ぐだぐだあーと・オンライン (おき太引けなかった負け組)
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ぐだぐだプロローグ

 都内にある病院。

 そこに似つかわしくない、一人の少女がいた。

 木工紋の入った帽子と黒い軍服を着た黒髪の少女。

 髪は長く、また、肩から掛けているかばんは妙に古めかしい。

 これが、昭和時代初期であれば、将校さんなのかな、とでも思うような姿格好だが今は平成の世。

 故に、不自然と言わざるを得ない。

 しかし、それを気にするものは誰もいなかった。

 むしろ、近くにいるナースさんやお医者さんは親しげに、「またお見舞いですか?」と声を掛ける。

 最初の頃はその奇妙な服装に戸惑うものも多かったが、なぜか彼女に似合っており、それを何十回と目にしたため、気に止めることはなくなっていた。

 それに、彼女自身は結構小柄で背が小さいので軍服でありながら、物々しいというよりは微笑ましく見える。

 子供がヒーローの服を着ているようなものだ(まあ、これを知られると激怒されるが、その怒っている姿もかわいいと思われてるのは内緒)。

 そんな微笑ましい物を見るような声に応えながら、彼女はまるで輝くような、それでいて、魔王のような邪悪な笑みを浮かべながら病院内を闊歩する。

 そして、彼女は目的の病室にたどり着き、勢い良くその扉を開けた。

 

「いいものを持ってきたぞ!沖田よ!」

 

 開かれた扉の先はごく一般的な病院の個室があり、一つのベッドがそこにあった。

 ベッドのうえでは病人らしい少女が座っており、退屈を凌ぐためか本を読んでいる。

 そして、その少女はやれやれと言わんばかりに本を置くと入ってきた軍服の少女に答えた。

 

「……いきなりなんの用ですか信長さん。というか、病室で騒がないでください。また三段突き食らわせますよ?」

 

 そう、彼女に問うのは桃色の髪の少女。

 白い、清潔感を漂わせるような、病院服を着ている。

 病弱のためたびたび、彼女は入院しているのだが、その姿は病気のものにありがちな儚げと言う印象ではなく、むしろ凛とした、一本の刀をイメージさせるような風貌であった。

 

「そなたは固いのう……」

 

「常識の話をしているんです。病院内で騒ぐなと習わなかったのですか?」

 

 軍服の少女が破天荒なのはその姿格好からも想像がつくが実際そのとおりであり、そんな様子に対し沖田と呼ばれた少女は慣れた感じで説教に入ろうとする。

 だが、説教される信長もそういったことに慣れているため、ごまかすように答えた。

 

「……説教はもういいのじゃ!それよりこれを見よ!」

 

 そして、彼女は持っていたかばんからヘッドギアのような形をした機械と一本のゲームソフトのパッケージを取り出す。

 

「何ですか、ソレ?」

 

 怪訝な様子で、沖田はその機械を見る。

 

「これを知らんのか?遅れとるのぅ……」

 

 そんな沖田の何も知らないふうな様子に、少し優越感に浸れたのか、信長は沖田を小馬鹿にしたような表情で見ている。

 というか、完全にドヤ顔で見下したような感じだ。

 

「……そうですね。こうして病室に居ることが多いので流行には『少し』疎いもので」

 

 そして、その姿にちょっとムカついたのか、沖田はヨヨヨと目を隠しながら、世間知らずの儚げなお嬢さんを演出する。

 そんな彼女の様子に焦りを見せる信長。

 沖田が日常的に入院していることは彼女はよく知っていたため、心の中に罪悪感が生まれる。

 

「そ、そんなつもりじゃなかったのじゃ!す、すまぬ!」

 

 謝る、信長。

 その慌てる様子は普段の傍若無人な彼女を見ている者にとっては驚くことだろう。

 普段は結構、ぶっ飛んでいて周りを振り回すジャイアニストではあるが、意外と素直で優しいのだ。

 そして、その姿に満足したのか、沖田は隠していた顔をバァと出して微笑むような笑みを浮かべながら答える。

 

「フフフ、いいですよ。別に怒っていません。ちょっといじわるしてみたくなっただけです」

 

「……なんか釈然としないんじゃが。まあ良い!それよりも、じゃ!」

 

 そう、少し不機嫌になるがこれは彼女たちにとってはいつものことであり、それを引きずることはなかった。

 そんなことはさておき、ジャジャーンと取り出した機械を更に沖田に突き出す信長。

 

「それで、ソレなんなんですか?」

 

 話を戻すように沖田は尋ねる。

 そして、それは期待していた答えだったのか胸を張るようにその質問に答える。

 

「うむ、話に聞いたことがあるかもしれんが、これは『ナーヴギア』というものじゃ!」

 

 『ナーヴギア』。

 世間に疎い、沖田も聞いたことはあった。

 確か、ごく一部のアミューズメント施設において実用化されていたVRマシンの家庭用だっただろうか。

 そういえば近々注目のゲームが発売されると、聞いたことがある。

 『ソードアート・オンライン』とかいうタイトルだったと思う。

 まあ情報源は目の前に居る信長なのだが。

 値段は12万8000円と割りと高かった記憶があるが新しいもの好きな彼女はそれを手に入れたらしい。

 どうやらそれを見せるためにここに来たようだ。

 

「それで、自慢しに来たというわけですか?」

 

 だが、彼女の様子は違った。

 それを聞いて更に邪悪な、ともすれば純粋な笑みを浮かべる。

 

「フッフッフ!わしを誰だと思っている!織田家次期当主、織田信長であるぞ!下々のものに褒美をやるのもわしの勤めじゃ!」

 

 ババーンと、これが漫画であるならば後ろに集中線があるような見事な名乗りだった。

 だが、沖田はそれを意に介すことなく、ジーっと見つめる。

 そして、閑古鳥が鳴くようなシーンとした静けさが病室内を襲った。

 

「ご、ゴホン。ま、まあなんというか、あ、あれじゃ!そのじゃな、一人で遊ぶのもなんじゃし、一緒に遊ぼうと思ったのじゃ!そ、それでじゃな……」

 

 そんな様子に恥ずかしくなったのか咳き込み、ごまかしながら顔を赤らめ答える信長。

 

「……プレゼントというわけですか?ですがこんな高いものを受け取るわけには」

 

 しかし、沖田はそれを断ろうとする。

 確かに信長は織田家と言う、由緒正しい家柄でかなりのお金持ちであるが『ナーヴギア』は前述したように結構高い。

 故に受け取れないと答えるのが普通の人間の感性であろう。

 だが、信長は尚も渡すことを諦めない。

 

「ム、わしの褒美を受け取れんというのか!そ、それにじゃな……その、一人で遊ぶのもなんじゃし、沖田も病室でボーっとするのも暇じゃろ?じゃ、じゃからな!ほ、ほら!そなたは剣道が好きであろう?これは剣を使って遊ぶゲームのようじゃし、そちも楽しめると……」

 

 更に顔が赤くなる信長。

 どうやら一緒に遊びたいようだ。

 断りたいが、こうなった時の信長は結構頑固だ。

 大体、押し切られてしまう。

 それに沖田も少し興味はあった。

 コントローラーを使うゲームは苦手だがこれは実際に身体を(ヴァーチャル・リアリティの中でだが)、動かして操作するゲームのようなので、沖田も十分に楽しめる。

 しばらく剣術の稽古もしていなかったこともあってか、沖田はため息を着きながら断ることを諦めた。

 

「分かりました。信長さんの気持ちを無碍にするわけには行きませんし、ありがたく受け取ることにします」

 

 それを聞いてパーっと花のような笑顔を咲かせる信長。

 

「で、アルか!ならば、一緒にやるとしよう。わしは、帰ったら直ぐにログインするからそなたもログインしておるのじゃぞ!最初の町で待っておるからな!」

 

 そして、返事を聞くや否や、そのまま満面の笑みを浮かべながら信長は去っていった。

 

「あ!待ってください信長さん!主治医の許可を……って言ってしまいましたか。いつもどおり嵐のようですね」

 

 一人病室に取り残される沖田。

 こうして彼女に振り回されるのはいつものことなのでやれやれといった風にため息を着く。

 

「んー。断られたらどうしましょうか?一応、個室とはいえ病院ですし、大丈夫でしょうか?でも行かなかったら信長さん泣いちゃいますし……まあ、なるようになるでしょう」

 

 沖田はベッドから立ち上がり外に出る。

 その背中は信長に振り回される気苦労のせいかほんの少し煤けて見えるような気がした。

 ちなみにこの後、医者の許可を取るのに手間取り、遅れて行ったことで信長に拗ねられるのはまた次のお話。

 そして、この数時間後、彼女たちが、いや、ソードアート・オンライン(SAO)を購入した全ての人間が、命をかけたゲームに巻き込まれる事になるとはまだ誰も知る由もなかった。




まあ読んでもらったとおり、ノッブ達が現代に生まれてて友達みたいな関係の話です。
そんなんでよろしければ次回もお付き合いください


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ぐだぐだデスゲーム

前回のあらすじ
ノッブ「病室で暇しとるじゃろうからプレゼントじゃ!」

おき太「はいはい。ツンデレ乙です。一緒に遊びたいなら素直に言えばいいのに」

ノッブ「ツンデレではないわ!」

以下殴り合い。


―――――沖田総司。

 彼女は剣術道場である家に生まれた。

 その名から推測できるように、かの新選組一番隊隊長、『沖田総司』を輩出した、沖田家の人間である。

 ちなみにこの『総司』は雅号のようなものであり、先祖の名誉を称えるため、一族の長子に付けられている。

 正直、女の子につけるような名前ではないが彼女自身は気に入っているのであまり気にしていない。

 そしてその、『沖田総司』の才能を最も受け継いだと言われ、世が世なら剣豪として名をはせていたであろうとすら言われていた。

 その才は『沖田総司』が使ったとされる、『三段突き』すら再現でき、同世代どころかただのひとりとして万全の状態の彼女を打ち負かすことが出来た者はいなかった。

 だが、受け継いだのは良い才能だけではなかった。

 彼女は『沖田総司』の病弱な部分も受け継いでしまっていたのだ。

 そのため、よく体調を崩し、ひどい時には入院することもあり、また、スタミナもあまりないため一日に何度も試合を行う大会などではあまり良い結果が残せていない。

 それでも全国大会には何度か出場するなどしているが彼女の才を見ればそれ以上を期待してしまい、良い結果に見えないのもしかたのないことだろう。

 故に、不世出の天才として親族から惜しまれる存在であった。

 そして、そんな彼女は一人、ゲームの中でさまよっていた。

 

「信長さんどこですかー。というか、アバター作れるのに見た目で分かるんですかね?」

 

 そう、この『ソードアート・オンライン(SAO)』と言うゲームはアバターを自由に変えられるため、たとえリアルで知り合いであろうとも見た目から分かるわけがない。

 また、プレイヤーネームも自由に決められるので名前でも判断することは出来ないだろう。

 そんなわけで沖田は始まりの街で友人である信長を探しているというわけだ。

 

「絶対、信長さんアバター作りこむタイプですよねえ……。待ってるってこの街、結構広いですしどこに居るんですか……」

 

 しかし、そう言う、彼女の姿は現実世界と違いがなかった。

 スキャンした姿そのままである。

 リアルバレする危険性があったりしてあまり推奨されていない行為ではあるが、そんなことは彼女は気にしていなかった。

 斬り合いに見た目は関係ない。

 それが彼女の持論であるため、斬り合いだけが目的なのにアバターを作るなんてそんな面倒なことをしていられない。

 もともとやりたいこと以外はしない面倒くさがり屋の性格もあって彼女はアバターを一切弄らなかった。

 まあ、彼女の見た目は結構な、というか普通に暮らしている人間にはお目にかかれないような美人であるので、()()()()()()()()周りからは頑張って作ったアバターなのだと思われているのは幸運だっただろう。

 ネカマか何かだな、と、そう周りの人には思われていた。

 そんなこともつゆ知らず、町中を歩く沖田。

 そうして町中を歩くこと数十分、探すのが面倒になったため、彼女は友人を探すことを諦め、目立つところ、噴水のある広場に向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

 所変わって、沖田が目指している広場。

 そこに苛立ちながら立っている背の高い男がいた。

 

「……遅い!」

 

 どうやら誰かと待ち合わせをしているようだった。

 その風貌は勇ましく、口元にはヒゲを生やしている。

 いわゆるカイゼル髭を少し短く、細くした感じで顎が細くシャープな男によく似合っていた。

 はたから見ればかっこ良く、また、渋いというような感じではあるが、男から漂う雰囲気がそれを打ち消す。

 「あれが魔王だ」、そう言われれば納得するような禍々しい男だった。

 『彼女』の名前は織田信長。

 その姿を見て『彼女』というのはおかしいが、仕方のないことだった。

 『彼女』は現実世界においては女である。

 現実では小柄で小さい、ともすれば可愛らしいと言われるような少女であるが、彼女自身は自らの先祖である、戦国武将『織田信長』のことを尊敬しており、自分のイメージする『織田信長』を忠実に再現したアバターがこの姿なのだ。

 まあ、戦国時代の武将の身長はあまり高くないとされているが身長を結構高く作ったのは現実世界でのコンプレックスもあるのだろう。

 そんなわけで、大柄の猛々しい男は苛立ちながら友人が来るのを待っていた。

 

「何をしておるのじゃ……。直ぐログインしろ、といったであろうに……」

 

