スノーフレークⅡ (テオ_ドラ)
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000.「プロローグ」

――希望のない世界。

 

残された人々にとって世界には絶望しかなく、

すがれるモノも喪い、ただ最期の日を待つだけ……

どれだけマザーシップが演算を重ねようが無意味で、

全てが「手遅れ」となった現在では

滅びは避けようのない決定事項だ。

けれどみんなはそれでも懸命に生きようとしていた。

 

でも僕にとっては「明るい未来」だなんて

少しも「想像できないモノ」に対して興味があるはずがない。

世界がどうなろうと、それを決定できるのは僕じゃないのだから。

 

僕にとって大切なことはただ一つ、

「あの人」と一緒にいられること……

それだけが僕にとって生きる意味であったし、

その他のことはどうでもいいと思っていた。

 

その人はとても物静かで口数も少ない。

最低限必要なことで大体は会話を終えてしまう。

けれど僕には言葉なんていらない、

ただ傍にいるだけで彼女の持つ安心感に身を包まれていた。

彼女はいつだって冷静で頼もしくて凛々しくて……

それでいてどこか憂いを帯びた瞳が

ミステリアスな魅力だと僕は常日頃から思っている。

 

オラクルの未来がどうなるかなんて

シャオですらわからないのに

新米アークスである僕にわかるはずがない。

でもこの愛おしい人と一緒にいられる未来は

どこまでも続くものだと無意識に思い込んでいた。

 

――だから、この人を喪う覚悟なんて

  これっぽっちも持っていなかったんだ。

 

「……――」

 

彼女が僕の名前を小さく呼ぶ。

普段の抑揚のない声とは違い、

掠れ、苦しそうな声色だった。

もう話せる状態でないのは明らか、

でもそれでも彼女は僕に向かって呟いている。

 

「……師匠!」

 

僕の頬を涙が伝う。

どうして自分が泣いているのか、

最初は全く分からなかった。

だけれど目の前の現実を受け入れたくない僕の心とは裏腹に、

冷静に状況を判断した体が

勝手に涙を流してしまっていたのだ。

 

彼女の手に持つガンスラッシュは

「敵」の胸に深々と突き刺している。

けれど強大な相手にとってそれは

全くもって致命傷なんかではない。

逆に懐に飛び込んでしまったことで

回避の術を失ってしまった彼女に対して、

巨大な手は無慈悲にも振り下ろされ、

爪で串刺しにされてしまっていた。

生身のアークスなら即死だっただろう。

それでもまだ彼女が生きているのは、

キャストだからだった。

 

……とはいえ、僅かに生きる時間が伸びただけに過ぎない。

もう、ほんの少しの時間であの人の生命活動は停止するだろう。

 

「師匠!」

 

情けない僕は叫ぶ以外に、

何もできることがなかった。

目の前で大切な人が傷ついていても

無力で格好悪い僕はその場から動けない。

 

「……――」

 

彼女が僕の名前を再び呼び、小さく笑った。

 

それが僕が見た彼女の初めての笑顔で、

そして最後の笑顔。

想い焦がれて望んでいたそれを、

喪う時になってやっと、僕は目にした……。

 

「さ……よう……なら……」

 

彼女は力なく呟く。

それは別れ言葉。

僕が生きる希望の光が消えるということだ。

 

「う……」

 

喉から声が漏れる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

僕は、光りない暗闇の世界で慟哭を上げた。

 



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001.「大丈夫」

暗闇の宇宙空間。

本来ならば満天の星々の光が照らし、

広すぎる世界の中でも孤独を感じないという。

 

けれど今はどこを見回しても……

どれだけ目を凝らしたしても……

星々の輝きを見出すことはできなかった。

 

「……」

 

代わりにそこにあるのは

赤い……まるで血のような薄気味悪い光。

ゆらりゆらり揺れながら赤い光は宇宙を漂い、

標的を見つけては喰らっていく。

 

――ダーカー。

  全てを喰らう人類の敵。

 

アークスシップの甲板。

ダーカーを迎え撃とうとしている

一人のアークスがいた。

少し雑に切り揃えた短い黒髪で、

前髪は右目を隠している。

まだ16歳には満たない少年、

幼い顔立ちでありどこか頼りげない雰囲気だ。

けれど前髪の合間から覗く瞳は

鋭く細められている。

まるで威嚇をしている小さな猫のようだった。

クリス=トーラム。

それが少年の名前だった。

オフィサーコートという

ぴっちりとしたスーツに身を包んでいる。

本来は落ちついた男性のための衣装なのだが、

クリスが着ると少し背伸びをした子供にも見える。

 

背に背負っているのは1対のブレード。

飾り気のないシンプルなデザインで、

特殊な鉱石で打たれた2枚の刃から

それぞれフォトンの刃を発生させる武器、

デュアルブレードと呼ばれるカテゴリー種だ。

彼の飛翔剣はグレスミカという名前を持ち、

オーソドックスな性能を持つ使いやすいものである。

 

「……」

 

彼の眼前には赤い光の群れ。

迫りくるダーカーは数えきれないほどであり、

彼には荷が重すぎるのは明らか。

けれど退くことはできない。

もう自分が立つ場所はアークスシップ、

これより後ろなんてものはありはしないのだから。

 

「……来い!」

 

クリスは男にしては少し高い声音、

それを精一杯低くして叫ぶ。

応えるようにダーカーたちは甲高い声をあげた。

 

ぶぉんっと風斬り音と共に突進してきた2匹は

蜂のようなフォルムではあるが、

両手には鋭い鎌を持つエル・アーダ。

直撃すれば軽い体のクリスは

ひとたまりもなく吹き飛ばされるだろう。

だが冷静にグレスミカを振りかざし

 

「イモータルダーヴ!」

 

剣から発生させたフォトンの刃、

それを振り下ろして叩き斬る。

あまり上位の個体ではなかったらしく、

一撃で体を縦に分断されダーカー因子となり霧散する。

 

仲間がやられたことなどまるで気にせず

残りの一匹は猛然と突っ込んできた。

肉薄するほどの距離、

けれどデュアルブレードにとっては

その距離はむしろ好都合。

 

「ヘブンリーカイト!」

 

下からすくい上げるように切り上げ、

両手に持った剣を回転させながら上昇する。

何度も斬りつけられたエル・アーダは

これも呆気なくずたずたに切り裂かれて霧散した。

 

「そこっ!」

 

その後ろから迫ってきていたのは

巨大な尻を持つ蠅のようなダーカー、ブリアーダ。

周囲に自分の尖兵を生み出し襲い掛かるのが脅威だが

 

シュンッシュンッ!

 

空中に対空していたクリスは

剣をブンッと振り回す。

するとデュアルブレードから放たれたフォトンの刃……

それが周囲に飛んでいた卵を見事に撃ち落としていく。

フォトンブレードと呼ばれる飛翔剣の由来となる攻撃だ。

威力こそ高くはないが、

近距離だけでなく遠距離が攻撃できるというメリットがある。

近接武器でありながらオールラウンドに戦えるのがウリだ。

 

「ジャスティスクロウ!」

 

そしてそのまま剣で複雑に文様を描き、

フォトンの衝撃波を放ちブリアーダを吹き飛ばす。

爆散したフォトンがブリアーダを四散させた。

 

「よしっ!」

 

クリスは小さくガッツポーズをとる。

ダーカーも個体差でかなり能力が違うが

今襲い掛かってきているのは低位の個体、

これならばクリスでも十分に迎撃できる。

他のアークスの手を借りなくても

持ち場を守りきることができれば

少しはみんなも自分のことを見直してくれるだろう。

 

――その気の緩みが、命取りとなった。

 

着地したクリスを待ち構えていたのは

どこかダンゴ虫を思わせるフォルムのダーカー。

 

「……ギギギギギキギ」

 

鋭い角のような顔を持つそれはヴィドルーダという種で

大した攻撃能力はない存在。

だが生み出す衝撃波を浴びると、

フォトンに干渉されてアークスは一時的に激しい眩暈に襲われる。

 

「うわっ!」

 

無防備な着地の瞬間を狙われて

たまらずに転倒するクリス。

すぐに起き上がろうとするが、

ふらっとよろめいてしまい膝をついてしまう。

 

「……でもこいつには危険な攻撃はないはず」

 

ヴィドルーダ自身に攻撃能力はほとんどない。

対象の足を止めて、

他のダーカーに仕留めさせるのが基本パターンだ。

まだそんな傍には危険なダーカーはいない……

 

だが

 

ブヴヴヴヴヴウ……

 

周囲に突然響き渡る不快な羽音。

いつの間にかそこには大量の

小バエのようなダーカーたちが飛んでいた。

尻にはまるで爆薬のように真っ赤なダーカーコア。

 

「なっ……!」

 

ダモスと呼ばれる自爆特攻型ダーカー。

攻撃能力はないが、

拠点などに対して絶大な破壊力を持つ。

それが一斉に、

アークスシップへ目がけて突っ込もうとしていた。

初めからダーカーはこれを狙っていたのだ。

 

「やめろーーーーーー!」

 

フォトンブレードを手に駆けだそうとするが

よろめく体では間に合わない。

 

目の前で隔壁が破壊される……

その絶望感に吐きだしそうになったが

 

「伏せろ!」

 

背後から凄まじいフォトンをまといながら

飛翔してきたのは巨大なビームのような矢。

 

「ペネレイトアロウ!」

 

一応は矢ではあるはずだが、

どちらかというと粒子砲のような光と威力……

強烈な光を持ってダモスたちを飲みこむ。

 

「マスターシュート!」

 

更に次は拡散した矢。

それぞれがまるで意思を持っているかのように

ダモスたちを精確に撃ち抜いて行く。

 

「大丈夫か」

 

駆け寄ってきたのは、

黒いスラリとしたスーツに身にをまとった女性。

青い髪に少し大人びた表情。

左右のオッドアイと角があることから

種族はデューマンであった。

 

「だ、大丈夫です……!」

 

それはアークスであるならば誰もが知っている人だ。

クリスも当然ながら知っている。

ブレイバー最強のアークスであり、

かつ、オラクルに10人しかない守護輝士の一人。

 

「イオさん、すいません……」

 

イオ。

それがこの女性の名前だ。

彼女はクリスを安心させるように

肩をポンポンと叩く。

 

「気にするな。

 それより、よく耐えてくれたよ。

 お蔭でオレも間に合った」

 

彼女が手に持つのは巨大な弓。

元々彼女が使っていたエーデルイーオーⅡに

数年前に開発されたフォトンリング機構を合体させた

「エーデルオービット」という名前の星をも貫くされる強弓。

彼女の持つ強いフォトンに感応して

輝く光が暗闇の世界で眩く照らしていた。

 

「立てるか。

 まだダーカーの襲撃は終わっていない」

 

彼女の視界の先。

それはこちらの隙を窺うダーカーの群れだった。

 

「い、いけます!

 まだダメージを負ったわけではありませんから……。

 でも敵の数が多くて……」

 

いくらイオが強いとはいえ、

この数を相手には無傷では済まない……

 

「オレは一人じゃない。

 あいつも来てくれているからな」

 

「え……もしかして師匠が?」

 

まるでその言葉に応えるかのように、

突然響き渡るダーカーたちの悲鳴。

 

「……」

 

戦闘機に乗って戦場に駆けつけたのは、

一人のキャストの女性だった。

彼女を含めても

クリスとイオの3人。

対するダーカーは100匹はくだらないだろう。

戦力差で見れば絶望的……

けれど、

 

「大丈夫」

 

駆けつけた女性の声に、

クリスはもう諦める気持ちなど全くなかった。

 

 




※EP2の話とあらすじに書いてますが、
このシーンはEP2の時間軸の出来事ではありません


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002.「……終わり」

『しっかりと送り届けたぜ!

