虚になったけど質問ある? (明太子醬油)
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旧校舎のディアボロス
虚になっちゃった日


暇つぶしに描きました。


 俺はいたって普通の存在だった。

 両親は小さい時に交通事故に巻き込まれたことを除けば。

 それでもおばあちゃんに引き取られ寂しいと思うことはほとんどなかった。おばあちゃんには感謝してる。

 こっちに引っ越してきたときに猫を拾った。黒い猫だった、

 その猫は他の猫と存在感が違った。

 一目見て欲しいと思った。

 最初は全然懐かなかったが、今では家に普通に入ってくるようになった。

 その猫のために猫用の入り口を作ったりとあの時は色々と楽しかった。

 一人暮らしも悪くないなとか柄にもなく思ったんだ。

 その黒猫にクロという名前をつけた。

 でも少し嫌そうにしていたのはなぜなんだろうか?

 神様だとか悪魔だとか天使だとかそんなすごい存在というわけでもない。

 普通。

 身長は180センチ。少しみんなより背が高いくらい。

 だからと言って異常ではない。

 顔立ちも中の中。黒い目に黒い髪。痩せていることもなく太っている事もない。

 普通過ぎて第一印象は普通だ。それか背が高い。

 頭も普通だ。

 得意な事もないし、苦手な事もない。

 たまに逆に普通じゃないんじゃねと思う時があるが普通であると言っておこうか。

 

 なんでこんなことになったんだろうか?

 

 今目の前に同じクラスメイトであり、変態として名高い兵藤一成が殺されていた。

 

 何と無く夜にコンビニに行く途中に近くにある公園に行って見たんだ。

 そうしたらこれ。

 なんか目の前に黒い羽生やした人間がいる。

 顔立ちはとてもいい。

 是非とも彼女にしたいくらいだ。

 

 でも、こいつが兵藤を殺したんだろうな・・・

 

 

 こんだけ回想しといて秒数としてはまだ一秒しか経っていなかった。

 いわゆる超加速ってやつ?

 脳がフル回転してだわ。

 

 すると目の前の女が俺に気づいたのか目を大きく見開いた。

 

「あら、人払いの結界を張ったはずなんだけどどうしてこんなとこにただの人間がいるのかしら?」

 

 人払いの結界ってマジかよ。それなんてアニメ?

 そんなこと思ってる間にも兵藤の腹からメッチャ血出てるんだけど。

 ・・・人ってあんなに血が出るのか。

 

「おい。なんでそいつを殺したんだ?」

 

 ・・・まだ生きてるかもしれないけど・・・

 

「私に説教でもするつもり?ただの人間が?笑わせないで」

 

 女が冷たく言い放つ。美人が言うとなんつうか迫力?が違うわ。

 説教するつもりもないんだけどな・・・

 あれ?俺ってピンチじゃね?

 

「安心して頂戴?あなたも今からあれと同じ風になるから」

 

 そう言うと女の手をかざした。

 するとそこには凝縮されたような光の槍があった。

 

(いつあんなもん出したんだ?)

 

 一切目を離したつもりはなかったんだがな。

 おそらくあれで俺を殺すつもりなんだろうな。

 ・・・よく俺こんな他人事みたいに思えるな。

 

 女が俺に向かって光の槍を投げた。

 

 その光の槍の速さは何時もの俺なら気づかずにやられたかもしれない位早かった。

 なぜか顔面コースまっすぐだし。あれ当たったら見るも無残なことになるのだろう。

 なんで今こんな悠長に考えていられるのだろうか?

 恐らく俺はあれに貫かれるのだろう。

 だからと言って別に死ぬことに恐怖はない。

 

 でもおそらく今は家にクロがいる。

 脳裏にクロがにゃーと家で鳴いている映像が思い浮かんだ。

 俺が死んだらクロは悲しんでくれるのだろうか?

 

 

 ・・・あぁ、死にたくないな・・・

 

 

 俺は顔に向かってくる光の槍を俺は全身の筋肉を総動員させて体を右に倒す。

 それでも光の槍はどんどん進んでくるのに俺は全然動くことができない。

 

 どんどん近づいてくる「死」の匂い。

 無慈悲に近づいてくる「死」の匂い。

 それはまるで今から処刑執行される咎人のように。

 ギロチンに一歩づつ近づいて行く咎人のように。

 

 

 

 そして光の槍は俺の頭を貫いた。

 

 

「がああァァァ!!!」

 

 顔の感覚がない。

 目は見える。でも左目は何にも見えない。

 脳が焼けるような感覚。

 それでも徐々にだが、痛みが体から引いて行く。そして体が侵食されるかのように動かなくなっていく。

 それでも叫ばずにはいられない。

 自分でもなんでこんなに叫んでるのがわからない。

 痛いわけでもないのに。

 

「あら、殺し損ねたみたいね。そのまま素直に当たった方がすぐ死ねて楽だっただろうにね。かわいそうね」

 

 女はクスクスと笑いながら哀れむようにこっちに視線を向ける。

 それを見て俺の中にどす黒い感情が溢れ出す。

 テメェがやったんだろうが。

 ・・・絶対に俺が殺す!

 

「どうやら長居し過ぎたようね。せいぜい苦しみながら死んでね」

 

 女は背中の黒い羽を羽ばたかせて飛び立ってしまった。

 あいつの体がどんどん小さくなって行く。

 それと同時に自分の体温がどんどん抜けて行く感覚。

 

「・・・帰らなくちゃ」

 

 俺は公園を出て家に帰ろうとする。

 その時、だるい体で自分の左目を撫でる。

 するとそこには何もなかった。

 比喩じゃなくて何もなかった。空洞がポカンと会いているかのようだった。

 完全な致命傷。

 絶対に死ねる自信がある。

 

 それでも最後にクロに会いたい。

 家でクロとじゃれていた光景が遥か遠くに感じる。

 家まであんなに近いと思っていたのに今ではこんなにも遠くに感じる。

 

 体を引きづりながら進む。

 途中から意識が飛ぶこともある。

 それでも最後に・・・

 

 その時、俺は誰かに抱きかかえられているような気がした。

 それは幻覚でも暖かくて、優しくて・・・

 眠ってしまいたくなるようなものだった。

 

 

 あァ・・・死にたくないな・・・

 

 

 

 #

 

 

 

 

 気づけば俺はどこも見えない真っ暗な世界にいた。

 どこに続いているのかもわからない闇に落ちて行く。

 重力に引っ張られるように、それでいて空気の抵抗とか風も感じることもない。一言で言うなら無だ。

 これが死ぬってことなのか?

 このまま落ちて行けば死ぬのか?

 そうわかっていても体が全く抵抗出来ない。

 俺はどこまで落ちて行くのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は地面に着地した。

 着地した場所は今までの闇が嘘かのようだった。

 さっきまでとは打って変わってどこまでも続く白。

 俺の眼下にはどこまでも続いていそうな白い砂漠があった。

 そこには本当に砂しかない。

 時々白い枯れたような木があるのみだった。

 空は夜のように真っ暗で星はない。

 ただポツンとでっかい月が一つある世界だった。

 

 

「おい」

 

 後ろから誰かに呼ばれたような気がした。

 後ろを振り向くとそこには白くでかい城がそびえ立っていた。

 あまりの衝撃からポカンと口を開いていたとおもう。

 こんなにも巨大なものをなぜ気づかなかったのか自分でも不思議なくらいだった。

 その城はあまりに白い巨大で、あたかも威圧されていると錯覚するほどだった。

 

「おい」

 

 また自分を呼ぶ声。

 上から下に目を向けるとそこには異様な男が白い椅子に座っていた。

 その男は黒髪で黒目。長身の細身の男。

 左目は白い眼帯をしていて、睨むかのような細い目。

 背には8の字のでかい得物をしょっている。

 全身真っ白な死装束。胸元はポッカリと空いている。正直、女ならまだ評価出来るだろうが男の露出は見ていてあまりいいものではない。そして真っ白な眼帯。

 だが、最も異常なのは威圧感だった。

 なぜこれを気づかなかったのか自分でも分からない。

 ねっとりと重く思わずに膝を屈してしまいそうになるほどの威圧感。

 その細い目で見られるだけで射殺されると思ってしまうほどであった。

 

「やっと気づいたか。バカが」

 

 なぜかいきなり罵倒された。・・・解せぬ。

 

「あんた誰だ?」

 

「俺が誰かだ?そんなもんなんでテメェに言わねぇといけねぇんだ?バカじゃねぇのか」

 

 バカにし過ぎたじゃね?こいつ。

 目の前の男は、いきなり俺の胸に指を指した。

 そしてなぜか口を愉快とまでに吊り上げる。

 

「お前いつまでもそんな悠長にしてていいのかよ。

 

 

  本当に死ぬぜ?」

 

 

「は?」

 

 俺は指さされた胸を見る。

 俺の胸には鎖がついていた。

 

「なんだよ・・・これ・・・」

 

 すると周りから崩れ落ちる音が聞こえた。

 辺りを見回すと、延々と続いていると思っていた白い砂漠がどんどん下に崩れ落ちていた。

 

(これはまるで世界の終わりみたいじゃないか)

 

 後ろからもかなり近くから崩れる音が聞こえる。

 急いで振り返ると椅子に座っている男の後ろにある白く巨大な城は上から徐々にチリになっていた。

 

「なんだよここは!?何がどうなってるんだよ!?」

 

 すると男はケラケラと笑いながら言った。

 

「ここはな簡単に言うなら精神世界ってやつだ。ここがお前の精神の中の姿だ。で、何がどうなってるのか、だったか?簡単なことだ。この世界がこんままだと崩れ落ちるだろう?そん時、お前は死ぬ。それだけのことだ!」

 

 そう言うとケラケラと心から愉快そうに笑う。

 なんだこいつは。

 

「あんたはそれでいいのかよ?」

 

 笑うのをやめてこっちを見る。心からどうでもいいとでも言っているかのようだ。

 

「俺はどうすればいいんだよ!?」

 

 半ば叫ぶように叫ぶ。

 まだ俺は生きてる。ならまだ生き残る方法があるはずだ。

 

「第一テメェの体は死んでる。でもな、まだ魂はまだ死んでねぇんだよ。テメェの胸についてる鎖はな『魂魄』っていうやつでな。その鎖はテメェの魂と体を繋いでるもんなんだよ。でだ、今テメェの魂は体に引きつられて死のうとしてるんだ。じゃどうしたらいいのか?簡単な話だ。

 

 

 その鎖を自分で引きちぎれ」

 

 

 簡単だろ?とまたケラケラと笑う。

 

 まぁ、何と無く話は分かった。こいつの話が全て正しいかは知らない。でも今はするしかない。

 だがどうやってこの鎖を取ればいい?

 俺の身体じゃこんなもん引きちぎれる気さえしない。

 とりあえず鎖を手にかけてみる。

 感触はそのものの鎖と同じ。鎖に触れたことはないが鉄独特の冷たい感触がする。

 それを思いっきり引っ張る。

 

「うがぁ!!」

 

 激痛。

 あまりの激痛に息をすることさせ忘れる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 再度手に取る。

 そして引っ張ると今まで味わったことのないような激痛が走る。

 鎖は全く千切れる気配すらない。

 世界はどんどん崩れ落ちて行く。

 このままじゃ本当に_______

 

 

「死ぬぜ」

 

 ・・・こいつエスパーかよ

 気づくとあんなに巨大だった城はもうほとんど残っていなかった。

 

「くそ、どうやってこの鎖を千切ればいいんだよ!?これ本当に千切れるのか!?どうせ無理なんだろ初めから!?」

 

 焦りからか気づけば俺は叫んでいた。

 

「ゴタゴタうるせぇぞ。ゴミが!テメェが無理だと思うなら一生無理だ。そうやって負けヅラ晒してろ!」

 

 くそ、何も言い返せない!

 

「一つ教えておいてやろう。これはどの生き物でも当たり前なことだ。この世は奪うやつと奪われる奴しかいないってことだ。だから、お前はここで諦めて死ね。俺がテメェの身体使って復讐しておいてやるよ。ここで俺に奪われろ!テメェは黙って奪われろ!」

 

 奪う者と奪われる者。

 俺は奪われる側で、あいつは奪う側。

 そういえば、俺はあの女のせいでこんなことになってるんだよな。

 なんで俺はあの女に対して何も思わないのだろうか?

 元はと言えばあいつのせいで・・・!!

 

「・・・憎い・・・」

 

「アァ!?」

 

「憎い!憎い!憎い!俺はあいつを絶対に殺す!!俺は奪われる側じゃない!!俺は奪う側の人間だ!!!」

 

 

 男は俺を見てニヤリと笑う。

 

「なら成ってみろよ。奪う側によ!」

 

 俺は鎖を手に掛ける。

 もう目の前の城は全部チリになった。

 ここで引けば俺は死ぬ。ずっと奪われる側の人間として生まれて来たことになる!

 絶対に嫌だ。

 俺は_____

 

「なってやるよ!奪う側によ!!」

 

 

 

 全力で鎖を引きちぎった。

 

 

 

 

 

 #

 黒歌サイド

 

 その少年との出会いはある意味突然だった。

 ある日散歩しているとなぜかどこから出したかもわからないエサを私に食べさせようとしてきたからだった。

 

 初め会ったときいつも餌を持ち歩いているのか?と聞きたくなった私は悪くないと思う。

 

 それからなぜか、会うたびにエサを与えられ、いつの間にかあの少年の家に私はいるようになっていた。

 どうやったらそうなったのか自分でもわからない。

 それでも家に居たのは単に心地よかったからだった。

 

 その日少年はコンビニに買い物に行った。

 しかし帰りが遅い。

 だから少し探っていると人払いの結界が張られているのが分かった。

 最悪の結果を思い描きながら、結界があった方向に進んでいると左目あたりから血が溢れ出ている少年を発見した。

 

 少年は無意識か意識が有るのか分からないがどうやら家に帰ろうとしていた。

 

 私は人型になって少年を抱きかかえた。

 この少年の命は長くはないだろう。

 それでも恩返しのつもりで家に送ってあげようと思った。

 自分はあの心地よい環境が好きだった。その恩返し。

 彼には両親がいなかった。

 なぜかは知らない。

 だから私が最期を娶ってやろうと思った。

 

「こんな美人に最期を見送られるなんてきっとこいつは幸せだニャン」

 

 

 

 二日後の朝。

 _______少年は息を引き取った。

 顔にあんな大穴を開けられて正直よく二日も持ったなと思ってしまう。

 仙術を使えばあと一日位命を引き伸ばせたかもしれない。

 それでもしなかったのは少年に恩を感じていたから。

 

 黒歌は柄にもなく泣いた。

 失って初めて気づくとはよく言ったものだと思う。

 

 その日の夜。

 黒歌はこの家を去ろうとした。

 これ以上ここにいても仕方ない。

 

 そして最後に少年の顔を見ようと思った時だった。

 

 

 

「があああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 突如少年の顔から白いロウのようなものが溢れ出てきた。

 そのロウのようなものがやがて仮面のように少年の顔を覆った。

 鋭い目に剥き出しの歯。

 少年だったものは叫ぶ。

 

 そして黒歌に襲い始めた。

 

 

 

 

 

 #

 

 

 

「なんだこれ?」

 

 鎖が千切れたと思ったら鎖がついていた胸の場所にハッキリとした空洞があった。

 普通だったら、致命傷。

 完全に死ぬだろう。

 だが、全く苦しくないし、痛くない。

 穴に手を入れても普通に通り過ぎる。不思議だ。

 

「その穴はな、虚になった証だ」

 

「虚?」

 

「アァ、虚ってのは悪霊のことだ」

 

 悪霊?俺って結局死んだのか?

 

「どういうことだ?」

 

「テメェの魂は死を免れた。だが身体は違ぇ。完全に死んでる。つまりだ。今のテメェは体は死んだのに魂は生きてるチグハグな存在ってわけだ。普通なら成仏でもしてるんじゃねぇか?簡単に言うならテメェがバカだから成仏すら出来ない地縛霊になってるんだよ」

 

「俺は地縛霊になったのは分かった。だから俺は何をすればいいんだ?」

 

 全く意味が分からない。俺の魂が生きていたとしてそこからどうすればいいのか?

 てっきり、鎖取れば生き返れると思ってたんだけど・・・

 

 そういえばこの世界の崩壊も止まっるし。

 

「テメェのことだから鎖外したら生き返れるとでも思ってたんだろ。バカが」

 

 ほんとこいつどんだけバカにすれば気が済むんだ。

 しかも当たってるし。エスパーかよ。

 

「今のテメェはまだ虚に成りかけだ。本来ならもう虚になってるはずなんだが、俺がいるおかげでまだテメェは完全な虚にならずに済んでる。そうだな。あともって10分有ればいいんじゃねぇのか?」

 

「虚になったらいけねぇのかよ?」

 

 男はケラケラと笑いながら俺を見る。

 

「別にいいぜ!ただテメェが自我を取り戻した時にはテメェは人を何人も手にかけることになってるんだろうがな!!そのあとに俺が絶望したテメェの体のっとってやるからよ!」

 

 自我を取り戻した時、もう何人も手にかけている?どういうことだ?

 地縛霊はその土地に取り付いたただの幽霊じゃねぇのかよ?

 

「虚ってのはよ!化け物なんだよ!!普通の人型だったとでも思ってたのかよ、バァカが!!」

 

 愉快とまで男は笑う。

 俺はそんなもんにあと10分後になっちまうのか・・・

 だが奴の言い方だとまだ方法はあるようだな。

 

「・・・どうすればいい?」

 

「テメェに教えるとでも思ってんのか、バカが!現実はなそんなに甘くねぇんだよ!」

 

「な!?」

 

 思わぬ意趣返し。

 だが、男はニヤリとゾッとするような笑みを浮かべた。

 

「だが今回は特別に教えてやるよ。今回だけだぜ」

 

 すると男は椅子から立ち上がった。

 改めて背が高い。

 二メートルはゆうに越えているだろう。

 背中の8の字の異様な得物も合間って、独特な雰囲気を醸し出している。

 

「どこ見てんだよ?テメェの相手はこいつだぞ」

 

 眼帯の男の隣にはまるでずっといたかのように男が立っていた。

 その男は俺と瓜二つ。だが色彩が全てが逆。そしてなぜか目の前の眼帯の男の服装が同じ死装束。そしてその服さえ色は反転している。

 黒い死装束。

 白い目に白い髪。

 しかも8の字の得物を持ってるし。

 さらには得物の色も反転しているときた。

 

「誰だよそいつ?」

 

「こいつはテメェの中の虚だよ」

 

「は?」

 

「今からテメェはこいつと身体の主導権を巡って闘ってもらう。もしテメェが負けたら_______また死ぬぜ?」

 

 男が言い終わるや否や白黒逆転した俺が得物を手に取りながら一直線に俺に向かってきた。

 

「ヒャッハー!!」

 

 白黒逆転した俺は世紀末のような叫び声を発する。

 そして上から繰り出された一撃を俺は全力で左に避ける。

 避けた瞬間にはもう次の攻撃が繰り出されている。

 あんなにデカイ得物にも関わらずにまるで木の棒を振り回すかのような攻撃速度だった。

 

「おいテメェ!!そっち武器アリで俺には無しとのそんなの卑怯じゃねぇのか!?」

 

 必死に避けながら大声で叫ぶ。

 白黒逆転した俺は笑いながら言い返した。

 

「有る物使って何が悪いんだよ?卑怯?勝てば卑怯でもそれが正義なんだよ!!第一によ、お前も持ってるんだろうがよ!!」

 

 持ってる?俺が?

 そんなもん俺は持ってないぞ!

 バカはあっちじゃねぇのかよ!!

 

「大体お前はよ奪う側になったんだろ?だったら俺から自分の身体を奪ってみろよ!!俺からよ!!」

 

「くそ、知ったこと言いやがって・・・!」

 

 暴風の嵐かのような剣戟。

 躱すたびに身体を突き抜ける風。

 俺は必死に躱してるのにあいつは笑いながら俺を攻め続ける。

 

 一体俺はこの一連のやりとりを何回繰り返しただろうか?

 

「分かるか?3分だ。この数字の意味が分かるか?」

 

 白黒逆転した俺は突然話を切り出してきた。

 

「あと3分でよお前は完全に虚になる!この戦いはよ初めっからテメェに有利なことなんて一つもなかったんだよ!」

 

 白黒逆転した俺は勝利を確信したかのように叫ぶ。

 それを俺は睨みつけることしかできなかった。

 くそ!ふざけるな!

 焦るな!

 考えろ!

 まだ時間はある!

 時間はあるのか?

 どうしたらいい?

 どうすればいい?

 俺に何が出来る?

 何か出来るのか俺は?

 

 

 

 

 

 

 

「だからテメェはバァカなんだよ。チマチマ考えてんじゃねえよ。やることは一つだ。闘え。そして奪え。それだけだ。そんなこと考えてる暇があるなら攻撃しろ。今のテメェも虚なんだからよ。あいつを殺すことぐらい出来るんだぜ?」

 

 眼帯の男は俺に詰まらんとでも言いたげな口調で言う。

 

「虚とか殺せるとかなんだよ!!俺に力なんてないじゃないか!!」

 

「いちいちうるせぇんだよテメェはよ!!何が奪う側になるだ!そうやって奪われ続けるのかよテメェはよ!?」

 

 そうだよ。

 なんでまともに闘ってもないのに諦めてるんだよ俺は?

 なんで奪われることが前提になって考えてるんだよ俺は!!

 俺は奪う側の人間なのによ!!

