Fate/once more night (ココイッチー)
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第1話 衝撃的な幕開け

「ここは…どこだ?」

つい先程紛争地域にて召喚され、役目を終え帰還したばかりだというのにこうも短いスパンで再び召喚されるとは。

星の数ほどいる英霊の中で立て続けにお声がかかるあたり、どうやら世界の意思というのは相当なドSなのだろう。

さて、改めて今の状況を確認してみよう。

どうやら俺は召喚早々事故にあったようで、道路とおぼしき場所で横たえているようだ。それと、ひどく身体を打ったようで、起き上がろうとしても電池が切れたように力が入らない。

少し待て、召喚早々事故だと?以前にもマスターのミスで召喚時に部屋を荒らすという失敗をしたような気がするが、ここまで酷いケースは前例がない。

それに、サーヴァントと化した今の俺なら、余程の戦闘でもなければ傷を負うことすらないが、周囲に他のサーヴァントや強力な魔力の反応は無い。ということは、少なくとも今の状況は戦闘で敗北した結果、というわけではないのだろう。

では一体なぜ…

「お兄ちゃん!しっかりして!お兄ちゃん!!」

お兄ちゃんだと?俺の事を兄と慕う人物は1人しか知らない。それにこの懐かしい声は…

「イリ…ヤ…」

「お兄ちゃん!!」

ぼんやりとした視界の中で、俺は確かに見た。

一緒にいた期間は短かったし、当時は敵対関係だったが、それでも唯一の俺の妹であり、同時に姉でもある存在。

「イリヤ…大きくなったな…」

なぜイリヤがこの場にいるのか、もはやそんな事はどうでもよかった。彼女がそこにいる、それだけで充分だった。

よく見るとイリヤは俺の知るイリヤよりもひと回り大きい。それに、周りにはイリヤを励ましてくれている少女たちもいた。恐らく友達なのだろう、俺の知っていたイリヤには残念ながら友達がいなかった。

何もかもが俺の知っているイリヤよりも恵まれたイリヤ、彼女を見れただけで俺は充分だった。

 

「お兄ちゃん!しっかりして、お兄ちゃん!」

イリヤの顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。こんな俺でも、大事に想ってくれていると思うと堪らなく嬉しかった。

だが、だからこそそんな風に泣いて欲しくなかった。

身体が動かなくなる程の重傷だ、魔力切れで現界できるのもあと僅かだろう。

だから、せめて最後は彼女の笑顔が見たかった。

 

「イリ…ヤ…」

辛うじて動かせた右手を、イリヤの頭に乗せ、そのまま撫でてみる。サラサラしていて、何時までもこうしていたくなるような髪だった。

「お兄ちゃん…?」

驚いたような顔をするイリヤ。俺の知ってるイリヤよりも、随分たくさんの顔を持ってるんだな。

今目の前にいる彼女は、聖杯なんてものにも、アイツベルンという家に縛られることもなく、今までも、これからも、笑顔の溢れる幸せな人生を送るのだろう。

それがとても嬉しくて、気がつくと自分が笑っているのが分かった。

そんな俺の笑顔につられてか、はたまた俺の望みに気付いたのか、イリヤも笑顔を浮かべていた。

 

遠い昔に見た、無邪気なその笑顔。

それを見た時、初めて芽生えた。

彼女の笑顔をこの先も守りたい、彼女のために生きたいと。

もしかしすると、俺はようやく自分の命を、救済の対象に入れることができたのかもしれない。

俺をずっと苦しめてきた病気は、こんな簡単な事で治るものだったのか。

 

もっとイリヤと話したかった。

だが、意識がそろそろ現界だ。この意識が途切れれば、次目を覚ます時は英霊の座なのだろう。

だからせめて最後に、俺を癒してくれたイリヤに、一言お礼が言いたかった。

 

「イリヤ…ありがとう…」

「お兄ちゃん!!イヤ!行っちゃヤダ!!」

ごめん、ごめんなイリヤ。

俺だってもっと話をしたかった。もっと一緒にいたかった。

だがもう限界だ。

さよならは言わない。恐らくもう彼女と会う事は2度とないのだろう。だから少しでも未練を絶つためにも、俺は目を閉じた。

消えゆく意識の中で、イリヤの友達の中で1人、イリヤにヤケにソックリな女の子がいた事と、手を伸ばした時に俺の腕がヤケに細かった事に疑問を持ちながら。




セイバーの出番はもう少し先になる予定です。

エミヤの説明は、おそらくこのssを読まれる方は既に承知の方が多いと思うので省きました。
もし読みたい、説明して欲しいという要望があれば、書こうと思います。


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2話 犠牲と決意

2話

 

痛みで目が覚めた。

どうやら、先の事故で負った傷は中々の重症のようだ。これでは満足に体を動かせるまでしばらくかかりそうだ。

 

ん?事故…そうだ、俺はあの時英霊の座に帰るものだとばかり思っていた。あれ程の傷を負えば、修復が間に合わず体の方が決壊するはずだ。しかし、今は痛む程度で済んでいる。

そして気になる事がもう1つ。

イリヤの頭を撫でた際、俺の腕が細かった事だ。それも、俺がまだ唯の人間だった頃のように。

自分の手を見てみる。その次に痛みに耐えながらも体を起こして周りを見ると、手鏡があったので見てみる。

 

「体が…若返ったのか…」

俺の外見は、世界と契約する前のまだ人間だった頃、より正確に言えば聖杯戦争に巻き込まれた高校時代と酷似していた。

体つきや筋肉も、恐らく同年代と比べればかなり優れた方なのだろうが、サーヴァントと戦うにはあまり脆すぎるものだった。

 

これは、俺が高校時代の姿で召喚されたという事なのだろうか。

いや違う、今の俺は"高校時代の衛宮士郎を触媒として召喚され、その体を宿主にして意識を保つことができる" というのが正解なのだろう。

 

ではこの体の本来の持ち主である、いわばこの世界における私のマスター衛宮士郎はどうなったのか。この問いに関しても、直ぐに答えを導き出せた。

彼はもういない、あの事故に遭った時、彼はもう既に死んでいたのだ。そこに彼の体を乗っ取る形で俺が召喚されたのだ。

 

不本意とはいえ、とんでもない事をしてしまったと思った。

俺はイリヤの笑顔を見た時、彼女を守りたいと思った。しかし、その時にはすでに、彼女の笑顔が向けられるべき対象を殺してしまっていたのだ。

「何が正義の味方だ…俺はまた…」

この一連の事実に気付いた時、頭の中に少年衛宮の記憶が一気に流れてきた。

 

「ッ…」

ひどい頭痛がする。17年もの記憶と同調することになるのだ、無理もない。

だが、俺がこの先少年衛宮の体を受け継ぎ、彼の代わりにイリヤを守るなら、この痛みは少年衛宮の命を奪った罰だ。

乗り越えなければならない。そうでなければ少年衛宮に、そして何よりイリヤに顔向けできない。

少しして頭痛が和らぐと、徐々にだが、少年衛宮の記憶が馴染んできた。

まず驚いたのが、切嗣が死亡していないという事だ。第4次聖杯戦争は未然に回避されたのか、本来聖杯の器となるべき人物であり、切嗣の妻、もっといえば俺の養母にあたるアイリスフィールも生きている。

これだけでも、俺のいた世界とはかなり掛け離れた世界なのだと分かる。

 

それ以外の相違点を纏めてみると、

・衛宮士郎は現在穂群原高校2年の17歳

・家族構成は俺とイリヤに、メイドのリズとセラ、そして従妹のクロエことクロの5人で、切嗣とアイリさんは海外出張

・俺がかつて住んでいた家とは違う一軒家に住んでいて、俺のいた家は別荘扱いになっている

・弓道部を続けている

・遠坂とルヴィアが転校生

・親しい友人として、一成・桜・慎二の他に、森山奈々美というイリヤの同級生の姉がいる

・ついでいうと慎二はあんまり変わらない

といった具合だ。

 

1番肝心の事故だが、俺が下校中にイリヤ・クロとその友達一向に会った時、突っ込んできた車からイリヤを庇って撥ねられたらしい。

こう言うのは不謹慎だが、咄嗟の判断で自分よりイリヤを優先した辺り、どこの世界でも衛宮士郎という人間の根本的な部分は変わらないらしい。全く、あの馬鹿者め。

俺がこうして召喚していなければ、イリヤは、切嗣は、みんなはどれだけ悲しんだのだろうか。

この時、俺はある事を決意した。

 

"この世界の衛宮士郎となって生きていく"

 

こうして彼の体を受け継いだのには、きっと何か意味があるはずだ。そうでなくても、世界が衛宮士郎という存在を他人の憑依という形で生かしたのであれば、俺はこれからも衛宮士郎として生きていく義務がある。

彼がこの世界で多くの人間にとって大切な存在であったのなら、俺はこれからもそうあり続けよう。

少年衛宮にできて、俺にできないはずがない。歩んできた道は違えど同じ人間なのだから。

何故俺が召喚されたのか、それは分からない。だが、きっかけが何であれ俺は俺が決めた道を行く。今まで何度も世界の掃除屋として働いたのだ、一度くらい逆らったところでバチの1つは当たらないだろう。

 

 

さて、今自分が置かれた事情が分かったところで、そろそろ寝るとしよう。

余裕そうに考え事をしていたが、体の傷の方がそろそろ限界だ。誰か起こしに来るまで寝るとしy

「お兄ちゃん…」

「重症だけど命に別状はないらしいから安心しなさいよ。そんな暗い顔見せたら、逆に心配されるわよ?」

「ハハ…割とありそうだね…」

「もういつまでそんな顔してんのよ…あっ!いいこと思いついた!」

「また面倒な事起こす気?」

「違うって。お兄ちゃんまだ寝てるだろうから、ベッドにお邪魔して添い寝してあげるだけだよ♪なんなら、ついでに既成事実も…

「そ、そんなのズルっ…じゃなくて、ダメーー!!」

「おっと、1番乗りは私だよ〜♪」

「待ちなさい!クロ!!」

 

