らき☆すたXSAO(タイトル仮) (iアイムm)
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序章
リンクスタート


こんな短いものでも1時間半かかりました...



 「いやーいよいよ今日だねえ正式サービス!みんなー徹夜で遊ぶぞー!」

 

 そう意気込むのは一見小学生にも見えなくもないほど小さな泉こなた

 

 「こなたと私はともかくつかさとみゆきは無理でしょ...」

 

 呆れ気味につぶやくツインテールの少女---柊かがみ

 

 「うー...あっ、でもゲームの中で寝れないのかな?」

 

 かがみの双子の妹で髪を短く切り揃えているのは柊つかさ

 

 「ゲーム内で睡眠をとることは可能とHPに書いてありましたけど、せっかく眠るのなら布団にくるまって眠りたいですよね」

 

 大人びた容姿をしている眼鏡をかけた少女---高良みゆき

 

 彼女らは埼玉県の私立春日部共栄高校に通う2年生だ。こなたとかがみはゲーム趣味で知り合い、かがみとみゆきは学級委員長をやっている影響で親しくなり、妹のつかさも合わせてよく4人で行動している。

 

 「...にしても、ゲーム内で寝ようなんてつかさも立派な廃人だね~」

 

 「あんたが言うかそれを...」

 

 2022年、ゴールデンウィークの初日の今日の2時ちょうど、いよいよ世界初のVRMMORPG<ソードアートオンライン>が正式スタートされる。

 

 今までにもVRを冠したゲームはいくつも発売されてきていた。ではなぜ、このSAOには従来のVRゲームに向けられてきたもの以上の期待が寄せられているのだろうか?

 

 <完全ダイブ>

 

 ゲームにログインすれば、目の前に広がるのはどこまで続くかも分からないような広大な大地。そこはまさに数多の人間が待ち望んだ真の異世界...

 

 「完全ダイブなんて夢みたいだよね...」

 

 「そうですね、今までのいわば疑似ダイブとは比較にならないでしょうね」

 

 「<ナーヴギア>、だっけ?どういう仕組みなのかな?」

 

 「簡単に言えば延髄部で肉体への命令信号を回収、それをデジタル信号に変換することによって私たちが自由にアバターを動かせる、という感じです」

 

 「おーみゆきさんは相変わらず物知りだねえ~」

 

 「あんたはそういう機械に興味ないの?」

 

 「私が興味あるのはゲームをplayすることだからね...っと、もうすぐ1時だしそろそろ解散しよっか」

 

 「そうね、じゃあこなた、みゆき、向こうで会いましょ」

 

 「こなちゃんとゆきちゃんまたね~」

 

 「みなさん、それでは後程お会いいたしましょう」

 

 

 異世界への期待と希望に誰もが胸を膨らませていた、そしてその瞬間は訪れる

 

 異世界へ渡るために彼らはこう叫ぶのだ

 

 

 

                    『リンクスタート!!』

 

 

 

 

 

 

 



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第一層
はじまり


地の文って一人称のほうがいいんですかね?


Welcome to Sword Art Online!!

 

 真っ白な画面に黒字の明朝体のフォントで記されたこの一文、それが泉こなたが初めに見たものだった。やがてそれが燃えるような演出で消えていく。その次に一つの質問が現れる。

 

 “β(ベータ)テストに参加されましたか?”

 

 こなたは特に迷うこともなく目の前のYESに触れた。キーボードが現れたと同時に“個人コードを入力してください”というメッセージが現れる。素早いタイピングでそれを入力した瞬間、壮大なBGMが流れ、女性のものと思われる高い声でゲームの簡単なガイダンスと世界観の紹介がアナウンスされた。

 <アインクラッド>-----それがこのゲームの舞台となる場所だ。空高く浮かび石と鉄で造られた階層は100層にも連なる。アインクラッドの周辺は雲で覆われており、地上を見ることはできない。プレイヤーたちはこの<城>を1層ずつ攻略していき、頂上に存在するという紅玉宮を目指す。 

(早く終わらないかな...)

