ただ陽乃さんとイチャコラしたいだけの人生 (暇なのだー!!)
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邂逅

──ただ、陽乃さんとイチャコラしたかった人生だった....

 

そう、今日で無事十九歳を迎えた俺は、自分に降りかかる災難を避けるのを諦めていた。

迫る車。そのスピードは緩められたようで緩まず、真っ先に我が身へと飛び込んでくる。

 

目の前には一人の高校生とその腕に抱き抱えられた一匹の犬。

俺の命とこの一人と一匹の命を天秤にかけたら....俺は迷わず自分の命を取るのだが....いかんせん勝手に体が飛び出してしまった。何自分でも何故飛び出したのか分からない。どうやら絶対に怪我をさせたくないという本能的なナニカが働いてしまったようだ。

 

....俺は陽乃さんの次に自分が大好きだったが、どうも、厄介事は避けられない性らしい....

 

ははっ、と自らのカッコつけ方に失笑し前を向くと、最早眼前に車体が迫っていた。

 

 

「あっ....!」

 

 

誰の言葉であっただろうか、短くも絶望を纏ったその声は浮かんで消えていった。

 

ドンッ!と車体が我が身にめり込む。脇腹に食い込むのはとてつもない衝撃。やばい、と感じる間も無く俺の体は吹っ飛ぶ。まるでゴムボールのように地面をバウンドし、中を舞った。

 

その中でも思うのはただ一つ。

 

──本当に、陽乃さんとイチャコラしたかっただけの人生だったぜ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柱さーん、起きてますか?」

 

 

ぱちくり、と目を覚ます。目に映るのは知っている天井。

病院で三度目の朝を迎えた俺は声の主を探した。

 

 

「柱さーん」

 

 

....また家族でも来たのだろうか?

 

そう思いながら声の聞こえる方を向くと....

 

──大きな双丘があった。母性を感じさせるようなその膨らみは、この世のものとは思えない程に造形美が漂っていて、思わず顔をうずめたくなりそうだった。

 

....ここが天国だったのか、なら俺はいつの間にか死んだのだな....と思うのも束の間。せめて生の間際にと、そのたわわに実った果実を持つ人物を見ようと顔を上げると、天国なんて生易しいものでは無かった。

 

 

「おはよー」

 

 

楽園(ユートピア)

 

想像して欲しい。目を開けて隣を見ると、女神が佇んでいる光景を。正に今はその神話のワンシーンの再現である。

ひらひら、と手をこちらに向けて振る人物はさながら女神。

黒髪を肩まで伸ばし、にこにこと顔を笑顔を張り付けている眼前の女神は、窓から入る日光を背に当て、神々しかった。

 

俺が声も出せず口をぱくぱくさせていると、再び眼前の女神は口を開く。

 

 

「こうやって話すのは初めてかな?初めまして、私は雪ノ下陽乃」

 

「....柱久遠(はしらくおん)です」

 

 

俺の口から発せられた声は弱々しくなってしまった。しかし、そんなことも気にせずに会話は続く。

 

 

「ごめんなさい。貴方を羽飛ばしたの....私の家の車なの」

 

 

誠意の籠った声で謝罪をされた。その姿はさっぱりとしていて不思議と好感的な印象を植え付けられる。

彼女は尚も頭を下げていた。生憎と俺は美人に頭を下げてもらって喜ぶようなサディスティックな趣味はお持ちでない。逆に陽乃さんに踏まれたい側である。…しかし、本当に申し訳なさそうに頭を下げている姿を見ると、こっちこそ申し訳なくなってしまう。

 

 

「良いんですよ....体が反応しちゃっただけですから」

 

 

そう言うと彼女はぱっ、と顔を上げる。その顔には先程までの申し訳なさそうにしていた顔色は無く、爽快なるまでの笑顔を浮かべていた。

 

─相変わらず、高校生の時から変わらないなぁ…

 

 

「ありがとう」

 

 

嘘偽り無い声。その笑顔が眩しすぎてくらり、と体がベッドに蹲りそうになったが、どうにか理性で押さえ込む。どうやら、先程までの俺に謝罪をするという案件は終わったようだ。

 

 

その後、何個か質問を投げかけられたが、目の前に美人さんが居るということでガチガチに緊張した俺はしどろもどろの答えしか答えられなかった。その度に陽乃さんに笑われたが、美人さんの笑顔を見ることができたので悪い気はしなかった。

 

 

そして、時は既に日が落ちる頃となっていた。

 

 

 

 

 

 

「そしたらねー、雪乃ちゃんがねー、『それは私のパンさんなの!姉さんは触っちゃダメ!』って言ってねー....もうあれは流石の私でも凹んだよー....」

 

「あはは、それは可愛らしい妹さんだ。」

 

「そうだね、私の雪乃ちゃんは可愛いからね」

 

 

胸を張って誇らしげに言われた。....これは眼福ですわぁ....

あ、ちなみに一時間ほど話してたら普通に話せるようになりました。さっきまでの口調?カッコつけたに決まってるでしょう。

 

 

「っと、もうこんな時間だね....今日は残念だけど帰るねー。....泊まっていいかな?」

 

 

上目遣いで俺の目を覗き込む陽乃さん。

 

思わずすぐにyes!フォオオオ!と叫び、俺の股間がMAXファクトリーになりそうだったが抑える。stay、stay....OK、Q,目の前の女の子は誰? A,人類ではありません、崇める対象です。即ち女神。

OKOK、別に距離感が縮まったとかは思ってない。今のはただの冗談。

彼女居ない歴=年齢の俺でも分かる、陽乃さんからしたら俺はただの話せる人N、良いね?

 

そうやって自らの気を沈めていると、再び陽乃さんが口を開いた。

 

 

「あはは、うそうそ、冗談。君と話せて楽しかったよー」

 

 

ひらひらと手を振りながら陽乃さんは帰って行った。想像通り、去り際までさっぱりとした人だった。

 

 

 

──陽乃さんが帰ると、部屋は静寂に包まれる。あの事故が起きてはや三日がたち、やっとこの殺風景な部屋にも慣れてきたはずだったのだが....先程まで会話をしていた分、急に話相手が居なくなると寂しい。

窓から差し込む夕日によって照らされる、先程まで陽乃さんが座ってた椅子は、どこか陽乃さんの余韻を残すように温かみを放っていた。

 

だんだんと、この部屋に再び孤独になってしまったと悟り、気弱になってしまう。

 

 

(....いかんいかん!)