2人とも、病院では静かに話そう。おそらく廊下にいるのだろうが、大声で内容がダダ漏れだ。それとクロ、君は一体どこでそんな事学んだのだ。小学生が既成事実という言葉を知ってるのは些か問題があるだろう。

まぁ、細かい事はともかく、2人が俺の事を思ってくれているという事実はとても嬉しかった。

 

俺は衛宮士郎として生きていく、この決意をもう一度深く固めると共に、どんな顔をしてイリヤとクロを出迎えるかを考えるのであった。




タイトルに「セイバー戦争」とあるように、最終的には全アルトリア顔とエミヤがイチャイチャするSSを目指してますが、セイバー登場はもう少し先になりそうです。

セイバー戦争の文字で興味を持たれた方、申し訳ありません。



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3話 家族

お待たせいたしました。
今回はいつもよりも長めです。




「イリヤさん!クロさん!病院では大声を出してはいけないとあれ程言いましたでしょう!!」

「「ごめんなさい。」」

 

イリヤとクロは今、メイドのセラに怒られている。まぁ病室からでも聞こえる程の大声で会話、途中で競争に発展していたのだからセラが怒る気持ちも分からなくもない。だが…

「セラうるさい、ナースに白い目で見られてる。」

「今はイリヤさんとクロさんへのお説教の方が先です。大体あなたもあなたですよ、リーゼリット。私言いましたよね?受付で手続きをするからその間お二人を見てなさいと。それなのにあなたときたら、『あ、あのジュースおいしそう。』などと余所見して、そんな事してるからお二人を見逃すのです。日頃の生活態度といい、今回の事といい、メイドというものをなんだと思ってるんですか貴女は。これは一度奥様と旦那様にキツく言ってもらう必要がありますね。」

「アイリと切嗣は私に意地悪しない。それと、セラ台詞が長い。」

「台詞が長い?フン、何を言い出すかと思えばそんな事ですか。言っておきますが、これでも要約している方なのですからね?今度一度文章にしてさしあげましょうか?それにあなたは〜」

 

このままでは埒があかない。この辺りで仲裁に入らないと、セラが面会禁止になり兼ねない。

「な、なぁセラさん?みんな反省してるようだし、その辺で一区切りいれないか?」

「部外者は引っ込んでてください!私は今、リーゼリットにメイドとは何たるかを一からお話しているのです。病人は病人らしく、寝てでもいたらどうですか?」

「なんでさ!それより、もう少し声を抑えた方がいい。病院からつまみ出されるぞ。」

「つまみ出させる?何を言い出すかと思えばそんな事ですか。いいですか士郎さん、先程も言いましたがこれはあの3人のために必要n」

「失礼します、そこの方、少しよろしいですか?」

 

セラのお説教を聞きつけて、白衣を着た初老の医者がナースを数人引き連れて声をかけてきた。表情はセラで隠れててよく見えないが、横に目をやるとイリヤとクロの2人が怯えていたので、余程お怒りなのだろう。

「は、はい。なんでしょうか?」

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「セ、セラと申します。」

「当病院には入院患者も多くいます。中には耳が弱い方もいられます。なので、もう少し声を抑えていただいてもよろしいですか?」

「は、ハイ!申しわけございません!」

てっきり出入り禁止にされるかと思っていたが、思いの外優しい説得だった

「では失礼します。」

「お仕事中に手間をかけさせて申し訳ございませんでした。」

「いえいえ、"旦那さん"が無事だったのですから、気が緩んで当然でしょう。母娘そろって面会なんて今時珍しいですから、見ていてとても微笑ましいですよ。おっと、親子水入らずの場で水を差すのもあれですな。それでは、失礼します。」

「「「「「ハァ…」」」」」

もう少しキツイことを言われると覚悟していたが、何事もなく終わってホッとした。そう何事もなく。何事も…

「「って、親子!?」」

 

気が緩んでいたのか、つい大きな声が出てしまった。

「わ、私と士郎さんが夫婦だなんて、そんなまた、だってまだ学生ですよ、えぇ。でも、ネクタイを締めたり緩めたり、キッチンで一緒に料理したり、ついでに後ろから抱きしめられたりなんて、そんな生活も…って何言わせてるんですか!!」

「こ、声が大きい、セラ!後あんま叩かないで、まだ傷が痛むから。」

「も、申し訳ございません。つい舞い上がってしまいました。」

「士郎の奥さんは、セラじゃなくて、私。」

「あなたも何を言ってるんですかリーゼリット!この話はもうお終いです!」

「私もどうせなら、娘じゃなくて嫁の方がいいな〜。イリヤもそうでしょ?」

「な!ク、クロも何言ってるの!?べ、別に私はお兄ちゃんの妹だし!誰が娘だろうが奥さんだろうが、私は勝ち組なんだから!!」

「なんでさ…」

前言撤回。あの医者、最後にとんでもない爆弾を落としていったな…

 

「それで、お体の方は大丈夫ですか?」

あれから暫くして落ち着いた後、セラが体の調子を訪ねてきた。というより、こちらが本題のはずなのだが…。

「あぁ、傷が痛むが、体はなんとか動かせる。骨折とかはあるのか?」

「いえ、お医者様によると右足と左腕が打撲と捻挫だそうですが、それ以外は特に。全く、あれ程の無茶をしながらこれだけの怪我で済むなんて、一生分の運を使い果たしたのではないですか?」

「あぁ、これじゃもう宝クジは買えないな。」

言動に反して表情は穏やかなセラ。先の医者の話だと、きっと入院の手続きを全部してくれたのだろう。そう思うと、頭が上がらない。

「ありがとな、セラ。色々してくれて。」

「お礼なんていいですよ。メイドとして当然のことをしたまでです。それに、あなたは高校2年生、少し背丈が伸びて頭が良くなったからといって、私からすればまだまだ子どもです。子どもに尽くすのが保護者の有るべき姿だと自負してますから。」

あぁ、この人は誰よりも優しい。この世界の俺は、仕事で忙しいアイリさんの代わりにセラがずっと面倒をみてくれていたんだ。

藤ねぇが俺を見守ってくれていたように、彼女もきっと俺の事を見守り導き続けてくれているのだろう、いつか大人になるその日まで。だから、感謝を込めて。

「俺、セラがメイドでよかったよ。」

「な、何をいきなり言い出すんですか!」

「セラ、照れてる。かわいい。」

「リーゼリット!茶化すのはやめなさい!…コホン。士郎さん、その台詞は、今より大きくなった時に言ってください。その時まで待ってますから。」

彼女の包み込むような優しい笑みを見て、俺は改めてセラがメイドでよかったと思った。

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい。私が事故に遭わなければ怪我をしなかったのに…」

そう言って、涙ながらに頭をさげるイリヤ。だが、今欲しい言葉は謝罪ではない。

「違うだろ、イリヤ。お前は事故に遭って怪我をすればよかったのか?」

「それは!それは…違う…」

そうだ、それは違う。この世界の俺はそれを防ぐために命を落としたんだ。

「そうだろ?なら、今イリヤは何をすべきだ?」

「あ、ありがとう、お兄ちゃん。」

「正解。」

そう言って俺は上半身で彼女を抱きしめた。

「お、お兄ちゃん!?」

「妹を守るのが、兄貴の務めだからな。」

「〒€%☆$#〜!?!?」

そうだ。そのために俺はここにいると決めたのだ。自分にそう言い聞かせると共に、彼女の髪をそっと撫でる。

「俺はもう大丈夫だから。」

 

「イリヤばっかりずる〜い!私もギュ〜っとして欲しいなっ♪」

「私も、士郎のこと心配した。もっと慰められるべき!」

そう言いながら、身を屈めて頭を寄せてくるクロとリズ。俺はイリヤから一言いって身体を離し、今度は2人の頭を撫でた。

「2人も、俺の事心配してくれてありがとう。何度も言ってるけど、この通りだからさ。」

「エヘヘ〜もっともっと〜」

「上出来」

嬉しそうに目を細める2人。あまり構ってあげられなくて申し訳なかったが、この様子なら清算できただろう。

 

さて、色々話したが、1番大事なものを忘れていた。

「ただいま、みんな。」

 

その台詞を言ったのは、果たしていつぶりだっただろう。英霊になってからも、その後も1人で駆け抜け続けた俺が久しく忘れていた言葉を。

家族との穏やかな日常に戻る魔法の言葉を。

 

ここから、衛宮士郎の新しい物語をはじめよう。

 




あらすじ、タイトルを大きく変えてすいません。
ですが、もっと多くの方に満足していただけるよう、精進していく所存です。

どうでもいいですが、士郎とセラの絡みはいいですよね。
ホロウアタラクシアで、2人でお化けから逃げる話はかなり好きです。


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4話 2人目の妹

今回の話は美遊視点となってます。
若干のドライ6巻以降のネタバレを含みます。

それから、説明が多く字数も今までの倍近いですが、ご了承ください。


4話

 

interlude ①-1

 

「…重い。」

今日は珍しく外出していた。外出といっても、調味料が切れたから買ってこいという、要は買い出しである。

私の雇い主であり、今は義理の姉であるルヴィアさんは、彼女の同級生であり私の同僚でもある凛さんとは犬猿の仲である。

2人はいつも喧嘩をしているけれど、その根底には確かな信頼関係がある、私の理想とする関係の一つである。

ただ、彼女らの喧嘩はそれは凄いもので、ルヴィアさんのパワハラに対し沸を切らした凛さんが実力行使に出るのが主なパターンだが、稀に1人の男性を巡って争うこともある。

昨日の喧嘩はその後者であり、どちらが妻に相応しいかという口論から料理の腕が上の方が良妻に決まっているという謎の結論に達し、料理の鉄人inルヴィア邸が勃発した、いやしてしまった。

ルヴィアさんの洋風料理に対して凛さんは中華料理。審査員は私と、隣の家に住む親友のイリヤ、クロ、イリヤ達のメイドのセラさんとリズさんだった。どちらも味は美味しく甲乙つけがたかったが、『士郎の料理の方が、美味しい。』というリズさんの爆弾発言で会場のテンションは一気に冷め、決着がつかぬまま幕を閉じた。

