ポケットモンスターSP 新たなる図鑑所有者 (俺俺)
しおりを挟む

始まりの旅 謎の少女の秘密
VSアーボック


はい、始まりました《ポケットモンスターSP新たなる図鑑所有者》!
何分、小説に関しては素人で、グダグダになっているかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします!!


《1月26日・16時21分》

カントー地方・2番道路

 

 

「見つけた・・・!」

 

長く伸びた草の中に身を潜め、俺は目の前の生き物を注視する。

綿の様な体毛と黄色と黒の縞模様が特徴の生き物、《ポケットモンスター》通称ポケモン。

そのポケモンは今欠伸を掻いて、ウトウトとしている。時刻は夕方、そろそろ眠る時間なのかもしれない。

 

(奴が眠ったところを、これで・・・!)

 

自分の手に握られたモンスターボールを一瞥した後、もう一度奴に視線を戻す。

元々10個あったモンスターボールだったが、これまでの失敗と不運続きで、これが最後の1個となってしまった。

 

そして、遂にその瞬間が訪れた。

 

(来たーーーっ!!)

 

完全に眠ったあのポケモンを捕獲すべく足音を極力消しながらゆっくりと近づいていく。

 

(今にしてみれば、長く、辛い道のりだった・・・!)

 

ポケモンを捕獲すべく、野生のポケモンが蔓延る道路にボール片手に彷徨うこと8時間。

骸骨を被ったポケモンに襲われたり。

牛みたいなポケモンに追いかけられたり。

デカイ紫色のポケモンを尻尾を踏みつけたり。

休憩に立ち寄った町ではバケツに水をぶっ掛けられたり。

跳ね回る豚みたいなポケモンの大群の移動に巻き込まれたり。

その後も川に落ちるわ、木から落ちるわ、崖から落ちるわ落とされるわで散々な目にあってきたが、最後の

最後に運は俺に味方した・・・!

 

今こそ、俺の初の手持ちポケモンゲットの大チャンスっ!

俺は片足を上げ、投球フォームを取る。

さぁ、行け!モンスターボー《ドカッ!》

 

 

「ゑ?」

 

 

はて?今俺の足に何かがぶつかって通り過ぎて行ったような・・・。

視線を向けてみると、青くて丸っこいのが勢い良く走り去っていく。それと同時に傾いていく俺の体。

なるほど、つまり俺が片足を上げた瞬間あの丸っこいポケモンが俺の地面に着いた片足を轢逃げした訳か。

そんなどこか他人行儀な思考を巡らせている間にも俺の体はどんどん傾いていき

 

「ぶへぇっ!!」

 

「~~~~~っ!!?」

 

俺は前のめりに倒れ伏した。

とほほ、今まさにこれからって時にこんなんなんだよなぁ。鼻打って痛いし。

それにしても、今、変な音が聞こえたような気がする。潰された蛙というか、肺から一気に空気が噴き出た様

な・・・そんな感じの。それにさっきから腹の辺りが柔らかいような、極上の綿の上にでもダイブしたような

 

 

瞬間、猛烈に嫌な予感が俺の全身を駆け巡った。

 

 

慌てて体を起こし、後方に飛び退く。

するとさっきまで俺が倒れていた場所には・・・

 

 

全身からバチバチと電流を発しながら、こちらを睨みつけてくるポケモン『メリープ』がいた。

ビジュアルが愛らしいだけあって恐怖心は幾らか和らぐが、それでも相手はポケモン。本来人間の敵う相手ではない。

 

「ちょっ!ま、待て!!これには深い訳がっ!!」

 

そんな俺の言葉は当然聞き入れて貰えず、無慈悲にもメリープが放った電撃は一直線に俺に向かってきた。

 

「チクショォォォォォォ!!結局こうなるのかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そんな俺の叫び声が、夕暮の空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここで一つ話題を変えよう。

なぜ、俺が手持ちのポケモンも連れずに野生のポケモンが蔓延る危険な道路にいるのか。

本来、町の住民の安全のため手持ちのポケモンを1体も連れずに道路に出るのはポケモン協会により禁止されている。にも拘らず、俺が此処に来た理由。それは2日前の夜に遡る。

 

 

   

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月24日・19時30分》

カントー地方・ニビシティにある民家

 

 

 

俺は一人の老人と暮らしている。

その老人は今、自身のトレードマークである白い帽子コートを脱いで、新聞を広げている。口にはもう一つのトレードマークである木製のキセルを咥えている。

 

この男の名は『ゲンジ』。

ホウエン四天王の一角にして、最強のドラゴン使いでもあり、この俺『ガーネット』の育ての親でもある。

 

俺は元々ストリートチルドレンという奴で、5歳の時故あってゲンジの元へ引き取られからは今まで習った事もない一般教養や、マナー、基礎体力やら柔軟やらをスパルタで教えて貰いながら暮らしてきた。

そんな感じで、俺にとって濃密な6年間はあっという間に過ぎ去って、俺は今11歳の誕生日を迎えていた。

念願だった一人旅の規定年齢を達してから丁度1年。今年こそは許可を貰う為、ゲンジに話しかけた。

 

「のぅジジィ、儂は旅に出「ならん」少しくらい悩んでもいいじゃろっ!?」

 

このジジィ・・・!新聞を読みながら一蹴しやがった!!世間では10歳になったら旅に出れるのに、俺だけ一年待たされた上にこの仕打ち・・・!

 

「今日は儂の11歳の誕生日じゃぞ!?可愛い弟子のささやかなお願いじゃろうが!!」

 

するとジジィは、新聞を畳んで背を向けて立ち上がりやがった。この野郎!聞く耳持ちませんってか!?

だったらこっちにも考えがある!

 

「やい、ジジ《ベシッ!》フブッ!!?」

 

こ、このジジィ・・・!なんか固い物を顔にぶつけてきやがった。俺の作戦を一瞬で消し飛ばすとは・・・!

何をぶつけてきたのかと思い、改めて飛んできた物を見てみる。

それは丸くて固いものが複数個入った巾着袋だった。

もしや、これが誕生日プレゼントかと思い、鯉口を縛ってあった紐を解き、中を覗いてみると

 

「モンスターボール?」

 

そう、袋の中身は赤と白を基準とした一般的なポケモン捕獲アイテム、モンスターボールだった。

一人旅の許可を強請ったにも拘らず、何故モンスターボール?

俺は何とも言えない視線を向けていると、ジジィはゆっくりと口を開いた。

 

「ガーネット、ポケモン協会が定めた道路の通行許可の基準は?」

 

なんだ、いきなり。よく分からないが、まぁいいか。えーっと、確か

 

「町の住民は最低一体のポケモンを手持ちに加え、ポケモントレーナーとしてライセンスを発行・・・・あ」

 

そうだった。俺。今一体も手持ちのポケモンを持って居ないんだった。

旅に出ることばっかり頭に言ってて、すっかり忘れていた。

 

「ガーネット、そのボールを持って己の力のみでポケモンを捕獲して見せよ。そうすれば私はお前を一人の

ポケモントレーナーと認め、旅立ちを許可しよう」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

《1月26日・16時55分》

カントー地方・2番道路

 

 

イヤーまったく、ジジィのツンデレにも困ったもんだ。素直に認めれば良いのにに毎度毎度回りくどいと言うか。ま、そんな些事を許してやるのが弟子であるオレな訳だ。ホント参っちゃうよねーHA☆HA☆HA

 

「だからお願い〝でんきショック〟は~~~~~っ!!」

 

そして、この状況も、本当に困ったものだ。

つい先ほど、俺の偶発的ボディプレスを食らったメリープは当然のごとく怒り狂い、俺を追いかけてきた。

ちくしょう!あの青くて丸っこい奴が俺の足を轢逃げするから!!今度会ったらどうしてくれようか!?

 

「えぇい、しつこい!いつまで追いかけてくる気じゃ!!」

 

俺のボディプレスを食らってから既に30分は経過しただろうか?辺りは薄暗くなってきている。

そんな中、俺とメリープの命懸けの追いかけっこ(〝でんきショック〟付き)は続いていた。

こんな状況、いつまでも続けておくのは!

 

「埒が明かぬ!」

 

そう言って俺は、落ちていた木の棒を拾い上げて構える。今まで武器を持って喧嘩することなんて滅多に無かったが、あの電撃に対して素手だと分が悪い。草タイプは電気タイプに有利ってな!

俺が初めて臨戦態勢を取ったことでメリープも警戒したのか、立ち止まって、じっと俺を見据えている。

 

こうして、両者の睨み合いは暫く続き、そして遂に!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉお!!メリープ、捕獲じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は雄叫びと共に駆けだした。それと同時にメリープも俺に向かって突進してくる。

まず俺はメリープにダメージを与えるべく、木の棒を振りかぶり、そして《ギュムっ!》ん?

 

 

はて?今なに踏んだような・・・。メリープの方を見てみると、青い顔を更に青くして、震えている?

そこで俺はようやく、自分の足元に目を落とす。するとそこには紫色の尻尾が俺の足で踏まれていた。

 

 

あれ?なんか既視感《デジャヴュ》?

 

 

そして俺は恐る恐る顔を上げてみると、そこには俺に向かって大口を開けて威嚇する『アーボック』がいた。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

俺は絶叫と共に咄嗟の判断で持っていた木の棒を、バットの要領でフルスイングする。力一杯叩きつけられた棒はアーボックの胴体に直撃し砕け散ったが、アーボックは特に堪えた様子もなく俺に向かって〝かみつく〟

を放ってきた。って、やばい!あんな明らかに毒が有りそうな牙で噛まれたら終わりだ!

咄嗟に掌に残っていた木片をアーボックの顔目掛けてブン投げる!当たり所が良かったのか、アーボックは唸

り声と共に怯んだ。こんな時ばっかり悪運が強いな!俺!とにかく今の内だ!

俺はアーボックから背を向けて全力で走りだす。隣を見てみると、メリープも俺と同じ方角に逃げだした様だ

何とかして逃がしてやりたいが、そのためにはこの状況を打開しなくてはならない。

このメリープの様子を見る限り、あのアーボックとのLvの差は歴然!

それに対して、今俺の手元にあるのはモンスターボールたった一つだけ。バトルで倒すのも捕獲するのも絶望的だ。そんな考えを巡らせている間にも、回復したアーボックが俺達に向かって猛スピードで迫ってくる!

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月26日・17時20分》

カントー地方・2番道路

 

 

どれだけの間走り続けただろうか?

走っても走ってもあのアーボックを振り切れない。これが蛇の執念という奴か。

そして俺達は、打開策が思い付かないまま崖まで追い詰められてしまった。

俺達を追い詰めたアーボックはニヤニヤと笑いながら、こちらににじり寄ってくる。は、腹立つ・・・!

そうしている間にも、俺達は崖の方へ追い詰められていく。下を覗いてみるとそこはまさに断崖絶壁・・・!

 

「くそっ!何か、何か無いのか!?」

 

そう言って俺は辺りを見渡す。このピンチを越えるだけの何かを探して。

俺の周りにあるものは、メリープが一体、モンスターボール一個、俺達が追い詰められている崖!・・・崖?

 

そして俺は見つけた。作戦なんてスマートなものじゃない。自分の力だけが頼りの打開策を!

 

「メリープ、儂に従え!この状況を打開するぞ!」

 

俺がそう言うと、メリープは驚いた顔で俺を見上げてきた。

その目は、不安と恐怖で彩られていた。俺はそんな不安も恐怖も吹き飛ばすくらいの大声で、自分なりの不敵の笑みでメリープに叫ぶ。

 

「お前の電撃と、儂の作戦ならやれる!儂を信じろ!!」

 

するとメリープは覚悟を決めたように、大きく頷いて見せた。

それを了解の合図と受け取ると、俺はメリープをアーボックの方に向けたまま自分の胸元へ抱え込む。

 

「さぁ、決着を着けようぞ!無論、儂等の勝利でのぉ!!」

 

そして俺は、今度こそ正真正銘、大胆不敵の笑みを携えアーボックを挑発した。

追い詰めたはずの獲物のまさかの挑発に、アーボックの怒りは頂点に達し、俺達に飛び掛かって来た。

 

(まだだ!まだ、ギリギリまで引き付けて・・・!)

 

奴の〝かみつく〟が俺を捕えようとした瞬間

 

(今だっ!!)

 

俺は全力で体を捩りながら体を前へ倒れた。

寸前のところでアーボックの攻撃を避けた俺とメリープは今、アーボックの顔の方を向きながら後ろ向きに倒れようとしている。一方アーボックはと言うと、飛び掛かった勢いでそのまま崖から落ちようとしていた。

そのまま落ちてしまえば楽なんだが、そう簡単にはいかなかった。アーボックは体を捩りながら崖の上に戻って来ようとしている。だが、そんなことは大体の想像はできていた!

 

「メリープ!奴を良く狙え!〝でんじは〟!!」

 

俺の指示と共にメリープから放たれた電撃は、見事にアーボックに命中した。

威力を捨てることにより、命中した相手を確実に麻痺させる技〝でんじは〟

あのアーボックに対し、何も無い平野で使ってもほぼ確実に回避されていただろう。

だが奴は、崖に追い詰められた俺達に襲いかかり、その攻撃を避けられたことで立場は逆転させてしまった。

崖と俺達で逃げ場を無くしたアーボックは為す術もなく、電撃を浴びる羽目となり、そのまま麻痺して崖の上から滑る様にして落ちて行った。

 

こうして、俺の人生史上初のポケモンバトルは、勝利の2文字とともに幕を下ろした。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月26日・20時33分》

カントー地方・ニビシティにある民家

 

 

あの戦いの後、ともに戦ったメリープに懐かれ俺の手持ちになってくれた。

そのメリープを引き連れて、俺達は今テーブルを挟んでゲンジの前にいる。

 

「そのメリープ。捕獲することが出来たのだな」

 

「うむ。少しばかり苦労したがの」

 

実際は、少しどころかとんでもなく苦労した訳だが。

朝に家を出てから既に9時間。普通なら心配するだろうが、ジジィは顔色一つ変えずに話を切り出した。

 

「ガーネット、お前が旅に出たいという理由は昔から聞いていた。写真家になりたいという、お前の夢もな」

 

そう、それが俺が旅に出る目的。

3年前、ジジィに連れて行かれた写真館。何人ものカメラマンの渾身の一枚がいくつも展示されていた。

それを見た瞬間、体中に電流が走ったような感覚に襲われた。

理屈なんかじゃない。ただ本能におもむく様に思った。

(俺もいつかこんな風景を見てみたい!この絶景を撮ってみたい!)

その時から、それが俺の憧れになり、目標になった。必ず叶えてみせる。そう、自分に誓った。

しかし何だ?いきなり改まって。何かを言える空気でもなかったので、俺は黙ってジジィの声に耳を傾ける。

 

「だが今回のポケモン捕獲を経験する事により、旅の危険を解ったはずだ。それでも、お前は旅に出るか?」

 

それはジジィにしては珍しい、他人に気を掛けるような、そんな口調だった。

そんな台詞が言えるなんて、6年間一緒に暮らしてきたが今の今まで知らなかった。

 

旅の危険性。今回たったの9時間道路に出ただけでわかる。強大な自然の猛威。野生のポケモンの力。

ポケモントレーナーとして、旅に出る奴が多くない理由がこの身で痛感した1日でもあった。

俺はこれから写真家として、想像も超えるような危険な場所へ赴くことだろう。

 

それでも

 

「うむ、儂は旅に出る。この世の全ての絶景をこのフレームに収める為、この目に焼き付ける為にな!」

 

俺は纏めてあった荷物からカメラを取り出し、それを持ってそう宣言した。ポケモンバトルやらコンテストやらが目的の奴も多いだろうが、この世界の美しさをフレームに収める写真家となる為に、旅に出る。変わっていると言われようともそれが俺の道だ。

そんな意気込みを示すように、俺はじっとゲンジを見つめ返す。するとゲンジは懐から何かを取りだした。

見てみるとそれはモンスターボールだった。中にはポケモンが入っている。

 

「それは少し前に私が偶然発見し、捕獲した非常に珍しい個体のポケモンだ」

 

ゲンジがボールの開閉スイッチを押すと、そこからポケモンが飛び出してきた。

胴体より大きい顎が特徴のポケモン『ナックラー』だ

ナックラーはそこまで珍しいポケモンではない。ではなぜゲンジは珍しいと言ったのか。

 

それは、色だった。

 

普通ナックラーは全身の色が茶色だが、このナックラーは全身鉛色で覆われている。

俗に言う《色違い》と呼ばれる、発見数が極めて少ない個体だった。

 

「そのナックラーはお前に譲ろう。これから先、お前に大きな力を貸してくれるだろう」

 

「良いのか・・・?こんなに珍しいポケモンを、儂に譲っても」

 

「・・・・・私からの旅立ちの記念だ。取っておけ」

 

そう言って、ゲンジは背を向けて部屋から出て行った。

 

「あのツンデレジジィが・・・最後の最後に素直になりやがって」

 

思わず元の口調が出てしまった。

この6年間、ゲンジは俺に対しては回りくどい言葉ばかり掛けてきたのに。

ゲンジと共に暮らす最後の夜に掛けられた労いの言葉に、思わず目頭が熱くなる。

目を押さえて俯いていると、俺の両足にメリープと、さっき出会ったばかりのナックラーが擦り寄って来た。

俺は慌てて眼を擦り、床に胡坐をかいて2体の目線に合わせるようにする。

 

「明日から儂とお主達、1人と2体の旅が始まる。改めて、よろしく頼むぞ」

 

口調を元に戻し、そう言って笑い掛けると、2体とも満足そうに頷いてくれた。

さてと!今から俺がやるべき事といえば!

 

「まずは、お主達にニックネームでも付けるかのぉ。種族名じゃと何か味気ないからの」

 

こうして、夜は過ぎ去っていった。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月27日・午前1時35分》

 

カントー地方・マサラタウンにある《オーキド研究所》前。

 

 

 

「0135.目的地に到着」

 

そこに一人の少女が佇んでいた。

年頃は10歳程度。

月明かりに照らされた白い顔。

腰まで届きそうな長い藍色の髪は後頭部で二つに分けて縛っていて、月の光を受けながら輝いている。

服の上からでも分かる、細く、しかし丸みを帯びた体。

鈴を転がしたような愛らしい声色。

10人居ればその10人全員が彼女を美少女と呼ぶだろう。

 

しかし、その表情はまさに能面。

その漆黒の眼差しは、冷たく研ぎ澄まされている。

持ち前の美貌も合わさって、人と言うよりも人形と表現する方がしっくりとする少女は、腰のベルト部分からモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

そこから現れた小さな鼠の様なポケモンは小さな電流を身に纏わせ、主の指示を今か今かと待ち望んでいる。

 

「これより、作戦を開始します」

 

全国的に権威のあるポケモン博士の研究所に、侵入者が入り込んだ夜の出来事だった。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月27日・10時3分》

カントー地方・ニビシティ出入り口前

 

 

後日、トレーナーライセンスを無事に習得した俺は、町の出入り口の前まで来ていた。

ジジィは見送りには来なかった。それでいいと、俺は思う。ジジィがあんまりデレるのも不気味だしな。

 

「ナツ、メリー。暫くの間、この町も見納めじゃ。眺めるのなら今の内じゃぞ」

 

俺は昨夜それぞれに付けたニックネームを呼びながら、2つのボールの開閉ボタンを同時に押す。

そこから飛び出したのは、ナックラーの『ナツ』、続いてメリープの『メリー』。

2体はじっと、俺が育った街を見て、そして俺を見つめてきた。

俺は大きく息を吸い込み、吐き出した。

 

「さぁ行くぞ。儂等の旅はこれからじゃ」

 

決まった目的地の無い、当てのない旅が始まった。

未知なるものへの不安は大きいが、同時に楽しみでもある。

そんなものを目指し、俺達は足を踏み出した。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

キャラクターステータス

 

名前:ガーネット

性別:男

年齢:11歳

所持金:3000円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ナックラー ♂ Lv,11

メリー/メリープ ♂ lv,10

 

 

 

 




いかかでしたでしょうか?
とりあえず自分なりに精一杯書いてみました!!
皆様からの率直な意見を、心よりお待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSケンタロス

何とか2話目も更新できました。
相変わらずのグダグダ具合ですが、良ければ見ていってください!


《1月27日・3時21分》

カントー地方・マサラタウン《オーキド研究所》

 

???side

 

 

 

 

(目標発見)

 

鼠の様なポケモンと共に、この研究所に忍び込んだ少女は、机に置かれている品を見据える。

そこにあるのは、全国ポケモン研究の第一人者《オーキド博士》が開発した3機1組の機械。

このカントー地方の危機を2度にわたり救った少年少女が所有していたと言われる物。

対峙したポケモンの、ありとあらゆるデータを閲覧する事が出来る《ポケモン図鑑》だった。

机の上には全部で6機2組の図鑑が置いてある。

 

(任務開始)

 

頭の中でそう呟くと、警報装置の有無に警戒しながら、図鑑を鞄の中に1つずつ入れていく。

そう、それこそが彼女の目的。

こんな夜中に研究所に忍び込んだ理由はポケモン図鑑を盗み出す事に他ならない。

そして、3つ目の図鑑を鞄の中に収め、4つ目の図鑑に手を伸ばそうとした。

 

「誰だ、其処で何をやっている!?」

 

突如、少女は懐中電灯の光に照らされた。

こんな深夜に研究所に居るということは、夜間担当に職員だろうか?

懐中電灯の光でよく見えないが、声色から察するにまだ若い男だと思われる。

そんな分析を頭の中で巡らせていると、男はズボンのポケットからポケギアを取り出す。

 

「今から警備員の人を呼ぶ!抵抗しても無駄だ!」

 

男はそう言いながら、男はポケギアを操作しながら少女と距離を詰める。

どう見ても年端もいかない華奢な少女。部屋の出入り口は自分自身の体で塞いでいる。

警備員が来る前に自分の手で捕まえられるだろう。

そう思ったのか、男は顔に笑みを浮かべながら余裕を持って歩みを進める。

 

「さぁ、今なら遅くはない。今すぐその鞄の中の物を」

 

「ピチュー、〝フラッシュ〟」

 

しかし、少女の指示は早かった。

隣に控えていたポケモン《ピチュー》が少女の指示を受け、強力な閃光を放つ。

突如浴びせられた〝フラッシュ〟により視界を奪われ、目を押さえて蹲る男を踏み越え、少女は部屋を飛び出し、そのまま廊下を疾走する。

 

「泥棒だーーー!!図鑑を、盗まれたーーーー!!!」

 

そんな声が少女の背後から響き渡るも、少女はそれを無視して研究所を飛び出した。

研究所から桁ましく鳴り響くサイレンの音を聞きながら、少女は森の中へと姿を消した。

 

オーキド博士が新しく制作したポケモン図鑑2組の内1組が盗み出された夜の出来事だった。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《1月27日・11時45分》

カントー地方・3番道路

 

ガーネットside

 

 

 

ニビシティを出発した俺達は当面の目的地をハナダシティに決定し、通り道であるお月見山を目指し歩みを進める。しかし旅に出るにあたって、金という奴はどうしても必要になってくる。

自分の食事代や宿代はもちろんのこと、ポケモンの食事や傷薬の為の資金も必要だ。

それらに加えて、俺の場合は写真を保存するためのメモリーディスクやアルバム等が必要になる。

 

「そこの山男よ、所持金を掛けて儂とバトルをせぬか?」

 

「お!元気がいいね~。良し、やろうか!」

 

自分からライセンスを見せ、トレーナーにバトルを申し込む。

相手が承諾すればそのままバトル、拒否すればノーゲームといった具合だ。

今回の場合は、相手がちゃんと承諾したのでそのままバトル開始となる。

互いに所持金の何割かを掛け、距離をとってボールを構える。トレーナー相手に初のバトルだ。

 

「いけ、ワンリキー!」

 

「迎え討て、メリー!」

 

山男が初めに繰り出したポケモンは、格闘タイプのポケモン《ワンリキー》だ。

飛行タイプか、エスパータイプの技が有ればいいが今は無い物強請りをしている暇はない!

 

「ワンリキー、〝からてチョップ〟だ!!」

 

「させぬ!メリー、〝でんきショック〟!!」

 

メリーに攻撃するため飛び掛かって来たワンリキーに対し、それを許さず電撃を浴びさせる。

まともに電撃を受けたワンリキーは、全身から煙を上げながら地面に落下する。

しかし、戦闘不能かと思われたワンリキーは苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がろうとする。

なんてしぶとい奴だ!やっはり人間とポケモンとじゃ受けるダメージは大きな差があるな!

ならば、相手に隙を与える前に止めを刺すのみ!!

 

「相手に隙を与えるな!〝たいあたり〟じゃ!」

 

ワンリキーが立ち上がる前に、メリーが助走をつけてそのままワンリキーに突撃する。

メリー渾身の〝たいあたり〟を受けたワンリキーは吹き飛ばされ、そのまま壁に激突する。

 

「戻れワンリキー!いけ、イシツブテ!」

 

瀕死状態になったワンリキーに変わり出てきたのは《イシツブテ》だった。

って、このままじゃ不味い!俺の今までの苦い経験が物語る。猛烈に嫌な予感がすると。

 

「イシツブテ、〝マグニチュード〟!」

 

やっぱりかー!確かに俺でもやるけど、ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃん!

そんな俺の嘆きを無視するかのように大地は揺れ動く。って、あれ?思ったより揺れが少ない。

〝マグニチュード〟は震度によって威力が変動する技。どうやら震度は低かったようだ。

揺れが収まった後も、なんとかメリーが持ちこたえていたのはラッキーだ。今の内に!

 

「良くやった、戻れメリー!いけ、ナツ!!」

 

メリーをボールに戻し、すぐさまナツを繰り出す!

ナックラーのナツは地面タイプのポケモン!イシツブテにタイプ相性で劣ることは無いだろう。

 

「イシツブテ、〝まるくなる〟!そのまま〝ころがる〟だ!」

 

〝まるくなる〟を使う事で威力が増大した〝ころがる〟を使い、イシツブテは突撃してきた。

まとも当たれば大ダメージを受けるだろう。だが、俺のナツを甘く見るな!

 

「ナツ、そのまま大口を開けて迎え討て!!」

 

俺の指示を受け、ナツは大きな口を開けてイシツブテを待ち構える。

するとナツは突撃してきたイシツブテを、下から顎で拾い上げるように持ち上げた!

〝ころがる〟の威力を完全に流されたイシツブテはナツの顎の中で暴れるが、相手が悪い!

 

「良いぞナツ!そのまま〝かみくだく〟!!」

 

大岩をも砕くナックラーの顎の力。

その逸話に偽り無しと言わんばかりに、ナツはイシツブテが瀕死になるまで噛み潰した。

良し!バトル終了俺の勝ち!

 

「いやー負けたよ。それじゃ、賞金を口座に振り込むからライセンスカードを出して」

 

俺は言われた通りにライセンスを取り出す。

俺のライセンスに表示されているバーコードを、山男のポケギアの認証機能で読み取る。

するとポケギアの画面に《入金》という項目が表示されるので、それを選択する。

次に表示された電卓画面に、前以て決めていた掛け金を入力して再度入金ボタンを押す。

すると山男の口座から俺の口座に、掛け金が振り込まれた。

これがバトルの報酬の受け渡しだ。その場ですぐに出来るあたり、便利になったものである。

 

俺は傷薬を使ってメリーの治療を終えると、さらに歩みを進める。

この調子でハナダに着く前にある程度金を巻き上げ・・・もとい、獲得しておきたい。

そうやって俺はトレーナーを倒しながら進んでいくと

 

《ぐうぅぅ~~~~~》

 

俺の腹の虫が盛大に鳴り響いた。

そういえば、町を出てから歩きっぱなしで、何も口に入れてなかったな。

時刻はすぐに昼頃。そろそろ昼食にしてもいいだろう。

俺はボールからナツとメリーを出し、あらかじめ用意していた食料を取り出す。

 

「腹が減っては戦は出来ぬ。飯にしようかの」

 

俺がそう言ってポケモンフードを皿に盛り付けると、2体は嬉しそうに飯を頬張り始めた。

俺はそれを見届けると、その横に座り自分用に買っていた出来合わせの弁当を取り出した。

 

「ん?」

 

すると、視界の端に何か光る物を見つけた。

好奇心に勝てず、弁当を置いて歩み寄る。すると、それはそこにあった。

赤を基準とした見た事もない機械が落ちている。はて?誰かの落とし物だろうか?

それを持って弁当を置いてある場所まで戻ると、機械からピーっと音がした。

 

「な、何じゃ!?」

 

もしかして壊したか!?俺が持った瞬間に壊れるってそりゃ無ぇよ!!

俺は訳が分からないまま、とりあえず色々と弄ってみる。すると、機械は二つに開いた。

中には幾つかのボタンと、機械の大半を占める液晶画面があった。どれも傷一つ無い。

よ、良かった・・・。壊した訳じゃないのか。

俺は安堵の息をつくと、改めて機械を見る。すると、画面にあるものが映し出された。

 

「凄い・・・。何なんじゃ、これは・・・。」

 

ナックラーやメリープ、ワンリキー、イシツブテに関する情報だった。

体長や体重、足跡や鳴き声、主な生息地域に補足説明までびっしりと映し出されていた。

ポケモンに関する多くの情報を、ボタン一つで確認できる機械。これは一体?

しかし、この4体の説明は十分に表示されていたが、他は空欄ばかりだ。

って、あれ?こいつら全部俺がトレーナーになってから出会ったポケモンじゃないか?

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《1月27日・11時30分》

カントー地方・3番道路

 

???side

 

 

 

オーキド研究所から1組のポケモン図鑑を盗み出した少女は、夜通し歩いていた。

しかしその年齢に釣り合わぬ無表情で体の限界を無視して目的地へ向かう。

ハナダシティ。それが彼女の目的地であった。

 

《ギュムっ》

 

疲労による体の限界の為か、普段の彼女なら決してしないミスを犯してしまった。

何処かの少年のように野生のポケモン《ケンタロス》の尻尾を踏みつけてしまったのである。

それに激怒したケンタロスは、雄叫びと共に少女に襲いかかった。

少女にとっては想定外のアクシデント。それでも彼女は思考を乱すことなくボールを構える。

 

「ピチュー、〝でんきショック〟」

 

ボールから飛び出したピチューは、ケンタロスに向かって電撃を放つが、ケンタロスは電撃を押し切る様に〝とっしん〟で少女とピチューに肉薄していく。

少女は表情一つ変えずに、ピチューと共に横へ跳んで〝とっしん〟を回避する。

それと同時にもう一つのボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

 

「ムックル〝はがねのつばさ〟」

 

ボールから出てきた鳥型のポケモン《ムックル》の翼が鉄の様に硬化し、ケンタロスの横腹を抉る様に叩き付ける。急所に当たったのか、ケンタロスは音を立ててその場に倒れ伏した。

倒れたケンタロスに見向きもせず、少女はピチューとムックルをボールに戻し、歩みを進める。

 

 

《11時50分》

カントー地方・お月見山

 

 

少女はそのまま歩みを進めると、お月見山まで到着してた。

ピチューの〝フラッシュ〟で辺りを照らしながら進んでいくと、自分の横に何かが落ちた。

見てみると落ちたのは研究所から盗んだポケモン図鑑だった。鞄を見てみると穴が開いている。

先程の戦闘が原因と判断すると、鞄の中身を確認する。

盗み出したポケモン図鑑は全部で3つ。しかし、今は2つしかない。

少女は通り道に落ちているであろうポケモン図鑑を回収するため、来た道を逆走した。

 

 

《12時10分》

カントー地方・3番道路

 

 

元の道を戻ってみると、ポケモン図鑑を発見した。

しかし、その図鑑は今1人の少年が岩に腰を掛けて興味深そうに操作している。

傍らには2体のポケモン。ナックラーとメリープ。少年の手持ちと断定。

 

(今回の任務の情報が漏洩した可能性がある場合)

 

少女は腰のベルトからボールを、鞄からはボウガンと矢を取り出す。

ボウガンに矢をセットし、少年に標準を合わせた。

 

(情報を知った人物を抹殺する)

 

頭の中でアクシデントに対する対処方法を反芻しながら、ボウガンの引き金を引く。

放たれた凶弾は、少年の頭部を目掛けて真っすぐに飛んで行った。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《12時11分》

カントー地方・3番道路

 

ガーネットside

 

 

瞬間、バシュッと音がしたのと同時に、頭から全身に警報を発した。

やばい!何時もの何気ない不幸なんて目じゃ無いものがくる!

とにかくやばい気配を感じて、俺は急いで地面に倒れ込んだ。

ガッと、固い物に何かが突き刺さる音がした。俺がいた場所の向こう側の壁を見てみる。

そこには矢の様な物が岩の壁に浅く刺さっていた。

ゾッとする。あんな物が俺に突き刺さっていたらと言う恐怖と、こんな真昼間に人間の頭を目掛けて矢を射る事ができる人間の存在に、俺は全身が震え上がるような恐怖を感じた。

人間、そう人間だ。

俺を狙った矢は、ポケモンの体から発射された物の類ではなく、鉄でできた人工の物だった。そんな事を考えていると見た事の無い鳥の様なポケモンが、俺に向かって突撃してきた。

 

駄目だ、回避が間に合わない!

矢を避けた体制から動けない俺を庇ったのは、すぐ近くにいたナツだった。

ナツはその大きな頭で鳥ポケモンの嘴を受け止めると、口を開いて噛み付こうとした。

すると鳥ポケモンは翼を羽ばたかせ、ナツから距離をとることで回避しやがった!

 

更に向こうからは、電撃の炸裂音が聞こえる。

見てみるとメリーが何処からか現れたピチューに応戦していた。

メリーから放たれる電撃と、ピチューから放たれる電撃がぶつかり合う!

ん?あのピチュー、橙色?色違いか?って、そんな事考えてる場合じゃない!

矢が放たれた方角を見てみる。

するとそこには、ボウガンを構えて俺を見据える1人の少女がいた。

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

キャラクターデータ

 

名前:ガーネット

性別:男

年齢:11歳

所持金:5730円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ナックラー ♂ Lv,17

メリー/メリープ ♂ lv,15

 




ようやく出会いました。
主人公の少年ガーネットと、ヒロインの謎の少女。
しかし、ポケモンにあるまじき物騒なヒロインですね。
自分で書いといてなんですが。
引き続き、皆様からの意見をお待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSピチュー&ムックル

やっと、更新できた!
第3話です良ければ見てください


《1月27日・7時30分》

カントー地方・マサラタウン《オーキド研究所》

 

NOside

 

 

「何と言う事じゃ・・・」

 

今日の深夜に、2組中1組のポケモン図鑑が奪われた事を知った老人は思わず嘆息した。

彼の名は『オーキド・ユキナリ』。全国的に知れ渡ったポケモン研究の第一人者である。

 

「も、申し訳ありません博士!!私が居たにも関わらず、こんな事に!!」

 

侵入者の少女を取り逃した男は、オーキド博士に向かって土下座をしながら謝罪をする。

 

「いや、君が謝る事でもない。それよりも、今は盗まれた図鑑を探すのが先じゃ」

 

そう言って男の失態を許すと、オーキド博士は顎に手を当て考え込む。

犯人は何故、ポケモン図鑑を盗み出したのか?

盗み出した少女は一体何者なのか?

一瞬、オーキド博士の脳裏に、高笑いを上げる少女が浮かんだ。

 

「はぁ・・・。とりあえず、警察に被害届を出そう。第一発見者の君は捜査に協力するように」

 

思わず痛くなる頭を押さえながらオーキド博士はそう締め括り、残された3機の図鑑を見やる。

残された3機の図鑑を、どんな子供に譲るべきか。

 

(ジョウト地方のポケモンのデータ集めに切り出そうとした矢先にこれか)

 

図鑑が1組残されていた事を不幸中の幸いと思いつつも、もう1組奪われた事による危険性を考えると、オーキド博士は不安を隠せないでいた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《1月27日・12時13分》

カントー地方・3番道路

 

ガーネットside

 

 

その姿を見た瞬間、俺は命の危機に直面している事を忘れ、思わず見惚れていた。

日の光に照らされた雪の様に白い整った顔。

風を受けて揺れる長い髪は、宝石の様に輝く藍色だ。

丸みを帯びた細い体。年頃は俺と同じぐらいだろうか?

俺だって男。こんな状況でもなければナンパの一つでもしていたかもしれない。

 

「ナツ〝かみつく〟!メリー〝でんきショック〟!」

 

そう、こんな状況でもなければの話だが。

ボウガン娘が勝負を仕掛けてこなければの話である。

普通、こんな美少女が現れれば期待したっていいだろう!?

出会いとかフラグとかその他色々!!ホント、こんな時ばっかりツイてない!

俺の指示を受け、2体のポケモンが動いた。

ナツはあの鳥ポケモンに噛み付く為に飛び掛かり、それと同時にメリーは電撃は放った。

 

「ムックルは後方回避。ピチューは〝でんきショック〟で迎撃」

 

少女は素早い指示を受け、あの鳥ポケモン《ムックル》は最初と同じように後ろに下がり、ピチューの方はメリーの〝でんきショック〟を同じく〝でんきショック〟をぶつけて相殺しやがった!

ピチューとムックルは、それぞれ電気、飛行タイプだ。地面タイプのナツがピチューに、電気タイプのメリーがムックルと組み合うならタイプ相性はこちらに有利に働く。相手もそれが解っているだろう、ムックルをナツに、ピチューをメリーに対して集中的に攻撃させている!

 

「ピチュー、〝アイアンテール〟、ムックルは〝つばさでうつ〟」

 

ピチューは鉄の様に硬化した尻尾をメリーに叩きつけ、ムックルはナツの攻撃が届かない上空から突撃しては再び上空へ逃げるという、ヒット&ウェイの戦法を繰り返している。

正直、かなりキツイ!!ピチューもムックルもかなりの素早さだ!

それに対し、ナツは攻撃力が高い代わりにそのデカイ頭が仇となっていてかなり鈍足だ。

メリーは何とか奴らの素早さに食らい付いてはいるが、それも時間の問題かもしれん!

この状況を打開するためにも、何とか一撃浴びせなければ!!

 

「っ!?」

 

そう思って指示を出そうとした瞬間、少女が視界に入る。

俺の頭を狙ったボウガンを再び構えている。その狙いは、俺!?

 

「くそったれがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ボウガンから矢が発射されるのと同時に、俺は全力で横に跳び、岩陰に隠れた。

飛んできた矢は俺がいた場所に突き刺さった。なんて奴だ!まさか、ポケモンバトルの真っ最中に堂々とトレーナーに攻撃してくるなんて!

それと同時に俺は直感した。奴の目的はバトルなんかじゃない、俺の命だという事に!

 

「どういう事じゃ!?儂はお前の様な奴に狙われる云われなぞ無いぞ!!」

 

「・・・・・ピチュー〝たいあたり〟、ムックル〝でんこうせっか〟」

 

俺の問いかけを無視して、少女は指示を出す。

しまった!奴の矢を避けてる内に、こちらが指示を出すより早く奴が指示を出してしまった!

俺は負けじと岩陰から顔を出し、指示を出そうとした瞬間思わず目を疑った。

 

「どうした、メリー!!」

 

メリーは立ち上がったまま、体が硬直していた。これは、麻痺している!?

俺がメリーに気を取られている内に、少女は再び俺にボウガンを向けてくる。

俺は急いで岩陰に引っ込む!くそっ!一体何なんだ!?

ナツの体力もあと僅か。メリーは何故か麻痺している。実質、1対2だ!

俺はボウガンで狙われて、満足に指示が出せない状態だ!!

このままじゃジリ貧だ!!どうすればいいんだ!?

 

そんな時だった。俺が持っていた謎の機器が、ウィーンと起動音を上げた。

謎の機器。ポケモンの情報を見る事が出来る機械。

そうだ!この中に、危機的状況を突破するヒントがあるかもしれない!

そう思って、ポケモンの生態に関するページを開く。

するとそこには新たな項目が追加されていた。ピチューとムックルに関する情報だ!

 

ムックル、ノーマル/飛行タイプ。特性は命中率を下げられない〝するどいめ〟

ピチュー、電気タイプ。特性は触れた相手を麻痺させる〝せいでんき〟

 

俺はピチューがやけに接近戦ばかりしているのを思い出した。

そうか!メリーが麻痺したのは、この特性のせいか!

だがそれが解ったところで状況は変わらない。他に何か無いのか!?

俺はナックラーとメリープの項目を開いた。

するとある情報が、俺の目に飛び込んできた。

 

(イケるかも知れぬ!儂と、2体の力があれば!!)

 

俺は初めてのポケモンバトルを思い出す。

今回のそれも作戦ですらない。俺の力と2体の体力が持つかどうかが勝負の鍵だ。

 

「ナツ!メリー!状況を打開するぞ!」

 

俺は手持ちの2体に向かって叫びながら岩陰からと飛び出した。

少女の方を見ると、すでにボウガンを構えて俺を狙っている。

それでも俺は走り続ける。向かう先はメリーの元!

バシュッ、という音が聞こえると、俺はそれと同時に上体を倒すようにして加速した。

ゲンジにスパルタで鍛えられること6年。俺の身体能力は同世代の子供を大きく上回るだろう。

普通なら間に合わず俺に当たっていただろうが、矢は俺の後方を横切るように飛んで行った。

そしてメリーの所まで辿り着いた俺は、メリーの体を掴み

 

「ぬおぉりゃあああああ!!」

 

近くに居たピチューを払い除ける様にしながらメリーを抱え上げた!

 

(第一段階成功!次は・・・!)

 

俺はメリーを抱えたまま、少女の方へと走り出した!!

何発も打たれたからわかる。あのボウガンの欠点、1発ごとに矢を装填しなければならない事!

俺がさっきの矢を避けてから数秒。そんなに早く装填できないみたいだな!

 

「ムックル〝でんこうせっか〟」

 

少女は特に焦った様子もなく、ムックルに指示を出す。

ナツに背を向け、主の危機を察したムックルがその技の名の通り電光石火の速さで突撃する!

狙いは当然俺。ムックルの体は、俺が少女に掴み掛る前に俺に直撃するだろう。

だが、そんな事は俺にとっては予想通りだった。

 

「行けぇ!メリィィィィィ!!」

 

俺は、ムックルに向かって抱えていたメリーをブン投げた!

〝でんこうせっか〟で突撃してきたムックルはその勢いを止める事が出来ず、そのまま逆方向から飛んできたメリーと激突した。

 

「ムックル〝こうそくい「メリー〝ほうでん〟じゃ!!!」」

 

恐らくは俺の策に気付き、〝こうそくいどう〟で回避しようとしたところだろう。

だがその指示を、俺は更に大きな声でメリーに指示を出す事で被せる。

ムックルは何も出来ないまま、メリーから広範囲にわたって放出された電撃をまともに浴びる事となり、そのまま2体とも、地面へと落下していった。

良し、後はナツがピチューを倒すのみ!!

 

「ナツ!ピチューに〝かみくだく〟!!」

 

俺の声を聞き、ナツは懸命に走りながらピチューに突撃していった。

 

「ピチュー〝かげぶんしん〟」

 

奴は〝かげぶんしん〟でナツの攻撃を回避しようとする。

確かにピチューの持ち前の速さならナツの攻撃が届く前に逃げだす事が出来る。

 

だがピチューは動かない。いや、動けないんだ!

メリーの特性はピチューと同じ〝せいでんき〟。

メリーがピチューの体に触れる事で麻痺したように、ピチューもメリーに触れる事で麻痺のエネルギーが蓄積し、先程俺がメリーを持ち上げるのと同時にメリーの体をピチューにぶつける事で、相手のピチューは遂に麻痺してしまった!殆ど運任せだけど!

そうしている間にも、ナツはピチューの元まで辿り着き、その大きな顎でピチューを咥え込み、そのまま噛み潰した。ピチューは抵抗する様に暴れたが、最後にはナツの顎の中で力尽きた。

 

「さぁ・・・・これでお前の手持ちは居なくなった様じゃのう」

 

「・・・・・・」

 

少女はボールを取り出す気配もなく、俺を見据えている。

ボウガンは下げたまま、上げようとしない。

それに対してこちらは、メリーはムックルと相討ち。

ナツは残り体力は少ないが、まだ戦える状態を保っている。

 

「・・・手持ちポケモン全て戦闘不能。現状、対象をボウガンを用いた射殺は困難」

 

見た目の印象を裏切らない、鈴を転がすような声だった。

言ってる事は片言の上に、殺伐としているけど。本当に殺す気だったのか、こいつ。

 

「任務達成を不可能と判断。情報漏洩を防止するため」

 

そう言って少女は持っていたボウガンを持ち上げる。

任務?情報の漏洩?何の事だ?

それと同時に、猛烈に嫌な予感が駆け巡る。こいつ、まさかまだ何かする気なのか!?

とりあえず、先手必勝!何かする前に抑え込む!

そうして俺が少女の方へ駆け寄ると

 

「機能を破壊します」

 

そう呟いて、ボウガンを自分の頭に押し付けた。

って、こいつ、まさか!?

脅しかと思ったが、引き金にはもう指を掛けてやがる!こいつ、本気だ!

 

「こんの、バカタレがぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は自分の足の腱を引き千切る勢いで飛び掛かる!狙うはボウガンだ!

一瞬、世界がスローモーションになったような気がした。

そのまま少女に飛び掛かった俺は、まずはボウガンを掴む!

俺の飛び掛かった勢い+俺の腕力でボウガンの標準は大きくずれる。

その瞬間、バシュッと音がするのと同時に、矢はあらぬ方向へと飛ばされた。

あ、危なかったぁ!まさに間一髪!!

そう安堵の息をつくのも束の間。俺は少女を押し倒すようにして倒れ込んだ。

 

《ゴッ!》

 

倒れた衝撃で閉じていた目を開くと、そこには少女の整った顔がアップで映っていた。

こうして近くで見てみると、やっぱり可愛いよな・・・。睫毛とかめっちゃ長いし。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?

いかんいかん!そんな場合じゃねぇ!

俺は少女に色々と問い詰めるべく、肩を掴んで体を持ち上げた。

 

「おい!お主は一体」

 

その瞬間、少女の首がカクンと、後ろに傾いた。

気絶している?そう言えば、さっき何か鈍い音が聞こえたような・・・。

少女の後ろ、正確にはさっきまで少女の頭があった場所に目をやる。

そこには、拳大程の大きさの石が落ちていた。

 

「救急車ーーーーー!!!」

 

そんな俺の叫び声が、昼の青空に木霊した。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《17時10分》

カントー地方・お月見山前のポケモンセンター

 

 

 

あの後、お月見山の前にポケモンセンターがある事を思い出した俺は、少女を背負ってポケモンセンターまで走って来た。背負った体は想像以上に軽かったが、人間1人背負って走るのってかなり疲れる・・・!

今さっき、俺と少女の手持ちポケモンの治療と少女の診察が終わったところだ。

少女は特に怪我もしておらず、後遺症の心配も無いそうで、すぐに目を覚ますらしい。

よ・・・良かった・・・!死んで無かった・・・!

今までの人生で一番生きた心地がしなかった一時だった。

 

「まさか、旅に出てすぐにこんな事になるとはのぅ」

 

少女の寝顔を眺めながら、1人そう愚痴る。

それにしても、本当に可愛いな。肌とかすげー白いし。髪の毛も綺麗だし。

 

「って、そんな事考えてる場合でも無いか・・・」

 

この少女は、何者なんだ?目的は?

この機械の正体は?

なぜ俺を狙ってきたのか・・・。

 

「だー!訳が解らん!!」

 

止めだ止め!考えても埒が明かん!この少女に直接聞けばいいだろう!

 

「・・・っ!」

 

「む。目が覚めたか」

 

そうしていると、少女は目を覚ました。

目を開いて、首を動かしてベットの横に腰かけている俺を捉える。

 

「・・・状況の報告を要求します。あなたは誰ですか?」

 

はじめて、彼女から台詞らしい台詞が聞けた。

なんか、器械みたいな印象を受けてたからな。質問されると一気に人間味が増して見える。

相変わらずの無表情だけど。

 

「儂の名はガーネット。で、ここはポケモンセンター。あの戦いの後、ここに来た」

 

「・・・ポケモンセンター。先程の戦闘・・・」

 

そう反芻してしばらく黙りこむ。

・・・・・沈黙が痛い・・・!とりあえず、いろいろと聞いてみるか。

 

「お主、名前は?」

 

「・・・識別名、『アクアマリン』」

 

識別名?何の事かわからないが、それが名前だという事が解った。

 

「何で、儂を狙ってきた?」

 

「・・・任務情報の漏洩を防ぐため」

 

そう言えば、あの時も言っていたな。任務とか情報漏洩とか。

 

「任務って何じゃ?」

 

とりあえず、駄目元で聞いてみた。まぁ、教えてくれるわけ無いか。情報漏れを防ぐ為に自ら命を断とうとしたくらいなんだからな。

 

「・・・ポケモン図鑑の入手」

 

「え!?教えてくれるの!!?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「あ、いや、何か、すまぬ」

 

睨まれてしまった。なんか、急に反応が良くなった。色んな意味で。

しかし、ポケモン図鑑か・・・。あの機械の事か?

俺は例の機械を鞄から取り出す。

 

「ポケモン図鑑とは、これの事かのう」

 

「・・・肯定」

 

「では、これは一体何なんじゃ?」

 

「・・・不明」

 

不明?どんな物かも解らずに手に入れたという事か?

その為に人も殺すほどの事なのか?なんか、話がでか過ぎて解らなくなってきた。

 

「任務と言っておったの。誰に頼まれたんじゃ?」

 

「・・・不明」

 

「それも解らんのか!?」

 

少女――――アクアマリンは首を縦に振って頷いた。

参ったな。解るんだったら仕向けた奴をぶっ飛ばすつもりだったのに。

だからって女に手を上げる訳にもいかねぇし。結局解らない事だらけか。

その時、閉ざされていた扉の方からノックが聞こえた

 

「入れ」

 

「失礼します。患者の女の子は、お目覚めになりましたか?」

 

ジョーイが部屋に入って来た。

 

「あぁ、今起きた所じゃ」

 

「えぇと、先生から、今日は大事を取ってセンターで泊ってほしいとのことです」

 

アクアマリンが頷くと、ジョーイはさっさと出て行った。

 

「良いのか?任務と言う事は、それなりに急ぎの用事では無いのか?」

 

良く解らんけど。ゲンジは何時も任務は迅速かつ確実に行うとか何とか言ってたし。

 

「・・・任務内容は、覚えていません」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

「・・・え、ちょ、まさか、記憶、喪失?」

 

「・・・恐らく」

 

やっぱりーーー!!絶対あの時(後頭部強打)だ!!やっちまったーーー!!

いや、でもある程度の事は覚えてるし、家の事とかも覚えてたりするだろ!そうであってくれ!

 

「帰る家とかは覚えておるのか?」

 

「・・・覚えていません」

 

一瞬、アクアマリンの瞳が揺らいだ。・・・罪悪感で、押し潰されそうだ。

いや、そもそもこいつが襲いかかって来なければ済んでいた話だけれども。

でも、こいつにだって事情があるだろうし、帰りを待つ家族がいるだろう。

その時、母の顔が目に浮かんだ。俺はそれを振り払うように頭を大きく振る。

 

「・・・現状、任務達成は・・・不可能・・・です」

 

「?おい、どうした?おい!」

 

急に言葉が途切れ途切れになり始めた。

するとすぐに、寝息を立て始めた。なんだ、寝てるだけか。

 

「これからどうするべきか・・・」

 

正直な話。これ以上こいつに関わると、とんでもない面倒事に巻き込まれるのは確実。

はっきり言って、こいつと俺は赤の他人。明日の朝、さっさと出発してもいい。

それか、記憶喪失の事を医者に正直に話して、面倒を見て貰ってもいい。でも

 

(本当にそれでいいのか・・・?)

 

さっきの揺らいだ瞳が頭に張り付いて離れない。

無表情に淡々と小難しい台詞を並べて、自分の気持ちなんかちっとも語ろうとしない。

こいつの本心は、どうしたいんだ?そんな事で、自分の『道』を探して歩いて行けるのか?

俺は、そんな事を考えながら病室を出て、仮眠室へ向かった。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《1月28日・0時13分》

カントー地方・ハナダシティ

 

NOside

 

 

(予定よりも1時間をオーバー。任務失敗と判断するべきか)

 

その男は夜空の下で一人の少女を待ち続けていた。

いや、少女と言うよりも、その少女が盗み出したであろう物を待っていた。

 

(オーキド博士本人に止められたか、はたまた図鑑所有者の誰かか)

 

自身の癖のある茶髪を手で掻き上げて、男は思考を巡らせる。

やがて男はモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

現れたのは巨大な鳥型ポケモンだ。男はポケモンの背に飛び乗る。

 

(任務は失敗したようだが、我々の情報が漏れる事はあるまい。自動消去機能があればな)

 

ポケモンはその大きな翼を羽ばたかせ、上空へと飛び上がる。

 

(再集結したというロケット団との商談もある。ポケモン図鑑はまたの機会に奪えばいい)

 

男はそのままハナダシティを飛び去って行った。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月28日・8時46分》

カントー地方・お月見山前のポケモンセンター

 

ガーネットside

 

 

朝起きたら、髪の毛が大爆発していた。まぁ何時もの事だ。

俺の髪の毛は癖の強い茶髪で、朝起きたらまず洗面台で髪を梳くのが習慣だ。

何時もと違うと言えば、ここが6年間住み慣れた民家ではなくポケモンセンターだということだ。

身だしなみを整えてフロアに来てみると、そこにはすでにアクアマリンがいた。

 

「おはよう。昨日はよく寝むれたか?」

 

「・・・肯定」

 

そう呟くと、沈黙が下りる。空気が重い!早く話を切り出そう!

 

「アクアマリン。お主は、これからどうする気じゃ?」

 

沈黙を破る様に、俺は昨日一晩中考えていた事を話し始める。

アクアマリンは、僅かに顔を俯ける。

 

「・・・未定」

 

未定。つまり決まっていないということか。

まぁ、そうだろうな。帰る家も解らないんじゃ、どうすりゃいいか解る訳もないか。

そして俺は、考えの結論を話しだす。

 

「だったら、儂と来るか?」

 

アクアマリンは顔を上げて、相変わらずの無表情で俺を見る。

 

「いやな、儂は写真家を目指しておっての。この旅では全国を回る予定なんじゃよ。そしたら何時かお前を知っている奴や、お前の家まで辿り着く事が出来るかもしれん。どうじゃ?」

 

今回の記憶喪失は、多少なりとも俺にも責任があるしな。(多分)そんな事は恥ずかしくて言えないけど。もちろんアクアマリンの家まで行ける保証なぞないが、何もしないよりかはマシだ。

 

「・・・そちらにメリットがありません」

 

「メリットならあるぞ。これから危険な場所にも行くつもりじゃからのう。人手が多いに越した事はあるまい。これは提案じゃ」

 

何か気恥かしくて思わず、ぶっきら棒な台詞を言ってしまった。

 

「・・・・・・・」

 

「命令や指示では無いぞ。『お前がどうしたいか』じゃ。」

 

そう言って俺はアクアマリンに手を差し出した。

暫くの間、俺の顔をじっと見つめると、やがてゆっくりと手を上げ、俺の手を握った。

 

「・・・私も付いて行っても宜しいですか?」

 

「初めからそう言っておる」

 

俺はそっぽを向いて、握られたその手を握り返した。

強く握りすぎると折れてしまいそうな位細かったから、力が入らなかったけど。

しかし、承諾してくれてよかった・・・。

これでもかなり勇気出して誘ったからな。女を、それもとびきりの美少女を旅に誘うとか。アクアマリンは気付いてないかも知れないけど、俺は今、めっちゃ顔が赤い。こんなところ見られなくて良かった。

 

「・・・頭部に異常な量の血液が集中しています。風邪ですか?」

 

見られてたよチクショウ。

 

「そ、そうと決まれば!早く行くぞ『アリア』!!」

 

俺は恥ずかしさを振り切るように大きな声を出して大股で歩き始める。

 

「・・・アリア?」

 

「ん?あぁ、愛称って奴じゃ。『アクアマリン』じゃと長いからの」

 

実際呼びにくいからな。『アクアマリン』から『ア』を2つと、『リ』を取って繋げてみた。

 

「嫌ならやめるが?」

 

俺がそう言うと、首を横に振る。どうやら嫌では無いらしい。良かった。

相変わらずの無表情に対して俺は笑みを浮かべながら言う。

 

「これからよろしく頼むぞ。アリア」

 

「・・・よろしくお願いします。ガーネット」

 

そんなこんなで、俺の1人旅は2人旅になった。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

キャラクターデータ

 

名前:ガーネット           名前:アクアマリン

性別:男               性別:女

年齢:11歳             年齢:10歳

所持金:6000円          所持金:2300円

 

手持ちポケモン            手持ちポケモン

             

ナツ/ナックラー ♂ Lv,21     ピチュー ♀ Lv,20

メリー/メリープ ♂ lv,19     ムックル ♂ Lv、20

 

 

 




少女の名前がようやく明らかになりました
次回も頑張って書きます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSイーブイ

タグの半角カンマ、区切りってどうやって付けるんでしょうか・・・?
1週間ぶりの投稿です。


《1月28日・14時20分》

カントー地方・ハナダの岬《岬の小屋》

 

NOside

 

「図鑑を盗まれたぁっ!!?」

 

青年は思わずテレビ電話の向こうに居るオーキド博士に声を荒げた。

彼の名は『マサキ』。カントー・ジョウト地方に普及されている、ポケモン転送システムの管理人である。

 

『すでに警察には通報した。このまま犯人が捕まってくれればよいが・・・』

「レッドとか、グリーンには伝えたんでっか?」

 

マサキは3年前に知り合った図鑑所有者の2人の名前を上げる。

しかし、オーキド博士から帰って来た返答は余り良い物ではなかった。

 

『グリーンは今ジョウト地方に行っていて連絡がつかない状態なんじゃ』

「ほんなら、レッドはどうでっか?」

『レッドなら連絡も取れるし、捜査に協力してくれるじゃろうが、もうすぐジムリーダー認定試験を受ける事になっておっての。余計な心配は掛けたくはない』

 

つまり普段連絡の取れる図鑑所有者は全員協力できない状態にあるということだ。

全員で4人居る図鑑所有者の内、後2人の少女は1人は行方知れず。もう1人はポケギア自体持っていない。

 

「しかし、犯人の目的は何でっしゃろ?図鑑を何に使うつもりなんや?」

『それはまだ何も解らない。ジョウト地方の転送システム不調で忙しい時にすまないが、君のほうで何か分かれば儂に連絡してくれんか?』

「わかりました。こっちでも手が空いたら調べてみますわ」

 

そう言って通話状態をOFFにする。

 

(えらい事になったで)

 

頭の中でそう呟いて、今まで行っていた作業を再開する。図鑑の行方も気にはなるが、今はジョウト全域の転送システム不調の対策を取らなければならない。

ジョウト地方でも新たに図鑑所有者を選定するらしいので、尚更だ。

一層気合を入れて作業を進めていくと、何かにズボンを引っ張られた。

 

「どないしたんや?」

 

マサキのズボンを引っ張ったのは、番犬用に育てたポケモン《ロコン》だ。

言葉を発する事が出来ないポケモンは、マサキのズボンを引っ張りながら何かを訴えかける。

 

「そっちに何かあるんか?」

 

作業部屋の向かいにある玄関に目を向けて、ロコンの意図をそう解釈する。

するとロコンは、ようやくマサキのズボンから口を話した。どうやらそうらしい。

マサキは一時作業を中断し、玄関の方へ向かうと玄関の扉は全開になっていた。

外に目を向けると、そこにはマサキの手持ちポケモン《カモネギ》が横たわっていた。

 

「何や!?何があったんや!?」

 

マサキはカモネギの所まで駆け寄って、横たわったカモネギを抱きかかえる。

カモネギは気絶しているだけで、目立った外傷はなかった。

そのことに安堵して周りに目を向ける。カモネギを襲った何者かがいるかも知れないからだ。

その時、マサキの脳裏に一体のポケモンが浮かんだ。茶色い体毛に兎の様な耳が特徴の可愛らしい姿をした非常に珍しいポケモンだ。

そう、マサキも同じポケモンを捕まえていた。マサキになかなか懐かないポケモン。

マサキは家の中に戻り、中の様子を確かめる。居ない。家のどこを探してもいない。

 

「ど、どこ行ったんや~!」

 

どうやら件のポケモンは、家を飛び出し、それを阻止しようとしたカモネギを吹っ飛ばして行ったらしい。小さい体ながらもパワフルなポケモンだった。

マサキは家から飛び出し、辺りを見渡す。すると、24番道路の方角に小さな茶色いポケモンが走って行くのが見えた。運よくそう遠くまで行って無かったらしい。

 

「ま、待ってぇなー!!」

 

走り去っていくポケモンを見失わない様に、マサキは懸命に走りだした。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《1月28日・12時47分》

カントー地方・ハナダシティ

 

ガーネットside

 

 

「ようやく着いたぞーーー!!」

「・・・時刻1337、目的地に到着」

 

俺とアリアは全身泥だらけになりながらお月見山を越え、ハナダシティに到着した。

 

「・・・お月見山通過の際に消耗したアイテム補充を推奨します」

「儂等とポケモンの体力回復もな」

 

アリアは淡々と、俺は僅かに息を切らせながらそう提案した。

 

「・・・今回の事で一つ学びました」

「何じゃ?」

「・・・洞窟内で〝フラッシュ〟を使用する場合は、一体のみで使用する」

 

全力で同意する。

俺とアリアがお月見山に入ったのが9時くらいだ。本来、お月見山からハナダシティに到着するのに4時間近くも掛らない。

なぜ、そんなに時間が掛ったのか。野生のポケモンとのバトルだ。

まぁ、野生のポケモンと闘いながら進んでも俺とアリアの二人がかりなら、普通に進んで2時間くらいで到着する。お月見山とハナダシティは1キロも離れていないしな。

 

俺達は洞窟内が暗くて歩きにくかったから、俺はメリーを、アリアはピチューを出して2体同時に〝フラッシュ〟を使ったんだ。20メートルくらい先は見えない洞窟内も一気に明るくなって、かなり進みやすくなった。ここまでは良かった。

だが、暗い所に居続けた野生のポケモン達は突然放たれた強烈な光に驚いて、群れをなして一斉に襲いかかって来た。そりゃあもう、辺り一面にイシツブテやらズバットやらが大量に。

 

「イワークが出てきたときは、さすがに死ぬかとわい」

「・・・逃げ切れて助かりました」

 

これからは、〝フラッシュ〟を使う時は一体だけにしよう。そうしよう。

 

「まぁ、先程のバトルで儂等のポケモンが進化したのは、不幸中の幸いじゃな」

「・・・同意」

 

まぁ、それなりに実戦を積んできたから何時進化してもおかしくはなかったけど。

なにはともあれ、メリーは《モココ》に、ムックルは《ムクバード》に進化した。手持ちのポケモンが成長するのは嬉しいし、アリアは相変わらずの無表情だけど心なしか足取りが軽くなったように見える。初対面の印象からどんどん遠ざかっていくな。いい意味でだけど。

そう思いながら、アリアを横目で見てみると、自分の汚れも特に気にした様子もなく片手に持ったモンスターボールを凝視している。

 

「そいつもお主の手持ちに加えるのか?」

「・・・肯定」

 

アリアが持っているボール、中には洞窟での戦闘の時に捕獲したポケモンが入っている。

砂色の甲殻に身を包んだポケモン《サンド》だ。

 

「まぁ、まずはポケモンセンターに行くぞ。流石に疲れたわい」

「・・・肯定」

 

俺達は町のポケモンセンターに足を進めた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《13時24分》

カントー地方・ハナダシティ《ポケモンセンター》

 

 

ガーネットside

 

 

「あ~、さっぱりした」

 

センターでシャワーを借りた後、濡れた髪をドライヤーで乾かすと、また髪の毛が膨らんだ。

はぁ、どうにか何ねぇかな、この髪。いっそ短く切っちまうか?

ヘアブラシで髪を整えてフロアに戻ると、そこにはすでにアリアが来客用のソファに座っていた。あれ?意外だ。あの腰まで伸びた長い髪だから、乾かすのも時間がかかると思ったのに。

アリアも俺に気付いて顔を向けるのと同時に辺りに滴が飛び散った。って、あれ?滴?

 

「・・・ガーネット、ポケモンの回復も済んだようです」

 

髪先からポタポタと水を滴り落としながら、アリアは俺の目の前まで歩み寄って来た。

 

「・・・・・・アリア、何じゃその髪は?何でそんなに濡れておる?」

「・・・何か、問題がありますか?」

 

可愛らしく首を傾げながら聞き返された。

 

「髪は乾かさなかったのか?風邪引くぞい」

「・・・この量の髪を乾かすには長時間必要」

 

うん?何か話が噛み合わないぞ?

 

「ドライヤーがあるじゃろ?」

「・・・どらいやー?」

 

また可愛らしく首を傾げるアリア。こいつまさか

 

「・・・・・・・ドライヤーがどんな物か分かるか?」

「・・・否定」

 

マジか。これも記憶喪失の影響か?

仕方がない。ドライヤーとヘアブラシ、後それからトリートメントも借りてくるか。

 

「そこで待っておれ」

 

アリアが頷くのを確認し、ヘアセット一式を借りて戻ってくる。

この様子じゃ使い方も解らないだろうし、今回は俺が乾かそう。別にこいつの髪がサラサラそうだから触ってみたいとかじゃ決して無い。

アリアをソファに座らせて、俺はその後ろに立ってドライヤーで長い髪を乾かす。

 

「お主、今日の朝はどうやって整えたのじゃ?」

「・・・ジョーイにしてもらいました」

 

なんとなくその時の状況が想像できた。

恐らく、寝起きで髪の毛がボサボサの状態で出て来たもんだから、同じ女として見過ごせなかった奴がいたんだろう。こいつの髪が長くて綺麗な分、余計に。

そんな事を考えながら次は乾いた髪を梳かしていく。・・・・・・なんだこのサラサラ具合。枝毛一つ見つからないんだけど?・・・・う、羨ましくなんて無いんだからねっ!