 

「・・・そうだ。奪うんだ俺は。俺はあいつから奪うんだよ!!」

 

「そうだよ。それでいいんだよ」

 

 俺は白黒逆転した俺に向かって走る。

 策なんて何もない。

 ただ奪う。

 ただその二文字が俺を突き動かす。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 いつの間にか俺の手には8の字のデカイ得物が握られていた。

 不思議と手に馴染む。

 まるでずっと持ち続けていたかのようだ。

 

「ッ!!」

 

 白黒逆転した俺は驚いた表情で俺を見る。

 そして8の字の得物が互いに交差した。

 白黒逆転した俺は口を三日月のように嗤いながら叫ぶ。

「そうだな!そうじゃなきゃな!!」

 

 白黒逆転した俺は叫びながら俺に攻撃を繰り出す。

 俺はそれを必死に避ける。

 必死に躱し続けていくうちにまるで世界がゆっくりと動いているように感じた。

 右から左に繰り出される攻撃。

 それを俺は右から左へと得物を思いっきり打ち出す。

 そして反撃をされて焦ったのか上から大振りに得物を振り下ろす。それを俺は身を左に捻って無理やり回避する。

 得物が躱しきれなかったのか思いっきり身体を引き裂かれる。

 

 ________痛い。

 すぐにでも背を向けて逃げ出したい。

 ・・・でもここで逃げたら何も変わらない!!

 

 白黒逆転した俺は攻撃が当たったのを見てニヤリと笑う。

 そして、当たったと確信した瞬間に生まれた確かな隙。

 前の俺なら気づくことなどなかっただろうわずかな隙。

 それでも確実に攻撃を当てれるだろう確かな隙。

 

 腕が痛い。得物を持ち上げるのが辛い。

 それでも俺は_________

 

「俺は絶対に勝つんだぁぁぁ!!!!」

 

 ________俺は得物をおもっいきり上から下に振り下ろした。

 

 

 

 #

 

 

 

「あと少しだったのによ」

 

 どことなく悔しそうな声で呟く。

 そして白黒逆転した俺は足から徐々に白いチリになって消えていく。

 

「今回はお前の勝ちだ。せいぜい目の前の平和に現を抜かしていればいいさ」

 

 空気に溶けるようにどんどん消えていく。

 そして白黒逆転した俺は消滅した。

 

「これでテメェは現実に帰ることができる。もうそろそろテメェはここからいなくなるだろうよ」

 

「・・・そうか」

 

「ここから出るまえに俺の名前を教えておいてやる。俺は第五刃(クイント・エスパーダ)・『ノイトラ・ジルガ』だ」

 

 正直、第5十刃ってなんなのか全く意味わからんけど知ったかぶりしとこ。

 ヤベ、時間がもうそろそろ無さそうな気がしてきた。

 

「・・・そうか。俺の名前は_________黒峰薫だ」

 

 視界が白く染まって行く。

 最後に俺の名前は届いただろうか?

 最後にノイトラが「じゃァな」と言ったような気がした。

 そして俺は現実に帰った。

 

 

 

 #

 黒歌サイド

 

 突然暴れた少年を結界で押さえつけていた時だった。

 

「もうそろそろ限界だニャン」

 

 暴れ始めてまだ10分もしない内に限界が近づいてきたのだった。

 人間とは思えないほどの力。

 圧倒的なまでの暴力の嵐。

 

「もう殺るしかないニャン」

 

 ここまで耐えていたのは少年が目を覚ますという可能性がもしかしたらあるかもしれないと心の何処かで思っていたからだった。

 しかし、もう抑えることが出来なくなり、自分の体力が尽きたら殺されてしまうだろう。

 だからその前に殺す。

 体力があるうちに殺す。

 

「あがあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突如、目の前の少年に変化が現れた。

 少年は己の白い仮面に手を掛け剥ごうとしだしたのである。

 

「あがぁぁぁぁ!!!!」

 

 さらに少年は叫ぶ。

 すると仮面にヒピが入り始めた。

 黒歌は呆然と目の前の光景を眺めることしかできなかった。

 

「あがあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 _________そして少年は仮面を剥ぎとった。

 

 そして剥ぎとった瞬間、突風が黒歌に襲いかかった。

 思わず目をつぶる。

 

 そして目を開けた時、黒歌は少年の姿を見て漠然とする。

 

 左目の部分には黒く大きな空洞があり。その左目があったであろう場所の周りに仮面の名残りなのだろうか白い歯が左目があったであろう穴を囲むようについていた。

 そして少年の手には8の字のデカイ得物。

 だからといって神器というわけでもない。

 

 そして少年は正面に倒れた。

 

 

 部屋に倒れた少年。

 それを見て上の空の黒歌。

 

 ________まだ少年の物語は始まったばかりである。

 




主人公はどんどん戦闘狂にする予定。


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左目の空洞

 朝起きたと思ったら目の前に美人がいた。

 

 いや、正確には寝てた。

 別に意味深とかいうわけじゃないぞ!

 

 俺が自分の部屋のベッドで寝てたのは分かる。だが、こんな美人さんと一緒に寝てた記憶なんて一切ない。

 目が覚めてなんとなく寝返ったら横には女の子が眠ってるとかそれなんてエロゲ?

 

 何を言ってるか意味わかねぇと思うが俺の方が何言ってんのかねぇんだ。

 黒い髪に黒くクッキリとした瞳。

 猫のような人間にはあるまじき耳。

 そして着崩した着物を着ることによって、扇情的な雰囲気を作っている。

 素直に言おう。

 

 

 

 

 エロい!

 

 ケモミミっ子って現実にいたんだね。

 そしてこの着崩した着物のおかげで、頑張ればこのケモミミっ子のその豊満な胸を見ることが出来るか出来ないか微妙なところがさらに引き立てている。

 

 気づいたら上からこのケモミミっ子の胸を覗きこもうと必死になってた。それでも俺は悪くないと思う。

 だって俺、童貞だし?

 

 あと少しなんだ!

 あと少しで見れるんだ!!

 

 

 

「何してるニャン」

 

 ギクッと俺の身体が反応する。

 恐る恐るケモミミっ子の顔を見るとジト目で俺を静かに見ていた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 俺とケモミミっ子の視線が交差する。

 

 そして流れる沈黙の間。

 沈黙に耐え切れず、俺はケモミミっ子の顔を観察する。

 

 改めて見ると猫を思わせる大きな瞳。しっとりと濡れたような綺麗な黒い髪。

 

 

 いやさ・・・誰?

 

「お前誰だよ?」

 

「胸を必死になって見ようとした変態に普通教えると思うかニャン。まずは言うことがあると思うニャン」

 

 こっちをじっとジト目で見てくる。

 とりあえずベッドの上に正座をする。

 背骨がまっすぐに伸ばす。まっすぐ伸ばす時、一本の木をイメージする。

 

「ごめんなさい」

 

 俺は言うと同時に額をベッドにつける。

 その正座はまごうこと無く、人生で一番ちゃんとした土下座だった。

 

「いくら童貞だからって自分の知らない女の人の胸を覗き込もうとするなんて論外ニャ。全く、これだから童貞は」

 

 頭をベッドにつけてるからケモミミっ子の表情は分からない。それでも声色でそんなに怒っていないことが分かる。

 

 と言うか童貞、童貞言い過ぎじゃない?確かに童貞だけどさ、結構精神的に来るものがあるんだよ?

 いつまで土下座してればいいんだよ・・・

 

「もう顔上げていいニャン」

 

 俺はベッドから顔を上げた。

 そしてケモミミっ子の顔を見ると「してやったり」とでも言いたげな満面の笑みを浮かべていた。

 

「何ニャその表情は?何か言いたいことでもあるかニャン?」

 

 笑みを深くして俺を煽ってくる。

 

「それであんたは誰なんだ?」

 

「うわ、露骨に話をすり替えたニャン。あまりの露骨さに衝撃が隠せないニャン」

 

 ・・・まだ煽ってくるのか。

 もうやめてくれ・・・

 

「あんたは誰なんだ?」

 

 俺の反応を見てこれ以上いじっても無駄だと判断したのかやれやれと肩を竦めた。

 

「仕方ないニャ〜。私は黒歌っていうニャン」

 

「で、その黒歌さんはなんで俺の家にいるんだ?」

 

 そう、本当になんで俺の家にいるのか?俺はこんな可愛い子と知り合いになった経緯もさっぱり何にもない。

 

「酷いニャ〜。一緒に暮らしたり寝たりした仲なのに、忘れるなんて最低ニャン」

 

 は?一緒に寝たってのは今の状況的に分かるが暮らしたとなれば話は変わる。

 一緒に暮らした仲と言えばクロくらいしかいないだろう。

 しかし、クロは猫。

 

 そういえば俺、クロがメスかオスか知らなかったな・・・

 

 そういえば、こいつの頭に猫の耳みたいのが付いてるな・・・

 

 いや、まさかな・・・

 

「黒歌さんはもしかしてクロなのか?」

 

「何言ってるニャ?クロじゃなくて黒歌ニャ」

 

 確かにクロじゃなくて黒歌だけど。あーややこしい。

 

「あなたは俺がクロと名付けた猫ですか?」

 

「そうニャ」

 

 どことなく嬉しそうに胸を張りながら言う。

 胸を張ることによって、豊満な胸がさらに強調される。

 それを見て思わず鼻の下を伸ばしそうになってしまう。

 

「これだから童貞は」

 

 またやれやれと肩を竦めた。

 

 いやさ、童貞だけどさ。ひどくない?

 

「にしても疑わないのかニャ。普通は疑うニャ」

 

 まぁ、虚になる前だったら疑っただろうけどさ。精神世界で殺し合いしたり、色々あったから擬人化程度ではもうどうにも思わないな。

 

 

「色々あったんだよ。そんで黒歌さんはウチで何してたの?」

 

「色々って何ニャ・・・。あと黒歌でいいニャン」

 

 黒歌は顎に右手をつき、うーんと唸る。

 おそらく、何から話したらいいのか考えているようだ。

 

「質問の前に自分は名乗らないのかニャン?」

 

「あぁ、俺は知ってると思うが黒峰薫だ。黒峰とでも薫でも好きなように呼んでくれ」

 

「じゃカオル。突然だけど_________カオルは一体何者ニャン?」

 

「は?」

 

 唐突な質問。

 さっきまでのおちゃらけた雰囲気を一変して聞いてきた。

 あまりの唐突さに思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 それにさっきまで俺が質問してたのに今は俺が質問されている状況になった。

 

「俺は・・・」

 

 _________虚だと言いかけてやめた。

 考えてみれば俺は虚と呼ばれている悪霊になったはずだ。なら黒歌はなぜ俺を見ることが出来るのか。

 

「その前に黒歌、俺は生きているのか?」

 

「生きてるから今話してるニャン」

 

「いやそうじゃなくて、俺の心臓は動いてるのか?」

 

「ベッドの中では動いてたニャン」

 

 おかしい。俺が虚なら俺は生きてないはず・・・

 _________まぁいいか。

 

「俺は多分人間だよ」

 

「それはないニャン。普通の人間は生き返らないニャン。その左目の穴が空いてる時点で確実に人間じゃないニャン」

 

 そんなこと言われても知らねぇよ。

 

「そんなこと言われても知らねぇよ」

 

 ・・・心の声が出てしまった。

 と言うか普通じゃない人間は生き返らるのかよ。

 

「・・・もういいニャン」

 

 黒歌は呆れたと言わんばかりにため息をつく。

 ・・・さりげなく「これだから童貞は」って言うのやめろよ。

 

「それより黒歌は何者なんだよ。さっきまでの質問といい、人間じゃないんだろ?」

 

 そう、俺を殺したやつは背中から黒い羽を生やしていた。あれは確実に人間じゃない。もしかしたら普通じゃない人間はあいつのことだったかもしれないが・・・

 

「そうニャ、私は人間じゃない。私は猫又兼悪魔ニャン。ちなみに猫又っていうのは妖怪のことニャン」

 

 何その和洋折衷。

 妖怪は日本なのは分かるけど悪魔って西洋だよね?

 というか悪魔とか妖怪とかって本当にいたんだ。

 

「その妖怪兼悪魔の黒歌はなんでウチにいるの?」

 

「カオルを看病してあげてたニャン。いきなり死んだと思ったら襲い掛かってきてビックリしたニャン」

 

「よく分からんが済まん」

 

 とりあえず言葉だけ謝っておく。

 だって記憶にないし・・・

 

「あーとりあえず風呂に入っていいか?俺何日寝たきりだったか知らんけど長い間寝てたんだろ?」

 

「分かったニャ。あと1週間は寝たきりだったニャン」

 

「・・・そっか。看病してくれてありがと」

 

 俺はそう言って立ち上がった。

 久し振りに見た自分の部屋は壁紙が白く、ベッドのすぐそばには勉強机がある。勉強机の上は相変わらず何も置いてない。

 

 _________何にも変わってない。

 

 当たり前か。寝てただけで何にもしてないんだから。

 

 ベッドから一歩踏み出すと、ずっと立っていなかったからか脚の筋肉な悲鳴を上げる。

 

 それでも痛みを我慢しながら進み、浴室に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭をジャンプでゴシゴシと洗う。

 洗うたびに数日洗っていなかったからか溜まっていた垢がボロボロと出てくる。

 身体も垢がたくさんついていた。

 

 そして、ふと鏡に目をやった。

 

 

「___!?」

 

 鏡には目を大きく見開き驚愕している自分の顔が写っていた。

 

 俺の顔はずっと寝たきりだったから少しやつれていた。

 だがそれよりも驚いたのが俺の左目があったであろう場所だった。

 そこには黒く大きな穴が空いていた。いや、貫通していた。

 そしてその穴を囲むように歯が並んでいる。

 

 

 これは虚になった証?

 でもそれは俺の胸にあったはず・・・

 

 

「やめだやめ。考えても分からん!」

 

 そして俺はシャワーを済ませて浴室から出た。

 

 

 #

 

 黒歌サイド

 

 私はさっきまで話していた少年、カオルのことを考えていた。

 

「あの態度は本当に何にも分かってない反応ニャ」

 

 自分の左目にあんな大きな穴が空いていたら普通すぐに気づくだろう。痛みがないとしても、左目が使えなくなって気づかないのは異常である。

 しかも気づくどころか、まるでそれが当たり前だとでも言っているような態度であった。

 

「分からないニャ」

 

 私はベッドの下に置いてある8の字の得物を取り出す。

 なぜベットの下に隠しておいたかというと、またあの時のように暴れる可能性があったからである。

 一応結界を張っといていつ襲われてもいいようにしていたが、どうやら杞憂に終わったようだった。

 

 ・・・そしてカオルはこの得物についても気づいていないようだった。

 

「分からないニャ」

 

 これは一体何なんなのだろうか?

 神器でもない。

 ただの得物?

 こんな形の得物がどこにあるだろうか。

 

 私が8の字の得物を眺めていた時、カオルが部屋に戻ってきた。

 

 

 #

 

 

 俺が部屋に戻ってきたら、黒歌が8の字の得物を持っていた。

 それは俺が精神世界で使っていたものであった。

 というかどこにあったんだ?

 

「それどこにあった?」

 

「ベットの下ニャン」

 

 なんでベットの下にあるんだよ・・・

 

「カオルはこれが何かわかるのかニャン?」

 

「あぁ、それは斬魄刀って言うんだ」

 

「ザンパクトウ?何ニャそれ。聞いたこともないニャン」

 

「斬魄刀ってのは_________何だ?」

 

 考えてみればなんでこれが斬魄刀だと俺は知っていたのだろうか? 俺はそんな言葉すら聞いたことなかったのに・・・

 

「私に聞かれても分からないニャン」

 

「済まん。やっぱり俺も分からん」

 

「じゃーなんで名前は分かるニャン?」

 

「俺も知りたいんだが・・・」

 

 黒歌はため息をついた。

 それに合わせて俺もため息をする。

 

「なんか済まん」

 

「別にいいニャン。元々期待なんてしてないニャン」

 

「そ、そうか・・・」

 

 そう言って黒歌は斬魄刀を壁に立てかけた。

 そして沈黙が流れる。

 

 ・・・気まずい。

 

 

 俺はこの沈黙を破るために机に向かった。

 そして引き出しを開けて中を探す。

 

「ん?何してるニャン?」

 

「ちょっと探し物だ」

 

 俺はガサガサと音を立てながら探す。

 そして黒い布のようなものを手に取った。

 

「お、あったあった」

 

 俺はそれを自分の左目が有っただろう場所に付けた。

 そう、これはただの黒い眼帯だ。

 

「どうだ似合ってるか?」

 

「その前になんでそんなもの持ってたニャン」

 

「いや、これにはちょっと黒い歴史があってだな・・・」

 

 男には中学二年生になったら現実と夢が混じり合って恥ずかしいことが堂々と出来る期間があるんだよ!

 

「・・・もういいニャン。似合ってるかどうか自分で鏡で見てみたらいいニャン」

 

「分かった」

 

 俺は浴室に行き風呂にある鏡を見る。

 黒い眼帯は見事に穴を隠していた。

 そして_________

 

「_________似てるなぁ」

 

 ノイトラに。

 

 もしかしてノイトラも左目に穴が有るのかもしれない。

 ・・・いや別に嫌ではないけど考えるものがあるな。

 

 #

 

 

 あれから時間がたって今はもう正午の12時だ。

 

 今俺はリビングで黒歌と向かい合って椅子に腰掛けてご飯を食べている。

 ちなみにご飯は黒歌が全部作ってくれた。

 ・・・うん、うまい。

 

「あ」

 

「どうかしたニャン?」

 

「いや、学校に行かなくていいのかなって思ってさ」

 

「もう行かなくていいニャン。今から行くにしても遅いし、何日も行ってないから今更変わらないニャン。それに_________カオルは死んだことになってるニャン」

 

「は?」

 

 なんで俺が死んだことになってるんだ?

 

 確かに数日間学校に行かなかった。だからって死んだってことにはならないはず...

 

「言い方が悪かったニャン。この地域は悪魔が管理してるニャン。そんなところで堕天使が暴れたら一発ニャン。さらにそこに居合わせた人間がいなくなったら死亡判定されても仕方ないニャン」

 

 

 マジで悪魔有能過ぎない?

 というか俺を殺したのは堕天使なのか。

 確かに可愛かったけどさ。

 だからって堕天使って言われてもな。

 

「なら俺はどうすればいいんだ?」

 

「知らないニャン」

 

 えー。

 

「別に悪魔の中で死亡判定されただけニャン。だから学校には行けるニャン。その代わり学校に行ったら堕天使とか悪魔の記憶が消されるニャン」

 

 

 何それ怖い。

 というかどうやって記憶消すんだよ。

 

「だから好きなようにやればいいニャン。学校に行って普段の生活を取り戻すのもいいし、このまま死亡判定されたまま生きてもいいニャン。それでも私は学校に行かない方がいいと思うけど」

 

「なんでなんだ?」

 

「記憶消されたらその左目のこともきっと忘れるニャン。それで普通の生活を過ごせると思うかニャン?」

 

 

 ・・・なるほど。

 

 

「まあ、今日はゆっくり休むニャン。まだ筋肉が衰えてるから明日考えればいいニャン」

 

「ん、ありがとう」

 

 そうだな。明日考えよう。

 

「そういえばなんで黒歌はこんなに俺に親切にしてくれるんだ?」

 

「うーん、そうだなぁ。あえて言うなら気に入ったからニャ」

 

 気に入ったから助けてくれるのか。

 てことは気に入らなかったら俺はどうなってるんだろ?

 

「黒歌には感謝だな」

 

「別にいいニャ。ただ私がしたかったようにしたいだけニャ」

 

「そうか。ありがと」

 

 俺はそう言ってから椅子から立ち上がった。

 

「飯うまかったぜ。ごちそうさま」

 

 そう言ってリビングを出た。

 

 

 

 #

 

 

 誰もいない自分の部屋はひどく寂しく感じた。

 自分一人だけ。

 いつもこうだったのに、黒歌と話したからか急にこの部屋が広く感じる。

 

「・・・寂しいな」

 

 ベットに横になる。

 なぜか久し振りに寝るような気がする。

 

 ベットの中は暖かく、どこまでも沈んでしまいそうに思えるほど柔らかい。

 

 ・・・まるで死んだ時のようだ。

 

 思考はどんどん闇の中に沈んでく。

 

 

 そしていつの間にか俺は寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は夜に目が覚めた。

 なぜ目が覚めたか?

 それは直感にも等しいものを感じたから。

 何を感じたのか?

 

 

 _________戦闘の匂い。

 しかもあの時俺を殺したやつの力の波動を感じる。

 

 なぜそいつだと分かるのか分からないがなんとなく分かる。

 それなのに絶対だとそいつだと断言できる感覚。

 

 左目がチクチクと痛む。

 まるであの時の痛みが蘇ってくるようだ。

 

 

 

 俺はベットから身を出した。

 すぐにタンスから服を出し、それを着る。

 白いシャツに黒いズボン。さらに上から黒いコートを羽織る。

 そして壁に立てかけてある斬魄刀を握る。

 斬魄刀の持ち手の冷たい鉄の手触りが掌に伝わる。

 そしてつかの部分にある鎖を自分の腰に結びつけた。

 それを背中に担ぐ。

 

 そして気付く。

 自分の姿がノイトラと全く同じになっていることに。

 

「ハハ」

 

 乾いた笑いが部屋に響く。

 

「待ってたぜ。この時を」

 

 奪ってやる。

 俺が全部奪ってやる。

 

 

 俺を殺したのを後悔させてやる!