この日の対決でルヴィア邸の調味料を殆ど使い切ってしまい、私が大量に買い出しに行く羽目になった。調味料がパンパンに入ったビニール袋を両手で運ぶメイド服の小学生、周りの人もさぞかし可笑しなものを見てる気分だろう。

 

 

ルヴィアさんと凛さんが取り合う男性、彼はイリヤとクロの兄であり彼女らの想い人でもある。

-衛宮 士郎-

それが彼の名前だ。実は、私は士郎さんと他の女性が結ばれて欲しくないと思っている。雇い主と同僚、親友の恋を応援できない自分は悪い子だという自覚はある。でも妥協はできない。

だって、私も彼に恋をしているから。

 

私と彼、衛宮士郎は昔兄妹だった。もちろん、それはこの世界での話ではなく、別の世界で。

私の生まれである朔月家は特別な家系で、人の願いを叶える力を持っているという。それは私も例外ではなく、その力を狙う勢力に追われ、私以外の朔月家の人は殺されてしまった。

ある時言われたことがある。

『生まれたことが罪』

否定できなかった。朔月の家なんかに産まれなければ、望んでもないのに与えられた力もなく、家族に囲まれて、恋人を作って、幸せな日常が送れたかもしれない。ある時それに気づいた時、私は生きることを諦めてしまった。

だけど、そんな時に彼が、衛宮士郎が現れた。

彼は私に全てを教えてくれた。料理、掃除、洗濯、遊ぶこと、憎悪が伴わない怒り、嬉し涙、笑顔。全てを捨てた私が、今こうしていられるのは彼にもう一度与えられたから。彼が、お兄ちゃんがいなければ、私はとっくの昔に果てていたと思う。

お兄ちゃんが来てからの生活は劇変した。世界に色がついたように、毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。

でも、そんな日々は長くは続かなかった。

7歳の誕生日の日、私はエインズワースという魔術師の家に誘拐されてしまった。

今までの私なら、仕方がない、これが運命だと諦めてしまっていたと思う。けれど、お兄ちゃんに出会えって、私はもうそれが運命だといって流されるだけの、逃げてるだけの子供から成長したのだろう。初めて、この暗闇を断ち切りたいと思えた。

私はできる限りの抵抗は続けた。心の中でお兄ちゃんを待ち続けた。彼ならきっと助けにきてくれると、だから自分もただ待つのではなく、やれるだけの抵抗をしようと。

そして、本当にお兄ちゃんは来た、来てしまった。お兄ちゃんはエインズワースの化け物みたいな魔術師を倒して、牢獄にいた私を迎えに来てくれた。私はその時、初めて自分の愚かさを知った。

お兄ちゃんの体はボロボロだった。髪はいくつか白髪になり、左腕は切断された後に移植したのか私の頭を撫でてくれたそれとは別の物になっていた。きっとお兄ちゃんは、私のために沢山無茶をして、傷ついて、それでも会いに来てくれたのだろう。

私はお兄ちゃんが迎えにきてくれて嬉しかったが、同時に気づいてしまった。誰かを救うには誰かを犠牲にしなければならない。私が助かるのなら、お兄ちゃんは犠牲になるのだろう。それがたまらなく嫌だった。どうして世界はこんなにも残酷なのだろう。やっと見つけた幸せも、他の誰でもない私自身のせいで失ってしまうのかと。

私はお兄ちゃんの前で泣いた。何度もごめんなさいと謝った。

お兄ちゃんは、私をそっと抱きしめると、頭を撫でてくれた。そうしてこう呟いた。

『美遊がもう、苦しまなくていい世界になりますように。』

『優しい人たちに出会って、笑いあえる友達を作って、暖かで、ささやかな、』

『幸せを掴めますように。』

すると、私の体が突然輝きだした。この輝きを私は知っていた。これは、朔月の人間が人の願いを叶える時の輝きだ。

私のためにこの力を使ってくれる人は初めてだった。それは凄く嬉しかった。でも、

『嫌だ!』

『もっとお兄ちゃんといっぱい遊びたい!いっぱい教えて欲しい!もっともっとおしゃべりして、ずっと一緒にいたい!!』

やっと言えた、私の本音。私1人で幸せになんてなれない、私の幸せはお兄ちゃんあってこそ、それを伝えたかった。けれど、

『美遊、愛してる。』

『私だって!私だってお兄ちゃんを愛してる!!だから!』

『いいか美遊、よく聞け。これからお前の行くところに俺は行けない。だけどな美遊、俺はいつでも、どんな場所でもお前の味方だ。こんなボロボロになってまでお前を助けにきたんだ、説得力が違うだろ?』

『生きろ、美遊。俺は、ずっとお前を愛してる。』

『お兄ちゃん!!』

これが、私とお兄ちゃんの最後の会話。この直後、私は世界を飛ばされ、夜の公園でカレイドステッキに出会った。

この世界でお兄ちゃんを、いや、士郎さんに会えた時は思わず抱きついてしまった。その後すぐに、私のお兄ちゃんとは違う、この世界のイリヤのお兄さん衛宮士郎だと察したが、それでも嬉しかった。

また、お兄さんに会える。例え私のことを愛してると言ってくれたその人でなくとも、私は彼とまた一緒に生きれる可能性がある、それだけでわたしは充分だった。

 

これが、私と衛宮士郎の関係。お兄ちゃんとは別人だとしても、衛宮士郎である事に変わりはない。ならばいつか、士郎さんとまた一緒に過ごせる日を夢見て。

この気持ちはまだ誰にも言えない、私だけの秘密。ルヴィアさんやイリヤには悪いけど、私だって負けられない。

 

 

一度ルヴィア邸に帰った私は、調味料を調理室に届けた後、部屋の掃除をしていた。すると、カレイドステッキのサファイアが何やら焦った様子で話しかけてきた。

「美遊様!病院に向かわなくてよろしいのですか?」

「?誰か怪我をしたの?」

「士郎さんです!事故に遭われたようですが、命に別状は…あれ、美遊様?おかしいですね、今目の前で話をしていたはずなのですが。」

 

お兄ちゃんに何かあった。それ以上の言葉はいらない。

ここから病院というと、恐らく新都だろう。幸い、買い出しの際のお釣りがポケットに入っていたので、タクシーを拾って直ぐに向かった。

 

「お嬢さんご家族の方は?今時子ども一人でタクシーなんて珍しいですよ。」

「兄が…いえ、知り合いが怪我をして…」

「…事情はある程度察しました。とても大事にされていたのですね。」

「はい。あの人は…私の唯一の人です。」

運転手さんはそれっきり一言も話し掛けることはなかった。その方が良かった。混乱している今、八つ当たりをしかねなかったからだ。道路は特別渋滞していなかったので、5分足らずで病院に着いた。

 

「あのすいません!お兄ちゃ、衛宮士郎の病室はどこですか!?」

「2階の222号室ですよ。」

「ありがとうございます!」

「いえいえ〜って、音も立てずにずいぶん速く走るのね、あの子。」

 

「お兄ちゃん!」

バタンと大きな音を立てて扉を開けると、お兄ちゃんはベッドで寝ていた。特に器具に繋がれていたりなどしてなかったため、命に別状はないようだ。」

「よかった…」

目元に手を当てると、しっとりと濡れてるのが分かった。きっと私は泣いているのだろう。

「お兄ちゃん…」

私はベッドで寝ているお兄ちゃんを抱きしめた。端から見ると押し倒してるようにも見えるが、そんな事はどうでもいい。

「お兄ちゃん…」

抱きしめるとお兄ちゃんの匂いがする。匂いも、体格…は少し違うけど、髪の色も、肌も一緒だ。こうしていると、また思い出してしまう。あの幸せな日々を。この人はお兄ちゃんではなくて士郎さんだ、心の表ではそう理解してても、根っこの深い裏ではどこか面影を探してしまう。

「よかった、無事で本当によかった…またあの時みたいに怪我したら、私、私…」

「…えと…美遊…ちゃん?」

「お兄ちゃん…?」

お兄ちゃん改め士郎さんから名前を呼ばれたので、つい反応してしまった。そういえば、今の私って士郎さんに抱きついてるんだった。それにお兄ちゃんって…でも、もう少しだけ、もう少しだけこのままで。夢でもいいから…

 

interlude out

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

セラたちが飲み物を買いに行き、しばらく寝ていると、何かが上に乗ってるような感覚がした。

(もう帰ってきたのか?それより、これは乗ってるというより、抱きつかれている…?)

目を開けてみると、黒髪の少女に抱き締められているようだった。見た感じ桜ではないし、歳はイリヤと同じくらいだろう。となると思い当たる人物は1人だけだ。

「…えと…美遊…ちゃん?」

「…お兄ちゃん…?」

お兄ちゃん?そういえば、初めて会った時も、お兄ちゃんと呼ばれて抱きつかれたな。お兄ちゃん、か…。

俺と彼女は兄妹ではない。しかし、この取り乱し様は普通ではない。お兄ちゃんと渾名で呼び合うだけの仲ならここまではならない。彼女の態度は、俺がセイバー、アルトリアに対し感じたそれと酷似していた。ならば、俺と彼女は本当に兄妹だったのか。

そこで俺はある事に気づく。今の俺は体はこの世界の衛宮士郎だが、その中身は平行世界の衛宮士郎だ。

もしかしたら、彼女も俺と同じように別の世界から来た人で、そこでは俺と兄妹だったのではないか。

この仮説が正しければ、彼女は、きっと1人だったのだろう。たった1人でこの世界に飛ばされ、そこでイリヤと出会った。 初めから場所を与えられた俺は恵まれていたのかもしれない。

彼女になら、俺の秘密を話せるかもしれない。

「もしかして、君も…

「士郎さん、どういう事か説明していただけますか?」

 

いざ伝えようとしたらセラの声が聞こえたので声の方を見てみる。あ、そういえば、まだ抱き合ったままだったのか。

「ち、違うんだ、これには深いわけが、」

 

「お、お兄ちゃんに美遊!2人とも何やってるの!?」

「お兄ちゃんったら大胆♪でもちょ〜っとこれはお説教かな〜」

「士郎、ロリコン?」

「衛宮くん…」

「シェロ…」

「「どういうことかしら(ですの)?」」

まずいな、これは。いつの間にか遠坂とルヴィアもいるとは。しかも2人とも相当お怒りのようだ。

美遊の様子はというと、放心状態というか、どこか浮いた表情で抱き着いたままだ。そんなに気持ちいいのか、というかこの娘と俺ってどういう関係だったの?

