Abissale solitudine~海の底に消えた鍵~ (紅 奈々)
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第一楽章 Lio―神谷璃王―
標的1


2017年5月15日
小説の手直し完了。


昼の住民が寝静まって月が南の空を少し過ぎ、真っ暗な夜の街を見下ろしている頃に、それは行われた。

 

ここは、日本某所の港。

停泊している船から、二人の男が姿を表す。

その時を待っていたかの様に、倉庫の陰から一つの影が躍り出た。

月明かりに照らし出された髪は長く、夜の背景に溶け込む様な蒼、顔には黒猫の面を着けている。

月明かりが反射して、てらてらと鈍色に光るクナイを持つ手は闇に居ると白く際立ち、顔が見えなくともそれだけでその人物が美しい事は想像ができた。

 

「ディ……っ、悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)!?」

 

男の1人が狼狽した声を上げる。 もう1人の男は急いで銃を取り出し、悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)に向けて弾丸を放つ。

 

その瞬間、月が雲に隠れ、辺りは闇に覆われた。

悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)と呼ばれた人物は、殺し屋の攻撃をひらりと身一つで避ける。

 

コイツ、雑魚だ。 三流くらいか。

ヤクザ(ジャポネーゼマフィア)は三流が多いな。

そんな事を思いながら悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)はクナイを取り出し、銃弾を撃ってきた男の脳天を目掛けて、投げた。

まるでダーツの矢の様に真っ直ぐの軌道を描いた後、クナイは男の脳天に命中して、男は頭から紅い液体を撒き散らせて崩れ落ちた。 即死だ。

悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)は肩に乗っている普通の鰐よりも明らかにサイズが小さな鰐ーーアリゲータを離す。

アリゲータは小さな目で主人である悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)を見上げてきた。

 

「そいつ、食って良いぞ」

 

初めて出した声は、声変わり前の少年のやや低い声だった。

彼がしゃがんでアリゲータを撫でると、アリゲータはそそくさと今は動かない肉塊となった男に近付いて、それを食べ始めた。

生の人肉を食べる様なグチャッという様な音や骨を砕く様なボキッといったグロテスクで嫌な音を立てながら、アリゲータはまるで美味い物を食べているかの様に満足げな顔でそれを食べる。

 

アリゲータは、彼がとある実験中に召喚してしまった小さな雑食獣で、雑草から樹木や動物は勿論、人間や機械、家、鉄筋コンクリートetc.何でも食べる事が彼の実験で解っている。

人間や動物に関しては、生きていようが死んでいようがお構い無しに食べる様だ。

性格は従順で大人しい且つ標的(ターゲット)に対しては獰猛で凶暴。 法律に目敏い日本では、大層役立つ。

そして、何故か、アリゲータは鰐のクセにキャットフードを好む。

思い当たる理由は一つしかない。 それは、彼が初めてやった餌がキャットフードだったからだ。

 

いつのまにやら、アリゲータは2人目をを完食して、満足そうな顔で彼を見上げていた。

あれ、もう2人を食った? 気付かなかったんだが・・・・・・つーかお前、毎回思うがそんな小っせぇ体で何処に大人二人分入ってんだ?

お前は掌サイズだろうが?

 

アリゲータの体の構造がよく解らない。 と、彼は思う。

初めはあまり好きじゃなかったアリゲータも、飼い慣らしていく内に愛着が出てきたのか、今となっては、いい相棒だ。

彼は手を地面に付けた。 すると、アリゲータはトタトタと彼の手に乗って、腕を伝い、定位置となっている主人の肩にちょこんと乗る。

 

「さて、クライアントん所に行って、報酬貰って、キャットフードでも買いに行こうか」

「クルックー」

 

彼の言葉にアリゲータは彼の首筋に顔を擦り寄せ、肯定するかのように嬉しそうに鳴く。

いや、鰐って鳴いたっけ? オレの記憶じゃ、鰐は鳴かなかった筈だ。

しかも、それは鳩の鳴き声だ。 お前は鰐じゃなかったか?

アリゲータと過ごして3年。 未だにその生態が解らない。 と、彼は首を傾げた。

 

* * * *

 

彼はクライアントの所に報告に行き、報酬を貰って、帰宅した。

彼はとある事情から家を出て、日本で半一人暮しをしている。 だから、殺し屋として報酬を稼いだり、賞金首を捕まえて賞金を貰ったりで金稼ぎをしていた。

今日の報酬はいつもより良かった。 と、彼は思った。

 

今回のクライアントはいつもの常連で、毎回思った以上に報酬をくれるのだが、今回はいつも以上に報酬を弾んでくれた。

ヤクザは払いが良いから、その点では嫌いではない。 人情深い所もあって自分から見れば変人でしかないが、そこもなかなか気に入ってたりもする。

そんな事を思いながら彼はアリゲータをケースに仕舞うと、風呂に入って、寝た。

明日は学校か、面倒くさいな。

いっその事、世界から“学校”なるものが消えてしまえばいいのに。 と、言うか“明日”が来なければいいのにな、と、彼は眠たい意識の中で思う。

だが、どんなに願っても“明日”は必ず来る。 それは、既に午前一時を指す時計の針が“今日”はとっくに“昨日”になり、“明日”が来たのだと言う事を示していた。

 

* * * *

いつの間にか寝落ちしていた彼は、首元にくすぐったさを感じて意識を浮上させる。

閉じた瞼の裏に感じる光に彼は、朝が来たのだと憂鬱を感じる。

眠たい目を擦って薄く目を開けるが、そのぼやけた視界には何も映らない。

気の所為か、と彼はまた眠りに入る。 まだ起きなくても良い時間だ。

 

「ンッ・・・・・・」

 

眠りの闇に落ちようかと言う時に彼はまた、首元でモソモソと何かが蠢くのを感じた。

それは、首全体を這いずり回るかのように蠢いて、その気持ち悪さに彼は寝返りを打つ。 だがそれは、いつまでも纏わり付いてきた。

 

「ゃ・・・・・・擽ったい・・・・・・ってば!」

 

あまりの気持ち悪さに彼が飛び起きてみれば、彼の首が横たわっていたであろう場所にアリゲータが居て、アリゲータは主人である彼を黒豆のような円らな目で見上げている。 その目は、「早くエサを寄越せよ」と訴えかけていた。

毎回思うんだが、どうやってケースから出てきてんだ?

 

昨日は確かにケースに入れて寝た筈だ。

ケースは大きめの金魚の水槽を使っており、天上まではおよそ二十センチ、鰐が脱走しようができない筈である。

アリゲータの脱走は今一番の彼の悩みだ。

それはさておき、彼はアリゲータの好物、キャットフードを紙皿に盛ってアリゲータを机に乗せた。

漸くお待ち兼ねの朝食にアリゲータは待ってましたと言わんばかりに紙皿まで這っていき、キャットフードの山を裾から頬張っていく。

この姿のなんと可愛い事か。 凄く癒やされる。

そう思った所でふと、彼奴のことを思い出した。

それを言ったら彼奴に可哀相なモノを見る目で返されたっけな、と、彼はいつぞやの記憶を思い返す。

彼奴が居なくなって、相当な時間が過ぎたな。 あれからもう、6年が経った。 自分だけが成長し、ここに居るのだと思うと、とても複雑な心境になる。

そんな思いを払拭するように彼は、学校へ行く準備を始めた。



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標的2

あれから学校へ向かって歩いていると目の前にそこそこ大きな建物が見えてきた。

ここからはその建物の敷地だというように門が建っている。ここは、彼―――神谷(こうや)璃王(りお)が通う並盛中。

今は誰もその門を潜る人間は居ない。それもそうであろう。今は授業中である。

璃王が校門を潜った後、「ねぇ」と、声を掛けられた。

声の方を向けば、艶のある漆黒の髪に目つきが悪い黒目の男子生徒が立っていた。肩に学ランを羽織り。その袖には風紀委員会の証、「風紀」の腕章が着けられている。

両手にはトンファーを持っており、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。

メンドイ奴に絡まれた。璃王はその顔に陰鬱な色を見せる。

 

 

「君、今日も遅刻だよ」

 

 

璃王に声を掛けると彼は璃王に近付く。

璃王はその場に立ち止まった。

 

 

「キョウ・・・・・・」

 

 

雲雀恭弥。

並盛最強にして最凶の不良の頂点に君臨する、並盛中学風紀委員長。並盛の不良風紀委員長と言えば、必ず彼の名前が挙がってくる程の有名人だ。

尤も璃王に言わせれば唯の戦闘狂なだけだが。

不良で風紀委員ってどんなだよ。不良の時点で風紀もクソもあるかよ、真面目な不良かよ、と言うのが、璃王の雲雀に対する第一印象だった。

今では互いに気を許しており、信頼しあっている仲だ。少なくとも、クラスメイトよりは。

 

 

「学校は遅刻する為にある」

 

 

「遅刻する理由としてはマイナス点だね。

ま、君だけは遅刻もサボりも許している僕は甘いんだろうね」

 

 

璃王の言葉に雲雀は眉を顰めた。その後でふっと軽く笑う。

変な奴だ、と璃王は思った。

普段はサボっている生徒を見ると直ぐにそのトンファーで「咬み殺しに」行くクセに。

「だから・・・・・・」と、雲雀は続きを言う。

 

 

「いつでも応接室に来なよ、璃王」

 

 

「気が向けば、な」

 

 

やっぱ変な奴だ。璃王は雲雀とそんなやり取りをすると、校舎へ入っていった。

下駄箱を開ければ、水浸しの上履きが入っている。

「またかよ」と璃王は呆れる。犯人は解っているので、水浸しの上履きは無視して傘立てに器用に隠していた替えの上履きを取り出して、それを履くと教室へ向かった。

 

 

廊下を歩いていると、各教室から教師の声が聞こえる。今は授業中だから当然だが。

自分の教室へ着くと、後ろのドアから教室へ入っていった。だが、タイミング悪く黒板に向かっていた教師が振り向いた為、教師と璃王の目が合った。

やば。面倒くせぇことになった、と璃王が思った時、教師の禿げ上がった額に青筋が浮かんだのが見えた。

 

 

「神谷、またお前は!お前もう中二だぞ!?遅刻なんかして恥ずかしいとは思わないのか!

しかも連絡無しで!今まで何をしていたか!!

そんなことで将来どうするんだ、まったく最近の若いモンは弛んどる!もう少し将来のことを考えて勤勉にだな・・・・・・」

 

 

璃王を視界に入れるなり教師は璃王を怒鳴りつけ、延々と説教を垂れる。

それをウゼーと思いつつ璃王は自分の席へ歩く。

璃王の机には無数の小学生並みの落書きとその上に献花がされてあった。

ふうっ、と溜息が零れる。

 

 

「大体、俺がお前の年の頃は暗い中でも懐中電灯で机に向かって必死に勉強してだな・・・・・・」

 

 

そんな話を右から左に流しながら、璃王は「オレが小学生辺りには既に英語なんて日常会話からその応用まで、イギリス人が話す言葉は全部マスターしてましたが何か?」と思う。

璃王は既に帝王学を勉強していた為、中学生で習う程度の知識は既に身についていた。下手したら名門大学まで行ける程の学力を持っている。

なので、璃王にとって学校は「必ず通わないと行けない所」ではない。それでも通っているのは、日本が義務教育だからだ。

 

 

「今の高校は金を積めば馬鹿でも通えるらしいが、そんな親不孝な・・・・・・って、聞いているのか神谷!!」

 

 

璃王が献花されている菊を見ながら、こいつら、菊の花言葉知ってんのか?色によって違うが、高貴、清浄、高潔、僅かな愛、誠実、真実だぞ?

嫌がらせのつもりで添えるなら花言葉調べてから添えろよ、中途半端だな、と璃王が思っていたら、説教を垂れていた教師がいきなり怒鳴ってきた。

教師の話を聞いていなかった璃王が「何か?」と言いたい様な顔で教師を見ると、教師は「もう良い、座れ!」と黒板に向き直った。

璃王の机には、「死ね」や「消えろ」「学校に来るな」等のベタな落書きから、「最低男」「猫背ヤロー」「中二病」などの璃王の人格や外見を否定するような落書きが書いてある。

数えられない程に書いてあるのに加え、油性のマジックで書いてある為、消そうと思っても消えないし、消したり机を取り替えたとしてもまた書かれるのでキリがない。

璃王が席に着くと四方八方から石入りの紙くずや暴言が書かれた紙くず、硝子なんかが投げつけられる。

基本的には避けなくても当たらないが、顔に向かってくるモノは教科書ではたき落とす。

この学校で自分の味方は恭だけ。その恭には現状は話していないが、「味方である」と言うだけでも璃王にとってはいいことだった。

 

 

 

 

そうこうしている間に授業が終わって璃王は保健室へ行く為、教室を出ていた。

廊下を歩いていると、後ろから「おい」と声が掛けられた。

「めんど・・・・・・」と思いながら璃王が振り返るとそこには、茶髪のサイア人と銀色のタコ頭と黒髪の男子が居た。

「ちっ」と舌打ちすれば、サイヤ人が璃王に寄ってくる。

 

 

「お前、また理絵奈ちゃんを泣かせたんだってな!」

 

 

ふーっ、またか。璃王は毎度毎度のお決まり文句に溜息が出る。

三人の後ろを見れば、ピンクのロングヘアーに髪と同じ色の上目遣いの女子生徒が隠れるようにして付いていた。

保坂理絵奈。

璃王が虐めを受けるようになったそもそもの根源だ。自分の事を可愛いと思っているらしく、璃王から見れば相当イタイ人。

そして、サイヤ人ヘアーとタコ頭、黒髪の男子はそんな保坂を「守る」騎士気取りのイタイ連中、と言うのが璃王の認識だ。

沢田綱吉、獄寺隼人、山本武。いつも何かと絡んでくる暇人だ。

 

 

「お前、女子を泣かせるとかサイテーだよな」

 

 

獄寺が突っ掛かってくるが璃王は意に介さず、その場を後にした。

そんな璃王の背中に三人から罵詈雑言が投げられるが、璃王は知ったこっちゃないと無視をする。

それよりも、こいつらの下手な芝居を見ている方が反吐が出る。

そんな事を思いながら璃王は、保健室へ急いだ。



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標的3

「入るぞ」

 

 

璃王は一声掛けるとノックも無しに保健室に入る。

保健室の中には、白衣を着た黒髪に無精髭の男が居た。

養護教諭が男って、この中学以外でそうそうないような気がする。と、璃王は思った。余程人員不足だったんだろうな。

 

 

「よぉ、璃王。今回は珍しく早く来たんだな。

いつもはギリギリで来るか、呼び出さねぇと来ねぇのに」

 

 

璃王の姿を認めると、養護教諭―――――Dr.シャマルが棚を漁りながら璃王に声を掛けてきた。

璃王はソファーに座ると体温計と入室記録を取って、体温を測る。

体温計が鳴って、画面に体温が表示されると璃王はそれを入室記録に書き込む。思った通り、体温が平熱よりも高い。

どうりで今日は特に身が軽く、嗅覚がいつも以上に敏感なわけだ。

 

 

「あぁ、今回は思ったより早く切れそうだったからな」

 

 

実際、璃王の腕にある黒い痣が広がっていて、手首まで差し掛かっていた。

長袖のブラウスを着ているから見えたりはしないが、一応、包帯を貰っておこうか。

そんな事を思っていたら捲り上げた袖の下の痣を見てシャマルが「うわっ」と声を上げた。

 

 

「酷くなってんじゃねぇか・・・・・・何だ?今回もまた、無茶振りしたんだろ。

どうせ、「ザコがあまりにもしつこいから」とかつって。

お前、自分の体のこと少しは解ってるか?」

 

 

シャマルは持ってきた紙コップを璃王に手渡しながら呆れた様に言った。

それを受け取って、中の透明な液体薬を一気に飲み干すと、口の中に広がる苦みに璃王は顔を顰めた。

相変わらず、不味い。昔、「不味い、もう一杯」って青汁を飲んだ後で白髪のおじいさんが言う青汁の宣伝があって、それから一時期「不味い、もう一杯」という言葉が流行ったが、こんな薬、もう一杯もしたくねぇわ、と璃王は思う。

そんな事を思っていると、シャマルが袖を捲り上げている方の二の腕にゴムの管を巻き付けて肘の裏を叩く。

すると、青黒い血管が浮き出てきた。

 

 

 

「解ってる。だが今回は、中々骨のある奴が居たからな。まぁ、本気を出したオレの相手じゃなかったけど。

たまに使って無いと暴走するんだよ・・・・・・っつっ」

 

 

璃王が腕から目を逸らした時に肘の裏にちょっとした痛みが走って、璃王は顔を顰めた。

その様子を見て、シャマルがからかう様に璃王に言う。

 

 

「お前、相変わらず注射はダメなんだな、ガキん時から。

もう注射とは友達みてぇなモンだから、ちったぁ馴れろよ」

 

 

「地味な痛みはいつまで経っても馴れねぇモンなんだよ」

 

 

シャマルの言葉を璃王はげんなりして返す。

自身に掛かっている呪いの進行を抑える薬は、幼少の頃から服用・投与している。

本来、そんな事をしなくても良いのだが、璃王の場合は呪いが特殊な為その処置が必要だった。

 

 

「ま、昔よりかぁマシだな。小っせぇ頃なんか注射の針を見ただけでボロボロ泣いてたもんなぁ?」

 

 

ニヤニヤ笑いながら言うシャマルに殺意を覚えたが、本当のことなので璃王は何も言えない。

苛つきながらも、薬の副作用で怠くなってきた璃王は「ベッド使うぞ」と言って、カーテンを開けるとそのまま、ベッドに倒れた。

白くて清潔なシーツに体を埋めると、シャマルが「あー、早く寝た寝た!」とカーテンを閉める。

 

 

「麗しの仔猫ちゃん達~!授業サボってセンセーと課外授業しない~?」

 

 

恐らく、体育の授業中でグラウンドにいる女子生徒に向かってナンパをして居るであろう、シャマルの声が聞こえた。

よくやるよ、相手にもされないクセに。つーか、こんな奴が教師で大丈夫か、この学校は?

璃王はそんなどうでも良いようなことを思いながら、眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、璃王はふと枕元を探る。

手に固いモノが当たる感触を認めるとそれを手に取り、璃王は電源を入れた。

画面に映った時間に「はぁ、めんど」と呟くと、璃王は起き上がってクシャクシャになった髪を軽く梳かす。

時刻は十一時。もう三時間目が始まっている時間だ。

今日の三時間目は理科だったような気がする。記憶を手繰り寄せると、璃王は舌打ちした。

教科書、教室じゃねぇか、面倒くさい。しかも今は教室は閉まっているだろう。

教室から生徒が出払う時は、学級委員がドアを閉めてきっちり戸締まりしてから出て行く。

仕方ない、と璃王は手ぶらのままで理科室へ向かった。

 

 

 

理科室に着くと教室の扉を開け、璃王は堂々と教師の前を通って席へ向かう。

後ろの扉は棚などが置いてあって、通り抜けが出来ないのだ。

璃王の姿を視認した教師は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを隠そうともせずに璃王に向け、近付いてくる。

 

 

「お前、何回俺の授業に遅れてくる気だ?

そんなにやる気がないって事は授業を受けなくても余裕って事か?

なら、パラジクロロベンゼンの化学式と物性を答えて貰おうか?」

 

 

憎たらしい笑みを向けてくる教師に「ニヤニヤとキモいんだよ、モブが」とか思っていると、何故か授業では習わないような問題を出題された。

教師は思う。「まぁ、答えられる筈がないか、中学では教えないような問題だし」。

その心の声が璃王には駄々漏れで、溜息を吐いた。こんなセコい教師、よく採用されたな、と。

あまりに下らないと思った璃王は思わず大きな欠伸をしてしまった。

 

 

「ふぁ~あ」

 

 

「パラ・・・・・・何?」

 

 

「俺らで解んねぇんだから、彼奴が解るわけないじゃん」

 

 

ヒソヒソと周りの雑音が璃王の耳にすり抜ける。学校では目立たないように平均よりも少し悪いくらいの成績を取っている璃王からすれば、これは「解りません」と答えるべき問題だ。

だが、周りの雑音に苛ついていた璃王は「目立たないように」という事よりも「こいつらと同類ってのは嫌だ」と言う事を取った。

「早く答えんか」と言う教師に苛ついた璃王は、サラッと答えた。

 

 

「C6H4Cl2。物性は、融点53℃、沸点174℃。

常温で、昇華により強い臭気を発する白色の固体で、空気中では固体から気体へゆっくりと昇華する。臭いが強いが故に、空気中に極微量あるだけでも嗅ぎ分けることができる。

主な用途は防虫剤およびトイレの消臭ブロックである。

こんなの、6歳の餓鬼でも知ってるね」

 

 

「せ・・・・・・席に着け・・・・・・」

 

 

璃王が答えて最後に皮肉を飛ばすと、教師はまさかこの問題を解かれるなんて、と言いたげに灰になったように固まってしまった。

何なんだよ・・・・・・と璃王は溜息を吐きながら席に座る。流石にクラス以外の教室の部品には触れないらしく、璃王の席は何もされていなかった。

あの教師は生徒に声を掛けられて我に返り、授業を再開した。

 

理科の授業はつまらなく、璃王は窓の外を眺めていた。

理科室の窓はグラウンドに面しており、そこではテニスをしている男子の姿が見えた。

退屈な授業しかない中で唯一の楽しみなのか、男子生徒ははしゃぎながら楽しそうに生き生きと一つのボールを打ち返している。

その中で、紫の髪の男子が見えた。すると、璃王の顔に影が掛かる。

イタリアに居た相棒のことを思い出したのだ。

脳裏に浮かぶ彼奴は何故かいつも微笑みかけてくるかのように笑っている。何故か彼の笑顔しか思い出せないのだ。

 



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第二楽章 Ferita―傷―
標的1


三時間目が終わったと同時に璃王は席を立って教室へ戻ろうとしていた。

理科室を出ようとした時にいきなり獄寺に蹴り飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。それでも容赦なく璃王は、そのまま獄寺に壁に押し付けられる。

背中に固い壁が容赦なく押し付けられ、璃王は小さく呻く。

 

 

「てめぇ、十代目の悪口言うなんざ上等じゃねぇか、あぁ!?

保坂を殴ったにも飽きたらず、今度は十代目をターゲットにしようってか!?」

 

 

「本当なの、理絵奈ちゃん!」

 

 

獄寺の言葉に沢田は驚愕し、後ろにいる保坂を振り返る。

問われた保坂は涙ながらに「本当なの~」とか言っている。

その声に璃王はイラッとくる。

 

 

「理絵奈さっき、璃王君に呼ばれてぇ~っ・・・・・・屋上行ったら、「消えろ雌豚」って殴られたのぉ~っグズッ」

 

 

璃王の目にはそれは「嘘見え見えの芝居」としか映っていない。

それもそうだろう、先程まで保健室で寝ていた璃王には十分なアリバイがあるのだ。保健室を抜け出すにしろ、シャマルの目に付く。仮にシャマルの目を盗んだ所で短時間で教室若しくは理科室に行って保健室に戻るなんてできる筈がない。

少し考えれば解りそうなことだが、璃王にアリバイがあることを知らない沢田達は保坂の演技にまんまと騙される。

そう璃王は保坂に陥れられ、クラスで虐めを受けていた。尤も、それは客観的な見方で、璃王から言わせれば「虐め?何それ美味しいの?」だそうで、璃王の目には「馬鹿やってんな」くらいにしか映っていなかった。

 

 

「オレはさっき、保健室行ってたんだ。そいつを殴れるワケねぇーだろ」

 

 

「嘘見え見えだな。彼奴は女しか保健室に入れねぇーんだよ」

 

 

璃王がアリバイを主張するも、それは獄寺に鼻で笑われてしまった。

主治医がシャマルの為、璃王は幼い頃から世話になっていた。

それは今でも変わらず、シャマルはこの世で唯一、璃王の体質にあった薬を作れる専門家(スペシャリスト)だ。

シャマルが璃王を受け入れ拒否していたら、今はもうこの世に存在していない。それは璃王が一番よく知っているが、それを獄寺達は知る由もない。

 

 

「うわ、嘘吐くとかサイテーなのな」

 

 

何も知らない獄寺や山本は璃王が嘘を吐いていると決め付ける。

実際、二人には璃王が嘘を吐いているとしか思えなかった。

山本は言うと共に璃王を思いっきり突き飛ばす。

途中で踏ん張れなくて璃王は窓に体をダイブさせ、その体を廊下の床に叩き付けた。

パリーンと硝子の割れる甲高い音が響くも、この時間帯は誰も理科室の前は通らない為、誰も来ない。

硝子の破片の中心には硝子が所々に突き刺さり、全身が血塗れの璃王の姿があった。

 

 

「っつっ・・・・・・」

 

 

璃王が起き上がると、細かい破片がバラバラと背中や頭から床へ落ちていく。

咄嗟に頭を守ったお陰で顔には傷があれど、頭は無事だった。

立ち上がって璃王は保健室・・・・・・ではなく、応接室へ向かう。

 

 

「おい、逃げるのか!?」

 

 

そんな獄寺の怒号が背中に投げられるが、璃王は知ったことか、と気にせずによたよたと応接室へ向かう。

弱い犬程よく吠える、とはよく言ったモノだ。

璃王が通った廊下には、璃王の血が点々とその後を残していた。

 

 

 

 

 

「君さ・・・・・・確かに僕は、「いつでも応接室に来て良いよ」とは言ったよ?

だけど、そんな満身創痍で来いと誰が言ったのさ?しかも何でそんなに制服がバリバリに破けてんの?