 こなたは退屈そうにアナウンスを聞いている。βテストに参加している彼女にとって世界観などとっくのとうに熟知してるからだ。

 βテストは同じ年の1月から2か月行われた。参加者には優先的なナーヴギアの購入権が与えられることもあり募集者数10000人に対し、応募者数はその100倍もの数となった。こなたはその10000人の中の一人である。β当時に作成したアバターは正式版にも引き継げたため、本来ならばキャラメイク等で時間のかかる初回ログインをこなたは一足早くログインすることができる。

 アナウンスが終わると同時にこなたは青白い光に包まれた。βのときに体験している、その次に見るものは異世界の光景だろう。

 

 

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次第に光が薄れていく。まず目の前に飛び込んできたのは石でできた門に四方を囲まれた空間だ。<転移門>-----これを利用することで到達済みの階層に瞬時に移動することができる。この転移門を中心とした広場が、プレイヤーがゲームにログインしたときに出現する場所となっている。

 かがみたちは今頃キャラメイクの真っ最中だろう。今広場にいるのは一足早くログインしたβテスター-----実際、βの時にパーティーを組んだプレイヤーもちらほら見かける。ログインしたと同時に商店街へ走り出す者、こなたと同じように待ち合わせをしている者もいた。

 周りのプレイヤーをなんとなく眺めていると、三人の女性プレイヤーがこちらに向かってきていることに気付いた。ピンク色のロングヘアの少女がみゆき、ツインテールがかがみ、ショートがつかさで二人とも髪は紫色だ。

「こなちゃ~ん!」つかさが手を振りながら大声で呼びかけてきた。

「3人ともやっときたかー、あんまりにも遅いから先に行っちゃおうかと思ったよ」

「こっちはキャラメイクがあるんだから仕方ないでしょ。...それにしてもあんた、こっちでも背低いのね」

 こなたのアバターの身長は145。現実と比べると5cm伸ばしただけだ。

「初めは170ぐらいでやってたんだけどね。いざ動こうとしたら全然動けなくってさ。あれはなんていえばいいかな...」

「厚底のブーツを履いている感覚、なんていうのはどうでしょうか」

「そうそうそれ!おかげでキャラ何度も作り直すはめになっちゃってさ~」みゆきの例えに納得しながらこなたがいった。

「とりあえず商店街の方に行こうよ、装備と回復アイテム買っておきたいしさ」こなたたちは商店街へと歩き出した。

「そういえば泉さん、黒井先生はどうされたんですか?」

 黒井先生とはこなたたちのクラスである2年B組の担任のことだ。彼女も長い間ネトゲをプレイしており、こなたとはネトゲ仲間でもある。

「先生風邪にかかって熱でちゃったみたいでさ。だからナーヴギアの安全装置みたいなのが働いて使えないみたいなんだよね。...それはそうとみゆきさん、ゲーム内ではキャラネームで呼ぶものだよ。」

 こなたはふと思い立ったように言った。4人のキャラネームは全員リアルの名前と同じものだ。

「あっ、すみません私ったらうっかりしていて...では、こなたさんでよろしいでしょうか。」

「うん、大丈夫だよ」こなたは笑いながらそう返した。

 