 

この後、美遊を除いた全員の質問攻めにあい、士郎が再び寝るのは数時間後になるのであった。




UA4000もいただき、ありがとうございます!

美遊はプリヤ勢で1番好きなキャラなので、出番が増えるかもしれません。

それから、このシリーズでサーヴァントを出そうと思うのですが、現在ランサー・ライダーのクラスが検討中です。
「乳上を見たエミヤの反応」「ぽんぽこライダーとのイチャイチャ読みたい!」「エミヤがバレンタイン清姫と魔力供給(下ネタ)する話」等々、希望がありましたら感想の欄で募集してます。

追記
2/29 美遊視点の始めと終わりにinterludeを付けました。


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5話 運命的な幕開け

今回もエミヤ視点でなく、別の人物の視点になります。
それから、内容はバトルパートが中心になります。

最後に一番大事な事ですが、今回の話は後日投稿予定の6話の別視点という立ち位置です。
唐突すぎて理解不能、と不快に思われる方もいるかもしれませんが、それでもよければぜひ見てください。


interlude ②-1

 

夜の11時。

ここ冬木には2つの大きな街がある。

ビルに囲まれ昼夜問わず人と灯り溢れる街、新都。のんびりとした住宅地でこの時間になると街頭が佇むゴーストタウンと化す街、深山町。

新都と深山町、一見全く異なる別世界のようだが、それらを冬木という1つの街として繋ぎ止める唯一のスポットがある。

冬木大橋。2つの異世界に跨がるここは冬木の中でも特別異質な場所として人々に認識されている。

 

ただ、この日は何が違った。いつもと違う要因は明らかだ。

本来この場所にいないはずの存在、いてはいけない者たちによる、フィクションを超えたノンフィクションが繰り広げられていたからである。

 

 

 

白い鎧を纏った女騎士が橋を駆ける。その鎧はどこかドレスのようで、何も知らぬ人が見れば上質なコスプレ衣装、あるいは撮影と思うだろう。

しかし、その考えはすぐに覆されることになる。赤い光を纏った魔弾が女騎士に迫っていたからである。

魔弾の存在に気づいた彼女は堪らず振り返ると、手に持った黄金の剣でそれをなぎ払う。

「ハァアッ!」

しかし、1つ回避したところで、第二第三の魔弾が続けざまに彼女に降り注ぐ。

それを彼女は第一の時と同じ要領でそれらをなぎ払っていく。

だが、このままでは押し切られると勘付いた彼女はすぐさま近くの公園に駆け込み、木を盾にして剣を構えた。

 

「これで、ある程度は状況を立て直せるはず…」

しかし、それは甘かった。魔弾は盾を粉砕すると、失速する事なく彼女に向かってくる。

「それなりに立派な木を選んだつもりでしたが、これ程の威力とは。」

感心している場合ではない。 あっさりと策を破られた今、彼女に残された唯一の策は魔弾1つ1つを斬り伏せていくことだけだ。

どんなに逃走してもこの魔弾からは決して逃れられない。しかもそれらは、射手がこちらから確認出来ない距離からの狙撃だというのだから尚更タチが悪い。

 

一撃目、二撃目、三撃目、四撃目。立て続けに迫り来る4つの魔弾を彼女は無事斬り伏せると、続けてくる第五第六の魔弾を警戒した。

だが、しばらくしても魔弾が飛来する気配がない。ここに来て初めての状況。

歴戦の兵士ならば、これは騎士が安堵したところを確実に奇襲するための罠だと気づいただろう。しかし、まだ実戦経験の浅かった彼女は、事もあろうかこれで終わりだとまんまと策に嵌ってしまったのである。

 

彼女が背後を向けた瞬間。

通常よりも長い時間チャージされたそれは、彼女の腹に突き刺さる。その膨大な魔力量で敵の攻撃は終わってなかったと気づき、咄嗟に斬り払おうとするも既に時遅し。

 

「グッ…!ァ、ガハッッ…!」

その重い一撃に思わず吐血してしまった彼女。今の彼女に、続いてくる第二第三の魔弾を防ぐ余裕はなかった。

 

「どうやら…ここまでのようですね…」

王になるための修行中に命を落とした彼女は、次こそは失敗せぬよう、正しく民を導けるようにもう一度やり直したいという願いを聖杯にかけてこの冬木に召喚された。

自らの油断が招いたこの結末。彼女はまたも同じ過ちを犯したのかと思うと、悔しくて堪らなかった。

だが、それもここまで。

彼女は瞳を閉じ、次に目を開ける頃には英霊の座に帰還しているのだろうと思いながら敗北を覚悟した。

 

しかしその覚悟は。

 

突如現れた青年によって砕かれる事になる。

 

I am the boneof my sword.(体は剣で出来ている)

 

青年は聞いた事のない詠唱を終えると、その左手を魔弾に向かってかざし、

 

熾天覆う…七つの円環(ローアイアス)!」

直後、彼の左の掌から5枚の花弁が展開されると、2枚の花弁を犠牲に魔弾の連撃を見事に防いだ。

今度はより短い間隔での魔弾が3つ飛んでくる。しかし、先と同じように彼は防いでいく。

 

一枚、また一枚と彼の花弁は割れていく。しかし、彼はそれを全く気にする事なく同時に別の詠唱を始めた。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

そう言うと花弁を展開する左とは別の、もう片方の右手から弓が出現した。

 

今のは投影の魔術によるものなのだろうか。それ以前に、彼は何者なのだろう。味方なのだろうか、なぜ私を守ろうとするのか。

そんな事を考えている内に、最後の一枚が割れると、魔弾の雨は再び止んだ。だが、同じ轍はもう踏まない。

 

「気をつけてください!次に来るのは

「分かっている。それよりも、吹き飛ばされないよう少し踏ん張る努力をしたまえ。あぁそれと、こうして揚げ足を取ってしまったが、教えてくれた事は感謝する。」

「えっ…」

 

分かっている。それはつまり彼は女騎士よりも実力者だということだ。そう思うと少し悔しかったが、同時にお礼を言われたことで内心喜んでいた。

 

なんて物思いにふけっていると、彼の手には私の持つ剣によく似た剣が握られていた。

それを彼は、なんと矢として放ったのだ。その構えはとても洗練されたもので、疎い彼女でも分かる、見る者の心を奪う美しい弓だった。

 

偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

その詠唱の後に放たれたそれは、私の予想通りやってきた今までのそれよりも強力な魔弾の、横を通り過ぎた。

「えっ…?」

 

しかしその直後だった。

突如彼の放った矢、偽・螺旋剣Ⅱが爆発したのだ。爆発により生まれた凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになるのをなんとか耐える。

 

ふと彼に目をやる。

彼はその爆風の中心に居ながらも、微動だにせず、ジャケットを風で靡かせながらも立ち続けていた。

そうして私の方を見ると、どこか挑戦的で、その実優しげに微笑みながらこう問いかけてきた。

 

「ついて来れるか?」

 

風が止み、美しい月夜の下で、私は小声で、彼に聞こえない程度にこう呟いた。

「むしろ…引っ張っていて欲しいです///」

 

これが彼と彼女の最初の出会いであった。

interlude out




いかがだったでしょうか。

あらすじでも書きましたが、この作品はなるだけシリアスよりも、ちょっとおバカで後半真面目なアニメプリヤような話にしていくつもりです(ドライはSNみたいな展開に突入しているので、あまり適当な事は言えませんが)。

初めてのバトルパートで不安はありますが、受け入れてもらえれば幸いです。
6話は、4話の続きをエミヤ視点でお送りします。
今回の話は、聖杯戦争のプロローグを書きたかったので投稿させていただきました。
唐突な始まり方は、脚本家の三条陸氏を意識したのですが…全然ダメですねw

最後に、4話で感想を6通もいただき、ありがとうございます!サーヴァントの要望だけでなく、ストーリーの穴や細かい設定のズレ等も指摘してくださり、本当に感謝しています。
これからも応援よろしくお願い申し上げます。

追記
2/29 始めと終わりにinterludeを付けました。
3/1 エミヤの詠唱をルビを追加しました。


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6話 3度目の出会い

お待たせいたしました。遅くなってすいません。

この話は5話のエミヤ視点です。


「かんぱ〜い!」

事故で入院したものの、打撲という比較的軽傷だったため1日の検査入院で退院することができた。

今は、ここに来て初めてであり、これから住むことになる我が家で、退院祝いの豪華な夕食を家族みんなで食べているところだ。

 

「もし、士郎が事故でもっと酷い傷を負っていたら…こうして食事をすることはもう2度とできなかったのでしょうね…。」

唐突にセラがこんな事を呟いた。

そう、この光景は本来失われていたはずのもの。オレが召喚されなければ2度と繰り返されることはない、みんながいることで初めて成り立つ奇跡なのだ。

「ごめんなさい、お兄ちゃん。私のせいで…。」

涙目になりながら謝罪をしてくるイリヤ。もし、彼女が"俺"の死がキッカケで、あの明るい笑顔を忘れてしまったら。そう考えるだけで締め付けられる。

「そう暗い顔をするな。オレは今、こうして美味しい食事をみんなと囲むことができている。今はもしもの話で落ち込むよりもまず、この料理をもてなしてくれたセラへ感謝をする方が先ではないかな?ただ…」

「ただ…?」

人には2つの種類がある。罪を犯せば許されて欲しいと思う人、逆に罰を与えて欲しいという人。

イリヤやクロのような純粋な娘は、おそらく後者だろう。前回はごめんというなと言ったが、それではお互いの間にシコリが生まれる。これから更に信頼関係を発展させていくうえで、そういう蟠りを残したままにするのはよろしくない。

 

「イリヤ、次の日曜日みんなに晩飯を作ってみろ。」

「え?え、エェー!?!?」

「どういうつもりですか士郎!また私の仕事を奪うつもりですか!?」

「セラは怒る論点が違う気がするが…まぁ聞け。とにかく、イリヤは晩飯を一品作ること。何を作るかは友達に聞いてもいい。それと、セラにはイリヤの監督役をしてもらう。料理人の補佐というのも、メイドの立派な業務だろ?」