 

「ククク」

 

 俺は家から飛び出し、戦闘の匂いに誘われるがままに走り抜けた。

 

 




やっぱりエスパーダで一番好きなのはノイトラなんだよな〜


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邂逅

原作と関わるのは難しいよ


 イッセーサイド

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈」

 俺の両太ももを光の槍が貫通する。

 思わず俺は絶叫をあげる。

 

 レイナーレの光の槍は悪魔にとっては非常に効果が高い。

 それ故に触れるだけでも悪魔には致命的な一撃になりかねない。

 それでも俺は光の槍に手を当てて太ももから引き抜こうする。

 痛みを我慢して、無理やり引っこ抜く。

 

 そして俺が槍を抜こうとする様を見て、レイナーレが俺を嘲笑する。

 

「アハハハハ!その槍に悪魔が触れるなんて!あなたのような下級悪魔では____」

 

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

 俺は槍をゆっくりと引き抜く。

 引き抜くたびに激しい痛みが襲ってくる。

 もう痛みで意識がなくなりそうだ。

 

「こんなもの!黒峰の苦しみに比べれば!アーシアが苦しんだことに比べれば!!」

 

『Boost‼』

 左手の籠手が音声を発する。

 

「・・・大したものね。光の槍を抜くなんて、でも下級悪魔のあなたはここが限界。普通なら死んでもおかしくないのに、本当に頑丈ね。本当にあの人間みたいね」

 

 レイナーレの言ったことに俺は反応した。

 

「・・・あの時の人間?その人間てのは黒峰のことか?」

 

 レイナーレはフッと笑うと口を開いた。

 

「そう、あいつは黒峰って言うんだ。あの人間はね私がすぐに楽にしてあげようとしてあげたのに下手に躱すせいで中途半端に致命傷負って本当にバカみたいだったわ!」

 

 そう言うとレイナーレは天を仰ぎながら大笑いする。

 

 そして俺はその時初めて黒峰の最期を知った。

 まだ死体が見つかって無かったから、もしかしたらまだ生きてるかもしれないと心のどこかでそう思っていた。

 別に黒峰と特別親しかった訳ではない。

 友情があったわけでもない。

 それでもなんだろうか?

 この胸に灯る感情は。

 

「こういうとき、神に頼むのかな」

 

「?」

 

 疑問符を浮かべるレイナーレ。

 それもそうだろう。いきなり話が変わったのだから。

 

「神様はだめだアーシアを助けてくれなかった」

 

「何を言い出しているのかしらね。ついに壊れた?」

 

「じゃあ、魔王様だ。いまから目の前のクソ堕天使を殴るんで邪魔が入らないようにして下さい。_____一発だけでいいんで。・・・殴らせて下さい」

 

 もう本当は身体は動かないのかもしれない。それでも俺は無理やりにでも動かす。

 そして思い出す。

 黒峰のことを。そしてアーシアのことを。

 あの時俺が殺された場面に遭遇してしまった黒峰。

 悪魔でも微笑みながら自分の神器で治療したアーシアを。

 

「ッ!嘘よ!立ち上がれるハズがない!下級悪魔ごときがあのダメージで!」

 

「なあ、俺の神器さん。目の前のこいつを殴り飛ばすだけの力があるんだろ?トドメとしゃれこもうぜ」

 

『Explosion‼』

 左腕の籠手から声が響いた。

 

 

「あ、ありえない。嘘よ!そんなことが。下賤な下級悪魔ごときに私が!」

 

 レイナーレが光の槍を創り出し勢いよく俺に投げ出してきた。

 今までの俺なら当たっただけで痛みで苦しみ、攻撃なんてろくに出来なくなるだろう。

 それだけ力の差が俺とレイナーレの間にはあった。

 それでもなぜか俺はレイナーレの光の槍が怖くなかった。

 そして俺はその槍を横薙ぎに拳で薙ぎ払った。

 すると光の槍は跡形も無く砕け散った。

 

「い、いや」

 

 レイナーレはさっきまでの威勢をなくすと俺に後ろをむける。

 

 ・・・逃げるつもりだ

 

 レイナーレが飛び立とうとした瞬間に反射的に俺は駆け出した。そしてレイナーレの手を引く。

 

「逃がすか、バカ」

 

「私は、私は至高の!」

 

 俺はおもいっきり腕を握りしめる。

 

「吹っ飛べ!クソ天使‼」

 

「おのれぇぇぇ!下級悪魔がぁぁぁぁぁぁ!」

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ」

 

 拳をおもいっきり振りかぶった。

 

 鈍い音がレイナーレから響く。

 そして俺の一撃で後ろに吹き飛んだ。

 

 壁が破壊される音が響く。

 直後、教会の壁が壊れた音がした。

 

「・・・ハハハ」

 

 思わず乾いた笑みが零れる。

 

「……アーシア」

 

 目の前の動かなくなった彼女を見る。

 金色の髪の少女。

 その体はとても冷たい。

 

 そして俺はその場に倒れこんだ。

 今まで無理した疲れが今になってようやく来たようだ。

 俺の肩を抱いてるのは見れば木場だった。

 

「お疲れ。堕天使を倒しちゃうなんてね」

 

「よくやったわ、イッセー」

 

 部長が紅い髪を揺らしながらこちらへやって来た。

 

「ハハハ、なんとか勝ちました部長」

 

「……部長。もって来ました」

 

 小猫ちゃんがレイナーレを引きずってきた。

 レイナーレはかろうじて意識があったのかすぐに俺たちを見上げる。

 

「ご機嫌よう。レイナーレ」

 

「…グレモリー一族の娘か…」

 

「はじめまして私はリアス・グレモリーよ短い間だけど、お見知り置きを」

 

 部長は和かにあいさつするが、レイナーレは部長を睨んだままだ。

 

「してやったりと思ってるんでしょうが私が危なくなった時に協力者たちが私をーー」

 

「残念ね、貴方のお友達さん達なら来ないわ」

 

「う、嘘よ!」

 

「この羽根が分かるかしら?」

 

 部長の手から3枚の黒い羽根がヒラヒラと舞い落ちる。

 いつの間に倒していたんだろうか?

 あの時の用事ってこのことだったのか・・・

 部長が俺の左手の籠手に視線を向ける。

 

「…赤い龍。レイナーレ。この子の神器はただの神器ではないわ」

 

 部長の言葉にレイナーレが怪訝そうな顔になる。

 それもそうだろう。

 だって俺も意味わからないし。

 

「彼の神器はただの神器ではないわ。神滅具の一つ『赤龍帝の籠手』。あなたでも名前くらいは分かるでしょう」

 

「…神滅具の一つがこんな子供に」

 

「そう、数多くある神器の中でも神仏にさえも対抗できると言われる13個のうちの一つよ」

 

 なにそれ!?

 めっちゃすごいんじゃないのかそれ!

 

「さて、そろそろ死んでもらうわ」

 

「ッ!イッセーくん私を助けて⁈」

 

 突然レイナーレは姿を戻して俺に言った。

 

「私、あなたのこと愛してーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツン、カツン、カツン。

 

 教会の入り口の方から足音が響く。

 カツン、カツン、カツン。

 

 その足音は確実にこちらに向かってきているものだった。

 

「_____こいつはひでぇな」

 

 その男はここに入ったと同時に口を開いた。

 それはそうだ。

 今さっきまでここで戦闘があったのだ。

 無事なはずがない。

 

 その男は辺りを眺めながらこちらに近づいてくる。

 

 そして俺の視界に入るところまで近づいた。

 

「________な!?」

 

 その男は黒峰だった。

 しかし姿は最後に見た時よりも変わり果てていた。

 黒峰の身体はガリガリとまではいかないが痩せ、左目には黒い眼帯をしている。そしてなぜか目が鋭くなったような気がする。

 

「・・・黒峰なのか?」

 

 思わず尋ねる。

 そして黒峰はようやく俺たちを視界に収めた。

 

 そしてすぐに俺たちに捕まっているレイナーレに視線を向ける。

 するとゾッとするような壮絶な笑みを浮かべた。

 

 そのまま自然な歩みでこちらに近づいてくる黒峰。

 まるで俺たちの存在がないかのように自然にゆっくりと着実に近づいてくる。

 

 カツン、カツン、カツン。

 

「・・・」

 

 レイナーレも得体の知れない雰囲気に包まれた黒峰を見てごくんと唾を飲み込む。

 

 そしてレイナーレの目の前で立ち止まった。

 この時オカルト部のみんなは何もせずに見守っていた。

 いや、何も出来なかった。

 この異様な雰囲気のせいでまるで俺たちの時が止まってしまったかのように体が動かなかった。

 

「_____黒峰君」

 

 レイナーレが何を思ったのかそう呟いた。

 彼女の目には、希望の光が宿っていた。

 もしかしたら黒峰が彼女を助けてくれるかもしれないと。

 

「あれをやったのは私のせいじゃないの!私は騙されて・・・」

 

「うるせぇよ」

 

 黒峰は短くそう言った。

 彼女を見下ろして続ける。

 

「騙されたからなんだ?俺を殺したことに違いはねぇんだろ?

 __________ならダメだ」

 

 黒峰がそう言った。

 拒絶。絶対に赦す気は無いとそう言い切ったのだ。

 

 それでもレイナーレはまだ諦めない。

 

 

「待って!私は至高の・・・」

 

「口を開くな、屑」

 

 黒峰はレイナーレの頭をおもいっきり踏みつけた。

 レイナーレは「ガッ」と呻き声を上げた。

 黒峰は後ろに背負っていた8の字のデカイ獲物を手に取る。

 そして、黒峰はレイナーレの頭を蹴飛ばした。

 ゴン、と鈍い音が響く。

 蹴飛ばされたレイナーレは少し後ろで地に這いつくばった。

 

「死ね」

 

 黒峰は一切の躊躇もなくレイナーレの背中に獲物を振り下ろした。

 

 ゴン、とさっきよりも鈍い音が響く。

 

「ガッ」

 

 レイナーレの口から血が溢れる。

 それでもまだハァ、ハァと荒い呼吸音が聴こえる。どうやらまだ死んでいないようだった。

 

 そして黒峰はまた獲物を振り下ろす。

 

 嗤いながら。

 

 そう、何度も何度も何度も。

 

 振り下ろすたびにレイナーレの身体はビクンと跳ねる。

 初めは苦悶の声を走らせていたが途中から聞こえなくなっていた。

 レイナーレを見るともう完全に意識を失っていた。

 それでも黒峰は止まらない。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も振り下ろす。

 

 その光景はあまりに残虐で非現実的だった。

 

「・・・なんだよこれ」

 

 思わず俺の口からそう言葉が出てくる。

 そして何かの縛りから抜け出したように体が動くようになった。

 

 そして周りを見渡す。

 みんな放心状態で黒峰のやっていることを見ている。

 部長も例に違わず口を開いたまま呆然としていた。

 

「部長!!」

 

「ハッ!」

 

 部長も思い出したように意識をこちらに戻す。

 その間ずっと黒峰はレイナーレに振り下ろしていた。その度にレイナーレの体は跳ねる。

 しかし、なぜか振り下ろすのをやめた。

 何を思ったのかレイナーレの頬を何度も叩きだした。

 

「・・・ハッ!」

 

 レイナーレは目を覚ますと同時に自分の身体の痛さで悶え出す。

 そして目の前にいる黒峰を認識した瞬間その顔は絶望に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうやめて欲しいか?」

 

「え?」

 

 黒峰は唐突に質問をする。

 そしてレイナーレは素っ頓狂な声を上げる。

 レイナーレの顔にはなんで?と書いてあるようだった。

 

 

「お前ももう苦しかったろ?」

 

 黒峰の言葉にレイナーレの目は希望に変わる。

 どうやら私を許してくれたのだ、とレイナーレは思っているに違いない。

 しかし俺の背中には冷たい汗が流れるのを感じた。

 

 黒峰は獲物を再度強く握り直す。

 そしてそれを上に掲げるように持ち上げた。

 

「楽にしてやるよ。

 ___________テメェの死でな!」

 

 レイナーレの顔が再び絶望に染まった。

 その時を見計らったかのように獲物をおもいっきり振り下ろす。

 

「ッ!やめなさい!!」

 

 部長が振り下ろす直前に叫ぶ。

 それでも黒峰は止まらなかった。

 

 ドゴッ、と今までで一番鈍い音が響く。

 レイナーレは振り下ろした瞬間に大きく身体を仰け反らすとその後動かなくなった。

 

 俺はレイナーレの顔を見た。

 レイナーレの顔は絶望に染まり、目からは涙のように血をダラダラと流し、口からも血が洪水のように溢れている。

 身体から血が床を侵食するかのようにゆっくりと広がっていく。

 

 まるで夢のようだった。

 でも分かるこれは夢じゃない。

 この血の匂いも感触も全て本物なんだ・・・

 

 黒峰は獲物を担ぎ直すとあたかも何もなかったかのように背を向けて歩き出した。

 

「・・・」

 

 俺は黒峰の背に手を伸ばしていた。そして黒峰は振り返った。

 でも俺は何かを言おうとして何を言ったらいいのか分からなくて口をパクパクしていた。

 黒峰は鬱陶しそうに俺を見る。

 

「なんだよてめえ、生きてたのか」

 

 まるでさっきまで俺たちに本当に気がついてなかったかのような一言。

 お前らになんか眼中に無いと言われているような気がした。

 

「何の用だよ。なんもねぇなら帰るぞ」

 

 ダメだ。このままじゃ黒峰が帰ってしまう!

 

 

「・・・なんでだよ」

 

「あ?」

 

「なんでこんなことするんだよ!!」

 

「は?」

 

 黒峰は何言ってんだとでも言いたげな目で俺を見た。

 

「てめえもどうせ殺そうしてたんだろ。何言ってんだよ」

 

「ッ!」

 

 そう、俺たちはレイナーレを遅かれ早かれ殺す定めだったのかもしれない。

 それでもこれは酷すぎる。

 

「・・・それでもここまでする必要あったのかよ」

 

「そんな過程なんてどうでもいいんだよ。俺が言ってんのは結果だ。結果が同じならやってることは同じなんだよ。お前らがあいつを殺そうと俺が殺そうと『殺した』ことに違いはねぇ。分かったか?」

 

 そう言って背を向ける。

 俺は黒峰を引き止めることができなかった。

 いや、動くことさえできなかった。

 

「待ちなさい!!」

 

 そんな俺に変わって部長が引き止めた。

 黒峰はまた面倒臭そうに振り向いた。

 

「貴方は黒峰薫ね?確かに貴方は死んだはずよ。どうして生きているのかしら?そしてなんで今でも姿を現さなかったのかしら?」

 

「知らねえよ。俺はただ眠ってたんだよ」

 

「貴方、私を馬鹿にしてるの?」

 

 部長は威圧を放ちながら黒峰に問う。

 しかし黒峰はそれでも自然に答える。

 

「本当に知らねぇんだよ。数日寝てたんだから」

 

「・・・そう」

 

 黒峰はどうやら嘘を言っていないようだった。

 

「貴方本当に何者?人間?そしてその獲物は何?」

 

「俺は・・・人間だよ。あとこれはただの武器だ」

 

 黒峰は人間と言う前に躊躇いのようなものを見せた。

 部長もそれに気付いたようだがあえて追及しなかった。

 

「明日学校に来なさい。そこで話しましょう」

 

「は?」

 

「だから明日学校に来なさい」

 

「・・・俺は死亡判定されてるんじゃねぇのかよ」

 

「あら、私の前にいるのは亡霊なのかしら?」

 

「・・・分かったよ」

 

 そう言うと黒峰は去って行ってしまった。

 

 取り残されたのはレイナーレの死体とオカルト研究部と冷たくなってしまったアーシアだけだった。

 

 

 

 

 

 



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戦闘校舎のフェニックス
フェニックス


 薫サイド

 

 俺は今学校に登校している。

 外に出たのはいつぶりだろうか?

 全くわからない。

 それも仕方ないだろう。なぜなら俺は数日間寝ていたのだから。

 

 正直もう学校行けねないんじゃね?とか思ってたけど普通に登校してる。

 

 やたらと日の光が眩しく感じる。

 日の光がピリピリと肌を刺激する感覚。

 澄んだ外の空気。

 

 身体を大きく伸ばす。

 そして深呼吸。

 

 そして思った。

 

 

 

 

「学校面倒くさ」

 

 

 俺のハイスクール生活がまた始まろうとしていた。

 

 

 #

 

 

 どうして俺が学校に行くことになったのか。それは一日話を戻さないといけない。

 

 

 俺は昨日の夜、『匂い』に誘われるまま走った。

 そして俺がたどり着いたのは教会だった。

 

 外見はただの教会。

 それでも俺の勘はここがただの教会でないと告げていた。

 

 教会に入る。

 その教会の中身はボロボロになっていた。

 椅子とか何に使われていたかわからない木のかけらやら、そこら辺に散らばっている。

 

「こいつはひでぇな」

 

 思わず呟く。

 何らかの戦闘があったのだろう。

 そう確信すると俺は今まで感じたことが無いような感覚に襲われた。

 それは俺の中の何かが燃えているかのように溢れてくる。

 謎の高揚感。

 その高揚感はなぜか俺に安らぎを与えてくれるような気さえする。

 

「・・・黒峰なのか?」

 

 前から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 そちらを向くと金髪イケメンと赤髪の女と変態がいた。

 普通なら視線はイケメンと赤髪の女に気が取られてしまうだろう。

 しかし、俺はそれよりも少し下にいた黒髪の女にしか視線が合わせれなかった。

 

 思わず笑みが漏れてしまう。

 あー、会いたかったぜ。

 

 ___________俺を殺した女。

 

 

 俺は女に近づく。

 カツン、カツン、カツン。

 自分の靴の音がやけに大きく聞こえる。

 近づくたびに笑みが獰猛になっていくのが自分でも分かる。

 

 俺はついに女の前に立った。

 女は何を思ったのか俺に何か必死に弁明のようなものをする。

 

「・・・黒峰君。あれをやったのは私のせいじゃないの!私は騙されて・・・」

 

 思わず笑ってしまいそうになる。

 この女を見ていれば分かる。

 こいつは生き残るためになら何をやってでも生き残るタイプの奴だ。

 こういう奴は一番信用ならない。

 そもそも命乞いをする時点でもうこいつはダメなわけなんだが。

 

「うるせぇよ」

 

 見てて嫌になる。

 こういうタイプの奴は。

 そもそもどこで俺の名前を知ったんだ?

 

「騙されたからなんだ?俺を殺したことに違いはねぇんだろ?

 __________ならダメだ」

 

 

「待って!私は至高の・・・」

 

 ・・・はぁ、ここまで言ってもダメなのか。

 面倒臭い奴だな。

 

「口を開くな屑」

 

 俺は女を思いっきり踏みつける。

 女は苦しそうに俺を見上げる。

 

 その時俺は思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サッカーやろうぜ!お前ボールな!!

 

 

 

 思わず自分のネタで笑いそうになってしまう。

 このまま踏みつけたままなら俺は完全に笑ってしまうだろう。

 

 

 とりあえず斬魄刀を手にかける。

 

 そして笑ってしまう前に女の頭を思いっきり蹴った。

 

 

 

 ゴールに向かってシュウウゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 蹴る時のイメージは全ての筋肉を使って一点集中に全ての力を解き放つイメージ。

 

 そして女は思いっきり壁に激突した。

 もう少し威力欲しかったな・・・

 

 そして俺はまた自分のネタで笑ってしまいそうになる。

 まさか人の頭使ってサッカーできるとは思わなかったわ。

 

 あ、ヤバイ。笑っちゃいそうだわ。

 

 目の前にいる女に目を向ける。

 まぁー、とりあえず笑ッちゃう前に誤魔化さなければ。

 

「死ね」

 

 俺は思いっきり斬魄刀を振り下ろす。

 思ったんだけど、何かに没頭した時に笑う人なんているだろうか?

 いや、いない。

 そう思いついた瞬間。俺はひたすら斬魄刀を振り下ろし続けた。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 それでも笑みが出てしまう。

 堪えるんだ俺!!

 

 何度振り下ろしただろうか。

 俺の顔から笑みはもう完全に抜けていた。

 

 女を見る。

 女は失神して、今にも死にそうだった。

 俺は女の頬をビンタする。

 そして女は目が覚めたが、身体の痛みで苦しみ始めた。

 

 

「もうやめて欲しいか?」

 

「え?」

 

 俺の質問に女の顔には、なんで?と書いてあるようだった。

 

「お前ももう苦しかったろ?」

 

 そう言った瞬間、女の顔は希望に変わる。

 その時俺は思った。

 

 

 ______そんなに生きたいんだ?

 

 俺も殺される前、こんな顔をしていたんだろうか?

 正直もう許してやろうかな?なんて少し思ってしまった。

 でも俺は今のこいつの顔を見て思い出した。

 俺はこいつに殺されたんだ。

 だから俺は絶対にこいつを許さない。

 

 斬魄刀を再度強く握る。

 

「楽にしてやるよ。

 ___________テメェの死でな!」

 

 

 俺は斬魄刀を思いっきり振り下ろす。

 本気で殺すつもりで放った一撃。

 内臓を潰した確かな手応え。

 女を中心に広がる血独特の鉄の異臭。

 

 初めて殺した。

 それでも何にも思わない。

 それどころか高揚している。

 そんな高揚感を切り払うように斬魄刀を担ぎ直す。

 

 ______やることやったし帰ろ。

 

 俺は帰宅しようとした。

 そんな俺の肩を誰かが引き留めた。

 振り返ると口をパクパクさせた変態がいた。

 

 え?何?

 マジで分からん。

 魚のマネ?なんでそんなことをする?

 まさに理解不能。

 その文字が俺の頭を駆け巡る。

 というかこいつ・・・

 

「なんだよてめえ、生きてたのか」

 

 今だに口をパクパクさせている。

 なんだこいつは?

 変態なのは知っていた。

 しかしこれは違う。

 変態なんて一括りにするべきでは無い。

 まさに異常者。

 

 今なら見れば分かる。

 今、目の前で口をパクパクさせたこいつの異常性が。

 

「何の用だよ。なんもねぇなら帰るぞ」

 

 いや、本当に帰りたい。

 切実に帰りたい。

 誰が好き好んでこいつと話さなけれはならないのか。

 

 俺は自然に何事もなかったかのように帰る。

 しかし・・・

 

「・・・なんでだよ」

 

「あ?」

 

「あ?」とか言ったけど内心ビビリまくりである。

 小声でなんか言われたんだよ?怖くね?

 

「なんでこんなことするんだよ!!」

 

「は?」

 

 いきなり大声叫ぶとかマジで異常。

 こんなことってなんだよ。

 あの女のことか?

