ラブフォーゼ!サンシャイン!! (ゆーふぉにあ)
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第1話 執・事・変・身

第1話、物語は春、入学式から、始まります



「お嬢様、準備は整いましたか?」

 

「えぇ、いきましょう。弦護」

 

少女の長く美しい黒髪が揺れる。

そしてその背後には弦護と呼ばれた少年が彼女の荷物を持って控えている。

 

「そうでした。ダイヤ様、こちらを預かっております」

 

少年は少女、ダイヤへと一枚の手紙と小包を手渡す。

封には祖父よりと書かれており、少女は早速手紙を開く。

 

「またお爺様のヘンテコ発明?アストロ……?」

 

「どうかされましたか?お嬢様」

 

「いえ、その小包は預かっていなさい。ただし、中身は開けないで。」

 

「かしこまりました」

 

少年はそう言って小包を自身のカバンの中へとしまいこむ。

 

「それでは参りましょう」

 

今日は浦の星女学院入学式

これは、生徒と執事と、海と宇宙の物語。

 

 

 

ラブフォーゼ!サンシャイン‼︎

 

 

 

-私立 浦の星女学院-

 

2人が学校到着するも、辺りに生徒の姿はまだ少ない。

そんな中、1人の初老の男性が2人の前に現れる。

 

「黒澤さん、天海さん。おはよう、今日も早いね」

 

「大神(おおかみ)理事長、おはようございます」

 

「おはようございます。本日は入学式ですから、ダイヤ様も張り切っていますので」

 

「弦護、そのような嘘をつくのはやめてちょうだい。私はいつも通りよ」

 

大神理事長は2人のやりとりを見て微笑むと窓から校庭を見る。

 

「入学式に相応しいいい天気になった。今年はダイヤさんの妹も入学してくるんだったかな?」

 

「……えぇ、不肖の妹です」

 

ダイヤは軽くため息をつくようにして顔をそらす。

 

「どうしてこの学校を選んだのか。私には疑問にでしかありませんわ」

 

「それならルビィ様に直接尋ねられればよろしいのでは」

 

「だから弦護はいちいち余計なことを言わないでくれないかしら?」

 

「ハハッ、確かに今年の浦の星を選ぶの人はなかなかいないからね。僕も理由を聞いてみたいよ。これ、今年の入学者一覧表」

 

そう言って理事長はクラス名簿をダイヤに手渡す。

 

「やはり一クラス分しか入学者は集まらなかったね。いや、一クラス分は集められた、とするべきかな」

 

そこに書かれているのはたった30人の名前。

そしてこの人数しか集まらなかったことで、学院は一つの決定を下さなければならなかった。

 

「ですが、これで廃校は確定ですね……」

 

全員の名前を確認し終わるとダイヤは名簿を理事長に手渡し、わずかにうつむく。

 

「仕方ないけど、これも僕の力不足だからね。せめて残りの3年間、生徒たちにはめいっぱい学園生活を楽しく過ごしてもらいたい」

 

寂しそうな表情をするダイヤと理事長だが、ダイヤは顔を上げると理事長に向かい頷く。

 

「そうですね……私も生徒会長として、尽力します」

 

「ありがとう。でも、黒澤さん、君も学院生活を楽しむことを忘れないように、悔いの残らないように過ごしてほしい」

 

「大丈夫です。私は常に完璧であり続けますから。それさえできれば、わたしの学生生活、何も思い残すことはありません」

 

ダイヤはそう言って誇らしげに右手を胸に当てる。

常に完璧であり続ける、それは黒澤家長女である彼女の使命でもあり、彼女自身の信念でもあった。

 

「私も黒澤家執事として、そして学院の用務員として、微力ならお力添えします。何かあればぜひ私に」

 

「ありがとう、天海くん。外部の人間にそこまで頼るのは申し訳ない気もするけどね」

 

そう言って理事長は頭を掻く。

 

「いえ、特別に学院内の立ち入り許可を頂いてるのですから相応の働きをするのは当然。それに黒澤家の執事として、ダイヤ様が大切に想うものを護るのもわたしの務めです」

 

「ハハハ、頼もしいな、よろしく頼むよ。さて、じゃあ私は入学式の確認をしなくては」

 

そう言い理事長は2人の横を通り抜けていく。

 

「私たちも行きましょう」

 

「はい、お嬢様」

 

かすかに不機嫌そうな表情を見せ、歩き始めたダイヤに敢えて何も言わず弦護は後に続くのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

 

「柴田ひとみ」

 

「はい」

 

入学式は例年通り、特に問題なく進行されていた。

特別な点といえば、理事長から廃校に関する知らせがあることくらいだろう。

 

「お嬢様、少しあたりを見て参ります」

 

「そう、式が終わるまでには戻って来なさい」

 

「かしこまりました」

 

(執事なのにこういう格式張ったものが苦手なのはいかがなものなんだろうか)

 

弦護はそんなことを考えながら入学式の行われている体育館を後にする。

 

「ですがこの学校も今年で無くなってしまうと考えるとやはり寂しいですね。3年間毎日通ってた身としては」

 

弦護は体育館からまっすぐに玄関方面へと向かっていた。

あたりには彼以外誰もおらず、静かだ。

 

「ち、遅刻遅刻!」

 

彼女が現れるまでは

 

「きゃっ!」

 

「おっと」

 

赤紫色の髪をした少女が角を曲がったところでちょうど弦護とぶつかる。

少女漫画もビックリなほどちょうどのタイミングだ。

 

「危ないっ!」

 

弦護はなんとか左手で少女の右腕を掴み、右腕を背中に回し、引き寄せることでなんとか少女の転倒を回避する。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

転びそうになったこと、走ってきたこと、そしてすぐ近くに知らない男の顔があること、少女の心臓は今までにないほどに激しく動いていた。そして

 

「あっ……」

 

「大丈夫ですか!?って気絶してる……?」

 

少女は目眩を起こしたのか一瞬左手で頭を抑えたかと思うとそのまま気絶してしまう。

 

「というかこの子の服、ウチの制服ではありませんね……とにかく保健室か」

 

 

 

 

〜〜〜

「以上を、歓迎の言葉とさせていただきます」

 

ダイヤによる歓迎の言葉が終わると体育館にまばらな拍手が起こる。

全員しっかりと拍手をしていても教員含めて50人ほどしかいなければそれも当然だ。

 

「お疲れ様でした。今回の挨拶も完璧でした」

 

「弦護、いつの間に戻ってきたの?」

 

「ダイヤ様の挨拶が始まるのと同時に。しっかりと聞かなければなりませんから」

 

「良い心がけですわ。でも、心にもないお世辞など言わなくてもよろしくてよ?」

 

「いえ、お世辞ではありません。お嬢様が完璧であったか、私はあなたの隣で常に見ていますから」

 

「……そう。そうでしたね」

 

「それと今日この後少し寄るところがあるのですがよろしいですか?」

 

「寄るところ?」

 

 

 

 

〜〜〜

保健室

 

「……ん、う〜ん……」

 

「目が覚めましたか?」

 

少女はゆっくりと目を開く。

弦護はその側で開いてた本を閉じると少女へ向かい微笑む。

 

「ここは……?そうだ!私遅刻して!」

 

「あぁ、まだそんな無理に身体を動かさないでください。また倒れてしまいますよ?」

 

弦護は飛び起きようとする少女をいさめる。

 

「見た所あなた、うちの新入生ではないようですが」

 

弦護は確かめるように少女の制服を見つめる。

 

「あ、えっと私転校してきた2年生で、この制服も、前の学校の制服なんです」

 

「なるほど……ということは勘違いですね」

 

「勘違い、ですか?」

 

「えぇ、本日は入学式、2年生はお休みです」

 

弦護は爽やかな笑顔でそう伝える。

 

「え、えぇぇ!?じゃ、じゃあ私今日ここに来た意味は…」

 

「全くございませんね」

 

「うわあああ!やらかしたぁ……」

 

少女は大きくため息をつく。

日付を勘違いした上に気絶して見ず知らずの人に介抱までしてもらっていた。

いいことが一つもない。

 

「来るべき日を忘れて休んだわけでもありませんし、今日で学校までどのくらい時間がかかるかもわかりましたし、悪いことだけではないのでは?」

 

「そうかもしれませんけど、バス代……まだ定期買ってなかったからなぁ」

 

再び少女は大きくため息をついてうつむく。

 

「それでしたら、帰りは私がバイクでお送りしましょう。ここで出会ったのも何かのご縁です」

 

「えっ!いやいやいや、そんな悪いですよ!」

 

少女はブンブンと大きく手を振って否定するも、弦護の意思は変わらない。

 

「問題ありません。あなたもこの学校の生徒、それなら、私が助ける理由としては十分です」

 

そう言って弦護はスマートフォンを取り出し、ダイヤと連絡を取り始める。

怒られたのか少し苦笑いのような表情を浮かべる。

 

「許可は下りました。もしご迷惑でなければ、ぜひ」

 

「そ、それじゃあお願いします。えっと」

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私、黒澤家執事兼、浦の星女学院生徒会付き特別用務員の天海弦護と申します」

 

「あ、2年生の桜内梨子です!って、執事!?」

 

「はい、執事です。といっても、まだ半分は見習いですが」

 

弦護は相変わらず笑みを崩さず少女、梨子にそう伝えるのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

「気絶してた子が目を覚ましたから送り届ける、弦護らしいというか」

 

「どーかした?会長」

 

弦護がダイヤに連絡時、ダイヤは生徒会室にいた。

その場にいるのはダイヤと生徒会副会長の2人だけ。

他の役員は入学式関連の仕事を終えると早々に帰宅してしまった。

 

「いえ、ウチの執事がまた人助けしてるだけよ」

 

「あぁ、あの優執事くん?嫉妬してるの?」

 

副会長はそう言いニヤニヤとダイヤの方を見る。

 

「その口縫い合わせるわよ、虹夏(こなつ)」

 

