魔法少女リリカルなのは Sunlight (朱槍)
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設定資料
人物設定


キャラ設定です。
随時更新していく予定です。


名前:武藤 カズキ(ムトウ カズキ)

年齢:59歳(肉体年齢23歳)

身長:183cm

体重:74kg

血液型:О型

服装:シルバースキンそっくりの耐刃・耐銃・耐火・防水の普通?のコート(帽子、グローブ、ブーツなし)

Favorite:カレーライス・青汁・山吹色・家族

Dislike:信念を自ら歪める人・命を弄ぶ者

特技:色々(何を隠そうオレは〇〇の達人だ!!)

尊敬する人:キャプテンブラボー(防人衛)・津村斗貴子

所属:錬金戦団・大戦士長

武装:核鉄(№Ⅲ<3>)

   ???

   特殊核鉄改[SS]

   特殊核鉄改[VS]

   特殊核鉄改[MG]

スキル:(通常):高速治癒・飛行

    (ヴィクター化):高速再生・エネルギードレイン

備考:錬金戦団の大戦士。

   本編から40年以上たった姿。

   しかし、世界的にまだ多く残っていたホムンクルスの保護や戦闘を繰り返している

   うちに黒い核鉄の力が抑えきれなくなり23歳から老化が止まり不老不死となっ

   た。

特殊核鉄改:特殊核鉄改はパピヨンパークでの激闘の時に蝶野が特殊鉱物

      【パピヨニウム】で生成した21個の核鉄を改修・改良した物。

      特殊核鉄と違い武装錬金なしの単体でも効果を発揮することが出来るよう

      になった。

      最大の特徴は生成時に二人分のDNAを登録すると登録者はもう一人の登

      録者の武装錬金の一部を使用することが出来る。

      [SS]:シルバースキンの帽子、手袋、ブーツを展開

      [VS]:バルキリースカートの一部を展開しフル展開時は最大4本まで生成

          使用者の任意で形状と展開本数を変更できる

      [MG]:モーターギアを展開

          剛太のモーターギアとの違いは展開時に吸着した場所に固定され

          射出が出来ないところ

          なので使われるのは殆どが移動時に限られる

 

名前:武藤 智依(ムトウ トモエ)

年齢:36歳

身長:156cm

体重:43kg

血液型:AB型

Favorite:カズキの作るカレーライス・野菜ジュース・家族・青白色

Dislike:命を軽く見る者・臓物系全般・ギャンブル

特技:料理・節約・ギャンブル

尊敬する人:武藤カズキ・武藤斗貴子・早坂桜花

所属:武藤家専業主婦

武装:核鉄(№ⅩⅩⅩ<30>)

   特殊核鉄改[VS]

備考:カズキ達の血の繋がらない娘で実の息子ソウヤの妻。

   4歳の時に暮らしていた孤児院をホムンクルスに襲われたが唯一生き残る。

   その後、現れたカズキに救出され引き取られる。

   引き取られた当初は襲われたトラウマの所為もあり気弱な少女であった。

   しかし、家族の温かさやソウヤの優しさに触れて次第に明るさを取り戻す。

   やがてソウヤと恋に落ちトラウマを乗り越え強い女性へと成長した。

ネタ:名前の元ネタは【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】の【雪代巴】。

 

名前:外院 碓氷(ゲイン ウスイ)

年齢37歳

身長:178.5cm

体重:68kg

血液型:A型

Favorite:何かを学ぶこと

Dislike:偽善・ホムンクルス

特技:迅速な逃走経路の確保

尊敬する人:ガーディアンブラボー(武藤カズキ)

所属:錬金戦団(離反)

武装:核鉄(№ⅩⅢ<13>)

備考:現在は語れるコトは殆どない。

   しかし、カズキを尊敬している一方で憎しみの様な感情を抱いている。

   ひたすら力を求めている様だがその目的は不明。

ネタ:名前の元ネタは【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】の【外印】と【魚沼宇水】。



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漂流編
第1話 最後の任務


大復活!!


墓地

 

 

男は墓の前でしゃがみ手を合わせる。

墓の周りには彼の他に男性が2人女性が2人子供が1人いた。

 

「さてと・・・・。」

やがて彼は立ち上がった。

 

「・・・・行くのか?」

2m超の大男ヴィクター=パワードが彼に言った。

 

「ああ、皆とは挨拶は済ませたしな。」

そう言って周りを見渡した。

見渡した墓に大切な仲間達の名が刻まれていた。

 

【剣持 真希士】

 

【防人 千歳】

 

【防人 衛】

 

【中村 剛太】

 

【武藤 斗貴子】

 

彼は最後に自分の妻の墓を見詰めた。

 

「そうか、では俺も行くとしよう。」

 

「蝶野?」

 

蝶の仮面を付けた男蝶野 攻爵<蝶人パピヨン>が彼の隣に立つ。

「あいつは俺の人生の楽しみでもあった。」

パピヨンは先程彼が手を合わせていた墓を見る。

 

【武藤 ソウヤ】

 

墓にはそう刻まれていた。

 

「それをクソにも劣る理由で横から取り上げられたのだ。

 少々灸を据えてやらねば気が済まん。」

 

「そっか・・・・ありがとな蝶野。」

 

「別にお前に礼を言われる覚えはない。」

パピヨンはそう言って先に歩き出した。

 

「お義父さん・・・・・。」

 

「爺ちゃん、何処かに行くの?」

 女性と9歳位の子供が不安そうな顔で彼を見る。

 

「ああ。

 爺ちゃんは、ちょっとお仕事に行かないといけないんだ。」

 

「爺ちゃんも居なくなるの?」

少年は涙を溜めた瞳で彼を見る。

 

彼はしゃがんで少年と目線を合わせながら頭を撫でた。

「大丈夫。

 爺ちゃんは、ちゃんと帰って来るから。」

 

「でも・・・・父さんは帰って来なかった・・・・・。」

 

「・・・・・それじゃあ、こうしよう。」

すると彼は少年の手を取ってお互いの小指を絡ませた。

 

「指切りげんまん嘘ついたら針千本の~ます。

 ・・・・大丈夫、爺ちゃんは絶対に帰るから。」

 

「・・・・・・うん。」

少年は頷いた。

 

すると、もう一人の女性ヴィクトリア=パワードが彼に訊ねた。

「最後に聞きたいんだけどアナタは【アイツ】をどうする気でいるの?」

 

「投降の意思が有るなら捕縛して戦団に送る。

 無いなら抹殺するしかない。」

 

「ふ~ん。

 てっきり【息子の仇】として殺すのかと思った。」

 

「あいつは最後まで戦士として戦った。

 ならそれを仇だから殺すなんて事をするのは、あいつの生き様に泥を塗る事になる。」

そして彼は何処からか出現した帽子を被り言った。

 

「だからオレは大戦士長ガーディアン・ブラボーとして、最後の任務。

 けじめをつけてくる!」

そして、彼は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「話は終わったか。」

墓地の入り口でパピヨンは腕を組んで待っていた。

 

「ああ、行こう。」

 

「武藤、この件が終わったらお前はどうするつもりだ?」

 

パピヨンの質問に彼は少し黙りやがて上を向いた。

「今は・・・・考えてない。

 でも、そろそろオレは次の世代に任せようと思ってる。」

 

「そうか。

 では行くか。」

 

「ああ、決着をつけに・・・・・。」

彼らは空に飛び立った。

武藤カズキと蝶野攻爵は決戦の地へと向かう。

 

 

 

 

 

~Kazuki side~

 

地下施設

 

 

『グォォオォォォォォォォォオォォォォ!!』

大量の化物ホムンクルスがオレ達に向かって襲い掛かる。

 

「粉砕・ブラボラッシュ!!」

 

オレはパンチの高速ラッシュでホムンクルスを纏めて吹き飛ばす。

もう何十回目もの迎撃。

そろそろアイツの居場所に着くのも近いかもしれない。

 

「ニアデス・ハピネス!!」

 

『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?』

 

蝶野も黒色火薬の武装錬金<ニアデス・ハピネス>でホムンクルスを一掃する。

 

「げはぁぁっ!?」

 

しかし、蝶野も吐血し息を大きく乱している。

そもそも蝶野はこういった持久戦は大の苦手だ。

このまま戦いが長引くほど不利になるのは明らかだ。

 

『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

再びホムンクルスが襲い掛かって来た。

 

「いい加減、鬱陶しい!

 纏めて吹き飛ばしてやる!!

 ニアデス・・・・げほっ?!」

 

「蝶野?!」

 

蝶野の体力が限界に近づき膝を着いた。

致命的な隙。

オレは慌てて<特殊核鉄改[SS]>を操作して蝶野を守る。

しかし、蝶野守った事で出来た隙をホムンクルスがついてきた。

 

「核鉄ぇぇぇ!!核鉄ぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「くっ!」

 

攻撃を防ぐ為に胸に手を当て核鉄を起動させようとする。

だが

 

「イギャッ?!」

 

「なっ!?」

 

オレが武装錬金する前にホムンクルスは腹から真っ二つに両断された。

一体何が起きたんだ!?

すると、斬られたホイムンクルスの後ろに日本刀を持った貫禄のある老人が立っていた。

そして、オレはこの老人を知っていた。

同時に驚いた。

 

「し、秋水先輩!?」

 

「武藤、待たせたな。

 これより戦闘に加勢する。」

 

「どうして、秋水先輩が此処に?!」

 

「お前達が決着をつけに行くことを姉さんから聞いたんだ。」

 

「え?

 聞いたってこの場所って仮にも戦団でもトップシークレット・・・・・。」

 

「毎度のパターンだろ・・・・・。」

 

「ああ・・・・・。」

 

頭の中で笑顔で戦団の情報にハックしてる桜花先輩の顔が浮かんだ。

 

「けど、正直結構マズい状況だったんで助かりました!」

 

「ふん、余計な事をするからそういう事になる。」

 

「助けたのにそりゃないだろ?!」

 

「この蝶人たる俺があの程度で死ぬわけなかろう。」

 

もうあれだ、こんなやり取りを数十年も繰り返すと怒る気も起きないな。

 

「ところで、よく一人で来れましたね。

 オレ達も吹き飛ばしては強引に進む感じだったのに。」

 

「実は来ているのは俺だけじゃないんだ。」

 

「そうなんですか!?

 他に誰が・・・・・」

 

そう訊ねている途中で凄まじい破壊音が聞こえた。

何十体ものホムンクルスを吹き飛ばしてそいつは現れた。

 

「ようやく追い着いたか。」

 

「ヴィクター!?

 何でオマエが!?」

 

「今回の件を少しでも手伝えればと思ってな。

 後をつけさせてもらった。

 オマエには借りも多いしな。」

 

ヴィクターはそう言って大戦斧の武装錬金<フェイタルアトラクション>を構える。

 

「武藤、奴の下までの戦闘は俺達が引き受ける。

 今は体力の回復を優先するんだ。」

 

秋水先輩はオレ達に指示を出し日本刀でホムンクルスを斬り捨てる。

 

「わかりました。

 お願いします。」

 

オレ達はこの案に甘えることにした。

頼もしい二人の戦友のお陰でオレ達はドンドン先へと進む。

そして

 

 

 

 

 

 

「扉か!」

 

目の前に鋼鉄の扉が見えてきた。

 

「間違いなく・・・・・奴がいるな。」

 

「ああ!」

 

蝶野の言葉に同意する。

扉の向こうにアイツの存在が感じられた。

 

「武藤!此処は俺達が死守する!!」

 

「オマエは決着をつけて来い。」

 

「了解!!」

先輩達の援護を背にオレは扉に向かって走る。

 

 

 

 

 

「武装錬金!!」

 

 

 

 

 

胸に埋め込まれた核鉄。

オレの命を起動させる。

そして、右手に武装が形成される。

突撃槍の武装錬金<サンライトハート改>。

もう数え切れない程の激戦を共に駆け抜けた相棒を握る。

 

「エネルギー!全!開!!」

 

槍はその名の通り太陽の輝きを放つ。

 

「突き抜けろ!オレの武装錬金!!」

 

鋼鉄の扉は粉々に砕け散る。

そして、扉の先にはアイツがいた。

 

「ようやく追い詰めたぞ。

 外院 碓氷。」

 

男は名を呼ばれてこちらを向く。

そして、ドブ川が腐った様な目と歪みきった笑顔で言った。

 

「やはり、ここまで来ましたか。

 大戦士長・・・・・・いやブラボー。」

 

~Kazuki side end~

 

「碓氷・・・・戦団に投降する意思はあるか?」

 

カズキは鋭い視線で碓氷を睨む。

 

「ない。

 それに貴方自身もこの言葉がお望みではないのか?

 息子の仇を討つ理由が出来た訳ですし。」

 

「そんな事は関係ない。

 オレはこれ以上の犠牲を出させない為に此処に来た。」

 

カズキのその言葉を聞いた碓氷はさっきまでの表情が嘘の様に消え。

まるで汚物を見る様な目でカズキを見た。

 

「相変らずの偽善者振りですね。

 まさか、此処には純粋な正義感だけでいるとでも言う気ですか貴方は?」

 

「・・・・・そうだな、全く私情が無いといえば嘘になる。

 だがそれはソウヤを殺された恨みなんかじゃない。

 仲間を裏切り信頼していくれた戦友を騙まし討ちしたオマエに対する怒りと。

 オマエの裏切りに気付けなかった自分の甘さだ。」

 

カズキはサンライトハート改を碓氷に構える。

 

「だから、けじめをつけに来た!

 大戦士長として!!

 嘗てのオマエの師として!!

 オマエをここで止める!!!」

 

真っ直ぐな瞳でそう言い放った。

すると碓氷は感情と言うものが感じられないほど無表情になった。

彼が聞きたかったのはそんな言葉ではなかった。

見たかったのはそんな顔ではなかった。

聞きたかったのは息子を殺され殺意の篭った叫び。

見たかったのは憎悪を撒き散らす表情。

彼は落胆した。

 

「そうですか・・・・・・。

 では、問答は終わりです・・・・・・死ね。」

 

すると、部屋の壁を突き破って6体の大型ホムンクルスが現れる。

 

「コイツは!?ホムンクルス月華か?!」

 

「そうです。

 嘗て貴方方がムーンフェイスの計画を阻止する時に相手した奴を改良した物です。

 名をホムンクルス月華弐式。」

 

『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

月華弐式は凄まじい威圧感を放ちながら威嚇した。

しかし、カズキは不適に笑っていた。

 

「これが、オマエの切り札か碓氷。

 だとしたら・・・・・オレをナメ過ぎだ。」

 

月華弐式はその巨大な手でカズキを押し潰そうとする。

カズキはそれを余裕で回避する。

そして、コートから核鉄を取り出す。

 

「特殊核鉄[VS]起動!!」

 

カズキの左手に武器が形成され握られる。

それは彼の最愛の人物【津村 斗貴子】の武装錬金<バルキリースカート>の鎌だった。

鎌を月華弐式の顔面に突き刺し横に離脱した。

 

「エネルギー!!全開!!!

 サンライトスラッシャー!!!!」

 

爆発的なエネルギーと加速。

その破壊力は目標の月華弐式以外に近くにいた2体も巻き込んで粉砕した。

残りの3体がカズキを襲う。 

しかし、その3体の月華弐式の顔を黒い蝶の大群が覆った。

 

「まったくもってその通りだ。

 そんな骨董品を強化した程度でオレ達を相手にしようとはな。

 往け!!黒死の蝶!!!」

 

黒き蝶の大群が一斉に爆発し月華弐式を吹き飛ばす。

パピヨンがカズキの近くに着地する。

 

「蝶野、外のホムンクルスは?」

 

「粗方片付いたので此方に来た。

 ・・・・・・武藤。」

 

「ああ。」

 

カズキは短く返事をすると首元に迫っていた何かを掴む。

掴んだのは奇襲を仕掛けてきた碓氷の腕だった。

そして、そのまま拳に力を入れる。

 

「しまっ・・・・」

 

「直撃!ブラボー拳!!」

 

凄まじい威力で放たれた拳は碓氷を端の壁まで吹き飛ばした。

 

「げはっ?!!」

 

「オマエの鉤爪の武装錬金【ディメンションポーター】。

 特性は空間移動、オマエがこのタイミングで奇襲を仕掛けてくるのは読めてたよ。」

 

「ぐくっ、相変わらず凄まじい威力ですね・・・・。

 ようやく修復した左肩が粉々だ・・・・。」

 

碓氷がフラフラと立ち上がる。

しかも殴られた左肩は完全に吹き飛んでい皮一枚で繋がっている様だった。

そしてカズキは吹き飛んだ肩を見て気付いた。

傷口が人間とは全く別物であることを。

 

「碓氷・・・・オマエやっぱり。」

 

「ええ・・・ホムンクルスですよ。

 もっとも、パピヨンと同じ不完全なね。」

 

「何だって?」

 

「私は力が欲しいだけだ。

 食人衝動などマイナス以外なんでもない。

 だから私は不完全の方を選んだ。

 別に人間であることに執着もないですし。」

 

「なるほど、貴様もこのオレと同じく超人になろうとしたか。

 だが・・・・・貴様如きがオレと同じ存在など虫酸が走る!!」

 

パピヨンはニアデス・ハピネスを展開する。

カズキもサンライトハートを構える。

 

「大戦士長にその宿敵相手に片腕だけ・・・・。

 自殺行為にも程がありますね・・・・・ここは退かせてもらいます。」

 

碓氷がディメンションポーターを構えた。

 

「逃すと思うか。

 それに逃げられたとしても戦団の情報網はオマエも知っているだろう。

 絶対に逃げられやしない。」

 

カズキがそう言うと碓氷は黙る。

そして・・・

 

 

 

 

 

「フフフ・・・」

 

 

 

 

 

笑った。

 

 

 

 

 

「何が可笑しい。」

 

「いや、貴方方はどうやら私の武装錬金の特性を誤認している様ですね。」

 

「何だと!?」

 

「空間移動は本来の特性の副産物!

 本来の特性は・・・」

 

碓氷が空間を切り裂き裂け目が生まれる。

しかし、その裂け目は過去最大級の大きさだった。

 

「自らのダメージをエネルギーに変換し次元を超える!

 そして、ソウヤと貴方の攻撃でようやく溜まりましたよ!!

 世界を超えるほどのエネルギーがね!!!」

 

「世界を・・・超えるだと!?」

 

「ソウヤに超・蝶・成体の外殻は破壊されたが核はまだ生きている!

 こいつの修復も核鉄の研究も新たな世界でするとしよう!!

 さらばだ!!!ガーディアン・ブラボー!!!」

 

碓氷は裂け目に入っていく。

超・蝶・成体の修復や核鉄の研究を他の世界で行う。

それはこの世界の火種をその世界に持ち込むという事。

そしてそれは、その世界に住む全く関係ない人々を地獄に叩き落とすという事だ。

そんな事をカズキが許すはずがなかった。

 

「そんな事・・・させるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

カズキは閉じようとする裂け目に突撃する。

次の瞬間・・・

 

 

 

 

 

カッ

 

 

 

 

 

凄まじい爆発が起きた。

 

「くっ!?

 武藤ォォォォォォォォォ!??」

 

爆発が収まる。

徐々に舞っていた煙が晴れ始める。

そして

 

 

 

 

 

其処には何もなかった。




どうも皆様!
久し振り、または初めまして!
作者の朱槍DEATH!!
この度、漸く就職活動が終了し今作を復活させる事が出来ました!
にじファン時代からの読者の皆様大変お待たせしました!!
これからも【魔法少女リリカルなのは Sunlight 】の応援よろしくお願いします!!


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第2話 追憶

復活祭その2!!


???

 

此処は何処だろうか?

オレは今よく解らない空間を漂っている。

確か碓氷を追うために次元の裂け目に突入したとこまでは覚えてる。

ということは此処は次元の狭間か?

それとも無茶な突入して死んで死後の世界か?

そんな事を考えていると目の前に映像が流れ出す。

 

―生まれて両親を見上げている記憶―

 

―小学校に入学した時の記憶―

 

―まひろと縁日に行った記憶―

 

―中学校に入学した時の記憶―

 

―修学旅行で馬鹿騒ぎした記憶―

 

―銀成学園に入学した記憶―

 

―六舛、岡倉、大浜と出会った記憶―

 

懐かしいな・・・・。

というか、これは走馬灯?夢?