 商店街はすでにほかのプレイヤーで賑わっていた。まずは戦闘を楽しみたいというプレイヤーが多いのか武器屋の前にはかなりの人がいた。

「みんなは武器何にするの?」

 このsaoではタイトル通り魔法や遠距離武器の一切がなく、あるのは剣や槍などの近接武器だけだ。

「私は片手剣だね、βの時にも使ってたし」こなたは迷うことなく片手剣を購入した。

「こなたの身長なら短剣の方が似合ってるわよ」

「凶暴なかがみは斧とか似合うかもねー」

「誰が凶暴ですって...!」

 こなたとかがみが楽しそうにじゃれあっている。

「私はこの細剣というものにしてみます」みゆきはすでに購入した細剣を手に持っている。

「みゆきさんが使うと戦うお姫様ーって感じがするね」

「ありがとうございます。つかささんとかがみさんは何にされるんですか?」

「うーん...短剣とか使いやすそうでいいかなと思うんだけど」

「いっそのこと2人短剣使っちゃえば?可憐な双子の短剣使い!うん、絶対有名になれるよ」

「こっちじゃ全然似てないし...でもいいかもね短剣、つかさはどう?」

「私も短剣でいいかな」

 つかさとかがみも決めて全員の武器がそろった。

「じゃあさっそくフィールド行って経験値稼ぎしよっか」

「それもいいけど観光もしたいな」

「そうね、時間もまだまだあるし」

「では街を一周周ってから外に出る、という風のしませんか?」

「そうしよっか。私βの時はレベル上げばっかしてたから観光とかしてないんだよね」

 <はじまりの街>-----それが第一層の主街区だ。転移門広場を中心として商店街や鉄で造られているらしい<黒鉄宮(こくてつきゅう)>という宮殿がある。黒鉄宮は禁止行為をしたプレイヤーがとばされる、いわば牢屋のような場所であり、プレイヤーは立ち入ることができない。

 

 ぱりいん、という音と共に敵が四散する。それと同時に、こなたにレベルアップを知らせるBGMが流れた。

「こなちゃんもうレベル4なの!?私なんてまだ2レベルになったばかりだよ」

 あれから街を一周周り北西のゲートからフィールドである草原へ出た。ここには初心者がまず初めに戦闘を経験するであろう、<ボア>という青いイノシシ型のモンスターがいる。数が多く再湧出(リポップ)も早いので初期の経験値稼ぎにもってこいの相手だ。

「やっぱり難しいですね。スキルが全然当たらなくて」

「目の前で発動すればシステムが勝手に当ててくれるよ。ほら、かがみがやってるみたいに」

 かがみはボアにソードスキルを放っていた。短剣カテゴリで初期に開放されている<アーマーピアス>だ。技時遺体は単なる刺突攻撃だが相手に防御力低下のデバフを与える。緑色のライトエフェクトを纏った一撃は見事にボアに命中した。

「おつかれーかがみ!」

「おつかれー、...て、あんたもうレベル4なのか」

 かがみのレベルはこなたの一つ下、レベル3だ。

「はじめて3時間でレベル3てかがみも相当だよ」

「大体システムがやってくれるしね、ダメージもポーションで十分追いつくし...さて、この後どうする?もう日が暮れそうだけど」

 ゲーム内の昼夜は基本的に現実に同期している。現在の時刻は夕方の5時、空もオレンジ色に染まってきていた。

「わたしはいったん落ちます。お母様にこの時間までといわれていますので。また夜にログインします」

「じゃあゆきちゃんまたね~」

 みゆきとつかさが手を振りあっている

「いったん街に帰ろっか、武器の耐久値も結構来てるし」

「そうね、そのあとはもう一回外に出る?」

「おねえちゃん、私たちも6:30に一回やめなさいっておとうさんのも言われてるよ?」

「廃人街道まっしぐらだね」

「う...あんたおじさんに何か言われてないの?」

「特に何も。まあ7:00ぐらいにいったん補給しに行くけどね」

「こなちゃん家は放任だよねー相変わらず」

「あの...みなさん」

 賑やかに話していると、みゆきが不安そうに話しかけてきた。

「あれ、どうしたのみゆき」

「その...ログアウトのボタンが見つからないんです、結構探したのですが」

「ログアウトは確かシステム欄の一番下にあったはずだけど...あれほんとだ、ない」

 こなたが人差し指を使ってメニューを操作している。かがみとつかさも探したが見つからなかった。

「バグかな...まったく、こういうシステム関連は勘弁してほしいわね」

「そのうち直してくれるよ、とりあえず街にいこうよ、みゆきさんも一緒に」

 こなたが歩き出そうとしたその時

 

