陸士108部隊の切り札 (クナルン)
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1話

「うっ……ぅう……」

「おかあさん……おかあさん………」

 

 俺は、幼馴染みの二人の女の子にかけてやれる言葉を必死に頭の中で考えた。

二人のお母さんのクイントさんが任務で亡くなり、その夫のゲンヤさんが葬式を取り仕切る。

子供の俺には何もすることが出来なくて、葬式に参列していた親父の右手をギュッと掴んでいた。

 

「ショウ、お前は二人の傍にずっと居てやれよ?」

「父さん?」

「俺は、少し急用が出来た……」

 

 親父はそう言い残し、葬式の最中に姿を消した。

いつもなら触らせてもくれなかった大事な帽子を俺に被せて……

 

 その1週間後、親父が死んだという連絡を貰った。

 

 ●

 

 新暦74年 2月14日

様々な犯罪が横行する中、一際厄介な事件が時空管理局の頭を悩ませている。

人が怪物に成り果て、一般人を襲うという凶悪極まりない事件を、人は〝ガイアメモリ事件〟と呼んだ。何処から流通してくるのかも定かではないガイアメモリという謎のメモリ。人々の目撃証言では、体にガイアメモリを差した人が怪物に変貌したという証言が挙げられ、力を求める若者がガイアメモリを手に入れようと躍起になっている動きさえある。この凶悪なガイアメモリ事件を未然に防ぐためには、若者の心の闇に時空管理局は向き合っていかなければ……

 

「ならないのかもしれない?」

「そうそう。ならないのかも……って、人の手帳を覗くなよ!?」

「見せて書いてるんじゃないの?」

「日記を見せたがるアホがいるかよ!!」

 

 俺が陸士108部隊のオフィスで黙々と日記を書いている背後で、幼馴染み兼上司のギンガ・ナカジマが笑っている。ギンガの右手には珈琲を乗せたお盆があり、そそくさと手帳を制服の内ポケットに仕舞う俺に珈琲を渡してくれた。

 

「はい。いつものブラックです♪」

「どうも……」

 

 勝手に日記を覗かれた恥ずかしさから、俺は少し不貞腐れた。

ギンガが淹れてくれた珈琲を一口飲みながら、時計を見る。

時刻は11時21分。少し早いかもしれないが、昼飯にするのも悪くない。

 

「もうすぐ昼か……」

「ねぇ、お昼一緒にどう?」

「冗談。お前のフードファイターぶりを見せられると食欲が減るんだよ」

「ひどい! もうショウ君に珈琲なんて淹れてあげない!!」

「冗談だよ」

 

 食欲が萎えるのは本当ですが。

 

「オイ……うちの娘の頼みを無下にする気か?」

「ゲッ!?」

 

 ギンガの食べっぷりを思い出していると、陸士108部隊の隊長であるゲンヤ・ナカジマが自分のデスクから俺の顔をまっすぐに睨んでいた。ドスの効いた声と鋭い視線が俺の寿命を急速に縮めるかの如く、ゲンヤ隊長の殺意?が俺を硬直させた。

 

「ショウ……書類を追加してあげよう……」

「ま、待ってくれ! い、いや待ってくださいよ!! これ以上は無理ですって!!」

「大丈夫。人は簡単には過労死なんてしねぇからよ?」

「アンタ、本当に部隊長か!?」

 

 俺の渾身のツッコミがゲンヤ隊長に炸裂するのと同時にギンガが動いた。

 

「お父さん! ショウ君に厳し過ぎるよ!!」

「ギンガ……ショウを立派な男にするための試練なんだ。俺だってしたくないんだよ……」

「そっか。ショウ君が立派になるためなんだね」

「ギンガさん!? 騙されてる! その嘘の笑顔に騙されちゃ駄目だ!!」

 

 俺を立派な男にするという名目で到達する残業という地獄への片道切符。

その片道切符をビリビリに破り棄てるため、俺はギンガの右手を掴んでオフィスを跡にする。

 

「ショウ君?」

「お昼奢ってやるよ。いつもの場所でいいだろ?」

 

 少々強引だけど、少し早い昼食を……

 

