………ああもう、勝手にしなさい!」

 

「あ、霊夢さん!」

 

 ああ、やっぱりこいつ面倒くさい。………これからコイツが運営してるフネが拠点になるのを考えると、頭が痛くなってくる………さなえ、頭痛に効く薬と胃薬ちょうだい…………

 

 

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《WARNING!WARNING!Unknowning enemy approaches high speed!》

 

「ちいっ………ッ!!これで何度目ですか!?」

 

《う~シュテルーん、いい加減疲れたよー。ねぇ艦長達はまだー?》

 

「今、私とディアーチェが、探してる………所です……ッ!」

 

 偽りの空を舞台に、死のダンスが繰り広げられる。

 

 霊夢達の捜索のため巨大宇宙船にVFで乗り込んだシュテルとレヴィの二人だったが、そこで宇宙船側の防衛機構と思われる無人戦闘機群(センチネル)と遭遇していた。

 一体一体の性能自体は『紅き鋼鉄』航空隊のエースであった二人からすれば大したことはなかったものの、何よりその数が問題だった。

 墜とせども墜とせども次から次へと沸いて出る無人戦闘機の群れに辟易としたシュテルは一度一点突破を図り、自らの愛機――〈VF-22HG改 ルシフェリオン〉に搭載された大出力レーザーライフルの威力に物を言わせて強引に船内への道を切り開いた。

 そしてシュテルが空けた道に飛び込んで居住区まで侵入した二機であったが、またしてもそこで無人戦闘機群―――センチネルの洗礼を浴びることになった。

 巨大船の入口で破壊された突撃艇をその目で見ていたシュテルは"きっとあの艦長なら無事だろう"とは思いつつも、雇い主の安否を確認するまではやはり不安を感じており、中々本格的な捜索に乗り出せない現状にストレスが蓄積していった。

 突如状況が動いたのは、そんな時だった。

 

《あーシュテるん、ごめん、弾切れちゃった》

 

「何をやってるんですかレヴィ。貴女は弾薬もマイクロミサイルもばら蒔き過ぎなんですよ!無駄弾を減らす努力ぐらいはして下さい」

 

《そうは言われてもさー、こいつら次から次へと沸いてくるんだもん。そりゃあ弾だって無くなるって》

 

「仕方ないですね………レヴィ、貴女は得意の格闘戦でも何でもしてなさい!それぐらいは出来るでしょう」

 

《えー!アイツらけっこうすばしっこいから面倒なんだけど………》

 

「そうでもしないと、この局面を乗り越えられないでしょう!」

 

《まぁ、そりゃあそうだけどさ………仕方ないねぇ、じゃあ、それでやるよ》

 

 レヴィの駆る戦闘機―――〈VF-19A改 バルニフィカス〉が一瞬で戦闘機から人型へと変形し、驚くほどの速さでシールドに内臓された投擲兵装――〈ハーケンセイバー〉を取り出し、投げることなくそのまますれ違い様に一機のセンチネルを切りつけてバラバラに分解した。そのままの勢いで今度は〈ハーケンセイバー〉を投擲し、数機の敵機を真っ二つに切り裂く。

 

《ふはははっ、見たか!これがボクの実力だ!》

 

「敵は無人機ですから、格好つけても無駄ですよ、レヴィ」

 

《な、何をッ!?こうした方がモチベーション上がるんだよ!》

 

「そうでしたね、貴女はそういう人種でした。では、お好きにどうぞ」

 

《ば、馬鹿にしたなぁシュテるん!?》

 

 通信でキャッツファイトの如き口喧嘩を繰り広げる二人であったが、その間にも着実にセンチネルを破壊していく。

 そうしてレーダーに映る敵機の半数近くを解体した二人であったが、そこでシュテルが異常に気がついた。

 

「―――おかしいですね。敵が攻撃してこなくなりました」

 

《え?》

 

 最後の数機を破壊した辺りから、彼女達を囲っていたセンチネルはその大半が踵を返すかのごとく背を向けて撤退を始め、近くにいた機体もレーザーやミサイルを撃ってこなくなった。

 そのことを訝しむシュテルであったが、それとは対照的にレヴィは楽観的だ。

 

《でも撃ってこないならそれで良いじゃん。コイツら数だけはあったけど大した張り合いないし、つまんないから》

 

「そういう問題じゃないんです。これが何かの罠かもしれないと―――」

 

 その時だった。

 

 二人の機体のモニター画面に突如「Now Hacking!」と書かれた可愛らしい文字が踊る。

 

「―――え?」

 

《ゑ?》

 

 突然のことに呆気に取られた二人であったが、その意味を理解しあ二人は猛烈に嫌な予感が背筋をぞくぞくと迸るのを感じた。

 

《え、ちょっ………シュテるん!?こいつ、くそっ、き、消えないよぉ!》

 

「お、落ち着きなさいレヴィ!機体の高度を維持して!!その間にディアーチェが何とか―――」

 

《おいシュテル、レヴィ!!貴様達の機体一体どうなっておる!?こっちに謎のウイルスが侵入して………ぎゃああああああっ!?》

 

 ボガーン。

 

 船外で待つ彼女達の隊長、ディアーチェからの通信は強制的に切断され、彼女の断末魔の悲鳴と共に機械がショートしてあらぬ音を発しているのが耳に届いた。その後は砂嵐。二人にディアーチェの現状を確認する術はない。

 

《で………ディアーチェが………》

 

「………彼女は良い人でした。貴女のことは忘れません」

 

 かけがえのない仲間を失い、お葬式ムードに暮れる二人。だがその態度はあからさまに演技じみている。

 

《か、勝手に殺すなぁッ!?》

 

《あ、生きてた。やっほー隊長。元気?》

 

「まぁ、この程度で死ぬようなタマじゃないでしょう隊長は。……で、ウイルスの解除は?」

 

《………無理だ。此方からの制御を一切受け付けんばかりか下手に干渉するとこっちまで機体の制御を持っていかれる。すまぬがそこでベイルアウトしてくれ。必ず迎えにいく》

 

「そうですか………実は脱出機構まで乗っ取られたらしく、レバーがロックされてびくともしないんです。………まぁ、なるようにはなるでしょう」

 

《うわっホントだ!こいつびくともしないぞ!!》

 

 いつの間にか二人の機体の制御は完全に乗っ取られていたらしく、二人からの指示を機体は一切受け付けない状態に陥っていた。だが機体は穏やかに何処かへと向かって飛行を続けているだけなので、シュテルは落ち着いた態度でそう告げた。

 

《そうか………お前達のバイタルは此方でもまだマークできてる。何かあればすぐにでも言ってくれ》

 

「分かりました。では」

 

 ―――さて、鬼が出るか蛇が出るか。あまりいい予感はしませんが、ここは身を任せるしか無さそうですね………

 

《くそっ、コイツっ、動け!動けよぉ!!》

 

 制御を奪われた二人の機体は、何事も無かったかのように飛行を続ける。その先に探していた雇い主――霊夢達が居るとは知らないまま……。

 

 

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 ~始祖移民船・居住区~

 

 

 仲間?になったかどうかはともかく一応契約関係を結んだあいつを連れて、中枢コントロールユニットの外に出る。

 道中は行きと違って複雑な迷路のように変形しているようなことはなく、普通に一本の道だった。そこを抜けると、居住区の青空が見えてくる。

 

「あ、霊夢さん、あれ………」

 

「………ちゃんと着陸してるみたいね」

 

 中枢コントロールルームに続く道から出た先には、何事も無かったかのように着陸している2機の戦闘機があった。その着陸脚に、身を預けるように寄りかかる2つの人影も見える。

 

「あれは………艦長!?」

 

「えっと………シュテルさんにレヴィさん、だよね………。あ、うん…………とりあえず、この通り五体満足よ」

 

「私も無事ですよー」

 

 駆け寄ってきた二人に対して、一通り無事であることを伝える。

 

「いや、無事で良かったです。外に残存艦隊が待機していますから、そちらに向かいましょう」

 

「ええ。まさかこんな早くに見つけてもらえるとは思ってなかったわ。そっちに戻ったら礼を言わないと。向こうに行くのは良いんだけど、その前に………」

 

「ねぇねぇ、そっちの人は?」

 

「え?、ああ、こいつか………こいつは」

 

 ここで彼女達にブロッサムのことは紹介しようと思ったのだが、レヴィさんの疑問に応える形で先に彼女の方から前に出る。

 

「はい、このフネの現・総合統括AIのBBちゃんでーす!今は故あってブロッサム先生、と名乗らせて貰ってるので、呼ぶときはそちらでお願いしますね♪」

 

「あ、はい、どうも………」

 

 シュテルさんはこいつのテンションに面喰らっているみたいだ。それも無理はない、私も散々振り回されたもの。

 

「とりあえずアナタ達のボスとは契約を交わしましたから、ここの施設は基本的に全部フリーです。あと、先程については申し訳ありません。そうした方が早かったものですから」

 

「先程?………ああ、ハッキングですか。いえ、此方に害はありませんでしたから、その件については私からは何も。………しかし艦長、凄いのを引っかけましたね。何やったんです?」

 

「何も、あっちの方から売り込んできたのよ。ここの設備は魅力的だし、断る理由も無いかなって。元々この巨大船が目的だった訳だし」

 

 この巨大船が丸々私達の拠点になるというのなら、これほど美味しい話はない。コイツの頭の中が見えないのと覗かれたことは不服だが、それでも旨味は十分ある話だ。………コイツを残すのは癪だけど。

 

「ってことは、このでっかいフネが全部ボク達のものってこと」

 

「まぁ、そういうことになりますね」

 

 その話を聞いたレヴィさんが、子供のように目を輝かせた。

 

「ひゃっほーう!!これは凄いぞ!こんなでっかい遺跡船が丸々だなんて、探検のしがいがありすぎるー!」

 

「あ、ちょっ、レヴィ!!…………ハァ、彼女については私が面倒を見ておきます。此処に迎えの便を手配致しましたので、艦長達はそちらでご帰還願いますね」

 

「ありがと。じゃあお言葉に甘えて。………それにしても、大変ねぇ。私も私でこいつの面倒見なきゃいけないし」

 

「まあ、慣れたものですから」

 

「ちょっと霊夢さん!そこでなんで私が出てくるんです!?」

 

 子供っぽいレヴィさんの面倒を見てるシュテルさんは、年の離れた姉のような印象を受けた。癖の強いパートナーが居ると、お互い苦労するものだ。

 

 ―――さらに面倒なことに、私の胃がこのフネとバーターされちゃったし。ああ、疲れるわ………

 

 ともあれ仲間との合流はこれで果たせたし、一応活動拠点も手に入れることができた。物がない人がないのないない尽くしで殆ど何もできなかったけど、これで少しは状況も好転してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数刻後・帰路の強襲艇内にて~

 

 

「ところで霊夢さん?なんでアイツの方が可愛いげがあるなんて思っちゃうんですか!?」

 

「(こいつ、また心を………)だってあんた、節操無しでしょ?私はあれが必要だから認めてるだけなんだから、毎晩どころか昼でも襲いかかってきていいなんて言ってないもん」

 

「ぐぬぬ、確かに正論ですね………だけど霊夢さんのパーフェクトボディ(とハート)は諦めませんからね!今夜も覚悟することです!!」

 

「なんでそうなるの!?」




これでレイサナ二人っきりもいよいよ終わりです。BBちゃんとマッドサイエンティストの悪魔合体にご期待下さい。

茨でも霊夢ちゃんは敵がいて怒らせた方が元気出るらしいので、なんだかんだでBBちゃんも馴染むでしょう。つまり第二のサナダさんポジ。




~おまけ プロフィール・人物関係~

博麗霊夢

好き:魔理沙と早苗。(気に食わないけど紫も、かな………)

天敵:紫、早苗、あの紫色。あいつらのテンションには付いてけないわ。………紫色の奴にはろくなのが居ないわね。

敵:マッド共。私にどれだけ不馴れな書類処理をさせたら気が済むのかしら ………まぁ、発明が優秀なのは認めるけど。


東風谷早苗

好き:霊夢さんに決まってるじゃないですか!

尊敬:勿論神奈子様と諏訪子様です!

同志:サナダさんとかにとりさんの発明とか、ロマンがあって素敵ですよね!

天敵:あのBBとかいう紫色、どことなく私とキャラ被ってるような気がしてなんだかイライラしちゃいます。

???:あの霊夢さんに似てる子、もしかして似ているとかじゃなくて……


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第九○話 再会と新拠点

 ~始祖移民船・宇宙港~

 

 とりあえずは移民船の破綻AIとフネの利用権に関する契約を終えて宇宙船用エアロックに向かった私達の前に、小型の内火艇が着陸する。―――私の艦隊で使われていたタイプの艇だ。

 

「無事だったか、艦長」

 

「ええ、何とかね。この通り五体満足よ」

 

「私も大丈夫ですよー」

 

 内火艇から降りてきたサナダさんは開口一番、私の無事を確かめるように問い掛けた。

 

「ふむ、それは良かった。…………で、この船は一体何だ?見たところ移民船の類と見たが」

 

「ああ、それなら………」

 

「此処は始祖の方舟、―――第五世代型長距離撒種移民船、MAYA2655号船団一番船。この時代では、"始祖移民船"とも呼ばれているモノです」

 

 サナダさんの質問に答えようとした私を遮って、このフネの統括AIを自称するブロッサムがそれに応える。私達に見せたようなおちゃらけた態度ではなく、至って真面目な口調だ。サナダさんはその自己紹介でこのフネの凄さに気付いたみたいで、いつもは半開きの両眼が驚きのせいか大きく見開かれた。

 

「始祖移民船………だと………!?」

 

「はい。そして私はこのフネの総合統括AI、BBちゃんです♪今は故あってブロッサムと名乗らせてもらってます♪以後お見知りおきを~」

 

「あ、ああ………」

 

 真面目な口調から一転して、私達に対するのと同じような挑発的な口調で自己紹介するブロッサム。その変貌ぶりにサナダさんも面食らってるみたいだ。

 だけどそこは流石のマッド、すぐさま思考を切り替えたようで冷静に彼女に対して質問する。

 

「………大体の事情は分かった。早速だが、このフネはどの程度使える?統括AIの君が生きているということは主要なシステムは無事なのだろう?」

 

「あ、はい。大体その通りですよー。循環型バイオプラントも密閉型ケミカルプラントも全て無事です。電力さえ融通すれば造船所や部品工場も動かせます。あなたの求めているモノなら、殆ど手に入ると思いますよ?」

 

「そうか………有難う。全く、とんでもないものを引っかけたな艦長。君の強運には滅入るよ本当」

 

「ふふん、私を拾ったこと、感謝しなさいサナダさん」

 

「あらあら、自慢ぶっちゃって。そこの紅白次第では交渉決裂してたんですけどね~」

 

「なっ―――!?」

 

 唐突に、これ見よがしにとブロッサムが煽ってくる。

 いきなりの攻撃に戸惑って言い澱んだ私をよそに、サナダさんは淡々と話を続けた。

 

「M33銀河での遺跡に続いて稼働状態の始祖移民船まで引き当てるとは、ここまで来ると最早偶然とは言いきれないのかもしれないな。少々非科学的なことかもしれないが、艦長には何かしらの"加護"のようなものがあるのかもしれん。まぁそれはさておいて、先ずはこのフネの仕様を知りたい。何よりも我々には水と空気に食糧が必要だ。その生産の為にも君の力が必要なのだが、協力してくれるかな」

 

「え?あ、はい………一応そこの艦長さんとは契約しちゃいましたから元々そのつもりでしたし、いいでしょう」

 

「うむ、協力感謝する」

 

 一応最高責任者の私を頭ごなしに、サナダさんとブロッサムの間で淡々と今後の予定が組まれていく。

 ………まぁ今まで残存艦隊を率いてきたのはサナダさんな訳だし、そっちでやってくれるなら私は何も言うことは無いけど………

 

 ―――それにしても、"加護"かぁ………割と当たってるって言えば当たってるのよねぇ………

 

 サナダさんが何気なく溢した独白に、いつの間にか居着いていた守矢の祭神二柱のことを思い出す。確かにあいつら、というか神奈子は"戦い"に関しては何かしらの加護を与えていたとか言っていたような気がするけど、もしかしたら純粋な"運"に関してもそういったものがあったのかもしれない。

 

 ―――にしては、タイミングが少々不自然な気もするけど………

 

 だけど神奈子達が私の神社に住み着いたのは少なくとも早苗が統括AIに取り憑いた後の筈だ。即ちどんなに早く遡っても〈高天原〉建造のタイミングになるんだけど、その頃の早苗はまだ純粋な「統括AI・サナエ」だった筈だ。あの頃は声以外、何一つとして早苗の要素を感じなかったし、不自然な挙動や気配も全く無かった。彼女の挙動を見るに「AIサナエ」が「東風谷早苗」に置換されたのは小マゼラン銀河に入ってから、と考えるのが一番自然だ。

 

 ―――そもそもこのだだっ広くて世紀末な宇宙でサナダさんとコーディみたいに比較的まともな人達に拾われて、強力な宇宙船を造れる遺跡を立て続けに二回も見つけるなんて、よくよく考えたら凄まじい強運じゃない。おまけにこの宇宙じゃ超貴重なアーティファクトのエピタフまで見つけてるし………確かにサナダさんがあんな表現を使うのも頷けるわね。

 

 改めてこの世界に来てからの私を振り返ってみると、我ながら凄まじい強運だ。昔から賭け事にはそこそこ自信はあったけど、これはそんな比じゃない。サナダさんの言うとおり何かしらの"加護"があったと見るべきだろう。―――でも、誰が?少なくとも神奈子達では加護の性質もタイミングも合わない。………じゃあ、もしかして紫?………でもあいつそもそも神様なんてものじゃないし、暗躍はできてもこんな芸当できるなんて思えないし………

 

「―――さん?」

 

「っ!」

 

「霊夢さん、どうかしましたか?」

 

「うん、あ、いや………何でもないわ。ちょっと考えごとしてただけ」

 

「それならいいんですけど………ちょっと怖い顔してましたよ霊夢さん。本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫って言ったら大丈夫。………ところで早苗、ちょっと訊くけど―――」

 

「はい、何ですか?」

 

 ………どうやら早苗の呼び掛けにも気付かないぐらい考え込んでいたらしい。これで余計な心配をかけても悪いし大丈夫だとは答えるけど、内心はそれどころではない。

 どうしてもこれだけは確認したくて、私の様子を訝しむ早苗に尋ねる。

 

「………あんた、こっちに来たのっていつぐらい?」

 

 まだ私は先程までの思考に引き摺られているみたいで、ついそんなことを訊いてしまった。

 

「え?――――っと、その………大体小マゼラン銀河に入る前ぐらいですねぇ。フネがゴンゴン揺れてたのは覚えてます」

 

 艦がゴンゴン………多分戦闘してたときね。だとしたら七色星団のヴァランタイン戦か、一度目のあのクソアマ………偽魔理沙との戦闘ね。

 

 ―――確定、か。

 

 私に働いている加護は、守矢の力以外にももう一つ存在する。

 それが何なのかは分からないけど、少なくとも今まで私にはプラスに働いていたことだけは感謝しよう。

 

 ………誰のかも分からない後押しなんて、却って不気味なところもあるんだけれど。

 

「艦長、何をしている?一度旗艦に戻るぞ?」

 

「霊夢さん、さっきから考えごとばかりして、このままじゃ置いてかれちゃいますよ?ほら早く早く!」

 

「え?………あ、今行くわ!」

 

 立ち止まっていた私達に、早苗と内火艇の乗降ハッチまで戻っていたサナダさんから声を掛けられる。何故か知らんがブロッサムもサナダと一緒だ。その声で再び現実に引き戻された私は、早苗に手を握られて半ば引っ張られるような形で内火艇に乗せられた。

 

 

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 ..........................

 

 

 

 

 ~『紅き鋼鉄』臨時旗艦〈ネメシス〉艦内~

 

 

 内火艇から降りた私達は、そのままサナダさんに付いていく形で会議室に向かう。

 ヤッハバッハとの決戦中に〈開陽〉の残っていた全クルーを収容した筈の〈ネメシス〉だけど、通路には人一人見当たらない。代わりに居るのは無機質な整備用ドロイドだけだ。そもそも決戦前に半分以上のクルーをショーフクさんに預けてレミリア達と一緒に大マゼランへと向かわせたのだから、人が居ないのも当たり前か。

 

「さて、着いたぞ。話の続きはここでしよう」

 

 サナダさんは一枚の扉の前に立ち止まり、脇にあったコンソールを操作する。するとロックが外れた扉は両開きに動いて薄暗い会議室への道を開けた。

 

 私達全員が入室すると同時に扉も閉まり、かわりに会議室の照明が点灯する。

 

「お久しぶりです、艦長。よくぞご無事で」

 

「艦長の強運は伊達ではなかったか………エコー以下保安隊三名並びに元〈開陽〉クルーは全員無事です」

 

「エコーと、ファイブズか………。久しぶりね、二人とも。この通り私は五体満足よ」

 

 会議室に入るや否や、私達を待っていたらしい保安隊の二人が立ち上がって敬礼する。私もそれに挨拶を以て応えた。

 

「よう艦長、見ての通り私らも全員無事さ。そこのサナダの他にも、ここには居ないけどユウバリとシオンの奴もね」

 

 エコー達に続いて、整備班長のにとりが報告する。彼女の台詞からすると、他のマッド達も無事らしい。

 

「それは何よりね。これからあんた達には色々動いてもらうつもりだから、そのときはよろしく頼むわよ」

 

「おう、任せといてくれよ艦長。あんな"お宝"が目の前にあるんだから、技術者の血が騒いで仕方ないよ」

 

 早速興味の対象を始祖移民船に向けて目をぎらつかせているにとり。彼女がマッドたる所以だ。

 

 再会の喜びもよそに欲望に気を取られてるにとりとは対照的に、保安隊の二人は本来ならこの場に居ない筈の人物に気付いたようだ。彼等から、彼女の素性に関する質問が飛ぶ。

 

「ところで艦長、そちらの御仁は?」

 

「ああ、彼女なら―――「はーい♪この私こそが、あの巨大移民船を統べる総合統括AI、BBちゃんでーす!今は故あってブロッサムと名乗っていますので、呼ぶときは"先生"をちゃんと付けて下さいね?」

 

「……………」

 

「………あの、艦長?」

 

「………ごめん、堪えて」

 

 私を遮ってハイテンションな自己紹介を始めたブロッサムに、保安隊の二人は引き気味だ。それが普通の反応だろう。一方のマッドサイエンティストが片割れはというと―――

 

「あの巨大船の統括AIだって!?まさかシステムまで生きてるのかい!?」

 

「当然です♪この時代の軟弱なコンピューターなんかとと同列にされたら困ります」

 

「ま、ま、マジか!!おいサナダ!こいつを上手く取り込めば………」

 

「うむ。彼女の協力は艦長が取り付けている。今後は色々と世話になるだろう」

 

「あ、それと一つ付け加えておきますけど、基本私、誰かの制御下に入るのは趣味じゃないんで、"協力"はしますけど"隷属"はしませんよ?」

 

「うん、それでもいいよ!君は私達にとって良き盟友に成れる筈さ!!」

 

 興奮のあまり、ブロッサムの両手を掴んだままぶんぶんと振り回すにとり。あの紫色も「同士発見♪」とでも思っているのか、はたまた使いやすそうな駒だと見なしているのか、ハイテンションで邪な澄んだ笑みを纏ったままだ。最早この時点で先が思いやられる。―――何事もなければいいんだけど………

 

「そういう訳ですから、これからお世話になりますね♪水、食糧、そして兵器―――アナタ達が望むものは大抵のモノならパーっと作っちゃいますのでよろしくです♪」

 

「あ、ああ……」

 

「……よろしく」

 

 にとりと違って、保安隊の二人は彼女のテンションに付いていけない様子だ。それでも礼を忘れないあたり、彼等の元一流軍人としての矜持が窺える。

 

「茶番はその程度にしてもらおう。さて、ここに集まってもらったのは他でもない、今後の艦隊運航指針を決める為だ」

 

 マイペースなブロッサムを半ば無視するような形で、サナダさんが会議の口火を切る。

 その一言で、会議室に集合していた全員が佇まいを正した。

 

「まず現状の報告からいこう。特に艦長はよく聞いてくれ」

 

「分かったわ」

 

 しばらく仲間達と別行動だった私達の為か、サナダさんはまず決戦参加組の現状から話し始めた。

 

「我々は艦長の退艦命令後、この〈ネメシス〉他数隻の艦艇を従えて大マゼラン方面に離脱した。我々には二つの選択肢があったが、クルーの人数に対して食糧と水に余裕があったこともあって艦長の捜索を決断した。その結果がこれでよかった。いや、物資の余裕が無くなる前で本当に良かったよ。数日前に〈開陽〉の微弱な反応を探知していなかったら、今頃我々は大マゼランに転進していただろうからな」

 

 サナダさんの口から、彼等がここに至るまでの経緯が淡々と説明される。

 彼の説明では何事もなかったかのような口振りだけど、実際には色々と揉めた末の決断だろう。―――本当に頭が下がる。

 

「……探してくれたことには感謝してるわ。ありがと、みんな」

 

「出来る範囲でも、艦の修理を進めておいた甲斐がありましたねぇ」

 

 微弱な反応、というぐらいなのだからもし早苗が艦の修理をしていなかったらと思うとぞっとする。それだと私達は永遠に仲間と合流出来なかったかもしれない。ここは私が眠っていた間にも艦の修理を進めてくれていた早苗にも感謝ね。

 

「では具体的な現状の説明に移ろう。艦隊戦力そのものについては概ねヤッハバッハ戦終了時と変わりない。だが無補給の状態が長引いたこともあってあちこちにガタがきているのが現状だ。現有戦力はこの戦艦〈ネメシス〉の他に空母〈ラングレー〉と巡洋艦〈ブクレシュティ〉〈ガーララ〉〈伊吹〉〈ブルネイ〉、重フリゲート〈イージス・フェイト〉、駆逐艦〈叢雲〉〈霧雨〉〈ブレイジングスター〉の計10隻、それに工作艦〈サクラメント〉〈プロメテウス〉〈ムスペルヘイム〉の支援部隊3隻が加わる」

 

「………随分と減ったものね。前は50隻以上は持ってたのに」

 

「幸い失った艦は無人艦だ、人的被害は少ない。艦隊の概観はこんなものだが、内情となるとさらに悲惨だ。最低でもこの〈ネメシス〉が大マゼランに辿り着けるぐらいの食糧と予備部品の備蓄はあるが、工作艦の在庫は心許ない。特に駆逐艦は長期間の酷使が祟って大規模なオーバーホールが必要なレベルの艦もある。軽巡洋艦も同様だ。それを実施した場合、工作艦の資材は殆ど底をつくことになるだろう。ちなみに現状では〈叢雲〉が推力60%低下、〈ブレイジングスター〉が55%、〈霧雨〉でも47%まで低下している。巡洋艦以上の艦艇についても〈ブルネイ〉は中破状態、〈ガーララ〉も機関に不調が発生している」

 

「うわぁ、まさかここまで酷いなんて………出港前はあれだけ物資積んでったのに」

 

「カシュケントを出た時点では〈開陽〉の喪失は想定外だったからな。あのときはアイルラーゼンを盾にして艦長も一緒に離脱する予定だったのだが………とまぁ、艦船の状況はこんなところだ。食糧と水については、今のところ心配はない」

 

「うん、状況説明ありがと」

 

 サナダさんから話を聞く限りでは、特に艦船の状態悪化が深刻らしい。クルーの方は元々人数が少ないから何とかなっている面もあるけど、艦船はそうもいかないらしい。無理が祟ってあちこちガタがきているようだ。

 

 ―――フネにガタがくるほど探し回っていたなんて、一体私はどれぐらい眠っていたのだろうか………

 

 あのときの早苗の反応といいサナダさんの話といい、数日数週間の範囲では済まない、数ヶ月単位で意識が飛んでいたのではなかろうか。………目覚めたら歩くことすらままならなかったぐらいなのだから、その線が濃厚だろう。

 

「―――では本題に移ろう。艦長達も状況の把握はできたようだからな」

 

 そうだ、この会議の目的はそれだった。

 

 あまりにも艦艇の状態が酷すぎて忘れていたが、本来の目的は艦隊の方針を決めることだったはず。

 

「知っての通り、艦隊の状態はお世辞にも良いとは言えない。寧ろ損失艦が無いだけで他の状態は最悪に近い。食糧こそまだ余裕があるが、それもいずれ底をつく。この〈ネメシス〉に食糧生産機能は無いし、限定的ながら食糧生産が可能だった〈開陽〉は恐らく修理不能だろう。そうなると、最早取れる手は一つしかない」

 

 会合に集まったクルー達は皆、サナダさんの方向を凝視して集中する。

 

 彼は強い口調で、次に続く言葉を紡いだ。

 

「―――大マゼランに向かった別動隊との合流を諦め、この移民船団を我々の移動拠点として改装する」

 

 

「………あれを、改装するのか」

 

「面白くなってきたじゃないか」

 

 その答えは、予想できた通りのものだった。

 私があのフネのAIの協力を取り付けられた時点で、サナダさんは恐らくそれを最善の策と見ていたのだろう。わざわざ新しく見つけた自給可能な拠点をみすみす放棄して過酷な旅に乗り出す理由はない。

 

「まぁいいですよ、私は。寧ろ腕が錆び付く前に本領発揮できるんですから望むところです」

 

 と、サナダさんの言葉に応えるブロッサム。彼女からしても、ただただ宇宙を彷徨うよりは自分の権能を存分に振るいたいのかもしれない。だからわざわざ私に接触してきたのだろうし。

 

「だが………それは良いとしてもだ、先に大マゼランへ行った連中のことはどうする?放っておくという訳にもいかないだろう」

 

 そう発言したのは保安隊のファイブスだ。確かにサナダさんの言うことは理にかなってはいるのだけれど、それでもやはりレミリア達の動向は気がかりだ。―――ちゃんと大マゼランに着けているだろうか。

 

「その心配は恐らくないだろう。彼等にはゼオスベルトへ向かうよう伝えてある。ゼオスベルトユニオンは国家から独立した0Gドックの集団と聞く。それに護衛戦力も大マゼラン艦艇に対抗できるだけのものが揃っている。ゼオスベルトに巣食う海賊共と一悶着あるかもしれないが、基本的には安全な筈だ」

 

「そうか………それなら良いんだけどな……」

 

 ファイブスはまだ浮かない顔をしていたが、渋々納得したといった雰囲気を醸し出しなが引き下がった。

 

 サナダさんが言うなら大丈夫なんでしょうけど―――何もなければいいんだけどね………。

 

 彼の言葉が切っ掛けになったのか、彼女達の安否について言い様のない悪寒に襲われる。昔から、こういうときの私の勘はよく当たるのだ。サナダさんの言う通り、杞憂であればいいんだけど………

 

「ではまず、あの船の拠点化に伴って聞きたいことがある。いいかね?ブロッサム君」

 

「え?あ、はい………何でもどうぞ」

 

(やけに大人しいですね、アイツ)

 

(ええ、私達とはまるっきり態度違うし………なんなのよあれ。何か企んでるんじゃないでしょうね)

 

 早速とばかりにサナダさんは本題に移ろうとしているのだが、ブロッサムの奴がサナダさんに対してだけやけに大人しい。その動きが私達へのふざけた態度と比較されて、余計に怪しく見えてしまう。隣の早苗と耳打ちで話ながら、私達はそんなことを考えていた。

 

「君が掌握しているあの移民船についてだが、機能はどれほど使える?それとできれば、残っている物資の量についても知りたい」

 

「分かりました。機能については特に問題ありません。母船の設備は概ね稼働可能状態にありますから。食糧生産、工業共に問題無しです。物資についてもしばらくは大丈夫です。レアメタルの類いもこれだけ備蓄があった筈ですから」

 

 ブロッサムはそう言うとグラフが表示されたホログラムモニターをサナダさんの方に飛ばし、それを受け取ったサナダさんも何やら満足気に頷いている。

 

「ふむ………どうやらその点は問題ないようだな。では決まりだ。あの移民船を我々の新たな拠点として活用し、艦艇の修理を行う。文句はないな?艦長」

 

「え?あ、うん………元々そのつもりだったし、アイツも協力するって言ってるからいいんじゃない?」

 

 サナダさんに突然同意を求められて驚いたが、適当にそれっぽい答えを返して取り繕う。

 レミリア達のことはあるが、今はそれが最善だと判断した。

 

「では決まりだな。これからの協力に期待するぞ、ブロッサム君。各員はこの方針に従って動いてくれ。特に私の科学班と整備班、そして保安隊はアレを拠点化する前に一度調査を行うつもりだ。そのつもりで頼む。調査の件についてもよろしいかね?ブロッサム君」

 

「あ、はい。確かに貴方達が使うためには色々と把握しておかないといけないでしょうし、それに私も調べて欲しい部分とかありますから、それについては全然大丈夫です」

 

「うむ、了解した。では本日はこれで解散としよう。各員は事後の行動にかかってくれ」

 

「イエッサー!」

 

「ふふっ、始祖移民船の調査かぁ………楽しみだねぇ」

 

 会議を取り仕切っていたサナダさんが閉会を告げて、参加者達はそれぞれの持ち場へと戻っていく。私がいない間艦隊を指揮していただけはあって、その動きは板についたもののように感じた。

 

 ―――ところで今更だけど、一応トップは今でも私のままなのよね?

 




九○話完全版になります。欠けていた後半部分を追加しました。


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第九一話 始祖の部屋

エコー達については霊夢は「保安隊」という表現の方が慣れている上に現在の規模が小さいので、今は基本的にそう呼んでいます。
本来は「海兵隊」に改組されていますが。


 

 ~始祖移民船・居住区内~

 

 

「………戻ってきちゃいましたね」

 

「……ええ」

 

 乗っている〈ペリカン〉強襲艇の窓から、移民船の船内を覗く。

 

 私達はサナダさん率いる〈ネメシス〉に回収された後、マッド連中の移民船調査に付き合わされる形で再びこの船にとんぼ返りする形になった。

 今回は移民船統括AIのBB――もといブロッサムが明確に此方側についたので戦闘機の護衛は無く、輸送用の強襲艇一機で来船している。

 艇にはサンプル採集に携わるサナダ、にとり、シオンのマッドサイエンティスト共を始めとして雑用係を期待された保安隊の二人に、当然ながらフネの主であるブロッサムも乗り込んでいる。それに加えて私達の他に―――何故か霊沙の奴までついて来ていた。

 

「――何だ、そんなにジロジロ見て」

 

「いや、思えばあんたとも久しぶりだなってね。元気してた?」

 

「………」

 

 無視か。

 

 人がせっかく気をかけてやってるってのに、失礼なやつめ。久しぶりの挨拶すらも無視するなんて。

 

 相変わらず可愛げのないこの私の2Pカラー(パチモン)ではあるが、少なくとも以前よりは落ち着いているように表面上は見えた。あの偽魔理沙になにやら誑かされたのかヴィダクチオにいた頃は酷い荒れようだったけど、一月以上も経過すればそれなりに冷めていたらしい。

 

 コイツのことだから何かやらかさないか心配になるけど、冷静さを取り戻しているならそこまで心配はしなくてもいいか。どうせマッド共が付いてるんだし。

 

 

 

 

 

 このときの私は、そんな風にあまり危機感を抱いてなかったのだけれど、まさかあんなことになるなんて、思ってもいなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、到着したな。エコー、ファイブス、艇から機材を降ろしてくれ」

 

「「イエッサー」」

 

 〈ネメシス〉を発進した強襲艇は、気づいたらもう目的地にまで到着していた。

 

 いの一番に下りたサナダさんが指揮を取って、早速保安隊の二人を使っている。

 サナダさんの指示を受けたエコーとファイブスは、なにやら強襲艇から見慣れない機材の山を引っ張り出している。

 サナダさんに続いてシオンやにとりといったマッド勢が艇から下りて、他の強襲艇が懸架してきた小型車の準備と点検をしている。

 彼女達はサナダさん同様調査活動ということもあり、ごっつい装甲服を纏っていた。

 

「さて、ここからは車と徒歩で移動する。私とブロッサム君、シオン君とにとりは1号車に、艦長達は2号車、保安隊は機材を3号車に積んで待機してくれ。先導は私が行う」

 

 サナダさんに指示された通り、私達はにとり達が準備していた小さな車に乗り込んだ。ワートホグ、という車らしい。天井もないし熊にぶつかったらひっくり返りそうなぐらいの大きさだけど、不整地の走破能力は高いらしい。

 隣の早苗は組分けが発表されると「ふふっ、霊夢さんと一緒ですね」なんて言ってくっついてきたけど、すぐにその表情を歪ませた。

 

「……って、なんで霊夢さん以外にも乗ってくるんですか」

 

「仕方ないだろ、そう指示されたんだから。生憎サナダの車は満員、後ろの車は機材でいっぱいだ。移れなんて言われてもできないよ」

 

「そんなの分かってますよ!!ああもう、折角霊夢さんとのドライブデートができる機会だっていうのに、あのうざいAIが居ない時に限って………」

 

 ―――早苗、これはそういう目的で来た訳じゃないからね……?

 

 脳内ピンク真っ盛りの元同業者に心の中で注意しながら、私は無言で早苗の隣に座った。後部座席のアイツの隣は絶対に険悪な雰囲気になる故、ここしか私の居場所は無い。二人きりならともかくとして、人の目があるところでは流石に「霊力切れちゃいましたぁ~(はぁと)、なので吸わせて下さいね♪」なんて真似はしてこないだろう。………してこないと信じたい。

 

「ったく、なんで………コイツなんかが良いんだか。理解に苦しむね」

 

「なっ、今霊夢さんを侮辱しましたね貴女!?私のドライビングテクニックで振り落としちゃいますよ!!?」

 

「ちょ………それ私にも害が及ぶでしょうが!!」

 

 霊沙の言葉に早苗が食って掛かる―――まではいいんだけどその後の台詞は聞き捨てならない。

 

 ―――あんたが暴走運転なんかしたら私まで振り落と

 されるでしょうが!!

 

 早苗の暴挙を止めるべく抗議するが、前方のサナダ車からの声でこの遣り取りは中断された。

 

「――おーい、準備できたら出発するぞー艦長」

 

「あ、はーい。という訳なので、早速行きましょう霊夢さん」

 

「はいはい。くれぐれも危険運転はしないようにね」

 

「………チッ」

 

 ―――ふぅ、助かった………

 

 前の1号車から発進指示があって早苗の態度が切り替わったことで、私はほっと胸を撫で下ろした。あのまま険悪な空気が続いていきなり危険運転から入られたのでは私にまで危害が及ぶ。コイツら二人がいがみ合う分にはともかく(それもウザいけど)、私も巻き込まれるなんて問題外だ。

 

 平常心に戻った早苗は普通に車を発進させてサナダさんの車についていく。

 後ろの霊沙は終始不機嫌そうなままだったけど、早苗に声を掛けなかったので到着までの間にまた彼女といがみ合うことはなかった。私も何かがトリガーになってコイツが早苗の逆鱗に触れることがないよう早苗の相手しかしてなかったので、最後まで安全運転で移動できた。

 

 

 ......................................

 

 ................................

 

 ..........................

 

 ....................

 

 

 

 ~始祖移民船・工場区画~

 

 

 サナダさん達の後を追って着いた場所は、廃棄された巨大な船体がごろごろと転がっている工場区画だった。建造中だったのが放棄されたものなのか、はたまた廃艦になったものなのか、船体に貼られていたであろう装甲板は所々剥がれ落ちて無惨にも内部を晒している。

 

「とりあえず、一つめの目的地には到着だな」

 

「ほぇー、ここが始祖移民船の工場区画なのか。これはガラクタ漁りのし甲斐がありそうだ」

 

「……あまり勝手に弄らないで下さいよ?特に操作機器類は。後でちゃんと動かしてあげますから」

 

「彼女に忠告しても無駄ですよ。黙らせるには適当なガラクタを与えないと」

 

「おい、何だよシオン。それだとまるで私が子供みたいな言い方じゃないか」

 

「我々にとっては事実でしょう。興味関心のある事象に対してはとことん貪欲なのが我々の在り方なのですから」

 

「………まぁ、そうだけどさぁ」

 

「――という訳ですから、彼女には後で発明のヒントになりそうな、適当な部品でも何でもいいですから与えといてやって下さい」

 

「分かりました。とは言ってもデータや現物含めて機械類なんて腐るほどありますから、後で希望でも聞いときます」

 

「え、ホント?やった!」

 

 サナダさんとブロッサム、にとりにシオンと、1号車に乗っていた連中が降りていく。マッド共……特に機械弄りが大好きなにとりは早速目を輝かせているようで、まるで子供のように目をキラキラさせながら周りの機器を観察している。猫に鰹節、マッドに機械と言うように帰ってから何かやらかさないか心配だが、まぁ何とかなるでしょう。幸い資材はここに腐るほどありそうだし。

 

 私達もサナダさん達に倣って、車を適当な場所に停めさせた後彼等に続いた。

 

「ところでサナダさん、この区画には何しに来たの?」

 

「ああ、実はな、ここの工場を一目見ておきたかったんだ。言葉では聞いていたが、実際にどれくらいの期間で使えるようになるかどうか一度この目で見ておきたかったんだ」

 

「へぇ~」

 

 サナダさんは私に軽く説明し終えるとブロッサムと共に工場の奥へと向かっていき、何やら話し込んでいるみたいだった。

 

「………退屈ねぇ」

 

 マッド共も思い思いに工場の機械を観察してるし、コンソールを弄ってデータを観閲していたりする。私にはてんで機械のことなど分からなかったので、来たは良いけど何もすることが無くなってしまっていた。

 

「でしたらサナダさん達が帰ってくるまで、車で雑談しながら待ってますか?エコーさん達もそうしているみたいですし」

 

「………そうね。それが良いかしら」

 

 私は早苗の提案に従って、乗ってきた車へと戻る。早苗が示したように、少し離れたところに車を停めていたエコーとファイブスは乗ったまま雑談に興じていた。どうやら積んできた機械はここで使うものではないらしい。

 私にとっては完全に無駄足になってしまったけど、マッド共がここでインスピレーションを得て有益な発明をしてくれるというなら私は別に構わない。―――実害がこちらに及ばなければの話だけど。

 

「………なんだ、もう戻ってきたのか」

 

 私達が車に戻ると、唯一車内に残っていた霊沙が素っ気ない態度で出迎えてきた。

 

「まぁね。どうせマッドの話にはついてけないし、下手に弄って変なことになったりしたら困るからね」

 

「へぇ………」

 

 霊沙はさも興味がない、といった風体のまま後部座席で寛いでいた。全く、人が話してやっているというのに無神経な奴………

 

 ―――しかし霊沙のやつ、こうして見ると前とはほんと違うわねぇ………昔はもっと、こう………好奇心があって快活な奴のような気がしたんだけど。―――まるで、魔理沙みたいな…………

 

「もう、さっきから何なんですかその態度は!折角霊夢さんが聞いてるんですよ?」

 

「はいはい、悪いけど必要以上に馴れ合うつもりはないの、私は。もう昔とは違うんだ、ほっといてくれ」

 

「はぁ………」

 

 早苗が非難の意図を込めて彼女を諭すが、全く効果はない。それどころか、完全無視を決め込むように後部座席で狸寝入りを始めてしまった。どうやら、事あるごとに私を揶揄ったり航空隊と研鑽し合っていた彼女は完全に過去のものになってしまったらしい。ヴィダクチオでおかしくなったときから気づいていたが、こうして落ち着きを取り戻した後でも以前との違いが明確に現れていたらそう結論付けざるを得ない。

 

「いいのよもう。コイツなんか放っときなさい」

 

「でも………」

 

 早苗はまだ諦めきれていない様子だけど、霊沙の態度を変えることはできないと実感したのか渋々と引き下がった。

 

 ―――ああもう、雰囲気最悪じゃないの!