 

「てめえもどうせ殺そうしてたんだろ。何言ってんだよ」

 

 そう、こいつもあの女の被害者。

 ・・・たとえ異常者であってもだ。

 殺そうとしてたか知らんけどな。

 

「・・・それでもここまでする必要あったのかよ」

 

 マジで殺すつもりだったのかよ。

 

「そんな過程なんてどうでもいいんだよ。俺が言ってんのは結果だ。結果が同じならやってることは同じなんだよ。お前らがあいつを殺そうと俺が殺そうと『殺した』ことに違いはねぇ。分かったか?」

 

 言いたいことは言った。

 じゃあ、帰ろ。

 

「待ちなさい!!」

 

 え?何?まだ帰れないの?

 

 振り向くと赤髪の女。

 あれ?こいつ見たことあるぞ!

 なんだっけか?確か学校の二大美女とかだっけか?

 

「貴方は黒峰薫ね?確かに貴方は死んだはずよ。どうして生きているのかしら?そしてなんで今でも姿を現さなかったのかしら?」

 

 なんで俺のこと知ってんのこいつ?

 

「知らねえよ。俺はただ眠ってたんだよ」

 

「貴方、私を馬鹿にしてるの?」

 

 なんで本当のこと言ったら切れられるの?

 理不尽過ぎない?

 

「本当に知らねぇんだよ。数日寝てたんだから」

 

「・・・そう」

 

 なんかすんなり分かってくれたんだが。

 初めからそうしろよ。

 

「貴方本当に何者?人間?そしてその獲物は何?」

 

 この質問前にも言われたことあるような気がするんだが・・・

 

「俺は・・・人間だよ。あとこれはただの武器だ」

 

 虚なのか自分でもよく分からんし、人間ってことでいいよね?

 

「明日学校に来なさい。そこで話しましょう」

 

「は?」

 

 何を話すの?

 一体何のOHANASIをするつもりなんですか?

 

「だから明日学校に来なさい」

 

 学校はどうでもいいけどなんの話しないといけないんすかね?そこ教えて欲しいんだけど・・・

 それに______

 

「・・・俺は死亡判定されてるんじゃねぇのかよ」

 

「あら、私の前にいるのは亡霊なのかしら?」

 

 こいつ今、うまいこと言ったとか思ってるな。

 絶対内心ドヤ顔してるわ。

 

「・・・分かったよ」

 

 こうして学校に行くことになったのだった。

 

 

 #

 

 

 そんな回想をしているともう学校についていた。

 この話を黒歌にしたところ、黒歌は随分と驚いていた。

 なんでも堕天使は普通の人間では殺せないらしい。

 まぁ、俺は人間なのか分からないけどな。

 今のところ自称人間ってとこか?

 そして昨日の奴らはどうやら悪魔だそうだ。

 しかも、この土地を管理している悪魔らしい。

 ・・・高校生に管理されているこの土地って大丈夫かよ。

 

 いつものように校門を抜けて、教室に向かう。

 この当たり前のように教室に行くのはなぜか新鮮なような気がする。

 

 教室に入ると教室の空気がシーンと張り詰めた。

 

 え?なんで?俺そんなに嫌われてたの?

 

 マジで今まで教室に入った瞬間にこんな空気になったのは初めてなんだけど。

 

 俺は自分の席に座る。

 それでも教室の空気は最悪だった。

 

 どこで選択を間違えたのだろうか。

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

 

 #

 

 

 適当に授業を寝ながら過ごしていたらいつの間にか学校も終わっていた

 そして、その間ずっとボッチだった。

 考えたんだけどボッチになった理由って眼帯じゃね?

 それに数日休んだと思ったらいきなり中二病になって帰ってきたらそりゃー困惑するわな。

 とか思ったけど、それ以外にもちゃんと理由はある。

 なんと今日転校生がきた。

 それも只の転校生ではない。

 金髪ロリなのだ!!

 そりゃー話題はあっちに行くわな。

 え?俺?俺は興味無いけど何か?

 

 

 

 やっと学校から帰れると思って帰ろうとした時、そいつは来た。

 

「や。どうも」

 

 金髪イケメンだ。

 しかも俺の席の前に立ってるし。

 

「君が黒峰君だね?」

 

 いや、聞かなくても分かるだろ。

 昨日会ったばっかだし、今、俺の席の前にいるし。

 

「あぁ」

 

「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」

 

 ・・・やっぱり昨日の約束か。

 さっさと帰ってやろうと思ってたのに案外早く来たな。

 

「僕と一緒について来てくれるかな」

 

 なんかお前が言うとソッチ系に聞こえるのはなんでかな?

 あれ?俺がおかしいのかな。

 

 俺は席から立ち上がる。

 その時だった。女子の歓声が響いたのは。

 

「木場くんと黒峰くんよ!!」

「木場くんとあの黒峰くんですって!?」

「黒峰くん×木場くんなかなか斬新ね!」

「いえ、きっと木場くん×黒峰くんよ!!」

 

「「「「「それだ!!これで勝つる!!」」」」」」

 

 

 マジかよ。やめてくれよ。

 中二病にホモなんてレッテル着いたら俺もう立ち上がれないぞ。

俺そもそもイケメンじゃないし。

 

 そこに兵藤も一緒に来て三人で並ぶ。ちなみにその兵藤の後ろに金髪ロリもついてきた。

 すると更に後ろで歓声が響いた。

 

 ________もう俺ダメだな。

 そんなことを考えながら歩いていた。

 

 #

 

「コッチだよ」

 

 俺は木場と兵藤の後ろを歩いていた。

 着いたのは旧校舎だった。

 そこから階段を登り奥の部屋で立ち止まった。

 

『オカルト研究部』

 

 ドアにはそう書かれていた。

 オカルト(悪魔)とはなかなか考えさせられるな。

 ドアを開けてなかに入る。

 部屋の中は壁のいたるところに魔法陣が描かれていた。

 

 ヤベェな。

 俺でも中二の時、ここまで本格的にやらなかった。

 それはやはり俺の中の良心が引き留めていたのだと思う。

 ・・・こいつは強いぞ。

 

 中には黒髪のオットリした感じの美人となぜか自信満々に胸を張っている赤髪の女。

 お菓子を食べている白髪のショートヘアの猫を思わせるロリっ子。

 

 ・・・美人多すぎね?

 美人率100%とは恐れいったわ。

 

「全員そろったようね」

 

 赤髪の女は俺たちに視線を向ける。

 

「ようこそ、オカルト研究部へ。私たちはあなたたち2人を歓迎するわ___________悪魔としてね」

 

 一斉にみんな背中きら黒い羽を出す。

 な、なんだって!?

 

 

 

 と言うと思ったのか?バカが。

 

 

 

 #

 

 それから適当に自己紹介をした。

 赤髪の女はリアス・グレモリーというらしい。

 どうもこいつがこの土地を管理している奴らしい。

 黒髪のオットリした奴は姫島 朱乃。

 白髪ロリは搭城 小猫。一年生。

 金髪ロリはアーシア・アルジェント。

 こいつは元シスターで悪魔らしい。

 なんか黒歌みたいだな・・・。

 

 金髪イケメンは木場 裕斗。

 

 それで全員悪魔とな。

 正直名前覚えれる自信無いんだけど・・・

 

「こっちは紹介したし、そっちも自己紹介してくれるかしら?」

 

 いや、勝手に自己紹介されて、私達言ったからそっちも自己紹介してと言われても困るんですが。

 

「俺は黒峰薫」

 

 リアス、いや、リアス先輩は怪訝な顔をする。

 

 え?これ以上言うことある?

 

「そう、一つ聞いていい?」

 

「はい」

 

「私は貴方のことを死んだと思ってましたわ。公園はまるで血の海だったわ。普通あの量の血液を失って生きれる人なんて存在しないわ。それはどうなのかしら?」

 

 どうなのかしらじゃあねぇよ。

 

「知らねぇよ」

 

「あくまでシラを切るのね」

 

 いや、だって本当に知らねぇし。

 

「もう終わったなら帰るぞ」

 

 俺が席を立ち上がろうとする。

 

「待って!その前に一つ話さないといけないことがあるわ」

 

「ッチ。なんだよ」

 

「私はこの土地を管理しているわ。だから私は危険人物を知っておかなければならないと思うの」

 

 危険人物なのね。俺は。

 

「だからこのオカルト部に入って欲しいの」

 

 こいつ色々面倒くさそうだし、入るくらいならいっか。

 どうせ入るだけで行かないし。

 

「入るだけなら別にいいぞ」

 

「ありがとう。あともう一つ聞いていいかしら?」

 

 あと一つって言ったのこれで二回目だな。

 

「ああ」

 

「なら聞くわ。なんで貴方は私達が悪魔と言った時に全く反応しなかったのかしら?私達が悪魔ということ知ってたわね?」

 

「知ってたら何なんだ?」

 

「どこでそのことを知ったのかしら?」

 

「・・・夢で見たんだよ」

 

 黒歌に「私のことは言わないで」と言われていたから咄嗟に嘘をついた。

 

「わかりやすい嘘ね」

 

 バレた。

 

「まぁ、もういいわ」

 

「じゃあ帰るぞ」

 

「ええ、帰っていいわよ」

 

 俺は部屋を出る。

 

「辛過ぎ」

 

 俺の呟きは闇に消えた。

 

 

 #

 

 

 あれから一回もオカルト部に行っていない。

 面倒くさそうだし?行ってもやることないし?

 何時ものように学校で寝ながら過ごそうと思った時だった。

 

 なんと声をかけられたのである!!

 

 やった!ボッチじゃなくなるね!!

 

 と思った時期もありました。

 目の前にいるのは兵藤。

 しかも一言目が、

 

「昨日の夜、部長が夜這いに来たんだ」

 

 こいつ頭おかし過ぎる。

 リア充死ねとでも言えばいいのか?ねぇ?俺のために今ここで死んでくれよ。

 

「死ね」

 

「待ってくれ!話だけでも聞いてくれ!!」

 

 なんかおれに縋ってくるんだけど。

 やめてくれないかな?

 ・・・正直キモい。

 

「最近、部長の様子がおかしいんだ」

 

 お前の方がおかしいから安心しろ。

 というかリアス先輩のこと知らんのになぜ俺に聞くかね?

 

「あっそ」

 

 その時、学校のチャイムがなった。

 

 ________久しぶり部活に行ってみるか。

 戦闘の匂いがするからな。

 

 

 #

 

 部室に行ったら、兵藤が金髪ホストの前で膝を屈しながら泣いていた件。

 

 

「きもーい」

「ライザーさま、このヒト気持ち悪い」

 

 とか後ろの女に言われてた。

 え?何このカオス?

 

 

 金髪ホストの後ろには15人の美女たち。

 そしてそれを見て泣いている兵藤。

 やっぱり兵藤お前異常だわ。

 

「そう言うな、上流階級を下賤な目で見るのが下級な奴の常さ。俺たちの熱々なところを見せてやろう」

 

 そういうとホストは目の前でディープキスをしだした。

 

 こいつもやばいな。

 精神おかしいんじゃね?

 いや、ほんと羨ましいわ。でも目の前でイャつくなよ。

 

「キモ過ぎ。死ね」

 

 思わず呟いてしまった。

 すると全員が驚いたように俺に視線を合わせる。

 

「貴様誰だ?」

 

 ホストが俺に高圧的に尋ねる。

 

「ただの人間だけど何か?」

 

「下賤な人間がなぜここにいる?リアス、お前は一体何をしてるんだ?」

 

「知らないわよ」

 

 いや、俺の扱い酷くね?

 というかこいつ誰だよ?

 

「こちらはライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔でありフェニックス家の三男です」

 

 銀髪メイドが俺の心を読んだかのように答えた。

 フェニックスって実際にいるんだな。さずか悪魔。

 というかこいつ、住んでる世界違くね?お前紅魔館住んでなかったっけ?

 

「そして、リアスお嬢様の婚約者でもあります」

 

 いや、リアスお嬢様じゃなくてお前の主人レミリアだから。同じ悪魔でも吸血鬼だから。

 

「お前は誰だよ?」

 

「私は、グレモリー家に仕えるものです。名前はグレイフィアと申します」

 

「丁寧にどうも」

 

 俺がそんな事をしている間に兵藤達は話を進めていた。

 

「ハッ!なにが英雄だ!!お前なんかただの種まき鳥じゃねえか!火の鳥フェニックス?ハハハ!まさに焼き鳥だな」

 

 それを聞いたライザーは顔を真っ赤にする。

 

「焼き鳥!?リアス、下僕の躾はどうなってる!」

 

 一応俺も加勢しとくか・・・

 

「チキン」

 

 小声でボソッと言う。

 でもその声はライザーに届いていたらしい。

 

「こいつらバカにしやがって!!」

 

 随分ご立腹な様子だ。

 

「テメェなんて今ここでぶっ飛ばしてやる!」

 

 兵藤は調子に乗って、ライザーに向かっていく。

 ライザーはため息をつくだけだった。

 

「ミラ、やれ」

 

「はい、ライザーさま」

 

 兵藤はミラと呼ばれた奴に棍で天井に叩きつけられた。

 というか兵藤弱過ぎない?

 

 しかもこのミラという奴、俺にも攻撃してこようとしてきてるし。

 

 俺は上から振り下ろされる棍を左手で受け止めた。

 

「な!?」

 

 まさか人間に受け止められるとは思っていなかったのだろう。驚愕の声が漏れる。

 俺は力づくで棍をうばいとる。

 

「武器の使い方を教えてやるよ。簡単だ。ただ振り下ろす時に殺すつもりでやるんだぜ!」

 

 俺は棍振り下ろそうと上に掲げた時、俺の腕を掴んだ奴がいた。

 おかげでミラに距離をつけられる。

 

「何すんだよ。グレイフィアさんよ」

 

「これ以上は許しません。引いてください」

 

「あっちからしかけてきたんだが?」

 

「それでもです」

 

「ッチ」

 

 俺は棍をミラに投げ返す。

 ライザーは俺を見てニヤリと笑った。

 

「そうだリアス、ゲームは10日後でどうだ。ハンデをやろうではないか」

 

「随分と余裕なのね?」

 

 リアス先輩はイラつきながらライザーに問う。

 

「そうだとも。それとそこの人間もゲームに参加させろ」

 

「いいのかしら、グレイフィア?」

 

「そうですね。非公式のゲームなので問題ないかと」

 

「そう」

 

 おいおい、俺勝手にゲームとやらに参加することになってるんだが。決定権とか俺にないのかね?

 

「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。お前の一撃がリアスの一撃なんだよ」

 

 ポーンってなんですか?

 

「リアス次はゲームで会おう」

 

 ライザー達はそう言うと魔法陣の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 というかあの魔法陣凄くね!?



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修行

「明日修行するからついて来てくれるかしら?」

 

「は?」

 

 ライザーが帰り、俺も帰ろうとした瞬間、リアス先輩は俺に修行するから着いてこいと言ってきた。

 なんで俺も行かないとダメなんだよ。

 修行とかそっちで勝手にやってろや。

 

「断る」

 

「あら、いいのかしら?貴方レーティングゲームに参加出来なくなるわよ?」

 

「そもそもレーティングゲームってなんだよ?」

 

「・・・悪魔は知ってるのにこういうことは知らないのね・・・」

 

 知らないものは知らないから。

 

「レーティングゲームっていうのは「王」と下僕をチェスの駒として、対戦相手の駒と戦うゲームね。簡単に言うならなんでも有りのリアルチェスってとこかしら」

 

「チェスってことは将棋みてぇに限られたところしか動けないとかそういうルールはないのか?」

 

「そういうルールもあるかもしれないけど、今回はないわ。なんでも有りよ。チェスっていうよりも戦場ね」

 

「へぇー」

 

 何それ超楽しそうじゃん!

 十日後が楽しみだぜ!

 

「それでなんで俺が修行に参加しねぇといけねぇんだ?」

 

「それは少しでもライザーに勝つ確率を上げるためよ。と言っても本音は貴方の実力を知りたいだけなのだけれど」

 

 実力ねぇ?

 

「それでも断ったら?」

 

「別に断ってもいいわよ。ただゲームには参加させないだけだし」

 

 修行に参加しないとゲームとやらには参加できないのか・・・

 めんどくせえな。

 でも仕方ないか・・・

 

「・・・分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」

 

 こうして俺は修行に参加することになってしまった。

 

 

 #

 

 

「ヒィ、ヒィ、ヒィ」

 

 俺たちは今山にいる。

 そして着いた瞬間にいきなり大量の荷物を持たされた。

 

 これイジメじゃね?

 もう嫌がらせの域超えてね?

 

 そう最初は思ったのだがこの荷物、案外楽に持てる。

 多分死ぬ前ならこの荷物に埋れて動けなかっただろう。

 やはり、力が上昇しているようだ。

 

 で、隣でヒィヒィ言ってるのは、俺と同じくらいの荷物を持っている兵藤だ。

 

「ハァ、ハァ、なんで黒峰はこの荷物を平然と持てるんだよ」

 

「知るかよ」

 

 ちなみに斬魄刀もちゃんと持ってきた。

 その時黒歌に「ちょくら修行してくる」と言ったらすごい驚いてた。

 それからちゃんと事情を説明すると黒歌は、

 

「家でカオルを待っててあげるニャン」

 

 と言われた。

 なんか単身赴任する夫みたいな気分だった。

 別に悪い気はしない。

 行く時に「行ってらっしゃい」と黒歌が言ってくれた時、家族が居るとこんな感じなのかなぁ、と思った。

 

「・・・お前、もう人間じゃないだろ・・・」

 

「・・・かもな」

 

 そんなことを話しながら山の中を進んで行った。

 

 #

 

 進んだ先に一軒の木造のログハウスが立っていた。

 この木造の別荘はグレモリー家の所有物らしい。

 

 さずかここを管理してる悪魔ですわ。

 

 俺と兵藤が入ってから少し休憩すると、女性陣達は動きやすい格好になってくると部屋から出て行った。

 

「さて、僕は着替えてくるよ」

 

 そして、木場も立ち上がった。

 木場はジャージを持って浴室に入る。

 

「覗かないでね」

 

「マジで殴るぞ!!この野郎!」

「殺してやろうか!?」

 

 

 は!?条件反射で言ってしまった。

 ・・・木場恐るべし。

 

 

 #

 

 まず俺たちは木場と訓練することになった。

 

「________はっ」

 

「おりゃ!おりゃぁぁ!」

 兵藤は木刀を振り回す。

 その攻撃は全く力が伝わっておらず、こちらから見ても一撃が軽く見える。

 木場は軽やかに兵藤の攻撃をいなす。

 

 そして木場は兵藤の木刀を叩き落とした。

 

「そうじゃないよ。もっと視野を広くして相手の視線とかもちゃんと見るつもりでやらないと」

 

 えーそうなのかー。

 普通に知らなかったよ。

 

「次は俺の番か」

 

 やっと俺の番か。

 楽しみだなぁ。

 

「さてやろうか」

 

 俺は木刀を持つ。

 兵藤は俺と木場の試合を観るために横にチョンと座っていた。

 その横にリアス先輩が座る。

 

「見ておきなさい。イッセー、これが格上の闘いよ」

 

 あんまり見られながら闘うのは嫌なんだが仕方ないか・・・

 

「いつでもいいぜ」

 

「なら行かせてもらうよ!」

 

 木場は兵藤とやっていた時よりも何倍も早く俺に突っ込んでくる。

 そして俺に突きを放った。

 

「ぐッ!?」

 

 俺は木場のことをどうやら甘く見ていたらしい。

 そのせいで、突きにまともに反応出来ずに倒れこむ。

 しかし、俺は倒れみながら木刀を無理やり木場になぎ放った。

 

「________な!?」

 

 どうやらあの体制から攻撃が来るとは思わなかったようで木場は驚きの声をあげる。

 でもそれだけですぐに木刀で防がれてしまった。

 そして俺も左手を着き、着地を成功させた。

 

「・・・驚いたよ。一撃で決めるはずが反撃まで返ってくるなんてね・・・」

 

 この時、木場は戦慄していた。

 本気で放った突き。

 それも不意打ちに近い一撃を躱されて、しかも反撃が返ってきたのだ。

 それもあの無理な体制からの一撃。

 普通なら力が入らずに軽い一撃になってしまう。

 しかし黒峰の放った一撃は防いだコッチの手が痺れてしまうほど重かったのである。

 

(・・・あれをまともに喰らったらヤバイね)

 

 恐怖を覚えずにはいられない。

 木場は再度黒峰の認識を改めた。

 

「俺も驚いたぜ。強いな木場先輩は」

 

「僕のことは木場でいいよ」

 

「そうかよ。行くぜ木場!!」

 

 黒峰は真っ直ぐにこっちに向かってきた。

 木場も冷静に木刀を構える。

 

(どうやらスピードは僕の方が上みたいだね)

 

 やはりスピードは騎士の駒を持つ木場の方が速かった。

 しかしあっちには力の差は歴然だった。

 

 黒峰の攻撃は一言で言うなら「嵐」だった。

 息を付く余裕さえ与えない連撃の嵐。

 しかしまだ太刀筋は荒かった。

 そして木場はギリギリで木刀を躱しながら隙をつく。

 完璧な一撃。

 普通なら身体が反応せずに喰らうしかない一撃。

 それでもやはり黒峰は超人的な反射で躱した。

 

(このまま相手に攻撃の暇を与えない!!)

 

 木場はスピード重視にして黒峰の攻撃よりも素早い攻撃を繰り出す。

 それでも何回やっても何回やっても攻撃は当たらない。

 それどころかたまに反撃さえ返ってくる。

 そして木場は時よりワザと隙を作ってやる。

 本当に僅かな隙。

 もはや隙とは呼べないくらいの隙。

 それでも黒峰なら攻撃してくるだろう。

 そう思っていたのだが黒峰はヘェイントに全く反応しない。

 初めはたまたまかと思ったが、絶対に違う。

 

(本当に彼は人間かい?)