「てめぇーーーーーー!! ギンガの天使の手を掴んでタダで済むと思うなよーーー!?」

 

 親バカの怒声から察するに、俺は今日も残業確定デス。

 

 ●

 

「ごめんね? お父さんが……」

「おぅ。気にすんな……」

 

 格安のバイキングで有名な店の店内の片隅に何枚も積まれた皿が置かれたテーブルに俺とギンガは座って話していた。向かいに座るギンガの顔が皿タワーによって見え隠れしている状態だけど、もう気にしていない俺にとっては些細な問題だ。問題なのは、今月の給料を早く欲しいと願う俺の器の小ささなのかもしれない。男が女を食事に誘っておきながら女に払わせるというのは男としては看過出来ない。タダ……もう少し加減というものをギンガには覚えてほしい。もう俺の財布のライフはゼロ寸前よ?

 

「ねぇ?」

「んー?」

 

 俺が今月の給料日を待ち望んでるとき、ギンガが俺に話しかけてきた。

 

「もうすぐショウ君の誕生日……だよね」

「なんだよ? 幼馴染みの癖に忘れたのか?」

「そうじゃないよ。プレゼント……何がいいのかなって……」

「いらねぇよ。特に欲しいもんなんてねぇしな」

「もう。此方は真面目に聞いてるのに!」

「そりゃ悪かったな? でも、これといって欲しいもんは……」

 

 

『ニュースです。

 現在、ドーパントと思われる怪物が市街地で犯行に及んでいます。

 付近の市民の皆さんは、至急避難してください』

 

 そのニュースをギンガが垣間見た途端、俺の顔を黙って見る。

それに対する俺の答えは決まっており、行ってやれと右手を軽く振る。

 

「ちゃんと何が欲しいか、考えておいてよね?」

「はい。ナカジマ陸曹殿」

 

 同じ陸士108部隊に所属しているのに、俺とギンガの役割は真逆だ。

ギンガは前線で事件と向き合う立派な捜査官で陸曹。俺は書類整理に追われる非戦闘員の冴えない三等陸士。同じ時間を過ごしたはずなのに、ギンガは俺の先をドンドン越していってしまった。俺の昔の予定ならギンガの先をドンドン俺が突き進んでるはずだったんだけど、現実は残酷だった。リンカーコアのない俺にはマトモに犯罪者から一般市民を守ることさえ出来ないのだから。魔力なしの俺にとって書類整理のような事務作業をこなすのが当たり前。それ以外、俺には何もすることが出来ないんだよ………

 

「戦う力……欲しいよ……」

 

 そう言葉を漏らし、俺は勘定を済ませて店を出た。

非戦闘員の俺がやるべきことは一つ。オフィスに戻り、ギンガや同僚達が活躍しやすいようにバックアップしてやること。そうすれば被害が抑えられることを信じ、自分のやるべきことを貫き通すことが俺の出来る少ない戦い方なんだ。

 

「急がねぇと……」

 

 早くオフィスに戻るために走る俺。

すれ違う人々が走っていく俺に注目して興味を無くすのを繰り返していく。

俺も一々すれ違う人々の顔なんて覚えたりなんてしないし、もう会うこと自体皆無に等しい。

だから、気にすることなく走り続けていた。

 

「そこのアナタ、少しいいかしら?」

 

 走り続けていた俺に、一人の黒いコートを着た女が話しかけてきた。

俺は走る足を止め、女に向き直る。道案内を頼まれようとしているのではないか?と思ったから丁重に断ろうとした。

 

「すみません。俺、急いでるんで……」

「このままだと、アナタの大切な彼女が殺されるわよ?」

 

 その言葉で俺の時間が一瞬だけ停止した。

 

「は?」

「ギンガ・ナカジマ陸曹だったかしら? 彼女死んじゃうかもね?」

「アンタ……」

 

 不愉快だ。

ギンガが死ぬ? さっきまであんなに嬉しそうに飯食ってたアイツが?

そもそもこの女は一体なんなんだ? どうして俺にそんなことを言う?

 

 全くもって………不愉快だ!!