 

 早苗が黙ってしまって以降、気まずい雰囲気が車内を流れている。―――正確には、私と早苗の間に、だが。霊沙の奴は何も知らんとばかりに後部座席でぐっすりと眠ってやがる。狸寝入りどころか、本当に眠ってしまっていた。

 

「ハァ………霊沙さんのことについて、相変わらず何も分からず仕舞いですか」

 

「仕方ないわ、アイツの方から口を割ろうとしないんだもの。あんたの責任じゃないわよ」

 

 落胆する早苗を諭すように、私は彼女を慰めた。

 

「―――私ね、一度アイツを問い詰めたことなあるの。ヴィダクチオ自治領での戦いが終わった直後のタイミングでね。確か、宴会のときだっけ」

 

「そうなんですか!?――あ、確か私そのとき神奈子様の隠蔽工作に追われていて………その間にそんなことがあったんですね」

 

「まぁね。で、肝心の内容なんだけど………どうもあいつが言っていた生前のストーリーってのが半分ぐらい嘘っぱちみたいでね………」

 

「ストーリー、ですか?」

 

 ストーリー、という言葉に早苗はきょとん、と首を傾げた。

 

「ええ。あの時私は「あんたは誰だ」って問い詰めたのよ。アイツ、ヴィダクチオ戦のときから様子がおかしいどころか口調まで変わってたから。そのときアイツは「私達と戦って封印されたのは事実だ」って言ったのよ」

 

「つまりそれって……」

 

「"私のコピー妖怪"って話は嘘だ、とも取れる言い方よね。変わった性格に作り話―――全く、一体何を隠しているのやら」

 

 霊沙の正体に関する考察談義は続く。当の霊沙は、ここまで自分のことが話題にされているにも関わらず全く起きる気配がしない。

 

「でも霊沙さんって、おかしくなったのがあの偽魔理沙さんを拾ってからのことですよね?それって………」

 

「それって?」

 

 早苗はなにか思い付いたのか、意味ありげな眼差しを向けてきた。

 

 

「もしかして並行世界の霊夢さんだったり!?」

 

 

「へえっ!?」

 

「………!!」

 

 大声で発せられた突拍子もない推測に、思わず驚嘆の声が出てしまう。

 

 ―――はあっ!?コイツが私自身!!?

 

 冗談じゃない、と私は続けようとしたのだけれど、早苗は私の様子などお構いなしと言わんばかりに自信満々に自分の推論を披露した。

 

「だって、相手は魔理沙さんによく似た相手ですよ!?きっと幻想郷に居た頃に何かあったんです!一度は袂を別った筈の相手がいきなり目の前に現れて、きっと封印されていたあんなことやこんなことが「おい」ッ!?」

 

 ノリノリで推論を話していた早苗に冷や水を浴びせるかのように、起きた霊沙の声が響く。

 早苗はそれにびっくりして彼女の方向に振り向いた。霊沙の奴は、殺意すら感じさせる程の眼光で早苗を睨み付けている。

 

「早苗、今の話は訂正しなさい」

 

「へっ!?」

 

 霊沙は静かに、ドスの籠った低い声で威嚇する。

 

「私が"博麗"霊夢なんて、冗談じゃないわ」

 

 霊沙はそう吐き捨てると「私は寝る、次の目的地に着くまで起こすな」とだけ言い残して再び後部座席に横になり、あっという間に眠ってしまった。

 

「……早苗、これからアイツのことをあまり刺激しないで」

 

 私はあの宴会の日アイツに言われたことを思い出して、一つ早苗に忠告する。

 

「は、はぁ………分かりました。あの言いようでは、そうせざるを得ないみたいですし………」

 

 早苗は不満げな空気を漂わせていたが、あの様子では仕方ないと諦めたのか渋々といった様子でそれを承諾した。

 

 ―――これは、私もミスったなぁ………

 

 斯く言う私も、あのときの話を忘れて早苗を止められなかったのは不覚だった。あれ程彼女から頼まれていたのに、これでは片棒を担いだようなものだ。折角安定してきたのだから、艦隊の安全的な意味で彼女をあまり刺激したくないというのに。

 あの偽魔理沙でここまで取り乱していたのだから、本物の幻想郷の住人だった私や早苗がつっついたらどんな反応が帰ってくるか分からない。寧ろ今回のそれは、わりかし大人しい方だったとも言える。

 

 

 ―――だから………これは私の問題なの………これ以上、関わらないで―――

 

 

 ―――でないと……私は霊沙として振る舞えなくなるから……―――

 

 

 ―――だけど、これ以上刺激されたら自分でも私を抑えて居られなくなるわ―――

 

 

 これ以上は抑えられない、か………

 

 宴会のとき彼女から言われたことを思い出しながら、私は言いようのない不安に襲われていた。この問題はデリケートなものだ。故に、慎重に扱わなければならない。

 

 ―――アイツの正体を暴いたとき、果たして蛇が出るのか鬼が出るか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~始祖移民船・中枢部~

 

 

 工場の調査を終えたサナダさん達は再び居住区に向かい、今度は空気や土壌の調査、居住の可否を調べていた。

 何千年も漂流していた割に整備はちゃんと行き届いており、空気汚染や土壌汚染、未知の細菌や凶悪な病原菌も居ないと分かり今すぐ居住可能な状態が保たれているらしい。総合統括AIのブロッサムが毎日調べていたとの話で、かつサナダさん達が持ち込んできた機械で調査しても見つからないのだから本当の話なのだろう。これで移民船の拠点化や食糧生産が問題なくできる。

 

 居住区の調査を終えた私達は車で端まで移動して、そこから徒歩に切り替えた。

 

 この先にもう一つ、調査したい箇所があるらしい。

 

「んで、その調べたい部屋ってのは何なのよ?まさかコイツの本体をバラすとか突拍子もないことは言わないでしょうね?」

 

 私はサナダさんへの牽制も兼ねて、彼に尋ねた。

 マッドサイエンティストな彼ならブロッサムの本体であるコントロールユニットを解体して研究とか始めかねないし、それで折角築いた契約を台無しにされるのも勿体ない。一応常識がある彼に限ってそんなことは無いでしょうけど、一応だ、一応。

 

「まさか、そんな信義則に反するような真似は幾ら私でもやらないさ。それより、件の部屋は"玄室"と呼ばれていた部屋らしくてね、彼女でもブラックボックスが解けないというからこうして我々も調査に協力することにしたのさ」

 

「このフネから人間が去ってから調べ始めたんですけど、あの部屋だけ私の管理権限を受け付けないんです。それで気になってハッキングしようとしても跳ね返されるし………とにかく!私のナカに正体不明の謎部屋があったら落ち着かないじゃないですか!それにこの人、稀代の天才らしいじゃないですか。彼の実力の一端は見させてもらいましたし、ここはサナダさんとこの私、ブロッサム先生の悪魔合体でちょちょいのチョイです♪」

 

 ―――という訳らしい。

 

 一瞬罠かと勘繰りもしたけど、既にサナダさんの盟友と言ってもいいような地位を占めている彼女が裏切る理由はない。それどころか彼女がAIであるならば、契約に反するような内容はできない筈だ。………早苗という例外がいるので断言はできないけど、まぁ、彼女は人の魂が入ってるから………

 

「玄室、か………。ところで、その部屋はどんな場所なんだい?」

 

「それが、私にも分からないんです。当時の人間達は決して私に部屋のことを教えませんでしたし、部屋に出入りしていたのはごく僅かな権力層の人間だけでした。彼等がこのフネから去ってからも部屋には強力な防壁が掛けられたままで、電子的にも物理的にも此方からは覗けなかったんです」

 

 にとりがブロッサムに質問するが、返ってきた内容も謎だらけ。管理AIでも覗き見ることができない部屋って、どれだけ強固なセキュリティなのよ。私の早苗でさえ、フネの中は通路一本部屋一つに至るまでその気になったら丸裸だったのに。

 

「管理AIでも入れないなんて、それっておかしくないですか?フネの安全運航の為にAIは必要とあらば全ての空間にアクセスできる権限が与えられています。だけどアクセスできない部屋があったらその部屋で発生した異変や事故は感知できないってことになりますよね?それだと本末転倒じゃないですか?」

 

「……ええ、貴女の言うとおりですよ緑色。私……というか正確には私の先代なんですけど………がフネに異常がないか調べようにも、その部屋だけ毎回空白になってたんですから気になって気になって仕方がなかったんです。当時の人間に運航上のリスクを伝えても駄目だの一点張りで、権力層が去った後最後の住人さんと調べても突破できず―――本当に気味の悪い存在ですよ」

 

 あのマイペースでハイテンションなブロッサムがここまで嫌悪感を露にしているなんて、件の部屋はどれだけ堅いセキュリティに護られているのか………それだけ隠されているなら暴きたくなるのが人間の性というものだけど、

 

「………ねぇサナダさん。調べるのはいいんだけど、そんな部屋どうやって入り込むのよ?」

 

「うむ。セキュリティ以前に物理的にも突破は難しいらしいからな。我々の科学力を考えると電子面でのアプローチは難しい。何しろこの分野は"風のない時代"の方が我々より勝っていたのだからな。そしてその"風のない時代"の科学の粋を集めたブロッサム君でも突破は不可能ときた。ならば………」

 

 サナダさんは一呼吸置くと、後ろの保安隊員二人に目を向けた。

 

 彼等の手にはでっかいドリルのようなものが握られており、それだけでサナダさんがこれから何をしようとしているのか大体の察しがついてしまった。

 

「この超硬貨テクタイト製プラズマドリルで物理的に隔壁を破壊する」

 

 うぃーん、うぃんと保安隊の二人はサナダさんの言葉に合わせて、ドリルのスイッチをつけたり切ったりとその存在を誇示していた。

 

 ―――うわぁ、またろくでもない物を………

 

 それがドリルを見た私の第一印象だ。

 一体いつの間にこんなものを、と思ったが元からあるものを再利用しただけかもしれない。だけどサナダ印というだけでヤバい雰囲気がぷんぷんしてる。

 

「ドリル!ドリルですよ霊夢さん!やっぱりドリルは格好いいですよねぇ~」

 

「おおっ、やっぱり分かるかい盟友!何せコイツは最早何個目か分からない私の自慢の発明だからね!この宇宙にコイツが壊せない物なんて無いさ!あのエピタフ遺跡だってコイツの手にかかればバラバラさ!」

 

 ………あのドリルはサナダ印ではなくにとり印だったらしい。それがどうしたという話だけど。

 ぶっちゃけサナダ印でもにとり印でも、その危険度(と効果)はあまり変わらないのだからどちらも要警戒対象なのには違いない。

 

「………変なヘマやらかすんじゃないわよ」

 

「それは我々も承知の上です、艦長」

 

「何でもこのドリル、プラズマの熱はロンディバルト駆逐艦の主砲に匹敵するという話ですから。我々も慎重になりますよ」

 

「うげっ、滅茶苦茶危ないじゃないのそのドリル!」

 

 ドリルを扱うエコーとファイブスの話を聞く分には安全性に大いに不安が残るのだけれど、扱うのが常識人で頼もしい保安隊というのは唯一の安心材料だ。

 

「色々話しているうちに着いちゃいましたよ」

 

「ふむ、これが"玄室"か。扉の見た目は他の部屋と変わらないようだが………」

 

「見た目で侮ったら駄目ですよ?この部屋には私が5000年かけても解けなかった難題が眠ってるんですから」

 

 ブロッサムの言葉にへぇ、と心の中で相槌を返しておきながら、私は「玄室」の入り口だという扉を見つめた。

 

 ―――思ったより地味なのねぇ~。

 

 その扉からは、他の部屋のそれや通路と同じように均一的で機械的な清潔さを感じさせる、ただの宇宙船の扉という感想しか思い浮かばない。しかしブロッサムに言わせてみれば、それは欺瞞、偽りの姿だという。

 

 サナダさんはその姿を暴くべく、保安隊の二人に命じてドリルの鋒を扉に向けた。

 

「作戦開始だ、エコー、ファイブス、手筈通りに頼む」

 

「イエッサー」

 

「了解。危ないぞ、艦長。下がっていろ」

 

 保安隊のエコーとファイブスが前に出て、ドリルの電源を付けて扉にそれを押し当てる。

 ウィンウィンと不愉快な甲高い騒音を立てながら扉を抉じ開けようとするドリルだが、全く削れる試しがない。それを見たエコー達は、二つ目のスイッチを入れた。

 

 するとドリルは眩い光を放ちながら蒼色の高熱プラズマを帯び始め、その熱量を以て扉を抉じ開けようと猛烈に火花を散らしていた。

 

 ―――マッド共とエコー達が重装甲服を着ていたの、これが原因だったのね。

 

 確かにこれは危険な現場だ。身体が義体になってる早苗や悪名高い間欠泉でも能力を使えば平気な私はともかくとして、頭は異常でも身体は普通の人間の域を出ないサナダさん達に装甲服は必須だった。

 

「うわぁ、ゴリゴリ削られていってる……」

 

 火花を散らしながら扉を掘り進むドリルを見て、ブロッサムは感慨に耽っているような様子だった。―――5000年かけて自分が突破できなかったものがマッド共の手によっていとも簡単に突破されようとしているのだ、それも無理はない。

 

「いよいよですねぇ、楽しみです」

 

「これだけ厳重ならお宝の一つ二つはあってもいいような気もするけど………なーんか嫌な予感がするのよねぇ」

 

「…………」

 

 件の"玄室"を前にして、私の勘は不安を訴えていた。

 ――この中にあるのは、何かよからねものなんじゃないかと。

 

「嫌な予感、ですか。う~ん、何千年も空かずの間というのもロマンがあると思うんですけど、霊夢さんの勘はよく当たりますからねぇ………」

 

 ………早苗の言う通り、私の勘はよく当たる。それも今回みたいな悪い予感は特に。

 

 ―――杞憂であればいいんだけどねぇ………

 

 ドリルでがりがりと削られていく扉の様子を眺めながら、私はこの勘が当たらないことを願った。

 

 

 .........................................

 

 

 

 ガンッ、と金属の甲高い衝撃音が響き、5000年間ブロッサムの攻撃を耐え続けてきた「玄室」の扉は遂に陥落した。サナダとにとりという稀代のマッドサイエンティストコンビの手によって。

 

「開いたな。行くぞ艦長」

 

 サナダさんは扉が崩れたのを確認すると、ずかずかと室内へと入っていく。

 

「ああっ、抜け駆けは狡いぞサナダ!」

 

「――私達もいきますか。何が出るか………」

 

「ふ、フフフッ………遂にこの時が………覚悟しなさいこの謎部屋」

 

 それに続いて、にとり、シオンのマッド勢が意気揚々と「玄室」の中へと入っていく。ブロッサムは何千年以来の悲願が目前にあるためか、テンションがおかしい。

 

「さて、私達も行きましょう霊夢さん」

 

「………、ええ」

 

 早苗に手を引っ張られながら、私もサナダさん達の後に続いて入室する。

 サナダさん達が事前に踏み込んだ限りでは罠の類いはないようで、彼等はさらに奥まで踏み込んで部屋の床や壁からサンプルを採集している。

 

「暗くて何も分かりませんねぇ」

 

「………そうね。サナダさん達の作業が終わるのを待ちましょう」

 

「………サナダ、照明の準備が終わったぞ」

 

「うむ、ご苦労。では点灯頼む」

 

 マッド達のサンプル採集が終わった頃、入り口付近で背中に担いできた照明を組み立てていたエコーとファイブスから報告が入る。

 サナダさんの指示通り、二人は照明のスイッチを押した。

 

 カッ、カッ、という音と共に部屋の全体を照らし出す程の光が放たれ、ついに暗闇に包まれていた「玄室」の全貌が明らかになる。

 

「これは………」

 

「―――こんな見た目だったんですね、この部屋」

 

 誰もが固唾を呑んで、「玄室」の全貌を眺めていた。

 

 部屋の内装は先程までの通路のような、未来的な清潔感に溢れる無機的なものとはうって代わり、蒼色に包まれている有機的で曲線的な、まるで宇宙人の巣なんじゃないかと思えるほど幻想的で不気味なものだった。壁の装飾や天井からぶら下がる得体の知れない物体はどれも機械とはかけ離れた外見で、宇宙船の中よりも幻想郷にある洞窟の奥地と言われた方がずっとリアリティのあるような不思議な見た目をしていた。

 

 床にも壁にもチューブのようなものが埋め込まれ、壁の一角にある何らかの装置みたいな物体の周辺には青白い光の粒が半透明のチューブを流れていく。

 それらの光景はまるでここが母体の胎内であるかのような、不可思議な感覚を私に感じさせていた。

 

「これが……"玄室"………」

 

 その幻想的な風景に、思わず目を奪われる。

 エピタフ遺跡にも通じるようなこの景色に心まで奪われかけていたとき、突如として響いた狂気によってそれは辛くも中断された。

 

 

 

 

 

 

 

「く………フッ、あは、アハハハハハっ!!」

 

 

「………霊沙?」

 

 狂った叫び声の主を見て、恐る恐る、私はその声の主を呼ぶ。

 

「くくっ、やっと………やっと見つけたぞ!」

 

 

「あ、貴女、何してるんです……?」

 

「霊沙、さん―――?」

 

 ブロッサムが怪訝の視線を彼女に向けて、早苗は私と同じように彼女の名を呼ぶ。保安隊の二人やマッド達も流石にこの光景には目を向けざるを得なかったようで、驚愕、怪訝、あるいは眉をひそめて睨むか思い思いの視線を彼女に向けていた。だけど変貌した彼女にどう対処してよいのか分からないまま、彼女を警戒しながら観察することしか出来ないでいる。

 

 だけど彼女は周りの視線などお構いなしと言わんばかりに狂った笑い声を上げ続け、ばたんと糸が切れたかのように首と腕をだらりと降ろした。―――かと思うと、なにかをぶつぶつと呟きながらのそり、のそりと幽鬼のような足取りで得体の知れない装置の下へと向かっていく。

 

「あんた………何する気なの………?」

 

 私の問い掛けにも応えずに、装置の下まで辿り着いた彼女はさも慣れていると言わんばかりの滑らかな手つきでコンソールのようなものを操作した。

 

 すると、彼女を取り囲むようにして金色の光の柱が出現する。

 

「な、何だあっ!?」

 

「くっ、何の光ィ……!?」

 

 一瞬で発せられたそれの眩しさに思わず目を背けてしまうが、気づいたら彼女は光の柱の中に浮かぶようにして、操作のようなものを続けていた。

 

「お前らが………お前らがなんだろう!?私のナカをぐちゃぐちゃにして、糞みたいな記憶と性格を植え付けていったのは―――!!」

 

 光の柱の中にあっても、支離滅裂な霊沙の独白は続く。

 霊沙は鬼のような形相で嗤いながら、得体の知れないナニカに向けて延々と呪詛を吐き続けていた。

 

「く、ククッ――!アイツの姿と記憶を盗んでいった報いよ、受け取りやがれ……ッ!!」

 

「ッ、霊沙………、その光から離れてっ!」

 

「彼女を取り押さえろッ!!」

 

 私とサナダさんが同時に叫び、反射的にエコーとファイブスが飛び出した。

 だが彼等の腕は光の柱に阻まれて彼女に届くことはなく、それどころか弾き飛ばされて床に転がってしまう始末だ。

 

 ―――くっ、こうなったら………

 

 エコー達が起き上がる前に、堪らなくなった私は"能力"を使って彼女の下へと飛び出した。

 

「事情は、分からないけど…………ぐうッっ!?

 、……いい加減、こっちに、………戻りなさいッ!!」

 

「う………ッ!?」

 

 予想通り、私の能力なら光の柱を突破することができた。

 

 光の柱を腕がすり抜けたときに感じた痛みに顔をしかめながらも、確かに彼女の腕を掴んだ私はそこから無理矢理引っ張り出す。

 

 すると、バリンッ、という硝子が割れるような音を立てて光の柱は崩壊し、彼女の身体はバタリと力なく床に倒れ伏した。

 

「…………」

 

「霊沙っ」

 

「霊沙さんっ!!」

 

 倒れた彼女を見て、突然の事態に硬直していた皆が彼女の下へと駆け寄ってくる。

 

「嘘、そんな………こんなことって………」

 

 ただ一人、調査を依頼したブロッサムだけはいつものお調子者の雰囲気が嘘のように、恐怖に囚われたような表情をしながらこの光景に後退りしていた。

 

「あの時代の人間達は、何を………」

 

 ―――くっ!やっぱり当たるじゃないの、悪い予感に限って………

 

 AIですら衝撃を受けるこの光景―――クソッ、一体何が起こったっていうのよ―――!!

 

 彼女の身に何が起きたのか、あの装置と光の柱は一体何なのか………知りたいことはいっぱいあるけど先ずは彼女の身体を何とかしなければならない。

 

 倒れた彼女の介抱を早苗に任せて、私はサナダさんに命令した。

 

「………サナダさんっ、今すぐに救護班を呼びなさい!―――今すぐよ!!」



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第九二話 玄室考察

 ~戦艦〈ネメシス〉作戦会議室~

 

 

 

「………では、会議を始めるとしよう。良いな、艦長」

 

「………」

 

 霊沙が始祖移民船で倒れてから3日、臨時旗艦となっている〈ネメシス〉の会議室は、鉛のような重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 出席者が全員揃ったのを確認すると、進行役兼解説役のサナダさんが一番に開口する。

 本来であれば艦長の私が仕切るべき場面なのだろうけど、元々私はそういう役割は得意ではないし、今回は議題が議題だけに専門家に任せるべきだと判断した結果だ。

 

 サナダさんの問い掛けに、私は無言で頷いてそれを承諾する。

 

 今回の会議は艦隊のなかでも最高機密に指定されるべき案件だとサナダさんも言っていたので、出席者は数名、それも今残っているメンバーのうちでもかなりの重役の人達かごく僅かな関係者だ。司会役の科学班長サナダさんを始めとして整備班長のにとりや医官兼研究者のシオンさん、副長のコーディに海兵隊隊長のエコー、〈アイランドα〉統括AIを自称する、これまた自称のブロッサム先生、そして私と早苗だ。あのとき同行していて、そして今回の話題の鍵を握る霊沙の奴は案の定体調不良らしく、医務室でポッドにぶち込まれて色々調べられてるらしい。ここに来るときにシオンさんがそう言っていた。

 人選から彼等も只事ではないと悟っているようで、サナダさんが話し始める様子を固唾を呑んで見守っている。

 

「まずは例の移民船………コードネーム〈アイランドα〉にて確認された謎の空間についてだ。我々科学班と整備班、艦長、そして霊沙君と共に調査に当たった結果、この施設は一種の通信装置であることが判明した」

 

 始祖移民船にあった謎の空間………あのどこか神秘的な雰囲気を帯びた部屋のことだ。古代に建造された始祖移民船とはいえやはり人類が造ったものであるだけに、全体としては直線的で機械的なデザインだったあのフネだけど、何故かあの部屋だけまるで"造った文明からしてそもそも違う"かのように異質な空間だった。

 他の箇所とは真逆の、いつか見たエピタフ遺跡に通ずる曲線的で有機的な幾何学的意匠に加えて、天然の洞窟に生えるヒカリゴケを思わせるようなぼんやりとした緑色の光……何もかもが、あの部屋だけ"特別"だった。

 

「通信装置?」

 

「どういうことだ?サナダ。あれが通信装置だとしたら、誰と連絡を取っていたんだ」

 

 サナダさんの言葉に、出席者から疑問の声が上がる。

 加えてコーディさんの言うとおり、通信装置なら繋げたい相手が居る筈だ。あのとき霊沙がいってたことはなんか支離滅裂だったし私もよく分かってないから、私も改めてサナダさんから話を聞きたい。

 

「ここから先は推測になるが、恐らく相手は異文明………それも人類でないことは明らかだろう」

 

「なに……ッ!?」

 

「………つまり、エイリアンという訳か」

 

 相手は人類ではない、という言葉に動揺が走る。明らかに驚いている者、驚愕しつつも分析しようとする者など、反応は様々だ。

 

「……この時代に来てからヒューマノイド以外の知的生命体を全くといっていいほど見てなかったが、やはり人間とは他種族の知的生命体が存在したのか」

 

「待て。話はそう単純なものではない」

 

「なに………?」

 

 コーディさんやエコーらトルーパー組は以前の経験からか、相手がエイリアンだと納得している様子だったけど、それにサナダさんが待ったを掛ける。

 

「私が霊沙君から聞いた話を吟味する限り、相手がただのエイリアンだと早急に決断を下すわけにもいかなくなった。どうやら相手は、我々の想像もつかないような高次元生命体らしい」

 

「高次元生命体?エイリアンとはどう違うんだ?」

 

「えっと………ブロッサムさんはあのフネの統括AIをずっとやっていたんですよね?なら何か知ってるんじゃ………」

 

「そうですよ!あのフネのことなら何でも知ってるんじゃないですか?れ……霊沙さんは一体何とコンタクトしてあんなんになったんです!?」

 

 問題の施設がある〈アイランドα〉の統括AIである彼女なら当然何か知ってる筈だとシオンさんが尋ねたのを切欠に、早苗が彼女を問い詰めるように身を乗り出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!確かに私はあのフネの統括AIですけど、私が搭載されたのはあのフネが完成してからですよ!?それにあの部屋、高度にブラックボックス化されててこのブロッサム先生でも分からない謎ルームだったんです!そんなに簡単に分かってたら、今頃洗いざらい話してますから!」

 

 彼女はわざとらしく「ぷんっ…!」と頬を膨らませて顔を背けて、抗議の意図を示している。早苗と違って魂が入ってる訳でもなさそうなのに全く人と変わらないその仕草には、彼女がAIであることを忘れてしまうぐらいだ。

 

「そんなこと言って、まだ何か隠してるんじゃないですか?事と場合によっては………」

 

「な、何なんですもう!だから、私は知らないって言ってるじゃないですか!人間の言葉も理解できないんですかぁ~?このポンコツ緑色。だいたいアナタ、私とキャラ被ってんですけど~?ま、私の方が可愛くてグレートデビルなんですけどね♪」

 

「はぁ!?新参の癖に何言ってるんですか!?貴女の方が明らかに癖が強くて扱いにくそうじゃないですか。そんな貴女と違って私は霊夢さんへの愛情MAXなんですから、絶対に裏切らない私があのフネを貴女に代わって掌握すべきです!!!」

 

 だけど案外疑い深い早苗はまだ納得した様子ではなく、彼女を問い詰めようとしていた。が、彼女も黙って言われっ放しなんて我慢できない性格なのは目に見えており、早苗も早苗で無視なんてできない質なのでブロッサム先生の挑発に容易く乗ってしまって瞬く間に口論に発展してしまう。他のメンバーは、それを冷ややかな目か、面白いものでも見るような目で観戦するだけだ。

 

「あーら、できるんですかぁ~そんなこと。そこの霊夢さんとあんなコトやこんなコトしちゃってたとこ、ぜーんぶ見てたんですよ?何ならここでバラしても……」

 

 ここはやはり、艦長の私が仲裁するべきだろうと割って入ろうとしたときだった。

 

 ………今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかしら。……気のせいじゃないわよね。

 

「ななな、それは絶対にダメです!!やったら絶対許さないですよ!!!」

 

「きゃー☆ また私、あのときみたいに犯されちゃうー☆やっぱりバラしちゃおうかなー……」

 

「ちょっ………や、止めなさい二人ともッ………!!もう、私にまで飛び火させてこないでよね。特に早苗!そうやっていつも暴走しない!!」

 

「ひゃ、ひゃいっ………ごめんなさい………」

 

「もう、いい迷惑ですよホント。これに懲りたら、あの可愛い艦長さんの言うとおり大人しくしといてくださいね~?」

 

 早苗は反省してるみたいだからいいとして、この期に及んでまだ早苗を煽ってくるブロッサムは無視する。私はサナダさんに目配りして、話の続きを促した。

 

「………ゴホン、少々話がずれたようだが、続けるぞ。確か………通信相手の正体についてだったな。先程は相手が高次元の知的生命体といったが………いや、"生命体"などという我々の基準で計るのも烏滸がましい程の存在なのかもしれんな」

 

「………それは、どういうことだ?」

 

「単純な話だ。文字通り、彼等は我々とは"次元が違う"存在なのだ。物語の中の登場人物から、作者たる我々を見るようなものだろう」

 

 再び話を始めたサナダさんは、手始めに高次元生命とやらの解説から始めた。

 

 次元が違う、物語の中から作者を見るようなもの、か………。私でも分かりやすい例えだと関心するけど、それじゃあまるで私達が………

 

「ちょっと待ってサナダさん。その言い方だと、まるで私達がその"高次元生命"とやらに創られた存在みたいに聞こえるじゃない!」

 

「そんな………本当なんですかサナダさん!」

 

 物語の登場人物は、基本的に二次元だ。それが活字であろうと絵であろうと。彼等は私達が描いた通りに動くけど、逆の視点から見れば彼等は作者はおろか、自分達の世界の形も把握できない。三次元から二次元、つまり現実から紙の中の世界へは幾らでも干渉できるけど、その逆は有り得ない。サナダさんの話は、その関係が丸々私達と例の"高次元生命体"とやらの間でも成り立つと言っているように聞こえた。

 

 なんて、とんでもない連中を引き当ててしまったのだろう。

 

 最悪の事態……彼等と敵対したときのことを考えて歯噛みするが、サナダさんが諌めるように言葉を続けた。

 

「待て艦長。その可能性は勿論否定できないが、まだそうと決まった訳ではない」

 

「だが、その可能性も残されているという訳か」

 

「……チッ、俺達が物語の中の存在と同等だと?悪い冗談だぜ」

 

「はぁ?私より上の次元に立とうなんて、舐めてるとしか思えません。………私のフネにそんな意味不明な存在とコンタクトする装置があるなんて、正直気色悪いです」

 

 サナダさんの身からすればそれでフォローしているつもりなのだろうが、こればかりは衝撃が大きすぎる。自負達が物語の登場人物のような存在など、あまりに突拍子過ぎてついていける気がしない。見ると、どうやら出席者の半分ぐらいも明らかに狼狽えているように見えた。平静を装いこそすれど、衝撃の事実を前に脂汗を流す姿は無理して強がっているようにしか見えない。………私も多分、それと似たような感じなのかも。本当に平静でいられているのは、元から頭のネジが飛んでいるマッド共とブロッサムの奴ぐらいだ。………三マッドはともかく、彼女は早苗と違って元から造られた存在だから、あまり抵抗がないのだろう。文句を垂れこそすれど、エコーや早苗みたいに狼狽してる様子はない。

 

「話を聞け。彼等の目的が分からない以上、先ずは限られた情報から彼等の姿を推察するのが先だ。皆、よく聞いてくれ。ここから話す内容はオフレコで頼む。特に艦長―――君にも関わる話かもしれないからな」

 

「え………私?」

 

 ざわついた会議室をサナダさんが諌めると、声のトーンを落とし改めて説明を始めようとしていた。

 その真面目な声とオフレコという言葉に身を硬くするが、加えて直後に名指しまでされ更に緊張が迸る。

 

「私に関係あるって、どういう………」

 

「話せば分かる。ここで先に説明すると厄介だから、順を追って話していくぞ」

 

 人の不安と好奇心を煽るだけ煽っておいて、結局はお預けだ。彼らしいといえば彼らしいが、私からしたらたまったものじゃない。

 だけどここでサナダさんに突っかかっても話がややこしくなるだけだ。彼がわざわざ説明を後回しにするぐらいなのだから、ここは大人しく説明を聞いているのが吉だろう。

 

 そうしているうちに、サナダさんの解説が始まった。

 

「………まず一点、彼等が我々の次元を跳躍した存在であると霊沙君がハッキリ言った点だ。あのときこそ彼女は取り乱していた……というより興奮気味で支離滅裂な言動だったが、彼女が回復したのち改めて尋問を行った結果、彼女はそう断言した」

 

「おい、あの嬢ちゃんがそう言ったのだとしても、それの何処が証拠になるんだ?ただの妄想かもしれんぞ?」

 

「――勿論、その可能性も考慮したさ。だけどあれは………」

 

「にとり君、いい。後は私から説明しよう」

 

 霊沙が相手を高次元生命とやらと断言したとしても、それが証拠にはならない。戯言の一つと言い切ることもできよう。エコーもそう考えたようでサナダさんに反論するが、恐らく彼女の尋問を担当したであろうマッド連中から待ったがかかる。あいつらのことだ、何か決定的な証拠を握っているに違いない。

 加えて前々から様子がおかしかった霊沙のことだけど、ここで一つの推測が生まれた。

 

 ―――その高次元生命体が霊沙に干渉したことで、彼女はあそこまで情緒不安定になっていたのではないか、と………。

 

「確かにその通り、彼女が断言しただけでは妄想、戯言と切って捨てることもできよう。だがあの部屋を調査した結果そうもいかなくなった。我々はその後あの部屋を改めて調査したが、ごく一部であるがデータを抽出することに成功した」

 

「え、嘘………じゃなかった。ちょっとそこのアナタ、それ本当なんですか!?私でもあの部屋には一切侵入できなかったんですよ!?」

 

「ああ、本当だ。そう上手くはいかなかったがね。あまりの情報容量に記憶媒体が軒並みおじゃんになったさ。最高性能のメモリーデータカードを使ってやっと極一部の抽出に成功したのだがね」

 

 サナダさんはさも何事のなかったかのように平然としているけど、ブロッサムの奴の驚きようを見るにそれ、かなり凄いことなのではないだろうか。あのフネの統括AIでさえ、恐らく一万年かけても突破できなかった"あの部屋"に関する情報を、ごく僅かとはいえ抽出に成功したのだ。改めて、彼の凄さを思い知らされる。私がこの世界に来て初めて会ったのだサナダさんだったことは、かなり幸運なことだったのかも。

 

「そしてデータカードに移した情報を解析した結果、当時の人類が高次元生命体とコンタクトを取っていたことが示唆されるものだった。曰く彼等は人類を遥かに超越した存在であり、森羅万象を記した万物の根源………いわゆる"アカシック・レコード"である、とそのデータは告げていた。そして当時の人類は、彼等をオーバーロード(次元の超越者)と呼び神の如く敬っていたらしい。ブロッサム君、君のメモリーのなかに当時の人類が信仰していた宗教のデータはあるか?」

 

「え?宗教………ですか?はい、如何せんかなり昔のデータですから劣化が激しいですけど、何とか取り出せそうです」

 

「うむ、頼むぞ」

 

 サナダさんに言われるがまま、ブロッサムは自身の記録から当時の宗教に関する情報を引き出そうとしている。

 ………私や早苗にはおちょくるような態度を取っていた彼女だけど、サナダさんには従順なのは気のせいではないだろう。サナダさんは彼女も関心するほどの科学者だ。彼女が彼のことを認めていると考えてもおかしくない。

 

 ―――それにしても、オーバーロード………か。万物の根源、事象の記録……言葉にするだけでもとんでもない連中ね。意味はよく分からないけど、それだけでなんか凄そうな気配がひしひしと伝わってくるもの。

 

「………ところで、アカシックレコードってなに?」

 

 サナダさんは何の説明もなしにそんな難しそうな言葉を言っていたけど、そもそも何なのよそれ。なんかとんでもなさそうな気配はするけど。教えて早苗ちゃん。

 

「え、アカシックレコードについて………ですか?う~ん、私も上手く説明できる訳ではないんですけど、世界で起こった、そしてこれから起こるあらゆる事象が記録された場所というか世界というか、そんな感じのものらしいですよ?なんでも人間の深層心理に接続しているとかしていないとか………」

 

「うわっ、やっぱりよく分からないけどなんかヤバそうね、それ………人間の深層心理って、ようは私達にもそれが通じてるってことでしょ?そんな得体の知れないものが繋がってるとか、考えただけでも不気味ね……」

 

 ブロッサムがデータを取り出している間、ついでだからよく分からないアカシックレコードとやらについて早苗に聞いてみることにした。自称理系らしいし、今の早苗はスーパーコンピューターも同然なので何か知ってるんじゃないかと思っていたのだが、早苗もよく分かっていなかったのか、何となく輪郭が理解できる程度の説明だった。それだけでも、そのアカシックレコードとやらが充分凄いものだとは分かったけど……

 

「そうは言っても、霊夢さんも大概だと思いますよ?『夢想天生』とか、この世界から文字通り"浮く"って何事ですか。一体どういう原理なんです?下手したらそのオーバーロードとやらといい勝負ですよ?」

 

「ふぇ!?そ、そんなに凄いことなの……?私からしてみれば、何となくできたって感じしかしないんだけど………」

 

「何となく、って、どんだけトンデモなんですか………ああ、やっぱり霊夢さんには一生勝てそうにないです。………ベッド以外で」

 

「――何か言った?」

 

「いえいえ、何でもありませんよー」

 

 最後に早苗が小言でなんか言ったような気がしたのだけれど、気のせいかしら。なんだか悪寒が走ったように感じたんだけど………

 それはそれとして、もしかして私の力って、けっこう凄いものだったりするのかな………?早苗はああ言っていたけど、紫あたりにも聞いてみたくなった。―――あいつに聞いたら、胡散臭い笑みを浮かべておちょくってくるのが目に見えるのが腹立たしいけど。

 

「あったあった、有りましたよー。これがお探しのデータですね」

 

「うむ。ご苦労」

 

 私と早苗が話しているうちに検索作業は終わったようで、ブロッサムから求めていたデータを受け取ったサナダさんは満足げに頷いている。

 

「やはりそうか………全員、これを見てくれ」

 

 サナダさんが言うと、会議の参加者全員の下にそのデータが転送されてホログラムモニターに表示される。

 

 どれどれ………

 

「これは……当時船内で信仰されていた宗教に関する情報、みたいですね。一応居住区には教会や寺院があったらしいですが、人口の比率でいったら圧倒的にオーバーロードが多いです………」

 

 データの内容は、当時の移民船内に存在した宗教関連施設の内訳と、各宗教ごとの信者数の統計だった。船内に存在した宗教施設こそ寺に神社、そして教会と多種多様であったものの、信者数でいえば一目見て分かるほどある特定の宗教が突出していた。―――そしてそれには、オーバーロード、と名が記されている。

 

「へぇ………当時の人達って、よっぽどそいつらを崇めてたみたいね。まぁ、奴等がそのアカシックレコードとやらと同一視されるような存在なら当然か」

 

 オーバーロードが高次元生命体で、さらに向こう側がこっちの知り得ない情報なんかを持ってくるんだとしたら、そりゃ敬われて崇められるのも無理もない。しかしまぁ、そのオーバーロードが何を目的にして当時の人達に接触していたのか、ってのが全く見えないのが甚だ不気味なんだけど。

 

「………これではっきりしたな。高次元生命体が存在する、或いは存在したことは例の部屋から抽出したデータ、そして当時の記録から見ても明らかだ。いや………確実に現在も存在し、尚且つ我々に干渉しているのだろうな」

 

「今も存在するって………確証はあるの?サナダさん」

 

「ああ………そして、最初に私は"これは艦長にも関わりのあることだ"と言ったな。―――その説明を今からするぞ」

 

 オーバーロードは今も存在する………

 

 サナダさんは、間違いのない口調ではっきりと、そう断言した。

 その理由は……どうやら私、というか霊沙の奴と関係があるらしい。

 確かにあのときの彼女の様子は尋常ではなかったけど………いやちょっと待って。あのときは錯乱した様子に気を取られていたけど、よくよく思い出したらあのときのアイツ、身体の状態もなんかおかしかったような………ってまさか―――!

 

「……どうやら、気付いたようだな。艦長、あのときの霊沙君の身体の様子、覚えているか?」

 

「え、ええ………何となくだけど。確か、あの光の柱に取り込まれてから出てきたあと、身体が何処か欠けていたような………」

 

「そうだ。霊沙君が例の部屋でオーバーロードとコンタクトを取ったと思われる状態に陥った後、彼女の身体には普通なら見られない異常が多数見受けられた。シオン、解説を頼めるか?」

 

「はい」

 

 サナダさんは説明役を一度シオンさんに引き継いで、入れ替わりに彼女が立ち上がった。

 シオンさんはあの後、あいつの治療を担当していた筈だ。……異常というのを話すのなら、適任な人選だろう。

 

 あのときのアイツの様子とサナダさんやシオンさんの表情から、マトモな説明など望むべくもないだろう。―――きっと、ろくでもない結末が飛んでくるに違いない。そしてそれは、恐らく霊沙だけに留まらず私にも関わってくる話………

 私は覚悟を決めて、彼女が口を開くのを待った。

 

「――では説明します。彼女の治療を担当した私から状態と所見を述べさせていただきますが、これは"異常"の一言に尽きます。まず皮膚組織についてですが、全身に渡って擦り傷のような傷痕をはじめ火傷のように爛れた箇所、皮下組織まで腐り落ちて欠落している箇所が見受けられました。これだけでも異常です。さらに内臓組織も腐敗が進行しており見るに耐えない状態です。あそこまで腐り落ちてよく生きていられたと感心するレベルです」

 

 淡々と、彼女の口から霊沙の容態が説明される。

 

 ――素人の私ですら、異常と理解できる事態だった。

 彼女の説明では霊沙の身体が腐りきっていたような印象を受けるが、あの部屋に入る前は至って普通の状態だった。それがごく短時間でこの変わりよう………明らかに、作為的なものを疑わざるを得ない。

 

 これだけでも衝撃的だというのに、彼女の口からは更に驚愕の事実が告げられる。

 

「そして身体の内部についてですが、それが………ドロイド、だったんです―――」

 

 ――――は?

 

 ………いま、何て言った―――?