 毎度すまんが、俺はここで戻るぜ!』

 

軽薄そうな声、

戦闘機のパイロットであるオプタの声に女性は頷く。

 

「ありがとう」

 

元々は惑星内での調査に使われていた戦闘機だ、

宇宙空間においてダーカーに有効な攻撃手段は少ない。

またアークスでもないオプタは

ダーカーの発する「気配」に対してアークスに比べ鈍感だ。

それは彼自身もわかっていることだし、

また乗ってきたアークスの女性も理解していること。

だからダーカーのいるエリアまで

送り届けてくれるだけでも十分といえる。

 

数多くいた戦闘機乗り達……

そのほとんどが責務以上のことをしようとして

アークスを救う代わりに自身が命を落としてしまった。

そんな中、オプタは「自分の出来ること」を

しっかりと見極め判断し、把握していたからこそ

今では一番のベテランパイロットとして戦線で活躍できている。

 

……そう、死んでしまっては元も子もないのだから。

 

戦闘機から女性は飛び降りる。

アークスシップの周囲には重力が発生しているため、

不安定な無重力下で戦う心配はない。

女性は美しい白い衣装を身にまとっていた。

カルオセオリアと呼ばれる戦闘服で、

鋭角的なデザインに少しゆるりとした大きなスカート。

腕、背、腰にフォトンを増幅する特殊な

フォトンバーニアを装着し、

それは清廉な青いフォトンで美しく輝いていた。

足元まで届くであろう長いロングヘアーがたなびき、

青白い髪色と深く被ったティアラ。

まさに機械仕掛けのヴァルキリアといったところだ。

人々の希望となるためにデザインされたシロモノ。

 

彼女が一度、肩に手をそっと添える。

そこにあったのは勇猛な衣装には少し不釣り合いな

可愛いエンブレム。

それはまるでランプのように

ゆるりと垂れ下がった花のデザインのものだった。

 

手を離した彼女は、

すぐに無感情な冷たい表情に切り替わり、

腰に下げていたガンスラッシュを引き抜く。

 

「……シュトレツヴァイ!」

 

目にも止まらぬ速度で繰り出された銃剣は

周囲に浮遊していた

エル・アーダの群れの頭を精確に撃ち抜く。

モードよって違う効果を発動させるPAで、

射撃モード時は本来であれば牽制に使われる。

だが圧倒的な密度で放たれたフォトンの弾丸は、

エル・アーダたちの頭をいとも容易く吹き飛ばしていた。

 

白色の本体に、黄金色の装飾が施された銃剣。

荘厳でありながらどこか生物的な柔らかいフォルムを持ち、

その神聖な形状は「聖騎士」という言葉を連想させる。

持ち手のところに埋め込まれた

青白く輝く超高密度のフォトンの結晶からは

抑えきれないほどの光が溢れていた。

 

――オフティアバスター

 

それが彼女のために用意された

最強のガンスラッシュの名前。

かつてはダーカーの深き闇に呑まれたとある武器……

その負の力を識り、制することで転化した銃剣だ。

 

「エイミングショット!」

 

収束された銃弾が背後から寄ってきていた

ダーカッシュたちをまとめて貫通させ、

ダーカー因子へと霧散させる。

視線を向けることなくて周囲へと連射し、

次から次へとダーカーを葬っていく……

まるでダーカーが自ら弾丸に

当たりに行っているような錯覚を覚える光景だった。

 

「クライゼンシュラーク!」

 

彼女が左手を地面につき、

逆立ちをしながら右手の銃剣を周囲に乱射する。

先ほどの銃撃で倒したので周囲には敵はいない……

彼女の攻撃は空振りするかと思われたが、

 

シュンッ!

シュンッ!

 

どこからともなく出現した2足で立つカマキリのようなダーカー、

ディガーダとプレディカーダがあわせて8体。

奇襲を仕掛けようとしたのだろうが

その出撃ポイントを撃ち抜かれて成す術もなく霧散した。

 

「トレンシャルアロウ!」

 

イオからの援護射撃。

フォトンの矢の雨は彼女を避けながら降り、

更に沸いて出てきたカマキリたちを溶かしていく。

彼女は視線だけでイオに礼を言い、

 

「……」

 

ガンスラッシュを振り、

フォトンの刃を生み出してセイバーモードに移行する。

 

目の前には無数の「玩具」のようなパーツが

どこからともなく出現して集まってきていた。

薄い紫と青、そして禍々しい赤色のライン、

出来の悪い「ガラクタ」の寄せ集め……

中型玩具系ダーカー、コドッタ・イーデッタだ。

力任せに振り抜かれる攻撃は危険である。

更に玩具系特有の頑丈な体に、

弱点であるコアを本体を堅い部品で覆っているのが特徴だ。

非常に厄介な敵ではあるのだか、

 

「エインラーケン!」

 

彼女の前に立つには、全く力不足。

下から切り上げられた斬撃、

そのたった一撃で唐竹割りのように装甲が引き裂かれる。

甲高い悲鳴とともに飛び出した子供のような本体、

それを射撃で呆気なく吹き飛ばしてしまった。

 

「……終わり」

 

イオの援護もあり、

気付けば100体以上いたはずの

ダーカーたちは全て倒され、

霧のように赤いダーカー因子が宇宙空間に舞っていた。

彼女はオフティアバスターの刃を収める。

 

まるで何事もなかったかのように

彼女は静かにたたずんでいた。

圧倒的な戦力差のあるダーカーとの死闘、

それであたかも何一つ変わらない日常の一コマであるかのように。

 

彼女もイオと同じ守護騎士の一人。

イオよりも年下でまだ二十歳にも満たない、

けれどまとう雰囲気はどこか大人びていた。

決まったクラスを持たないという

アークスの中でも特異な存在でありながら、

その高い戦闘力で常に最前線に闘い続ける銃剣使い。

 

――アンジュ=トーラム

 

それが、女性の名前だった。




【未来編TIPS】
[5年後の世界]
深遠なる闇が最悪の形で復活してから5年。
かつてはオラクルは大規模な惑星航行船団として宇宙を旅していたが、
戦いで数多くのアークスシップは失われ
既にマザーシップを含めて10隻を残すのみとなってしまっている。

5年後の世界……
ここは誰も知らない一つの可能性の先にある結末。
希望もなく、ただ滅びるのを待つだけとなった最果ての未来。

――この世界に、英雄なんていない

※話が進むと未来編の舞台についての捕捉を随時入れていきます。
※正史ではEP4は地球とかの話ですが、それとは「全く別の未来」です。


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003.「死ぬのは私一人でいい」

「クリスは集中力が散漫」

 

ダーカーとの戦いを終えてゲートエリアへと戻る途中、

クリスは先ほどの戦いのダメ出しをもらっていた。

 

「今のダーカーは色んなタイプが同時に襲ってくる。

 アークスを喰らうことを得意とするのも多いから、

 常に何が起きるか考えないといけない」

 

「はい……師匠」

 

先ほどからぐうの音も出ないほど細かく言われて

クリスはガックリと項垂れる。

 

「アンジュ、それくらいでいいだろ。

 クリスはよくやってるよ」

 

隣を歩くイオがフォローするが、

アンジュは首を振った。

 

「……危なっかしくて見てられないから」

 

「気持ちはわかるけど、な」

 

クリスにとっては師匠と慕うアンジュに認めてもらうこと、

それが一番の生き甲斐だ。

だというのにまだまだ至らないことばかりで、

もどかしい想いを募らせていた。

それはアンジュもわかってはいる、が……

やはり心配なものは心配なのである。

 

「誰もが貴様のように才能があるわけではないのだ。

 もう少し、色んな可能性を見てやるといい」

 

そこへ新たな声。

正面から歩いて来たのは

燃えるような赤い髪の女性。

肩が出ている衣装で文様の描かれた赤い薄手の胸当て。

腕と腰はゆるりとしたローブのようなのに包まれている。

腰当てと胸についた赤い宝石が澄んだ色で輝いていた。

紅のオーヴァルロード、

それと二つの丸い円と鈴飾りのついた

耳のようなアクセサリである

ヴィオラキャップが彼女のトレードマーク。

 

「私も貴様も、最初から戦えたわけではない。

 経験し、仲間に支えられて成長してきただろう?」

 

背にたなびく長いマントを羽織る彼女こそ

10人いる守護輝士の長、その人だった。

 

「――クラリスクレイス」

 

アンジュがその女性の名前を呼ぶ。

小柄ではあるけれど、

それでいて絶対的な存在感を持つアークスのリーダー。

 

「三人ともご苦労だった。

 素早い迎撃のお蔭でアークスシップへの被害はなかった」

 

彼女はかつては六芒均衡と呼ばれていた。

けれど今ではそれも彼女以外に誰も生き残っていない。

だからクラリスクレイスのことを

六芒均衡や三英雄と呼ぶ者はもういなかった。

 

幼いがゆえに他の六芒均衡たちに見守られていた彼女も、

悲しい別れをいくつも乗り越え成長を続け、

今では最強のアークスとして人々を護るオラクルの希望である。

 

「クラリスクレイス……それは」

 

そこでイオが彼女が背負ってる物に気付いた。

杖先が惑星を模したような独特な形状した長杖。

普段彼女が持っているのは黒色の

灰錫クラリッサⅡだったはずだが、

それは純白のカラーリングのものだった。

 

「ん……ああ」

 

彼女は少し躊躇して、

少し考えた後にクリスに向き直る。

 

「貴様は先に戻るといい。

 私は守護輝士たちに話がある」

 

「あっ、はい……」

 

もう少しアンジュの傍にいたかったクリスだったが、

さすがにクラリスクレイの前でそう言えるはずもない。

気落ちした様子のまま少年は立ち去って行った。

 

「……もう5年か」

 

その背中を見送っていたイオがポツリと呟く。

イオはアンジュがクリスを引き取る場面に立ち会ったが、

それももう5年も前の話となっていた。

 

「そうだ、5年だ。

 【深遠なる闇】が復活して……

 我々が先の見えない戦いを続け初めて、それだけ経つ」

 

クラリスクレイスは窓の外へと視線を向ける。

そこに広がる宇宙には本来であれば

星々が自己主張するように照り輝いていた。

けれど今は、星の輝きはほとんど見えない。

 

「惑星リリーパを失ったのは致命的だった」

 

「……けれど、【若人】の再封印作戦に失敗した私たちに

 惑星ごと破壊するという選択肢しかなかった」

 

アンジュが淡々と答える。

イオも溜息をつく。

 

「ハルコタンもマガツの復活さえ阻止できていれば……

 灰の巫女様がいれば

 今も少しは楽になっていたかな?」

 

かつてアークスたちが冒険を繰り広げた惑星だが

そのほとんどが今は存在していない。

唯一残った惑星アムドゥスキアもダーカーの浸食が酷く、

正気を保った龍族は一人も存在しない。

今では資源採掘に行くのも命がけであった。

 

「それで?」

 

アンジュがクラリスクレイスに話を促す。

彼女が背負っているのは模倣された『偽物』ではない

本物の灰錫クラリッサだ。

強力過ぎる力を秘めた創世器ではあるが、

現状ではマザーシップへの負担をかけるわけにもいかず

使用は禁止されている。

しかしそれを持ちだしたということは――

 

「アンジュ、貴様にしてもらいたいことがある」

 

それだけ重要な話ということだ。

 

「……そう」

 

良い話ではないのだろう。

彼女の悲痛ともいえる決意に溢れた表情を見ればわかる。

クラリスクレイスは手を一振りすると、

そこに先ほどまでなかった武器が出現する。

それは鋭角ではあるがシンプルなデザインの銃剣。

刀身の始まりと終わりを具象したとされる色調変化。

 

それを無造作に投げて渡した。

黙って受け取ったアンジュとは対照的に、

隣にいたイオは酷く驚いた顔でその武器の名前を叫ぶ。

 

「戒剣ナナキ……!?