 

「アンタのフザケタ妄言に付き合ってられねぇんだよ!!」

 

 そう怒鳴り、俺は走るのを再開しようとする。

しかし、次に女が口に出した人名が俺の足を再び止めた。

 

「私が鳴海荘吉の友人だと言ったら、アナタはどうする?」

「え?」

 

 鳴海荘吉。それが俺の親父の名前。

義理の息子の俺を引き取り、俺を育ててくれた恩人の名前。

 

「アンタは一体……」

「ここじゃ場所が悪いわ。アナタが怒鳴ったせいで、いい的よ?」

 

 そう言われ、周囲にいた人達が俺達に注目していたことに気付かされた。

 

「ついてきなさい。用件はそれから伝えるわ」

 

 

「ここは?」

「私の根城よ。尤もここは今日限りで手放すわ」

 

 女の道案内で連れてこられたのは、とあるマンションの殺風景な一室だった。

 

「ゆっくり紅茶でも出してあげたいのだけど、時間がないわ」

「アナタは一体……」

「悪いけど、私の詮索は後にしてちょうだいな。アナタに託したいモノがあるの」

 

 そう言い、女は床に置かれていたトランクケースをテーブルに置いた。

 

「これは?」

「アナタへの誕生日プレゼントだそうよ……」

 

 女はトランクケースの鍵を外し、ゆっくりとトランクケースを開けた。

すると、中にはデバイス?と黒い〝J〟と書かれたガイアメモリがあった。

 

「ガイアメモリ!?」

「そう。奴等に対抗するために用意した切り札よ」

「アンタか!? 犯罪者にガイアメモリを横流しにしていた黒幕は!?」

「黒幕? 馬鹿言わないでよ。私は善良なる市民の一人よ?」

「抜かせ!」

 

 この女は全てを知っているに違いないと判断した俺は、女を取り押さえるために女に組み付こうとした。しかし、取り押さえるために右手首を掴もうとしたら、女の体をすり抜けてしまい、俺は勢い余って無様に床に這いつくばる羽目になった。

 

「イツツ……」

「時間を無駄にしないでちょうだいな?」

「ほ、本当にアンタは何なんだ?」

「言ったはずよ、詮索は後にしなさいとね?」

 

 そう言い、女はトランクケースからデバイス?と黒いガイアメモリを持ち上げた。

 

「それは一体……」

「これはロストドライバー。鳴海荘吉の形見よ」

「形見? それが?」

「そう。彼の戦いの歴史そのもの」

「戦いの歴史……?」

 

 訳も分からないことを並べる女。

親父の戦いの歴史? 親父はそんなものなんて……

 

「知らないのも無理ないわ。アナタを巻き込みたくなんてなかったのでしょうし」

「巻き込みたくなんてなかった?」

「でも、亡き者の願いを聞いてあげられる状況でもないわ。

仮面ライダーになれるかもしれない人材は貴重なんですもの」

 

 か、仮面………ライダー………?

 

「鳴海荘吉の忘れ形見のアナタなら……」

「ちょっと待てよ! さっきから訳分からねぇぞ!」

「いつか教えてあげるわ。アナタのお父さんが背負っていたモノを!」

 

 戸惑う俺の一瞬の隙を突き、女がロストドライバーを俺の胴に押し当てた。

それと同時にロストドライバーからベルトが出現し、1秒も掛からぬ間に俺の胴に巻きついて離れなくなってしまった。

 

「な!?」

「あとはアナタ次第よ?」

「意味分からねぇよ! さっさとコイツを取れ!!」

「アナタがアイツを倒すことが出来たらね?」

 

 俺の怒号を右から左へと受け流し、女はテレビを付ける。

すると、ドーパントと呼ばれる怪物と戦う時空管理局の局員達の姿が映し出された。

敵は一人、対する局員達は10人近くで陣形を整えていた。

 

「よし、数で勝るアレなら……」

「甘いわね。ガイアメモリの認識を改めなさい」

 

 女の言葉に反論しようとした矢先、テレビから悲鳴が聞こえてきた。

その悲鳴が気になり、再び画面に注目してみる。

 

「なっ!?」

 

『や、止めてくれ!? わ、我々はアナタ達を救助しに!!』

『…………………………………………』

 