 

「まぁ良い。準備が終わったら24番道路の方へ向かうぞ」

「・・・24番道路?」

 

長い髪を二つに結びながらアリアに話しかける。

そう、本来の旅の目的

 

「うむ、撮影じゃ」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《14時30分》

カントー地方・24番道路

 

ガーネットside

 

 

 

「目指すは《ハナダの岬》じゃ」

「・・・ハナダの岬、ですか?」

 

俺が次の目的地を言うと、アリアは例の如く首を傾げた。

 

「ハナダの岬とはカントー地方最北端の岬での。世界中の写真家が訪れる有名な場所じゃ。儂も写真では見た事はあるが、実際に見た事が無くての。」

 

是非ともカメラに収めたい。個人の思い出様に集合写真でも取るのもいいかも知れない。

 

「まぁ百聞は一見に如かず、とも言うしの。見てからのお楽しみと言う奴じゃ」

「・・・楽しみにしておきます」

 

暫く進んでいくと、分かれ道がある場所まで来た。

えぇと、こっからどうやって行くんだっけ?鞄の中に地図があったな。確認するか。

 

『――――ってぇなー!!』

 

何か声が聞こえる。まぁこの道路も無人って訳でもないし、人の1人や2人居るだろ。

 

「・・・ガーネット」

「何じゃ?」

 

しゃがんで鞄の中を漁りながら、アリアの呼びかけに返事をする。

くっ!鞄の奥に入り込んでて、取り難いな!

 

『って!危ない!避けろー!』

 

何だ、さっきから騒がしいな。

鞄から目を離し、顔を上げる。すると、小さい茶色い何かが俺の顔目掛けて突っ込んできた。

 

「ブフォッ!!」

「・・・前方からすごい勢いでポケモンが突撃してきました」

 

俺は為す術もなく直撃を受けた。先に言って欲しかったです、アリアさん。

ぶつかった勢いで手に掴んでいた地図が鞄に引っかかって無残に破けた。って、嘘ぉ!?これじゃ道が解らないじゃん!!

 

「ちょいとアンタ等!そこにおるポケモン捕まえてや!」

 

そんな声が聞こえた。このポケモンのトレーナーだろうか?

 

「サンド〝すなかけ〟」

 

ダメージから回復して起き上がると、アリアが繰り出したサンドが茶色いポケモンに思いっきり砂を掛けた。

改めてあのポケモンを良く見てみる。兎みたいな耳に茶色の体毛、胸元は白くてフワフワしてそうな毛が生えていた。可愛らしい姿だ。

 

「ナツ〝あなをほる〟!!」

 

俺もボールからナツを繰り出す。まぁ、だからって容赦する気は無いんだけど。絶対潰す!

地図の仇!俺の怒りは頂点に達している!

 

「サンド〝あなをほる〟」

 

ナツに続く様にサンドも地中に潜った。

姿を消した相手に、奴は途惑ったかのように首を左右に振る。

このまま地中からの奇襲で吹っ飛ばしてやる!!

 

「ちょい待ち!あんさんどないする気や!?」

「地中からの奇襲で吹っ飛ばしてくれるわ!!」

 

あのポケモンのトレーナーらしき男が俺の肩を掴んで揺すって来た。

 

「アカンて!!何とか無傷で捕まえられへんの!?」

「無茶を言うな!」

「・・・ポケモンの捕獲はダメージを与える事が前提」

 

俺とアリアで反論するが、男は手を組んで頭を下げた。

 

「頼む!この通りや!!」

 

ちっ!仕方ねぇな。ここまで頼まれて断ったら俺が悪いみたいじゃないか。

 

「アリア!ナツの顎で奴を捕える。何とか出来そうか?」

「・・・了解」

「よし!ナツ、出て来い!!」

 

俺の指示を受け、ナツが地面から姿を現した。

ナツの姿を捉えた奴は勢い良く突撃してくる。

 

「サンド」

 

アリアの呼びかけに応じ、地中に潜っていたサンドが奴のすぐ目の前に姿を現した。

顔と手だけを覗かせた状態で出てきたサンドに、奴は突撃の勢いが殺せないままぶつかって前のめりに吹っ飛んでいく。

 

「ナツ!今じゃ!」

 

そう、ナツが居る方角に。

以心伝心。俺の指示を受けたナツは、顎を大きく開けて飛んできた奴を咥え込む。

 

「間違って噛み潰すなよ。無傷でらしいからの」

 

奴がナツの顎の中で暴れているが、まぁ出られないだろ。・・・あれ?暴れているのか?

 

「いやー、おおきに!おかげで助かったわ!」

 

男はナツの顎の中で暴れていたポケモンをボールに戻した。

 

「で?何じゃこいつは?何でこいつは儂等に襲いかかって来たんじゃ?」

「こいつはわいが最近育て始めた《イーブイ》っちゅー珍しいポケモンやねんけど、なかなか心を開いてくれへんのや・・・。そんでついさっき、家を飛び出してってもうての」

「・・・つまり、ポケモンに家出されたという事ですか?」

「うぐっ!」

 

アリアは空気を読まずに言い放った。俺も同意見だけど。

 

「しかし、ポケモンが家出とは・・・。懐いててたら普通はありえないっていうか、聞いたことすらないのぅ。普段どんな育て方しておる?」

「それが解ったら誰も苦労せぇへんがな」

 

確かに。本人は普通に接しているはずなのに相手が心を開かないって奴か。

 

「こいつ、もしかしてじゃれて来ただけじゃ無いかの」

「え?」

「いや、ナツの顎に挟まれた時もそうじゃったが今回の戦闘中、何か楽しそうにしてるように見えての。うまくは言えぬが、こいつからは敵意を感じなかった」

 

今回のバトルで、俺が感じた事はそれだった。ふむ、試してみるか。

 

「おい、さっきのイーブイをボールから出せ」

「えぇ!?せっかく捕まえたのに!?」

「安心せい!逃げてもまた捕まえるわい!」

 

男は渋々ボールの開閉スイッチを押す。

中から出てきたイーブイは辺りを見渡すと、こちらを見る。するとイーブイは俺の方に走って来てそのまま俺の腹目掛けて突っ込んだ。

 

「オフゥっ!」

 

こ、こいつ・・・!また俺に向かって突っ込んで来やがった。普通自分のトレーナーの方に来るんじゃねぇのか?俺は突っ込んできたイーブイの腰を掴んで立ち上がる。

 

「えぇい!暴れるでない!!」

 

俺の胸元でじゃれついてくるイーブイ。不覚にも可愛いと思ってしまった。

男は何が起こったか解らないと言った顔で俺を見てくる。

 

「まぁ見ての通り。このイーブイ、ただ単に外で遊びたかっただけじゃ無いかの」

「なんや、そんなことまで解るんかいな」

「なんだかんだで、ポケモンって頭が良いからの。そう思うのも不思議じゃあるまい」

 

実際のところは解らんけど。この様子だと害意があった訳じゃなさそうだ。

 

「あんさん、不思議な人やなぁ・・・。あっと、自己紹介がまだやったな。わいはマサキ。ポケモン転送システムの管理人や」

「儂はガーネット。それでこっちが」

「・・・アクアマリン」

「愛称はアリアじゃ」

 

ポケモン転送システムの管理人マサキ。そう言えばテレビで見た事があるな。

アリアは誰だか解ってないみたいだけど。

自己紹介が済んで、マサキがイーブイをボールに戻した。

 

「何やお礼がしたいねんけど、思い付かへんな」

「あ。それじゃあ地図をくれ。さっきのバトルで破れての」

 

無残に破けた地図を見せると、マサキは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《15時2分》

カントー地方・ハナダの岬《岬の小屋》

 

ガーネットside

 

 

「まさか、お主の家が此処にあるとはのぅ」

「何や、ここに用事があったんか?」

「・・・本来の目的地」

 

窓から見える景色も最高だし、将来こういう所に家を建ててみたいもんだ。

 

「そういや、あんさん等は何で旅をしとるんや?」

「儂は将来写真家になりたくての。こうして全国を旅して回るつもりじゃ。昨日ニビシティを出たばかりじゃがの」

「アリアもそうなんか?」

「・・・否定」

 

あっ!そうだ。マサキはカントー・ジョウト地方のシステム管理してるんだよな。だったらそれなりに顔も広いかもしれない。アリアの事で何か知っているか聞いてみよう。

 

「実はの」

 

俺はアリアについて話し始めた。

記憶喪失で自分の帰る場所が解らないこと。

それを探すために俺の旅に同行した事。

もちろん例の任務とやらの事や、俺の命を狙ってきた事は伏せて。

 

「そうやったんか・・・」

「マサキ、こいつの事で何か知っておるか?」

 

マサキは首を横に振った。

 

「・・・そうですか」

「すまんの。役に立てへんかって」

「・・・いいえ」

 

アリアは感情を読ませない無表情のままだった。まぁこんなすぐに見つかる訳無いか。

 

「おっ!あったで!地図や!!」

 

マサキは棚から地図を取り出し、持ってきた。

カントーだけじゃなく、ジョウト地方の地図まで一緒についた奴だ。

 

「それとな、この地図と一緒にこのイーブイをガーネットに譲るわ」

 

そう言って差し出してきたのは、地図とさっきのイーブイが入ったモンスターボールだ。

 

「良いのか?珍しいポケモンなんじゃろ?」

「ええって。わいの家にまだ一体おるしの。それに、このイーブイが退屈で家を飛び出してってもうたんやったら、あんさんに付いて行った方がこいつの為になるやろ」

「む」

 

俺はボールを受け取り、開閉スイッチを押す。

 

「どうする?儂に付いて来るか?」

 

俺がそう言うと、イーブイは嬉しそうに頷いた。

そう言うなら、付いて来てもいいだろ。俺も手持ちが増えるのは嬉しいし。

 

「・・・名前はどうしますか?」

 

アリアがそう言ってきた。

そうだな・・・。イーブイだから・・・・・

 

「よし!お前は今日から《イヴ》じゃ」

 

イーブイ改め、イヴは頷いた。どうやら満足した様子。

 

「よし!それじゃあ、写真でも撮るかの。ほれ、お主らも来い。集合写真じゃ」

 

俺はアリアとマサキに呼び掛ける。

 

「・・・了解」

「お!わいも写ってええんか!?」

「手持ちのポケモンも全部出して来い!」

 

そう言って俺達は岬の小屋に居た全てのポケモンを出した。

 

「おぉ!ガーネットのナックラーもそうやけど、アリアのピチューも色違いかいな!これってかなり珍しいで?何処で捕獲したや!?」

「・・・覚えていません」

「あー後にせい後に。そこのナッシー、こう少し屈め。それから小さい奴から前に行け。よし、良いぞ、そのままにしておれ」

 

俺はカメラのタイマーをセットし、あの輪の中に入っていく。

シャッターが切れるまで10秒。

 

「はいチーズ!」

 

それぞれが思い思いのポーズをとって数秒経つと、カシャッと言う事が聞こえた。

これが、俺の写真家としての初めての集合写真だった。

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

 

名前:ガーネット         名前:アクアマリン

性別:男             性別:女

年齢:11歳           年齢:10歳

所持金:5480円        所持金:2140円

 

手持ちポケモン          手持ちポケモン

 

ナツ/ナックラー ♂ Lv,25   ピチュー  ♀ Lv,24

メリー/モココ  ♂ Lv,23   ムクバード ♂ Lv,23 

イヴ/イーブイ  ♀ lv、20   サンド   ♀ Lv,21

 

 




次回も頑張って投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSゴルバット

現在ネタ探しに奮闘する俺俺です
では第5話始まります。


《2月4日・11時43分》

カントー地方・???

 

ガーネットside

 

 

「そう言えば、もうすぐカントーとジョウトの間にリニアが走るらしいね」

 

裸電球が取り付けられ、鉄の扉で固く閉ざされたゴミが散乱する狭い部屋の中で、同じ位の年頃の男は呑気な口調で喋り始めた。羨ましい位サラサラした金髪の優男だ。

 

「そうなったら旅での移動がすごく楽になるけど、リニア代、一体幾ら掛るんだろうね」

「・・・・・・おい」

 

この現状を打破すべく俺は男に声を掛けるが、男はそれを無視するように言葉を被せて来た。

 

「おっと、自己紹介がまだだったね。僕の名前は《ターコイズ》。君達は?」

「ガーネットじゃ」

「・・・アクアマリン。通称アリアです」

 

俺とアリア、男―――ターコイズは一通りの自己紹介を終え、会話を区切る。

 

「おい、ターコイズ」

「それにしても、アリアの髪は本当に綺麗だね。見ていて心が癒されるよ」

「・・・ありがとうございます」

 

俺の声を無視して今度はアリアを口説き始めるターコイズ。こいつ、殴られたいのか?

・・・・・イヤイヤイヤ、落ちつけCOOLになれ俺。こいつを殴っても仕方ない。ターコイズには気の毒だが、そろそろ現実を見て貰わねば。

 

「ターコイズ、現実から目を背けるな」

「嫌だ」

「いい加減諦めて現実を見ろ」

「嫌だ、断る。僕はもう自分の都合の良い物しか見ない」

「今お主の目の前に広がっている光景こそが現実じゃ」

「だったら視界を閉じる!必要なら、耳を閉じて呼吸だって止める!!」

 

軽薄な見かけによらず強情な奴め・・・・!一体どうしてくれようか?

目の前のバカをどうしようかと考えていると、アリアが腕時計を見ながら口を開いた。

 

「・・・この部屋に監禁されてから約2時間経過。状況の打開策の模索を推奨します」

 

アリアは相変わらずの無表情でそう言い放つと、ターコイズは凍りついた。

なにやら顔を俯かせ、肩をプルプルと震わしている・・・。

 

「・・・・どうして、どうしてこうなったんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

《2月4日・9時34分》

カントー地方・クチバシティ

 

 

マサキと別れてから数日後、俺とアリアはクチバシティに到着した。

流石はカントー地方屈指の港街。入った瞬間潮の香りが漂ってくる。

 

「・・・ガーネット、あれは何ですか?」

 

入口からでも見える程の巨大船に指をさして、アリアは俺に聞いてきた。

 

「あぁ、あれは船と言うやつじゃ」

「・・・船?」

 

アリアと旅をしてから数日経って解った事がある。

どうもアリアは一般常識と言うやつが欠けている。ドライヤーの事を知らなかったのを初めに、この間なんか自転車やポケモンコンテストの事も知らなかった。

その代わり、ポケモンバトルに関する事だけは覚えていた。ポケモンの技・タイプは知っていて、種族名も言い当てる。ポケモンの回復の為のポケモンセンターやショップに傷薬が置いてある事も知っていた。バトルに関しては少なくとも素人じゃなさそうだ。

 

「船と言うのはの、ポケモンじゃ運び切れない位大勢の人間やら荷物やらを海を通って遠い場所まで運ぶための物じゃ。まぁ、ここまでデカいのは珍しいがの」

「・・・そうですか」

 

話しながら歩いて行くと、俺達は港まで歩いていたしていた。。

 

「・・・高速移動船《アクア号》?」

 

港の立て看板を見て、アリアは首を傾げた。

 

「この船の名前じゃ。カントー地方とジョウト地方を行き来するって聞いた事があるの」

「・・・これに乗るんですか?」

「いや、こいつはチケットが無ければ乗れない。買おうにも値が張るからの」

 

このクチバ港には決まった曜日しか来ないらしい。折角だし撮影でもするか。

 

『・・・・・!!!』

『・・・・・・・!!』

 

カメラを取り出そうとしたら、港の貨物置場の方から騒がしい声が聞こえてきた。

喧嘩か?まぁ俺達には関係ないな。無視だ無視。

 

「・・・・・・?」

「って、おい!アリア!!」

 

アリアが興味を示して声の方へ行っちまいやがった。

まったく!余り首を突っ込むようなもんじゃねえってのに。

 

「おいアリア!ちょっと待」

「ちょ、ちょっと待って!!どういう事!!?」

「っ!!?」

 

び、びっくりした!いきなり大きな声が聞こえた。アリアも少しだけ肩が跳ねた。

思わず貨物から顔を覗かせ聞き耳を立ててみる。そこには中年くらいのおっさんと、俺らと同じ位の歳の子供が言い争っていた。

 

「契約の段階じゃ、こんな荒事になるなんて聞いて無かったよ!!」

「当然だ。言ってなかったらな」

「そんな!あのポケモン達はちゃんとトレーナーに返すからって言うから、僕はここまで協力したっていうのに!!それじゃあ!!」

 

ポケモン達?トレーナーに返す?どういう事だ?

 

「・・・ガーネット、見てください」

「なんじゃ、アリア・・・っ!!?」

 

アリアに促され、顔を向けてみると、小型の檻に閉じ込められたポケモンが、次々と船の中に運び込まれていた。多くはないが、それでも少なくは無いって感じだ。

 

「・・・・まさか、泥棒か?会話から察するに」

「・・・同意」

 

どうする?警察にでも通報すべきか?

そんな考えを巡らしていると、あの2人の口論はヒートアップしていた。

 

「ポケモン達に対して・・・いや、僕の面子は丸潰れだ!!」

「・・・・だったら、何だって言うんだ?」

 

しつこく問い詰めすぎたせいか、中年の男はドスを利かせた声で子供を睨む。

 

「う・・・あ、いや・・・その」

「何だ?言いたい事があるなら言ってみろ」

「その・・・そっちのやり方に意見しようって訳じゃないんだ」

 

さっきの調子は何処へ行ったのか、どんどん弱気になっていく。

 

「ただ、予定外の事が多すぎたから、それなりにボーナスをはずんでくれたらなーって」

「そうだな。くれてやろう、とっておきのボーナスをな」

 

そう言うと、男は拳を振り上げて思いっきり子供を殴り倒した。

 

「・・・警察への通報を推奨します」

「・・・・そうじゃな」

 

ポケットからポケギアを取り出し、ボタンを押そうとした瞬間

 

「おお~っと~。それ以上はいかんな~」

 

男の声がしたのと同時に、俺の首元に鋭利な刃が付き付けられた。

どういう事だ!?まったく気配も足音も感じなかった!

 

「っ!」

 

俺の危機を察したのか、アリアはボールに手を掛けた。

 

「そこのお嬢ちゃんも~、この坊ちゃんと自分の命が惜しくばやめときな~」

 

しかし、俺に付き付けられているのと同じ刃物を付き付けられる事で、止められた。

 

「・・・《ストライク》」

「そぉ~。オレっちの自慢のストライクさ~。いい鎌だろ~」

 

ストライク。確か、虫ポケモンでも有名な奴だ。黄緑色の体と鋭利な鎌が特徴の。

 

「ちなみに、今動けばどうなるんじゃ?」

「坊ちゃんの頭と体が~永遠のぉ別れを~告げるねぇ」

 

やっぱりか・・・。こりゃあもしかして最大のピンチか?

 

「ここを見たのが~、運の尽きだったねぇ~。一緒に来てもらうよ~」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《11時45分》

カントー地方・???

 

ガーネットside

 

 

あの後、荷物とボールをすべて没収され、俺とアリアはさっき殴り飛ばされた男―――ターコイズと共にこの部屋に閉じ込められてしまった。

 

「目隠しされたまま連れて来られたから、ここが此処はどこなのか解らんの」

「・・・窓も見当たりません」

 

とりあえず、この部屋の中を探ってみてもゴミが山積みになってるだけだし。

 

「おい、ターコイズ」

「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ」

 

いかん、虚ろな眼をして現実逃避してやがる。

 

「オラァ!起きぬかバカ者!!」

「これは夢だこれはy《ガコォッ!》ぐばぁっ!!?・・・・・は!!」

 

とりあえず殴ってみると、意識が戻ったみたいだ。

 

「いきなり何をするんだい!!?」

「喧しい!さっさと脱出方法を考えねばならぬ時に現実逃避などするでないわ!」

「・・・2人とも、静かにしてください」

 

アリアは何時もより冷たい目でこちらを見る。・・・・少し反省。

 

「で、結局どうするべきか・・・」

「・・・最優先事項は、モンスターボールの確保及び、敵地からの脱出」

「それが出来ればよいがの・・・。問題は此処からどうやって出るかじゃ」

 

思わず弱気になる。扉にタックルをかましてみたが、ビクともしなかった。

こんな時にポケモン達が居てくれればどんなに助かるか・・・。

 

「・・・・・(ガサガサ)」

「ん?どうしたターコイズ。ゴミなど漁りおって」

「2人とも、紙でも木片でも何でもいい。とにかく燃える物が無いか探して」

「お、おう」

「・・・了解しました」

 

顔を上げたターコイズの目は、先程の虚ろな目とは違う。確かな光を宿していた。

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《12時21分》

カントー地方・???

 

NOside

 

 

「よし、B1階は異状なしだな」

 

ガーネット達3人を閉じ込めた男の部下は1人で見回りを行っていた。今居る階に異常がないことを確認すると、次は3人の子供が捕えられている最下層、B2階へと向かった。

 

(捕虜が居ると言っても、所詮は子供。楽なもんだ)

 

そう楽観視しながら階段を下りていくと、突如煙が舞い上がって来た。

 

「な、何だ!!?」

 

慌てて階段を下りてみると、捕虜が捕えられている部屋から大量の煙が溢れている。

 

「ま、まさか火事か!?」

 

本当に火事であるならば、《ここ》はただでは済まない。急いで消化しなければ。

男は急いで部屋の前まで駆けつけ、鍵を開ける。するとそこには

 

「ゴミが、燃えている・・・?」

 

部屋の中央に積み上げられたゴミが、焚火の様に燃えているだけだった。

それでも出火は出火。何時燃え移るか解らない。男は火を消す為、部屋に入り込んだ。

 

「せいっ!!」

「ごがぁっ!!?」

 

その瞬間、男の後頭部に衝撃が走った。

そう、緊急事態により男は忘れていたのだ。ここには捕虜が居る事を。

よしんば頭の隅で覚えていたとしても所詮は子供と侮った事が男の運の尽きだった。

男はそのまま床に倒れ、意識を失った。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《12時22分》

カントー地方・???

 

ガーネットside

 

 

「背後からドロップキックだなんて、容赦ないね君」

「子供の力じゃ、この位せねばならんじゃろ」

 

三角飛びの要領で相手の後頭部目掛けて渾身のドロップキックを放ったら気絶した。

まぁ、炎に顔を突っ込まなかっただけ運がいいほうだろ。

 

「・・・ターコイズ、さっきのあれは何ですか?」

「え?何って普通のライターだけど?」

「あ~アリア、後で教えてやるから今はボールを見つけ出すのが先じゃ」

「・・・了解」

 

この状況でも全く動じないアリア。どういう神経してんだこいつは?

 

「それにしても、良くライターなんぞ隠し持っておったの」

「・・・荷物は全て没収されたはずでは?」

「ふふん、こんな事もあろうかと服や靴の中に色々と隠し持ってるんだよ」

 

自慢げな顔をするターコイズ。

こいつ、結構度胸あるんじゃねぇのか?隠し持っていたライターでゴミに火を点けて、いつか来る見張りに煙を見せる事で扉を開けさせるなんて危なくて出来ないぞ、普通。

まぁ、ターコイズの読み通り、見張りが扉を開けたものだから良かったけど。

 

「他にもドライバーとかナイフ、それに接着剤とかもね」

「・・・・・???」

「そこらへんにしておけターコイズ。さっさと荷物を奪い返してズラかるぞ!」

 

アリアは混乱していたが、また後で教えてやればいいだろ。

部屋で燃えている火を消して、俺達は荷物を探し始めた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《12時40分》

 

 

「・・・発見しました。私達の荷物です」

「ボールもある!!」

 

慌ててボールの中身を確認すると、手持ちのポケモンは全員揃っていた。

よ、良かった・・・。1体でも居なかったらどうしようかと思った・・・。

 

「そっちはどうじゃ!?全員揃っておるか!?」

「・・・問題ありません」

「荷物も全部無事だよ!」

 

俺も鞄の中身を確認する。

カメラやアルバム、財布とポケギアも入っていた。それからあのポケモン図鑑も。

 

「よし、後は此処を出れば」

「貴様、何をしている!?」

「うわぁ!!」

 

しまった!此処の奴か!?もう見つかっちまった!

 

「お前達、閉じ込めていた捕虜だな!行け、《ゴルバット》!」

 

巨大な口が特徴の蝙蝠の様なポケモン、ゴルバットが出て来た。

 

「ゴルバット〝つばさでうつ〟!」

「ムクバード〝つばさでうつ〟」

 

ゴルバットの翼を、ムクバードの翼で迎え撃つ。翼と翼の鍔迫り合いだ。

 

「行け、メリー!」

「な、何!?2対1だと!?」

 

そんな事は気にしない!

 

「アリア!ムクバードを離れさせろ!一撃で決める!」

「〝こうそくいどう〟」

 

アリアの指示を受け、ムクバードは高速でゴルバットから距離を取る。

 

「メリー〝パワージェム〟!」

 

宝石の様に煌めく光線が、ゴルバットに直撃する!岩タイプに中でも珍しい特殊攻撃だ。

弱点タイプで攻撃されたゴルバットはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「この卑怯者め!《ゴローン》!」

「やべ!」

 

ゴローンって言ったら地面と岩タイプ!

メリーもムクバードも不利だ!此処は一度入れ替えるしかねぇ。ナツなら行けるだろ。

 

「メリー戻「ジャック〝ギガドレイン〟!」

 

メリーをボールに戻そうとした瞬間、相手のゴローンの体力が根こそぎ吸い取られた。

声をした方を振り返ると、ターコイズの目の前に青い背中と白い腹、尾の先が草の様な形をしているのが特徴のポケモンが居た。どうやらターコイズの手持ちらしい。

 

「さ、3対1だと!!?おのれ「ムクバード〝でんこうせっか〟」ぐあっ!!」

 

動揺した男に問答無用の〝でんこうせっか〟が炸裂する。

男は壁までブッ飛ばされ、そのまま気絶した。

 

「助かったぞ、ターコイズ」

「い、いや、ど、どどどどうって事ないよ・・・」

「・・・なぜ膝が震えているのですか?」

「むむむ武者震いさ!!」

 

こいつ、ビビりすぎだろ・・・。まぁ普通ならそうなるか

 

「まぁ、とりあえず落ち着け」

「う、うん」

 

それにしても、ターコイズが繰り出したポケモン、見た事が無いな。

 

「・・・《ジャノビー》、草タイプ。特性は〝しんりょく〟」

 

アリアはポケモン図鑑でこのポケモンを確認する。

俺も画面を覗きこむと、そこには緑色のポケモンが映っていた。あれ?

こいつ、図鑑と色が違うぞ。もしかして、また色違いか?色違いは珍しいんじゃないのか?

 

「何だいそれは?」

 

昨今の色違い大特価セールに驚いていると、ターコイズが興味深そうに覗いてきた。

 

「それも後で教えてやるわい」

「えぇ!?そんな、気になるよ!!」

「・・・脱出が最優先です」

 

アリアがそう言うと、ターコイズは渋々といった様子で納得した。

 

「・・・階段を発見しました」

「よし!上がるぞ!」

 

階段を駆け上がっていくと、扉を見つけた。

 

「良いか?開けるぞ?」

 

アリアは迷わずに、ターコイズは少しビビっているが頷いた。

そして俺も覚悟を決め、扉を開ける。するとそこには

 

「「う、海~~~~~~!!!!?」」

 

何処までも続く水平線だった。

 

「何!?何で!?何故!?海の上にいるの!?」

「・・・海、これが船ですか?」

「えぇい、落ちつけお主ら!!」

「何でってぇ、そりゃ~船の中に閉じ込めたからね~」

「やっぱり船の上か!!最悪じゃ畜生!!」

 

・・・・・・・・・・・・ん?

俺は今誰と話したんだ?なんか凄いナチュラルに会話に入って来たぞ?

 

「どうも~。さっきぶり~」

 

顔を向けてみると、そこには半裸のリーゼント男が居た。

 

「「変態だーーーーーーー!!!」」

 

俺とターコイズの絶叫が、大海原の真っただ中に響き渡った。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:7320円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ナックラー ♂ Lv,26

メリー/モココ  ♂ Lv,25

イヴ/イーブイ  ♀ Lv,22

 

 

名前:アクアマリン

年齢:10歳

性別:女

所持金:3430円

 

手持ちポケモン

 

ピチュー  ♀ Lv,26

ムクバード ♂ Lv,24

サンド   ♀ Lv,24

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:6300円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー ♂ Lv,21

 

 

 

 

 

 




新キャラ2人追加してみました。
ポジション的に雑魚相手に3人がかり。
結構酷いですかね?
展開にスピード感が出過ぎたのが気になりますね。我ながら
精進しながら頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSストライク

前回のキャラクターデータでの誤字
ツタージャじゃ無くてジャノビーです。すみません
第五話始まります


《12時40分》

どこかの海上

 

ガーネットside

 

 

「「変態だーーーーーーーー!!!!」」

 

俺とターコイズは叫んだ。

別にリーゼントだから変態と言ったんじゃない。髪型なんて個性の一つに過ぎないし、どんな髪型にしようとそいつの勝手だろうからな。

半裸だから変態と言ったんじゃない。船の上だし?上は何も着てなくても、ズボンさえ履いていれば普通に馴染んでいただろう。

 

「何で女物のパンツ一丁何じゃ!?」

 

問題はこの男が身に着けているのが女物の赤いレース生地のパンツ一丁だということだ。

目が腐り落ちちまいそうだ。なんて気持ち悪さだ!

 

「暑いからねぇ~」

「正気!?まだ3月の頭だよ!?」

「しかも女物のパンツを履いておる理由になっておらん!」

「そんな事より~」

「「そんな事ぉ!!?」」

 

どうしよう!?こいつ自分の痴態を棚にあげやがった!

 

「うるさいねぇ~。そこの譲ちゃんはぁ~、さっき見たときも何も言わぇってのに」

 

そう言ってアリアに指差す男。さっき?・・・って、まさか!?

 

「アリア、まさか港であったストライク使いの男ってのは!?」

「・・・この人です」

「ぎゃぁぁぁぁ!!やっぱりかーーー!!」

 

じゃあ何か!?俺はこんな間抜けな格好の変態に背後を取られたってことか!?

しかもそんな奴に戦慄を感じていたと!?

 

「儂、滅茶苦茶間抜けみたいじゃないか!!」

「確かにシュールな光景だね・・・。想像するだけでも」

「あ~、ところで~」

 

間の抜けた声で俺達に話しかける変態男。これ以上何を言う気なんだ?

 

「牢屋から出て来たって事はぁ~

 

 

 

 

 

 

 

殺っちまってもいいってぇ、事だよなぁ~」

 

パンツの中からモンスターボールを取り出す男。なんつー所に入れてやがるんだ。

俺達もボールを取り出す。

 

「覚悟はぁ~いいか~い?」

「こちらは3人じゃぞ?覚悟するのはそっちじゃないのか?」

 

それでも男は余裕の態度を崩さない。相当自身があるのか?

 

「まぁ~それはぁ、開けてみてのお楽しみ」

 

男が開閉スイッチを押すのと、俺達が開閉スイッチを押すのは同時だった。

 

「イヴ!」

「サンド」

「キ、キャサリン!」

 

俺はイーブイのイヴを、アリアはサンドを、そしてターコイズは巨大な嘴のペリカンの様な大型の鳥ポケモン《ぺリッパー》を繰り出した。

あの変態男は

 

「あ、あれ?」

「・・・敵ポケモン、確認できません」

 

奴の手にあるボールは確かに開いているが、肝心のポケモンの姿が何処にもない。

 

「何処をぉ、見てるんだ~?攻撃はもう始まっているぞ~?」

 

その時、風切り音が耳に入って来た。まさか!!

 

「伏せろぉっ!!」

 

俺はアリアとターコイズの背中に手を回して思いっきり倒れ込む!

すると、俺たちの頭上をストライクが鎌を振りぬいた格好で通り過ぎて行った。

 

「おぉ~、今のを良く避けたねぇ~」

 

こいつ、いきなりトレーナー狙いに来やがった!

初めてアリアと闘った時と同じだ!正式なポケモンバトルのルールなんか無視して、俺達を命だけを狙ってくる。こいつ自身が武装してないだけまだマシかもしれんが。

 

「な、何で!?トレーナーへの攻撃は禁止されてるはずじゃ!?」

「何でも何もぉ、オレっちは此処で君達にぃ、死んでほしいからねぇ」

 

そう言って男が右手を上げると、ストライクが棲様じい速さでこちらへ突っ込んできた。

 

「〝こうそくいどう〟か!?」

「サンド〝がんせきふうじ〟」

 

サンドがストライクに岩を投げつけて動きを封じようとするが、岩が地面に落下する前に、ストライクはサンドに肉薄していた。

 

「イヴ〝ずつき〟!」

 

イヴに横槍を入れられ、ストライクは〝ずつき〟が当たる前にサンドから距離を取る。

なんて速さだ!まともに技が当たらねぇ!

 

「ガーネット、アリア、耳を貸して」

 

ターコイズが小声で俺達に話しかけて来た。

 

「なんじゃ?」

「いいかい?良く聞いて。~~~~~~~~~~~」

「なるほどの。乗った!」

「・・・異存ありません」

 

ターコイズの話を聞いている間に、ストライクが突っ込んできた。

 

「よそ見してる暇はぁ、無いよぉ~」

 

とんでもない速さでイヴ、サンド、ぺリッパーを斬り付けてまた距離を取る。

そして、また接近してきた。

 

「学習しない奴じゃ!イヴ!」

「サンド」

「「〝すなかけ〟(じゃ!)」」

 

ストライクが突っ込んでくるタイミングを見計らって、2体同時に砂を掛けてみるが、ストライクは加速の為に前のめりにしていた体を起こす事で失速し、〝すなかけ〟は空振りに終わった。加速だけでなく、減速まで自在とは、素早さを重点的に育てられているのか?

 

「攻撃を外した時がぁ、一番の隙だねぇ」

「それはどうかな?キャサリン〝しろいきり〟!」

 

ぺリッパーの口から大量の白い霧が発せられ、辺り一面の視界は白く閉ざされる。本来はステータス低下を防ぐための技だが、こうやって目晦ましにも使う事が出来る。

 

「〝すなかけ〟にぃ〝しろいきり〟ぃ~、さっきから小賢しいねぇ~」

 

白い霧の中で視界が閉ざされる中、ぺリッパーが居た方角から刃物で切られたような音が聞こえてくる。こいつ・・・!こんな霧の中で攻撃を当ててくるのか!?

 

「姿を隠していてもぉ、そこに居ることには変わりはねぇな~」

「くっ!じゃあ、この霧の中でキャサリンが何処に居るのか解るって事!?」

 

ありえねぇ。〝こころのめ〟でも使えるのか?あのストライクは。

 

「おいアリア、ストライクは〝こころのめ〟を覚えれたかの?」

「・・・否定」

 

じゃあどうやって、こちらを攻撃してきたんだ?

 

「埒が明かないね!キャサリン〝おいかぜ〟!」

 

吹き荒れる風の渦が白い霧を吹き飛ばしていく。

 

「あぁれ~、2体ほど居ないね~」

 

ぺリッパーとストライクだけが残っていた。船の看板には2つの穴が開いている。

 

「今度は〝あなをほる〟か~?」

「そうじゃ!いくらなんでも地中の中までは進んでこれまい!」

「それならぁ、ぺリッパーから先に潰そうかねぇ~」

 

ストライクは棲様じい勢いでぺリッパーに肉薄する。

 

「・・・今です」

「っ!キャサリン!」

 

飛び掛かって来たストライクに向かって、ぺリッパーは大きな口を開ける。

そこには、イヴとサンドが入っていた。

 

「っ!!!」

 

初めて変態男の余裕の顔が崩れた。少し爽快だ。

 

「イヴ〝とっしん〟!」

「サンド〝ジャイロボール〟」

 

イヴとサンドの決死の攻撃がストライクに直撃する。ストライクはそのまま吹き飛ばされ、2回ほど床をバウンドしながら変態男の横で倒れた。

 

「地面に隠れたってのはぁ~、ブラフかぁ~」

「野生のぺリッパーも口の中に小型のポケモンを入れて運んだりするからね。〝しろいきり〟で周りが見えなくなっても、キャサリンの特性〝するどいめ〟で確実に2体を口の中に入れたって訳さ」

 

ストライクは体を起こし、臨戦体制を取る。流石にあれじゃ倒れないか。

 

「わざわざ地面に穴まで開けるとはぁ、楽しませるじゃねぇの~」

 

問題は此処からどうするかだ。さっきの手はもう通じないだろうし。

ターコイズの方を見てみても何も思いつかないのか、顔を顰めている。

 

「それじゃ~、オレっちも楽しませようかねぇ~」

 

こっちは楽しんでる余裕なんて無いっての。なんて強さだこの変態。

 

「ストライク〝こうそくいどう〟~」

 

ストライクの姿が消えた。

そう思った瞬間、俺達の傍らに居たイヴ、サンド、ぺリッパーが倒れ伏した。

 

「な!?イヴ!!」

「・・・っ!」

「な、なんで・・・そんな。だって〝こうそくいどう〟は、・・・もう」

 

アリアは珍しく驚きを隠せず、ターコイズは何が起きたのかが解らないみたいだ。

 

「〝こうそくいどう〟はぁ~、使って無かったよ~」

「今までの速さで普通だったってことか・・・!この化け物め・・・!」

 

俺とアリアはポケモンをボールに戻し、ストライクと対峙する。

 

「・・・あ、あぁ・・・あ」

「ボーっとするでない!死ぬぞ!!」

 

震えるターコイズの背中を平手で叩き、喝を入れる。

するとターコイズは正気に戻ったのか、慌ててぺリッパーをボールに戻す。

俺はメリーを、アリアはムクバード、ターコイズは黄色い体で、背中に瘤の様な物が生えている四足歩行のポケモン《ドンメル》を繰り出した。

 

「メリー〝10まんボルト〟!!」

「ルージュ〝かえんほうしゃ〟!!」

 

激しい電撃と炎がストライクに襲いかかる。

当たれば効果抜群の技だが、ストライクは上に跳ぶ事で回避する。

 

「〝つばさでうつ〟」

 

アリアのムクバードが、上に跳んで逃げ場をなくしたストライクに襲いかかる。

 

「欠伸が出るねぇ~。〝きりさく〟ぅ~」

 

ムクバードが翼を叩きこむ前に、ストライクの鎌がムクバードの体を斬り裂いた。

ムクバードはそのまま地面落下し、力尽きた。

 

「急所に当たったかぁ~?」

「チィッ!メリー!」

「ル、ルルルージュ!」

「遅いよぉ~、〝ダブルアタック〟」

 

俺とターコイズが指示を出す前に、ストライクはメリーとドンメルを二体同時に攻撃し、そのまま2体とも倒れ伏した。

 

「さぁて、どうするねぇ~」

 

正直、状況は絶望的だ。

アリアのピチューでもあの速さには対抗できるかどうかだし、ナツははっきり言って鈍足だ。ターコイズのジャノビーは草タイプだ。虫タイプのストライクとは相性が悪い。

後ろを振り返ると、ターコイズはあまりの恐怖に震えていた。

あのアリアの無表情も僅かに崩れている。何があっても眉一つ動かさなかったアリアですらそうなるという事は、この状況は相当ヤバいということは間違いなさそうだ。

・・・・・覚悟を、決める時が来たかもしれない。

俺は自分の鞄を、ターコイズに向かって無造作に放り投げた。

 

「・・・ガーネット?」

「アリア、ターコイズ、・・・・逃げろ」

「え?」

 

戸惑う2人を気にせず、俺は続けた。

 

「その鞄の中に《げんきのかけら》が入っておる。それを使ってムクバードとぺリッパーを回復させて、飛んで逃げるんじゃ。出来るな?」

「で、でも、それじゃあ、ガーネットは・・・!」

「儂の手持ちはナックラー1体だけ。飛んで逃げる事も出来ん。せいぜい足止めしておくから、さっさと逃げろ。今すぐにだ」

 

こんな海の真っただ中じゃ、泳いで陸に上がることも叶わないだろう。

 

「で、でも・・・!」

「いいから逃げろ!!こんな変態、俺1人で十分なんだよ!!」

 

爺口調を使うのも忘れ、戸惑うターコイズを怒鳴りつける。

何が出来る訳でもない。俺1人で何とかできる相手じゃない事は、さっきの戦闘が証明していた。でも、記憶を無くしたアリアを、俺の旅に連れて行ったのは他でもない俺だ。

ポケモンセンターでゆっくりと記憶を取り戻しても良かったのに、危険な旅に同行させた俺は、もしもの時にはアリアの命を守らなければならない。

そんな使命感にも似た考えを浮かべながら自分の3つのボールを手に取る。

ナツ、メリー、イヴ・・・・すまん。

俺が弱かったばかりに、お前達の命を危険にさらそうとしている。

許せとは言わない。せめてお前等だけでも逃がして見せる・・・。

 

「アリア、こいつらを預かっててくれ」

 

預かっててくれ。

まるで後になったら迎えに来るとも取れる言い方だが、この状況じゃ最早譲るようなものだ。それでも、こいつらが生き残るにはもうこれしか思いつかない。

俺はアリアにボールを差し出した。

 

「・・・ピチュー」

 

だがアリアが行った行動は、俺の期待を裏切る物だった。

普通の個体とは違う、橙色の体の小さなポケモンが姿を現す。

 

「おいアリア!俺の話が聞こえなかったのか!?」

「・・・聞こえていました」

「だったら逃げろ!」

「・・・拒否」

「な!!?」

 

これまでの旅で、アリアは今まで俺の指示に逆らう事無く、自分の本心を現す事も、それを行動に移す事もしなかった。そのアリアが今、自らの本心を曝け出し行動に移そうとしている。

それは俺がアリアに最も望んだ事だった。自分の思う様にしてほしいと。

だからって、こんな時じゃなくてもいいだろ!!?

 

「・・・ガーネット、あなたは私に言いました」

「何をだ?」

「・・・私の家を探して、くれると」

 

アリアの家を見つける。

それがアリアを旅に誘った理由だった。

 

「・・・私はあの時確かに旅に付いて行くと言いました。ですから」

 

アリアはその整った顔を俺に向け、

 

「ガーネットも、あの時の約束を果してください」

 

そう言い放った。

余りの事に呆然とする。アリアがここまで自分の意見を押し通そうとするなんて。

 

「ジャック!」

 

ピチューと並ぶように、青い体が特徴のジャノビーが繰り出された。

 

「こ、ここで2人を見捨てて逃げたら、おおおお男が廃るからね。僕も戦うよ」

「ターコイズ、膝が笑ってるぞ」

「・・・肩が震えています」

「ここは素直に感動するべき場面だと思うんだけど!?」

 

ターコイズは息を整える。

 

「ま、まだ終わった訳じゃ、ないからね。こ、ここは僕の頭脳の見せ所だよ」

 

そう言ってターコイズは震えながら変態男とストライクを見据える。

その時、俺の手にあるボールの内の一つが震えた。

中を覗いてみると、ナツが暴れながら俺を見つめている。

 

「お前も、戦ってくれるのか?」

 

ボールの中でナツは大きく頷いた。

本当に、ナツもアリアもターコイズも、どいつもこいつも

 

「馬鹿ばっかりだ!!」

 

鉛色のナックラーが、ボールから飛び出した。

ここまで来て「お前等だけ逃げろ」なんて言える空気じゃないしな。

勝算があるかどうかは解らないけど、やらなきゃゼロだ。ならやるしかねぇ!

 

「覚悟を決めろ、お前ら!」

「・・・了解」

「ま、待って!やっぱりまだ心の準備が!」

 

ターコイズ、お前はちょっと黙ってろ。

 

「ん~、ナックラーにピチュー、ジャノビーの色違いぃ~?」

 

あの変態は顎に手を当てて怪訝な顔をしていた。

何だ?色違いのポケモンが3体揃っているのが珍しいのか?

 

「それに藍色の髪のぉ、嬢ちゃん~?」

 

続けてアリアを見つめる。何なんだ一体。

 

「嬢ちゃんもしかして~識別名《アクアマリン》じゃねぇのか~?」

「・・・!」

「なっ!?こいつの事を知っているのか!?」

 

まさかこんな所でアリアの事を知っている奴が居るだなんて!

それにこいつがさっき言った識別名!初めてアリアと会った時にも言っていた単語だ!

 

「おい!アリアの何を知ってんだ!?教えろ!!」

「そいつをぉ知りたきゃ~」

 

ストライクが一歩前に出る。

 

「こいつをぉ~倒してみな~」

 

ストライクは棲様じい速さで飛び掛かって来た。

 

「「〝まもる〟!」」

「〝かげぶんしん〟」

 

ナツとジャノビーは守りの態勢に入り、ピチューは大量に分身を作り出す事でストライクの攻撃を回避する。

ちぃっ!どうする!?この速さ!!

 

「なんだかよく分からないけど、とりあえず逃げた方がいいよ!!」

「解ってる!!」

 

そうしている間にも、ストライクは俺達に肉薄していた。

 

「そぉら、どんどん行くぞ~」

 

ストライクの鎌がナツに振り落とされようとした瞬間

 

「〝つるのムチ〟!!」

 

ジャノビーから放たれた蔓が鞭のようにしなり、ストライクに襲いかかる。

ストライクはナツを斬るはずだった方の鎌で蔓を斬り裂いた。

 

「今だ!ナツ〝かみくだく〟!!」

 

ナツの顎がストライクの足を捉えようとするが、駄目だ!ストライクがナツの攻撃に気付いてバックステップで避けようとしている!

 

「まだまだ!〝つるのムチ〟!!」

 

しかし、避けようとしたストライクの腕をジャノビーの蔓が捕えた。

その隙にナツがストライクの足に噛み付く。

 

「ジャック!蔓をもっと増やして!!雁字搦めにするんだ!!」

 

放たれた無数の蔓がストライクの片腕を締め付ける。

よし!これでストライクの動きを封じる事が出来た!!

 

「それじゃぁ~先にナックラーからぁ、仕留めようか~」

 

安心も束の間、ストライクは相手いるもう片方の鎌でナツに切りかかる。

 

「ピチュー〝こうそくいどう〟」

 

鎌を振り落とそうとしたストライクの腕に、高速でピチューが突っ込んできてそのまま腕にしがみついた。鎌はそのまま振り落とされたが、ピチューが突っ込んできた衝撃とピチュー自身の重さによって鎌に軌道はブレ、ナツに当たる事は無かった。

 

「ストライク~、さっさと振り落としちまいなぁ~」

 

ストライクはしがみついているピチューを振り落とす為、体を捩ったり腕を振り回したりしている。このままじゃヤバい!ピチューは頑張っているけど、何時までもつか・・!

そんな時、2ヶ所から「ピピピピピピ」と音が鳴り始めた。

 

「うわぁ!な、何!?」

 

一つはアリアの方から。もう一つはターコイズの方、いや違う。

正確にはターコイズに渡しておいた俺の鞄だった。

 

「ターコイズ!俺の鞄投げろ!」

 

投げ渡された鞄を開け、中を覗いてみる。

音を鳴らしているのはポケモン図鑑だった。

画面を見てみる。

 

『おや?ナックラーの様子が・・・』

 

ナックラー?ナツの事か・・・?

 

「アリア!そっちの図鑑はどうだ!?」

 

俺はアリアの方へ駆け寄り、画面を覗く。

 

『おや?ピチューの様子が・・・』

 

俺達はナツとピチューに目を向ける。

2体ともブルブルと体を震わせている。これは・・・確かお月見山でも!

 

「・・・進化」

 

お月見山の時は図鑑が鳴っているなんて気がつかなかった。

このポケモン図鑑はポケモンが進化するタイミングを知る事も出来るのか!?

2体は徐々に形や大きさを変えていく。最後に強い光を発すると、そこに現れたのはピチュー時代の時と同じ色の《ピカチュウ》と、ナックラー時代とは違う、オレンジ色の大きな目と羽を持つ蜻蛉の様なポケモン《ビブラーバ》がそこに居た。

 

「む、虫タイプ?」

 

ターコイズが進化したナツの姿を持てそう呟く。

違う。こいつは虫タイプじゃない。ホウエン四天王ゲンジのエキスパートタイプ

 

「ドラゴンだ!!」

 

図鑑で使える技を確認する。進化した事で身に付けた新たな力

 

「ナツ〝りゅうのいぶき〟!!」

 

ナツの口から棲様じい息が吐き出され、ストライクに直撃する。

効いてはいるが、倒すまでには至って無い!まだ振りほどこうと暴れている!

 

「〝10まんボルト〟」

 

続けざまに激しい電撃がピカチュウから発せられる。

電撃が止むと、ストライクは全身から煙を上げながら後ろ向きに倒れ伏した。

 

「や、やったああああ!!!」

「・・・ふぅ」

 

・・・勝った。あんな危機的状況で、俺達が勝った。

そんな時、1人分の拍手が聞こえて来た。

 

「いやぁ~本当ぉにぃ、勝つとはねぇ~」

「そう言えば約束だったな。アリアについて知ってる事全部教えて貰うぞ」

「そう言えば坊ちゃん~爺言葉はどうしたんだぁい?」

「今はそんな事どうでもいいっての!!」

 

ふざけた奴だな、コンチクショウ!

 

「待って。僕も気になってた」

「・・・私も」

「使う気分じゃねぇだけだっての!!ていうかお前らまで何だ!!」

「あの口調、わざとだったの?」

「今引っ張る話題じゃねぇぇぇ!!」

 

どいつもこいつも・・・・!!

 

「まぁ~約束だしぃ~オレっちの手持ちはストライクだけだったからねぇ~今は」

「・・・教えてくれるのですか?」

「いやぁ、オレっちも詳しくは知らないんだよねぇ~」

「何でもいいからさっさと教えろ」

 

俺がせかすと、変態男は少しだけ真剣な顔をした。

 

「ホウエン地方のぉ~《送り火山》の1階墓地のどこかにぃ~秘密があるよ~」

「それ以上は?」

「知らねぇなぁ~」

 

嘘か本当化は解らない。

でも手掛かりがそれしかない以上、それを当てにするしかないか。

 

「ガ、ガーネット、早く逃げようよ。ビブラーバは飛べるんでしょ・・・?」

「・・・あぁ」

 

すでに《げんきのかけら》を使ってムクバード、ぺリッパーを復活させている。

こんな所に長居は無用だ。ナツが俺の背中を掴んで浮き上がる。

 

「それじゃ~また会おうぜぇ~」

「「二度と御免だ!!」」

 

不吉な事を言ってのける変態を全力で拒否し、俺達は船から飛び立った。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

《13時45分》

どこかの海上

 

NOside

 

さっきまでガーネット達と戦闘を繰り広げていた男は赤いレース生地のパンツの中からポケギアを取り出し、ある人物に電話を掛けていた。

 

「もしもぉし、支部長ぉ~?」

『サンゾウか。何の用だ?』

「驚かないでぇ、聞いて欲しいんスけど~」

『もったいぶらずに言え』

「じゃあまずぅ~、《アクアマリン》がぁ、生きてやしたぁ~」

『何だと?自動消去機能はどうした?』

「発動しなかったんじゃぁ、無いですかねぇ~」

 

ポケギアの向こうから溜息が聞こえて来た。

 

『それで、貴様はどうしたんだ?』

「いやぁ~殺そうとしたんですがねぇ~、邪魔が入りやしてねぇ」

『邪魔?』

「2人の子供ぉなんですけどねぇ~、何と脱走した色違いの個体のポケモン、ナックラーとぉ、ツタージャが進化したんですかねぇ、ジャノビーに進化してましたけど、まぁそれぞれを手持ちに加えてましてぇ。しかもアクアマリンのピチューと件のナックラーがぁ、進化したんスよぉ」

『逃げられたと言うのか?』

「すいませんねぇ」

 

先ほどよりも大きな溜息が聞こえて来た。

 

「あぁ、それからぁ」

『まだあるのか?』

「これで最後っスよぉ~」

 

変態リーゼント男こと、《サンゾウ》は一拍置いてから言葉を紡いだ。

 

「ポケモン図鑑~3機ほど持ってましたよ」

『・・・それは確かか?』

「荷物の中を確認したら出てきやしてねぇ~。奪い返されちやいましたけどぉ~」

『・・・解った。こちらでも奴らを探し出す。お前も探せ、自分の不始末なのだからな』

「それなら~支部長が行ってくださいよぉ~。今、送り火山の研究所っしょ~」

『それがどうした?』

「奴らぁ、そっちに向かってやすぜぇ~。それにぃ、アクアマリンだけじゃなくてぇ、面白いのがいたんでねぇ。写メ送りますよぉ」

 

船の中に設置してあった監視カメラの映像を送ると、ポケギアの向こうの声の主は驚いたような声を上げる。どうやらサンゾウの予想は的中したようだ。

 

『・・・いいだろう。この際なぜ送り火山に向かっているのかは問わん』

「どうもぉ~ありがとうございやすぅ」

『引き続き、任務を続行しろ』

「了解ぃ」

 

そう言ってサンゾウはポケギアの通話終了ボタンを押した。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:7320円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv27

メリー/モココ  ♂ Lv25

イヴ/イーブイ  ♀ Lv22

 

 

名前:アクアマリン

年齢:10歳

性別:女

所持金:3420円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv27

ムクバード ♂ Lv24

サンド   ♀ Lv24

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:6300円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv22

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv25

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv20




何とか設定がブレすぎないようにしていこうと思います。
後、ビブラーバのレベルについては物語上の都合だと思ってくださいお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 前編

ポケスペがアニメ化しなくても、ゲーム化してほしいと思う今日この頃。
お待たせしました。それではどうぞ!



「ガーネット、誕生日おめでとう」

「うん!ありがとう、お母さん!」

「今日はガーネットが好きなうどんを作ったわ」

「やったーー!!」

 

「・・・・・ごめんね、ガーネット」

「お母さん?」

「本当ならケーキやプレゼントを用意できれば良かったのに」

「ううん!ぼく、お母さんが居れば良いよ!」

「ありがとう、ガーネット」

 

「お母さん?どこ行くの?ぼくも行く!!」

「大丈夫よ、ガーネット。お母さん、ちゃんと帰ってくるから」

 

「待ってよお母さん!ぼくを置いてかないで!お母さ――ん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《8時32分》

ホウエン地方・トウカシティ《ポケモンセンター》

 

ガーネットside

 

「母さんっ!!!?」

 

思わずベットから跳ね起きる。

そこには母の姿は無く、昨日の晩に見たポケモンセンターの仮眠室の光景だった。

 

「・・・・夢かよ」

 

久々に嫌な夢を見た。

おかげで服が寝汗でじっとりと湿っていて気持ち悪い。

 

「こりゃ、先にシャワーでも浴びるか」

 

先ほどの夢を振り払うように頭を振る。

時間は、8時30分過ぎ。周りのベットはもぬけの殻だ。もう起きているかな?

 

あの船の上で変態男と闘って逃げた後、驚くべき事に俺達はホウエン地方まで付いて辿り着いた。カントーとホウエンはかなり離れた場所にあり、ポケモン、それも中型のポケモンが人一人を背負って連れていけるような場所じゃない。海の上で休憩できる場所も無く、途方に暮れていたら陸地が見えたのでそこに行ってみると全国でも自然豊かなホウエン地方に到着していたという訳だ。

どこの陸地とも離れた場所だったらと思うといまでもゾッとする。

 

にしても、さっき思いっきり「母さん」って叫びながら跳び起きたよな・・・?

そう考えると何か無性に恥ずかしくなってきた。こんなの誰かに聞かれたら・・・。

 

「ま、誰もいないからいいんだけどな」

「・・・いますよ」

 

アリアがクローゼットから顔を出した。寝起きなのか、髪が乱れている。

どうやら開いたクローゼットの扉が邪魔してアリアが見えなかったようだ。

 

「アリア、何してんの?」

「・・・荷物を取り出しています」

 

俺達の荷物はボールを除いて全てクローゼットに仕舞ってあるからそれは分かる。

だが問題はそこじゃない。

 

「さっきの、聞いた?」

「・・・さっき?」

 

何の事か解らないという感じに首を傾げるアリア。

 

「いや、ほら・・・さっき俺が起きた時の・・・」

「・・・母さんと、言っていました」

「オッギャアアアアアアアアアアアア!!!」

 

起きて早々、あまりの恥ずかしさに絶叫した。

だって、だっていくらなんでも・・・・この寝言は!

 

「・・・他にも、うどん、置いて行かないでと言ってました」

「そんなことまで言ってたの!?俺のバカーーーー!!」

 

寝言を聞かれるのがここまで恥ずかしいだなんて思わなかったよ畜生!

何とか、何とか話題をすり替えないと!!

 

「・・・ガーネット」

「なんだよ!?まだ何か言ってたのか、俺!!?」

「・・・ガーネットの父と母は、どのような人なんですか?」

 

話をすり替えたのはアリアの方だった。

 

「何でまた、そんな事を?」

 

まだ恥ずかしさが残っていて、ぶっきら棒に返事する。

 

「・・・・・・」

 

返事がない。

率直にものを言うアリアには珍しく、言葉が出てこないといった様子だ。

 

「・・・・父親の方は、良く分からねぇ。会った事が無いしな。母さんは、優しい人だった。俺が五歳の頃に死んじまったけどな」

「・・・亡くなられたんですか?」

「ブラックシティっていう、かなり治安の悪い町で毎日こき使われながら、俺を養うために仕事の内容とは割が合わない安い給料をやりくりしてた。その無理が祟ったんだろうな」

 

今でも不思議に思う事がある。

なんで母さんがそんな町を出て行かなかったのか。

あんな町じゃなくて、他の町でならちゃんと仕事に就いて無理のない生活だって出来たのに。その問いに応えてくれる母はもういないんだけどな。

 

「まぁ俺が覚えてるのはその位だな。その後色々あって、俺はゲンジの爺さんに引き取られて6年間ニビシティで暮らしてたってわけだ。」

「・・・ゲンジ?」

「あぁ、俺を引き取った爺さんの事だよ。やたらとおっかない爺さんだけどな」

 

それと同じくらい優しいとは、口が裂けても言えないけど。

今思えば、生まれこそ恵まれなかったけど、家族には恵まれていたんだろうな、俺は。

そんな事を考えていると、アリアが口を開いた。

 

「・・・私の家族は、どんな人たちなんでしょうか?」

 

初めてアリアと出会った時の事を思い出した。

光を宿さぬその眼差し。決して崩れぬ無表情。

一切の揺らぎなく、他人の命も自分の命も絶とうとするその冷たい心。

人間の人格形成は、周りの人間の性格に影響するらしい。

だったら、アリアのあの時の性格は一体どうやって形成されたってんだ?

 

結局俺は、答えらしい答えを返す事も出来ないまま、シャワー室へと向かった。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《9時12分》

 

 

「あ、ガーネットおはよう」

 

ポケモンセンターのフロアに行くと、すでにアリアとターコイズが居た。

うん。アリアはちゃんと髪をセットしたみたいだ。

 

「それじゃまずは、状況確認と今後の行動を決めるとするか」

 

正直色々ありすぎた。整理しないと混乱しそうだ。

 

「はい、質問!」

「いきなりだな。何だ?」

「何で爺言葉から普通の口調に戻ってるの?」

「・・・私も気になります」

「いきなりそれかよ!?」

 

まあ、いいけど。

 

「別に意味なんてねぇよ。ただの威嚇みたいなもんだ」

「・・・威嚇?」

「旅の道中、子供だと思って舐められないようにしようと思ってな」

「いや、特になんとも思わなかったけどね」

「何、だと・・・!?」

 

ビビりのターコイズにそこまで言わせるなんて。

 

「寧ろ変に気を使った口調な分、乱暴な台詞なのに丁寧に聞こえたね」

「マジかよ・・・。まぁ、もう使う事が無いからいいんだけどな」

 

実際、威嚇の為に使ってみたものの、ポケモンには威嚇だってことが理解できなかったみたいだし、あの変態男みたいな奴には一切効果が無かった。

それなら自分の本来の口調で威厳って奴を出すしかねぇだろ。

 

その後、俺とアリアの旅の事をターコイズの話した。

完璧俺達の事情に巻き込まれちまったから、ポケモン図鑑の事や俺とアリアが初めて会った時の事を隠す必要もないしな。

 

「で、ここからはアリア、お前の事だ」

 

あの変態男が行っていた言葉。

送り火山の1階にアリアの秘密がある。

 

「で、でも、敵の言ってた事だよ?本当か嘘かも分からないし、罠だって可能性も」

「んな事は解ってるっての。でも他に手掛かりがねぇんだよ」

 

アリアの旅の目的、「家探し」はここを通らずにしては進まない。

 

「決めんのはアリア、お前だ」

「・・・私は」

 

少しの間俯いて、顔を上げる。

 

「・・・行きます」

「えぇ!?行くの!?」

「・・・罠である可能性は極めて高い事は承知しています。それでも」

 

アリアは一拍置いて言った。

 

「私は自分が何者なのか、私の家族がどんな人なのかを知りたいです」

 

以前のアリアなら、危険性を考慮して近づこうとはしなかっただろう。

それでもアリアがこの決断を下したのは、あの船での戦いで目覚めたアリアの自我がそうさせたのか、はたまた別の何かがそうさせたのか。

 

「・・・ここで2人を危険に晒す事はできません。ここからは私1人で」

「何言ってんだよ。もう十分巻き込まれてるから同じだっての」

 

アリアの言葉を遮る。ここまで来て1人で行かせられる訳無いだろうに。

 

「ここまで巻き込まれたんだ。俺も事の真相を知る権利くらいあるだろ」

「・・・ですが」

「大体な、お前送り火山が何処にあるのか知ってんのか?」

 

言葉を詰まらせるアリア。やっぱり知らなかったか。

まぁ、このホウエン地方にあるから

 

「だったらなおさら俺が付いて行かなきゃダメだろ」

「・・・分かりました。改めて、よりしくお願いします、ガーネット」

「そうこなくっちゃな。よろしく、アリア」

 

とりあえず、アリアの今後は決まった。次は

 

「次はターコイズ、お前だ」

「えぇ!?僕!?」

「お前には色々聞きたい事があるんだよ」

 

こいつは俺達の事情を知ったのに、俺達はこいつが何者なのかすら分かっていない。

もしも敵だってんなら今の内に・・・。

 

「・・・ターコイズは、なぜあの船の乗組員と言い争っていたのですか?」

「だって、あの向こうが契約を違反したから・・・」

「契約?」

 

そういや、あの時も契約がどうの言ってたな。

 

「お前、何かの企業に就いてんの?」

「うん。僕一応、ポケモン協会の派遣部の候補生だよ」

「・・・派遣部?」

 

首を傾げるアリア。派遣部は俺も聞いた事があるけど詳しくは知らねぇな。

 

「派遣部っていうのは、ポケモン協会が一般の企業に対して協会お抱えのトレーナーを助っ人に出す部署の事だよ。僕はその候補生でね」

「協会専属のトレーナーの候補生って事は、学生なのか?お前」

「ま、まぁね」

 

ん?何か歯切れが悪いな。

 

「今回はその業務研修で、《アルティア家》の依頼を受けたんだけど」

「・・・アルティア家?」

「世界中の企業に影響力を持つ、カントー地方の名家のことだ」

 

300年以上の歴史がある古い貴族で、その格式はシンオウ地方の《ベルリッツ家》にも並ぶらしい。仕事は主に貿易だが、その内容はトップシークレットらしい。

 

「依頼の内容は?」

「あの、ガーネット?こういうのは依頼人の守秘義務があってね?」

「・・・依頼人の名を口にするのは守秘義務には入らないのですか?」

「しまったぁーーーーーー!!!」

「で?アルティア家からどんな依頼が来たんだ?」

 

俺がそう言うと、ターコイズは大きく溜息をついてから口を開いた。

 

「最近、ジョウト地方でロケット団が再集結し始めたって話は聞いたことある?」

「あぁ、それなら知ってる。ニュースにもなってたしな」

「もし本当にロケット団が再集結していたら一大事でしょ?だからね、カントーの一般のトレーナーからポケモンを貸してほしいって言う応募を出したんだよ」

「なんで?」

「・・・恐らく、戦力増強の為」

 

あ、なるほど。

カントー地方で起こったロケット団による事件ではポケモン協会も、町の治安を守る殆どのジムリーダーが対処しきれなかったらしい。

ジョウトでも同じ様にならないように、少しでも動けるトレーナーを増やそうってわけか。

 

「加えて1年前の四天王事件もあったから・・・」

「まぁ、善良な一般人はもう二度と同じ事が起きないようにポケモンを貸し出すだろうな」

 

にしても、四天王事件か・・・。

俺はその時、ゲンジと一緒にホウエン地方に行ってたから何があったかは良く分からないんだよな。ただ、久々に帰ってみたら家が半壊していたのには驚いた・・・。

おかげで俺は家が直るまでの間、野宿をした。

 

「でも・・・」

「・・・?」

「僕、聞いちゃったんだ」

「何を?」

「トレーナーから借りたポケモンを、ロケット団に売り渡すって」

「はぁ!?」

 

つまり何か!?アルティア家がロケット団相手に商売してたってか!?