 クラリスクレイス、どうして!?」

 

何故、今ナナキを持ち出したのか。

そしてそれをアンジュに渡すのか。

どうして、という言葉には色んな意味が含まれていた。

けれどナナキを受け取ったアンジュにはわかったらしい。

初めて手にする創世器を眺めながら小さく呟いた。

 

「そう、また【深遠なる闇】が来るんだ」

 

「ああ……明日、本体の襲撃が予想されている。

 出現ポイントまでは明確ではないが、

 間違いなく来るだろう」

 

ダーカーの散発的な攻撃ではない、

強大な力を持つ本体そのもの襲撃。

それこそ年に一回程度という頻度だが、

その度に甚大な被害をオラクルに与えてきた。

それがまた来るというのだ。

 

……今度はもう、オラクルは耐えられないかもしれない。

 

クラリスクレイスはそう伝えているのだ。

 

「けど、クラリスクレイス、

 アンタ以外は創世器は使えないじゃないか!?」

 

そして、ナナキを渡したのは、

遠まわしにアンジュに死ねと言っている。

膨大なフォトンを要求する創世器は

並のアークスでは数分とて力を発揮できないだろう。

限界以上に使用すれば、使用者の命すら危うい。

今まで六芒均衡だけが使っていたのにはそれが理由だ。

 

「私は、何をすればいい?」

 

しかしアンジュは顔色一つ変えずに尋ねる。

 

「アンジュ!」

 

「イオ、私のことはいいから」

 

手で制した。

イオは苦しそうな表情で、

何かを言おうとしていたけれど、言葉を飲み込んだ。

勿論、クラリスクレイスも辛いのだろう、

それでも彼女は作戦を伝える。

 

「貴様にはかつての『英雄』ほどではないが、

 ダーカーを喰らう能力がある。

 それを使って、【深遠なる闇】から

 一つでもいい、ダークファルスの力をはがしてほしい」

 

アンジュが守護輝士たる所以……

それは微小ではあるが、

かつて人々の希望となろうとしていたとあるアークスと、

また【深遠なる闇】となってしまった悲しい少女、

その二人と同じ性質の力を持っているからだった。

無論、中途半端な力のため、

ダークファルスの力を喰らえば

彼女の体は浸食され、ただでは済まないだろう。

 

「【敗者】の時空を操作する力か、

 あるいは【双子】の喰らい模倣する力か。

 できればどちらかをなんとかしてほしい。

 【巨躯】や【若人】も強力だが、

 まだなんとか対処はできるからな」

 

「わかった、やってみる」

 

そこまで言って、アンジュはクラリスクレイスに告げる。

 

「けれど、貴方は死んではダメ」

 

「……」

 

彼女は押し黙る。

 

「死ぬ気、なんでしょ?」

 

「ああ……」

 

「白錫クラリッサ……

 決意はわかるけれど、今、貴方が死ねば、

 アークスたちは希望を喪う」

 

「しかし、貴様一人に押し付けるわけには……!」

 

彼女は首を振った。

 

「死ぬのは私一人でいい。

 作戦の詳細が決まったら教えて」

 

そういってアンジュは背を向けた。

 

「アンジュ……」

 

イオは呼び止めることができなかった。

代わってやれるものならそうしてやりたい。

だけれど、彼女にしかできないこと。

 

ガンッ!

 

クラリスクレイスが悔しげに壁を叩いた。

 

「私は……また仲間を失うのか」

 

彼女は常に人々の前では堂々と振る舞っている。

けれど、彼女とてまだイオと同じ21歳。

若く、そして心はそこまで強くはないのだ。

普段は見せない、弱々しげな表情で呟く。

 

「ヒューイ……胸が苦しい。

 私は、どうすればいいんだ……」

 

それに応える声は、なかった。

 




【未来編TIPS】
[守護輝士(ガーディアン)]
『英雄』や六芒均衡が相次いで戦死し、
次々とその命を消していくアークスたち。
戦力も疲弊し、絶望感が蔓延してきた状況を少しでも変えようと
総司令代行ウルクの発案により新たに誕生した称号。
「生存率の高いアークス」を守護輝士として任命し、
人々の希望とならんと望みを託された。
9クラスからそれぞれ一人と、アンジュも含めて総勢10名いる。
クラリスクレイスはフォースの代表、
イオはブレイバーの代表である。
アンジュは特殊で特定のクラスを唯一持たないが、
ダーカーを喰らうという特異体質もあり名を連ねている。

残された人々の希望であり、
また戦うアークスたちの憧れではあるが、
それがプロパガンダの色が強いモノであることは
誰もが理解しており
けれどそれでも期待に応えようと彼らは最前線で戦い続ける。
それが、守護輝士という悲しい存在であった……

※正史では「全て自分の権限で動ける特例的存在」として生み出された称号ですが、本作ではだいぶ色合いの違うものとなっています。
最大の貧乏くじ、と言えるものでしょう。


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004.「直接、聞けば良いのですわ」

スノーフレークⅠことEP1.5に新表紙がつきました!

【挿絵表示】

ゲストで登場したタキオンさんが描いてくれました。
EP1.5の表紙となり、あちらでちゃんと紹介します。
https://novel.syosetu.org/61702/


深い深いため息をついて、

クリスはショップエリアの片隅のベンチに座り込む。

力なく項垂れて自己嫌悪に陥る。

今回の出撃でもまたダメだった。

師匠であるアンジュの役に立ちたいのに、

いつまで経っても足手まとい。

 

真っ直ぐと目標へ突き進む強い背中。

追いかけても追いかけても、

手が届きそうな気配が全くない日々……

自分の無力さが嫌になってくる。

 

「はあ……どうしたら強くなれるんだろう」

 

やるせない呟きが

閑散として静かなショップエリア虚しく消える。

かつてはいつもアークスたちで賑わいでいたショップエリア、

それも今では見る影もなくガランとしており、

今もクリス以外には誰もいない。

唯一開いているのはベテラン技師である

ドゥドゥの武器強化のアトリエだけだ。

強化に必要な資材であるグラインダーやシンセサイザーの

深刻な不足により毎日暇そうにしている。

 

まだ【深遠なる闇】はおろか、

ダークファルスとの戦いも激化していない頃は

アイドルのライブやダンスイベントが行われ、

季節よって色取り取りな姿を見せたロビーの装飾。

何もない時でもギガドロ・ヒルドなどの

アークスの有志によるイベントで

クエストの合間にも盛り上がりを見せていたという。

 

けれどクリスがアークスになった時には

もうそんな雰囲気は微塵もなかった。

節電の為に照明も暗く

施設のほとんどが放置されて埃を被っている。

ステージもよくわからないガラクタが

大量に積まれて見る影もない。

 

詳しくは知らないが、

アークス同士が戦うという事件もあったらしく、

そのせいで多くのアークスが死に、

結果としてお互いが疑心暗鬼に陥った。

あわせて激化するダーカーとの戦いで

アークスたちには心に余裕なんてあるはずがない。

そう、守護輝士が誕生するまでは、

アークスたちは致命的までに絆を欠いていた。

 

ただ生き残るために戦う。

理想も夢もなく、ただ辛い現実を消化するだけ。

 

けれどクリスには戦う理由がある。

自分を救ってくれたアンジュのためという、

たった一つだけれども、大きな目標が。

 

「あら、随分と落ち込んでますのね」

 

気が付けば隣に誰かがやってきていた。

 

「隣、よろしいかしら?」

 

「あ……はい」

 

ベンチの隣に静かに座ったのは、

綺麗に編み込んだ黒い髪の女性だった。

ニューマンらしい少し華奢ではあるけれど

バランスのとれたスタイル。

色の白い肌に端正な顔立ち、

そして浮かべている穏やかな笑みは

傍にいるだけで安心感を与える。

ピンク色の落ちついた戦闘装束、

オウカテンコウは美しくも凛々しい。

「ヤマトナデシコ」という言葉は

きっと彼女の為にあるのだろう。

 

座り方一つをとっても御淑やかで、

男性アークスたちにとっては憧れの存在だった。

クリスにとっては憧れであると同時に恩人で、

デュアルブレードの使い方を教えてくれた人でもある。

 

「カトリさん……僕、また師匠の足を引っ張って」

 

クリスにとっては姉のような存在、

それがカトリというアークス。

バウンサークラスの発案者の一人であり、

そして今は守護輝士でもある女性だ。

 

「大丈夫、貴方は強くなっていますわ」

 

まるで包み込むように優しい口調。

カトリはクリスを無条件で肯定してくれる。

勿論、注意や指摘もするけれど、

いつでも味方であってくれる人。

古株のアークスはよくよくカトリのことを

「随分と雰囲気が変わった」と口を揃えて言う。

曰く昔は随分とおっちょこちょいで

色々とお騒がせのトラブルメーカーだったとか。

だけれどクリスにとっては

この穏やかな物腰の彼女の姿しか知らないので

そんな姦しいイメージをまるで持てないのであった。

 

「どうしたら、僕も師匠やカトリさんのように

 強くなれるんですか?

 僕にはやはりアークスの才能がないんでしょうか」

 

弱気になってそう尋ねると

彼女は首を振り

 

「そんなことないですわ。

 貴方は日々進歩をしているですから」

 

そして腕まくりをする仕草をしながら笑った。

 

「ですから、日々特訓を怠らないことですわ!」

 

彼女はきっと、アークスで一番の努力家である。

日々の鍛練を怠らず、いつも前を見つめて走っていた。

まさにアークスの模範となるべき姿、

その姿勢にはクラリスクレイスも含めて

誰もが彼女に対して敬意を払っている。

そんな彼女が守護輝士に選ばれたのは

必然だったといえよう。

 

「そして、特訓をしながら、

 貴方が護りたいモノを常に意識すること。

 それが、一番に貴方を強くするのですわ」

 

「護りたいモノ……?

 そんなの僕にはいつだってある――」

 

「いいえ」

 

自分のアンジュに対する想いが足りない、

そう言われたのかと反論しようとした

クリスの言葉を彼女は遮った。

 

「貴方は『認められたい』、

 そう思っていつも戦っていません?

 自分を見て欲しい……

 勿論、その気持ちも大切ですけれど、

 それはあくまで貴方側だけの気持ち。

 そう、貴方は……

 彼女の気持ちを考えようとしていますの?」

 

「師匠の……気持ち?」

 

「ええ、そうですわ」

 

彼女は頷く。

 

「大切な人を想うということは、

 その人の望みを知ること。

 そうでなければただの独りよがり、

 気持ちは一方通行になってしまうのですから」

 

そういえば彼女はいつだって一人でいる。

誰かと一緒に過ごしている姿を

思い返してもクリスは覚えがない。

とても実感のある言葉……

彼女にも背中を預け、

心を許せる大切な人が、かつてはいたのだろうか。

彼女の浮かべるどこか寂しげな微笑みに、

クリスはふとそんなことを思った。

 

「さて、私はクラリスクレイスに呼ばれているから、

 そろそろ行きますわね」

 

彼女は立ち上がる。

先ほどもアンジュとイオに何か話が合ったようだし、

もしかしたら守護輝士たち

全員に召集がかかってるのかもしれない。

それだけ何か、重要な作戦があるのだろうか。

 

「カトリさん」

 

そんな彼女の背中に問いかける。

 

「大切な人の望みを、

 どうしたら知ることができるんですか?」

 

カトリは背を向けたまま、

何かを思い出すかのように頭上を見上げた。

 

「直接、聞けば良いのですわ」

 

それはクリスに、というよりは

自分に言い聞かせているかのような口調。

悲しみ、後悔、やるせなさ……

複雑な感情の色を持ち、

そしてまるで泣いているかのような声。

 

 

「もしあの時、聞いていれば

 あの方は私に『望み』を教えてくれたのでしょうか?」

 




【未来編TIPS】
[【深遠なる闇】]
ダーカーと戦うために生み出された悲しい少女の成れの果て。
強大な力だけでなく
【巨躯】【若人】【双子】【敗者】の力を行使する。
唯一【若人】の力だけは完全なものではないのは
リリーパに封印されていた本体を
アークスたちが惑星ごと破壊して消滅させたからである。
人々の負の感情によってダーカーの力は増大し、
もはや宇宙で彼女止めることのできるモノは存在しない。
しかしコアとなった少女の不安定な精神のためか、
散発的に破壊活動を行ったり突然休止したりする。
復活から5年、
まだ宇宙が破壊され尽くしていないのはそれが理由である。
とはいえ唯一対抗できるオラクルも疲弊し、
多くの惑星も飲み込まれた今、
世界の終焉は時間の問題といえる。

この未来のアークスたちは【深遠なる闇】は、
4体のダークファルスを取り込んだと考えているが
あと一人、悲しい末路を辿った
ダークファルスも取り込まれているらしい……


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005.「だが、その先には何もないと思え」

作者体調不良のため今回は手抜き
&スノーフレークⅠの更新もなくすいません。
来週はきちんと更新したいと思います。


守護輝士たちの話し合いが終わったと聞き、

クリスは居住区へと向かう。

アンジュは部屋には戻らず、

パーツのメンテナンスのために医務室にいるらしい。

キャストは定期的に調整が必要なのはわかるが、

それは数日前に既に終わったはずだ。

今日の話し合いで、何か決まったのだろうか?