 

 

両手をパン!と頬に打ち付ける。じんじんと晴れるほっぺ。それで自らの心意気を変える。

 

 

(認められなきゃな)

 

 

自分が陽乃さんに対しての感情は好意。対して、陽乃さんから俺に対しての感情は話せる人間G。

もはや対極の感情だが、最低値からスタートなら、後は登るしか道は無い。

 

そう、俺は俺しかいない空間で、自らを鼓舞する。

 

 

 

俺が目標としているのは陽乃さんに認められるという事。理由は話せば長くなる。

 

そこに一切の偽りも下心も無い....無い、と思う。

 

陽乃さんと対等とまでは行かないが、凡人である俺が努力を重ねて陽乃さんの足元にたどり着かなければ、あの人には反応さえもしないだろう。

今日会話が弾んだのだって、陽乃さんの話術が上手かっただけであり、決して自分のトークでウケてたとかではない。むしろウケさせて頂いた方。

 

 

 

 

──そして俺は早速コミュ力つけようと決心し、これから何度でも使用させていただくであろう、俺の唯一の親友、S○riちゃんを呼んだ。

 

 

「....コミュ力のつけ方を教えて」

『ピロピロピローン....はい、おそらく機械である私に教えてもらう時点で、コミュ力活性化など不可能だと存時上げます』

 

 

oh..ナニコレ、坂○忍さんでもここまでスパっと切らないよ?ちなみに今切れたのは俺の精進しようとする心。故に最早前に進めない。Game Over.

始めるから結果は決まっているとはこういう事、身を持って体験させていただきました。

リアルでorz状態になる俺だが、ここでめげてはいられない。

 

俺は携帯に内蔵してあるメモアプリを開くと、そこにカタカタと文字を打ち込み、ベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

『第一目標 雪ノ下陽乃さんのお友達になる』

 

 

 

 




ただ陽乃さんとイチャコラしたいssを書きたかっただけ。

これからの事はノープランですが、ノーリターンで行きます←


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決心

「──で、あるからにして....」

 

 

カリカリ、とノートにメモを取るような音が響きわたる。

その光景を横目で眺めながら、自分のノートにも書き写していく。

 

 

 

 

陽乃さん家の車に撥ねられて一ヶ月が過ぎた。俺が通っていた理系の大学は俺が事故にあったと言っても、何も問題無く日々が過ぎ去っていてる。

改めて世界は俺を中心にして廻っているのでは無いと痛感した。

 

 

─一ヶ月前、入院してる間に色々な人が来た。死んだ魚の目をした男の子、どうもビッチ臭がする女の子、陽乃さんの妹さん、あの車の運転手さん。

上の三人が来た時は別によろしかったのだが、運転手さんが来た時なんて土下座してくれました。それはもう、きっちりと。見本のような。....あの誠意に満ちた土下座なんて俺は後生見ないであろう。....僕は....あんな男になりたい....!

 

また、収穫もあった。

あれから、俺は陽乃さんとは少し連絡を取るぐらいの関係にはなる事が出来たのだ。

撥ねられて万歳、とは言わぬが、少し関係が前進したのは嬉しい。

だが、陽乃さんからすれば未だに俺はRPGでいう村人S、脇役である。新たなる進展をし無ければ、と思う毎日だが特にいい案など出る訳など無く、日々苦悩している毎日だ。

 

 

 

カッカッ、というチョークが黒板に文字を刻む音で、ハッ、と現実に戻る。顔を上げると、もはや後ろ姿は見慣れてしまった彼女(・・)の姿が見える。

 

 

 

 

 

 

 

──雪ノ下陽乃さんとは、中学生からの同級生だった。そんなことあの頃から友人が多い陽乃さんが覚えているわけもないが、俺はしっかりと覚えている、陽乃さんとの出会いを。

 

 

 

 

初めて雪ノ下陽乃という人間が会話をしている姿を見たのは、俺が中学生になり、少し過ぎた頃。

第一印象は『完璧』。先生と話している時と、生徒に接する時、両方の顔を使い分けていてどちらの顔にも綻びは無かった。何処か鉄仮面に閉ざされたようなマスクも、そのカリスマ性により一種の美を放っていた。

 

 

俺が中学二年生に進級し、話相手が少ないと言う理由で四苦八苦している時、彼女は中学二年生ながら生徒会長に就任していた。同じ立候補者の顔を赤に染め上げるほど圧倒的に。そう、彼女は二年生にして、溢れんばかりのカリスマ性と話術によって先生と生徒の信頼を勝ち取っていたのだ。

 

生徒会長に就任した彼女は、悪魔的なカリスマ性と共に斬新なアイデアで新たな案を発案。実行していくと、彼女の仕事量と生徒の活気は比例して高まっていった。彼女が本腰を上げて取り組んだその年の文化祭は、中学、高校共に最大級の盛り上がりを見せた。

 

 

──だが、その覇道は必ずしも順調だったとは言えない。

彼女のカリスマ性に魅せられた男性生徒はすぐに彼女の虜となり、ファンクラブまで結成された。裏の人気投票などでは万年一位であると言っていた。

しかし、それとは対極となる性格を持つ、女子生徒からの印象は違かった。男子が雪ノ下陽乃!と、馬鹿騒ぎしているのを見ている女子生徒は嫉妬心に駆られてしまったのだ。

嫉妬心に駆られた女子生徒は皆、雪ノ下陽乃と自分と比べ、彼女に劣っていると結論に至ってしまったのだろう。劣等感が自らのプライドを傷付けてしまい、イジメという醜い手段へと手を染めてしまった。そんなものはもう負けであったが、女子生徒達はそれに気づかないまま手を汚した。

 

イジメの内容などみみっちいほど小さいもので、陰口やら何やら下駄箱にゴミを投げつけるなど下らないものであった。だが、それも積み上がっていくと徐々に頻度は増していく。常人ならとっくに根を上げている所だったが、彼女はやはり雪ノ下陽乃であった。

 

彼女はイジメという行為に屈服などしなかったのだ。

 

彼女が行ったのは自分を利用しての(・・・・・・・・)イジメの告発。そのために彼女は放課後遅くなるまで張り込みをし、自分の下駄箱にゴミを入れられる瞬間をカメラで撮影。その証拠写真を学校に提出し、学校単位の問題とするとイジメを実行させた容疑がかかった女子生徒を停学処分とさせた。単純明快な手であるがこれ以上の報復は無いであろう基本に沿った手法。

 

当然、この出来事から彼女へのイジメは壊滅、消失した。

 

 

 

─この事件から彼女の権限はより一層強くなり、支持する声もより一層増加した。もはや真っ当にぶつかっては勝ち目は無いと判断した女子生徒達も負けを認め、雪ノ下陽乃を支持し初めていた。

 

雪ノ下陽乃は覇王である。と噂が広まり、近くの中学、高校までその噂が広がり話題となった。現実に、彼女が三年生で再び生徒会長に就任した年が、最も受験者が多かったのだから。

俺の通っていた中学校が有名になったのも雪ノ下陽乃の名前のおかげと言っても過言ではない。

故に、彼女が発案した様々な立案事項は今でも中学校で使用されていると聞いている。

 

 

 

 

 

──ここまで、雪ノ下陽乃という名の凄さは伝わっただろうか。

....しかし一番(?)大事な俺といえば....ぶっちゃけ中学生からの同級生だった俺はその時陽乃さんに見向きもしてませんでしたァ!