そんな事を考えていると・・・

あの運命の出会いの記憶が流れ始めた。

 

『あのコ、気付いてない!?』

 

『シャァァァァ・・・』

 

『危ない!』

 

ズガアッ!!

 

『しまった、巻き込んだ!!』

 

―勘違いで飛び込んで殺された記憶―

 

『キミは死んだ、もう心臓は使い物にならない。』

 

『・・・・・・。』

 

『事態を測らず力量を省みず。

 考えもなしに飛び込むからだ。

 ・・・けれど私を助けようとしたのだな・・・

 キミに少し興味が湧いた。

 これは人間の精神の深い所、本能に依って作動する。

 これを心臓の代用品にして生存本能を揺り起こす。

 キミはもう一度生きる力を手にする。

 そして同時にもう一つ別の力を手にする。』

 

―斗貴子さんに核鉄を与えられ命を救ってもらった記憶―

 

『まひろとオレの命は返してもらうぞ!!』

 

『武・・・武装錬金・・・!!

 何故、貴様如きがソレをォォォォ!?』

 

―初めて武装錬金を発動させた記憶―

 

『そんな・・・あんな化物がまだ。』

 

『思ったより悪い状態だ。

 今度こそキミは手を引け!』

 

『いや、だったらなおさら引けない。

 まひろや六舛達が危ない!』

 

『・・・・・・。』

 

『オレはキミがくれた戦う力を持っている。』

 

―自らの意志で戦いの世界に飛び込んだ記憶―

 

『そして!

 自分の力では命すら保てない最弱のイモ虫!

 けど彼は見つけてしまった!!

 偉大なる錬金術の力を!!』

 

―初めて蝶野と対峙した記憶―

 

『勝手と承知してる・・・が。

 一つだけ頼み・・・が・・・ある・・・。

 創造主を・・・。』

 

『殺さないよ。

 最初からそんな気はない。

 止めるだけだ。』

 

『・・・それを聞いて・・・安心して死ねる・・・。

 ・・・安心・・・して死ね・・・る・・・・・・か・・・。

 そん・・・な死があるとは・・・知らなかっ・・・た・・・・・・。』

 

―鷲尾と蝶野を殺さないと約束した記憶―

 

『バカな。

 不完全とは言え超人の俺が。

 ただの人間の貴様などに・・・。』

 

『ただの人間だけど命懸けの戦いをくぐり抜けてココに来たんだ。

 だから 、今まで自分では戦わなかったオマエより少しだけ強くなれた。』

『・・・フン、で。

 強くなったお前は俺を倒してどうする?

 ホムンクルスになった俺は元には戻れないし人食いも止められない。

 ましてやあの女の解毒剤の鍵はもう腹の中だ。

 糞に混じって出るまで待つか?

 さあ お前は俺をどうする?』

 

『すまない、蝶野攻爵。』

 

『(嗚呼―俺の名前・・・・・)謝るなよ。偽善者。』

 

―斗貴子さんを救う為、これ以上犠牲者を出させない為、蝶野を殺した記憶―

 

『オレ頑張ったんだ。

 でも・・・オレ偽善者なのかなぁ・・・・・・。』

 

『カズキ・・・。』

 

『善でも!悪でも!

 最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない!!

 もしキミが自分を偽善と疑うのならば、戦い続けろ武藤カズキ!!』

 

―蝶野を殺した事で落ち込んでいたオレに道を示し錬金の戦士にスカウトしたブラボーの記憶―

 

『キミは妹や友人とコイツらと、どちらを守りたいんだ!』

 

『どっちも!

 オレはどっちも守りたい!!』

 

『フ、フザけるな、ちゃんと選べ!!』

 

『無理!!

 命の“取捨選択”なんて俺には無理!

 拾える命は全部拾う!』

 

―人間だった先輩達を守る為、斗貴子さんに人殺しをさせない為、斗貴子さんと争った記憶―

 

『どうする?

 全員でやらないと開かないぜ。』

 

『うるさい!』

 

『片手に?』

 

『ピストル。』

 

『あ、まだ進めないで。』

 

『心に?』

 

『花束。

 頼む、斗貴子さん!』

 

『・・・・・・。』

 

『唇に?』

 

『火の酒。』

 

『背中に?』

 

『今だ!』

 

 

 

 

 

『『『人生を!!』』』

 

―全員でL・X・Eのアジトに決戦に行った記憶―

 

『・・・斗貴子さん。

 この机・・・。』

 

『ああ、私達を狙ったものじゃない・・・。』

 

『オラオラ油断してんじゃねーよ!

 てか、イチャついてんじゃねー!

 みんながしっかり見てんだぜ!』

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

『さっきはありがとーー!

 ちょっとカッコ良かったよーー!』

 

ワー!ワー!

 

『ごめんなさい!

 私、誤解してた!

 本当にごめんなさい!』

 

ワー!ワー!

 

『頑張れおに・・・じゃなくて知らない人ーーー!!』

 

『もう誰も間違えねェ!

 お前達が”俺達みんなの味方”なら俺達みんなが”お前達の味方”だぜ!』

 

―みんなの声援で力が湧いた記憶―

 

『戦う!

 戦う!

 戦う!

 戦う!

 戦え!!』

 

『カズキッ!?』

 

(二ヵ月前の春の夜・・・私はカズキに何をした?何をしてしまった・・・・・・!?)

 

『逝くのはオマエ独りだ!

 ヴィクター!!』

 

『・・・そうか、キミはオレと同じ・・・。

 ”黒い核鉄”を命に変えた者だったか。』

 

―ヴィクター化した記憶―

 

『善でも悪でも。

 最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない。』

 

(オレを・・・スカウトした時の言葉・・・・・・。)

 

『俺の信念は一人でも多くの命を守るコト。

 そのためなら戦士殺しも厭わない。

 俺は悪にでもなる。』

 

―ヴィクター化したオレに再殺命令が下りブラボーと戦った記憶―

 

『大方、キミのコトだ。

 六週間後もし全てが徒労に終わってしまった時は独りで自分に始末をつけるつもりだったのだろう。』

 

『!?』

 

『そんなコトはさせない!

 私はキミから離れない!

 これから六週間キミと私は一心同体。

 キミが死ぬ時が私が死ぬ時だ!

 いいな・・・。』

 

『わかったよ。

 でも、一方通行の一心同体なんかゴメンだ。

 だから、斗貴子さんが死ぬ時がオレが死ぬ時だ!!』

 

―斗貴子さんと一心同体を約束した記憶―

 

『オマエさ。』

 

『ん?』

 

『もし運良くヴィクター化を阻止出来たら。』

 

『たらってなんだよ。』

 

『出来たら錬金戦団の戦士に戻る気か。

 一度自分を殺そうとした者達と本当に共に戦えると思っているのか?』

 

『・・・・・・・少なくとも・・・。

 同じ気持ちを持っている人達とは戦える。

 守りたいモノが同じならきっと必ず戦友になれる!』

 

―剛太とほんの少しだけ解り合えた記憶―

 

『答えは変わらない。

 俺はカズキを葬りヴィクターを斃す。

 戦士長キャプテンブラボーの任務を果たす。

 果たした後、部下殺しの罪人【防人 衛】として自分自身に始末をつける。』

 

『!』

 

『お前一人に死を押しつけたりはしない。』

 

『それって・・・』

 

『まさか・・・・。』

 

『だからカズキ。

 今一度ここで問う。

 命を・・・諦めてくれないか?』

 

『オレだけじゃなくてブラボーまで死ぬなんて言うなら。

 だったら尚更諦められるか!!

 キャプテンブラボー!

 オレはアンタに勝つ!!』

 

大事な存在を死守せんとする強い意志・・・・・・

 

『勝ってアンタを死なせはしない!!』

 

―ブラボーとお互いの信念をかけて戦った記憶―

 

『ブラボーこれは?』

 

『戦士長!?』

 

『お前達には随分と辛い目に遭わせてしまったな。』

 

『ブラボー!』

 

『戦士長!』

 

『すまなかった。

 許してくれ。

 斗貴子。(俺の過去の希望と・・・)

 カズキ。(そして未来の希望・・・)

 生きろよ。』

 

―火渡から命をがけで護ってくれたブラボーの記憶―

 

『つまり仮面の男は二人一組で。

 この奥に、本人と言うべきもう一人が・・・・。』

 

『初めまして。

 私が黒い核鉄の開発者・・・ヴィクターの妻アレキサンドリア。

 そして、その子は私達の娘ヴィクトリアです。』 

 

―ヴィクターの過去と黒い核鉄の秘密を知った記憶―

 

『黒い核鉄の力を全て無効化する白い核鉄!!

 黒い核鉄の力を-とするのならこの白い核鉄の力は+。

 二つの力を一つに合わせれば力は相殺し合い0となる!!』

 

『これを使えばヴィクターの問題も。』

 

『カズキンのコトも全て解決!』

 

『斗貴子さん?』

 

『良かった・・・。

 本当に良かった・・・・・・。』

 

『答えろのーみそ。

 これは一体、何を基盤にして開発した?』

 

『キミは本当に察しがいいわね。

 冷徹で残酷な程に・・・・・・。

 冊子の通り使ったのは試作型と同じ黒い核鉄。

 三つのうちの最後の一つ黒い核鉄の”Ⅱ”。』

 

『今すぐ一から・・・黒い核鉄の精製から始めてもう一つ造るまでにどれ程かかる?』

 

『黒い核鉄の製法はもう100年前に失われてるの。

 この老いた脳から100%再現するのは残念だけどほぼ不可能・・・。

 つまり。

 二人の”ヴィクター”に対して白い核鉄は一つ!

 元の人間に戻れるのはヴィクターか武藤カズキのどちらか一人!!』

 

―ヴィクターと自分のどちらを人間に戻すか選択を余儀なくされた記憶―

 

『どっちを選ぶか決まったか?』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・。』

 

『そうか、なら今のうち一つだけ言っておく。

 お前がどっちを選ぶにしろ。

 絶対に先輩に辛い想いをさせないと誓うなら。

 俺はいくらでもお前の力になってやる。』

 

『!』

 

『守りたい者が一緒なら俺達は戦友だ。』

 

―剛太と解り合った記憶―

 

『お前・・・白い核鉄をもう一つ作る気か?』

 

『俺の目的は!

 「人間・武藤カズキを蝶・サイコーの俺が斃す」!!

 そのためには白い核鉄が必要不可欠!!!』

 

『でも、アレクさんはもう作るコトは出来ないって・・・。』

 

『フン!

 俺は人間だった頃会う医者全てに余命幾許と宣告されて来た。

 だが今ではこの通りもうビンビン!

 選択肢なんてのは他人に与えられるのではなく自ら作り出していくものだ!

 武藤お前がどの様に決めようと俺はお前との決着を諦めない!』

 

―蝶野が決着を諦めていなかった記憶―

 

『決まったよ斗貴子さん。

 (守りたい・・・・・・。)

 でも・・・まだ少し勇気が足りない。』

 

『そうか・・・。

 それなら足りない分は私から補え。』

 

『ウン。』

 

『いつかの夜に言った通りキミが死ぬ時が私が死ぬ時。

 キミと私は一心同体だ・・・・・・。』

 

―斗貴子さんと一心同体を誓った記憶―

 

『武藤!

 先輩!!』

 

『『!!』』

 

『また任務?』

 

『こんな急に・・・。

 でも仕方ないっか。

 お兄ちゃんは”みんなの味方”だもんね。』

 

『まひろちゃん・・・。』

 

『時間がありません、お早く!』

 

『まひろ。

 今度は少し長いお別れになるけど。

 必ず帰ってくるから心配するな。』

 

―まひろに別れを告げた記憶―

 

『来るぞカズキ!

 手を放すな!

 キミと私は一心同体キミが死ぬ時が私が死ぬ時だ!』

 

『・・・・・・・・。』

 

『え?』

 

『ゴメン斗貴子さん。

 その約束守れない。

 本当にゴメン。』

 

『カズキッ!!!』

 

『武藤ォ!』

 

『武藤カズキィィィッ!!』

 

『うおおおおおお!!

 エネルギー・・・全開!!!!』

 

―誓いを破った記憶―

 

『フェイタルアトラクションの特性は俺自身の体には直接作用しない。

 いや・・・それ以前に二人分の重量を打ち上げるエネルギーは残っていない。

 行け。

 お前が守った者達がお前の帰りを待っている。』

 

『ダメだ!

 オマエも来るんだ!

 ヴィクトリアが待っている!!

 もう戦う意志がないならヴィクター、共に生きる道を新しく探そう!!』

 

『・・・・・・・どうなっても知らんぞ。

 (同じが如き境遇の下・・・・。

 絶望にしがみついた男と・・・。

 希望を手放さなかった男・・・。

 ”絶望”が”希望”に敵うはずなどない・・・・・・・。)』

 

―ヴィクターと月を脱出した記憶―

 

『カズキ!!』

 

『斗貴子さん!!』

 

―キミが死ぬ時が私が死ぬ時―

 

―いや・・・キミと一緒に生きていく― 

 

―もう離れない―

 

 

 

 

 

―今度こそキミと私は一心同体だ!!―

 

 

 

 

―斗貴子さんと共に生きていくことを誓った記憶―

 

『・・・蝶野。

 オマエまだ人を喰いたいとか。

 この世界を燃やし尽くそうとか思っているのか?』

 

『!』

 

(・・・食人衝動がないって聞いていたけど、どうやら本当みたいね。)

 

(主の望みはただ一つ。

 武藤カズキとの決着。)

 

『・・・蝶野。

 オレはオマエを二度も殺したくない。

 これがオレが選ぶオマエとの決着だ。

 決着だ。

 命のやりとりはもうここまでに。

 命を甦らせる武装錬金があったらと思うけど。

 やっぱりそんなのないから。

 死んだ命をしっかり弔ってこれで全部終わりにしよう。』

 

『・・・以前にも増して大層な偽善者振りだな。』

 

『いいよ、それで。

 オマエを殺すよりはずっといい。

 蝶野、オマエの名前はオレがずっと覚えている。

 オマエの正体もずっとずっと覚えている。

 だから、新しい名前と命で新しい世界を生きてくれ。』

 

―蝶野功爵と決着をつけた記憶― 

 

『カズキ・・・・・。』

 

『斗貴子さん・・・・・。

 もしかして・・・緊張してる?』

 

『あ、当たり前だ。

 私は初めてなんだ。

 それに・・・キミを満足させられるか不安なんだ・・・・・。』

 

『斗貴子さん・・・・・。

 オレも初めてだし不安もあるよ。』

 

『え?』

 

『斗貴子さん魅力的だから・・・やさしく出来る自信がない。

 もしかしたら痛い思いだけさせて終わってしまいそうで不安だよ。』

 

『カズキ・・・・。

 ・・・・私を愛してくれ。

 求めてくれ。

 ただそれだけで私は・・・。』

 

『斗貴子さん・・・・・。』

 

―初めて斗貴子さんと肌を重ねた記憶―

 

『うおおおおお・・・・・。』

 

『もう、お兄ちゃん少しは落ち着きなよ!』

 

『けど・・・』

 

『戦団の医療チームを信じろ。

 お前が慌てたところで事態は変わらんぞ。』

 

『そうだけどさ・・・・・・。』

 

『全く目の前をウロチョロと鬱陶しい。』

 

『いや、何でお前は平然とこの場に居るんだよ!?

 此処は仮にも戦団の施設だぞ!?』

 

『なに宿敵の男に子供が出来るんだ。

 祝いにこの俺が蝶サイコーの花火を揚げてやろうと思ってな。』

 

『病院で火薬なんて使うな!!』

 

おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・・

 

『!』

 

『おめでとうございます!

 元気な男の子です!』

 

『カズキ行ってこい。』

 

『ウン!』

 

―ソウヤが産まれた記憶―

 

『照星さんが引退・・・・。

 で、次の大戦士長は俺か・・・・・。』

 

『ま、オマエが次のトップなら誰も文句は言わねぇだろ。』

 

『おめでとう防人君。』

 

『柄じゃないんだがな。』

 

『なぁ、ブラボー。』

 

『何だ?カズキ。』

 

『これを機に名前戻したらどうかな。』

 

『『『!?』』』

 

『・・・・カズキ。

 それは無理だ。

 お前も知っているだろ。

 この名前に籠められた意味は・・・。』

 

『わかってる。

 でもブラボーは再殺任務でキャプテンを放棄してまでオレの味方になってくれた。

 だから、ブラボーもう無理をしないでくれ。』

 

『だが・・・』

 

『ブラボーの名はオレが引き継ぐよ。』

 

『ダメだ!!

 それにお前の信念は・・・』

 

『ブラボーの信念とオレの信念が違うことは理解してるよ。

 だけどオレは多くの人を大切な人達を守りたくて錬金の戦士になったんだ。

 だからブラボーが無理をしてるなら見過ごせない。』

 

『カズキ・・・・・・。』

 

『オマエが防人の覚悟を背負う気か?』

 

『オレの性格や信念じゃブラボーみたいなキャプテンにはなれない。

 だから、オレは救える命は全て拾う。

 そんなブラボーを目指すよ。

 ブラボーが嘗て目指した戦士にオレはなるよ。』

 

『救える命を全て救うか。

 防人君がキャプテンなら武藤君は守護者。

 ガーディアンね。』

 

『ガーディアン・ブラボーか。』

 

―ブラボーが防人衛に戻りオレがブラボーの名を引き継いだ記憶―

 

『キミは昔から無理ばかりするな。』

 

『ゴメン。』

 

『ゴメンじゃない!!

 こんな・・・ボロボロになって・・・・傷付いて・・・・。

 ・・・・人間ですらなくなって・・・・・。』

 

『・・・・・・・。』 

 

妊娠とその後の子育ての為に戦えなくなった斗貴子さんの分もオレは戦った。

結果、度重なる戦闘による負傷の高速回復とヴィクター化でオレは簡単に死ねない不老不死になってしまった。

 

―人間を捨ててしまった記憶―

 

『突然ですが新しく家族が増えます!!

 さぁ、こっちにおいで。』

 

『・・・・・智依です・・・・よろしく・・お願いします。』

 

―ホムンクルスに孤児院を襲われ唯一人生き残った少女【智依】を家族として迎え入れた記憶―

 

『父さん。母さん。』

 

『どうしたソウヤ?』

 

『何か相談事か?』

 

『オレ・・・錬金の戦士になりたい!』

 

『『ぶっ?!』』

 

『ソウヤ・・・・・錬金の戦士はなりたいからなるて言うほど簡単なもんじゃないんだぞ。』

 

『大丈夫!

 パピヨンの所で基礎訓練とかは受けてるから!』

 

『あの変態は人の息子に何してくれてるんだ!?』

 

『・・・・・ソウヤ。

 錬金の戦士それも戦闘部隊だよな。

 お前が言ってるのは。』

 

『ウン。』

 

『戦闘部隊がどれだけ危険かも知ってるよな?』

 

コクリ

 

『お前はまだ子供だ。

 この先、やりたい事やなりたいものと沢山出会うと思う。

 その可能性を潰してまで何で錬金の戦士になりたいんだ?』

 

『・・・・父さん。

 智依は・・・ホムンクルスの被害者なんだよね?』

 

『!?

 ・・・・どこで知った?』

 

『パピヨンから聞いた。』

 

『はぁ~、アイツは・・・・。』

 

『アイツが此処に来てもう6年以上経つけど今だに襲われた時の事で苦しんでるみたいなんだ。

 時々アイツの部屋から聞こえるんだ物凄く魘されてる声が・・・・・。』

 

『・・・・・・・。』

 

『オレは・・・・妹を・・・智依を守りたい。

 オレの大切な人達にも智依の様な辛い目にあって欲しくない。

 だからオレは大切な人達を守れる力が欲しい!』

 

『・・・・・わかった。』

 

『カズキ!?』

 

『ただし!

 戦士候補にするのは中学を卒業してからだ。

 いいな?』

 

『!

 ああ!!』

 

 

 

 

 

 

『何で止めなかったんだ?』

 

『昔の自分と重なったからかな。』

 

『昔の?