 画面に映し出された光景は信じられないモノだった。

ドーパントを守るように一般人が盾となり、局員を一人ずつ取り押さえていく。

さっきまで自分達を襲っていたはずの相手を守るという理解出来ない行動………

一般人を攻撃する訳にもいかず、局員の半数は撤退し、残りの半数は捕らえられる形になる。

 

『クソ! 何故、こんな怪物の言うことを……』

『怪物? ボクが?』

 

 一人の局員が一般人の一人に問いかけようとした矢先、ドーパントが口を開いた。

 

『ボクは怪物じゃないよ。ボクはこの力を腐った世の中のために使うんだ……』

 

 まるで自分を神だと信じているような口振りだった。

そして、ドーパントの背中から針が付いた根っこのような管が背中から生える。

 

『お兄さんも仲間にしてあげるよ。一緒に腐った世の中を変えようよ?』

『や、やめろ……』

 

 怯える局員の口に根っこのような管がまっすぐに伸びる。

 

『嫌でも飲ませるよ。だって、ボクを怪物って呼んだから……さ!!』

『ヴぇっ!? んーーーーーーーーーー!!?』

 

 おぞましいと思った。

ドーパントに無理矢理何かを飲まされているのだ。

他に捕らえられている局員達も目の前で行われている惨状に言葉を無くす。

 

『…………………………………』

『出来上がり。さぁ、これを他の人にも飲ませてね?』

『はい』

 

 さっきまで反抗していたのが嘘のように従順になってしまった。

そして、仲間達の必死の説得も虚しく、犠牲者が一人また一人と増えていった。

 

「な、なんなんだよ、アレ………」

「君の予想よりも早くガイアメモリの研究が進んでるのさ。

昨日まで対抗出来ていた怪物が、あのように手に負えない段階まで……ね?」

「進化してるのか?」

「その言葉が適切だろうね。人の闇に呼応し、ガイアメモリは力を増すのさ。

その者が生粋の悪党なら、きっとロクでもない結果を生むんじゃないかな?」

 

 まるで他人事みたいに言いやがって……

 

『待ちなさい! アナタを止めます!!』

 

「ッ!? ギンガ!?」

 

 テレビから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

まさかと思って注目してみれば、そこには俺の幼馴染みの姿があった。

 

「あらあら。彼女は勇敢だねぇ……」

「このバカ! さっさと逃げろ!!」

 

 聞こえるはずがないのに、俺はテレビを掴んでギンガに叫んだ。

 

『誰?』

『時空管理局の者です。アナタを逮捕します』

『逮捕? ボクが何かしたの?』

『惚けないで! これだけのことをしておいて!!』

『何を怒ってるの? 皆を苦しみから解放してあげてるのに?』

 

 クソ! 周りが見えてねぇのか!?

ギンガの周りにはヤツの支配下になった人達で一杯になりつつあった。

さっきの局員の様子が鮮明に脳裏に甦る。このままだと時間の問題だ。

 

「くっ!」

「何処に行く?」

「決まってる! アイツを助けにいくんだ!!」

「リンカーコアを持たない君が?」

「関係ねぇ!」

「行って何になる?」

「俺の身体を盾にしてアイツを逃がす!」

「どうしてそこまでやる? そこまでやる価値は?」

「決まってる! 俺はアイツのことが好………」

「すぅ?」

「す、すすすすす好きじゃねぇけど行くんだよ!!」

 

 危ねぇ! こんなときにとんでもないことをカミングアウトしちまうところだった!!

 

「その想いが本物なら大丈夫かな……」

 

 そう女が面白そうに笑うと、黒いガイアメモリを俺に投げてきた。

 

「うぉっとと……」

「それはジョーカーメモリ。切り札の記憶だ」

「切り札の記憶?」

「それをロストドライバーにセットしたまえ。

そうすれば、君はジョーカーメモリの恩恵を受け取ることが出来る」

 

 正直戸惑ったけど、女の言われた通りにジョーカーメモリをセットすることにした。

もし俺が怪物になってしまったとしても、ギンガを救出できる可能性が飛躍的に上がるのなら、俺が怪物になっても………

 

『JOKER!』

 

 ジョーカーメモリのボタンを押し、ロストドライバーに差し込む。

しかし、俺の身体に特に変化は顕れることはなかった。

 

「ロストドライバーを開きたまえ。それは閉じている状態だ」

 

 先に言えよ。差し込む瞬間にどれだけ覚悟したと思ってんだ?

