魔法少女リリカルなのは Vivid Pure Light (ライジングスカイ)
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新たな翼編
wish:1 スピリチュアル・ハート


というわけでまたまた帰ってきました
3作目になってぐるっと一周回ってしまいました
なお今期は今までのものより長くなる予定です


第1世界ミッドチルダ

魔法と科学が発展し、様々な事件があったこの世界

現在は大きな事件もなく平和な毎日

これはそんな平和な日々を過ごすある少女の物語

 

枕元に置かれた時計から目覚ましのベルが鳴り響く

ベッドで眠る少女が何とか手を伸ばしスイッチを押すとそのまま起き上がった

カーテンを開き朝日に目がくらみそうになるも雲の少ない晴れやかな空に笑顔になる

「うん、今日もいいことありそう」

 

淡い茶色の髪を青いリボンでツインテールに結び、制服に着替えを終える

「シルヴィア、朝ごはんだよ」

「あ、はーい、今行きます」

 

私、高町シルヴィア10歳、ミッドチルダ在住で魔法学院初等科に通う4年生

 

シルヴィアがカバンを片手にリビングに降りるとサイドポニーの女性が朝食を並べているところだった

「おはよう、シルヴィア」

「なのはママおはよう、今日もご機嫌だね」

そう言ってカバンを置き椅子に腰かけるシルヴィア

 

この人はなのはママこと高町なのはさん

正確には、ママのママなんだけど、お母さんもそう呼んでるし、本人もまだお婆ちゃん、って感じではないので、私もそう呼んでる

ちっちゃい頃からそうだったらしくて本人も私にそう呼ばれるのすっかり慣れたみたい

 

「おはようございます、マスター」

リビングにもう一人、黒い髪を腰まで伸ばした少女が現れる

「おはようサマーラ、っていうか、そのマスターっていうのやめてっていつも言ってるでしょ」

「あ、すいません、気をつけてはいるんですが」

「もぉ」

無意識のうちにやっていたらしいサマーラは思わず口を押さえてしまい苦笑いする

「ほら、サマーラも席についてて」

 

この女の子は私が契約している守護獣、黒き翼のサマーラ

元々は烏で、本当の姿はもっと大人の女性って感じなんだけど

私に負担をかけないようにって、普段は子供の姿で暮らしている

ちなみに契約の内容は私のことを守る、だったらしいんだけど、実を言うと契約した時のことはよく覚えていない

 

「いってきまーす」

そう言ってなのはとハイタッチすると走り出すシルヴィア

「じゃ、サマーラ、お留守番お願いね」

そう言ってなのはもカバン片手に仕事に行くため出かけていく

 

シルヴィアやたくさんの子供たちが学校へ向かう道を歩いていた

「ごきげんよう」

道行く生徒達と挨拶を交わしながら進むシルヴィア

「シルヴィア」

そんな彼女に後ろから声をかけるブロンドのロングヘアーの少女

「アルマ!ごきげんよう」

「うん、今日も元気そうだね」

シルヴィアに対して柔らかい笑顔で返すアルマ

 

アルマは去年私と同じクラスに転校してきた友達

きっかけは周りになじめなくて困っていたアルマを私が助けてあげたこと

最初は戸惑っていたみたいだけど今では親友同士

 

このStヒルデ魔法学院は私のママも通っていた教会系列のミッションスクール

私のママは管理局に勤める魔導師で、とっても強い私の憧れ

そんなママに少しでも近づきたくて私はこの学校を選んだ

 

始業式を終え帰路を歩くシルヴィアとアルマ

ふとアルマのつけていたブレスレットが点滅する

「アルマのそれって専用のデバイスでしょ?」

「うん、シルヴィアはまだ持ってないんだよね?」

「うちはそういうの結構厳しくて、ほしいなぁっては思ってるんだけど」

アルマの問いかけに肩を落とすシルヴィア

 

デバイスっていうのは、魔法を使う時に私たちのことを助けてくれるパートナー

どんな時でも私たちを支えてくれる大切な存在

なんて偉そうに言ってるけど、私はまだ自分のデバイスはまだ持っていなくて

ママ達が言うには、私はまだ基礎を覚えてる最中だからって

そんな私がサマーラみたいな守護獣を持っているのはもちろん理由があって

4年前まで私は、悪い人たちの操り人形として利用されていた

そんな私を助けてくれたのがママだった

それから私はママに本当の子供みたいに育ててもらって

今、とっても幸せです

 

「じゃあアルマ、また明日ね」

「うん、明日は魔法戦の先生紹介してくれる約束だったよね」

「期待しててよ、すっごい人なんだから」

アルマと別れ自宅への道を行くシルヴィア

 

「ただいまー!」

帰宅したシルヴィアが玄関を上がると

「お帰り、シルヴィア」

出迎えたのはブロンドの髪をサイドポニーで結った女性、傍らにはウサギのぬいぐるみを連れている

「ママ!帰ってきてたの!?」

「うん、私もシルヴィアの進級をお祝いしたくて頑張ってお仕事終わらせたんだよ」

 

この人が私のママ、高町ヴィヴィオさん

普段お仕事が忙しくて、家のことはなのはママやサマーラに任せっきりになっちゃってるけど

その分一緒にいる時間を大事にしてくれる優しいママ

ちなみに一緒にいるのはママのパートナー、クリスことセイクリッドハート・ドリーム

ママのお仕事は危険なこともいっぱい、時には辛い思いをすることもあるんだけど

私と一緒の時はいつも笑顔でいてくれる、だから私も絶対に笑顔を絶やさないって決めている

 

シルヴィアがリビングにやってくると既に夕食が出来上がっていた

「きたきた」

「さあ、食べましょう」

なのはとサマーラに促されるまま席に着くなのはとヴィヴィオ

「いただきます」

4人で夕食を食べ始める

サマーラの口元をシルヴィアが拭いたり

なのはとヴィヴィオが最近のお仕事の話をしたり

ヴィヴィオとシルヴィアは学校の事、師の下で学んでいる魔法戦競技の事、シルヴィア自身の事

楽しい食事の時間は過ぎて行った

 

「ごちそうさまー」

「はい、おそまつさまでした」

「さ、今日も魔法の練習しなきゃ、ママに私が頑張ってる所見せてあげるんだ」

そう言って席を立つシルヴィアだったが

「ちょっと待ってシルヴィア」

そう言ってヴィヴィオがシルヴィアを呼びとめた

「何?」

「シルヴィアも四年生になって、魔法の基礎はだいぶ覚えてきたし、そろそろ自分のデバイスを持ってもいいんじゃないかって」

「本当!?」

なのはの言葉を受け瞳を輝かせるシルヴィア

その光景を見たヴィヴィオはくすくすと笑いながら小さな箱を取り出す

「実は今日、私が受け取ってきました」

なのはに肘で小突かれながら差し出すヴィヴィオ

シルヴィアは受け取ってすぐ箱を開ける

すると小さな白い鳥のようなものが彼女の肩に勢いよく飛び乗った

「うわぁ、小鳥さんだ」

「うん、シルヴィアはサマーラのマスターだし、白いカラスをモチーフにしてみたんだ」

ヴィヴィオの説明を聞きながら肩の愛機を撫でるシルヴィア

「クリスと同じぬいぐるみ外装(オーバーコート)のデバイス、シルヴィアに合わせた最新式だけど、中身はほとんどまっさらな状態」

「名前もまだないから、つけてあげて」

「実はずっと考えていたんだ、私の愛機の名前」

そう言って愛機を抱き寄せるシルヴィア

 

庭に出て術式を展開するシルヴィアの姿

「マスター認証、高町シルヴィア、術式はベルカ主体のミッド混合ハイブリット、私の愛機(デバイス)に個体名称を登録、愛称(マスコットネーム)はスピカ、正式名称、スピリチュアル・ハート」

それを聞いたなのはとヴィヴィオは顔を見合わせ小さく笑った

「スピリチュアル・ハート、セットアップ!」

シルヴィアがスピカを掲げると彼女の体が光に包まれる

 

舞うようにして手を振るうとグローブが装着され全身を覆うバリアジャケットが構成される

更に丈の短い白い上着が羽織るようにして構成されミニ丈のスカートと前開きのスカートが構成される

シルヴィアが思いっきり腕を広げると大きな白い翼が姿を現した

バリアジャケットの構成を終えたシルヴィアは軽く手足を振るって一回転すると右手を勢いよく伸ばして構える

 

セットアップを終えたシルヴィアは空中を浮遊しながら嬉しそうに両手を握った

「ありがとうママ、私この子大事にするから」

「そう言ってもらえると私も協力した甲斐があるなぁ」

「それにしても………」

なのははシルヴィアのバリアジャケット………もっと言うとその背中の大きな翼を見ていた

「いつ見ても立派な翼だね、似合ってるよ」

「えへへ、ありがとう、なのはママ」

そう言ってシルヴィアが笑うとぴょこぴょこと翼が動く

「あははっ、なんかもう自由自在だね」

「わたしなにもうごかしてないよ」

「えっ?じゃあその翼どうやって動かしてるの?」

シルヴィアの言葉に慌てて立ち上がるなのは

 

シルヴィアが家族とにぎやかなひと時を過ごしているのと同時刻

ミッドチルダ南部のとある道場で練習試合が行われていた

刀を持った少女が相手選手に向かって突っ込んでいく

そのまま抜刀して決めに行くが次の瞬間、吹っ飛んでいたのは彼女の方だった

刀も折られ、体はそのまま道場の床にたたきつけられる

意識もなく立ち上がる様子はない、相手選手は彼女に礼を送ると立会人の女性………ミカヤのもとに歩み寄った

「いい経験になりました、彼女の意識が戻ったらよろしく伝えてください」

そういって道場を出る

「最近いろんなところで聞く謎の強豪とは彼女のことだったのか」

ミカヤはそんな彼女の背中を見送りながら思わず息をのんだ



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wish:2 高町シルヴィア

覚えているのは、抱きしめられた記憶

気がついた時には目の前にいて、戸惑う私を抱きしめてくれた

それから、一人に戸惑う私に優しくしてくれて

居場所のない私を迎え入れてくれて、サマーラも一緒に居れるようにしてくれて

「最初はびっくりしたけど」

「その羽はスピカが動かしてるんだね」

ヴィヴィオの問いかけに羽がバサバサと動く

「ってことは、飛ぶ時はスピカの力で飛ぶことになるのかな?」

ためしに少し浮いてみるシルヴィア、だが若干ふらついてしまう

「っとっと、結構難しい」

「少し練習してみようか、スピカの慣らしもしないといけないし」

そう言って立ち上がるヴィヴィオ

「サマーラも手伝ってくれないかな?」

「わかりました、準備しますね」

そう言ってサマーラは椅子から降りると支度をしに行った

 

「じゃ、いってきます」

「なのはママ、いってきます」

なのはに見送られ魔法の練習をするために出かけるヴィヴィオとシルヴィア、そしてサマーラ

 

「そっか、シルヴィア喜んでくれたんだ」

「うん、今はヴィヴィオと一緒に魔法の練習行ってるよ、シャーリーには感謝しないと」

黒い制服に身を包んだブロンドのロングヘアーの女性と通信で話すなのは

「もちろんフェイトちゃんにも感謝してるよ」

「私がシルヴィアにしてあげられることと言えばこのくらいだからね、シャーリーには私から伝えておく」

そう言って笑顔を見せるフェイト

「そう言えば、シルヴィアは大人モード使わないんだね、私はてっきり………」

「うーん、使わないっていうより使えないって言った方がいいかな、あの子の魔法資質は特殊だから」

フェイトの言葉にため息交じりにそう答えるなのは

 

「とっとっと」

サマーラに手を取ってもらいながら飛行練習をするシルヴィア

「しっかりスピカと息を合わせて、呼吸がバラバラだからふらついちゃうんだよ」

そんな彼女の様子を見て助言するヴィヴィオ

ヴィヴィオの助言で少しづつ慣れてきたシルヴィア

やがてサマーラの補助なしで飛べるようになると

「シルヴィア、せっかくだからほかにもいろいろ練習してみようか」

そういって構えるヴィヴィオ

「遠慮せず打ちこんでおいで、シルヴィアがここまで努力してきた成果を私に見せてよ」

ヴィヴィオのその言葉にシルヴィアは驚きながらも構えた

「(帰ったらアルマにもメールしよう、明日からの練習も、スピカと一緒に頑張るんだ)」

 

「シルヴィアも自分のデバイス持つようになったんだ」

ナカジマ家ではジム経営のため離れて暮らすノーヴェとの通信の真っ最中だった

「思い出すッスねぇ、ヴィヴィオが初めてクリスと出会ったころの話」

「あの頃はまだノーヴェは師匠と呼ばれるのを嫌がっていたな」

「チンク姉昔の話はよしてよ」

姉妹たちの会話を聞いて小さく笑う長女のギンガ

「あ、そうだ、明日の通信だけどあたしちょっと帰り遅くなるから」

ノーヴェのその言葉に彼女たちの父親であるゲンヤ・ナカジマは首を傾げた

「べつにそりゃかまわねえけど、珍しいじゃねえか、なんかあんのか?」

「業者の点検で練習の開始が遅れるんだよ、一応練習時間縮めるけどそれでもいつもより遅くなるかな、何人か送って帰んないといけないし」

それを聞いたチンクが何かに気付いたかのように彼女を見た

「もしかしてそっちじゃないのか?遅くなる理由というのは」

「あ………えっと、そう、なんだけど、しょうがないだろ、預かってる以上あたしにだって責任ってもんが」

「照れることないッスよぉ、ノーヴェ」

「ウェンディ、あんまりからかわないであげて」

面白そうにケラケラ笑うウェンディをディエチが宥める

 

シルヴィアが繰り出す攻撃を悉く防ぐヴィヴィオ

スピカの力で飛び上がり足を思いっきり振り下ろす

だがヴィヴィオはそれを受け止め体を使ってシルヴィアの体勢を崩させる

そのまま勢いをつけて蹴りを命中させるヴィヴィオ

吹っ飛んだシルヴィアを追いかけ追撃を仕掛ける

攻撃を受け落下したシルヴィアが何とか起き上がると目の前にはヴィヴィオの拳が

「ま、参りました」

両手をあげ降参の意を示すシルヴィアにヴィヴィオは呼吸を整えると

「もう時間も遅いしここまでにしよっか」

そういってクリスと分離するヴィヴィオ

「あーあ、結局一回もクリーンヒットとれなかった」

「でもシルヴィアだって頑張ってるよ、大丈夫」

スピカと分離しながらうなだれるシルヴィアを慰めるヴィヴィオ

「さ、帰って一緒にお風呂入ろう、久しぶりに髪洗ってあげる」

「そうだね、結構汗掻いちゃった」

そう言って笑いながら共に歩くヴィヴィオとシルヴィア

 

「ふぅ、まったくウェンディのやつは………っと」

風呂上りにタオルで髪を拭いていたノーヴェだったが愛用のデバイス、ジェットエッジが点滅してることに気付く

「久しぶりだねノーヴェちゃん、息災かい?」

通信してきたのはミカヤだった

「ミカヤちゃん、こんな時間にどうした?」

「ああ、ちょっとね………」

ノーヴェの問いかけにミカヤは真剣な面持ちで答えた

「最近あちこちで練習試合をしている強豪選手がいるっていうのは知ってるかい?」

「ああ、噂は聞いてるよ、どんな相手も一瞬で倒すってやつだろ、そいつがどうかした?」

「今日、ウチの道場に現れた」

ミカヤの言葉を聞いて真剣な表情になるノーヴェ

「どんなやつだった」

「強かったよ、本当に一瞬で、何をしたのか私にも見えなかった」

そういってミカヤは通信画面に顔写真を表示する

「こいつが………」

「どこのジムにも所属していないフリーの選手だといっていた、名前はミカゲ・スズキ」

 

ヴィヴィオと楽しそうに話しながら歩くシルヴィア

そんな彼女と今まさにすれ違った黒い髪の女性、ミカゲ

彼女はすれ違いざま何かに気付き振り返るが特に気にすることもなくそのまま立ち去った

 

家に戻るとサマーラがお風呂の準備をしている最中だったのでそれが終わるまでリビングで待つヴィヴィオとシルヴィア

待っている間ヴィヴィオはソファに座りメールをチェックしていた

「でね、ママのパンチはマシュマロみたいに柔らかいの」

「ヴィヴィオ、ノーダメージ設定うまくなったよね」

「先生がいいですから」

メールに目を通しながらなのはの言葉に胸を張ってそう答えるヴィヴィオ

ちなみにそうなってる理由は衝突の瞬間に拳にまとった魔力を緩衝材代わりにしているため

勿論実戦では使い物にならないが

「あ、リエラから資料来てる」

メールを開こうとするヴィヴィオだったが丁度その時サマーラがお風呂から出てきた

「なのはママ先に入る?」

「どうするヴィヴィオ?急ぎの用事ならそうする?」

「大丈夫、私明日もお休みだしいつでも見れるから、クリス、これ分けておいて」

ヴィヴィオの言葉に小さな手で敬礼するクリス

「さ、はいろっかシルヴィア」

「うん」

手を繋いで着替え抱えながらお風呂場に向かう二人

「クリスー、スピカー、洗濯物お願い、クリス、スピカにちゃんと教えてあげてね」

ヴィヴィオの声に二人(二匹?)も飛んでいく

 

ヴィヴィオに頭を洗ってもらうシルヴィア

「はいおしまい」

シャワーで流し終えると両手で必死に顔を拭くシルヴィア

「じゃ、今度はママを洗ってあげる」

「えー、シルヴィア出来るの」

「大丈夫、なのはママやサマーラと練習したから」

 

お風呂場から楽しそうな声が聞こえてくる中、なのはとサマーラはクリスとスピカに手伝ってもらいながら洗濯物を片づけていた

「ふぅ、これはヴィヴィオのっと」

ヴィヴィオが仕事で着ている執務官の黒い制服を畳み終えるとなのははじっとその制服をみつめた

「どうされたんですか?」

「ん?ああごめん、なんでもないの、ただ、ヴィヴィオも立派になったんだなぁって思って」

「ふふっ、その制服を洗うたびに同じことを申してますよ」

「あれっ!?そうだっけ」

「でも、気持ちはわかります」

そういってサマーラが持っていたのはシルヴィアが学院で着る制服

「あの頃はマスターが一緒にいるだけで幸せだったんです、それが今では、一緒にいれることももちろんうれしいです」

畳んだ制服を置いてなのはの隣に腰掛けるサマーラ

「ただ、あのころ見ることが出来なかったマスターの笑顔が、今の私にとって何よりの宝物です」

「本当によく笑うようになったよね、シルヴィアは」

サマーラの言葉にかつての事を思い浮かべるなのは

初めてシルヴィアがこの家にきた時、飛びついてきたなのはに驚いてヴィヴィオの後ろに隠れてしまった

それ以前も洗脳が解けた直後のシルヴィアはただただ周囲に怯えるばかりだった

だが

「怯えなくてもいいんだよ、私も最初は怖かった」

そう言ってヴィヴィオが怯えるシルヴィアを抱きしめる

「だけど、そんな私の思いを受け止めてくれた人がいたから、大好きだっていってくれた人がいたから」

自身の着ている局の制服に手をあてるヴィヴィオ

「こうして仕事をしながらみんなと笑いあってる、だから、貴方の思い、私が受け止めてあげたいの」

 

お湯につかるヴィヴィオとシルヴィア

ヴィヴィオがシルヴィアを抱きしめるとシルヴィアも彼女に身を預けるようにした

「ね、ママは明日お休みでしょう?」

「うん、どこか行きたいところあるの?」

ヴィヴィオの問いかけにシルヴィアは笑顔を見せる

 

羽ペンで書類を書いていた修道服姿の女性

「 You've Got Mail」

手元に置いていた八角形のデバイスの言葉に一度手を止めメールフォルダを開く

「失礼します、シスターリオ、お茶をお持ちしました」

「あ、ソネットちょうどよかった」

ソネットと呼ばれた修道服の少女はリオの言葉に首をかしげるが

「明日、シルヴィアがヴィヴィオと一緒に来てくれるって」

リオのその言葉にソネットの表情がパッと明るくなる

「それは楽しみですね」

そう言って手の中にあるプレートの通されたリングを見つめるソネット



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wish:3 ノーヴェ・ナカジマ

聖王教会

ミッドチルダ北部、ベルカ自治領に本部を構える次元世界最大の宗教組織

各方面に多大な影響力をもち管理局同様危険な古代遺失物の保守管理も行う

教会が独自に保有する教会騎士団の代表、カリム・グラシア氏は管理局にも籍を置く

そんな聖王教会の中庭にやってきたヴィヴィオ

「あ、来た来た」

「ヴィヴィオー、こっちだよー」

リオに呼ばれそちらに向かうヴィヴィオ

テラスには既に別の女性の姿もあった

「リオ、コロナ、久しぶり」

かつてのチームメイトとの久々の再会にハイタッチするヴィヴィオ

「シルヴィアは?」

「イクスと一緒にソネットの所」

リオの問いかけにイスに座りながら答えるヴィヴィオ

「リオは一緒に練習することあるんだよね、あの子の調子どうなの?」

「頑張ってるよ、一流の修道騎士になるんだって、今もシャンテと」

 

赤い修道服風のバリアジャケットに身を包んだ女性、シャンテに向かって切り込むソネット

シャンテはソネットの剣を自身の剣で受け止めると軽く流して反撃する

その攻撃を何とか受け止めていたソネットだがシャンテの鋭い攻撃で剣を跳ね飛ばされ首筋に剣をたてられる

「はい、じゃあここまで、休憩にしようか」

そう言って自身の剣を待機状態に戻すシャンテ

肩を落としながらソネットも剣を待機状態に戻すと

「残念だったねソネット」

「うわっ!?シルヴィア!いらしてたんですか!?」

「あたしがソネットの攻撃受け止めたあたりからずっといたよ」

突然シルヴィアに声を掛けられ驚くソネット

シャンテはシルヴィアがいたことに気付いていたらしく特に驚く様子もない

「シャンテは気づいていたんですね」

「これでもプロの競技選手だからね」

イクスの問いかけにも平然と答えた、ソネットは彼女がいることも気づいていなかったらしく驚いていたが

「ママたち中庭で待ってるって、ソネットも行こう」

そう言ってソネットの手を取るシルヴィアだったが

「シルヴィアお嬢様、しばらくお待ちを」

「流石に汗だくの体でお客様の前に出るわけにはいきませんので」

「あなたたちもいつから居たの」

ロングヘアーの女性と短髪の紳士服に身を包んだ人物の二人組

ディードとオットーがいつの間にかいたことに再度肩を落とすソネット

オットーがかけたタオルで軽く汗を拭きながら不服そうに教会の建物に戻るソネット

「そう言うわけですので、お嬢様は先に中庭でお待ちいただけますでしょうか」

「ん、わかった」

「あたしも汗流さないとなぁ」

ソネットとシャンテがその場から離れるのを確認するとオットーとディードも会釈してその場を離れる

「それでは私たちは先に中庭で待っていましょうか」

「うん」

イクスに連れられ中庭に向かうシルヴィア

 

しばらく母やその友人とお茶をしながら待っていたがしばらくしてオットーとディードに連れられソネットもやってきた

「私も御一緒してよろしかったんでしょうか?」

シルヴィアに促されて座りながらソネットが訪ねる

「平気平気、今日は友達と待ち合わせなの、夕方一緒に練習する前に師匠を紹介しようと思って」

「どうしてここで?練習場でもよろしいのでは」

シルヴィアの問いかけに彼女は笑ってみせると

「ソネットのことも紹介したかったから」

「そんな、私は紹介していただくような人間では」

「あ、居た居た、おーいシルヴィア!」

シルヴィアの言葉にソネットが畏縮していると水色のショートヘアのシスター、セインがアルマを伴ってやってきた

 

「アルマ、こっちはソネット、私の友達でここのシスター」

「ソネット・フランソンです、どうかよろしくお願いいたします」

「あっ!アルマ・ラフェスタです、こちらこそよろしく」

ソネットの礼に緊張気味に返すアルマ

「リオさんとコロナさんもアルマとは初めてだよね」

「教会騎士団のリオ・ウェズリーです、こっちは本局戦技教導官の」

「コロナ・ティミル、よろしくね、アルマちゃん」

リオとコロナが自己紹介するとアルマは慌てて頭を下げる

 

「じゃあ、みなさんも?」

「うん、ノーヴェ会長に教わってたんだ」

アルマの問いかけに頷くコロナ

「あたしとコロナ、ヴィヴィオは同級生で、ナカジマジム発足当時のメンバー」

「もう一人いるけど、きっとそのうち会えるよ、まずはノーヴェ会長………」

「おーい」

すると中庭の入り口付近から彼女たちに話しかける声が

「あ、噂をすれば」

ヴィヴィオが覗き込むと息を切らしながら入ってくるノーヴェの姿が

 

「わりぃな、野暮用で遅くなっちまった」

「どっから走ってきたの」

疲れた様子のノーヴェを見てヴィヴィオが笑う

「で、そっちが例の」

「あ、アルマ・ラフェスタです」

「よろしくな、あたしはノーヴェ・ナカジマ、ジムを経営しながらシルヴィアやほかのチビ達に魔法や格闘技を教えてんだ、まああたしの場合ほとんど格闘技なんだけどな」

アルマに気さくに挨拶を返すノーヴェ

「んじゃ早速行ってみるか、お前らも参加するか?」

そういってリオとコロナのほうを見るノーヴェ

「そう思って準備は万端です」

「ソネットも一緒にやろうよ」

リオとコロナが荷物を掲げているとシルヴィアがソネットに声をかける

「えっ!ですが私は」

「行ってきなよ、シスターシャッハにはあたしから言っとくから」

「あたしバイク回しておくね」

最初は遠慮していたもののシャンテに言われソネットも同行することに

 

ノーヴェを先頭に一行が練習場にやってくるとそこでは碧銀の髪を一つに結んだ女性が子供たちと待っていた

「なんだ、お前も来ていたのか」

「アインハルトさんも今日はお休みだったの?」

「ええ、まあ、このところ連続勤務が続いて、ひと段落ついたので今日は午前中で切り上げたんです」

そういって肩に乗ったぬいぐるみをなでながら一同に笑いかけるアインハルト

 

アインハルトさんはママたちとチームメイトだった元競技選手

覇王イングヴァルトっていう昔の王様の末裔で、昔はそのことでいろいろ悩んだりしたみたい

ちなみに肩に乗ってるのはアインハルトさんの相棒で豹型デバイスのアスティオン

 

練習着に着替えながらチームに所属する女の子たちと話すアインハルト

気が付くと次々彼女の周りに集まっていく

 

今は管理局で仕事しながらいろんな境遇の子供たちに自分が受け継いできた技を教えてくれてる

チームの中にはアインハルトさんと同じ覇王流の技をメインに使う子もいるし、私もいくつか使える技があるんだけど

 

「シルヴィア、行くよ」

練習着に着替えを終えたヴィヴィオがシルヴィアに声をかける

シルヴィアはそれに笑顔でついていく

 

私自身はママが教えてくれた今のスタイルが気に入ってる

 

「つーわけだからみんな、これから一緒に練習することになるアルマだ、ま、よろしく頼むな」

ノーヴェに紹介されアルマが礼をすると同時に子供たちから拍手が沸き起こる

ノーヴェの指示でそれぞれが練習を始める

 

ノーヴェ会長が主に教えてくれるのはストライクアーツ

ミッドチルダで一番たくさんの人がやってる格闘技

もっというと「打撃による徒手格闘技術」のことを指したりもする

 

「シルヴィアはアルマに基本の型とか教えてやってくれ、アルマもそのほうがやりやすいだろ」

とのことだったのでシルヴィアは現在アルマにストライクアーツの基礎を教えているところだった

「シルヴィアはすごいね」

「ん?」

組み手の最中アルマの言った言葉に首をかしげるシルヴィア

「勉強もできて、こんな風に格闘技もやってて、本当に何でもできるって感じで、私なんかとは大違い」

それを聞いたシルヴィアは笑いながら

「私にだってできないことぐらいあるよ」

そういってアルマに自分のこぶしを突き出す

アルマもぎこちないながらそれを受け止める

「それにママや会長たちに比べたら私はまだまだ弱いから」

アルマのこぶしを受け止めるとシルヴィアもすぐまたこぶしを突き出した

「アルマやチームのみんな、ソネットたちと一緒に強くなっていきたいんだ」

 

「ではシルヴィア、みなさん、またいずれ」

そういってヘルメットを被りソネットがリオの運転するバイクで帰っていく

この日の練習が終わるとすっかり日が沈み徒歩や自転車で帰路に就くもの、迎えに来た親と共に帰るもの

シルヴィアもまたヴィヴィオに手を引かれ帰ろうとしていた

「あいつはいくつになっても母親にべったりだな」

「仲がいいのはいいことです」

それを見ていたノーヴェとアインハルトが苦笑しながら話していると着替えを終えたアルマがやってきた

「ノーヴェ会長、アインハルトさん、お疲れさまでした」

「おう、お疲れ、どうだった、今日一日一緒に練習してみて」

二人に礼をしていたアルマは頭を上げノーヴェの問いかけに頬を赤らめた

「シルヴィアはもちろん、みなさんすごくて、不安はもちろんあるんですけど………」

言い淀むアルマの頭にノーヴェが手を置く

「なに、今日見た感じじゃ筋は悪くない、お前もきっと強くなれるさ、あたしが保証するよ」

「はいっ、ありがとうございます」

勢いよく頭を下げてから帰っていくアルマ

「とはいえ、もうちょっと自信つけてやりたいところだな」

そうつぶやいたノーヴェはデバイスを取り出し何かを入力していく

「少し遠慮してるようにも見えますし、そこもどうにかできるといいんですけど」

「おお、お前と一緒だな」

ノーヴェの何気ない一言に図星を突かれへこむアインハルト

「ま、そこはあたしに任せなよ」

そう言って画面を見ながらにやりと笑うノーヴェだった



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wish:4 アインハルト・ストラトス

「え?練習試合ですか?」

アルマが練習に加わって数日

ノーヴェの持ちかけた話にアルマは目を見開いた

「まあ、チーム内での練習だ、お前もだいぶ慣れてきたし、ここらで実力のほうを確認しておこうと思ってな」

「あの………それで私の相手っていうのは」

アルマの問いかけにノーヴェは黙って指をさした

その先には一人型を確認するシルヴィアの姿が

「え?」

「ん、相手はシルヴィアだ、スピカとの連携を見ておきたいってのもあるけど、ま、親友同士やりやすいだろ」

 

「へぇ、アルマちゃんと練習試合」

夕食の最中シルヴィアの話を聞いたなのはは思わず声を上げた

「うん、ノーヴェ会長はいろいろ考えてるみたいだけど、私としては、アルマが魔法戦競技をもっと好きになってくれるきっかけになったらいいなぁって」

そういって笑うシルヴィア

「そういえば、お母様とアインハルト一尉の出会いも最初は練習試合からだったと」

「あ、その話聞いたよ、アインハルトさんはすごく恥ずかしそうにしてたけど」

サマーラの話を聞いたシルヴィアはかつて聞いた話を思い浮かべる

母は陽気に話していたが隣で聞いていたアインハルトは恥ずかしそうに赤面していたのを覚えている

「ママとアインハルトさん本当に仲良しだもんね、私もアルマとずっと仲良しでいれるといいな」

シルヴィアの言葉になのはは小さく笑った

 

アルマはシルヴィアとの試合に備え練習しようと街を歩いていた

するとバイクのクラクションが響き振り返ると

「リオさん?」

「会長に頼まれてね、乗って、あたしでよければ協力するよ」

そういってもう一つのヘルメットをアルマに差し出すリオ

 

シルヴィアは一人公園で自主練習に励んでいた

しばらく型を確認した後スピカと分離してため息をこぼす

「やっぱり一人だとうまくいかないなぁ」

手応えを感じることができず肩を落とすシルヴィアだったが

「不満そうですね」

ジャージ姿のアインハルトが座り込むシルヴィアに声をかけた

「アインハルトさん?」

「ノーヴェさんから、試合に向けて一人で練習してるだろうから付き合ってあげてほしいと」

アインハルトのその言葉を聞いたシルヴィアはうれしそうに笑った後一瞬で立ち上がり拳をふるった

だがアインハルトは片手でその拳を受け止めていた

ただしティオは衝撃で彼女の肩から落ちそうになり必死にしがみついてはいたが

「だいぶ使えるようになってきましたね」

「当然、ママを超えるために頑張ってるんだもん」

強気で言い放つシルヴィアに同意するかのようにスピカも羽を広げる

「手加減しません。全力で来てください」

アインハルトの言葉に何とかよじ登ったティオも力強く鳴いた

 

アルマもまた試合に向けて特訓をしていた

聖王教会の中庭でリオの持つミットに向けて次々拳をたたき込む

「よし、そこまで、いったん休憩だ」

ノーヴェの言葉を受けアルマはその場に座り込んでしまう

肩で息をして疲れた様子だったが

「大丈夫?ほら、これ飲んで」

リオに差し出されたドリンクを飲むと少し落ち着いたようだった

「ありがとうございます、リオさん」

「気にしないで、あたしは会長からアルマのこと頼まれてるし」

そういってリオはアルマの隣に座った

「それにしてもアルマはすごいね、ストライクアーツを始めたばかりなのに」

リオに褒められ照れるアルマだったが

「シルヴィアの隣にいて………恥ずかしくないようになりたいんです」

恥ずかしそうに口を開いた、思い出すのはシルヴィアと初めて会った日の事

環境の変化に戸惑い一人縮こまっていたアルマに隣の席のシルヴィアが手を伸ばした

「私高町シルヴィア、よろしくね」

笑顔で継げるシルヴィアの手を遠慮がちにとるアルマ

それから二人はどんどん仲良くなっていった

課題の術式に詰まって考え込むアルマにシルヴィアがアドバイスをくれたり

初めてシルヴィアの家に遊びに行った日

彼女の母親と偶然出会い、現役の執務官だと知って驚いた

そんなある日の事

魔法の授業で基本のシューターを実践することとなる

初めての実践に緊張するアルマだったがシルヴィアは落ち着いていた

集中した様子で詠唱し指先に魔力を集める

アルマは初めて見るシルヴィアの姿に魅了されていた

魔法を使うシルヴィアの姿がとても輝いて見えたのだ

「小さいころから魔導師にあこがれてて、私もあんな風にって思ったんです」

瞳を輝かせて語るアルマ

普段の彼女からは考えられない様子に目を見開くリオ

「そのすぐ後でした、シルヴィアが格闘技をやってるって知ったのは」

 

「ストライクアーツ?シルヴィア格闘技もやるの?」

「というよりこっちがメインなんだけどね」

アルマと話しながらそういって拳を突き出すシルヴィア

「うちのお母さん覚えてる?」

「ヴィヴィオさんだよね?覚えてるよ、現役の執務官なんだよね」

アルマがシルヴィアの家に行ったときたまたま夜勤明けだったヴィヴィオの帰宅時間と重なった

そのためアルマはその時ヴィヴィオが着ていた黒い制服を見て驚いた

「私ぐらいのころ、ストライクアーツの選手だったんだ、でも前衛の資質がなくて、ずっとつらい道のりだったって………」

「………今は、どうしてるの?」

「競技選手はもうずいぶん前に引退したし、前衛だけでやっていくのはやめて前中衛、でも、今でも格闘技は好きみたい」

そういって拳を握るシルヴィア

 

「シルヴィアもヴィヴィオさんと同じスタイルだって聞いて、シルヴィアの強くなりたかった理由がわかる気がしたんです」

そういって拳を握るアルマ

「きっとヴィヴィオさんのスタイルが強いことを証明したいんだと思う、シルヴィアに一緒に強くなりたいって言ってもらってうれしかった、だから私も頑張ろうって思うんです」

「えっと………もしかしてアルマいろいろ誤解しちゃってるかな」

頭を掻きながら困ったように笑うリオ

「まあでも、シルヴィアはヴィヴィオに憧れてストライクアーツを始めたわけですし、間違っちゃいないんじゃ」

「ん?ああ、そっか、イクスは知らないんだっけ」

イクスの言葉にきょとんとするリオだったがすぐ手をたたいて納得する

「もちろんそれもあると思うんだけど、シルヴィアが今のスタイルにした理由は………」

リオが耳打ちするとイクスは驚いて目を見開く

「そんなことがあったんですか!?」

驚き声を上げるイクスに驚いたのかアルマがこちらを見ていた

「あ、ううん何でもないの、気にしないで」

リオが弁明するとアルマは首をかしげながら立ち上がる

「そろそろ休憩はやめにして、練習続けましょう」

 

シルヴィアが続けざまアインハルトの持つミットに向けて拳をたたき込む

最後に回し蹴りを放つとアインハルトの体がミットごと大きく揺らぐ

「ここまでにしておきましょう、もう時間も遅いですし」

「はい、ありがとうございます」

礼を告げるシルヴィアに合わせるようにスピカも頷く

それを見たアインハルトは小さく笑い

「よろしければ家まで送りますよ」

笑顔でそう答えた

 

「昔を思い出しますね………」

シルヴィアを家まで送る道すがら

突然アインハルトが言い出したので首をかしげるシルヴィア

「それって、ママやアインハルトさんたちがまだ選手だったころ?」

「むしろ選手なりたての頃でしょうか………」

シルヴィアの問いかけにアインハルトは笑いながら答えた

「あの頃のヴィヴィオさんは本当にまっすぐで、今のシルヴィアさんとそっくり」

「えへへ、そうかな」

「そうやって笑うところも似ていますよ」

アインハルトがシルヴィアの頭をなでると照れ臭そうに笑うシルヴィア

「(そう、本当にそっくり………違うところがあるとすれば………)」

真剣な表情でシルヴィアを見るアインハルト

そんな彼女の表情を見てティオが心配そうに鳴くが

「大丈夫ですよティオ、あなたが心配するようなことは何もありません」

そういってティオを慰めるアインハルトだったが心中は複雑だった

「(そう、何もないにこしたことはありません………)」

 

「ただいまー!」

「おじゃまします」

シルヴィアに続いてアインハルトが玄関に上がる

「あ、ちょうどいいところに帰ってきましたね」

そんな二人を出迎えたサマーラの言葉に首をかしげるシルヴィア

 

「あ、お帰り、アインハルトちゃんもいらっしゃい」

「アインハルトさん、わざわざありがとう」

サマーラに案内されリビングにやってくるとなのはがヴィヴィオと通信しているところだった

「ママ!」

それを見たシルヴィアは真っ先に画面に食いつく

「聞いたよシルヴィア、アルマちゃんと練習試合だって」

「うん、ストライクアーツの先輩として頑張ってるとこ見せなきゃ」

そういって構えて見せるシルヴィア

「おー、頼もしい、ママは見に行けないけど」

「大丈夫、アインハルトさんが練習ついててくれてるし、試合だって」

「なら安心だ、あ、ちょっとアインハルトさんと二人で話したいんだけどいいかな」

ヴィヴィオの提案にシルヴィアは少し考えると

「じゃあ私はその間に宿題やってくるね」

と言って部屋に上がっていった

アインハルトはなのはに促されるように彼女の隣に腰かけた

「なんでしょうか?」

「シルヴィアの練習見てくれてありがとうございます、っていうのと、アインハルトさんから見て今のシルヴィアはどうかなっていうのと」

「強いですよ、格闘技に関しては十分すぎるレベルです」

「すごーい、私なんて趣味と遊びのレベルなんて言われたのに」

「………ヴィヴィオさん実は根に持ってます?」

過去の出来事を掘り起こされ訝しげな表情になるアインハルト

「いやだなぁ冗談ですよ、でもそっか、頑張ってるんだな………シルヴィアは」

「ええ、ですが、一つ問題が」

アインハルトのその言葉に真剣な表情になる一同

「今日のメニュー、スパーの内容、シルヴィアさんは格闘技を主軸に置きすぎている気がするんです」

「じゃあ、やっぱりシルヴィア………」

なのはの言葉に頷いてシルヴィアの部屋のほうを見るアインハルト

「彼女は………試合で魔法を使うことを恐れている可能性があります」



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wish:5 フェイト・T・ハラオウン

騒然とする練習場

その中心でノーヴェが抱えるのは力なく倒れるシルヴィアの姿

「しっかりしろ!いったいどうしちまったんだよ!おい!シルヴィア!」

ノーヴェの流した涙がシルヴィアの頬を伝う

 

「あっ!」

驚き目を見開いたシルヴィアだったがいつもと同じ自室の天井を見てため息をこぼした

「また………あの夢か………」

自らがうなされていただけと知り頭を抱えるシルヴィア

「今日はアルマとの練習試合なのに………」

そうつぶやいて拳を握るシルヴィア、心配してスピカが寄るが

「大丈夫だよ、スピカ」

そういってスピカをなでるシルヴィア

「もう、あんなこと………」

 

