魔法少女まどか☆マギカ クロスss/2つの風車と7つの宝石 (がとーショコラ)
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第1話 通信

色んな意味での初投稿。これからよろしくお願いします。


『BADAN』

かつて人類を絶望の淵へと突き落とした存在。彼らは神を名乗り、世界に、特に日本に対して攻撃を開始した。巨大なピラミッドの出現、空飛ぶ髑髏、魔法陣に吸い込まれる人々、これまで軍が倒してきたとされる全ての悪の組織及び怪人の復活。そして、最も恐ろしいもの。

「バダンシンドローム」

『BADAN』がかつて、猿人だった人類に対して与えた絶対服従プログラム。これによって自殺者は急増し、人口は急激に減った。しかし、それらは世界中に存在する強者の集まりである特殊部隊『SPRITS』の活躍によって解決し、また、『BADAN』の大首領JUDOを倒した、とされている。だが、人々は知らない。その影で己の命と存在意義を掛け戦った真の10人の英雄を。その名は・・・

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

 

ー都内某所ー

表通りは喧騒に包まれていた。どの人々も皆幸せそうな顔をしている。しかし、その裏では未だに戦いが続いていることを知るものはいなかった。

暗く、道の入り組んだ場所。そこには2つの影が対峙していた。その形からしてその2つは人でないことは容易に想像できた。

 

「トォッ!」

 

その中の一つがもう一人に向かって力強く飛び出した。それと同時に斜め上に掲げられる右腕。

 

「V3パンチ!」

 

技名と共に繰り出される強力な突き。しかし、やられた方はビクともせずに反撃を開始した。

 

「ぐあっ!」

 

胸部に当たり、吹き飛ばされる。

 

「げぇっげぇっげぇっ!どうしたV3!?その程度か!?」

 

下卑た笑い声をあげる怪物。対してV3と呼ばれた方は

 

「ふん。こんなもの、どうということはない。それよりもサイタンク、貴様、力が落ちたんじゃないのか?」

 

と言って、立ち上がり、体に着いた土埃を叩いた。

その言葉にカチンときたのかサイタンクと呼ばれた方は突進の構えをとる。

刹那、月明かりが2人を照らした。V3は緑のボディに白い手袋と赤いブーツをしており、コンバーターラングは3つに分かれており、銀、赤、銀の順に並んでいた。また、頭部は赤で、中央に白いラインが入っており、大きな緑の目に緑色のアンテナが額から2本伸びていた。対してサイタンクは赤色のボディに頭部と肩から2本の大きな角が出ており、筋骨隆々としていた。

 

「死ね!V3!」

 

そう叫び突っ込むサイタンク。この技が決まれば待っているのは勝利。これでおれが・・・!と内心ほくそ笑んでいると、急に力が加わり体の動きを止められる。

 

「な、何!?」

 

戸惑いの声を上げるサイタンク。V3は正面からそれを片手で受け止めていた。顔には焦りと恐怖の色が見えるサイタンク。

 

「つかまえたぞ、サイタンク」

 

落ち着いた口調で、かつ怒りを込めて呟く。

 

「V3チョップ!!!」

 

次の瞬間サイタンクの頭部の2本の角の中の大きいものが折れた。

 

「グギァャァァァァォァァァ!!」

 

ひめいをあげるサイタンク。

その隙にV3は高く飛び、回転し蹴りを入れる。そしてその反動を利用し、さらに高く飛びバク転し、

 

「V3ーー反転キィック!!」

 

その声と共に2度目の蹴りを入れる。

後方へと吹き飛ばされるサイタンク。

その後、ムクリと上半身だけを起こした。

 

「V・・・3ィィ!これで終わったと思うなよ・・・!貴様と闘ったのは時間稼ぎのためだ。貴様は我らの思惑通りの行動をしてくれた・・・!フ、フフフフ、フフフフフ」

 

狂ったような笑い声をあげた後、サイタンクは爆発した。

その後、索敵を終えたV3は人間体に戻ろうとした。しかし。

 

「ッ!変身が解除できないだと!?」

 

驚くV3。直後、脳内に少女の声が響いた。

 

《・・・けて・・・。助けて・・・!!》

(君は、誰だ?)

《お願いです、助けてください!》

(君はいったい)

《私の友達を、ほむらちゃんを、みんなを助けてあげて!!》

(・・・・)

 

ここでV3はこの音声が録音によるものだと気付き、声に意識を集中させる。

 

《今の私達は何もできない!だからお願い、助けて!あなたにしかお願いできないんです!だから、行って!見滝原に!!》

 

それを最後に声は途切れた。V3はもう1度変身解除を試みた。すると体から蒸気が出て解除され始める。

少しずつ蒸気が収まり、その中から一人の青年の姿が見える。

彼の名は風見志郎、またの名を「仮面ライダーV3」。

志郎は先ほどの声について世界各国にいる仮面ライダーに伝えた。仮面ライダーには基本設計として通信機能が付いているため、どこにいようが自分の音声や状態を仲間に伝えることができる。

 

(こちら風見志郎、みんなさっきの声を聞いたか?)

しばらくの沈黙。が、

 

(一文字隼人、風見、俺んとこにも聞こえたぜ。)

 

という返信をはじめに、

 

(本郷猛、こちらも傍受した)

(神啓介、聞こえました)

(アマゾン、声、聞こえた)

(城茂、こっちも聞こえたぜ)

(筑波洋、聞こえました)

(沖和也、聞こえました)

(村雨良、こちらにも聞こえた)

 

と、各ライダーから返信が来た。そして最後に、

 

(結城丈二、風見、僕のとこにも聞こえた)

 

と、志郎の親友からも来た。

そこから互いに音声について話し合った後、誰が見滝原という街に行くかという話になった。が、全会一致で志郎が行くことになった。なぜなら、他のライダーは皆海外へ出ており、志郎のみが一番早く見滝原へ行けるからだ。

 

「分かった。念のため定期連絡は入れる。それと、BADAN残党はどうだ?」

 

全員から残党は少しずつだが処理しているという通信を聞き、リンクを遮断した。

BADAN残党とは文字通り仮面ライダーによって崩壊させられた悪の組織BADANの生き残りである。再生した怪人は300体は優に超えていた。それを10人とSPRITS部隊で簡単に殲滅できるというものではなく、さらに怪人達はBADAN崩壊後海外へ逃げたものが多数存在するとしてライダー達は世界に散らばったーアメリカを本郷猛が、ガモン共和国を一文字隼人が、ヒタチを結城丈二が、スペインを神啓介が、アマゾンをアマゾンが、エジプトをストロンガーが、ノルウェーを筑波洋が、オーストラリアを沖和也が、中国を村雨良が担当し、日本は風見志郎が担当したー。

 

「さて、見滝原という所に行くか」

 

そう呟くと愛車のGT750の改造車に乗り、目的地へと向かった。

 

つづく

 

 

 

 

 

 




次回登場する怪人は磁石イノシシ。3人の少女の前に使い魔、戦闘員と共に現れた目的は何なのか。そして、バイクで見滝原に向かう風見志郎。彼にも魔の手が忍び寄る。
次回、「志郎、見滝原へ行く」にご期待ください。


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第2話 風見志郎、見滝原へ行く

タイトル詐欺です。すみません。あと、1話に比べてめちゃくちゃ長いです。にしても文章書くのって楽しいけど難しい。


ここは見滝原市のとある建物の地下室。薄暗く、不気味さが漂っていた。また、その部屋の壁の中央には蠍をモチーフにしたマークが描かれていた。さらに、そこに集まっている者の多くは人とは遠く離れた姿をしており、全体的な数は50程で、その中の半分ほどが赤の尖った細く長い帽子をかぶり、服装も赤のマントを羽織っていた。

全ての怪人が列をなして、ただ一方向を見て跪いていた。その視線の先には一人の中年の男ー2mを超える巨体で、民族衣装のような者を着ているーがいた。

その男が右手をゆっくりとあげる。すると、そこにいた全員が

 

「「「「デ〜ストロ〜ン、デ〜ストロ〜ン、デ〜〜ストロ〜〜ン!」」」」

 

と声を合わせて唸った。

その後、その男がゆっくりとした口調で話し始める。

 

「偉大なる大首領様がいなくなった今、我ら『ネクスト・デストロン』こそがその悲願を達成するしなければならない。これまでは忌々しき仮面ライダーのせいで行動できずにいたが、今奴らは世界中に散っている。ここ、日本にいる仮面ライダーはV3のみ。そして、日本全国を飛び回っている彼奴に我らの存在が知られる可能性は限りなくゼロに近い。で、あればここ日本を拠点に世界を征服することも・・・・・何事だ!?」

 

その男の言葉は遮られた。なぜなら、一人の戦闘員が駆け足で入室してきたからだ。

その戦闘員はよほど急いで来たのか、肩で息をしており、その男の質問には答えることができずにいた。

 

「何事だと聞いている!!」

 

しびれを切らしたのか男は怒鳴った。戦闘員は一度大きく息を吸ってからこの部屋にいる者全てに聞こえるような大きな声でとあることを伝えた。

 

「き、緊急連絡です!風見志郎が現在、見滝原市に向かっているとのこと!監視員によるとサイタンクを倒した後、何かしらの通信をしていたとのことです!!」

「その通信の内容とは!?」

「分かりません!!ただ、見滝原という単語を呟いていました!!」

 

直後、戦闘員の頭が胴体と離れた。

 

「こぉ〜〜〜の役立たずがぁ!!それを探るのが貴様らの仕事だろうが!!」

 

倒れた胴体をぐちゃぐちゃに踏みつけながら怒りをぶつける男。

戦闘員は無残にも原型をとどめないほど破壊された。

 

「ハッ!いかんいかん。落ち着かなければ。今はこんな事をしている場合ではない」

 

何十発踏んだのかは定かではないが、ようやく理性を取り戻したようで、咳払いをしながら足を退けた。

 

「さて、醜いところを見せたな。風見志郎、奴がここに来るという情報は間違いないだろう。なれば、作戦を早めるしかあるまい」

 

ふむといった顔で数秒思案した後、顔を上げ大きな声を出し、

 

「磁石イノシシ!マシンガンスネーク!!」

 

2体の怪人を指名した。

直後、跪いている中から2つの影が立ち上がった。

その2つに光が当てられ、その姿が露わになる。一つは人型のイノシシ。しかし、その左手にはu字磁石を2つ組み合わせたような物を付けていた。対してもう一方は頭部は蛇、胴体は人間で、右手マシンガンがついているマシンガンスネーク。

 

「アドミ・Σ、我らの仕事は?」

 

男ーアドミ・Σーに磁石イノシシが聞いた。

 

「それを説明する前に呼ぶ奴がいる。ハサミジャガー、あいつを呼んでこい」

 

指名されたハサミジャガーー赤い顔の人型をしたジャガーで、両腕がハサミとなっているーは部屋から出て行った。

数分後、ハサミジャガーは戻ってきた。その肩には一匹の白い獣が乗っていた。

 

「どうしたんだいΣ?僕に何か用かな?」

 

その獣が口を動かさずに感情を感じさせない声で話すと、Σは頷いて、

 

「作戦を早める必要が出た。マシンガンスネークは風見志郎の暗殺に。貴様には磁石イノシシと共に今日中にターゲットに会ってもらう。分かったな?」

「やれやれ、だいぶ急だね。何かあったのかい?」

「貴様は知らなくてもいいことだ」

 

そう言い終わるとΣは部屋の出口へと向かった。

 

「全く、訳がわからないよ。君のその言動は何かを恐れている時の人間と同じものだね。最早人間ではないはずの君がどうしてそんなことを…」

その獣の台詞はそこで途切れた。Σが指先から放った針が頭を貫通させ、その後爆散させたためだ。

 

「無駄口を叩くな。我の言った通りに行動すればいいのだ」

 

そう言って部屋を出たΣ。それに続き怪人達もぞろぞろと部屋を出て行った。

誰もいなくなった部屋ー正確にはその獣の肉片があるのだがーに声が響いた。

 

「酷いじゃないか。事実を言っただけで殺すなんて。でも、これではっきりしたよ。ネクスト・デストロン、君たちはやはり僕達に利用される立場だ。僕達が利用さるのではなくね…」

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスss

2つの風車と7つの宝石

 

場所は変わって、見滝原市市内。ここはかつて未だにBADAN侵攻の時の傷跡は深く残っており、まだいくつもの建物が再建されないでいた。現在再建されたのは、学校や病院、図書館などの公共施設に加え、一部の大型デパートや富裕層の家ばかりで、基本的には仮設住宅に住んでいる。また、一部ではあるがその被害を避けた家も所々あった。

その中にある、市内で最も大きな中学校、見滝原中学校のとある2年の教室で事は起きていた。

 

「今日は皆さんに大事なお話があります!目玉焼きとは固焼きですか!?それとも半熟ですか!?はい、中沢君!!」

 

このクラスの担任教師である早乙女和子が朝の会の開始と同時にヒステリックな声を出して早口でこのようなことを話し始めたのだ。これは、和子が彼氏に振られた時にする恒例行事のようなもので、生徒達はまたダメだったのかと同情の視線を送っていた。また、中沢はそういうときには常に指名されており、彼に注がれる同情の視線も少なくはなかった。

 

「え、えっと・・・。どっちでもいいんじゃないかと・・・」

 

おっかなびっくりといった感じで答える中沢。

 

「その通り!どっちでもよろしい!!たかが卵の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです!!女子の皆さんはくれぐれも半熟じゃなきゃ食べられな〜いとか抜かす男とは交際しないように!!そして、男子の皆さんは絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!!」

 

ここまで一気に話したかと思うと、次はおちついた口調で話し始めた。

 

「コッホン。ハイ、それでは今日は皆さんに転校生を紹介します。暁美さん、いらっしゃ〜い」

 

そっちが後回しかよと女生徒が言ったのとほぼ同じタイミングで暁美と呼ばれた女生徒は入室した。

瞬間、小さな歓声があがる。それほどその暁美という生徒は美しかった。すらっとしたボディライン、長くなびく黒髪、強い意志を込めた瞳をしていた。

 

「暁美、ほむらです。よろしくお願いします」

 

スラスラと黒板に名前を書き、簡単な自己紹介をすませたほむらは自分の席とされている場所に座った。クラスメイト全員の視線が集まる中、ほむらはただ一人の少女を見つめていた。

朝の会が終わった後の放課。ほむらはクラスの女子から質問責めにあっていた。それに対して大したリアクションもせずに返すほむら。授業が始まるまで続くと思われていたが、それは叶わなかった。なぜならほむらが

 

「・・・ごめんなさい。ちょっと緊張しちゃったみたいで気分が悪くて・・・。保健室に行かせてもらえるかしら」

 

と言ったからだ。

だったら私が、と他の生徒がいう中、ほむらはそれを係りの人にお願いするからと言って拒否し、その場を離れた。

そして、机に座っいる、青い短髪の少女と緑のウェーブのかかったセミロングの少女と話していた、ピンクのツインテールをピンクのリボンで結んだ少女のもとへと近づいた。

 

「鹿目まどか、あなたがこのクラスの保険係よね?」

「ふぇ?」

「連れてってもらえるかしら?保健室に。」

 

まどかはほむらと話したことは当然ない。それに自分が保険係だというとこは伝えてなかったので、戸惑った。

 

「あっ、えと、保健室は・・・」

 

が、転校してきたばかりのほむらを不安にさせてはいけない。そう思ったまどかは保健室に行くために案内を始めた。しかし、その決意虚しく、

 

「保健室はこっちよね?」

 

とほむらが言って勝手に進んでしまった。だがある事に気付いたまどかは声をかけた。

 

「あ、暁美さん、そっちは、違うよ?保健室はこっちだよ?」

 

ピタリ。ほむらが止まりくるりと振り向いた。その顔は耳まで赤く、とても恥ずかしそうだった。

 

(あ、かわいい)

 

まどかの中でほむらの印象が変わった。

目的地である保健室についた後もほむらの失敗は続いた。

 

「たしか、体温計はこの棚よね」

「違うよ。こっちだよ」

「記入用紙はここよね」

「こっちだよ」

「た、たしか薬は・・・」

「うん、それも違うよ。こっちだね」

 

ほむらは撃沈した。

薬を飲んだ後、2人でベッドに腰掛け、何も語らずに時間だけが過ぎていった。

 

「そ、そうだ。鹿目まどか、あなたに聞きたい事があるわ」

 

なんとかして気分を落ち着かせてからほむらは口を開く。

 

「な、何?暁美さん?」

「ほむらでいいわ」

「どうしたの、ほむらちゃん?」

 

スーッと息を吸い、伝えたい事を言い始める。

 

「鹿目まどか、あなたは自分の人生が尊いと思う?家族や友達を大切にしてる?」

「え、と、私は、大切だよ。家族も。友達のみんなも。大好きで、とっても大切な人達だよ」

 

突然の質問に戸惑いながら答えるまどか。

 

「本当に?」

 

ほむらが念を押すように聞く。

 

「本当だよ!嘘なわけないよ!」

 

先ほどとは違い、強く返すまどか。

 

「そう・・・。もしそれが本当なら、絶対に今と違う自分になろうなんて思わないことね。」

 

ここまで言ったほむらはもう一度深く息を吸い、より強い意志のこもった目でまどかを見つめ、

 

「さもなくば、全てを失う事になる。」

 

そう言った。

その日、ほむらは早退した。体調不良のため、という理由で。真実を何となく察しているまどかは複雑な表情をしていた。

 

(ドジなほむらちゃんと真面目なほむらちゃん。どっちが本当のほむらちゃんなんだろう?)

放課後、まどかは親友の美樹さやかー青髪の短髪の少女ーと志築仁美ー緑のウェーブのかかったセミロングの少女ーと共にデパート内のハンバーガーショップに来ていた。そこでまどかは保健室でのほむらとの出来事を話した。すると、

 

「ギャハハハハハ!!ドジっ娘かと思いきや真の姿はサイコな電波さん!!どんなキャラ立てだよそれ〜!!」

 

さやかが品のない笑い声を出しながら腹を抱えた。対する仁美はお嬢様なためか口を押さえてクスクスと笑っている。

 

「ふぅ〜、それにしてもあんたら、本当に会ったことないの?なんかあの転校生、まどかにガン付けてたじゃん?」

 

笑い終えたさやかが聞く。

 

「う〜ん、現実じゃありえないんだけど…」

「現実じゃないところであってたってこと?」

「夢の中で会ったような…」

 

それを聞いた瞬間、さやかは先ほど以上に笑った。仁美もやはり口を押さえてだが、声を上げて笑っていた。

 

「うぅ〜、酷いよ〜」

 

実際、まどかは前日の夜にほむらに会った夢を見た。その夢では何か巨大なものが街を破壊しており、ほむらはそれと闘っていた。それが何なのかは分からないが、彼女はとても悲しそうな顔をしていたことだけは強く印象に残っていた。

 

「ひ〜〜、もうあんたら確定だ!前世から結ばれた仲なんだよ!」

 

抱腹絶倒するさやか。恥ずかしさで涙目になるまどか。すると、

 

「もしかしたらまどかさんたちは本当にどこかで会っているのかもしれませんよ?1度会った体験が深層心理に刻まれていたのかもしれませんね」

 

と、仁美がフォローした。

 

「いや、それどんな偶然だよ!」

 

そう言い返しながらなお笑い続けているさやかに対して

 

「あら、前世説よりは有効だと思いますわよ。」

 

と返した。

直後、腕時計を確認する仁美。そこである事に気付いきのかいそいそと帰る支度を始める。

 

「あれ、仁美?今日もボランティア?」

「ええ。親がいい経験になるからってうるさいんですの。全く、受験も近いというのに。」

 

ふぅ、といった感じに頬に手を当てる仁美。

 

「カーーッ!さすがお嬢様!一般庶民に生まれてよかったわ」

 

赤の他人がこの言葉を聞いたらしかめっ面をするだろうが、これにはさやかの仁美に対する嫌味は全くこもっておらず、むしろ親友であるからこそ思った事が言える。そして、仁美自身もそれを自覚しているからこそニコリと笑顔を返した。

 

「それでは皆さん、御機嫌よう」

 

上品に浅いお辞儀をして小走りに去った。

 

「んねぇ、まどか。この後時間ある?」

「大丈夫だけど、どうしたの?」

「いや〜、実は寄りたいところがあってさ。」

 

照れくさそうに笑うさやか。それに対しまどかは意地の悪い顔をして、「上条君?」と聞いた。

 

「うん。ちょっとね。CDを買ってやろっかなって。」

「いいよ。それにしても上条君は羨ましいよ。さやかちゃんにこんなに愛されて。」

「バッ!!違うよ!私と恭介はそんなんじゃないって!!」

 

顔を真っ赤にして否定するさやか。そんな姿にまどかはほっこりした。

CDショップに着いた2人は別々の行動をした。さやかは上条に買うためにクラシックコーナーに行き、まどかは演歌コーナーに行った。

“助けて”

「ふぇ?」

 

それは急に聞こえた。ヘッドホンを耳に当て、試聴していたまどかの脳内に声が響いた。

 

“助けて、僕を助けて。まどか!!”

 

助けなきゃ。そう思ったまどかは走ってCDショップを出た。

 

「え?ちょっと?まどか!?どこ行くの!?」

 

そこへちょうど会計を済ませたさやかがその後を追った。

2人は近くの廃ビルに来ていた。ここはまだ復旧が終わってなく、倒壊しかけていて非常に危険な場所であったがまどかには関係なかった。

 

「ねぇ、まどか。あんたどったの?急に」

 

後に来たさやかが聞く。

 

「助けてって声が聞こえたの。多分この辺」

「多分てあんた、ここ廃ビルだよ?」

「うん。分かってる。でも、行かなきゃ。まだ聞こえるもん。助けてって」

 

そう言ってビルの中へ走って入るまどか。

 

「あ、ちょっと!ねぇ、まどかぁ!」

 

そう言ってさやかは後を追いかけた。

 

______________________

 

場所は再び変わって人気のない道路。志郎は山道を走っていた。

 

(やはり、俺を見張っている)

 

サイタンクを倒してから感じ続けている視線。それを確かめるためにこの道を走っていた。

 

(まさか、BADANの残党がいるのか?)

 

志郎の予想は半分当たっていて半分外れていた。

 

(ダブルタイフーンを出しておくか)

 

そう思った志郎はベルトーダブルタイフーンーを出した。このダブルタイフーンは普段は体内に存在するが、志郎が戦闘の準備をしたり、変身シークエンスをとった時に体外に出るシステムを持っている。

ギュルルルルルルルル・・・・・!

風圧を受けて回るダブルタイフーンの2つの風車。そこで生成したエネルギーを志郎に送っていた。

 

(さて、これでいつでも変身できるようになった。来るか?)

 

そんな志郎を狙う影が一つ。マシンガンスネーク。彼は森の中その手にあるマシンガンと燃料のたっぷり入った一斗缶を抱えて待っていた。

 

「早く来い風車志郎。殺してや・・・来た!」

 

眼を凝らすマシンガンスネーク。その目の中にはGT750を駆る志郎の姿があった。

 

「風見志郎、これで終わりだ!!」

 

そう言ってマシンガンスネークは一斗缶を志郎の目の前に放り投げ、弾を3発撃った。

ドゴォォォォォン・・・!!

大きな爆発が起き、その中に志郎は巻き込まれた。

 

______________________

 

ほぼ同時刻、まどか達は傷ついたぬいぐるみのような白い生物を抱き抱えて、一人のほむらと対峙していた。

まどか達がその生物を発見した後に物陰から現れたほむらはそれを渡すように要求した。しかし、右手に拳銃を握っており、また、左手の前腕には円盤のような物が付いていて、服装も制服とは異なっていてまるでコスプレをしたような格好をしていたため、拒否した。

 

「そいつを渡しなさい」

 

ゆっくりと歩を進めながらほむらは言った。

 

「だ、だめだよ!この子怪我してるんだよ!?何でこんな酷いことするの!?」

 

まどかが返す。

 

「あなたには関係ない事よ」

「関係なくなんてないよ!!私、この子に助けてって言われたの!!」

「それに、何だよあんた!どれだけキャラ立てすれば気がすむんだよ!」

「別にキャラ立てしてるつもりはないわ。それにあなた達は・・・。」

 

そこまで言ってほむらは何かに気付き後ろを振り向いた。

 

「ほ、ほむらちゃん?」

 

彼女の不可解な行動に疑問を持つまどか。

 

「あなた達は今すぐ逃げなさい」

「え?」

「早く逃げなさい!!」

 

そう言われて始めて行動し始めたのはさやかだった。彼女はまどかの手をとりその場を走り去った。

 

「ふぅ。で、そろそろ出てきたらどうなの?」

 

その声に反応するかのように周りの空間が曲がっていった。時間にしてほんの数秒。それだけの時間で彼女のいた場所はメルヘンチックなものへと変わった。ほむらは白い綿のような頭にヒゲを生やし、芋虫のような体に蝶々のような足をした生物に囲まれた。

 

「こんな時にっ!」

 

苛ついた様子でその手にある拳銃を正確に撃ち抜いていった。

その頃、まどか達もまた、同じような空間に巻き込まれていた。

 

「な、何ここ?ねぇ、私たち変な夢でも見てるんだよね!?ねぇ!まどか!!」

 

さやかが怯えたような声を出す。‘それら’はまるで、狩りが成功した民族のそうな踊りししている。

このままでは、待っているのは間違いなく、死。

まどかとさやかの本能がそれを伝えた。

何体かが襲いかかる。

 

「イヤァァァァァァァァ!!!」

「キャァァァァァァァァ!!!」

 

2人の悲鳴が重なった。

次の瞬間、まどかとさやかの周りに円形の光が現れた。それは一気に広がり、周囲を照らすだけではなく、まるでバリアーのように‘それら’を弾いていった。

 

「危なかったわね。でも、もう大丈夫よ」

 

後方で聞こえる暖かく、優しい声。

振り向くとそこには美しい金髪を縦ロールにして花形のヘアアクセサリーを付けた少女がいた。

「あ、あの…。あ、あなたは」

 

おずおずとした様子でまどかが話しかける。

 

「そうそう。自己紹介しないとね。でも、その前にちょっと一仕事片付けちゃっていいかしら?」

 

そう言うとその金髪の少女の体は黄色の光に包まれた。それが収まると、そこにはブラウスとスカートにベレー帽やコルセットを組み合わせた服装をした少女が立っていた。

その少女は次々とマスケット銃を取り出し‘それら’を僅か数秒で全滅させた。

すると、メルヘンチックだった空間が元に戻り、先ほど彼女達のいた廃ビルの中になった。

 

「あなた達、大丈夫かしら?」

 

変身を解いた少女が近づいてくる。

 

「はい。あの、ありがとうございます」

「フフッ。いいのよ、気にしなくて。私の名前は巴マミ。あなた達は?」

「美樹さやか」

「鹿目まどかです」

 

マミはふと、視線をまどかの手の中へと移す。

 

「あら?QB(キューベー)を助けてくれたのね?ありがとう。その子は私の大事な友達なの」

そう言ってまどかの手からQBを受け取った。マミの腕に抱かれたQBは目を細め、安心したような顔をした。

 

「ごめんなさい。本当は色々教えたいんだけど、まずはこの子を治してあげたいから。2人とも、少し離れ・・・あら?」

 

最後に何かに気付いたのか、周りを見回すマミ。そして、ただ一点のみを見つめ始めた。

 

「そこにいるのは分かっているわ。出てきなさい」

 

キッとした目つきと怒気のこもった声を出し、陰に隠れているであろう‘何か’に言った。

 

「シャシャシャシャシャシャシャシャシャ!シャシャー!!よく気づいたな、魔法少女、巴マミ!!俺はデスト・・・いや、ネクスト・デストロンの怪人、磁石イノシシ!!このスーパー磁石で貴様とそこにいるガキ2人をあの世に送ってくれるわ!!」

 

そこから出てきた磁石イノシシと数体の戦闘員の姿を見て、まどかとさやかは体が震え始め、マミは瞳孔が大きく開き、硬直した。

 

「シャシャー!どうやらベテランの魔法少女と言っても心は人間。怪人のことが怖いようだな!!ならばその恐怖のまま死ね!くらえ!!必殺!イノシシ・ダーッシュ!!」

 

そう言って磁石イノシシは3人に向かって猛スピードで走り出した。

つづく




怪人に遭遇した巴マミ、鹿目まどか、美樹さやかの3人。彼女達に絶対絶命のピンチが訪れる!そして、マシンガンスネークと対峙する仮面ライダーV3。強化改造を施されたマシンガンスネークの特殊能力に苦しむV3に勝ち目はあるのか!?次回「少女達と男の邂逅」、御期待ください。


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第3話 少女達と男の邂逅

3話です。今回は皆さんにお知らせが2つあります。
1つ目は更新速度についてです。諸事情により、更新速度が遅くなります。多分一ヶ月に1話ぐらいかと。失踪はしないので、気長に待っていただけたら幸いです。
2つ目は「魔法少女オリコ☆マギカ」買いました!これでやっと彼女達を登場させれる!


ドゴォォォォォン!!

燃料がたっぷり入った一斗缶に弾が3発撃たれ、引火して大爆発が起きた。よほどその衝撃が大きかったためか、周りのいくつかの木々を吹き飛ばし、いたる所で出火か起きていた。

 

「シャシャシャー!これで風見志郎は死んだ!!」

 

それを見てマシンガンスネークがさも愉快そうに笑った。

が、

 

「ハハハハハハハハハ!」

 

そこへ、嘲笑するような声が聞こえる。

 

「誰だ!!俺を笑う奴は!!どこだ!?どこにいる!出てこい!!」

「私はここだ!!」

 

声のする方向ー倒れずに残っている太い木の枝の上ーを見た。

そこには白い手袋に赤いブーツ、3つに分かれたコンバーターラング、赤い仮面に緑のボディ。額からは2本のアンテナが付いている男が立っていた。

マシンガンスネークが爆発のあった場所を見ると、そこには何もなかった。

 

「仮面ライダーV3!!」

 

ポーズを決め名乗りを上げるV3。

 

「貴様が私を狙っていたのは分かっていた。だからあえて攻撃を受けたフリをしていたのさ!」

「ぐぬぬぬ!おのれV3!」

「行くぞ!!」

 

そう言ってV3は大きく跳躍し、マシンガンスネークの前に跳んだ。

 

「とう!とう!」

 

気合いと共に流れるような連打をするV3。状況のみを見れば圧倒的なV3の優勢。しかし、マシンガンスネークは不敵に笑っていた。

 

「ッ!!」

 

V3はある違和感を感じた。

 

(こいつ、これだけの攻撃を受けてなぜ立っていられる?)

 

瞬間、何かに睨まれた錯覚に陥ったV3は後方へと跳んだ。

 

「シャー、シャー。どうしたV3!?」

 

余裕を残した様子のマシンガンスネーク。

対してV3は体が安定せず、揺れていた。

 

「な、何だ?か、体が・・・!」

 

膝を着きそうになるのを何とか耐えるV3。

 

「シャシャシャシャシャシャ!さすがにプライドが高いだけあって足は付かんか!!」

「き、貴様、何をした・・・!」

「俺の特殊能力を使ったまでよ!!」

「特殊・・・能力・・・」

「そうだ!!二度、貴様に倒された俺は、より蛇に近い遺伝子を用いることで体のあらゆる場所から毒を出せるようになった!!V3!トンボを意識して作られていながら空を飛べない出来損ないとは違ってな!!」

 

そう言ってマシンガンスネークはマシンガンとなっている右手をV3に向け、弾を発射した。

それはV3に着弾した直後、小さな爆発を起こした。

 

「ぐぁぁぁあぁぁ!」

 

吹き飛ばされたV3は木の幹に激突した。が、それでも倒れることはおろか、膝を付くことさえせず、立ち続けた。

 

「さっきのは・・・!?」

 

驚きを隠せないV3。それも当然だった。かつて彼が戦ったマシンガンスネークには炸裂弾はなく、ただのライフル弾だった。そのため最初こそは苦戦したものの、V326の秘密の一つ“特殊強化筋肉”によってその弾を全て弾き、反転キックによって倒した。

しかし、先ほど発射されたのは間違いなく炸裂弾。つまりそれは、マシンガンスネークの‘蛇’の部分だけでなく‘マシンガン’の部分も強化されていることを意味した。

 

「シャシャシャシャシャシャ!!どうしたV3!!その程度か!?」

「………」

「チッ!気を失ったか。ならこのまま殴り殺してやる。」

 

そう言ってマシンガンスネークはV3に近づき、左手で殴り始めた。

 

「その程度のスペックで何が守れる!?誰を守る!?人間に未練を持った奴が、人間を捨てきれない奴が俺に勝てると思ってんのかぁぁ!?」

 

ピシリ・・・

V3の仮面にヒビが入った。

マシンガンスネークはその部分に渾身の一撃を加えるべく大きく手を振り上げた。

 

「死ねぇ!仮面ライダーV3ィィィィ!!!」

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

マミ達を標的に磁石イノシシは必殺のイノシシ・ダッシュを食らわせるべく高速で突進した。

一瞬遅れてマミがマスケット銃を構えるが、その手は震え、標準を合わせられないでいた。

 

「シャシャシャー!死ねー!」

 

直後、磁石イノシシの背中で爆発が起き、全ての戦闘員の頭が撃ち抜かれていた。磁石イノシシは突然のことに対応できず、あらぬ方向へと走っていき、戦闘員は倒れた。

 

「え?」

 

誰もが突然の出来事に反応出来ず、その場でぽけっとする。

その中でまどかが一番早く反応でき、自分達を助けたであ

ろう、遥か向こうに立っている少女の名前を呟いた。

 

「ほむらちゃん・・・?」

 

 

あの後、さやか、ほむら、マミの3人はまどかの家に来ていた。

 

「お待たせ。ジュースとお菓子持ってきたよ」

 

まどかが部屋のドアを開け、コップと皿の乗ったお盆を持って入った。

 

「おっ!サンキューまどか」

「あ、ありがとう。ま、鹿目まどか」

「ありがとう。鹿目さん」

 

それぞれが礼を言い、まどかから受け取った。

 

「いや〜、まどかの部屋久々に来たけどまたぬいぐるみ増えてるね〜」

 

さやかがベットの上にあるぬいぐるみをまじまじと見つめて言った。

 

「たはは。やっぱかわいくって」

 

苦笑するまどか。

 

「こんなご時世にそんな贅沢をするとは〜!さやかちゃんはそんな娘に育てた覚えはないぞー!」

 

そう言ってまどかに飛びつき、じゃれ合い始めるさやか。

一方、“こんなご時世”という言葉を聞いてマミは表情を暗くし、ほむらは頭に?マークを浮かべた。

 

「そのへんにしたらどうかしら?美樹さやか。鹿目まどかが困ってるわ。それに、今日ここにおじゃましたのはそんなことをするためじゃないわ」

 

数分ほどじゃれあった時、ほむらがやれやれといった口調で止めた。

 

「あ、ごめんごめん」

 

まどかから離れるさやか。

 

「えと、何から聞けばいいのか…」

 

まどかが心底困ったといった顔をすると、

 

「暁美さん?あなたから説明した方がいいんじゃないかしら?」

 

と、マミが促した。それに対してほむらは

 

「私はまだ思考が纏まってないから」

 

と言い、断った。

 

「ふぅ。それじゃ、私が説明するわね。まず、あなた達に知って欲しいのだけど、私たちは魔法少女と呼ばれる存在よ」

「「魔法少女・・・?」」

「そう。私たちはQBと契約して魔法と言う力を手に入れるの。」

「契約?契約って何なのさ?」

 

さやかが聞く。

 

「契約というのは、QBに何でも一つ、願い事を叶えてもらうこと。それによってソウルジェムが生まれて魔法少女になる。」

 

マミの説明にさやかが頭を抱えた。

 

「ソウルジェム?それに願い事も叶って魔法も使えるようになるんだったら貰ってばっかじゃん。どこが契約なの?」

 

さやかの態度にマミは優しく微笑みながら答える。

 

「ごめんなさい。少し雑だったわね。それじゃ、契約についてから説明させてもらうわ。美樹さんの言った通り、それだけならただQBから貰っているだけよ。でも、魔法少女にはある使命が課されているの」

「それっていったい…?」

 

まどかが聞く。

 

「魔女と戦うことよ」

「魔女ですか…」

「そう。魔女」

「魔女って何なのさ?魔法少女と何が違うの?」

「魔法少女が希望を振りまく存在なら、魔女は絶望を振りまく存在。祈りから魔法少女が生まれるとすると、魔女は恨みや悲しみといった人間の負の感情から生まれるの。そして、不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみを人間に植え付けているの。理由のはっきりしない自殺や殺人事件はかなりの確率で魔女の呪いが関わっているわ。形のない悪意となって人間を内側から蝕んでいくの」

 

「そんなやばい奴らがいるのにどうして警察は動かないんですか?」

 

さやかが聞く。

 

「魔女は基本的に結界を張って、その一番奥に潜んでいるの」

「結界?」

「あなた達がいた場所のことよ」

 

あそこか、とまどかとさやかは納得した。

 

「結界に取り込まれたら普通は生きて帰ってこれないのよ?あなた達だって結構危なかったのよ?」

「マミさんやほむらちゃんはそんな怖いものと戦ってるんですか?」

 

まどかが不安そうに聞く。

 

「そうよ。命がけよ。だからあなた達ももし魔法少女になるとしたらよく考えた方がいいわ」

「それは絶対にダメよ」

 

今まで黙ってたほむらが口を開いた。

 

「え?何でだめなのさ」

 

さやかが訝しげな目でほむらを見る。

 

「私たちが戦う本当の理由は、死なないためよ」

 

落ち着いて、ゆっくりとした口調で話すほむら。

 

「死なないためって・・・?」

 

まどかが尋ねる。

 

「ソウルジェムの説明をしてないわね?それと合わせてするわ。ソウルジェムというのは簡単に言えば魔力の源のことよ」

 

そう言ってほむらは手のひらに卵状のものを取り出して2人に見せた。それは紫色に輝いていた。

 

「綺麗…」

 

まどかが呟く。

 

「これがソウルジェム。私たちは魔力を使うとこらが濁るの。そして、濁りきった時、魔法が使えなくなる。そんな状態で魔女と戦ったら死ぬことは分かるわね?」

「ちょっと待って転校生。それだったら魔女と戦わなかったらいいんじゃ…」

「だめよ。これは魔女を使わなくても少しずつ汚れていくもの。過剰なストレスを感じたときなんかは特にね。それに、私たちが魔女と戦わなければならないのは他にも理由があるの」

「理由?」

「魔女が落とすグリーフシードよ。グリーフシードっていうのは簡単に言えば魔女の卵。でもそれはソウルジェムに溜まった穢れを吸い取って綺麗にしてくれるの」

「だから魔法少女は魔女と…」

「そう。それにグリーフシードを求めて魔法少女同士が殺しあうことだってあるわ」

 

ここまで説明したほむらはマミの方を見て、「ごめんなさい」と謝った。

 

「私、あまりQBのことが好きじゃなくて。昔、酷い目にあったことがあるから、どうしても」

 

許してはもらえないだろうとほむらは思った。しかし、

 

「今回は許してあげるわ。でも、次からは気をつけてね?」

 

と、言った。

予想外のことに目を丸くしていると、

 

「あら?以外だったかしら?ふふっ。あなただって魔法少女として辛い思いをしてきたんでしょ?たしかにQBを襲ったことは怒れたけど、理由があるならある程度はね」

「ありがとう。巴マミ」

「どういたしまして」

 

そこへさやかが突っ込む。

 

「あれ?転校生って本当はこんなキャラだったの?」

「あなたにキャラどうこう言われる筋合いはないわ」

「なんか私にだけ酷い!?」

 

ショックを受けるさやかにそれを励ますまどか。

それを羨ましそうに見ていたほむらはあることを聞いた。

 

「ねえ、あの怪物は何なのかしら?あれも魔女?それに何で見滝原がこんな酷い状況になってるのかしら?」

 

瞬間、時が止まった。ほむら以外の全員が固まった。さやかとまどかは驚いた顔をし、マミにいたっては震えていた。

 

「ご、ごめんなさい。実は、最近特定の記憶を消す魔女と戦って、その、その辺りの記憶が抜けているの。だめ、かしら?」

 

戸惑い気味に聞くほむら。そこへマミが口を開いた。

 

「それなら、仕方、ないわね。説明、するわ」

 

マミの口から語られた事実に、今度はほむらが固まった。

悪の組織、世界征服、怪人軍団、どれもみな特撮の世界のものとしか思えなかったからだ。

ほむらは彼女の話を聞く途中、様々なことを知った。マミの家族はネオショッカーという組織に殺されており、マミも瀕死の重傷を負い、死にかけたところQBと契約したこと。BADANはSPRITSという部隊が殲滅したこと。だが、裏では仮面ライダーという存在がいて、それが真にBADBNを崩壊させたこと噂されていることやバダンシンドロームのこと。彼女が知らなさすぎることが多すぎて理解するのに時間を要した。

 

「そう。そんなことがあったの。だからあなたはあの怪人を見た時、震えていたのね」

 

マミが話し終えた時、ほむらはそう言った。

 

「巴マミ、明日からは私も一緒に戦うわ」

 

マミはその言葉に驚愕した。

 

「どうして…?」

「あなた一人じゃ不安だもの。また怪人があらわれたりしたらあぶないでしょう?」

「そ、そうね。でもいいのかしら?私なんかと一緒に」

「あなたじゃなきゃ嫌なのよ。私とあなたは仲間でしょ?」

 

“仲間”という言葉を聞いた瞬間マミの目に涙がうかんだ。

 

「ありがとう。暁美さん」

 

そこから4人はとりとめもない話をし、楽しい時間を過ごした。

 

 

「ねえ、一ついい?」

そろそろお開きという雰囲気の中、さやかが口を開いた。

 

「どうしたのかしら、美樹さん?」

「あのさ、明日から私も2人についていってもいい?」

「どうしてそんな事をするのかしら?美樹さやか」

 

ほむらが怒気を含めた声で聞いた。

 

「ここまで関わっちゃったんだし。私にはただ、ふーんなんて言って見過ごすことはできないよ。邪魔にならないようにするから、お願い!!」

 

そこからほむらが拒否し、さやかがさらに頼むといった感じでいたちごっこになったが、最終的にはほむらが折れ、魔法少女体験講座なるものが開かれることとなった。この時、まどかも一緒に行くといった時、ほむらは卒倒しかけた。

 

 

「死ねぇ!仮面ライダーV3ィィィィ!」

 

マシンガンスネークの腕がV3の仮面を襲った。しかし、その手は空を切った。

 

「な、なに!?」

 

目標を見失ったマシンガンスネークは左右・前方を確認したがその姿は見当たらなかった。

 

「どこだ!どこだ!V3!!」

「私はここだ」

 

突如背後から聞こえる声。マシンガンスネークが反応するより早く、V3は背後から抱きついた。

 

「貴様、何のつもりだ!」

「簡単さ。貴様は蛇に近いのだろう?だったらやる事は一つさ」

 

そう言ってV3は両腕に力を込めて叫んだ。

 

「V3フリーザー・ショット!!」

 

直後ダブルタイフーンの2つの風車が高速回転し、それに反比例するかのようにV3の体温を急激に下げ、全身から冷気を噴出した。

 

「が、が、が、が、が」

 

動きが鈍くなるマシンガンスネーク。V3がその場を離れてもロクに動かないでいた。

 

「な、何を、何をした!V3ィィィィ!」

 

バィィィィン、バィィィィン、バィィィィン

それに答えるようにバイクの排気音がなる。辛うじて体を捻り、その場所を見ると、ハリケーンに乗って突進V3がいた。

 

「ハリケーン・アタッーーーク!!」

 

猛スピードでぶつかるハリケーン。マシンガンスネークは吹き飛ばされた。

キキィィィィ

ブレーキをかけたV3はこう告げた。

 

「貴様はこう言ったな?『蛇により近い遺伝子を手に入れた』と。変温動物の蛇は急激な気温の変化に対して大量のエネルギーをとるため、しばらく動けなくなる。だから短気な貴様を怒らせるようなことを言い、体温を少しでも上げさせたのさ。」

 

やっと、といった様子で上半身を起こすマシンガンスネーク。

 

「ゆ…る…さん。V3…、貴様は必ず…」

 

ここまで言ってマシンガンスネークは爆散した。

V3はそれを見つめ、いった。

 

「貴様はさらにこう言ったな?『その程度のスペックで何が守れる』と。『人間に未練を持った奴が、人間を捨てきれない奴が俺に勝てると思っているのか』と」

 

少し間をおき、独り言のように言った。

 

「俺は守るさ。人間を。たとえスペックが低くても。そして、人間であった頃への未練。それが俺のプライドだ。」

 

そこから約一時間後、志郎は風見野という街に着いた。そこも未だにBADBNの爪痕が残っており、所々仮設住宅が目立った。

 

「ここも再興せず、か。いつになったら回復するんだろうな。・・・ん?」

 

ひとりごちた志郎は一人の黒髪のセミショートの少女を見つけた。その少女は何かを探しているようであり、かなり慌てていた。

 

「何を探して、ん?何だこれは?」

 

足元にヘンテコなぬいぐるみが落ちていることに気付いた志郎はそれを拾い、その少女に声をかけた。

 

「おいお前、探しているのはこれか?」

 

次の瞬間、志郎の手からそれは消え、真後ろに移動した少女に抱きしめられていた。

 

(瞬間移動した?いや、気のせいか?)

 

そんなことを考えていると、その少女から

 

「ありがとう!!君は恩人だよ!!これで私の愛は死なずに済んだ!!!そうだ、何かお礼をするよ!!!何が欲しい!!?」

 

と、一方的に話しかけられた。

苦手なタイプだと自覚した志郎は適当に言ってその場を離れようとするが、その少女は別の少女を呼んで、なお逃げにくい状況を作っていた。

 

「織莉子!彼が見つけてくれたよ!君がくれたぬいぐるみ!!」

「あらあら。キリカ、殿方が困っているではありませんか。ダメですよ?迷惑をかけては」

「迷惑なんてかけてないよ!ね!?恩人!!」

 

急に話を振られ、戸惑う志郎。

 

「少し…な。」

「ガーーーーーン!!」

 

わざわざ口にしていう少女ーキリカーと彼女を励ます灰色の髪をした長髪の少女ー織莉子ー。

 

「すみませんでした。ですが、お茶くらい用意させてくだ

さい。キリカが迷惑をかけしたようですし…」

 

申し訳なさそうに言う織莉子。

が、志郎は

 

「すまないがそれは今度にしてくれないか?今は急いでてね」

 

と断った。

まぁ、と手に口を当てた織莉子はそれならば、と名刺を取り出し、渡した。

 

「ここが私達の家です。もし、気が向きましたらいつでもいらしてくださいね」

 

まるで、天使のような微笑みをした織莉子。志郎はポーカーフェイスを崩さず、「分かった」といって名刺を胸にあるポケットに入れ、GT750にまたがりその場を去った。

 

志郎が走り去ったのを見て、キリカと織莉子は互いに目を合わせ、ニヤリと笑った。

「計画通り」

 

つづく




再び磁石イノシシと対峙するマミとほむら。魔女と共に襲いくる強敵に勝つ手段はあるのか。また、風見野で魔女に遭遇したV3。初めての魔女相手にV3の技はどこまで通用するのか。次回「V3、戦場に立つ」ご期待ください。


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第4話 V3、戦場に立つ

第4話です。今回も長いです、すいません。それと今回もまだ志郎は見滝原に着かないんです。いつになったら着くのやら。それにまどかパートと志郎パートで熱の入り方が違うという・・・。なんとかしないと!!
では、第4話。お楽しみください!
*追記:加筆しました。魔女の性質及び名称、簡単な説明を加えました。


織莉子とキリカに会った日、志郎は風見野のホテルに泊まり、次の日の朝に出発した。

「風見野。そこそこ広いな・・・。」

GT750を走らせながらひとりごちる。

(少しペースを上げた方がいいか)

そう思いギアを上げようとする。が、

「ど、ドロボーーー!!!」

と、後方から聞こえた。

「泥棒?一応行くか。」

バイクを得意のUターンで急速に方向を変える。そのまま志郎は速度を維持したまま悲鳴のした方へ向かった。

 

風見野の繁華街から少し離れた廃ビルの影。少女ー赤髪で長髪ーはそこにいた。

「へっ!足で私に勝てるわけねーだろ。」

まさに余裕といった表情をする。その右手には大きく赤々としたリンゴが2つあった。

「ヘヘッ、久々の食事、だな。」

そう言って少女はリンゴにかぶりつこうとした。

「そのリンゴは盗んだものだろう?」

口を付ける直前、男の声がした。

バッ!とその向きに振り返る少女。そこには高身長のセミショートの男が立っていた。

「だったら何だよ?これはもう私のもんだ。」

どうせこいつは見掛け倒しで自分には勝てるわけがない。

そう高を括っていた。

「もう一度言う。それをあのおじさんの元へ返してこい。」

志郎は一歩近づいた。

それと同時に少女は反対方向に走り出した。

「じゃ!私はこれで!」

直後、男は高く跳躍して少女の行く手を阻んだ。

「んな!?あ、あんた人間かよ・・・!」

「一応な。それより、さっさとそれを返してきたらどうだ?」

「同んなじことを何回も!うるせぇんだよ!」

そう言って少女は殴りかかった。しかし男はそれを軽やかな動きで避け、少女を羽交い締めにし、一気に力を入れた。

「うぅ〜!!ギブギブギブ!!」

もう逃げないだろう。そう確信したのか男は少女の身体を解放した。

「あ〜、イテテ。私も焼きが回ったか?こんなおっさんに捕まるなんて。」

少女はさも悔しそうに言い、リンゴを渡した。

「なぜ盗みなんかを?」

「ああ?生きるために決まってんだろ?」

「親はいないのか?」

「・・・・・・。いねーよ。そんなもん。」

悲しそうな少女の声。男はかつての自分の姿を彼女に重ねた。

「そうか。すまない。」

「別に気にすることはないさ。それより、リンゴ持ってくんだろ?早く行けよ。」

そう言って少女は走り去った。その後ろ姿を見て、男はある決断をした。

「おい!」

ピタリ。少女が止まる。

くるりと振り向き、何だよ、と聞く。

「持ってけ。」

そう言って志郎はリンゴ1つと財布を投げ渡した。

「おい、どういうつもりだ・・・!こんなもん渡して、何が目的だ!?」

少女は犬歯をむき出しにしながら叫んだ。

「別に。どうという事はない。大した金はないがしばらくは生活できるだろう。盗みを止めるというならやるよ。」

「・・・・・・・・・。」

「どうするんだ?」

「・・・・・・分かった。」

まるで蚊のなくような声。しかし、男の耳には届いていた。

「そうか。じゃあな。」

その場を去ろうとする。だが、次は少女が呼び止めた。

「あ、あんたの名前、何ていうんだ!?」

「風見・・・志郎だ。お前は?」

「佐倉杏子だ!」

これが彼らのファーストコンタクトだった。

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

ほむらやマミとの出会い、魔法少女と魔女の存在を知った次の日。まどかはいつも通りの朝を迎えていた。

定時に起き、父親に挨拶し、弟と共に母親を起こしに行く。その後着替え等を済ませ、家族4人で父親の作った朝食を食べる。

鹿目家では、夫は専業主夫、妻はキャリアウーマンという形で成り立っている。

そんな当たり前の日常。しかし、誰も知らないことを自分だけが知っている一種の疎外感をまどかは感じていた。

「んじゃ、そろそろ行くわ。」

まどかの母親ー詢子ーは立ち上がり、父親ー知久ーと弟ータツヤーとキスをした後、まどかとハイタッチをした。

「よっし!じゃ、行ってくる!」

「「「いってらっしゃーい!」」」

「ほら、まどかもそろそろ時間だよ。」

「ふぇ?あ、本当だ!行ってきまーす!!」

「「いってらっしゃーい!」」

 

「ハァハァハァハァハァ。」

まどかはさやかと仁美との待ち合わせ場所に向かって走っていた。

「お、来た来た。まどかー!おっそーい!!」

「ごめんね、さやかちゃん、仁美ちゃん!遅くなっちゃって。」

仁美は気にしないでくださいまし、と、さやかは早く行くよ、と言い、歩き始めた。

(ねぇ、まどか。昨日の、夢じゃないよね?)