どんな着方したらそんな事になるのさ?」

 

 

璃王が応接室に入るなり、璃王の姿を見た雲雀が有り得ない!!と言いたげに声を上げた。

あれ、お前キャラ何処行った?と璃王は思うが、取り敢えずそれはスルーで。

まぁ普通、制服はバリバリに破けて、血塗れの生徒が来たらそうなるよな。

と、思って、璃王は思い直す。そもそも、普通はそんな生徒は来ないだろうが。

 

 

「制服破けてんだ、寄越せ」

 

 

璃王は雲雀に手を差し出す。

並中で雲雀に堂々とそんな事が言えるのは恐らく、璃王だけだろう。

もし、璃王以外の生徒がそんな事を言おうモノなら、即咬み殺される事は必至だ。

ふぅ、と溜息を吐いて雲雀は立ち上がると、「その前に訊きたいことがあるんだけど」と、璃王の手を引いて近くのソファーに押し付けた。

直接訊いてもいつものようにはぐらかされると思った雲雀は、璃王のシャツを剥いだ。すると、古傷の上から付けられたような無数のまだ新しい傷痕やさっき付いた血が滲み出ている傷口がそこかしこ白い肌を覆うように付いていた。

 

 

「君さ・・・・・・もう尋常じゃないよ、これ。

僕が君を咬み殺したなら解るけど。誰にやられたの?」

 

 

「さぁな」

 

 

「何で隠そうとするの」

 

 

雲雀の問いにしらばくれる璃王。そんな彼の目を見れば、綺麗な藍色の目が暗く沈んでいた。

元々、入学してきた時からその目には暗い過去を反映しているかのような感情を押し殺した様な沈んだ目をしていた。それが最近になって、また一層沈んでいるのだ。それも、疲弊感を漂わせて。

じっと見つめてくる黒曜石の目を璃王はじっと見つめ返す。

言葉がつっかえて出てこないのだ。

今の現状を話すことは出来る。だがそれは、自分が雲雀を頼るみたいで何か嫌だった。

それだと、あの日の自分と同じじゃないか。自分が弱かった所為で守るべき者も守れなかった非力な自分が嫌で、環境を変えたくてここまで来たのに。結局は何も変わらないのか。

 

 

「君がこの学校に来た時の事、覚えてるかい?」

 

 

いつまで経っても何も言わない璃王に雲雀は言葉を掛けた。

忘れるはずがない。あんな出会いなんか、この学校でないとある筈がない、と璃王は去年のことを思い出した。



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標的2

今回、雲雀がBLっぽく見える可能性が高いです。
要注意、です。
それと、途中から草壁さん視点入ります。
草壁さんの一人称視点です。
草壁さんも雲雀さんもキャラが激崩壊しています、ご注意を。


「君は僕と同じかそれ以上の強さを持っているクセに戦おうとはしないから、僕が守ってあげると言ったじゃない。

確かに、君には僕に守られる理由はないだろうさ。でも、君に関しては何かをしてあげたいと思ってるのは本当だよ」

 

 

雲雀は璃王の手当をしながら言った。

雲雀と璃王は過去に何回か手合わせをしていた。その度に「面倒くさい」「嫌だ」と躱されていたが、何回か挑んでいる内に断る方が面倒くさくなったのか手合わせしてくれるようになったのだ。

手合わせして思ったのが、璃王は強いが戦うことを好んではいない。

ただ、戦っている時は時折うっすらと笑っている時があることもあるから、戦い始めたら楽しくなるのだろうか、と言うのが雲雀が璃王と戦って思った事だった。

そして、時折見せる哀しげな顔に雲雀は自分がこの子を守ってあげないと、と言う想いが出てきた。その時に雲雀は「あれ」と思いながら、「きっと、兄が弟や妹を守りたいとかそういうヤツ」だと思うようにしていた。

手当を終えると雲雀は、璃王を抱き締める。

 

 

 

「え、ちょ・・・・・・きょ、恭・・・・・・?」

 

 

いきなりの行動に璃王は動揺する。

そんな璃王の動揺などお構いなしに、雲雀は璃王を抱き締める腕に力を入れた。

いやいやそんな、恭。お前は男色だったのか?何だお前、何なんだぁぁぁぁぁぁぁあああ!?と璃王は混乱する。

小さい子供を抱きすくめるのはまだ解る。だが、これは見方によっては・・・・・・いや、どんな見方をしてもこの状態は雲雀が同性愛者のようにしか見えない。勿論、璃王にはそんな気は無い。

どうした、何があったんだ、恭ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!?

 

 

「君・・・・・・僕にまだ嘘吐いてる事があるでしょ?

例えば、君が女だって事」

 

 

雲雀の突然の言葉が耳に突き刺さって、璃王は驚愕し、動揺する。

いや、まさか。恭は確かに勘が良い。それこそ、ボンゴレの超直感並みだ。

だけど・・・・・・と、動揺しながら璃王は外見では平静を装う。

 

 

「何のことだよ?オレは男だ」

 

 

力の入らない腕で雲雀の胸を押しながら、璃王は突っぱねるように言った。

怪我人が健常者に勝てるはずもなく、頭を肩に押し付けられてよりキツく抱き締められた。

 

 

「君は僕に嘘を吐き通せると思っているの?」

 

 

確信めいた雲雀の言葉に璃王は黙った。

 

 

「大体・・・・・・今、君の手当をして確信したよ。

男にしては手足が細いし、肩幅狭いし、肩は薄いし。これで「男です」って言われても正直、信じられないね。

そもそも、初めて会った時から君は不自然だったんだ・・・・・・全部ね」

 

 

雲雀の言葉に璃王は目を見開く。

嗚呼、こいつは初めから全部、解ってたんだ。解っていてそれでも何も言わずに、傍に居てくれたんだな・・・・・・。

そう思った時、璃王はこいつになら全てを話しても良いかな、と降参した。

ここで否定し通したとして、雲雀はその後も食い下がってくるだろう。そうなると、こっちが恭に会いづらくなるし、哲にも余計な心配を掛けそうだ。

 

 

「解った、降参だ。

そうだよ、オレは女だ。

尤も、日本に来てからは女は捨てたがな」

 

 

一言一言言葉を紡いで、璃王は徐に話し始めた。

イタリアのとある家で生まれ、一族に迫害されていたこと。

それでも、両親と遠縁の親戚の家族が唯一の味方だった。

特に、その遠縁の親戚の子は自分をとても可愛がってくれて、自分もその人にはとても懐いていた。

ある日、その幸せが一瞬にして消え去ってしまった。両親が突然死して、親戚の子も行方知れず。

自分が守らなきゃ行けない存在だったその人を守れなかった事への自分への怒りが暴走した時には、既にその目には絶望しか映らなくなった。

それを見兼ねたその人の兄が日本に移住させてくれて、今の家で半1人暮らしをしている。

何かを変えたくてここまで来たのに、それでも今、保坂理絵奈の策略に嵌められてクラス全体で虐めを受けている。

そこまでを多少暈かしながら璃王は、雲雀に話した。

話しきった後の璃王は今にも泣きそうな表情をしていて、それを堪えているかのように眉間に皺を寄せている。

 

 

「璃王、大丈夫かい?」

 

 

「大丈夫。もう、泣かないって・・・・・・決めてるから」

 

 

雲雀の言葉の意味を察すると璃王は、瞼をキツく閉じて言った。

涙を堪えていることが易々と解り、雲雀は璃王の頭を撫でる。

 

 

「泣いても良いんだよ?だから人は泣けるんだから」

 

 

雲雀の言葉に璃王は、ずっと張り続けていた壁が音を立てて崩壊していくのを感じた。

人と自分とを隔てる巨大な壁。

幾重にも重なっていて、何人たりともその城壁を越えることは不可能だった。

でも、その城壁の奥の奥に掛かっている鍵。それを開ける為の鍵は雲雀は持っていなかったようだ。

何処か深い深海の中に消え去った鍵。それを見つけることはもう、多分不可能であろう――。

暫く雲雀は、静かに涙を流す璃王の頭を撫でていた。

 

 

暫くして璃王が落ち着くと、雲雀は璃王から離れた。

替えの制服を持ってくると雲雀はそっぽを向いて璃王に制服を差し出す。

 

 

「はいこれ・・・・・・男子用で良いんだよね?」

 

 

制服を差し出す雲雀の顔が紅く見えたが、璃王は気の所為だな、と制服を受け取る。

雲雀はと言えば、半信半疑だったとは言え璃王の服をいきなり剥いだ事による罪悪感が今になって占領していた。

 

 

「ん、どーも」

 

 

制服を受け取った璃王の背景に淡い青の紫陽花が見えてしまった雲雀。要するに、美ジョンが掛かってみたのだ。

ヤバイこれ、末期じゃないの?と雲雀が焦るその前で璃王はシャツを羽織ると、ソファーにそのまま寝転がる。

「6時間目始まったら起こして」と璃王は言い置いて、眠りに就いた。

え・・・・・・ちょ、無防備だな、おい。と雲雀が思った頃には璃王は寝息を立てて眠っていた。

ちょっと雲雀のキャラが壊れたが、気にしない方向で。

 

 

「これぐらいは良いよね」

 

 

書類に全く手が着かない雲雀は、ポケットからケータイを取り出すとカメラを設定して、眠っている璃王の顔にカメラを向け、センターキーを押した。

画面には今撮ったばかりの璃王の寝顔がアップで映し出されている。

うわぁ~!璃王の寝顔マジで天使!マジ女神!僕のマイハニー!

璃王の写メを初ゲットして気分上々の雲雀のキャラが完全に崩壊したのは言うまでもない。

そして、璃王の寝顔に悶えていた雲雀は、書類には全く手が付けられなかったとさ。

 

 

 

こんにちは、皆さん。毎度お馴染みの雲雀恭弥の右腕の草壁哲矢です。

はい、あの真っ黒のリーゼントに咥え葉っぱがトレードマークの風紀委員副委員長です。

自分の事は「てっちゃん」とお呼び戴いて結構です、はい。

 

さて、自分は今、応接室の前に居ます。委員長宛に沢山の書類を持たされましたよ、教師に。

こんな書類の山、委員長に咬み殺される・・・・・・!覚悟をして応接室に入ろうとした時のことです。

応接室には璃王が居るらしく、璃王と委員長の声が聞こえた。

普通の話なら何気ない顔で「委員長~、書類持ってきましたー」と普通に入れるんだが・・・・・・何やら、ただならぬ事情のようだし、ここは少し盗み聞き・・・・・・いやいや、様子を窺うことにした。

少し開いているドアの隙間から中の様子が窺える。応接室の中では、璃王がソファーで寝ていて委員長がその璃王の寝顔を写メりまくっていた。

うわー、委員長、璃王の寝顔写メってるー羨まし・・・・・・いやいやいや!何璃王の寝顔見てニヤけてるんですか、委員長!?

委員長にそんな趣味があったとは驚きです。草壁哲也、不覚です。

でも大丈夫です、委員長!璃王と委員長の秘密は守りますから!委員長と璃王がホモダチなのは誰にも言いません!

そう自分は混乱の後に固く決意した。

まぁ、そんな事を語らう友達は璃王くらいしかいませんけどねぇぇぇぇぇぇえええ!!それが何だってんだ、人間関係は狭く深くが丁度良いんだ!

ちなみに、璃王と自分は超大親友です!時々、冷たく突き返されるけど。それは璃王がツンデレだからだ!

そうだ、璃王はツンデレの比率が9.5:0.5と言う、委員長と負けず劣らずの黄金比率のツンデレなのだ!

大体、そんな超イケメンの璃王が保坂理絵奈なんぞ底辺のアイドルグループにいそうな脳内快適系キャピキャピ女子に告白なんかある筈がない!ので、自分は2年で流れている璃王の噂は全く信じていない!

これだけは言える、璃王はオレに対してもかなりドライなのに、保坂理絵奈なんぞA●Bにも入れないようなまな板白粉香水ババァに興味を持つはずがないんだ!璃王は風紀委員の文化だ、芸術だー!

なんてちょっと熱くなっていると、目の前に人の足が見えました。

 

 

「君・・・・・・覗きなんて上等だね・・・・・・咬み殺す!!」

 

 

頭上から委員長の声が降って来たかと思うと、顔を上げる暇もなくトンファーが脳天に突き刺さり、そこから先の記憶はありません!




作者Aの部屋(会話文ばかりなので、飛ばして構いません)

A「ちょ、ちょちょ、ちょりはー!」

雲雀「君、何でここに呼ばれたか解るよね?」

A「ぎくぅ!」

雲雀「僕のキャラ、何処に行ったのさ?」

A「ゆ~う焼けの中に吸いこま~れて消えて~った」

雲雀「六兆年と一●物語で誤魔化さないでくれる?
それと、僕のあの台詞何?
あれ、少し変えてあるけど、ガン●ムSE●Dのラ●ス・クラ●ンの「泣いて・・・・・・良いのですよ?だから人は泣けるのですから」を取っただけじゃないか。
何なの?馬鹿なの?死ぬの?
あと、ユ●ナ・ロマ・セ●ランの台詞も少し混ざってたよね?
草壁に関してはひぐら●のなく●にの前●圭一の固有結界の一部の台詞を変えた所もあったし、何なの?馬鹿なの?死ぬの?
キャラ壊しすぎでしょ、もうちょっと原作に忠実になろうよ。
そんなんだから、どの作品でもお気に入りが減ったりするんだよ、大体作者は更新がのろまなクセに色々とネタが浮かんだとかで別の作品に手出ししたりするからどの作品も更新停滞するし、いい加減その浮かんだら取り敢えず書いてみるって性格を直してあーだこーだエンドレスウダウダ」

A「雲雀の説教が長引きそうなので、ここまで!
読んでくれている皆さん!こんな奴ですが、紅奈々とその作品をよろしくです!」

雲雀「ちょっと聞いてんの、作者。話はまだ終わって無いんだから。
そもそも作者の書くキャラは何だか・・・・・・あーだこーだエンドレスウダウダ」





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第三楽章 Causale―理由―
標的1


璃王は虐めの理由を眠りながら考えていた。

別に璃王にとっては下らなくどうでも良いことだが、ふと考えてしまったのだ。

ただ、虐めについては何とも思っていない。

思うことがあるとしたら、「イジメ?何それ美味しいの?」程度にしか思っておらず、バクテリア程も気にしていない。

寧ろ、イジメとバクテリアならバクテリアの方が気になるくらいだ。

 

朝、教室に入れば頭上に降ってくる水。暇人。んな事してるから頭悪いんだろうが。

机の落書きに関して。馬鹿丸出し。

授業中に投げられる石入り紙くずやその他の危険物。んな事してるから授業も理解できないんだろうが。んな暇あるならノート取れよ。

今までされてきた事を思い返して、それに関して感想を付けていく。

そこまで思い返して、ふと、ウチのクラスに授業をまともに聞いている奴が居ないことに気が付いた。

おいおいおい、ちゃんと授業聞いてやれよ、40分間ずっと独り言言ってる教師が可哀相じゃねぇか。

そこまで思うと璃王は「オレも人の事を言えなかった」と思い直す。璃王も教師の話は全く聞いていない。

 

保坂理絵奈の気色悪い芝居。それに騙され、そこから生まれる下らないトモダチゴッコ。反吐が出そうだ。

そう言えば・・・・・・と、璃王は思う。

何でオレは保坂から嫌がらせを受けてんだっけ?

そもそもの原因が少し思い出せない。あれは確か、中一の時・・・・・・だったか?

璃王は、去年のあの日の出来事を思い返す。

 

 

 

それは、よく晴れた、春から夏に変わるくらいの季節だった。

その時璃王は一年A組に在籍していて、宿泊学習では沢田綱吉、獄寺隼人、笹川京子、保坂理絵奈と同じ班だった。

班を作って初めはその班の中で仲良くなっていこう、とかそういう目的の行事だった気がする、と璃王は思い出す。

本当は宿泊学習は行かない予定だったのに、雲雀に脅されたのだ。「学校行事をサボる毎に璃王は風紀委員のパシリね」と。

それも、一日二日ではなく、1ヶ月単位だ。そんな面倒くさい事を1ヶ月もしたくはない。璃王は渋々行くしかなかった。

宿泊学習最後の夜にこそっとテントを抜け出して、昼間見つけた湖へ行った。

思った通り、夜の湖面は月を映して昼間とは違った顔を見せている。

そこで璃王は誰も居ないと思って、歌を口ずさんだ。

 

 

「君の代わりなんて居ないから この先にあった君と使うはずだった時間は

何かあれば君と比べたり 直ぐに思い出せる内は

どうしても埋まらない 埋められない

時間が解決してくれるって? どんどん壁作るクセに!

やっぱ君じゃなきゃダメで

あの頃の二人にはもう戻れない もう一度やり直すより

今新しく らしく始めればいい・・・・・・」

 

 

不意に人の気配がして、璃王は歌うのを止めた。

闇の中を注視すれば、そこには暗がりでも解りやすいピンクの髪が見えた。

そのピンクの髪の人物は、保坂理絵奈。彼女は璃王に近付いてくる。

 

 

「あ・・・・・・あの、さっき、璃王君が出て行くのが見えて・・・・・・」

 

 

じっと無言で見つめられて保坂は、言葉を探す。

漸く出てきた保坂の言葉に璃王は暫く黙った。

 

 

「・・・・・・誰」

 

 

璃王が暫く黙っていたのは、目の前に居る女子の名前を思い出せなかったからだ。

一応、班のメンバーの名簿には目を通したが、名前と顔が一致しない。

そもそもこの頃は、雲雀と草壁の名前しか覚えていなかったのだ。

 

 

「え・・・・・・?あ、あたしは理絵奈よ・・・・・・保坂理絵奈。

同じクラスで同じ班の・・・・・・」

 

 

「ふーん」

 

 

やや舌足らずな喋り方で言う保坂の言葉に璃王は素っ気なく返す。

どうも、この女は苦手だ。

初めて話した時はそんな印象を持っていた。

何だかすっかり気分も害された感じがして璃王は立ち上がると、テントへ戻ろうとした。

そんな璃王の服の裾を掴んで、保坂は璃王を引き留める。

 

 

「あ・・・・・・あの、璃王君・・・・・・その・・・・・・っ、あたし、初めて会った時から璃王君のことが好きです・・・・・・!

つっ・・・・・・付き合って下さい!」

 

 

保坂の言葉に璃王が振り返ってみれば、告白してきた張本人は顔を茹で蛸のように真っ赤にして、上目遣いでこっちを見上げていた。

その顔を見ても、特に何とも思えない。女に告白されても嬉しくないのは当然だ。自分も女なのだから。

だが、長身で肌も白く、ぶっきらぼうだが整っている顔をしている璃王は何処からどう見てもイケメンだから、一目惚れをする女子生徒も少なくはない。

その上で璃王は一度、学校の行事の親睦会でライブをさせられている。

それも相俟って、この時の璃王の人気は半端無かった。

 

 

「そんな事に興味はねぇ。そんなことは他の奴にでも言うんだな」

 

 

その日は冷たく突き返して、何事も無かったかのようにテントへ戻った。

 

それから程なくして、保坂理絵奈から細かい嫌がらせを受けるようになった。

嫌がらせと言っても、本当に些細なことで気になる程のような事じゃなかったので、璃王は気にしていなかった。

 



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標的2

その時は唐突に訪れた。

その日の昼休み、璃王は保坂に呼び出されて屋上へ足を運んだ。

屋上の鉄扉を開ければ、物凄い勢いで風が璃王の蒼い腰辺りまでの髪を掠う。

屋上には既に保坂が来ていて、近付いてくる璃王の姿を見るなりいきなり質問してきた。

 

 

「ねぇ、あんた。嫌がらせされてるの知ってる?」

 

 

何だ、その話か。と、璃王は来るんじゃなかったと思いながら、踵を返した。

それについては話すことは何も無い。

「ちょっと待ってよ!」と、保坂が呼び止める。

璃王は「何だ」と溜息を零した。面倒くさい奴だな、おい。

「私の質問に答えなさいよ!」とか睨みながら喚いているが、全く怖くねぇ、と璃王は思いながら保坂を指指す。

 

 

「どーせ、お前の仕業だろ」

 

 

「あ・・・・・・アンタが悪いんだからね!あんたが私を振るから!」

 

 

まさか嫌がらせをしていたのが自分だと気付かれていたことに驚きながら、保坂はやけくそに言い募る。

そんな保坂の言葉に呆れながら璃王は言った。

 

 

「くっだらねぇー・・・・・・。振られたからってオレに当たるのは筋違いも良い所だ」

 

 

振られることを想定していないとかどれだけ自意識過剰ですか、と璃王は思った。

これだから、脳内快適系は困る。

そんな事を思っていたら、保坂がまた、何かを喚いた。

 

 

「ちょっと格好いいからって調子こいてんじゃないわよ!まぁ、いいわ!

あたしを振るなんて誰だろうが許さないんだから!」

 

 

 

ヒステリックに言うと、保坂は自分のシャツの襟元に手を掛け、シャツを破く。

何をする気だ、こいつ?と璃王が思う暇もなく、保坂はシャツから肩を出して、両腕を抱き締め、声を上げた。

 

 

 

「きゃぁぁあっ!

やだ、璃王く・・・・・・っ、やめてぇっ!!」

 

 

いやオレ、何もしてないんだが。こんな演技に誰が引っ掛かるだろうか。

叫ぶ保坂に璃王がそんな事を思っていると、扉が開く音が聞こえ、数人の足音が聞こえた。

暫くすると「理絵奈ちゃん!」と、沢田が一番に屋上に来た。

その後をゾロゾロと野次馬が集まる。

 

 

「ツナくぅんっ、助けてっ!」

 

 

駆け寄ってきた沢田の背中に隠れながら、保坂は泣きじゃくった。

「状況が理解できん」と璃王は頭が真っ白になる。

 

 

「何があったの、理絵奈ちゃん?」

 

 

「グズッ・・・・・・あたしね、璃王君に呼ばれたから、屋上に来たの・・・・・・っ!

そしたら・・・・・・そしたらね、告白されて・・・・・・っ!」

 

 

はぁ、ちょっと待て!?璃王は保坂の言葉を聞くと、驚いた。

告って来たのはお前で、それはもう何日も前じゃねぇか!?

そんな事を思っている間にも保坂の現状説明が続く。

 

 

「まだ・・・・・・璃王君の事、よく解んないし・・・・・・っ、友達から始めましょ、って・・・・・・言ったら・・・・・・っ・・・・・・

いきなり、襲おうとしてきたのぉ・・・・・・っ!」

 

 

でっち上げかよ!?こいつ、堂々と嘘吐きやがった!?そんな事を思って璃王は理解する。

それでオレを貶めるつもりか!!

保坂の言葉を聞いた沢田は徐に璃王へと視線を移した。

 

 

「ほ・・・・・・本当なの・・・・・・?神谷君?」

 

 

「告白してきてフラれたのは保坂。しかし、それは前の話だ。

そして今日、保坂に呼び出され「私を振るなんて誰だろうが許さない」とか言って自分のシャツを引き裂いて、その有り様だ。

オレはそいつに触れてもいない」

 

 

璃王に視線を向け、問うてくる沢田を見据え、璃王は真実を話した。すると今度は、保坂が懐疑心を孕んだ目に晒される。

まさかこうなることを想定していなかったようで、保坂はこの場を切り抜ける為の策を頭をフル回転させて考えた。

 

 

「嘘よ、あたしが嘘を吐くワケ・・・・・・っ、ないじゃない・・・・・・っヒグッ

皆は・・・・・・理絵奈を信じてくれる・・・・・・?」

 

 

一見、馬鹿みたいな行動だが、保坂が目に涙を浮かべて沢田達に問う。

いやいや、おもっくそ嘘吐いてンじゃねぇかこの野郎!と璃王が思っていた間に男子の一人が璃王を殴り飛ばした。

その後から、男子が一斉に璃王に襲いかかってくる。

 

 

「お前最低だな!」

 

 

「恥を知れよ!」

 

 

男子達の浴びせる罵詈雑言を璃王はただ、聞いていた。

何をしようにも何も思いつかないし、考えるのも面倒だ。

 

 

「「オレを信じろ」とは言わない。オレを信じるか信じねぇかはお前らの自由だ」

 

 

ただひとつ、璃王が言えることはこれだけだった。

それだけを言うと璃王は屋上を出て行った。

それから璃王の噂は直ぐ様学年中に広がり、保坂を信じる者とそれに関わらないように見て見ぬ振りをする者とで分かれた。

今では保坂を信じて璃王を痛めつける者の方が圧倒的に多くなっている。

 

 

 

 

璃王が目を覚ますと、雲雀がソファーに座っていて、その隣で草壁が頭に大きなたんこぶを付けて伸びていた。

ちょ・・・・・・オレが寝ている間に何があった?璃王は首を傾げる。

 

 

「やぁ、璃王。もう起きたのかい?」

 

 

何事も無かったかのように話し掛けてくる雲雀の機嫌は何処か良いようで、璃王に微笑みながら言った。

そんな雲雀から床に伸びている草壁に目を向けると、璃王は口を開く。

 

 

「何があったんだ・・・・・・?」

 

 

「璃王は気にしなくて良いよ。ただ、苛ついただけだから」

 

 

自分の手によってフルボッコにされた草壁に目も向けず、雲雀は足を組み替えて言った。

こんな委員長で大丈夫か、この委員会は?と思いながら、ご愁傷様、と草壁を哀れむような目で一瞥すると璃王は立ち上がってベストを着た。

その様子を見て、「もう行くのかい?」と雲雀が声を掛けてくる。そんな雲雀に璃王は頷いた。

 

 

「次の授業サボったら面倒くさい事になる」

 

 

心底嫌そうな顔を浮かべながら璃王は言った。

その言葉を聞いた雲雀は出て行こうとする璃王に「またいつでも来なよ、璃王」と呟く。

その呟きを拾った璃王は立ち止まった。

 

 

「リオン、だ。オレはリオン・V(ヴェルベーラ)・ヴァルフォア」

 

 

肩越しに振り返った璃王は雲雀に自分の本名を何故か教えた。

本名を名乗った時の璃王の顔が微笑んでいるように見えた。

その微笑みは淡く、幼さが残っていて、今までとのギャップがありすぎて雲雀は内心、悶えた。

そんな雲雀の心境も知らず、「じゃあな」と璃王は応接室を後にした。



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第四楽章 Kyoko―笹川京子―
標的1


この話で、この小説のタグ「シャマッシー」の意味が解ると思います!
つーか璃王・・・・・・だんだんキャラが崩壊してきたような気がする・・・・・・。


「トライデント・・・・・・シャマル・・・・・・」

 

 

「よぉ、璃王。どうした?んな死にそうな顔して。

美人が台無しだぞ?」

 

 

真っ青な顔で額に脂汗を浮かべながら、璃王が保健室に訪れた。

いつも通りの朝を迎えてた筈の今日は、「いつも通り」とはいかなかったのだ。

登校中にいきなり、悪阻並の吐き気と何とも言い難い気持ち悪さを感じた途端に頭痛と胸の痛みに襲われた。

呪いを抑え付ける薬の副作用にしては酷すぎる、と思った璃王は教室へは逝かずに保健室へ来た、と言うわけだ。

それを璃王はシャマルに説明した。

 

 

「お前はまず、漢字の勉強からだな」

 

 

「オレの学校へ「いく」は「行く」じゃなくて「逝く」だ・・・・・・っげほっ、ごほっ!・・・・・・うぅ・・・・・・」

 

 

呆れた様に突っ込むシャマルに反論すると、喉が痛くなるような苦しい咳に襲われ、璃王はソファーに倒れた。

口を覆っていた手には、喀血したと思われる血がベットリと掌を紅く染め上げていた。

掌の血を見て、璃王は戦慄する。これって・・・・・・!?

