Fate/kaleid liner~指輪の魔術師少年~【一応完結】 (ほにゃー)
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プロフィール

今更ですが、零夜、海斗、空也のプロフィール紹介になります。

ドライの続きはもう少しお待ち下さい。


名前:曽良島 零夜

 

読み:そらじま れいや

 

年齢:10歳→11歳(予定)

 

誕生日:8月21日

 

所属:穂群原学園小等部5年1組

 

職業:小学生兼魔術師(ウィザード)

 

モデル:ソードアート・オンラインの桐ヶ谷和人

 

魔術師姿モデル:仮面ライダーウィザードの仮面ライダーウィザード(フレイムスタイル)

 

備考

穂群原学園小等部に通うごく普通の小学生。

幼い頃に両親は亡くなっており、幼馴染であるイリヤの両親にして自分の両親の友人であった衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンに引き取られ、現在はイリヤの家で共に暮らしている。

イリヤが魔法少女になったと同時に、指輪の魔術師、ウィザードになり、イリヤと共に、クラスカード回収の手伝いをすることになる。

イリヤからは優しくて頼りになる幼馴染と言われてるか、実際は泣き虫で、小さい頃はイリヤから隠れて一人で泣いていた。

成績優秀、スポーツ万能、そして、気が利き、優しい、おまけに顔もいいことから、クラスでも人気の男子で、イリヤと共通の友達である桂美々、森山那奈亀からも好かれてる(尚、この二人はポジション的に、森山那奈巳に位置するので、零夜の事を好いている描写はあっても、話にはあまり絡んでこない)。

クラス以外でも他クラス、下級生、上級生からも人気が高く、噂だとファンクラブもある。

元々は、聖杯戦争において、小聖杯の器であるイリヤを守る守護者の役割を与えられるはずだったが、両親と衛宮切嗣、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの四人によってイリヤ同様、その機能を封じ、知識を封じ、記憶を封じた。

両親はアインツベルン家を脱出する際に、アインツベルン家の手の者によって殺害。

死ぬ間際、父親は衛宮切嗣、アイリスフィール・フォン・アインツベルンに零夜と形見として指輪を託す。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:海斗・F・ディオール

 

読み;かいと

 

年齢:10歳→11歳(予定)

 

誕生日:9月18日

 

所属:時計塔兼穂群原学園小等部5年1組

 

職業:小学生兼魔術師(ウィザード)

 

モデル:NARUTOのうちはサスケ(アニメ初期)

 

魔術師姿モデル:仮面ライダーウィザードの白い魔法使い

 

備考

ディオール家の現当主にして時計塔に所属する最年少魔術師。

正確には時計塔預かりなので正式な時計塔所属ではないが、行く行くは時計塔に所属されると思われる。

本来は、クラスカード回収の任務を任された凛とルヴィアの観察役。

零夜と同じ指輪の魔術を使う魔術師。

魔術師としての腕は零夜よりも高い。

美遊とはルヴィア宅で一緒に仕事をしてる同僚。

美遊に対して好意を持っており、それをギルガメッシュ戦の前の夜で自覚する。

尚、両親は既に死去しており、親戚も行方が不明ということで、身寄りはいない。

 

 

 

 

 

 

 

名前:曽良島 空也

 

読み:そらじま くうや

 

年齢:10歳→11歳(予定)

 

誕生日:8月21日

 

所属:穂群原学園小等部5年1組

 

職業:小学生兼魔術師(?)

 

モデル:ソードアート・オンラインの桐ヶ谷和人(ロングヘアーVer)

 

魔術師(?)姿:Fate/staynightのアサシン佐々木小次郎の服装

 

備考

零夜の守護者となるはずだった人格が二枚目のアサシンのカードを実体化の核として地脈の力を使い、意志と体を取り戻す。

守護者としての使命からか、当初はクロの意向に従い、零夜の命を狙っていたが、零夜のことを知る内に、殺したくないという気持ちが芽生え、一瞬だけ、クロと仲違いを起こし掛けた。

クロが崩壊しそうになった時、自身の体に施された禁術を使い、クロの命を繋ぎ止めるも、その所為で、自分の存在を保てなくなる。

だが、クロの願いが、聖杯によって叶えられ奇跡的に消えずに済んだ。

現在は、零夜の従弟としてクロと共にアインツベルン家で暮らしてる。

クロのことは愛しており、所かまわずイチャついてる。

クロ同様、力を常に消費しながら活動しており、魔力が切れると消滅の危機を迎える。

零夜や海斗の血液摂取により魔力は補給されている。

 



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IFストーリー 零夜がサーヴァントとして召喚されたら
マスター:間桐雁夜


ノリで作りました


間桐雁夜は遠坂桜を救いたかった。

 

桜を救うため、間桐の魔術を嫌って11年前に出奔した家に、雁夜は帰った。

 

そこで見たのは、刻印虫により犯し尽くされ、生気を失った彼女だった。

 

雁夜は自分が家から逃げ出さなければ、彼女を苦しめずに済んだのではないかと自分を責め、彼女を救おうと、聖杯戦争への参加を決意した。

 

間桐家は始まりの御三家と呼ばれ、優秀な魔術師の家系だったが、今では落ちぶれ、存続の危機だった。

 

雁夜は実の兄よりは魔術師としての素質は優秀だったが、十年近く、魔術の訓練を行ってこなかった雁夜では、聖杯戦争に出る資格はないと思われたが、一年にわたる特訓と、体内に「刻印虫」を宿すという処置によって即席の魔術師になり、とうとう聖杯戦争への参加資格となる令呪を宿した。

 

だが、代償として死人のような容貌に加え、魔術を使うだけで血を吐くほど衰弱し余命もわずかな状態となった。

 

それでも雁夜は構わなかった。

 

桜を救えるなら………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「召喚の呪文は覚えてきたろうな?」

 

「ああ」

 

夜、間桐家の地下にある蟲蔵にて雁夜は臓硯共にいた。

 

英霊の召喚の為に。

 

「いいじゃろ。だがその間にもう二節、別の詠唱を差し挟んでもらう」

 

「どういうことだ?」

 

「貴様は他の魔術師と比べると異常に劣るのでな。サーヴァントの木曽能力にも影響しよう。なら、サーヴァントのクラスの補正でパラメーターそのものを底上げしてやらねばなるまい。雁夜よ、今回呼び出すサーヴァントには狂化の属性を付加してもらうかの」

 

臓硯はそう言うが実際、それとは違う思惑があった。

 

臓硯はあくまで本命は次の聖杯戦争であり、今回の聖杯戦争は本来なら捨てるつもりだった。

 

だが、雁夜が聖杯を持ち帰ることと引き換えに、桜の開放を要求した時は少なからず驚いた。

 

だからこそ、雁夜の望みに従い、雁夜を魔術師に仕立て、こうして英霊召喚の為の聖遺物まで用意した。

 

バーサーカーは、異常なまでにマスターから魔力を食うので、マスターの負担は相当なものになる。

 

即席の魔術師である雁夜にとって、バーサーカーの召喚は普通の魔術師が使役するよりも大きな負担があると考えられた。

 

単なる臓硯の嫌がらせに過ぎない。

 

本命はあくまで次の聖杯戦争。

 

雁夜が勝ち抜くなどとは全く思っておらず単純に雁夜を激しい魔力消費で苦しめるための嫌がらせだ。

 

もし、これで雁夜が聖杯を持ち帰ればそれはそれでよし。

 

その程度に思っていた。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

雁夜は魔法人の前に立ち、手をかさ時ながら詠唱を始める。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

詠唱文を告げるごとに魔法陣の光が強さを増していき、そこに圧倒的なまでの魔力が集中していくのを感じる。

 

「――――告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に!我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」

 

詠唱だけでも膨大な魔力が消費され、雁夜の中に埋め込まれた刻印虫が騒ぎ、雁夜の体を蝕む。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者!」

 

バーサーカー召喚の詠唱文を付け加え、最後の詠唱を唱える。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

光が一層強くなり、光が暗い部屋全体を包む。

 

光が収まり、今にも死にそうな雁夜は肩で息をしながら胸を抑える。

 

「や、やったぞ…………!」

 

魔方陣に目をやり、自分が召喚した英霊の姿を確認する。

 

そして、隠せない落胆した。

 

そこにいたのは桜と同い年か少し上ぐらいの少年だった。

 

聖遺物に使ったのはアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の誰かのだと聞かされており、出てくるのは円卓の騎士の誰かが狂化された物だと思っていた。

 

だが、目の前にいるのは子供だった。

 

「はっはっはっはっは!」

 

それを見た臓硯は笑った。

 

「英霊どころかこの様なわっぱの召喚とは………お前は面白いことをする!」

 

臓硯は愉快痛快と言わんばかりに、膝をつき落胆している雁夜を見下ろす。

 

少年は虚ろ気味な瞳でゆっくりと指輪を指に嵌める。

 

その行動に、雁夜は何をしているのかと気になり、見つめる。

 

「………転身」

 

少年がそう呟くと、少年の姿が変わった。

 

裏地が赤で裾に銀色のラインの入った黒いコートを羽織り、黒いシャツに黒いスーツの様な長ズボンを履き、ベルトを通す穴にはチェーンが通され、チェーンには数個の指輪が通されている。

 

「スタイルチェンジ フレイム」

 

チェーンから透明な宝石のついた指輪を嵌めると、コートは燃えるような赤色へと変わる。

 

「な、なんじゃ!?」

 

臓硯はその光景に驚く。

 

「この魔力………わっぱが持つ様な量では………!」

 

その瞬間、少年は巨大な炎を手の中で作り、それを臓硯へと食らわした。

 

「ぐおおおおおおおおおお!!?」

 

臓硯は炎に包まれ苦しみだす。

 

臓硯は魔術の力で肉体を人のものから蟲に置き換える事で数百年も延命を重ね、既に人外と成り果て生き続けてきた。

 

そして、本体の蟲が一匹あり、その蟲を潰さぬ限り、臓硯は何度でもよみがえることができる。

 

少年は炎で、臓硯体の中の何処かにある蟲ごと体を焼き尽くした。

 

その光景に雁夜は呆然とした。

 

体への痛みは軽くなっていた。

 

臓硯が死んだことにより、蟲への命令権が自分にあるのだと理解するのと同時に、臓硯が本当に死んだと理解した。

 

「お、お前は……………?」

 

雁夜は目の前にいる、少年に話しかける。

 

少年はゆっくりと振り返り、雁夜を見下ろす。

 

その目はどこまで優しい色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真名は、曽良島零夜。クラスはウィザード。問おう、貴方が俺のマスターですか?」

 

指輪の魔術師、曽良島零夜とそのマスター、間桐雁夜。

 

こうして、二人の聖杯戦争が始まる。

 



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プリズマ☆イリヤ
プロローグ


*この作品でのオリ主とオリキャラの使う魔術はFateとは全く関係ない魔術となっております。それをご了承の上で、どうぞお読み下さい。


穂群原学園小等部

 

俺、曽良島零夜はそこの5年1組に通っている。

 

今日もいつも通りの授業を終え、放課後。

 

ランドセル代わりのリュックに教科書やドリルを詰め背負う。

 

「レイ!一緒に帰ろう!」

 

背後から幼馴染のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンもとい、イリヤが声を掛けて来る。

 

「態々言わなくても帰る家は同じだろ」

 

そう言い、リュックを背負ってイリヤと教室を出る。

 

俺は現在、イリヤの家、アインツベルン家にて居候している。

 

何でも両親は俺が小さい頃に亡くなり、友人であるイリヤの父親、衛宮切嗣さんがみなしごになった俺を引き取ってくれた。

 

俺が物心ついたころに養子にならないかっと誘われたが、それは断った。

 

切嗣さんと切嗣さんの奥さんであるアイリさんには感謝している。

 

赤の他人である俺をここまで育ててくれたんだ。

 

感謝しない方がおかしい。

 

だけど、苗字は俺と両親を繫げている数少ない物の一つ。

 

これは失いたくない。

 

そして、もう一つ。

 

両親の形見として切嗣さんから渡された、指輪。

 

リングの部分は錆びていて宝石も黒ずみ、何の色の宝石なのかも分からない。

 

その指輪は俺の机の引き出しに大切に保管している。

 

イリヤと二人で歩いていると、高等部の校門が見え、門から丁度イリヤの義兄、衛宮士郎もとい士郎さんが出て来るのが見えた。

 

ちなみに、どうしてイリヤと士郎さんの苗字が違うのかと言うと、切嗣さんとアイリさんは色々あって籍を入れていないらしい。

 

いわゆる事実婚と言う奴だ。

 

「お兄ちゃ~ん!」

 

士郎さんに気付いたイリヤは小走りで士郎さんに近づく。

 