 ぶつぶつとつぶやきながら苛立つ信長。

 待ち続けてもうすぐ一時間になるだろう。

 そして、もう待つのをやめて先に行ってやろうかとした時、その視界に見たことのある姿が目に写った。

 桃色の髪、いや少し薄いので桜色と言ったほうがいいだろうか、そんな髪の少女が現れる。

 その姿を見るやいなや、信長は彼女の元に動き出す。

 

「来るのが遅いぞ!何をしておった!」

 

 彼女に怒り心頭と言った様子で話しかける。

 

「あ、えっと、信長さんですか?」

 

 いきなり見知らぬ、大柄の男に話しかけられたことで戸惑う沖田。

 そして彼女はチラリとプレイヤーネームを見る。

 そこには『TENMA』と書かれていた。

 

(……第六天魔王からとったんですかね?信長さんの趣味は知ってますけど、どうなんでしょう、これ)

 

 そんなことを考えながらひょうひょうとしている。

 普通そんな男に話しかけられると戸惑いそうなものだが、実家で道場を開いている彼女はそう言った人間と接する機会も多いので彼女はそう言った対応には慣れていた。

 

「そうじゃ!そんなことより何しておった!早く来るように言ったはずであるが!もう後、数分来なければ先に行っていたところだぞ!」

 

 怒りを隠そうともしない信長。

 

「まあまあ、というかお医者さんの許可取らないと遊べませんでしたし手間取ってしまって……。それにこっちも数十分探したんですよ?姿変わってますしプレイヤーネームも教えてくれなかったじゃないですか!私だけの責任じゃありませんよ」

 

「ム……ソレは仕方ないが、それならもう少し目立つところに居ればいいではないか!そなたは姿変えておらんようじゃし、プレイヤーネームもそのままじゃ。わしの責任だけではない!」

 

 そういってチラリと名前を見る。

 そこには『OKITA』と書かれていた。

 まあ、彼女はこういうのは無頓着なので凝らずにそのまま名前を入力したのだろう。

 そんな様子が伺える。

 

「まあまあ、また今度埋め合わせしますから、今回はこの辺で、ね?遊ぶ時間無くなっちゃいますし……」

 

 癇癪を起こす信長に対してなだめるように言う沖田。

 しかし尚も激高する信長。

 

「沖田はいつもそうじゃ!わしを子供扱いしおって!いつもわしがどれだけ―――

 

 だが、その言葉は続かなかった。

 その瞬間、いきなり周りに人が転移してくる。

 しかし、そう言った転移するようなアイテムがあることを信長は前情報で知っていたため、それが一人や二人ならそういうこともあるだろうと驚かなかっただろうが、その数が違った。

 一人、二人どころの騒ぎではない。

 数十人、いや数百人、ヘタをするともっとだろうか。

 それほどの人数の人たちがいきなり周りに現れていた。

 

「……なんでしょうか?初日のイベントみたいなものですかね?」

 

 突然の様子に戸惑いながらも推論を述べる沖田。

 

「分からん。じゃが、イベントにしては様子が変じゃ」

 

 即座に怒りを収め、冷静になる信長。

 普段は結構、というかかなり、短気な性格だが、こういった突発的な事態に対しては冷静に考えることが出来るのは次期当主としての教育の賜であろう。

 そうして、静かに周りの様子を伺う。

 耳を澄ませてみれば、辺りでは「ログアウト出来ない!」などといった声が聞こえた。

 

「……バグか?何らかの問題が起こったから全員を集めたのじゃろうか?しかし初日からログアウトできないなどと言った、S級バグを引き起こすなど、アヤが着いた気分じゃな」

 

 そう言って呆れ返る信長。

 先程までの怒りはどこかに行ってしまったようだった。

 そして、二人でしばらく待っていると空に人影が投影される。

 真っ赤なローブを着た、巨人。

 顔は全く見えない。

 まあ、投影されている画像のようなので拡大されているだけなのかもしれないが、どうやらゲームマスターのようだった。

 

「プレイヤー諸君、私の世界へようこそ」

 

 そう、挨拶をするゲームマスター。

 その不気味な風貌はまるで倒すべき敵のような圧迫感、不快感をプレイヤー達に与える。

 

「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 それを聞き、不安そうにプレイヤー達はざわめく。

―――――茅場晶彦。

 このゲームを初日からプレイしようと思う人間ならば知っていて当然の人間だ。

 まあ、例によって沖田は知らないがそんなことはどうでもいいだろう。

 数年前まで、数あるゲーム会社の一つに過ぎなかったこのゲームの、『ソードアート・オンライン』の制作会社である『アーガス』が、最大大手とまで言われる原因となった人物だ。

 天才量子物理学者でありながら、このゲーム開発ディレクターであり、ナーヴギアの基礎を設計した男である。

 そんな大物の登場に皆、一様に息を呑む。

 

「プレイヤー諸君は既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。これはゲームの不具合ではなく『ソードアート・オンライン』本来の仕様である」

 

 それを聞いてプレイヤーたちの不安は更に高まる。

 「仕樣?どういうことだ?」そんな声が辺りから聞こえてくるが、しかし、彼らはその最悪の事態をなんとなく理解していた。

 いや、むしろそれを考えたくないために声に出してわからないふりをしているのかもしれない。

 

「諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、自発的にログアウトすることは出来ない」

 

 そんな、期待に答えるように茅場は続ける。

 頂きを極める。

 つまりクリアするまで出られないということだろう。

 その言葉を聞きプレイヤーたちは様々な様相を見せる。

 信じないと現実逃避するもの、聞きたくないと頭を抱えるもの、愕然と立ち尽くすもの、喚き、がなりたてるもの。

 多種多様な反応を見せるがその根底にある感情は皆同じだ。

 

「また、外部の人間によるナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し……」

 

 茅場は不安を煽るように言葉を区切る。

 死刑宣告を待つような気分で、ゆるやかに、時間の流れが遅くなったかのように次の言葉が遠い。

 

「生命活動を停止させる」

 

 そうして、ギロチンのような絶望を茅場はプレイヤーたちに振り下ろす。

 これが、デスゲームとなった『ソードアート・オンライン』の真の始まりだった。

 そして、それを聞いた彼女らの表情は、下弦の月のようにニヤリと歪んでいた。




書いてて思ったけど、結構シリアス気味。
タグに入れといたほうがいいのだろうか……


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ぐだぐだチュートリアル

前回のあらすじ
ノッブ「ネカマと思われるとかワロタw」

おき太「実際にネナベやるとかワロタw」

以下殴り合い


「まーだ、凹んでるんですか?信長さん」

 

 そう、沖田は傍らで座り込んでいる信長を慰めるように言う。

 

「……凹んでなぞ、おらんわ」

 

 それに反論するように信長は返すが、その表情は暗く、いじけている。

 まあ無理も無い。

 頑張って苦労して作ったものを壊されればそんな気分にもなるだろう。

 彼女がこうなったのはこの『ソードアート・オンライン』のゲームマスター、茅場晶彦の最後のプレゼントが理由だった。

 このゲームが命をかけたデスゲームと化し、外部からの救助もありえなく、閉じ込められる事になったそのあと。

 彼はこの世界が現実であるということを強く認識させるために一つのアイテムを渡したのだ。

 それは手鏡。

 特に何の変哲もないただの鏡であるが、それを受け取ったプレイヤーたちは一体なんでこんなものを、と疑問に思う。

 しかし、その数瞬後それを理解した。

 自らのアバターが()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 つまり何がいいたいかというと。

 信長が苦労して作った、『りそうのおだのぶなが』が一瞬で、水泡に帰してしまったのである。

 故にそこにいる信長の姿はヒゲを生やした渋い男ではなく、可憐で小柄な少女の姿だった。

 ちなみに、例によって沖田はそのままの姿を使っているのでまったく変化はない。

 身体がいきなり光って姿が変わるという現象を体験できなかったのはちょっと残念かなと、思うがそれだけだ。

 しかし信長は違う。

 このゲームを体験する時間を削ってまでアバターづくりに費やしたのだ。

 それこそ、サービス開始直後からデスゲームが始まる一時間前まで費やした努力の結晶だ。

 それを一瞬で不意にされればこうなってしまうのも仕方ないだろう。

 まあ、それだけが理由ではないのだが。

 

「……そなたは、わしを恨んでおらぬのか?」

 

 そもそもの話、沖田をこのゲームに誘ったのは彼女である。

 そのため、誘わなければ彼女は無事でいられたのではないかと罪悪感を抱くのは当然の理だ。

 だから、茅場からこのゲームがデスゲームになったと聞いた時、誘わなければよかったと、後悔の気持ちが浮かんだ。

 しかし、沖田はその言葉にあっけらかんと答える。

 

「んー、デスゲームになっちゃったのは仕方ない事ですよ。信長さんが悪いわけではありません。全部、茅場?って人のせいです」

 

 そう、優しく諭すように言った。

 その言葉を聞き、信長は「沖田……」と感激を露わにするが、その次の言葉で凍りつく。

 

「それに……この世界では命がけで戦えるんでしょう?死ぬまで戦うなんて、現実じゃ出来ませんし。誘われていなければ、私の方が凹んでましたよ!」

 

 と、胸を張って彼女はそう言った。

 更に彼女は続ける。

 

「あと私、人斬ったことないんですよね。この世界なら、もしいるとするならば、少なくとも一人は斬れるじゃないですか?茅場晶彦を。ご先祖様の戦友の言葉を借りるなら『悪・即・斬』です」

 

 花も恥じらう笑顔を浮かべながら沖田は言った。

 その姿を見れば万人が万人可愛らしいと言うだろうが、言っていることがとてつもなく物騒なので逆に、万人が万人恐ろしいと言うだろう。

 それを聞き信長は何かを思い出したように心のなかで驚く。

 

(そ、そうじゃった!コイツ、わしの影に隠れて普段はおとなしいが結構、否、かなりの人斬り思考なんじゃった!)

 

 そして、そんな信長の様子を意に介すことなく続ける。

 

「……それに信長さんも結構楽しみなんでしょう?」

 

 沖田はそう信長に問うた。

 沖田にとって、いや信長にとっても現実世界もゲームも変わらないのである。

 強いていうならば命がかかっているかどうかの違いだ。

 そして、その堰が切られただけのこと。

 ありとあらゆる行いが死と直結している生活を送っている彼女らにとって『死』は別段恐ろしいものではない。

 一人は病弱故に、常日頃から死と隣りあわせであるから。

 一人はその生まれた立場故に、自らの判断が数多の命と直結しているから。

 そして、それでも彼女らはそれを苦に思っていない。

 むしろ楽しんでさえいる。

 だから、こんなもの、()()()()()()になっただけのことだ。

 沖田はそう、(うそぶ)く。

 もう、信長に先程までの迷いはなかった。

 

「で、あるか」

 

「ええ。で、ありますよ。第六天魔王閣下殿?」

 

 そして、信長は立ち上がる。

 いつもどおりの魔王のような、邪悪な、ともすれば子供らしい純粋な笑みを浮かべながら。

 

「ククク……、わしを倒したければ武田の赤備えぐらい持って来いというものじゃ。他化自在天の主である、わしがこの程度で臆するなど、ありえん」

 

「そうですよ。いつもどおりの信長さんが一番です」

 

 そんな風に高笑いをする少女と、その神輿を担ぐ少女がいた。

 傍から見れば恥ずかしい光景であるが誰も気にしない。

 まあ、デスゲームが始まり大半の人間が気にする余裕もないというのが実際の理由だが。

 そして、そんないい話的な雰囲気が続くかと思えたその時だった。

 あっ、と沖田が気づきそんな微笑ましい様子は終わる。

 

「……それで、チュートリアル行きましょうか」

 

「そうじゃな……。そういえばしておらんかったな……」

 

 閑古鳥が鳴く。

 彼女たちはまだこのゲームを始めてすらいなかった。

 アバターを作ったり、許可をとったり、待ち合わせで時間を取ったせいだった。

 そして、すごすごと、はじまりの街近くの草原に向かうのだった。




今回は短め。
まあ、サーヴァントではないけれど彼女たちのその本質がおかしくない訳がないのでこんな感じに。
そして次回辺りからようやくキリト君出せるよ……


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ぐだぐだアインクラッド

前回のあらすじ
おき太「中二病ワロタw」

ノッブ「人斬りワロタw」

以下殴り合い


 第一層迷宮区19階。

 沖田と信長はそこで戦っていた。

 既にデスゲーム開始の宣言から2週間が経ち、プレイヤー達の焦りが募る頃だった。

 まだ、第一層さえクリア出来ておらず、アインクラッドの100層の壁は分厚く、絶望的な硬さだと否応無しにプレイヤー達に理解させる。

 また、このゲームから永久退場(ゲームオーバー)、いや、現実世界からも永久退場した人間は約1000人近く、おおよそ、全プレイヤーの1割。

 故に諦めるものは後を絶たず、半数のプレイヤーたちは、はじまりの街から出ずにそこで、なけなしのゲーム内通貨であるコルを使い、ほそぼそと暮らしていた。

 だが、そんな中にも前向きに攻略しようとする者達は居るようで、プレイヤーの三割はどこぞの大手ネットゲーム情報サイトの管理人を中心として集まり、集団で協力し、サバイバル生活をしている。

 そんな風に集団生活をするものも多いが、やはりあぶれるものというのはどこにでも居り、コルを無計画に使い、食い詰めたものは盗みや強盗など犯罪に走り、また、集団生活を嫌うプレイヤー達は独自に数人のチームを組み、少数精鋭で攻略を行う『ギルド』として、攻略に貢献するものも居る。