何で、呪いが末期状態になっているんだ!?と、璃王は混乱すると共に、また襲いかかってきた胸の激痛と頭痛に意識が薄れていく。

 

 

「はぁ・・・・・・っ、ぐっ、うぅ・・・・・・」

 

 

あまりの痛みにさっきよりも脂汗が吹き出て、背中がぐっしょり濡れて気持ちが悪い。

それよりも、さっきよりも長く続く激痛に璃王はソファーの上でのたうち回った。

そんな璃王の傍に寄って、シャマルは璃王の額に触れる。

 

 

「すげぇ熱じゃねぇか!脈も早ぇ。

お前、昨日暴れたりしてねぇよな?

つかお前、痣も広がってんじゃねぇか!」

 

 

璃王の手首に指を当てると、璃王の脈の速さにシャマルは眉を顰めた。

黒い痣も、手の甲から首筋にまで広がっており、シャマルは驚愕の声を上げる。

 

 

「昨日は・・・・・・依頼、受けてねぇよ・・・・・・」

 

 

絞り出すような璃王の言葉を聞くと、シャマルは璃王の服を剥いだ。

黒い痣は右半身に(まだら)に広がっており、呪いが進行しているのが一目で解った。

シャマルの目が険しくなる。

 

 

「この傷!お前これ、どうした!?」

 

 

「え・・・・・・?あ、なん・・・・・・でも、ねぇ・・・・・・っ」

 

 

黒い痣よりも先に目に付いたのは、璃王の体中にあるまだ新しい傷痕だった。

その傷痕を見て、シャマルは眉を顰める。

傷のことを問われた璃王は昨日のことを思い出し、咄嗟に嘘を吐いた。

別に、山本を庇ったわけじゃない。一般人同然の山本に押し飛ばされて窓を突き破ったなんて、殺し屋として格好悪すぎて言えるかよ。

そんな璃王にシャマルはこれ以上何も追求せずに立ち上がった。

 

 

「お前がいつも定期的に服用・投与している薬な。あれは血管を通して全身に作用する薬ってのは知ってるな?」

 

 

「あぁ・・・・・・」

 

 

シャマルの言葉に璃王は頷く。

小さな時から何度も何度も聞かされていた言葉だ。

シャマルは説明しながら戸棚を漁る。

 

 

「正常に作用している状態ならお前の呪いを押さえる役割を果たすが、ちょっとの衝撃でその薬は呪いの進行を抑える「薬」から呪いを急激に進行させる「毒」になる事も説明したよな?

だから、投与して二十四時間は安静が必要な事も話したよな?」

 

 

「・・・・・・あぁ」

 

 

シャマルの言葉に頷く璃王。これも、小さい時から耳に(たこ)ができるくらいに聞かされていた。

そこで、シャマルの額に青筋が入る。やべっ、地雷踏んじまった。

思った時には既に遅く、シャマルは顔に般若を降臨させていた。

 

 

「お前なぁ、何故直ぐに来なかったんだ、このドアホ!!」

 

 

「薬を投与・・・・・・したのが、予定、日・・・・・・より、早かっ、たから・・・・・・別に良いか・・・・・・と、思った・・・・・・」

 

 

シャマルの剣幕に怯むこともなく璃王は言った。

まさか璃王も、大した事のない怪我でこんな事になるとは思っても居なかったようだ。

璃王の言葉にシャマルは呆れた様に頭を抱え、白い包み紙と水を持ってきた。

 

 

「起き上がれるか?」

 

 

シャマルは璃王に声を掛けると、テーブルに包み紙と水を置いて、璃王に手を差し出す。

それを無視して璃王は背凭れに手を置いて起き上がる。

起き上がる時に込み上げてきた吐き気に噎せ返った。

 

 

「これは、お前に投与している薬よりも最も強力な薬だ」

 

 

説明しながら、シャマルは璃王に包み紙を手渡す。

包み紙を開いてみると、緑色の如何にも体に悪そうな粉末が盛られていた。

シャマルの説明は尚も続く。

 

 

「お前の呪いと同じ毒素を持った薬でな・・・・・・」

 

 

「服毒自殺でもしろと」

 

 

シャマルの言葉に璃王が呟くと、プチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。

説明が途中で中断されたのでシャマルの顔を見てみれば、シャマルは額に青筋を浮かべ、またもや般若を召喚している。

おいおい、あんまり怒りっぱなしだと高年期になったら血圧上がって血管切れるぞ。

梨●プシャーッ!じゃなくて、鮮血プシャーッ!になるぞ。何だ?それでふ●っしーに対抗するのか?シャマッシーか?笑えねぇー・・・・・・。

璃王は苦しいにも関わらず、そんな事をふと思ってしまった。

 

 

「おい、途中から口に出てるぞ。ったく、誰がシャマッシーだ、俺はあんなキチ梨と対抗する気なんざなぁ・・・・・・って、んな話はどうでもよくてだなぁ!

お前、「毒を以て毒を制す」っつー言葉を知らんのか?悪いモノは悪いモノで牽制するって事なんだがな。

今し方、それしか方法はねぇんだよ。若しくは次の定期投与まで苦しむか、だ」

 

 

シャマルの言葉の意味は何となく理解できる。つまり、毒を飲んで毒を殺せ、と。

とにかく璃王は、次の定期投与まで苦しんでいたら死んでしまうので、この怪しい薬を飲んでみることにした。

怪しいが、背に腹は代えられない。この劇薬を飲まないと死ぬんだったら、飲んでやるか。

 

 

「劇薬って人聞き悪ぃな、おい!」

 

 

シャマッシーは取り敢えず、スルーの方向で。とにかく璃王は、シャマルが何か言っているが我関せずに薬を飲んだ。

うぇ、まず・・・・・・。何だよこの、青汁をもっと苦くしてキシリトールをぶっ込んだようなこの味は・・・・・・。

これ、本当に薬か?シャマッシーはオレを殺す気か?つか、何気にシャマッシーにハマった。よし、次からはシャマッシーと呼ぶ決意をしよう。

璃王はそんなどうでも良いような決意をした。

 

 

「変な決意をするな!」

 

 

さっきからシャマッシーは人の心を読んだかのようにツッコミを入れてくる・・・・・・。シャマッシーはふなっ●ーと違ってどうやら、読心術が出来るみたいだ。すげぇな。と、璃王は思った。

何故かシャマッシーと会話が成り立っている。

そんな事を不思議に思っていると、「お前、口に出てんだよ!!」とシャマッシーが呆れた様にツッコミを入れた。

 

 

「だぁぁぁぁぁぁああっ!?説明文での俺の名前がシャマッシーになったじゃねぇか!つーか、んなことはどうでも良い・・・・・・いや、良くないんだが、今はそれどころじゃなくてだな!

とにかく良いか、璃王。

毒が相殺されるまで・・・・・・つまり、明後日の昼まで絶対に安静にして腹と腰には衝撃与えるなよ!?」

 

 

何か一人ツッコミして騒がしいなぁ・・・・・・と、璃王が思っている間にシャマルの説明が始まった。

つーか、世界観壊すなよ。

そんな事を思いながら璃王はシャマルの言葉を聞く。

 

 

「この薬は初めに子宮に作用して仮妊娠みたいな感じで毒素を育てるからな。明日には軽く腹が出ている状態だ。

毒が相殺されたら腹は引っ込む。

この薬は男にとっては毒にしかならないが、女にとっては薬にもなる。

ただし、衝撃を与えなければの話だ。良いな?絶対に安静にするんだぞ!」

 

 

シャマルは念を押すように説明した。

とんでもねぇモン飲まされた・・・・・・と後になって気付いたって遅い。後の祭りってこの事だな・・・・・・と璃王は説明を聞きながら思った。

「はいはい、要するに腹と腰に衝撃与えなきゃ問題なし、だろ」と言いながら璃王は窓を開けて、その窓枠に足を引っ掛けた。

それを見てシャマルが「いやいやいや!?」と声を上げた。

 

 

「俺の話聞いてたか、お前・・・・・・ってあぁ!!

ったく、彼奴にゃ絶対子供を作らせられねぇな、一日持たずに胎児が死んじまうぜ!

子供が出来たとしても、ベッドに括り付けて強制入院モンだな!」

 

 

シャマルが止めようとした時には既に璃王は窓から飛び降り、地上へ着地していた。

 



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標的2

遂にあの子が璃王に接近します!


「璃王君!」

 

 

保健室の窓から飛び降りたのは良いが、自分が履いているのが上履きだった事を思い出して璃王が下駄箱に向かっていると、自分を呼び止める女子の声が聞こえた。

そちらに目をやれば、誰かが下駄箱の向こうから走ってくるのが見えて璃王は身構える。

大抵、女子に呼び止められると(ろく)な事がない。それは、璃王が並中に入学して学んだことだった。

璃王が立ち止まると、ブロンドのショートヘアーの女子がふわふわした髪を靡かせて小走りで寄ってきた。

目はオレンジ色でとてもキラキラして大きい。

あ-・・・・・・と、こいつ誰だっけ?と璃王は考えた。

確か、笹・・・・・・が付いた筈だけど・・・・・・えーと?笹・・・・・・ナントカ・・・・・・えー・・・・・・と・・・・・・。

璃王は記憶を探ってみるが、思い出せない。

同じクラスだったのは覚えている。いつも困った様な顔でオロオロとこっちをチラ見していたのを何度か見たことがあった。

取り敢えず、当てずっぽうでしっくり来そうな名前を呼んでみることにした。

 

 

「笹・・・・・・川、だっけ?」

 

 

「は・・・・・・はい!」

 

 

どうやら笹川で合っていたらしく、女子生徒は璃王に名前を呼ばれて嬉しそうな顔で顔を赤らめて頷いた。

「何の用?」と璃王が問えば、笹川京子は辺りを警戒するかのように見回して誰も居ないことを確認すると紙切れを璃王の手に握らせた。

そして、顔を近付けると、璃王にしか聞こえないような小声で囁く。

 

 

「これ、誰も居ない所で読んで・・・・・・!」

 

 

それだけを言うと、「待ってるから」と言い残して璃王から離れ、走って教室へ戻っていった。

その京子の背中を見届けると璃王は応接室へ向かう。

 

 

 

応接室には雲雀が居て、珍しく璃王が授業中に応接室に来たことに驚いていた。

 

 

「ワォ、君がこの時間にここに来るなんて、どういう風の吹き回しだい?」

 

 

「本当は帰ろうかと思ったんだがな」

 

 

応接室に入って璃王はソファーにゴロン、と寝転がった。

そして、先程渡された紙切れを眺める。見たところ、何も仕掛けもないようだ。

「何を見てるの?」と雲雀の声が聞こえてそこに目をやると、雲雀がティーカップを持って立っていた。

「さぁな」と璃王は起き上がって、雲雀からティーカップを受け取ると、ティーカップに口を付けて、ミルクテーを口に含んだ。

暫く紙切れと睨めっこしていた璃王は紙切れを開いてみた。

紙切れには、小さいが丁寧な文字が綺麗に列んでいて、こう書かれていた。

“璃王君へ

お話があります。昼休みに屋上へ来て下さい”

読み終わると、璃王は紙をぐしゃっと潰してゴミ箱に投げる。

 

 

「恭、昼休みになったら起こしてくれ」

 

 

「良いけど・・・・・・大丈夫?」

 

 

雲雀の問いに頷くと、璃王は眠気に誘われるように瞼を閉じた。

 



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標的3


京子が璃王に急接近!?
その目的とは―――!?


昼休みになり、璃王は言われた通りに屋上へ向かう。

ああいう大人しいタイプは、害が無さそうに見えて何してくるか解らない。かと言って、放置しても面倒臭そうだと思ったからだ。

屋上へ着いても、笹川京子は来ていなかった。

確か笹川京子と言えば、並中のマドンナだっけ?何か、そんな話を聞いた様な気がする。と璃王はぼんやりと流れる雲を数えながら、人気者は中々一人になれないんだろうな、とどうでも良い様な事を考えた。

そして、ふと思う。考えても意味ねぇな。オレに関係無いし。

そんな事を考えていると、屋上の鉄扉が開いて、笹川京子が金髪を風に靡かせて出てきた。

 

 

「うわぁ……風、強いね~!

あ、ごめん、お待たせ」

 

 

風に煽られるスカートを押さえながら、笹川京子は近付いてくる。

璃王はフェンスに凭れて、紙パックのミルクティーにストローを刺して、吸い上げた。蜂蜜入りの甘い味が口内に広がる。

 

 

「で、話って何だ。

こんのクッソ寒い中で水でもぶっ掛けるのか?それとも、卵か?」

 

 

璃王は京子を警戒しながら言う。

クラスメイトの呼び出しは大抵、ぶっ掛け大会。いつものパターンだ。

大方、保坂に手懐けられたんだろうな、こいつも。と璃王は考える。

まぁ、敵が増えようが、オレの知った事じゃないし。敵が一人増えよううが一クラス増えようがやることは同じだーーーと、そこまで考えた璃王の予想は大きく外れた。

 

 

「ねぇ、璃王君……私、見ちゃったの……」

 

 

いきなり京子は、俯いてポツリと呟いた。声色から、これから始まるのは、ぶっ掛け大会ではないことが窺える。

何を見たんだ……?突然、何を言い出すんだ、こいつは……?璃王はいきなりの突飛な京子の言葉に首を傾げながら、続きを待つ。

璃王の疑問を他所に、京子は続けた。

 

 

「理絵奈ちゃんが璃王君を脅してる所……」

 

 

京子の言葉に璃王は驚愕した。

京子の話はこうだ。

この前、京子は弁当を食べようと思い、一人で屋上へ行った。最近は何だか友達と一緒にお昼を食べる気になれなくて、色々と理由をつけて一人で食べていた、と。

 

その日も同じ様に理由を付けて断って一人で食べようと思って屋上への階段を上ると、そう厚さのない鉄扉の向こうから、保坂の声が聞こえた。

「あたしを振ったこと、土下座して謝りなさい」とか言ってたのも聞こえたし、璃王が「お前にそんな事する理由はねぇ」とか言ってたのも聞こえていたらしい。

 

っつーか、笹川、何で会話の一部を記録してんだ。オレ何か、次の日には忘れていたのに。と璃王はある意味感心していた。

諜報員にでもなれば良いのに、そこまで思ってしまった。

で、「あたしを振ったことで虐められて、後悔すると良いわ!」と言った後で、保坂の悲鳴が聞こえた、と。

ちなみに、鉄扉は半分開いていて、隙間からやり取りが見えていたらし い。だから、保坂の自傷シーンもばっちり見えていたと言う事で。

それで京子は璃王がハメられているのだと確信した、と言う事だった。

 

 

「ごめんなさい……。

初めから何かおかしいな、って思ってたの……。

でも、確証が持てなくて……。だから私、璃王君に何をする訳でもなく、傍観してて……。

それを親戚のお姉さんに言ったら、お姉さんが私を叱ってくれたの。

「傍観するのは卑怯者のする事よ。確証がなくても、そいつが悪くないと思ったら、そいつの味方になってやりな」って。それで気付いたの」

 

 

そこまで一気に喋って、京子は息を吐いた。

京子の言葉に璃王は内心、苦笑する。京子の言った言葉は、今、イタリアに居オレの相棒やそいつの姉兄が言いそうな言葉ととても酷似していたからだ。

 

 

「璃王君は悪くないって。

こんな事言っても信じてもらえないかも知れないけど、私、璃王君の味方だから!」

 

 

語尾を勢い付いた様に言うと、京子は璃王の背中に腕を回した。

璃王の胸の辺りまでしかない小ささに、彼奴だったら「可愛い」とか言いながら抱き付きそうだな、と思った。「オレの天使!」とか言いながら。

璃王はそんな考えを追いやって、京子の肩を拒絶するかの様に押した。

 

 

「オレに関わるな。お前が次に標的にされるぞ。

オレの事は放っておけ」

 

 

突き放す様な璃王の言葉。それは、自分の事に他人を巻き込みたくないと無意識に思っての事だった。

そんな言葉に京子は強く頭を振って璃王の手を握り、上目遣いで璃王の目を見る。

 

 

「私―――璃王君の事、本当はずっと前から……一年生の時から好きだったの!

だから……力になりたい……!」

 

 

京子の目は強い意思を抱いて、オレンジに煌めいていた。一点の曇りも翳りもなく、唯々純粋で綺麗なオレンジ色。

璃王はこんな目で他人と向き合える様なお人好しを一人だけ、知っていた。

そいつとよく似た目をしている。

何故か璃王はこの時、京子を巻き込まない様な言い訳を頭の中で考えていた。

ダメだ。相棒とよく似た目で見られたら、流されそうだ。

京子の目を直視する事が出来ずに璃王は京子から視線を外す。

 

 

「オレは恋愛なんか興味もないし誰かに傍に居て欲しいとも、味方になって欲しいとも思わない。

お前がどう言う訳でオレの味方になるとか、実際、オレにはどうでも良い」

 

 

京子の好意を突っ撥ねる、璃王。

人の好意や優しさは当てにならない。この学校で習った事だ。

好意の裏は殺し合いよりも血腥(ちなまぐさ)くて、優しさの裏は醜悪。他人の好意は信じるな、それはこの学校でやっていく為の教訓。

璃王はいつしかそんな事を頭に叩き込んでいた。

そうして常に他人を遠ざける事で、自分を保っていたのだ。

突き放す様な璃王の言葉に、京子は淡く微笑んだ。

 

 

「うん、璃王君はそう言うと思ってた。だから私、璃王君を信じるよ」

 

 

笹川の言う意味が解らない、と璃王は一人で困惑した。

振られる事を知っていて告白した?

普通の恋愛観なぞ持ち合わせていない璃王だが、大抵は振られると解っていたら告白しないんじゃないのか?おかしな奴だ。と璃王は思った。

そんな璃王に笹川は笑う。

 

 

「あ、好きなのは本当だよ?でも、何て言うか……理絵奈ちゃん、璃王君に告白されて、振ったら襲われたとか言ってたでしょ?

璃王君は何かいつも退屈そうにしてたし……どちらかと言うと理性的な感じだから、璃王君が理絵奈ちゃんみたいなビッチ……じゃなかった、ちょっとイタイ様な子を襲うなんて、想像が付かなかったんだ。

何故か皆は気が付いて無いし璃王君も無意識だろうけど、理絵奈ちゃんの近くに居る時の璃王君って物凄く不機嫌な顔をしてるんだよ?

「オレに近付いてんじゃねぇ、このクソビッチが!」って言いたげな顔をしてるのに、そんな相手を呼び出してまで痛めつけないでしょ、普通。

理絵奈ちゃんから近付いてくる動悸はあれど、璃王君から近付いていく理由はないわけだよ。だから、理絵奈ちゃんの自作自演じゃないかな?って思って」

 

 

つまり、笹川は自分の気持ちを利用してオレを試したワケか。清純そうな顔して、計算高い女だな。京子の言葉に璃王はそんな事を思った。

だが、何故かは解らないが京子に言われた「好き」は保坂から言われた「好き」と違い、悪くないと感じた。鬱陶しさを感じなかったのだ。

だからといってそれは勿論、付き合うとかそう言う感情ではなくて、強いて言うなら、家族や彼奴の家族に対して感じていた感情に近いモノだろうか。

璃王がそんな事を考えていると、京子が口を開いた。

 

 

「璃王君、あの・・・・・・私、璃王君に信じてもらえる様に頑張るから!

だから気が向いたらでも良いから、いつでも頼って来て!」

 

 

そんな事を言うと、京子は走って屋上を出た。

走り去っていく京子の背中を見送りながら、まったく、意味の解らない奴だ。と思う、璃王。

京子の姿が見えなくなると璃王はフェンスを越えて、屋上を飛び降りた。

飛び降りてから璃王は思い出す。ヤバい、そう言えば、腹と腰に衝撃与えちゃダメなんだっけ?

シャマルに五月蠅く言われていたことを忘れてた、と思いながら、まぁ、屋上くらいなら何とか着地できるだろうな。そもそも、今までだってシャマルの言う事を頭に留めはすれど守ったことは片手あれば十分数えられる程しか守ったことがなかったなと思いながら、璃王は無事、地面に着地した。

何時間か前よりも体が重い様な気がする。確か、効果が表れたらメタボになるんだっけ?

まったく、とんだ劇薬を飲まされたモンだぜ。

そんな事を思いながら璃王は重い体を引き摺る様に学校を出て、家に帰った。

 



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第五楽章 L'occhio destro―右目―
標的1


あれから、二日が経過した。

昨日はあまりの倦怠感に学校を休んで寝ていたら、あっという間もなく昨日の一日が終わった。

昨日のことを振り返れば、驚くことの方が多かったような気がする。

まず、昨日は朝起きたら腹が妊娠何ヶ月だ?と言うくらいの大きさになっていた。

流石の璃王もそれには仰天したモノだ。今では何とかシャツを着れば腹の膨らみが誤魔化せるくらいの大きさになったが、それでもまだ少しは出ている。

次に驚いたのは、これが悪阻か!?と言うくらいに強烈な吐き気。

昨日は食べ物を一切受け付けない、スポーツドリンクでも飲めない状態になり、仕方がないのでコクコーラを飲んで過ごした。

不思議とコーラは普通に飲めた。

次にその体の重いこと。歩く度に脚の付け根が痛かった。まるで自分の体じゃないような錯覚に見舞われたのだ。

そんな時にいつまでも学校に来ない璃王を雲雀が心配したのかは謎だが、雲雀がベランダの窓から不法侵入してきたことは本当に驚いた。

そしてそこからはもう修羅場。

璃王の大きくなった腹を見た途端、何を勘違いしたのか雲雀は璃王の手を取って「こうなったら、結婚しよう。僕が責任を取るよ」とか言っていきなりプロポーズしてきたかと思えば、性別はどっちが良いだの、女の子だったら何て付けるか男の子だったらどういう名前にしようかだのそんな話から、式はいつ挙げようか、その前に両親に顔合わせと報告が・・・・・・だのそんな事を延々と語られた。

そんな雲雀の誤解を解くのに半日費やしたような気がする。

誤解が解けた途端に「あの藪医者・・・・・・咬み殺す!」と窓から出て行った時には嵐が去った、と安心したのは言うまでもない。

そして、暫くした後でそう言えばここは六階なんだが、どうやってここまで上って降りていったんだ?と思った途端に恭はバケモノだったのか・・・・・・と一人で納得していた。

そして、今日は昨日程ではないが、まだ気持ち悪さが尾を引いていた。

それでも璃王はいつものように準備して、アリゲータに餌をやると家を出た。

 

そう言えば今日は理科があったっけな。尚更逝かねぇと理科担当がうぜぇな。

前もパラジクロロベンゼンの化学式だの何だの・・・・・・生徒いびりしてるから、アラフォーでも結婚所か彼女すら居ねぇんだよ。

まぁ、一年の時に居た根津とか言う奴よりゃマシだがなと、璃王が考えている間に行き付けのコンビニのファミメが目の前に近付いた。

丁度良いから昼飯でも買ってくか、と璃王はファミメに立ち寄った。

緑のカゴに蜂蜜入りのミルクティーと菓子パンと適当な菓子を入れて、レジに持って行くと「いらっしゃいませー」と可愛らしい声がレジの奥から聞こえ、店員が小走りでレジに駆け付ける。

 

 

「あ、璃王君!

おはよう、これから学校?」

 

 

明るく可愛らしい声で璃王に声を掛けてきたのは、三谷鈴那(れな)

並盛高校夜間部の一年で、長い紫の髪を両サイドの低い位置で三つ編みにしていて、紅い大きな目が特徴的な笑うと八重歯が可愛いアルバイト店員だ。

璃王が買い物に行くといつも見かけて、つい最近になって逆ナンされ、今では仲良くなっている。

鈴那の言葉に璃王は頷いた。

 

 

「あぁ、昨日は無断で学校サボったから、行かないと何処かの風紀委員長閣下に殺される」

 

 

璃王がそんな事を言えば、「大変だねー」と鈴那は大きな目を細めて笑う。

いつの間にか、彼女の顔を見るのが日課になってしまっているな、と璃王は思った。

別に彼女のことは嫌いではない。好きかと言われればそうかも知れないが、これも恋愛とは違う気がする。

そんな事を思った璃王はそう言えば、京子に告白された時に感じたモノと同じ様な感情だと、思った。

この感情がなんなのかはもう一切合切忘れ去ってしまったモノなので思い出せない。

 

 

「あ、ねぇ!今日の夕方、時間空いてる?」

 

 

「え?あ、あぁ・・・・・・」

 

 

鈴那は会計をしながら、考え込んでいた璃王に話を振ってきた。

突然話を振られた璃王は思わず頷いてしまったが、今日の予定を頭の中で確認した。

今日は学校に行ったら応接室行って、理科だけ受けてその後は応接室で書類の整理をするから、夕方には終わってる筈・・・・・・だよな。

大丈夫か。

本日の予定を確認していたら、璃王の返事を聞いた鈴那は解りやすく顔を輝かせた。

 

 

「本当!?じゃあ夕方、並盛商店街のゲートの前で待ってて!

今日、創立記念日で学校が休みなんだ!