仁美と話していると、不意に頭の中にさやかの声が響いた。

(え?どうしてさやかちゃんの声が?)

(僕が中継してるんだよ)

(ふぇ?)

まどかがふと左右を見ると遥か先にマミとその肩に乗ったQBを見た。しかし、彼女の近くを通る誰もがそれに気付ていないようだった。

(僕は素質のある娘にしか見えないからね)

まどかの疑問に答えるようにQBが言った。

 

学校に着いたまどかとさやかはマミから連絡を受けた。

それは、昼休みに屋上へと来るようにというものだった。ただし、ほむらは呼ぶなという条件付きで。

(やっぱりほむらちゃんがQBの事を嫌っているからかな?)

そんな事を思いながらまどかも了承した。

 

昼休み、まどかはさやかと共に屋上へと行った。そこではすでにマミとQBが待っていた。

「マミさん、お待たせしました!」

「私も今来たばかりよ。」

そこからマミ、まどか、さやかという順で並んで弁当を食べ始める。

「今日、2人を呼んだのはね。」

数分経った時、マミが口を開いた。

「今日、2人に集まってもらったのはもう少し魔法少女について詳しく話そうと思ったの。」

「もう少し詳しく、ですか?」

「ええ。昨日、帰りに美樹さんにも少し話したんだけどね。QBについても知ってもらいたいこともあるし。」

「だからほむらちゃんを?」

「暁美さんはQBの事嫌いみたいだから。」

クスクスと笑うマミ。

そこへさやかが不機嫌そうに口を挟んだ。

「ねぇマミさん。早く魔法少女について話して欲しいんだけど・・・。」

「あら、ごめんなさい。それじゃ、話すわね。」

コホン、と軽く咳払いし、真剣な表情で話し始めた。

「昨日話したように私たちはQBと契約することによって魔法少女になるの。そして、魔女を倒すことでえられるのがグリーフシード。これは魔法少女の命と言っても過言ではないの。これは暁美さんが昨日言ってたわね?」

まどかとさやかは頷いた。

「だからグリーフシードを巡って魔法少女同士で縄張り争いがあることも珍しくない、とも言ってました。マミさんも・・・。」

私も何度か戦ったことあるわ、とマミは悲しそうに笑いながら付け加えた。

「だからマミさんはほむらちゃんが一緒に戦おうって言ったとき・・・。」

「そう。私のようなタイプの魔法少女は少ないからね。驚いたのよ。」

マミとほむらが肩を並べて共に戦う。それはまどかにとって嬉しいことでもあった。

「私は、反対かな。マミさんと転校生が共闘するってのは。」

さやかが影を落としたような声で言った。

「だって昨日QB襲ってたじゃん。」

「さやかちゃん、それは」

「それは昔QBにひどい目に合わされたって言ってたって?

でもそれも本当かどうかなんて分かんないじゃん。それにQBは願いを叶えてくれるんでしょ?だったらあいつはそのチャンスを潰してるってことじゃん。それに」

「美樹さん。」

マミが険しい顔つきで止めた。

「いくらなんでも言い過ぎよ。」

「で、でもマミさん!」

「美樹さん。」

有無を言わさないほど強い口調。さやかはその気迫に黙るしかなかった。

「そ、そうだマミさん、今日からやる魔法少女体験講座って・・・。」

まどかがおどおどした様子で尋ねる。

「あら、そのことも話さないとね。一応放課後にって暁美さんと決めたんだけど、どうかしら?」

「放課後なら大丈夫です。さやかちゃんは?」

「・・・私も大丈夫。」

「それじゃ、放課後にまたね。」

マミがそう言った直後、予鈴がなり、3人は教室へと戻っていった。

この時、彼女たちは知らなかった。この日に起こる最悪のことを。いや、一人の少女を除いては。

 

 

(おかしい・・・・)

志郎は違和感を感じていた。風見野を出発して早3時間。すでに昼を回っていた。しかし、志郎は風見野に着かないでいた。

チラリとメーターを見る。出発前にリセットした針は90を指していた。

(デストロンにこんな能力を持った奴はいない。となると、別の組織の怪人か?)

バイクを止め仲間と連絡を取ろうとする志郎。

(こちら志郎。こちら志郎。聞こえるか?もしもし?もしもし!?)

結果から言えば音信不通となっていた。

「おかしい。通信は俺たちにとって基本設計だ。どこにいても届くはず。」

ここまで言ってあることに気付く。

「景色が変わっている・・・?」

その言葉を合図にしたかのように、志郎の周りの空間が揺れ、メルヘンチックなものへと構成されていく。それはまるでおもちゃ箱の中のような異様な空間だった。

何なんだここは、と不審に思った志郎に悲鳴が聞こえた。

思考を切り替え、GT750をその場所へと走らせた。

 

一人の幼女が、下半身が船、上半身が人間の化け物に襲われていた。

その化け物が口を開け、今にも幼女の頭にかぶりつこうとしたその時、一台のバイクがそれを引き飛ばした。

「お嬢ちゃん、大丈夫か!?」

そのバイクの運転手ー志郎ーが幼女に声をかける。

「あ、あ、あ、あ」

「ショックで声が出ないのか。仕方ない。」

志郎は一旦GT750から降り、その幼女をおぶった。その状態で、GT750に備え付けてある紐で自分の体を結んだ。

だが、そうしている間に周りには先ほどと似たような形の化け物が何十何百と出現し、今にも襲ってきそうな雰囲気だった。

「チッ、雑魚どもを相手にするほど暇じゃないんだがな。」

そう言って志郎は幼女に負担がかからない最小限の動きで化け物の攻撃を回避・反撃を始めた。

 

(チッ、何だこいつらは?組織の戦闘員というわけでもなさそうだし。それに)

そう思いながら志郎は高く跳躍し、化け物の攻撃を回避した。この時、化け物が直線的な攻撃しかしてこないことに気付いた志郎は自らの経験を生かし、このような行動をとっていた。

(こいつらの目的は何だ?人を殺すことか?)

そう考え、周りを見回しながら着地する。その目には無数の赤い液体と白い物体、そして、ソーセージのようなものが映っており、鉄のような生臭い臭いが充満していた。

何とかそれを幼女に知られまいとなるべく自分の背中に近づけ、視線を塞いでいた。

「ケホッ、ケホッ、ケホッ」

突如、幼女が咳き込んだ。

「大丈夫か?」

志郎の質問に大丈夫、と答える幼女。しかし、自分の身の回りで何が起きているのかは理解できているようだった。

(まずいな。このままだとこの娘の精神がやられてしまう。

それにこの状態では変身することもできない。)

ふと、横を見る志郎。視線の先には一つのドアがあった。

(あそこに行けば出られるか!?)

そう思い、全速力で駆けた。

 

 

「さて、魔法少女体験講座第1回、張り切ってやっていきましょうか。」

「イヨッ!待ってました!!」

見滝原のとある喫茶店。マミ、さやか、ほむら、まどかの4人は放課後、ここに集まっていた。QBは他の魔法少女候補の娘に会いに行ってくると言って居なかった。

「あなたたち、特に巴マミ、今から私たちがすることを分かっているのかしら?」

ほむらが厳しい口調で諌める。

「大丈夫よ、暁美さん。今の私にはこの娘達を何としても守るという使命があるもの。」

「そうだぞ転校生!あんたみたいなのとな違ってマミさんは正義の味方なんだから!!」

「はぁ。美樹さやか。あなた昨日巴マミと出会ったばかりでしょ?何故そんなに彼女を信用できるの?」

「あんたと比べたらはるかに信用できるでしょ!」

「さやかちゃんもほむらちゃんも止めてよ。これから一緒に戦うのに。」

さすがに見かねたのかまどかが止めに入った。

ほむらはさやかに即座に謝り、さやかは渋々といった感じでほむらに謝った。

「そ、それじゃ、行きましょうか。」

戸惑ったマミの一言で全員は店を出た。

 

「私たちはソウルジェムを使って魔女を捜すの。こんな風にね。」

マミはそう言い、ソウルジェムを卵型にして掌に乗せた。それは点滅を繰り返していた。

「この光を頼りにして魔女を追うの。」

「うわ、なんか思ってたのよりも地味。」

そうね、とさやかの反応に対してクスクスと笑いながらマミは答えた。

「ねえ、ほむらちゃん。魔女のいそうなところに目星はつかないの?」

「魔女は人の命を糧に生きているわ。つまり、自殺のしやすそうな所や人気のない所なんかはいることかは優先的にチェックすわるわ。ね、巴マミ。」

「そうね。さらに言えば病院なんかに着くと最悪よ。ただでさえ弱ってる人から生命力を無理矢理吸い取るのだから目も当てられない事になる。」

“病院”という単語を聞いた瞬間、さやかの体が一瞬ビクッとなった。それを見たまどかは不安そうに彼女を見つめていた。

 

「ッ!!」

魔女捜しをしてから30分。マミの顔が急に険しくなった。

「マミさん、どうしたんですか?」

まどかが不安そうに聞く。

「近いわ。暁美さん、準備しておいて。」

そう言ってマミは駆け出し、他の3人はそれについていった。

 

 

志郎はドアを思いっきり蹴ったくった。その勢いで中に入り、姿勢を整える。

「外に出、てはないか。」

忌々しそうに呟く志郎。その眼前には身長3mはある、大きな女の子の形をした何かが立っていた。

ーその魔女の名は「アルベルティーネ」。性質は「無知」。彼女は人を自分の遊び場へと誘いかくれんぼをする。だが、それは人にとって最後の遊びとなる。ー

「まさか親玉が出てくるとな。」

ドアの方をチラリと見るが、すでにそれは消えていた。

「キャハキャハキャハキャハキャハキャハ」

独特の笑い方をしながら近づくアルベルティーネ。

「このままだとヤバイ。どうする?」

焦る志郎を嘲笑するかのようにそれはさらに近づいた。

(やられるっ!)

しかし、それが攻撃してくることはなかった。彼とアルベルティーネの間に赤い色の編み込んだ結界のようなものができたからだ。

「ったく、私らしくねーな。一般人を助けるなんてよ。」

その結界ができると同時に降り立った一人の少女。その姿は赤いノースリーブの上着の下にスカートを履いたものだった。志郎は彼女の後ろ姿に見覚えがあった。

「佐倉、杏子。」

ゆっくりと確認するように言う。それに反応したのかその少女はバッと振り向いた。

「は!?志郎じゃねーか。なんであんたがこんなとこにいんだよ!?」

苛ついたような口調で杏子は聞いた。

「色々とあってな。それよりお前、その姿は」

「詳しい説明は後だ!!今は魔女を倒さなきゃならねーからな!!」

そう言って杏子は前面にいるそれー魔女ーを見据え、手に槍を持ちながら突っ込んだ。

「ハァァァァァァァァァ!!」

気合いを入れながら袈裟斬りにしようとする。しかし、アルベルティーネは素早い動きでバックステップを踏み、距離を取ることでかわした。

「さすがに一発じゃ倒せねーか。」

残念そうに言う杏子。彼女は次の一撃を撃つべく体勢を整えた。

「ギャハギャハギャハギャハギャハギャハ!!」

先ほどと違い、濁音の混じった笑い声を出したアルベルティーネはさらに下がり、無数の大きな箱を出した。そしてその陰に隠れ、‘何か’を始めた。

「何だ?」

杏子はそう言って魔女へと突っ込み、再び切ろうとした。しかし、突如アルベルティーネが何かをしていた地面から一体の化け物が飛び出し、杏子を襲った。

「うわぁぁぁぁ!」

吹き飛ばされ、結界へと激突した。余程強く打ったのか意識が朦朧としており、槍を支えとして立ったがフラフラしていた。

「キャハキャハキャハキャハ!」

アルベルティーネが笑いながらさらに大量の化け物を作り杏子へと攻撃を仕掛けた。

が、化け物たちが杏子を殺すことはできなかった。一台のバイクが杏子の前に来、翼の下にある2つのロケットを発射させたからだ。

アルベルティーネは箱の背後からひょこっと顔を出す。そして、戦慄した。

「もう、貴様らの好きにはさせん。」

一人の男の声。それは志郎が発したものだった。しかし、普通のそれとは違い、強大な殺気を纏っていた。

「覚悟しろ。ヌゥン・・・!」

そう言って志郎は両腕を右へ伸ばし、そのまま左斜め45°まで扇型に回し、右手を腰に付けた後、左手を腰に付け、右手を力強く左斜めに伸ばした。

「変っ身、V3ァァァァ!!」

その掛け声とともに腹部に現れたダブルタイフーンの風車が高速で回転し、志郎の体の構造を作り変えていく。

それが終わった時、そこには一人の戦士ー仮面ライダーV3ーがいた。

「仮面ライダーV3!!」

ポーズを決め、名乗りをあげる。

その後、杏子の作った結界を破壊した。

「杏子、大丈夫か?」

なお立ち続けていた杏子の身体を抱きかかえるように支え、そう尋ねた。

「あ、う、か、風見?」

戯言のように呟き、杏子は気を失った。

「いくらV3になったとはいえ、2人を庇いながら戦うのは少しキツイか。」

そう言って、杏子を抱えたまま幼女の元へと連れて行った。

「このお姉ちゃんの側にいてくれ。もし、怪物が襲ってきたら叫ぶんだ。必ず助けてあげるから。いいね?」

そう言ってV3はアルベルティーネの方を向いた。

「奴がどうやって化け物を生み出しているのかが分からなければ何もできん。ならば」

V3はベルトの左側に付いている筒を取り出した。

「V3ホッパー!!」

ピュルルルルル・・・・

と、高い音が鳴り、上空へと何かが打ち上げられた。

V3ホッパー。それはV3専用の偵察メカで、これを使うことにより、10km四方の情報がV3の超触覚アンテナへと伝へる。

「なるほど。奴は地面に絵を描くことで召喚しているのか。それに、数がどんどん増えている。ならば」

ダブルタイフーンが高速で回転する。

「レッドボーンリング!!」

技名を言った瞬間、V3が跳び、空中で高速回転した。それは赤いタイヤとなってアルベルティーネに突っ込んみ、その状態で体当たりを仕掛けた。

「キァァォァァァァァ!!」

まるで、本物の人間のような悲鳴をあげるアルベルティーネ。まるで痛みから逃げるように身体をくねらせるが、無意味だった。

10秒ほど拮抗した後、アルベルティーネは抵抗しなくなり、V3はその身体を真っ二つに粉砕した。

「グフゥッ!!まだ、だ・・・!」

技自体に相当負担がかかるためか、辛そうに息を吐きながら、次は再び杏子達の元へと向かった。

一瞬で2人の元へとたどり着いたV3は迫ってくる化け物を見て、あれを使うかと呟いた。

「逆ダブルタイフーン!!!!!」

ダブルタイフーンの2つの風車が逆向きに高速回転し、そのエネルギーを化け物にぶつけた。その威力は凄まじく、展開されていたメルヘンチックな空間そのものも破壊しているかのようだった。

シュゥゥゥゥ・・・・

逆ダブルタイフーンが終わった時、そこに立っていたのはV3ではなく風見志郎だった。この技、逆ダブルタイフーンはとてつもない破壊力を持つが、デメリットとして変身するためのエネルギーを全て消費してしまうため使用語3時間は変身できないといったものだ。

「何とか終わったか。」

ふぅ、とため息を吐き、後ろを振り返る。

杏子はまだ目が覚めておらず、幼女もまた何が起きたのか分からないといった感じだった。

「はぁ。仕方ない。見滝原に行くのは明日にするか。」

この状況からしてこうするのが一番だと判断した志郎は背中に杏子をおぶり、GT750を手で引き、幼女には座席に座ってもらった。

「そういえば、お嬢ちゃん。君の名前は何て言うんだ?」

志郎が思い出したように聞く。

「ゆま。千歳ゆま。」

「そうか。ゆまか。いい名前だな。俺は風見志郎だ。よろしくな。」

「うん。よろしく。志郎。」

いきなり呼び捨てか、と志郎は笑い、それにつられてゆまも笑った。改造人間と魔法少女、幼女のという異様な組み合わせの3人はホテルへと向かった。

 

 

マミ達は見滝原の廃ビルへと行った。そこに着いた瞬間、とあるものを目撃した。

「マ、マミさん!あれ!!」

さやかが切羽詰まったような声を出し、ビルの屋上を指を指す。その先には今にも飛び降りそうなOLがいた。

「大丈夫、任せて。」

マミはそう言い、魔法少女へと変身し、リボンで結界を作った。

それが完成した瞬間、まるで示し合わせたかのようにそのOLは頭から落ちた。しかし、結界がリボンでできている為か衝撃は少なく、怪我もせずに済んだ。

マミがOLの元へと向かい容態を確認する。

「マミさん、大丈夫なんですか?」

まどかが不安そうに聞いた。

「ええ。大丈夫。気を失ってるだけ。それより見て。」

マミはOLの首筋を見せた。そこにはバラのような模様があった。

「なんですかこれ?」

「何かのマーク?」

「これは魔女の口づけというものよ。」

「「魔女の口づけ?」」

「これをつけられた人間は死を選ぶの。そして、魔女の餌となる。」

「そんな・・・。」

「そのために私たちがいるのよ。ね、暁美さん。」

「ええ。安心して。何があっても守るわ。」

「ありがとう、ほむらちゃん。」

「さ、みんな行きましょ!」

マミの力強い一言を皆頷き、廃ビルへと入っていった。

廃ビルの中は異様だった。入った瞬間に魔女の結界へと変わったからだ。

「そうそう。美樹さん達は何か持ってる?」

唐突にマミが聞いた。

「私はバットを持ってきました!!」

補助バックの中からドヤ顔で金属製のバットを取り出すさやか。それに対してまどかは首を横に振るだけだった。

「そう。美樹さん、バットを貸して。」

さやかは頷きバットをマミに渡し、マミは魔力をバットに流し込んだ。するとどこにでもあるようなバットが可愛らしい棒状の物へと変わり、さやかへ返した。

「これで少しは自分の身を守れるはずよ。降れば微弱だけど結界を作ってくれるから。」

さやかはありがとうございますと言って受け取った。

「魔女はこの奥よ。早く行きましょう。」

冷静な声でほむらが言った。

 

結界の最深部へと向かって走る4人。時折襲ってくる化け物ー昨日まどか達を襲ったものと同じものーを相手に、マミとほむらはマスケット銃、マシンガンをそれぞれ撃ち、さやかはバットを振り回し、まどかはさやかの後ろに隠れていた。

「そ、そういえばマミさん。さっきから時々襲ってくる奴らは何なの?」

息を切らしながらさやかが尋ねる。

「あれは使い魔よ。簡単に言えば魔女の手下。でも放っておいたら人間を襲うし、成長すると元の魔女と同じ魔女になるからなるべく倒さなきゃダメなの。そして」

そう言うとマミはドアの前に一度立ち止まった。

それに続き立ち止まる3人。

「ま、マミさん。どうしたん、ですか?」

息も絶え絶えにまどかが聞いた。

「このドアの向こうに魔女がいるわ。」

瞬間、まどかとさやかは緊張した顔になる。

それを見たマミはクスリと笑って、怖いかしらと聞く。

「なんてことねぇって!」

「マミさんとほむらちゃんがいるから大丈夫です!」

とまどかとさやかが答える。

マミとほむらは一度視線を交わし、互いに頷いてからドアを開けた。

そこには粘液とバラにまみれた頭、ワンピースにも皮膜にも見える胴体、毒々しいまでに巨大な蝶の翅、下部の無数の触手という、女とは思えない醜怪な姿をしたものがいた。

ー魔女の名は「ゲルトルート」。その性質は「不信」。彼女の薔薇庭園を模した結界に足を踏み入れたならばそれを全力で排除しに来るだろうー

「うわっ、グロ。」

「あんなのと戦うんですか?」

さやかが感想を言い、まどかが心配する。

「ええ。大丈夫よ。負けるもんですか!」

そう言うとマミはほむら、まどか、さやかの3人の周りに結界を張った。

「ッ!巴マミ!?」

ほむらが驚愕したように言う。するとマミは微笑んで、

「ごめんなさい暁美さん。でも、今回は私一人で戦わせて欲しいの。」

「ハァ。危なくなったら私も参戦するわ。」

それは了承を意味する言葉。それを聞いたマミはありがとうと言ってゲルトルートに対峙した。

しかし、ゲルトルートの方はそれに気付いていない、もしくは気にしていないのか、はんのしなかった。

そこでマミは足元にいた小さな使い魔を1体踏み潰した。すると、ゲルトルートがゆっくりとマミの方を見、グォォォォォと雄叫びを上げた。

それに対しマミは臆することなくスカートの端をつかむ。するとそこから2丁のマスケット銃が出てきた。

魔女と魔法少女。その戦いの火蓋が今、切って落とされた。

先に仕掛けたのはゲルトルートだった。羽を大きく羽ばたかせ、マミに突進していった。だがマミはそれを華麗に避け、マスケット銃を召喚しては撃ち、召喚しては撃ちを繰り返した。しかし、ゲルトルートもそれを避けた為、壁や地面に穴ができるだけだった。そのため、互いに決め手を欠いていた。

「ッ!あら?」

着地した直後ゲルトルートの攻撃を回避するために跳躍しようとしたマミがある事に気付いた。足に無数の使い魔がおり、マミの動きを封じていたのだ。それが一本のロープのようなものとなり、端がゲルトルートと結合してマミを持ち上げてから地面に叩きつけた。

「マミさん!!」

まどかの悲痛な叫びが結界内を木霊する。

「大丈夫よ。」

マミはそう一言告げてから新たにマスケット銃を生成し、ロープを撃って分断した。

ゲルトルートはそれを見てさらなる攻撃を仕掛けようとする。しかし、

「無駄よ。」

とマミが言うと、先ほどあけた穴から無数のリボンが出てきてゲルトルートを拘束した。魔女はもがくがリボンが頑丈な為か一本も千切れずにいた。

「残念だったわね。」

マミはそう言い、一際大きなマスケット銃を召喚した。

「ティロ・フィナーレ!!!」

巨大な銃口から発射される巨大な弾。それがゲルトルートの身体を貫き、爆散させた。すると、魔女の結界は消え、また、マミの作った結界も消えた。

「勝ったの・・・?」

「す、凄い・・・!」

ささやかとまどかが震えた声を出す。

「3人共、大丈夫だったかしら?」

マミがまどか達に近づきながら聞く。

「大丈夫っすよ、マミさん!!」

「私も大丈夫です!」

まどかとさやかが安全を伝える中、ほむらだけが冷徹な表情を崩さないでいた。

「ほむらちゃん?どうしたの?」

心配そうにまどかが聞く。

「巴マミ、分かっているわね?」

まどかの質問には答えず、ほむらはマミに尋ねた。

「当然分かっているわ。そろそろ出てきたらどうかしら?」

とマミが言い、後方を振り向く。すると、物陰から‘何か’が出てきた。

「シャシャシャシャシャシャ!シャシャーーー!!魔法少女!!貴様らの戦い、見させてもらったぞ!?この女を殺されたくなければ俺と勝負しろ!!」

それは、磁石イノシシだった。磁石イノシシは右手で先ほどマミが助けた女性を引きずっていた。

「あら?人質をとっている割には面白い条件じゃない。ねぇ、暁美さん?」

マミがいつもと同じ口調で、しかし、顔を憤怒に染めながら言った。

「そうね。私たちと戦いたいだなんてね。」

「そんなことはどうでもいい。やるのかやらないのか答えろ!!」

磁石イノシシはしびれを切らしたのか大きな声で聞いてきた。

「答えは当然yesよ。でも、条件があるわ。先にその女性を解放しなさい。」

マミが言った。

「ふん!いいだろう!!」

磁石イノシシはそう言い、女性をマミ達の方向へと投げ飛ばした。

「美樹さんと鹿目さんはその人を連れて逃げなさい。」

「マミさん達は?」

「今のあなた達は邪魔よ。」

マミとほむらがそう告げる。

「う、うん。分かった。マミさんもほむらちゃんも気をつけてね。」

そう言ってまどかとさやかは2人で女性を抱え、逃げていった。

「さて、行くわよ暁美さん!!」

「ええ。足を引っ張らないでね、巴マミ。」

2人は磁石イノシシとの先頭を開始した。

 

助けられた女性は廃ビルを出た瞬間に目を覚まし、まどかとさやかに礼を言った。まどか達は一応それを受け取った。その後、廃ビル内で大きな爆発音が響き、3人は走ってその場を離れた。

 

「ねぇ、さやかちゃん、マミさん達大丈夫かな?」

「やっぱり不安だよね・・・。」

「戻ろうよ!」

「でもマミさんや転校生の邪魔になるだけだよ。」

「・・・・・。」

「今は2人を信じて待と?」

「・・・うん。」

廃ビルを離れて少し経った時2人はこのような会話をしていた。

マミ達に加勢したい。しかし、自分達には何もできない。

そんな無力を噛み締めながら。

ふと、まどかが遠くを指差す。

「あれ、ほむらちゃんとマミさんじゃない!?」

「本当だ!!やっぱり無事だったんだ!!」

おーいとまどかとさやかは走りながら近づいた。

魔法少女が負けるはずないんだ。そんな淡い期待を描きながら。しかしそれはものの無残に葬りさられた。なぜなら、ほむらとマミの制服は所々破れており、擦り傷や切り傷が至る所にあったからだ。

「マミ、さん?ほむら、ちゃん?」

まどか達に気付いたのかマミ達が近寄ってくる。

「ごめんなさい、2人とも。」

マミは目に涙を浮かべながら言葉を紡いだ。

「負けたわ。」

 

つづく




磁石イノシシに負けたマミとほむら。意気消沈している時にさらなる魔女が襲いかかる。そして、杏子から魔法少女について知った風見志郎。彼はその胸に何を想うのか。次回「機械と少女の出会い」ご期待ください。


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第5話 機械と少女の出会い/前編

自分の計画性のなさが滲み出ている・・・。まさかこんなに長くなるとは。これからもう一度ストーリー構成を練り直さねば。
第4話・前編。今回は戦闘パートはほぼ無く、会話が中心となっています。
それでは、お楽しみください。


ほむらとマミ、さやかとまどかは合流した後まどかの家へ行った。運がいいのか知久と詢子とタツヤは出かけており、傷付いた2人を見られずに済んでいた。

 

「ほむらちゃん、マミさん、傷薬持ってたよ」

 

まどかが救急箱を持って3人がいる部屋ーまどかの部屋ーに入る。

マミは動かず、ほむらが受け取った。

幸い、傷は浅かったためか傷はほとんど治っており、薬を必要としないほどになっていた。

 

「魔法少女って治癒能力も上がるんですね」

 

まどかが感心したように言う。

 

「そのために魔力を消費しちゃうけどね」

 

ほむらが呆れと自傷を半々にしたような口調で言った。

そこから誰も何も語らなかった。自然と訪れる気まずい沈黙。まどかもさやかも聞きたいことはあり、それをほむらもマミも理解していた。しかし、誰も言い出せずにいた。

 

「・・・・。あ、あのさ」

 

数分経った後、さやかが遠慮気味に口を開いた。

 

「あのさ、その、怪人はそんなに強かった、の?」

 

ビクッ!と2人の身体が反応した。よほどトラウマが強いのか、マミに至っては冷や汗をかいていて、ガタガタと震えていた。

 

「えと、その、ごめん。でも、やっぱり聞きたくて」

 

さやかはそれ以降黙ってしまった。そこから再び訪れる沈黙。が、唐突にほむらがそれを破る。

 

「強かったわ。とても。私たちが本気を出しても勝てなかったもの。はっきり言って二度と会いたくはないわね。ね、巴さん?」

 

『本気を出しても勝てなかった』という部分を聞いてさゆかは訝しげな目線をほむらに向け、マミは話題を振られ、反応こそは遅かったが、そうね、とただ一言だけ言った。

 

「仮面ライダーがいたら勝てたのかしら・・・」

 

ほむらがボソッと呟いた。彼女は独り言のつもりだったが、それは他の3人にもはっきり聞こえており、さやかは驚いた視線を向けた。

 

「何かしら?」

 

その視線に気付いたほむらが聞いた。

 

「転校生、それはただの噂だよ。そういった話があるだけで噂は噂でしかないよ。仮面ライダーを見たって人もいるけど、どの証言も姿形もバラバラなんだ。しかも、中にはBADANの怪人が仮面ライダーだったって言う人もいるし。結局デタラメなんだよ」

 

マミは反応せず、まどかは何か言いたげだった。

 

「それじゃ、SPIRITS部隊に知らせるのは?BADANを倒したんでしょ?」

「それは無理なんだよ、ほむらちゃん」

 

次はまどかが答えた。

 

「SPIRITS部隊はたしかにあったし、BADANを倒すために力を尽くしてくれた。だから全てが終わって大国が一応経済的に立て直した時に無理矢理解散させられたの。自国の軍事力より優れた部隊はいらないって」

「それじゃ、本当に私たち2人で何とかしないといけないってことね」

 

ほむらは何かを決断するような口調で言った。

マミもまだ震えており、反応できないでいた。

さやかはそんなマミの姿を見て、決めかねるように言った。

 

「ね、ねぇ」

「何からしら?美樹さやか」

「私が魔法少女になるってのはダメなのかな。だってそうすれば戦力は上がるし、私の願いも叶うし」

「絶対にダメよ」

 

ほむらは即答した。

 

「なんでダメなのさ」

「簡単よ。あなたに命をかけて戦ってほしくないからよ。それに、ベテランのマミや私が力を合わせて勝てなかった相手に初心者のあなたが加わったところで戦力としては変わらないわ。いいえ、むしろ下がるかもね」

 

ほむらの正論にさやかは黙るしかなかった。

その時、玄関が開く音がした。そして、ただいまという3つの声が聞こえた。まどか達は知久、詢子、タツヤの3人が帰ってきたことを悟った。

 

「それじゃ、私たちは帰るわ。まどか、ありがとう。行くわよ。巴マミ」

 

ほむらが立ち上がって、いつもと変わらぬ口調で言った。

マミの方も立ち上がり、動きはぎこちないが帰る支度をする。

 

「待って。ほむらちゃん達、制服はどうするの?破れちゃってるし」

「心配には及ばないわ。この程度、魔法で治せるもの。私も、巴マミも」

 

そう言ってほむらは制服を修正してみせた。マミもそれに倣って制服を治す。

その後、ほむらはマミの手を取って、また明日と一言だけ告げて出て行った。

 

「んじゃ、私も帰るわ」

 

2人の後ろ姿を見送ったさやかも立ち上がった。

 

「ま、待っ」

 

ここまで言ってまどかは止めた。

 

「まどか?」

 

さやかが振り返る。

 

「ま、また、また明日ね」

 

まどかがそう言った時、さやかは一瞬複雑な顔をしたが、すぐに笑顔になって、じゃあねと告げて部屋を出て行った。まどかしかいなくなった部屋。そこは妙に静まり返っていた。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

マミとほむらはまどかの家を出た後、手をつないで歩いていた。マミの手はまだ小さく震えていて、彼女がいかに恐怖しているかを物語っていた。

 

「あ、暁美さん。その、ごめんなさい。私の力が至らなかったばっかりに」

 

マミの震えた声。

 

「いいえ。私の方こそごめんなさい。怪人を甘くみていたわ。まさかあんなに強かったなんて思わなかったもの」

 

事実、ほむらは侮っていた。怪人といっても経験値は自分の方があるという絶対の自信があったからだ。

 

「暁美さんは強いのね。私なんかよりもずっと」

 

自傷気味にマミは言った。

 

「そんなことないわ。ただ、私には目的があるだけ。それを達成するためには負けてられないもの」

「目的?」

「ええ。手の届く限り、みんなを守るっていう目的よ。それにあなたは私の目標でもあるのよ」

 

マミは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで、そう、と言った。

 

「でも、なんで私なんかを?あなたと出会ってまだ2日しか経ってないのに」

「それは・・・秘密よ」

 

そこから2人はとりとめもない話をした。基本的にはほむらが何かを言ってマミがそれに答える形だったが、それでもマミの表情はだんだん明るいものになっていき、体の震えもなくなっていた。

 

 

 

「それじゃ、私はこっちだから」

 

歩いて数分経った時、2人は十字路に着き、ほむらはマミの手を離し、彼女の家とは別の方向へ行こうとした。しかし、

 

「待って、暁美さん!」

 

というマミの声に止められた。

 

「何かしら?」

 

くるりと振り返り、髪をかき上げるほむら。

 

「これからも、これからも一緒に戦ってくれる?」

 

確認するかのような口調で聞くマミ。

ほむらは当然よ、と優しく微笑んだ。

 

 

 

夜、さやかは寝室で考えていた。魔法少女の事、ほむらの事、マミの事、怪人の事。そして、自身の想い人である上条恭介のこと。

 

「何で、何で転校生は魔法少女になるなって言うんだろ」

 

答えは返ってこない、はずだった。

 

『自分の取り分が減るからじゃないからかな』

 

脳内に響く、無機質な声。さやかは後ろを振り向いた。案の定、そこにはQBがいた。

 

「あんた、マミさんのことにいなくてもいいの?」

『マミの所にも行ったんだけど、一人にしてほしいって言われたんだ』

「そうなんだ。で、今言ってた事だけど」

『これは僕の推測と経験によるものだけど、暁美ほむらが自身の利益のためにマミに近付いている可能性は高い。僕たちもそういう娘を何人も見てきたからね』

「そんな…」

『残念だけど、これは真実だ。それに最近、魔法少女狩りというものがある』

「魔法少女狩り?」

『うん。今は風見野を中心に行動してる。現に何人もの魔法少女がやられている」

「何人も!?」

『それに、目撃証言からすると犯人は魔法少女。しかも黒髪らしい』

「待って、転校生の能力って一体」

『これも推測でしかないけど、瞬間移動の類じゃないかな?』

 

さやかは戦慄した。黒髪の魔法少女。それは暁美ほむらに合っていたからだ。そして、もしほむらの能力が瞬間移動だとしたら、風見野での犯行も可能になるからだ。

 

「ま、マミさんとまどかには伝えたの?」

『マミには一応伝えておいた。まどかはまだ、というかできないんだ。』

「なんで!?」

『彼女の周りに結界が張ってあるんだよ。それもかなり強力な。僕たちと魔女を一切通さない仕組みになっている。暁美ほむらが張ってる可能性は否定できない』

「ねぇ、何で転校生はまどかにそんなに拘るの?」

 

さやかは自然と思った事を口にする。QBはそれに対してふぅ、と一息ついてから答えた。

 

『彼女の秘めた潜在力はとんでもないものだからだよ。もしまどかが魔法少女になったら、きっとマミ以上に強力な魔法少女になれるだろうね』

「ウソッ!?まどかが!??」

 

さやかは彼女のことを虫一匹殺せない優しい娘と認識していた為に、QBの言った事が信じれなかった。

 

『僕たちは嘘を吐けないようになっている』

 

QBが自身の言ったことを正論化するかのように付け足した。

 

「それじゃ、転校生がまどかに拘るのは」

『自分よりも強い存在が邪魔だ、という理由だろうね』

「そんな…」

 

それ以降さやかは何も言わず、QBも黙っていた。

数分経った時、QBは再び話し出した。

 

『彼女の監視はどうやら君にはそこまで徹底されていないようだ。魔法少女になるには今がベストだろ思うけど・・・』

 

さやかはしばらく経ってから、今は止めとく、と言った。

 

 

 

場所は変わってほむらの家。彼女は布団の中で今日戦った怪人の事を考えていた。

 

「あんなに、あんなに強いなんて・・・」

 

ほむらは目をつむり、その時のことを思い出していた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、これで私たちになったわよ」

 

まどかとさやかがOLを連れて逃げた時、マミが磁石イノシシに言った。しかし彼女の目は泳いでおり、恐怖していることははっきりと分かった。

 

「シャシャシャシャ!貴様らのようなザコがいくら集まっても俺には勝てんわ!!」

 

2人はそのバカにしたような笑いを気にもせず、ほむらはバックルから拳銃を取り出し、マミはマスケット銃を召喚して構えた。

 

「来い!魔法少女!!」

 

磁石イノシシのその一言でマミとほむらは引き金を引いた。二人合わせて約20000発。これを2、3分で撃った。さすがに全ての弾は当たらなかったのか、いくつかは外れ粉塵を巻き起こした。

この時2人は磁石イノシシを完全に倒したと思っていた。マミの顔色も多少明るくなり、トラウマを克服できたと言った表情だった。しかし、それはいとも簡単に裏切られた。

粉塵が収まった時、2人が目にしたのは絶望だった。磁石イノシシに当たったはずの弾は全て彼の目の前で止まっていたからだ。

 

「この俺にそんなものは効かん!!磁石バリアーがあるからな!!!」

 

この時2人は、自分たちの攻撃では太刀打ちできないことを察した。瞬間、マミの身体が再び震えだした。

 

「今度は俺から行くぞ!!」

 

磁石イノシシはそう言って全力でダッシュした。

 

「イノシシ・ダッシュ!!」

 

その攻撃にほむらはなんとかして避けたが、マミはモロに受けてしまい、吹き飛ばされた。

 

「クッ!このままでは!!」

 

ほむらは焦り、急いでマミの元へと向かった。そして、耳元で何かを囁いた。

 

「ふん!次で終わらせてやる!!」

 

磁石イノシシは2人がどんな相談をしても関係ないといった口調でそう言い、2発目のイノシシ・ダッシュの準備をした。が、次の瞬間、彼の目の前にある物が置かれた。

 

「何だこれは!!」

 

そう言うのとそれが爆発して光ったのは同時だった。

目の前に置いたもの。それは閃光手榴弾だった。この隙にほむらはマミを抱え、廃ビルから脱出した。しかし、脱出の際負傷したため、速度は遅かった。が、運がいいためか、磁石イノシシは追ってこず、そのまままどかたちと合流できた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「どうしたらいいのかしら…」

 

目を開き、ため息をつく。ほむらは布団から出て机に向かい、作戦を練り始めた。

 

 

 

場所は再び変わって風見野の某ホテル内。志郎は他のライダーに定時連絡を入れていた。

 

(こちら志郎。みんな聴こえるか?)

(本郷、聞こえるぞ。)

(一文字、こっちもOKだ。)

(結城、こちらも)

 

これに続き、神啓介、アマゾン、城茂、筑波洋、沖和也、村雨良からも聞こえるとの通信を受けた。

 

(それじゃ、報告する。まだ見滝原には着いていない。それと今日、変な奴と戦った。おかしな空間を作り出し、人間を喰らっていた。その中で少女、幼女を一名ずつ保護した。少女の方はその変な奴を魔女と呼んで戦っていた)

 

ここまで伝えた時、志郎を除く全員の通信の波長に乱れが生じた。

 

(どうしたんです?何か知っているんですか?)

 

不審に思い、聞く志郎。

 

(そうか、お前はあん時音信不通になってたもんな。)

 

一文字が納得したように言った。

 

(志郎、お前は今その少女と共にいるのか?)

 

本郷からの質問に志郎は、はいと答えた。

 

(ならば事情はその娘から聞け。全てを話すのはその後だ)

 

本郷からの命令に志郎は従うことにした。

 

(分かりました。また連絡します)

 

そう言って、志郎は通信を切った。

チラリ、と近くのベッドを見た。そこには杏子とゆまが寝ていた。

 

「ふぅ。魔女、か」

 

今日1日あったことを再び頭の中でまとめる志郎。

常識的には考えられない存在。魔女と魔法少女。しかし、彼は現にそれを見た。

 

「あの声もそれと関係あるのか?」

 

再び思考の波に呑まれそうになるが、ベッドの中が動き、ぼやけた顔をした杏子を見た事でそれを止めた。

 

「目が覚めたか。痛いところは無いか?一応応急処置だけはしておいたが」

 

杏子に近づきながら話しかける志郎。一方の杏子はまだ意識がしっかりしていないのか、反応は薄かった。

1,2分程経った後、急に杏子の目は見開かれ志郎に食ってかかった。

 

「志郎、テメーどういうことだ!仮面ライダーだって知ってたら…」

 

杏子の言葉はそこで途切れてしまった。志郎の人差し指が彼女の唇に当たったからだ。

 

「落ち着け。それに大きな声を出すとあの娘が起きちまうぞ」

 

杏子がベッドを見、理解した。そして小さな声で話し始めた。

 

「まあ、なんだ。その、さっきはすまんかったな。取り乱しちまって」

「気にするな。それよりも俺はお前に聞きたいことがある」

「あたしらについて、か」

 

肯定の意を込めて頷く志郎。それを見て杏子はため息をついて語り始めた。

 

「あたしらは魔法少女って言って……」

 

志郎は彼女の口から語られた事実にあまり驚愕しなかった。しかし、一つの疑問が生じていた。

 

「・・・・と、いうわけ」

 

一通り説明を終えたのか、杏子はそこから黙った。すかさず志郎が質問する。

 

「お前らはQBとやらと契約して魔法少女になるんだったな?なら、QBの目的は何だ?」

「知らねぇよ」

 

即答する杏子。志郎はふむ、といった様子でいくつかの仮説を作ろうと考え始めた。が、それは頭の中に響く声によって止められた。

 

「ん?誰だ?」

 

志郎は周りを見回した。すると、部屋のドア付近にいる一匹の白い獣が目に入った。

 

「貴様は?」

 

それに話しかける志郎。するとその生物は赤い瞳で志郎の事をまじまじと見つめ、杏子は目を見開いて志郎を見た。

 

「貴様がQBか?」

 

先ほどとは違い、確認するかのような口調で聞く志郎。するとそれは口を動かさず頭の中に直接話した。

 

『そうだよ。それにしても驚いたなぁ。僕のことが見えるなんて。さすが仮面ライダーといったところか』

「そうか。で、貴様はさっき『それは僕の口から説明しよう』と言ってきたな?」

『言ったよ。杏子もいるし、ちょうどいい機会だ。僕たちの目的を話しておこう』

「へぇ〜、そんなこと話すなんて、あんたにしちゃ珍しいな」

 

杏子が菓子の袋を開け、感心したように言う。

 

『僕たちの目的、それはこの世を守ることさ』

「守るだと?」

『そう。僕たちはこの世を守りたいんだ。けど僕たちでは魔法少女になることはできない。だから杏子のような素質のある娘に頼むんだ』

「ほう」

 

QBに対して訝しげな視線を向ける志郎。しかし、当のQBはそんなことを気にしないかのように話を続けた。

 

『事実、僕たちは非常に助かってるんだ。彼女達が戦ってることにね。そうすることで僕たちの目標に近づけるのだから』

「なるほど、な」

 

志郎は近くにあった椅子に腰をかけ、ジッとQBを見つめた。

 

「で」

 

それまでスナック菓子を頬張っていた杏子が口を開く。

 

「QBがここに来た理由は何だ?さすがに志郎とあたしにそれをわざわざ説明するために来たわけじゃないんだろ?」

『うん。僕がここに来た本来の理由は君たち2人に情報を渡すためさ』

「情報?」

『そう。まずは杏子から。最近魔法少女狩りが行われている。それも魔法少女の手によって。残念ながら犯人は分からないけど』

「本当かよ?」

『本当のことだ。そして、風見志郎。君にも伝えることがある』

「何だ?」

『最近、ネクスト・デストロンなるものが動いている。彼らは再びこの世を支配するつもりだ。気をつけたほうがいい』

「そうか」

 

志郎はQBの言っていることは本当のことだと分かった。しかし、気になることがあった。

 

「なぜお前がネクスト・デストロンという組織を知っている?俺たちでさえ知らなかったのに」

『たまたまさ。偶然とある魔法少女が奴らと遭遇してね。彼女の犠牲によって得られた情報だ』

 

『犠牲』というフレーズを聞いて、志郎は一瞬、悔しそうな、悲しいような複雑な表情をした。

 

『僕の言いたいことはそれだけだ』

 

そう言ってQBはクルリと振り返って、ドアへと向かった。

 

「どこに行くつもりだ?」

 

志郎が聞く。

 

『他の魔法少女の所へ行って情報を回すのさ』

 

そう残してQBは消えた。

チラリと志郎は杏子見た。

 

(こいつらは死ぬまで闘い続ける。自分の運命と魔女と。だが、これが彼女達にとっての幸せなのか?)

 

その視線に気付いたのか、杏子は何かを言おうとした。しかし、後方でゆまの声が聞こえたので結局やめた。

 

 

 

「・・・・・。どこ、ここ?」

 

開口一番、ゆまが言った言葉がそれだった。彼女は周りをキョロキョロと見回し、頭に?マークを浮かべた。

 

「目が覚めたか」

 

そんな姿を見た志郎が近づく。

 

「あ、志郎。おはよう」

 

その存在に気づいたのか、ゆまが二パッとした笑顔で言った。

 

「ああ。気分はどうだ?」

「久しぶりにいっぱい寝たから元気だよ!」

「そうか。だが、まだ夜は更けていない。もう一寝入りしておけ」

「えー、眠くないよー」

「・・・、はぁ。分かった。午前中に遊びに連れて行ってやるから、今は寝ろ」

「え!?本当!??」

「本当だ。だから寝ろ」

 

ゆまは分かった、と言い再び布団にもぐった。一見するとゆまは魔女に襲われた事に関して何も感じてはいないように見えた。が、長年戦ってきた志郎の鍛えられた観察眼はゆまのとある行動に気づいていた。

 

(こいつ、久しぶりによく寝たと言ってたな。それに、目の前で人が殺されていたというのにそれに対するトラウマが全くない。・・・まさか)

 

そう思い志郎は寝息を立て始めたゆまの前髪をそっとあげた。

 

「ッ!!」

 

そこにあったものを見た志郎はゆまの頭を撫で、こっそりと杏子のいる場所へと戻った。

 

 

 

「杏子、一つ聞き忘れた事がある」

 

杏子の元へと戻った志郎が聞いた。

 

「何?」

 

対して杏子は興味がないとでもいうように新しいお菓子の袋を開けていた。

 

「もし、魔女の結界内で死んだらどうなる?」

 

ピタリ、と菓子を口に運ぶ手が止まる杏子。そしてニヤリと笑って、

 

「当然、魔女が死んで結界がなくなったら帰ってこない」

 

と言った。

 

 

朝が明ける。この日、機械の男と魔法少女は出会いを果たす。

 

つづく




今回は次回予告なしです。後編もよろしくお願いします。m(__)m


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第5話 機械と少女の出会い/後編 side魔法少女①

お待たせしました!第5話の後編に突入します!とは言っても今回は風見志郎及び仮面ライダーV3は出てきません・・・。多分第6話に行くのはあと2,3話ほどかかるかと。本当に申し訳ありませんm(_ _)m
それでは、第4話後編その1、お楽しみください。


朝が来た。アラームが鳴り、まどかはむくりと体を起こした。

 

「ふわぁ〜」

 

大きな欠伸をしながらベッドから降り、下の階へと向かった。

そこからまどかはいつも通り母親を起こし、家族揃って朝食を摂っていた。しかし、彼女の顔は暗く、目の下も黒くなっていた。

 

「寝れなかったのか?」

 

そんなまどかの様子に気づいたのか、詢子が尋ねる。

 

「う、ううん。大丈夫だよ」

 

笑顔を作り、答えるまどか。しかし、すぐに顔を伏せてしまう。

詢子は基本的に娘であるまどかを全面的に信頼していた。

そのため、それ以降は何も聞かずに朝食を摂った。

 

 

 

「行ってきまーす!」

朝食を食べてすぐ、まどかは走って家を出た。時間はまだ余裕があったが、マミとほむらに早く会いたいという一心でこのような行動をとっていた。

 

(ほむらちゃんとマミさん、今日も魔女退治に行くのかな…)

 

一抹の不安を抱きながら、まどかは走り続けた。

 

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

 

学校に着いたまどか達は教室へと向かっていた。途中、マミとほむらには合わなかった。

 

(さやかちゃん、さやかちゃん)

 

さやか、仁美と話している時にまどかはさやかにテレパシーを送った。

 

(とうしたの、まどか?)

(ほむらちゃんとマミさん、大丈夫かな)

(……。大丈夫じゃない?)

(でも、)

まどかが何かを返そうとするが、さやかが捲したてる。

(魔法少女なんだからさ。マミさんはきっと大丈夫。それよりも…)

(それよりも?)

(まどか、あの転校生に何か言われた?)

 

転校生、つまり、ほむらに対して急な質問をされ、その意図が分からないまま、まどかは言われてないと答えた。

 

(・・・そう、なんだ)

 

意味ありげにさやかが言った。

 

(どうしたのさやかちゃん?)