妙な胸騒ぎ……自然と早足となってしまう。

先ほどのカトリとの会話、

それが心の中に妙なモヤをかけている。

 

「師匠……」

 

大切なこと、それを今聞かなければ手遅れになる……

そんな漠然ととした不安。

 

「あっ……」

 

慌てていたせいで、

曲がり角で誰かと肩がぶつかってしまう。

別にそんな大した勢いではない。

相手も転ぶこともなかったが、

それでもやはり印象は良くはないだろう。

 

「すいません」

 

謝って先に行こうとするが、

 

「……ふんっ」

 

ぶつかった相手を見て思わず立ち止まってしまう。

黒いマントを羽織った銀髪のアークス。

小柄、とまでは言わないが華奢な方だろう。

短い髪にまるで猫のような可愛い耳がつき、

更には整った顔立ちをしている女性だ。

これで笑顔でも浮かべていれば

クリスもドキッとしたかもしれない。

だが、

 

「……ティスラ=ナーベア」

 

能面のような感情を一切感じさせない表情に、

氷のような冷たい瞳。

右目は眼帯で覆われており、

まとう雰囲気もアークスにしては剣呑だ。

 

――皆殺しのティスラ

 

それもそのはず。

彼女はかつてアークス同士で争い会った時に、

数えきれないほどのアークスを殺した存在。

だがそれは虚構機関に所属していたがゆえ、

責任はルーサーにあった。

だから「あの時は仕方なかった」で

形としては済まされたが……

それでもアークスを

多く殺したという過去が消えることはない。

ティスラというアークスに向けられる

畏怖と憎悪は5年前から変わらなかった。

虚構機関が解体されてからは、

他のアークス共にダーカーと戦っているが、

周囲を気遣うこともなく

敵を倒すためなら味方も巻き込む事を厭わない、

そんな戦い方をする彼女が敬遠されるのは無理ない話だった。

彼女が背負う、

禍々しい赤い色をした剣のような短杖が淡く点滅している。

ノクスキュクロス……

血塗られたアークスと揶揄される所以の武器だ。

支援を得意とするテクタークラスだというのに、

殲滅能力に特化した戦闘スタイルは苛烈の一言に尽きる。

 

「……盲信」

 

クリスも何度か彼女と同じ戦場にいたが、

実力の違いもあり、

正直に言うと相手にされてはいない。

そんな彼女が、珍しく、

いや初めてクリスに話しかけた。

 

「……?」

 

「信ずるモノがたった一つというのは

 思考停止で生きられる」

 

「……何が、言いたいんですか」

 

アンジュに対するクリスの想いのことだと、

何故かすぐに察した。

それを否定されたと思い、

クリスの声が険を帯びる。

だがティスラは済んだ瞳、

怖いくらいに透明な瞳で言葉を続けた。

 

「だが、その先には何もないと思え。」

 

そう言い残して、

彼女はマントを翻して立ち去った。

 

「なんなんだよ……」

 

クリスは彼女のことを詳しくは知らない。

だが、そこの言葉には重みがあった。

皆殺しと呼ばれる彼女にも、

過去になにかあったのだろうか。

そもそも何故アークス同士が戦うことになったのか、

そのことも知らないのだけれども。

今では聞き返すのもタブーとされる雰囲気がある。

 

――絶対令

 

一度だけアンジュに訊ねたことがあるが、

二度と口にしてはいけないと冷たく言われてから、

改めて聞いたことはなかった。

ただ、その事件で多くの命が失われたと聞く。

そして『英雄』もその時の怪我が原因で命を落としたとも。

もしその事件を防げていたならば、

もっとベテランのアークスも生き残り、

この未来が変わっていたのだろうか?

 

「……考えても仕方ないか」

 

クリスは首を振り、

アンジュのいる医務室へと向かったのだった。



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006.「けれど、今、隣にいるのは僕なんだ」

未来編は10話で終わる予定です。


「あ……」

 

医務室に到着したクリスが見たのは、

手足のパーツを外し、

それぞれ別のカプセルで治療しているアンジュだった。

中央には頭と胴体があり、

ダーカー因子を浄化する薄い青色の液体の中で

彼女は目を閉じて静かに眠っていた。

 

「えっと、師匠は調子悪いんですか?」

 

普段はパーツを全て外してまで

浄化槽に入らないはずだ。

どうして突然フルメンテナンスをすることになったのだろう。

クリスが訊ねると

そこにいた白衣の女性は生気のない声で答える。

 

「……いつも通りですよ」

 

色素の抜け落ちた白いセミロングの髪と

それと同じくらいに病的に白い肌。

よれよれの白衣はいつから洗っていないのかわからない。

彼女はアンジュの専属の整備士で、

パーツだけでなく武器などの調整もしているため

クリスも何度も顔を合わせたことがある。

 

けれど彼女のことは苦手だった。

何を考えているかわからないし、

虚ろな感じで存在感もなく不気味。

クリスは少し引いた感じでいつも彼女とは話す。

 

「そう、ですか」

 

元々、陰のある女性だったが、

斬り落とされた【深遠なる闇】の爪から

作り出した銃剣「インヴェンドバスター」を

アンジュの今使っているオフティアに転化する際に

ダーカー因子を浴びてしまい

陰鬱な雰囲気を纏うようになってしまったと聞いている。

 

「じゃあ、私はすることがありますから」

 

そう言って彼女はゆらりと

体を揺らして部屋から出て行こうとする。

その背中にクリスは一応の礼を告げる。

 

「あの、ミリアさん。

 いつも師匠のチューニング、ありがとうございます」

 

ミリア=エルシア。

それが彼女の名前だった。

彼女は肩越しに振り返り、

一度クリスをちらっとだけ見て、

アンジュに視線を向けてポツリと呟く。

 

「アンジュ……

 あなたも私を置いて行ってしまうんですね」

 

「え?」

 

どういう意味だろうか。

聞き返そうとした時には既に彼女は

部屋から出て行った後だった。

 

「……いつもの妄言なのかな」

 

よくよく上の空でぶつぶつ言う人だ。

けれど不吉な言葉に胸の奥が妙にザラついた。

しかし考えても仕方がない。

クリスはアンジュの頭と胴体のあるカプセルを覗き込む。

 

「……師匠」

 

彼女は眠っている時だけは

穏やかな表情を浮かべる。

どんな夢を見ているのだろうか。

首に下げられているネックレスが

水中の中でゆらゆらと揺れていた。

何かの獣の牙を加工したアクセサリのようだが、

彼女がいつも肌身離さずに大切そうにしている。

それが何なのかは教えてはもらっていないが、

とても大切なものなのだろう。

 

「あなたの望みは、何なんですか?」

 

眠る彼女に問いかける。

先ほどのカトリと話したことを思いだし、今更気付いた。

師匠と慕う女性のこと……

アンジュ=トーラムについて自分はほとんど知らない。

出会った時にはもういつも一人でいる人だったし、

かつてはチームに所属していたという話も

人伝てに聞いて知っただけだ。

 

――この人の口から、何一つ教えてもらっていない。

 

ふと部屋の片隅を見ると、

そこには白い花が飾られていた。

スノーフレーク、という名前の花らしい。

まるでお辞儀しているかのように

花弁が垂れ下がっている綺麗な花だ。

けれど1輪だけ花瓶にはなく、

何故かとても寂しそうだといつ思っている。

 

「……?」

 

その周囲には見慣れない武器がいくつか置いてあった。

銃剣使いの彼女のモノではないだろう。

シンプルながらも美しい刀身のカタナ、スサノショウハ。

光の羽が3枚ついた機械的な形のタリス、ノシュヴィラ。

黒い流線形の鳥を模したアサルトライフル、ヴァルツフェニクス。

他にも色んなクラスの武器が置かれている。

共通しているのはどれも少し「旧式」であること、

そして恐らくスノーフレークをモチーフにした

花のシルエットステッカーが張られていることだ。

どれもしばらく使われていないはずなのに、

綺麗にメンテナンスがされていた。

もしかしたら彼女のかつての仲間が装備していたのだろうか?

 

嫉妬、ではないけれど、

自分の知らないアンジュがそこにいるようで、

どうしてももやもやしてしまう。

何故、今このタイミングで倉庫に眠っていたであろう

古い武器が並べられているのか。

 

「けれど、今、隣にいるのは僕なんだ」

 

自分に言い聞かせるように告げる。

今いない人たちはそこで終っている。

だから彼女を護るのは自分にしかできない。

そのことに少しばかりの優越感を持つ。

 

クリスは眠る彼女の顔を見て、決意を固める。

次に目覚めたアンジュと話す時には、

カトリに言われたように教えてもらおう。

彼女が望む事、そして彼女自身のことを。

クリスはそう決めたのだった。

 

 

 

――その機会が、訪れることがないことも知らずに

 

 




【未来編TIPS】
[イノセントダブリス]
『英雄』が少女との約束を果たすため
コートダブリスをベースに作り出した両剣。
射撃機能を有した大剣を二つ組み合わせただけの構成で、
今までの武器に比べれば随分とシンプルなフォルムとなった。
ダブルセイバーの形態と、
分離してツインダガーになる機能のみである
しかし複雑な変形機構は排したことで強度は大きく増した。
打撃は勿論、射撃、法撃の全てが
既存の武器を大きく上回る性能を有している。

白銀の刀身に刻まれた赤く流れるような文様は
『彼女』の衣装、「イノセントワン」をモチーフにしており、
テクニックを発動させる際には淡く発光する。
創世器がマザーシップの力を借りて真価を発揮するのに対し、
この武器は喰らったダークファルスの力を発現させ
創世器に劣らぬ強大な力を振るうことを可能とした。
当然ながら他のアークスには使用できない。

レギアスに折られたブルーラウンダーを超える
専用武器として工匠ジグによって開発されたが、
完成を前に使用者が死亡したことによって
ついに実戦で使われることはなかった。
この武器がもう少し早くに誕生していたら、
未来の姿は変わっていたのかもしれない……


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007.「そうだとしても、行くしかないんだ!」

突然に鳴り響く警報。

クリスは慌てて飛び起きる。

アンジュのメンテナンスが終わるまでの間、

医務室のベッドを借りていたのだが

つい熟睡してしまっていたらしい。

ダーカーとの戦いの後、

そのまま来たので疲労がたまっていたようだ。

 

勢いよく体を起こすと

体の上から何かが落ちる。

甲高い音を立てて床に転がった物を拾い上げると、

それは牙のアクセサリー。

 

「――!?」

 

弾かれたようにアンジュのいる

カプセルに視線を向ける。

だがカプセルは開いており、

中は無人になっていた。

 

「まさか……!」

 

大切にしていたネックレス。

それを自分に預けた意味、嫌でもわかってしまう。

 

「くっそ!」

 

慌てて部屋から飛び出しゲートエリアへと走る。

警報が鳴り響いているということは、

ダーカーが襲来しているという以外にない。

しかしアンジュの様子から察するに恐らくは……

 

「【深遠なる闇】!」

 

もしそうであるなら前回の襲撃から1年。

オラクルに甚大な被害を与えたのは

クリスもよく覚えている。

 

『……クリスさん、聞こえていますか!』

 

その時、通信機から若い少女の声。

同時に送られてくるのはゲートエリアとは違う場所。

 

『あなたはそこへ向かってください!』

 

声の主をクリスは知っていた。

守護輝士専属のオペレーターであるシエラ。

一般のアークスたちと関わることはほとんどない。

だというのに何故、

自分に通信をかけてきたのだろうか?