この間、すっごく美味しいケーキ屋さん見付けたから、一緒に行こ!」

 

 

鈴那は凄く生き生きとした顔で言った。そんな顔されて誘われると、断りにくい。

まぁ、甘い物は好きだし、璃王と鈴那は店の外でも何回か会っているので、今更断る理由もない。

璃王はレジスターに表示された金額を払うと、承諾する。

 

 

「解った。生きてたら行く」

 

 

買い物袋を受け取って、璃王は言った。

鈴那は「学校に行くだけで大袈裟だよ~、行ってらっしゃい!」と笑って璃王を見送った。

そんな鈴那に微笑みかけて璃王は、店を出ると鞄の中に買い物袋を詰めて学校へ向かった。

璃王は彼女に学校での事は話していなかった。

態々触れ回るような事でもないし、鈴那は女友達だ。そんな彼女に必要以上の事を喋る必要は無い。

 

ただ――――まさか、あんな事が起こるなど誰が想像しただろうか。

1時間後の悲劇を璃王はまだ、知らない――――。



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標的2

一先ず応接室に立ち寄って鞄を預けてくると璃王は教室へ向かった。

いつも通りに遅刻していったワケだから、教室の前に来れば教師が教科書の内容を熱心に説明している声が聞こえる。

そんな声を気にもせずに璃王はいつも通りに後ろの扉を開けた。次の瞬間、いきなり全身がびしょ濡れになる。

ガラン、と音を立ててバケツが足下に落ちてきたのを見ると、どうやら水を引っ被ったようだ。それも、かなり冷たいことから氷水だったか、氷が入っていたのか。どちらにせよ、冬場の行水にしては体に悪そうである。

いつもは前扉に仕掛けてあるのに・・・・・・ちっ、学習したか。璃王は凍える体を気にも留めずにそんな事を考えた。

だが、どんなに学習しようと、やることは餓鬼丸出しだ。つーか、今時の小学生ですらもこんな事はしねぇよな、と璃王は呆れる。

教室に入れば教師のいつも通りの説教が始まる。

つーか、バケツと水は無視ですか。このイジメとやらを容認ですか。璃王は話を聞かず、席に着く。

相変わらずの落書きに溜息しか出てこない。

 

 

「璃王君、おはよ・・・・・・大丈夫?」

 

 

ただ、いつもと違うのは、京子が声を掛けてきてくれたこと。よく見ると京子は隣の席だった様で、璃王に微笑んだ。

璃王は京子を一瞥すると、席に着く。

今日も良い天気だなぁ。屋上に行くと気持ちいいだろうなぁ。璃王は窓の外を眺めながら、そんな事を考えた。

後で恭の所に行って制服貰って屋上行こうか。机に突っ伏してそんな事を考える。

眠い。だが、今ここで寝ると大変な事になるのは目に見えている。

今はまだ、体を安静にしないといけないのに殴られでもしたら大事だ。

璃王はそんな事を考えながら、窓の外を見る。

そうだ、余計な事を考えよう。そしたら寝ない筈だ。

例えば、アリゲータの生態とか。彼奴は謎が多すぎるんだよな。

例えば、シャマッシーはふ●っしーに勝てるか、とか。戦闘力の面ではシャマッシーだろうな。病原菌を操れるし。あの技って絶対チートだろ。

自分も三百三十三対の病原菌に冒されてるとかマンボウみてぇだよな。マンボウはそれ以上らしいが。

人気の面ではふ●っしーだろうな。オレにはふ●っしーの良さが解んねぇが。あれ、梨に竹ひごを刺しただけだろ。

キチガイだし、うっせぇし、梨の妖精だっけ?あんなちんけな妖精が居てたまるか。妖精っつーのはもっとこう・・・・・・煌びやかで神秘的で何者にも侵せない神々しさのある美しい精霊のことだぞ?

例えば、そう、シルフとか、サラマンダーとかウンディーネとか、シェイド、ウィル・オー・ウィスプとかな。

まぁ、シェイドやウィルに至っては神々しさを通り越して畏怖すら感じるが・・・・・・そもそも、ウィルは光の精霊だから恐怖を感じたら終わりじゃないか?あれ、そう考えると、シェイドとウィル以外はそんなに怖さも神々しさですら感じなくなってる気がするが・・・・・・見慣れてしまった所為か?あれ?何だか話が脱線しているような・・・・・・?

 

まぁ、そんな下らない事を考えていたら当然、意識はゆっくりと落ちていったワケで、璃王はいつの間にか眠ってしまった。

 

 

意識が浮上したのは授業が終わった後だった。授業が終わって直ぐ、京子に起こされたのだ。

京子はと言うと、教師から呼び出しを食らったとかで璃王が起きて直ぐに教室を出て行った。

璃王は応接室に行こうと席を立ち、教室から出ようとする。それを阻むように山本が立ちはだかり、すんなりとは教室から出られそうになかった。

 

 

「何処に行こうとしてるのかな?」

 

 

教室の前扉には、沢田と山本が立ちはだかり、後ろ扉は獄寺が塞いでいる。璃王は山本と沢田を睨んだ。

 

 

「・・・・・・そこを・・・・・・退け・・・・・・」

 

 

未だに続く気持ち悪さに耐えながら、璃王は低い声で言う。

沢田に言った言葉が気に食わなかったらしい、獄寺が璃王に噛み付いた。

 

 

「てめぇ!十代目になんて口を利いてやがる!!」

 

 

そんな事を口走りながら獄寺は璃王の背中を蹴りつけた。

渾身の力で蹴られた璃王は呼吸が苦しくなる。それも構わず、獄寺は璃王の襟元を掴み上げた。

璃王の体が持ち上がって、床には爪先だけが付いている状態だ。

そんな中、璃王はチビの割には中々力だけはあるんだな、などどうでも良いことを考えていた。

 

 

「それにまた、保坂を虐めたらしいじゃねぇか!」

 

 

獄寺は力任せに璃王を扉に押し付ける。

力と迫力だけは認めるが、全く怖くねぇな、と璃王はこんな時に自分の主のことを思い出す。

主はキレるとガチで怖い。助けられたこっちが泣かされたことがあるくらいだ。それに比べれば獄寺なんかミジンコに毛が生えたようなモノだよな。

 

 

「理絵奈ちゃんの痛みを思い知れッ!」

 

 

璃王が獄寺の手を払いのけると、沢田の言葉を合図に沢田、獄寺、山本が殴りかかってくる。

璃王は腹と腰だけは衝撃を与えないようにそこを庇いながら避けたり、受け止めたりする。

沢田が殴りかかってきて、それを避ければ山本の蹴り、それを捌くと今度は、獄寺の足払いが来たから、それを璃王は難なく躱す。

璃王は右目に眼帯をしている為、右側が見えないから常に右に気を取られていて、その所為で左が常に疎かになっていた。そして、今は三対一と孤立無援状態の上に更に場合によっては他の生徒も手を出してくる。なので、正確には三十二対一だ。

今の璃王では三人ですら手に余る。そんな中で、獄寺は璃王がさっきから右にばかり意識を集中させていて左が疎かになっていることに気が付いた。

―――こいつ、もしかして?

獄寺は左に回って璃王に攻撃を仕掛けてきた。

マズイな……オレは今日は鈴那と……。そんな事を考えてしまった璃王は当然、一瞬の隙ができて、思いっきり獄寺に腹を蹴られ、床に腰を打ち付けた。

 

 

「しま……っ!かは……っ!!」



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標的3

ここで、璃王の右目が明らかに――――!?


璃王の一瞬の隙を突いて、獄寺は思い切り璃王の腹に渾身の蹴りを入れた。

床に叩き付けられるように蹴られた璃王は腰を床に強く打ち付ける。

 

 

「しまっ……がはっ!」

 

 

床に腰を打ち付けた瞬間、璃王は身体中が熱を帯びた激痛に蝕まれた。

今まで呪いの進行を抑えていた「薬」が「毒」へと変わり、身体中を駆け巡ったのだ。

璃王はあまりの苦しさに吐血した。口に当てた手に真っ赤な血がベットリと付く。

苦しくて呻く璃王を全員が面白そうに嘲笑いながら見下ろす。まるで、サーカスで失敗を繰り返して座長に詰られるピエロを見ているかのような目。

璃王がこれまで幾度となく浴び続けていた、蔑みの目だ。

 

 

「おい、こいつ血ぃ吐いたぞ」

 

 

「弱ぇー」

 

 

璃王を虫けらの様に嗤う生徒達に璃王は弱い生き物め、と生徒達を侮蔑する。

え、「粋がりすぎだ」って?死にかけのクセに?何とでも言えよ。

ふと、相棒の言いそうな言葉が璃王の脳裏を過った。

ああ、これが走馬灯ってヤツか。そんな事を思っていた時だった。

誰かの一言で璃王の意識は現実に引き戻された。

 

 

「こいつ、いつも右目隠してるよな?!」

 

 

1人の男子が狂気の滲む明るい声で言った。

―まずい……!―

男子の言葉に、頭の中で警鐘が五月蝿い程鳴り響いた。

璃王は身の危険を感じて、碌に力の入りもしない身体に鞭を打って逃げようと立ち上がる。

とにかく、シャマルの所へ・・・・・・!

 

 

「おい、神谷が逃げるぞ!」

 

 

「押さえろ!」

 

 

逃げようとした璃王の行為は虚しく、1人の男子の言葉により璃王は直ぐに男子に捕まり、逃げられなくなった。

捕まれた腕から背負い投げされ、璃王は背中を床に打ち付ける。

 

 

「かは……っ!」

 

 

咳と共に口から血が吹き出す。

それに構わず、男子は璃王の上に馬乗りになる。

璃王は無い力で必死に抵抗をするがそれは虚しく、いとも簡単に璃王の両手は頭の上で縫い付けられた。

しかも、厳重に両腕に二人ずつそれぞれ、手首と二の腕を押さえられ、動けない。

明るい声が璃王の頭の上で聞こえる。

その声には狂気を感じて、璃王は背筋が凍るのを感じた。

 

 

「それでは~前髪を払いま~す」

 

 

その声と共に右目を隠している前髪が無造作に払われた。蒼い前髪の下にはその目を隠す眼帯が敷かれている。

その眼帯に手が伸ばされた。

璃王は眼帯を取られまいと腕に顔を埋める様に頭を捻った。それが今できる最低限の抵抗だ。

何があっても、右目だけは絶対に誰にも見せたくない――――!!

 

 

「けほっ・・・・・・やめろ・・・・・・っ!」

 

 

ゆっくりと璃王の眼帯に伸びてきていた手は途中で止まり、その代わりに舌打ちが聞こえた。

1人の男子が白々しく言う。

 

 

「ちっ、シラケるよな~」

 

 

「っつーか女かよ、お前?

男ならさ、潔くサービスの一つや二つしろっての!」

 

 

男子が口々に非難の声を上げる。

男でも非友好的な関係の人間にサービスなぞするか!璃王はそんな事を思った。

そもそも、こいつらには何のサービスもしてやる義理などない。たとえサービスをするのだとしても、璃王がこいつらにするサービスは死に方のリクエストを訊くくらいだ。

それ以外のサービスは有り得ない。

 

 

 

「つーかさ、もう、剥いじゃえよ」

 

 

山本が馬乗りになっている男子に言う。

依然として、警鐘は鳴り止まない。それどころか、さっきよりも五月蠅く甲高く鳴り響いているような気がする。

――早く振り払いなよ――

頭は言うが、体が硬直した様に動かない。

――こんな奴らくらい、片手で十分だろう?

意識の奥で()()()()()()()()が璃王に語りかける。

五月蠅い。お前は見てるだけの傍観者のクセに簡単に言うな!

 

 

「山本、ナイス~♪

じゃあ、せーので剥ぐからな~?

お前ら、ちゃんと見てろよな?」

 

 

今の現状が何処か遠くで起こっているような感覚が璃王を襲う。何故か、自分の危機に璃王は他人事の様に感じていた。

それでも口は動く様で、璃王は壊れた絡繰り人形の様に咳き込みながらも、同じ言葉を繰り返す。

 

 

「やめろ・・・・・・っ、けほっ、ゲホッ・・・・・・やだ、やめ・・・・・・っ!」

 

 

顔を無理矢理正面に向けられ、馬乗りになっている男子と目が合う。

オレだって、曲がりなりにも一応、女だ。初めて至近距離で目を合わせる相手くらい選びたかったし、馬鹿だと笑われるだろうが、想像もしていた。だが、それは目の前のこいつじゃない。

璃王はそんな事を思った。

璃王だって、夢を見ることはあった。今でも無駄だとは思いながらでも、夢を見ることがある。

「女は捨てた」と言いながら、根底にはまだ、しっかりと女としての意識はあったのだ。

それを無理矢理抑えることで、自分は男だと言い聞かせていた。

 

 

「では、右目とご対面~」

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 

男子の言葉に璃王は絶叫とも言える声で叫んだ。それと同時に眼帯が乱暴に外され、璃王の右目が露になる。

教室を時間が止まったかの様な静寂が包み込んだ。

幾つもの視線が突き刺さる。

まるで・・・・・・化け物でも見るかの様な、そんな冷たい視線。

 

 

「み・・・・・・な・・・・・・っ、ゲホッ・・・・・・見る・・・・・・な・・・・・・っ!」

 

 

璃王は動きもしない固定された頭を振る。

一番、誰にも見られたくなかった目。見られれば、バケモノを見るかのような目を向けられることは解っていた。

だから、オレは・・・・・・っ!

 

 

「おい・・・・・・こいつの目・・・・・・」

 

 

静寂の中、やっと誰かが口を開いた。その声は異様なものを見た様な声をしていた。

その声を切っ掛けに、ざわめきが辺りに伝染する様に広がる。

それ程までに璃王の目は異常だった。

 

 

「何、あの目・・・・・・」

 

 

「気持ち悪い・・・・・・」

 

 

璃王の右目を見た反応。もう、聞き慣れた言葉が璃王の鼓膜に突き刺さる。

唯一、獄寺だけは何も言わずに、何かを考え込んでいる様に璃王をじっと凝視している。

口の中で何かを呟いているのか、たまに小さく唇が動いていた。

 

 

「おい・・・・・・こいつの目・・・・・・赤目」

 

 

「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 

「璃王っ!」

 

 

璃王に覆い被さっている男子が面白そうに璃王を見下ろして、言う。それを遮る様に璃王は叫んだ。

璃王の叫びと共に、教室の扉が開いて、誰かが璃王の名前を呼ぶ声が聞こえた。



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第六楽章 Reborn―リボーン―
標的1


最近、蒼穹のファフナ―を見てたんだが、何なんだよあの涙腺決壊アニメはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!
昔、一度見た時はそんなでも無かったのに、今改めて見返すと話の意味が解って涙腺が決壊したよぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!
総士ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!
もうね、最終回はホント涙腺がやばかった!
かつてこんなに泣いたのは、マクロスFでミシェルが死んだ時とガンダムSEEDでフレイとムウが死んだ時、DESTINYでステラとレイが死んだ時とREBORNでスクアーロが死んだと思った時だよぉぉぉぉぉぉぉおおお!!
特に未來編のあのザクロとの戦闘の後!あれ本当に死んだと思ったじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!
その時から私はザクロを恨みました←あと、山本もな!
(ザクロ・山本ファンの皆さんすみません←)

あぁ、もう、前書きじゃ語りきれないので、マクロスFと蒼ファフ語れる人は是非一緒に語りましょう!つーか、語らせて下さい!←


「おい・・・・・・こいつの目、赤」

 

 

「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

「璃王っ!」

 

 

男子の言葉を遮るように璃王が絶叫に似た叫び声を上げると、それと同時に教室の扉がバシンッ!と勢いよく開いて、誰かが入ってきた。

嗚呼、オレを呼ぶこの声は・・・・・・。璃王は自分を呼んだ低い声に安堵を覚えた。

 

 

「き・・・・・・けほっ、きょ・・・・・・う・・・・・・?」

 

 

来てくれた・・・・・・んだ・・・・・・。

咳き込みながら、声の主の名前を璃王は呟いた。

勢いよく教室に入ってきたのは、雲雀だった。

駆け付けた雲雀は相当急いでいたのか、少しだけ肩で息をしている。

雲雀の姿を確認して璃王が安堵していると、周りの空気は凍り付いた。

水を打ったような静寂が教室に流れる。

 

 

「ヒバリさんだ・・・・・・」

 

 

畏怖の念の籠もった誰かの声が静寂の教室に落ちた。

人は自分よりも強い人間を目の当たりにするとその力に恐れ戦いて畏縮し、恐怖を覚えるそうだ。

そんな事がふと、璃王の脳裏を掠めた。

力を持ち、それが認められたモノはその力故に自身を孤独にする。かと言って弱さを見せてはそれに付け込まれ、虐げられる。だから、強さを欲した。その代償が大切なモノを失った上にこんな仕打ちだというなら、なんて酔狂な運命だろうか。

璃王はキツく目を閉じた。

 

 

「き・・・・・・恭弥ぁ~~~っ!」

 

 

神経を逆撫でするような保坂の猫なで声が璃王の耳に突き刺さる。その声に嫌悪すら感じた。

 

 

「恭弥ぁ、理絵奈ね、今日も璃王君にヒドイ事されたの~!」

 

 

雲雀に近付いて、保坂はそんな事をほざいた。

雲雀は冷ややかな目で保坂を一瞥すると、現状に目をやる。

グチャグチャに散らかされた机と椅子。足下に所々に散っている血痕。

そして、男子生徒に組み敷かれている璃王を見た瞬間に雲雀はトンファーを構え、「咬み殺す」と低く言った。

それを見た男子が璃王を雲雀に生け贄を捧げるかのように献上する。

 

 

「ヒバリさんが神谷を咬み殺しに来たんだ・・・・・・」

 

 

「やっぱり、あの噂は本当だったんだ・・・・・・!」

 

 

生徒達の間から畏敬の声が聞こえる。

あの噂とは、「雲雀恭弥は保坂理絵奈と付き合っていて、保坂理絵奈を傷付けた人間は(ことごと)く咬み殺される」と言うモノだ。そんな噂がいつの間にか二年の間で流れていた。

璃王が雲雀に目を向けると、雲雀はトンファーを構えて、その隣には保坂が立っていた。

暫し周りが好奇の目を向けていると、雲雀は保坂を突き飛ばした。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

「ヒバリさん、何を!?彼女じゃないんですか!?」

 

 

保坂を突き飛ばした雲雀に沢田は抗議する。

端から見れば驚愕の瞬間だった。彼女であるはずの保坂を彼氏であるはずの雲雀が突き飛ばしたのだから、驚かない人間は居ないだろう。

抗議した沢田に雲雀は冷ややかに言った。

 

 

「あんな草食動物、僕は知らないな。弱い人間には興味が無いモノでね。

僕の名前を呼んで良いのも、僕の彼女を名乗って良いのも、僕の隣に立って良いのもリオンだけだよ。

解ったら君たち、覚悟は良いね?」

 

 

怒りと殺気を放出させ、雲雀は璃王を組み敷いていた男子達を獰猛な目で睨みながら、近付いてくる。

男子達は恐怖に戦き、腰を抜かして立ち上がることすら出来なかった。

 

 

「咬み殺す」

 

 

「う・・・・・・っ!」

 

 

雲雀の言葉と同時に璃王の心臓が激痛を伴って脈打った。

侵蝕するような内臓の痛みに、璃王は苦しさに噎せ返る。

 

 

「ゲホッ・・・・・・ゲホッ・・・・・・」

 

 

「リオンっ」

 

 

璃王が咳と共に床に血をぶちまけると、雲雀は服が汚れることも厭わずに膝を床に着けて璃王を抱き起こした。

口元に大量の血をベットリと付けて虚ろに開く璃王の目を見ると、雲雀は戦慄した。

霞む璃王の視界にそんな雲雀の顔が映る。

雲雀は璃王をそのまま抱き上げた。

 

 

「恭・・・・・・、僕、を・・・・・・シャ・・・・・・ゲホッ、シャマル、の・・・・・・とこに・・・・・・」

 

 

朦朧とした意識の中で辛うじてその言葉だけを雲雀に伝える。雲雀が頷いたのを確認すると璃王は、そのまま意識を手放した。

苦しそうに呼吸を繰り返す璃王を連れて教室の扉に向かうと、雲雀は思い出したかのように肩越しに振り返って、沢田と山本、獄寺を見る。

 

 

「そうだ。君たちは後で屋上に来ると良い。

そこの草食動物たちの代表として咬み殺してあげるよ、跡形もなく」

 

 

それだけを言うと、雲雀は足早に保健室へ向かう。

璃王を抱えていて、雲雀は思った。この子は軽すぎる、と。

全く体重の重さを感じないのだ。いつもは猫背で気にならないのだが、璃王は雲雀よりも少しだけ背が高い。

それでも全く重さを感じない璃王の体に雲雀は璃王がどれだけ追い詰められているのかをひしひしと感じた。

そんな事を考えていれば保健室に着いて、雲雀は扉を開けると保健室に入り、シャマルを呼んだ。

 

 

「保健医!」

 

 

「おーおー、暴れん坊委員長じゃねぇか、珍しいな。

それと、抱えてんのは璃王か?」

 

 

保健室に充満する珈琲の匂いに今までシャマルが呑気に珈琲を啜っていたことが解った。

雲雀に声を掛けた後に雲雀が抱きかかえている璃王に目を移すと、シャマルの顔が険しくなった。

 

 

「どうしたんだ、璃王は!?」

 

 

璃王の血で染まった真っ赤な口元とシャツを見て、シャマルは声を上げた。

雲雀は璃王をベッドに降ろしながら説明する。

 

 

「解らない・・・・・・リオンの悲鳴が聞こえて、僕が駆け付けた時にはもう吐血してて、数人の男子生徒に床に押さえ付けられていたんだ」

 

 

雲雀の説明を聞いたシャマルは目を見開く。

その後で引き出しから白衣を雲雀に投げて言った。

 

 

「だとしたら、やべぇ!ったく、あれ程安静にしてろと釘を刺したのに・・・・・・とにかく、璃王にそれを着せとけ!」

 

 

焦りながらも、シャマルは戸棚から複数の薬品を取り出す。

そんなシャマルに頷くと雲雀は、今でも苦しそうに呻いている璃王の服を着替えさせる為に璃王のシャツを剥いだ。

璃王の体に付いている無数の傷痕と大きな痣を見て、雲雀は表情を歪めた。



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標的2

ちなみに、ガンダムはSEEDから入りました。SEEDの連ザから。
ⅡPLUSが一番のお気に入りでしたね。何たってフレンドリーファイアができるから・・・・・・ではなく、キャラの選択肢が多いから!
カガリとかステラとかレイばっか選んで、そのくせMSはデストロイとかザク、Sインパルスばっか使ってましたw
PLUSモードも勿論しましたが、議長がとんでもねぇ救命ポッド男でアスランがめっさ反逆してくること、更にルナマリアがものっそいフレンドリーファイアをかましてくることしか覚えてませんw
ガナーに乗ったルナマリアの前に立つな、はホント教訓でした・・・・・・って、またカンケーない話を!?
すみません、話し出すと熱が冷めなくて←
SEED語れる人も語りましょ―!w


璃王の処置が終わると雲雀はシャマルから、璃王の容態を聞いていた。

 

 

「あれはどう見ても、素人から殴られたりした傷だ。彼奴に限って、無茶な依頼で怪我するのは10分の0,5くらいの確率だからな。

お前も知っての通り、彼奴は強い。その辺の同い年の女の比じゃねぇくらいにな」

 

 

シャマルの話を聞いて雲雀はマグカップに視線を落とした。

やっぱり、リオンは聞いた以上に酷い苛めを受けていたんだ。それでも、リオンは平静を装って、何でもないと強がって・・・・・・。

そんな事を考えた時、雲雀は初めて璃王を見た時に感じた「璃王を守りたい」と思った感情の答えが解った気がした。

そうだ、リオンは自分に似ているんだ。どんな状況だろうが他人を巻き込もうとせずに自分の中で自己解決する所。死にそうな状況でも何でもないように強がる所。伸ばされた他人の掌を払い落とす所。

璃王の性格を改めて考えると、好戦的な所以外は殆どが雲雀に似ていた。

だから、守りたいと思ってしまったのだ。まるで、自分を守ろうとしたかのように。

結局は守れなかったのだが。

 

 

「どうして、あんなに強いのだろう、リオンは?もしかしたら、僕よりも強いよ・・・・・・彼女は」

 

 

雲雀は思った事をそのまま素直に言った。自分よりも強い人間はあの男以外は居ない、と思っていた雲雀の口から自分よりも強い事を認める言葉が出てきたことにシャマルは驚いた。

リオンの強さは何処までも彼女を孤独にする。それを隠せば弱者だと思い込まれ、いたぶられる。

どちらにしろ、リオンに居場所はない。この現状で今まで、どんな思いでここに居たのだろうか。

リオンの事を解ってやれるのは僕自身だけだと、自惚れていたのかも知れない。実際には何も解ってやれなかったクセに。

雲雀は自嘲した。

 

 

「こいつの強さの秘密は、俺がよく知っているぞ」

 

 

窓から不意に低い男の声が聞こえて、窓に目を向ければボルサリーノを被った黒いスーツのスタイリッシュな男が窓枠に座って、エスプレッソを飲んでいた。

 

 

 

「本当かい?」

 

 

雲雀はスタイリッシュな男――リボーン――に問う。雲雀の問いに彼は頷いた。

 

 

「ああ。俺は五年間、こいつの家庭教師(カテキョー)をしていたからな。こいつに喧嘩売って生き残れる奴は居ない。

俺と後もう二人を除いてな」

 

 

雲雀はリボーンの話に驚く。

ちょっと自慢されたような気がするが、彼の話だと璃王と同等か、それ以上の実力者が彼を除いて二人居る事になる。

リオンより強い人間が、この世に存在するのだろうか?そんな事を雲雀は思った。

リボーンは話を続ける。

 

 

「こいつは、「悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)」――ボンゴレに次ぐ巨大マフィア、ドーディチファミリーの元ボスであったヴァルフォア家前当主、雪華(せつか)・ヴァルフォアの一人娘であり、次期ドーディチファミリーボスとヴァルフォア家次期当主である忌まわしき呪われ子……忌み子だ」

 

 