「うわぁ」

リビングに降りたシルヴィアは用意された豪華な朝食に息をのんだ

「今日はアルマちゃんとの試合でしょ、精いっぱい頑張れるように」

「ありがとうなのはママ」

なのはの励みを受け笑顔で答えるシルヴィア

 

アラル港湾埠頭廃棄倉庫区画

アインハルトとともに先に待っていたシルヴィアに続いてアルマがリオの運転するバイクでやってきた

「ここは救助隊の訓練にも使われる場所だ、廃倉庫だし許可は取ってあるし多少派手にやっても大丈夫、シルヴィアと違ってアルマは魔法主体だからこういう場所じゃないとな、試合形式の一本勝負」

お互いが構えるのを確認したノーヴェは高く腕を上げる

「ファイト!」

開始の合図と同時に突っ込んでいくシルヴィア

だがそれを見た一同の表情が一変する

「アインハルトさん、あれって………」

「やはり………」

その場にいた全員がシルヴィアのしていることに気付いていた

「(どうしてなの………シルヴィア)」

対峙するアルマさえも、シルヴィアの拳を受け止め

彼女の連続攻撃を回避していく

「アルマさんもなかなかやりますね」

「確かに始めたばっかりにしてはできるほうだよ、でも………」

「シルヴィアの攻撃………あれじゃ当たるわけねぇ」

試合の様子をうかがうノーヴェの表情は険しかった

「そんな戦い方のためにあたしはいままで教えてきたんじゃねえぞ、シルヴィア」

 

アルマがシルヴィアのパンチを受け止める

「(私相手なんてこれでも十分って言いたいの………こんな魔力のほとんどこもってない拳で)」

そう、本来近代格闘においては拳などに魔力を込めて攻撃するのが主流

だがシルヴィアはいまそれをやっていない

無意識のうちにアルマはシルヴィアの拳を強く握りしめる

空いたもう片方の手に魔力が集まり炎となっていく

「バーストフレイム」

炎をまとった魔力弾が至近距離でシルヴィアに決まる

「そこまでっ!」

その場に倒れるシルヴィアを見たアルマは悲しげな表情のままその場を立ち去った

「あっ!アルマ待って!」

慌ててリオが追いかける

それを見たノーヴェはふらつくシルヴィアに目線を合わせるために屈んだ

「なんでアルマが怒ったかわかってるよな、お前の戦い方を見てアルマは手加減されたと思ったんだ」

「アルマさんは知らないんですよね、あの事」

アインハルトの問いかけに黙ってうなずくシルヴィア

「確かに、魔法を使いたくないお前の気持ちも分かるが、それじゃいつまでたっても強くなれねぇぞ」

 

「使いたくない?授業でシルヴィアが魔法を使ってるのを見たことありますよ」

アルマはリオとともに教会にいた

リオから話を聞いたアルマは驚いていた

「うん、授業位なら大丈夫なんだけど………去年の夏にさ、シルヴィア一度倒れてるんだよ」

 

心配そうな顔で病院に駆け込むヴィヴィオ

うずくまるノーヴェを宥めるアインハルト

病室の扉の前で待っていたなのはがヴィヴィオに駆け寄った

「練習中に使った魔法が原因、通常ならそんなことありえないはずだった」

 

座り込むシルヴィアにスピカが近寄る

「なんのためにそいつがいる、何のために今まで練習してきたかよく考えろ」

そういってノーヴェもその場を後にする

残されたシルヴィアは周りに聞こえないよう小さくため息をこぼすと立ち上がって埃をはたいた

「もっと強くならなきゃだね、頑張ろう、スピカ」

そんなシルヴィアを心配そうに見つめるアインハルト

「(どうするべきなのか………きっと彼女はわかっている………でも)」

ノーヴェもまた頭を抱えながら力任せに壁を叩いていた

 

「あの時はみんな大変だったよ、ヴィヴィオはシルヴィアが心配で泣き出すし会長も自分のせいだって、シルヴィアも自分のせいで周りに迷惑かけたって」

リオの言葉を聞いたアルマはうつむいていた

「それからは魔法はなのはさんやヴィヴィオが見ることになって、ジムだと基本のストライクアーツを重点的に習ってたんだ」

「私、シルヴィアのこと………何も知らなかったんだ」

涙を浮かべ自らのしたことを後悔するアルマだったが

「ねえ、なんであたしが教会にいるかって話したっけ?」

「えっ?突然どうしたんですか?」

リオの言葉に驚くアルマだったが気にせずリオは続ける

「ディードにはもうあったよね」

「え、ええ、髪の長いシスターさんですよね」

「あたしの選手時代のコーチなんだ、教会の仕事で忙しい合間を縫って私にいろいろ教えてくれてた、本当は時間作るのも大変なはずなのに、私に一生懸命教えてくれるディードに恩返しがしたくて、私はここに来た」

そういって自身の髪留めに触れるリオ

「これね、あたしを一人前の修道騎士として認めてくれた証にディードがくれたものなの」

「素敵なお話ですね………」

「ここにいるのはそういう人たちばかりですよ」

いつの間にかやってきていたオットーが言葉をつづける

「僕はこの場所が大好きだから、この場所でみんなと過ごす時間を守りたい、そんな思いで精進を続けているんです、レイと一緒にね」

「Zustimmung」

オットーの言葉に同意を示す彼の愛機、レイストーム

「あたしはそんなみんなの力になりたくて、ね、みんな目標があるから強くなれるの、アルマの目標は何?」

「私の………目標」

リオの言葉に自身の愛機を握りしめるアルマ

 

一方シルヴィアは自主練のためアインハルトと公園に向かっていた

「(会長から彼女の事は頼まれている………ここは私が何とかしないと)」

シルヴィアを元気づけよう、二人を何とか仲直りさせよう

そう考えを巡らせるアインハルトだったが

「(何も思いつかない)」

表情には出さないまま落ち込んでしまうアインハルト

「あれ?」

ふと、練習場に誰かいることに気付いたシルヴィアが歩みを止める

練習場に静かにたたずみ高密度の射撃弾を生成しているのは

「フェイトさん?………」

アインハルトのつぶやきが聞こえたらしくこちらに気付いたらしいフェイトが笑顔でこちらを見る

 

「たまたま時間が空いてね、試合が終わったらきっとシルヴィアはここに来ると思ったんだ」

「そうなんだ、ありがとう、フェイトママ」

この人はフェイトママ

と言っても私のママってわけじゃなくて

ママがそう呼んでるからうつっちゃって、私も気づけばこう呼んでる

小さいころから私にはいつも優しくしてくれて、暖かくて

だから私も、フェイトママをこう呼ぶことを疑問に思わなくなっていた

「所でフェイトママ、さっきのって新しい魔法?」

「え?ううん、前から使えるけど、でもどうして?」

「今まであんな魔法使ってるところみたことないから」

シルヴィアの言葉に納得したのか小さく笑うフェイト

「そうだね、シルヴィアには見せたことなかったね、あの魔法、発射に時間がかかるし魔力消費も大きいから普段はあまり使わないんだけど」

フェイトの言葉に首をかしげるシルヴィア

「でも、大切な人の教えてくれた魔法だから、時々こうやって感覚を確かめてるんだ」

そういって空を見上げるフェイト

「そっか………そうだよね………ありがとう、フェイトママ!」

フェイトの言葉に思うところがあったのかいきなり立ち上がるシルヴィア

 

「で、シルヴィアはどうしてるんだ?」

通信でアインハルトと話すノーヴェ

「もう一度、今度は全力でアルマさんと試合がしたいと」

「アルマの方も同じみたいでリオから連絡来てた、じゃあ時間は明日の放課後、場所は」

「あっ!」

急に焦った様子に代わるアインハルト

そして通信越しに聞こえる風を切る音

その様子から何かに気付くノーヴェ

「もしかして今連絡しちゃまずかったか?んじゃ詳しいことは後でメールする」

「すいません、そうしていただけますか?」

 

ノーヴェからの通信を切ると正面に向きなおるアインハルト

「さ、もう大丈夫ですよ」

「じゃ、もう一度全力で行きます!」

バリアジャケット姿のシルヴィアが掌に魔力を集める

「(いつの間にか私は恐れていたんだ、魔法を使うことで、またあの時みたいなことが起こるのを、それでママやノーヴェ会長が悲しむのを)」

シューターを発射すると同時に飛び出すシルヴィア

アインハルトがシューターをはじくと拳を突き上げアインハルトを攻撃する

この攻撃はアインハルトに受け止められたがすかさず体制を変え横回し蹴り

「(練習や授業以外で魔法を使わなくなって、忘れていた気持ち………フェイトママのおかげで思い出せた)」

攻撃を終えると飛行魔法で距離を取るシルヴィア

「(新しい魔法を使えるようになって、うれしかった気持ちを、魔法が大好きだって気持ちを)」

体制を整えアインハルトに向かっていくシルヴィア

「(もちろん無茶はよくない、でも、いつまでも怖がってたら、前に進めない)」

打撃とシューターを立て続けに放ちアインハルトを攻め立てるシルヴィア

やがてアインハルトが続けざまの攻撃を捌き切れず隙ができると

「(ごめんね、アルマ、今度は見せてあげるから)」

シルヴィアの手のひらには膨大な魔力が集まっていた

「(私の全力全開を!)」

シルヴィアの放った砲撃魔法がアインハルトを飲み込む



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wish:6 セイン

「珍しいね、アインハルトさんから通信してくるなんて」

ヴィヴィオがアインハルトと通信で話していた

「昨日、シルヴィアさんの練習に付き合いました、もう大丈夫です」

アインハルトの言葉に目を見開いてから真剣な表情になるヴィヴィオ

「そっか、ありがとうアインハルトさん」

ヴィヴィオの言葉にアインハルトは黙って首を左右に振った

「私じゃありません、シルヴィアさんが覚悟を決めたのはフェイトさんのおかげです」

「フェイトママの?そういえばお昼までお休みだって言ってたような………」

首をかしげるヴィヴィオにアインハルトは昨日あったことを話し始めた

「そんなことが、こりゃフェイトママにお礼言わなきゃだ」

「そういえばヴィヴィオさん、来月の予定なんですが」

「ちゃんと調整してあるよ、大丈夫」

アインハルトの問いかけにガッツポーズで答えるヴィヴィオ

 

聖王教会の中庭で一人アップをしているシルヴィア

するとリオに連れられアルマも姿を現した

「今回はフル装備の試合形式、1ラウンド5分間」

ノーヴェの言葉とともにアルマとシルヴィアが愛機を構える

「ごめんねシルヴィア、事情はリオさんから聞いたの、私シルヴィアの気持ちを何もわかってなかった」

「ううん、私の方こそごめんねだし、ありがとうって言いたい、アルマのおかげで目が覚めたから」

たがいに愛機を構えながら笑顔で相手を見据える両者

「でも、この試合は負けないよ、勝ってリベンジ果たしちゃうから」

「ううん、勝つのは私、追加の白星もらっちゃうね」

そういいながら二人はバリアジャケットを構成する

アルマのバリアジャケットは全身を包むローブのような形状をしている

両手には水晶のついたグローブが装着されている

「お膳たてはいらなかったみたいだな」

いつの間にか仲直りしている二人を見てため息をこぼしながらつぶやくノーヴェ

「じゃ、二人とも準備はいいな」

二人が開始位置につくのを見たノーヴェは腕を伸ばし

「ファイト!」

試合開始を告げ腕を掲げた

試合開始と同時にアルマは得意の砲撃を放つ

だが飛行魔法ですばやく移動したシルヴィアは砲撃を交わすと腕を構える

「一点集中!ディバインバスター!」

「バーストフレイム!」

シルヴィアとアルマの砲撃魔法が激突し衝撃が周囲に伝わる

爆発を突き抜けアルマに接近したシルヴィアだが放った拳はアルマにガードされる

しかしそれさえも予想していたのかその体制のまま右足でけりを繰り出した

「リボルバースパイク!」

この攻撃が見事直撃してふらつくアルマだったがすぐに射撃魔法で反撃

シルヴィアが防御魔法で防いでる間に体勢を立て直した

「バーストシューター」

「ジェットシューター」

互いの放った射撃魔法が相殺しあう

 

「二人とも楽しそう」

それを見ていたオットーがつぶやく

「けど、シルヴィアはあんなハイペースで飛ばして大丈夫なのか?下手したらまた」

「大丈夫だ、スピカが頑張ってくれてる」

セインの言葉を遮るかのように答えたのはノーヴェだった

「どういう意味ですか?」

ノーヴェのその言葉の意味を真剣な表情で問いかけるディード

「あいつは、スピカはそのためのデバイスなんだ」

 

「バーストフレイム」

アルマの砲撃を防御魔法で防ぐシルヴィア

彼女の中ではスピカが必死に魔力を調整していた

「魔力運用補助?」

「シルヴィアは魔力量がとにかく大きい、あの年代じゃありえないぐらいにな」

ノーヴェは首をかしげるセインにわかるように説明を始めた

「資質としては前衛向き、魔力量が多く格闘型としてはバリバリのパワー型、だけど、あいつ一人じゃまだあの量の魔力は扱いきれねぇ」

それ故過去あのような出来事が起こったともいえる

大きすぎる魔力がリンカーコアや肉体に負担をかけていた

「たしかに、シルヴィアお嬢様ぐらいの魔力量だと中後衛型、立ち止まっての固定砲台というのが普通だ」

「けど資質は前衛向きなんだろ、資質と魔力量が衝突(コンフリクト)するなんて」

「では、スピリチュアル・ハートの機能というのは」

「シルヴィア一人ではできない大魔力の運用補助、魔力運用をスムーズに行うためのデバイス」

「それだけではありません」

ノーヴェの言葉に続けたのはセコンドとしてついていたアインハルトだった

「シルヴィアは戦いの中で強くなっていきます、時間がたつにつれ体が慣れて、魔力運用がスムーズになってくると………」

アインハルトの言葉を遮るように打撃音が響いた

シルヴィアの攻撃を受けたアルマがその場に座り込んでしまっている

「今………なにが」

「まだやれるよね、アルマ」

呆気にとられていたアルマだったがシルヴィアの言葉に立ち上がると気持ちを切り替えた

「今、シルヴィアのやつなにしたんだ」

「何もしていませんよ」

アインハルトの言葉に目を見開くノーヴェ

「何もしていないって………」

「シルヴィア自身の魔力運用とスピカによる運用補助、この二つがより強く引き出されると、通常より素早い魔力運用が可能になります」

アインハルトのその言葉でノーヴェ、オットー、ディード、リオは気づいたように目を見開いた

「そういうことか、どんなに優れた魔導師でも、攻撃と防御、打撃と射撃、切り替えの時にわずかな時間差が生まれる」

「ですが、スピリチュアル・ハートとシルヴィアお嬢様、二人の高速運用、それによって」

「その時間差は限りなくゼロになる」

「ちなみにアインハルトさん、全力だとどのくらいまで行った」

リオの問いかけにアインハルトは静かにほほ笑むと

「防御が間に合わず至近距離で砲撃をもらいました」

「アインハルトさん相手に!?あたしも砲撃めったに当てられないのに」

リオの驚愕の声とともにノーヴェは打ち合うシルヴィアとアルマを見た

「(アインハルトが防御できないほどの素早い攻撃、極めればかなり伸びてくる)」

考え込むノーヴェを見てセインが思わず吹き出す

「ん?なんだよ、何がおかしいんだ?」

「いや、ノーヴェすっかり指導者の顔になってたからさ、よく立ち直ったよ、あんたも、あの子も………」

そういってセインが見つめる先には接近戦に持ち込んでラッシュをかけるシルヴィアの姿

 

彼女が思い出していたのは以前シルヴィアが倒れた時

あの時のノーヴェの辛そうな顔は今でも覚えていた

ヴィヴィオはノーヴェが最初に教えた

そして、彼女が指導者の道を志すきっかけをくれた愛弟子だった

そんな愛弟子から預かった大事な子が自分の目の前で意識不明になった

ショックを受けたノーヴェは何日も部屋に閉じこもり、指導者をやめジムの経営に専念することさえ考えていた

だがシルヴィアは今も元気でノーヴェに師事しており

ノーヴェもまた、ヴィヴィオたちを教えていた頃の情熱を取り戻している

「あたしも見たくなったな、あの子たちがどこまで行くのか」

そんなセインのつぶやきが聞こえたのかオットーとディードが驚いた表情で彼女を見ていた

「双子、何その顔」

「いえ、姉さまがそんな風に」

「明日は雪でも降るのでしょうか」

オットーとディードの反応にショックを受けうなだれるセイン

「あたしだってお姉ちゃんだぞ、ノーヴェが落ち込んでた時だってすっげー心配したし、立ち直ってくれてうれしいなぁって思うのがそんなに変かよ」

わざと怒ったような態度をとるセイン

いつもと変わらぬその様子にオットーとディードは小さく笑う

 

疲れた様子でシルヴィアの攻撃を捌くアルマ

攻撃を仕掛けているシルヴィアもまた息を切らしていた

アルマがガードしながら後ろに吹っ飛ぶと同時にシルヴィアの動きも止まる

「ラウンド1終了!インターバル60秒だ」

ノーヴェの手に持ったデバイスから鳴り響く音

アルマとシルヴィアはそれと同時にその場に座り込んだ

「二人ともずいぶん疲れていますね」

「あのペースじゃな、スタミナとペース配分が今後の課題ってところか」

ディードの問いかけに答えるノーヴェ

実際息も絶え絶えでとても1ラウンド目とは思えぬ消耗量だ

「ティオ、お願いします」

「ソル」

アインハルトとリオが魔力供給を行いインターバルを終える

「ラウンド2」

ノーヴェの言葉と共に二人が構えた

「ファイト!」

開始早々アルマが射撃魔法でシルヴィアを狙う

飛行魔法で距離を詰めようとするシルヴィアに対しアルマは射撃魔法で応戦しながら距離を取ろうとしていた

「(今のシルヴィアに距離を詰めさせたらあっという間にやられる)」

「ジェットシューター」

「っ!?バーストシューター!」

シルヴィアの射撃魔法に応戦するアルマ

距離を詰められないよう連射を繰り返すアルマ

魔法弾が相殺した際発生した煙に紛れてシルヴィアの姿は見えないがそれでも連射をつづけるアルマ

「(当たっているかどうかもわからない、でも、私が勝つには撃ち続けるしかない)

だが次の瞬間、煙を突き破って表れたのは防御魔法を展開しながら飛ぶシルヴィアの姿

「並列処理!?いや………」

「ありがとう、スピカ」

防御魔法をスピカが展開

その状態のままシルヴィアは飛んでいた

「アクセル………」

「やっぱり、シルヴィアはすごいな」

「スマーッシュ!」

シルヴィアの攻撃が見事に決まり倒れ込むアルマ

「そこまで!」

ノーヴェの言葉とともにアインハルトとリオが二人に駆け寄った

 

練習を終えシャワーを浴びていたソネット

着替えて廊下を歩いてる最中、お菓子とお茶の乗ったカートを押すイクスに出会った

「それ、どうしたんですか?」

「シルヴィアたちに、試合直後で疲れているだろうから」

「そっか、今日うちで試合してたんだっけ、私も一緒に行っていいですか?」

「ええ」

 

イクスと共にシルヴィアたちのいる部屋にやってきたソネット

扉を開けて中を見てみると

「なんだか………二人とも楽しそう」

楽しそうに笑いながら今日の試合の話をするシルヴィアとアルマの姿

「はい、お茶とお菓子の配達ですよ」

「シルヴィア、アルマ、お疲れさま」

部屋に入ってきたソネットとイクスをシルヴィアたちは笑顔で出迎えるのだった



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wish:7 ソネット・フランソン

シルヴィアとアルマの試合から数日、あれ以来二人の仲はより深まっていた

この日も仲良くおしゃべりしながら下校している

「え?クッキーパーティ?」

「そう、聖王教会でやるんだけど、アルマも一緒にどうかと思って」

「私は大丈夫だけど、だれか保護者の人についてもらわないと」

アルマの心配そうな顔にシルヴィアは胸を叩いた

「そこは任せて、うちにぴったりな人いるから」

「え?シルヴィアの所ってみんな忙しいんじゃ………」

疑問符を浮かべ首をかしげるアルマ

 

そしてクッキーパーティ当日

シルヴィアの家に訪れたアルマをシルヴィアと髪の長い女性が出迎えた

「さ、行こうアルマ」

「えっと………こんな人いたっけ」

シルヴィアの隣にいるのはヴィヴィオでもなのはでもない

見覚えのない姿に首をかしげるアルマだったが

「あれ?会ったことあるよね、サマーラだよ」

「え!?だってサマーラって私たちよりちょっと小さい………え!?」

シルヴィアの言葉に驚いたアルマは彼女とサマーラを交互に見た

 

「じゃあ、そっちが本当の姿だったんだ」

「そ、普段は子供の姿で居てもらってるけど、必要なときはこうして元の姿で」

事情を聞いて苦笑するアルマ

「そういえば見せたことありませんでしたね」

そういって笑いかけるサマーラに見とれるアルマだったが

「あのね、サマーラこう見えて昔は」

「わー!マスターその話は内緒だって!」

「マスターって呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」

「え!?マスター!?」

シルヴィアがアルマにこっそり耳打ちしようとしたのをきっかけに大混乱に陥った

 

聖王教会では入り口でリオが来客の応対をしていた

「あ!シルヴィア!いらっしゃ………い?」

シルヴィアたちはずいぶん疲れた様子でぐったりしていた

「何かあった………よね、なんでそんなに疲れてるの?」

「ちょっと………ここに来るまでにいろいろありまして」

リオの問いかけに代表してサマーラが答える

「じゃあ、先イクスのとこ寄っておきなよ」

 

イクスに疲労抜きの簡単な魔法をかけてもらうアルマ

先にかけてもらったシルヴィアとサマーラは軽く肩を鳴らしていた

「はい、おしまいです」

「ありがとうございます、イクスさん」

「どういたしまして」

アルマの肩を軽くたたきながら笑顔で答えるイクス

「それにしても、誰かが契約している守護獣だとは聞いていたけど、まさかシルヴィアだったなんてね」

ため息をこぼしながら彼女を見るアルマ

「大丈夫なの?高位の守護獣は維持大変だって聞くよ」

「うん、だから普段はあの姿なんだけど、実際維持するだけならあんまり………ほら、わたし魔力量だけはいっちょまえだし」

「でも実際持て余し気味なんですよね」

イクスの言葉に肩を落とすシルヴィア

「そうなんだよねぇ、魔力量が多くても扱いきれなきゃ」

「さ、そろそろ中庭でクッキーパーティが始まる時間です」

「あっ、本当だ!」

「それじゃあイクスさん、ありがとうございました」

中庭に向かっていくシルヴィアたちを手を振って見送るとイクスは自身の手を見つめた

この時代で目覚めてから得た癒しの魔法

自身の力を正しく使える喜びを感じて

「シルヴィアもいつか………」

 

ほかの参加者と共にクッキーづくりに勤しむシルヴィアたち

ふとアルマがあたりを見回していた

「どうしたのアルマ?」

「あ、ううん、聖王教会っていろんなシスターの人たちがいるけど、私たちと同じぐらいの年の子もいるんだなって」

アルマの疑問が聞こえたのか材料の箱を抱えたセインが箱を置いて彼女の隣にやってきた

「あれはシャンテの弟子連中だよ、シャンテはノーヴェと一緒で、子供たちに剣術や魔法を教えてるからさ、こないだあったソネットもその一人、半分ぐらいは近所から通ってる子たちかな」

セインの言葉に首をかしげるアルマ

「えっと、じゃあ残りの半分っていうのは………」

「いろいろあってうちに住み込んでる連中だ、悪いけどあたし忙しいから」

そういってほかの参加者を手伝うために急ぐセイン

アルマは気になったのかまだ首をかしげていた

「ソネットも普段ここで暮らしてるシスターの一人なんだ」

「そういえば今日は見かけませんね、ソネット」

サマーラの言葉にシルヴィアたちがあたりを見回す

そこいらに参加者の手伝いをしたり自ら調理するシスターの姿は見えるがソネットの姿は確かにない

「本当だ、どこ行ったんだろう?」

シルヴィアも首を傾げ始める

「ソネットなら居ませんよ」

そういって彼女たちの下へやってきたのは騎士団を統べる修道女、カリム・グラシアだった

「ごきげんよう、騎士カリム」

「フフッ、ごきげんよう、元気そうですね、シルヴィア、サマーラも」

「ご無沙汰しております、騎士カリム」

慣れた手つきであいさつを交わすシルヴィアたちに驚くアルマ

「え………シルヴィアたち騎士カリムと知り合いなの?」

「え?ああ、ここにはソネットに会いによく来るからさ」

「シルヴィアの交友関係はとても広いですから、いちいち驚いていたらきりがないですよ」

騎士カリムに耳打ちされ苦笑しながら肩を落とすアルマ

「それより、ソネットはどこに?」

 

ソネットがシスターシャッハとともに訪れていたのは荒野にある小さな町

その町の隅にひっそりと建つ墓標の前で彼女たちは祈りを捧げていた

「すいませんね、わざわざこんな辺境まで足を運んでいただいて」

そんな彼女たちに年老いた男性が声をかけた

「毎年足を運んで祈りをささげていただいて、村人たちもきっと喜んでいますよ」

「必要ならいつでも呼んでください、我々は町の復興にも力を入れていくつもりです」

「それはそれは………ソネット、お前さんはよき人たちに巡り合えたな」

男性の言葉にずっと祈りを捧げていたソネットが目を開け立ち上がった

「はい、きっと両親も、教会のみんなに感謝していると思います」

 

「災害孤児!?ソネットさんが?」

「ああ、二年ちょっと前の事なんだけど」

クッキーパーティのさなかシャンテから話を聞いて驚くアルマ

「古代遺失物の暴発に巻き込まれた町に行ったときに、あいつあたしらに殴りかかってきたんだ」

そう言って当時を懐かしむシャンテ

「あいつ、その事故で両親を亡くしてさ、あたしらがあったときもボロボロだったよ」

もっと早く来てくれていれば両親は助かったかもしれない

そんな思いから教会騎士団に歯向かったソネットを抑え、この場所に誘ったのがシャンテだった

「あたしがソネットの保護責任者で、後見人がシスターシャッハ、今でこそああだけどここに来たばっかりのころは荒れてたんだよあいつ」

「シャンテさんはどうしてソネットさんを?」

アルマの問いかけに首を傾げるシャンテ

「あー、似てたんだよ、昔のあたしに」

照れくさそうに頭を掻くシャンテ

「あたしもあんたらぐらいのころグレまくっててさ、シスターシャッハに拾ってもらったの」

やんちゃばかりだったシャンテだが自分に居場所をくれたことに関しては感謝していた

魔法戦競技を始めたのだって教会のみんなに恩返しをしたいがため

「だからかな、なんかあいつのことほっとけないんだ」

 

夕方になってソネットとシスターシャッハが教会に戻ってきた

「すっかり遅くなっちゃいましたね」

「向こうで泊まってもよかったんですよ、せっかく故郷に赴いたというのに」

シャッハの問いかけにソネットは首を横に振った

「シスターシャッハにはお仕事がありますし、私一人のために迷惑をかけるわけにはいきません」

「本当にまじめですね、ソネットは」

そういって小さく笑うシャッハ、ふと中庭から聞こえる音が気になったようだ

「この音は………」

 

ソネットが中庭にやってくるとシスター見習いたちに混ざってシルヴィアとアルマが練習をしていた

「シルヴィアにアルマさん!?どうして………」

「あなたの事を待っていたんですよ」

そういってサマーラがソネットの肩に手を置いた

「つらいことを思い出してしまっているかもしれないから、思いっきり練習してすっきりしてもらおうって」

サマーラのその言葉に目を見開いてソネットはシルヴィアたちを見る

「本当に優しいですね、シルヴィアたちは」

そういってソネットは剣を取り出し彼女たちに向かっていった

それを見たシャッハとサマーラは笑いあっていた

 

「ただいまぁ」

「おかえり~」

「お邪魔してます」

帰宅したシルヴィアとサマーラがリビングにやってくるとブロンドの女性の姿

「あれっ!?珍しい!ファビアさんがいる」

「めったにここには来ないんですけどね」

普段あまり訪れないファビアがいることに驚くシルヴィアとサマーラ

言い返せずむくれるファビアだったが彼女の周りの小悪魔たちは気にせずシルヴィアの周りに集まってくる

「あはっ、プチデビルスも久しぶり」

 

この人はママの補佐官で、時空管理局特別捜査官のファビア・クロゼルグさん

先史時代の技術を受け継いだ正統魔女で、ママとは昔色々あったそうで

立場的にはママの部下なんだけど、うまく協力し合ったり、お互いでそれぞれ別の事件に向かって言ったりと

上司と部下っていうより息の合ったコンビって言ったほうが近い感じ

ただファビアさんはプライベートだとどちらかといえばアインハルトさんと仲良しだから

1人だとうちには本当にたまにしか来ない

 

「ほら、そんな風に言わないの」

「あ!ママー!お帰り!」

「おかえりなさい、今週は確か………」

「うん、引き継ぎもやってきたししばらくお休み」

甘えてくるシルヴィアの頭をなでながらサマーラの問いかけに答えるヴィヴィオ

「ところで、もうすぐ前期試験のはずだけどシルヴィアはちゃんと勉強してる?」

ヴィヴィオの問いかけに固まるシルヴィアだったが

「大丈夫だよ、ちゃんと勉強してるもん」

「ならよし、無事試験が突破したら“あれ”が待ってるもんね」

元気よく答えたシルヴィアに対してウインクで答えるヴィヴィオだった



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wish:8 機動六課

現在Stヒルデ魔法学院では一学期前期試験の真っ最中

シルヴィアもアルマも真剣な表情で試験に臨んでいた

そしてシルヴィアにはもう一つ楽しみなものが

 

ファビアやなのはとともに自宅でお茶をしていたヴィヴィオだったが突然通信がかかってくる

「ヴィヴィオさん」

「アンジュ!久しぶり!そっちはどう?」

かつてヴィヴィオと同じ部隊に所属していた人物

アンジュ・マーキュリーからの通信にうれしそうに声を上げるヴィヴィオ

「週末からのおやすみ無事確保です!予定通り行けますよ」

「そう、ならよかった、シルヴィアも会いたがってたよ」

「シルヴィアもですけど、新しく友達になったっていう子にも早く会ってみたいです」

「みんなでそろうのも久しぶりだしね」

そういって笑うヴィヴィオ

 

一方こちらは時空管理局の一室

書類を抱えた二人組

「そっか、今年ももうそんな時期か」

「ええ、もともとはヴィヴィオさんたちが選手時代に始めたことだそうですけど」

本局査察官のヴェロッサ・アコースとリエラ・ハラオウン

「ま、楽しんでおいでよ、僕ら査察官っていうのは何かと恨みを買いやすい、力をつけておくに越したことはないさ」

書類を持ちながら楽しそうに歩くヴェロッサ

「こんな仕事、本当は君にはしてほしくないんだけどね………君は大事な親友の娘、僕自身も小さい頃から知ってる、こんな因果な仕事をわざわざ選ばなくても」

「私が自分で決めたことです、プレシアさんが違法研究に進むきっかけになった事件は本来、プロジェクトを強行した会社側にも責任があるはずだった………」

「そういった事件で不幸になる人を少しでも減らしたい、か………ご立派だね」

そういって小さく笑うヴェロッサだった

 

本局執務室では一人の男性が書類をまとめため息をこぼしていた

「終わったぁ、これで何とか間に合いそうだな」

「大変っすねぇカレルは、補佐官つけずによくあれだけ」

ウェンディの言葉に苦笑する

「僕としては補佐官と一緒のティアナ執務官がどうして毎回そうなるのか気になりますけどね」

「カレル、あんた言うようになったじゃない」

ウェンディとその上司、ティアナ・ランスター執務官が大量の仕事を片付けるべくひーひー言いながら働いていた

カレルの皮肉に青筋を立てるティアナだがそちらを向く余裕は一切ない

 

一方ナカジマ家では

「スバルたちもオッケー、っと」

ノーヴェが何やらリストのようなものをまとめていた

「あとはうちのチビ達が何人参加できるかだな」

「仕切り役というのも大変だな」

そんなノーヴェにチンクが声をかけた

「まあ、これがあたしの役目だし、ギンガは?」

「部屋にこもって引継ぎの関係で通信だ、部隊長という立場がこういう時邪魔になってしまうな」

「そういえばもう一人」

そういって横目でリビングの方を見るノーヴェ

疲れ切った様子で机に突っ伏すディエチの姿がそこにはあった

 

「ふぅ、とりあえず今日の試験はここまでかな」

そういって鞄に荷物をまとめため息をこぼすアルマ

「シルヴィアどうだった?」

「魔導運用学やばいかも」

机に突っ伏しながらアルマの問いかけに答えるシルヴィア

魔力運用の苦手なシルヴィアにとって魔導運用学は数少ない苦手科目だ

もっとも、アルマがそれを知ったのはつい最近の事

試験ではデバイスの使用ができないため魔力運用の実技はシルヴィアにとって鬼門といえた

「明日で試験もおしまいだし、それさえ乗り切れば」

「うん、無事試験が終わったらだけどね」

そういってため息をこぼす

「そんなにやばいんだ………」

Stヒルデ魔法学院は教会系列のミッションスクール

成績優秀な生徒が多く追試などはめったなことではありえない

「元気だしなって、試験の後は楽しい合宿が待ってるんでしょ」

 

「ただいま」

帰宅して玄関にあがるシルヴィア

「お帰り、シルヴィア」

そんな彼女をヴィヴィオが出迎える

シルヴィアは笑顔を見せていたが

「(ママは私と違って魔力運用がうまい………学生だった時もどの科目も優秀だったって聞いてるし………)」

自身が劣ってると不安を感じるシルヴィアだったが

「ほらシルヴィア」

突然ヴィヴィオがそんな彼女を持ち上げ抱きかかえた

「なんか元気ないけど、もしかして魔導運用学の試験?」

「えっ?どうして」

「ママは何でもお見通し、今日はシルヴィアの好きなものいっぱい用意したから」

そういって戸惑うシルヴィアを肩車するヴィヴィオ

「試験がダメでもシルヴィアが私の娘だってことに変わりはないんだから、気にしないの」

すべて見透かされたようなヴィヴィオの言葉に微笑むシルヴィア

「でもママ!私そこまで駄目じゃありません!」

「わわっ!危ないから暴れないで」

まだまだママには敵わないことだらけです

 

教会ではリオとソネットが資料整理をしていた

「シルヴィアたちは大変みたいですね」

「あたしも昔は苦労したよ、その点ソネットはいいよね、もう学士資格まで持ってるもん」

「習得まで大変でしたけどね」

教会に来たばかりのころシスターシャッハに厳しく勉強を教えられていた時のことを思い出し苦笑するソネット

余談ではあるがStヒルデ魔法学院の場合学士資格を習得するのに10年もの勉強が必要である

それをソネットはわずか1年でこなしているあたり彼女も優秀といえよう

「さ、さっさとこの仕事終わらせちゃお、あたしも合宿行くし、ソネットも行くよね」

「えっ!?私も一緒に行っていいんですか?」

 

「お疲れさまでした、ティミル教導官」

そういってアインハルトがコロナに声をかける

コロナは今日アインハルトの所属する部隊で仮想敵として模擬戦を行った

「お疲れ様です、ストラトス陸尉」

「それでは、自分たちはこれで」

他の局員たちが全員去ったのを確認するとコロナは大きく息を吐いた

「すいません、気を使わせてしまいましたか?」

「いや、そっちはいつもの事だからいいんですけど、模擬戦、アインハルトさんも参加するなんて聞いてませんよ」

「ほかの隊員たちから是非にといわれて断り切れずに」

コロナからの追及に気まずそうな顔をするアインハルト

「撃墜されなくてよかったぁ、私にも教導官としての立場があるんですから」

「私もつい本気を出してしまいました、どうでしょう?この後一緒に食事でも」

「フフッ、お供します、アインハルト隊長」

かつて一緒に所属していた部隊での呼称を使いアインハルトをからかうコロナ

「今日はもう一人一緒なんですが………」

アインハルトの言葉とほぼ同時に二人の前に現れたのは

「お久しぶりです、アインハルト陸尉、コロナ教官」

「ロイス!久しぶり!」

かつて同じ部隊に所属していたロイス・ローレンスだった

 

「じゃ、ロイスも参加できるんだ」

「仕事の都合合わせるのには、少々苦労しましたけどね、久々の模擬戦で燃えてます、な、リヴァイアス」

「yes」

ロイスの言葉に彼の愛機、リヴァイアスも答える

 

食事の席での話題はかつての仲間たちの近況や最近の仕事の話がもっぱらだった

「この前の事件ではカレルと一緒の捜査でしたが、ずいぶん頼もしくなっていましたよ」

「リエラもやり手の査察官として名は通ってきているし、アンジュも救助隊で頑張っているようだし、かつての同僚たちが活躍して、僕も誇らしいですよ」

食事を口にしながらのロイスの言葉に苦笑するアインハルトとコロナ

「ロイスだって、上級キャリア試験一発合格!艦長だって夢じゃないって聞いてるよ」

「チンクさんやギンガさんにみっちり教え込まれましたからね」

かつて108部隊で実地研修していたころの事を思い出して青い顔になるロイス

「僕の場合珍しい資質抱えてることもあってかある程度優遇はされましたし、コロナ教官たちに鍛えてもらったおかげもあるんでしょうね」

そういって自身の右頬をなでるロイス

「あそこでの経験がなかったらこうはいかなかったと思います、その件に関してはどれだけ感謝しても足りないですよ」

ロイスのその言葉に笑顔になるアインハルトとコロナ

「さて!先輩としていいお手本になれるよう頑張らなきゃ」

「僕も競技選手の経験はないですが、今年はシルヴィアもいるわけですし、張り切らないと」

「yes」

目前に迫ったイベントに闘志を燃やす一同

「あ、でもロイスの魔法は珍しすぎて参考にはならないと思います」

「ですよね」

アインハルトの言葉にわかっていたとはいえ凹んでしまうロイスだった

 

「機動六課ぁあ!?」

前期試験終了後の高町家にアルマの驚愕の声が響いた

「あはは、さすがに知ってるか」

「当然だよ!機動六課って言ったらかつて幻と呼ばれ、表舞台に上がった今でも魔導師たちのあこがれと呼ばれてる伝説の部隊でしょ!でもまさか………」

アルマが振り返った先には苦笑するヴィヴィオとなのはの姿

「ヴィヴィオさんが以前その部隊で隊長やってたなんて………」

「ちなみになのはママもその幻といわれた創設メンバーの一人なんだよ」

ヴィヴィオの説明になのはは苦笑し、アルマは目を見開いたまま動かなくなった

「さすがにアルマちゃんぐらいの年の子は知らないかぁ、ここ数年は教導ばっかりだったから」

「もうずいぶん前線に出てないもんね、なのはママは、実力でいえば現役バリバリだけど」

「まだまだ若い世代に負けてられないよ」

そういってガッツポーズをとるなのは

一方アルマは疲れ切った表情でシルヴィアに耳打ちしていた

「この間騎士カリムが言っていたことの意味が分かった気がする」

「あはは」

もはや乾いた笑いしか出てこないシルヴィアだったが

「そういえば、試験はどうだったんですか?」

サマーラの問いかけに笑顔を見せ成績表を取り出した

「花丸評価!無事試験クリアだよ」

「あっ!すごい!魔導運用学も好成績だ」

なのはがシルヴィアの成績を見て目を見開く

嬉しそうなシルヴィアの頭に手を乗せるヴィヴィオ

「よく頑張ったね、えらいよシルヴィア」

ヴィヴィオに撫でられて照れ臭そうに笑うシルヴィアだった



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wish:9 ホテルアルピーノ

聖王教会ではリオとディードがバイクの準備をしていた

「お待たせしました」

「準備完了だよ」

ヘルメットを持ったソネットとオットーがやってきた

「こっちも準備オッケー、それじゃあ行こうか」

「春の大自然旅行ツアー、そして………皆さんでオフトレーニング」

 

「と、言うわけで、これからあたしの知り合いが経営しているロッジに向かうわけだが、くれぐれも迷惑をかけないように」

子供たちに引率役のノーヴェが注意を呼びかける

毎年の事なので子供たちの返事も手慣れた様子

「緊張するなぁ、管理局で働いてる人たちもいるんだよね」

「大丈夫、みんないい人たちだから」

緊張気味のアルマにシルヴィアが陽気に声をかける

 

これから行く場所、無人世界カルナージにあるリゾート施設を経営しているのはママの小さい頃からの友達

次元船の船内で外を眺めるシルヴィア

結構人気の場所で、私もママもめったに会えないんだけど、合えばいつも笑いあえる素敵な人

 