 他にも僅かながらであるがソロで攻略する者たちもいた。

 そして、信長と沖田がどこに属しているかというと、たった二人ながら、チームで行動しているのでソロというよりはギルドと言ったほうが近いだろう。

 沖田は現実世界では剣術の達人であり、また信長も帝王学の一環として剣術を学んでいたため、その類まれなる戦闘技術を駆使し、コンビのような形ではあるが、他を圧倒するような速度で迷宮区を開拓していった。

 そして、ようやく20階へ至る階段を見つけた。

 

「ようやく見つかりましたけど、こっからどうするんですか?」

 

 沖田が信長に問う。

 初日に動作確認としてチュートリアルを済ませてから直ぐ、信長の発案により攻略を進めていくことになっていた。

 また、沖田は戦えるということもあってその行動に追随したわけであるが、なぜ、こんな速度で攻略するのか、といった彼女の考えを理解したわけではなかった。

 沖田達の実力であればじっくりやっていったとしてもいずれクリア出来たであろうし、他のプレイヤーはまだ15階付近をうろついているとも聞く。

 ここらで一休みしたところで別にトップをぶっちぎっているのだから問題ないのではないか、と沖田は疑問に思う。

 だから、今後の行動の確認も兼ねて信長に聞くことにした。

 

「ふむ、当然の疑問じゃな。まあ、言ってしまえば『先んずるものは世界を制す』ということじゃ」

 

 信長らしい遠回しな言い方。

 上に立つものとして腹の中は見せないと、教えられているのだろうが訳がわからない沖田は少し気分を害する。

 

「だから、もう既にトッププレイヤーであるのだからこれ以上進んだところで意味が無いのでは?」

 

 そう、もう一度確認するように沖田は信長に問うた。

 

「うむ、お主の疑問はもっともであるが、わしは別にトッププレイヤーになることを考えてここにおるわけではおらぬ」

 

「と言いますと?」

 

「まあ、有り体に言えば今後の攻略のためじゃな。全部言うのは流石に底を晒すことになるから言わんが、わしが今やろうとしていることは第一層のボス攻略のための情報を集め、そして攻略のために情報を渡し、全体の主導権を握るということをしたいのじゃ」

 

 答えを述べる、信長。

 そして、それを聞いて沖田は考える。

 

(確かに筋は通ってますが、そのようなことに意味があるのでしょうか?別に私達だけでも攻略は出来ますし)

 

 考えてみるが答えは出ない。

 沖田自身は結構、脳筋である。

 剣術にしてもそうだ。

 剣術の指南をして欲しいと道場に通う門下生に聞かれても「気合です」とか答えてしまうくらいあまり普段物事を考えていない。

 なんとなくこうした方がいいのではないか、ということをなんとなくで解決してしまう。

 それが天才というもののあり方なのかもしれないが、それでも得手不得手というものはあるものである。

 そのため、次期当主として様々なことを考え、行動する信長の思考を読み取ることは出来なかった。

 まあ、筋は通っていることだ、今までも信長についていって問題は、あったこともあったが大抵最終的には解決している。

 だから問題無いだろう、と沖田は考えを打ち切る。

 

「ということは、しばらくボスの情報を集める、ということでいいんですね?」

 

「そうじゃな。取りあえず、1週間ほど情報収集をして、ボス攻略のために人を集める。それが今後の指針ということになるかのぅ」

 

「分かりました。じゃあ、取りあえず威力偵察だけして今日は帰りますか」

 

「そうするとしよう。じゃが……くれぐれもボスは倒すなよ?」

 

 そう言って、警告する信長。

 沖田ならば、ノーダメージでボスすらも突破するだろう。

 そんな信頼にも近い確信があった。

 実際、ここまで来るのに彼女はなんの危なげもなく突破している。

 全て初見で。

 信長が集めた攻略情報についても、知ってしまえば面白く無いので別に聞かなくていいと、断られている。

 だというのにその敵モンスターの行動を先読みするように動き、倒していく。

 全部、手動(マニュアル)で、ソードスキルも使わずに。

 どうやって行動を読んでいるかしらないが彼女いわく

 

『姿を見ればだいたい分かるでしょう?まあプログラムなので殺気がないのが厄介ですが』

 

 とか、言っていた。

 もう訳がわからない。

 しかも、現時点では現実世界の沖田より弱いらしいのに、だ。

 ステータスの関係で運動能力に上限があるかららしい。

 また、武器もあまり使ったことのない、西洋風の片手剣であるのに。

 他には彼女の必殺技、『三段突き』についても、

 

『これじゃあ、いいところ『三連突き』ですよ。全然剣閃が重なってませんし』

 

 と、愚痴っていた。

 素人目には三本の突きが全く同一に放たれているようにしか見えないが彼女が言うならばそうなのだろう。

 実際、このゲームのマスターであるところの茅場晶彦が見れば確かにその剣筋は重なっていない。

 それでもフレーム単位で突くとか人間業ではない。

 そして、今後、彼女のステータスが上がるに連れて剣閃が重なり、一つのバグ技が生まれるのはまた別の話。

 

「分かってますよ。私もそこまで馬鹿じゃないです」

 

 拗ねるように沖田は言う。

 

「で、あるか。では、先に向かうとしよう」

 

 そう言ってケラケラと笑いながら、信長は次の階へと足を踏み入れていった。

 

「あ、待ってくださいよー」

 

 続いて、沖田も信長の後を追う。

 そして、この1週間後、ボス攻略のための会議が組まれることになった。




おかしいなまだキリト君出ない……
次こそは出せるといいな……


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ぐだぐだ攻略会議

前回のあらすじ
ノッブ「弱体化されたおき太のステータスワロタw」

おき太「弱体化するまでもないノッブのクソステワロタw」

以下殴り合い


 悪夢のデスゲーム宣言から3週間

 約80人もの人達が迷宮区近くの街『トールバーナ』の噴水広場に集まっていた。

 その発起人は織田信長、このゲームではTenmaと名乗っているが、彼女だった。

 彼女はOkitaと言う、沖田総司のことであるが、これまた有名なプレイヤーとコンビを組んでおり、その普通ではありえないような攻略速度故に、その名が知られていた。

 まあ、このゲーム自体の男女比の違いからしても目立つ存在であり、そんなトッププレイヤーでなくとも有名になっていたであろうが。

 Tenmaは小柄で小さい、可憐な容姿をしており、また、その隠そうともしない覇気で近づくものを威圧する。

 Okitaは物腰柔らかな少女であるが、時折、切られるのではないかとさえ思うような冷気を発している。

 炎のような苛烈さを持った少女と刀のような凛とした少女。

 そしてそんな彼女たちが開いた会議。

 人が集まらないわけがない。

 故に、彼女たちがもし存在しなかったとした場合よりも人が増えていてもしかたのないことだった。

 またここまでの攻略速度が早く、それに、まだ死者が2000人に達していないことも人が多い理由になるだろう。

 まあ、なんにせよそれだけ多くの人が集まったということだ。

 そして、そんな人数が集まったざわめく広場の中、件の少女は姿を表した。

 

「うむ、これだけ多くの人数が集まるとは思わんかった。褒めて使わす」

 

 そう、信長は口にする。

 不遜な態度ではあるが、それを気にするものはいない。

 不思議と彼女に似合っていためか、どうやら彼らに好意的に受け入れられたようだった。

 実際はリアルロリババアが存在するとか奇跡だろ、とか思われているのは彼女には内緒の話。

 

「わしが、この件の責任者となる。テンマじゃ。以後よしなに」

 

 そう言って自己紹介をする信長。

 このような場所でいきなり責任者を名乗るなど、普通の神経では誰かが死ぬリスクを恐れて出来なさそうなものだが、彼女はそれに全く臆することなく言った。

 それを受け更にざわめくプレイヤー達。

 

「静かに。まあ、自己紹介は後にして、本題に入ろう」

 

 そして、前置きを直ぐに終わらせ彼女は議題へと移る。

 

「わしらは現在迷宮区の20階を攻略しており、フロアボスの居る部屋を発見した」

 

 多くの者にとって驚愕の事実を口にする信長。

 それを聞き、「早すぎる……」と驚きの声を上げる観客たち。

 まだ彼らは迷宮の19階以下をうろついており、その攻略速度に戦慄した。

 まあ、実際はもう3日前には20階のボス部屋以外のマッピング及び攻略は終わらせており、これを聞けば更に驚くことになるのだろうが、それを聞いて臆することを恐れてか、信長はそれを話さなかった。

 

「して、そなたらを呼び出した理由ではあるが、ここにいるメンバーでその攻略をしようと思っておる」

 

 そして、本題を口にする。

 階層ボスの攻略。

 これが今回、信長が人を集めた理由。

 

「無論、ここには、話を聞きに来ただけの者も多いじゃろう。わしもこの戦いで死者を出すわけにはいかん。故に、メンバーは現時点で15階までを突破している精鋭達に限定する」

 

 そう述べた。

 そんな信長の声を聞き、ガクリと方を落とすものも少なくないが、仕方のない事だと納得の表情を浮かべ去っていく。

 そして、メンバーに選ばれたものはその使命感に胸を躍らせ、士気が高まる。

 おおよそ、約50名ぐらいの人数が残ることになり、ちょうど連結(レイド)が組める(このSAOでは1パーティ最大6人、それを8つ連結した最大48人のチームを組むことが出来る)人数になり、和気あいあい、とは行かないものの、それなりの高揚感を持って会議の続きに移ろうとするが、それを止める一人の男がいた。

 

「ちょお待ってくれんか、テンマはん」

 

 甲高い信長の声に対して、ほんの少し低い濁声。

 そんな声が流れ、高まった歓声はピタリと止む。

 前方の人垣が二つに割れ、信長の目の前に空隙が出来る。

 そこから現れたのは小柄ながらガッチリとした男、サボテンのような尖ったヘアスタイルの男だった。

 

「その前にコイツだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこは出来へんな」

 

 唐突な乱入に、信長は気分を害することなく笑みを浮かべる。

 沖田が見ればそれはなにか企んでるんだろうなと思うような笑みではあったが、その可愛らしい容姿から周りの者達は察することは出来なかった。

 

「ん?なにか質問でもあったのか?」

 

 優しく諭すような純粋な(沖田からすれば蛇のような邪悪な)微笑みを浮かべながら何も知らないふりをして答える。

 恐らく信長の脳裏では今、どうすればこの状況を制することが出来るのか考えているのであろうが、それを表に出すことはなかった。

 そして男は告げる。

 

「ワイは、キバオウっちゅうもんや」

 

 そして、その男は広場を見渡す。

 じっくりと舐めるように。

 同じように周りの人間も何かあるのか、と見るが何もない。

 キバオウの目線は度々一瞬の停止を見せるが、それを察することは出来なかった。

 次の瞬間までは。

 

「こん中に五人か十人、詫び入れなあかんやつがおるはずや」

 

「詫び?誰にじゃ?」

 

 何も知らないふうな顔で答える、信長。

 別に状況を理解していないわけではない。

 ただ、そういう姿を見せることが有利に働くだろうと考えたまでだ。

 回りにいる観客達もなんとなく察しは付いている。

 その当事者たちにとっては最悪の事態が。

 

「はっ、決まっとるやろ。今まで死んでいった千三百人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月でそんなにも死んでしもたんや!それにあんたらもやろが!」

 

 そう激昂するキバオウ。

 一週間前には千人ほどの死者ではあったがこの一週間で更に死亡者が増えていたのだった。

 だが、尚も信長はとぼける。

 

「わしも?何のことじゃ?」

 

「決まっとるやろ!あんたもベータテスターなんやろ?そうやなきゃこんなに早くクリアできるわけあらへん!」

 

 そう説いた。

 それは周りの人間も感じていた疑問だった。

 なぜたった二人のパーティでこんなにも早く20階までクリア出来たのか?

 それはベータテスターであり、そういった情報を知っていたからだ。

 そう考えるのは自明の理であり、当然のことだろう。

 だが、それを意に介する事無く信長は聞く。

 

「それで、わしに何をさせたいのじゃ?」

 

「決まっとるやろ。ベータ上がり共はこのクソゲーが始まったその日に初心者たちを見捨て、始まりの街から消えよった。そんで、ボロいクエストとか稼げる狩場を独占して自分たちだけが強くなっていった。後は知らん振りや!あんたらに土下座さして、貯めこんだ金やアイテムをこん作戦のために吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんし、預かれんと、ワイはそう言っとるんや!」

 

 そして、今までの恨みを吐き出すように、キバオウは信長に叩きつけた。

 幼き少女に対してそんな憎悪を叩きつけることは鬼畜の所業と言えるが、それに同調するように周りも信長を睨みつける。

 そんな状況、中身がその姿通りの少女であるのならば、泣き出しても仕方のないことだったが、信長はそんなことはなかった。

 ただ、静かに彼らを見つめるのみ。

 そして、その、暖簾に腕押しな状況を見て、尚もキバオウは問い詰めようとした時、それは誰となく、止められた。

 不意に、信長が嗤ったのだ、獣のように。

 

「………フム、わしが……わしが……ベータテスター……とな?」

 

 そんな狂気を浮かべる信長に対し少し後ずさりする、キバオウ。

 しかし、それでも、臆することなくキバオウは反論する。

 

「そうや!あんたもベータテスターやから、こんなに早くにクリア出来たんやろ!」

 

 だが、それを受けても信長は屈しない。

 ただ遠くを見つめ、在りし日を思い浮かべる。

 

「そうであればどれだけ楽じゃったか……残念ながらわしはベータテスターではない。まあ、言っても信じんと思うから証拠を見せよう」

 

 そして、どこからか白板を取り出し、懇切丁寧に、ゲーム初日から今までにやってきたことを一から十まで全て説明する。

 その狂気とさえ言えるスケジュールを。

 まず、彼女たちはほとんど宿屋に泊まってなどいなかった。

 このSAOに於いては睡眠欲というものはちゃんと存在している。

 クリアするまでログアウト出来ないと言う状況ではあるが、意識をシャットアウトし、睡眠を取らねば脳がオーバーヒートを起こし倒れてしまう。

 故に、たとえ、ベータテスターであろうとも、宿屋に泊まり、寝る必要がある。

 だというのに、宿屋に止まっていないと言うスケジュールを聞かされた彼らは驚いた。

 しかし、睡眠は必要である。

 ではどこで寝ていたのか?