 ああ、そういえばキミはそうだったな。

 妹と友達を守りたくて平穏な日常を捨てて戦士になったんだったな。』

 

『本当はその平穏な日常を息子に捨てて欲しくないから止めるべきなんだけどね。

 アイツの理由を聞いたらとてもじゃないけど止められなかった。』

 

『・・・・なるからには心身ともに強くなってもらわないとな。』

 

『大丈夫。

 強くなるよアイツは。』

 

―ソウヤが錬金の戦士を目指し始めた記憶―

 

『ブラボーバックブリーカー!!』

 

『みゃぁぁぁぁぁぁ!??』

 

『もらった!!』

 

『甘い!

 ブラボー背負い投げ!!』

 

『ぐはっ!!』

 

『よし、柔軟終わり。』

 

『毎回思うんだけどコレは絶対柔軟じゃない気がする・・・・・。』

 

―ソウヤと碓氷を鍛えた記憶―

 

『父さん、母さん。』

 

『どうした?』

 

『実は、今付き合ってる人を紹介したいんだけど・・・・・。』

 

『・・・・・それは、智依のことか?』

 

『!?

 なんでそれを!?』

 

『あのなぁ、オマエらの親何年やってると思ってんだ・・・・。

 だいたい、智依が壁の後ろに隠れてる時点で怪しいだろ。』

 

『・・・・気付いてたんだ。』

 

『伊達に戦士長を名乗ちゃいないさ。』

 

『もしかして母さんもオレ達の事を?』

 

『カズキが気付いてるんだ。

 私が気付かないはずないだろ。』

 

『あれ?

 斗貴子さん。

 今さらっと酷いこと言わなかった?』

 

『それで、私達に付き合ってる事を話してお前達はどうしたいんだ?』

 

『オレ達が付き合う事を二人に認めて欲しいんだ。』

 

『別に構わないが。』

 

『『・・・・・・・・え?』』

 

『カズキなにか問題あるか?』

 

『別にないよ。』

 

『えっと・・・・お母さん達なんか軽すぎません?』

 

『別に子供の恋人ごっこに口を出すほど私達も暇じゃないだけだ。』

 

『ごっこ・・・・?

 違う!!

 オレ達は本気で!!』

 

『落ち着けソウヤ。』

 

『でも、父さん!』

 

『本気か・・・・。

 なら、お前達はこれからの人生を共に歩んでいく覚悟があるというのか?』

 

『共に歩む覚悟・・・・。』

 

『そうだ。

 言ってしまえば結婚だな。

 確かにお前達は血は繋がってない。

 法律的に何の問題なく結婚出来る。

 だが、世間から見ればお前達は兄妹だ。

 その意味は解るな?』

 

『『・・・・・・・・。』』

 

『世間はきっとお前達を良い目では見ないだろう。

 そして、それは母さんと父さんにも及ぶだろう。

 当然だ。

 恋人同士まで発展した兄妹、それを容認した両親。

 私達は世間でそう見られるだろうな。』

 

『別にオレ達の事は構わない。

 子供の幸せの為なら悪評くらいなんて事ないさ。 

 でも、もし少しでも辛いと思うならやめるんだ。』

 

『兄さん・・・・。』

 

『・・・・オレは智依を守りたくて戦士になった。

 それは兄としてもう妹に辛い思いをして欲しくなかったから。

 でも今は違う!

 オレは智依を一人の女性として守りたい!幸せにしたい!

 父さん達に迷惑を掛けるかもしれない!

 それでも、オレは智依と共に生きていく覚悟はある!!!』

 

『私も一人の女として兄さんを・・・ソウヤを支えていく覚悟は出来てます!!!』

 

『・・・・・・・。

 そうか。

 なら、もう私達から言うことはない。』

 

『しっかり支え合えよ。』

 

―ソウヤ達の関係を認めた記憶―

 

『武藤、話は聞いたぞ。

 あの二人の仲を認めたそうだな。』

 

『蝶野、アイツ等の関係知ってたのか?』

 

『お前の娘が桜花に相談しているの偶然聞いただけだ。』

 

『なるほど。

 ・・・・ん?

 オマエと桜花先輩がいる所っていったら地下ラボだよな。

 なんでそんな所に智依のやつが居るんだ?』

 

『なんだ知らなかったのか?

 去年くらいから娘の方もラボで訓練を受けてるぞ。』

 

『はぁ、アイツもか・・・・・。』

 

『当然だな。

 お前はともかくブチ撒け女は絶対反対するだろうからな。』

 

『オレもアイツが戦士になるのは反対だ。

 アイツのトラウマはオマエも知っていたはずだ。

 何で止めなかったんだ?』

 

『「兄さんを支える為には兄さんと同じ立場にならないといけない。

  過去の辛い記憶なんかで足踏みなどしてられない。」だそうだ。

 それを聞いた桜花も思うところがあったのだろう。

 あっさり訓練の許可してたな。』

 

『そんなことが・・・・・。』

 

『ブチ撒け女と同じ境遇でここまで違うとはな。

 母親と娘の心の純粋差がはっきりと解る。』

 

―智依の成長を聞かされた記憶―

 

『現在49敗中か・・・・。

 このままでは結婚まで半世紀過ぎそうだな。

 一時はこの蝶天才の俺に弟子入りしたくせに随分と無様な結果だな。』

 

『うるせぇよ!!』

 

『ならさっさと勝て。

 手加減してもらってる上に二人がかりで勝てんなど無様でなくて何なんだ?』

 

『智依ちゃん。

 しっかりね。』

 

『はい、桜花先生!』

 

『それじゃあ、確認するぞ。

 カズキ対ソウヤ・智依の1対2。

 カズキを戦闘不能または降参させれば勝利。

 時間切れ戦闘不能になったら敗北。

 勝ったら二人の結婚を認める。

 以上でいいな?』

 

『問題ないよ。

 ソウヤ、智依。

 全力でかかってこい。』

 

『今日こそ勝つ!!』

 

―二人の結婚を賭けて戦った記憶―

 

『大戦士長防人衛の名の下。

 戦士長ガーディアン・ブラボーを次期大戦士長に任命する。』

 

『謹んで拝命いたします。』

 

『カズキ・・・戦団を頼んだぞ。』

 

『任せてくれ。

 ブラボーもゆっくりと休んでくれ。

 そして、お疲れ様。』

 

―ブラボーが引退しオレが大戦士長になった記憶―

 

『斗貴子さん・・・・・。』

 

『カズキ・・・今更だが本当にすまなかった。

 キミを戦いに巻き込み・・・・人間さえやめさせてしまった。』

 

『戦いの世界に入ったのも人間を捨てたのも自分の意志だ。

 斗貴子さんの所為じゃないよ。

 それに後悔もしてない。

 あの出来事のお陰でオレは斗貴子さんにブラボーや剛太に出会い。

 斗貴子さんと結ばれ。

 ソウヤが産まれて。

 智依を引き取り。

 その二人が結ばれ孫まで出来た。

 オレの人生は間違いなく幸せだよ。』

 

『そうか・・・・私も幸せだった。』

 

『母さん・・・・。』

 

『お義母さん・・・・・。』

 

『二人共・・・何時までも仲良くな・・・・。』

 

『ああ。』

 

『はい・・・・。』

 

『オレも今更だな・・・・・。』

 

『何・・・がだ・・・・?』

 

『今になって最終決戦の時に置いてかれた斗貴子さんの気持ちが解った。』

 

『辛いだろ。』

 

『ああ・・・辛い。

 身を引き裂かれるみたいだ。』

 

『そうか。

 私も・・・置いていった・・・・カズキの気持ちが・・・解った。

 辛くて・・・・そして・・悔しいな。』

 

『そっか。』

 

『カズキ、どうか私に囚われないでくれ。

 私は・・・・幸せだった・・・・。

 だから・・・キミも・・・新しい・・・相手と新しい人生を・・・・生きてくれ。』

 

『何言ってるんだよ・・・・斗貴子さん。

 オレの・・・・無茶に付き合ってくれるのは斗貴子さんだけだよ。』 

 

『はは・・・それもそうだな・・・・・。

 カズキ・・・なんだか・・・眠くなってきたな・・・・・。』

 

『!

 そっか・・・寝るまで・・・側にいるから。』

 

『ありがとう・・・・・。

 ・・・カズキの・・・手は・・・・・暖いな・・・・。』

 

『そう?』

 

『ああ・・・・まるで・・・太陽・・・・みたい・・・・・だ。』

 

『斗貴子さん?』

 

『・・・・・・・。』

 

『おやすみ・・・・斗貴子さん。

 そして・・・ありがとう・・・・・。』

 

―斗貴子さんを喪った記憶―

 

『ソウヤッ!!』

 

『ゴメン・・・・父さん。

 油断しちまった・・・・・。』

 

『そんな事はいい!!

 今核鉄で治療する!!!』

 

『なんとか・・・・超・蝶・成体は破壊した。

 ・・・碓氷は・・・・取り・・・逃がしたけど・・・・手傷は・・・ゲホッ・・負わせた。』

 

『わかった!後で聞くから喋るな!!

 (血は止まったけど明らかに血を流しすぎてる・・・このままじゃ・・・・・。)』

 

『なぁ・・・・父さん・・・・・。』

 

『黙ってろ。』

 

『自分の体の・・・・事くらいは・・・解っているつもりだ。』

 

『諦めるな!

 智依達がオマエの帰りを待ってるんだぞ!!

 (何か・・・・何か手があるはずだ!!・・・・・・あった。)』

 

『父さん・・・・何を・・・・・する気・・・・・・だ?』

 

『オレの核鉄をオマエに譲渡する。

 黒い核鉄の治癒力とヴィクター化してエネルギードレインすれば大丈夫だ。

 その後は蝶野を頼れ。

 出力制御をしてくれる筈だ。

 (斗貴子さん・・・・オレももうすぐそっちに行くよ。)』

 

『ダメだ・・・・受け取れないよ。

 そんな事を・・・・すれ・・・ば父さんが・・・・。』

 

『オレはもう十分生きたよ。

 オレの命でオマエが助かるんだ。

 悔いなんてあるはずがない。』

 

『・・・・・ダメだ。

 受け取れない。』

 

『何でだ!?

 オマエは智依や息子を置き去りにする気か!?』

 

『父さん・・・・・いや大戦士長・・・・・。

 戦団のトップが・・・・・・戦士長・・・如きに命を・・・・賭けて良い訳が・・・ありません。』

 

『ッ!!』

 

『それに・・・オレは皆を・・・・大切な人達を守りたくて・・・戦士になった。

 だから・・・・仲間を・・・ましてや父親の・・・命を奪うようなことは・・・・・したくない。』

 

 

 

 

 

(勝機を捨てる気か?

 私のコトいいんだ覚悟は出来ている!)

 

(俺もかまわねぇよ。

 斗貴子先輩の望みだ。)

 

(オレはヤバくなったら自動解除になるからノープログレム。)

 

(ゴメン。

 でも、オレは嫌なんだ。

 オレは多くの人をみんなを守りたい、そう思って錬金の戦士になったんだ。

 だから、この場で負けて終わろうと仲間を傷つける戦いはしたくない。

 信念なんだ。)

 

 

 

 

 

 

『頼む・・・・父さん。

 この信念・・・・だけは・・・最期まで貫かせて・・・・・くれ。』

 

『ああ・・・・わかっ・・た。』

 

『ありが・・・・とう・・・・・。

 父さん・・・・・オレは・・・・・幸せ・・・・・だったよ。

 智・・・・・依達に・・・・すまないって・・・・・・・・・・。』

 

『ソウヤ?』

 

『・・・・・・・・・・・。』

 

『ソウヤ!!

 おい!!ソウヤッ!!!

 ああ・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

―ソウヤを救えなかった記憶―

 

楽しかった事。

 

嬉しかった事。

 

悲しかった事。

 

辛かった事。

 

全てが忘れてはならない大切な記憶だ。

 

視界が晴れ始める。

 

どうやら現実世界に戻るようだ。

 

オレはどうなったのだろうか・・・・・?




[次回予告]
何もかも知らない世界。
情報を得る為に巨大な建物に入っていく。
そこで、オレは必死に妹さんを探す少女と出会い妹さんを探すのに協力することにした。
しかし、突然の爆発音と共に事態は急変していくのだった。
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【燃える空港】


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第3話 燃える空港

長らくお待たせして申し訳ありません。
仕事が始まり新入社員として働き出したのは良かったのですが如何せん色々と上手くいかず現在軽い鬱病でございます。
まぁ、人によっては鬱病はただの甘えとおっしゃる方もいますが。
斯く言う私もそう思っていた一人ですので厳しい感想は甘んじて受けます。
ですがつい最近感想を送ってくださったドラパン様やすし好き様のようにこんな私の作品を待ってくださる方がいるのに無視なんて出来ません。
なので過去分だけでも少しづつ更新していこうと思います。
最新話はまだ4500文字程度なのでもう少し書いてから投稿したいと思います。
軟弱な若輩者ですが今後とも宜しくお願いします。


???

 

~Kazuki side~

ぶくっ・・・・ぶくっ・・・・

 

感じるのは不思議な浮遊感とゆっくりと沈んでいく感覚。

オレはぼんやりと目を開ける。

 

 

ただただ青く輝く光景。

その光景はなんだか美しく思えた。

次第に感覚が戻り始め冷たいと感じ始めた。

そして、オレの意識は完全に覚醒した。

 

此処は・・・・・・水中!??

 

そう意識すると次に苦しいという感覚が襲った。

長く沈んでたのか肺に殆ど酸素が残っていない様だ。

苦しい・・・・

オレは酸素を求めて必死に水面に向かう。

そして・・・

 

「ぷはっ!・・・ハァ・・・ハァ・・・・。」

 

大きく息を吸い足りない酸素を肺に取り込んでいく。

暫くして落ち着いたオレは顔に付いてる水滴を拭った。

拭った時に水滴が唇に触れて塩気を感じた。

どうやら此処は海らしい。

 

「いつまでも海に浸かってる訳にもいかないか・・・・。

 とりあえず近くに何があるか確認するか。」

 

オレは浮遊して空から辺りを見渡す。

すると大きな建物を発見した。

飛行機が着陸、離陸をしているところ見る限り空港の様だ。

 

「空港か・・・・。

 情報収集には打って付けか。」

 

そう言ってオレは空港に向かって飛んでいった。

 

空港

 

空港付近の人目のつかない場所で着地する。

態々人目のつかない場所を選んだのには理由がある。

それは此処が銀成市でない可能性。

変人・奇人が集まる町で有名な銀成市ならともかく。

日本なのかも判らない場所で飛んでる所を見られたらパニックどころの騒ぎではない。

それに碓氷の言った通りなら此処がオレ達が住んでいた所とは違う異世界の可能性もある。

色々と考えてるうちに入り口に到着。

建物を見上げると空港の名前が大きく掲げられていた。

 

「ミッドチルダ臨海第8空港・・・・・。

 ミッドチルダ?」

 

戦団関係で色々と他国を飛び回る事が多かったがミッドチルダなどという地名は聞いたこともない。

 

「まぁ、中に入らないことには始まらないか。」

 

情報を求めてオレは建物に入っていった。

 

中に入ってまず現在地の確認に向かった。

空港内にある地図帳を開き場所を確認する。

それを見て唖然とした。

 

「どうなってるんだこれ・・・・。

 他の国が存在しない・・・この世界は統一国家なのか?」

 

数枚ページを捲り地図帳を元の位置に戻す。

 

「と、とりあえず本屋で情報集めるか。」

 

本当なら現地の人とかに聞くのがベストだが言葉が通じるかわからない。

そもそも、なんて説明すればいいのか纏まらない。

(次元の狭間に飛び込んだら此処にいました。此処はどこでしょう?)

・・・・・ダメだ、下手したら病院に連れてかれそうだ。

幸い文字のほうは英語に似ていた為なんとなくだが読める。

しばらく探索していると幾つか気付いたことがある。

まずは話している言葉。

先程から結構な数の人とすれ違っているが話している言葉が殆ど日本語だった。

どうやらこの世界の主要言語は日本語の様だ。

もう一つは使われてる技術。

その最たる例がすれ違った一般人達が使っているアクセサリーの様な電子端末。

あのレベルの技術を一般に普及させてる所を見るかぎりこの世界の技術力はかなり高いようだ。

そうこう考えてるうちにかなり大きな本屋を発見した。

中に入り資料の欄のプレートを見つけ物色を始める。

資料の棚を見てオレは本に手を伸ばすのを止めた。

原因は資料の棚の大半を占めている単語。

 

[魔法]

 

再度、棚のプレートを確認する。

・・・・・やはり資料で間違いない。

オレは[ミッドチルダ式魔法入門編]を手に取った。

 

数時間後

 

あれから本屋を出て今は待ち合い席に座って休息をとっている。

数時間に亘る立ち読みで店員から物凄く嫌な顔をされたがこちらはそれどころではない。

 

「魔法、デバイス、管理世界に時空管理局・・・・完全に異世界だな・・・・。」

これまで調べた情報で多く出ていた単語を呟く。

そして、調べてる中で見つけた情報。

 

【次元漂流者】

 

どうやらオレはこれに該当するみたいだ。

「しかし、魔法に時空世界ね・・・まるでファンタジーだな。」

そう呟く。

だが、ふっと自分の事を振り返ってみる。

錬金術の結晶の核鉄。

それも錬金術の最終目的【賢者の石】の試作品【黒い核鉄】を命に替えた不老不死。

ある意味、存在がファンタジーな自分の事を思い出すと思わず苦笑いしてしまった。

 

「さって、これからどうしたようか・・・・・。」

 

一応、紙幣は持ってるがこの世界で使えるかは判らない。

そうなると自給自足になるのだが・・・・。

この近くで狩猟とかしていい所ってあるだろうか?

 

「悩んでも仕方ないか。

 とりあえず移動しつつ聞き込みをしよう。」

 

そう言って立ち上がると・・・

 

「あの、すみません!」

 

後ろから声がかかった。

振り向くと其処には薄紫のリボンをした青紫色の髪の少女がいた。

 

~Kazuki side end~

 

カズキは少女の姿を確認すると屈んで少女の目線に合わせる。

 

「ん?なんだい?」

 

「あの、ショートの青髪で薄いピンクのスカートを履いた

 茶色いポーチを持ってる10歳くらいの女の子を見ませんでしたか?」

 

カズキは顎に手をあてすれ違った人達を思い出していく。

暫く考えてからもう一度少女と向かい合う。

 

「いや、見てないな。」

 

「そう・・・・ですか・・・。」

 

少女は見るからに落ち込んでしまった。

 

「えっと・・・お友達でも探してるのかな?」

 

「いえ、妹です。

 少し目を離してるうちにはぐれてしまったみたいで。」

 

「そっか・・・・。」

 

「あの、ありがとうございました。」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「はい?」

 

走り去ろうとする少女をカズキは引き止めた。

 

「よかったら妹さん探すの手伝うよ。」

 

「ええっ!?」

 

突然の提案に少女は驚いた。

 

「いいんですか?」

 

「構わないよ。

 ちょうど、暇を持て余してたし。」

 

「ありがとうございます!」

 

「ところで名前を教えてくれないかな?」

 

「ギンガ、ギンガ・ナカジマです。」

 

「ギンガか・・・・。

 いい名前だな。ブラボーだ!」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

少女ギンガは少し恥ずかしそうに礼を言った。

 

「あの、アナタは?」

 

「ああ、すまないオレは武と・・・。」

 

カズキは名前を言おうとしたが急に黙る。

そんなカズキを見てギンガも不思議そうな顔をしている。

やがてカズキは再び口を開いた。

 

「オレの名前はブラボー。

 ガーディアン・ブラボーだ。」

 

互いの紹介を終え二人は少女の搜索を開始した。

 

~Ginga side~

 

ブラボーさんと妹の【スバル】を探し始めて30分くらい経った。

いったい何処に行っちゃたんだろう。

そういえばブラボーさん何で手伝ってくれるんだろう?

 

「此処には居ないみたいだ。」

 

「そうですか。」

 

聞いてみようかな。

 

「どうかしたかい?」

 

「え?」

 

「何か言いたそうな顔してるぞ。」

 

うわぁ、そんなに解りやすい顔してたの!?

今更、誤魔化せないし。

ええい!ままよ!!

 

「あの・・・ブラボーさんは何でスバルを探すのに協力してくれるんですか?」

 

「そうだな・・・理由は二つあるかな。

 一つは、協力する時に言ったけど暇を持て余してたから。」

 

「もう一つは?」

 

「キミが本当に妹さんが大切そうだったからかな。」

 

・・・・・?