「じょーだんだって、そんなことよりさっさと仕事終わらせよっか」

 

副会長、水無月虹夏はそう言いながら書類の束を自分とダイヤの机の前に分けておく。

 

「……残念だったね、廃校のこと」

 

「仕方ありませんわ。私たちの学年が1クラスしかない時点で既にその方向性で話は進んでいたのでしょう。私が会長になってから半年で、やれることはあまりに少なかった」

 

「でも頑張ったよ、ダイヤは。生徒会長引退したら暇すぎて死んじゃうんじゃない?」

 

「まさか、もしそうなったらお稽古を増やしますわ」

 

「だと思った。まぁダイヤらしいって言えばらしいけど、遊べる時に遊んどかないといつか後悔するよー?お堅いことするだけが人生経験じゃないんだから」

 

「そうかもしれないわね」

 

そんな談笑をする2人を生徒会室がよく見える木から見つめる存在があった。

しかしそれに、2人は気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

「それでは、こちらへ」

 

「は、はい」

 

梨子は弦護に手を引かれ駐輪場へと向かう。

そこには既に白いバイクが用意されている。

 

「一応学校から他の場所へ緊急で移動することがある時用に常に学校に置いてあるんです」

 

「へー……本当に執事さんなんですね!」

 

「えぇ、珍しいですか?」

 

「はい、東京で見たのはメイドカフェのメイドさんや執事カフェの執事さんだけですから」

 

梨子はそう言って苦笑する。

 

「そうですか、東京には行ったことがないのでいつかは行ってみたいですね……ん?行ったことがない……?」

 

「どうかしたんですか?」

 

弦護は顎に手を当てて考え込む。

まるで何かを探るかのように深く考えている。

 

「いえ、なんでもありません。私の思い違いでした。さて、それでは出発を……」

 

その時だった。

 

「きゃああああ!」

 

一つ、大きな悲鳴が響いた。

 

「ッ!?ダイヤ様の声!梨子さん、少々お待ちください!」

 

そう言うと弦護は一目散に生徒会室めがけ走り出す。

 

「は、速っ……」

 

その余りの速さに梨子は驚愕し、呆然と立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

「ダイヤ様!」

 

弦護が部屋に飛び込むと、壁にもたれかかり、気絶した虹夏、そして、同じく気絶したダイヤを抱えたカメレオンのような怪人、カメレオンゾディアーツの姿があった。

 

「お嬢様を離しなさい、化け物」

 

弦護はそう言い戦闘態勢をとる。

 

「おっと、手を出したらお嬢様がどうなるか、わかってるよなぁ?」

 

カメレオンゾディアーツは空いている手の爪をたてダイヤの首元に触れる。

 

「チッ……」

 

「ほぉ、ちゃんと躾けられた犬だね。でも、そこじゃ近いかな!」

 

カメレオンゾディアーツは勢いよくその舌を弦護へ向けて伸ばす。

 

「うぐっ!」

 

舌による攻撃を腹部に直撃させられた弦護はそのまま吹き飛ばされ、生徒会室を飛び出し向かいの壁に激突する。

 

「さよなら」

 

カメレオンゾディアーツはそう言うとまさにカメレオンのように姿を消す。

見えないのでは追いようもない。

 

「弦護さん!」

 

そこへ走ってきたのは梨子。

梨子は壁にもたれかかり苦しそうに息をする弦護に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?何があったんですか?」

 

「いえ、少々厄介なことになりまして……申し訳ありませんが、そこで気絶している方を保健室まで運んでもらえませんか?」

 

そう言うと弦護は腹部を抑えながらも立ち上がる。

 

「いいですけど……弦護さんも保健室、いや救急車!」

 

「このくらいなら大丈夫です。師匠の攻撃の方が何倍も痛いですから」

 

「ちょ、ちょっと弦護さん!どこへ行くんですか!?」

 

「執事として、お嬢様を助けに」

 

弦護は呼吸を整えると再び駆け出す。

 

「弦護さん!?」

 

梨子が名前を呼ぶも、もう振り返る様子もない。

 

「とにかく、私も頼まれたことをしなくちゃ!」

 

そう言って梨子は虹夏へと駆け寄る。

 

 

 

 

〜〜〜

「ダイヤ様……!」

 

弦護は全速力でバイクを走らせる。

向かう先は一つ。彼女の居場所はわかっている。

 

「制服にGPSを仕込んでおいたのは正解だったみたいですね!」

 

 

 

 

 

〜〜〜

既に稼働していない小さな工場、カメレオンゾディアーツとダイヤは、そこにいた。

 

 

 

「無様だね、黒澤ダイヤ」

 

「クッ……あなた、何者ですの!?」

 

ダイヤは鎖で柱に縛られ、カメレオンゾディアーツは愉快そうにそれを見ている。

 

「言うと思ったの?でも、これだけは教えてあげる。黒澤家に恨みを持つ人間だって」

 

「黒澤家に……?心当たりが多すぎてとてもわかりそうにはありませんわね」

 

地元の名家である黒澤家、その家は幾つかの事業を展開し、家から政治家や企業家など多数を輩出しており、結果として他人に恨まれることは多々ある。

 

「そう、そうやってアンタたちは大勢の人を苦しめてるんだ。だから復讐する!」

 

「それで私をこんなところに?だとしたら、無理だと思いますわよ」

 

クスリとダイヤは不敵な笑みを浮かべカメレオンゾディアーツを見つめる。

 

「はぁ?こんな状態でよくそんな強気な言葉が吐けるのね!だったら試してあげようか!」

 

そう言ってカメレオンゾディアーツは舌を伸ばし、ダイヤの首元にあてがう。

これをダイヤの首に回し、締め付ければ、彼女は確実に窒息死する。

しかしダイヤは眉一つ動かさず、カメレオンゾディアーツのその背後を見る。

 

「えぇ、試してみたらいかがかしら?ねぇ、そう思わない?弦護」

 

「!?まさか!」

 

カメレオンゾディアーツが慌てて振り返る。

するとそこには朝、ダイヤに預かっておけと頼まれた小包、それを手にした弦護が立っていた。

 

「な、なぜここが!」

 

「試される前に助け出すのが私の使命なのですが……?」

 

「そうできると思ってるから言ったの。それで?その小包を持ってどうするつもり?」

 

身体を縛り付けられていることを感じさせないような余裕さを見せながらダイヤはそう言い放つ。

立ち位置だけ見れば悪の親玉と子分の怪人にすら見える。

 

「そうですね。実は私も、お爺様より、一枚手紙をいただきました。そして今回ばかりは、ダイヤ様のご命令を破らせていただこうかと」

 

そう言うと弦護は包みを破き、中から『ソレ』を取り出す。

 

「さぁお爺様、あとはこれの起動方法とちょっとした使い方しか手紙には書いてませんでしたが、どうなることやら」

 

ソレを腰に装着した弦護は、4つのスイッチを順に下ろしていく。

 

《3》

 

「何をするつもりだ!」

 

《2》

 

「何ですの、アレは…?」

 

《1》

 

「変身!」

 

弦護はその掛け声とともにレバーを引く。

すると辺りを白い煙が包み、弦護の真上から、降り注ぐように光が出現する。

そして次の瞬間には煙が流れ

 

フォーゼが、現れた。

 

「宇宙……キター!」

 

「う、宇宙?というかその姿、なんなの?」

 

謎のフレーズに首をかしげるダイヤ。

 

「ふざけるな!」

 

一方カメレオンゾディアーツは怒りフォーゼへ向かって駆け出す。

 

「いつだってお固くて真面目なんだから、こんなときくらい、あげて行こうか!」

 

フォーゼは拳をカメレオンゾディアーツに向けて突き出し、そう言うと同じくして駆け出す。

 

「げ、弦護?あなたその口調は」

 

「気にしないで!」

 

「は、はい」

 

ダイヤは聞きなれない弦護の口調に困惑するも、今はそんな場合ではないとそれ以上の追求を思いとどまる。

 

「まずはさっきのお返し!」

 

「ぬおっ!」

 

カメレオンゾディアーツの腹部にフォーゼのパンチがヒットし、大きく後ずさる。

 

「くそッ!これでも喰らえ!」

 

カメレオンゾディアーツはフォーゼめがけ勢いよく舌を伸ばす。

 

「同じ手はくらわないってーの!」

 

フォーゼは寸前でカメレオンゾディアーツの攻撃を避けるとそのままその舌を掴み、勢いよく引いた。

 

「うおおおお!?」

 

舌を出していても喋ることには影響がないのか叫びながらカメレオンゾディアーツはフォーゼの後方まで吹き飛ばされ、そのまま工場の中に放置されたドラム缶に頭をぶつける。

ちょうど、フォーゼがゾディアーツとダイヤに挟まれた位置に立つ。

 

「つ、強い……!」

 

「まだまだ、こんなもんじゃないよ、フォーゼの本領はこっから、らしいからね!」

 

フォーゼは一番右側のオレンジのスイッチを押す。

 

《ロケット・オン》

 

機械的なアナウンスと共にフォーゼの右腕にオレンジ色のロケットモジュールがセットされる。

そしてロケット噴射で身体を吊られるようにしてカメレオンゾディアーツへと向かっていく。

 

「ロケットパーンチ!」

 

「ロケットパンチのロケットってそういう意味じゃないと思うのだけど!」

 

「たまにはこういうのもアリでしょ!」

 

ダイヤにツッコミを入れられながらもカメレオンゾディアーツへ向けて突進する。

 

「はぁっ!」

 

しかしカメレオンゾディアーツも再び舌を伸ばすとそれをロケットモジュールに絡みつかせる。

 

 

「さっきからちょこまかと、やりたい放題やりやがって!」

 

「そういうのは嫌いだった?なら、近距離で!」

 

そのままロケットの推進力でカメレオンゾディアーツの懐に飛び込んだフォーゼは右足でカメレオンゾディアーツの顎に膝蹴りを決める。

 

「次はこれで!」

 