 

「そこには、何があるんだ!?」

 

彼女がわざわざ指示してきたことだ、

何か意味があるのは間違いない。

 

『その先に、アンジュさんがいます!』

 

「!?」

 

『守護輝士たちの判断です、

 あなたを向かわせることは』

 

どうして、と問いかけようとした言葉を飲み込む。

理由は大事ではない。

自分がしようとしていたこと、

それを手助けしてくれているのだから。

今、言うべき言葉は

 

「ありがとう!」

 

クリスは走る。

移動しながら端末に送られてくる情報を

頭の中で整理していく。

アークスシップを取り囲むように

出現しているダーカーの数は数えきれないほどの無数。

【深遠なる闇】が厄介なのは本体だけではない。

ダーカーを使役する力、

しかも水棲系や玩具系など全ての種を仕向けてくる。

大型種はさすがに数は少ないとはいえ、

アークスたちの何倍もの数は脅威だ。

防衛線を突破されてアークスシップを破壊されれば、

それはオラクルの敗北を意味するのだから。

アークスたちがそれぞれ指示に従い、

持ち場に散っていくのがレーダーに映る。

そんな中、クリスが向かっているのは

【深遠なる闇】の本体がいる方向。

一番の激戦区であり、最も危険なエリアだ。

クリスの実力では荷が重すぎる。

足手まとい……

そんなことは自分が一番わかっていた。

 

「そうだとしても、行くしかないんだ!」

 

指定されたポイント、

そこにあるハッチから甲板へと飛び出す。

そこにはまだダーカーはおらず、

他のアークスたちが引きつけてくれているからか、

大きなダーカーの集団の裏側に出れた。

 

「師匠は……!?」

 

レーダーで反応を探すが、

どこにも彼女の識別信号は確認できない。

けれどわざわざシエラが教えてくれたのだ、

きっとこの先……

【深遠なる闇】のところにいるに違いない。

本体までの距離はまだある。

ここからはダーカーを蹴散らしながら進まねばならない。

 

『……クリスさん、気を付けてください!』

 

シエラの声に四方に向いていた意識を前方へと向ける。

その前方からはまた新たなダーカーの集団が

クリスのいる方向に向けて迫ってきていた。

 

しかもそれは普通のダーカーではなかった。

 

「……世壊種!?」

 

姿は通常のダーカーによく似ている。

けれど禍々しい赤いラインの入った彼らは

「世壊種」と呼ばれる似て非なる物。

吐き気を催すほどの濃いダーカー密度、

全てが桁違いの戦闘力と生命力。

その名の通り、世界を破壊する……

そのためだけに生み出された存在だ。

 

「抜刀!」

 

グレスミカを背中から引き抜く。

クリスが敵う相手ではない。

けれど、それでもやるしかない。

その先に、会いたい人がいるのだから。

 

迫りくる世壊種は

クモのようなダーカー、ダガンの強化種「ダガン・ヨガ」

その後ろからは二足で走る、

頭の後ろに爆弾を詰めたゴルドラーダの強化種「ユグドラーダ」。

その数、あわせて50以上。

突破するだけでも、無事に済むかはわからない。

 

クリスが決死の覚悟を決めた時、

 

「デッドリーアーチャー!」

 

突如として飛来したダブルセイバーが

激しく回転しながら敵を薙ぎ払っていく。

世壊種相手だというのに、

まるで紙屑のように吹き飛ばす圧倒的な威力。

 

並のアークスには不可能。

こんな真似ができるのは、そう

 

「アークスいちの情報屋、

 ならびにアークスいちの双子の美少女アークス!

 パティエンティアが姉、パティ……

 困ったフォトン感じ満を持して登場!」

 

――守護輝士たるアークスだけだ。

 

駆けつけてくれた女性の姿に、

クリスは自分のフォトンが昂ぶるのがわかった。




【未来編TIPS】
[守護輝士(ガーディアン)]Ⅱ
本作で設定されている10人の守護輝士の詳細
なお守護輝士だけが☆13以上を装備している、という設定。

HU:オーザ(スレイヴシリーズ)
Fi:パティ(ガルシリーズ)
Ra:???
Gu;???
Fo;クラリスクレイス(創世器)
Te;???
Br:イオ(オービットシリーズ)
Bo:カトリ(ネメシスシリーズ)
Su:???
特殊:アンジュ(オフティアシリーズ)

実は半分くらい未設定です。
未来編もあと3回で終わりなので、
???のキャラは登場しません。


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008.「キミを待っている人がいるはずだから」

10話で未来編が終わると言ったな、あれは嘘だ。
勢いでパティエンティアの戦闘シーンを書いたら
長くなってしまったので、その分、少しだけ伸びます。
というか未来編、主人公以外、出てくるのが全部が
女性というアレでアレなことに今更作者気付いてます。


左右に可愛らしく髪をまとめた

ミディアムツインテール、

くりっとした愛嬌のある瞳に華奢な体。

着ている服装もハニージャケットという

肩と背中を出した可愛らしい白い衣装だ。

黒で染まる宇宙空間に真っ白い服は

まるで美しく映える一輪の花のよう。

 

とても戦うような服装ではない女性。

だがニューマンでありながらダブルセイバーを持ち

最前線で常に戦い続けるファイターの守護輝士……

 

「パティさん!」

 

駆けつけてくれた頼もしい味方に、

クリスは歓喜の声をあげる。

パティはウィンク一つ、

 

「ここはあたしたちにどーんと任せなさい!」

 

彼女の持つダブルセイバー、

「ゲイルヴィスナー」が光を放ち暗闇を照らす。

両剣、というよりはまるで大剣のようなフォルムで

青白い神秘的な装飾と鋭い矛先を持つ武器だ。

雷と風の力を宿し、その輝きにダーカーたちが怯む。

 

「デッドリーサークル!」

 

投げられたゲイルヴィスナーが回転しながら周囲を舞い、

ダガン・ユガたちを蹴散らしていく。

だがユグドラーダたちは仲間を盾にしながら突っ込んでくる。

両剣を投げてしまっているパティは無防備、

クリスが前に出ようとするが、

 

「ふふん」

 

彼女は得意げな笑みを浮かべる。

 

「やれるかと思った?

 残念、もう一本あるんでしたー!」

 

そして取り出したのはもう一本のゲイルヴィスナー。

 

「イリージュンレイヴ!」

 

跳びかかってきたダーカーを

体全身を動かしながら激しい乱舞で蹴散らしていく。

そして彼女の手元に投げた両剣が戻ってくる。

両手にゲイルヴィスナーを構えて、ポーズを決めた。

 

「これぞダブルダブルセイバー!

 なんてねっ!」

 

ゲイルヴィスナー自体、

出力が強すぎて扱い辛い武器だ。

だというのにそれを2本扱うだなんて無茶にもほどがある。

けれどそれを勢いとノリだけで

使いこなすのがパティというアークス。

 

「……」

 

彼女がちらっとクリスを見る。

何か反応を求めている表情だった。

 

「あっ、っと、えーと、カッコいいです、パティさん!」

 

「でしょー!」

 

どうやらあっていたらしい。

ここが最前線であることを忘れてしまうほど

楽しそうな笑顔だった。

彼女が守護輝士に選ばれたのは

その身体能力と乱戦を潜り抜ける技量だけではない。

どんな場所にいても笑みを忘れずに

仲間たちを励まし、希望を与える姿勢を評価されたからだ。

実力だけでいえば守護輝士の中でも下の方だろう、

だが、彼女以上に人を惹きつける守護輝士はいない。

 

そんなパティに周囲からダーカーたちが襲い掛かる。

周囲からの押し潰すように迫る攻撃、

さしもの彼女もさばききれるかどうか。

けれど彼女は一人ではない、頼もしい相棒がいるのだから。

 

「こらバカ姉!

 何も考えずにいつも突っ込んで!」

 

叫び声と共にパティを守るように

いくつものマグのようなものが飛来する。

どこか間の抜けたようなネコの姿、シャト。

 

「……」

 

それが4匹飛んできてパティの周囲に展開する。

そしてそれぞれが雷撃のフィールド「ナ・ゾンデ」を発動させた。

跳びかかろうとしていたダーカーたちが

ナ・ゾンデに飛び込んで感電して足を止める。

そこにまた違うマグ、ウサギのような姿をしたソニチが

5匹ほど飛翔してきて敵の合間をかいくぐって射撃を始めた。

突然に至近距離からの攻撃にダーカーたちは

目や足を撃たれて怯んでしまう。

 

「トルネードダンス!」

 

そこへパティが突っ込んで吹き飛ばし一掃する。

 

「さすが私の妹、ナイスタイミング!」

 

「パティちゃん、今日はカッコいいとこ見せたいのはわかるけど、

 きちんと考えないと」

 

後ろから駆けつけてきたのは

パティとよく似た容姿をした彼女の妹。

区別の仕方はツインテールがちょっと下に向いているのと、

前髪の向きが違うというところだろうか。

あと、雰囲気と胸囲は大分に慎ましい。

服装は姉よりも少し露出が少ないながらも

リボンのついた可愛らしいリトルブリム。

色は姉とは対照的に黒色の落ち着いた色だった

 

「周囲の敵は任せるからね!」

 

「はいはい、わかってるよ」

 

彼女は武器を持っておらず、

代わりに端末を操作していた。

彼女が操っているのは複数のマグ、

射撃に特化した「シャドゥーク」と

法撃に特化した「マドゥーク」。

それを自在に操り姉をフォローするのが

彼女スタイルだった。

ティアは守護輝士ではないけれど、

常に姉妹コンビで活動しているので

実質はパティエンティアであわせて守護輝士という感じである。

 

「クリス君、巻き込まれないでね」

 

そして彼女が操るのはマグだけではなかった。

 

突如として飛来したのは無人の戦闘ヘリ。

3機は巧みにダーカーの攻撃を避けながら

的確にバルカンやミサイルで応戦していく。

操っているのはティア。

マグだけでなく戦闘機まで同時に操作しているのだ。

元々はフォースだった彼女だが、

成長する姉にあわせて気付けばこういう戦い方になっていた。

 

「……これが実力の差」

 

乱戦を得意とする姉と

サポートと範囲戦を行う妹。

クリスは自分一人ではどうしようもなかった場面を

いとも容易くひっくり返した二人の姿に呟く。

 

「キミにはキミのするべきことがあるんじゃないかな」

 

パティは笑いながら告げる。

 

「うん、クリス君。

 キミを待っている人がいるはずだから」

 

ティアも頷く。

 

「パティさん、ティアさん……」

 

「ここはお姉ちゃんたちに任せなさい!」

 

戦うこと以上に大切なことがある。

二人はそう伝えていた。

 

「一番、パティ! いきまーす!」

 