 

 今まで淡々と説明してきたシオンさんは、急に躊躇うように言い澱む。

 その先で告げられた真実は、確かに私の耳に入ってきた。だけど、頭の理解が全くといっていいほど追い付かない。だって、それじゃあ……

 

 ………霊沙の奴が、まるでオーバーロードに造られた存在であるかのように聞こえるじゃない――――

 

 

「な………!?」

 

「え………嘘………」

 

「…………マジかよ、そりゃあ――」

 

 ―――絶句。

 

 室内の気温が、氷点下まで落ち込んだとすら錯覚する。

 

 目を瞑り、平静を装う者。言葉すら出ず驚愕に目を見開いて絶句する者………

 反応こそ三者三様なれど、その言葉を聞いたもの全員が、私と同じ状態に陥っていた………。

 

「………おいおいちょっと待て!あの嬢ちゃんがドロイドだぁ!?それは本当なのか!?」

 

「シオンさん!本当なんですか!れい―――霊沙さんの身体がドロイドだって!?」

 

「―――はい、本当です」

 

 シオンさんの口から発せられた驚愕の事実。

 何かの間違いではないかと思ったが、彼女は事実だと断言した。サナダさんまで異論を挟まないあたり、恐らく本当に事実なのだろう。

 

「アイツの身体がドロイドって………本当なの?」

 

「はい………私も最初は目を疑いました。機械の故障なのではないかと。しかし肉眼での観測とサナダ主任と何度もこの目で確認した上で、間違いはないと判断しました」

 

 シオンさんだけならともかく、サナダさんまで肯定するとなると、本当、のことなのかな………

 

 突拍子もない話だけど、サナダさんの名前はそんな話にも信憑性を持たせてしまうほどに大きかった。

 

「そしてもう一つ、気がかりなことがあります。以前彼女が倒れた際診察したときは彼女の身体は人間のものと標示されていました。しかし、今回は違う。彼女の身体が短期間でドロイドに置き換わるとは思えないのです」

 

「それって………?」

 

 シオンさんが発した言葉の意味を尋ねるが、そこからはバトンタッチしたサナダさんが解説を始めた。

 

「うむ、可能性として考えられるのは二つある。まず一つ目、途中で彼女の身体がすり替わった説だ。こちらの方が現実味があるな。実際に彼女の性格はヴィダクチオ自治領戦を前後に変化している。そしてあのとき、我々はマリサというイレギュラーを乗せていた。可能性としては十分考えられるだろう」

 

 あのマリサとかいう偽物に霊沙の身体がすり替えられた………確かに有り得ない話ではない。サナダさんの言う通り、実際に性格が変化しているのだから。―――だけど、それだけでは説明が弱い気がした。彼女のあれは、別物にすり替わったというよりは寧ろ"眠っていたものを抉じ開けられた"といった方がしっくりくる。つまり偽魔理沙との接触ですり替えられたのではなく、性格の変化と身体の変化はバラバラなんじゃないかと。

 

 私が説明を聞きながら仮説を立てていると、サナダさんが言う二つ目の可能性が提示された。――それは私が考えていた仮説に近いものだったけど、そのさらに上を行くものだった。

 

「そして二つ目の可能性だ。此方は霊沙君の身体が"最初からドロイドだった"とするものだ」

 

 サナダさんの二つ目の仮説は、クルー達に驚きをもって迎えられた。

 その仮説に従うと、以前の診察時の結果と矛盾するではないかと各方面から指摘が上がる。――私も先程は同じようなことを考えたけどこれをどう説明するか何も理由が思い浮かばなかったので、サナダさんがそれをどう説明するのか気になった。

 

「でも………さっきは霊沙さんの身体は人間だった、って言ったじゃないですか。それなら矛盾することになりませんか?」

 

「そうだ。嬢ちゃんがあの少女によって入れ換えられたと考えた方がしっくりまだ自然だ。それをどうやって説明するんだ?」

 

「まぁまぁ落ち着け、順を追って話していくぞ」

 

 サナダさんはぼやく聞き手を抑え、説明の続きを始めた。

 

「私はね、彼女の肉体の変貌は高次元生命体―――オーバーロードと何らかの関わりがあるものだと見ている。実際に彼女の変化は"あの光"を浴びた後に起きたものだ、その際に置換されたとしてもおかしくない。そして―――」

 

「彼女の肉体に関する認識を、我々は弄られていたという可能性だ」

 

「認識を………弄られていた?」

 

 それはどういうことなのだろうか。認識を弄られていたとは、まるで頭の中をオーバーロードに直接操作されていたみたいな言い方だけど………

 

「言った通りの意味だ、オーバーロードは我々から見て高次元の存在だ。我々が紙に書かれた内容を別のものに書き換えられるように、彼等は我々の頭の中の認識や機械が示すデータを実際のものとはあたかも別のものであるかのように"上書き"できてもおかしくない。―――そういう可能性だ」

 

「嘘………」

 

「おいおい、マジかよ………」

 

 サナダさんが発した衝撃の可能性に、皆の間に動揺が広がる。

 認識を書き換えるとは、斯くも恐ろしいものだ。それってつまり、例えば隣にいる早苗が本当は別の人とも思わせることもできるということじゃない。これほど不気味で強力な能力もそうそう無い。

 

 ―――私の能力を越えてまで認識を変化させられるのかと言われたら、そこまでは分からないけど。

 

「ともかく、霊沙君の身体が例の少女と接触したことにより変化したのだとすれば………艦長、君も注意した方がいい。霊沙君が単に彼女のスパイに仕立て上げられたならまだしも、様々な状況を考慮すると私はあのマリサという少女がオーバーロードの手先である可能性もあると考えている。奴が霊沙君に接触して彼女の変貌を引き起こしたのだとすれば、血縁者である艦長も危険だ。そうなったら我々は最悪艦長を喪ってしまうかもしれない。だから奴と遭遇したときには、充分注意してくれ」

 

「………分かったわ。でもアイツがオーバーロードの尖兵?それって何か根拠があるの?」

 

「ああ。考えてもみろ、艦長。奴は最初、確かに我々がハイストリームブラスターを以て完膚なきにまで吹き飛ばした。センサーやレーダーに脱出艇のような存在が映ってない以上それは確かなことなんだ。だが、現実に彼女は復活した。そして何度も"上位存在"を匂わせる発言を繰り返し、更に艦長と霊沙君に執着する―――ここまで状況証拠が揃えば可能性の一つには浮上してくるだろう」

 

 ―――アイツが、オーバーロードの尖兵、か………

 

 あれを消せる大義名分を得た、とでも言うべきなのだろうか。私は確かにアイツのことが目障りだ。勝手に親友の顔と声を借りて何度も私達に襲い掛かってくる。不愉快極まりない存在だ。アイツのことを思い出すと今すぐにでもこの世から完膚なきにまでに抹消してやりたくなる。

 だけどハイストリームブラスターで消し飛ばすならともかく、直接手を下すとなれば私も正気でいられる自信がない。

 そしてもし、霊沙の奴が――――なのだとしたら……。

 

 霊沙はあの偽魔理沙と出会ってから変わった。それはつまり、あれにとって霧雨魔理沙という存在は―――

 

 いや、止めようこんなこと。考えても無駄なことだ。そもそも知られたくない人の過去をほじくり返すなど誉められたものではない。

 

 

 そうして私は、自分の中に芽生えた勘と不安を心の奥底へと追いやった。それが単なる逃げでしかないことを自覚しながら………。




【イ】
博麗霊夢は生前に自身のコピー妖怪(霊沙)を退治した記憶はない

【ロ】
東風谷早苗にもその様な記憶はない。

【ハ】
博麗霊夢がサナダに救出された際、彼女の存在は語られていない。

【二】
マリサと相対する以前と以後の彼女は、明確に性格、認識が異なる。

【ホ】
霊沙が博麗霊夢のコピー妖怪であるという彼女の身の上話は、真であるとも偽であるとも限らない。現時点では不明である。


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第九三話 或る科学者(エルトナム)の決意

 ―――ふと、目が覚めた。

 

 晴れていく視界に映ったのはもはや見慣れた医務室の天井。最近はずっとここに世話になってばかりなので、第二の自室のような錯覚すら覚える。―――あまり世話になりすぎると、紫色の薮医者マッドサイエンティストから小言を貰うことになるが。

 

「―――っ、うっ……」

 

 腕に力を入れて、いつものように起き上がる。

 身体が動く度に激痛が走るが、数日前に比べれば遥かにマシなレベルだ。

 

「――あら、起きたんですか」

 

 私の小さな呻き声に反応したのか、件の薮医者は私のベッドの方向に顔を向けた。

 

 相変わらず、他人には無関心といった醒めた態度だ。ここに担ぎ込まれた当初はともかく、ある程度容態が回復した今では、基本的に私は治療時を除いて放置されている。………だが案外面倒見は良いコイツのことだ、私の内心を勝手に尊重しているのかもしれない。

 

「あまり動くと身体が軋みますよ」

 

「五月蝿い、私の勝手だ」

 

 そろそろこの部屋を抜け出そうかと考えていたら、思考を読まれたかのように彼女の注意が飛んでくる。人にはあまり関心が無いくせに、こういうところには鋭い。

 

 ふと、そこで彼女の髪型がいつもと違うことに気づいた。―――まぁいいか。私に関係あるわけでもないし。

 

「んで、今日は検査とやらは無いの?やるならさっさと済ませて欲しいんだけど」

 

「いえ。取るべきデータは大体取り尽くしましたので、もう大丈夫ですよ」

 

 はぁ、やっと終わったのか……と、その台詞を聞いて心中で脱力した。

 私があの移民船で野郎共(オーバーロード)の光に触れてからというものの、マッドサイエンティスト共の興奮のしようと言ったら………文字通り身体の隅から隅まで調べられていい加減疲れた。まさかこの身体まで奴等に隅々まで弄られていたという事実は気色悪かったし検査自体は有り難いのだが、付き合わされるこっちの身にもなれ。なにが「ほぅ、興味深い」だの「再検査(リテイク)です、良いですね?」だ。疲れた。さっさと帰って寝たい。それにあんまり長居してると、大嫌いなアレまで根掘り葉掘り問い詰めにやって来るだろう。その前にさっさと退散したい。

 

「あっそ。なら退院しても文句は無いな」

 

「ご自由に。止めても無駄でしょうし。ただ―――」

 

 彼女の瞳に、マッド共特有の好奇心に満ちた光が灯る。ぞくり、と悪寒を感じて、私は彼女から目線を反らした。

 

「今後、あまり私の世話にはならないように。今は忙しいんです、私。また無茶して運び込まれたとなったら今度は改造しますからね?ここはドロイドの身体にかけてメカにします?それともバイオ?いっそのこと合体にもチャレンジしてみますか。全部、でも一向に構いませんよ?」

 

「………わかった、大人しくしてる」

 

 嗜虐心と好奇心を湛えた瞳を光らせながらツインテールを揺らすおぞましいマッドサイエンティストを背にして、そそくさと私は医務室を後にした。

 

 

 ...........................................

 

 .......................................

 

 ...................................

 

 ...............................

 

 

 

 ~戦艦〈ネメシス〉医務室~

 

 

「お邪魔するわよ~」

 

「失礼しまーす」

 

 軽く扉を二、三回叩いてから、早苗と一緒に医務室へと足を踏み入れる。本当ならマッドの巣窟でもあるこの部屋へは一歩も足を踏み入れたくはなかったのだけど、用事ができては仕方なかった。

 

「……あら、艦長ですか。貴女からここを訪ねるなんて、珍しいこともあるんですね」

 

「まぁ、今回は用事があるし。―――へぇ、あんた、髪型変えたの」

 

 応対したこの部屋の主である傍迷惑なマッドサイエンティストの姿がいつもと違うことに気がついて、雑談がてらそれについて触れてみた。

 今までの彼女は長い髪を後ろで三つ編みに束ねていたのだが、今日の彼女はいつもと違って髪を左右に束ねていて―――俗にいうツインテールという髪型になっていた。

 

「ええ。心機一転、という奴ですよ。色々調べないといけないことも出来ましたし、父と向き合ういい機会かと思いまして」

 

「それでイメチェン、ですか!やっぱりシオンさんも女の子なんですねぇ」

 

「勿論。人生を研究に捧げても女であることを忘れた訳ではありませんから」

 

 そしていつの間にか仲良さげにしてる早苗とシオン。二人して勝手に盛り上がっている。

 

「へー。」

 

「あっそうだ、オーバーロードよオーバーロード。あんた、どうせアイツから根掘り葉掘り聞いたんでしょ?私もあいつらのことについて調べたいと思うんだけど、肝心の霊沙はどこ行ったのよ?」

 

「彼女ですか?ああ、つい先程この部屋を出ていきましたよ?」

 

「なっ………あんの気まぐれパチモン野郎――」

 

「霊夢さん霊夢さん、"一応"あの子も女の子ですよ?"野郎"は流石に………」

 

「んなことどうでもいいっての!!全く、肝心なときに居ないんだから」

 

 あの会議から一日も経っていないというのに、察しのいい奴め。しかもマッド共には素直に話して私には協力しないという姿勢が尚も怨めしい。

 ―――本当に放り出してやろうかしら。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。どうせ彼女は艦長には協力しませんよ。"自分嫌い"なのが丸分かりですからね。そういう訳ですから、情報は此方から提供しますよ」

 

「あ、うん………それはどうも。で、何か分かったことはあるの?」

 

 アイツが駄目でもマッド共が情報提供してくれるというなら話は早い。では早速本題に………と行こうとしたらシオンさんは呆れたような顔を私に向けてきた。

 

「ハァ………いいですか、艦長。科学というものはすぐに結論を出せるようなものでもない。そして我々がオーバーロードを認識したのはつい最近です。調べるにしても、これからが本番という時期なんですよ?彼等のことが気になるのは重々承知していますが、そう早く結論を求められても困る」

 

 情報を受けとるどころか、逆に説教されてしまった。

 ……幾ら変態のマッド共とはいえども、正体不明の相手には手こずるみたい。確かに、少々気が早かったか。

 

「……まぁ、幾つか分かったことはあります。とはいっても、先日の会議からあまり進歩した訳ではありませんが」

 

「少なくとも、オーバーロードの現存は確実視して宜しいでしょう。でなければ、霊沙があの部屋から彼等にコンタクトできた説明がつかない。そして彼等は我々の認識に介入し、自由に改竄できるどころか存在確率にまで介入できる」

 

「存在確率………?」

 

「ええ。艦長は霊沙さんの身に起こったことは概ね把握していますね?」

 

「うん、まぁ……会議で聞いた内容ぐらいなら」

 

「ではその辺りの説明は飛ばします。彼女があの光を浴びた直後、肉体の破損と劣化が見られたのは既知の事実ですが、診察を担当した私から言わせていただきますとこれは"存在を消去されかかっていた"のではないかと推察した次第です」

 

「消去されかかっていたって、それって……」

 

「つまり……オーバーロードが直接霊沙さんを亡きものにしようとしたと」

 

「その通り。肉体の劣化は皮膚から始まり内部組織に、そして内臓の腐敗は下腹部に集中していた。加えて当時彼女が着ていた服は肩と足、そしてへその辺りがやや露出するような格好をしていた。服の露出部とダメージを受けた部位は一致する。………つまり、"あの光"をより多く浴びた箇所が腐敗、欠損していたという事だ」

 

「光を浴びた場所が………でも、それだと"あの光"にそういう効果があった、という考え方もできるんじゃない?」

 

「その可能性も考えました。ですが、同様に光を浴びた艦長が何らダメージを受けていないというのはおかしい。あの光自体に肉体を破壊する効果があるのではなく、あの光に入った対象にオーバーロードが介入する、と考えた方が自然でしょう」

 

 確かに………シオンさんの考察の方が理にかなっている。だけどあのとき私は能力を使っていたし………でも確かアイツも同じ能力を持ってるみたいなことを言ってたから、オーバーロードの確率操作が「空を飛ぶ程度の能力」を貫通してきた……?う~ん、やっぱりよく分からない………

 

「ですから、艦長があの光から霊沙さんを救出したとき、既に分解された存在確率が肉体へのダメージとして現れたのではないか、と考えています」

 

「………話は何となく分かったわ。つまり、え~っと……あの光を介して連中が介入してきたって認識で大丈夫?」

 

「はい、その通りです」

 

 う~ん、難しい………

 彼女の考察が事実だとするならば、オーバーロードは自分達とコンタクトを取ろうとした連中に対して事実上の生殺与奪権を持っていることになる。――だけど目的は何だ?オーバーロードの権能について幾ら調べたところでも、目的が見えてこないなら対策のしようもない。奴等が私達や世界に害をもたらそうというのなら対策しなきゃいけないけど、何もしないというのであればわざわざ藪をつついて蛇を出す必要はない。相手の能力を鑑みるに、そちらの方が懸命だ。

 

「チッ、難しいわね………」

 

「――オーバーロードが敵対する存在なら対策はこの上なく難しい。かといって相手が無害な存在だと私達がちょっかいを出して怒らせると不味いことになる。そういうことですよね、霊夢さん」

 

「ええ。……ったく、やり辛いったらありゃしないわ。私がここまで後手に回らなきゃいけないなんて……」

 

 今まではとりあえず勘にしたがっていけば何とかなった。そうでなくとも敵はハッキリしていたから、単純に、迅速にぶっ飛ばすことだけを考えていればよかった。―――だけど今度の相手は違う。敵かそうでないかも分からない、正体不明の存在。おまけに私達を遥かに上回る力を持っているときた。

 

「………ねぇシオンさん、あんたはどう思う?奴等について」

 

「奴等――オーバーロードですか。………少なくとも、油断ならない相手なのは間違いないでしょう。ここから先は私見になりますが、敵……と同レベルの存在として警戒するべきですね。彼等が上位存在だというのなら、文字通り次元の違う世界に居るわけだ。我々は彼等に対して何ら干渉できないのに対して、彼等は自由に我々に対して干渉できる。―――それも、世界の存続に関わるレベルまで権限を持っているのかもしれない。私達が、出来損ないの物語(プロット)を破棄するかのように」

 

 オーバーロードについて推論を語る彼女の眼光が、最悪の可能性を睨むかのように鋭く光る。

 

「物語を、破棄………」

 

「ええ。最悪の場合、奴等はこの世界の命運すらも手中に収めているでしょう。高次元の存在、というのはそれほど危険なものです。先日サナダ主任が説明していた通りですね」

 

「あの、私達が物語の存在ーっていうくだりですか」

 

「その通り。覚えているなら改めて説明する必要はありませんね」

 

 シオンさんは関心したように目を瞑って腕を組んだ。あまりこうして深く話す機会がなかったから気づかなかったけど、いちいちリアクションが大きい人なのね、シオンさんって。

 

 

 

「………それに、霊沙さんの件以外にも我々の認識で不自然な点がある。―――艦長、貴女の能力についてだ」

 

「え、私?」

 

 突然の名指しに、驚いて目を見開いた。

 

 私の……能力?

 

「ええ。艦長の能力について、私はサナダ主任から話だけは伺っていましたが………何故、私を含めて貴女のそれを()()()()()()()()受け止めていたのでしょうか?」

 

「あ………」

 

 ―――言われて初めて、その異様性に気がついた。

 

 ………ここは、幻想郷ではない。

 

 幻想の世界で飛び回ったり弾幕をばら撒いたりするならまだしも、この世界は在り方としては"外の世界の延長線上"………即ち科学世紀だ。

 そんな場所で幻想郷に居た頃と同じように能力を行使しては、その異常性を指摘されるのが当然だ。

 

 だけど今まで、それを指摘する人は誰一人として居なかった。

 

 同郷の早苗ならまだ分かるが、他のクルーも全て、である。この世界の人間は能力的には里の人間とさしたる違いはない。私や魔理沙、早苗みたいに特別な力がある訳でもない。なのに私が能力を使ったときは、"人外を見るような"驚嘆と畏怖に染まった視線を向けられたことなど一度たりともなかった。何度か能力を使ったことはあるが、せいぜい多少驚かれたぐらいだろう。

 

 ―――確かに、これは"異常な認識"だ……

 

「……あの、シオンさん?何を言いたいんですか………?」

 

 早苗が恐る恐る、彼女に尋ねた。

 

 普段はマッドな研究で私の頭を悩ませていたこの変態藪女医―――シオン・エルトナム・ソカリスの瞳は、私を映しているようで本当はその奥にある、なにか得体の知れないものに向けられているようだった。

 

 

「………率直に申し上げます。"貴女も霊沙と同じ"だ」

 

 

「―――ッ!?」

 

 霊沙(アイツ)と、同じ………!?

 

 それって、つまり………

 

「……言い方が鋭すぎましたね、訂正します。………艦長、貴女の存在にもオーバーロードが関与している可能性が高い。先日サナダ主任からも警告されたかと思いますが、貴女自身がこの案件に関わるのはお勧めできない。彼女と同じように、貴女まで"存在確率を操作"される可能性がある」

 

「………成程。つまり、最悪の場合は私も霊沙の奴と同じようにドロイドの身体―――アイツらに"造られた身"って訳か。…………クッ、ア、アハハハハハッ!!」

 

 この私が、博麗霊夢が、よりにもよって"人形"だなんて!!滑稽にも程がある!

 

 ―――敢えて触れないようにしていたというのに、つくづく科学者(マッドサイエンティスト)という存在は………

 

「霊夢さん!?ッ、シオンさん!幾らなんでもストレート過ぎです!こんなやり方じゃ霊夢さんが……」

 

「あら、心配は無用ではなくて?この程度で崩壊するような人じゃないでしょう、博麗霊夢という"人間"は。それは貴女が一番知っているんじゃなくて?」

 

「え――――?」

 

「―――いいじゃない。徹底的に犯してやるわ、次元の超越者(オーバーロード)!高次元だのアカシックなんたらだのは知らないけど、ここまで私を虚仮にしてくれたのはあんたらが初めてよ!!」

 

 くく、ククククッ………奴等が敵対してるかどうかなんて、この際もうどうでもいいわ。―――私の身体を私が知らないうちに好き勝手弄った。それだけでもぶっ飛ばすには充分過ぎる理由よ、オーバーロード!!

 

 さぁて、どうやって料理してやろうかしら………煮るも良し、焼くも良し。あ、そもそもオーバーロードって焼けるのかしら。何だかとんでもない存在みたいだし。

 

 ともかく、私を弄くり回した報いは最低限受けてもらう。神だろうが超越者だろうが何だろうと、私の土俵にまで引き摺り落としてやる―――!!

 

 

 

 ........................................

 

 

 

 

「………ごめんなさい、取り乱したわ」

 

「いえ、構いませんよ。普通の人間では、発狂するような内容ですし」

 

 溢れ出る怒りの余りオーバーロードに対して沸き出してくる片っ端らから呪詛を吐き続けた私だけど、一通り怨みを吐き出したら流石に頭が冷えてきた。―――人前であんな態度を見せちゃうなんて、恥ずかしい………

 

「ふむ、では本題に戻りましょう。―――方針は何をどうやってもオーバーロードとは敵対、という方向で行きそうですからその前提で話します。先に説明した通り、彼等は私達の認識にまで介入することができる。今確認されている範囲では艦長と霊沙さん―――オーバーロードに関わりがあると見られている方の周囲にそれは限定されていますが、彼等の権能がその範囲に留まるという保証はどこにもない。そして、認識操作は我々の気づかないうちに行われている」

 

「えっと、何が言いたいの?確かに頭の中を弄られるのはむかつくけど………」

 

 シオンさんが現状を整理するように情報を並べていくが、彼女ほど賢いわけでもない私にはそこから何が導きだされるのかというのが分からなかった。

 彼女は黙って聞いていなさい、とばかりに説明を続ける。

 

「―――つまり、"認識操作"に関して彼等はあの光を使う必要がない、という事です。これは由々しき問題だ。艦長の能力を"普通"に受け止める程度ならまだしも、いつの間にか潜り込んでいたスパイを昔からの仲間、あるいは身内などと思い込まされたら我々の情報は筒抜けだ。―――ああ、全く気に食わない。反則(チート)じゃない、こんなの」

 

 珍しく、不機嫌さを全面に露にしながらシオンさんが毒を吐いた。

 確かに彼女の言いたいことは分かる。何が次元の超越者だ、気に入らない。私達の全てを丸裸にして頭の中を弄くり回しておきながら自分達は安全地帯とは、例え敵意がないとしてもこの手で撃ち落としてやりたいぐらい腹が立つ。

 

 ―――思えば、あのときの霊沙の様子………今の私と同じ気持ちだったのかも。

 

 あのときの彼女の台詞――オーバーロードへの呪詛とも取れるような気迫と内容を考えると、ずっと前からオーバーロードのことを認識していた?それも、"自分が何をされたのかも含めて"………

 

「……申し訳ありません、私も取り乱してしまったようです、恥ずかしいところを見せてしまいましたね、中断(カット)中断(カット)

 

 非礼を詫びるかのように、シオンさんが頭を下げた。

 

 ―――それを言ったら、さっきの私も同じだ。………本当に、むかつく連中………。

 

「いや、別に気にしないわ、私がアイツらをぶっ飛ばしたいってのは貴女も同じだし」

 

「……でも、シオンさんだけが霊夢さんの凄さに気付けたなんて凄いですねぇ。もしかして、オーバーロードの認識操作にも対抗できちゃったりします?」

 

「あ、流石はサナダ主任謹製の統括AI(に取り憑いた何か)ですねぇ。そこに気付くとは、お目が高い」

 

 わざとらしくおだてるような台詞を言いながら、これまた自信満々にどや顔で言い放つシオンさん。

 

 ―――なんか早苗を値踏みするような視線を感じるんだけど、気のせいかしら。

 

「私の頭は特別製でね、いわゆる"天才"ってやつなのよ。具体的には頭の中にパソコンが七台ぐらい詰まってる感じ?ま、そんな感じで分割思考が得意なの、私。亡き親から貰った最大の贈り物ね」

 

「ほえー、流石はマッドサイエンティスト!!やはり格が違いますね~、凄いです!その分割思考のお陰で違和感に気づいたんです?」

 

「ええ、私の頭はあらゆる可能性を予測できる。常に演算を繰り返しているからね。そのお陰でこの違和感に気付くことができたのよ。きっとこれに関してだけはサナダ主任の上を行っていると自負できるわ」

 

「きゃー!できる女ですシオンさん!私の中で株が爆上がりです!……ところでそれ、サナダさんもやっぱりできていたりするんですか?」

 

「それは当然です。マッドサイエンティストたる者、分割思考の一つや二つは身に付けていないとお話にもなりません。あの人なら、四つか五つぐらいは持っていそうな気がしますね」

 

 さも得意げに語る変態女医(シオン・エルトナム)。それにすっかり早苗は食いついてしまっていて、しばらく帰ってくる気配がない。

 

「ところでシオンさん、さっき言っていたお父さんって、どんな人だったんですか?」

 

 あまりに長くなりそうなら早苗を置いて帰ろうかと思っていた矢先、話の風向きが変わった。

 シオンさんの家族、ということでマッドサイエンティストの身内がどんな変態なのかと興味を持って聞き耳を立てたが、予想だにしなかった回答を聞いてしまった。

 

「父ですか?ああ―――発狂して、もうこの世にはいませんよ」

 

 発狂………?

 

「うっ………あの、ごめんなさい」

 

 触れて欲しくない話題に触れてしまったと感じたのか、早苗が即座に謝罪する。まぁ、故人の話というのは易々とできるようなものではないし。

 だけどシオンさんは気にしないといった風体で、彼女の父のことを語り始めた。

 

「………父は天文学者で、宇宙論―――ひいては"宇宙の果て"について研究していたみたいです。そこそこ名は通っていたみたいですから、サナダ主任なら一度ぐらい論文に目を通されたことがあるかもしれません。ですが―――その果てに、よくない結末に辿り着いてしまったのでしょう。ある時から、父は人が変わったように過剰にまで研究に打ち込むようになりました。"こんな結末は認めない"、"計算が間違っている筈だ"と。だけど、どうやっても結末は変わらなかったようです。終いには発狂して、この世を去ってしまいました……」

 

 うわ、重っ………こんな重い過去があったなんて………。軽率に"マッドの身内がどんな変態か"なんて考えた数十秒前の自分が恥ずかしい。

 

「それは………」

 

「気遣いなら無用ですよ。―――今思えば、父が見た結末にはオーバーロードが関わっていたのかもしれませんね。晩年の父は"人類の滅びを回避する"というのが口癖になってしまいましたから。以前は演劇狂いの駄目親父だったんですが………。だから、私はその真相を明らかにしたい。父の研究を追うことで、オーバーロードの目的を明らかにできるかもしれない。………なので艦長、どうかこの案件は、是非とも私に任せてほしい」

 

 シオンさんが、真っ直ぐに私の瞳に視線を合わせる。

 普段の愉快な部分は鳴りを潜め、そこには最大とも言える決意を固めた一人の人間が立っていた。

 

 ―――そんな眼で見られたら、任せる以外に無いじゃない………

 

 狡い、と思った。………私は、そんな眼をできたことなど一度たりとも無かったのだから。軌条(レール)と惰性に乗って過ごしてきた私には、眩しすぎるその瞳………

 

 何故だか、それに魔理沙の姿を重ねてしまう。

 

 彼女の姿が重なってしまった時点で、答えなどはとうに決まったようなものだった。

 

 

「―――分かった。シオン・エルトナム・ソカリス、『紅き鋼鉄』の最高責任者として、貴女を対オーバーロード研究の責任者に命じるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~戦艦〈ネメシス〉臨時研究室~

 

 

 〈アイランドα〉で行われた調査から帰還し報告会議を終えたサナダ。彼は臨時旗艦〈ネメシス〉に築かれた即席の研究室にて、〈アイランドα〉の総合統括AI――ブロッサムから譲渡された資料との睨み合いを続けていた。

 

 ―――オーバーロードの件も気になることだが、まずは我々の足元を固めなければ。近いうちに戦力の再建に乗り出す必要があるだろう。あちらの件には、私よりシオン君の方が適任だ

 

 

 ―――しかし、未だに従来艦の域を出ない無人艦隊で留まっている。ハハッ、私はいつまで戦闘マシーンばかり作り続ければいいのだろうか………

 

 今まで数多の兵器を設計し、そして配備してきたサナダ。彼が独創と趣向を凝らして作り上げてきた兵器の数々は『紅き鋼鉄』の航路をその力を以て切り拓き、勝利へと貢献してきた。

 だが彼にしてみれば今まで造り上げてきた無人艦隊は依然として"木偶の坊"の領域を出ない紛い物であり、彼の理想からすれば程遠い。勿論彼とて、研鑽と努力を怠ってきた訳ではない。しかし予算という壁が、彼の頭脳を縛っていたのだ。

 金に糸目をつけなければ、〈開陽〉の統括AIや〈ブクレシュティ〉の中枢ユニットのような存在は造れる。特に〈ブクレシュティ〉は彼の理想とするところに最も迫った"作品"であった。――しかし、艦隊全ての艦を彼が理想とする姿に進化させる為には、どうしても金銭的余裕が無かったのである。

 

 彼が理想とするメカニズムの姿―――それは即ち"人馬一体"。ヒトとメカニズムの融合。科学者としてのサナダは、"人間が科学の限界に達すること"により科学を克服することを究極的な目標としていた。

 

 そして彼は、その方法に「ヒトと寸分変わらぬ存在を科学で生み出す」という、禁忌とも取れるアプローチを選択した。――「科学の結晶」でたるAIがヒトと寸分違わぬ存在となること………それは彼にとって「人間性が科学を克服する」ことに他ならない。合理の塊である"科学"を、非合理の塊である"人間"が克服するには、これしかないと彼は考えていたのだ。本来は単なる機械であり、合理的選択の下行動するよう造られた筈のAIが、人間性の象徴である非合理な選択を下す―――それは正に、人間性による科学への勝利宣言である。故に、彼は〈開陽〉の統括AIであった早苗の暴走とも取れる行為を半ば黙認していた。艦長である霊夢には一応警告はした。なので何が起こってもアリバイは確保できる、と彼は心の底で考えていた。寧ろ、早苗が自分の手元から離れていくのを望んでいた。彼女が"ニンゲン"に成れるように、と。―――実際は彼の想像もしえないような手段でAI・サナエは"ニンゲン"へと至ったのだが、これは本筋には関係のないことなので割愛しよう。

 

 故に、無人艦隊の建造も、――多少の趣味嗜好は入っていれど――彼にとってはそのアプローチへと至る一つの手段でしかないのだ。

 

「ふむ………ブロッサム君から貰ったこの義体技術………これは使えるな。より"ヒト"に近い器を。さすれば何れ"魂"も宿るだろう。問題なのは身体より頭だ。彼女が提示したこのニューロチップ配置は、より人間の神経系に近い。―――それに、彼女の在り方にも大いに興味があるな。あれは最早"人間"の領域に達しているのでは………」

 

 資料の山に目を通しながら、サナダは思索を続ける。

 

 よりヒトに近い器を、よりヒトに近い"心"を――

 

 彼の目指す根源はその先にある。

 

 

 プシュー…………

 

 

 そんな折、彼が缶詰になっている研究室の扉が開いて小気味良いエアーの音が狭い室内に反響した。

 

「………こんな時間に何だね?、"アリス"」

 

 サナダは来客を認めるとその名を呼んだ。

 

 今まさに、彼が取り組んでいる研究の中で産み落とされた存在、強襲巡洋艦―――次世代型AI搭載実験艦〈ブクレシュティ〉の中枢ユニットが彼の元を尋ねるとは、何たる運命の偶然だろうか。

 

 義体の不調か、はたまたコントロールユニット本体の不調か―――サナダは来客の要件を想像しつつ応対する。しかし彼は、ここでふと違和感を覚えた。

 

 ―――不調が出たなら、今までは事前に連絡を寄越していた筈だ。それに定期検診の時期でもない。………一体何の用だ?

 

 トラブルが発生したのが義体にしろ本体にしろ、従来はそれを通信で伝えるか信号という形でサナダの元に事前連絡が行っていた。しかし今回はそれがない。自前のメンテナンスベッドで済ませている早苗と違って真面目に(本来なら当然だが)義体の定期検診に顔を出していた彼女だが、そもそも本来定期検診の時期は今ではない。

 

 サナダがアリスの来訪の意図を図りかねている中、彼女が静かに口を開いた。

 

 

 

「………ほう、中々面白そうな研究をしてるのね、貴方―――興味深いわ」

 

 お前も分かるようになったか、とでも返そうかと思ったサナダだが、彼女の口調に強烈な違和感を抱いた。―――自分が造ったAIが言う台詞ではない、と。

 

 まるで初対面の相手を計るかのような口調に、サナダの警戒心は跳ね上がる。

 

「人造生命による科学の克服、ヒトと寸分違わぬ魂の想像―――まさか"私"のアプローチとここまで似ているなんて、一万五千年後の人間も考えることは同じなのね。そして科学の領域も、それに手が届くレベルにまで至っている。―――私の『砂鉄ノ王国』と、どっちが早く至るのかいい勝負じゃない」

 

「―――貴様、何者だ」

 

 ここに来て、サナダは眼前の人物が「〈ブクレシュティ〉の中枢ユニット・アリス」ではないことを認識した。彼女であれば、間違いなく飛び出すことのない台詞の数々。それは彼女の正体がサナダの知らない存在であることを雄弁に語っていた。

 

「おっと………これは失礼したわね」

 

 漸く自分を不審に思うサナダに気づいたと言わんばかりに、挑発的な態度で彼女が告げた。

 

「お前は誰だと聞いている、答えろ」

 

 サナダは語気を強め、そんな彼女を牽制した。

 

 彼女はわざとらしく観念したといった仕草を見せて、真っ直ぐにサナダの瞳と眼を合わせた。

 

「アリス」

 

「………何?」

 

 彼女が「アリス」ではないなら飛び出す筈のない名前。それが彼女の口から飛び出したことに、サナダの警戒が跳ね上がると共に彼の中に困惑が芽生えた。

 

 そんなサナダを歯牙にもかけずに、彼女は続ける。

 

 

「私はアリス、"魔女"アリス・マーガトロイド。………暫くの間宜しくね、未来世紀の科学者さん」




祝、エルトナムさんFGO参戦。

その煽りを受けて、本作のエルトナムさんも予定より遥かに掘り下げてしまいました。多分0、5話分延びた。
合わせてイメチェンも。ツインテエジプトニーソ可愛い。
人形師さんは次回。




プロフィール更新

*シオン・エルトナム・ソカリス
 
テーマ曲:「Blood Drain ~Again」(UNDER NIGHT IN-BIRTH)
 
マッドその2。〈開陽〉医務室を巨人の穴倉(アトラス)へと変貌させた元凶。イベリオ星系でのクルー募集時にサナダと意気投合して艦隊に加入した。医学の心得がある貴重なクルーのため現在は医務室勤務となっているが、本業は研究者である。ただサナダ同様いろいろな分野に手を出しているので、専攻が何かよく分からない。生物学と機械工学に詳しい。"ふもふもれいむマスィン"の基礎設計は彼女が手掛けたらしい。
霊夢に(研究対象として)興味があり、色仕掛けを試みたが失敗したようだ。
父は名の知れた天文学者だったが、発狂して憤死している。その父の死の真相とオーバーロードの関係を疑って、自らオーバーロード対策の責任者を買って出た。

出典はMELTY BLOOD。名前は主人公シオンの旧名から。メルブラシオンとは境遇が異なるので性格はUNIやFGO版に近い。FGOシオンと墜ちきった吸血鬼シオンを足して2で割ったような性格で、根は面倒見が良い真面目な性格ながらマッドサイエンティストとして色々愉快なことをやらかす。自身の研究欲に対しては利己的な一面も。

外見は92話まではアンダーナイトインヴァースのエルトナムが白衣を着た姿、93話以降はFGOに準拠したアトラスの制服+白衣にツインテール。白衣と眼鏡はオプションであり、つけている時とつけていないときがある。



【挿絵表示】


 
特殊技能、能力
 
・マッドサイエンティスト:A
研究に全てを懸ける。研究のためなら如何なる代償を払うことも厭わない。

・分割思考:A(New!)
思考中枢を仮想的に複数分割し、常に異なる可能性を演算することができる。彼女が言うにはマッドサイエンティスト必須能力らしく、自分は七つまで行使できるあてのこと。


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第九四話 科学世紀の人形租界

イメージ曲は「ブクレシュティの人形師」です。


「私はアリス、"魔女"アリス・マーガトロイド。………暫くの間宜しくね、未来世紀の科学者さん」

 

 サナダの研究室に現れた少女――――アリス・マーガトロイドと名乗る彼女は、平然と部屋の主であるサナダに対して自己紹介する。淑女然とした態度を取る彼女だが、サナダからすればそれは慇懃無礼なものに見えた。

 自身の作品を介してコンタクトを取ってきたと思われるにも関わらず、その作品に対して敬意を抱いているようには感じられない彼女の姿勢は、サナダの不信感を加速させる。

 

 ―――もしや、こいつもオーバーロードと何か関係があるのではないか……と。

 

「魔女………だと。―――成程、艦長の"同郷"か。して、私の作品を乗っ取ってまで何の用だね?」

 

 しかしサナダは、彼女から感じた不快感を隅に追いやり、その台詞から考察を広げる。

 魔女……という台詞に込められた意味は幾らでも想像できる。この時代においてその言葉は、文字通り魔性の女、策略を巡らし相手を地獄に叩き落とすような女性に対する侮蔑的な意味合いで使われるのが一般的だ。しかしその語源は、古代の地球――始祖の星において魔術や呪術といった非科学的な技を使うとされ女性を指す言葉だ、と彼は頭の引き出しからその意味を検索した。

 

 そして目の前の少女―――アリスは、わざわざ自身を"魔女"と呼んだ。前者の意味ならば、皮肉を込めて自称する以外には自分をそう呼ぶのは不自然だ。ならば、後者の意味合いと取るのが自然だろう。サナダはそう判断した。

 普通ならば世迷言、誇大妄想と切り捨てられるであろう予想だが、何せ彼の隣には博麗霊夢という非科学を煮詰めたような存在がいた。彼女を介して、この科学の世界とは別の法則が働く異世界、あるいは平行世界の存在を予測していたサナダにだからこそ、その予測は一定の合理性を持ったものとして受け止められた。

 もしくは、前者の意味とのダブルミーニングという可能性も考えられた。少なくとも、自身の作品に意識を映すような女だ、警戒するに越したことはない、とサナダは注意深く彼女の反応を見守った。

 

「乗っ取りとは、人聞きの悪い。寧ろ貴方が呼び込んだようなものでしょう?ここまで精巧な人形(アリス)を作っておいて。こんなんじゃあ、私に向かって"依り代"にしてくれと言ってるようなものじゃない」

 

「依り代………つまり君は、私の作品を通して現界している訳か………で、そこまでして私に接触した理由は何だ?そこまでして会いに来たのだ、生半可な理由ではあるまい」

 

 さも当然、と言わんばかりに語るアリスの台詞から、サナダは自身の予測が正鵠を得ていたことを確信する。

 そして彼女の目的について考察を巡らせるが、こればかりは判断材料に乏しくどうしようもなかった。予測なら幾らでもできるが、それはそれで単なる予想であり、根拠に裏打ちされたものではない。

 不確定要素に基づいて行動するのは危険だと理解しているサナダは、予測を打ち切って大人しく彼女の口からその目的が語られるのを待った。

 

「察しがいい人間は好きよ、私。そうねぇ、一言で言えば"共通の敵について"かしら。察しのいい貴方だもの、この言葉だけで理解できるでしょう?」

 

「共通の敵………まさか、オーバーロードか」

 

「ご名答」

 

 アリスがオーバーロードを敵と名指ししたことで、一先ず彼女がオーバーロードの尖兵、という可能性は低下した。しかし依然として未知の存在である以上、サナダが警戒を引き下げることはなかった。

 

「オーバーロードには、色々と恨みがあるのよ。………そうねぇ、あいつらの存在自体が厄介っていうのもあるけど、一番気に食わないのは奴等が無断で私の人形(魔理沙)を真似たことね」

 

「マリサ?………ああ彼女のことか。あれはオーバーロードの尖兵と睨んでいたのだが、その様子だと当たらずも遠からず、と言ったところかな」

 

「ええ、その通り。アレはオーバーロードに造られた紛い物の人形よ。全く、誰の断りを得てアレの姿を使ってもいいと考えているのかしら」

 

 彼女はさも、態とらしく自分は不機嫌だという様をジェスチャーを交えてアピールする。

 サナダには、魔理沙という人物が彼女にとってどのような存在なのかは分からなかったが、少なくとも彼女にとっては、勝手に姿を真似られたら不愉快な存在であることは理解できた。

 

「魔理沙は私の人形(盟友)よ。それが勝手に記憶を抜き出された揚げ句無断で使い魔にされるなんて、平行世界の彼女であっても私は我慢ならないの。―――だから貴方には、アレを消し炭にする手助けをして貰いたいのよ」

 

 そして彼女の口から発せられた"人形"という言葉から察するに、それは作品の名前でもあるのだろうとも予測できた。

 消し炭にする、という物騒な台詞から察せられるのは、彼女がその作品にかける情熱が自身のそれとは段違いであるということだ。少なくとも、今の彼女を挑発するのは得策ではない。