 

「僕も耳を疑ったよ。でも聞き間違いじゃなかったんだ」

「それでターコイズは抗議に向かって」

「・・・私達と一緒に閉じ込められた」

 

極めつけにあの船の上で戦った変態か。

やましい事が無けりゃ、わざわざ俺達を殺しに掛って来ないだろうしな。

 

「まぁ、とりあえずはこんなところだな」

「・・・では、送り火山に向かいますか?」

「その前にターコイズ、お前これからどうする?」

「どうって、このまま学校に戻るつもりだけど」

 

当然のようにそう答えるターコイズ。

 

「学校って、どこにあるんだ?」

「僕が通っているのは、コトブキシティにある学校だよ」

「コトブキシティ?シンオウ地方じゃねぇか」

「うん。だからミナモシティの連絡船に乗ろうと思うんだ」

 

だったら途中まで俺達と同じ方向だってことか。

 

「・・・ターコイズ、途中まで私達と一緒に行きませんか」

 

俺が言おうとした事を、アリアが先に言った。

 

「え!?一緒に来てくれるの!?」

 

アリアはコクリと頷いた。

 

「・・・まだ私達の命が狙われている可能性がありますので」

 

確かに。知られて困るような事を知ってしまったからには、あの変態が俺達を追いかけてくる可能性も否定できない。そう、あの変態が・・・

 

「俺、何か気分悪くなってきた」

「・・・・・僕も」

 

またあの変態と戦わなくちゃいけないのかと思うと、一気に気分が滅入った。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 




次回も頑張って投稿します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 前編Ⅱ

お待たせしました!色々ネタ探してたら遅れました!
では、どうぞお楽しみください!


《ホウエン地方・送り火山》

 

NOside

 

 

「支部長、準備が整いました」

「御苦労。それでは、シンオウに向かうぞ」

「了解」

 

癖のある茶髪が特徴の男は部下に指示を出し、机の上の写真立てに目を向ける。

 

(もう少しで私の願いは成就する。こんなところで終る訳にはいかない)

 

男は写真立てを大事そうに懐に仕舞い、この場所を後にする。

 

(アクアマリン・・・そして、あの女の息子・・・・必ずこの手で始末する)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

《ホウエン地方・121番道路》

 

ガーネットside

 

 

「メリー〝10まんボルト〟!」

 

メリーが放った電撃を、体を捻る様にして回避した《マンキー》が突っ込んでくる。

そのままメリーに〝からてチョップ〟を叩きこむ。

 

「野郎ぉっ!〝ほうでん〟だ!」

 

メリーの〝ほうでん〟をまともに食らい、弾かれる様に吹き飛ばされたマンキーだが、空中で受け身を取って地面に着地すると、すぐにこっちへ突っ込んできた。

 

「息つく暇もナシかっ!!」

 

次の瞬間、マンキーの拳に炎が纏われる。

〝ほのおのパンチ〟か!?

 

「メリー!もう一度〝ほうでん〟だ!」

 

メリーの全身から広範囲にわたって電撃が放出される。

しかしマンキーは怯まずに炎を纏った拳を突き出してきた!

 

「なんて根性だ!とても野生とは思えん!」

 

〝ほのおのパンチ〟といい、あの動きといい、実はトレーナーが居るんじゃないのか!?

マンキーは今でも〝ほうでん〟を浴びながら、拳をメリーに突き出している。

 

「まぁそんな事は」

 

俺はリュックからボールを取り出す。

それと同時にメリーが電撃の出力を上げ、マンキーを弾き飛ばす。

 

「こいつを投げてみりゃ、分かる事だろ!!」

 

吹き飛ばされ、地面に落下したマンキーに向かってボールを全力投球する。

ボールがマンキーに当たったかと思うと、ボールの蓋が大きく開き、徐々にマンキーが吸い込まれていく。どうやら本当に野生のポケモンだったみたいだ。

マンキーが完全にボールに収まると、最後の抵抗と言わんばかりにボールが揺れ動くが、少し様子を見てみると、最後はカチッという音と一緒にボールが動かなくなった。

 

「よっしゃーーーーー!!」

 

今思えばこれが俺の初めてのポケモン捕獲になったんじゃね!?

そう思うと思わず雄叫びをあげてしまった。

 

「お疲れさん、メリー」

 

メリーに労いの言葉を掛けてからボールに戻し、マンキーが入ったボールを拾い上げる。

 

「それじゃ、そろそろ戻るか」

 

 

 

 

トウカシティを出発してから数日後、俺達3人はとうとう送り火山の目と鼻の先、サファリゾーンの目の前まで来ていた。

あの後も俺達は話し合い、またあの変態男並みの実力者が現れた時の為に、俺達の戦力を強化する目的でポケモンを捕獲することにした。

そう決めて別行動を取ってから2時間。そろそろ集合場所に戻ってるかもしれない。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《ホウエン地方・121番道路サファリゾーン前》

 

 

 

「あ!帰って来た!」

「・・・お疲れ様です、ガーネット」

 

集合場所に戻ってみると、アリアとターコイズはすでに戻ってきていた。

 

「お前ら、ちゃんと捕まえて来たんだろうな?」

 

俺がそう言うと、2人はモンスターボールを取りだした。

どうやらちゃんと捕獲したみたいだ。

 

「そう言えば、お前らどんな奴を捕獲したんだ?」

「サファリゾーンに参加して捕獲した、《ドラピオン》だよ。名前は《ライル》」

「・・・そこの海で、《プロトーガ》を」

「ガーネットは?」

「すぐそこでマンキー捕まえたんだ。名前は《マー坊》ってんだ」

 

するとアリアは、何か不思議そうに俺とターコイズの顔を交互に見ていた。

 

「どうした?アリア」

「・・・ガーネットとターコイズを見て思いました」

「何を?」

「・・・ポケモンにはニックネームを付けるのが一般的なのですか?」

「・・・あー」

 

確かに、この面子でポケモンにニックネームをつけないのって、アリアだけだな。

 

「別にどっちでもいいんじゃねぇの?俺は親しみやすいからそう呼んでるしな」

「そうそう。種族名で呼んでもそのポケモンを愛せるならそれでもいいし、今からでもニックネームを付けて、ポケモンとの交友を深めるのもいいんじゃないかな?」

 

ターコイズの言葉に触発されたのか、アリアは少しだけ悩んだ様な仕草を見せると、全ての手持ちポケモンをその場に繰り出す。

ボールの中から話を聞いていたのか、さっき捕獲したばかりの海亀の様なポケモン、プロト―ガも含め、4体のポケモンは期待に目を輝かせながらアリアを見つめている。

うんうん。やっぱり種族名じゃ味気無かったんだろうな。これでまた一歩アリアの人間味が増して、ポケモンとの絆が深まるって言うんならこいつらにとっては前進だろうな。

暫く顔を伏せて悩んでいたアリアが顔を上げる。どうやら決まったようだ。

そしてアリアは、どこか自信を持った様子で口を開いた。

 

「・・・それでは《ねずみ》、《とり》、《アルマジロ》、《かめ》と名付けます」

 

瞬間、先程までのほのぼのとした空気は一瞬で凍った。

何と言うネーミングセンスだろう。ねずみって・・・かめって・・・そのまんまじゃん。

アリアの4体のポケモンに目を向けると、全員揃って大口をあけて、呆然としている。

アリアはこの空気が読めないのか、なぜかドヤ顔だった。

 

「・・・ねぇガーネット。この空気どうすればいいの?」

 

俺に聞かないでほしい。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

あの後、俺は何とかアリアを説得し、再び種族名で呼ぶ事を妥協してもらった。その時、アリアの手持ち達が一斉に安堵の息を吐いたのは決して気のせいではない。

 

「それで、どうする?送り火山に行くか?」

「え!?あ、いや!ぼ、僕はこのままミナモシティに行くよ」

 

なんか動揺し始めたターコイズ。

 

「1人で居る所をあの変態に襲われても知らないぞ?」

「嫌な言い方しないでよ!」

「・・・ですが、私達とあの男の戦力差を歴然。単独行動は危険です」

 

あの時の変態の言葉を思い出す。

 

『オレっちの手持ちはストライクだけだったからねぇ~。今は』

 

ストライク1体だけで俺達3人を相手にしながら6体倒したあの強さ。

あの時、他の手持ちを連れていたら俺達はすでにやられていただろう。

今の俺達が手持ちを増やした所で勝てるとはとても思えない。

 

「で、でも」

 

まだウジウジを答えを出せないターコイズ。

 

「何だよ?まさか、幽霊が怖いなんて言うんじゃねぇだろうな?」

 

送り火山はホウエン地方でも有名な肝試しスポットだ。実際、大人でも怖いらしい。

でもそう言うのの正体は大抵ゴーストポケモンだ。割り切ってしまえばどうという事は無いはず。まぁ多少はびっくりするかもしれんが、それが理由で行きたがらないトレーナーは居ないだろ。

 

「何を言ってるんだい?そんな訳無いじゃないか」

 

ターコイズは何ともないような風に応える。

でもターコイズ、だったら何でそんなに足が震えているんだ?俺には生まれたてのポニータにしか見えねぇよ・・・。

 

「・・・でしたら問題はありません。行きましょう」

「あー、いやでも」

 

《ガサッ》

 

その時、近くの木から何かが飛び出してきて

 

《ヒュバッ》

 

一瞬でターコイズの荷物を掻っ攫って行った。

 

「って、嘘ぉ!?こんなピンポイントに僕の荷物だけを奪って行くの!?」

「ターコイズ、不憫な子・・・!」

「・・・とりあえず、追いかけましょう」

 

ターコイズはボールまでは奪われなかったので、ぺリッパーを繰り出す。

それに続く様に俺とアリアはそれぞれ、ナツとムクバードを繰り出す。

ターコイズの荷物を奪って言った奴はやっぱりと言うかなんというかポケモンで、そのまま飛び去ろうとしている。巣ににでも持ち帰るんだろうか?

 

「・・・《オニドリル》」

 

アリアが図鑑を見ながらそう呟く。俺も図鑑を見てみると、そこには長い嘴が特徴のポケモン、オニドリルが映っていた。

 

「ナツ〝りゅうのいぶき〟!!」

「ちょっ!?」

 

ナツが放った〝りゅうのいぶき〟は距離が離れていたため簡単に見切られてしまった。

 

「ま、待ってよガーネット!」

「何だよ!?」

「今荷物を叩き落としたら、海の上に落ちちゃうよ!」

 

確かに、今俺達は海の上を飛んでいる。

ここで荷物を落としたら、中身はただじゃすまないだろう。だったらどうするか。

すると、あのオニドリルの前の方に、大きな山の様な浮島が見えた。そうだ!あそこに落とせば!でもどうするか?ナツじゃあの距離で飛び回るオニドリルに攻撃が当てられない。

 

「・・・あの島の上に落とせばいいんですね?」

 

そう言ってアリアは鞄から何かを取りだした。それは

 

「パチンコ?」

 

子供の頃の定番の玩具、パチンコだ。ただそのパチンコ、やたらと仰々しい鉄製で、本来Yの形で分かれている部分は何やら細工が施してあった。

 

「・・・以前ガーネットに破壊されたボウガンの代わりになる物を探していたら、あの船の中で見つけました。これなら、いけます」

 

そう言ってアリアはボングリを取り出し、パチンコの弾に見立てる。

ゴムを引っ張って狙いを定める。そうすること数秒、アリアはゴムから手を離し、ボングリは本物の弾丸の様に打ち出された!

ボングリは真っ直ぐにオニドリルに飛んで行き、足に当たる。すげぇ!あんな距離で当てられるなんて、プロ並みじゃねぇのか!?

高速で飛んできた固いボングリの衝撃に耐えられなかったのか、オニドリルは荷物を落とし、そのまま荷物はあの浮島の方へと落ちて行った。

 

「ちょっ!こっちに飛んできたよ!?」

 

ボングリを当てられて怒り狂ったのか、オニドリルは翼を折りたたみ、その鋭利な嘴をこちらに向けて、回転しながら突っ込んできた。〝ドリルくちばし〟か!?

でも近づいて来たってんなら好都合だ!今度こそ当てる!!

 

「〝りゅうのいぶき〟!!」

「キャサリン〝ハイドロポンプ〟!!」

 

〝りゅうのいぶき〟と、ぺリッパーが放った強力な水泡はオニドリルに直撃し、そのままオニドリルは海へと落ちて行った。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《ホウエン地方・送り火山》

 

 

 

 

「ガーネット、ここに入るのは止めよう」

「何言ってんだ。ここが目的地だっての」

 

ターコイズの荷物が落ちたのは偶然にも送り火山だった。

 

「・・・ここに入らなければ、鞄を取りに行けません」

「そう言うこった。さっさと行くぞ」

 

そう言って俺は、ターコイズの首を腕で絡めて引きずって行く。

 

「あー!!やめてー!!離してぇー!!」

 

ターコイズの言葉を無視して、送り火山の入口の扉を開くと

 

『はfkはk;fあhgはkhふぁklhkhf』

 

言葉にならない声と共に、大量のゴーストポケモンが押し寄せて来た。

 

「うおぁ「ぎゃあああああああああ!!!!」ぎゃー!!耳がー!!」

 

それと同時に俺のすぐ隣で大声を上げるターコイズ。み、耳がイかれそうだ・・・。

 

「・・・ゴーストポケモンの大群。プロト―ガ〝かみつく〟」

 

アリアはすかさずプロト―ガを繰り出し、ゴーストタイプが苦手とする悪タイプの技で応戦する。こうしちゃいられない!俺も応戦しねぇと!

 

「生まれ変わったらお金持ちになりたいぃぃぃぃぃぃ!!!」

「何もう来世に思いを馳せてんだオラァっ!!(バキッ!)」

「ブげらぁっ!!!」

 

現実逃避を図るターコイズを殴って正気に戻す。

そして、長い戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

「・・・敵、殲滅、完了」

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ごめん・・・なんか、取り乱した」

「はぁ・・・はぁ・・・良いって、別に」

 

あの後、ゴーストポケモン達は後から後から群がって来たが、俺達は手持ちポケモンを総動員させ、勝利を収めた。き、きつかった・・・!お月見山の時よりきつかった・・・!

 

「・・・彼らが起きる前に、目的の品を見つけましょう」

 

今俺達の周りには大量のゴーストポケモンが横たわっている。

こいつらがまた襲いかかってきたら、俺達が助かる保証はどこにもない。

さっさと用事を終わらせるっていうのは、俺も賛成だ。

 

「そ、そうだね。早く鞄を見つけて早く帰ぎゃああああああ!!!」

「どわあぁ!?」

 

何事!?またゴーストポケモンか!?

ターコイズの方を振り向いてみると、そこには

 

「風鈴?」

 

なぜか、風鈴が宙に浮いていた。

 

「・・・《チリーン》」

 

アリアはポケモン図鑑を確認する。ポケモンだったのか、こいつ。

とりあえずボールを構えてみるも、こちらに危害を加える様子はない。それどころか嬉しそうに体を揺らし、綺麗な音色を奏でている。

 

「だ、大丈夫?な、何かしない?」

「まぁ、こっちに危害を加える気がねぇみたいだし、ほっといてもいいだろ」

「・・・(こくり)」

 

今はターコイズの鞄と、この送り火山1階にあるというアリアの秘密を探さねぇと

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

あの後、ターコイズの鞄はすぐに見つかった。

しかし、肝心のアリアの秘密とやらは全くそれらしきものが見当たらねぇ。

 

「あの変態野郎・・・!騙したか・・・?」

「やっぱり、偽の情報だったのかな・・・?」

「・・・・・・・・」

 

アリアの方を見てみると、相変わらずの無表情に見えるが、どこか落胆しているようにも見える。この旅で培った俺の勘だけど。

何とかして手掛かりを見つけてやりたいが、何処にあるんだか・・・。

 

「・・・・・・?」

「?どうした、アリア」

 

すると、アリアは何故か後ろ向きに歩き始めた。

 

「どうしたの?アリア」

「・・・何かに、服を引っ張られています」

「何!?」

 

まさか、またゴーストポケモンか!?

アリアが引っ張られる方を見てみる。そこには先程のチリーンが居た。

 

「や、やっぱり何かする気なんじゃ・・・!?」

「・・・待ってください」

 

ボールを構えた俺とターコイズをアリアが制する。

 

「・・・どうやら引っ張られているだけの様です」

 

そう言うので、とりあえず様子を見てみようか。妙な真似したら叩き割るけどな。

 

「ねぇガーネット。アリア」

「・・・・?」

「何だ?」

 

ターコイズが話しかけて来た。

 

「あのチリーン、送り火山出身なんだよね?」

「ここに住んでるならそうなんじゃねぇの?」

「だったらさ、アリアの秘密について、何か知ってるんじゃないの?」

 

あ!確かに、ここに住んでるってんなら、何かを見たって言われても納得できる!

しばらくすると、アリアは1つの墓石の前まで連れて来られた。

 

「えーっと、『ハピナスのランラン、ここに眠る』・・・?」

「一見、普通のお墓みたいだけど・・・」

 

これが、アリアの秘密なのか・・・?

 

「・・・これ」

「どうした、アリア」

「・・・何かを引きずった痕があります」

 

そう言われて見てみると、そこには2本の黒い線の様な物が並列に伸びていた。

線を追ってみると、そこには先程のハピナスの墓があった。何だ?これ。

 

「・・・これってもしかして」

 

ターコイズがそう呟くと、突然墓石を押し始めた。

 

「・・・ここに何かがあるのですか?」

 

アリアがチリーンに問い掛けると、チリーンはしきりに頷いた。

 

「どうやらビンゴみたいだね。ガーネット!押すの手伝って!」

「おっしゃ!」

「いくよ!せーのっ!!」

 

俺とターコイズは力一杯重たい墓石を押す。

墓石はゴリゴリと、音を立てて動き始めた!

 

「もうちょっとだ!!ぬうあぁぁぁおわぁっ!?」

「うわたぁっ!?」

 

瞬間、何かに足を取られ、同時に転ぶ俺とターコイズ。

 

「・・・ガーネット、ターコイズ、無事ですか?」

「な、何とかな」

「これは・・・窪み?」

 

墓の下から段差の様な物が見られる。これに足を取られたのか。

 

「もう一丁行くぞ!」

「う、うん」

 

今度は左右側面について墓石を引っ張る。

しばらくすると墓石は動き始め、それに釣られて中の窪みはどんどん深くなっていく。

そして、墓石の下から出て来た物は

 

「・・・階段?」

 

何処までも続く、深い深い階段だった。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:12210円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv,31

メリー/モココ  ♂ Lv,29

イヴ/イーブイ  ♀ Lv,27

マー坊/マンキー ♂ Lv,25

 

 

 

名前:アクアマリン

年齢:10歳

性別:女

所持金:10540円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv,30

ムクバード ♂ Lv,28

サンド   ♀ Lv,28

プロト―ガ ♂ Lv,27

 

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:11849円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv,29

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv,29

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv,27

ライル/ドラピオン   ♂ Lv,28




ポケモンのLv,が低いのに、進化している事なんざよくあるこった、気にすんな!
次回、ポケットモンスターSP新たなる図鑑所有者

「それぞれの旅路 中編」!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 中編

少し書き方を改めてみました。
久しぶりの投稿です。


墓の下から現れたのは、人一人が通れるぐらいの幅の階段だった。

 

「・・・階段、ですね」

「この下に、アリアの秘密ってのがあるのか?」

「普通に考えればそうなんだけど・・・」

 

何せこの階段、かなり深い。

得体の知れない物への恐怖が、俺達の足を縫い付ける。

 

「でもよ、ここで立ち止まっててもしょうがねぇんだ。だったら行くしかねぇだろ」

「・・・(こく)」

「う、うん」

 

とりあえず、俺達はこの階段を下りる事にした。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

「で、そのチリーンも連れて行くのかよ?」

「・・・肯定」

 

この階段を下りていく際、この階段の在り処を教えてくれたチリーンも一緒に付いて来てくれるという。ただし、ターコイズは何が目的か、いまいち解らないみたいでビクビクしてるけど。そんなにビビる事は無いんだけどな。今もアリアの肩に擦り寄ってご満悦みたいだし。

 

「でも何でそんなにアリアに懐いてるんだろ?」

「確かにな」

 

いきなり野生で出て来たポケモンにしちゃ妙に人懐っこい。しかもアリアにだけ。

 

「アリア、お前なんかした?」

「・・・何をですか?」

「・・・。いや、俺が聞いてんだけど」

 

結局理由は分からずか。まぁ実際エスパーポケモンのチリーンが居てくれれば助かる場面も多いだろうし、もしかしたらこの階段の下に、チリーンが俺達をここへ導いてきた理由があるのかもしれない。

 

「しっかし長い階段だな~」

「・・・降り初めてすでに5分経過しています」

「こんなに深く階段を掘って、下に何があるってんだ?」

「・・・不明」

「あ!見て2人とも!」

 

ターコイズが指を指している場所を見てみると、そこには防火扉が道を遮っていた。

真ん中には樹をモデルにしたようなマークが描かれていた。

 

「何だこのマーク?」

「エコマークか何かかな?」

「・・・扉、開くみたいです」

 

アリアが扉に付いているデカいドアノブを回しながら押すと、ギィイイと鈍い音を立てながらゆっくりと、扉が開いた。アリアとチリーンはそのまま中へ入って行った。

 

「アリア!もうちょっと慎重に開けようよ!!」

「まぁいいじゃねぇか。何にも無かったんだし」

 

ターコイズを宥めてから俺も中に入ってみる。するとそこには

 

「な、何だここ!?」

「・・・大量の計算機器ですね」

「フラスコにビーカー、それに何?この良く分からない化学式」

「何かの研究施設か?」

「・・・人の気配は感じられません」

「もう引き払った後なのかな?周りにある棚には何も入って無い」

 

その時、ベルトに挿してあるモンスターボールの内の1つ、正確にはナツが入っているボールが大きく揺れ始めた!中を見ていると、ナツがボールを叩いて何かを訴えかけている。

 

「一体どうしたってんだ、ナツ!?」

「うわわわ!?どうしたのジャック!?」

「・・・ピカチュウ?」

 

どうやらアリアとターコイズのボールも震えだしたみたいだ。

 

「とりあえずボールから出そう!」

「おう!」

「・・・了解」

 

ボールからナツを出してみると、唸り声を上げながら辺りを見渡している。どうやらアリアのピカチュウ、ターコイズのジャノビーも同様みたいだ。

 

「・・・色違いの個体だけが、不穏になっている?」

「本当だ」

 

現に他のポケモン達には特に変化が見られない。どういう事なんだ?

 

「あ!船の上で戦った人が行ってた台詞!」

「あの変態の台詞だ~?」

「ほら!あの人、やけにこの3体が気になる様な台詞を言ってた!」

 

あぁ、そういや何か言ってたような・・・。

 

「あの人の言葉を信じるなら、ここはアリアだけじゃなくて、この3体にも関わりがある部屋なんだよ。アリア、そのピカチュウ何処で捕獲したの?」

「・・・申し訳ありません。私もこのピカチュウと、それからこのムクバードとは何処で知り合ったのか、あまり覚えていないんです。ただ、この2体は私の事を知っていたようで」

 

アリアがそう呟くと、ピカチュウはどこか寂しげな瞳でアリアを見上げている。

やっぱり自分とトレーナーとの出会いを忘れられちまったのはショックだったんだろうか。

 

「ん?何だこれ?」

 

ふと、机の上に放置されているファイルが目に入った。何のタイトルも書かれていない、一見新品のファイルにも見えるが、結構な量の紙がスクラップされている。

 

「何かの研究資料かな?」

「・・・見てみましょう」

 

『○月×日 天候:晴れ

本日よりポケモンの遺伝子研究が開始される。

カントー地方のロケット団と取引を行い、イーブイの生態調査を開始する』

 

「・・・数年前の記録ですね」

「ロケット団っていったら3年前にポケモンリーグチャンピオンのレッドと準優勝のグリーン、3位入賞のブルーの3人組が壊滅させたって、当時は大きなニュースになってたよね」

「俺的には取引とやらにイーブイが扱われているってのが気に入らん」

 

同じイーブイと闘うトレーナーとして余計に。

そこから先はやれ進化だの、やれ遺伝子の組み換えだのと良く分からない事ばかり書いてあった。俺達は内容が理解できないままページを進めて行った。

 

「あれ?このページ」

「・・・これは」

 

『△月〇日 天候:雨

ポケモン研究の第一人者、オーキド博士が特別な研究対象として、ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネを調査しているという情報を得る。我々の独自の調査により、これらのポケモンがカイリューやバンギラスなどと言った非常に高い能力を持つポケモンをも凌駕するポテンシャルを秘めているという事が判明した。今回の会議では、これらのポケモンの力をどう活用するか話し合われる』

 

『△月●日 天候:晴れ

前回の会議で、ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネの細胞を他のポケモンに組み合わせる事で、3体の潜在能力を引き継ぐ強力な個体を生みだす研究が開始される事が決定した。本日より3体の細胞に適応するポケモンの捕獲を開始する』

 

『□月×日 天候:曇り

ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネの細胞に適合する3体のポケモンが決定する。

ヒトカゲの細胞はナックラー。

ゼニガメの細胞はピチュー。

フシギダネの細胞はツタ―ジャと組み合わせる。

個体を識別するため、品種改良を行い、色違いポケモンにする』

 

「これってもしかして、ジャック達の事?」

「・・・文章の流れからだと、そう思われます」

「お前ら、ここで酷ぇ目に遭わされたからこんなに気が立ってるのか?」

 

しきりに頷く3体のポケモン。道理で、冷静な性格のナツが荒れてると思った。

 

「悪ィな、お前ら。もうちょっとだけ付き合ってくれ」

「・・・あと少しで終りますので」

 

ページの数はもう後僅か。一気に読んじまおう。

 

『□月▼日 天候:雨

緊急事態発生。ナックラー、ピチュー、ツタージャが檻を破って脱走する。ピチューはその場で捕える事が出来たが、ナックラー、ツタージャは波に攫われて、行方は判明せず』

 

『▼月〇日 天候:晴れ

色違い個体、ピチューをロストタワーへにある研究所へ移送・・・』

 

「あ?こっから先は何も書かれてねぇのかよ?」

「どうやら書いてる途中で何らかの理由で中断されたんじゃないかな?でも」

「・・・ロストタワー。これが、新しい手掛かり」

「あぁ。これでまた、道が繋がった・・・!」

 

新しい手掛かり、ロストタワー。

上等じゃねぇか、そこにまたアリアの秘密があるなら行くっきゃねぇだろ。

 

「と、とりあえず、ここの事は、警察に任せた方がいいよね?」

「そうだな。俺らが手に負えるような事じゃなさそうだ」

 

ポケモンの人権(?)を侵す様な生体実験は、協会により固く禁じられている。

普通なら俺たちみたいな子供が警察に行っても悪戯で済まされちまうけど、このファイルがあるし、なによりこの研究所が何よりの証拠になるだろう。

 

「・・・!?」

 

その時、アリアが急に辺りを見渡し始めた。

 

「どうした、アリア?」

「・・・今、何か足音らしきものが聞こえました」

「ちょっ!?や、やめてよアリア!」

「・・・今、こっちに近づいてきています」

 

そう言って、まだ行っていない方の廊下に指を指すアリア。

その時、俺とターコイズの耳にもカチャカチャと、人間ではない、ポケモンのものらしき足音が聞こえて来た。

 

「と、とりあえず、隠れよう」

「そうだな」

 

俺達は廊下の方から見れば死角になる机の下に隠れた。

この机は足が無く、覗いても反対側からは見えないようになっているので、何とかしてやり過ごそう。念には念を入れてナツ、ピカチュウ、ジャノビーをボールの外に出してるし、そして同行しているチリーンも居る。いざって時は全力で逃げ切ってやる・・・!

 

「・・・足音が、このフロア内で止まったみたいです」

 

アリアの言う通り、足音が止んだ。

足音が止んだのはいいが、なんか、荒い息使いみたいなのが聞こえてくる。

 

「ターコイズか?」

「僕じゃないよ!」

「・・・静かにしてください」

 

俺達は小声でやり取りを行う。

 

「一体どんな奴が?」

 

俺達は机の影から顔を覗かせ、足音の主を見る。そこには

 

「な、何、あれ?」

 

人間ほどの身の丈の細い体。

全身が黒い皮膚に覆われ

 

「あ、あんな奴が、いるのか?」

 

頭には2対の捻じれ曲がった巨大な角。

全体的な体の大きさに合わないアンバランスな大きな頭と顎。

 

「・・・・・・・」

 

血の様に赤い2つの目が、何処ともつかない虚空を見据えていた。




この作品と同時に《バカとオタクと召喚獣》を投稿させていただいてます!
次回は、謎の生物とバトルです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 中編Ⅱ

久しぶりの更新です。やっぱり2作同時はきついですね。
しかしその分ネタも考えているので、これからはもっと早く更新できるように頑張ります!


「とにかく逃げよう、2人共」

 

開口一番でターコイズが小声でそう言ってきた。

確かにあの黒いポケモン(?)がどんな奴か解らないし、ポケモン図鑑で確認しようにも図鑑の起動音でこっちに気付かれる可能性が高い。

 

「・・・チリーン?」

「どうした?」

 

アリアの方を向いてみると、チリーンがあの黒いポケモンを睨みつけている。

 

「・・・どうしたのですか?」

「もしかして、知ってる奴か?」

「ねぇ、2人共。送り火山に入って来た時の事、思い出したんだけどさ」

 

ターコイズは歯をカチカチ鳴らしながら震えた声で話しかけて来た。

 

「あの時か?」

 

なぜかゴーストポケモンの大群に襲われた時の。

 

「ポケモンってね、種族にもよるけど群れで襲いかかるような事はしないんだ」

「・・・そうなのですか?」

「でも僕等は群れで襲われた。それが何でだろうって疑問に思ってたんだよ」

 

ターコイズは一拍置いてから口を開いた。

 

「その理由が今、はっきりと分かった」

 

そう言ってターコイズは、あの黒いポケモンを見た。

 

「つまり何か?上に居たゴーストポケモンの群れが、この地下に居るあいつにビビってたから、扉が空いた瞬間に外へ逃げ出そうとしたってのか?」

「そう言う事だと思う」

「じゃあこのチリーンもか?」

 

俺がそう言うと、チリーンは首を横に振った。

 

「違うのかよ!?」

「・・・あのポケモンを、排除してほしかったからですか?」

 

アリアがそう呟くと、チリーンは静かに頷いた。

そうか。だからチリーンは俺達をここまで連れて来たのか。あいつがここに居続ける限り、送り火山のポケモンは目に見えないあいつに怯え続ける事になる。だからあいつに勝てそうなトレーナーが来るのを待ち続けて、そこに俺達が偶々現れたってことか。

 

「はぁ、仕方ねぇな」

「え?ガーネット・・・?もしかして・・・戦うつもり!?」

「知っちまった以上、知らん顔ってのも後味悪いからな。ちゃっちゃと追っ払っちまおうぜ。そうすりゃ、この山のポケモンは安心だろ」

「・・・賛成」

「えええぇぇぇぇ!?ここはポケモン協会の人に任せようよ!!ほら、こうして出動してもらう為に研究記録のファイルだって」

 

ポタッ!←(天井から落ちて来た液体がファイルに当たる音)

 

ジュワッ!←(一瞬のしてファイルが腐り果てる音)

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」」」

 

おかしい。今なにが起きたか理解できない。

上から落ちて来た液体がファイルに当たった瞬間、一瞬でファイルが腐ったぞ?

 

「・・・ピカチュウ、戦闘態勢」

 

アリアが天井を見上げながらそう呟いた。ピカチュウも体を帯電させながら上を見てみいる。それに続く様に俺とナツ、ターコイズとジャノビーが天井を見る。

 

「これはもう、戦うしかねぇみたいだな」

「・・・・・何でこうなるのさ」

 

いつの間にか、あの黒いポケモンが天井に張り付いて俺達を凝視していた。

 

「ターコイズがでかい声出すから」

「えぇ!?僕!?」

「お前以外に誰が居るんだよ!?」

「・・・無駄口はそこまでです、2人とも。来ます」

 

ドゴォッ!と、大きな音と共に黒いポケモンは天井を蹴って俺達が居る場所へと落下する。

 

「うわぁぁぁ!」

 

俺はそれを横に転がりながら回避し、奴を見る。

天井には大きな穴が開いていた割には、奴が着地した場所はどうにもなっていない。見た目どうり体重はそこまで重くはない様だが、筋力はあるようだ。

 

「ナツ!〝とんぼがえり〟!!」

 

ナツは奴の右斜め後ろ、死角から突撃し相手を蹴る反動ですぐさま戻ってくる。

ヒット&ウェイに優れた虫タイプの技だ。

 

「■■■■■■!!!」

「うるせ・・・!」

 

奴は声にならない雄叫びと共にその赤い目をこちらに向ける。

すぐさま四つん這いになったと思ったら、そのまま四肢の力に任せて、弾丸の様なスピードで突進してきた!

何とか避けねぇと・・・!

 

「くそったれ・・・!」

 

駄目だ!間に合わねぇ!!

 

「■■■っ!!」

 

俺は盾になってくれたナツ諸共壁に叩きつけられた。

 

「がはぁっ!?」

「ガーネット!?」

 

何とか痛みを堪えて眼を開けてみると、奴はすでに俺の目の前まで肉薄して腕を振り上げていた。やべっ!今回は本気でやられるかも・・・!

そしてそのまま奴の腕は、俺とナツ目掛けて振り下ろされた!!

 

「ジャック!〝リフレクター〟!!」

 

その瞬間、俺の目の前にガラスの壁の様な物が形成され、奴の腕を阻む!

しかし、奴はもう一度腕を振り上げて〝リフレクター〟の壁を殴ろうとする。

 

「ピカチュウ〝でんじは〟」

 

その攻撃を阻む様にピカチュウから放たれた電撃が奴に直撃し、奴の体が硬直する!硬直と言ってもほんの数秒しか持たないだろうけど、これはチャンスだ!

 

「〝りゅうのいぶき〟!!」

 

俺の指示を受け、すぐさまナツの口から強烈な息吹が吐き出され、奴に直撃する!

 

「■■■■■■■■■■ーーーーーーっ!!!!」

 

そのまま奴は絶叫と共に壁まで吹き飛ばされた!はっ!ざまぁ見やがれ!

 

「・・・まだ、終わりではありません」

「効いてはいるみたいだけどね」

 

奴はゆらりと立ち上がると、赤い目を更に赤くして俺達を睨みつける。

 

「ん?何やってんだ、あれは?」

 

突然頬を膨らませて、モゴモゴと動かし始めた。

奴の行動の意味が分からないが、とにかく油断しないに越した事は無いな。

 

「・・・・っ!!ガーネット!アリア!僕の所まで来て!早く!!」

 

ターコイズがいきなりそう叫んだ。理由は分からないが、とにかく行くしかねぇ!

俺は体の痛みを無視してターコイズの所まで走る。

 

「〝ひかりのかべ〟!!」

 

俺とアリアが到着するのを確認すると、ジャノビーは目の前に光の壁を作りだした。

 

「■っ!!!」

 

光の壁が形成されるのと同時に、奴は口からに何かを噴出した!これは・・・

 

「よだれ!?」

 

奴は口にため込んでいたよだれを広範囲にわたり棲様じい勢いで吐き出した!

辺りを見渡してみると、唯一光の壁に守られている俺達を除き、机や壁、床や天井までもが煙を上げて溶解している!

 

「・・・〝ようかいえき〟ですか?」

「俺〝ようかいえき〟ってもっとこう、ドロドロしてるもんかと思った!!」

「これじゃあ、まるで散弾銃みたいだよ!!」

 

〝ようかいえき〟もどきが止む頃には、周囲は鼻に付く独特の臭いと煙に包まれていた。

 

「くっ・・・!周りが見渡せねぇ!!」

 

その時、奴は煙を突き破るように飛び掛かって来た!

 

「ジャック!〝リフレクター〟を」

「駄目だ!間に合わねぇ!!」

 

奴の腕が俺達に振り下ろされようとしていた。ここは〝まもる〟を使って・・・!

 

《リイイィ――――――ンッッ!!!》

 

その瞬間、すぐ近くから甲高い音色が鳴り響く!音の発信源は・・・チリーン!?

一瞬、周りの空気が歪んだかと思うと、飛び掛かってきていた筈の奴が弾き飛ばされた!

 

「ピカチュウ、〝10まんボルト〟」

 

そのまま宙に浮かんだ奴を、ピカチュウは的確に電撃を浴びせる!奴は煙を上げながら地面に落下すると、落ちた時の風圧で周囲の煙が晴れ始めた。

 

「しかし、今のは何だったんだ?」

「ガーネット、これを見て!」

 

そう言ってターコイズはポケモン図鑑の画面を俺に向けて来た。

そこにはチリーンの生態に関する詳細が表示されている。

 

「空気を振動させて、外敵を吹き飛ばす事で自分の身を守るって書いてある!」

「小っこい割には意外とやるじゃねぇか!」

 

吹き飛ばされた奴を見てみると、〝10まんボルト〟を食らってもまだ起き上がろうとしていた。もう反撃の隙は与えねぇ!!

 

「起き上がるならもう一度はっ倒せ!!〝はがねのつばさ〟!!」

 

起き上がろうとしている奴の首目掛けて、ナツはラリアットの要領で硬化した羽を叩きこむ!今度は頭から床に叩きつけられ、奴は今度こそ動かなくなった。

 

「何とか勝てたな、ナツ・・・!」

「・・・助かりました、ピカチュウ、そしてチリーン」

「お疲れ、ジャック」

 

俺達はポケモンを労いながらボールに戻していく。その場に残ったのは野生のチリーンだけだ。だが、大きな謎は今だに残ったままだ。

 

「こいつは何ていうポケモンなんだ?こんな奴見た事ねぇよ」

「・・・私もです」

「ちょっと待ってて。今調べるから」

 

ターコイズはポケモン図鑑を起動させる。

 

「あれ?」

「どうかしたのか?」

「いや、このポケモンには図鑑が一切反応しないんだよ」

「えぇ?」

 

試しに俺とアリアが図鑑を起動させて、ポケモンを検索する。

ところが画面にはポケモンの項目に載っていないどころか、検索失敗のエラー表示すら出てこない。本当に無反応といった具合だ。

 

「・・・ポケモンではない、全く別の生物?」

「つまり、何だ?こいつはそこら辺に居る魚や虫みたいな奴ってことか?」

「それの物凄いバージョンだね。ポケモンとは違う生物なのに、ポケモンと同等の力を持つ生物なんて、見た事も聞いた事もないよ」

「・・・・・・・・・・・」

「?どうした、アリア?」

「・・・あれは」

 

アリアが指を指す方を見てみる。そこにはさっき倒した奴が居るはずなんだが

 

「え、えぇぇええええ!!?」

「何だこりゃあぁあ!!?」

 

さっき倒した奴は確かにそこに横たわっている。しかし様子が明らかにおかしかった。

 

「体がどんどん白くなって・・・!」

 

あの黒かった体がどんどん白くなり、表面はまるでひび割れの様な亀裂が走っている。

 

「・・・あ」

 

バキッと、乾いた音が鳴ると、奴の体はまるで灰や塵で出来ていたかのようにボロボロと崩れ始め、やがてそこには真っ白い粉の山が出来上がった。

 

「おいおい、こいつはどういう事なんだ!?」

「そんなの僕に聞かれても分からないよ!」

 

何が起きたのか、何でこうなったのか、何もかもがさっぱり分からない!

 

「・・・・・・」

 

アリアはあの黒いポケモンだった粉のすぐ近くにしゃがみ、じっと粉の山を見つめていた。その瞳は、いつもと同じようにも見えたし、無残な最期を迎えた奴を憐れむ様にも見えた。

その姿を見ると、不思議と落ち着きを取り戻せた。普段から動じない奴でも、こんな状況じゃあ動じるんだなって思うと。

 

「次に行くとすれば、ロストタワーって所だけど、行くか?」

「・・・行きます」

 

俺はいつもと変わらない調子で、そう言ってのける。

アリアはスッと立ち上がり、真っ直ぐに俺を見つめ返してきた。

自分が何者なのか知りたい。そう言ってアリアは俺達とここまで来た。今更引き返すなんて選択肢はないのかもしれないな。

 

「それじゃさっさと」

 

行こうぜ、と言おうとした瞬間、地面が大きく震えだした!

 

「な、何これ!?地震!?」

「・・・っ!」

「危ねぇアリア!」

 

振動の影響でアリア目掛けて天井から石が落ちて来た!俺はアリアの手を引いて石を避けさせる。これって映画とかでもよくある・・・!

 

「もしかして、さっきの戦闘で・・・!」

「・・・このままだと、生き埋めになります」

「冗談じゃねぇ!逃げるぞお前らあぁ!!」

 

アリアの事もまだ何も分かってねぇし、写真だってまだ撮りたいものが一杯あるってのに、こんな所で死んでたまるか!!

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

キャラクターデータ

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:12210円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv,32

メリー/モココ  ♂ Lv,29

イヴ/イーブイ  ♀ Lv,27

マー坊/マンキー ♂ Lv,25

 

 

名前:アクアマリン

年齢:10歳

性別:女

所持金:10540円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv,31

ムクバード ♂ Lv,28

サンド   ♀ Lv,28

プロト―ガ ♂ Lv,27

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:11849円

 

手持ちポケモン 

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv,30

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv,29

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv,27

ライル/ドラピオン   ♂ Lv,28




皆様からの意見、ご指摘、ご感想をお待ちしております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 後篇

かなり久々の投稿です。ネタ切れしてる訳じゃないんですが、他の作品もあったのでなかなか手が回りませんでした。


   

 

 

「え?今、連絡船出てないんですか?」

 

あの送り火山での戦闘の後、俺達はミナモシティに到着した。次の目的地、シンオウ地方へ行く為に連絡船乗場まで来た訳だが

 

「誠に申し訳ありませんお客様。先日連絡船は複数の《サメハダー》に襲われまして、現在運航を見合わせております」

 

サメハダー。一体でタンカーをバラバラにするほどのパワーを持つポケモンか。なるほど、修理に時間がどれほど掛るか分からないという事か。

 

「シンオウ地方へお急ぎでしたら、現在こちらの『豪華客船で行く ホウエンからイッシュ往復十日間の旅』と言う旅行が企画されておりまして、途中のシンオウ地方で降りる事も出来ますよ。こちらでしたら明後日に出発しますし、現在当日券を販売しております」

「あのー、それってどのくらいお金が掛るんですか?」

「お一人様53900円となっております」

 

「「ちっくしょーーーーーー!!!」」

 

無慈悲な金の世界で、俺とターコイズは絶望した。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

「足りない。僕達三人の所持金合わせても誰一人乗れないよ」

「いや、マジでどうするよ?これに乗らないと次はいつ出発できるか分からねぇぞ?」

 

豪華客船の旅のチラシと睨めっこすること1時間。何の対策も思い浮かばない。

 

「どうする?そこらへんのトレーナーに片っ端からバトル仕掛けるか?」

「出発は明後日だよ?絶対に間に合わないよ」

「金持ってそうな奴を片っ端から襲いかかるってのは?」

「聞き様によっては追剥か何かだよね、それ」

 

失礼な。れっきとした勝者への報酬だ。

 

「・・・ただ今戻りました」

「おう、おかえり」

 

俺とターコイズがあれこれ悩んでいると、買い物に行っていたアリアが戻って来た。顔の横には送り火山で出会ったチリーンが浮いている。

あの戦闘の後、アリアに懐いたチリーンはそのままアリアの手持ちに加わったのだ。

 

「・・・どうかしましたか?」

「いや、それがな、連絡船今修理中で使えねぇんだと」

「乗れるとしたら、一人53900円の豪華客船だけなんだよ」

 

どうすっかな。一人で100人、合計300人位倒せば、あるいは

 

「・・・そういえば、先程店でこんなものを渡されました」

「あん?」

「福引券だね」

 

アリアが取りだした1枚のチケット、それは福引券だった。辺りを見てみると、テントに人が集まっている。あそこで福引をしているんだろう。

 

「それは福引って言ってな、それは渡したらあそこでクジが引けるんだよ。それで当たりが出れば何か、景品が貰えるんだよ。出なかったらティッシュが貰える」

「・・・興味深いですね、私も行ってきても良いですか?」

「おう、行って来い」

 

そう言ってアリアは少しだけ楽しそうにテントへ向かった。女ってのはタダって言葉に弱いのかね?ニビシティのオバちゃん連中も福引大好きだったし。

 

「ガーネット、あれ1枚で当たると思う?」

「無理だろうな。俺今までティッシュしか当たった事ねぇもん」

「僕もだよ。あれ実は当たり入って無いんじゃない?」

「そうやってアリアも汚い大人の策略に弄ばれて、大人になるんだなぁ」

 

大人は卑怯だ。何時だって俺達子供の純真を弄び、利用しようとする。

 

「それより問題はどうやって船に乗るかだよ。それこそ明日1日でトレーナー百人切りしないといけない位にお金が足りないんだけど」

「こうなったら船に忍び込んで」

「えぇ!?それは不味いって!!」

「・・・ただ今戻りました」

「あ、おかえり」

 

アリアが戻って来た。汚い大人の策略に弄ばれて。

 

「アリア、どんなティッシュが当たったんだ?」

「・・・ティッシュ?」

「いや、皆まで言うな。福引なんてそう簡単に当たるもんじゃねぇんだ」

「・・・当たりましたよ」

「「え!?」」

「・・・何故そんなに驚くのですか?」

「バカな・・・!たった1枚で当たりを引いたと言うのか・・・!」

「それで、何が当たったの?」

「・・・これです」

 

アリアが鞄の中に入れていた居た景品を俺達に見せる。そこには

 

 

『豪華客船で行く ホウエンからイッシュ往復十日間の旅 4名様』

 

アリアの背中に、後光が差して見えた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

「旅を始めて数週間、まさかこんな豪華な船に乗れるとはな」

 

アリアが福引を当ててから4日が経ち、俺達は今、豪華客船タイドリップ号の広間でバイキングと言う名の食い放題を満喫していた。

 

「今更だけどすごく豪華な船だよね。明日降りなきゃならないのがもったいない位」

「この食堂も人間用とポケモン用とで完璧に分かれてるしな」

「・・・船内の見取り図によると、バトル用の部屋が10ヶ所ある様です」

 

今俺達3人の手持ちポケモン全員が、好き勝手に飯を食っている。普段は食べられない豪華な食事にご満悦の様だ。

 

「ここで記念にパシャリ」

 

食事中のポケモン達に向けてカメラのシャッターを切る。この船旅の思い出の一つがまた増えた。ここに来てからカメラが手放せないな。

 

「あ~もう食えねぇ」

「・・・ポケモン達も、食事を終えた様です」

「どうする?食後のバトルでも行く?」

「行かねぇよ。あいつらも満腹みたいだしな」

 

食後の愉悦に浸っている所を邪魔するのも何なので、俺達はそのまま広間を後にした。外に出ると潮風が体を撫でていく。

 

「明日はとうとうシンオウ地方だね」

「旅を始めたころは、もっと後に行くかと思ってたけどな」

 

明日の昼頃にはシンオウ地方最北端、キッサキシティに着くだろう。年中雪が降り積もる極寒の土地だ。今の内に船内の売店で防寒着を買っておくか。

 

「・・・ガーネット、あれを見てください」

「ん?・・・おぉ!!」

 

アリアが指を指した先、それは《ホエルオー》の群れだった。

その巨体が一斉に海中から飛び上がり、大きな水柱を上げている!これが世にも有名なホエルオーの群れの大ジャンプか!

 

「こりゃぁ、いいタイミングで外に出たもんだ!!」

 

カメラを取り出し、連続でシャッターを切る。なかなか見れるものじゃないだけに、写真は一枚でも多く残しておきたい。

 

「うわー、ダイナミック・・・!」

「・・・凄く、大きいです」

 

船は1~2分ほどでホエルオーの群れを通り過ぎ、その姿は見えなくなった。

 

「ねぇ、ガーネット」

 

それを見計らったように、ターコイズが話しかけてきた。

 

「んだよ?」

「ガーネットはさ、写真家になるのが夢なんだよね?」

「おう、それがどうした?」

「それって、写真家一本で生計立てていくの?」

 

そんな事を聞いてくるターコイズ。写真家一本でか、その答えは

 

「いいや、写真の方は副業にしようと思ってる」

「え?」

「写真家ってのは、よっぽどの奴でもなけりゃ儲からなくてな。俺にも生活があるし、こいつらの面倒も見ていかなきゃならねぇ」

 

俺は腰に付けてあるモンスターボールに手を当てる。俺も一端のポケモントレーナーだ。だったらこいつらの面倒は一生見る義務があると思っている。

 

「ま、問題の仕事は何も決めてねぇんだけどな」

「・・・・・・・・・そっか」

 

そう呟くと、ターコイズはジッと海を眺めていた。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

《間もなく、シンオウ地方キッサキシティに到着します。お降りのお客様は、忘れ物が無い様にお願いいたします》

 

船内にアナウンスが流れる。俺は昨日の内に買っておいた防寒着を着て外に出る。アリアとターコイズはもう準備を終わらせて待っていてくれた。

 

「・・・すごく寒いです」

「流石はシンオウ最北端。すっげー雪」

 

見渡す限り辺りは雪で埋め尽くされている。遠くに何があるのか見えない位だ。

そして俺達はタイドリップ号から降りた。地面に足を付けると、ズブッと10センチ足が雪に埋もれた。かなりの深さだ、町の中でこれなら外はもっと深いだろう。

 

「とりあえず、217番道路に向かってテンガン山まで行こう。コトブキシティに行くかロストタワーに行くかはそこで決めようよ」

「・・・了解」

 

そして俺達は、店で道具類を補充してからキッサキシティを後にした。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

「やばいな」

「やばいね」

「「いきなり迷うとは」」

 

キッサキシティを出発して1時間半、俺達は217番道路のどこかで迷子になっていた。くそっ!!こんな吹雪の中で土地勘のない奴がいきなり外に出るもんじゃねぇな!!ポケギアの地図機能によると、一応217番道路らしいけど、ここからどう行けばいいのかさっぱりだ。

 

「・・・ガーネット、ターコイズ、あれを見てください」

「あれ?」

「どれの事だよ?」

 

アリアが何もない方向へ指を指した。そう言えばこいつ、さっきからやけに静かだったな。何時も静かな奴だったけど、今はもう無口のレベルだ。

 

「・・・あそこに川と花畑が」

「戻って来いアリア!!その川を渡るんじゃねぇ!!」

 

フラフラと歩き出したアリアを全力で引き留める。掴んだ体はやけに冷えていて、プルプルと小刻みに震えていた。こいつ、寒がりだったのか・・・!

 

「・・・六銭?それであの川を渡れるんですか?」

「ガーネット!早くここを脱出しないとアリアが大変な事に!!」

「分かってる!!とりあえず・・・・・・っ!」

 

吹雪の音に紛れて、ボシュっと何かが発射された様な音が聞こえた。その発射された何かは吹雪を突き破り、俺に向かって高速で迫って来た!

 

「危ね!!」

 

体を仰け反らせて何とか回避する。それはどごぉと大きな音を立てて俺の後ろにあった木に直撃した。見てみると、それは大きな植物の種だった。

 

「ガーネット!それは〝タネばくだん〟だ!!近くに野生のポケモンがいる!」

「分かってる!!アリア、大丈夫か!?起きろ!!」

「・・・今の音で目が覚めました。問題ありません」

 

少し辛そうに見えるが、今は非常時だ。アリアにも何らかの行動を取らせないといけない。それなら出来るだけアリアに負担が掛らない様に立ち回らなれと!

 

「イヴ!」

「ルージュ!」

「ピカチュウ」

 

俺達はそれぞれポケモンを繰り出す。すると、相手もその姿を現した。太く、背丈の小さな樹氷の様なポケモンが8体出て来た。

 

「あれは《ユキカブリ》、氷と草タイプのポケモンだよ!」

 

ターコイズが図鑑で相手の詳細を確認する。氷と草ってんなら、ターコイズのドンメルとの相性は抜群だ。ここはドンメルをメインに戦った方がいいか?

そうこう考えていると、ユキカブリ達は一斉に腕をこちらに向けて伸ばしてきた。恐らく〝タネばくだん〟だろう。あれだけの数を一斉に撃ち出されたら、大ダメージは必須だ!

 

「相手の視界を遮ります。ピカチュウ〝フラッシュ〟」

 

ユキカブリ達が〝タネばくだん〟を発射する前に。ピカチュウから強烈な閃光が放たれ、ユキカブリの群れは一斉に目を覆う。

 

「今の内だ!イヴ〝でんこうせっか〟で左端の奴を右側に寄せろ!!」

 

俺の指示を受け、イヴは電光石火の速さで左端のユキカブリに左側から突撃する!まともに食らったユキカブリは他のユキカブリを巻き込んで転倒した。

 

「ターコイズ、今だ!!」

「ルージュ〝かえんほうしゃ〟!!」

 

ドンメルの口から放たれた強力な炎は一直線に伸びて倒れた2体を燃やし、さらに後ろに居たもう一体も焼き尽くした!これで残りは5体!

 

「イヴ〝すてみタックル〟だ!」

 

イヴのダメージ覚悟の突撃で、ユキカブリ1体が吹き飛ばされる!ユキカブリは吹き飛ばされてそのまま動かなくなった。これで後4体!

 

「ピカチュウ〝アイアンテール〟」

 

それに続く様にピカチュウは硬化した尻尾をユキカブリに叩きつけると、そのまま崩れ落ちた。これで後3体

だ。このまま順調にいけば・・・!

 

「っ!!」

 

その時気が付いた。一体のユキカブリがターコイズに向けて腕を伸ばしている!あのまま〝タネばくだん〟が直撃すれば、タダじゃすまねぇ!!

 

「ターコイズ!避けろ!!」

 

俺が叫んでようやくユキカブリに気付いたターコイズ。何とか逃げようとするが、雪に足を取られてうまく動けてねぇ!そして無慈悲にも、〝タネばくだん〟はターコイズに向けて発射された!

 

「くそっ!!間に合わねぇ!!」

「ユキワラシ〝こおりのつぶて〟!!」

 

吹雪を切り裂く力強い声と共に、いくつもの氷の塊が飛礫の様にして〝タネばくだん〟を相殺し、ユキカブリに襲いかかる!

 

「一体、何が」

「ほら!今の内に残りの2体を倒しちゃいなよ!」

 

さっき〝こおりのつぶて〟を放ったポケモンのトレーナーらしき女の声が聞こえる。こいつの言う通りだ、まずはこの状況をどうにかしねぇと!

 

「ルージュ〝かえんほうしゃ〟!!」

 

ドンメルの炎が残りのユキカブリを焼き尽くす。もう残っていないみたいだ。

 

「大丈夫ー?怪我してない?」

 

現れたのは、黒髪を三つ編みに、見るからに寒そうな薄着の女。歳は俺達と同じか少し上くらいの印象を与える、整った顔立ちだ。

 

「スズナが通りかからなかったら危なかったよ君、気を付けな」

「は、はい」

 

スズナと名乗った女はターコイズに詰め寄り、人差し指を顔の前に付きたてる。ターコイズは恥ずかしいか、顔を赤くして曖昧に返事する。

 

「あ、ありがとうございます」

「うん!解ればよし」

 

そう言って二カッと笑うスズナ。なかなか気風の良い性格らしい。

 

「それよりさー、あんたのイーブイもう進化するんじゃない?」

「え!?」

 

話の矛先がいきなり俺とイヴに向けられる。進化って、イヴが?

イヴに目を向け見ると、極度に体を震わしている。ポケモン図鑑を見てみると、そこには『おや?イーブイの様子が・・・!?』と表示されている。

 

「これってまさか!」

「ポケモンの進化だ!!」

 

変化は数秒で終わった。水色の体毛の綺麗なポケモン。首周りの毛が無くなった代わりに頭からもみあげの様な毛が生えている。

 

「深雪ポケモン、グレイシア」

 

それがイヴの新しい姿か。

俺はしゃがんでイヴの体を撫でてやる。イヴは嬉しそうに体を摺り寄せて来た。

 

「ははっ!やったな、イヴ!!」

「うん、おめでたいっちゃ―、おめでたいんだけどね?」

 

今度はアリアの方に指を指して

 

「そこの女の子、大丈夫?何かすっごい震えてるんだけど?」

 

アリアは顔を真っ青にして、ガタガタと震えている。やべぇ、すっかり忘れてた!

 

「・・・川の向こうに、温かな食事が見えます」

「それは幻だ!!さっさと戻って来い!!」

「近くにペンションがあるから、そこに連れて行くよ!」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「あんた達、バカでしょ?」

 

ペンションに着いてから1時間後、俺達が自己紹介と事情を説明すると、キッサキシティのトレーナーだというスズナから白い目で見られていた。実際返す言葉もない。雪の事も気にせず町を出た俺達の失策だしな。

 

「まぁ終わった事いいか。それよりも、明日には雪も止むだろうし、スズナがテンガン山まで送ってってあげるよ。どうせ道解らないんでしょ?」

「え!?いいんですか!?」

「また迷子になって凍死しかけてたら困るしね」

 

ウハハハと笑いながらスズナはアリアを見る。ちなみにアリアは今、手持ちポケモン全部出して、纏めて毛布にくるまって暖を取っている。

その時、ペンションの従業員がノックをして部屋に入って来た。

 

「お客様、お風呂が沸きましたよ」

「アリアとスズナ、先入って来いよ。俺らは後で良いからさ」

「それじゃお言葉に甘えて!アリア、行こ!ここのお風呂チョー大きいんだよ!」

「・・・了解」

「あ。あんた達、覗いたらぶっ飛ばすからね?」

「覗かねぇよ!!」

 

そう言い残して風呂場に向かったアリアとスズナ。まったく。

 

「でもスズナさんが通り掛ってくれて助かったね」

「確かに。危うく遭難する所だったしな」

「それにしてもスズナさんは良い人だねぇ。優しくて気風がよくて」

「まぁ、そうだな」

「それに大らかで明るくて」

「ん?」

「それに・・・・・・・可愛くて、綺麗だし」

「ターコイズ、お前もしかしてスズナに」

「ち、ちちちちちち違うよ!!ぼぼぼぼぼ僕はそんな!!」

「俺まだ何も言ってねぇぞ?て言うか、そんだけ動揺してるってことは、やっぱり」

「は、計ったね!?僕の純情を弄んだね!?」

「テメーが勝手に自爆したんだろうが」

「この昆布ヘアー~~~!!」

「んだとゴラァァァァァァ!!」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

『うわ~、アリア体細っ!肌白!』

『・・・そうですか?私とスズナさんとではあまり違いが無いように思・・・・え?』

『ん?どしたの?』

『・・・・・・大きいです』

『え?』

『・・・いえ、何でもありません』

『ふ~ん。ところでさ、ちょっと聞きたいんだけど』

『・・・何でしょう?』

『ガーネットとターコイズ、どっちが本命なわけ?』

『・・・本命?』

『だってさ~、もう1カ月近く旅してるんでしょ?あーんな事やこーんな事あったんじゃないの~?ほらほら、アタシに洗いざらい教えちゃいなって!』

『・・・あの、本命って何の事ですか?』

『あ~、アリアには、ちょっと早かったかな?』

 

そんな感じで女性陣が秘密の会話をしている頃。

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラ!!ギブしろギブしろぉ!!折るぞこの野郎!!」

「茶色いワカメはただの昆布ぅ~~~~」

「一度ならず二度までも貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

俺はターコイズに本気のコブラツイストを掛けていた。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:20004円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv,33

メリー/モココ  ♂ Lv,31

イヴ/グレイシア ♀ Lv,30

マー坊/マンキー ♂ Lv,29

 

 

 

 

名前/アクアマリン

年齢/10歳

性別/女

所持金:18432円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv,33

ムクバード ♂ Lv,30

サンド   ♀ Lv,30

プロト―ガ ♂ Lv,29

チリーン  ♀ Lv,27

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:21090円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv,32

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv,30

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv,29

ライル/ドラピオン   ♂ Lv、29

 

 

 

 




今シリーズ初、原作キャラと邂逅。スズナの巨乳は公式です。
エーフィになるとでも思いましたか?グレイシアですよ、はい。
皆様からのご意見、ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 後編Ⅱ

なかなか更新できない・・・!!これからはもっと早く更新します。


   

 

 

翌朝、空を覆っていた雪雲は綺麗に晴れていた。日の光が雪に反射して少し眩しい。俺とターコイズは防寒着を着て準備を終える。

 

「晴れて良かったね。また吹雪いてたら出発できなかったよ」

「主にアリアがな」

「ガーネット~、ターコイズ~、準備できたー?」

「おう」

 

部屋の扉を開けると、すでに準備を終えたアリアとスズナが待っていてくれた。アリアは昨日の防寒着に加え、帽子とマフラー、手袋を着用している。

 

「スズナさん、昨日も言おうと思ったけど、その格好寒くないの?」

 

スズナは昨日同様、薄着で出て来た。見ているこっちが寒くなる。

 

「大丈夫だって!こういうのは気合いだから!」

「・・・気合い?」

「そう。寒くたって可愛ければ気合いで薄着よ!オシャレも恋愛も、もちろんポケモンも要はみーんな、気合なわけよ!」

 

そう言って拳を握るスズナ。

気合いで寒さが防げるのなら、アリアは三途の川を見ていなかっただろう。

 

「さて、そろそろ行こっか!また吹雪く前にテンガン山に到着しないとね!」

「おっしゃあ!それじゃ、いっちょ行きますか!!」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

「お爺ちゃん、図鑑が盗まれたというのは本当なのか?」

 

所変わって、ここはカントー地方にあるマサラタウン、オーキド研究所。そこに現れた一人の青年。彼の名はオーキド・グリーン。ポケモン研究の権威、オーキド博士の孫にしてセキエイリーグ準優勝という経歴を持つ猛者である。

 

「うむ、すでに警察には届け出ておるが、この1ヶ月何の進展もない。もしかすると、他地方へと逃亡してしもうたかも知れん」

「それなら俺が図鑑を探しに」

「待て待て、お前が居なくなってはトキワジムはどうするつもりじゃ?」

 

グリーンの言葉を遮るように言うオーキド博士。そう、グリーンはつい先日、ある事情によりトキワジムのジムリーダーと言う役職に就いたばかりである。就任早々、ジムリーダーが不在では混乱が起きるだろう。オーキド博士はそのことを踏まえてグリーンを制した。

 

「しかし、」

「心配するな、グリーン。あれはいわゆる試作品、言ってしまえば失敗作じゃ。その精度は従来のポケモン図鑑に比べて遥かに劣る」

「それがその落ちついた態度の理由と言う訳か?」

「うむ、ジョウト地方用に開発した図鑑が盗まれなくて本当に良かった」

「その言い方だと、まるでジョウト用に作ったものではない様な言い方だな?」

「そうじゃ。あれはまだ見ぬ地方にデータを対応させた、全国版ポケモン図鑑の試作品じゃ」

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

「ユキワラシ〝れいとうビーム〟!」

 

スズナのユキワラシから発せられた冷気が、一直線に《ニューラ》に直撃し、見る見る内にその五体を凍て付かせていく。氷タイプのニューラには効果が薄い技だと言うのに、ここまでダメージを与える事が出来るあたり、スズナは相当な氷タイプの使い手だということが伺える。

 

「プロト―ガ〝みずのはどう〟」

 

振動と共に発せられた水の衝撃波が、複数のニューラを巻き込んで弾ける。

 

ここは216番道路、俺達は今ニューラの群れに襲われていた。戦闘開始から既に10分、20体は居たニューラの群れも、残り6体になっていた。

 

「ライル〝ミサイルばり〟をなるべく広い範囲で放って!!」

 

ターコイズの指示を受け、ドラピオンは無数の針を広範囲に放つ。いかに素早い動きが売りのニューラでも、手数勝負の針の弾幕の前に為す術もなく針が直撃する。

そして最後に残ったのは、この群れのボスである《マニューラ》のみだ。

 

「さて、残りはこいつだけだ!マー坊〝ほのおのパンチ〟だ!」

 

火炎を纏った拳がマニューラに迫るが、マニューラは後ろに大きく跳ぶ事で攻撃を回避し、そのまま自慢の鋭い爪でマー坊を斬り裂こうと迫る。〝つじきり〟だ。

 

「迎え討て!〝カウンター〟だ!」

 

攻撃は最大の防御。マー坊は突っ込んできたマニューラの勢いも利用して決死のカウンターを放つ!マニューラの爪は紙一重の所で外れ、マー坊の拳はマニューラの頬に突き刺さった。

そのままマニューラは崩れ落ちる。氷と悪タイプのマニューラに格闘技、通常の何倍ものダメージがあっただろう。

 

「何とか片付いたね」

「・・・あ、汗が冷えて、凄く寒いです」

「ほら気合いを入れて!テンガン山まで後もうちょっとだからさ」

 

俺達はポケモンをボールに戻し、更に歩みを進める。

そうして歩き続けること数十分、遂に

 

「見えた!テンガン山だ!!」

 

俺達は遂にテンガン山の麓まで辿り着いた。

このシンオウ地方を分断する巨大な山脈。その威容に思わず声を失った。

 

「ここまでくれば、もうその防寒着も要らないでしょ?」

 

スズナ言われてようやく気付く。もう雪道は通り過ぎ、この防寒着を着ているのが暑い位だ。俺達は防寒着を脱いで鞄の中に押し込む。

 

「・・・まだ寒いです」

 

アリアも帽子とマフラー、手袋は外したが、防寒着は外せないみたいだ。

 

「ここで、あなた達とはお別れだね」

 

少し寂しそうな笑顔を見せるスズナ。寂しいのは俺達も一緒だ。1日だけとはいえ、せっかく親しくなったのにここでお別れだなんて。

 

「あ、あの、スズナさん」

「ん?どうしたの?」

「ま、また、会い「・・・また、会いに来ても良いですか?」ちょ!?アリア!?」

 

ターコイズの言葉を空気を読まずに被せるアリア。

 

「あったり前じゃーん!スズナ達、もう友達でしょ?」

「・・・友達」

「そ!だから何時でも来なよ。今度はエイチ湖に案内してあげるよ!」

「・・・はい」

『どうせ僕なんて・・・』

 

女の友情を深める2人と、地面に『の』の字を書き続けるターコイズであった。

 

「でも気を付けなよアリア~。男は狼だからね~」

「・・・狼?」

「おいこらスズナァ!!アリアに変な知識植え着けてんじゃねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

スズナと別れて数日後、俺達はまずコトブキシティを目指し、クロガネシティまで来ていた。明日の朝に出発して、昼頃にはコトブキシティに到着するためだ。明日の出発に備えて、ポケモンセンターで休んでいたのだが、ここである事に気が付いた。

 

「あれ?」

「・・・どうかしました?」

「いや、前に戦ったマニューラのデータが図鑑に無くてよ」

 

今まで戦ったポケモンのデータなら全て収集してきたポケモン図鑑だったが、なぜかマニューラのデータだけは無かったりする。

 

「故障か?」

「故障と言うよりも、どっちかっていうと、この図鑑がマニューラ、もしくは一部のポケモンに対応していないんじゃないな?」

 

確かに。別にどこかにぶつけた訳でもないし、あれから出会ったポケモンのデータは収集できている。ターコイズの仮説が一番有力かも知れん。

 

「この図鑑も完璧じゃねぇってことか」

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

翌日、俺達は予定通りに昼頃にコトブキシティに到着した。

 

「・・・すごく大きな町ですね。それに人も多いです」

「そう言えば、アリアはここまででかい町って見た事無かったな」

 

シンオウ地方最大の都市なだけあって、人口密度もビルの数も段違いだ。こんな所じゃ迷子になりかねないので、俺はアリアの手を握って先へ進む。

 

「・・・ガーネット、あの建物は何ですか?」

「あれがとりあえずの目的地、トレーナーズスクールだ」

 

ターコイズの話だと、全国にあるトレーナーズスクールからポケモン協会の役員を目指す生徒、つまりエリートを育成するクラスに在籍しているらしく、あいつは前に話した通りに派遣部を希望している生徒だという事だ。

それで今回ここに来た目的は、任務報告とアルティア家とロケット団の関連性を報告するためだ。もしあの事が協会に知れれば、協会も動いて事件解決という事になる。

 

「おい、お前ターコイズじゃないのか?」

「あら本当だわ」

 

スクールの前まで来ると、中から2人の男女が出て来た。黄土色の髪の男と赤い髪の女だ。心なしか不愉快な視線をターコイズに向けているのは気のせいだろうか?