 答えは迷宮やダンジョンの安全地帯である。

 迷宮や、ダンジョンにも一時的な休憩地点としてモンスターが出現(ポップ)しないエリアが存在するのだが、彼女たちはそこで寝泊まりしていた。

 正気の沙汰ではない。

 いかに安全地帯と言えど、モンスターの唸り声やトラップの発動する音は聞こえるし、邪な行為を抱くプレイヤーも居るのだ。

 そんなところで寝泊まりするなど、この中に他に一人居るが、まともな人間のやることではなかった。

 そして、更に彼女たちはほとんど食事を食っていなかった。

 このゲームには睡眠欲の他にも食欲がある。

 まあ、実際に栄養が取れるわけではないのでどういうメカニズムなのかは知らないが、何故か物を食いたいと言う欲求は存在し、そして、それはゲーム内に存在する食料アイテムを食べることで満たされた。

 その、食欲ゆえの苦しみは耐え難く、どんなプレイヤーもコルを使い、食料アイテムを購入したりしている。

 しかし、彼女たちは、信長は行動に支障を来さない本当に最低限度で済ませ、沖田に至っては今まで何も食べていない。

 信長からすればそんなハードスケジュールは日常茶飯事であったし、最低限取れればいいと放置していた。

 沖田からすればこんなもの、斬ることには何の意味もないし、現実世界ではちゃんと点滴か何か知らないが栄養は取れている。

 こんな苦しみも病魔の方が辛い、と、全く無視していた。

 そして、そんな狂った生活に対して、攻略は、キバオウやその他初心者たちがやっていたプレイスタイルと、何ら遜色はなかった。

 特になにか特別なイベントを起こしたわけでも、特別な狩場を使用したわけでもない。

 単純にメインのシナリオにそって、攻略し、踏破し、また次へ、と繰り返しただけの何の変哲もないものだった。

 ただ、その速度が異常なだけで。

 また、使用するアイテムもそこいらのNPCが二束三文で売っているような、普通の武器である。

 特別なイベントアイテムというわけではない。

 こんなのでクリアできるのか?と思わなくもないがそれらの意見は、反論するものと沖田がPvPを行うことで解決した。

 もともと彼女は剣の達人であり、その技術を使っていただけに過ぎないと言う解説も加えて。

 まあ、ソードスキルも使わずにトッププレイヤーに属する人間たちを相手取っている姿を見てしまえば納得せざるを得ないだろう。

 また、他には特に強化された特殊なアイテムや高価なものがあるわけではない

 そして、最後の証拠と言わんばかりに彼女らは持っているアイテム、所持金を全て見せ、それらが一致していることをもって、説明を終えた。

 

「で?他に言いたいことはあるか?無いようじゃったらこちらからも言わせてもらおう」

 

 説明を終えた信長は肉食獣のようにキバオウを睨みつけながら反撃する。

 

「こうすれば、まあ、初心者であってもこのくらいの速度でクリアできるようになっておる。して、なんじゃ?キバオウ。このように命を削ってまで献身的に皆を救おうと攻略してきたものに対してあんなことを言うとは、ひどい男じゃのう?」

 

 シクシクと、傷ついてもないのに、泣くふりをしながら信長は述べる。

 対するキバオウは顔面を真っ青にし、振り下ろされる言葉に怯える。

 

「うむ、詫び、と言っておったかの?今の状況、そなたも詫びを入れねばならんのではないか?」

 

 舌なめずりをしながら、煮て喰おうか、焼いて喰おうかと、キバオウを見つめる。

 それを見る周りの者は罪悪感のために、また、巻き込まれたくないと目を伏せる。

 そして、そんな周りに味方のいないキバオウが取れる行動は一つだけだった。

 

「す、すまんかった」

 

 そう言って反射的に頭を下げる、キバオウ。

 だが、尚も信長はキバオウを追い詰める。

 

「土下座……なのではなかったかの?」

 

 それを聞いて即座に地に座り込もうとしたキバオウ。

 しかし、その動作は不思議にも信長から止められた。

 

「……フフ、冗談じゃ。そのようにあまり頭を下げるものではないぞ?別に怒っておらん。まあ、ちょっとした意趣返しじゃ。許せ」

 

 急に先程までの苛烈さを隠し、優しく諭す信長。

 その信長の近くには、こうして人を落としていくんですね、とどこか遠い目をする沖田がいた。

 

「まあ、わしらのやってきたことは他のものからすればおかしなことじゃからの、そう思うのは仕方のないことじゃ」

 

 そんな風にゆるりと、信長はキバオウの意見に対して理解を示す。

 「確かにまともじゃないですねー」、と、つぶやくように沖田も述べる。

 

「そして、お主の言うことも一理あると思う。じゃがな?これを知っておるかの?」

 

 そして、懐から一つのアイテムを取り出す。

 それは、一冊の本だった。

 

「そなたも持っておるじゃろう?」

 

「あ、ああ。確かはじまりの街で配っとった……」

 

「そうじゃ、この『ソードアート・オンライン』のエリア別攻略本。わしらの攻略は他のものと比べて早いが加速し始めたのは先程述べたとおり、迷宮区を攻略し始めてからじゃし、どんなに先に進もうと、この本はその新たな町の道具屋には必ず置いてあった」

 

 そして、それを聞き、同意するように周りの者も自分たちも貰った、と声を上げる。

 

「それで、それがどないしたっちゅうんや……」

 

「情報が早過ぎるんじゃ。まるで、最初から知っておったかのように。故にこれはベータテスターが書いたものと見て間違いなかろう」

 

 信長は自らの考えを述べる。

 懇切丁寧に、わかりやすく。

 

「のう?キバオウよ。ベータテスターの中にもこうして、狩場や、イベント等の情報をくれるものもおるのじゃ。無論、そなたが言うように見捨てていったものがおらんかったとも言わん。じゃがな、そうやって恨み合っていてはいつまでたっても、攻略は進まん。それに、死んでいった者達はほとんどが数々のMMOをプレイしてきた玄人たちやベータテスターじゃ。情報を持ち、強力なレアアイテムを手に入れた。そして、今までもいろんなゲームをクリアしてきている。そう言う慢心がこれほどまでに死者を生み出したといえる」

 

 だから、恨みを飲み込め。

 そう、信長はキバオウに、いや、ここに集まった全ての者達に述べる。

 

「まあ、納得できんという気持ちもあるじゃろう。故に……」

 

 そして、そう言って言葉を切ると信長は後ろにある白板のもとに歩み、先程まで書いていたスケジュールを消し、新たに情報を書き込む。

 今回のフロアボスの情報だ。

 

「今回、倒す敵は大型のコボルト。恐らくコボルトロードの亜種のようなものじゃろう。野太刀に近い大きく細い湾刀と斧を持っておる」

 

 そして、更に事細かに、戦って得たであろう情報を書いていく。

 その大きさ、武器、周りに付き従う雑魚敵などを事細かに。

 

「わしらが軽い偵察によって得た情報はこんな感じじゃが、一つ気になることがある。情報屋や、ベータテスターと思われる冒険者に聞いて回ったんじゃがの。武器が少し違っておるらしいんじゃ」

 

 ちなみにベータテスターと思われるものを判別した方法についてはここには記載しない。

 まあ、いろいろと酷い手を使ったことは確かである。

 その話術詐術で脅しただろうとある程度予想は付くだろうが。

 その生贄となった某情報屋は「何も知らなイ」と、そのことを聞くと怯えたとか言う話があるかは定かではない。

 

「して、本題に移るとしよう。もし、仮にこの中にベータテスター諸君が居るのならば……」

 

 そう言って信長は集まったプレイヤー達を見回す。

 その反応を見るために。

 まだ、見知らぬベータテスター、いや信長からすれば情報を提供し、馬車馬のように働かせる予定のカモを探すために。

 

「武器やアイテム、所持金を差し出せとはいわん。ここに残っている者は死んでいった者達とは違い、慢心を捨て攻略に貢献しようとしてきた精鋭じゃ。そのようなことをしては攻略が遅れる。じゃが、攻略のために一つだけ欲しいものがある」

 

 尚も、信長は続ける。

 その意見を、一挙手一投足を見逃すまいと、周りの者達はその演説に飲まれる。

 信長の持つカリスマ性がそうさせているだろう。

 

「ソレは情報じゃ。攻略を円滑に、かつ、安全に進めるためにはボスに関する情報は必須といえよう。故に、わしはこの武器から繰り出されるスキルの情報、それだけが欲しい。別にお主らの生命線とも言える狩場の情報やイベントの情報を寄越せとは言わん。わしが望むのはこれだけであり、他に何も望まないことを約束しよう。また、それを言ってくれた者は攻略のために貢献した勇者じゃ。もし、仮にその者を害することがあれば……」

 

 そこで信長は一旦、言葉を区切り、雰囲気をガラリと変えた。

 先程までの優しげな様子とは違い、覇気と殺意に満ちた、常人なら怯え避けるような、絶対者としての空気を演出する。

 

「その事を為した者、わしが斬って捨てよう」

 

 そして、信長は、塵芥を斬る事に、殺人者となり、オレンジどころか、レッドプレイヤーになることに何のためらいもないと、底冷えのするような声で言った。

 この瞬間、信長はプレイヤー達に『魔王』の異名で恐れられることになったのである。




今回は長め。
書いてて楽しかったキバオウの上げ下げ。
例によってキリト君の出番なし。
エギルの出番は今回はないけど次回は出てくるよ。
つか、ディアベル今は影も形も無いな……
出番は考えてるっちゃ考えてるけど出さなくてもいい気がしてきた。


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ぐだぐだ作戦会議

前回のあらすじ
アスナ「宿屋に!」

おき太「泊まるとか!」

ノッブ「甘えじゃ!」

キリト「ア、ハイ」


 信長がその本性を見せ、凍りついた攻略会議。

 もし、仮に自分がベータテスターだ、と言って情報を話したとして、害されないとわかっていたとしても、それを明かすものは現れなかった。

 まあ、無理も無い。

 たとえ、安全を保証すると言われたとしても怖いものは怖い。

 それに、アレは脅しのようなものだろう。

 その苛烈な信長の様子を見てもそう思うものもいた。

 まあ、現実逃避に近いかたちではあるが。

 実際、普段から信長に付き従う沖田は間違いなく彼女は斬るだろうな、と確信していたが、それを心の底から理解できるものは沖田と脅されたであろう、某情報屋以外は存在しなかったのだから。

 そして、信長は広場を見渡し、出てくるものが居ないか(彼女自身は出てくるものは現れないだろうなと確信していたが)、これ以上待っても埒が明かないと、信長は言った。

 

「どうやら、ベータテスターはおらんようじゃな……」

 

 まあ、いないわけがないので、それは居ないということにしておけという、信長からの暗黙の脅しではあったが、そのようにして、その場は収まった。

 そして、信長は次の議題を告げる。

 それは一部のプレイヤー達に取っての地獄。

 すなわち――――。

 

「では、先ほどの禍根は忘れて攻略のためにパーティを組んでくれ。レイドの関係上5、6人ほどでな」

 

 はい、好きな人と班を作って―(みんなのトラウマ)である。

 それを受けて、焦る数人のプレイヤー達。

 ほとんどの者達はもともとパーティを組んでいたが、そんな中にも6人に満たない、少数で組む者たちや、ソロプレイヤーも居た。

 だが、そんな少数のパーティたちも、同じく少数のパーティの者達と組んでいき、その枠は次第に埋まっていく。

 そして、最終的には数分足らずで、7組の6人パーティが出来上がっていた。

 そんな様子を満足気に眺める信長。

 彼女自身は自分が動かずとも攻略が進む、その状況を求めていたからだ。

 また、彼女の能力は先程の演説だけでなく、実務面でも優秀だ。

 現実世界においてもそう言った人事はある程度こなしているし、そう言ったことには慣れている。

 そして、そのメンバーを見聞し最小限の人数を入れ替えることでバランスの整った、目的別のパーティに仕上げていった。

 しかし、そんな中にもあぶれるものというものは居るようで、先ほど矢面に立ったキバオウでさえもパーティを組んでいるというのに、そこには取り残された二人の人間が居た。

 一人は黒い服に包まれた、ともすれば少女にすら見えるような少年。

 一人はフード付きのローブを被ったレイピア使い。

 顔は隠しているが多分髪の長さから女。

 その二人だった。

 

「……どうやらお主ら、あぶれたようじゃの」

 

 それを見て、可哀想な目で見る信長。

 その表情は彼女にしては珍しく慈愛に満ちており、聖女のようだった。

 だが、それを受けてローブの女は反論する。

 

「あ、あぶれてなんか無いわよ!ただ、周りが皆お友達だったみたいだから遠慮しただけ!」

 