どういう事だろう?

ブラボーさんは私が悩んでいるとすぐに説明してくれた。

 

「ギンガ。

 キミはオレの所に来る前にかなり探したんじゃないか?

 それも走りで。」

 

「ええ!?何でわかったんですか!??」

 

確かにそれなりに走ったけど私達は戦闘機人。

それに陸軍の士官学校に通ってるから普通よりスタミナもある。

ちょっとやそっとじゃ疲れないのに。

 

「左腕の裾に汗を拭った痕もあった。

 あとは、キミの目かな。

 どこか希望と不安の入り混じった目をしていた。

 それで、解ったんだ。

 キミは本当に妹さん、スバルちゃんが大切なんだなって。」

 

す、凄い。

観察眼といい判断能力といい。

この人何者なんだろう?

私が驚いているとブラボーさんが急に慌てだした。

どうしたんだろう?

 

「ご、ごめん!

 仕事柄、相手の事を分析するのが癖になちゃってるんだ!

 そうだよな、女の子だもんな。

 見ず知らずの男にじろじろと見られて気分がいいわけないよな。

 本当にごめん!」

 

ああ、なるほど。

私が驚いて黙ってるものだから気分を害したと勘違いしちゃったんだ。

ふふ、なんだか可笑しい。

 

「大丈夫ですよ。

 気にしてません。」

 

「そ、そっか。

 よかった~。」

 

「ふふ、ところで理由の続きは?」

 

「続き?

 ああ、そうだったね。

 オレにも妹がいるんだ。

 だから、妹が心配な気持ちは良く解る。」

 

「へぇ~、ブラボーさんにも妹が。

 どんな方なんですか妹さんって?」

 

「そうだな・・・・。

 明るくって優しいヤツだな。

 そして誰とでも仲良くなろうとするヤツだよ。」

 

「誰とでも?」

 

「誰とでも。

 アイツの前じゃ不良、超人、宇宙人、未来人、奇人、変人、蝶人なんて関係ない。

 知り合ったなら仲良くなろうとするヤツだったよ。」

 

なんていうか凄い人だな色々と。

というか何故超人を二回言ったんだろう?

 

「スバルちゃんはどんな子なんだい?」

 

「スバルは・・・・。

 その逆ですね。

 内気で気弱で人見知りが激しくてよく私の後ろに隠れます。

 けど、人を傷つける様な事が苦手なとっても優しい自慢の妹です。」

 

「そっか。」

 

ブラボーさんは私の頭に手を置いて優しく撫でてきた。

 

「なら、早く見つけあげないとな。

 お姉ちゃん?」

 

「はい!」

 

気恥ずかしさで少し顔を赤くしながら私はしっかりと返事をした。

そういえばさっき仕事柄の癖って言ってたけど何やってるんだろ?

折角だから聞いてみようかな。

 

「あの、ブラボーさん。

 ブラボーさんてお仕事何をされてるんですか?」

 

「どうしたの急に?」

 

「さっき仕事柄の癖で相手を分析してしまうって言ってたじゃないですか。

 だからどんな事をしてるのかなと思いまして。」

 

「ん~、何て言えばいいかな。

(戦団の事を話せるわけないし・・・。)」

 

ブラボーさんなんか言い辛そうだな。

もしかして聞いちゃ不味かった?

 

「あの、もしかして聞いちゃ不味いですか?」

 

「いや、そんな事ないんだけど・・・・。

 そうだな、【困ってる人達の味方】かな。」

 

「困ってる人達の味方?

 あの、もしかして管理局員ですか?」

 

「いや正直言っちゃうとオレは俗に言う次元漂流者らしい。

 だからこの世界では無職なんだよね。」

 

「え・・・ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??」

 

「公共の場で大声出すのはあまり頂けないぞ。」

 

「はっ!」

 

ブラボーさんの言葉で我に帰る。

周りの人達が不思議そうな顔で私を見ている。

うう・・・恥ずかしい・・・・。

羞恥心で顔が熱くなる。

おそらく今の私の顔は真っ赤だろう。

それにしてもブラボーさんも人が悪すぎる。

まさかの次元漂流者。

そんな素振り全く見せなかったのに。

 

「落ち着いたかい?」

 

「はい・・・。

 ところで次元漂流者って本当ですか。」

 

「どうもそうみたいなんだよね。

 今日の昼近くにこの世界に跳ばされて来た。」

 

「その割には落ち着いてますね。」

 

「まぁ、心の整理する時間は十分あったしね。

 それにこの世界の言語はオレの世界の故郷の言葉と同じだし。

 使われてる字は英語って言う原語に近かったから情報収集は割と楽だったよ。」

 

「そうですか。

 そうだ、私達の父が管理局員なんです。

 もしかしたら何か力になれるかもしれません」

 

「いいのかい?」

 

「はい。

 スバルを探してもらってるお礼もしたいですし。」

 

「そうか、助かるよ。

 そうと決まれば早くスバルちゃんを見つけ・・・」

 

ブラボーさんが捜索の再開をしようとした瞬間。

 

 

 

 

 

ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッン!!!

 

 

 

 

 

凄まじい爆発音と共に空港全体が揺れた。

 

~Ginga side end~

 

「くっ!?

 一体何が起きた!?」

 

カズキは急いで近くの窓から状況を確認する。

するとエントランスホール近くの倉庫から火が上がってるのが確認できた。

それと同時に周りの一般人達が慌て始める。

 

「か、火事だぁぁぁぁ!!」

 

「スゲェ爆発だったぞ!?」

 

「ま。まさかテロ!??」

 

「に、逃げなきゃ!!」

 

「此処も安全かわかんねぇぞ!!!」

 

爆発という出来事に場は混乱する。

さらに誰かが言った言葉【テロ】。

この言葉に場の混乱は加速し外に向かって走り出そうとする人々。

この場には係員の声はまったく届いていなかった。

 

 

 

 

 

「静まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

再びホールが揺れた。

カズキの怒声によって。

 

「慌てた移動をするな!!

 この場で怪我をすればそれこそ死ぬ可能性が上がるぞ!!!

 全員その場で深呼吸して落ち着け!!!

 係員!!!」

 

「は、はい!!!」

 

カズキの怒声に上擦った声で係員は返事する。

 

「マニュアル通り彼等を避難させろ!

 速やかにだ!!」

 

「はい!!

 皆さん私について来て下さい!!!

 慌てないで速やかに避難します!!!」

 

落ち着きを取り戻した一般人達は係員の後について移動する。

カズキはギンガに駆け寄る。

 

「ギンガ!

 キミも彼らについて行って避難するんだ!」

 

「ブラボーさんは!?」

 

「オレはこのままエントランスホールに向かう。

 人命救助とスバルちゃんを探す。」

 

「私も行きます!!」

 

「ダメだ!!!

 危険過ぎる!!!」

 

「陸士の訓練校で訓練は受けてます!!!」

 

「バカヤロウ!!

 訓練と一緒にするな!!!!

 第一キミに何かあったらキミの父親にオレは何と言えばいい!??」

 

「わかってます!!

 それでも!!!」

 

ギンガは一呼吸あける。

そして、しっかりと自分の思いを言い放った。

 

「姉である私が逃げて誰が妹を助けるんですか!!!

 安心させてあげられるんですか!!!」

 

「・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

睨み合う二人。

やがて、カズキは大きな溜め息を吐く。

 

「わかった。

 ただしちゃんとついて来い。

 あと、指示に従うこと。

 いいな?」

 

「!?

 はい!!」

 

カズキはギンガの返事を聞くとポケットから核鉄を取り出す。

 

「特殊核鉄[SS]起動!!」

 

特殊核鉄が展開する。

銀色の粒子はカズキの頭、手、足に纏わりつき形を形成していく。

やがて帽子、グローブ、ブーツが完成した。

その姿にギンガは驚きの表情をするが無視する。

 

「いくぞ!」

 

「ッ、はい!!」

 

二人は火の海と化そうとしているエントランスホールに疾走する。




[次回予告]
苦しかった。
痛かった。
寂しかった。
無力なわたしはただただ泣き叫んだ。
そんなわたしを救ってくれたのは。
【優しい姉】と【純白の魔導師】そして【白銀の戦士】。
わたしはきっとこの光景うをずっと忘れない。
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【炎を越えて】


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第4話 炎を越えて

就活中の学生諸君に告げる!!
夢を捨てるな!!安易な気持ちで就職すれば待ってるのは精神の破滅だ!!!
~朱槍心の叫び・第83項~


6番・8番ゲート連絡通路

 

スバル・ナカジマ捜索から30分が経過しカズキ達は6番館の人達を無事全員避難させた。

現在は炎に包まれつつある8番館で作業をしていた。

 

「大分、火の手が回ってきたな。

 ギンガ、大丈夫か?」

 

「はい。

 一応、自分の周りに結界を張ってますんで。」

 

「魔法かぁ。

 実際に見ると興味が湧くな。」

 

「私はブラボーさんの力の方が気になります。

 デバイスに似てる気もするけど何か違う感じもしますし。」

 

ギンガはカズキの帽子を見ながら言った。

 

「まぁ、この力の事は他言無用で頼むよ。

 扱いが難しいから簡単に話せないんだ。」

 

「はぁ、わかりました。」

 

「それより、思ったより火の回りが速い。

 急がないと何の対策の無い人は体がもたな・・・・」

 

走りながら捜索をしていたカズキの足が急に止まった。

 

「どうしました?」

 

「今、声が聞こえた気がするんだけど。」

 

「声ですか?」

 

ギンガも立ち止まって耳を澄ます。

辺りには火の粉が爆ぜる音などが聞こえるだけ。

しかし・・・

 

「・・・け・・・・すけ・・さい・・・。」

 

「!?

 今のは!?」

 

「聞こえたか。

 場所は・・・・・上か!」

 

カズキ達は階段に向かって走り出す。

そして、上に向かって階段を上り始める。

しかし・・・

 

「っ!?

 危ない!!」

 

「キャ!??」

 

カズキはギンガを抱えて後ろに飛んだ。

次の瞬間、上から崩れた瓦礫で先程まで上っていた階段が埋まってしまった。

 

「階段が!??」

 

「別の階段は?」

 

「此処から反対斜線の位置です!

 でも、此処まで戻るのにかなりの時間が!」

 

「なら・・・」

 

カズキは拳を握り実を屈めて天井を見る。

 

「道を創るまでだ!!!

 昇天!ブラボアッパー!!!」

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??」

 

「きゃ!??なになに!???」

 

「きゃぁぁぁぁ!??」

 

カズキのジャンピングアッパーはものの見事に天井を破壊した。

あまりの出来事にギンガと助けを求めてた人達も驚愕の声を上げる。

 

「救護者を発見。

 ギンガ上って来い。」

 

「色々と無茶苦茶ですねブラボーさん・・・・・。」

 

カズキは下の階にいるギンガに手を差し出し引っ張り上げる。

 

「あなた達は?」

 

「アナタ達を助けに来ました。」

 

「管理局の方ですか?」

 

「その協力者といった所かな?」

 

「いや、私に聞かないでくださいよ。」

 

「まぁ、それは置いといて。

 脱出します。

 歩けますか?」

 

「わたし達は平気ですが・・・・。」

 

黒髪のショートの女性が金髪の髪を束ねた女性を見る。

 

「すみません。

 足を挫いてしまって。」

 

「見せて下さい。」

 

カズキは女性の足を見る。

女性の足首の部分が赤く腫れていた。

 

「この程度なら。」

 

特殊核鉄[VS]が収められているポーチを取り外す。

何故態々ポーチごと外したかには理由がある。

それは、核鉄の存在の隠蔽の為。

彼の潜入、変装術、裁縫の師【防人千歳(旧姓:楯山)】。

彼女は嘗てこれを怠った為に【赤胴島事件】の悲劇の原因を作った。

弟子の自分がそれを犯さない為の処置だった。

カズキは女性の足にポーチを押し当てる。

すると足の腫れがみるみる退いていった。

 

「どうですか?」

 

「い、痛くない!?

 動かせます!」

 

「ブラボーさん何なんですかそれ?」

 

「ん~、企業秘密ってことで。」

 

そう言って再びポーチを腰のベルトに取り付ける。

 

「よし、脱出だ。」

 

「でも、どうします?

 大分、火の手が回ってますから余り連れて動き回るのは危険なんじゃ?」

 

「彼女達を下の階まで下ろす。

 その後は壁に穴を開けて外に逃がす。」

 

「待ってください!

 さっきも天井が崩れたんですよ!

 これ以上迂闊に建物を破壊するのは危険です!!」

 

「だが、彼女達を放って置くわけにもいかない。

 ましてや、一緒に行動など危険過ぎる。」

 

「私に任せてください。」

 

そう言ってギンガは手持ちの簡易デバイスを取り出す。

そのまま女性達に手を翳して何かを呟く。

すると女性達の周りにドーム状の膜が形成された。

 

「これで暫くは持つ筈です。

 多分、管理局ももう動き始めてる筈ですから。」

 

「わかった。

 お嬢さん方、少しよろしいかな?」

 

「はい?」

 

「彼女の妹なんだが。

 ショートの青髪で薄いピンクのスカートを履いて。

 茶色いポーチを持ってる10歳くらいの女の子を見ましたか?」

 

「いいえ。」

 

「私もです。」

 

「わたしも見て無いです。」

 

全員首を横に振るう。

 

「わかりました。

 ギンガ移動するぞ。」

 

「はい。

 次は何処へ?」

 

カズキは空港内の地図を見る。

その後、炎の海を見て言った。

 

「エントランスホール中央部だ。」

 

彼等は獄炎の地獄へと捜索を開始する。

 

~Subaru side~

 

熱いよ・・・・。

 

「お父さん・・・・。」

 

苦しいよ・・・・。

 

「お姉ちゃん・・・・。」

 

逸れた姉を呼ぶ。

でも、返事は返ってこない。

 

ミシッ

 

「ふえっ?」

 

何かが軋む音が聞こえた。

瞬間・・・

 

「ふあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!??」

 

壁が爆発した。

小さいわたしは爆風で吹き飛ばされ床に叩きつけられる。

痛い。

でも、心配してくれる人はいない。

辺りには炎が爆ぜる音だけ。

痛さと寂しさで涙が零れ始める。

 

「痛いよ・・・・熱いよ・・・・。」

 

なんで・・・こんな事に・・・・・。

 

「こんなの嫌だよぉ・・・・。」

 

なんで・・・わたしばっかり・・・・・。

 

「帰りたいよぉ!」

 

ピシッ

 

何か聞こえた気がする。

でも、わたしの心はそれどころではない。

 

「助けて・・・。」

 

心が叫ぶ!

 

「誰か・・・助けて!!」

 

わたしをこの状況から助けて!!

 

ガシャン!!

 

わたしの前に大きな影が現れた。

わたしは何なのか気になって後ろを向いた。

すると・・・

 

 

 

 

 

大きな女神の石造がわたしに向かって倒れてきていた。

 

 

 

 

 

「ああっ!??」

 

わたしは迫る恐怖に眼をぎゅっと固く閉じた。

でも、こんな事は何の意味も無い。

きっと次の瞬間物凄い痛みと共にわたしは死んじゃうんだろう。

次の瞬間・・・

 

 

 

 

 

わたしが感じたのは誰かに抱えられた感覚だった。

 

 

 

 

 

わたしは恐る恐る眼を開く。

するとそこには。

私が立っていた場所から離れた位置からの光景だった。

わたしに倒れてくる筈だった石造は何かの魔法で止められていった。

確か・・・捕縛魔法のバインドだったはず。

それから、わたしは辺り見渡す。

そこには・・・

 

 

 

 

 

石造の近くで驚いた顔で此方を見ている【純白の魔導師】。

 

誰かの背中越しでわたしを心配そうな目で見ている【優しい姉】。

 

そして、わたしを護る様にしっかりと抱えている【白銀の戦士】だった。

 

~Subaru side end~

 

時間は彼らが現れる少し前まで遡る

 

「此処の火の回りは他とは段違いだな!」

 

「そうですね。

 火の付いてた倉庫にかなり近かったですしね。」

 

「それよりギンガ平気か?」

 

「大丈夫です。

 すみません。

 足手纏いになってしまって。」

 

現在ギンガはカズキの背中に負ぶさって移動中である。

原因は魔力不足。

人を見つける度にその周りに防壁を張り。

自分の周りには移動しつつ防壁を張る。

まだ、正規の管理局員にすらなれていない少女がこんな無茶をすれば当然の事である。

今は自分の回りに防壁を張るだけで精一杯の状況だ。

 

「気にしなくて良いよ。

 キミの力で多くの人の安全が確保された。

 寧ろ、誇っていいぞ。」

 

「・・・・はい。」

 

暫く進むと中央部の入り口付近に到着した。

中央部は予想通り火の海と化していた。

入り口前には消防隊員らしき人達がいた。

 

「ダメだ!

 ダメだ!!

 こっちじゃダメだ!!」

 

「この先に子供が取り残されてるんだ!

 何とかならないのか!?」

 

「さっき本局の魔導師が突入した!

 救助は彼女がしてくれる!!」

 

カズキは消防隊員達に近づいた。

 

「すまないがこれは一体どういう状況だ?」

 

「うおぉ!??

 何だぁ!?」

 

隊員達に驚かれた。

現在のカズキの格好は特殊核鉄[SS]を発動させてることで彼の師キャプテンブラボーとそっくりなのだ。

つまり全身を隠した怪しい奴。

驚かれて当然の結果だった。

 

「あ、アンタは?」

 

「見ての通り只の?一般人だ。」

 

「ぎ、ギンガ・ナカジマ。

 陸士候補生です。」

 

「この際、只のは置いておこう。

 何故、一般人がこんな所に!?

 それにナカジマって!?」

 

「ナカジマ三佐の娘さんか!?」

 

「今日の昼近くに次元漂流してうろうろしてる時に彼女と知り合った。

 で、妹を探してるとの事なので協力しているとこの災害。

 妹さんが逃げ遅れてないか確認の為に回っているところだ。」

 

「あの、妹を見ませんでしたか?

 10歳位のショートの青髪で薄いピンクのスカートを履いた女の子を?」

 

『っ!?』

 

ギンガの質問に隊員達は一瞬動揺した。

しかし、カズキはその一瞬を見逃さなかった。

 

「知っているみたいだな。

 彼女は今何処に?」

 

「・・・・・・・。」

 

隊員達は炎の海を見る。

やがて一番若い隊員がその重い口を開いた。

 

「この先に取り残されている。」

 

「何だと!?」

 

「スバル!!」

 

「オレ達の装備じゃこれ以上進むことが出来ねぇ。」

 

それを聞くとカズキは入り口の前に立つ。

 

「ギンガ、自分の周りに全力で防壁を張れ。

 此処を走り抜ける。」

 

「・・・・・・はい!」

 

『なっ!??』

 

隊員達は今度こそ声を上げて動揺した。

若い隊員が怒鳴るように言った。

 

「アンタ正気か!?

 中は火の海!!

 そんな所つっきたら火傷どころか最悪死ぬぞ!!」

 

「問題ない。

 このコートはこの程度の炎でどうにか出来る様な代物じゃない。」

 

「はぁ!?

 と、とにかくアンタは一般人!

 しかも次元漂流者!!

 此処はオレ達に任せてその子と一緒に避難しろ!

 それに中の子の救助は本局の魔導師がしてくれる!!」

 

「その本局の魔導師は絶対に彼女を救えるのか?」

 

「そ、それは・・・・。」

 

「キミもその仕事をしているなら解るだろ?

 この場所に【絶対】など存在しない。」

 

話は終わりだとばかりにカズキは走り出そうとする。

しかし、若き隊員の質問が彼の足を止める。

 

「何で?

 何でそこまでする!?

 アンタは今日此処に来たばかりの次元漂流者なんだろ!?