フォーゼはロケットスイッチをオフにするとその隣の青いスイッチをオンにする。

 

《ランチャー・オン》

 

振り上げられたままのフォーゼの右足に青い5連装ミサイルランチャーが装着される。

 

「おおっ!ミサイル!」

 

「なっ!まさか!」

 

「この距離なら避けられないよね?Fire!」

 

ランチャーモジュールから5発のミサイルが連続してゼロ距離で放たれ、爆発する。

 

「ぐあああっ!」

 

「うおっと!」

 

カメレオンゾディアーツは爆風と共に大きく吹き飛ばされ、工場の入り口付近まで、反動でフォーゼもダイヤのすぐ隣まで吹き飛ばされる。ダメージが大きく、すぐには立ち上がれない。

 

「絶対使い方間違ってるわよね!」

 

「いいじゃん?当たったんだから!」

 

「というか早くこれ外してくださらない?」

 

「あぁ、そうだね、今のうちに……とぉ!」

 

フォーゼはダイヤを縛る鎖を無理やり引きちぎる。

 

「さて、それじゃあ止めといこうか!」

 

《ロケット・オン》

 

再びロケットモジュールを装備したフォーゼはそのまま天井近くまで飛び上がる。

 

「こっちの足は何かなっと」

 

《ドリル・オン》

 

「おぉ!ドリル!男のロマン!それじゃあ決めるよ!」

 

《ロケット・ドリル・リミットブレイク!》

 

「でりゃああああ!」

 

ロケットの推進力とドリルの貫通力が、ようやく立ち上がろうとするカメレオンゾディアーツに迫る。

 

「くっ……うわあああああ!」

 

フォーゼのリミットブレイクを避けることもかなわず、断末魔と共にカメレオンゾディアーツは爆散する。

 

「うおおおおっ!?っとと」

 

一方フォーゼは地面に突き刺さった勢いでドリルに振り回されながらもなんとかドリルとロケットスイッチを止める。

 

「弦護!」

 

ダイヤの声にフォーゼは振り返ると、変身を解き、ダイヤの元へと早足で駆け寄る。

 

「お嬢様、お怪我はございませんか?あぁ、制服が汚れてしまいましたね。あとでクリーニングに出しておきます」

 

「え、えっと、弦護?」

 

変身を解いた弦護に変身時の口調の面影は一切ない。

別人だったと言われれば信じてしまいそうなほどだ。

 

「はい、どうかされましたか?」

 

「いえ、なんでもないわ。それよりあの怪物は倒したの?」

 

「はい、と言いたいところですが、手応えがありませんでした。それに何より、あの怪物は人間が変身した姿でその痕跡すらないとなると、寸前で逃げたか、それとも怪人の姿は鎧のようなもので中身の人間はまだ無事なのかもしれませんね」

 

そう言って弦護は爆発が起きた地点を見つめる。

そこに残されたのはドリルによって抉れた地面とその周辺の黒焦げたコンクリートのみ。

 

「そう……あの怪物、黒澤家に恨みを持っていると言っていたわ」

 

神妙な顔をするダイヤを見て弦護は何かを閃いたかのようにパチンと指を鳴らす。

 

「ルビィ様がご心配ですか?」

 

「なんでそこでルビィが出てくるのよ!」

 

「一応お約束かと思いまして」

 

「いらないわよそんなの!全く……相変わらず一言余計なのは治らないわね。そんなことより、あなた送っていくって言っていた子はどうしたの?」

 

「あっ……」

 

すっかり頭から抜け落ちていた梨子の事を思い出し弦護は頭を抱えて座り込む。

 

「しまったああああ!ダイヤ様、すぐに学校に戻りましょう!」

 

「はぁ……そんなんだから半人前なのよ、相変わらず私やルビィのことになると暴走するの治らないのかしら」

 

そしてダイヤと弦護は大急ぎで学校へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動き、だしたね」

 

「えぇ、静かに、ですが確かに」

 

暗闇で辺りが覆われたその部屋に1人の男、そして辺りに控えるのは3人のゾディアーツ。

 

「フォーゼ、ゾディアーツ、コアチャイルド、そして…人間。私の元で、どう踊るのか。楽しみだよ」

 

男はそう言って手に持ったゾディアーツスイッチを見つめるのだった。

 




仮面ライダーのオリ主、サンシャインキャラ、ともに書くのは初めての試みなのでお見苦しい点も多々あるかと思いますが、暖かく見守っていただければと思います


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星・座・正・体

お久しぶりです。
お待たせの第2話です
アニメが始まりましたね。
ですがこの作品はアニメと同じストーリーは(おそらく)辿りません。
曲名や設定の一部流用はするかもしれませんが



「ありがとうございました」

 

梨子はようやく家に送り届けられ、弦護に向かい深々とお辞儀する。

 

「いえ、むしろ余計に時間をとらせてしまって申し訳ありません」

 

弦護は苦笑しながら梨子に顔を上げるよう促す。

 

「そんなことないです!本当に助かりました。これで明日からはバッチリ学校生活を送れそうです」

 

梨子は両手を激しく振って弦護の言葉を否定して、今度は笑顔でガッツポーズをしてみせる。

 

「それは何よりです。もし、またお困りでしたらぜひ私にお声掛けください。私は基本的に、ダイヤお嬢様が学校にいらっしゃる間は校舎の中にいますので」

 

「は、はい、ありがとうございます!」

 

そして弦護は念の為、と一枚の名刺を差し出す。

 

「急いで連絡が取りたいときはこちらの番号にお願いします。もちろんいつでも、というわけにはいきませんが」

 

そう言うと弦護は再び微笑み、一歩下がる。

 

「それでは、失礼します」

 

「は、はい!」

 

そう言うと弦護はヘルメットを被りバイクを発進させる。

 

「弦護さん、いい人だったな」

 

梨子は弦護の名刺を片手にそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

黒澤ダイヤ自室

 

 

「おじいさま!?何ですの、あのベルトは!というかあの怪物は!」

 

『ハッハッハ!驚いたかの?ありゃゾディアーツっちゅう怪物じゃ!』

 

「驚いたかの?じゃありません!弦護がいなければどうなっていたのか……知っていて隠していたのですか?」

 

『教えたところでお前じゃ信じなかったじゃろ?だったら直接見てもらったほうが早いわい。まぁ、こんなに早く動き始めるのはちと想定外じゃったがな』

 

 

虹夏も家に送り届けて帰ってきたダイヤはPCでのテレビ電話で怒鳴りつける。

その画面の向こうにいるのは、おじいさま、と呼ばれるには少し若く見える男。

しかし彼こそがダイヤの祖父

 

「響輝(ひびき)様、お久しぶりです」

 

『おぉ弦護か!どうじゃ?フォーゼは!?』

 

弦護はダイヤと祖父、黒澤響輝の会話に混じるため、ダイヤの横から顔をのぞかせる。

 

「身体にすごく馴染む感じがします。アレ、高速移動とかできませんか?」

 

『こ、高速移動かの?うむ、モジュールではない機能としてならつけられるかの……』

 

「弦護、その話は後です。とにかくおじいさま、全部説明していただきますからね」

 

『おーおー、わかっておるわい。週末にそっちへ行く。弦護、とにかくダイヤとルビィのこと、頼んだぞ!』

 

「かしこまりました」

 

「ちゃんと説明してもらいます。いつものように雲隠れはさせませんからね!」

 

 

『わかってるわい。わけわからんまま弦護に戦わせるわけにもいかんからの。それじゃあワシはルビィちゃんへのプレゼントを準備せねば』

 

そう言ってテレビ通話は消える。

 

「本当にわけが分からない人……弦護、お迎えのためにおじいさまの部屋の掃除を念入りにしておきなさい」

 

「はい、かしこまりました」

 

そう言って弦護は部屋を後にしようとドアノブに手をかけ、ダイヤの方を振り返る。

 

「そうでした、お嬢様。あの怪物は【黒澤】に拘っていた、とおっしゃっていましたね?ルビィ様にこのことは」

 

「言わないで。それに確か、ルビィの護衛には【彼】が付いているのでしょう?」

 

ダイヤはそう言って腕を組み弦護の方を見やる。

 

「はい、確かに彼が付いていれば身の危険はないとは思います。少々安全以外の面で不安が残りますが」

 

弦護もダイヤも【彼】と呼ばれた存在に信頼を寄せているような口調だ。

 

「なら余計に話を広げない方がいいわ。ただ彼はあなたと違って校舎内は自由に動き回れないから学校内ではルビィのことも気にしておいて」

 

「かしこまりました……お優しいのですね」

 

「何を言っているの。もしルビィがさらわれて理不尽な要求をされたらたまらないからよ」

 

「では、そういうことにしておきましょう」

 

「相変わらず一言多いのよ、全く……」

 

 

 

 

 

〜〜〜

翌朝

 

「えっと、昨日乗ったのってこのバス停であってるよね……?バッチリとか言ったけどやっぱり慣れてないと不安だなぁ」

 

ちょうどバスが出た直後で周りに浦の星の制服は一つも見えない。

そんな中、梨子は昨日のように何か間違えていないか微かな不安を覚えながらもバス停の時刻表を確認している。

 

「どうかしたか?」

 

梨子に話しかけたのは、長身にスーツの若い男性。

年齢は20代半ばほどに見える。

 

「えっ!?あ、あの、えっと私浦の星学院に行きたいんですけどこのバス停であってますか!?」

 

「あぁ、間違いない。といっても、ここのバスは一路線だけで循環してるからこの周辺どのバス停から乗っても浦の星学院の近くにはたどり着けるそうだ。俺も最近越してきたばかりだから詳しくはないが」

 

そう言ってスーツの男は梨子と同じように覗き込んで時刻表を確認する。

 

「ご親切にありがとうございます」

 

そう言って梨子はお辞儀をすると、男は小さく頷く。

 

「生徒が困っていれば助けるのが教師の仕事だからな」

 

「え、教師、ですか?」

 

