型月短編集 (作者擬き風)
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洗脳探偵《翡翠》『言峰教会ランサー殺人事件。』
とあるお屋敷で御奉仕しているスーパーメイド翡翠。掃除完璧、洗濯完璧。作る料理は毒手の如き概念武装。そんな彼女の裏の顔は巷で噂の名探偵!?
翡翠「お部屋をお連れします」
《Aパート》
ここは西日本の何処か、冬木市。大きく分けて昔からの町並みを残した深山町と間に川を隔てて近代的な開発が進んでいる新都のふたつの区域からなる。名前の由来は冬季が長い事にあるらしい。というと寒さの厳しい地域と想像しがちだが、実際には冬でも平均気温は比較的高く、二月でも余所の十二月程度。すごしやすい冬が過ぎたらいつのまにか春が来ているという、そんな街。面している海は内海であり穏やかである。そんな一見平穏そうな街でも凶悪事件は日々事欠かないのが現代日本の姿である。日本安全神話などとうの昔にブロークンファンタズムしてしまったのだ。
今日も今日とて陽光降り注ぐ冬木の正午には警察車両のパトランプが赤い蛍光を回しながらけたたましいサイレンの音を響かせていた。今回の事件は会議室でも崖っぷちでもなく新都の言峰教会こと冬木教会で起きていた。神に祈るための神聖な場で今朝未明遺体が発見差れたのだ。さらに現場に逸早く到着した刑事や鑑識の見解によればどうやら殺人らしい。冬木警察署の刑事である『遠坂凛』。通称『うっかり刑事《デカ》』は見張りに警察手帳を提示し、嘆息しながら『KEEP OUT』のテープを潜る。
「毎度のことだが何をあからさまに溜め息を吐いている?面倒なのは分かるが仏に対して失礼ではないかね?」
そんなうっかり刑事の態度に同行してきた相棒の刑事『アーチャー』。通称『紅茶刑事《デカ》』が苦言を呈する。
「うっさい、面倒だとかそんなんじゃないわよ。ただ今回の事件について考えてただけよ」
「ほう、遺体もまだ見ておらず浮上した容疑者とも面通ししていない現状で考えを馳せていたのかね?」
何ともごもっともな紅茶刑事の言葉にうっかり刑事は顔を顰めながら返した。
「……ここの教会の神父とは昔から顔見知りだったのよ。前々からコイツ何時かやらかすんじゃないかと思ってたんだけど、まさかの殺人とはねぇ」
「その言だと君の中で犯人は教会の神父ということになるが、知人とはいえ印象で犯人だと決めつけるのは早計だと思うがね。余計な先入観は視野を狭めることに繋がるぞ?」
「わかってるわよ。神父が犯人ってのはあくまで可能性のひとつ。さて、まずは害者と対面するわよ」
「了解。くれぐれもお得意のうっかりで冤罪を引き起こさないように」
うっかり刑事は紅茶刑事の脛に蹴りを入れ、それから赤いコートをはためかせ教会の中へと歩を進めた。
✳
長身な男である。逆立てられた青い髪に見開かれた赤い瞳。身体を包んでいるのは青い全身タイツ、その胸部には深々と朱い槍が突き立てられており、その周辺だけタイツの青い生地は溢れ乾いた血で黒々と染められている。それはなんとも酷い有様であった。
「正面から心臓を一突きか……流石は因果逆転の必殺の槍と言ったところか」
「は?何の話?」
だがまさか敵の心臓ではなく自分の心臓を貰い受けて逝くとは必殺の一撃(笑)は相手には避けられても自分では避けきれなかったか。ヤレヤレといった風に良くわからないことを言う紅茶刑事にうっかり刑事は訝しげな視線を向ける。
「いや、気にするな。原作の話だ。二次創作のこちらにはまったく関係ない」
「そう、よくわからないけど。深くは聞かないわ。今は事件に集中しましょう。えっと…ああ、居た」
うっかり刑事は鑑識と何やら話し込んでいる青年の方へと近づいていく。するとこちらに気づいたのか振り向き綺麗な敬礼を見せた。
「お疲れ様です!うっかり刑事!」
快活な挨拶で迎えたのは新人刑事『衛宮士郎』。通称『ブラウニー刑事《デカ》』である。今回の事件では偶然近くに居たために逸早く現場に到着したのは彼であった。