(いや、あのさ・・・)

 

「それは禁断の愛ですわーーー!」

 

さやかが途中まで言った時、仁美が大きな声でそう言ってひとり、走って教室へと向かっていった。

しまった、といった顔をする2人。知らぬうちに仁美を置いてきぼりにしていた事に気付いたからだ。もともと彼女はお嬢様育ちなので一般常識に疎く、思考が少し外れた所がある。

 

「禁断の愛、って言ってたね」

 

まどかが呟く。

 

「どんな勘違いしてるのやら」

 

はぁ、と溜息を吐きながら苦笑するさやか。

直後、2人は周りの生徒からの視線に気付き、顔を伏せ、そそくさとその場を去った。

教室に着いた2人はまず、仁美の元へと向かい誤解を解いた。最初こそは禁断ですわーや、愛に形なんて関係ありませんわーと言っていたが、さやかとまどかの必死の説明によりなんとか理解してもらえた。

 

(そういえば)

 

まどかはほむらの事を思い出し、教室を見回した。しかし、彼女はいなかった。

 

(ほむらちゃん、マミさん…)

 

 

同時刻、暁美ほむらは巴マミの家にいた。マミから紅茶を出され、舌鼓を打っていた。

 

「ふぅ、美味しいわね」

 

ティーカップを唇から離し、皿に置いたほむらは一言いった。

 

「暁美さん、どうしたの?そろそろ学校に行かないと…」

 

QBから魔法少女狩りの犯人がほむらの可能性があると聞いていたため、マミはすこし警戒しながら尋ねた。

 

「今日は学校に行かないわ」

「え?」

「あなたに言わなければならない事があるもの」

「今じゃなきゃいけない事?」

「ええ。今日しか機会がないの。お願い」

ふむ、と手を顎に当てたマミは少し目を瞑り、了承した。

 

「ありがとう。で、私が言いたいのは…」

 

彼女の口から言われたことを聞いたマミは目を見開き、口を手で覆った。

ほむらの口から言葉が出なくなってしばらく。そこには沈黙が訪れていた。マミの顔は青白くなっていて、震えていた。

 

「あ、暁美、さん…」

「……」

「今の話、本当かしら……」

「ええ。私の能力で分かったことだから」

 

ここで一旦区切り、ほむらは深呼吸をして、マミの顔を見つめこう言った。

 

「私の能力は80%の確率で2日以内に戦うことになる魔女の姿と能力を知ること。そして、今日病院に魔女が現れる。その魔女は貴女との相性がとても悪い。しかも、コンディションも最悪。このままだと、貴女はその魔女に殺されるわ。巴マミ」

「私が、死ぬ……」

「だから貴女に選んでほしいの」

「選ぶ…?」

「私と共にその魔女と戦うか、それともやめるか」

「暁美さん一人で大丈夫なの?」

「正直、キツイわ」

 

影を落とすマミ。

 

「キツイけど、私は戦うわ。みんなのために」

 

そう言ってほむらはスッと立った。

 

「ごめんなさい、急に押しかけて。私はこれで」

 

ほむらの去った部屋。マミは一筋の涙を零した。

マミは揺れていた。QBが言ったことはあくまで可能性の話だったからだ。もしQBが絶対と言ったのなら彼女はほむらの話は信じなかっただろう。しかし、何も分からないまま時間だけが虚しく経っていった。

 

「なんて、弱い娘なの。私……。どうしたら、いいのよ……。」

 

その声に応えるものはなく、ただ響くだけだった。

 

 

 

昼休み。まどかとさやかは共に屋上で昼食を摂っていた。結局ほむらは来ず、休みとなっていた。

 

「ムグムグムグ……んっ。仁美が委員会でよかったよ」

 

口に入れた肉団子を飲み込み、さやかがそう言う。

 

「そうだね……。さすがに仁美ちゃんの前じゃ魔法少女の話はできないもんね。」

「仁美にそんなこと知られたらまた変な誤解されるよ〜」

 

まどかはそれに対しそうだね、と相槌を打った。

 

「今日、マミさんいなかったね。それにほむらちゃんも。大丈夫かな」

 

まどかのその一言でさやかの箸がピタリと止まった。

 

「やっぱり昨日の怪我が」

「ねえ、まどか」

 

まどかの言葉をさやかが途中で遮る。

 

「ど、どうしたの?」

「あのさ、今日は体験講座お休みだよね?」

「え、う、うん。」

「だったらさ、少し付き合ってくんない?久しぶりに病院に行きたいし」

「う、うん。いいよ」

 

さやかの急な質問責めに、まどかは驚きながら答える。

 

「そ、それでさ、話を戻すけど、」

「あ、ごめん!まどか!あたし、ちょっと用事を思い出しちゃって!」

 

話題を戻そうとするまどかに対し、さやかは弁当を片付け始め、そう言った。

 

「それじゃ、まどが!」

 

そう言ってさやかは走って屋内へと帰って行った。一人残されたまどかは悲しそうな顔をし、ぽつりと呟いた。

 

「どうして、さやかちゃんはほむらちゃんのことがそんなに嫌いなの?」

 

その後、彼女は一人で弁当を食べ続けた。しかし、いつものものと変わらないはずなのに、それは美味しくないと感じた。

 

 

見滝原の繁華街。そこは街中と比べて再興は進んでいた。しかし、人はかなり少なかった。そして、その中に暁美ほむらはいた。

「まさか、私がこんな事をするなんてね」

 

呆れたような表情をして、自傷気味に笑う。

「でも」

 

ほむらは右手にはめられた2つの指輪を見る。

「これでいいのよね。まどか、リィズ」

 

 

 

学校が終わり、生徒たちは各々の行動を始めた。帰るものもいれば部活に行くものもいた。まどか達も例外ではなく、帰る支度をしていた。

 

「さやかちゃん、おまたせ」

 

準備を終えたまどかがさやかの元へと向かう。

 

「オーケーオーケー。あたしこそゴメンね。付き合わせちゃって」

「私はべつにいいよ。それじゃ、いこ?」

「おう!」

 

この日、志筑仁美は共に帰らなかった。親の仕事で手伝わなければならない事があると言って、先に帰ったからだ。

 

「上条君の所に行くの、久しぶりだね」

「うん。あいつ、元気かな〜」

 

上条恭介。それはさやかの幼馴染であるとともに、さやかの想い他人である少年である。彼は天才バイオリニストと謳われ、将来は世界で活躍するだろうと誰もが信じて疑わなかった。しかし、それはある事件により閉ざされた。

 

ーBADAN侵攻ー

怪人から逃げている途中に捕まり、右腕を潰されたのだ。それにより彼は左手しか動かなくなった。しかし、現在もまだ治ることを信じて入院し、リハビリを続けている。さやかはそんな恭介に対してせめて好きな音楽だけは聞かせてあげたいと思い、小遣いのほぼ全てを使ってCDを買い、お見舞いに行くたびに持って行っていた。

 

「まどかはさ」

 

さやかが聞く。

 

「まどかはさ、もう願い事、決めた?」

「私はまだ、かな」

「そう、なんだ」

「さやかちゃんはどうなの?」

「分かんない」

「どうして急にそんなこと聞いたの?」

「あのさ…」

 

さやかの言葉はそこで止まってしまう。しかし、まどかは彼女が何か重大なことを言おうとしているのはその様子から理解した。

 

「まどかはさ、魔法少女狩りって、QBから聞いた?」

「魔法少女狩り?何なの?それ」

 

さやかはチラリとまどかの顔を見る。言葉からその意味を察したのか、顔が青くなっていた。

 

「昨日、QBから聞いたんだ。最近魔法少女狩りがあるって。魔法少女が魔法少女を殺してるって」

「そ、そんな……」

「その、犯人がほむらかもしれないって」

 

まどかは目を見開いた。ほむらがそんなことをするとは思っていなかったからだ。しかし、疑問も生じていた。

 

「何で……?」

「ん?」

「何でQBは私に教えてくれなかったの?」

「まどかの家に結界が貼ってあるからだって」

「結界?」

「うん。それのせいでQBも魔女もまどかの家には近づかないんだって」

「それじゃ、それも」

「そう。あいつがやった可能性が高い」

「嘘……」

 

まどかは今にも泣きそうだった。しかし、さやかはそれに気づかないのか、もしくは気にしていないのか、さらに続ける。

 

「なんであいつがそんなにまどかに拘るか分かる?」

 

首を横に振るまどか。さやかは息を吸い、じっとまどかを見つめ、答えを言った。

 

「あんたがものすごい魔力の持ち主だからだって」

「えっ……?」

「だから、あんたはあたしやマミさん、転校生よりも強い魔力を持ってるんだって!まどかが魔法少女になったら誰にも負けないぐらい強くなるんだって!」

「え、そんな……」

 

未だに信じられないのか口をパクパク動かすまとか。

 

「あたしだって信じられないよ。まどかにそんなすごい素質があったなんて。でも、やっぱまどかは魔法少女にならない方がいい。なんでか分かる?」

 

まどかはろくに回らない頭で答えを導き出す。

 

「私が魔法少女になろうとしたらほむらちゃんが真っ先に殺しに来るから……?」

「そう。だから」

「分かってるよ、さやかちゃん。気をつけるね」

 

そこからは2人は何も話さずにただ目的地に向かって歩いた。

10分ほど経った時、

 

「あ、着いたね」

 

一言まどかが言う。

 

「うん。その、悪いんだけどさ」

「分かってる。待ってるね」

「ありがとう!!」

 

そう言ってさやかは小走りに病院内に入っていった。

 

「もう、さやかちゃんったら」

 

苦笑いと共にまどかも病院内へと入り、ロビーにあった椅子に座った。

 

 

 

ウィーーン、、、、、

 

音と共にエレベーターが動き、さやかの体に振動を伝える。彼女はそれを心地いいと思いながら鞄の中を確認した。

 

「よし。ちゃんとあるね」

 

さやかの視線の先。そこには1枚のCDケースがあった。

 

「恭介、喜んでくれるかなぁ」

 

この時、さやかの顔はにやけていた。

そんなことをしていると、エレベーターが止まった。

 

「あ、着いた♪」

 

最早天国にも昇るような気分でさやかは恭介の病室へと向かった。

 

 

 

ガチャリ・・・。

 

ドアが開き、さやかが入室する。

急な訪問者の登場に恭介は驚いた様子だった。

 

「久しぶりだね、さやか」

 

恭介が言う。

 

「うん、久しぶり。っていっても4日ぶりでしょ」

 

笑顔を絶やさずにさやかが答える。

 

「それだけだっけ?ははは、いけないな。どうも入院してると時間の感覚が狂っちゃって」

「もう、恭介ったら」

 

しばらく2人で笑いあった後、さやかが思い出したように言う。

 

「そうだ、今日、恭介にプレゼントがあるんだ」

そう言って鞄の中から持ってきたCDを渡した。

 

「いつもありがとう。さやかは珍しいCDを探す天才だね」

 

CDを受け取った恭介は嬉しそうにカバーを開け、近くにあったプレイヤーに入れた。

 

「さやかも聞いてみる?この人の演奏は本当に凄いんだ」

 

そう言って、イヤホンの片方をさやかに渡す恭介。さやかはそれを耳に挿れる。必然的に二人の顔が近くなり、さやかは平常心でいる事に努めた。

恭介がCDを流し始める。それはとても優しく、暖かい音色が流れる。

ふと、さやかは目を瞑る。瞼の裏にはまだ幼い頃、両親に連れられてきたヴァイオリンのコンサートで初めて恭介の演奏を聞いた時の映像が流れていた。

 

(あの頃からあたしは恭介が好きだったんだな…)

 

心が幸福で満たされ、さやかはこの時間がずっと続けばいいのにと願った。

しかし、それは止められた。隣で音楽を聴いている恭介の泣き声が聞こえたからだ。

 

(恭介……)

 

さやかは自分の無力さを悔やんだ。

 

 

 

さやかを待ち始めて1時間ほど経った。まどかはふと顔を上げ、さやかがまだ帰ってこないのかを確認すると、丁度エレベーターを降りたさやかを見た。

 

「あ、まどか。ごめん、お待たせ」

 

急ぎ足でまどかの元へ向かうさやか。

 

「ううん、いいよ。それより、もういいの?」

「うん。ありがとう、まどか」

 

そこから2人は病院を出た。さやかが一方的にまどかに話しかけるだけだったが、それでもまどかは楽しそうに聞いていた。

 

「ん?何?あれ?」

 

ふと、さやかが立ち止まり、病院の外壁を指差す。

そこには黒色の亀裂が入っていた。

 

「え、これってまさか、グリーフシード!?」

 

さやかの焦った声を聞き、まどかも焦り、ふとマミの言っていた事を思い出す。

 

(確か、病院に魔女がいると最悪だって……)

 

しかし、2人はマミと連絡を取る手段を有していなかった。

 

「このままじゃ」

 

さやかがそう言った直後、グリーフシードから黒色の光が漏れ、まどかとさやかを結界の中へと連れ込んだ。

結界内は前のものとは違い、お菓子の箱のようなものが大量に置かれている空間だった。

 

「どうしよう」

 

まどかがさやかに寄り添う。さやかもまどかの体に抱きつき、離れまいとする。

周りには丸い使い魔が何体もおり、まどか達に今にも襲いかかろうとしていた。

 

(助けて!誰かぁぁぁ!!)

 

目をつむり、心の中でまどかは叫んだ。

パァン・・・パァン・・・。パァン・・・。

刹那、乾いた銃声がいくつか響く。

 

「な、何が、あったの?」

 

まどかは目を開き、現状を確認する。するとそこには体に穴を空けられ、倒れこむ使い魔の姿が見えた。さやかも目をつむっていたようで、ようやく開き、その光景を見た。

 

「間に合ったわね。よかったわ」

 

後ろで聞こえる声。まどかとさやかが振り返る。そこには片手に拳銃を持ったほむらが、魔法少女の姿で立っていた。

 

「正直言って、焦ったわ。あなた達がこんなにも早く結界に取り込まれるなんて思ってなかったから」

「内心喜んでんじゃないの?」

 

さやかが皮肉を込めた口調で言う。

 

「何を言っているのかしら?」

「自分のない胸に聞いてみたら?」

 

『ない胸』というワードを聞いた瞬間、ほむらの額にスジができる。しかし、それを理性で押さえ込み、まどかに話しかけた。

 

「大丈夫かしら?怪我はない?」

「う、うん。大丈夫、だよ。あ、ありがとう」

 

それを聞いたほむらは、そう、とただ一言言って、微笑んだ。そして、

 

「あなた達がここから出るには魔女を倒すしかないわ。魔女の結界は完成されると内側から出る事は不可能よ。だから2人とも、私と一緒に来なさい」

「……本当かよ」

 

ボソッとさやかが言う。

 

「何が、かしら?美樹さやか」

「魔女の結界についてだよ。あんた本当は私達を魔女の餌にするつもりじゃないでしょうね?」

 

ほむらはハァと溜息をつき、さやかを睨んだ。

 

「そんな事をして私に何の利益があるのかしら?死にたいのなら勝手に死に……、いいえ。だめよ。絶対に死なせたくないのよ」

 

絶対零度のように冷たい声音は途中からは不思議と寂しそうなものへと変わった。

 

「ねぇ、さやかちゃん」

 

まどかが話しかける。

 

「ほむらちゃんの事、信じようよ」

「……。分かったわよ」

 

渋々といった様子でさやかは了承した。

そこからは非常に速く進んだ。そして、襲いかかってきた使い魔の体に、目にも留まらぬ速さで撃ち抜いていった。

 

「もうすぐよ」

 

進み始めてから約15分後。ほむらは急に立ち止まった。

 

「ここよ」

 

一言そう言い、ドアのようなものに手をかざす。すると、それが開き、中へと入れるようになった。

 

「注意だけしとくわ。危険だから変な事はしないで」

 

ほむらの警告を受けた後、3人は同時に魔女と対峙した。

 

 

 

(私は、今までなんの為に戦ってたの?)

 

マンションの一室ーマミの部屋ーで彼女は考えていた。

 

(私は、なんの為に魔法少女になったの?)

 

自問しても答えは出てこない。

「教えてよ、お父さん、お母さん……」

 

当然、それに答える者はいない。しかし。

 

コトン・・・。

 

マミの背後で何かが落ちた音が聞こえた。ゆっくりと振り返り、何が落ちたのか確認するマミ。それを見た瞬間、彼女はハッとした顔をした。

それは、一枚の写真だった。そこにはグリーフシードを手にしながらにっこりと笑っているマミがいた。

 

「これは、私が初めて魔女を倒した時の……。」

 

そう。その写真は彼女が魔法少女になって間もない頃、QBにアドバイスを貰いながらではあるが、魔女を倒した時のものだった。

 

「私は……。」

マミの心に光が差す。

「私は、皆を守りたいと思って……。」

 

(私の目的。それは、皆を守ることよ)

 

ふと、ほむらの顔が目に浮かぶ。

 

(私は、私は!!)

 

スクッと立ち上がり、駆け足で外へ出る。

 

(私は、鹿目さんを、美樹さんを、暁美さんを、皆を守る!)

 

強い意志と共にマミは変身し、病院へと急行した。

 

 

 

結界の最深部に辿り着いたほむらは、まどかとさやかを物陰へと隠れさせた。

 

「絶対に動かないでちょうだい」

 

ほむらが2人を、特にさやかを見ながら言った。そして、答えを聞かずに盾に収納されている拳銃を取り出して、魔女の元へと向かった。

彼女の視線の先には、袋付きキャンディのような形をした頭部にぬいぐるみのような体をした可愛らしい魔女がいた。

 

ーその魔女の名は「シャルロッテ」。性質は「執着」。彼女は常にチーズを求める。しかし、彼女の使い魔はそれを持ってくることが出来ない。ならば彼女は…ー

 

ほむらは容赦なく鉛玉を撃ち込む。シャルロッテも抵抗するわけでもなく、されるがままにされていた。

 

「あれ、余裕じゃない?」

 

その様子を見ていたさやかがボソッと言う。

 

「うん。でも、なんでだろう」

 

まどかが反論するように言う。

 

「嫌な、予感がする」

「嫌な予感って、何?」

「分かんない。でも」

 

事実、まどかはひや汗をかいていた。理由こそ分からないが、それが嫌なものだということは直感で分かっていた。

 

「そうなんだ。あ、決着が着いた!」

 

さやかがそう叫んだ直後、ほむらの放ったRPGがシャルロッテの身体を貫いた。

これで終わり。魔女の結界は崩れ去り、元の世界へと帰れる。

とは、ならなかった。

シャルロッテは一瞬、ムッとした表情をした後、大きく口を開けた。すると、中から巨大な“何か”が出てきた。

それは猛スピードでほむらに突っ込んでいった。その行動をほむらは紙一重で避ける。

 

「え?え?何?あれ?」

 

さやかが混乱しながらまどかに尋ねる。

まどか自身混乱しつつもそれを見つめた。その“何か”は大蛇のような黒く長い体に、頭部付近にある羽のようなもの。そして顔にはカラフルな目にパーティ帽のような鼻に鋭い牙のついた大きな口があった。

そして、まどかは“それ”が何をしたのかを理解した。ただ突っ込んだだけでなく、その口でほむらを喰い殺そうとしたという事を。

 

「ひっ……」

 

さやかが小さな悲鳴をあげる。すると、“それ”はまどか達の存在に気付いたのか、ジロリと睨む。突如それは口角を大きく上げた。

 

【イ タ ダ キ マ ス】

 

そんな表現が似合うほど嬉しそうに、口を開け突っ込む。

 

「いや、イヤァァァァ!!」

 

ドガーーーーン・・・!!

 

しかし、“それ”が喰らい付くより早く、RPGが着弾し、大きな爆発を起こす。“それ”は勢いよくその場に倒れた。

 

「や、やった・・・の?」

 

さやかが安心したように呟く。が、

 

「逃げて!!早く!!!」

 

ほむらのつん裂くような悲鳴が聞こえた。彼女の方に目をやると周りを大量の使い魔が囲んでおり、それを相手にしているだけで精一杯という具合だった。

 

「逃げよう!まどか!!」

 

我に返ったさやかがまどかの手を引き、その場を離れようとする。

 

「ほ、ほむらちゃん!!」

 

まどかが彼女の名を叫ぶのと、“それ”に変化が起きたのは同時だった。

“それ”は口を大きく開け、中から新しい“それ”が勢いよく飛び出してきた。

 

「あ、」

もう、死ぬのかな……。せめて……。

まどかは覚悟した。どうにかさやかとほむらに生きてほしいと願いながら。

 

しかし、

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

後方で声が聞こえ、巨大な鉛弾が“それ”を撃ち抜いた。

 

「え……?」

 

まどか達が呆然としながら振り返ると、そこには魔法少女姿のマミが大量のマスケット銃を召喚して立っていた。

 

「「マ、マ、マミさーーーん!!」」

 

2人が同時にその名を呼びながら彼女の元へと走り、その胸へと飛び込む。対してマミはそれをしっかりと受け止め、優しく肩を抱く。

 

「マミさぁん、マミさぁん」

「ふふ。心配かけてごめんなさいね。でも、もう大丈夫よ。それよりも今は……」

 

まどかとさやかを体から離し、魔法で作った結界で2人を囲んだ。そして、マスケット銃を一丁とって、未だに苦戦しているほむらへの援護射撃を開始する。それと同時に“それ”が復活しにくいように攻撃を続ける。

それが1,2分ほど続くと、ほむらの方があらかた片付いたのか、跳躍してマミの元に来た。

 

「助かったわ、巴マミ。まどか達を守ってくれて」

「どういたしまして。あなたも無事でよかったわ」

「その様子だと、もう大丈夫そうね」

「ええ。貴女のおかげよ、暁美さん」

「私の?」

「ええ。だって、貴女のおかげで私はまた戦う覚悟ができたんだもの」

「それって」

「『皆を守る』ってことよ」

「……そう」

 

ほむらはただ、一言そう言って盾の中から手榴弾を取り出す。

 

「どうやって倒すのかしら?」

「あいつの倒し方はでかい奴に攻撃をすると同時に向こうにいる本体にダメージを与えることよ」

「え?あれ?」

 

マミがある方向に指をさして聞く。そこには、ぬいぐるみのようなものが力なく横たわっていた。

 

「ええ。あいつよ」

「つまり、私たちが協力しなきゃ勝てないってことね」

「そうよ。だから」

「暁美さんは本体を倒してちょうだい。私があいつの気を引くわ」

「でも、あなたは!?」

 

ほむらが食ってかかる。しかし、マミは微笑み、

 

「大丈夫よ。私を信じて」

 

と力強い声で言った。

 

「……。分かったわ。貴女を信じるわ。」

「ありがとう、暁美さん。それじゃ、行くわよ!!」

 

合図と同時に攻撃を止め、マミは挑発するかのように“それ”の頭上を飛び越えた。また、ほむらは走って本体の元へと向かった。

弾を当てると共に攻撃を華麗に避けるマミ。そして、マミのことを信じてひたすら本体に向かって走るほむら。

 

「巴マミ!!準備できたわ!!」

 

1,2分経った時、ほむらが大きな声で告げた。

 

「OK、それじゃ、こっちも」

 

マミは“それ”の隙を突き、特大の銃を創る。

 

「ティロ・フィナーレ!!!!」

「これでぇぇぇぇぇ!!」

 

マミの最大魔力を使った砲撃とほむらの放ったマシンガンの弾が目標を撃ち抜く。

 

『・・・・・・さハ・・・・チーズガ食べタカっタダケナのデス』

 

何かを言い、魔女は消滅し、結界は消え、元の病院前へと戻った。

 

「た、倒したの?」

 

それまで固唾を飲んで見守っていたさやかが信じられないように呟く。その表情は安堵と喜びに満ち溢れていた。まどかも同様にして喜んでいた。

が、平和な一時は音を立てて崩れていった。

 

「シャシャシャシャシャ!!まさかあの魔女を倒すとはな!!だが魔法少女共、喜んでいられるのも今のうちだ!!」

 

後ろから声が聞こえ、全員が振り向くと磁石イノシシがいた。

 

「貴様ら全員殺して俺はさらなる進化をする!!さあ、行くぞ!!」

 

そう言って磁石イノシシは突進の態勢をとる。

 

「ま、待ちなさい」

 

ほむらが掌を前に出す。

 

「何だ?命乞いなら」

「違うわ」

 

磁石イノシシの言葉を遮るほむら。

 

「場所を、変えないかしら。そうね、昨日闘った場所に。ここでやると私達もあなたも目立つわよ」

 

すると、磁石イノシシは口角をわずかに開け、いいだろうと言った。そして、近くに止めてあった黒色のベンツに乗り、その場を去った。

ほむらは周りを確認する。運がいいのか、見ている人物は一人もいなかった。

 

「さて、」

 

一旦変身を解除したほむらがさやか達に向く。

 

「私とマミは今からあいつと闘いに行くわ。貴女達は帰りなさい」

「え?」

「なんでさ?」

 

まどかとさやかが何故といったふうに聞く。

すると、いつの間にか変身を解除したマミが答える。

 

「当然でしょ?貴女達は私達と違って戦闘能力を有していないわ。危険なだけよ」

「「でも、」」

 

まどかとさやかの声が重なる。

 

「美樹さん、鹿目さん」

 

少し怒ったような声をマミが出す。

 

「今は貴女達の我儘を聞けないの。だから、ね。お願い」

「……分かりました」

「でも、気をつけてください」

 

声を落とし、さやかとまどかが言う。

 

「もちろんよ」

「次は勝つから、安心してね」

 

ほむらとマミは口々にそう言い、昨日の廃ビルへと向かった。

 

「ねえ、まどか」

「何?さやかちゃん?」

「2人の後を追おう」

「……う、ん」

 

いつものまどかなら拒否したはずだが、ある思惑からさやかに従う。

 

「転校生の奴、怪人倒したらマミさんを殺るに違いない」

「そ、そう、だね」

 

さやかの怒りに近い声に同意するまどか。しかし、

 

(でも、私は違うと思うんだ。それに)

 

そこまで思考を纏め、一旦止める。

 

(それに、さやかちゃんが言ってたことが本当なら……)

さやかとはまた違う覚悟を胸にしてまどかは後を追った。

 

 

 




次回は魔法少女sideその2です。次は必ずV3とまどか達を合わせます!!


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第5話 少女達と男の出会い 後編/side魔法少女②

お待たせしました!!
ようやくV3とほむら達が出会います(ほんの少しだけど)!!
それでは、お楽しみください!!


見滝原の外れにある、とある廃ビルの入り口。マミとほむらはそこにいた。2人はすでに魔法少女へと変身しており、いつ戦闘が始まってもいいようにしていた。

チラリ、とほむらは後方を見る。その視線の先には1台の車があった。それは、黒色のベンツで大きなサソリのマークがボンネットに描かれてた。

 

「・・・・。行くわよ。」

 

深呼吸をし、決意を決めたように言うほむら。対してマミも首を縦に振り、賛同の意を示す。

2人は同時にその中へと侵入した。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

時は遡ること15分前。ほむらはマミの前を走りながら、自身が気付いた磁石イノシシの弱点についてマミにテレパシーで説明していた-テレパシーは魔法少女の基本能力で、自分の意思を味方に素早く伝えるために最も有効な手段である。が、それと同時に、一度に大量の情報を送ると脳がその処理を優先的に行ってしまうため、戦闘中には多様出来ない技である-。

 

(背中?)

(ええ。あの時奴はバリアーを張っていなかったわ。)

(あの時・・・?)

(私とあなたが初めて出会った時よ。)

 

その時か、とマミは納得した。ほむらの言う通り、あの時は磁石イノシシはほむらの攻撃を食らっており、かつ、その時彼女は背中を攻撃していたからだ。

 

(多分、正面からの攻撃は全て磁石バリアーではじき返されてしまう。だから、背後に回る必要がある。)

 

ほむらの語る持論にマミはある程度賛成していた。が、不安もあった。

 

(でも、磁石イノシシにはイノシシ・ダッシュがあるわ。それはどうするの?)

(それは・・・)

 

マミからの質問に黙るほむら。実際、彼女は一つだけ対策案を持っていた。しかし、それはマミは勿論、彼女自身極力やりたくない方法であったため、言うのに躊躇っていた。

 

(あるには、あるわ。リスクが高いけど。)

(その方法は?)

(・・・・・。)

(暁美さん?)

(・・・・・。囮作戦よ。)

(囮作戦・・・)

(ええ。片方が磁石イノシシの気を引いて、もう片方が後方から攻撃する。それしかないわ。)

(でも、それじゃあ)

(当然、囮は私がやるわ。一撃の攻撃力と命中率はあなたの方が上だから)

 

マミが何かを言おうとするが続けるほむら。

 

(巴マミ、わたしにもしもの事があった場合、その時は)

「暁美さん!!」

 

マミの急な怒鳴り声にほむらは足を止め、振り向いた。そこには、目に涙を溜めて立ち止まっているマミがいた。

 

「と、巴、マミ?」

 

ビクついた様子でほむらは話しかけた。

「それしか、方法は、ないの?」

 

悲しそうに聞くマミ。ほむらはただ俯き、ええ、と言って首を縦に振った。

 

「今の私達には、それしか方法がないわ。」

「あなたは、それでいいの?」

「・・・。いいか悪いかの問題ではないわ。そうでもしなければ私達は勝てない。」

「暁美さん、あなた」

「私は覚悟を決めているわ。だから、お願い。巴マミ、協力して。」

そう言ってほむらは頭を下げた。マミは何かを考えるように手を顎に当てたまま何も言わずにいた。

 

「・・・・。分かったわ。」

 

数秒後、マミは何かを吹っ切るように言った。

 

「暁美さん、貴女の覚悟、よく分かったわ。」

 

そこで一旦切り、一呼吸おいてマミは次の言葉を続けた。

 

「だったら、私は貴女が傷付かないようにしっかりと仕留めるわ。」

 

それを聞いたほむらは、そう、と一言だけ言ったが、その表情はどこか嬉しそうだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ー15分後ー

 

「ま、待ってよー、さやかちゃーん!!」

 

まどかは息を切らしながらさやかの後ろをついて行っていた。もともと運動の得意でないまどかが、運動の得意なさやかに追いつけるはずもなく、差は開くばかりであった。

 

「まどか、おっそーい!!」

まどかの悲痛な叫びが聞こえたのか、さやかは一旦足を止め、後方に位置するまどかを見た。

 

(もう!ゆっくりしてる時間はないのに!・・・・ん?)

 

遅いまどかに苛立ちながら、さやかは上空に何があることに気付いた。

 

「何あれ?鳥?にしちゃ変だし、何だろ?」

 

浮かんでいるそれを不思議に思っていると、まどかが追いついた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、さ、さやかちゃん、は、速すぎ」

「んもう、しょうがないなー。んじゃ、少し休憩してから行こ?」

「う、うん。ごめんね。」

 

いいよ、とさやかは返事をし、もう一度それを見るべく顔を上げる。しかし、それはすでに無く、雲ひとつない青い空が広がっていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

廃ビルに入ったマミとほむらは磁石イノシシの姿を探していた。すぐに戦闘が開始されると思っていた2人にとってそれは拍子抜けであった。

 

「見つからないわね。」

 

溜息を吐きながらほむらが言った。

 

「向こうから仕掛けてくるとばかり思っていたのに。」

 

不満そうにマミが愚痴る。しかし、口ではそう言ってはいるが、一撃で磁石イノシシを仕留めるべく、魔力を練り続けていた。

1階を探索し終えた2人は2階へと上がった。それまでの時間はほんの十数分だったが、彼女達にとっては何時間にも感じられた。

______________________

 

「ほぉ、マシンガンスネークはやられたか。」

 

某所。戦闘員からの報せを受けたΣは一言、そう言った。暗くいため表情は読み取れないが、声音からして明るく、どこか冷たいものがあった。

 

「で、磁石イノシシの方はどうだ?奴の能力なら魔法少女を捕らえることなど造作もないと思うが。」

「それが・・・・・、という作戦になっております。」

 

Σの質問に対し、耳打ちする戦闘員。内容を聞いたΣは満足そうに頷き、

 

「それは面白い作戦だ。さすがはG作戦を成功させただけあるな。」

 

と言った。

 

「Σ、君の部下である磁石イノシシは役に立ってくれるのかい?」

 

ふと、どこからか無機質な声が聞こえる。

 

「ふん。奴は成功体だからな。失敗作のサイタンクとは違う。」

 

さっきとは打って変わって不機嫌そうに答えるΣ。そんな様子が伝わったのか、無機質な声を放ったそれは溜息を吐くかのように

 

「やれやれ。僕も嫌われたものだね。さっさとお暇するかな。また個体を減らされるのは嫌だし。」

 

と言って、存在を消した。

 

「消えたか、邪魔者め。例の作戦はどうなっている?」

「それは・・・・となっています。」

 

戦闘員が耳打ちをし、それを聞いたΣはニヤリと笑って、

 

「磁石イノシシに伝えろ!!もしもの時は進化する事を許す、とな!」

 

Σがそう言うと、戦闘員はイー、と奇怪な声を出して部屋を出て行った。

 

「さて、」

誰も居なくなった部屋でΣは一人呟く。

 

「ここまでは予定通り。奴の情報収集力も中々のものだな。が、それを除けば奴は。」

 

ククク、と暗い部屋にΣの笑い声が響いた。

 

______________________

 

1階を探索し終えたマミとほむらは2階に上がっていた。依然として磁石イノシシは見つからず、2人のあとに疲れが見え始めていた。

 

「奴は本当にここにいるのかしら?」

 

ため息混じりにほむらが呟く。

 

「外に置いてあった車には誰も入っていなかったからいる。と思うけど・・・。」

 

自信なさげに答えるマミ。

そこから幾つかの部屋を回り、磁石イノシシを探した。が、結局どの部屋にもおらず、疲労だけが溜まっていった。

 

「2階にいないとすると残りは3階ね。」

 

ポツリとほむらが独り言のように言い、マミは、そうね、と答え、階段を上り始めた。

コツコツコツ・・・コツコツコツ・・・・。

薄暗い階段で2人分の足音が響く。

それ以外の音が全く聞こえず、異様な空気が2人を包んでいた。

 

「・・・・。ふぅ、やっと着いたわ。」

「ねえ、暁美さん、これって。」

 

3階にたどり着いたマミとほむらの目の前に、一際存在感のある扉が現れた。それは赤色で、大きな蠍のマークが掛けてあった。

 

「奴は、この中にいるのかしら?」

 

生唾を飲み込んでマミが言った。

 

「ハーフ・ハーフ、といったところかしらね。」

 

ほむらが答える。

 

「と、いうと?」

 

意味が分からなかったのか、マミが再び聞く。

 

「簡単なことよ。奴はこの中にいる可能性はある。でも、本当はいなくて、罠である可能性もある、ということよ。」

 

マミはなるほどと頷き、2丁のマスケット銃を生成した。一つはいつもマミが使用しているサイズで、もう一つはかなり小さいものだった。そして、小さい方をほむらに差し出した。

 

「どういうことかしら?」

 

マミの行動が理解できないという風に聞くほむら。

 

「あくまで保険よ。何かあった時に役立つように、ね。」

「でも、私マスケット銃を扱ったことないわ。」

「これは特殊な仕様になってるから大丈夫よ。」

「特殊な使用?」

「今は説明してる暇はないわ。行くわよ。」

「え、えぇ。」

 

マミの勢いに押され、ほむらは盾に銃をしまい、ドアに手をかける。

 

「いくわよ、巴マミ。」

「1、2の・・・」

______________________

 

「ま、待ってよー!さやかちゃーん!!」

「もう、まどか、遅い!」

 

同時刻、まどかとさやかは未だ廃ビルに着かないでいた。先ほどと同様、さやかがどんどん先に行き、まどかが必死にその後を追う構図となっていた。

 

「まどかは今日は帰った方がいいんじゃない?まだ着きそうにないし。」

 

さやかがまどかの元へと戻って声をかけた。それに対してまどかは答えようとしているが、よほど疲れているのか声が出ないでいた。

 

「うーん、困ったなー。まどか置いてくわけにはいかないし、かといって早く行かないと転校生が何しでかすか分かんないし・・・。」

 

さやかが手を顎に当て唸っていると、ようやく呼吸が整ったのか、まどかはゆっくりと話し始めた。

 

「ち、違う、の。さやかちゃん。」

「違うって何が?」

「おかしいって、思わない?」

 

まどかのその言葉を聞いた瞬間、さやかの顔は不機嫌そうな顔になった。

 

「おかしいって、何が?」

 

さやかが聞き返すと、ある程度呼吸が戻ったのか、先ほどよりもはっきりした口調でまどかは答えた。

 

「昨日行った場所って、こんなに遠かった?」

「??まどか、あんた何言って・・・!」

 

言葉の途中で、さやかは何かに気付く。

 

「ここって、さっき通らなかったっけ?」

 

そう。彼女達は迷わされていた。あの廃ビルに行けないように仕組まれていた。それは人の仕業か、それとも・・・。

 

「!?まどか!!危ない!!!」

 

何かに気付いたさやかがまどかの身体に覆いかぶさって、倒れた・・・。

______________________

 

「ん・・・・。」

 

ほむらは瓦礫の上で目を覚ました。立ち上がろうとしたが、全身が痛み、動くことすらままならない状態だった。

 

「何で、私、ここに・・・。」

 

周りを見回すほむら。そして、あるものを見つけた。

 

「あ、あれは?」

 

彼女の視線の先には、ほむらとマミが先ほどまでいたはずのビルが無惨な姿で立っており、瓦礫が様々な所へと飛び散っていた。

 

「あ・・・。」

 

そこで彼女は思い出した。

 

『いくわよ、巴マミ。』

『1、2の・・・』

扉を開け、突入した瞬間、彼女達を待っていたのは磁石イノシシでも、デストロンの戦闘員でもなかった。凄まじいほどの衝撃と音、そして、爆風が2人を包み込んだのだ。

結果からしてみれば、ほむらの言っていたことは正しかった。

しかし、規模が違いすぎた。

彼女が想像していたものは、最悪ガトリングが乱射される程度のものだと思っていた。が、現実はその想像をはるかに上回っていた。

 

「・・・痛っ!そ、そういえば、巴マミは・・・。」

 

もう一人の魔法少女、マミの存在が近くにいないことに気付き、痛む身体に鞭を打ち立ち上がるほむら。そして、足を引きずりながら探し始めた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 

一歩一歩歩くたびに傷口から血が流れ、体力を消耗していく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 

一歩一歩歩くたびに身体中が痛み、歩くことをやめたくなる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 

一歩一歩歩くたびに希望が小さくなり、絶望しそうになる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 

体力も気力も魔力も限界だ。そう思った時、

 

「はぁ、はぁ。!?あ、あれは・・・。」

 

瓦礫から肘から先の腕が見えた。

 

「ま、マミ・・・!」

 

少しでも早く彼女の元へと行かなければ。

そんな思いがほむらを動かしていた。

そして、ようやくそこへと辿り着く。が、待っていたのは残酷な現実だった。

 

「マ・・・ミ・・・?」

 

確かに、そこには巴マミの腕はあった。が、そこから先は無かった。あるはずの身体が無く、ただただ、赤黒い血が広がっていた。

 

「い、いや。イヤァァァァァァァァァ!!!!」

 

普段の彼女からは想像できないような悲鳴が上がる。

僅かに残っていた希望さえも消え、絶望に包まれ始める。両目からはとめど無く涙が溢れ、錯乱状態に陥っていた。

 

「シャシャシャシャシャ!!」

 

そこへ、後方からあの鳴き声が聞こえた。

ほむらはゆっくりと振り向くと、そこには磁石イノシシがいた。

 

「まさかこんな簡単な罠に引っかかるとはな!そんなのでよくこれまで生き残ってこれたものだな!」

 

そこまで言って、今度は嘲笑するような声を出す磁石イノシシ。それを見たほむらは叫びながら盾に収納されている銃を磁石イノシシ向けて乱射し始めた。

が、

 

「無駄だということがまだ分からんのか!?俺は磁石バリアーがある限り無敵なのだ!!」

 

全ての弾を弾き返され、ほむらの行動は無意味と化す。

 

「あ、あ、あ・・・。」

 

口をただパクパクと動かすだけで何も話せないほむらを見て、磁石イノシシはイノシシ・ダッシュの態勢をとる。

 

「死ねぇ!魔法少女!!イノシシ・ダーーーーッ」

 

もう、死ぬ。

それを覚悟したほむらは目を瞑り、約束を交わした者達へと心の中で謝罪した。

が、いつまで経ってもその衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開けたほむらは信じられないものを目にした。

 

「お、俺の、俺の背中を・・・」

 

磁石イノシシが背中を抑えて呻いていたのだ。

 

「私の可愛い後輩をいじめてくれたわね。」

 

そして、もう聞くことができないと思っていた声が、磁石イノシシの真後ろから聞こえた。

 

「巴・・・マミ?」

 

涙が止まり、その人物へと語りかけるほむら。

 

「心配かけてごめんなさい、暁美さん。でも、私は大丈夫よ。」

 

そこには左腕を失ったマミが立っていた。奇跡的に腕以外に目立った傷は無く、止血も魔法でし終えているようであった。

 

「はっ!」

 

マミが気合と共に跳躍し、ほむらの元へと着地する。

 

「ま、巴マミ、あなた。」

「ごめんなさい。本当はもっと早く助けに来れればよかったんだけど。」

「べ、別に気にしてないわ。」

「ふふっ。暁美さんらしいわね。そうだ」

 

そこまで言って、マミは何かを思い出したように右手の裾からグリーフシードを取り出した。

 

「暁美さん、貴女のソウルジェム、そろそろ危険なんじゃないかしら?」

「え?あっ・・・。」

 

ハッと気付き、自らの左手にあるソウルジェムを確認する。そこにはかなり濁った色のソウルジェムがあった。

 

「使って。」

 

そう言うとマミはグリーフシードを差し出した。

 

「あ、ありがとう。」

 

感謝の言葉とともに受け取ったほむらはソウルジェムに近づける。すると、“濁り”がグリーフシードへと吸収され、ソウルジェムは美しい紫色を輝かせ始めた。それと同時にマミも別のグリーフシードを使って、自らのソウルジェムを浄化した。

 

「これで一先ずは安心よ。」

 

マミが安堵したように言うと、落ちている自分の左腕を拾い、傷口へとつける。

 

「んっ・・・!」

 

マミが魔力を傷口に集中すると、その部分が光り出した。そしてそれが収まると、傷の跡はあるもののマミの腕はくっついていた。

 

「今はこれが限界ね。」

 

くっついた左腕を動かし、マミが言う。

 

「さすがね。」

 

それを見たほむらが感心したように呟いた。

 

「後で暁美さんの傷も」

「シャシャシャシャシャ!!!」

 

マミの言葉の途中で磁石イノシシが一際大きな声で遮った。マミ達が見ると、そこには撃たれたにも関わらずピンピンとしている磁石イノシシが立っていた。

 

「まさか、まさかソウルジェムとグリーフシードにそんな効果があったとはな!!」

 

そんな事を叫ぶ磁石イノシシ。

 

「まさかグリーフシードがソウルジェムの魔力充填装置だったとはな!奴はそんな事を言ってなかったが、これは面白い事を知った!!」

 

しまったとばかりの表情をするマミとほむら。

魔法少女は魔力をグリーフシードで補う。それを相手に知られる事は彼女達にとって弱点でしかなかった。何故なら、長時間の戦闘において魔力の補充は必要不可欠であり、それができなくなるという事はグリーフシードが尽きたということ、つまり、これ以上戦闘において魔法を使っての戦闘は不可能であることを意味する。それを悟られないようにする為、彼女達は本来魔女に対しては速攻で倒す事を心がけている。また、仮に戦闘が長引いてグリーフシードを使わなければならなくなったとしても、一旦退いてから再戦する事を常としていた。しかし、今回に限ってほむらとマミは極度な緊張状態が続いた為、使わざるを得なかったとしても、それが解けた時に生じた油断が隙を作ってしまった。

 

「つまり、貴様達はそのグリーフシードが無くなったら戦えなくなるという事か!シャシャシャシャシャ!!」

 

磁石イノシシが叫ぶ。

 

(暁美さん、こうなったら・・・)

(ええ。早く倒すしかないわ。)

 

マミがテレパシーを送り、ほむらがそれに応える。

 

(暁美さんはあとグリーフシードをいくつ持ってるの?)

(家にいくつかストックはあるけど、ここにはないわ。あなたは?)

(私も同じよ。)

 

そこで2人は同じ事を思った。

『生き残る為にも、魔力が尽きる前に奴を倒す!!』

そこまで来てー時間的にはほんの数秒だがー磁石イノシシが2人の闘志に変化が起きた事を悟ったのか、笑う事をやめ、戦闘態勢に入った。

先に動いたのはほむらだった。彼女は磁石イノシシ目掛けて全力疾走しつつ、盾から拳銃を取り出して、撃ち始めた。

が、例のごとく全て磁石・バリアーで止められる。

 

「無駄だ!貴様らの攻撃など、磁石バリアーの前では効かん!!」

 

そう言って、ほむらへと突進する磁石イノシシ。ほむらはそれを紙一重で避けて後方に回り、さらに銃撃を加える。

磁石イノシシはほむらの方へと向きを変え、再び突進しようとする。

 

「まずは一人。死ねぇ!暁美ほむら!」

「ティロ・フィナーレ!!」

 

磁石イノシシの言葉に、マミの必殺技を指す言葉が重なる。そして、巨大なマスケット銃から発射された弾が磁石イノシシの背中を撃ち抜いた。それと同時にほむらは空高く飛び、マミの元へと向かった。

 

「な、何!?お、俺の背中をぉぉぉ!!」

 

爆発が起こる。ほむら達は顔を守りながらそれが収まるのを待った。

 

「や、やったの?」

 

不安そうにほむらが呟く。

 

「そのようね。」

 

ホッとしたように言うマミ。

ー勝てた。一歩間違えれば死ぬほどの、かなり危険な賭けだったが、自分たちは怪人に勝つことができたー

喜びが2人の間に広がった時、爆心地で再び爆発が起きた。

 

「な、何!?」

 

驚いたマミがそう言いながらマスケット銃を構える。ほむらも声には出さないものの、驚きながら拳銃を構えた。

爆風によって上がった粉塵が薄れ、中から影が見える。

 

「そ、そん、な・・・!」

「何で・・・?」

 

その影の招待が分かった時、2人の間に僅かながら絶望が生じた。

 

「シャシャシャシャシャ!!シャシャー!!!まさかこの形態を使わされるとはな!!!」

 

そう言って現れたのは、磁石イノシシ。いや、姿形こそは似てはいるものの、全く違う何かがそこにいた。

 

「俺様は、磁石イノシシをさらに改造し、性能の向上を図って造られた、言うなれば、スーパー磁石イノシシ!!」

 

スーパー磁石イノシシ-片方にしかなかった磁石が両手にあり、身体が1.5倍ほと大きくなっていた-と名乗ったそれはものすごい速度でほむらとマミに突進していった。

 

「しまっ・・・!」

「キャァァ!!」

 

反応が遅れた2人-だが、ほむらは一瞬だけバックステップをした-はその攻撃をモロに喰らった。

 

「くっ・・・!」

 

ほむらは空中で何とか姿勢を整え、着地する。そして、マミが飛ばされた方向を見た。

そこには、身体の至る所から血を流し、ピクリとも動かないマミの姿があった。そして、最悪なことにスーパー磁石イノシシが彼女のそばにいた。

 

「巴マミ!!逃げなさい!!早く!!!」

 

ほむらは叫ぶがマミが動く様子は全くない。

 

「シャシャシャシャシャ!!俺様の攻撃をまともに喰らって動けるはずがない!!これで、これでM作戦の第二段階は成功する!!死ねぇ!!!巴マミ!!!!!」

 

スーパー磁石イノシシが右手の磁石を振り下ろしたその時・・・。

 

パァン・・・

 

 

銃声が響いた。それは、ほむらがマミから受け取ったマスケット銃から放たれたものだった。しかし、背後を撃ったにも関わらず、弾は止められた。

 

「シャシャシャー!!無駄だ!!!今の俺は背後にも磁石バリアーを張ることができる!!貴様の攻撃など効かん!!!」

「で、でも!」

 

そう言ってほむらは走りながら盾から拳銃を取り出し、撃ち続けた。

 

(絶対に死なせたくない!)

 

その強い思いがほむらを動かした。身体が痛もうが関係なかった。

しかし、当然かのように磁石イノシシは弾を防いでいた。

 

「無駄だ無駄だ!!どれだけ撃とうがこの俺にはそんな物通じない!!」

 

そう言って、マミからほむらへと標的を変え、突進の構えをとる磁石イノシシ。

 

(集中しなさい、私!奴を倒すにはすれ違いの一瞬を狙ってゼロ距離で撃たなければ・・・!)

 

そう思いつつ、動きながら攻撃を続けるほむら。

対してスーパー磁石イノシシは構えたまま動かないでいた。

 

(奴はまっすぐにしか突進できない?なら・・・!!)

 

危険だが、このまま少しづつ近付けば。

そこまで考えた時だった。ほむらは自分の脚からほんの一瞬だけ力が抜けるのを感じた。

 

「え・・・?」

 

態勢の崩れるほむら。疲労が極度に達したのだった。それを見て、突進を開始する磁石イノシシ。

段々とスーパー磁石イノシシが近づき、ほむらに渾身の一撃を加えようとする。

 

(まだ、諦めるわけには・・・!)

 

ほむらがそう思い、盾に手をかざした時だった。

 

 

「V3マッハキック!!!」

 

 

その声と共にほむらの後ろからものすごい速度で一人の異形が飛び出し、スーパー磁石イノシシを蹴り飛ばした。

 

「な、何ぃぃぃ!!!」

 

驚きの声と共に吹き飛ばされるスーパー磁石イノシシ。

 

「V・・・す、スリィ!な、何故貴様がここに・・・!?貴様は奴が足止めしていたはずだ。」

 

スーパー磁石イノシシが苦しそうに聞いた。それに対してV3はただ一言、

 

「貴様らがどんな計画を立てようが、この仮面ライダーV3には意味がない。覚えておくことだな。」

 

と言って、スーパー磁石イノシシに背を向けた。それと同時に、スーパー磁石イノシシは爆発し、跡形もなく消え去った。

V3はそのまま停めてあったハリケーンにまたがった。

 

「ん、そうだ。」

 

そのまま去ろうとしたV3だが、何かを思い出し、ハリケーンから“あるもの”を出した。

 

「これは君達に必要なものだろう?使うといい。」

 

そう言ってV3は“それら”をほむらへと投げ渡した。

それは、2つのグリーフシードだった。

 

「あ、ま、待って!!」

 

グリーフシードを受け取ったほむらはV3を止めようと声をかけたが、V3は既にハリケーンを飛ばし、遠くに行っていた。

 

「仮面ライダー・・・V3。」

 

ぼそりとその名を呟くほむら。

彼女はその後、グリーフシードを1つ使って自分のソウルジェムを浄化し、もう一つはマミのソウルジェムを浄化するのに使った。マミはすぐに目を覚まし、ことの全てをほむらから聞いた。

 

これが、少女達と機械の男の出会いとなった。




ありがとうございました!
次からはsideV3へと突入します!!
何故、V3がスーパー磁石イノシシを一撃で倒せたのか。
誰がさやかとまどかを襲ったのか。
そして、杏子とゆま、風見志郎の関係はどうなっていくのかを書きたいと思います!!


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第5話 機械と少女の出会い/後編 side仮面ライダー①

お待たせしました!
ようやく志郎が見滝原へ到着します(とは言っても、前話で少しだけ登場したけど…)!
それと、今回は戦闘シーンは全くないです。1文字も無いです。完全な日常回、だと思います。
それでは、お楽しみください!


風見野の某ホテル。杏子やゆまよりも早く目を覚ました志郎は他のライダーへと連絡を入れていた。本来なら昨晩にするはずだったが、レッドボーンリングの使用によるダメージが来たことにより、自己修復を優先したためにこうなった。

 

(魔法少女と魔女の存在を知らされた。みんなの所にも魔法少女がいるのか?)

 

その問いに本郷猛が答える。

 

(ああ。全員魔法少女と共にいる。魔女とも交戦済みだ)

 

次に一文字隼人が志郎に聞く。

 

(志郎、おめーQBに会ったか?)

 

志郎はその質問に、はいと答えた後、どうしたのかと聞いた。

 

(いや、な。お前、あいつらの目的を聞いたか?)

(はい。自分たちの目的はこの世を守ることだと言ってました)

 

信じられないが、と付け加えた後、志郎は回線を切ろうとした。しかし、沖和也によって止められた。

 

(どうした和也?)

 

志郎が聞く。

 

(実は、風見さんに聞きたいことがあるんです)

(聞きたいこと?)

(はい)

(何だ?)

(風見さん、今見滝原に向かっているんですよね?)

(・・・?そうだが、それがどうかしたのか?)