 そう、述べた。

 その声は甲高く、様子を見てとるにどうやら妙齢の女性というよりは少女に近いのだろう。

 そんな、僅かな邂逅だけで信長はそう判断した。

 

「それをあぶれたと言うんじゃがな……。まあよい。もともと、わしとオキタは余ったグループに入る予定じゃったからの。見た感じそなたらは普段ソロで行動しておるのじゃろう?わしらもコンビとはいえど基本的な動き方はソロに近い。故に、遊撃手として様々な班の連携やサポートを取る、といった風になる予定じゃ」

 

 そう、簡単に作戦を告げる。

 そして、それを受けてパッと見ただけでそんなことまで分かるのか、と黒服の少年は感心する。

 

「なに、人を見ることには長けておるからのぅ。勘に近いがまあ外れてるわけではあるまい?」

 

 和気藹々と信長はそう言う。

 そして、和やかにチーム作りは終わるはずだった。

 その次の瞬間までは。

 信長は不意にその黒服の少年の耳元に顔を近づけ、囁く。

 「そうじゃろ?ベータテスター殿」、と。

 戦慄する黒服の少年。

 何か言おうとするが、硬直していたわずかの間に信長は去ってしまっていた。

 何かあったの?、とローブの少女は固まる黒服の少年を見る。

 どうやら周りには聞こえていなかったらしい。

 なんでもないと、少年はごまかす。

 また、会話を遮るように少年が目線を反らすと他のパーティと作戦について話す信長と目が合った。

 そして、黒服の少年の脳裏から、その信長のニヤリと笑う表情が離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 ある程度、攻略方法について話し終え、ドロップアイテムの配分についても、コル(お金)はレイドを構成するメンバーによる自動均等割振り、アイテムについてはゲットした人のもの、ということに決まり、信長は攻略の日程について話し始めた。

 

「さて、攻略に移りたいところなんじゃが、いきなりと言っても問題があるじゃろう?普段組んでおらぬ、メンバーと組むものもおるし、そう言った人間と慣れることも必要になるじゃろう」

 

 そういって前置きを話す。

 まだ、昼の13時ではあるが会議に来ただけで、準備はしておらず今すぐは無理なプレイヤーも多い。

 だから、と、信長はそれを述べた。

 

「まあ、今までわしもオキタもほとんど飯も食っておらんし、あまり十分な睡眠を取ったわけでもない。だから、ちょっと休みたい、というのが本音ではあるのじゃが、明日の朝9時にここに集合して、簡単なディベートを行った後、攻略を開始することにしたいと思っておる」

 

 そう言って、ジョークも交えながら信長は言った。

 無論、反論などあるわけもない。

 ここまで攻略するのにその精神を削ってまでしてきた立役者である。

 そんな意見を言えるはずもないし、それに、明日までの時間を使ってそのパーティでの簡単な動作確認も出来る。

 故に、皆、納得した表情で頷く。

 

「では、これで質問がなければ終わりにしたいと思う。何か皆の前で聞いておきたいことはあるか?」

 

 そうして信長は会議を締めくくろうとするがそこで、一人の男が挙手した。

 

「発言いいか?」

 

 張りのあるバリトンボイスが昼下がりの広場に響き渡る。

 辺りの者はその姿を一斉に見た。

 

「なんじゃ?」

 

 その声に信長は問う。

 発言した男は大きく、身長は190はあるだろうか。

 筋骨隆々で肌の色は黒く、また、その顔立ちは彫りが深い。

 頭はスキンヘッドであり、人種からして、日本人ではないと、皆が理解できる風貌だった。

 

「俺の名前はエギルという。一つだけ聞きたいことがある」

 

 そして、エギルと名乗る男は自己紹介もほどほどに質問に移った。

 

「先程、君達の技量をPvPでみせて貰って気になったんだが、この攻略会議を開かなくても、まして、人を集めなくともその腕前ならクリア出来たのではないか?」

 

 そう、エギルは問うた。

 まあ、もっともな質問である。

 たった二人ながらボスとの偵察戦をこなし、またここまで最前線も最前線で戦ってきたプレイヤー。

 こんな風に人を集めなくともクリア出来たのではないか?と疑問に思うのも仕方のないことだった。

 そして、それを聞いて周りの者達も疑問を抱く。

 信長は内心、コイツ厄介じゃな、と警戒の意をそっと心のなかに隠した。

 

「確かにそうじゃな。クリア出来たかもしれん」

 

 しかし、その内心に反して、信長はその疑問に素直に応える。

 それを聞きざわめく、周りの者達。

 クリアできない、と言うのならば協力することに異議はないが、出来るというのであれば話はまた違ってくる。

 故に、その理由を知りたいと思うのは当然のことだった。

 

「まあ、言ってしまえば流石に無理が出てきたから、ということじゃな。先程も説明したようにわしらは無理に無理を重ねてここまでやってきた。まだ、このプレイスタイルでやっていくことは出来るとは思うんじゃがそれでもどこかで歪みが生じることはあろう。故に今後のためにそなたらを巻き込んだ。そういうことじゃな」

 

 そして、信長はその質問に懇切丁寧に答える。

 恐らくその本音を隠して。

 しかし、それに気づけるものはその無理を通してきた沖田しか居ないだろう。

 最後までこのプレイスタイルで保つだろうと確信している沖田しか。

 尚も信長は続ける。

 

「こうして、わしらはトップを走り続けてきたわけじゃが、もし仮にわしらが倒れてしまった時、そこに残されるのは今までボスを一度も倒していない、プレイヤー達。そんな状況、わしらが無理心中に巻き込むようなものじゃ。だから、わしらの責務として、比較的安全に攻略できるであろう今だからこそ、その経験を積んでもらいたい。そう考えたわけじゃ」

 

 そこに矛盾はない。

 集まったプレイヤー達はその意見に同意し、そこまで自分たちのことを考えてくれていたのか、と感激するものも居る。

 また、この中に数人潜んでいるベータテスターやLAボーナス(ボスモンスターに最後に攻撃したものに与えられるアイテム)の情報を得て知っている者達は、それを手に入れる機会を得たとばかりにほくそ笑む。

 そして、そんなチャンスを不意にする彼女らは、やはりベータテスターではないのだと確信する。

 まあ、実際、LAボーナスについては信長は知って居るのだが、そんなものは、この真の目的に比べればどうでもよい。

 『善意の第三者』として、攻略に携わり続けるという目的のためには。

 ベータテスターと思われることもなく、攻略に尽力したものとして確固たる地位を築く。

 それが、信長の目的だった。

 そうすれば戦場をコントロールし、出来る限り死者は減らすことが出来るし、そういったものがベータテスターを擁護することで迅速に攻略を進められる。

 そう、信長は考えていた。

 また、それは沖田と二人で攻略を続けるよりも概算は高い、そう踏んだだけのこと。

 そして、それはもう既に九分九厘、完了している。

 後は犠牲を出すことなくクリアするだけ。

 それについてもうまくいくと言う自信があった。

 また、キバオウという乱入者が思いのほか役に立ってくれた。

 信長は高らかに心のなかで勝利宣言をする。

 このために一週間という時を使ったのだ。

 『勝兵は先ず勝ちて然る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて然る後に勝ちを求む』。

 孫子の兵法の一節であるが彼女はその通りに準備を重ね実行したのだ。

 故にそれが上手くいったことでほくそ笑むのも仕方ないだろう。

 しかし、エギルはそんな信長の様子を疑問に思っていた。

 先ほどのような苛烈さを持つものが、果たしてそんな善良な理由で動くだろうか、と。

 だが、戦は決している。

 そのロジックは一分の隙もなく、突くことは出来ない。

 また、その牙城を崩すために、エギルが偶然手に入れた情報であるLAボーナスについて聞き、揺さぶりをかけたところで、それを口にすれば恐らく、というかほぼ確実にアイテムを巡っての争いが勃発し攻略に甚大な被害をもたらすであろう。

 そんな何も出来ない自分を思ってか、エギルの内心は苦いものだった。

 

(……完敗だな。先ほど彼女は情報屋やベータテスターに攻略情報を聞いたと言っていた。その方法については話さなかったが恐らく褒められるようなことではないだろう。しかし、それを公に晒すことは出来ない。彼女が何を企んでいるのかは知らないが、それが悪いことではないことを願うほかないな)

 

 そして、エギルは参ったという意思を込めながら「質問に答えてくれてありがとう。これで『安心して』戦える」、と言った。

 それを聞き信長はエギルだけに分かるように、フフンと嗤う。

 そう言った心理戦を行える相手がいる。

 思いの外、そういうことも知れたのでで信長は会議に十分に満足していた。

 才あるものは敵を、戦うに値する者を求めるのである。

 まだまだ、このゲームは自分を退屈させないな、と心の内で期待しながら会議の終了を宣言する。

 

「うむ、他には質問はないな?では、これにて、会議を終了する。あと、わしはこの広場近く、そこの建物に宿をとる予定じゃ。何か、疑問ができればその都度聞きに来てくれて構わない。まあ、流石に深夜に聞きに来たら追い出すがの。では、解散」

 

 そうして、一時は殺伐としながらも和やかに会議は終わった。




エギルの見せ場。
まあ原作と違ってベータテスターを擁護しなかったからね。
こういう感じになった。
そしてようやくキリト君出せた……

しかしディアベル君どこ行ったんだろうね?
本当に空気だ……


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ぐだぐだ陰謀会議

前回のあらすじ
ノッブ「勝ったぞおき太!この戦い、わしらの勝利じゃ!」

おき太「……」

ノッブ「……なんじゃその目は?」

おき太「いやそのセリフは言わないほうがいいかと……」


 サボテン頭の男、キバオウは激怒した。

 目の前に居る青髪、恐らく、染めたであろうそのウェーブするような髪を持つ男から告げられた言葉に。

 時は先程の攻略会議に遡る。

 キバオウはパーティを組め、と言われ不安になっていた。

 それ以前にこのゲームを攻略するために死に物狂いで尽力してきた、自分たちにとっても大恩人と言える少女たちを傷つけていたのだから。

 彼女らは禍根は残さないし、気にしないと言っていたがそれでも振りかかる火の粉を避けようとするのが人間と言うものであるようで、キバオウは誰に話しかけることなく、話されることなく、ぽつんと、一人取り残されていた。

 

(まあ……しゃーないわな。ワイの勘違いで、あんなに頑張っとった子を私刑(リンチ)にしてしもた。せやから、これは罰なんやろうな)

 

 そう、自省する。

 キバオウ自身はそんなに悪い人間というわけではない。

 ただ、思ったことが口が出やすいだけの少し悪ぶったどこにでも居るような男であった。

 だから、表には出さないが、そう思うのも仕方のないことだった。

 しかし、そんなキバオウに救いの手はもたらされる。

 不意に後ろから話しかけられたのだった。

 

「あー、君。もしかして一人かな?オレ、ディアベルっていうんだけど良かったら俺たちとパーティを組まないか?」

 

 今、目の前に居る男、その人である。

 彼はその青髪のように爽やかな男であった。

 

「ああ……、でもええんか?ワイ、あんなことやらかしてしもたし……」

 

 キバオウは先ほどの出来事のせいで上手くやっていけるか、不安になっていた。

 だが、そんなことを意に介する事無くディアベルは笑って言う。

 

「別に気にしないさ。それに彼女たちも気にしないと言っていた。だから、むしろ入れないと彼女たちに悪いさ」

 

「ディアベルはん……」

 

 それを聞いてキバオウは感激する。

 こんな自分にも、優しくしてくれる人がいる。

 その事実だけで、キバオウの士気は高まっていった。

 

「どうやら組めたようじゃな。ではそれぞれの役割を言うとしよう」

 

 そうして、しばらくたった後、このレイドの責任者である、信長が現れ、作戦について述べる。

 レイドの構成は重装甲の壁役が3つ、高機動高火力のアタッカー部隊が3つ、その連携を上手く取るサポート部隊が2つ。

 よく考えられた、シンプル故に破綻の危険性の少ない構成。

 また、このレイドのリーダーである信長達は、そのサポート部隊に属しているが、それは別に彼女たちが死のリスクを恐れているわけではなく、指示をする立場である以上、そこに居るほうが全体を見て行動出来るだろうと考えてのことだった。

 それに、彼女たちのような実力を持つ人間が後ろに控えている。

 その事実だけで人は安心できるものである。

 故に、皆その構成に納得していた。

 そして、キバオウの部隊はと言うと――――。

 

「ええんか?こんな重要な役。ワイはさっきあんなこと言ってしもて……せやから……」

 

 キバオウはアタッカー部隊に属していた。

 しかもその中核を為す、メインの部隊へと。

 それに対して、自分がこんな大役を任されていいのだろうか、と不安になるキバオウ。

 しかし、それに対して信長は挑発するように言った。

 

「……重要な役だからこそ、そなたに任せるのだ。何、汚名返上の機会を与えてやったと考えてくれれば良い。それとも何か?そんなチャンスをくれてやったのに臆するような腰抜けなのか、そなたは?」

 

 それを聞き、更にテンションが上がるキバオウ。

 もう、キバオウは負ける気がしなかった。

 これほどまでにお膳立てされた最高の状況。

 まるで、自分が主役であるかのような錯覚を起こす。

 その影では「これって一種の悪質な洗脳ですよね……」と、つぶやく沖田が居たがそんな声は風に溶けて消えていった。

 そして、また時は戻る。

 

「それで、ディアベルはん。話って何なんや?」

 