「お、イリヤに零夜。今帰りか?」

 

「はい」

 

「一緒に帰ろう!」

 

「いいぞ」

 

士郎さんは自転車に乗らず、手で押しながら俺達と歩く。

 

「レイ、お兄ちゃん!家まで競争しよう!」

 

「いいぞ」

 

「俺もいいけど、俺、自転車だぞ」

 

「大丈夫!私、走るのは得意だから!」

 

「自転車に負けるほど軟な鍛え方はしてませんから」

 

そう言うと俺とイリヤは同時に走り出す。

 

「たっく、待てよ!」

 

士郎さんも自転車に乗り、俺たちに追いつきそうで追いつかないスピードを維持して着いて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ただいまー」」」

 

「お帰りなさい、イリヤさん、零夜君。あら、士郎も一緒でしたか」

 

家に着くと俺達を迎えたのはセラさんだった。

 

セラさんは、アイリさんが切嗣さんの仕事に着いていき、よく海外に行くので、その間の家事やイリヤの教育を任された人だ。

 

お手伝いさんみたいな感じかな。

 

「そうだ、イリヤさん。お昼過ぎに荷物が届いてましたよ。確か中身はDVD」

 

セラさんがそこまで言うと、イリヤは笑顔になりリビングへと走って行く。

 

「ああ、リズお姉ちゃん!自分だけ先に見てるなんて酷い!」

 

イリヤのそんな声が聞こえたので士郎さん、セラさんと一緒になってリビングを覗く。

 

そこにはセラさんの姉妹のリーゼリットもといリズさんがソファーに座ってアニメのDVDを見ていた。

 

「イリヤ、おかえり~」

 

「おかえり~っじゃないよ!先に見るなんて!」

 

「でも、お金出したの私だし」

 

「それはそうだけど………」

 

「何かと思えば」

 

「アニメの……DVD」

 

そうか。

 

どうりで今日一日上機嫌だったわけだ。

 

「イリヤさんもすっかり俗世に染まってしまって。これでは留守を任せて下さってる奥様に申し訳が立ちません……」

 

セラさんは申し訳なさそうに言う。

 

「いや、別に其処まで重く考えなくても」

 

「何を無責任な!義理とは言え、兄である貴方がしっかりしないからこんなことになるんですよ!」

 

「え!?俺!?」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

士郎さんに説教をし始めるセラさん、苦笑しながら説教を受ける士郎さん、DVDを見てはしゃぐイリヤとリズさん。

 

これはもうあれだな。

 

「着替えて宿題しよっと」

 

誰かに言う訳でもなくそう呟き、階段を上がる。

 

上がる途中で足を止め、もう一度その光景を見る。

 

その光景に、俺は誰にも気づかれないように一人で笑い、自室へと向かった。

 



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やってくる魔術師たち

「まさか一年で帰ってくるとは思わなかったわ」

 

遠坂凛は夕焼け色に染まる空港で一人そう呟く。

 

凛は魔術師だ。

 

ロンドン時計塔の魔術師にして、そこで主席候補になるぐらい優秀な魔術師。

 

『久々の帰郷、気分はどうですか、マスター?』

 

凛に声を掛けたのは現在、彼女が持つキャスターの中にある魔術礼装「カレイドステッキ」のマジカルルビー。

 

魔法少女が持っていそうな魔法のステッキの様な見た目で、先端は真ん中をくり抜き、そこに星をはめ込み、その両隣に羽根の装飾品が付いている。

 

話が出来る魔法のステッキの様なものだ。

 

「別に、どうとでも。てか、アンタよく税関通ったわね」

 

「はぁ~、湿っぽくて雑多な国です事」

 

その時、凛の背後から声がし、その声の主に凛は苛立ちと殺意を憶えた。

 

「エレガンスの欠片もない、ホント、どっかの誰かさんみたいですわ」

 

高飛車な性格に、お嬢様口調。

 

その少女の名はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

 

凛と同じ魔術師で、ことあるごとに凛に喧嘩を仕掛けている。

 

それに対し、凛もその喧嘩を買っている。

 

「ルビー、さっきの言葉訂正するわ。こんなバカと一緒に帰ってくるなんて反吐が出るわ!」

 

「……それはこちらの方ですわ!元々こうなったのも全て貴方が原因なのですよ!」

 

「自分の事は棚に上げ解いて良く言うわ、この縦ロール」

 

「なんですって!?」

 

公共の場で行き成り喧嘩を始める二人にルビーとそして、ルビーと対になる魔術礼装「カレイドステッキ」で、ルビーの妹であるマジカルサファイアは呆れる。

 

『公共の場での喧嘩は止して下さい、マスター』

 

『ホントに恥ずかしい人達ですね』

 

「はぁ~……先が思いやられる」

 

最後にそう呟いたのは、二人の喧嘩を背後から見ていた一人の少年だった。

 

海斗・F・ディオール。

 

彼女たちと同じロンドン時計塔の魔術師で、最年少魔術師でもある。

 

彼女たちが何故日本に居るかと言うと、それはある任務の為だ。

 

凛は魔導元帥ゼルレッチの弟子に志願しようとした直前にルヴィアと時計塔内で大乱闘を起こしてしまい、そのため弟子入りの条件および時計塔からの懲罰としてゼルレッチにある物の回収を命じられ、ルヴィアとともにここ、冬木にやってきた。

 

海斗は、あの二人だけだと必ず問題を起こすと思ったゼルレッチが、監視役として派遣された。

 

海斗は、自分に二人の監視が務まるのか、そして、無事に任務を達成できるのかだろうあkと不安を抱きながら、夕焼け色に染まる空を呆然と見つめた。



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胡散臭いステッキ

「よし、宿題終了」

 

明日提出の宿題を終え、宿題のノートをリュックに仕舞う。

 

後は風呂に入って寝るだけか。

 

「そうだ。アレやるかな」

 

風呂に入る前に、引き出しから両親の形見である指輪を取り出し、リング部分の錆取りを始める。

 

「もう一年近く錆取りしてるけど全然取れないんだよなー」

 

中々取れない錆と格闘しながら、十分後。

 

「そう言えば、錆取りには重曹が良いって聞いたな」

 

確か重曹ならこの間の理科の実験で余ったのがあったっけ。

 

「丁度いいし、風呂場で磨こう」

 

机の上の道具を片付け、パジャマと重曹、指輪を手に風呂場へと向かう。

 

ちなみに、この家には女性が三人いる。

 

そのため、いらぬハプニングが起きないように風呂場では誰かが使用中の際は扉前の札で使用中かをどうかを判断する必要がある。

 

今は誰も入ってない。

 

大丈夫だな。

 

「お、零夜も風呂か?」

 

入ろうとすると士郎さんもパジャマを持って現れる。

 

「そのつもりでしたけど、士郎さん先でいいですよ」

 

「何言ってるんだよ。折角だし、一緒に入ろうぜ」

 

「でも………」

 

「男同士気にすんなって」

 

そう言い、士郎さんに背中を押され一緒に脱衣場へと入る。

 

取り敢えず、指輪は錆防止の塗料でコーティングしたチェーンに通し首から下げ、士郎さんには風呂場の中で錆取りをすることを伝えた。

 

士郎さんは全然問題ないっと言ってタオルを腰に巻いた。

 

俺も腰にタオルを巻き準備を終える。

 

そして、士郎さんが風呂場の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも皆さん。

 

海斗・F・ディオールです。

 

今、俺が何をしているのかと言うと簡単です。

 

凛さんとルヴィアさんの喧嘩を観戦してます。

 

事の発端はいつも通りルヴィアさんが凛さんを挑発し、凛さんがそれに乗り、そして喧嘩。

 

しかも今回はルビーとサファイアまで持ち出し、二人とも魔法少女の姿で戦ってる。

 

はっきり言って、高校生ぐらいの女性が魔法少女の恰好ってかなりキツイ気がする。

 

あれ、止めた方がいいかな?

 

そろそろ止めようかと思ったその時、二人はクラスカードを取り出した。

 

まさか、クラスカードまで持ち出すのか!?

 

流石にそれはまずいと思い、止めようと空を飛ぶ。

 

「「………………あれ?」」

 

しかし、ルビーとサファイアは出されたクラスカードを限定展開(インクルード)せず、無反応だった。

 

「ちょっとルビー!限定展開(インクルード)よ!」

 

「どうしたのよ、サファイア!」

 

『やれやれですねぇ。もうお二人には付き合いきれません。大師父が私達「カレイドステッキ」をお二人に貸し与えたのはお二人が協力して任務を果たすためだったはずですよ?』

 

「うっ……」

 

「ざまぁありませんわね、遠坂凛!自分のステッキに窘められるなど、やはり私とは持ち主の核と言う物が違『いいえ、ルヴィア様もです』なんですって?」

 

『ルヴィア様の任務を無視した傍若無人な態度や立ち振る舞い。恐れながらルヴィア様にはマスター失格であると判断します』

 

これは………礼装に見捨てられたってことかな?

 

そして、ルビーとサファイアは二人の手から離れ、宙に浮く。

 

『まぁ、そう言う事なので』

 

『まことに勝手ながら』

 

『『暫くお暇を貰います』』

 

見捨てられちゃったか。

 

「まてやゴラァ!ステッキの分際で主人を見捨てる気!」

 

「許しませんわよ!サファイア!」

 

『へっへーん!凛さんはもう、マスターではありませ~ん!』

 

『申し訳ありません、元マスター』

 

『あ、そうそう。御二人とも、もう転身も解いて置きましたので早く何とかしないと大変ですよ』

 

「「え?」」

 

二人はいつのまにか魔法少女の恰好から私服に戻り、そしてそのまま川へと落ちて行った。

 

「凛さーん!ルヴィアさーん!」

 

『では、ご機嫌よーう!』

 

そう言い、ルビーとサファイアは去って行った。

 

「…………え?俺にどうしろと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂場は真っ暗で士郎さんが電気を点ける。

 

するとそこには何故か全裸で窓を開けて空を見上げているイリヤがいた。

 

あれ!?どうして!?扉にはちゃんと未使用中の看板があったのに!

 

「いや、電気が消えてるから、てっきりもう上がったものだと」

 

「いやああああああ!!」

 

イリヤは顔をみるみると真っ赤にし、腕で体を隠し、しゃがむ。

 

その瞬間、空いていた窓から翅の付いたステッキが飛んできて、そのまま士郎さんに直撃する。

 

変なステッキの直撃を受けた士郎さんは気を失い、そのまま倒れた。

 

「し、士郎さん!?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

流石に目の前で行き成り義理とは言え兄が倒れればイリヤも心配で声を掛ける。

 

『避けられてしまいましたか。手っ取り早く済ませたかったんですけどね』

 

宙に浮き、喋り、うねり出すステッキに俺とイリヤは呆然とした。

 

『まぁいいでしょう。初めましてぇ!私、愛と正義のマジカルステッキ!マジカルルビーちゃんでぇす!そこの貴女!魔法少女になりませんかぁ?』

 

行き成り魔法少女とか、愛と正義だとか言い出すステッキに、俺とイリヤは恐らく同じ感情を持った。

 

((う………胡散臭い………))

 



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魔法少女と魔術師の誕生

この状況はなんだろう?

 

全裸のイリヤ、全裸(タオル着用)の俺、気絶してる全裸(タオル着用)の士郎さん、喋る胡散臭いステッキ。

 

明らかにおかし過ぎる。

 

『あれ~?貴女、今胡散臭いと思ってますね?そこの君も?』

 

心を読まれた!?

 

「い、いや……うん」

 

「てか、ステッキが喋る時点で胡散臭過ぎるだろ」

 

『はぁ~、嘆かわしい。現代では魔法少女に憧れる都合のいい女の子はもういないのでしょうか………』

 

何やら落ち込んでるみたいだが、何を言ってるのがさっぱりわからない。

 

「取り敢えず、士郎さんの顔の上から退いてくれないか?流石に、士郎さんが可哀想だ」

 

『おやおや、随分とお優しいですねぇ。ですが、優しいだけじゃ今時の女の子は惚れたりしませんよ?』

 

余計なお世話だ。

 

「む~……レイは優しい以外にも逞しくて頼りになるとか良い所一杯あるもん」

 

イリヤが俺を擁護するかのようにステッキもといルビーに言う。

 

俺はいい幼馴染を持ったな………

 

嬉しくて顔がニヤける。

 

『…………ふむ』

 

ルビーは何やら考え込むと、ステッキの手で持つ部分を動かし、俺の腰のタオルを叩き落とした。

 

つまり――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の男の象徴がイリヤに見られた。

 

俺はショックでその場に膝をつき、四つん這いになった。

 

「何してるの、この変態!」

 

『これは失礼。ちょっと出来心で。おっと、鼻血が出てますよ』

 

そう言い、ルビーはイリヤの鼻血を拭いた。

 

それから数分後、立ち直った俺は今湯船に浸かってる。

 

イリヤからそのままだと風邪引くからっと言われ、イリヤの許可を得て、湯船に入ってる。

 

『さて、話を戻しますが、やりませんか?魔法少女』

 

「えっと、なんかもう話に着いていけないんで他を当たっていただけますでしょうか?」

 

敬語になってる………

 

だが、ルビーは意地でもイリヤを魔法少女にしたいのかグイグイと詰め寄ってくる。

 

「楽しいですよ、魔法少女!気合で空飛んだり!ビームで敵をやっつけたり!恋の魔法でラブラブになったり!」

 

「え?」

 

え?何その反応?