「えぇまぁ。それなら。」

「イリヤ、どうする?」

「うん、私やるよ。それでお兄ちゃんに許してもらえるなら、絶対美味しい料理作るからね!」

「いい返事だ、イリヤ。」

 

せめてものご褒美にと、隣に座るイリヤの頭を撫でてやると、眼を細めて頬を赤く染めていた。こう嬉しそうに反応してもらえるのなら、兄というのも悪くない。

 

 

 

「筆箱がない…だと…?」

その日の晩のこと。翌日から早速学校に行けるということだったが、鞄も一緒に車に轢かれていたようで、その中身がバラバラに粉砕されていた。これでは授業を受けることができない。

 

「ちょっとコンビニ行ってくる。」

「どうしたんですか士郎?もう10時半ですよ、深夜徘徊をするような子に育てた覚えはないんですが。」

セラに断りをいれようとするが、案の定良くない顔をする。まぁ、自分も普通のこの年頃の男が外に買い物に行くなど、よくない人とつるんでいると勘違いされても無理はない。先の筆箱の惨状を話すと、門限11時までという約束のもと家を出た。

 

外に出ると、違和感を感じた。根拠があるわけではないが胸騒ぎがする。しかもその感じが、かつて体験した聖杯戦争の夜のそれとどこか似ていたのだ。

筆箱とその中身は諦めて家に帰るのが正しい選択だろう。今でなくとも、一成に借りればなんとかなる。

しかし、気がかりになることが一つ。

それは、生前の知り合いのイリヤが聖杯だったということだ。

もしもイリヤが、あるいはクロが、またあるいはセラやリズが聖杯戦争に巻き込まれているとしたら。

それは兄として、家族の味方を引き継いだ今のオレには見過ごすわけにはいかない。直感を頼りに、歩みを進める。

 

海浜公園。かつて、セイバーとのデートの帰りに英雄王と戦った、今となっては懐かしの場所で、彼女はいた。

服装はオレの知るそれではなかったが、その顔は、その気品ある雰囲気は、間違いない。彼女だ。

なぜ彼女がいるのか、それは分からない。マスターとしても、サーヴァントとしても、この冬木で彼女とは聖杯戦争を共にした。

こうしてまた出会えるとは…。

 

戦況的には彼女が劣勢だった。

おそらく、オレもサーヴァントとして、この聖杯戦争の参加者として召喚されたのだろう。ならば本来、この状況は歓迎すべきなのかもしれない。

しかし、少年衛宮の影響を受けてか、精神年齢が幾ばくそれに近づいていたオレは、彼女をこのまま見殺しにするのではなく、助けることを選んだ。

 

自分に問う。

この行為は、また他人のために自分の命を勘定に入れないものではないのか。かつて正義の味方を憎みながら、まだそれを続けようとするのか。家族を守ると言いながらも悪戯に自分の命を捨てるのか。

違う。これはセイバーのためではない、彼女と話がしたい、俺のための戦いだ。家族を守る、ならばオレだって家族だ。その家族のために戦うと誓ったのだ、ならばこの一度だけでも、自分の欲望のために戦っていいはずだ。

 

 

頭の中に撃鉄を思い浮かべ、それを落とす。これは、生前何度も繰り返した、普段は機能していない魔術回路を、スイッチをオフからオンに切り替える、起動の動作。

この世界に来てからは初めて行ったが、召喚された際に体の中身がオレのそれに更新されていたようで、何事もなく行われた。

 

これならば、いける。

 

彼女に迫る魔弾から彼女を守るために、オレは前に出た。

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

もう何度も唱えたそれを。

心の景色を映し出す、オレの、オレだけに許された魔術。

ありとあらゆる武器、防具を投影し、貯蔵する剣の墓場。

その中から、最強の盾を左手に映し出すべく、その真名を唱う。

 

熾天覆う…七つの円環!(ローアイアス)

彼女と前に飛び出すと、左の掌を魔弾の前にかざす。

瞬間、その掌に花弁が現れる。

これが彼の持つ最強の守り。本来はその真名の通り七つの花弁の盾なのだが、体が魔術回路に比べ未熟なためか、五枚しかない。

だが今はこれで充分だ。

 

魔弾と花弁がぶつかり合う。赤い光を纏った魔弾は、正確には"弓矢"が、彼女を射抜こうと花弁と突き破ろうとするも、両者の勢いは拮抗し、やがて花弁が一枚失われた頃にはその矢も消えていた。

続く第二第三の雨を一枚ずつ消費しながら、オレは次の手を打つ。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

この一言を唱えると、墓場から再び、今度は使い慣れた弓を映し出す。

最後の一枚が割れると、今度は左手にまたも剣を写す。

 

虹霓剣(カラドボルグ)

かのケルト神話にて、光の御子クーフーリンの友であり義父である豪傑、フェルグス・マック・ロイの愛剣。

 

本来の虹霓剣(カラドボルグ)のまま使用しても充分な威力を発揮するそれに、更に改造を加えよりオレ好みの物にする。

 

投影、重装(トレース・フラクタル)

 

投影を重ね、オリジナルとは別の方向性へと姿形を変える。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

そうして、それを矢として放つ。

最早それは虹霓剣(カラドボルグ)ではなく、

 

偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)

完成されたものを更に鍛えられたそれは、見えない位置から放たれた魔弾の、横を通り過ぎる。

 

「…え?」

背後にいる彼女が、驚いたような声をする。

確かに、目には目を歯には歯を、投擲には投擲で相殺すると考えるのが普通だろう。

 

だが、この状況下でそれでは間に合わない。敵は見えない位置にいる。あちらからの攻撃は容易でも、その逆は難しい。今この状況で射手を倒すには、後出し必勝の宝具でもなければ突破は困難だろう。それを投影できたとしても、今のオレに使いこなせる保証はない。

ここで求められる選択肢は一つ、撤退だ。

 

螺旋剣が魔弾の横を通り過ぎだ時、突如螺旋剣が爆裂した。

魔力で練られた剣を崩壊させ、その解放された魔力を爆発させる技、壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

その余波により、陽炎で視界が歪み、爆風が吹き荒れるがそれを堪え、背後に目をやる。

 

尻餅をついてる彼女とそれを見下ろすオレ。

あの時とはポジションが逆だ。それは、オレが彼女と肩を並べられる日が来たということなのだろうか。

それならば、オレがかけるべき言葉は気遣いではなく…

「ついて来られるか?」

これが、オレと彼女…"アルトリア"(セイバー)との3度目の出会いだった。

 

 

「さて…コンビニによるつもりが、とんでもないことになったものだ。」

「あ、あの!」

「すまない、話は後だ。またいつ奴に狙われるか分からない、陽炎が奴の視界を眩ませている間にここから離れるぞ。」

 

「ここまでくれば問題ないだろう。」

あの後公園を出て別の小さな公園まで避難した。

「すまない、実は先の戦闘の前から身体を痛めていてね。そこのベンチに座ってもいいか?」

「大丈夫なのですか?」

「なに、君のその腹部の傷に比べれば、まだ可愛いものだろう。寧ろ、君の方こそ大丈夫なのかね?」

「わ、私は大丈夫です!こう見えても丈夫ですから!」

その傷で動けるのに丈夫という言い訳は不自然な気もするが…まぁ、ここで時間を割いていてもしょうがない。ひとまず二人でベンチで腰を下ろし、痛みが落ち着いたところで彼女が話しかけてきた。

 

「あの、先程の戦闘では、助けていただきありがとうございます!」

「いや、気にすることはない。ただ、君に聞きたいことがあっただけだ。」

「助けていただいたお礼です。話せる範囲でお答えしましょう。」

「では、まず一つ目に、今この街で何g

「こんな所にいたんだ、お兄ちゃん♪」

 

出会ってまだ2日目だが、ハッキリと分かるその声の主。

「クロ!こんな時間にどこをほっつき歩いている!誘拐でもされたらどうするつもりだったんだ!」

「それはこっちのセリフだよ、お兄ちゃん。なんで"私と同じ"魔術をお兄ちゃんも使えるのか、それを聞きたくて追いかけてきたんだけど、この際もうどうでもいいわ。」

私と同じ、だと?どういう意味だ?

彼女の姿を今一度見ると、私と同じ赤い外套を纏っていた。

まさか…

「クロ、お前も投影魔術を使えるのか?」

「そうだよ。でもそんなこと今はどうでもいいの。」

「どうでもいいわけあるか!クロ、お前は一体何もn

「ねぇお兄ちゃん、そこの女…誰?」

 

何者なんだ…え?今、何と言った…?

 




まずはじめに、前回の話が日間ランキングで4位になれました!多くの方に読んでいただき、大変ありがとうございました!

それから、感想の場所では詠唱のミスや心情描写、タイトルの英語の誤用、このサイトのルール等、様々な事を指摘してくださった皆様、次回が楽しみと言ってくださった皆様には感謝してもしきれません。

今後も皆様により楽しんでいただける話を書けるよう、誠心誠意努めていきますので何卒よろしくお願いします。

追記
3/1 エミヤの詠唱、及び武器名にルビを追加しました。


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7話 開戦?

お待たせいたしました。


「そこの女…誰?」

剣をオレではなく、横にいるアルトリアに向けてそう言い放つクロ。

「お兄ちゃん、また女の子落としたんだ。相変わらずのハーレム気質も、ここまでくると嫉妬を通り越して呆れるわね。」

ハーレムだと?いや確かに、少年衛宮には女性の友人が多くいたが、特定の彼女はいなかったはずだ。そしてオレもまた、生涯独身を貫いた…それはいいことなのだろうか?それに

 

「誤解だ、クロ。オレは彼女を籠絡していたわけではない。確かに女子の友達が多いのは認めよう。だがハーレムとは聞き捨てならんな。オレに恋人はいないし、できる予定もないが。」

恋人がいないと言うと、クロとアルトリアは何故か笑顔になったが、クロはすぐに緩くなった顔を引き締め、こう言い放つ。

「…そう、いないのね、よかった。さて、もうこんな遅い時間だし、そこの女は放っておいて帰りましょ、お兄ちゃん♪」

「お待ちください!」

アルトリア(セイバー)が会話に割り込む。

 

「何よ、私はこれからお兄ちゃんとお家に帰るところなの。部外者はお家に帰りなさい。」

「部が…私は部外者じゃありません!彼は私の恩人です!その恩人に対して先程からの失礼な言動や、私に対するぞんざいな扱い、彼の妹ならばと黙って見ていましたがもう我慢なりません!決闘を申し込みます!」

「いや、ちょ何言って

「へぇ〜実力で(お兄ちゃんを)手に入れるつもりなのね。いいわ、受けましょうその申し出。」

なんでさ!どうしてこんな展開になった!