 キバオウはディアベルに呼び出されていた。

 パーティの運用や、明日への準備の話をするのかと思っていたが他に人は居ない。

 

「少し、気になることがあってね……」

 

 そういって、もったいぶるようにディアベルは話し始める。

 

「キバオウさん。あなたはLAボーナスって知っているか?」

 

 LA(ラストアタック)ボーナス、それはボスモンスターに対して最後に攻撃したものに与えられる特別なアイテムのことである。

 しかし、キバオウは初心者であるが故にそれを知らなかった。

 

「いや?何なんや?それ」

 

 そして、ディアベルは丁寧にそのことについて説明し始める。

 

「つまり、何や、アンタはそれを取りたいってことか?」

 

 ディアベルからの説明を聞いたキバオウは単純な思考故に、そんな答えが思い浮かんだ。

 彼らの役割はレイドにおける、アタッカー部隊。

 それもその中核を為す部隊だ。

 そう言ったチャンスは他の部隊と比べてより多く回ってくるだろう。

 だから、その機会を手にするため、協力してくれないか?、と、そういう話になるとキバオウは思っていた。

 しかし、ディアベルはそれを否定する。

 

「いや、そうじゃない。俺は別にそれを誰がとってもいいと考えてる。……このレイドに潜む、不和の種以外は」

 

 ディアベルは深刻そうな顔でそれを語った。

 

「不和の種?何やそれは?」

 

 キバオウは訝しげにそれを尋ねる。

 

「キバオウさん。あなたは言っていたね?ベータテスター達は初心者を見捨てて先に進んで行ったと」

 

 キバオウの脳裏に苦い思い出がよぎる。

 それもそのはず、つい数時間前の出来事だ。

 

「……ああ。でもそんな酷いやつばっかや、あらへんのやろ?」

 

 しかし、自省していたキバオウはもう彼らのことは全く、とは言えないが気にしていなかった。

 今後の攻略のため、飲み込むだけの度量が男には必要だ。

 信長から与えられた答えではあったが、キバオウは納得していた。

 だが、それを揺さぶるようにディアベルは告げる。

 

「ああ、確かに彼女たちも言っていた。助けてくれたベータテスターたちも居たと。でも、もし今回のレイドに初心者たちを見捨てていくような、酷いベータテスターが居る、としたら?」

 

「なんやて!?」

 

 それを聞きキバオウの鼓動は跳ねる。

 その恨みの種は完全に消えたわけではなかったのだから。

 そして、その芽は出てしまった。

 

「あの後、キバオウさんの言葉が少し気になってね。情報屋、『鼠』のアルゴに大金を積んで聞いてみた話なんだが……」

 

 そういって、ディアベルは話し始める。

 あの、攻略会議に居た黒ずくめの少年。

 確か名前はキリトと言っただろうか。

 その少年が昔、この浮遊城(アインクラッド)ではないもう一つの浮遊城(アインクラッド)、ベータテスト時において、そのLAボーナスを汚い手段で取りまくっていた話を。

 それを聞き、キバオウは憤慨する。

 

(あのガキ……ワイが見渡した時に一瞬固まりよったがそれが原因か……よくも謀ってくれたな……)

 

 そして、その怒りとともに、キバオウは自分を助けてくれた恩人、(まあ沖田からすればマッチポンプ)である彼女らのことが思い浮かんだ。

 

「あ、あの嬢ちゃんらはそれ知っとるんか?知らんかったら……」

 

 キバオウは慌てる。

 しかし、そんな様子を見て冷静になだめすかせるようにディアベルは言った。

 

「お、落ち着いて、キバオウさん。多分、彼女たちは、詳細は知らないけれど、なんとなく勘付いていると思う」

 

 そして、ディアベルはその推論を述べた。

 

「彼女たちはボスの情報を集める過程で多分そう言った噂に近い話を耳にしているはずだ。そうでなければ彼女たちのような凄腕のプレイヤーがサポート部隊に入るわけがない。特にオキタさん。彼女の技量はとんでもない。リーダーであるテンマさんは裏方に回るとしても、せめて彼女だけでもアタッカー部隊に入れるのが普通なんじゃないのか?」

 

 そういって、ディアベルはパーティの不自然さについて説明する。

 そして、思い出されるのはあのPvP。

 ソードスキルを使っていないにもかかわらず他を圧倒していた。

 その速度から恐らくステータス配分はAGI特化であり、ちょうど高機動高火力であるアタッカー部隊と合致する。

 故に、彼女を入れないなどありえない、と。

 まあ、実際のところは自分たちが居なくともやっていけるように、経験を積ませるためにあえて外しているというのが答えなのだが、それを無視してディアベルは話した。

 

「つまり、あの嬢ちゃん達は怪しげな雰囲気は感じとるけど、それが何か分からんから警戒の意味を込めてあのパーティ組んだっちゅうことか?そんなまどろっこしいことせんでもレイドから、あのガキ外せばええんとちゃうんか?」

 

 キバオウは単純な思考のために、一足飛びのような答えを口にする。

 その分かりやすすぎる考えを、やりにくいなと思うディアベルであったがそんなことは少しも出さずに優しく諭す。

 

「……多分、彼女たちには理想があるんだと思うよ。攻略のため、皆一丸となって、協力する。そこにベータテスターも初心者も関係ない。そんな、理想を。彼女たちも言っていただろう?『恨みを飲み込め』と。でもオレは……」

 

 そんな狼藉を働くものは許せない、と、ディアベルは暗に言った。

 そしてそれはキバオウも同じである。

 こんな自分を許してくれた彼女たちを、みんな仲良くやっていける、夢物語を抱く少女たちを傷つけるなど許せない。

 だから、キバオウはそれに応えようとした。

 

「……なんか、ワイに出来ることあるか?」

 

 ディアベルの策はここに成った。

 食いついた、そう心の中でほくそ笑む。

 

「ああ!少し協力してもらいたいことがある」

 

 そう言って彼は考えた、その策について説明する。

 

「少し、遠回りすぎやないか?」

 

「いや、あまり動きすぎて、彼女たちに気づかれでもしたら大変だ。彼女たちにはまだ夢を見ていて欲しい。それが大人として、いや男としての義務じゃないか?」

 

「せやな。まあ、細かいことは分からんけど行ってくるわ」

 

 そして、キバオウは席を立ち、作戦のために行動を開始する。

 これこそが不和の種であるとは、最後まで気づくことはなく、最悪の時は刻一刻と迫っていた。




これで良いのか投稿するまで2,3時間迷った問題回
ディアベルはんが吐き気を催すレベルの邪悪に……
いや別にそういうのを書きたいわけで書いたわけじゃなくて原作読んでてキバオウに協力を依頼した様子を考えたらこうなったというかキャラが勝手に動いたというかなんというか……
実際、原作でもやってることせこいですし……
髪型がワカメに似てるのが悪いのだろうか?
別に嫌いじゃないんだけどね……
あ、ちゃんとディアベルはんのかっこいいシーンも有ります
全世界120億人のディアベルファンは期待しててね


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ぐだぐだファームハウス

前回のあらすじ
ノッブ「ひどいやつも居るものじゃのう」

おき太「本日のおまいうスレはここですか?」

以下殴り合い


 所変わって、『トールバーナ』郊外のとある一軒家。

 農家、まあ、ゲーム内なので実際に畑を耕し、生活するようなそんな人達が暮らしているわけではなく、そう言う設定であるのだがその二階で件の少年、『キリト』は戦っていた。

 別に体を動かし、敵NPCと戦闘を繰り広げているわけではない。

 言うなれば、己と戦っていた。

 キリトは目の前にある扉を、ほんの少し罪悪感を抱きながらチラリと見る。

 その扉の先にはこの宿の目玉の一つである、風呂場があった。

 そして、その風呂場から目線を逸らそうと、キリトが全身全霊を持って戦っている理由がそこにあった。

 『誰か』が中に入っているのである。

 また、その誰か、というのがキリトが己と戦うことに成った理由である。

 思春期の少年にとって最強の敵、自宅に女性が入り、風呂を借りるという状況。

 そんな少年、いや男の夢とさえ言えるシチュエーションにキリトは投げ込まれたのだ。

 当然、無言にならざるをえない。

 いや、別に覗きなどをしようと言うわけではない。

 こういう状況では悲しいことに、男は悪いことをしても居ないのにそんな粛々とした空気に成ってしまうのだ。

 風呂場のドアへ、視線が動きそうになるがそれを鋼どころか、金剛石のようなその意志でこらえる。

 

(ここまで、精神力を削られることになるとは……)

 

 キリトはそう、心の中で溜息をつく。

 今、風呂場に入っている女性は、熟した、と言うよりはまだあどけない少女で、恐らく同年代である。

 そんな彼女とはダンジョンで出会った。

 彼女がダンジョンで死に物狂いで戦っているその最中、倒れた彼女をキリトが助けに入ったことでその縁は結ばれる。

 聞くところによると彼女はもう、3、4日もダンジョンに潜りっぱなしだと聞く。

 所有する武器はその辺りのNPCが売っている店売りのレイピアで強化もされていない。

 それを5本持ってダンジョンに入ったそうだ。

 また、回復アイテムの類はほとんど持たず、当たらなければどうということはないと、彼女は言う。

 そのまるで、命を削るような姿に、キリトは見ていられなくなったのか、そんな彼女に近々『第一層フロアボス攻略会議』が開かれるという、光明を教え、その場はそれで別れた。

 それで、彼女との縁はそこで切れるものだと思っていたが、どうやら続いたようで、その攻略会議にてパーティを組むことになり、その話し合いを行う事となった。

 そしてその最中、キリトは自分の泊まっている宿には風呂がある、と言ったことで急に彼女の目が血走ったものになり、押し切られ、今に至るというわけだ。

 やはり、そんな戦いを行うような女傑と言えど、リラックスできる、風呂と言うものの魅力には勝てないようだった。

 

(さて、どうする?)

 

 キリトはこの状況をどうすれば制することが出来るかを考える。

 そして、キリトは仮に似たような状況が現実で起こったとすればどうなるかを考えた。

 彼は埼玉県川越市に住み、母と妹との三人暮らしだ。

 そこで、もし何らかの偶然が重なって、同級生の女子が風呂場で入浴中だとしよう。

 ではキリトはどうするか?

 

(決まっている、即座に気配を殺してそんなデンジャーゾーンからはエスケープ。愛車のMTBにまたがってその猛る本能のままに地平線の彼方までGO!、だ)

 

 しかし、ここはゲームの中で迷宮区近くの町の農家の2階。

 彼自身もごく普通の男子中学生というわけではなく、片手剣使いの『キリト』だ。

 ゲーム上のアバターである以上、彼女が風呂場から出てきたところでアニメやゲーム、漫画の主人公のように変な状況になりうるはずもない。

 彼女が出てきたら、明日の攻略についてちょこっと話して、『明日は頑張ろうぜ!』と言って紳士的に彼女を帰しておしまいだ。

 ミッションコンプリートだ。

 そして、その前準備のために机に置かれた攻略会議で渡された、ボスの情報やフロアマップについて書かれた冊子を取ろうと動いた時だった。

 コン、コココン、と、小刻みにリズムよくノックの音が部屋に響く。

 風呂場の方からではない。

 その反対側、外へと通じる扉からだ。

 そして、これを叩いたのはこの宿の女将さんではない。

 これはとある人物との間で取り決めた、合図である。

 その不意な音に、ビクンと身体が固まるが、キリトは恐る恐る振り向き、その扉の方に目をやった。

 ふと、キリトは思う。

 この状況、不味いのでは?と。

 実際は彼女の方から来た形ではあるが、傍から見れば女性を部屋に連れ込み、シャワー浴びて来いよ、とでも言ったかのようなこの状況。

 どう見てもあどけない少女を手籠めにする、男の図である。

 まあ、今扉の前にいるであろう、『情報屋』はそのことを理解してくれるとは思うが、間違いなくからかわれる。

 そして、更に、その『情報屋』のもつ売買する情報のネタの一つに、『キリトは出会って直ぐの女性を部屋に引っ張りこむ類の男』という不名誉な情報が入ることは必至だ。

 故に、窓から部屋を脱出し、厩舎に繋がれているロバにまたがってこの場から走り去る、と言う選択肢を考えないでもなかった。

 しかし、SAO内での動物の乗りこなしは難しく、また騎乗スキルも攻略が始まってから3週間という短い期間においては鍛える余裕があるはずもない。

 チラリと、向こうの部屋を見る。

 まだ、彼女は風呂に入って十分といったところだろうか?