「ようこそ皆さん、ホテルアルピーノへ」

紫の髪の明るい女性

広大な自然の中にたたずむ無数のロッジ

そのオーナーであるルーテシア・アルピーノが一行を出迎えた

「管理局の皆さんはすでに到着済み………まぁ何人か遅れてる人もいるけど」

頭を掻きながら苦笑するルーテシア

「とにかく、みなさんにとって楽しい休日になれるよう、全力でおもてなし致しますので」

そういってガッツポーズをとるルーテシア

笑顔でそれを見ていたシルヴィアだったがふと隣のアルマがいまだ緊張しっぱなしだということに気付いた

「アルマまだ緊張してるの」

「だってここ、テレビや雑誌でよく特集されてる有名なところだよ、シルヴィアの交友関係に関しては驚かないけどさすがにこれは………」

と、アルマが言いかけているとルーテシアがウインドウを表示して各自の部屋割りを発表しているところだった

「あっ!」

それを見て思わずシルヴィアが声を上げた

シルヴィアとアルマ、そしてソネット、同じ部屋には保護者役としてヴィヴィオとアインハルトの名前もあった

 

「ルーテシアさん」

挨拶を終え一息入れるルーテシアにシルヴィアが声をかけた

「久しぶりね、シルヴィア、お、また背が伸びたんじゃない?」

そういってシルヴィアの頭をなでていると隣で緊張するアルマの姿が目に入った

「あなたがアルマね」

「あっ!はい!アルマ・ラフェスタです!お会いできて光栄です」

そういって勢いよく頭を下げるアルマを見て苦笑するルーテシア

「よろしくね、そんなに硬くならなくて大丈夫だから、まずは荷物おいてきなよ」

ルーテシアが指を鳴らすと黒く武骨な生物が突如姿を現した

「念のためこの子も護衛につけたげる」

「えっと………」

「私の召喚蟲、ガリューっていうの、普段は私の仕事を手伝ってもらってるのよ」

ルーテシアの紹介が終わると同時にガリューが礼をする

 

あてられたロッジにたどり着き荷物を置くシルヴィアとアルマ

広いロッジの中ではすでにアインハルトが待っていた

「4日間よろしくお願いしますね」

「「よろしくお願いします」」

アインハルトのあいさつに返事を返す二人

すると荷物を抱えたソネットが入ってきた

「シルヴィア、アルマさんにアインハルトさんも、4日間ご一緒ということでよろしくお願いします」

荷物を抱えながら例をするソネット

笑顔でそれを返すシルヴィアにアインハルトが声をかけた

「少し時間がありますから、ほかの皆さんをアルマさんに紹介してあげてはいかがでしょう、丁度隣のロッジにリエラさんとアンジュさんが」

「アンジュさんもう来てるんですか!?」

「ええ、一足早くこちらに来ていたようですよ」

「行こう、アルマ」

アルマの手を引いて駆けだすシルヴィア、丁度ヴィヴィオがロッジに入ってくるところだった

「ママ、アンジュさんの所に行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃい」

 

「久しぶりね、シルヴィア」

ロッジを訪ねたシルヴィアをアンジュとリエラが出迎えた

 

アンジュさんはママが六課の隊長をやっていた頃色々教わっていた、ママの弟子みたいな人

今は救助隊で働いていて、時間がある時には私の練習にも付き合ってくれてる

強くて優しい人

 

アルマとリエラも交えてしばらく話をしているとスピカが何かを伝えようとしていた

「えっ!?もうそんな時間?」

スピカのジェスチャーから何かを聞き取ったシルヴィアが立ち上がった

「それじゃあアンジュさん、リエラさん、また」

そういって出ていくシルヴィアとアルマを見送ると

「それじゃあ、私たちも行きましょうか」

「ええ」

アンジュとリエラもトレーニングに向かうため準備を始めた

 

ロッジ近くの川で元気よく飛び込む子供たち

ナカジマジムの子供たちが川遊びに興じていた

「アルマもおいでよ」

ノーヴェの隣で上着を羽織ったまま恥ずかしがるアルマにソネットと一緒に遊んでいたシルヴィアが声をかけた

アルマはその言葉に戸惑うもノーヴェに背中を押され上着を脱ぐと何とか川に飛び込んだ

ノーヴェの方に留まったスピカは残念そうに俯く

「まあこればっかりはしょうがねえからな、お前は水に濡れると飛べなくなる」

そういってノーヴェが肩のスピカを励ましながら全員が見える位置に行く

引率の彼女は万一の場合のために備えておかないといけないのだ

 

子供たちが楽しく遊んでる一方で大人たちはアスレチックでトレーニングに励んでいた

うつぶせに倒れて息を切らしているヴィヴィオ

「ヴィヴィオ~、大丈夫?」

そんな彼女をコロナが心配そうに見下ろす

「へ、平気、平気」

「コロナさんってあんなに体力ありましたっけ」

「さすが教導隊、元気だねぇ」

ヴィヴィオほどではないがアインハルトとリオも呼吸が多少乱れている中、コロナは全く息切れする様子を見せない

「ヴィヴィオ~!そろそろ次の周回回るけど行ける?」

「あ、うん」

なのはの声になんとか立ち上がるヴィヴィオ、それを見たコロナは

「じゃ、私もこれ外しておこうっと」

といって足に巻いていた何かを地面に置く

コロナがアスレチックの入り口に向かう中ヴィヴィオがそれを持ってみると

「………重い」

その呟きだけでアインハルトとリオは絶句した

「あ、それ今教導隊で試しているトレーニング用の試作品だよ、魔力と体力を一緒に鍛えるための」

そういって手首に巻いていたものを置くなのは

どうやら彼女も同じものをつけていたらしい

 

「っあぁ、疲れた」

岩場に座り込んでため息をこぼすアルマ

「こいつらの水遊びは結構ハードだからな」

そんなアルマの頭上にノーヴェがタオルを落とした

「水中では通常と違った力の応用がいる、だから続けていけば柔らかくて持久力のある筋肉が自然と出来上がる、お前は入ったばかりで未経験だけど、うちのメニューにもプール練習があるしな」

ノーヴェの言葉を聞いたアルマは頭をふきながらソネットと遊ぶシルヴィアを見た

「シルヴィアは………会長に教わってどのくらいですか?」

「ん?ああ、一年生の夏ぐらいからだからもうすぐ4年だ、チームの練習以外にも休みの日にヴィヴィオとプールに行ったりしてるから、だいぶ仕上がってるはずだ」

ノーヴェの言葉が聞こえているのかいないのか、アルマは首にかけたタオルをただ握りしめていた

「(また自信なくしちまったかな………)」

どうするべきか思案するノーヴェだったがすぐ答えが出た

「シルヴィア、ソネット、ちょっと水斬り見せてやってくれ」

ノーヴェの言葉にアルマは首を傾げた

「あの………水斬りって」

「なーに、ちょっとした遊びさ、あとでおまえもやってみろ、おもしれえから」

 

シルヴィアが拳を構える

「えいっ!」

シルヴィアが拳を奮うと川の水が割れ大きな水柱が

「せいっ!」

ソネットも同様に行うと川の水が更に大きく割れる

それを見たアルマは目を見開いた

「コツさえつかめばおまえにもこれは出来る」

そういってノーヴェがアルマの肩に手を置いた

「やってみるか」

アルマの答えは既に決まっていた

 

ホテルアルピーノのテラスとそこから広がる大きな庭で昼食

「はいはい、お料理はまだまだいっぱいあるからね」

その中心にいたのはディエチだった、両手に持ったお皿にたくさんの料理を乗せている

「あの人は?」

「会長のお姉さんで、山岳地帯の陸士隊で防災指令をしているディエチさん、お料理が得意なの」

アルマとシルヴィアは震えながらそんな話をしていた

「シルヴィアー」

そんな二人の下へやってきたのは黒い髪を頭の後ろで1つに結んだ女性

「あ!ジークさん!」

「ジーク?どこかで聞いたような………」

アルマが首を傾げていると目の前に料理のたくさん乗ったお皿が差し出された

「ほら、二人ともずっと水斬り練習していたそうやないの、体冷やすといけないから」

料理を差し出しながら笑いかけるジーク

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます!やっぱり優しいですね、ジークさんは」

二人がジークの差し出したお皿から料理を受け取り口にする

「午後はどないなってるの?」

「陸戦場の安全な場所で模擬戦の見学ですね、ジークさんも」

「うん、出るよ、ただ人数多いから見つけられるかどうか」

そういって参加するたくさんの局員たちを見渡しながら苦笑するジーク

「やっぱりジークさんも局員なんですね」

アルマのその言葉に一瞬首を傾げながらも局員証を取り出すジーク

「しっ!執務官!?失礼しました!」

そこに示された階級を見てアルマが驚きの声を上げていた



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wish:10 ジークリンデ・エレミア

ヴィヴィオの周囲に魔法弾がいくつも形成される

「ロイス!お願い」

背に翼をはやしたアンジュが突っ込んでいく

「リヴァイアス!」

ヴィヴィオが放った魔法弾を大量の水が防ぎその間を縫ってアンジュが切り込む

ヴィヴィオがアンジュの攻撃をガードするとけりを繰り出す

アンジュもまたこれを交わして反撃するがそれもまたヴィヴィオに回避される

 

大きな砲、スマッシュカノンを抱えたディエチが砲撃魔法を放つ

なのはもまた砲撃を放ちそれを迎え撃つ

「すごいなぁディエチ、また腕上げたんじゃない?」

「いつまでも背中追いかけてばかりじゃいられませんから」

なのはの問いかけに答えながらディエチが魔法弾を形成

なのはもまた魔法弾を形成してディエチの攻撃を迎え撃つ

 

黒いバリアジャケットに巨大な剣を持った青年

トーマ・アヴェニールがスバルに向かっていく

振り下ろされた剣をスバルが拳で迎え撃つ

 

特攻服に似たバリアジャケットを纏うハリー・トライベッカの放つ砲撃が次々ティアナに向かっていく

ティアナは走りながらそれを回避し続けビルの後ろに隠れると射撃魔法でハリーを狙う

後ろに飛んでハリーがそれを避けるとより強い砲撃でビルごとティアナを狙う

 

眼鏡に短めのおさげの女性、エルス・タスミンが放つ捕獲魔法をかいくぐりフェイトが彼女に向かっていく

手に持ったデバイス、バルディッシュを振り下ろすフェイトだったがエルスもまた手に持った手錠、パニッシャーでそれを受け止める

 

カレルが射撃魔法を放ちながら赤い髪の背の高い男性、エリオに向かっていく

彼らの剣と槍がぶつかり合い激しい音が鳴り響く

 

「ほぁぁ~」

陸戦場で繰り広げられている模擬戦を見て思わず声を上げる

「みんなすごいでしょ」

シルヴィアの問いかけに頷くアルマだったがシルヴィアの方を見た時に見えた巨大な影に驚く

「あれ、もしかして」

「えっ?ああ」

シルヴィアも同じ方を見て納得する

 

巨大なゴーレムが三体、そのうちの一体の肩にコロナが乗っていた

「コロナさん、ゴーレムマイスターなの」

「でもあんな大きなゴーレム3体なんて聞いたことが」

「で、リオさんは春光拳っていう伝統武術を使うの」

炎と雷を拳に纏ってゴーレムに向かっていくリオ

巨大なゴーレムにも負けないパワーで立ち回る

アルマが呆気に取られているとフェイトとサマーラが空中で戦っていた

「えっ!?サマーラも模擬戦に」

「うん、私の練習にもよく付き合ってもらってるんだ」

すると突然二人のいるところから少し離れたあたりから爆音が

「な、何今の凄い音」

「きっとヴィクターさんだ、行ってみよう」

 

陸戦場の一角でヴィクターとジークが対峙していた

ヴィクターは電気変換された魔力をバチバチと派手にならしておりジークはステップを踏みながら間合いを確かめていた

「元副官だからって容赦はしなくてよ」

「当然や、うちとヴィクターは上司と部下である前に同じ元競技選手、そんで」

次の瞬間ジークが踏み込んでヴィクターに向けて拳を奮う

ヴィクターは持っていた斧の柄でその攻撃を受け止めた

「仲良しの友達(ライバル)や」

「だからこそ、手は抜かない」

斧を振るってジークを薙ぎ払うヴィクター

そのまま斧を豪快に回して大量の電気を放つ

ジークもまた右手に複数形成した魔法弾でそれを迎え撃つ

 

「すごい、二人とも………」

その光景を遠目で見ていたアルマは思わず言葉を失った

「二人もママと一緒で元競技選手だったの!しかもただの競技選手じゃないよ」

シルヴィアの言葉を聞いたアルマは思い出した

「そうか、ジークリンデ・エレミア」

「あれ?ジークさんのフルネーム教えたっけ?」

シルヴィアの問いかけにアルマは首を横に振った

「でも、有名な人だもん、かつて頂点に君臨していた向かうところ敵なし、無敵のチャンピオン」

陸戦場を見下ろすアルマ

「でも、ジークさんだけじゃない、ほかの人たちもみんなすごい………」

ふと、アルマは何かに気付いた

「そういえば………アンジュさんの魔法、シルヴィアのと似てるよね」

アルマの視線の先には空中からヴィヴィオに向かっていくアンジュの姿

「ああ、私にあの魔法教えてくれたのアンジュさんなの、私はまだそんなに高く飛べないから」

そういってスピカを呼び寄せるシルヴィア

「アンジュさんのスピード強化魔法をベースに低空飛行用の魔法を組み上げたの、普通なら最初からある程度の高さまでは行けるんだけど………」

シルヴィアの言おうとしていることはアルマにもわかっていた

自身の魔力を制御しきれないシルヴィアは飛行中に意識を失う危険がある

「でも、魔法を使いながら戦うとき、動き回ると体にものすごい負担がかかるの、魔力が強すぎて」

それを解決するための移動魔法だった

アラームが鳴り響き時間切れを伝えると全員が戦闘を中断する

「おいお前ら出番だぞー」

そういってノーヴェとルーテシアが大量のドリンクをクーラーボックスに入れて持ってきた

 

「ドリンクの配達でーす」

「おおきに、もうクタクタや」

シルヴィアとアルマがドリンク片手にジークとヴィクターの下へやってきた

ジークは武装を解くと上に着ていたジャージを脱いで腰に巻き白いインナー一枚の姿になった

「こらジーク、はしたないわよ」

「堪忍してぇなヴィクター、汗いっぱいかいて暑いんやもん」

そういって受け取ったドリンクをがぶ飲みするジーク

それを見たアルマはぽかんとしていた

「ん?どないしたん?うちの顔になんかついとるか?」

「あっ!いえ、そういうわけでは………」

アルマの反応を見たジークは彼女に詰め寄る

「なあ、なんか悩んでることあるんか?」

ジークの問いかけにアルマは目を見開いて俯いた

「わからないんです、自分が本当に強くなれるのか」

自身のデバイスをみつめるアルマ

「シルヴィアの友達だって胸張って言えるように、シルヴィアのそばにいて恥ずかしくないよう、強くなりたいって思って、でも………本気のシルヴィアはすごく強かった」

全力で打ち合った先日の模擬戦

アルマは終始シルヴィアの勢いに押されてしまっていた

それに彼女が目標としているヴィヴィオの実力

シルヴィアの目指す場所が自分にとってあまりにも遠くに感じてしまった

「今こうして話しているジークさんだって、魔法戦競技の頂点にいた人、シルヴィアは普通に話せていたけど、私は………」

そういって縮こまるアルマだったが

「こーら、うちかて最初から強かったわけとちゃうよ」

そういってアルマの鼻を指で押すジーク

「ちょお失礼して………」

立ち上がったジークは右手に力を込めた

すると黒い闘気が彼女の右手に集まっていく

ジークが腕を振るうとそちらにあったレイヤー建造物が一瞬にして崩れ去った

「すごいやろ」

次の瞬間ヴィクターのげんこつがジークに炸裂した

「いきなり何しているのよ!危ないでしょう!」

「ちゃんと加減したよぉ」

殴られた個所を抑えながら丸くなるジーク

アルマが呆気に取られていると

「この力な、こんな風にコントロールできるようになったのはつい最近や」

そういって天を仰ぐジーク

「4年ぐらい前までは勝手に発動して大変やったし、うちもこの力が怖くてしょうがなかった」

「同じですね………」

シルヴィアもまた自分の力を、再びブラックアウトダメージに陥ることを恐れていた

だが

「私は自分の力が怖いわけじゃない………いったいどうすれば………」

そんなアルマの頭に突然ジークが手を置いた

「こーら、人の話は最後まで聞きや」

クシャクシャとアルマの頭をなでるジーク

「別にそれで強かったわけとちゃうよ、大事なんは自分の力とどう向き合うかや、なヴィクター」

話を振られたヴィクターはため息をこぼしながら

「そうね、私も自分の力に悩んだことはある、でも一生懸命考えて、それを誇りに変えることができた」

ヴィクターの言葉に頷くジークだったが

「ところで………そろそろ休憩時間が終わってしまいますわよ」

「あわわっ!ほんまや!」

慌てふためくジークを見て思わず笑ってしまうアルマ

「ありがとうございました」

そんな彼女たちにお礼の言葉を告げ立ち去った

アルマの背中を二人は笑顔で見送った

 

オットーやディードと共にウォールアクトに励むジークとヴィクター

「あの子、アルマやったな、強なるよ、きっと」

「あなたが言うのだからっ」

ビルの壁を蹴って一気に降下するヴィクター

指先から放った電撃でスフィアに対して迎え撃つ

すべて撃ち落とすとジークの方に向きなおった

「そうなんでしょうね、きっと」

 

見学を終えミット打ちに励むナカジマジムの子供たち

アルマが打ち込んでくるのをミットを担いだソネットが受け止めていたが

「っ!?」

続けざまにアルマの拳が叩き込まれる

何とか合わせるソネットだったが体はどんどん後ろに下がっていた

「そこまでっ!5分間休憩」

ノーヴェの言葉と共にアルマも攻撃をやめる

ソネットはミットを持っていた手がしびれているのを感じて驚いていた

「今日はずいぶん気合が入ってますね」

「ちょっとね、ジークさんにお話聞いたお陰かな」

「ジークリンデ・エレミア執務官ですか………」

その名前を聞いたソネットはしびれたままの手をじっと見ると拳を握った

「なら、私ももっと頑張らないといけませんね」

そういってアルマの方に向きなおるソネット

「私にだって、強くなりたい理由がある」



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wish:11 リオ・ウェズリー

ソネットはデバイスを持って素振りを

シルヴィアとアルマは二人で組み手をしていた

近くには誰もいなかったが

「強くなりたいのはわかるけど………」

その声に三人は手を止め振り返った

「あんまり無理するとかえって体壊しちゃうよ」

「リオさん………」

ジャージ姿のリオが三人を呼ぶために来ていた

「お風呂の準備できてるよ、ルーちゃんご自慢の天然温泉」

そういってコテージのある方を指さすリオ

 

温泉に肩まで浸かってボーっと空を眺めるシルヴィアたち

「おじゃましまーす」

三人のもとにタオルを巻いたリオがやってきた

「アルマ、今日はずいぶん気合入ってたね」

「ええ、早く強くなりたくて、ヴィクトーリアさんとジークさんみたいに、いつまでも切磋琢磨しあえる、私たちもあんな風になれたらって思うんです」

「ああ、あたしたちも選手時代そうだったなぁ」

アルマの言葉に幼いころのことを思い出し想いを馳せるリオ

「今じゃみんなバラバラだけど、時々会ったりして、一緒においしいもの食べたり、実力確かめ合ったり」

時としてぶつかり合うこともあった、それさえも今は

 

夕食までまだ少し時間があったので一同は思い思いに過ごしていた

テラスで紅茶を片手に月を眺めるヴィクターとジーク

さすがに入浴後に運動するわけにいかないのでシルヴィアたちは当てられた部屋でゆっくり過ごしていた

そして

「うぅ~、やっぱり効くなぁ~」

ヴィヴィオたちは学生時代からの友人である本局医療局員のユミナ・アングレイヴにマッサージをしてもらっていた

現在はリオがマッサージをしてもらっておりすでにマッサージを終えたヴィヴィオ達は近くの椅子に腰かけて休んでいた

「ヴィヴィオちゃんたちもだけど、リオちゃんも相当きてますね」

うつぶせになったリオの肩をマッサージしながらユミナが声をかけた

「でしょ~、教会の仕事も結構大変なんだよぉ」

「そういえばリオ、昨日まで巡礼ツアーの手伝いだったって言ってたよね」

「ああ、それで、このあたり特に疲れ溜まってるから」

ユミナが苦労しながらリオの肩をマッサージしていると

「悪いと思っちゃいるけど、リオ力持ちだからつい頼っちゃって」

そう言ってバスケットを持ったセインが入ってきた

「セイン?どうしてここに?」

「例によって差し入れ、帰る前に晩御飯の準備できたこと伝えてくれって奥様に言われて」

「あ、もう少しで終わりますから」

「お、ここにいたか」

そこへノーヴェとファビアが入ってきた

「なんか珍しい組み合わせ」

「明日の練習会の割り振りが決まったんだよ、お前ら全員同じブロック」

そういって紙片を取り出すノーヴェ

「拝見してもよろしいですか?」

「ああ」

ノーヴェから組み合わせ票を受け取ったアインハルトが内容を確認してみると

「やはりこのメンバーになりましたか」

「試合に出てくるチームの子は誰?」

そういってヴィヴィオも紙をのぞき込む

「あたしもみたい~」

「リオちゃんはもうしばらくじっとしてて」

「教導官の立場から見てどう思う?この組み合わせ」

そう言ってコロナに紙を手渡すヴィヴィオ

「うん、戦力も均等に割り振れてるし、特に問題はないと思うよ、あとは参加するチームの子の能力次第かな?」

そういってコロナが紙をたたんでノーヴェに手渡す

「はい、終わりましたよ」

「ふぅ、ねえ、組み合わせどうだったの?」

マッサージを終えたリオにアインハルトが耳打ちで組み合わせを教える

「んじゃあこれで最終決定ってことで、夕飯の時でも全員に伝えるようにするか」

「楽しみだね、明日の練習会」

 

「ふぇ?練習会?」

夕食の時にシルヴィアから出た言葉に首を傾げるアルマ

「そう、ママやみんなと一緒に模擬戦に参加するの!大人チームは最大出力に制限がかかるけどそれ以外は一切手加減ナシ!」

「自分の力がどこまで通用するか確かめることのできる貴重な機会です」

シルヴィアだけでなくソネットも練習会に向けて闘志を燃やしていた

「人数多いからいくつかのブロックに分かれてやるんだけど………」

丁度そこへ組み合わせ票を持ったノーヴェがやってきた

「ほら、明日の練習会の組み合わせ票だ、しっかり確認しておけよ」

そういってノーヴェは他の子どもたちにも配るために去っていった

「早速見てみようよ」

シルヴィアが畳んであったそれを開いてみてみる

「えっと、あ!私とアルマ同じブロックだ」

「私は別ブロックの様ですね」

残念がるソネットだったが

「ですがかえって運が良かったのかもしれません、私と同じブロックにジークリンデ執務官の名前があります」

「えっ!?あ、本当だ」

どうやらソネットはジークと同じブロックの様だ

「ジークリンデ執務官はかつて魔法戦競技の頂点にいた方、そのジークリンデ執務官に今の私がどこまで通用するのか」

気持ちが高まるのを抑えられない様子のソネット

「がんばってね、えっと私たちは………あれ?私たちと同じグループの子供組私とアルマだけ?」

「あぶれちゃったみたいだね、大人チームは………」

紙をのぞき込んだアルマの肩にリオが手を置いた

「あたしたちだよ」

リオだけではない、ヴィヴィオやアインハルト、コロナにアンジュ

シルヴィアたちのブロックは機動六課の同期メンバーで組まれていた

「基本的に模擬戦のブロックっていうのは共通点があるものだよ、ジークさんと同じブロックにヴィクターさんやエルスさんの名前もあるし」

「あ、本当だ」

「私はシルヴィアとは敵同士になってしまいましたね」

そういってサマーラが紙に書かれた自分の名前を指さした

サマーラはアルマ、そしてリオ、アインハルト、ロイス、リエラと同じチーム

シルヴィアと同じチームにはヴィヴィオ、ファビア、コロナ、アンジュ、カレルがいた

「ヴィヴィオさんが………」

それを見たアルマは拳を握った

「(確かめたい、シルヴィアが目標とするヴィヴィオさんの力がどれほどのものなのか………その人相手に私がどこまでやれるのか)」

そんなアルマの頬に冷たいコップが当てられた

「とりあえず今は、おいしいご飯を堪能しようよ」

そういってコップを差し出すリオ

 

「えー、それでは、本日の訓練お疲れさまと、明日も頑張りましょうという気持ちを込めて」

そういってルーテシアがコップを掲げる

「乾杯!」

「≪乾杯!≫」

 

「シルヴィア」

アルマやソネットと談笑していたシルヴィアのもとにヴィヴィオとルーテシアがやってきた

「明日はお互い頑張ろうね」

「うん、でもどうせならママと戦って勝ちたかったなぁ」

「いくら出力制限があるからってまだまだシルヴィアに負けるつもりはないよ」

そういってシルヴィアのおでこを小突くヴィヴィオ

それを見てソネットとルーテシアが小さく笑っていると

「この親子は相変わらず仲良しさんやね」

腰まで伸ばした茶髪を赤と黄色の髪留めでとめた女性がやってきた

「八神部隊長!」

「ずいぶん早かったですね、着くのは明日の朝だって聞いてたんですけど」

「いや、そのつもりやったんやけど思ったより早く仕事が片付いてな、待ちきれんかったから来てしもうた」

「(八神………八神………機動六課の八神はやて部隊長!?)」

「元気そうやね、シルヴィア」

シルヴィアの頭を笑顔で撫でるはやて

若干照れつつもおとなしくなでられるシルヴィア

「でも、考えてみれば当然だよね、ヴィヴィオさんは六課の隊長だったわけですし」

そういって飲み物を飲むヴィヴィオを見るアルマ

「そもそも八神部隊長となのはママ、あとフェイトママもか、この三人は子供の時からの親友同士なんだ」

アルマのつぶやきが聞こえたヴィヴィオはコップに残っていた飲み物を飲み干すとそう答えた

「驚かないんですね」

「さすがに慣れてきました」

ソネットの問いかけに遠い目のまま苦笑いして肩を落とすアルマ

そんな二人のもとにアインハルトがきょろきょろしながらやってくる

「アインハルトさん?どうしたんですか?」

「明日の模擬戦の事でリオさんと相談しようと思ったんですが………」

「あれっ!?さっきまでいたのに?」

アインハルトの言葉でリオの姿が見えないことに気付いたヴィヴィオ

 

そのリオは現在ディードと共にいた

二人は明日の模擬戦に備えてデバイスのチェックをしていた

刀に変化したソルフェージュの刀身に軽く触れ状態を見るリオ

隣に座るディードもツインブレイズのプログラムをフルチェック

「こちらは問題ないようです」

「ソルも大丈夫、今日の試合でもだいぶ使い込んだから心配だったけど」

待機状態に戻したソルフェージュを手に取るリオ

「一応明日の模擬戦が終わったらメンテナンスしてきれいにしてあげる」

「Thank you rio」

「フフッ、じゃ、明日もよろしくね」

ソルフェージュを腰に掛けるとディードの方に振り返る

「けどなんか残念、できればディードとやりたかったから」

「私とならいつでもできるじゃないですか」

「そうだけど」

そういって再度腰掛けるリオ

「なんだか不思議な気分だね、今私、あの頃のディードと同じ立場にいるんだよ」

「ええ、時の流れというのは本当に不思議なものです」

「あ!こんなところにいた」

物思いにふけっていたリオとディードのもとにヴィヴィオとアインハルトが

「やっぱりディードさんと一緒でしたか」

「ごめんごめん、なんか用事だった?」

「明日の模擬戦の事なんですが………」

 

自身のデバイスを握りしめるアルマ

「シルヴィアとの成績はいま一勝一敗、あれから練習も続けてきた」

シルヴィアもスピカをなでながら明日の練習会の事を考えていた

「がんばろうね、スピカ」

シルヴィアの言葉にスピカも頷く

物陰に居たヴィヴィオもそれを見てうれしそうな表情を浮かべていた



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wish:12 ヴィヴィオとファビア

練習会の日の早朝

シルヴィアはコテージのテラスから外を眺めていた

「もう起きてたんだね」

伸びをしていたシルヴィアにヴィヴィオが声をかけた

傍らにはクリスの姿もある

「なんだか眠れなくて、アルマもリオさんと練習に行ったよ」

「じゃ、私たちも行っちゃう?」

母の問いかけに笑顔で答えるシルヴィア

 

早朝練習と朝食を終え陸戦場に集まる一同

「各ブロック赤組と青組に分かれてのフィールドマッチ、大人たちの出力はAAランク相当まで制限、武器を使う人たちはシールドを抜かないように注意、ライフポイントはDAAS公式試合用タグで管理します」

ノーヴェがウインドウ越しにルール説明をしていた

「説明は以上、各自準備してください」

「さすがに手馴れてるね」

「毎年やってるからなぁ」

ルーテシアの言葉に項垂れるノーヴェ

 

そしてここはシルヴィアたちが参加する第3陸戦場

「それじゃあ赤組!頑張っていくよ」

ヴィヴィオの言葉と共にシルヴィアたちがデバイスを構える

「青組の皆さん!私たちも負けていられません!」

アインハルトも振り返ってアルマ達もデバイスを構えた

サマーラもカラス形態でその大きな翼を構えていた

「「「「「「セーット」」」」」」

「「「「「「アーップ!」」」」」」

全員の体が光に包まれる

アンジュが前に伸ばした両手に鎧に似た装備が装着され

手を広げるとともに胸当てのようなものが装備されそこから白いワンピース上のバリアジャケットが上から包み込むように装着される

ロイスが水に包まれた拳を突き出すと水がはじけバリアジャケットの袖が現れる

同じように反対の拳を突き出し両袖がそろうと構えをとりそれと共に全身に纏われたバリアジャケットが姿を現す

青い魔力光で出来た刀身を持つデバイスをカレルが掴み思いっきり横一文字に振るうと彼の体が青い雷に包まれ黒を基調としたバリアジャケットが装着される

祈るようにして手を組んでいたリエラが踊るように体を回しバリアジャケットを構成する

ファビアが箒を持った手を横に大きく振るうと黒を基調としたワンピース型のバリアジャケットが構成される

人間形態のサマーラが大きく翼を広げると彼女の戦闘服が構成される

バリアジャケットを構成したヴィヴィオが右に大きく体を回して右足を蹴り上げる

アインハルトもバリアジャケットを構成すると左に大きく体を回し右手を突き出す

リオの腕が炎に包まれたかとおもうとバリアジャケットの袖が姿を現す

その腕を思いっきり振るい構えたかと思うと稲妻が走って全身を包むバリアジャケットが構成された

コロナはバリアジャケットを構成すると手に持ったブランゼルをくるくる回して構える

シルヴィアが思いっきり腕を広げると大きな白い翼が姿を現した

祈るように手を組んだアルマの体が炎に包まれる

バリアジャケットの構成を終えたシルヴィアは軽く手足を振るって一回転すると右手を勢いよく伸ばして構える

アルマが目を開いて組んでいた手を離すと同時に彼女のバリアジャケットが構成された

 

赤組

高町シルヴィア FA(フロントアタッカー)

高町ヴィヴィオ GW(ガードウイング)

アンジュ・マーキュリー FA(フロントアタッカー)

カレル・ハラオウン GW(ガードウイング)

ファビア・クロゼルグ FB(フルバック)

コロナ・ティミル WB(ウイングバック)

「向こうは前衛に突破力の高い子がそろってる、十分に警戒すること」

ヴィヴィオの呼びかけに全員が頷く

 

青組

アルマ・ラフェスタ CG(センターガード)

アインハルト・ストラトス FA(フロントアタッカー)

ロイス・ローレンス CG(センターガード)

リエラ・ハラオウン FB(フルバック)  

サマーラ GW(ガードウイング) 

リオ・ウェズリー GW(ガードウイング)

「向こうのチーム指揮ポジション(センターガード)がいないみたいですけど?」

「必要ないんですよ、ヴィヴィオさんとクロが一緒ですから」

アインハルトの言葉に首を傾げるアルマ

 

「それじゃあ皆さん、ケガだけはしないように」

ユミナが一言だけ添えて思いっきりドラを鳴らした

それを合図に各所で試合が始まっていく

 

「リヒトフリューゲル!」

アンジュとシルヴィアが勢いよく飛び出して敵陣に向かっていく

少し遅れてヴィヴィオが前方を警戒しながら進んでいた

 

「カウンターヒッターとして鍛えた観察眼、そして執務官の任務で培った判断力、近距離(ショート)から中距離(ミドル)はヴィヴィオさんの領域です」

アルマと共に陸戦場を駆け抜けながらアインハルトが説明する

「ヴィヴィオさんが前線で状況を見極める、そして後方で全体を見渡し、最善の判断を行うのが」

 

ファビアが水晶玉越しに陸戦場のあちこちを観察していた

「ヴィヴィオ、アインハルトたちがこっちに向かってる、アルマも一緒」

そういってファビアは水晶玉に映ったアインハルトたちの周囲を観察する

 

「情報収集能力と伝達力に長けたクロ、二人が同じ事件に立ち向かうときの必勝パターンです」

「でも、アインハルトさん」

それを聞いたアルマがふと、あることに気付いた

「それって私たちの事も気づかれてるってことですよね?幻術とかそういうのでカバーしなくていいんですか?」

「私にその手のスキルはありませんし、あってもクロなら一発で見破ります」

アインハルトの言葉にアルマが絶句していると

「そういうこと」

「悪いけど後衛攻めなんてさせません、私たちが食い止めますよ」

アンジュとシルヴィアが二人の前に立ちふさがった

 

後衛でリヴァイアスを構えながら周囲を警戒するロイス

そばにはリエラの姿もある

「っ!」

何かに気付いたロイスが振り返るとゴライアスが突如姿を現した

「まったく、たまには対人の経験も積みたいんだがな」

そういってロイスがリヴァイアスを回すと刃先に水が集まり始める

 

サマーラが上空から後衛に向かうが

「マイストアーツ………」

ゴーレムの腕が突如彼女に向かって飛んでくる

サマーラが前方を見据えるとゴーレムの腕を従えたコロナの姿が

「私の相手はコロナ教官ですか、ですが」

そういってサマーラは翼をさらに広げる

「私もカラスですから、空中で負けるつもりはありませんよ」

 

「フォトンスティンガー!」

カレルの放った魔法弾を軽々回避するリオ

そのまま拳を振るってカレルに迫るが高速移動ですかさず回避する

「へへっ」

「リオさんの一撃は重い、グラディウス、僕たちはスピードで対抗だ」

「Zustimmung(承知)」

 

「覇王断空拳」

アインハルトの攻撃は容易くかわされ近くにあったレイヤー建造物を直撃、一撃で粉々に粉砕してしまった

「バーストシューター!」

アルマの魔法弾をアンジュは軽くかわして彼女に向けて突っ込んでいく

だが放たれたアンジュの拳をアインハルトがガードする

「一点集中」

アンジュの背中越しに飛び上がったシルヴィアが二人を狙う

「ディバインバスター!」

「覇王流………」

アンジュを蹴りで退けたアインハルトはそのまま体を反転させる

「旋衝破」

アインハルトは掌を使いシルヴィアの攻撃をいなした

「バーストフレイム」

アルマがすかさずシルヴィアに向けて砲撃を放つが

「ブリュンヒルデ!」

「Protection」

アンジュがそれを阻んだ

そのアンジュに向けてアインハルトが拳を構える

「覇王断空拳!」

アンジュはこの攻撃を辛うじて避けるが拳圧でバランスを崩し回転しながらそばのレイヤー建造物に衝突してしまう

 

「おー、さすがアインハルト」

「フルバックの二人も支援の準備はばっちりか………ん?」

ふとここで試合を見守っていたノーヴェがあることに気付く

「そういやヴィヴィオのやつどこ行った?」

「そういえばだれともぶつかってないような………あぁっ!いた!」

ノーヴェの言葉が気になったルーテシアがフィールドを見て回るとゴライアスと交戦中のロイスとリエラに向かっていくヴィヴィオの姿を見つけた

 

「しまった!後衛攻めっ!」

その姿に真っ先に気付いたのはロイスだった

だがゴライアスを食い止めるのに精いっぱいでヴィヴィオまで手が回りそうにはない

「食い止めるくらいなら私でも」

リエラがアイギスを掲げるとヴィヴィオの足元に魔法陣が出現

とっさに飛びのいたヴィヴィオ、魔法陣のあった場所には氷の塊が

「でも長くはもたない」

「だれでもいい!ヴィヴィオさんを食い止めてくれ!」

 

「行ってください、アルマさん!ここは私が」

「でもっ」

「覇王流の名に懸けて、必ず食い止めて見せます」

アンジュとヴィヴィオを見据えるアインハルト、アルマは言われるままに後方に下がっていく

 

「くっ」

飛んできたゴーレムの腕を何とかいなして体勢を立て直すサマーラ

するとコロナの姿がなくなっていることに気付いた

「しまった!いつの間にか戦線がっ」

戦いながら後方へと引き戻されていたことに気付くサマーラ

コロナは既に後衛攻めへと向かっていた

「ですが私たちだってこのまま黙ってるわけにはいきません、ですよね………」

陸戦試合はまだ始まったばかり

はたしてこの先どのような展開が待っているのか



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wish:13 競技選手の壁

第6陸戦場でジークがバリアジャケットを纏い駆け抜けていると

「っと、君がうちの相手か」

赤を基調とした修道服に似たバリアジャケットを身に纏ったソネットがジークの前に立った

「ジークリンデ執務官、お手合わせお願いします」

「わざわざ一対一でうちと戦うやなんて、どういうつもりなん?練習なら後でいくらでも付き合うたるから………」

「それではだめなんです」

ジークの言葉を遮り自身の剣を構えるソネット

「あなた相手に一対一で勝ち目がないのは百も承知、それでも私は、今の私があなたにどこまで食いつけるのか、自分の力がどこまで通用するのか知りたい、強くなるために」

「理由あるみたいやね、眼を見たらわかるよ」

ソネットの真剣な眼差しにジークも構えた

「ええやろ、その代わり手加減はせぇへんよ」

「望むところです、行こう、フォルティシモ」

 

リエラの氷結魔法を躱し続けるヴィヴィオ

すると背後から巨大な炎に包まれた魔力弾が飛んでくる

「高町ヴィヴィオさん………シルヴィアが目標とする人」

ヴィヴィオが回避すると着弾した魔法弾の煙の中からアルマが姿を現す

「その力、私に見せてください」

そういって構えるアルマ

ヴィヴィオは小さく笑うと

「いいよ、相手してあげる、全力全開でね」

「どこまでいけるかわからないけど………頑張ろうね、ミナ」

「yes」

アルマの呼び掛けにこたえるのはグローブについたクリスタル

アルマが構えると同時に両手に炎を纏った魔法弾が形成される

 

アインハルトの攻撃を回避したアンジュが蹴りを繰り出す

腕を使ってガードするアインハルトだったがシルヴィアが続けざまに向かってきた

「リボルバースパイク!」

シルヴィアの蹴りがアインハルトの顔面に決まる

 

「Jet Zamber」

グラディウスの刀身に蒼い稲妻が走る

そのままカレルはリオに向かって切りかかるが

「なんのっ」

腰に差した刀のうち一つを手に取ると刀身に炎が

そのままリオはカレルの攻撃を迎え撃った

 

「バーストシューター」

炎を纏った魔力弾がヴィヴィオに向かってくる

ステップを踏んでいたヴィヴィオはその攻撃を最小限の動きで回避して見せる

「ソニックシューター」

更に最後の一発を回避した瞬間単発の魔法弾で反撃

アルマがそれを回避しようとするがよけきれず頬をかすめた

さらに次の瞬間にはアルマの懐に飛び込んでいる

「はやっ」

繰り出された拳を何とかガードするアルマ

 

「ヴィヴィオのやつ、楽しんでるな」

「そういうところ本当になのはさんの娘だなぁって思うよ」

アルマと打ち合うヴィヴィオを見てノーヴェとルーテシアはそんな話をしていた

「こうして模擬戦しているヴィヴィオを見ているなんだかうれしいんだよな」

画面の向こうではヴィヴィオのけりがアルマに決まった

「あいつは今でも、ストライクアーツが好きなんだって」

「打たれずに打つんじゃなく、魔法と格闘技のコンビネーションで攻めることで守る、打たせずに打つカウンターヒッター、ストライクアーツでの限界に行きついたヴィヴィオが自分で築いたスタイル」

持ち前のテクニックを活用した魔法と打撃のコンビネーション

とどまることのない攻撃で反撃の隙を与えない攻めのスタイル

「強いよヴィヴィオは」

 