 

訝しげに聞く志郎。

 

(どうして見滝原に行こうとしているんですか?)

(何を言っている?日本にいるのが俺だけだからって理由だろう?)

(風見さん、俺たちはそんなこと言ってませんよ)

(何?)

(俺たちは風見さんが見滝原に行くなんてこと知らなかったし、俺たちが見滝原に行ってほしいとも言ってないんです)

 

和也からの通信に驚きながら、どういうことだと聞く。

 

(話し合ったんですけど、分からないんです。ただ、いくつかの共通点があるんです。)

(共通点?)

(はい。あの日、通信の一部が何者かによって意図的に操作されてたんです)

(どういう事だ?)

(ここからは僕が説明するよ)

 

そこで、和也に変わって結城丈二が話し始めた。

 

(通信の内容が変えられた場所はいくつかある。一つは互いにどの場所へと向かうかということ。そして、それ以降の会話が不自然にならないように所々変えてあった)

(つまり、俺たちは行かされた、と)

 

志郎は不思議に思っていた。自分たちが使っている通信の波長は特殊なもので、いかなる組織であっても傍受できないものだからだ。

何故だ、と考える反面、ある一つの可能性を口にした。

 

(ネクスト・デストロン…)

 

瞬間、全員がそれについて聞く。なので志郎は自分が最近倒した怪人ー弱体化したサイタンクと強化改造されたマシンガンスネークーについてや、QBから聞いたことについて話した。

 

(新しい組織、か)

 

村雨良が呟く。

 

(一つ気になることがあるんだがよ)

 

それまで黙っていた城茂が話し始めた。

 

(ネクスト・デストロンはサイタンクにマシンガンスネークを風見さんに送ってきたんだろ?マシンガンスネークは分かるんだけどよぉ、何で失敗作のサイタンクまで戦わせたんだ?負けることは分かってんのに)

(おそらくは)

 

志郎は一つの可能性を提示する。

 

(大した戦力を持ってないからだろうな。強化改造したといっても一から怪人を作るよりもはるかにコストは低い)

(だからサイタンクを投入せざるをえなかった、と)

(そういうことだ)

 

直後、志郎は後方で体を動かす2つの気配を感じた。

 

(すまない、用事が入った。切るぞ)

 

そう言って通信を切った志郎はゆまと杏子の元へ向かった。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

「わぁ〜い!!」

 

遊園地に入った瞬間、ゆまは大喜びで駆けて行った。

 

「ったく、なんでゆまの奴はあんなにはしゃいでんだ?」

 

訳がわかんねーといった風に棒付きキャンデーを舐めながら杏子が言った。

 

「まあ、そう言うな。それに…」

「それに、何だよ?」

「いや、何でもない」

本当は志郎は気付いていた。愚痴を言っている杏子自身、遊園地に来てとても嬉しいのだということに。しかし、彼女の性格を一晩で把握していたので、それを言わずにいた。

 

「しやーねー、付き合ってやるか!」

そう言ってゆまの後を追う杏子。

 

「全く、素直じゃないな」

その様子を見て志郎は苦笑いをし、2人の後を追った。しかし、心の中は穏やかではなかった。

 

(魔法少女狩、か…)

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

ー約1時間前ー

 

目を覚ましたゆまと杏子を連れて、志郎はレストランにいた。ゆまは起きてからずっと機嫌がよく、対して杏子の機嫌は悪く、起きた時も投げつけるように志郎から貰った財布を返した。

 

「ねぇーしろー、ドリンクバー頼んでもいい?」

 

ゆまが物欲しそうな顔をして尋ねる。

 

「別に構わん。だが、ご飯もしっかり食べるんだぞ」

 

志郎からの許可がおりて、ゆまはとても嬉しそうな顔をして注文し、店員に渡された専用のコップを持ってジュースを注ぎに向かった。

ゆまがいなくなったことを確認し、志郎は杏子にある事を聞いた。

 

「昨日、奴が言っていたことだが」

「奴?」

「QBだ」

「あぁ。それで?」

「魔法少女狩りについて気になってな」

「あぁ。それで?」

「何か知ってることはないか?」

「あぁ。別に」

「…」

「…」

 

杏子のそっけない反応に黙る志郎。対して杏子も何も言わなかった。

そこからしばらくの沈黙が訪れる。志郎はじっと杏子を見つめるが、杏子は俯いたままだった。

 

「あ、あの、さ」

 

急に杏子が話しかける。

 

「あ、あの、さ…」

「何だ?」

「志郎は、仮面ライダー、なんだよな?」

「…、ああ。俺は仮面ライダーだ。それがどうかしたのか?」

「いや、あの、その…」

 

志郎の質問に対し、歯切れ悪く答える杏子。

 

「あ、あのさ、志郎って、BADANが攻めてきた時、戦ってたんだよな?」

「?ああ。そうだが?それがどうかしたのか?」

 

志郎がそこまで言った時、杏子は一瞬だけ寂しそうな顔をした。が、すぐに顰めっ面になり、コップを持って水を注ぎに席を立った。

 

「どうした杏子?」

 

その様子に心配した志郎は声をかける。しかし、彼女は志郎を一瞥しただけで、何も言わずに去った。

 

「どうしたんだ、あいつ」

杏子の背中を見て、志郎は首を捻った。

 

「何で、志郎の奴、覚えてないんだよ…」

 

志郎の視線を受けながら、杏子はボソッと呟いた。

 

______________________

 

『……う』

「ん?」

 

杏子とゆまが席を離れて少し経った時、志郎の脳裏に声が響いた。

 

『風見志郎!!』

 

今度ははっきりと自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

(この声は、QBか)

 

そう思って周りを見回すと、後ろの席の客の頭に乗ったQBに目が入った。

 

(どうした?)

 

周りの客に不審がられないようにする為に通信を送る志郎。

 

『大変なんだ。魔法少女狩が行われている。すぐに来てくれ』

 

志郎の顔が驚愕に染まった。

【魔法少女狩】

その単語自体は昨日QBから聞いていたものだった。

 

(場所はどこだ!?)

 

志郎がそう尋ねると、QBはレストランから出て、

 

『すぐそこだ』

 

と言った。

分かったと通信を送り、席を立つ志郎。そこへ、ゆまと杏子がこっちに向かっていることに気付いた。

 

(くそっ!)

 

志郎は心の中で2人に謝り、財布を置いて店を出た。

 

(許せよ、杏子、ゆま!)

 

______________________

 

志郎はQBに連れられて裏路地に来ていた。

 

「本当にここなのか?」

QBに尋ねる志郎。それに対してQBはそうだよ、と淡白に答えた。

 

「だが」

「あれ!?恩人じゃーん!!」

 

志郎の言葉は別の声に遮られた。志郎がその方向を向くと、見覚えのある黒髪の少女ーキリカーと白髪の少女ー織莉子ーが志郎に向かって歩いてきた。

 

「ヤッホー、恩人!こんな所で会うなんて奇遇だね!」

「本当ですわ。志郎さん、おはようございます」

元気よくあいさつするキリカ。それと対照的な態度をとる織莉子。

 

「ああ…。奇遇だな。所でお前達はこんな所で何をしてるんだ?」

 

一瞬だけ怪訝そうな顔をし、素直な疑問をぶつける志郎。現在、彼らがいるのはひと気が余りに少なく、何か“悪事を働く’にはうってつけの場所だからだ。

まさかな、と思いながらキリカ達の答えを待つ志郎。

 

「………。ああ、ちょっち探し物しててね。ね、織莉子!」

「ええ。私が大事な物を無くしてしまって。それでキリカに手伝ってもらってますの」

 

ほう、と答える志郎。それに対してキリカは

 

「恩人はどうしてここにいるの!?」

 

と聞いた。

 

「ん、俺か?俺は人を探しているんだ」

「人、ですか?」

「どんな人ー?」

「そうだな。目印は身体のどこかに宝石を着けているか、指輪をしていると言っていたんだが…」

杏子の魔法少女姿と普段着姿を想像しながら志郎は答えた。

 

「んー、あたしらがいた方向にはいなかったなー」

「ええ。わたし達以外に人はいませんでしたわ」

 

キリカと織莉子は互いに答えた。

志郎は2、3秒思考した後、

 

「ありがとう。だが、もう少し探してみる」

 

と言って、織莉子達と別れた。

 

「さて、案内してくれ」

『分った』

 

2人の背中を見送った志郎は前を向き、志郎はQBと共に進んでいった。

 

______________________

 

キリカ達と別れ、志郎がQBについて行って10分ほどが経った。しかし、依然として魔法少女狩の犯人らしき人物もその被害者らしき人物も見つからないでいた。

 

「まだなのか?」

 

痺れを切らした志郎がQBにきいた。しかし、QBは何か焦っているような様子を見せているだけだった。

 

「QB、どうした?」

 

志郎の度重なる質問にも答えないQB。そんな様子に苛立ったのか、志郎は、おい、と大きめの声で言った。

 

『しまった…』

「何?」

『遅かった』

「どういう事だ?」

『実は…』

 

ここで、QBは魔法少女狩の被害者である女の子について話し始めた。

 

『実は僕が彼女を見つけたのは魔女の結界の中なんだ。僕が見つけた時には既にやられていたし、魔女もやられていた。本当はすぐに何とかしようとしたけど僕の力じゃどうにも出来ない。だから偶々近くにいた君を呼んだんだ』

「……」

『でも、予想以上に結界が閉じるのが早かった。これは僕の計算違いだったようだね』

「……そうか……」

 

志郎は何とかその言葉だけ絞り出すと引き返し始めた。その様子を見てQBが、帰るのかい、と尋ねる。

 

「ああ。俺にできる事はもうないからな」

そう言って志郎はその場を去った。一見すれば冷徹な反応のように思えたが、彼の心は違っていた。

 

(間に合わなかった…。魔法少女狩か…。次は逃がさん)

 

深い後悔と赤く燃える怒りに包まれていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

レストランに戻った志郎はゆまと杏子と合流し、風見野で唯一営業が再開している遊園地へと向かった。杏子の機嫌は未だ直っておらず、ふくれっ面をしていたが、大人しく志郎達について行っていた。そして、冒頭に至る。

あの後、ゆまと杏子はコーヒーカップに乗っていて、志郎は外から2人を見つめていた。

 

「キャーーーー!目が回る〜!!」

「あはははははは!もっと回すぞ〜!!」

 

ゆまはコーヒカップの縁に掴まりながら叫び、杏子はハンドルを回しながら笑い声を上げていた。

普段であれば微笑ましい光景。しかし、やはり志郎には先ほどの事が気になって仕方なかった。

 

(QBが嘘を吐いているか、それともキリカ達が嘘を吐いているか。だが、キリカ達が嘘を吐くメリットはあれども、QBが嘘を吐くメリットはない。それに奴らには僅かだが血の臭いがした。)

 

風見志郎は改造人間である。それゆえ、聴覚や視覚、触覚、そして嗅覚が以上に発達していたー本来は常時発達状態だが、志郎は改造人間としての経験が長いため、戦闘時や緊急時を除いては五感を極力人間に近いものへと調整する事ができるー。

 

(あの臭いは一人分の血ではない。何人もの人間の血を被ったのような、そんな臭いだった。そうなれば……)

「おーい、志郎ー!!次行こうぜー!!」

 

そこまで考えた時、杏子に呼ばれた。思考へとトリップしかけていた志郎は一旦考えることを中断し、ある確信と共に、2人の元へと向かった。

 

(魔法少女狩の犯人は、呉キリカ、そして、美国織莉子、なのか?)

 

______________________

 

ゆまと杏子、そして志郎の3人はいくつかのアトラクションに乗った後、遊園地内のレストランで昼食を摂っていた。

ゆまはお子様ランチ、杏子はハンバーグ定食、志郎はコーヒーとブレッドを食べていた。

 

「なあ、志郎はそれで足りんのかよ?」

「本当だ。志郎少ないね?」

 

杏子が志郎の食事を見て尋ねる。すると、ゆまもそれに同調したかのように聞いた。志郎はコーヒーを一口啜ると、

 

「俺は燃費がいいからな。これでも多いくらいだ」

 

と言った。

それに対してゆまは、ほぇ〜、と感心したような気の抜けたような返事をし、杏子は寂しそうな顔をした。

それからは誰も話さず、黙々とご飯を食べ続けた。

 

「ねぇ〜しろー」

 

十数分後、ゆまがやる気のない声で志郎に言った。

 

「早くあそびに行こーよー。ゆま暇ー」

 

ゆまの催促の声に、志郎と杏子は互いに見合わせ、クスリと笑ってから

 

「そうだな。行くか」

「おい、ゆま!次はどこに行きたい?」

 

と、席を立ちながら言った。

 

______________________

 

あれから志郎達は多くのアトラクションに乗った。ゴーカートや観覧車、メリーゴーランドにバイキング。今度は志郎も見ているだけではなく、ゆま達と共に遊んだ。運良く空いていたため、少ない時間で多くのアトラクションに乗ることができた。

 

「しろー!きょーこー!ゆま、次はあれに乗りたーい!」

 

ゆまはスカイサイクル目指して走り出した。

 

「全く、あいつは疲れるってこと知らねーのかよ」

 

杏子は愚痴をこぼしながらゆまを追った。口調こそ乱暴だが、表情は午前中よりも生き生きしていて、歳相応の笑顔を見せていた。

しかし、志郎は表情こそ笑顔に近いものだったが、心の中ではそうではなかった。午前中とはまた別の問題に直面していた。

 

(ゆまと杏子を、どうするか…)

 

本来、志郎の目的は見滝原へと向かう事だ。しかし、現在彼は佐倉杏子と千歳ゆまという2人の子供と共にいる。

 

(あいつらを置いていくわけにはいかないしな…。杏子は昨日見た感じ親はいないだろうし、ゆまの親は殺されている。そうなると、あいつらは完全に孤児だ。だが、俺にもやらねばならない事がある。どうするか…)

 

この時、志郎の選択肢は2つあった。ゆま達を見滝原に連れて行き、やるべき事を終えるまで面倒を見るというものと、見滝原に行かずに2人と共にいるかということだった。

 

(しかし…)

 

志郎はこの選択肢が非現実的だという事に気付いていた。

 

(あいつらを、特に杏子を連れていくことは無理だ。仮に連れて行ったとして、あいつらの面倒を見ながらほむらちゃんとやらを助ける事はできるとは思えん。かといって行かないわけにはいかない。さて、どうする?)

 

当然ながら、彼が解決しなければならない問題はそれだけではなかった。例の魔法少女狩についてもなんとかしなければならないと感じていた志郎はあまりの問題の多さに、珍しく頭を抱えた。

 

______________________

 

時刻は午後3時を回った。乗れるだけのアトラクションに乗った志郎、ゆま、杏子の3人は遊園地内にあるベンチに座って休憩していたーゆまは余程疲れたのか、杏子の脚を枕にして眠っていた。杏子も最初こそは嫌がっていたが、結局は渋々了承したー。

志郎は難しい顔をし、杏子は近くにあった自販機にあったジュースを志郎に買ってもらって、それを飲んでいた。

 

「なあ、志郎」

 

不意に杏子が口を開く。

 

「何だ?」

「志郎はさ、何かしなきゃならない事があるんじゃないのか?」

「……」

「なあ」

「何故そう思う?」

「ずっと何かを考えてるみたいだったからな」

「ほう、よく分かったな」

「あのなぁ、あたしは魔法少女だぜ?そんぐらいの観察眼ぐらいはあるさ」

「………。そうか」

 

志郎は一瞬迷った。自分の考えを正直に告白すべきかどうか。

仮に言ったとして彼女達は何を選ぶのか。

それが全く分からなかったからだ。

 

「………」

「………」

2人の間に沈黙が訪れる。杏子はただ志郎を見つめ、志郎は目を瞑っていた。

 

「実は」

 

沈黙を破り、志郎が口を開く。

 

「実は俺には、行かねばならない場所がある」

「どこだよ?」

「見滝原だ」

「!?」

 

志郎の言葉を聞き、杏子の顔は驚愕に染まった。

 

「な、なんでだよ?」

「それは秘密だ」

「………チッ。で?さっさと行きゃいーじゃねーか」

 

舌打ちをした後、杏子がそう言った。

 

「………」

「…。おい志郎、まさかテメェ」

 

黙る志郎に苛つきを隠さず、荒い口調で話す杏子。

 

「まさかテメェ、あたしらが可哀想だからとかって理由でここにいるんじゃないよな?」

「そうだと言ったら?」

「テメェを一発ぶん殴る」

「ほぅ。なぜだ?」

「こいつは別として、あたしは同情なんかしてほしくないからさ。親が死んでるだけでどうとか言う奴は心底苛つくからな」

「…。そうか。そう、だよな」

 

志郎は目を閉じ、そう答えた。瞼の奥にはかつての光景が広がっていた。

家族を殺され、その復讐の為に仮面ライダーとなった自分。そして、珠純子ー仮面ライダーV3を支援した、元少年ライダー隊の通信係で、志郎と同じくデストロンの被害者ーの同情とも哀れみともいえない態度にムカつき、危険だからと言う理由で突き放した自分の姿がそこにあった。

 

(こいつも、俺と同じ、か。ならば)

 

決意を決めた志郎は財布を取り出し、杏子へと差し出した。

 

「おい、どういうつもりだ?」

 

財布を受け取らず、杏子が聞く。

 

「簡単だ。お前達が独り立ちするまで支援するだけだ。2人を養うだけの金は持ってるからな。それに、お前だっていつまでもホテルに無断宿泊するわけにはいかんだろ?」

「…。チッ、分かったよ」

 

ゆまを一瞥し、舌打ちをいながらも杏子は受け取った。

 

「俺はそろそろ行く」

「そうかよ。さっさと行っちまいな」

「杏子」

「なんだよ?」

「……。いや、なんでもない」

 

そう言って志郎は身を翻し、その場を去った。

 

______________________

 

志郎が去ってから1時間ほど経った時、ゆまは目を覚ました。初めこそは志郎が居なくなって寂しがっていたが、すぐに慣れたようで、杏子と共にホテルへと向かっていた。

 

「楽しかったね、杏子!」

「ん、ああ。よかったな」

「また行きたいね」

「そう」

『やあ、杏子』

 

杏子の言葉の途中で何者かが無機質な声で被せる。杏子は声のした方向へと向く。そこには宙に浮いたQBがいた。

 

『こんな所にいたのか』

「なんだよ。テメェが来るなん」

「わぁっ!!」

 

またしても杏子の言葉の途中で何者かが声を被せる。その正体はゆまだった。

 

「すごぉい!!ぬいぐるみがお喋りしてる!!」

『やあ、君が千歳ゆまだね?僕の名前はQB。今日は君に』

「んんっ!!」

 

今度はQBの言葉に杏子が咳払いを被せる。

 

「何しに来た?」

 

なにかを察したのか、先程よりも厳しい口調で尋ねる杏子。そんな態度を物ともせず、QBは答えた。

 

『簡単さ。千歳ゆま。僕と契約して魔法少女にならないかい?』

「魔法、少女?」

『そうさ。僕は君の願いをひとつ、なんだって』

 

グチャ………。

 

QBはそこまで言ったかと思うと、何か生々しい音と共に地面に落ちた。杏子がソウルジェムから槍を生成し、突き刺したのだ。

 

「え、杏子?」

 

目の前の光景に驚きを隠せないゆま。対して杏子は冷たい声で

 

「いいか、ゆま。こいつの話は絶対に聞くなよ?」

 

と、突き刺すほど冷たい口調で言った。

 

______________________

 

(ようやく着いた)

 

同時刻、志郎はGT750を駆り、見滝原へ着いた。

 

「それにしても、酷いな…」

 

目の前に広がる光景にそう言わざるをえなかった。彼の目の前には破壊され尽くした街だった。かつての地方都市のおもかげは全くなく、どれほどの攻撃を受けたかを物語っていた。幾つかの民家や公共施設のような建物は再建されているが、その他の所はそのままだった。

 

(ここにも、多分だが魔法少女はいる。が、場所が分からんな)

 

そう思った志郎は腰のベルトよ の左側に手をかけた。

 

「V3ホッパー!!」

 

上空500mから25km四方の映像ー本来は10km四方だが、ベルトを修復した際、強化されたーが志郎へと送られる。

 

「!奴ら、一体何を!?」

 

何かを見つけた志郎は焦った様子でGT750に乗り、その場所へと向かった。




ありがとうございました!
今回は戦闘シーンが全く無かったです。期待していた人はすみませんm(_ _)m
その代わり、次は2つの戦闘を盛り込むつもりです!
V3との対戦カードは磁石イノシシとまさかのアレです!!


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第5話 機械と少女の出会い/後編 side仮面ライダー②

お待たせしました!ようやく第5話完結です!
今回は予告通りV3には2回戦ってもらいます。
それと、オリジナルの魔女が登場します。出来るだけその姿形が分かるように書いたつもりですが、わかりにくかったらスミマセンm(_ _)m。
それでは、お楽しみください!!


「!奴ら、一体何を!?」

 

V3ホッパーから送られてきた映像には、廃ビルに爆弾を運ぶ戦闘員とそれを指示する磁石イノシシの姿があった。そして、そこへ向かって走っている2人の少女がいた。

 

「北西20kmか。よし」

 

GT750に乗り、その場所へと向かう志郎。

タイムリミットまであと……。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

志郎はフルスロットルで現場に向かっていた。変身してハリケーンに乗った方が速いが、そうしないのには理由があった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

『BADAN』との戦いに勝利して事で、仮面ライダーの事が世界中に知れ渡った。それにより、仮面ライダーを新たな脅威としてみなし、彼らの排除を望む者や、彼らを戦力として取り入れようとする国や組織が数多く現れ、少なからず心と体に傷を負った。

 

『何の為に自分達は戦ってきたのか。』

 

彼らの誰もがそう思いながら、隠れて暮らしていく中、とある出来事が起きた。

突如、世界各地で大きな光の柱が現れたのだ。それがあったのは5分にも満たない時間で、すぐに消えたが人々に大きな変化をもたらしていた。

 

[BADANを倒したのはSPIRITS部隊だが、仮面ライダーという奴らも貢献したらしい]

 

それまでは確かに人々の記憶にあった仮面ライダーという存在が都市伝説化され、誰もが存在を信じなくなっていたーとは言っても、元少年ライダー隊のメンバーや立花藤兵衛のように、長年仮面ライダーと共に戦ってきた人物に関しては、最初こそは他の人同様になっていたが、本郷や一文字、風見の姿を見て思い出したー。

それからは極力人前では変身せず、かつ人前でその姿を見せない事を徹底し生きてきた。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

(間に合えよ…!)

 

焦る気持ちを抑え、現場へと向かう志郎。しかし、20分経過しても目的地にはつけなかった。

 

「ッ!!」

 

そこである事に気付いた志郎はGT750を停め、一旦降りた。

周りを確認し、ある事を確認する。

 

「ここは、さっき通ったな。だが、あそこまでは一本道だったはず。迷うはずがない」

 

そこで、志郎はV3ホッパーを飛ばした。が、本来であれば上空500mまで上がるはずのホッパーが“何か”に当たり、落ちてきた。

驚いた志郎は空を見上げる。しかし、当然の事ながら彼の目には雲ひとつない空があった。

 

「どういう事だ?」

体内にある時計で時間を確認する志郎。それは16時を指していた。

 

(今は秋。この時間でこれだけ明るいのはありえない。と、なれば)

 

ここで、志郎は自分の経験と現状からある答えを導き出した。

 

「しまった、やられたな」

 

磁石イノシシに意識を奪われていた自分を呪いつつ呟いた。

 

「魔女の結界にハマったか…!」

 

______________________

 

あれから10分ほど、志郎はバイクを走らせながら魔女を捜していた。だが、その景色は先日のような奇妙なものではなく、時間と明るさは一致しないが、普通に見えた。

 

(魔女を倒す事が出来ればこの結界から出られる)

 

それは分かっていた。が、肝心の魔女が見つからなかった。

 

(クソッ!このままだと…)

 

間に合わない。

朝の事が頭の中でチラつき、余計志郎を焦らせた。

 

「ん?なんだ?今、景色が歪んだ…?」

 

ふと、空間の一部が歪んでいる事に気付く。

 

(魔女が、出るか…?)

 

緊張が走り、ベルトを出して両手を水平に上げた。

突如、歪みが大きくなり、一つの大きな穴となった。

 

「……」

 

眼を凝らし、見つめる志郎。次の瞬間、その穴から2人の少女ー一人は青い短髪で、もう一人はピンクのツインテールをピンクのリボンで結んでいたーが仰向けの状態で放り投げられた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

突然の事に驚きながらもバイクから降り、少女達の元へと駆けつける。

二人の少女は気を失っているだけで、目立った外傷は無かった。

 

「………………」

 

息を殺しながら2人の胸へと耳を近づける志郎。

 

「………………」

 

数秒後、心臓の鼓動も正常であることを確認した志郎は耳を離した。

 

「不幸中の幸い、か」

 

誰にも言うわけでもなく、志郎は呟いた。

確かに彼女達が生きていること自体は幸運で、志郎も喜ぶところだった。しかし、状況が状況なだけに素直にはそうできなかった。

 

(この子達が早く目を覚ましてくれればいいんだが…)

 

そう思いながらもう1度V3ホッパーを飛ばす志郎。しかし、やはり上空で“何か”に当たって落ちてきた。

焦りが募る志郎。目を瞑り状況を整理しつつ今打てる最良の1手を導き出した。

 

___________

 

あれから更に10分。志郎は青髪の少女をおぶり、ピンクの髪の少女をGT750の座席に寝かせて歩いていた。志郎のGT750は改造されており、彼の脳波である程度操縦できるようになっているため、このように対応した。

 

「魔女が出てくる様子もない。使い魔もいない。この子達が目を覚ます様子もない。怪人もいない、か」

 

依然として変わらない状況に多少の苛つきを覚えつつ歩く志郎。

もう暫くはこれが続くかと思われた。しかし、

 

「んん…」

 

志郎の背中から声と何かガサガサと動いた。

 

「うん?」

 

志郎は足をとめ、首を捻って後ろを見た。すると、至近距離に青髪の少女の顔が現れた。

 

「うわっ!?」

「んっ!」

 

互いに驚いた声を出す。

 

「は、離せっ!!このっっ!」

「落ち着け。俺は敵じゃない」

「この!ロリコン!!」

「俺はロリコンじゃない」

「早く離せ!!」

 

話が通じない。

そう思いため息を吐きながら少女を下ろした。

 

「このロリコン!なにした!!?」

 

青髪の少女が噛み付くが、志郎はそれを無視してピンクの髪の少女の容態を見た。それを見た青髪の少女は青筋を立てて志郎に殴りかかった。

しかし、それを見向きもせずに志郎はかわし、青髪の少女はバランスを崩して地面に激突した。

 

「いった〜」

 

青髪の少女は頬から血を流していた。しかし、それを気にもせずなお、志郎に攻撃をしようとした。

 

「おい」

 

それを見かねた志郎が声を出す。

 

「いいかげんにしろ。今君と争ってる暇はないんだ。すまないが後にしてくれないか」

「だったらまどかを離せ!!」

 

少女が叫ぶ。

 

「まどかとは、この子のことか?」

 

志郎がピンクの髪の少女を見て言った。

 

「そうだ!まどかをさっさと返せ!」

「悪いが、それはできない相談だ。この子は気を失っている。今はきみに引き渡せない」

「………」

「………。信じれないかもしれないが、俺は君たちの味方だ。害を加えるつもりもない」

「………。本当?」

 

青髪の少女は訝しげに聞く。

 

「俺を信じろ」

 

志郎は出来るだけ力強く言った。

するとその少女は、分かった、と一言だけ言い警戒はしつつも攻撃するのを止めた。

その後、志郎は青髪の少女の名前が“美樹さやか”だという事を聞き出し、互いに持っている情報を交換した-とはいってもほとんど志郎が話す側で、さやかは殆ど何も喋らなかった-。

 

「それと、今いる所について話す。信じられないと思うが、聞いてくれ」

 

志郎が喋る。

 

「………。分かったわよ」

「実はな、俺たちは今、魔女の結界という所にいる」

「魔女の結界!!?」

 

さやかが大きく反応した。

 

「知っているのか?」

「あ、えと…」

「知っているようだな」

「そういう志郎は何で知ってんのさ?」

 

さやかが尋ねる。

 

「この前戦ったからだ」

「はぁ!?」

 

予想外の答えにさやかは驚いた。

志郎はどこからどう見ても20代後半の男だったからだ。

 

(魔法少女っておっさんでもなれるの!?それって何?魔法少女じゃなくて魔法壮年?)

 

などと見当違いなことを考えていた。

 

「そういえば、お前たちはどうやって魔女の結界に入ったんだ?」

志郎が聞いた。

 

「分かんない。ただ、まどかに向かって何か黒い玉が来たから危ないって思って、守ろうとしたら気を失って」

「そうか…」

 

(何か分かればよかったんだが)

 

落胆する気持ちを隠せずに、志郎はため息をついた。

が、そのような憂鬱な気分を消す出来事が、次の瞬間に起きた。

 

「!?」

 

自分達に向けられた殺気にいち早く気付いた志郎はさやかの前に、背を向けて立った。

 

「え?どうしたの?」

 

さやかが尋ねるが、志郎はそれを無視して

 

「俺の側を離れるなよ」

 

と言った。

 

「え、何があるの?」

 

志郎の背中から顔を出したさやかは、視線の先にあるものを見て絶望した。

そこには2体の魔女がいた。

 

-1体目の魔女の名は『タブラジア』。性質は『悪因』。彼女は気に入らないものを禁止する。それがどのようなものであるかは関係ない。彼女に目をつけられれば、死ぬまで開放されることはないだろう-

 

-2体目の魔女の名は『グリーファンネ』。性質は『貪欲』。彼女は欲しいものを全て手に入れなければ気が済まない。いつか、彼女の欲が満たされる日は来るのだろうか-

 

タブラジアは糸のように細い体と歪んだ立ち入り禁止の標識の頭部で、グリーファンネは1mほどの黒い球体に多数の手が突き出していた。

 

「チッ!面倒なことになったな」

 

そう言いながら志郎はチラリとさやか達を見た。まどかはまだ目を覚ましておらず、さやかは怯えきっていた。

志郎は一瞬思考したあと、覚悟を決めた。

 

「おい、さやか」

「な、何?」

「今からの事は他言無用だ。いいな?」

「え、何いって」

 

さやかが言い終わる前に志郎は両手を水平に上げた。

 

「ヌゥン…!」

 

そして、変身するためのスイッチを起動すべくその動作を行っていく。

 

「変っ身、V3ァァァァ!!」

 

瞬間、志郎の腰に付けられたダブルタイフーンが高速で回転し、風を発生させる。

 

「うわっ!?」

 

さやかは風の強さに目を瞑った。

 

「うぅ…」

風が収まり、目を開けるさやか。すると、そこに志郎の姿はなく、緑の異形の者がいた。

 

「仮面ライダーV3!!」

 

異形の者-仮面ライダーV3-はポーズをとりながら名乗りを上げた。

 

「え、仮面、ライダー?」

 

さやかは目の前の状況に理解が追いつかず惚けていた。

 

 

「さやか、ここから離れるんじゃないぞ?」

 

V3はそう言って、高く跳躍した。

 

「V3スクリューキック!!」

 

そう言ってV3は錐揉み状に回転し、タブラジアめがけて急降下して放つ。

 

(奴の能力は不明だ。だが、前のやつのように使い魔を召喚するようなやつなら)

 

そう思い、放った。しかし、その考えは甘いことをすぐに知る。

 

「何!?」

 

グリーファンネがタブラジアの前に出てきて、体から生えた無数の手がV3の身体をとらえた。スクリューキック自体破壊力は高いためそれを止められたことに驚いた。

その隙を突いてタブラジアがV3のコンバーターラングに自身の頭部をくっつけた。

次の瞬間、タブラジアの頭部と首から下が切り離された。そして、切り離された身体と頭部が消滅して、グリーフシードを産んだ。だが、V3のコンバーターラングには標識のマークが浮かんでいた。

それを見たグリーファンネはV3を離した。

着地し、反撃を開始しようとするV3。しかし、ある異変に気付いた。

 

「!?何だ、これは…!?」

 

身体がピクリとも動かなかった。

 

「さっきの魔女の能力か…」

 

(あの見た目だ。“動く事”を禁止されたんだろうな)

 

動けない。それは戦いの場においては非常に危険なことだった。しかし、V3は落ち着いていた。

何故なら、『V3・26の秘密』の一つ、“マトリックスアイ”の能力によってタブラジアがどんな力を持っているかを分析していたからだ。

 

(奴の能力を解除する方法。それは…、ならば…)

 

敵の能力と現在自分ができる行動を照らし合わせ、最善の1手を考えついた。

 

「さやか!」

 

V3が呼びかける。

 

「な、何?」

 

さやかがおっかなびっくりといった具合に聞く。

 

「ハリケーンに乗せてあるまどかを下せ!!」

 

ハリケーン、という聞きなれない単語に頭に?マークを浮かべつつ周りを見るさやか。すると近くに見慣れないバイクがあることに気付いた。

そして、そこにまどかがいることを確認し、出来るだけ丁寧に下ろした。

 

「で、できたよ!」

 

と、出来る限り大きな声でさやかは知らせた。

それを聞いたV3はチカチカと額にある赤い部分が光った。すると、ハリケーンのエンジンに火がつき、V3めがけてかなりのスピードで走り出した。

 

「よし…」

 

そう呟き、身体の力を抜くV3。すると、両目の複眼の色が暗くなり、光をなくした。

ハリケーンはそのままV3へと突進していった。吹き飛ばされるV3。速度を落とし、停車するハリケーン。

 

「え……?」

 

さやかは目の前で起きている光景に理解できずにいた。

ドシャッと音を立てて地面に激突するV3。彼はピクリとも動かなかった。

 

「欲し、い、ホ、し、以保、し、胃欲しい、ho、死、遺」

 

その様子を見てグリーファンネは嬉しそうに上下に動いた。そして、少しずつV3に近づき、そしてとうとうV3の四肢をつかんだ。

 

「府扶、ふフ、不hu、麩巫賦」

 

グリーファンネが力を入れ引きちぎろうとした。

 

が、次の瞬間

 

ギュイイイイイイイイイイン………

 

ダブルタイフーンの2つの風車が高速で回転した。

そして、V3の緑色の複眼に光が灯った。

 

「本当はこんな戦い方はしたくないんだがな…」

 

そう呟き、グリーファンネを睨むV3。そして、

 

「V3サンダー!!」

 

そうV3が叫ぶと、触覚から100万Vの稲妻が発生し、グリーファンネに直撃した。

声にならない悲鳴を上げたグリーファンネは徐々に身体がバラバラになっていき、とうとう消滅した。それと同時にグリーフシードがポトリと落ち、結界が崩れて元の世界へと戻った。

 

「ふぅ」

 

V3はため息をつき、落ちている2つのグリーフシードを拾った。そして、さやかの元へと近づき、

 

「大丈夫か?」

 

と聞いた。

 

「え、あ、うん」

 

さやかはなんとか答える。

それを聞いたV3はまどかの元へ行き、彼女の身体に異常がないかを確かめた。

 

「よし。大丈夫なようだな」

 

数秒後、まどかに心配がないと決断したV3はハリケーンからある物を出し、さやかに渡した。

 

「これはスクランブルホッパー改と言って、これを回すと特殊な音波が出る。その音波は魔女の嫌うものだから、ある程度は君の身を守ってくれる。それだけでなく、私の所にもその音波は届くからすぐに助けに行ける。私はここを離れてしまうけど、何かあった時は必ず守る事を約束する」

 

スクランブルホッパー改。それは、以前少年ライダー隊が使っていた、V3の作ったスクランブルホッパーを改良したものだった。風見志郎の友人である結城丈二が構造を通信で教えてくれ、試作で一つ作っていた。

 

「多分、まどかちゃんはあと、10分程で目をさます。だからそれまでは彼女のそばにいてあげなさい。いいね?」

「わ、わかった、わよ」

「よし」

 

さやかの返事を聞いて、V3は安心し、ハリケーン号に跨って本来の目的地である廃ビルへと向かおうとした。

 

「待って!」

 

さやかが呼び止めた。

 

「どうした?」

「あの、頼みがあるんだけど……」

 

そこでさやかはほむらとマミの事を話した。

そして、マミを守ってほしいということを頼んだ。

 

「……わかった。約束しよう。だから君たちはもう帰りなさい。いいね?」

「うん……」

 

それを聞いて、V3はその場を離れた。

 

 

 

(いくら緊急とはいえ、かなり危ない賭けだった)

 

V3は人気のないところを選びつつ、ハリケーンを走らせながら先ほどの戦いを思い出していた。

 

マトリックスアイにより、V3はタブラジアの能力の限界を分析した。それは、“禁止”された者が死んだ場合にその能力が解けるというものだった。それを利用してV3は自身の身体を仮死状態にし、ハリケーンとの接触で再起動させるようにプログラムを組んだ。この時ハリケーンに速度を出させたのは、仮に仮死状態になった時、ハリケーンがそのまま減速して停車することなく、慣性に乗ったまま確実に自分の身体に当てるためだった。しかし、当然リスクもあった。あまりにも速度が速すぎて自身の身体が木っ端微塵に吹き飛ぶ可能性もあり、その調整が非常にシビアだったことや、再起動が遅れ、殺されたためにさやか達を守れなくなるかもしれないというものだった。

また、グリーファンネの弱点が電撃だと分析し、それを喰らわせるためにV3サンダーを使った。

V3は戦闘スタイルとして、不意打ちや賭けを嫌っているが、今回は他に方法がないためにそうするしかなかったのだ。

 

(一度ホッパーを飛ばすか)

 

そう考えたV3はV3ホッパーを飛ばした。

すると、そこから衝撃的な光景が送られてきた。

 

「しまった!」

 

そこには、爆発した廃ビルと、磁石イノシシと対峙する傷ついた魔法少女の姿があった。

 

(クソッ!!)

 

内心で舌打ちをしつつ、ハリケーンを最高速度にし、現場へ急行する。

するとすぐに目的地が見えてきた。

だが、そこには、今にも攻撃をしようとする磁石イノシシの姿があった。

 

(このままだと間に合わない!!どうす…、ッ!!これは、まさか…!?)

 

マトリックスアイを再び使い、磁石イノシシの分析をしつつ攻撃体制に入ると、ある事に気付いた。

 

(ならば…!)

 

V3はハリケーンの座席を踏み台にして跳躍した。そして、脳波でハリケーンをジャンプさせ、前輪を蹴って高速で回転しつつ磁石イノシシへと突っ込んだ。

 

「V3マッハキック!!」

 

V3マッハキック-必死の特訓から編み出した音速を超えるキック-を放つV3。

それが磁石イノシシに命中し、吹っ飛ばした。

 

「V・・・す、スリィ!な、何故貴様がここに・・・!?貴様は奴が足止めしていたはずだ。」

 

磁石イノシシが苦しそうに聞いた。それに対してV3はただ一言、

 

「貴様らがどんな計画を立てようが、この仮面ライダーV3には意味がない。覚えておくことだな」

 

と言って、磁石イノシシに背を向けた。それと同時に、磁石イノシシは爆発し、跡形もなく消え去った。

V3はそのまま停めてあったハリケーンにまたがった。

 

「ん、そうだ。」

 

そのまま去ろうとしたV3だが、何かを思い出し、ハリケーンからグリーフシードを2つ出した。

 

「これは君達に必要なものだろう?使うといい」

 

そう言ってV3はそれらを魔法少女へと投げ渡した。

 

「あ、ま、待って!!」

 

魔法少女が呼び止めようとするが、一度去った方がいいと判断したV3はハリケーンを飛ばし、その場を離れた。

 

(あの黒髪の娘が暁美ほむらか。彼女からは殺気は感じなかったから巴マミに手を出すことはないと思うが…。それにしても、なんとか魔法少女である彼女達と接触を図らないとな)

 

と考えながら。

 

_____________________

 

〜某所〜

 

そこは、地獄と化していた。作戦失敗の報告を受けたΣが怒り狂い、その場にいた戦闘員全員とハサミジャガーとカメバズーカを殺したのだ。

 

「なぜたぁぁ!?何故この作戦が失敗する!?」

 

Σの計算では作戦は完璧だった。V3も魔法少女も予定通りに動いてくれていた。しかし、最後の最後で予定が狂ってしまった。

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

壁をフルパワーで殴るΣ。壁に穴が開いた。

 

「どうやら作戦は失敗したようだね」

 

突然、あの感情のない声が聞こえた。

Σは声のした方向を振り向いた。

 

「やはり君達は無能のようだ」

「黙れ!!“生産”しか出来ないゴミクズがほざくな!!」

「やれやれ。僕は君が大丈夫だと言ったから信頼したんだよ?その結界がこれか」

「今回はたまたまだ!!次こそは成功させてみせるさ!!!」

「そうかい。まあ、期待はしているよ」

 

そう言って、その声の主は消えていった。

それを確認したΣはもう1度壁を殴って破壊し、深呼吸をしたのち、戦闘員を呼びた。

 

「キキッ!」

 

奇妙な声と共に室内に入った戦闘員にΣはある人物を呼ぶように言った。

それを理解した戦闘員は一旦その場を離れ、しばらくして一人の少女を連れて戻ってきた。

 

「あたしに用ですかぁ?」

 

その少女は入るなり軽い口調で話した。

 

「貴様、どういうことだ?V3を足止めしろと言ったはずだが?」

 

Σが努めて冷静に聞く。

 

「ああ、アレっすか?失敗しちゃいましたね。あの昆虫野郎が意外にも機転が利いて、あたしの持つNo.1,2の魔女をぶち当てたのにいとも容易く突破しやがりましてね。まあ、次こそは」

 

そこまで言ってその少女は喋らなくなった。Σが首と胴体を切り離したからだ。ピクピクと少女の身体は痙攣していた。

 

「貴様が私に言ったのだぞ?“必ず作戦成功に貢献する”と。“失敗したら殺してくれてもいい”と。これは当然の報いだよなぁ?」

 

そう言いながら物言わぬ頭部を持ち、髪に付いている“ある物”を髪の毛ごと引きちぎった。

 

「まあ、こんな役立たずでもこれぐらい役に立ってもらわんとな」

 

そう言い、“ある物”を手に握るΣ。そして、

 

「優木沙々の遺体は消せ!奴に見つかると面倒だ!」

 

と戦闘員に命じた。




美希さやかは悩んでいた。自分の愛する人の為に戦う運命を受け入れるかどうか、と。
暁美ほむらは悩んでいた。仮面ライダーV3と名乗る男を信用してもいいのか、と。
風見志郎は悩んでいた。魔法少女である彼女達にどのように接点を持てばいいのか、と。
そして、そんな中暗躍するネクスト・デストロンと2人の魔法少女。彼らの目的は一体。
次回、「新たな魔法少女、誕生」ご期待ください。


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第6話 新たな魔法少女、誕生①

今回は少し早く投稿できました。
それと、今回、より読みやすさを追求するために少し書き方を変えました。効果があったら幸いです。
それでは、第6話その①、お楽しみください!


スーパー磁石イノシシとの戦いを終え、ほむら、マミ、さやか、まどかはそれぞれの自宅へと帰った。

 

-さやか宅-

さやかは頭を抱えていた。

仮面ライダーとの接触により、自らの持っていた一般常識が覆され、少なからずともショックを受けていた。

 

「志郎は自分の事をV3って言ってた。でも、コスプレって事もありえ、ないか…。なんか変な形したカラフルなバイクにぶつかっても生きてたし…。一体何が正しいんだろ…?」

 

考えれば考えるほど現実と一般常識とのギャップに悩み、混乱した。

 

「でも…」

 

しかし、もし本当に仮面ライダーというのがいるのなら

 

「恭介…」

 

彼女の想い人である人物の事を考えながら一つの可能性を考えていた。

 

 

-マミ宅-

 

マミの気分は落ち込んでいた。実は彼女自身仮面ライダーの存在を密かに信じており、それが実在することが分かってかなり喜んだ。

しかし、

 

「何で気絶してたのよ。私ったら…」

 

会える機会を自ら潰してしまい、多少後悔していた。

 

「あの時は暁美さんを守るためとはいえ、他に方法はなかったのかしら…」

 

そこまで考えてため息をつく。

 

「今度はいつ会えるのかしら…?」

 

…………コンコン…………

 

突然窓を叩く音が聞こえた。

 

「あら?」

 

その音のする方へと向く。そこにはQBがいた。

 

「QB、おかえりなさい。何だか懐かしく感じるわね。どこに行ってたの?」

 

マミに窓を開けてもらい、中へと入ってQBは答える。

 

「他に魔法少女候補の少女がいたから勧誘していたんだ。」

「そうなの」

 

マミは納得し、台所へ行ってQBへの食事を準備して渡した。

 

「ありがとうマミ」

 

QBは礼を言ってそれをモグモグ食べ始めた。

その様子を見てクスリと笑い、

 

「会いたいな…」

と呟いた。

 

 

-ほむら宅-

 

「仮面ライダー」

 

誰もいない部屋でその名を呟く。今日突然現れ、自分達を助けてくれた異形の姿をした人物。

 

「…………」

 

もう1度今日の事を思い返す。

 

(彼はきっと敵ではないない。でも、味方とも限らない)

 

仮にV3が自分達の敵になった時、果たして勝てるだろうか。

これから起こり得る最悪の事態を想像し、ほむらは憂鬱になった。

 

 

-まどか宅-

 

帰宅したまどかは何も言わずに自分の部屋へ行き、ぬいぐるみを抱きしめてボーッとしていた。

 

「仮面ライダーV3…」

 

まどかはその名を呟く。

自分が気絶している間にさやかと自分を助けてくれた戦士。彼が味方だという事はまどかには分かっていた。

なぜなら…。

 

「そうだ」

 

まどかはある事を思い立ってリビングに行き、知久と詢子の元へと行った。

 

「ねぇ、パパ、ママ」

 

「何だい、まどか?」

 

「どうしたの?」

 

知久と詢子が答える。

 

「あのね、パパとママが少年ライダー隊だった時の話を聞かせて欲しいんだけど、いい?」

 

それを聞いた2人は目を合わせ、真剣な眼差しでまどかを見つめた。

 

「どうしてそんな事を聞くんだい?」

 

知久が聞く。

 

「え、あの、その、今日学校でそういう話になって」

 

「嘘はやめな」

 

まどかが理由を言うと詢子が即座にそう言った。

 

「嘘なんて…」

 

まどかは何とか反論しようとする。しかし、

 

「あんたは嘘や隠し事があると目線を下に向けるから、分かるんだよ」

 

と、詢子が言った。

まどかは迷った。昨日今日の事を素直に言うべきかどうか。

仮に言ったとして、この2人なら自分の事を信じてくれるだろうという確信はまどかは持っていた。しかし、それを言うことで再び混乱を招くかもしれないという危惧もしていた。

 

(私、どうしたらいいんだろう…?)