 

「タツヒコ、ユキ・・・・」

「今頃お帰りか?お前は本当にドンくさい奴だな」

「止めなさいってタツヒコ、落ちこぼれのターコイズと優秀な私達を一緒にしたら、さすがに可愛そうよ。そうでしょ?」

「そうだったな。すまないなターコイズ」

「・・・・・・・・」

 

ターコイズは何も言い返さない。何時も俺と張り合うターコイズが嘘のようだ。

 

「それで、何しに来たんだ?」

「何しにって、任務の報告をするために帰って来たんじゃないか」

「あぁ、それならもう必要ないわよ」

「え?」

「君はもう、このトレーナーズスクールの生徒ではないからだよ、ターコイズ君」

 

スクールから奥から現れたのは、癖のある茶髪に黒いスーツを身に包んだ男。その風格から、ターコイズやそこの男女2人の上司の様な存在だという事が伺える。

 

「ルーファス部長!僕がもうスクールの生徒じゃないって、どういう・・・!」

「言葉の通りだ。君はアルティア家の依頼を受けておきながら、その仕事の妨害をしたそうだね?そんな生徒が、候補生で居られるとでも思っているのかね?」

「待ってください!!あれにはちゃんとした事情があるんです!!」

 

そしてターコイズは、あの船の上で起こった事全てを話した。

アルティア家がロケット団にポケモンの売買を行おうとした事。

それを契約違反だと抗議したら船の中に監禁された事。

偶々そこに居合わせた俺達と脱出したら、殺されそうになった事。

 

「ブッハハハハハ!!お、お前、嘘吐くならもっとマシな嘘を吐けよ!!」

「そうよ!!名家であるアルティア家がそんな事する訳無いじゃない!」

「しかもそんな役者を2人も用意して!用意が良いのか悪いのか!!」

 

それを信じるどころか、初めから嘘だと断定して笑い飛ばす男女2人。その姿を見ていると、俺達の出会いが笑い飛ばされたように聞こえて、無性に腹が経ってきた。

 

「とにかく、君には失望したよ。まぁ、失望するほどの信用があったとは思えないがね」

「ルーファス部長!僕は本当に・・・!!」

「退学通知だ。受け取りたまえ」

「それじゃーな!落ちこぼれのターコイズ!!」

「あんたなんか、この学校には相応しくなかったのよ」

 

どう言ってターコイズに罵声と封筒を投げつけるルーファスと男女2人。ターコイズは呆然とした様子でそれを受けていた。そのままルーファスは人混みの中に紛れて行った。

 

「所詮は何の才能もない落ちこぼれだ。誰もお前に期待してないんだよ!」

「少しでも派遣部の候補生でいられた事を有り難く思いなさい!」

 

ルーファスが去った後も、俯いて何も言えないターコイズを罵り続けるタツヒコとユキ。駄目だなこいつら。何にも分かっちゃいねぇ。

 

「・・・ガーネット」

「どうした?」

「・・・胸の内が不愉快な感覚なのですが、こういう時はどうすればいいのですか?」

「そうだな。とりあえず」

 

俺は3人に近づく。そして

 

「おい!何とか言い返して」

「オッラァァ!!(ドゴォッ!)」

「ブゲラァァァ!!?」

 

渾身のストレートをタツヒコにお見舞いする。

 

「殴っとけばいいんじゃね?結構スッキリするぞ?」

「・・・なるほど。了解しました」

「ちょっとあなた達!一体何を(ベチャッ!)キャァァ!!?」

 

ユキの顔に木の実が炸裂する。アリアが改造パチンコで撃ち出したものだ。

 

「ちょっ!?ガーネット!?アリア!?」

「・・・スッキリしました」

「よっしゃあ!逃げんぞー!!」

「ええええええええええええええええええっ!!?」

 

背後から聞こえる罵声と、ターコイズの叫び声を無視して、俺とアリアはターコイズの手を引いて全力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

あのまま走り続けて、俺達はクロガネシティまで戻ってきていた。時刻は夕方、ターコイズはポケモンセンター2階のテラスで黄昏ていた。

 

「僕とユキ、タツヒコはね、幼馴染なんだ」

 

そんな時、ターコイズは誰かに話しかける訳でもなく、ポツリと呟いた。

 

「僕達3人は仲が良くて、どこ行くのでも一緒だったんだ」

「へぇ。そりゃ、悪い事をしたか?」

「まぁ確かに悪い事だったけど、今の僕じゃ、責める様な気持ちにはなれないかな」

 

そう言って苦笑を浮かべるターコイズ。

 

「・・・あの2人とは、もう友達では無いのですか?」

「僕はそう思いたかったけど、2人は違ったみたい」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

しばらくの沈黙。やがて再びターコイズが呟きだした。

 

「僕達3人はね、幼稚園の頃に派遣部の見学に行って、その仕事に憧れたんだ。誰にでも分け隔てなく困った人たちを助けるための仕事、そんな派遣部にね。単純な動機でしょ?」

「夢を追いかけるのに、そんな小難しい理由なんていらねぇだろ?」

「うん。候補生になるまでは良かった。でも現実は違ったんだ」

「・・・何が、違ったんですか?」

「僕と、2人の間にね、『才能』っていう壁が出来たんだ」

「才能って、それじゃお前が何の取り柄もないみたいじゃねぇか」

「事実その通りなんだよ。2人は候補生になってからその才覚を現し始めた。1年も経つ頃には、勉強もバトルも、実習もトップの成績を収めていた。それに引き換え、僕はどんなに努力しても全く上達しない。それどころか失敗してばかりさ。それでも2人の2倍努力すれば、いつか追い越せる日が来る。それでも追い越せないなら3倍、4倍と努力すればいつか追い越せる。そう思って今日までやって来た。・・・でも」

 

ターコイズは俺達に背を向け、震えていた。顔を見なくても、地面に落ちるわずかな水滴で、ターコイズ今どんな顔をしているのかが、分かってしまう。

 

「努力じゃ才能の壁は越えれないのかな・・・?僕はこのまま、誰にも必要とされずに生きてくしかないんじゃないかって、最近そう思い始めたんだ・・・!」

 

『人もポケモンも変わる。良くも悪くもな』

そんなゲンジの言葉を思い出した。タツヒコとユキは、自分の才能と実績に驕って、下に居る奴を見下すようになってしまっていた。長年一緒に居たターコイズでさえも。

親友から見放され、自分の夢からも見放されたと思っているターコイズに、『何度でも挑戦すればいい』とか、『諦めなければいつか叶う』とかそんな言葉は逆効果だろう。

ターコイズが今求めてるのは『救い』だ。なら、掛ける言葉は決まっている。

 

「誰にも必要とされてねぇなんて、ある訳ねぇだろ?」

「・・・え?」

「ボールを見てみろよ。そこには何が居る?」

 

ターコイズは4つのボールを手に持って中を見つめる。そこには、心配そうな目でターコイズを見上げるポケモン達の姿があった。

 

「初めはそうじゃなかったとしても、今はみんなお前を慕ってついて来てくれてる。だったらお前は今、そいつらに必要とされてるんだよ」

「ジャック、キャサリン、ルージュ、ライル・・・みんな・・・!」

「それによ、俺とアリアの旅にもお前等の力が必要なんだわ」

「僕達の、力が・・・?」

「いや、アリアは常識がねぇし、俺も喧嘩っ早いからよ、お前みたいに諫めてくれる奴が必要なんだよ。それに、バトルでも俺らって防御が下手だからな。お前、防御上手いだろ?だから、お前等が居てくれるとかなり助かるんだけど」

「・・・私からもお願いします。敵の戦力を考慮すると、現状での戦力低下は望ましくありません。ガーネットはすぐに突っ走りますし」

「おい待て、まるで俺の事を猪みたいに言うんじゃねぇ」

「・・・事実ですので」

「言うようになったじゃねぇか・・・!」

「・・・ガーネットが常識ないとか言うからです。私だって勉強しています」

「ガーネット・・・!アリア・・・!」

 

ここまで言えば良いだろう。ターコイズはネガティブだけど、切り替えが早い奴だ。おのずと答えを導き出せるだろう。

 

「・・・それに、あの組織の秘密を知った以上、私達を放っておくとは思いませんし。恐らくまた、刺客が現れるかと」

「そうだったぁぁぁぁーーーーー!!」

「ま!俺らと一緒に来て何とか生き延びるか、あの変態に襲われるかの2択だ!」

「何であの変態に限定するのさ!!?もっと他に居ないの!?」

「・・・我々はあの男以外の刺客と出会っていませんし」

「あーもう!!分かったよ!一緒に行けばいいんでしょ、行けばーーー!!」

 

そうやって自棄になって怒鳴るターコイズは、どこか楽しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

キャラクターデータ

 

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:25985円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv,34

メリー/モココ  ♂ Lv,32

イヴ/グレイシア ♀ Lv,32

マー坊/マンキー ♂ Lv,30

 

 

 

名前:アクアマリン

年齢:10歳

性別:女

所持金:23149円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv,34

ムクバード ♂ Lv,31

サンド   ♀ Lv,30

プロト―ガ ♂ Lv,29

チリーン  ♀ Lv,29

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:28461円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv,33

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv,31

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv,30

ライル/ドラピオン   ♂ Lv,30

 

 

 

 

 




皆様からのご意見ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路 後編Ⅲ

なるべく早く書こうと思い、1日で仕上げました。
皆様からのご指摘ご感想をお待ちしております。


   

 

 

現在時刻は夕方。

ターコイズがスクールを退学になってから数日後、俺達はクロガネシティを出発して209番道路まで来ていた。ここまでくれば目的地のロストタワーは目と鼻の先だ。

 

「・・・今更ですが、ロストタワーと言うのは、どういう所なのですか?」

「ロストタワーはシンオウ地方の墓地として有名な場所だな。ホウエンの送り火山と同じで、ゴーストポケモンの住処になっているらしいぞ」

 

俺はシンオウ地方のパンフレットを見ながらそう答えた。しかし、前回の送り火山といい今回のロストタワーといい、何で毎回墓地なのかね?

 

「墓地・・・・。ゴーストポケモン・・・。幽霊・・・」

「・・・顔が青いですが、どうかしましたか?」

「アリア察してやれ、こいつは間違いなく幽霊とか苦手なんだよ」

「ちちちちち違うからねっ!!?ぼぼ僕は別に!!」

「うん。強がるなら足の震えを止めてからにしような?」

「・・・到着しました」

 

そうこう会話している内に、遂にロストタワーの目の前まで来ていた。正面の大きな木製の扉が、ロストタワーを閉ざしている。前回の反省を活かして、あらかじめポケモンをボールから出しておいた。俺はその大きな扉に見合うドアノブを掴んだ。

 

「それじゃ開けるぞ?お前等ポケモンの準備は良いか?メリー」

「・・・行きますよ、ムクバード」

「いいかい、キャサリン。ガーネットが扉を開けるのと同時に〝ハイドロ「やめんか」

 

珍しく物騒な事を呟くターコイズを制し、俺は扉を引っ張った。ギギギギギギと、軋むような音と共に扉が開いてく。中は薄暗く、蝋燭の明かりと、僅かに差し込む夕焼けの光がロストタワーの不気味さをより引き立てていた。

 

「暗いな。よし!〝フラッシュ〟だ、メリー」

 

メリーから眩い閃光が放たれる。ロストタワーの内部は電灯が点いた様に明るくなった。

 

「さて、何か思い出したか?アリア」

「・・・いいえ。ただ」

「ただ?」

「この光景、どこかで見た覚えがあります」

「えぇ!?本当に!?」

「・・・はい。確か・・・」

 

そう呟いてアリアは墓石を、正確には墓石の正面の床を見渡した。

 

「・・・これ」

「何か見つけたか?」

「あ!これって!!」

 

アリアが見つけたもの。それは送り火山の時と同じ、墓石の前に出来た何かを引きずった跡が出来ていた。これって、もしかして・・・・。

 

「よし、ターコイズ、お前は右側持て」

「OK!!」

「よし行くぞ!せーのっ!!」

 

ゴリゴリゴリと、音を立てながら動く墓石。その下に現れたのは、送り火山の時と同じ深い階段だ。な、なんて芸の無い・・・!助かったけども。

 

「また階段だね。どうする?降りる?」

「・・・行きます」

「よっしゃーー!!いっちょ行くか!!」

 

 

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 

階段を下りること2分。前回とは違い、早くも防火扉まで辿り着く事が出来た。扉には樹をモデルにしたマークが描かれていた。

 

「前と比べて随分と早く着いたね」

「階段降るのに2分は早いとは言わんがな」

「・・・また、このマークですか」

「アリアもこのマークについては知らないの?」

「・・・はい」

 

謎のマークについて疑問を残しつつも、俺は防火扉のでかいドアノブを回した。前回同様、鍵は掛かって無いらしい。扉はギィィィ―――と音を立てて開いた。

 

「ここも研究所みたいだな」

 

送り火山との違いは、もぬけの殻というよりも、まだここを使っているという感じの、生活感があるということだろうか。証拠に埃は目立たないし、ファイルやビーカー、フラスコも綺麗に並べてる。ただし物音の一つもせず、人が居ないように思える。

 

 

それからしばらくの間、ポケモン達に辺りを見張ってもらいながら中を物色してみたが、どれも訳の分からない内容のファイルだったり、何に使うかも検討の付かない機械だったりで、アリアの手掛かりになる様なものは見つからなかった。

 

「アリアー、そっちは何か見つけたかー?」

「・・・いいえ」

 

むぅ。ここまで何も見つからないとすると、振り出しに持っちまったのか?

 

「ターコイズは何か見つけたか?」

「・・・・・・・」

「ターコイズ?」

「え?何?」

「何か見つけたかって」

「あ、いや、アリアに関する記述は何も無かったけど、その代わり、ここで何を研究しているのか分かったかも知れない」

「・・・何を研究していたんですか?」

「クローンだよ」

「クローン?何だそりゃ?」

「簡単に言うと、そうだね、遺伝子情報って言うのは聞いたことある?」

「おう。確か、生き物が個別に持っている身体的特徴の設計図だろ?」

「微妙に違うけど、まぁその認識でいいよ。人間もポケモンも本来同じ遺伝子情報を持たない様に出来てるんだけど、クローンって言うのはその常識を覆して、同じ遺伝子情報を持つ生き物を作り出す、言わば人工生命体を作る研究の事だよ」

「そんなもん作ってどうすんだよ?」

「さぁ、僕には何とも。でも、この研究は倫理的な理由からポケモン協会に禁止されているはずなのに、やっぱりここは犯罪組織の研究所なのかな?」

 

現状では、何の手がかりもないという事か。とりあえずもう少し調べよう。

・・・でも、何だろうか、この胸騒ぎは。この先に行ってはいけないと、理屈じゃなく本能が警報を鳴らしていた。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「後調べてないのは此処だけだな」

 

あらかた調べつくして、残ったのは小さな個室1部屋だけとなった。今のところ何の収穫もなかったが、時間も時間だし、ここに何も無ければ引き上げよう。

 

「えらい殺風景な所だね」

「・・・本棚も見当たりませんし、電子機器の類はエアコンのみの様です」

 

中に入ると、本当に何も置いて無かった。ただ、奥に置かれた机の上には、ポツンと、写真立てが置いてあった。それ以外何も無い部屋だ。

 

「・・・・・・・・」

 

何気なくそれを手に取る。そして、驚愕した。そんな馬鹿なと。あり得るはずがないと。

 

「そ、そんな!これは・・・!」

 

写真立てに移っていたのは、男と女のツーショット。だが映っている男女こそが問題だった。女の方は長い藍色の髪に雪の様な白い肌、漆黒の瞳を携えた整った顔立ち。唯一違う点といえば、普段からは想像も出来ない満円の笑みと、今よりも高い背丈。

 

「・・・私?」

 

アリアそっくり、いや本人とも思える女が映っていた。

 

「いや、この女の人もそうだけど、何でルーファス部長が!!?」

 

そう、隣に移る男は癖のある茶髪にスーツ姿、穏やかな笑みを浮かべるルーファスだ。ここからは、俺でもなんとなく想像がついた。あいつは、ルーファスは・・・!

 

「そりゃ~ルーファス支部長はぁ、オレっちの上司だからねぇ~」

 

この雰囲気に似合わない、間延びした喋り方。この聞き覚えのある声は!

 

「久しぶりだねぇ~、御三方ぁ~」

「テメェはあの時の変態リーゼント!!」

「今回はぁ、男物だろ~?」

 

確かに今は、黒のスーツ姿だけれども。

 

「そぉ言えば~自己紹介がまだだったね~。オレっちの名前はぁ、サンゾウって言うんだ~。覚えときなぁ~、御三方ぁ~」

「そんな事より、ルーファス部長があなたの上司って、どういう事!?」

 

ターコイズが叫ぶのと共に、メリー、ムクバード、ぺリッパーが俺達に背を向けて戦闘態勢を取る。前回は後れを取ったが、今度こそは!!

 

「いやぁ~、今回戦うのはぁ、オレっちじゃねぇよ~?」

「は?」

「何でもぉ、今回の事は~、自分でケリ付けてぇみたいでねぇ~」

 

そう言い終わると、部屋の外からコツ、コツと誰かが歩いてくる音が聞こえた。そして足音の主は扉を開け、中に入って来た。

 

「ルーファス部長・・・!」

 

中に入って来たのは、やっぱりルーファスだった。そして、腰からモンスターボールを取り出し、構える。こいつ、ヤル気か!?

 

「しかし、あの送り火山の時点でおかしいとは思わなかったのかね?」

「どういう事だ?」

「なぜわざわざロストタワーに何かがあるという記述が乗ったファイルが残っていたとは考えなかったのかね?普通あの手のファイルは処分するのが妥当なのだよ?」

「っ!!?」

 

しまった!これは罠だったのか!情報という餌で俺達がここに来るように仕向けたんだ!今思えば明らかに不自然だったけど、その時の俺達は先走った気持だったから気付かなかったんだ!

その時、ターコイズが一歩前に出る。

 

「ぼ、僕達を、どうするつもりですか!?」

「簡単な事だ。ここで君達を抹殺する」

 

あっけらかんと、ルーファスはそう言ってのけた。それと同時に、ターコイズが後ろ手で俺達にサインを送って来た。このサインは、確か。

 

「な、何でですか!?」

「君達はもう気付いているだろうが、我々は犯罪組織だ。秘密を知ったものを、理由もなく生かしておく訳がないだろう?」

「派遣部の部長、つまりポケモン協会の上位職員のあなたが、なぜ!?」

「それに答える必要があるのかね?」

 

もう話す事はないとばかりに、開閉スイッチに指を当てるルーファス。

 

「それなら、もう聞きません!!」

 

それは、逃走の合図だった。

 

「メリー〝10まんボルト〟ォ!!」

「キャサリン〝ハイドロポンプ〟!!」

 

強力な電撃と水砲が、ルーファスとサンゾウを襲う!だがこれは倒す事が目的じゃない!!逃げだす為に目晦まし&牽制だ!

 

「ムクバード〝ブレイブバード〟」

 

それと同時にムクバードのダメージ覚悟の突撃で、部屋の壁に大穴を開ける。

 

「逃げるぞっ!!」

 

立ち込める煙に紛れ、俺達は部屋の外へと飛び出した。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

防火扉を開け、急いで階段を駆け上がる。下から追って来る気配はまだ感じられないが、急いだ方がいい。サンゾウのストライクが追いかけてきたら絶体絶命だ!

 

「しかし、作戦のサイン決めといて良かったな!あれが無かったらヤバかったぜ!」

「・・・しかし、なぜ撤退を?サンゾウの強さは承知しておりますが」

「どちらかというと、サンゾウよりもルーファス部長の方がヤバい!!」

「強いのか!?」

「強いなんてもんじゃないよ!手持ちポケモン一体でトレーナー10人を完封する位だ!!それも交代なしでね!!」

「そんなにかよ!?」

 

手持ち一体交代無しでトレーナー10人抜き。言ってみた印象は簡単そうだが、いざやってみるとして、こんな事が出来るのは世界でも数えるほどだろう。

 

「とにかく、今はポケモン協会まで逃げよう!あそこなら手出しできない!」

 

何とか階段を登り終え、ロストタワーの外に出る。すぐさまメリーとナツを交代し、俺達は空を飛んで逃げだした。目指すはポケモン協会だ!

 

「・・・何か聞こえます」

「え?」

 

飛び立って1分もしない内に、アリアが異変に気付いた。そう言われて俺も耳を澄ましてみる。俺達が飛ぶのに生じる風切り音に紛れて、別の風切り音。後ろからか?

そして俺が後ろを振り向いた瞬間、

 

ゴオォォォォォウゥッ!!

 

聞こえて来たのは棲様じい風の音。強大な何かが一個の弾丸と衝撃波となって俺達に襲いかかった。直撃は免れた様だが、衝撃波は避けられず、俺達は吹き飛ばされる様に地面に墜落した。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「ぐ、がぁぁ、ぁあ・・・!」

 

何だ、今のは・・・!?直撃はしていなかったのに、この威力・・・!まるで全身を滅多打ちにされたかのような痛みが俺を襲う。

 

「お前ら・・・無事か・・・!?」

 

痛みを堪え、何とか声を出す。偶然にも俺達3人とポケモン3体は近くに墜落したようだが、どいつも俺と同じくピクリとも動こうとしねぇ・・・!

 

「・・・けほっ!・・・はぁ、はぁ・・・」

「う・・痛ぅっ!!・・・はっ!」

 

何とか生きてはいるみたいだが、ダメージは大きいみたいだ。ポケモン達も瀕死状態だし、他のポケモンを出そうにも、腕どころか指先一つ動かせねぇ・・・!

 

「おぉ~おぉ~、支部長に《ピジョット》の〝ゴッドバード〟を食らって生きてるよぉ」

「狙いが甘かったな。まだまだ調整が必要だ」

 

そう言って、呑気な会話が聞こえてくる。地面に横たわったまま見上げてみると、サンゾウとルーファスが近づいて来た。傍らには大型の鳥ポケモンだ。

 

「おい、テメェら・・・!ちょっと聞かせろ・・・!」

「今死ぬ君に、何を聞かせろと」

「いいじゃねぇっすか、冥土の土産にさぁ~」

 

意外な事に、サンゾウが俺の意見を取り入れた。冥土の土産は余計だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。どうしても聞いておかなきゃならない事がある。

 

「何で、俺達を・・・狙うんだ・・・!?」

「言ったはずだ。我々の秘密を知ったのなら生かしてはおけないと」

「でもテメェ・・・協会の、偉い奴なんだろ・・・!俺達が協会にチクったとしても・・・・悪戯だって、済まされちまうぞ・・・!」

「しかしそれも絶対ではない。僅かな危険の可能性がある限り、極力排除せねばならん」

 

まだだ。まだ、時間が要る。

 

「テメェは・・・何が目的なんだ・・・!」

「・・・・・・最愛の人、エリーを蘇らせる事だ」

 

ルーファスは絞り出すようにそう呟いた。

 

「あの小部屋の写真立てを見たのだろう?あれに私と一緒に写っていた女性こそがエリーだ。そこに倒れているアクアマリンと同じ容姿をしたな」

 

話の内容から、写真の女がもう死んじまったという事が理解できる。だが今はどうでもいい、問題なのはルーファスがアクアマリンと呼んだ少女、アリアの事だ。

 

「送り火山で、黒い化け物と戦ったかね?」

 

送り火山の黒い化け物。覚えている。やっぱりこいつらがあれに関与していたのか!

 

「私はエリーを蘇らせるためにありとあらゆる方法を試してみた。そして最終的に辿り着いたのが、クローン技術だ。あれはクローンの研究の一環として生まれた副産物だ。ただし、凶暴な上に人間ともポケモンともつかない異形となった完全なる失敗作だがね」

「おい・・・!まさか・・・・!!」

「そう、アクアマリンはエリーの遺伝子情報から生まれたクローンだ」

 

ルーファスは、余りにもアッサリとそう呟いた。

 

「クローン技術の観点から見れば、アクアマリンは完全な成功例だったよ。問題となっていた短命もクリアし、脳や生殖器、その他の臓器や骨格、筋肉も殆ど健康な人間と何ら変わりがないほどだ」

 

そこで少し区切って、再び喋り出した。

 

「だが私にとっては失敗作だったよ」

 

・・・なんだと?

 

「いかに人間に近い体を持っていたとしても、生まれたクローンにはエリーの人格も無ければ私との思い出も無いのだからね。そんな当たり前の事を今更気付いたんだ」

 

こいつ、今何て言った?

 

「しかしここで殺処分してしまえば、ただコストが掛っただけとなる。故に有効活用の手を考えた。それがポケモン図鑑の奪取だ。全国的ポケモン研究の権威、オーキド博士が作った未公開の品だとすれば、闇ルートで高値で販売できるからね。失敗すれば、《自動消去機能》、つまるところ、エスパーポケモンによる催眠誘導で、失敗時には自殺するようにしていた。君達も見たのではないかね?あの化け物が白い塵となって消えていく所を。アクアマリンもあのように消えるように出来ている。それが作られた命の末路だ。これなら証拠も残さず、死体処理の手間も無い」

 

《自動消去機能》?何だよ、それ・・・!

 

「まぁ、どういう訳かそれは発動しなかったがね。だからこうして、私がわざわざ抹殺に来たという訳だ。まったく、本当に使えない『道具』だよ、あれは」

 

その言葉を聞いた途端、俺の頭の中で何かが切れた。

 

「ナツ!!」

 

俺はポケットに仕込んでいた〝げんきのかけら〟を取り出し、親指と人差し指で弾く。狙いは俺の横で横たわっていたナツだ。〝げんきのかけら〟は狙い通りにナツの口の中に吸い込まれ、見る見る内に活力を取り戻していく。

 

「これはぁ、してやられたねぇ~。さっきまでの会話は体を動かす為の体力を回復させる為かい~?なかなか強かに育ったじゃねぇの~」

 

確かにそれもある。だけど、それだけじゃない。これだけは言わなければならない。

 

「・・・・・なんかじゃ、ねぇ・・・!」

「ん?」

 

初めてアリアと話した夜。帰る場所が解らないと言ったアリアの瞳は揺らいでいた。

 

「あいつは・・・道具なんかじゃねぇ・・・!」

 

一緒に家を探すと提案し、差し出した手を握ってくれた。

 

「道具じゃ無ければ何だというのだね?」

 

俺は腕を使って上半身を上げる。体は痛みで悲鳴を上げていたが、構うものか。

 

「あいつは、努力家で・・・!」

 

俺は知っている。あいつは暇さえあれば色んな雑誌や辞書を呼んで世間の勉強をしていた。俺が常識ないって言ったら、ちょっと怒って言い返してたっけ。

 

「不器用で、空気が読めなくて・・・!」

 

スズナという、初めての女友達が出来た。

 

「でも、あいつはもう、人やポケモンの苦しみを理解してやれる・・・!」

 

送り火山でチリーンの気持ちを察してやって、懐かれた事。

何も言えずに罵倒されるターコイズを思って怒りを露わにした事。

 

「今はもう、お前等の道具の『アクアマリン』じゃねぇ・・・!」

 

船の上の戦いで、諦めかけた俺に、自分なりの激励を飛ばした事。

 

「あいつは俺の、俺達の仲間の・・・・・『アリア』だ!!」

 

手を膝について、一気に立ち上がる!!

ここで立ち上がらなくて、何が仲間か。ここで怒らなくて、何が仲間か!

 

「ぐぅぅぅ・・・!ガーネット・・・!アリア・・・!!」

 

ターコイズも体の痛みに耐えながら無理矢理起きようとする。しかし力が入らないのか、立てば崩れるの繰り返しだ。それでもいいと、俺は思う。ターコイズも同じ気持ちでいてくれたのなら。

 

「行けるか・・・?ナツ・・・!!」

 

俺は隣で浮かぶナツに目線を向ける。ナツはボロボロの体で力強く頷いてくれた。

 

「話は終わりかね?ならばそろそろ消えて貰おう。〝はかいこうせん〟!」

 

ピジョットに口から放たれたのは、圧倒的な破壊の力を秘めた光。それは地面と空気を抉りながら一直線に俺に向かってきた。

 

「貫けぇぇっ!!〝りゅうのいぶき〟!!」

 

俺は技の性能も忘れ、無我夢中に叫んだ!しかし放たれたソレは、何時もとは比べ物にならない程に強烈な風。ドラゴンタイプこそが最強と言われる息吹だった。

息吹と光線はぶつかり合い、バァァァンと、大きな音を立てて弾けた。

 

「ほぉ~、これはぁ~」

「バカな・・・!たかだか〝りゅうのいぶき〟で、〝はかいこうせん〟を弾いたと言うのか・・・!ありえん・・・!いくら品種改良したポケモンだからといって・・・!」

 

信じられない様な物を見たという顔で、呆然とするルーファス。

 

「やはり、君は確実に始末しなければならないようだね。サクラの息子なら尚更だ」

 

・・・ちょっと待て。今、信じられない単語が聞こえたぞ・・・!?

 

「何でテメェが母さんの名前を知ってやがる・・・!」

 

サクラ。それが俺の母さんの名前だ。何でこいつが知ってやがる・・・!!

 

「ふむ。やはり君はサクラの息子だったか。君の抹殺は、今回の件が始まる前、君が生まれるよりも前、サクラが我々を裏切った時から決まっていたのだよ」

 

一瞬、頭の中が真っ白になった。裏切った?それってつまり・・・。

 

「ガーネットのお母さんは、あなた達の仲間だった・・・?」

 

何とか声を出せるまで回復したターコイズが、そう質問した。

 

「彼女は実に優秀な研究員だったよ。狂気的な知的探究心を満たす為なら、生命をも単位と数字に置き換えて、一切の慈悲無く実験台にする」

 

ルーファスが語る母さんは、俺の知っている母さんとは正反対のものだった。

 

「そしてガーネット君。君もまたクローン研究の被験者なのだよ」

「どう言う、事だ・・・!?」

「私はクローン研究の一環として、人工授精のサンプルを入手しようした。卵子提供者の名前は、サクラ。君の母親だ。そして、精子提供者はこの私だ」

「なっ!!?」

「つまり、私は君の父親でもあるのだよ」

 

そんな馬鹿な!?目の前に居るルーファスが、俺の父だと言うのか!?

 

「まぁそんな事は私にとっては些事でしかない。問題なのは、何を思ったのかサクラは君を産んでしばらくすると、研究所を脱走。無論情報の漏洩を防ぐため、刺客を送り込んだが手掛かりが無いまま11年が経過し、ようやく君を見つけたという事さ」

 

そんな言葉を聞いていると、幾らか分かって来た事がある。何で母さんがそんな事をしたかは分からない。でも確かなのは、母さんはあの男に追い詰められていたんだ。こいつが放った刺客から逃げる為に、逃げて逃げてブラックシティまで追い詰められて、衰弱したんだ。

何で母さんがあの町から出なかったのか、それは・・・!

 

「お前等の仕業だったのかぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は怒りにまかせて突撃する!あの澄ました顔をぶん殴ってやらない時が済まない!

 

「待って・・・!ガーネット!!」

「ふん。今度こそ止めを刺してあげよう。〝はかいこうせん〟!!」

 

光線が、俺を貫かんと迫る。

 

「それがどうしたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイリュー〝はかいこうせん〟!!」

 

ピジョットが放った光線は、上空から放たれた光線にぶつかり、相殺された。俺は空を見上げる。そこに居たのは、力強く、巨大な体躯のドラゴンポケモン《カイリュー》だ

そしてその背中に乗るのはベレー帽と黒のコートを着用した、鋭い眼光の老人。

知っている。この6年間、どれだけ一緒に過ごしてきたか・・・。

 

「ガーネット、私は教えたはずだ。いかなる状況においても冷静さを欠いてはならないと」

 

そしてこんな状況でも聞き慣れたお説教。間違いない、奴だ!

ホウエン四天王の一角にして、最強のドラゴン使い。

 

「ゲンジ・・・!」

 

俺の育ての親、ゲンジだった。

 

「まさか、あなたほどの男が現れるとは思いませんでしたよ」

「こりゃ~、時間を掛け過ぎたかねぇ」

 

ゲンジの姿を見て、サンゾウとルーファスは戦慄する。それはゲンジの実力がそれほどのものであるという証だった。カイリューはゲンジを乗せたまま降下してきた。

 

「何時から我々にお気付きに?」

「キナ臭いと思っていたのはもう7年も前からだ。そしてつい先日、ズイタウン付近で頻繁な目撃情報が寄せられたのでな」

 

7年前?目撃情報?何の事だ?

 

「さぁて、オレっち達と戦うのかぁい?」

「止めておけ、サンゾウ。私もお前もタダじゃ済まない。まぁ、それは向こうも同じだが」

 

好戦的な雰囲気を醸し出すサンゾウを制し、ルーファスはゲンジに向き直る。

 

「如何でしょうゲンジ殿、ここは両者ともに退くというのは」

「この絶好の機会、逃がすとでも思うたか?」

「ええ、思いませんな。その3人が居なければですが」

 

そう言って俺、アリア、ターコイズを見渡す。そうか・・・!戦闘になれば、俺達がその場に居るだけで不利になるのか・・・!動けない分、人質にも出来るしな。

 

「・・・・・・いいだろう」

「ご理解いただき、感謝いたします」

 

そう言って一礼してから、サンゾウとルーファスはピジョットに乗って飛んで行った。

そしてゲンジは、フゥと、小さく溜息をついて俺の方を向く。

 

「どういう事か、説明してもらうぞ。ガーネット」

「そりゃこっちの台詞だジジィ」

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかの超展開・・・!
ストーリー読んでたら展開が予想できてた人いるんじゃないですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅路と新たな誓い

それぞれの旅路シリーズクライマックスだと言うのに、この駄文。
見てくれてる読者の皆様には感謝の言葉もございません。




 

 

 

『エリーの経過は?』

『順調です。このままいけば、健康な人間と変わらないクローンが誕生するでしょう』

 

これは、私の記憶の中・・・?

 

『培養器、開きます!』

『おぉ!!エリー、私が分かるか!?』

『あ、うー・・・あー・・』

『エリー・・・?』

 

 

 

『私が愚かだったか・・・。こんなクローンを作った所で、そのクローンが彼女の筈が無いというのに。くそっ!!これからどうすれば・・・!?』

 

 

 

 

『私は次の作戦に出る。ならば、識別名《アクアマリン》はどうするべきか・・・』

 

 

 

『アクアマリン。お前に任務を与える。もし失敗するようならば、その場で自害せよ』

 

 

 

『お前はもう、必要無い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「っ!!」

 

アリアの目は覚めた。見慣れない天井に畳の上に敷かれた布団の中で眠っていた。

服は寝汗でグッショリとしている。こんな事は、アリアの記憶の中で初めての体験だった。辺りを見渡してみると、すでに外は日が落ちて真っ暗になっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

知ってしまった、いや、思い出してしまった事実を、整理しきれない。これも初めての経験だ。ガーネットとの出会いで、生まれた感情がそうさせるのだろうか?

 

アリアは覚束ない足取りで立ち上がり、窓を開けた。

無性に風に当たりたい。そんな気持ちも、初めてだった。

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「さて、何処から話すべきか・・・」

 

ここはジョウト地方にある育て屋の老夫婦の家。何でも、ここの夫婦はゲンジの古い友人らしく、ロストタワーでの戦いの後、3日間眠り続けていた俺達をここまで運んできたらしい。俺達はこれまでの旅の経緯を話すと、ゲンジも事情を説明し始めた。

 

「私がポケモン協会の理事長からの命を受け、アルティア家を秘密裏に調査を開始したのは、今から7年前の事だ」

「俺を引き取る、1年前から?」

「それから半年後、私は協会の調査員と協力し、派遣部部長のルーファスとアルティア家の当主が同一人物だということを突き止めた」

「あの、その言い方だと、当主の正体が誰だか分からないみたいなんですけど?」

 

そう質問したのはターコイズだ。確かに、カントーでも有名な名家の当主の顔を誰も知らないなんて事があるのか?

 

「アルティア家の歴史は長い。これは極秘の情報だが、過去に何度も暗殺された経験があり、当主は決して表には出ず、常に影武者で対応してきた。そしていつの日か、誰も当主の正体が分からなくなってしまった。協会理事や、他の貴族達でさえな」

「そんなことが・・・」

 

ゲンジの話で、大まかな敵の正体は分かった。でも、俺が知りたい事は別にあった。

 

「何を悩んでいる?ガーネット」

「あ?」

「母の事か?」

「・・・お見通しかよ、相変わらず鋭いジジィだな」

 

母さんは人工授精の実験で、ルーファスの遺伝子を胎内に宿して、俺が生まれた。

『生命をも単位と数字に置き換えて、慈悲も無く実験台にする』それは、俺の知っている優しい母さんとは正反対の人物だ。

 

母さん、本当の所はどうなんだ?

俺に与えてくれた優しさや家族の情は、母さんにとっては実験の一環だったのか?

母の温もりを知っていながら、そんな疑問が頭を過る。

真実は分からない。俺の疑問に答えられる唯一の人間は、もうこの世にはいない。

 

「私がお前の母、サクラに出会ったのは、ルーファスの正体を知った半年後の事だった」

 

その時、ゲンジはポツリと呟いた。

 

「調査を進める内に、ルーファスの所の研究員が1人逃亡したという情報を聞き、私はアルティア家よりも先にその研究員を捜索し、そして接触に成功した」

「それが、母さんだったのか」

 

ゲンジの言う通りなら、やっぱり母さんは・・・。

 

「ポケモン協会が統治するこの世界の闇の一つ、ブラックシティ。そこの片隅で出会った薬物に侵されたサクラと、まだ幼かったガーネット。その事はお前も覚えているだろう?」

「待てよ、薬物って、母さんは病気だったのか?」

「いや、不躾だとは思ったが、これを読ませてもらった」

 

そしてゲンジが鞄から取り出したのは、10冊の古いノートだ。

 

「これは?」

「いつか、お前が大人になって、自分の境遇を受け入れられるようになったら渡そうと思っていたものだ。それは、サクラの日記だ」

「母さんの?」

「お前にはまだ早いと思っていたが、今だからこそ渡そうと思う」

 

俺は日記を受け取る。それを持って俺は、玄関から家の外に出た。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

ターコイズside

 

 

 

 

「ガーネット・・・」

 

ガーネットが出て行った扉を見つめる。今まで知らなかったガーネットの過去を知って僕も混乱してるけど、ガーネットはそれ以上だろう。本当なら、何か声を掛けた方がいいのかもしれないけど

 

「追わないのか?」

 

そう呟いて、ゲンジさんは僕を見下ろしていた。その答えはもう決まっている。

 

「追いません。ガーネットは、立ち止まるのは性に合わないと思うので」

「それは信頼か?」

「どっちかといえば、経験ですね。負けん気が強くて、意地っ張りだから僕が声を掛けても平気なフリをしちゃいそうですし」

 

それに、ガーネットなら大丈夫。何故だか分からないけど、そう思えるんだ。

 

「それに、今はアリアの方が心配です。家族を見つけるはずの旅が、本当は家族が居なかっただなんて、残酷すぎますよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

ゲンジさんは何も言わなかった。結局その後は、ガーネットの帰りを待つほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

正面に海が見える海岸で、夕暮の光を浴びながら座りこむ。

俺はそこで母の日記を開いた。

 

思わず生唾を飲み込んでしまう。そこに書かれていたのは、倫理を無視した人間やポケモンを実験台にした研究の内容が書かれていた。

それに腹の中の研究物?それは俺のことじゃないのか?それを嬉々として記録している。

 

「――――マジかよ・・・!」

 

あまりにも、俺の知っている母とは違いすぎる。ルーファス達との認識が違うのも当然だ。

日記を読み進めていくのは、正直怖い。この後、どういう過程で俺が生まれたのだと想像すると、寒気がする。それでも読み進めなければならない。俺が母さんの真実を見つけなければならないのだから。

だが読み続ける内に、吐き気がする。母は、自分の知的探究心を満たすために腹の子供を育んだのだ。それも単なる研究道具とし割り切って。

 

「・・・ん?」

 

このページから、日記の内容に変化が現れた。俺はそのまま読み進める。

 

 

『●月■日

 

最近、何か様子がおかしい。以前ほど研究に没頭できないくなっている。

だが今はどうでもいい、忘れよう。

 

胎から取り出した後は、成人するまでは人間と同様とする。ただし、肉体的に欠損していた場合は処分する。

私は、間違ってはいないはずだ。胎の中のものがまた大きくなった』

 

このあたりから、中身が戸惑っているように見えた。胎の中の俺の扱いは相変わらずだ。

 

「・・・なんだ、これ?」

 

ページには、何度も読み返したような手垢の後と、水を零した様な染みが幾つもついていた。それも小さなものだ。疑問に思いつつも、ページをめくる。

 

『■月×日

 

胎の中のものは順調に育っている。後は出てくるのを待つだけだ。

 

下腹部に触れる機会が多くなってきた。理由が分からない』

 

 

『■月●日

 

特に書くことはない。

 

胎の中のものが動いた。動いた時、その動きは良く分かる。

眠る時にも気を使う』

 

 

『△月×日

 

そろそろ動くのも不自由になった。実験に影響が出なければいいが。

 

元気だ。

 

分からない。私は何を書いている?』

 

 

『△月■日

 

胎の事を考えると、そろそろ動くのを控えたほうがいいだろう。

レントゲンを見てみると、顔立ちは支部長に似ていると言われた。

動くたびに腹に触れると、動きが止まる。私がそうだとわかるのだろうか?

 

私は、なんだ?これは、なんだ?

 

分からない。

不愉快だ。分からない事は不愉快だ。

 

腹にふれる。胎の中のものが分かる。

不愉快ではない。不思議だ』

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

単なる感想が多くなっている。それも、胎の中にいる俺を思うものばかりだ。

どういう気分なんだろうか?道具として扱っていたものが、『それ』であると理解するのは。

 

母の気持ちは俺には分からないが、それを示す涙の跡が、ページに残っていた。

ページを進める。

 

 

『1月24日

 

胎の中の子供が生まれた。

 

私は、何をしているのだろう?

 

あのか細い手が私の指を握った時に思ってしまった。

私の胎にいたそれは、触れるだけで幸せになれるそれは、私が玩具にしていたそれは。

 

確かに私の子供だ。

そうとも、私以外誰にも産めない、私の子供だ。

 

もう一度、この子に触れる。それだけで、私の中の何かが砕け散った。

 

どうしてこんな事になったのだろう?私は何処で間違えた?』

 

 

『×月●日

 

日に日にこの子は大きくなっている。

 

――――――その日が、近づいてくる。この子が、変わり果ててしまう。

 

何とかしなくてはならない。私がこの子に辛い運命を背負わせてしまった』

 

 

『×月△日

 

ようやく考えが纏まった。

 

私はこの子に、とてつもない試練を背負わせてしまった。

 

それが神の思し召しなど、死んでも言わない。全て私の選択だ。

この子を私の欲求を満たすためだけの道具として産んでしまった。

 

皮を剥がされ、内臓を切り分けて培養器に入れられるのだろうか?

感情を無くし、血みどろになって戦うのだろうか?

悦に浸って、人間やポケモンを襲うのだろうか?

 

それは獣の所業だ。そんな事は耐えられない。

だが、そうなる様にしたのは私だ。死んで償うことなどできない。

 

なら、抗おう。自分が犯した間違いを、正してはいけないという決まりは無い。

この子の為ならどんな法でも破って見せる。それが私にできる唯一の事だ』

 

『×月×日

 

私はこの子と共にアルティア家から逃げる準備は整えた。

これからブラックシティに向かう。治安が悪い街だが、アルティア家の力が及ばない街はここしかない。比較的安全に暮らせる筈だ。

無論リスクは大きい。だが成し遂げなければならない。償わなければならない。

神様などには祈らない。私がこの子を幸せにして見せる。

 

この子の名前も決めた。1月の誕生石、ガーネット。石言葉は、秘めた情熱』

 

 

「母さん・・・・!」

 

視界が涙で滲む。言葉の一つ一つが胸を締め付ける。

俺はページをめくり続ける。

 

母さんが自分の体も使って研究していることが分かった。薬の乱用で体は衰弱しきっているが、まだ見守ることはできると、はっきりした筆跡で綴られていた。

後は俺との暮らしの日記だった。

そこからの量が特に多い。1日1日、欠かすことなく書いてある。

中身は俺を心配する言葉と、謝罪の言葉と、俺への愛情で満ち溢れていた。

 

 

『●月×日

この子はどんな感情を見せるだろうか?

もっともっと笑ってくれるだろうか?いつか、大切な人が出来るだろうか?

惜しむのなら、私がそれを見届けられないということだろう。

実験の影響で、私の体は限界に近い。

覚悟はしていたことだ。それでもガーネットの成長を見届けたい。

私が何時も通りに家事をしている度に言うのだ。

 

「お母さん、ありがとう」と。

 

私にはそんな資格は無い。ただ、それを拒否することもできない。

たとえどんな事があっても、私だけはガーネットの味方でいる』

 

 

 

「はぁ・・・」

 

涙が頬を伝って、ノートに落ちる。それと同時に、胸に迫るものがあった。

 

「俺は、生きてていいんだよな」

 

こんなにも俺を愛してくれる人がいた。それだけで、俺の人生は幸せだったと思える。

 

「っ!!」

 

最後の日記の、最後のページを開く。

そこに遭ったのは日記ではなく、手紙のようだった。

 

 

『今までの名も無いあなたと、これからの未来を生きるガーネット。

そして今、これを読んでくれているガーネットへ。

 

この世に神様はいない。どこにもいない。でもここに、私はいる。ガーネットがいる。

私はガーネットに救われた。こんな私の指を握ってくれた。ガーネットは、笑ってくれた。

 

分からせてくれた。

 

いっぱい間違ってしまった私は、ガーネットに沢山のものを貰った。

今まで沢山ガーネットを傷つけた私は、それよりももっと「ありがとう」を伝えたくて。

けれど伝えられる言葉は無いから、ただ祈るの。

 

誰よりも幸せであれと、ただただ祈るの。

 

ガーネットにも愛する人が出来て、幸せになれると信じている。

だから言わせてください。ありがとうと、ガーネットに。ごめんなさいと、私から。

 

これから私のせいで、辛い試練がガーネットを襲うでしょう。もしかしたら、死んで楽になった方がいいと思うかもしれない。

 

でも諦めないで。どんな事をしてでも立ち上がって。

酷いことをされたら、何千、何億倍にもして返してもいい。他の人を不幸にしてでも、他人の幸せを砕いてでも、それこそ不幸なんて入り込む余地が無いくらいに、幸せになって。

 

それだけが、×××私の願いです』

 

 

最後の一文は、塗り潰されていた。でもなんて書こうとしていたかなんて、見当がつく。

 

「遠慮するなよ、『母さん』」

 

いつの間にか、涙は止まっていた。

 

「謝る必要なんて、どこにもねぇだろ」

 

確かに業は背負わされた。ブラックシティの生活が辛くなかったと言えば嘘だ。その上、実の父親からは命を狙われている。

でも母さんの思いは本物だといことはこの日記が示している。それに何より、救われた。

 

「ありがとよ、母さん・・・!」

 

どれだけ自分の罪を悔やんでも、どれだけ謝っても、俺を産んで育ててくれた事を母さんは一度も後悔してないのだから。

それだけで、俺は生きててもいいと、言われた気がする。

 

「だったらアリアも、生きてていいよな?」

 

力任せに拳を握る。だって、幸せにならなくちゃ何の為に生まれたか分からねぇだろ?

 

「あーーーー!!なんかムカついてきた!!」

 

俺は夕日に向かって吠える。ルーファスも、ウジウジ悩んでいた自分にも。

もう一瞬たりとも、恥じるような生き方はできない。だったらもう進むのみだ。

持っていた日記全てを鞄にしまう。起きてしまった事は変えらねぇけど、こっからどうしていくかは俺達次第だ。

俺はアリアが眠っている寝室へと走り出した。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

全速力で走って帰ると、日は沈んで夜の帳を降ろしていた。

俺は玄関で靴を脱ぎ捨て、アリアが眠る寝室へと足を踏み入れる。アリアは窓を開け、じっと夜空を見上げていた。アリアの長い髪が、風を浴びて舞う様に揺れる。

 

「・・・ガーネット」

 

アリアが俺に気付いて、振り返る。その表情は相変わらずの無表情だったが、瞳は揺れていた。初めてアリアと出会った夜を思い出す。あの頃に戻ったみたいな錯覚に襲われた。

 

「・・・ずいぶん汗を掻いてますね」

「まぁ、走って帰って来たからな」

 

そんな会話をしながら、俺はアリアの隣まで行く。

 

「・・・・」

「・・・・・・・・」

 

俺達の間に会話は無い。俺が話し掛けない限り、会話はできないだろう。そりゃそうだ、アリアは口数は少ないからな。

だから、言わなければならない。アリアには残酷かも知れないが、この話を進めない限り、俺もアリアも前には進めないのだから。

 

「お前、ルーファスの恋人のエリーって女のクローンだったんだな」

「・・・はい。すべて、思い出しました」

 

そう呟くアリアの表情は、やっぱり変わらない。

 

「どんな、事があったんだ?」

「・・・私は、エリーのクローンとして、ほぼ人間と変わらない体を持って生まれました。ですが、ルーファスにはそれでは納得できなかったようです」

 

そこまではルーファスから聞いたのと同じ内容だ。でも問題はその先だ。

 

「・・・ルーファスは何やら別の方法でエリーを蘇らせることを思いついたらしく、私は殺処分されることとなったのですが、その前にポケモン図鑑の奪取を命じました。結局それも失敗した私は、自害しようとしていた所をガーネットに止められ、今に至ります」

 

そう言ってから一拍置いて、アリアは呟く。

 

「・・・私はもう、必要とされていないそうです」

 

その一言は、思ったよりも堪えた。

 

「・・・私には、最初から家族はいません」

「・・・・・・・・」

「・・・ガーネットとの旅の目的は、最初から破綻していたんです」

 

そう呟くアリアは、無表情のままだ。

 

「・・・知っていますか?ガーネット」

「何がだ?」

「・・・私が生まれたのは、去年の3月5日。私はまだ1年しか生きていないんです」

「っ!!?」

 

知らなかった衝撃の事実だ。赤ん坊から育てられたんじゃないのか?

 

「・・・最近の技術は非常に高いそうです。私は培養器の中で育ちました」

 

こんなに饒舌なアリアは、初めて見た。

 

「・・・最後には、私を作ったルーファスによって殺される」

 

俺はアリアの横顔を見つめた。その横顔は始めてみる表情をしていた。

 

「・・・ガーネット、教えてください。私は何のために生まれたのですか?」

 

眉一つ動かさなかった。声一つ震えなかった。でも、その瞳からは一筋の涙が零れ、月明かりで輝きながら、頬を伝って畳に落ちた。

こんな形で、アリアの泣く所なんて見たくなかった。

でも、そうなるようにしたのは俺だ。アリアを旅に連れ出し、こいつの過去を思い出させるような事件に巻き込んでしまった。知らなくても幸せになれたであろうに。

アリアは今、涙を流しながら何処にあるかも分からない答えを俺に求めている。

だから俺は、たった一言呟いた。

 

「幸せになるんだよ」

「・・・・?」

 

何を言っているのか分からないという表情で、俺を見るアリア。

それに構わず、俺は続けた。

 

「お前に出生は、確かに酷なもんだ。それで、その苦しみはお前だけのもんだ。誰にもお前の苦しみは分からねぇよ」

「・・・・・」

「でも、何が起きてもお前は1人じゃない」

 

頭の中で必死に言葉を考え、声に出す。

 

「家族が居ないってんなら、俺が家族になってやる。それに、俺達はポケモントレーナーだ。見てみろよ、お前のポケモンを」

 

布団の隣に置いてあった5個のボールの開閉スイッチを押す。飛び出してきたのは、この1ヶ月アリアと共に闘ってきたアリアの手持ち達だ。

 

「ピカチュウがいる。ムクバードもいる。サンドもいる。プロト―ガもいる。チリーンもいる。皆、お前の家族になってやれるんだ」

 

アリアは俯く。例え無表情でも分かる。その表情はいまだ晴れない。

 

「・・・それでも、ルーファスとサンゾウは強大です。彼等に掛れば」

「だからよ、そいつら纏めてぶっ飛ばすんだよ。強くなってな」

 

アリアの言葉を遮って、そう宣言する。

 

「向こうから仕掛けて来たんだ。だったら、返り討ちにしちまっても文句ねぇだろ?」

 

少し目を見開いて、俺を見つめるアリア。この表情は・・・。

 

「お前、無理だって思ってるだろ?」

「・・・彼らはすぐに行動に移すはずです。私達が強くなる時間など」

「その心配はないよ」

 

アリアの言葉を遮り、部屋に入って来たのはターコイズだ。

 

「お前、盗み聞きしてたのか?」

「今ツッコム所はそこじゃないよね?まぁいいや。ゲンジさんからの提案があってね、その問題は無くなりそうなんだよ」

「・・・提案?」

「私から説明しよう」

 

ターコイズに続いて入って来たのはゲンジだ。

 

「ルーファス達は私に存在をばれて、逃亡の準備に取り掛かっているはずだ。だが、それには時間が掛るはずだ」

「何でだよ?ぱっぱと逃げちまえばいいのに」

「秘密裏に処理しなければならない事件なだけに、少数ではあるがポケモン協会のトレーナーが奴の組織の構成員の捕縛に取り掛かっている。その事は奴も知っているだろう」

「ふむふむ、それで?」

「人の口に戸は立てられない。構成員が一人でも捕まれば、そこからどんな情報が漏れるか分からないからな。ならば、相手もこちらの動きに警戒して、迂闊には動けないだろう」

「更に、ゲンジさんが捕縛班に加わるから余計だね」

「だがこちらも少ない戦力で、ルーファス達を相手にするのは高いリスクが伴う。ならば、相手が完全に油断している方向から攻撃を仕掛ける」

「おいジジィ、それってもしかして」

「一度完全敗北を喫したお前達が、ルーファスに奇襲を仕掛ける」

「勝算は?」

「無ければ作る。実力が足りないのならば、鍛え上げるまで」

「わーお」

 

最後の最後で、えらい大雑把な作戦だこと。

 

「本来ならば、これは我々ポケモン協会の仕事だ。関係者とは言え、子供のお前達に危険な役割を任せるのは間違いだろう。だが、ここで確実にルーファスを倒さなければ、お前達に未来はない。そして、それをお前達の手で果たさなければお前達は前には進めない。ならば、私に出来る事はそれを成し遂げる力を与えると言う事だけだ」

 

母の無念と、父との因縁。

恋人の代わりとして生み出された空っぽの人生。

長年の夢を無残にも踏み潰された。

 

「お前達に問う。この作戦に加わるか否か」

 

動機は復讐に良く似ていて、でもこれを為さなくては前には進めない。なら答えは初めから決まっている。それは珍しくターコイズも一緒だった。

 

「俺はやるぜ。あの澄ました面をまだ殴って無いからな」

「僕も。今回の事は、僕も怒ってるんだからね」

 

そう答える俺達を見て、アリアは確かに戸惑いの表情を見せた。

 

「なぁアリア、難しい事を今考えても分からねぇだろ?」

「・・・はい」

「俺が前に言ったこと、覚えてるか?」

「・・・?」

「ぶん殴れば、スッキリするって言ったんだよ」

「・・・覚えてます」

「今後の事とか、お前の将来とか、そんな難しい事はルーファスの野郎をぶっ飛ばしてからにしようぜ。頭ん中スッキリさせりゃ、何か見えてくる」

「・・・そうでしょうか?」

「俺が保証してやる」

「・・・根拠が、ありませんよ」

「それを今から作るんだよ。だから、生きてもう一度旅を始めようぜ、アリア」

 

そう言って俺が笑うと、アリアの両の眼からボロボロと涙が零れ始めた。って、えぇ!?俺何かした!?そう戸惑っていると、アリアは俺に抱きついて胸に顔を押しつけて来た。

 

「・・・すみません。少しこうさせて貰っても良いですか?」

「・・・・おう」

 

そう言ってアリアの頭を撫でてやる。前に触れた時同様、羨ましい程の手触りだ。

 

「・・・何故、こんな行動に出たか、理解が出来ません」

「今は無理でも、これから先、生きてりゃ分かる時が来るさ」

 

ルーファスを倒せば、幾らでも時間はあるんだから。

 

「・・・ガーネット」

「ん?」

「・・・私は、まだ自分が何をしたいか分かりません」

「そうか」

「・・・この戦いが終われば、一緒に探してくれますか?」

「あぁ、良いぞ。お前が一緒なら旅も楽しいからな」

「・・・約束ですよ」

「おう」

 

月明かりに照らされた部屋の中で、俺とアリアはいつまでも抱き合っていた。

 

「あのー、僕達が居るのを忘れて、ラブコメされても困るんだけど?」

 

月明かりに照らされた部屋の中で、手持ちポケモン達はニヤニヤ笑いながら俺達を見て、ターコイズは顔を赤くしながら呆れている。ゲンジは「曾孫、か」と呟いていた。

 

「記憶を消せぇぇぇぇぇぇ!!!(ドゴォッ!!)」

「ひでぶぅっ!!?」

 

俺の全力のはハイキックが、ターコイズの顔面を捉えた夜の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは修業編&アルティア家打倒編です!!
皆様からのご指摘ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来を求めて 打倒アルティア家
VSサザンドラ


駄文更新。内容分かり難くないでしょうか?


 

 

 

 

 

 

 

「手持ちを6体揃える?」

 

ゲンジの修業を受ける初日、初めに言ってきた事はそれだった。

 

「そうだ。敵はアルティア家、お前達の手持ちは4~5体、それではあまりに心許ない。最低でも6体全て揃えて、連携を確立させる」

「確かに、仲間を多い方がいいよね」

「・・・ですが、何処で捕獲するのですか?周囲に生息しているポケモンでは、育てるのに時間が掛ると思いますけど」

「今回は修業も兼ねて、ある場所で捕獲してもらう。とにかくカイリューに乗れ」

 

そう言って、ボールからカイリューを繰り出すゲンジ。面白ぇ、どうせゲンジの事だからとんでもない場所で修業させようってんだろうな。

 

「ちょいと待ちな」

 

カイリューに乗ろうとした所で、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、そこには育て屋の老夫婦だ。手には丸い何かを持っている。

 

「ゲンジから話は聞いた。だったらこれを持って行きな」

「何ですか?これ」

 

老夫婦が持っていた丸いものを、ターコイズが受け取る。

 

「ポケモンの卵じゃ」

「卵ぉ!?」

「きっと、お前さん等の力になってくれる。持って行きなさい」

「でも、良いんですか?この卵の親が居るんですよね?」

「構わん構わん。預かっていたポケモンを一緒にしてたら、偶然見つけた物での。そのポケモンのトレーナーに話したら、是非貰ってくれと言われたものじゃ。なら、今から戦いに赴く若者に渡すにもいいじゃろ。その代わり、しっかり育てるのじゃぞ?」

「はい!」

 

その卵の親はターコイズに決まったようだ。まぁ俺が持ってたら卵を割るかもしれないしな。

 

「準備は出来たか?なら、出発するぞ」

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

「ガーネット、僕もう帰りたいんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

 

正面にそびえ立つ、雲を突き破る巨大な山々。辺りの枯れ木からは《ヤミカラス》の鳴き声が響き渡るとてつもなく不気味な山。立て看板にはこう書いてあった

 

『親から貰った命を粗末にしてはいけません。

 この場所はジムリーダー以上の役職の者の許可が無ければ立ち入り禁止です。

                        シロガネ山管理委員会』

 

生命保険対象外区域にして、世界行きたく無い場所ランキングワースト5。

極めて強力な野生ポケモンが蔓延るシロガネ山の前に俺達は来ていた。

 

「まさかとは思うけど、ここで修業する訳じゃ」

「ここで修業をする」

「「ぎゃーーーーーーーー!!!」」

 

正気かこのジジィ!!ルーファスと戦う前にここで死ぬわ!!

 

「修行に当てられる時間は短い。手っ取り早く強くなるには、自分よりも強いものと闘う事だ。無論ポケモンの捕獲も此処で行う」

 

理屈は分かる、分かるけども!今までのスパルタを遙かに超えるものがあるぞ!

 

「まずはポケモンを一体出せ。初めに私とのバトルだ。交代は認めよう」

 

そう言ってゲンジはポケモンを繰り出す。現れたのは頭が3つあるドラゴンポケモン《サザンドラ》だ。俺達もボールを取り出す。

 

「頼むぞ、ナツ!」

「・・・ピカチュウ」

「頑張って、ジャック!」

 

対峙する3体と1体。見ただけで分かる実力差と、体の大きさも相まってその光景は巨像と蟻の対決にも見えた。

 

「3対1で構わん。私が使うのはこのサザンドラだけだ」

 

言ってくれる・・・!ならこっちから行かせてもらう!!

 

「ナツ、〝りゅうのいぶき〟!!」

「ピカチュウ、〝エレキボール〟」

 

強烈な息吹と球状の電撃がサザンドラに迫るが、

 

「サザンドラ〝トライアタック〟!」

 

サザンドラの三つの口から放たれた電撃、炎、冷気がナツとピカチュウの攻撃を相殺する!その影響で小さな爆発が起こり、辺りは煙に包まれた。

 

「もう一度〝トライアタック〟だ!」

 

煙の中から再び3つの攻撃が放たれる。狙いは冷気をナツに、炎はジャノビーに、電撃はピカチュウに目掛けて発射された!明確な指示も無しにこれだけ狙って攻撃できるとは・・・!

 

「ジャック〝ひかりのかべ〟!!」

 

サザンドラの攻撃が命中する直前、それぞれのポケモンの目の前に光の壁が展開される。攻撃が着弾するのと同時に、光の壁は砕け散った!

 

「〝りゅうのはどう〟!!」

 

サザンドラの口から圧倒的なエネルギーが放出される!あれを食らったらお終いだ!

 

「〝りゅうのいぶき〟で弾きかえせ!!」

 

ナツの口から強烈な息吹が放たれ、〝りゅうのはどう〟とぶつかり合う!威力は僅かに向こうの方が上の様だが、今回は打ち勝つのではなく、弾くのが目的だ。結果、息吹は掻き消されたがエネルギーを明後日の方向へ逸らす事が出来た。

 

「続けざまにもう一丁〝りゅうのいぶき〟!!」

「ジャック〝はっぱカッター〟!!」

 

強烈な息吹と、幾つもの葉の刃がサザンドラに迫る!

 

「サザンドラ〝おいかぜ〟!!」

 

自分に対して追い風を発生させる事で、素早さを急上昇させる技、〝おいかぜ〟。それはつまり、正面で対峙ている俺達には向かい風になるという事。

その強烈な風により、息吹と葉の刃の軌道は大きく逸れてしまう。くっ!まさかこんな使い方があるなんて!

 

「こんな風じゃ、遠距離攻撃が狙えない・・・!」

「クソッタレがぁ・・・!」

 

俺達が追い風に四苦八苦している時、アリアはピカチュウの隣にしゃがんで、ジッとサザンドラを見つめていた。その人差し指は忙しなく何かを追っていた。あいつ、何を・・・?

 

「む?サザンドラ!」

 

アリアの異変に気付いたのか、ゲンジは標的をアリアに変える。

 

「不味い!このままだと・・・!」

「させるかぁ!!ナツ!!」

 

俺の指示を受け、ナツはサザンドラに向かって行く。間に合え・・・!