ヴィヴィオの放った魔法弾が破裂しあらゆる方向からアルマに向かって降り注ぐ

何とかかわしていくアルマだったが回避した先にヴィヴィオが

「リボルバースパイク!」

けりが決まったかと思われた瞬間

「っと」

アルマに届く前に地面から伸びた氷でヴィヴィオの足が止められる

「バーストフレイム」

すかさずアルマが砲撃を放つ

煙に包まれヴィヴィオの姿が見えない

風が起きて煙が掻き消えたかと思うと

「アルマちゃんもリエラも、このくらいで決められると思ったら甘いよ」

あちこち焼け焦げてはいるもののなんてことない様子で立っているヴィヴィオの姿

直前でアルマの攻撃を防御していたようだ

 

「うぁ」

アインハルトの攻撃を受けたアンジュがレイヤー建造物に激突する

「ディバイン………」

飛び上がったシルヴィアが空中からアインハルトを狙うが

「覇王空破断!」

アインハルトの攻撃で体勢を崩され狙いを外してしまう

「覇王………」

バランスを崩し落下していくシルヴィアに向かっていくアインハルト

「断空拳!」

そのまま彼女の攻撃がシルヴィアを直撃

吹っ飛んだシルヴィアはレイヤー建造物に激突しがれきに埋もれてしまう

「惜しい………」

 

「ありがとう、ファビアさん」

座り込んだシルヴィアにファビアが回復をかけていた

回復に専念しながらシルヴィアは自分の手を見た

小さく震え大量の汗をかいている

「どうかした?」

そんな彼女の様子が気になったのかファビアが声をかけてきた

「アインハルトさん………すごく強かった、それにママも………」

「1on1の戦いなら慣れてる、あの二人は競技選手だったから」

そういってヴィヴィオとの連絡を試みながらシルヴィアを見るファビア

驚愕の表情から一転、瞳を輝かせて拳を握っていた

そんなシルヴィアを見てわずかに笑うとヴィヴィオと連絡を取る

「ヴィヴィオ、アインハルトがこっちに迫ってる」

「後衛攻め同士だと分が悪いよね」

ヴィヴィオの言葉に頷くファビア

「だから………予定通り(・・・・)交代」

「うん、お願いね」

ファビアが箒を構えると彼女の体が光に包まれ次の瞬間にはヴィヴィオに代わっていた

 

「はっ!」

突然飛んできたヴィヴィオのけりを両腕で何とかガードするアインハルト

「クロの転送魔法ですか」

先ほどまで後衛攻めのために直進していたはずのヴィヴィオがいることに驚かないアインハルト

その理由をわかっていたからだ、ファビアが使ったのは対象と位置を入れ替える転送魔法

今後衛攻めを行っているのはファビアだ

「できればシルヴィアもいてほしかったけど」

ヘルゲイナーをリエラに向けるファビア

シルヴィアは近くのレイヤー建造物の中で回復に専念している

そして………

「魔力散布は十分………チャンスは一回」

物陰で様子をうかがうアンジュの姿

「こっちでもフォローする」

「だからアンジュ………」

戦闘しながらアンジュに連絡するヴィヴィオとファビア

「「スキを見て収束砲(ブレイカー)で一気に決めて」」

「了解」

頷くアンジュの右手に白い光が集まっていた

 

「アンジュが姿を消した………どこかで必勝の一撃を狙ってる」

戦場にアンジュの姿がないことにいち早く気付いたのはリエラだった

「青組閣員に通達!自分のマッチアップ相手に集中しつつ十分に警戒してください!」

アイギスを掲げ通信でそのことを伝えるリエラ

 

「狙いはアンジュの収束砲(ブレイカー)だね」

カレルと打ち合いながら問いかけるリオ

もちろん聞いても無駄な事は承知の上で

「それならいつ来てもいいように………」

リオが構えると足に稲妻が走る

スピードに乗りながらカレルに切りかかるリオだがカレルも同様にスピードアップした状態で迎え撃つ

 

コロナがゴーレムの腕をリエラに向けて放つ

リエラが防御魔法でそれを防ぐとロイスがすかさずリヴァイアスを構えた

「ポセイドンスパイラル!」

水がまきあがってコロナに向かっていく

空中のコロナはそれをうまくかわしていたが

「ウイングシューター!」

突如放たれた魔力弾が直撃する

振り返るとそこにはサマーラの姿が

「私もいる事忘れないでください」

「やるねっ」

すかさずコロナがブランゼルを掲げる

「それじゃあこっちも本気でいかなきゃ」

二体の巨大なゴーレムが姿を現し腕を鳴らした

 

隠れながら戦況を見ていたアンジュ

必殺の一撃のためタイミングを計っていたが

「バーストフレイム!」

巨大な魔力弾が突如飛来

慌てて回避するとアルマが突っ込んできた

「私相手に近接?」

「リエラさんにアドバイスもらいました、できるだけ距離を殺して収束砲(ブレイカー)を撃たせない様にって」

 

ゴライアスの攻撃をアイギスが受け止める

飛び上がったロイスが水を集めた

「ポセイドンウェーブ!」

ロイスの放った水の攻撃でゴライアスは転倒する

這え 穢れの地に(グラビティブレス)

次の瞬間ロイスとリエラが強い重力によって動きを止められた

ファビアとコロナが空中から二人を狙う

「アイギス!」

「gear second」

空中に小さな盾がいくつも現れる

コロナの放ったゴーレムの腕による攻撃をそのうちの一つが阻んだ

「惜しい」

コロナが悔しがっていると後方から黒い魔力光に包まれたシューターが飛んできた

コロナはすかさずこれを回避する

「残念、当てられたと思ったんですけどね」

サマーラがいくつもの魔力弾を生成しながらコロナとファビアを見据えていた



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wish:14 アンジュ・マーキュリー

ゴライアスと対峙するロイスとリエラ

手元でくるくる回したリヴァイアスを構えロイスが見据える

「アイギス!」

「yes」

リエラがゴライアスのパンチをアイギスで受け止めるとそこからどんどんゴライアスが凍っていく

「ポセイドンスピア!」

身動きの取れないゴライアスをロイスの水の攻撃が貫いた

 

「ジェットシューター・ストライクシフト」

サマーラの放った高速の魔法弾が次々コロナに襲い掛かる

コロナはその攻撃をかわすとゴーレムの腕をサマーラに向けて飛ばしてくる

が、サマーラもそれをたやすく回避する

「やっぱり空中だとそう簡単に当てられないか」

「当然です!あの頃はマスターと共に暮らすのが私の願いだった」

魔法弾でコロナを攻撃するサマーラ

コロナはゴーレムの腕でその攻撃を防ぐがサマーラはその隙に接近してきた

「ですが今は、強くなりたいと願うマスターの力になりたい」

けりでコロナを攻撃するサマーラ

コロナはその攻撃を何とかかわす

ゴーレムの腕は動きが大きいので今の間合いでは使えない

「いつか、マスターが空にやってきたとき、心から望んだ強さにたどり着いたとき、隣で共にはばたくのが今の私の願い!」

サマーラのけりがコロナに決まる

 

カレルとリオが高速移動を繰り返しながら何度も衝突していた

が、同じ条件だとやはりパワーで上回るリオに分があるよう

「っく」

リオのパワーに押され体制を崩してしまうカレル

リオはその隙を逃さず二本目の剣を手に取った

「絶招!炎雷龍皇剣!」

雷を纏った巨大な炎の剣を振るうリオ

「駆けろ!ソニックムーブ!」

カレルの体がその場から離れ一瞬稲妻のように見えるほど素早い移動を行う

無理な体制でしかも剣を避けるためジャンプしたので完全に体制は崩れてしまったが何とか受け身をとって持ち直す

「まだまだ!」

リオが二本の剣を構えながら突っ込んでくる

「フォトンスティンガー!」

それに対してカレルは魔力弾を放ち迎え撃つ

不意を突かれガードしきれなかったリオは空中でその攻撃をもろに受けてしまう

だが何とか立ち上がって再び斬りかかった

「まだまだ!いくよぉ!」

 

ヴィヴィオのけりを何とかガードするアインハルト

攻撃を受け止められたヴィヴィオの手のひらにはすでに魔力弾が

「っ!」

至近距離で炸裂した魔力弾がヴィヴィオを巻き込むことなく周囲に広がる

余波で体勢を崩したアインハルトにヴィヴィオがラッシュを仕掛ける

「さすがですね、そう簡単に旋衝破を使わせてはくれませんか」

「もちろん」

ヴィヴィオと組み合う形になったアインハルトの問いかけに笑顔でそう答えるヴィヴィオ

アインハルトには射撃魔法を封殺する手段があるのだがヴィヴィオの攻撃に翻弄され使わせてもらえない

「ですが」

パワーで無理やりヴィヴィオを押し返すアインハルト

「パワーなら私の方が上です」

ヴィヴィオの鳩尾に強烈な一撃をたたき込むアインハルト

 

アンジュと対峙するアルマ

「アンジュさんは少し距離の空いた格闘戦が得意………距離を潰して至近距離で砲撃をあてに行く」

掌に魔力弾を形成しながら突っ込んでいくアルマ

それを見たアンジュは離れようとするが

「させない!」

魔力弾を放ちながら接近を試みるアルマ

掌の魔力を維持しながらアンジュに向かっていく

 

「ノーヴェってばあんなことまで教えたの?」

「あれがあいつのスタイルには一番合ってるんだ」

アルマのスタイルは破壊力抜群の砲撃で攻めるバリバリの射撃型

それでもアルマは自身のスタイルに格闘技を組み込みたいといった

「高速生成した魔法弾を維持して叩きつけたり打ち出したり、スバルさんの技を参考にしたでしょ」

「まああいつ自身ストライクアーツよりシューティングアーツの方が伸びそうではあった、踏み込みとか体幹の感じとか」

嬉しそうにアルマの資質について話を始めるノーヴェ

長くなりそうだと感じたルーテシアは話を切り上げさせるため画面の方を見て回る

「あっ、ノーヴェこれ」

「ん?」

 

「楽しかったよ、君との試合」

ボロボロの状態で倒れるソネットを見ながら汗を拭うジーク

減少したライフは4分の1程度だろうか

 

「ソネットやられちゃったかぁ」

「ジークのやつ、容赦ねえなぁ」

それを見て苦笑するノーヴェとルーテシア

「ん?減ってるライフの量のわりにずいぶん疲れてんな」

「え?あら本当だ」

 

気を失っているソネットをじっと見るジーク

「ホンマによう頑張った、うちも思わず本気になってもうたからな、委員長!悪いんやけど回収してくれへんか!魔力使いすぎてもうた!」

同じチームで支援役のエルスに呼びかけるジークだったが

「逃がしませんわよ」

「おわっ!」

突然ヴィクターが振り下ろした斧を何とか飛びのいて避けるジーク

「ヴィクターやっぱりおったんかい!うちがその子と戦っとるの結構前からみとったやろ!」

「あら、気づいていたのね、てっきり夢中で気付かないかと思ったけど」

バリアジャケットのマントを外してソネットにかけるヴィクター

「その子と二人がかりやったらうちに勝てたんとちゃう?」

「そんな形で勝ってもうれしくありませんわ、それに彼女に失礼ですもの」

そういって振り返るヴィクターだったが既にジークの姿はなかった

「逃げたわねジーク!」

そのジークはといえば転送魔法でエルスのもとに戻って回復をかけてもらっていた

「うわぁ、ヴィクトーリア執務官カンカンですよ」

「あの調子やとこっち向けて神雷あたり撃ってくるなぁ、防げる?」

「正直微妙です」

困ったようにため息をこぼすエルス

 

ラッシュをかけアンジュを攻め立てるアルマ

だがアンジュはアルマの攻撃を最小限の動きで交わしていた

「巧い………さっきからずっと仕掛けているのに」

魔力弾を維持した状態の手のひらをたたき込もうとした瞬間

一瞬のスキを突かれアンジュにつかまれ投げ飛ばされてしまうアルマ

「くっ」

次の瞬間撃ち出された魔力弾がアルマに襲い掛かる

「まだっ」

片方の手に維持していた魔力弾を炸裂させて相殺するアルマ

「バーストフレイム!」

アンジュに向けて砲撃を放つアルマ

だがアンジュはその攻撃をたやすく避けて追撃にかかる

「この人まさか………」

何とかアンジュの攻撃を受け止めるアルマ

だが反撃に転じることができず今度はアルマが一方的に攻められていた

「この人もカウンターヒッター!?」

アンジュの攻撃がアルマの目前に迫った瞬間

「っ!?」

リエラがアイギスを使ってアンジュの攻撃を受け止めた

「大丈夫?今回復させてあげるから」

アンジュの攻撃を受け止めたままヒーリングをかけるリエラ

「ゴライアスは………」

次の瞬間大量の水がアンジュに向かってくる

「六課の訓練で何度も戦った相手だ、後れを取ったりはしない」

リヴァイアスを構えたロイスの言葉通り

二体いたゴライアスの一体は氷漬けになりもう一体は腹部を貫かれ完全に沈黙していた

「ここからが」

「私たちの反撃ですっ!」

無数の羽を飛ばしてコロナとファビアを攻撃するサマーラ

「そう簡単には当たらない」

「ポセイドンスパイラル!」

ロイスの水が渦を巻きながらファビアとコロナ、更にはアンジュを取り囲んだ

「いまだっ!」

「これを使えるのはマスターたちだけではないんですよ!」

すかさずサマーラが魔力を拳にためる

「ディバインバスター!」

黒い砲撃がアンジュ達飲み込んだ

「やったぁ!」

「………いや!まだだ!」

「いい攻撃だったけど………」

煙の中から現れたのはすっかりボロボロになったコロナとファビアの二人だけ

アンジュの姿がそこにはなかった

「命中確認をちゃんとしなかったのは失敗かな」

「しまった!逃げろ!」

コロナの言葉の意味に気付いたロイスが慌てて叫ぶももう遅かった

 

「ブリュンヒルデ、いくよ」

アンジュの目の前に魔力が集まっていく

魔力収束

周囲の魔力をかき集め自身の力とする力

本来ミッド式の技能であり近代ベルカ式には不向きな技能だが彼女は違った

「全力全開、この攻撃で決めるよ」

瞳に宿る白い輝き

アンジュの全身が高まった魔力に包まれていた

彼女は近代ベルカ式でありながらはじめから魔力収束の技能を持っていた

古代ベルカ時代、長い戦いによって命が失われることを悲しみ、戦乱を治め命を守るため戦い、志半ばで倒れた彼女の先祖

聖騎士アレキサンドラ・マーキュリーの力によって

「貫け流星!シューティングスターブレイカー!」

アンジュが魔力収束によって集められた魔力をその拳で一気にたたき出した

着弾した砲撃はそのまま巨大な爆発となり陸戦場を包み込んでいく

画面を開かずとも目視できるその威力にルーテシアとノーヴェはその場で立ち尽くしていた

「いつ見ても派手だねぇ」

「ベルカ式だから威力も半端ねえし、収束率とかはミッド式のがいいんだけど」

 

アンジュの砲撃によってほとんどが崩壊した陸戦場

白く大きな翼を広げたアンジュがそれを見下ろしていた



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wish:15 ラストバトル

崩落した陸戦場を見ながら呼吸を整えるアンジュ

「ずいぶん疲れてるわね」

「無理もない、シューティングスターを使ったからな、結構疲れるんだあれ」

ノーヴェ自身は格闘型で収束砲(ブレイカー)を使うわけではないが姉のディエチが同系統の魔法を使うことができる

だがある程度適性がいるうえ収束砲(ブレイカー)は消耗も激しく魔力もかなり消費する

重い砲を扱うディエチは反動が大きいため使った後はいつも大変そうだった

 

呼吸を整え再度陸戦場を見渡すべく目を開いたアンジュだが

「しまった!」

気付くと自分の体が氷に覆われていた

ロイスとサマーラはアルマをかばって戦闘不能

少し離れたところでは直撃を受けたリオが戦闘不能、ただし直前にカレルを戦闘不能に追い込んでいた

「コロナとファビアはさっき戦闘不能になっていたから後は………」

「捕まえたよ、アンジュ」

リエラはアイギスを使いシューティングスターを耐えたようだ

しかし防ぎきるのは無理だったらしくボロボロだった

それでもアンジュを捕らえておくことができる

そばにいるアルマはロイスとサマーラに守られたおかげで生き残っている

アルマが魔力を貯めていると………

「まだ私がいる」

翼を広げて突っ込んでくるシルヴィアの姿

 

「やられてしまいましたか」

「やっぱりアインハルトさんは強いなぁ」

アインハルトにやられ戦闘不能に追いやられたヴィヴィオ

そのアインハルトも乱入してきたシルヴィアの攻撃で戦闘不能にされてしまっていた

「今回の対決、アインハルトさんはどう見る?」

「途中に回復を挟んだとはいえ、すでにシルヴィアのエンジンはかかっていますから、あとはアルマさんがこの短期間でどこまで腕を上げたか………」

 

リエラに向けて突っ込むシルヴィア

「リエラさん!」

「アルマ!私に構わず撃って」

リエラのその言葉に目を背けながら構えるアルマ

「バーストフレイム!」

アルマの攻撃が動きを止められたアンジュを直撃、戦闘不能に持ち込んだ

 

リエラはアイギスを構えシルヴィアの攻撃を受け止めようとする

だがシルヴィアは素早い動きでリエラの背後に回り込んだ

「防御を………いや、間に合わない」

シルヴィアの鋭いけりがリエラの首筋を直撃

一瞬で意識を手放したリエラはその場に倒れてしまう

足元に転がってきたアイギスを見て悲しげに俯くアルマ

「リエラさん………」

「アルマ、残ってるのは私たちだけだよ」

シルヴィアのその言葉に対してアルマは巨大な炎の魔力弾を両手に出現させる

「負けないよ、リエラさんのためにも」

アルマの手の上で維持されている炎の熱量

それに圧されて踏み込めずに攻めあぐねるシルヴィア

先に攻めたのはアルマだった

魔力弾から放たれた攻撃がシルヴィアに迫る

スピードで上回っているシルヴィアがそれを回避して一気に突っ込もうとする

だがアルマはもう片方の魔力弾を使い追撃を仕掛けた

防御魔法で何とか受け止めるが大きく後退してしまうシルヴィア

 

「ん?」

「どうしたの?」

「お嬢、ちょっと今の所もう一度見ていいか?ジェット、ちょっと過去映像出してくれ」

自身のデバイスを取り出し真剣な表情になるノーヴェ

それを見たルーテシアはため息をこぼしながら手袋型の自身のデバイスに語り掛けた

「さっきの所の映像コピー、ジェットエッジに送ってあげて」

「お嬢サンキュ、やっぱりそうだ………うん、ここは考えないとな」

「(また指導者の顔になってる、もうすっかり板についちゃって)」

何かに気付いたらしく真剣に考え込むノーヴェ

と、大きな音が鳴り響いて驚くノーヴェとルーテシア

「なんだいまの音」

「ああ、心配しないで、なのはさんの収束砲(ブレイカー)、向こうの方は今ので決着ついたみたいね」

試合映像を確認してノーヴェに伝えるルーテシア

「ならよかった、チビ達に怪我があったら大変だからな」

「怪我、した人いるみたいだけど」

ルーテシアが見ている映像の先には首の後ろをしきりにさすりながら陸戦場から退避しようとするリエラの姿

「どうしたんだ?」

「あそこシルヴィアに蹴られたとこじゃない?危ないから回収しておくわね」

「ああ、頼むわ」

 

アルマの猛攻に攻めきれず回避行動が増え始めたシルヴィア

「アクセル………」

「っ!?」

何とかかいくぐって攻撃を試みるシルヴィア

だがアルマはこれをジャンプして交わした

「かわされたっ!?」

「(避けられた………完全に間に合わないと思っていたけど………これってもしかして)」

 

シルヴィアの様子を見てノーヴェが画面を切り替える

「防御に徹した行動が裏目に出たか、攻撃の間隔があいたことで集中力が切れてきている」

「アルマのガードも堅そうだし攻撃に転じるのは難しいかな」

シルヴィアの持ち味はとどまることのない連続攻撃と相手の防御を許さない攻撃スピード

だが攻撃が途絶えたことで集中力が切れ全力が出せないでいた

 

「ほら、どうするのシルヴィア、このままじゃ負けちゃうよ」

いまだに陸戦場に残っていたヴィヴィオはそんなシルヴィアの様子を見て小さくつぶやいた

 

「攻撃に移らなきゃ………でも」

ためらうシルヴィアにスピカが語り掛けた

自分がサポートするから全力で行ってほしいと

「そうだよね、全力全開、それがママたちのモットーだもんね」

スピカに背中を押され構えるシルヴィア

「今のシルヴィアの攻撃なら対処できる!一気に攻め落とす」

二つの魔力球を両手で合わせて炸裂させるアルマ

小さな無数の魔力球が雨の様にシルヴィアに降り注ぐ

シルヴィアも全力で走りアルマの攻撃をかいくぐる

「近づけさせない!」

特大の砲撃でそれを迎え撃つアルマ

「ディバインバスター!」

アルマの攻撃をシルヴィアが相殺する

接近して右こぶしからの攻撃から畳みかけるがアルマに巧く捌かれる

 

「アルマもこの短期間でずいぶん腕を上げたね」

「目標のある子は強いですよ、まっすぐであればあるほど、ですが」

リオとアインハルトもまた二人の戦いを見守っていた

 

「アルマちゃんのあの捌き方、私のを参考にした見たい」

「呑み込みが早いな、まだまだ伸びるぞ、あの子たちは」

「けど、二人ともこれまでの戦いで消耗している」

「シルヴィアも回復を挟んだとはいえスタミナの限界が近いはずだ」

元六課の四人もチームの垣根を超え観戦を楽しんでいた

 

「ここまでの試合でクタクタで………苦しいはずなのに」

アルマの掌打をガードしてそのまま回し蹴りで反撃に転じるシルヴィア

「私も今シルヴィアと同じ気持ち」

体を伏せてシルヴィアの攻撃をかわし体制を崩しにかかるアルマ

「「すっごく楽しい!」」

シルヴィアもアルマの攻撃をかわして反撃に入る

と同時にアルマもカウンターを仕掛ける

互いの攻撃がぶつかり合いはじけ飛んで距離が空いた

「ストライクアーツはじめた頃のママもこんな気持ちだったのかな」

「きっとそうだよ」

魔力弾を形成し構える二人

「バーストシューター!」

「ディバインバスター!」

二人の砲撃がぶつかり合い相殺する

爆発の勢いに必死に耐えてるアルマが見ると飛び上がったシルヴィアが魔力弾を形成していた

「またエンジンがかかり始めてっ!」

「セイクリッド………ブレイザー!」

シルヴィアが叩き込んだ砲撃を辛うじて避けるアルマ

「まだ遅い………今なら攻め切れる!」

再び無数の魔力弾を形成して攻撃に入るアルマ

シルヴィアもそれを交わして切り込んできた

「もう遠距離には持ち込めない………だったら!」

先ほどより大きな魔力弾を掌で形成するアルマ

それを振り回して武器の代わりにするが

「アクセルスマッシュ!」

シルヴィアはそれを拳による攻撃ではじき返した

「まだよっ!この一撃で決める」

二つの魔力弾を合わせてより大きな魔力弾を形成するアルマ

「バーストエクスプロージョン!」

アルマの魔力弾は着弾と同時に爆発、その炎はかなり広範囲まで届いていた

 

「うわぁ、すっごいバカ魔力」

「シルヴィアほどじゃないにしてもアルマも魔力量じゃ引けを取ってねえからな」

「いや、シルヴィアと魔力量で張り合えるのなんて八神部隊長くらいだと思う」

「お嬢も結構あるだろ?」

ノーヴェの言葉に肩を落とすルーテシア

「前線離れてホテル経営だからねぇ、全盛期ならともかく今じゃもう魔力量でシルヴィアには敵わないわよ」

 

「やったのかな………」

フィールドに残った炎を見つめるアルマ

次の瞬間シルヴィアが炎の中から現れ突っ込んできた

「っ!バースト………」

だがアルマの反応は少し遅く二人の攻撃が同時になってしまう

両者に命中した攻撃で二人のライフが突きその場に倒れた

 

「終わっちゃったね、回収回収」

「いやむしろあの残りライフまでよくここまで続いたもんだよ」

ルーテシアの転送魔法で戻ってきたシルヴィアとアルマ

真っ先に歩み寄ったヴィヴィオがその頭をなでる

「よく頑張ったねシルヴィア、最後持ち直してからが凄かったよ」

「だがまだ課題も多い」

そう言ってノーヴェがシルヴィアたちを見た

「シルヴィアには決定的に足りないものがある、それを克服しなきゃあの舞台じゃ戦えない」

それを聞いたヴィヴィオは立ち上がってノーヴェを見た

「やっぱりシルヴィアも今年から出るんだね………インターミドルチャンピオンシップ、私たちの夢の舞台」



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wish:16 夢の舞台

午前中の一戦目、そして午後の二戦目と模擬戦を行い

初日以上ににぎやかな食事を終えたシルヴィアたちは

「うへぇ~」

ダウンしていた

「大丈夫ですかマスター?」

子供形態のサマーラがスピカをなでながら彼女の身を案じた

「疲れたけどそれ以上に楽しかったよ、二戦目の時もいろいろ凄かったし」

「私は腕が上がらない」

「あんな魔力球を振り回すからですよ」

三人とも疲れ切っていたがそれ以上に充実感が強かった

「シルヴィアたちいる?」

「冷たいドリンクのお届けだよ」

そう言ってなのはとルーテシアが部屋に入ってきた

「わーい!なのはママ有難う!」

「ルーテシアさんは何を持ってるんですか?」

たくさんの紙を持ったルーテシアに首を傾げるソネット

彼女の問いかけにルーテシアは笑いながら一枚とって見せた

「がんばった子供たちにご褒美、インターミドルの参加申込用紙」

「インターミドルの!」

インターミドルチャンピオンシップ

ヴィヴィオ達も出場していた10歳から19歳までが対象の魔法戦競技大会

ナカジマジムに所属する選手のほとんどがこれを目指しており今年もたくさんの仲間が参加する

そして今年十歳を迎えるシルヴィアたちにも参加資格がある

 

「いよいよシルヴィアたちもインターミドルに参加か」

「懐かしいですね、私もここで誘いを受けて、そこから始まった」

テラスから月を眺めつつ当時を懐かしむヴィヴィオとアインハルト

「ヴィヴィオ、アインハルトさん」

「私たちもご一緒します」

リオとコロナが浴衣姿でやってきた、両手には酒瓶と杯を持っている

「ミッドの時間だと今日は感謝日なんで今日は私も」

「うわっ、リオも加えたメンツで飲むのいつ以来だろ」

「大丈夫なんですか?明日も訓練があるというのに」

「午前中は休みだから飲みすぎなければ大丈夫だと思います」

そう言ってアインハルトに渡した杯に酒を注ぐコロナ

「みなさん飲みすぎには注意してくださいね」

苦笑しながらもアインハルトはそう言って杯を掲げた

 

横になって休んでいたカレルとリエラのもとにノーヴェがやってきた

「ノーヴェさん」

「うちの教え子が悪かったな、リエラ首大丈夫か?」

起き上がったリエラの首元にはシップが貼ってあった

模擬戦の最中シルヴィアの攻撃で首を痛めたリエラだったが

「いえいえ、私も未熟だったってことで、それよりシルヴィアたち、今頃インターミドルの話で盛り上がってるんじゃないですか?」

「まったく初出場のやつは毎年はしゃぐからな」

「気持ちはわかります、地球にいた頃初めて剣道の大会に出た時ワクワクして眠れませんでしたから」

そう言ってカレルも体を起こした

「まあシルヴィアは模擬戦の後でがっつりお説教しといたが」

「ああ」

その光景を想像したのか苦笑して肩を落とすカレルとリエラだった

 

「私もインターミドルの出場を目指していて、今年が初出場なんです」

「あれ?でもソネットさん確か私たちより一つ年上でしたよね」

「ソネットみたいに何年か訓練に集中して大会出場を見送るのはよくあるよ」

アルマの疑問にルーテシアが答える

「私はインターミドルで勝ち上がる、勝ちあがらなきゃいけないんです」

そう言って拳を握るソネット

一方ストローでドリンクを飲んでいたシルヴィアはルーテシアの方を見た

「ルーテシアさん、ママとは同期なんですよね、ママの初出場の時の成績覚えてます?」

「もちろん覚えてるよ、エリートクラス三回戦、まあ初出場ってなると大体ここが壁かな」

「なら私はもっと先に行く」

そう言って意気込みを語るシルヴィアたち

 

「ザフィーラはどないや?」

「どう………と申されますと」

八神家は家族で過ごしていたが、ふとはやてが問いかけた

「道場の子たちや、おるんやろ、シルヴィアたちのライバルになりそうな子が」

「はいはーい!シャマル先生におすすめの子が」

「「「ノイチェ」」」」

「ってなんでみんなわかるのよ」

「シャマルのおすすめっつったらあいつしかいねーじゃん」

「だが実際、今の八神家道場で一番強いのはあいつだ」

ヴィータの言葉に対して答えたのはザフィーラだった

「俺一人の時に主に問われたとして、答えは同じだったと思う」

「まあ、確かにあいつは頑張ってる、それは認めるよ」

「案外もうシャマルより強かったりしてな」

「ちょっとシグナム!」

シグナムの言葉にむくれるシャマル

 

ミッドチルダにある八神家近くの海岸

そこでオレンジのパーカーを着た女性

かつてのヴィヴィオのライバルであるミウラ・リナルディと練習している一人の少女

「はい、いったん休憩ね」

「あ、ありがとうございました」

砂浜に倒れ息を切らすこの少女こそシャマルの言っていたノイチェだった

「明日にはインターミドルの受付始まるから、私が出しておくね」

「あ、ありがとうございます」

 

近代ベルカ式:ノイチェ・アルシオーネ(12)

能力:優しい風

デバイス:ゲイルラッド

IM出場歴:初出場

 

ジムのような場所でトレーニングに励む一人の女性

体格から女性だとわかるが短くさっぱりと切りそろえた髪は中性的な印象を与えた

「今年もついにインターミドルが始まる」

右腕に魔力を纏いまわりながら放った裏拳がサンドバッグを大きく飛ばした

勢いをそのままに彼女に向かってくるが魔力を纏った右手でそれを受け止めた

「今年はどんな相手とであえるのか、楽しみにしています

 

近代ベルカ式:リカルダ・クライスラー(17)

能力:大地の力

デバイス:クロノス

IM出場歴:4回(最高成績:都市本戦準優勝)

 

夜の街を走り抜け水道に寄りかかる女性の姿

激しく息を切らしており大量の汗をかいていた

「まだまだこんなんじゃ………今年こそは」

 

近代ベルカ式:ローザ・マイラー(16)

能力:ストライクアーツ

IM出場歴:4回(最高成績:地方予選準決勝)

 

「うっ」

青い顔で水道に向けるローザ

しばらく彼女の苦しむ声が響いていた

 

カレル達との話を終えリビングに座り込むノーヴェ

今日の模擬戦のデータを取り出し整理を始める

そんなノーヴェの前にココアが入ったコップが差し出された

「夜遅くまで大変だね」

「そいつはお互い様だろ、防災司令殿」

ディエチが小さく笑いながらノーヴェの正面に座った

「お姉ちゃん嬉しいな、妹が大好きなストライクアーツで指導者として立派にやっていけて、それでいて楽しそうで」

「みんな同じこと言うんだな、ま、当たり前か、あんだけ心配かけたんだし」

かつてシルヴィアが倒れた時のことを思い出しコップを強く握りしめるノーヴェ

「もう、あんな思いは二度とごめんだ」

険しい表情でそう呟くノーヴェの肩にふとタオルケットがかけられた

「弟子たちのために頑張るのもいいが、もう夜遅い、体を冷やさないよう注意するんだな」

チンクがそう言って部屋に戻っていく

「チンク姉………」

「あたしも寝るね、そのココア、冷めちゃったらおいしくないかもよ」

言われて気付いた、ディエチのくれたココアは体を冷やさないよう温めてあった

一口飲んでみると程よい甘みが口の中に広がり温かさが口の中から全身に広がっていく

優しいディエチの性格からしてきっとノーヴェがここに来ると思って事前に用意してくれていたのだろう

「じゃ、お休みノーヴェ」

「ああ、お休み、それと………ありがとな、姉貴」

「ふふっ」

普段あまり使わない姉という言葉にディエチもうれしそうな表情で部屋へ戻っていった

「さて、あたしも頑張らないとな、今年は特にだ、ミカヤちゃんが言っていたミカゲ・スズキ、あたしの予想が正しければきっと………」

 

ミッドチルダにある公園のベンチで一人座っていたミカゲ

その手にはインターミドルの参加申込用紙があった

 

ミカゲ・スズキ(12)

能力:???

IM出場歴:初出場

 

ノーヴェはカップの中でわずかに揺れるココアを見つめていた

「大会は二か月後、それまでに徹底的に鍛えて、戦えるようにしてやる、だからお前らも頑張れ、シルヴィア、アルマ」

 

この先の大会に向けてなのはたちに楽しそうに話すシルヴィア

アルマとソネットも楽しそうにそれを聞いていた

 

近代ベルカ主体ハイブリット:高町シルヴィア(10)

能力:ストライクアーツ

デバイス:スピリチュアル・ハート

IM出場歴:初出場

 

ミッドチルダ:アルマ・ラフェスタ(10)

能力:炎熱砲撃

デバイス:ミナージェ

IM出場歴:初出場

 

近代ベルカ:ソネット・フランソン(11)

能力:双剣術

デバイス:フォルティシモ

IM出場歴:初出場

 

「頑張ろうね!アルマ、ソネット、スピカ!」

シルヴィアがそう言って腕を伸ばすとアルマとソネットも同様に腕を伸ばし手を重ねた

「目指す目標はIM都市本戦!」

重ねた手の上にスピカが乗り目標を掲げるシルヴィアたちだった



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wish:17 それぞれの課題

カロナージでの三日目の朝食を終えノーヴェがチームのIM参加申込書を集める

昨日のうちにルーテシアが配っておりすでに書き終わってる子は大勢いた

「でも、よかったんでしょうか、私の分まで出してもらっちゃって」

正式にはナカジマジムのメンバーではないがソネットの分も一緒に出すことに

「シャンテやシスターシャッハの許可はもらってるし問題ねえよ」

そう言ってソネットの出した申込書をひらつかせるノーヴェ

「それと、シルヴィア、アルマ」

名前を呼ばれ振り返るシルヴィアたち

「お前ら初出場だからコーチがつくことになる、リオとアインハルト」

リオがアルマの、アインハルトがシルヴィアの隣に立った

「割と毎年恒例の事ではあるんだけどね」

そう言って小さく笑うコロナ

彼女も去年初出場の子のコーチをやっていた

 

午前中は練習はお休み、これも毎年恒例だがこの空いた時間を使ってコーチとなる人物と親睦を深めることもやっている

「っていっても、アインハルトさんとはママ経由でよく会ってるから」

そう言って草原に寝転がるシルヴィアを見て小さく笑うアインハルト

「でしたら今後の方針についての話はどうでしょう、インターミドルに向けて、早く練習したくてたまらないといった顔をしていますし」

「あ、わかっちゃいます?」

アインハルトの言葉に起き上って彼女を見るシルヴィア

「実際そうなんですよね、早く強くなってママに追いつき追い越せです」

元気よく宣言するシルヴィアだったがアインハルトの表情は真剣だった

「ですが、今のあなたでは今のヴィヴィオさんどころか、同い年くらいの頃のヴィヴィオさんにも届かない………足りないものがあるから」

 

「リオさん………これ何やってるんですか?」

小さな端末につながれたリストバンドをつけながら横になるアルマ

端末の方を真剣な表情で見るリオ

「魔力値をちょっと測らせてもらおうと思ってコロナに借りたの、これ教導隊の試作品」

表示された魔力値を見て考え込むリオ

 

「足りないもの………」

「飛び込む勇気です、昨日の模擬戦、アルマさんの魔力弾を恐れて突入をためらいましたね」

「あっ」

そのことを思い出したシルヴィアは目を見開く

すると次の瞬間目の前に向かってアインハルトの拳が振るわれた

「やはり………」

シルヴィアに命中する直前にこぶしを止めたアインハルト

シルヴィアを見て彼女の考えが確信へと変わった

「今シルヴィアに必要なものはそれです、あなたの中の恐怖は………まだ完全には消えていない」

拳を退けるアインハルト、シルヴィアは目を瞑ってしまっていた

「フェイトさんのお陰で魔法に対する恐怖は消えたのかもしれません、ですがまだ、戦うことに関する恐怖が完全に消えたわけではなかった」

そう言って拳を下ろすアインハルト

彼女によって思い知らされた自身の現実に目を見開いたまま俯くシルヴィア

「ですが、この壁を乗り越えた時、あなたはきっと強くなる、ヴィヴィオさんとはまた違う強さを手に入れることが出来る」

「ママと違う強さ?………」

「あなたの長所、スピカとのシンクロが高まったときにおこる超高速の魔力運用、それとアクセルスマッシュを組み合わせると………」

アインハルトが耳打ちで伝えたアイディアにシルヴィアは目を輝かせた

「ただし、これを使いこなすためにはまず恐怖心を克服するところからです」

そう言ってアインハルトはウインドウを開いた

 

ホテルの厨房を借りて料理をしていたディエチのもとにアインハルトからの通信が届く

「はーい、カノンお鍋見といて」

首からかけていたデバイスを外し通信画面を開くディエチ

「アインハルト?何かご用事?お願いしたいこと?………」

 

その日の午後

カロナージの景色のいい草原でシルヴィアたちはヴィヴィオ達と共にピクニックへとやってきた

「ママたちトレーニング抜けてきちゃっていいの?」

「うん、息抜きにも疲労抜きにもなるし、シルヴィアとのお出かけっていうのも結構久しぶりだからね」

シルヴィアの問いかけにすんなり答えるヴィヴィオ

「ジークさんなんか一緒に来たがってたし」

結局ジークはファビアとヴィクターに引きずられ訓練に行ったわけだが

「アインハルトさんのアイディアでこういうことするの珍しいね」

伸びをしながらリオの問いかけにアインハルトは座り込みながら空を見上げた

「シルヴィアの課題を乗り越えるなら、まずは思い出作りから始めるのがいいと思いまして」

そう言って完全に横になるアインハルト

「私自身、楽しい思い出や、周囲の優しさに救われた経験がありますから」

その言葉にヴィヴィオたちは小さく笑う

「思い出すね、チーム結成してインターミドル出て、秋ごろだったかな、アインハルトさんが初めて笑顔を見せてくれるようになって」

「ユミナさんがチームに来てくれて、いろんな場所に行ったり、試合に出たり」

コロナの言葉に手を振ってこたえるユミナ

「私もナカジマジムのみんなとあえて、こうして今医務官として頑張れてるわけだし」

「バックスにも興味を持ち始めた私も、選手時代の経験を今の教導隊で生かすことが出来て」

「私は教会でお世話になったディードへの恩返し、しかも教会では伝統や文化を守っていくお手伝いもできて一石二鳥」

そう言ってピースするリオ

「そうそう、それで思い出した、みんなでルーフェンに行ったとき」

「あの頃になるとアインハルトさんも随分笑うようになったよね」

過去の思い出を話すヴィヴィオ達

もちろんこれもシルヴィアたちにリラックスしてもらうためだ

「で、師範の勧めで私は………」

「おじいちゃんそんなことしてたの!?」

「リオさんのおじいさんなんというか………」

「素敵なところなんですね、ルーフェンは」

そんな話を聞いてふとソネットが呟いた

彼女の故郷は今、古代遺失物事故で荒廃している

故郷にいた頃の事を思い出してしまったか、事故の悲しい記憶を呼び起こしてしまったか、あるいはその両方か

「ソネットの故郷にもいつか行ってみたいね」

「えっ!?」

だがシルヴィアのその言葉にソネットは驚き目を見開いた

「でも、フォルクムにはそんな、それよりアルマさんが以前住んでいたヴァイゼンの方が」

「もちろんヴァイゼンにも行ってみたいけど、ソネットの故郷にも行ってみたいの」

「その………ありがとう、シルヴィア」

「あれ?っていうかソネットちゃんの故郷ってフォルクムなの?」

ふとヴィヴィオが気になったようで問いかける

「え、ええ、フォルクムの鉱山地帯の出身です」

「フォルクムの鉱山地帯………古代遺失物事件………私そこ行ったことあるよ」

「えっ!?あるの?」

ヴィヴィオの言葉に驚くシルヴィア

「うん、まだ六課ができる前だから5年くらい前かな、そこに古代遺失物がある可能性があるっていうのは前から聞いててその調査で、地元の人たちも温かく迎え入れてくれて、忙しくてそれっきり行ってはないんだけど、教会でやってる復興支援、私も出資してるんだよ」