「お疲れ様、衛宮くん、じゃなくてブラウニー刑事。早速で悪いんだけど害者の身元と浮上した容疑者について教えてくれる?」
「はっ!了解です!」
ブラウニー刑事は胸ポケットからメモ帳を取り出すと淡々と容疑者の概要を話し始めた。
「被害者はクーフーリン二十六歳。アルバイトを転々としていたフリーターのようです。容疑者については、一人は変な青いワカメ。現場付近をうろうろとしていたところを不審に思い見張りが確保致しました。もう一人は第一発見者であり通報者でもあるこの教会の言峰神父です。通報時はかなり慌てていたようで『ランサーが死んだッ!?』とよくわからないことを言っていたそうです」
「ふーん、取り調べの際の供述は?」
「はあ、それが……」
容疑者①変な青いワカメ
「はあ?ボクが容疑者?ふざける!?偶然通りかかっただけのボクが容疑者ってお前たちホントにバカじゃないの?これだから日本の警察ってやつは高が知れるね」
「ボクは何も見てない!言峰が令呪でランサーに自害させたところなんて見てないったら見てないんだからな!?」
容疑者②教会の言峰神父
「私は令呪など使ってもいなければ自害など命じた覚えもない。ところで刑事殿、カツ丼はもういい。それよりも麻婆を食したいのだが」
「言峰神父とギルガメッシュ大勝利ルートを。虚淵なら…虚淵ならやれる…ッ!?」
「と、まあこんな具合でして…」
「…ごめん、何言ってんのかさっぱり意味分かんない」
うっかり刑事は思わず頭を抱えた。これは難航しそうだ。難航しそうな予感しかしない。というかもうこの際だから犯人は神父でいいんじゃね?いや、犯人は神父だと思おう。思いこんでしまおう。
「あっ、なんか本当に犯人は神父なんじゃないかと思えてきた」
「思考を止めるな凛、じゃなくてうっかり刑事。あまりうっかりの度が過ぎるとまた減俸を喰らうぞ」
「それはダメ!?今月ピンチなんだからあ〜!?」
うっかり刑事とブラウニー刑事の会話を黙って聞いていた、というより何故かブラウニー刑事を射殺さんばかりに殺意を込めた視線を向けていた(ブラウニー刑事は何故そんな親の敵を見るような目で見られるのかわからず不思議そうな顔をしていた)紅茶刑事の言葉にうっかり刑事は止めかけていた思考を再び回し始めた。
「くぅっ、あのイリヤ、じゃなくてロリブルマ署長め…ッ!?私に何の恨みがあって減俸なんて…ッ!?」
うっかり刑事の頭にはあの憎き(家計的な意味で)仇敵が思い浮かんでいた。肌色に近い銀髪にルビー色のくりくりとした瞳を持つブルマ姿の幼女(十八歳)。
ロリブルマ署長
「いやいや、冤罪一歩手前まで行っといて減俸だけで済ませてあげたんだから感謝しなさいよ…普通だったら懲戒免職ものなんだからね。というか私の出番これだけ?それなら言いたいことを言わせてもらうわ。スーッ(息継ぎ)早く私のルートを作りなさい、きのこ〜!?」
「ふむ、随分と荒れているようだ。ルートを持たないヒロインとは何とも哀れなものだな」
「…ルートって何よ?ゲームの話?だとしたら捜査中に話す内容ではないから控えなさい。大体、アニメ見ても分かるように私のルートが一番マシなんだから、映画も私のルートで行くべき……私は何の話をしてるのかしら?あれ?うぅッ…何か頭が」
謎の頭痛が痛い。と、まあ余談はここまでにして。問題は事件だ。ワカメも中々怪しいがどちらかと言えば神父の方が断然怪しい。ここは神父を第一容疑者として捜査を進めるべきか。うっかり刑事が方針を固めんとしたその時である。
「フッフッフ、お困りのようですね国家権力の皆さん」
声の出処はうっかり刑事の背後であった。振り返った先に居たのは時代錯誤な給仕服に身を包みニコニコと擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる少女だった。
✳
せ〜いは〜いく〜ん!