 

「〝かえんほうしゃ〟!」

「〝とんぼがえり〟!!」

 

サザンドラの口から強烈な炎が発射されるのと同時に、ナツがサザンドラの胴体にタックルをかまし、すぐさま俺の所に戻ってくる!それによりサザンドラの体は傾き、炎の軌道はピカチュウとアリアから逸れた。何とか間に合ったみたいだ。

 

「ピカチュウ〝10まんボルト〟」

 

すぐさまピカチュウが強烈な電撃を放つ!〝おいかぜ〟により速度が上がったサザンドラは素早く右に避けたが、

 

「む」

 

電撃はサザンドラを追う様に右に曲がり、サザンドラに直撃する!まるでサザンドラの〝おいかぜ〟を操ったかのように。

 

「この風の中でよく・・・!」

「俺達も負けていられねぇ!行くぞ!」

 

俺とターコイズが指示を出すべく、口を開いた。

 

「ガーネット、アリア!上だ!!」

 

その瞬間、天から無数の光弾が俺達の手持ち3体に降り注いだ。

 

「ぐおぉぉ!!?」

「・・・っ!」

「くっ!ジャック〝ひかりのかべ〟!!」

 

ジャノビーが俺達を守るべく、巨大な光の壁をまるで天井の様に真上に形成するも、降り注ぐ光弾の圧倒的な質量に光の壁は完膚なきまで破壊される!!

そのまま光弾を浴びたナツとピカチュウ、ジャノビーは戦闘不能になってしまった。

 

「さぁ、次のポケモンを出せ。今日の修業はまだ終わっていない」

 

俺達の地獄は、ここから始まった。

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

「おい、生きてるか・・・?お前等」

「・・・無事とは、言えません。ターコイズは、気絶したようです」

「・・・・・・・(チーン)」

 

結局あの後は、サザンドラ一体に俺達のポケモンは全滅させられ、俺達3人も満身創痍で地面に倒れ伏していた。それに引き換え、ジジィは傷どころか汗一つ掻いて無い。人間かこのジジィ?

 

「全体的な総合能力の差と、状況判断の甘さが招いた結果だな(ゲシッ)」

「ハゴッ!!?」

 

ゲンジはターコイズの頭を軽く蹴って起こす。俺達はそのままの体勢でゲンジの話を聞いていた。姿勢を正せとか、はっきり言って無理。

 

「初戦でお前達のポケモンを戦闘不能にしたのは、戦闘中に生じた煙に紛れて上空に向かって放った〝きあいだま〟だ。落下までの時間差を利用したのだ」

「それに気付かなかった俺達は、何も出来ないままやられたって訳か」

「だが、お前達にはそれぞれ優れているものがあるという事が分かった」

「え?」

 

珍しいな、ジジィが人を褒めるなんて。

 

「まずはガーネット。お前達は防御や補助は成っていないが、その代わり攻撃の威力には目を瞠るものがある。お前はあの時煙で気付かなかったかもしれないが、サザンドラの〝トライアタック〟はピカチュウの〝エレキボール〟は簡単に貫いたが、ビブラーバの〝りゅうのいぶき〟で貫かれてしまっている」

「え?マジで!?」

「更には〝りゅうのはどう〟の威力を殆どを削り、〝とんぼがえり〟でサザンドラを怯ませることまでやってのけた。そのLv,のポケモンの攻撃なら微動だにしないはずなのにな。それは他のポケモン達も同様だ。つまりお前のチームは、装甲の無い戦車の様なチームだという事だ」

「それただの大砲だからな?」

 

褒めてんのか貶してんのかハッキリしてほしい。

 

「次にアリア。お前達の基礎能力は並だ。だがその類稀なる射撃の才を用いて、技を外さない事がお前の能力だ。〝おいかぜ〟によって速度の上がったサザンドラに真っ先に攻撃を当てた事。加えて強い向かい風の軌道を読み、サザンドラの動きを読み、攻撃を曲げられながらも当てた事は驚嘆に値する」

「・・・命中率の高さですか」

「最後にターコイズ。お前達は敵を倒す決定打に欠けているものの、その高い危険察知能力と防御能力が特徴のチームだ。この試合でも、ガーネットやアリアのポケモンが倒れないように、〝リフレクター〟や〝ひかりのかべ〟を複数同時に展開、状態異常を防ぐ〝しんぴのまもり〟やステータス低下を防ぐ〝しろいきり〟の使いどころも良かった。全滅の時間を稼ぎ続けたのはターコイズの功績だ」

「どうも、ありがとうございます・・・。」

「それらを踏まえたうえで、今後の修業な内容を伝える」

 

目の鋭さを一層増して、そう呟くゲンジ。俺達は緊張から姿勢を正し、耳を傾ける。

 

「今から総合能力を上げても、奴らを倒す実力を付ける前にタイムリミットが訪れるだろう。奴等はそれほどまでに強い。故に、お前達の長所を徹底的に伸ばす方針でいく」

「そんでもって、ポケモンを6体揃えると」

「そうだ。先程も話した通り、時間は限られているので捕獲と修業は両立して行う」

「あの~、ちょっと質問なんですけど」

「言ってみろ」

「捕獲の時はゲンジさんは同伴してくれるんですか?」

「1人で捕獲するのも修業の内だ。時間も無いので今から捕獲に迎え」

「「なんだってーーーーー!!?」」

「・・・えー」

「私はここでベースキャンプを建てておく。初日なのでな、初めはゆっくりしておけ」

 

 

俺達の地獄はまだまだ続く様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしいな。川の向こうに母さんが見える」

「・・・意識が、遠のいて・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(チーン)」

 

その後、圧倒的に強い野生ポケモンに追い掛け回され、自分の分を超えた強い野生のポケモンを何とか捕獲して俺達はベースキャンプに戻って来た。

 

「よくぞ戻って来た。捕獲したポケモンを報告しろ(ゲシッ)」

「うぐっ!?」

 

意識を失ったターコイズの頭を再び蹴飛ばし、目を覚まさせるゲンジ。俺達は何とかボールを目の前に出し、ゲンジに見せつける。

 

「ガーネットは《ダーテング》、アリアは《ヘルガー》、ターコイズは《ラプラス》か」

「へへ、手持ち総動員して、4対1でボコボコにして、やったぜ」

「・・・危うく、山火事になる所、でした」

「・・・・・・・・・・・」←喋る気力もない。

「では、明日より修業を行うが、ガーネットだけはポケモンの捕獲をしてからだ」

「何で!?」

「いや、当然じゃないかな?」

 

そう言ったのは、体力が戻って来たターコイズだ。

 

「アリアはすでに5体いるから今回の捕獲で6体揃うでしょ?」

「じゃあお前は?」

「僕は今回捕獲したのと、この卵が孵ればそれで6体揃うし」

「何時孵るか分からねぇじゃん」

「いやいや、この卵なんだけど、貰った時から時々動いてるんだよね」

「・・・・ゑ?」

「多分産卵してから結構経ってるんだろうね。もうすぐ産まれるよ」

「そんな馬鹿な―――!!?」

「・・・ガーネット」

 

余りの出来事に呆然とする俺に話しかけたのはアリアだった。何か慰めの言葉でも掛けてくれるんだろうか?そう期待してると、とんでもない言葉を掛けてきやがった。

 

「・・・人は何時か死ぬものです。健闘を祈ります」

「イヤァーーーーーーーーーーー!!!」

 

俺の地獄は、明日も続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

キャラクターデータ

 

名前:ガーネット

年齢:11歳

性別:男

所持金:19749円

 

手持ちポケモン

 

ナツ/ビブラーバ ♂ Lv,38

メリー/モココ  ♂ Lv,35

イヴ/グレイシア ♀ Lv,35

マー坊/マンキー ♂ Lv,33

ダン/ダーテング ♂ Lv,52

 

 

名前:アリア

外見年齢:10歳(実年齢:1歳)

性別:女

所持金:18321円

 

手持ちポケモン

 

ピカチュウ ♀ Lv,37

ムクバード ♂ Lv,34

サンド   ♀ Lv,35

プロト―ガ ♂ Lv,32

チリーン  ♀ Lv,31

ヘルガー  ♀ Lv,54

 

 

名前:ターコイズ

年齢:11歳

性別:男

所持金:24530円

 

手持ちポケモン

 

ジャック/ジャノビー  ♂ Lv,35

キャサリン/ぺリッパー ♀ Lv,34

ルージュ/ドンメル   ♀ Lv,32

ライル/ドラピオン   ♂ Lv,32

スズラン/ラプラス   ♀ Lv,55

ポケモンの卵  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様からのご意見庫感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSエアームド

修業編第2話です。


 

 

 

 

 

 

「くそ・・・!強ぇな・・・!」

 

シロガネ山生活2日目、俺は最後の一体を捕獲するために単身山へと潜り込んだ。正面には口から飛び出した大きな牙が特徴のポケモン《オノンド》と、それに対峙するビブラーバのナツが居た。戦いを始めてから、すでに1時間は過ぎているだろう。

 

「出来る限り弱そうな奴と思って挑んだんだけどな・・・!さすがシロガネ山、ここまで戦えるとはな!ナツ〝はがねのつばさ〟!」

 

羽を硬化させオノンドに叩きつけるが、その羽を掴んでナツを地面に叩きつけた!やっぱりこいつもかなり戦い慣れているな。

そのまま地面に横たわったナツに追い打ちを掛けようと、腕を振り上げるオノンド。

 

「させるか!〝りゅうのいぶき〟!!」

 

至近距離から強烈な息吹がオノンドを吹き飛ばす!だがオノンドは空中で姿勢を直しやがった。そのまま地面に着地する直前に、

 

「今なら避けられねぇだろ!〝りゅうのいぶき〟!!」

 

奴の着地地点に目掛けて息吹を放つ。アリアみたいな正確さは無くとも、大雑把な狙いなら俺でもつけられる。オノンドは再び吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。

 

「今だ!おりゃぁああ!!」

 

一球入魂。モンスターボールをオノンドに投げつけると、オノンドはモンスターボールの中に吸い込まれる。そのまま抵抗する様にボールが左右に揺れるが、最後はパチンという音と共にボールは動かなくなった。これはつまり捕獲成功の合図だ。

 

「あ~、もう動けねぇ!」

 

今回の戦闘のほかに、このシロガネ山を野生のポケモンに追い掛け回されながら歩き続ける事2時間。体力は限界を迎え、俺は地面に座り込んだ。

 

「ナツもお疲れさん。ゆっくり休めよ」

 

ナツをボールに戻し、捕獲したオノンドを見つめる。ゲンジはドラゴンタイプの使い手だ。このオノンドも上手い育て方を教えてくれるだろう。

 

「ニックネームは、そうだな・・・。《ドン》にしようか」

 

俺は新しい仲間であるドンが入っているボールを腰のベルト部分にしまい、立ち上がる。ここに居ては何時野生ポケモンにでくわすか分からないし、何よりも、早く修業に取り掛かりたかった。

 

 

 

 

 

   

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

俺は何とか下山し、ベースキャンプに戻ると

 

『犯人はサザンドラ』

 

そんなダイニングメッセージと共にターコイズは地面にうつ伏せになって倒れていた。周りにはターコイズの手持ち5体が戦闘不能になっている。一体何があったんだ・・・?

 

「・・・ガーネット、ですか?」

「アリア!?お前もどうした!?」

 

ターコイズの惨劇に驚いていると、満身創痍のアリアが木の棒を杖代わりにして山から出て来た。その後ろにカイリューを引き連れて、汗一つ掻いていないゲンジが出て来た。

 

「おいアリア!一体どんな修業が待ち受けているんだ!?」

「・・・ガーネット、《クロバット》って、素早いんですね。初めて知りました」

「しっかりしろ!アリア!!傷は浅いぞ!!」

「・・・疲れたので、寝ます(ガクッ)」

「アリアーーーーーーー!!!」

 

くっそー!一体何があったんだ!!?クロバットが一体どうしたというんだ!!?

 

「ようやく戻って来たか。ではすぐに修業を始めるが、その前に頼みがある」

「な、何だよ?頼みって」

「死なないでくれ!!」

「アンタ俺に何をさせようってんだ!!?」

 

死ぬような事をさせるつもりなのか!?

 

「頭の中で、出来る限りの辛い修業を思い浮かべてみろ」

 

そう言われて、とりあえず漠然とした辛い修業シーンを思い浮かべてみる。

 

「思い浮かべたか?」

「おう」

「ならあえて言おう。そんなものは天国だ!!」

「さようなら!!」

 

三十六計逃げるに如かず。背を向けて全力で走り出した俺の首根っこを、カイリューはいとも容易く掴んだ。えぇい、離せ!!

 

「それではこれより修業を開始する!!」

「イィーーーギャァアーーーー!!!」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!走れお前らーーー!!死ぬぞーーーー!!」

 

ここはシロガネ山中腹の丘の上。俺はナツとメリー、イヴとマー坊、そして新しく仲間になったドンと共に、《エアームド》の群れに襲われていた。全部で20体はいるだろう

 

「メリー〝ほうでん〟!!」

 

メリーから四方八方に向けて電撃が発せられ、数体のエアームドに直撃するが

 

「殆ど効いてねぇーんだけど!!?」

 

体にちょっと焦げ目が付いただけで、ダメージは殆ど無し。幾らなんでも強すぎない!?

 

「エアームドのタイプは鋼と飛行。それらのタイプの特徴であるスピードと防御力を併せ持つ強敵だ。生半可な攻撃では通用しない」

「そもそもエアームドが群れる時点でおかしくね!!?」

「それがシロガネ山だ。無駄口を叩いていると死ぬぞ」

「おわぁっ!!?」

 

エアームドの鋼鉄の翼を何とか回避する。〝はがねのつばさ〟だ。そしてもう一体のエアームドが、今度はナツに向かって鋼鉄の翼を叩きこもうとしている。

 

「ナツ!〝はがねのつばさ〟で迎撃しろ!!」

 

ナツの羽が硬化し、エアームドの翼との鍔迫り合いが始める。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

鋼鉄の羽と翼の鍔迫り合いの末、ナツはエアームドを力ずくで弾き飛ばした!

 

「マー坊!あいつを狙え!!」

 

ナツに弾き飛ばされたエアームドを指差し、マー坊に指示を飛ばす!マー坊は素早いフットワークを活かしてエアームドの真下に潜りこんだ!

 

「〝ほのおのパンチ〟!!」

 

炎を纏った左の拳をエアームドに叩きこむ!鋼タイプのエアームドには効果は抜群だが、エアームドは苦しみながらも上に逃げようとする。

 

「もう一発だ!!〝ほのおのパンチ〟!!」

 

今度は右の拳に炎を纏わせ、再度エアームドに叩きこむ!エアームドは今度こそ力尽きて、地面に墜落した。よし、まずは一体だ!

 

「一体に対して集中し過ぎてても良いのか?」

「どわっ!?」

 

鋭い嘴を突きたてて来たエアームドを何とか回避する。そうだ、これは6対20のルール無しの喧嘩なんだ!一体に時間を掛け過ぎたら、その間に他のエアームドに攻撃される!

 

「イヴ〝こごえるかぜ〟!メリー〝ほうでん〟!」

 

冷風と電撃がエアームドの群れに向かって放たれる!素早さ低下の効果がある〝こごえるかぜ〟と、麻痺の追加効果がある〝ほうでん〟で、ダメージを与えつつ隙を作らなければ!

そうとも、俺には策なんてものは似合わない。俺には、攻撃しかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったよりも楽に終わったな」

「そう見えるか?だとしたらその目はビー玉だぞ」

 

あれから5時間。何とかエアームドの群れを倒して、俺は地面に仰向けで倒れている。手持ちポケモンはドンを除いて全て戦闘不能になってしまっていた。

 

「ていうかジジィ、何でダンは戦闘に参加させなかったんだ?」

 

俺はダーテングのダンが入ったボールを取り出す。こいつのレベルは高く、こいつさえいればあそこまで苦戦はしなかっただろう。

 

「まずは弱い者から鍛え上げていく。その際に強いダーテングが居れば成長の妨げになりかねんからな。無論、他のポケモンがダーテングに追い付いたらダーテングも戦闘に加わる」

「それまではこの5体で戦うのか?」

「そうだ。まぁ理由はそれだけではないがな」

「他に何かあるのかよ?」

「お前達に与えられた時間は少ない。短期間で強さの壁を超えるに、命懸けという諸刃の剣を使わなければならない。どちらかと言うと、こっちの理由が本命だ」

 

なるほどな。無茶苦茶な理屈だが、筋は通っている。

 

「今日は初日だからな、体をほぐす程度にしておくが、明日から本格的になる。それに備えて今日は休むといい。丁度夕食の時間だ」

 

こうして、初日の修業が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

その日の夜、夕飯を食べてすぐに眠る準備をした。ターコイズは寝袋に入ってすぐに爆睡し、ゲンジは近くの岩にもたれ掛かって眠っている。

なぜか俺とアリアは眠れず、星を眺め話し続けていた。

 

「・・・ここに来て2日、私達は強くなれているのでしょうか?」

「分からねぇ。何せ強くなったって言う実感がねぇからな。この山のポケモン達はみんな強くて、俺達もポケモン達も皆ボロボロだ。正直、初日でいきなりこんなので大丈夫かと思えて来た。ていうか、ジジィのスパルタは俺が今まで受けて来た基礎体力の訓練とは比べ物にならない位に厳しい。やっぱりポケモンバトルとなると、その厳しさも一味違うな」

 

アリアが俺の顔を見るのが分かる。俺はジッと星空を見つめていた。

 

「・・・私達は強くなれるのでしょうか?」

「なれるか、じゃない。なるんだよ」

「・・・私達は、ルーファス達に勝てるのでしょうか?」

「絶対勝つ。そうじゃなきゃ、俺達に未来は無いんだからな」

「・・・はい」

 

そこで話を区切り、アリアは瞼を閉じて俺の方に頭を預けた。

 

「・・・勝ちましょう」

「当然」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

それから5日間は、本当に地獄だった。

 

『ギャ、《ギャラドス》が、ギャラドスの群れがー!!』

『・・・口が光っています』

『逃げろぉ!〝はかいこうせん〟だ!!』

 

『攻撃が全然効かなギャああああああ!!?』

『あぁ!ガーネットが《ゴローニャ》に撥ねられた!交通事故だー!!』

 

『・・・狙いが、定まら・・・!』

『クロバットの〝かげぶんしん〟と〝こうそくいどう〟だ。気を付けろ』

 

『へー、《クチート》っていうポケモンなんだ。可愛ぎゃああああああ!!?』

『・・・ガーネット、ターコイズが大変な事に』

『ターコイズを離しやがれぇぇぇぇ!!』

 

『・・・わー』

『アリアが、アリアが《イワーク》の角に引っ掛かってるぅー!!?』

『あの角を圧し折れぇ!!ドン〝ドラゴンクロー〟だ!!』

 

『よし、そこまで!!』

『や、やっと終わった・・・』

『次は私のサザンドラと組み手を始める!!』

『ウギィィーーーーーー!!!』

 

『全員動くなぁ!!《キングドラ》の〝しおみず〟が直撃するぞ!!』

『だったら撃ってこないで下さいよ!!』

『恐怖とは克服し、飼い馴らすものだ!!それが出来て初めて恐怖は身を守る優秀なセンサーとして機能する!今度は〝ハイドロポンプ〟だ!!』

『ヒィィィィーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

そして、修業8日目の朝。

 

「うむ。・・・・・分かった」

 

そこまで言って、ゲンジはポケギアの通話ボタンを切る。

 

「アルティア家に動きがあった。ルーファス達が逃走準備を整えたようだ」

「遂に来たか・・・!」

 

ルーファス達の逃走準備の完了。それはつまり決戦の合図だ。

 

「これよりアルティア家捕縛作戦を開始する!まず、私と協会トレーナーとで逃走するアルティア家の関係者を捕えつつ、ルーファスの逃走ルートを潰して時間を稼ぐ。その隙にお前達はカントー地方にあるアルティア本家を襲撃せよ」

「・・・了解しました」

 

そこでゲンジは一度言葉を区切って、再び口を開いた。

 

「私はこの7日間、教えられる事は全て教えた。短い間だったが、今のお前達とポケモン達との絆があれば必ず勝てると、そう信じられる」

「ゲンジさん・・・」

「行け、私の弟子たちよ。行って未来を掴んでこい!!」

「おう!!」

 

ゲンジはカイリューを繰り出し、その背中に乗る。俺達は飛んで行くその背中を見送り、ボールを取りだした。俺が繰り出すのは勿論

 

「行くぞ、ナツ!!」

 

現れるのは本来の体とは違う色。黄緑色の体に蒼い模様、そして山吹色の翼をもつドラゴンポケモン《フライゴン》に進化したナツだ。

 

「俺達の修業の成果を見せるぞ!」

「行きますよ、《ムクホーク》」

「キャサリン!!」

 

俺達は最後の戦いに赴くべく、逞しく成長した仲間の背に乗り飛び立つ。目指すはカントー地方・アルティア本家だ。

この数奇な戦いに決着を付け、未来を手に入れる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




修業終わるの早えー。でも漫画とかでも修業シーンに時間を掛けないのって、後での戦闘シーンの描写を取っておくためですかね?
早く原作図鑑所有者と邂逅させたいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSスターミー&レアコイル

祝!お気に入り件数50突破!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タマムシシティとハナダシティの間にある深い森の中。ゲンジと協会の調査によると、そこにアルティア家の総本山があるらしい。

シロガネ山を出発して2時間。徒歩とは比べ物にならない速度で、件の森に到達した俺達は上空からそれらしきものを探索していた。

 

「アリア、ターコイズ、見つかったか?」

「今のところは何も。でも貴族の家なら目立つと思うよ」

「そりゃショボイ家に住んでる貴族ってのも滑稽だろ」

「確かにね」

「寧ろちょっと見てみたい位だけどな!」

「僕その時になったら、我慢できずに噴き出すと思うよ」

 

決戦前だというのに、そんなくだらない談笑で盛り上がる俺達。変に緊張する事は無いし、緊張は焦りに繋がりかねない。ターコイズもそれが分かっていて話を盛り上げているんだろう。

 

「・・・見つけました」

「お!何処だ?」

「・・・こちらです」

 

その時、アリアがそれらしき物を見つけたみたいだ。先行するアリアのムクホークに付いて行き、数秒飛び続けるとそれは見えた。

 

「デカっ!?」

 

そこに見えたのは洋風の大きな館。いや、城と言っても良いかもしてない。窓の数を見る限り恐らく4階建てで、敷地の庭は国立公園ほどの大きさだ。

 

「いよいよだね」

「あぁ。この旅の最後の戦いだ」

「もう逃げたっていうオチは無いよね」

「・・・それは大丈夫です」

「あん?」

「・・・今、窓の影に人が見えました」

「良く見えたね・・・」

「つまり、まだ情報漏れの可能性があるから、ルーファスも残ってるってことか」

「とにかく降りよう。キャサリン!」

「・・・正門は閉まっているようです」

「なら庭に降りるぞ、ナツ!」

 

それぞれのポケモンに指示を出し、地面に着地する。俺達はポケモンの背中から飛び降り、モンスターボールの中に戻した。

 

「改めてみると大きいよね」

「近くで見ると余計にな」

「・・・この中に、ルーファスが」

 

高くそびえる屋敷を見上げて、俺達は歩みを進める。

 

「とにかく中に入るぞ」

「あの正門から・・・・っ!?皆避けて!!」

「なっ!?」

「・・・!?」

 

屋敷の影から突然、電撃と水撃が俺達に襲いかかる!何とか後方に跳んで回避するが、この問答無用にトレーナーを狙う攻撃。いきなり敵襲か!?

 

「まさか本当に来るとはな。ターコイズ」

「本当に。呆れを通り越して感心するわ」

 

現れたのは星の様な形をしたポケモン《スターミー》と、体に磁石を取り付けたポケモン《レアコイル》。そしてそれらを従える黄土色の髪の男と赤い髪の女。

 

「タツヒコ!ユキ!」

「コトブキで会ったいけすかねぇ奴!!」

 

ターコイズの幼馴染で、派遣部の候補生のタツヒコとユキだ!

 

「それはそうと、そこの茶髪の男!前は良くもやってくれたな!!」

「そこの藍色の女もよ!私達を誰だと思ってやっているのよ!?」

「アリア、俺達なんかしたっけ?」

「・・・???」

「惚けてんじゃねぇよ!!僕の顔を殴っただろ!!?」

「私は木の実をぶつけられたわ!!」

 

あー、何かそんな事もあったような気が・・・。

 

「あの時の借り、きっちり返してやる!!スターミー!!」

「行くのよ、レアコイル!!」

「ちっ!!」

 

どうやらこいつらは足止め役と言う事か!ターコイズの話によると、こいつらはエリートトレーナーだ。こんな所で時間を掛ける訳には・・・!

 

「ジャック〝にらみつける〟!!」

 

ターコイズはポケモンを繰り出し、技を指示する。現れたのは通常とは違う体色のポケモン。青い葉に体を包んだ蛇の様なポケモン。ジャノビーの進化形《ジャローダ》だ。

 

「な、何よ、これ!?」

「体が、動かない!?」

 

タツヒコとユキは、突然の体の硬直に戸惑っている。ジャローダはその眼差しだけで相手の体を委縮させ、動けなくしてしまうポケモンだ。

俺達はその隙に玄関まで走り、扉を開けた。

 

「させるかぁ!!〝れいとうビーム〟!!」

「〝でんけきは〟!!」

 

一筋の冷気と、高速の電撃が俺達に迫る!やっぱり戦わなきゃ駄目か!

 

「〝ひかりのかべ〟!」

 

正面に光の壁が展開し、冷気と電撃を受け止める。

 

「行け、マー「ジャック〝リフレクター〟!!」

 

俺がマー坊を繰り出そうとした瞬間だった。ジャローダは玄関の内に居る俺とアリアの2人と、玄関の外に居るターコイズを遮る様に透明の壁を展開した。

 

「おい!何のつもりだ、ターコイズ!!」

「ガーネット、アリア、よく聞いて」

 

慌てる俺の声とは裏腹に、ターコイズの声は穏やかだった。

 

「ルーファスは今にも飛んで逃げる。ただでさえこの広い屋敷の中を探し回らなきゃいけないのに、この2人を相手にしていたら間に合わなくなる。そうなれば、この作戦は失敗する」

「・・・ターコイズ」

「ここでルーファスを逃がせば、僕達はまた命を狙われる恐怖に晒され続ける事になる。だから今、ここでルーファスを倒すんだ!」

 

こうやって話している間にも、タツヒコとユキは攻撃を仕掛けている。俺達と話をしている暇は、今のターコイズには無い。

 

「スズラン〝ふぶき〟」

 

ターコイズは新たに繰り出したラプラスは、〝リフレクター〟の壁に向かって極寒の吹雪を吐き出した。〝ひかりのかべ〟と違い、特殊攻撃を防ぐ力が無い透明の壁はどんどん氷で覆われて行く。まるで俺達とターコイズを隔てる様に、通路に氷の壁を作り出した。

 

「ターコイズ、お前勝てるんだろうな?」

 

そんな俺の呼びかけは、この分厚い氷の壁に遮られターコイズには聞こえないだろう。だがターコイズは、氷の壁越しだが、確かに腕を上げ、親指を天に突き上げた。

 

「・・・ガーネット、行きましょう」

「あぁ、分かっている・・・!」

 

俺達は振り返らず、通路を真っ直ぐに駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!!本当に広いな、ここは!!」

「・・・突入から既に20分経過しています」

 

俺達は今、ルーファスを探して屋敷の中を走り回っていた。すでに1階から4階まで走ったが、まるで見当たらない。ターコイズの咄嗟の判断は正しかったな。あの2人を相手にする時間は、確かに無い。

 

「また一階に戻ってきちまったな。もう一回探すぞ!!」

「・・・しかし、人が一人もいないですね」

「ゲンジと話だと、関係者全員を逃がしてからルーファスも逃げるらしいからな。おかげで騒ぎにならなくて済んだぜ」

 

しかし、それは同時にルーファスは間もなく逃げることを意味していた。

 

「・・・ガーネット、あの扉は」

 

アリアが指を指した方向、それは俺達がまだ入っていない扉だ。

 

「ナイスだアリア!!」

 

俺はその扉を勢い良く開ける。それと同時に、ライトに照らされた淡い光と、プールとかにある塩素のような臭いが漂ってきた。

 

「何だここ?」

「・・・水?」

 

巨大な水槽の上に狭い鉄板の通路が張りめぐされ、要所要所に転落防止用の手すりが備え付けられている大きな部屋だった。

 

「ここはぁ~ホルマリンプールさぁ~。出来上がったクローンを入れておく所なんだけどねぇ、今はもう、ぜ~んぶ片付けちまったからぁ、見せられねぇぞ~」

 

部屋の奥から聞こえる、この聴き覚えのある口調。今度はお前か!!

 

「サンゾウ!!」

「オレっちの名前を覚えたのかぁい?いや~感心感心」

 

やっちまった。まさかこいつと闘う事になるとは!

 

「あぁ~、そうそう。支部長はぁ~この向こうだよぉ」

 

そう言って、奥にある通路を指差すサンゾウ。

 

「・・・どういうつもりですか?わざわざルーファスの場所を教えるなんて」

「いや~、お前さん達ぃ、オレっちと闘うんじゃなくてぇ、支部長を倒しに来たんだろぉ~?だからわざわざ教えてやったんじゃねぇの~」

「・・・?」

 

やっぱり目的はバレていたか。でもサンゾウの言っている事の意味が分からない。

 

「だから、何でそんなこと教えるんだよ!!?」

「支部長が居る場所へ続く唯一の通路がこれでねぇ、オレっちは此処の門番を任された訳よ。でも、オレっちはそれ以上にぃ、お前さん達と闘いたくてね~」

 

次の瞬間、胃が縮み上がる様な感覚に襲われた。シロガネ山の修業で覚えた、あの感覚。圧倒的な強者が放つ殺意を、サンゾウは発していた。

 

「あの船の戦いからぁ、ずぅっと続きがしたいとぉ、思っていた訳よ。オレっちは見抜いてたよぉ、お前さん達のぉトレーナーとしての素質をぉ。お前さん達とならぁ、今までに感じた事の無い刹那のスリルが味わえるってねぇ」

「なるほどな。ルーファスがその先に居るって教えといて、俺達の本気以上の火事場の馬鹿力を引き出そうとしてたって訳か・・・!」

 

今分かった。こいつは生粋のバトルジャンキーだ。何事よりも命のやりとりを求める、戦いの炎に飲み込まれた者が行きつく場所に、サンゾウはいる。

 

「あの金髪の兄ちゃんがぁ、足止め役と闘っているのはぁ、残念無念だけどねぇ、まぁ、2人でも十分楽しめるかぁ。そんじゃ早く始めようかねぇ。時間が無いよぉ?」

「・・・いいえ、ルーファスが逃げるまでには間に合います」

「アリア・・・?」

 

アリアはその漆黒の瞳で俺を見上げて、そして真っ直ぐにサンゾウを見る。

 

「・・・サンゾウ。私と一対一のバトルです。ガーネットはその間にルーファスの所へ行ってください。そうすれば、間に合います」

「アリア!?」

「おいおいぃ、あれから多少強くなったとしてもぉ、あの差がそう簡単に埋まると思ってんのかい~?あんまり甘く見られちゃ~困るねぇ」

「・・・その為に修業しました」

「修業~?・・・・・・ハッ。アハハハハハハハハハハ!!いいねぇ!!やろうかぁ!!お望みどおりぃ、その兄ちゃんは通してやるよぉ!!」

 

サンゾウの雰囲気が明らかに変わる。戦闘本能を剥き出しにし、なおかつ冷静さを失っていない。ゲンジから聞いた、厄介な相手の一例だ。

 

「おい、アリア!」

「・・・さっき言った通りです。ターコイズも言っていましたよ、ここでルーファスを逃がす訳にはいきません。必ず倒さねばならないと」

「でもな!」

「・・・ガーネット」

 

アリアは、相変わらず感情の起伏を感じさせない、だけど穏やかな声で俺の名を呼ぶ。

 

「・・・約束を増やしても良いですか?」

 

約束。もちろん覚えている。それは、この戦いが終わればアリアのやりたい事を一緒に探すという、あの夜に誓った約束だ。

 

「・・・私はここでサンゾウを倒します。ガーネットは、ルーファスを倒してください」

 

それだけ言って、アリアは俺に小指を差し出した。

 

「・・・前にスズナに教えて貰いました。指切りと言うものをしながら約束すると、その約束を破った時に、〝ニードルアーム〟の針を千本飲み込まなければならないそうです」

 

こんな状況なのに、アリアは酷く子供じみた事を言う。だけど・・・。

 

「・・・私はそんな物飲み込みたくありませんから、絶対に負けません」

「俺だったそんな物飲み込みたくないっての」

 

俺は導かれる様に、自分の小指でアリアの小指を絡める。これで約束は成立した。これで勝たなければ、針千本飲まなければならなくなった。

 

「お前、これで負けたらマジで針千本飲ますからな」

「・・・問題ありません。必ず勝利します。ガーネットも負けたら」

「負けねぇよ。・・・まぁ、ルーファスは任せろ」

 

そう言って、俺はアリアに背を向けて走り出す。

ほんの一カ月と少しの間。それでも、俺達の間には確かな信頼を感じた。ターコイズやポケモン達、そしてアリアの未来を背負い、狭い鉄板の通路を駆け抜ける。

だからこれ以上の言葉は要らない。

 

『絶対に負けない』

 

その言葉だけで十分だ。それ以上の言葉はこの戦いが終わってから好きなだけ言えばいい。

俺とアリアのやりとりを見守っていたサンゾウを横切り、俺は通路の奥へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一本道の通路をひたすら走り続ける。

旅に出た日の俺は、こんな事になる事を予想していただろうか?

いや、そんな事は全く知らずに、今頃カントー地方の名所巡りをしていたに違いない。呑気に気楽に気の赴くままに、楽しい旅をしていた筈だ。

 

「まったく、アリアめ」

 

もし、アリアと出会わなければ。

母の無念と祈りを、知る事が出来ただろうか?

腰のベルトに付けられたモンスターボールを見る。そこには、アリアと出会ったからこそ出会えた俺の仲間達が居る。

ターコイズとだって、アリアがあの時に首を突っ込んだのが出会いの始まりだった。

スズナとも、初めにアリアが友達になったからこそ、俺とターコイズも友達になれた。そうじゃ無かったら、顔見知り程度で終わっていたに違いない。

 

「あぁ、そうか」

 

俺は、アリアと出会えてよかったと思っているんだ。

アリアと出会っていなかった旅なんて、もう想像してもぼやけたイメージしか浮かばない位遠くなっていて、アリアとターコイズとの旅は、そんな旅とは比べ物にならない位楽しかったから。

だから、この出会いに感謝している。本当に夢のような日々だったから。

 

「なら、この先の未来を、絶対に終わらせやしねぇぞ」

 

そして遂に辿り着いた。ドアノブも無く、何処から開けたらいいのかも分からない巨大な防火扉に閉ざされたこの先に、ルーファスが居る。ここを通れば、もう後には引き返せない。父と息子の血を血で洗うような戦いが幕を開ける。

それでも俺はモンスターボールから手持ちを繰り出す。現れたのは、黄色い体に所どころ黒の縞模様の体を持つ、《デンリュウ》に進化したメリーだ。

 

「行くぞメリー!〝はかいこうせん〟!!」

 

メリーの口から放たれた極大の光線は防火扉に突き刺さる。光線は周囲の壁と大気に大きな震度と衝撃を与え続け、そのまま防火扉は弾ける様に吹き飛んだ。

 

「驚いたな。君は扉の開け方も知らないのかね?」

 

吹き飛ばされた扉に、さして驚いた様子もなく皮肉を飛ばす実の父。

あぁ、よく見てみるとやっぱり似ている。微妙に目つきの悪い所とか、顔の造形とか、コンプレックスの癖の強い茶髪とか。

 

「あんなどうやって開けたらいいかも分からん扉なんざ、あれで十分だっての」

「まぁ、あの扉を開けるにはカードキーと6桁の暗証番号を入力しなければならないからね。正攻法で君に開けられるはずもないのだが」

 

そんなくだらない会話を繰り広げる、俺とルーファス。

 

「しかし驚いたね。まさか君達の方から殺されに来たとは思わなかったよ。逃走した後はどうやって始末しようかと頭を悩ませていたところだ」

「ぬかせ。お前は今から地面に這いつくばって、床を舐める事になるんだよ!」

 

剣呑な会話を繰り広げる俺達の心に、冬の荒野が去来する。

決して解りあう事の無い、傷だらけの親子がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こういうシーンを書くのって難しい・・・。
皆様からのご意見ご感想をお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死闘 アルティア家 前編

し、信じられない長文になってしまった・・・!
13000文字以上だと・・・!?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターコイズside

 

 

 

 

 

ガーネットとアリアは先に行った。ここから先は、僕一人の戦いになる。

 

「ターコイズ、お前、僕達2人と闘おうっていうのか?」

「落ちこぼれが、言うようなったじゃない・・・!」

 

相対するは、僕の幼馴染であるタツヒコとユキの2人。でも、戦う前に聞いておきたい事があった。それによって戦う理由が変わってくる。

 

「2人は、どうして此処に・・・?」

「どうして?決まってるだろ、ルーファス部長直々のご命令があったからさ!」

「部長のお屋敷に賊が侵入する可能性があるから、警備を仰せつかったのよ。まさか、あなた達だとは思わなかったけどね」

「つまり、それだけ僕達は部長から信頼されていると言う証!落ちこぼれであるターコイズなんかは目じゃなかったんだよ!!」

 

それだけ聞いて、大体の話が読めた。つまりルーファスが逃げるための足止めが、この2人の役割だと言う訳だ。でもそれが、犯罪者の逃亡の方棒を担わされているという事に、この2人は気付いていない。そしてそれを僕が説明しても、この2人は信じないという事も長年の付き合いで分かってしまう。

だからこそ、僕とポケモン達で、無理矢理にでも目を覚まさせなければならない。そうしなければ、2人は犯罪者の烙印を押されることになる。それが幼馴染としての、最後に出来る事だと僕は確信した。

氷の壁で閉ざされた、見えない通路の先に目を配る。この先に居る仲間の背を任されて、僕は此処に居る。僕がここで負ければ、タツヒコとユキは仲間を追いかけるに違いない。

だから、これは絶対に負ける訳にはいかない・・・!

 

「スズラン〝しろいきり〟!続けて〝しんぴのまもり〟!!」

 

スズランから放たれた白い霧と、淡い光のベールが僕達を包む。状態異常とステータス低下を防ぎ、こちらの守りをより強固なものとする。

 

「・・・っ!?」

 

でもここに来て、僕の足が震えだした・・・。何でかは、僕が一番よく知っている。2人は強い。そのプレッシャーに僕は押されているんだ。

 

「くっ!」

 

足を叩いて震えを止める。しっかりしろ、僕!何のために此処に残った!

ゲンジさんの修業でも言っていたじゃないか。怖いままでもいい。その恐怖を直感に変えて、バトルを有利に進めるのが、冷静なトレーナーの仕事だって。

 

「スターミー〝こうそくスピン〟!!」

「レアコイル〝10まんボルト〟!!」

 

レアコイルからは強力な電撃、スターミーは高速で回転しながら突撃してくる。狙いはスズランだ。この厄介な霧と光のベールを取り払おうとしているんだろう。

 

「ジャック〝リフレクター〟!〝ひかりのかべ〟!」

 

特殊と物理、それぞれの技を防ぐ壁を展開する。でもこの技にはある弱点がある。

 

「ターコイズ!お前は何時もその技に頼りすぎるから弱いんだよ!《ヘラクロス》!」

「いいわ!何度でも思い知らせてあげる!《ダゲキ》!」

 

レアコイルとスターミーを出したまま、新たなポケモンを繰り出す。固い甲殻に大きな角が特徴のポケモン、ヘラクロスと、青い体に道着を身に纏った人型のポケモン、ダゲキだ。

 

「〝かわらわり〟だ!」

「こっちも〝かわらわり〟よ!」

 

2体の格闘ポケモンの手刀が、光の壁と不可視の壁を打ち砕く。

〝ひかりのかべ〟や〝リフレクター〟などといった障壁を破壊する事に特化した技、〝かわらわり〟。僕は今までこの技の前に、この2人に負け続けて来た。

 

「今だ!〝10まんボルト〟!!」

「〝でんじほう〟よ!」

 

強烈な電撃と、大砲の様に撃ち出された電磁が僕達に迫る。あれを食らったら間違いなく戦闘不能になってしまうけど、もう簡単に食らう僕達じゃない!僕は新たなポケモンを繰り出す!

 

「ルージュ!!」

 

現れたのは赤い体毛に火山を背負ったポケモン《バクーダ》に進化したルージュだ。

ルージュはジャックとスズランの盾になる様にして立ちはだかり、電撃を受け止める。それでもルージュにダメージは無い。

 

「地面タイプのバクーダには電気は効かない!だったら〝ハイドロポンプ〟!」

「〝ひかりのかべ〟!!」

 

スターミーから放たれた水砲を、光の壁を展開して受け止める!

 

「またそれ?いい加減無駄だって理解しなさいよ!〝かわらわり〟!!」

 

ダゲキの主刀が光の壁を粉砕する!これでルージュを守るものは無くなった。

 

「良いぞユキ!スターミーもう一度”ハイドロポンプ〟!!」

「させない!ジャック〝つるのムチ〟!」

 

ジャックから伸びた蔓の鞭で一番近くに居たダゲキを縛り、再びルージュに放たれた水砲の前に持っていく。水砲はそのままダゲキに直撃した!

 

「ダゲキ!?」

「まだ終わって無いよ!ジャック!」

 

以心伝心。僕の呼びかけに反応したジャックは、そのままダゲキをヘラクロスに向かって投げつける!そのままダゲキ諸共倒れ込むヘラクロス。

 

「ヘラクロス!」

「ジャック〝ひかりのかべ〟!そしてルージュは〝ふんえん〟だ!!」

 

光の壁が僕達を守る様に展開すると、ルージュは辺りに爆炎を撒き散らして攻撃する!爆炎は光の壁に守られた僕達には届かず、タツヒコ達を飲み込んでいった。

 

「これなら・・・!」

 

〝ハイドロポンプ〟を受けたダゲキや、効果抜群のヘラクロスとレアコイルには決定的な大ダメージが与えられたはずだけど・・・。

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、爆炎を突き破る様にしてヘラクロスが迫って来た!まさか、〝こらえる〟で耐えきったの!?そのまま一直線にこちらに向かって来る。その狙いは、ジャック!?

 

「ジャック、〝リフレクター〟!」

「無駄だ!ヘラクロス〝かわらわり〟から〝メガホーン〟だ!!」

 

展開された不可視の壁を粉砕し、そのままジャックに手刀を叩きこむ!そして流れるような動作で下から上へと、その大きな角で突き上げた!

強烈な虫タイプの技を受けて、堪らず倒れ伏すジャック。

 

「スズラン〝れいとうビーム〟!!」

 

スズランは冷気を一直線に放射して、ヘラクロスを凍て付かせる。これでヘラクロスも戦闘不能だけど、ジャックも戦闘不能に陥ってしまった。

 

「これで、頼みの綱であるジャローダは戦闘不能ね」

 

やがて爆炎で生じた煙が晴れて、敵の姿が露わになる。ダゲキは戦闘不能に陥り、スターミーはダメージが少ない。

 

「レアコイルは〝まもる〟を使ったようだね・・・!」

 

レアコイルは守りの態勢を取る事で、〝ふんえん〟のダメージを無効化している。これでこっちの手持ちポケモンは5体。相手が6体連れてきているのだとしたら、それぞれ残りポケモンは5体だ。

 

「お疲れ様、ジャック」

 

僕達はそれぞれ戦闘不能になったポケモンをボールに戻す。

 

「ターコイズにしては粘るじゃない!《マリルリ》!」

「スターミー〝こうそくスピン〟だ!!」

 

ユキは青色の兎の様なポケモン、マリルリを繰り出し、スターミーは体を高速回転させながら突撃してきた。僕もモンスターボールを取り出す!

 

「ライル!〝クロスポイズン〟だ!」

 

繰り出されたドラピオンのライルは、毒を纏った交差切りでスターミーを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアside

 

 

 

 

ガーネットを先に進ませたアリアは、今まさに敵の幹部と相対していた。敵の名はサンゾウ。かつてガーネット・アリア・ターコイズの3人がかりで運よく退けた敵である。

 

「それじゃぁ、早速始めようかねぇ!!《ザングース》ゥウ!!」

「《サンドパン》」

 

サンゾウが繰り出した白い体毛に鋭い爪が特徴のポケモン、ザングースに対し、アリアが繰り出したのは、背中から無数の針を生やし、ザングースにも負けない鋭い爪のポケモン、サンドパンだ。

 

「サンドパン〝つるぎのまい〟」

 

戦いの舞を踊る事で攻撃力を増大させる技〝つるぎのまい〟。離れたレベル差によるサンドパンの攻撃力と、ザングースの防御力の差を埋めるためだ。

 

「ハッハァー!ザングースゥ、〝インファイト〟ォ!!」

「〝まるくなる〟」

 

ザングースの拳の猛襲に対し、サンドパンは体を丸める事で棘付きのボールのような姿となる。そんな状態のサンドパンを殴りまくったザングースの拳は当然の如く傷付けられていくが、殴った衝撃は、防御力を上げた状態であっても防ぎきれずにサンドパンに大きなダメージを与える。

 

「〝ジャイロボール〟」

 

そのまま体を高速で回転させ、超至近距離からザングースにぶつかるサンドパン。打撃の衝撃だけではなく、棘による裂傷を与えつつザングースを弾き飛ばす。

 

「サンドパン〝ころがる〟」

 

体を丸めた状態で、ザングースに向かって転がって行くサンドパン。

今アリアとサンゾウが戦っているのは、クローン体保管用に作られた部屋一面の巨大なホルマリンプールだ。足場はプールの上に張り巡らされた手すりが備え付けられた狭い鉄の通路のみ。

故に泳げないサンドパンやザングースは通路の上でしか戦えないのだ。

サンドパンは棘をスパイク代わりにして加速度的に速度と威力を上げて突撃するが、ザングースは通路を曲がる事で回避した。

だがサンドパンは信じられない事に、ギギィと嫌な音を立てながら直角に通路を曲がり、ザングースに衝突する。攻撃を極限まで高めた攻撃に、ザングースは堪らずダウンした。

 

「おやぁ~?・・・・あぁ、そうかぁ!爪を使って軌道を無理矢理変えたかぁ!!」

 

一瞬不思議そうな顔をしたサンゾウだが、すぐに通路に刻み込まれた爪痕に気付く。

 

(・・・いきなり気付きましたか)

 

サンドパンの意表を突いた攻撃を一発で看破された事に、内心冷や汗を掻くアリアだが、何時もの無表情がそれを隠す。

 

「いいねぇ!!面白くなってきたよぉぉ!!ストライクゥ!!」

 

ザングースをボールに戻し、サンゾウが新たに繰り出したのは、かつて船の戦いでアリア達を苦しめたストライクだ。

 

「〝こうそくいどう〟からのぉ、〝きりさく〟ぅう!!」

 

目視できない程に速度を上げ、その鋭い鎌でサンドパンを切り裂くストライク。ザングースとの戦いで激しく消耗していたサンドパンは、そのまま戦闘不能になった。

 

「戻ってください、サンドパン。ヘルガー」

 

サンドパンをボールに戻し、新たにポケモンを繰り出すアリア。現れたのは黒い体毛の犬の様な体躯に、白い角が特徴のポケモン、ヘルガーだ。

 

「セオリー通りぃ、炎タイプで来たかぁい!!」

「・・・・・・・・・」

 

饒舌なサンゾウとは対照的に、あくまで寡黙を貫くアリア。ストライクは変わらず目視すら難しい速度移動していたが

 

「ヘルガー、〝かえんほうしゃ〟」

 

アリアが指を指したその先に、激しい炎を吐き出す。炎はストライクに直撃し、体に纏わりついてストライクの身を焦がす。

 

「ほぉ~!!まさかいきなり当ててくるとはぁ、棲様じい命中精度だねぇ!!」

「止めです。ヘルガー〝れんごく〟」

「させないよぉ!!〝シザークロス〟ゥ!!」

 

一瞬で間合いを詰め、ヘルガーの体を交差するように切りつけるのと、地獄の業火がストライクを焼き尽くすのは、ほぼ同時だった。2体はそのまま地面に倒れ伏す。

 

「いいよぉぉぉ!!それが修業の成果かぁい!!?」

「チリーン」

「もっとその力をぉ、見せてくれぇ!!《エルレイド》ォォォオ!!」

 

それぞれのポケモンをボールに戻し、新たにポケモンを繰り出す。

サンゾウが繰り出したのは、緑色の体に肘から伸びた長い刃が特徴のポケモン、エルレイドだ。世にも珍しいエスパーと格闘タイプを併せ持つ。

 

「行きなぁ、エルレイドォォ!!」

 

エルレイドが肘をチリーンに突き出すと、肘の刃は真っ直ぐにチリーンに向かって伸びて行く。それには流石のアリアも驚いたのか、一瞬チリーンに指示を出すのが遅れてしまい、刃はチリーンに直撃する。何とか耐えたチリーンだが、右へ左へとフラフラ浮いているその姿は満身創痍だ。

 

(・・・伸縮自在の刃。チリーンをたったの一撃で・・・)

 

完全に不意を突かれた形となった初めの攻防。アリアはチリーンを見やると、チリーンは気丈な眼差しをアリアに向けた。それが戦闘続行の合図と受け取ると、アリアは指示を飛ばす。

 

「止めだぁぁぁあ!!〝つじきり〟ぃぃぃ!!」

「チリーン〝さわぐ〟」

 

チリーンを切り捨てるべく、エルレイドが接近してきた所で、チリーンは強烈な音の振動波を浴びせる。それにより、エルレイドは後方に大きく吹き飛ばされた。

 

「続けて〝エナジーボール〟」

 

自然の力を圧縮して、球状にしたエネルギー弾をエルレイドに向けた発射する。

だがエルレイドも、負けじと空中で体勢を立て直し、着地する。そしてエネルギー弾が直撃する前に上空へ飛んで避わしたが、エネルギー弾はエルレイドを追い掛ける様にして飛び上がり、そのまま直撃した。

 

「まさか〝エナジーボール〟の軌道を操るとはねぇぇ!!〝サイコカッター〟!!」

 

エルレイドはまともに攻撃を食らいながらも、念波の刃をチリーンに向かって飛ばす。チリーンは飛来した刃に切り裂かれ、そのまま戦闘不能となった。

 

「交代です。ムクホーク」

 

チリーンと交代で現れたのは、格闘タイプの弱点を突く飛行タイプだ。

 

「〝とんぼがえり〟」

 

ムクホークは落下してくるエルレイドに向かって突撃し、その蹴った反動でUターンする。ただでさえ効果抜群の虫タイプに技を受け、完全に姿勢を崩すエルレイド。

 

「〝ブレイブバード〟」

 

低空飛行から上昇し、ダメージ覚悟で勢い良くエルレイドにぶつかるムクホーク。これにはさすがに耐えきれず、戦闘不能に陥るエルレイド。

 

「ハァッハッハーー!!最高だねぇ!!行けぇ、《シザリガー》!!」

 

現れたのは、赤い甲殻に頭の星マークが特徴のシザリガーだ。

 

「〝はかいこうせぇん〟!!」

 

圧倒的な破壊の力を秘めた光線が、シザリガーから放たれる。それはムクホークだけではなく、直線状に居るアリアにも命中するだろう。

 

「ムクホーク」

 

アリアの呼びかけで、主人の元へと飛ぶムクホーク。アリアは光線が命中する直前、ムクホークの背中に飛び乗り、ギリギリのところで回避に成功する。

 

「行きますよ、ムクホーク」

 

ムクホークはアリアを背に乗せたまま、中空を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

   

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

ターコイズside

 

 

 

 

 

 

「〝かみなりのキバ〟!!」

「〝こうそくスピン〟!!」

 

ライルの電撃の牙と、スターミーの高速回転がぶつかり合い、両者は力尽きたかのように地面に倒れ伏す。これで僕は後4体だ。

 

「しつこいわね!いい加減倒れなさいよ!!マリルリ〝ハイドロポンプ〟!」

「キャサリン〝たくわえる〟!!」

 

マリルリが放つ水砲に対し、キャサリンは口に物を蓄える事で防御と特坊を上げ、受け止める。元々効果は薄い技なので、ダメージは無いといっても過言ではない。

 

「ルージュ〝かえんほうしゃ〟!!」

 

ルージュは口から放射された炎はユキのレアコイルに直撃し、戦闘不能にした。これで向こうも4体ずつだ。数の上では互角だ。

 

「何で倒せないのよ!?落ちこぼれのターコイズを!!」

「ターコイズの癖に生意気なんだよ!!行けぇ、《エレブー》!!」

 

僕に対するいら立ちを撒き散らしながら立ち向かう幼馴染の2人。

どうしてこうなったんだろう?3人一緒に、笑い合えた日があったのに。今は僕に対して憎悪すら向けて攻撃してくる。

 

「エレブー〝かみなりパンチ〟!!」

 

黄色と黒の模様が特徴のポケモン、エレブーは拳に雷を纏って突撃してくる。狙いはスズランだ。僕達の状態異常とステータス低下を防ぎ、この均衡を保つスズランを倒して、一気にたたみ掛けるつもりなんだろう。弱点タイプのエレブーを、急いで出してきたのがその証拠だ。

 

「キャサリン!スズランを守って!!〝たくわえる〟!!」

 

僕の呼び掛けに応じ、キャサリンは自分の体を盾にしてスズランとエレブーの間に立ちはだかり、電撃の拳をその身で受け止める。

 

「馬鹿ね!!ぺリッパーは水と飛行タイプなのよ!!?」

「電気タイプは弱点中の弱点だ!唯じゃ済まないぞ!!」

 

僕の指示を失策と見て、捲し立てる2人。

確かに、さっきの一撃でキャサリンは戦闘不能寸前まで追い込まれてしまった。

 

「でもまだ終わりじゃない!キャサリン〝のみこむ〟!!」

 

キャサリンの体の傷が見る見る内に癒えていく。今まで〝たくわえる〟で蓄えていたものを〝のみこむ〟事で、体力を大幅に回復させる技だ。

 

「何やってるのよ!!」

「僕のせいかよ!!?」

「もういいわ!マリルリ〝みずのはどう〟!!」

 

マリルリから振動を帯びた水が発射され、ルージュに直撃する!追加効果の混乱は〝しんぴのまもり〟で防げたけど、効果抜群の大ダメージを受けてしまった。だけど

 

「まだ倒れないの!?効果は抜群のはずよ!!?」

「まさか、〝ハードロック〟!!?」

 

〝ハードロック〟。それがルージュの特性だ。効果抜群の技の威力を半減にする。

 

「くっそぉぉぉ!!エレブー〝きあいパンチ〟!!」

「負けないでルージュ!!〝だいちのちから〟!!」

 

エレブーの気合いの一撃と、ルージュが放出した大地の力がぶつかり合い、爆発と共に煙が生じる!煙が晴れると、そこには戦闘不能になったエレブーとルージュが横たわっていた。

 

「お疲れ様ルージュ!ゆっくり休んで!!」

「くっ!この役立たずが!!戻れエレブー!!」

「何やってるのよ!この間抜け!!」

「スズラン!〝ぜったいれいど〟!!」

 

ユキがタツヒコを罵倒している隙に、スズランは絶対零度の風をマリルリに吹きかける!マリルリは全身凍り付いて、戦闘不能となった。

 

「間抜けはお前の方じゃないか!簡単にやられやがって!!」

「な!ち、違うわよ!だって〝せったいれいど〟は自分より高いレベルのポケモンには効果が無い技なのよ!?こんなのインチキだわ!!」

「このスズランは、シロガネ山で捕まえたポケモンだからね。レベルはかなり高いよ」

「シロガネ山!?何言ってるのよ!!」

「お前がそんな所のポケモンを捕まえられるはず無いじゃないか!!どうせ貰ったか盗んだかに決まっている!!《ガントル》!!」

「そうね!落ちこぼれのターコイズが、シロガネ山のポケモンを捕まえられるはずが無いわ!!どうせ誰かから盗んできたのよ!《ロズレイド》!!」

 

僕達の修業の日々を完全否定しながら繰り出してきたのは、鉱石の様な体のポケモン、ガントルと、両手に薔薇の花を備えたポケモン、ロズレイドだ。

 

「ガントル〝ラスターカノン〟!!」

「ロズレイド〝ソーラービーム〟!!」

 

一点に集中された光と、太陽光を凝縮したエネルギーが一気に放出され、それらはスズランに命中してしまう!バトルの初めから戦ってきたから、それまでの無理が祟ったにか、スズランは耐え切れずに戦闘不能に陥ってしまった。

 

「よし!あの厄介なラプラスを倒したぞ!!」

「後はぺリッパーともう一体だけよ!!」

「喜んでる暇は無いよ!」

「何!?」

「キャサリンは最大まで〝たくわえた〟!!」

 

スズランに集中し過ぎていて気が付かなかったのか、キャサリンは既に〝たくわえる〟を使い続け、限界まで蓄えていた。そしてここから繰り出される最大の攻撃・・・!!

 

「〝はきだす〟だぁ!!」

 

圧倒的な質量が、キャサリンの口から吐き出される。それは地面を抉り、大気を抉りながらガントルとロズレイドを押し潰し、戦闘不能にした。

 

「チクショオオオオ!!ゴルバットォ!!」

「私達が負けるはず無いのよぉぉ!!《チャーレム》!!」

 

交代で出してきたのは、かつて戦った事のあるポケモン、ゴルバットと、細い上半身と強靭な下半身が特徴のポケモン、チャーレムだ。

そして何故か、その戦意はキャサリンには向けられていない様に見えた。その戦意の矛先、それはもしかして僕!?

 

「もういい!!ターコイズを殺してしまえば、それで勝ちだぁ!!」

「チャーレム〝はかいこうせん〟!!」

「こっちも〝はかいこうせん〟だぁ!!」

 

怒りで完全に我を失い、僕に向かって光線を発射するように指示する幼馴染達。指示通りに、2つの光線が僕に向かって発射されるが、僕は恐怖に震える足を押さえ、最後のモンスターボールの開閉スイッチを押す。現れたのは、育て屋夫婦から貰った卵から孵った一体。

 

「ナナリー〝ミラーコート〟ォ!!」

 

青い体に朗らかな表情が特徴のポケモン、《ソーナノ》のナナリーが飛び出し、鏡の障壁を展開する!放たれた2つの光線は障壁にぶつかり、元の倍の威力となって撥ね返す!渾身の攻撃が撥ね返された2体は余りの動揺に避ける事すら出来ずに、戦闘不能に陥った。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!《キノガッサ》ァァァ!!」

「必ず勝ちなさい!!《レパルダス》!!」

 

タツヒコとユキの最後のポケモン、茸をモチーフとした格闘ポケモン、キノガッサと、紫の体毛が特徴的なポケモン、レパルダスが繰り出されるのと、この戦いが終わるのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで最後だよ!〝ふんか〟!!」

 

僕の叫びと共に、地面から溶岩が噴出してキノガッサとレパルダスを焼き尽くす!2体は突然の攻撃に耐えきれず、戦闘不能に陥った。

 

「ど、どういう事だぁ!!?」

「ま、まさか、これはバクーダの!?」

 

溶岩が噴出した穴から出て来たのは、戦闘不能になったと思っていたであろうルージュだ。こんな簡単た策に気付かないなんて、やっぱり油断していたんだろう。

 

「君達が倒したと思っていたルージュは、最初の〝ふんえん〟に紛れて〝みがわり〟で作った偽物だ。本物のルージュは、〝あなをほる〟で下からずっとチャンスを窺っていたんだよ」

 

これが僕の最後の最後の切り札だ。ルージュを繰り出した時から用意していた保険が、今になって活かされたのだ。

 

「何で!?何で勝てなかったの!!?」

「あり得ない・・・!あいつが俺に勝っているのは、僅かな身長だけだったのに!」

 

僕に負けた事、それも2対1で負けた事がそんなに信じられないのか、地団太を踏みながら憤るタツヒコとユキ。その姿は、スクールのエリートの面影を何一つ残していなかった。

 

「そうだ、こいつらが悪いんだ!この雑魚ポケモン共がぁ!!」

「こんな使えないポケモン、もう要らないわ!!」

 

必死でトレーナーの期待に応えようとし、戦闘不能になるまで戦ってくれたポケモン達が入ったボールを怒り任せに地面に叩きつけようとする僕の幼馴染。

そんな姿は、見るに堪えなかった。

 

「ルージュ〝あくび〟!!」

 

ルージュは大きな欠伸を2人に浴びさせる。タツヒコとユキは強烈な睡魔に襲われて、崩れ落ちる様に眠ってしまった。

 

「―――ッハァ!!・・・はぁ・・・はぁ」

 

緊張から一気に解放されて、思わず腰が抜けて座り込んでしまう。こんなカッコ悪い所、ガーネットやアリアはともかく、スズナさんには見せられないな~。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。フゥ・・・。タツヒコ、ユキ・・・」

 

息を整えて、もう一度眠っている2人の幼馴染を見る。

昔はこんなのじゃ無かった。タツヒコは正義感が強くて、誰よりも人とポケモンには優しかったし、ユキはお淑やかな性格で、争い事は嫌いだったんだ。

それが変わってしまったのは、いつからだろうか?

有り余る才能に溺れ、その才能の上に胡座をかき、才能の無い僕や他の生徒を見下し、蔑むようになった。そして〝敗北〟を知らないまま出世の道筋を見せられ、それに目が眩んでますます周りが見えなくなってしまったのか。

確かなのは、もう、一緒に笑い合えたあの日には戻れないという事だ。人は変われるなんてよく言われるけれど、きっと僕達の関係は元には戻らない。何故かそう確信してしまった。

 

「ガーネット・・・。アリア・・・」

 

そして何より、僕はこの2人の前で立ち止まる訳にはいかなかった。

僕は腰が抜けて力が入らない足に活を入れて、立ち上がる。そして氷で閉ざされた通路を見る。この先で、ガーネットとアリアは今も戦っているかもしれない。

 

「ルージュ〝かえんほうしゃ〟!」

 

激しい炎で氷の壁を溶かし、道を開ける。もう幼馴染を振り返らない。僕はキャサリンとルージュ、ナナリーを引き連れて通路を走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアside

 

 

 

 

 

ターコイズが幼馴染との戦闘を制した後、ここでは激闘が繰り広げられていた。

 

「シザリガー〝かいりき〟ぃぃ!!」

 

シザリガーはその怪力を用いて、背中に乗ったアリアごとムクホークをプールの中へと引きずりこんだ。水中で呼吸がままならない中、アリアは状況を確認する。

 

(・・・今の〝かいりき〟でムクホークは戦闘不能。なら次の一手は)

 

それは既に決まっている。シザリガーは水生のポケモンだ。ならば、こちらも水中で戦えなければ勝ち目はない。アリアはムクホークをボールに戻し、新たにポケモンを繰り出す。

現れたのは、巨大な甲羅を持つ古代ポケモン、《アバゴーラ》だ。アリアはアバゴーラの背に掴まり、シザリガーを指で指しながら、目でアバゴーラに語りかける。

その眼差しで、指示を悟ったアバゴーラは両手両足、頭と尻尾を引っ込めて激しいジェット噴射を甲羅の隙間から噴出し、棲様じい速度でシザリガーに突撃する。〝アクアジェット〟だ。

水中にも拘らず、高速で突撃したアバゴーラの体はシザリガーに衝突し、そのまま水面まで持ち上げて中空へと放り出した。

 

「ぷはぁ!・・・・・ケホッ!・・・アバゴーラ、っ〝はかいこうせん〟」

 

咽ながらも何とか指示を出すアリア。放物線を描いて吹き飛ばされるシザリガーを追う様に、破滅の光線はシザリガーが描いた放物線を辿って直撃する。

シザリガーはその衝撃で壁に叩きつけられ、戦闘不能になった。

 

「はぁ~本当にぃ、楽しませてくれるねぇ~」

 

サンゾウの口調が元に戻る。ここまでの戦いで、少しだけ熱が退いたのかも知れない。それでもサンゾウが放つ殺気が衰えてはいないのを、アリアは肌で感じ取った。

 

「正直ここまでできるとは思わなかったねぇ。そしておめでとぉ、これがオレっちの最後の一体ぃ。こいつを倒せばぁ、嬢ちゃんの勝ちだよぉ~」

 

そしてサンゾウが取り出したのはハイパーボールだ。それ相応のポケモンが入っているという事が予想できる。アリアはサンゾウの動きを凝視し、いつでも指示を出せるようにする。

 

「さぁ、行きなぁぁ!!《ハッサム》ゥゥゥ!!」

 

再びボルテージを上げ、声高らかにポケモンを繰り出すサンゾウ。現れたのは深紅の甲殻に身を包み、両手は鋭利な鋏となっているポケモン、ハッサムだ。

 

「〝こうそくいどう〟からのぉ、〝かげぶんしん〟!!」

 

多重の残像を生み出しながら、高速で移動を開始するハッサム。しかし、アリアはこの7日間シロガネ山で同じような戦法をとるポケモンと闘い続けて来た。

 

「アバゴーラ〝ハイドロポンプ〟」

 

アバゴーラの口から放たれた水砲は、何度も何度も直角に曲がりながら分身を消していき、確かにハッサムの本体を追い掛けていく。

 

「ほぉ~!!本体がどいつなのか分かるのかぁい!!?」

 

アリアが敵に攻撃を当てる際に頼るのは目だけではない。相手の行動パターンや行動の予測、さらには大気から肌へと伝わる微細な振動や、実体が放つ風切り音まで加わる。

故に、アリアの射撃の前に〝かげぶんしん〟は通用しない。

 

「逃げても無駄ってことかぁい!?だったらぁ、これでどうだぁぁぁ!!」

 

ハッサムは限界まで上げた速度を以って、アバゴーラに迫る。水砲もハッサムを追い掛けるが、直線で最大スピードを出したハッサムに直撃する前に、ハッサムはアバゴーラの目の前に到達する。

 

「〝メタルクロー〟!!」

 

鋼鉄の両手がアバゴーラに直撃する、その直前。

 

「っ!?」

 

アバゴーラはアリアからの指示も無く、アリアを通路の上へと放り投げる。

アリアは何とか通路の上に着地したが、アバゴーラは鋼鉄の直撃を受け、更には自らの水砲をハッサム諸共受け、その衝撃で巨大な水柱が天井を突く。その結果、アバゴーラは戦闘不能となり、共に水砲を食らったハッサムは健在だ。

 

「交代です。行ってください《ライチュウ》」

 

アバゴーラと交代で現れたのは、通常よりも赤みがかった色のポケモン。稲妻の尾を持つ電気ポケモン、ライチュウだ。

 

「最後の決着だぁぁ!!オレっちに、刹那のスリルをくれぇぇぇ!!」

 

これでアリアの手持ちも残り一体。サンゾウとの最後のバトルが幕を開ける。

 

「ライチュウ〝10まんボルト〟」

「〝メタルクロー〟で迎え撃てぇぇぇぇ!!」

 

空中に居るハッサムに向かって放たれた強烈な電撃を、鋼鉄の両手の鋏で弾くハッサム。最早回避は不可能と見たのか、ダメージ覚悟で攻撃を相殺している。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

これほどまでの長期戦に加え、先程の水中戦。アリアの体力は限界に近い。早急に決着をつけなくては、いずれ体力は底を尽き、敗北は必至だ。

 

(・・・そうは、させません)

 

かつてスズナから教わった気合いで、アリアは体に力を込める。理屈はどうなっているのかは分からない。今しばらくこの力を残してくれるよう、悪魔に請う。

 

(・・・せめて、この戦いが終わるまでは)

 

アリアはハッサムを見る。あの動きの裏を掻き、ハッサムを戦闘不能にする方法は、以外にもすぐに思いついた。ライチュウの体力の消耗が激しいのが難点だが、今はそれに掛けるしかない。

 

「ライチュウ、最大の力を振り絞ってください。〝でんじほう〟」

 

今、アリアのライチュウが使える最大の大技、〝でんじほう〟。大砲の如く発射された電磁は真っ直ぐにハッサムを目掛けて放たれる。

 

「最大の攻撃かぁぁぁ!!良いねぇ!こっちも行くぞぉ、〝ギガインパクト〟ォ!!」

 

ハッサムは極限の力を振り絞って電撃の砲丸を迎え撃つ。あの力ならば、〝でんじほう〟は確実に弾かれてしまうだろう。だからこそ、勝てる。

 

「・・・今です」

 

ハッサムの極限の一撃が電撃の砲丸を弾く直前、集束された電撃は拡散し、ハッサムを巻き込んで放電する。最大の力で迎え撃ったハッサムは、その反動で避ける事も防ぐ事も出来ずに電撃を浴びた。

これこそがアリアの策だ。〝でんじほう〟は直撃すれば相手を必ず麻痺状態にする事が出来る。その電撃を浴びたハッサムは、体が痺れて空中から落ちてきていた。

 

「止めです。ライチュウ〝アイアンテール〟」

 

ライチュウは床を蹴り、落下してくるハッサムを目掛けて飛翔する。そして尻尾を硬化させ、ハッサムを横殴りにし、プールへと叩き落として戦闘不能にした。

 

「・・・ハッ!・・・・はぁ、はぁ」

 

そこで遂にアリアの体力は限界を迎え、床に膝を付く。極限の力を出し切ったライチュウも、受け身を取ることすらできずに床に落下した。

 

(・・・これで、約束を果たせましたよ)

 

そう思った、次の瞬間だった。

 

ダァァンッ!!