....いや、だってあの時は友人を増やしたいという、自分の事で精一杯でして....いや、まあ気になってたりはしてたんですけど、高嶺の花だよなぁ....とか思って諦めてました(泣)

 

 

 

 

だが、とある日俺は目撃してしまった。雪ノ下陽乃を追いかけるきっかけとなった光景を。

 

 

 

 

 

──その日は、俺は相も変わらず友人の事で頭を悩ませていた高校一年生の時であった。

学校に教科書を忘れたという、ドジっ子属性を発生させた俺はまだ日が落ない放課後、教室へ迎った。

教室の中は夕暮れ色に染まっていて、ノスタルジーな心にさせてくれた。....とか、今は想ってるけどぶっちゃけ超怖かった。ノスタルジーとか俺かっこいいってとかじゃなくて、寂しくて。

スパパパっと鞄に教科書を入れた俺は足早に教室を出る。

 

廊下に出ても尚夕暮れ色に染まり、先程の不気味さを維持していた。早く帰りたいよぉ....とか、幼女をチビらせるような声でブツブツ言っていた。が、とある教室の前で足を止めた。

 

 

1-A 雪ノ下陽乃が所属しているクラスである。

 

 

人影が会ったのだ。窓際に、一人ぽつんと、座っている人影が。

最初に見た時は幽霊かと思い、直ぐに逃げ去ろうとした。しかし良く見ると足が透けていなかった。幽霊じゃないな、と一安心すると俺は中をそろり、と覗いた。

 

まだ夕日が出ているので幸い少しだけ明るい教室。その端っこにぽつんと一つの人影が。調度逆行を浴びていて顔は見えなかったが、顔の曲線から女性だと分かった。

人影がどうやら机に突っ伏しているようだった。気を失っているのか?と心配になり、駆け寄ってみると様子が違う。

 

 

 

 

─泣いていたのだ、肩を震わせて。

 

 

 

え?と思い座席表を確認する。

─それは驚くべき事に雪ノ下陽乃であった。初めて間近で見る彼女は、皮肉にも人間らしかった(・・・・・・・)のだ。

吸い込まれそうな黒色をした髪と夕日の日当たり加減が、いいコントラストを奏でていたが、そんなことはどうでも良かった。

 

 

 

それまで俺は雪ノ下陽乃という人物を、『完璧』なる人物だと思っていた。性格に綻びがなく、誰にでも平等に接し、人に弱みを見せるような性格であると。常に人の上に立ち君臨する立場でカリスマ性により、支配する。正に一国の王ではないのだろうか。少なくとも、傍観者(・・・)の俺が遠くから見ていた感想はそれであった。

 

──だが、今俺の目に写っている雪ノ下陽乃(・・・・・)という人物は何者だ?こんなにも人間らしく、少女らしく泣いている姿をきっとただの傍観者(・・・)である俺達が見たら、何者か分からないだろう。

 

知らずと、彼女の頭に手が伸びていた。

 

俺が彼女の頭に手が触れると、彼女はびくん、と肩を跳ねた。しかし、顔を上げる事は無かった。そのまま、手を左右に動かし、頭を撫でる。

相変わらず、反応はないが、雪ノ下陽乃の肩の震えは止まっていた。どうやら、少しだけ気を紛らわせることが出来たようだ。

 

 

考える。この雪ノ下陽乃という少女は何者か、何という声をかけたらいいのか。大丈夫?頑張った?お疲れ様?いや違う。極論を言えばからすれば傍観者(・・・)である俺達から言う言葉など、何もないのだ。当事者(・・・)である雪ノ下陽乃の苦しみなど、心を理解しないような俺達では量れない。そう思ってしまった。

故に、俺から彼女に送れる事など何一つ無い。そう結論付けた。

 

 

 

──だが、同時にこんな疑問も溢れ出てきた。

 

もし、彼女に理解者(・・・)が出来たのなら、彼女の苦しみは無くなるだろうか?

答えは瞬時に出てくる。

NOである。自分の苦しみなど一生をかかっても無くす事などできる訳が無いのだ。何故なら自分を省みるとそう思い知る事ができる。俺にも悩みはある。だがこの変わり果てた少女程重くはないだろう。ふっ、と失笑する。

 

この子の抱えているものが重い重くないなどどうでもいい。ただ目の前で一人の少女が泣いているのだ。

その時から変に正義感が強かった俺は、その自問自答が原動力となってしまった。

 

もしかしたら、俺も理解者が欲しくて友達を作ろうとしてたのかもしれない

ふっ、と失笑する。そんなのは甘えであった。

苦しみなどはなくなる訳が無い、否、無くなってはいけないのだ。一度知った毒の甘味は、二度と忘れられなくなるから。

そんな考えはこの俺でさえも浮かんで来た。

理解者ができても苦しみなど消えない。結論である。

 

だが、その過程が違うものだとしたらどうだろうか。

 

苦しみが消えないと分かれば分け合えばいい。いわゆる痛み分けである。犠牲というものは自分の他に複数人居ると個人よりは安心するものである。

しかし、それは暴論であった。何故ならそれは、そんなことは、自分の弱みを相手に見せるという事。誰が好き好んで自分の弱みを話す事ができようか。

 

 

 

──だが、もしも、そんな....彼女の弱みを話す事ができる理解者が現れてくれたなら、彼女の苦しみは分け合えるのではないだろうか....