 

まさか、いるの好きな人?

 

『おっ!今反応しましたね!意中の殿方がいるんですか?』

 

「いないよ!そんなのいないよ!」

 

その反応、まるでいるような反応じゃないか。

 

相手は誰だ?

 

クラスの誰かが?

 

『ムキになるのが怪しいですねぇ。お相手は誰ですか?ベタにクラスの男の子ですか?あ!分かりました!そちらの……!』

 

「うわあああああああああああああ!!いないって言ってるでしょ!このバカああああああああ!!」

 

イリヤはルビーを掴み窓の外へ投げようとする。

 

が、ステッキが離れず、イリヤの動きは止まる。

 

『ふっふっふ!想像以上にちょろかったですねぇ。血液によるマスター認証、接触による使用契約、そして、起動のキーとなる乙女のラブパワー!全て滞りなく頂きました!』

 

こいつ、何処が愛と正義のマジカルステッキだよ1

 

どう見ても悪役じゃないか!

 

『さぁ、最後の仕上げと参りましょうか。貴女の名前を教えて下さいまし?』

 

「い……イリヤス……フィール…フォン……アインツベルン!」

 

まるで抗えない未知の力によって操られるかのように、イリヤは自らの口で名前を言う。

 

『やっふぅぅぅぅぅぅ!これでマスター登録は完了ですよ!』

 

イリヤがルビーとなんらかの契約をした瞬間、急に俺の首からかけられてるチェーンに通された指輪が光りだした。

 

「こ、これは……!」

 

訳の分からない事態に俺は驚きながらも、眩しい光から間を守るように目を覆う。

 

気が付くといつの間にか俺とイリヤは風呂場の外、というか家の外に出ていた。

 

「あれ?いつの間に?」

 

「ななななな何これ!!?」

 

イリヤの絶叫が聞こえ振り返る。

 

するとそこには、ピンクを基調とした露出が多めの服を着たイリヤが居た。

 

「まさか………本当に魔法少女になったのか?」

 

「レイも外に居たんだって、レイ!」

 

俺の方を見たイリヤが驚きの表情になる。

 

「その恰好、何?」

 

イリヤに言われ俺は自分の姿を見る。

 

裸ではない。

 

いつの間にか服を着ていた。

 

だが、俺の服じゃない。

 

それは裏地が赤で裾に銀色のラインの入った黒いコートを羽織り、黒いシャツに黒いスーツの様な長ズボンを履き、ベルトを通す穴にはチェーンが通され、チェーンには数個の指輪が通されていた。

 

そして、両親の形見である指輪はいつの間にか俺の右手の中指に嵌められていた。

 

しかも、錆は取れ、宝石の部分黒色だが、これが本来の輝きなのか綺麗に輝いていた。

 

俺はその姿を見て思わず言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃああああああああああああ!!?」



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とんでもない事

「おい詐欺ステッキ!これはどういうことだ!魔法少女になったのはイリヤだろ!どうして俺まで変身してるんだよ!男で魔法少女とか笑えねぇぞ!」

 

俺はルビーを掴み、握りつぶす勢いで力を込める。

 

『こ、これは私の推測ですが、貴方の首からぶら下げていた指輪。あれには元々所有者の魔術師としての力を開花させる力が秘めてあり、その力がイリヤさんと私との契約によって共鳴を起こし、貴方様を魔術師へと昇華させたのではないかと。後、変身ではなく転身です』

 

「じゃあ何か?俺はお前の詐欺の二次被害にあったってことか?」

 

『二次被害とは失礼な。まぁ、そういう見方もできますね』

 

「嘘だろ…………」

 

俺の理解の範疇を超えている出来事に俺はルビーを手放し、膝を尽き項垂れる。

 

「えっと……レイ、ごめん。私の所為でなんか大変なことに………」

 

「いや、イリヤの所為じゃねぇよ。イリヤも被害者だし」

 

『それにしても!お二人ともよくお似合いですよ!やっぱり魔法少女はロリっ娘に限りますねぇ!どっかの年増ツインテールとは大違い!』

 

「ほぉ?誰が年増だって?」

 

宇治路から聞こえた声に俺とイリヤが振り返ると黒いミニスカートに赤い服を着たツインテールの女性が居た。

 

誰?

 

『あらぁ、誰かと思えば凛さん。生きていたんですね』

 

「ええ。お陰様でね」

 

何やらご立腹の様だ。

 

「おい、ステッキ。あの人は誰だ?」

 

『彼女は凛さんです!私の前のマスターですよ!』

 

「こっちに来なさい、ルビー!誰かマスターかみっちり教えてあげるわ!」

 

『いえいえ!そんなの教わるまでもありませんよ。私のマスターはこちらにおわすイリヤさんこそ私の新しいマスターなのですから』

 

「はぁ?貴女、どういうこと?」

 

「ち、違うんです!詐欺です!騙されたんです!」

 

イリヤは睨んでくる凛さんに慌てながら無実を訴える。

 

「はぁ……まぁいいわ。大体分かったから取り敢えず、そのステッキ返してもらえる?碌でもないものだけど、私には必要なの」

 

そう言われ、イリヤはステッキを凛さんに差し出す。

 

「どうぞ」

 

「ありがと」

 

凛さんはそれを掴み、貰おうとするがステッキはイリヤから離れなかった。

 

「手を離してもらえないかなぁ?」

 

『無駄ですよ』

 

凛さんの言葉に返したのはルビーだった。

 

『既にマスター情報は上書き済みですからね。本人の意思があろうとなかろうと私が許可しない限りマスター変更は不可能と言うこ「ふん!」ホワッチャ!』

 

最後の言葉を言い終える間も無く、ルビーは家の壁に叩き付けられる。

 

叩き付けられた衝撃で壁が凹んだ。

 

「上等じゃないのルビー。それならもう一度マスター変更したくなるように可愛がってあげるわ」

 

『相変わらず情熱的な方ですね。そんなに魔法少女が恋しいのですか?』

 

「誰が!あんなもん人に見られたら自殺もんよ!」

 

「私、今自殺もんの状況なんだ」

 

イリヤがなんかショックを受けてる。

 

『分かりました。じゃあ、イリヤさん。私を凛さんに向かってコノヤローっと思いながら振って下さい』

 

「え?……えっと、このやろー」

 

イリヤが力無くルビーを振る。

 

すると先端から何かが出て凛さんに当たる。

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

「「なんか出たー!!」」

 

イリヤとはもった。

 

『イリヤさんの返答はこうです!ステッキは誰にも渡さねぇ。さっさと国に帰りな年増ツインテール!』

 

「言ってない!そんなこと言ってない!」

 

「何すんのよ!」

 

すると凛さんはキレ、イリヤごとルビーを攻撃する。

 

「イリヤ!」

 

俺は咄嗟にイリヤの前に立ち、守るように抱きしめる。

 

攻撃がやみ、目を開けると俺もイリヤも無傷だった。

 

「あれ?無傷?」

 

『凄いですね。どうやらその服には防御魔術が付与されていて大抵の攻撃を防ぎ、守ってくれるみたいです』

 

「そうなのか……あ、イリヤ無事か?」

 

「う、うん。レイが護ってくれたから」

 

『しかし、お忘れですか凛さん。カレイドルビーにはAランクの魔術障壁・物理保護など多くの力が宿っている事を。つまり、今や英雄に等しき力を得たこの私に年増ツインテール如きが敵うと思ってるのか!と、イリヤさんは言ってるのですよ!』

 

「ちょっと!勝手なこと言わないでよ!」

 

『お前に魔法少女は似合わねぇ。諦めて国へ帰りな年増ツインテール!っと言ってるですよ』

 

「おい、それ以上あることないこと言うの止めろ!」

 

俺とイリヤでルビーに文句を言ってると凛さんはポッケから何かを出し、俺達に投げる。

 

あれは宝石?

 

その瞬間、宝石が光り爆発した。

 

その眩い閃光に俺とイリヤは目が眩んだ。

 

「な、なに?」

 

『目眩ましです!イリヤさん、逃げてください!』

 

「そ、そんなこと言ったって………」

 

「ごめん、少し眠っててね」

 

その声が聞こえた瞬間、俺は感覚だけを頼りにイリヤを突き飛ばす。

 

そして、次の瞬間俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると目の前に、心配そうに俺を見るイリヤが居た。

 

「イリヤ?」

 

「レイ!良かった、目が覚めて!」

 

『いや~、障壁の内部から攻撃とは、戦闘経験の差が出てしまいまいたね。これから色々教育していきませんと。しかし、目が見えない状況で感覚のみで凛さんの気配を察知し、イリヤさんを守るレイさんも凄かったです。まるでアニメを見てるような気分でした。では、私はこれで』

 

「待てバカステッキ」

 

逃げ出そうとしたルビーを凛さんが捕まえる。

 

「どさくさに紛れて逃げ出そうとしてんじゃないわよ」

 

『ちっ!暴力には屈しませんよ。私の新しいマスターはイリヤさんと決めたんですから』

 

「あっそ」

 

そう言い凛さんはルビーを放り捨てる。

 

『あれ?』

 

「それならそれでもいいわ。こんな小さな子達を巻き込みたくないけど………ちょっといい?」

 

凛さんに声を掛けられ俺とイリヤは凛さんの方を見る。

 

「これから言う事を良く聞きなさい。拒否権はないわ、恨むならルビーを恨みなさい」

 

風が吹き、雲に隠れていた月が顔を出し、俺達を月明かりで照らす。

 

「これから貴方たちは魔法少女と魔術師になってクラスカードを集めるのよ」

 

今日一日だけで、いや、ほんの僅かな間に色々あり過ぎて、俺もイリヤも色々追いつかない中、一つだけ俺とイリヤは理解出来た。

 

俺達はとんでもなく面倒なことに巻き込まれたんだと

 

「「………はい?」」

 



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脅迫

「起きなさい!」

 

「ふがっ!」

 

「ふぎゅ!」

 

行き成りの衝撃に目を開け頭上を見る。

 

見ると、そこには教科書を丸め、怒っている藤村先生がいた。

 

「授業中に居眠りしないように!」

 

「「はい……」」

 

俺とイリヤは先生に謝り、教科書に目を落とす。

 

あの後、俺とイリヤは凛さんから色んな説明を聞いた。

 

凛さんはクラスカードと言う英霊と呼ばれる者の力が宿った危険なカードの回収を命じられ、そのために、ルビーを貸し与えられたそうだ。

 

だが、ルビーにマスターとしてふさわしくないと判断され、ルビーはイリヤをマスターに選んだ。

 

仕方ないので、凛さんがルビーを説得するまでの間、イリヤと俺は凛さんと一緒にクラスカードの回収任務をすることになった。

 

本来、俺は無関係な人間なのだが、ここまで事情を知った以上知らないフリをするのは難しいし、なによりイリヤが心配なので俺もカードの回収を手伝うことにした。

 

放課後になり、俺とイリヤは早々に学校を後にする。

 

イリヤは何処か嬉しそうにしていた。

 

『やれやれやっと放課後ですか』

 

イリヤのランドセルに入ってるルビーが少しだけ顔を出し、言う。

 

「ごめんね……ねぇルビー、魔法の使い方教えてよ」

 

『いいですよ。でもどうしたんですか?昨夜はあんなに嫌がっていたのに』

 

「折角だから楽しもうと思って」

 

「あ、そうだルビー。俺のあの指輪の使い方って分かるか?」

 

『あれは私は知らない物ですし、使って覚えてくしかないでしょうね』

 

「やっぱそうか」

 

「あれ?これなんだろ?」

 

ルビーと話してるとイリヤが自分の靴箱から何かを取り出す。

 

あれは手紙?

 

『おおっ!これはもしやアレですね!』

 

「アレって………まさか!?」

 

『そのまさかですよぉ!放課後の靴箱に手紙と言えば、これはラブなあれにまちがいありません!』

 

ラブレターだと!?