 

心臓の鼓動が早くなる。

ゴクリと生唾を飲み込む。

 

「…………ら」

 

「ん?何だって?」

 

「どうしても、知りたいから」

 

「…………」

 

「私、仮面ライダーについて、知りたいの。だから、お願い」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………。ハァ」

 

とうとう詢子が折れたのかため息をついた。

 

「知久。言ってもいいかい?」

 

詢子が尋ねる。

 

「僕は君の判断に任せるよ」

 

優しい表情と共に知久はそう答えた。

 

「分かったよ」

 

そう言うと詢子はまどかの眼を見て

 

「いいか、まどか。この事は絶対に誰にも言うなよ?分かったな?」

 

と言った。

 

「うん。約束する」

まどかは力強く頷いた。

 

「よし、それじゃ話してやるよ。私達が少年ライダー隊にいた時の頃を」

 

まどかはそこから一語一句聞き逃すまいと詢子の話を聞いた。

 

 

-某所-

 

風見志郎は悩んでいた。どうやって魔法少女達と接触すればいいのか。

『ほむらちゃん』には会ったが、何から、どうやって助けるまでかは分からない。そのため、問題だけが増えていき解決するための糸口をなくしていた。

 

「どうしたらいいのやら。……ん?」

 

ふと、下を向くと1枚の広告が落ちているのが見えた。

 

「ゴミくらいちゃんとゴミ箱に捨てろよ」

 

そう広告を捨てた誰かに毒づきながら志郎はそれを拾った。

 

「これは……!」

 

その広告を読んだ時、志郎の心は歓喜に包まれた。

広告にはこう書いてあった。

 

『見滝原中学校警備員募集中』

 

「ほぅ……」

 

志郎はそれを見て、一つの考えが浮かんだ。

 

(警備員か。学校へ行くには十分な理由だな。さて)

 

志郎は広告にあった必要事項を読み、行動を開始した。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

翌日、まどかとさやかはいつも通り仁美と共に学校に登校した。しかし、昨日の事がどうしても頭の中で引っかかり、仁美の話を聞いていないことが多く、再び誤解されかけた。

それをさやかとまどかが必死で説得していると、その横を1台のバイクが通った。

普段その道ではバイクは通らないため、その光景が珍しく、少しざわついた。そのため、まどか達は一旦説得を止め、その方向を向いた。

 

「今のバイクかっこよかったね」

 

まどかが言った。

 

「確かにかっこよかったね。んにしても、どっかで見たことあるような…」

 

さやかが首を捻る。

 

「…………ですわ」

 

仁美がボソッと呟いた。

 

「ん?何だって?」

 

聞き取れなかったためか、さやかがもう一度言うように促した。

 

「GT750ですわーーーーー!!!」

 

それに応えるかのように、仁美が裏返った声で叫ぶように言った。

 

「GT750?」

 

まどかが聞く。

 

「ええ。あれはGT750という車種ですわ!!今から11年前に生産中止されたもので…」

 

そこからまどかとさやかは仁美からGT750の素晴らしさについての講義を学校に着くまで聞かされた。

 

 

 

 

「ふぅ」

 

学校に着いた志郎はヘルメットを外し、バイクから降りた。キーを掛け愛用の黒いグローブを外して用務員室へと向かった。

(…………懐かしいな)

 

志郎はすれ違った生徒達を見て、ふとそう思った。

自分の学生時代を思い出し、感傷に浸る士郎。

「ん、ここか」

 

そんな事を思っていると、目的地に着いていた。

 

「さて」

 

気合を入れ、志郎は用務員室にいる職員へと声をかけた。

 

 

 

 

教室に入って室内を見回した時、まどかはほむらがいるのを見て安心した。すると次の瞬間、さやかがまどかをトイレに誘った。

 

「どうしたの?」

 

トイレに着いた瞬間に、まどかが聞いた。

 

「あのさ、転校生のことなんだけど…」

 

「ほむらちゃんのこと?」

 

「うん。昨日はさ、V3がいてくれたからなんとかなったかもしれないけど、これからはそうはいかない」

 

「…………」

 

「だからさ、転校生と一緒に行動するべきじゃないと思う。やっぱ信用できないし…」

 

「…………どうして?」

 

「え?」

 

「どうしてそんな事言うの?なんでそんなにほむらちゃんの事を嫌ってるの?」

 

ここにきて、まどかが口を開いた。

 

「どうしてって、あいつは」

 

「QBを虐めてたから?魔法少女狩の犯人かもしれないから?」

 

「そうだけど………」

 

「何で、さやかちゃんはそんなにほむらちゃんを悪者にしたがるの?」

 

「だからあいつは……」

 

「さやかちゃん、何か変だよ……。」

 

「変って、何がさ?」

 

「どうしてほむらちゃんの話を聞かずに勝手に決め付けるの?」

 

「だって、QBが言ってたんだよ。犯人の特徴を聞いたって。黒髪の魔法少女だったって」

 

「それだけでほむらちゃんが犯人だって決めつけるの?」

 

「だから、あいつは……!」

 

さやかは再び反論しようとした。しかし、次の瞬間、まどかによって遮られたため、何も言えなくなった

 

「ほむらちゃんが本当に魔法少女狩の犯人だったら私たちを助けるはずないよ?」

 

「そうやって油断させといてから殺す作戦かもしれないじゃん」

 

「何でそんな回りくどいことする必要があるの?」

 

「…………」

 

さやかは若干イラついていた。

何故まどかは自分の言ってることを分かってくれないんだろうか。まどかの事を思って言っているのに、と。

 

「それにほむらちゃんは……」

 

「あのさ、まどか」

 

今度はまどかが止められた。

「どうしてそんなに転校生に肩入れするのさ。あいつが味方だって保証なんてどこにもないのに」

 

「どうしてって、さやかちゃん、ほむらちゃんのこと何も分かってないのに」

 

「何も分かってないのはまどかの方だよ!!」

 

『何も分かってない』という、まどかの言葉に強く反応したのか、さやかが怒鳴った。幸い廊下やトイレには人がいなかったため、誰かが来ることはなかったが、人が来てもおかしくない程響き渡った。

 

「まどかは家の周りにQBが来れないように魔法が掛けられて、何も聞いてないからそんなことが言えるんだよ!!実際、殺された魔法少女は何人もいるんだよ!それも風見野で!!あいつがあたし達と一緒にいない時に何してるかなんて分かんないじゃん!!」

 

「ふざけたこと言わないで!!」

 

今度はまどかが怒鳴った。それも、その小さな身体から出たとは思えないほどの大きな声だった。

 

「そんな事をしてなんの意味があるの!?ほむらちゃんが私達を命懸けで助けてくれたのに、それに感謝もしないで疑ってかかるの!?何でほむらちゃんとちゃんと話そうともせずに決め付けるの!?」

 

「だから何度も……」

 

そこまで言って、さやかは言うことを止めた。まどかの目に涙が溜まっていたからだ。ここで、ようやくさやかは自分の過ちを悟った。

 

「さやかちゃんなんて、もう、もう。……知らない!!」

 

そう言ってまどかはその場を走り去って行った。

 

「まどか……」

 

さやかはその場で立ち尽くし、しばらく動けずにいた。

 

 

 

 

志郎は校長室の中にいた。目の前には校長、教頭、それに加えて教育指導の教師がいた。

 

「どうぞ、腰をかけてください」

 

校長が志郎に目の前にあるパイプ椅子に座るように促した。

 

「はい。ありがとうございます」

 

志郎はハキハキとした声で答え、座った。

 

「えー、それでは面接を始めます」

 

教頭のこの言葉を皮切りに、志郎への質問が始まった。

 

「えー、ではまず、名前と年齢、職歴を教えてください」

 

「風見志郎です。40歳です。8年前まで立花藤兵衛のもとで共に運動器具店を経営していました。それと同時にレーサーとして活動をしてました」

 

「昨年までは何をなさっていましたか?」

 

「BADANの攻撃によって破壊された街の復旧に力を入れていました」

 

「なぜこの仕事をしようと思ったんですか?」

 

「自分の担当した場所の復旧がある程度終わったので、これからは人の役に立つ仕事がしたいと考えていて、その時にここの広告を見て決心しました」

 

「では、最後に。仮に凶器を持った男が学校に侵入してきた場合、あなたはどうしますか?」

 

「生徒たちの誘導は先生方に任せて、自分が盾になります」

 

「あなたは何か格闘技か何かの経験がありますか?」

 

「いいえ。ですが、器械体操をやっていたため身のこなしには自信があります」

 

「……。分かりました。面接はこれで終わります。お疲れ様でした。結果は2時間後にお知らせします。広告にあったように合格だった場合、本日の午後から勤務をしていただくので、お願いします」

 

「はい」

 

こうして、志郎の面接は終わった。そして2時間後、採用の知らせが来た。

 

 

 

 

昼休みの時、まどかは3年棟に来ていた。マミに会うためだ。

 

「えっと、マミさんのクラスは…、ここだ」

 

マミの教室のまえに立ち止まるまどか。

 

「あ、あの、すみません。マ、巴先輩っていらっしゃいますか?」

 

ドアの近くにいた女生徒へと声をかけるまどか。

 

「巴さん?んっとねー。あ、いたいた。あそこだよ」

 

そう言って、その生徒はある方向へと指をさした。そこにはクラスメイト数人と談笑しているマミの姿があった。

 

「ありがとうございます」

 

まどかは礼を言って頭を下げ、マミの元へと向かった。

 

「あ、あの、マミ、さん」

 

おずおずと話しかけるまどか。

 

「あら、鹿目さん?どうしたの?」

 

「あの、その……」

 

マミはまどかの様子を見て異変を感じ取ったのか、周りの生徒に断ってまどかを屋上に連れて行った。

 

 

 

 

「で、どうしたのかしら?」

 

屋上に着いた瞬間、ドアを閉めたマミがまどかに聞いた。

 

「あの、実は……」

 

まどかは朝のことを話した。そして、それが原因で今日1日もさやかと話していないことも言った。

 

「私、間違えちゃったんですか?」

 

全てを話し終え、最後にまどかが涙を腫らしながら聞いた。

 

「そうね………」

 

マミは何かを考える仕草をした。

数分経って、マミはその口を開いた。

 

「美樹さんは少し思い込みが激しい所があるものね…。でも、鹿目さんも分かってると思うけどあの娘も悪気があるわけじゃないのよ?」

 

「………はい」

 

「美樹さんが悪いわけじゃない。当然、鹿目さんも悪くない。それじゃあ、誰が悪いか分かる?」

 

「……誰も悪くないです」

 

「そう。あのね、鹿目さん。友達である以上衝突してしまうのは仕方ないことなの。大事なのはそれをどうやって決着を付けるか。どうすればいいのか、納得のいく形を探すの」

 

「納得のいく形……」

 

「そう。それはとても難しいことよ。でも、一番大切な事でもあるの」

 

「はい」

 

「頑張ってね、鹿目さん。貴女ならできるわ」

 

「ありがとうございます、マミさん」

 

まどかはそう言って頭を下げた。

マミはニコリとして、ええ、と答えた。

 

「私、さやかちゃんの所に行ってきます!」

 

まどかはそう言って屋内に入ろうとした。

しかし、

 

「あ、待って!鹿目さん!!」

 

とマミが引き留めた。

何ですか、と言いながらマミの方を振り向くまどか。

 

「今日から魔法少女体験講座は終了よ」

 

マミはそう言った。

 

「え……?」

 

何を言っているのか分からないといった風に聞くまどか。

 

「貴女達みたいに、普通の女の子にあんな危険な目に合わせるわけにはいかないもの」

 

と、マミは優しく微笑みながら言った。

まどかはただ、何も言わず、深々と頭を下げて屋内へと入った。

 

 

 

 

「はぁ………」

 

さやかは見滝原のとあるデパートのエスカレーターでため息を吐いた。

彼女は昼休みになってすぐに荷物をまとめ、学校から抜け出していた。

 

「何やってんだろ、あたし…」

 

朝のことが思い出される。さやかはそのことについてずっと後悔していた。

 

「まどかの言い分だって分かってたのに……」

 

気分が憂鬱のまま、さやかは当てもなくデパート内を彷徨った。すると、ふと1枚のCDケースが目に入った。

 

「恭介………」

 

ふと、想い人の名を呟くさやか。

本来ならこんな気分で想い人の事を考えるさやかではないが、彼女の知らない所で精神的に疲労が溜まっていたのか、無意識のうちに現実逃避していた。

 

「そうだ、夕方、恭介のところに行こう」

 

 

 

 

-某所-

 

2人の少女が小さな椅子に座っていた。彼女達はカップに注がれた紅茶とクッキーを楽しみがら今後の事を話していた。

 

「予定通り?」

 

「ええ。仮面ライダーもQBも、私の見た通りに動いてくれているわ」

 

「それじゃあ今度志郎に会うのは」

 

「2週間以内に会うわ。それも、敵として」

 

すると、その内の一人がクスリと笑って

 

「でも、可哀想だよねぇ。私達のコンビネーションに勝てるわけないのに」

 

と言った。

 

するともう一人は、ええ、と言って、紅茶を飲み干した。

 

「ねぇ、今日はあと何人救えばいい?」

 

その様子を見た少女が尋ねる。

 

「そうね。あと3人といったところかしら。できる?」

 

「当然!!君のためなら、たとえ火の中、水の中、草の中、どこにだって行くし、どこまでもついていくよ!!」

 

「そう。でも、無理はしないでね?」

 

「分かってるさ。もう、心配性だなぁ、織莉子は」

 

「そうさせてるのは貴女でしょ?キリカ」

 

二人の少女-織莉子とキリカ-はクスクスと笑った。




ありがとうございました!
さやかちゃん、いい具合に病んできてますね。
これが後の話にどう影響してくるのか……。
病んでる娘ってなんかいいよね…?


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第6話 新たな魔法少女、誕生②

お久しぶりです!
なんとか完成しました!
第6話は次で終わりです。

それでは、お楽しみください!!


「え?さやかちゃん、帰っちゃったの?」

 

教室に戻ってさやかを探していたまどかはクラスメイトに言われたことに驚いた。

 

「そう、なんだ……。教えてくれて、ありがとう」

 

まどかは一言礼を言い、自分の席に座った。

 

(さやかちゃん……)

 

まどかは心配しつつ、今の自分にできることを考えた。

 

(少し、少しだけ危険かもしれないけど。さやかちゃんに怒られちゃうかもしれないけど……)

 

まどかはある決心をして一人の人物の元へと向かった。

 

「ねえ、ほむらちゃん。帰り、時間ある?」

 

「何かしら?」

 

「あの、話したいことがあるんだけど……」

 

まどかはゆっくりと、しかし、強い意志を込めて言った。

 

「それは、私じゃないとダメなのかしら?巴マミでも」

 

「ほむらちゃんじゃなきゃダメなの」

 

まどかはほむらの目を見てそう言った。

 

「…………」

ほむらは暫く何かを考えたあと、頷いた。

 

「分かったわ。それじゃあ、帰りにワクドナルドに寄りましょう」

 

ほむらの提案にまどかは、分かった、と言った。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

「さて、仕事を始めるか」

 

用務員室で志郎は伸びをしながらそう言った。

 

(えーと、まずは……、体育館か。確かこの時間は2年生が体育をしているんだったな)

 

頭の中で業務内容を確認する志郎。

その手には先ほど校長から貰った校内図があった。

 

「ふむ、ここを右に曲がってまっすぐか」

 

そう言って道を辿った志郎は体育館に着いた。

 

「ん?器械体操をやっているのか。この学校、なかなか設備いいな」

 

感心して体育館内を志郎は見まわした。

鉄棒をする者、木馬や平行棒を使う者。上手い下手はあるが、皆必死にやっていた。

 

(懐かしいな……)

ふと感傷に浸り、学生時代を思い出す志郎。彼は過去、その高い身体能力と身のことなしから『マットの白い豹』の異名を持っていた。

 

「さて、次のところに行くか」

 

そう呟きながらその場を離れようとした。しかし、一人の生徒に目が止まった。

 

(ほむら……!?)

 

その視線の先には華麗に回転するほむらの姿があった。

これは彼にとってかなり嬉しい誤算だった。

 

(まさか、ほむらがこの学校の生徒だったとはな。………ん、何だ?)

 

志郎はしばらくほむらの様子を見て、ある事に気付いた。

 

(この感じ。まさか、あいつは……)

 

ある確信をして志郎は体育館を出て行った。

 

「さてと、次は……」

 

そう呟き、次の場所へと向かった。

 

 

 

 

「あの男………」

 

ほむらは体育館を出て行った男の後ろ姿を見て呟いた。先ほどまで自分に何か意味ありげな視線を向けていた人物を、ほむらは心地よく思っていなかった。理由まではわからないが、 何かしらの興味がある、という事だろうと推測していた。

 

「最低ね」

 

ほむらの中でその男の第一印象が決まった。

その後、その男について数多くの噂が立ち-ほとんどが高身長でイケメン。かつとても優しそうだという好印象なものがほとんどだった-ほむらはその男の名前が風見志郎だと知った。

 

 

 

 

夕方。最後の授業の終了を告げるチャイムが鳴り、生徒達はそれぞれの行動に移った。まどかもほむらの元へと行き、ワクドナルドへと向かった。

 

「それで?わたしに話って?」

 

注文を終えた後、椅子が2つ備え付けてある席に着いた瞬間、ほむらが聞いた。

 

「えと、その……。あの……」

 

まどかはおっかなびっくりしながら話し始めた。

 

「ほむらちゃん、魔法少女狩って知ってる?」

 

瞬間、ほむらの身体がビクッと震えた。

それを見たまどかは何かを察したのか、じっとほむらを見つめるだけだった。

 

「……………。知っているわ」

 

暫くの沈黙の後、ほむらが口を開いた。

 

「そ、それじゃあ、その犯人は?」

 

再びまどかが聞く。

ほむらは3分ほど何かを考えるように顎に手を当て、そして、ゆっくりと話し始めた。

 

「犯人も、知っているわ。でも、理由があって今は言えない」

 

「そう、なんだ……」

 

「今度は私から一つ聞かせてもらうわ」

 

コーヒーを飲み干し、ほむらが言った。

 

「どうして貴女は魔法少女狩の事を知っているの?どうして私が犯人だと思ったのかしら?」

 

「あ、えと、それは………」

 

まどかは言葉に詰まった。ほむらに質問を答えさせておきながら、自分にされた質問には答えない。そんな事が通用するはずがないと考えたからだ。しかし、それは同時にさやかへの裏切りだと感じた。

 

(私は………)

 

ふと、脳裏にさやかの笑顔が浮かぶ。

 

「実はね、ほむらちゃん」

 

心の中で覚悟を決めたまどかはさやかに言われた事を話し始めた。

 

 

 

 

「恭介〜〜」

 

病院に着いたさやかは彼の病室へと行った。

すると、そこにはイヤホンを耳に当てて音楽を聴いている想い人の姿があった。

 

「何聴いてるの?」

 

その様子を見たさやかが聞いた。

 

「明鏡止水〜されどこの掌は烈火の如く〜」

 

「ああ〜!田中公平の!!処刑BGMとしては最高だよね!!」

 

明るく振る舞うさやかだが、恭介はそこから何も反応しなかった。

そんな様子を見たさやかは寂しそうな顔をしたが、努めて笑顔を崩さず、言葉を続けた。

 

「ほ、ほら!あたしってほら!こんな柄だからさ、音楽とかそういうの興味ないって思われてるみたいで、たまに曲の名前を当てると皆に驚かれるんだよー!意外すぎて尊敬されるっていうかさー!」

 

目の前の少年は何も答えない。さやかはどうしたらいいのかも分からず、目に涙を溜めながら話を続ける。

 

「恭介が教えてくれたから。でなきゃあたし、こういう音楽ちゃんと聴こうと思う機会、多分一生なかったと思うし………」

 

「さやかはさぁ」

 

急に恭介がイヤホンを外して話し始め、さやかは何、と聞いた。

 

「さやかはさぁ、僕を虐めてるのかい?」

 

それは、感謝でも、驚嘆でもなく、ただ責めるような言葉だった。

一瞬にしてさやかの目に映る世界が色褪せる。

 

「何で今でも僕に音楽を聴かせ続けるんだ?嫌がらせのつもりか?」

 

「………え?」

 

さやかは言葉が詰まった。

 

「何とか言えよ、さやか」

 

イラついた様子で恭介はさやかに言った。

 

「だ、だ、だって、恭介、音楽、好きだから………」

 

「もう聴きたくないんだよ!自分で弾けもしない曲、ただ聴くだけなんて!!僕は………僕は………!」

 

恭介はそう言って、近くに置いてあった小型のナイフを右手で持ち、左手の甲に突き刺した。

 

「恭介!?」

 

突然の凶行に驚きながらも、再び突き刺そうとする恭介をさやかは身を挺して防いだ。

 

「何で、こんな、こと………」

 

さやかが涙を腫らしながら聞いた。

 

「動かないんだ……。痛みも感じないんだ………。刺してる感触はあるのに……!痛いはずなのに………!」

 

息も絶え絶えに恭介は答えた。

 

「大丈夫だよ……。いつかきっと治るよ………」

 

さやかはなんとか彼に落ち着いてもらおうとなだめるように言った。

 

「諦めろって言われたんだ……」

 

「え?」

 

「体の中にウイルスがあって、身体が少しずつそれに犯されているって言われたんだ……。今の医学では何もできないって………」

 

「そん、な………」

 

さやかは絶句した。彼の身体がそこまで酷いことになっているとは全く思っていなかったからだ。

ならば、いままで自分がしてきたことは………。

 

「わたし、わたし………」

 

考えが甘かった。次、仮面ライダーに会ったら恭介の腕を治せるか聞こうと思っていた。たしかに、『変身』という非現実的な機能を持った仮面ライダーであるなら可能かもしれない。しかし、いつ会えるだろうか。すぐならば問題はない。しかし、1週間、1ヶ月、1年、またはそれ以上会う機会がなかったら。それまで恭介はずっとこのままでいるのか。ヴァイオリンという心の支えを無くした彼は生きていけるだろうか。

 

さやかの頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていった。

 

「奇跡や魔法がない限り、無理だよ………」

 

恭介が嗚咽交じりにそう呟いた。

それを聞いたさやかはハッとした。そして、彼を勇気付けるように、力強く、一言言った。

 

「あるよ。奇跡も魔法も、あるんだよ」

 

彼女の強い意志のこもった目には、こちらを見る恭介と一つの影があった。

 

 

 

 

「遅くなっちゃった」

 

夜、7時頃、まどかは自宅へと向かっていた。ほむらと話した後図書館へ寄り、考え事をしていた。その為このような時間に帰路に着いていた。

 

「それにしても、ほむらちゃん何か凄く怒ってた風に見えたな……」

 

ワクドナルドでの事が思い起こされる。自分が知っている情報を話し終えたとき、ほむらの目には明らかに“怒り”の色があった。普段は冷静沈着でいるほむらがそのような感情を帯びたことに少なからずともまどかは驚いた。

 

「どうしてほむらちゃんは魔法少女狩の犯人を知ってるんだろう?」

 

ふと、そんな事を呟くまどか。

さやかの話しによると犯人はまだ分かっていないし、ちょっとした特徴しか判明していない。

では、何故ほむらが犯人を知っていると言ったのか。

 

「まさか…………。ううん、違う、絶対違う」

 

最悪の可能性が頭の中を横切った。まどかは足を止め、頭を横に振ってそれを払拭する。そして、再び歩き出した。

 

「……。あれ?」

 

まどかは目の前に、ある集団が歩いている事に気付いた。

小さな恐怖に好奇心が打ち勝ち、それに近づいた。すると、その集団のなかに良く見知った人物がいるのを見つけた。

 

「仁美ちゃん!」

 

その人物の名を呼びながらまどかは近づいた。

 

「あら、まどかさん。如何なさいました?」

 

仁美は落ち着いた口調でそう答えた。

 

「何してるの?それに、この人達は?」

 

それを聞いた瞬間、仁美はまるで新しい玩具を与えられた子供のように顔を輝かせ、

 

「素晴らしい所へ行きますの」

 

と言った。

 

異常だ………。

 

まどかはそう確信し、再び歩き始めようとした仁美の腕を掴んだ。

 

「あっ…………!」

 

直後、まどかは仁美の首に四角い紋様が目に入った。それは異様な輝きを見せ、脈動しているかのようだった。

 

「これって、魔女の口づけ……!」

 

先日、マミに説明された事を思い出し、顔が青くなるまどか。

 

「あら?まどかさん、如何なさいました?」

 

呆然とするまどかに仁美は優しく語りかけた。

しかし、まどかは様々な感情が入り混じり何も答えることができなかった。

 

「そうだ!まどかさんも一緒に行きましょう?楽しいところですから。ね?」

 

そう言って仁美は掴まれていない方の手でまどかの腕を掴み、引っ張った。

 

「え?ひ、仁美ちゃん、止めて!」

 

急なことに驚きながらもまどかは抵抗しようとした。しかし、

 

「い、痛い!」

 

逆に予想以上に強い力で仁美に引き寄せられた。

 

「大丈夫ですよ?最初は怖いかもしれませんが必ず幸せになれますから」

 

腕に力をより入れてまどかに痛みを与えながら仁美は言った。

まどかは今は何もできない事を悟り、大人しくついていくことにした。

 

 

 

 

「ふぅ、今日の仕事は終わりだな」

 

夜、7時頃に職務を終えた志郎はGT750を押して歩いていた。

 

「今日は何処に泊まろうか……」

 

昨夜は公園のベンチで夜を明かしたから、と考えていると何人もの人間が列をなして歩いてるのを見つけた。

 

「何だ?」

 

志郎はひと目見てそれが異常であることを察した。そこを行く人々の目には光が無く、何かうわ言を言いながら歩いていた。

その中に一人、見覚えのあるピンク色の髪をした少女がおどおどした様子でその列について行っていた。

 

「まさか……!」

 

この光景を彼は見たことがあった。BADANシンドロームにかかった人たちの症状と酷似していた。

 

(ネクスト・デストロンの仕業か?それに、あの娘は昨日助けた、まどかって娘じゃ…)

 

その集団をしばらく見つめていた志郎はある決心をした。

 

(ついていくか。奴らはそう簡単に人は殺さないはずだ)

 

そう思い、一歩踏み出した。

 

「……!!」

 

そして、その手を背後から掴む者がいた。

 

「何?」

 

そう言いつつ振り返る志郎。そこには予想だにしなかった人物がいた。

 

「ほむら……!」

 

「あら、貴方に名前を呼ばれる筋合いなんて無いわ」

 

ほむらは見た目通り、ツンとした態度を取りながら答えた。

 

「で」

 

すぐにほむらが口を開いた。

 

「貴方は何をしようとしているのかしら?それに、どうしてわたしの名前を知ってるのかしら?」

 

「少し、な」

 

「少し、何かしら?」

 

「いや、それよりもこんな時間にフラついてたら危ないぞ。家に帰りなさい」

 

「話をずらさないでくれるかしら?」

 

ほむらはそう言って手提げ鞄から拳銃を一丁取り出して、銃口を志郎に突きつけた。

 

「何をしている?」

 

両手をあげ、志郎が聞いた。

 

「見て分からないかしら?脅しているのよ。早く話さないと眉間に穴が空くわよ?」

 

「ふむ」

 

すると志郎はそれだけ言って黙り込んだ。

 

「悪いけど、私には時間がないの。早く言わないと本当に撃つわよ?」

 

そう言ってトリガーに指をかけるほむら。

志郎は困った顔をしながら目を瞑り、

 

「10秒だけ待ってくれ」

 

と言った。

 

「……………」

 

ほむらから殺気が立ち込める。若干の焦りを感じつつ、志郎はもう一度頼んだ。

 

「………。分かったわ」

 

1,2秒何かを考え、ほむらは了承し、カウントダウンを始めた。

 

「6、5、4、3、2、1。時間よ。さあ、答えなさい」

 

そう言ってほむらは一歩前に出て、銃口を志郎の額に押し付けた。

 

「ああ、分かった」

 

志郎はそれを物ともせず、冷静な口調でそう言った。

 

「俺の事を教えよう。だが、その前に周りを見た方がいい。敵は、すでにここにいる」

 

志郎はそう言って、超人的な動きでほむらの背後を取り拳銃を奪った。

 

「なっ!?」

 

ほむらが驚く間に志郎は左前方に二発、右に一発、後方に一発撃った。

其処には何もない、はずだった。

 

「キキッ!」

 

その奇妙な機械音声と共に戦闘員が3体、姿を現した。

 

「やはり、な」

 

志郎はその様子を見て呟いた。

 

「見たところ、貴様らネクスト・デストロンの戦闘員か。お前達が此処にいるとすると、先ほどの集団と何か関係があるな?」

 

志郎はそう言って拳銃を放り、戦闘スタイルを構えた。

 

「な、ネクスト・デストロン……!?」

 

その様子を見たほむらは体を一瞬ビクッと震わせた。しかし、首を横に振り魔法少女の姿へと変身した。

 

「風見志郎、退きなさい。こいつらは私が」

 

ほむらがそう言って左手にあるバックルから拳銃を一丁取り出し、戦闘員へと向けた。彼女は昨日までの戦いから戦闘員にはそれ程の能力がない事を知っていた。

 

志郎がなぜ戦闘員の居場所が分かったのかは不明だが、志郎が戦闘能力を有していなかった場合、最悪死なれてしまう。そうなってしまえば自身が聞きたい事が聞けず終いになってしまう。

 

それだけは避けねばと考えての行動だった。

が、

 

「ほむら。こいつらには戦闘能力はない。然程問題ではないだろう。それよりもむしろ………」

 

そう言うとチラリとある方向を見た。そこには、背中に7つの星を持ったテントウムシとネズミがいた。

 

「貴様らの事はバレている。早く正体を現したらどうだ?クサリガマテントウ、スプレーネズミ」

 

すると、志郎の言葉に反応したかのようにそれらの周辺の空間にモザイクが掛かり、それが収まると怪人が2体いた。

 

「さすがだな、風見志郎。俺たちの存在に気付くとは!」

 

手に鎖鎌を付けた人型のテントウムシ怪人ークサリガマテントウーが言った。

 

「あれだけの殺気を出していて気付くなという方が難しい」

 

志郎は構えを崩さずに冷静に答えた。

 

「か、風見志郎……?貴方は、一体……!?」

 

突然現れた2体の怪人に戸惑いながらほむらが聞いた。

 

「クサリガマテントウにスプレーネズミ。デストロンの怪人だ」

 

そこから志郎はそれを無視し、手短に2体の説明を始めた。

 

「クサリガマテントウの手にある鎖鎌は何度でも再生する。弱点は目だ。スプレーネズミは右手にある機械腕からデビルスプレーという細菌を出す。かなり強力だから気をつけろ」

 

志郎はそう言いながら腰を低くし、両手を水平に上げた。

 

「暁美ほむら。お見せしよう。俺の正体、仮面ライダー!」

 

変身するためのスイッチを入れるべく、志郎は身体を動かした。

 

「変身、V3ィ!!」

 

瞬間、彼の腰に着いているベルトの風車が高速回転し……。

 

 

 

 

某所

 

「これが次の作戦だ」

 

Σは紙をとある怪人に渡した。

 

「Σ様、この作戦は……?」

 

その紙を見た怪人が困惑したかのように聞いた。

 

「我だからこそ考える事の出来る作戦だ。それに、資金を得る事もできた」

 

Σはニヤリと笑ってそう言った。

 

「資金、ですか?」

 

「そうだ。スペインのとある貴族が莫大な資金を提供をしてくれたのだ。だからこそ貴様らを作る事ができたし、我の身体も7割完成した」

 

「なるほど」

 

「よいか?これは長期的な作戦だ。何が何でもV3や魔法少女共には知られるな!」

 

「はっ!!」

 

「よし。では、第一作戦開始だ!ダイナ・ギア・ザウルス!!」

 

「ギギャーース!!!」

 

誰も知らない場所で、悪魔の会議は開かれていた。

その牙はいずれ……………。




次はクサリガマテントウ&スプレーネズミVS仮面ライダーV3&暁美ほむら。魔女VSマミ&○○○の戦闘です。

ご期待ください!!


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第6話 新たな魔法少女、誕生③

第6話完結篇です!
物語の1/4が終わったあたりです。


私は、夢を見ているのだろうか?

午後、自分を視姦していたであろうー少なくとも自分はそう考えていたー人物が目の前で昨日私を助けた戦士へと姿を変えたのだ。

ならば、彼は……

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

「仮面ライダーV3!!」

 

変身したV3はポーズをとり、名乗りを上げた。

それを見たスプレーネズミとクサリガマテントウは嬉しそうに笑った。

 

「グェグェグェ、今度こそあの世に送ってやるわ!」

 

「この俺のデビルスプレーと」

 

「俺の鎌でな!!」

 

そう言って2人の怪人は攻撃態勢をとった。

 

「ほむら、君はまどかの所に行きなさい」

 

すると突然、V3はほむらにそう言った。

 

「え……?」

 

「奴らは2度、倒している。弱点は知り尽くしている。だから大丈夫だ。それより、今はまどか達を助けることの方が先決だろ」

 

V3はそう説得すると、ほむらは頷きその場を離れようとした。

しかし、

 

「させると思っているのかぁ!?」

 

スプレーネズミがそう言って右手にある腕から白色の粉を吹きかけてきた。

 

「何!?」

 

それを見たV3は守りの態勢に入り、一粒たりともほむらにかからないようにした。

 

「⁉︎」

 

ほむらが僅かながら驚く。

 

「大丈夫だ。私の体はこの毒を受け付けない」

 

V3はそう言って怪人達の方を向き、構えた。

 

「グェグェグェ!本当に大丈夫なのかぁ!?V3!!」

 

スプレーネズミが下卑た笑い声を出しながらそう言った。

 

「………?どういう事だ?」

 

真意が分からず聞き返すV3。

 

「貴様の身体を見てみろ!」

 

クサリガマテントウがそう言うと、V3は漸く自分の体に起きている変化に気付いた。

 

「変身が、解け始めている………?」

 

そう。粉を浴びた所を中心に変身が解除され始めていたのだ。

それは、少しづつだが、着実に彼の体に広がった。

 

「油断したな!V3!!」

 

スプレーネズミがそう言った。

 

「前までなら俺の毒は確かにお前に効かなかった。しかし、今回は違う!!俺はとある怪人の能力を手に入れて復活したのだ!!!」

 

「ある、怪人の、能力………。まさか」

 

V3はそこまで言って、あることに気付いた。

 

「貴様、幽霊博士の……」

 

「正解だ!!俺は奴の能力をさらに改良した物を手に入れて蘇ったのだ!!」

 

ー幽霊博士ー

それは、かつてジンドグマの四大幹部の一人として暗躍した怪人の一人。黄金病という特殊な病気を操り、人々を苦しめた。最終的には仮面ライダースーパー1である、沖和也に倒された。

 

V3とは直接的な接点はなかったが、情報だけは持っていた。

 

「V3、いや、風見志郎!!ここが貴様の墓場だ!!」

 

そう言って志郎にジリジリと近付くスプレーネズミとクサリガマテントウ。

変身がほとんど解けたV3はほむらを背に少しづつ下がった。

 

「ほむら、早く行け………」

 

ふと、志郎が小声でそう言った。

 

「え?」

 

「このままだと俺もお前も殺される。ここは俺がなんとかする。だから行け………!」

 

ほむらはその様子から彼が死を覚悟していることを感じた。

ここで、ふと、ほむらの頭の中にここ数日の事が駆け巡った。

 

「さあ、風見志郎!これで最期だ!!」

 

そんなほむらを無視したクサリガマテントウがそう言ってその鎖で志郎の腕を掴んだ。

それを見たスプレーネズミも、再びカビを浴びせようと腕を伸ばし、志郎に狙いを定めた。

 

「くっ…!行けぇ、ほむら!!」

 

切羽詰まってか、珍しく志郎は声を荒げた。

しかし、

 

「分かったわ、風見志郎。でも、ただでは逃げないわ。私は決めたの」

 

そう言ってほむらはその姿を消した。

志郎はそれに驚きながらもほむらがいなくなった事を安心し、前を見据えた。

 

 

 

一瞬後、クサリガマテントウの絶叫が響いた………。

 

「ぐが、ゲェ、アガっ、な、何故、ナゼ俺に、攻撃する………!」

 

明らかに、志郎を殺そうとしていたスプレーネズミの魔の手は彼ではなく、クサリガマテントウへと向けられた。

志郎自身何が起きたのか理解できず、目を見張っていた。だが、これを好機と見たのか、ありったけの力で鎖を引きちぎり、高く飛んでその場を離れた。

 

「す、スプレーネズミ、き、貴様、う、ゔ、ゔらびっだのが!?」

 

身体が腐敗していく中、クサリガマテントウは苦しそうにそう聞いた。

 

「わ、分からない!俺は、確かに風見志郎を!」

 

スプレーネズミも混乱していた。勝ったと確信し、Σからの褒美を期待していた矢先の出来事だったため、突然の事態に正しく対処できなかった。

 

「これを飲め!解毒される!!」

 

スプレーネズミはそう言ってベルトの中から小瓶を取り出し、クサリガマテントウに飲ませようとした。

が、その直後、彼の手からそれが消えていた。

 

「ど、どういう事だ!!?」

 

さらに混乱するスプレーネズミ。クサリガマテントウはとうとうドロドロに溶けて絶命した。

 

「な、何故解毒剤が、誰が!?」

 

「貴様が探しているのはこれか?」

 

唐突に声が聞こえた。それは、スプレーネズミが最も嫌う者から発せられるものだった。

 

「き、貴様!!?な、なぜ!?」

 

スプレーネズミが声の聞こえた方に向くと、小瓶を持ったV3がビルの屋上に立っていた。

 

「なぜ貴様がそれを持っているのだ!?」

 

「ふん。残念だが、それは教えれないな。さて、スプレーネズミ」

 

V3はそう言って深く息を吸い

 

「行くぞ」

 

そう言って、弾丸の様な速さで突っ込んだ。

 

「ギェ!?」

 

なんとか反応し、避けるスプレーネズミ。

そして、V3が着地した隙を見て再びカビを振りかけた。

 

「死ねぇ!V3!!」

 

これで奴は再び変身不能。どんなトリックを使ったか分からないが、殺せれば問題ない。もう一度風見志郎の姿に戻して嬲り殺してやる。

 

が、そんなスプレーネズミの思いも、高く跳躍したV3のかかと落としによって打ち砕かれた。

 

ズドン!!

そのままスプレーネズミは真っ直ぐ顔面から地面に激突した。

 

「き、貴様ァ、よ、よくも………!」

 

顔を抑えてスプレーネズミが苦しそうにそう言った。

指の隙間から僅かに見える顔は、原型をほとんど留めておらず、惨たらしいものとなっていた。

 

「これで終わりだ。スプレーネズミ」

 

V3は静かにそう言って、高く跳んだ。

そして、空中で前転し、蹴りの構えをとってドリルのように高速横回転をかけた。

 

「V3ィィィィ、ドリルキック!!」

 

その技はスプレーネズミの身体を真っ二つにした。

 

「ゆ、許さん、V、3、次は必ず……」

 

そこまで言ってスプレーネズミは爆発した。

 

「倒したか………」

 

V3はそれを見てそう呟いた。

ふと、自身の白い手を見る。

 

(今回の戦闘は、気になる点が3つあった。一つ目はスプレーネズミがクサリガマテントウを攻撃したこと。二つ目は俺の目の前に急に解毒剤が出てきたこと)

 

そこまで考えて、近くに落ちていた石を拾い、握りつぶした。

 

(そして三つ目は、解毒剤を使ってからの数分間、力の制御が効かなかったこと)

 

彼ら仮面ライダーには戦闘に対して一つのポリシーがあった。それは、己が力に飲まれて暴走しないことだった。

仮面ライダーは人間とはかけ離れた力を持つ。それは、強すぎるが故に使いこなせなければただの破壊を生み、彼ら自身が悪の組織、またはそれ以上の脅威へとなる。そのため、仮面ライダーはその力を人間だった頃の感覚と強靭な精神力で制御していた。

 

(まるで、ジェットコンドルと戦った時のような……)

 

V3は過去に、同じようなことを経験していた。

BADANとの戦いの時、ベルトが壊れ変身不能になった後、仮面ライダー1号・2号の緊急処置により不完全ではあるが再変身した。が、力の制御ができず、後輩である仮面ライダーZXが止めなければ衝動のままに敵を粉砕していたというものだ。

 

(この解毒剤の副作用か?それとも……)

 

志郎はそこまで考えて一旦思考を止めた。

 

(今考えても仕方ない。それよりも………)

 

V3は近くに停めてあるハリケーンにまたがり、V3ポッパーを飛ばして先ほどの集団を捜した後、そこに向かった。

 

 

数分後

V3は現場に到着した。すると、彼の目の前に信じられない光景が浮かんでいた。

魔法少女姿のほむらが涙を流しながらさやかの頬を張ったのだ。

よく見ると、さやかの服装は普通のものとは違い、軽装の剣士のようなデザインで、ビスチェ風のトップと左右非対称なスカートの上にマントを羽織っていた。

そして、露出された腹部には青く輝く三日月型の宝石のようなものがあった。

 

「まさか………!」

 

自分の予想が違っていてほしい。そう願いながらV3は彼女たちの元へと走っていった。

 

 

 

 

数十分前

まどかは仁美達についていっていた。

 

(どこに行くんだろう?)

 

そんな不安を覚えながらチラリと仁美の方を見た。その視線に気付いたのか、仁美はまどかの方を向き、ニコリと笑った。

いつもはその笑顔に元気をもらうまどかだったが、今回ばかりはそうはいかず、気分が沈むだけだった。

 

(何とかしないと………。そうだ、マミさんに連絡すれば………!)

 

魔法少女であるマミならこの状況を打開してくれるはずだ。そんな期待を込めてまどかはポケットの中にある携帯に手を伸ばした。

 

「あら?まどかさん?何をしようとしてるのです?」

 

それに気付いたのか、仁美が声をかけてきた。

 

「えと、その、と、友達を呼ぼうと思って……」

 

「まあ、そうでしたの!?それはいい事ですわ。救われる人は多ければ多いほどいいんですもの」

 

仁美はとても嬉しそうにそう言った。

 

異常だ。

 

まどかはひしひしとそれを感じた。

 

「それで、今から呼びますの?」

 

「う、うん」

 

「その方は何てお名前ですの?」

 

「と、巴マミさんっていう、3年生の先輩だよ」

 

「まぁ!私達よりも一つ上の方ですか!?それは嬉しいですわ!年齢はバラバラの方がいいですもの!!」

 

(……………ん?)

 

まどかは先ほどの仁美の言葉が引っかかった。

何か有益な情報を得られるかもしれない。そう思ったまどかは勇気を出して聞いてみた。

 

「ねえ、仁美ちゃん?」

 

「何ですか?」

 

「私達はどこに向かってるの?」

 

「どうしてそんな事を?」

 

「マミさんを呼ぶために必要かなって思って……」

 

「ああ、確かにそうですね。場所は………。ほら、あそこの工場ですわ」

 

仁美が指差した方向には確かに工場があった。しかし、それは外観からしてボロボロである事がハッキリと分かり、まどかは廃工場だと悟った。

 

(あそこって確かBADANに攻撃された………)

 

まどかは意を決してマミに電話をかけた。

 

『もしもし?』

 

5コール程でマミが出た。

 

「マミさん!?私です!鹿目まどかです!!」

 

『鹿目さん?そんなに切羽詰まったような声を出して、どうしたの?』

 

「実は………」

 

まどかはできるだけ手短に、かつ、周りの人に悟られないように状況を伝えた。

 

「………という事なんです!!」

 

まどかが説明し終えた後、マミは先ほどとは声のトーンが打って変わり、

 

『分かったわ。すぐにそっちに行く。でも、鹿目さんは危ないからできたら離れてて。それと、無茶はしちゃダメよ?分かった?』

 

それから、マミがいかに自分のことを心配してくれているか、いかに魔女に怒りを抱いているかを察したまどかは、はい、と答えた。

 

 

 

 

 

「さて………」

 

まどかから連絡を受けたマミは急いで変身した。

運がいいのか悪いのか、自分の家にいたため、人目を気にせず魔法少女の姿へとなれた。

 

「鹿目さんによると、場所は………ここね」

 

本棚にしまってある地図で場所を確認してから、マミはベランダから飛び出し、目的地へと向かった。

彼女の後を追う一つの影に気づかずに。

 

 

 

 

 

マミと連絡がとれてから数分後、まどか達は廃工場へとついた。

その敷地内にある一つの部屋に皆集まり、作業着を着た年配の男が

 

「俺の工場はもう終わりなんだ…………。BADANさえ、いなければ…………」

 

と、ブツブツと呟きながら、バケツの中に白い液体を入れていた。

ツン、と鼻をつくような臭いを覚え、嫌な予感を感じたまどかは、ジャージを着た男が持ってきた液体洗剤を見て、青ざめた。

 

『いいか、まどか?この手の物の扱いには十分気をつけろよ?混ぜたりなんかしたら私達家族はまとめてあの世行きだ。絶対に間違えるなよ?』

 

先日、彼女の母親である詢子が話した内容が思い出される。

 

このままだといけない!

 

そう思ったまどかはバケツに向かって走り出した。

が、後ろからガタイの良い男に腕を掴まれ、進むことができなかった。

 

「は、離して!!」

 

悲鳴のような声を上げるまどか。

それを見た仁美がまどかに近寄り、

 

「だめですよ?まどかさん。これから儀式をするのですから。邪魔をしてはいけませんよ?」

 

と、微笑みながら、諭すように言った。

 

「でも、皆死んじゃうんだよ!?」

 

まどかも仁美に正気に戻って欲しいと願い、叫んだ。

 

「当然ですわ。私達の目的地は死んだ先にあるんですもの。肉体に縛られたこの不自由な身体を捨てて、真の自由の為に旅立つのです。竜と共に………」

 

パチパチパチ、と、仁美の演説が終わってから拍手が起こった。そして、それがある程度収まった後、ジャージを着た男が液体洗剤を入れようとした。

 

このままじゃ、本当に………。

 

まどかはありったけの力を振り絞り、抵抗した。

ふと、一瞬だけまどかを掴んでいる力が緩んだ。まどかはそれを見逃さず、器用に体を動かし、男の拘束から逃れた。

そして、全力でバケツの元に走り、それを拾い上げた。

 

「どこか、捨てる所は………!」

 

焦りながら周りを確認すると、外に通じる窓が見えた。

 

「あそこなら………!」

 

息を切らしながらそこまで走り、ありったけの力で窓にバケツを投げ飛ばした。

 

ガチャーーーン!!

 

大きな音を立てながらバケツは外に放り出された。

 

(よかった、これで皆死なない)

 

そう思い、安堵していると背後から気配を感じた。

クルリと振り向くと、何人もの人間に囲まれていた。

 

「よくも、俺たちの儀式を………」

「ようやく解放されると思ったのに」

「旅立ちたかったのに………」

「許さねぇ、赦さねぇ………」

「許早苗、許早苗………」

 

皆まどかに憎しみの色を持った目を送り、怨嗟の声を発していた。

 

「ひっ………!!」

 

恐怖を感じたまどかは小さな悲鳴を上げ、小さな体を生かしてその場から逃げ出した。

 

「あ、あそこなら……!」

 

近くに別室を見つけ、そこに飛び込み、まどかは鍵を掛けた。

 

(これで、しばらくは大丈夫)

 

ホッと安堵するまどか。しかし、恐怖は終わってなかった。

 

「え?あれ?」

 

ふと、周りを見たまどかは景色の変化に気付いた。

空間が歪み、メルヘンチックな場所へと変わった。

 

「ここって………!」

 

まどかは絶望した。身を守るために飛び込んだ部屋が魔女が巣を貼る場所だったのだ。

上下の境目が無くなったかのような魔女の結界で、まどかは何体もの方翼の人形のような姿をした使い魔と一つの小さな画面付きの箱が自分の方へと向かってくるのを見た。

 

【!ンモダンルバンガニメタノワイヘ!イナケマニカンナンダバ】

 

まどかは何か、声のようなものが聞こえた気がした。

 

ー魔女の名はH.N.Elly(Kirsten)、通称エリー。性質は憧憬。彼女は気に入ったものは何でも箱の中に閉じ込めてしまう。それが、人であっても、人であったものだとしてもー

 

エリーはまどかの目の前に行くと、ある映像を見せた。

 

「あ、あぁぁぁ………」

 

それは、ここ数日の出来事。魔法少女であるマミに頼りきり、才能があるのに何もせずに安全地帯にいる自分の姿。マミの事を気遣いながら自分は戦わなくてもいいと安心している醜い自分だった。

それは、人であれば必ず持っている負の感情だったが、優しすぎるまどかには大きな精神的ショックを負わせた。

 

【!イナクタニシ!イナクタニシ!イナクタニシ】

【!カッバシタアデンナ!カッバシタアデンナ!カッバシタアデンナ】

 

再び声が聞こえる。それは、怒るような憎むような、悲しい声。

 

「あ、あ、あ」

 

まどかは涙を流しながら懺悔の言葉を口にした。

 

「ご、めん、なさ………」

 

瞬間、ものすごいスピードで何かがまどかの横を通り抜けた。それと同時に彼女の周りにいた使い魔の一体が消えた。

と、思ったら再び何かがまどかの横を通り過ぎた。

それと同時にまた使い魔が一体消えた。それが何回か繰り返され、使い魔は全て消え、残るは魔女の本体のみとなった。

 

「これで、終わり!」

 

かなりの速度で移動していた“それ”はエリーを突き刺してようやく止まった。

 

【''gemekgcj#,ekgcj#,ekgcj#,mmpp.#tG,#t@@@!!】

 

エリーは何か、言葉のようなものを残し、消滅した。

 

 

 

 

「さ、さやかちゃん?」

 

魔女の結界が崩れ、心を落ち着かせたまどかが見たものは親友の後ろ姿だった。

しかし、その服装は普段のものとは違い、特異なものだった。

 

「ま、まさか………!」

 

そこから一つの事実に辿り着く。

 

「さやかちゃん、契約、したの?」

 

「いやー、まどか、ゴメンね!助けるの遅くなっちゃって!!」

 

すると、さやかは振り向き、満面の笑みで言った。

 

「本当はもっと早くに助けたかったんだけどね、少し魔女を探すのに戸惑っちゃって!!」

 

「さやかちゃん、どうして?」

 

まどかがもう一度聞くと、さやかは腕を頭の後ろで組みながら

 

「あはは、まぁ、何?心境の変化っていうのかな?」

 

まどかは戸惑いながら何も言えずにさやかを見ていた。

 

「大丈夫だって!初めてにしちゃ上手くやったでしょ?」

 

『僕も確認はしたんだけどね』

 

突然足元から声が聞こえた。そこを見ると、いつの間にかQBがいた。

 

『でも、彼女は意志は固かったからね。契約したんだ。どうだい?まどか、君もついでに』

 

そこまで言って、QBは頭が胴体と離れた。

さやかは何かに気付き、剣を構え、まどかはビクッとした。

 

「転校生………!」

 

さやかが殺気を込めた声を出す。

まどかはさやかの視線をおい、目を見開きながら佇むほむらを見つけた。

 

「貴女………!!」

 

ほむらは徐々に赤くなり、拳を強く握り、さやかに近づいていった。

 

「何?なんか用?QBを殺しやがって、あたし、あんたを許す気はもうないから」

 

乱暴な口調でさやかがほむらに突っかかる。

それを気にしないかのようにほむらはどんどん近づいた。

そして、とうとうさやかの目の前に来た時、ほむらはフッと掌を広げた。

と、同時に、パァン、と高い音が響いた。

 

「え………?」

 

「あ?」

 

まどかとさやかは突然のことに呆けた。

が、さやかは早くに思考を戻し、ほむらにキレた。

 

「何すんだよ!あんた、人をバカにするのも大概に」

 

そこまで言ってさやかは言葉を止めた。ほむらの目に涙が溜まっているのを見たからだ。

 

「どうして、貴女は、いつもいつも!私の忠告を聞かないの!?私は貴女に死んでほしくないから言ってたのに!!貴女に絶望してほしくないから言ってたのに!!何で、何で…………」

ほむらはそこまで言って消えた。彼女がいた場所には、数滴、涙が落ちた跡があった。

 

「さやか、お前………」

 

それと入れ替わるかのようにV3が来た。

 

「あ、志郎………」

 

ショックが抜けないのか、低いトーンでさやかが返す。

 

「あ、そうだ!あたし、魔法少女になったんだ!!」

 

そう言いながらクルクルとその場で回ってみせるさやか。

V3は溜息を吐きながら

「後悔はしてないのか?」

 

と聞いた。

 

「全然!むしろまどか達を助けれたんだからなってよかったよ!!」

 

「そうか………」

 

V3はそこまで言って工場内へと入っていこうとした。

 

「あれ?志郎?どこいくの?」

 

「被害者達の様子を見にいくだけだ。お前達は今日は帰れ」

 

「ええー!」

 

「文句を言うな。いいな?」

 

「ちぇ、分かったよ」

 

さやかは納得できない風にそう言って変身を解除した。

 

「行こ?まどか」

 

そして、状況についていってないであろう友人に話しかけた。

 

「え、あ?う、うん」

 

まどかは呆然としていたが、ようやく頭の整理がついたらしく、さやかの手を取った。

 

「あ、そういえば」

 

帰ろうとした時、まどかはある事を思い出した。

 

「マミさんがまだ来てない」

 

「え?マミさん?」

 

「うん。実は……」

 

まどかはマミを呼んだ経緯を話した。それを聞いたさやかは

 

「ちょっと待ってて」

 

と言い残して、工場内へと走っていった。

程なくして戻って来た彼女は、

 

「大丈夫!志郎に言っておいたから!」

 

と自信満々の笑みで言った。

 

まどかは聞きたいことは沢山あったが、今は夜も遅いのでやめた。

 

 

 

 

 

 

某所

 

「困るな。君達の勝手な行動のせいで計画が台無しだ」

 

無機質な声が響く。

 

「せっかく鹿目まどかを魔法少女にできるチャンスだったのに」

 

それはまるで相手を責めているかのような口調だった。

 

「何をバカな事を。むしろ感謝して欲しいぐらいだ。私達のおかげで仮面ライダーV3が来る前に処理できたのだからな」

 

Σは手に持った“何か”をいじりながら言った。

 

「君達が作ってる物。あれはどれくらい完成したんだい?」

 

「4割と言ったところか」

 

「予定よりも少し早いね」

 

「当然だ。そのために怪人を投入しているんだからな」

 

「期待しているよ」

 

本心からそう思っているとは思えない口調で、それは消えた。

 

「計画通り、か」

 

誰もいなくなった部屋でΣは口角を上げた。

 

「スプレーネズミとクサリガマテントウ。奴らは戦闘能力は低かったが役には立ったな」

 

そこまで言ってΣは手に持っていた“何か”を飲み込んだ。

 

「おかげでイレギュラーの暁美ほむらの能力とこの薬の性能を把握できた」

 

薄暗い部屋で一人、Σは低い声で笑った。




まどか、さやか、マミと打ち解けた志郎。
そんな彼にほむらから依頼がくる。
場所は変わって風見野。魔法少女である杏子と素質を持ったゆまに魔の手が迫る。
次回、「志郎、風見野に行く」ご期待ください


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第7話 志郎、風見野に行く①

早めの投稿です!
話がほとんど進みません。
それにしてもおかしい。いつの間にかマミがヒロインになっている………。


夜9時。

ゆまと杏子は仲良くベッドに入っていた。

ゆまは杏子の二の腕を掴んで離さず、杏子はただボーッとしていた。

 

「………!」

 

杏子は何かを感じ、ゆまが目を覚まさないようにゆっくりと指を解いた。

 

「…………ん」

 

ゆまが寝返りを打つ。

一瞬、起こしてしまったかと焦った杏子だが、直後に気持ち良さそうな寝息が聞こえ始めたため、溜息をついた。

 

「ゆま、行ってくるな」

 

返事をしないゆまに優しくそう言い、杏子はホテルを出た。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

「さて」

 

さやかに頼まれ、志郎はマミを待っていた。

警察への連絡は既に済んでいて、あと3分ほどで来ることになっていた。

 

「マミのやつ、遅いな」

 

ふと、マミの姿を思い起こす。

 

「迷子になったのか?それとも…………」

 

そこまで言って、志郎はこちらに向かってくる人影に気付いた。

 

「…………あれは?」

 

志郎が誰かを認識した時、顔色を変え、その人物へと駆け寄った。

 

「おい、マミ!どうした!?大丈夫か!?」

 

その人物ー巴マミーは全身傷だらけであり、服も所々破れていた。

 

「あ、貴方、は………」

 

そこまで言って、マミは倒れた。

咄嗟に腕で抱き抱える志郎。

 

ウーーーーーーー……………

 

突如、サイレンが聞こえ、志郎は舌打ちをした。

 

(思ったより早いな)

 

仕方なく、志郎はV3へと変身し、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

『お父さん!お母さん!』

 

一人の少女が叫んでいる。

 

私はそれを見ていた。

 

ああ、これは夢だ。

 

そして、魔法少女になる前の、過去の私だ。

 

たしかお父さんは私とお母さんを、お母さんは私を守ってBADANに殺されたんだ。

 

そうだ。

 

この後、誰かが助けに来るんだ。

 

誰だったっけ?