そう心で陰口を叩き、俺はロストドライバーを軽い気持ちで開いた。

すると、俺の身体に何かが覆っていく。

 

「うぉお!?」

「成功だ。これで君は仮面ライダーだよ」

 

 女が嬉しそうに手鏡を俺に渡してくる。

俺は自分の身に何が起こったのかを確かめるために、鏡に自分の顔を映した。

そこには俺の顔は映ってはおらず、紅い眼と角がある黒いマスクが映っていた。

 

「なにこれーーーーーーーーーー!?」

「ナイスリアクションだ。録画しておくべきだったか………」

「いや、なんで残念がってるの!? この姿はなんなんだよ!?」

「何度も言わせるな。それが仮面ライダーだよ」

「そもそも仮面ライダーってなんなんだよ!?」

「一言で言い表すなら〝正義の味方〟だよ」

 

 いい歳こいて恥ずかし気もなく正義の味方と言いやがった……

 

「お姫様を助ける騎士のお膳立ては済んだようだし、私は去るよ」

「えーーーーーーーー!? 自由にも限度ってものがあるぞ!!」

「私の詮索は後にしろと言ったはずだ。君は同じことを言わせるのに長けているのか?」

「は、腹立つ……」

「その怒りは画面の向こうのドーパントにでもぶつけてやればいい」

 

 そう女がテレビ画面へと人差し指を指す。

ちょっと目を離した隙に、ギンガが案の定ヤツに追い詰められていた。

 

「ギンガ!!」

「早く行ってやれ。流石の私も可哀想だと思うぞ」

「クソが!!」

 

 俺は仮面ライダーの姿のまま部屋を飛び出した。

階段をダダダダダ!と下っていき、あっという間に外に出る。

なんか凄く身体が軽い気がするけど、早くギンガを助けにいかないと!!

 

「とてもお前の一人息子とは思えんよ……鳴海荘吉……」

 

 そう女が独り言を呟くと、ひっそりと姿を消した。

 

 ●

 

「手こずらせてくれちゃったねー?」

「くっ……」

 

 ダメだ。この人達の洗脳を解かないと………

私はドーパントから人々を助けるために交戦を開始したけど、操られた人達を攻撃するなんて出来る訳もなく、バインド系の拘束魔法を駆使していたけど、限界がきて私も捕まってしまい、ドーパントの目の前に連れてこられた。

 

「よく一人で頑張ったねー? ご褒美にボクのことを教えてあげよう」

 

 私を捕らえたことがそんなに嬉しいのか、ドーパントは勝手に情報を喋るようだ。

 

「ボクの力の名はPalasite 相手に特殊な体液を飲ませて操ることが出来るのさ」

「なっ!?」

「驚いたよね? じゃあ、これから自分がどうなるかくらい予想できるよねー?」

 

 おぞましいことを言ったドーパントは、私の都合を無視して背中から触手を生やす。

そして、それを嫌がる私の口に無理矢理押し付けてきた。

 

「お嬢ちゃんもボクの仲間さ。大丈夫。怖くないよ。

だって、君の仲間は一杯いるんだから!!」

 

 嫌だ。誰か……

 

「涙を流しても駄目だよー? さぁ、ボクが幸せにしてあげよう」

 

 もう駄目だ。結局、私は誰も守ることは出来なかった。

ゴメンね? スバル、お父さん…… お母さん、私…お母さんみたいにはなれなかったよ……

 

「君には手こずらせてもらった分、念入りに注いであげるよ!