 

 そう思わずにはいられなかった。

 そう思っていると黒峰はいきなり距離をとった。

 

「マジで強えな」

 

 黒峰も木場の強さに舌を巻いていた。

 

(マズイな、このままじゃ決定打にかけるな)

 

「黒峰君も強いじゃないか」

 

「そうか・・・よ!!」

 

 俺は一気に駆け出す。

 そしてイメージする。

 自分の攻撃が洗練されて行くイメージを。

 

 そして攻守交代でまたこっちが一方的に攻める。

 それでもやはりスピードはあっちの方が早いので全て躱されてしまう。

 チラリと木場の顔を見る。

 木場の目にはギラギラと内なる炎を燃やしているのを感じ取る。

 

「オラァア!」

 

 思いっきり横薙ぎに払う。

 そしてその一撃で俺の懐に木場が入り込む。

 

 俺は思いっきり後ろに飛ぶ。

 木刀は俺の顔ギリギリを駆け抜けた。

 

(あっぶねぇ)

 

 黒峰はそのとき冷や汗が止まらなかった。

 

 それでもなんだろうか?

 嫌な感じは一切しない。

 それどころか興奮している。

 まるで自分は闘いのために生きているとでも言われているような気さえした。

 木場が時より見せる確かな隙。

 それを攻撃したい衝動を直感で抑えつける。

 こんなことでさえ愛おしく感じる。

 

 チラリと木場を見る。

 木場の目にはギラギラと内なる炎を燃やしているのが分かる。

 

「楽しいなぁ!!木場!!」

 

「確かにその通りだね!!」

 

 この時木場もこの闘いを全力で楽しんでいた。

 黒峰はドンドンこっちのスピードについていくようになってきていた。

 しかも一撃一撃の鋭さも増してきている。

 恐ろしい成長速度だと思う。

 それでも・・・

 

(絶対に負けたくない!)

 

 木場は感じていた。

 自分以外のものがドンドン遅くなっていくのを。

 そしてその中で動いているのは自分と、黒峰だけ。

 

 チラリと視線が合ったような気がした。

 黒峰は笑っていた。

 きっと僕も笑っているのだろう。

 

 そしてお互いに笑いながら木刀をぶつけ合った。

 

 

 #

 

 結局、木場との試合は引き分けで終わった。

 というか俺の木刀が折れた。

 正直、あれだけやって、あんだけもった木刀を褒めたい。

 

「またやろうぜ」

 

「よろしく頼むよ」

 

 そう言って木場と握手する。

 

 今、最高に青春って感じする!

 ある意味修行に付いてきて正解だったな。

 

 

 さて、次の修行するか!!

 

 

 #

 

 俺は魔法が使えないらしい。

 姫島先輩曰くそうらしい。

 

 魔法と聞いてワクワクしながらきたのに非常に残念だ。

 魔法と言ったら人類の夢だと言っても過言では無いとおもうんだ。

 兵藤は姫島先輩のところで修行し、俺はその間、塔城小猫こと子猫と修行することになった。

 

 

 そして今俺たちは組み手しいる最中だ。

 小猫が俺に何度もパンチを放つのを全て避ける。

 

「ハッ!」

 

「おっとっと」

 

「・・・ちょこまかとしつこいです」

 

 ちょこまかってただ避けてるだけじゃん・・・

 

「しゃぁーねぇなぁ!」

 

 俺は小猫のパンチにパンチをぶつける。

 そして小猫の胆力に驚く。

 

「そのちっせぇ体のどこにそんな力があるんだ?」

 

 そう言った途端小猫の周りの温度が急激に下がった。

 ・・・どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 

「・・・死んで謝ってください」

 

 そう言って右ストレートを放つ。

 その一撃には何故か嫌なくらい殺気がこもっていた。

 

「・・いや、マジで済まん」

 

「・・・本当に済まないと思ってるんなら動かないでください」

 

 そう行って小猫は全力で拳を放ってくる。

 そのとき頭の中で「死」の文字が踊る。

 

「グハッ!?」

 

 なんか知らないけど避けれなかったよ・・・

 

 そして俺は気を失ったのだった。

 

 

 イッセーサイド

 

 

「さて、イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」

 

 部長が俺にお茶を飲みながら尋ねる。

 

「…俺が一番弱かったです」

 

「そうね。それは確実ね」

 

 そう、俺は一番弱かった。

 初めは人間の黒峰よりはマシだろうと思った。

 しかし現実は違っていた。

 

「正直私も黒峰君があそこまで強いと思っていなかったわ。それこそ今のイッセーより少し強いくらいだと思っていたもの」

 

 リアスも黒峰の実力に驚愕していた。

 リアスは思い出す。木場と互角以上に戦っていた黒峰を。

 

「それでも焦る必要はないわ。着実に実力をつけましょう。イッセーには才能があるんだから」

 

「はい!!」

 

「ふふ、いい返事よ」

 

 イッセーを部屋に戻し、考える。

 黒峰はどうしてあの力を手に入れたのだろうか?

 一体どんな生活を送ってきたのだろうか?

 

「やっぱり悪魔に誘っておけば良かったかしら?」

 

 彼が悪魔になるとは思えないが、それでも誘っておけば良かったなと考えてしまう。

 それでも・・・

 

(・・・彼は殺すことに抵抗がなさ過ぎる)

 

 あの日を思い出す。

 レイナーレを躊躇なく殺した彼を。

 

「・・・はぁ」

 

 夜はいつまでも続くような気がした。

 




主人公は戦闘中に覚醒して行くパターンです。
でもまだ弱いです。


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ゲーム開始!虚への兆し

総UAが10000突破しました!!
そしてお気に入り数も200突破しました!
ありがとうございましす!


あれからずっと修行中は木場と戦って過ごしてきた。

勝率は五分五分といったところだった。

そして訓練が終わって傷だらけになったところをアーシアが必死に治しているのを見て、一人ホッコリしていた。

やっぱり、健気に頑張る子はいいねぇ。

見てて心が温かくなる。

 

ハッ!?

決してロリコンなんかじゃないぞ!

アレだからな!

自分の子が頑張ってるなぁって感じる親の心境と同じだからな!!

決してロリコンじゃない!!

 

木場とは最初は木刀だけでやっていたが、途中で折れてしまうため、結局最後は斬魄刀を使っていた。

木場も『魔剣創造(ソード・バース)』という神器を使って戦っていた。

魔剣創造はその名の通り、魔剣を創り出すというものらしい。

一体何もない空間からどうやって出しているのだろうか気になるが、それが木場の神器の能力だそうだ。

 

正直、それめっちゃチートじゃね?

だって氷の魔剣とか火の魔剣だとかをめっちゃ出してくるんだよ?

 

試しに魔剣を握らせてもらったが魔力を込めないと意味がないらしい。

 

まぁ、一見チートに見えるこの能力だが、ちゃんと弱点みたいなものがあるらしい。

弱点なのかよく分からないが、この能力で作られる魔剣は本家の魔剣よりも大分質が劣るらしい。

そこまで強いのならマジで本家の魔剣を見てみたいものだ。

 

あれだろ?

魔剣て言ったら魔剣グラムとかレーヴァテインとかだろ?

マジで夢広がるわぁ。

魔法もあるし、頑張ればマジでフォーオブアカインドとかもいけんじゃね?

 

神器ってのは初めて見たが、みんなこんなチートなのかね?

どうやったら俺の斬魄刀を神器だと勘違い出来るのか是非とも教えて欲しいものだ。

 

 

ちなみに兵藤にもこの神器があるらしく、見せてもらったところ左手に赤い籠手があるだけだった。

一見地味だが、効果は一番チートだろう。

なんでも十秒ごとに力が倍加するらしい。

そんなの一日中貯めてたら最強じゃね?と思うかもしれないが現実はそこまで甘くないようだ。

 

・・・それでもチートだがな。

 

しかも本来なら一時的に神さえも超える力が出せるらしい。

 

というか神って本当にいたんだね!!

 

そして今、目の前で木場と兵藤が模擬戦闘を行なっていた。

 

「ブーステッド・ギアを使いなさい。イッセー」

 

リアス先輩が兵藤に言う。

リアス先輩は木場と戦わせて、兵藤に力がついたのを実感させたいらしい。

 

「は、はい」

 

「イッセー、佑斗発動から二分後に戦闘開始よ」

 

二分後。

つまり、2の12乗倍の攻撃が来るわけだ。

二分と聞いたらあんまり長く感じないがそれでも2の12乗倍。

何倍かも分からないが、トンデモない数字だということだけは分かる。

というか本当に2の12乗ってどんな数字なんだ?

紙があれば分かるんだかな・・・

 

「ブーステッド・ギア!」

『Explosion‼』

 

そんなことをる考えているうちに二分経っていたらしい。

ちなみにこの「エクスプロージョン」と言っているのは神器の中にいるドラゴンだそうだ。

 

ドラゴンとかヤバ過ぎ。

八岐大蛇とかも居るのかね?

というか妖怪やら悪魔やらいるなら本当に幻想郷あるんじゃね?

 

後で『博麗神社』でググっとこ。

 

 

「では、始めてちょうだい」

 

リアス先輩が開始の合図を出す。

そして合図と同時に木場が動いた。

木場は素早く兵藤の後ろに回り込む。

それでも木場はまだ本気を出していない。

俺と戦っている時のスピードは今よりもっと速いのだから。

それでもこのスピードなら以前の兵藤なら何もすることなく終わっていただろう。

木場は兵藤の後ろから上段から思いっきり木刀を振り下ろす。

しかし・・・

 

 

兵藤は腕を頭上に組んで防いでしまった。

 

 

木場は今の一撃で終わったと思ったのだろう。

しかし現実はその一撃を防いでしまった。

その出来事に驚いた木場の体が一瞬硬直してしまった。

その木場の確実な隙をついて兵藤は拳を繰り出す。

それでも兵藤の一撃は遅く、木場は上に跳んで回避する。

 

そして木場はジャンプして落ちる瞬間に兵藤の頭に木刀を叩き込む

 

「くっ・・・」

 

兵藤は蹴りを放つが、攻撃速度が足りず、普通に躱される。

 

「イッセー!魔力の一撃を撃ってみなさい!」

 

兵藤の手から小さな光のようなものが放たれる。

その小さな光が魔力だ。

 

俺には使うことが出来ない力。

 

そして魔力は掌から離れた瞬間、一気に巨体になる。

 

そう、これが兵藤の神器。

二分間倍加した結果。

 

木場は兵藤の攻撃を軽く躱す。

確かに兵藤らスピードも力も上がったが、そこまで速いってもんでもない。

 

しかし、驚いたのはそこからだった。

兵藤の放った一撃は木場の後ろにあった山を吹っ飛ばしたのだ。

 

「・・・ここまでとはな」

 

思わず呟いてしまった。

 

まさか二分でここまで強くなるとは・・・

やっぱりヤベェな。

マジでチートだわ。

 

もともと兵藤自体も強くなったとは思っていた。

それでも兵藤の神器の力があまりにも圧倒的過ぎる。

 

ふと俺は考える。

あの攻撃を喰らったら俺は立つことが出来るだろうか?

 

正直自信は無い。

それでも・・・

 

「_____戦いてぇな」

 

俺は気づけば笑っていた。

 

 

 

「イッセー、あなたはゲームの要よ。あなたをバカにした者に見せつけてあげましょう。リアス・グレモリーとその眷属がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 

後ろでみんなが一致団結している中、俺は一人だけ佇んでいた。

 

本当に明日が楽しみだなぁ。

早く明日にならないかなぁ。

 

俺は一人で明日を想像してワクワクしていた。

 

その時、俺の目はギラギラと鈍い光を発していた。

 

 

#

 

 

待ちに待った今日が来た。

今日は一日中ワクワクが止まらなかった。

 

家に帰った時、俺があまりにも機嫌が良かったからか、黒歌が怪訝な目で俺を見ていた。

その時、

 

「そこまで気分が良さそうにされると気持ち悪いニャン」

 

とお褒めの言葉を頂いた。

個人的に家に帰った時に「おかえりニャン」と言われただけでもテンション上がるんだがな。

今思うとやっぱり一人暮らしは辛いよ。

でも不思議と一人暮らししてる時はあまり辛く感じないんだよなぁ。

 

そんな訳で今は夜。

俺は今、オカルト部の部屋に居た。

なぜ夜にこんなところにいるのかというとレーティングゲームは夜の十二時から開始だからだそうだ。

 

「皆さん準備はおすみになりましたか?開始十分前です」

 

と、いきなり魔法陣から登場するグレイフィア。

 

「開始時間になりましたら、魔法陣で使い捨ての空間に転移されます」

 

まず、使い捨ての空間ってなんですかそれ?

 

「今回のレーティングゲームでは両家のみではなく魔王ルシファーさまも拝見されます。それをお忘れないように」

 

・・・魔王って本当に居るんだな。

あれだろ?世界の半分をくれるとか言う奴でしょ?

それはないかと思ったけど、実際リアス先輩でこの街管理してるんだし、本当に可能なんじゃないか?

 

「お兄様が?そう・・・お兄様が直接見られるのね」

 

・・・お兄様とか頭大丈夫かよ。

そんな言葉アニメ以外で初めて聞いたわ。

 

と言うかリアス先輩魔王の妹なのか!?

それでもお兄様はないわぁー。

 

「ぶ、部長。今、魔王様のことをお兄様って・・・」

 

「いや、部長のお兄さまは魔王様だよ」

 

兵藤に木場があっけらかんと答える。

兵藤はなぜか叫びながらのたうちまわっていた

 

・・・うるさい。

 

「サーぜクス・ルシファー。『紅髪の魔王』にして最強の魔王様だよ」

 

木場が更に補足説明をする。

 

うわっ、クリムゾンサタンとか、中二病過ぎ。

ていうかその魔王がグレイフィアの主ってことになるんだよな?

クリムゾンで悪魔で銀髪メイドとか完全に紅魔館じゃね?

パチュリーとかマジでいるんじゃないのか?

まぁ、そんなことよりも_____

 

「_____最強・・・か・・・」

 

なぜかその言葉に反応してしまった。

確かにその魔王とは戦ってみたい。

しかしそれとは別の感覚。

なんだろうか?

この胸の奥がチクリと痛むような感覚は?

 

「皆様、そろそろ時間です」

 

みんながぞろぞろと魔法陣の方へ移動していく。

俺も少し遅れてから移動した。

 

「なお、一度あちらへ転移するとゲーム終了まで転移はできません」

 

勝つか負けるまで俺たちは帰ることが出来ないってわけか。

 

あぁ、早く闘いてぇ。

 

そして魔法陣が輝きだした。

 

そして俺たちは転送されたのだった。

 

 

#

 

 

目を開けると部室にいたままだった。

俺が軽く困惑していると、

 

『皆様、このたびグレモリー家、フェニックス家のレーティングゲームの審判を担うことになりました。グレモリー家使用人グレイフィアでございます』

 

グレイフィアの声が響いた。

 

『今回のバトルフィールドはリアスお嬢様の通う学び舎、駒王学園のレプリカを異空間に用意いたしました』

 

まさか学校で戦えるとはな。

ここが使い捨ての空間てすげぇな。

にしても自分の知ってる土地てのは、有利なのは有利なんだが、少し出来過ぎなんじゃないのか?

随分と俺たちに勝って欲しいみたいなんだな。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でございます。リアス様の本陣が旧校舎のオカルト研究部の部室。ライザー様の本陣は新校舎の生徒会室、兵士の皆様は「プロモーション」する際相手の本陣の周辺まで赴いてください』

 

しかも、相手のいる場所も分かっちまうのかよ。

 

「全員、この通信機を耳につけてください」

 

姫島先輩が俺にイヤホン型の通信機を差し出す。

だが_____

 

「俺に必要ない」

 

「なんでかしら?」

 

リアス先輩が俺に尋ねる。

 

「俺は戦えればそれでいいからだ」

 

「・・・そう」

 

リアス先輩はすぐに諦めた。

そしてみんなに指示を出す。

 

「佑斗は森にトラップ、朱乃は魔力をためてちょうだい。小猫、イッセーは体育館に進んで、アーシアはここて待機よ。黒峰君は好きに行動していいわ。ただし、みんなの邪魔はしないこと。いいわね?」

 

「「「「「はい」」」」」

「・・・分かってるよ」

 

なんか俺問題児みたいな扱いになってないか?

いや、俺はもしかしたら問題児なのかもしれないな・・・

 

『では、ゲームを開始します』

 

そんなことを考えてると不意にグレイフィアの声が響いた。

そして、響くチャイムの音。

キーンコーンカンコーン。

 

学校のチャイムは何回も聞いてきた筈なのに、なぜか新鮮な気がした。

 

ふと自分の体が震えているのを感じた。

怖気づいたのか俺?

 

いや、まさか。

 

これはただの武者震いだぜ。

 

俺は最後に斬魄刀についている鎖を自分の腰につける。

 

よし!準備バッチリだ。

 

こうしてゲームの幕が開けた。

 

#

 

「_____で、どうして黒峰はここに居るんだ?」

 

「なんとなくだが?」

 

兵藤の質問に俺は答える。

なのに兵藤は俺の答えを聞いてため息をついた。

 

・・・解せん。

 

そんな訳で今、俺は体育館の裏口にいる。

 

「・・・気配。敵」

 

小猫が小さな声で呟く。

 

「そこにいるのはわかってるわよ。グレモリーの下僕さんたち!あなた達がここにはいるのを監視していたんだから!」

 

監視されてたのか・・・

知らなかったぜ。

 

別にコソコソと行動しなくてよくなったので舞台上に俺たちは出た。

 

すると体育館の中央に4人の少女が立っていた。

チャイナ服と同じ顔の二人、そしてミラ。

あの二人は双子なのだろうか?

 

さっきの言葉といい、このチャイナ服がこの四人のリーダーか?

・・・なんかあいつ見てると紅美鈴を思い出すな。

 

「俺はあそこの中国をやる」

 

俺はそう言って前に出る。

しかし・・・

 

「貴方の相手は私よ!人間!!」

 

ミラが俺に立ち塞がった。

 

「・・・わたしが戦車を相手にしますよ?」

 

子猫が俺に言う。

あいつは戦車だったのか・・・

 

「ッチ、分かったよ」

 

・・・少しあのチャイナ惜しいな。

今からこいつとチェンジさせてもらえないものか?

 

しかし、周りを見るともう兵藤は双子と戦闘していた。

双子はどちらともチェーンソーをグウィィィンと迸らせている。

 

・・・どいつもこいつもキャラ濃いな。

 

「あんたどこ見てんのよ!その武器を撮りなさい!!」

 

ミラは俺に腹を立てる。

 

「テメェ相手に武器はいらねぇんだよ」

 

「・・・ッ!!殺す・・・!!」

 

ミラは俺に舐められていると感じ、鬼の形相で俺に突っ込んでくる。

そして棍を振り下ろす。

その一撃は初めて会った時より鋭くなっていた。

この十日、鍛錬を積んだんだろう。

 

_______だが、それだけだ。

 

「______な!?」

 

「・・・だからダメなんだよ」

 

俺は棍を素手で受け止める。

ミラは驚いたが、すぐに後ろに下がる。

 

確かに鍛錬を積んだんだろう。

だからと言ってそうミラには大きな変化もない。

それもそうだろう。

急に強くなるわけがないのだから。

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 

兵藤の方から悲鳴が響いた。

見ると双子の服がバラバラになっていた。

 

何言ってるかさっぱり意味わからねぇかもしれないが俺にもさっぱり意味わからねぇ。

とりあえず、福眼なのは間違いないだろう。

 

「ヤッホォォォォォォォイ!!!」

 

兵藤がそれを見て歓喜の咆哮を轟かせる。

 

あいつがやったのか!?

天才だな!!あいつ!!

 

そう、思っていると兵藤は子猫にシバかれ始めた。

子猫ももう終わったみたいだな。

シバかれている兵藤達に通信が来たのだろうか、兵藤達は移動し始める。

俺もなんとなくそれについて行こうとする。

そして、俺はミラに背を向ける。

 

「逃げるき!?ここは重要拠点のはずよ!」

 

ミラは俺にそう叫んだ。

そして俺はその言葉に止まる。

 

「そうだな。ちゃんとトドメは刺さないとな」

 

俺はそう言ってミラに近づこうとする。

その瞬間、俺の第六感が警報を鳴らす。

 

俺は全力で体育館を出る。

そして、その瞬間、体育館が巨大な雷で吹き飛ばした。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名、戦車一名戦闘不能』

 

グレイフィアの声が響いた。

 

「・・・あっぶねぇ」

 

思わず呟く。

頬には冷や汗が伝っていた。

 

「撃破」

 

姫島先輩が空中でそう呟く。

 

姫島先輩はあんなことが出来たのか・・・

しかしこれが初めから出来たのなら初めから使っていただろう。

しかし使わなかったのは連発不可能だからか。

思わず上唇を舐める。

 

もし、戦ったらどうなるのだろうか?

俺は姫島先輩に勝てるのか?

 

そんなことを考えていた時だった。

 

兵藤達の足元に魔方陣が浮かび爆発した。

空を見ると女が空中で俺たちを見ながら笑っていた。

 

「小猫ちゃん!大丈夫か!?」

 

兵藤が子猫がいた場所に向かって叫ぶ。

 

『リアス・グレモリー様の戦車、リタイヤ』

 

子猫は無事じゃなかったようだ。

それを聞いて兵藤は空中にいる女にギャーギャー叫ぶ。

 

_____にしてもさっきの爆発はいいねぇ。

こいつは『当たり』だな。

だが、姫島先輩の方が少し上ってとこか?

 

「ふふふ、うるさい兵士の坊やね。貴方から爆破してあげましょうか?」

 

女は兵藤に向かって腕を突き出す。

しかしそこに姫島先輩が兵藤の代わりに出てくる。

 

「あらあら。あなたの相手は私がしますわライザー・フェニックスの女王のユーベルーナさん。それとも爆弾王妃と呼べばいいのかしら?」

 

へぇー、女王ねぇ?