 

『嫌だよ!嫌ダァ!!嫌!!』

 

私が泣いている。

 

いつの間にか幼い私の後ろに黒い影が見える。

 

それが、私めがけて手を下ろして………。

 

 

 

 

 

「ん…………」

 

マミは薄暗い部屋の中のベッドで目を覚ました。

 

「あれ?私………」

 

マミは気を失う前の記憶を辿る。

 

(確か、私は来る途中に………)

 

「痛っ!」

 

急に肩に激痛が走る。

そこを見ると、綺麗に包帯が巻いてあった。

そこでマミはようやく自分の服装がパジャマであることに気付いた。

 

「これって………」

 

不思議に思うマミ。

 

(誰かがやってくれた?でも、誰が?)

 

マミの事を気にかけてくれる友達は数多く有れども、マミの事を気にかけてくれる親族は少ない。

 

(あんな時間に誰かいたとは思えないし………)

 

考えれば考えるほど分からなくなる。

 

「…………あら?」

 

ふと、マミはリビングルームに明かりが点いていることに気が付く。

 

「誰か、いるのかしら?」

 

もし、自分の面倒を見てくれた人であれば礼を言わなければならない。

 

そう思ったマミは重い足を引きずってそこに向かった。

 

「誰…………?え?」

 

「む?目が覚めたのか?」

 

マミの目にはエプロンを着けた高身長の男が立っていた。

よく見ると、男の手にはお玉が握られていて、鍋には火がついていた。

 

「貴方は、たしか………」

 

マミはその人物に見覚えがあった。

 

「警備員の、風見、志郎さん?」

 

「もう少し待っててくれ。スープが完成するからな。それと、まどか達は家に返した」

 

志郎はマミの質問に答えず、ただ鍋の中だけを見つめていた。

 

「え、どうして貴方が?」

 

「どうしてって、そりゃ、俺が君をここに運んだからな」

 

「もしかして、この包帯も?」

 

「ああ。応急処置だけだがな。改造人間なら手術はした事あるが、お前は人間だからな。悪いがその程度しか出来なかった」

 

マミは体温が一気に上がるのを感じた。

包帯を巻いてくれたという事は自分の身体を見られたという事だと気付いたからだ。

本来なら叫んで助けを呼ぶところだが、魔法少女としての経験が彼女を止めた。

 

(何であんなところにいたのか。どうして私の家を知っているのか。聞き出さないと)

 

マミがそう考えているうちに、温かそうなスープが目の前に出された。

 

「完成だ。味は保証しておく」

 

「あ、ありがとうございます」

 

マミはそれを受け取り、ガラス張りの三角形のテーブルに座った。

 

「さて」

 

対面に志郎が座り、マミに質問を始めようとした。しかし、先にマミが質問した。

 

「貴方は一体なにものですか?どうしてあの場所にいたんですか?どうして私の家を知ってるんですか?」

 

「あー、まぁ、落ち着け。そう質問攻めされても困る」

 

「でも」

 

「大丈夫だ。ちゃんと答えるから。そうだな。まず、俺は何者かというところから始めるか」

 

志郎はそう言って上着を脱ぎ捨てた。

 

「な、何するんですか!?」

 

志郎の突然の行動に戸惑うマミ。顔を真っ赤にし、顔を手で覆った。

 

「命の恩人にそれはひどくないか?」

 

志郎はそんなマミの様子を見て、苦笑しながら言った。

 

「そんな、上着を脱ぎ出すんだから当然です!!」

 

マミも負けじと反論した。

 

「いや、本当は変身してやりたいんだが、そうもいかんからな。部屋が荒れるかもしれないし」

 

「え?変身?」

 

マミはそう言って、恐る恐る手をどかした。

すると、彼女の目に特徴的なベルトが飛び込んで来た。

 

「それって………」

 

「ああ、これが俺が俺たる証拠だ」

 

「それと、変身って………」

 

「どうしてもダブルタイフーンの風車が高速回転するからな」

 

「それじゃあ」

 

マミは魔法少女の姿になり、リボンを作った。

 

「私が志郎さんの周りをリボンで覆えば」

 

「そんなに変身が見たいのか?」

 

「はい」

 

マミはそこまで言ってスープを一口飲んだ。

それは野菜の旨味がよく出ていて、身体の芯から温まるような美味しさだった。

 

「それを飲んだらお望み通り変身してやる」

 

「わ、分かりました」

 

マミは急いでスープを飲もうとした。しかし、それを勿体無いと体が感じているのか、思いとは裏腹にゆっくりと味わって飲んだ。

 

「ふぅ、ご馳走様でした」

 

「お粗末様」

 

十数分後、マミはようやくスープを飲み終え、満足そうにカップをテーブルに置いた。

 

「では、志郎さん。お願いします」

 

マミはそう言って魔法少女の姿になり、リボンで大きめの球体の空間を作り、そこに志郎を入れた。

 

「少し待ってろ」

 

志郎はその中へと入っていった。

数秒後、

 

「変身、V3!!」

 

と声が聞こえ、強風がリボンの中で起こった。

 

「!?」

 

予想外に強く、リボンによる球体が崩れそうになるが、マミは込める魔力を強め、なんとか耐えた。

 

「もういいぞ」

 

リボンの中からそう聞こえ、魔法を解除するマミ。

すると、彼女の目の前には最も会いたかった人物がいた。

 

「か、仮面、ライダー……」

 

マミに確信があるわけではなかった。しかし、直感的にそう感じた。

 

「これが風見志郎のもう一つの姿。仮面ライダーV3だ」

 

V3はそういって変身を解除した。

 

「これで納得してくれたか?」

 

「はい。まさか、仮面ライダーだったんて………」

 

マミはそこまで言って、涙が一滴溢れた。

 

「お、おい、どうした?」

 

突然の事に志郎が戸惑っていると、

 

「すみません、とても、嬉しかったものですから」

 

とマミが言った。

 

「そうか。それと、何で俺が君の家を知っているかだな。答えは簡単だ。君の制服にあった生徒手帳を拝借したにすぎん」

 

志郎はそう言って、脱ぎ捨てた上着からマミの生徒手帳を取り出した。

 

「直接返した方がいいと思ってな。最後に、俺がなぜあの場所にいたかだが、これは君もよく分かるんじゃないか?」

 

「はい」

 

風見志郎が仮面ライダーであるならば、あそこにいた理由はただ一つ。

魔女を狩っていた。

マミはそれを直感的に理解した。

 

「さて」

 

マミが納得したのを確認し、志郎が質問する。

 

「なんで君はあんなに傷だらけだったんだ?」

 

「それは………」

 

マミは廃工場までの道中に何があったのかを語り始めた。

 

 

 

 

〜2時間前〜

 

マミは廃工場へと急いでいた。

まどかからの連絡によれば、後3分ほどで着く場所だった。

 

「……………!?今、微かに魔女の気配が………」

 

それは、ほんの微弱だが、ソウルジェムが反応するほどハッキリしたものだった。

 

(どうしようかしら………)

 

まどか達のことは当然助けたい。しかし、ここで魔女を見逃すわけにはいかない。

 

(この感じだと、本格的に動くのはまだ先ね。先に鹿目さんの方に行きましょう)

 

マミはそう決め、廃工場への足を早めた、はずだった。

 

「…………おかしいわね」

 

何か異常を感じたのか、マミは立ち止まった。

 

「こんなに距離あったかしら?」

 

先ほどと比べ、明らかにスピードが遅くなっていた。

魔女の気配を感じたから2分ほど経つが、廃工場にはまだ距離があった。

 

(魔女の仕業とは思えないし、それともまたネクスト・デストロン?それにしては怪人が一向に出てこない)

 

「まさか………」

 

マミは一つの最悪の可能性を感じた。

 

「!?」

 

瞬間、高速で“何か”がマミに突っ込んできた。

マミは本能的にソウルジェムがある髪飾りを右手で覆い、上半身を仰け反らせた。

 

シャッ!

 

高速で空気を切る音がし、マミの右手の甲はパックリと割れた。

 

「くっ!!」

 

痛みのあまり、叫びそうになるが、唇を噛み締めてそれを抑え、マミは一旦その場を離れた。

 

「まさか、ね」

 

物陰に隠れたマミは、自身の手の甲を見て呟いた。

 

「今度の標的は私なんてね」

 

そこまで言った時、後ろに誰かが着地した音が聞こえた。マミは素早く後ろを振り向き、距離を取った。

 

「やっぱりベテランは一発じゃ死んではくれないかー」

 

そこには服の袖から複数の鉤爪を伸ばした魔法少女が立っていた。

髪は黒髪で短髪。燕尾服のような服装にタイトのミニスカート、右目側に眼帯という、他の魔法少女とは異質な姿で。

 

「貴女が魔法少女狩の犯人さんかしら?」

 

マミは余裕そうな表情を見せ、そう言った。

 

「んー、犯人といえば犯人だね。それにしても、君が初めてだよ。私の一撃を喰らっても生きてる奴なんて」

 

「あら?そうなの。それは嬉しいわね。それで、貴女の名前はなんて言うのかしら?魔法少女狩をしている目的も教えてくれると嬉しいんだけど」

 

「悪いけどそれは教えれないな。それに」

 

そこまで言って、犯人である少女は身を屈めた。

 

「恩人でもないし、これから死ぬ奴に教える義理なんて無いよ」

 

そう言って、再び猛スピードで突っ込んできた。

 

(狙う場所は分かってる。だったら………)

 

マミは前面にかなりの魔力を練り込んだリボンの結界を作った。

これだけ強力な物を作ればいくら速度が速くてもこれを突破する事は出来まい。

そう考えてのことだった。

しかし

 

「な!?」

 

マミの予想に反して、リボンの結界は引き裂かれ、その中から少女が躍り出てきた。

 

「残念、さよなら!」

 

その少女が鉤爪でマミのソウルジェムを砕こうとした。

 

「さよなら?それはどうかしらね?」

 

マミはフッと笑い、右手を軽く引いた。

 

「!?」

 

少女は何かに気付いたのか、超人的な動きで身体を反転させ、マミの体を蹴って後退した。

 

「ガハッ!!」

 

体内の酸素が強制的に吐き出され、マミは吹き飛ばされた。

10mほど先で壁に身体を打ち付け、ようやく止まった。

 

(この娘、スピードもそうだけど、パワーもかなりのものね。どうしようかしら………)

 

マミがそう思案していると、

 

「いやー、危なかったねー。あと少しで私もあの世行きだったよ」

 

と、少女がツカツカと歩み寄りながら言った。

 

「まさか自分のソウルジェムの手前にトラップを張るなんてね。私がそれに触れた瞬間、自動でマスケット銃が発射される仕組みだったんでしょ?」

 

「あら?よく分かったわね」

 

内心、そこまでバレていた事に多少の焦りを感じつつ、マミは肯定した。

結界を張った瞬間、マミは自身のソウルジェムにもごく微弱な結界を張った。

それは、その少女の言う通りの仕組みで、最悪でも道連れにしてこれ以上の被害を出さないようにしようと考えた事だった。

 

「でも、次は無いよ?」

 

「させると思って?」

 

マミは一際大きなマスケット銃を造った。

 

「お得意のティロ・フィナーレかい?残念だけど、私には効かないよ」

 

そう言って、少女は突撃した。

 

「ティロ・カッチャ!!」

 

技名を叫び、トリガーを弾くマミ。それと同時に巨大な弾丸が飛び出た。

 

(やっぱりね。でも、私の魔法を使えばこんなもの)

 

予想通りと思い、少女はニヤリとした。

 

ティロ・フィナーレとは違う技のようだけど、そんなに変わらないだろう。

 

そう高を括っていた。

が、突然予想外な事が起きた。

 

パァン!!

 

「なっ!?」

 

破裂する音と共に飛び出してきたのは百を優に超える小さな弾だった。

隙間なく放たれた弾に少女の姿は飲まれた。

 

「残念だったわね。ティロ・カッチャは散弾なのよ」

 

マミはその様子を見て、肩で息をしたがらそう言った。

 

「次は鹿目さんの所に行かないと」

 

そう言ってマミは跳躍しようとした。しかし、急に足に力が入らなくなり、その場にへたり込んだ。

 

「一気に魔力を使ったからかしらね。ティロ・カッチャはそこが辛いのよね」

 

そこでマミはグリーフシードを取り出し、自身のソウルジェムに当てた。

ソウルジェムからグリーフシードに濁りが移る。それと同時にソウルジェムが輝きを取り戻した。

しかし、それでもマミの体は傷を治すことができなかった。

 

「行かないと……」

 

マミはそう言って、重い足を引きずりながら廃工場へと向かった………。

 

 

 

 

 

「と、いうことなんです」

 

「なるほど、な。まさか魔法少女狩の犯人に遭遇するとはな。で、他に犯人に繋がるものはあったか?」

 

「いいえ、ありませんでした。その特徴だけしか。名前も名乗らなかったですし」

 

「そうか。犯人像は描けるか?」

 

「うろ覚えですけど………」

 

マミはそう言って紙とペンを取り出し、10分程度で描き上げた。

 

「やはり、な」

 

志郎はそれを見た時、そう呟いた。それは、志郎のよく知る人物だった。

 

「知ってるんですか?」

 

「多分な。だが、確信がない以上口には出せないが」

 

「そうですか………」

 

そこから沈黙が訪れる。志郎もマミも何も言わなかった。

 

「さて」

 

沈黙を破って志郎が立ち上がる。

 

「俺はお暇するよ。邪魔したな」

 

そう言ってマミの部屋から出て行こうとする志郎。

 

「あ、待ってください!」

 

それをマミは呼び止めた。

 

「ん?どうした?」

 

「あの、どこに住んでいるんですか?」

 

「そうだな、今の所は野宿か」

 

“野宿”。その言葉を聞いた瞬間、マミは意を決したようにこう言った。

 

「志郎さん、泊まるところがないなら、私の部屋に泊まっていきませんか?私は志郎さんの事を信頼してますし、志郎さんにとっても悪い話じゃないと思います」

 

「俺が、か?」

 

「はい」

 

「んー、そうだな」

 

志郎は悩んだ。確かにマミのところに滞在すれば泊まる場所には困らないだろう。しかし、現在志郎は警備員をしている。もし、マミと同居している事がバレようものなら問題へと発展し、最悪逮捕されかねない。さらに、BADANとの闘いの時、火事場泥棒が多発したことにより、地域の絆というものはかなり強いものとなっていた。そうなれば、通報される可能性もかなり高かった。

 

(メリットもあるが、デメリットもある、か)

 

志郎が悩んでいると、マミは

 

「私は志郎さんがいても構いませんけど………」

 

「そうは言ってもだな」

 

「ダメ、ですか?」

 

マミが上目遣いでねだる。

 

「!?」

 

『ねぇ、お兄ちゃん、遊ぼーよー』

 

志郎はその姿にかつての妹を重ねた。

 

「はぁ、分かったよ」

 

志郎は溜息を吐きながら承認した。

ここに、魔法少女と改造人間という、奇妙な二人組の同居生活が始まった。

 




第7話はあと3パートぐらいあるかもです。


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第7話 志郎、風見野に行く②

「仮面ライダーに会っちゃった」

 

自宅に帰ってから、まどかはその事を含め様々な事を考えていた。人の姿はしていなかったが、優しい人物だということは直感的に分かった。

 

「そういえば、ママとパパに見せてもらった少年ライダー隊のメダルと似てたな………」

 

あれが、仮面ライダーV3。世界をBADANから守った戦士の一人。

 

その人物に会ったと考えるだけで、まどかは僅かな興奮を覚えた。

 

「また、会えるといいな」

 

そう願うまどか。しかし、彼女の心は嬉しさだけでなく、不安にも埋もれていた。

 

「さやかちゃん、魔法少女になっちゃったけど、大丈夫かな………。ほむらちゃんとの事もあるし、喧嘩しなきゃいいけど」

 

口ではそう言っておきながら、それは不可能だと断定できる自分がいる。

まどかは複雑な気分のまま夜を過ごした。

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

ー朝ー

 

マミはベッドの上で目を覚ました。

 

「あれ?私、いつの間に寝ちゃったんだろう?」

 

重い瞼を擦りながらリビングへと向かう。

それと同時に、芳ばしく、甘い匂いが鼻を突き抜けた。

 

「あ、風見さん、おはようございます」

 

志郎のエプロン姿を見て、朝食を作っていたのだと理解したマミは挨拶をした。

 

「ああ。おはよう」

 

志郎はマミをチラッと一瞥して卵をボールの中に入れてかき混ぜ始めた。

 

「あ、手伝います」

 

さすがに同居人に食事を作ってもらって自分は何もしないというのはマズイと思ったのだろう。マミは棚からプレートを出した。

 

「すまないな。だが、今日も学校だろう?先に着替えてきな。準備はしておくから」

 

「ですが」

 

「いいから。こっちは同居させてもらってる身なんだ。これくらいさせてくれ」

 

反論しようとするマミに志郎は微笑みながら言った。

 

「分かりました。お願いします」

 

これ以上何か言っても志郎は譲らないだろう。ここで彼とするしないを言い合っている暇があったら別の事を有効活用した方がいいだろう。

 

そう判断し、マミは再び寝室へと向かった。

 

 

10分ほど経って、マミは制服を着、髪を整えて戻ってきた。すると、テーブルの上にはモーニングで出るような豪華な朝食が並んでいた。

 

「凄い………」

 

それを見てマミは素直にそう思い、座った。

 

「冷蔵庫にあった物を勝手に使わせてもらったがな」

 

志郎がそう言って、マミの向かいに座った。

 

「あれ?」

 

ふと、マミはある事に気付く。

 

「これ、一人分しか………」

 

「ああ。俺はもう食べたからな。いらないんだ」

 

そう言って志郎はその場を離れた。

 

(そんなに風見さんって早く起きたのかしら?)

 

不思議に思いながらもこんがり焼けたトーストを口に運ぶマミであった。

 

 

 

 

 

「それじゃ、風見さん、行ってきますね!」

 

朝食を食べ終え、出発の準備を終えたマミが靴を履きながら言った。

 

「ああ。俺もその内行く」

 

「はい。鍵はお願いします」

 

「分かっている。あ、少し待て」

 

志郎は何かを思い出したかなようにリビングへと戻った。

マミが首輪傾げていると、数秒ほどで戻ってきた。

その他には薄い青のチェック柄のテーブルクロスに包まれた箱状の物があった。

 

「弁当を作っておいた。よかったら食べてくれ」

 

志郎は少し恥ずかしそうにマミに渡した。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

突然の事に驚きながらも、マミは喜んで受け取った。

 

「それじゃ、今度こそ行ってきます」

 

マミは玄関から出た。

 

「さて」

 

その様子を見送った志郎は呟いた。

 

「連絡を入れるか」

 

志郎は他のライダーへと電波を飛ばした。

 

『こちら風見志郎。皆、聞こえるか?』

 

すると、すぐに全員から返信が来る。

 

『いくつか情報を共有しておきたいと思ってな。他の皆の情報も欲しいから頼む』

 

志郎はそこから現状を話し始めた。

魔法少女狩が行われていること、スプレーネズミとクサリガマテントウとの戦いのこと、新しく魔法少女になった人物がいること、魔法少女である巴マミと同居を始めたことなど、最近起こった出来事を全て話した。

 

『風見さんの所も同居始めたんですか』

 

そう言ってきたのは神敬介だった。

 

『俺も?どういうことだ?』

 

『実は俺も今同居してるんです』

 

『何?』

 

敬介からの衝撃の事実に驚く志郎。

 

『リィズって娘なんですけどね、ドイツから引っ越してきた魔法少女なんです』

 

『そうか。他の皆はどうだ?』

 

すると、他はホテルなどを取ってそういった事はしていないとの返事が来た。

 

『つまり、今魔法少女に一番近いのは俺と敬介という事になるな。他に何か新しく分かった事や変わった事はあるか?』

 

『ああ、実は』

 

今度は村雨良が話し始めた。

 

『《ワルプルギスの夜》って魔女がこっちに来るらしい』

 

『ワルプルギスぅ?なんだそりゃ?』

 

城茂が興味津々そうに聞いた。

 

『なんでも最強最悪の魔女らしく、魔法少女なら知らない奴はいないと聞いた』

 

各々から驚嘆の声が上がる。

 

『勝てそうなのか?』

 

本郷が聞く。

 

『正直、分からない、というところですね』

 

『そうか………』

 

村雨良は全てのライダーを遥かに超えるスペックを持っていた。それに加え、戦士としての覚悟を持った彼であれば負ける事は滅多にない。

仮面ライダー達の認識としてはそうなっていた。

つまり、その村雨良でさえ勝てるかどうか分からない魔女が存在する、という事を意味していた。

 

『だが』

 

ここで志郎が一つの疑問を投げかける。

 

『何故来ると分かっているんだ?魔女は結界の中に潜んでいるんだろう?』

 

『ああ、それなんだが、強すぎるが故に結界を作る必要がないらしい。奴が来るときは嵐と共にやって来るとも聞いたな』

 

『そんな奴がいるなんて………』

 

沖和也が呟く。

 

『こっちはできるだけの事はやる。通信も常時送っておく。万が一の事があったら、頼む』

 

村雨良の言葉に全員、了解と答え通信を切った。

 

「さて」

 

志郎はチラリと時計を確認した。

 

「そろそろ行くか」

 

 

 

 

 

「ええ。ですのでまた病院に行って検査ですの」

 

「うへー、休めばよかったのに」

 

「そんな事したら家の者が余計に心配して面倒ですわ」

 

「うはー、やっぱ優等生は違いますわ〜!」

 

「あはは、さやかちゃんってば」

 

同時刻、教室でまどか、さやか、仁美の3人は昨日の事について話していた。仁美の安全を確認できた2人はとりあえずホッとした。

 

「でも、どうしてさやかさんとまどかさんがご存知ですの?通報してくださった方は殿方とお聞きしましたし」

 

仁美がごく普通の質問をする。しかし、まどか達は一瞬ドキッとしながら

 

「いやー、偶々小耳に貰ってね」

 

「さやかちゃん、それ、小耳に挟むだよ」

 

「もう、美樹さんったら」

 

3人の中に笑いが起こった。

何とか誤魔化した事に2人は安堵した。

 

 

 

 

「自分が教師、ですか?」

 

用務員室に着いた時、志郎は和子という教師に呼ばれた。何かと思って行ってみると、なんでも昨日、本来の体育教師が集団幻覚に掛かったらしく、暫く学校に来れないとの事だった。

 

廃工場事件ー志郎が勝手に命名したーの被害者の一人にいたのだろう、と予測した。

 

「今、器械体操をしているんです。そこで、過去にやっていた風見さんにお願いしたいのです………」

 

「ですが、自分は教員免許を持ってないですし、他に体育教師がいるのでは?」

 

「それが、あれから2年経ったにも関わらず、未だに教員が集まらないんです。特に体育教師が不足してまして、あの先生しかいなかったんです」

 

「そうなんですか………」

 

(おそらく、BADANは再生怪人軍団を作る為に無作為に攫ったと見せかけて、できるだけ素体がいい人間を選んでいた、ということか)

 

「ダメ、でしょうか?」

 

「いや、構いませんよ。自分でよければ喜んでやらせて頂きます」

 

「まあ、それではお願いします!」

 

和子はそう言って頭を下げた。

 

律儀な人だなと思い、フッと志郎は笑った。

 

「それで、お礼と言ってはなんですが」

 

頭を上げた和子が少々恥ずかしそうに言った。

 

「よろしければ今晩、一杯どうですか?いいお店知ってますよ?」

 

和子はクイッとグラスを仰ぐ仕草をした。

 

「すみませんが、それはお断りします」

 

志郎はただそう言って職員室を出た。

 

(俺は、昔みたいにもう酔えないもんな………)

 

人間であった頃に感傷を覚えつつ、志郎は用務員室へと向かった。

一方、職員室ではショックに打ちひしがれる和子がいた。今日、まどか達の朝の会が

 

「今日は皆さんに大事なお話があります!女性からの誘いは断るべきですか!?それとも断らないべきですか!?はい、中沢君!!」

 

という和子のヒステリックな声から始まる事が確定した。

 

 

 

 

 

あれから2時間が経過し、志郎はスケジュールを確認した後体育館へと向かった。

 

(さて、そろそろ行くか)

 

そう思った志郎は服を脱ぎ捨て、備え付けのジャージに着替えた。

 

「この時間は、ほむらのクラスか」

 

自分が教える立場とはいえ、器械体操をもう一度やる機会ができた事に志郎は喜び、鼻歌を歌いながら向かった。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン………

 

10分後、授業開始を告げるチャイムが鳴った。

生徒達は体育館のステージの前に集まった。

志郎は体育館に入り、自己紹介を始めようとした。

 

「あー、今日からしばらく君達の体育を見ることになった」

 

「あーーーーー!志郎!?え!?何で!?どうして!?」

 

が、途中で聞き覚えのある声が聞こえ、それは中断された。

 

「はぁ………」

 

志郎は溜息を吐いた。

 

(このクラス、ほむらだけじゃなくてさやかもいるのか………。それによく見たらまどかと、あの仁美って娘もいるな。 密度濃すぎないか?)

 

と、志郎は内心で突っ込みつつ、さやかに自己紹介中に茶々を入れるなと注意した。

 

「で、だ。何で俺が皆の体育を見ることになったかというと………………というわけだ」

 

志郎は事情をあらかた説明した後、ちょっとした質疑応答に入った。

質問は中学生らしく何歳だとか何処に住んでいるだとかそう言ったものが主だったが、改造人間かつマミの家に居候している身である志郎は適当に答えをはぐらかすことしかできなかった。

そんな中、さやかがある質問をした。

 

「志郎は彼女いるのー?」

 

「それを聞くか。残念ながらいないぞ」

 

ザワザワザワ………

 

急に生徒達ー主に女子ーが騒めき始めた。

 

「さて、そろそろ終わって授業に入るぞ。と言っても俺は教えるのは初めてだから今日は皆がいつもやっている事をやってくれ」

 

その後の志郎の、解散、という合図に合わせて生徒達は準備をして競技を始めた。

 

 

〜30分後〜

 

「そろそろか」

 

時計を見た志郎はそう呟いた。

 

「皆、集まってくれ!」

 

体育館に響くように志郎は言った。

生徒達は1分足らずで志郎の前に集まる。

 

(本当にいい子達だな)

 

内心、感心しながら志郎はある決意をした。

 

「今日の授業はここまで。授業終了まで15分あるわけだが、ここで皆に見本を見せたいと思う」

 

志郎がこう告げると、生徒達は驚いた。

 

「風見先生って器械体操できるのか!?」

 

男子生徒が質問する。

 

「まあな。これでも学生時代はやっていたんだ」

 

「おお〜!」

「すげ〜!」

「素敵〜!」

 

男女構わず色々な生徒から驚嘆の声が上がった。

志郎はそれを一身に受け、準備を始めた。

 

「さて、始めるぞ」

 

手始めに志郎は“ゆか”から始めた。

 

 

 

 

キーンコーンカーンカーン…………

 

授業の終了を告げるチャイムが鳴った。体育館内は静寂に包まれていた。

皆の視線はただ志郎にのみ集まっていた。

かつて『マットの白い豹』の異名を持っていた彼だ。この程度は朝飯前だった。

 

「さて、これで終わる。各自解散だ。器械は片付けなくていいぞ。あ、あと鹿目まどかと美樹さやかは昼放課時に用務員室に来るように」

 

志郎はそう言って、志郎は体育館を後にした。そんな彼の背中を盛大な拍手が見送った。

次の時間、志郎はマミのクラスの授業をした。

 

 

 

昼休みを告げるチャイムが鳴った。

志郎は用務員室でまどか達が来るのを待ちながら神敬介と連絡を取り合っていた。

 

『なるほどな。そのリィズって娘はそんな能力を持っているのか。それで、そんな願いをしたからあんな事が起きたのか』

 

『ええ。俺達の知らない所で、案外魔法少女に助けられてるのかもしれませんね』

 

『確かにな。敬介、他に何か分かったことはあるか?そっちでも魔法少女狩がある、とか』

 

『いえ、ないですね。ただ、少し気になることがあるんです』

 

『気になること?』

 

『ええ。ソウルジェムのことなんで』

 

敬介がここまで言った時、用務員室の扉が大きな音を立てて開いた。

 

「ヤッホー!志郎、さやかちゃんが遊びに来てやったぞー!」

 

と、さやかが勢いよく入って来て、その後ろからまどかが来た。

 

『すまん敬介。用事ができた。一旦切るぞ?』

 

『分かりました。それではまた後で』

 

志郎は通信を切ってからまどか達の方を向いた。

 

「さて、君たちを呼んだのは他でもない。魔法少女についてだ。とは言っても、ここじゃ大きな声で話せないからな。2人ともマミの家を知っているか?」

 

「おうともさ!でも、何でマミさんの家なの?」

 

「そこの方がいいだろう?17時に集合でいいか?」

 

「もちのろん!!」

 

胸を張るさやか。しかし、まどかが遠慮がちに

 

「さやかちゃん、補習があるんじゃ………」

 

と言った。

 

「ガーーーーーン!そうだった………」

 

そう言って、先ほどとは変わってヘタリ込むさやか。

 

「何の教科がかかったんだ?」

 

志郎がまどかに聞く。

 

「英語と数学です。さやかちゃん、2つとも赤点だったんです」

 

「マジか………」

 

驚きのあまり、志郎の口調が崩れた。

 

「補習なんて物がなければ………!」

 

さやかは本気でショックを受けているようだった。

その様子を見た志郎がため息をつきながら

 

「さやか、お前、昼飯は食べたのか?」

 

と聞いた。

 

「え?うん。何で?」

 

「5時間目まで40分ある。俺ができる限り教えるよ」

 

「うそっ!?」

 

「本当だ。嫌ならいいが」

 

「やるやる!是非やらせていただきます!!」

 

そう言ってさやかは猛スピードで用務員室を出て行った。

 

「はあ、元気がいいというか、表情がコロコロと変わるやつだな」

 

「あはは」

 

志郎の言葉にまどかは苦笑しながら頷いた。

あれから1、2分後にさやかが両手いっぱいに教材を抱えて帰ってきた。

 

「それじゃ、志郎!お願い!!」

 

「ああ。見せてみろ」

 

さやかは志郎にワークとテストを渡し、対面に座った。

 

「さやか、お前、テストの時何かあったのか?」

 

心なしか、テストを見た瞬間志郎の顔が青ざめたかのように見えた。

 

「な!?さやかちゃんは必死にやってこれだぞ!?」

 

志郎の言葉が心外なのか、さやかが反論する。

 

「だが、これは、なぁ………」

 

志郎の目には

 

『数学 美樹さやか 15点』

 

『英語 美樹さやか 20点』

 

の文字が映っていた。

 

(これは徹底してやらんといかんな)

 

そう思う志郎であった。

 

 

 

 

予鈴が鳴った。

 

「今日はこれまでだ。ここまでやれば補習も何とかなるだろう」

 

そう言って志郎は席を立ち、スケジュールを確認した。

 

「し、しんらうぅぅ………」

 

かなりの量を詰め込まれたのか、さやかは頭から湯気を出しながら机に突っ伏していた。

 

「さて、と。俺は今から授業があるから行くが、君達も早く帰れよ?」

 

「あ、はい」

 

それまで志郎のレッスンをさやかの横で聞いていたまどかが返事をして、さやかに肩を貸して用務員室から出て行こうとした。

 

「うひ〜、ひろう、ありあほね〜」

 

呂律が回らないさやかが何とか感謝の意を志郎に伝える。

 

「ん、まだ礼を言ってもらうには早いぞ?帰りの会から補習までに40分あるからな。もう30分やるぞ。内容は、さっきやった所の確認だな」

 

瞬間、さやかは真っ白な灰になって崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

志郎は体育館へ向かうべく廊下を歩いていた。

 

「!?出てきたらどうだ?」

 

何かに気付いたのか、足を止め、ゆっくりと振り向く志郎。すると、物陰からほむらが出てきた。

 

「生きてたのね」

 

冷たい口調でほむらが言う。

 

「まあな。誰かさんが解毒剤をくれたから再変身できた」

 

「そう………。風見志郎、貴方は何者なの?」

 

志郎の目を真っ直ぐ見据えながら質問するほむら。

 

「俺は俺だ」

 

「適当に答えないで。貴方の目的は何なの?何故この見滝原にいるのかしら?」

 

「それは答えれないな。だが、君達の敵になるつもりはない。むしろ味方のつもりだ」

 

「…………。簡単に味方だとか口走らないでもらえるかしら?そういった事を軽く言う奴ほど信用できないのは身にしみて分かっているから」

 

「これは厳しいな」

 

肩を竦める志郎。

 

「だが、少なくとも俺たちはどこまでいっても人間の味方だ。それが魔法少女だろうが関係ない」

 

「本気で言ってるのかしら?」

 

「本気だ」

 

「…………。そう」

 

「簡単に信用できないのは分かっている。だが、俺達は人間の自由と平和のために戦ってきたことは事実だ。これだけは忘れないでほしい」

 

「分かったわ」

 

そう言って、クルリと反転し、志郎に背を向けるほむら。

 

「風見志郎、明日の夜、風見野に行く事を勧めるわ」

 

「ほう。それは何故だ?」

 

「秘密よ」

 

ほむらはそう残し、文字通りその場から消えた。

キーンコーンカーンカーン………

それと同時に授業開始を告げるチャイムが響く。

 

「風見野、か。たしか、杏子がいた所だな」

 

そう呟く志郎であった。

 

 

 

 

つづく




ここにきて話のペースがかなり落ちました………。
この第7話だけがあと何回続くのか………。


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第7話 志郎、風見野に行く③

お久しぶりです!
個人的な用事が終わったので執筆再開します!!

長い間書いてなかったので、少々読みにくい所などがあるかもしれません。



「さて、皆揃ったようだな」

 

17時、志郎はマミの家にいた。そこには、まどか、さやか、マミがいて、志郎の方を向いていた。

 

「3人をここに呼んだのは他でもない。俺の正体を教えるためだ。特に、まどかにな」

 

「え?私に?」

 

まどかがキョトンとする。

 

「そうだ。さやかとマミにはもう教えてあるからな。本来なら関わらない方がいいと思うが、ここまで来てしまっては仕方ないからな」

 

志郎はそう言って、チラッとマミを見た。

 

「分かってます」

 

マミはそう言い、魔法少女の姿に変身し、リボンの結界を張った。

 

「よし、それじゃあ今から見せるぞ?」

 

結界に入り、志郎は変身してみせた。すると、まどかは目を見開き、声も出ない様子だった。

 

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

 

「まさか、風見さんが仮面ライダーだったなんて……」

 

テーブルに出された紅茶を啜りながらまどかは言った。

 

「驚いたでしょ〜!私も初めて見た時心臓止まりかけたもん!!」

 

「美樹さん、それ、自慢して言うことじゃないわよ?」

 

「たはは」

 

(本当に、仲がいいな)

 

志郎は漫才のようなやり取りを見て、自然にそう感じた。

 

(マミにとって、まどかとさやかは後輩か………)

 

ふと、志郎はある人物を思い出した。

 

(ここに、杏子とほむらがいればいいんだがな)

 

そんな事を思いながら志郎は目の前にあった紅茶を口に運んだ。

それは味を感じさせなかったが、暖かさは感じられた。

 

(本当はこいつらみたいな子供が戦わなくてもいいようにしたいんだがな)

 

そこで志郎はある決断をし、マミ達に話しかけた。

 

「俺が君たちを呼んだのにはもう一つ理由がある」

 

「え?理由?」

 

それまで談笑を続けていたマミ達は志郎の方を向いた。

 

「ああ。これからの魔女退治について話しておきたいと思ってな」

 

「魔女退治、ですか」

 

神妙な顔つきでマミが言う。

 

「ああ」

 

志郎が首を縦に振ると、さやかが急に立ち上がった。

 

「魔女退治ならこの期待の新人魔法少女、美樹さやかちゃんにお任せあれ!どんな魔女がこようともやっつけちゃうよー!!」

 

胸を張りながらそう言った。

 

「残念だが、期待はしていないな」

 

志郎が率直な意見を言う。

 

「むげっ!志郎、いくらなんでもそれは酷過ぎない〜?」

 

「いいえ、美樹さん。志郎さんの言うことは最もよ。特に魔法少女になりたての娘は慢心による油断が生じやすいわ。それでやられちゃうこともあるのよ?」

 

「そう言うことだ。さやかみたいなお調子者は特に注意しなければならないからな」

 

「うう〜、分かった……」

 

さすがにマミにも悟られては仕方ないと諦めたのか、さやかは素直に従った。

 

「それで、話を戻すが、これからは俺も本格的に魔女退治に参加しようと思う。お前らの仲間としてな。それに、やるべき事もあるしな」

 

「え?それだけ?」

 

さやかがキョトンとした調子で言った。

 

「?ああ、そうだが?どうかしたのか?」

 

「いや、志郎はもうあたし達の仲間かと思ってたから。そんな風に改められるなんて思ってなかったから。ねぇ?」

 

とさやかかマミとまどかに確認すると、2人とも頷いた。

今度は志郎がキョトンとした。そして、さやかの言葉の意味を理解した時、口角をわずかに上げ

 

「そうか」

 

と言った。

内心、志郎は嬉しかった。自分がここまで彼女達に認められているとは思っていなかったからだ。

 

「最後に、まどか。君は今日から魔女退治には参加しないこと」

 

「え?ど、どうしてですか?」

 

「危険だからだ。さやかやマミのように魔法少女であれば話は別だが、君は違う。普通の女の子だ。昨日までは何とかなったが、これからはどうなるか分からない。ネクスト・デストロンのこともあるしな。それに」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

まどかが志郎の言葉を遮る。

 

「それじゃ、納得、できません。確かに、危険なのは分かりますけど………。でも、それじゃあなんで私に志郎さんがV3だってこと教えたんですか?」

 

「簡単だ。君に信頼してもらうためだ。何も伝えないで参加するなっていうのもさすがに悪いしな。最も最悪な事態を避けるためにこうした。だから」

 

「………す」

 

「ん?」

 

「嫌、です」

 

それは、ハッキリした拒絶だった。

 

「わ、私は、志郎さんの言う通りマミさんやさやかちゃんみたいな魔法少女じゃないですけど、でも、2人が戦ってる事を知ってて、知らないフリをするなんて嫌です」

 

(俺も戦うんだけどな)

 

内心そう突っ込みながら志郎は困った。

まどかの目から強い意志が感じられたからだ。

この目をした人間は頑固で人の言う事を聞かない癖があるからだ。

 

「だが、だ、まどか。これからどんな魔女が出て来るか分からんのだぞ?それに、君の御両親だって心配なさるだろうし……」

 

「それでも、嫌、です」

 

まどかのそれは最早ワガママだった。志郎の言っている事は筋が通っていて、一番安全な手段だという事は分かっていた。しかし、頭では理解できていても理性が“YES”を出さなかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙が続いた。が、先に志郎が折れた。

 

「分かった。君がそこまで言うのならこっちも安全なように対策を考えておく。だが、暫くは我慢していてくれよ?」

 

それを聞いたまどかは顔を輝かせ、礼を言った。

 

「マミとさやかもそれでいいな?」

 

「おうともさ!」

 

「はい」

 

2人に確認すると、2人とも了承した。

 

「よし、それじゃあ今日はこれでお開きだ。時間とってすまなかったな」

 

志郎がテーブルに手をついて立ち上がった。

それに続くようにまどかとさやかも立ち上がる。

 

『少し待ってほしいな』

 

急に、そんな無機質な、聞き覚えがある声が響いた。

志郎達は声の聞こえた方向に振り向くと、ベランダにQBがちょこんと座っていた。

 

『君達に話しておきたい事があってね』

 

そう言いながら窓の硝子を、猫が爪を研ぐように両前脚で摩った。

その真意を悟ったマミは窓を開け、QBを家の中に入れた。

 

『ありがとう、マミ。それと、久しぶりだね。鹿目まどか』

 

「うん、久しぶり」

 

「それで?お前は何を伝えに来たんだ?」

 

志郎がそう尋ねると、QBは一呼吸置いて、

 

『魔法少女狩の犯人がほぼ確定したんだ』

 

「ほう。で、誰だ?」

 

志郎が聞く。次の瞬間、QBが発した名前は彼女達-特にまどか-にとって残酷なものだった。

 

『暁美ほむら、さ』

 

「え………」

 

「そんな………」

 

「やっぱり転校生かよ………!」

 

「ふむ………」

 

ある者は驚き、ある者は怒りを滲ませ、またある者は何かを考え始めた。

 

「何故ほむらが犯人だと分かったんだ?」

 

『それは簡単だよ、風見志郎。僕が現場を“見た”からさ』

 

それからQBは自身の経験を大雑把に話し始めた。

 

『実は昨日、ある魔法少女に“狩り”が行われると忠告されてね。それで今日指定された場所に行ったら確かにやられていたんだ。そして、そこに暁美ほむらがいた、ということさ』

 

「その魔法少女はどんな風にやられていたか分かるかしら?」

 

マミが聞いた。

 

『何か鋭利な物で斬られた感じだったね。身体能力が向上されている魔法少女をあそこまで斬殺されているなんて、相当なものだよ』

 

そう言うと、QBはピョコっとテーブルの上に乗った。

 

『僕がここに来たのにはもう1つ理由がある。鹿目まどか。君についてだ。さやかは知っての通り昨日なったけど、君はどうする?もし君が魔法少女になったら、これまでにないほど強力な、素晴らしい魔法少女になれる事を約束するよ』

 

「…………………」

 

まどかはそれを聞いて黙り込んでしまった。

もし、QBがただの勧誘に来たのであれば断っていた。しかし、“これまでにないほど強力な、素晴らしい魔法少女になれる”という言葉が彼女を迷わせていた。

ここで魔法少女になる選択をすれば当然マミやさやか、志郎は怒るだろう。しかし、それを代償に皆の闘いを少しでも楽にできるなら………。

 

「き、QB、私は」

 

「QB、いくつか確認したいんだが」

 

まどかの言葉を志郎が遮った。

 

『少し待ってくれないか?まどかが何か言おうとしているじゃないか』

 

QBが少し苛ついたように志郎に答える。

 

「そうだな。悪かった」

 

志郎がフッと笑い、謝る。

 

『それで、まどか。決めたんだね?』

 

「うん、私は」

 

まどかが決意した言葉を言おうとした瞬間、頭の中に言葉が走った。

 

《魔法少女になる、なんて言うなよ?》

 

「え………?」

 

唐突に聞こえたそれは、紛れもなく志郎のもので、まどかの意志とは反したものだった。

 

《理由は後で説明する。とにかくここは断っとけ》

 

言葉を続けないまどかに疑問を持ったのか、QBが尋ねた。

 

『どうしたんだいまどか?』

 

「あ、えと、その、ゴメンねQB。魔法少女になるのは、また、今度でいい?」

 

自分の決意とは違う事を言った為か、言い切るのに苦労しながらまどかは断った。

 

『そうか。それは残念だ。でも、もしなりたくなったらいつでも声をかけてくれ。すぐに終わるから』

 

そう言い残し、QBは去ろうとした。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

それを志郎が止めた。

 

「俺の話が終わってないぞ?」

 

『………。そういえばそうだったね。それで、なんだい?』

 

「QB、お前はほむらの能力を知っているのか?」

 

『………、どうしてそんな事を聞くんだい?』

 

「そうだよ、志郎!まさか、あんた転校生が犯人じゃないと思ってるんじゃ………!」

 

「いや、違う。今度ほむらと戦う事になった時、対策が立てやすいだろ?」

 

「そう、だけど………」

 

『なるほどね』

 

志郎の答えに、さやかは納得しないように、QBは逆に納得したように反応した。

 

「で、どうなんだ?」

 

『残念だけど、わからないね。僕が彼女を見た時にはすでに戦闘は終わってるからね。それに、まるで瞬間移動したかのようにすぐにどこかに行ってしまう』

 

「そうか………。引き止めて悪かったな」

 

『いいよ。それじゃあ僕は』

 

「ま、待って!」

 

QBが出て行こうとした時、マミが止めた。

 

「QB、今日も帰って来ないの?」

 

『ごめんね、マミ。僕もやらないといけない事があるから』

 

「そ、そう………」

 

『それじゃあ、また今度ね』

 

そう言ってQBは出ていった。

それから数歩歩いて周りに誰もいない事を確認し、

 

「やはり感情というのは厄介だ。嘘をつくのがこんなに難しいなんて」

 

と、喋った。

 

「せっかくのエネルギー源が消されているんだよ?その容疑者である暁美ほむらの能力を調べないはずがないじょないか」

 

ニヤリと笑って、QBは街中へと消えていった。

 

 

 

「それじゃあ、行くか」

 

QBが去って数分。外に出る準備を終えた志郎たちはマミの家を出た。

 

「あ、じゃあ、私はこれで」

 

志郎との約束をしたため、まどかは志郎達について行かず帰ろうとした。

 

「待て、まどか」

 

それを志郎が呼び止めた。

 

「え?何ですか、志郎さん?」

 

「もう暗い。俺が途中まで送ってくよ」

 

「え、いいですよ?そんな、悪いですし」

 

「そーそー!あ、もしかして志郎って本当にロリコンだった、とかぁ!?」

 

まどかの反応よりもさやかの反応に面倒臭さを感じた志郎は、違う、と一蹴した。

 

「ネクスト・デストロンが出るかもしれないからな。さやかやマミは戦闘能力を有しているが、まどかは違うからな」

 

「またまた〜!そんなこと言って〜!このさやかちゃんの目は誤魔化せ……ムググ!!」

 

さやかがさらにまくし立てようとしたところをマミが手で肩を塞いだ。

 

「はいはい。美樹さんは少し落ち着きましょうね。では、志郎さん。お願いします」

 

「ああ」

 

2人のやりとりにクスリと笑いながらも志郎はまどかを連れてエレベーターを降りていった。

 

 

 

 

「志郎さん………」

 

エレベーターに乗ってる途中、まどかが口を開いた。

 

「なんだ?」

 

「どうして魔法少女になる契約を止めろって言ったんですか?」

 

志郎はそれを聞いて、ああ、と答え、説明し始めた。

 

「さっき言ったろ?」

 

「?」

 

「まどかの覚悟は知っている。だがな、魔法少女になる事だけが戦う手段ではない、という事だ」

 

「…………………」

 

「俺の仲間に世界一の科学者と技術者がいる。彼らに頼んでなんとかするさ」

 

「そう、ですか………」

 

少し納得がいったというふうにまどかが答えると、志郎は、本当はな、と言葉を続けた。

 

「お前には戦って欲しくなんだ」

 

「なんでですか?」

 

「もう分かっていると思うが、闘うと言う事は常に死と隣り合わせだ。一歩間違えればあの世行き。死に対する恐怖はたとえどんなに高性能でも生き物である限り簡単には消せない。死んでしまったらそこまでだからな」

 

「……………はい」

 

まどかはそう言うと、俯いた。

それから、2人には会話は無く、彼女の家に着いた。

 

「それじゃあ、志郎さん、ありがとうございました」

まどかがそう言って頭をぺこりと下げる。

 

「ああ。また明日な」

 

志郎はそう答え、その場を離れた。

 

(理由はそれだけじゃないんだけどな)

 

遠くなっていく鹿目家を尻目に、志郎は内心、そう呟いた。

 

(敬介が気になっている事は多分ソウルジェムとグリーフシードの関係…………。それに加え、魔女を倒した時のあの感覚………。杞憂であってくれればいいが………)

 

これまでの事を整理しながら歩く志郎。

最悪のケースが頭を横切る。

 

(そうでない事を願いたいな)

 

だが、彼の戦士としての本能がその願いを否定していた。

 

 

 

〜1時間後〜

 

志郎とマミは人通りの少ない橋の下でさやかの訓練をしていた。

今日は魔女が見つからず、さやかがまだ魔法少女になって間もないため、戦闘技術を叩き込むためマミと志郎が開いた。

この日は、マミは見学で志郎が指導役をしていた。

 

「甘い!」

 

「ぐっ………!」

 

さやかは何回目か分からない蹴りを腹部に受け、川の中に飛ばされた。

 

「ま、まだまだ!」

 

陸に上がったさやかはそう言い、怪我を負った部分の周りに魔法陣のサークルを出し、傷を癒した。

 

「ヤァァァァ!」

 

さやかがサーベルを構え志郎に斬りかかった。

 

「動きが大きすぎる!それでは隙を突かれてやられるぞ!!」

 

志郎はそうアドバイスし、ゆらりとさやかの剣を躱し、再び腹部に蹴りを入れた。

 

「こんのぉぉぉぉぉ!!」

 

しかし、さやかは咆哮を上げて両脚に力を入れ、その場に止まり、蹴られた勢いを利用して身体を回転させ袈裟斬りを仕掛けた。

 

「ほう………」

 

志郎は驚いたように声を出し、すんでのところで避け、距離をとった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

さやかは肩で息をしながら剣を構えた。

 

「今日はここまでにしておこう」

 

志郎はさやかのヘソの部分を見てそう言った。

 

「な、何でよ!?」

 

さやかは納得できないというふうに言った。

 

「簡単だ。お前、自分のソウルジェム見てみろ」

 

「あ…………」

 

さやか自身、意識していなかったが、彼女の腹部にあるソウルジェムはかなり濁っていた。さやかはグラーフシードを取り出し、ソウルジェムを浄化した。

 

「お前は魔法少女になったばかりだ。慣れていないというのも仕方ないな」

 

志郎は優しくそう言って、一呼吸置いた。

 

「だがな、さやか」

 

先ほどとは打って変わってトーンを低くして言った。

 

「むやみに突っ込むだけじゃダメだ。もう少し考えて闘え」

 

「…………」

 

「例えば、カウンターをするとか、な」

 

「どうやってやるのさ?」

 

少々荒っぽく、さやかは言った。

 

「簡単だ。サーベルを貸せ」

 

志郎がそう言い、さやかは素直に手に持っているサーベルを渡した。

志郎はそれを受け取り、構えようとした。

が、何かに気付き、そのサーベルをマジマジと眺めた。

 

「し、志郎?どったの?」

 

突然の事に戸惑いながらさやかが聞いた。

 

「いや、な。お前の武器、中々面白いと思ってな」

 

「面白い?」

 

「ああ。これな、サーベルと思いきやサーベルではないんだ。そして、日本刀かというと、そうでもない。その中間にある武器だな」

 

「それで?」

 

「つまりはな、両方の武器の利点と欠点を持ってる」

 

「はぁ」

 

「これはあくまで俺の推測だが、もしお前が我流でこいつを使いこなせるようになれば相当強くなるぞ」

 

「え、本当!?」

 

“強くなる”という言葉に反応したのか、さやかは急に明るくなった。

 

「ああ。だが、それを見つけるには苦労するぞ?」

 

そんなさやかの様子に苦笑いしながら志郎が言った。

 

「へへ〜ん!このさやかちゃんに掛かればそんなの1週間ぐらいでマスターしてやるさ!!」

 

「そうか。まあ、頑張れ」

 

「おうともさ!見ておきなよ、志郎!あっと驚かせて」

 

「はいはい、2人ともそれまで」

 

それまで空気だったマミが志郎達に割って入った。

 

「そろそろ7時になるわ。美樹さん、そろそろ帰った方がいいわ。お家の方が心配するでしょ?」

 

「え?もうそんな時間!?」

 

マミに指摘され、しまったという顔をするさやか。

その様子に志郎がどうした、と聞くと、

 

「今日、ご飯食べに行くんだったー!!」

 

さやかはそう言って走って帰っていった。

 

「全く、あいつは」

 

その様子を見て志郎は苦笑した。

 

「ええ、本当に、ですね」

 

それにつられてマミもクスクスと笑う。

 

「さて、俺達も帰るか」

 

そうして、2人も家に帰った。

 

 

 

 

 

某所。

ここで、2人の少女がケーキを食べながら会話していた。

 

「明日だよね?」

 

「ええ。明日、戦力が一つ、増えるわ」

 

「それにしてもソウルジェムにあんな秘密があったなんてね」

 

「後悔してるの?」

 

「まさか!?そのおかげで君とこうして出会えたんだ!!もし、そうなるとしても君のためなら本望さ!!!」

 

「まぁ、悪い子ね。そんな事言って。ダメよ?貴女は私にとってとても大切な“家族”だもの」

 

「君にそんな事言われるなんて、感動しすぎて涙が溢れてきそうだよ」

 

「フフフ…………」

 

「アハハ」

 

彼女達の笑い声がしばらく、暗い空間の中で響いた。

 

 

つづく




いつまで続くのか、この第7話。
しかもまだタイトル回収できてない………。
プロットは全部完成してるのに、こんなに長くなるとは思わなんだ…………。


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第7話 志郎、風見野に行く④

お久しぶりです!
第8話完結です!!