そう、思ってしまったのだ。

 

なぜそう思ったのか、などというきっかけなんて分からない。理由なんて無かったのだ。ただ、目の前に泣いている女の子が居るというだけで、自分でも馬鹿だと思うが放って置けられない。

 

 

 

 

決心する

 

理解者になろう。この少女(・・・・)の。

あの瞬間、俺の雪ノ下陽乃へ対する印象は変わった。完璧なる女性、雪ノ下陽乃からただの少女へと。

 

分け合わなければ、この少女の苦しみを。

苦しまなければ、この少女のために。

犠牲となるのだ、この少女の本物の笑顔のために。

 

そのためには対等となるのだ。少女では無い、彼女の何十にも分厚くまかれたあの面皮を破り捨てさせるために。

 

だから、見捨てない。たとえ手足をもがれようと、どれほど本人に罵倒されようと、突き放されようと、俺は彼女の味方である。

 

 

──そう、断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

酷い話だな、と未だに講師が説明を続けている中、ぼーっと思う。

自分のやろうとしている事は相手の弱みを握る事。見方によってはただの偽善である。

 

だが、一度貫き通すと言ってしまったからには曲げれない。

自分で決めた道だ。

 

 

──また、柄でもないなと、笑が溢れてしまう。

 

ひとまず、当面の目標は雪ノ下陽乃さんの友達となる事である。....ぶっちゃけいきなり無理だと思ったが、頑張るしかないだろう....入院してる時にS○riちゃんと会話しまくったから大丈夫。....いや、どこがやねん。

自分のアホぶりに思わず関西弁になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

──今日も俺の世界は、雪ノ下陽乃(・・・・・)を中心に廻っている。

 

 

 

 

 

 

時刻は夕暮れ。あの日を思い出すような夕日の光を体いっぱいに浴びている中、その連絡は来た。

 

ブーッ、とポケットで鳴り響く携帯。....少し変な所に刺激が当たってしまい変な声が出てしまった。

ポチッポチッポチッ、とL○NEを開く。トークの絵柄に表示される①の文字。誰からだろうか、とトーク画面に写す。

 

 

『from陽乃様 ねーねー、今夜呑みに行こうよー』

 

 

 

............え?




陽乃さんの過去?そんなもん捏造に決まってんだろぅぉ!?(逆ギレ)


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意味

 

「かんぱーい!!」

 

ガシャン!と一斉に七個のグラスが打ち付けられる。おい割れねえのかよと心配になったが、心は硝子さんほど脆いわけではないらしかった。

七個グラスが一気に持ち主の口へと近づけられると、生ビールの入ったグラスを口に含ませグイッと傾ける。あ〜^

か〜、うめぇ!この濃厚な旨みプレミアムかな?麒麟かな?....あ、オリジナルでしたか。どうやらこの店には二度と来れなくなりそうだ。

 

 

「いや〜、久しぶりに集まろうって言われたからウキウキしちゃったよ」

 

 

俺の隣に座っている大柄の男性。\ ウホッ!いい男! /

その男性は俺が刃物を持って立ち向かってもチビってしまうような男らしさを放っていた。ちなみに彼女持ちのリア充である、ばくはt....逆に殺されるそうだわこれ。

 

その良い男の他にも、エキサイティッドゥやらチャラチャラチャラっ、ムフフフフっとしている癖の濃い連中が集まっていた。説明になってねえなこれ。

どうやら、今日は陽乃さんが高校の時に生徒会長を務めていた時のメンバーらしい。

大体はバラバラになってしまい、疎遠となってしまったが今日、陽乃さんの一声で集まったと言っていた。

 

 

 

──さて、なぜ俺がそんなメンバーの中、御招待されたのか?

....ぶっちゃけ分らない。陽乃さんに聞こうにも、席はほとんど対角線側で、他の女性と会話をしているので顔を見ることしか出来ない。

 

まあいいか。

もう一度ぐびり、と生ビールを口に入れる。

シュワシュワっと口の中に広がるあわあわでもう何かどうでも良くなってきた。....酔ってんなこれ。

ぶっちゃけ俺未成年なんですよ....なんて言えるハズもなく飲んでいるが....絶対に真似しちゃいけないよ!とお決まりのセリフを吐かなければいけない気がした。

 

 

 

いい気分だなー、と鼻歌を一人で歌っている。

すると、俺の素晴らしいハーブの美音を聞いたのか、良い男に詰め寄られた。

いえ、僕そっちの趣味ありません...あ、年齢?二十四歳、学生です(大嘘)

 

 

「お前が久遠だな?よろしく、俺は二瓶聡。ここから少し離れたところで大学生やってる」

 

 

さっぱりと俺に自己紹介をしてくれた良い男は聡という名前らしい。しかし、何だろうこのいかにもいい人オーラが湧き出てるのは。背中から何か黄色い、こう、神々しいものが....

微妙な顔をしていると、わははっと良い男が豪快に笑い飛ばした。

 

 

「そんな不安な顔すんなっての!安心しろ!生きてる人間皆兄弟、すなわち家族だ!」

 

 

今のキリスト教徒さんでもそんなこと言わねえだろ....という超謎理論を証明する良い男。そんなん俺より年下の女の子か皆妹って事じゃないですかー、つまり一万人妹達(シスターズ)がいる某電撃少女よりも多いです、やったー(棒)

尚、俺の妹達は兄をゴミを見るような目で見る模様。

 

 

 

 

──人とまともな会話をするのは何年ぶりだろうか。思い出話に夢中になっている、俺を覗いた六人を見ながら思う。

 

確か最後に話したのはお母様に自分の年齢聞かれたときだ。真実を言っただけなのに殴られたが。

 

 

まあ、いつまでも黙っている訳にもいくまい。

陽乃さんに隠されている事を考えながらも、六人の目の前で口を開き始める。どのような話題を話せば良いのか忘れていたが、体では覚えているようで話題など無く自由に笑う。

 

ぽつり、ぽつりと。話し始める。

すると、冷えきった何かが溶けていく感覚に見舞われた。しかし、それは決して不快感など無く反対にその違和感が心地いいと感じていた。

 

そして、俺が話し始めたのがきっかけとなったのか、再びこのグループの会話の熱は増していく。

 

 

 

 

 

店に入店してからはや三時間。閉店間近となる直前まで俺たちの会話の波は収まらず、ずっとどんちゃん騒ぎをしていた。

 

会話の波がやっと静まったのは、店員による閉店宣言。その時は流石に迷惑はかけられないな、と皆が店の外に出た。

季節は七月。初夏も過ぎこれから真夏へと向かう日本では、生温い風が空を切っている。その風が肌に突き刺さった。アルコールが入っている体を冷めるのにはちょうどいいなぁ....と少しぼーっとしてしまった。

 

 

「今日は皆集まってくれてありがとね〜」

 

 

にこにこ、と陽乃さんは俺達に向かって言う。

 

 

「いや、こちらこそだな。楽しかったぜ」

 

 

良い男─聡さんがお礼を返すと、同じく、とこのグループの中で声がはもる。こんな些細な事でふふ、と笑みが溢れた。

 

正直に言えばとても楽しかった。気を使わない友人というものはこんな感覚なのだろうか、と勉強にもなった。

聡さんから友人宣言されたのは嬉しい、アドレス帳やL○NEの友達も増えたのもとても良かった。

 

 

 

その後一言二言会話を交わし、さよならー、と解散した。明日はそれぞれの予定があるということなので、二次会という話しは無かった。多分二次会なんてやって帰ったら俺ゴミ置き場あたりで寝るかもしんねぇ....