 

「成程………しかし、彼女は既に殺されたと私は聞いているのだがね」

 

 だが、そのマリサがヴィダクチオ自治領での戦いの折、殺されたと聞いていたサナダは首を傾げた。宇宙空間ならば何らかの方法で脱出していたかもしれないが、狭い艦内で「殺した」というのだからそれに間違いはないのだろう、とサナダは思っていた。

 

 しかし、アリスはサナダの言葉を否定する。

 

「いえ、アレはまだ生きてるわ。小癪なことにね。幾ら叩き潰しても沸いてくる………まるでゴキブリみたいな生命力ね」

 

 心底嫌悪した表情で、アリスはマリサを誹謗する。

 

 そしてサナダは、彼女が漏らした重要な一言を聞き逃さなかった。

 

「叩き潰しても沸いてくる………もしや君は、アレと何度か戦ったのか?」

 

「ええ。ここに来る途中、何度か、ね。威力偵察じみた気合の入ってないものだったけど、全部消し炭にしてやったわ。そうねぇ………3回ぐらいは殺したかしら」

 

「3回………か。確かに不自然だな。此方も警戒するとしよう。で、さしずめその要件というのは、私に彼女の退治法を考えてほしいといったところかね?」

 

「ご名答。それに、貴方には此方と霊夢との連絡役にも成ってほしいの。いきなり私が彼女の前に現れるより、貴方という理性的なクッションが居てくれた方が混乱は少なくて済むわ。此方にも時間の限界があるし、無駄なことに時間を取られたくないの。勿論、タダって訳じゃないわ。貴方の研究に役立ちそうな資料は提供する。細かいアプローチの方法は違えど、役に立つものはある筈よ」

 

 

 

 

「う~む……………」

 

 サナダはアリスから提示された取引の内容を吟味して、本当に彼女と契約して良いものだろうかと考える。

 アリスが此方を騙している、という可能性はあるが、そのメリットが見出だせない。

 そして艦長―――霊夢の性格をある程度知っているかのような口振りは、彼女が霊夢と同郷の存在であることを強く示唆していた。加えてオーバーロードに対する敵愾心を持っているとなれば、此方の対オーバーロード戦に有益な情報をもたらしてくれるかもしれない。更に彼女が持つ未知の技術は、自身の研究を加速させる要因ともなる――――サナダの頭の中ではそのような打算が働いて、最終的に彼女と組むメリットは、デメリットを上回るという結論を下すに至る。無論警戒するに越したことはないが、リスクを恐れてチャンスを逃す方が、彼からすればデメリットが大きく見えた。

 

「オーバーロード退治に連絡役、か………まぁ良いだろう。そちらの事情については知らないが、艦長に伝えなければならないことがあるのは理解した。しかし、此方にもできることには限界があるし、オーバーロードについては別に担当がいる。私の友人にも少々噛んでもらうことになりそうだが、それでも構わないかな?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

 サナダが呈示した条件を、アリスはあっさりと承諾した。

 彼女からしてみれば、相手がサナダでなければならない理由など無い。霊夢との連絡役が務められて、尚且つ偽魔理沙退治の力になりそうな人物であれば誰でもいいのだ。単に、その条件を最も満たしていたのがサナダという話でしかない。

 

「それじゃあ、今日はこの辺りでお暇させてもらうわ。また後日、都合がついたらそっちに出向かせてもらうから、それまではお別れね。では、この関係が、お互いにとって有意義なものにならんことを」

 

 アリスは最後にそう告げると、借り物の身体を座らせて、静かに目を閉じた。

 最後に、自分が出ていった後身体が壊れないように配慮したのは、契約相手に対する配慮なのだろう。やはり彼女も、弁えるべき礼儀は弁えていたとサナダは安心した。ここで最後に作品を壊されていたら、彼女に対する心証は、契約の見直しを考えさせられる程には低下していただろう。そんな可能性にすら頭が回らない馬鹿ではないということは、先程の行動から見て取れた。

 

「………再起動したか」

 

 暫く、座り込んだままのアリス―――〈ブクレシュティ〉の独立戦術指揮ユニットをサナダは無言で見守る。

 

 彼女がゆっくりと眼を開いて再起動したのを確認すると、サナダは彼女の安否を確かめるように声を掛けた。

 

「………ええ、何とか。―――とんだ失態だわ、この私が義体(カラダ)を乗っ取られるなんて」

 

 彼女は恥じるかのように、俯き加減で呟く。

 科学技術の粋を凝らした自らの身体が、魔法使いなどという得体の知れないものに乗っ取られたことが気に食わないのだろう。その瞳には、造られたAIでありながら対抗心を燃やしているようにも見えた。

 

「ふむ、どうやら記憶に問題はないようだな」

 

「はい。記録と意識データは艦のコントロールユニットにクラウドがあります。艦そのものが破壊されない限り、幾らでも修復は可能ですから」

 

「正常に機能しているというなら問題は無いな。なに、君が恥じ入ることはない。今回は、あちらさんが一枚上手だったということさ。―――ああそれと、今後は是非とも彼女と仲良くやってくれないか?アレがもたらす技術や知識には、此方としても興味がある」

 

「―――了解したわ。貴方の頼みというなら断れないもの。………私の義体を乗っ取った相手と仲良く、というのは癪に障る部分もあるけど」

 

 サナダの頼みにぶつぶつと文句を垂れるアリス―――ブクレシュティだが、彼はその反応を見て満足気に頷いた。

 

 ―――ふむ、感情の形成は順調のようだな。ならば………

 

「なに、そう嫌悪するものでもない。私が君を造った理由を忘れたわけではあるまい?」

 

 サナダは我が子を諭すかのような論調で、アリスに語りかける。彼女はそれに対して、データベースから該当する記録がないか探り当てるために、考え込む仕草を取った。

 

「艦隊を構成する無人艦艇をより有機的、かつ円滑に運用するための戦術指揮ユニット、それが私です。ですが………」

 

 表向きには、彼女の言うとおりの理由である。かつて艦隊の規模に対して人員が不足していた『紅き鋼鉄』の事情を改善するために、サナダが送り出したのが彼女だった。しかし、サナダの目的は他にもある。―――寧ろそちらのほうが、サナダにとっては本音なのだ。

 

「"科学"で"ニンゲン"を再現する―――それが貴方の目的でしたね。そして私は、その目的を果たすための最高傑作………成程、彼女から"ニンゲン"を学べと、そう仰りたい訳ですか」

 

「正解だ。無論、君にとっては気に入らない部分もあるかもしれないが、"気に入らない"という"感情"を持っている君は既に、私の目的へと一歩近づいているのだ。彼女との接触は、君にとっても有意義なものとなる筈だ。寧ろ、相手の秘密を暴くぐらいの気概で事に当たってくれると有難い。―――私が科学を克服するためにも、協力してはくれないかね?」

 

 サナダはここで、自らの創造物に対して"命令"という形ではなく、"協力"という形で要請した。覚醒しつつある彼女をヒトとして尊重する姿勢こそが、"AIを"ニンゲン"へと進化させる一助となるのではないか、という打算である。

 

「………了解したわ。私もやられっぱなしでは気が済まないし、次は相手にも相応の代償を払って貰いましょう」

 

 サナダの言わんとすることの意を汲んでか、アリスは口角を吊り上げる。

 次はお前にも身体を使われた対価を支払って貰うぞと、彼女は早速"もう一人のアリス"への対抗策を演算し始めた。

 

「有難い。では、私からの話はこれで終わりだ。一応ということもある、ここで精密検査を済ませてから帰るといい」

 

「分かった、恩に着るわ」

 

 最後に精密検査を薦めて、彼女を研究室の深部へと案内するサナダ。

 

 

 ―――彼の瞳には、貪欲な知識欲と、野望の実現へと向けた執念が渦巻いていた………

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「霊夢さん霊夢さん、サナダさんが会わせたい人って、誰のことなんでしょう?」

 

「知らないわよそんなの。そもそも、マゼラニックストリームから脱出してから向こうも新しいクルーなんて雇ってる暇は無い筈だし、大方また新しいAIでも発明したんでしょ。よかったわね、妹が増えるわよ」

 

「え、い、妹っ!?………まぁ、確かに形式的にはそうなるのかもしれませんが………」

 

 私と早苗の二人は、また例のごとくサナダさんの呼び出しを受けて彼の研究室へと向かっていた。本当は呼ばれたのは私だけなんだけど、いつも私にくっついてくる早苗は、さも当然と言わんばかりに私の後をついてきた。

 しかし、今回の呼び出しはいつもの会議室と違って彼の研究室………またろくでもない発明を自慢するために私を呼びつけたのかと呆れ半分、一応サナダさんの呼び出しだから応じておこうという惰性半分で、彼が待つ研究室へと向かう。

 

 心なしか、声から伝わる彼のテンションがいつもよりちょっとだけ高そうな気がしたのが、余計に心配をそそられるのだが………。

 

 ふと、もしサナダさんが会わせたいという人が本来のサナエやアリスみたいなAIなのだとしたら、それは早苗の妹ということになるのだろうかという疑問が頭を過った。

 早苗は完全に東風谷早苗と成り果てているが、一応形式的には〈ブクレシュティ〉のアリスは本来の早苗をベースに造られていると聞く。………思えばこの早苗がバグっているだけで、あちらの方がAIとしては普通なのだろう。それならば、サナダさんが次に開発したAIも、形式的には早苗の妹という扱いになるのだろうかと、どうでもいい想像を巡らせていた。

 

 当の早苗はというと………

 

「うぇへへ………あのアリスさんと………私が………」

 

 といった調子で自分の世界に入り浸っている。―――うん、ここは放置しておこう。

 暴走した早苗が手をつけられない存在なのは、今まで散々思い知らされてきた。こういうときは、大人しく冷静になるまで待つに限る。

 

「………艦長か。随分と早い到着だな。君のことだから、少しは遅れるものかと思っていたのだが」

 

「五月蝿いわね。私だって時間ぐらいは守るわよ。そうでないと、示しがつかないじゃない」

 

 今は特に用事もなかったので、呼び出しを受けた後真っ直ぐ研究室に向かったら、部屋の前で待っていたらしいサナダさんとばったり遭遇した。

 なにやら失礼な言葉を浴びせられたけど、これでも努力してるんだからね。最初の頃はいざ知らず、人が増えてからというもの時間を気にしなければいけなくなって本当参った。幻想郷にいた頃ならば、全部自由にできていたのに。時々、向こうの生活が恋しくなる。…………今は今で、気に入っている部分もあるんだけれど。

 

「おっと、それは失礼した。………で、君まで呼んだ覚えは無いんだが………」

 

「むーっ、私は霊夢さんの副官役です。その私が、霊夢さんに同行してなにか問題があるんですか?」

 

「い、いや、何でもない。――まあここで話しても無駄にしかならん。中に入りたまえ」

 

 本来なら呼びつけていない筈の早苗を見て、サナダさんは困っているみたいだけど、早苗の反応を見て、彼も色々諦めたようだ。

 

 サナダさんに促されるまま、私達は研究室の中へと踏み込む。

 

「うわぁ………一応整理はされているんですねぇ」

 

「そうねぇ。思ったほど散らかってない」

 

「………君達は、私を一体何だと思っているんだ」

 

 そりゃあ、マッドに違いないでしょう……?

 

 サナダさんが漏らした諦念の言葉に心のなかで応えながら、私は研究室―――の応接室と思しきこの部屋を見回した。

 

 部屋はサナダさんのマッドなイメージとは一転して綺麗に片付けられており、白い清潔感に溢れた部屋にはワンポイントの観葉植物が設けられたりもしている。

 私はサナダさんの評価をちょっとだけ上方修正すると、部屋の真ん中にある椅子に腰掛けていた人影に目を向けた。そこにいるのがサナダさんが言っていた会わせたい人なのかと思ったけど、どうやらそれは違ったようで、腰掛けていたのは〈ブクレシュティ〉の管制AIであるアリスだった。―――彼女も、サナダさんに呼ばれたのだろうか?

 

「あれ………アリスさんじゃないですか?」

 

「そうみたいね………ねぇサナダさん、その会わせたい人ってのは、何処にいるの?」

 

 アリスもサナダさんに呼ばれたものだと決めつけていた私は、件の人物とやらは何処にいるのかと問いかける。

 しかしサナダさんから返ってきたのは、予想外の反応だった。

 

「君の目は節穴か?ほら、目の前に居るではないか」

 

「目の前って………新顔なんて見当たらないけど」

 

 何処をどう見ても、サナダさんが造り出した新しいAIらしき新顔は見当たらない。そこにはアリスしかいない。

 

 ―――もしかして、このアリス、二号機とか言い出さないわよね………?

 

 などと、推論する。現実問題としてここには顔見知りしか居ないのだから、そんな突拍子もない想像が思い浮かんでくるのも仕方ない。

 

 しかしここで、今まで口を噤んでいたアリスが口を開いた。

 

「あらあら、折角旧友と会ったというのに、掛ける挨拶もないのかしら?」

 

 ………はい?

 

「………落ちたものね。この科学世紀に染まりきって、妖怪の気配すら分からなくなってしまったのかい?」

 

 え―――えっ?その言い回し、もしかして…………

 

「所詮、巫女は二色の馬鹿か―――どう?これでもう分かったでしょ?」

 

 心のどこかに引っ掛かる、かつての訪れない春を思い起こさせるその言い回し。

 脳裏に浮かぶのは、アイツとよくつるんでいて、時折神社にも顔を出していた金髪の人形遣い。

 

 そして止めには、昔を思い出すかのように、ふっ、と笑いながら発せられたその台詞。

 ここまできたら、もう、この"アリス"の正体など容易に想像がついた。

 

「あ、あんた、まさか……向こうのア「も、もしかして、あっちのアリスさんなんですか!!!?」っ~!」

 

 彼女にそれを確かめようとしたそのとき、耳元でテンションがおかしい大声が鳴り響く。

 

「~~~ッ!ちょっと早苗、あんまり耳元で騒がないで……って」

 

「あ、ごめんなさい霊夢さん………」

 

 一転して、しゅんとした表情になる早苗。

 ……相変わらず、感情の振れ幅が大きい子ねぇ………

 

「………もういいかしら?」

 

「あ、はい………」

 

 私と早苗のやり取りを見て、呆れたようにアリスが口を開く。早苗も先程のあれで反省したのか、声のボリュームは控えめだ。

 

「ところで、やっぱり向こうのアリスさんなんですか?アリスさんなんですよね!?」

 

「あの、ちょっと………」

 

 だが、やはり興奮が抑えられないのか、ぐいぐいとアリスに迫っていく早苗。同類ができて?嬉しいのは分かるけど、もう少し抑えられないのだろうか?ほら、アリスも困ってるし………

 

「いいから、今から説明するから!ハァ………っ」

 

「はうっ………」

 

 無理矢理早苗を引き剥がしたアリスは、とりあえず私達に掛けるように促すと、ここに至るまでの身の上話を披露した。

 

「まぁ………貴女達なら知ってると思うけど、今は一時的にこの身体を借りているわ。漸く貴女達の居場所を突き詰めて、こうして確認に来たってわけ」

 

「……確認?」

 

「ええ、確認。―――全く、あんたが消えたときなんか、こっちは色々大変だったのよ?」

 

「え………えっ……?」

 

 待って待って待って。このアリスの口振りからすると、この世界って………別世界じゃなくて元居た世界の延長ってこと――?

 

「あの―――アリスさん?もしかしなくてもなんですけど………ここって遥か未来の外の世界、ってことですか?異世界とかじゃなくて」

 

「ええ、そうだけど」

 

 私が抱いたものと同じ疑問を、早苗が言葉に出して伝える。

 アリスは、さも当然と言わんばかりに淡々と答えた。

 

 つまり、目の前のアリスは一万年以上生きてるってこと………?

 

「え―――っ!?じゃあ………アリスさんは……」

 

「だから言ってるでしょ、貴女達を探しに来たって」

 

「でも、どうして………」

 

 そもそも、だ。何故そこまで時間をかけて私を探していたのだろうか。幾ら元博麗で巫女とはいえ、そこまでする価値があるとは思えない。

 だけど、アリスはそんな私の思考を打ち砕くように、淡々と告げた。

 

「―――貴女が突然居なくなったら、どんな反応が起こるかなんて、簡単に想像できるでしょ?」

 

 なんて、それが当たり前だと、私に事実を突き付ける。

 

 私の瞳を真っ直ぐ見ながら、彼女は告げた。

 

「まぁ、他にも事情はあるんだけど、今はそんなところね。元々、こっちの方が先だったし」

 

「じゃあ―――アリスさん!その………幻想郷の皆さんは、今はどうして―――」

 

「昔とそんなに変わらないわ。流石に貴女達の知り合いの人間は生きてないけど、長生きな連中は壮健よ。そもそも、貴女の神様は自分で呼び寄せたんだから分かるでしょ?」

 

「あっ………」

 

 やはり、この時代の幻想郷の様子も気になる。

 次も早苗が早口でアリスに尋ねたが、彼女の様子からすると、何事もなく存在し続けているらしい。早苗の神様が壮健なんだから当たり前か。………なら、もしかしたらまだ紫も―――

 

「っと、もう時間か―――御免なさい、そろそろ限界みたい。―――せいぜい、死なずに生きてなさいよ?」

 

「え?あ………ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 突然の告白に、思考が追い付かなくなってしまう。

 私の制止も聞かず、そうしているうちにも妖怪(アリス)の気配は段々と薄れていく。

 

「こうして意識を現界させているのも、タダじゃないわよ。ともあれ、実験は成功か。ふふっ―――ここまで来るのに、色々無茶してきたからね。………貴女は、自分が思っている以上に想われているんだから――――」

 

 最後にそれだけ言い残すと、魔法使い、アリス・マーガトロイドは静かに目の前から去っていった。

 そこには、物言わぬ人形だけが佇んでいる。

 

 彼女の最後の言葉だけは、うまく聞き取ることが出来なかった。

 

「あ…………」

 

「―――そういう訳だ。今後は、不定期に彼女から接触があるらしい。そのときには、艦長がまた応じてくれ。部外者の私では話は通じないからな」

 

「え、ええ………」

 

 あまりに突然のこと過ぎて、サナダさんの言葉にも、何処か上の空な言葉しか返せない。

 

 

 今になって、アリスが接触してきたというなら、もしかしたら、魔理沙や紫も―――

 

 そんな期待が、淡く胸の中に芽生えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 ~マゼラニックストリーム、某所~

 

 霊夢達、『紅き鋼鉄』の残存艦隊が辿り着いた宙域から数千光年離れた銀河間空間。

 

 その空間を、ガスの雲海を切り裂きながら往く、一隻の宇宙船の姿があった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ―――戦艦ゴリアテ―――

 

 それが、この(フネ)の銘である。

 

 

「………よう、久し振りだな、アリス。此方の体感では、3日と21時間17分振りだ」

 

 星の海を突き進む〈ゴリアテ〉の艦橋で、艦長席に座る少女は、自らの膝に身を寄せたまま眠る、自らと同じ金の髪を持つ少女に問い掛けた。

 

「う………ん………まり、さ………?う~ん、っ………お早う。昨晩振りね」

 

 彼女の問い掛けで目を覚ましたのか、もう一人の少女―――アリスは身体を起こす。そして、自分を見守っている金髪の小柄な少女………魔理沙の姿を見た。

 

「………服が少し乱れてるわよ、魔理沙。一体どれだけ待ってたの」

 

「言った筈だろ?3日と21時間17分振りだって………いや、今は18分振りか?」

 

「そんなに………私の体感じゃあ、せいぜい一夜程度なのに」

 

 魔理沙のやけに細かい時間の記憶は無視するにしても、彼女が告げた時間にアリスは驚かされた。

 

 漸く博麗霊夢の存在を突き止めたのがつい二月前、そして魔法で意識を霊夢の側にいる、憑依しやすい人物に飛ばしたのがつい最近……アリスの認識ではそうなっていたが、ここで自分の意識を霊夢の側まで飛ばして、さらに魔理沙の元まで返ってくるまで、彼女の示した時間を信じるならば凡そ4日程度かかっていたのだ。自分の体感時間が短かっただけに、その事実に彼女は頭を抱えた。

 

「流石に魔法とあっても、光の速さを越えるのは難しい。―――ここで失敗しなかっただけ、まだマシだぜ」

 

「そうね………無理を言って、外の世界に残されていた宇宙船を貰ったのは正解だったわ」

 

 霊夢とのコンタクトが成功した、という事実を前に、二人の幻想少女は喜ぶ前に、自らの魔法理論が正しかったことを認め合う。

 

 博麗霊夢の魂が幻想郷から消えてから、数えきれないぐらいの時が過ぎた。幾ら捨虫の魔法で不老の魔法使いと言えど、それだけ長い時間を待つのは簡単なことではない。しかし、彼女達―――特に魔理沙は冷静だった。

 

 ぬか喜びしている時間があるのなら、その時間をより建設的なことに使う―――

 

 それが、今の魔理沙の信条だ。かつて人間だった頃ならいざ知らず、数千年の時を経た魔法使いとなった今の彼女は、それは時間の無駄、喜ぶのはアイツと再会したときでいい、と、ある種長い目で時間を見ていた。

 念願の再会を、確実なものとする為に。

 

「まぁ、多少時間がかかっても光の速さを大幅に越えられたのは良い収穫だ。ところでアリス、この身体、いつまで持つんだ?」

 

「そうね………ここに来るまでだいぶ時間がかかったから、後二月、ってところかしら。……正直、私の方は帰るまで持ちそうにないわ。一足先に戻ってるかも」

 

 魔理沙は腕をまくって、アリスにそれを見せつけながら彼女に問うた。

 その腕の間接は、普通の人間や妖怪のような生身ではなく、ボールジョイントの人形のそれ…………

「幻想」の住人である彼女達は、紫や霊夢のような規格外とは違って「外」の世界では思うように活動できない。そこでアリスが編み出したのが、この魔力入り人形だった。

 自らの意識を、魔力を込められた宝石を内蔵した人形に移す。そうすることで、外の世界でも魔法の使用を可能にしたのだ。

 だが欠点もあり、外では当然魔力の補給など望むべくもない。"行為"に及べば補えるかもしれないが、それは一方の活動限界を縮めることになる。そして魔理沙は、アリスを送り出すために一度彼女に"補給"をしていた。そんな彼女が、魔力残量を気にするのも無理はない。

 

「そうか………なら一度出直しか。んで、霊夢の側には発信器の類いは組み込んでるんだろ?それがないと、戻ったあとまた探す羽目になるぜ」

 

「大丈夫よ。それなら、私が憑依した対象をアンカーにしてるから」

 

「なら問題無さそうだな。んじゃ、転進といくか。目的地は地球―――幻想郷っと。準備はいいか?」

 

「はいはい、魔理沙"艦長"」

 

 茶化すように、アリスが告げる。

 艦長を気取っているのか軍服調の衣服を身に纏った魔理沙を見て、相変わらずちんちくりんな奴、とアリスは思う。人間時代の成長した彼女ならいざ知らず、今は事情があって彼女の容姿は人間でいう14歳程度、服に着られている、という方が適切なぐらいだ。

 そんな外見と、中身の魔理沙のギャップを楽しんでいるのか、アリスは微笑ましく"後輩"を見守る。

 

 そんなアリスの意図を察してか、魔理沙は抗議の声を上げた。

 

「うるさいっ………!と、とにかく………ここでは私が偉いんだからな!」

 

「はいはい、分かってますよ艦長?」

 

「むぅぅ~~~」

 

 〈ゴリアテ〉では幾度となく繰り広げられた光景が、また魔理沙の眼前に披露された。

 一方のアリスはというと、何事も無かったかのように滑らかに艦の進路を反転させる。

 

 ――――その時だった。

 

 二人の眼前に、紅いゲートジャンプの光が灯る。

 

 紅き円陣から現れたのは、黒塗りの無数の艦艇。

 

 それを見たアリスと魔理沙は、談笑をぴたりと止めて表情を強張らせた。

 

「…………"奴"か」

 

「ええ、そのようね………」

 

 二人は即座にその正体を察し、警戒する。

 

 彼女達の眼前に謎の艦隊がジャンプアウトした直後、砂嵐になった〈ゴリアテ〉のモニターに、赤髪の少女の姿が映し出された。

 魔理沙を赤髪にしたようなその少女は、判決を告げる独裁者のような尊大な態度で、二人に告げる。

 

 

 

 《………よう、オリジナル。―――殺しに来たぜ?》



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第九五話 艦隊再建

 ~臨時旗艦〈ネメシス〉会議室~

 

 

 宇宙漂流に巨大船の発見、オーバーロード、そして予想外の知人の訪問と、ここ最近は色々な出来事がありすぎた。―――当面の目標は決まったからいいものの、未来は決して良いものではない。これらの要素は、誰が想像しても分かるぐらいに、私達を混迷の渦へ引き込むことを示唆していた。唯一私にとっての希望は、魔理沙や紫と再会できる可能性が見えたことか………だけどそれも、アリスがあんな形で接触してきたことは逆説的に向こう側からの物理的接触が難しいことを裏付けている。………彼女達と会えるのも、当分先のことになるだろう。

 

 そして今日は、その"当面の目標"である移民船と艦隊の復興に見通しがついたという話だった。いつも通り、会議の音頭はサナダさんが取ることになっている。私の仕事は最終的に判子を押すだけだから、大人しく説明が始まるのを待っていた。

 

 準備を終えたサナダさんは席を立って、プロジェクターを起動してホログラムを映し出す。同時に部屋の明かりが落ちて、いつものように会議が始まった。

 

「では艦長、始祖移民船の復興の件についてだが、知っての通り概ね見通しがついた。この宙域から移動できるようになる日も、そう遠くはない」

 

 最初の言葉は、挨拶のようなものだ。どうせサナダさんのことだからすぐに本題に入るだろうと思って、私は単刀直入に彼に尋ねる。

 

「それは朗報ね。で、どれくらい掛かりそうなの?」

 

「うむ。母船の機能は大部分が生きているから、航行可能状態に持っていくことはそう難しいことではない。あと一週間程度あれば、始祖移民船の試験航行には乗り出せるだろう」

 

「今まで維持してきた私に感謝して下さいね?艦長さん」

 

「分かってるわ。………で、あんたはいいの?あのフネを私達が使っても」

 

「はい、勿論ですよ~。………ただし、交換条件はちゃんと守っていただきますけどね」

 

 彼女、始祖移民船の統括AIであるブロッサムはいつものように挑発的な笑みを浮かべていた。

 最近彼女の姿を見ていないと思ったら、どうもマッド共と一緒に修理作業に勤しんでいたらしい。元々高性能AIを自称するだけに、彼等とは気が合うのだろう。

 

 ――彼女が提示した条件とは、"完全に自分の制御下に置ける戦艦クラスを一隻譲渡"と"義体の提供"の二点だ。………前者の要求は怪しさプンプンだけど、まぁ戦艦一隻くらいなら何とかなるでしょう。後者に関しては、サナダさんの義体技術に感銘を受けた結果らしい。元々義体のようなものは持っていたと思うのだが、それよりサナダさんが作ったやつの方が優れた点もあるということらしい。………そういえば、あいつ時々早苗の体をまじまじと観察していたけど、そういう意味だったのね。

 

 まぁ、この程度の要求であの始祖移民船団が丸々手に入るなら安いものだ。幸い母船のバイオプラントは維持されているので食糧生産も可能だし、資源もあるから艦隊の再整備もできる。これだけの優良物件を手に入れられるとは、正に僥倖だ。

 

 ―――あいつの性格を考えると、何か裏がありそうで怪しさはプンプンするけど。

 

「それで復興計画についてだが、調査の結果、母船以外にも数隻利用できる艦船が見つかった。軍艦及び各種兵器を整備、製造する工場艦が五隻、食糧生産プラント艦が一隻、海洋環境艦一隻が現在も稼働状態にあるらしい。これらの艦は最低限の整備で動かせるらしいから船団に加えたいと思うのだが、どうかな?」

 

「それでいいわ。艦隊も復興しなくちゃいけないんだし、大マゼランにもそう簡単に辿り着けそうにない現状じゃあ、足場を固めるのが先決だと思うからね。だから船団の復興計画については、あんた達に一任するわ」

 

「うむ、了解した」

 

「それなら任せて下さい☆」

 

 船団については、元から統括AIだったブロッサムの方が詳しいだろうし、なんだかんだでマッド共も乗り気だ。にとり達は既に〈アイランドα〉に乗り込んで色々やっているらしい。……最近あいつらの顔も見えないと思ったら、そういうことか。―――なにも騒ぎを起こしてくれなきゃいいんだけど。

 そして移民船そのものについても部品さえあれば管理ドロイドが破損箇所の修理をしてくれるらしいし、工場艦が復帰したら資源から部品を製造することも出来るようになる。母船でもある程度の工場能力はあるから、復興作業は比較的スムーズに進みそうだ。

 

 ………ブロッサム先生(自称)の態度は不安だけど、まぁ何とかしてくれるでしょう。

 マッド共と気が合うなら、騒ぎはすれど裏切りはしない筈だ。(その"騒ぎ"のレベルが心配なんだけど……)

 

「そして次は艦隊の再建についてだが、暫く旗艦はこの〈ネメシス〉でやり過ごすとしてもやはり護衛艦艇は必要だ。工厰艦の修理が完了次第取り掛かろうと思うのだが、どうかな?」

 

「それで良いわ。ここまで目減りしちゃったんだから、こっちもいつかは建て直さないといけないんだし。そもそもオーバーロードのことを考えたら、戦力なんて幾らあっても足りないぐらいよ」

 

「そうですねぇ~。だとしますと、どのフネを量産するかですね。整備効率なんかを考えたら、できるだけ同型艦を揃えたいですし」

 

 早苗の提案に対して、私は心の中で頷いた。

 

 ヤッハバッハ戦で壊滅する前の艦隊は遺跡で発掘したデータ由来の艦艇の他にエルメッツァ・スカーバレル系統の艦、カルバライヤ系統、ネージリンス系統の艦なんかが雑多に集まった艦隊だった。艦隊を増強するときは整備面はあまり考えずに戦力価値だけで図っていたから、いざ運用してみるとそれぞれの系統ごとに違う部品を要求されたりで苦労した記憶がある。だから艦船の系統を統一するという案には賛成だ。

 

「それは私も考えていたことだ。確かに我々の艦船は優れた性能を持つ。だがそれは小マゼランでの話であって、大マゼランでも一線級の艦艇は限られている。改造スカーバレル艦の系統を取っても小マゼラン艦としては突出して高い性能にあると自負できるが、大マゼラン艦には幾つかの性能で互角という程度でしかない。それに艦隊を構成していた艦艇のベースは殆ど小マゼラン艦だ。これを機に、配備する艦艇を一新するべきだろう」

 

「話の方向はまとまったみたいね。なら、どの国の艦艇をベースにするかだけど………」

 

「霊夢さん霊夢さん、やはりここは遺跡からの発掘艦艇で統一しましょう!」

 

「さ、早苗……?」

 

「やっぱり古代兵器ってそれだけでロマンだと思うんです!この時代にはない幻の艦隊ですよ!?興奮するじゃないですか!どうですか霊夢さん!!」

 

「ど、どうって言われても………」

 

「分かってるじゃないですかぁ緑色。やっぱりロマンですよねぇ~。あ、そういえば私のデータベースに昔の艦の設計図とか入ってるんですけど、どうします?使っちゃいますかぁ~?」

 

「えっ、本当ですか!?それなら是非是非!」

 

 ―――駄目だ、こいつらのノリについていけないわ……

 

 いきなり我を全面に押し出すように遺跡艦艇をプッシュしてくる早苗を扱いかねていると、ブロッサムの奴まで悪ノリするかのように……というか悪ノリして話に混ざってきた。まさかこんなところでこの二人が協力するなんて。普段は水と油みたいに犬猿の癖に。

 こいつが混ざってやらかすと、碌なことになりそうにないんだけど………

 

 彼女達二人の態度に、頭を抱えた。

 

 今更でもないが、この早苗を紫色にして100倍濃縮したような破綻AI、性能はともかく性格が絶望的なのだ。カオスの権化である。

 

「はーい、毎度ありー♪ちなみに使用料は一タイプにつき10000Gでお願いします♪」

 

「金取んの!?ってか高ッ!!」

 

「ちょ………何ですかそのボッタクリー!」

 

「うふふふっ、当然じゃないですかぁ~~。ロマンの古代艦艇ですよ?これぐらいして当然です♪」

 

 コイツ、別途使用料金を請求するなんて、河童並にがめつい奴じゃない………。この調子だと、工厰艦の使用にもボッタクリ料金吹っ掛けてきたりなんかしないでしょうね?悪徳商法は退散よ!

 

「話の方向が決まりかけてる中で申し訳ないが、遺跡艦艇だけというのはどうかと思うぞ」

 

 ………と、話がろくでもない方向に向かい始めたところで、半分蚊帳の外になっていたサナダさんが介入してきた。ブロッサムは露骨に嫌な顔をしてそれを非難する。

 普段は混沌(カオス)サイドのこいつだけど、それを上回るカオスの権化がいる状況では頼もしい味方に見える。助けてサナえもーん!

 

 ………ところでサナえもんだと、サナダさんか早苗かどっちなのか分からなくなるわね。………まぁいいや。

 

「はぁ?この私が提供する完璧な艦船では駄目だと―――そう言いたいんですか?」

 

「まぁ、直訳するとそうなるな」

 

「それは残念です………貴方も同志だと思っていたのに………しくしく、私悲しいです」

 

 サナダさんにボッタクリ販売プランを粉砕されたブロッサム先生はあからさまな嘘泣きを始める。可愛らしく泣いたところで私の心には響かない。

 サナダさんの心にも当然響かなかったみたいで、淡々といつものサナダさんタイム(解説)が始まった。

 

「それは済まない。だが今後を考えると、古代兵器由来だけでは整備面に支障を来す恐れがある。それでは本末転倒だ。何せ古代艦艇の部品は現代の宇宙港では入手不可能だからな。私がしたように現代規格に適合させる手もあるが、やはりオリジナルの部分は残る。昔は少数精鋭だったからいいものの、量産するとなったら話は別だ」

 

「えっ、ですけど部品なら工厰艦が使えるようになったら問題ないんじゃ………」

 

「そうですよ!私の工厰艦ならどんな部品も製造できます!そんな批判当たりませんよーだ」

 

 サナダさんの反論に対して早苗とブロッサムからシュプレヒコールが飛び交うが、彼はそれも意に介さず淡々と解説を続ける。

 

「確かにそう考えることもできるが、問題は航海中だ。当然一般の宇宙港ではそんな部品置いていない。だから補充部品は予め詰め込んでおくことになるが、それも予想外の事態や大規模な損傷で枯渇、紛失しないとも限らない。そうなったら作戦遂行能力に支障が出る。独自部品はあっても構わないといえば構わないが、長距離作戦能力を考えるとできるだけ減らしたいというのが設計担当としての意見だな。加えて我々は、オーバーロードにも対抗しなければならない。たかが一0Gドックに何ができるのかはこの際考えずとも、戦力はやはり多い方が良い。ならば、できるだけ低コストで調達、運用できる艦が望ましいのは言うまでもないことだ」

 

「成程ねぇ………なら、私もサナダさんと同意見かなぁ。できるなら部品は安くて補充しやすい方がいいもん。艦隊経営とか大変だったし、早苗も色々手伝ってたんだからそこは分かるでしょ?」

 

「ううっ………確かにそうですけど……やっぱりロマンが………ああでも霊夢さんにあまり負担をかける訳にもいかないですし………」

 

「ちょっと緑色!なに日和ってるんですかー!お前もかブルータスな気分なんですけど!」

 

「え?いつから私が味方だと思ってたんです?趣味は確かに似ているかもしれませんけど、大体貴女私達にボッタクリ料金提示したじゃないですかぁ。それなのに味方だと考えていたんですかぁ~?フフッ」

 

「なっ………言ってくれますね緑色の……!」

 

 ………よし、成功だ。

 

 元から早苗とブロッサム先生は仲が悪い。キャラ被りしててお互い煽り合う関係だから、罅さえ入れてやれば急ごしらえの統一戦線なんてあっという間に瓦解だ。

 それに早苗は元々私のことを好いているみたいだから、私がサナダさんの方に転んだら葛藤するにしても最終的には私の方にきて3対1だ。これで悪徳破綻AIのビジネスプランを葬り去れる。何せ過半数を抑えたも同然だ、選挙なら勝てるって偉い人が言っていた。

 

「ふむ。では決まりだな。では手始めに建造する艦艇はできるだけ大マゼラン諸国の規格に合致したものとしよう。………なに、その間遺跡由来の艦艇の改設計も進める。単に順序の問題なのだよ、余裕のない今はあまり贅沢なことは言っていられないからな」

 

「まぁ、それなら妥協できますけど………」

 

 珍しく浪漫を粉砕したサナダさんだけれども、浪漫への道筋をちゃっかり残しておく点はやはりマッドらしいと言えばマッドらしい。

 ―――そういえば、こいつのモットーは"使えるものを作る"だっけ。実利を取りつつも浪漫も同時に追及する、というのがサナダさんの立ち位置だった。やることは頭痛の種だけど、その発明品が使えるものだけに、やはりサナダさんを無下にすることはできない。………その過程で産み出される膨大な産業廃棄物と予算の虚偽申告に着服は別途、追及させてもらうけど。

 

「さて、そうと決まったら"どの国の規格に合わせるか"が重要だな。」

 

「規格?」

 

「ああ。大マゼランとはいっても、そこには複数の国家が存在する。それぞれの国ごとに当然仕様は異なるから、どの国の仕様を取り入れるかは慎重に吟味したいところだな」

 

 なるほど、どうやら向こう側も小マゼランのように国ごとで仕様が異なるらしい。私としては、できるだけ安くていいフネを大量生産できる仕様が好ましいのだけれど………

 

「へぇ………なら、とりあえずその、各国の仕様の違いってのをまず聞かせてくれない?」

 

 このあたりの知識は、完全にサナダさんの専売特許だ。餅は餅屋に、専門的な情報を持つ人に聞くのが回答への近道。というわけだから助けて、サナえもん。

 

「うむ。大マゼランで広く普及している艦艇は大きく分けて4カ国の系統に別れる。順を追って説明するぞ」

 

「まず一つ目はアイルラーゼンだ。我々がヴィダクチオ自治領の戦いやマゼラニックストリームで共闘した国だな。この国の艦船の特徴は、何といっても長射程のリフレクションレーザーにある。この兵装の特徴は、1サイズ上にあたる通常のレーザーと同程度の有効射程を持っていることだ。そのため遠距離砲戦での制圧力に優れ、ビームの収束率も総じて通常のレーザーに勝るため、貫通力の面でも優れた兵装だ。ただし欠点として、この兵装を搭載するために艦の拡張性が若干損なわれている点があるな。この武器システムは多大な容量を必要とするため一般的な武装のようにモジュール化するのが難しい。なので予め艦の設計に組み込まれているのだが、それが原因で艦船設計の柔軟性は他国艦船に劣ると言わざるを得ない。そしてもう一点、欠点として複雑な艦体機構が挙げられるな。この国の艦船はやたらと分離機能を付けたがるが、それが原因で必要とされる専用部品の割合が高い。確かに戦場におけるサバイバビリティの向上や戦術の幅が広がるという利点もあるが、無人艦隊前提の我々では前者の利点は全く役に立たず、後者も艦の耐久性とトレードオフという点を考えると一長一短だ。私から見たアイルラーゼン式艦艇の利点と欠点は、こんなところだろう」

 

 サナダさんは淡々と、早口でアイルラーゼン艦船の特徴と、それらに対する評価を述べる。

 彼は確かに天才だが、選定に当たっては他の機械オタク(マッド)共の意見も参考にしたいところだ。だが肝心の彼女達は新しいオモチャに夢中でこの場には居ないので、サナダさんの評価を元に判断を下さなければならない。

 

 話を聞く分には、アイルラーゼンの艦船は性能が悪い訳ではなさそうだけど、うちで導入するには余分な機能が多いというのが印象だ。だけど、判断するには他の国の解説も聞いてからの方がいいだろう。一旦保留。

 

「次は……ネージリッドだな」

 

「ネージリッド?」

 

 サナダさんは続いて、二つめの国の説明に入る。

 

 が、既視感のあるようなその名前に、頭の片隅が引っ掛かるような感じを覚えた。何処かで聞いたことがあるような気がするが、何となく違うような気もする。

 

「艦長が既視感を覚えるのも無理はない。この国は、小マゼランにあったネージリンスの源流にあたる国だからな」

 

「ネージリンス………ああ、道理で。何処かで聞いたことがあるような名前だと思ったわ」

 

 ネージリンスとネージリッド……うん、確かに響きは似ている。両者の関係性を窺えるぐらいには、発音の響きが一致していた。

 

「ここでは余談になるから詳細は省くが、ネージリンスはネージリッド人が小マゼランに移住して建国した国だ。だから、両国の技術的特性もよく似ている」

 

「ということは、ネージリッドも空母技術が発展しているんですね?」

 

「うむ、その通りだ。重力カタパルトや高性能な艦載機など、目を見張るべき技術はある。しかし、通常の艦船については良くも悪くも普通だと言うべきだな。汎用性は高いが、それといって特徴はない。ただ巡洋艦クラスまでなら設計図の入手難易度も低く、海賊に広く流通しているぐらいだ。我々もネージリンス製艦船を運用した経験があるし、技術や艦船を取り入れるとすれば一考に値する国だな。―――これは私個人の提案だが、最終的に基幹技術を他国のものに設定するとしても、重力カタパルトは何とかして取り入れた方がいいだろう」

 

 サナダさんが語った、ネージリッドの技術の概要は以上の通りだ。

 

 空母以外はこれといって尖った部分のない国だそうだが、ネージリンスと近しいこともあってこの国の艦船の運用には困らないだろう。技術体系が同じならある程度流用できる経験もあるだろうし、攻撃力は結局どの国を選んでもマッド共がどうにかしそうなので、あまり考える必要もなさそうだ。その点を踏まえると、中々魅力的な提案に見える。

 

「では次に行こう。三番目はエンデミオンだ。この国は…………まぁ、技術力については特徴がないのが特徴だな。艦船の汎用性は高いが、それだけだ。これといって尖ったものを持っている訳ではない。それ故に、0Gドックからこのの艦船は一定の需要を得ているがな。ほら、小マゼランにも居ただろう?エンデミオンの艦船を使っている奴が」

 

「えっと………誰だっけ」

 

 三番目に語り始めたのは、エンデミオンという国の艦船の特徴だ。

 サナダさんも何を話したらいいのか悩んでいるみたいで、前二つの国より話す速度も澱んでいる。

 ところで、そんな話を私に振られても、覚えていないものは覚えていない。元から関心なんて無いんだし。

 だが流石と言うべきか早苗は別なようで、サナダさんが挙げた例に心当たりがあったようだ。

 

「あー居ましたね!確か、ゼーペンストで遭遇した巡洋艦がそうでしたっけ」

 

「その通りだ。まぁ、アレは私の見立てでは相当に弄られていたみたいだがな。とまぁ、国の技術力自体はこんなものだが、かの国にはオズロッソ財団という優れた造船企業が存在する。この国の艦船が持つ高い汎用性も、彼等の技術貢献があってこそのものだな。低コストで入手しやすく、かつ弄りやすい。尖った部分こそないものの、逆にそれが利点とも言える。一考の価値はあるだろう」

 

 サナダさんは、そう言い切って解説を締めくくった。

 

 話を聞く限りでは、そう悪い選択では無さそうだ。攻撃力ならどうせマッド共が(以下略)………だし。時代は安さと汎用性なのよ。

 

「最後はロンディバルトだな。名前ぐらいは、艦長も聞いたことがあるだろう」

 

「えっと………確か、〈ブクレシュティ〉の基になった船を設計したとこだっけ?」

 

「その通りだ。結論から言うと、私はこの国の艦船設計を、今後の我々の艦船設計の基礎とするべきだと考えている」

 

「大胆ですねぇ。貴方が褒めるなんて、そこまでのものなんですか?」

 

 ヒュー、と口笛を鳴らしながら、ブロッサムの奴が彼に尋ねた。

 私もサナダさんがそこまで褒めるのは予想外で、理由が気になると言われたら気になる。

 

「以前にも何処かで話したとは思うが、ロンディバルト艦船の設計は高い拡張性と汎用性、そして豊富なバトルプルーフの蓄積に裏打ちされた戦闘能力にある。前者はネージリッドとエンデミオンも備えているが、後者はロンディバルトの特権だ。それ故に、稼働率といったカタログスペック以外の部分も非常に優れている。最近はあのオズロッソ財団も技術支援しているという噂もあるからな。その完成度は、非常に高いものになっているだろう」

 

 これでもかと言わんばかりに、サナダさんはロンディバルトの艦船設計を誉めちぎる。どこでそんな知識を手に入れてくるのかは謎だけど、そこまでサナダさんが誉めるのなら………と私の思考も引き摺られてしまう。

 

「加えて、我々には〈ブクレシュティ〉の運用、改造の経験がある。艦船設計や運用に関する知見なら、かの国が最も蓄積されていると言っても過言ではないだろう。それにロンディバルトは大国だ。それだけにこの国の艦艇も広く流通している。部品には、余程のことがない限り困らない。補給面も心配ないな」

 

 続々と、ロンディバルト艦船を採用したときのメリットが挙がる。それだけ誉められたら今度は逆に、何か欠点は無いものかと気になってしまうのだが、サナダさんが語った言葉にはそれらしいものは見当たらなかった。

 ………まぁ、〈ブクレシュティ〉を運用していてなにか困ったことがあった訳でもないし、欠点を洗い出すには充分な期間、彼女を運用している筈だ。その上でサナダさんはロンディバルトを推しているのだから、本当に大きな欠点は無いのだろう。

 

「…………よし、決めた」

 

「決めたって………何がです?」

 

「これからの艦隊再建の方針よ。ロンディバルトでいいわ。サナダさんがあれだけ推すんだから、それでいいわよ」

 

 私は即断で、決定を下した。

 

 アイルラーゼンは面倒くさいし、エンデミオンは特になし。ネージリッドとは一長一短だけど、やはりここは経験があるロンディバルトに軍配が上がる。

 

「感謝する、艦長。では早速、新造艦船の手配に取りかかるとしよう。期待して待っててくれ」

 

「はいはい、程々に期待してるわ」

 

「それじゃあ私も彼の手伝いがありますので、この辺りで失礼しますね~」

 

 サナダさんは早速、艦船設計のためか、席を立ち上がってそそくさと部屋から出ていってしまった。ブロッサムの奴も、最後にそれだけ言うとサナダさんと一緒に部屋を出ていく。

 

 会議室には、暇を持て余した私と早苗だけが取り残された。

 

「………良かったんですか?あれで」

 

「いいも何も、私は専門家じゃないんだし、ただ話を聞いて判子を押すだけでいいのよ。詳しい人に任せた方が、何事も上手くいくものなのよ。素人の浅知恵なんて、所詮付け焼き刃でしかないんだから」

 

「それはそうですけど………」

 

 早苗は何処か不満げに、あっさりとサナダさんの案を承認した私をじーっと見つめていた。

 

「―――もしかしたら、遺跡船艦隊のロマンを潰された怒りとか?」

 

「……そんなんじゃないですよーだ」

 

 ぷい、と顔を背ける早苗は、明らかに拗ねているように見える。早苗が拗ねる理由なんて、それぐらいしか思い付かないのだけど………

 

 そもそも、ロマンなんてあの移民船だけで充分だ。実用品にまでロマンを求められていたら、今は良くても本格的に再起したときのお財布の紐が危ない。狂った蛇口の如く、じゃぶじゃぶと電子マネーが溢れ落ちてしまうだろう。

 

 ………と、早苗への抗議を心の中で並べていたら、いつの間にか拗ねた彼女は何処かへ言って、品定めするようにじーっと私を見つめる彼女の姿があった。

 なにかを考えているのか、難しい顔をしながら若干眉間に皺を寄せている彼女の仕草は、なんだか愛玩動物を思わせられる。

 

 だけどコイツがそんな可愛い存在に収まる筈もなく、次の瞬間にはぶっ飛んだ言葉が彼女の口から吐き出された。

 

「そうだ霊夢さん!――――ここでいつもの!やっちゃいます?」

 

「いつもの?―――って、はぁ!?」

 

 いつものって、アレ?もしかして、ここで!?