 

確かにイリヤは可愛いからそれなりに人気もある。

 

幼馴染と言う立場である俺は男子たちから嫉妬の対象となったりもする。

 

しかし、まさかラブレターなんか出す奴がいるとは………………

 

『さぁさぁ、イリヤさん。早く中身を』

 

「おおお、落ち着いてルビー。ここは冷静に……冷静に……」

 

イリヤは顔を真っ赤にして手紙の封を開け中身を見る。

 

俺もイリヤの後ろからドキドキしながら覗き見る。

 

〔今夜0時に高等部の校庭まで二人で来るべし。来なかったら殺………迎えに行きます〕

 

ラブレターではなく脅迫状だった。

 

イリヤは死んだような目をして、手紙をそっとしまった。

 

『………帰りましょうか、イリヤさん』

 

「………そうだね」

 

「………イリヤ、気を落とすこと無いぞ。誰だって勘違いするさ」

 

「………そうだね」

 

力無く返事するイリヤを見て、俺は心のどこかでほっとした。

 

なんでほっとしたんだ?




次回はライダー戦となります


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もう一人の魔法少女と魔術師

夜になり、士郎さんとセラさん、リズさんが寝静まったのを確認し、俺は自室を抜け出し、玄関へと向かう。

 

同じく玄関へ向かおうとしていたイリヤと合流し、そして、高等部の校庭を目指す。

 

校門を通り校庭に進むと凛さんが立っているのが見えた。

 

「おっ、ちゃんと来たわね」

 

そりゃ、あんな脅迫状が届けばね……………

 

「あの、もしかして今からカード回収ですか?」

 

「そうよ。取り敢えず転身してもらえるかしら?」

 

「……はい」

 

イリヤは憂鬱そうにして、校庭にある女子トイレへと向かう。

 

「ちょっと、何処行くのよ?」

 

「転身を見られるのが恥ずかしいそうですよ」

 

そう言い、俺は指輪を中指に嵌め、転身と口にする。

 

すると、俺の周りが光り輝き、俺は、この前と同じ格好を身に纏う。

 

それと同時に、イリヤも転身を終え、トイレから出て来る。

 

「さぁ、始めるわよ。カードの位置は校庭のほぼ中央。そこを中心に歪みが観測されてる」

 

「中央って………」

 

「なにもないですけど………」

 

中央には何も見当たらず、辺りも静かなものだった。

 

「ええ、ここにはないわ。カードがあるのはこっちの世界じゃないもの。ルビー」

 

『はいはーい』

 

ルビーがそう言うと、俺達を光り輝く陣が囲った。

 

「え!?な、何!?」

 

「これは……!」

 

『第五計測変数に虚数軸を追加。反転準備を開始。複素空間の存在を確認。中心座標の固定を完了。半径二メートルで反射路形成。境界回廊を一部反転します』

 

ルビーが訳の分からない言葉をずらずらと並べ何かを言う。

 

「な、何をするの?」

 

「カードがある世界に飛ぶのよ」

 

「カードがある世界って?」

 

そう尋ねた瞬間、いつの間にか変な空間に居た。

 

校庭と何も変わらないが、建造物が地面に映っていた。

 

まるで鏡の様に………

 

「無限に連なる合わせ鏡。この世界を一つの像とした場合、それは鏡面そのものの世界。鏡面界。そう呼ばれる世界にクラスカードは存在するの」

 

「………あの、凛さん」

 

イリヤが凛さんに何かを訪ねようとした時、校庭の中心から黒い煙のようなものが吹き出す。

 

「説明してる暇はないわ!構えて!」

 

「な、なんですかこれ!?」

 

「報告通りね。クラスカードは実体化するのよ」

 

「どうしてそんな大事な事を先に言わないんですか!?」

 

その事実に俺は思わず叫ぶ。

 

「カード回収って見つけるだけじゃないんですか!?」

 

「残念ながら違うわ。カードはアレを倒して回収するのよ」

 

黒い煙は徐々に女の人の形になり、目を隠し、目隠しの中央部分には大きな目が一つぎょろりと着いていた。

 

「戦うなんて聞いてないよぉ!」

 

襲って来た女性の攻撃を横に飛ぶことで躱し、俺は構える。

 

すると凛さんは赤い宝石を三つ取り出し、それを投げつける。

 

宝石は爆発し、女性を巻き込む。

 

だが、爆発が収まるとその煙の中から無傷の女性が現れた。

 

「あの爆発で効いてないのかよ!」

 

「やっぱこんな魔術じゃ効かないか。結構高い宝石だったのに……」

 

「効かないって……じゃあ、どうすれば!?」

 

「あんたらに任せるわ」

 

「「へっ?」」

 

「魔術は効かなくても純粋な魔力の塊なら通用するはずよ。それと零夜君の魔術は見た限り私の知り合いの魔術に似てるわ。その魔術は私達魔術師が使う魔術とは異なるからそれも効くはずよ。頑張って」

 

なんて他人任せだ!

 

そう思った時、女は鎖の付いた杭を手に攻撃をしてくる。

 

隣のイリヤを突き飛ばし、俺も横に移動する。

 

杭は俺とイリヤの間を通り抜け、イリヤの背中を掠る。

 

「掠った!今、掠ったよ!」

 

「イリヤ!避けろ!」

 

掠ったことに涙目で慌てるイリヤに女が再び攻撃を仕掛けて来る。

 

俺が声を上げると、ルビーが動きイリヤを移動させる。

 

『接近戦は危険です。ますは距離を取りましょう』

 

「そうだね。取りましょう、距離」

 

そして、イリヤは遠くを見つめ、一気に走り出した。

 

「きょおおおおおりいいいいいいいい!!」

 

速いな。

 

女も武器を手にイリヤの後を追う。

 

「逃げ足は速いわね」

 

「まぁ、アイツ走るのは得意ですから」

 

「てか、こら!逃げてないで戦いなさい!零夜君も!」

 

「でも、どう戦えばいいのか………」

 

「その指輪を使うの!」

 

「指輪を?」

 

呟きながら自分の中指に嵌められている指輪を見る。

 

「私の知り合いは、複数の指輪をうまく使って戦うの!その腰のチェーンに通されてるのを使いなさい!」

 

「でも、どれがどんな効果なのか俺には」

 

「きゃあああああああ!!」

 

その時、イリヤの叫び声が聞こえる。

 

振り向くと女の攻撃でイリヤが飛ばされていた。

 

「イリヤ!」

 

咄嗟に走り出し、俺はチェーンから指輪を一つ取り出す。

 

殆ど無意識だった。

 

手に取った指輪がどんな効果を持っているのか分からない。

 

だが、頭で考えるより体が先に動いた。

 

指輪を左手の中指に嵌め、イリヤと女の間に立ち、指輪の宝石部分を見せるように構える。

 

その瞬間、宝石を中心に何かが展開され、女の攻撃を防いだ。

 

女は攻撃を防がれた衝撃で後方に飛び、距離を取る。

 

『今ですよ、イリヤさん!強い攻撃のイメージをして、私を振って下さい!』

 

「つ、強い攻撃のイメージ?」

 

イリヤが戸惑てる間にも、女は攻撃態勢を整える。

 

『早く!』

 

「もう!どうにでもなれ!」

 

イリヤは目を閉じ、渾身の力を込めルビーを振る。

 

すると、ルビーから魔力が斬撃の形になった飛び出し、女を襲う。

 

女は持っていた武器で攻撃を受け止めるが、押し負け爆発が起きる。

 

「すごっ!ナニコレ!こんなのが出るの!?」

 

『お見事です!行き成り大斬撃とはやりますねぇ~!』

 

「効いてるわよ!間髪入れずに速攻!」

 

凛さんが遠くの茂みから応援もとい助言をする。

 

「遠いな……」

 

「自分の攻撃が効かないからしょうがないんじゃないか」

 

『運動会を見に来た保護者のようですね』

 

同感だ。

 

「えっと、まだ戦わないといけないんだよね」

 

『はい。相手は人間じゃありません。思いっきりやっちゃって下さい』

 

「ちょっと殺伐し過ぎだけど……ようやく魔法少女らしくなってきたかも!」

 

イリヤはそう言うと再び攻撃を放つ。

 

だが、今度の攻撃は当たらず、躱された。

 

「あれ?」

 

『避けられちゃいましたね』

 

イリヤは再びルビーを振り攻撃をする。

 

だが、それも躱され、それ以降いくら攻撃しても攻撃は当たらなかった。

 

「さっきは当たったのに!」

 

「さっきの攻撃で警戒されたんだろ。もう同じ攻撃は喰らわないはずだ」

 

『零夜さんの言う通りです!ここは作戦を変えましょう。イリヤさん、散弾をイメージできますか?』

 

「散弾?」

 

「小っちゃい弾が沢山散らばるような感じだ」

 

「なるほど」

 

イリヤはそう言うと再びルビーを振り、小さな魔力の弾丸を大量に飛ばす。

 

女は大量に飛んでくる攻撃から体を守るようにに防御姿勢を取り、そして、周りに攻撃が落ちる。

 

「やった?」

 

『いえ、おそらくまだです』

 

土煙が張れ、中から女の姿が現れる。

 

すると、目隠しの目の部分が怪しく輝き、それを中心に黒い魔法陣みたいなのが現れる。

 

「あれは……!早く逃げて!」

 

凛さんはアレがなんなのか知ってるらしく叫ぶ。

 

『イリヤさん逃げてください!』

 

「逃げるって……何処に……」

 

『とにかく敵から離れてください』

 

取り敢えずアレが危険な攻撃だってのは分かる。

 

俺はもう一度指輪を構え、あの攻撃を防ごうとする。

 

だが、指輪は反応せず、うんともすんとも言わない。

 

「そんな!さっきは出たのに!」

 

「零夜君も早くこっちに!ダメもとで防壁を貼るわ!」

 

「……くそ!」

 

俺は悪態を吐きながらイリヤと一緒に凛さんの元まで下がる。

 

凛さんは宝石で防壁を貼り俺達を守る。

 

そして、女が何かしらの攻撃をしようとした瞬間、俺達の横を一人の少女が通り抜ける。

 

その少女の手には一本の槍が握られていた。

 

だが、その少女が攻撃するより向うの方が攻撃をするのが速い。

 

その時

 

「チェイン!」

 

俺達の頭上で声がした。

 

上を見上げると、白いコートを纏い、フードを被った者が空に浮いていた。

 

そして、左手に付けられた指輪から鎖が伸び、女を捕縛する。

 

「今だ!」

 

「ゲイ……ボルク!」

 

少女の槍は、女の魔法陣の中央を貫き、そのまま体も貫く。

 

女はその場に膝を尽き、そして体は空間に溶けるように消えた。

 

「ランサー、限定展開解除(アンインクルート)

 

少女がそう言うと、持っていた槍はステッキへと形状を変えた。

 

そのステッキはルビーと酷似していた。

 

違うのは先端に嵌め込まれた五芒星が向うのは、六芒星なのと羽根の飾りがリボンの様な飾りであるぐらいだ。

 

「対象撃破。クラスカード“ライダー”、回収完了」

 

「手際が良いな、美遊」

 

声からして男と思われる奴が、その少女の隣に並ぶ。

 

その時、フードが外れ男の顔が現れる。

 

見た感じ、俺と同じぐらいだと思う。

 

「だ、誰?」

 

イリヤは少女に、向けそう言った。

 

そして、俺は―――

 

「俺と同じ魔術……?」

 

少年に向かってそう言った。

 



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転校生は魔法少女と魔術師

俺たちの間に沈黙が流れる。

 

誰も言葉を発さず、視線を躱す。

 

その時―――

 

「オーホッホッホッホッホ!」

 

何処からかお嬢様風の高笑いが響いた。

 

「な、何!?」

 

「この癇に障るようなバカみたいな笑い声は……!」

 

「無様ですわね」

 

そして、俺達の背後から一人の女性がやってくる。

 

青いドレスに金髪の縦ロールだ。

 

「敵に対していかに必殺の一撃を入れるか。その一瞬の判断こそが勝負の行方を分けるのですわ。なのに、相手の力に恐れをなして逃げ纏うとは、飛んだ道化ですわね!遠坂凛!」

 

「ルヴィア!」

 

知り合いなのか?