「自己紹介が遅れたな。俺は今年から浦の星女学院の2年生の、君の所属するクラスの教師を勤める水羽秋人(みずはあきと)だ。君と同じでここでの生活はまだ短い。だからこそ相談に乗れることもあると思う。よろしく頼む、桜内梨子さん」

 

「えぇぇ!担任の先生だったんですか!?桜内梨子です!よろしくお願いします!」

 

「あぁ、よろしく」

 

そう言って2人は右手を伸ばし握手をかわそうとする。しかし

 

《♪〜》

 

若い少女のたちの歌が着信音で流れる。

梨子も知っている。この曲はスクールアイドルμ'sの曲だ。

既に解散したグループだが、人気は根強く、ラブライブ運営から配信される曲を着信音にしたり、音楽プレイヤーで聞いている人は未だに多い。

 

「おっと、すまない。もしもし」

 

『もしもーし、愛しの…ちゃんですよ〜』

 

梨子にも微かに聞こえた電話向こうの声。

静かなこの町だからこそ聞こえたのだろう。

ただ、その全てが聞こえるわけではない。

 

「朝からバカなことを言ってるんじゃない。何か用か?」

 

秋人は大きくため息をついて電話の相手にそう尋ねる。

 

『んー、用ってほどのことでとないんだけどね?そっちの生活は大丈夫かなーって。最近忙しくてこっちから連絡できてなかったから』

 

「なんだそんなことか。安心しろ。これでも高校生の頃は一人暮らししてたんだ。それより、そっちのみんなは元気か?」

 

『うん、みんな秋人くんに会いたがってるんよ?ウチはそっちに行くけど他の子たちと会えるのはもう少し先になりそうやから』

 

「そうだな。教師をする以上簡単に東京まで行くことはなかなか難しいだろうな。それでも、時間を見つけてみんなには会いに行くさ。さて、そろそろバスが来るから。また連絡する」

 

そう秋人が言うとちょうどよく遠くにバスの影が見えた。

 

『うん、それじゃあいってらっしゃい』

 

「あぁ、いってきます」

 

電話を切った秋人が梨子の方を見ると梨子は興味深そうに秋人の方を見ている。

 

「彼女さんですか?」

 

「そんなところだ。東京に住んでる。近々こっちに越して来る予定だがな」

 

「へぇ〜。あ、私も東京から来たんです!」

 

親近感が沸いたのか梨子は声のトーンが一段上がる。

 

「知っているさ。君の資料に書いてあったからな。それでなくても、俺は君のその制服を知ってる。さ、バスがきた」

 

そう言って秋人は笑みを見せ、到着したバスに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

2年生教室

 

黒板の前に秋人がたち、自己紹介を行っている。

 

「改めて、僕は今年一年、2年生の担任を勤める水羽秋人。この辺りに最近越してきたばかりでわからないことも多いからぜひいろいろ教えてほしい。よろしく」

 

「先生!ここに最近越してきたってことは元々どこに住んでたんですか?」

 

生徒のうち1人から声があがる。

 

「うむ、高校生の頃から東京に住んでいた。その前は親戚の家を転々としていたから色々なところに住んだことがある」

 

「はーい!彼女はいますかー!?」

 

またもや別の生徒から声が上がる。

 

「そういう質問は後でいくらでも受け付けてやる。それよりもう一つ紹介することがある。入れ」

 

そう言って秋人は扉の影から教室を覗く梨子に目配せをする。

 

「は、はい!」

 

緊張で声を上ずらせた返事とともに梨子が教室へと入ってくる。

 

「さ、桜内梨子と言います。東京から来ました。よ、よろしくお願いしましゅ!」

 

噛みながらもなんとか自己紹介をした梨子は深々とお辞儀する。

 

「東京だって〜」

 

「かわいいねぇ」

 

ザワザワと教室が騒がしくなる。

珍しい転校生に誰も彼も興味津々だ。

 

「へー、可愛い子だね。ねえ、そう思わない?千歌」

 

そう言って灰色の髪をした元気そうな生徒、渡辺曜は一つ前の席の生徒の背をつつく。

 

「……ん?」

 

そんな中、眠そうに目をこする少女が一人いた。

彼女は背後を突かれゆっくりと梨子の方を見る。

 

「ぁ……あああぁぁぁ!!!」

 

「うわっ!何々!?」

 

突如目を見開いて立ち上がる彼女にクラス中の視線が集まる。

曜は叫びの驚きで大きく仰け反りイスごと倒れかけるほどだ。

 

 

「その制服!」

 

「ヒィッ!」

 

少女は梨子の元へ早足で近づき梨子の手を取る。

 

「音ノ木坂の制服だよね!!」

 

「は、はい、そう、ですけど……」

 

「私、μ'sの大ッッッッファンなの!ねぇ、スクールアイドル興味ない!?」

 

目を輝かせて千歌は梨子に尋ねる。

しかし、梨子は困惑して言葉も出てこない。

 

「えっ、え、えぇ!?」

 

「高海、今はまだホームルーム中だ、そういうのは後にしろ」

 

秋人は興奮気味の千歌に抑えるよう言いながら見やる。

 

「は、はーい……あ、梨子ちゃん、よろしくね!」

 

「う、うん、よろしくね」

 

梨子は未だ戸惑いの表情を見せているが、千歌は屈託のない笑顔で梨子を見るのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

一年生教室

「国木田花丸です。実家はこの近くにあるお寺で読書が好きです。鈍くさくてまみんなに迷惑かけるかもしれないけど、3年間、よろしくお願いします」

 

眼鏡をかけた少女、国木田花丸が自己紹介をしてお辞儀する。

 

「よし、じゃあ次は、黒澤」

 

「は、はい!」

 

続いて花丸の背後の席の赤い髪の少女は驚いたような声をあげ立ち上がる。

 

「く、くくく、黒澤、ルビィです!」

 

「黒澤……?」

 

 

 

 

 

〜〜〜

〜昼休み〜

 

授業が終わるとすぐに花丸がルビィの元へお弁当を持って歩いてくる。

 

「ルビィちゃん、お弁当一緒に食べるずら」

 

「うん!じゃあ机くっつけて…」

 

「ねぇ」

 

2人の近くで呼ぶような声が聞こえ、2人が振り返ると1人の少女がそこに立っている。

 

「アタシも一緒に食べてもいいかな?」

 

少女は腰まである長い髪を揺らして2人の方を見ている。

 

「えーっと、確か…霧島さん?」

 

「うん、霧島マヤ。よろしくね!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。マルの名前は国木田花丸ずら。それでこっちが」

 

「……黒澤ルビィさん」

 

「え、う、うん、黒澤、ルビィです。よろしくね」

 

ルビィはマヤに対してどことなく苦手な印象を持っていた。

目は笑っているのに、まるで自分を睨んでいる、そんな錯覚に陥る。

 

「黒澤さんって、もしかして生徒会長さんの黒澤ダイヤさんの妹?」

 

「うん、お姉ちゃんだよ」

 

「そっかー、どことなく雰囲気が似てると思ったんだ。でさ、お弁当一緒に食べてもいい?」

 

「いいかな、マルちゃん?」

 

「もちろん!友達は多い方が楽しいずら」

 

花丸は特に断る理由もないと快諾し、もうひとつ机をつけられるようにと机をズラす。

 

「フフッ、ありがとう。これからよろしくね」

 

 

 

そんな3人のやり取りを遠くから一つの影が見つめていた。

 

「…………アレ、ですね」

 

〜〜〜〜

放課後

 

「いいですわね?」

 

生徒会室

ダイヤは虹夏と昨日のゾディアーツの襲撃についての口止めを行っている。

 

「わかったわかった。つまり私は目眩で倒れた。それ以外には何もなかった。そういうことにしておけと」

 

「えぇ、お願いしますわ」

 

幸いゾディアーツの姿は見ていないようだったが、何かに襲われた、ということは虹夏も理解していた。

けれどそれがダイヤにとって隠しておきたいこと。

それを理解した虹夏はただ頷き、

 

「じゃあ、口止料!アイスおごってよ♪」

 

「……まったくもう、しかたありませんわね」

 

そう言いながらもダイヤの口元の緩みを虹夏は見逃さない。

 

「じゃあ早速今日にでも!」

 

「そうですわね、弦護に今日の予定を確認しますわ」

 

そう言いダイヤはスマホを取り出す。

 

「……もしもし弦護?今日は……」

 

そこまで言ってダイヤの表情が険しくなる。

 

「……本当に?」

 

「どーしたの?用事ある?」

 

「えぇ、大切な用事が一つ。今日はもう行きますわ。お詫びはまた後日に」

 

そう言うとダイヤはそそくさと荷物をまとめて生徒会室を後にする。

 

「ほーんと、忙しいんだから」

 

 

〜〜〜

同時刻、昇降口

 

「じゃあマヤちゃんは一人暮らしを?」

 

マヤとルビィは並んで歩く。

花丸は忘れ物をしたと言って一度教室に戻っている。

 

「うん、両親と離れるのは寂しかったけど、この町は好きだし、それにやりたいこともあるからね」

 

マヤはそう言って空を仰ぐ。

雲ひとつ見てない青い空。

9月とはいえまだまだ暑い日差しが照りつけている。

 

「やりたいこと?」

 

ルビィが尋ねるとマヤは嬉しそうに頷く。

 

「うん、そのために、この学校に来た」

 

「そっか、叶うといいね」

 

ルビィがそう言ってマヤの方を向くと

 

「えぇ、たった今叶うところよ」

 

左手に黒いスイッチを持ったマヤが舌なめずりをしながらルビィに向け右手を伸ばしていた。

 

「うぐぅ……!ま、マヤちゃん……!?」

 

「アタシの願い、叶えさせてもらうわよ!」

 

マヤはルビィを近くの木に押さえつけると徐々に力を強めていき、ルビィも必死に抵抗するも、抗えずに徐々に息苦しさを感じてくる。

 

「だ、れか……」

 

「そこまでです!」

 