「そうだったんですか、すいません………なかなか言い出せなくて」

謝るソネットにヴィヴィオは手を振って朗らかに答える

「いいのいいの、つらい思いがあるから言い出せなかったんだよね、大丈夫、私もソネットちゃんの気持ちわかるから」

「さ、お話はそれくらいにして」

そう言ってアインハルトがバスケットを取り出した

「ディエチさんに頼んでクッキーを用意してもらいましたから、お茶にしましょう」

「アインハルトさん、自分でも作れるのに………」

「いえ、せっかくの機会だからと思って、昔ディエチさんに作ってもらったのが懐かしくなったっていうのもあるんですが、料理はディエチさんの方が上手ですし」

恥ずかしそうに話すアインハルト

首を傾げていたアルマだったがシルヴィアがまた耳打ち

「アインハルトさんが選手だったころディエチさんがセコンドをしていたの」

「私たちが選手だった頃はまだ規模が小さくて友達同士の集まりって感じだったから」

シルヴィアの説明にヴィヴィオが付け足す

「今でも時々手伝ってもらったりしてるよ、今年は私たちが担当だけど」

何年か前にディエチやウェンディがその年の初出場の子にコーチしてる姿を思い出しながら言うリオ

 

こうして楽しい日々を過ごしたシルヴィアたち

夕食を終えロッジに戻る帰り道

「ね、ソネットにお願いがあるの」

そう言って構えをとるシルヴィア

「打ち込んでみてほしいんだ、全力で」

シルヴィアの意図を理解したアインハルトが戸惑うソネットの肩に手を置いた

「お願いします」

その言葉に浮かない表情ながらもデバイスをセットするソネット

「それじゃあ、行くよ」

真剣な表情で剣を振り下ろすソネット

 

シルヴィアは思い出していた

いつも笑顔とやさしさをくれるなのはの事

そばにいてうれしい事があったとき、自分の事のように喜んでくれるサマーラの事

そして、大変な毎日を過ごしながら、時には傷だらけになりながらもいつも笑いかけてくれるヴィヴィオの事

 

ソネットが命中する直前で剣を止めている

シルヴィアはまた目を瞑ってしまっていた

「やっぱりそう簡単にはいかないか」

「(いえ、そうでもないみたいですね………)」

アインハルトは見ていた

ソネットの振り下ろされた剣をシルヴィアはずっと見据えていた

しかし命中するかと思われたぎりぎりのタイミングで目を閉じてしまっていた

「(さっきは気迫だけで目を閉じてしまったのに………この短時間でこれは十分な進展です)」

「アインハルトさんなんだかうれしそう」

そんなアインハルトにユミナが声をかける

「そう見えますか?」

「ユミナさーん!シルヴィア額が切れてる!」

「うぇ!?当たってた?」

慌てるシルヴィアたちと必死に駆け寄るユミナ

「ぷっ」

「「えっ?」」

「あはははっ」

そんな光景を見て思わず声に出して笑ってしまうアインハルト

「アインハルトさん………」

かつてのチームメイトはめったにないそんな光景に戸惑いながらも次第につられて笑ってしまうのだった

 

ちなみに

「よかったー、大したことなくて」

「本当にすみません」

シルヴィアの額の傷はちょっと割れただけの軽い切り傷だったのですぐ治りました



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wish:18 本当のスタート

カロナージでの合宿を終えミッドチルダへと戻ったシルヴィアたち

シルヴィアはインターミドルまでに恐怖心を克服するところから始めなければならない

 

両腕にミットを装着するシルヴィア

アインハルトがグローブを装着しようとしているところだった

「そのミットにはちょっとした工夫が施してありまして、それをつけて受け止めることで魔力の向上につながります」

「わかります、魔力負荷バンドと同じ原理ですよね」

「シルヴィアがあれをつけるのは危険なのですが、この方法なら」

アインハルトが構えをとる

シルヴィアも彼女の意図は理解していた

この方法で魔力を鍛えながら恐怖心に負けないための訓練も並行して行う

それがシルヴィアの訓練方針だ

「手加減は一切なしでいきます、きちんと受け止めてくださいね」

「はいっ!お願いします!」

 

「アルマはまず優しすぎる」

魔力負荷バンドを手首に巻いてるアルマに対してリオが指摘したのはそこだった

「模擬戦の時、リエラを助けるために攻撃をためらったでしょ、そこがまず間違い」

もしアルマが攻撃をためらっている間にアンジュに拘束を解かれたら

幸い使用されたのがかなり強固なバインドだったためそうはならなかったが

「試合ではその優しさが命取りになることもあるんだ、だから………」

拳に炎と電気を纏うリオ

「まずはこれで、どんな時でも迷わないように鍛えていくから」

 

その日の練習を終え自宅でぐったりと項垂れるシルヴィア

「大変そうですね」

そう言ってサマーラがシルヴィアの顔をのぞき込む

「ママたちは?」

「なのは様は夕食の買い出し、お母様は自室で資料の整理、そろそろ終わるころだと思います」

「じゃ、元気出さないとね」

頬を数回たたいて笑顔を作るシルヴィア

「無理はしないでくださいね」

「でも今日一日だけでも結構成果はあったよ、魔力を単純に向上させるだけじゃなくて魔力運用の練習にもなるし」

「ええ、さすがに疲労は見えますが、それでも前より魔力供給が安定しているのがわかりますから」

サマーラはシルヴィアの魔力で生きている彼女の守護獣

当然シルヴィアの魔力を身近に感じることが出来る

「私も応援しています、あなたが夢の舞台に立つ姿を、そこで笑顔を見せてくれることを楽しみに」

 

「ただいまぁ」

「お帰りシャマル、お、ミウラも一緒か」

「お邪魔します」

八神家では家族そろっての夕食の準備中

道場に行ってたシャマルがミウラを引き連れ帰ってきた

「せっかくやからミウラも食べていき、いろいろ話も聞きたいしな」

「えへへ、実は最初からそのつもりだったり」

「ちゃっかりしてんなぁ」

「それで、教え子たちの調子はどうだ?」

「あ!師匠いたんなら顔出してくださいよ!子供達寂しがってましたよ」

狼姿で横になるザフィーラの姿を見てミウラはむくれる

「あの子たちの今の師匠はお前だ、俺がとやかく言う必要などない」

「またそんなこと言って」

「ミウラも随分しっかりしてきたな」

そう言って食器を並べ始めるはやて

「まあ言ってあげんといて、ザフィーラもついさっき帰ってきたんよ」

「忙しいのはわかるんですけど」

そう言って席に着くミウラ

「実際お前はよくやってるよ、教え子たちはよく育ってるし、ちゃっかり家の事手伝ってもらってんだろ?」

「あれは!その!僕自身の経験から」

「落ち着け、ヴィータもわかって言ってるんだ」

「シグナムこれ味見してみてくれない?」

「リインちゃん、明日の分のスポーツドリンクこれで足りるかしら?」

「大丈夫じゃないですか?」

すっかり八神家の風景になじんでいるミウラ

その様子を見てザフィーラは小さく笑みをこぼした

 

数日後

シルヴィアとアルマは聖王教会に居た

シルヴィアはディードと、アルマはオットーとスパーリングを行うためだ

 

「格闘技のスキルがあるとはいえ、アルマお嬢様の攻撃は中距離以上がメインになる」

グローブ形態のレイストームを軽く調整したオットーは掌を掲げる

緑色の光が稲妻のように奔った

「ですから、防御スキルの豊富な相手では攻め手に欠けてしまう」

 

「set up」

ディードのデバイス、ツインブレイズが柄に代わり二本の光剣が姿を現す

「一切手加減は致しません、私の攻撃から目をそらさないようにしてください」

 

「この短い期間で二人はどこまで課題を克服できたのか」

「おお、ソネット随分上から目線だね」

「私はインターミドルまでにすることといえば基礎練習とスキルアップぐらいですから、二人のように課題点があったわけでもありませんし」

からかうリオに言い返すソネットだがカロナージでのことを思い出し表情が陰った

「それでも、ジークさんには手も足も出なかった」

自然と手を強く握ってしまうソネット

「私は、強くならないといけないのに」

 

オットーの掌から出ている光がアルマの砲撃を阻む

「シルヴィアは私と違ってすごいから、隣にいて恥ずかしくないように、そう思っていた」

掌で維持する魔力球

模擬戦で使っていた技に切り替えるアルマ

「でも違った、シルヴィアはただすごいんじゃなかった、シルヴィアはずっとすごい人たちの背中を見て、その人たちに追いつきたくて、ずっと頑張っていたんだ」

オットーに向かって突っ込んでいくアルマ

 

立て続けに斬りかかってくるディードの攻撃をシルヴィアはすべて交わしていた

「まさかこの短期間で………」

額に汗をかきながら斬りかかるディード

その攻撃を見据えかわし続けるシルヴィア

 

「ねぇ、シルヴィア」

それはインターミドルに向けた練習が始まってしばらくした夜

ヴィヴィオがシルヴィアに問いかけた

この日はフェイトも来ていて今は台所でなのはと夕食の支度をしている

サマーラは今お風呂の準備、だから今は母と二人きり

「特訓の調子はどう?」

「アインハルトさんも忙しい合間を縫ってよく見てくれてるんだけど、どうしても最後には目を瞑っちゃうんだよねぇ」

苦笑いしてヴィヴィオに寄りかかるシルヴィア

「苦労してるんだね、シルヴィアも」

そう言って目を閉じたヴィヴィオ

次の瞬間殺気を放ってシルヴィアを見た

一瞬その気迫に押されそうになるが何とか構えるシルヴィア

「うん、頑張ってるのはわかるよ、殺気ぐらいじゃひるまなくなってる」

「もぉママぁ~、いきなりはよしてよ、すごい気迫だった」

「今の殺気何!?」

「マスター大丈夫ですか!」

「うわ、みんな駆けつけてきちゃった、しかもサマーラは大人形態、ていうかサマーラマスターって言わないで」

「あはは」

 

一通りなのはたちに説明を終えみんな元の場所に戻ったところでシルヴィアは再びヴィヴィオの隣に腰かけた

「やっぱりママはすごいや、さっきの気迫とんでもなかったもの」

「でしょ、でもね、あそこまでいくのは簡単じゃなかったんだよ」

拳を握るヴィヴィオ

その話はシルヴィアも聞いたことがあった

ヴィヴィオはその資質からストライクアーツは向かないと言われ続けていた

怪我によるスランプやフィジカルの限界に悩んだこともあった、それでも決してあきらめず、都市本戦で優勝した

卒業後は士官学校と執務官試験、どちらも一発合格

だがそこまでの道のりはやはり平坦なものではなかった

元々勉強のできる優等生だったヴィヴィオだが士官学校での座学や訓練についていくのは簡単ではなく

また、執務官試験もかなりの難関、学生時代から勉強を続けたがそれでも苦労は多々あった

「執務官になった後も、いろいろ辛い思いをしたしね」

そう言って遠くを見るような目になるヴィヴィオ

彼女の言葉にシルヴィアも胸の前でこぶしを握った

なお、この会話を小耳にはさんだ結果フェイトがトラウマをえぐられ半泣きになっていたことを追記しておく

 

「どんなに時間がかかってもいい、私は絶対あきらめない、だって、才能や限界をあきらめない気持ちで乗り越えた、高町ヴィヴィオの娘だから」

ディードの攻撃をかわしてカウンターを決めるシルヴィア

 

アルマを近づけまいと掌を掲げるオットー

飛び上がってオットーの光の範囲から逃れようとするアルマ

「させない!」

手を上げてアルマに向けるオットー

アルマはすかさず砲撃を放つ

砲撃と光がぶつかり合って爆発する

煙から身をかばうオットー

次の瞬間にはアルマが手を向けてすぐ目の前に立っていた

 

「油断していたわけではないですが」

「それでもまさかここまでとは………」

二人にしてやられたことでしょげる双子

「すごい………二人とも課題はもうクリアしている」

勝利に沸くシルヴィアとアルマを見て目を見開くソネット

「本当に大変なのはここからだ」

そう言ってノーヴェが二人に声をかける

「インターミドルの本番は2か月後、それまでに徹底的に鍛え上げてやる」

「勝ちあがっていきたいんだよね」

「ついてこれますか?」

リオとアインハルトの問いかけに見合って笑うシルヴィアとアルマ

「もちろん!」

「目指すは都市本戦出場!」

「私も負けていられません!オットー!ディード!どちらでも構わないので練習相手を」

「アインハルトさん!」

「お願いします!リオさん!」

「ひゃー、みんな元気だねぇ………ん?」

本番に向けて闘志を燃やすシルヴィアたち

そしてそんなシルヴィアたちを見るノーヴェが笑っているのを見てセインも小さく笑った



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それぞれの現在編
wish:19 ギンガ・ナカジマ


ある晴れた日の昼下がり

帰宅したギンガとチンクが玄関をくぐる

「ただいまぁ」

「お帰りッス、ギンガ、チンク姉」

「うん、今いるのはウェンディだけ?」

「スバルはまだっすけどパパリンとディエチはもう帰ってるっス、ただディエチは夜勤明けで昨夜は出動もあったから、疲れて部屋で寝てるッス」

「そう、なら起こさない様にしなくっちゃね」

ナカジマ家はみんな忙しい日々

家族全員が揃うことはめったにないのだけれど

だからこそこうして全員で揃う日は嬉しくて、楽しみで

「ノーヴェはシルヴィアたちの練習ッス」

「そう、ウェンディはお昼ご飯は?」

「まだッス、ディエチも朝から寝てたからまだだと………」

「じゃ、作ってあげるから待ってて」

そう言ってキッチンに向かうギンガ

しかしギンガがキッチンに行ってみると

「あ、お帰りギンガ」

「ディエチ!?寝てたんじゃなかったの?」

エプロン姿のディエチがすでにいた

てっきり寝ているものだと思ったギンガは驚き声を上げた

「そうなんだけどなんだか目が覚めちゃって、ただ作り始めたばかりでまだちょっと時間かかりそうなの」

そう言ってキッチンで準備している

「うーん………それじゃあ」

 

「やるね、アルマ」

「まだまだっ!」

ナカジマ家からほど近い公園

そこでシルヴィアとアルマが組手をしていた

本日はアインハルトとリオが仕事の都合でこれないということもあり基礎メニューが中心となっていた

「ノーヴェ!」

一人練習の様子を見ていたノーヴェの下へギンガがやってきた

「ギンガ!帰ってたのか」

「うん、どう?シルヴィアたちの調子は、」

「まずまずだな、思ったより早いペースで伸びてきている、それよか珍しいんじゃないか?ギンガがこっち顔出すなんて」

「たまにはね、妹のがんばってる姿みてあげようと思って」

そう言って組手を続けるシルヴィアたちを笑顔で眺めるギンガ

幼い頃スバルにシューティングアーツを教えた時のことを思い返し笑みをこぼしていると

「あたしが立ち直った話持ち出すのはなしな、みんな言うんだから」

「えっ!?あ、そんなことないわよ、うん、ない」

「しようとしてたな………」

「そんなに言われてる?」

「最近は特に、お嬢にディエチに、セインにまで言われるし」

「みんな言うのね」

困ったように肩を落とすノーヴェに小さく笑うギンガ

「きっかけはなんとなくわかるけどね」

実際ギンガもノーヴェが立ち直り指導者としてより一層努力しようとしていることを嬉しく思っていた

そのきっかけとなったのがシルヴィアだった

「そうだギンガ、せっかくだからアルマの相手してやってくれ」

「アルマちゃんの?」

 

事情を説明し向き合うギンガとアルマ

軽く拳を振るい脚を上げるギンガ

「うん、鈍ってはいないみたい」

安心して構えるギンガ

相手が管理局の部隊長というだけあってアルマの方は緊張気味の様だ

「そんなに硬くならなくていいわよ、とりあえず最初は装備なしで」

アルマもなんとか構えをとる

「組手の後だし確認程度だから1分でいいだろ、二人とも準備はいいな」

「Timer set」

デバイスを片手に確認をとるノーヴェ

彼女の言葉にギンガもアルマも頷いた

「さ、ノーヴェがどんな風に教えてるか、見せてもらおうかな」

 

「ふぅ、疲れた」

スパーリングを終えノーヴェと共に帰宅するギンガ

「お帰りギン姉」

「スバル!帰ってたのね」

普段は一人暮らしをしている妹の姿に驚くギンガ

「うん、本当についさっき」

「ギンガとは入れ違いになっちゃったね」

台所からエプロンを畳みながらディエチが顔を出す

「もう準備は出来たから、先着替えてきたら?二人ともすごい汗だよ」

「ええ、、そうするわ」

 

「お帰りギン姉」

着替えを終えたギンガがリビングにやってくるとゲンヤと話すトーマの姿が

「トーマも帰ってたんだ」

「スゥちゃんと一緒だったんだ」

「みんなでお昼にしましょう」

ディエチと共に食器を持ったリリィもやってくる

 

「いただきまーす!」

テーブルの上に所狭しと並べられた昼食

大人数に加えほぼ全員が良く食べるのでナカジマ家の食事はいつも大量だった

「お、これうまいな」

「それ作ったのリリィだよ」

「トーマやディエチさんに教えてもらいながらだけど」

「いやぁそれでも大したもんだ」

「先日の事件では………」

「そうそう、あの後事後処理大変だったッス」

にぎやかな家族の食卓

日常の事、仕事の事、他愛ない話題で盛り上がる日々

 

「ふぅ」

食事を終えソファに座り込むギンガ

「ギンガ」

「あ、ノーヴェ、午後の練習は?」

「気温が高いから今日は休み、ギンガの方こそずいぶん疲れてるみたいだけど、やっぱ部隊長の仕事大変なのか?」

「そうじゃないの、もちろんそれもあるんだけど」

体を起こしてブリッツキャリバーを見つめるギンガ

リボルバーナックルを装着して眺めていた

「明日だったよな、墓参り」

「ええ、今でも時々思うわ、お母さんが生きていたら、今頃どうしていたか」

四年前の事件で一度対面した母の姿

「できることなら、あなたたちをもっとちゃんと紹介してあげたかった」

「チンク姉には絶対いうなよそれ、まだ気にしてんだから」

「あら、私たちからすればまだ気にしてたのねって感じよ」

「達ってことは共通の認識か………」

頭を抱えため息を零すノーヴェ

「だからせめて、明日はみんな頑張ってますよって伝えるの」

 

翌日

ギンガとディエチ、トーマは朝から大忙しだった

お供え物に加えみんなのお弁当

家族総出ということもありかなりの量となるが………

「ギン姉、あたしも手伝うよ」

「あたしも、今日は特別な日だからな」

「私も参加させてもらうよ」

「やるッスよぉ!」

「あわわっ!ごめんトーマ!手伝うつもりが寝坊しちゃった」

なんと全員が駆けつけた

そのかいあって予定より早く調理は終わった

 

喪服姿の一同が墓参りを終えて霊園の外へ向かっていた

「なんでぇ、それじゃあ俺だけ手伝わなかったのか」

「いいじゃないですか別に、お父さん料理なんてほとんどやったことないんだし」

ギンガの言葉に全員が笑って見せる

正論を突かれたゲンヤは照れくさそうにしていた

 

広い公園へとやってきた一同

ここでピクニック気分で昼食………と行きたいところ

だが調理が思ったより早く終わってしまい時間を持て余す結果となった

ふとギンガはノーヴェがメールを見ていることに気付いた

「それ何のメール?」

「シルヴィアたちの練習の報告、リオとアインハルトから………っと」

ここでノーヴェは画面を閉じてギンガの方へ向き直った

「そういえば昨日は悪かったな、疲れてるはずなのにつき合わせちゃって」

「別に構わないわよ、ね、さっきのメール私にも見せて」

「おう」

画面を開きながらノーヴェが説明をしていた

ノーヴェはストライクアーツの事、教え子の事を話すとき、瞳がものすごく輝いて見える

「で、ギンガから見てなんだけど」

「うん、あの魔力球はもう少し出力を抑えたほうが安定するんじゃないかな?」

「やっぱりそう思うか?」

「もう少し体が大きくなったらあのサイズでも問題ないとは思うけど」

本当にストライクアーツが、指導者の仕事が好きなんだとわかる

 

家族の交流を兼ねた墓参りの翌日

ノーヴェが出かけようとするとジャージ姿のギンガが声をかけた

「ね、また練習見せてもらっていい?」

 

ノーヴェが来るまでの間準備体操をしていたシルヴィアとアルマ

「あっ!ノーヴェ師匠!」

ギンガを引き連れてやってきたノーヴェにシルヴィアが元気良く手を振った

「ギンガさんも一緒なんですね」

「お休みは今日までだし、せっかくだから妹が教え子たちにどう思われてるか聞いておこうと思って」

「ちょ、やめてくれよギンガ恥ずかしいから」

ギンガの言葉に顔を赤くするノーヴェ

「ギンガさん、先日はありがとうございました」

「こちらこそ、インターミドル頑張ってね、私も応援してるから」

「そうだ!ギンガさん!今日は私とやりましょうよ」

アルマとギンガが話しているのを聞いたシルヴィアが元気よく提案する

それを聞いてギンガはしばらく考えるしぐさを見せると

「うん、わかった!やりましょうか!」

と、シルヴィアの提案に笑顔で乗った

 

リボルバーナックルの装着部に触れゆるみがないか確認するギンガ

「今日は最初から装備付きでやるんですね」

「うん、ノーヴェの愛弟子がどこまでやるのか興味あるし」

「ギンガ!」

顔を真っ赤にして叫ぶノーヴェを無視して構えるギンガ

少し笑ってから立会人のリオが合図を出す

すぐさまギンガとシルヴィアは相手に向かって飛び出した



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wish:20 悩めるオットー

教会騎士団

カリム・グラシアを筆頭とした聖王教会の保有戦力

彼らは教会に勤めながら有事においてそれぞれの力を生かし戦っていく

日々の鍛錬の積み重ねと日常の中で育まれた絆

これはそんな騎士団のある一日のお話

「おはようオットー」

朝の見回りのため早起きしたオットー

中庭にやってくるとリオが一人木刀の素振りをしているところだった

「早いですね」

「まあね、アルマのコーチをしながら自分の鍛錬もしなきゃいけないし」

アルマ・ラフェスタはリオがコーチしているナカジマジムの少女

砲撃と格闘技を組み合わせたシューティングアーツに近い独自の戦法をとる

オットーも先日、リミッターをかけたハンデ戦ではあるが手合わせをした

まだまだ粗削りではあるが今後が楽しみではあった

彼女たちの目指すインターミドルまではまだ時間がある

オットー自身、彼女たちがどこまでいけるか内心期待していた

そしてこの聖王教会にもインターミドルを目指す少女が一人

「おはようございます」

「おはよう、ソネット」

ソネット・フランソン

元々はフォルクムの鉱山地帯で家族と暮らしていたが

数年前の事故で家族と死別、行き場をなくしていたところを聖王教会に引き取られた少女だ

彼女もまたインターミドルを目指している

「みんな早いねぇ」

「シャンテもだろう?」

あくび交じりにやってきたシャンテに問いかけるオットーだったが

「あたしはソネットにたたき起こされたの」

むくれながらも自身の剣を取り出すシャンテ

今でも少しひねくれた所はあるがシャンテはシスターの仕事も競技選手の仕事も頑張っている

何より後進の育成に余念がない

起こされたことに文句を言いながらも、シャンテは練習で一切手を抜くことはない

 

「失礼します」

見回りを終えたオットーはティーカップを持って騎士カリムの執務室に来ていた

「あらオットー、見回りお疲れさま」

「いえ、あ、こちら今朝のモーニングティーです」

「ありがとう、今日もみんな張り切ってるわね」

「あ、すいませんうるさくて」

オットーは最初気付かなかったが中庭で練習してるソネットたち

打ち合いでぶつかる音がここまで響いていた

「止めますか?」

「フフッ、大丈夫よ、と言いたいけど、もうすぐ朝ごはんだからみんなを呼んできてほしいわ」

「かしこまりました」

慣れた手つきで例をするとオットーは中庭へ向かった

 

リオとディードが打ち合っているとオットーが止めに入った

「今朝はここまでだ、朝ご飯に呼んできてほしいと騎士カリムが」

オットーの言葉にリオとディードは剣を待機状態に戻した

「オットーもたまには一緒にやろうよ」

「機会があったら、今は朝食が先です」

リオの誘いも淡白に断るオットー

「あれっ?シスターシャッハからだ」

そんな中シャンテは仕事で出ているシスターシャッハから通信が来ていることに首を傾げた

朝食を終えるとオットーはシャンテが騎士カリムと話し込んでいるのを見かけた

「で、幻術使いのあたしの出番なわけだけど」

「ソネットの練習相手、変わってもらうしかなさそうね」

「そうはいっても、ディードは午後から出張だし、リオもヴィヴィオに頼まれて無限書庫に調べものに行っちゃうし、となると後は………」

そう言って思案するシャンテがこちらに気付いて手を叩いた

「うん、オットーにお願いしよう」

 

ソネットのコーチを引き受けることとなってしまったオットー

どうすればいいかと思案していると

「オットー、何してるの?こんなところで」

「コロナお嬢様?教会に何かご用事が」

教導隊の白い制服に身を包んだコロナが声をかけた

「騎士団の実践教導、騎士カリムにお願いされてね」

笑いながらオットーの隣に座るコロナ

「何か悩んでいたみたいだけど」

コロナの問いかけに対しオットーは答えるべきか否か悩んだがしばらく考えて打ち明けることにした

「最近、自分がどうしたいのかわからないんです、ディードもシャンテも、自分のやりたいことを見つけて頑張っているのに、僕は………」

自分だけがあの頃と何も変わっていない

そんな自分が代役とはいえソネットのコーチをすることが出来るのか

オットーの悩みを聞いたコロナは黙って立ち上がるとブランゼルを取り出した

「ね、オットー、久々に練習付き合ってくれないかな?」

 

ゴライアスの攻撃を回避したオットー

ゴーレムの腕を纏って突っ込んでくるコロナに対してレイストームで壁を張りつつけん制する

コロナはそれを見て拳を地面に打ち付けた

砕いた破片がオットーに向かってくる

「レイ!」

オットーの手から放たれた光が広がっていき破片を打ち落としていく

ゴライアスとの同時攻撃でスキを突こうとするコロナだったが

「なんのっ」

タイミングを合わせて同時攻撃を回避

そのまま光でコロナを捕らえる

「ふぅ」

息を切らしながらコロナを見据えるオットー

「あーあ、負けちゃった」

悔しそうに肩を落とすコロナ

一方オットーはじっと自分の手を見つめていた

コロナは自分が教えていた頃よりずっと強くなっていた

だが、勝てた………

「(足踏みしているわけじゃなかったんだ)」

 

その日の午後

シャンテからもらったメニューをもとにオットーはソネットの練習を見ていた

「(ソネットの強くなりたいという気持ちは人一倍強い)」

そんなソネットの姿に自分が教えていた頃の幼いコロナの面影を感じる

「久々に燃えてきた………ソネット」

ワンセット終えて一息ついていたソネットに声をかけるオットー

 

「ただいま戻りました!」

ディードと共に出張に出ていたリオが帰ってくると疲れ切った様子のソネットの姿

「ソネット?大丈夫?」

「あんなオットー初めて見ました、結構厳しいんですね」

息を切らしながらリオの問いかけに答えるソネット

「まあ、オットーもコーチの経験あるわけだし、選手時代にコロナに教えてたのはオットーだし」

「え!?コロナ教導官に!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

困惑するソネットを見て首を傾げるリオ

「聞いてませんよ、ディードがシスターリオを教えていたことは聞きましたけど」

「まあ。オットーもコーチやるの凄い久しぶりだって言ってたし」

そんな二人の会話を聞いていたディードは静かにその場を離れた

 

キッチンで紅茶を入れていたオットーのもとにディードがやってくる

「ずいぶん熱心にやったみたいね」

「この前アルマお嬢様に手ひどくやられて、知らず知らずのうちに自信を無くしていたらしい、コロナお嬢様も随分立派になったよ」

「その様子だと元気出たみたいね」

そう言ってオットーの隣に立つディード

紅茶の香りに気付いて鼻をひくつかせる

「いい香り」

「ああ、今日のお茶はなかなかの出来だ、こっちも」

隣に置いたクッキーを一つ掴んで差し出すオットー

「味見してみて」

促されるままに一つ食べてみるディード

「おいしい」

「だろ」

「オットーが元気になってくれてよかった、私も心配だったから」

「それはそれは、ご迷惑おかけしました」

皮肉交じりに笑いながらクッキーを盛り付けて台車に乗せるオットー

上機嫌で台車を押していくオットーの背を見送りながら小さく笑うディード

 

早々と眠ってしまったソネットに毛布を掛けて部屋を出るシャンテ

丁度そこへオットーが通りかかった

「シャンテ………」

「ずいぶんかわいがってくれたみたいじゃん、疲れてさっさと寝ちゃったよ」

「少し気合を入れすぎちゃったかな」

そう言って自室へ戻っていくオットー

「しっかしまぁ」

「うわっ!セインそんなところから出てこないでよびっくりするから」

そばの壁からひょっこり顔を出したセインに驚くシャンテ

※セインは無機物に透過して自在に移動できる能力【ディープダイバー】を持っています

「人間変わろうと思えば変われるもんだ、ディードもだけどオットーもよく笑うようになったねぇ」

「そぉ?あたしは全然気づかないけど」

「二人の昔話をソネットにしたら驚くかな?」

悪戯っぽく笑うセインにあきれて肩を落とすシャンテ

「人の弟子で遊ばないでよ、まったくセインはいくつになっても」

「シャンテ、あんたシスターシャッハに似てきたね」

小言を言い始めたシャンテに項垂れながらそう呟くセインだった

 

翌朝も中庭で練習するシャンテやソネットたちの姿

「僕も混ぜてもらっていいかな」

そこへオットーもやってきた

レイを両手に装着してやる気満々だ

「いいよ、やろうか」

そう言って剣を構えようとするリオだったが

「ここは私が」

ディードがそれを制した

彼女の表情から何かを察したリオはソルフェージュを待機状態に戻す

「じゃ、私が審判やるよ!二人とも準備して」

互いに正面に向き合って相手を見据えた

それを確認したリオが笑顔で腕をまっすぐ伸ばした

「レディー………」

リオの言葉と共にオットーとディードがデバイスを構える

「ゴー!」

リオの合図と同時に突っ込んでいく二人

「レイストーム!」

「ツインブレイズ!」

「「セーットアーップ!」」

バリアジャケットを装着した二人が真っ向から激突した



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wish:21 シャマルの願い

八神家のテラスで一人休んでいたシャマル

その時風が吹いてわずかに顔をしかめた

だがそれほど強くなくむしろ涼しささえ感じるその風にすぐ笑顔を見せた

「あら?」

ふと視線を海岸へと移したシャマルが見つけたのは浜辺で練習するミウラとノイチェの姿

テーブルの上に置いたクラールヴィントを見つめるとしばし考え込む

 

「じゃ、今日もよろしくね」

「お~、シャマルは今日午前勤務で午後からは家にいるって」

地上本部での教導を終えたなのはとヴィータは帰り支度を終え駐車場へと歩いていた

なのはは今日検診のためシャマルを訪ねることとなっていた

不屈のエースオブエースと呼ばれ若い世代に慕われる彼女

二度の大怪我を乗り越え現在はほとんど無茶はしない

だが飛べなくなる可能性が高いほどの怪我を二度も経験している身

また体に異変が起こる可能性もゼロではなく、もしそうなったときどんな事態になるかわかったもんじゃない

だから定期的に主治医であるシャマルに診てもらっていた

「そういえば、シルヴィアは大丈夫なのかよ?ヴィヴィオは出向中だろ?」

「平気、今頃はサマーラ共々ノーヴェにお世話になってると思うから」

 

その頃練習を終えたシルヴィアはサマーラと共にノーヴェのマンションで夕食をごちそうになっていた

アインハルトも一緒に今後の練習やインターミドルに向けてのことなど楽しそうに話している

 

「あ、リインからもメールが来てるな、なんか会議長引いてるって」

「え?でもアギトとシグナムさんは夜勤でしょ?ってことは」

「今うちにいるのはザフィーラとシャマルだけだな」

「ヴィータちゃん冷静だね」

「ん?そっか、お前知らないんだっけか、最近はシャマルも随分しっかりしてきたんだぜ」

苦笑するなのはに対して落ち着いた様子で答えるヴィータ

 

狼形態で丸くなっていたザフィーラにシャマルが小さなお皿に入ったスープを持ってくる

「ザフィーラ、これ味見してみて」

促されるままにザフィーラはそのスープを少し飲んでみる

「………問題ない、いい味だ」

「でしょ!せっかくだからノイチェにも御馳走しちゃおう」

「なら、俺が声をかけてこよう、お前は料理を続けているといい」

そう言ってザフィーラはベランダから外に出ると人間形態になって道場の方へ向かっていった

 

「はい、今日の練習はここまで」

「ありがとうございました」

練習を終えたミウラとノイチェ

するとザフィーラがこちらにやってくるのが見えた

「あ、師匠」

「ノイチェ、シャマルがお前に夕食を一緒しないかといっている」

「本当ですか!ぜひご一緒させてください」

「師匠、どうせなら僕も」

「そういうだろうと思っていた、好きにしろ」

「わーい、ありがとうございます」

「それから、いい加減その呼び方は卒業したらどうなんだ?お前ももう立派なコーチなんだ」

「はい師匠」

笑顔でスルーするミウラにため息をこぼすザフィーラだった

 

「そんなわけで、シャマルの料理も最近は結構いけるんだぜ」

「へぇ、それにしても、シャマル先生の肝いりの子かぁ、会ってみたいな」

「会えるんじゃねえか?今日も練習してるだろうし」

なのはの運転で八神家へと向かう二人

三等空佐に上がり仕事も忙しくなったなのはだが家族との時間は出来るだけ取るようにしている

シルヴィアには学校以外ではサマーラが一緒に居ることが多くなのはも彼女を頼りにしている部分がある

自分がいつまでも大好きな教導の現場に居られるように

ヴィヴィオのその望みをかなえるためにも、シルヴィアに寂しい思いをさせないためにも

そう思って無茶を控えるようになったなのはをみてヴィータは小さく笑った

「今のシャマルに出来ないのなんてクルマの車庫入れぐらいだ」

「あ、そこは未だに苦手なんだ」

 

「ただいまー」

「おじゃましまーす」

ヴィータと共に八神家に入るなのは

リビングではノイチェとミウラがお皿を並べていた

「ミウラちゃん、久しぶり」

「はい、お久しぶりです、あ、紹介しますね、こちらは」

ミウラに促されノイチェが一歩前へ出る

「ノイチェ・アルシオーネです、高町空佐のお話は以前から」

「ありがとう、うちのシルヴィアも今年からインターミドルに出るんだよ」

「そういやシャマルは?」

「はーい!シャマル先生はここでーす」

ヴィータが見回すとキッチンの方からエプロンを脱いで駆け付けるシャマルの姿

「さ、いきましょうか、なのはちゃん」

「お手柔らかにお願いします」

苦笑しながらシャマルの後に続くなのは

 

「ただいまぁ」

「はやて、お帰り」

長引いた会議を終えようやく帰宅したはやてとリイン

「靴あったいうことはなのはちゃん先ついとるんやろ?」

「うん、あたしと一緒に来て今シャマルに診てもらってる」

そう言ってヴィータがシャマルの自室の方を見る

 

「はい、検査終了、今日も異常なしよ」

「ありがとうございました」

服の皺を直して立ち上がるなのは

シャマルはベッドに腰かけそんななのはを見ていた

「シャマル先生?」

「なのはちゃんが無茶しなくなってもうずいぶん経つわね」

立ち上がったシャマルは枕元にあった写真を手に取った

かつてなのはの治療に同行し、家族の下を離れたシャマル

治療を終え、帰ってきたときにみんなで撮った写真だ

「そういえば、ノイチェちゃんはシャマル先生の事慕ってるみたいですけど」

「あの子はとても優しい子なの」

写真を置いて窓の外を見るシャマル

「練習中に怪我をした子を手当てしていたらね、あの子が私に声をかけてきたの」

自分に医療の魔法を教えてほしい

とても真剣な表情でそう語るノイチェの姿を思い浮かべるシャマル

「あの子が望んだのは戦う力じゃなくて、守る力」

 

「あ、はやてちゃん、お邪魔してまーす」

なのはとシャマルがリビングに戻ると既にほかのみんなは席についていた

「いらっしゃいなのはちゃん、ほんまは直接出迎えられたらよかったんやけど」

「気にしなくていいよ、会議大変だったんでしょ」

謝るはやてに気にしてないと言わんばかりに声をかけるなのは

丁度そこへノイチェとリインが最後の料理を運んできた

「ノイチェ、お手伝いありがとうね」

「いえ、私の方こそ普段から皆さんにはお世話になってばかりで」

 

「「いただきまーす!」」

大人数で囲む八神家での食卓

全員の顔を見ていたシャマルはふと笑顔をこぼした

「本当だ、これおいしい」

「な、言ったとおりだろ?」

「なになに?来るとき何か話とったんか?」

いつまでも色あせない大切な家族

最近まで悩みの種だった患者さん

楽しそうに話す姿にシャマルも思わず笑ってしまっていた

 

「ごちそうさまでした!うーっ」

食事を終えたシャマルはソファに腰かけ伸びをする

「シャマルお疲れやろ?片づけはやっておくからゆっくりしてや」

「んー、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」

「あ、シャマル先生、この間覚えた疲労抜きの魔法やってみていいでしょうか?」

休息を決め込んだシャマルにノイチェが声をかける

恐る恐るといった彼女の態度にシャマルは小さく笑った

「いいわよ、かわいい弟子の成長を見てあげる」

「じゃあ、ちょっと失礼します」

目を閉じてソファに身を預けるシャマルに対して疲労抜きの魔法を行使するノイチェ

慣れないせいなのか元々の性格なのか随分強張っているようだが

「よくできてるわよノイチェ、その調子」

「そ、そうですか」

ノイチェの成長を自ら感じ取るシャマルは思い浮かべた

以前治癒術を教えたユミナの事

今頃次元の海を回っているであろうヴィヴィオの事

今この場でノイチェに声援を送るミウラの事

そしてそんな様子を見守る大事な家族の事

「(ユミナちゃん、今頃はもうお仕事を終えて帰り道か………案外誰かと一緒に食事しているかもね、ノイチェもすごく筋がいい、私も………)

治療と癒しが本懐の彼女

だが戦乱の中で生きたためにその真価を発揮することは長い間無かった

本当の自分でいられる暖かな場所

その場所を守るため、明日も大切な人と笑いあうために彼女は全力を尽くす

願うなら、今も緊張しまくりの優しい魔導師が、今頃何をしているであろう可愛い教え子が

培ってきた技と知識を、願いと祝福を受け継いでくれるように

今も空の向こうで待つであろう祝福の風のように

 

「ど、どうしましょう………」

疲労抜きの魔法がよく聞いてリラックスしたシャマルはそのまま寝てしまった

施術していたノイチェに向かって倒れ込み気持ちよさそうに眠るシャマルを慌てふためき支えるノイチェ

あたふたしながらもきちんと支えられてるあたりはさすがストライクアーツ選手といったところだろうか

「また気持ちよさそうに寝とるなぁ、ザフィーラ運んだって」

「あ、僕も手伝いますよ」

眠ったままのシャマルの体を何とか起こして持ち上げるザフィーラ

脚側をミウラが持ってそのまま運ぶことに

「シャマル先生の部屋ってどこでしたっけ」

「っていうか狼モードで背中乗せたほうが早くね?」

「引きずるかずり落ちるかのどちらかになってしまう」

「ザフィーラ背中のもん落としたことないやん」

笑いながら指摘するはやて

つられてみんな笑ってしまう

 

なのはが帰り支度を終え車に乗り込んだ

「それじゃノイチェちゃん、また、シャマル先生によろしくね」

「はい、高町空佐、今度はインターミドルの会場で」

運転席のなのはが手を降るとノイチェも手を降り返した



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wish:22 フェイトとシグナム

法務部を訪れたフェイトは要件を終え帰るため駐車場への道を歩いていた

「テスタロッサ」

その途中掛けられた声に振り返る

するとそこにはシグナムの姿があった

「シグナム、久しぶりです、シグナムも法務部に用事?」

「ああ、先日拘束した被疑者の報告にな、そちらは?」

「こっちも似たようなもので、異世界での案件なんですが、ミッドでの罪歴があったのでその関係に、今日はアギトは?」

「別件で地上本部にいる、それよりどうだ?久々に会ったことだしこの後昼食でも」

「いいですけど………珍しいですね、シグナムから誘ってくるなんて」

不思議そうに首を傾げるフェイトにシグナムは小さく笑った

「たまにはいいだろう、お互い積もる話もあるだろうしな」

 