 

部屋に響き渡る銃声。しかし、それはアリアに当たったものではなく、ましてやライチュウに当たったものでもない。

驚きに顔を上げるアリア。その視線の先には、拳銃を片手に自らの胸を撃ち抜いたサンゾウの姿があった。その光景に、アリアは一つ思い当たる事があった。

 

「・・・それは、《自動消去機能》。まさかあなたは・・・」

 

それは、かつてアリアにも仕掛けられていたエスパーポケモンによる催眠誘導。敗北と共に自害して、その肉体の情報を一片も残さず消す悪魔の所業だ。

 

「そぉさ。オレっちも、嬢ちゃんと同じクローンなのさ」

 

サンゾウの体は見る見る内に白く染まっていく。送り火山での戦いの時と同じだ。

 

「まぁ、オレっちはぁ、嬢ちゃんと違ってぇ、寿命も短く、精神も不安定なぁ、失敗作なんだけどよぉ。はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

死に際にも拘らず、饒舌なサンゾウの語りを、アリアは静かに聞いていた。

 

「元々、支部長の死んだ親友のクローンらしいんだけどォ、失敗作の癖して、何で生かされてるのか、分からなくてねぇ、こおしてぇ、戦いに快楽をぉ、求めてたって訳よ」

 

サンゾウの体は、首から上を残して全て白化してしまっている。次が最後の言葉だと思い、アリアは直感的に耳を澄ませた。

 

「まぁ、生きてる実感が欲しかったのさぁ。生まれてきてぇ、5年くらいかねぇ、そんなもん一度も得られなかったけどォ、最後の最後で、嬢ちゃんと戦えてよかったぜぇ」

 

そう言って、サンゾウは心底楽しそうに笑う。それと同時に白が体を覆い尽くすと、バキャッと、乾いた音を立ててサンゾウの体は白い塵となって崩れ落ちた。

残されたのは身に着けていたスーツなどの衣服と、さっきまで戦っていたポケモンが入っているモンスターボールだ。アリアはそこまで歩み寄り、ボールだけを拾い上げる。

 

「・・・このポケモン達は、私がポケモンセンターまで送り届けておきます」

 

それだけ言って、アリアは奥の通路へと足を進める。

同じクローンとして、もっと言いたい事はあったはずだったが、話題のボキャブラリーの貧困さが相まって、そんな言葉しか出てこなかった。

それでもアリアの心の奥には、確かな言葉があった。

 

――――大切な人と出会えたならば、あなたはもっと幸せでしたか?

 

そんな言葉は結局出てこず、胸の奥へと沈んでいく。

親友から貰った気合いを足に、後ろで戦う仲間への信頼を背に、そして、前で戦う約束の人との未来を掴むべく、アリアは通路の奥へと歩んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!
次回は、決着の戦いが始まりますよ。
皆様からのご意見ご感想ご希望お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死闘 アルティア家 後編

遂に完結!アリアとアルティア家を巡る第一章の最後の戦い!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の最深部。

そこは大きなコンテナが3つだけ置かれていて、後は何にもない広い空間。

震えは無かった。臆する事も無かった。ただ、敵は倒すという気概で俺は此処に居る。

相対する、俺とルーファス。親子の殺し合いが、今始まろうとしていた。傍らに立つメリーも、体を帯電させながらやる気を見せている。

 

「さて、ガーネット君。君はどうしても私の邪魔をしたいようだね」

「ここでお前を逃したら、しばらくの間枕を高くして眠れないからな。ここでとっ捕まえて、刑務所の中に放り込んでやるよ」

「・・・もし、ここで見逃してくれれば、今後君達に危害を加えないとしたら?」

 

なんだと?

 

「正直な話、ゲンジがここに来る前に逃げなければ厄介な事になる。そこで君に、交渉を持ち掛けようではないか」

「交渉だぁ?」

「初めに言っておくが、ここで私と闘えば君はただでは済まない。これは誇張では無く、真実だ。それは君も望むところではあるまい。ここで見逃してくれるのであれば、君を含め、アクアマリンにもターコイズ君にも、今後一切危害を加えないことを約束しよう」

「そんなもん、俺が信じるとでも思ってんのかよ?」

「思えないね。だが私はこれでも商人だ。約束は必ず守る。決して悪い話ではないはずだ。両者無傷で、目的を果たせるのだからね」

「俺の目的がなんなのか、知っているのかよ?」

「表向きは私の捕縛だろう?だが君は、そんな事よりも仲間との未来を求めているはずだ。君だってわざわざリスクを取らなくとも、ノーリスクで目的を果たせる」

 

まるで俺達の会話を聞いていたかのように、俺に交渉を持ち掛けるルーファス。流石は古い商人の名家、俺の欲しいものはお見通しと言う事か。

 

「でもそいつは出来ねぇ相談だな」

「・・・何故かね?」

「確かによ、俺はお前が何処で何をしようが知ったこっちゃねぇよ。俺達に何にもしねぇってんなら、俺達も何もしねぇ。でもな、俺の目的はそれだけじゃねぇんだよ」

 

死んだのは、俺の母さんだった。大切だったし、絶対に無くしたく何か無かった。あんな風に居なくなってしまうなんて、思いもしなかった。

 

「それ以外の目的が、君にはあると言うのかね?」

「無けりゃ、話はここまでややこしくなっていねーよ」

 

ルーファスの悪事を追い続けて、7年間戦い続けて来た男が居る。そして、俺はその男の遺志を継いでこいつと戦いに来たのだ。

 

「どうしてもかね?」

「どうしてもだ」

 

道半ばで、夢破れた仲間が居る。周囲から蔑まれ続け、それを止められる立場に居ながら止めようともせず、最後は利用しようとして失敗したから切り捨てられた。

 

「非常に残念だよ」

「俺はこの展開を望んでたぜ・・・!」

 

感情を与えられず、生き方を作られて、未来までも奪われようとしている少女が確かに居る。その少女との約束を果たすべく、俺はこいつを倒して過去を清算しなければならない。

 

 

「ならば、もはや容赦はしない」

 

ルーファスはモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

 

「っっ!!」

 

それと同時に放たれる、目にも止まらない早さで飛来する強烈なプレッシャー。強烈な突風。ロストタワーで俺達3人を纏めて倒した時と同じだ。避わせる様なものではない。

 

「メリー〝ほうでん〟!!」

 

メリーから前方180度に向かって激しい電撃が発せられる!まるでアリアドスの巣の様に展開された電撃は、音速で向かってきたピジョットを絡め取り、ダメージと共に動きを封じる!

 

「今だメリー!〝かみなりパンチ〟!続けて〝パワージェム〟!!」

 

相手が怯んだ隙を逃さず、ピジョットの顎を雷の拳で打ち抜き、至近距離から煌めく光線を浴びせるメリー。連続で攻撃を浴びたピジョットはそのまま戦闘不能になった。

 

「まさか、いきなりピジョットを倒されるとはね」

 

流石に想定外だったのか、目を見開いて驚くルーファス。

 

「お前のピジョットはかなり予習してきたからな」

 

そう言ってポケモン図鑑を取り出す。

ピジョットはマッハ2の速さで空を飛ぶポケモンだ。俺達を倒したのは、単なる〝ゴッドバード〟という技の威力だけじゃない。マッハ2と言う速度から生まれる強烈な衝撃があの威力を生んだんだ。

なら逆に、それだけの速さなら急には止まれないんじゃないかと言うのが、ターコイズの仮説だ。それなら、苦手な電気タイプの技で罠を張り、そこに突っ込んできたピジョットがダメージで動きが止まった所を連続で叩く。

本当ならレベル差がありすぎて、攻撃を無視して突っ込んでくる可能性もあったが、ゲンジお墨付きの攻撃力がそれを可能にした。

 

「なるほど。ポケモン図鑑に助けられたようだな」

 

そして新たにボールを取り出すルーファス。前回はピジョット以外のポケモンは使っていなかった。つまりここからは全くの未知の領域。俺は再度気合いを入れ直し、相手を睨む。

 

「行け、《ガマゲロゲ》」

 

現れたのは、青い体に所々瘤の様な物が出来ているポケモンだ。ガマゲロゲと言う名前らしいが、ポケモン図鑑を見てみても反応が無い。マニューラの時と同じだ。

ターコイズの言葉を借りるのなら、図鑑がガマゲロゲに対応してないという事か。

 

「でも構うか!メリー〝10まんボルト〟!!」

 

あの姿から察するに、ガマゲロゲは水タイプだ!なら電気タイプの技は効果抜群のはず!強烈な電撃は、真っ直ぐにガマゲロゲに直撃したが

 

「何ぃ!?」

 

どういう訳か、ガマゲロゲは全くと言っていいほどにダメージを受けていなかった。電気タイプに技を完全に無効化・・・こいつまさか!?

 

「ガマゲロゲは水と地面、両方のタイプを併せ持つ。〝ハイパーボイス〟」

 

全身の瘤と震わせ、途方もない爆音を発するガマゲロゲ。

 

「ぐあぁぁ・・・!!」

 

なんつー声だ・・・!自分の声が聞こえない・・・!!

俺が耳を押さえて苦しんでいると、メリーも同じく耳を押さえて苦しんでいた。その隙にガマゲロゲはメリーに肉薄し

 

「〝ドレインパンチ〟」

 

拳がメリーに食い込むのと同時に大気が大きく震え、メリーは壁まで吹き飛ばされて戦闘不能に陥ってしまった!何て威力だ・・・!

 

「拳を震わせて、威力を増幅させた〝ドレインパンチ〟だ。これを食らってタダで済んだポケモンはいない。まだ戦うかね?」

「ご高説どうも!そいつもすぐにぶっ飛ばしてやるよ!行け、ダン!!」

 

メリーを引っ込めて、新しくポケモンを繰り出す!現れたのはダーテングのダンだ。草タイプのダンなら、水/地面タイプのガマゲロゲには最高に相性がいい。

 

「私が草タイプ対策をしていないとでも思ったかね?〝こごえるかぜ〟だ」

 

強烈な冷風がダンに迫るが、弱点タイプの対策があるのはそっちだけじゃない!

 

「振り払え、ダン!!」

 

ダンは両手の扇を大きく振い、猛烈な風を巻き起こす!巻き起こされた風は風速30メートル。ガマゲロゲから放たれた冷風は押し返され、僅かながらガマゲロゲにダメージを与える。

 

「今だ、〝リーフストーム〟!!」

 

押し返された冷風と猛烈な風により怯んだガマゲロゲに、強烈な葉の竜巻を浴びせる!竜巻に巻き上げられながら葉で斬り裂かれたガマゲロゲは、天井に激突した後、地面に落下して戦闘不能となる。

 

「幾ら弱点タイプとは言え、このレベル差で一撃でガマゲロゲを倒すとは。ダーテングが巻き起こした風の力と、圧倒的な攻撃力の賜物だな」

 

そんな事を言いながら新たなポケモンを繰り出すルーファス。

現れたのは赤くて丸い体に、大きな腕が特徴のポケモン、《ヒヒダルマ》だ。ポケモン図鑑を見てみると、こいつは炎タイプ。ダンの弱点をもろに突いてきたか・・・!

 

「ヒヒダルマ〝フレアドライブ〟!」

 

全身に業火を纏い、猛烈な勢いで突っ込んでくる!離れていても伝わる熱気、これを食らえば確実に戦闘不能に陥るだろう。

 

「・・・ダン」

 

ダンはこちらを振り返り、俺を見る。その目は何物をも恐れぬ、覚悟を決めた瞳。神風の目だった。俺は一度だけ頷くと、ダンは迫りくるヒヒダルマを睨む。

これでいい。これはあらかじめダンと話し合って、決めていた事だ。ダンも分かってくれた。だから俺は、コンテナの影に隠れ、そして叫ぶ。

 

「やれぇ!!〝だいばくはつ〟だぁ!!」

 

その瞬間、部屋は光に包まれた。

コンテナの裏に隠れていてもまるで遮断されない衝撃と爆風。自身が戦闘不能になる代わりに、周りの全てに破滅をもたらす大爆発が巻き起こる。

 

「はぁ、はぁ・・・。やったか・・・?」

 

やがて爆発と光は収まり、俺はコンテナから顔を覗かせる。これで上手くいったら、ルーファスは動けなくなっているはずだ。

 

「ば、バカなっ!?」

 

そこに倒れていたのはダンとヒヒダルマの2体だけ。だったらルーファスはどこに行ったんだ!?周囲を見渡し、警戒態勢をとる。

次の瞬間、地面から何かが飛び出してきた。

 

「ごはぁぁっ!!?」

 

飛び出してきた何かは俺の腹に減り込み、俺は大きく吹き飛ばされて2回地面にバウンドしてからようやく止まる。痛みを堪え、前を見た。そこに居たのは、小さな紫色の体に、目が宝石の様なポケモンだ。ポケモン図鑑を見てみても、今回は何の反応もない。

 

「《ヤミラミ》、〝シャドークロー〟だ!」

 

ヤミラミと呼ばれたポケモンは、影から鋭い爪を形成して襲いかかる!

 

「行け、イヴ!!〝れいとうビーム〟だ!!」

 

こっちはイヴを繰り出し、強力な冷気を一直線に放出する。ヤミラミは空中で体を捻り、冷気を避けられたが、その隙に何とか体を起して態勢を整える事が出来た。

 

「これで君は後4体、それに対し、私は後3体。ここまでやるとは計算外だよ」

 

そう言いながらルーファスは地面からニュッと出て来た。そうか・・・!〝だいばくはつ〟を回避したのはあのヤミラミの〝あなをほる〟だったか!

 

「〝かげうち〟だ!!」

 

ヤミラミの影がこちらに伸びて来たかと思いきや、影が地面から盛り上がり、そのままイヴが吹き飛ばされた!何とか戦闘不能は免れたが、そう何度も食らっていられない!

 

「〝ふぶき〟だ!!」

 

極寒の猛吹雪がイヴから吐き出される。その雪と冷風は部屋の床や壁、天井を凍り付かせるが、ヤミラミはその素早い動きで吹雪を回避しながら俺に肉薄する!

 

ドスッ!!

 

影から出来た爪は、咄嗟に盾にしたポケモン図鑑を貫き、俺の胸に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアside

 

 

 

 

 

「・・・今の振動は、ダーテング?」

 

前方から生じた風と振動を、ガーネットのダーテングの大技〝だいばくはつ〟だと推測すると、アリアは重たい足に更なる気合いを入れて歩みを進める。

 

「・・・急がなくては」

 

ダーテングが自爆特攻をしたという事、つまりそれほどまでに戦況が緊迫しているという証だった。ならば一刻も早く駆けつけて、彼の力になりたい。

 

「・・・あれを無理矢理押し付けて正解でした」

 

ターコイズと話し合い、ガーネットに2人で押し付けた物。ガーネットは最初は渋ったが、ターコイズの説得で何とか受け取ってもらえた。

あれが何らかの力をガーネットに与えてくれている事を信じ、アリアは通路を全力で駆け抜ける。疲労は何とか回復してきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤミラミは咄嗟に盾にしたポケモン図鑑ごと、俺の胸を突き刺す。その事に思わず怯んだが、それに構わずヤミラミの腕を掴む!そのまま爪を引き抜き、砲丸投げの要領で中空へと放り投げた!

 

「やれぇイヴ!!〝シャドーボール〟だ!!」

 

大きな黒いエネルギー弾が、回避の叶わない空中に居るヤミラミに激突する!ヤミラミはそのまま放物線を描く様に地面に落ちてきて、戦闘不能となる。

 

「・・・結局、こいつに助けられたな」

 

俺は上着の胸ポケットを見る。そこには無残に破壊された2つのポケモン図鑑だ。

 

「結局壊しちまったぞ、しかも3つ同時に」

 

戦いの日の前日の夜、何を思ったのかアリアとターコイズが俺に使って欲しいと言ってきた。何でも戦いになったらすぐに壊すだろうという事だ。まったくもって失礼な話だが、それは現実のものとなり、こうして俺は生き長らえている。

俺は手に持っていた壊れた図鑑を胸ポケットに押し込み、ルーファスを見る。

 

「君はつくづく悪運に恵まれているらしいな」

 

そう言って呆れる様な眼差しを俺に向けるルーファス。そして残るポケモンは後2体だ。こっちは4体だが、ルーファスのあの余裕の態度を見る限り、油断はできない。

 

「行けっ!《クリムガン》!!」

 

現れたのは、青い体とは正反対の真っ赤な顔。こいつの事は良く知っている。ドラゴンポケモンのクリムガンだ!でもイヴは氷タイプだ!相性では勝っている!

 

「〝ふぶき〟!!」

 

極寒の猛吹雪が、辺り一面を再び凍り付かせる!これを食らえば、さすがにドラゴンタイプと言えどもタダでは済まないはずだ。

 

「そんなものでは、そいつは止まりはしない」

 

ルーファスがそう呟くと、クリムガンは守りの態勢を取ったまま吹雪を抜け出してきた!?まさか、〝まもる〟をしながら移動したってのか!?

 

「〝ばかぢから〟だ」

 

そのままイヴの体を鷲掴みにし、地面に力一杯叩きつける!床が大きく陥没するほどのパワーで叩き付けられたイヴは、そのまま戦闘不能になった。

 

「何てパワーだ・・・!」

「このクリムガンは私のお気に入りでね、そう簡単には倒せないので覚悟していたまえ」

 

ルーファスの最強の一角と言う事か・・・!ならこっちは!

 

「行け!マー坊!!」

 

マンキーから《オコリザル》へ進化したマー坊を繰り出す!クリムガンは巨体だ。あの図体で軽いフットワークが伴う訳が無い!ならこっちはそれで対抗する!

 

「〝クロスチョップ〟だ!!」

「〝ドラゴンクロー〟で迎え撃て!」

 

両手を使った交差打ちと、竜爪がぶつかり合う!力は互角と言ったところか!

 

「〝れいとうパンチ〟!!」

 

続けて冷気を纏った拳を繰り出す!当たれば効果抜群だが、驚くべき事にクリムガンは、身を屈めてそれを回避しやがった!

 

「〝いわくだき〟だ」

 

大岩をも砕く一撃が、マー坊に叩き付けられる!マー坊はそのまま地面に叩き付けられ、戦闘不能になってしまった!

 

「強い・・・!あの巨体からは想像もできない反射速度だ・・・!」

 

相手はパワータイプのポケモン。だったらこっちもパワーで対抗するしかない!

 

「頼むぞ、ドン!!」

 

オノンドから《オノノクス》に進化したドンを繰り出す!その黄土色の巨体に、顔の両側から生えた大きな斧の様な牙が何とも逞しい。

 

「〝ばかぢから〟だ!!」

「〝ばかぢから〟だ!」

 

強大な筋力と筋力がぶつかり合い、2体を中心に床が陥没する!やがてその均衡は崩れ、ドンは下からクリムガンをかち上げて、中空へ放り投げる!

 

「行けぇ!!〝ギガインパクト〟ォ!!」

 

クリムガンを追い掛ける様にして跳んだドンは、渾身の力でクリムガンを地面に叩きつける!ドンのパワーとクリムガンの体重で床が大きく陥没し、クリムガンは戦闘不能になった。

 

「まさか、ここまで私を追い込むとはね」

 

クリムガンをボールに戻し、そう呟くルーファス。そして新たに取り出されたボールの中に居るのは、正真正銘、切り札の一体だろう。

 

「この一連の戦闘で、君のポケモンのパワーには感動すら覚える。故に、ここで必ず倒さなければ、今後の作戦にも大きく影響を及ぼすだろう」

「御託は良い・・・。掛ってきやがれ!!」

 

俺の叫びに呼応する様に、ドンも雄叫びを上げる!あの一体に勝てば、俺達の勝利だ!

 

「良いだろう、これが最後の戦いだ」

 

そして繰り出される最後の一体。現れたのは、クリムガンよりもさらに巨体。頭から背中にかけて突き出た角、そして頑丈な岩の甲殻。

山崩れのニュースでも有名なポケモン《バンギラス》だ。

 

「さぁ行くぞ、バンギラス」

 

バンギラスの雄叫びと共に巻き上がる風、それはバンギラスの特性〝すなおこし〟で発生した砂嵐だ。激しく巻き上げられた砂塵はドンの体を傷つけていく・・・!

 

「〝かいりき〟で叩きのめせ」

「くっ!こっちも〝かいりき〟だ!!」

 

バンギラスとドンが組み合い、両者譲らず力は拮抗している!その力はクリムガンを上回り、ドンと互角に張り合っている!

でもこのままじゃ不味い。砂嵐は絶えずドンの体を傷つけていて、このままじゃ均衡は崩れるだろう。何とか状況を打開しないと!

 

「初めに言ったが私は急ぎなのでね。終わらせてもらう、〝ストーンエッジ〟!」

 

零距離から放たれた鋭利な岩礫が、ドンを襲う。ドンは何とか耐えているが、やがて力が抜けたのか、均衡は崩れ、ドンはバンギラスに押し倒されてしまった!

 

「次は君だ、〝ストーンエッジ〟!!」

「う、うおぉぉぉぉぉ!!?」

 

無数の岩刃が俺に襲いかかる!何とか避けてはいるが、こんなものがいつまでも続く訳もなく、岩の一つが足を掠め、俺は倒れ込んだ。

 

「しまっ!!?」

 

そして岩が俺に命中しようとした瞬間、何かが俺に覆い被さった!

 

「ドン!?」

 

顔を上げてみると、そこには苦悶の表情を浮かべて岩礫を浴びているドンの姿が。まさか、俺の盾になっているのか!?

 

「もうよせっ、ドォン!!」

 

俺の指示も受けずに、ジッと岩礫を受け続けるドン。そして岩礫が止むのと同時に、ドンは地面に倒れ込んで戦闘不能になった。

 

「くっ・・・!ドン、ゆっくり休んでくれ!!」

 

俺はドンをボールに戻し、敵を睨む。辺りは相変わらずの砂嵐だ。

 

「強力なオノノクスだった。私のバンギラスがここまで苦戦したのは久しぶりだよ」

「当たり前だ、俺の自慢の仲間だからな!!」

 

俺は最後のポケモンを繰り出す!こいつ無くしては勝利はあり得ない。この砂嵐を越え、奴らを倒せる唯一の存在。

 

「行くぞナツ!最後の戦いだ!!」

 

現れたのは、フライゴンのナツだ。地面タイプを併せ持つナツは、この砂嵐の中でもダメージは無い。俺はナツの背中に乗り、指示を出す。

 

「飛べ、ナツ!!」

 

翼を羽ばたかせ宙にに浮く。バンギラスはその重量から生みだす攻撃力故に、機動力に欠けるポケモンだ。だったらこっちは空を飛ぶというアドバンテージを最大限に活かす!

 

「〝アイアンテール〟だ!!」

「〝アイアンテール〟で弾き返せ!」

 

空中から背後に回り、硬化した尻尾を叩きつけようとしたのに対し、バンギラスも同じ〝アイアンテール〟で応戦する!ちっ、流石に隙は簡単には作らないか!

 

「だったら〝じしん〟だ!」

 

大地を大きく揺らし、その衝撃で当たりの敵を一掃する大技、〝じしん〟で決定打を図る!バンギラスは岩タイプを併せ持つポケモンだ。地面タイプの技は効果抜群だ!

 

「〝じしん〟!!」

 

だか、バンギラスも地面を揺らし、その衝撃でナツが放った振動を打ち消しやがった!まさか〝じしん〟をこうやって防ぐなんて・・・!

 

「まるで烈火の様な攻めだな。〝はかいこうせん〟!!」

 

破滅の光線が、バンギラスの口から放たれる!ナツは空中を旋回し、何とか回避に成功した。どうやらあのバンギラスは、遠距離技も豊富らしい。

 

「行けっ!〝とんぼがえり〟だぁ!!」

 

攻撃後、すぐにその場を離れる技〝とんぼがえり〟。こうやってヒット&ウェイを繰り返し、着実にダメージを与えていくつもりだったが

 

「〝かいりき〟で押さえこめ!!」

 

攻撃してきた所を見計らって、ダメージを受けながらも怪力で背中に乗っていた俺諸共ナツを押さえこまれてしまう!くっそ・・・!なんて馬鹿力だ・・・!!

 

「それでも負けるかぁ!!ナツ〝かえんほうしゃ〟!!」

 

首を捩り、バンギラスの顔目掛けて激しい炎を吐き出す!怯んで手の力を緩めたのを見計らって、拘束から抜け出す!今のでナツの体力は限界に近い。次の手で決めなければ・・・!

 

「少し君に問いたい」

 

バンギラスをどう攻めるか頭を悩ませていた時、ルーファスは静かに問い掛けた。

 

「なぜ、ここまでして私に足掻く?戦力差は圧倒的だったあの頃から、君の目からは諦めというものが宿らなかった。浅ましく生きようとする道化にも見えなかったがな」

 

そんな事を聞いてくるルーファス。その台詞は、こいつが言った途端に酷く滑稽なものに聞こえた。だってそうだろう?結局こいつも

 

「それは、お前と一緒だ・・・!ルーファス」

「私と同じ・・・?」

 

俺と同じ穴のムジナなんだからな。

 

「どんなに強い奴が敵でも、破滅の未来が待ち受けていたとしても」

 

恋人を生き返らせるために、全てを生贄にしてきたこいつなら分かるはずだ。

 

「守りたい奴が居る。貫きたい、願いがある・・・!最後の最後まで、希望は捨てねぇ。たとえ其処が、地獄の底でもあっても!生きる為に足掻く!それが、俺達の生き方だ!!」

 

そう啖呵を切る俺を、ルーファスはジッと見つめていた。

 

「ならば、私がどんな選択を取るかも分かるな?」

「ここで諦める様な奴なら、こんなに苦戦してねぇよ・・・!」

 

外見は似ていても、中身は全く似てないと思っていた。でも、ただこの一点だけ、俺達はかなり似ているよ、ルーファス。

 

「私は全てを犠牲にしてでもエリーを取り戻す!!バンギラス!!」

「こっちも仲間の未来を任されてんだ!!簡単にくたばるかよ!ナツ!!」

 

2体の口に集束されていく、圧倒的なエネルギーの奔流。それはゆっくりと、しかし確実に限界まで溜め込まれ、遂に解き放たれる!!

 

「〝はかいこうせん〟!!」

「〝りゅうのはどう〟ぅぉぉぉおおお!!」

 

最大最強の攻撃がぶつかり合う!ナツのダメージも大きいが、〝とんぼがえり〟と〝かえんほうしゃ〟をまともに受けたバンギラスもダメージは大きい!

 

「うおぉぉぉぉ・・・!!」

「・・・ぃい行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

乾坤一擲。初めに均衡を崩したのはナツだった。竜のエネルギーは光線を食い尽くし、光線は弾けながら拡散する!

 

ルーファス、お前が背負ったもんは確かに重かろうさ。でも俺だって何にも背負ってねぇわけじゃねぇ。俺達には未来がある。過去に縛られて、ずっと後ろを見て来たお前じゃ分からねぇもんをな!

 

「貫けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

エネルギーは光線を食い破り、バンギラスを飲み込んだ。巻き起こる爆発四散、煙が晴れた後に残っていたのは、戦闘不能になったバンギラスと、呆然としているルーファスの姿だ。

 

「俺達の、勝ちだ・・・!」

 

それと同時に倒れ込む俺とナツ。ナツは暫くの間、指先一本動かせないだろう。

 

「まだだ・・・!まだ、終わってはいない・・・!!」

「なっ!?」

 

そう言って、俺に拳銃を向けてくるルーファス。まずい!避けられねぇ!!

 

「・・・ライチュウ〝でんげきは〟」

 

ルーファスが引き金を引こうとした直前、高速の電撃が拳銃を弾き飛ばす。

 

「この電撃は、まさか・・・!」

「くっ!」

 

ルーファスは慌てて拳銃を取りに向かったが、突然現れたぺリッパーがそれを遮る!

 

「もう逃げられませんよ!」

「・・・あなたの抵抗もここまでです」

「アリア、ターコイズ!!」

 

現れたのは、後ろで戦っていてくれた2人の仲間。

 

「お前ら、ちゃんと勝てたんだな・・・!」

「・・・約束ですので」

「僕もなんとかね!」

 

そしてルーファスを取り囲む2人の手持ちポケモン。殆どは戦闘不能になってしまったのか、その数は合わせて4体しかいないが、俺にとっては最高の援軍だ。

 

「・・・最早、ここまでか」

 

そう小さく呟いて、ルーファスはポケットに手を入れた。その次の瞬間

 

 

ドオオオオォォオォンッッ!!!!!

 

 

棲様じい爆発音と共に、この建物全体が揺れ始めた!!

 

「この揺れ、まさか・・・!!」

「死にたくなければ、迅速に逃げる事を勧めよう。この屋敷は間もなく地盤沈下を起こし、地の底へと沈んでいくだろう」

 

そう言ってポケットから何かボタンの様な物が付いた小さな機械を投げ捨てる。ルーファスはその場に座り込んで、逃げる素振りすら見せない。まるで此処を死に場所と決めた様に。

 

「元は証拠隠滅の為に仕掛けた細工が、こんな形で使う事になるとはな」

「ルーファス、テメェ!!」

「ガーネット、いいから逃げるよ!!」

「・・・・・!!」

 

ルーファスに掴み掛ろうとする俺を、必死で抑えるアリアとターコイズ。

 

「ついでだ。これも持って行ってくれたまえ」

 

ルーファスは俺に向かって何かを投げつける。それはルーファスの手持ちが入った6個のモンスターボールだ。俺は反射的にそれを受け取った。

 

「えぇい、くそ!!」

 

俺は2人の誘導に従い、通路を走る。

聞きたい事は山ほどあった。でもそれが出来る状況ではない事を悟った俺は後ろ髪を引っ張られる様な気持ちで逃げだした。

ここで死んでは元も子もない、約束を守るためにも俺は振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ここで私が死んでも、私の願いは叶う。君との再会も、そう遠くは無いだろう。だから今しばらく待っていてくれたまえ」

 

ガーネット達が逃げ果せた後、座して死を待つルーファスの心は穏やかだった。

懐から写真立てを取り出す。写っていたのはかつての自分と、この世で最も愛した女の幸せそうなツーショット写真だ。

 

「君は、ポケモンと笑い合う私が好きだと言ってくれたな」

 

なら、血の繋がった少年にボールを渡した事は間違いではない。

 

そう満足して、ルーファスは降り積もる大きな瓦礫の中に埋もれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様のご意見ご感想お待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる旅立ち

第一章完結!!まだまだ続く3人の旅を今後もお楽しみくだされば幸いです!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先日ジョウト地方で発生した新生ロケット団のテロの裏で、ここカントー地方の名家であるアルティア家がロケット団にポケモン協会の情報を流していた事が、新たに判明しました。そして私は今、アルティア家総本山があるという森の中に来ていたのですが、見てください!この大きな穴!下を覗いてみると、そこには瓦礫の山です!ここで何があったのでしょうか!?警察は引き続き調査を』

 

プツッ!

 

俺はテレビの電源を切り、備え付けのソファーに腰を掛ける。

ここはタマムシシティのポケモンセンター。あの戦いの後、庭でのびていたタツヒコとユキを運んで(主にぺリッパーがすごく頑張った)ここまで来ていた。

来たのは良いのだが・・・

 

「凄い騒ぎになってるね・・・」

「・・・私達の顔が晒されていないのが救いですね」

「まぁ、ゲンジって言うか、協会の主導で動いてたから大丈夫だと思うけどな」

 

ルーファスが最後に押したスイッチは、あの屋敷の周囲を地盤沈下させるだけではなく、カントー地方全域に地震警報が鳴った位に大きかった。それだけでも騒ぎなのに、一夜にしてアルティア家総本山がピンポイントに地盤沈下していたら、そりゃ騒ぎにもなるよな。

 

「まぁ僕達も危うく地盤沈下に巻き込まれると事だったけど、こうしてみんな生きて帰れたんだから、今はそれでいいんじゃないかな?」

「確かに、ぺリッパーが居なかったどうなっていた事やら」

「・・・恐らく地盤沈下に巻き込まれて即死だったかと」

「嫌な事言うなよ・・・」

 

俺は屋敷があった森の方を見る。

俺達3人と、アルティア家の因縁の戦いは幕を閉じた。しかし、

 

「・・・残された謎は、相変わらず多いですね」

「あの研究所にあった樹のマークに、ルーファスが取ろうとしていた死者蘇生の方法、それから、サンゾウの支部長発言か・・・」

 

樹のマークはアルティア家の家紋とは別物らしく、死者蘇生の方法は俺達には見当もつかない。最後のサンゾウの支部長発言だが、これには頭を悩ませっぱなしだったりする。

ルーファスはアルティア家の当主、つまり組織のトップだ。対して支部長とは、大きな会社の傘下にある会社を任される者に対する呼び方だ。

組織のトップなのに支部長。そんな矛盾が孕んだ言葉の真意とは

 

「・・・ルーファスは、何らかの組織の幹部にすぎない?」

「その可能性が高いかもな・・・」

 

どうやらこの厄介事の根は深く、これだけでは終わってはいないみたいだ。でも、現状では敵の姿は一切見られないことから、今は一時の安寧と言ったところだ。今はこの件について頭を悩ませていても仕方がない。それに、俺達にはそれ以上の厄介事に直面しているのだから。

 

「このポケモン図鑑、どうしよう~~!?」

 

俺達の目の前には、無残に破壊された3つのポケモン図鑑が置いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こいつをどうするべきか?」

 

あの後すぐにタマムシを出て、現在夕方の5時。

所変わって、ここはマサラタウン・オーキド研究所前。

ひょんな事から、この図鑑の持ち主があの有名なオーキド博士の物だと知った俺達は、戦いが終わったらこの図鑑をちゃんと博士に返すと決めてはいたのだが

 

「こんな風穴開いたやつ、返したら怒鳴られるだろうな~」

「・・・元はと言えば、私が盗み出したものです。よって私が返しに行くのが礼儀かと」

「いやいや、俺達もこれを使ってたんだから同罪だっての」

 

えぇい!人間度胸だ!とりあえず行くしかない!

 

「いくぞ!!たのもーーーーーー!!」

「そんな道場破りじゃないんだから!!?」

 

研究所のドアに手を掛け、勢い良く開く。中に居たのは数名の研究員のおっさんと、白髪の角刈りの老人だった。雑誌で見たとおりだ、こいつがオーキド博士か。

 

「な、何じゃ・・・?」

「ほら!博士と研究員の人たちがドン引きしてるじゃないか!!」

「すまん、ついノリで」

「って、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「・・・っ!?」

 

その時、一人の研究員がアリアを指差して絶叫する!何事!?

 

「博士、彼女ですよ!!ポケモン図鑑を盗み出したのは!!」

 

研究員の一言で、研究所の中は騒然となる。どうして戻って来たのか、とか、警察に連絡を入れるなどと不穏な空気が流れ始め、思わず腰のボールに手を伸ばしたが

 

「皆落ち付け!どうやら争いに来た訳じゃなさそうじゃ!」

 

パンパンと手を叩いて、場を諫めるオーキド博士。俺もそれに釣られてボールから手を離す。どうやら話の分かる人物らしい。

 

「さて、ガーネットにアリア、ターコイズじゃったな。ゲンジから話は聞いておる」

「え、何で僕達の名前を?」

「それに、何でそこでゲンジが出てくるんだよ?」

「うむ、わしとゲンジは古くからの友人での。昨日いきなり電話が掛ってきて、君達が今日図鑑を返しに来ると教えてくれたんじゃ」

 

どうやらゲンジが根回しをしていたようだ。どう話を切り出したらいいか悩んでいたので、今回ばかりはゲンジに感謝だな。

 

「こんな所で立ち話もなんじゃし、とりあえず客間で話を聞かせてくれんか?」

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そう言う事じゃったか」

 

俺達の話を聞いた博士は、目を閉じて深く頷いた。どうやら俺達の事情に納得してくれたらしく、初めに感じていた警戒心も今は解けている。

 

「・・・この度は、真にご迷惑をおかけしました」

「こいつも悪気があってやった訳じゃねぇんだ。許してやってくれねぇか?」

「お願いします!」

 

俺達は同時に頭を下げる。ここがある意味では一番の正念場だ。

 

「なに、気にする事は無い。図鑑が盗まれた事で生まれた絆があり、図鑑が壊れた代わりに、未来ある少年の命が守られたなら、開発者としてこんなに誇らしい事は無い」

「そう言ってもらえると、助かります」

 

何とか許しを貰え、ホッと息を吐く。

 

「今日はもう遅い。空き部屋があるので今日はそこで泊るといい」

「・・・よろしいのですか?」

「色々あって疲れたじゃろう?今日はゆっくりと休みなさい」

 

そう言って部屋を出ていくオーキド博士。確かに博士の言う通り、時刻は既に9時を回り、昨日の戦いの疲れが癒えないままマサラタウンまで来た俺達の体力は限界だ。

 

「それじゃお言葉に甘えて、今日はゆっくりと休むか」

「・・・そうですね」

「あ、待って2人共。ちょっと時間いい?」

 

そう言って、空き部屋に移動しようとした俺とアリアを引き止めるターコイズ。

 

「どうした?」

「あのさ、2人ともこれからどうするかはもう決まってるの?」

「アリアのやりたい事探し兼、俺の写真の旅だな」

「だったら、その、お金が必要だよね?」

「・・・???」

「まぁ、確かに要るけど」

 

旅行代もカメラの手入れ、写真を保存するデータメディアもタダじゃない。いつかは何らかの職について資金を集めなければと思っている。

 

「だったらさ、僕達3人で、会社を立ち上げない?」

「会社ぁ!?」

 

余りの突拍子の無い事に、思わず声を上げる。

 

「・・・会社とは、いったいどんなものを?」

「今まで理想のビジョンを浮かべて来たんだけど、そうだね、分かりやすく言うなら企業に売り込む派遣部とは違って、地域密着型の万屋って言えば分かるかな?」

「・・・万屋?」

「頼まれたら、それを依頼と受け取って何でもやる仕事の事だよ。仕事の範囲が広いから、世間では手伝い程度の認識なんだけどな」

「いや、もちろん嫌だったらそれでも良いんだよ!?ただ、皆で何か出来たら楽しそうだなって思っただけだから、別に断っても」

「いや、ありだと思うぜ?」

「え?」

 

俺達は資金繰りの為にいつかは職に就かなければならなかった。その職が、自分達で一から作った会社だって言うなら、確かにそんな道もあったなと思う。

 

「今は準備段階だろ?だったら次はどうするか決まってるのか?」

「え、あ、うん。まずは資金集めと事務所の確保、運営許可に地元住民の人たちの顔馴染みになるって言うのがあるかな。・・・・あの、もしかして僕と一緒に来てくれるの?」

「・・・私達の目的は、そんなに急ぐ事でも無いと思いますので」

「利害が一致してるしな。これまでの旅の延長みたいなもんだ」

 

そして何より、一度は夢に破れた仲間が立ち上がり、もう一度同じような道を通ろうとしている事に気づいてしまった。だったら何らかの形で応援してやりたいと思う。

それをターコイズ自身が、俺達に示した。示せるようになった。

 

「え、あ、あ、その、そ、それじゃあ、とりあえず明日また詳しく話すから、今日はもう寝ようか!朝はここで待っててよ!?絶対だからね!?」

「はいはい、分かったよ」

「それじゃあお休み!!」

 

早口でそう切り上げて、ターコイズは空き部屋へと早足で向かった。

 

「アリアは、これでよかったか?」

「・・・はい。資金はどうしても必要でしたし、また3人で過ごせるのなら」

「楽しい事になりそうだな」

「・・・はい」

 

世の中バトルのファイトマネーだけで生きていけるほど甘くは無い。バトルに勝ち続ければいずれは名も上がり、挑戦を受ける奴も少なくなるだろう。

そんな時のターコイズの提案は、まさに渡りの船だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、皆が寝静まった後。どうしても眠れなかった俺は部屋を抜け出して研究所の外で風に当たっていた。明日への期待と不安で、体が火照って暑い。子供か、俺は。

 

「・・・ガーネット?」

 

その時、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、そこには髪を下ろしたアリアが居た。長い藍色の髪が、月明かりに照らされて輝いている。

 

「アリア?どうしたよ?」

「・・・ガーネットが部屋を出ていったので」

「あー、悪い、起しちまったか?」

「・・・いえ」

 

俺達は肩を並べて月を見上げる。修業中は、毎晩こうしていたっけな。

 

「今まで、色んな事があったな」

「・・・はい」

 

アリアとの出会いと闘い、ひょんな事からマサキと出会い、ターコイズとの出会いとサンゾウとの闘い、スズナに助けられた後はタツヒコとユキとの再会と出会い、そして、ルーファスとの邂逅。

 

「あれから2ヶ月も経っていないなんて、信じられない位濃い時間だったよな」

「・・・でも、私は楽しかったですよ」

 

それは、アリアにしては珍しい感情の吐露だった。これまでの旅がアリアを変えてくれたのか、それともこれが本当のアリアなのかは分からない。

でも、これで良いと素直に受け入れる。アリアも同じ気持ちだろうか?

 

「・・・サンゾウは、ルーファスの親友を元に生まれたクローンだったんです」

「それは聞いたよ。確かもう、その親友は死んじまったんだろ?」

「・・・この事をサンゾウから聞いた時、どうして失敗作の自分が生かされているのかが分からないと、サンゾウは言っていました」

 

そう言ってアリアは俺を見上げる。何が言いたいのか、俺には分かった。

 

「ルーファスは、死んだ恋人を生き返らせる為に悪事に手を染めただろ?アルティア家の当主としての富と名誉を全て投げだす勢いで。ここからは俺の勘なんだけどよ、何だかんだでルーファスは、サンゾウ越しに自分の親友を見ていたから、生かされていたんじゃねぇのか?でもそれが時間が経つにつれて心変りして、アリアを殺すとまで言い始めた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「戦ってみて分かったけど、あいつは澄ました顔してて中身はとんでもない激情家だ。だから、もしかしたら俺達を殺すことにも抵抗があったんじゃねぇかな?」

 

もちろん俺の勘でしかないが、嘘とは言い切れない何かが奴にはあった。サンゾウとルーファスの話題が終わると、また俺達は黙って月を見上げる。

 

「・・・私は、ガーネットに出会えて幸せでした」

「な、何だよ突然?」

「・・・これから私が生きていけるのなら、ターコイズとも、スズナとも、ガーネットとも一緒に過ごしていけますよね?」

「当たり前だろ?なんせ、約束だからな」

「・・・はい、ですから本当にありがとうございます」

「あー別にいいって!」

 

俺は気恥かしくて、思わず目を背ける。

 

「・・・あと、これだけは言わせてください」

「・・・・何だよ?」

「・・・私はもう、クローンの『アクアマリン』ではありません」

 

アリアは静かに俺に語りかける。その声に釣られる様に、俺はアリアの顔を見た。

 

「・・・私の名前は、『アリア』。あなたが付けてくれた名前」

 

穏やかな声で喋るアリアの髪は、夜風で踊る様に舞う。

 

「・・・私を、たった一人のアリアとして扱ってくれて、本当にありがとうございます」

 

月明かりに照らされた雪の様に白い端正な顔は、確かな微笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・・・」

「・・・これからも、よろしくお願いします」

 

笑顔のままで、俺に手を差し伸べるアリア。それが握手の合図だと頭で分かっていながら、俺は指先一本動かせないでいた。初めてみるアリアの笑顔は本当に綺麗で、俺は顔から目が離せずにいた。

 

「・・・ガーネット?」

「お、おぉぉう!!?ど、どうした!?」

「・・・顔が赤いですよ?風邪ですか?」

「い、いや、握手だったな!うん、ほーれ!握手握手!!」

 

アリアの気を逸らす為に、無駄にハイテンションで握手に応じる俺。

その後も、俺達は語り合った。未来の先にある不安や困難よりも、その更に先にある新しい出会いや感動に思いを馳せる。

 

変わり行く人生の中で、変わる事の無い仲間と共に同じ夢を見たい。

 

そんな未来を作るべく、俺達は新たなる一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、閑話を数話済ませてから、お待ちかねの本編第6章・バトルフロンティア編です!
皆様からのご意見ご感想お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話その壱 作者のやっちまった話
VSコロモリ&デスマス


遂に奴らが来る!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・旅行、ですか?」

「そ!イッシュ地方3泊4日の旅、豪華ホテルに美味しいご飯!何と言っても極めつけはサファリゾーン期間限定オープンに参加できる企画!どう?これは行くっきゃないでしょ!?」

「へぇ、おほひろほおはは(へぇ、面白そうだな)」

「ひっひゅひほうは、ほふはちひっへなはっはよへ。すふなはんほ4ひんでひくのもひひはも(イッシュ地方か、僕達行って無かったよね。スズナさんと4人で行くのも良いかも)」

「2人とも・・・。何て言いってるか分からないよ?」

「ほめーのへいはろうがほめーの!!(お前のせいだろうがお前の!!)」

 

俺達が今居るのは、シンオウ地方最北端キッサキシティのスズナの家だ。

マサラタウンを出発した俺達は、まずはスズナの所に向かう事にした。この旅の全てをスズナにも教えておきたいという、アリアとターコイズの希望があったからだ。

その後は連絡船に乗ってキッサキシティに来て、スズナに旅の全容を教えに来たのだが、話を終えた途端に俺とターコイズは力一杯殴られた。グーで。

 

『あんまり水臭い事するな、バカぁ!!』

 

そう言って怒鳴ったスズナの目は、僅かに潤んでいた。

こうやって心配してくれる奴が居てくれるのは素直に有り難いのだが、だからってグーで殴る事は無いと思う。おかげで口の中切って上手く喋れない。

 

「正直、あのパンチは世界を狙えるよね」

「あぁ、さすがスズナだ。人間でありながら〝きあいパンチ〟を使うなんてよ」

 

ようやく喋れるまでには回復した俺とターコイズ。普段から気合いを口癖にしている奴ではあったが、まさかこんな技まで使うなんて思わなかった。〝きあいだま〟を使う日も近いかも知れん。

 

「それで、どう?この企画にする?」

 

で、話を戻すと、戦いの打ち上げにスズナが旅行を企画してくれたのだ。

戦いの疲れを癒すのはやっぱり楽しい旅が一番だ。ターコイズの会社創立もそんなに急ぎではないので、今回はゆっくりとさせて貰おう。

 

「・・・私はこれで良いです」

「ここの風呂ってかなり種類があって広いんだろ?イヴが入れるのってある?」

「氷タイプ用の氷水風呂っていうのがあるみたいだよ」

「他にも炎タイプ用のお風呂とかもあるんだって!」

「・・・サファリゾーンは何時行きますか?」

「えーと、サファリゾーンはね」

 

こうして俺達は夜遅くまで旅行のプランについて夜遅くまで語り合った。これもまた一時の安寧だというのなら、今を全力で楽しもう。この時ばかりは俺達は揃って浮かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

???side

 

「聞いた?この近くにサファリゾーンの期間限定オープンが開かれるんだって」

「あぁ聞いたさ。だとしたらやる事は一つしかないよな」

「サファリゾーンでゲットされたポケモンをガッポリ頂く作戦ニャー」

「そうと決まればすぐに準備に取り掛かるわよ」

「そしてニャー達の名を全世界に轟かしてやるニャー」

「我ら、《ミサイル団》の恐怖と共にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

『間もなく、ライモンシティ、ライモンシティでございます。車内にお忘れ物の無いよう、十分にご注意ください』

 

電車内にアナウンスが鳴り響く。どうやら目的地が近付いてきたらしい。

 

「ここからホテルに向かうんだよね。地図はある?」

「・・・ここにあります」

「イッシュの娯楽の町でも有名だからね~!チョー楽しみ!」

 

やがて電車は停車し、ドアが開かれる。駅のホールに降り立ってみると、辺りは人だらけ。流石は都会、今まで巡って来た都会にも勝るとも劣らない賑わいだ。

 

「・・・サブウェイマスターへの挑戦があるみたいですけど」

「それってスタンプラリーの?全部集めたら凄腕の人とバトルが出来るっていう」

「それ集めるのに3日くらい掛るんだろ?今回はそればっかりに時間を掛けられねぇからな、そいつはまたの機会にしておこうぜ」

「ちぇ、せっかく気合い入れてたのにな」

 

そんな会話をしながら階段を上がり、駅を出る。辺り一面に広がるのは様々な娯楽施設。中でも最も目を引くのがあの巨大な観覧車だ。

 

「あれが有名な大観覧車!ここに来たら絶対に乗っとかないとね!」

「バトル施設も充実してるみたいだな。あっちも挑戦してみるか?」

「・・・ミュージカルホールとは何ですか?」

「ミュージカルホールって言うのはね」

 

行きたい所は山ほどあるが、まぁ焦る事は無い。今から3泊4日もいるんだ、大抵の場所は回れるはずだ。今回は休養も兼ねた旅行なのだから。

 

「あ、ここがホテルじゃない?」

「わぁ~、写真で見た通り大きい所だね」

 

駅から歩き続けること15分か、目的地の駅に到着した。見上げるほどの巨大な建造物。地上20階、部屋数は合計200部屋もある娯楽の町が誇る大型ホテルだ。

それに何と言ってもここの魅力は、広く豊富な風呂と上手い飯で有名だ。旅行の素晴らしさはこの2つで決まると言っても過言ではないだろう。

 

「あ、すいません。旅行企画の予約を入れていたターコイズですけど」

「お待ちしておりました、ターコイズ様御一行4名様ですね?ようこそライモンホテルへ。早速ですが、こちらにご到着のサインをお願いします」

「っと、これでいいですか?」

「はい結構です。お荷物はお部屋に運んで置きますね。後はこの部屋の鍵をお受け取りください。これに書かれている番号が皆様のお部屋になります」

「はい、ありがとうございます」

「それでは、ごゆっくりとお楽しみください」

 

受付でチェックインを済ませたターコイズが戻って来た。それじゃあ早速、

 

「気合い入れて遊ぶよー!!」

「「おぉーーーー!!」」

「・・・おー」

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

 

「全ての準備が整ったニャー」

「作戦決行は明日ね」

「いよいよだな。我らミサイル団の初仕事は」

「この作戦を成功させ、ニャー達はガッポガッポと儲けるのニャ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「飯美味かったな!久しぶりに食い過ぎた」

「こんな豪華なの、タイドリップ号の時以来じゃない?」

 

時刻は夕方。遊び終えた俺達は豪華な食事に舌包みをうっていた。

こういうホテルは、予約を入れてフルコースを頼む事も出来れば、一般客にメニューを悩ませないようにバイキング形式もやっているから助かる。

 

「・・・次は本命の」

「入浴ターイム!!」

「テンション高いね、2人とも」

「そりゃーもう、このお風呂が一番の楽しみだもん!」

「・・・(こくっ)」

「まぁ、それは良いけどよ、せいぜいのぼせない様にしろよ」

「・・・分かりました」

「お前等もな、のぼせるなよ?」

 

俺はそう言ってボールから手持ちのポケモンを繰り出す。

そして俺達は男女別々の通路を進んでいく。手持ちのポケモンも♂と♀で別れてポケモン用の風呂場に向かって行く。最近はまだポケモンを♂♀共同にする所も多いが、ここでは既に♂と♀とで分けてはいれるようになっている。流石は豪華ホテル。

 

「脱衣所まで広いぞ、このドライヤーとかも最近発売した奴だし」

「あ、でも体重計が置いてあるのはどこ行っても同じなんだね」

 

脱衣所の広さと設備に若干驚きながら、服を脱いでロッカーの中へと放り込む。そして浴場に入ると、そこはとにかく広い。浴槽の大きさはもちろんだが、その数にも目を瞠る物がある。

 

「まずは体を洗わないとね」

「こういう時、体を洗わずに入ったら他の客から睨まれるんだよな」

 

そしてシャンプーやボディソープが備え付けられてあるスペースに移動し、浴椅子に腰を下ろす。むぅ、シャンプーにも拘りがあるな。

そして体にシャワーを当てようとした時―――――

 

『うわー広ーい!!』

『・・・数も多いですね』

 

そんな聞き覚えのある声が壁の向こうから聞こえた。この声って・・・。

 

「アリアとスズナさん?」

「あ。あれ見てみろよ」

 

天井までは壁の区切りが無く、姿は見えなくとも声は聞こえる様になっていた。俺とターコイズは何故かそのまま聞き耳を立てている。

 

『アリアは相変わらず綺麗な髪だよね、ねぇ触っても良い?』

『・・・良いですけど』

『それじゃあ遠慮なく!(フニュッ)』

『・・・!・・・スズナ、私からもお願いがあるのですが』

『どうなってんのこのシットリとした艶・・・え、どうしたの?』

『・・・揉ませてください』

『・・・ゑ?・・・えぇぇぇ!?ちょ、ちょっと待っ』

『・・・もう待ちません(ムニュッ)』

『きゃぁぁぁあああ!!?』

『・・・!・・・なんという・・・!』

『ちょ・・・!手つきがイヤらしいって、アァン・・・!』

『・・・どうやったらこんなに大きく・・・』

『うあぁぁぁん!アリアが地味に正気じゃないよ!(フニッ)』

『・・・ひゃっ・・・!』

『え!?何、今の?』

『・・・スズナ?』

『ちょ、ちょっとスズナも触らせて!』

『・・・あ、スズナ・・・あぁ!』

『うわー!ビックリする位細いのにうっすらと柔らかい!指で押したら押し返された!』

『・・・スズナ・・・!何処を触って・・・ひぁ!』

『うわああああ!足も同じだ!細いのに柔らかいなんて反則だよー!!』

 

「ふー。・・・・・水風呂に行くか」

「・・・・そうだね(ダバダバダバ)」

「お前はまず鼻血拭けよ」

 

俺達は現在11歳。思春期に入りたてのお年頃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

『場内の皆様、大変長くお待たせしました!いよいよ期間限定サファリゾーン、開園です!警備員の誘導に従って、お入りください!』

 

場内アナウンスが鳴るのと同時に、サファリゾーンに流れ込む人、ポケモン、人、ポケモンの群れ。警備員が必死に誘導しているが、捌ききれない程の数だ。

 

「・・・ガーネット、サファリゾーンとはなんですか?」

「え!?今更!?」

「・・・聞きそびれていたので」

「あー、サファリゾーンって言うのはな、この園内に放たれたポケモンを30個もボールを使いきるか、自らリタイアするまで捕まえたい放題って言う人気のレジャースポットなんだよ」

「ちなみに、ポケモンを一体限り連れて歩けるけど、バトルは禁止なんだよ」

「・・・そうなのですか?」

「あくまで自衛のために連れていけるだけだから、捕まえる時に使っていいのは餌と泥玉だけなのよ。バトルをすれば退場だって」

 

となると、連れていくポケモンはどうするべきか。図体のデカい、フライゴンのナツやオノノクスのドンは探索には不向きだろうしな。ふむ・・・よし。

 

「いっちょ行くか、イヴ!」

 

繰り出したのはグレイシアのイヴだ。こいつなら体も小さいし、いざって時になれば相手を凍らせて戦闘を免れる事も出来るしな。

 

「・・・行きますよ、チリーン」

「出てきて、ナナリー!」

「行くよ、《ユキメノコ》!」

 

アリアはチリーン、ターコイズはソーナノ、そしてスズナは頭から垂れ下がった白い振袖の様な腕と、胴体に巻かれた赤い帯が特徴のポケモン、ユキメノコだ。

 

「このユキメノコってもしかして、あの時のユキワラシ?」

「ピンポーン!最近進化したのよ」

 

最初に会った時のユキワラシが進化したらしい。どうりで見覚えがあると思った。

 

「それじゃあ、一旦ここで解散して、またここに戻ってくるって事で良いよな」

「・・・問題ありません」

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、とりあえずこんなもんか」

 

俺はつい先ほど捕まえたポケモンが入っているサファリボールを拾い、鞄の中を見る。ボールはさっき使ったのでもう空だ。

 

「結局捕まえたのはこいつ一体だけか」

 

俺はポケモンの入ったボールを見る。やけに素早いこいつを追い掛けている内に、ボールは完全にスッカラカンになってしまった。

まぁ、収穫は収穫だ。そう開き直ってイヴと共に帰路に着く。

 

「しかし、格闘タイプでマー坊と被っちまうな。交代で手持ちに加えるか?エスパーや飛行タイプにはお前の氷技や〝シャドーボール〟があるしな」

 

そんな会話をイヴとしている内に、集合場所まで到着した。どうやら俺が一番最後みたいだ、既に3人はそこにいる。

 

「今戻ったぞ」

「・・・おかえりなさい」

「それでそれで、どんなポケモンを捕まえたの!?」

「僕も気になる!」

「ん?あぁ、こいつだよ」

「これってもしかして、《コジョンド》?」

 

俺がボールを見せると、ターコイズはガイドブックを開いてそう呟く。そう、俺が捕まえたのは薄紫の体毛に、腕の長い毛が特徴のポケモン、コジョンドだ。

最初こいつを見た時、この腕の体毛を鞭のように使って大型ポケモンの顎を揺らして戦闘不能にしていた。その強さに惹かれて、何とか捕まえたのである。

 

「それで、お前等はどんな奴を捕獲したんだよ?」

「僕は―――――――」

 

ウ~~!!ウ~~!!ウ~~!!

 

「な、なんだ!?」

「・・・警報?」

 

突如鳴り響く警報装置。それに応じて警備員達が次々と外へ飛び出していく。

 

「スズナ達も行こう!」

「う、うん!」

 

スズナの呼び掛けに応じ、俺達も警備員の後に続く様に飛び出す。

 

「って、何じゃありゃぁ!?」

 

外に出てみると、まずに目に入ったのは多くのポケモンが押し込まれた檻。恐らくこのサファリゾーンのポケモンだろう。

そして何より目を引くのが、その檻を太い4本のワイヤーで持ち上げて空を飛ぶ額に着いた小判が特徴のポケモン、《ニャース》をモチーフにした気球だった。

横から見てみると、後ろには推進エンジンらしきものも見える。

そしてこの行いの意味を、ここにいる誰もが理解した。

それは、強奪。規則やルール、法を無視した悪行だった。

 

「なんなの、あれ!?」

 

 

 

 

 

 

「何だかんだと聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

「ラブリーチャ―ミーな敵役!」

 

「ムサシ!!」

「コジロウ!!」

 

「銀河を駆けるミサイル団の2人には!!」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!!」

「ニャーんてニャ!!」

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな、まさか」

「嘘・・・あり得ない・・・!」

「・・・こんな事が」

「俺は夢でも見ているのか!?」

 

俺達4人は目の前に展開する衝撃的なものに驚愕する。だって、今確かに・・・!

 

「フン!あたし達ミサイル団の恐怖に怯えている様ね!!」

「まぁ、無理もないニャー!」

「こうして俺達ミサイル団の歴史の第一歩が」

 

『『『ニャースが喋ったああああああ!!?』』』

 

「え!?そっち!?」

「それ以外に何があると!?」

「いや、もっと驚く事があるだろ!?ほら、俺達は何者かーとか!」

「え?・・・・・・あー、ミサイル団の件?」

「そう、それニャ!」

「何だよ?ツッコんで欲しいのか?」

「「「うんうん!」」」

「それなら言うけど・・・センスが100年ほど終わってるわよ?」

「何ですってぇぇ!!?」

「・・・カントーにもロケット団なる集団が居ましたが、それと何か関係があるのでしょうか?もしそうであるならば油断ならない相手かと」

「いやいや、多分関係無いでしょ。明らかに名前パクってるし」

「パ、パクリじゃないニャ!ニャー達が一生懸命考えた名前ニャ!!」

「とにかく!!」

 

珍しくターコイズが大声を上げて、場を引き締める。

 

「そのポケモンをどうするつもり!?」

「決まってるでしょ?こいつら全部売り払って大儲けするのよ!」

「そうと決まれば長居は無用!一気にトンズラだぜ!!」

「発進ニャ!!」

 

ニャースが何かボタンらしきものを押すと、推進エンジンが火を噴き勢い良く気球が前進する。その速さ、気球とは思えないほどだ。

 

「このままじゃ逃げられる!」

「させるか!《デリバード》!!」

 

真っ先にポケモンを繰り出すスズナ。現れたのは大きな袋を担いだ飛行ポケモン、デリバードだ。それに続く様に、俺達もポケモンを繰り出す。

 

「行くぞ、ナツ!」

「・・・ムクホーク」

「あの気球を追い掛けて、キャサリン!」

 

それぞれのポケモンの背に乗り、気球を追い掛け飛び立つ。推進エンジンが付いているとはいえ、気球に負けるほどこいつらは遅くは無い。10数秒で追いついた。

 

「ニャ、ニャんと!?」

「色違いのフライゴンだと!?」

「これは奪うしかないわね!行くのよ、《コロモリ》!!」

「行け、《デスマス》!!」

 

繰り出されたのはハート形の鼻の穴が特徴のポケモン、コロモリと、仮面を持った黒いポケモン、こっちは知らない奴だ。見た目からしてゴーストタイプだと思うが・・・。

 

「コロモリ、〝エアスラッシュ〟!」

「デスマス、〝シャドーボール〟!」

 

不可視の空気の刃と、黒いエネルギー弾が俺とナツに向かって放たれる!しかしここは空中だ、四方八方360度に逃げ場がある。ナツは軽く旋回して回避した。

 

「キャサリン〝ハイドロポンプ〟!!」

 

ぺリッパーの口から放たれた水泡がバルーンの部分を捉える!だが、バルーンは破ける事はなく、逆に水泡がバルーンを滑る様に逸れてしまった。

 

「嘘っ!?」

「くっ!デリバード〝ふぶき〟!!」

 

今度はデリバードの口から猛烈な吹雪が放たれるが、気球の表面が凍りついただけで、風の影響で張り付いた雪や氷が剥がされていく。これでも駄目か!?

 

「はっはっはー!無駄無駄ぁ!!」

「この気球全体には、《チラチーノ》の油でコーティングされているのよ!!」

「破壊することなど不可能ニャー!!」

「しかもエンジンの炎には引火しない様にしてるのよ!凄いでしょ!?」

「何て技術力の無駄遣い!?」

 

チラチーノ。確か体毛が特別な油でコーティングされてあって、それを使って敵の攻撃を受け流すポケモンだったか?そんな事が出来るのなら、他の生き方もあっただろうに。

 

「あれ?・・・・油?」

「どうした、ターコイズ?」

「いや、油って事はさ、炎タイプの技を受けたら炎上するんじゃないかなって」

「「「・・・ゑ?」」」

「さっき、エンジンの炎には引火しない様にしてるって言ってたし。それって、逆に言えば引火する可能性があるって事だよね」

「へぇ、それはそれは」

「・・・良い事を聞きましたね」

「なら、やる事は一つだよな・・・!?」

「ちょ、ちょっと待って!!」

「そんな事をしちゃいけない!!」

「早まるなニャー!!」

「やれぇナツ!!〝かえんほうしゃ〟!!」

 

ナツの口から放たれた激しい炎が、ニャース型の気球を焼き尽くす!炎の勢いは棲様じく、推進エンジンまで炎の手が伸びると―――――

 

チュド――――ンっ!!

