自称『世界一の女神』と異世界転生〜何もかもが型破り〜 (雪と氷)
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自称『世界一の女神』
ぜひ、ご一読お願いいたします。
自称世界一の女神と異世界転生〜何もかもが型破り〜
「ふうううう寒いいいっ」
冬の真っ只中の一月上旬。
寒々しい風が吹いている田舎のバス停に、俺――佐久間雪広さくまゆきひろは、立っていた。
人は誰もおらず、歩いている人すら見当たらない。
周りは田んぼに囲まれており、それ以外は何もない。空にキラキラ光る太陽様があるくらいだ。
「なんでこんなに寒いんだよ」
確か今日は、氷点下六度だっけか?
久しぶりの外出でこれはきついぞ。
これは、気合い入れて天気予報を見て、寒さ対策してよかったわぁ。
高校が一斉に冬休みに入ってから、初めての外出。いつもパソコンから放たれる微熱と、暖かい暖房の風の充満する自分の部屋しろに篭こもっていた俺には、寒すぎる。これはひきこもりの俺へのあてつけですか?
さらに、周りが田んぼしかないせいか、余計に風通しが良く感じる。
「今日は、待ちに待った『異世界転生物語〜続〜』の発売日だ。この時をどれだけ待ったことか……」
寒さを紛らわすために、本日発売のゲーム『異世界転生物語〜続〜』の内容の想像を膨らませる。
前作は本当に神ゲーだったしな。前回はなんとなくで買ったが、今回はまじでたのしみだわ。『魔法』とか極めてみてぇ!
そんな壮大な妄想をしていると、静まり返っているバス停に、一台のバスが停車した。
「おっと、乗り遅れは勘弁だ。売り切れちまう」
心を躍らせながら俺は、ゲームソフト販売の近くへ行くためバスへと乗った。
**************
「ふう……長い旅だった」
俺はバスから降り、大きく息を吸い込み、はき出した。
それにしても疲れた……
普段運動を全くしないためか、行列に並んでおくだけでも足が悲鳴を上げた。体力なんて概念消えちまえよ……
まぁ、そんな事はどうでもいいがな。
俺には、"これ"があるんだからな。
「俺! 家帰ったらこれを一日中するんだっ」
俺は、無事購入したゲームソフトの外箱を天へと掲げ、空に向けて言い放つ。
これを持っておけば、帰宅するまではもう無敵な気がする。
あれ……これって死亡フラグじゃね?
ゲームせずに死ぬとか嫌だよ……何フラグ立ててんの俺。
勝手に一人ボケツッコミをしながら、俺は家に向け、狭い砂利道じゃりみちを歩き始める。
周りを見渡せば右は田んぼ、左も田んぼの代わり映えのない景色。
二週間ぶりに見たというのに、変わった部分がひとつもない。
いっそここらへんに、ゲームショップでもできればなぁ……
叶うはずもない願いが頭の中に浮かび上がる。
というか、ほんと田んぼしかないよな。引っ越したい……
俺は、一人で故郷の愚痴をいいながら十字の道を右折した。
――その時だった。
体が宙に浮く感覚が俺を襲った。右にどんどん体が傾いていく。何が起こったのか全く分からない。
だが、確かに言えることが一つ…………これはやばい。
――恐怖のあまり目を閉じる。しかし、すぐに頭に激震が走った。
「ぐっっ」
あまりの痛さに声が漏れた。目を開けて、何が起こったのか確認しようとする。
しかし、目の前は自分の血で赤色に染まり、周りは見えない。
「"あれ"は?」
掠れた声でそう嘯くと、俺は手を必死に動かした。
何かを掴んだ感覚があった。おそらく長方形の箱であろう。
「よかった……お前だけでも生きて帰れ……」
最期にカッコイイ台詞が言えてよかった。
こんなひきこもりのニート希望者がこんな事を言うなんてな……
相手はゲームだがな……そう思うと、なんか悲しいな。
段々意識が薄れていくのが分かる。目の前が真っ暗になっていく。
俺は、ゲームの外箱を胸に抱え込み、そっと目を閉じた。
**************
「ん……ん?」
俺は、なんで生きてるの?