 女性の入浴は長いと聞くし、恐らく彼女が出てくる可能性は低いだろう。

 そして、幸い、というべきか、この世界のあらゆる扉は条件付きとは言えど、完璧な遮音性能を誇っている。

 閉じられた扉を透過する音は、叫び声、ノック、戦闘音、その三つくらいだ。

 キリトが知らないだけで他にもあるのかもしれないが、風呂場でハミングしたり、シャワーの音が漏れるなどの危険な音声は流れてこない。

 だから、この部屋に人を入れても気づかれることは無いだろう

 もし、最悪の事態、彼女が出てくるということがあれば、速攻で窓から飛び出し、この場から逃げ出そう、そう、キリトは考えた。

 この間、僅か1秒。

 まるで、戦闘中のような頭の切れ具合を発揮し、キリトは外へ繋がる廊下側の扉に歩み寄り、それを開けた。

 

「珍しいな、アンタがわざわざここまで来るなんて」

 

 即座に準備していたセリフを相手が何かを言う前に放つ。

 先手必勝、会話の主導権さえ握ることができればこの場は穏便に返すことが出来るだろう。

 万事平穏、世は事もなし、だ。

 それを受けて、扉の前に居た情報屋、『鼠』のアルゴは一瞬、訝しげに思うが、気のせいだろう、と肩を竦めて応じた。

 

「まあナ、クライアントがどうしても今日中に返事を聞いてこい、って言うもんだからサ」

 

 そして、アルゴは中に入ると、先程までキリトが腰掛けていたソファーに座った。

 その後は簡単に談笑しながら、世間話をする。

 早く出て行ってくれないか、と、内心冷や汗を流すキリトではあったが、そんな空気を出す訳にはいかない。

 チラリと風呂場の方に目線が行きそうになるのをこらえて、本題を促す。

 

「なんダ?キー坊にしてはやけに物分りがいいじゃないカ。何かあったのカ?」

 

 ギクリ、と一瞬心臓が飛び出そうになるがそれをなんとか抑える。

 

「まあな、明日の攻略のことで、聞きたいことがあってな。これからちょっと、彼女のところに行こうと思っててさ」

 

 そう、キリトは取ってつけたように自分は忙しいんだと、話す。

 嘘は言っていない。

 気になることがあったし、行こうと思っていたのも事実だ。

 だから、怪しまれることはないだろう、と、キリトは判断した。

 しかし、そう口にした瞬間、アルゴの様子が変わった。

 別に、キリトの緊張がアルゴに伝わったわけではない。

 まるで、お化けでも見たように一瞬表情を硬直させ、キリトが客に、と出したマグカップをゴトリと床に落とした。

 

「……彼女って、今日の攻略会議のカ?」

 

 震える声で、アルゴは言葉を漏らす。

 その、怯えようは尋常ではなく、何かあったことが一目で分かる。

 

「あ、ああ。ど、どうかしたのか?」

 

 そのアルゴのあまりの豹変ぶりに慌てる、キリト。

 それを聞いて、アルゴはハッとしたように何でもない、と返す。

 なんでもない訳がない、とは思ったがアルゴが話したくないのであれば別にいいだろうとその話をそこで終えようとする。

 まあ、キリト自身もこの場を早く済ませたいという、ある種の利害の一致があったためではあったが。

 しかし、それで、この状況は終わらなかった。

 いや、これが始まりだったのかもしれない。

 不意に、またコンコンと扉をノックする音が聞こえる。

 そして、そのいきなりの音にビクリとアルゴとキリトは跳ね上がった。

 アルゴとキリトの目線が合う。

 多分この瞬間、これ以上ないほどに、キリトとアルゴは通じあっていた。

 動物が本来持つ、直感というべきか、第六感とでも言うべきか、生存本能と言ってもいいかもしれない。

 その何かが警鐘を鳴らす。

 二人の脳裏には『噂をすれば影』とか言うことわざがよぎっていたであろう。

 だが、そんなのは気のせいだ、そんな都合のいい話があるものかと、アルゴは現実逃避に近い形で、気にしないことにした。

 そして、アルゴは、出ないのか?と目でキリトを促す。

 また、キリトは出ないわけにも行かないので扉の前に歩み寄り、意を決して扉を開く。

 開かれた扉の先、そこには――――。

 

「先ほどぶりじゃな。ベータテスター殿?」

 

 やはりというべきか、期待通りというべきか、その件の少女が立っていた。




魔王襲来。
書いてて楽しい怯えるアルゴ。
まあ、禿鼠(秀吉)従えてたノッブに鼠のアルゴが勝てるわけもない。
あとそろそろサブタイトルのネタが尽きてきた
次回のタイトルどうしましょうかね


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ぐだぐだソードダンサー

前回のあらすじ
ノッブ「出番のないおき太ワロタw」

おき太「あなただって最後の一文だけじゃないですか!」

以下殴り合い


 広場近くの宿屋前、そこで一人の少女が剣を振るっていた。

 袈裟斬り、唐竹、突き、何もない虚空へとその刃を降ろす。

 その様はソードスキルのように流麗で、実際はそんなものを使っていないというのに、『型』に嵌っていた。

 

「んー、やっぱりしっくり来ませんねえ……。『刀』があればいいんですけど」

 

 そう言ってその彼女は手に握る剣を見る。

 その持ち手には護拳と呼ばれる、鍔迫り合いの際、指を落とされないようにする機構がついており、また、その刃は直線上ではなく曲がっている。

 一般に『サーベル』と呼ばれる、西洋刀であり、斬り合いに適した『刀』に近いものであるが、やはりその使い勝手は違うようで、素人目には分からないがその細部に彼女は首を傾げていた。

 そして、また剣を構える。

 先程は『型』の確認を行っていたが、今度は明確に敵をイメージする。

 想像するのは明日、戦う予定の敵、『イルファング・ザ・コボルトロード』。

 武器は大きな、野太刀に似た曲刀と、骨を削った無骨な斧を持ち、防御手段としては皮を張り合わせたバックラーを持っている。

 

(……確か最初は斧と、バックラーで攻めてくるんでしたね)

 

 その情景を思い浮かべ、跳ぶ。

 振り下ろすような斧の攻撃。

 それに合わせるように後ろに下がる。

 斧は地にめり込み、当たれば一瞬で死が訪れるような恐怖を与えるが彼女はそんなものは露と感じず、前に出る。

 また斧を持ち上げるためにここに隙が生じるため、近づくには絶好のチャンスだ。

 そして、戦いを組み立てる。

 

(実際なら(タンク)部隊で受け止めて、その隙にアタッカー部隊で突撃でしょうね……)

 

 自分ならフェイントを入れて、突撃する、と、一人だけで戦う情景を思い浮かべながら彼女は剣を振りぬく。

 一閃、二閃、と剣撃をコボルトの王に当てていく。

 また、三本目に移ろうとするが、不意に、その場から飛び退いた。

 周りから押し込めるようにその配下である、『ルインコボルト・センチネル』が現れたからだ。

 

(多体多ってのはやりにくいですね……。やっぱり私達だけで倒したほうがいいんじゃないでしょうか?)

 

 そんなことを考えながら涼しげに後ろに下がる。

 王を守るように現れたセンチネル達は、その手に持ったハルバードを一斉に振り下ろす。

 だが、そんな攻撃は当たることはなく、むしろ、多数で一人を攻撃するという状況だったために隙を作る。

 多人数での攻撃は行動が制限されるのだ。

 モンスター間でのフレンドリファイアがないとしても、その動作には連携するが故に穴が生じる。

 現実の戦闘においてはそうならないように熟練度を積む必要があるのだが、これはゲーム。

 プログラムされた画一の行動を取る他ない。

 そのため、彼女に懐に踏み込まれる。

 そんなSTG(シューティングゲーム)における安全地帯を見つけるような動作を平然と取る彼女であったが、普通は初見で安全地帯など見抜けはしない。

 やはり、彼女は先程の『型』を見て分かる通り、卓越した技量を持っているのだろう。

 そして、すれ違いざまに一突き。

 攻撃を一番近くに居るセンチネルに当てる。

 攻撃を当てたことで、ヘイトが彼女に向かうが、それを無視して、そのまま彼女はコボルトロードに走る。

 既にコボルトロードは斧を構え直しており、また、その斧を振った。

 今度は横薙ぎに。

 たまらず地に転がるが、間合いを把握している彼女は最小限の動きでそれを躱す。

 転がるという行為は一見不格好に見えるが前方に突撃する際には意外と有効なのである。

 そして、立ち上がり、コボルトロードを見る。

 斧は振り切られており、敵に攻撃手段はない。

 また、一閃。

 バックラーを構え防御する隙など与えず、彼女は意趣返しだと言わんばかりに横薙ぎに斬りつける。

 そして、追撃に移るかと思えたが、後ろからはセンチネル達が迫ってきているため、その懐を抜けるように走り去る。

 再度、向かってくる、センチネル達。

 その表情は攻撃を喰らったせいか怒っているようにも見える。

 また、その攻撃を躱す。

 斬る。

 突く。

 薙ぐ。

 彼女は舞うようにコボルト達に剣撃を当てていった。

 そうして、そんな動作が数十回と繰り返された時だろうか、彼女は大きく後ろに下がった。

 ふと、彼女の手元を見ると先程まで持っていたサーベルが一度消え、また同じ様相のサーベルが現れる。

 どうやら、武器交換らしい。

 実戦を想定しているためか、そんな細かいところまで彼女は再現しているようだった。

 何十回と振られた剣は耐久値が下がっているため、このまま使えば破砕し、致命的な隙が生じると考えたのだろう。

 交換を終えた彼女はまた、コボルト達に向かっていく。

 そして、そんな動作を何十回、何百回と繰り返した後、不意に彼女の動きが止まった。

 

(……これからどんな攻撃が飛んで来るんでしょうね?)

 

 そう、頭をひねる。

 回りにいる取り巻きは既に倒し終わっており、残るのはコボルトの王のみ。

 持っている武器は先ほどの斧と盾ではなく、その大きな野太刀へと変わっている。

 攻撃パターン変更があるらしいが、そこから先は彼女は知らなかった。

 

『いや、太刀相手とか、お主、調子に乗って倒してしまうじゃろう?』

 

 そういって、彼女の相方は戦わせてくれなかったからだ。

 実際、剣を使う相手に対して、我慢できる気がしないので仕方のないことだと彼女は諦めた。

 

(さて、どうしましょうか?さっき信長さんに聞いた情報だと縦斬り系が多いらしいですがそんなに甘い訳無いですよねー)

 

 そして、その姿から、攻撃をイメージする。

 居合のように神速の横薙ぎ、いや、そんな器用な雰囲気ではない。

 斬撃のようなものを飛ばす、いや、遠距離系の攻撃を使うようなもの序盤に出てくるわけはないし難易度がおかしすぎる。

 竜巻のようにくるりと360度攻撃、これが近いだろうか?

 鏖殺するような多重の斬撃、こちらもありうる。

 と、その姿から想像される攻撃を一つ一つ検分し、試していく。

 だが、彼女の頭にしっくり来るものはない。

 

(一度でも剣を交えれば分かるんですが止められちゃいましたからね……まあ、この辺にしておきましょうか)

 

 そう考え、一息つくと、辺りから喝采のような拍手が鳴った。

 どうやら、観客を集めてしまっていたらしい。

 彼女自身はあまり気にしていないが、その見た目はかなり優美だ。

 そして、そんな少女が観客達にすら敵の姿をイメージさせるような華麗な演武を行っている様を見れば見惚れるのも仕方のない事だった。

 そんな状況に恥ずかしくなったのか顔を赤らめて彼女はペコリと周りに挨拶をする。

 どうやら彼女はあまり褒められるのは慣れていないらしい。

 先ほどの姿からは想像も出来ないが、やはり、そういうところは歳相応の少女らしかった。

 

(信長さんはなにしてるんですかね?私に留守番を任せて一人でいっちゃうなんて酷い人です)

 

 そして、彼女は今は、宿に居ない仲間のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 所変わって、『トールバーナ』の郊外、農家の一軒家の二階。

 そこに信長はいた。

 目の前には黒服の少年、『キリト』と、その少年よりもさらに小柄な少女『アルゴ』。

 アルゴの顔には特徴的な三本の髭が、メイクアップされており、その見た目から『鼠』と評されていた。

 

「おや?そこにいるのはアルゴではないか?」

 

 そう言ってニヤリと笑う信長。

 その蛇にも似た笑みを見たアルゴは「ひっ!」と怯えた顔でソファーの端に後ずさりする。

 

「……何の用だ?」

 

 そんな様子を見てか、それとも出会い頭を思い出してか、無愛想な顔でキリトは言った。

 

「嫌われたもんじゃのぅ……。わし、悲しくなってしまいそうじゃ……」

 

 そして、その対応に対して、傷ついたと言わんばかりに顔を隠し、悲しそうな素振りを見せる。

 それをみて、彼はほんの少し罪悪感を覚えるがそんなものは続く言葉を聞いて吹っ飛んでしまった。

 

「あんまり悲しいと、わし、漏らしてしまうかもしれんのぅ。……そなたがベータテスターじゃと」

 

 ちゃっかりと、信長は脅しの言葉を述べる。

 信長は可憐な少女の姿をしているが、どうやらその中身はその通りではないらしい。

 そう、キリトは理解した。

 それを聞き、うっ、と息を詰まらせる。

 彼女はベータテスターを恨むなと先ほどの攻略会議では言っていたが、それでもその火は消えたわけではない。

 新規プレイヤー達は信じているからだ。

 この数週間で千人以上の死者が出た責任はベータテスター達にある、と。

 そして、それが理由で圏外を一人で歩いている時『処刑』されかねないからだ。

 だが、舐められては今後に関わる。

 だから、そういった脅しには屈しない、と彼は虚勢を張った。

 

「……用件を話せ」

 

「うむ、及第点、といったところじゃの。まあ、なんじゃ。ここは客に茶も出さんのか?」

 

 しかし、そんな去勢を見破られたのか、それともカマをかけているのかは知らないが何事もなかったかのように信長は返す。

 図々しい要求まで付け加えて。

 少年はそれを聞いて悪態をつく。

 

「……ここが喫茶店だったなんて知らなかったよ」

 

「本当につれないのぅ。顔はそこそこじゃが、女の子に優しくせんとモテんぞ?」

 

 だが、そんな悪態も容易くいなされ、更に、そういう思春期の少年を抉るような言葉も付け加えられては返す言葉がなかった。

 また、押し黙る少年を見て満足したのかカラカラと信長は笑った。

 