 

この店から近い俺と陽乃さんは皆と分かれて徒歩で家に帰る事となった。

隣を歩く陽乃さんは、アルコールが抜けていないのか頬が紅潮していた。彼女の美貌と頬の紅潮しているWビューティーがベリーマッチしていて、思わず見ているこっちが恥ずかしくなってしまった。

 

 

「久遠君」

 

 

ドキッと心臓が跳ねる。普段呼ばれない名前なので反射的に反応してしまった。顔の筋肉も固まりそうだったが、思い切り顔をしかめ笑みを作る。

 

 

「楽しかった?」

 

 

こちらを向き、俺の目を見ながら問いかけられた。

そんなこと、考えるまでも無かった。

 

「はい、楽しかったです。とても。」

 

社交辞令や皮肉、邪念など自分でも一切含まれていないと思うよなはっきりとした声音で答えた。

 

 

「そう、良かった」

 

 

その答えに陽乃さんは満足してくれたのか、顔に笑みを浮かべながらうんうんと頷く。

 

 

「あの....なんであのメンバーで俺なんか読んだんですか?」

 

純粋な疑問をぶつけてみる。ぶっちゃけて言ってみるとあのメンバーなら、俺が居なくても会話は盛り上がった筈だ。

 

 

「うーん....言わばお礼かな?」

 

「お礼?」

 

うん、と陽乃さんは頷く。

 

 

「あの事故で私や雪乃ちゃん、運転手の要さんにいちゃもん付けずに許してくれた所かな」

 

 

ふむ、と頷く。それは理由である。意味では無かった。

しかし、それだけでは今日俺を誘った意味がわからない。

じゃあ、なんで、と口を開こうとしたがそれは陽乃さんの声によって遮られた。

 

 

「私は貸しなんて作りたくないから、どんな事すればイコールになるかなぁ....って思ってね。

だから、何が好きなのかなー?とか思いながらこの一ヶ月間見てたけど、久遠君友達も居なさそうだし誰とも喋らないからわからなかったんだよー」

 

「中々はっきり言いますね....」

 

「だってホントの事でしょ?」

 

 

あはは、と悪びれもなく笑う陽乃さん。美女に笑われて悪い気分はしない。ぶっちゃけ俺の事を蔑みながら笑ってくれたら性癖が一つ増えてしまう。

だが、その笑顔とは裏腹に彼女の言動から察するに本当に苦労してくれていたようだ。それは素直にありがたい。

 

 

「君が好きな食べ物とか、音楽とか、本とか、些細な事でも知りたかっただけ。それざ君を呼んだ意味にならない?」

 

「一杯食わされましたね....」

 

 

今日、あのメンバーを読んだのは俺の事を調べるためだったのだ。もちろんそんなことのために呼ばれたと言われ、メンバーの一人がうっかり俺に口を滑らせないために、誰にも教えなかったのだろう。

 

とほほ、と肩を落とす。どうやら、対象を観察していたのは俺の方だけではなく、彼女の方もだったらしい。

これでは彼女の理解者(・・・)になるという目標は遠いじゃないか。

改めて自分の目を鍛え直さなきゃな、と失笑する。

 

 

「ふふふー、私結構やるでしょ?これから一杯貸しを返していっそ、借りまで作っちゃうんだから」

 

「....それは困りました....俺も貴女に対する借りがますます多くなってしまいそうですね....」

 

 

え?と怪訝な表情をする陽乃さん。笑みが消え、違う表情となっても美しさは損なわれ無い。

陽乃さんは俺の顔を覗き込む。その、見定めるような漆黒の瞳に思わず逸らしてしまった。

尚も陽乃さんの視線は遮れなかった。

その美貌が損なわれぬ顔で彼女の口は開く。

 

 

「....君は他にも色々な事を隠してるね」

 

 

ふっ、と微笑み俺の顔を見ながら陽乃さんが放った言葉は図星である。

 

再び、ドキリと心臓が撥ねる。先程の浮かれたものではない。緊張であった。

俺が彼女に隠している事など幾らでもある。しかし、今は話せない。話してしまったら俺の全てがバレてしまう。

故に、まだバレる訳にはいかないだろう。

震えそうな口で言葉を紡ぐ。

 

 

「....隠してるとしても、そこまで暴くのが雪ノ下陽乃。そうでしょう?」

 

「ふふ....君は私の性格を知っている様だし....一筋縄じゃ行かないかな?」

 

 

無理矢理笑みを張り付けながら、苦しみ紛れに言った言葉はどうやら彼女の心に火を点けてしまったらしい。

 

やっちまった。

俺の原動力となったのはこのツクラレタ(・・・・・)彼女ではなく、人間らしい(・・・・・)一人の少女であるが、どの道陽乃さん、の根底にあるものは変わらない。

 

何にも縛られず開放的、しかしやるなら徹底的。

 

徹底的に調べる対象が俺となり、少し後悔してしまうが、そんなことで弱みは吐いていられない。

なら、俺はそれを隠し通して理解するモノとなろう。

下僕でも何でも構わない。ただ、彼女の全て事を理解することができれば、それでいい。

それならば、負けられない。この彼女の事をすべて理解するまで、自分の本心は隠し通さなければならない。

すう、と息を吸い込む。

 

 

「「負けない」」

 

 

彼女の声とはもる。存外、彼女も負けず嫌いなようだ。

 

ふっ、と二人で微笑みぽつり、ぽつりと言葉を交わしながら夜の街へと帰って行く。

 

 

 

 

 

....これって陽乃さんと友達になったん?




二人きりで飲むと思った?(ゲス顔)....俺も最初はその方向でした。だけどまずは外堀から。
\ ウホッ!いい男! /の聡さんはこれからも出す予定。
そしてやっと三話でプロローグ的なの終わり。次回から話進めます。

※未成年の飲酒は法律違反なので絶対にしてはいけません


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再開

嫉妬のうちには愛よりも自愛のほうが多くひそんでいる、という言葉がある。つまりは自分の方があいつよりもがこんなに可愛いのにと思っている事=ナルシスト。

その理論が正しいとしたら、この大学にはナルシストが何人程居るのだろうか....と溜息をつく。

 

ここは大学の一つの設備である食堂。家で作ってきた弁当を持ち込んでいる者も入れば、コンビニで買ったおにぎりやらサンドイッチやらを持ち込んでいる者まで三者三様である。

 

本来和やかなムードを漂わせるその空間だったが、最近一ヶ月は和やかなムードなど影も形も無かった。

その元凶、それは俺の正面に女王のオーラを放ちながら座している彼女であった。

彼女の名は雪ノ下陽乃。この学校のアイドル的存在である。

つまりは周辺に居る背景とも呼べる人物達は皆P。嫉妬深いPが何人も居るということ。そしてその嫉妬を一心に浴びている俺、柱久遠はそろそろ腹にコロコロでも入れておかなきゃな....とこの頃身の危険を感じていた。ちなみにジャンプじゃないのはコロコロの方が厚いから。

ぶっちゃけこの状況は陽乃さんと飲みに行ったあの日から、一ヶ月続いている。慣れというものは恐ろしく、最初はもう胃の痛みと腋汗で寝苦しかったが、今ではもはや開き直り嫉妬を我が身にあてられても快感を感じられるようになっていた....えぇ....