 

「くっそーー!!俺達の初仕事が―――!!」

「こんなジャリボーイ&ガールに邪魔されるなんてぇぇぇ!!」

「次こそは必ず、そのフライゴンごと奪って見せるニャーーー!!」

「「「ヤな感じぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」

 

燃料に引火したのか、気球は爆発四散して2人と手持ちの3体は空の彼方へ飛んで行った。その爆発の影響か、ワイヤーが分断され檻が地面に落下してくる。

 

「えーと、これで一件落着なのかな?」

「だと良いけどね」

「あの捨て台詞を聞くと、しつこく来そうな気がする」

「・・・あの爆発でも生きている生命力、これが俗に言うゴキブリ並みですね?」

 

警備員が落ちて来た檻に走り寄るのを空中から見下ろし、俺達は揃って溜め息を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




各方面の皆様、誠に申し訳ございません!!
ポケスペの常識を覆すとしても、どうしても出しておきたかったんです!!
後悔はしていません!!

皆様からのご意見ご感想お待ちしております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクターデータ

とりあえず、ここまでのまとめって事で。


  

 

 

 

 

注意書き。

 

今回はキャラクタープロフィールと手持ちポケモンデータを掲載します。

本作でも書かれなかった事実が明らかになります。

 

ではどうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ガーネット

性別:男

年齢:11歳(初期)~13歳(新章突入時)

容姿:癖のある茶髪・三白眼で色は赤銅色・服装は黒のシャツに真っ赤な花の柄のアロハシャツ、ズボンは白の長ズボンという明らかに旅行スタイル。(元々その気だったから)

身長:151(初期)~160(新章突入時)

誕生日:1月24日

血液型:O型

出身地:イッシュ地方・ブラックシティ

家族構成:両親ともに死亡

特技:スポーツ全般

好きな物:エンジュ風梅冷やしうどん・写真撮影

苦手な物:ゲンジ

 

幼少の頃、母の死をきっかけにホウエン四天王のゲンジに引き取られた少年。写真家を希望して旅を始めたが、謎の少女・アリアと出会い、ポケモン図鑑を持つ者の運命に巻き込まれる。現在は旅の道中で出会ったターコイズとアリアとで、会社設立に奮闘中。

 

手持ちポケモン

ニックネームは種族名から2文字取って繋げた物にしている。(ただし例外あり)総じて攻撃、特殊攻撃力が非常に高いのが特徴。

 

ナツ (ナックラー→ビブラーバ→フライゴン)

性別:♂

Lv,61

タイプ:ドラゴン/地面

性格:冷静 特性:ふゆう

 

旅立ちの際、ゲンジから譲り受けた色違いの個体。その正体は遺伝子改良の末に、研究所から脱走した一体。今では飛行要員にしてガーネットの手持ちの主砲として活躍している。

 

遺伝子改良でどれほどの力を手に入れたかはゲームの種族値的に表すとこんな感じ

体力:80 攻撃:110 防御:75 特攻:120 特坊:75 素早さ:100

 

ニックネームの由来は、ナックラー→ナツクラー→ナツ

 

 

メリー (メリープ→モココ→デンリュウ)

性別:♂

Lv,60

タイプ:電気

性格:せっかち  特性:せいでんき

 

ガーネットが初めて捕獲したポケモンで、強力な電気タイプの技の使い手。

ニックネームの由来は、メリープ→メリー

 

 

ダン (ダーテング)

性別:♂

Lv,59

タイプ:草/悪

性格:呑気   特性:ようりょくそ

 

シロガネ山の修業の初日、当時のガーネットの手持ちを総動員して捕獲したポケモン。草タイプや悪タイプの技だけではなく、両手の扇から放たれる強風が持ち味。

ニックネームの由来は、ダーテング→ダ  ン →ダン

 

 

ジン (コジョンド)

性別:♂

Lv,53

タイプ:格闘

性格:頑張り屋 特性:せいしんりょく

 

イッシュ地方の期間限定サファリゾーンに参加して捕獲した一体。鞭のようにしなる両腕の体毛で、目にも止まらぬ連続攻撃が得意。

ニックネームの由来は、コジョンド→ ジ ン →ジン

 

ドン (オノンド→オノノクス)

性別:♂

Lv,60

タイプ:ドラゴン

性格:やんちゃ 特性:かたやぶり

 

シロガネ山の修業時に捕獲した一体。接近時のパワーはガーネットの手持ちの中で最強で、鋭い爪や顎の刃を用いて戦う事も。

ニックネームの由来は、オノンド→  ンド→ドン

 

イヴ (イーブイ→グレイシア)

性別:♀

Lv,57

タイプ:氷

性格:無邪気  特性:ゆきがくれ

 

ハナダの岬でマサキから譲り受けたイーブイが、吹雪の中の戦いで進化した。

ニックネームの由来は、イーブイ→イ ブ →イブ→イヴ

 

 

 

 

名前:アリア

性別:女

年齢:1歳(現時点)~3歳(新章突入時)

容姿:腰まで届く長い藍色の髪・瞳の色は黒・トレードマークはツインテール・服装は黒のヘソ出しノースリーブのシャツの上に、赤の長袖の上着、茶色のブーツに黒のショートパンツ着用

身長:140(初期)~143(新章突入時)

誕生日:3月5日

血液型:A型

出身地:シンオウ地方・ロストタワー地下の研究所

特技:目測や聴覚によるによる空間把握能力・精密射撃

好きな物:シュークリーム・読書

苦手な物:料理・寒い場所

 

ガーネットが旅の道中で出会った謎の少女。その正体は、とある組織によって生み出された限りなく人間に近いクローン。当初は感情に起伏が無く、人形の様な性格だったが、ガーネットと共に過ごす内に徐々に感情豊かになった。

見惚れるほどの整った容姿をしており、最近は胸の大きさがコンプレックス。

現在はターコイズと共に会社設立に奮闘中。

 

手持ちポケモン

 

ポケモンにニックネームはつけていない。また意図的に同じタイプのポケモンを手持ちに加えないようにして、極力隙を与えないようにしている傾向があり、技の軌道を自在に操る。

 

ライチュウ(ピチュー→ピカチュウ→雷の石→ライチュウ)

性別:♀

Lv,61

タイプ:電気

性格:大人しい 特性:せいでんき

 

アリアが初期に連れていた色違いの個体。その正体は遺伝子改良によって本来以上の力を手に入れたアリアの手持ちの主砲。

遺伝子改良でどれほどの力を手に入れたかはゲームの種族値的に表すとこんな感じ

体力:65 攻撃:95 防御:75 特攻:95 特坊:90 素早さ:110

 

 

ムクホーク(ムックル→ムクバード→ムクホーク)

性別:♂

Lv,59

タイプ:飛行/ノーマル

性格:照れ屋   特性:いかく

 

アリアが初期から連れていた一体。飛行要員として大きく活躍する。

 

ヘルガー

性別:♀

Lv,60

タイプ:炎/悪

性格:控えめ  特性:もらいび

 

シロガネ山の修業の際に捕獲した一体で、強力な炎技の使い手。

 

チリーン

性別:♀

Lv,55

タイプ:エスパー

性格:慎重 特性:ふゆう

 

送り火山探索の際に、アリアに懐いてから手持ちに加わった一体。エスパータイプ特有の念動力に加え、音の振動で相手を吹き飛ばすのが得意。

 

アバゴーラ(プロト―ガ→アバゴーラ)

性別:♂

Lv、57

タイプ:水/岩

性格:真面目   特性:がんじょう

 

アリアの手持ちの中では最も防御力に優れ、水上要員としても活躍する。

 

サンドパン (サンド→サンドパン)

性別:♀

Lv,59

タイプ:地面

性格:わんぱく  特性:すながくれ

 

お月見山で捕獲した一体で、体を丸めて攻防一体の態勢をとる事が出来る。

 

 

 

 

 

名前:ターコイズ

性別:男

年齢:11歳(当初)~14歳(新章突入時)

容姿:癖のないサラサラの金髪・整った爽やかな顔立ちの優男・黒と黄色を基調とした長袖長ズボン・瞳の色は琥珀色

身長:159(当初)~168(新章突入時)

誕生日:12月12日

血液型:AB型

出身地:シンオウ地方・コトブキシティ

家族構成:両親共に健在

特技:状況判断と危機回避能力

好きな物:紅茶・スズナ

苦手な物:幽霊

 

ガーネットとアリアが出会ったポケモン協会構成員の候補生。この出会いにより、3人はさらなる戦いに身を投じる事となった。トレーナーズスクールに戻る為3人で旅をするが、任務放棄及び妨害を理由に退学させられた。その後はガーネットとアリアの旅に同行する。

旅の途中で雪道で迷子になった所を助けてくれたスズナに一目惚れしており、風呂の壁越しの会話で興奮して鼻血を出すほどの初心な性格。

現在はガーネットとアリアと共に、会社設立のため奔走している。

 

手持ちポケモン

 

ポケモンの種族名の1~2文字を使って命名。防御能力の高さが特徴。

 

ジャック(ジャノビー→ジャローダ)

性別:♂

Lv,60

タイプ:草

性格:控えめ  特性:しんりょく

 

ターコイズが偶々出会った色違いの個体。その正体は遺伝子改良の末に、研究所から脱走した一体。今ではターコイズの手持ちを障壁系の技で守る事で活躍している。

 

遺伝子改良でどれほどの力を手に入れたかはゲームの種族値的に表すとこんな感じ

体力:80 攻撃:75 防御:105 特攻:80 特坊:105 素早さ:113

 

ニックネームの由来は、ジャノビー→ジャ   →ジャック

 

ルージュ(ドンメル→バクーダ)

性別:♀

Lv,55

タイプ:炎/地面

性格:臆病 特性:ハードロック

 

強力な炎技や岩技を使うターコイズの手持ちの唯一の攻撃専門。

ニックネームの由来は、ドンメル→   ル→ルージュ

 

キャサリン(ぺリッパー)

性別:♀

Lv,58

タイプ:水/飛行

性格:陽気   特性:するどいめ

 

空を移動する時にも活躍するほか、強力な水タイプの技も得意。

ニックネームの由来は、進化前のキャモメ→キャ  →キャサリン

 

スズラン(ラプラス)

性別:♂

Lv,60

タイプ:水/氷

性格:おっとり  特性:シェルアーマー

 

シロガネ山の修業の際に捕獲し、状態異常やステータス低下を防ぐ、ターコイズの手持ちには欠かせない一体。水上でも移動でも役に立つ。

ニックネームの由来は、ラプラス→   ス→スズラン

 

ナナリー(ソーナノ)

性別:♀

Lv,14

タイプ:エスパー

性格:慎重 特性:かげふみ

 

育て屋夫婦から貰った卵から孵ったポケモン。レベルは低いが、相手の力が強ければ強いほど力を増すカウンターの名手。

ニックネームの由来は、ソーナノ→  ナ →ナナリー

 

ライル (ドラピオン)

性別:♂

Lv,56

タイプ:毒/悪

性格:うっかり屋 特性:カブトアーマー

 

強力な毒と360度頭を回して辺りを見渡せる、危機回避能力を併せ持つ一体。

ニックネームの由来は、ドラピオン→ ラ   →ライル

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様からのご意見ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大決戦 集結する図鑑所有者
新章突入 事件は唐突に


さーて、皆さんお待ちかねのバトルフロンティア編です!


  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはシンオウ地方・ノモセシティのとあるビルの前。

唐突だが、俺達は今かなり焦れていた。

アリアは目当て物が来るであろう道をジッと見つめ続け、ターコイズは時計と道を交互に見て、俺は同じ場所をずっとグルグル回っていた。そんな事をもう一時間以上繰り返している。

 

「3人とも、気持ちは分かるんだけどさ、いい加減落ちついたら?」

 

呆れた視線でそう言ってくるのはスズナだ。この日の為に、わざわざキッサキシティから祝いに来てくれたのだ。その傍らにいるデリバードも、やれやれといった感じで溜息を付いている。

 

「・・・言われてみればそうなのですが」

「何か、中で待ってても落ち着かなくて」

「この日の為に、今までやって来たからな」

 

落ちつけと言われても落ち着けないこの胸の高鳴り。この心を何と例えよう。

 

「あ、3人とも、トラックが来たよ!」

「えっ!!?」

「・・・!」

「やっとか!!」

 

スズナが指を指した道の先、そこには確かに軽トラックがこちらに向かって走ってきていた。注文した時間も考えて、あのトラックで間違いないだろう。

そしてそのトラックは俺達の目の前に泊まると、中から作業着を着た男が出て来た。

 

「えーと、ターコイズさんはいらっしゃいますかね?」

「ぼ、僕です!!」

「あ、それじゃあ受け取りのサイン貰えますかね?」

「は、はいぃ!!」

「それじゃあ自分はこれを取り付けるんで」

 

そう言ってトラックの荷台からある物を担ぎ上げ、ビルの中に入っていく作業員。あれこそが俺達の待ち望んだ物である。階段を上がった2階の突き当りの部屋。そのドアの隣の空いた壁のスペースに例の物が取り付けられる。チュイーンと、電動ドライバーで回されるボルトが壁を穿つ音を聞くこと数分。

 

「終わりましたよ、それじゃ自分はこれで失礼します」

「あ、お疲れ様です!」

 

仕事を終え帰っていく作業員を見送り、俺達は壁に取り付けられた物を見つめる。

それは、俺達の門出を告げる看板だ。

 

『留守中のポケモンの世話からポケモンバトルまで何でもお任せ!

 人手が足りない貴方様達の味方、いつでもご気軽にご依頼ください。

       格安ポケモントレーナー派遣会社《ギルド》     』

 

「「「会社設立おめでとぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

「・・・おー」

 

あの戦いから、2年以上の月日が経過した。

資金繰りから会社のモットーの提案、業務内容に依頼金の設定、チラシ作りに売名行為、事務所確保にポケモン協会からの経営認定獲得と、様々な苦難を乗り越えて、ターコイズの会社設立は遂に実を結び、派遣会社《ギルド》がオープンした。

 

「ワッハッハッハ!!遂に会社設立を成し遂げたか!!」

「あ、マキシさん!!」

「もしかして、わざわざ祝いに来てくれたのか!?」

「おうよ!今日にはこの看板が届くって聞いたからな!その祝いにケーキでも差し入れに来たってわけさ!ここまでよくやったな、お前等!!」

 

今回の会社設立に最も力を貸してくれた人物が何を隠そうこの男。

このノモセシティのジムリーダー、《ウォーターストリームマスクマン》の異名をとる筋骨隆々のプロレスラー、マキシだ。

実はターコイズがこのノモセシティを事務所に選んだ理由も、このマキシにある。

ジム戦でのファイトマネーを待ちの衛生や設備向上に役立てているマキシは、この町の住民全員から尊敬の眼差しを向けられている。その際のボランティアに俺達が参加する事で、マキシや町の住民に名前を売り込んだのである。少しあくどい様にも聞こえるがマキシはそれを快諾。今では俺達の名前もこのノモセシティに知れ渡ったのである。

更には協会理事にも紹介してもらったので2年という時間で会社が設立できたのである。

 

「これでようやく夢の第一歩を踏み出せたね、ターコイズ!」

「うん!スズナさんも、試験頑張ってね!!」

「当然!何時も通り、気合い全開で挑むんだから!!」

 

更にこの2年で、スズナはジムリーダー承認試験を受ける事となった。以前から不在であったキッサキジムの後任として、氷タイプのジムリーダーを目指しているのである。

 

「・・・頑張ってください」

「俺達も応援に行くからよ!!」

「これで合格したら、俺にも後輩が新しく出来るって訳か!」

 

5人も集まって狭くなった廊下の突き当たりで、俺達は盛大に笑い合う。

 

「それじゃあここは新しい会社のボスに、一言言ってもらおうかね」

「え!?それってもしかして、僕!?」

「お前以外に誰が居るんだよ?」

「・・・一応、ターコイズが私達の上司、つまり社長という訳ですし」

「一応って・・・まぁいいや」

 

ゴホンと、咳払いをして息を吸い込むターコイズ。

 

「ここに居る皆が力を貸してくれて、明日から会社が運営していく訳だけど、初めの数年は苦しいかもしれない。でもいつか必ずこの会社を大きくするから、僕に着いて来て!!」

「あいよ!!」

「・・・(こくっ)」

 

こうして、俺達は新たな一歩を踏み出した。だが、このターコイズの言葉が意外な形で叶えられる事となる事を、俺達はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当にありがとうございました!こちら、依頼金ですのでお納めください」

「いやいや、これからもギルドをよろしく頼むわ」

 

依頼金を受け取り、老人ホームの職員に見送られて、帰路に着く。今日は老人ホームの行事の助っ人に呼ばれていた。何でも職員が複数人病欠で仕事が回らなくなっていたらしい。

ギルドが運営を開始して3週間が経過した。ターコイズの言う通り、依頼の数は極端に少なく、俺達はバトルのファイトマネーと僅かな依頼金で生計を立てていた。

まぁ運営したばっかりだからこんな物だろうけど、主な収入源がギルドの依頼じゃない事は会社として真剣に見つめ合わなければならないだろう。

 

「・・・あ、ガーネット」

「おうアリア、今帰りか?」

 

帰り道の途中、バトルの出稼ぎに行っていたアリアと鉢合わせた。

 

「・・・そちらの仕事はどうでしたか?」

「何とか成功ってとこだな。物を一個も壊さなくて良かったぜ」

「・・・それについては激しく同意します。この2年間、手加減の練習をした甲斐がありましたね、初めは2つに1つは壊していましたが」

「うるせーよ」

 

ギルドが設立し、マキシと知り合って、スズナがジムリーダーを目指したりと色んな変化があった2年だったけど、やっぱり一番変化があったのはこのアリアだと思う。

表情や感情の起伏が乏しいのは相変わらずだが、心なしか柔らかな雰囲気を出しているし、何より喋る量が増えてきていた。

まぁ、誰に似たのかは分からないが微妙に口が悪くなっているようだが。

 

「・・・?どうしたのですか?そんな変な顔をして」

「いや、何でもねーよ」

「・・・今日は顔も態度も変なガーネットですね」

「その言い方だと誤解を招きそうだから今後は気を付ける様に」

「・・・善処します」

 

そんな何気ない会話をしながら、俺達は肩を並べて歩く。

もうじきギルドがあるビルに到着する。辺りを見渡すが、他には誰もいない。だから俺は何でもない様な感じを装ってアリアに話しかけた。

 

「なぁアリア、俺達って明日休みだったろ?」

「・・・そうですけど、それが何か?」

「ソノオタウンによ、評判の洋菓子店が出来たらしいんだけど一緒に行かね?」

「・・・洋菓子店?ガーネットがですか?」

「まぁ、俺の本題は花畑の写真撮影なんだけどな、せっかくだから一緒にと思ってよ」

「・・・洋菓子・・・。シュークリームが話題でしたね」

 

このアリアの反応を見る限り、掴みはOKと言ったところか。本当はストレートに誘いたかったが、如何せん恥ずかしさが先に来て、建前の言葉を口にしてしまう。

 

「・・・それでは、私も一緒に行きます」

「よし!そんじゃ明日は」

 

そう言い掛けた、次の瞬間――――――

 

ズガシャアアアアアアアッ!!

 

ターコイズがビルの階段から転がり落ちて来た!?

 

「タ、ターコイズ!?一体どうした!?」

「ふ、二人とも丁度良かった!!凄い変態なんだよ!!」

「・・・痴漢でも出たのですか?」

「じゃなかった、大変なんだよ!!」

「落ちつけ、一体どうした!?」

「す、凄い大口依頼が舞い込んできたんだ!オーキド博士から!!」

「はぁ?オーキド博士?」

「何でも、凄く重大な依頼を僕達に頼みたいらしいから、カントーまで来てくれって!」

「・・・その依頼とは?」

「それは現地で話すらしいから、2人とも今すぐ出発するよ!!」

「ちっ!仕方ねぇ、洋菓子はこの仕事を片付けてからだ!!」

「・・・了解しました」

「行くぜ、ナツ!!」

 

俺達はカントー地方を目指し、空を駆け抜ける。

この仕事が、ギルドの今後を大きく左右する事を俺達はまだ知らなかった。

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャリボーイ達がどこかに行くみたいだぞ」

「あたし達も追うわよ」

「そして色違いの3体を今度こそゲットするニャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

ノモセシティを出発して3日後、俺達はカントーのマサラタウンまで来ていた。

 

「おぉ君達、よく来てくれた!」

 

血相変えて俺達を出迎えたのはオーキド博士だ。目の下には隈がハッキリと出ていて、ここ数日はまともに休んでいなかった事が伺える。

 

「早速ですが博士、僕達ギルドのメンバー全員を収集したのは、一体どんなご用件でしょう?今回は一応仕事としてきたので、依頼金もそれに応じて高くなりますが」

「依頼金については後でどうにでもする!!それよりこれを見てほしい!!」

 

そう言って博士は俺達を別室へと誘導する。

 

「何だこれ?」

「・・・石像?」

 

そこで見た物は5人のトレーナーを模った石像だった。しかし、このセンターの奴は何で半裸の姿でポニーテールの女をお姫様だっこしているんだろうか?

て言うか、こいつらどっかで見たような・・・。

 

「もしかして、この石像の内の3人って第9回ポケモンリーグのトップ3じゃないですか!?最年少記録を叩きだしたレッド、グリーン、ブルーって言えば有名ですよ!?」

「あぁ!!どっかで見たかと思えば!!」

 

5年前のロケット団騒動でも有名な3人だ。しかし、何でそいつらの石像がここに?

 

「先日起きたナナシマ騒動は知っておるかね?」

「・・・テレビで見ました。ロケット団が復活したとか」

「あれで世間は大ニュースになってたもんな」

「その騒動の解決の功績者も、確かこの3人でしたよね」

 

後の2人は知らない奴だ。こうやって石像として出来上がってるって事は、この2人も解決に一役買っていたのだろうか?

 

「で、この石像がどうかしたのか?」

「・・・これはただの石像では無い」

「・・・???」

「この石像こそが、今回の騒動の解決の立役者であるトレーナー達本人じゃ」

「はぁ!?」

「あの、仰ってる意味が分からないんですけど・・・?」

「わしも最初に見た時は愕然とした。こうなった原因は分かっておる、ロケット団が放った正体不明の攻撃と、レッド達の攻撃が複合した結果じゃ」

「おいおいおい、ちょっと待てよ!!ポケモンの攻撃で人間が石化するなんて聞いた事ねぇよ!もしかして、俺達にこの石化を解いて欲しいってのか!?」

「まさしくその通りじゃ」

「あの、お言葉ですけど僕達はこの現象の原理がまるで理解できないんですけど、何か解決方法はご存じなんでしょうか?」

「わしにも分からん。長年ポケモンを研究してきたがこんな現象は初めてみた」

 

項垂れる様に首を左右に振るオーキド博士。

世界的なポケモン研究者でも分からないものを、俺達が解決できるとは到底思えない。一体何を思って俺達に依頼を出したのだろうか?

 

「だが、ここに来て一筋の希望の光が見えた」

「・・・希望の光ですか?」

「現状、この石化を解く唯一の方法を、遂に見つけたのじゃ」

「それは何ですか?」

「幻のポケモン、《ジラーチ》」

「ジラーチ?」

 

それは聞いた事もないポケモンだった。アリアもターコイズも顔に疑問を浮かべる。幻というくらいなら、よっぽど珍しいポケモン何だろうけど、そいつがこの石化とどう繋がるのだろうか?

 

「ジラーチとは、1000年に一度、7日間だけ目を覚ますといわれておっての、何でも人の願いを叶える力があるといわれている」

「・・・願いを、叶えるポケモン?」

「何か、夢物語みたいな話だな」

「たとえそれが本当だとしても、1000年に一度しか目覚めないんじゃ、そんな都合よくタイミングが合わさるとは思えないんですけど」

「いや、我々は世界中のジラーチにまつわる文献を入手し、それらを仮説・解析して、そして次に目覚める場所と期間を突き止めた」

「・・・それは何時、何処でですか?」

「次の7月1日からの七日間、現在建設中のホウエン地方のバトルフロンティアじゃ」

「7月1日って言ったら・・・・後2ヶ月くらいじゃねぇか!」

「えぇ!?そんなに早く!!?」

「そう、じゃから君達にはジラーチ保護に向かってもらいたい」

 

偶然にしては出来過ぎている感があるが、もしこれが本当ならあの石化を解くごとが出来るだろう。だが、一つだけ気になる点があった。

 

「なぁ、オーキド博士。何でわざわざ俺達を雇ったんだ?」

 

別に自信が無いから言った台詞ではない。だが、俺達の他にも頼れるトレーナーが他にもいるはずだ。この石像の5人は除いたとしても、そいつらに頼めば良いだけの話。

わざわざ金を払ってでも俺達を使いに出す理由、俺の頭でも思い付くと言ったら

 

「他にも、ジラーチを狙う者が居るという事ですか?」

 

まさにそれだ。もし、願いが叶うポケモンの存在が知れれば、それを利用しようとする者が出てくるのは当然だ。

 

「先日、何者かがこの研究所に侵入し、ジラーチに関するデータを盗み見たのじゃ」

「・・・その者がジラーチと接触する前に、ジラーチに願いを叶えて貰わないといけない。つまりはそう言う事ですか?」

「へっ!ようやくデカイ仕事が回って来たってことか!!」

「相手の力は未知数、準備はしっかりとしないとね!」

「おぉ、引き受けてくれるのか!?」

「もちろんです!我々ギルド総勢は可能な限り依頼の受諾と完遂をモットーとしておりますので、完遂の目途が経つというのなら、喜んで受諾させていただきます!」

「ありがとう、本当にありがとう!!」

 

そう言って俺達に頭を下げるオーキド博士。掠れた声と、僅かに床に落ちる雫で、石にされた5人の事が大切だと伺える。

 

「それではジラーチ出現期間までにはフロンティアに到着でよろしいでしょうか?」

「いや、今回はどんな事態になるか想定も出来ん。君達の実力を過小評価する訳ではないが、わしの方から、君達の修業場所を用意させてもらった」

「修業場所だ?」

「残り2ヶ月で力を付けて、依頼達成の確立を僅かでも上げてほしい」

「・・・その修業場所というのは?」

「カントー地方、ナナシマの内の一つ、2の島じゃ。そこにはすでに、わしが派遣した図鑑所有者2人が修業に励んでおるはずじゃ」

「図鑑所有者?」

「わしの研究であるポケモン図鑑完成の為に、ポケモン図鑑を持って旅立つ者の事じゃ」

「・・・ポケモン図鑑を」

 

ポケモン図鑑。それは俺達3人の旅の始まりでもあった。俺達と同じように図鑑を持って旅をした者と会うと思うと、何か感慨深いものがある。

 

「わしから連絡を入れておくから、君達は今すぐ2の島に向かってくれ!」

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

「ここって、あの有名なオーキド博士の研究所だよな?」

「見て!ジャリボーイ達が出てくるわ!!」

「早速尾行再開ニャ!!」

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カントー・ナナシマ、2の島と言えば誰も住んでいない様な孤島だ。特に土壌が肥沃という訳でもなく、他の島からも離れていたため人が住もうとはしなかったと聞いていたのだが―――

 

「でっけぇ家だな」

「どっちかって言うと長屋みたいだね」

 

ナツの背に乗り、上空から島を見下ろす。長く巨大な石階段に、10キロは下らない長い屋敷がそこにあった。アルティア家の屋敷と同じくらいだろうか?

 

「・・・とにかく降りてみましょう」

 

上空から地上へと降り立ち、ここまで運んでくれたポケモンをボールに戻す。

和風造りの玄関に、『跳ノ道』と書かれた表札が掲げられている。ここが修業場所と見て間違いなさそうだが、この表札が気になって仕方がない。

 

「御免下さーい!!僕達、オーキド博士の紹介で来た者ですけどー!!」

「おぉ良く来たねぇ」

 

ターコイズの呼び掛けに応じ、引き戸が開かれる。中から現れたのは修験者と言った装いに身を包んだ一人の老婆。だがその見た目に反して、棲様じい活力に満ちている。

 

「実力の無い者を受け入れないこの島にスラっと入るとは、なるほど、あんた達なら受け継げるかもしれない!!わしの究極技を!!」

「えーと、僕達オーキド博士の紹介で来たギルドの者ですけど」

「あんたが、俺達に修業を付けてくれるって言う婆さんか?」

「ウヌォオオ!!誰が婆さんじゃああああ!!(ドゴッ!!)」

「痛ってぇぇ!!?」

 

いきなり錫杖で脳天殴られた!!?全く反応できなかったぞ!?

 

「せめてピチピチのお姉さんくらい言わんか!!」

「鏡見て言えや・・・!あー、頭痛てー・・・!」

「・・・ガーネット、考えて口を開いてください」

「えーと、それであなたが僕達に修業を付けてくださる・・・?」

「うむ、この島で究極技伝承を守っておる、キワメじゃ!」

 

さっきの一撃といい、この雰囲気や活力といい、この婆さんが俺達の修業を付けてくれる事には違いはなさそうだ。

 

「お前達の事はゲンジから聞いておる!」

「え、ゲンジさんとお知り合い何ですか?」

「若い頃からの。昔は一緒にやんちゃしたもんじゃ!」

「・・・それで、その究極技というのは?」

「まぁそう焦るな。まずは一緒に修業する物を紹介しようかねぇ、出ておいで!!」

「はーい!ほらゴールド、行くわよ!!」

「わーてるよ!一々うるせぇな!!」

 

キワメの婆さんが建物に向かって呼びかける。中から現れたのは俺達と同い年くらいの男女2人。特徴的な爆発した前髪の男と、黒い髪に整った顔立ち、重力の法則を無視した後ろ髪の少女だ。

 

「あなた方がトレーナー派遣会社ギルドの方ですね?はじめまして、私の名前はクリスタル。クリスと呼んでください!」

「あ、ご丁寧にどうも。僕は本社の代表のターコイズです」

「同じく構成員のガーネットだ」

「・・・アリアです」

「それで、そっちの彼は?」

「俺様はゴールド。お前等の事は聞いてるぜー?」

「あん?」

「まずはそこのヘタレ野郎のターコイズと」

「へ、ヘタレっ!?」

「・・・まぁ、合ってますね」

 

スズナに対して何時までも煮え切らない態度とってるしな。

 

「能面美少女ギャルのアリアと」

「・・・誉められてるのか、貶されているのか分からない言い回しですね」

「最後に、昆布頭のガーネット」

「よし、ちょっと裏に来い」

 

こいつは今、触れてはいけない逆鱗に触れてしまった。

 

「・・・髪型の悪口は不味いですね」

「ガーネット、ここは抑えて・・・!」

 

「大体何だ?そのセンスの欠片もねぇ前髪は?」

「へっ!このセンスが分からねぇたぁ、可哀想なこった!!」

「分かりたくもねぇっての、そんな変則トサカ頭なんざよ」

「そっちこそ、岩海苔みてぇな汚ぇヘアースタイルだぜ?」

「ずいぶん貧困なボキャブラリーだな?見た目通り、残念な頭みたいだな」

「テメーに言われたか無いっての、この海藻野郎」

「「はっはははははははははは」」

「・・・ガーネット?」

「ちょっと、ゴールド?」

 

俺達はひとしきり笑い合い、そして――――――

 

「テメェちょっと裏に来いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

「上等じゃボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

互いの胸ぐらを掴み合う!一度ならず二度までも・・・!こいつは俺の怒りに触れた!

今こそスズナ直伝、〝きあいパンチ〟を解き放つ時が来たようだ・・・!

 

「コラッ!!止めなさいゴールド!!」

「ガーネットも!依頼人の協力者と喧嘩しないでよ!!」

「・・・少し冷静になってください」

「えぇい、止めてくれるな2人とも!!本気の一撃を決めなきゃ気が済まん!」

「やれるもんならやってみやがれ!!」

「ほう、なかなか元気が良いな」

 

そんな時、静かな声が辺りに響き渡る。怒りで沸騰した頭で理解した、聞き覚えのある声。この威圧感たっぷりの声って、まさか・・・。

 

「久しいな、お前達。そしてキワメよ」

「どぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

「ゲ、ゲゲゲゲンジぃぃぃい!!?」

 

ホウエン四天王の一角、最強のドラゴン使いのゲンジはそこに居た。

 

「な、何でゲンジがここに居るんだよ!!?」

「わしが呼んだんじゃよ」

「え?」

「究極技を習得した時、それをより強力にする為にね」

「まぁそう言う訳だ。お前達5人は、覚悟しておけよ?」

 

俺達の地獄が、再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様からのご意見ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSキングドラ

修業編第2作目です。ゴールドとガーネットの口調の区別がつかない・・・。個人的に。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の地獄が、再び始まった。

 

「今日より、お前達に究極技習得指南を付ける事となったゲンジだ。精々死なない様に気を付ける事だ、私はお前達を殺す気で鍛えるのでな」

 

「ゲンジの・・・」

「・・・修業?」

 

 

 

『ギャ、《ギャラドス》が、ギャラドスの群れがー!!』

『・・・口が光っています』

『逃げろぉ!〝はかいこうせん〟だ!!』

 

『攻撃が全然効かなギャああああああ!!?』

『あぁ!ガーネットが《ゴローニャ》に撥ねられた!交通事故だー!!』

 

『・・・狙いが、定まら・・・!』

『クロバットの〝かげぶんしん〟と〝こうそくいどう〟だ。気を付けろ』

 

『へー、《クチート》っていうポケモンなんだ。可愛ぎゃああああああ!!?』

『・・・ガーネット、ターコイズが大変な事に』

『ターコイズを離しやがれぇぇぇぇ!!』

 

『・・・わー』

『アリアが、アリアが《イワーク》の角に引っ掛かってるぅー!!?』

『あの角を圧し折れぇ!!ドン〝ドラゴンクロー〟だ!!』

 

『よし、そこまで!!』

『や、やっと終わった・・・』

『次は私のサザンドラと組み手を始める!!』

『ウギィィーーーーーー!!!』

 

『全員動くなぁ!!《キングドラ》の〝しおみず〟が直撃するぞ!!』

『だったら撃ってこないで下さいよ!!』

『恐怖とは克服し、飼い馴らすものだ!!それが出来て初めて恐怖は身を守る優秀なセンサーとして機能する!今度は〝ハイドロポンプ〟だ!!』

『ヒィィィィーーーー!!』

 

 

あ、これって走馬灯って奴なんじゃ・・・?

 

「イヤーーーー!!もうシロガネ山はイヤだーーーーー!!」

「・・・あぁ、ターコイズ」

「逃がすかぁっ!!」

 

変なスイッチが入って、全力で逃げ出すターコイズを後ろからタックルして捕まえる。ったく、恐怖が臨界点を超えるとすぐこれだ!!

 

「離して!離してぇぇぇぇぇぇ!!」

「タ、ターコイズは一体どうしたの・・・?」

「あぁ、何時もの事だ!ドン、ターコイズをしっかりと捕まえておけ!!」

 

空いた手でボールを取り出し、ドンを繰り出し、逃げようと必死に足掻くターコイズを捕まえておく様に指示を出す。

 

「聞きに勝るヘタレっぷりだなぁ、修業に来たんだろー!?逃げてどうすんだよ!?」

「・・・あなた方はゲンジさんの修業がどういうものか知らないから平然として居られるんです、修業が始まれば、彼を呼んだ人物を恨む事になりますよ」

「て言うか、一体誰が呼んだんだよ!」

「わしじゃよ、キャモメに頼んでバサバサ~っと、手紙を送ったのさ」

 

ババァ、このやろーーーーー!!

 

「あ、あの、殺す気で鍛えるって、一体どういう事ですか?」

「そのままの意味だが?」

 

クリスの問いに、ゲンジはあっさりと答える。それじゃあ分からねえだろ。

 

「究極技習得のために、強さの崖を落ちていくって事だろうよ」

「落ちる!?登って行くの間違いじゃねぇの!?」

「登るとは、途中で中断できることを意味する。だが落ちれば究極技習得まで止める事はできない、私に任せた以上、お前達は二者択一する事となる。習得か死か!!」

「え、えっと、冗談、ですよね?」

「・・・冗談だったらどれほど良かったか・・・」

「諦めろ、お前等は既に地獄に足を踏み入れてんだ」

 

あくまで比喩表現だが、あながち嘘でも無いのが悲しい。

 

「それでは、あんた達にこれを渡しておこうかね」

 

そう言って、俺達にある物を渡すキワメ。

それは腕輪であった。人数分だろうか、その数合計5つ。とりあえず渡されたので、腕に装着してみる。何故かピッタリとサイズが合っていた。

 

「何スか、この腕輪?」

「その腕輪には、今からあんた達に教える究極技が封じ込められておる」

「こんなチャチな腕輪の中にか?」

「チャチなどと言うでないわ!!」

「それで、どんな技が封じ込められているんですか?」

「うむ、ゴールドの腕輪に封じ込められておるのは炎の究極技、〝ブラストバーン〟。ターコイズとクリスの腕輪には草の究極技〝ハードプラント〟。アリアには電気の究極技〝ボルテッカ―〟。そしてガーネットの腕輪には、ドラゴンの究極技〝りゅうせいぐん〟が封じられておる」

「今からお前達の心身を鍛え上げ、腕輪から技を引き出すのが今回の目的だ。私達はこれから準備に取り掛かるので、しばらくそこで待っていろ」

 

そう言ってゲンジとキワメは建物の中に入って行った。

 

「マジかよクソが~~・・・!!」

「まだ、生きていたい・・・!」

「・・・死なない事を祈りましょう」

 

俺達は揃った頭を抱える。よりによって何でゲンジが・・・!

 

「ま、まぁ、きっと例え話よ、本当に死ぬ訳じゃないわ!!」

「そーだぜ、大体よぉ、マジで死ぬほどキツイ修業なんざよくあるこった気にすんな!」

 

絶望に暮れる俺達を見かねたのか、クリストゴールドは必死に励ましてくる。

だがこいつらも、すぐに絶望を味わう事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何スかこれ?」

「見ての通り、縄跳びだが?」

「この3体のドラゴンポケモンは・・・一体・・・?」

 

準備が出来たので中には行ってみると、真っ先に目に入ったのは長縄の両端を持ったカイリューとサザンドラ、そしてその後ろで待機しているキングドラだった。

 

「何で縄跳び!?究極技の伝承じゃねぇのか!?」

「バカタレが!いきなりスラっと教えてもらえるとでも思ったか!!技の基本は体力、特に足腰じゃ!お前達はこの縄を縄跳びの要領で跳べ、ただひたすら跳べ!!」

「え、え~~~~~」

 

俺達は揃ってゲンジとキワメに疑いの目を向ける。しかし2人はどこ吹く風の如く受け流し、外に出た。こんな事が究極技の伝承か?

 

「我々は外から見守らせてもらう」

「それでは始めぇ!!」

 

合図とともに回り出した縄を、俺達は揃って跳んでいく。想像してみてほしい、走りながら他人のペースで回される縄を跳ぶのがどれほどの難しいかを。

 

「一度でも引っ掛かったらスタート地点まで戻ってもらう」

「そ、そんなぁっ!?」

「いつまで跳べばいいんですか!?」

「もちろん、廊下をビシッと渡り終えるまでさ。そうそう、鍛錬の内容は10町ごとに変わるからね、せめてこの鍛錬は乗り越えておくれよ」

「10町って、どん位の距離なんスか!?」

「大体1キロくらいだ!!」

 

ただでさえ100メートル跳ぶのも難しいこの変則縄跳びを1キロとか、マジで鬼だろ!?でも、それ以上に気になるものがある。

 

「あのキングドラは一体何の為に出て来たんだ?」

「知らねーよ!見張りか何かじゃないんスか!?」

 

キングドラは俺達の後ろに着いてくるだけで、特に何かをしてくる訳でもない。ゲンジが見張りなんて生温い理由で出すだろうか?

 

「頃合いだな、キングドラ〝しおみず〟!!」

「うあぁぁっ!!?」

「ターコイズゥ!!」

 

500メートルほどを渡った所で、ゲンジの指示と共にキングドラから吐き出された塩水がターコイズに直撃!ターコイズは地面に転がってしまった。

 

「ターコイズが転んだので、スタート地点に戻れ」

「ちょっと待てコラぁっ!!」

「納得いかねーっスよ!!」

「妨害があるなんて聞いてません!!」

「バカ者が、奇襲を掛ける際に予告する者が何処に居る?」

「これって、そういう趣旨の修業でしたっけ・・・?」

「いいからさっさと戻れ!」

 

そして再びスタート地点に戻される俺達。くそっ!マジでどうするよ・・・!

 

「あのキングドラの攻撃を避わしながら縄を跳ぶしかないわね」

「それってかなり難しいよ、縄にもキングドラにも注意しなきゃならないなんて」

「何か手はねーのかよ!?」

「・・・気合と根性?スズナ的に」

「それ、根本的な解決になってねーから」

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

「や、やっと終わった・・・!」

「もう、動けねーッス・・・!」

「はぁ、はぁ・・・第一の試練でこれほどなんて・・・!」

「・・・ターコイズが、さっきから動いていませんが」

「・・・・・・・(チ――ン)」

「放っときゃあ元に戻るだろ」

 

修業開始から8時間後、俺達はようやく第一の試練をクリアした。日は沈み、辺りは既に夜闇に包まれている。初日からこんなんで大丈夫なのか・・・?

 

「今日、何回失敗したっけ?」

「10回から先は数えてねーな」

 

ちなみにキングドラに吹き飛ばされる回数も数えていない。

 

「8時間も掛けてようやく、くりあーかい?先が思いやられるわい」

「今日はここまでだ、明日より第二の試練が待ち受けているので今日はしっかりと休養を取れ。風呂の用意が出来ているので入ってくるといい」

 

2年前の修業に無かったものが今回の修業にはある。それはしっかりとした食事と、何よりも風呂だ。前回は冷たい川の水で汗を流してからな・・・。

 

「なに泣いてんだ?」

「いや、何でもねーよ」

「今日は女性陣から先に入っておいでよ、僕達は後からでいいからさ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて先に入らせてもらうわ」

「・・・♪~♪♪~」

 

鼻歌交じりで風呂に向かうアリアとクリスを見送り、俺達は息と整えた。

 

「・・・・・・・・・・」

「あれ?ゴールド何処に行くの?」

「そっちは風呂だぞ?」

「わかってねー、分かってねーっスよお二人さん!!」

「あぁ?何だよいきなり」

「美少女、風呂、後は言わなくとも分かるだろーが!!」

 

・・・ふむ、なるほど。

 

「つまりは覗きだな?」

「正解っス!」

「テメーとはウマが合わないと思ってたけど、ここだけは合いそうだな」

 

俺ももう13歳、女体には興味津々のお年頃だ。ある程度のリスクを負ってでも、ここはゴールドと共に桃源郷(女湯)を目指すべきだろう。

 

「だ、駄目だよ2人とも!!そんな破廉恥なっ!!」

「そんな事言っちゃってぇ、ターコイズも覗きに行きてーんだろ!?」

「止めとけゴールド。そいつは目当ての女が居ねーから乗る気じゃねーんだよ」

「ちょっ!?ガーネット!?」

「あん?目当ての女?つーことは何か?こいつが惚れてる女が居るってことか?」

「あぁ、俺達の昔からのダチにスズナって言う奴が居るんだけどな」

「わーーーーーーー!!!わーーーーーーーーー!!!」

「うるせぇッスよターコイズ!!で、スズナって奴がどうかしたんスか!?」

「初めて会った時からターコイズが一目惚れしててな。まぁ、贔屓目で見ても可愛いから無理もないけどな。胸もデカイし」

「ま、マジっすか!!?そんな付け加える位デカイのか!?」

「あぁ、とてもアリアとタメ歳とは思えねぇ」

 

まぁ、正確にはタメじゃねぇけどな。

 

「ふぁあああああ!!!(ブシャァァァァァァァ)」

「うおっ!?ターコイズが噴水みてーな鼻血を!?」

「それもいつもの事だ、とにかくヤベーのよ、特に胸が」

「いつか見てみてーっスね、その胸」

「写真あるけど見るか?」

「あるのかよ!?見せろ!!」

 

俺は鞄からアルバムを取り出し、ページを開く。えぇーと、一番最近のはギルド結成時の集合写真だから、確かこの辺に

 

「おっ!あったあった」

「どれどれ」

「ほれ、こいつだよ。この三つ編みの」

「うおーー!!確かにデケー!!」

「だろ?」

「にしても、この胸と並べるとアリアの胸がより小さく見えるッスね」

「比較対象が近くにある分、余計にな」

 

ヒュンッ!

 

その時、謎の風切り音が俺の耳に届く。何やら嫌な予感が――――――

 

「(ドゴッ)痛ってぇぇぇ!!?」

「(バゴッ)うごぁぁああ!!?」

 

俺達の頭に固い何かが直撃する!痛みを堪えて見てみると、それは固い固いボングリだった。誰だ!こんなもんを投げつけて来たのは!!

 

『聞こえてるわよゴールド!!覗きなんてしないでよ!!』

『・・・ガーネット、次に胸の話題をしたらこの程度では済みません』

 

どうやらアリアが改造パチンコで風呂場から撃ってきたらしい。どうやって当てたんだ?ここから風呂場までいくつか曲がり角があったはずなのに。

 

「今日は覗きは無理みたいだな」

「無念だ・・・」

「うぅ~~~ん(ドクドクドク)」

 

こうして俺達の修業初日は終了した。

だが、翌朝になって俺たち全員が筋肉痛で動けなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第二の試練・・・突破!!」

「もう無理っ!!はぁ、はぁ、動けない!!」

 

筋肉痛で動けなくなったさらに翌日、俺達はキワメの試練をゲンジが更にスペシャルにした修業を何とかクリアした。落ちてくる木の実を一緒に落ちてくる鉄アレイに気を付けながらキャッチする修業だったが、キツイにはキツイが初日ほどではないというのが俺の感想だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、んっ!足が、震えて動かせない・・・!」

「・・・というよりも、全身に力が入りませんね」

「んだよ、情けねーぞクリス!」

「俺はまだまだ行けるぞ!!」

「2人とも、元気だね・・・」

 

ターコイズ、アリア、クリスは疲れ果てて動けないみたいだが、比較的体力のある俺とゴールドはまだ動ける。次の修業に移っても問題ないだろう。

 

「何だい、動けるのはガーネットとゴールドの2人だけかい?」

「それならそれで別にかまわない、次の修業に移るぞ」

 

そして3つ目の試練が始まる。2人に連れてこられたのは『戦ノ道』と書かれた看板が掲げられている部屋の前だ。

 

「戦ノ道?一体何と闘うんだよ?」

「相手は目の前におろう」

「あん?」

「ガーネットとゴールド、お前達2人が戦う。それが3つ目の試練だ」

 

俺とゴールドは顔を見合わせる。戦いと言ったらもちろんポケモンバトルの事だろう。究極技の修業だというのに、ここまでの修業で俺達は全くポケモンを使っていない。

 

「つまりようやく修業らしくなって来たってことか!」

「へっ!丁度いいぜ、ガーネットとはケリを付けなきゃならねぇと思ってたッスからね!」

「そりゃあこっちの台詞だ!散々走り回されて鬱憤が溜まってたんだよ!!」

 

俺とゴールドは互いに闘志を燃やす。

完全に未知の相手だが、ここはギルドの名に掛けて勝たせてもらう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はガーネット対ゴールドです!!
皆様からのご意見ご感想お待ちしております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSゴールド

遂に図鑑所有者と対決!はたして結果は!?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修業3日目、俺とゴールドのバトルが幕を開けようとしていた。

 

「バトルの形式は2対2、6匹所有で入れ替えあり!」

 

バトルのフィールドはこれまでの試練でもお馴染の長い廊下、俺とゴールドを仕切る様に柵が設けられている。そして、ここに足を踏み入れた瞬間、ある事に気付いた。

 

「この廊下動くぞ!?」

 

良く見てみると、ゴールドは前へ、俺は後ろ向きへと進んでいる。つまりこの廊下は俺とゴールドが居る側で、それぞれ独立して動いているという事か。

 

「それだけじゃないよ。廊下の速さはポケモンの攻防に連動する」

「どういう事っスか?」

「攻撃を加えた方の廊下は前向きに速度が上昇し、ダメージを受けた方の廊下は後ろ向きに速度を落とすという仕組みだ」

「そして先に廊下の向こう側へと着いたほうが勝ち!」

 

俺はこの長い廊下の先を見据える。流石に1キロもあれば先は見えず、暗い闇に閉ざされてゴールは全く見えない道だ。

 

「それでは、バルト開始!!」

「エーたろう!ニョたろう!!」

「行け、イヴ!ドン!!」

 

ゲンジの宣言と共に俺とゴールドは同時にポケモンを繰り出す。

俺がイヴとドンを繰り出したのに対し、ゴールドは手の様な尻尾が特徴のポケモン《エイパム》と、緑色のカエルの様なポケモン《ニョロトノ》を繰り出した。

相性的にはほぼ互角だが、果たしてゴールドはどれ程の実力なのか・・・。

 

「先手必勝!エーたろう〝みだれひっかき〟!ニョたろう〝バブルこうせん〟!」

 

エイパムの爪が連続でドンを切り裂き、ニョロトノから放たれた泡の光線がイヴに炸裂する!かなりの速さだ、スピードなら間違いなく俺の手持ち以上だろう。

 

「ドン!〝ドラゴンク・・・〟」

「させるかよ!エーたろう〝ねこだまし〟!」

 

俺がドンに〝ドラゴンクロー〟を指示しようとした瞬間、エイパムがドンの正面に現れ、ドンの顔の前でパァン!と、手を合わせる!虚を突かれたドンは思わず怯んでしまった!

 

「どーでぇ!これでオノノクスは動けねぇだろ!?」

「もう一体、こいつを忘れてんじゃねぇぞ!!イヴ、〝ふぶき〟だ!!」

 

猛烈な吹雪がエイパムとニョロトノを包み込む!エイパムならともかく、水タイプのニョロトノには効果の薄い技だが、ゴールドは知らない。

 

「なっ!?エーたろう!ニョたろう!」

 

俺のポケモン達の破壊力の高さを。

イヴの〝ふぶき〟をまともに受けた2体は、周囲の床や壁ごと一瞬で氷漬けになった。やはり相当鍛えられているらしく、辛うじて戦闘不能に陥っていないが、この期を逃がさねぇ!

 

「やれぇドン!〝げきりん〟だ!」

 

ドンは氷漬けになった2体を怒りの赴くままに蹂躙する!ドンは氷もろともエイパムとニョロトノを粉砕し、戦闘不能に追いやる。その瞬間、俺側の廊下が前へと加速し、ゴールドは後ろへと戻されてる!これが廊下の連動システムか!

 

「よっし!これでかなり有利になったぞ!」

 

ドサッ!ドサッ!

 

「な、何ぃ!!?」

 

俺がイヴとドンの方を向いた瞬間、2体同時に戦闘不能に陥ってしまった。どういう事だ!?まだ体力は十分にあったはずだぞ!?

 

「くっ!メリー!ダン!」

 

俺は倒れた2体をボールに戻し、交代でメリーとダンを繰り出す!ゴールドの野郎、一体どんなトリックを使いやがったんだ!?

 

「その2体を倒したのは、ニョたろうの〝ほろびのうた〟だ。テメーのグレイシアの〝ふぶき〟の威力にはビビったけどよ、タダじゃ起きねぇぜオレの相棒達は」

 

後方から聞こえる不敵な声。振り返ってみると、そこには俺に追い縋ってくるゴールドと、樹の様な出で立ちのポケモン《ウソッキー》と、ピチューがこちらに迫ってきていた。

〝ほろびのうた〟・・・。自分が瀕死になるのと引き換えに、その歌を聞いたものを道連れにする技か!道理で、体力の有り余るイヴとドンが倒れた訳だ!

だが、真に恐ろしいのはその技を使った事を俺に悟らせなかった事!

 

「まぁ、逆転に次ぐ逆転なんざ、良くあるこった気にすんな!」

 

ピチューとウソッキーが俺達に追い付く!どちらも攻撃の射程範囲内だろうが、攻撃の威力では俺に分がある!奴は何をしでかすか分からないから、早期決着に持ち込む!

 

「ウーたろう〝ストーンエッジ〟!ピチュ〝10まんボルト〟!」

「ダン〝あくのはどう〟!メリー〝パワージェム〟!!」

 

ウソッキーの岩刃とピチューの強烈な電撃が、ダンの悪意の波動とメリーの煌めく光線とぶつかり合うが、拮抗は破れ、波動と光線が向こうの攻撃を貫いた!

ウソッキーとピチューは寸の所で回避するが、これで俺の手持ちの攻撃力が相手を完全に上回っていることを証明したと言っても過言ではないだろう。

 

「どんどん行くぞ!メリー〝かみなりパンチ〟!」

 

メリーは電撃の拳をウソッキーに目掛けて放つ!これが当たれば大ダメージは必須、よしんば戦闘不能だってあり得るだろう。

 

「それを待ってたぜ!ウーたろう〝カウンター〟!!」

 

だがウソッキーはメリーの攻撃をいなし、更には反撃とばかりに拳をメリーに叩きこむ!〝カウンター〟は相手の攻撃力が高ければ高いほど威力が上がる技!ここに来て、俺達の最大の長所である攻撃力がこんな形で利用されるとは!

自身の攻撃力を上乗せされた一撃に、メリーは堪らずダウンする。それと同時に、今度は俺側の廊下が後ろへと戻され、ゴールド側の廊下が前へと進む。

 

「よくやった、戻れメリー!次はお前だ、行けぇジン!」

 

メリーの交代に繰り出したポケモンは、2年前にサファリゾーンで捕獲したコジョンドのジンだ。格闘タイプのジンは岩タイプのウソッキーには相性がいい、ここは一気に決めさせてもらう!

 

「〝とびひざげり〟だ!」

 

ジンは助走を付け、渾身の飛び膝蹴りをウソッキーの体に食い込ませる!そのままウソッキーは壁まで吹き飛ばされ、戦闘不能となる。

 

「戻れウーたろう!行け、マンたろう!!」

 

ウソッキーと交代で繰り出したのは、青い体に魚のヒレの様な翼とその翼にびっしりと張り付いた《テッポウオ》が特徴のポケモン《マンタイン》だ。

この時点で廊下の速さは均一化され、俺とゴールドは並ぶように走る。そして視線の先にはゴール、この勝負はポケモンの数ではなく、どちらが先にゴールするかで勝敗が決まる。

 

「ゴールまで後僅か・・・!勝つのは俺だ!!」

「いーや、そりゃオレの台詞だ!!マンたろう!!」

 

ゴールドの呼び掛けと共に、翼のテッポウオ達は一斉にこちら向く。そして口に集束されていくこのエネルギー、オレの直感が警報を鳴らす!

 

「ダン〝にほんばれ〟!!」

 

それは俺にしては良い判断だったと自画自賛する。強烈な日の光が、水の力を弱めるのと同時に、ダンの力を最大まで引き上げる。

特性〝ようりょくそ〟。これにより、ダンの速度は最大まで引き上げられる。だが、草タイプにとってこの光はそれだけの効力ではない。

 

「食らいやがれ、〝ハイドロポンプ〟!!」

「負けるかぁ、〝ソーラービーム〟!!」

 

本来の10倍以上の質量の水砲と、太陽光を凝縮した光線がぶつかり合う!

本来なら太陽光を溜めこんでから放つ草タイプの大技だが、〝にほんばれ〟がその動作を省略し、最大最速の威力で放出する!

更には水の力が弱まっている事もあり、本来ならばこちらが圧倒されているであろう激流は大きな水飛沫と共に弾け飛ぶ!

 

「くっ!!」

 

技と技のぶつかり合いに思わず怯むが、それでも全力で前に進む。

残りは10メートル程だろう、ここまで来れば指示を飛ばすよりもゴールを見据えて走った方が有利だ。それはゴールドも同じらしく、指示を飛ばさずに全力で駆け抜ける!

そして―――――――

 

「だぁっ!!」

「っとぉぉぉぉ!!」

 

俺とゴールドは同じタイミングでゴールに足を付いた!

 

「ぜぇ、ぜぇ、っ、どっちが早かったんだ、オレとお前・・・はぁ・・・」

「はぁ、・・・はぁ、同じタイミングだったような、気がするけど・・・」

 

息を切らしながらその場に座り込む。先に渡り終えた方が勝ちというこのバトルは、どうしても引き分けという結果が存在するが、どんな判定が下るのか。

 

「ただ今の勝負、引き分けとする!」

「レッドとグリーンといい今回といい、最近は引き分けでも流行ってるのかい?」

「んなもん流行って、ゴホッ!ゴホゴホッ!!」

 

反論しようとして咳き込むと、ジンが背中をさすってくれる。

何とも言えない感覚だ。まさに不完全燃焼と言ったところだろう、俺はこの勝負に納得がいっていない。それはゴールドも同じだろう。

 

「んで、次の試練は何なんスか?」

「これで終わりだよ」

「えぇ?じゃあ俺達って、もう究極技を習得したのか?」

「いや、まだ出来ていない」

「「はぁっ!!?」」

 

ここまで散々苦労して試練を越えたってのに、習得してなかったのかよ!?

 

「恐らく『鍛え』が足りないんだろうね」

「何だよ、その『鍛え』って」

「ポケモンがその技を使うのには一定の強さがいる。まだレベルが足りないという事だ」

「それじゃあどうするんスか?」

「フッ。決まっているだろう?」

 

ゲンジは軽く鼻で笑い、

 

「新たな修業だ!!」

 

そう高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

「ぎょへぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「殺されるうぅうぅうぅう!!!」

 

現在進行形で、俺とゴールドは地獄を味わっていた。第一の試練のバージョンアップ、何故か縄跳びの縄が帯電している!こんなもんに当たったら痛いじゃ済まない!!

 

「風にも嵐にも敵にも負けず!鍛え抜かれた力と技と心を以って信念を貫く!そんなポケモントレーナーに、私はしたい!!」

「こ、こんな状況が追い込まれるほど修業のペースを上げていったら、どの道俺等は!」

「ならば敵に殺されるのが先か、修業で殺してしまうのが先か勝負だぁ!!」

「違ーう!!勝負する根底が最初から間違ってんだよ!!」

「だ、誰か助けぎゃぁああああああ!!」

「ゴールドぉぉぉぉぉ!!?」

「初めからやり直しだぁぁ!!」

 

その後の事は良く覚えていない。

気が付いたら、俺とゴールドは布団の中でくたばっていたからな。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

そんな修業の日々が続いて、もう一週間が経過した。

修業と筋肉痛に苦しみながら、俺達はかなり焦れていた。

 

「あのー!この腕輪全然光らないんですけど!!?」

「不良品じゃねーだろーなぁ!?」

「『鍛え』がある程度まで達したら、自然と奥義が現出すると言っておるじゃろうが!つべこべ言わずに、さっさと走らんかい!(ばこっ!)」

「痛ってーな、チキショウ!何でいつもババァがセンセエなんだ!?」

「それを言ったら、何でいつもこんな糞ジジィが先生なんだって話だよ!!」

「聞こえているぞ!ガーネットとゴールドはもう一往復追加だ!!」

「「ウギィィィィィィィ!!」」

 

ジラーチ出現までまだ時間があるとはいえ、俺達は相変わらずのスローペースだ。先にこの奥義を習得した3人はあっと言う間に習得したらしいが、俺達はなかなか上手くいかない。

 

「しかし、クリスとゴールドは実力不足ってだけじゃないね」

「・・・?それはどういう事ですか?」

「明らかに集中し切れていない。他の事が頭から離れんようじゃ」

「・・・・・・・」

「原因は、疑うべくもない」

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

その日の夜、クリスは島の石階段でこの1週間に思いを馳せていた。

 

(実力不足ってだけじゃないわ。シルバー達の事を意識し過ぎているのよ)

 

クリスはゴールドやガーネットなどと比べて、比較的冷静に自己分析が出来るトレーナーだ。故に、究極技の習得の遅さに気付いてすぐに思った。

 

(それはゴールドもきっと同じ。シルバーや先輩達がこのままずっと石のままだったら)

 

そこまで考えて、クリスの胸に途方もない恐怖と不安が去来する。

 

(駄目よ!せっかくジラーチというポケモンの存在が明らかになって、ジラーチを巡る戦いに備えて強くなるって決めたんじゃない!)

 

クリスは頭を振り、不安を吹き飛ばす様にポジティブな思考を巡らせる。しかし、それらの恐怖心は泥の様に蓄積されていく。

生来から真面目なクリスは、一人で物事を抱える事が多い。仕事で来たガーネット達は勿論、仲間であるゴールドにも、いや仲間であるからこそ相談できずにいた。

思わず熱くなる目を拭い、クリスは顔を上げる。

 

(ここで泣いたら、ゴールド達の足を引っ張ってしまう。あいつだって辛いはずだから、私だけウジウジと泣いている場合じゃないわ)

「・・・こんな所で、何をしているのですか?」

 

その時、後ろから声が掛けられる。振り返ってみると、そこには髪を下ろしているアリアがクリスを見つめていた。

 

「あ、心配掛けちゃってごめんね、アリア。もう部屋に戻るから大丈夫よ」

 

そう言って、クリスは平静を保ちつつ返答する。本当は話を聞いて欲しかった。距離が近いゴールドには相談できない事も、仕事できた同性のアリアには相談できる事がある事を知っていたが、クリスの性分がそれを許さない。

常に他人に気を配る少女は、話すという簡単な事も出来ずに部屋に戻ろうとした。

 

「・・・言いたい事はハッキリと言った方がいいですよ」

 

部屋に戻ろうとするクリスの背中に、アリアは声を掛ける。思わず立ち止まり、顔をアリアに向けるクリス。感情が表に現れ難い人物だとこの一週間で思っていただけに驚くクリスだが、アリアはそれに構わず言葉を紡ぐ。

 

「・・・何を考えているのか私には計りかねますが、何か言いたい事があるというのは、こんな私でも分かります」

「アリア、何を言って」

「・・・目が赤くなってますよ」

「っ!」

 

アリアの指摘に思わず目を押さえるクリス。その行動が真実を物語っていた。

 

「・・・目が赤くなっているのは泣いていた証拠で、泣いていたという事は、何か悲しい事があったという事。ガーネット達は私にそう教えましたが、私は何か間違えた事を言ったでしょうか?」

「アリア・・・」

「・・・解決にはならなくとも、喋れば気が楽になる時もあるそうです」

 

機械の様な淡々とした声、プログラムの様な決まった反応、それがクリスが抱いていたアリアの印象だった。その少女が、不器用ながらも自分なりにクリスの図星を当てていく。

その事にクリスは降参とばかりに溜息をつき、ポツポツと本音を吐露していく。

 

「あの石になった5人は、私とゴールドの先輩と親友なのは知ってる?」

「・・・知っています。オーキド博士からの報告にありました」

「その石化を解く方法が見つかって、私とゴールドは来るべき戦いに向けて強くなると決心してこの2の島に来たの。でも、ここで修業を始めて一週間も経つけど」

「・・・修業の成果がなかなか現れず、集中力が散漫になった?」

「それもあるけど、それだけじゃないわ。修業をしている時も、何をしている時も、シルバー達の事が頭から離れないの」

「・・・・・・」

「それはきっとゴールドも同じ。・・・・・もし、このまま5人が元に戻らなかったらと思うと、どうしようもなく不安になる。このまま、ずっと・・・」

 

そこまで言って、クリスは体を腕で抱きしめる。その体は小刻みに震えていた。大切な仲間が石像になったという悲報を受けたその日から、溜まっていた不安が再びクリスを苛む。

 

「・・・そうさせないために、私達が来ました」

 

そんなクリスに対し、アリアはハッキリと断言する。その瞳は、いつものアリアにはない確かな意志の光が宿っていた。

 

「・・・あなたの不安を解決する方法はありませんが、あの5人を元に戻す方法を私達は知っています。そして受けた依頼は必ず達成する、それが私達『ギルド』です」

 

この世に絶対というものは存在しない。あったとしてもそれは幻だ。その事はクリスもアリアも知っていたが、アリアはあえて『必ず』という言葉を使った。

自らの自信の表れからではなく、友の夢の結晶に掛けたのだ。そして何より、目の前の少女を救うべく、アリアは力強くクリスを見つめる。

かつて一人の少年が、こうやってアリアを救ってくれたように。

そしてクリスの目にも光が灯る。そこにはもう不安に苛まれる少女はどこにもいない。拙く、根拠のない言葉でも、その目の光に救われたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジン〝はどうだん〟!!」

 

波動の塊がターコイズのラプラスに直撃し、戦闘不能に追い込む!それにより、ターコイズ側の廊下は後ろ向きへと進み、俺側の廊下は前と加速した。

 

「よしっ!今の内!!」

 

俺はターコイズから視線を外し、全力で前へと駆ける!ゴールまであと5メートルくらい、それが残り4.3.2.1メートルと縮んでいき、そして――――――

 

「だっしゃぁぁあああ!!」

 

俺はターコイズよりも先にゴール地点に足を踏み入れる。今回のバトルはオレの勝ちだ。

 

「これで、はぁ、僕の4勝2敗、だね、はぁ、はぁ」

「まぁ、見てろよ、はぁ、残りの2勝もすぐに獲ってやるよ」

 

あれからさらに一週間、俺達は相変わらず修業の毎日を続けていた。初めに比べて、ポケモンを含めて俺達トレーナーの体力もかなり上昇した。

第一の試練だけでバテて動けなくなっていたターコイズが、今じゃ第1第2第3の試練を続けざまにできる様になっているのがその証だ。

 

「しかし、全然光らねぇな」

 

俺は腕輪に目を向ける。この腕輪、技を習得するまで外れない様にできているらしく、ためしにドンが全力で引っ張ってみたがビクともしない。

 

「あれ?そういえばゲンジさんとキワメさんは?」

「・・・2人なら、所用で出かけてます。目的地は聞いていません」

 

そう言って現れたのはアリアだ。その後ろにはクリスとゴールドもいる。

 

「まぁ何でもいーっての。あのジジババが居ねぇってんならせいせいすらぁ」

「もう、わざわざご指導を受けさせて貰ってるんだからそんな事言わない!」

「あー、うるせーな!この学級委員長!わーってるっての!」

 

この2週間で、何となくクリスとゴールドについて分かった事がある。

大雑把で強引なゴールドと生真面目で品行方正なクリス。まったく正反対で相性が悪いと思っていたが、それがどうして、なかなかに息が合っていてまさに凸凹コンビと言ったところだ。

 

「って、あれ?あの錫杖、キワメさんのじゃない?」

 

ターコイズが指を指した先、それはキワメがいつも持ち歩いている錫杖だった。先端には究極技が封じられた腕輪が複数取り付けられている。

 

「プププ!あのバァさんも呆けたか?」

「いや、普通に忘れただけでしょ」

 

そう言ってターコイズが杖に手を伸ばした瞬間――――――

 

ガシィッ!