パティがゲイルヴィスナーを2本とも投げる。

 

「ハリケーンセンダー!」

 

投げられた両剣から凄まじい竜巻が発生し

ダーカーたちを巻き上げて行く。

 

「二番、ティア! いきます」

 

彼女の指示でマグと戦闘機が範囲攻撃をすると同時に

 

ウィーン……

 

後方の甲板から砲台が出現する。

 

「これで!」

 

それはフォトン粒子砲。

アークス本部からの遠隔操作でも発射は可能だが、

けれどやはり精密な射撃を行うことはできない。

アークスシップに当てずに小さいダーカーたちを

撃ち落とすのは難しいからだ。

だがティアなら可能である。

照準を微調整し、最適な射撃軸を導く。

 

「クリス君、さあ!」

 

4門の粒子砲が火を噴いた。

クリスは頷き、

フォトン粒子砲のレーザーの合間を駆け抜けていく。

 

「……師匠!」

 

激しい戦闘音を背中に、

クリスは振り返らずに駆け抜けていく。

 

 

敵の集団は突破した。

これで【深遠なる闇】の元へと行ける……

というほどやはり敵は甘くなかった。

 

「――ォォン!」

 

羽をはためかせて現れ、

クリスの前に立ち塞がったのは大型ダーカー。

まるでカブトムシのような角に、

巨大な爪のついた羽。

黒光りする強固な皮膚を覆われた

拠点破壊用のダーカー……ダークヒプラス。

考えうる中でダークファルスの次に最悪な相手だ。

 

「くっそ!」

 

世壊種の群れの次はこんな大型の敵が現れるなんて……

やはり【深遠なる闇】は使役するダーカーが桁違いだ。

 

爪からダークヒプラスがダーカー因子の塊を放ってくる。

当たれば致命傷になるのは勿論、

足場となっているアークスシップにも被害を与える。

かき消さなければいけないが、

クリスにそんなことができるはずもない。

 

そこへ――

 

「スターリングフォール!」

 

周囲に生まれたのは高密度のフォトンの刃。

それが展開し、爆発することでヒプラスの攻撃を防ぎきる。

 

「私、参上ですわ!」

 

手には眩しく光り輝く飛翔剣。

柄に翼のような装飾がありただただ美しいの一言。

ネメシスデュアル、それを扱うバウンサーは一人しかいない。

 

「カトリさん!」

 

「遅くなりましたわ!

 ここは私に任せて先にいきなさいな!」

 




宇宙空間で発生する竜巻とはいかに。
書いてる本人すらよくわかってません。
フォトンとは実に不思議なモノです。

【未来編TIPS】
[マシーナリー]
ティアだけの専用クラス。
なおアークス本部からは正式なクラスとしては認定されていない。
戦死するアークスたちが使っていたマグ、
飼い主を失ったことで使われることなく放置されていた。
それを見かねたティアが改修し、
支援機能を切って代わりに攻撃に特化させたのが
彼女の操る「シャドゥーク」と「マドゥーク」である。
全部で15匹を彼女は率いている。
サモナーが扱うペットに似ているが
自主的に動くペットとは違い、
マグはティアがプログラムした通りに行動する。

またマシーナリーはマグだけでなく
様々な兵器を同時にコントロールすることができ、
戦闘機に加えてアークスシップに装備された
武装の数々を行使する権限を与えられている。

様々な兵器を同時に使用するということは
勿論膨大な情報量をさばく必要があるため、
また的確に操作するのには高い資質を要求する。
現状ではティア以外にはいない。

【深遠なる闇】との戦いで疲弊する状況だからこそ
生まれたクラスといえるので、
恐らく違う未来ではティアはフォースのままであっただろう。
戦う武器はあれど、それを扱うアークスの数の不足……
彼女は、先に逝ったアークスたちの想いと共に
今も光の見えない世界で姉と戦いを続ける。


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009.「あなたには……後悔をしてほしくないから」

体調崩したり土日に用事があったりして
久々の更新です。
勢いだけで更新したので、
ちょっと内容が手抜きかもしれません。


スターリングフォールの勢いで高く舞ったカトリは

ネメシスデュアルを両手に突っ込む。

 

「ディスパースシュライク!」

 

フォトンの刃が縦横無尽に飛び回り、

敵を切り刻んでいく。

ヒプラスが煩わしげに腕を振るうが

 

「ジャスティスクロウ!」

 

剣で描いた魔法陣が攻撃を防ぎ、

逆にそれを撃ちだしカウンター。

ヒプラスの攻撃を先読みしているかのように、

いや……まるで彼女を引き立てるため

ヒプラスがわざとそうしていると

錯覚してしまうほどの鮮やかな手並み。

 

ダーカーに対抗するために生まれた

ネメシスデュアルの攻撃はダークヒプラスの

堅牢な装甲をことごとく吹き飛ばしていく。

忌々しげな咆哮にも、

カトリは余裕はの表情を浮かべていた。

 

「カトリさん、ありがとうございます!」

 

ヒプラスはもうクリスには見向きもしない。

彼女に言われた通り、

先に向かおうとしたところで、

 

「受け取りなさいな!」

 

カトリが何かを投げる。

受け取ったそれは、

龍の翼を象ったとされる鋼の飾りを持つ魔装脚。

機械的なデザインは龍というよりは

黒い戦闘機を思わせる鋭いフォルム。

 

「リンドブルム……?」

 

飛翔剣を得意とする

カトリのモノではないはずだ。

けれどとても使いこまれており、

大事に扱っていたことが持つだけでわかる。

 

「私の……パートナーだった人の形見ですわ」

 

彼女の静かな声。

そこに込められた感情の色はとても複雑で、

懐かしそうな、それでいて悲しそうな……。

 

「……ありがとうございます!」

 

クリスはグレスミカを背中に背負い、

リンドブルムを装着して駆ける。

元々ジェットブーツの扱いは得意ではないし、

また未熟なクリスにとって

高位の魔装脚であるリンドブルムは扱い切れるシロモノではない。

 

だが移動くらいならできるはずだ。

今、急いでいるこの場面では

これ以上に相応しい武器はないだろう。

 

「あなたには……後悔をしてほしくないから」

 

そのカトリの声に駆けだしたクリスは返事をできなかった。

 

そこへ

 

『そうだ……俺たちはいつも後悔し続けていた』

 

勇ましい男の声が通信機から聞こえてくる。

 

『……いつだって、気付いた時には手遅れだったから』

 

続けて話したのは物静かな女性の声。

 

「オーザさん……マール―さん……!」

 

それはハンターの守護輝士のオーザと

そのパートナーであるマール―だった。

 

『クリス。

 きっとアンジュは助からないだろう』

 

「そんなの……まだわからないじゃないですか!」

 

悲観的な、そして恐らくは正しい予測。

でもそんなの認められない、クリスは叫び返す。

 

『そう、わからない。

 それでいい……足掻かなければならない

 何もしないことで後悔をすれば、

 取り返しのつかないことになるのだから』

 

『だから私たちは、貴方には諦めないでほしい。

 希望を持つこと、そして信じることを』

 

二人の言葉はきっと、

アークスたち全員の想いなのではないだろうか。

力強い言葉に背中を押され、

ブーツの出力を前回にして駆けるクリス。

ダーカーの群れをなんとかくぐり抜けていくと、

前に立ち塞がるのは

ゼッシュレイダやダークラグネといった大型種。

さすがに簡単には通してはくれないだろう。

 

「立ち止まるわけにはいかないんだ……!」

 

クリスが被弾覚悟で突破しようと考える。

ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「……?」

 

だがダーカーたちはクリスの方を向いていない。

その後方……何かに対して身構えているようだった。

 

クリスもやっとそこで気付く。

背後から自分を護るように迫ってくる大きな存在に。

 

「ザンディオン!」

 

それは雷の鳥だった。

創世器の圧倒的な力を惜しみなく発動させた

限られたアークスにしか使えない風と雷の複合テクニック。

両手を広げダーカーを蹴散らしながら舞うのは

守護輝士たちのリーダー、クラリスクレイス。

 

「……クラリスクレイス、どうして……!?」

 

強烈なフォトンの奔流の前には

ダーカーたちはまるで飴細工のように溶けて行く。

彼女が……いや守護輝士たちは

どうして自分なんかのために

ここまでしてくれるのだろうか。

戦力が固まれば当然、

アークスシップの防衛で手薄になる場所も増える。

それはあまりにリスキーすぎる行為。

 

驚くクリスに併走するクラリスクレイスは

 

「必要なことなのだ」

 

前を向いたままそう呟く。

 

「こんな絶望しかない世界、

 灰色の『現在』にはあまりにも救いがない」

 

彼女は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「だから……だからこそ、絆だけは忘れてはならない。

 一人死地へと向かった仲間……

 アンジュにせめてもの手向けとして、

 貴様を連れていくのは、自己満足しかない」

 

「クラリスクレイス……」

 

「しかし自己満足だとしても必要なのだ。

 誰かを想う気持ち、

 それがアークスたちに足りなかったからこそ

 5年前の悲劇は起き、

 そして世界は色を失ってしまった」

 

クリスには正直にいうと

彼女の語る言葉の意味を理解することができなかった。

でも絶対に忘れていけない……

そのことだけは間違い。

 

彼女がザンディオンを解き、

灰錫クラリッサを背中から取り出す。

 

「行け!

 貴様が行っても結末は変わらないかもしれない。

 だが、最期まで見届けろ……大切な人を!」

 

彼女がありったけのフォトンを込めて

立ち塞がるダーカーの群れに向けて両手を突きだした。

 

「フォメルギオン!」

 

炎の闇の複合テクニック。

フォトン粒子砲の何倍も圧倒的な力の奔流が

ダーカーたちを吹き飛ばしていく。

 

「……師匠!」

 

その空いた穴へ迷わずクリスは飛び込む。

やっとアンジュの反応を確認する。

とても弱々しいが、でもその先にいるのは間違いない。

 

「師匠!」

 

さあ、彼女を連れて帰ろう。

まだ話したいことがたくさんある。

彼女の為に、自分が何ができるかを教えてもらおう。

 

そのためにみんなが道を切り開いてくれた。

 

彼女に至るまでの希望の道を。

 

クリスは駆け抜けた。

そして最後の壁を抜け、辿り着く。

愛おしい人の場所へと

 

 

「……ク……リス」

 

 

 

 

――そしてクリスが目にしたのは

鋭い爪で串刺しになったアンジュ=トーラムの姿だった。




なおリンドブルムはサガの最後に装備していたブーツらしいです。


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010.「――さようなら」

今作もリミさんにタイトル絵を描いてもらいました。


【挿絵表示】

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56114262

未来編も次で終わりとなります。
やっと、エピソード1のキャラたちのいる時間軸へと話は繋がります。


それは、彼女が無垢でいた頃。

毎日が新鮮で、飽きもせず世界を見渡していた。

一つ一つは大したことじゃないけれども、

そのどれもが眩いくらい多彩な輝きを放っていたのを今でも覚えている。

 

そんな世界へと、

何も知らない彼女の手を引いてくれた優しい「家族」たち。

それがどれだけ幸せなことだったか……

あの頃の温もりがあるからこそ、

今、まだ彼女は前に進んでいくことができている。

 

『システム、再起動』

 

けれどもう、みんないない。

みんながいなくなってからもう随分たった気がする。

寂しかった……でも、それも今日で終わりだ。

 

彼女もすぐに、みんなの場所に逝くことになる。

 

「……っ!」

 

幸せだった頃の夢を見ていた気がする。

でもそれが気のせいだということがわかっていた。

四肢がちぎれるほどの激痛が走る。

それは無理もない、

彼女はつい数秒前まで生命活動を停止していたのだから。

仮死状態だった彼女が夢をなど見るはずがない。

 

座標を確認すると

アークスシップからは多少離れた宇宙空間。

強大なダーカー反応……【深遠なる闇】の近くだった。

 