彼の話に雲雀は妙に璃王が強い理由に納得した。

リオンは一般人じゃなくて、マフィアの人間――――それも、ボス候補だったんだ。だから、その辺の人間よりも強い筈だよ。

雲雀は改めて、自分は璃王の事を何も知らないのだと思い知らされた。

そんな事を璃王は雲雀に話していなかったのだ。

 

 

「獄寺、そこに居る事は解ってんだ。

ダメツナと山本も居んだろ。入ってこい」

 

 

リボーンが扉に目をやりながら言うと、戸が開いて沢田達が入ってきた。

保健室に入ってくるなり、獄寺が口を開く。

 

 

「リボーンさん。その話、本当っスか?」

 

 

「本当だぞ」

 

 

獄寺の質問にリボーンは頷く。彼らは信じられない、と表情で訴えていた。

リボーンはそんな三人を睨んで、続ける。

 

 

「話の続きをするが、リオンの精神は崩壊して呪いが進行してんだ。

このまま、てめぇらのやってる苛めが続けば呪いに負け、取り返しのつかねぇ事」

 

 

「おい」

 

 

リボーンの話は、不意に聞こえた低い声に遮られた。声のした方を向くと、ベッドから起き上がって彼を睨む璃王の姿があった。

眼帯はしておらず、右目は前髪で隠れていて殺気の籠もった藍色の左目がリボーンを射貫いている。

 

 

CHAOS(カオス)。久し振りだな、俺の本妻」

 

 

そんな璃王の殺気をリボーンは気にした様子もなく、璃王に軽口を叩く。

璃王はリボーンの言葉に不快そうに眉を潜めた。

 

 

「誰がお前の本妻だ。このロリコンめ。

・・・・・・それより、勝手にオレの事喋るな。プライバシー保護法違反だぞ」

 

 

心底嫌そうに璃王はリボーンを睨んで、訴える。

それでもリボーンは気にしていない様子だ。

ふと、彼とリオンの間にどんな関係があったのか、何故か雲雀はそんな事が凄く気になった。

ただの家庭教師(カテキョー)と生徒のようには思えない。もっと、そんな他人みたいじゃなくて、そう、兄妹とかそう言うモノに近いと感じる。

 

 

「リオンと俺の関係か?そりゃ、一言じゃ言えないような、濃い・・・・・・」

 

 

「ただの家庭教師(カテキョー)と教え子だ。日本に来る前、帝王学と戦術のイロハを教わった。

リボーン、恭に変な事を言うな。信じるだろうが」

 

 

リボーンの言葉を遮って、璃王が説明する。後半は、彼に向けた言葉だ。

雲雀はリボーンの言葉に不快感を感じたが、璃王が遮ったので訊かなかったことにして、自分が思った様な関係じゃなくて良かった、と、何故か安堵して、胸を撫で下ろす。

 

 

「まぁ、んな事はどうでも良くてだな。

オレの話はするな。

誰にも関係無いことだし、こいつらに話したって、仕方ねぇ事だろうが。たとえ、こいつらが同盟ファミリーの次期ボスとその守護者だとしてもな」

 

 

璃王は殺気立った目で沢田、獄寺、山本を順番に睨む。殺気立った、と言っても、今すぐに殺すとかの類いじゃなく、ただ、静かに殺気を浸透させる様な感じだ。

その殺気に雲雀はゾクリ、と背筋に何かが這うような感覚を感じた。()り合ってみたい、と闘争心が擽られる。

今なら本気で璃王と戦えそうな気がした。が、雲雀はそんな思考を振り払う。リオンは守りたい人間だ。戦ってどうする。

沢田と山本は額に脂汗を滲ませて、まるで蛇に睨まれた蛙のような顔で璃王を見た。

 

 

「しかも、幾ら同盟ファミリーと言えど、オレ個人的に奴等を敵だと見ている。

何が最強のボンゴレだ。群れて虚像を信じて、弱者に跪く様なファミリーの守護者にオレの大切な王子が居るなど考えたくないっつーのに、オレの事なんか話せるか」

 

 

「んだと、てめぇ!ボンゴレの侮辱は許さねぇ!」

 

 

「ご、獄寺君!」

 

 

璃王の言葉に獄寺が璃王に掴み掛かる勢いで声を荒げるのを、沢田が宥めた。

納得のいかなかったらしい獄寺は沢田に抗議する。

 

 

「しかし!」

 

 

「落ち着いて、獄寺君。さっき、話し合ったでしょ?

あのヒバリさんが神谷を庇ったんだ。何か理由が絶対ある筈だよ。

それに、今の言葉・・・・・・話を全部聞くまでは、テコでもここを動けないよ」

 

 

「ぐ・・・・・・十代目がそう仰るなら・・・・・・」

 

 

沢田の言葉に渋々、獄寺は引き下がる。

沢田の言葉を聞いていた璃王は溜息を吐いた。

 

 

「貴様らに話す事は何もない。保坂理絵奈がオレに苛められている、貴様らにはその情報だけで充分だろ。

それで今更、何を話す事がある?それを話して、貴様らと仲良く手を取れと?無理だな」

 

 

「まぁ、そう言ってやるなよ、リオン」

 

 

璃王の言葉の後に、不意にこの場に居ない人間の声が聞こえた。

その声に誰よりも早く、璃王が反応した。

 

 

「その声は!」



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第七楽章 Cerrah―セラ・C・ヴァルフォア―
標的1


「やぁ、元気そうだねぇ、リオン。

久しぶりに会った筈なのにそんな気が全くしないよ」

 

 

突然の介入者に沢田、獄寺、山本、雲雀は驚きに目を瞠る。

蒼いロングストレートの腰辺りまでの髪、右目に掛かる長い前髪。

そこだけを見れば、誰もがこう思った。

 

 

「ド・・・・・・ッ、ドッペルゲンガー!?」

 

 

「なワケねぇだろ」

 

 

沢田の絶叫とも取れる叫びに、リボーンが冷静に突っ込んだ。

そう、誰もが初めてその姿をリオンと列んで見ると、必ず「ドッペルゲンガー」若しくは「双子」だと勘違いをする。

尤も、沢田の様にドッペルゲンガーだと勘違いするのは稀なのだが。その様に見紛う程、介入者とリオンは瓜二つだった。まるで、生き写しのように・・・・・・。

 

 

「まだやってたのか、セラ?

リオンの真似事」

 

 

呆れた様に言う、リボーン。

そんなリボーンに目を向けると、セラと呼ばれた少女は「クックック」と喉を唸らせる特徴的な笑みを見せた。

そんな所も相変わらずだな、とセラと旧知のリボーンとシャマルは思う。

 

 

「真似事じゃないさ。

オレもリオンもひとりの殿方を愛し、どちらが振り向いて貰えるかと競い合っていた仲だ。

その方の好みに合わせれば、生まれた時から「アウラの再来」と謳われたオレとリオンが似ない筈はないんだよ」

 

 

セラの言葉に雲雀が反応する。

リオンにはそこまで想っていた人間が居たのか?と雲雀は思う。

そんな雲雀に目を向けるとセラは、何かを見透かしたように口角をニッと上げ、含み笑いをする。

 

 

「安心しなよ、風紀委員長君。

彼はリオンの扉の鍵を持っていたワケじゃない。

リオンはただ、憧憬と恋慕がごちゃ混ぜでそれの境界線が今の所ないだけだから、まだチャンスはあるだろうね。くくくっ」

 

 

喉を唸らせて笑うセラに雲雀はムカツキを感じた。

同じ容姿をしていても、同じなのは容姿だけで中身は全くの別物だ。

そんなセラと雲雀を見て何の0話をしているのか解らず、璃王は小首を傾げながら「恭とセラは仲が良かったのか」と不思議そうな顔をしていた。

 

 

「まぁ、そんな話は置いといて。

話してやっても良いんじゃないかねぇ、リオン。

オレは最近転入してきたばかりで、君の状況は君の記憶を通してからしか解らない。

オレも、常に意識を繋いでるワケじゃないから大雑把なことしか解らないし、詳しい話を聞きたいねぇ。

ウチのクラスでも流れている噂も被害者を騙っている人間の話も信用できないしさぁ」

 

 

口調はいつも通り飄々としているが、真剣な顔のセラに璃王は彼女の顔を見る。

自分と同じ顔が見つめ返してきて、璃王は溜息混じりに言う。

 

 

「嫌だね。

此奴らはオレの言葉よりも保坂理絵奈の猿芝居に騙されてんだぜ?意識繋いでたんならその光景も見た筈だ。

今更、何を言う必要もないだろうが」

 

 

「言っただろう?

オレは常に意識を繋いでるワケじゃないって。

仮に常に繋いでおいたとして、そんな面妖な能力でリオンと意識を共通したって、それで君の事を理解したとは言わない。

他人を理解するって、そんな簡単な事じゃないだろう?」

 

 

セラの言葉を突っぱねて今も尚、何も話そうとしない璃王にセラは溜息混じりに言った。

それは曾て、セラが自分の想い人に言われた言葉だ。

璃王は言葉を無くす。

 

 

「それに、ちゃんと話さないと解らないこともあるだろう?

少なくとも、話し合う意思があるから、リオンの話を聞く気になったから、ここに来たんだろう、君たちは?」

 

 

後半の言葉は、沢田達に向けられたモノだ。

璃王と瓜二つのインディゴの目で射貫かれ、沢田と獄寺、山本は足が竦んだ。

触れれば凍てつきそうな眼光は、「ただの好奇心なら出て行け」と警戒している様だった。

唯ならぬ殺気に睨まれてもいない雲雀まで動けない。

 

 

「何でこうなったのか経緯を聞かせて貰おうか、ボンゴレ十代目、沢田綱吉。

事と次第によっては、たとえあの方の所属するマフィアのボスだろうが容赦しない」

 

 

セラに睨まれた沢田は蒼い顔で彼女を見詰めることしかできなかった。

教室での出来事を話せば、その瞬間が命の終わりだと直感したのだ。

沢田が物怖じしている事に感付いたセラは内心で舌打ちした。

――こんな情けない奴があの方のボスだと?笑わせるな!

セラがそんな事を思っている間に、獄寺が慎重に口を開いた。

 

 

「さっき・・・・・・そいつが吐血した時に、俺は違和感を感じた。

俺達は普通に殴り掛かったりして、それを神谷は避けてたんだ。

所が、腹を蹴られて腰を床に打ち付けた時、こいつは吐血して――――・・・・・・!」

 

 

ポツリポツリと言葉を紡ぐ、獄寺。

セラと目が合うと獄寺は、言葉を途中で切った。

セラの殺気を孕んだ視線が今度は獄寺を射貫く。

 

 

「・・・・・・で?リオンが吐血しました、さて、その後は?」

 

 

先程の飄々とした喋り方は何処へか消え失せて、抑揚のないセラの声が獄寺に続きを促した。

絶対零度の視線が、感情の読み取れない声色がその場に殺伐とした空気を充満させる。

獄寺は、促されるままに続きを話した。

 

 

「唯の好奇心で・・・・・・無理矢理、神谷の眼帯を剥いで右目を見たんだ・・・・・・

血の様に真っ赤な目が見えて、それで、ある一族の“忌み子”と呼ばれていた子供の話を思い出した。

だから、どうしても真相が知りたくて・・・・・・」

 

 

「それだけ?他に気付いた事があるだろう?」

 

 

「その後でヒバリさんが神谷を庇って・・・・・・ヒバリさんが秩序を乱す様な生徒を庇うわけがない、と思っ・・・・・・!?」

 

 

獄寺の言葉に苛立ちを露わにセラは問い質す。

そうすると、沢田がその時に思った事をそのまま述べようとしたが、全部言い終わる前にセラは沢田の横っ面をビンタした。

パァン!と乾いた音が、広くもなく狭くもない部屋に響く。

沢田の頬は赤くなっていて、その頬に沢田は手を当てた。

 

 

「き・・・・・・み・・・・・・?」

 

 

突然の事で目を白黒させている沢田は、目の前で自分を引っ叩いた手を包み込む様にぎゅっと握り締めて、涙を目尻に浮かべたセラを呆然と見た。

そんな事がなければ璃王の話を聞こうともしなかった奴らに苛立つ。璃王の事も信じることもしないで、一方的に璃王を痛めつけた人間が腹立つ。

何より、そんな時に何の力にもなれなかった自分自身に腹が立った。

 

 

「てめぇ、どういうつも・・・・・・」

 

 

「それはこっちの台詞だよ、ファッキン野郎共」

 

 

「何ぃっ!!」

 

 

掴み掛かってくる獄寺の言葉を遮ってセラは怒鳴りつける。

セラがそこまで激昂したのを見たことがなかった璃王は、驚いて目を白黒させた。

 

 

「君には失望したよ、ボンゴレⅩ世(デーチモ)

君の様な人間にボンゴレの血(ブラッド・オブ・ボンゴレ)が流れているなんて、宝の持ち腐れだねぇ」

 

 

嘲笑する様にセラは吐き捨てた。

その硝子細工の様なインディゴの双眼は「此奴らは信用するに値しないグズ野郎どもだ」と呟いている様だ。

そんなセラの言葉はまだ、続く。

 

 

「学校の絶対君主が絶対なのかい?

君らは自分の意思で状況を判断する能力に欠けています、と。

なら、そんなボンゴレはなくなってくれた方が助かる。消えてしまえ」

 

 

セラの言葉は一見すると暴言の様に聞こえるが、正論だ。

自分で考える力を持っていない人間がボスになろうなんて、集団自殺以外の何物でもない。

それをセラは知っている。

伊達にボス候補だったわけではないのだから。

ボス候補としての教養を身に付けているセラからすれば、沢田達がどれだけ教養がなっていないのか窺い知れる。

これが、自分が所属しているファミリーの同盟ファミリーのボスとは。失望する。

セラは溜息を吐いた。



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標的2

「とにかく、オレの事はオレからは話すつもりはない。

そんなに聞きたいなら、オレをその気にさせてみろ、Ⅹ世(デーチモ)

話はそれからだ」

 

 

璃王はそれだけを言うと、フラフラとベッドから立ち上がって、そのまま出入り口まで歩き出す。

それを見たシャマルが「おい!」と呼び止めるが、璃王はシャマルの話を聞かず、保健室を出て行った。

 

 

「一週間は無理な動きはすんじゃねぇぞ、璃王!

お前、(あばら)砕けてんだからな!?」

 

 

聞こえていないだろうが、シャマルは遠ざかっていく璃王の背中に言葉を投げた。

雲雀は直ぐ様、璃王の後を追って、保健室を出て行く。

「どうしよう・・・・・・」と、沢田の声がポツリと落ちた。

 

 

「どうすれば良いんだよーー!?」

 

 

沢田の言葉に獄寺と山本も唸る。

璃王の事を聞きたいなら話させる気にしないといけないとか、どんな無理ゲーですか!?と沢田は頭を抱えた。

璃王の性格を考えるなら、まず、自分達を仲間だと、信頼に足る人間だと思わせなければならない。

そうするにはまず、自分たちが神谷を信じなければならないワケで・・・・・・と、沢田は碌に回りもしない頭をフル稼働させる。

でも、神谷が何もしてないって確証がまだないし、完全に神谷のことを信じているワケじゃ・・・・・・あー、もう、どうすればいいんだよぉぉぉぉぉおおお!!と、沢田は頭を抱える。

それを見兼ねたシャマルが溜息を吐いた。

 

 

「仕方ねぇな。ヒントを二つやる。後はお前らで考えろ。

一つ目、璃王は女だ。

二つ目、今の彼奴は立ってるのもやっとの状態で、普通なら1ヶ月は寝たきりの状態だ。

それを根性でどうにかしている。そんな彼奴が人間に危害を加えられるワケがねぇ。

俺が言えるのはこれだけだ。あとはお前らで無ぇ頭絞って考えな」

 

 

「解ったら早く出て行け、男が何人もむさいんだよ」とシャマルは沢田と獄寺、山本を追い出した。

 

 

 

保健室を追い出された沢田達は屋上で考え込んでいた。

シャマルから貰ったヒントと今までの璃王と保坂のやり取りを沢田達は照らし合わせる。

 

 

「そう言えば、何で神谷君を虐めだしたんだっけ?

そもそも、根本的な理由って・・・・・・」

 

 

沢田がそんな事を言い出した時、そう言えば・・・・・・と獄寺が言葉を返す。

そもそも、どうしてこうなったのか、璃王を虐める様になった切っ掛けを思い出す。

 

 

「確か、神谷君が理絵奈ちゃんに告白して、理絵奈ちゃんが神谷君を振ったから神谷君が襲おうとしてきたって・・・・・・あれ・・・・・・?」

 

 

そこまで言うと、沢田は違和感を感じた。

何だか腑に落ちないのだ。

それは獄寺も山本も思った様で、三人で顔を見合わせた。

 

 

「シャマルさん・・・・・・何て言ってたっけ・・・・・・?」

 

 

沢田が確認する様に獄寺と山本の顔を見る。

二人もお互いの顔を見合わせて、沢田の顔を見た。

 

 

「神谷は女だ・・・・・・と」

 

 

「誰が誰に告白した?」

 

 

「神谷が保坂に告白・・・・・・あ!」

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」

 

 

沢田の問いに獄寺が答えると、沢田は確認する様に問う。

それは山本が答えた。

山本が答えた途端、三拍くらい置いた後で、三人は一斉に声を上げた。

違和感の答えが解ったのだ。

 

 

「神谷は女だ・・・・・だから・・・・・・」

 

 

「保坂に告白する筈が無いし、ましてや襲うなんて・・・・・・」

 

 

「有り得ない・・・・・・」

 

 

獄寺、山本、沢田がそれぞれ言う。

そうだ、女である神谷が同性の保坂に告白する筈が無いんだ。

その逆ならあり得る。

悔しいけど、神谷は男である自分たちよりもずっとイケメンで、去年のその時期と言ったら、まだ璃王フィーバーが冷め止まない時期だった。

それを考えれば、保坂が男である璃王に恋心を抱いて告白したが、振られたと言う方が合点がいく。

だけど・・・・・・と、沢田は思う。

沢田の思っていることが解ったのか、獄寺も首を捻った。

 

 

「ただ解らないのは、何で理絵奈ちゃんはそんな嘘を吐いたのか。

しかも、あんな自作自演してまで・・・・・・。

振られたなら振られたでそれで良いんじゃないのかな・・・・・・?」

 

 

うーん、と3人が首を捻っていたら、不意にそう厚さのない鉄扉が開く音が聞こえた。

その後で「その理由、教えようか」と、女子生徒の声が投げられた。

声のした方に目をやれば、三人は驚いて目を見開く。

 

 

「きょ・・・・・・京子ちゃん・・・・・・!?」

 

 

驚愕する沢田達を余所に京子は三人に歩み寄る。

そして、口を開いた。

 

 

「保坂理絵奈は自分が世界一可愛いとかそんな腐ったことを考えてるイタイ子だからね。

璃王君みたいなカッコ良い人に振られたんでそれが許せなかったんだ。

それで、デマを流すことによってクラスの人が璃王君を虐める様に仕向け、保坂理絵奈を振ったことを自分に謝らせようって算段だった・・・・・・て、所かな?」

 

 

京子の言葉に沢田達は絶句する。

保坂はそんな子だったのか?

いや、確かにちょっと思う所はあったが、それでも・・・・・・と、沢田は思った。

京子の言葉に獄寺が掴み掛かる。

 

 

「そんなワケがねぇだろ!?

お前は知らないだろうが、神谷は―――」

 

 

「璃王君は女の子、でしょ?

知ってるよ、それくらい」

 

 

「な・・・・・・っ!?」

 

 

獄寺の言葉を遮って、京子は言った。

京子の言葉に、沢田、山本、獄寺が絶句する。

それもそうだろう。京子は璃王の事を知らない筈だ。それなのに――――。

そんな3人を余所に、京子は3人を見据えて言った。

 

 

「リオン・ヴァルフォアは私の従兄弟のずっと遠い親戚で、私も何度か会ったことがあったから」

 

 

「え・・・・・・っ、えぇええええええええええええ!?」

 

 

京子の言葉に沢田は驚きに絶叫した。



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第八楽章 Lettura di sentimento―読心―
標的1


ただいま、アンケートを追加で募集しています。
詳しくは活動報告をご覧ください。


「リオン・V(ヴェルベーラ)・ヴァルフォアは私の従兄弟のずっと遠い親戚で、私も何度か会ったことがあった。

・・・・・・まぁ、リオンちゃんは私の事を忘れてるみたいだけど・・・・・・ね」

 

 

京子の言葉に沢田、獄寺、山本は絶句する。

神谷と京子ちゃんにそんな接点があったなんて―――!?

沢田はあまりの驚愕に言葉が出てこなかった。

そこへ、一つの疑問を抱いた獄寺が口を開く。

 

 

「待てよ・・・・・・お前、神谷が虐められてたとき、ずっと見て見ぬ振りしてたじゃねーか!?」

 

 

獄寺の言葉に沢田と山本は「そう言えば・・・・・・!!」と京子を見る。

京子と璃王が接点があったというなら、京子は璃王を庇う筈だ。それなのに、京子は璃王を無視していた。

それは、沢田も獄寺も山本も知っている。

何故だ?と言わんばかりに三人は京子を見た。

 

 

「私も気が付かなかったんだよ。

まさか、イタリアに居る筈のリオンちゃんがこっちに居るなんて思わないでしょ?

しかも、あの頃と違って、まるで別人の様に変わっちゃってさ。

昔はお姫様みたくすっごく可愛かったのに」

 

 

京子の話に沢田と獄寺、山本は昔の璃王を想像してみる。

すっごく可愛かった、お姫様の様・・・・・・そんな想像をしても、どうしても璃王のそんな姿が想像できない。

寧ろ、今のドきつい璃王のミニマム版しか想像できなかった。

そんな三人を置いて、京子は話を続ける。

 

 

「前、リオンちゃんと話して、気付いたんだよ。

璃王君はリオンちゃんだって事。

蜂蜜入りのミルクティーなんか好きなの、リオンちゃんくらいしか居ないし、よく見たら今のリオンちゃん、璃蓮(リレン)さんとそっくりなんだもん。

それで、神谷って苗字だから、あぁ、リオンちゃんなのかな?って」

 

 

「あ、璃蓮さんは、リオンちゃんのお父さんだよ」と京子は付け足す。

京子の話に沢田は「京子ちゃんって結構、観察力良いんだー!?」と驚く。

普通、そんな細かい所まで見たり記憶しないだろうに。

獄寺に至っては、「こいつ、諜報員とか向いてそうだな」と思った。

山本はと言うと、「笹川って、神谷のこと好きなんだな―」と内心、ほくそ笑んでいた。

 

 

「・・・・・・で、三人はどうするの?」

 

 

京子の言葉に沢田達は顔を俯ける。

京子の話を聞いたとて、それが璃王を信じる事へ繋がるかと訊かれたら、そうではない。

確信が持てないのだ。

考え込んでいつまでも何も言わない三人を京子は見詰める。

そして、京子は言った。

 

 

「私はリオンちゃんの味方になるって約束した。

リオンちゃんは他人を傷付ける事ができる程、鬼畜じゃないからね。

それに沢田君も皆もどうして気付かないの?保坂理絵奈が近寄ってきた時のリオンちゃんの表情。

「オレに近付いてんじゃねぇ、クソビッチが」とでも言いたい様に物凄く不機嫌になるのに。

そんな相手に近付いてまで痛めつける理由ってある?

保坂理絵奈がリオンちゃんを傷付ける動機はあれど、リオンちゃんが保坂理絵奈に近付く理由はないんだよ」

 

 

璃王に言った事と同じ事を言う、京子。

京子が璃王イコールリオンだと気が付いたのは、璃王に告白した日の夜だった。

その時に京子は失恋したショックよりも、璃王と再会出来た嬉しさの方が勝っていたのは、また別の話。

「じゃあ、私からはこれだけだから」と京子は屋上を後にした。

京子が居なくなった屋上は、静寂に冷たい風が吹き抜けて、虚無さえ感じた。

 

 

「・・・・・・で、どーすんだ?ダメツナ」

 

 

「うわっ!?」

 

 

いきなり三人の背後から、低い男の声が聞こえた。

突然の声に驚いた沢田は情けない声を上げる。

振り返ってみればそこには、リボーンが居た。

 

 

「リ・・・・・・ッ、リボーン!

驚かすなよ!」

 

 

「お前が勝手に驚いただけだ」

 

 

沢田の抗議をリボーンは軽く一蹴する。

いやいや、居ない筈の人間の声がいきなり後ろから聞こえたら、誰だって驚くだろ――!?と沢田は、声にならないツッコミをする。

 

 

「まぁ、それはどうでも良くてだな。

お前らはシャマルからヒントを貰い、京子からも貴重な話を聞かされたのに、それでもまだ保坂理絵奈に肩入れするつもりか?」

 

 

リボーンの言葉に沢田、獄寺、山本は黙り込む。

確かに、璃王が告白して振られた腹いせに保坂を襲おうとした、なんて話は嘘だったにしても、その後の璃王から保坂への呼び出しで保坂が璃王に傷付けられた、というのはどっちを信じればいいのかが解らない。

実際に保坂が璃王に傷付けられたかも知れないし、真実はその逆か。

それを見分けるアビリティーが三人にはないのだ。

黙り込む三人にリボーンは呆れた様に溜息を吐く。

 

 

「呆れたモンだな、お前ら。

仕方ねぇ、猶予をやる」

 

 

リボーンの言葉に沢田は「猶予?」とリボーンを見る。

リボーンは頷いた。

 

 

「また、保坂がリオンに呼び出されて切り付けられただの殴られただの抜かしやがったら、それは間違いなく奴の自作自演だ。

今のリオンには殴る力すらねぇだろうからな。

シャマルも言っていたが、今の彼奴は立ってるのもやっとの状態だ。

此処まで教えてやったんだ、もう解るだろ。

ったく、こんなサービスは二度とねぇからな」

 

 

リボーンはそれだけを言うと、屋上を出て行った。

 



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標的2

「あんた、ムカつくのよ」

 

 

何故にこうなった?璃王は陰鬱な表情を浮かべる。

目の前には保坂が仁王立ちしていた。

どうしてこうなったのか・・・・・・自分が訊きたい。

璃王は記憶を手繰り寄せる。

確か、応接室に向かっていた璃王は階段の踊り場で擦れ違った保坂に引き留められたのだ。

そして、現在に至る。

引き留められて初っ端、上の言葉を言われたのだ。

 

 

「何で恭弥は彼女であるあたしじゃなくて、アンタなんかを庇ったのよ?