 

「よせ2人とも!セイバーはともかく、クロは"普通の小学生"だ、戦ったところで勝敗など目に見えて

「この格好と剣を見てまだ"普通の小学生"だと思ってるわけ?それに、セイバーって何?」

しまった。彼女が平行世界のアルトリアならば、恐らくはセイバーなのだろう、そう推測していたが、それを口走ってしまった。

「いきなり私のクラスを言い当てるなんて…まさか本当に運命の相手なのでしょうか…」

…普通いきなり身バレしていたら怪しむだろう、何故そこで頬を赤らめるんだ、セイバー。

 

「へぇ〜その反応だと、彼女はセイバーのクラスのサーヴァントかそれに準ずる何かなのね。聞きたいことが増えたけど、先ずは私とお兄ちゃんのこれから始まるお忍びデートのお邪魔虫を駆除しないとね。

それとねお兄ちゃん、残念だけど普通の小学生っていうのもハズレ。」

 

「私はね、魔法少女なんだ。」

 

「魔法…少女?」

「そう。まぁ正確には違うんだけど、そう言った方が一番分かりやすいかな。

ともかく、私なら大丈夫だよ。相手がセイバーだろうと、負けるつもりはないから。」

「魔法少女、ですか。相手にするのは初めてですが、剣を交える以上、こちらも容赦はしませんよ。」

そういって、剣を構えるセイバー。

 

「お腹の怪我は大丈夫なのか?」

「えぇ、もう問題ありません。お心遣いありがとうございます。」

先の戦闘での傷はもう癒えていたようだ。しかし、彼女の剣を見てオレは疑問を覚えた。

私が知っている彼女によく似たセイバーのサーヴァント、アルトリア=ペンドラゴンの持つ愛剣は約束された勝利の剣(エクスカリバー)。恐らくは世界で最も有名であろう聖剣のひとつだ。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)は本来、風王結界(インビジブル・エア)によりその力を抑えられており、その黄金に輝く刀身は見えないはずなのだ。だが、彼女の剣は黄金でこそあるものの、その輝きは約束された剣(エクスカリバー)のそれに劣る。そして何より、剣の装飾も大きく異なっていた。私はあれとよく似た剣をよく知っていた。

王を選定するための剣、勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

私の知る限り、アルトリアは生前戦いの最中でそれを失い、英霊となっても使用できなかったはずだ。

しかし、彼女が持っている剣は勝利すべき黄金の剣(カリバーン)に酷似していた。彼女は、私の知るアルトリアとは違う道を辿って英霊となったのだろうか。

というより、それよりもこの不毛な争いを止めなければ。

 

「よせ2人とも!クロが魔法少女で、セイバーと戦えるというのは分かった。なぜクロが魔法少女なのか、サーヴァントについて知っているのか、それについては後で詳しく聞させてもらおう。先ずは両者ともに剣を下せ!」

「できません!!」

「なんでさ!」

いかん、つい口癖が。

 

「女にはやらなければならない時というのがあるのです!それが今、今なのです!祖国の救済と共に夢見たもう一つの願い、その成就のため貴女にはここで消えてもらいます!」

「交渉決裂ね。私だって、11年間イリヤの中で夢見てきたものがようやく手に入りそうなの。それをポッと出のあなたなんかに渡す気はないわ!」

 

「いざ尋常に!」

剣を互い構え、向き合う2人。

「デュエル開始の宣言をして、お兄ちゃん!」

「いやだから2人とも落ち着いt

「「デュエル!!」」

 

両者駆け出し、剣と剣が火花を散らしぶつかり合う。いよいよ始まってしまった。

とりあえず一言言わせてもらいたい。

「なんでさ…」




更新遅くなりすいませんでした。

士郎がカリバーンについて熟考していましたが、あれは転生したことで付与された直感スキル(c+)によるものです。
この世界におけるエミヤのステータスは次の話までに設定しようと思います。
突然リリィの一人称がセイバーになってることについてですが、エミヤがアルトリアと呼ぶことに慣れていないため、呼び親しんでいたセイバーに切り換えた、という設定にしています。
それから、エミヤの口調ですが、家族以外の前では基本エミヤ、テンパったりすると時々士郎になります(所謂なんでさ病)

次回は1週間以内に書き終える予定です。それでは。

追記
3/1 武器名にルビを追加しました。


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8話 決闘

今回は神の目視点で、戦闘パートオンリーです。

エミヤ視点の話は次回の予定です。


interlude②-2

 

「ハァアッ!!」

「セイッ!!」

真夜中の公園で剣と剣が激しくぶつかり合う。そしてその渦中に、2人の少女がいた。

1人は赤い外套を纏い、二本の剣を持つ自称魔法少女、クロ。

もう1人は白銀のドレスに黄金の剣を持つ過去の英雄、セイバー。

 

クロは二本一対の夫婦剣 -干将・莫耶-を右、左、右と交互に振るい、セイバーはその規則性に気付き的確に防いでいく。途中クロの剣が何度か折れるも、その度に新しい剣を取り出しては一連の流れを続ける。右、左、右、次はおそらく左、そう読んだ彼女は左に曲がり敵のリズムを崩そうとする。しかし、次に来たのは左からの一撃ではなかった。

右側からの一撃を弾き、右に回避しようとした時、右から回し蹴りが迫ってきた。予想外の攻撃に反応が遅れ、思わずもらってしまうセイバー。

「もらった!」

クロはセイバーと距離を置くと、左右に持った剣をセイバーに向けてブーメランのように投げつける。

セイバーはそれをなぎ払おうとするが、剣はセイバーの目前で爆裂する。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)

魔力によって練られた剣の魔力を解放し、その魔力を爆弾の火薬として広範囲に爆発を発生させる。

「彼がやった技と同じですね、」

爆風が吹き付けるが、セイバーは一度経験済みだ。彼女は自身の足と剣に魔力を放出させる。セイバーのスキルである魔力放出は、魔力を肉体や武器に付加させることで、一時的にだが爆発的に能力を向上させることができる。普段なら燃費の悪さからあまり使うことはないのだが、この好機を逃さまいと貯めていた魔力を剣に込める。

「そこですつ!!」

魔力を燃料にして、セイバーはロケットエンジンの如き速度でクロに迫りその剣を振るう。爆煙で眩ませてその隙を突こうとして逆に隙を突かれたクロは、咄嗟に左の掌に四枚の花弁の盾 熾天覆う七つの円環(ローアイアス)を展開する。

しかし、魔力付加による単純な強化と、突進による推進力で大幅に強化されたセイバーの剣は四枚の花弁を一撃で粉砕させた。

 

「うそ…」

圧倒的な威力を前に驚かされるクロ。しかしセイバーの攻撃は続く。

これを受ければ、死ぬ。 直感ではなく本能がそう告げる。死を前に彼女は、否、彼女の中にある力が迫る剣に対"剣"を教えてくる。その解の意味やそこに至る理由は分からない、ただ与えられた模範解答を彼女は応える。

投影開始(トレース・オン)

そう呟くと、彼女の手に剣が現れる。

その剣の真名は -グラム-、北欧神話に登場する竜殺しの英雄 シグルドの愛剣にして、かのアーサー王の持つ黄金の聖剣-約束された勝利の剣-(エクスカリバー)と対を成す魔剣。七つの円環を突破したセイバーの剣と相打つに相応しい選択と言えるだろう。

しかし、彼女は模範解答を応えただけだ。魔剣と呼ばれるまでの過程が省略されたそれは形だけのレプリカ。そこに真に迫る価値はなく、故にただの剣に成り下がったグラムはセイバーの剣を受けると、たちまちその刀身が粉々に砕けた。

 

万策尽きた。追い詰められたクロに黄金の剣が振り下ろされる。よもやここまで。

(せめて最後に、笑顔でお兄ちゃんとお別れしたいな…)

兄がいる場所に向けて、残された体力で最大限の笑顔を見せようとするクロ。だが、そこに兄の姿はなくー

 

投影開始(トレース・オン)

 

クロが前を向くと、その眼に写ったのは彼女の血で塗られた剣ではなく、振り下ろされた剣から彼女を守る、兄の後姿であった。

 

interlude out

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

元々は今回の話と次回の話まとめて8話にする予定だったのですが、それでは長くなりそうなので2つに分けました。
次回は会話多めになる予定です。

設定のミスがありましたら、お気軽にご指摘ください。また、感想もお待ちしております。

追記
3/1 武器名、詠唱にルビを追加しました。


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9話 赤き狂戦士

大変お待たせ致しました、

今回の話はリリィvsクロの時、美遊たちの間で起こった話になってます。
リリィvsクロの詳細は、次の話で丁寧に書くのでご安心ください。


interlude②-3

 

彼は自身のマスターとの、最後のやり取りを思い出していた。

『アレはハズレだ、始末してこい。』

彼のマスターは誰かを探しているようで、そのために彼やキャスターが召喚された。キャスターはマスターの本命を、彼はハズレの事後処理を命令された。

彼がバーサーカーとして召喚されたのは、命令を執行させた後始末しやすい狂犬としての事だったのだろう。しかし、バーサーカーであるのにも関わらず、彼は理性を保ち続けていた。

「俺を狂化などで縛れると思っていたのか?」

彼は自身の有する固有スキルによって、その狂化の影響を受けずにいた。強いて言えば、狂化の呪いにすら屈しなかった心の強さが狂っていた。

「俺は誰の命令も受けない、俺は俺の為に戦う。」

彼はそう言うと、赤いロングコートを靡かせ、戦場へと赴くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何なのよ、こいつら!」