安心して? 少々頭の中がバカになるだけだと思うから……」

 

 あぁ……ショウくんにご飯を奢ってもらってばっかりだったな……

 

「はーい♪ じゃあ、新しい仲間ゲッ……」

「オラァ!!」

「グヴェッ!?」

 

 勇ましい聞き覚えのある声を聞いた。

もう駄目かと思って目を瞑ったけど、ゆっくりと目を開ける。

目の前にいたドーパントは居らず、ビルの壁に激突して地面に伏していた。

戦闘不能にはなっていないようで、痛みでのたうち回っている感じだった。

それよりも……目の前にいる黒い人は一体……

 

「大丈夫か!?」

「え、えぇ……」

 

 やっぱり聞き覚えのある声だ。

そのせいか、目の前にいる黒い仮面の男には反感は湧かない。

私を拘束していた一般人達も気絶しているようで、無力化されていた。

 

「これ……アナタが?」

「ま、まぁな……」

「アナタは一体………」

「俺の詮索は後回しにしてくれ。ギンガはこの人達を」

「ど、どうして私の名前を?」

「え? えーっと……」

 

 私の質問にオドオドする黒い仮面の人。

 

「貴様ーーーー!! よくも殴ってくれたなーーーー!!」

(よし、これでウヤムヤに出来るぞ!)

「いけない。アナタは逃げて下さい!」

 

 ドーパントが復活したとき、黒い仮面の人が小さくガッツポーズをしたのは気のせいだと思う。

 

「いや、アイツの相手は俺がする」

「なっ!?」

「安心してくれ。俺は正義の味方だから」

 

 黒い仮面の人は、私の制止を無視してドーパントに向かって歩く。

ドーパントは怒りで呼吸が荒く、何を仕出かすか分からない状態だ。

 

「よぉ、随分好き勝手やってくれたみたいじゃねぇか?」

「うるさい! せっかく世界を変えるために同志を増やしていたのに!!」

「同志?」

「そうだ! ボクの夢を邪魔するなら容赦しないぞ!」

「うるせぇよ……」

「え?」

「お前のやったことは所詮独りよがりの最低の行為だ。

仲間? 違う。お前は所詮独りだよ」

「な、なんだと!?」

「お前のやり方は誰も認めてくれないし、自分をもっと惨めにするだけだ!」

「分かったことを言うなァアアア!!」

 

 ドーパントが怒りに任せて背中から複数の触手を生やして、黒い仮面の人に差し向ける。

触手から棘が生え、喰らえば大怪我をしてしまうだろう。しかし、そうはならなかった。

黒い仮面の人が全て攻撃を避けきり、ドーパントの胴に鋭い拳を一瞬で叩き込んだ。

 

「ぐほっ……」

「お前じゃ俺には勝てねぇ」

「な、生意気な……」

 

 圧倒している? あのドーパントを? この人は一体………

 

「お前はなんなんだ!? 急に現れてボクの邪魔をしやがって!!」

「そういや、名乗ってなかったな……俺は! …………………俺は……………」

 

 な、なに? なんか急に考え込み始めたんだけど?

 

「仮面ライダーってだけじゃ物足りないんだよなー……でも、いいのが咄嗟には……」

「な、ナメてるのか!?」

「シンプルだけど、仮面ライダージョーカーにしとくか……」

 

 な、名前は今決めたんですか!?

 

「仕切り直すぜ。俺は仮面ライダージョーカーだ。覚えとけ!!」

「ナメ腐りやがってぇ!」

 

 再び、ドーパントが棘の触手を差し向ける。

だけど、仮面ライダージョーカーに1本も当たることなどなかった。

 

「ハァハァ………」

「終わりか? なら俺のターンだ」

 

『JOKER Maximum Drive』

 

ア、アレは黒いガイアメモリ? 黒いガイアメモリをベルトの横に差し込んだ?

 

「ライダーキック!」

「く、来るなァアアア!?」

「駄目だね。年貢の納め時だ。頭を冷やしやがれ!!」

 

 仮面ライダージョーカーの飛び蹴りをモロに喰らったドーパントは小規模の爆発を起こして倒れた。倒れた場所にドーパントの姿はなく、倒れていたのは小太りの中年男性と粉々になったガイアメモリが転がっていた。

 

「あ、あの………」

 

 ガイアメモリが破壊されたことを見届けた仮面ライダージョーカーは、しばらく無言でその場に佇んだ。色々と聞きたいことがある私は、事情聴取のために同行してもらえないか交渉を始めようとしたけど、仮面ライダージョーカーは高い身体能力を発揮し、市街地のビル群の中へと姿を消してしまった。

 

「また会えるかな……」

 



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