 

「てか、アンタ生きてたのね………」

 

「当然ですわ。美遊、ご苦労様」

 

そう言って女性もといルヴィアさんは、少女、美遊からクラスカードを受け取る。

 

そして、高笑いを上げる。

 

その笑い方に凛さんはキレたのか、ルヴィアさんの延髄に鋭い蹴りを入れる。

 

痛そうだ…………

 

「やっかましい!てか見てたんなら助けなさいよ!この縦ロール!」

 

「レディの延髄に、よくもマジ蹴りを………!これだから知性の足りない野蛮人は!」

 

「なにを偉そうに!不意打ちだったくせにいい気になってんじゃないわよ!」

 

そう言い、二人はなぜか取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 

「えっと………」

 

「お知り合い……なのか?」

 

行き成りの出来事に俺とイリヤは頭が追いつかず呆然とする。

 

『やれやれ、成長しませんね、御二人は』

 

その時、急に地響きが起き、地面が揺れる。

 

「うわっ!今度は何!?」

 

「カードを回収したから鏡面界が閉じようとしてるんだ」

 

フードの少年は、フードを被り直し言う。

 

「とりあえず、脱出しよう。ルヴィアさん、凛さん。行きますよ」

 

そう言って少年が振り返るとまだ二人は取っ組み合ていた。

 

「…………はぁ~………もう知らね」

 

少年は腹部の胃の辺りを抑え、溜息を吐く。

 

「……サファイア」

 

『はい、マスター』

 

美遊は持っていたステッキ、サファイアに呼び掛けるとサファイアは返答をした。

 

『虚数軸を計測変数から排除。中心座標固定。半径六メートルで反射路形成。通常世界に帰還します』

 

地面に六芒星の魔法陣が現れ光り輝き、そして、俺達は元の世界に戻ってきた。

 

「戻ってきたの?」

 

『はい。一先ず今晩はこれで終了ですね』

 

「ふぅ~」

 

ルビーから終わりと聞き、イリヤはその場に座り込む。

 

そして、凛さんとルヴィアさんは未だに喧嘩してた。

 

「で?さっきから気になってたんだけど、そっちの子は何?なんでサファイア持ってんのよ?」

 

「それはこっちの台詞ですわ!」

 

「………アンタ、まさか………」

 

「……ええ、そうですわよ!あの後、サファイアを追い掛けたら「この方が私の新しいマスターです」とかわけのわからないことを!」

 

大体こっちと同じって訳か。

 

「ともかく!勝つのはこの私ですわ!覚悟しておくことですわね、遠坂凛!行きますわよ、美遊!」

 

そう言ってルヴィアさんは美遊を連れて、何処かへと去って行った。

 

「はぁ……俺も今日の宿に帰るかな」

 

そう言って少年は欠伸を一つして転身を解く。

 

「あ、おい!」

 

「ん?」

 

「お前、名前は?」

 

名前を尋ねると、そいつは笑って答えた。

 

「海斗。海斗・F・ディオールだ。じゃあな」

 

そう言い、海斗も去って行った。

 

「凛さん、あの海斗って奴は何者なんですか?」

 

「海斗は貴方と同じ指輪の魔術を使う魔術師で、時計塔の最年少魔術師。正確には時計塔預りの魔術師だけど、行く行くは時計塔に所属するはずよ。で、一応私とルヴィアの観察役として来たのよ」

 

「観察役?」

 

「その辺の話は置いといて、とにかく今日はご苦労様」

 

そう言って凛さん派イリヤに手を差し出す。

 

「あ、いえ」

 

「次もよろしく頼むわね」

 

「え?まだあるんですか!?」

 

「……凛さん、クラスカードって何枚あるんですか?」

 

俺は恐る恐る尋ねる。

 

「全部で七枚よ」

 

マジかよ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、眠たい体に鞭を打ちながら俺とイリヤは学校に登校した。

 

流石に夜更かしは体に悪影響だな。

 

席に着くなりイリヤは顔を伏せ眠り、俺も同じように眠る。

 

暫くすると藤原先生がやって来て朝の会になる。

 

俺は眠たい目をこすりながら前を見る。

 

「今日は転校生を紹介します!入って」

 

「「はい」」

 

聞覚えのある声に俺は眉を寄せ、イリヤも起きる。

 

そして、そこには昨日会った二人がそこに居た。

 

「美遊・エーデルフェルトです」

 

「海斗・F・ディオールです。よろしくお願いします」

 

昨日であった謎の魔法少女と魔術師は転校生ってアニメかよ……………

 



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覚悟

やっぱりと言うか、美遊と海斗の二人はクラスメイトから質問攻めに会っていた。

 

転校生の宿命だろう。

 

そんな中、俺とイリヤは廊下に出て一息つく。

 

「まさか、二人が転校してくるとはな」

 

「まるでアニメみたいだよね」

 

『謎の転校生現る、ですね』

 

『魔法少女モノではよくあることです』

 

「「うわっ!?」」

 

行き成り俺達の背後に、昨夜、美遊が持っていたステッキ、サファイアが現れる。

 

『あら、サファイアちゃん』

 

『昨夜ぶりです。姉さん』

 

流石に廊下では人目につくので、屋上に移動し話をすることにした。

 

『初めまして。サファイアと申します』

 

『こちらは、私の新しいマスターのイリヤさんと、指輪の魔術師になられた零夜さんです』

 

「「ど、どうも」」

 

ルビーの自己紹介の元、俺達も挨拶をする。

 

『姉がお世話になってます』

 

ルビーと違って、礼儀正しいな。

 

「てか、ルビーとサファイアは姉妹なのか?」

 

『はい。私とサファイアちゃんは同時に作られた姉妹なんですよ!ところで、サファイアちゃん』

 

『はい。美遊様のことですね。彼女は私の新しいマスターです』

 

『やっぱりそうでしたか!さっすが、サファイアちゃん!可愛い子、見付けましたねぇ。おまけに、行き成りカードの力を使えるなんて、中々の逸材ですよ!』

 

『私も驚きました。あんなに簡単に使いこなすなんて』

 

「ねぇ、ルビー。カードの力ってなんのこと?」

 

『姉さん、まだ説明してないんですか?』

 

『そう言えばまだカード周りの説明はしてませんでしたね。無事、初戦を切り抜けることも出来ましたし、お話しておきますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から、二週間前、魔術協会はこの冬木市でオド、つまり魔力の歪みを観測し、協会は調査団を派遣し、調べた結果、クラスカードを発見した。

 

歪みは全部て七つ。

 

七枚のクラスカードの内、協会は二枚を回収し、この間美遊が一枚回収。

 

つまり三枚まで回収が終わっている。

 

そして、クラスカードは英霊、つまり神話や昔話などの英雄の力を引き出すことが出来る。

 

クラスカードには一枚に、そのクラスに会った英霊の力を使える。

 

凛さんが持っていたのはアーチャー。

 

美遊が使ったのはランサー。

 

そして、力とはその英雄が使っていた武具などで、それは宝具と呼ばれる。

 

ルビーとサファイアはカードを介すことで、英霊の座にアクセスし、その英霊の力を一瞬だけ具現化できる。

 

以上が、ルビーとサファイアの話だ。

 

『どうですか?凄いですか?凄いですよね!凄いでしょ!』

 

ルビーがドヤ顔で言ってくる。

 

いや、凄いのはカードであってルビーが凄いわけでは………いや、一瞬でもその力を具現化できるんだから凄いんだろう。

 

凄いんだが、それを自分で言っちゃってる所為で台無しだ。

 

色々と。

 

『イリヤさん、零夜さん。もうお分かりと思いますが、昨日戦ったアレもカードから具現化した英霊の一部。つまり、英霊そのものです』

 

『ただ、本来の姿からかなり変質して、理性が吹っ飛んじゃってますね』

 

『つまり具現化した英霊たちを倒さないとカードは回収できないんです』

 

なんともまぁ、面倒なことに巻き込まれたな、俺もイリヤも。

 

イリヤも重々しく溜息を吐く。

 

『大丈夫ですよ!そのために、私とサファイアちゃんがいるんですから!』

 

『全力でサポートさせてもらいます』

 

ルビーは性格は兎も角、その力は本物だし、サファイアも常識を持った礼装だ。

 

多分大丈夫だろう。

 

『どうかこれからも美遊様とカード回収を「サファイア」

 

その時、屋上に人が現れた。

 

現れたのは美遊だった。

 

「何してるの?あまり外に出ないで」

 

『申し訳ありません。イリヤさんと零夜さんにご挨拶をと思いまして』

 

美遊は俺とイリヤを一瞥し、そしてそのまま屋上を去って行った。

 

「なんというか、随分クールな子だな」

 

「だね」

 

この時、俺とイリヤはそう思った。

 

だが、美遊はクールだけの子じゃなかった。

 

それを、俺とイリヤは授業で思い知った。

 

算数の時間。

 

円錐の体積を求める計算で、美遊はなんか難しい式を書いていた。

 

いや、小学生にそこまでの解答を求める人はいないと思う。

 

海斗はお腹を押さえていた。

 

図工の時間。

 

人物画で自由に描いて良いと言われて、美遊はピカソみたいな絵を描いていた。

 

藤村先生が発狂した。

 

海斗はまたお腹を押さえていた。

 

ちなみに俺は書くものが思い浮かばず、イリヤの似顔絵を描いた。

 

イリヤも俺の似顔絵だった。

 

家庭科の時間。

 

ハンバーグを作る内容で、美遊はハンバーグ以外にスープやサラダ、デザートとかも作ってた。

 

どっから材料を出したんだ?

 

ちなみに藤村先生は絶叫しながらも一口食べてうまいっと言ってた。

 

またしても海斗がお腹を押さえてた。

 

俺は家でよく士郎さんの手伝いとかでそれなりに料理は得意だ。

 

海斗も胃痛に悩まされながらも、しっかりと料理はしていた。

 

体育の時間。

 

短距離走ではクラス一速いイリヤと競争して一秒近くも差を付けて勝っていた。

 

海斗は授業直前で胃に限界が来たらしく、保健室に運ばれた。

 

放課後。

 

イリヤは落ち込んで、公園のベンチに座っていた。

 

俺もその隣に座っている。

 

『も~う、何時までいじけてるんですか、イリヤさん?』

 

「別にいじけてないよ。ただ、才能の壁を見せつけられたって言うか」

 

「他人と自分を比べてどうする?」

 

イリヤの頭を軽く叩き、言う。

 

「イリヤは頑張ってる。そして、その頑張りを俺は知ってる。だから、落ち込むなよ」

 

「……うん、ありがとう、レイ」

 

そう言って笑顔になったイリヤを立たせ、家に帰ろうとする。

 

すると、ちょうど公園を出た所で美遊と海斗の二人と遭遇した。

 

「何してるの?」

 

「こ、これはどうもお恥ずかしい所を、美遊さんは今お帰りで」

 

思わずずっこけそうになった。

 

「イリヤ、同じ魔法少女で仲間なんだからそんな敬語とか使わなくていいだろ」

 

「あ、そっか。仲間だもんね」

 

「貴女達は、何でカード回収をしているの?」

 

美遊が行き成りイリヤと俺に尋ねて来る。

 

「それは……成り行き上というか、しかたなくというか、騙されたというか……」

 

「俺も似たようなもんだが………」

 

「そう、じゃあどうして貴女達は戦うの?巻き込まれただけなんでしょ?貴女達には戦う理由も、その義務もないんでしょ?なのにどうして戦うの?」

 

「……実を言うとね、昔からこういうのにちょっとだけ憧れてたんだ。魔法を使って光線出したり、敵と戦ったりするのってアニメやゲームみたいじゃない?そういうのにちょっとワクワクするというか、せっかくだからこのカード回収のゲームも楽しんじゃおうかな~と思って」

 

「もういいよ、貴女にとってあれはゲームと同じ遊びなのね。私はそんな人を仲間なんて思いたくない」

 

淡々とした口調で言うと、美遊は踵を返す。

 

「あ、あの……美遊さん?」

 

「貴女は戦わなくていい。だから、せめて私の邪魔はしないで」

 

そう言うと、美遊はさっさと何処かへと行ってしまった。

 

「で、お前はどうなんだ?」

 

海斗が俺の方を見て聞いて来る。

 

「俺はイリヤがこんなだからな。心配だし、一度事情を知ったからには見て見ぬふりも出来ない。だからだ。ここまで来たら最後まで戦う。それだけだ」

 

「そっか。お前にはお前なりの覚悟があるんだな。それが分かっただけでも良かったよ」

 

海斗は笑ってそう言った。

 

「美遊の事だが、あまり悪く思わないでくれ。アイツはカード回収に一生懸命なんだよ。文字通り命を懸けてる。イリヤスフィール。俺はお前の理由に口は出さない。でも、油断をすれば死に繋がる。それだけは覚えておいてくれ」

 

そう言い、海斗は美遊の後を追い掛けた。

 

「行こうぜ、イリヤ」

 

「う、うん」

 

「………別に命まで懸けろとは言わねぇ」

 

「え?」

 

「でも、分かっただろ。中にはああやって、一生懸命な奴もいる。それに、クラスカード回収は危険だ。それは、初戦で分かっただろ?」

 

そう聞くと、イリヤは頷いて答えた。

 

「なら、頑張ろうぜ。そんで、見返そう。俺達も一生懸命だってな」

 

「……レイ」

 

「それに、お前は大丈夫だ。俺が守ってやるからさ」

 

「……うん!」

 

笑ってそう言うとイリヤも笑顔になり、家に向かった。

 

すると家の前にセラさんが立っていた。

 

「ただいまー、セラ」

 

「セラさん、ただいま」

 

「あ、おかえりなさい、イリヤさん、零夜君」

 

「どうかしたんですか?」

 

「えっと……あれを」

 

そう言ってセラさんが見ている方を見るとそこには豪邸があった。

 

「「なっ!?………お、大きい」」

 

一字一句間違わず、イリヤとはもった。

 

「何、こんな豪邸!?こんなのうちの前に建ってたっけ!?」

 

「いや、朝の段階では無かったとはずだけど……」

 

「今朝、二人が学校に向かった直後工事が始まったと思ったら、あっと言う間に」

 

するとそこに、美遊と海斗の二人が現れた。

 

「「あっ」」

 

「「あっ」」

 

気まずい空気が流れる。

 

美遊の目には動揺が見られ、海斗はまた胃を押さえだした。

 

そして二人はそのまま豪邸の門を開け、中へ入ろうとする。

 

「「ええー!?」」

 

まさか、ここって二人が住んでるの?

