ハリーポッターと月のコウモリ (セコムマサダ)
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スラムにて
ホグワーツ魔法魔術学校の校長、アルバス=ダンブルドアはロンドンの街に来ていた。
マグル界で生まれた魔法使いの子供を迎え入れることもあるため、校長として必要な仕事があったからだ。
そしてその仕事も終わり、彼は街を歩いていた。
列車の発車時刻までは、まだ時間があり、暇な時間。
仕事の疲れもあってか、彼はこうした時間に街をうろつくのが好きだった。
町並みを見ながら、その辺りの売店で買ったフィッシュアンドチップスを頬張りながらぶらつく。
もう結構な歳ではあるが彼には意外とこういった子供っぽいところがあった。
そうこうしながらも、彼の足は次第に人気の少ない郊外へと向かう。
いわゆるスラムと呼ばれるような場所に彼の足は向いていた。
そう言ったところに足が向いてしまうのはやはり少年のような冒険心を彼がまだ持っているからだろう。
危険と知りながらもそう言った場所に足を踏み入れる。
その心情は不味い味に当たると知りながらも『百味ビーンズ』を食べる心境に似ている。
そしてしばらく周りを探索しながらもそろそろ戻らねば列車に遅れるな、と足を翻そうとした時、彼は『それ』を見た。
壁に描かれた『落書き』を見てしまった。
普通の人が見れば何の変哲もない落書きにしか映らないだろう。
ペンキで彩られたビビッドカラーの鮮やかな絵。
そこには大蜘蛛と大男、それを指差す大蛇を従えた少年、そして少年の側に横たわる眼鏡をかけた少女の絵が書かれていた。
それを見たダンブルドアの表情が凍る。
なぜならそれは数十年前に見た光景であったから。
誰も知らないはずの出来事。
そもそも、ここはロンドンの、マグルの世界である。
魔法学校内で起きた出来事など、誰もしらないはず。
そうであるというのにそんな絵がそこにはあった。
ダンブルドアの心臓が早鐘を打つ。
そして、ダンブルドアは落書きの先を見る。
また、ダンブルドアは驚愕した。
絵には続きがあったのだ。
稲妻のような模様を額につけた赤子とそれを抱く母親らしき女性の絵。
更にそれを攻撃するように杖を構えた男の絵。
それがちょうど壁の曲がり角に差し当たる部分に書かれていた。
ダンブルドアは思わず駆け出しその絵の前に立つ。
「これは……一体……」
思わずそう、口にする。
これは彼が、いや、魔法使いであるのならば誰であろうと知っていることだった。
そしてダンブルドアは周りを見渡す。
まだ、続きがあるのでは?と思ったからだ。
だが、辺りには他には絵はない。
ダンブルドアは曲がり角の奥へと歩を進める。
「――――願いをかなえて、ビリーバット♪」
そこには少年がいた。
まだ、10歳にも満たないような小さな、ボロのような服を着た少年がそこで歌を歌いながら絵を描いていた。
ペンキの桶をそばに置き、脚立に座ったり、立ったりして、ハケを自在に操っている。
「それで?続きはどうなるの?」
少年は何やら誰かと会話しながらハケを動かしていた。
その『何か』はダンブルドアの目には見えなかったが、彼には『何か』が見えているようで、楽しそうに話している。
「え?横を見ろ?っうわ!」
そして、その『何か』は彼にダンブルドアの存在を知らせたらしい。
不意に横を見たせいで、少年は脚立に置いていたペンキの入った容器を落としてしまう。
「あー、もったいない……。で、コイツ誰?え、魔法学校の校長?ふーん?」
「君は、何者なんじゃ……」
どうやら、その『何者か』はこちらを知っているらしい。
思わずダンブルドアは少年に尋ねる。
「え?俺?俺はケヴィン。ケヴィン=スミス」
こうして、ダンブルドアは少年と出会った。
これが、全ての始まり。
魔法界の誰もが終わったと思っていた物語が再び産声を上げた瞬間だった。
向かい合う彼らの横の壁にはおどろおどろしい男が大鍋の釜から飛び出す描きかけの絵がある。
そして、この事が魔法界どころか全世界を揺るがす出来事になるなど、まだ誰も知らなかった。
風呂敷をたためる気がしないクロス。
なんでこんなん思いついたやら……
更新は非常にゆっくり、月一レベルですがお付き合いいただければ幸いです。
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