あたしが虐められてるって言ったのに!」

 

 

そんなの知ったこっちゃぁねぇ・・・・・・完全に八つ当たりじゃねぇか、と保坂の言葉に璃王は内心、突っ込んだ。

お前の猿芝居に騙される程、恭は目は腐ってねぇよ。

そんな事を思いながら、璃王は溜息を吐く。

早く応接室に行きたいのだが。

そんな璃王の心境も知らず、保坂は尚も璃王に詰め寄る。

 

 

「しかも、さっき恭弥が言ってたリオンって誰よ!?

アンタに向かって言ってた様だけど、アンタは男だし・・・・・・恭弥ってば、あたしに隠れて浮気!?

それもアンタの所為ね!」

 

 

そんな関係無い事までオレの所為にするのかよ!?璃王は呆れた。

頭の悪い奴は何でもかんでも人の所為にする・・・・・・ってか?

保坂の妄想と言い、気持ち悪すぎて言葉が出ない。

 

 

「オレの所為?随分な言いがかりだな。

つーか、テメェはいつから恭のファーストネームを呼ぶ様になったんですか。

恭の名が(けが)れるだろーが」

 

 

つい、そんな事を口走ってしまった、璃王。

保坂も目を点にして璃王を見ていた。

何があったかと言われても、璃王も説明のしようがない。璃王も自分が口走った言葉に驚いていたのだから。

ただ、保坂が雲雀の名前を馴れ馴れしく口にする事に何故か生理的な嘔吐級の嫌悪感を感じてしまい、その瞬間には先の台詞が自然的に口から零れていたのだ。

自分でも何故そんな事を思い、言ったのかは解らない。

自分で言った言葉に璃王は戸惑った。

 

 

「え・・・・・・な、何でアンタがそんな事を言うのよ・・・・・・?」

 

 

戸惑いと動揺を露わに保坂は璃王を見る。

少なからず璃王も動揺している事は保坂も解った様で、保坂は畳み掛ける様に言った。

 

 

「アンタ、男のクセに恭弥の事が好きなの・・・・・・?」

 

 

「え・・・・・・?」

 

 

驚きが引かない表情で保坂は璃王に訊く。

保坂の質問に璃王は今度こそ、動揺した。

好き・・・・・・?オレが、恭を・・・・・・?

いや、確かに嫌いではない。でも、好きかと訊かれると、それもちょっと違う気がする。

雲雀に対する感情の形容詞が思い付かない。

璃王は初めて、雲雀をどう思っているのかを考えた。

ただ、何となく連んでいたと思う。

何故か雲雀は自分の事を気に入ってくれてる様だが・・・・・・。

 

 

「あは、あははは!バッカじゃないの!?

男に好かれても恭弥が喜ぶわけないじゃない!

本当に気持ち悪いわ!

アンタなんか居なくなればいいのよ!!」

 

 

璃王が考え事をしていると、保坂は狂気さえも感じる様な笑い声を上げる。

気持ち悪い、と言う言葉に璃王は反応した。

保坂の言葉に傷付いたワケじゃない。

幼い頃に受けた虐めの記憶がフラッシュバックしたのだ。

別に、殴る・蹴るは日常的によくある事だったから、特に気にしてはいない。

だが、言葉となると、話は別だった。

 

 

「そう・・・・・・かよ・・・・・・」

 

 

喉の奥に引っ掛かっている言葉を無理矢理吐きだして、璃王は階段を上ってその場を離れた。

不思議とその時は保坂は何もしてこなかった。

それを不気味だと思いながらも、璃王はそんな事よりも自分の鞄をさっさと回収して学校を出たかったのだ。

 

 

応接室に行けば、一足先に雲雀がソファーに座って書類の整理をしていた。

こいつ、いつの間にここに居たんだよ・・・・・・と璃王が不思議に思っていると、いつまでも応接室に入ってこない璃王に雲雀は声を掛けた。

 

 

「入ってこないのかい?」

 

 

雲雀の声掛けに我に返った璃王は応接室に入って、ソファーの上に投げていた鞄を取り上げる。

その様子を見ていた雲雀が「帰るの?」と声を掛けてきたから、璃王は頷いた。

 

 

「あぁ、まぁな・・・・・・って、今朝よりも増えてないか?」

 

 

雲雀の手元を見てみれば、硝子製のテーブルの上には今朝よりも明らかに増えている書類が山を作っていた。

恭が書類を溜めているなんて珍しい・・・・・・と、璃王は不思議そうな目を雲雀に向ける。

そんな璃王の言いたい事が解ったのか、雲雀は苦笑を浮かべた。

 

 

「一昨日からの書類が溜まっててね。

どうも君が居ないと、やる気が起きないみたいだ」

 

 

何だそりゃ、と璃王は肩を落とす。

それだったら、自分が入学してくる前はどうしていたのか、と問いたくなる。

が、璃王はそれを訊いた所で無意味だと考えて、何も訊こうとしなかった。

 

 

「仕方ねぇな」

 

 

溜息を吐くと璃王は、雲雀の正面のソファーに座って、雲雀に手を差し出した。

差し出された手を雲雀は不思議そうに見て、首を傾げながら璃王の掌に手を重ねる。

すると、「違ぇよ」と手を払われた。

 

 

「約束まで時間があるから、手伝ってやるつってんだ。早く貸せ」

 

 

やっと璃王が差し出した手の意味を知ると雲雀は眉を顰めた。

 

 

「怪我人は早く帰って寝ときなよ。

君、絶対安静って保健医から言われてるでしょ」

 

 

「関係ないね。

今までで奴の言葉を守ったのは、片手があれば余裕で数えられるほどだ」

 

 

「威張れない」

 

 

雲雀の言葉に問答する璃王。

その璃王の言葉を聞くと雲雀は、溜息を吐いた。

 

 

「それに、傷が残ったらどうするの。

女子だったら、そう言うの気にしなよ」

 

 

「傷なんか気にして、ドーディチのボスが務まるか」

 

 

雲雀の言葉を撥ねると、璃王は雲雀から数枚の書類を引ったくって書類に目を通した。

その様子を見て雲雀は、やれやれ、と肩を竦める。

確か、沢田も次期ボスだっけ・・・・・・?たしか、アサリファミリー・・・・・・

 

 

「ボンゴレ、な」

 

 

雲雀の思考を無意識に読み取ってしまった璃王は、思わず雲雀にツッコミを入れてしまった。

殆ど無意識に口から出ていた為、璃王は後になって口を手で覆う。その顔は、しまった、と言いたげだ。

対する雲雀は「ワォ」と驚愕し、そこからフリーズしてしまっている。

璃王は無意識の内に人の思考が読み取れる能力を持っていた。

普段はそれを意識的に制御している為、今みたいに普段から他人の思考が解ってしまうワケじゃないが、たまに無意識に思考を読み取ってしまう時もある。

無意識とは言え、雲雀の思考を読み取ってしまった挙げ句、突っ込んでしまったのだ。

きっと、雲雀は気味悪がっている事だろう。

どうしよう・・・・・・と、璃王は焦って雲雀の顔を見る。

普段からあまり表情を変えない雲雀が明らかに動揺している様に見えた。

ああぁぁぁ・・・・・・これ、絶対引いてるよな?思っくそ引いてますね!?

未だに何も言わない雲雀に不安になった。

 

 

「君、何で僕の考えてる事が解ったの?エスパー?」

 

 

ズルッ―――。

心底不思議そうに純粋な顔でそんな事を訊いてくる雲雀に、璃王は内心、スベった。

その顔は、手品を初めて見た子供の様で、特に雲雀が璃王を気味悪がっている様子ではない。

その様子に璃王は呆気に取られた。

 

 

「え・・・・・・?

なんっ・・・・・・!?え・・・・・・?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

予想外の反応に璃王は困惑して、言葉が出ない。

まさか、そんな反応をするとは思わなかったのだ。

対する雲雀は戸惑っている璃王に首を傾げている。

何故、璃王が戸惑っているのかが解らないのだ。



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標的3

「いや、どうしたって……気味悪くねぇのかよ?

無意識とはいえ、お前の心読んで突っ込んだんだぞ?

普通は気味悪がってドン引きだろ?」

 

 

何故か必死になって説明している璃王は、何故自分でこんな事を必死に雲雀に説いているのだろう?と不思議になってくる。

そんな璃王に雲雀は真顔で言った。

 

 

「何で気味悪がる必要があるの?

たかが心を読まれたくらいで狼狽えるのは、弱者だよ。

……それに、僕は別にリオンに読まれるのは嫌じゃない」

 

 

「弱者だよ」の後の言葉は雲雀がかなりの小声で呟いた為、璃王に聞こえる事はなかった。

その璃王はというと、首を傾げてキョトン、と雲雀を見ているだけだった。

吸いこまれそうな深い蒼色の目と目が合って、雲雀は書類に視線を落とす。

最近、どうも目が可笑しくなった様で、リオンの背後に蒼い紫陽花が見える様になってしまった。

何でそんな現象が起きているのか解らない。

自分の目が可笑しくなったとしか、雲雀は思っていなかった。

雲雀がその理由を知るのは、随分後の事だった。

 

 

 

「おい、神谷!

テメェ、どういうつもりだ!!」

 

 

「ぐ・・・・・・っ!」

 

 

雲雀の手伝いも終わり、そろそろ良い時間だと応接室を出た璃王は、昇降口で待ち伏せしていた男子によって捕まり、絡まれていた。

怒鳴られ、襟首を掴まれて、下駄箱に身体を押し付けられると、背中に激痛が走った。

睨み上げてくる男子の目を璃王は無表情に見下ろす。

 

 

「理絵奈ちゃんを虐めるだけじゃ飽き足らないのか、お前は!」

 

 

「何の話だ・・・・・・」

 

 

男子の言葉にワケが解らず、璃王は男子生徒に問う。

男子は「しらばっくれんな!」と強い口調で璃王に怒鳴る。

男子の言わんとしている事が解らない。どうやら、今の発言から、今までの様な事をしたわけではない様だ。

そして、男子の口から思わぬ言葉が飛び出た。

 

 

「お前、理絵奈ちゃんを階段から殴り落として殺そうとしただろうが!」

 

 

「は・・・・・・?」

 

 

男子の口から発せられた言葉に璃王は素っ頓狂な声を上げる。

全くもって意味が解らない。

璃王は文字通り、ポカンと口を開けた。

 

 

「おいおいおい、流石にあんな奴殺してオレにメリットなんざねぇだろうが」

 

 

「言い訳は良いんだよ!!」

 

 

バシッ!と皮膚を強く()つ鈍い音が聞こえた。

次の瞬間には、璃王の口の中に鉄の味が広がる。頬は殴られた事により、紅く腫れていた。

相当思い切り口の中を切った様で、口の中が痛む。

 

 

「お前、自分がしたこと解ってんのか!?」

 

 

「打ち所が悪かったら、理絵奈ちゃんは死んでたんだぞ!」

 

 

口々に浴びせられる言葉に、璃王は段々と状況を把握した。

どうやらあの後、保坂はわざわざ保健室に行って、包帯を貰い、仰々しく包帯を巻いて教室に戻っていたらしい。

それで、「璃王君に殴り飛ばされて、階段から落ちたの〜」とでも言ったのだろう、と、璃王は推測した。

飽きねぇな、と璃王が溜息を吐いていると、男子が近寄ってきて璃王の胸倉を掴み上げた。

 

 

「お前も同じ事をしてやろうか!!」

 

 

拳が振り上げられ、それが璃王の体に沈められる。

それを切っ掛けに男子による私刑(リンチ)が始まった。

衰弱している身体で抵抗などできる筈もなく、璃王はされるがまま状態になる。

嗚呼、もう……。

“人間性を捨てれば、楽になるだろう”

ふと、自分の中で飼っている“ケダモノ”がそう囁いた。

“あの時”と同じだ。

どうやらそのケダモノは、磨り減って脆くなった精神状態になった時にふと、囁く様だ。

それに敢えて名を付けるとするならそれは、「心の闇」と言うモノだろうか。

同じ血筋の人間からは迫害されて虐げられ、赤の他人からもこうして、貶められては虐げられる。

どちらにしろ、自分に敵意を向けてくるのであれば、もういっそ、全てを壊しても――――。

そこまで思考が行きかけていた時だった。

 

 

「何やってんだ、お前ら!!」

 

 

4人分の足音と怒声が、璃王の耳に飛び込んできた。

突然の事に、璃王は耳を疑う。

驚いたのは璃王だけでなく、璃王に暴力を振るっていた男子達も、呆気カランと怒声が飛んできた方を見た。

璃王もつられて、声のした方を見て見れば、そこには、沢田と山本、獄寺と今来たらしい、セラが居た。

 

 

「リオン!」

 

 

セラが璃王に向かって走り寄って、璃王を助け起こす。

 

 

「セラ・・・・・・」

 

 

セラに引っ張られるままに力の入らない足で立ち上がると、璃王はフラフラとふらつく。

セラは璃王を難なく支えた。

同じ体格の璃王だが、何だかセラには軽く感じられた。

 

 

「何があったのか、説明してくれるかな、皆?」

 

 

声を低くして沢田は、今まで璃王を隣地にしていた男子に訊く。

心なしか、男子は沢田に言いようのない恐怖を感じた。

それはきっと、自分たちを睨んでいるオレンジの目の所為だと思う。

 

 

「り・・・・・・理絵奈ちゃんが階段から殴り落とされたんだよ、神谷から!」

 

 

「十代目、これで決まりですね」

 

 

「うん」

 

 

男子の話を聞いた獄寺が沢田に耳打ちをする。

沢田はそれを聞いて、頷いた。

「な・・・・・・なんだよ?」と、男子の一人が困惑した様に沢田に訊く。

沢田は一呼吸置いて、言った。

 

 

「それは、保坂理絵奈の自作自演だよ・・・・・・リオンちゃんは何もしてない」

 

 

「気安く呼ぶな、下郎が」

 

 

沢田の言葉よりも、璃王は沢田が自分の名前を呼んだ事に嫌悪感を示す。

獄寺が「てめぇ、折角十代目が・・・・・・」と璃王に掴み掛かるのを沢田が制している間に、男子生徒達は困惑した。

沢田の言葉より、沢田の言った「リオン」と言う聞き慣れない言葉に首を傾げている。

男子の一人が言った。

 

 

「リオンちゃん・・・・・・って、誰の事だよ、ツナ?

そいつは、「神谷璃王」だろ?

しかも、ちゃんって、まるでそいつを女みたいに・・・・・・」

 

 

「みたい、じゃなくて、「女の子」なんだよ・・・・・・神谷璃王は」

 

 

「余計な事を・・・・・・言うな・・・・・・」

 

 

「お・・・・・・おい!」

 

 

男子の問いに沢田は男子を見据えて、答える。

沢田の返答を聞いていた璃王はその苦痛に歪んでいる顔を今度は不快に染め、吐き捨てた。

こんな奴らに自分の事を話したって、信じるわきゃぁねぇだろうが。

お前らはマフィアで、獄寺がたまたまドーディチの事を知っていたから、自分が女である事を信じる事ができたのだろうが、一般の生徒にそれを信じる術はない。

吐き捨てると璃王は、満身創痍のその体をセラから離し、フラフラと歩く。

それを見た獄寺が咎める様に声を上げた。

 

 

「テメェらには関係のない話だ・・・・・・。

大体、そんな事をそいつらに言った所でそれを信じる術はない・・・・・・説明も面倒だ。

テメェらには、「保坂理絵奈が神谷璃王に殺されそうになった」その情報だけで十分だろ。

どーせ、こっちの話はまともに聞きゃあしねぇよ・・・・・・。

解ったら、オレに構うな。放っておけ。

目障りだし、迷惑だ」

 

 

「それは、無理な相談だよ」

 

 

璃王の言葉に、その場に居る人間以外の声が聞こえた。

その突然の乱入者に沢田と獄寺、山本は目を瞠り、驚愕を露わにするのだった。



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第九楽章 Mammon―マーモン―
標的1



随分前からスマホにお絵かきアプリを導入していた紅。
ですが、扱いがよく解らんので、半年くらい放置プレイしてました。
が・・・・・・。
つい最近、とある事が切っ掛けで漸く、お絵かきアプリの要領が何となく解り、今ではお絵かきに没頭。
「デジタル楽すうぃ~!」と、今現在、挿絵や表紙を作画中。

で、これが、初めて書いたリオン・ヴァルフォア(Preghiera di duo)。


【挿絵表示】



まだまだ、調整とかが必要ですね・・・・・・orz



「リオンちゃん・・・・・・って、誰の事だよ、ツナ?

そいつは、「神谷璃王」だろ?

しかも、ちゃんって、まるでそいつを女みたいに・・・・・・」

 

 

「みたい、じゃなくて、「女の子」なんだよ・・・・・・神谷璃王は」

 

 

「余計な事を・・・・・・言うな・・・・・・」

 

 

「お・・・・・・おい!」

 

 

「テメェらには関係のない話だ・・・・・・。

大体、そんな事をそいつらに言った所でそれを信じる術はない・・・・・・説明も面倒だ。

テメェらには、「保坂理絵奈が神谷璃王に殺されそうになった」その情報だけで十分だろ。

どーせ、こっちの話はまともに聞きゃあしねぇよ・・・・・・。

解ったら、オレに構うな。放っておけ。

目障りだし、迷惑だ」

 

 

男子生徒と沢田のやり取りを聞いていた璃王は、沢田に吐き捨てる。

セラから離れ、フラフラと覚束ない足取りでその場を離れようとする璃王を獄寺が見咎める。

だが、それを璃王は聞かなかった。

 

 

「それは、無理な相談だよ」

 

 

璃王の言葉を聞いていたらしい、その場に居た人間以外の声が聞こえた。

その声の主が姿を現すと、沢田、獄寺、山本が驚きに目を瞠る。

 

 

「お……お前は!!」

 

 

「マーモン!?」

 

 

獄寺と沢田が驚愕の声を上げる。

その視線の先には、璃王の行く手を阻む漆黒のフードに革のジャケットを着た、外見からは性別の区別が付かない人物が居た。

沢田は彼の事をマーモン、と呼んだ。

彼―――マーモンは、そんな驚愕の声を無視して、誰かを捜す様に辺りを見回す。

 

 

「この中に、リオン・ヴァルフォア・・・・・・って居ると思うんだけど、名乗り出てくれたら助かる」

 

 

マーモンの一言に、沢田、獄寺、山本の視線が一斉に璃王に注がれる。

璃王は何も言わず、ただ、目の前のフードの人物を睨み付ける様に見ていた。

少し考えた後、マーモンは璃王を指を指して問う。

 

 

「君が、リオン・ヴァルフォアかい?」

 

 

「人の名を訊く時は自分から名乗るのが筋だろうが?

まぁ、訊かれた事に対して答えるなら、「はい(S i)」だ。」

 

 

マーモンの問いに眉を顰めながら、璃王は答えた。

だが・・・・・・と、マーモンは、目の前の少年を上から下から、確認する様に見る。

どう見ても、彼は男にしか見えないし、報告を受けた外見とは大きく異なっている。

まぁ、古い写真の様だし、外見に多少の誤差があっても可笑しくはないが・・・・・・。と、マーモンは結論づけると、璃王の顔に視線を戻した。

 

 

「一応、君がリオン・ヴァルフォアであることを確認したい。

・・・・・・右目の眼帯を取って貰える?」

 

 

マーモンの言葉に微かに璃王の藍色の瞳が揺らいだ。

それは一瞬の事だったが、マーモンはそれを見逃さなかった。

璃王は眼帯に手を伸ばすと、震える手で眼帯に触れ、そして、眼帯から手を離し、左腕の袖を捲り上げた。

その袖の下には包帯が巻かれており、璃王はそれを乱雑に解く。すると、包帯の下からは黒い斑の痣と、上腕に黒猫の刺青、その周りには桜の花弁の刺青が散っている。

璃王の顔を見れば、微妙に困った様な表情を浮かべていた。

 

 

「今は、これで勘弁しろ。

眼帯の下は・・・・・・余計な人間が居るから、晒す気は無い」

 

 

そう言った璃王の瞳が一瞬、翳ったのを見て、マーモンは何も追求しなかった。

恐らくは、何かを察したのだろう。

 

 

猫呪(びょうじゅ)の証に桜・・・・・・間違いなさそうだね?

でも、リオン・ヴァルフォアは女だと聞いたけど?」

 

 

「察しろよ・・・・・・ったく。

・・・・・・これで満足か?」

 

 

面倒くさそうに毒づくと、璃王の周りを黒い靄の様な物が包み込んだ。

そして、それは段々と薄れていき、靄が透けたその先にはさっきまでの璃王とは違う姿の璃王が居た。

正確には、体型が変わっていたのだ。

男性的なシルエットから、女性的なシルエットへと変わった璃王を見て、その場に居た誰もが息を呑んだ。

本当に女の子だったんだ・・・・・・と、沢田、獄寺、山本は思った。

 

 

「・・・・・・確認した。

じゃあ、ちょっと付いてきて貰うよ、リオン」

 

 

「付いて・・・・・・って、何処に?

オレはこれから、用事が・・・・・・」

 

 

「それに関しては心配ないよ」

 

 

マーモンの言葉に璃王は眉を顰めた。

もうすぐで待ち合わせの時間だ。

待たせる事が好きでは無い璃王は、さっさとこの場から離れて、待ち合わせ場所へ向かいたかった。

璃王が最後まで言い終わるのを待たず、セラが微笑んで言った。

 

 

「彼女には、「オレから」断っておいたからさぁ、クックック」

 

 

「てめぇ・・・・・・余計な・・・・・・」

 

 

「怪我人は大人しくお家へ帰って絶対安静してなよ」

 

 

「オレから」の部分を璃王の声真似で言った後、セラは喉を唸らせた。

その様子から、鈴那はあっさりと、セラの芝居に騙された様だ。

似ているのだから、騙されても仕方はないが・・・・・・。

璃王がそんなセラに抗議しようとすれば、セラは飄々とした声を何処かへやって、至って真剣な低い声で璃王の抗議を遮った。

 

 

「まぁ、じゃあ、決まりだね。

・・・・・・それと、沢田。」

 

 

話を締めくくると、マーモンは次に沢田へと視線を向け、そのフードの下から殺意の籠もった目で沢田を睨み付ける。

重苦しい殺気に沢田は、ひぃ!?と、肩を竦み上がらせた。

マーモンはマントの下から一丁の銃を取り出すと、沢田へその黒光りしている銃口を向け、告げた。

 

 

「君は、一番手を出したらいけない人間に手を出した・・・・・・今すぐにここで蜂の巣にしてやりたいけど、ボスが五月蠅いからね・・・・・・。

今日の所は我慢するけど、ボスから許可が下りたらいつでも鉛玉ぶち込んでやるから、覚悟しときなよ・・・・・・」

 

 

フードの下の目が、極悪人を裁く裁判官の様に爛々と妖しい光を帯びている。

マーモンは沢田に警告すると、銃を仕舞った。

殺気を諸に受けた沢田は、今までの比でないくらいの殺気に足が竦んで、腰が抜け、その場にへたり込んだ。

どうして、こんな情けない奴にボスが負けたのか・・・・・・。マーモンは、頭を抱えたくなる。

 

 

「さぁ、行こうか。

・・・・・・歩ける?」

 

 

先程とは打って変わって、マーモンは穏やかな声色で璃王に手を差し出す。

その変わり身の速さに沢田、獄寺、山本は絶句したのだった。

 

 

「大丈夫だ、これくらい」

 

 

差し出されたマーモンの手を払い、璃王はマーモンと共に学校を出た。



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標的2

誤字と設定ミスを修正しました。

それと、この小説の夢主、リオン・ヴァルフォアのオチを決めたいと思うのですが、雲雀かマーモンで悩んでいまして。
そこで、アンケートを採る事にしました。
詳しくは、「募集アンケ追加です、紅奈々です。(「海の底に消えた鍵」未読の人はネタバレ注意)」を参照に。
皆様のご協力、よろしくお願い致します。

それと、他のアンケにも投票して下されば嬉しいです。
アンケへの投票、お待ちしております。


「・・・・・・で、幾つか質問がある。

答えて貰おうか」

 

 

街の郊外への閑散とした道を歩きながら、璃王はマーモンに話を掛けた。

マーモンは、この子はこんな言い方しかできないのだろうか・・・・・・と、外見とのギャップがちょっと、残念だと思いながら、頷く。

 

 

「まず、お前の素性を教えろ。

さっきは何となく付いていく様な雰囲気になっていて訊きそびれたが、素性のはっきりしない人間に付いていく気は無い。」

 

 

「・・・・・・それもそうだね」

 

 

璃王の問いの後にマーモンは少し沈黙して、声を絞り出した。

そのフードの下の目を少し伏せる。

そして、次の瞬間には、淡々と話し始めた。

 

 

「僕はマーモン。

ボンゴレファミリー独立暗殺部隊ヴァリアーの霧の守護者さ」

 

 

「暗殺部隊ヴァリアー?

そんなお前が、オレに何の用だ?」

 

 

マーモンの回答に訝しむ様に璃王は問いを重ねる。

思い当たる事があるとすれば、随分前くらいに依頼の帰りに闇討ちに遭ったので返り討ちにした黒服の男が居たっけな・・・・・・そいつと似た服装をしているマーモンを見て、璃王は、あぁ、もしかして・・・・・・と、嫌な方向の考えに及ぶ。

これは、黙っていた方が良いな・・・・・・。

まさか、ヴァリアーの隊員が闇討ちなんてするとは思わないだろう・・・・・・。

そんな事を考えていたら、マーモンが口を開く。

 

 

「マオ・ルーンからの依頼さ。

君を保護してくれ、ってね。

どうやら、君の状態については彼も想像できてたらしいね?