つまりライザー眷属の中で一番強いってことだろ?

ヤベェ、ワクワクしてきた。

 

「その二つ名はセンスがなくて好きではないわ、雷の巫女さん。貴方と戦ってみたかったわ」

 

姫島先輩にも二つ名があるのか・・・

知らなかった。

 

「黒峰君、イッセー君、佑斗君のもとに向かいなさい。ここは私が引き受けますから」

 

いや、姫島先輩に引き受けられたら俺が困るな。

 

「いや、俺が戦います」

 

「_____いや、でも・・・」

 

「姫島先輩は兵藤達の援護に行ってください。それに____俺が戦いたいんです」

 

「・・・分かったわ」

 

そう言うと姫島先輩は兵藤と一緒に行ってしまった。

 

「あら、良かったの?人間風情が私に挑むなんて。せめて、雷の巫女に援護でもしてもらったら良かったのに」

 

クスクスと爆発女は笑う。

俺は斬魄刀に手を掛ける。

 

そして、思いっきり空中にジャンプした。

 

「_______な!?」

 

そして斬魄刀を振り下ろす。

しかしすんでのところで躱される。

 

「・・・驚いたわ。貴方本当に人間かしら?」

 

「アァ、そうだぜ!!」

 

俺はそう言いながら突っ込む。

しかし直感が警報を鳴らす。

すぐに右に移動する。

しかしその瞬間、女は不敵な笑みを浮かべた。

 

「掛かったわね!!」

 

「な!?」

 

その時、直感がこれ以上ないくらいの警報を鳴らす。

_____しかし、もう遅かった。

 

足元が爆発する。

そして俺はそれに巻き込まれた。

 

「_____!?」

 

声にならない悲鳴を上げる。

何度も転がりながら、やっと俺は止まった。

そして、そこは土煙で周りが見えない。

 

「所詮は人間ね」

 

その土煙の向こうから嘲るような声が聞こえる。

あの女だ。

しかし、俺には、それに応える力も残っていなかった。

 

どんどん意識が遠のく。

まぶたが重く感じる。

 

嫌だなぁ。

攻撃を一発も当てることが出来なかったなぁ。

 

悔しいなぁ。

 

無力感が頭の中を支配していく。

しかし、心の中で俺の本能が叫んでいた。

 

「・・・クソッ、負けたくねぇ」

 

蚊の羽音のように小さな声。

言うたびに痛みがどんどん進行して行く。

それでも言わずにはいられない。

 

「・・・勝ちてぇ」

 

俺がそう言いながら土煙の向こうにいるだろう人物を睨みつける。

 

あぁ、悔しいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

土煙が止まった。

そして世界の色彩が白黒に反転する。

それはまるで世界が止まったかのようだった。

 

「な!?」

 

痛みを忘れて驚きの声を上げる。

 

なんだこれは?

一体なんなんだ?

 

そんなことを思っていると俺の目の前の土煙の方から人が歩いてきた。

そして、土煙から現した人物を見て俺は驚愕する。

 

「_______ノイトラ?」

 

ジャラジャラと8の字の斬魄刀の鎖が鳴る。

そして二メートルを超えている身長。

特徴的な白い死装束。

 

 

 

白黒の世界でノイトラは釣り上がるような笑みを浮かべながら俺に歩いてきた。

 

そして俺は思った。

 

ノイトラが近づく様はまるで、死神が近づいてくるようだと。

 

 

 



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虚への証

「・・・ノイトラなのか?」

 

 ノイトラは俺の問いに答えない。

 しかし、その代わりに地面に這いつくばる俺を蹴飛ばした。

 

「グハッ!」

 

 俺はそこでえづく。

 

「ハァ、ハァ、て、何すんだテメェッ!」

 

「何しけた面してんだ!アァ!?」

 

 ノイトラはそう言いながら俺の腹を何度も蹴り飛ばす。

 ノイトラが俺を蹴飛ばすたび、肺の中の空気が全て吐き出される。

 ノイトラは蹴りながら俺に罵声を浴びせる。

 

「なんだその戦い方は!テメェは雑魚だ。テメェは弱すぎる。何が『人間ですけど何か?』だ!!テメェは人間じゃねぇって言っただろうが!」

 

 そう言うとノイトラはやっと蹴るのをやめた。

 

「何が『勝ちてぇ』だ。雑魚に負けてる奴に勝ちも何もねぇんだよ!!」

 

 そう言う俺は吹き飛んだ。

 いや、思いっきりノイトラに蹴られた。

 俺は紙屑のように転がる。

 

「何が『奪う側になる』だ!結局負けてんじゃねぇかよ!」

 

 クソ、言いたいように言いやがって・・・!

 

「言いたいように言わせておけば・・・!」

 

「あんなカスみてぇな攻撃で立ち上がれねぇ奴が何言ってんだ。言いたいことがあるなら立ってから言いやがれ」

 

「・・・グッ」

 

 俺は立ち上がろうとする。

 体中が痛い。

 立ち上がらなくてもいいと心の隅で俺が叫ぶ。

 でも、ここで立ち上がらなければ後悔するような気がした。

 それは直感でしかなかったが、謎の確信めいたものを俺は感じ取っていた。

 

 しかし、立ち上がろうとすると更にノイトラに蹴られた痛みと爆発の痛みで体が悲鳴を上げる。

 それでも俺は立ち上がろうとする。

 まるで何トンもの重りが体に付いているように感じる。

 おぼつかない足元。

 揺れる視界。

 それでも俺は立ち上がる。

 

「グアアァァァァァァ!!」

 

 俺は震える足で立ち上がる。

 今の俺は生まれたての鹿みたいになっているだろう。

 

「ハァ、ハァ、おい、立ち上がってやったぞ」

 

 俺はできるだけ痛くないですよアピールをしながらニヤっと笑う。

 

 するとノイトラは口を三日月のようにして嗤う。

 

 

「やりゃ出来るじゃねぇか」

 

 

 ノイトラになぜか褒められた。

 

「あんままグッタリしてたらテメェを殺すつもりだったぜ」

 

 さらりととんでもないことをカミングアウトするノイトラ。

 

 ・・・俺の直感は正しかったようだ。

 

 もし、あのまま寝ていたらと考える。

 すると、嫌な汗が俺の背筋を伝った。

 

「なんでノイトラがここにいるんだ?」

 

「テメェが弱えからだよ」

 

「・・・さいですか」

 

 正直、なんで俺が弱いとノイトラが来るのか全く分からない。

 だからと言って、ノイトラが何の用も無しにここに来るとは考えにくい。

 そんなことを考えているとノイトラが口を開いた。

 

「強くなりてぇか?」

 

 

 

 

「え?」

 

 別にノイトラの言ったことが聞こえなかった訳ではなかった。

 しかし、あまりに唐突だったため、俺はつい聞き返してしまった。

 

 

 

 

「もう一回しか言わねぇぞ。______強くなりたいか?」

 

 

 ノイトラは笑いながら俺を見る。

 決して嘘を付いているようにはみえない。

 

 

「_________強くなれるのか?」

 

「それはテメェ次第だ。当たり前だが、世の中リスク無しにいきなり強くなれる、なんてことは一切ねぇ」

 

「・・・リスク?」

 

「アァ、それなりのリスクを負ってもらうぞ」

 

 それなりのリスクってなんだよ?

 それを言ってくれよ。

 

「・・・リスクってのはなんだ?」

 

「聞いていいのか?」

 

 ニヤリとノイトラが嗤う。

 俺はノイトラを見て思わず背筋がゾッとする。

 

「・・・どういうことだ?」

 

「聞いたら引き返せなくなるって意味だ」

 

 なんだ、そんなことか。

 俺は決めたんだ。

 あの日から。

 俺が死んだあの日から。

 死んで初めて気づいたこと。

 それはあまりにも単純、だけど俺はすることが出来なかった簡単なこと。

 

 本当は俺はあの日に死んだ。

 でも今生きているのは、正直運が良かったからだろう。

 

 

 あの日俺が決めたこと。

 それは_____

 

「俺はこんなところで立ち止まる訳には行かねぇ。それがどんな犠牲を払ってもだ。俺はあの日から絶対に後悔しなねぇって決めたんだ」

 

 

 __________後悔だけは絶対にしないこと。

 

 

「イイぜ、合格だ。そこまで言ったんだ。泣き言言うんじゃねぇぞ」

 

 

 そう言うとノイトラは俺に背を向ける。

 

 その瞬間、俺は落ちた。

 

「_________な!?」

 

 まるで地面が崩壊したように感じた。

 でも違う。

 地面にポッカリと穴が空いたのだ。

 

 俺は空中で下を見る。

 

 そこに広がるのは、無限の漆黒。

 どこまで落ちるか分からない程の深さ。

 まるで紙に黒い墨汁をドップリとブチまけたような不自然なまでの黒。

 

 しかし、俺は落ちながら、不思議と抵抗感はなかった。

 代わりに俺の感情は一つだった。

 

 

 懐かしい。

 

 

 それは俺があの日死んだ時に落ちた穴と同じように感じた。

 

 

 #

 

 

 やはり、俺が落ちた場所はあの白い砂漠だった。

 あの時と何一つ変わっていない。

 延々と続く白い砂漠。

 そのせいで遠近感が狂いそうになる。

 黒い、夜のような空。

 空には砂漠を照らす一つの三日月。

 

 後ろを振り向くと、そこにはドッシリと構えている白い巨大な城。

 あの時、チリになって消えてしまったが、ちゃんと最初の時に戻ったようだ。

 

 そして、その城の前で椅子に座っているノイトラ。

 

 まるであの日を再現しているように感じた。

 

「気づいたか?」

 

 ノイトラは俺に聞く。

 

 一体これの何に気づいたらいいのだろうか?

 俺は内心パニックになっているとノイトラがまた口を開いた。

 

「初めてテメェがここに来た日みてぇだろ?」

 

「え?」

 

 ノイトラに「あの日にみてぇだろ?」と言われて俺は気づく。

 この光景はあの日を再現したものだということを。

 

「・・・どういうことだ」

 

 まさか今からあの日の再現でもするつもりなんだろうか?

 しかし、なんでまたあの日を再現する必要がある?

 

 さっぱり分からん。

 

「大体テメェが思ってる通りだ。今からやるのはあの日の再現だ」

 

 本当にあの日の再現なのか・・・

 でも一体何をするんだ?

 

 俺は自分の胸を見る。

 しかし、そこには魂魄は付いていなかった。

 

 魂魄を再度引きちぎる訳ではない。

 となれば・・・

 

「・・・また、体の主導権を握って戦うのか?」

 

 これが外れたら、俺は何をするかさっぱり分からなくなる。

 ここでやったことは二つ。

 魂魄を引きちぎること。

 そして、主導権を握ってもう一人の俺と戦ったこと。

 

 しかし、あの時もう一人の俺はチリになって消えたはず。

 ならば一体何と戦うのだろうか?

 

 ・・・まさかノイトラとか言わないよな?

 

「どこ見てんだよ?テメェの相手はこいつだぞ」

 

 

 

 ノイトラの隣にはまるでずっといたかのように男が立っていた。

 

 俺はそいつを見て驚愕する。

 

 そいつは俺だった。

 あの時の俺と何一つ変わらない。

 

 服装も、靴も、体も、色彩も。

 

 しかし、あの時と一つ違うところがあった。

 それは最初から斬魄刀を持っているということだけだった。

 

 俺は自分の体を見る。

 そして本日二回目の驚愕をすることになる。

 

「_____なんだよこれ・・・」

 

 俺の髪、肌、眼帯。全ての色が全て白黒反転していた。

 斬魄刀でさえも白黒逆転している。

 服装はノイトラと同じ死装束になっている。

 

 

「まだ分かんねぇのか?」

 

 

 いや、分からない訳では無い。

 でもこれじゃまるで。

 

「そうだ。テメェが虚で、あいつはお前の中の人間だ」

 

「_________!?」

 

 あの日の立場が全て"ひっくり返って"いた。

 俺が虚で、あいつが人間。

 

 正直負ける気はしない。

 なぜならあいつは人間だから。

 虚と人間では大きく力の差がある。

 それなら負けるはずが無い。

 

 そう心で分かってももしかしたらを想像してしまう。

 

 なぜなら俺はあの時、"人間"だったのに関わらず、虚の俺を打ち負かしたのだから。

 

「今からテメェはこいつと身体の主導権を巡って闘ってもらう。もしテメェが負けたら_______また死ぬぜ?」

 

 あの時と一文字も違わずにノイトラが言う。

 

 あの時なら、白黒逆転した俺が世紀末のように叫びながら向かってきたが今回は違う。

 

 ____俺がその白黒逆転した自分なのだから。

 

 

 

 ___しかし、

 

「ヒャッハー!!」

 

 人間の俺は世紀末のように叫びながら突っ込んできた。

 俺は斬魄刀で相手の斬魄刀を弾こうとする。

 しかし_______

 

「_________な!?」

 

 虚である俺が力で負け、吹き飛ばされた。

 俺はすぐに体制を整える。

 

 しかし、なんで俺は力負けした?

 あり得るのか?

 虚が人間に負けることなど。

 

「やっぱりテメェは弱えぇ!あれからなんにも成長してねぇ!!」

 

 あれからとはやっぱり俺が初めて来た日だろうか?

 でもあいつは消えたはずだ。

 

「なんでお前が生きてるんだよ。あの時チリになっただろ!」

 

「あぁ、確かに俺は一回死んだね。それでも今俺は生きてるんだぜ」

 

 そう言うと奴は空を仰ぎながら、声に出して笑う。

 

「俺は生き帰ってからずっとテメェを見てた。俺がテメェを見て思った感想を言ってやるよ。

 _______テメェは雑魚過ぎる!!」

 

 そう言うと人間の俺は、脱兎の如く俺に向かってくる。

 

(ック!速い!!)

 

 奴は俺よりも、そして木場よりも断然速かった。

 そして奴の凶刃が俺に迫って来る直前に斬撃がくる場所を斬魄刀でガードする。

 そして俺はまた吹き飛ばされる。

 

 そして、俺が体制を整える前に、奴は俺の前に迫る。

 そして、当たる直前に斬魄刀を盾にして防ぐ。

 今度は足を踏ん張り、吹き飛ばされないようにする。

 しかし、奴は左腕の拳を俺の顔面に叩きこんだ。

 

「ブッ!!」

 

 俺は豚のような声を上げながら吹き飛ぶ。

 それでも奴は、俺に休憩の暇さえ与えない。

 

「ハハハ!!弱えぇな!おい!?どうしたよ!?こんなもんかよ!!!」

 

 奴は笑いながら俺に追撃をする。

 しかし、奴の一撃は時間が経つほど、鋭くなってきていた。

 そして奴の拳が俺のノーガードの腹にモロ決まった。

 

「グハッ」

 

 俺は膝を屈しながらやつを睨む。

 しかし、追撃は来なかった。

 奴は俺を見下ろしながら言う。

 

「せっかくだから教えてやるよ!なんでテメェが人間の俺に押されてるのかをよ!!」

 

 奴はククク、と笑いながら俺を見る。

 強者の余裕か、全く俺に警戒すらしていなかった。

 

「お前はなんでだと思うよ?」

 

「・・・」

 

 全く分からない。

 身体能力は虚の俺の方が上のはず。

 なのになんで_______

 

 

「_______テメェがまだ人間だからだよ」

 

「は?」

 

 俺は人間?

 そんなバカな。

 人間で俺みたいに運動神経いい奴を見たことないぞ・・・

 

「言い方が悪かったな。テメェの心がまだ人間ってことだよ」

 

「俺の心?」

 

「そうだ。少し質問を変えるが、俺はいつ復活したと思う?」

 

 そう、こいつは以前、俺と戦って、そしてチリになったはずである。

 ではいつ蘇ったのか?

 

 俺は思い当たる節を探す。

 しかし全く答えは出てこなかった。

 

「正解はオメェが、「俺は人間だ」って言った瞬間だ」

 

 俺は思い出す。

 虚になって初めて起きた時、俺は黒歌に「人間だ」と言った。

 しかも、それ以外にも自分は人間だと言い続けてきた。

 

 なら、俺が黒歌に言った瞬間からこいつは蘇ったということだろうか?

 

「今のお前は人間だ。だから限界が人間止まりなんだよ」

 

 おそらく、ここで言う奴の言った「人間」とは木場のことを指しているのだろう。

 なぜなら、俺は木場が魔剣創造を使っても勝率が五分五分だったからである。

 普通、いくら斬魄刀を使っても、相手がいきなり魔剣を使ってもきたら、負けるのが道理だろう。

 しかし、俺は木場に標準を合わせて、魔剣を使っても勝率を半々にすることが出来たのだろう。

 

 それは分かった。

 しかしどうする?

「俺は虚だ」とここで大きく叫んだとしても、心の中で思っても普通無駄だろう。

 

「・・・なら俺はどうしたらいいんだ?」

 

 気づけば俺は奴に質問していた。

 

「ハハハッ!バカじゃねぇのか、お前!敵に教えてもらおうなんざトンだバカだな。ついでに教えてやるよ。

 

 

 ________知るかよ!バカが!!」

 

 奴はまた俺に突っ込んできた。

 心なしか、さっきよりも素早くなっている。

 

「クソッ!!」

 

 俺は斬魄刀を構える。

 

「ハハハッ!」

 

 こうして一方的な攻撃が始まった。

 

 

 

 #

 

 

 

 

 俺は防戦一方の戦いを強いられていた。

 

「クソッ!」

 

 悪態をつきながら俺は頭の片隅で考える。

 虚とは一体なんなのかを。

 

 ノイトラは言った。

 悪霊だと。

 そして地縛霊だと。

 化け物だと。

 人間を喰らうと。

 

 しかし、どれも全く違う気がする。

 俺はきっと何かを見落としている。

 

 それさえ分かれば・・・!!

 

「何違うこと考えてんだ・・・よ!」

 

「クッ!」

 

 人間の俺は止まらない。

 攻撃ラッシュ。

 一瞬の気の緩みさえ許してくれない。

 

 それでも、頭の中で、あと一つ。あと一つだけピースが埋まらないようなモヤモヤ感が俺を焦らせる。

 早く見つけなければ、と。

 

 ノイトラは俺に言った。

 テメェは人間じゃねぇ、虚だ、と。

 お前が虚側だ、と。

 

 だが、これも違う。

 もっと基本的な何か!

 虚とは何なのか!

 その根底は何か!!

 

 

 俺は人間の俺を見る。

 絶対に何か違うところがあるはずだ!

 あいつをよく見ろ。

 冷静に観察しろ。

 

 奴は斬魄刀をメチャクチャに振り回す。

 まるで嵐のように。

 

 でもそこじゃない。

 注目すべきは体!

 

 俺と奴では根本的に違う場所が!!

 

「_______あ」

 

 俺は人間の俺に吹き飛ばされた。

 いつもなら悪態をつくだろう。

 しかし_______

 

「______ハハハ。見つけた。やっと見つけたよ」

 

 思わず笑ってしまう。

 しかし俺の声は枯れていた。

 

 なんで俺は気づかなかったんだろうか?

 本当にあんなにも"分かりやすい場所"にあったのに。

 

「ハハハ。灯台下暗しってとこか」

 

「何言ってんだ、テメェ?ついに気が狂ったか?」

 

 人間の奴には有って、虚の俺には無いもの。

 そう、逆だった。

 ずっと俺は、虚の俺に有って、人間の俺には無いものだと思っていた。

 ノイトラもちゃんと言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 虚になった証を。

 

 そして、俺には無くて、あいつに有るもの。

 それは_______

 

「______魂魄だ」

 

 俺は左眼があった場所を撫でる。

 この空洞は虚になった証。

 そして魂魄から解放された証でもある。

 

 確かに人間の奴には魂魄が見えない。

 だが、それが当たり前だ。

 奴は人間で、ちゃんと生きているんだから。

 

 

 

 そして、実感する。

 

 

 _______俺は人間じゃない。

 その瞬間、俺の心がポッカリと空いたような気がした。

 だからと言って、本当に体に穴が空いてる訳では無かったが・・・

 

 ずっと不思議だった。

 俺は死んだのに心臓が確かに動いていることを。

 それはなぜか?

 

 俺が完全に虚になることを拒んだから。

 だから中途半端な実力がついた。

 俺は完全に虚にも成りきれず、人間にも成りきれずにいた。

 

 俺は人間の俺を見る。

 おそらく、こいつがいなくなれば、俺の心臓は止まる。

 なぜならこいつは人間の部分の俺だから。

 こいつを斬れば、俺は確実に人間では無くなる。

 それでも・・・俺は______

 

「なんだぁ、その目はよ?」

 

「いや、ただお前に言いたいことがある」

 

「ケケケッ!最後の遺言か?ならちゃんと聞いてやるよ」

 

「______今までありがとう。俺は_______

 

 

 

 

 

 

 

 ______________虚だ」

 

 

「な!?」

 

 俺の言ったことがあまりにも以外だったのか、奴は目を剥く。

 しかし、奴は俺に突っ込んでくる。

 

「そんなこと言っても無駄だぜ!!!」

 

 俺は奴の斬魄刀を振り下ろす攻撃をギリギリ避ける。

 そして_______

 

「______じゃあな」

 

 俺は斬魄刀を振り下ろした。

 

 

 #

 

 

「また俺は負けたのか・・・」

 

「あぁ」

 

「・・・お前に会うのは今日で最後だろうな」

 

「あぁ」

 

「俺、なんだかんだ言ってお前の中楽しかったぜ。少なくとも俺は退屈しなかった」

 

「あぁ」

 

 奴はどんどんチリになって行く。

 それを止めることは出来ない。

 

「最後に、勝てよ。負けるな。今からもこれからも」

 

「あぁ、約束する」

 

「じゃぁな」

 

「ありがとう。そして、さようなら」

 

 奴はそして消えた。

 俺の中の空洞が広がっていくのを感じる。

 

 ・・・本当に心が抜け落ちた見たいだ。

 

 

 

 

「言っとくが、テメェはまだ弱い。俺たちの世界ならお前は一番弱い最下級大虚(ギリアン)の雑魚破面にも勝てはしねぇ」

 

 ・・・ノイトラの世界強過ぎない?