シグナムに連れられやってきたのは意外にも普通の飲食店だった

以前は家族のためでないのならと食事に手を抜くことの多かったシグナムだがそこは改善されつつあるようだ

「それでテスタロッサ、どうなんだ?艦長という立場上苦労も多いだろう」

「ええ、まあ、でも、シャーリーがうまくやってくれていますから」

「名コンビは健在か、今は通信主任だったか?」

「とても助かっています、まあ、それでも忙しくて、なかなか帰れないんですけど」

フェイトが執務官をしていた頃の補佐官であるシャーリーことシャリオ・フィニーノ

思えば彼女ともずいぶん長い付き合いになる

「懐かしいな」

シグナムが突然そんなことを言うのでフェイトは首を傾げてしまう

「まだアースラにいた頃、こんなふうによくお前と一緒に居たなと思ってな」

「ああ、シグナムに模擬戦に付き合わされて」

「おいおい、お前も乗り気だったぞ」

そうして言い合ってるうちに互いに笑ってしまう二人

「テスタロッサ、まだ時間は大丈夫か」

「シグナムが言いたいことは何となくわかりますよ」

一通り笑い終えると二人はデバイスを取りだした

「まだ時間は大丈夫だな」

「ええ、この後はしばらくオフですし」

となればお互いやることは決まっていた

 

フェイトのザンバーと炎を纏ったレヴァンティンが激突する

「やるな、艦長になってなまったと思っていたが」

「まだまだ、負けるわけにはいきませんからっ!」

2人の激突はより激しさを増していった

 

「というわけで、かんぱーい!」

模擬戦の後はどういう流れかアギトとシャーリーも加えて4人で夕食

シャーリーの音頭で全員がコップを打ち付け合う

 

「そういえば、このメンバーだけっていうのは結構珍しいですよね?」

「あれ?そうだっけか?フェイトさんとは結構一緒になること多いと思ってたんだけど」

シャーリーの言葉にアギトは首を傾げながら食事に手を付ける

「そうだけど、大抵だれか他の人も一緒で、4人だけっていうのはそんなにないと思うな」

「そうだな、一番多いのはエリオとキャロか?」

「最近じゃ、カレルとリエラなんかも結構な頻度でいる気がします、あと………シスターシャッハ」

「ああっ、あったあった、思い出すね、昔一緒に食事した時、シスターシャッハ悪酔いしちゃって」

「お前たちも飲まされたんだったな、見事につぶされて」

当時を思い返して悪戯っぽく笑うシグナム

何を隠そう潰れた3人をタクシーに放り込んで送ったのは彼女である

「シグナムは昔から意地悪です、人の気にしてることをすぐほじくり返して」

そんな彼女を見てむくれるフェイトだがアギトは首を傾げていた

「ん~、うちじゃあそういうことあんまりないんだけど」

「そうなの?」

「うん、あ!でもシャマ姉の事はよくほじくり返してる!」

「私の扱いはその程度ってこと?」

酔っぱらっているのかアギトの言葉に凹んで項垂れるフェイト

「ん~、というよりシグナムが家族以外で打ち解けてる人っていうのがあまりいないかな?昔よりは愛想よくなってるとは思うけど」

「おいおい私はそんなに不愛想か?」

アギトの言葉に今度はシグナム本人が眉をしかめた

「あ、いや、元々不愛想なわけじゃないんだけど、どっちかっていうと不器用?」

「ぶっ、アギトお前な」

「けど、最近はよく笑うし、ほかの局員たちともよく話しててさ、昔より良くなったっていうか、もっと良くなったって感じ?」

憤慨して机をたたいたシグナムだったがアギトの言葉を最後まで聞いて照れくさそうに酒を仰いだ

「まったく、そうならそうと早く言え」

「いや、今のはシグナムが最後まで話を聞かないからだろ」

「ふふっ、確かに昔に比べると茶目っ気ついて丸くなった感じがします」

そんな二人の様子を見て今度はフェイトが笑う

「テスタロッサ、お前までそんなことを言うのか」

「あ!そういえば、フェイト執務官はどうなの最近、なあシャーリー?」

「わっ!私に振るんだ」

「こういうのは本人よりも身近な存在!で、そこんとこどうなの?」

「今日のアギトなんだかノリノリだなぁ、んー、艦長になってもその地位に甘えず、対等な立場で乗組員たちに接してるっていうのはあるかな?」

「昔から優しいからなぁ、フェイトさんは」

「あ、あと!部下の事達の訓練に付き合いつつ、実は自分が一番楽しんでたりとか」

「鈍ってない理由はそれか、あきれたやつだ」

「シグナムも似たようなもんだろ!あれ?」

アギトはフェイトが何も言わないことに気付きそちらを見た

「あらら、いつのまにか寝ちゃってるよ」

「まったく、どこか抜けているところも昔と変わらないな」

「そういうところも、フェイトさんの魅力の一つだと思うなぁ、フェイトさん元々真面目な方ですし、堅苦しいままだとなんだかとっつきにくいじゃないですか」

「だってさ、シグナム」

「なぜ私に言う」

 

「ん?」

気付くとフェイトは自宅のベッドで眠っていた

「起きたか?」

「ふぇ!?シグナム、なんで」

「酔ったままのお前をほうってはおけんだろ、今水を入れてくる」

「アギトは………」

「先に帰らせた、酔いはさめたか?」

「うん、ごめんね、シグナムも家族と一緒に居たかったよね」

フェイトの言葉に目を丸くしたシグナムはコップを置くと彼女の額にでこピンをした

「たっ」

「まったくお前というやつは、どこまでも真面目だな、安心しろ、元々今日は誰もいない、みんな帰ってくるのは夜遅くだ、急いで帰ったところで一人二人いるかいないかだ」

そう言ってシグナムは彼女にコップを差し出した

「大方疲れがたまっていたんだろう、たまには家族に顔を見せてやれ、お前の休暇が何日あるかは知らんがな」

そう言ってシグナムは立ち上がり鞄を持った

「フフッ、やっぱりシグナムは変わらないですね」

「そうか?むしろ変わった自覚の方が強いのだが?」

首を傾げるシグナムにフェイトは首を振った

「不器用だけど優しいところは、昔から変わらないです」

「(そんなに不器用か、私は………)」

ちょっと傷つきながらも小さく笑いながら帰っていくシグナムだった

 

翌朝、夜遅くに帰ってきてそのまま自室で寝てしまったはやては頭を掻きながらリビングへと向かう

「あら?なんかええ匂いやわ~」

リビングに向かうまではまだ寝ぼけていたはやてだが心地よい香りに目が覚めた

「おはようございます、主はやて」

「あれま、なんか珍しいのがおる、あ、おいしそうなフレンチトーストやわぁ、アギトおらんようやけどもしかしてシグナムが作ったん?」

「ええ、まあ、ほんの戯れです」

八神家でははやてやリイン達、最近ではシャマルが調理を行うことが多い

だが、普段料理をしないシグナムやヴィータも全くできないわけではない

なにせ良いお手本が身近にたくさんいるのだから

「なんかご機嫌さんやね、ええことあったんか?」

そう言って席に着くはやて

アギトとヴィータが起きてくるとやはりシグナムが朝食を用意したことに驚いていた

 

「なるほどねぇ、それであたしが呼ばれたわけか」

「うん、シグナムの話を聞いたら、久々にアルトセイムに行きたくなって」

助手席に人間形態のアルフを乗せながらミッドチルダの町を車で移動するフェイト

「もうずいぶん行ってないもんなぁ、なんだか懐かしいや」

「そう言えばアルフ、また大きくなったね、見た目15歳くらい?」

「あー、もう小さい体も余分な魔力使うだけになったからねぇ」

そう言って困ったように頭を掻くアルフ

「そのうち、あの頃と同じくらいまで伸びたりしてね」

「ん?なのはたちと会った頃かぁ、もう2~3年したらそのくらいなるかもね」

「そうだアルフ、今夜はなのは達と一緒なんだけど、久々に会っていかない?」

「いいねぇ、そういえばサマーラは元気にしてる?」

「うん、元気だよ、今日会うって言ったら、よろしく伝えてくれって」

 

「で、シグナム、ご機嫌さんの理由は何なん?」

朝食を終えレヴァンティンの整備をしていたシグナムの隣に座るはやて

「ん?すいません、顔に出ていましたか?」

「出てないけどわかるよ、家族の事やからな」

はやての言葉に小さく笑うシグナム

「話すほどの事でもないと思っていたのですが、ちょっとした家族サービスです、テスタロッサにそう話した手前、自分も何かしなければと思いまして」

「あー、フェイトちゃん最近忙しそうやったもんなぁ、家族サービスはええことや」

そう言ってはやてはシグナムに寄りかかる

「けどな、シグナムは無理せんでええねん、私は家族みんなが一緒に居てくれるだけでうれしいんよ」

その言葉に思い出した、エクリプス事件の最中重体となり目を覚ましたシグナムの下にははやての姿があった、表面上は冷静だったが

「ホンマは心配やったで、軽い皮肉も言ったけど、シグナムがおらんなったら思ったら」

「気づいていましたよ、家族ですから」

「あー!シグナムずりぃ!」

「っと、面倒なのに見つかりましたね」

ヴィータが憤慨しながらやってくるのを見て笑いあうシグナムとはやて

 

「「ただいまー」」

「フェイトちゃん!お帰り」

「フェイトママ、お帰りなさい」

その夜、アルトセイムから戻り高町家へやってきたフェイトとアルフをなのはとシルヴィアが出迎えた

「アルフさん!お久しぶりです」

「っ、サマーラ、さんはいらないって、アルフでいいよ」

「いえ、そんなわけには」

「はあっ、いい奴なんだけど、真面目すぎないか?」

同じ使い魔の先輩としてアルフを慕うサマーラの態度に肩を落とすアルフ

そんな二人を見てなのはとフェイト、そしてシルヴィアは笑いあっていた

夕食の後には本局にいるヴィヴィオからの通信も来ていた

なのはやシルヴィアと楽しそうに話す彼女たちの姿を見たフェイトはその様子を微笑ましく見守っていた

やがて彼女たちの催促を受けお話に加わることになるのだった



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wish:23 サマーラの記念日

カーテンの隙間から差し込んだ日差しで目を覚ますサマーラ

寝間着から着替えると丁寧に畳んだそれをもって下の階へと降りていく

「おはようサマーラ」

一階に降りてきたサマーラの下へなのはがやってくる

「おはようございます」

「相変わらず早起きだねぇ、今日はゆっくりしてていいのに」

そう言ってサマーラが持っていた洗濯物を受け取るなのは

「あ、いえ、それは私が」

「いいのいいの、今日はゆっくりしてて、なんてったって特別な日だもの」

「特別な日?」

なのはの言葉に首を傾げるサマーラ

「もぉ、サマーラってば忘れちゃったの?」

そう言って降りてきたのは着替えを終えたシルヴィアだった

「えっ?あの、というかマスター早くないですか?まだ………あっ!その」

「今日は構わないよ」

いつもなら自分がマスターと呼ぶと不機嫌になるシルヴィア

だが今日は笑顔で答えて見せた

訳が分からず困惑するサマーラ

 

今日が何の日かわからず自室に戻って足をプラプラさせるサマーラ

ふと、枕元のカレンダーを覗いてみる

「去年はどうしてたっけ………」

自分がこの家に来てからの思い出は少ない

きっとすぐに思い出せる

そう思って横になったサマーラはふと引っかかった

「思い出?そういえば………」

起き上がって画像ファイルを開くサマーラ

そしてある写真の撮影日を確認してみる

「やっぱりそうだ………」

それを見たサマーラは自然と笑顔になった

 

「以上!手続き終わりー!」

「お疲れさま」

本局で手持ち案件の事後処理をしていたヴィヴィオとファビア

「規模の割にてこずったねぇ」

「ん、引き継ぎはやっておく」

「うん、それじゃあ悪いんだけど、早めに上がらせてもらうね」

両手を合わせて謝ってから鞄を肩にかけるヴィヴィオ

「気にしないで、今回はそういう約束だったから」

書類をまとめながらそういうファビア

ヴィヴィオが部屋を出る直前声をかける

「大丈夫?徹夜明けで」

「平気平気、仮眠はちゃんと取るから」

そう言って車のカギをひらつかせるヴィヴィオ

 

朝食を済ませた高町家ではシルヴィアとサマーラが出かける支度をしていた

「今日は自主練だからサマーラに付き合ってもらおうと思って」

「喜んでお供させていただきます、でもその前に」

靴を履くため玄関にやってくるとカラス形態へと変わるサマーラ

「しばらくこちらの姿でいさせてもらっていいですか?」

 

スピカを肩に乗せカラス形態のサマーラを抱きながら歩くシルヴィア

「なんか、今日のサマーラは甘えんぼさんだね」

「主人に似たんだと思います、マスターもお母様と一緒の時は甘えてばかりじゃないですか」

「う、それ言われると言い返せないかも」

サマーラに図星を突かれ苦笑いするシルヴィア

サマーラは彼女に体を預けかつての事を思い返していた

 

かつて罪を犯し、海上隔離施設に居たサマーラは目的もなく窓の外を眺めていた

「これでいいんだ………私はマスターさえ幸せならそれで」

「サマーラ」

彼女の更生プログラムを担当していたチンクが扉を開け歩み寄った

「面会だ」

「面会?私に………」

 

サマーラが面会室にやってくると執務官の制服を着たヴィヴィオの姿が

「私に何の用でしょうか?」

「元気でやってるかどうか、様子を見に来たんだ、この子と一緒にね」

そう言って近くにいた幼い少女を抱きかかえるヴィヴィオ

その少女の姿を見たサマーラは目を見開き

溢れてくる感情を抑えきれず涙を流した

「えっと、こんにちは、高町シルヴィアです」

 

チンクと遊ぶシルヴィアを見ながら話すヴィヴィオとサマーラ

「モーガンは最初から利用するつもりであの子を作り出した、だから計画を進めるうえで不要になる感情をあえて封じ込めていたみたいなの」

「そんなことに気付かないなんて………守護獣として失格ですね」

「精神リンクが切られていたんだもの、しょうがないよ」

「マスターには私の事は?」

「もう話したよ」

ヴィヴィオはそう言って立ち上がりシルヴィアに手を振る

「あなたの事を想ってくれる大事な人だって」

 

「サマーラ」

「んっ?」

気付けば寝てしまったらしいサマーラ

シルヴィアとスピカが心配そうに覗き込む

「大丈夫?サマーラいつも朝早いしもしかして寝不足とか?」

「すいません、大丈夫です、居心地が良かったもので」

そう言って降りるサマーラ

「ここからは歩いていくので大丈夫です」

「そう?なら人間形態のほうがいいんじゃない?」

「いえ、なんだか今日はこの姿でいたい気分なんです」

 

「ただいまぁ」

疲れた様子のヴィヴィオが自宅へと戻ってきた

「お疲れさま、大変だったでしょう」

「お仕事もそうだけどこれも」

そう言って持っていたケーキ箱をなのはに見せるヴィヴィオ

「何とか買えたからよかったけど」

「じゃ、冷蔵庫で冷やしておこうか」

ヴィヴィオからケーキ箱を受け取って冷蔵庫に入れるなのは

ヴィヴィオは着替えるため自室へ向かった

 

連続で攻撃を仕掛けるシルヴィア

サマーラはその攻撃を最小限の動きで回避していた

「まだまだっ!」

多数の魔法弾を同時生成するシルヴィア

「こちらもそろそろ」

サマーラも同様に魔法弾を生成、シルヴィアの攻撃を相殺しにかかった

弾幕によって発生した煙で視界を奪われてしまうシルヴィア

次の瞬間煙を突き破って砲撃が向かってくる

何とかそれを防御するシルヴィアだったが次の瞬間背後から首筋にかけて手を伸ばされる

その手は直前で止まっていたもののサマーラが後ろをとって彼女を狙える位置にいた

黙って両手を上げるシルヴィアにサマーラは手を下ろした

「ここまでにしましょうか」

「あーあ、負けちゃった」

肩を落としながら武装を解除するシルヴィア

サマーラも動物形態に戻って彼女の足元に擦り寄った

「お昼にしよっか」

 

高町家でもヴィヴィオとなのはが二人で食事をしていた

「ん~、おいしい」

なのはの作ったミートパイを食べながら頬に手を置くヴィヴィオ

「二人きりなんて久々だから張り切っちゃった」

「うん、執務官になってから家にいること減ったし」

「それで、もう一つのお仕事の方は?何か進展あったんでしょ」

スプーンを揺らしながら問いかけるなのは

「わかっちゃう?」

「当然」

問答の後にっこりと笑ったヴィヴィオは懐から書類をいくつか取り出した

「久々にいい論文書けそうでさ、六課時代は忙しくて休業してた学者のお仕事も最近は順調順調、その分家のこととかはなのはママやサマーラに任せっきりになっちゃうけど」

「そのために今日のお祝いでしょ?わざわざ買いに行って」

「ま、そうなんだけどねぇ、喜んでくれるかな、サマーラ」

 

カラス形態で昼食をとるサマーラ

そんなサマーラを眺めながらお弁当を食べるシルヴィアにスピカがジェスチャーで何か伝えようとしていた

「え?特別な日って何かって?」

シルヴィアの問いかけにスピカは頷いた

「そっか、スピカは知らなかったね、今日は………」

 

「それでは!サマーラが我が家の仲間入りをした記念日を祝して」

「「かんぱーい!」」

なのはの音頭と共に夕食が始まる

サマーラは照れくさそうに大人形態で座っていた

四年前、シルヴィアのために罪を犯してしまったサマーラ

そんなサマーラが施設を出て高町家にやってきたのが二年前の今日

メインディッシュは彼女の大好きな卵料理、そして

「食後にはこれ」

「?」

ヴィヴィオが取り出したケーキ箱に首を傾げるサマーラ

「じゃーん!お仕事の帰りに買ってきちゃいました!」

中に入っていたのはおいしそうなエッグタルト

最近テレビで話題になっている人気のお店のものだ

それを見たサマーラは驚き半分嬉しさ半分といった感じで声を上げながら口をパクパクさせていた

「サマーラテレビで見て食べたそうにしてたもんね」

「わわっ!知ってたんですか!?」

シルヴィアの言葉に驚くサマーラ

「でもこれは、食後のデザート、まずはご飯食べよう」

「それじゃあ改めて」

「「いただきます!」」

 

食事を終え幸せそうにソファで横になるサマーラ

疲れてしまったのかカラス形態、それも小鳥サイズだった

「サマーラ、これからもよろしくね」

そう言ってサマーラの頭をなでるシルヴィア

その感触からサマーラの中である記憶が目覚めていた

彼女の守護獣として契約する以前

他のカラスに攻撃され傷つき虫の息だった一羽のカラス

当時のサマーラを抱きしめる年端も行かない幼い少女

「そうか………私はずっとこの人に」

 

「なのはママ、見て見て」

お風呂上がりのヴィヴィオに言われてリビングを覗いてみるなのは

「あらあら」

ソファの上で笑顔で抱き合い眠るサマーラとシルヴィアの姿がそこにはあった



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インターミドル編
wish:24 ヴィヴィオとノーヴェ


この日、シルヴィアの練習風景を見学するためヴィヴィオがナカジマジムを訪れていた

ノーヴェは端末で仕事をしながら選手たちの様子を見ていたがふとそばに来ていたヴィヴィオが目に入った

「そうだ、ヴィヴィオ、ちょっと腕見せてみろ」

ノーヴェの言葉にヴィヴィオは彼女の隣に座ると利き腕を伸ばした

ノーヴェはその腕に軽く触れ状態を確かめてみる

「忙しいなりにきちんと鍛えてるな、感心感心、ここも………もうなんともないみたいだな」

そう言ってヴィヴィオの肘を見るノーヴェ

「うん、今のフォームならインフィニティも問題なく打てるんだけど、あれは封印することに決めたからね………」

 

ヴィヴィオが中等科二年の時のインターミドル都市本戦

当時の決め技だったアクセルスマッシュインフィニティを使い見事KO勝利で飾った試合

だがヴィヴィオは試合終了後もずっと右腕を押さえていた

「どうした」

「う、腕が………」

肘筋肉の断裂、それによりヴィヴィオはこの試合を最後に棄権を余儀なくされた

原因となったのがアクセルスマッシュインフィニティ

フルスイングの連打を繰り返すことによって肘に負担がかかっていた

そしてチームのだれも、ヴィヴィオ自身でさえも気づくことのできなかった肘にたまっていた疲労

その結果肘の筋肉を痛めてしまっていた

皆で相談しインフィニティを封印することに決めた、だが肘の負担を抑えるためフォームを変更した結果インフィニティはおろかダブルより先が困難になっていた

なのはの事故が起きたのはその直後

思い詰めたヴィヴィオはその後伸び悩んでしまったこともあった

幾多の困難を乗り越えライバルたちとの激闘を経て都市本戦で優勝した当時のヴィヴィオの姿をノーヴェは昨日のことのように今でも覚えている

 

「せっかく来たんだし、少しやっていくか」

「お手柔らかにね、師匠」

そう言ってリングに上がるノーヴェとヴィヴィオ

「ジェットエッジ」

「セイクリッドハート・ドリーム」

セットアップした両者は互いに構えて見合った

「魔法ナシの立ち技オンリーで行こうぜ、お互い一番やりやすいだろ?」

「じゃ、クリス、ゴングお願いね」

ヴィヴィオのその言葉と共に画面が表示されクリスがタイマーをセットする

時間差でなったゴングに合わせノーヴェがヴィヴィオに突っ込んでくる

ジャブを交えながら牽制するヴィヴィオに真っ向からインファイトでの勝負に持ち込むノーヴェ

至近距離から放たれるノーヴェの攻撃をかわしながら反撃を仕掛けてくるヴィヴィオ

ノーヴェはヴィヴィオの攻撃を何とか捌きながら彼女を見た

彼女の現在のスタイルは魔法と打撃のコンビネーションを生かした打たせずに打つカウンターヒッター

だが、こうしたインファイトの打ち合いでも彼女はこうしてノーヴェと互角に戦える技術を身に着けていた

 

「おっけ、ここまでにしよう」

互いに息を切らしながら武装を解除するノーヴェとヴィヴィオ

「やっぱりノーヴェは強いや、もう格闘だけはきついかな」

「そんなことないさ、そりゃアインハルト達みたいに格闘メインで立ち回っていくのは難しいかもしれないけど」

汗を拭ったノーヴェはシルヴィアと今の試合について話すヴィヴィオを見てどこか優しげな表情で笑った

今の勝負もほぼ互角、通常の試合だったら判定に持ち越されていただろう

そして判定になった場合その結果はおそらく………

「(あたしもそのうち師匠越えとかされちゃうのかな………)」

それはそれでうれしくもある、だが今はまだ超えさせるわけにはいかない

 

お風呂から上がったノーヴェは寝室に飾ってある写真を見ていた

これまでの教え子たちが数々の大会で入賞した時に撮った記念写真

中でも一番目立つ場所にあるヴィヴィオが都市本戦で優勝した時の写真

 

「あら、ナカジマ会長、どうしたんですか急に」

ノーヴェが連絡を取ったのは現在フロンティアジムで主任コーチをしているジル・ストーラの所だった

「いや、ちょっと話したくなってさ、そっちはどう?最近」

「ふふっ、インターミドルに向けてみんな頑張ってますよ、私もリンネも教え子たちの気持ちに応えようと頑張ってます」

かつては才能を第一と考えノーヴェと意見を違わせることの多かったジル

だがある一件からその距離は縮まっていき今では指導者仲間としてノーヴェの良き友人となっていた

「っていうか、私たちよりそっちですよ、どうなんですか?一時期相当思い詰めてましたし」

「ったぁ、あんたもか」

ジルに問い詰められ頭を抱えるノーヴェ

その態度にジルは首を傾げるが

「何でもない、こっちの話、あたしも頑張ってるよ、シルヴィアも今年からインターミドル出場するわけだし」

「ああ、例の………何だったら私が教えて差し上げましょうか?」

「遠慮しとく、あたしなりのやり方であいつを育てていくよ」

ノーヴェのその言葉を聞いてジルは小さく笑う

「優しいですね、相変わらず………」

「ん?」

「覚えてます?シルヴィアさんもそうですけどヴィヴィオさんの肘の怪我の時も結構思い詰めていたじゃないですか」

「ああ、その話はやめてくれ、大体その件であたしが落ち込んでた期間そう長くないだろ」

「すぐにあの事故でしたからね………」

なのはの事故の事はもちろんジルも知っていた

その件が理由で彼女が選手をやめてしまうのではないかと心配もしていた

だが、むしろヴィヴィオはあの事故がきっかけで奮起した

事故のころはまだ肘の治療中だったが完治してすぐ選手としてレベルアップに努めた

強くなって元気になったなのはに胸を張って会いたい

その気持ちをバネにどんどん強くなっていった

肘の怪我が再発することが無いようフォームの改善に努めた際はジルもアドバイスをしている

 

翌日、ノーヴェはいつもより早く来て選手ジムで筋トレをしていた

昨日ヴィヴィオと試合したことで気持ちが高まっていたのだ

それに弟子の成長を感じ負けていられないという思いもある

師匠として自分も良き手本でありたい

「ノーヴェさん!?どうしたんですか?」

シルヴィアの練習に付き合うためジムにやってきたアインハルトはノーヴェのトレーニングする姿を見て驚いた

「丁度いいや、アインハルト、ちょっと付き合え」

そう言ってグローブを投げて渡すノーヴェ

「あ、構わないんですけど、どういう心境の変化ですか?コーチ業に専念してからは指導以外でリングに上がることはほとんどなかったのに」

「別にそんなんじゃないよ、ただ、教え子が頑張ってるのを改めて実感していてもたってもいられなくってさ」

そう言ってリングに上がるノーヴェを見てアインハルトは小さく笑った

「そう言うこと、ヴィヴィオさんですね」

「あ、やっぱりわかっちゃうか?」

「わかりました、手加減ナシ、全力全開で行きます」

 

ヴィヴィオの現在のスタイルはあの頃とまるで違う

違うように見えて根本は変わらない

ノーヴェと共に作り上げてきたカウンターヒッター

自己流になっても決して変わることないヴィヴィオのスタイル

そしてそれは受け継がれていく

「あー!二人ともずるい!」

ジムにやってきたヴィヴィオは打ち合うノーヴェとアインハルトを見て思わず声を上げた

「っと、もうこんな時間か、悪いなアインハルト」

「いえ、ノーヴェさんの強さ、改めて感じました」

「ねー、私も、私もやりたい」

「すいません、私はこれからシルヴィアの指導が」

「じゃあノーヴェ!」

「あたしとは昨日やったろ、そんなにやりたきゃ後でリオにでも付き合ってもらえよ、その間アルマはあたしが見るから」

駄々を捏ねるヴィヴィオに苦笑するノーヴェとアインハルト

そこへリオに連れられシルヴィアとアルマが入ってきた

ヴィヴィオとノーヴェが作り上げたカウンターヒッターはこの子に受け継がれている

そしてシルヴィアはヴィヴィオとは違う可能性を秘めている

その可能性の先に果たして何があるのか

指導者としてのノーヴェの道はまだまだ終わらない

シルヴィアはもちろんアルマやこの場に居ないソネットも

そして、きっとその次の世代でも

「ありがとな、ヴィヴィオ」

「え?何か言った」

「何でもない」

そう言ってノーヴェはリングを降りてシルヴィアたちの方へ行く

その口元はわずかに笑っていた

 

そしてその日の夜、ノーヴェは再びジルと話していた

ヴィヴィオが駄々を捏ねた話をするとジルはおかしそうに笑っていた

「なあ、ジル」

「はい、なんですか?」

「あたし、指導者になってよかったよ」



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wish:25 インターミドル選考会

シルヴィアとアルマはこの日聖王教会へとやってきていた

中庭にやってくると既にリオとアインハルトが待っていた

「アインハルトさん!あれ!」

「ふふっ、もちろん来ていましたよ」

そう言ってアインハルトが懐から封筒を取り出す

待ちきれないといった様子のシルヴィアに笑いかけながら封筒を開けるアインハルト

「私もまだ見ていないんですが………ああ、ありました、シルヴィアは2組ですね、アルマさんは………」

「あったよ、7組、えっと………あっ、やっぱりというかなんというか、上位選手の名前もいくつかあるね、この分だと結構早い段階で当たりそうかな」

「うわぁ、大丈夫かな」

リオの言葉に委縮してしまうアルマ

「ねえねえ、私の所は?」

「ん?ん~、2組にも都市本戦出場経験者の名前はいくつか………ん?」

リストを眺めていたリオは一つの名前が目についた

 

一方ジムで他の教え子に発表していたノーヴェもリオと同じことが気になっていた

「ミカゲ・スズキ………シルヴィアと同じブロックになったか」

最近噂になっている無名選手と同じブロックで当たったシルヴィア

「苦しい戦いになるかもな」

 

「後は………ソネットが4組、このブロックには去年の都市本戦準優勝者の名前があるね」

「去年の準優勝者っていうと………」

シルヴィアの言葉にリオが頷く

「リカルダ・クライスラー、格闘戦もすごいけど、すごく強力な魔法も使う実力者だって聞いてる」

 

ソネットは一人練習をしていた

既にシャンテからインターミドルの組み合わせの事は聞いている

「リカルダ選手に勝てないと都市本戦へは進めない………」

そう呟いて勢いよく剣を振るうソネット

「勝って見せる………私には負けられない理由があるんだ」

 

そして始まった選考会

シルヴィアたちは集まった選手たちを見て目を輝かせていた

「すごい………この人たちみんなライバルになるんですよね」

「だな、どの選手も上を目指して、今日のために頑張ってきているはずだ」

ノーヴェの言葉にシルヴィアは満足げに笑う

「それは私だって同じ!頑張っちゃうから見ててください!」

 

選考会で先に順番が回ってきたのはアルマだった

デバイスの使用が出来ないので一度外してリオに預けている

対戦相手はステップを取りながら間合いを確かめているようだ

緊張した様子のアルマだったが深呼吸して真っ直ぐ相手を見据えた

「レディ………ファイト!」

合図と共に相手選手はアルマに向けて突っ込んでくる

だがアルマは落ち着いて相手を見ながら手をかざす

魔力球を出現させ掌の上にとどめている

陸戦試合で使ったものより小さいものの込められた魔力はそれに劣っていなかった

「はぁ………」

勢い良く腕を振るうとまるでハンマーのように相手選手の頬を魔力球が直撃する

アルマはそのまま突っ込むと鋭い回し蹴りを命中させた

相手選手はそのままダウンしてしまったようで終了のブザーが鳴り響く

 

「やったー!アルマすごーい」

ノーヴェやアインハルトと共にそれを見ていたシルヴィアが喜びの声を上げていると

「大したものだ、あれでストライクアーツを始めて間もないというから恐ろしいよ」

ミカヤがやってきていた

「ミカヤちゃん!直接会うのは久しぶりだな」

「そうだな、こうして話すのも例の通信以来か」

親しげに話す二人にアインハルトが歩み寄る

「それでミカヤさん、例の強豪選手、ここにきていると思うんですけど」

「ああ、私は直接会ったからね………ええっと、ああ、丁度これからの様だ」

そう言ってリングの一つを指さすミカヤ

確かにリングに上がるミカゲの姿がそこにはあった

「あの選手が」

 

対戦相手は身構えているがミカゲは全くの丸腰に見える

「レディ………ファイト!」

次の瞬間対戦相手は吹っ飛んでリング外に飛ばされていた

 

「なっ………一瞬で」

「何をやったのか私にも全く見えなかった、あの年で末恐ろしいよ」

ミカヤの言葉にシルヴィアも真剣な表情でミカゲを見ていたが

「わっ!?」

「ふふっ、だーれだ?なんてね」

突然視界を塞がれ驚いてしまう

視界をふさいでいた手をどかされるとすぐに振り返るシルヴィア

「こうして会うのは合宿以来ね」

「シャマル先生!お久しぶりです」

「あれ?シャマル先生がこっちいるのって珍しいな」

ノーヴェのその言葉になぜか胸を張るシャマル

「なんてったって私はノイチェのセコンドだもの、ついさっき選考会の試合が終わったところで………そう言えばシルヴィアは会ったことなかったわね、ノイチェ、ちょっといらっしゃい」

「はい」

シャマルに呼ばれこちらに歩み寄るノイチェ

「お初にお目にかかります、ノイチェ・アルシオーネです」

「ご丁寧にどうも、高町シルヴィアです」

丁寧にあいさつしてくるノイチェに対して丁寧に返すシルヴィア

すると突然どこからか轟音が鳴り響く

みると奥の方のリングでソネットが勝利したようだ

「ソネットも勝ったんだ………」

「ゼッケン315番、429番、Bリングへ」

「あ、呼ばれたっ」

シルヴィア(315番)は慌ててリングへと向かう

「っと、選考会はデバイス使えないんだった、アインハルトさん、スピカ預かっててください」

途中でそのことに気付き慌ててアインハルトにスピカを預ける

「ふふっ、元気すぎるのも考え物ですね」

「それだけ緊張してんだろ、お前だって初めてインターミドル出た時緊張して鼻ぶつけたじゃねえか」

ノーヴェに恥ずかしい過去をばらされそのまま赤面して俯くアインハルト

「ほら、いつまでもしょげてねえで行ってやれ」

「あっ、ハイ」

慌ててシルヴィアの待つリングへと向かうアインハルト

「さて、相手は………ってでかっ!?」

シルヴィアより頭二つ以上は大きい長身の選手が彼女を見据えていた

「あれ本当に19歳以下か?あたしとほとんど変わんねえじゃん」

 

「(背の高い人だと顎を狙うのは難しいかな………久々に思いっきり打ち込んじゃお)」

ステップを踏みながら相手を見据えるシルヴィア

「レディ………ファイト!」

試合の開始と同時にシルヴィアは翼を広げた

「セイクリッド・ウイング!」

スピカなしでの飛行は久しぶりだったが対戦相手に勢いよく突っ込んでいく

「このっ!」

勢い良く拳を振るう相手選手だがシルヴィアはその攻撃を難なくかわした

「空破断!」

掌で打ち込んだ攻撃で相手の体制を崩すシルヴィア

「からの………断空拳!」

一度着地してから力を込め体制の崩れた相手の腹部に勢いよく拳を打ち込む

そのまま相手選手は場外までふっ飛ばされた

「やったぁ!」

本来と異なるスタイルで快勝するシルヴィア

嬉しい気持ちを抑えられずその場で飛び上がった

「なかなか面白い子たちだね」

そんな彼女を観客席から見つめるのはショートカットの一見少年にも見える整った顔立ちの女性

その女性の姿に気付いた観客たちがざわついている

彼女こそ去年の都市本戦準優勝

リカルダ・クライスラー

「私のライバルとなるのはあの子か………」

彼女の見つめる先にはシルヴィア達に合流するソネットの姿が

 

「え?ノイチェさん予選7組なんですか?」

選考会の出番も終わりみんなでお昼を食べていた

「そうなんです、だからアルマさんとは予選で当たってしまいますね」

「あの………私負けませんから!」

「ふふっ、もちろん私だって負けるつもりはありません」

そんな様子を楽しそうに見ているシルヴィアの肩をアインハルトがつつく

「アルマさん、普段はおどおどしていますが意外と度胸はある方ですよね、選考会でも特に緊張した様子はありませんでしたし」

「そうですね、本人に自覚はないですけど結構大物っぽいです」

「おーい!」

そこへノーヴェがやってきた

「選考会の結果出たぞ、お前たち全員スーパーノービスクラスから」

「もちろんノイチェもよ」

そう言ってノイチェの頭をなでるシャマル

ノイチェは照れながらもうれしそうな様子だった

 

「そっか、シルヴィアたちもスーパーノービススタートなんだ」

その日の夜シルヴィアは今日の選考会の結果を嬉しそうに報告していた

「まだまだここから!目指すは都市本戦!そのためにもまずは初戦頑張らなきゃ」

そう言ってシルヴィアは組み合わせ票をヴィヴィオに見えるよう映し出した

「あれ?シルヴィアの初戦の相手って」

「そう、すっごく強い人なんだって、でも負けるわけにはいかないから、私がんばるよ」

シルヴィアのスーパーノービスクラスの対戦相手

そこには同じようにスーパーノービスクラスからスタートするミカゲ・スズキの名前があった

 

そして始まったインターミドル地区予選本番

シルヴィアたちはアルマの試合を観戦していた

「いっけー!アルマ―!」

「バースト………フレイムっ!」

アルマの炎熱砲撃が相手選手に直撃し残っていたライフを一気に削り取った

「勝った………」

「やったねアルマ!」

彼女の勝利に沸く観客席

未だ試合の余韻が残り立ち尽くしていたアルマにリオが飛びかかる

「次はノイチェさんの試合だね」

「相手も結構な強敵だぞ、都市本戦の出場経験はないけど、毎年結構いいところまで勝ち上がってる」

ノイチェの対戦相手である選手のデータを見ながらノーヴェが険しい表情を見せる

 

控室ではミウラとシャマルがイメージトレーニング中のノイチェを見守っていた

「そろそろ時間よ」

シャマルの言葉にノイチェは閉じていた目を開け両手に付けたブレスレット型のデバイスを見た

「行こうか、ゲイルラッド」

次の瞬間ノイチェの体は風に包まれた

風が消えるとシャマルのものによく似たバリアジャケットを身に纏うノイチェの姿が



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wish:26 ノイチェ・アルシオーネ

インターミドルミッドチルダ中央地区予選スーパーノービスクラス第7組

この日注目のカード、初出場のノイチェと今回が4回目の出場となるローザの試合が始まろうとしていた

前丁場では毎年好成績を残しているローザが優勢だという声が多い

だがノイチェの潜在能力も確かであり選考会での様子を見ていたものの中にはノイチェの方が実力が上だという声もある

はたしてこの試合どちらが勝つのか

「悪いが負けるわけにはいかないんだ、君に勝って上に行かせてもらうよ」

「負けるわけにいかないのはこちらも同じです、できればあなたを傷つけたくない」

そう言って腰に装着したリング状の武器を手に取るノイチェ

「ですが、私に戦う力を、本当に大切なことを教えてくれたシャマル先生やミウラさんのためにも、私も負けるわけにはいかない」

両手にリング状の武器を持って構えるノイチェ

 

「ノイチェさんの武器、なんだか変わってるね」

「アームドデバイス、あの形状だと投擲武器だな、ローザ選手はバリバリの接近戦タイプ、あのデバイスを使いこなせるか否かが勝敗のカギになってくる」

ノーヴェはノイチェのデバイスが勝敗のカギになるとみていた

 

「レディ………ファイト!」

試合開始と同時にローザはノイチェに向かっていく

「行くよ、ゲイルラッド」

「Mir war bewusst」

ノイチェはゲイルラッドをローザに向かって投擲する

一方ローザは拳に魔力を纏って突っ込んできた

投げられたゲイルラッドを交わし接近しようと試みる

だがノイチェもそれは織り込み済み

魔力糸を使ってゲイルラッドを引き寄せ後ろからの命中を狙う

だがそれに気づいたローザはすぐさま伏せて背後から近づいたゲイルラッドを交わす

すると今度は正面からもう片方のゲイルラッドが飛んでくる

後ろに飛んで何とか回避したかに見えたローザだが僅かに鼻先を切られる

 

「何が起こったの!?」

「風だな、あのリングは魔力で引き起こされた風を纏ってる」

ローザが切られた理由がわからず困惑する一同だったがノーヴェはその理由がすぐさま分かったようだ

 

「(目に見えない風の刃、これでは近づくのは難しい………)」

接近を阻むノイチェの戦い方に唇をかむローザ

「ならこれで………あんまり得意じゃないけど牽制ぐらいなら………」

魔力弾でノイチェを狙うローザ

だがノイチェは手をかざすと魔力壁でその攻撃を容易く防いで見せた

更にゲイルラッドがローザに迫る

何とかこれを交わすローザ

「この戦い方………まさかあの子」

 

「へぇ、あの選手結界魔導師か」

観客席で見ていたリカルダも思わず声を漏らす

結界魔導師はその名の通り結界や捕縛などの補助系の魔法を専門的に扱う魔導師の事

インターミドル参加選手で結界魔導師がいること自体は何ら不思議ではない

事実過去の上位選手にも結界魔導師はいる

「武器を使ったリーチの長さと防御力を生かした中距離型ってところかな」

「リカルダさん」

誰かに声をかけられ振り返ったリカルダはそちらを見てほくそ笑む

「モニカ選手か」

そこにいた選手はモニカ・キャバリエ、リカルダと同じ組の上位選手だった

「あなたは別ブロックのはず、なぜそんなにこの試合を気にするのですか?」

「それは君もじゃないか」

リカルダもモニカもシード枠を獲得した上位選手

試合はエリートクラスから、スーパーノービスクラスの、ましてや別ブロックの試合などわざわざ見る必要などないはず

「ローザ選手、今年も気合入っていたからね」

「あの人は毎年惜しいところまで行くんですけどね、あと一歩が毎回届かない」

ローザのインターミドル出場歴は4回、いずれも地方予選で敗退している

「実力だけならすでに全国レベル、なのに未だに都市本戦にたどり着くことが出来ない、そんな彼女がどうしても気になってね」

「って、去年準決勝でボコボコにしたのあなたでしょ」

「あれ?そうだったっけ?」

頭を抱えながらのモニカの言葉に苦笑するリカルダ

 