「……」

 

アンジュはアークスシップの残骸の中から身を起こす。

危険な賭けだったが作戦は成功したらしい。

 

【深遠なる闇】は星の数より多いダーカーを率いて襲ってくる。

ゆえにいきなり本体と戦うのはその壁がある限り無理だ。

そこで彼女が考えたのが残骸の中に隠れて近づくということ。

言葉にすると単純なようだが、

実際には非常にリスキーな作戦と言わざる得ない。

 

ダーカーが襲う優先順位はまず第一に「フォトン反応」。

自らの天敵と認識しているために

何が何でもまずはフォトンを持つ存在を狙う。

それは当然アークスも含まれる……

ゆえに彼らの知覚を欺くのは不可能だ。

次に狙うのは「生命反応」。

アークス以外でも一般市民、

または他の惑星の原生体も対象になる。

惑星リリーパの機甲種はどちらもあてはまらないが、

あれはただ単に機甲種側から攻撃するために

ダーカーも敵性反応と認識して反撃しているだけである。

 

つまり……そのどちらにも当てはまらなければ

ダーカーたちも気付かないということ。

そこでアンジェが考えた作戦はシンプル。

 

『死んだ状態で近付き奇襲する』

 

キャストである彼女は

ほぼ全ての生命活動を停止させて

アークスシップから捨てられた残骸に紛れていた。

当然ながらいくらキャストといえども、

それは無茶苦茶な話であり身体に致命的なダメージが残る。

 

「でも、これで最後」

 

もう、この後はないのだ。

本当に最期の戦い。

ならば後遺症など気にすることもない。

彼女はゆっくりと体とシステムの状態を確認する。

いくつか深刻なエラーを返してきているが、

短期決戦を行う分には問題ないレベルだ。

 

「……」

 

彼女は無言のまま残骸を蹴り、宇宙空間に身を投げる。

いつもの彼女の戦闘服、カルオセリアのスカートが舞う。

カルオセリアバーニアだけでなく、

今のアンジュは更にいくつものアクセサリを装備していた。

大きなリアバーニアに1対のサイドバーニア。

レッグバーニアに加えてスタビライザー。

規格外の大きなフォトンウィングは彼女の体と同じくらいある。

 

ダーカーに悟られない仕様の特殊なフォトンスフィアを割る。

虎の子であるそれは数も少なく含有フォトン量も少ないが、

惜しげもなく複数使った。

 

エネルギーが供給されたバーニアが青白い光を放つ。

猛烈な速度で加速したアンジュは

真っ直ぐと【深遠なる闇】へと向かう。

激しいGが彼女の体を軋ませるが、

アンジュは感情を浮かべることなく敵を見つめていた。

 

それはまるで、暗闇を切り裂き鮮烈な流星。

輝き飛翔する彼女は、まるで白い花のように美しかった。

 

急速に接近するフォトン反応に気付いた

小型のダーカーたちが一斉に飛んでくる。

15匹のエルアーダ、彼女にとっては取るに足りない相手だが、

今は自らのフォトンを温存せねばならない。

取り出したのはヴァルツフェニクス。

旧式のアサルトライフルではあるが、

それゆえにフォトンスフィアで作ったバッテリーでも

少しであるならば動かすことができる。

 

「……メディリス」

 

少しおっちょこちょいだけれども、

誰よりも一生懸命に頑張っていた少女の名。

少し内気な狙撃手はいつだって自分に優しく、

最後まで自分の体を盾にしてまで自分を護ってくれた。

 

「ワンポイント!」

 

速度を落とすことなく射撃を行う。

威力が低いとはいえ、

精確にダーカーの頭を撃ち抜きさえすれば

エルアーダ程度であれば問題ない。

3秒足らずの時間でエルアーダを撃ち倒し、

ちょうどそれでバッテリーが空になる。

 

「……」

 

アンジュは一瞬だけ目を瞑った後に、

仲間の想いが込められた長銃を投げ捨てる。

もう、想い出はいらない。

目を開けた彼女の瞳には強い意志が宿っていた。

 

周囲に突然高速で追いすがってくるダーカー。

姿を見せたそれは鳥の姿をした黒い敵……ランズ・ヴァレーダだ。

その鋭い脚で掴んで止めようとしてくるが、

 

「……ケーラ」

 

アンジュの手には鮮やかな

若草色の装飾が施されたナックル、

パオジェイドが握られている。

いつだって影ながらに

メンバーをフォローしてくれたベテランの闘士。

戦いともなれば勇ましく先陣を切り、

メンバーたちを逃がすために

絶望的な敵の大群を前にしても怯まず戦い散った。

 

不安定な飛行状態にも関わらず

アンジュは器用に体を捻りランズ・ヴァレーダの攻撃を避け、

 

「ダッキングブロウ!」

 

カウンターを叩きこんでまとめて吹き飛ばした。

少し離れていた個体にフォトンが空になった

ナックルを叩きつけてそのまま突き進む。

 

「……ライガン」

 

正面から飛んできた赤い竜巻……

リンガーダが放ってきた旋風を

まるで騎士が持つ盾がついた槍、

ナイトファルクスを回転させて防ぐ。

攻撃は防げているが、

竜巻の勢いに押されて速度が下がる。

出力をあげたせいでブースターのエネルギー残量も少ない、

彼女はブースターを切り離して前方に飛ばす。

 

「セイクリッドスキュア!」

 

最初から最後までチームの盾でありつづけた守護者。

何度傷ついてもそれでも引かぬ頼もしい背中に

自分はどれだけ護られただろうか。

いくつもの刃に貫かれてそれでも立ち続けた

彼を護ることができなかった……

その悔しさは今も覚えている。

 

投げられた槍はバーニアごと貫き、

フォトンが爆散してリンガーダこと吹き飛ばす。

 

飛行能力がないリンガーダがいたということは

もうそこは立つ場所があるということ。

バーニアは失ったがアンジュは無事に着地する。

そこはアークスシップの先端。

レーダーを見れば後方には数が多すぎて

真っ赤に染まったダーカー反応……

 

「……」

 

そして前には強大すぎる反応……【終焉なる闇】がいた。

2対の歪な形をした翼を持つ人型。

10メートルはあるだろうか、

見上げるほどの巨体で

黒い体に鈍い金色の文様が刻まれている。

普段は花の形態で移動しているのだが、

どうやらもう最初から本気のようだ。

 

「……キエロ」

 

人々の為に戦い続けて、

そして最後には闇に呑まれた少女。

けれどアンジュと彼女は

相対して語り合うこともなく開戦した。

 

振り降ろされた巨大な右腕をアンジュは紙一重で避ける。

腕の上に立ち、そこで初めて引き抜いた彼女自身の得物、

オフティアバスターを突き刺しながら走る。

一筋の切り傷から赤い鮮血が舞うが、

相手はまるで意に介した様子もなく

左手の指先からレーザーを放ちアンジュを迎撃する。

 

「……っ!」

 

アンジュは躊躇なく攻撃を止めて後方に飛んで避ける。

 

シュンッ!

シュンッ!

 

数度の射撃をなんとか身をよじりながら回避するが、

気付けば距離をとってしまっていた。

相手を見ると先ほどつけた傷はもう塞がってしまっている。

まるでダメージを与えられていないようだ。

 

――桁が違いすぎる。

 

わかってはいたことだが、

アンジュが一人で勝てる相手でない。

彼女を倒しきる前にフォトンが尽きる方が遥かに早いだろう。

例え10人の守護輝士が万全の状態で挑んだとしても、

【深遠なる闇】を倒すことができないと嫌でもわかる。

 

「イケ……」

 

周囲にアンガビットが飛翔してくる。

彼女が取り込んだアンガ・ファンタージの力だ。

一発一発が致命傷となりうる攻撃力を持つビット、

そのオールレンジ攻撃は非常に厄介。

 

アンジュは冷静に腰につけていたタリスを投げる。

護るように配置されたそれは機械的なフォルムでありながら、

どこか羽を連想させるタリス、ノシュヴィラ。

 

「……レシア」

 

悲しい生い立ち、その現実に向き合いながらも

好きな人の隣に立ち続けた少女。

彼女の強さの理由、その想いがいかに尊いモノだったか……

今でこそアンジュにもわかる。

彼女のように強くあり続けたい、

喪ってからこそアンジュはそう想い続けた。

 

「ナ・グランツ」

 

周囲からの攻撃をタリスが放つ結界が防ぐ。

近付こうとしたビットを絡めたタリスを

アンジュはオフティアバスターで撃ち抜き爆破した。

タリスの残骸は、まるでアンジュを護るように周囲に舞う。

 

「ウセロ……!」

 

そこへ【深遠なる闇】から放たれた強烈なオーラ。

吹き飛ばされないように踏ん張るが、

フォトンが急速な勢いで失われていく。

 

「……くっ」

 

長期戦どころか

短期決戦でも無理だ。

もう、体が持たない。

 

アンジュは顔をあげる。

出し惜しみなんてしていられない。

 

「……うん」

 

腰に下げた最後の想い出。

これを手放してしまえば、

もう、自分に思い残すことはない。

 

「……!」

 

大ぶりな【深遠なる闇】の攻撃を避け、

その瞬間に一気に加速して飛び出す。

 

「……ウェズ、力を!」

 

自分を新しい世界へと連れ出してくれた

大切な人の名を呼ぶ。

いつだってみんなを引っ張り、

そして「スノーフレーク」という場所を護り続けた。

彼がいたからこそ、みながいた。

 

(……もっと、話したかったな)

 

恋、ではないけれども、

でもそれでももっともっと、彼とは話したかった。

口数の少ない自分はいつでも彼の後ろを突いて歩くだけ。

もし……もしやりなおせるのならば、

ウェズ=バレントスと、

そして彼を慕う仲間たちともっと冒険をしたかった。

 

「シュンカシュンラン!」

 

引き抜いたのは彼の形見、スサノショウハ。

飾り気はないけれど、けれど美しいシンプルな蒼い刀身。

虚を突かれた相手は防御姿勢も取らずに、

……いや防ぐほどではないと考えているのだろう、

悠々と突進してくる彼女を見つめる。

 

ガンッ!

 

鉄仮面のよう顔にスサノショウハの切っ先が当たる。

少しヒビが入ったものの、

 

バリンッ……

 

だがスサノショウハが先に耐え切れずに折れた。

 

「まだ……!」

 

そこへオフティアバスターを全力で突き刺す。

ヒビが広がり、鈍い音を立てて装甲が割れる。

 

「……」

 

その中にいたのは、

仮面をつけた少女の成れの果て。

生気のない真っ白い肌に

ダーカー因子に汚染された赤い文様。

どこか仮面舞踏会を思わせるマスクからは

まるで血の涙のように止どめなく赤い液体が流れている。

 

視線が交錯する。

けれど、語る言葉はない。

 

「……戒剣ナナキ!」

 

アンジュは、最後の武器を取り出した。

創世器『戒剣ナナキ』。

アークスたちの切り札といえる武器を。

 

銃剣を彼女の胸に突き刺す。

本来であれば致命傷なはずだが

【深遠なる闇】となった彼女にとっては

その程度、まるで傷ですらない。

ただ、まだ人であった頃の名残でそこに体があるだけなのだから。

 

「……!」

 

ナナキを突き刺すアンジュに、

お返しとばすりに【深遠なる闇】は無造作に爪を突き刺した。

 

「……ッ、あっ」

 

アンジュの口から声にならない悲鳴があがる。

深々と刺さった爪は、間違いなく致命傷。

 

(……もう、もたない、か)

 

自分に残された命は、あと何分なのだろうか。

キャストであるからこそ即死はしていないが、

ゆるやかに機能が停止していっているのがわかる。

 

(せめて……最後にできることを)

 

クラリスクレイスに任されたことだ。

そのための創世器。

彼女は眼を閉じてナナキを持つ手に集中する。

暗闇の中に感じるのは【深遠なる闇】が持つ力。

コアとなった少女の周囲にあるのは、

【巨躯】、【若人】、【敗者】、【双子】の力……

 

(……え?)