君の事については、リボーンから話も通ってるし、ボスも了承済み」

 

 

マーモンの話によると、どうやら、ヴァリアーの闇討ちは関係がない様で、璃王はほっと胸を撫で下ろす。

そして、次に璃王は、さっきからずっと気になっていた事を訊く。

 

 

「さっき、沢田に向かって言った言葉だが・・・・・・」

 

 

「あぁ、あれ?

あれは、本気だよ。

ボスも沢田に対して本気で怒ってるし、皆・・・・・・」

 

 

「いや、そっちじゃない。」

 

 

璃王が質問しようと口を開けば、マーモンは璃王が質問を言い終わらない内から答えようとした。

だがそれは、途中で璃王に遮られる。

璃王が訊きたいのは、「何故、マーモンがそこまで沢田に怒っていたのか」だ。

特に面識があったわけでもないのに、マーモンのさっきの言葉じゃまるで、仲間を傷付けられたかの様な言い方ではないか。

璃王はその事を指摘しようとして躊躇する。

少し間を置いた後で、璃王は言葉を紡いだ。

 

 

「自惚れかも知れないが、あんな言葉じゃまるで、お前らがオレを仲間かなんかだと思っている様に聞こえたんだが?

オレ個人はヴァリアーとは面識ねぇし・・・・・・寧ろ、ヴァリアーとは昔・・・・・・」

 

 

後者の話で語尾になるにつれ、璃王は目を伏せる。

その後の言葉は、マーモンによって物理的に遮られた。

そう、璃王が継ぐドーディチファミリーと、ボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアーは、同盟ファミリーでありながらその方向性を違え、ドーディチの二代目から五代目とヴァリアーの三代目から五代目まで、つまり、ドーディチは三世代、ヴァリアーは二世代に渡って抗争と対話を繰り返した。

和解をしたのは以外にも最近の事で、ドーディチの八代目とヴァリアーの八代目まで交渉と譲歩が続いて、決着していた。

そんな過去を知っている璃王だからこそ、仲間意識を持たれる事は有り得ない、と思っていたのだ。

璃王の言葉を遮る為に璃王の唇に当てた人差し指を引いて、マーモンは返す。

 

 

「一体、何世代前の話をしているんだい?

老い耄れ世代にあった啀み合いなんて、今の世代の僕等には関係のない事だよ。

それに・・・・・・」

 

 

淡々と言うマーモンだが、途中で言葉を止める。

それは、次の言葉を躊躇っている様にも見えた。

そして、マーモンは璃王の頭をポン、と叩く様に撫でる。

 

 

「先代のボスの子息が頼み込んできたんだ。

断る筈がないだろ?

先代には皆が可愛がって貰ってたからね」

 

 

「・・・・・・なるほど・・・・・・?」

 

 

マーモンの話に何だか釈然としないながらも、璃王は一応、それで納得する事にした。

先程の言葉の続きを言わなかったのは何か事情があるのだろう、と璃王は思う事にする。

掘り起こす気もないし、興味もないからだ。

「ところで・・・・・・」と、マーモンは話題を変える様に璃王に目を向けて言う。

 

 

「体は大丈夫かい?」

 

 

街の郊外の森に入って少しした所でマーモンは璃王を振り返る。

璃王はやはり、顔色も悪いし、フラフラと足取りも覚束なく歩いている。

先程からそんな璃王に気を使う様に歩調は合わせて歩いていたマーモンだが、一応は心配になってくる。

 

 

「大丈夫だ、何ともない。オレに構うな」

 

 

「強情なのは、どっちに似たんだか・・・・・・」

 

 

「何か言ったか?」

 

 

璃王の言葉にマーモンは、ボソッと呟く。

先代のヴァリアーのボスと、現在()()()()とされているドーディチファミリーの十一代目ボスは、家族ぐるみの付き合いがあった為か、マーモンやヴァリアーも、先代のドーディチファミリーのボス夫妻と面識があった。

その為、先代のドーディチファミリーのボス夫妻の事は、マーモンも知っていたのだ。

マーモンの呟きは璃王には良く聞こえていなかったみたいで、マーモンが「なんでもないよ」と言うと、璃王は首を傾げながら「そうか」と頷いた。

 

 

「でも、ちまちま歩いてると、アジトに着くまでに夜が明けてしまいそうだから・・・・・・」

 

 

言うとマーモンは、璃王をふわっ、と抱き上げた。

一瞬、何をされたのか解らなかった璃王は状況を把握すると、その腕の中から逃れようと、マーモンの体をない力で押す。

意外にもしっかりしている体に、璃王はマーモンが男である事を知って、尚更に抵抗する。

 

 

「はっ、離せ!

手なんか借りなくたって、一人で歩ける!

見くびるな!」

 

 

抵抗する璃王を物ともせずにマーモンは、しっかりと璃王の体をホールドする。

小柄のクセに何処に力あるんだよ、こいつ!?と思っている璃王は、自分の力が上手く入っていない事に気が付いていない様だ。

とは言っても、幾ら男だと偽ろうが、所詮は璃王も女。

男の力になんか敵う筈が無かった。

璃王は抵抗するのも疲れてしまい、最終的には「あー、もう、好きにしろ」と、抵抗をやめた。

抵抗がなくなった分、先程よりも身軽にマーモンは樹と樹の間を駆けて、アジトへ向かっていった。



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第十楽章 VARIA―独立暗殺部隊ヴァリアー―
標的1


久々の更新です。
長々とお待たせしてしまってすみません・・・・・・orz
この頃、色々と立て込んでいまして。
でも、最終話まで頑張って行きたいと思います!
目指せ、最終回三作品目(ネット上にうpしている作品で)!!

はい、そんなワケで、ヴァリアー到着です。


それから、璃王はマーモンに連れられ、ヴァリアーのアジトに到着したのは、日が沈みきった後だった。

マーモンに抱えられたままアジト内に入った璃王は、ずっと無言のまま、俯いている。

それ程までに嫌だったのだろうか、と思ったマーモンは少し悪い事をしたかな、と思った。

そのまま歩いていると、階段を上がって一番奥の部屋へ着いて、そこの扉がを開ける、マーモン。

そして、少し広めのその部屋には、デスクに座っている紅い三白眼が印象の黒髪の男が居た。

マーモンは、「連れてきたよ、ボス」と、彼に声を掛ける。

声を掛けられた、ボスと呼ばれた男は、その三白眼をマーモンと璃王に向けた。

底冷えする様な鋭い眼光に、璃王は背筋が凍るのを感じる。

十代目のヴァリアーのボス――――XANXUS。

璃王は、初めて対面する彼に本能的な恐怖を抱いた。

 

 

「お前が、リオン・ヴァルフォアか」

 

 

低く、威圧感のある声が、璃王に問う。

璃王がマーモンに「降ろしてくれ」と小声で言うと、マーモンは頷いて璃王を降ろした。

XANXUSの紅い目を見て、璃王は「そうだ」と、しっかり頷く。

 

 

「眼帯を取れ」

 

 

XANXUSの言葉に璃王の藍色の目が翳った。

右目は嫌いな色。血の様に真っ赤で、それは「バケモノ」の証として忌み嫌われていた。

初対面の殆どは璃王の目を見ると気味悪がる。

バケモノを見る様な目で自分を見るのだ。

それが嫌で、璃王は右目を隠し通してきた。

それを今、此処で晒せと言うのか……。

璃王は眼帯を外す事を躊躇う。

 

 

「・・・・・・、っ・・・・・・」

 

 

眼帯に伸ばそうとする手が震え、額には嫌な汗が滲む。

璃王にとって眼帯を外すという行為は、対人恐怖症の引き籠もりが外に出て対話をするくらいの苦痛を伴う。

心臓が脈打って、動悸を伴った。

拒絶された恐怖がフラッシュバックして、頭がどうにかなりそうだ。

それは、璃王の激しいトラウマだった。

さっき、マーモンに同じ事を言われた時は回避できる環境があった為、落ち着いて対処ができたが、執務室の様な狭くて逃げ場のない環境では、何も対処のしようもない。

喉の奥と目頭に嫌な熱を感じた。

 

 

「・・・・・・ボス。

右目の事はあまり・・・・・・。

右目の事でトラウマになっている事があるみたいなんだ。

・・・・・・ボスも知ってるでしょ?

()()()()の事・・・・・・。」

 

 

いつまで経っても眼帯を外そうとしない璃王に、マーモンは何か事情があるのだろうと察して、眼帯へ伸ばしていた璃王の右手を途中で止める様に左手でそっと包んで降ろさせると、躊躇いがちにマーモンは璃王のフォローをする。

璃王は、自分を庇ってくれたマーモンの顔を見る。

すると、視線に気付いたマーモンが、「大丈夫だよ」と、璃王の頭を撫でた。

 

 

「あぁ、そうだったな・・・・・・。

良いだろう。右目の事については勘弁してやる。

リオンだと言う事は、お前が確認したんだろ?」

 

 

後者の言葉は、マーモンに投げられたモノで、マーモンは「確認済みだよ」と、頷く。

 

 

「なら、良い。

会議室に先に行ってろ。

カス幹部共を集める」

 

 

XANXUSの言葉に「うん、解ったよ」と、マーモンは頷くと、璃王の手を引いて執務室を出て行った。

 

 

 

執務室を出た後、会議室に入った所で、館内放送が流れる。

それは、会議室に集合、と言う内容だった。

それを聞いた後に、璃王はマーモンに「おい」と声を掛ける。

 

 

「手・・・・・・」

 

 

璃王に言われてマーモンは、自分が璃王の手を掴んでいた事を思い出して、「あぁ、ごめん」と乾いた調子で言って、璃王の手を離した。

璃王の手には、マーモンが手を握っていた時の感覚と温もりがまだ、少し残っている。それは、嫌な感覚と温もりじゃない。

璃王はさっき、マーモンが手を握ってきた事に不思議と不快感は感じず、寧ろ、懐かしさを感じた。

それを振り払う、璃王。

自分は、彼とは初対面の筈じゃないか。

懐かしい事なんて、何一つない筈だ。

 

 

「それと・・・・・・さっきは、どうも」

 

 

璃王の感謝の言葉にマーモンは頷いた。

それから、適当な椅子に座ると、マーモンは近くの本棚から適当な本を一冊手に取って、読み始めた。

 

 

「俺がいっちばーん・・・・・・って、あり?

マーモンと・・・・・・あ、リオンだー!ホントーに来てる!」

 

 

名前を呼ばれた事に反応して璃王が会議室の入り口に目を向ければ、前髪で目を隠したクラゲみたいな金髪の男性がこちらに向かって歩いてきていた。

彼もどうやら、自分の事を知っている様だ、と、璃王は思う。

 

 

「お前は・・・・・・切り裂き王子(プリンス・ザ・リッパー)?」

 

 

「そ。

切り裂き王子・・・・・・って、あり?

忘れたの?俺だよ、俺!」

 

 

璃王の言葉に肯定するも、切り裂き王子、と璃王に呼ばれて男性は首を傾げ、璃王の顔を覗き込んだ。

璃王はその顔に困惑な表情を浮かべる。

 

 

「オレの知り合いにオレオレ詐欺師やサイコパスなんか居ないんだが・・・・・・彼奴以外」

 

 

本気に取れる璃王の反応に落胆する男性に、マーモンは「ベル」と呼びかけると、首を横に振った。

それを見たベル、と呼ばれた人物は何かを察したのだろう。コクリ、と頷いた。

 

 

「あぁ~、ごめん、ごめん。

昔、会った事あった様な気がしてたけど、あれはセラだったな!

しししっ、ホント―にセラに似てるな。

俺はベルフェゴール。ベルで良いぜ、よろしくな!」

 

 

少し不自然な言い換えだが、璃王はそれ以上は追求せずに、「よろしく・・・・・・」と、ベルが差し出した手に手を伸ばす。

そこでハッとして璃王は、その手を引いた。

何をやっているんだ、オレは?

人間は(すべから)く拒絶するのが自分のスタンスじゃないか。

それなのに、「よろしく」まで言って、握手しようとした?

自分の行動に「有り得ない!」と叫びたくなった、璃王。

すると、後から後から人がぞろぞろと入ってきた。

 

 

「あらぁ~、貴女がリオンちゃんねぇ~!可愛いじゃないのぉ~!」

 

 

「よ・・・・・・妖艶だ・・・・・・」

 

 

「レヴィ、キモい。リオンの半径50メートルに近付くな」

 

 

緑の前髪を一部に集めている髪型のオネェ口調の男性がハイテンションで璃王に駆け寄っていくと、後から、タコスを擬人化した様な・・・・・・ゲフンゲフン、如何(いか)にも女子供であろうが容赦しません。とでも言う様な凶悪面の黒髪の男性が近付いてきて何か呟いた。

すると、レヴィ、と呼ばれた彼はマーモンに銃口を向けられ、睨まれる。

マーモンの言葉にザクッと何かがレヴィの心に刺さり、部屋の隅に項垂れる。

それを見た璃王は呟いた。

 

 

「タコスを擬人化した様な顔の三十路くらいの凄く弱そうな・・・・・・誰だっけ、何か、見た事がある気がする・・・・・・」

 

 

記憶が出かかっているんだがなー、と、璃王は言いながら、無理矢理記憶を掘り返そうとする。

その様子に、マーモンは「リオン?」と、不思議そうに声を掛けた。

いつだったか・・・・・・。たしか、つい最近だった気がする・・・・・・と、璃王は頭を捻る。

そして、「あぁ」と、思い出した様な声を出した。

 

 

「思い出したぞ・・・・・・お前、随分前に闇討ち失敗して、オレに返り討ちにされたザコ隊員じゃねぇか・・・・・・。

何故、此処に居るんだ?呼ばれたのは幹部だけだろうが?」

 

 

璃王の言葉に、その場の空気が凍り付いた。




ちなみにこの作品、例に漏れず原作から大きく脱線しています。
リング争奪戦はとっくの昔に終わっているし。
ゆりかごの時期も若干ずれてるし。
何か、リング争奪戦はあまり話が浮かばないんですよね。
というか、原作に沿って、が苦手です。
どうせ書くなら、原作とは違った話を書きたい。
そんな紅です。


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標的2

ちなみに、この物語は、「Preghiera di duo~月に祈りを 星に願いを~」の続編、「Preghiera di duo~君に「永遠(とわ)の歌を 貴方に永遠(とわ)の愛を~ ―悲哀恋歌(ひあいれんか)―」のリンク作品となっています。


「き・・・・・・貴様はあの時の黒猫か!?

いや、だが、奴は男の筈だ・・・・・・どうなっている?」

 

 

凍り付いた空気をそのままに、タコス・・・・・・レヴィ・ア・タンはは、璃王を指し、考え込んだ。

そんなレヴィに溜息を吐き、璃王は何処からともなく黒猫の面を取り出して、顔に宛がった。

するとそれを見たレヴィは「き・・・・・・貴様!!」と、声を上げ、璃王に詰め寄る。

 

 

「あれだけ生命力を奪われたのに、まだ生きているばかりか、そんなに動けるなんて、お前はホントに人間か?タコス」

 

 

「ぬぅ・・・・・・今、此処でリベンジマッチだ!

真っ黒ミディアムに焼いてやる!」

 

 

璃王のレヴィを舐めきった態度に腸が煮えくりかえる、レヴィ。

そう、レヴィは随分と前に璃王を闇討ちしようとして、返り討ちにあったのだ。

その時の事を思い出すと、また、屈辱で顔が歪む、レヴィ。

殺気を駄々漏れにして璃王に近付こうとした、その時だった。

 

 

「何をやっている、レヴィ?」

 

 

低く、ドスの効いた声がレヴィの肩を掴み、その後ろから彼を睨んだ。

その声が誰のモノか解ったのだろう。

いきなりレヴィは、身を竦ませ、畏縮した。

その額には大量の冷や汗が滲んでいる。

 

 

「ボ・・・・・・ッ、ボボボボボボボボボス・・・・・・ッ!?」

 

 

あまりの殺気に恐怖したレヴィの声が裏返る。

レヴィの後ろには、縄張りを荒らされた野獣の様な顔をしたXANXUSが立っていた。

あーあ、と、璃王、レヴィ、XANXUS以外が思った。

The end of タコス(レヴィ、終わったな)、と。

 

 

「早速、リオンと仲良くやっているみたいじゃねぇか、そんな殺気駄々漏れで。

・・・・・・で、誰をどうするって・・・・・・?」

 

 

「し・・・・・・っ、しかし、奴は悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)です、危険で・・・・・・」

 

 

「黙れ、ザコが。

それと、日本語おかしいんだよ、タコ。

彼奴は害のある人間じゃねぇ」

 

 

XANXUSの威圧感に冷や汗を大量に流しながら反論するも、レヴィの反論はXANXUSに遮られた。

 

 

「あ、そういやボスー。

確か、このタコスだけだったよな?リオンを知らないのって」

 

 

ベルフェゴールの言葉に、XANXUSはハッとして、考え込む仕草をした。

確かに、レヴィが入隊したのは、ゆりかごの後だった為、レヴィが「リオン」の存在を知らないのも無理はない。

丁度、ゆりかごの時期はまだ、「リオン」が覚醒する前だった為、その頃は悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)は存在もしていなかったのだ。

しかも、リオンはヴァリアーとは部外者だ。

データにも無い人間の事まで、レヴィが知る筈がないのだ。

それを思い出すとXANXUSはレヴィの肩から手を離す。

 

 

「そうだったな。

だが、知らないからと襲って良い理由にはならねぇだろうが。

てめぇはこれから半年間、毎日便所掃除だ」

 

 

「な・・・・・・っ、ボ、ボス・・・・・・っ!?」

 

 

「ししし、ざまぁー」

 

 

XANXUSの後者の言葉はレヴィに向けられた。

「便所掃除」をペナルティーにされたレヴィは納得がいかずに項垂れる。それをベルフェゴールが笑って突いた。

ペナルティーが小中学生並みなのは、気にしてはならない。気にしたらお仕舞いなのだ。

 

 

「で、お前はここで預かる事になっているワケだが、異論はねぇな?」

 

 

「ふはっ、ここまで連れて来といて、今更だな。

大方、リボーンか誰からか、現状を聞いたんだろ?」

 

 

XANXUSの意思確認でもするかの様な言葉に、璃王は乾いた笑いを零すと、XANXUSの紅い双眼を見た。

紅い目に映る、吸いこまれる様な藍色の双眼はかつての光を宿しておらず、暗く沈んでいる。

XANXUSは学校での虐めだけでなく、自分が眠っていた間に起こった事が起因していると思った。

大方の事情は知っている。その事件で、リオンは―――。

そこまで考えて我に返ると、XANXUSは「あぁ」と肯定した。

 

 

「やはりか・・・・・・。

で、その話がマオにまで行き、マオがXANXUSに土下座・・・・・・ってか?」

 

 

「違う」

 

 

璃王の推察にXANXUSは口を挟んだ。

璃王はその無表情に近い顔に驚きの表情を僅かに浮かべる。

そんな璃王を置いて、XANXUSは説明を続ける。

 

 

「マオと話し合って決めた事だ。

彼奴は頭を下げて、お前を宜しく頼む・・・・・・だとよ」

 

 

「え・・・・・・?」

 

XANXUSの話に、璃王はまたも、驚かされる羽目になる。

何故、裏切る可能性の高い同盟ファミリーの次期ボスなんかを招き入れる様な真似をするのだろうか。

璃王は色々と疑問に思うが、何から訊けばいいのか解らず、沈黙する。

すると、XANXUSは璃王の頭を撫でる様にポンポン、と叩く。

 

 

「彼奴なりに、お前の状況が解っていたんだろうよ。

お前を休める環境に移して療養させる事は、割と前から考えていたらしい」

 

 

「・・・・・・」

 

 

XANXUSの言葉に璃王は俯いた。

マオには、学校での状況も呪いの進行状態も何一つ話していない。

マオは、イタリアに居る事が多いから、電話や手紙などで話す事はあるが、その内容は殆ど、学校以外に関する事だ。

帰ってくるのも、月に一度または、三、四ヶ月に一度帰ってきて、一週間居るか居ないかだ。

その一週間の間に自分の状態を理解していたというのだろうか?と、璃王は考えた。

 

 

「私たちは、昔からリオンちゃんの事は知っているわ。

だから、安心して、私たちの事は家族だと思ってのんびりと過ごして頂戴」

 

 

「・・・・・・解った・・・・・・」

 

 

オネェ口調の男性―――ルッスーリアの言葉に素直に頷いた自分に内心、愕然とする、璃王。

何でなんだ?ここに来てから僅か三十分程でおかしくなった。

この空間が何故か懐かしくて、暖かくて、居心地が良いとさえ思えてしまう。

今だって、ルッスーリアに撫でられても嫌悪感とかない。何なんだ、ヴァリアーは。

璃王は、僅か三十分で張り詰めた警戒が緩んでいくのを感じて、戸惑う。

どうしたんだ、一体?

その理由を知るのは、まだ先の話だった。




リオン・ヴァルフォア(13)(現時点)

並盛中学2年A組。
保坂理絵奈の策略に嵌り、クラスメイトから虐めを受けている。
ドーディチファミリー次期ボス。
先祖代々からヴァルフォアは血筋により十二支の呪いを受けているが、リオンはそれから外れた呪いを受けている為、年々寿命が縮んでいっている。
ユリアの呪幻術師であり、属性は地と闇。
死体を操る呪術と闇と精神を操る呪術に長けている死宣告者。



《用語》

ユリアの呪幻術師

呪いと幻術を操る術師。
その大半は黒魔術も使いこなし、それと同一視される。


死宣告者

主に暗殺と戦闘、その両方を専門とする殺し屋を指す。
現時点では、リオン・ヴァルフォアとグレイ・ゼル・ファブレット、ラル・ヴァルフォアなど。


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標的3

「じゃあ、自己紹介でもしようか。

ヴァリアーも人が居なくなったり入ってきたりと、新顔も居るからね。

さっき名乗ったけど、僕はマーモン。

ヴァリアーの霧の守護者さ。」

 

 

「俺もさっき名前言っちゃったけど、ベルフェゴールな。嵐の守護者♪」

 

 

「あたしはヴァリアーの母、ルッスーリアよ!

晴の守護者をしてるの~!」

 

 

マーモンが何故かその場を仕切って、自己紹介をする。

それに続いて、ベルとルッスーリアも改めて自己紹介をした。

 

 

「俺はレヴィ・・・・・・」

 

 

「こいつは変態ムッツリスケベの守護者、レヴィ・アン・ポンタンな♪」

 

 

「貴様、誰が変態ムッツリ・・・・・・」

 

 

「ボクはグレイ・ファブレット!月の守護者だよ~!

それにしても、良かった―!ここ、女の子居なくてムサいから、ちょっと反逆計画立ててたんだよね~!」

 

 

「貴様ぁぁぁぁ」

 

 

塚下(つかしも)ラクス。雲の守護者だよ。

群れるのは嫌いだから、用がある時以外は話し掛けないで」

 

 

自己紹介をベルに遮られ、その後の言葉もグレイ・ファブレットと名乗った襟足が腰の辺りまで長い銀のショートヘアーに左目がグレーで右目を眼帯で隠している隻眼の中性的な少年(?)に遮られ、更に何か言いかけたかと思えば今度は、薄紫のショートカットに碧眼のハーフっぽい少女に遮られる。

その酷い扱いを受けたレヴィは沈黙して、のの字を書きながら部屋の隅でキノコ生産機と化した。

ちなみに、塚下ラクスは女だが、男装を主にしている為、グレイの中では男子カウントである。

 

 

「で、今は任務でこの場に居ない雨の守護者のS(スペルビ)・スクアーロと、さっき、レヴィの魔の手から君を救ったのが・・・・・・まぁ、知っての通り、ヴァリアーのボス、XANXUS・・・・・・大空の守護者だよ」

 

 

マーモンは此処に居ないメンバーの紹介も軽くする。

XANXUSの事を話した後で、会議室の扉が開いて、「う゛ぉぉぉぉぉおい!」と、大きな声が狭くもなく広いわけでもない部屋に響いた。

 

 

「ボスはここかぁ!?」

 

 

「五月蠅い、鼓膜が破れるだろう・・・・・・って・・・・・・!!」

 

 

突然の大声に驚いて出入り口に目をやれば、白銀の長い髪の男性に、その隣には、ダークブルーの長髪の少女が居た。

彼の声が五月蠅すぎて少女が彼に冷静に注意していたが、途中でそれをやめ、言葉を詰まらせた。

そのリオンとよく似た藍色の左目と、リオンとは異なる鳶色の右目が驚きに僅かだが見開かれている。

璃王も少女と同じ表情をした。

そして、そのお互いの唇からは、同時にお互いの名前が零れ落ちた。

 

 

「リオン・・・・・・ヴァルフォア・・・・・・?」

 

 

「ラル・・・・・・ヴァルフォア・・・・・・」

 

 

驚きの表情から一転、ラル・ヴァルフォアと呼ばれた少女はその色の違う双眸に涙を溜め、璃王の元へ走り寄った。

その勢いのまま、ラルは璃王に抱き着く。

 

 

「良かった・・・・・・っ!

あれから、ずっと、ずっと何の情報もなくて、誰も何もリオンの事は言わないから・・・・・・っ!