 

「だからって言い訳は無しだ。世界はそんな優しくねぇ。戦って負けたらそいつは生き延びたとしても、死んだも同然だ」

 

 俺はどんどん光に包まれて行く。

 おそらく、あの土煙からスタートなのだろう。

 

「幸い、テメェはまだ負けてねぇ。敗北は許さねぇ。勝てよ。そして奪え。

 _______そしてその心を埋めるまで奪い続けろ。いいな。カオル」

 

 そして俺は精神世界から現実に帰ってきた。

 

 #

 同時刻。

 グレイフィアサイド

 

「興味深いね。彼」

 

 グレイフィアの隣に腰掛けている人物、紅髪の魔王こと、サーぜクス・ルシファーがそう呟いた。

 

 グレイフィアは考える。

 自分の主にして、夫である彼が「興味深い」という人物を。

 

 彼、という言葉だけで自然と絞られてくる。

 ライザー眷属は全員が女子であるため、確実にない。

 となるとリアスお嬢様の眷属となる。

 リアスお嬢様の眷属の男子は二人。そして今回は例外が一人。

 

 まずは木場裕斗。

 リアスお嬢様の『騎士』。

 確かに神器も優秀だが、それでもインパクトが足りない。

 

 次に兵藤一誠。

 彼はまだ潜在能力が不明で、しかも神器はあの神滅具を所有している。

 

 最後に唯一人間の黒峰薫。

 神器はないが、人間から掛け離れた胆力を持っている。

 特徴的な獲物。

 そして黒い眼帯。

 未知数なのはダントツで彼だろう。

 

 初めは黒峰かとグレイフィアは思ったがすぐさま首を振る。

 

(確かに常識外れな実力。しかし、先ほどあんなにアッサリと負けた黒峰を果たして興味深いと言えるか?)

 

 答えはNO。

 ならば_______

 

「______兵藤一誠ですか?」

 

「残念。ハズレ」

 

「それでは黒峰薫ですか?」

 

「そうだよ」

 

「なぜ黒峰薫なんですか?あんな呆気なく負けたのに・・・」

 

「彼はまだ終わってないよ。きっと彼はライザーの女王に勝つよ。なんなら賭けてもいい」

 

 そう言われてグレイフィアは考える。

 とてもあの状況から勝てるとは思えない。

 

「いいですよ。私はライザー眷属の女王に賭けます」

 

 ザーゼクス様は笑いながら黒峰薫に賭けた。

 

「何を賭けます?」

 

「なんでもいいよ」

 

 そう言ってザーゼクス様は黒峰薫のモニターを眺める。

 

 その横顔は、子供のような好奇心。いや所有欲のようなものを灯していた。

 

 ザーゼクス様は小さく呟く。

 

「______さぁ、君の力を見させてもらおうか?」

 

 その時だった。

 土煙の中、人影がユラユラと写したのは。

 




案外短くする予定だったのにこんなに長くなったよ


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ゲーム終了!勝負の行方と試合の行方

・・・リアル多忙だったんだ。


 ユーベルーナサイド

 

「所詮は人間ね」

 

 ユーベルーナはそう呟き、ため息を吐いた。

 このゲームで唯一の人間。

 そして人間とは思えない身体能力を持つイレギュラー。

 その力は、こちらの『兵士』であるミラの一撃を軽く受け止めてしまう程だった。

 悪魔と人間。

 もはや種族が違うこの両者の差は例えるなら、ライオンと猫と言ったところだろう。

 その差を身体能力だけで埋めてしまった眼帯の男。

 ライザー様は興味深いと思われたようだが、結局は人間。

 その差はどれだけ異常でも埋めることは出来なかったようだ。

 

 ユーベルーナは黒峰がいるだろう場所から背を向ける。

 向かうのは我が『王』であるライザー様がいる場所。

 

(と言っても必要はないだろうけど・・・)

 

 そして歩き出そうとした瞬間だった。

 

「!?」

 

 ユーベルーナの身体が突如として体が重くなった。

 まるで重量が増したように感じた。

 身体を動かすこと自体がキツく感じる。

 それはまるで自分では絶対に敵わないものと相対した時のプレッシャーのようであった。

 

「何よ、これ...」

 

 呟いた瞬間にその重圧が消える。

 時間にしたら一瞬だが、ユーベルーナは自分の知らない未知に触れ、得体の知れない恐怖を覚えた。

 

 しかし、初めは一体なんなのか分からなかったユーベルーナだが、無意識のうちに足を止め黒峰がいた場所を見つめていた。

 確信はない。

 しかし、それしか考えられなかった。

 

 その時、土煙の中からさっきまで無かった人影が現れたのだった。

 

 #

 

 俺が目を覚ますと俺は土煙の中にいた。

 

 未だに全身がムチで打たれたように痛い。

 しかし起き上がれない程でもない。

 

「よっと」

 

 手をつきながら体を起こす。

 

 そのあと背筋をピンと伸ばす。

 そのあと、手を開いたり閉じたりする。

 

 どうやら体は問題なく動かすことができるようだ。

 

 そして、体中から今までに感じたことがない力のようなものが溢れてくるようだった。

 

 俺は地面に落ちている斬魄刀を拾う。

 そして、思いっきり横薙ぎに払った。

 

 その素振りは今までよりも鋭くなっていた。

 

 そして一瞬遅れて土煙が割れる。

 割れた先から俺を見て驚きの表情を見せるあの女がいた。

 

 しかしその驚愕も一瞬。

 すぐに余裕の表情になると右手を俺にゆっくりと差し出した。

 

「人間ごときがまだ立てるなんて驚いたわ。ゴキブリ並みね」

 

 ユーベルーナはあざ笑う。

 空中という圧倒的な有利。

 確かに黒峰はその強靭な胆力で距離を詰めることができるだろう。

 しかし、それでも黒峰の一撃を躱せないことはない。

 最初は驚いたが、今の警戒した状態で当たるとは思えなかった。

 

「人間、人間、てよ。俺はもう人間じゃねぇんだよ」

 

 黒峰はボソッと小さな声で呟く。

 

「何か言ったかしら?」

 

 どうやら黒峰の呟きは聞こえていたようだ。

 

 何を言ってるのか分からないようだったようだが。

 

 

「なんでもねぇよ」

 

 今、黒峰はムカついている。

 なぜならユーベルーナは勝ち誇ったかのように余裕の態度を崩さないからである。

 

 黒峰は斬魄刀を強く握る。

 

「来いよ、雑魚」

 

 軽い挑発。

 しかし、ユーベルーナは絶対に引っかかると黒峰は確信していた。

 なぜならユーベルーナは自分よりも格下と思っている黒峰から雑魚と呼ばれたからだ。

 それを許すのは彼女のプライドが許さない。

 故に挑発。

 

 

 今までの態度と言い、俺を見下す傾向が強いからな。

 

 

「人間風情が生意気な...!!」

 

 ユーベルーナはやはり挑発に乗ってきた。

 刹那、地面が爆ぜる。

 そして爆発の瞬間、俺は右に思いっきり飛んだ。

 

「な!?」

 

 ユーベルーナは驚愕の声を上げる。

 どうやらアレで決めたと決めつけて居たらしい。

 

 ユーベルーナが驚いている間に、俺は斬魄刀をユーベルーナに向かって槍投げのように投げた。

 

「ッ!!」

 

 二度目の驚愕。

 ユーベルーナは投げられた斬魄刀を身を逸らして避けようとする。

 そして、もともと狙いが甘かったため、外してしまった。

 

 外すのは狙ってたんだけどね。

 

「残念だったわね!!私の勝ちよ!」

 

 ユーベルーナは黒峰の奇行に確かに驚愕した。

 武器を投げたのである。

 それも黒峰の唯一の武器を、である。

 

 と言っても黒峰はそんな無駄なことはしないのだが。

 

 しかし、ユーベルーナは黒峰が鎖のようなものを引っ張る動作を見て、その鎖をある方を見て、三度目の驚愕をする。

 

「な!?」

 

 ユーベルーナの背後には、自分めがけて黒峰の得物がUターンしてきていた。

 それはユーベルーナ一直線に向かってきている。

 

 慌てて躱そうとした瞬間だった。

 

 ユーベルーナの右手首を誰かが掴み、その回避を許さなかった。

 

 ユーベルーナは右手首を掴んだ人物をみる。

 そこにいたのは黒い眼帯の黒髪の男。

 黒峰だった。

 

「俺から目離したな?」

 

 黒峰はユーベルーナの右手首を握る手に力を入れていく。

 まるで万力に手を挟まれているかのようだった。

 着実に圧力が加速していく。

 そして、ゴキッ、と右手から骨が砕けた鈍い音が響いた。

 

「____!!!?」

 

 痛みのあまり、叫び声すら上げることができなかった。

 

 そして痛みに悶える暇も無く、黒峰の右手にはあの8の字の得物が握られていた。

 

「終わりだ」

 

 黒峰は短く言い放つ。

 そして黒峰は斬魄刀を振り下ろした。

 

 #

 

 ユーベルーナは肩から思いっきり切り裂かれ地に落ちた。

 

 俺も重力に身をまかせ地面に降り立つ。

 

 そして、地面に足をつけた瞬間、地面が爆発した。

 

 衝撃から身を守るように体を丸めて地面を転がる。

 ダメージは思ったよりも少なかった。

 

 ユーベルーナが落ちた場所を睨む。

 するとそこから"無傷の状態"のユーベルーナが現れた。

 

「なん・・・だと?」

 

 切り裂いた時、確かに手応えはあった。

 しかしユーベルーナは無傷だ。

 訳が分からない。

 悪魔には高速再生でもあるというのか?

 

「腑に落ちないって顔ね」

 

 ユーベルーナは俺の動揺を見抜いていたようだ。

 

「どうせ悪魔ならすぐに回復するとでも思ってるんじゃない?」

 

 おい、ノイトラと同じでこいつらエスパーかよ。

 ユーベルーナは俺の心情を読み取ったのかクスクスと笑う。

 

「残念だけどタネはちゃんとあるわ」

 

 そう言うと懐からからの水晶瓶を取り出す。

 それを俺に見せつけるかのように前に差し出す。

 

「これは『フェニックスの涙』って言うの」

 

 フェニックスの涙ってフェニックスの羽と名前違くない?

 FFなら戦闘不能のやつを復活させるやつだろ?

 

「これを使えば腕がもげても再生することができるわ」

 

 簡単に言うならリアルビ○コロですね。分かります。

 

「おい、そんなもんいくつもあったらゲーム勝てねぇじゃねぇか」

 

 そう、そのフェニックスの涙が何個もあったら格下相手でも格上に勝ててしまう。

 

「そう、その通りよ。これがあればゲームのバランスが崩れてしまうわ。だからレーティングゲームではこれを使う回数が決められているわ」

 

「何回なんだ?」

 

 正直、起き上がるたびに倒してやるからいいけどな。

 

「だいたい一回ね」

 

 なんだ、もう一回やればいいのか。

 

「安心したぜ。____弱え奴を嬲る趣味はねぇからな!!」

 

 俺はそう言った瞬間にユーベルーナに向かって駆け出す。

 

 完全に虚になったからなのか、はじめよりも身体能力が飛躍的に上がった。

 

 はじめの俺ならユーベルーナにフェニックスの涙を使わせることすら出来なかっただろう。

 

 その強くなったという実感のせいで、俺はユーベルーナを完全に舐めていた。

 

「さっきまでの私じゃないわよ!」

 

 ユーベルーナはそう言うと俺に手を差し出す。

 その時、俺の第六感がアラームを鳴らす。

 

 そして、目の前が真っ白に染まった。

 

 後ろに吹き飛ばされる。

 

(さっきの爆発ヤベェな)

 

 躱しきれないほどの範囲攻撃。

 そして威力の高さ。

 やっと本気を出したのだろう。

 

「クソが」

 

 俺は立ち上がり、愚痴を言う

 しかし内心は相当焦っていた。

 

(あれはヤバイな。さっきのは運が良くダメージが少なかったが、次はないだろうな...)

 

 そんな俺の内心が顔に写っていたのか、ユーベルーナは優越に満ちた表情で俺に言う。

 

「確かに貴方は強いわ。でも近づかなければ怖くないのよ!!」

 

 ユーベルーナは俺に暇を与えることなく爆発させる。

 そして俺は爆発を避けるために横に走る。

 

 そして俺は内心必死になって考える。

 

 斬魄刀をもう一度投げたらどうだ?

 

 おそらく斬魄刀を投げるという手段は通じないだろう。

 あれは不意打ちという意味合いが強いからだ。

 

 ではどうするか?

 

 やはり近づくしかない。

 

 ユーベルーナは俺の速度に慣れてきたのか爆発させる場所の正確さが増してきているように感じる。

 

 だが、近づいたら、攻撃の格好の的だろう。

 だがこれしかないだろう。

 

 俺は駆ける。

 そして、俺はユーベルーナの方に駆け出した。

 

 その瞬間、ユーベルーナは冷酷な笑みを浮かべる。

 

 それもそうだろう。

 

 相手からしたら、どんどん的が大きくなっていくようなものなのだから。

 

 俺は直感に頼りながら横に避ける。

 

 着実にだが、確実に近づいている。

 

 しかし、俺の直感もこれが限界だったようだ。

 近づいて行くたびに俺は躱しきれなくなっていった。

 

(___躱し切れねぇ!!)

 

 俺は横に避けようとするがもう既に遅い。

 爆発は俺を巻き込もうとした。

 

 普通は躱すことは出来ないだろう。

 

 

 しかし、俺の本能が不可能を可能にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、俺の視線の位置が変わる。

 そして、爆発はすぐ横で起こった。

 

 響転(ソニード)。

 

 足に力を爆発させることによって出来る高速移動。

 

 その速度は消えたように見えるほど速い。

 

 

「な!?」

 

 

 ユーベルーナさえこれには驚愕している。

 その驚愕の表情を見て、俺は心の中で舌を巻いた。

 そして俺は思わず口を歪めた。

 

「行くぞ!オラァ!!」

 

 俺は何度も響転しながらユーベルーナに近づく。

 ユーベルーナはすぐさま対応するが、響転の速度について来れず、俺の一歩後ろで爆発する。

 

 そして俺はユーベルーナを捉えた。

 

 俺は斬魄刀を振り下ろす。

 確実に入ったと俺は油断したのかもしれない。

 その瞬間、ユーベルーナは自分の足元を爆発させて回避した。

 

 そして、爆発の余波を俺に向けさせることによって俺を吹き飛ばす。

 

 俺は吹き飛ばされながら、斬魄刀を地面に刺し無理矢理体制を整える。

 

 

「...今のは効いたぜ」

 

 そしてユーベルーナにまた距離をつけられてしまった。

 ユーベルーナは俺を見据えながらあざ笑う。

 

 

「確かにその瞬間移動みたいのには驚いたわ。でも近づかさせなければ怖くないわ!!」

 

 確かにその通りだと思う。

 今の俺なら近距離攻撃しか出来なかっただろう。

 

 しかし今の俺は?

 もう人間でなくなった今の俺は?

 

 俺は左目があった場所を撫でる。

 眼帯越しにわかるクッキリと空いた空洞。

 

 虚になった証。

 もう俺は人間じゃない。

 

 心に空いた空洞を思い浮かべる。

 ポッカリとした空洞。

 もうこの穴は埋まることはないだろう。

 

 それでもその空洞を何かで埋めたいと俺の本能が羨望する。

 

 意味が無いのは分かってる。

 それでも埋めようと足掻かなければいけないと本能が警告する。

 

「確かに今までの俺なら近かづかないと攻撃できねぇ。・・・だがな、いつ俺が遠距離攻撃できねぇなんて言った?」

 

 ユーベルーナは更にあざ笑う。

 それもそうだろう。

 相手からすれば俺の言葉は苦し紛れにしか聞こえないのだから。

 いきなり俺は遠距離攻撃が出来ます、と手ぶらの状態で言い出したら、それは戯言だと思うだろう。

 

 俺は斬魄刀を地面に突き刺したまま、人差し指と中指をユーベルーナに向ける。

 指先に力が収束していくようにイメージをする。

 すると赤黒い光が指先に収束していた。

 

 そしてその光を解放させる。

 

「虚閃(セロ)」

 

 放たれる赤黒い閃光。

 一直線にユーベルーナの元に向かっていく。

 

 ユーベルーナは笑うのをやめ、驚愕の表情を作る。

 

「・・・クッ!」

 

 ユーベルーナは避けようとするが間に合わず、右手を虚閃に飲み込まれる。

 右手はまるで炎に焼かれたように黒く焦げる。

 苦悶の表情を浮かべるユーベルーナ。

 

 普通ならのたうち回るほどの痛みが走っているはずなのに立っていられるのは彼女のプライドが許さないからだ。

 

 そんなユーベルーナであったが、黒峰は無慈悲であった。

 

 黒峰は次の虚閃を放つ。

 放つたびにユーベルーナ避けきれずにどこか負傷して行く。

 

 そして虚閃を放つたびに黒峰はユーベルーナに近づいて行った。

 

 ゆっくりと。

 確実に。

 相手を削り取りながら。

 無慈悲に。

 

 黒峰が彼女に近づくと、すでにユーベルーナはボロボロであった。

 

 誰がこの決着を予想しただろうか。

 

 一方的に人間が悪魔を嬲るという構造を。

 

 真実を言えば黒峰は虚だ。

 しかし現実に黒峰の正体を知る者は誰もいない。

 

「楽しかったぜ」

 

 黒峰はボロボロになったユーベルーナに言う。

 ユーベルーナは息を荒くしながらも戦意は衰えていないようだった。

 

「____じゃあな」

 

 黒峰は斬魄刀を振り下ろす。

 

『ライザー・フェニックス様の女王、リタイヤ』

 

 そして黒峰は勝負に幕を閉じた。

 

 

「クククククク」

 

 黒峰は笑う。

 

「アハハハハ!!」

 

 狂ったように笑う。

 

 黒峰は今日、初めて闘いをした。

 木場との試合とは根本的に違う。

 そして初めての勝利。

 体中に歓喜という感情が巻き上がる。

 

 楽しかった。

 クセになってしまいそうになるほど。

 

 黒峰は笑う。

 

 やがて黒峰は斬魄刀を担ぎ、その場を後にする。

 残るは相手の『王』。

 

 今ならなんでも出来るような気さえする。

 足元が軽い。

 

 そんな時だった。

 それを耳にしたのは。

 

『リアス・グレモリー様の投了確認。以上でレーティングゲームを終了します』

 

 

「チッ」

 

 他がどうなったかとか負けたとかそういうことはどうでもいい。

 これ以上戦えないというのもある。

 しかしそんなことよりも黒峰は違うことにムカついていた。

 "リアス・グレモリーの投降"

 つまり、リアス先輩は戦わずに負けを認めたということなのだ。

 まだ敗北なら分かる。

 しかし投降ということは戦うことさえせずに逃げたのである。

 

「クソが」

 

 黒峰は悪態をつく。

 しかしそこに彼を責める者は誰もいなかった。

 

 

 そうしてレーティングゲームの終了したのだった。

 

 

 

 

 




何・・・だと?をやっと入れることができた(笑)
最近ノイトラがツンデレに見えてきたこの頃。


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黒歌の憂鬱

ちょっと短いです。
特に読まなくてもいいかもです。


 俺が家に帰ると黒歌が出迎えに来てくれた。

 

 でもね、なんか黒歌の様子がおかしいんだ。

 

 俺が「ただいま〜」って言ったら、黒歌も「おかえりなさい」っていうやり取りが毎回あったんだ。

 しかし今回は違った。

 

「ただいま〜」

 

「・・・」

 

 黒歌がなんか知らんけど俺を警戒してる件。

 

 普通に悲しいんだけど。

 俺なんか嫌われることしたっけ?

 それともあれか。

 思春期特有のもう私に話しかけるな的なアレか。

 

「・・・誰ニャン?」

 

 ヤベェ。

 めっちゃ悲しい。

 

 一日会わなかっただけで「誰?」って酷くない?

 まず俺に似てる奴がたくさんいるならまだ分かる。

 でもね眼帯してる奴いる?

 俺未だに見たことないんだけど。

 俺以外。

 

「不用意に動いたら殺すニャン」

 

 しかも不用意に動いたら殺す発言。

 マジで黒歌さん俺を疑ってきてる。

 

 黒歌さんマジで構えてるんだけど。

 何それ怖い。

 

「俺だよ、俺」

 

 なんか詐欺みたいになっちゃった。

 というかマジでこれ以外にどう返したらいいの?

 

「誰ニャン?」

 

「俺は黒峰薫。バリバリの高校二年生」

 

 黒歌の目つきがめっちゃ厳しくなったんだけど・・・

 

 バリバリの高校二年生ってふざけ過ぎたのかな?

 でも実際バリバリの高校だし・・・

 

「真剣に答えるニャン。人の皮を被ってることくらい分かるニャン」

 

 俺、人の皮被ってないんだけど・・・

 確かに人の皮被ってるって言ったは被ってるけどみんな同じでしょ?

 

「だから俺は黒峰だって」

 

「違うニャン」

 

「なんでだよ?」

 

「カオルの気を感じないニャン」

 

 気ってなんですか?

 ドラグソボールのことですか?

 マジでそれなら黒歌には、かめはめ波を撃って欲しいな。

 

「・・・気ってのはなんだ?」

 

「気は生き物は必ず持っているものニャン。それなのに貴方にはそれを感じないニャン」

 

 生き物は気を必ず持っていると。

 そして俺には感じないと。

 そりゃあ、俺生きてないしね。

 

 前の俺は虚だけど完全に虚じゃなかったからまだ生きていた。

 だが今はどうだろうか?