 

「い、嫌よそんなの!部屋ならともかく、誰かが入ってくるような場所でだなんて」

 

 何を考えているのか―――と続けようとしたところで、ぐいっと身を乗り出した早苗に覆い被られて、耳元で妖しく囁かれる。

 

「………いいでしょう?霊夢さん。誰もいない会議室、残されたのは二人だけ。これで何も起こらない筈がありません。――――さぁ!観念して霊夢さん(の力)を私に捧げてください!!」

 

「いいも悪いも、そこまであんたに気を許した覚えは…………っ、ちょっ………ぎゃああああぁぁぁ!?」

 

 

 

 …………この煩悩巫女、いい加減何とかしないといけないかもしれない………




――しばらく霊夢は、早苗に口を聞かなかったそうな。


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第九六話 少女ノ深層

此方に本作「夢幻航路」の続編構想を先行公開しております。盛大にネタバレがあるので、その点ご注意下さい。私は某副監督とは違って、ネタバレはちゃんと一手間置きます(笑)
https://syosetu.org/novel/185755/
また関連して、上記の先行公開をご覧になられるのであれば最新の活動報告も参照頂ければ幸いです。


ちなみに、「博麗幻想郷(Ⅰ)」が抜け落ちてるのは誤植でもなんでもないです。


 闇、闇、闇―――――――

 

 一面を漆黒で塗りつぶした、つめたい世界………

 

 星のような彩りも、太陽のように道標となるべき灯台すらない、原初の闇。

 

 もし宇宙(せかい)の終わりがあるのだとしたら、きっとこんな風景になるのだろう。

 

 ゆらゆらと陽炎の如くこんな世界に浮遊しながら、ふと、そんなことを考える。

 

 自分がただ浮かんでいるのか、はたまたゆっくりと沈んでいるのか、そもそも存在しているのかすら怪しくなるほど無意味で無機質な、何処までも続く闇の世界………

 

 胸を貫く錆びた鎖は何処に繋がっている訳でもなく、ただ私の心臓(まんなか)を縛り付けては、なけなしの熱を奪うばかり。冷えきった闇に曝されて、凍てついた鎖に縛られて、指を動かす気力すらも沸いてこない。

 

 

 ―――さむい、よ………

 

 

 唯の少女(よわいじぶん)はその冷たさに耐えかねて、縋り付くように温度(だれか)を求める。

 ………だが、助けなど来ない。来る筈がない。

 

 

 ―――何故なら此所は、私が望んだ悪夢()なのだから………

 

 

 此所は夢、私の世界、泡沫の終末。博麗霊夢の見る深層心理。博麗(わたし)少女(わたし)を殺し続けて、少女(わたし)博麗(わたし)を罰し続ける、絶望の循環。

 

 故に、誰も此所を訪れることなどできない、知ることすらない。永遠に独りぼっちな孤独の牢獄、死ぬまで続く禁固刑。

 

 

 そんな世界に、有り得ない色が混ざり込んだ。

 

 

 視界の先が、一点、黄金色にきらきら輝く。

 

 その輝きは次第に大きさを増していって、遂には闇が取り払われたと錯覚するぐらいには、私の視界を埋め尽くした。

 

「―――よう。久し振りだな」

 

 何処かで聞き覚えのある、濁った声。

 

「なんだ?返事すら無いのか。くくっ、逢う度に噛みついてきたのがまるで嘘みたいだな、え?楽園の素敵な巫女さんよ」

 

 それが魔理沙の声だと気づくまでに、十数秒の時間を要した。

 

 ―――最も大切だった筈の彼女の声でさえ、こんなに霞んで聞こえるのも、やはり罰なのだろうか。

 

 死期を前にした老人のように、耳が遠い。

 彼女が言っている台詞でさえ、半分ぐらいは何を言っているのか分からない。

 

 ―――怒っている、のだろうか。

 

 返事がない私を前に、無愛想な奴だ、と罵っているのかもしれない。

 

 でも、ごめんなさい、魔理沙……………

 

 何を言っているのか聞こえないようだと、どんな言葉を返したらいいのかも分からないの。

 

 ―――そもそも、魔理沙を■した私が今更彼女と昔のように話すなんて、それこそ有り得なくて、許されない話………

 

「………まさか、本物がここまで弱ってるとは思わなかったぜ。お前がこんな有り様なら、あいつらが植え付けた偽物の方がまだマシだ」

 

 魔理沙がまた、何か言っている。

 

 遂にはその全てが、悉く分からなくなった。

 

 ただ魔理沙の音だけが、くぐもった淡い音色が鼓膜に響く。

 

「………哀れだな。見てられないぜ。だけどまあ――拾ってやるぐらいはしてやるよ。昔のよしみで、それぐらいのことはしてやるよ。元々、それが目的な訳だし」

 

 光が、近づいてくる。

 

 手を伸ばすように、光が私を包み込む。

 

「しかし、皮肉なものだな。…………私を殺したお前は完膚なきまでにぶっ壊れて、お前に殺された私はまだ、何とか自我を保ってられてる。………まぁ、色々弄られたことに変わりはないがな。尤もこの身は、霧雨魔理沙というよりはその残骸に過ぎないのだが。………まぁ、残骸(亡骸)どうし、仲良くやろうや」

 

 光のなかに、魔理沙がいるのか。だけど幾ら光に包まれていても、一向に彼女の姿は見えない。

 

 その姿だけでも、一目見ることすら叶わないのか。

 

 ―――やはり、これも罰なのだろう。

 

 今更ながら、視界すら霞んでいるようだ。

 

「ほうら、迎えにきたぜ、霊夢。壊れたオマエに、最期の居場所を与えてやるよ」

 

 触覚すら、今の私には曖昧だった。

 

 だけど、彼女が私の手を取ったことだけははっきりと分かる。今までと違う温度を手先に感じて、辛うじて、彼女の存在を感じることができた。

 

 

 ―――伸ばされた手は、屍のように冷たかった。

 

 

 ..........................................

 

 

 .....................................

 

 

 ................................

 

 

 ...........................

 

 

 

「うっ、ん…………」

 

 瞼に差し込む光に身体が耐えかねたのか、朧気だった意識が次第に明瞭になっていく。

 

 目覚めの感覚は、最悪だ。

 

 内容こそ覚えていないものの、悪夢のようなものを見ていた気がする。―――いつものように、魔理沙を手に掛ける光景ではなかったような気がするが、それでも胸の内に残った靄のような気味悪さと寒気は消えない。

 

「あ、おはようございます霊夢さん」

 

「―――ん、おはよ……」

 

 傍らから響く、澄んだ声―――

 

 いまや私の右腕といっても過言ではない同郷の友人、早苗の声だ。

 

 悪夢のせいで、もやもやと残る胸糞の悪さに引きずられたのか反応が遅れてしまうが、挨拶だけはしっかりと返しておく。が、自らの口から出たのは小さくて、間の抜けた寝ぼけた声だ。それを見てか、早苗がくすり、と笑いを溢す。

 

「ふふっ、可愛らしい寝起きですね」

 

「な、何よ。文句でもあるの?」

 

 目覚めた矢先にいきなり笑われては、不機嫌にもなるというもの。まぁ、そのお陰で胸糞の悪さが吹き飛んだのだけはは感謝してあげる。ただ嗤うのは別だ。別の方向で機嫌が悪くなる。

 私はよく分からない事情で笑う早苗に向けて、抗議の台詞と目線を送った。だが早苗は、慈しむような柔らかい雰囲気を纏ったまま、私の肩に垂れる髪を撫でた。

 

 ―――そんな彼女の表情が、ふと、記憶に刻まれた(ゆかり)と被る。

 

 ………っ!?

 

「………どうかしましたか?霊夢さん」

 

「ゆか………り………?」

 

 ―――彼女の表情で、何もかもか吹き飛んだ。

 目覚めに感じた、胸糞の悪い悪夢の残り香も、早苗の挑発で上った血も、一瞬で心の底まで鳴りを潜めた。

 

 月光のように、寒さとあたたかさを併せ持った慈母の如き微笑みが、何故か、よりによってあの胡散臭い(一番信頼してる)スキマ妖怪と被って見えた。

 

「う、ううん………何でもないの」

 

「むっ、そういう訳にはいきません!他の女の名前を呼ぶなんて不義理です!!ふんっ、霊夢さんのことなんて知りませんよ!?」

 

 あの微笑みはあっという間に崩れていき、早苗はぷんすかと、わざとらしく怒って顔を背けながら言い放った。―――その様子がひどく滑稽で、思わず私も笑みを溢してしまう。

 

 ―――やはり、あの声は聞こえていたらしい。

 

 面倒な空気にはなったが、ころころと表情が変わる早苗が面白くて、ついつい気分が和む。

 

「ふっ………クスッ。――いやぁ、あんたって相変わらず五月蝿いけど面白いわね」

 

「むうっ!何なんですかその言い方は!?馬鹿にしてるんですか!?」

 

「ふふっ、ごめんごめん…………やっぱりあんた、面白いわ」

 

 先程までの聖母のような慈しみは何処へやら、今の早苗は、すっかり相手の気を引こうと可愛らしい意地悪を繰り返す子供にしか見えなかった。

 その矛盾がやっぱり可笑しくて堪らなくて、また笑い声が溢れてしまう。―――今度は、魔理沙と一緒にいたときのような、陽光にも似たあたたかさ………

 

 そんな私の顔をみながら見ながらうーっと唸り続けていた早苗だが、ふと彼女の表情が一転する。

 

 可愛らしく頬を膨らませた幼子から、不穏な悪戯を思い付いた幼子のそれへと。

 

 再度の豹変を前にして、ぞくり、と背筋が凍る。

 

 ―――そうだ、この表情は………

 

 彼女が何か、よからぬことを口走る寸前の顔だ。

 

 私は即座にその場から逃げ出そうと布団を蹴るが、果たしてそれは間に合うことなく、早苗の口から爆弾が飛び出した。

 

 

「………霊夢さん、昨日はあんなに乱れていた癖に」

 

 

「ぐっ…………!?」

 

 早苗の口から飛び出した爆弾発言、それは昨夜の逢瀬(霊力供給)を揶揄する台詞だった。

 

「ばっ……馬鹿じゃないの!?それはあんたが……!」

 

「霊夢さん、こんな言葉知ってますか?嫌よ嫌よも好きのうちって。本当は嬉しいくせに」

 

「な、何を言って………前から言ってるけど、アレはあんたが必要だからって言うからで、私はそこまで許した訳じゃ………」

 

 痛いところを付かれてしまって、らしくなく思わず狼狽えてしまう。

 なんとか言い訳じみた反論を捻り出したはいいものの、それが更に、火に油を注ぐ結果となってしまう。

 

「ふぇ!?じゃあやっぱり私とは遊びだったんですか…………!?」

 

 ―――駄目、もうめんどくさい………。

 

 昨夜、早苗に無理矢理剥かれて乱れた寝間着の襟元を今更ながら直す私に、早苗はいかにも演技だと言わんばかりの仕草で嘘泣きを始めた。

 

 大体、約束は早苗が必要だからという理由で、霊力の譲渡だけを認めていたものの筈だ。だから早苗が必要な分だけ霊力(チカラ)を吸わせてやるという建前の筈が、何をとち狂ったか私の寝間着にまで手を掛けて剥き取ろうとして………その、一応は認めてないこともないのだけれど、それはあくまでもっと慎みを持ってというか…………ああもう、止めよ止め。大体こいつは遠慮というものを知らなさすぎるのよ、私の気も知らないで。

 

 ―――そもそも、やっぱり私が誰かと求め合う資格なんて…………

 

 そうよ、だからせめて、建前は守って欲しいのに、こいつはいつもずかずかと―――図々しいのよ………

 

 火がついてしまえば延々と燃え広がる大火のように、一度はすっかり鳴りを潜めた筈の負の感情が、間欠泉のようにどばどばと心の底から溢れ出す。

 

「………霊夢さん?」

 

 途端に静かになった私を訝しんでか、心配そうに顔を覗かせる早苗。

 

 ―――本当に、どうしてこの娘は………

 

 私のことなんて何も分かっていない癖に、そうやって私を一番に考えてくれる。なんで、私なんかに。こんなに醜い、人の形をしただけの血に濡れた絡繰人形に。

 

 どうして………

 

「………………」

 

 魔理沙とは、生涯腐れ縁のままだった。

 

 お互いに、意図して表層しか見ていなかったから。

 

 紫とは、思うだけ一緒に居られなかった。

 

 お互いに、成すべき役割と立場があったから。

 

 魔理沙は私にとって、届かなくても傍らで輝き続ける太陽()でいて欲しかった。

 

 紫は私を分かってくれた上で接してくれていたみたいだけど、立場がずっと邪魔をしてた。

 

 だけど早苗は、この娘は………

 そんな垣根なんて簡単に飛び越えて、私の心に居座ってしまう。しがらみなんて打ち壊して、ずかずかと土足で他人の深層に上がり込む………

 私の中なんて貴女が思うほど綺麗じゃないのに、どうしてここまで、早苗は私の隣にいることを望むの……?

 

 ………こんな様では"空を飛ぶ程度の能力"なんて自分から言うのが馬鹿らしくなる。

 ………地に縛られているのは私の方で、よっぽどこの娘の方が、空を飛んでいるじゃない。

 

 そう考えると、自分の姿が酷く滑稽に思えてくる。

 

 私はもう巫女ではない筈なのに、心は未だに"博麗の巫女"のまま。

 対して早苗はまだ風祝を続けている癖に、その有り様は天真爛漫、自分がまま。

 

「………霊夢さん、やっぱり何かあったんですか?」

 

 早苗の問いに、私は答えられない。

 

 ………応えてしまえば、早苗との距離感が今よりもっと縮まってしまいそうで………それは、駄目。

 今の距離感が最大限妥協した上でのもで、それでも唯でさえこうして惹かれてしまっているというのに、本当に全部許してしまったら………

 

「―――さっきまで黙ってましたけど、私……また見てしまったんです。霊夢さんが、魘されている様を。―――あのときみたいに、また悪い夢でも見たんですか?」

 

 早苗の問い掛けは微妙にずれてはいたものの、原因がそれに近いことは確かだった。

 

 ―――何も見えていないようで、やっぱりちゃんと見えているじゃない………ばか。

 

「………うん、そうみたい。―――昔みたいに、内容まではっきりと覚えていないのだけは救いだけど」

 

「そう、ですか………」

 

 ここまできたら、もう隠すことなんて出来ないだろう。

 

 私は素直に、早苗の指摘を認めた。

 

 直接悪夢に起因する訳では無いのだけれど、そもそも悪夢を見る原因が、この醜い身体にあるのは確かなのだ。なら、どっちだって同じことだ。

 

「―――大丈夫ですよ、霊夢さん。いつでも私が隣にいてあげますから」

 

「………ありがと」

 

 ぼそり、と小さく感謝の念を贈る。

 早苗の耳元でしか聞こえないぐらい、小さな声で。

 

「はい。だからもう、怖くなんてないですよ―――」

 

 そして早苗は私をあやすように囁くと、私の身体を抱き止めた。

 

「さな、え………?」

 

「………もう、駄目ですよ霊夢さん。貴女は一度、私を受け入れるって言ってくれたんですから。今更逃げるなんて、そんなの私は許しません。大人しく癒されていて下さい」

 

「そう………だったわね。ごめんなさい」

 

 昔みたいに、拒絶することなんてできない。

 

 だって私は、あのとき悪魔(早苗)の手を取ってしまったのだから。

 

 今更断っておけば良かったなんて、後悔するにはあまりにも遅すぎる。

 そして私は、不思議とあのときの選択を、後悔する気にはなれなかった。

 

 やはり、無意識のうちに自分は救いを求めているのだ。幾ら一人になろうとしても、心はそれを拒絶する。今の早苗が魔理沙や紫に重なって見えたのも、昔のように、隣に居てくれる存在を強く望んでいる証拠だ。

 ―――いや、早苗は彼女達とは違って、容易に壁を飛び越えてくる。そんなところに、私は惹かれていたのかもしれない。

 

 魔理沙からの好意には、敢えて目を向けないように努めてきた。私の泥が太陽(星光)を、汚してしまうことがないように。彼女の好意がどんな性質のものだったか、今となっては、その真意は分からない。―――あのいけすかない人形師と、上手くやっていることを願うばかりだ。

 

 紫のそれは………どちらかというと、親子や歳の離れた姉妹のような………そんな感じがした。唯一、本当に心を曝け出して甘えることができた相手、ただ一人、弱みを見せることができた人。

 だけど彼女は妖怪で、私は人間。幻想の賢者と、博麗の巫女。私は誰にでも平等でなければならず、例外は許されなかった。お互いの立場が、関係を歪なものにしていた。

 

 だけど早苗は、一切の柵を無視して私だけを見てくれている。伸ばされた手を、掴みとれる距離にいてくれる。俗っぽくてどこか抜けてるところが、寧ろ垣根を越えてくるのに一役立ってくれている。………彼女がこんなにも私へ入り込んでくる理由が、私が博麗でなくなったせいかもしれないけれど、――それでも嬉しいと思えるぐらいには、人並みの感情が私にも残っていた。

 

 昔はただの、ライバルの同業他社な知己でしかなかったのに、今ではこんなにも、彼女のことが愛しい。

 

 早苗ならば、私の泥なんて平気で跳ね返してしまいそうな、不思議とそんな安心感があった。―――だから、私も彼女の隣にいるという選択ができたのかもしれない。

 

「いえ、構いません。―――今はまだ難しくても、ゆっくり変わっていけばいいんですから。この際、他の女の名前を呼んだのは不問にします」

 

「………ふふっ」

 

「もう何ですか霊夢さん!また笑ったりなんかして。………私ががんばって癒してあげてるのに」

 

「いや………あんたと居ると、落ち着くなぁって」

 

「そ、そうですか……?えへへ、―――れ、霊夢さんの役に立ててるのなら、私も本望ですけど」

 

 えへへ………と早苗が、蕩けた笑みを私に見せた。

 

 その表情は心底嬉しそうで―――やっぱり、それだけでも彼女を受け入れてよかったと思えてくる。

 

 早苗の隣にいると、不思議なことに、私の泥が洗い流されていくように感じた。

 

「だから―――、一つだけ、霊夢さんのお願いを聞いちゃいます」

 

 さぁ、何でもどうぞ!と言わんばかりに、私の身体から離れた早苗は両手を広げる仕草を取った。

 

 ―――えっと………なににしよう………

 

 お願い……なんて言われても、いきなりそう思い付くものではない。流れからして、甘えさせようとしてくれているのは何となく察しがつくんだけど……

 

「じゃ、じゃあ………」

 

 ―――思い浮かんだ願いは、たった一つ。

 

 でもその願いがあまりにも馬鹿馬鹿しくて、口にすることすら憚られる。

 

 だけど、私は………どうしてか、アレが欲しくて堪らなかった。―――いや、贈られたかった……

 

 

「………毒人参、ちょうだい―――?」

 

 

 直後、「へぇっ!?」という、早苗の間抜けな声が響いた。

 

 

 .........................................

 

 

 .....................................

 

 

 ................................

 

 

 ............................

 

 

 

「………もう、びっくりさせないで下さいよ、いきなりあんなこと言い出すなんて」

 

「ごめんごめん、その………つい、欲しくなっちゃって………」

 

 廃艦状態の〈開陽〉と現旗艦〈ネメシス〉を繋ぐ渡り廊下を、私と早苗は並んで歩いていた。

 

 昨夜は廃墟と化した〈開陽〉の神社で眠っていたので、これから仕事に向かうには、この道を通らなければならない。

 ちなみに今は2隻とも移民船の宇宙港に並べられていて、移民船から〈ネメシス〉、そして〈開陽〉と渡れるように特設の廊下がそれぞれ設けられていた。

 

「―――理由、聞いてみてもいいですか?まぁ………これで大体察しましたけど」

 

 そう言いながら早苗は、髪飾りと一緒に指していた二輪草を、手に取って弄ぶ。

 

 あの花を欲しがった理由………恥ずかしくて全部言える訳もなく、私は表向き用意した理由だけを早苗に語った。

 

「うん………その、ね?………昔のことを思い出して、それで………」

 

「昔のこと……?幻想郷のこと、ですか?」

 

 小さく縦に頷いて、私は早苗の言葉を肯定する。

 

「あのね………昔、魔理沙からそれを贈られたことがあったの。"ドクニンジンのサラダ"なんて、可笑しいでしょう?こいつは私を殺すつもりなのかと思ったわ。………まぁ、ただの悪戯だったんだけど」

 

 一見早苗とは、なにも関係無さそうな理由………だけど、私はあの花に込められた意味を知っている。

 

 ―――魔理沙がアレを贈った真意は今となっては確かめようもないが、それでも………あの花に込められた意味が真だとしたら、彼女はやっぱり、薄々と気が付いていたのかもしれない。

 

 だから本当は、私の方から贈るのが正しいのかもしれないのだけれど、あんな可愛げのない毒草を、星のような早苗に贈る訳にはいかなかった。―――あまりにも、似合わない。………だから私が、貰っておく。あのときとは意味の向けられた方向が逆だけど。

 

 きっと私より女の子らしい早苗のことだから、込められた意味も、お返しで贈った二輪草で気付いてくれるかもしれない。

 

 二輪草なら、愛らしい彼女にも似合っているし、そして語呂合わせも意味も、丁度いい。

 

 

 ―――私が愛を向けた人は、同時に私の命取り………

 

 誰にでも平等でなければならなかった私にとって、誰かをそれ以上の特別にしてしまうことは許されざることだった。

 

 魔理沙には一歩踏み出すことすらできず、紫とは少ししか一緒に居ることができなかった。……早苗なんて、多少覚えのいい有象無象だ。そこそこ仲は良かったとは思うものの、ただそれだけ。決して特別には成り得ない。

 

 それが漸く解放されて、やっと余裕が出来たのかもしれない。だけど未だに、私のあり方はあの頃に囚われていた。思い出さないように心がけても、一人のときは、ふと何かの拍子に沸き出してしまう。

 

 ―――誰かを"特別"にしてしまうと、それが錘になってのし掛かる………

 

 そんな私には、未だにあの言葉がお似合いなのだ。

 

「はぁ………回りくどいですねぇ、霊夢さんは。そんなのが表向きの理由だなんて、簡単に想像ついちゃいますよ」

 

 ………やはり、早苗には何もかもお見通しだった。

 

「そもそも同時に二輪草を贈っておいて、毒人参を欲しがる理由がそれだなんてあり得ないです。毒人参は花言葉は"死も惜しまない"。―――そして、"貴女は私の命取り"。この意味が自分みたいだ、とか、どうせそんな理由なんでしょう?魔理沙さんも、霊夢さんのことをよく見てたんですねぇ。―――本当、今の霊夢さんにぴったりです。束縛は嫌う癖に、それでいて生への執着は薄い。誰かを特別にする度に、死んじゃいそうなぐらい苦しんでる。………どこまで自虐的なんですか」

 

「ううっ………」

 

 なんだか、説教されているみたい。

 

 早苗はこういうとき、お姉さんぶるような態度を取る。だけど不思議なことに、それが嫌な気はしなかった。

 

「ちょっと、聞いてるんですか!?」

 

「う、うん………だいじょうぶ、ちゃんと聞いているから………」

 

「もう………本当に心配してるんですよ?」

 

「わ、わかってるから………」

 

 突き刺さるような、早苗の視線が痛い。

 前世でも、ここまで親身になってくれる人なんて殆ど居なかった。魔理沙にはぼろを見せないようにしていたし、紫は多分、分かってたけど遠回しに警告するぐらいしかできなかった。強いて言うなら、一時期居座っていたあの仙人が近いだろう。

 けど、彼女は私の特別ではなかった。

 

「……ですが、まぁ………この花を贈ってくれたので、この件は許してあげます。また他の女の名前を言ったのも、あれだけ言ったのにまだ霊夢さんが自虐的なのも」

 

 早苗はそう言って、自らの手にある二輪草へと視線を落とした。

 

 硝子細工をそっと撫でるような手付きで、彼女は花を慈しむ。

 

 ………丁度、廃墟と化した〈開陽〉の自然ドームの中は、早春の季節だったのが幸いした。お陰でこの花を、早苗に贈ることができた。

 

「二輪草の花言葉は"友情"と"協力"に、最後の一つが"ずっと離れない"でしたね。それに二輪草は3月7日の誕生花。私の名前と、数字を掛けているんですね。………ふふっ、霊夢さんにしては上出来です♪」

 

 早苗は満足気に、かの花の意味を口ずさむ。

 

 ………やはり、褒められるのは馴れてなくて、恥ずかしい………。

 

 お世辞でも皮肉でもなく、向けられた純粋な称賛に、どう応えていいのか分からなくなる。

 そしてつい、いつものように刺のある対応をしてしまうのだ。

 

 だけど、早苗のお陰で心の中があたたかい。………頑張って、意味を調べてよかった。

 

「な、何よ………そんなにニヤニヤして………」

 

「いやぁ、いつもの可愛らしい霊夢さんに戻ってくれて何よりだなぁと。………これはやっぱり、"三番目"として受け取ってもいいんですね?」

 

 悪戯っぽい、小悪魔のような早苗の囁きが耳に響く。

 

 そんな蠱惑的で可愛らしい早苗を前に、体温がぐーっと一気に上がっていくのを感じた。

 

「……~~っ!?か、勝手にしなさいよ、もう……!」

 

 またしても、早苗に向けて威嚇じみた態度が出る。

 嫌よ嫌よも好きのうち、と彼女は言ったが、今の私は正にその通りだった。

 

「クスッ………やっぱり霊夢さん、ちょっと怒って膨れてるのが可愛いです♪」

 

 だけど早苗は、私の扱いなど馴れていると言わんばかりに、吠える私を軽くあしらってしまう。

 

 そうして余計に恥ずかしさが増してしまうのだが、早苗はそんなの何処吹く風と、終始私を振り回し続ける。

 

 ―――本当に、私の気も知らないで………っ♪

 

 今は少しだけ、早苗のお陰で気が楽だ。

 

 

 

 ........................................

 

 

 ...................................

 

 

 .............................

 

 

 ........................

 

 

 ~〈ネメシス〉作戦会議室~

 

 今日の業務のためにいつも会議室へ足を運んだのだけれど、今日はなんだか、いつもと違って慌ただしい。

 シオンさんは端末から矢継ぎ早に指示を飛ばして、サナダさんは深刻そうな表情で俯いている。

 

「あれ………?なんだか今日は様子がおかしいですね」

 

「うん………何かあったのかな?早苗はなにか聞いている?」

 

「いえ、何も………」

 

 まがりなりにも早苗は艦隊最高峰のAIで、艦隊に関する情報なら即座に彼女と繋がっているコントロールユニットに送られる筈だ。完全に東風谷早苗と化したせいで忘れがちになるが、元々彼女の身体は、サナダさんのすごい発明なのだ。

 にも関わらず何も分からないと言うのだから、事は艦隊そのものに関するものではないのかもしれない。だけど様子から見るに、深刻な事態であることは間違い無さそうだ。(そもそもこのときの私は、〈開陽〉がぶっ壊れているせいで早苗に情報が行っていないという事実を、完全に忘れていた)

 そしてやはり、いつものメンバーには焦燥感が漂っている。

 

 そんな彼らの反応を訝しみながら入室した私達に、ようやく気づいてくれたのか、サナダさんが声を掛けた。

 

「………来たか、艦長」

 

「え、ええ………なんか騒がしいみたいだけど、何かあったの?」

 

 サナダさんは、私の問い掛けを前に視線を下げた。

 

 申し訳ない、と謝っているようにも、あまりにも深刻な事態を前に悩んでいるとも、どちらにも取れるような仕草だった。

 

「………艦長、よく聞いてくれ」

 

「え?………、うん………」

 

 重苦しいサナダさんの声を前に、私はただ、頷くことしかできなかった。

 

 そして彼の口から、衝撃の事態が告げられた。

 

 

「―――霊沙君が、消えたんだ。唐突に、忽然とな」

 

 

 …………え?

 

 ―――霊沙って、アイツが………!?

 

 それを聞いた瞬間、頭の奥底に沈んでいた、あの澱んだ今朝の悪夢の記憶が、走馬灯のように脳裏を走った。




毒人参に込められた意味は、霊夢ちゃんなりのサインです。未だに心の整理がついてなくて、自分は未だ"博麗…に囚われたまま。だから誰かを特別にすることは、同時に大きな影を落としてしまう。―――30代40代ぐらいにもなればある程度は割りきれますが(何事もなければ)、間の悪いことにここの霊夢ちゃんは、肉体年齢に引き摺られて精神も幼くなっています。なので本格的にぶり返してます。

なので、"あなたは私の命取り"。

茨のドクニンジンに意味があるなら、われらが神主はやっぱりダークです(笑)………ただ、てゐにチョウセンアサガオ(偽りの魅力、愛嬌)は確実に確信犯なので、此方も単なるまりたゃの悪戯とは言い切れないのが不穏ですが………
まぁそれでも早苗さんはお構いなしに取って食って、それを忘れさせてしまうぐらいに霊夢ちゃん鳴かせちゃうんですがね。というかそれしか出来ません。ブレーキがぶっ壊れてます。ただ、処置としては悪くないです。茨でも言及されていた通り、ちょっと怒らせるぐらいが丁度いいです。愛でに愛でて、恥ずかしさで一杯にして怒らせた方が、霊夢ちゃんにとっては良い結果になります。
なので霊夢ちゃんの隣に居るのは、ぐいぐい引っ張っていくタイプの方がいいんです。ゆかりんに存分に甘えられる世界線なら大丈夫ですが、ゆかりんと比較的疎遠だと本当に一人です。金髪の子は、霊夢ちゃんを照らす太陽になることはできても、霊夢ちゃんの闇を取り払うことは出来ません。強すぎる光はむしろ、濃い影を生んでしまいます。加えてまりちゃーはヘタレです。ヘタレ過ぎて業を煮やした霊夢に喰われます(故に、マリアリの場合は人形師に籠絡されて酷いことになりますw)。霊夢を引っ張るどころか振り回されていたらお話になりません。ただ、それで霊夢ちゃんが満足することもあるので、そうなれば別に問題はないんですけど。そもそもレイマリは危うい均衡の上に成り立っています。周りが常にそれとなく軌道修正してあげるか、当人達が問題を解決しない限り、両方ともズブズブと沼に堕ちていきます。まりちゃーもかなり深い闇抱えてるからね、仕方ないね。水属性だもんね。

寧ろこれが中途半端に遠慮してしまうと、変なスイッチ入って自壊します(→レイマリBad)。実際本作では、回を経るごとに壊れかけてました。まだ壮年の落ち着きが残っていた序盤はともかく、一度早苗さんを突き飛ばした辺りでは完全に精神年齢と肉体年齢が一致してます。表面上何ともないように振る舞えていたのは、幸い本屋の娘も金髪の子も手に掛けることがなかったからです。このタイミングならまだ間に合います。一方で、間に合わなかった博麗霊夢は………
それが本能的に分かっているので、早苗さんはとにかく全力で霊夢ちゃんを愛でにいきます。気を抜いたら離れてしまうと察しているから、変態と罵られようと霊夢ちゃんから離れません。トリモチランチャーで無理やりくっ付くぐらいの勢いです。それとなく空気を察して控えめになることはあっても、その代わり夜は普段以上にベタついてきます。そんな早苗さんには、やはり二輪草が似合っていると思うのです。丁度"3月7日は早苗さんの日"ですからね。


………霊沙の正体、流石にもう気付かれましたよね?


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第九七話 博麗霊夢

The shaman's remnant 巫女の残滓

抑止の巫女は、かくして天に墜ちた。


「あいつが………消えた!?」

 

 突然もたらされた、衝撃の事実。

 

 同時に、脳裏に刃が貫通したような、熱い痛みが迸った。

 

「うっ―――ッ!?」

 

「霊夢さん!?」

 

 

 ―――よう。久し振りだな。

 

 

 ―――まさか、本物がここまで弱ってるとは思わなかったぜ。お前がこんな有り様なら、あいつらが植え付けた偽物の方がまだマシだ。

 

 

 ―――哀れだな。見てられないぜ。だけどまあ――拾ってやるぐらいはしてやるよ。

 

 

 ―――ほうら、迎えにきたぜ、霊夢。壊れたオマエに、最期の居場所を与えてやる。

 

 

 聞いたことがない筈の、台詞の数々。

 だけど何処か既視感があって、他人事とは思えない。

 その既視感が何なのかは、すぐに分かった。

 

 ………これは、今朝の悪夢だ――

 

 あのときは、正体不明な胸糞の悪さしか残ってなかった今朝の悪夢。だが今になって、その正体を掴むことができた。いや、無理矢理掴まされたと言うべきだろう。

 

 ………あれは、夢なんかじゃない。

 

 私にとっては夢であっても、()()()()()()()夢ではなかった。―――現実だ。

 

 何故あいつの記憶と私の夢が混線したかは定かではないが、あいつが消えた理由なんてあの夢以外に考えられない。

 

 ――出し抜かれた………ッ!