鋭い声が響く。

それと同時にマヤに向けて蹴りが放たれる。

 

「チッ!」

 

蹴りを放ったのは弦護。

マヤはルビィを手放し後ろに跳躍し、弦護は2人の間に立ち塞がる。

 

「ルビィ様、お怪我はありませんか?」

 

「けほっ、けほっ……う、うん、ありがとう天海さん……」

 

ルビィは喉を抑えながら咳き込むが、ケガはしてない。

 

「昨日の執事くん。また邪魔しに来たの?」

 

「えぇ、今度は逃がしませんよ。キリシマ鉄工社長の霧島光男さんの1人娘、霧島マヤさん」

 

「ッ!?そこまで調べたのね……だったらアタシの行動の理由もわかるわよね!」

 

マヤは苦々しげな表情で不快感を露わにし、声を荒げ弦護にそう尋ねる。

 

「キリシマ鉄工、黒澤家の関連会社の下請を主にしていた企業、つい最近運転を停止。それが昨日ダイヤ様をあなたが連れて行ったあの廃工場。そして」

 

「キリシマ鉄工の運転停止は黒澤家から入っていた以来の全てを打ち切られたこと、ですわね」

 

弦護の背後からダイヤが現れ、マヤを睨みつける。

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

「ルビィ、今すぐに立ち去りなさい。今ならまだ巻き込まれずに済む」

 

「……う、うん」

 

言われた通りにルビィはすぐに駆け出しその場を離れる。

 

「相変わらずお優しいのですね」

 

「相変わらず一言余計よ。それで霧島さん、霧島鉄工とウチの話は円満に進んだ聞いていますわよ。ウチからの下請業務の大半を占めている以上、ウチからの仕事がなくなれば倒産は免れられない。ゆえに話し合いや損失補償を」

 

「ウソよ!あの人は言っていたわ。黒澤家に逆らえば倒産だけじゃ済まされない。だから父さんはどんな理不尽な要求でも呑まざるを得なかった!」

 

「……そうですか。そういうことをする人物なら何人か確かに思い当たりますわね」

 

ダイヤは悩ましげに頭を抱える。

 

「わかってるじゃない!」

 

「ですが、その件には私もルビィも関係ありませんわ。私たちに危害を及ばすのはお門違いでは?」

 

「うるさい!会社の倒産で父さんたちは家も売り払い東京のおばあちゃんの家に戻った。進学が決まっていたアタシは1人ここに残った。離れ離れにされた恨みは家族で償ってもらう!」

 

「もう何を言っても無駄ですわね……弦護」

 

「はい。しかし、本当によろしいのですか?」

 

「後でなんとでもするわ。あなたは目の前の仕事に集中して」

 

「かしこまりました」

 

弦護はダイヤを庇うように立ち、フォーゼドライバーを取り出す。

 

「また邪魔をする気!?いいわ、アタシの邪魔をするならアンタもまとめてやってやるわよ!」

 

《ラストワン》

 

その音声と共にマヤの持ったスイッチの形が禍々しいものに変わる。

 

「黒澤あああ!」

 

マヤは叫びとともにスイッチを強く押し込む。

マヤを中心に宇宙空間のような闇が広がり、そこにいくつかの光が形を成す。

 

「カメレオン座のゾディアーツ、ですね」

 

光が消えるとそこに立っていたのは昨日ダイヤを襲撃したカメレオンゾディアーツ。

そしてその身体から飛び出したものが一つ。

 

「霧島マヤ!?どういうことですの?」

 

スイッチを押してカメレオンゾディアーツへと変身したはずのマヤが繭に包まれ、ゾディアーツの身体から排出されていた。

しかしゾディアーツは動きを止める様子はない。

 

「完全体のゾディアーツに人間の肉体は不要、ということでしょうか」

 

そう言うと弦護はフォーゼドライバーを装着し、4つの赤いトランスイッチを押す。

 

《-3-2-1-》

 

「変身!」

 

弦護はもう手馴れたものだとレバーを引き手を振り上げそして

 

「宇宙キター!」

 

フォーゼへと変身を果たした。

 

「さて、もう一度あげていこうか!」

 

またも別人のようなテンションへと様変わりする。

 

「相変わらずそのテンションは慣れませんわね……」

 

ダイヤは頭を抱えため息をつく。

何年も前から弦護のことは知っているがそんな豹変する素振りなど一度たりとも見せたことはない。

からかったり楽しんだりすることが好きなのはわかっていたが、これは予想外すぎる、と。

 

「まぁまぁ、気にしないでよ、さて、それじゃあいくよ!」

 

《ロケット・オン》

 

「まずは人目のつかないとこにいかないとね!」

 

「ちょっと弦護!?」

 

まずは一発とロケットモジュールをつけたフォーゼの右手がカメレオンゾディアーツの腹部に命中し、そのままカメレオンゾディアーツを遠くへと連れ去る。

ダイヤの制止も全く意に介さない。

 

「全く……」

 

向かうのは、学校の裏手にあるみかん山。

 

「ここなら思いっきり戦える、はぁっ!」

 

そのままフォーゼはロケットモジュールのエンジンだけを切り何度も腹部にパンチを叩き込む。

普通の拳に比べ尖っているロケットモジュールで殴られたカメレオンゾディアーツは

 

「何度もボンボン痛いのよ!」

 

そう言って大きく後ろに跳躍すると勢いよく舌を伸ばす。

 

「当たらないって!」

 

フォーゼは当然のごとくゾディアーツの舌による攻撃をかわす。しかし

 

「そんなの予想済みに決まってるでしょ!」

 

カメレオンゾディアーツは当然にその動きを予想しており舌でフォーゼの背後にある木を掴む。

 

「はあああっ!」

 

そのまま舌を戻す勢いでフォーゼに向けて飛び蹴りを繰り出す。

 

「うぉっ!?」

 

さすがにそれは予想できなかったのかフォーゼは顔面にもろに飛び蹴りを食らってしまう。

はなんとか受身を取って起き上がるも頭を抑えクラクラとした様子。

 

「いたた……」

 

「もう一度!」

 

カメレオンゾディアーツは振り返りフォーゼの方を向くと同じようにまた舌を伸ばす。

 

「チィッ!」

 

なんとかそれを避けることに成功したが

 

「こっちももう一度なのよ!」

 

再びカメレオンゾディアーツは飛び蹴りを繰り出す態勢に入る。

 

「何同じ手に引っかからないって昨日も言ったでしょ?」

 

《チェーンソー》

 

フォーゼはランチャースイッチをチェーンソースイッチへと入れ替えるとそのまま背中からゾディアーツの舌の真下に入り込む。

 

「フォーゼのスイッチは4つだけじゃないだからね!」

 

《チェーンソー・オン》

 

コバルトブルーのチェーンソーがフォーゼの右足に装着され、フォーゼはそのまま右足を振り上げる。

 

「なっ、ちょぉっ!?」

 

高速で回転するチェーンソーにカメレオンゾディアーツは危険を察知するがすでに手遅れ、勢いは失われないまま自らチェーンソーモジュールへと飛び込んでいく。

 

「ぐあああっ!」

 

カメレオンゾディアーツは苦しみながらのたうちまわる。

 

「さぁ、これで終わりかい?」

 

「ナメるな!」

 

カメレオンゾディアーツは態勢を整えると木の幹へと飛び移る。

 

「アタシの本当の力を見せてやる!」

 

「なっ、姿を!?」

 

カメレオンゾディアーツはその姿を消す。

かすかに葉の揺れる音は聞こえるが、それだけではどこにいるかまでは把握できない。

 

「はっ!」

 

「しまった!」

 

フォーゼの背後からカメレオンゾディアーツが爪で切り裂く。

 

「クッ……また消えた…」

 

フォーゼは痛みを堪えながら背後を振り向くも既にゾディアーツは再び姿を消した後。

左手のレーダーモジュールを使えば位置を把握することは可能だが、探している時間を与えてくれるような敵ではない。

 

「なら合わせ技だ!」

 

《ビート》

《レーダー・ビート・オン》

 

フォーゼはチェーンソースイッチを外すとそこにビートスイッチをはめ込み発動する。

 

左手には黒を基調としたレーダーモジュール、右足にはスカーレットカラーのスピーカーが現れる。

 

「せーのっ!」

 

フォーゼが力強く右足を踏み込むと爆音が周囲に響き渡る。

 

「くぅーっ!自分にも効くぅー!」

 

そんなことを言いながらもレーダーモジュールでゾディアーツを探し当てる。

カメレオンゾディアーツは木の上で耳を塞ぎ固まっていた。

仕方がないとはいえ、先ほどまでの動きと比べると間抜けに見えてしまう。

 

「見つけた!」

 

《チェーンアレイ》

《チェーンアレイ・オン》

 

フォーゼの右手に装着されたのは鎖とそれにつながれたトゲ付きの鉄球。

 

 

「そこっ!」

 

「うぐぁっ!?」

 

まっすぐ放たれたチェーンアレイはゾディアーツの頭部を捉え、木から叩き落す。

 

「さぁて!」

 

フォーゼはチェーンアレイスイッチを取り外すとロケットスイッチを再びセットする。

 

《ロケット・ドリル・オン》

 

「とどめはやっぱこれでしょ!」

 

《ロケット・ドリル・リミットブレイク》

 

「いくぜ!ロケットドリルキィーック!」

 

「しまっ、ぐっ……ぐああああ!」

 

フォーゼのロケットドリルキック(命名者:ダイヤ)は見事カメレオンゾディアーツを捉え、ゾディアーツは爆散する。

 

 

「ふぅ……っと」

 

フォーゼは爆風で彼の元まで飛ばされてきたゾディアーツスイッチをキャッチする。

 

「これは怪人に変身するスイッチ?」

 

スイッチをグルグルと回しながら見ているとレーダースイッチが点滅し黒電話のような音が辺りに響く。

 

「通信?」

 

《レーダー・オン》

 