がっつり血まみれだった気がするんですが……あれ?
先程までの頭の痛みはもうなかった。
ふとまわりを見渡すと、一面が白色で覆われた銀世界が広がっている。どこまで続いているのかすら分からない白一色。
そこに俺は立っていた。念のため自分の身体を確認するが、血など付いていない。
「え、なに? これって異世界転生しちゃいますよ。的な最高のシチュエーションだったりする?」
長年、異世界転生物のゲームをして来た俺は、そう感じた。
このパターンは、神やなんやらが出てきてチート能力貰って、異世界を無双するヤツだ。
もしそうだったら、俺勝ち組じゃね? そんな期待に心が躍った。
「そうです。あなたは『選ばれしぃぃぃ人』なのです!」
なにかとても強調性を感させる声。
そんな声のする方に視線を向けると、そこには一人の少女が満面の笑みを浮かべ仁王立ちをしていた。
腰のところまで伸びている金髪の髪に、水色のワンピースから出ている美しい肢体。
端正に整った顔立ち。その少女は、どこをとっても美少女だった。
これで性格がデレだったらもう最高だ。
「え、えっとー。……こんにちは。あ、あは」
何してんだよ……俺は。普通は、ここは何処? だろうがぁぁぁ。
なんで挨拶してんだよ……こんなところでコミュ症がでるなんて。
ひきこもり雪広のバカ。
そんな後悔をしているうちに美少女は、
「こんにちは! この『世界一の女神』に選ばれた幸福な雪広くんッ」
そう言った。
あれ……なんかこの美少女、自分を『世界一』と言ってる痛い子系女神なんですけど……
まさかの、デレでもツンデレでもなく、痛い子なんですけど。
いやまだ分からない。これは痛いのではなく、事実かもしれない。
うん、きっとそうだ。そうじゃないと残念すぎる。
「君は、『世界一の女神』なの?」
俺はそう言いつつ、事実であることを願う。事実なら痛い子ではなく、凄い子だからな。
「そうよ。私は――フィータ・ゴッド『世界一の女神』よ! 周りが認めなくても私は何においても『世界一』なんだから。あと私のことはゴッドと呼びなさい」
得意げに即答するフィータ・ゴッドと名乗る美少女。
なんだよ、周りが認めなくてもって……こりゃ自称だめなやつだわ。しかもなんだよ名前がゴッドって、わざとつけただろ。
夢のデレ美少女じゃなかったな……まあ、美少女なだけ良いか。
でも、話の流れ的に俺は、本当に異世界転生をするらしい。
ものすごい美少女に、目が覚めると見覚えのない場所。
これは、異世界しかないだろう。
ん……まて、なら俺はもう死んだのか? 高校生にして不幸な死を遂げたのか!? とはいっても、実感が全くわかない。
「な、なぁ。俺ってもしかして死んだ?」
恐る恐る、女神フィータ・ゴッドに尋ねた。
「くっっ、ウァハハハフフ」
女神から返ってきたのは、質問に対する返答ではなくまるで人を馬鹿にする様な嘲笑だった。なぜ死んだのか聞いただけで笑われなけりゃいけないんだよ……
まずなんで嘲笑してるんだよ。
「な、なんだよ?」
少し気色ばんだ様子で俺は、女神に言った。
「雪広、あんたの死に方は本当に笑ったわ」
女神は、いかにも吹き出しそうな表情で俺を指さしながら、笑いをこらえている。
なんだ?こいつは人の死をそんなに笑う無礼な『自称世界一のクソ女神』なんですか?あと人に向けて、指をさすなよ。
「人の死を笑うなんて、無礼なやつだな。なあ『自称世界一のクソ女神』さん」
顔を顰しかめ、女神を馬鹿にするように気をつけながら言い返す。