大丈夫か、リオン?何処か痛い所は?あぁ、こんなに傷だらけで・・・・・・可愛い顔が台無しだ」

 

 

リオンの顔に手を当て、何処か異常がないかを確認する、ラル。

相当心配していた様で、ラルは「良かった・・・・・・」と、璃王から離れると、浮かんでいた涙を拭う。

彼女――――ラル・ヴァルフォアは、璃王やセラの親族に当たる家系の娘で、璃王に対して辛く当たっていた他の親族とは違い、璃王をよく可愛がっていた。

璃王も自分を可愛がってくれていたラルに対してはとても良く懐いていて、ヴァルフォアの親族の中では唯一、姉妹の様に仲が良かったのだ。

ラルの話では、自分が消息不明になっているみたいじゃないか、と、璃王はラルを驚きの目で見る。

ラルは璃王の言いたい事が解った為、頷いた。

 

 

「リオンは、ヴァルフォアでは消息不明になっている。

リオンの生存を知っているのは恐らく、お前と()()()()()()()()と言われているヴァルフォアで唯一呪いを持たぬ神に愛されし神子(しんし)、セラ・ヴァルフォアと、ルーンの本家の人間、それと、此処に居るヴァリアーの人間だけだろうな」

 

 

「そうか。

まぁ、何か知らないが、此処に居るそこのタコス以外はオレの事知ってるみたいだが・・・・・・一応、自己紹介はしておいた方が良いか、XANXUS?」

 

 

ラルの話に頷いた璃王は、二人の会話に置いて行かれた一部の人間の顔を見て、XANXUSに目を向けて問う。

すると、XANXUSは頷いた。

 

 

「そうだな。それでまた、どっかのタコスに闇討ちされても困るからな」

 

 

どっかのタコス―――床にのの字を書いてキノコを生産しているレヴィ・アンポンタン、(もとい)、レヴィ・ア・タンを横目に見て、「あぁ・・・・・・」と、璃王は納得する。

XANXUSにまでタコス呼ばわりを食らったレヴィは、キノコすら栽培できない程に落ちてしまった。

 

 

「ちゃんと覚えろよ、タコス。

オレは、ドーディチファミリーの次期ボスであり、世間では「悪魔の猫(ディアーヴォロ・ガット)」と呼ばれている死宣告者(しせんこくしゃ)、リオン・ヴァルフォアだ。

付け加えるなら、次期ルーン家当主であり、国王であるミオン・ルーンの召使(めしつかい)だ。

オレを一筋縄で殺れると思うなよ、タコス」

 

 

璃王――――基、リオン・ヴァルフォアは、レヴィを挑発する様に自己紹介をした。

挑発されたレヴィはそれを自身への侮辱だと捉え、「貴っ様ぁぁぁぁぁぁあああ!」と、怒鳴りながら立ち上がる。

その手には、サーベルの様な武器を握っており、リオンを殺す気満々なのが、(はた)から見ても解った。

レヴィは殺気を(たぎ)らせ、リオンにサーベルを振り下げた。

それを直立不動で見つめるリオンの視界を銀色のベールが遮る。

次の瞬間には、キィン、と言う金属と金属がぶつかり合う音、そして、グレイの声が聞こえた。

 

 

「あれだけの挑発で頭ぶっ飛んじゃえるってさ、よっぽど単細胞なんだねー、君の頭。

ねぇ、何なら、ボクのストレスを発散させて・・・・・・よっ!!」

 

 

レヴィのサーベルを払い、グレイはその端正な顔に笑みを浮かべ、レヴィを挑発する様に見上げる。

そのまま、レヴィを力任せに蹴倒し、その首筋にサーベルを宛がえば、レヴィは額に脂汗を滲ませる。

そのサーベルをレヴィの顎へと持って行き、切っ先を顎に宛がい、レヴィを見下ろして、嘲笑する様に言った。

 

 

「あれあれ~?リオンにリベンジするんじゃなかったの~?

ボクに負けてる様じゃぁ、リオンなんて倒せないよ~?

・・・・・・次、リオンに手を出そうとしたら、東京湾にコンクリ詰めして沈めるからね?ムッツリタコス」

 

 

最後の方の言葉は、冷ややかな視線を突き刺し、レヴィを脅す体で言った。

蒼い顔に口をパクパクさせて額に汗を駄々流しにしているレヴィを放ったらかして、グレイはリオンに向き直る。

 

 

「タコスがごめんねー。怪我はない?」

 

 

「あ・・・・・・はい、まぁ・・・・・・」

 

 

リオンは、何処かでグレイの顔を見た事がある・・・・・・?と、首を捻りながら、返事をする。

何か昔、何処かで見たことがあるような気がしないでもない。

直接会った訳ではないが、見たことのあるような顔だった。

幾ら考えても思い出せないので、リオンは「ま、いっか」と気にしない事にする。

 

 

「で、忘れてたけど、さっき、ラルと一緒に戻ってきたロン毛が、S(スペルビ)・スクアーロね」

 

 

「う゛ぉぉぉおい、誰がロン毛だぁ!!」

 

 

「うるさいなー。あんたの特徴って言ったら、左剣とロン毛、あと、爆音声(ばくおんせい)だけでしょー。

今、左剣外してるし、爆音声はないかなーと思ってロン毛で譲歩したのに、その言い方は無くない?

ってか、男風情がボクに近付くな!!」

 

 

グレイの紹介にスクアーロは不満を訴えるも、グレイの言葉にぐうの音も出ない。

グレイは、異論を訴えている間に詰め寄ってきていたスクアーロにサーベルの切っ先を向け、嫌悪感を剥き出しにする。

 

 

「しししっ、スクアーロ馬鹿すぎ。だから、カス鮫って言われるんだよ。

姫に近付いて良いのは、王子だけなの」

 

 

「なわけないでしょ、男は須くサーベルの切っ先以内に近付くな。

それと、姫と呼ぶなと何万回言えば解る、この堕王子が」

 

 

ベルがスクアーロを見下す様に言いながらグレイの肩を抱き寄せれば、グレイは殺気立った殺し屋の目でベルを睨み、何処からともなくナイフを取り出して、その切っ先をベルに向ける。

ベルは「じょ・・・・・・ジョーダンだって・・・・・・」と、顔を蒼くしながらグレイから離れる。

その光景を見たリオンはこう言った。

 

 

「あ・・・・・・貴女はもしかして、英国女王第七子、グレイ・ゼル・ファブレット王女・・・・・・!?」

 

 

リオンは驚きにその目を見開いた。




セラ・ヴァルフォア(13)(現時点)

並盛中学2年D組。
リオンと同じ容姿、似た声質の為、初見では双子若しくはドッペルゲンガーと勘違いされる。
リオンやラルとは親戚関係であり、ヴァルフォアの親類の中ではリオンとラルが唯一まともに連める人間。
ユリアの呪幻術師で、属性は闇。
特徴的な笑い方に違わず、その性格は偏屈な為、ヴァルフォアの中でも変わり者として扱われているが、リオンとは対照にヴァルフォア特有の呪いを持たぬ為、羨望や嫉妬といった感情を持たれる。
十二支の呪いを持たない代償に、リオンと意識を共有(リンク)する能力を持っている。
その為、随時ではないが脳をリオンと繋いでいると、リオンの感じている事や深層心理を彼女自身も共有する事ができる。
リオンの意識の中に語りかける事も可能らしいが、メカニズムは解っていない。


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第十一楽章 Ricordo-形見-
標的1




随分長い事、小説を放置していてすみません。
リアルで色々とありまして、小説を書く気力がありませんでした。
これからも不定期で顔を出したいとは思っております。
なので、ゆるーくお付き合いください。


 「貴女は、グレイ・ゼル・ファブレット王女……!?」

 

 リオンは、驚きに目を見開いてグレイに問う。

 

 星の光を浴びた様な美しい白銀の髪に、透き通った凛々しい銀灰色の左目だけを晒している隻眼、陶器の様な白い肌。

 そして、決定的なのは、その筋金入りとも言える遺伝子レベルの男嫌いと凛とした出で立ち。

 

 何故、早く気がつかなかったのだ、と、リオンは頭を抱えた。

 

 彼――否、彼女は、グレイ・ファブレット改め、グレイ・ゼル・ファブレット。

 英国の現王妃の四女で、次期女王候補だ。

 候補と言っても、グレイにはその証と権利がある為、ほぼ確定である。

 現在は家を飛び出して死宣告者として裏社会を直に勉強中と言う、とんだじゃじゃ馬王女だ。

 

 驚愕しているリオンを他所にグレイはキョトン、と首を傾げる。

 

 「そうだけど……あれ~? そんなに驚かれる事?

 うーん、隠してるつもりはないけど……。

 まぁ、気楽にやっていこうよ。 ここでは身分なんてただの飾りで必要ないモノだし。

 ボクも畏まられたり変に距離置かれると接しにくいし……ね?」

 

 いや、身分くらい隠しましょうよ!?

 

 グレイの言葉にそんな事を思うが、リオンは突っ込まない事にした。

 ただ単に面倒だからである。

 

 そんな事を考えていたリオンにXANXUSは言った。

 

 「自己紹介終わったなら、話を進めるぞ。

 リオン、その怪我はいつ頃完治する?」

 「えーと……、確か1週間は無理な動きをするな、とは言われたな。

 だから、多分そのくらいだ」

 「だったら、1ヶ月は安静にしてた方が良さそうね、リオン?」

 

 XANXUSの問いにリオンは答えた。 すると、会議室の扉が開いて、XANXUSとリオンの会話に蕩ける様な甘いマスクの女性の声が介入する。

 その聞き覚えのある声にリオンは振り向いてその姿を認めると、再び目を大きく見開いた。

 

 「……! ロラン……!?」

 

 肩までの長さがある金紗の髪に、零れ落ちるくらいに大きな真紅の瞳が特徴的な女性。 口元には艶女かしい笑みを浮かべており、男ならば虜になってしまいそうな美貌の彼女は。

 驚愕するリオンの口から、名前が零れた。

 

 ロラン・ハースト。 彼女は、リオンの主である“あの人”の従姉だ。

 

 「久しぶりね、リオン。  元気?」

 

 微笑んで問い掛けてくるロランに、リオンは未だに信じられない、と凝視する。

 

 いや、流石にこれは都合の良い夢か何かじゃないのか?

 セラと出会すわ、マーモンに拉致られたかと思えばヴァリアーでラルと再会するわ、何故かグレイも居る上に更にロランまで居る始末。

 自分の知らない場所に知り合いが集まりすぎていて現実味がない。

 

 そうだ、きっとこれは夢に決まってる。

 きっと、レヴィ(タコス)に襲われた時に驚いてそのまま気絶したんだ。 夢なら覚める筈だ。

 

 リオンは思わず、自分の横っ面を殴ってみた。 しかし、怪我で思う様に力の入らない拳では、頬に痛みなど感じない。

 

 そうだ、誰かに殴って貰おう。 その方が確実だ。

 

 「……ラル、頼みがある。 俺の横っ面を思いっきり殴ってくれ」

 

 リオンは近くに居たラルに、そんな事を頼んだ。 当然ラルは、そんな事を頼んできたリオンに驚愕を通り越して呆れ、額を抑える。

 

 「いや、まぁ、信じられないのは解る。 理解してるよ。

 どうせリオンの事だから、現状は夢だとでも思っているのだろうが……現状は紛れもなく現実だ。 諦めな」

 

 ラルに言われ、リオンは項垂れる。

 

 「そうか……。

 そう言えばてめぇは、リオンの知り合いだったか。 なら、詳しいワケだ。

 だったら、二ヶ月後にリオンの本入隊試験をする。

 その頃には快復してるだろうし……何より、あのドカスも戻ってくるだろう」

 「え、ボス……それは……」

 「彼女とやらせるつもりなの?」

 「やめといた方が良いと思うわ」

 

 マーモン、ラル、ロランが焦った様に反対する。

 

 誰の事を言ってるのだろう?

 リオンはぼんやりと思いながら、しかし、彼女達の反応を見るにその「ドカス」と言うのは相当なツワモノなのだろう。

 だとすると、リオンの中に僅かにある好戦的な部分が疼く。

 一般の生徒を相手にしても疼かない闘争心だが、死宣告者や殺し屋を相手では話が別だ。

 

 リオンが少しの期待を瞳に孕ませれば、XANXUSがそれを砕く様に言った。

 

 「まぁ、普通なら一月(ひとつき)で終わる様な任務に未だに手こずってやがる様なドグズだからこの際、訓練だの何だの言って消してもらえた方が有難(ありがて)ぇだろ。

 それに、一対一(サシ)での勝負ならレヴィに引けをとらねぇ実力はあるんだ。 問題ねぇ。

 問題は、雑魚すぎてリオンの足元に及ばねぇくらいだ」

 

 XANXUSの言い様から、リオンは残念そうな表情を見せた。

 

 「それじゃあ試験になんないだろぉ?」

 「勿論、奴だけでは心許ねぇから……スクアーロ、ルッスーリア、マーモン、そして、俺が相手だ。

 近距離、至近距離、幻術、遠距離……これが試験の時に見る項目になる。

 これで問題はねぇだろ」

 「いやいやいや、ちょっと待てぇ」

 「さっきから何だ、カス鮫?

 試験にならねぇとか言うから難易度上げたじゃねぇか。

 不満はねぇだろ」

 

 XANXUSはスクアーロを睨んだ。 俺の試験に口出しすんじゃねぇ、ドカスが。

 XANXUSの獰猛な炎のような目がそう言っていた。

 しかし、それに臆する事もなくスクアーロは反論する。

 

 「いや、確かに奴だけじゃ試験にならねぇとは言ったけどよぉ。 お前が出たら、別の意味で試験にならねぇだろ。

 極端すぎるぞ」

 「むしろ、丁度いいくらいだろう。

 見ろ、あのリオンの顔」

 「あ゛ぁ?」

 

 XANXUSに言われて、スクアーロはリオンの顔を見た。

 先程XANXUSが「俺が相手だ」と言った瞬間、リオンは深く沈むような瑠璃色の瞳をギラギラさせ、その瞳の奥は期待に満ちたように煌めいている。 まるで、遠足前の子供のような表情。

 普段のやる気どころか生きる気もなさそうな廃人のような無表情とは大違いだ。

 

 まさか、ボンゴレ最強の独立暗殺部隊のボス自らが試験官をしてくれるなんて思わねぇだろ……! 一度だけでも戦ってみたいと思ってたんだよな、それがこんな形で叶うとかさぁ……!

 しかも、ヴァリアーに入隊させてくれるとか願ったり叶ったり過ぎるだろ。 これはもう、任務とか依頼とか賞金稼ぎ以上に張り切って……いや待て、その前に武器の整備も入念にしないとなぁ。

 丁度、新しいクナイを仕入れた所なんだよ。 それも用意して、あぁ、最近作った術式も入念にチェックしておかないと! あとは……。

 

 おそらく漫画ならば、一コマに収まりきれない程の台詞が一コマにびっしりと書かれているに違いない。

 

 (めっちゃワクテカしてるぅぅぅぅうう!!)

 (やっぱり、リオン可愛い)

 

 スクアーロが衝撃を受けたような表情をしているのに対し、ラルはうっとりと頬を綻ばせていた。

 そして言っておこう。 この小説はGLでは在りませぬ。

 

 {お前はあの顔を見て、「やっぱり別の奴に変える」なんざ言えるか?

 そんな事を言おうモノならきっと、主人に叱られたチワワのような表情で目に見えない耳と尻尾を垂れさせて、萎びた青菜のようにしゅんとするぞ」

 「俺はお前の口からそんな比喩表現が出てきたのが今年一番の衝撃だぁ……」

 「てめぇはそれでも反対できるのか? あの顔を失望に変えられるのか?」

 「あー、もう解った解った。 好きにすれば良いだろぉ。

 俺はもう、何も言わねぇよ……」

 

 親バカ(兄バカ?)を発動させてしまったらしいXANXUSにスクアーロは溜息を吐いて、諦める以外の選択肢を一つ残らず駆逐された。

 

 (あれ、こいつこんなにリオンの事気に掛けてたっけなぁ~?)

 

 スクアーロは、頭上の蛍光灯を見る様に遠い目をしながら考えた。

 

 いや、昔はもっとこう……いや、よそう。 XANXUSは変わってしまったのだ。

 それならそれでいいだろう。

 

 (これで、俺に対してのDVが無くなれば尚良いんだがなぁ……。 無理か)

 

 スクアーロは、時間が経って萎びた某ピエロのハンバーガー屋のシナポテの様、(もとい)、塩を掛けた青菜のように項垂れた。

 

 「まぁ、そういう訳だ。 二ヶ月後に試験だから、二ヶ月でその怪我治せよ。

 良いな? 学校はおろかトレーニングしようなんざ思うなよ」

 「あ、あぁ……解った」

 

 返事をしながらリオンは思った。

 最強の暗殺部隊のボスはかなり過保護だな、と。





ラル・プリム・ヴァルフォア(14)

リオンの三従姉に当たる少女。
リオンが唯一真面に接する事ができる一握りの人間。
何故かリオンの事を妹認識でいる為、かなりのシスコン気味。
干支呪(えとじゅ)寅呪(いんじゅ)持ちで、地と風の呪幻術師。



ロラン・セレス・ハースト(23)

リオンの主の従姉に当たる女性。
天才女医でリオンの前の主治医であるフィア・セレス・ハーストの一人娘。
光と水と火の呪幻術師で、母親の天才的な頭脳を受け継いでいる。
この世に3人と居ないリオンの猫呪の薬を作れる医者。
血塗れの女医(サングイノレント・メディケッサ)」の異名を持つが、本人は自分の声質・O.C.波に中ってしょっちゅう吐血している為、「下手したら、重病人よりも重症」と言われている。



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標的2

 「――と言うワケで、恭。 二ヵ月の間、ヴァリアーで監禁されることになったから、学校行けねぇわ」

 《ちょっと待って。色々と突っ込みどころ満載過ぎて、何から突っ込めばいいのか解らないんだけど》

 

 アジトの自室に案内された後、リオンは雲雀に電話をしていた。

 事の成り行きを話して暫く学校を休む旨を話せば、物騒なリオンの物言いに雲雀は呆れたような言葉を返してくる。

 

 「だから、さっき言った通りだ。

 下校時に突然、ヴァリアーのマーモンっつーフードの怪しい不審者に拉致られて、XANXUSっつー強面(こわもて)ジャッポネーゼヤクザ(ジャポヤーさん)に「二ヵ月にヴァリアーの入隊試験をするから、怪我が治るまで外出禁止」とかって監禁されるから学校行けねぇ、って」

 《その言い方はどうにかならないの?

 聞き方によっては本気でシャレにならない……って言うか、今すぐヴァリアーのアジトに乗り込んで君を拉致りに行くけど?》

 

 電話の向こうの雲雀は溜息を吐いた。 即座に璃王は「とんでもない!」というように首を振る。

 そんな事をされては、困るのは璃王の方だ。

 

 「それは困る。

 お前、ヴァリアーがどういう所か知ってるか? イタリアの大マフィア・ボンゴレファミリーが誇るイタリア最強の暗殺部隊だぞ? イタリアの死宣告者・殺し屋なら誰もが憧れ、畏怖し、その圧倒的な存在に(おのの)く最強マフィアだぞ? そんな暗殺部隊のボス自らが入隊試験で戦ってくれるって言うんだ、怪我増やしてる暇ない! ボスに力認められたら、俺は晴れてヴァリアーの一員だ! もう、学校とかどうでも良い! 俺は暗殺に生きる事にする!」

 《いや、良くないから、落ち着こう。

 君、日本は義務教育だし、僕の学校に居る限りは卒業まで絶対に転校も認めないよ》

 

 余程、ヴァリアーにスカウトされた事が嬉しいのか、声を聴いただけでリオンが嬉しそうなことが窺えた。 それにモヤモヤする、雲雀。

 

 ――何で猿山のボス猿の所に行くって言うだけでそんなに嬉しそうなのさ?

 

 《て言うか君、そんなに好戦的だったっけ?》

 

 ふと疑問に思った雲雀が、そんな事を訊いてきた。 リオンはきょとんとした顔で答える。

 

 「俺は元から結構好戦的な方だけど? ただ、一般ピープル相手にしたって面白くねぇんだよ」

 《でも君は、一般人だった僕の相手をしたじゃない》

 「あれは、恭が書類上で既にボンゴレの雲の守護者だって確定してたから相手したに過ぎない。

 恭がマフィアの世界に入ってこなかったら、スルーを決めてたつもりだ」

 

 つまり、雲雀が不本意とはいえボンゴレに入っていなかったら、リオンの視界に雲雀は入っていなかったことになる。

 その事実を知って、雲雀はガックリと肩を落とした。

 

 それもそうだ。 いつも気に掛けていた少女にそんな事を言われては、雲雀としては立つ瀬がない。

 

 「まぁ、ちゃんと理由は話したからな。

 間違っても、ヴァリアーのアジトに乗り込もうなんて思うなよ」

 《解ったよ、ただし、ちゃんと2か月後には登校してきなよ。 君がいないと、書類が片付かないからね》

 

 「はいはい、解かりましたヨ。 じゃあ、切るぞ」

 

 雲雀の返事も待たずに、リオンはケータイの電源を切った。

 

 今まで会話していた部屋に静寂が訪れる。 リオンは上半身を伸ばすと、そのままベッドに倒れた。

 

 通話していた時は気にならなかった静寂だが、突然無音になると何だか寂しく感じる。

 別に、雲雀には学校に行けば嫌でも顔合わせするし、たかが2か月会わなくなるだけだ。

 何ともないだろう。

 

 そもそも、「寂しい」とは何ぞや。 別に彼の事はどうとも思ってないし、むしろ、人間嫌いの癖に顔を合わせる度に絡んでくるばかりか、わざわざ呼び出して雑務を言い渡してくる彼に対して、面倒くさい感情は有れど、それ以上の感情は持ち合わせていない……筈。

 

 リオンは空気を換える為、窓に手を伸ばした。

 

―― ――

 

 あれから、1週間が経った。

 リオンは自室で食事を摂って、自室から出る事を禁じられた生活を送っている。

 

 「いつまで、箱入り娘みたく部屋で腐ってる生活をさせるんだ」

 「仕方ないわよ~、貴女の前の主治医の娘であるロランちゃんからドクターストップが掛かってるんだもの~」

 

 食器の中に入っているパスタをフォークでクルクルと弄りながら、憮然とした声で文句を言うリオンに、ルッスーリアがクネクネと身体をくねらせて言う。

 

 ヴァリアーに来てから検査を受ければ、肋が何本か折れて、左足も骨折、左腕にヒビが入っていた。

 更に呪いの毒素の所為で内臓も傷ついているという有り様で、璃王は緊急手術を受ける羽目に。

 手術後、ロランから言い渡されたのは、2ヶ月の絶対安静。

 部屋から出る事は勿論、トイレと風呂以外はベッドから出る事を禁じられた。 風呂も介助が必要な状態。

 

 その生活に耐えかねて、遂に肋と右足の骨折を呪幻術で無理矢理くっ付けて外に出たら、ロランとラルに大目玉を食らい、見張りまで付けられる始末だ。

 

 「だからって……肋と右足はくっ付けたし、左腕ももう治ってる。

 いつまでもこんな生活してたら、腐るぞ……脳が」

 「人間の脳はそう簡単には腐らないわよ! まったく、セシィちゃんみたいなことを言って!

 むしろリオンちゃんは、栄養失調と傷付いた身体を治さないといけないんだから、安静にしてなきゃ!」

 

 不貞腐れたようなリオンの言葉に、呆れたような口調で言うルッスーリア。

 

 (本当にこの子は、まさに“あの親にしてこの子あり”ね。

 先が思い遣られるわぁ……)

 

 ルッスーリアは肩を竦めて、小さく溜息を零した。

 

 「貴女、貧血も酷いらしいじゃないの」

 「そりゃ、あれだけ血ぃ吐けばそんな事にもなるだろうよ。

 それも、サプリがあれば――」

 「って、まさか鉄剤飲んでないの!? ダメじゃない、鉄剤飲みなさい鉄剤!

 ロランちゃんから貰ってるでしょ!」

 

 ルッスーリアの言葉に呆気からんと答えるリオンだったが、「サプリ」と聞いたルッスーリアに言葉を遮られる。

 そう、リオンは貧血でロランから鉄剤を処方されていた。

 ルッスーリアの言葉を聞いたリオンは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

 「あー……あれ? あんなクッソ不味いの、飲んでられるかよ……。

 飲んだ後の副作用も気持ち悪いし。

 あれ、人間が飲んで良いようなものじゃねぇだろ」

 「人間が飲んで良いものだから、薬として認められてるのよ!」

 「飲みたくねぇー。 食事も鉄分とカロリー中心なんだから、食事療法でいいじゃないか」

 「それで追いつけない程貧血が酷いんでしょ!」

 「レバー嫌い。 こんなものこんなものこんなもの」

 「ちょっ、レバーだけ器用に避けるのはやめなさい!」

 

 野菜レバー炒めに入っている細かく切られたレバーをフォークで空いている皿に移す、リオン。 ついでにニラも一緒に移す。

 ルッスーリアに止められるが、知るか。 嫌いなものは嫌いだ。

 

 と、その時。 「何の騒ぎだ」と、XANXUSがリオンの部屋に入ってきた。

 「ボス!」と、ルッスーリアとリオンの声が重なった。

 

 「この前より顔色はマシになったか?」

 「そう見えるなら、そうだろうな」

 「ふん、こっちきた時の死にそうな顔よりは大分マシだな」

 

 目を細めて笑うXANXUS。 そんなに酷い顔をしていたのだろうか、とリオンは首を傾げる。

 

 「で、何か用事でもあるのか?

 もしかして、今すぐ試験? 受ける受ける、超受ける」

 「落ち着け。 テメェの試験は3ヶ月後だといった筈だ」

 

 XANXUSの言葉にブスーと目を細める、リオン。

 

 試験の日が2ヶ月から3ヶ月に延びたのは、リオンの状態を改めて診たロランがXANXUSに報告した為だった。

 「余計な事をしやがって」とロランを睨んだら、“ロランフード”という名のダークマターを出されて逆に死ぬかと思った。

 ロランは、作るものすべてをダークマターに変えてしまう程の料理音痴である。 それも、「栄養食」と称して出してくるので手に負えない。

 

 「今日はテメェに良いモノを持ってきてやったんだ。 有難く受け取れ」

 「おわっ!?」

 

 言うや否や、XANXUSはリオンに何かを投げた。 それを慌てて受け取れば、それは両手に収まるほどの長方形の箱で。

 XANXUSの顔を見ると、彼は「開けてみろ」とその箱を顎でしゃくった。

 

 「!! これは……」

 

 その箱に入っていた物は、二つの丸い飾りのついたブレスレットだった。





@その他
・リオンの嫌いな食べ物:辛い物、苦い物、レバー、ニラ、玉ねぎ、ネギ。

・ロランフード:ロランが作るダークマター。 食うな、危険。
 味を度外視で栄養バランスのみしか考慮されていない為、メタクソマズイ。
 怪我や病気で医務室で療養する際、“入院食”と称して出されるジェノサイド飯。
 関連品に“ロランドリンク”なるモノもあるらしい。
 こちらも、例に漏れず味度外視のジェノサイド汁。 もう帰ってくれ……。


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