 リンゴーン、リンゴーン

 

 突如鐘のようなかなり大きい音が聞こえ、こなたたちの視界が徐々に霞み始めた。

「これって転移のときの...でもなんでいきなり」

 アイテムや転移門を使うことで起きる<転移(テレポート)>、そのときに発生する光が彼女らを包み込んでいた。直後、光は大きくなり彼女らの視界を奪った。

 

 光が薄れて目にしたのは草原ではなく黒く輝く漆黒の宮殿だった。おそらく黒鉄宮、今いるのは宮殿前の広場だろう。

 「ちょっ...なんなのよ今の」

「転移だったけど...運営から何かあるんじゃない?」

 こなたたち以外にも転移させられたプレイやーが何千人といた。皆、困惑とログアウトできないことに対する怒りを顔に出している。

「あっ...上を見ろ!!」突然誰かが叫んだ。

 頭上の夕焼けがたちまち深紅の市松模様に染まっていく。

「あれ...何か書いてあるような...?」

「<WARNING>に...<SYSTEM ANNOUNCED>、でしょうか」

「運営の謝罪か何かだよきっと」

「でも危険って...明らかに普通じゃないわよこれ」

 かがみが不安そうに見上げている。周囲のプレイヤーは運営からのアナウンスを聞き逃さないよう耳を澄ましている。

 しかし次に起きたのは彼らの予想を裏切るものだった。

 突如深紅の天井の一部が大きな雫となってどろりと垂れだした。それは地面には落ちずに、深紅のローブをまとった人の姿となった。

「なに...あれ...?」

「SAOのスタッフが着てたやつだよ、あれ」

「でもなんで顔がないのよ」

「アバターが用意できなかったんでしょうか?」

「バグ対応にわざわざアバター一つ用意することなんてないでしょ普通」

「すごい不気味だよね...」

 周囲から再びささやきが漏れ出した。と、それらを抑えるようにローブの右袖が動いた。白い手袋をはめた手が見えたが、それにつながっているだろう腕は見えなかった。

 ないはずの口が動いた、ような気がした。直後に聞こえたのは低い、それでいてよく通る男性の声だった。

 

             『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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宣告

三人称視点だと心理描写が書きづらいですね
おかげできづいたら2週間も経ってました
とりあえず生存報告として投稿します


『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 随分と上から目線だな、とこなたは思った。とても謝罪するような立場の人間が発するセリフではない。かがみもそう感じたのだろう、不満を口にしている。

 彼女らのそんな不満もお構いなしに、紅ローブは次のセリフを発した。

『私の名前は茅場(かやば)晶彦(あきひこ)。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 周囲に驚きの声が漏れた。無理もない、あの赤ローブは茅場晶彦-----ナーヴギアの基礎設計者にしてこのSAOの開発ディレクターでもあるその人の名を名乗ったのだ。

 こなたの中での評価が180度変わる。滅多にメディアに露出することのない彼がアバターを介してとはいえ、目の前にいるのだ。もしかしたらイベントの告知でもあるかもしれない、と期待も募る。

 『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、<ソードアート・オンライン>本来の仕様である』

「仕様って...え?」つかさが驚いたようにささやいた。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

「この城...もしかして黒鉄宮のことでしょうか?」みゆきが赤ローブの背後の宮殿を目を向けながら言った。

「強制イベントなんて運営は何考えてるのやら。今頃大炎上中に決まってるね」

『...また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合-----』

わずかな間。

 そして一万人のプレイヤーが息を詰める中、その言葉はゆっくりと発せられた。

『-----ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 瞬間、仮想の空気が凍り付くような気がした。