 

新たなステータス『視姦』を自らのプロフィールに保存した。悪寒が走る、『かん』だけにってかハハッ、何もかかってねぇ。

 

 

「そうだ、久遠君」

 

「何でしょうか?」

 

 

同年齢ながらも彼女のカリスマ性の前には俺のタメ口も自然と収まる。

 

 

「君はどんな女の子が好き?」

 

 

突拍子も無く放たれたその質問は周りの視線を集中させるのに充分だった。ぞくり、と再び背中にもはや視線だけで俺を殺せそうなほど集中する。

分かった、この人俺を殺す気だわ。もはやコロコロなんて言ってる暇はなんてない、陽乃さんでも盾にしなけれはあいつらに殺られるわ、これ。

 

 

「清楚系な女の子かな?それとも露出が多い女の子?....あ、それともドSとか?」

 

俺に向けられる背後からの殺気など気にせず話している陽乃さんの口を塞ぎ、手を取って外にダッシュした。

 

羞恥心なんて狗にでも食わせておけ。

 

 

 

 

 

 

陽乃さんと外に出ると真夏を迎えた日本ではカマキリさんが、『おう、輝いてるぜ』とか国語に載るほどギンギラギンの太陽さんがこんにちはをしていた。

とにかく、どこか日陰のところに行こうと歩く。

 

 

「いやー....暑いねぇ」

 

 

ひらひらと手の平で自分を扇ぐ陽乃さん。そのワンシーンでさえも絵になるなぁ、とぼけーっとしてしまった。

 

 

「それで?なんで外に連れ出したの?」

 

「いや、そりゃあ....」

 

 

殺されそうになったからですよ....

先程までのあの視線を思い出すだけで背に汗が垂れる。

 

 

「ねえねえ、どんな女の子が好きなの?」

 

「ぶれねえな....この人」

 

 

歩きながらニコリ、と先程までの悪気なんて感じさせない声音。相変わらずの彼女の笑顔。

そんな偽りの笑顔を貼り付けた彼女へ、先程のお返しとばかりに皮肉交じりで言う。

 

 

「陳腐な言い方ですけど....裏の顔を見せてくれる人ですかね」

 

「あら、それじゃ私とは正反対だね」

 

 

悪びれなんて感じさせないさっぱりとして言った彼女。勿論、彼女も自覚していた。そうでもなければこのような笑顔を貼り付けたような笑みなど出来るはずもない。

この笑みが張り付いていない裏の顔を表に出させるというのが俺の目的だというのは、自分でも笑えてくる。

俺はあの飲み会の日から決して陽乃さんと距離が近くなったとは思っていない。ただ彼女が俺に対してお礼をしてくれるために、俺の事を知ろうとしてきっかけを作っていただけだった。

故に、言い方は悪いが陽乃さんはあの人達を利用していたのだろう。それを平然とやる彼女はやはり雪ノ下陽乃という訳だ。

 

真夏の太陽の日差しが肌を射しながら俺達は歩く。

 

 

「で、どこまで行くの?」

 

 

気付けば何時の間にか学外に出てしまったようだ。

幸い、今の時間に俺と陽乃さんが受ける講習は無い。何処か、涼しいところ....そう探していると緑を基調とした看板にセイレーンをデザインとした絵が描かれている看板が目に入る。

みんな大好き、スタバである。

 

陽乃さんと共に店に入る。やはり、店内はクーラーが効いていてとても涼しく、自然と汗が引っ込むような感覚に見舞われた。

店内を見回すと机にパソコンを置いている社会人や勉強をしている学生達。さすが駅前に座している店というべきか、店内は広い。

 

 

「へー、スタバかぁ、女の子と一緒にカフェをする店では及第点かな?」

 

「じゃあどんな店が満点なんですか....」

 

「俗に言う隠れた名店って所だね。あーゆう所、女の子でもワクワクするから。まあ、今日はここで我慢してあげるよ」

 

「今日はって....」

 

 

次もあんな目に会いながら彼女を連れ出さないといけないのか....普通にデートしたいです、はい。

俺達が未だに出入り口で話していると、それを見兼ねたのか定員さんが声をかけてくれた。

 

 

「あのー....お客様。ご注文はいかが致しましょう?」

 

「あ、私はショートチョコレートキャラメルフラペチーノで」

 

「....俺もそれで」

 

 

何だよ、呪文かよ。陽乃さんは土属性で司ってんですか?

もう陽乃さんと来る時、キャラメルフラペチーノだけじゃ辱めを受けるわ。辱めを受けたくないからもうスタバ来ないからね、今日来店最後の日。

そう決心していると、定員が「それと」、と言葉を再び紡ぐ。

 

 

「今日、恋人割引サービスとなっていまして....お客様は恋人という関係でよろしいでしょうか?」

 

 

素早く口を開ける。

 

 

「いえ、ちg「そうです」」

 

 

ちょっとおおおお!何言ってんの陽乃さああああん!!ペロッて舌を出しながらこっちを向かないで!ムカつくけど可愛いから許しちゃう!

 

「使えるものは何でも使わないとね」と俺の耳に口を寄せ呟く。いえ、別に喜んだ訳じゃないんですが....残念というか....残念です。

 

しかし、俺より店員さんさんの方が何かショックを受けているのか、「....そうですか」って俺の方を呪いそうな目で見てるんですけど!やっと安全な所に来たのに呪い殺されそうなんですけどぉ....

つまりこの世界はバイオハザード。安息地なんて無かったんや。

 

 

「合計千四百円となります」

 

「あ、お金は私が出すよ」

 

「いや、大丈夫っすよ」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

 

ここで俺が私がとならないばかり、さすが陽乃さんである。

 

昔、私がいや俺がと言って俺の目の前でもみくちゃになりながら、見栄を張ろうとしているカップルがいた。日本人の遠慮する精神とはこんなものなのか、とあの時は感じた。一切後ろの俺には遠慮してなくてメチャクソ邪魔だったけどな。

一度対立した関係を治すには、相手を認める他はない。相手を認めるという謙虚な心が損なわれている人間では、争いへと発展していくが、流石は陽乃さん。その事をわきまえてくれていた。いやなんで俺如きが上から目線で陽乃さんの事を語るんだよ。

 

僕は下僕です。ご主人様の代金を支払うのは当たり前なのです。そう思いながら英世さんをすっと二人店員に渡す。何か字面だと人身売買みたい....