「キリがありませんわね!」

凛さんとルヴィアさんがそう毒突く。

私たちは今、クラスのカードの回収に赴いている。今回の英霊は明らかに"異常"だった。

 

まず第一の点。

本来クラスカードが現界するのは私達が生活するこの空間とは別の、鏡面世界だ。しかし、今彼女と戦っているのは鏡面世界ではなく現界世界だ。それも、8枚目のアーチャーのように壁を越えてきたのではなく、"最初から"現界世界に召喚されたようなのだ。

周囲に配慮しながらの戦いというのは思った以上に精神を磨り減らす。

 

「来ます、美遊様!」

「■■■ー!?」

2つ目の異常な点。

彼女の能力が英霊を召喚できる、ということ。

その英霊は理性を失い、黒い泥のような物に覆われているが、そのオーラは今まで戦ってきた英霊のそれと同一だった。しかも、その能力も弱体化しているとはいえ並の魔術師では太刀打ちできない強さで、凛さんとルヴィアさんが2人ががりでやっと倒せる程だ。

そんな相手を何体も相手しなければならないため、疲労が凄い勢いで溜まっていく。

 

「あらあら、魔術師とはいえ所詮人の身、情けない人たちですね。まぁ、この状況もいつまで持つか、ですが。」

 

そして3つめ。

今回の英霊には"明確な理性"がある。

召喚された場所、能力、存在、彼女を構成する全てが今までのどの相手とも異質だった。

 

だけど、

「ここで、負けたら、みんなが傷つけられる!だから負けられない!行くよ、ルビー!!」

「おや〜いかにも、正義の魔法少女って感じですね〜!いいですよ〜嫌いじゃなですよ〜そう言ういうの!燃えてきますね〜♪」

「美遊様、私はどこまでも美遊様について行きます。」

「ありがとう、サファイア。」

 

私の親友、イリヤはみんなのために戦うと言っている。

サファイアは私と一緒に戦うと言ってくれる。

クロはここにはいないけど、きっと別の場所で戦っているのだろう。

ルヴィアさんも凛さんも、みんなが一緒に戦ってくれる。

 

「私も、負けられない!」

私も走る。みんなと一緒に、戦って、居場所を守るんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

機嫌が悪い。ここに来てからずっとだ。それもこれも全部、

「なんで私が、セイバーのクラスに…!」

 

私は本来、ルーラーとして召喚されるサーヴァント。しかし運悪く、あの忌々しいマスターにセイバーとして召喚されてしまった。

しかもあの男は別の英霊を召喚したかったようで、私が現界するや否や、剣を向けて殺そうとしてきたのだ。

 

かろうじて逃げてきた先にも、露出度の高い服を着た幼女2人とその保護者共に目をつけられて、こうして交戦している始末である。

 

ルーラーのクラスではないが、英霊を召喚することはできた。だが、召喚されるのは英霊の成り損ないといった泥の塊、サーヴァントの中でも最底辺の部類のものばかり。

1枚だけ、マスターからキャスターを召喚するためのカードを強奪できたため、もしこの場にマスターが現れたとしても難を逃れられるだろう。

「現代の魔術師とはこの程度なのですか。少し不安でしたが、これならば遅れを取ることはありませんね。」

「俺も混ぜてもらおうか。」

「誰っ!?」

 

油断していた。いつの間にか増援が来ていたようだ。声の方を見ると、ロングコートを着た茶髪の男で、その顔は見覚えがあった。

 

「バーサーカー…貴方も私を始末するために来たのですか?」

「言っておくが、俺はあいつ(マスター)の犬じゃないぞ。俺はただ、お前の強さを確かめに来た、それだけだ。」

「強さですって?悪いけど今貴方の相手をしている余裕はないの。

さぁサーヴァントたちよ、令呪をもって命じます。ターゲットをあのバーサーカーに変更、即刻に排除しなさい!」

 

3つしかない貴重な令呪だが、所詮は使い捨てだ。あの耳障りな男を早く消したかった。

 

「ふん…やはりそう来たか。」

「いつまで強がっていられるかしら。実は悪いけど彼等も英霊よ?どこの馬の骨とも知らない貴方じゃ、この数を前にしていつまで保つかしら?」

「随分舐められたものだな。」

 

彼はそう言うと、赤い霧となって泥人形に突進していった。やがて霧は元いた場所に戻ると、霧に触れた、触れてしまった泥人形達は忽ち消滅してしまった。泥人形の数は10はいたはずだ。それを一撃で消滅させるなんて…。少々前倒しになってしまいましたが、このままではやられる。

そう思って、私はキャスターのカードに魔力を込めて、サーヴァントを召喚した。

 

「来たれ、天秤の守り手よ!」

 

光が周囲を包み込み、やがて消えた頃には、私の前にサーヴァントがいた。

彼は泥人形でもないし、私のよく知る人物だった。

 

「久しぶりね、ジル。」

「ジャンヌ…おぉジャンヌ!会いたかったですぞジャンヌ!」

私の信奉者にして、唯一の理解者 ジル・ド・レェ。

「えぇ、私もよジル。令呪をもって命じます、全力であのバーサーカーを殺しなさい。」

「おぉ…ジャンヌからの魔力を感じます。ジャンヌの名誉にかけて、狂犬の死骸をご覧に差し上げましょう。」

「期待してるわ、ジル。」

 

ジルはそう言うと、バーサーカーの方に目をやった。

「ジャンヌのために、貴方には犠牲になっていただきましょう。」

「ジャンヌ?…まさか、あの魔女がジャンヌ・ダルクだとでも言うのか?」

「黙りなさい!お前のような狂犬が、ジャンヌの名を口にするなぁあ!!」

 

ジルはそういうと、地面から魔獣の触手を出現させて、バーサーカーにその矛先を向ける。

 

「ふん、バーサーカーの俺より狂っているとはな。だが、その程度の刃で俺に届くと、本気で思っているなら…今すぐ出直してこい!」

バーサーカーはそう言うと、手に剣を出現させ魔獣の群れを一振りで全滅させてしまった。

 

「お前はあの女がジャンヌダルクだと、本気で思っているのか?」

「黙りなさい!ジャンヌは信じた者たちに裏切られ、汚され、焼き殺されたのです。そして悲しみ、憎み、復讐するためにこうして召喚されたのです!お前ごときがジャンヌを語るなぁ!!」

「ジル!鎮まりなさい!」

私の説得が効かない。単に令呪によるブーストだけでなく、泥人形でないとはいえ泥の影響を受け、狂化のスキルが付与されてしまっている。

ゆえに冷静な判断ができず、何度も触手を繰り出しては何度も斬られるというのを繰り返していた。

 

「俺の知っているジャンヌ・ダルクという女は_ 」

私は何故か、彼の言葉に聞き入っていた。

「ジャンヌ・ダルクという女は、陵辱に屈することなく、死の直前ですら民を信じ、主を信じ続け、最後までその高潔さを保ち続けたという。そんな奴を聖女と言わずしてなんという。」

私が、高潔ですって?裏切られ、惨めに死んだこの私を?

「だがそこの女はどうだ。怒りに溺れ、感情に流されるままに剣を振るうあの女を、お前はまだ高潔だと言えるのか!」

「黙れ黙れ黙れぇえぇ!!何も知らないお前が、ジャンヌを、ジャンヌを語るなぁあぁぁあぁ!!!」

「耳障りだ!」

そう言うと、彼は再び赤い霧となってジルとの距離を詰め剣で引き裂いた。

 

「あぁぁあぁ!?!?」

「お前、さっきジャンヌ・ダルクが汚されたと言ったな?下らない、実に下らない!貴様が求めていたのは所詮、ジャンヌ,ダルクという名の救世主、そしてお前はその狂信者だ。ジャンヌ・ダルクを汚しているのは、民でも見捨てた主でもない、他ならぬ貴様だ!!」

「あぁぁあぁ!!!」

 

2度3度と体を斬られ、悲鳴をあげるジル。

「ジャンヌは…ジャンヌは、いつかオルレアンに舞い戻り、復讐の炎で

「お前の下らぬ戯言は聞き飽きた。」

そう言って、彼はジルの前に立つ。

 

「貴様が怒りを真理とするならそれでいい。だが、俺の真理は…この拳の中にある!」

ジルの胸に正拳突きが当たる。

その威力は今までのどの攻撃よりも凄まじく、かなりの距離まで吹き飛ばされた。

「ジャン、ぬぅ…」

ジルは最後に私の名を呼ぶと、魔力となって消えてしまった。

私は最後まで、立ち竦むことしかできなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

圧倒的だった。

バーサーカーと呼ばれる男は、ジル・ド・レェと呼ばれる英霊を易々と倒してしまった。

 

彼はジャンヌと呼ばれた英霊の前に立つ。するとなぜか、彼の手には女性用のヘルメットが握られていた。

「お前がもし、自分の強さを知りたければ、俺について来い。」

ジャンヌは無言のまま、彼のヘルメットを手に取った。

 

「昨日の敵は今日の友、戦地で告白だなんて、大胆な殿方ですね〜♪」

「何をのんきなことを言っているのですか、姉さん。」

ルビーとサファイアがそんな感想を言ってると、彼はポケットから薔薇のデザインがされた錠前を取り出した。それを解錠して空に投げると、その錠前は深紅のバイクに変わってしまった。

そのまま流れるようにジャンヌを後ろに乗せ、彼も同じようにバイクに乗った。

 

「待ちなさい!あなたたちは何もn

「今は戦う理由がない。だがもし俺との戦いを望むというのなら、その時は全力で応えよう。」

 

そう言い残し、バイクはどこかへ行ってしまった。

 

「何だったんだろう、今の…?」

「と、取り敢えず、敵は行っちゃったし、いいんじゃない?」

イリヤと2人で首を傾げる。

その頃凛さんとルヴィアさんは

 