「マミ」

 

夕御飯を食べ終わった後、志郎が話しかけた。

 

「何ですか?」

 

「実はな、明日俺は風見野に行く。だから魔女退治はすまないがさやかと2人で行ってほしい」

 

“風見野”という単語を聞き、マミは一瞬顔をしかめた。

 

「どうした?」

 

その様子に気付き、志郎が聞く。

 

「い、いえ。何でもないです。分かりました。気をつけてくださいね」

 

「……………。ああ、ありがとう」

 

何かある。

志郎はそう感じながら聞くわけにもいかず、そのまま話を切り上げた。

 

 

 

 

それから数時間経った。マミは宿題と睨めっこをし、志郎は明日の弁当のおかずは仕込みをしていた。

 

「ふわぁ〜、志郎さん、おやすみなさい」

 

すると、宿題が終わったのか、マミは欠伸をしながらそう言った。

 

「ああ。おやすみ」

 

志郎は短くそう答え、鍋の中をかき混ぜ始めた。

マミはそれを見て、明日の弁当を楽しみにしながら寝室へと向かった。

 

「ふぅ。行ったか」

 

マミの後ろ姿を眺めながらそう呟いた。

志郎は残りの工程をさっさと済ませ、ソファに座った。

それは、神敬介と通信をするためだった。

マミが起きている時にしても良かったが、何か悟られては困ると考え、そうした。

 

『敬介』

 

志郎が通信を送ると、すぐに帰ってきた。

 

『遅くなってすまない。で、昼の続きだが』

 

『ああ、ソウルジェムの事なんですけど』

 

『ソウルジェムの成れの果てがグラーフシードって事だろ?』

 

『…………。さすがですね。もう気付いていましたか』

 

『魔女を倒したあの感じ、そして、魔法少女のシステムを考えれば合点がつく』

 

『ですよね。やっぱり』

 

『お前の所の、リィズだったか?その娘はもう知っているのか?』

 

『いえ、それが、今はそれどころじゃないんです』

 

『どういう事だ?』

 

『実は………!』

 

そこまで来て、敬介の通信は止まった。それと同時に、ある映像が流れ、全てのライダーに通信が繋がった。

それは、荒廃した街。ビルがなぎ倒され、道路は割れ、森は崩壊していた。

そんな中に、上空に浮かぶ1つの巨大な物体があった。映像が乱れているため、詳しくは分からないが、大きさは100mを超えていた。

 

『貴様が、ワルプルギスか』

 

そこへ聞こえる一人の男の話し声。

それをこの通信の発信者である村雨良ー仮面ライダーZX(ゼクロス)ーが発していることは明白だった。

 

『まさか街を一瞬で破壊するとはな』

 

彼の声は怒りに満ちていた。

 

『許さん、貴様、許さんぞ!!』

 

空気が震えるほどの激情が溢れる声で“ワルプルギスの夜”に突っ込んで行く。

しかし、それから流れる映像は目を伏せたくなるようなものだった。

電磁ナイフ、マイクロチェーン、衝撃吸収爆弾、虚像投影装置。

あらゆる武器を使ってもその魔女の身体には傷一つ付けることはできなかった。

それだけでなく、ワルプルギスの狂ったような笑い声と共に出される複数の触手にいいように痛ぶられるだけだった。

 

『く、クソッ………』

 

過去に習得した梅花の型を崩されたZXは片脚を失いながらも立ち上がり、跳躍した。しかし、限界が来ていたためか、10m程しか飛べなかった。

が、

 

『ヘルダイバー!!!』

 

ZXがそう叫ぶと後方から彼の愛車、ヘルダイバーが飛んで来た。

その座席部分を踏み台にし、さらに高く飛んだ。

 

『これが、俺の、最後の技だ………!』

 

ZXはそう言うと、ワルプルギスの夜に向かって手を大きく回転させた。

すると、そこに竜巻ができ、ZXは自身の体を回転させながら突っ込んだ。

 

『ZX穿孔キック!!』

 

技名を叫びながら必殺のキックを放つ。

それは過去に彼が必死の思いで得た技だった。

が、それはワルプルギスの夜のボディをほんのちょっと傷つけるだけで終わった。

それを怒ったのか、ワルプルギスの夜は先ほどの倍以上の触手を出し、ZXに叩きつけた。

 

 

通信はここで途切れた。

この映像が流れている時、ライダーは誰一人として言葉を発しなかった。

村雨からの電波はもう感じられない。生きているのか、死んでいるのか分からない状態だった。

想像以上の化物だ。

誰もがそう思っていた。

 

『まさか、村雨がやられるとはな』

 

なんとか絞り出したと言うふうに、本郷猛が言った。

 

『こりゃマジでやべーな』

 

それに答えるかのように城茂が言った。

 

『あそこまで強いなんて………」

 

予想外の強さに、沖一也が声を震わせながら言った。

 

『本郷先輩、奴の次の目的地を予測する手段は無いんですか?』

 

志郎が聞いた。

 

『無理だな。いや、分かるとしても台風が発生した時か』

 

『というと?』

 

『奴は台風と共に現れる。しかも突発的にな。しかし、その前触れは何も無い。簡単に言えば台風が急に来るまで誰も分からないと言うことだ』

 

『そんな…………』

 

仮面ライダー達の中にある種の絶望が生じる。

それは、誰もがあの魔女に負け、人々を守れないのでは、と言うものだった。

 

『いや、方法なら、一つだけあるぜ』

 

そんな時、一文字隼人がそう言った。

 

『何だ?それは?』

 

本郷が聞く。

 

『お前ら、村雨の戦い方見て何も思わなかったのか?』

 

瞬間、彼らは一つの戦術を思いついた。

 

『それしか、無いみたいですね』

 

筑波洋がそう言った。

仮面ライダー達は、その作戦を話し合った後、通信を切った。

その後、敬介に通信を入れたが、返事は無かったため、切った。

 

「そうだ、忘れてた」

 

そのまま身体を休めようとした志郎はある事を思い出し、ある男に通信を入れた。

 

『俺だ。今、時間は大丈夫か?』

 

『志郎、どうしたんだ?村雨の事か?』

 

『いや、実はな、お前に作って欲しいものがあるんだ』

 

そこから志郎はまどか達の事を話し始めた。

 

『……………と、いうわけだ』

 

『本気か?いくら何でも無茶だぞ?』

 

『無茶なのは分かっている。だが頼む』

 

『…………はぁ、分かったよ。作っておくよ』

 

『すまないな、結城』

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

 

翌日。

朝、及び昼間には昨日と変わらず、何もなく、平和に過ごした。

そして、夕方。

さやかは病院にいた。

志郎がいない事をマミから聞き、 無理を言って修行兼魔女退治の時間を少し遅らせる許可を得た。

 

「ふぅ〜。なんか緊張するな〜」

 

病室の前で胸に手を当て深呼吸するさやか。

そして、よし、と覚悟を決め、病室に入った。

 

「恭介〜?さやかちゃんが来てやったぞーー!」

 

しかし、その声に反応する者はいなかった。

 

「あ、あり?き、恭介?」

 

室内を見回すが人影は無かった。

 

「おっかし〜な〜。どこに行ったんだろ?」

 

後ろから人影が近付いているのに、さやかはそれに気付かずそう呟いた。

 

 

 

 

風見野市内

志郎は杏子のいるホテルへと向かっていた。

確信はないが、昨日ほむらが風見野に行けと言ったのは、杏子の身に何か起こるからだと思ったからだった。

 

「よし、着いた」

 

GT750から降り、杏子の泊まっている部屋に向かう。

が、そこには杏子はいなかった。

 

「ゆまもいない。あいつら、どこ行った?」

 

(まさか…………!)

 

最悪の想定をしながら志郎はホテルの屋上へと向かった。

 

「よし、誰もいないな」

 

周りを見て、自分以外の人間がいない事を確認した志郎はV3ホッパーを掲げた。

 

「V3ホッパー!」

 

その声と共に空高くホッパーが打ち上がる。

志郎はそこから送られてくる映像の中に杏子とゆまを探した。

しかし、その姿は見つからなかった。

 

「まさか、いや、そんなはずは………!」

 

嫌な予感がし、志郎はホテル内に戻り、階段を駆け下りた。

 

 

 

 

「これで、どうだ!?」

 

「キョーコすっご〜い!」

 

風見野から数十キロ程離れた街の河原に、杏子とまゆはいた。

杏子は魚をお手製の罠を使って捕まえ、ゆまはそれを見て歓喜していた。

 

「いいか?ゆま。今は志郎が金出してくれてるけど、それもいつまでもつか分からねぇ。それに、あたしだっていつまでお前の面倒を見てやれるかも分からねぇ。だからこれから週に1回はこうして一人で生きてく為の方法を教えてくからな?」

 

「うん!分かった!!早くお魚食べよ!?」

 

「ハァ、本当に分かってんのかな」

 

取った魚を見て刺身にしようか焼き魚にしようか迷ってるゆまを見て、杏子は溜息を吐いた。

 

「今回は焼くか………」

 

杏子はそんな独り言と共に焼く準備を始めた。

表面が少しずつ焦げていくと、ほんのりといい匂いが辺りに漂い始めた。

 

「焼き魚、焼き魚〜♪」

 

その様子を見てゆまがくるくると回り、喜びを身体で表現する。

 

「ハイハイ、まだ時間かかるから待っててな」

 

「うん!」

 

それから暫くして、杏子製焼き魚が完成した。

ゆまと杏子はそれを美味しそうに頬張りながら談笑していた。

それは、とても幸せそうな風景だった。

2つの黒い瞳が、遠くから彼女達を監視している事を除いたら。

 

 

 

 

「美味しかったね〜!お魚!」

 

「ああ、そうだな。今度は刺身にして食うか?」

 

「うん!ゆま、お刺身も大好き!!」

 

「ハハハ、そうかそうか」

 

そんな会話をしていると、2人はホテルに着いた。

夜もかなり深くなっており、何度か警察に見つかり補導されかけたが、杏子とゆまはなんとか潜り抜けた。

 

「217の9号室の佐倉杏子ですけど」

 

ホテルの受付でそれを伝え、ルームキーを受け取った。

 

「あ、佐倉様、夕方にお客様がいらっしゃいました」

 

手元のメモ帳を見ながら、スタッフが志郎が来た事を伝えた。

 

「え、あ、ありがとう、ございます………」

 

それを聞き、驚きを隠せない杏子。

 

「そ、それじゃあ。ゆま、行くぞ」

 

動揺が隠しきれず、手足か一緒になりながら部屋に向かった。

 

「ねぇ、杏子、志郎が来たって本当?」

 

部屋に着き、開口一番にゆまが聞いた。

 

「ら、らしいな」

 

どもりながら答える杏子。

 

「嬉しそうだね、杏子」

 

ゆまがジト目でそう聞いて来た。

 

「へ?う、嬉しい!?このあたしが?な、何言ってんだよ」

 

「だって、杏子顔真っ赤でニヤニヤしてるよ」

 

「え?マジかよ!?」

 

そう言ってバスルームの鏡を見に行く。そして、

 

「ち、違う違う!これは、その、そんなんじゃない!!」

 

と、杏子はパニックになって頭を抱え、丸く座った。

 

 

 

 

「一応、隣町まで来たが、ここでもあいつらの姿は見えないな」

 

志郎はV3ホッパーをしまい、そう呟いた。

 

(入違いになった、って事はないよな?)

 

はぁ、という溜息と共に風見野へ戻ろうとした。

瞬間、志郎の頭に少女の声が響いた。

 

(風見志郎、警告するよ。これ以上この件に関わらない方がいい。もし、関わろうとすれば私達は君を殺さなければならない)

 

「ほう、誰だ?他人の頭に無断で通信を入れるなんて、いい度胸だな?」

 

(それで凄んだつもり?残念だけど君じゃ私達に勝てないよ?さっきも言ったけど、これは警告だ。敵となる可能性があると言っても君は一応私の恩人。殺したくはない)

 

「………。恩人。恩人、か」

 

キーワードとなり得る言葉を繰り返し呟く。

 

(あ、い、今のなし!無しだからね!!と、とにかく、これ以上魔法少女に関わるな!いいね!!)

 

そう言って、通信は一方的に切られた。

志郎は自分の過去の経験から、少女から“恩人”と言われた事は一度しか無かった。

 

「呉キリカ…………」

 

そうなれば美国織莉子もグルか………。

 

志郎は自身の中に燃えるものと、何か、悲しみに似た感情を覚えた。

 

「まさか、奴ら………」

 

不安を感じつつ、志郎は風見野へと向かった。

 

 

 

 

ホテルの室内で、杏子はゆまの寝顔を見ていた。

それは、今の自分の境遇を知らないかのような、無垢な表情だった。

 

「いつか、こいつも一人で生きていかないといけなくなる」

 

そう呟くと自然に、両手に力がこもった。

 

(いつか、あたしが死んだ時、こいつはどうするんだろうな。施設に行くのか?それとも、誰か親切な奴に拾ってもらうのか?)

 

それは無理だろう、と杏子は心の中で断言した。

ふと、ゆまの額に手を当てる。

そのまま前髪を搔き上げると、そこには根性焼きの跡が痛々しく残っていた。

 

(こいつは、実の母親に虐待されていた。だから簡単に人に心を開こうとしないし、近付こうともしない)

 

「あたしも、こいつほど酷くは無いけど、似たような経験はしたからな………」

 

そう、感傷に浸っていると、急に魔女が現れた感覚がした。

 

「チッ、空気の読めねー奴だな」

 

ソッとゆまの頭を撫で、杏子はホテルから飛び出した。

 

 

 

 

「ここか………」

 

廃ビルの壁に、結界が開いていたのを見つけた杏子は魔法少女へと変身し、結界の中へと突っ込んだ。

と、同時に、壺や落花生のような姿をした使い魔が襲って来た。

 

「悪いけど、今お前らに構ってる暇はないんだ、よ!!」

 

杏子はそう言い、気合を入れながら武器である槍の柄を持ち、一回転すると共に振り回した。

 

「1☆♪€+♪6,*2○〆」

 

声にならない叫び声を上げながら使い魔達は身体を切断され消滅した。

すると、結界内が一気に歪み、魔女が姿を現した。

 

ー魔女の名は『シズル』。性質は「趣」。彼女は悪戯心を抑えることが出来ない。一度彼女の罠にはまってしまったら抜け出す事は困難だろう。そして、惨たらしく殺される未来がまっているだろうー

 

シズルは大きな骸骨のような頭に長い髪。そして、そこから手足のようなものがある、という姿をしていた。

 

「こんなふざけた奴が相手だってのか」

 

若干イラつきながら杏子は槍を構える。

瞬間、背筋に寒気が走った。

 

(なんだ、この感じ……。嫌な、予感がする)

 

杏子は硬直した。

 

「欄、蘭、乱、ラン、藍♪」

 

そんな杏子の様子を見てか、シズルは余裕そうに歩み寄った。

 

「ッチ、なめんじゃねぇ!」

 

それが杏子の逆鱗に触れたのか、シズルに向かって真っ直ぐに走り、頭蓋骨に向けて力一杯唐竹割をした。

 

「魏griィィィいいいいゐ鋳ィィ!」

 

悲鳴を上げながら割れた頭蓋骨から血のような赤黒い液体を噴出し、シズルは悶えた。

 

 

 

 

「んっ………」

 

寝室で、ゆまは目を覚ました。

ふと、隣にいたはずの杏子がいない事に気付く。

 

「キョーコどこ?どこいっちゃったの?」

 

ベッドから降り、キョロキョロと辺りを見回す。しかし、杏子はいなかった。

直後、ふわ、と柔らかい感覚がゆまを包んだ。

それは綺麗な白髪の長髪が特徴的な少女だった。

 

「佐倉杏子。彼女はまだ現世にいるのかしら。それとも最早死神は彼女を連れ去って仕舞ったのかしら?」

 

背後から諭すように、優しく彼女が囁いた。

 

「しにがみ………?」

 

ゆまは、その単語を繰り返し呟いた。

 

「死…。キョーコ、が?」

 

ゆまの頭の中には先日の事が思い出された。

母親だったものが急に動かない肉塊になった事を。

もし、杏子がそのようになってしまったら………。

 

「キョ、ウ、コ、死…ん…じゃ…う……の?」

 

ゆまは譫言のように繰り返しながら顔を青くし、うずくまった。

その様子を見て少女はニコ、と微笑んで答えた。

 

「彼女は魔女と戦って、そして死ぬ運命」

 

「あ、あ、い、いや………」

 

「貴女に運命の輪を回せるのかしら?」

 

少女はそう言ってゆまに近付き、ポツリと呟いた。

 

「かわいいだけの役立たずさん」

 

ピシッ………

 

それを聞いた瞬間、ゆまの中で何かが弾けた。

 

 

 

 

「げ偽ッ」

 

シズルは悶えながら逃げようとした。

 

「逃すわけ、ねぇーだろ!」

 

杏子は背後から高く跳躍し、割れた頭蓋骨目掛けて袈裟斬りした。

 

「これで、終わりだ!!」

 

ドバッと血を出し、シズルは倒れグリーフシードを落とした。

 

「あっさり終わったな。あのやな感じは気のせいか」

 

グリーフシードを拾いながら杏子は呟いた。

 

「ふわぁーあ、もう一眠りするかな」

 

そう言い、杏子は大きく伸びた。

いつもはこれで終わりだった。

終わりのはずだった。

 

パリン………

 

「ん?」

 

何かが割れるような音が手の中でし、杏子は確認した。

 

「な!?」

 

手の中を見て、杏子は驚いた。

そこには大きく『はずれ』と書かれた紙があった。

再び結界が歪み始める。

 

「これは、割れたのは外っ側だけってことか」

 

冷静にそう分析し、シズルの出方を伺う。

すると、背後から落花生の殻の形をした使い魔が押し寄せてきた。

 

「くっ、ちまちまとうざい奴だな!」

 

使い魔をなぎ払い一息つくと、上に“何か”いることに気付いた。

それは、頭蓋骨の目の部分から触手の様な太く長い物を出しているシズルだった。

その触手の先端には大きな口があった。

 

「尾ッほ頬ォー、肺ホー、蘭、乱、覧♫」

 

それは楽しそうに唄を歌っていた。

そして、数百の使い魔と共に杏子に襲いかかった。

 

「こんなんで、やられるとでも、思ったのか、よ!」

 

杏子はそう声を張り上げ、槍の太刀打ちの部分を離し、鎖状にして振り回した。

それにやられ、使い魔は全て消滅し、シズルも致命的なダメージを受けた。

 

「あたしの武器に合わせて攻撃したんだろうけど、範囲攻撃できる武器もあるってことさ。あんた、甘く見過ぎだよ」

 

杏子はそう言い、まだ反撃を試みるシズルの元へと向かった。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ」

 

ゆまは、杏子を探して走っていた。

このままでは杏子が死んでしまう。

そんな恐怖がゆまの身体を支配していた。

 

「やあ、どこに行くんだい?」

 

そんな彼女に無機質な声をかける者が一人。それはQBだった。

 

「あのね、キュウベー、杏子が、杏子が!杏子が死んじゃうかもしれないの!どうしよう!!」

 

「残念だけど、僕の力ではどうにもできないよ」

 

「そんな………!」

 

「でも」

 

絶望しかけたゆまに、QBは言った。

 

「千歳ゆま、君には魔法少女の才能がある。僕には無理だけど、君にはできるかもしれない」

 

「ゆ、ゆまが?」

 

「そうだよ。千歳ゆま。君にはその資格があるんだからね」

 

QBはゆまに近付き、囁いた。

 

「君は、どんな願いでソウルジェムを輝かせるんだい?」

 

「ゆまは、ゆまは………!」

 

 

 

 

「ヒ魏ぎぎ、うぐ虞」

 

シズルは杏子にやられ、身体中から血を流していた。

 

「こんなにてこずったのは久しぶりだね。褒めてやるよ」

 

そう言って杏子はシズルに留めを刺そうとした。

が、次の瞬間、シズルは大量の血を操り始めた。

 

「目くらましか?しゃらくさいな」

 

それをものともせず、杏子は突っ込んだ。

が、

 

「なっ!」

 

その血が杏子はの四肢に巻き付いてきた。

そして、それらは強い刺激臭を放ち始め、杏子の手足を切断した。

 

(なっ、なん、だと………!)

 

突然の事に驚きを隠せない杏子。

シズルはそんな彼女目掛けて大きな口でかぶりつこうとした。

 

(まいったな。これ、死ぬじゃん……。しけた人生だったなぁ…)

 

諦めの感情が身体を支配して行くのが分かった。

やりたい事はやったし、悔いは無かった。

しかし、唯一気掛かりなことがあった。

 

(ゆまの奴、一人で生きていけるかなぁ……)

 

そんな事を考えながら、杏子は目を瞑った。

が、覚悟した瞬間はいつまで経っても訪れなかった。

 

「あ、あれ?」

 

杏子はゆっくりと目を開けた。

そこには、遠くに飛ばされたシズルの身体と、見知った異形が一つ。

 

「し、志郎………?」

 

「遅くなったな、杏子。大丈夫だ。お前達を死なせはしない。絶対にな」

 

そこには仮面ライダーV3が立っていた。

V3は杏子を一瞥し、シズルを睨みつけた。

 

「さて、こいつ。中々厄介な敵だな。見た所、かなり深い部分に“コア”がある。それを破壊しない限りは倒せないだろうな」

 

マトリックスアイでシズルの中身をみながらV3は呟いた。

 

「それに、外側はかなり頑丈で簡単には破壊できないということか」

 

V3は身構え、空高く跳躍した。

 

(あまり性能に頼った戦い方はしたくないが、今回は仕方ない)

 

そう思いながら反転し、蹴りの構えを取る。

それをシズルの頭蓋骨に当てると同時にその衝撃で再び空に舞った。

 

「V3ィィィィ、反転、キック!!」

 

必殺技を言いながら強力な蹴りを入れる。

だが、それでも頭蓋骨にヒビができただけで、コアには到達していなかった。

 

「まだだ!!」

 

V3はもう一度高く飛び、26の秘密の1つ、レッドボーンパワーを発動させた。これにより、V3は強力な力を発揮できる。

 

「V3ィィィィスクリューキック!!!」

 

今度は身体を高速回転させながら蹴りを入れた。

26の秘密を2つ同時に使う事で相当な破壊力を得た技に、シズルの外装は耐えきれず粉砕した。

その中に光る黒い球を見つけたV3はそれを取った。

 

「これがコアか」

 

そう呟き、マジマジと見つめる。

 

「…………………。すまん」

 

小さな声でそう言い、V3はそれを握りつぶした。

 

 

 

 

 

 

つづく




シズルを倒し、杏子のピンチを救ったV3。
傷付いた杏子を治してもらうためにさやかの元へ向かう。
次回「思いと想いの衝突」
御期待ください。


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第8話 思いと想いの衝突

スランプに陥ってあまり思うような文章が書けなかった……。

あと、今回は久々に1話(?)完結です。
というのも理由がありまして。

今までのものは簡単に言うと「V3と魔法少女の出会いの章」を描いたものでした。
なので、今回から新章「魔法少女の真実、美樹さやか・崩壊の章」という位置付けになっているわけで、今回のはそのプロローグ的な話にしようと思い、少し短めにしました。

では、新章、お楽しみください!


「ゆまは、ゆまは……!」

 

ゆまは必死に自分の願いを言おうとしていた。

自分は役立たずではないという事を証明するために。

しかし、どうしても言葉が詰まってしまっていた。

 

「ゆま、は………!!」

 

目の涙を浮かべながらも言葉を紡ごうとするゆま。しかし、出来なかった。

 

「君の願いはないのかい?」

 

呆れたとでもいうようにQBが聞いた。

 

「ち、違う!ゆまは、ゆまはキョーコを!」

 

助けたい。

そのワードが出かかったとき、背後から誰かが彼女の頭に手を置いた。

 

「え?」

 

ゆまが背後を見ると、そこにはよく知る人物がいた。

 

「シロー!!」

 

「何とか間に合ったか?ゆま」

 

「あのね、あのね、シロー!ゆまは」

 

「分かっている。杏子のために魔法少女になろうとしたんだろ?」

 

「うん。だって、だってゆまは役立たずなんかじゃないって」

 

「お前は役立たずじゃないさ」

 

ゆまの不安を取り除くかのように志郎は言った。

 

「いいか、ゆま。誰に言われたか知らんが、お前は今杏子の為に動いてるんだろ?」

 

「うん」

 

「実はな、杏子が戦ってるのはこの近くなんだ」

 

「ホント!?」

 

「ああ」

 

実際、ゆまのいる場所は魔女の結界から非常に近かった。志郎はV3ホッパーを飛ばした時、いくつかの羽化しかかってるグリーフシードを見つけ、その進行具合により倒す優先度を決めていた。

今ゆまがいる場所がまさに志郎が今夜辺りに倒そうと思っていた魔女のグリーフシードがある場所の近くだった。

 

「お前がもし全く別の方向にいたら杏子を助けるのは不可能だったかもしれない。でもお前はここにいる。その意味が分かるな?」

 

「うん!」

 

「杏子は俺に任せてお前はもうホテルに帰りな。安心しろ。必ず助けてやる」

 

「ぜったい?」

 

「ああ、約束する」

 

ゆまはそれを聞いて満面の笑みを浮かべ、分かったと頷いた。

そして、QBに魔法少女になる事を断ろうとした。

が、そこにQBはもういなかった。

 

「あれ?キュウべぇ?」

 

「きっと俺が来たから帰ったんだろう。ゆまが魔法少女になる必要はないって思ったんだろうな」

 

それは半分事実で半分嘘だった。

 

「分かった。じゃあね、シロー。キョーコを、キョーコをお願いね!!」

 

ゆまはそう言うとホテルに向かって走って帰っていった。

それを見送った志郎は魔女の結界の目の前まで行った。

その結界は獲物を待つ食虫植物のよつに大きな口を開けていた。

 

「さて、行くか」

 

志郎は覚悟を決め、構えを取った。

 

「変身、V3!!」

 

魔法少女まどか☆マギカ クラスSS

7つの宝石と2つの風車

 

シズルを倒し、結界が崩れていった。杏子とV3は廃ビルの中に出た。

 

「杏子、大丈夫か?」

 

V3が変身を解除しながら聞く。

 

「これ、が、大丈夫に、見え、るか?」

 

杏子は息も絶え絶えになりながら答えた。

 

「取れた部分をくっつければなおるか?」

 

「応急処置程度はな。ただ、完全に治すとなるとキツイかな」

 

「そうか」

 

志郎はある事を考えながら杏子の手足を傷跡にくっつけた。

 

「んっ………!」

 

杏子が力を入れると結合部から煙が出て仮止めされた。

 

「すごいな」

 

それを見て志郎が素直に思った事を言った。

 

「まあ、あたしも魔法少女だからこんぐらいはな」

 

杏子はフラフラしながら立ち上がった。

 

「おい、ちょっと待て」

 

志郎はそう言い、杏子のソウルジェムにシズルのグリーフシードを当てた。

穢れが相当溜まっていたのか、ソウルジェムからどんどん汚れが出てくる。

10秒ほどして、杏子のソウルジェムは赤く輝き始めた。

 

「これでよし、と」

 

志郎はグリーフシードをポケットにしまった。

 

「じゃあ、あたしはこれで」

 

杏子はそう言って、不自然な歩き方で帰ろうとした。

 

「ちょっと待て」

 

志郎がそれを止める。

 

「今度は何?」

 

「まだ完全には治ってないんだろ?少し付き合え。治せる奴の所に連れてく」

 

「は?何でそんな事しなきゃならんのさ」

 

杏子は不快感を露わにしながら聞いた。

 

「いいから付き合え」

 

志郎はそう言うと杏子に近付き、抱き抱えた。

それは、所謂お姫様抱っこという態勢だった。

 

「な!?は、離せ!!この野郎!!!」

 

杏子は顔を真っ赤にしながら抗議した。

 

「まあ、落ち着け。死にはしないだろうから」

 

志郎が何とか諭しながらそのままビルの外まで出た。

そして、GT750の後部座席部分に杏子を乗せた。

 

「これを付けておけ」

 

志郎はヘルメットを取り出し、杏子の頭に付けた。その頃には杏子はすっかり大人しくなっていた。

 

「よし、行くか」

 

志郎は座席に乗り、エンジンを掛けた。

すると杏子がスッと志郎の腰に手を回して来た。

 

「杏子?」

 

「か、勘違いすんなよ。運転中に落ちたら危ないだろ」

 

恥ずかしそうに言う杏子に、志郎はフッと笑いながらバイクを走らせ始めた。

 

 

 

 

「ハァ〜」

 

本日、何度目か分からない溜息をさかやはついた。

 

「まさか恭介があそこまで治ってるとはねー」

 

そんなことをぶつぶつ言いながら病院で起こった事を思い出す。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

誰もいなかった病室。

今日はリハビリでいないのか………。

そう思い帰ろうとした時、背後に巨漢がいることに気付いた。

 

「!?」

 

さやかは危険を察知し、距離をとった。

 

「うわ!びっくりした、さやかちゃんか」

 

その男は素っ頓狂な声を上げ、目を丸くした。

 

「え、恭介のお父さん!?」

 

さやかも驚きながら答えた。

 

「す、すみません……」

 

さやかは自身の行なった非礼を謝った。

 

「いいよ、気にしないで」

 

「そうだ、恭介知りませんか?」

 

「ああ、ちょうどさやかちゃんが見えたからそれを伝えにきたんだ」

 

彼はそう言い、深く深呼吸をした。

 

「実はね、恭介、治ったんだ」

 

「な、治った………」

 

「何故かは分からないけど、今朝にはもう動けるようになったんだ」

 

「そ、そうなんですか」

 

「それでね、恭介の奴、さやかちゃんにお礼がしたいって言って屋上にいるんだ」

 

「屋上?」

 

「ああ。治った腕でヴァイオリンを聞かせたいのはさやかちゃんだって言ってたからね。調子を戻すために練習してるんだ」

 

「………………。分かり、ました」

 

さやかはそう言い、恭介の父親にお辞儀をしてその場を去った。

本当なら屋上に行って恭介のヴァイオリンを聞きたいと思ったが彼が練習しているという事はベストな状態で聞かせたいという意図よるものだと言う考えがあったからだ。

しかし、病院から出た時にふと、美しい音色が聞こえてきた。

それが恭介のものだと思い付くのに苦労はせず、さやかは満面の笑みと共に楽しみを胸に閉まって、マミの家へと向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「やっぱ私のおかげ、なのかなぁ……?」

 

そう言い、もう一度溜息を吐く。

心には淡い期待があった。

それ以降、ずっとその調子だった為、魔女退治において失態を犯しやられかけた。

その時はマミがフォローに入ったお陰で事なきを得たが、さやかは全く気にしていなかった。

 

「何だかなぁ………」

 

そう」呟き再び溜息を吐こうとすると、頭の中に音声が入ってきた。

 

(さやか、ちょっといいか?)

 

それは志郎のものだった。

 

(あれ?どったの?)

 

(一つ聞きたいんだが、お前の回復魔法は他人にも使えるのか?)

 

(え?使えるけど?)

 

(治して欲しい奴がいるんだがいいか?)

 

(え、あ、うん。別にいいけど)

 

さやかがそう答えると、志郎は場所を指定してきた。それは復興したばかりの繁華街の裏路地だった。

さやかは快諾すると親にバレないように外に出て、志郎が待っている場所へと向かった。

 

 

 

 

「志郎、お待たせ」

 

出発してから数十分後、さやかは志郎を見つけた。

 

「ああ、すまないな、迷惑かけて」

 

志郎がそう言うと、後ろで不貞腐れている杏子をさやかの前に出した。

 

「こいつの両手両足の結合を頼みたいんだが」

 

「え?両手両足の結合?」

 

予想以上の怪我にさやかは聞き返した。

 

「ああ。杏子っていってな、こいつも魔法少女で、魔女との闘いで傷を負ったんだ」

 

「あー、そうなんだ」

 

さやかは興味津々な様子で杏子の顔を覗いた。

 

「何だよ?」

 

杏子は不機嫌そうにさやかに言った。

 

「何って、どんな娘なのかなーって思って」

 

「あっそ」

 

「……………」

 

杏子の態度にさやかはムッとした。

しかし、同じ魔法少女である為放っておかないと思い手を両肩に乗せた。

するとその部分から青い光が出た。

 

「少し我慢してて。多分ちゃんと治るから」

 

さやかは意識を集中させ、力を込める。

それに比例するかのように光は強くなり、反比例するかのように指輪型になっているソウルジェムは黒く濁っていく。

 

「…………。ふぅ、終わった」

 

5分後、杏子の怪我を治療し終えたさやかが額を拭ってそう言った。

 

「治ったのか?」

 

志郎がそう聞くと、さやかは大きく頷いた。

 

「そうか」

 

志郎はそう言い、ポケットからグリーフシードを出した。

 

「これは礼だ。すまなかったな」

 

志郎はさやかのソウルジェムにグリーフシードを当て、濁りを吸い取った。

 

「おー、ありがとー!」

 

さやかは満面の笑みでそう返した。

そのやりとりを杏子は面白くなさそうに見ていた。

 

「さて、杏子、帰るぞ。ゆまが待っている」

 

志郎が一通りさやかと話し終え、杏子の方を向いて肩に手を置いた。

それは怪我がしっかりと治っているのかを確認すると共に、先ほどまで蚊帳の外においてしまった謝罪を含んでいた。

 

「…………ッチ」

 

杏子は舌打ちをし、乱暴に志郎の手を払った。

そしてさやかの目の前に行き、睨みつけた。

 

「な、何よ?」

 

さやかがたじろぎながら聞く。

 

「おい、おめー、他人のために願い事使ったのか?」

 

杏子が厳しい口調でそう聞く。

 

「え?そうだけど、それがどうしたの?」

 

と、さやかは聞き返した。

 

「……………………」

 

それを聞き、杏子はしばらく黙った。

そして、10秒ほどして口角を上げ、

 

「くっだんねー事に願い事使ったんだな」

 

と言った。

瞬間、さやかの顔が真っ赤になった。

 

「なんで、すって?」

 

「だから、くだらねー事に願い事使ったって言ったんだよ。1回しか使えねー願いを他人ために使うなんてよ」

 

「はぁ?あんた、何言って」

 

「こんなんじゃマミみたいになるかもな」

 

“マミ”の名前を聞き、驚いた表情をするさやか。

 

「あんた、マミさんの事知ってんの!?」

 

「あんなバカみたいな奴、忘れたくても忘れれねーよ」

 

「な、なんですって………!!」

 

さやかはどんどん顔が赤くなっていき、手に力が入る。

杏子はそれを見てさらに挑発した。

 

「そのなりだとテメー、魔女だけでなく使い魔も狩ってんだろ?」

 

「それが何よ!?」

 

「そんな無駄な事して何になんのかなー?」

 

「使い魔だって人を襲うんでしょ!?そんなの、放っておけないじゃん!」

 

「だからアホなんだよ。そんな半端な事してっとコロッといっちまうぞ?」

 

「杏子、幾ら何でも………」

 

流石に言い過ぎだと思ったのか、志郎がために入ろうとする。しかし、志郎が足を踏み出した直後、彼の周りに結界が張られた。

 

「!!お前………」

 

志郎は結界に触れ、何か悟ったのかそのまま大人しくなった。

 

「志郎はそこで大人しくしてな」

 

「あんた、志郎になんて事を!!」

 

さらかはさらに激昂する。

 

「てかさ、あんた、先輩に対する態度がなってないよねー?口の聞き方っての親に教わらなかったの?」

 

杏子がさらにバカにしたように言う。

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

さやかはそう叫ぶと魔法少女に変身し、サーベルで杏子に斬りかかった。

 

「鈍いんだよ!!」

 

杏子はそれをヒラリと交わし、魔法少女へと変身し、さやかを蹴り飛ばした。

さやかの体は大きく宙を舞い、地面に背中から落下した。

 

「ほぇ〜、こりゃ弱いわ」

 

杏子が呆れたように言う。

 

「こんなもんで、やられると、思ってんの!」

 

さやかは一瞬で傷を治すと、弾丸のように杏子に突っ込んだ。

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

気合を入れながら袈裟斬りを仕掛けるさやか。

しかし、杏子は槍を召喚し、欠伸をしながらそれを受け止めた。

必然的に2人は鍔迫り合いのようなかたちになる。

 

「くっ…………!」

 

さやかは全体重をかけ、杏子を押そうとするが、杏子の力があまりにも強いのか、一歩も後退させる事が出来なかった。

 

「無闇矢鱈に押し付けたって勝てねーぞ!!」

 

杏子はそう言い、一瞬力を抜いた。

力の行き所を失ったさやかは前面に倒れかける。

が、杏子はその隙を見逃さず、鳩尾に膝蹴りを喰らわせた。

 

「カハッ………!」

 

体内の空気が無理やり吐き出され、さやかはその場に蹲った。

しかし、その目には諦めの色は見えず、依然杏子を睨んでいた。

 

「ッチ、諦めの悪りー奴だな。正直、鬱陶しいんだけど」

 

杏子がイラついた様子で言った。

 

「負ける、もんか。あんたみたいな、魔法少女の、ううん、人の風上にも置けないような奴に負けるもんか!」

 

さやかはそう言い、傷を再び修復し、突撃した。

 

「何度やっても同じなんだよ!!」

 

杏子は叫び、カウンターの構えを取る。

しかし、次の瞬間杏子が見たものは自分の予想を超えるものだった。

さやかがサーベルを真っ直ぐ投げてきたのだ。

 

「これでーーーー!!」

 

そう言いながら、さやかは走りながら杏子の視界を覆うようにマントを投げた。

 

「これが何だってんだよ!!」

 

杏子はうざったそうにそう言い、体を捻ってサーベルを避け、その勢いでマントを斬った。

 

これで視界が戻る。

 

そう思った次の瞬間、杏子は目を見開いた。

そこにさやかは居なかった。

予想だにしない出来事により、一瞬の焦りを見せる杏子。

しかし、すぐに冷静さを取り戻し上を見た。

そこにはサーベルを構えたさやかがいた。

 

「ヘッ、やっぱ上か!!」

 

杏子はさやかに向けて跳躍した。

 

「喰らえぇぇぇぇ!!」

 

「舐めんじゃねーーぞ!!」

 

互いに叫びながら斬り合った。

二人とも傷を負ったのか、互いに血が噴き出す。

 

「こんなもんで………」

 

「甘いんだよ…………」

 

傷跡を修復しながら杏子とさやかは見合った。

一瞬、静寂が周りを支配した。

次の瞬間、2人はかなりの速度で突進した。

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

「オラァァァァァァ!!!」

 

勝つにしろ負けるにしろこれで決まる。

そう思った時、予期せぬ抵抗力が二人の間に生じた。

 

「なっ!?」

 

「はっ!?」

 

驚きの声を上げるさやかと杏子。

その間にはV3がいた。

 

「お前ら、少しやりすぎだぞ」

 

諭すような、怒るような声でV3は言った。

 

「離してよ志郎!こいつは許せない!!」

 

さやかがそう叫び、サーベルを抜こうとするが、全く動かなかった。

 

「離してって、言ってるで…………!」

 

思い切り引き抜こうとしたさやかは、何か液体のような物が落ちる音が聞こえた。

サーベルの鍔を見ると、そこから赤い血が滴り落ちていて、それがサーベルを握ったV3の手から出ていることを知った。

よく見ると、杏子の槍にも同じように刃の部分を握り、そこから血が流れていた。

V3の白い手袋が徐々に赤く染まっていくのを見て、さやかは血の気が引いていくのが分かった。

 

「し、志郎、あんた、なんてことを………」

 

さやかは信じられないかのように言った。

 

「2人とも、変身を解除しろ。さもなくば、痛い目を見るぞ」

 

ゆっくりと言ったV3の言葉に、さやかと杏子はゾッとした。

それが冗談ではなく、本気で言っていることだと本能的に理解したからだ。

 

「わ、分かったよ」

 

「…………ッチ」

 

そう言いながら、2人は変身を解除した。

それを確認したV3も変身を解除する。

 

「さやか、すまないが今日は帰ってもらえないか?」

 

志郎がそう聞くと、さやかは素直に、うん、とだけ答えてその場を離れた。

さやかが視界から消えたのを見た後に、志郎は杏子を見た。

 

「な、なんだ、よ…………」

 

申し訳なさそうに杏子が言う。

 

パァァァン…………

 

周りに乾いた音が響いた。

痛みとヌルリとした感触に、杏子は自分が打たれたと気付くのに数秒かかった。

 

「俺の言いたいことは分かるな?」

 

「…………………」

 

杏子はショックなのか、反抗しているのか、押し黙る。

 

「分かるな?」

 

確認するようにもう一度聞く志郎。

 

「…………………うん」

 

杏子はそう答え、俯いた。

 

「なら、いい」

 

志郎はそう言い彼女の頭に手を置こうとした。

が、まだ自分の手の傷が塞がっていない事に気付き、自身の頭をかく動作をして誤魔化した。

 

「帰るぞ」

 

志郎はそう言い、歩き出す。

 

「うん………」

 

杏子はただそれだけ言って志郎の後ろを追いかけた。

 

 

 

 

某所

 

「新たに魔法少女になった美樹さやかの交友関係を纏めました」

 

ダイナ・ギア・ザウルスが手に持った資料をΣに見せる。

 

「ほう。これはこれは」

 

それを興味深そうに眺め、Σはある事を思い付いた。

 

「ダイナ・ギア・ザウルス、我の言わんとしている事は分かるな?」

 

「もちろんです。あやつ、“Incubator”が何か隠している事は明白ですから」

 

それを聞いたΣは、クククと首を鳴らした。

 

「楽しそうですね」

 

「当然だ。人間を使った実験は久々だからな。確か、Gとどちらが優秀な合成生物を作れるか競ったんだったか?まあ、私が負けた事は無かったがな」

 

闇の中で蠢く悪の影は、日に日に魔法少女と仮面ライダーV3に迫っていた。

 

つづく




美樹さやかは納得いかなかった。
自分は正義のために闘っているのに何故杏子に勝てないのか。
何故志郎やマミのように強くないのか。
そんな時、志筑仁美が言った言葉が更にさやかを混乱させる。
次回、「魔法少女の真実」ご期待ください。


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第9話 魔法少女の真実 ①

早めの投稿です。
人物関係がここから大きく動きます。
さやかちゃん好きな方には辛い展開がしばらく続くと思います。

それでは、お楽しみください


「ねぇ、まどか。まどかは私の親友だよね?」

 

ふと、さやかちゃんがそんな事を口走る。

当然だよ、と私が返すと、さやかちゃんはニッコリと笑いました。

 

「じゃあさ、私の頼み、一つだけ聞いてくれる?」

 

さやかちゃんが縋るような目で私を見てきました。

さやかちゃんはショックな事が続いていたので誰かに頼らないと、このままでは心が壊れてしまう。

そう思った私は最大限の笑顔で、うん、と頷きました。

するとさやかちゃんは輝くような笑顔でこう言ったのです。

 

「じゃあさ、私の為に死んで」

 

魔法少女まどか☆マギカ クロスSS

2つの風車と7つの宝石

『魔法少女の真実、美樹さやか崩壊の章』

 

家に着いたさやかは悩んでいた。

何故人のため、正義のために戦っている自分が人の道を外れたような奴に負けるのか。

何故志郎やマミのように強くないのか。

杏子との戦いの時、閃いた戦い方をしたが、それもいとも容易く破られてしまった。

 

「あんな奴に負けちゃダメなのに…………」

 

ボソッとさやかがそう呟くと、

 

『何かあったのかい?』

 

と、聞いたことのある声が頭の中に響いた。

 

「え?」

 

さやかが周りを見回すと、ベッドの上にQBがちょこんと座っているのが見えた。

 

「QB!?あ、あんた死んだんじゃないの!?」

 

『僕は無事だよ。それよりもさやか。君は更なる力が欲しいのかい?』

 

QBが赤い瞳にさやかを映しながら聞いた。

 

「え?うん。そうだけど………」

 

『それは何故だい?』

 

QBがそう聞くと、さやかは先ほど起こった杏子とのイザコザについて話した。

 

「………ということ」

 

『なるほどね。確かに杏子は強力な魔法少女だ。魔力の量も才能もさやかより遥かに高い』

 

「うぅ………。それって不公平じゃない?」

 

ショックを受けつつ、思った事を聞くさやか。

 

『仕方ないよ。魔法少女としての強さは個人差があるんだから』

 

慰めるような事をせず、キッパリと言うQB。

 

「じゃあ、どんな事してもあいつには勝てないの?」

 

『いや、方法はあるよ。確実じゃないけどね』

 

「本当!?」

 

それを聞き、QBの元へと飛びつくさやか。

そのままQBの顔を掴んで伸ばしながらどうするのか聞いた。

 

『簡単なことさ』

 

ジタバタして何とかさやかの手から逃れたQBは、ゆっくりと告げた。

 

『君が二重契約すればいいのさ』

 

 

 

 

ホテルに着いた志郎と杏子はホテルマンに見つからないようにコッソリと部屋へと向かった。

 

「あっ!!シロー!キョーコ!」

 

部屋に入った瞬間、そんな声とともにゆまがベッドから飛び出した。

 

「ゆま、お前起きてたのかよ」

 

杏子が呆れつつ頭を撫でながらそう言うと、ゆまは元気よく、うん、と答えた。

 

「シローがキョーコを連れて帰るって言ったから、ゆまちゃんと待ってたんだよ!えらいでしょ!?」

 

「ハイハイ。えらいえらい」

 

胸を張るゆまに杏子は溜息を吐きつつ答える。

 

「むー!キョーコほんとに思ってない!」

 

そんな杏子の態度が不満だったのか、ゆまは頬を膨らませ抗議の声を上げた。

 

「そんな事より、ゆま。一つ聞いていいか?」

 

二人の様子を見ていた志郎が話し始める。

 

「なに?シロー?」

 

「お前、誰かに役立たずって言われたのか?」

 

一瞬で空気が凍りつく。

杏子は志郎が何を言っているのか分からないというふうに、彼の顔を見つめた。

 

「オリコがゆったの!」

 

ゆまがその空気を緩和するような明るい声で答えた。

 

「………………そうか」

 

志郎はそれだけ言ってゆまの頭を撫でた。

 

「ち、ちょっと待てよ志郎、どういう事だよ?」

 

そこに杏子がって入る。

 

「俺が説明するよりもゆま自身が話した方がいいな」

 

志郎がそう答えると、ゆまは笑顔で話し始めた。

それを聞き終えた杏子の顔には言いようもない怒りの色があった。

 

「織莉子、か」

 

ただそれだけを発して、杏子はゆまを抱き抱えベットに潜った。

 

「??何している?」

 

その意図が分からないというふうに志郎が聞くと、杏子はだるそうに

 

「あたしらはもう寝るから、志郎は出てって」

 

と言った。

 

「おいおい、この部屋の本来の借主は俺なんだがな」

 

志郎は小さな声でそう呟くと、部屋を出た。

ドアが閉まる音を聞き、杏子はゆまの頭を強く抱いた。

 

「キョーコ?痛いよ?」

 

「ん、ああ、すまんすまん」

 

杏子がパッとゆまを離すと、今度はゆまが抱きついて来た。

 

「お、おい、ゆま?」

 

「キョーコとギューてしながら寝たいの」

 

ゆまは上目遣いでそう告げると、胸部に顔を埋めた。

 

「はぁ、しゃーないな」

 

杏子はそれを受け入れ、ゆまの頭を撫でながら目を瞑った。

 

(織莉子。この落とし前は付けさせてもらうからな)

 

憤怒を胸に抱えながら。

 

 

 

 

次の日の朝

マミは一人でに目が覚めた。

志郎の気配がせず、少々早足でリビングへと向かった。

予想通り、志郎はまだおらず、マミは溜息を吐いた。

 

「まだ帰ってないのかしら?」

 

そんな事を言いながら朝食の準備を始める。

メニューは焼いた食パンにバターを塗って砂糖をかけた簡単な物だったが、今のマミには十分な量だった。

それは、昨日のさやかの戦い方に不安があり、食欲が湧かなかったからだ。

 

(美樹さん、大丈夫かしら………?)