それを店員はわざともぎ取るようにして取っていく。この店のレビュー1にしてやるよ....

恨みがましくお釣りを受け取り品物を貰う。はい、と陽乃さんにも手渡す。ありがとー、と言いながら受け取る陽乃さん。可愛い。

 

さて、問題は座る席だった。駅前に店を座しているわけか、ほぼ満席であったのだ。

ともすれば、相席を考えなければならないか....あれ嫌なんだよな、変に気を使っちゃうし....しかし、また外に出てあの直射日光の中を歩くなんて嫌だしなぁ....

 

うんうん唸っていると、隣に居たはずの陽乃さんが何時の間にか姿を消していた。あれ?という隙も無く、聞きなれた声が店の奥から聞こえてきた。

 

 

「おーい、久遠君、こっちこっちー」

 

 

どうやら陽乃さんの隣に人影が見えるため、相席をしていたらしい。陽乃さんのいる方向へ足を進めながら、相席となった客を見ると、学生二人だということが分かった。ふっ、良かったな陽乃様とご一緒なんて、光栄に思うがいい!え?僕?下僕です。

 

やがて、その姿が見えた。

一人は頭にアホ毛かぴょコン、と立っていて死んだ魚の目をしている男の子。どうやら、制服から察するに俺の母校総武高校の生徒だと分かった。

そしてもう一人。一目で美少女だと俺のセンサーが感知した。腰まで伸びた長い黒髪に凛とした顔立ち。陽乃さんが陽とするなら彼女は陰。物言わぬオーラを放っている彼女は陽乃さんと似ている部分がある。

 

....つーか、この二人....

 

 

「「「あのっ」」」

 

 

 

 

──スタバで俺を撥ねた車にのっていた少女とその姉さんと助けた少年に出会った件。

 

うん、今流行りのタイトル長文ラノベが書けるね!(白目)

 




キャラメルフラペチーノの呪文は闇が深い。後代金はテキトーです。勘弁してつかあさい....


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仕事

この話しを書き始める前に一つ。…ここからどうしようかなど何にも考えてません!行き当たりばったりです…だけど完結目指します。


スタバ内は外が真夏の真昼間という事だったのでクーラーがガンガンに効いていた。先程まで外を歩いていた俺達からしたらとても嬉しい。

しかし、今この一瞬、僅かにそのキンキンに冷えている店内で時間か止まったような気がした。

 

 

「…どうぞ」

 

 

ぴしり、と足が彫刻のように床から張り付いて離れない俺の足は、その一言でやっと動き出した。遠慮がちにアホ毛のこの隣─比企谷八幡君の隣に座る。

座る直前に比企谷君が逃げようとして立とうとしていたが押さえ込んだ。今ここで君がいなくなってしまったら、胃が痛くなるとかじゃなくて胃が体ごと原子分解しちゃう!

 

俺は陽乃さんから、妹さん─雪乃さんとは仲が余り宜しくないのは聞いている。そこまでならまだいち、家族関係として分類されるのだが…俺というイレギュラーが居る事で複雑性は増していく。俺を跳ねた車に乗っていた少女とその姉と被害者と助けた少年…うん、やっぱ小説一本書けるわこれ。

 

 

─この二人とは会話をした事はある。

まず雪ノ下雪乃さん。苗字から分かる通り、陽乃さんの妹である。腰まで伸びた真っ黒な黒髪は一切の手が加えられておらず、それだけで輝きを放っていた。顔立ちも陽乃さんから受け継がれたのか、初めてあった時も一瞬で美少女だと頭が勝手に認識した。しかし、性格までは同じという訳でも無かった。

例えるなら陽乃さんが陽だとすると雪乃さんは陰。つまり対極の存在である。陽乃さんほどはっちゃけておらず、言いたい事をズバッと言うらしい。それでも雪乃ちゃんは優しいと証言するのだから流石は姉である。

 

そして、比企谷八幡君。

この子は…この子は…ぼっち?何故か、俺と同じオーラを感じる。類は友を呼ぶというが本当の事だったらしい。しかし、俺でもあそこまで死んだ魚のような目をした事は無い。

つまりゾンビ。先程ここはバイオハザードって言ったけど間違いないわこれ。

 

 

「それで、雪乃ちゃんとえっと…」

 

 

確認するためにわざとらしく陽乃さんは言い詰まる。これにより比企谷君は自己紹介しないという手段を失った。

 

 

「…比企谷八幡です」

 

「そう、比企谷君ね。…比企谷君と雪乃ちゃんは何やってるの?デート?」

 

「「違います」」

 

「あははー、息ピッタリだね!もう、雪乃ちゃん彼氏が出来てたならそう言えば良いのに〜」

 

 

陽乃さんはそうおどけながら言っているが、視線は比企谷君へと向けられている。当然だろう、可愛い妹が何処の馬の骨と付き合っているのかなど気になるに決まっている。あれだ、この状況だと陽乃さんが雪乃さんの母上で俺は雪ノ下家のペット。え?お父さん?義妹だったんだよ雪乃さんは(白い目)。

 

そう俺がこのスタバ内を豪華絢爛な和室に見立て、結婚の挨拶に見立てながら現実からフェードアウトしている時も尚、陽乃さんは未だに比企谷君を見ていた。その視線は先程とは違い格付けをするような目付きをしていた。何を考えているかは分からないが、大方面白い人間かとでも考察しているのだろうか。

 

その目線に駆られてしまった比企谷君だが、耐えきれられなくなってしまったのか、ふいっとこちらに顔を向け陽乃さんの視線から目を逸らしてしまう。比企谷君の瞳から見るのは俺の瞳。目と目が合う、瞬間すーきだーときづーいたー…そんな思いに気付くわけもなく俺も比企谷君から目を逸らしてしまった。

しかし尚も比企谷君は助けを求めるような視線が俺に刺さる。すまんな、と首をふるふると振る。こんな真昼間から美少女とお茶してる奴なんて助けられるか!…あれ?これ特大ブーメランじゃね?どちらかと言うと俺の方がブーメランの大きさ大きいわこれ。つまりここの男に救いは無いという事。無念。

 

 

「コホン」

 

 

比企谷君の哀れな目付きを憐れむような目付きで見ていると、空気を変えるような咳き込みを雪乃さんはした。俺と比企谷君は再び雪乃さんと見る。何時の間にか、陽乃さんの比企谷君に向けられていた目線は収まっていた。

 

 

「部活動よ」

 

 

凛とした口調で雪乃さんはそう言った。

 

部活…?と机上に視線を下げると、そこにはレポート用紙のようなものが一枚。

─『デートスポットについて』と記された文字。

 

あぁ、そういうね…

 

なら俺達は邪魔だろうな、と結論付ける。空気の読める男…かっこいい!