「だったら!」

真正面からノイチェに向けて突っ込んでいくローザ

ノイチェは再びゲイルラッドを投擲して迎え撃つ

ローザの拳とぶつかり合うとはじかれこそしたものの彼女を押し返した

「くそっ、なんて魔力だ」

「いったはずです、負けられないのは私も同じ」

 

ノイチェは幼いころから優れた魔力資質を持っていた

両親も彼女が立派な魔導師になることを期待していた

だが彼女自身は戦うことが嫌いだった

自分の力で誰かを傷つけてしまうことが怖かった

それでも魔法へのあこがれがなかったわけではない

自分がどうしたいのかわからず悩むノイチェだったが

「あっ」

ふと浜辺の近くを歩いているとこのあたりで有名なジムの子供たちが砂浜でジョギングしている光景が目に入った

「あっ!」

すると子供たちの中の一人が転んでしまい足を抑えていた

どうやら擦りむいてしまった様子

「えっ」

そんな子供に歩み寄る人影が

「はい、もう大丈夫よ」

その女性は魔法でその子の傷を治療して優しく声をかけていた

「魔法ってあんなこともできるんだ」

それが彼女とシャマルの出会いだった

それから彼女は八神家道場に通い詰め、シャマルに師事した

傷つけることしかできないと思っていた魔法の力で誰かを助けることが出来ると教えてくれた

傷つけるのではなく、守るため、助けるための力を自分に授けてくれた

自分のやりたいことを気づかせてくれた

嬉しいことを伝えれば自分の事のように喜んでくれた

時にやさしく、時に厳しく、医術だけではなく、様々なことを教えてくれた

そんなシャマルのために戦うことを決めた

それが自分にできる精いっぱいの恩返しだから

 

とうとうノイチェの攻撃がローザを捕らえた

ゲイルラッドに切り裂かられ傷口を抑え蹲るローザ

「もうやめにしませんか、あなたをこれ以上傷つけたくない」

「誰が諦めるものか、絶対に都市本戦に勝ちあがるんだ………そのために、どんな辛い特訓にも耐えてきた」

毎年あと一歩のところで敗れ悔しい思いを繰り返してきたローザ

それでもいつか必ずたどり着けると信じて

苦しい思いをしてまで特訓を重ねた

幼い頃からずっと憧れた夢の舞台に立つため

何度敗れようと挫けず這い上がってきた

「絶対に都市本戦に行くんだ!今年こそ絶対に!勝つんだあぁ!」

拳に魔力を集め突っ込んでいくローザ

それを見てノイチェは静かに目を閉じた

「あなたの思いはわかりました、でも、私も負けたくないから」

ゲイルラッドを手に持ったまま構えるノイチェ

そのまま魔力をゲイルラッドに込めていく

「ごめんなさい」

両手を広げゲイルラッドを振り上げる

「風牙一閃」

振り下ろされたゲイルラッドから放たれた風が衝撃波となってリングを走り目の前に迫っていたローザ諸共リングを引き裂いた

 

「なんて切れ味だ」

余波が観客席まで届くほどの強力な一撃

衝撃波の勢いで空中に投げ出されたローザはそのままリングに落下

残っていたライフもごっそり持っていかれてしまった

「絶対に………都市本戦に………」

そこまで言って力尽き意識を手放すローザ

「試合終了―!ノイチェ選手!格上を相手に余裕の勝利です」

 

「ローザ選手、今年もダメだったか」

「相性の悪さもありましたからしょうがないですよ」

そう言って立ち去るモニカだったがリカルダは倒れたローザの事が気になっていた

「どうもほっとけないな………」

 

「すごい………ノイチェさん、無傷で勝っちゃった」

試合の結果を見て驚くアルマだったが

「ううん、さすがに無傷ってわけにはいかなかったみたい」

シルヴィアはそう言ってノイチェの方を見る

 

「っつ」

腹部を抑えふらつくノイチェ

最後の一瞬、ローザの攻撃はノイチェに届いていた

もし、こちらの反撃があとほんの僅かでも遅れていれば………

そこまで考えてノイチェは倒れたローザに歩み寄ろうとする

が、彼女に伸ばそうとした手を抑えられた

「だめよノイチェ」

シャマルだった、いつもの優しい笑顔のまま彼女に声をかける

「でも………」

「あなたは本当に優しい子ね、でも教えたはずよ、時としてその優しさが凶器になることだってあるって、今はそっとしてあげましょう」

シャマルの言葉に黙って俯くノイチェ

「どうしてもっていうなら………」

そう言ってシャマルはクラールヴィントを装着した手を彼女に見せる

「あの子の治療は私に任せて、あなたは手を出しちゃダメ、わかったわね」

「はい、すいませんでした、シャマル先生」

「いいのよ、すいませーん!」

ローザを運ぼうとしたスタッフに声をかけるシャマル

治療を手伝えないかかけあうため話す彼女の背中を見て小さく笑うノイチェ

「やっぱりシャマル先生は優しいね」

「Es ist wie Sie」

ノイチェの呟いた言葉にゲイルラッドが同意した

 

「さっ!次は私の番だ!」

そう言って立ち上がるシルヴィア

ミカゲに勝つことが出来れば先に勝ったアルマ、ノイチェに続きエリートクラスに出場できる

「がんばろうね!スピカ!」

シルヴィアの言葉に同意して頷くスピカ

「けど、何をしてくるかわからない相手なんだよ、大丈夫?」

ミカゲは選考会だけでなく、これまでのいかなる試合も一瞬で終わらせてきた

そのため彼女がどんな魔法を使うのか知る人物はいない

「大丈夫!そこのところはばっちりだから」

そう言って胸を張るシルヴィア

はたしてミカゲに勝利し、エリートクラスに出場することはできるのか



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wish:27 思わぬ決着

いよいよシルヴィアのデビュー戦が幕を開けようとしていた

対戦相手はすべての試合を瞬殺で終わらせた無名の強豪、ミカゲ・スズキ

試合を前に互いに礼をするシルヴィアとミカゲ

「(対峙しただけでわかる、この人強い、けど………)」

開始のゴングが鳴ろうかという段階で構えるシルヴィア

ゴングが鳴ると同時にミカゲはシルヴィアに接近していた

 

「お母さま!急いでください!」

「うわっ!もう始まっちゃってる!」

「ヴィヴィオ―!サマーラー!こっちこっち」

仕事を急いで終わらせそのまま駆け付けたヴィヴィオと彼女を迎えに行っていたサマーラ

何とかスタジアムに駆け込むと観客席にいたコロナが彼女を呼ぶ

「みて、シルヴィア、頑張ってるよ」

 

ミカゲの杖から出ている魔力の刃をシルヴィアが両手で受け止めていた

「まさか………私のファーストアタックを完全に見切って………」

驚いた様子のミカゲに対して足を上げ攻撃を試みるシルヴィア

「こんなに早く手の内をさらすことになるなんて」

そう言ってミカゲは魔力弾をいくつも生成しシルヴィアに向けて飛ばす

「ウイングシューター」

その魔法弾にシルヴィアも対抗すると翼を広げてミカゲに向かっていく

 

「あの子のスタイルはフェイトママに近いね」

「だね、魔力刃と高速誘導弾、スピードもあるし、典型的な高速軌道型かな」

試合の様子を見ていたヴィヴィオとコロナがミカゲのスタイルを分析していた

「けどまさか、あれだけ素早い斬撃をあの年で使えるなんて」

「打つ方もそうだけどあれを見切っちゃうシルヴィアもすごいよ、私ほとんど見えなかったよ」

「ここからだと距離あるから、私はちょっと見えた、タイミングはなんとか掴めるかなぐらい」

ヴィヴィオですら見切るのが困難な素早い斬撃

これまでその技術で手の内を隠してきたのだろう

「初出場の選手にとって、手の内を知られないことは大きな武器になる、リオがそうだったし」

「あの子、よく研究しているね」

 

「ムーンスナイプ!シュート!」

素早く生成された魔力弾がシルヴィアを狙う

「ウイングシューター!ファイア!」

互いの魔力弾が激突

相殺していく中ミカゲは剣を構えた

「クレセントスラッシュ!」

衝撃波を放ってシルヴィアを狙い撃つミカゲシルヴィアはその攻撃をかわすと拳を振るう

ミカゲは剣でそれを受け止めるとその体制のまま魔力弾を放った

「まだまだっ!」

シルヴィアも負けじと魔力弾で応戦

互いの攻撃が相殺したところで第一ラウンド終了のブザーが鳴った

 

「第一ラウンドは様子見だな、ファーストアタックを防がれたことで警戒していた」

「おそらく次のラウンドは全力で来るはず、スピードと太刀筋を生かした高速軌道型が彼女のスタイルとみて間違いないでしょう」

「フェイトママと同じスタイルだね」

シルヴィアの言葉にアインハルトは静かにうなずいた

「魔力弾も交えた中距離タイプ、対処法としては懐に飛び込んでラッシュをかけるのが的確です、基本的に高速軌道型はゼロ距離の殴り合いに弱いですから」

「それなら私の得意なスタイルだ」

そう言ってシルヴィアが立ち上がると丁度インターバル終了のブザーが鳴った

元気よくリングに上がるシルヴィアを見送るアインハルトの表情は険しかった

「浮かない顔だな」

「高速軌道型がインファイトに弱いというのは定石、加えて第一ラウンドでシルヴィアがインファイトが得意だというのは理解しているはず」

「“何かある”………そういうことだな」

ノーヴェの言葉にアインハルトは再び頷いた

 

第二ラウンド開始と共にシルヴィアはミカゲに向けて突っ込んでいく

だが次の瞬間リング上からミカゲの姿が消えていた

「なっ!?消えたっ!?」

「いえ」

次の瞬間上からシルヴィアに斬りかかるミカゲ

何とか反応したシルヴィアだったが攻撃を受け止めるのが精いっぱい

すかさずミカゲが剣を振るい追撃を仕掛ける

魔力弾を交えた素早いラッシュでシルヴィアは攻撃に移れない

「そう来たか………」

「素早い攻撃で相手に防御を強いることで間接的に攻撃を止める、ですがそれは」

一瞬のスキを突いて連打から抜け出すシルヴィア

「ヴィヴィオさんの得意なスタイル、彼女を越えることを目標とするシルヴィアなら攻略できます」

アインハルトの言葉と共に攻撃を仕掛けるシルヴィア

だが次の瞬間、その攻撃は空を切りミカゲの剣による鋭い攻撃がシルヴィアを直撃した

「そんな!」

「嘘だろ………あの年であそこまで………」

その様子を見たノーヴェは拳を握った

「だめだ………実力が違いすぎる、今のシルヴィアじゃ勝てない」

 

ミカゲの一撃で大きくライフを削られたシルヴィア

倒れる最中今の一瞬の事を思い浮かべる

優れた動体視力を持つシルヴィアは今の攻撃にも反応出来ていた

だが頭ではわかっていても防御に移るという行動が間に合わなかった

ミカゲの圧倒的な実力を前に彼女も諦めかけていたが

「あっ!」

観客席にいるヴィヴィオと目が合った

彼女の眼はまだ自分の勝利を信じてる

「そうだ………私はママよりもっと強くなるって決めたんだ、こんなところで負けてられない!」

何とか踏みとどまったシルヴィアは構えながらミカゲを見据える

「スピカ、ちょっと無茶することになるけど、力貸してくれる?」

彼女の問いかけに彼女の中のスピカも力強く答えた

「ありがとう………師匠、ママ、ごめんね」

そう言って力を込め、魔力を開放するシルヴィア

そのあまりの魔力量に会場内ではブザーが鳴り響く

「シルヴィア………何を」

「大丈夫です、スピカが力を貸してくれるから、師匠たちが鍛えてくれたから………このくらいなら抑えられる」

シルヴィアは普段潜めている魔力を解き放った

警報が鳴り響くほどの魔力量

彼女自身を苦しめる危険な力

スピカはそれを使うシルヴィアを心配するが

「大丈夫、この力を使うこと、まだちょっと怖い、でも………」

シルヴィアの魔力量を警戒してだろう、先ほどから動きを止めているミカゲをシルヴィアは見据えていた

「(なんて子なの………まだこれほどの力を)」

十分に警戒しながら剣を構えるミカゲ

シルヴィアは膨大な魔力を纏ったまま勢いよく向かっていく

「くっ!」

反撃が間に合わないと感じたミカゲは咄嗟に剣で防御する

だがシルヴィアの拳の威力はすさまじくミカゲは一気に壁際までふっ飛ばされてしまった

「すっげぇ」

「シルヴィア………」

ノーヴェとアインハルトもその威力に驚いていた

シルヴィアは息を切らしながら煙の中のミカゲを見据える

「(抑えることはできる、けど長くは戦えない、このラウンドで決めないと)

煙から出てきたミカゲはふらつきながらもリングに戻っていく

クラッシュエミュレートが発生し背中を痛めたミカゲはもう素早い移動もできない

「見事な攻撃です、それでこそ参加した甲斐がある」

そう言って剣を構えたミカゲは真っ直ぐにシルヴィアを見据えた

 

「あの選手、あんな眼もできるんだな」

それを見たノーヴェは思わず目を見開いた

これまでどこか遠くを見ているようなミカゲの眼

だが今の彼女はシルヴィアとの試合を心から楽しんでいた

「きっと仲良くなれますよ、あの二人は」

そう言って笑顔でリングを見つめるアインハルト

まるで選手時代のヴィヴィオと自分を見ているかのようだった

 

「(もう高速軌道は出来ない、かといって守りに回っていたらあの攻撃力、勝ち目はない)」

静かに目を閉じ意識を集中させるミカゲ

「なら、私も全力で迎え撃ちます」

その言葉と共に彼女の剣に光が集まっていく

「フルムーンセイバー、我が剣、アルテミスの究極形態」

「あれは………収束魔法!」

「ミッド式の魔導師だ、習得していてもおかしくない」

 

「なら………私も全力で!」

魔力を集中して拳に込めるシルヴィア

「行きます、シルヴィアさん」

魔力の込められた剣を振るうミカゲ

魔力を宿した拳を振り上げるシルヴィア

「ムーンブライト」

「アクセルスマッシュ!」

二人の魔法が衝突すると同時に込められた膨大な魔力が爆発を起こした

煙がリング全体を覆ったかと思うと次の瞬間中で起きた激突によって一瞬で煙が晴れた

シルヴィアの拳がミカゲの剣を打ち砕いている

傷だらけではあるもののミカゲはいま完全に無防備

シルヴィアが勢い良く攻撃するが

「くっ!」

何とか後ろに飛びのいて回避するミカゲ、それでも僅かにかすめてしまった

「浅いか」

「いえ、追撃行けます!」

「これでっ!」

だが次の瞬間信じられないことが起きた

シルヴィアの足がもつれたかと思うとそのまま倒れてしまった

「えっ!?」

突然のことに会場全体が唖然となってしまう

「あれ………おかしいな、もう少しで勝てるのに」

「(どういうことだ………意識はある、発作が起きたわけじゃないしライフだって十分………あれは!)」

だが次の瞬間ノーヴェは気づいた、シルヴィアの身に起きたアクシデントの正体に

「クラッシュエミュレート………体の方が持たなかったのか」

シルヴィアの全身のいたるところにクラッシュエミュレートが発生している

おそらく先ほどの衝突の時のミカゲの攻撃のダメージに加え無理も響いているのだろう

とても動ける状態ではなかった

「さっきの攻撃で………限界だったんだ」

「動いてよ………あと一撃で勝てるんだ………ママを超えるって誓ったのに」

必死に起き上がろうとするシルヴィアだが手足が震えるだけで起き上がる気配はない

「ほら!動いてってば!」

「(無理だ………もう勝負は決した)」

ノーヴェとアインハルトは必死に起き上がろうとするシルヴィアの姿に思わず目を背けてしまう

ミカゲもまたこのような決着になったことが信じられずその場に立ち尽くした

「動けえええっ!」

シルヴィアの叫びもむなしくダウン判定のブザーが鳴り響いた



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wish:28 フーカ・レヴェントン

朝露のかかった公園をジョギングする一人の女性

ジャージ姿でポニーテールを揺らしていた

そしてその肩には白い猫のようなぬいぐるみが………

 

高町家のリビングはどこか重苦しい空気だった

ヴィヴィオがリビングにやってくる

「どう?シルヴィアの様子」

なのはの問いかけにヴィヴィオは小さく笑う

「体の方は辛そうだけど、食欲もあるし、持っていったとき笑ってた」

そう言って空になった食器のトレーを見せるヴィヴィオ

ミカゲ戦の後シルヴィアはあちこち筋肉痛で痛みはじめ

治療を担当したユミナからしばらく絶対安静を言い渡されている

「でも………ショックだったと思います、あんな負け方して」

サマーラはそう言って俯いた

あの試合以降シルヴィアは自分の気持ちを隠そうと精神リンクを切っている

「マスターがつらい思いをしているのに………私には何もできない」

そう言って涙を流すサマーラ

ヴィヴィオはそんな彼女の肩に手を置いた

「それは一番よくわかってるよ、でも、今の私たちには見守ってあげることしかできない、シルヴィアのこと信じてあげよう」

ヴィヴィオの言葉にサマーラが頷くと玄関のチャイムが鳴った

「あれ?誰か来る予定なんかあったかな」

「あっ、私が出るよ」

そう言ってヴィヴィオが玄関に向かう

「お久しぶりです、ヴィヴィさん」

「フーカさん!」

 

フーカ・レヴェントン

かつてはヴィヴィオと同じナカジマジムの選手だった

現在はプロの格闘家となっている

「お久しぶりです、今日はどうしたんですか?」

「いや、ジョギングしていたらたまたま近くまで来たので、シルヴィアにも久々に会いたかったですし」

「ぜひ会ってあげてよ、シルヴィアも喜ぶから」

フーカさんはアインハルトさんの一番弟子で覇王流の継承者

アインハルトさんに教わっているもの同士シルヴィアとは姉妹弟子の関係にある

「インターミドルではジムのチビ達もじゃが、シルヴィアの事も応援しとるんじゃ、昨日まで遠征に行っててまだ試合は見てないんじゃが」

フーカのその言葉に再び重苦しい空気が漂う

「あれ?わし、なんかまずいこと言いました?」

事情を知らないフーカはその場で戸惑っていた

 

事情を聞いたフーカはその場でため息をこぼした

「そっか、そりゃすまんかったの」

頭を掻いて申し訳なさそうに謝るフーカ

「しょうがないですよ、フーカさん知らなかったんですし」

「ヴィヴィさん、元気がないですな………」

フーカの問いかけに頷くヴィヴィオ

「シルヴィアの事元気づけてあげたい、けど、どうしたらいいかわからないんだ」

戸惑うヴィヴィオに対しフーカは立ち上がった

「らしくないですよヴィヴィさん、そういう時は、わしらなりのやり方、ナカジマジム流のやり方がある」

そう言って拳を突き出すフーカ

「なんて、ジムを移籍したわしが言うのも変な話じゃが」

フーカのその言葉にヴィヴィオは首を振った

「移籍してもフーカさんがナカジマジムの仲間だったことに変わりはないですから、ありがとうございます」

ヴィヴィオのその言葉と共に二人で笑いあっていたが

「にゃ、にゃ」

白い猫のようなぬいぐるみ、フーカのデバイスのウラカン、通称ウーラがフーカの足を叩いて催促する

「どうした?ウーラ」

「フーちゃん!」

「うわっ!リンネ!」

怒った表情で通信を送ってきたのはフーカの幼馴染のリンネ・ベルリネッタ

フロンティアジムで指導者をやりながらフーカのマネージャーをしている

「もうとっくに帰ってきてもいい時間なのに、どこで道草食ってるの!」

「すまんリンネ、すぐ戻るから今は説教は勘弁してくれ」

そう言ってウラカンを肩の上に置いて駆けだそうとするフーカ

一瞬立ち止まってヴィヴィオ達の方へ向き直った

「それじゃあヴィヴィさん、なのはさん、失礼しました」

その言葉を最後にひーひー言いながら慌てて飛び出していくフーカ

「フーカさんの言う通りだよね」

 

リオと二人で練習していたアルマだったがいつもと比べ身が入らない

「シルヴィアの事が気になる?」

一度中断してリオが問いかけてみる

「あっ、すいません!シルヴィアも負けちゃったのに、わたしなんかが残ってていいのかな、とか………この先勝てるのかな………とか考えちゃいまして」

アルマのその言葉にリオは頭を抱え考え込んだ

「そっか………けどね、早いうちから強豪の選手に当たって、それが原因で壁にぶつかるっていうのは初出場の選手にはよくあることなんだ」

事実、リオも初出場の時、エリートクラス三回戦で格上の選手と当たり

負けてしまった上に手の内をかなりさらしてしまい

自身の強みを殺してしまった経験がある

ヴィヴィオが引退した年の都市本戦でも彼女は初戦でヴィヴィオと当たっている

「大事なのは、それを糧にどうするか、ちなみにアルマはあたしのインターミドルの自己ベストってどのくらいか聞いてる?」

「確か、19歳の時に優勝してるって」

「えっへん!でも、そこにたどり着くのはすごく大変だったんだ、実際あたしも予選落ちしたのって一回じゃないし、予選でいきなり負けたことあるし」

いつとは言わないが予選のプライムマッチでアインハルトに当たり破れたことがある

それを思い出したのか俯きながら苦笑するリオ

「とにかく!競技選手をやってる以上、挫折なんて言うのはつきものなんだよ、大事なのはどうやって乗り越えるか、まあ」

リオは空を見て笑顔で続けた

「ヴィヴィオがいるなら大丈夫だよ、きっと」

 

翌日

ようやく試合のダメージが癒えたシルヴィアはなのはに連れられ聖王教会へと来ていた

「久しぶりじゃな、シルヴィア」

そこで待っていたのはフーカとリンネ、オットーとディードだった

「フーカさん、リンネさん、お久しぶりです」

二人に笑顔で挨拶するシルヴィア

だがその笑顔には影があることを二人は見抜いていた

「まるで昔のリンネを見ているようじゃな」

「フーちゃん、恥ずかしいから掘り返さないで………」

小声でのその会話はシルヴィアには聞こえなかったがフーカはシルヴィアの肩に手を置いた

「負けたばかりで悪いが、練習試合といかんか?セコンドはわしがつく、仕事で来られんかったハルさんの変わりじゃ」

「え?でも相手は………」

そこまで言ってシルヴィアは足音を聞いてそちらに振り返り、そして目を見開いた

そこには真剣な様子で構えるヴィヴィオの姿があったのだ

「リンネ、ヴィヴィさんのセコンド頼むぞ」

「了解」

「オットーさんは結界、ディードさんはレフェリーじゃ」

オットーとディードもフーカの言葉に頷いた

「でも………フーカさん」

「ええから、ここはいっちょやってみ、なに、わしがついとる」

「あ、ハイ………」

シルヴィアもスピカをセットアップして構える

「行くよ、クリス」

これまでにない真剣な表情でセットアップするヴィヴィオ

二人の間に立ったディードが様子を窺う

 

「ヴィヴィオと試合………か」

ジムでアルマの練習を見ながらノーヴェはシルヴィアたちの事を想った

「確かに今のシルヴィアにとっては最善の方法だ、問題はうまくいくかどうか………」

「………う、会長?」

アルマに声をかけられハッとなるノーヴェ

「あ、ああ、悪い、ミット打ちは終わったのか?」

「はい、それで………どうしたんですか?考え事をして」

「あ、ああ………ちょっとな」

アルマを見たノーヴェは何かに気付かされたような表情になった

「そっか………心配なのはあたしだけじゃないもんな、あたしらに出来るのは信じることだけだ」

そう言って口元を緩めたノーヴェはリングに上がる

「よし、次は打ち合うぞ!アルマ、お前も上がって来い」

「あっ、はい!」

互いにバリアジャケットを装着して向き合うノーヴェとアルマ

ノーヴェは深く深呼吸すると構えた

「(頼んだよ、ヴィヴィヴィオ、フーカ)」

かつての教え子たちに後を託し駆けだすノーヴェ



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wish:29 迷いを断ち切れ

ふとしたことから始まったヴィヴィオとシルヴィアの親子対決

その展開は一方的なものになっていた

「はぁー!」

い勢いよく向かっていくシルヴィアだったがヴィヴィオのリーチに入り込んだ瞬間に素早い一撃を貰い大きく吹っ飛ばされた

先程からこの状態の繰り返しだ

突っ込んだシルヴィアにヴィヴィオがカウンターを決めるという流れがずっと続いていた

「実力が違うといってもここまで一方的な展開になるなんて………」

「いいえ、違うわ」

オットーの言葉をディードが即座に否定する

「シルヴィアお嬢様の動きが悪い………けど、ケガの影響が出ているわけじゃない」

「問題があるのは心の方………というわけか」

ディードの言葉でオットーも理解した

 

ヴィヴィオもその事にはもちろん気づいていた

狙えるはずのクリーンヒットをせず後退させるだけで留めているのもそのためだ

だがシルヴィア自身はそれに気づかない

そして、自分が弱いんだと思いつめ始め、どんどん動きが悪くなっていった

「(やっぱり、わたしなんかじゃだめだったんだ………)」

そんなシルヴィアの様子を見て拳を握るフーカ、とうとう我慢できなくなり

「ふざけんな!」

大声を上げ試合が止まってしまった

「シルヴィア!お前それでもヴィヴィさんの娘か!ヴィヴィさんはどんな時でも諦めんかったぞ!たった一回負けたくらいでなんじゃ!お前の格闘技にかける思いはその程度だったんか!」

フーカに 咤され驚くシルヴィア

悲しげな表情のまま俯いた………

「シルヴィア、お前は何のために格闘技をやるんじゃ」

念話で語り掛けるフーカに対しシルヴィアは自身の思いを告げる

「私は………強くなりたくて、強くなってママや会長に褒めてもらいたくて………喜んでもらいたくて」

「じゃったら、今のお前を見てヴィヴィさんや会長はどう思うじゃろな」

フーカの言葉にシルヴィアはハッとなった

自分が諦めてしまったら………ヴィヴィオもノーヴェもきっと悲しむ

そして、自分に指導してくれたアインハルトも………

そんなことにも気づかず自分は………

シルヴィアは一度呼吸を整えヴィヴィオを見据えた

表情が変わったことに気付いたヴィヴィオも気合を入れてシルヴィアが動くのを待った

「はぁっ!」

思い切り踏み込んでヴィヴィオの懐に飛び込むシルヴィア

カウンターでわき腹に蹴りを貰うが先ほどまでの様に吹っ飛ばされず踏み止まった

左手ですばやくジャブを打ち込むがすべてヴィヴィオに防がれている

「(もっと速く………)」

シルヴィアは思い出していた、アインハルトとの練習の日々

 

「いいですか、シルヴィア」

練習を一通り終えクールダウンも兼ねて話すシルヴィアとアインハルト

「魔力が高く体質に恵まれたあなたの強さは一見パワーにあると思いがちですが」

拳を突き出しながら説明するアインハルト

シルヴィアの隣に腰かけると丸くなっているスピカを見た

「スピカと連携しての高速攻撃、そしてその攻撃を打てるだけのしなやかな筋肉、あなたの最大の利点はスピードにあります」

 

連続でジャブを放つシルヴィア

そのスピードがだんだんと上がっていきヴィヴィオのガードをかいくぐってヒットしていく

「(もっと………もっと速く!)

 

「いいですか、あなたは超高速の攻撃スピードに耐えれるだけのしなやかな筋肉を持っています、反面細かな動きには向かず、ヴィヴィオさんのようにダブル、トリプルとアクセルスマッシュを進化させることは出来ません」

自身の拳をゆっくりと動かしながら説明するアインハルト

「多少の違いはあれど。今のあなたの戦い方はヴィヴィオさんの模倣でしかない」

 

「(けど!この先ママを超えるなら見つけなきゃいけない………)」

シルヴィアが振り上げるのを見てヴィヴィオは咄嗟に防御の構えを取るが

「(私だけのストライクアーツ!)」

次の瞬間にはヴィヴィオに攻撃が直撃していた

 

「今のは………」

「見えない攻撃………でもそれって」

オットーが目を見開いて驚いていた

目視不可能の攻撃による一撃

それはシルヴィアが対戦したミカゲの得意とする技

「ジャブならともかくフルスイングのスマッシュでそれを………」

 

「シルヴィアも似た技を編み出していた、そんなところじゃろう、試合では打てなかった………まあ、今も本当に打てるかわからんかったはずじゃ」

「思い出すね、フーちゃん、私たちのあの試合」

心が折れかけていたリンネを立ち上がらせ、変えるきっかけになった二人の試合

「あの時のリンネのアッパー、ホンマに死んだかと思った」

「フーちゃんの言葉で目が覚めて、それで………やっぱりフーちゃんはすごいな」

「大したことはしとらん、セコンドとして発破をかけただけじゃ」

 

素早いジャブで連続攻撃を仕掛けるシルヴィア

今はまだ単発でないと見えない攻撃は出来ない

だが通常の攻撃もスピードは十分でヴィヴィオは防御に専念せざるを得なかった

「(シルヴィアが頑張ってきたこと、私は知ってる)」

いつも練習でクタクタになって、それでも笑顔を絶やさなかったシルヴィア

どんなに辛い時でも、本当の気持ちを笑顔の裏に隠してきた

「(でもね、本当はもっと甘えてほしい………辛いのも苦しいのも、我慢しなくていい)」

フィニッシュブローとしてはなったシルヴィアの一撃を交わして懐に飛び込んだヴィヴィオ

「泣いたっていいんだよ、今回負けても、次もっと頑張ればいいんだから」

その一言と共に放たれたヴィヴィオの一撃が一気にシルヴィアの意識を刈り取った

「試合終了、ヴィヴィさんの勝ちじゃな」

 

目を覚ましたシルヴィアは自分がヴィヴィオに抱きかかえられていることに気付いた

「シルヴィア」

ヴィヴィオが優しく語り掛けるとシルヴィアはその場で泣き始めた

「勝ちたかった、ママやサマーラに喜んでほしかった」

「うん、うん」

始めて見せた涙が、親子の絆を深めていった

 

「なんじゃ、泣き疲れて寝てしまった、まだまだ子供じゃのぉシルヴィアは」

ヴィヴィオの腕の中ですやすや眠るシルヴィアを見てフーカは苦笑した

「それでいいんだよ、シルヴィアはまだ10才だもの、それに、初めてだから、こういうの」

そう言ってシルヴィアをおぶさって帰ろうとするヴィヴィオだったが

「おお、そうじゃヴィヴィさん、これ」

フーカが差し出したのは二枚のチケット

「わしの次の試合のチケットじゃ、よかったらシルヴィアと」

「えっと………うん、予定は入ってないし、大丈夫だと思います」

一瞬クリスの方を見たのでその時に予定を確認したのだろう

フーカとリンネも互いを見合って苦笑した

 

その夜、フーカとリンネはノーヴェのマンションを訪れていた

「お邪魔します」

「お、お邪魔します」

アマチュア時代に住んでいた懐かしの場所へと笑顔で入るフーカ

若干緊張気味のリンネ

ウラカンはフーカの肩を降りると真っ先に窓側に向かい丸くなった

「違うだろ、フーカ」

ノーヴェの言葉にフーカは一瞬戸惑うが

「ただいまです、会長」

と、笑顔で返事した

 

夕食を食べながら今日のことを話すフーカ達

「ありがとな、フーカ」

「わしも妹弟子が心配だっただけ、単なるお節介です」

その言葉を聞いてノーヴェは小さく笑いながらお茶を飲んだ

「少なくとも、そのお節介で救われた人間がここにいる」

「私もだよ、フーちゃんは本当に優しいね」

ノーヴェとリンネの二人から言われて照れくさそうに笑うフーカ

 

リンネがシャワーを浴びている間フーカとノーヴェは二人きりで話していた

「本当にフーカにはお世話になりっぱなしだな、あたしがヴィヴィオの引退に向けてそっちにかかりきりになってるときも、フリーに転向していろんなところでトレーナーの勉強をしている間も、フーカはジムを守ってくれていた」

ノーヴェの言葉にフーカは首を振った

「その時の経験があったからわしは今フロンティアジムで選手兼トレーナーって立場でやらせてもらってるんです、こっちが感謝したいくらいです」

ナカジマジムの選手ジムはアマチュア向けのためプロとしてやっていくならもっと設備の整った場所でなければならなかった

リンネの勧めもあってフーカはプロ転向と共にフロンティアジムに移ることとなった

今はジムの近くのマンションで暮らしている

試合がない時など自身の経験を活かしジムでトレーナーとして働いていた

「ハルさん同様、会長にも言葉で伝えきれんほど感謝してるんじゃ、おっ、そうじゃ」

ふと、思い出したように荷物を探るフーカ

「これ、会長の分です」

そう言って試合のチケットを差し出すフーカ

「サンキュ、うぉ!?いいのかよこんないい席もらっちゃって」

「わしなりの感謝の気持ちです、皆さんにわしの成長を見てもらいたいんです」

「言うようになったじゃねえか、え、チャンピオン」

ノーヴェの言葉に照れくさそうに笑うフーカ

フロンティアジムに移籍してプロとしてデビューして

今では格闘技のチャンピオンとして活躍していた

「きっと見に行くよ」

 

「なんだ、結局みんな来たのか」

試合の当日

観覧席にやってきたノーヴェは先に来ていた一同を見て苦笑する

ヴィヴィオやアインハルトはもちろん

コロナ、リオ、ミウラにユミナ

あの頃フーカ達と一緒だった仲間たちが揃い踏みだった

「懐かしい顔ぶれだな………ヴィヴィオ、シルヴィアとサマーラは?」

「フーカさんが控室を見に来ないかって誘ったらしくてそっちに」

ヴィヴィオがそう告げるとノーヴェは小さく笑いながらその隣に座った

「今回のことでよくわかったよ、あたし、会長って立場の責任を強く感じちゃってたみたいだ」

額に手を当てため息を零すノーヴェ

「けど………みんなあたしを信じてくれてる、それでいいんだってな」

「いざとなったら私たちもフォローするよ」

ヴィヴィオの言葉に仲間たちも同意する

「いつの間にか頼もしくなっちゃって」

ノーヴェがそう零しているとサマーラに付き添われたシルヴィアが入ってきた

 

セコンドのリンネとキャリーと共に入場するフーカ

リングに上がると挑戦者を見据え構える

「悪いが今日は絶対に負けられん理由がある」

そう言ってフーカは横目にノーヴェ達がいる観客席の方を見た

「じゃから………全力で行くぞ!」



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wish:30 シルヴィアとミカゲ

インターミドルは今日からエリートクラスの試合が始まる

そんな中でアルマは

「アルマ―?大丈夫?」

震えるほど緊張していた

「選考会やスーパーノービスの時は大丈夫だったんだが………さすがにエリートクラスとなるとなぁ」

困ったように頭を掻くノーヴェ

「しかも今日の相手はトップファイターですから………」

「アルマ、私の分まで頑張ってね」

「あ、シルヴィア、今それ言うと余計緊張しちゃうと思うんだけど」

リオの忠告もすでに遅くアルマはだんだん表情が青くなってきた

「はぁ、リオ、とりあえずアルマはお前に任せた」

「了解、会長は?」

「シルヴィアが行きたいところあるっつーからその付き添い」

 

会場では一足早くミカゲの試合が始まろうとしていた

これまでと違いミカゲは既に構えを取っている

「あれがシルヴィアに勝った選手か、確かになかなかやるようじゃ」

観覧席のフーカは感心した様子でミカゲを見ていた

「今までは一見丸腰の状態から打ち込んでたんだけど」

「さすがにエリートクラスともなるとそう甘くはないか………」

 

「本気を出してきたのかしら………」

「いえ、前の試合から本気でした、この試合も………一瞬で終わらせます」

そう言ってデバイスを持った手を強く握るミカゲ

ゴングが鳴ると同時に相手選手は派手に吹っ飛ばされ場外で目を回していた

 

「い、一撃………エリートクラスの試合じゃぞ」

「あの子はずっと一撃で勝ってきてますよ、シルヴィアとの試合は2ラウンド続きましたけど」

「あ、ああ、それは聞いた………ん?もしかして………」

何か思い当たったのかフーカは退場していくミカゲの方を見る

 

通路を通って退場していくミカゲ

「あっ!ミカゲさーん!」

そんなミカゲにシルヴィアが駆け寄った

彼女は目を見開いて驚いたようすだったが

「こうして話すのは………初めてですね」

「はい、今日の試合も一撃なんて、やっぱりすごいです」

シルヴィアの言葉にミカゲは首を振った

「あなたもすごい………あのアクシデントがなければきっと私が負けていた………けど、それを評価してくれる人はきっと少ない」

そう言ってデバイスを握るミカゲ

「だから………この予選、これまで通りすべて一撃で終わらせる、あなたの努力を曇らせないために」

「そんな………負けた私にそこまで気を遣わなくても………」

照れくさそうに笑うシルヴィアに握手を求めるミカゲ

その手を見て笑顔を見せたシルヴィアは握手に応じながら

「あのっ!私もっと強くなります、そうしたらもう一度戦ってくれますか?」

「ええ、私も今度こそ実力で貴方に勝ちたい」

笑顔でそう告げたミカゲはノーヴェの方に気付いた

「ナカジマ会長ですね、一つお願いがあるのですが」

「ん?あたしに?」

突然自分に話を振られ戸惑うノーヴェ

「私も彼女に負けないよう強くなりたい………ですから、ナカジマジムに入門したいんです」

ミカゲの言葉にノーヴェは驚き目を見開いた

「うれしいけど、いいの?うちは格闘技メインだからスタイルが………」

戸惑うノーヴェにミカゲは首を振った

「私は………強くなりたかった、この力で、どこまでいけるのか試してみたかった」

「じゃあ、ミカゲさんの技って独学?」

シルヴィアの問いかけにミカゲは頷いた

「先祖代々伝わる剣術に魔法を組み込んで私なりにアレンジしたものです」

「そう言えば名前の響きとか………もしかして管理外世界の97番?」

「え、ええ、ご存知でしたか?」

「うちのご先祖様もそこの出身だし、シルヴィアも………」

そこまで聞いてミカゲはシルヴィアを見た

「不思議な縁ですね………私はずっと求めていたんです、切磋琢磨しあえる友を………あなたとならきっと………」

「ミカゲさん………」

「っと、わりい、そろそろアルマの試合始まるから、ほらシルヴィア、お前も」

「そっか、セコンド扱いで入れてもらったから私も行かなきゃ」

ジェットエッジのアラームで気付いたノーヴェが慌てて控室に戻っていく

その後に続くシルヴィアの背中に向けて声をかけるミカゲ

「今度はジムで会いましょう」

 

ノーヴェ、シルヴィア、リオの三人がセコンドにつく中アルマの二回戦が始まった

対戦相手のエミリー・ハンゼン選手は鍵爪のようなデバイスを付けて戦う強敵だ

「試合開始!」

開始と共にエミリー選手はアルマの砲撃を警戒して一気に突っ込んでくる

「バーストシューター!」

間合いにはいられないよう射撃で狙うアルマ

だが素早い動きでその攻撃はかわされてしまいエミリー選手が一気に距離を詰めてくる

右手から繰り出されるアッパーを何とかかわすと反撃に出るため右足を振り上げる

だがアルマの反撃もまたかわされてしまい左手からのジャブをまともに喰らってしまう

 

「アルマ!」

「まだ動きが硬いな………緊張しているのかそれとも」

ノーヴェも険しい表情で見守っていた

「緊張はもう解けているよ、ただ………」

 

「気持ちで負けている」

ミカゲも控室から試合の様子を見ていた

「トップファイターの気迫に気圧されて実力を発揮しきれていない、このままではこのラウンド中にKOされてしまう」

 

「アルマ!負けないで!」

思いっきり叫ぶシルヴィア

その声が届いたアルマはなんとかエミリー選手の攻撃をかわすとバックステップで距離を取った

間合いを詰めようとするエミリー選手を射撃で牽制しながらかわす

「シルヴィアの声で闘志が戻ったか、やっぱりお前をセコンドに入れて正解だったな」

そう言ってシルヴィアの頭を撫でるノーヴェ

そして第一ラウンド終了のゴングが鳴り響く

 

「いいか、今のラウンドは完全にエミリー選手、実力は向こうが上だしここから巻き返したとしても判定じゃ勝ち目はないとみていい」

ノーヴェの言葉に項垂れるアルマ

「だからKO狙い、自慢の砲撃で観客たちを驚かせちゃって」

リオが拳を突き出してアドバイスするとそれにノーヴェも頷き返す

「わかりました、やってみます」

 