 

その時は偶々マミが上手くフォローに回れた為に大事には至らなかったが、これからはそういうわけにはいかなくなる。

 

(志郎さんがいれば良かったんだけど)

 

そう思いながら残ったパンを口に放り込む。

 

(いない人の事を考えても仕方ないわね。美樹さんは今日私から一言言っておきましょう)

 

マミは両手を合わせた後立ち上がり、準備を済ませ学校へ向かった。

が、

 

「今日は土曜日だったわ」

 

そう言いながらすぐに戻ってきた。

 

 

 

 

志郎は杏子達と別れた後、ある人物の元へと向かっていた。

風見野から5,6時間ほどかかり、着いたのが早朝だったため、会えるかという不安があったが、バイク修理店の前で元気にラジオ体操をしている姿が見え、ホッとした。

 

「おやっさん!」

 

志郎がGT750から降り、声をかける。

その人物は、彼ら仮面ライダーの父と言っても過言ではない、立花藤兵衛だった。

 

「ん、お前は………志郎か!?」

 

声をかけたのが志郎だと分かると、藤兵衛はラジオ体操を止め、非常に嬉しそうな顔をしながら店内へと入っていった。

 

「お前も来い!久々なんだ。ゆっくりしてけ!」

 

手招きをしながらそう言う藤兵衛に、志郎は深刻な顔をしながら

 

「ええ、少しお邪魔します」

 

と答えた。

その様子に気付いたのか、藤兵衛は急に真面目な顔になり、どうした、と聞いた。

 

「実はですね、おやっさん。話しておきたいことが」

 

志郎は、ネクスト・デストロンが行動を始めたこと、今自分たちは魔法少女と共に戦っていることと、魔女という存在。そして、ワルプルギスの夜と、それと戦って敗れたZXの事を話した。

 

「そうか………」

 

藤兵衛は影を落としながら呟いた。

 

「お前達は、また戦うのか…………」

 

「ええ…………」

 

「BADANも滅んだ。悪の組織はもういないとばかり思っていたのに…………」

 

「……………………」

 

「それに、その魔法少女とかいう女の子達まで…………」

 

「あの娘達を死なせない為に、そして人々を守る為に戦ってるんです」

 

「分かっている。分かってはいるんだが…………」

 

そう項垂れながら言う藤兵衛の目尻には涙があった。

 

「それで、一つ。おやっさんにお願いしたい事があるんですが」

 

志郎が申し訳なさそうにそう言うと、藤兵衛は目を吹き、顔を上げた。

 

「なんだ!?オレにできる事があったら何でも言ってくれ!!」

 

藤兵衛が身を乗り出して志郎に言った。

 

「ええ、おやっさんには………………」

 

 

 

 

志郎に頼まれた藤兵衛は緑川るり子へと連絡し、船を手配した。

 

「え〜と、最初の目的地は中国だな。よし、行くか」

 

藤兵衛はサングラスをかけ、キセルをふかしながらあの男の場所へと向かった。

 

「待ってろ良、今行くからな〜!」

 

 

 

 

昼。

マミは一人で昼食を摂っていた。

志郎の帰りをずっと待っていたが、結局午前中は帰って来ず寂しい思いをしながら過ごしていた。

 

(何かあったのかしら?)

 

不安になりながらチラリと窓を見る。

それは、まるで彼女の心を表すかのような曇天だった。

が、次の瞬間インターホンが鳴った。

 

「あら?誰かしら?」

 

マミがカメラを確認すると、そこには志郎が写っていた。

 

「志郎さん!?」

 

喜びのあまり、急いで玄関へと向かうマミ。

ドアを思いっきり開けると、そこにはやはり志郎が立っていた。

 

「お、おう。マミ、ただいま。遅くなってすまないな」

 

マミの様子に驚きながらも志郎は謝った。

 

「い、いえ。私も、その、すみません」

 

マミも興奮が収まったのか、顔を赤らめながら謝り返した。

 

「ここじゃなんだ。上がらせてもらうぞ?」

 

「あ、はい!ど、どうぞ」

 

二人は室内に戻り、向かい合って座った。

 

「実はですね」

 

「少しいいか」

 

マミと志郎は同時に切り出した。

すると、志郎が咳払いをして、マミに先に言うように譲った。

 

「ありがとうございます。その、美樹さんの事なんですけど」

 

「マミもあいつの事で気になることがあるのか?」

 

「え?」

 

「昨日さやかに会ったんだか」

 

そこから志郎は夜起こった事を話し始めた。

 

「杏子って魔法少女と関係を持ってるんだが」

 

が、志郎がそう言った時、マミが急に立ち上がった。

 

「佐倉さんと知り合い、なんですか?」

 

「ああ。そうだが?」

 

志郎は頭に?マークを浮かべたが、すぐに杏子の言っていた事を思い出す。

 

「そうか、知り合いだったのか」

 

「ええ………。腐れ縁みたいなものですが」

 

「そうか。で、話の続きだが」

 

「はい」

 

「すまない。結局俺から話すことになってしまって」

 

「いえ、気にしないでください」

 

そこからマミは大人しく聞いていた。

全てを話し終えた時、マミは複雑な表情をしていた。

 

「佐倉さんと美樹さんが………」

 

「あいつの煽りにも酷いものがあったからな。その辺はちゃんと反省するように説教はしたが」

 

「え?あの佐倉さんに説教を、ですか?」

 

「ああ、そうだが?」

 

マミは志郎の話が信じられないというふうに目を見開いた。

 

「そんなに変か?」

 

「い、いえ。すみません」

 

「ああ、まあ、いいが」

 

「で、私の話しなんですが」

 

そこからはマミがさやかの戦闘について話し始めた。

 

「さやかの奴、浮かれてやがるな…………」

 

志郎が溜息を吐きながらそう言った。

 

「はい。多分、上条君が治ったのがよっぽど嬉しかったんでしょうね」

 

「こればっかりはあいつの問題だからな……………」

 

「どういう事ですか?」

 

マミは思った言葉とは違うものが出てきたため聞いた。

 

「いくら俺らが何か言ってもあいつには意味がない、という事だ。そういう奴はいくら言っても無駄だ。自分で気付く以外に方法はない」

 

「そう、なんですか…………」

 

「ああ」

 

志郎はそう言い、溜息をもう一度吐くと立ち上がり紅茶を入れる為にキッチンへと向かおうとした。

しかし、急に通信が入ってきたため、立ち止まり耳に手を当てた。

 

(誰だ?)

 

(風見志郎、私よ)

 

(暁美ほむら、か。どうした?)

 

(少し時間あるかしら?)

 

(ああ)

 

(少し付き合ってもらえるかしら?)

 

(今すぐか?)

 

(当然よ)

 

志郎はそれを聞くと一旦通信を無理矢理切った。

そして、マミに向かって

 

「すまないが少し出かける。いいか?」

 

と聞いた。

マミは驚きながら頷いた。

それを見て、志郎は通信を再び繋げた。

 

(俺だ)

 

(急な通信を切るなんて、最低ね)

 

(そう言うな。で、どこに行けばいい?)

 

(学校の屋上はどうかしら?)

 

(……………分かった)

 

志郎はそう言うと通信を切り、急いで学校へと向かった。

 

 

 

 

同時刻、さやかは恭介の病室の前にいた。

彼女の顔は困惑と驚き、そして悲しみを帯びていた。

 

「え、何で?」

 

さやかの視線の先。そこには病室のドアの横にあるプレートがあった。

が、いつも書いてあるはずの“上条恭介”の名前は無く、別人の名前になっていた。

 

「あ、あの。上条恭介って………」

 

偶々通りかかった看護師に声をかけるさやか。

それは、さやかが恭介の見舞いに来る際に知り合った人物だった。

その看護師はさやかに気付くとズイッと顔を近付け、ボソボソと話し始めた。

 

「実はね、上条君、退院したの」

 

「え?退院?」

 

「うん。何でか分からないんだけど、急に決まってね。朝には帰っていったわ」

 

「そんな………」

 

看護師は顔を離すとニッコリ笑って、良かったわね、と言った。

さやかは何とか返事をし、その場を離れた。

トボトボと歩くさやかの背中を見送った看護師はスライムのような液体になり、崩れた。

 

「バカァめ。俺の変装を見破れないィなんてな。これで作戦のだいィいィち段階ィは完了ゥだ。グジュジュジュジュジュ」

 

スライムのようなそれは不気味な笑い声とイントネーションを出しながら消えた。

 

 

 

 

志郎は屋上の真ん中にあるベンチに座っていた。

ほむらを待って十分が経ったが、現れる様子はなかった。

が、次の瞬間、志郎は背後に何かいる事を察知した。

 

「誰だ!?」

 

志郎は跳躍して距離を取ろうとした。

しかし、それがほむらだと分かりやめた。

 

「ごめんなさい。遅くなったわ」

 

ほむらはフサァと髪をかきあげながらながら謝った。

 

「いや、俺も今来たところだ」

 

志郎はそう答え、2人は並ぶようにベンチに座った。

 

「風見志郎。昨日の事なんだけど」

 

ほむらが切り出した。

 

「杏子は助けたぞ」

 

「!?そう。ありがとう。正直貴方が杏子の事を知っているのは賭けに近かったわ」

 

「………そうか」

 

「ええ。戦力が減らずにすんだもの」

 

それを聞いた瞬間、志郎は自身の中で疑問に思っていた事がほぼ確信に変わり、聞き返した。

 

「お前、杏子が危険な目に合うって知っていたのか?」

 

「……………さあ?」

 

「本当の事を話したらどうだ?」

 

志郎の詰問にほむらは少し黙り、

 

「面倒な男ね。貴方の事は信用するけどそこまで教える義理はないわ」

 

と答えた。

 

「面倒なのが性分なんでな」

 

ほむらの煽りに対し大した事でもないという風に志郎は返す。

 

「で、お前は何者なんだ?」

 

「教える義理は無いって言ったでしょ?」

 

ほむらはそう告げ、消えた。

 

「…………。全く、分からないな。女の子ってのは」

 

志郎は目を瞑りながらそう呟いた。

瞼の裏に反抗期だった妹の姿を映しながら。

 

 

 

 

夜。

さやかは恭介の家の前にいた。

その家から美しいヴァイオリンの音色が聞こえる。

 

「恭介…………。急だったんだよね。仕方なかったんだよね」

 

そう、自身の中で合理化してさやかは家に帰ろうとした。

 

「見ていくだけかよ?」

 

しかし、その声に呼び止められた。

その声の主をよく見ると、さやかには忘れられない相手だった。

 

「杏子…………!!」

 

さやかはその名を言い、睨め付ける。

 

「あんたのたった一つの願いを使って治してやったんだ。合えばいいじゃねーか」

 

「あんたには関係ないでしょ」

 

「ハァ、あのなぁ、お前は何がしてーんだ?」

 

「何がって?」

 

「あいつを助けた恩人になりてーのか?それともあいつに夢を叶えて欲しいのか?さっさとハッキリさせなよ」

 

「あんたに関係ないって言ったでしょ?」

 

「関係あるね。このままだとあんた、壊れるよ」

 

「は?何言ってんの?」

 

「だから」

 

杏子が言葉を紡ごうとしたらさやかに遮られた。

 

「てかさ、あんたこそ何なの?悪人が今更何言っても無駄だってのに」

 

「何だと?」

 

「あんた、言ったよね?使い魔がどーとか。使い魔も人襲うんでしょ?あんた、間接的に人殺してんじゃん」

 

「…………」

 

「はぁ、あんたみないなのを産んだ両親が可哀想だよ」

 

それは、昨日さやかが言われた侮辱の返しだった。

内心でさやかは勝ち誇った。

やはり正義は勝つのだと。

こいつは何も言い返せまい、と。

が、杏子の反応は予想外の物だった。

 

「テメー、あたしの家族を馬鹿にしやがったな…………!」

 

「な…………!」

 

昨夜の志郎ほどではないが、確かに感じる殺気にさやかはたじろいだ。

 

「場所移そうぜ?ここじゃ色々不便だ」

 

杏子はそう言い、歩き始めた。

さやかはその後ろ姿を睨めつけながらついていった。

 

 

『なるほど。これは、いいね』

 

影からその様子を見ていたQBは嬉しそうにそう言い、マミの家へと向かった。

 

『これで一気に汚染が進むかもしれないね』

 

 

 

 

つづく




次回、杏子VSさやか。
そんな中に乱入者が一つ………。


ご期待ください!!


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第9話 魔法少女の真実 ②

お久しぶりです!
漸く完成しました!
スローペースではありますが執筆は続いているので気長に待っていただけると幸いです。
では、お楽しみください!


「志郎さんはああ言ったけど………」

 

マミは夕食を作りながら考え事に耽っていた。

 

「美樹さん、心配だわ」

 

コトコト、と鍋の中のシチューが美味しそうな匂いを出す。

 

「志郎さんもまだ帰ってきてないし………」

 

マミが鍋の中を確認しながらそう言い、皿を出そうとした時、急にテレパシーが入った。

 

(マミ、大変だ!さやかと杏子が戦闘を始めそうなんだ!!)

 

(え?美樹さんと佐倉さんが?)

 

(そうなんだ!早く来てくれ!!)

 

(分かったわ。今行く。場所を案内してちょうだい!!)

 

マミは火元を止めた後、窓から飛び出して現場に向かった。

 

魔法少女まどか☆マギカ

クロスSS 2つの風車と7つの宝石

『魔法少女の真実、美樹さやか崩壊の章』

 

杏子とさやかは人通りの少ない歩道橋の上にいた。

先ほどから空気は張りつめていて、正に一触即発の状態だった。

 

「テメーから売った喧嘩だ、後悔すんじゃねーぞ」

 

杏子はさやかを睨みつけながらそう言った。

 

「だから何?人の道を外れた外道が何言っても怖くないんだけど?」

 

さやかはさらに挑発するように杏子をバカにした。

 

「おい、そろそろいい加減にしとけよ。あたしにも限界ってのがあんだぞ?」

 

杏子が殺気を込めて言うが、さやかは全く怖気付かず欠伸をする動作をした。

 

(こいつ、あの坊ちゃんの家の前にいた時とまるで様子が違う……)

 

不気味さを覚えながら、杏子はソウルジェムを構えた。

 

「やれるもんならやってみなさいよ」

 

さやかもそう言いながらソウルジェムを構えた。

それを見た時、杏子はさやかのソウルジェムに異変を感じた。

 

(あいつのソウルジェム、魔女に近い………?いや、そんなはずは………。でも、あの感じは魔法少女じゃねぇ)

 

杏子は嫌な予感がしながら魔法少女に変身した。

 

「アハッ!あんたが初めての獲物かぁ!!いいよ、私の方が格上だって事、教えてあげる!!!」

 

さやかは狂ったようにそう言うと魔法少女に変身した。

しかし、その姿は昨日とは打って変わるものだった。

白色だったマントは黒とのグラデーションがかかった色になり、髪も美しい青から端々が黄色に変色し、目の色も黄色へと変色していた。

 

「な、お前、その姿………!」

 

杏子は目を見開いた。

彼女がこれまで会ってきた魔法少女にたった1日でここまで変化した魔法少女を見た事が無かったからだ。

 

「すごいね、これ!力がどんどん湧いてくるよ!!アハハハハハ!」

 

そのさやかのような者はそう笑いながら刀を構えた。

杏子もそれを見て槍を構えた。

 

「それじゃ………行くよ!!」

 

さやかはそう言い、杏子に突っ込もうとした。

が、さやかの後ろで一発、銃声が響いた事により彼女は止まった。

 

「そこまでよ、二人とも」

 

それはマミだった。

魔法少女姿に変身し、周りには3丁の銃が出されていた。

 

「貴女達、いい加減に………!」

 

マミがさやかと杏子を説教しようとした時、さやかの変化に気付いたマミは杏子と同様、驚きを隠せなかった。

 

「美樹さん、貴女、その姿は一体?」

 

「ああ、それですか?」

 

さやかはそれを聞き、その場でクルリと一回転して言った。

 

「私、二重契約したんですよ。それで誰よりも強い魔法少女になったんですよ」

 

それを聞き、マミと杏子は信じられないというような顔をした。

 

「二重契約って、何だよ?」

 

殺気を込めながら杏子が聞いた。

 

「ん〜?簡単だよ?QBに願い事をもう一つ叶えてもらうんだよ。二重契約したいって」

 

さやかはケラケラ笑いながら答えた。

 

「それで凄い力を手に入れた。だから、今のあたしは誰にも負けないんだわ」

 

さやかはそう言うとダガーを一本召喚し、マミに投げた。

それは、魔法少女になったばかりの彼女とは思えないほど無駄のない動きだった。

 

「!?」

 

マミは咄嗟にそれを躱すとマスカット銃を構えた。

 

「美樹さん、貴女、今自分が何をしたか分かっているのかしら?」

 

マミは怒気を含ませながらそう聞いた。

 

「ええ。簡単ですよ。私より強い、目障りな奴を殺そうとしたんですよ」

 

さやかはそう言いながら今度はダガーを2本召喚し、マミと杏子に投げた。

 

「クッ………!」

 

「うおっ!?」

 

マミは跳躍し、杏子は伏せてそれを躱した。

 

「おい、マミ!こいつはヤベェ!あたしらで何とかすっぞ!!」

 

杏子はそう叫ぶと、マミもそれに応えた。

 

 

 

 

ほむらと別れた後、志郎はデストロン戦闘員の邪魔により学校から出れないでいた。

 

「フンッ!」

 

志郎は気合と共に100体目の戦闘員にトドメを刺した。

倒しては少し進み、また倒しては少し進みを繰り返していた。

しかし、それでも戦闘員の数は減らず、むしろ増える一方だった。

 

(こいつら、無尽蔵に湧くな。何か理由があるのか?)

 

戦闘を始めて6時間。志郎は息を多少切らしながら考え始めた。

が、その間にも戦闘員は襲ってくる為思考がまとまらないまま時間だけが過ぎていった。

 

「チッ………」

 

志郎は舌打ちをしながら周りを見て、打開策を一つ思いついた。

 

(窓までの距離は約10m。そしてここは3階。行けるか?)

 

志郎は再び状況確認を済ませると窓に向かって戦闘員を倒しながら進んだ。

 

「許せよっ………!」

 

何とか窓まで到達した志郎は周りにいる戦闘員を回し蹴りで突き飛ばし、その衝撃を利用して窓にアタックした。

パリンという音を立てながら窓は割れ、志郎は重力に従って地面に落下した。

 

(これで、何とかなるな)

 

が、着地した直後、表現のしようがない不安が彼を襲った。

それは、哀しさであって辛いような、怒りであって喜びのような、何とも言えないものだった。

 

「嫌な予感がする」

 

志郎はそう呟き、上空にV3ホッパーを飛ばした。

ホッパーから、さやかがマミと杏子に襲いかかっている映像が流れてきた。

 

「何をしているんだ、あいつは………!」

 

志郎は若干の怒りと焦りを含みながらV3に変身し、ハリケーンで現場に向かった。

 

 

 

 

「志郎さん、私も戦えるようにするって言ったけど、どうするのかな?」

 

まどかは自室の机に向かいながら、独り言を漏らした。

が、そんな考えは一瞬にして消えた。

それは、強烈な寒気が走ったからだった。

 

「何、これ………?」

 

ふと、手を見る。

それは、無意識のうちに震えていた。

今までであれば布団に潜り、震えが収まるのを待っていたであろう。

しかし、この数日でまどかは大きく変わっていた。

 

「嫌な、予感がする」

 

根拠は無いが、そう思ったまどかは親にバレないように家を出た。

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

 

さやかに蹴り飛ばされ、杏子は呻き声を上げた。

杏子は何とか体勢を空中で立て直し、マミの近くに着地する。

が、これまでのダメージが大きいのか、二人ともボロボロだった。

 

「おいマミ………!こいつ、結構ヤバいぞ………!」

 

杏子が息を切らしながら言った。

 

「ええ、そうね」

 

マミもそれ以上は話すことが辛いといった様子でマスケット銃を杖代わりにして立ち上がった。

 

(美樹さんの言っていた二重契約………。それが何かは分からないけど、今の美樹さんは普通じゃない)

 

マミはそう思いながら、さやかをキッと睨みつけ、マスケット銃を召喚しようとした。

しかし、何も出ず、マミは膝から崩れた。

 

「お、おい、マミ!?」

 

杏子が足を引きずりながらマミの元へと寄る。

彼女の上半身を抱え、頭に付いているブローチ型のソウルジェムを見た。

それは本来の輝きを失い、今にも濁りで埋め尽くされそうなほど消耗していた。

杏子は舌打ちしながら懐からグリーフシードを取り出し、マミのソウルジェムに当てた。

それにより、ある程度は回復できたが、ソウルジェムはまだかなり濁っていた。

 

「あれ?マミさんもう動けないんですかぁ〜?」

 

その様子を見てさやかがケタケタと笑う。

 

「さやか………。テメェ………!」

 

杏子がフラフラしながら立ち上がり、槍を構える。

 

「あれ!?杏子ちゃん、まだやるちゅもりでちゅか〜?もうやめた方がいいんじゃないんでちゅか〜?」

 

さやかが嬉しそうに言う。

その目には優越感があった。

 

「誰が、テメーみたいな奴に………!」

 

杏子は力いっぱい槍をさやか目掛けて投擲した。

 

「はっ!?何してんの!?」

 

さやかはそれを余裕といった様子ではじき返した。

が、次の瞬間、さやかの目の前に杏子が現れ、さやかに飛びつき、右手を持って関節技をかけた。

 

「なっ!?あんた!」

 

さやかの顔が驚愕に染まる。

 

「ああ、そうさ!さっきの槍はただの囮さ!あんたをこうして捕まえるためのな!!」

 

 

「これでテメェも動けねぇだろ!二重契約の事、さっきの事、洗いざらい吐いてもらうからな!!」

 

さやかは一瞬だけ反省した。

こんな奴に遅れを取ったと。

槍に気を取られすぎたと。

が、それを終えた後、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ふふふ………」

 

「な、何がおかしい!?」

 

「あんた、何か勘違いしてない?」

 

「は!?何」

 

杏子が喋り終わる前。

それは、ほんの一瞬だった。

さやかは掴まれている腕を無理矢理脱臼させた。

それと同時に杏子の手が緩んだ隙を見逃さずに体を無理矢理捻って腕を抜き、その反動を利用して上半身だけを器用に捻り、左手を振るうと共に刀を精製した。

 

「なっ!?」

 

そのままさやかは反応が遅れた杏子の右腕を肩から切り落とした。

杏子は傷を庇いながら後方へと跳んだ。

 

「あっははははははは!!ねぇ杏子ぉ!!気分はどう!?昨日まで圧倒してた私に負けるって!!!!」

 

さやかは半狂乱に笑いながら小躍りした。

 

「あ、そうだった」

 

さやかは何かを思い出したのか、踊るのをやめた。

 

「こんなんじゃ使えないもんね」

 

そう言うと、脱臼した右腕を無理矢理押し込んだ。

ゴキッという鈍い音と共に戻す。

 

「こんなもんかな〜」

 

さやかはそう言うと再び刀を精製した。

対して杏子は力が入らないのかその場にへたり込み、動けないでいた。

 

「いや〜、二重契約してよかったよ。まさかこんな力が手に入るなんてね〜」

 

トドメを刺そうとしたのか、杏子に一歩一歩近付く。

杏子は動かず、その瞳はさやかを捉える。

1、2分かけて漸く杏子の目の前に立ったさやかは刀を振り上げた。

 

「これで、私の勝ちィィィィィ!!!」

 

刀が杏子に向かって振り下ろされる、はずだった。

さやかはピタリと動きを止め、背後に現れた人物に話しかけた。

 

「遅いよ〜、志郎〜」

 

「さやか、お前…………」

 

V3は信じられないと言った声音で言った。

ホッパーから送られてくる映像でこれまでの状況は全て確認していたが、それでも信じれないでいた。

 

「何故、こんな事を………」

 

「は?簡単だよ。あたしはね、二重契約して誰よりも強くなったんだ。マミさんよりも、杏子よりも。そして志郎、あんたよりもね」

 

「それを示すためにこんな事をしたのか?」

 

V3の手に徐々に力が込もる。

 

「それ以外に何があんの?」

 

「そうか…………。分かった」

 

V3はそれだけ言うと、さやかに近付き始めた。

 

「お?志郎もやる気?いいよ!ここに転がってる雑魚2匹と同じようにあの世に送ってあげるよ!!」

 

さやかはそう言うと、地面を蹴って腰を屈めてV3に一気に接近した。

 

「これで腕一本!!」

 

V3の右腕を斬り落とすべく、刀を振り上げた。

が、それは空を切った。

 

「あれ?」

 

頭に?マークを浮かべるさやか。

が、次の瞬間、背後に回っていたV3に殴り飛ばされた。

数m飛んだところで漸くさやかは止まった。

 

「志郎、本気でやるなんて、そんなに怒った?ねぇ、怒ったの?」

 

口から血を流しながらさやかが聞いた。

それに対しV3はグリーフシードを取り出し、マミと杏子のソウルジェムの浄化を行なっていた。

 

「ふぅ」

 

浄化し終えたV3は、二人を安静な場所へ置き、ため息を吐きながら腰に手をやった。

 

「お前相手に本気を出すわけにはいかん。それに、これがあればいいしな」

 

V3はそう言ってもう片方の手にある物を見せた。

 

「はっ!?あんた、何して………!」

 

それを見た時、さやかは演技ではなく本当に焦りだした。

V3の手の中にはさやかのソウルジェムがあったからだ。

 

「まさか、カウンターと同時に取るなんて………!」

 

予想もできなかった出来事に、さやかはただ狼狽するだけだった。

 

「………。それが、今のお前の実力という事だ」

 

間を開け、V3が話し始める。

 

「さやか。二重契約だかなんだか知らんが、そんなもので付けた強さは所詮付け焼刃だ。本当の強さじゃない」

 

「だったらあたしにやられたこいつらは何だってのさ!?」

 

「こいつらが本気でやってお前に負けると思っているのか?」

 

「なっ!?」

 

V3のその言葉がさやかの神経を逆撫でした。

V3に勝てると思った幻想を壊され、マミと杏子は手加減していたという事実を突きつけられたからだ。

 

「ふざけんな!あたしがまだこの二人よりも弱いっての!?危険な橋渡って二重契約までしたのに!!」

 

「それが間違いなんだよ、さやか」

 

V3は尚も説得を続ける。

 

「さやか。本当に強くなりたいなら焦る事はない。一歩ずつ前進していけばいい。最初から強い奴なんて誰もいないんだ。俺だって、こいつらだって」

 

「……………」

 

さやかは押し黙った。

 

「さやか、お前は何の為にその力を手に入れたんだ?仲間を傷付けるためか?己が力を誇示するためか?考え直せ」

 

V3はそう言い、さやかに近付いてソウルジェムを手渡しした。

 

「こいつらは俺が面倒を見る。お前はもう帰れ。そして、俺の言った事をよく考えてみろ」

 

V3はそう言うとさやかに背を向け、杏子の元へと向かった。

 

「……………う」

 

ふと、さやかが震えた声で言い始める。

 

「これ………違う…………。あたし…………じゃ………ない」

 

「さやか?」

 

不思議に思った志郎が振り向いてさやかに声をかける。

さやかの眼は普段の青色に戻っていて、変身も解けていた。

そして、何よりも志郎が驚いたのはさやかが震えている事だった。

 

「どうした?」

 

「あたし、こんな、こんな事…………」

 

さやかはそれだけ言うとその場を走って離れていった。

 

「おい、さやか!?」

 

その様子に異常を感じ取った志郎は急いでマミと杏子を抱え、彼女の後を追おうとした。

しかし、そこへ影が一つ。彼の前に現れた。

 

「ここから先は通しませんよ?」

 

「貴様………」

 

志郎の前に現れた影。それはネクスト・デストロンの怪人だった。

それは黒いハット帽を被り、全身外骨格に覆われている、アリに模した怪人だった。

 

「自己紹介をしておきますね。私の名はハンドアリ。盗み専門の怪人なんですがね、今回はとある方の依頼で貴方のお相手をする事になりました」

 

「すまないがお前に構っている暇はない」

 

「あぁ、さやか嬢の事ですか?御安心なさい。我らが同士が迎えに行っている途中ですから」

 

「もう一度言う。そこをどけ」

 

「お断り致します」

 

志郎はこれ以上は無駄だと悟り、溜息を吐いて杏子とマミを地面に寝かせた。

一瞬で二人の状態を確認し、先程よりも顔色が良くなったのを確認した。

フッと、安堵の表情を浮かべた後、ハンドアリを睨みつけ、変身の構えをとった。

 

「おっと、待ってください。これをよく見てください」

 

ハンドアリはそう言うと右手に握った物を志郎に見せた。

 

「そ、それは!?」

 

そこには赤い卵型のソウルジェムがあった。

それは杏子の物と見て間違いなかった。

 

「いつの間に……!」

 

「言ったでしょう?盗み専門の怪人だと」

 

志郎は変身するにも出来ず、身動きが取れないでいた。

 

「ふふふ、いい判断です。もし変身していたらこれを粉々にしている所でしたよ。さあ、構えを解いて降参しなさい」

 

「くっ」

 

志郎は構えを解き両手を挙げた。

 

「さて、次は貴方の命をいただきますか。じっくりとね」

 

ハンドアリはそう言い、ゆっくりと志郎に近付き、残った3本の手で殴りかかった。

 

 

 

 

「はぁはぁはぁはぁはぁ」

 

さやかは無我夢中に走っていた。

あの場所からなるべく早く、なるべく遠くに行きたかった。

杏子と共に橋に登ってから意識を失い、気が付いたら悲惨な状態のマミと杏子、そして自分に対峙するV3がいた。

 

「はぁはぁ、はぁはぁ」

 

ずっと走っていて疲れたのか、さやかは一旦立ち止まった。

呼吸を整えようと深呼吸をする。

が、うまく出来ずに噎せてしまい、その勢いで胃の中のものを吐き出した。

幸い周りには誰もいなかったが、ツン、とした臭いがさやかの鼻を擽った。

 

『二重契約して手に入れた力はどうだい?』

 

そんなさやかに、どこから現れたのか、QBが話しかけてきた。

 

「なん、なの、あれ?」

 

息も絶え絶えに、さやかは聞いた。

 

『僕自身、二重契約して貰ったのは初めてだったからね。まさかこんな事二重契約なるなんて思ってもいなかったよ』

 

「だから、何が、あったの」

 

『こんなに凄い力なら他の娘にも薦めてみるのも手だね』

 

「QB!!」

 

さやかの質問をのらりくらりと躱すQBに苛ついたのか、さやかがQBに距離を詰めた。

 

「だから!二重契約って何があったの!?」

 

『簡単だよ、美樹さやか』

 

QBはやれやれと言った感じでさやかの顔を見上げた。

 

『君の魂が二分割されて新しい君が生まれたのさ。今まで抑圧されてきた人格が、魂の分離によって新たな生を受けたと言ってもいい』

 

「どういう、こと………?」

 

事務的な説明。だが、予想もしなかった答えにさやかはたじろいた。

 

『君たち魔法少女のソウルジェムは君たち自身の魂なんだ。1回目の契約は契約者の魂をソウルジェムへと変換して魔法少女にするんだよ』

 

「嘘、でしょ?」

 

そうであって欲しい。そう願いながらさやかは聞いた。

 

『事実だよ』

 

が、その一言で希望が打ち砕かれた。

 

『そして、2回目の契約。これは今回分かった事なんだけど、魂を半分にして、そこに今までさやかが隠してきた“自分”に与えられた。隠してきた“自分”。人間風に言うと《醜い自分》だったり《知られたくない自分》といった物を顕在化したんだ。君で言うとマミや杏子、志郎に抱いていた劣等感によって生じた、歪んだ新しい自分が精製された。ただ、生まれたばかりで人間的倫理観が無いから優越感を覚える為だけに戦う、まるで狂戦士のような人格だけどね』

 

「あ、う、う、嘘、うそよ、そんな、そんなの」

 

足元がふらつきながらさやかは言った。

 

『事実だよ。現に君は自分が何していたか分からなかった。それはさやかの肉体が新しく生じたさやかの人格に使われていたからさ』

 

さやかは何も言えなかった。ただ、目を見開き過呼吸に陥っていた。

 

『ソウルジェムを卵型にして見てみるといい。今のさやかのは青と黄色が混ざったグラデーションのかかったものになっている。黄色の部分は君の新しい人格の部分を表している』

 

ここでQBは一呼吸置いて、さやかに一つ質問した。

 

『二重契約して手に入れた力はどうだい?気に入ってくれたかい?さやか』




二重契約。
ソウルジェムの正体。
次々と知らされる事実に、さやかの心は疲弊していく。
そんな時、親友の志筑仁美から告げられた言葉にさやかは……。

次回『彼女の人生』
ご期待ください。


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第9話 魔法少女の真実③

前回の投稿から約半年。
私事もよくやくひと段落し、漸く執筆ができるようになりました。
これからもよろしくお願いします。

では、お楽しみください。


カーテンの隙間から入ってくる朝日が当たり、まどかは目を覚ました。

ふと、自分の身形を確認する。

それは昨晩着ていたパジャマだった。

 

「確か、あの後」

 

まどかは家を出て行った後のことを思い出した。

 

 

 

勘を頼りに、まどかは走っていた。

どこに向かっているのかは分からなかった。

だが、本能がこっちだと告げる方に向かって走った。

 

「はぁ、はぁ、た、多分、この辺」

 

一旦止まって息を切らしながら辺りを確認し、ゆっくりと歩き始めた。

そして、建物の角を曲がった時、怪人が志郎に殴りかかっているのが見えた。

 

「志郎さん!!」

 

思わずまどかは大声を上げた。

それを聞いた為か、怪人は拳を志郎の目の前で止め、まどかの方へと振り向いた。

 

「おやおや、貴女は第一級観察対象の鹿目まどかさんではありませんか。初めまして。私、ネクスト・デストロン-Fertigproduk-が一人、ハンドアリでございます。して、こんな所へどうしたんですか?」

 

ハンドアリは紳士的にまどかに話しかけた。

 

「な、何、しているの?」

 

怪人と向き合っている。

そんな恐怖に耐えながらまどかは聞いた。

ハンドアリは自身の質問に答えないためか、若干イラついた様子で舌打ちをしながら答えた。

 

「風見志郎は厄介なのでね。今ここで始末しようと思いまして。佐倉杏子のソウルジェムを物質(ものじち)にさせていただいているんです」

 

問いに丁寧に答えるハンドアリに、まどかはさらなる恐怖を抱いた。

 

「まどか!逃げろ!こいつは危険だ!!」

 

志郎がそう叫ぶ。が、次の瞬間志郎は殴り飛ばされた。

 

「風見志郎。誰が貴方に発言を許しましたか?今度私の許可無く喋ったりしたらこれを握り潰しますよ?」

 

倒れた志郎を見下しながらハンドアリはそう言った。

志郎はハンドアリを見上げた。

その瞳にはまだ燃え上がるような闘志があった。

 

「おや、まだそんな顔をするんですか?」

 

苛ついた調子で言うハンドアリ。

その眼には加虐心が見えた。

 

「これを砕いたら貴方の表情も揺らぎますか?」

 

ハンドアリはそう言い、杏子のソウルジェムを握る仕草をした。

 

「ハンドアリ、2つ聞いてもいいか?」

 

視線はそのままに、志郎は聞いた。

 

「おや、私に許可を取ってから質問をしようと?いい心がけですね。いいでしょう。言ってみなさい」

 

「まどかの事を第一級観察対象と言っていたが、あれはどう言う意味だ?」

 

「そのままの意味ですよ。彼女は我々ネクスト・デストロンにとってもある意味重要な人物でしてね。何故かはお答えできませんが」

 

「そうか。ならばもう一つ。貴様らネクスト・デストロンの情報収集能力は完璧なのか?」

 

質問の意図が分からないのか、頭に?マークを浮かべながらハンドアリは答えた。

 

「ええ。我々はBADANの後任組織ですよ?世界中のありとあらゆるデータを持っています。勿論、全ての魔法少女の能力や性格も把握済みです」

 

「………そうか」

 

志郎はそう言うと小さく笑った。

 

「何が可笑しい!?」

 

ハンドアリは怒った様子で言った。

 

「ハンドアリ。いい事を一つ教えてやろう」

 

「な、なんですか」

 

「貴様ら、ネクスト・デストロンの情報も大したことないって事だ」

 

それを聞いたハンドアリは志郎を鼻で笑おうとした。

所詮ハッタリだと。

しかし、次の瞬間、予想だにしなかった出来事が起こった。

 

「そうね。デカイのは口だけで大した事ないのね」

 

その台詞と共にほむらがハンドアリの後ろに現れたのだった。

その他にはハンドガンが握られていて、銃口はハンドアリの頭にあった。

 

「これは驚きました。まさかこの私が後ろを取られるとは」

 

「あら。随分と余裕ね」

 

「ふふふ、私はアリを基にした怪人ですよ?そのようなチャチな物で私の外骨格が砕けるとでも?」

 

「そうね。でも、関節に撃ったらどうかしら?」

 

ほむらはそう言うと銃口を少し下げ、ハンドアリの首に押し当てた。

 

「なるほど。考えましたね。ですが、それでも役不足ですよ?」

 

「そう」

 

ほむらはただ、それだけ言って引鉄を引いた。

乾いた音が辺りに響く。

 

「な!?」

 

ハンドアリは驚いたのか、一瞬の隙ができた。

それを逃す志郎とほむらではなかった。

その一瞬を突いて志郎は全身の機能を使って起き上がると同時にハンドアリを捕らえ、ほむらは杏子のソウルジェムを奪った。

 

「まさか、役不足と教えたのに撃ってくるとは………!」

 

ハンドアリは動揺しながら言った。

 

「貴方、役不足という言葉の意味、分かってないのね」

 

ほむらが呆れたようにそう言った。

 

「クッ!失態を犯しましたね。Σ様に叱られてしまうか。いや、これ以上戦闘を続けるメリットはありませんか」

 

ハンドアリは悔しそうにそう言うと瞬間移動したかのように消えた。

 

「ふぅ」

 

ほむらは溜息を吐き、ソウルジェムを杏子の元へと置いた。

危機は何とか脱したが、周りには張り詰めた空気が残っていた。

 

「すまない。助かった」

 

礼を言う志郎。

それに対しほむらは気にしないで、と答えた。

 

「それにしても、鹿目まどか。何故貴女がここにいるのかしら?」

 

ほむらはそう言うと視線をまどかに向けた。

それには怒りと若干悲しみの色を帯びていた。

 

「最悪、風見志郎が殺された上に貴女もネクスト・デストロンに攫われていたかもしれないのよ?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

まどかはシュンとした様子で謝った。

 

「で、でも感じたの。とても、嫌な予感を。そしたら私、居ても立っても居られなくって、それで」

 

「そう」

 

ほむらはまるで興味の無いかのように聞き流し、

 

「鹿目まどか。死にたくなければ二度と魔法少女に関わらない事ね。風見志郎にも、ネクスト・デストロンにも」

 

と言って去ろうとした。

 

「ほむら」

 

それを志郎が呼び止めた。

 

「何かしら?」

 

クルリと半回転し、ほむらは聞いた。

 

「まどかを家まで送っていってもらえないか?」

 

「………どうして?」

 

「ネクスト・デストロンがまだいるかもしれないからな」

 

「貴方、私の話を聞いていなかったのかしら?」

 

「聞いていたさ。だが、俺はマミと杏子を家まで届けながらさやかと接触しなければならないからな。まどかを送っていくまでの余裕が無いんだ」

 

「………………そう。分かったわ」

 

ほむらは何か考えた後、頷き、まどかに近づきその手を取った。

 

「行くわよ?鹿目まどか」

 

「え?あ、う、うん」

 

まどかは若干顔を赤らめながらほむらに連れられていった。

 

(志郎さん、また明日。お休みなさい)

 

心の中でそう呟いて。

 

 

それからまどかはほむらと共に家に帰った。

何かお礼をしようと上がるように誘ったが、ほむらは少し微笑みながら断った。

その後、両親にバレないようにしながら家の中に自分の部屋に戻って、寝た。

 

「志郎さんあの後どうしたんだろ………」

 

まどかはそう呟いた。

 

魔法少女まどか☆マギカ

クロスSS 2つの風車と7つの宝石

『魔法少女の真実・美樹さやか崩壊の章』

 

まどか達と別れた後、志郎はV3ホッパーを飛ばした。

そこから送られてくる映像で、QBと話し終えたさやかが茫然自失しているのを見つけ、そこへ向かって進み始めたが、ある疑問が頭の中に浮かんでいた。

 

(二重契約、か。QBに唆されたと思うが、一体何なんだ)

 

ホッパーから送られてくる映像でさやかの動向を確認しつつ彼女の後を追う志郎。

しかし、見覚えのある物体が彼の前に現れた。

 

『待ってほしいな、風見志郎』

 

「QB……俺もお前に会いたいと思っていた所だ。が、悪いが構っている暇は無い」

 

志郎はそう言ってQBの横を通り過ぎようとした。

 

『待って欲しいって聞こえなかったのかい?』

 

QBが赤い眼を志郎に向けて聞いた。

志郎はそれを無視してさやかの元へと向かった。

 

『ふぅ、やれやれ』

 

それを見送ったQBは溜息を吐いた。

 

『今更行っても美樹さやかの運命は変わらないって教えてあげようと思ったのに』

 

QBはそう言い、背中にある卵の模様を開きボタンを一つ取り出した。

 

『けれど、君が今さやかと会うのは後々面倒な事になる。手を打たせてもらうよ』

 

QBはそう言い、スイッチを押した。

 

 

QBと別れた後、さやかは建物の壁にもたれかかりながら歩いていた。

 

「あたし、何だったの…?」

 

自然と、その言葉が出る。

QBに魔法少女の真実を知らされ、呆然としながら何故言わなかったのか聞いたさやかにQBは平然とした様子で

 

『僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ?』

『実際の姿がどういうものか、説明を省略したけれど』

『まぁ、知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね』

『事実、あのマミでさえ気づいていない』

『そもそも君たち人間は、魂の存在なんて、最初から自覚できてないんだろう?』

『そこは神経細胞の集まりでしかないし、そこは、循環器系の中枢があるだけだ』

『そのくせ、生命が維持できなくなると、人間は精神まで消滅してしまう』

『そうならないよう、僕は君たちの魂を実体化し、手に取ってきちんと守れる形にしてあげた』

『少しでも安全に、魔女と戦えるようにね』

『それに君は戦いという物を甘く考え過ぎだよ』

『闘いにおいて痛みをセーブ出来ていなかったら君は既に死んでいるんだよ』

『また、魔力の扱いに慣れてくれば、完全に痛みを遮断することもできる』

『これは別人格の君がやっていたんだけどね』

『それに、戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう?』

『それは間違いなく実現したじゃないか』

 

と、一方的に言った。

話を聞いているうちにさやかは目の前の生物が恐ろしく歪んだ物に見えてきた。

そして、また吐き気が急激に襲ってきた。

呻き声を出しながら、さやかは口を押さえ、その場を去った。

それ以上QBと話していたくなかった。

突きつけられた事実を誰かに否定して欲しかった。

しかし、現に自分は意識を失った後、気付いたら杏子とマミが凄惨な姿で倒れていたし、志郎が自分に向けている殺気も本物だった。

QBの話が本当だと証明するものが多すぎた。

涙を流しながらさやかは歩き続けた。

 

「あ、あたし、一体、一体………」

 

そんな事を呟きながら、ヨタヨタと歩き続けた。

そこへ、突然誰かの気配が近付いてくるのを感じた。

それは、さやかもよく知っている人物のものだった。

 

「し、ろう…………」

 

さやかはそう呟くと魔法少女に変身し、急いでその場を離れた。

 

 

 

「あの角を曲がった先か」

 

志郎は本来の1/3程の速度で走っていた。

杏子とマミを抱えているというのが一番大きな理由だが、連日の戦闘から来る不調も相まっていた。

 

「今、こいつらを見せるのは得策じゃないな。この辺の安全な場所に横になってもらうか」

 

志郎はそう呟くと優しくかつ早くマミ達を横に置き、さやかのいるであろう場所へと向かった。

しかし、そこには誰もいなかった。

 

「!?どういうこだ?」

 

さすがに動揺が隠せないのかホッパーから送られてくる映像に周波数を合わせ直し、もう一度確認する。

その映像では、志郎の目の前にさやかがいた。

だが、現実にはさやかは居なく、一瞬混乱した。

 

「くそッ、やられた………!」

 

志郎は何が起こったのか理解し、舌打ちをした。

それは今まででは信じられないことだった。

 

「ホッパーに細工されたか………!」

 

志郎はすぐに状況をもう一度確認し、何をすべきか優先順位を付けた。

 

「リスクが高いが、仕方ない」

 

志郎はそう言うとV3に変身し、杏子とマミを再び抱えて急いで風見野のホテルへと向かった。

 

 

 

「きょーこ、ぼんくらと何かあったのかなぁ〜」

 

やまはお飯事をしながら呟いた。

それは、杏子が一人でも寂しく無いようにとゆまに買ってあげたものだった。

金の出所は志郎の物あるが、これくらいなから大丈夫だろうと思っての事だった。

その日、杏子はゆまに、ボンクラの様子を見にいくと言って出ていっていた。

 

「しろーも急にいなくなっちゃったし」

 

若干の不満を含めつつ、ゆまはそう呟いた。

遊具から降りた後、残っていたのは杏子のみで、志郎は用事があるからと消えていた。

事情を知らないゆまは、その事を思い出す度にプリプリと怒っていたが、夜も遅い為大きな欠伸と共に怒りが抜けていった。

 

「きょーこ、まだ帰ってこないし、寝ちゃおっかなー」

 

そう言って片付けを始めようとした瞬間、誰かが窓を叩く音が聞こえた。

 

「誰?」

 

一瞬、ビクッとして尋ねる。

カーテンがかかっている為、誰かは分からないが、本来誰かが窓を叩く音が聞こえるという事はあり得ないからだ。

ゆま達の部屋が7階にあるのも理由の一つだが、一番大きなものは杏子が、出かける際は必ず魔法で結界を作るからであった。

それは、もしゆまが一人の時、QBのような害獣や織莉子のような不審人物がゆまに近づかないようにする為の対策だった。

 

「きょーこ、なの?」

 

ビクビクしながら再び尋ねる。

すると、外にいる人物が

 

「俺だ、ゆま」

 

と答えた。

聞き覚えのある声だった。

ゆまは動揺しつつ

 

「え?しろー?」

 

と聞いた。

 

「ああ。済まないが開けてくれないか。杏子ともう一人、マミと言うんだが、二人が気を失ってるんでな、こいつらが起きるまでベッドで寝かせて欲しいんだ」

 

「わ、分かった」

 

杏子に色々教わった為か、まだ疑いの念を含めながらゆまはカーテンを開けた。

すると、彼女の目の前に金髪の少女と杏子を抱き抱えた異形の姿をした者が現れた。

それは、ゆまが見知った姿だった。

 

「し、しろー!」

 

ゆまは明るい声でそう言い、V3を室内に入れた。

 

 

「ふぅ、ゆま、助かった。ありがとう」

 

杏子とマミをベッドに寝かしつけた志郎は変身を解いて言った。

 

「んーん!どういたしまして!でも、しろー、きょーことあのお姉ちゃんに何があったの?」

 

寝支度をしたがらゆまは聞いた。

 

「簡単に言えば喧嘩ってやつかな」

 

志郎はV3ホッパーを取り出しながら言った。

 

「喧嘩?」

 

「ああ。友達と喧嘩してたんだ」

 

「それでこんな怪我をしたの?」

 

「魔法少女の喧嘩は激しいんだろうな」

 

そう言いながら志郎はV3ホッパーを分解していた。

 

「よし。俺は帰るが杏子とマミは頼んでもいいか?」

 

数分後、一通りの作業が終わったのか、V3ホッパーを組み直して志郎は立ち上がって言った。

 

「えー、また行っちゃうのー?」

 

「まあ、そう言うな。また来るから」

 

不満顔で言うゆまに志郎は頭を撫でた。

 

「頼りにしてるぞ」

 

志郎はそう言い残し、部屋を出た。

それを見送ったゆまは何かを決意したような顔をしながら布団に入った。

 

 

「さて」

 

ホテルを出た志郎はV3ホッパーを取り出した。

 

(まさかホッパー内に別の発信機が組み込まれているとはな)

 

“別の発信機”

それは本来ホッパーには無いものだった。

 

(状況からしてネクスト・デストロンの仕業だろうが、一体いつ仕込まれたんだ)

 

志郎はまだ見ぬ脅威を憂いながら脳波で呼んでおいたGT750に乗った。

 

 

 

「あたし、これからどうやって生きてけばいいんだろ」

 

自室のベッドに寝込んださやかはそう呟いた。

 

「こんな、ゾンビみたいな身体にされて、どうやって生きてけばいいのよ………」

 

知らぬまにさやかは涙を流していた。

 

「こんな身体で、どうやって恭介と向き合えばいいのよ………!」

 

誰にも知られぬように、さやかは声を殺して泣いて夜を明かした。

 

 

 

「織莉子ー、今日は魔法少女狩しなくていいのー?」

 

夜。キリカはつまらなそうな声で聞いた。

 

「ええ、今日はとても大事な日だもの。下手に動いて運命を変えたくないわ」

 

紅茶を飲みながら織莉子はそう答えた。

 

「あーあ、つまんないなー。美樹さやかってのが二重契約したって言うからどんな感じかやりあってみたかったのに」

 

「いい?キリカ。私達はこれから風見志郎、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、そして暁美ほむらを救済した後、本命である鹿目まどかを殺す。嫌でも強敵と連戦する事になるわ。今はその時の為に体を休めて気を養う事が一番いい事なのよ」

 

まるで、子供をあやすかの様な優しい調子で織莉子はそう言った。

 

「分かってるよー。今は気を養わないと、ね」

 

キリカはそう言うと皿にあるケーキを一口で口の中に入れた。

 

「んむ、んむ、んむ………っん。さて、気を養うためにもっと織莉子特性ケーキを食べないと。おかわり!」

 

「はいはい、今持ってくるわ」

 

そう言うと織莉子はケーキを取りに行くために家の中へ戻っていった。

 

 

 

つづく




今回はちょっとした雑談などを。
皆さん、『マギア・レコード』をやっていますか?
私も配信日からDLしてやっているんですが、どうしてもプレイ中気になってしまう事が。






つるりん(由比鶴乃)可愛すぎやしませんか!?
あの中々なつるぺたボデー
サイドテール
ふんふん
サンタコス
ふんふん(大事な事ry



私もあんな可愛くて、頭も良くて、でもちょっと抜けてる。
そんな彼女が欲しいです。

皆さんの推しキャラは誰ですか?



追加:本来書くはずだった部分がこちらのミスで抜けていたので書き足しました。


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