「...まったく、いつまでこんな茶番やる気なのかしら。ちょっと過剰すぎない?」

「そ、そうだよね。ただのゲーム機がそんなことできるわけないよね」

「ですが、ナーヴギアの仕組みから考えて不可能とは...」

「つかさもみゆきさんも心配しすぎだよ、そのうちネタ晴らしがあるって」

 不安そうなつかさとみゆきとは対称的にかがみは不満を、こなたは楽観しながらそう言った。

 だが薄々とは気付いていた。これがただの茶番ではないことに、自分たちは今とんでもない状況に曝されているのではないかということに。

 赤ローブの言葉は続く。いわく、ネットワークが切断された瞬間に脳が破壊されるわけではないらしい。そして、赤ローブがわずかの間を置いていった。

『...残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界から永久退場している』

 どこかで短い悲鳴があがった。真紅の空にいくつかの画像が浮かび上がる。SAOをプレイしていた人々の死亡、ただそのことを緊迫した表情でキャスターが伝えていた。

「う、うそに決まってるよ、こんなの...」

 こなたに応える声はない。つかさたちはただ上空の赤ローブを見つめていた。

そして...

 『...それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』

 広場中から鈴の音のSE(サウンドエフェクト)が響いた。それに続いてこなたたちも右手の指2本を上から下へ振り、メニューを開く。そこからアイテム欄を開くと新しいアイテムが一つあった。

 「手鏡...?」

 <手鏡>というアイテム名をクリックしオブジェクト化を選択する。すると、きらきらという効果音と共に、こなたの右手に丸い縁で囲まれた小さな手鏡が現れた。

「ただの手鏡みたいですね...」同じようにアイテムをオブジェクト化したみゆきがいった。

 何も起きないのか、そう考え始めたとき、突如視界が光に覆われた。草原のときにも起きた転移の光だ、とこなたは直感する。

 しかし、徐々に光が薄れていったとき、こなたたちが再び見たものは、今まで見ていた景色と同じだった。

「今度はいったい...なっ!?」かがみが手鏡を見ながら驚いた声でいった。「なんで現実の姿になってるの!?」

 こなたも同じように手鏡を覗く。そこには髪の色こそ違うが現実の世界となんら変わりない彼女の姿が映っていた。

「周りの人たちもみんな変わってる...どうやってこんなことしたの...?」つかさが信じられないというように呟いた。

「ナーヴギアって顔全体覆ってるじゃん、もしかしたらそれで...」

「でも身長とかも結構変わってるじゃない」

 周囲のプレイヤーの容姿だけでなく性別、体格も明らかに変わっていた。

「もしかして...皆さん、ゲームを始める前に手で体中を触るよう指示されませんでしたか?」

「うん...言われた。キャリブレーションっていうのをやるから体を手で触ってくださいって...」

 キャリブレーションというのは装着者の体表面感覚を再現するため、<手をどれだけ動かしたら自分の体に触れるか>の基準値を測る作業だ。これによって、現実の体格をこちらに引用することも不可能ではない。

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は-----SAO及びナーブギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのかあるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

 赤ローブはプレイヤーの困惑などお構いなしに演説を続ける。

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら...この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そしていま、すべては達成せしめられた』

 短い沈黙の後、そして

『...以上で<ソードアート・オンライン>正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の-----健闘を祈る』

 締めのセリフを言うと同時に赤ローブは真紅の空に再び溶け込んでいった。そして跡形もなくなった瞬間、空は瞬時にもとの晴天を取り戻した。

 そのときになってやっと一万のプレイヤーはしかるべき反応を見せた。怒号、悲鳴、懇願-----突然仮想世界の囚人となることを言い渡された彼らに逃れようのない現実が迫る。

「うそ...いやっ...!」

 地面にへたりこんだつかさが声にならない悲鳴をあげた。

「どうすれば...いいのでしょうか?」

「...とりあえず宿屋にいこ、埋まっちゃう前に行かないと」

「つかさ、立てる?」

 かがみがつかさに手を差し伸べた。いまだこの現実を受け入れきれていないこなたたちは、フラフラとした足取りで街の宿屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 



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