 

「うわぁっ!?」

 

それから降りて来たマジックハンドが、杖を奪い取る!この展開、まさか!?

 

「これが究極技を封じてある腕輪ね?」

「これがあれば、俺達のポケモンも大幅パワーアップだ」

「売っても高値で良い感じだニャー!」

 

そんな聞き覚えのある声と共に、ニャース型の気球が現れる!キワメの杖を掴んだマジックハンドは、この気球から伸びた物だ。

 

「あの気球は!」

「・・・間違いありません」

「奴らが、来た!!」

「何なの、あなた達は!?」

 

 

「何なの、あなた達は!?と聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く!」

「ラブリーチャ―ミーな敵役!」

 

「ムサシ!!」

「コジロウ!!」

 

「銀河を駆けるミサイル団の2人には!!」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!!」

「ニャーんてニャ!!」

 

 

 

俺達にとってはお馴染の3人組、ミサイル団のバカ共が現れた!

 

「喋るニャース!?」

「あ。やっぱりまずはそこなんだね」

「それより、その杖をどうするつもり!?」

「決まってるでしょ?この究極技の腕輪を盗みに来たのよ!」

「これは俺達が有効活用してやるから安心しろー!!」

 

そんな事は言われなくとも分かっている。でも俺が気になるのはそこじゃない。

 

「何でわざわざこんな辺鄙な島に来たんだ!?」

「あんた達の事務所を盗聴したのよ!!」

「そしたら面白そうな話が聞こえたからな、尾行したってわけさ」

「そして、この腕輪の事を知ったのニャー!!」

 

迂闊!まさか初めからつけられていたとは!

 

「あのおっかないジィさんの目を掻い潜り、チャンスを伺った甲斐があったぜ」

「それではさらばニャー!!」

 

 

ニャースがボタンを押すのと同時に、気球の推進エンジンが火を噴く。この2年で速度の上がった気球は瞬く間に飛んでいく。

 

「まずいよ!あれが見す見す奪われたって知られたら、僕たちどんな目に遭うか!」

「させるかぁっ!ナツ、あの気球を追いかけろ!!」

 

俺はナツを繰り出し、背中に乗って飛び立つ。翼を力強く羽ばたかせ、気球に接近する。ここからはもう、ナツの射程範囲内だ。

 

「馬鹿め!ノコノコ着いてきたな!」

「ニャース!例の物を!」

「了解ニャ!」

 

ニャースが更にボタンを押したかと思うと、気球から鉄製の網が飛び出し俺もろともナツを捕縛する!しまった、やっちまった!何とか抜け出さねぇと!

 

「ナツ〝りゅうのはどう〟!!」

 

強大なエネルギーが網を貫こうとするが、表面が黒く焦げただけで網そのものはビクともしていない!いや、どんだけ頑丈な網なんだよ!?

 

「無駄無駄ぁ!その網はポケモンの技じゃ壊せない様にできているんだよ!!」

「幾ら攻撃力が高くても、その網の前じゃ無力なのよ!」

「腕輪だけでなく、フライゴンまでゲットできるとはラッキーニャー!」

 

何て技術力の無駄遣いだ!おかげでナツは網が体に絡まって、空中に留まるのがやっとの状態だ。この網もアームと繋がっており、気球に引っ張られる形で俺とナツも進んでいく。

えぇい、何か他に手はないのか!?何とか気球だけでも壊せればいいんだが!

 

「ん?」

 

その時、俺は異変に気が付いた。

それは俺の手首にある物、この2週間ですっかり慣れしたんだ物だ。

 

「腕輪が光り出した・・・!?」

 

それと同時に、腕輪の表面に見た事もない文字の様なものが浮き出す。それに呼応してナツが足掻きながらも反応している事に気付いた。

まさか、キワメが言っていた究極技か!?

まさかとは思うが、今現在進行形で俺達は危機に瀕している。

なら、悩んでいても仕方ない。ここは一か八かだ!

 

「〝りゅうせいぐん〟!!」

 

ナツは天に向かって咆哮を上げる!その時、天が光り出したかと思えば、上空から次々と光の雨が降り注いだ。これがドラゴンの究極技か!?

 

「いや、これは光の雨なんかじゃねぇ!!」

 

この技の正体はいち早く気づいた。光を発していたのは〝それ〟に纏わりついた炎。そしてその力の本命は、炎の中心にある物、隕石だ!

 

「えぇぇーーー!!?ちょ、ちょっと何これ!!?」

「ニャース、回避を!!」

「駄目ニャ!間に合わ」

 

無数に降り注ぐ隕石の大半が海に落ちて巨大な水飛沫を上げているが、その内の何発かは気球に直撃し、バルーンを突き破り、そして――――

 

チュド――――――ンッッ!!!

 

「後ちょっとだったのにーーーー!!」

「もう少しで目標達成だったのにーーーー!!」

「結局こうなるのかニャーーーー!!」

「「「やな感じぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」

 

気球は爆発四散し、ミサイル団の3人は空の彼方へ吹き飛んで行った。

そして、キワメの杖も上空から降ってくる。俺は杖をキャッチし、深く息を吐いた。

 

「な、何とか奪われずに済んだ・・・!!」

 

これが奪われていたら、後でゲンジやキワメに大目玉を食らっていただろう。そう思って安心したのも束の間、ナツは大きく体を傾かせたかと思うと、海に向かって真っすぐに落下する!

 

「おいナツ!どうした!?」

 

ナツと共に落下しながら、ナツの状態を診る。

素人目でも分かる極度の疲労と消耗、まさか究極技の反動か!?

海までもう残り10メートルほど、水面に叩き付けられる事を覚悟した瞬間、奇妙な浮遊感と共に俺とナツの体が上空へと押し上げられていく。

 

「・・・ガーネット、無事ですか?」

「良かった・・・間に合って」

 

顔を上げてみると、そこにはムクホークに乗り、チリーンを繰り出しているアリアと、奇妙な模様の飛行ポケモン《ネイティオ》がそこに居た。

どうやら〝サイコキネシス〟で俺達を助けてくれたらしい。

 

「早くフライゴンを回復させましょう!」

「・・・ガーネットはムクホークの背に」

「分かった、戻れナツ!」

 

俺はムクホークの背中に着地すると、ナツをボールに戻す。

 

「しかし、すげぇ威力だな」

 

俺は隕石が着弾した海を見る。潮は流れを変え、あれだけ静かな海だったのに、今では荒れ狂っている。なるほど、究極技というだけの事はある。

 

「強すぎる技の威力の代償が、これか」

 

ナツが入ったモンスターボールに目を向ける。まだまだ気力が残っていたナツが、技を一発放っただけで戦闘不能になってしまうほどの強大なエネルギー消費量。

これは今後の訓練と練習が必要だな。幸いにも、まだ時間はあるのだから。

俺達はそのままキワの岬へと戻り、究極技習得が嘘ではなかった事が証明された事で、俺達のさらなる修業に思いを馳せていた。

 

「まだまだ、これからだ。俺達は強くなるぞ、ナツ」

 

渾身の力でトレーナーの期待に応えてくれた仲間に、俺は静かに誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きというか、ちょっとしたアンケートを取ろうと思います。集まるかどうかは別として。
実は、何時になるかは公開しませんが今後のストーリー進行の為、新たに主要人物の味方オリジナルトレーナーを一人登場させる予定なのですが、手持ちポケモンのアンケートを取ろうと思います。

設定

① 地方は特に問わないが、出来るだけイッシュ地方のポケモンが良い。
② 伝説、600族でなければどんなポケモンでもよし。
③ 御三家ポケモン、アニポケよろしく進化させないのもアリ。

以上の二つの設定であれば、どんなポケモンでも構いません。
皆様のご意見を参考にし、これぞと思った手持ちを決定する予定です。
それでは、皆様のご意見ご感想お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSジムリーダー

修業編最終回です。それではどうぞ、お楽しみ下さい!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはノモセシティにあるギルドの事務所。

俺は冷蔵庫の中にある冷えた麦茶をコップに入れ、一気に飲み干す。

 

「ふぅ~」

 

やっぱり麦茶は冷えたのに限るな。

そう満足して、来客用のソファーにドカッと座りこむ。今のところは依頼もなく、自主錬とポケモンバトルで出稼ぎをする毎日だ。

 

「そういや、今日の夜にあいつらが帰ってくるんだっけな」

 

俺が究極技を習得した後、ゲンジとキワメから揃って修業免除を言い渡された。後は自分で狙った所を当てれるようにしろとの事だ。

まぁ、それはこっちとしても有り難い。幾ら依頼人が少ないからといってもいつまでもこの事務所を開けておく訳にはいかない。

そう言う事もあって、俺は一足先にこの事務所に帰って来た。そしてその一週間後、ナツが究極技の使用に慣れて来た時、ターコイズから帰ってくると電話があった。それが今日の夜間だ。

 

『すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー?』

 

扉の向こうからそんな声が聞こえる。もしかして依頼か?

 

「はいはい、ちょっと待ってな」

 

俺はコップを流し台に置き、客を迎えに行った。

決戦の時は、着実に近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

「いや、こっちも依頼で来たからな、礼を言うのはこっちだ」

「それでは、こちらが依頼金になるのでお受け取りください」

 

俺は金が入った封筒を受け取り、そのまま帰路に着く。時刻は既に夜の8時、もうそろそろアリアたちが帰って来ているだろう。

こうしてみると、俺が一人でいるのはかなり久しぶりだ。ゲンジと一緒に住んでいた頃は、ゲンジも仕事があったから家を空ける事も多かったが、旅を始めてからはアリアとターコイズが一緒に居たからな。気ままに過ごすのもたまにはいいが、やっぱり事務所が静かすぎるのも落ち着かない。

そんな事を考えていると、事務所の前まで来ていた。窓からは明かりが漏れている、あいつら、もう帰って来たな?

俺は階段を駆け上がり、事務所の扉を開いた。

 

「今戻ったぞ」

「あ、おかえりガーネット」

「・・・ただ今戻りました」

 

1週間ぶりに見る2人の姿に、僅かな安堵を覚える。大事が無くてよかったぜ、修業が修業なだけに、どんな目に遭っていたかは大体想像がつく。

 

「どう?何か変わりはなかった?」

「特に何も。溜まってた依頼2件と、さっき依頼を一件済ませて来たところだ」

 

そう言ってターコイズに向かって封筒を投げつける。ターコイズは封筒から金を抜き取り、机の引き出しから電卓と帳簿を取り出す。

予算の編成や依頼金の集計はターコイズの仕事だ。

 

「お前ら、ちゃんと技を習得できたんだろうな?」

「・・・はい。ゴールドやクリスも習得しましたよ。・・・ただ」

「ただ?」

「・・・ゴールドだけは修業を追加されました」

「は?何で?」

「・・・ガーネットが帰った後、究極技を覚えるポケモンが更に増えたんです」

「つまり、どういう事?」

「・・・ゴールドの《バクフーン》が技を習得した後、更にピチューとピカチュウ2体が究極技を習得する事となりまして」

「あぁ、そう言う事か」

 

それにしてもゴールド、可哀想な奴。あの地獄の修業を更に3体分受けなきゃならないとは、俺は心より冥福を祈らせてもらおう。まだ死んで無いけど。多分。

 

「ところで、次はどうするんだ?究極技は習得したけど」

「とりあえずは、いつでも動ける様にしておいて欲しいってさ。何があるか分からないから」

「・・・依頼の本格始動は7月1日からだそうです」

 

残り1ヶ月以上もあるな。さて、どうしたものか。

 

「どうする?ターコイズ」

「んー・・・・だったらさ、ジム巡りしてみない?」

「・・・ジム、ですか?」

「ほら、今回の修業で僕達は結構な数の試合をしてきたけど、戦ってたのは僕を含めて、ガーネット、アリア、ゴールド、クリスの5人だけじゃない?今回の戦いは何が起こるか分からない位の大事になるかもしれないし、ここは修業の延長という事で」

「言われてみれば、確かにな」

 

確かに強くなったという実感はあるが、俺達は決まった相手としかバトルをしていない。色んなタイプの実力者と闘う事で、得られるものも違うだろう。

 

「・・・依頼なんて、一週間に一度来ればいい方で暇ですしね」

「それは言わないお約束」

 

こうして今後の方針は決まった。さて、どのジムに行こうか?

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずは、事務所待機に1人と、ジム巡り2人でいつでも依頼に対応できる体制を整えておいた。今回は俺とアリアがジム巡りで、ターコイズは事務所待機だ。

 

「という訳で、ここまで来た訳だが」

 

俺が今居るのは、ジョウト地方・タンバシティ。

そこにあるタンバジム前に俺は来ていた。このジムの中に、格闘ポケモンの使い手として知られるジムリーダー、シジマが待ち受ける。

 

「お邪魔しまーすっと」

 

俺はジムの扉を開けて、中に入る。まさに和風の道場と言った外装のこのジムは内装もそれに見合った作りだった。試合の場としては畳や板張り、土俵まである。

 

「あら?もしかして挑戦者の方かしら?」

「え?」

 

奥から出て来たのは、和服に身を包んだ妙齢の女性。もしかして、こいつがシジマか?俺はてっきり男だと思ってたんだけどな。

 

「あ、あぁ、ジムに挑戦に来たんだけど」

「分かりました、それでは少々お待ち下さいね。あなたー!」

 

ジムの奥に呼び掛けるシジマ(?)。そしてしばらくすると、奥からガタイの良い大男が姿を現す。あぁ、こっちがシジマか。

 

「あなた、彼が今回の挑戦者だそうですよ」

「ほう。わしがジムリーダーのシジマだ。お前の名前は?」

「ガーネットだ」

「いいだろう、お前の挑戦を受けよう。フィールドはこっちだ。」

 

長い廊下を、シジマの後ろに着いて歩き出す。そして連れてこられたのは、室内に設けられたトレーナーズサークルがある部屋。

何の仕掛けもない、全ての無駄を削ぎ落とし、純粋な力を発揮できる様にしている。

 

「手持ちポケモンは2対2、どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトルは終了だ。それでは行くぞ、《エビワラー》!!」

 

シジマが繰り出したのは、限りなく人型に近いボクシングスタイルのポケモン、エビワラーだ。クリスの手持ちにもいたな、多彩なパンチが強力な一体だ。

こっちには格闘タイプの弱点を突く飛行やエスパータイプのポケモンはいない。だったら相性が五分の相手で挑むしかないだろう。

 

「行け、メリー!」

 

相対するは、電気タイプのメリーだ。エビワラーのフットワークは軽い。だったら麻痺狙いで勝負を仕掛ける。

 

「エビワラー〝メガトンパンチ〟!!」

「〝かみなりパンチ〟で迎え撃て!!」

 

渾身の拳と電撃の拳がぶつかり合う!だがその均衡は破れ、メリーはエビワラーを壁まで吹き飛ばす。だがエビワラーは苦痛の表情を浮かべながらも立ち上がりやがった。

チッ、さすがジムリーダーのポケモン、簡単には倒れないか・・・!

 

「棲様じい力だ、エビワラーの一撃を貫いてなおこのダメージとはな」

 

動揺一つ見せずに、涼しい顔で言ってのけるシジマ。まだまだ余裕って感じだな。

 

「ならばこれでどうだ、〝マッハパンチ〟!!」

 

一瞬でメリーとの間合いを詰め、目にも止まらぬ速さで拳を叩きこむエビワラー。その技の通りの速さだ、何とか次の一手をうたねぇと!

 

「メリー、〝アイアンテール〟だ!!」

 

鋼鉄の尾がエビワラーに直撃するが、エビワラーは両腕を交差してガードするだけじゃなく、〝アイアンテール〟が直撃するのと同時に後ろに跳んで威力を流しやがった!

 

「格闘タイプの名は伊達じゃねぇってか・・・!」

 

こんな細かい動きまで取り入れる事が出来るポケモンは、格闘タイプを差し置いて他に居ないだろう。おかげでエビワラーには殆どダメージが与えられなかった。

 

「だが仕込みは十分だ!」

「む?・・・・・どうした、エビワラー!?」

 

エビワラーの体に僅かな電気が纏わりつく。いわゆる麻痺状態という奴だ。

 

「そのデンリュウの特性は、〝せいでんき〟か!」

 

体が触れた相手を麻痺させる特性〝せいでんき〟。シジマの言う通り、これがメリーの特性だ。これは接近戦でかなり有利に働く。

 

「先程から接近戦に持ち込んでいたのはこれが理由か」

「ご明答、これでテメーのエビワラーはまともに動けねぇぞ」

 

苦悶の表情を浮かべるエビワラーににじり寄るメリー。後はどう料理するかだ。

 

「中々の戦略と言えなくもないが、中にはこんな技を使えるポケモンが居るという事を覚えておくのだな、エビワラー!!」

 

シジマの呼び掛けに応じ、一気にメリーに肉薄するエビワラー。麻痺していてこの速さは驚きだが、それ以上にシジマのあの余裕が気になる。状態異常で繰り出す技・・・・・まさか!?

 

「エビワラー〝からげんき〟!!」

「くっ!〝ほうでん〟だ!!」

 

エビワラーの決死の一撃と、メリーの強烈な放電が放たれたのは殆ど同じタイミングだった。巻き上がった煙が晴れる頃には、エビワラーとメリーは戦闘不能になっていた。

 

「まさか、麻痺状態を利用する〝からげんき〟を覚えていたとはな・・・!」

「いかなる場合をも想定して、常に対策を取っておく。それが強くなる要因の一つだ」

 

今思えば、ジムリーダってのは大抵エキスパートタイプを持っているから、弱点タイプの対策はバッチリだって聞いた事がある。なら、状態異常の時の対策を持っていても不思議じゃないか。

 

「行け、《カポエラー》よ!!」

「頼むぞ、ジン!」

 

俺とシジマは同時にポケモンを繰り出す。俺がジンを繰り出したのに対し、シジマが繰り出したのは頭の角を支えに逆立ちしているポケモン、カポエラーだ。

格闘ポケモン同士の対決、これで決着がつく。

 

「〝はどうだん〟だ!!」

 

波動の塊がカポエラーに向かって放たれるが、カポエラーは逆立ちしたままの体勢で、上空へとジャンプした!無茶苦茶な体勢からは想像もできないジャンプ力だ。

そしてそのまま回転を加え、ジンに向かって落下するカポエラー。即席版の〝つのドリル〟見たいな感じだ。勿論そのまま呆気なく食らうほどジンは鈍間じゃない。右に回避し、カポエラーが地面に着地するのと同時に接近する。

 

「〝おうふくビンタ〟!!」

「〝トリプルキック〟!!」

 

コジョンドの体毛を利用した、目にも止まらぬ速さの往復ビンタに対し、カポエラーは回転する事で蹴りを放ち、攻撃を相殺しながら距離を取る!

しぶといな、だったらこれでどうだ!

 

「もう一発、〝はどうだん〟!!」

「無駄だ!!」

 

再度、波動の塊が放たれるがカポエラーは最初と同じようにして上空へとジャンプして回避する。そしてそのまま回転を加え、ジンに向かって落下するカポエラー。ここまでの流れは、さっきの戦闘どうりだ。同じ事を繰り返しても埒が明かない。だから、今回は別の要素を加える。

 

「〝とびげり〟だ!!」

 

突撃してくるカポエラーに対し、ジンは跳び蹴りで迎撃する。威力で言うならば、〝とびひざげり〟の方が威力が高い。だが、この技には〝とびひざげり〟よりも優れている部分がある。

それは接近時におけるリーチの長さだ。普通に考えて、膝を曲げるよりも伸ばした方がリーチが長いに決まっている。その長さは、カポエラーの角がジンに届く前に、ジンの爪先がカポエラーの体に食い込む方が先だった。空中で技と技がぶつかり合い、メキィ!と音を立てて、壁に吹き飛ばされ、そのまま壁に減り込んだのはカポエラーだった。

 

「この期を逃すな、〝はっけい〟!!」

 

壁に減り込んだカポエラーに向かって、全力で接近するジン。そして掌をカポエラーに押しつけ、強烈な衝撃を流し込む!

ジムの壁にも大きな亀裂が入り、カポエラーごと粉砕する。

それが、今回のジム戦の結末だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

ここはジョウト地方・コガネシティにあるコガネジム。

唐突だが、アリアは大きな混乱と小さな呆れに囚われていた。

 

「うあーーーーーん!!酷い、酷いよぉぉぉ!!」

 

その原因はアリアの目の前で泣きじゃくるこの少女。赤い髪を二つ縛りにしているのが特徴のコガネジムリーダー・アカネだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

(・・・どうしてこうなったのでしょうか・・・?)

 

自体は、遡ること約1分前。アリアがアカネに勝負を挑んだ時だ。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアがジム巡りに来た理由の大きな理由として2つある。

一つはキワメの修業でライチュウが習得した究極技〝ボルテッカー〟の試運転にある。技を習得したのは良いが、それを強敵相手にちゃんと当てられるかどうか。

もう一つは、究極技を習得してからライチュウが戦闘には出ておらず、不完全燃焼を起こしているという事だ。恐らく力を持て余しているからだろうが、そのせいもあってここ最近のライチュウは落ち着きがない。ここは一つ、究極技を使用した戦闘を経験させた方がいいと考えたのだ。

そしてこの2つの条件を満たすには、ジムリーダーというのは十分すぎる相手だ。

 

「・・・それでは、行きます」

「いつでも掛かってきぃ!!」

 

アリアは今、ジムの受付を済ませてアカネと対峙している。今回の戦闘方式は1対1、どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で終了だ。

 

「・・・ライチュウ」

「頼むで、ミルたん!!」

 

アリアがライチュウを繰り出すのと同時に、アカネは乳牛の様なポケモン《ミルタンク》を繰り出す。相性では完全に互角の2体だ。

 

(・・・見たところ重量級のポケモン、なら初めの一手は?)

「ミルたん〝ころがる〟!」

 

アリアがそう思考を巡らせると、ミルタンクは体を丸めて猛烈な勢いで転がり始めた。アリア自身、サンドパンというポケモンを手持ちに加えており、この技の事も良く知っていた。

それはライチュウにとっても同じこと。ライチュウは転がってくるミルタンクを飛び越える様に回避し、距離を取る。この手の技は常に回避が間に合う距離を確保する事が大事だ。

 

(・・・しかし、このままではマズいですね)

 

そう、この技で無ければの話だが。

〝ころがる〟は転がれば転がるほどに威力と速度を増していく技。このままではいずれ追い付かれてしまうだろう。

 

「ライチュウ〝でんじほう〟」

 

故にアリアとライチュウはこの技を選択した。ミルタンクの勢いを殺す高い威力と、その後は麻痺状態にする事が出来る大技〝でんじほう〟だ。

 

「そんなもん食らうかい!ミルたん、そのまま横に避けたれ!」

 

ライチュウが放った大砲の如き電撃は、ミルタンクが転がった状態を維持したまま横にずれる事で回避される。元々隙が多い故に外れやすい技だ。

しかし、不幸な事にアカネは知らなかった。目の前に居る藍色の髪の少女とその手持ちポケモン達が、こと技を命中させる事においては右に出る者が居ないという事に。

 

「・・・今です」

 

ライチュウが放った大砲の如き電撃は確かにミルタンクに避けられた。しかし、アリアの辞書に避けられるという文字は存在しない。

そんな矛盾を解消するように、ミルタンクの横を通り過ぎた〝でんじほう〟はミルタンクに向かって直角に軌道を曲げ、見事ミルタンクに直撃する。

 

「うそーーーーーーん!!?」

「・・・止めです、ライチュウ〝ボルテッカー〟」

 

〝でんじほう〟の威力と追加効果により、身動きが取れなくなったミルタンクに向かって、全身に稲妻の如き電流を纏ったライチュウが突撃する。

電気タイプの究極技がミルタンクの腹部に食い込み、そのまま壁まで押していき、壁に激突した事でようやく勢いが止まった。

 

「ミ、ミルた―――ん!!?」

 

壁に激突した衝撃で巻き上がった煙が晴れると、そこには技の反動で体力が削られたライチュウと、壁にもたれかかった状態で戦闘不能になっているミルタンクの姿があった。

 

「・・・ご苦労様です、ライチュウ」

 

どこか晴れ晴れとした様子で戻って来たライチュウに労いの言葉を送り、アリアはアカネの居る位置まで歩みを進める。

 

「・・・私達の勝ちです。ジムバッジを」

「っひ。っくぅ、う、うぅ」

「・・・??」

 

アカネの様子がおかしい事に気が付いたアリアは、声を掛けようとした瞬間――――

 

「うあーーーーーーーーーん!!!」

「・・・!?」

 

その場に座り込んで泣きじゃくるアカネ。それを見て困惑するアリア。

話は冒頭に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・どうしてこうなったのでしょう・・・?)

「ひっく・・・酷い・・・酷いよぉ・・・」

「・・・あの、後で幾らでも泣いて良いので早くバッジを」

「あんなに曲がる〝でんじほう〟何て聞いたことあらへん・・・あんなゴツい威力の技なんて見たことあらへん・・・あんなん反則や・・・うぇぇぇーーーーん!!」

「・・・ですから、早く泣きやんでください」

「こんな子供に本気出して、本間に大人げないんやからぁぁぁ!!うぁぁぁぁん!!」

(・・・駄目ですねこの人、早く何とかしなければ)

 

確かに少し大人げなかった事は認めている。しかし相手はジムリーダーだ。生半可な相手ではないという事は、マキシを通じてアリアも理解していた。

 

(・・・私はこの方よりも遥かに年下のハズですが)

 

アリアは複雑な出生の持ち主で、生まれて来たからまだ3年しか経っていない。そんなアリアに大人げないと言われても、アリアはどう返したら良いか分からなかった。

 

(・・・ジムリーダーにも、色んな人が居るものですね)

 

アリアにとってジムリーダーというのは、マキシやジムリーダーの候補生であるスズナの様な力強いトレーナーの事だった。

別にこの2人の様にしろと言う気は毛頭ないが、挑戦者、それも自分よりも遥かに年下の少女に負かされて臆面もなく泣きじゃくると言うのは如何なものかとアリアは呆れていた。

これには勝利したライチュウも、困ったような顔でアリアを見上げている。

 

「・・・もう何でもいいので、早くバッジを渡してください」

「何でもいいって、泣いとる女の子に何て冷たい事言うんや、この鬼!悪魔!」

(・・・私も一応は女性なんですが)

「もっと優しい言葉を掛けてくれてもええやんか!うぇぇぇぇぇぇ!!」

 

本当に、アリアは困り果てていた。泣いている者の対処など、アリアはした事が無かった。クリスの時は、クリス自身が泣きやんでおり、なおかつ冷静だったから何とかなっただけで、今まさに大泣きしている年上の女性の対処など、アリアには全くの未知だった。

しばらくして、アリアは嘆息してからアカネに背を向け、受付まで歩みを進める。

 

「・・・すみません、ジム戦に勝利したのですが、ジムバッジはどこですか?」

 

アカネは放置し、ジムバッジだけ受け取って帰路に着くアリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この2人は、銀版で一番苦戦したトレーナーの内の2人です。ほら、銀版のバクフーンのポーズがカッコいいじゃないですか、ボクって基本伝説のポケモンをゲットするまで御三家ポケモン一体で押し切るタイプですから、バクフーンのレベルがリーグ初挑戦時には60以上だったんですけどね。
炎タイプのポケモン一体だけでこの二人を相手にした時の苦悩、皆さんにはお分かり頂けるかと思います。
さて、ここで少し御知らせがあります。
この小説にはあまり関係の無い事なのですが、俺俺は腕試しにオリジナル小説を執筆する事をこの場を借りて発表させていただきます。
勿論この小説の執筆を遅らせるつもりはありません。
よろしければ皆様からのご意見ご感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSサファイア

いやー、オリジナル小説を書いてみたんですが、なかなか難しいですね。
特にどんなキャラが喋っているのかが分かるように書こうとすると。
お待たせしました、今回は好きなシーン第一位で有名な2人の登場です!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはギルドの事務所。

 

「はい・・・はい、わかりました」

 

そう言って、ターコイズは受話器を置く。今日は7月3日、遂に決戦の時が来た。

 

「オーキド博士から連絡があったよ、敵がバトルフロンティアに現れたって」

「・・・それでは、出陣の時ですね?」

「うん。それでまずは、ホウエン地方のミナモシティに向かおう」

「ミナモシティ?普通にバトルフロンティアには行かないのか?」

「ミナモシティからフロンティア行きの連絡船で、ホウエン地方の図鑑所有者2人と合流してほしいんだって」

 

図鑑所有者か・・・。ゴールドとクリスといい、思ったよりもその人数は多いみたいだ。ポケモン図鑑なんて、日常を過ごすだけなら耳にしない単語なのにな。

 

「良し、そうと決まれば行くとするか!!」

 

俺たちは事務所の扉に留守の立て札を掛け、その場を後にする。

目指すはホウエン、まだ見ぬ図鑑所有者達が居る連絡船の中。正直未だに実感が湧かない、始めてまだ半年と経っていない会社が、こんな大きな事件を受け持つなんて思ってもみなかった。

そしてこれが、ギルドの今後の足掛かりになる事を、俺たちはまだ知る由もなかった。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

時刻は既に21時を過ぎたころ。

 

「おい、ミナモシティが見えたぞ」

 

ノモセシティを出発して12時間の大移動の末、俺達はポケモンの背に乗りノモセシティを上空から見下ろしていた。正直俺達もポケモン達も体力の限界だ。ここはさっさと連絡船の中で休ませてもらおう。船着き場に降下し、ポケモンをボールに戻す。そして湾に浮かぶ巨大な船を見上げた。

 

「・・・懐かしいですね、タイドリップ号」

「あの時は、アリアが福引きで旅行券当てたから乗れたんだっけ?」

「もう一度、これに乗れるなんて思いもしなかったな。一人5万円以上だぜ?」

 

今思えば、この船が2年前の旅路を繋いだんだよな。そう思うと、なんだか感慨深くなる。

 

「さ、早く乗ろう。この中に図鑑所有者達が居るはずだ」

 

ターコイズは船のチケット3枚を取り出し、俺達を催促する。そのまま船の乗り込み口に向かい、チケットを船員に見せた。

 

「はい、チケットを拝見させていただきました。確かに私共の船のチケットです。ようこそタイドリップ号へ、素敵な船旅をお楽しみください」

 

そんな優雅な旅でもないんだけどな。今から行くのは明らかに戦場だし。

まぁ、そんな愚痴を溢しても仕方ないから言わないけど。

そして乗船タラップを上がり、船の中に入る。内装は2年前とまるで変化が無いように見えた。

 

「ん?どうした、イヴ」

 

突如、イヴが入ったボールが激しく揺れ始める。とりあえずイヴをボールから出してみると、イヴは船の外側の通路を真っ直ぐに走りだした。。

 

「おい、待てよイヴ!!」

 

イヴを追いかけると、そこは船の甲板だった。そこでイヴはある男に走り寄る。白いベレー帽に黒いコートの鋭い眼光の老人。

 

「ゲンジ!?」

 

何故かゲンジがこのタイドリップ号に居やがった!何してんだ、このジジィ?

 

「見覚えのあるグレイシアだと思えば、やはりお前達か。何故ここに居る?」

「そりゃあこっちの台詞だ」

「・・・この船に何か?」

「古い友人がこの船の名誉船長に選ばれたのでな。その祝いに来ただけだ」

「友人?」

 

オーキドといいキワメといい、このジジィの友好関係は妙に広い。だから今更驚く事もないが、一体どういう経緯で知り合ったのかは気になる。

 

「お前達は仕事の依頼か?」

「あぁ、まぁな」

 

詳しい事は教えない。こういう仕事は依頼人との信頼を築く為に守秘義務というのがある。

 

「では、私はここで帰らせてもらおう」

「用はもう終わったんですか?」

「あぁ、元々少し話すだけのつもりだったからな」

 

そう言ってゲンジはボールからサザンドラを繰り出し、その背に飛び乗る。ゲンジを乗せたサザンドラは翼を羽ばたかせ、そのまま空の彼方へ飛んで行った。

 

「さて、それじゃあ図鑑所有者と合流しなきゃね」

「・・・そう言えば、協力者の方は私達の顔を知っているのですか?」

「あぁ、それならオーキド博士が向こうに連絡してくれたはずだよ。こっちにも顔写真を送ってくれてね、ほらこれが―――――」

 

そう言って、ターコイズがポケギアを取り出した瞬間

 

「Beautiful!!」

 

そんな声と共に変わった形の白い帽子を被った男がこちらに向かってきた。より正確に言えば、俺のイヴの方に向かって。

 

「凄く綺麗なグレイシアですね!この子はどなたのポケモンですか!?」

「俺のだけど・・・」

「Wow!あなたのグレイシアですか!?どうです?このグレイシアと共にポケモンコンテストに出てはみませんか?このグレイシアなら、美しさ部門だけでなく可愛さ部門でも」

 

現れるなり、いきなりのマシンガントークを披露する少年。これには当事者である俺や、普段は物怖じしないイヴも若干引いている。

 

「えーっと、もしかして君が」

「あー!こげな所で何油売っとるとねルビー!!」

 

ターコイズの声を遮り、今度は青いバンダナの少女が駆け寄って来た。訛り全開の活発的で、健康的な肢体の美少女だ。

 

「相変わらずうるさいなー君は。もう少し落ち着いた行動を取れないの?」

「うるさいとは何ね!?そっちこそいきなり〝びゅーてぃふる〟とか言ってそこの人のポケモンに言いよっとッたやろーが!!」

「そっちこそ、今まさにうるさい事に気づいてるの?これだから野生児は」

 

ヤバい、何か状況に置いてかれた。気が付いたらさも当然の様に喧嘩を始める見知らぬ二人。だがその喧嘩には激しさはあっても険悪さは感じられない。

 

「えーっと、ちょっと良いかな?」

「はい、何でしょう?」

「もしかして、君達がホウエン地方の図鑑所有者?」

「そうったい!」

 

協力者って、こいつらかよ!?何かいきなり不安になって来たんだけど・・・!

 

「という事は、あなた達がボク達に協力してくれる・・・」

「あ、はじめまして。トレーナー派遣会社社長のターコイズ、よろしくね」

「同じく、構成員のガーネットだ」

「・・・アリアです」

「ボクはルビー、よろしくお願いします」

「サファイアったい」

 

一通りの自己紹介を済ませる。早速だが、本題に移らなければ。

 

「とりあえず眠いから、詳しい事はまた明日話そうか」

「「えぇっ!?」」

「いや、俺達って、シンオウからここまでぶっ通しで飛んで来たから眠いの何の。正直、こんなぼやけた頭でちゃんとした説明が出来るとは思えねーんだわ」

「・・・すぴー」

「ほら見ろ、アリアが立ったまま寝てやがる」

「いや、ほんとゴメンね。また明日、この甲板で会おう」

 

俺はアリアを担いで、指定された寝室へと移動した。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目を覚ました俺達はルビーとサファイアを交えて状況の説明を行っていた。

 

「という訳だ。何か質問は?」

「ジラーチという存在も含めてですけど、人が石になるなんて聞いた事ないですね」

「・・・私達も眉唾ものでしたが、現にオーキド博士自ら我々に依頼してきました。嘘をつくのなら、もっとマシな嘘があるでしょう」

 

その眉唾ものの話を聞いてもかなり冷静さを保って居られるあたり、ルビーは状況を冷静に見れる力がある事が分かる。この年でその力を身につける者は極稀だろう。

 

「そう言えば、いつになったらバトルフロンティアに着くと?」

「明日の朝には到着するよ」

 

今日は7月4日、つまり7月5日の朝に到着すると言う訳だ。敵の姿が確認されて2日目、ジラーチは既に敵の手に落ちた、なんてオチじゃ無けりゃあいいけど。

 

「て言うか、ここから飛んで行ったら駄目なのか?」

「ギルドの方々は大丈夫やろーけど」

「ボク達はこの船の行事にも用がありますから」

「・・・用事?」

「実は明日の朝に、この船で結婚式があるんですよ。ホウエン中の人が大変お世話になったお二人の結婚式なだけに、是非参加してくれと各方面の人に言われてまして。ボク自身もその人達にお世話になりましたから参加しておきたいんですよ」

「あー、もしかして去年の災害の貢献者の人?」

 

1年ほど前、ここホウエン地方で歴史的大災害が発生したと世界中から注目を浴びていた時期があった。ホウエン地方に伝わる伝説のポケモンが暴れ回ったからだと噂されているが、ポケモン協会はそれ以上の情報を世間に開示せず、あの災害は過去の物となりつつあった。

 

「お察しの通りです」

「まぁ、そういう事情があるなら仕方ないかな。既にバトルフロンティアには、オーキド博士が送り込んだ図鑑所有者が居るから、何とかなると思うし」

「・・・定時連絡もありますからね」

「つまり、今日この日ばかりは完全にオフって事だな」

 

せっかくの豪華客船だから、のんびりとさせて貰おうか。ここの料理うまかったしな。

 

「そんなら、誰かバトルばするったい!」

「・・・バトルですか?」

「父ちゃんから聞いとると、ギルドの人はえろう強い方ばっかりやって。休んどったら腕が鈍るけん、手合わせお願いするったい!」

 

なるほど、確かに一理ある。だったらここは―――――

 

「よしわかった。だったらまずはこのターコイズを倒してみろ」

「え?僕なの?」

「・・・そうですね、ターコイズを倒す事が出来たら相手をします」

「あのー、一応僕が社長だよね?何でそんな『奴は我々の中では最弱の男』みたいな感じになってるの?別にガーネットやアリアが戦っても良いんじゃ・・・・」

「ここ最近、ジム仕事とかがあってお前殆どバトルしてなかったろ」

「・・・さらなる戦いに備え、準備運動がてらにバトルをしてみては如何でしょう」

「ガーネット、アリア・・・・・・・・・・・・・・本音は?」

「有給よこせ」

「・・・勿論さっき言った事は事実ですが」

「はぁ、分かったよ。それじゃあバトル施設に向かおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、ターコイズさん対サファイアのポケモンバトルを開始します。使用ポケモンは2対2、どちらかのポケモンが2体とも戦闘不能になったらバトル終了です」

 

そんなルビーの宣言と共にトレーナーズサークルに入るターコイズとサファイア。耐久力ではなく、防御能力に特化したターコイズに、サファイアはどう戦うのか見ものだな。

 

「行くったい、ちゃも!」

「出番だよ、ナナリー!」

 

2人は同時にポケモンを繰り出す。ソーナノを繰り出したターコイズに対し、サファイアが繰り出したのは鳥を彷彿とさせる人型ポケモン《バシャーモ》だ。

 

「この戦い、どう見る?」

「サファイアのバシャーモは強烈な炎技と、豊富な格闘技を併せ持つ一体です。幾ら相手がエスパータイプでも、リーチに差がありますし、初見ではサファイアの方が有利に見えますね」

 

初見では、という所を強調するルビー。ターコイズが何を仕掛けてくるのか分からないが、まったく油断せずにソーナノを見据えている。

それは相対するサファイアも同じだ。初めはこいつらで大丈夫なのかと思ったが、流石はオーキドが推薦するトレーナーといったところか。

何もし掛けないターコイズと、油断無くソーナノを見据えるサファイア。それ故にバトルは一向に進まない。当然と言えば当然である。ソーナノは後の先のみに特化されたカウンターの達人。自分から仕掛けることなどないのだ。それを本能で感じ取っているのか、サファイアも動けない状態だ。

 

「くっ!ちゃも、〝かえんほうしゃ〟!」

「ナナリー〝ミラーコート〟!」

 

牽制に放たれた強烈な炎が、鏡の様な障壁によって倍の威力で撥ね返される!それに対しバシャーモは前方、つまりソーナノの方に向かって大きく跳んだ!

狙いは〝ミラーコート〟を発動する事によって生まれた隙、その一瞬をサファイアとバシャーモは見逃さなかった。

 

「〝ブレイズキック〟!!」

 

灼熱の炎を纏った蹴りがソーナノの上空から放たれる。普通のポケモンなら、直撃間違い無しのタイミングだろう。だがサファイアは、いやここに居る全員が一つ読み間違いをしていた。

 

「〝カウンター〟!!」

 

ソーナノは隙なぞ与えていなかった。ソーナノは攻撃の間を縫う様にして突撃し、バシャーモの腹に捩り込む!自身の攻撃の勢いも加算された一撃で、バシャーモは戦闘不能に陥った。

 

「強い・・・!ソーナノを使うトレーナーは今まで見た事がありませんでしたが、まさかこれほどまでに強いとは・・・!」

 

想像以上の強さだったからか、ルビーは少なからず驚いていた。正直な話、俺やアリア、ゴールドやクリスですらあのソーナノには手を焼いた物だ。

公式の一対一において、これほど強力なポケモンはなかなか居ないだろう。だがそんなソーナノにも、ある決定的な弱点がある。

一つは自分から攻撃できないという事。もう一つは――――――

 

「ふぁどど!!」

 

次に繰り出されたのは長い鼻と牙を持つ四足歩行のポケモン《ドンファン》だ。

 

「これならどうったい!〝がんせきふうじ〟!!」

「っ!?しまった!」

 

無数の岩がソーナノの動きを封じる様に落下する!サファイア、早速勘づきやがったか!

 

「上手くいったとね、ふぁどど!続けていくったい、〝じしん〟!」

 

続いては地面に振動を与え、ソーナノにダメージを与える。野生児とはまさにこの事か、考え付いた事を真っ先に実行する行動力は流石といえる!

 

「〝カウンター〟は相手の物理技を倍の威力にして返す強力な技。でもその技自体は相手に接近して居なければ当てられない。それが〝カウンター〟の最大の弱点という訳ですね?」

「そう、主に岩タイプに技の中には遠距離からの物理技が多く存在している。特殊技なら〝ミラーコート〟で撥ね返せばいいが、物理技は撥ね返せない」

「・・・攻撃、防御をカウンター技のみで行うソーナノの最大の弱点です」

 

だがその考えはドツボ。ソーナノの真の恐ろしさはここから始める。

 

「これで止めったい!〝ストーンエッジ〟!!」

 

ドンファンから放たれた岩の刃がソーナノを抉り、戦闘不能に追いやる。この時点では1対1、互角だ。そう、この時点ではだが。

 

「ふぁどど!?どうしたと!?」

 

ソーナノが戦闘不能になるのと同時に、ドンファンも戦闘不能となって地面に横たわる。完全にノーダメージだったドンファンがいきなり倒れて、サファイアは何が起こったか分からないだろう。

 

「まさか、〝みちづれ〟ですか?」

「・・・正解です。」

 

自分が戦闘不能となるのと同時に、相手も戦闘不能にする技〝みちづれ〟。この手の技は掛けられても手持ちを交代させる事で効力を消す事が出来るが、相手の戦闘離脱を防ぐソーナノの特性〝かげふみ〟がターコイズの戦法の最大限の効果を引き出す。

故に、ターコイズのソーナノは相手の手持ちを確実に一体倒す事が出来るんだ。

 

「はぁ~。清々しく負けたったい。とんでもなく強かお人ったい」

「いや、そんな事はないよ。サファイアちゃんもすぐにナナリーの弱点に気付いたし」

 

勝負に負けて落ち込んだ様子のサファイアに、ターコイズはフォローの言葉を掛ける。今回ばかりはターコイズが一枚上手だったな。

 

「やっぱり社長さんってゆーことは、ガーネットさんやアリアさんより強いと?」

「アホぬかせ!俺はああいうまどろっこしいのが嫌いなんだよ!」

「・・・とてつもなく心外です」

「そんな、2人してそこまで言わなくても・・・!」

 

まったく、戦ってもいないのに強さの順番を決められるなんて、何て理不尽な世の中だ。

 

「・・・しかし、出来れば戦いたくない相手ではありますね」

「まぁ、確かにな」

 

手で顔を覆い隠して、さめざめとすすり泣くターコイズに聞こえない様に、俺とアリアは小さな声で呟いた。このまま負けてると思われるのが癪だと言うのが半分と、俺達に勝てない様じゃ社長交代だと思うのが半分。そんな気持ちが、俺の中に去来していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サファイアの口調が難しい・・・!何度単行本を読み返した事か・・・!
ソーナノ無双マジ半端じゃない。確実にポケモンを一体倒せるこの力を、今後どうやって勝敗バランスをとるかが悩みますね。
後、情報を仕入れる為にウィキでポケスペを調べてみると、とんでもない新事実が発覚していました。なんと、原作4章以降の図鑑所有者全員に代名詞が付いているではありませんか!!
これはガーネット達にも何とか代名詞を付けなくてはなりませんね!このバトルフロンティア編終了までに!
それでは皆様のご意見ご感想お待ちしております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホウエン図鑑所有者と、加速する絶望

遂に、あの3人が集結します!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがバトルフロンティアか・・・。かなり広いな」

 

翌朝、タイドリップ号を降りた俺達5人は入場ゲートからフロンティアの敷地内に入り込む。十数キロはあるであろう敷地と、様々なバトル施設とホテルはまさにポケモンバトルの聖地だ。

 

「それにしても、ルビー君もサファイアちゃんも凄い人を師事していたんだね」

「1年前に、色々ありましてね」

「・・・ホウエン地方の実力者が結婚式に来るとは聞いてましたけど、まさかチャンピオンとジムリーダー自ら来るとは思いませんでしたよ」

 

被災地住民の誘導避難に大きく貢献した新郎新婦を祝いに来たのは、驚くべき事に現ホウエンリーグチャンピオンのミクリと、ホウエンのジムリーダーを取り仕切るナギだというのだから驚かせられる。それもその二人の弟子がルビーとサファイアだと言う。

 

「少し変わった人だったけど、優しそうだったね」

「あぁ、俺達の師匠とはえらい違いだ。今すぐにでも交換したいぜ」

「えぇー?でもガーネットさん達のお師匠様はあの四天王のゲンジさんなんやろ?そげん凄か人を師事しとるんやったら、羨ましかよ」

「・・・だったら本当に交換してみますか?死を覚悟できるのならばですが」

「一体何があったんですか?」

 

そんな会話をしながら俺達はフロンティアの施設の一つ、バトルドームへと足を運んでいた。オーキドからの報告によると、そこにはエメラルドという名前のホウエン地方の図鑑所有者がバトルドームに挑戦しているとのことらしい。

 

「でも、そのエメラルド君ってかなり難しい性格らしいけど、大丈夫なの?」

「今回の仕事、かなり息巻いてるらしいぞ。そう言う奴って、かなり意固地だからな」

「色々作戦を考えてはいるので何とかやってみます」

 

まぁ、こういう事は年の近い者同士でやった方が効率的だろうし、ここはルビーとサファイアに任せておこうかね。

 

「ところで、彼にはどうやって会えばいいんだい?サファイア、顔とか知ってるの?」

「知らんたい」

「・・・私達にも、名前や性格以外の情報は無いので」

「でも父ちゃんが言うとった。ポケモン図鑑には[共鳴音]ちゅうもんがあると」

「共鳴音?何だそりゃ?」

「同じ機種の図鑑が正しい所有者の元にあって3機集まった時、図鑑同士がお互いの存在ば感じ取って、音ば鳴らすったい」

 

そしてバトルドームの前まで来た、その瞬間――――――――

 

―――――ピピピピピピピピピピピピ

 

ルビーとサファイアが持つ図鑑から、そんな音が鳴り始めた。

 

「・・・もしかして、これが共鳴音ですか?」

「みたいやね」

「どっから鳴ってるんだ?」

「間違い無くこの中(ドーム)に居るってことだよね?」

「うん!・・・あれ?でもドームの中じゃなかよ」

 

サファイアがドームの入口からドームの外壁へと図鑑を向けた時、図鑑から鳴り響く音が更に大きくなった。つまり、件の図鑑所有者はこの外壁沿いに居ると言う事だ。

 

「こっちみたいだね」

 

そして俺達はドームの外壁に沿って歩き出す。歩みを進めるたびに大きくなる共鳴音。間違い無く、こっちに3人目の図鑑所有者が居る。

 

「あ!虹だ!」

「綺麗かねー」

 

俺達の上空に現れる七色の光の帯。でもおかしいな。昨日今日と雨は降っていないのに。上から水でも撒いてんのか?そう思って上を見上げてみると――――――

 

『『『@か@か@pかg@ぱkg@じゃg!!!!????』』』

 

信じられない光景に、俺達は声にならない叫び声を上げる。

鋭利な葉がびっしりと生えた尾を持つ緑色の体のポケモン《ジュカイン》が呆れた表情で傍らに立つ金髪三日月頭の少年を見ていた。恐らくジュカインのトレーナーなのだろうが、その少年がとんでもない奇行に走ってやがる。

奴の股間から放物線を描き、2階のベランダから地面に落下する液体。それが虹を作り上げている訳だが、こんなに嫌な虹は初めてみた。

子供と少女と写真家の夢をぶち壊しながらも、あの威風堂々とした表情と佇まい。なに?なんなの、あの新手の小便小僧?

 

「さっきからうっさいなー。何が鳴ってるんだ?こっちから聞こえるぞ?」

『『『うあぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!?』』』

 

汚水を股間から撒き散らしながら、こっちを振り向く小便三日月小僧。って、冗談じゃねぇ!用を足している時に体の向きを変えるなんて!!

 

「こっち向くんじゃなか~~!!」

「逃げろお前らぁ!!被弾するぞぉ!!」

「何だ何だ!?」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」

「総員、退避!退避ーーーー!!」

 

一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化すバトルドーム周辺。なんてこった!いきなりこんな試練が待ち受けているなんて、これもバトルフロンティアに潜む敵の仕業か!?

 

「・・・・っ!!」

 

そんな中、アリアは鞄から改造パチンコを取り出し、ボングリをセットする。そして奴の〝ハイドロポンプ〟(小便撒き散らし)が止むのと同時に―――――――――

 

「・・・発射」

「パゥッッ!!??」

 

凶悪な威力のパチンコから放たれた固いボングリが、小便小僧の股間の急所に当たった!効果は抜群!一瞬、男3人の下腹部がキュンっ、となったのは気のせいではないだろう。

そして股間を押さえ、痙攣しながらその場に倒れ伏す小便小僧。隣に居たジュカインが何にもしなかったのは、自業自得と判断したからなのか・・・。

 

「・・・警察、もしくは警備員に連絡しましょう。ワイセツ物陳列罪です」

「カッコよか・・・」

「Niceですよ、アリアさん」

「ヤベェ・・・惚れ直しそう」

「・・・さすがアリア、歪み無いね・・・」

 

俺達は小便小僧を無視して、アリアに尊敬の眼差しを向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた達は誰だ!?何しに来た!?」

「お前はまず、股間から手ぇ離せよ」

 

アリアのパチンコのダメージが抜けないのか、膝を地面に着け、股間を両手で押さえ、顔中に脂汗を浮かばせながらこちらを睨みつける三日月小便小僧、もといエメラルド。その姿は哀れを通り越して滑稽にすら見えてくる。

 

「・・・何の恥かしげもなく、人が通る通路に向かって2階から放尿をしておきながら良くそんなに堂々としていられますね。あなたはトイレに行くという概念が無いんですか?」

「珍しいね、アリアがこんなにキツイ言葉を投げかけるなんて」

「・・・スズナからは、変質者には容赦するなと言われていますので」

「今回限りはグッジョブだ、スズナ」

「ねー、本当に滴とか掛らなかった?背中とか濡れてないよね?良く見てよ~」

「せからしか!!今気にする事じゃなかでしょう!!」

「・・・あのさ、もう一回聞くよ?あんた達は誰?何し来た?」

 

股間の痛みが引いたのか、立ちあがって再度俺達に質問をぶつけるエメラルド。俺達は気を取り直して、エメラルドと対面する。

 

「キミに会いに来たのさ、エメラルド。ホウエンポケモン図鑑、第3の所有者の君にね」

 

自分の名前を知っていたからか、それともポケモン図鑑という単語に反応したからなのか、エメラルドは訝しげな表情を浮かべる。

 

「あぁ、自己紹介が遅れたね。僕はトレーナー派遣会社ギルドの社長のターコイズ」

「同じく、構成員のガーネットだ」

「・・・アリアです」

「ボクはルビー」

「あたしはサファイアったい」

 

とりあえず一通りの自己紹介は済ませる。それはどっちでもいいんだが――――

 

(・・・なぜ、あのジュカインはこちらを威嚇してるのでしょう?)

(どっちかってーと、ルビーを威嚇してるような気が・・・)

(ただならない睨み方だよね、あれ。親の仇でも見てる目だよ)

 

ルビーとあのジュカインの間に、一体何があったんだろうか?

 

「キミと同じく、ホウエン・ポケモン図鑑所有者さ」

「いわば仲間ったい。ジラーチば敵から守り、保護するいうあんたの助っ人に来たったい」

「仲間?助っ人?それって誰に頼まれたのさ?クリスタルさん?オーキド博士?」

 

俺とアリア、ターコイズは互いの顔を合わせる。こいつ、何も聞かされてないのか?報告を受けているものだとばかり思ってたんだけどな。後でクリスにでも確認してみるか。

 

「どっちでもなかよ」

「ボク達を送り出したのはオダマキ博士さ」

「あー、あのオジさんかぁ。ま、いずれにしろ、俺の言いたい事は一つだよ」

 

「助っ人なんていらない!ジラーチ保護はオレが引き受けた仕事だ!」

 

それだけ言って、エメラルドはドームへと走り去っていく。傍らに居たジュカインも一緒だ。にしても、可愛くないガキだな、おい。

 

「あ!待ってくれよ、エメラルド!!」

 

走り去るエメラルドを追いかける為、ルビーとサファイアも走るが―――――

 

「っ!ガーネット、アリア!!」

「あいよ!」

「・・・了解」

 

以心伝心。ターコイズの指示を察した俺とアリアは、エメラルドを追い掛けるルビーとサファイアの襟を掴み、その場に留める。

その2人の眼前を通り過ぎる鋼の尾。ジュカインの〝アイアンテール〟だ。攻撃を避けられたジュカインは驚いた表情を浮かべるが、すぐにエメラルドを後を追って行った。

 

「ふ~、危なかったぁ。なかなかの切り返しだ」

「感心してる場合じゃなかよ!!はよ追っかけんと!!」

「いいよ。どうせ彼、バトルドームでトーナメント中だろ?ボク等も出る訳だし、そんなに慌てなくたって・・・・・ん?」

「どぎゃんしたと?」

「やっぱり何か臭うよ~。早く着替えたいんだけど」

「あんな~~!!男が細かかこと!!命に関わる訳でもなかとろうに!!」

「そりゃ、いつもポケモンのウ〇チ鼻に付けてるキミは平気だろうさ」

「え!?うそ、マジで!?」

「何時もじゃなか!!ガーネットさんも信じんといて!!」

「そりゃ、今日は付いて無いけど」

「まぁまぁ、こういうのはエチケットとか衛生とかの問題だし、サファイアちゃんも抑えて。ほら、ルビー君も着替えておいでよ」

 

何か、ルビーとサファイアを見てるとゴールドとクリスを思い出すんだよな。喧嘩の方向性は違うけど、似た者コンビというか。

 

「・・・こんな調子で、本当に大丈夫でしょうか?」

「俺も不安になって来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トーナメント形式の勝ち残り戦(サバイバル)、バトルドーム!!勝ち上がる者!敗退する者!明暗は瞬時に分かれていきます!!』

 

会場内に響き渡る実況アナウンスと雷鳴の如き歓声。完全に意固地な態度をとっているエメラルドと和解するため、ルビーとサファイアはトーナメントに出場していた。

なんでも、[トーナメントに出場し、ドームの「挑戦者同士」という事で仲良くなる]作戦なんて、長ったらしいものらしいが、ここはあの2人に任せておこう。

 

「さて、僕らは協力体制をとっているフロンティアブレーンの人たちを探しに行こう」

「・・・少し気になったのですが、フロンティアブレーンとは一体何ですか?」

「このバトルフロンティアの7つの施設に君臨する実力派トレーナーの事だ。その実力はジムリーダーから四天王にも匹敵するらしいぞ」

 

それほどの実力者ならば、ジラーチや敵の正体についても何か知っているのかもしれない。幸いにも、貰ったパンフレットにブレーンの顔写真が写っていた為、なんとか探せそうだ。

 

「今バトル中のブレーン、ヒースさんを除いた6人を探さなきゃならないんだけど」

「まさか、このドームの中に居るのか?」

 

このバトルドームは少なく見積もっても2万以上の観客がぎっしり入っている。その中でたった6人を見つけるのは至難の業だ。

 

「・・・しかし、このドームに居るとは限らないのでは?」

「いや、居るとしたらこのドームの中だよ」

「なんでだ?」

「ジラーチを狙う敵の存在を、ブレーン達も知っているからさ。何処に敵が潜んでいるか分からない時に、これだけの観客を引き入れたという事は、当然その観客の安全はブレーン達が守ると考えるのが自然。そして、ブレーン達が居る場所は大体見当が付いてる」

「マジか?一体どこに居るんだよ?」

「このドームの中で、観客やドームの様子を一目で分かる場所、つまり客席最上階の通路やそれ以上に高い場所さ」

「・・・・・・もしかして、あれですか?」

 

アリアが指を指した最上階の通路、そこを移動する6人の男女。パンフレットと見合わせてみると、間違い無い!あれがフロンティアブレーンだ!

 

「お手柄だアリア!!」

「すぐに追いかけよう!!」

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

移動するブレーン達を追い掛けていると、トーナメントは決勝戦まで進んでいた。対戦相手はエメラルドVSヒース。ルビー達の作戦がうまくいったか気になるが、今はブレーンの方だ。

 

「・・・居ました」

 

ターコイズが予想した通り、今は5人だがブレーン達はドームの様子が一目で分かる最上階のバルコニーの部分に居た。恐らく、正規オープンしたら監視の為に使われる予定だったのだろう。

 

「あのー、フロンティアブレーンの方々ですか?」

「む?キミ達は?」

 

ターコイズの呼び掛けに反応したのは、ベレー帽を被った男。ブレーンの一人であるダツラだ。知識を司るブレーンだそうだが、今はどうでもいい。

 

「僕達、オーキド博士の依頼を受けてジラーチ保護に来た者ですけど」

「何?オーキド博士の?」

「はい。こちらが依頼書です」

 

ターコイズがブレーン達から信頼を得る為に、オーキド博士からの依頼書をダツラに見せる。この事は、オーキドも前もって承認済みだ。

 

「確かに、このサインはオーキド博士のものだ」

「自己紹介が遅れました。トレーナー派遣会社ギルドの社長のターコイズです。で、こっちが構成員のガーネットとアリアです」

「トレーナー派遣会社ギルド?聞いたこと無いな」

「まぁ、シンオウ地方で活動してるからな。始めたのも2か月前だし」

「・・・・・分かった。キミ達の言葉を信じよう」

 

一応納得してくれたらしい。それは他の4人も一緒みたいだ。

 

「それだっらダツラさん、さっき言ってた[敵よりも先にジラーチと再会する方法]といのも教えといた方がいいんじゃないの?」

「・・・そのような方法があるのですか?」

 

丈の短い和服に身を包んだ女性、フロンティアブレーンのコゴミの言葉に、俺達3人は驚く。そんな方法があるのなら、すぐに聞いておきたい。

 

「アタシも気になるわね。教えてくれないの?ダツラ」

「いや、早く伝えるべきだったな。これを見てくれ」

 

黒髪のブレーン、アザミの言葉に応じ、ダツラはモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出す。現れたのは尻尾の先が筆の形をした3体のポケモン《ドーブル》だ。

 

「オレが捕まえた野生の3体だ。何処にいたと思う?」

「アトリエの洞窟よね」

「アトリエの洞窟・・・確か、ジラーチと最初に接触した場所でしたね」

「でもその時は、鎧を着た謎の敵に捕獲を阻まれたんだったな」

「・・・確か、ガイルと名乗ったそうですね」

「その通り。皆が一昨日ガイルと戦ったという現場に、遅ればせながらオレも行ってみた。あの場での戦いで使われた殆どがファクトリーから盗まれたポケモンだと言うが、このドーブル達だけはガイルの息が掛っていない傍観者だったという訳だ」

 

バトルファクトリーからレンタルポケモンが盗まれたというのも、俺達に報告が上がっているが、なるほど、元々野生だったこいつらは操りようが無いという事か。報告によると、盗まれていたポケモン達はガイルの指示に従ったというか、苦しんで暴れていただけらしいからな。

 

「そしてドーブル達には〝スケッチ〟という能力がある。見た技を〝スケッチ〟して、そっくりそのまま自分のものすると言う能力が。数十匹はいたであろうドーブルの群れの中で、[ジラーチの技]を〝スケッチ〟したドーブルがいたんじゃないか?」

「なるほど!それで調べた結果、この3体のドーブルだと言う訳ですね!?」

「じゃあ、このドーブル達によってジラーチの技を見れるってことね」

「そうだ、今から見せよう。ドーブル〝ねがいごと〟」

 

ダツラが指示を出すと、ドーブル達から美しい光が発せられる。確かに、こんな技は他に見た事が無い。幾らか劣化しているだろうが、恐らく本物と大差ないだろう。

 

「オレは本物のジラーチを見た事が無いが、もしジラーチが〝ねがいごと〟を使ったとしたなら、今見たような光が現れるはずだ。今も多くの監視カメラが各所を監視していて、光が現れればすぐに連絡が入る様にしている!オレ達も昼夜を問わず、この光を見つけるのに全力を掛けよう!」

 

その場の全員が頷くと、歓声が爆発したように大きくなる。中を見てみると、決勝戦の決着が付いたようだ。・・・・・挑戦者の敗北という形で。

 

『エメラルド選手のメタグロス戦闘不能!選んだ2体が共に戦闘不能!よってこの決勝戦、フロンティアブレーン・ドームスーパースター、ヒースの勝利です!!』

 

ここからは聞こえないが、ヒースがエメラルドに何かを話し掛けていると、エメラルドは後ろを向いてその場を後にした。

あの態度は、敗北の悔しさを隠しきれないと言ったところか・・・。

そしてヒースがこちらを向くと―――――――

 

『《ボーマンダ》!!』

 

いきなり青い体に赤い翼のドラゴンポケモン、ボーマンダを繰り出す!その背に乗ったヒースは、客席を沿う様にして上昇し、外へと飛び出した。

 

「どうしたのかしら?パフォーマンスにしては変よ?」

「あの慌て方、何かあったんじゃないのか?」

 

その時、ピポッという短い音が鳴る。ダツラが持っていた通信機の様だ。

 

『発見!例の光です!』

「見つかったのか!?」

「もしかして、ヒースさんはそれを・・・!」

「何処だ!!?」

『場所・・・・バトルドームの屋根の上!!』

「な!?この上!?」

「ダツラさん!!屋根に行く道は!?」

「こっちだ!!」

 

すぐさま屋根に向かう俺達。ヒースのあの慌て方、何か嫌な予感がするぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ!!」

 

階段を駆け上がり、非常口のドアを開ける。

そこにはボーマンダの背に乗ったヒースと、それと対面する全身に甲冑を着こんだ男。そしてその間にある、開かれたモンスターボールに吸い込まれている見た事もないポケモンの姿!!もしかして、あれがジラーチか!?

 

「やっぱりジラーチ!!」

「という事は、あいつがガイル!?」

「見て!ボールが、もう放たれている!!」

「不味い!あのボールに吸い込まれたら終わりだ!!」

「・・・っ!させません」

 

アリアが改造パチンコにボングリをセットし、ボールに標準を合わせた瞬間―――

 

「スターミー〝ハイドロポンプ〟!!」

 

いきなり現れたスターミーがアリアに水砲を浴びせ、数メートルほど吹き飛ばした!

 

「アリア!!」

「・・・っ。問題、ありません。それより、ジラーチは・・・?」

 

何とか起き上がったアリアから視線を戻し、ガイルとジラーチの方を見る。すると、あっと言う間にジラーチはボールの中に吸い込まれ、ボールは地面に落ちる。

そして1回、2回と抵抗するように動くと、3回目の揺れでボールは動かなくなった。

それはつまり、ポケモンの捕獲が成功した証・・・・!

 

「やられた・・・!」

 

ガイルはジラーチが入ったボールを拾い―――――――

 

「ジラーチ、つーかまえたー」

 

兜の裂け目から見える目じりを持ち上げ、ボールを俺達に見せつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺俺的には、
ルビーはポケスペ界「ドS 男性部門第1位」
サファイアは「総受け 女性部門第1位」
エメラルドは「総受け 男子部門第1位」
だと思うんですよ。こんな所でも制覇トリオな3人が大好きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。