『おぉ弦護!ゾディアーツを撃破したようじゃな!』

 

「響輝様?どうかされましたか?」

 

弦護はいつもの執事口調に戻りモニターの向こうの響輝に応答する。

なぜそれを知っているのか、と疑問に思うが響輝がダイヤや弦護の行動をまるで見ているかのように知っていることは昔からある。

そう言う不思議な人物が黒澤響輝である。

 

『ゾディアーツのスイッチが手に入ったか?』

 

「はい、どうすればいいんですか?」

 

『もう一度スイッチを押せばスイッチが消えて精神がスイッチャーに戻る。それで退治完了じゃ』

 

その言葉に、なるほどと頷くと弦護はスイッチを押し込む。

するとスイッチを中心に小さな闇が発生しスイッチを飲み込むように消えていく。

 

「これで完了ですか。なんだかあっけないですね」

 

『何を言っておる。今回は相手がただの一般人だからこの程度で済んだのじゃ。精進せい』

 

「はい、わかりました。ところで響輝様、少し調べていただきたいことがあるのですが……」

 

 

 

 

 

〜〜〜

「というわけで今回の件はつい最近昇進した重役、『阿久津了』による独断専行。黒澤家の人物は関わっていないということです。残念ながら今更契約打ち切りをなかったことにはできないそうですが」

 

家に帰った弦護は響輝にキリシマ鉄工との契約のことを調べてもらいダイヤへと報告していた。

マヤは病院へと運ばれたが未だに目を覚まさない。

 

「そうですか……でもだとしたらなぜ彼女はあのような恨み言を?アレは明確に黒澤家を悪としている発言でした」

 

「恐らくですが、阿久津自身が彼女の言っていた『あの人』だったのではないでしょうか。問いたださないことにはなんとも言えませんが」

 

「なぜそう考えるの?」

 

「阿久津と同期の社員何人かに話を聞いたところ彼は虚言癖がある。ビッグマウスだ。見栄っ張りだ。そんな意見をよく聞き、さらに彼が黒澤家に対し恨みを持っているような旨の発言を聞いた、と言うものもいます。もちろんこれも伝聞ですので確かな情報はありません。しかし最大の証拠は……」

 

弦護は響輝の報告を思い出す。

 

〜〜

 

「阿久津は行方不明?」

 

『昨日の夜からな。飲みの誘いを断り早くに退勤してその後姿を誰にも見せていないらしい』

 

「会社付近の監視カメラを調べればどの方面に向かったくらいはわかるのでは?」

 

『それが会社の出入り口、そして出入りができそうな窓がある部屋、どこの監視カメラを調べても姿が映っていない。まさに神隠しのように消えてしまっている』

 

「そんな……だとしたら、まさか会社の中に」

 

『それもない。深夜帯は警備員が巡回しているしそれに見つからないようにするなら監視カメラをかいくぐることは難しい』

 

「なら、一体どこに……」

 

〜〜

「なるほど、それで、捜索願はでているの?」

 

「いえ、結婚もしておらず一人暮らしをしていたのでそもそも出す人間がいなかったと。一応会社側からは出す予定ではありますが……」

 

「そう……何か、大きなことが動こうとしているのかしら」

 

ダイヤはそう言って大きくため息をつく。

 

「なんで私ばかりこんなことに……」

 

廃校だけではなく、怪物騒ぎまで

胃が痛くなりそうなのを堪えながらダイヤは弦護の作った阿久津に関する資料を眺める。

 

「何があっても私がお守りします。たとえ、この命に代えても」

 

後ろの半分はダイヤに聞こえないように、しかし確かに弦護はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜

「な、なぁおい、出してくれよ!お前がスイッチを配れって言ったから俺は!」

 

暗いどこかの部屋。小さな檻のようなものに閉じ込められた男。

彼こそが阿久津了。

 

「うるさい男だ……」

 

そこに近づいてきたのは渦上になったピンクの髪が特徴的な怪人、ヴァルゴゾディアーツ。

 

「そこまで言うならば出してやろう」

 

そう言ってヴァルゴは手に持った杖を檻の中の阿久津に近づける。

 

「この世界からダークネビュラへとな」

 

次の瞬間、杖から真っ暗な空間が出現する。

それはまさにブラックホールというに相応しく阿久津を吸い込もうとする。

 

「ぐっ、う、おおおおお!」

 

最初は阿久津も檻につかまり必死に抵抗するが

 

「うわああああ!」

 

ついには耐えきれず暗闇の中に吸い込まれて消えていく。

 

「……さて、フォーゼが出てきた以上今までのようにのんびりと進めるわけにもいかないな」

 

「なら、次からスイッチは私が配りましょう」

 

「……ジェミニか」

 

ヴァルゴは背後に現れたゾディアーツに振り返らずに答える。

ピエロのような姿をしたジェミニは見えていないにも関わらず正解と言わんばかりに指で丸を作ってみせる。

 

「好きにしろ。だがもしお前の正体がフォーゼに知られるようなことがあれば、わかっているな?」

 

「もちろん、それじゃ結果を楽しみにしててね〜」

 

そう軽いノリで言うとジェミニは楽しそうに去っていくのだった。

 

 

 




ネビュラれた人カウント1
さっそく被害者が出ました
ちなみにこの作品ではダイヤの父親が響輝の息子(長男)でそれ以外にも兄弟がおりそれぞれ会社を経営していたりする設定になっています。
なのでダイヤさんの叔父や叔母もでてくるかもしれませんね
出てくるといえば鞠莉果南善子は次回に出せたらいいなと思っています

それと一応補足
アストロスイッチの番号はフォーゼ本編と同じですが、登場はナンバーごととは限りません(既に今回エレキを飛ばしてチェーンアレイやビートがでてますし)
それと宇宙にいくには現状ダイザーがないので不可能です(ちょっとだけ重要)
ではまた次回


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真・剣・公・演

お久しぶりです。前回の更新からどれだけだったかは触れてはいけません
それではどうぞ


ルビィがマヤに襲われたのと同時刻。

 

「あったずら」

 

花丸は教室に忘れたペンケースを机の中から取り出そうとする。

 

「あれ?」

 

その時小指に何か固いものがぶつかった。

他には何も入れていないはずと不審に思い机の中をがさごそと探し、ソレを取り出した。

 

「……スイッチ?」

 

花丸の手に収まったのはマヤが手にしていたのと同じ、ゾディアーツスイッチだった。

 

「そこで何をしている!」

 

「ずらぁっ!?」

 

背後から怒鳴られ花丸は思わずスイッチを後ろの方へ投げ飛ばしてしまう。

 

「アッハッハ!驚き過ぎだ。僕だよ」

 

「その声……」

 

花丸が振り返るとそこには風に髪をなびかせる少女が1人。

 

「芽依先輩!」

 

「久しぶりだね、マル」

 

花丸のことをマルと呼んだ少女は花丸に笑いかける。

天王寺芽依、それが彼女の名前。

 

「久しぶりずら!元気でしたか?」

 

「あぁ、もちろんだ。花丸も元気そうだね?」

 

芽依はそう言うと花丸の元に歩み寄りぐるりと見回す。

2人は中学時代の知り合いだった。そのつながりは

 

「はい!先輩は今も図書委員なんですか?」

 

図書委員、たったこれだけだったが、本が好きな2人は学年を超えてすぐに仲良くなった。

 

 

「もちろん、図書委員長だよ。ま、と言っても最近はもう一つの方が忙しくてなかなか手が回ってないけどね」

 

「もう一つの方?」

 

花丸の言葉に芽依はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにフン、と鼻を鳴らす。

 

「僕はこの学院の図書委員長であり演劇部部長でもあるのさ!」

 

そう言って芽依は両手を腰に当て偉ぶったポーズをとってみせる。

 

「演劇部……」

 

小説が好きで自信家な面がある芽依にはピッタリだと花丸は納得しかけるが

 

「でも中学の時は読書の邪魔になるから部活はしないって」

 

「うむ、よく覚えていたね。確かにその通りだ。けれどそれは中学時代の私に読書以上の行動理由がなかったからだ。読書と同等、あるいはそれ以上に心惹かれるものがあれば当然僕はそれに向かう」

 

「ずらぁ〜……」

 

「まぁ簡単に言えば、演劇がやりたくなった。それだけだ。3年間かない高校生活、自分に嘘をつくのはもったいない」

 

そう言って芽依は花丸の目の前に指を突きつける。

 

「キミはどうだい?マル。キミの進む未来がどんな色なのか、僕は非常に興味がある」

 

「マルの未来ずら?うーん……」

 

頭にいくつかの光景が浮かんでは消える。

今まで読んだ本の登場人物たちは様々な場所で様々な生活をしていた。

そんな生活に憧れたりもしたが

 

「今は、ちょっと思いつかないずら……」

 

花丸は少し寂しげにそう呟く。

その目を、芽依は見逃さない。

 

「……そうか、なら今度演劇部に見学に来るといい。部活紹介で小さな劇を行う日が何日かある。友達も誘って来なさい。1年生の頃から将来について悩むのもいいが、まずは高校生になったことを楽しむのが大切さ」

 

「……はい!」

 

明るく返事をする花丸に、芽依は優しく微笑むのだった。

 

 

〜〜〜〜

 

「それで?阿久津は結局見つかっていないのね」

 

翌日、ダイヤは部活関係の書類に目を通しながら弦護に尋ねる。

 

「えぇ、警察の手伝いがあっても見つからない以上、恐らく見つけることは不可能に近いかと」

 

「捕まらないとなると、いつまたあのような事件がおこってもおかしくない。というわけね」

 

ダイヤは手を止め頭をおさえる。

そんな中、生徒会室の扉が叩かれる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します!」

 

「ちょ、ちょっと高海さん、私まだやるなんて一言も……あ、弦護さん!」

 

入って来た2人の少女、うち1人は弦護を知る人物、桜内梨子、もう1人は高海千歌。

 

「おや、梨子さん。それにそちらは高海千歌さんでしたか。何かご用ですか?」

 