「ちょっとルヴィア!そのキャスターのカード渡しなさい!」

「何を言うかと思えば、貴女よりも貢献していた私の方が、貰う権利があると思いますが。」

「何よ!大体一緒じゃない、この金髪ドリル!!」

「今、何と仰りました?」

「何度でも言ってやるわよ、この金髪ドリル脳筋ゴリラ!!」

「いけませんわ、私ったら、海より広い堪忍袋の緒が切れてしまいましたわ。」

「やんの?」

「やりますの?」

 

クラスカードの取り合いになる2人。

もっと話し合うべきことがあるはずだが、今はこれでいいのかも…しれない。

 

interlude out




大変お待たせ致しました。

言い訳になりますが、最近シフトが週6になったので、疲れて筆が進みませんでした。楽しみにしてくださった読者の方々には申し訳ありませんでした。

ジャンヌとバーサーカー、それにキャスターと彼等のマスターが登場しました。マスターの方は、多分皆さんが想像してるあいつです。

バーサーカーに関しては、自分の好きな作品から引っ張ってきました。分かる方がいたら嬉しいです。
(どうでもいいですが、自分の推しメンは呉島兄弟です。ムビ大の舞を助けるためにブドウスパーキングを発動するシーンで感慨深い気持ちになった人も多いはず)

余談が長くなりましたが、次回はエミヤの話に戻るつもりです。それでは、また次回でお会いしましょう。


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10話 帰宅

復活の時だ〜!!(by 石堀)

みなさん大変長らくお待たせいたしました。
ちなみに、冒頭のネタには特に意味はありませんw


ぶつかり合う2つの剣と二人の少女。

セイバーが持つのは、王を選定する聖剣-勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

対するクロは、強大な邪竜を葬った、竜殺しと謳われた魔剣-グラムを取り出し、否、即座に造り出し迫り来る黄金剣を迎え撃とうとしていた。

 

セイバーに対してグラムで対抗したのはいい選択だっただろう。理由はどうであれ、オレの推測が正しければセイバーの正体はアーサー王だ。彼女の血には竜の因子が流れている。竜殺しの魔剣との相性は最悪だ。

だが、2つの剣がぶつかり合った時…竜殺しの魔剣の刀身は金属音と共に砕け散った。

セイバーはそのままクロに向かって黄金剣を振り下ろす。そしてオレは…

 

「勝負あったようだな、クロ。」

クロに剣が振り下ろされる瞬間、2人の間に割って入りその一撃から彼女を守った。クロが使った剣と同じ、魔剣グラムで。

「決闘を邪魔した非礼は詫びよう。だが、義妹が殺されるのを黙って見ているわけにもいかなくてね。聞きたいことは色々あるが、まずは剣を収めてもらえないだろうか。」

「お兄ちゃんが、そういうのなら…」

「私も、売り言葉に買い言葉で…」

取り敢えずこの場を取り押さえることができた。何故この2人が戦わなければならなかったのかは分からないが、まずは2人にフォローを入れるのが先だろう。

 

「帰りが遅くなってすまなかった、クロ。オレはたまたま、そこの彼女が襲撃されていたのを目撃して、手を差し伸べただけだ。君が思っているような仲ではない。」

クロに詫びながら彼女の髪を撫でる。その髪質はイリヤとはまた違った感触で、汗で湿っていたものの高級タオルのような触り心地だった。

「君も、あれだけ動けるということは先の戦闘で負った傷はもう癒えている、と思っていいのか?」

「あ、はい。おかげさまで、今はこれといった問題は。」

「そうか。」

セイバーにも傷のことを尋ねる。少し顔が赤かったが、苦悶の様子は見られなかった。

 

「さて、落ち着いたところで自己紹介としよう。お互い、名前が分からないと会話に苦労するだろう。オレの名前は衛宮士郎だ。隣にいる彼女、クロの従兄だ。」

「私の名前はクロでいいわ。で、お兄ちゃんと仲よさげなそこの女は?」

「私はセイバーとお呼びください。士郎さんの従妹としらず、先ほどの御無礼申し訳ございませんでした。」

「ふぅ〜ん…まぁいいわ。礼儀正しそうだし、私の周りにはあんまりいないタイプの美女だし、許してあげる。」

従兄妹と聞いた途端、慌ててクロに対して礼儀正しくなるセイバーと、誇らしげな様子のクロ。

この突然の変化は…言わぬが花だろう。

 

しばらくして、クロが尋ねてくる。

「ところでお兄ちゃん、どうして私と同じ魔術を使えるの?」

それはオレも聞きたかったことだ。生前、オレは様々な魔術師を見てきたが、オレと同系列の魔術を行使できる魔術師は、若い頃の俺を除いては彼女が初めてだ。

「それはオレにも分からない。固有結界自体が禁忌とされる術式だ、オレも自分以外にこの魔術を行使できる魔術師がいるなんて思ってもいなかった。」

「固有結界?どういうこと?」

どうやらクロは、まだ自分の能力を正確に把握してきれていなかったようだ。

「仮にクロの得意とする魔術がオレのものと同種のものだった場合、君のそれは投影ではなく固有結界に分類されるだろう。正確に言えば、固有結界、つまり心象風景を具現化する魔術といったところだろうか。」

「何も考えずに使ってたけど、これってそんなにすごい魔術だったんだ。」

驚きの表情を見せるクロ。オレもこの事実に気付いた時は時は驚いたものだ。

クロが何故魔術師なのか、イリヤはどうなのか。また、セイバーは何故この時代に召喚されたのか、それはオレと関係あるのか。聞きたいことは山ほどある。だが、近くにあった時計を見ると1時を指していた。

 

「さて、クロと私の魔術についての話はここまでにして。セイバー、君は今夜どこで寝泊まりするつもりかね?」

「ここで野宿するつもりですが。」

「野宿、か…。」

「はい。寝る場所さえあれば、いつでもどこでも寝れるので。」

「そ、それで問題あるような…」

困惑するクロ。まぁ、この時代での野営はホームレスと同義だ。彼女ならば暴漢などに襲われても撃退できるだろうが、それは後味が悪い。

「もし君がよければ、オレの家に来ないか?布団のあるなしでは寝心地も違うだろう。」

「よ、よろしいんですか?!」

「そうね、流石に女の子1人を野宿させるのは後味悪いしね。」

「ほ、本当にいいでしょうか?」

「あぁ。行くあてがないなら、しばらくいるといい。クロの友達といえば、セラも納得するだろう。」

「あ、ありがとうございます!」

「私の友達、ね。まぁいいわ、ひとまずよろしくね。」

「はい!よろしくお願いします!」

 

クロも納得しセイバーも快諾したことで、オレたち一向は家に向かった。ちなみに今は、クロ・セイバー・オレの順番で一列だ。

 

家の前に来るとセラがいた。だがいつもと様子が違く、終始笑顔だった。衛宮士郎の記憶では、あの様子のセラは激昂状態らしい。原因は…門限を過ぎてしまったことなのだろうか?

「セラ、遅くなってすま」

「おかえりなさいクロさん。あら、そちらの方は?」

「彼女はセイバー、私の友人よ。両親が海外に赴任しちゃったみたいで、しばらくうちに泊まることになったの。ダメ?」

「そういうことでしたら是非。」

「よろしくお願いします!」

「不自由なこともあるでしょうが、ゆっくりしていってください。」

「はい、ありがとうございます!」

オレの謝罪は無視されたまま、思いの外スムーズに進んでいくセイバーの居候計画。

「さぁ、お二人は先に家に入っててください。私はそこの男と話がありますので、クロさんはお風呂場と寝床の案内をお願いします。」

「ハ〜イ。おっ先〜♪」

「お、お邪魔します…」

 

2人とも家の中に入り、玄関にはオレとセラの2人きりになった。ちなみに言うと、セラは最初からずっと笑顔だ。それがかえって恐ろしい。

「あの…セラさん、遅くなってすまなか」

「さて士郎さん、玄関の前に立っているのも他の人の邪魔でしょう、一度中に入りましょうか。」

そういって首の襟を掴んでズルズルとオレを運ぶセラ。

この後、朝遅くまで説教され続け、途中で2人とも眠くなり眼が覚めると、オレがセラを腕枕して寝ていたという事が発覚。顔を真っ赤にしたセラにビンタされて再び気を失ったのはまた別の話である。

 

 

interlude 2-④

 

1人の女は、物陰から1人の少年とそれを取り巻く2人の少女のやり取りを目撃していた。

彼女はその手に持った、おそらく現代の物ではないと思われる大きな槍に寄りかかりながら、どこか浮かれた様子だった。彼女の目には2人の少女は写っておらず、ただ少年だけを見つめ、見惚れていた。

 

「…困ります。セイバーを始末するためにここまで来たのに…。まだ少年なのに、どうして彼の背中からは過酷な運命を背負わされた悲哀な何かを感じるのでしょう。あの人を思い出してしまいます…。」

そう熱の籠った声を呟きながら、自身の局部に槍を押し当てる。

「エミヤ、シロウ…それが貴方の、名前なのですね…」

槍と局部を擦り合わせながら、呟きも途切れ始め徐々に嬌声が響き始める。

「ハァ、ハァ、シロウさん、シロウさん、英雄(あなた)英雄(あなた)英雄(あなた)…!」

やがて少年、エミヤシロウが少女達を連れて公園を後にすると共に、彼女は腰をグッタリと地面に下げた。

「…困ります、欲しくなってしまいました。…シロウさん、私が必ずあなたを、英雄(あなた)を…」

 

そう意味深な言葉を残し、彼女はフラつきながら夜の街へ消えていった。

 

interlude out




前書きにも書きましたが、本当に遅くなってしまいました。

最近及びこれから忙しくなってきてるので、今までのように1週間に数話投稿というペースで書くのが難しくなりそうですが、今後も続けていく予定です。これからも応援よろしくお願いします。

本編について。
クロやセイバーについて、説明が少し雑になってしまって申し訳ありません。それぞれについての説明は、回を分けてしていこうと思っています。
最後のR-18的な描写ですが、自分でもやり過ぎたかなと少し反省していますw あのテケテケ槍女もエミヤハーレムに参戦する予定ですので、お楽しみください。
バーサーカーと邪ンヌのストーリーも、同時並行で展開していく予定です。
こうして書くと、やる事多いな…w

それでは、今話もご覧いただきありがとうございました。



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