 

そして、まだ一つ何かが宿っている。

イメージの中のナナキの切っ先がそれに触れる。

 

――

 

(ああ……そうだったんだ)

 

一瞬で理解した、そこにいる存在に。

彼女を救おうと何度も何度も歴史を改ざんしようと足掻いた

悲しい『英雄』の末路。

これは、英雄が彼女を救えなかった物語であること……

今、わかってしまった。

 

「師匠!」

 

そこに聞こえてきたのは、若い少年の声。

その声にアンジュは思い出す、

ああ……そういえば自分は一人じゃなかったんだと。

スノーフレークの想い出は捨てた、

でもまだ残っている一つの絆がそこにあった。

 

「……ク……リス」

 

理屈で考えたわけではない。

戒剣ナナキが、彼女の意思に応えた。

切っ先に触れる力……【仮面】を吸収する。

 

かのダークファルスが秘めていた力、

それこそ、今のアンジュにとって、

いや……アークスたちにとって最も必要なもの。

 

アンジュは手を伸ばす。

自らを慕ってくれる少年へと。

 

 

最後の力を振り絞り、力を発動させて呟いた。

 

 

「――さようなら」

 

 



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011.「キミが、未来を改変するんだ」

スノーフレークⅡ表紙

【挿絵表示】

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56114262


――希望のない世界。

 

残された人々にとって世界には絶望しかなく、

すがれるモノも喪い、ただ最期の日を待つだけ……

どれだけマザーシップが演算を重ねようが無意味で、

全てが「手遅れ」となった現在では

滅びは避けようのない決定事項だ。

けれどみんなはそれでも懸命に生きようとしていた。

 

でも僕にとっては「明るい未来」だなんて

少しも「想像できないモノ」に対して興味があるはずがない。

世界がどうなろうと、それを決定できるのは僕じゃないのだから。

 

僕にとって大切なことはただ一つ、

「あの人」と一緒にいられること……

それだけが僕にとって生きる意味であったし、

その他のことはどうでもいいと思っていた。

 

その人はとても物静かで口数も少ない。

最低限必要なことで大体は会話を終えてしまう。

けれど僕には言葉なんていらない、

ただ傍にいるだけで彼女の持つ安心感に身を包まれていた。

彼女はいつだって冷静で頼もしくて凛々しくて……

それでいてどこか憂いを帯びた瞳が

ミステリアスな魅力だと僕は常日頃から思っている。

 

オラクルの未来がどうなるかなんて

シャオですらわからないのに

新米アークスである僕にわかるはずがない。

でもこの愛おしい人と一緒にいられる未来は

どこまでも続くものだと無意識に思い込んでいた。

 

 

――だから、この人を喪う覚悟なんて

  これっぽっちも持っていなかったんだ。

 

 

宇宙に響く少年の慟哭。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

けれどそれはすぐに掻き消えることになる。

アンジュの手から放たれた光に包まれ、

クリス=トーラムは姿を消したからだ。

 

涙で濡れる視界、

その異変にやっと気が付く。

 

「……えっ」

 

最初は【深遠なる闇】に自分を殺されたのだと思った。

宇宙空間とはまた違う浮遊感に、

すぐに違うのだと気が付く。

 

キャンプシップからゲートへ飛び込んだ時の

ワープトンネルの中にいるような感覚。

けれどそれとは違うのはそのトンネルが

鮮やかな虹色に輝いていたことだ。

 

『まっ…く、ア……ュも無……をするよ……』

 

そこに聞こえてくる若い少年のような声。

一瞬誰かと思ったが、それは

 

「シャオ……?」

 

マザーシップの演算装置であるシャオの声だった。

こちらの声が聞こえていないのか、

彼は構わずに何かを言う。

 

『け……ど……で希望は……た』

 

まるでノイズがかかったように、

とぎれとぎれの声。

 

「シャオ……何を言ってるんだよ!

 聞こえない、聞こえないよ!」

 

師匠を、愛おしい人を助けてほしい。

その一心で叫ぶけれど、彼には届かない。

 

『クリ………ト……ラム。

 君……過去……飛ぶ……』

 

シャオは、一体何を自分に伝えようとしているのか。

 

『時間軸は……がフォ……して……した。

 ……英雄が………いて、

 そして……希望が……在した分岐……』

 

きっと、大切なことなんだろう。

そのことに気付き、クリスは耳を澄ます。

 

『ボク……どうなる……はわからない。

 でも………世界……変えられる……だ』

 

だから、最後の言葉だけははっきりと聞き取ることができた。

 

 

『キミが、未来を改変するんだ』

 

 

 

そしてクリス=トーラムは長い長いトンネルを抜けた。




これで未来編は終了となります。
次回からはやっと、スノーフレークⅠの続きの時間軸の物語が始まります。
絶望しかない未来から、
まだ希望が輝いていた過去へと。
世間ではEP4が始まってますが、
まだスノーフレークはこれからEP2が始まるところです。
相変らずの更新速度にはなりますが、
気長にお付き合い頂ければ幸いです。

Ⅰの主人公であるウェズ=バレントスと、
新たな主人公のクリス=トーラム。
二人の物語が始まる


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012.「……まだ、することがある」

スノーフレークⅡ表紙

【挿絵表示】

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56114262


気付いた時にまず感じたのは、激しい体の痛み。

それはフォトンを限界以上に引き出した反動……

指先を動かすだけでも億劫であった。

 

(けれど……動く)

 

力を入れると、砂を掴んでいた。

少し湿って指につき、爪に砂が挟まる不快な感じだ。

そこに至ってやっと気づく。

自分が倒れている場所の違和感に。

アークスシップにも当然ながら「土」はある。

けれどこんな感触は初めてだ。

知識でしか知らない「砂浜」。

 

(……なんなんだろう、この匂いは)

 

湿ったような、それでいて少し独特な臭いだった。

クリスの記憶にはないモノなので混乱してしまう。

 

「……師匠!」

 

そこでやっと自分がつい先ほどまで何をしていたか思い出す。

守護輝士たちのお蔭で【深遠なる闇】に辿りついた。

けれど待っていたのは、師の串刺しにされた姿。

その彼女が自分へ手を向けた瞬間、

光に包まれたところまでは記憶はあるのだが……

 

「ここは……どこなんだ?」

 

今、クリスがいるのは足跡ひとつない綺麗な白い砂浜。

見上げると雲一つない青い空……

いや、そこにあるのは頭上なのに水面?

不思議な光景が広がっていた。

 

「惑星……なのか?」

 

デジタルでしか聞いたことがない

静かなさざ波の音だけの世界。

クリスは生まれてからアークスシップから出たことがない。

物心がついた頃にはもうアークスは

宇宙空間でダーカーと戦っていたので、

一部のメンバー以外は「惑星」で活動をしたことはないのだ。

唯一といえる惑星アムドゥスキアは

ダーカーの浸食が激しくてそれこそ守護輝士クラスでないと

立ち入ることすら禁止されていた。

 

『……エラー』

 

端末を叩いて現在地を調べようとするが、

壊れてしまっているのかどの操作もエラーで返ってくる。

どれだけ過酷な状況でも精確な情報をくれる端末が動かないなんて

こんなことは初めてだった。

当然ながら通信もどこへも繋がらない。

経験のないことにクリスは不安が沸きあがってくる。

 

「どういうこと……なんだろう」

 

訳が分からない。

まさかここが天国というわけでもないだろう。

初めて見る光景は、美しいとは思うのだけれども、

でもそれ以上に自分を不安にさせてしまう。

痛む体を起こして立ち上がる。

カトリから託されたリンドブルムは

オーバーヒートして壊れてしまっている。

背負っていたグレスミカは問題ないようだった。

 

とにかくアークスシップへ戻らなければ。

早く戻って、結末を知らねばならないのだから。

 

「……ん?」

 

波の音だけの静かな世界に、少しの違和感。

振り返ると

 

ドバーンッ!

 

水面から何かが飛び出してきた。

それなりの巨体なのだろう、

水しぶきをもろに浴びてしまったクリスはよろめく。

 

「なんだ!?」

 

それが地面に降り立つと、衝撃で地面が揺れる。

クリスが膝をついて見上げたそこには

 

「ウォォォォォォォォォ!」

 

それはまるで岩。

ずんぐりとした紫色の巨体に、

丸太のような巨大な手足。

泳ぐためなのか流線的なフォルムであり、

頭の日本の角は鋭く尖っていた。

 

咆哮をあげてを見下ろすそれは

 

「……原生種!?」

 

クリスの知らない存在だった。

それは無理もない、

この惑星……水に覆われたウォパルは

彼の知っている世界ではもう失われたはずの場所だったから。

データーベースも使えない彼が

海王種、オルグブランと呼ばれる獣を知るはずもなかった。

 

「抜刀!」

 

ギョロリと濁った眼がクリスを捉える。

ダーカーとは違う存在。

だが自分に対して敵意を持っているのはわかる。

グレスミカを抜き、両手に構えて敵を迎え撃つ。

 

ぶんっと鈍い風斬り音を立てて腕が襲い掛かる。

クリスにとってはそれは当たるはずのない鈍重な攻撃だった。

 

「うわぁ!」

 

だが、避けきれずに交差した飛翔剣で防ぐ。

勢いを殺すこともできず、呆気なく後方に吹き飛ばされる。

砂浜だったため衝撃は少なかったが、

それでも何度かバウントして飛んだ彼のダメージは大きい。

 

彼が避けれなかったのには二つの理由がある。

まず一つは純粋に弱っているから。

ダーカーとの激戦の後、回復もしていない状態だ、

満足に体を動かすことができなかったのだ。

そしてもう一つはクリスはアークスシップの甲板でしか戦ったことがない。

つまり「不安定な足場」での戦闘経験がなかったのだ。

砂に足をとられて自慢の機動力を活かすことができずに

攻撃を直撃してしまっていた。

 

「くっそ……!」

 

情けない、歯ぎしりしてしまう。

こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのに。

 

のっそのっそとオルグブランが迫ってくる。

どうやら警戒するまでもないと決めたらしい。

無防備な歩きにクリスは腹が立ってしまった。

 

「……まだ、することがある」

 

飛翔剣を持つ手に力を込める。

フォトンは尽きてはいない。

文字通り死力を尽くせばまだ動ける。

クリスが起き上がろうとしたところへ

 

「レーゲンシュラーク!」

 

いつ接近していたのだろう、

一人のアークスが背後から飛び出し

オルグブランの額に突っ込んだ。

 

虚を突かれた海王種は成す術もなく、

額にガンスラッシュを突き立てられる。

 

「ァァァァァァァァ!!!」

 

生き物にとって頭は急所だ。

そこに深々と刃が突き刺さったのだ、

断末魔を上げてオルグブランがゆっくりと力なく崩れ落ちる。

 

「あ……あ……」

 

一瞬の出来事、クリスはその光景に……

いや、自分を助けてくれたそのアークスの姿を見て

口をぱくぱくとさせる。

 

「師匠!」

 

何も考えずに飛び出した、

自分が追い求めていた姿がそこにあったことに。

そうだ、きっと今まで見ていたのは悪い夢。

やっと……やっと長い夢から覚めたに違いない。

 

だけれど

 

「ん」

 

何が起きたか彼にはわからなかった。

腹に強い衝撃を受けクリスの意識は途切れたのだった……

 




最近、更新サボりがちですがなんとか更新。
惑星ウォパルの描写をちゃんとしようと思いつつ
面倒くさなくっておざなりになっちゃいました。

たった一撃で死ぬオルグブラン、
さようならオルグブラン、キミの勇士は忘れない。


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