 

「もしかしてこの豪邸、美遊さんの家?」

 

「……そんな感じ」

 

「海斗、どういうことなんだ?」

 

「えっと、俺はお世話になってる感じだ」

 

そう言い、二人は中へと入って行った。

 

「……イリヤさん、零夜君、お友達ですか?」

 

「「あ、あははっ………」」

 

その問いに俺とイリヤは乾いた笑い声で返した。




海斗は日本滞在の間はホテルへの宿泊予定でしたが、小学生一人でホテルに泊まるのはいささか問題があり、財力のあるルヴィアの家で居候することになりました。

あと、執事してます。

それと結構プレッシャーに弱いです。

美遊の事を気に掛けてるので、美遊が小学生離れすると胃を痛めます


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考えるより空想

「油断しないでね、イリヤ、零夜君。敵とルヴィア、両方に警戒するのよ」

 

なんで味方のはずのルヴィアさんまで警戒しないといけないんだろ?

 

「えっと……」

 

『お二人の喧嘩に巻き込まないでほしいものですね』

 

まったく同感だ。

 

「美遊、速攻ですわ。開始と同時に距離を詰め、極力遠坂凛を巻き込む形で仕留めなさい」

 

「後半以外は了解です」

 

『殺人の指示はご遠慮ください』

 

遠慮じゃなく止めてほしい。

 

「頼むから協力してカード回収してくれよ………」

 

海斗は憂鬱そうな表情で胃を押さえる。

 

「じゃあ、行くわよ!3……2……1!」

 

『『限定次元反射路形成!鏡界回廊一部反転!』』

 

「「ジャンプ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、俺達は鏡面界から帰還し、膝をついた。

 

ボロ負けでした。

 

『いや~、ものの見事に完敗でしたね。歴史的大敗です』

 

「なんだったのよ、あの敵は……?」

 

「どういうことですの?カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて!」

 

『私に当たるのはおやめください、ルヴィア様』

 

ルヴィアさんがサファイアに八つ当たりをする。

 

『サファイアちゃんを苛める人は許しませんよ!』

 

するとルビーがルヴィアさんの眼球目掛けアタックする。

 

「ぬおおおおおおおお!!?」

 

ルヴィアさんは淑女らしからぬ悲鳴を上げ、地面を転げまわる。

 

『それに魔法少女が無敵だなんて慢心も良い所です!まぁ、大抵の相手なら圧倒できるだけの性能はありますが、それでも相性と言うものがあります!』

 

「つまり、今回の敵は相性が悪かったって訳か」

 

鏡面界に着いた途端、出迎えたのは点を覆い尽くすほどの魔法陣。

 

そして、集中砲火、いや、絨毯爆撃にあった。

 

さらに、魔法陣は魔力指向制御平面とか言う技でイリヤたちの攻撃は弾かれ無効化される。

 

結果、一方的に攻撃され、逃げ帰って来たと言う訳だ。

 

『あれは現在のどの系統に属さない魔法陣に呪文。恐らく失われた神話の時代のものです』

 

「あの魔力反射平面も問題だわ。あれがある限り、こっちの攻撃が効かないわ」

 

『攻撃陣も反射平面も座標固定型の様ですから、魔法陣の上まで飛んで行ければ叩けると思うのですが』

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

ん?空を飛ぶってそんな難しいことなのか?

 

魔法少女って言うぐらいだし飛べると思うんだが…………

 

「そっか。飛んじゃえばよかったんだね」

 

そう言ってイリヤはひょいっと空を飛んでいた。

 

「お、やっぱ飛べるんだな」

 

「「「なっ!?」」」

 

イリヤが飛んでることに凛さん、ルヴィアさん、海斗が驚く。

 

「ちょ、ちょっと!なんで行き成り飛んでるのよ!?」

 

『凄いですよ、イリヤさん!高度な飛行をあっさりと!』

 

「え?そんな凄いことなの?」

 

『強固なイメージが無いと浮くことすら出来ないのにどうして…………』

 

サファイアも驚きながら、イリヤに聞く。

 

「どうしてって言われても……魔法少女って飛ぶものでしょ?」

 

「「「な、なんて頼もしい思い込み!」」」

 

つまり、普段からのイリヤのイメージのお陰で、イリヤはこうもあっさりと飛んでるって訳か。

 

「負けられませんわよ!美遊、貴女も今すぐ飛んでみなさい!」

 

「…………人は、飛べません!」

 

「な、なんて夢の無い子!?そんな考えだから飛べないのですわ!」

 

そう言ってルヴィアさんは美遊の襟を掴み引き摺る。

 

「次までに飛べるように特訓ですわ!」

 

その後を、海斗は溜息を吐いて追って行った。

 

「やれやれ、取り敢えず今日はお開きね。私も戦力を練ってみるわ」

 

「う、うん……勝てるのかな?あれに」

 

「勝つのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

俺とイリヤは人気のない山奥にやって来た。

 

「この辺でいいかな?」

 

「大丈夫だろ。この辺りに人はいないし、バレることもないはずだ」

 

そして、俺とイリヤは転身する。

 

今日は特訓の為にここに来た。

 

俺は転身した後、チェーンから空色の指輪を取り出し左手の中指に嵌める。

 

海斗から聞いた話によると俺達の魔術は、凛さんやルヴィアさんが使う宝石魔術と違い、宝石の中に魔力が、そこに使用者の魔力を送り込むことで魔法が使えるらしい。

 

要するに宝石の中の魔力はモーターで、使用者の魔力はモーターを動かす電力。

 

その魔力を起動させることで魔術が使えるとのことだ。

 

で、宝石につき使える魔術も違うらしい。

 

ちなみに調べた所、この指輪は空を飛べることが出来る。

 

「フライ!」

 

そう叫ぶと、俺の体が光り、俺の体はゆっくりと飛び上がる。

 

「ちょっと不安定だが、練習すればいけるな」

 

「あ、レイも飛べるようになったんだね!」

 

「ああ、指輪の使い方も大分分かってきたし、次からは俺も戦いに参戦できる。で、イリヤ。凛さんからクラスカード預かってたんだろ」

 

「ああ、そうだった」

 

イリヤは思い出した様にカードケースからクラスカード“アーチャー”を取り出す。

 

「アーチャーっていうぐらいだから弓だよね。よし!限定展開(インクルード)!」

 

クラスカードをルビーに重ねるように言うと、ルビーの形状が弓へと変わる。

 

「凄い!よし、早速試し打ちを!」

 

弓を構え、弦を引っ張るが肝心の矢が無い。

 

「あれ?矢は?」

 

『無いですよ?凛さんが使った時は近くにあった剣を矢代わりにしてました』

 

「矢が無けりゃ使えねぇじゃん」

 

「はぁー……地道に特訓してくしかないね」

 

『頑張りましょう。美遊さんも海斗さんも、今頃特訓してるはずですよ』

 

「……どんな特訓してるんだろうね?」

 

「空飛ぶ訓練じゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山の上空

 

「ルヴィアさん、これは流石に無茶があるんじゃないかと………」

 

「………無理です」

 

現在、俺は美遊の空を飛ぶための訓練に付き合ってる。

 

別に特訓に付き合うのはいい。

 

ただ、どうしてヘリからの飛び降り自殺を美遊はすることになってるんだ?

 

「美遊。最初から決めつけていては、何も出来ませんわ」

 

「……ですが」

 

『おやめください、ルヴィア様。パラシュートなしでのスカイダイビングは危険です』

 

「美優は常識に捕らわれ過ぎなのです。魔法少女の力は空想の力。常識を破らなければ道は切り開けません!さぁ、一歩を踏み出しなさい!出来ると信じれば不可能などないのですわ!」

 

その言葉に美遊はヘリから飛び降りようとするが、やっぱ怖いらしく飛び降りるのを止めようとする。

 

「無理で――」

 

その瞬間、ルヴィアさんは美遊を蹴り飛ばした。

 

そして、美遊は真っ逆さまに落ちて行った。

 

「何やってんだ!アンタはああああああああ!!」

 

俺は叫び、慌ててヘリを飛び降りる。

 

なんで俺の周りには自分勝手やとんでもない奴しかいないんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうした、イリヤ?」

 

上の方を見ながらイリヤが何かに気付く。

 

俺も見上げると、上空から人が降って来た。

 

「人!?」

 

「イリヤ、危ない!」

 

落下するコースにイリヤが居るのに気付き慌てて引っ張りよせる。

 

幸い落下物はイリヤには当たらずそのまま地面に激突する。

 

「危なかった~。ありがとう、レイ」

 

「別にいいさ。それにしても………一体何が」

 

土煙が晴れ現れたのは美遊と美遊の下敷きになってる海斗だった。

 

『全魔力を物理保護に回しました。お怪我はありませんか、美遊さま?』

 

「な、なんとか」

 

「そうだよな……サファイアいるから大丈夫だったよな。俺は何を焦っていたんだ………アハハ」

 

なんか海斗の奴、自虐みたいな笑みを浮かべてやがる。

 

「美遊さん、海斗君………どうして空から……」

 

「……飛んでる」

 

『はい、ごく自然に飛んでます』

 

「……零夜も飛んでる」

 

『はい、飛んでますね』

 

イリヤが美遊の近くに降りたので俺も降り、海斗に近づく。

 

「海斗、生きてるか?」

 

「なんとか………でも、俺の心はボロボロだ」

 

「重傷だな、心が」

 

「あの、一緒に練習しない?」

 

海斗を心配してるとイリヤが美遊にそう言った。

 

「空が飛べないと戦えないし」

 

「……教えてほしい…飛び方を」

 

「うん!」

 

その様子を見て、俺と海斗は思わず笑みを浮かべた。

 

あの妙な空気はもう無い。

 

これなら次の戦いで勝てるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ってた時期がありました。

 

美遊は人=飛べないと言うイメージというか常識があって、どうやっても空を飛ぶことが出来ない。

 

イリヤは魔法少女=空を飛ぶと思っているので簡単に飛べている。

 

つまり、イリヤは殆ど思い込みと感覚のみで空を飛んでる。

 

常識で考える美遊には難しいんだろう。

 

新たな課題だな。

 

「そう言えばイリヤスフィールは魔法少女は空を飛ぶものだって言ってたよな」

 

「うん」

 

「なら、そのイメージの元になったものがあるはずだ。それはなんだ?」

 

海斗にそう言われイリヤは思い当たる物があるらしく二人を家に招待した。

 

そして、イリヤお気に入りの魔法少女アニメを美遊に見せる。

 

「こ、これが……!」

 

「私の魔法少女イメージの大本……の一つかな」

 

「航空力学はおろか重力も慣性も作用・反作用も無視をしたでたらめな動き……!」

 

「なぁ、海斗。美遊って真面目すぎるのか?」

 

「真面目っていうよりバカ真面目で天然なんだよ。お陰で俺の胃が………」

 

ご愁傷様です。

 

『このアニメを全部見れば、美遊さまも飛べるようになるのでしょうか?』

 

「……多分無理。これを見ても飛んでる原理が分からない。具体的なイメージは繋がらない。桔梗の様な浮力を利用してるようには見えないから、これは飛行機と同じ揚力を中心とした飛行法則にあると思える。でもそれだと揚力の方程式である――――――」

 

何やら専門的なこととか言い始めた。

 

イリヤは頭を抱え出し、海斗は胃を押さえだした。

 

『ルビーデコピン!』

 

そんな状況を見かねたルビーが、美遊の額に強烈なデコピンをお見舞いする。

 