「なら、教えてあげるわ。あんたの残念すぎる最期をね…………あんたは、田舎の十字路を右に曲がる時に足を踏外して、田んぼのコンクリートで頭を打って死んだのよ――思い出すだけで笑えてくるわ、ウァハハハフフ」
笑いを堪えきれずに大笑いを始めるフィータ。
「え? 嘘だろ……田んぼの溝で死ぬとかダサすぎるだろ」
目の前で大笑いしている女神をみて怒りが沸き立つが、田んぼの溝で死んだという衝撃の事実で、何も言い返すことが出来ない。
誰かを庇って死んだ名誉の死でもなく、ただの自爆である上に、田舎の田んぼで死亡だ。俺が女神だったら笑い死にする…………
「あぁぁぁ、言わないでくれぇぇ、忘れてくれぇぇ」
俺は、頭を抱えてその場で悲しみの舞を踊る。
「そんなダサすぎる死を遂げたあんたに、いい話があるわ。『異世界』に私と一緒に来なさい!」
「え? お前もついてくんの? あと、その死に方を強調する言い方やめてくんない?」
待てよ、女神もついてくるって事は……チート能力がっぽり貰えちゃうんじゃないか? だって、女『神』だからな。神ってついてるんだから、女でも男でも凄いだろ。
「なにか、特典とかって貰えるのか? 攻撃力最強とか」
期待に胸を膨らませ、目を輝かせながら俺は、フィータに尋ねた。
「そりゃあ特典も何も美少女万能女神パーフェクトめがみがついてくるんだから、特典なんてもんじゃないわよ」
いや、お前は要らねぇ……俺一人でいいからチート能力くれよ。
「というか、なんでお前もいくんだよ?」
女神がわざわざ異世界に行く理由はないはずだ。
と思ったが、あの女神のことだ。どうせ何かある。
「暇だからよ?」
フィータは、真顔でポテトチィプスをバリバリ食べながら、即答する。
暇だったら異世界に行けるって最高すぎるだろ。俺にも分けてくれその力。あと、ポテトチィプスどっから出した。
「暇だからって俺まで巻き込むなよ」
まるで被害者だといわんばかりの口調で、俺は言い放つ。
「なら、このまま永眠する? さぞかし、地獄は楽しいでしょうねぇ」
とてつもなく不吉な笑みを浮かべるフィータ。
地獄行くか、このクソ女神連れて異世界行くか。
この二択ってことか……まあ、地獄は勘弁だし、異世界に行くしかないか。女神が居れば生活とか安定しそうだしな。最悪置いてけば良いし、女神こいつ。
何より、魔法が使いたい。
「魔法とかってあるのか? その『異世界』に。あと言語とかも……」
「あるわよ。回復魔法から暗黒魔法、色んなモノがね。言語なんて適当にポポイと頭に入れてあげる。女神たる私に、感謝しなさい」
よし、魔法はあって、女神が居て生活安定。
そして夢のファンタジー世界。これは、行くしかないか。
問題は……女神こいつくらいだが、有効活用だな。俺を連れていったことを後悔させてやる。
「分かったよ。『異世界』に行く」
決意をし、フィータに言う。死ぬよりは生きるほうがいいしな。
「やった! なら転移を始めるから」
フィータが、そう言うと共に足元に青色の円状魔法陣が現れる。
「うおお、なんか楽しくなってきたぁぁ」
人生初のリアル魔法陣に、俺はテンションが上がりまくりだった。
「転移失敗して、地獄に行ったらごめんね」
笑顔でそう言うフィータ。
いや、それ洒落にならないから。やめようね、転生失敗とか……笑えないから。
――刹那、目の前が真っ白になって行く。
俺は、『異世界』への期待と、あの女神をどうするかという悩みを抱えて、ゆっくりと目を閉じた。
週に2回更新してまいります。
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