「はい!部活の申請書を提出に来ました!」

 

「スクールアイドル部、ですか」

 

千歌は弦護の目の前に、部活の申請書を見せ、弦護はゆっくりとそれに目を通す。

 

「……これは、受理できませんね」

 

弦護は目を閉じ、冷たい顔でその申請書をダイヤに尋ねることもなく一蹴する。

 

 

「え、なんでですか?」

 

「まず、浦の星女学院では部活の申請についていくつか条件があります。例えば、部活の申請には最低3人の部員が必要なこと、そしてどう活動するかを具体的に申請書の欄に書き記すこと」

 

そして弦護は鋭い視線を千歌に向ける。

 

「それに高海さん、あなたは部員欄に梨子さんの名前を記していますが、入室時の梨子さんの発言からして、無理にここに連れて来たのでありませんか?」

 

「そ、それは……」

 

「部活とは、あくまで自主的に加入するべきものです。それを他人に強要したりするような部活を認めるわけにはいきません」

 

「弦護さん、断れなかった私も悪かったんです。高海さんを責めないであげてください」

 

「とにかく、今のままではスクールアイドル部の申請を認めるわけにはいきません」

 

そこまで言うと弦護はその表情を和らげる。

 

「ですが、やる気があること、新しいことを始めることはとても良いことです。修正された新しい申請書を提出していただけることを楽しみにしています」

 

「わかりました。梨子ちゃん、ゴメンね」

 

「ううん、わかってくれればいいの。私はスクールアイドルにはなれないけど、できることがあれば手伝うか、ら……うぅっ……」

 

「「梨子さん!(ちゃん!?)」」

 

梨子が入学式の日に倒れたように、頭を抑えてその場に手をつき、苦しみだす。

 

「だい、じょうぶです。いつものこと、ですから」

 

梨子は弦護に支えられながらゆっくりとその身体をおこす。

 

「私、昔から身体が弱くて、こっちに越して来たのも療養のためなんです。だから、スクールアイドルにはなれないの。ごめんね、高海さん」

 

「梨子ちゃん……私こそ、そんなこと何も知らなくて……ごめん!」

 

「弦護、とにかく桜内さんを保健室へ。高海さんは部活の申請について知りたければ私が話を聞きます」

 

「かしこまりました。それでは梨子さん、失礼しますね」

 

「ひゃっ!」

 

そう言うと弦護は軽々と梨子の身体を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこの形だ。

 

「げ、弦護さん、この格好は、は、恥ずかしいです!」

 

「お気になさらず、入学式の日もこのようにして保健室まで運びましたから」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってええええ!」

 

梨子の言葉を気に止めることもなく弦護は梨子を抱えたまま保健室へ向かう。

 

「あれだけ元気なら、大丈夫そうですわね。それで高海さん、と言いましたね?まずはスクールアイドル部設立の意義から聞かせていただけるかしら」

 

「い、意義、ですか……?」

 

ダイヤの質問に千歌は苦笑いしながらゆっくりと後ずさりする。

 

「えぇ、運動部にせよ、文化部にせよ、その部活が存在するのには意義があります。ただ自分たちがやりたいから、だけで部活の申請は通りませんから」

 

「意義……」

 

 

〜〜〜

「失礼します」

 

弦護が保健室の扉を開け、梨子をベッドに降ろす。

 

「お、執事くんじゃん」

 

「……留美さん、またですか」

 

梨子の後ろのカーテンが開き、奥のベッドから短髪の少女が顔を出す。

少女は頭や頰にガーゼを止めている。

 

「アハハ、沼津の学校のやつに絡まれちゃってさ。安心しなよ、手は出してないから」

 

「そういう問題ではありませんよ。女の子なんですから、傷が残ったら大変でしょう?」

 

「バーカ、アタシみたいなガサツな女、傷なんて残っててもカンケーないって」

 

「えっと、弦護さん、この人は?」

 

「ん?アンタ2年の転校生か。アタシは3年の柏木留美。鬼も恐れる喧嘩番長だ。近づくと火傷するぜ?」

 

そう言うと留美はドヤ顔で握りこぶしを梨子に見せつける。

 

「なんてことを言ってますが、今は卒業まで喧嘩しないと私と約束をしているので名ばかり番長です」

 

「しゃーねーだろ。ナヨナヨ執事に負けるなんて思わねーだろ普通」

 

「そう言って相手を見た目で判断するのはよくないと思いますよ?」

 

2人のやり取りを見て梨子は頰を緩ませる。

 

「仲がいいんですね、お二人は」

 

「へっ、誰がこんな野郎と仲良しだ。仲良くなるなら仮面ライダーみたいな熱い男がいいね」

 

「「仮面ライダー?」」

 

2人は同時に頭に疑問符を浮かべる。

 

「はぁ!?アンタたち知らないのか!?ってか転校生、アンタ東京から来たんだろ!?知らないとは言わせないぜ、6年前の怪物騒ぎ!」

 

「6年前、覚えてます!けど、仮面ライダーなんて初めて聞きました。確かその時に戦った人たちは、ぜ、ゼ、なんとかって」

 

「うろ覚えすぎだろ……と言っても、アタシも詳しくはないけどさ。6年前、東京で戦ってたやつらのことを仮面ライダーって言うらしい。探せば写真くらいネットにいくらでもあるぜ。ま、話の方はどこまで本当かわからないけどな」

 

「なかなか興味深いお話ですね。その後の消息は?」

 

「わかんないんだ。誰が変身していたのか、何人いたのか、その後どこへ行ったのか、何1つな。国が情報を隠してるなんて話まであるくらいだ」

 

「確かに怪物騒ぎを鎮静させるほどの兵力を所持しているものが国内にいるなんてただ事ではありませんね。秘匿されていてもおかしくありませんが……」

 

「どうしたんですか?弦護さん」

 

「仮面ライダー、ですか」

 

 

〜〜〜

「疲れたぁ〜……」

 

千歌はグッタリと机に突っ伏す。

弦護と梨子が去ったあと、ダイヤに部活の意義とはなんぞや、をダイヤにたっぷりと叩き込まれたので無理もない。

 

「お疲れ様、で、結果はどうだったの?」

 

曜によって千歌の頭の上に冷えたペットボトルが2つ乗せられる。

 

「部員が3人は必要なんだって、それも自分からやる気のある人が」

 

「梨子ちゃんは?」

 

「弦護さんに送ってもらって帰るって。梨子ちゃん、身体が弱いからスクールアイドルは一緒にできないって、悪いことしちゃった……」

 

「あらら、それじゃあ1から集め直しか。私も手伝ってあげたいけど、水泳もあるし、両立は難しいかなぁ」

 

曜はあっけらかんとそう言うと頭の後ろで手を組む。

 

「ま、当たれる所から当たってみようよ」

 

曜はそういうと白い歯を見せて笑顔を千歌に向けた。

 

 

〜〜〜

「やぁ、マル。それにそっちはルビィちゃんだったかな?」

 

「は、はい!黒澤ルビィです。お久しぶりです」

 

「そうかしこまらなくてもいいさ。適当に座ってくれ。もうすぐ始まるところだ」

 

花丸とルビィの2人は体育館で行われる演劇部のミニ公演を訪れていた。

満席とはいかないが、多くの生徒が見学に来ている。中には2年生3年生の姿も見える。

 

「ん?アレは……じゃあ2人とも、また後でね」

 

芽依は知り合いを見つけたのか2人に別れを告げると早足でその知り合いの元へと向かう。

そしてそれとは逆に2人に向け歩いて来る影が1つ。

 

「おや、ルビィ様、花丸さん」

 

「あ、弦護さん、お久しぶりです」

 

「こ、こここんにちは」

 

弦護の挨拶にルビィは硬直したようになり、花丸の後ろに隠れてしまう。

 

「ルビィちゃんが男の人が苦手なのも相変わらずずら」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「お気になさらないでください。むしろ急に声をかけた私にも非がありますから。お2人も演劇部の公演を?」

 

「はい、部長の芽依先輩が中学時代の知り合いで」

 

「あぁ、そういえば天王寺さんも同じ中学校でしたね……私は彼女はどうも苦手ですが」

 

「お、言ったね執事くん!」

 

ボソッと呟いた弦護の背中をバシン、と強烈に芽依が叩いた。

 

「うわっ!?天王寺さん、脅かさないでください……」

 

「ハッハッハ!まさか君が僕のことを苦手だとはね、意外だね。君に苦手なタイプなんてないかと思っていたよ」

 

「いえ、失言でした。申し訳ありません」

 

「君もそんなにかしこまらなくていいさ。それで、演劇部の査定はどうだい?」

 

「今回は査定というほど大げさなものではありませんよ。ただ、強いていうなら客席誘導もスムーズですし、今のところは何も問題はないかと」

 

「そっか、なら部費のアップ期待しておくよ。それじゃ、ゆっくりしていってくれたまえ」

 

そう言って芽依は舞台袖へと戻っていく。

 

「ふぅ、心臓に悪いですね。あの人は」

 

「なんで苦手なんですか?」

 

「なんででしょう。掴み所がないというか、どこからが現実でどこからが『演劇』なのかがわからないところですかね」

 

「ずらぁ〜……ルビィちゃんはなんで男の人が苦手なんずら?」

 

「えっと……なんでだったっけ……」

 

ルビィは頭を押さえて考えるがなかなか答えが見つからずにいるらしい。

 

「苦手に理由がないことなんて多々ありますよ。例えば私は虫が苦手です。意外だとよく言われますが」

 

「そうなんですか?全然見えないずら」

 

「そんなものなんですよ、人間なんていうのは。さぁ、劇が始まります」

 

3人は席に着くとほぼ同時に体育館の電気が消え、ブザーが鳴る。

 

「ただいまより、第一回演劇部、部活見学演劇を開始します。演目は、マクベス」

 

 