セコンドアウトしたアルマが両手をかざし炎の球体を出現させる

「行くよ、ミナ」

大きくなったそれを武器のように振り回したアルマ

エミリー選手がそれを左の鍵爪で受け止めると右の鍵爪を勢いよく振り上げ切り裂いた

だがアルマの球体はもう一つある

切り裂かれた球体の背後で完全に死角になっていた位置からもう一つの球体が出現し猛スピードでエミリー選手を直撃する

「クワドラプル・バースト」

続けて出現した四つの球体がまるでアルマの手とつながっているかのように舞っている

直撃を受け体制の崩れていたエミリー選手に次々命中して彼女の体を空中に打ち上げた

「みていて………シルヴィア、これが………今の私の全力!」

両手をかざし炎を集めていくアルマ

「エクスプロージョンバースト!」

巨大な炎の球体が打ち上げられたエミリー選手をあっという間に飲み込んだ

落下したエミリー選手はライフが尽きてあちこちやけどだらけ

たとえライフが残っていたとしても動けなかっただろう

「決まりましたー!アルマ選手大逆転勝利!」

喜びの声を上げるアルマ、リオとシルヴィアもハイタッチをして喜びを分かち合った

 

「風牙一閃!」

ノイチェの放った鋭い風の斬撃が直撃し相手選手を打ち倒した

「やったやった!えらいわノイチェ!」

「シャマル先生………苦しい、離して………」

ノイチェの勝利を喜ぶシャマルだったが感情だけでなくミウラの首も極まってしまいそうだった

 

ノイチェの試合を一緒に観戦していたシルヴィア達

「これでノイチェさんもエリートクラス初戦突破………」

「順当に行けば三回戦でアルマと当たるな」

こちらに気付いたらしいノイチェが腰を下げて礼をする

「頑張ってね、アルマ」

シルヴィアの言葉に背中を押され緊張した様子で拳をぎゅっと握るアルマだった



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wish:31 リカルダ・クライスラー

祝日に行われるプライムマッチを観戦するシルヴィア達

「ソネットは勝った方と次の試合で当たるんだよね」

「どちらが勝ってもおかしくありませんからね、十分な研究が必要です」

真剣な眼差しでスタジアムを見据えるソネット

その瞳は闘志に燃えている、そのことに気付いたシルヴィアは

「さあ!いよいよ選手の入場です」

フーカやリンネ、そしてキャリーに付き添われながら入場するリカルダ選手

「あれっ?フーカさん?」

「リカルダ選手はフロンティアジムだからな、聞いてみたらあいつもコーチしてるそうだ」

「じゃあリカルダ選手のスタイルって覇王流?」

「いや、どっちかっていうとリンネのスタイルに近いな、何でもこなすトータルファイティング」

ノーヴェの言葉と共にゴングが鳴り試合の火ぶたが切って落とされる

前よりの構えで懐に飛び込みに行くリカルダに対して距離を取ろうとするモニカ

射撃魔法でモニカがリカルダを狙うがその攻撃をリカルダは直進しながらかわして懐を狙う

「くっ」

モニカが何とかガードをしようとするが叩きこまれた一撃にガードの上から吹っ飛ばされる

 

「すごいアッパー」

「あたしは見覚えあるなぁ、ありゃリンネの仕込みだな」

技の威力ももちろんだがその拳に込められた魔力の強大さは離れた観客席からでも感じる

「すごい………」

立ち上がったモニカがリングへと復帰する

クリーンヒットを避けながら反撃しようとしていた

「落ち着け、公共のもんをぶっ壊す気か」

「あっ」

シルヴィアは気付くと力いっぱい手すりを握りしめていた

「シルヴィア、お前が魔力コントロール上手くなるとちょうどあんな感じになる、そこに今まで培ってきたスピードとテクニックが加われば………」

「会長………」

「だから今は我慢のしどころだ、体動かしたい気持ちもわかるが、な」

「はい………」

 

「はっ!」

モニカ選手のボディにクリーンヒットが決まりそのまま倒れる

「これでソネットの相手はリカルダ選手に決まりだね」

「モニカ選手も頑張ったんだが、リカルダ選手相手に打ち合いじゃ勝ち目は薄いか」

「私には師匠に教わった双剣術があります、それに私はまだ力のすべてを出したわけじゃない」

「いよいよ解禁だね、ソネットの本当の戦い」

「え?なになに?ソネットの隠し玉?」

「隠し玉というほどじゃないんですけど………」

好奇心むき出しで迫ってくるシルヴィアを何とか制するソネット

「アルマはノイチェとだ」

「は、はい、頑張ります」

「今から緊張してどうするの………」

「初参加の頃のミウラを思い出すなぁ」

 

「ハックシュ」

「あらミウラちゃん風邪かしら?」

「なんか誰かに噂された気がします」

試合の結果をまとめていたミウラが突然くしゃみをするのでシャマルが心配して声をかける

その一方でソネットは集中した様子でフリスビーをもって練習していた

ゲイルラッドをコントロールするための訓練だろう

的に向かって投げたフリスビーを魔力糸を使って手元に引き寄せた

「気合入ってるね、ノイチェ」

「ええ、アルマさんの魔法は怖いですから」

上位選手相手でも通用する威力の炎熱砲撃

ノーヴェが教えた格闘技も初心者とは思えないレベルまで成長している

「でも大丈夫です、私が勝ちますから」

 

聖王教会ではソネットとイクスが荷造りをしていた

「お?二人でどっか出掛けんの?」

部屋の前を通りかかったセインが聞いてみるとほぼ同時に振り返った

「次の試合の前に一度故郷に行っておきたくて」

「私はその付き添いで」

「気合入ってるなぁ………上位選手とだもんな次の試合」

「シャンテ師匠も張り切って試合のプランを考えてくれています」

「ソネット」

ちょうどそこへ通りかかったオットーが小さな袋を差し出した

「これ、僕とディードから差し入れ、手作りクッキー、向こうでみんなと食べておいで」

「ありがとうございます、オットー」

「ちょっと量あるから残りはまとめておくよ、行く前に寄って」

「はい、私が責任をもって預かります」

オットーの言葉をつないでイクスが胸を張る

そんなイクスの姿にセインとソネットがくすくすと笑っていた

 

ナカジマジムでリオの指導の下トレーニングを続けるアルマ

「試合を見ていたときにはあんなに緊張してたのに………」

「いつまでもうじうじしたまま勝てるほど甘い相手じゃないんで………」

「へえ、いっちょ前に選手の顔つきになってきてるじゃん」

「………まだ不安ですけど」

項垂れるアルマを見て苦笑するリオ

 

同じ頃ソネットは故郷の小高い丘の上にある両親の墓に祈りをささげていた

「(見ていてね、お父さん、お母さん………私、頑張るから)」

 

そして訪れた試合当日の朝

「うぅ………なんだか私まで緊張してきた………」

「もぉ、シルヴィアったら」

がちがちの様子のシルヴィアを見て苦笑するヴィヴィオ

するとそばの通路を通った人影がこちらに気付いて声をかける

「あ、ヴィヴィちゃん、お久やー」

「あれ?ジークさん!?どうしてここに?」

「今日の組み合わせのこと聞いて気になってん、となりええか?」

そういってヴィヴィオの隣に座ったジーク

「会長は一緒じゃないん?」

「この後すぐアルマちゃんの試合なんでアインハルトさんとはそっちについてます」

「さよか、そっちも楽しみや」

ジークは最初こそ笑顔だったもののすぐに真剣な様子でシルヴィアに声をかけた

「シルヴィア、試合のことハルにゃんに聞いたよ、平気か、ずいぶん落ち込んだそうやないの」

「ママとフーカさんのおかげでもう大丈夫です、むしろ早く次に進みたくてうずうずしています」

「ほならよかった、一緒に二人を応援しような」

シルヴィアの答えを聞いて満足したのか笑顔でその頭を撫でるジーク

「ジークさんリカルダ選手とも知り合いなんですか?」

「うん、フーにゃんに頼まれて何度か稽古つけたよ、真面目なええ子や」

ヴィヴィオに聞かれて笑顔で答えるジーク

ちょうどそのリカルダ選手がバリアジャケット姿で入場してくる

そして反対側からもソネットがバリアジャケットを纏い愛剣を握りしめリングへ向かう

 

「あっ!フーカさんとリンネさんだ!あれ?もう一人って」

「ローザ選手やったな、あの子確か無所属の選手やなかった?」

「そのはずだけど………どうしてあそこにいるんだろう」

 

「ローザ選手、私の試合しっかり見ていてくれ」

「………」

「そんな堅くならんでも、セコンドの仕事はワシとリンネに任せ」

リカルダ選手に声をかけられフーカに肩を叩かれてもなお、ローザ選手の表情は晴れない

「これは重症かな」

「リンネには言われたないと思うぞ」

「うっ」

 

「(彼女の攻撃は迅く鋭い………だが見切れないスピードじゃない)」

「(温存はなしだ………一気に決めに行く!)」

『Ready………Fight!』

ゴングが鳴ると同時にリカルダが真っすぐソネットに向かっていく

「(反撃してきたところをクロスカウンター気味に叩き込む!)」

拳を振り上げ攻撃に入るリカルダ

だが次の瞬間ソネットの姿が彼女の視界から消えた

「何っ!?」

上を取ったソネットが剣を振り下ろす

だが察知したリカルダはすぐさまバックステップでその攻撃を回避する

しかしソネットの対応も早く空振りの直後回し蹴りでリカルダに先制ダメージを与えた

 

「っし、奇襲成功!」

「ここまで温存できてよかったよ、ソネットの強さは双剣術だけじゃない………」

セインがガッツポーズをとる横でシャンテは出会った日のことを思い返していた

 

「なんでだぁぁ!」

怒りのままに魔力を噴き上げさせるソネットの周囲には火花が散っていた

思わず身を庇うほどの魔力の奔流

勢いよく向かってくるソネットを何とかシャンテが受け止める

 

「そう………今までは双剣術だけだったけど………あいつの本領はその一歩先」

雷を纏ったソネットが剣を構える

「双剣術+変換資質、それがソネットのスタイル」

 

「うちも見せてもらったけど、あの子のスピードは半端やない、並の選手やったら目で追うんはほぼ無理や、ヴィヴィちゃんらぐらい目がいいならともかく初見で見切るんはきついで」

真剣な表情でリングの上のソネットを見据えるジーク

カルナージで戦った時もジークはソネットのスピードについていけず最初のうちは回避が精いっぱい

時間をかけてタイミングを計ってようやく反撃できたほどだった

 

「(侮っていたわけじゃないが………まさか手の内を隠していたなんて)」

「ボサッとすんな!来るぞ!」

フーカの声と共にソネットが向かっていく

咄嗟にフィールド系で防御を固めるがソネットの攻撃でダメージが蓄積していく

「(ご丁寧に切れ味も抜群………なるほど、これは手ごわい)」

スピードと切れ味を活かした速攻

あまりの速さにカウンターを狙いに行けず防戦一方となるリカルダ

「(右………上………左………そこだ!)」

ソネットの攻撃に何とかタイミングを合わせ反撃するリカルダ

だが気付けばソネットの剣にその攻撃は受け止められていた

「なっ………」

すかさず懐に潜り込んだソネットが剣を構える

「双輪剣舞!」

左右の剣による同時攻撃が決まりリカルダの体が大きく揺らぐ

「(ダウンは取れない………か)」

「(あのスピードでこちらのカウンターに対応してくるか………格闘技だけでは対応が難しいな)」

ソネットが再び加速し切り込んでいくとリカルダは魔力を纏って迎え撃つ

「(このラウンドは捨てるしかない………けど、次で叩く)」

リカルダが防御に徹したままラウンド終了のゴングが鳴った



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wish:32 大切な贈り物

次のラウンドを見据えながらソネットは過去に思いを馳せていた

イクスが回復をかけている中精神統一に専念している

「ここまでは順調じゃんか」

「いや、最後の方わざわざ反撃しにくいフィールド系で防御したってことはさっきのラウンドはたぶん捨ててる、こっからが本番だ」

回復を終え立ち上がったソネットの背中をシャンテが叩く

「勝って来い!ソネット!」

「はいっ!」

 

「とにかくあのスピードをどうにかせんと勝ち目はないぞ」

「大丈夫です、もう手は考えてあります」

「頑張ってね、リカルダ」

 

第2ラウンド開始早々雷を纏ったソネットが構える

真っすぐリカルダに向かっていくと思われたがすんでのところで距離を取った

ほぼ同時にソネットが立ち止まった場所に小さなくぼみが出来る

 

「あれは?」

「リカルダの重力発生魔法やね、たしかアースロック?とかそんな名前やったかな?」

ジークの言葉を聞いたシルヴィアは首を傾げた

「重力発生?バインドじゃなくて?」

「まあ、動きの速い相手捉えるならバインドがええんやろうけど、あれだけ速いと拘束しきる前に抜けられる、足を止めるんやったらこれで正解や、それでも避けてまうんはあの子の恐ろしいところやね」

 

「(範囲を限定して発動を早めたのにそれでも逃げられるか………)」

重力発生魔法を連発してソネットを捕らえようとするリカルダ

合間を縫ってソネットが攻撃を仕掛ける

「(パンツァー・ガイスト!)」

フィールド系防御を腕に纏ってソネットの振り下ろした剣を受け止めるリカルダ

そのまま追撃の回し蹴りもうまくガードしてカウンターを狙うがすでにソネットは離脱していた

 

「ん、今のガードええ感じや」

「リカルダ選手は格闘戦と魔法戦で戦い方がずいぶん違いますよね」

ソネットの攻撃をさばいたリカルダにジークが感嘆の声を漏らしているとヴィヴィオがジークに声をかけた

「せやね、格闘戦は基本を忠実に守って堅実な感じやけど、魔法戦やと重力発生系とかフィールド系とか珍しいもんが多い、さて、シルヴィアに問題や、なんでリカがそういう魔法をよぉ使うかわかるか?」

「え?えーっと………」

ソネットの攻撃をさばくリカルダの動きをよく観察するシルヴィア

しっかりと構えてガードしながら反撃の機会を伺うその姿勢は崩れない………

「ひょっとして………体幹?」

「正解や、理由はちょおシルヴィアにはまだ難しいか?ヴィヴィちゃんならわかるやろ」

「はい、リカルダ選手の一番の強みは優れた体幹による踏み込みの強さ、攻撃を受けても倒れにくく魔力量も多いからフィールド系との相性もいい」

「正解、せやったら重力発生系は?今の話聞いてわかるか?」

「えっと………倒れにくくて姿勢を保ってられる………つまり、重力発生系の範囲の中でも踏ん張ることが出来る?」

「正解や、格闘戦と同じように打ち合いの強さを生かすためにこの選択をしとるんやね」

 

重力発生系をかいくぐって攻撃を仕掛けるソネット

リカルダがその攻撃を確実に捌いていく

「一見ソネットが攻め込んどるようにみえるが」

「リカルダはソネット選手の動きを先読みして魔法を仕掛けてる、立て続けの拘束でどんどん動ける範囲が限定されていってる」

「つまり………守ってるように見えて、攻めとるのはリカルダの方じゃ」

 

「まずい展開だね」

「なんでさ、ソネットガンガン攻めていけてるし」

「いえ、そろそろ捕まってしまいます」

イクスの言葉と共に攻撃を仕掛けたソネットの姿勢が崩される

「そんな!?どうして………」

「ばらまかれた重力魔法が邪魔でもう逃げ道がないんだ」

 

「本当はどれか一つにかかって欲しかったけど、結局全部避けられてしまったね」

「くっ」

「これで………」

ソネットの腕をつかんだリカルダはそのまま投げ技の要領で地面にたたきつけた

 

「ちょ!今の落ち方………」

「シールドは抜いてないから大丈夫や、クラッシュは避けれんやろうけどな」

頭からたたきつけられたソネットの体はかすかに震えて見えた

「(脳震盪狙いか………リカルダはそういう乱暴な手ぇ嫌いやったと思うけど………)」

 

クラッシュの影響で視界のふらつくソネットは何とか目の前のリカルダを見据えようとする

「おいおい、投げ技一発喰らっただけなのにずいぶんな大ダメージじゃんか!」

「当然だよ、ソネットのスタイルは機動力重視、ほとんど攻撃とスピードに回す分装甲はないも同然、双剣術で多少防御は出来てもあんな直撃喰らったら………」

 

「(それでも私はこのスタイルで戦うしかないんだ………)」

シャンテと出会ったあの日………手当てを受けるシャンテのもとをソネットは訪れた

「すいません………大丈夫ですか?」

「おー、さっきの、もう落ち着いた?」

「はい………本当になんとお詫びしたら」

「気にすんなって、それにしてもすごい電撃だなぁ、昔試合で喰らったの思い出したわ」

「シャンテ、手当てに集中できないのでじっとしてください」

「おっと、ごめんごめん」

「知らなかった………私にあんな力が」

「ってことはあの変換資質は生まれつき?だとしたら、あんたの両親があんたに遺してくれた贈り物かもね」

「………」

「シャンテ!」

「はいはい、じっとしてろってんでしょ………」

イクスに咎められてシャンテは黙り込んでしまう

「はい、もういいですよ」

「イテッ、イクス、あたしけが人………」

「何か?」

「何でもない、おーこわ、あ、あんたさ、よかったらこのままあたしたちと一緒に来ない?えっと………」

「ソネットです!ソネット・フランソン」

 

教会でシャンテの指導の下双剣術を学ぶソネット

「でも、いいんでしょうか、私の電気の魔法を双剣術に組み入れたりして」

「まあ、教会流って聞いて堅苦しいイメージ持つ奴は結構多いけどさ、みんな結構自分の能力組み込んだりしてるよ、あたしもそうだし」

ソネットの頭に優しく手を置くシャンテ

「それにあんたの魔法は両親からの贈り物だろ、大事にしなきゃ」

 

「だから私は負けない………故郷のみんなに………空の上の両親に………私は大丈夫だって、笑ってみてもらうためにも!」

「!?」

ソネットの叫びが聞こえたリカルダは目を見開く

「光輪斬撃!」

ソネットが剣を振るうと雷のリングが高速で飛来してリカルダを襲う

「クッ(なんて鋭い攻撃だ………防御が遅れていたら)」

「終曲!」

「しまった!いつの間に!」

リカルダが攻撃を受け止める隙に飛び上がったソネットが大技の構えに入っていた

「くっ、間に合ってくれ!」

左腕の武装に力を込めるリカルダ

「雷神怒号剣」

全身に雷を纏い自らを巨大な剣としたソネットがリカルダ目がけて突っ込んでいく

「グランドクロス!」

武装を勢いよく地面にたたきつけると十字を刻むように地面から光が溢れた

「やばっ!ファンタズマ!」

「ウーラ!」

「スクーデリア!」

シャンテやフーカ達が慌ててデバイスを取り出す

二つの巨大な魔力の激突に会場全体が震えアラートが鳴り響く

 

「なんつーデカい激突や」

観客席まで衝突の勢いは届いておりシルヴィアはヴィヴィオとジークに守られている

「この激突で勝負が決まる………」

ヴィヴィオの言葉と共に両者の攻撃が消滅した

「どっちが勝ったの?」

「ここからじゃわからない………相殺したようにも見えるけど」

「消える前になんやデカい音したで、どっちかの攻撃決まったんとちゃうか?」

 

「おわっ!?」

吹っ飛んできた何かがセインを弾き倒してそのままスタジアムの壁に激突する

跡形もなく吹き飛んだリングの中心で膝をつきながら息を切らすリカルダの姿

「リカルダ選手があそこにいるってことは………」

 

「イクス大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

「あたしのことも守ってよ………じゃなくて!今あたしにぶつかってきたの………」

なんとか起き上がったセインが振り返るとボロボロの状態のソネットが壁にたたきつけられめり込んでいた

「ソネット………」

壁から剥がれ落ちたソネットが何とか着地して俯きながら剣を構える

「くっ!うっ」

何とか立ち上がろうとするリカルダだったが左腕を抑え蹲る

 

「リカルダの使ったグランドクロスは左腕に集めた膨大な魔力を一気に炸裂させる大技や、その分腕だけで支えなあかんから負担も大きい」

「そういえばリカルダ選手は去年の決勝、途中棄権しましたよね」

「うん………試合中に腕を痛めたんや、あれなかったら優勝や言われてたくらい………反動とダメージがでかいよ」

「なら!」

「うん………このまま続けたらあの娘が勝つ………続けられたらやけど」

「えっ?」

 

「まだ………」

「無理に立つな!また体壊すぞ」

ふらつくリカルダをフーカが飛びついて支える

「フーカさん………しかしまだ試合は………」

「もう終わっとる、よぉみろ………」

「あっ………」

最大魔法を破られグランドクロスの直撃を受けた時点でソネットの意識はすでになかった

今はもう気力だけで立っているような状態だ

「決まったー!勝者はリカルダ選手!ソネット選手もルーキーながら大健闘」

実況の声が響く中リカルダは茫然としていた

「それにしても………予選の間はグランドクロスは使うなと言うたじゃろ!」

フーカに耳元で怒鳴られあっけにとられるリカルダ

「まあ、今回は使わんかったら負けとった、発動もあと一瞬遅れたらヤバかった」

倒れそうになるリカルダを抱き寄せるフーカ

「よぉやった、説教の前に、病院行って来い」



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wish:33 アルマVSノイチェ

救急車両にソネットが乗せられるなかイクスが中へ同伴する

意識の戻らないソネットに治癒魔法をかけるイクス

「つーわけで、あたしはこれから病院行くんだけど、車手配してもらったから、リカルダ選手も一緒に病院行く?腕診て貰わないといけないんでしょ?」

「えっと………」

「行って来い、シャンテさん、よろしゅう頼みます」

「任せて、それじゃ、入り口のところに車回してもらったから」

「はい………あの、ソネット選手のご両親って………」

「ああ、聞こえちゃったんだ………」

シャンテに付き添われるリカルダの背を見送るフーカとリンネ

「ソネットさん、結局一度も膝をつかなかったね」

「リカルダは膝がっくがくじゃったぞ、もっと鍛えたらな」

「程々にね、フーちゃん」

「リンネ、お前影で自分が鬼コーチと呼ばれとること知らんのか?」

「えっ!?ウソ………ちょ、フーちゃん冗談だよね」

「さあ、どうだか………お?ローザ選手?」

リンネをからかいながらスタジアムに戻ろうとするフーカ

ところが一緒にいたローザがなかなか歩き出さないのに気づき声をかけた

「すごい試合だった………私だってずっと努力を続けてきたのに………私にはあんなふうには………」

自分を卑下するローザ選手の頭にフーカが優しく手を置く

「ローザ選手、自分格闘技は好きか?」

「それはっ!………当り前じゃないですか」

「本当にそう言い切れるんか………今の質問の答えがわかるまで………もうしばらくリカのセコンドやっとれ」

 

先の試合の興奮も冷めやらぬ中ルーキー同士の注目カード、アルマとノイチェの試合が始まろうとしていた

「行くよ、ミナ」

「頑張ろう、ゲイルラッド」

それぞれ相棒に語り掛けながら試合開始の瞬間を待った

そしていまゴングが鳴った

「ゲイルラッド!」

リングを飛ばして先制攻撃を仕掛けるノイチェ

アルマは何とかかわすが続けざまに次のリングが向かってくる

「バーストシューター!」

迎撃してリングを跳ね飛ばすアルマ

しかしすでに次のリングが迫ってくる

何とか回避するとまた次のリングが

「弾いたリングがもう!?」

 

「魔力糸を一度短くして素早く復帰させたか」

「さっすがノイチェ!」

「あのノイチェのスタイル、よく考えられているがどちらのアイディアだ?」

「考えたのは二人でだけど、リングを投げるってアイディアをくれたのはミウラちゃんよ」

ザフィーラの問いかけにシャマルが答えるとミウラが照れくさそうに笑っていた

アイディアの元になっているのはシャマルのペンダルフォルムと見ていいだろう

リング状とはいえ剣なのでシグナムやミウラのような斬撃も可能

そして相手の攻撃にはヴィータやザフィーラ譲りの防御力で対応

格闘戦の心得もありノイチェの戦闘スタイルはバランスがいい

何より八神家のスタイルをすべて取り入れている

「ふっ……」

「もぉ、ザフィーラったら何笑ってるのよ」

 

「今日のノイチェはずいぶん攻めるな」

「アルマの一撃を警戒してるんだと思います、いくら防御に優れた結界魔導師と言ってもアルマレベルの砲撃はそう何度も受けれないですから」

先ほどからノイチェの連続攻撃に圧されてアルマは攻撃に移れない

ノイチェの砲撃封じはよく鍛えられている

 

「今日のために遠距離攻撃対策は叩き込んできました」

アギトを相手に対アルマを想定した練習を続けてきた

一定の距離を保って打たせないために連続攻撃を仕掛ける

 

「シューターがインファイター封じにやるスタイルとよぉ似とるね」

「ミウラさん選手だった頃にすごく苦戦したことがあるけど………その時の経験がもとになってるっぽいね」

「アルマちゃんはノイチェ想定した練習とかしてへんの?」

「多分やってないと思います………だって」

 

「(アルマさんの砲撃は確かにすごいけど………実戦経験が少なすぎる、おそらくここまで積んできた練習は、自身のスキルアップと基礎固め、特定の相手を想定した練習はまだ早い)」

ノイチェのリング攻撃を再び単発の射撃で弾き返すアルマ

その隙をついて攻撃するノイチェ

「(貰った!)」

だがアルマはすぐこの攻撃に反応してノイチェとの距離を詰めようとする

「なっ!クッ」

ノイチェはすぐさま魔力糸を引いて再攻撃を仕掛ける

その攻撃に対して見えていない状態のまま射撃で対抗し打ち落とすアルマ

「なっ!?どうやって………」

戸惑いながらももう一つのリングで攻撃を仕掛けようとするがこれも回避される

 

「確かに経験の足りないアルマに個人の対策を練ってる時間はなかった………けどね」

アルマをコーチしていたリオがしてやったりといった様子で笑っていた

「その分、いろんな状況を想定した練習は人一倍やってきたよ」

懐に飛び込んだアルマが砲撃の構えに入る

すかさずノイチェはシールドを張るがアルマの威力が上回りノイチェを大きく吹っ飛ばした

「ふぅ~」

攻撃が決まったことに安堵したのか大きく息を吐くアルマ

一方ノイチェはダメージは少ないものの火傷や熱傷といったクラッシュが複数発生していた

ちょうどここで第一ラウンド終了のブザーが鳴った

「あーっ、時間使いすぎたかぁ」

「心配しなくてもアルマならでかいの当たれば倒せるからな、もう一ラウンド使ってもいいくらいだ」

頭を抱えたリオに対してノーヴェは冷静だった

 

「ノイチェの手や糸の動きを注視してゲイルラッドのパターンを覚えましたね」

「前半あえてこちらの策に乗ったことでパターンを覚える時間を稼いだのか………」

ノイチェがアルマの反撃を警戒して撃たせない動きをしていた分アルマは学習に集中することが出来た

あえて策に乗ることでこちらの策にうまく乗せた形になる

「すごいですアルマさん………競技を始めたのは今年に入ってからなのに………」

ノイチェも嬉しそうに口元を緩めた

「その嬉しそうな顔、ノイチェってば選手時代の私に似てきた?」

肩を落としつつミウラもちょっぴり嬉しそうだった

「師弟というのはどうにも似てくるらしいな」

「えー?私が師匠に似てる部分なんてあります?」

「俺ではないがな、人をからかう時の仕草が年々シグナムに似て来てるぞ」

「言われてみればそうかもね」

「もぉ、シャマル先生まで………私そんな意地悪じゃありません」

「(シグナムさん、散々な言われようだ………)」

 

「ぁっくしゅ」

「どうしたシグナム?風邪?」

「いや、誰かに噂でもされたか………」

アギトと共に観客席でみていたシグナムが困った様子で肩を落とした

「そんなことより、ちょっと難しい展開なってきたんじゃない?」

「そうだな………ノイチェのスタイルを考えると守りに入りながら判定狙いにするところだが」

「あの砲撃の威力じゃ守りに入ったら勝ち目ないぜ」

「ああ。単純な威力なら私のファルケンとそう変わらないだろう」

「ひぇー、それマジ?」

シグナムの言葉を聞き青ざめるアギト

「しかも爆発という性質上効果範囲が広い、リングという限られた空間ではかなり有効だ、彼女が勝ち上がってこれているのもこの優位性があるからだろう」

解説を聞きながらアギトはじっとシグナムの方を見る

「ちなみに、射程や速度は私の方が上だからそこのところ勘違いするなよ」

「いや張り合うなよ子供相手に」

 

第二ラウンドが始まるとノイチェは距離を詰めるためアルマに向かっていった

「近接狙い!?」

「距離を潰して砲撃を打たせないようにするのが目的か」

 

続けざまにノイチェが繰り出す拳を何とか避けているアルマ

「(拳が速い………ノイチェさん、インファイトも巧いんだ)」

距離を取ろうと下がるアルマだがすぐにノイチェが詰めて追撃する

 

「師匠二人がバリバリのインファイターだから」

ヴィヴィオの言葉にシルヴィアとジークは彼女を見た

「ミウちゃんはともかくとして………シャマル先生は遠距離支援型とちがうん?」

「シャマル先生じゃなくて、ザフィーラの方ですね、たしかにノイチェちゃんの直接の師匠はシャマル先生ですけど………」

セコンドサイドでじっと腕を組んで見守るザフィーラを見るヴィヴィオ

「ノイチェちゃんのスタイルはどっちかっていうとザフィーラに近いと思います」

「ザフィーラさんってどういう戦い方するの?」

「うちも聞きたい、あんまり前線でぇへんから知らんのよ」

「ザフィーラの一番の強みは強靭な防御力、あの体格だからパワー寄りと勘違いする人は多いですけど」

主や守るべきもののため自ら盾となってすべてを撥ね退ける強靭な防御力

すべてを受け止め好機を逃さず捕らえて倒す“待ち”のスタイル

「ザフィーラが本気で守りに入ったら崩すの大変ですよ、私現役時代に一度だけ立ち合ったことあるんだけど全然崩せなく………」

「言われてみればやね、ノイチェちゃんもとにかく堅いのがウリや、近接型はリングに阻まれて近づけず、中距離以上は強固なシールドに阻まれて届かず、しかも二刀流やから攻撃と防御を同時に………ん?」

「ジークさんどうしたんですか?」

「二刀流………剣を重ねて………あ、せやけど」

一人でぶつぶつと考え始めるジークの様子にヴィヴィオとシルヴィアは首をかしげる

 

リングを構えて攻め込むノイチェ

アルマはその攻撃を紙一重でかわし続ける

「(ノイチェさんのリングは距離があるほど効果的な武器、接近戦なら………)」

風を纏って飛来するリングは距離に比例してスピードが乗って伸びてくる

「(フィニッシュブローの風牙一閃は振りの大きい大技、この距離なら使ってこないはず)」

だが次の瞬間魔力の刃がアルマの頬を掠めた

「どんな距離でも………風が私を守ってくれる」

ノイチェのゲイルラッドから魔力刃が伸びていた

 

「やっぱり近接用の形態があったんやな」

「ここにきて隠し玉って………ノイチェちゃんバリエーション多すぎでしょ」

「アルマにも魔力球を振り回す技があるけど………距離が近すぎて使えない」

アルマの魔力球は近づいてくる相手に有効な手段だが現在の至近距離ではかえって動きを阻害してしまう

 

「行きますよ、風牙双刃!」

ノイチェの攻撃がアルマに迫る

回避が間に合わず閃刃がアルマを切り裂いた



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wish:34 悔し涙

「双刃を使うか」

「風牙一閃は隙が大きすぎます、未完成とはいえ双刃の方が手数も増やせるし有効ですよ」

風牙一閃と違い両手の魔力をそれぞれ収束して剣とする双刃はコントロールが難しくノイチェはまだ完全に扱いきれていない

「それだけ本気なのね………でも」

 

直撃を受けてふらついたアルマ

だが同時にノイチェもその場で膝をついた

 

「ごめんシグナム、あたし何が起こったかわかんないんだけど」

「アルマのカウンターだ、単発のバースト・シューターだな、ノイチェも気づいて防御していたが貫通したようだな」

「いやいやいや、ノイチェの防御を単発のシューターで突破とか信じらんねえんだけど」

シグナムの説明を聞いたアギトが戸惑いながら手を左右に大きく振る

「だが事実だ、これでノイチェは近接の芽も摘まれたか」

「中距離ではとらえきれない、近接だとカウンター………難しくなってきたな」

 

ラウンドが終わりインターバルに入るとザフィーラが現状を振り返った

「こちらの選択肢を潰して優位に運び始めたな、どうする?」

ザフィーラの問いかけにミウラが小さく唸りながら考え込む

「私こういう心理戦みたいなやり取り苦手で………」

「お前はこういう時強引に行ったからな、それで勝てていたのが恐ろしいところだが」

「師匠の意地悪~」

「で、どうするのノイチェ?」

シャマルの問いかけにノイチェは頬を叩いて気合を入れる

「双刃以上にうまくいくかわからないですけど、アレで行ってみます」

「これもダメだったらいよいよ手詰まりよ」

「………え?まさかあれやるの?練習でも成功率そんな高くないのに」

「今なら………できる気がするんです」

そう答えるノイチェの顔つきを見たミウラは一瞬あっけにとられた後

「よーし、行ってきなさい」

「いったぁ!?」

ノイチェの背中を思いっきり叩いた

「ノイチェ、なんだかいい顔になってきたわね」

「ああ」

平謝りするミウラとむくれるノイチェを見ながらシャマルとザフィーラはそんな話をしていた

 

一方のアルマもタオルを被って息を切らしていた

「さすがにこればっかりはそう簡単にはいかないか」

格闘技を始めて間もないアルマには何ラウンドも続けて戦う体力がまだ備わっていない

基礎トレーニングは人一倍やってきたがいまだにスタミナ不足であることは否めない

正直だましだましで対応している状態だ

「とはいえおまえには積極的に倒しに行けるだけの威力がある、狙っていけ」

「はいっ」

「………いい返事だ」

 

3ラウンド目に入りノイチェはゲイルラッドを構えた

「(また中距離………でもよく見ればかわせる)」

ゲイルラッドを投擲したノイチェはそのまま追走するように突っ込んできた

「なっ!?突撃」

脚に魔力を纏って勢いよく踏みこんだノイチェは飛び蹴りでアルマに迫る

「飛燕!」

「っ!?」

風を纏った鋭い蹴りを何とかかわすアルマ

飛来してきたゲイルラッドによる追撃もなんとか回避する

 

「今のってミウラさんの抜剣?」

「ちょっと違うかな、ミウラさんのは収束魔法だけど今の飛燕は単純な魔力付与打撃」

「ただし、リングと同じで風を纏っとるから切れ味は抜群やで」

 

「今のアルマじゃ完全に見切るのは無理だ、タイミングを見て反撃するしか………」

「会長、あれ!」

リオに言われてリングを見たノーヴェは目を見開いた

射撃で狙いながらアルマも距離を詰めていく

「そうか、飛燕はリーチが長いが近すぎても当てにくい、考えたなアルマ」

 

「(技自体も不完全、私にまだ四天星煌は出来ない………だったら)」

ぶつかり合いに応じるべくゲイルラッドを握って刃を出すノイチェ

近距離砲の直撃を狙いに行ったアルマの攻撃をかわすとそのまま叩きに行った

「ハンマーシュラーク!」

風を纏った剣による突きを受け大きなダメージを受けるアルマ

「捕まえたぁ!」

だがその状態から反撃を仕掛け近距離で砲撃を叩きこんだ

多少余波を受けたものの高威力の攻撃を命中させることに成功する

爆風で転がった二人はそのままリングの外に投げ出された

「アルマ!」

「ノイチェ!」

リオとシャマルが駆け寄るが

「「やれます」」

二人とも立ち上がってそれを制した

 

「あんなアルマ初めて見た………」

「そうだね………普段のアルマちゃんはおとなしくて、優しくて………でも」

リングに戻ろうとする二人は偶然にも目が合って笑いあった

 

「あの二人、似てるのかもしれないわね」

そんな様子を見たシャマルが念話でミウラとリオに声をかけた

「ノイチェもね、魔法で誰かを傷つけるのが怖いって、ずっと戦うことを避けていたの、多分、今でも………」

そんなノイチェの気持ちを分かっていたシャマルは治癒と防御のみに重点を置いて指導してきた

ノイチェは格闘技も魔法戦もそこまで歴は長くない

魔法の勉強を始めて3年ほどだが格闘技や競技用の魔法はおおよそ一年半ほどだろうか

「うちは元が格闘メインの道場ですから、ジョギングや柔軟とかの全体基礎には参加していたので、モノにするまでは早かったですけど」

戦うと決めてからノイチェはどんどん力をつけていった

ノイチェもアルマも、優しい性格とは裏腹にとても大きな力を秘めている

「まあ、ギャップで言ったらミウラちゃんも相当だったけど」

デビューしたての緊張しっぱなしだったミウラを思い出して口元に手を寄せて笑うシャマルにミウラが肩を落とす

 

「飛燕!」

ノイチェの回し蹴りを何とか回避したアルマ

だがノイチェはその勢いのままゲイルラッドを投げて追撃を仕掛ける

「バーストシューター!」

射撃でゲイルラッドを打ち落としたアルマがそのまま追撃を仕掛ける

「ここだっ!」

着地しようとしたアルマを狙って魔力糸が広がっていく

 

「遠隔バインド!?」

「シャマル先生の得意技の一つだね」

「これは隠し玉でもなんでもないな、たしか一回戦でも使うてたし」

「使えなかったんですよ、バインドに集中している間に砲撃のチャージをされてしまいますから」

バインドによって身動きを止められたアルマだったが拘束されながらも砲撃をチャージする

「(この体制の状態でも打てる一番強い砲撃………これなら防御の上からでも)」

だがノイチェも自棄になったわけではない

ゲイルラッドを構えアルマを見据える

「アルマさん………今日あなたと戦えてよかった」

「私もです!こんなに楽しい試合は始めて………でも、勝つのは私です」

アルマの砲撃が放たれると同時にノイチェもゲイルラッドを勢い良く振りぬく

「風牙………」

互いの攻撃が相殺し衝撃が観客席まで伝わるのではないかというほど広がる

「なっ………」

その衝撃に耐えながらノイチェは再び剣を構えていた

「連撃………」

「連刃!」

激突の余波さえも切り裂いてノイチェの放った攻撃がアルマを直撃する

一瞬で意識を刈り取られたアルマはそのまま倒れ伏した

 

互いの健闘に会場中から割れんばかりの拍手が鳴り響く

「あれ………どうして」

そんな中シルヴィアは理由もわからないまま涙を流していた

「なんやシルヴィア、友達の試合に感動しとるんか?」

「それもあると思う………でも、なんだか胸がきゅってするの………自分でもわからないけど………涙が止まらなくて」

戸惑うシルヴィアをヴィヴィオは優しく抱きしめた

「(シルヴィアはきっとこの舞台に立ちたかった………立てるだけの力を持っていたのに………)」

「ママ?」

「シルヴィア………その涙、忘れちゃだめだよ」

 

その日の試合はすべて終了し選手や観客達も帰り始めたころ

「アルマちゃんからメール?」

「うん、週明けまた学校でって、今日はこのままノーヴェ会長が送ってくれるって」

「ほなうちも失礼するな」

「はい、ジークさん!今日はありがとうございました」

ジークも一足早く帰っていきシルヴィアとヴィヴィオも席を立つが

「あ、イクスから通信だ」

病院でソネットに付き添っていたイクスからの通信がヴィヴィオに届く

「ヴィヴィオ、シルヴィア、お時間よろしいですか?」

「大丈夫だよ、ソネットちゃんのことだよね」

「はい、さっき起きたばっかりなんですが疲れちゃったみたいですぐまた寝ちゃいました、けがは大したことなかったです、ほとんどクラッシュエミュレートの疑似再現で、大きなけがといえばお尻に大きな青あざがあったくらいでしょうか」

「お尻にあざ?」

冗談交じりのイクスの話に首をかしげるシルヴィア

「セインに衝突していたようだからその時に打った痕だろう」

「シグナムさん!あれ?今日シグナムさんが運転ですか?」

「運転はシャマルだが、今はノイチェに付きっ切りだからな、代わりに車を取りに来たんだ」

「ノイチェさん何かあったんですか?」

シグナムの言葉を聞いて心配するシルヴィアだがシグナムはため息をこぼすとレヴァンティンを指先で回しながら歩き始める

「全力を尽くした結果だ、魔力切れと疲労でさっきまで吐いていた」

「あの………お大事に」

「私ではなく本人に言ってやれ、それに、いちいち心配していたらキリがない」

ノイチェはこれからどんどん勝ち進んでいく

きっと今日のようなことも何度も経験することになるだろう

それを改めて実感したシルヴィアはそっとうつむく

「ほら、早く帰るよ」

「わっ!?もぉママ、びっくりするでしょ、ていうか重くない?」

「まだそんなの気にする年じゃないでしょ、平気ママ鍛えてるから」

ヴィヴィオに肩車されながら車へと向かうシルヴィア

 

帰りの車の中でシルヴィアは疲れて眠ってしまう

それを見たヴィヴィオは小さく笑みをこぼしつつ運転に集中する

「結構泣き虫さんなんだなぁシルヴィア………心配しなくても、ここからが本当のスタートだよ」



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