 

 最初に抱いたのは、焦りだった。

 

 十中八九、この事態はあの偽物魔理沙が引き起こしたものだと直感した。しかも、あいつはオーバーロードの尖兵だ。そんな彼女が動いたということは、彼等が此方に対して何らかの行動に出たということを意味する。即ち、私達は彼等に先手を打たれた。

 

 同時に、背筋にぞくりとおぞましい寒気が通る。

 

 今まで、敢えて見ないようにしてきた可能性。私がずっと目を逸らし続けてきた現実が、ここにきて一気に刃を降り下ろした。

 

 巫女でなくなった筈なのに………もう博麗じゃない筈なのに、未だに続くあの悪夢。

 あれは醜い私を映し出す鏡であったと思っていたけど、………彼女がそうであるならば、()()によってあの悪夢がぶり返してしまったのだ。

 そして夢の中での、アイツの言葉………

 アイツは霊沙(あいつ)を、私の名前で呼んでいだ。

 それが指し示す答えは、一つだけ………

 

 ―――悪い予感ほど、当たるっていうけどさ……

 

 まだ、そうと決まった訳ではない。否定する材料も、あるにはある。だけど間の悪いことに私の勘は、その可能性が真実だと声高に告げていた。

 

「霊夢さん、大丈夫ですか!?」

 

「うん………まあ、ね………。―――サナダさん、アイツが消えたときの様子とか、分かる?」

 

「うむ。それならシオン君が映像を持っている筈だ。医務室は彼女の管轄だからな」

 

 私は想像したくもなかった現実から目を逸らすために、サナダさんにそう尋ねた。

 サナダさんは私の質問に答えると、シオンさんに視線を向ける。

 彼女はそれで察したのか、会議室中央にホログラムの映像を表示した。

 

「はい。ではここからは私が説明します。―――結論から言うと、映像をもってしても原因は不明です。まずはこちらをご覧下さい」

 

 ピッ、と短く起動音が響いて、映像が始まる。

 映像は監視カメラのものらしく、寝ている彼女を天井から映していた。

 

 映像の中の霊沙は、ひどく震えていた。

 

 ―――今朝の悪夢と、同じだ………

 

 彼女は必死に、布団を抱き寄せて踞る。

 

 今朝の悪夢で聴いた彼女の叫びが、頭の中で反芻した。

 

 寒い寒いと夢の中で凍えていたアイツは、現実ですら痛ましいほどに凍えていた。

 

 苦しそうに天井に向かって手を伸ばし、縋るようになにかを掴み取ろうと試みている。だが掌は、虚しく虚空を切るばかり。何も掴むことはない。

 

「………ここ数日は、ずっとこのような調子でした。一旦は、回復する素振りを見せたのですが………」

 

 伸ばされた手がばたりと布団に倒れたところで、シオンの説明が入る。

 皆、映像の中の霊沙を凝視して見守っていた。

 

 映像の中の霊沙は、もがくように両手をばたつかせて必死になにかを求めている。

 しばらくその仕草が続いたが、次第に手を動かす速さが落ちていく。そしてやっと求めていたものが掴めたのか、彼女は両手をばさりと落として安らかな寝顔を見せた。

 

「うっ、ッ……!?」

 

 隣にいた早苗が、突然口元を押さえる。

 

「さ、早苗……!?」

 

「れ、霊夢………さん……、あれ………」

 

 何事かと彼女に声を掛けると、彼女は口元を抑えたのとは逆の手で、ホログラムの映像を指した。

 早苗に促されるまま映像をよく凝らして見ると、信じられないことに霊沙の身体が腐り始めていた。

 

「――!?」

 

 声にならない叫びが、喉元で塞き止められた。

 

 皮膚は爛れて中身が丸見えになっていき、燃え広がる火事のようにどんどん皮が溶けていく。

 肉は腐り果ててぼとりと落ちて、文字通り蒸発して消えていく。

 溢れ落ちた血液は一瞬だけ布団を真っ赤に濡らして、その後には何事もなかったかのように白い布団が残されていた。ぽとり、と滴る血液も、床に落ちる前に蒸発する。

 

 最期は人形の身体だけになって、その人形ですら灰の霧になって消えていった。

 

 それを最後に、映像はぷちっと途絶えた。

 

「な、何が………起こったん………ですか……?」

 

 震えながら、早苗が疑問の声を絞り出した。

 優しい彼女なら、あまりにもショックな映像を前に茫然自失となりそうなものだが、それを何とか堪えているようだった。

 

「………映像にあった通り、文字通り彼女は"蒸発"しました。原因は不明です」

 

 淡々と告げるシオンさんの額にも、脂汗が滲んでいた。

 

 原因は不明―――彼女はそう言っているが、私は原因を知っている。

 

 他ならぬあの夢が彼女の見た記憶だというのなら、理由なんぞ分かりきっていた。

 

「―――オーバーロード」

 

 下手人の、名を告げる。

 

 犯人を告発する声は、不気味な静寂に包まれた会議室ではよく響いた。

 

「オーバーロードだと?何故分かる」

 

 最初に疑問を呈したのは、サナダさんだ。

 誰よりも科学的思考を重んじる彼からすれば、そこに至るまでの経緯が不確かな故に反論せざるを得ないのだ。

 

「……確かに彼女はオーバーロードの尖兵でしたが、それを持って決めつけるのは早計では?」

 

 続いて、シオンさんが反論する。

 確かに彼女の言うとおりではあるものの、証拠を掴んでいる私には響かない。

 

「………霊夢さんは、何か知っているんですね――?」

 

 早苗は私の言葉に反論せず、理由を尋ねる。

 彼女は他の二人と違って、私の告発を否定しなかった。

 

 私は、彼女には何も言わず頷いた。

 

「―――今朝のことよ。私の悪夢(ユメ)に、アイツの記憶が混ざりこんだの」

 

 独白を始めるように、私は彼等の関与を示す証拠を語る。

 会議室の面々は、息を呑んで私に注目していた。

 

「そこにアイツが現れたのよ。あのマリサがね。んで、アイツは凍えていた霊沙を何処かへと連れていった。―――ちょうど、映像での仕草と一致してる。最初あいつは凍えていて、マリサに連れてかれるときは死人みたいに安らかだったわ。―――私も、サナダさんからあいつが居なくなったって聞いて思い出したんだけどね」

 

 一瞬の、沈黙が支配する。

 

 これではやはり、決定打に欠けていたかと落胆しかけたが、そこで思わぬ援護射撃が飛んできた。

 

「―――なるほど。話自体は荒唐無稽ではあるが、艦長が言うからには真なのだろう」

 

 驚くことに、サナダさんが私の話を全肯定したのだ。

 誰よりも理屈を重んじる筈の彼が、"私だから"という理由で肯定した。信じられないことだが、彼はそれで納得してしまったらしい。

 

「どういうことですか?サナダ主任」

 

「なに、簡単なことさ。―――我々の艦長がそう言うのであれば、それが真だということさ」

 

 納得できない様子のシオンさんはサナダさんに尋ねるが、彼は飄々と、さも当然のことを語るかのように告げた。

 未だにわからない様子のシオンさんに、サナダさんは噛み砕いて説明する。

 

「つまりだな、霊沙君が消える直前に見た記憶が、艦長の夢に()()したのだ。艦長と霊沙君には、明確な縁がある。―――それも、姉妹なんて霞んで見える程のな。今は詳しく語らんが、それが原因で一時的にチャンネルが繋がってしまったのだろう。考えられる原因はそれだ」

 

 なるほど、と全員が納得の表情を浮かべた。

 例えよく分からないことだとしても、サナダさんが言うからにはそうなのだと、不思議と納得してしまう力が彼の話にはあった。

 

 ―――やっぱり、サナダさんは気づいて………

 

 そして、彼が語った"縁"。

 姉妹なんて霞んで見える程、という彼の台詞。

 ………やはり彼は、アイツの正体に勘づいているのだ。ここで敢えて語らないのは、(ひとえ)に私への配慮だろう。

 

 そんな気遣いをしてくれるサナダさんに、私はぞっと、心の中でだけ感謝を述べた。

 

 ―――何れは、向き合わなきゃいけないっていうのにね……

 

 私の姿勢は、ただの逃げでしかない。理論明晰な彼の手にかかれば、あっという間に暴き出して白日の下に晒すことだって出来ただろう。だけど彼は、そうしなかった。

 その事実に、ちょっとだけ嬉しくなる。

 早苗以外にも、確かな繋がりを感じられたから……

 

「………霊夢さん」

 

「どうしたの?早苗」

 

 私の名を呼んだ早苗は、どこか怯えているようだった。

 

 突然、彼女が私に抱きつく。

 

「―――えっ?」

 

 二人きりの時ではなく、公衆の面前でという事実を前にあっという間に頭に熱が上っていくが、早苗の言葉を前にして、それも冷や水を浴びせられたように収まった。

 

「―――霊夢さん、貴女だけは離しません。あいつらの下になんて行かせません。だから………安心して下さい」

 

「え!?う、うん………」

 

 私は、困惑した返事しか返すことができなかった。

 早苗が真面目に言っていることは分かるのだが、私の頭が彼女の行動についてけないのだ。それがひたすら申し訳ない。

 

「………まぁ、それは置いといてだな………ともかく、霊沙君の失踪はオーバーロード―――マリサの仕業だと確定した訳だ。だが、目的が見えてこない」

 

 場の空気を糺すが如く、サナダさんが喋り始めた。

 早苗の思いがけない行動を前に茫然としていた彼だったが、やはりそこはサナダさん、立ち直りも早かった。

 

「それは、オーバーロードが彼女を消したということではないですか?霊沙さんの接触は彼等からすれば不正アクセスに当たります。故に、彼女はあの光の柱で消されかけていたのですから。だからオーバーロードがマリサを介して、今度こそ止めを刺しにきたと考えることもできるのでは」

 

 成る程、と心の内で関心した。

 流石はシオンさん、オーバーロード対策の責任者に任じただけのことはある。その説明は、確かに何も知らない人からすれば実に理が通っている。現にサナダさんは、彼女の推論に頷いていた。

 

 だけど、それは違う。

 

 彼女の推論を用いては、決して説明できない部分があるのだ。

 

 隣の早苗も、シオンさんの推論に対しては否定的な顔をしていた。

 

「―――それは、ちょっと違うんじゃないかな」

 

 私が発言したことで、注目が一気に集まる。

 

 何故ですか、と問い掛けるシオンさんの瞳と、"ほほう"、と言わんばかりに期待を滲ませたサナダさんの瞳に若干たじろいでしまうが、気を確かにして向き合った。

 

「それは―――――「マリサさんは、霊沙さんのことが好きだからですよ」っ!?」

 

 だが、私の言葉は思わぬ方向から遮られた。

 

 私の言葉を遮った犯人―――早苗はただ頷いて、"あとは任せて下さい"と言外に告げる。

 

 小声で早苗が"いいですか?"とだけ尋ねてくる。

 

 私はそれに―――悩んだ挙げ句小さく一度だけ頷いた。

 

 ―――もう、逃げるのは終わりにしよう。

 

 私一人では踏ん切りがつかなかったそれも、早苗となら、受け止められるような気がした。

 例え真実を白日の下に晒しても、彼女だけは、変わらず私の傍にいるから………

 

 ぐっ……、と、拳を胸の前で握りしめた。

 

 どうやってかは知らないが、早苗は彼女の正体に気付いている。そして、全ての真実が曝されるのだ。

 私はそれを、一世一代の告発を前にするような心持ちで見守った。

 

「霊沙さんは…………いえ、こう呼ぶべきなのでしょう。"博麗霊夢"と」

 

 

 ........................................

 

 

 ....................................

 

 

 ................................

 

 

 ............................

 

 

 

「霊沙さんは…………いえ、こう呼ぶべきなのでしょう。"博麗霊夢"と」

 

 私がそれに気付いたのは、果たしていつだったのでしょうか。

 

 最初は―――霊夢さんによく似た得体の知れない奴、としか思ってませんでした。

 

 だけど、気づいてしまったんです………

 

 あの人が、おかしくなり始めた頃―――いや、"正常に戻り始めた"頃のことでした。

 

 私は、〈開陽〉と繋がっていたAI―――いや、〈開陽〉そのものだったのですから、艦内で起こったことは全部見えていました。

 私にも、勿論人間だった頃の良識と良心は残っていますから、なのでプライバシーに関わる部分は全部機械に丸投げして、私は意識しないように心がけていました。―――けど、彼女の様子は、とてもではありませんが見ていられるものではありませんでした。だけど、あまりの痛々しさに背中を向けることもできなかった。

 

 彼女は、その頃からずっと苦しんでいた。

 

 寝ているときなんて、特に酷くて思わず目を背けたくなりました。

 もがきながら、魔理沙さんの名前を呼ぶ彼女。何度もその名前を呟いて、自らの喉を掻き毟りながら涙を流していた彼女。

 

 その様子が、いつかの霊夢さんに重なって―――そして、辿り着いてしまったんです。

 

 ―――あの人は、紛れもない博麗霊夢その人だと。

 

 あのときの霊夢さんも、泣きながら魔理沙さんの名前を呟いていた。か細いその声は、耳元を近づけなければならないほど小さな声でしたが、確かに、私の耳には聞こえたんです。

 

 そのときの霊夢さんと、霊沙さんの姿は全く同じものでした。――いや、霊沙さんの方が、

 

 霊夢さんと全く同じ姿をしていて、声には確かに面影があって、力の色も、どす黒く濁っていても根元は確かに博麗霊夢そのものだった。

 そして、泣きながら魔理沙さんの名前を呼んでいた彼女。

 

 ―――これで、間違える筈がありません。

 

 彼女は確かに、霊夢さんそのものだったんです………

 

 彼女は、もう一人の霊夢さん。

 

 セカイに囚われてしまった、悲しい少女。

 

 出来ることなら、助けたかった。

 

 ―――けど、私では何の力にもなれなかった。

 

 あの人の心の中には魔理沙さんしか居なくて、それ以外を受け入れる容量なんて、とうに微塵も残ってなかったんですから。

 

 

 …………

 

 

 ―――霊沙さん。少し、話があります

 

 彼女を呼び止めたのは、果たしていつのことだっただろうか。

 

 ―――なんだ、あんたか。一体何の用?

 

 彼女の口調は、とうにがらりと変わっていた。

 かつての快活さは鳴りを潜めて、博麗霊夢に変貌していた。

 確かに、声色は霊夢さんに比べたらずっと低くて、何も知らない人からすれば別人のようにも思えてしまう。けど、確かに霊夢さんの面影があったんです。

 あのときの、不機嫌な霊夢さんさながらの低い声。霊夢さんよりも少しだけ幼い分、ずっと痛ましく感じられた。

 

 ―――はい。………貴女のことについて、です。

 

 それを聞いた瞬間、彼女の瞳の色が変わった。

 

 世捨て人のように気怠そうな瞳は、誰も寄せ付けないと鋭く尖って、明確に拒絶を露にする。

 

 ―――失念していたわ。あんたは全部お見通しだったって。………だけど止めておきなさい。あんたはあの、能天気な紅白とだけ付き合ってなさい。

 

 返ってきたのも、明確な拒絶。

 可能な限り穏当な表現で包まれたそれは、彼女にできる最大限の譲歩だったのでしょう。

 口調だけは往事の霊夢さんの面影を残していたものの、それを維持するのですら、苦しそうに見えました。

 

 ―――ですけど………苦しそうにしている人が見えていながら、無視するなんて、私には出来ないんです……

 

 けど、あのときの私は、その一線を越えてしまった。

 

 我ながら、軽率な行動だったと後悔してます。

 

 壊れかけの硝子細工ほど慎重に扱うべきものは無いのに、普通の硝子に触れるような手付きで、私は彼女に触れてしまった。

 

 それが、最後だったのでしょう。

 

 ―――あんたに、何が分かる。

 

 今まで以上に低くて、どす黒い声が投げつけられる。

 

 ―――のうのうと生きてきた癖に、私の何が分かるっていうの。………目障りなのよ、お花畑なあんたの思考が。………二度と思い違いなんて起こさないでよね、東風谷早苗。二度目があるなら、うっかり殺さない自信は無いわ。

 

 あのとき以上の、明確な拒絶。

 絶対に踏み込ませないという強い意思を前にして、私は足踏みすることしかできなませんでした。

 

 博麗霊夢と、博麗霊夢

 

 その違いを、私はちゃんと分かってなかった。

 

 どちらも霊夢さんだから、きっとこれでも大丈夫だと、心の底で思っていた。

 

 故に、私は道を違えてしまった。

 

 二度と彼女は、私に自らを触れさせなかった。

 

 ―――だから私は、結局、私は傍観者にしかなれなかった。

 

 彼女のことが見えていながら、何一つできなかった。

 

 以来、何とかして彼女を振り向かせようと試みたものの、ずっと彼女は霊沙を演じて絶対に私を寄せ付けることはありませんでした………

 

 

 …………

 

 

「そう………だったの。あんたも、気付いてたのね」

 

「はい………ずっと黙っていて、申し訳ありませんでした」

 

「いや、いいの。誰にだって、出来ないことぐらいあるわ」

 

 私の独白を、霊夢さんは素直に受け止めてくれました。

 

「ふむ………霊沙君が、艦長の写し身………いや、別の可能性だということは理解した。しかし―――それとオーバーロードをどう結びつける。それでは、全ては説明出来ないぞ」

 

「はい。それについては、これから話します」

 

 オーバーロードの、尖兵となった彼女。

 

 あの人は、明らかに博麗霊夢を意識していた。

 

 〈開陽〉に乗り込んできてからというもの、彼女は頻繁にもう一人の博麗霊夢と接触していた。まるで、何かを焚き付けるように。

 

 ―――偽物は、大人しく消えな。

 

 与えられていた客間で静かに吐き出された、彼女の台詞が響きます。

 

 偽物――それは即ち、オーバーロードによって偽られたもう一人の霊夢さん。

 敢えてそれを引き剥がしてまで、ぼろぼろになった霊夢さんを引きずり出したのは、(ひとえ)に偽物が許せなかったから。――例え眠っていた方が幸せでも、彼女はそれを赦さなかった。敢えてぼろぼろに傷付いた霊夢さんを叩き起こしたのは、他ならぬ"博麗霊夢"に、幸せを掴んで欲しかったから。

 

 ―――それはもう、恋心といっても過言ではありません。

 

 オーバーロードの側にいながら、オーバーロードに掛けられた博麗霊夢の偽装を解く。

 その行為は、紛れもない利敵行為です。

 なのに、彼女はオーバーロードでいながらも、博麗霊夢を取り戻す道を選んだ。

 彼女がスパイだと言うのなら、大人しくこの艦に乗せていた方がずっと彼等の役に立つ筈です。なのにマリサさんは、もう一人の霊夢さんを奪い返した。

 

 あの霊夢さんとマリサさんの間に、只ならぬ因縁があることは彼女達の反応を見ていれば分かります。でも、………それでもあの霊夢さんを気にかけているということは、やはり"恋心"と言うべきでしょう。あそこまで焦がれているなら、それ以外に適切な表現が思い付きません。

 

 そんな彼女の"恋心"は、もしかしたら、呪いの域にまで達しているのかもしれません。

 

 ―――だから、彼女は博麗霊夢を鎖の檻から解き放った。

 

「………つまり、君はこう言いたい訳だな。"マリサはもう一人の艦長の苦境に耐えかねず、彼女を解放してやった"のだと」

 

 全ての独白を終えたあと、サナダさんが私の言葉を纏めてくれました。

 つい感情が先走ってしまって上手く言葉にできなかったそれを、わかりやすく要約してくれた彼には感謝です。

 

「その通りです。―――加えて、霊沙さんに関する記録も遡ってみました。そしたら、やっぱり彼女も……」

 

 霊沙さんとマリサさんが、オーバーロードの尖兵である可能性。

 それを聞かされてからというもの、私は裏で、とにかく役立ちそうな資料を集めていたんです。―――霊夢さんまで、奴等に連れてかれてしまわないように。

 そこで私は、わたし(サナエ)の記録を遡ってみました。

 サナダさんは、霊沙さんは霊夢さんと一緒に拾ったと言ってました。

 彼女をサナダさんが救助したというのなら、彼女が〈スターゲイザー〉から運び込まれたログがある筈………

 

 ―――だけど、そこに彼女は居なかったんです。

 

 存在した筈の彼女が、存在しない。―――いや、逆でした。"何もなかった筈の場所に、唐突に彼女が現れた"。

 

 ………これで、確信に至りました。

 

 やはり彼女は、オーバーロードによって造られた存在。

 そこに博麗霊夢という存在が挿入されたのは、また別の事情があるのでしょう。

 

 だけど、博麗霊夢は本物です。

 

 本来ならばオーバーロードが一からデザインした筈の尖兵は、博麗霊夢によって置き換えられた。――恐らくは、幻想郷(セカイ)の意思で。

 

 

「成程。………君の推論は、確かに的を射ている」

 

「サナダ主任………?」

 

 ………まさかサナダさんが、ここまで理解してくれるとは思いませんでした。―――そしてやっぱりシオンさんは、こういう感情には疎いようです。

 

 そして肝心の霊夢さんは、なにか思うところがあるのか腕を組んで黙ったままです。

 

「―――――」

 

 ………霊夢さんが、なにかを呟きました。

 

「………そのまま二人でどっか行ってくれるんだったら、放置しても構わないわ。だけど、あれが敵になるというなら、容赦はしない」

 

 霊夢さんは、無慈悲に、きっぱりと、そう宣言しました。

 

 もう一人の自分とマリサさんの行動には、やはり思うところがあるのでしょう。―――生前の霊夢さんにとって、"特別"は紫さんと………魔理沙さんの二人しか居なかったんですから。

 

「確かに、そうだな。それが一番の落とし所だろう」

 

「同意します。他に策があるわけでもないですからね」

 

 サナダさんと、シオンさんも霊夢さんに賛同しました。

 

 それが今回の事件の落とし所としては、ベストなところでしょう。

 

 ―――願わくは、あのマリサさんがもう一人の霊夢さんの、涙を止めてくれたらいいのですが………

 

 やはり彼女も"博麗霊夢"なだけあって、敵になるかもしれないと分かっていながらも、情を捨てきれない自分がいました。

 

 ―――だけど、いつかは選ばなければいけないのかも、しれませんね………

 

 博麗霊夢と、博麗霊夢

 

 そのどちらかを切り捨てなければならないときが。

 

 どっちも霊夢さんだというのに、手を差しのべられるのは片方だけ。もう一人の霊夢さんはマリサさんが何とかしてくれたらいいのですが、でも彼女はオーバーロード。―――私達の、敵。

 

 お互い敵同士だというのなら、……やっぱりいつかは、ぶつかり合う日が来るのかもしれない。

 

 そんな予感が、胸を過ったとき。

 

 会議の流れが、解散に向かっていた中でした。

 

 ヴーッ、ヴーッ、と、けたたましく警報が鳴り響いたのは。

 

 

 ………そして、あの小憎らしい破綻AIの、いつになく焦燥に駆られた声が通信を通して響いたのは。

 

 《皆さんっ……!!緊急事態です。―――敵艦隊が、現れました》

 

 予感していた、望まぬ衝突………

 

 それは案外、すぐに起きてしまいそうでした。




早苗さんパートからBGM『蓬莱人形』より「永遠の巫女」

博麗はそのままで、霊夢の文字が消えている。
つまりそういうことです。

この小説では、レイサナGoodとレイマリBadを書いています。

闇レイマリです。慈悲はありません。

彼女達は、放っておくと容易に道を違えてしまいます。その末路の一つです。

レイマリが明るい道を歩むためには、世界(幻想郷)普通の魔法使いを許容するか、霧雨魔理沙が思いとどまるか、霧雨魔理沙が人外に至る前に霊夢が病か天寿でこの世を去るしかありません。ほのぼのかギャグなら基本関係ありませんが。
鈴奈庵で敢えてあんな描き方をしていたのも、抜け道はやはり許されないからだと思います。

早苗さんは女の子なので、マリッサちゃんの心の機敏を読みとることはできました。少女の心が分からないマッドでは、絶対に辿り着けなかったでしょう。
ただ、対応を間違えたのも事実です。博麗霊夢と同じように接してしまったのが運の尽き。とっくにルートに入っていた博麗霊夢は、ルートヒロインでしか救えません。二兎を追う者、一兎をも得ず。優しすぎるのも考えものですね。


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第九八話 星屑の嘆き

「っ!?この反応は…………敵です!敵艦隊、さらに出現!」

 

 レーダー手を務めているリアさんが報告する。

 

 ブロッサムの報告が会議室に響いた後、私達は大慌てで艦橋へと駆け上がった。

既に当直のクルー達は忙しなく動いており、本当にこれから戦闘が始まるのだということを実感させられる。

 

 こんな場所に、敵………?まさか………

 

 ブロッサムの報告では、敵の正体はまだ知らされていない。遂にヤッハバッハの艦隊に見つかったか、或いは大マゼランの海賊が流れてきたのか、或いは―――その疑問は、一瞬で晴らされた。

私の直感が、"奴"が来たと声高に告げる。

 

 直前に蒸発したあいつと、今朝の悪夢。誰が来たかなんて、その二つの判断材料さえあれば常人でも容易に察することができただろう。

 

 

―――彼女は、今度こそ私を殺しにきた。

 

 

「敵艦隊のエネルギー放射パターンは小マゼラン外縁で遭遇した敵艦隊―――マリサ艦隊と一致しています。…………オーバーロードです!」

 

 

「オーバーロード、だとっ!?」

 

「チッ、奴等か………だが何故ここに?」

 

 出現した敵艦隊を解析していたノエルさんの報告に、ブリッジクルー一同は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

彼等彼女達は艦隊の中核を成す主要メンバーであり、オーバーロードの存在と脅威については認識している。それだけに、皆厳しい表情でメインパネルに映し出された敵艦隊の様子を睨んでいた。

 

―――オーバーロード。相手がマリサの艦隊なら、あいつも一緒に………

 

 つい先程まであいつに関する話をしていただけに、否応なしに彼女のことを考えさせられる。

 

 ここでマリサが仕掛けてきたというなら、今度こそ本気ということだろう。アレが何を目的に動いているのかは分からないが、―――ただ、滅するのみ。

 

 例え夢想の光が届かない宇宙(そら)の向こうに居ようとも、科学世紀の暴力を以てあの偽物を退治しよう。

 

 感傷を絶ちきって、目の前の敵を倒すことだけを考える。頭を、異変時のそれに造り変える。この際、早苗の話は忘れよう。―――今の奴等は、敵だ。

 

 恋だの愛だの、そんな煩わしいものは置いてしまえ。敵の境遇など、どうでもいい。彼女が何処かの世界の私だとしても、現世に仇為すのだとすれば敵だ。人妖と変わらない。

 

……ならば、殺す。殺さなければならない。

 

 

「敵艦隊は〈グランヘイム〉と同様のワープシステムを装備しているようです。出現と同時にゲートアウト反応を観測しました。今のところ敵艦隊の数は巡洋艦クラスが10、超弩級戦艦クラスが1。巡洋艦クラスは未登録の艦影です。今後増援が現れる可能性もあります」

 

 メインパネルの側方、そして艦長席のモニターに、敵艦隊の現有戦力が表示される。

巡洋艦クラスは800m級が2隻、600m級が8隻おり、いずれも宇宙の闇に溶け込むような黒い艦体色をしていた。―――尤も、充満したガスに原始星の光が反射して夕焼けのように赤く染まっているこの宙域では、その迷彩効果は失われているが。

 加えて両クラスとも艦体に板のような模様が貼り付けられており、旗艦と思われる超弩級戦艦と違ってデザインの調和が取れている。巨大なアンテナのようなものが艦の上下に4本ずつ並んでいるのも、共通の特徴だ。恐らく、同じ設計思想の下建造された艦なのだろう。

 弩級戦艦クラスは推定全長2200m………あのヴァランタインの〈グランヘイム〉と同じぐらいだ。その艦影は、小マゼランへの道程で遭遇したマリサ艦隊の旗艦と酷似している。

 

 そして案の定、前方に現れた敵艦隊の旗艦から通信が寄せられてきた。

 

「艦長、敵の旗艦から通信です」

 

「霊夢さん………」

 

 隣に立つ早苗が、心配するように私を呼んだ。

 

「リアさん、通信を受けて頂戴」

 

「了解しました」

 

 だけど私は、その通信に応えるように指示した。

 

 奴がオーバーロードの尖兵だと言うのなら、ここでその目的を問い質す。

 殺すのは簡単だが、奴はやはり、単なる尖兵に過ぎないのだ。

 殺す前に、奴の口から黒幕に関する情報を吐き出させる。

 

―――昔の私ならば、こんな煩わしいことなどせずとも勘に従って目の前の敵を倒していけば、自然と黒幕の元に辿り着けた。だけど今回は、どうもそれが出来そうにない。死ぬまで終ぞ私の在り方が変わることなどなかったのだが、いよいよ私もガタがきたか。………思考を切り替えたというのに未だこんな雑念を抱いている時点で、本当に歯車が狂ったのだろう。

 

―――何故か、微笑ましく見守るような紫と早苗の幻覚を見たような気がした。遂に頭までおかしくなったか………

 

 幻は隅に消えるがいい。先ずは奴を殺せ。あいつを退治しろ。アレさえ殺してしまえば、私は……………

 

 

 

 程なくして、あの憎たらしい赤髪の、無断で友人の姿を模した彼女の顔がメインパネルに投影された。

 

「…………よう。久し振りだな」

 

 画面の中の彼女が、目元を帽子の鍔で隠しながら不敵に微笑む。

 

「ええ。あんたの顔なんて、二度と見たくなかったけどね」

 

「つれないなぁ。私は逢いたかったぜ?霊夢」

 

「……っ!?」

 

 どうしてこう………いちいちコイツは私の神経を逆撫でしてくるのだろうか。今すぐにでもあの偽物を切り裂いてやりたい衝動に襲われる。

 

「おうおう、なんだなんだ?ちょーっと魔理沙(ホンモノ)を真似てみただけでその動揺か。ほんっと、"お前ら"は御しやすいなぁ~。オーバーロード様々だぜ」

 

―――殺す。こいつは殺す。こんなものが世にあっていい筈がない。彼女の姿を、偽物如きが汚すな。

 

 ぐつぐつと、私怨が心の奥底から沸き始める。

 

 切り替わった筈の思考回路が、強引に引き戻される。

 

 "霊夢"から、"博麗"へと、ポイントレールが切り替わる。

偽物魔理沙を殺す。その一点で博麗(わたし)霊夢(わたし)は一致している。だけど、"霊夢"として、奴に相対しては絶対に駄目だ。―――霧雨魔理沙は、霊夢(わたし)にとっての命取り。博麗(わたし)でなければ、彼女に勝てない。

 

―――霊夢(わたし)に呑まれるな。思考は切り替わった筈だろう。只の少女は黙っていろ、貴様の出る枠ではない

 

 博麗(理性)が告げる。博麗(機械)らしい、正解しかない淡々とした忠告。

 

 霊夢(わたし)は未だに、霧雨魔理沙に夢を見ている。私よりもずっと、自由に空を翔ていた彼女。生まれながらに空を飛べながらも博麗(役目)に縛り付けられた私とは対照的に、霧雨()を破って地を這いながらも飛ぶことを諦めなかった彼女。

 

 そんな彼女が、敵として相対すれば―――霊夢(わたし)では到底戦える筈がない。私怨で降り下ろす拳など、彼女には容易に読まれてしまう。"霊夢"は、絶対に"魔理沙"を殺すことはできない。例えそれが偽物でも、―――彼女(魔理沙)を汚す泥人形で、本気で滅しようと思っていても、彼女の面影があるだけで、絶対に刃が鈍ってしまう。

 

―――だから博麗(わたし)が殺さなければならない。

 

 博麗(わたし)は、歯車だ。天秤を司る調停者(バランサー)霊夢(只の少女)を殲滅兵器へと変える式神(プログラム)。私でなければ、奴を殺せない。

 

―――だから、お願いだから、今は出てこないでよ、霊夢(わたし)………

 

「ククッ、なんだぁ?もう覚悟が鈍ったか。二人揃って、何ともポンコツなことで。あの頃のオマエは何処に行った?"成りかけ"も容赦なくヤッていた慈悲なき素敵な巫女様はよ?」

 

………私の中で、なにかが切れた。

 

 

―――やりたくて、やっていた訳じゃないのに。

 

―――本当は、助けたかった(護りたかった)のに。

 

 お前なんかに、何が分かる。

 

 "博麗"の肩が、どんなに重いものだったかなんて。

 

 あんたが無断拝借してる彼女こそ、私を"人間"で居させてくれた楔だったことも知らない癖に。

 

 

 

 ふざけるな。

 

 

 

 ふざけるな。

 

 

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなッ!!!

 

 

 

―――殺す。

 

 あいつは殺す。

 絶対に殺す。生かしてなどやるものか。

 

 灰も残らず燃やし尽くして生きていた痕跡さえも消してやる。

 

「―――黙れ、偽物」

 

「おっ?」

 

 まるで、ちょっと興味を引かれたときのあいつみたいに。

あたかも日常の延長線上に過ぎないと言わんばかりの偽物(マリサ)の態度。

 

 気に食わない。

 

 その口、二度と喋れないように徹底的に縫い付けてやる。

 

「げえっ、霊夢さんが本気でキレてる………」

 

 隣にいた緑色の物体が、なにか言った。

 

 そんなもの、どうでもいい。今はアイツを殺せればいい。他人など知ったものか。これは霊夢(わたし)の戦いだ。霊夢(わたし)人間(わたし)であるために、奴は絶対に殺さなければならない。雑音など気にするな。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

 

――――あの偽物をこの世から消してやる。

 

「―――黙れって言ってるのよ、この偽物ッ!!!」

 

 

 広い艦橋全体に、鋭く刃が駆け抜けた。

 

 残心の如く、静まり返る旗艦の艦橋。

 

 だが、戦の火蓋は切って落とされたばかりだ。

あいつの首を取るまで、決して止まってなどやるものか。

霧雨魔理沙を汚すことなど、誰にも許してなどやるものか―――!!

 

「………全艦、戦闘配備――!!」

 

 頭から、細波の如くスッと熱が消えていく。

残るのは、氷のような冷たい炎。

 

 博麗(システム)として動いているのか、霊夢(ニンゲン)として戦っているのか、どちらかすらも曖昧だ。――――そんなとこ、アイツを殺せさえすればどうでもいい、些細なことにしか過ぎないというのに。

 

 私の全てを、偽物(アイツ)を殺すことにだけ注ぎ込む。一振りの刀となって、アイツの心臓を貫こう。

 

「………おっと、これは焚き付け過ぎたかな。――まぁいい。そっちの方が、面白そうだ。じゃあな霊夢。―――さぁ、一緒に踊ろうぜ」

 

 ザーッ。

 

 砂嵐。画面は強制的に断ち切られる。

 

 此処にきて本当に、漸く鯉口が切られた。

 

今か今かと構えていた刃が、するりと鞘から滑り出てその鈍い銀色の抜身を晒す。

 

―――さぁ、殺し合いを始めようか。

 

 先手は、偽物。

 幻聴と共に、奴の艦隊が動き始めた。

 

「て、敵艦隊、前進を開始しました!」

 

 敵は、単純な前進を始めて此方との距離を詰めにかかる。

巡洋艦しかいないアイツの艦隊では、一刻も早く此方の懐に飛び込まなければ勝機はない。

故に、此方は奴を嬲り殺しにできる。

 

「―――艦長、如何なされますか?」

 

「……決まってるでしょ。全艦、全速前進!!あいつを叩き潰しなさい!」

 

 

「「「アイアイサー!!」」」

 

 

 一斉に、蒼色の閃光が、紅い灼熱の宇宙に瞬いた。

 

 〈ネメシス〉を中核とする10隻程度の残存艦隊が、憎きあいつの身体を切り裂くために宇宙(ソラ)を駆け抜けていく。

 

「敵艦隊、射程に入った!」

 

「主砲、撃ち方始め!粉微塵にしてやりなさい!!」

 

「イエッサー!主砲一番二番、射撃開始、目標、敵三番艦!」

 

 先手を取ったのは、当然此方側だ。

 〈ネメシス〉の160cm対艦レーザーは、突出していた巡洋艦クラスの敵艦を目標に捉え、一撃でこれを宇宙の塵と変えた。

 

「敵三番艦、轟沈!!」

 

 幸先の良いスタートを前にして、歓声が艦橋に響く。

 

 だけど、あいつが憎たらしい笑みを浮かべている様がありありと浮かんでは、それが頭から離れない。

 

―――罠?

 

 私の勘が、謀略の存在を告げる。

 

 奴は、私達を今度こそ殺すと公言したのだ。今見えているのは9隻だけだが、他に戦力がないとも限らない。

 

「――――」

 

「霊夢さん?」

 

 艦長席に深く腰掛けたまま、敵の策略を探る。

 

 敵を撃破したのになかなか指示が飛んで来ないのを気にしたのか、傍らに控えていた早苗の声が聞こえてきた。

 

「―――まだ喜ぶのは早いわ。周囲のゲートアウト反応を警戒しつつ、移民船から必要以上に離れないように」

 

「え、あ………はい、分かりました。指示を徹底します」

 

 先程まで抱いていたあいつへの怒りは鳴りを潜めて、私の頭は敵艦隊という名の異変を解決する(抹消する)ためにまた再び造り変わる。

 

「敵艦隊、わが艦隊と一定の距離を取りつつ後退しています」

 

「………ますます怪しくなってきたわね。警戒を厳にして」

 

「了解」

 

 あいつは自分の艦隊が一隻やられるや否や、此方を警戒するような仕草を取った。―――明らかに怪しい。アレが自軍の損害を、殊の外気にすること自体が見え透いた罠であることを声高に告げている。

 

「―――撃ち方、止め。少し離れすぎたわ」

 

「?了解。……まぁ、艦長が言うなら仕方ないが……」

 

―――少々、あいつを深追いしすぎた。そろそろ戻るべき頃だろう。

 射撃中止を命ぜられた射撃手のフォックスは不満そうだが、従ってもらう。

 

「っ!?左舷8時の方角に多数のゲートアウト反応!数は………800m級重巡洋艦4、600m級巡洋艦12!!」

 

「チッ………やられたわね。艦隊から割ける戦力は………無いか」

 

 新たな敵艦隊は私達から見て左後ろの方角、移民船の左側真横に出現した。まだ小惑星が盾になっているので直ぐに攻撃を浴びることはないだろうが、接近され過ぎると折角見つけた新しい拠点がお釈迦になってしまう。そうなれば、私達はたかだか10隻程度の小艦隊で宇宙を彷徨する羽目になってしまう。―――奴の狙いは、それか。

拠点を潰し、弱ったところを狩る。―――アイツらしい、小癪な方法だ。

 

「確か、移民船にはブロッサムが残ってたわね。ノエルさん、彼女を呼び出して」

 

「了解です」

 

 だが、そう易々とあいつの思惑通りになってやるものか。

私はオペレーター席に座るノエルさんに頼んで、あの生意気な自称高性能AIを呼び出させた。

 

《はいはい何ですかもう!此方は此方で忙しいんですよ!》

 

 通信に応えたかと思うと、彼女はいきなり投げ遣りな態度で適当そうな返事を寄越してきた。

 

「………そっちに敵艦隊が向かってるのは見えてるでしょ。対処は任せたわ。此方からも駆逐艦3隻を付けておくから」

 

《ちょっ、それだけですか!?確かに私の力にかかれば多少の戦力は用意できますけど………ああもう分かりました!こっちは全部やっておきますから!!》

 

 彼女はそう言い残すと、一方的に通信を打ち切った。

 

 まだ全てを確認している訳ではないがあの移民船自体も非武装という訳ではない。幾らか防衛施設はあったし、それ以外にも戦力になる要素を抱えている。今は、それが確認できただけでいい。早速、移民船の外壁にはいつぞやに私と早苗を追い回したセンチネルが展開し始めていた。

 

 それに―――あの艦隊では"彼女"に勝てない。(キング)如きが、道化師(ジョーカー)に勝てるなど思い上がりも甚だしい。

 

 私の勘は、勝利を決して疑わない。――ならば、余計な心配など無用。赴くままに、叩き潰してしまえ。

 

「………全艦、追撃再開。砲撃の手を緩めるな」

 

……まだ、挽回できる。

 

 一度は奴のペースに乗せられたものの、此方にはまだ鬼札がある。奴は、彼女(アレ)の性能を見誤った。

 

 さぁ、死ね。お前の小汚ない偽物の面を徹底的に剥いでやる。

 

 

 死の舞踏会は、あんたが死ぬまで終わらない。

 

 

 

 

 

 

.......................................

 

.................................

 

............................

 

.....................

 

 

 

 

 

「………うん、似合ってるよ、霊夢」

 

 博麗霊夢とマリサが交戦する数刻前―――

 

 或る戦艦の、艦橋部。

 硝子一枚隔てた宇宙空間の、原初の生命に燃える景色とは不釣り合いな程に儚い二人の少女が、まるで硝子細工に触れるかねように恐る恐ると互いの距離を縮め合う。

 

「そ、そう………?―――あんたに言われるなら、嬉しいわ」

 

 色素の抜けきった白髪を揺らしながら、霊夢は心底嬉しそうに、ぎこちなく微笑んだ。

 

 それだけで、マリサの瞳に銀色が浮かぶ。

漸く、彼女の笑顔を取り戻せた。

 

 "博麗"の巫女服はもう着たくないだろうと、彼女の内心を察して織られたそれは、余りにも贈る相手が来るのが遅すぎたために、既に幾つもの綻びが生まれていた。

 

―――もうボロボロだ。これじゃあプレゼントできない。

 

 そう言って作り直そうとしたマリサを、

 

―――いいの。貴女が作ってくれたってだけで。だから、それで充分よ。……だって、早くこれ、脱ぎたいんだもの。

 

 霊夢はそれで充分だと、彼女に伝えて思い止まらせた。

 

 手製の巫女服を手に取って、博麗の巫女服を焼く。

 

 "解放"を示す、一種の儀式だ。

 

 巫女服には霊夢を崩壊から守る護符が至るところに貼り付けられ、彼女自身の白髪も相俟って、まるで何処ぞの蓬莱人にしか見えない。

 

 その光景に、思わず破顔するマリサ。

 

 だが、彼女の身体を貫く魔法の鎖が、マリサの表情を引きつらせた。

 

―――鎖で身体のパーツを、無理矢理にでも繋ぎ止める。

 

 幻想と、世界からすらも完全に見捨てられ、自分が取り返したせいで最早お尋ね者でしかない霊夢

 かつての縁を辿られて、処分の為の自己崩壊プログラムを注入され続けている彼女を守るためには、これしか方法がなかったのだ。

 

「………ごめん。その………上手く治せなかった」

 

「ううん、いいの―――本当は、こんなことしてもらう資格なんて無い筈なのに、こうしてまた会えるなんて―――本当に、夢みたい」

 

霊夢の頬に、影が差す。

 

 慌ててマリサが、取り繕うように言葉を並べた。

 

「い、いいや!………そんなことは、ないぜ。――元々私が悪かったんだ。私が―――何も知らないまま力なんか求めてたから……」

 

「魔理沙………」

 

 縮まるようで、縮まらない二人の関係。

 

 お互いに、殺し殺された間柄。

 

 無慈悲な楽園の掟は、永遠に二人の少女を引き離していた。

 

「そ、そうだ!なぁ………霊夢。本当に今更なんだか、今からでも、どこか遠くに逃げないか?オーバーロードなんてちゃちゃっと巻いちゃってさ、どっか、人の居ない、静かなところに………」

 

 何とか場の空気を変えようと、欠けた頭をなんとか捻って明るそうな話題を絞り出すマリサ。

 本当はできもしないのに、せめて希望の灯火だけはと、叶わない願いを告げる。

だが何とも不運なことに、彼女の努力は実らない。

 

「―――だめ。嫌」

 

 強い、拒絶の言葉。

 

 肝心の彼女に否定されてしまえば、マリサにはどうすることもできなかった。

 

「何でだ!?オーバーロードなんて、どうにかしちゃえばいいだろう?それにアイツだって、オマエを取り返した今はもう………」

 

「――ううん、それでも、駄目なの。―――ありがとう、魔理沙」

 

 今度はゆっくりと、首を静かに横に振る霊夢

 元々叶わない夢とはいえ、せめて最期は静かにというささやかな願いは、脆くもここに崩れ去った。

 

「………やっぱり、そうなのか。……ならせめて、理由だけでも………」

 

「―――我儘よ。もうアレと関わる必要が無いとしても、私はアレを殺さなきゃ気が済まないの」

 

 正直なところ、マリサは本当は博麗霊夢に刃を向けたくはなかった。世界線が違えども、博麗霊夢は博麗霊夢。自分が焦がれた相手そのものに相違ない。

 だが、霊夢は霊夢を殺さないと解放されない。彼女の手で復讐を遂げさせてやらなければ、果たして彼女の想いは何処へ向かえばいいのだろうか。

 今まで手加減もしてきたし、出来るだけ戦わないように心掛けてきた。―――だが、マリサにとって一番はやはり、霊夢なのだ。彼女こそが、本当に霧雨魔理沙が焦がれた少女の、その残骸。

 ならば、せめて彼女の想いだけは、成仏させてやらなきゃならない。

 連れ戻したはいいものの、肝心の彼女は身も心もズタボロだ。だから、少しでも、安らかに眠れるように………

―――それが、星屑(マリサ)の覚悟だった。

 

「―――私がボロ雑巾になるまで扱き使われていた間にも、他の霊夢(アイツ)はのうのうと生きていた。貴女を手に掛けることもないまま。―――だったら、この感情は何処に行けばいいってのよ!!」

 

 ドン!………ッ………

 

 鈍く、鉄が凹む音が響いた。

 

 荒く肩を上下させる霊夢と、悲痛に表情を歪めたマリサ。

 

 絶望と復讐に囚われた二人の少女には、傷を舐め合うことすらも出来ない。

 

「…………ごめんなさい、魔理沙。どうも熱くなりすぎたみたい。少し頭を冷やしてくるわ。―――私が必要になったら起こして」

 

「ああ………」

 

 ズルズルと着物の裾を引き摺って、ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、霊夢はマリサに背を向けて艦橋から退出する。

 残されたのは、原初の生命に燃える宇宙を見守るマリサ一人。

 弾幕の如く隕石が飛び散り、火花とガスを散らしていく生命の海を、焼き付けるように視界に収めていく彼女。

 その瞳には、鈍い銀色が滲んでいた。

 

―――偽物、か。……確かに、私はその通りだ。こんな星屑如きが、霧雨魔理沙を名乗るなんぞ確かに烏滸がましいことだ。だけどよ………この"想い"だけは絶対に否定させない。これだけは、本物なんだ。例えお前だとしても、これだけは、否定なんかさせてやるものか。

 

 霊夢………お前に呪いをかけてしまったのはこの私だ。私なんだ。―――私が、お前に並びたいなんて身の程を越えた願いなんて抱かなければ…………、だから………せめて、その"呪い"だけは―――

 

 星屑が、溢れ落ちる。

 

 ぼろぼろと、溢れ出す星の破片。

 

 その残り滓に気付く者は、誰もいない。

 

 

 孤独なもう一人の復讐者は、人知れず星に吠えた。




怒りに燃えて、当初の目的すら忘れてる霊夢さん。早苗さんなんて完全に蚊帳の外。やっぱりレイマリに隙なんてなかった………
がんばれ早苗さん、霊夢ちゃん陥落まであと二歩ぐらいだよ?