ワカメ「うわぁぁあん!助けてよ聖杯くん〜!」
聖杯くん「どうしたんだい、シンジくん?」
ワカメ「ステイナイトでどのルートを辿っても全部ボクはかませ犬的な小物キャラなんだぁ〜!こんなの納得いかない!没にされた衛宮との友情ルートを作ってくれよ〜!」
聖杯くん「しょうがないな〜」
トスッ(包丁が床に刺さる音)
トゥルトゥトゥットゥトゥーン(効果音)
聖杯くん「『ユキチツクール(包丁)』〜!」
ワカメ「」
聖杯くん「これで資金調達してさ、きのこに頼みなよ」
✳
《Bパート》
「フッフッフ、お困りのようですね国家権力の皆さん」
「……今なんか途中に入らなかった?スルーするの?アレをスルーするの?」
「凛、じゃなくてうっかり刑事。世の中には追求しない方がいいこともある。ところでハウスキーパーか何か「メイドさんです!」まあ、そこはどちらでもいいのだが。どうやって入ってきたかはわからんが現場は一般人が気軽に立ち入っていい場所ではない」
紅茶刑事の言葉にうっかり刑事はうっかりしていたとばかりにはっとする。見張り役が警備しているため現在教会には人っ子一人入れないようになっているはずだりこの自称メイドさんは一体どうやって現場に入ってきたのか。ここは問い正した方がいいのだろうか。
「ねえ、貴女どうやってここに「はぁい、決して月姫リメイクが待ち遠しいから最近映画化の話が進んでいるFateに絡んで諸々のアピールをしようなどとは思ってないですよ?ええ、ええ、『リメイクはよ』とか『きのこ仕事しろ』とかのメッセージを伝えようなどとは断じて思ってないですとも〜」いや、そんなこと誰も聞いてない……ってゆうかそれ何の話?」
「いえいえ、お気になさらず。ところでお困りのようですね?捜査に行き詰まりネコアルクの手も借りたいって感じじゃないですか?どうなんですか?ん?」
「ネコアルク…?確かに行き詰まってはいますが、どうして知ってるんですか?」
「なんてことないメイドの勘ってやつですよ♪」
「おぉ~、メイドすげぇ!?」
「何をはしゃいでいるのかしらブラウニー刑事?というか一般人に余計なこと言わない!貴女も質問に答えなさい、どうやって?なんで?一般人がここに居るの?」
「メイドには神出鬼没のライセンスがデフォルトで備わっているものですよ♪」
「おぉ~、メイドすげぇ!?」
「……ブラウニー刑事?」
うっかり刑事が一睨みするとブラウニー刑事は萎縮して沈黙する。本能的に危機を感じ取ったのだろう。紅茶刑事は呆れていますと言った風なポーズである。
「まあまあ、そんな怖い顔をせずに。この悩ましい事件をぱぱっと解決してあげちゃいますから♪」
「はあ?何を言って」
「翡翠ちゃ〜ん、出番ですよ〜♪」
「はい、姉さん」
「だから、どうやって入ってきてるのよ・・・・」
自称メイドさんの呼びかけに応える声はまたもうっかり刑事の背後から聞こえた。うっかり刑事は疲れたようなため息を吐きながら振り返る。とそこに居たのは現代風なメイド服に身を包んだ少女。
「翡翠ちゃんのお手々にかかればどんな難事件もまるっとするっとお見通しです♪何を隠そう、この子こそがなんとあの『洗脳探偵・翡翠』ちゃんなんです!」
「洗脳探偵・翡翠だとッ!?」
「……って、誰よ?というか洗脳って言わなかった?何よその不穏な言葉は?」