 何で平気で危険な場所に飛び込める!??」

 

「この先に救えるかもしれない命がある。

 理由はそれだけで十分だ。」

 

『・・・・・・・。』

 

隊員達はその言葉に呆然とした。

彼等は消防隊員。

危険な場所から助けを求める者を救うのが仕事だ。

だが、カズキは違う。

今日いきなり異世界に投げ出された次元漂流者。

つまり只の一般人。

普通ならこんな面倒な状況からさっさと立ち去るはずだ。

しかし、彼はこう言った。

救える命がある。

それだけで十分。

性別・立場・状況そんなものは関係ないと。

彼らにはそんなカズキが眩しく見えた。

 

「アンタ・・・・名前は?」

 

「ブラボー。

 ガーディアン・ブラボーだ。」

 

そしてカズキ達は炎の海に飛び込んだ。

 

「ガーディアン・ブラボー・・・・・。」

 

これが【武藤カズキ】と【ロニ・マックスウェル】の最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・。ようやく抜けたか。

 ギンガもう緩めていいぞ。」

 

「はい。

 それにしてもブラボーさんて足速いんですね。」

 

「まぁ、鍛えてるからな。

 ギンガも鍛えればこれくらい速度は簡単に出せるぞ。」

 

「が、頑張ります。」

 

この時、カズキの走る速度は一般車両の速度を軽く超えていた。

そんな速度を鍛えた程度で出せる訳がなく。

彼の説明には【死ぬ気で】が抜けていたのは言わずもがな。

 

閑話休題

 

カズキ達が角を曲がると広間に出た。

そして、天使の石造の下で蹲ってる少女を発見した。

 

「あれは・・・・スバル!?」

 

「ふぅ・・・・やっと見つけたか。」

 

カズキは安堵の溜息を吐いた。

だが次の瞬間。

石造がスバルに向けて倒れだした。

 

「なっ!?

 マズい!!!」

 

「スバルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

~Kazuki side~

 

「スバルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

ギンガの絶叫が耳に響く。

このままでは石造はあの幼い命を押し潰すだろう。

今から走っても此処からでは間に合わない。

 

『不条理か?』

 

そんな声が聞こえた気がした。

ならば諦めるか?

 

否!!

 

ではどうする?

決まっている全力で助ける。

オレには【戦友】が残してくれた力が有るのだから!!

 

「特殊核鉄[MG]起動!!!」

 

展開された歯車は足に吸着し高速で回転を始める。

オレは凄まじい速さで少女に接近する。

そして・・・

オレの腕は少女の体を捉えた。

その後、そのままの速度で石造の近くから離脱し止る。

上から視線を感じたので見てみると白い服の少女が空を飛んでいた。

恐らく彼女が本局の魔導師という人なんだろう。

魔法と言う単語で何となく空を飛んでいる姿はイメージ出来たので然程の驚きは無かった。

向こうはかなり驚いた顔をしているが。

 

「ん・・・・。」

 

腕の中から声が聞こえたので見てみた。

少女スバルちゃんは今の状況をゆっくりと確認している様だ。

オレは少女を安心させるように言った。

 

「もう大丈夫だ。」

 

~Kazuki side end~

 

カズキはスバルとギンガをゆっくりと降ろした。

 

「スバル!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

二人の姉妹はお互いの無事を確かめる様に抱き合う。

 

「もう!心配させて!!

 本当に凄く心配したんだからね!!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

ギンガは目尻に涙が溜まる。

スバルに至っては大泣きだ。

そんな二人をカズキは穏やかな顔で見ていた。

 

「あの、時空管理局です!

 大丈夫ですか?」

 

上空にいた少女はカズキの近くに着地する。

 

「ああ、大丈夫。

 彼女達にも怪我はないよ。

 キミが本局の魔導師ってヤツかい?」

 

「はい。

 時空管理局、本局所属の高町なのはです。」

 

「そうか。

 彼女達を早く安全な場所へ。」

 

「わかりました。

 今、バリアを・・・」

 

「それじゃあな。

 早くお父さんを安心させてやれよ。」

 

なのはが防壁を張ろうとすると。

カズキはギンガとスバルの頭を軽く撫でて立ち去ろうとした。

 

「あの!どちらに!?」

 

「まだ、取り残された人がいないか見てくる。

 キミは早く彼女達を頼む。」

 

「そんな!?

 危ないですよ!??」

 

「問題ない!」

 

「ちょっと!??」

 

カズキはなのはの静止を振り切り再び火の海に飛び込んでいった。

 

「行っちゃった・・・・・。」

 

なのはは呆然と見送ってしまった。

そしてスバル達を見る。

 

(とりあえずこの子達を安全な所に連れてかなきゃ。)

 

なのはは脱出作業を開始した。

 

空港離着陸所

 

「203!405!

 東側に展開して下さい!

 魔導師陣で防壁張って燃料タンクの防御を!!」

 

現在、一人の少女がトレーラーの上で指示を飛ばしていた。

そんな少女の所に妖精の様な少女が報告に来た。

 

「はやてちゃんダメです!

 まるっきり人手が足りないですよぉ!!」

 

「そやけど、首都からの航空支援が来るまで持ち堪えるしかないんよ。

 頑張ろう。」

 

「はい。」

 

暫くするとはやての元に一人の男が現れた。

 

「はやてちゃん。

 応援部隊の指揮官が到着です。」

 

「すまんな。

 遅くなった。」

 

はやてはトレーラーか飛び降りて男の前に立つ。

 

「いえ。

 陸士部隊の研修中の特別捜査官、八神はやて一等陸尉です。

 臨時で特別部隊の指揮を任されてます。」

 

「陸上警備隊108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ。」

 

お互い敬礼をし挨拶を交わす。

 

「はい。

 ナカジマ三佐、部隊指揮をお願いしてよろしいでしょうか?」

 

「ああ、お前さんも魔導師か?」

 

「広域型なんです。

 空から消火の手伝いを・・・」

 

はやてがゲンヤに用件を伝えてると通信が入った。

 

『はやてちゃん。

 指示のあった女の子をお姉さんと一緒に無事救出。

 名前はギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマ。

 さっき無事に救護隊に渡してきた。』

 

「ナカジマ?」

 

「うちの娘だ。

 二人で部隊に遊びに来る予定だった。」

 

「そうですか。

 無事でよかった。

 なのはちゃん報告は以上?」

 

『それが、ギンガと一緒に行動してた次元漂流者の人がまだ中に居るんだけど。

 まだ取り残されてる人が居ないか確認しにどっかに行っちゃったんだよ!』

 

「な、なんやって!?」

 

『名前はガーディアン・ブラボーさん!

 全身が隠れるようなコートと深く被った帽子で姿までは判らなかった!』

 

「了解!

 わたしもすぐ空に上がるよ。」

 

『了解!』

 

なのはは報告を終え回線を閉じた。

 

「ガーディアン・ブラボー・・・・。」

 

「恐らく偽名だな。」

 

「はい。

 では、ナカジマ三佐。

 後の指揮をお願いします。

 リインしっかりな。

 説明が終わったら上でわたしと合流や!」

 

「はいです!」

 

リインの敬礼を確認するとはやては走り出す。

そして、一瞬で騎士甲冑に換装し空に上がった。

 

7番ゲート

 

「全員いますか?」

 

「え~と・・・大丈夫です。」

 

カズキはあの後施設内に8人の逃げ遅れた人達を発見していた。

今は火の回っていない7番ゲートまで壁を破壊して避難してきたのだ。

 

「よし。

 全員其処から動かないように。」

 

カズキはそう言って走り出す。

だが次の瞬間カズキの目の前が壁が爆発した。

何事かと思いカズキは身構えた。

すると、壊れた壁から金髪の少女が出てきた。

 

「管理局・・・・・です。」

 

「管理局・・・・。

 キミも本局の魔導師というヤツか?」

 

「えっと・・・そうです。

 あの、アナタは?」

 

勢いよく突入してきた彼女だったが。

突入した先には姿不明の見るからに怪しい長身の男がいたのだ。

警戒するなというのが無茶というものだ。

 

「まぁ、只のお手伝いさんだ。

 それより魔導師ってことは防壁とか張れる?」

 

「はい・・・・張れますけど。」

 

「じゃあ、彼らの事よろしく!」

 

カズキは片手を挙げて走り去っていった。

 

「なっ!?

 ちょっと待って!!」

 

少女はカズキを追おうとした。

しかし、逃げてきた彼らを放置しとく訳にもいかず。

結局、彼らに防壁を張ってからカズキを追った。

一方カズキは8番ゲートの広間に到着し上を見上げる。

そして自分の左胸に手を当て発動の言葉を叫ぶ。

 

「武装錬金!!!」

 

空港上空

 

「仄白き雪の王、銀の翼以もて、眼下の大地を白銀に染めよ!」

 

空港上空ではやては広域魔法の詠唱を行っていた。

 

「八神一尉。

 指定ブロック避難完了です。」

 

「お願いしま・・・・」

 

局員の一人が安全確認の終了の言葉を言い終えようとした時。

 

ズガンッッ!!!

 

『なっ!??』

 

太陽の光が空港の天井をブチ破って現れた。

 

「よし、脱出成功!

 海は・・・あそこか!」

 

「え!?あの!??」

 

はやては突然の乱入者【カズキ】を引き止めようとした。

しかし、カズキの耳にその声は入らずそのまま海の方へ飛び去ってしまった。

 

「待って!」

 

「あれは!?

 それにフェイトちゃん!」

 

カズキを追っていたフェイトと他のエリアから出てきたなのはもその後を追う。

やがて、カズキは空港近くの海面に制止する。

なのは達はもう一度カズキに呼び掛けた。

 

「あの!!

 時空管理局です!!

 少しよろしいですか!?」

 

「ん?

 キミ達か。

 悪いが今から消火作業を行うから。

 オレから少し離れてくれ。」

 

「消火作業って・・・・。

 こんな所からどうやって。」

 

カズキはサンライトハート改を胸に仕舞う。

そして・・・

 

「両断!ブラボチョップ!!!」

 

カズキは勢いよく手刀を海面に叩きつける。

すると・・・・

 

ズバババババババババババババババババババババババババッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

海が真っ二つに割れた

 

 

 

 

 

『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???』

 

なのは達を含むこの光景を見ていた空港の人達の声が重なった瞬間だった。

そのままカズキは海底に着地し海水の壁に拳を構える。

 

「一撃必殺!!ブラボー正拳!!!」

 

カズキは海水の壁に必殺の一撃を放った。

踏み込みの衝撃で海底が踏み砕かれる。

その驚異的破壊力は海水の塊を上空へと吹き飛ばした。

やがて、海水の塊は空港上空で分解を始める。

海水はまるでスコールの様に空港に降り注いだ。

火は徐々に弱まっていった。

それを見たはやては。

 

「これはチャンスや!」

 

そう言って中断した詠唱を再開する。

 

「来よ、氷結の息吹!アーテム・デス・アイセス!!」

 

圧縮した気化氷結魔法が空港に打ち込まれる。

海水の水滴の助けもあって空港はあっという間に凍結した。

 

これにて新暦71年ミッドチルダ臨海第8空港大規模火災事件は幕を閉じた。




[次回予告]
その男は強かった。
だが男も人間だ。
最初から強いわけではなかった。
俺達は希望を見た。
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【秘密】


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第5話 秘密

仕事中に危うく薬指と小指が泣き別れになる所だった……
ああ、転職したい……

そんな訳で投稿遅くなりました5話です。


陸上部隊 女子寮 八神はやての部屋

 

それなりに大きな部屋からテレビの音声が流れている。

 

『おはようございます。

 さっそく現場を呼んでみましょう。』

 

司会者の女性がそう言うと画面が切り替わる。

映し出されたのは【ミッドチルダ臨海第8空港】。

その焼け残りだった。

 

『こちら現場です。

 火災は現在完全に沈下しています。

 現在は時空管理局の局員によって危険の調査と事故原因の解明が進められております。

 幸いにも迅速に出動した本局航空魔導師隊の活躍もあり民間人に死者は出ておりません。』

 

ニュースを聞いていたあられもない格好をしている部屋の主。

八神はやては起きて呟く。

 

「はぁ~、やっぱりなぁ~。」

 

「ん~?」

 

その声に反応して隣で寝ていた友人。

高町なのはも起きだす。

 

「実際に働いたんは災害担当と初動の陸士部隊となのはちゃんとフェイトちゃんやんか。」

 

「あはは、まぁ休暇中だったし。」

 

そう言ってなのはは寝返りをうつ。

 

「民間の人たちが無事だったんだし。」

 

特に問題ないと言う感じにフェイトもうつ伏せのまま言う。

 

「あんな、なのはちゃん、フェイトちゃん。」

 

「「ん~?」」

 

はやての改まった声に二人は顔を上げる。

 

「わたしやっぱ自分の部隊持ちたいんよ。

 今回みたいな災害救助はもちろん。

 犯罪対策も発見されたロストロギアの対策も・・・

 なんにつけミッドチルダ地上の管理局部隊は行動が遅すぎる。

 後手に回って承認ばかりの動きじゃあかんし。

 わたしも今みたいにフリーで呼ばれては、

 あっちこっちまわってたんやちっとも前に進めてる感じがせえへん。

 少数精鋭のエキスパート部隊!

 それで戦果をあげてったら、上のほうも少しは変わるかもしれへん。

 でな、私がもしそんな部隊作ることになったらフェイトちゃん、なのはちゃん。

 協力してくれるかな?」

 

はやてはそう決意を口にする。

それを聞いたなのはとフェイトはお互いの顔を見合う。

その様子を見たはやては不安そうに慌てだす。

 

「もちろん二人の都合とか進路とかあるんはわかるんやけど・・・・・・。」

 

なのはとフェイトは呆れた顔をしつつ軽く睨む。

 

「はやてちゃん、何を水臭い。」

 

「小学3年生からの付き合いじゃない。」

 

「それに!

 そんな楽しそうな部隊、逆に誘ってくれなきゃ怒るよ。

 ね、フェイトちゃん?」

 

「うん。」

 

そう言って二人は微笑む。

はやては薄っすらと涙を浮かべて二人に感謝した。

 

「おおきに!

 ありがとうな。

 なのはちゃんフェイトちゃん!」

 

「でも、その前に・・・。」

 

なのは達はテレビに目線を向ける。

 

『ですが民間人の方々によると。

 「実際に消火したのは銀色の変人。」

 「海を割って雨を降らせたスゴイ人?」との事です!』

 

『銀色の変人?

 それに海を割ったとはどういう事でしょうか?』

 

『詳しい事はまだ判っていません。

 現場で活動していた局員達に聞いたところ。

 「そんなの人間はいなかった。」との事です。』

 

はやてはテレビの電源を切る。

 

「まずはあの人の事を聞いてからだね。」

 

なのはの声に同意するように二人は頷いた。

 

陸士108部隊 隊舎 取調室

 

「八神はやて一等陸尉です。」

 

「高町なのは二等空尉です。」

 

「フェイト・T・ハラオウン執務官です。」

 

三人は目の前の男。

ゲンヤ・ナカジマ三佐に敬礼をする。

 

「ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐だ。

 ようこそ、陸士108部隊へ。」

 

ゲンヤも三人に敬礼を返す。

 

「今回は事情聴取の参加の許可を頂きありがとうございます。」

 

「ああ、アイツならもう中で待ってる。」

 

そしてゲンヤは取調室のドアを開けた。

そこには・・・

 

「やはり注目すべき所はうなじやへそだと思うんだ!!!」

 

「絶対変ですってそれ!

 やはり胸とか尻とかでしょ!!」

 

「いやいや、へそはねぇけどうなじはアリだろ!」

 

「ロニ!わかってるな!!」

 

「ハッ!恐縮であります!!」

 

何故か局員とカズキによる猥談が繰り広げられていた。

それを見たゲンヤは頭を抱え溜め息を漏らした。

15歳の少女達の顔は真っ赤である。

 

「お前らなぁ~。」

 

さて、何故カズキが此処にいるのか。

時は、昨夜の消火作業まで巻き戻る。

 

昨夜 ミッドチルダ臨海第8空港

 

空港の火の鎮火を確認するとカズキは海底から飛び上がりそのまま空港に着地する。

カズキが飛び上がるのと同時に海も元に戻り始め穏やかな海に戻った。

なのはとフェイトも後を追う様に着地する。

 

「あの、次元漂流者のガーディアン・ブラボーさんですよね?」

 

「そうだが。」

 

カズキは空港から目線を逸らさずに短く答える。

 

「少々お話を伺いたいのでご同行お願いできますか?」

 

「・・・・・・。」

 

カズキは言葉を発さない。

その様子を不思議に思ったなのは達は声を掛け様とした。

だが、やはり空港から視線を外さずカズキは重い口を開けた。

 

「あの魔法と思われる力。

 中の人達は大丈夫なのか?」

 

「え?」

 

「中に居る人達は大丈夫なのかと聞いているんだ。」

 

二人は最初カズキの言ってる意味が理解できなかった。

しかし、彼の視線の先を見て直ぐに理解した。

八神はやての魔法は強大である。

それは魔法の事を知らない人でも感じ取れることだ。

だから、彼は聞いたのだ。

【民間人が居るかもしれない建物にそんな力を叩き付けるとはどういうつもりだ?】と。

思い返せば少々強引さはあったが全ては救いを求める者達の為。

なのは達はその姿勢がなんだか嬉しく感じた。

 

「大丈夫です。

 着弾地点の避難は完了してますし残ってる人達にも防壁を張ってますから。」

 

「そうか・・・・。」

 

「それで、ついて来てくれますか?」

 

「・・・・断ると言ったら?」

 

「申し訳ありませんが拘束させてもらいます。

 アナタの力を野放しにしておく訳にはいきません。」

 

「・・・・・・・・。」

 

二人はデバイスを構えカズキは目を細くし軽く睨む。

辺りには一触即発の空気が漂う。

そこに一人の男が割り込んだ。

 

「アンタがガーディアン・ブラボーか?」

 

「・・・・・・アナタは?」

 

「ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。

 まぁ、ギンガとスバルの父親だ。」

 

「アナタが・・・・。

 ギンガ達とは会えましたか?」

 

「お陰様でな。

 娘達を助けてくれてありがとう。

 色々と面倒も掛けちまったみたいだな。」

 

「気にしないでくれ。

 こっちは好きでやっただけだし。」

 

「そうかい。

 あ、お嬢ちゃん達。

 この人の件はこっちに任せちゃくれねぇか?

 娘のことでも礼がしたいしな。」

 

「はぁ、ナカジマ三佐がそう言うなら・・・・。」

 

「お任せします・・・・・。」

 

年齢も階級も上の人間に反論する訳にもいかず。

ゲンヤの提案になのは達は一応納得した。

 

「まぁ、そう言うことだ。

 アンタもそれで良いかい?」

 

「いや・・・それで良いかって。

 それにお礼なんて・・・・。」

 

「そう言わずに来てくれないか?

 ギンガ達もアンタの事を心配してるんだ。」

 

「ふむ・・・・。」

 

カズキは腕を組んで考える。

暫くして返答を返した。

 

「わかった。

 ついて行こう。」

 

「助かる。

 それじゃ隊の車まで案内する。

 ついて来てくれ。」

 

カズキはゲンヤについて行きその場を去った。

その後の展開を聞いたはやてはゲンヤに後日の事情聴取の参加を申し込んだっだ。

 

現在 陸士108部隊 隊舎 取調室

 

そして、その夜はこの隊舎で一夜を過ごし現在この状況である。

 

「お前ら・・・少しは自重しろ。

 見ろ。

 お嬢ちゃん達が気まずそうじゃねぇか。」

 

ゲンヤは溜め息を吐きながら親指で後ろにいるはやて達を指差す。

 

『す、すみません。』

 

バカ話をしていた男達は一斉に頭を下げて謝罪した。

 

「ブラボーも頼むぜ・・・・。」

 

「いや~申し訳ない。

 あれ、キミ達は昨日の・・・・。」

 

カズキがはやて達の存在に気付くと彼女達も我に帰る。

そして、カズキに挨拶をした。

 

「どうも。

 八神はやてです。」

 

「高町なのはです。」

 

「フェイト・T・ハラオウンです。」

 

「ガーディアン・ブラボーだ。

 昨日はすまなかったね。

 現場を掻き回す様なことしちゃって。」

 

「でも、そのお陰で空港の消火も人命救助も早く済んだし。」

 

「うん、結果オーライだよ!」

 

カズキの謝罪にはやて達は気にするなとばかりに笑顔で答えた。

 

「それじゃ、挨拶が済んだ所で聴取を始め・・・」

 

「待ってください、ナカジマ三佐。」

 

聴取を始めようとしたゲンヤにフェイトが待ったを掛けた。

 

「どうした?」

 

「何故、彼は武装を展開してるんですか?