アナウンスが終わるとともに開演する。

芽依が演じるのは、主役であるマクベス。

それ以外のキャストは短い役所の人間は1人2役になり少人数であることをカバーしていく。

そうして何事もなく劇は終盤まで進んでいく。

場面は5幕、マクベスの城へイングランド軍が攻め入るシーンだ。

 

「バーナムの森が動かなければ私は決して敗北しない、私の王位は揺るがない!」

 

狂ったようにそう叫ぶマクベス、しかしそこへ木の枝を隠れ蓑にしたイングランド軍が迫る、のだが

 

「ん?……なんだ」

 

芽依の眉が歪む。しかし彼女はそのまま演技を続ける。

 

「バーナムの森が、動いているだと!?」

 

マクベスは城を飛び出し、剣を構える。

 

「やっぱりだ……みんな目がおかしい。どういうことだ……?」

 

 

芽依は誰にも気づかれないようにそう小さく呟き、イングランド軍役の部員たちへと向かっていくが

 

「様子がおかしいですね……」

 

弦護が小さく呟く。

演劇の終了予定時間を考えれば、このシーンはバッタバッタとマクベスが兵士をなぎ倒し、マクダフと対峙するはず。しかし、兵士は倒れない、それどころか、本気でマクベスを、芽依を倒そうと剣を振りかざしているように見える。

 

「すまない、みんな」

 

小さく呟いたかと思うと芽依は次々に兵士役の生徒の剣を跳ね飛ばし、剣の腹で首の後ろや頭を叩き、気絶させる。一歩間違えば大変危険な行為だが、ためらっている暇はないと舞台の下手側へと向かう。

 

「そこにいるのは誰だ!」

 

そして彼女は剣を投げつける。

しかしその剣は何者かに弾かれる。

 

「さすがは『部長』だなぁ、簡単に見破られるとは」

 

「キャアアアア!」

 

客席から悲鳴が上がる。

下手側からゆっくりと現れたのは、演劇の舞台には似つかわしくない怪物、まるでのっぺらぼうのように何もない顔面と巨大なツインテールのような髪が特徴のゾディアーツだった。

 

「ゾディアーツ……!花丸さん、ルビィ様を連れて外へ!」

 

弦護は慌てて自らも舞台へと登り、芽依の横に立つ。

 

「弦護くん、きみはこの怪物を知っているのかい?」

 

「えぇ、ですが説明している暇はありません。とにかくこいつを外へ!」

 

弦護は落ちていた剣を2本拾い、1本を芽依へ手渡す。

 

「うちのカワイイ部員に手を出した罪は重いよ」

 

「フン、たかが人間に何ができる!」

 

そう言うとゾディアーツは髪をしならせ、鞭のように2人に向け振るう。

 

「なるほど、髪の毛座の(コーマ)ゾディアーツですか」

 

「ハァッ!」

 

2人は剣を髪に向け振るうとバサリと髪の毛が斬り落とされ地面に落ちる。

 

「真剣!?何故こんなものが」

 

「大方コイツに大道具を入れ替えられたんだろう。だが好都合だ、押し出そう!」

 

芽依はそう言うと身体を捻り、勢いをつけコーマゾディアーツを斬りはらう。

大したダメージにはなっていないが、コーマゾディアーツは舞台上から吹き飛ばされ、客席のパイプ椅子を吹き飛ばす。

 

「もう1つ!」

 

舞台から跳躍した弦護は唐竹割りの要領で剣を振り下ろす。

こちらも大きなダメージにはならずとも、頭を抑えたコーマゾディアーツはフラフラと後ずさる。

 

「今だよ!」

 

芽依はその間にコーマゾディアーツの背後に回り込み、体育館から裏庭へと続く扉を開く。

真っ暗闇だった体育館に突如光が差し、弦護は目を細めながらもコーマゾディアーツの懐に飛び込む。

 

「とぁっ!」

 

弦護の鋭いミドルキックはコーマゾディアーツを体育館の外へと追いやる。

 

「天王寺さんは部員の皆さんを!」

 

既に観客も逃げ去った体育館に残された部員たち、気絶させたのは芽依なので心配はいらないが、放置はできないそして何より、芽依に変身するところを見られてはいけない。

 

「勝算はあるのかい?」

 

「はい!」

 

弦護の言葉を聞いて芽依はステージ場へと戻っていく。

 

「弦護!」

 

裏庭には既にダイヤがやってきており、コーマゾディアーツを見つめている。

 

「お嬢様、離れていてください。このゾディアーツ、恐らく人をコントロールできます!」

 

演劇部全員がゾディアーツに従って芽依を襲ったとは考えにくい。

ならば何かしらの方法を使って襲わせたと考えるのが妥当だ。

 

「なら私を操られる前に倒して見せなさい。」

 

「また無茶なご注文を……仕方ありませんね!」

 

弦護はドライバーを装着する。

 

《-3-2-1-》

 

「変身!」

 

弦護はもう慣れたと言った手つきでフォーゼへと変身する。

 

「宇宙……キター!」

 

「な……お前もゾディアーツか!」

 

「違うな、俺はゾディアーツから学園を守る正義の戦士……仮面ライダーフォーゼだ!」

 

「かめん」

 

「らいだー?」

 

ダイヤとコーマゾディアーツは素っ頓狂な声をあげる。

 

「なんでもいい、邪魔をするなら消させてもらう!」

 

「そう、なら開演だ!」

 

《チェーンソー・オン》

 

コーマゾディアーツは何度も何度も髪の毛を振り回し攻撃する。

フォーゼが何度斬り落とそうとすぐに再生し、戦いは硬直状態かと思われたが

 

「ッ!?しまった!」

 

フォーゼは慌てた様子でコーマゾディアーツの攻撃を避け始める。

 

「髪の毛が絡まった!」

 

「かかったな!」

 

よく見るとチェーンソーモジュールの至る所にコーマゾディアーツから斬り落とされた髪が絡まりその動きを封じている。

 

「髪の毛座だけあって斬り落とされた後の髪まで使えるってわけか。厄介だな」

 

チェーンソーモジュールを解除しながらフォーゼはなんとか素手で髪を弾いていく。

少し効率は落ちたものの、コーマゾディアーツの髪の毛はフォーゼにダメージを与えるまでには至っていない。

 

「チッ、さっさと諦めたらどうだ!」

 

「そっちこそ、おとなしく姿を見せなよ!」

 

《ドリル・オン》

 

フォーゼはドリルモジュールをセットすると左足を正面に突き出す。

 

「巻き取らせてもらうよ!」

 

ドリルモジュールはコーマゾディアーツの髪の毛を絡ませながらも勢いよく巻き込んでいく。

チェーンソーモジュールで切り落としていた時とは違い、髪の毛を伸ばす限界が来たのか、コーマゾディアーツはじりじりとフォーゼに引き寄せられていく。

 

「さぁ、正体を見せてもらおうか」

 

《ドリル・リミットブレイク》

 

フォーゼはエンターレバーを引き、リミットブレイクを発動させるとドリルの回転速度が跳ね上がる。

 

「なっ、うぐぐぐ……うわあああっ!」

 

数秒は耐えていたものの、ついに耐え切れずコーマゾディアーツは自らドリルモジュールに飛び込んでいく。

 

「ハーイ、そこまで」

 

風を切る音と共にコーマゾディアーツの髪が切り落とされる。

切り落としたのは、2枚のトランプだった。

 

「新手か!」

 

フォーゼがトランプの飛んで来た方を見るとそこには金色の刺繍入りのクロークを羽織り、ピエロのような姿の怪人、ジェミニゾディアーツが立っていた。

 

「ジェミニゾディアーツ、よろしくね、フォーゼくん。コーマちゃん、ここは一度撤退なさい」

 

「クッ……仕方ない」

 

そう言ってコーマゾディアーツは退散しようと髪を伸ばし遠くの木に巻き付け、ターザンの要領ので飛んでいく。

 

「待て!」

 

「待つのはフォーゼくんの方だよっ」

 

コーマゾディアーツを追いかけようとするフォーゼの首を、ジェミニが掴み、壁に叩きつける。

 

「ガハッ!速い……!」

 

「今回は挨拶に来ただけだからいいけど〜、あんまり邪魔をするなら……消す」

 

それまでの軽いノリからはかけ離れたドスの効いた声でフォーゼにそう告げるジェミニ。

 

「弦護!」

 

「おっと、お嬢様も動かれちゃ困るな〜、じゃないと、体育館にこの爆弾、投げ込んじゃうかもなー?」

 

そう言ってジェミニが見せたのは爆弾の絵柄が描かれたトランプ。

 

「そんなハッタリ!」

 

「だと思う?」

 

ジェミニはトランプを近くの木へと投げつける。

するとトランプが木に刺さると同時に爆発し、ダイヤとジェミニの間に倒れる。

 

「わかってもらえたかな?……さて、コーマちゃんももう逃げたし、そろそろいいかな、チャオッ」

 

そう言うとジェミニはフォーゼを投げ飛ばし、自身は小さな爆発を発生させると煙に包まれ、煙が消え去る頃にはその姿は既に消えていた。

 

「クッ……遅れをとりました。申し訳ありません、ダイヤ様」

 

弦護は変身を解くと首元をさすりながらダイヤへと歩み寄る。

 

「いいえ、幹部クラスがいることがわかっただけ収穫としましょう。ですがあの力……ただものではありませんね」

 

「えぇ、力も、気迫も、カメレオンやコーマの比ではありませんね。ですがまずはコーマです。なんとか正体と目的を明かさなければ」

 

「そっちに関してはすぐにわかると思うよ」

 

「天王寺さん?」

 

部員の介抱を終えたのか、体育館から芽依が顔を出す。

 

「僕を襲ったあの怪物の正体は、演劇部の部員だ」

 

芽依はそう言うと数本の髪の毛を弦護に見せるのだった。




ゾディアーツの出る順番も原作とはだいぶ異なります。
オリキャラやたら多くなるので出番が多いキャラの紹介はそのうちしていけたらと思います。
ではまた次回


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