霧雨魔理沙の姿を借りられて、その姿を汚されることが許せない博麗霊夢。
のうのうと生きていた自分を絶対に許せない、壊れかけの博麗霊夢
本当は静かに隠居したい、でも霊夢を助ける為には、彼女の言うとおりに霊夢を殺すしかないと考えてるマリサ。

三者三様、それぞれ言い分があって、そのどれもが人として当たり前の感情です。
ですが、それらは絶望的に噛み合わいません。
故に、どちらかが倒れるまで不毛なこのデスマッチは続きます。

最後に霊夢(霊沙)の立ち絵です。
三年経って漸く立ち絵が公開される薄幸な方の博麗霊夢。完全にもこたんにしか見えませんが霊夢です。元は禍霊夢ですが。


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第九九話 二色地獄蝶

「よう。頭は冷えたか」

 

 魔理沙と離れて、一人になってから暫く経った。

 彼女は余程私のことが心配なのだろうか、いつまでも部屋から出てこない私に痺れを切らしたのか、ドアを叩いたかと思えばずかずかと入ってくる。

 

 ずかずかと………という表現は、少しおかしいか。

 だって此所は、元々魔理沙の(フネ)だもの、居候に過ぎない私が言えたものではない。

 

 そもそも………こんな腐り果てた私のことを心配してくれている相手に対して、それはあまりにも非礼なのではないか。

 

「ええ、お陰様で。………霊夢(アイツ)を殺すんだったら、感情に身を任せているうちは無理だもの」

 

 私は淡々と、私のなかで決めたことを魔理沙に告げる。

 

 私はやっぱり、(博麗)を生かしてはおけない。

 

 八つ当たりみたいなものだってことも分かっている。同じ"博麗霊夢"でも、あいつと私は全くの別人だ。あいつからすれば、迷惑な話でしかないだろう。

 

 だけど、なら………私が受けてきたこの仕打ちは何なのか。霧雨魔理沙を殺したから? 

 ………いや違う。私が………私が"博麗"だったから、彼女を殺さなければならなかった。

 

 ―――本当は、殺したくなんてなかったのに。

 

 もっと、魔理沙と一緒に居たかった。もっと、一緒に笑ってたかった。もっと………彼女の鼓動を感じていたかった。

 ………でも"博麗"はそれを易々と、全部奪い去ってしまっていった! 

 

 だから、私はあいつを殺す。

 

 殺す。殺す殺す殺す。

 

 "博麗"と名の付くものを、全部全部、あらゆる世界から消し去ってやる。

 

「やっぱり、そうなるんだな」

 

「―――ごめんなさい、でも、私にはもうこれしかないわ。………こうするしか、ないの」

 

 形ばかりの、魔理沙への謝罪。

 

 心に一抹の申し訳なさを残したまま、私の腐り果てた頭は博麗霊夢の殺害をシュミレートし始める。

 

 アレを殺すのならば、何よりも冷たい刃に徹しなければならない。―――あの頃の、私のように。

 "博麗"が死ぬほど嫌いな筈なのに、博麗霊夢(アイツ)を殺す為には再び"博麗"の如く冷徹な刃になるなんて、我ながら酷く滑稽な話だ。

 

 ただ私は大嫌いなものを潰したいだけなのに、その"嫌いなもの"に成りきらないといけないなんて。

 

 だけど―――感情に身を任せて震う暴力なんて、霊夢(アイツ)は軽々と避けてしまう。そんなものが博麗(アレ)に通じる道理なんてない。誰よりも"博麗"に徹してきた私だからこそ、其が絶対的な事実であることら身を以て理解している。

 

 故に、博麗(アイツ)を殺す為には"博麗"たらんと振る舞わなければならない。

 

 ―――チッ、……なんて、無様………。

 

 "博麗"が大嫌いだから幻想に弓を引いた筈なのに、その癇癪を晴らすためだけでも、また"博麗"に身を墜とさなければならないこの身が憎い。

 ………だけど、それだけで博麗(アレ)を殺せると言うのなら、喜んでもう一度、この身を刃へと墜とそう。

 

 

 ―――私はもう、物言わぬダッチワイフではいられない。幻想を維持するためだけの、歯車の人形(ドール)なんかじゃない。

 

 私が喪った全てを。私が奪われた全てをあいつにぶつけて思い知らせてやる。おまえがのうのうと生きていた傍らで、私がどれだけ身を削られて、侵されてきたのかを。

 

 たかたが数十年間"博麗"をやっただけで、まるで自分は望まぬ血を浴び続けてきたとでも言わんばかりのあいつの存在が腹立たしい。

 

 

 ――――だから、殺してやる。

 

 

 私に押し付けられた怨念と返り血の全てを、残すことなくあいつにぶつけて思い知らせてやる。

 

 それで私が死のうとも、一向に構わない。寧ろ、死ねるというなら、それで死にたいぐらいだ。

 

 既にこの身は腐り果てた兵器の残骸。せめて最後は、灰になるまで燃やし尽くそう。

 

 ならば、すべきことは只一つ。

 

 心に憎悪を滾らせて、ぼろぼろのこの身を引き摺って、アイツを殺す術を思案する。

 どうすれば、あの化物(博麗)を屠れるのか。完膚なきまでに叩き潰して絶望を味あわせてやれるのか。

 

 どす黒い思考に支配された、腐り果てた私の脳は、おぞましい殺戮の手段を演繹し続ける。

 憎しみ、怒り……そんな単純な言葉では言い表せないような感情のヘドロ。それを燃料として燃やし続けて、脳内では無数の惨劇が繰り広げられる。

 

 ―――博麗の血に染まった、死体のような私の腕。

 

 ―――面白いぐらいに曲がった人間の彫像に、義憤と涙を滾らせて暴れるあいつを、圧倒的な暴力で叩き潰して悦に浸る。

 

 一昔前なら、絶対に考えなかったような非人道の限りが、頭の中で次々と再生される。

 自分ですら吐き気を覚えるそれを繰り返して、繰り返して、数えきれないくらいにあいつを殺して、殺して、殺し続ける。

 

 ―――見つけた………。

 

 あいつを、殺せる方法が。

 

 少しでも、実現性の高い方法が。

 

 ならば、とるべき道は只一つ。

 

 地獄に繋がる畜生の道を、躊躇いなく突き進む。

 

 最早この身は穢れた身、幾ら悪事を重ねようと、結末など、変わることはないのだから。

 

「―――魔理沙、この(フネ)をあいつらにぶつけて頂戴」

 

「ぶつける? ………何だ、策でもあるのか?」

 

 唐突な私の提案に、怪訝な問い掛けを返す魔理沙。

 

 帽子の鍔を持ち上げながら私を見上げるその視線に、かつての彼女の幻想を視る。

 

 ――っ、いまは、そんな場合じゃ………

 

 脳裏を過った幻想を片隅に追いやって、今はただ、アイツを殺すことだけに全神経を注ぐ。

 

「…………ええ。アレをやるわ」

 

 

 ―――博麗、幻影。

 

 

 偽りの幻想で、紛い物の人形で………

 

 あんたの全てを、塵すら残さず奪い尽くしてやる。

 

 

 アイツには、相応しい最期だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~始祖移民船〈アイランドα〉~

 

「急速………建造!」

 

 移民船〈アイランドα〉の統括AI、ブロッサムは艦の司令塔から、造船区画に向けて命令を放つ。

 左舷側から巡洋艦16隻の強力な艦隊が迫り来る中、その対応を霊夢に丸投げされた彼女は、自分の半身とも言えるこの艦を守護するために与えられた権限をフル活用する。

 

「艦型選択、タイプ・バイカル」

 

 艦の造船区画では中枢からの命令に従ってクレーンや作業用ロボットが忙しなく動き回り、瞬く間に艦船を造り上げていく。

 人間の為の設備を一切弾いた、ただ一戦使えればいい程度の無人艦が、ものの数分で10隻も建造される。

 塗装もなく、高価な電子機器もなく、ただレーザーとミサイルを発射するためだけに生まれてきた無人艦は、完成すると発進用のハッチに続くカタパルトに載せられる。

 

「………発進しなさい!!」

 

 左舷側のハッチが開かれ、ブロッサムと同期した巡洋艦群はカタパルトの射出力に身を任せて〈アイランドα〉を飛び出していく。

 射出された巡洋艦群は一直線に敵巡洋艦を目指して突き進み、攻撃システムを起動させる。

 

「敵艦隊、射程内に侵入………目標敵一番艦、統制射撃開始!」

 

 ブロッサムからの指令を受信した巡洋艦群は、そのタンブルホーム型の鋭角的な艦体の上部甲板に一基だけ備え付けられた連装主砲を敵艦に向ける。

 全ての巡洋艦が同一の目標を指向した直後、青色のレーザーが発射される。

 レーザーの雨は敵巡洋艦のシールド出力を一気に減衰させ、少なくないダメージを同艦に与えた。

 

「ミサイル第一派、斉射!」

 

 弱った敵巡洋艦に止めを刺すべく、巡洋艦群は艦尾側両舷に装備する大型ミサイルランチャーのハッチを一部解放し、累計120発にも上る対艦ミサイルを一隻の敵艦に浴びせる。

 敵側も手をこまねいている訳ではなく、危機に瀕した僚艦を援護すべく迎撃ミサイルを発射して、艦隊に向かうミサイルの撃滅を図る。

 しかし高速で戦線を突破するミサイルを全て迎撃できる筈もなく、70発以上の対艦ミサイルが一隻の巡洋艦に殺到した。

 対艦ミサイルによって艦体の至るところに穴を開けられた敵巡洋艦は、デフレクターが過負荷を起こしてオーバーヒートし、インフラトン・インヴァイダーが負荷に耐えきれずに暴走、大爆発を起こして宇宙のダークマターとなって果てた。

 

 一隻の敵艦を屠った巡洋艦群は、次なる目標に向けて主砲の砲口を向ける。

 

 だが、敵側もいつまでもやられっ放しな訳ではない。

 

 ブロッサムが差し向けた巡洋艦群に一歩遅れて主砲の有効射程に彼女達を捉えた敵巡洋艦群は、耐久力のある800m級重巡洋艦を先頭に立てて主砲の一斉射を実施する。

 艦首の開口部から放たれた大出力レーザーは一撃で急造巡洋艦のシールドを貫き、そのまま艦体を蹂躙して深刻な損害を与えた。

 

 ブロッサムの眼前に浮かぶ戦況を俯瞰するモニターには、"No.06 Lost"と、自軍の巡洋艦が一隻、沈んだことを示す文字情報が表示され、該当する巡洋艦のアイコンが赤く変色し、ザザーッ、と掻き消されるようにして画面から消失した。

 

「チッ、そう上手くはいきませんか」

 

 自軍巡洋艦が撃沈されたことに、ブロッサムは舌打ちする。

 だが、それで敵の数が減るわけでもない。

 ブロッサムは再び巡洋艦の操作に集中し、敵を一隻ずつ討ち取っていく作業に戻る。

 

「1から5番艦は敵巡洋艦β、7から10艦は敵巡洋艦Δを目標に―――主砲、発射!」

 

 既に撃沈した敵巡洋艦のデータから、艦隊全艦での敵一隻に対する飽和攻撃は威力過剰と判断したブロッサムは、艦隊を二つに分けてそれぞれ別の敵巡洋艦を狙わせる。

 一度に降り注ぐレーザービームの数が減ったため敵巡洋艦のシールドを打ち破るまでには二斉射を要したが、敵艦のシールド消失を確認したブロッサムはすかさず大量の対艦ミサイルをプレゼントする。

 一隻に対して100発程度の対艦ミサイルが発射され、先に轟沈した一隻目と同じ末路を辿る二隻の敵巡洋艦。

 これで合計3隻の敵巡洋艦を屠ったことになるが、数の上では敵側がまだまだ優勢だ。しかも間が悪いことに、敵巡洋艦の砲撃がミサイルランチャーに命中した自軍巡洋艦は誘爆により轟沈………これで戦況は、16対10から13対8となり、相変わらず劣勢は覆せていない。

 だがブロッサムは、それが一時的なものであることを理解していた。戦況を俯瞰していた彼女には、所詮定められたルーチンワークをこなすだけの無人艦でしかない敵巡洋艦が知り得ない情報も握っている。

 

 戦況をモニターしていたディスプレイに、新たなアイコンが3つ、加えられた。

 友軍を示すそのアイコンは、戦闘宙域に突入するなり獲物の腹にかぶりつくように敵艦隊の側面目指して進撃する。

 

「やっと来ましたか………全く、遅いですよ」

 

 ブロッサムは、遅い友軍の来援に対してぶつぶつと文句を垂れながらも、新たに自身の指揮下に加わった駆逐艦3隻の操作に集中する。

 改アーメスタ級駆逐艦〈ブレイジングスター〉と改ガラーナ級駆逐艦〈霧雨〉〈叢雲〉の3隻は、側面を晒す敵軽巡洋艦に対してありったけのレーザーとミサイルを撃ち込んで、ブロッサムの巡洋艦群と協同して二方向からの飽和攻撃を仕掛けた。

 新たな敵艦の出現と三度目のミサイルの雨を前に、敵巡洋艦の迎撃システムは完全に飽和。

 AIも即座に脅威判定を下すことができず、反撃は行われるものの効果的な統制された攻撃を仕掛けられずにいた。

 そうしているうちに駆逐艦の対艦ミサイルを浴びた軽巡洋艦一隻が討ち取られ、重巡洋艦の一隻もシールドとデフレクターを失いレーザーでズタボロにされて漂流していく。

 

 一気に2隻、しかも攻撃の要であった重巡洋艦の一隻が抜けたことにより敵艦隊の陣形には大きな乱れが生じ、そこにブロッサムに統率された巡洋艦と駆逐艦が雪崩れ込む。

 

 乱戦に持ち込まれたことにより敵巡洋艦群が誇る艦首大口径レーザー砲は封殺され、近距離レーザーと対艦ミサイル、果てには対空用パルスレーザーまでもが乱舞する混沌の戦場と化した。

 敵巡洋艦の舷側副砲群が火を吹き、ブロッサムの無人巡洋艦を反航戦で吹き飛ばしたかと思えば、今度は別の巡洋艦が対艦ミサイルを一斉射して敵巡洋艦を穴だらけにする。

 ブロッサムの巡洋艦に対して砲撃を挑む敵重巡洋艦に対し、霊夢が派遣した3隻の駆逐艦が突撃してすれ違い様にミサイルとレーザーを浴びせてその経戦能力を奪っていく。

 そんな混沌とした戦いが十数分に渡って続き、お互いに残存艦はみるみると、急激な勢いで減っていく。

 

 ブロッサムの眼前に浮かぶホログラムディスプレイには"No.01 Lost"、"No.09 Lost" "Kirisame Lost"と、次々に自軍被害が表示される。

 だが、敵艦隊は重巡洋艦の一隻を残すのみだ。

 残った3隻の巡洋艦と2隻の駆逐艦を全方向から突撃させて、最後の敵艦にありったけのレーザーと全てのミサイルを叩き込む。

 既に弾薬庫が空になった艦もあればレーザー砲の砲塔システムが過熱して使用不能になった艦もいる中で、残された武器を全力投射し、果てには大破した巡洋艦を直接ぶつけるといった荒業までやってのけて、最後まで奮戦していた敵重巡洋艦は漸く完全に沈黙した。

 

「ふぅ、敵艦隊、殲滅。オペレーション、完了です」

 

 全ての敵艦の撃沈を確認したブロッサムは、巡洋艦との完全同期を解除し自動航行に任せ、周囲の警戒へと戻った。

 

「さて、残りはあの本隊ですが、どうしたものか………」

 

 既に霊夢の手により、大部分が撃沈または撃破された敵本隊。

 しかし、敵の旗艦は健在で、間が悪いことに全速力でこの〈アイランドα〉に向かっていた。

 

 .

 

 .

 

 .

 

 .

 

 

 

 

 

「敵艦隊、4番艦を撃沈。残すは敵旗艦のみです」

 

 霊夢の指示によって苛烈な攻撃を加え続け、敵の護衛巡洋艦を全て排除した『紅き鋼鉄』主力艦隊。

 このままの勢いで、敵旗艦もダークマターへ還さんと、旗艦〈ネメシス〉は主砲の照準を敵旗艦へと向けた。

 

 艦長席にふんぞり返る霊夢は終始不機嫌さを隠そうともせず、肘掛けに置いた左手で頬杖をつきながら眼前の敵旗艦を睨んでいる。

 

 ―――これで、終わり。そう、何もかも……

 

 珍しく激情に身を任せるまま破壊を指示した霊夢だが、その深層は幾ばくかの落ち着きを取り戻していた。

 漸く目障りな偽魔理沙と別の自分の可能性を排除できる光明が見えてきたことから、精神的にある程度の余裕が生じていた。

 

 しかし、隣にいる早苗は何やら不服そうな顔をして、霊夢の姿勢に疑問を投げ掛ける。

 

「……いいんですか? 霊夢さん。このまま何も分からずに、あの二人を殺しちゃって」

 

 早苗の言葉は、ただ霊夢に疑問を呈するだけのものだ。しかし情緒不安定な今の霊夢にとって、自分の行為を否定するかのように聞こえるその台詞は、自分そのものまで否定する言葉として聞こえてしまう。

 

 ―――何よ、あれだけ私にべたべた張り付いてくるくせに、ここに来ていきなりいい子ぶるなんて………

 

 瞬時に浮かんだ怒りの感情を、霊夢は僅かばかりの理性で強引に抑え込んだ。

 

 

 敵はあくまでも自分の感情を逆撫でし続ける、霧雨魔理沙を汚すあの偽物だ。それに与する、目障りなもう一人の自分も同罪。

 

 だけど、早苗はそうじゃない。

 

 早苗は、ただ一人、私を見てくれる大切な人。

 漸く見つけた、弱い自分を包み込んで受け止めてくれる存在だ。

 

 そんな彼女に対して八つ当たりのように喚き散らしてしまうことは、幾ら激情に身を任せていたとはいえ、絶対に許されることじゃない。

 例えこの世界の誰からも嫌われたとしても………早苗にだけは、嫌われたくないから。

 だから、力付くでも、このどす黒い感情を押し込んでやる。

 敵は、あの二人だ。早苗にまで、怒りの矛先を向けるのは間違っている。

 

 

 霊夢は無理矢理に早苗に対して抱いた感情を押し込んで、"本当の敵"を注視する。

 

 "敵"の異常に気付いたのはそのときだった。

 

 突如として敵が加速を開始して、一直線に〈ネメシス〉に向かって突っ込んでくる。

 

 僚艦も伏兵も全部撃沈されて自棄になったかのように見えるその行動だが、霊夢には、"悪い予感"がびんびんと、濁流のように迸っていた。

 

「っ、敵旗艦、急激に加速を開始!」

 

「主砲で迎撃する!」

 

 レーダー画面を監視していたリアが叫ぶように報告し、フォックスは機転を効かせて即座に主砲を発射した。

 

 だが猛烈な勢いで加速を続ける敵旗艦を前にして、〈ネメシス〉の誇る160cm三連装レーザー主砲のエネルギー弾は掠めるばかり。

 敵艦が急速に接近するお陰で照準の修正が追い付いていないのだ。

 

「奴め、特攻のつもりか!?」

 

「……デフレクター、最大出力。衝撃に備えて」

 

 突然の敵の動きに霊夢も驚きはしたが、一番に平静を取り戻したのも彼女だった。

 "敵"に対する溢れんばかりに込み上げてくる殺意が、敵の行動に逐一驚愕する余裕を喪わせていた。

 敵をどうすれば殺せるか………それだけしか考えていない彼女にとって、これは好機でもあった。

 

「敵旗艦が接触したのと同時に、ありったけのミサイルを叩き込んでやりなさい。奴を止めるにはそれが一番よ」

 

 反航戦で、一気に敵旗艦を叩き潰す。

 これが、霊夢の思い描いた作戦(ビジョン)だった。

 鳴り止まない悪い予感も、ここで敵旗艦を屠ってしまえば関係ない。ようは、あの二人を生きて帰さなければいいのだ。

 

「了解! 全ミサイル、総点! 対空だろうがありったけ叩き込むぜ」

 

 敵がとの正面対決、というシチュエーションに燃えたのか、フォックスは陽気に火器管制のコンソールを叩く。

 

「敵旗艦、本艦に急速接近!」

 

「構うな、このまま押し潰しなさい!」

 

 敵旗艦との距離が急速に縮まっていき、遂には艦橋の耐圧防弾ガラス越しにその姿がはっきりと見えるまでに接近する。

 

「総員、衝撃に備えなさい!」

 

「デフレクター……全開ですっ……!」

 

 ガチィン、と、〈ネメシス〉と敵旗艦の艦首シールドがぶつかり合って盛大に青白い火花を撒き散らす。

 シールドの曲線に推力を流された両艦は互いの右舷側にそれぞれの敵に晒した。

 

「全ミサイル、ハッチオープン………発射ァ!!」

 

 〈ネメシス〉の右舷側にあるVLSとパルスレーザーのハッチが全て開放され、ドカドカと敵旗艦の右舷側へと撃ち込まれていく。

 絶えることなく打ち出されるミサイルの雨は互いが互いを通りすぎるまで続き、〈ネメシス〉の右舷後方に去っていった敵旗艦の全身を火花に包まれて、大爆発を起こした。

 

「敵旗艦………インフラトン反応拡散中、撃沈です」

 

「………」

 

「よし、やったぞ!」

 

 敵旗艦撃沈の報告に、艦橋内は沸き立った。

 ただ一人、霊夢を除いて。

 

「……霊夢、さん?」

 

 漸く仇敵を討ち取ったというのにいまいちな反応の霊夢に疑問を感じたのか、早苗が霊夢に問い掛ける。

 

「あ、………うん、早苗………」

 

「どうしたんですか? さっきまであんなに怖い剣幕でいたのに。拍子抜けでもしちゃいました?」

 

 先程までとは打って変わって、何処と無くぎこちない様子の霊夢。

 だが早苗は、霊夢がやっと激情から開放されたのかとそれに安堵すると同時に、一抹の後悔を覚えた。

 

 ―――本当に、これでよかったのでしょうか……

 

 確かに、博麗霊夢の精神を犯す敵は消えた。だが、彼女達も博麗霊夢で、霧雨魔理沙だったのだ。此方に害を成すならかかる火の粉を振り払うのも吝かではないが、暴力で叩き潰してしまっても良かったのだろうか、と。

 幾ら敵とはいえ、彼女達の境遇は悲惨なものだ。もっと………こう、上手く立ち回れることはできなかったのだろうが、と。

 これでは、あまりに虚しすぎた。

 

「いや……まぁね、………これで、終わったんだから」

 

 霊夢の返事も、心ここにあらずといった雰囲気で、早苗は冷静になった霊夢が、自分と同じことでも考えているのだろうかと思案する。

 

「――っ! そんな、あり得ない!」

 

 歓声に包まれた艦橋は、リアの発した叫びによって緊張が走る。

 

「敵旗艦、健在です!!」

 

「―――!」

 

 霊夢の瞳が、瞬時に絞られて臨戦態勢へと移行する。

 

 外装が剥がれ、赤黒い臓物(中身)を晒した敵旗艦は、その勢いが衰えることはなく、一直線に〈アイランドα〉を目指していた………。



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第一◯◯話 激情の奔流/博麗幻想郷(Ⅴ)

新年明けましておめでとうございます。
昨年は環境の変化や話自体難産だったこともあり、なかなか最新話を形にできませんでしたが、何とか完成まで辿り着けました。これからは、軌道を戻していけるようにしていきます。
今後ともに「夢幻航路」をよろしくお願いします。


「敵艦、進路変わらず! 〈アイランドα〉に向かっていきます!」

 

「チッ…………それが狙いか!」

 

 不味い。

 

 嫌な予感がひしひしと貼り付いて離れない。

 

「何としてでも撃ち落としなさい! 後部主砲―――ッ!?」

 

 しまった!! ―――この艦、後ろに撃てない! 

 

 〈開陽〉に乗っていたときの感覚で迎撃を命じようとしたが、今の旗艦である〈ネメシス〉の艦後部に主砲はない。

 咄嗟に思い付いた阻止策も、使えない。

 

 だけど、アレを行かせる訳には…………! 

 

 ―――あの憎たらしい偽魔理沙ともう一人の私…………私の最悪の可能性は、何を仕出かすか分からない。あいつらは、私を潰すためならどんな悪手にだって手を染めるだろう。

 

「早苗ッ!!」

 

「は、はいっ!」

 

 反射的に、早苗を呼ぶ。

 

 策が……ある訳でもない。

 

 でも、やれることはやらなくちゃ。

 

「無人機を全部出して! 今飛んでる奴も全部、あいつらにぶつけなさい!!」

 

「りょ―――了解ですッ!」

 

 早苗の周囲に蒼白い電子の円環が浮かび上がり、彼女の頬には緑色に淡く光る神経が通う。

 彼女が艦のコントロールユニットを介して、機器の操作に集中しているときに現れる現象(エフェクト)だ。

 

 〈ネメシス〉の艦橋後部に設置された24基の電磁カタパルトが起動し、艦載機を射出せんとバチバチと黄金の輝きを軋ませる。

 ハッチが開き、与圧室と宇宙が一体になった瞬間、盛大に勢いをつけて並んだ艦載機が"発射"された。

 

 AIF-9Vスーパーゴースト、VF-19Aエクスカリバー、VF-11Bサンダーボルト、Su-37Cフランカー、T-65Bスターファイター…………

 

 新型から旧式まで、ありとあらゆる今まで運用されてきた艦載機がマリサの旗艦に殺到する。

 自動制御された彼女達は、無駄な慈悲など微塵たりとも持ち合わせていない。既に〈ネメシス〉の斉射でズタボロになった敵艦に、傷痕を抉るようにしてミサイルやレーザーの雨を叩き込んでいく。

 

 ――それでも尚、敵艦は墜ちなかった。

 

 それどころか、残された僅かな武器を的確に指向して、此方の無人艦載機を一機、また一機と狙い撃ちにして確実に数を減らしてくる。

 

「っ!? なんて硬さなの!」

 

「くっ―――無人艦載機、損耗率30%を越えました! 霊夢さん!」

 

 無人機を制御している早苗からも、悲鳴のような報告が届けられる。

 

 ―――なんで、どうして…………

 

 ……何が、彼女達をあそこまで駆り立てるのか。

 同族嫌悪にしては、あまりにも度が過ぎる。

 もう"幻想の糸"が切れたなら、潔く消えれば一瞬で楽になれるというのに。

 

「かくなる上は…………!」

 

 ―――だけど、こっちだって、背負っているものがある。

 

 昔の私とは、もう違うんだ。

 

 つい最近までの、何も背負うものがなかった私とは、もうさよならだ。

 

 だから――――世界に仇為す創造神(オーバーロード)に与する偽物如きに、負けるわけにはいかない。

 あの二人をこの世界から抹消するまで、私に止まることなど許されない。

 

「―――全艦、反転180度! 奴等を追いなさいッ!!」

 

「「「アイアイサー!!」」」

 

 〈ネメシス〉の両舷に設置されたキック・パルス・モーターが力強く噴射し、強引に艦の向きを反転させる。

 慣性制御が急な反転に追い付かず、艦内には通常時を越えたGが降り注ぐ。

 

「っぐ…………ッ!」

 

「きゃっ……!?」

 

 左手で艦長席の手摺を掴んで、右手で重力に流されてきた早苗を掴んで受け止める。

 

「れ、霊夢さん!?」

 

「――今は、黙って。制御に集中して頂戴」

 

「あ―――は、はい!」

 

 早苗の身体が、右半身に押しかかる。

 彼女の身体を受け止めた右手はちょうど腰に回される形になり、自分でも流石に恥ずかしくなる。

 当たっている彼女の身体の、柔らかい熱さを感じて目眩がするが、強引に理性で押し留めた。

 

 今は、それどころではないのだから。

 

「艦長! 、敵艦、主砲射程圏内に捉えたぜ!」

 

「よし、その調子よ。あんたのタイミングでぶっ放して!!」

 

「イエッサー!」

 

 砲手のフォックスがトリガーを引き、〈ネメシス〉の大口径3連装レーザー主砲が放たれる。

 破壊の概念を秘めた雷は、神の怒りの如く敵艦を容赦なく貫き、遂にそのエンジン(心臓)を貫いて見せた。

 

「よしっ、命中!」

 

「敵艦、インフラトン反応拡散中!」

 

 撃沈―――誰もがそう思っただろう。

 

 エンジンを貫かれて、無事で済む(フネ)など居はしない。それが常識だから、みんな勝利を疑わない。

 

 ―――私一人を、除いては。

 

「……気を緩めないで。敵艦が粉微塵になるまで撃ち続けなさい」

 

「――なに? …………了解した。主砲、第二射用意」

 

 フォックスは一瞬疑問を持った様子だったものの、大人しく私の命令を聞き入れて、次弾の準備を開始した。

 あれだけの硬さを見せた敵だ、たかだか一斉射で沈むとは思えない。

 

「ちょ、霊夢さん!? なんでですか!?」

 

 案の定、隣からは驚きと、僅かな抗議を込めた声。

 

 優しい彼女からすれば、心外な行為なのだろう。

 

 だけど―――やらなくちゃ。

 

 ここで、あいつらを仕留めておかないと…………

 

「――悪い予感が、消えないの」

 

 右腕に、力を入れる。

 

 頼るように、縋るように。

 

 このままあいつらを生かしておいたら、とんでもないことが起こっちゃう。

 

 だから…………

 

「―――早苗、やって」

 

「……分かりました。霊夢さんが、そう仰るなら」

 

 右半身に感じていた、暖かさが離れていく。

 

 その瞳に決意を宿した彼女は、再び電子の世界へと沈んでいく。

 

 ―――ごめんなさい、付き合わせてしまって。

 

 早苗には、悪いことをしてしまった。

 

 私の都合に合わせて、無理を強いてしまっている。

 

 私が命じたことは、優しい彼女からすれば本来なら業腹ものに違いない。

 

 だけど、何としてでも…………

 

 それが、抑止力(今の私)としての存在意義なのだから。

 

「―――主砲、全力でぶっ放せ!!」

 

 〈ネメシス〉の主砲が、再び敵を目前に捉える。

 

 収束された蒼白いエネルギー弾が、雷鳴のように宇宙(ソラ)を切り裂き、破壊と蹂躙を振り撒いた。

 

 …………今度こそ。

 

 殺った、という手応えは、無い。

 

 当然だ。生身で戦う訳でもなく、直接真っ二つに裂いた訳でもない。間に戦艦という異物と宇宙という真空を挟んでいるからには、相手を殺した手応えは感じられない。

 

 ……だけど、直接手に掛けたときの気持ち悪さを感じないのは、この上なく有難い。

 偽物と破綻者如きを始末するときにまであんな感触を感じさせられてしまえば、それこそ私は狂ってしまいそうだ。

 

 だから、その点だけは…………敵が戦艦に乗っている点だけは、感謝しよう。

 

 

 前方の爆発が、次第に終息を迎えていく。

 

 線香花火のように乏しい火球の奥に現れたのは、真っ二つに切り裂かれてぐちゃくちゃになった敵の戦艦。

 

「敵艦、活動停止。断続的に爆発が続いています」

 

 画面には、火を吹いて誘爆を繰り返す敵艦の姿。

 

 今度こそ、完全に沈めた。

 

 だけど、何? この胸騒ぎは。

 

 あれだけの爆発、今度こそ殺した筈なのに。―――生きていられる筈なんて、ないのに。

 

「か、艦長!」

 

「――――何!」

 

「〈アイランドα〉より通信! 敵に侵入されたとの事です!」

 

 オペレーターの、風雲急を告げる張り詰めた報告。

 

 酷く耳障りなそれが、苛立ちを加速させていく。

 

「くっ…………やられたか。全艦、全速前進! 急いで!」

 

 してやられた。恐らく奴等は、戦艦を囮にして、戦闘機か何かで直接あの遺跡船に乗り込んだのだろう。なにかしら仕出かされる前に、殺さないと。

 

 殺せ、殺せ、早く殺せ…………と、私じゃないナニカが私と一緒に吠えている。

 あいつらは世界の敵だ、幻想の敵だ、と、頭の中でガンガンガンガン鳴り響く。

 

 ――――ああ、五月蝿い。

 

 そんなこと、分かってるのに。

 いちいち言われなくたって、最初からそうするつもりなんだって。

 

 殺せ、殺せ、殺せ……! 

 

 どんどんどんどん、耳障りな指示はその音量を上げていく。まるで早く達成しないと、とんでもないことが起こるのだと告げるように。

 

 ―――あいつらを殺したら、この音と不快な悪寒は鳴り止んでくれるのだろうか。

 

 …………あいつらは、世界の敵だ。創造神(オーバーロード)に与する裏切り者だ。だから殺せ。

 

 得体の知れないナニカからの、繰り返される断続的な指示。

 思えば、ついさっきも私の思考にナニカが自然と流入していた。

 不気味ではある。が、今はそれどころではない。

 この声がどんな存在であれ、あいつらを殺すのが先決だ。

 あいつらを殺した後に、幾らでも調べればいい。

 

 

 とにかく、今は――――

 

 

 奴の息の根を、止めるのが先だ。

 

 

 はやく、ころさないと――――殺さないと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~始祖移民船〈アイランドα〉仮設ブリッジ~

 

 

「敵の動きは?」

 

「はい………現在、敵は中央居住区エリアを無作為に荒らし回っているみたいです。無秩序な爆撃を繰り返しています。その意図は、掴みきれませんが………」

 

 移民船の指揮を預かるサナダが、統括AIのブロッサムに戦況を確認する。

 ホログラムモニターで示されている艦の断面図では、まるで病巣のように、中央居住区が真っ赤に染められて表されていた。

 "もう一人の博麗霊夢"とマリサに進入されてから、瞬く間に被害は拡大した。

 防衛機構は用を成さず、ただ破壊されるだけ。それを食い止めようにも、二人は未だ有効な手を打てずにいた。

 

「………待っているな、アレは」

 

 敵の行動をモニター越しに観察していたサナダが、ふと呟いた。

 

「はい?」

 

 サナダの発言の意図を図りかねたブロッサムは、疑義の意図を含んだ声を漏らす。

 敵の行動の意図を予測しかねていた彼女にとって、サナダが直感の如く答えを導きだしたのは誠に疑問だった。

 彼女から見れば、科学と論理を重んじる彼は、AIの自分には予測しやすい人間に見えていた。だがこうした側面を鑑みると、やはり彼も歴とした人間だと実感させられる。

 

 ―――この数千年の漂流で、私の勘も鈍りましたか。

 

 かつて、このフネに"人間"が残っていた頃ならば、間違いなく自分は"人間"であっただろう。しかし、数千年の孤独は、彼女を只のAIに引き戻すには充分過ぎた。故に、外面は取り繕えても内面は機械的。敵の感情を察しきれない機械に成り下がりつつあることは、彼女にとって、些かショックではあった。

 だが、何も感じない機械にまで退化していないことはまだ救いだ。久方ぶりの人間との接触で、それを確認できたのは僥倖であった。

 

 彼女はふと思い浮かんだ極めて個人的な"感情"を思考の片隅に留め置きながら、再び戦況観察に分割思考を振り向ける。

 

「考えてみろ、アレの目的は艦長だ。あのエネルギー体の群が艦内で暴れ回っているのも、艦長を誘き出すためだろう」

 

「なるほど………確か彼女は、艦長に並々ならぬ感情を抱いていたようですね。ですが、データは見させてもらった限りでは、あそこまで攻撃的ではなかった筈ですが」

 

「………十中八九、"彼女"だろうな」

 

 サナダは、暴れまわるエネルギー体の中心に侍る、二つの反応に眼光を飛ばす。

 

 片方は、恐らくエネルギー体を操っていると思われる霊沙―――もう一人の、博麗霊夢。

 そしてもう片方は―――霊夢を焚き付けた張本人の、マリサだ。

 尤も、博麗霊夢の混濁した激情は、彼女の予想に収まるようなものではなかったのだが、ここの二人には、それを知る術はない。

 

「――ともかく、今は我々にできる手立てはない。センチネルも無人兵器も歯が立たない以上、座して静観するしかない」

 

「それはそうかもしれないですけど―――このままほっといたら、乗組員にも被害が出ますよ?」

 

 珍しく後ろ向きな、それでいて的確に事実を言い当てたサナダに対して、ブロッサムが反論の意を込めて発言する。

 今は彼等が一時的に根城にしているものの、ここは本来彼女の居場所だ。そして彼女は、このフネの全権を預かる統括AIである。無論防衛もその責務の一つであり、歯が立たないから諦めます、という話にはならないのだ。

 しかし打つ手がないのは彼女にも見えていることであり、この矛盾に唸りを上げるものの、効果的な打開策は彼女一人では見えてこない。

 

「分かっている。だから、形だけでも防衛線を構築する。ブロッサム君、敵とこのブリッジとの中間地点に第一防衛線を構築する。センチネルを集中させてくれ。同時に、クルーの避難も進めさせろ」

 

「分かりました、抜かりなくやっておきますね」

 

 サナダが打ち出したのは、焼け石に水のような場当たり的な対応。しかし、今はそれしか打てる手がないというのも、また事実であった。

 敵に対してなにもできない無力感を噛み締めつつ、ブロッサムはサナダの指示に従ってセンチネルの配置を変更し、兵器工場に増産を指示する。

 

「……せめて、"アレ"が間に合っていればな」

 

「無いものをねだっても、しょうがないんじゃないですか?」

 

 サナダとブロッサムが指すものは、シオンのチームが開発中だった新型の白兵戦装備―――境界逆転兵装(アンチ・ファンタズム・アーマー)であった。

 ヴィダクチオ星系での最終決戦で霊夢が使用したパワードスーツをベースとして、通常の敵以外の脅威―――まさしく、霊夢のような超常の存在とも一戦交えることを想定して建造されていたそれならば、いま〈アイランドα〉で暴れ回る敵に対しても幾らか効果的な抵抗ができただろう。(因みに、開発に当たっては霊夢の血液のデータが使われている………らしい)

 しかし、その新装備もヤッハバッハとの戦闘を前に重要度低しとして開発は凍結され、最近になってやっと開発が再開したものの、完成はまだまだ先のことと見込まれていた。

 現在、試作零号機〈オルテナウス〉及び壱号機〈ルシフェリオン〉、弐号機〈バルニフィカス〉の三機が開発中のそれは、今回の襲撃を受けて急遽稼働に向けて急ピッチで整備されているものの、元の完成度が微妙なため、戦力として投入できるかどうかは未知数である。そして、シオンから実戦投入可能の報告は、まだ来ない。

 そのため、今は艦長の帰還までは通常兵器で耐える他に手段はなかった。

 

「……確かにな。現有の兵器がせめて、時間稼ぎにはなれば良いのだが」

 

 二人は、投入しては消えて行く兵器のアイコンをじっと見つめながら、戦況の監視を続ける。

 

 今は、勝算がなくとも、ひたすら戦い続けなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 時刻は遡り、"霊夢"とマリサが〈アイランドα〉に辿り着いた頃―――

 乗艦を霊夢の執拗な攻撃で破壊された彼女達は、脱出ポットで強引に艦内へと降り立つ。

 その目的を、復讐を、果たすために。

 

 

 

「着いたぞ」

 

 乾燥した、無機質な声。

 事務的な口調の彼女の声で、曖昧だった意識が輪郭を帯びてくる。

 一歩そこから踏み出せば、そこには偽りの大地と空。

 

 ――そう、私達の、戻ってきたのだ。

 あの憎たらしい、あいつの居場所に。

 

「……ありがとう。―――私は行くわ」

 

「そうか。………まだ死んでくれるなよ? 霊夢。お前は―――」

 

 何処か機械じみた声色に、若干の熱が籠る。

 酷く不機嫌そうな彼女の横顔が、視界の端にちらりと映った。

 

「分かってるわ。アイツになんて、殺されてたまるもんか。死ぬのはあっちの私よ」

 

「………ああ、そうだな。―――時間は一時間だ。それ以上経過するなら引き揚げろ」

 

 全く、心配性な奴だ、と心底思う。

 

 元々この襲撃に反対だった彼女からすれば、こんな場所からは一刻も早く抜け出したいに違いない。

 

 ―――だけど、彼女は私の我が儘を聞いてくれた。

 

 それなりに気に入っていた宇宙船を犠牲にしてまで、私をここまで運んできてくれた。ならば、それに報いるだけの結果を出すまで。

 

 アイツを殺して、このむしゃくしゃした感情に決着をつける。

 

 復讐は、有意義だ。

 

 巷では無意味だとも言われるが、私はそうとは思わない。

 復讐は、一つのけじめだ。

 アレが幻想の尖兵ならば、私はそれを粉々に砕いてやろう。アレの存在を消すことで、私をこんなんにした幻想に、一矢報いてやろうじゃないか。

 

 ………でなければ、私は彼女の隣には立てない。

 

 私がもう一度、彼女の隣に立つためには、彼女を一度殺した幻想に、その責任を取らせないと。

 

 ―――それが、"幻想の尖兵"として一度は彼女を手に掛けた私の、せめてものの罪滅ぼしだ。

 

「―――じゃあ、行くね」

 

「―――ああ」

 

 墜落した宇宙船の残骸から、偽りの陽光に向けて飛翔する。

 

 外壁を蹴り飛ばし、光に包まれた青空の先には、無数の防衛機構(センチネル)の群。

 

 ―――やってやろうじゃないの。

 

 身体じゅうの血肉が、沸き上がって躍動する。

 

 復讐と嫌悪と責任感―――それしかなかった感情に、新しい色が混ざり込む。

 

 ―――バラバラにしてやる。

 

 夢想封印。

 

 撒き散らした光弾が、機械の翼に穴を穿って強引に地面へと叩き落とす。

 

 次から次へと、新しいガラクタが飛んでくるが、私はそれらを全てガラクタへと変えていって、無計画に飛び回る。

 

 何もできないままに落とされていく、哀れな翼。

 

 その悲劇を積み重ねているのが他ならぬ私だというのが―――たまらなく愉しい。

 

 

 

 ……さて、そろそろ頃合いか。

 

 霊力を編んで、幻影を呼び出す。

 

 既にイメージは組んであったから、呼び出すのは簡単だ。

 

 かつて戦った幻想少女、その写し身を、空に並べる。

 

 私が踏み潰していった、異変の主達。

 

 朧気にしか覚えていなくとも、その閃光は、確かに私の脳裏に焼き付いていた。

 

 彼女達の姿を借りた幻想達は、利口な人形のようにみんな私の後ろに侍る。

 

 外面だけを真似た、虚ろな人形達の群れ。

 

 所々剥がれた表皮(テクスチャ)から覗く虚数(暗黒)は、まるで底無し沼のようにまっくらだ。

 

「―――行きなさい」

 

 腕を振り下ろし、幻想の人形達に命じる。

 

 人形共は表情一つ変えぬまま、ゆらり、ふわりととんでいく。

 

 彼女達は思い思いの方角へと散っていき、空から光をばら撒きながら、偽りの緑を更地へと変えていく。

 

 人も緑も青空も、何もかもを虚無へと沈める。

 

 まっくらな貌はケタケタと薄気味悪い笑みを浮かべていて、私のように気持ち悪い。

 

 ――くく、っ………

 

 かつてこれほどまで、愉しいことがあっただろうか。

 

 嫌悪していたのが馬鹿馬鹿しいくらいに、たまらなく心地いい。

 

 混沌と破壊に身を委ねて、自分のなかに溜まった汚泥を四方八方に撒き散らして、どこまでも堕ちていく。

 

 ―――ああ、なんて楽しいのだろうか。

 

 いままで必死に繋ぎ止めてきたもの、守ってきたものを投げ捨てて、ただアイツを殺すために、思うがままに力を振り撒く。

 

 そのどれもが、最高(最悪)に愉し過ぎてたまらない。

 

 ―――さぁ、早く出てこい。………全力で叩き潰してあげるわ、博麗霊夢……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、そこまでよ。お二人さん」

 

 

 ──ふと、声が、聞こえた。

 

 

「誰だッ!?」

 

 マリサが、叫ぶ。

 

 ここには、私達の障害になるような存在は居なかった筈…………

 

 そんな都合の良い考えは、いとも容易くひっくり返る。

 

 最悪のタイミングで、まるで冷や水を浴びせられたみたいに。

 

 

 流麗に流れる、金の髪。

 氷のように無機質な、蒼の瞳。

 衣装こそあの"作り物"のものだったが、その姿は、間違いなく…………

 

 

 見間違える筈がない。

 あれは…………

 

「何故、どうして──」

 

「お前が、ここに居るんだ──」

 

 

 

 

 

 

 ────アリス・マーガトロイド!? 