 というより押収してないんですか?」

 

現在のカズキの格好は特殊核鉄[SS]を展開した状態。

つまり、フェイト達と会った時の姿なのだ。

 

「でもアレって普通?の服なんじゃ・・・・。」

 

「なのは考えてみて。

 あの人は昨日何も使わずに海を割ったんだよ。

 という事はあの服自体に何か仕込まれてるとしか思えない。」

 

「確かに・・・・。」

 

三人は警戒の眼差しでカズキを見る。

そこえゲンヤは割って入った。

 

「まぁ、待て。

 その事は昨夜散々調べたがそれには防護機能しかなかった。

 展開してるのはそれが取り調べに応じる条件だったからだ。」

 

「何故そんな条件を?」

 

フェイトの疑問にカズキが応える。

 

「キミらはデバイスというのがあれば何時でも魔法が使えるんだろ?

 そんな相手に武装を渡して話し合いなんてフェアじゃない。

 第一何処の組織かもハッキリしない相手に此方の最高機密を渡せるわけがない。

 まぁ、キミらが実力行使で奪いにくるならこちらも少し暴れさせてもらう事になるが?」

 

「とまぁ、こんな感じなんでな。

 隊舎を全壊にされた上に逃げられましたじゃ笑い話にもならねぇ。

 そう言う訳で話を飲んだんだ。」

 

「そういう事なら・・・・。

 ですが、せめてあの槍型のデバイスは取り調べの間だけ預からせてくれませんか?」

 

渋々納得するがフェイトはサンライトハート改の提示を要求した。

その要求にカズキの代わりにゲンヤが応えた。

 

「あ~、そっちの方はもっと無茶な要求だぞ。」

 

「え?

 何でですか?」

 

はやては疑問を口にする。

なにも管理局に寄越せと言っている訳ではない。

確かにそんな無茶な要求には思えない。

カズキの事情を知らない彼女達からすれば。

 

「その事は取り調べしながら話す。

 てか、ブラボーいい加減帽子くらい取ったらどうだ?」

 

「ん。

 そうだな。」

 

ゲンヤに指摘され帽子と顔の部分のボタンを外す。

するとカズキの素顔が露になる。

 

(((中は普通の人だった・・・)))

 

三人揃ってとても失礼だった。

 

「それじゃあ、ボチボチ始めるか。」

 

ゲンヤの声で室内の全員が姿勢を正す。

 

「それじゃまず名前は?」

 

「ガーディアン・ブラボー。」

 

「よし、次は・・・」

 

「「「ちょっと待った!!」」」

 

次の質問をしようとしたゲンヤに三人は声を揃えって待ったをかけた。

 

「あん?どうした?」

 

「いや、明らかに偽名やんか!?

 何、さらっと無視して先に進んどるんですか!?」

 

あまりの行為にはやてはいつもの口調でツッコむ。

対するゲンヤはあまり気にしてない様子でカズキに尋ねる。

 

「本名は?」

 

「本名は秘密!

 何故ならその方がカッコイイから!」

 

「だそうだが?」

 

「もうええです・・・・・。」

 

どこか諦めた声で溜め息を吐いた。

 

「まぁ、最低出身世界さえ判れば良いしな。

 本名かどうかはこの際別に構わないだろ。

 それで何処に住んでたんだ?」

 

「日本の銀成市と言う所だ。」

 

「「「日本!??」」」

 

「日本・・・・・。

 確か、お嬢ちゃん達の出身世界の大陸だったよな?

 名前は・・・・第97管理外世界【地球】。」

 

「あ~、少しいいかい?

 その言い方だと地球は存在するか?」

 

昨日の時点で此処が地球ではないのは解っていたが。

まさか地球が存在するとは思っていなかったのだ。

 

「えっと、次元世界の成り立ちについては?」

 

「あ~、すまん。

 あまり昨日の時点では必要なかったから説明してねぇわ。」

 

「じゃあ、まず次元世界について説明しますね。」

 

一時取り調べを中断しカズキはなのは達から説明を受けた。

 

 

説明終了

 

 

「とりあえずこんな所かな。」

 

「ありがとう。

 解りやすかったよ。」

 

親切丁寧に説明してくれたなのは達にカズキは礼を言う。

同時にカズキはこの世界の事を考えていた。

 

(しかし・・・次元世界か。

 多分、平行世界とは別の概念だよな。

 となると銀成市は・・・・。)

 

「おい、ブラボー!」

 

考えているとゲンヤから声が掛かる。

少し声が大きい所を見る限り何度も呼んでいた様だ。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ。

 少し考え事をな。」

 

「そうか。

 とりあえずお前さんの出身地の調査は明日にでも終わるだろ。

 さて、ここからが本題だな・・・・。」

 

若干緩んでいた空気が引き締まる。

 

「お前さんの武装について説明してもらおうか。

 と言っても俺達は昨日の時点で粗方の説明は受けてる。

 お嬢ちゃん達が聞きたい事を訊いたらどうだ?」

 

「ほな質問や。

 そのデバイスの名称。

 開発目的。

 機能を教えてください。」

 

カズキはポーチから特殊核鉄改[VS]を取り出す。

そのまま机の上に置く。

はやて達は手に取り観察する。

 

「それの名前は【核鉄】。

 開発目的とかは組織に大きく関わるから言うことは出来ない。

 機能については回復機能を高めて負傷等を迅速に治癒する事が出来る。」

 

「回復機能って言いますがこれは武器でもありますよね?」

 

「否定はしない。

 でも、キミ達が見た程の武装はそれは展開できないよ。

 それの正式名は【特殊核鉄改】云わばサポート用の核鉄だ。」

 

「あの、出来ればそちらの方も見せてもらえませんか?」

 

「あ~、それはちょっと無理かな。」

 

カズキは少し困った顔をして頭をかく。

 

「・・・・それは先程の提出が出来ないこと関係が?」

 

「・・・・・そうだ。

 オレは昔に致命的な重傷を負ってね。」

 

そう言ってカズキは左胸に手を当てる。

その様子を見てはやては何かを感じ驚愕した顔をする。

 

「ま、まさか・・・」

 

「キミの想像通りだよ。

 オレの核鉄はね、心臓そのものなんだよ。」

 

それを聞いて残りの二人も驚く。

同時にはやては考える。

 

(サポート単体で治癒魔法並みの力。

 オリジナルに至っては臓器の代替まで出来るなんて・・・・。

 この力があれば現場の人達の安全性をもっと高く・・・。)

 

はやては持っている核鉄を強く握り締める。

その様子に気付いたカズキは少し目を細めた。

 

「次の質問いいですか?」

 

質問が一段落ついたのを見計らいフェイトが新たにカズキに質問した。

 

「何だい?」

 

「その服。

 防護機能しかないって言ってましたが何か証明出来る物はありますか?」

 

「ああ、それについては・・・・コイツを見てくれ。」

 

フェイトの質問にゲンヤが代わりに応えて何かの映像を出す。

其処にはナカジマ一家とラフな格好をしたカズキと何人かの魔導師がいた。

場所はトレーニングルームの様だ。

 

『さて、お前さんが言う様に本当に自分の力だけでアレをやったのか確認させてもらうぞ。』

 

そう言ってゲンヤは一番右端の一際大きなサンドバックの前に立つ。

 

『このサンドバックはちょいと特別性でな。

 中の砂と上の鎖は魔力によって強化されちょっとやそっとじゃ揺らす事も出来ない。

 さらにその周りにうちの部下達に障壁を張らせる。

 お前さんはそれを思いっきり殴れ。

 もし本当に言った通りなら障壁ブチ抜いてそいつを揺らす事が出来るはずだ。』

 

『ふむ・・・・。』

 

カズキはサンドバックの周りを触ったり軽く叩く。

やがて前に立ち・・・・。

 

『わかりました。』

 

構えをとった。

 

『よし、お前ら目標に障壁を張れ。

 他の奴らは一応ある程度離れとけ。』

 

『了解。』

 

魔導士達がサンドバックの周りに障壁を張る。

ナカジマ一家も少し後ろに下がる。

 

(さて・・・見せてもらおうか。)

 

『13のブラボー技の一つ!!』

 

カズキは腕を振り抜いた。

 

『修正!ブラボービンタ!!!』

 

次の瞬間有り得ない事が起きた。

 

 

 

 

 

バツンッ!!

 

 

 

 

 

カズキの平手は障壁をブチ抜きサンドバックへ。

サンドバックは衝撃に耐え切れず上の鎖が引き千切れる。

そのまま本体は一回転。

そして重力に従って落ちた。

 

 

 

 

 

ドスンッ!!

 

サラサラ・・・

 

 

 

 

 

表面が破け中から砂が漏れ出しサンドバックはくの字から戻ることはなかった。

そこで映像は途切れた。

 

 

 

 

 

(((な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!????)))

 

三人の念話が重なった。

 

(いやいや、これどう考えても人間技じゃないでしょ!?)

 

(しかも、修正てことはこれってお仕置き用の技・・・・・。)

 

(こんなんでお仕置きされたら首もげるわ!!?

 これお仕置きちゃう!?OSHIOKIや!!??)

 

「ははは・・・改めて見るとやっぱり異常ですね。」

 

「少なくとも人間技じゃねぇだろ。」

 

三人の念話を他所に一度見た局員達は苦笑いしながら話す。

 

「お嬢ちゃん達、大丈夫か?」

 

「ええ、一応・・・・・。」

 

「まぁ、見ての通りだ。

 これで納得してくれたか?」

 

「凄く認めたくありませんが・・・・。

 これは納得せざる得ませんね。」

 

その後も取り調べは続いた。

しかし、大半それも組織については秘密で終わった。

 

「そろそろいい時間だな。

 取り調べはここまでにするか。

 ブラボーはもう一日此処にいてくれ。」

 

「わかった。

 それじゃあ、そろそろ核鉄を返してくれないか?」

 

カズキははやてに手を差し出す。

 

「あ、すいません。

 ・・・・・どうぞ。」

 

核鉄を返却してもらい受け取った。

しかし、はやてはまだ何か言いたそうにカズキを見ていた。

 

「どうしたんだい?」

 

「ブラボーさん。

 その核鉄の技術、治癒機能だけでもええんで管理局に提供してくれませんか?」

 

「ちょ!?はやてちゃん!??」

 

カズキは顔が険しくなる。

この部屋の空気が一瞬で重くなった。

はやてもカズキから発せられる威圧感に冷や汗を垂らす。

 

「何故知りたいんだい?」

 

「ブラボーさんの言った通りの回復効果があるなら。

 これを現場に回せばもっと多くの人達が救えます!

 局員の人達の安全性だって・・・・」

 

「ストップ。

 言わなかったがこれの回復機能をあまり当てにするな。

 やってる事は人体の回復機能を無理やり上げてるんだ。

 多用すれば肉体は崩壊するぞ。」

 

「それでも!

 有ると無いとじゃ・・・」

 

「第一。

 オレはこの世界も時空管理局の事も知らな過ぎる。

 そんな所にこちらの重要機密をホイホイ話せる訳がない。」

 

カズキはきっぱりとはやてに拒絶の意思を向けた。

しかし、それでもはやては諦めきれず・・・

 

「なら、この世界や管理局の事を理解できたら教えてくれますか?」

 

「・・・・・考えておこう。

 だが、オレは明日には消える身だ。

 その可能性はゼロだよ。」

 

「・・・・・わかりました。

 取り調べのご協力ありがとうございました。」

 

はやては肩を大きく落とし三人は部屋を出ていく。

部屋のドアが閉まる時にカズキの呟く様な声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「もっともその可能性は低そうだがな。」

 

「え?」

 

 

 

 

 

部屋のドアが閉まった。

 

翌日、地球には銀成市という場所は存在しない事が判明した。

 

陸士108部隊 隊舎 取調室

 

昨日と違い中にいるのはカズキとゲンヤのみだ。

しかし、中の空気は昨日より圧倒的に重い。

 

「さて・・・どうするか。」

 

「・・・・・・。」

 

「お前さんの話が嘘じゃないのは判る。

 だがこのままだと身元不明の次元漂流者として強制的に保護しなきゃならねぇ。

 しかも、下手に逃げだしゃ次元漂流者から次元犯罪者にクラスチェンジだ。

 そうなればお前さんの所の技術を無理やりでも調べてくるだろう。」

 

「・・・・・・・。

 日本の適当な場所に送ってもらうことは出来ないのか?」

 

「無理だな。

 報告の時にボロが出る。

 なにより俺達の恩人にいい加減な事をしたくねぇ。」

 

「・・・・・・・。」

 

再び沈黙が部屋を支配する。

やがてその沈黙は破られた。

 

「よし。」

 

破ったのはゲンヤだった。

 

「ブラボー、うちに来ないか?」

 

「・・・・・はい?

 うちって・・・・ナカジマ家にか?」

 

「ああ。

 まぁ、ただでとはいかないがな。

 滞在中の間はうちの部隊に協力してくれないか?」

 

「・・・・・それは管理局に協力しろってことか?」

 

「違う。

 俺は陸士108部隊に協力してくと言ったんだ。」

 

「・・・・・どういう事だ?」

 

ゲンヤは何か面白そうに笑いながら語る。

 

「知ってるか?

 うちの部隊の連中。

 それも魔力が高くない奴らにお前さんヒーローみたいに見られてるんだぞ。」

 

ゲンヤの発言にカズキは目を点にする。

 

「オレが・・・・ヒーロー!?」

 

「一昨日。

 お前さんがサンドバックをぶっ壊した後、局員の一人が訊ねただろ。

 『どうしたらそんなに強くなれるのか?』って。

 そしたらお前さんは『ただ一向に修練を続けた。』なんて言いやがる。

 アイツらにはお前さんが希望に見えたんだろうな。」

 

「希望?」

 

カズキは以前にも多くの人達の希望を背負っていた。

戦団の未来・ブラボーの意志・妻子達の幸福。

だが、それは彼の戦士としての姿勢やホムンクルス達に対する姿を見せて得たものだ。

ここではそんな行動をとった憶えはない。

彼らが何故自分に希望を抱くのかカズキは疑問に思った。

しかし、その疑問はゲンヤが答えてくれた。

 

「誰もがあのお嬢ちゃん達みたいな魔導師じゃねぇんだ。

 アイツらみたいに一人で大半の事が片付けられる魔導師なんて希少なんだよ。

 この世界は質量兵器は禁止されている。

 だから何だかんだで結局魔力がものをいうんだよ。

 魔力が少ない奴、魔力がない奴。

 そいつらは必ずと言って良いくらい悔しい思いをした。」

 

「ゲンヤもか?」

 

「・・・・妻を・・・・亡くした。

 深くは話せねぇがな・・・魔法が使えねぇ自分が悔しくて仕方がなかった。」

 

「・・・・・・。」

 

カズキの頭には斗貴子の死に顔が脳内に過ぎった。

彼女の死因は癌だった。

癌はリンパに転移していて既に手遅れだった。

医術的な事にカズキが手を出せる事は何も無い。

しかし、彼は思わずにはいられなかった。

当時のカズキは大戦士長に就任したばかりで家族に目を向けていられる余裕が無かった。

【もっと自分が上手く仕事をこなせる力があれば家族に目を向けられたんじゃないか!?】

【もっと早く斗貴子さんの体調に気付くことが出来たんじゃないのか!?】

彼は自分の不甲斐なさがたまらなく悔しかった。

 

「だが、俺を含めてアイツらはお前に希望を見出した。

 魔法が使えなくても強くなれるんだと。

 ガーディアン・ブラボー頼む!

 俺達に力を貸してくれ!!」

 

ゲンヤは手を差し出す。

カズキは腕を組その手を見つめる。

そして・・・

 

その手を取った。

 

「オレの特訓は厳しい。

 ついてこれる奴がいなくなった時点で辞めるからな。」

 

「ありがとう・・・・。」

 

カズキは微笑むと部屋のドアに目を向ける。

 

「さて、キミ達はいつまで聞き耳を立てているのかな?」

 

「むっ!?」

 

カズキの言葉にゲンヤはドアに向かい勢い良く開けた。

すると・・・

 

『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??』

 

ナカジマ姉妹と数十人の局員が流れ込んできた。

 

「ギンガとスバルはともかく・・・・お前らは仕事もせずになにやっとんだ!?」

 

ゲンヤはこの惨状に頭を抱えた。

カズキは笑いながら彼らの前に立つ。

 

「まぁ、そういう訳だから・・・とりあえずよろしくな。」

 

局員達は慌てて立ち姿勢を正し敬礼をする。

ギンガとスバルも釣られて敬礼をした。

 

『よろしくお願いします!!』

 

この行動により未来(物語)は崩壊した。

そして新たな未来(物語)が形成される。

その先に待つものはまだ誰も知らない。




[次回予告]
オレ達は知る自分たちの弱さを……
オレ達は見る自分たちの可能性を……
そしてオレ達に選択が提示される……
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【井の中の蛙】


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臨時教官編
第6話 井の中の蛙


注意:何十年も戦士として戦い続け責任ある立場を全うしたカズキを想像して書いた
   為キャラが崩壊しています。


~Ginga side~

 

「はっはっはっ……。」

 

私は家に続く道を走り続ける。

この調子なら後2分もあれば家に着くだろう。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

後ろを振り返る。

すると妹のスバルが私の後を必死に追っていた。

私はそんなスバルを嗜める。

 

「スバル、無理せず自分のペースで走りなさい。」

 

「だ、大丈夫だよ。」

 

全然大丈夫そうには見えないんだけど…

訓練校で基礎訓練を受けてる私に対して。

つい数日前まで普通の生活をしていたスバルが同じペースで走るのは無茶だと思うんだけどな…。

そうこうしてたらもう自宅間近だった。

玄関を通り庭に進入する。

庭に入ると其処に腕を組んでる人がいた。

その人に報告をする。

 

「先生、ウォーミングアップ10km完了しました。」

 

私達の先生【ガーディアン・ブラボー】に。

 

~Ginga side end~

 

~Kazuki side~

 

「先生、ウォーミングアップ10km完了しました。」

 

青紫色の髪を束ねた少女ギンガがオレの所に報告にくる。

遅れてスバルが転がり込む様に入ってきた。

 

「10km……終わり……まし……た。」

 

おいおい、大丈夫か?

オレはスポーツドリンクとタオルを手に取り二人に渡す。

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとう……。」

 

ギンガはドリンクを飲みながら汗を拭く。

対してスバルはドリンクを一口飲むとそのままタオルを顔に掛けて倒れ込む。

ギンガは余裕そうだがスバルは案の定バテバテの様だ。

とりあえずスバルには注意しとくか……。

これを言うのも何度目かな……。

 

「スバル、何度も言うが自分のペースで走れと言ってるだろ。

 そんなんじゃトレーニングに参加出来ないだろう。」

 

「だって、どうしても先頭のギン姉に釣られちゃうんだもん……。」

 

「相手のペースに呑まれず自身の呼吸を保つ。

 これも大事な事だぞ?」

 

「うぅ…ごめんなさい……。」

 

「よろしい。

 それじゃあ、5分休憩入れてトレーニング開始だ。」

 

「「はい!」」

 

オレが指示を出すと二人ともしっかりと返事をした。

さて、何故オレが彼女達のトレーニングの監督をしているのか。

時は数日前に遡る。

 

~Kazuki side end~

 

5日前 陸士108部隊 隊舎

 

「協力してもらうにも少し時間が掛かる。

 ちょうど、一週間後に101から110部隊までの合同演習がある。

 その時までゆっくりしてくれ。」

 

ゲンヤはカズキにそう言った。

 

「わかった。

 しかし一週間か……。

 随分と暇だな。」

 

辿り着いた場所は異世界。

活動開始までの一週間の時間をどう使おうか悩んでいた。

 

「なんだったら、観光でも行ってきたらどうだ?

 うちから誰か一人付けてやるぞ。」

 

「観光か……。

 良いかもしれないな。

 お願いできるか?」

 

カズキはゲンヤの提案に乗ることにした。

すると一人の青年が前に出る。

 

「それなら、自分が案内します。」

 

【ロニ・マックスウェル】。

あの空港の事件以来カズキに憧れの様な感情を抱いている青年だ。

 

「そうか。

 それじゃあ頼むぞ。」

 

「了解ッス!