「な、何を…!」

 

『まったくもぉ!美遊さんは基本性能は素晴らしいですが、そんなコチコチの頭じゃ魔法少女は務まりませんよ!見てください、イリヤさんを。理屈や工程をすっ飛ばして結果だけをイメージする。それぐらい能天気な頭の方が魔法少女に向いているんです!』

 

「なんか酷い言われよう!」

 

『そうですね。美遊さんにはこの言葉を送りましょう“人が空想できる起こりうる全てのことは魔法事象”私たちの想像主たる魔法使いの言葉です』

 

「…物理事象じゃなくて」

 

『そうです!』

 

なるほど、面白いことを言う人もいるんだな。

 

「つまりこう言う事だね。“考えるな!空想しろ!”」

 

イリヤのその言葉に美遊は納得できないっと言った表情をする。

 

「……少しは考え方が分かった気がする」

 

「う、うん!美遊さんならきっと大丈夫だよ!」

 

そう言って美遊と海斗は立ち上がり、その場を後にする。

 

「……じゃあ、また」

 

「またな」

 

見送った後、イリヤは息を吐く。

 

「貴女は戦うなって言われた昨日よりは前進かな?」

 

「だな」

 

『後はお二人できちんと連携が取れれば言う事なしなんですが』

 

「そうだね」

 

こうして今日も一日が過ぎようとする。

 

そして、深夜。

 

二度目のカード回収戦が始まる。



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リベンジ

深夜

 

俺達は昨日のリベンジの為、また橋の下を訪れた。

 

「いい?複雑な作戦を立てても混乱するだけだから役割を単純にするわ。小回りの利くイリヤは陽動と撹乱担当。突破力のある美遊は本命への攻撃担当よ。そして、零夜君と海斗は二人のサポート。二人を守りなさい………って、イリヤ聞いてるの?」

 

上の空だったイリヤに凛さんが注意をする。

 

「は、はい」

 

「よし!じゃあ、リターンマッチよ。負けは許されないわ。行くわよ」

 

そして、俺達は境界面に飛ぶ。

 

境界面では昨日の魔女が昨日と同じように上空に魔法陣を展開し待ち伏せていた。

 

「一気に片を付けるわよ!」

 

「二度目の負けは許しませんわよ!」

 

凛さんとルヴィアさんの声を合図に、走り出し、空を飛ぶ。

 

俺にとってはこれが初めての本格的な戦闘。

 

気を引き締めて行かないと!

 

「「フライ!」」

 

海斗と同時に呪文を言い、空を飛ぶ。

 

イリヤも空を飛び、美遊はと言うと空を飛んでるというより宙を踏んで跳んでいる感じだ。

 

「海斗、アレは?」

 

「魔力を空中で固めて、それを足場に跳んでるんだ。普通に飛ぶよりは効率的だ」

 

「なるほど」

 

俺は頷き、イリヤの前に立つ。

 

「イリヤ!直撃する攻撃は俺が防ぐ!お前は自分の役割を果たせ!」

 

「うん!」

 

俺はフライリング(空を飛ぶためのリング)とは別の指、左手の中指にディフェンスリング(防御用リング)を填める。

 

「ディフェンス!」

 

直撃弾を全て弾き、イリヤを守りつつ魔女へと近づく。

 

「イリヤ!」

 

「中ぐらいの………散弾!」

 

そう言い、ルビーから中ぐらいの大きさの魔力弾を大量にばら撒く。

 

魔女がイリヤの攻撃を防いでる間、美遊が背後から攻撃を仕掛ける。

 

「ランサー、限定展(インクルー)……!」

 

だが、ランサーの宝具を展開する前に魔女の姿が消えた。

 

「え?」

 

「後ろだ!」

 

魔女はいつの間にか美遊の後ろに回ってた。

 

叫んだが間に合わない。

 

美遊は魔女の電撃を食らい、橋まで吹き飛ばされた。

 

魔女は美遊にトドメを刺すつもりなのか、攻撃をする。

 

その時、海斗が素早く動いた。

 

「チェイン!」

 

海斗の指輪から飛び出した鎖は魔女目掛け飛ぶ。

 

魔女はそれに気付き、攻撃を止め、避けれないと悟り、防御態勢に入る。

 

だが、鎖は魔女に当たらずそのまま橋で倒れている美遊へと伸び、美遊を救出する。

 

「大丈夫か?美遊」

 

「う、うん。大丈夫。下ろして」

 

海斗は美遊を下ろし、鎖を仕舞う。

 

「美遊さん、海斗君大丈夫?」

 

「ああ、俺も美遊も大丈夫だ」

 

「しかし、どうする?」

 

俺達四人は集まり、作戦会議をする。

 

『転移魔術も使えるとは、流石は英霊の魔女ですね』

 

「勝てないの?」

 

「……いや方法はある」

 

その言葉に三人が振り返る。

 

「今から言う作戦をうまく遂行できればな。三人共、できるか?」

 

魔女の方を見ながら三人に尋ねる。

 

「「「当然!」」」

 

三人からの了承を得て俺は三人に作戦を教える。

 

「よし、やるぞ!」

 

俺と海斗が同時に動き出す。

 

「スピード!」

 

海斗がスピードリングを嵌め、飛ぶスピードを上げる。

 

「チェイン!」

 

そして、魔女に急接近すると、鎖を出し攻撃を仕掛ける。

 

だが、魔女はその攻撃を防御する。

 

「まだまだ!」

 

海斗は縦横無尽に鎖を振り回し魔女に攻撃する。

 

だが、魔女はそのすべてを防護する。

 

その背後に回り――

 

「おらぁ!」

 

回し蹴りを叩き込む。

 

ステルスリング。

 

一定時間の間、装備者の姿を消すことのできるリング。

 

だが、接触されたり接触したりすると効果が消えてしまい、更に、匂いや音、気配も消せない。

 

いくら理性が無いとは言え、相手は英霊。

 

姿を消した所で気配で見つかる。

 

だから、海斗に気を引いてもらい俺は背後から攻撃。

 

俺の蹴りが入った瞬間、海斗は鎖を仕舞い、俺同様に接近戦をする。

 

いくら相手が英霊とは言え、ここまで接近されたら魔法を使う暇もない

 

不利と判断したのか魔女は先歩との転移魔法を使い消える。

 

「海斗、マーキングは出来たか?」

 

「ああ」

 

「出現場所は?」

 

「………イリヤスフィール!零夜の真後ろだ!」

 

「せいやぁ!」

 

俺の後ろに現れた魔女は俺に向け攻撃を仕掛けようとする。

 

だが、現れた直後魔女に向かってイリヤが特大の魔力弾を撃つ。

 

あの接近戦の目的は倒すことではなく、魔女に魔力でマーキングするため。

 

そして、海斗がそのマーキングを追って転移魔術での出現先を割り出し、そこにイリヤが全魔力を込めて特大の一撃を入れる。

 

すると魔女はイリヤの攻撃を防ぐために力を使うそうなれば防御せざるを得ない。

 

正面からの攻撃を受け止めれば後ろががら空きになる。

 

そこをランサーの宝具を持った美遊が襲い掛かる。

 

「ゲイボルク!」

 

槍は魔女の胸の中央を貫く。

 

「くっ!」

 

魔女は苦しそうにもがき、そして息絶えた。

 

体が消え、クラスカードだけが残る。

 

「クラスカード“キャスター”、回収完了」

 

「や、やったー!」

 

イリヤが声を上げ、歓声を上げる。

 

「やったな、零夜」

 

「ああ。作戦通りだ」

 

「もっともギリギリだったがな。キャスターが、連続転移できたら詰んでたぞ」

 

「ま、結果オーライってことで」

 

全員で地上に降り、凛さんとルヴィアさんの所に戻ろうとした時、爆発が起きた。

 

それも凛さん達が居た場所だ。

 

「なんだ?何が起きた!」

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

「ルビー、サファイア!何が起きた!」

 

『………最悪の事態です』

 

「こんなこと……!」

 

『完全に想定外です』

 

爆炎から人影が見えた。

 

その姿に俺は目を見開いた。

 

それは海斗も、イリヤも美遊も同じだった。

 

現れたのは黒い鎧を身に纏い、黒い剣を持った剣士。

 

新たなクラスカード、敵の登場だ。

 




次回、黒いセイバーとのバトル


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三つ目の選択肢

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

剣士の後ろで血を流してる二人に気付き、イリヤが走り出そうとする。

 

「待て!イリヤ!」

 

イリヤの手を掴み、止める。

 

「落ち着け!闇雲に近づいてもやられるだけだ!」

 

「で、でも凛さんとルヴィアさんが……!」

 

「サファイア。二人の生体反応は?」

 

海斗がサファイアに尋ねると、サファイアはすぐに確認をし出す。

 

『生体反応あり。お二人は生きています』

 

「だったらなおさら……!」

 

「だからこそだ!二人が生きてるから、冷静に、確実に行動しないといけないんだ」

 

「零夜の意見に賛成。ここは確実に動くべき」

 

「今俺達に出来ることは二つ。一つは奴を即座に倒す。もう一つは隙を突き、二人を確保して脱出だ」

 

「そうだ!あの槍は?あの槍なら一撃必殺で」

 

「だめ、今は使えない」

 

『一度カードを限定展開(インクルード)すると数時間はそのカードが使えなくなります』

 

『どうもアク禁くらうっぽいですねー』

 

アク禁って、ネトゲかよ………

 

「ライダーは試してみたけど、単体では意味をなさなかった」

 

「キャスターは不明。本番で行き成り使うのはリスクが大きすぎる」

 

「加えてアーチャーは役立たず……か」

 

『これは選択肢二番でいくしかないですね』

 

ルビーの言葉に俺達は頷く。

 

「私が敵を引き付ける。その間に右側から木に隠れて接近して二人を確保。即座にこの空間から脱出して」

 

「美遊、一人じゃ危険だ。俺も一緒に囮になる。零夜、イリヤスフィールと一緒に凛さんとルヴィアさんを頼むぞ」

 

「あ、ああ」

 

「わ、分かった」

 

そして、頷き合うと俺達は左右に分かれる。

 

美遊と海斗は空に飛ぶ。

 

速射(シュート)!」

 

「チェイン!」

 

美遊の魔力弾と海斗の鎖が剣士に襲い掛かる。

 

だが、二人の攻撃は剣士の辺りに漂う黒い霧のようなもので阻まれ、弾かれる。

 

「おい、ルビー。あれも反射平面とかいう奴か?」

 

『いえ、魔術を使っている様子はありません。あの黒い霧は……まさか!』

 

ルビーが何かに気付いた瞬間、剣士は持っている黒い剣に斬りを纏わせ、斬撃を放った。

 

「ディフェンス!」

 

海斗がその斬撃を防ごうとしたが、斬撃は海斗の障壁を破り、海斗の肩を切り裂く。

 

「海斗君!」

 

その時、イリヤが声を上げた。

 

そして、剣士はこちらを向き、斬撃を放つ。

 

「くっ!ディフェンス!」

 

俺も障壁を張りイリヤを守ろうとするが、やはり斬撃は障壁を破り、俺を切り裂く。

 

肩から鮮血が流れる。

 

「くっ………防御魔術が付与されてるんじゃなかったのかよ、この服」

 

肩を押さえながら吐き捨てるように言う。

 

「レイ!」

 

「大丈夫。かすり傷だ」

 

『この程度なら回復魔術で治せます。それに、今ので分かりました。あの黒い霧の正体……………アレは信じ難いほどに高密度な魔力の霧です!』

 

「てことは、さっきの攻撃は、魔術じゃなくて魔力を飛ばした攻撃か」

 

『はい。あの異常な高魔力の領域に魔力砲も、海斗さんの攻撃も弾かれているようです。あれでは、魔術障壁じゃ無効化できません』

 

剣士は俺たちが話しているのにも構わず、近寄り剣を構える。

 

「追撃来るぞ!走るぞ、イリヤ!」

 

イリヤにそう呼び掛ける。

 

だが、イリヤは恐怖から動けず蹲ってしまった。

 

「う……あぅ……」

 

「イリヤ!」

 

剣士が走り出す。

 

その瞬間、数個の宝石が剣士の方に跳び、勢いよく爆発した。

 

『あ、あれは!』

 

ルビーが驚きの声を上げる。

 

宝石を投げたのは凛さんとルヴィアさんだった。

 

二人ともクビを切りつけられていながら、立ち上がり剣士に攻撃をした。

 

「くっ……やってくれるわね、この黒鎧……!」

 

「一度距離を取って立て直しを………!」

 

その時、煙の中から剣士が現れ俺達の方に向かってくる。

 

俺はイリヤだけでもと思い、イリヤを体で隠し腕で顔を守るようにする。

 

「サファイア!」

 