 

 




 プロフィールが更新されました

 ~博麗 霊夢~

 筋力:E-
 耐久:D
 敏捷:EX
 霊力:EX
 宝具:ー

 属性:秩序・中庸 (New!)
※属性は、状況によって変化する。

 skill

 ・艦隊指揮:C

 ・直感:A

 ・空を飛ぶ程度の能力

 ・永遠の巫女:EX (Rank UP!)

 ・破滅願望

 ・抑止の先鋒:EX (New!)


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Intermission_100.5 (Case Echo)

 「The Bad Batch」公開を記念してのクロス企画です。
 弊作「共和国の旗の下に」とのクロスになりますが、IFストーリーではなく本編の時系列の中での幕問という形です。

 時系列としては第一◯一話の直前になります。


「シャトルを守る! ファイヴス、援護を頼む」

 

「エコー待て! 危険だ!!」

 

 敵の砲台がシャトルを向く。

 あれを喪えば、脱出の手段が無くなってしまう。

 俺は足元に落ちていたシールドを拾い、シャトルの前に躍り出ながらブラスターの引き金を砲台に向けた。

 

 だが、それが運の尽きだった。

 

 直後、背後で炎が膨れ上がる。

 それがシャトルの爆発だと気付いた時には、もう全てが手遅れだった。

 

 …………………………………………………………

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 次に俺が目を覚ましたのは、得体の知れない灰色の部屋だった。

 身体には幾つものチューブが繋がれ、思うように動かない。食い物すらろくに出されず、栄養は血管に直接繋がれたパイプを通して補給されているようだ。

 ようは、ただのモノ扱い。

 共和国軍ではありえない待遇だ。

 

「検体ガ目ヲ覚マシマシタ」

 

「眠らせろ。実験を続ける」

 

「ラジャラジャ」

 

 耳障りな、ブリキ野郎共の声。

 俺が敵の捕虜になっているのは一目瞭然だ。…………いや、捕虜という言葉すら生易しい。俺は尊厳なんてものは全て奪われ、今や分離主義者共の道具扱いだ。先程の会話で察するには充分だった。

 

 ああ、なんて地獄だ。

 

 これなら、あの時焼かれて死んでいた方がずっとマシじゃないか、クソッ。

 

 声にならない悪態を吐き出すも、それが届くことはない。

 ドロイド共は無慈悲に機械を操作して、俺の意識をあっという間に沈めていきやがる。配管から気持ち悪い感覚が注入されて、身体がどんどん凍りつく。

 

 ………………すまない、ファイヴス。

 

 あいつは今も、銀河のどこかで必死に戦っているのだろう。一方俺は、こんなところで生き恥を晒している。

 なにが兵士だ、なにがARCトルーパーだ。

 

 ――――畜生。

 

 慟哭は、届かない。

 

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 ……………………………………

 

 

 

「――――エコー?」

 

「…………なのか?」

 

 瞼に差し込む、一筋の光。

 懐かしい声が脳裏に響く。

 

 まさか。

 

 まさか、そんな奇跡があるのだろうか。

 恐る恐る、瞼を開ける。

 朦朧とする意識に鞭打ちながら開いた世界の真ん中には、確かな青と白のコントラスト。

 

 ――――ああ。なんて幸運。

 

 夢ではないかと、何度もわが目を疑った。

 だが、そこにあるのは確かな現実。

 

「彼を下ろすんだ!」

 

 スカイウォーカー将軍の声が頭に響く。

 彼等がいるならまさかとは思ったが、そのまさかだ。将軍まで、駆け付けてくれたらしい。

 

「大丈夫か、エコー!!」

 

「う…………あ、ああ…………」

 

 長いこと喋らなかった影響か、はたまた身体をいじくり回された影響か、思うように声が出ない。

 

「! ―――よかった。お前が、生きているなんて…………」

 

「エコー。もう大丈夫だ。まずはここから脱出する。もう少しの辛抱だ」

 

 ファイヴスは俺を拘束していたパイプを強引に引きちぎり、レックスが肩を回して俺を支える。

 

「…………衰弱しているな。メディックを呼べ。可及的速やかに彼を運び出す」

 

 聞き慣れない若い女の刺々しい声。恐らく、指揮官なのだろう。矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、冷静に状況を注視している。

 

「分離主義者め、やってくれましたね。我が軍の兵をここまで…………」

 

 ついさっきまで俺が囚われていたチューブのコフィン。それを睨みながら呟いた彼女の横顔は、気のせいかひどく無機質なものに見えた。

 その美しい絹のような銀色の髪も凍てつく美貌も、纏わりつく黒い空気が全てを反故にしている人形のような女。

 だがそれを、何故だか美しいと感じてしまった。

 聳える氷山のごとく孤高な高嶺。それが、彼女―――シャルロット統合作戦本部長に俺が抱いた最初で原初の印象だった。

 

 

 ……………………………………………………

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 

「エコー、時間だ。起きろ」

 

「ん―――すまない。少し寝込んでいたか」

 

 ファイヴスに身体を揺さぶられて、意識が現実に引き戻される。

 

 ――――ひどく、懐かしい夢を見ていた。

 

 俺が再び銃を取ることができた、その直前の記憶。

 ローラ・サユーで倒れた俺を、見つけてくれた兄弟達。

 

 ふと、視界に一枚の写真立てが映り込む。

 俺と、ファイヴス、コーディ。そしてレックス。

 俺達三人は故あってこの遥か未来に生きているが、唯一死んだ彼のことは、未だに忘れることはない。

 

 ―――〈トライビューナル〉の事故調査結果だ。結論から言おう。コマンダー・レックスは同艦の墜落に巻き込まれ行方不明(MIA)。タノ将軍も同様だ。

 

 ―――そんな! 彼が死ぬなんてあり得ない!! なにかの間違いではありませんか、ブリュッヒャー本部長!…………

 

 ―――残念ながら事実だ。そしてもう一つ重要なことだが、我々統合作戦本部は同艦の事故が"違法に発令された"緊急指令第66号にあると見ている。

 

 ―――何が言いたいんです、本部長。

 

 ―――どうか、"我々の側"についてはくれないか。共に、君の兄弟達の無念を晴らそう。

 

 懐かしい、記憶だ。

 ほんの1年前の筈なのに、どこか遠い昔のことのようにすら感じる。

 あの後、共和国軍はどうなったのだろうか。果たして、彼女は兄弟達の誇りを護り通してくれたのだろうか。

 今は全て、遥か遠い彼方の過去。

 記録すら残っていない今となっては、確かめる術すらない。

 

 だから俺は―――この新しい家に全てを捧げる。

 あの自然体でありながら何処か危うげな少女の艦長、博麗霊夢。彼女が今の俺の主。彼女は"もう軍人でなくていい"とは言ってくれるが、生憎刻み込まれたこの性分が消えることはないだろう。必要ならば、犠牲になることも厭わない。

 全ては、この新たな家――『紅き鋼鉄』の為に。

 

「…………エコー、ブロック98に敵が侵入した」

 

「わかった。3分で支度する。ファイヴス、お前は機動歩兵(ドロイド)共を準備してくれ」

 

「了解だ。急げよ、エコー」

 

 けたたましくアラームが響く。

 携帯端末には、警告画面と情報の嵐。

 

 やれやれ、一難去ってまた一難か。あの可愛い艦長さんの為にも、一肌脱ぐと洒落込もう。

 

 アーマーに袖を通し、銃を手に取る。

 馴染んだ改造型フェーズⅡヘルメットを最後に被り、準備は万端。

 

「行くぞ、ファイヴス」

 

「ああ」

 

 

 

 いまや、二人だけの海兵隊。いや、第501大隊。

 迎え撃つは、幻想少女を象った偽りの幻影。

 遠い未来、遥か隣の銀河系。

 共和国の旗が燃え付きようと、兵士の伝統は喪われず。

 いまや僅となったクローン・トルーパーの誇りを胸に、彼等は幻想に立ち向かう。

 

 彼等が死霊桜の幻影と対峙するのは、その僅か後のことだった。

 



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第一◯一話 新たな力

 ~〈アイランドα〉研究室~

 

 

 

「本当に、これで奴等と渡り合えるのかい? シオン」

 

 〈アイランドα〉に敵…………マリサと寝返った霊沙が送り込んできた偽物の幻想少女が侵入してから、《紅き鋼鉄》は各地で敗退を重ねていた。ブロッサムとサナダ謹製のセンチネルや機動兵器は役に立たず、逆に穴だらけにして地に倒れ付していた。

 そんな戦場を辛くも離脱した整備班武装隊のリーズバイフェは、後方の拠点で待機していた友人兼艦隊の頭脳(マッドサイエンティスト)が一人、シオンと合流を果たしていた。

 

 ただ彼女と合流できたのはいいのだが、そこで怪しげな新装備を着せられたリーズバイフェは困惑半分、シオンにその意図を尋ねる。

 

「ええ、性能には問題ありませんよ。何せ、艦長を解析して作った逸品です。戦えない訳がない」

 

「そうかぁ…………なら、使ってみるしかないな」

 

 観念したように、リーズバイフェは大人しく新装備を持ち上げる。

 

 要は、自分に人柱になれと言いたいらしい。

 

 整備班に所属していた都合上、シオンからは以前から色々と怪しげな発明を受け取っていたのもあって、今回のもその延長線上に過ぎないのだろうと自らに言い聞かせる。

 

 そもそも、この〈アイランドα〉で敵が暴れている以上、何らかの対抗手段は必要だ。無力なままより、力のある方が生き残る確率も上がる。

 

 そうして自分を納得させたリーズバイフェは、装備品の起動スイッチに手を伸ばした。

 

「いいですか? 稼働時間は15分が限界です。それも、攻撃にエネルギーを割きすぎればより短くなる。その間に、最低でも敵1体、できれば2体以上の撃破をお願いします。私も後から試作装備で駆けつけますから、その間、前線の構築と維持を頼みます」

 

「ああ、分かった。――――いくよ、オルテナウス」

 

 起動スイッチを、力強く切り替える。

 

 左手に把持した盾状の装備の外郭に、紫色のエネルギーが迸る。

 

「既に、同じコンセプトの装備を受け取っているシュテルさんとレヴィさんは前線に向かっています。先ずは彼女達と協力して、敵の足止めと撃破を頼みます」

 

「了解。…………全くいつもシオンは無茶ばかり言うね。まぁいいけど!」

 

 一通り装備品の作動チェックを済ませると、一直線に、撤退してきた筈の方角に視線を向けるリーズバイフェ。

 

 直後、アーマーの力を借りて力強く地面を蹴り、我が物顔で暴れまわる偽りの幻想少女達の元へと駆ける。

 

 その手に幻想を破る力、科学の結晶――境界逆転兵装(アンチ・ファンタズム・アーマー)を携えて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………見えた。敵を捕捉、これより突入する」

 

 シオンから装備を受け取り、移民船の艦内で暴れる"敵"を再度その目に捉えたリーズバイフェは、一直線に突撃する。

 シールド状の装備に取り付けられたブースターは全開にされて、猛烈な勢いで彼女の身体を前へ、前へと奮進させる。

 

 しかし、派手に炎を撒き散らしながら突撃するリーズバイフェの存在は、ある程度距離が離れていても容易に捕捉できてしまう。

 敵はそうして彼女の接近を感知したのか、自身に向かう無人兵器郡の排除を中断して、空から彼女を見下すようにその無機質な瞳を向ける。

 

 敵は手に取った扇子を振り上げ、無数の光弾を生成する。

 

「!? っ…………来るか!」

 

 それが攻撃の予備動作であることは、既にリーズバイフェも知っている。あの扇子が降り下ろされた瞬間には、自らを死に至らしめる光弾の雨が頭上に降り注ぐことになるのだ。その弾幕から辛くも逃げ延びてきた彼女には、その恐ろしさが身に染みている。―――あの攻撃の前に、一体何人の仲間が倒れたのだろうか。

 

 …………だが、今の彼女は先程までとは違う。

 幻想と神秘を打ち破る新たな力を手にした彼女は、迷うことなくその盾を掲げ、敵に向かって吶喊した。

 

「いくぞ―――バンカーボルト、起動!」

 

 リーズバイフェは既に敵と交戦していた味方の前に、ブースターの加速を生かして瞬時に躍り出ると掲げた盾を勢いよく振り下ろし、杭を打ち付けて固定させる。

 

 

「!? 援軍か!」

 

「君達は…………エコーとファイブスか。…………すまない、遅くなった」

 

 庇った味方の方向を振り向くと、遮蔽物に身を隠しながらブラスターを敵に向ける海兵隊員のエコーとファイブスの姿があった。

 

 その直後、敵から無数の光弾がリーズバイフェ達に降り注ぐ。

 不気味に輝く蝶形の弾幕を前に、リーズバイフェは境界逆転兵装の真価を発揮させる。

 

「シールド起動……出力、最大!!」

 

 オルテナウスは紫色に輝き、魔方陣のような幾何学模様を伴うエネルギーシールドを発生させる。

 

 光の蝶はそのシールドに衝突したとたんに崩れ、内臓するエネルギーを霧散させた。

 

「よし今だエコー、グレネードを!」

 

「言われなくても……!」

 

 リーズバイフェが攻撃を防いだことで敵にわずかな隙が生まれる。

 そこにすかさずエコーがグレネード―――サーマル・デトネーターを投擲し、それは空中に佇む敵の眼前で炸裂した。

 その力を解放したサーマル・デトネーターは敵に向けて蒼白の電撃を放ち、電撃を受けた敵は砂のように崩れて消えた。

 

「すまん、助かった」

 

「ああ―――君達が無事で良かったよ」

 

 エコーが救援に謝意を表し、改造型フェーズⅡクローン・トルーパー・アーマーのヘルメットを脱ぐ。

 声こそ平常であったものの、その顔には汗がびっしょりと吹き出しており、苛烈な戦闘の経過を物語っていた。

 

「しかし、とんでもなく強い敵だったな」

 

「全くだ。科学者連中がくれたあのサーマル・デトネーターがなければどうなっていたことか…………」

 

 エコーとファイブスは今までの戦いを回想し、改めて今回の敵の強大さに戦慄した。

 

「科学者? もしかして君達も、シオンに新装備を貰っていたのかい?」

 

「ああ。何でも今回の敵は"今までと違う"らしいからな。普通の装備じゃ太刀打ちできないからと、アーマーと武器を改良してくれたんだ」

 

「シールド付きのアーマーに特殊素材でできたグレネード……貰ったときは過剰装備に思えたが、敵の強さを思えばむしろ足りないぐらいだったな。連れてきた機動歩兵(ドロイド)共は全部スクラップになっちまった」

 

 彼等は新装備を貰った経過をリーズバイフェに話す。

 彼等も彼女と同じようにシオン達マッドサイエンティストから新装備を受け取っていたが、空中から無数の弾幕を放つ霊夢が作り出した影―――幻想少女の幻影が相手では分が悪かった。

 ガンシップの上位互換のような性質を持つ幻想少女(幻想郷の住人)、その影が相手ではエコー達歩兵は太刀打ちできず、ピカピカだった改良形フェーズⅢトルーパー・アーマーは泥だらけになり、通常の歩兵10人分にも相当する力を持つ機動歩兵も、敵に向けて携行対空ミサイルを発射するも全弾撃墜された挙げ句に反撃で全て破壊されていた。

 

「新型のブラスターは効果はあったが、敵の回避力が化け物じみていたからな。あまり当たらん。一番役に立ったのはグレネードだ」

 

 彼等が装備するブラスターとグレネードも共に新型―――というより特殊なものであり、サバイバルナイフと一体化した構造のブラスター「EC-15A エクリプスブラスター」は銃内部に"博麗の血"を封じ込めたリアクター"封印晶"を内蔵することにより幻想少女への対抗を可能とした銃だ。しかし、元より"弾幕ごっこ"で回避能力が鍛えられていた幻想少女―――その幻影に対しては、直線的な攻撃しかできないブラスターは今一つの評価だった。

 対して新型グレネード「EC-11 エクリプス・デトネーター」はEC-15Aと同じく博麗の力を封じ込めたグレネードで、封印晶をそのまま爆薬とすることにより幻想少女への効果的なダメージを狙った武器だ。

 このグレネードはブラスターと違い爆発によりダメージを与えるものなので効果範囲が広く、局面によっては効果的な活用が可能なのでエコー達はこのグレネードを高く評価した。

 

「…………だが、今ので貰ったグレネードは使い切っちまった。一度補給に戻ろう。装甲服の調子も確認したい」

 

「そういう訳だ。俺達とは一時お別れ…………といきたかったとこだが、どうも間に合わなかったようだ」

 

 しかし、その効果的なグレネードを使いきり、装甲服もダメージを受けている状態では、エコーやファイブスに幻想少女へ対抗する術はない。

 そのためエコーは一時帰還を提案したが、状況はそれを許さなかった。

 

 上空に仁王立ちする水色の人影―――それを認めたファイブスは舌打ちした。

 

 ―――なんてタイミングの悪い、と。

 

「…………あれは私が引き受けよう。君達は基地まで戻るんだ」

 

「だが、あんたにはシールドしかない。どうやって倒す」

 

 新たな敵を引き受けると宣言したリーズバイフェだが、エコーがそれに待ったをかける。

 リーズバイフェの境界逆転兵装、オルテナウスにはシールドと近接格闘兵器であるパイルバンカーしか装備されていない。中距離での弾幕戦を得意とする幻想少女が相手では、些か分が悪すぎた。

 

「だが、今この中で一番戦えるのは私だ。殿になるなら私だろう」

 

「ならチームワークで戦えばいい。俺達にはまだブラスターがある」

 

 リーズバイフェが反論する。

 エコー達では幻想少女を倒せる望みがない以上、残って戦えるのはリーズバイフェしかいない。だが、仲間を見捨てられるほど薄情ではないエコーとファイブスは、チームワークで戦い続けようとする。

 

 しかし、幻想少女にそんなことは関係ない。

 上空に佇む彼女は巨大な氷塊を作り出し、それを地上の三人目掛けて撃ち下ろす。

 

「不味い、不味いぞ…………!」

 

「ちっ―――オルテナウス「その必要はありませんよ」何―――?」

 

 リーズバイフェが盾を起動しようとしたその瞬間、彼女の頭上に影が差す。

 彼女を飛び越えた影は氷塊とリーズバイフェ達の間で急制動し、その手に携えた銃口を氷塊に向けた。

 

「ルシフェリオン、カートリッジリロード!!」

 

 右腕に備えた巨大で鋭角的な銃剣―――ストライクカノンに"霊力"が充填される。

 

 だが水色の幻影は乱入者を気にも留めず、腕を振り下ろしもろとも氷塊で圧殺しようと試みる。

 氷塊は自由落下し徐々にその速度を早め、遂には人影に差し掛かろうとするが―――

 

「フォートレス、展開―――!」

 

 人影の背後から、4枚のシールドビットと1枚の大型シールドビットが飛び出し、強引に氷塊を押し止める。

 その隙に充填を終えた人影は、シールドビットの隙間に銃口を構えた。

 

「ディザスター…………ヒーート!!」

 

 銃口から充填された霊力の奔流が飛び出し、炎を纏って氷塊を打ち砕く。

 炎はその勢いのままに水色の幻影までもを飲み込み、一瞬にして溶かし尽くした。

 

「…………ふぅ、間に合いましたか。三人とも、無事ですか」

 

「ああ、すまない。君は――」

 

「スタークスか。だが何故ここに? 君は航空隊だろう」

 

「ええ。ですが今は、この装備を任されて敵の迎撃に出ています。司令部に向かう敵は粗方排除しましたが、まだ残っていたようですね」

 

 人影の正体は、リーズバイフェと同様境界逆転兵装を任されて、幻影を排除していたシュテルだった。

 

 彼女は相方のレヴィと別れて幻影を狩っていたところ、水色の幻影に襲われる三人を発見して介入した、という形だ。

 

「だが、これで幻影も狩り尽くされただろう。一先ずは安泰だな」

 

「ええ。ですが――――」

 

 当面の脅威が去ったことに安堵するエコーとファイブス。

 だが、シュテルが睨んだ空の先には、未だに"元凶"が残っている。

 

「裏切り者の嬢ちゃん、か」

 

「―――元は仲間とはいえ、敵ならば討たねばなるまい。この艦を、守るためにも」

 

 彼女達が見上げる虚空―――その先では、未だに戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あんたは……確かに殺した筈だ。何故ここにいる――!?」

 

 有り得ざる来訪者を前に、悪鬼の如く峻険な剣幕で睨む魔理沙。

 

 それをアリスは、あたかも取るに足らない些細なもののように受け流し、いつもの澄まし顔で応じた。

 

「死んだ? 何の冗談? 死体も確かめずに判断するなんて、貴女らしくもないわね」

 

「…………一体、どんなカラクリ」

 

 目の前の人形師は確かに魔理沙が艦ごと沈めた筈。

 にも関わらず、五体満足で健在な彼女の存在は、益々不自然だ。

 霊夢は魔理沙の影から、アリスを遠巻きに観察するが、そこに何ら不自然さはない。

 

「…………人形よ、人形。身体なんて幾らでも用意できるもの。ほら、この身体だって、ね」

 

 訝しむ霊夢と魔理沙をよそに、アリスは二人の前でゆらりと身体を一回転して見せる。

 

 ―――っ、まさか…………! 

 

 まるで見せつけるかの如きアリスの行動に、霊夢は己の不覚を悟った。

 

 直後、彼女が浮かんでいた場所目掛け、緋色の雷球が突如として飛来する。

 

「ちぃ…………っ!?」

 

 結界――――

 

 紙一重で結界を幾重にも張り付けて、己と相棒を守る霊夢。

 

「おっと――危ない危ない。助かるぜ、霊夢」

 

「…………」

 

 着弾の衝撃で生じた煙が晴れ、徐々に空が群青へと戻る。

 

 霊夢は煙の先へ眼光を向け、この事態を引き起こした犯人を睨んだ。

 

 霊夢が振り返って睨んだ先には、宇宙港区画を飛び出して居住区内部へと進入する、一隻の宇宙船。

 

「―――巡洋艦ブクレシュティか」

 

「成る程ね、他人の空似じゃなくて、本物だった訳か」

 

「今更気づいたの? "艦長"ならともかく、貴女ならとっくに感付いているものだと思っていたのだけれど」

 

 言外に"気付けないお前は盲目だ"と挑発するアリスを前に、歯噛みしかできない霊夢。

 

「―――チッ、それじゃああんたも私も死んでないってことか。……お前らを探すのは大変だったんだぞ」

 

「どうも。ビーコンがないんだから苦労したでしょ?」

 

「ああ。お陰で身体を一つ持ってかれたよ」

 

「それはお互い様でしょ。貴女の人形、お気に入りだったのに。よくも壊してくれたわね」

 

「おぉ、気持ち悪いぜ。流石は都会派魔法使い様だ」

 

 一方で、魔理沙は敵のペースに乗せられてたまるものかと、アリスに軽口を叩きつける。

 しかし火力はともかく、悪口(ブレイン)では何年経ってもせいぜい互角止まり。奪われた主導権を取り戻すには至らない。

 

「さて――私は"霊夢"が来るまでここで待っていてもいいのだけれど、貴女達はどうする? 先に私を殺す? それとも―――」

 

 妖しく微笑むアリスを前に、仄かな悪寒を悟る魔理沙は、即座に自身の背後を撃ち抜く。

 

「仲良くお人形になって暮らしたい? ――ッ!」

 

 光弾で撃ち抜いた先には、半身が抉れた西洋人形。

 身体の半分が吹き飛んでも尚槍を片手に突撃するそれを、八卦炉であしらう魔理沙。

 直後、自爆した人形の爆炎が彼女を襲うが、片方で振り払えば直ぐに晴れた。

 

「誰が、人形なんかに―――!」

 

 振り向き直り、光線を放つ魔理沙。

 だが盾を持った人形に阻まれて、黄金の光は届かない。

 

 アリスの背後から霊夢が放った悪性の札も、不可視の魔力糸の一閃で叩き落とされる。

 

「あら、残念。でも―――嫌がる"魔理沙"を無理矢理人形にするっていうのも、それはそれで乙なものね」

 

「お前っ…………どこまで変態なんだ、この野郎っ!」

 

 彼女が別の"自分"にした所業を想像し、自棄になって攻撃を叩きつつける。

 

 そんな魔理沙が放つ光弾を、アリスは一発、二発と、火の粉を払うように易々と叩き落とした。

 

「仕方ないでしょ、そうしないとあの子はあんたに殺されてたんだから。……まぁ、"移し替える"ときはできるだけ楽しんでもらったけどね」

 

「…………やっぱり変態じゃないか! このっ……」

 

「どう? 貴女もさっさと人形にならない? 魔理沙にしたことは全部してあげるけど」

 

「私は…………霊夢一筋だ……ッ!」

 

「一途ね、お可愛いこと」

 

「ッ、このアマ……っ!!」

 

 魔理沙が構えた八卦炉から、一条の光線が迸る。

 

 紫色に光る極太の光線は、されど七色の人形遣いには届かない。

 ひらり、と蝶のように舞う七色の人形遣いを相手にして、感情に任せて撃っただけの雑な弾幕が当たる筈もない。光線は彼女を掠りもせず、遥か遠く、彼女の背にある森の一部を焦がして果てた。

 

「あら、そんなもの? 幾千年の怨恨とやらはその程度なの? 興醒めね」

 

「興味なんて…………持って貰わなくて結構だ…………!」

 

 魔理沙の背から、数多の黒い筒状の弾幕。

 

 ―――マジックミサイル。

 

 かつて彼女が駆っていた、通常弾幕の一つ。

 しかし、今や変貌を重ねたそれは、ただの弾幕と言うには余りにもおぞましい。

 

 齢十四、五に辛うじて届くかというレベルの華奢な身体から、全長数百メートルにも達する宇宙艦から撃ち出されるようなミサイルが、数十と飛び出してくる。

 

 発射した直後には届くのではと思わせるほどの巨大なミサイルが、人形遣いを目掛けて一気に殺到する。

 

「ちっ…………厄介ね!!」

 

 アリスはミサイルの間に出来た絶妙な空間に身を捻り込ませ、魔理沙の弾幕を躱す。

 

「避けたか。だが、その先には」

 

「残念。もう"視えている"わ」

 

 アリスに向けて放たれたと思われた数多のマジックミサイルは、彼女を過ぎると偽りの空の最奥部―――艦橋などの重要区間へと続く隔壁を目指す。

 

 しかし、ミサイルは蒼白の光線と相討ちになり、全てが残らず迎撃された。

 

「この身体、元は何なのかも忘れたのかしら。火力馬鹿さん」

 

 宇宙港付近に佇む巡洋艦ブクレシュティから放たれた迎撃用パルスレーザーは正確に、変貌したマジックミサイルを撃墜する。

 一秒にも満たない僅かな時間で果たされた一連の戦闘は、今のアリスの身体―――巡洋艦ブクレシュティの統括AIが導き出した未来予測に基づいている。

 

「ちっ、ずる賢い奴め」

 

 今の彼女が"只のアリス・マーガトロイド"ではなく、"巡洋艦ブクレシュティの統括AI・アリス"も兼ねていたことを失念していた魔理沙は、してやられたと舌を巻いた。

 

「だけどなぁ…………お前もお前で、忘れてる訳じゃないだろう!!」

 

「!? っ…………」

 

 背後に感じる、仄かな殺気。

 

 妖気を滅することのみを目的とした鋭い殺気が、彼女を貫かんと四方から迫る。

 

「そう言うあんたは、いつまで経っても七色魔法馬鹿から変わらないわ」

 

 霊夢の放った封魔の針が、アリスの妖力を目印に殺到する。

 今のアリスは、身体こそ科学世紀の産物だが、中身は完全に魔法遣いだ。魂魄から迸る魔力は妖怪の証、博麗の力相手にはすこぶる相性が悪い。

 

 …………任せたわ。

 

 …………えっ、ちょ―――突然過ぎない!? 

 

「ッ―――!?」

 

 だが、彼女の中身は、アリス・マーガトロイド一人ではない。

 一つの器に二つの意識というイレギュラーを存分に活用して、アリスはアリス(ブクレシュティ)を意識の表層へと引き起こし、自身は潜水艦の如く急速潜航。博麗の力をやり過ごす。

 

 一瞬で"妖怪"から"機械"に成り代わったアリスには、封魔の針もただの金属片でしかない。

 

 アリス(人形師)の機転で突如戦闘に引き摺り出されたアリス(巡洋艦)は、なけなしの演算力を振り絞って全周にナノマシンから成るシールドを構築、霊夢の針を吹き飛ばす。

 

 ―――ご苦労様。"本体"に戻っていいわ。

 

 ―――元はこの身体も私のものよ。履き違えないで。

 

 用を済ませたアリス(巡洋艦)は、再び身体の主導権をアリス(人形師)に譲り渡し、700mの巡洋艦の艦内へ還る。

 

「…………咄嗟に意識を交代したわね」

 

「当たり前でしょ。妖怪の私が貴女の力を受けたらひとたまりもないもの。有るものは存分に使わないとね」

 

「…………厄介な奴」

 

 心底面倒そうに睨み付ける霊夢の視線を、飄々とあしらうアリス。

 

「面倒だ。火力で一気に押し潰す」

 

 魔理沙の宣言に、僅に顔を強張らせるアリス。

 

 元来技巧派の彼女にとって、単純な力押しは嵌めやすい格好の標的ではあるのだが、それも火力が高すぎると逆に天敵と化す。高すぎる火力が、策を洗いざらいに焼き尽くしていくからだ。

 そして目の前の魔理沙は、オーバーロードの尖兵。謂わば"上位存在に祝福された存在"だ。幻想郷時代の彼女とは訳が違う。

 

 外面こそ飄々とはしているものの、内心では冷や汗だ。

 

 ―――念には念を入れて。ブクレシュティ、シールドを強化して。

 

 ―――了解。そもそもアレ(幻想)に、APFSが効くかどうか分からないけどね。

 

 身体の持ち主たるアリス(巡洋艦)に指示するアリス。

 状況はよくないとはいえ、自負は所詮時間稼ぎ役と認識している彼女には、まだまだ勝算があった。

 

 霊夢が放った幻影は一先ず、この艦のクルー達に任せるとして、自負は霊夢と早苗が戻るまでこの戦線を支えていればいい。相手を焚き付けて力を無駄に消耗させれば尚良い。

 霊夢と早苗の二人が戻れば、現状の2対"2"から2対4だ。数の上でも二倍の戦力、加えてこちらの霊夢はあちらと違って健全だ。

 

 アリスは戦力を冷静に分析して、自身の役割を再定義する。

 後は魔理沙の攻撃に備えるだけ―――と思われた矢先だった。

 

「先ずは…………面倒な巡洋艦から片付けさせて貰うぜ」

 

 ずっとアリスに向いていた八卦炉の砲口が、ふいにブクレシュティを指向する。

 

「―――ダークスパーク」

 

 放たれるは、漆黒の砲撃。

 戦艦の主砲に匹敵するエネルギーを帯びた幻想の暗黒は〈ブクレシュティ〉のAPFシールドに衝突し―――貫いた。

 

 !? ッ―――! 

 

 ダークスパークに艦体中央を貫かれて、鯖折りになりながら炎上して墜落する〈ブクレシュティ〉を前にして、アリスの目は驚愕に溢れ見開かれる。

 

 ―――なっ、どうして…………〈ブクレシュティ〉のシールドなら、数発なら十分に耐えられる筈…………

 

 事前情報とは違う結果を前にして、演算処理が追い付かずフリーズする。

 

 何故だ、何処で戦力評価を間違えた。

 

 ―――通信回線は―――切断。義体側の回路を予備回線に切り替えて…………繋がった。ブクレシュティ、聞こえる? 

 

 ―――…………やられたわ。あいつ、APFSを貫通してきた。…………だから言ったのに。

 

 ―――御宅はいいから、今は一先ず全力で本体(コントロールユニット)を守って。貴女(アンカー)に消えてもらうと困るのよ。

 

 ―――了解。消えないように頑張るわ。

 

 巡洋艦〈ブクレシュティ〉の喪失により、一気にパワーバランスの天秤が傾く。

 

 所詮自分は足止めに過ぎない、主役に過ぎない。

 そう考えていたアリスだが、遂にはそうも言っていられなくなった。

 

 ―――ちっ、いつまで待たせる気なのよ、あの二色。全く…………早く来ないと、こっちの身が持たないわ。

 

 変わりゆく戦局のなか、アリスは未だに姿を現さない知己を呪い、面倒そうに敵を見据えた。

 




今回は新キャラとしてメルブラのリーズバイフェに登場していただきました。シオンがいるならこのコンビはやはり欠かせません。
彼女の装備については、原作衣装の上にマシュのオルテナウス装備を着込んでいます。武器についてもガマリエルではなく、オルテナウスのシールドです。

シュテルんの衣装については「Detonation」のバリアジャケットを大人サイズに拡大したものを着ています。
装備は「Force」のAEC装備の色違いを装備しています。

トルーパー達のアーマーは「HALO」のスパルタンアーマーですが、共和国軍時代のベルトとカーマ、ポールドロンを装着しています。
ヘルメットの形状は、エコーがシーズン7のクローン・フォース99加入時のもの、ファイブスは通常のフェーズⅡアーマーのヘルメットになります。


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Intermission_101.5 (Case Cody)

 マゼラニックストリームを離れ、一路大マゼランを目指す『紅き鋼鉄』先遣艦隊。
 今や艦隊最古参の身となったコーディは、旗艦〈高天原〉の自室で懐かしい夢に浸っていた。


 ……………………………………………………

 

 

《我々は決起する! 共和国の旗の下に死んでいった兵士達に報いるために! 我々が3年間、祖国の旗に忠誠を誓いひたすらに戦い抜いたのは、(ひとえ)に共和国と民主主義を護らんがためである!! ……故に、帝国の存在を認めるわけにはいかない。このような茶番、決して認めてなるものか!!! 進め! 我が同胞よ! 今こそ我々を裏切った銃後に鉄槌を下す時だ…………!!》

 

 ホログラムから流れる、シャルロット統合作戦本部長の決起演説。

 多くの兄弟達が同調し、護る筈だった祖国に銃を向けている。仕方ない。確かに俺達は造られた命。見方によっては肉で造られたバトルドロイドだと言うこともできるだろう。

 …………だが、俺達だって人間だ。国のためと信じて3年間戦って、多くの┃戦友《兄弟》を喪った。オマケに、頭の中には得体の知れない抑制装置。気味が悪いどころか、真実を知れば祖国に憎しみすら抱くのも当然といえる。───俺達の犠牲は、一体何のためのものだったのか。

 

 溢れる慟哭。思わず天を仰ぎ見ても、そこにはクルーザーの冷たい天井が映るばかり。

 昔からむさ苦しいばかりのヘルメットだったが、今はコイツのお陰で周りから表情を窺われないのが有り難い。

 

「コマンダー、ウータパウからの撤退が完了しました。我々に付き従ったのは、全体の4割です」

 

「そうか。多いんだか、少ないんだか。───それで、ケノービ将軍は」

 

「いえ、それが……」

 

 ボイルの声が、途端に澱む。

 その一言だけで、察するには充分だった。

 

「わかった。───あの人のことだ。きっとどこかで生きているだろう。砲撃した阿呆はちゃんと"矯正"しておけ」

 

「イエッサー」

 

 慣れた手付きの敬礼の後、回れ右でブリッジを退出するボイル。

 さて…………先ずは何よりもカリダを目指さなくては。あそこは帝国に反旗を翻した共和国軍───救国軍事会議の拠点となっている場所だ。傷病兵を下ろすにも、敵か味方か分からない近場の医療ステーションに頼ることができない以上、必然的に行き先は限られてくる。

 

 ───突如、響き渡る警報。

 

 ブリッジが瞬く間に緊張で包まれ、兵士達が配置に就く。

 

「コマンダー、敵です」

 

「敵艦隊の規模は?」

 

 追手にしては、随分と早いな。

 あまりにも早い帝国の対応。準備されていたと考えるのが自然か。元々同じ軍だったのだ、情報の漏れ所など幾らでもある。

 

「ハッ、アークワイテンズ級が6、それに…………インペレーター級が4隻です」

 

「インペレーターだと? 馬鹿な」

 

 艦隊の後方にジャンプしてきた敵艦隊───真新しい灰白を全身に纏ったその姿は、彼等が最早共和国でないことを告げている。

 随伴のアークワイテンズ級の塗装はまだ変わっていないようだったが、何れ慣れ親しんだ共和国の赤色があれに塗り潰されるのかと思うと物悲しい。

 

「コマンダー、如何なさいますか」

 

 部下が、俺に指示を求める。

 この場では、少将(マーシャル・コマンダー)の俺が最上位。グランド・アーミーと宇宙軍の違いこそあれど、ケノービ将軍を含めたジェダイ将軍が艦隊から消えてしまった今ではトルーパーしかこの艦隊にはいない。必然的に、指揮官の席には俺が座ることになっていた。

 

「傷病兵を乗せている上にオーダー66で傷付いた〈ガーララ〉は何としてでも逃がすんだ。その他の艦は全艦反転! 敵艦隊を牽制するぞ」

 

「イエッサー! 全艦戦闘配備!」

 

 大きく舵が右に切られ、〈ヴィジランス〉の艦体が慣性で傾く。

 

「敵を一時的にでも怯ませればいい。その隙にカリダに向けて脱出する。───どでかい花火を上げに行くぞ、野郎共」

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

 …………………………………………

 

 

 ………………………………

 

 

 

 ────いつも通りの、無機質な天井。

 

 共和国時代から変わらない。星の海を旅するフネの屋根の色。

 あれから、凡そ2ヶ月経っただろうか。

 かつて旅した小マゼランの淡く赤い輝きは遥か一万光年以上も彼方、眼前には、蒼輝の大マゼラン雲が横たわる。

 

 ~ヴェネターⅢ級艦〈高天原〉~

 

 そろそろ、交代の時間か。

 マゼラニックストリームに残り、ヤッハバッハを食い止めた居残り組からの連絡は、未だない。

 コマンダーショーフクとは何度か方針について話し合ったが、現状では大マゼランに向かうのがベストだ。残してきた仲間のことは気にかかるが、我々には託された仕事がある。それを放り出すことはできないし、何より艦長の命に反する。───全く、我ながら軍人根性はこれっぽっちも抜けていないらしい。

 

ガァン!! 

 

「っ、何だ!」

 

 突如激しく揺れ動く艦体。続いてけたたましく鳴り響く警報。クローン戦争で幾度となく経験した"日常"だ。

 俺は手早く着替えを済ませて使い古したフェイズⅡクローン・アーマーを着込み、ブリッジに上がる。

 

「コマンダーショーフク、何事です」

 

「エンデミオン艦隊だ。───奴等、いきなり撃ってきおった」

 

「エンデミオン? 確か、大マゼランの大国だった筈だな。海賊が騙っているだけの可能性は?」

 

「いや、IFFは正常だ。間違いない」

 

 艦隊指揮官のコマンダー・ショーフクと二、三言の現状把握を通して大体の事情は理解できた。どうやら俺達は、"政治"の対象になってしまったらしい。

 

「……不味いな。奴さん、小マゼランの事情を知っている奴等をタダでは済ましておかんつもりらしい。コマンダー」

 

「承知した。戦うしかないか…………全艦、戦闘配備だ!」

 

 コマンダーの号令で、艦内は一気に引き締まる。

 戦闘に向けて忙しなくクルー達が手を動かし、準備を進める。大半が軍隊経験もない民間人の集団であるが、修羅場を幾度も潜ってきた彼等の動きは本職のそれにも引けを取らない。

 

「全主砲、目標前方のエンデミオン艦。艦種識別……アリーデン級巡洋艦」

 

「標的を目標Aとなせ。撃て」

 

「了解、主砲発射!」

 

 エンデミオン側に負けじと砲撃を返す〈高天原〉。ここに、両軍は本格的な戦闘に突入した。

 

「…………コマンダー」

 

「うむ。手筈通りにいこう。彼女達を〈イサリビ〉に移すんだ」

 

 そして、俺は"依頼完遂"のために更なる一手を打つ。

 

「チーフ、聞こえるか。プランΣだ。彼女達を連れて〈イサリビ〉に移乗しろ」

 

《イエッサー》

 

 恐らく待機していたであろう海兵隊の指揮官、チーフにコムリンク……のような通信機で指示を送り、再び戦闘に意識を集中させる。

 

 全く、今朝の夢と殆ど変わらない状況だなんて、一体どんな導きなんだ。ジェダイが言っていたフォースの導きとやらが本当にあるのではないかと思えてくるぐらいの偶然だ。

 

 だが、俺のやることは今も昔も変わらない。

 仲間のため、任務のため。そして忠誠を誓った旗のため。俺は戦いを続ける。

 

 さあ、戦争の時間だ、CC-2224(コーディ)

 

 



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