 で、早速ですけど何処か行きたい場所ってありますか?」

 

ロニはゲンヤに返事をするとカズキに希望を訊ねた。

 

「そうだな。

 暫く滞在する事になりそうだし日用品を揃えたいな。

 観光はそれから頼めるか?」

 

「わかりました。

 それじゃあ、行きますか。

 あ、ブラボーさんその後よかったら少し訓練に付き合ってくれませんか?」

 

「別に構わないよ。」

 

するとその話を聞いていたギンガが話に入ってきた。

 

「あの、ブラボーさん!ロニさん!

 その訓練私も参加して良いですか!?」

 

「えっ、そりゃあ良いけどいいのかい?

 折角、遊びに来たのに訓練で時間瞑っしゃって?」

 

「構いません。

 それに、私は今強くなれるだけ強くなりたいんです。

 今度こそ自分の力で大事な物を護る為に。」

 

ギンガはカズキを真っ直ぐ見てそう告げた。

 

「……わかった。

 この一週間、キミをみっちり鍛えてやろう。

 覚悟しろよ?

 ロニも構わないか?」

 

「良いですよ。

 ここは将来の後輩に讓としますよ。

 それにオレ達も一週間後にはみっちり鍛えてもらえますし。」

 

「よろしくお願いします!ブラボー先生!!」

 

回想終了

 

そんな事があってカズキはロニとギンガを4日間鍛え。

昨日の夕方にナカジマ家に姉妹を連れ帰宅したのだ。

明日には此処を出って108部隊に向かう事になっている。

ちなみにスバルは特訓開始3日目に自分から参加させて欲しいと言ってきた。

そんな事を思い出してるともう休息開始からとっくに5分を過ぎている事に気付いた。

 

「よし、もう十分休憩したろ。

 トレーニングに移るぞ。」

 

「「はい!」」

 

カズキはリュックサックを2個持ってくる。

それをそれぞれギンガとスバルに渡す。

もちろん中身の重さはギンガの方が重くなってる。

 

「それを背負ってギンガは20km。

 スバルは15km。

 頑張って走ってこい。」

 

「はい!」

 

「はい……。」

 

ギンガの返事に対照的な返事をスバルはした。

 

「どうしたスバル?」

 

「ん~、またランニングかと思うと少し気持ちが……。」

 

「はは。

 その気持ちは解るけどそれは仕方ないよ。

 ギンガもスバルも近接戦闘が主体だからどうしたってスタミナは重視されるからね。

 それとも特訓辞めるか?」

 

「いや!!!」

 

「なら頑張れ。

 高町さんみたいな魔導師になるんだろ?」

 

「うん!

 いってきます!!」

 

スバルは元気良く返事をして庭を飛び出しって行った。

 

「スバル!

 そんな急いだらまたへばっちゃうよ!!

 それじゃ、先生。

 私も行ってきます。」

 

「おう、頑張れよ。」

 

弟子達を見送りカズキは青い雲一つ無い空を見上げる。

 

(まさか、オレがまた誰かの師になるなんてな……。)

 

カズキは嘗ての戦士長だった頃の記憶を思い起こす。

大切だった弟子達を。

救えなかった弟子(息子)を。

裏切った弟子(碓氷)を。

 

「碓氷…オマエは今何処で何をやっているんだ?」

 

カズキはポツリと呟いた。

その問いに応える者はいなかった。

 

翌日

 

「それじゃあ、先生。

 部隊の方頑張って来てください。

 あと、父にもよろしくお願いします。」

 

「ブラボーいってらっしゃい!」

 

「ああ、行ってくるよ。

 自主練しっかりするんだぞ?」

 

スバルの頭を撫でてカズキは玄関を出る。

彼は陸士108部隊に飛んだ。

 

~Roni side~

 

オレ、ロニ・マックスウェルには魔導師としての才能がない。

管理局に入った当初の魔力ランクはD-。

入ってから10年間努力を続けたが結局魔力ランクはC。

魔導師ランクは陸戦B+。

階級は三等陸曹。

使える魔法も【魔力刃の生成】【肉体強化】【簡単な治癒魔法】と所謂替えの効く局員だ。

こんなことじゃいつまで経ってもオレの【目的】を果たすことが出来ない。

同僚や後輩に追い越され続け焦りを抱える中、あの人は突然現れた。

ガーディアン・ブラボー。

彼は燃え盛る空港でオレ達の前に突如現れた。

そして彼はゲンヤさんの娘さん達を含め空港に取り残された人々を救ってみせた。

魔法を一切使わずに。

その後も信じられない人間技を披露してみせた。

オレは彼に訊ねた。

 

「どうしたら、アナタの様に強くなれるんですか?」

 

彼はこう答えた。

 

「護りたいもの目指したいもの。

 それを胸に抱いてただ一向に修練を続けた。」

 

「どれだけ頑張っても結果が出ないかもしれないのにですか?」

 

「……。

 確かに努力すれば報われる。

 そんな言葉は挫折を知らない人間の言葉だよ。」

 

「……。」

 

「だがな。

 この言葉を否定する奴は努力することを諦めた人間だよ。」

 

「!?」

 

「だから、キミにはこの言葉を送ろう。

 【努力の結果に限界は存在しない】!

 今出てる結果が努力の結果なのか?

 そんなものは自分が諦めない限りいくらでも変化する。

 今やっている努力で結果が出ないなら別の努力をしてみせろ。

 考えることと努力を止めない限り変化は止まらないよ。

 人間にはゲームの様にステータスゲージなんて存在しないんだから。」

 

衝撃的だった。

心の何処かで勝手に限界を決めている自分がいた。

だがこの人の言葉でわかった。

そんなものは只の逃げだ。

努力する事に置いて行かれる事に結果が出ない事に。

ありとあらえる事に逃げ出していただけだ。

オレは再び強くなる事を決意した。

魔法で強くなれないなら別の所で強くなってやると。

そしてオレはこう思った。

この人の下で強くなりたいと。

そして、ついにその願いは今日現実となる。

俺が前を向くと其処にはあの人が立っていた。

 

~Roni side end~

 

合同演習当日

 

大演習場に設置されている時計が午前10:00を報せた。

すでに隊員達は整列して上官の到着を待っていた。

そして、隊舎から各隊の部隊長とカズキが出てくる。

101から110まで計10部隊。

整列している実働部隊隊員数は約800人。

その人数の前にカズキ達は立つ。

すると、隊員の一人が一歩前に出る。

 

「全員、部隊長達に敬礼!!」

 

ザッ!!

 

整列している隊員達が一斉に敬礼をする。

その後、ゲンヤが今日の予定の話をする。

だが、殆どの隊員はゲンヤの隣にいる変人(カズキ)を気にしている様だ。

やがて、ゲンヤはカズキの紹介を始めた。

 

「今回の合同演習に特別に指導してくれる事になった民間協力者ガーディアン・ブラボーだ。」

 

「ガーディアン・ブラボーだ。

 今回はオレが指導する事になったので皆よろしく。」

 

「ブラボーには今度新設する特殊部隊の教導官をしてもらう事になってる。」

 

隊員達は突然の事に騒ぎ始める。

合同練習を仕切る謎の民間協力者。

しかも、その民間協力者が教導するという新設部隊の設立。

隊員達からすれば急展開にも程がある。

 

「さて、あんまり長々と自己紹介しても時間が勿体無いし。

 さっさと合同演習を始めようか。」

 

『よろしくお願いします!!』

 

戸惑っていた隊員達だが部隊長達が何も言わない以上従うしかなかった。

だが、次にカズキが放った指示は隊員達がまったく想像していなかったものだった。

 

「それじゃ、まず全員で隊舎周り10週。

 それが終わったら二グループに分かれて前半組みは隊舎周20週。

 後半組みは自分のデバイスの素振りを前半組みが終わるまでやり続けるように。」

 

『はぁ!??』

 

ロニを含む108部隊以外の隊員達の驚愕した声が重なった。

カズキの言った訓練内容は明らかに魔導師のそれもミッド式の魔導師の訓練から逸脱していた。

隊舎は一週約2.5km。

つまりウォーミングアップで25km。

訓練で50km走れと言っているのだ。

更にデバイスの素振りなどミッド式の魔導師は訓練校時代以来まともにやった事がない。

さすがに隊員達は不満を口にし始めた。

その内の隊長格の一人がカズキに質問し始めた。

 

「あの、ブラボー教官。」

 

「ん?

 どうした?」

 

「折角の合同訓練ですのに模擬戦とかはなさらないのですか?」

 

「模擬戦はするよ。

 でも、その前に基礎訓練はしないと。」

 

「それは解りますがデバイスの素振りなんてミッド式の魔導師は訓練校ぐらいでしかやりませんよ?」

 

「だからどうした?

 ミッド式だからって肉弾戦の訓練を疎かにしてもいいとでも?

 それより、文句ばっか言ってると模擬戦する時間もなくなるぞ。」

 

「……。

 あの失礼ですが教官は教導経験の方は?」

 

「そんなこと知ってどうするんだい?」

 

「教官の様な教導方法を聞いたことがないものですから。」

 

「……ない。」

 

「はい……?

 すみませんもう一度お願いできますか?」

 

隊員が驚いた顔でもう一度カズキに尋ねる。

 

「少なくとも魔導師の育成経験は一度もないよ。」

 

「魔導師ランクは!?」

 

「さぁ。

 そもそも、オレ次元漂流者らしいし。

 魔法が使えるかも解らないよ。

 ただ、魔法が使えなくたって基礎訓練は出来るだろ?」

 

カズキの言葉を聞くと隊員は呆れた顔をして隊員達の方を向く。

 

「各部隊、チームに別れていつも通りに模擬戦するぞ。」

 

なんと隊員はカズキの指示を無視して勝手に訓練をやり始めたのだ。

 

「どういうつもりだ?」

 

「それはこっちのセリフだ。

 何で魔法使えねぇヤツがオレ達の教官やってんだよ。」

 

隊員はさっきまでの態度と打って変わって高圧的な態度でカズキと話す。

 

「それが何か問題でもあるのか?」

 

「大有りだよ。

 いいか?

 オレ達は魔導師だ。

 魔法が使えねぇヤツがどうやって教えるって言うんだよ?」

 

「魔法が使えなくても基礎くらいは…」

 

「アンタから教わるような基礎はねぇし役に立たねぇよ。

 全く、ナカジマ三佐も何考えてるんだか。

 結局、魔法使えねぇ上の人間は現場の魔導師の事なんざ理解してねぇじゃねぇか。」

 

普通、上官やその上官が態々呼んだ相手にこんな態度を取れば一発で修正もの。

しかし、他の部隊長達も同じ考えなのか何も言わない。

ゲンヤも黙ったまま腕を組んで此方を見ているだけ。

カズキは隊員達や部隊長達の態度、ゲンヤの様子を見て呟いた。

 

「なるほど。

 ゲンヤがオレに合同訓練からの参加を頼んだ理由が解った。」

 

さっきまで話していた隊員を押し退けて隊員達の前に出る。

 

「何すんだよ!」

 

「訓練内容を変更する。

 全員模擬戦を始めるぞ。」

 

「はぁ!?」

 

「だから模擬戦。

 したいんだろ?」

 

「ああそうかい。

 だったらアンタは端っこで黙って大人しくしてろよ。

 どうせ何も出来ないんだから。」

 

「何言ってるんだ。

 オレも参加するんだよ。」

 

『はぁ!!??』

 

カズキの言葉に全隊員が耳を疑った。

魔法が使えない人間が管理局の前線魔導師に戦いを挑む。

この世界の人間には正気の沙汰に思えなかった。

一人の隊員が隊長に念話を飛ばす。

 

(どうするんですか隊長?)

 

(どうすると言ってもな……。

 適当に三人くらい選んで相手させよう。)

 

(いいんですか?)

 

(あの様子だと何処かの魔導師にまぐれで勝ったんだろうよ。

 適当に痛め付けて天狗になってる鼻っ柱を叩き折ればいいさ。)

 

隊員は数人選んでカズキの前に出す。

しかし、カズキは隊員達に向かってとんでもない事を言い出した。

 

「何やってるんだ?

 加減なんていらない。

 全員で一斉に挑め。」

 

『ああっ!??』

 

この一言に殆どの隊員がキレた。

他の隊からも念話が届く。

 

(おいどうすんだよ?)

 

(決まってる。

 二度とバカな事言えねえ様に徹底的に潰してやる。)

 

(大丈夫なのか?)

 

(知るかよ。

 大体向こうから言い出したんだ。

 オレ達は従ってやるだけだよ。)

 

(了解。

 全員、教官殿を囲んで差し上げろ。)

 

全員がカズキを囲もうと動き出す。

その時、ロニが手を挙げる。

 

「あの~!

 ブラボー教官!!」

 

「なんだ?」

 

「我々、108部隊は教官の訓練に参加するので走りに行ってもいいですか?」

 

「おい!ロニ何を勝手に…」

 

「いいぞ。」

 

「ありがとうございます!

 それじゃあ、隊長も皆も早く行こう!!」

 

「おい、ロニ引っ張るな~!!」

 

ロニは隊長と皆を連れて走りに行ってしまった。

 

(108部隊のヤツらどうしたんだ?)

 

(さぁな。

 大方、自分ところの部隊長が連れてきた相手をボコるのは気が引けたんだろうよ。)

 

そうこうしているとカズキの包囲が完了した。

左右上空と360度の逃げ場なしの包囲網が完成した。

 

「確認するが……いいんだな?」

 

「何処からでも。」

 

「全員一斉掃射!!!

 このバカに格の違いを教えてやれ!!!!」

 

カズキに向けて数えるのも馬鹿らしい程の魔力弾が放たれた。

 

 

 

 

 

隊舎周りを走る108部隊一同

 

「おい、ロニ何で止めなかったんだ?」

 

先程強引に引き摺られてった隊長がロニに訊ねる。

ロニは前を向いて走りながら答える。

 

「そりゃあ、無駄に労力使いたくありませんしね。」

 

「お前にしては随分冷たいな。

 ここ一週間ずっとブラボーさんって慕ってたのに。」

 

隊長は意外そうな顔をして言った。

 

「隊長何か勘違いしてるみたいですね。

 あのまま、彼処にいたら潰されてたのは間違いなくオレらですよ。」

 

しかし、ロニはそんなことを言い出したのだ。

 

「いや流石にそれはないだろ。

 オレ達が抜けたって700人以上は居るんだぜ?

 ブラボーさんの強さは知ってるけどよ……。」

 

「あの人の強さを知ってる?

 隊長それはありえませんよ。

 あの人は自分の強さなんてオレ達の前で欠片も見せてないですよ。」

 

「何だと!?」

 

「そもそも、あの人に勝つのは今のオレ達じゃどれだけ集まっても無理ですよ。

 あの人相手に出来るのは負けないために全力で戦闘を避けること。

 あの人は強さや格が違うなんて話じゃない。

 【次元】が違い過ぎます。」

 

「その言い方だとオマエは少しは知ってるのか?」

 

「ええ。

 と言っても欠片というか破片程度ですが。」

 

 

 

 

 

大演習場

 

数え切れないほどの魔力弾が直撃し埃を巻き上げる。

カズキがいた中央部分は霧の様になっていて見えなかった。

やがて霧が晴れ始める。

そして霧が完全に晴れた時この場にいる全ての人間が驚愕した。

 

「う……ウソだろ。」

 

「どうした?

 これが全力か?」

 

ガーディアン・ブラボーは何事もなかった様に佇んでいた。

その光景に部隊長達も慌て出す。

 

「一体どうなっている!?」

 

「レアスキルか何かの力が働いたのか!?」

 

「サーチャーの映像をスローで回せ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

部隊長の一人がサポートに来ていた局員に指示を出す。

そして送られた映像を見て驚愕した。

 

「ば、バカな…こんな事が有り得るのか!??」

 

 

 

 

 

「異常なまでの空間認識能力。」

 

 

 

 

 

映像のカズキは全ての魔力弾を躱してみせたのだ。

 

「ど、どうなってやがる!??」

 

「あんな数の魔力弾をどうやって!??」

 

隊員達が慌てる中カズキは確認するように言う。

 

「これで終わりか?

 じゃあ、今度はこっちから行くぞ。」

 

次の瞬間、カズキの姿がぶれた。

同時に先程まで言い争っていた隊長格の隊員の懐に潜り込んでいた。

 

「え?」

 

 

 

 

 

「一瞬で相手の懐に侵入する脚力。」

 

 

 

 

 

放たれる腹部へのアッパー。

大空を舞う隊員。

隊舎の一室の窓ガラスをぶち破り。

そのまま医務室のベットにデリバリー。

 

 

 

 

 

「全てを弾き吹き飛ばし粉砕する打撃力。」

 

 

 

 

 

「せ、CG(センターガード)は直ちに射撃準備!!

 FA(フロントアタッカー)とGW(ガードウィング)は足止めを!!!

 FB(フルバック)は前線の援護を!!!」

 

『りょ、了解!!』

 

正気に戻った隊長格の指示で隊員達も動き出す。

 

「漸く、やる気になったか。

 だが……。」

 

「でぇぇぇぇい!!!!」

 

「もらったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

隊員達が一斉に攻撃を仕掛ける。

だが…。

 

「そんな指揮系統も立て直せてない状態で。

 おまけに焦った様な攻撃が通じるとでも思ってるのか?」

 

カズキは隊員達の攻撃を全て防いでみせた。

 

 

 

 

 

「鋼鉄さえ握り砕く握力。」

 

 

 

 

 

そして隊員達の魔力刃やデバイスを握り潰す。

そのまま目にも止まらぬ速さで次々と足止めの魔導師を無力化していく。

 

「FA・GWは下がれ!!

 CG全員一斉掃射!!!

 上空の魔導師はよく狙え!!

 幾ら何でも上空への攻撃手段はないはずだ!!!」

 

左右上空と全方位から魔力弾が再び発射される。

攻撃も砲撃が含まれていて前回の比ではない。

そしてカズキのいる場所に着弾した。

 

「さすがにこれで…」

 

「これで……何だ?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

「高層ビルの屋上に簡単に飛び上がる驚異的な跳躍力。」

 

 

 

 

 

カズキは上空に飛び上がり攻撃を回避していた。

 

「そんな、空を飛べるなんて!??」

 

「ただのジャンプだ。」

 

「嘘だっ!!!!」

 

その言葉を最後に隊員の意識は刈り取られる。

次々と撃墜されていく魔導師達。

最後に残ったのは後方支援のFBだけだった。

一応、彼らは戦闘中に何もしなかった訳ではない。

前衛部隊の攻撃力の強化。

攻撃の当たる瞬間の防御魔法。

バインドの設置。

もっとも全てが無に還ったが。

強化された攻撃を弾き返すは砕くは。

障壁を問答無用でぶち抜くは。

バインドは何事もないように引きちぎるは。

動きが速過ぎて捕捉が出来ないはのイかれっぷり。

FBは慌てて逃げ出そうとする。

しかし…

 

「何処に行く?

 まだ模擬戦は終了してないぞ。」

 

いつの間にかカズキは後ろに回り込んでいた。

 

『qあwせdrftgyふじこlp』

 

残った隊員達の声にならない声が大演習場に響き渡った。

 

 

 

 

 

「そして、訓練時の容赦のなさ。

 こんなところですかね。

 もうあの人はアレです。

 存在がバグか何かですよ。」

 

『うわぁ……。』

 

ロニの話を聞いた108部隊の隊員達はドン引きしていた。

 

数十分後

 

ウォーミングアップを終えた108部隊が大演習場に戻ってきた。

 

「108部隊ウォーミングアップ完了…って何じゃこりゃぁぁぁ!???」

 

そこに広がるは屍とかした約700人の隊員達。

そして中央に佇む銀色の戦士。

ちなみにゲンヤを除く部隊長は余りの出来事にフリーズ状態。

ゲンヤは隊員達の体たらくに頭を抱えていた。

 

「終わったか。

 しかし、高々ウォーミングアップで疲れてる奴もいるな。

 ダラシがない。

 お前らそれでも戦闘員か?」

 

『も、申し訳ありません……。』

 

息も絶え絶えの何人かの隊員を見てカズキは思う。

 

(どうも魔導師というのは魔法に頼り過ぎて基本を蔑ろにするヤツが多いみたいだな……。)

 

カズキはゲンヤの方を向く。

 

「ゲンヤ。

 これじゃあ、合同訓練は出来そうもない。

 悪いがオレはこれで上がらせてもらう。」

 

「おう、了解だ。

 ありがとな。」

 

ゲンヤに報告を終えて隊員達に振り返る。

 

「ウォーミングアップ程度で息を切らす様じゃオレの訓練をこなすのは不可能だ。

 オレの訓練はこれで終了。

 後は各自部隊長の指示を待て。」

 

『……。』

 

隊員達は悔しさで唇を噛む。

自分達がどれだけ魔法無しだと非力な存在かを思い知らされた。

 

「だがチャンスはある。

 もし変わりたいと思うのなら二ヵ月後に出来る特殊部隊に来い。」

 

「特殊…部隊?」

 

「そうだ。

 その名も。

 特殊訓練部隊WS。

 もしその気があるなら少しは鍛え直して覚悟を決めておくんだな。」

 

カズキはそれだけ言ってその場を立ち去る。

ゲンヤが近づいてきて話しかけてくる。

 

「お疲れさん。」

 

「酷いですね。

 あれで陸戦部隊を名乗るとは呆れて何も言えない。」

 

「恥ずかしい限りだよ。」

 

「けど、何人か鍛えがいのありそうなのを見つけたよ。」

 

「何だ。

 ただ一方的に潰してた訳じゃないのか。」

 

「これでも人材育成の経験はある。

 みすみす成長の芽を潰す様なマネはしないよ。」

 

「そうか。

 しかし部隊の名前だが。

 随分大きく出たな。」

 

「?