 俺は"あの時"人間の俺を殺して俺は完全な虚になった。

 虚とは悪霊。

 つまり死んだ後の存在。

 

 生き物が気を持っているなら死んだ俺は気がないのだろう。

 

「黒歌、俺は人間をやめたんだ」

 

 頭の中で、「俺は人間をやめるぞ、ジョジョーー!!!」と流れる。

 そもそも、いきなり「俺は人間やめた」なんて言われてちゃんと受け止める人は何人くらいいるだろうか?

 

 

「何バカなこと言ってるニャ。たとえ人間やめたからといって、気が無くなることはあり得ないニャン

 

「いや、俺もう心臓止まってるんだわ」

 

「何言ってるニャン」

 

 確かに目の前の人間が、俺心臓止まってるんだ、と言われたらそりゃあ頭狂ったと思われるはなぁ。

 

「俺の左目のとこに穴あるじゃん?やっぱり俺死んでたんだわ」

 

「もういいニャン。ならなんで今頃心臓が止まったのかニャン?そしてなんで動いてるニャン?」

 

 なんでって言われてもう止まったもんは止まったんだしさ。

 そもそも虚のこと言っても信じないだろうし。

 

 Q:なんで心臓止まってるの?

 

 A:死んだから。

 

 もうこん位しか返す言葉がないんだけど・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 お互い何も言わずに沈黙の間が続く。

 

「そんなに言いたくないならもういいニャン」

 

「・・・ありがとう」

 

 こうして俺の日常(?)が戻ったのだった。

 

 

 #

 

 

 黒歌サイド

 

 

「ただいま〜」

 

 いつもの声が家に響く。

 私はすぐに玄関の方へ向かって行った。

 

 そして、おかえりなさいと言おうとした時だった。

 私は彼に『気』が無い事に気づいた。

 

 生き物には必ず気がある。

 しかし目の前の者は普通に存在しているし、生きているようにも見える。

 

 だから余計に黒歌は混乱した。

 普通ならあり得ない現象。

 これが夢だと言われた方がまだ納得出来るような気さえする。

 

 目の前の人物について観察する。

 気は一切流れていない。

 しかし動いている。

 それも黒峰の姿で。

 

 彼は私を見て不思議そうにしていた。

 

 敵ではないのかもしれない。

 しかし、相手が得体の知れない分だけ、その表情すら演技に見えてしまう。

 

 黒歌は考える。

 

 相手は一体何の為にこんなことをするのか?

 

 とりあえず目の前のこれは人形だろう。

 それしかあり得ない。

 なぜなら生きていないのだから。

 

 そして、油断した隙に黒歌を取り押さえるつもりなのかもしれない。

 

 黒歌は悪魔の中で犯罪者である。

 それもSSランクのはぐれ悪魔だ。

 いくら妹を守るために主を殺したと言っても犯罪者は犯罪者なのだ。

 

「誰ニャン?」

 

 このまま考えていても仕方ないと黒歌は考え、相手側に"私は貴方が偽物だと分かっている"アピールをする。

 普通ならここで相手は何らかの行動をする。

 もしかしたらバレたことに気づき、私に特攻をかけてくるかもしれない。

 相手の同行を探りながら、いつでも対応できるようにしておく。

 

 

 しかし、目の前のこいつは困ったような表情をするだけだった。

 

 その何もしないといった雰囲気がさらに私の防衛本能を高ぶらせる。

 

「不用意に動いたら殺すニャン」

 

 相手はまた困ったような表情をするだけで何もしない。

 

 こいつは一体何を狙っている?

 

「俺だよ、俺」

 

 いきなりそう言い出した。

 まさかここで自分の名前を出さずに来るとは思わなかった。

 もし仮に自分が相手側なら「俺だよ、俺」とは言わないだろう。

 せめて名前を言うはずだ。

 

「誰ニャン?」

 

「俺は黒峰薫。バリバリの高校二年生」

 

 こいつの狙いは一体なんなんだ?

 全く分からない。

 ただ、こいつがカオルが高校二年生だという情報を持っているということしか分からない。

 その情報を私に渡して一体何になるのだろうか?

 

「真剣に答えるニャン。人の皮を被ってることくらい分かるニャン」

 

 そう、貴方は人形。

 カオルにとても似ているただの動く人形。

 

「だから俺は黒峰だって」

 

「違うニャン」

 

「なんでだよ?」

 

「カオルの気を感じないニャン」

 

 そして奴はまた困惑の表情を覗かせる。

 

「・・・気ってのはなんだ?」

 

 正直教えてあげる義理はないのだが、あえて教える。

 

「気は生き物は必ず持っているものニャン。それなのに貴方にはそれを感じないニャン」

 

 そう、これが人形の欠点。

 命の無いものに気は宿らない。

 これで完全に相手は私が騙されないということを分かったはず。

 

 さぁ、どう出る?

 

「黒歌、俺は人間をやめたんだ」

 

 

 思わず「は?」と言いたくなった。

 

「何言ってるニャン」

 

「俺の左目のとこに穴あるじゃん?やっぱり俺死んでたんだわ」

 

 なんと無茶苦茶なことだろうか。

 いきなり人間をやめたと言い出しては、俺はやっぱり死んでいた発言。

 チグハグ過ぎて意味が分からない。

 

 

「もういいニャン。ならなんで今頃心臓が止まったのかニャン?そしてなんで動いてるニャン?」

 

 

 あの時はまだ生きていた。

 なのに今更死んだと言われても意味が分からない。

 時間差で死んだなんて聞いたこともない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

 互いに沈黙が続く。

 このままだと一生沈黙したままかもしれないと思うほど静まる。

 

 ・・・つまりは沈黙が答えというわけか。

 

「そんなに言いたくないならもういいニャン」

 

 黒歌の心の中ではもうどうにでもなれと思っていた。

 これでだまされたならそれはそれでいいのではないかと。

 

「・・・ありがとう」

 

 今日は警戒しておかなければ。

 心の中でそう思う黒歌だった。

 

 #

 

 

 その日からまた普通に生活がはじまった。

 

 あの日は結局何も起きずにそのまま日を跨いだ。

 

「おはよう」

 

 彼はいつも通り私に挨拶する。

 

「おはようニャン」

 

 やはり彼は黒峰だった。

 




気は生き物しか使えないという設定です。
Q妖怪って生きてるの?
A生きてると思う。
詳しいことは気にしないで下さい

すいません。小猫のこと子猫と書いていました。訂正します。


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月光校庭のエクスカリバー
霊圧


リアスの結婚式は書きませんでした。
なんでかって?
書くことが無いからです。
め、めんどくかったとかじゃないんだからね!


 レーティングゲームが終わってから特に何も無く終わった。

 

 いや、俺の知らぬ間に終わったと言った方が正しいだろうか。

 ゲーム決着から二日後、俺にリアス先輩の結婚式の招待状が届いた。

 だが、俺は招待状を見ないことにしてすぐにゴミに一直線に直行させた。

 

 別に行っても良かったが、正直戦うことが目的だったので、結婚式に行かなくてもいいかなと思ったからだ。

 

 それに面倒だし・・・。

 

 結末は知らないけどリアス先輩は普通に学校に通ってるし大丈夫なのだろう。

 

 というかリアス先輩は今、兵藤の家に住んでいるらしい。

 

 

 

 

 

 なにを言っているのかわからねーと思うが おれも何を言ってるのかわからなかった・・・頭がどうにかなりそうだった・・・ 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしい兵藤の片鱗を味わったぜ・・・・・・

 

 

 

 

 アーシアとリアス先輩と同棲してる兵藤は今どんな気持ちなのだろうか?

 

 ・・・考えるだけで殺したくなる。

 

 そんな煮えたくった激情を抑える。

 今、俺は何も無い緩やかな日常を過ごしている。

 思わずこのグータラとする快楽に溺れてしまいそうになる。

 

 その快楽の残り香にすがりながら俺は学校に登校する。

 足が重い。

 一日中家で休みたい。

 ずっと夏休みならいいのになぁ。

 

 そんなことを考えているといつの間にか学校についていた。

 

 #

 

 学校で俺はやはりボッチだった。

 

 ・・・辛い。

 

 みんなそれぞれグループがある。

 例えば兵藤のとこの変態3人集なんていい例だ。

 わざわざあれに自分から関わって行こうと思う人はいるだろうか?

 

 否、いない。

 

 あれは少し異常かもしれないが、俺からしたら五十歩百歩なのだ。

 

 辛いけど、別にそれで死ぬ訳じゃない。

 だからそれでもいっか、と俺は結論を出す。

 

 俺は机に伏し、寝る体制になる。

 

 これが俺の学校での日常。

 このまま学校が終わるまで寝続ける。

 

 学校が終わったら部室にも寄らずに帰る。

 

 そう、ただ寝るだけの簡単なお仕事なのだ。

 

 

 #

 

 

「最近木場の様子がおかしいんだ・・・」

 

 それは二時間目が終わった後の休み時間だった。

 目の前にいきなり立たれるから誰かと思ったら兵藤だった。

 そして俺を見た兵藤が何の脈絡も無くいきなり相談し始めたのだ。

 

 木場の様子がおかしいだ?

 知らんがな。

 どうせお前が原因なんだろ?

 俺に相談するな。

 リア充死ね。

 

「死ね」

 

 俺は短くそう言い切ると再び机に顔を伏せる。

 しかし、兵藤は焦ったように俺に話しかける。

 

「マジで木場がおかしいんだって。どうしたらいいかな?」

 

 だから知らねぇって。

 なんで原因も分からないのに俺が助言出来るんだよ。

 

「なんでおかしくなったのか原因は無いのか?」

 

 兵藤は少し考えると口を開く。

 

「俺の家で写真を見たからかもしれない!」

 

「・・・」

 

 俺は言葉を失った。

 否、俺は兵藤が何を言ってるか理解できなかった。

 一瞬後に意味を理解する。

 コンマ一秒にも満たない時間に俺は考える。

 

 こいつはヤバイ。

 一体どんな写真を木場に見せたのだろうか?

 少なくとも木場の様子がおかしくなるほどヤバイ品だったのだろう。

 

 しかも兵藤が写真と言ったら、もうエロい写真しかないだろう。

 その写真の主はきっとダイナマイトボディで可愛いに違いない。

 もしかしたら木場はそのまるでダイナマイトボディの女、略して『マダオ』に衝撃を受けたのかもしれない。

 そしていても立ってもいられなくなりおかしくなった。

 

 これが真実。

 悲しいかな真実。

 現実なんてそんなもんなんだよ。

 

 

 てか待てよ。

 兵藤お前なんで木場と家にいるの?

 ガチでホモなのか。

 美女二人と同棲しながら同性に走るとは。

 本当にこいつは異常だな。

 

 というか後ろでクラスの女子が色めき立ってるじゃねぇか。

 

「今聞いた!?木場君が兵藤君の家に行ったんだって!」

「ほんと!?やっぱり木場×兵藤は本当だったのね!」

「いいえ!兵藤×木場よ!!」

 

「「「「「「それだ!!」」」」」

 

 ・・・もう俺も擁護しきれないわ。

 というかガチでホモじゃないのか?

 

 兵藤がクラスの女子に弁明しにいき、何やら騒いる。

 

 俺は再び机に顔を伏せる。

 そして思う。

 

 哀れ兵藤。

 お前のことは忘れない。

 

 

 

 

 ・・・あ、そういえば兵藤が今日の昼休みに部活に来てくれって言われたような気がする。

 

 

 #

 

 昼休みになった。

 俺が部室に着くと俺以外は全員揃っていた。

 あれ?兵藤とアーシアがいなかったわ。

 そして俺が部室に入ると、なぜか小猫が俺を見てソワソワしだした。

 しかしすぐ俺に警戒する。

 

「・・・先輩」

 

「・・・なんだ?」

 

「・・・なんでもないです」

 

「そ、そうか」

 

 

 小猫の反応からして、きっと小猫も黒歌みたいに気を使うタイプのやつなんだろう。

 そして、俺から気を感じないので不審に感じてるんだろう。

 生きているものには必ず『気』がある。

 しかし俺は虚になったので気がない。

 虚のことは言うつもりはないが、後で説明しといた方がいいかな?

 

 あれ?

 そういえば小猫と黒歌似てないか?

 家に帰ったら聞いてみよ。

 

 そんなことを考えていると後ろで部活のドアをコンコンとノックされる音が響く。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 リアス先輩が短く言うとドアが開く。

 ドアから入って来たのはメガネをかけていてキリッとしている女。

 文句なく美少女と言えるだろう。

 そしてそいつの後ろからまるで付き従っているかのようにこれまた美青年が入ってくる。

 

 悪魔には美人しか居ないのかね?

 こいつらが悪魔かはまだ分からないが、部室に来るって事はそういうことなのだろう。

 悪魔と言って思い浮かべたのは兵藤だった。

 でもあいつも一応黙ってればモテそうな気がするし。

 そう考えると俺だけ普通なんじゃないか?

 こんだけ美人がいると普通な俺でもブサイクに見えるんじゃないか。

 マジでイケメン死ね。

 

「いらっしゃい、ソーナ。生徒会の方はいいのかしら?」

 

「優秀な部下達に任せています。そう時間をかけるわけでもありませんし」

 

 ソーナと呼ばれた奴が事務的に言う。

 やっぱりキリッとしてるなぁ。

 

 それはそうと生徒会とな。

 ついにこの学校を取り仕切る側も悪魔になってしまったのか・・・

 もう校長が悪魔って言われても驚かない自信があるぞ。

 

 それからお互いに自己紹介を始める。

 ソーナと呼ばれた少女の後ろにいた奴は匙元士郎というらしい。

 どうやら『兵士』の駒を4つ消費したらしい。

 正直どうでもいい。

 

 みんなが自己紹介をしてる時、俺は端で空気になっていた。

 だって自己紹介めんどくさいし。

 俺、関係ないし。

 

 そんなことを考えていると後ろのドアが開き、中から兵藤とアーシアが入ってくる。

 兵藤はソファーに座っているソーナ先輩達を見て驚愕の表情になる。

 

「せ、生徒会長……?」

 

 兵藤は生徒会長のことを知っているみたいだ。

 確かに美人だしな。

 兵藤だったら知っていても不思議ではない。

 

「なんだ、リアス先輩、俺たちの事を兵藤に話してないんですか?まぁ同じ悪魔なのに気づかないのもおかしいけどな」

 

 匙が兵藤に挑発するかのように煽る。

 確かに気づかない方もおかしいと俺も思うけどさ・・・。

 

「サジ、基本的に私たちは『表』の生活以外ではお互いに干渉しない事になっているのだから仕方ないのよ。彼は悪魔になって日が浅いわ。兵藤くんは当然の反応をしているだけ」

 

 悪魔にもルールみたいなものがあるのかね?

 そんなことをしている間に兵藤に姫島先輩がソーナのことを説明する。

 

「イッセーくんこのかたの本当のお名前はソーナ・シトリー様。上級悪魔のシトリー家の次期当主ですわ」

 

 上級悪魔か。

 確かライザーも上級悪魔だったよな。

 でも次期当主ってことはあそこまで強くないのだろう。

 そんなこと言ったらリアス先輩の兄魔王だしさ。

 

「会長と俺たちシトリー眷属の悪魔が日中動き回っているからこそ、平和な学園生活を送れているぜ。 ちなみに俺の名前は匙元士朗。2年生で会長の『兵士』だ」

 

「おおっ!俺と同じ兵士か!」

 

 自分と同じ『兵士』である仲間がいて嬉しかったのだろう。兵藤のテンションが上がる。

 

「俺としては変態3人組の1人であるおまえと同じなんてのが酷くプライド傷つくんだけどな……」

 

 まぁ、気持ちは分からんでもない。

 だからって口に出すなよ・・・

 

「なっ、なんだと!」

 

 兵藤はカッとなる。

 あの挑発にのってしまう兵藤はバカだと思う。

 

「おっ? やるか? こう見えても俺は駒4つ消費の『兵士』だぜ? 最近悪魔になったばかりだが、兵藤なんぞに負けるかよ」

 

 匙めっちゃ兵藤煽ってるなぁ。

 このまま喧嘩勃発か、と思われた時ソーナ先輩が止めに入った。

 

「サジ。お止めなさい」

 

「し、しかし、会長!」

 

「今日ここへ来たのは、この学園を根城にする上級悪魔同士、最近下僕にした悪魔を紹介し合うためです。つまり、あなたとリアスのところの兵藤くんとアルジェントさんと・・・、私の眷属なら、私に恥をかかせないこと」

 

 ソーナ先輩は冷静に匙を諭す。

 

「サジ、今のあなたでは兵藤くんに勝てません。彼は『兵士』の駒を8つも消費した事は知っているでしょう。加えて、フェニックス家の三男を倒したのは兵藤くんです。兵士の駒八つ消費は伊達ではないと言うことです」

 

 流石に匙もそこまで言われては息詰まる。

 

「そ、それは……」

 

 ソーナ先輩は兵藤達に頭を下げる。

 

「ごめんなさい、兵藤一誠くん、アーシア・アルジェントさん、うちの眷属はあなたがたより実績がないので、失礼な部分が多いのです。よろしければ同じ新人の悪魔同士、仲良くしてあげてください」

 

 ソーナ先輩は薄っすらと微笑みながら言う。

 

 俺は思ったんだ。

 

 ・・・俺いらなくね?

 

 #

 

 

 あれから色々あったが、そろそろソーナ先輩達が帰ろうとしたときだった。

 

「ところでお前誰だ?」

 

 匙は俺を見ながらそう言った。

 俺はずっと空気だったのに結局バレてたよ。

 

「俺はく・・・」

「彼は黒峰君よ。ちなみに悪魔ではないわ」

 

 リアス先輩は俺が言うのを遮って言った。

 

 俺の出番・・・

 

「ふ〜ん」

 

 匙は興味なさそうに呟く。

 というか興味ないんだろうけどさ。

 

「なんでこいつをいるんだ?」

 

 匙は俺をこいつ呼ばわりした。

 

 なんかこいつムカつく。

 

「私が呼んだのよ」

 

 リアス先輩がそう答える。

 すると匙は俺に俺に向かって手を差し出してきた。

 

 握手しろってか?

 

「人間のお前に言うけどあんまりこっちに関わらない方がいいぜ」

 

 俺が握手に応じる。

 すると匙はある程度握力をいれてきた。

 人間の手なら骨折したかもしれない。

 きっと匙は俺に悪魔と関わらない方がいいというのを忠告するためにやっているのだろう。

 俺は虚だから痛くもかゆくもないが、匙は俺が人間だと思って忠告してきたわけだ。

 確かにただの人間なら有効かもしれない。

 

 だが、舐められたもんだなぁ。

 

「・・・調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

 俺はドスの効いた低い声で言う。

 そしてその瞬間、自分の力『霊圧』を解放させる。

 

 すると、辺りはまるで何かに押しつぶされるかのような重圧が起こる。

 

「な!?」

 

 匙は驚愕する。

 

 そして目の前の人間。黒峰から目を離せないでいた。

 それは潜在的な本能。

 絶対に目の前の人物から目を離すな、と本能が叫ぶ。

 そして、体重が何倍にも増えたかのような圧力。

 思わず膝を屈しそうになるが、本能がそれを許さない。

 絶対に膝を付くな、と。

 さもないと殺されるぞ、と。

 

 息を忘れるほど凝縮された時間。

 一秒が何百秒にも感じるほどの時間の密度。

 

 だんだん視点が定まらなくなっていく。

 まるで魂が押しつぶされるかのようだった。

 

 突然重圧が止む。

 その瞬間、匙は床に倒れこんだ。

 

「・・・ハァ、ハァ、ハァ」

 

 呼吸をするのを忘れて、匙は窒息しかけていた。

 だんだん焦点も合わさってきて周りの光景が見えるようになる。

 

 黒峰は俺を見下ろしていた。

 それは俺が黒峰を見下していたように。

 

「・・・おい、立てるか?」

 

 しかし黒峰はしゃがみこんで俺に手を差し伸べた。

 黒峰は「立てるだろ?」と言っているかのように口を三日月のようにしていた。

 思わず俺もフッと笑う。

 

「あぁ、立てるよ」

 

 そして黒峰と再び握手する。

 そして俺は再び自己紹介をする。

 

「俺は匙元士郎だ。よろしく」

 

「よろしく」

 

 __こうして謎の友情が形成されたのだった。

 

 

 #

イッセーサイド

 

 あのレーティングゲームが終わってから黒峰の雰囲気が変わった。

 

 それはすぐに分かった。

 

 部長の結婚式をぶち壊したあと、学校に久しぶりに行った。

 その時、黒峰から異様な雰囲気を感じた。

 もしくは違和感なのかもしれない。

 ただ前とは何かが違う。

 

 それは教室の周りのみんなも無意識に感じているんだろう。

 前から話しにくい存在であったのに、更に話しにくくなった。

 だからと言って、会話してみると普通に会話できるし、自分がおかしいんじゃないかと思う時がある。

 

 でもやっぱりそれは違った。

 

 それは部室でのことだった。

 

 匙が黒峰に握手した。

 その時黒峰は思わず体が竦むほど低い声で呟いた。

 

「・・・調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

 その瞬間、俺は思わず膝を屈しそうになる。

 それは周りも同じなようで驚愕の表情を見せる。

 そして匙は目がボーとして虚ろになっている。

 

 すぐに重圧は解放され、解放させた瞬間匙は倒れ込む。

 

 あの重圧をまともに受けたのだ。

 自分の感じたものよりももっとひどいのだろう。

 

 結局それから何も起こらなかった。

 

 だが兵藤は思った。

 

 黒峰が敵でなくて良かったな、と。

 

 

 




低評価の方、何がダメか教えてくれると嬉しいです。


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