 

 

「…陽乃さん」

 

「そうだね…」

 

 

珍しく語尾が弱くなってしまった陽乃さんと共に席を立つ。くるり、と二人で背中を向けるとこう言った。

 

 

「「お幸せに」」

 

「「違いますっ!!」」

 

 

リア充爆発(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

「奉仕部?」

 

 

あの後、物凄い勢いで弁明をされた俺達に雪ノ下さんは説明をしてくれた。

目の前ではやっと理解してくれたか、この鈍間という目付きでこちらを見て来る。やめろ、その目付きは俺に効く…

 

どうやら、雪乃さんと比企谷君は総武高校で奉仕部という部活動に入っているらしい。いわゆる『何でも屋』である。何でも雪乃さんが最初に入り、八幡君が後に入ったという事で、現在は二人しか所属していないらしい。

 

 

 

「そうでも無ければこんな億劫で意欲の無いシスコンと一緒に仕事なんて…」

 

「おい、それ前二つは悪口だけど、シスコンとか悪口じゃねえから。むしろステータスだし、希少価値だし」

 

 

ずびしいっ!と比企谷君の背後に青髪ロリッ娘高校生の化身のようなものが見える。

ら〇すた二期、待ってます。

 

 

「それで?今は何をやってるのかな?」

 

「姉さん達に話す事は何も無いわ」

 

 

先程まて比企谷君と話していた態度とは一変した。

ぴしゃり、とこれ以上の追求は許さないような声音で俺達を遠ざける。

しかし、そう言われても陽乃さんはあっけらかんとしていた。

 

 

「あらら、振られちゃった〜慰めて久遠くーん」

 

 

決して本心ではそう思っていないようなへらへらとした、言葉使いで俺に助けを求めてくる。

はいはい、と陽乃さんを宥めた。ここ一ヶ月これくらいのスキンシップは取るようになっている。最初の頃はオカズにこまr…心臓バクバクのドキドキでしたが、今はもはや慣れてしまった。

陽乃さんは誰にでも平等に接するため、その性格故親近感を持たせる事が出来る。故に、その手法で親しい関係となった有象無象など何人居るか分からないだろう。もしかしたら俺もすでにその有象無象なのかも知れないな…。と陽乃さんの理解者となるという目標が再び遠ざかっていく中、陽乃さんの妹、雪乃さんの視線が俺に刺さる。

 

雪乃さんの目付きは何処か不思議なものを見るような目で俺を見ていた。

 

 

「…何ですか?」

 

 

不思議と俺は雪ノ下家の方には敬語になってしまうらしい。

 

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 

そう言うと彼女は元の目付きに戻った。何だろな?と考えていると、雪乃さんが顎に手を当て少し考えるポーズを取る。そのポーズもなかなか様になっていた。

 

やがで、考えが纏まったのか顎から手を離し彼女は俺達に向けて言った。

 

 

「…手伝う事が何も無いって言ったけど…そうね、姉さん達にやって貰いたい事があるわ」

 

「…へえ」

 

 

ふと正面を見ると、先程までのおちゃらけた陽乃さんの面影は見当たらず、興味深々に雪乃さんを見ていた。どうやら、今の雪乃さんの発言は何か陽乃さんを動かすモノがあったらしい。

 

 

「おい、雪ノ下。良いのかよ、それは俺達の仕事だろ?」

 

 

oh...八幡君…今まで声出してなかった君がいきなり出すからビックリしたぜ。

 

 

「あら、比企谷君無駄にやる気じゃない。だけど、仕事は適材適所が一番楽で効率的でしょう?ただ私達には適所じゃないって事よ。…それとも比企谷君私と一緒にやる?」

 

「それは…」

 

 

言い詰まる比企谷君。どうやら、あたらの発現力も雪乃さんの方が権限は大きいようだ…あれだ、今このテーブルは女尊男卑だわ。そのうち女性しか乗れない機体とか出て来るパティーン。

 

 

「…へぇー、雪乃ちゃんが私に頼み事をするんだ?」

 

 

今まで静かだった陽乃さんが雪乃さんに試す様な視線を送る。だが、そんな事はどうでもいいと雪乃さんは話しを進める。

 

 

「えぇ、後でしっかりと二人共各自にお礼はするわ」

 

「いいよー、可愛い妹からお礼ってのも気が引けるしね。久しぶりに妹にもお姉ちゃんらしいところ見せてあげなきゃね」

 

 

何処か小馬鹿にしたような言い方に、雪乃さんはぴきり、と青筋を立てる。ふるふると震える肩を抑えながらも彼女は言葉を紡ぐ。

 

 

「…そう、ならしっかりと見せてくださいねおねえちゃん(・・・・・・)らしいところを?」

 

 

ふふふ、と笑い合いながら約束を交わし合う姉妹達。会話だけ見れば仲睦まじい姉妹の会話に見える。だがこの二人が互いに抱いている心情などを見るととても恐ろしい、つかめっちゃ恐い。ほら、空気に化していた比企谷君だってガタガタいって蒸留しそうだからやめて上げて。

 

 

「それで?頼みたいことって何です?」

 

 

もはや俺の拒否権なんてある筈もないので、とにかくあの二人の仲睦まじい微笑みをぶつける二人の意識を互いから逸らすために口を開いた。

 

 

「え、えぇ、そういえばそうだったわね」

 

 

どうやらその目論見は上手くいったようで意識を逸らせる事が出来たようだ。二人は微笑み合うのをやめるとこちらを向く。

雪乃さんは持参していた茶色のバッグからがさがさと何かを探すような仕草をして、五枚ほど束ねられたプリントを机上に出した。

 

 

「これよ」

 

 

そこには、『真夏にはここがオススメ!デートスポットベスト5!』と一枚目に文字がプリントされていた。

 

えっ、これってと問いかけようと雪乃さんの顔を見る。そこには陽乃さんほどの美貌を持った笑みが張り付いていた。

 

 

 

「姉さん達にはこのプリント全てに記載されてる所に行ってもらうわ」

 

 




さて、お気に入り100達成ありがとうございます。
ランキング上位者の方達に比べたらまだまだだと思われますが、私にとっては大満足です。皆さんの感想や評価が日々励みになります。
ゆるりと完結を目指して行きたいのでそれまでよろしくお願いしますm(_ _)m


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