 何のこと?」

 

「ダブルエスって名前だよ。

 俺の部隊ならSSランク相当にしてやれるってか。」

 

カズキはゲンヤの言葉を聞いて納得した様な顔をする。

そして不敵に笑った。

 

「ゲンヤ違うよ。

 WSはそんな意味じゃないよ。」

 

「何?」

 

「WSは只の略称。

 本当の正式名は【特殊訓練部隊WeedSpirit】。」

 

 

 

 

 

雑草魂さ。




[次回予告]
遂に稼働する特殊部隊
そこにはオレ達の想像を超えた地獄があった
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【雑草達の意地】


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第7話 雑草達の意地

今回かなり時間が掛かってしまいました…
やはりオリキャラを主軸で回すのは難しいですね…


~Roni side~

 

辺り一面に生い茂る草木。

オレは草陰に隠れてその先にいる生物を観察する。

ウサギだ。

あのサイズはまだ子供だろう。

気付かれないように気配を殺しながら後ろに回る。

右手に持っている武器に力が篭る。

 

そして…

 

 

 

 

 

「シャァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

子ウサギが此方に気付く。

だがもう遅い。

オレは右手の手斧を力の限り振り下ろす。

 

「今晩の主食捕獲完了……。」

 

1メートル弱の子ウサギを仕留めるのに成功した。

オレは仲間に無線で連絡する。

 

「こちらキャロット1。

 ターゲットの捕獲に成功。」

 

『でかしたキャロット1!!

 そのままいつもの滝壺で落ち合うぞ。』

 

「了解。」

 

オレは通信を切り一息入れようとした。

その時…

 

キッィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!

 

辺に甲高い声が響き渡る。

慌てて周りを見渡す。

 

「しまった!!」

 

よく見ると近くの草陰に子ウサギもう一匹いた。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 

続いて聞こえてくるのは大量の地響き。

 

「ヤバいヤバい!!!」

 

慌てて仕留めた子ウサギを抱えて全速力で走る。

後ろを振り向くと…

 

 

 

 

 

3メートルを超える巨大ウサギの大群が押し寄せて来ていた。

 

 

 

 

 

「ダァァァァッ!!

 死んでたまるかぁぁぁぁ!!!」

 

オレの声が森に響き渡る。

 

第56管理外世界 スクリナ

 

魔法文化なし

 

B級危険生物生息地域

 

オレ達がこの世界に放り込まれて3ヶ月。

ガーディアン・ブラボーの特殊部隊WS稼働から半年の月日が経っていた。

 

~Roni side end~

 

Oh…Oh…Da…

Oh…Oh…Da…お前と~♪

 

半年前 大演習場

 

あの事件。

一部の魔導師達には【白銀の惨劇】等と騒がれている事件があった大演習場には300人以上の局員が集まっていた。

現在午前8時55分。

局員達は整列してある人物の到着を待っていた。

その間に局員の数人が話をしている。

 

「しかし、よく2ヶ月で新設部隊なんて結成できたよな。」

 

「ああ、普通だったら有り得ないだろ。

 マジであの人何者だよ。」

 

「噂だとナカジマ三佐が地上本部まで申請の為に乗り込んだらしいぜ。」

 

「それ本当かよ!?」

 

徐々にヒートアップしてく局員達。

見かねたロニが局員を注意しようと動く。

 

「おい、お前らその辺に…」

 

 

 

 

 

その時圧倒的存在感がこの場を支配した。

 

 

 

 

 

『!!??』

 

この場にいる全ての局員が黙り背筋を伸ばした。

すると局員達の目の前にはいつの間にか一人の男が立っていた。

特殊核鉄改[VS]を起動させた【武藤 カズキ】。

錬金戦団大戦士長【ガーディアン・ブラボー】その人だ。

その発せられる威圧感から局員達は理解する。

前回は只の様子見だったことを。

 

「号令。」

 

「っ!?

 全員敬礼!!」

 

カズキの声で漸く状況を理解した局員の一人が他の局員達に指示を出す。

カズキは局員達に手を下ろすように言って説明を始める。

 

「一応簡単な自己紹介だけしとくぞ。

 この部隊の部隊長ならび総監督を務めるガーディアン・ブラボーだ。」

 

次にカズキは持ってきていた箱からゼッケンと名簿を取り出す。

 

「今から名前を呼ばれたヤツからゼッケンを取りに来い。

 アイ・マイミー。」

 

「はい!!」

 

カズキは次々と局員の名前を呼んでいく。

やがて300人近くの局員全員にゼッケンが行渡った。

 

「全員、ゼッケンは付けたな!!」

 

『はい!!』

 

「よし、今後はそれの装着を義務付ける!

 なお、訓練期間中は名前とデバイスを没収する!!」

 

『ーーっ!??』

 

周りがざわつく。

デバイスの没収。

それは部隊に在籍中は魔法を一切使えないという事だ。

なにより名前の没収の意味が全く理解出来なかった。

 

「騒ぐな。

 今、説明してやる。」

 

局員達は黙り説明に耳を傾ける。

 

「この部隊の目的の一つは身体基礎能力の強化だ。

 故に期間中は魔法から一切離れてもらう。」

 

カズキは続けてキツイ一言を放った。

 

「名前についてだが…。

 ハッキリ言おう。

 今のお前らには等しく局員としての価値がない。

 それこそ其の辺に生えてる雑草と同じ位。」

 

『っ!??』

 

場の空気が凍り付く。

普段温厚なカズキから吐かれた蔑みの言葉。

特にその人柄を少なからず知っていた108部隊の面々は驚愕していた。

 

「この前の訓練に参加した奴らは身に染みて理解してるはずだ。

 お前らが自信満々に使っていた魔法はたった一人の人間にかすり傷一つ負わせられなかった。」

 

『……。』

 

局員達は思い出す。

700人もの魔導師がたった一人の次元漂流者に手も足も出なかったことを。

 

「そんな戦闘員として無価値なお前らが一丁前に給料貰うとか有り得ん事態だ。

 故にオレの仕事はお前らを育て直し出荷する事だ。」

 

『………。』

 

訓練開始前なのに既に局員達の心は折れかかっていた。

だがカズキの話はまだ終わっていなかった。

 

「訓練開始前にこれだけは言っておく。

 お前らが管理局に入った理由は色々あるだろう。

 憧れ、偶然、家系、金欲、贖罪、復讐。

 だが、お前らは共通して誰かを守るこの仕事を選んだ。

 覚えておけ。

 誰かの楯や刃と成るべきお前らの敗北は…。

 同時に守るべき人の死を意味すると。」

 

『……。』

 

「守り手に敗北は許されない。

 その事を忘れずに覚えておくんだ。

 …では、【特殊訓練部隊WeedSpirit】これより訓練を開始する。」

 

魔の訓練期間が幕を開けた。

 

~Roni side~

 

「あ~、死ぬかと思った……。」

 

獲物を下し胡坐をかく。

 

「お疲れさん。

 飲むか?」

 

するとキャロット3。

オレと同じ108部隊所属のテリィ・サンダー二等陸曹がココアを持ってきてくれた。

この場においてココア等の趣向品は本当に貴重な品だ。

 

「もらう。」

 

そんな品を分けて貰えるんだ貰わない訳がない。

カップの中身を少し飲むと疲れた体に優しい甘さが行き渡る。

 

「他の奴らは?」

 

「キャロット2はまだ帰って来てない。

 4は玉の探索に出てる。」

 

「そっか。」

 

オレはここで今の現状を思い返してみた。

 

 

 

3ヶ月前

 

ブラボーの訓練はまさに地獄だった。

徹底的に基礎力を鍛え上げる訓練。

吐くまで走り続け。

体中が擦り切れるまで武器を肉体を振るい。

気絶するまで模擬戦をし。

その後屍の様に眠る。

オマケにデスクワークも平然とあるときた。

あまりにハードな訓練に1ヶ月で50人が脱落した。

だが、人間の体は有り難い事に適応力が途轍もなく高い。

1ヶ月を過ぎると体が日々の訓練に慣れ始めていた。

しかし、この更に1ヶ月後。

オレ達はこの訓練が只の準備期間だった事を知る事となった。

ある日ブラボーは言った。

 

『2ヶ月間、訓練を耐えたご褒美にバカンスに連れて行ってやろう。』

 

その時点で既に怪しかったが…

その日は翌日の準備の為午前で訓練が終了となった。

そして、翌日連れてこられたのが此処スクリナにある島だ。

バカンスの実態はサバイバル訓練だったのだ。

そこでオレ達はとんでもない契約書を書かされた。

そこには…

 

【サバイバル訓練中による死亡または後遺症を残した場合こちらは一切の責任を負わない】

 

と書かれていた。

オレ達は訓練内容の説明を求めた。

だが、ブラボーは契約書に同意した者にしか教えないと言った。

ある意味これもふるい落としだったのだろう。

結局、54人が部隊を去り96人でのサバイバルとなった。

そして、残ったオレ達に訓練内容が語られた。

 

『お前らにはこれから最低1ヶ月間のサバイバル訓練を受けてもらう。

 今から装備を渡すから呼ばれたら取りに来い。』

 

呼ばれて装備を取りに行く。

装備には10日分の食料と通信機。

更にオレ達が訓練中に使っていた武器。

だが、今回は刃が潰されておらず銃の奴らも実弾だった。

紛れもない質量兵器だ。

普通ならどうやって手に入れたとか聞くのだろう。

だが、オレ達には最早そんな正常な思考はなかった。

使わなければ戦えないそれだけだ。

しかし、10日分ということは最低20日間は自給自足ということだ。

それにこの人参の絵が書かれた受信機…これは一体なんだ?

 

『全員装備は行き渡ったか?

 行き渡ったなら説明を始めるぞ。』

 

全員ブラボーの方を向く。

 

『まずは諸君。

 2ヶ月の基礎訓練突破おめでとう。

 諸君らは晴れて無価値な雑草から苗へと昇格した。』

 

ブラボーはオレ達を見回しながら言う。

 

『だが、諸君らは漸くスタートラインに立ったに過ぎん!

 これから行われるのは選別!

 所謂、【間引き】というやつだ!!』

 

そう言ってブラボーはピーマンの絵が書かれた砲丸玉くらいの大きさの球を取り出す。 

 

『コイツには今配った受信機と同じ柄のヤツに反応する送信機が組み込まれている。』

 

そう言って同じ絵の書かれた受信機を取り出して電源を付ける。

すると受信機器から甲高い音が響く。

 

『コイツの有効範囲は2km。

 近づけば音が高くなり鳴る間隔も速くなり。

 離れれば低くなり感覚も遅くなる。

 諸君らは4ヶ月以内にコレを発見し此処に持ち帰ることが任務だ。』

 

そう言って受信機の電源を落とす。

 

『コイツと通信機のバッテリーはソーラー電池だがコマ目に電源を落とすことをオススメする。』

 

その言葉の意味を理解したのは訓練開始から1ヶ月後だった。

どうもこの島は雨が多くなる季節に近かったらしく1週間くらい雨が続いた事があった。

おかげで途中で通信機とかが使えない事態に陥ったのだ。

 

『それとこの銃だが。』

 

今度はやけにバレルの太い小銃を取り出す。

 

『コイツは緊急時の発煙弾だ。

 またコイツの煙は此処の動物達が嫌がる匂いを発するから危険な時に使え。

 ただし使用した場合その場で任務失敗とする。』

 

つまりコイツはリタイヤ用の装置という訳だ。

 

『なお今後は配布したドッグタグを呼び名とする。』

 

カバンに取り付けられてるタグを見る。

 

【Carrot01】

 

人参部隊ってか…

まぁ、雑草から作物になっただけマシか。

 

『説明は以上だ!

 質問はあるか?』

 

全員は黙り覚悟を決めた顔になる。

 

『よし!

 これよりサバイバル訓練を開始する!!』

 

地獄のサバイバルはこうして幕を開けたのだった。

 

回想終了

 

 

 

現在

 

「もう開始して3ヶ月か。」

 

「そうだな。

 しかも最悪なことに期限がもう残されていない…」

 

地獄のサバイバル開始から既に3ヶ月と3週間。

オレ達に残された時間はもう1週間を切っているのだ。

しかも今だに目標の玉が発見出来ていないという絶体絶命の状況である。

 

「戻ったぞ~。」

 

すると一緒に食料調達に出てたキャロット2が戻ってきた。

 

「よう、災難だったなキャロット1。」

 

「いや、見てないで助けろよ。

 何の為の後方支援だよ。」

 

オレはアイツが持ってる狙撃銃を指差しながら言う。

 

「そうは言うがなこっちもいい加減残弾数がヤバイんだ。

 節約していかないと弾が持たない。」

 

「つまりオレへの援護は切り捨て対象だったと?」

 

「あの程度の状況、お前なら切り抜けられると信じてたからな。」

 

そんな信頼は御免こうむる。

 

「まぁ、実はこんなのを見つけてな。

 コイツの回収をしてた。」

 

キャロット2が掲げたそれはボロボロになったバックパックだった。

 

「他の部隊の遺物か……。」

 

「ああ…。

 食料の類は全滅してたが弾薬や薬は無事だったから回収してきた。」

 

「持ち主達は?」

 

「近くに緊急用の発煙弾が使われた形跡があったから多分大丈夫だと思う……。」

 

「そうか…。」

 

これの持ち主の隊が脱落したのは確実の様だ。

共に2ヶ月の苦行を乗り越えた仲間達が部隊を去った事を考えるとやはり気が沈む。

 

「気を落とすのはわかるが。

 このままじゃオレ達も仲間入りする事を忘れるなよ。」

 

テリィ陸曹がココアをキャロット2に渡し話に加わる。

 

「わかってるさ。

 キャロット4の報告次第では今夜も探索かな。」

 

「ああ。

 まずはその前に腹拵えだな。」

 

そう言ってオレ達は今夜の主食を見る。

そしてげんなりした…

 

「今夜も肉かよ……。」

 

「2日前に猪の干し肉処理したばっかなのにな……。」

 

「文句を言うな。

 少なくとも新鮮な肉を食べるのは5日振りだ。」

 

だが正直かなりキツイ…

この世界に放り込まれてからオレ達の食事の主食は肉と山菜になっていた。

 

「せめて…せめてライスがあれば!!」

 

「ああ…焼肉か…。

 アレは美味かったな……。」

 

特殊部隊が始動して1ヶ月経った日の事だった。

地獄の基礎訓練を終え夕食の為取りに食堂に来たオレ達の前には七輪と呼ばれる料理機器が置かれていた。

そして始まったのがブラボー発案の焼肉パーティーだった。

 

「BBQと違い焼きながら食うていうのがいい!

 アツアツの状態の肉を艶のあるライスと一緒に掻き込んだ時は最高だった!」

 

「ホルモンが食いたい……味噌ダレの。」

 

「ああ…アレな。」

 

オレも嬉々として食べていたあのコリコリとした食感の肉。

アレがまさか牛や豚の臓器だった事は今でも衝撃的事実だ。

 

「もしくは海鮮丼が食いたい。」

 

「アレか。」

 

最初出てきた時は何の虐めかと思ったわ。

生魚の切り身が乗った丼飯とか…

 

「まさか生や半生の魚があんなに旨いとは思わなかったぜ。」

 

「ああ、酸味の効いたライスと醤油とかいうタレとの相性は最高だった。」

 

ここの魚はどうも脂が多いみたいで食えたもんじゃない。

一回魚喰いたさに無理して食べて全員一週間下痢に悩まされたのは嫌な思い出だ。

しかし生魚といい臓物といいブラボーの故郷の食文化は些かワイルド過ぎやしないか。

 

「さて、現実逃避はこのくらいにして肉をバラすぞ。」

 

「そうだな。

 とりあえず今の要望は訓練終了後にブラボーに作ってもらう方向で。」

 

「おう。

 けどブラボーってマジで完璧超人だなぁ……。」

 

本人曰く達人らしいが。

あの人一体いくつ達人なんだよ。

 

「料理も出来て戦士としても超一流。

 一体何者なんだ?」

 

「そういえばあの人の出身って話題のエース・オブ・エースとかと一緒らしいな。」

 

「そうなのか!?

 日本って国は凄いんだなぁ……。」

 

 

 

銀成市

 

「誤解よ!??」

 

「どうかしましたか?

 智依サン。」

 

「あ、すみません桜花先生。

 いえ、何だかお義父さんとかの所為で日本が修羅の国や変人達のテーマパーク的な扱いを受けた

 気がして。」

 

「少し休んだ方が良いわね。

 ソウヤクンが亡くなって武藤クンまで行方不明になってしまったのだもの。

 疲労が蓄積してても可笑しくないわ。」

 

「だ、大丈夫ですよ!

 それよりこの資料を早くパピヨンさんに届けなきゃ。」

 

そう言って智依は資料室を早足で出て行く。

 

(……武藤クン。

 アナタは今何処にいるのかしら?

 ……というより彼の周りは変な影響を受けてないかしら……。)

 

桜花の心配が既に大分手遅れ的な状況になっている事は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

「戻った……。」

 

オレ達が獲物の処理をしているとキャロット4が戻ってくる。

 

「漸く、玉の在り処がわかった……。」

 

『!?』

 

その報告に全員が反応する。

 

「場所は!?」

 

「此処から6km程先の洞穴の中だ。」

 

「すぐ近くじゃねぇか!?」

 

「よしさっさと回収しに行くか!!」

 

オレ達は出発準備を始めようとした。

だが…

 

「待て……。」

 

キャロット4がそれに待ったをかける。

 

「どうした?」

 

「まだ報告は終わってない……。

 その洞穴だが……。」

 

聞かされた報告にオレ達は頭を悩まされる事になった。

 

 

 

夕食後

 

オレは一人火の番をしながら報告を思い出す。

 

「よりによって【ロックベアー】の巣かよ……。」

 

ロックベアー

此処スクリナに生息する熊である。

動きは鈍いがその巨腕から繰り出される一撃は大型トラックが簡単に大破してしまう程だ。

一応スクリナ内では危険生物5指に入るがCランクの陸戦魔導師小隊で十分対応できる生物だ。

だが、それは魔法が使えることを前提での話だ。

魔法なしでロックベアーに挑む。

それは稼働中の切削機の刃に生身で突っ込んでも平気かどうか位解りきった結果だ。

……ブラボーは平気で生還しそうだけど。

 

「おう、見張りお疲れ。」

 

キャロット2がコーヒーを持って此方にやってきた。

 

「良いのか?

 寝てなくて?」

 

「なんか目が冴えてなぁ……。」

 

オレはコーヒーを受け取る。

しかし、コイツ大丈夫か?

明日の作戦で間違いなく命懸けになるのはオレとコイツだ。

ちゃんと睡眠はとってもらいたいんだが。

そういえばコイツとも色々とあったなぁ……。

オレはふっと4ヶ月前の記憶を思い返した。




[次回予告]
思い返すのは6年前のミス
半年前の戦士の誘い
4ヶ月前の戦友の言葉
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【信頼の弾丸】


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