「まだまだじゃな。まあ、遊びはそこそこにして本題に移るとしよう」

 

 そして、信長は用件について話し始めた。

 

「それで、そのソードスキルの情報を俺が知っていると?」

 

「まあ、いろいろと調べたからのぅ」

 

 そう言って信長はチラリとアルゴの方を見る。

 どうやら、彼女に聞いたらしい。

 そして、そんな様子を見てキリトは驚いた。

 なぜなら、アルゴは絶対にベータテスターについての情報だけは売らなかったからだ。

 また、あの怯え様、どんなことをしたのか、想像もしたくない。

 恐らく、大体の情報を根こそぎ持って行ったのだろうと想像はつく。

 

「……あんた、何やったんだ?」

 

「別に()()()()()をしただけなんじゃがの。嫌われたもんじゃ」

 

 そういって、悪びれもなくやれやれと言う信長。

 その様子は脅したようには見えず、その様がなおのこと恐ろしい。

 ほんの欠片も悪いとは思っていなさそうな信長を見てキリトはブルリと鳥肌が立った。

 

「で、それを話さなかったらどうする?」

 

「別に?ただ夜道に怯える少年がこのゲームに一人増えるだけじゃ」

 

 暗にバラすぞと言う信長。

 それを聞き、キリトは頭の中で算盤を弾く。

 話せば特に何もないが、今後また同じネタで強請られるのではないかと、そう思わなくもない。

 しかし、そんな様子を読み取ったのか信長は更に続ける。

 

「……このネタは今回しか使わんよ。それにちゃんと礼金も出そう」

 

 そう言って金額を見せる。

 その額、なんと3万。

 たった一つの情報にしては破格の金額である。

 しかも、今回しか使えない情報だというのに。

 

「多すぎないか?」

 

 そうキリトが疑問に思うのも仕方なかった。

 しかし、信長はそれだけの価値があると言った。

 

「これでも安いほうじゃよ。レイドメンバー全員の命の値段と比べてはな」

 

 そして、キリトは彼女の真意を悟る。

 彼女はこの攻略に全てを掛けているのだと、そう理解した。

 元々、あんな無茶な戦闘を繰り返しているのだ。

 皆を救うためなら手段を選ばない。

 キリトは彼女の本質を見た気がした。

 故に、キリトはそれについて話し始める。

 彼がベータテスト時、もう一つの浮遊城(アインクラッド)の十層で見たスキルのことを。

 

「やっぱり、『刀』があるんじゃな。オキタが聞いたら喜びそうじゃの」

 

 満足そうに信長は言う。

 そして、最初は殺伐としたが、しめやかに終わるはずだった。

 ()()()

 不意にガチャリ、と扉を開く音がした。

 キリトの後ろから。

 

「あれ?お客さん?」

 

 この宿に備え付けられたもう一つの部屋、『風呂場』から一人の少女が現れる。

 そして、それを見た、今までソファーの端で静かにしていたアルゴはふと疑問を口にする。

 

「あれ?あっちって確か風呂場じゃなかったカ?」

 

 それを聞いたキリトは『マズい』、と鼓動が跳ねる。

 また、そんな様を見て、何かを理解したらしい信長は最悪の一言を告げた。

 

「……すまん。モテんとか言って。どうやら、女を連れ込むだけの甲斐性はあったようじゃの」

 

 そして、その先に起きた出来事をキリトは思い出したくもなかった。




沖田がなんか空気になってきてるので演武を挟んでみた。
戦闘描写って書いてて楽しいですね。
早くボス戦書きたいなあ……
まだ次回も攻略入んないんですよね……


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ぐだぐだ調略会議

前回のあらすじ
おき太「……暇ですね」

おき太「剣降ってたらなんか人集まっちゃいますし……」

おき太「……あ、茶柱立ちました」

以下ぼっち


「それで、どないするんや?」

 

 日が沈んでいき、空が赤から黒に変わり始めたその頃、ディアベルとキバオウは明日の作戦について話し合っていた。

 

「うん、これから説明するよ」

 

「それと、やっぱりあれはアカンかったみたいやわ」

 

 キバオウは作戦の一つが失敗したことを告げる。

 しかし、ディアベルはそんなことは気にせず、作戦について告げた。

 

「まあ、アレは上手く行けばラッキーみたいなものだったからね。こっちが本題さ」

 

 そして、机の上の上を見ると明日のボス戦の大まかな配置図が広げられていた。

 まず、(タンク)部隊のB1班、B2班がボスである、『イルファング・ザ・コボルトロード』の初撃を防ぎ、次いで、アタッカー部隊のキバオウ、ディアベル達が属するA1班がボスを叩き、そのヘイトを取る。

 そして、サブのアタッカー部隊であるA2班と協力して攻撃を交互に繰り返し、危なくなればB1班、B2班が壁となるといった比較的普通の戦術を取る。

 また、その配下である『ルインコボルト・センチネル』は、別アタッカー部隊のA3班が叩き、壁役のB3班とサポート班のS1班と協力して抑えこみ、最後にこのレイドのリーダーでもある信長達が属する、サポート部隊のS2班はコボルトロードとセンチネルの中間で立ち回り、取りこぼしたセンチネルを倒したり、コボルトロードを牽制し、その戦線が合流しないようにする。

 これが、彼女が考えた戦略だった。

 これにより、ボスを安全に倒せるだろうと、皆が納得していた。

 

「しかし、大した嬢ちゃんやな。役割が皆ハッキリしてて急造ながら動きやすそうやわ」

 

 そう言って、概略図を見ながらキバオウは感心する。

 少しS2班の負担が大きい気もするが、彼女たちの実力ならば上手く立ち回れる気がしていたし、そこに不満はなかった。

 

「で、この状況やとあのガキ、出し抜こうと思えば出し抜けそうやな」

 

 しかし、先ほどのディアベルの話を聞けばこの状況は不味いのでは、とキバオウが考えるのも仕方ない。

 確かに、指示を出しセンチネルの方へキリトを向かわせたとしてもその位置は全体を睨んだ中間地点。

 センチネルがいなくなれば自由に動くことが出来る。

 

「うん。だから戦線を少し広げる必要があるよね」

 

 それを聞いてディアベルは自分たちがどのように動くかを説明する。

 A1班にコボルトロードのヘイトが向かった時に、少し、下がることで、徐々に引きつけていけばいいのではないか、と推論を述べる。

 レイドのリーダーは彼女たちではあるが、パーティ自体のリーダーはディアベルである。

 故に、こういった細かい部分でなら動けるだろう、とディアベルは考えた。

 

「でも、それやと、嬢ちゃんらがサポートに入りづらいんとちゃうか?」

 

 しかし、キバオウはその意見に対して反論を述べる。

 この戦略の肝はその戦線の絶妙なバランスである。

 センチネルは3班、場合によっては4班で抑えこみ、かつ、ボスのコボルトロードに対しては4班、または5班で戦う事ができる。

 そのために、戦線が付かず、なお、サポートするために離れすぎず、そんな距離を維持する必要がある。

 それが上手く行かなくなるのではないか?とキバオウは危惧する。

 

「いや、この戦略はやっぱり、彼女たちの負担が大きすぎると思うんだ。彼の動きを警戒しながらこちらのサポートをするなんて無茶に等しい。だから、それを助けるためにこちらでも動いたほうがいいと思う」

 

 そう言って、ディアベルは、あくまでもこれも協力の一環だと言う。

 その方が自分に都合のいいことを隠して。

 実際、彼女たちは警戒するなんてことは考えていないのでこれで上手く立ち回れるとディアベルは知っていたが。

 

「それに、彼女たちのサポートが無くてもオレたちは簡単にやられてしまうほど弱くないだろう?」

 

 付け加えて、挑発するようにディアベルは言う。

 そう言われてしまえばキバオウは納得せざるを得なかった。

 

「せやな、ワイらも新規プレイヤーと言えどここまで来た精鋭。むしろこれくらいこなさな、今後やっていけんわ」

 

 彼にとってこれは汚名返上の機会。

 そう言った、彼女たちの為、というのであれば奮起するのも仕方ない。

 そして、その概略はディアベルにとって都合のいい方向へと動いていった。

 

「それで、ボスのHPバーは4本あってそれが1本削れる度に、センチネルが追加で現れるから、離れることで彼は向こう側に行かざるを得ないだろう。そして、最後」

 

 ボスの行動パターンが変化し、その武器スキルをメインとした戦いになる。

 その最後の押し込みで自分たちが攻め込めば、彼は手を出すことは出来ずに、問題なく戦闘を終えることが出来る。

 そう、ディアベルは言った。

 

「でも、これやとワイらの方でLAとってまうかも知れへんな」

 

 それを聞き、キバオウは調子に乗った感じで言う。

 プレイヤー達にとってLAボーナスは垂涎の代物であるし、もしかしたら自分が取れるのではないか、と夢を見てしまうのも無理は無い。

 ほんの少し、こちらにはいない向こう側のA3班、B3班、S1班を気の毒に思うが、元々この攻略は彼女たちの善意から開かれたものだと思っているキバオウは、自分は運が良かったのだと、それを気にしないことにした。

 しかし、それを聞いてディアベルはほんの少し暗い表情を見せた。

 

「……そうだね」

 

「なんや?暗い顔して。まあ、ワイも向こうには悪い気がするけどな」

 

 キバオウはディアベルの様子を見て、慰めるようにそう言う。

 その明るい様子を見てほんの少しディアベルに罪悪感がよぎる。

 

「いや……オレは……」

 

 そうしてディアベルは彼をこの策に巻き込んだ時の心境を思い出した。

 自分とキバオウ、何が違ったのだろうか。

 あの攻略会議の中で何度も考えた。

 そして、あの会議でディアベルは嫉妬をしてしまったのだ。

 まるで、彼が夢見る勇者のように彼女たちに選ばれるその瞬間を見て。

 このゲームが開始する前、ディアベルはこのゲームがデスゲームへと変化する前は、優しい、リーダーシップあふれる、ナイトのようなロールプレイをしたいと考えていた。

 皆に頼られ、尊敬を得る騎士。

 そんな、存在に彼は憧れていた。

 元々、彼はベータテスターであり、このゲームに関する知識は新規プレイヤーと比べて十分にあった。

 だから、その知識を分け与え、教え、導くことをしていけばそう成れると信じていた。

 しかし、このゲームが命をかけたものへと変わった事で状況は変わる。

 多くのベータテスター達はその状況で直ぐにはじまりの街から姿を消し、自らが生き残るために行動を開始した。

 だが、ディアベルはその場に取り残されてしまった。

 己が生き残るために他を犠牲にする。

 それは生きるためには正しいのかもしれない。

 しかし、彼がそうありたいと願った、ロールプレイのせいか、それとも生来の優しさのせいか、彼はそれを選ぶことはなく、周りの者達を助けるために尽力した。

 また、自分以外のベータテスター達は新規プレイヤーを見捨てていったことで、その溝は深まっていった。

 新規プレイヤー達のベータテスターへの恨みは蓄積していき、一週間で約800名が死んだと聞かされた時、それはもう取り返しの付かないものへと変わっていた。

 故に、ディアベルは本当の意味では孤独だった。

 多くの者達からの信頼を得ながらも、自分は裏切り者である、ベータテスターの一人。

 でも、今は導いてくれた自分を信頼し、集まってきた仲間たちが居る。

 だから、大丈夫だとその時までは考えていた。

 そして、会議が開かれる。

 そこにいたのは新規プレイヤーでありながら、自分より実力を持ち、攻略に尽力する者。

 そんな彼女たちに着こうと考えるものも少なくないだろう。

 ディアベルは疑念に襲われる。

 もし、仲間たちがいなくなれば自分はどうなってしまうのだろうか、と。

 そうなれば、後に残されるのは、裏切り者(ベータテスター)だという事実だけ。

 ディアベルは焦った。

 そんな状況、耐えられるはずがないと。

 だから(LA)をディアベルは望んだ。

 そして、その状況で、物語の主人公のように選ばれたキバオウを見て、彼を巻き込むことを思いついた。

 しかし、今の状況を考えればどうだろうか。

 己のために他者を騙し、力を求めるものが騎士足りえるだろうか?

 彼は純粋に、皆のために頑張ろうとしているのだ。

 そんな明るさが羨ましいな、とディアベルは心の中で思う。

 そして、笑いながら元気出せよと励ますキバオウを見て、今ならばやり直せるのかもしれない、とディアベルは逡巡する。

 だが、考えれば考える程に、既に賽は投げられていた。

 

「……なんでもないよ」

 

 ディアベルは笑って、言おうとしたことを誤魔化す。

 

「そっか?まあ、あんまり気にしすぎんなや。そんなんやと、攻略に支障が出るで?」

 

「そうだね」

 

 先程までの暗い表情を隠して、ディアベルは笑う。

 もし、ディアベルがやり直す瞬間があったとすれば多分この時だっただろう。

 しかし、彼はそれを選ぶことはなく、運命の日は訪れた。




本編より前回のあらすじのネタに困る今日このごろ
それでディアベルさんの活躍シーンその2(その1は前の登場回)
彼、原作読んでる限りだいぶ頭いいんですよね
原作だとリーダーだったからディアベルはいろいろ配置をいじれたけどリーダーではないのでこんな感じに

あ、それで次回更新ちょっと空きます
第一層ボス攻略の『星なき夜のアリア』編を一気に投稿したいので
次更新する際は話数に注意してくださいね
前回のあらすじでネタバレ食らう可能性ありますから


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