「知らないのか凛、じゃなくてうっかり刑事」
洗脳探偵・翡翠とは。人知を超えた難事件とともに現れるさすらいの名探偵。密室探偵ともいい、その意味は密室専門の探偵ではなく密室で事件を解決する探偵という意味。解決率100%でありながら、加害者はおろか被害者にすら恐れられる冷徹な法の執行人。言うまでも無いが、正体は誰も知らない。
「その通りですよ!お掃除やお洗濯が得意なとあるお屋敷で働くスーパーメイドという表の顔を持つ私のかわいいかわいい妹、翡翠ちゃんこそ今巷で話題の名探偵なんです!言うまでもないですがその正体は誰も知らない♪」
「いや、バレてるバレてる。職業と名前と貴方の妹だということが思いっきりバレちゃってる」
「細かいことはいいんですよ〜♪うっかり刑事さん?」
「いやあ、あの名探偵にご協力いただけるなら百人力です。ねえ、うっかり刑事?」
「え?あ、あー……」
うっかり刑事はブラウニー刑事のキラキラした期待の眼差しと笑みを受けて、反論するのも憚れたため紅茶刑事に流し目を送る。良い笑顔でサムズアップが返ってきた。これはもう捜査に協力してもらう以外の選択肢はないと観念する。
「それでは翡翠ちゃん?早速容疑者と面通しを」
「その必要はありません、姉さん」
「え?翡翠ちゃん?」
「あなたを犯人です」
✳
軽い金属音とともに手錠をかけられた血だらけの青いタイツを着た犯人は俯きながらパトカーに乗り……込めなかった。胸から生えた朱い槍が支えて上手く乗り込めないのだ。
「って、なんで俺が犯人なんだよ!?」
「驚きでした。まさか被害者が犯人だったなんて」
「流石は名探偵と言ったところか」
「当然ですよー!なんたって私のかわいいかわいい翡翠ちゃんですから♪それにしても翡翠ちゃん、今回は骨のない事件でしたかね?お得意のロックドルーム・ディティクティブを使わず解決しちゃいましたが?」
「姉さん、そろそろ志貴さまがご帰宅になられる時間です。早く帰りましょう」
「ああ、なるほどー。本当に翡翠ちゃんは志貴様大好きですねー?」
「……何よ、これ?」
実は被害者が犯人でしたという謎すぎる事件の全容。うっかり刑事は逆に頭をかかえたくなった。
変な青いワカメ
「おい!いつまで拘束してるつもりだ!ボクは忙しいんだ!終わったなら帰らせろ!」
教会の言峰神父
「刑事殿、麻婆のおかわりをいただけないだろうか?」
「……一体全体なんなのよぉぉおお!!!!?」
遠坂凛はもうなんか色々と限界だった。
✳
赤いあくま「…っ、はっ!?……夢、か」
ロリブルマ「ッ!?もうバカあ、夢オチなんてサイテー……!!」
✳ワカメとブラウニーの共闘ルートについて
本編では没になってしまったが本来ならワカメと共闘し、桜を救い出すルートを入れる予定だったらしい。 驚く事に イリヤルートより実現する可能性が高かった とか。 が、「ワカメが主人公になってしまう」こと、何より 「ヤローのデレとか誰得」 というごもっともな理由で廃案になった。
以前、とは言っても極最近なのですが一度書いたものを改訂して再投稿しました。前回のヤツは結構適当だったので今度のは多少まともになったかな……。
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