『物理保護全開!』

 

美遊が俺と剣士の間に入り、剣を受け止める。

 

「せいっ!」

 

海斗が横から剣士の脇を殴りつけ、吹き飛ばし距離を稼ぐ。

 

「美遊さん!」

 

「海斗!」

 

「俺達は大丈夫だ」

 

「それより、あの敵……」

 

『まずいですね……とんでもない強敵です。魔力砲も魔術も、レイさんと海斗さんの魔術も無効。遠距離・近距離も対応可能。こちらの戦術的優位性(アドバンテージ)が真正面から覆されてます。直球ど真ん中で最強の敵ですよ、アレ』

 

まずい、本格的にヤバイ。

 

イリヤは戦意を失い欠けてる。

 

それに、凛さんとルヴィアさんも重傷だ。

 

この状態で戦えば、間違いなく誰かが死ぬ。

 

下手すれば全滅もあり得る。

 

その時、凛さんとルヴィアさんも体力が尽きたのかその場に倒れる。

 

「ど、どうしようルビー!どうすればいいいの!?」

 

「落ち着いて!パニックを起こさないで!」

 

慌てるイリヤを美遊が止める。

 

「………俺がアイツを足止めする!その隙に二人の救出を!」

 

海斗がそう言い出す。

 

その瞬間、俺は海斗の肩を掴む。

 

「何言ってるんだよ!死ぬ気か!?」

 

「どの道、誰かが囮にならなければいけないんだ!なら、この中で戦い慣れしてる俺が囮になるべきだ!」

 

「だからって危険過ぎる!第一あの斬撃はどうするんだよ!」

 

「攻撃は一直線にしか飛ばない!タイミングを合わせれば避けれる!」

 

俺と海斗の言い合いにイリヤと美遊は慌てて止めようとする。

 

その時―――

 

『ルビーデュアルチョップ!』

 

ルビーが俺と海斗の頭にチョップを叩き込む。

 

「イッツ!………ルビー!こんな時に何してるんだよ!」

 

『喧嘩してる場合ですか!そんな言い合いしてる暇があれば、もっとまともな作戦を考えてください!』

 

「だが、現状ではこの作戦が一番助けられる可能性が……!」

 

『いいえ。まだもう一つ手はあります。最後の手段です。いいですね、サファイアちゃん』

 

『はい、姉さん』

 

ルビーの作戦を聞き、俺達は驚くと同時に、確かに囮作戦よりも可能性はあるし、勝つことも可能かもしれないと思った。

 

 

剣士は、重傷で動けない凛さんとルヴィアさんに向かっていた。

 

「凛さん!ルヴィアさん!」

 

イリヤと美遊の二人が走り出す。

 

「バカ!退きなさい!あんたたちじゃ、こいつは倒せない!」

 

確かに二人どころか、四人でぶつかって行っても勝つことも、救出も出来ない。

 

だから――――――

 

「選択肢……三番!」

 

イリヤと美遊はルビーとサファイアを投げ飛ばす。

 

その時、剣士の後ろで光が輝く。

 

『まったく、世話の焼ける人達です。見捨てるのも忍びないので今回だけは特別ですよ』

 

「良く言うわ。最初からこうしておけば良かったのよ」

 

『ゲスト登録による一時承認です。…不本意ですが』

 

「何を偉そうに……これが本来の形でしょうに」

 

ルビーとサファイアは凛さんとルヴィアさんの手の中にあり、二人は魔法少女の恰好となって立っていた。

 

「それじゃ……本番を始めましょうか」

 



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その宝具の名は…

『いやー、しかし相変わらず、いい年こいて恥ずかしい恰好ですねー』

 

「お前が着させてるんだろーがー!!」

 

凛さんがルビーを地面に叩き付けて怒鳴る。

 

「ハタから見ると魔法少女ってやっぱり恥ずかしいなぁ……」

 

イリヤが横でぼそっと呟く。

 

確かにそうかもしれないし、今の凛さんとルヴィアさんの恰好はかなり痛い………

 

言わないけど。

 

「この服を着こなすにも品格と言う物が必要なのですわ。この私のように!」

 

「うわっ、バカだ。バカがいる!」

 

『流石セレブはファッションセンスもナナメ上ですか』

 

その時剣士が斬撃を二度放つ。

 

二人はそれをいとも簡単に避ける。

 

『ボケーっとしてる暇はありませんよー!今は戦いの真っ最中です!』

 

「年中ボケ倒しのあんたには言われたくないわ!」

 

「気を付けてください!」

 

海斗が二人に叫ぶ。

 

「その斬撃は魔力と剣圧による複合斬撃!魔術障壁だけでは無効化できません!」

 

「やっかいね…防御に魔力を割き過ぎると攻撃が貧弱になるわ」

 

「けれどそんな貧弱な攻撃では、あの霧の壁を突破できない…!行きますわよ!速射(シュート)!」

 

ルヴィアさんが剣士の周りに魔力弾を撃つ。

 

その威力は、イリヤや美遊の者とは比べ物にならなかった。

 

「なんて威力…!基本性能がまるで違う!」

 

「で、でも全然当たってないよ!?」

 

「それでいいのよ」

 

先程の攻撃は、剣士の足を止めるためのもの。

 

その間に凛さんが剣士の背後から殴りかかる。

 

だが、よく見るとステッキの先端に刃が付けられていた。

 

(ブレード)!?」

 

「かったいわね、コイツ……!筋力が足りてないわ!ルビー、身体強化7!物理保護3!」

 

『こき使ってくれますねー』

 

凛さんはルビーを手にあの剣士相手に互角で斬り合う。

 

「高密度の魔力で編み込まれた刃……!あれなら魔力の霧も突破できる上、残りの魔力を防御や強化にまわせる………こんな戦い方があったなんて…………」

 

「砲撃だけが能じゃ………ないのよ!」

 

凛さんが渾身の力を込め、剣士を斬り飛ばす。

 

剣士は脚でブレーキを掛けながら止まる。

 

『私としては泥臭い肉弾戦は主義に反するんですけどー。魔法少女はもって派手でキラキラした攻撃をすべきです。絵的にもイマイチですしコレ』

 

「うっさい!刃を交えて見える物もあるのよ」

 

そう言い、再び剣で斬り合う。

 

すると剣士は先程より動きを速め、凛さんを翻弄させる

 

「え!?だっ………ちょ……!」

 

凛さんが焦り、腕を大きく振り上げる。

 

剣士は剣を右手のみで持ち、左手で凛さんの振り下ろそうとしていた腕の肘を押さえる。

 

そして、勢いよく剣を振る。

 

「物理保護全開!!」

 

間一髪、防御が間に合い凛さんは斬られずに済んだ。

 

凛さんは、右手で剣士の剣を持ってる手を掴み、左手にルビーを持つ。

 

「ようやく捕まえたわ」

 

ルビーを剣士の脇腹に押し当てる。

 

砲射(フォイア)!!」

 

「零距離砲撃…!」

 

「うわっ、なんかすごいデジャブ!」

 

零距離で砲撃を食らった剣士は一気に距離を取る。

 

「剣士相手に接近戦なんてやるもんじゃないわね」

 

『両手持ちだったらやばかったですね』

 

「ひとまず時間稼ぎご苦労様と言ったところですわね」

 

「準備出来てるんでしょうね、ルヴィア」

 

「当然ですわ」

 

そう言うルヴィアさんと凛さんの後ろには六つの魔法陣が展開されていた。

 

「シュート六回分のチャージ完了。ちょうどさっきの敵と立場が逆ですわね」

 

「魔力の霧だろうがなんだろうが」

 

「「まとめてぶっ飛ばしてあげるわ!!!!」」

 

「「斉射(|シュート・フォイア)」」

 

六つの砲撃と、凛さんとルヴィアさんが放つ二つの砲撃。

 

合計八つの魔力砲が剣士にぶつかる。

 

攻撃は地面を抉り、川にちょっとした滝を作ってしまった。

 

「ホ――ホッホッホ!楽勝!快勝!常勝ですわ!」

 

「よーやくスカッとしたわ」

 

……………凄い。

 

そうとしか言えなかった。

 

これがカレイドステッキの本当の力。

 

そして、凛さんとルヴィアさんの力。

 

それらは想像を絶していた。

 

「しかしちょっとやり過ぎたかもしれないわね。カードごと蒸発してないといいんだけど」

 

その時、川から水柱が上がった。

 

「嘘っ……!?」

 

「あれを受けてまだ………!?」

 

あの剣士が立ち上がった。

 

あの攻撃を喰らってもまだ立っていた。

 

そして、持っていた剣が黒い光を纏い、それが力を現していた。

 

全てをひっくり返す、絶対的な力を………………

 

俺達が戦っていた敵。

 

その敵の正体を、俺達は宝具の名前と共に知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバ―)



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夜の終わり

黒い極光が凛さんとルヴィアさんを飲みこみ、境界面を両断した。

 

希望が奪われ、絶望が与えられた。

 

そして、俺は理解した。

 

覚悟はあった。

 

クラスカード回収任務で死ぬかもしれない。

 

だからこそ、それ相応の覚悟を持って、イリヤを守ろうと思った。

 

だが、理解してなかった。

 

この世界は、俺の様な人間が簡単に踏み入って良い世界なんかじゃなかった。

 

足が震えた。

 

立つだけで精一杯だった。

 

今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

凛さん達を葬った剣士は、俺達の方へ向かってくる。

 

「こっちに!」

 

「逃げるぞ!」

 

美遊がイリヤを、海斗が俺の手を掴み走る。

 

剣士から距離を取り、壊れた橋の柱の陰に隠れる。

 

俺達を見失うと剣士は剣を振るい、俺達を探す。

 

衝撃波と斬撃が俺達を襲い、柱も切り裂かれ、とうとう俺達が見つかる。

 

海斗は俺達を守ろうとディフェンスリングを掲げる。

 

剣士は俺達を黙って見つめ、そして、剣を振り下ろそうとした。

 

俺は死を覚悟し、目を閉じる。

 

その時だった。

 

イリヤから膨大な何かが溢れ出した。

 

それは光り輝き、とてつもない力を放っていた。

 

「な、なんだ?この魔力の量は?」

 

海斗は呆然として言う。

 

「彼女は魔術師ではないはず……」

 

「いや、それ以前にこの魔力量……一人の人間が許容できる量を完全に超えてるぞ!」

 

二人が何かを言ってる。

 

だが、俺の耳には何も入ってこなかった。

 

俺はただイリヤを見つめていた。

 

だが、剣士はそんなのもお構いなしに俺達に向かってくる。

 

海斗が振り向き迎撃態勢に入る。

 

「倒さなきゃ」

 

「え?」

 

イリヤがそう呟き立ち上がった。

 

「倒さなきゃ……倒さなきゃ……倒さなきゃ……倒さなきゃ……(タオ)さなきゃ。どうやって?手段?方法?力?…………………力ならここにある」

 

そう言ってイリヤはスカートのポケットからアーチャーのクラスカードを取り出した。

 

そして跪き、カードを地面に押し当て――

 

夢幻召喚(インストール)

 

そう言う。

 

するとカードを中心に魔法陣が現れ、そこから出た光がイリヤに集まる。

 

光りが収まると、そこにはイリヤが居た。

 

赤い服を身に纏い、弓を手にした姿で。

 

剣士はそのイリヤに斬撃を放つ。

 

するとイリヤは手を前に出し、薄赤い障壁でそれを防いだ。

 

防ぐと飛び上がり、何処から出したのか三本の杭の様な矢を構え、射る。

 

剣士はその矢を弾く。

 

だが、イリヤはいつの間にかジャンプし、上空で黒と白の剣を何処からともなく出し、剣士に斬り掛かる。

 

剣士は防御する間もなくそのまま左肩から左胸辺りまで斬られる。

 

それでも剣士は怯まず剣を振るが、イリヤはバク転をし回避して、後ろへと下がる。

 

イリヤはまた何もない所から先程の剣を生み出し、剣士と切り結ぶ。

 

先程まで圧倒的な差を見せつけていた剣士とイリヤは互角に渡り合っている。

 

今度は剣をいくつも生み出し、それを投げつけるようにして戦い、動きを止めさせるとまた剣を生み出そうとする。

 

投影(トレース)オーバーエッジ」

 

すると、先程の剣が急に形状を変え、刀身が倍ほどにも長くなり、棟から鎬にかけてささくれ立っている。

 

イリヤはその剣もまるで手足の様に使い、剣士と切り結ぶ。

 

剣士が斬撃を再び放つと、イリヤは後ろに下がりながら跳び、斬撃にその剣を二本とも当てて回避した。

 

そして、弓を生み出し、今度は刀身が捻じれた剣を出し、矢の様に構え、射った。

 

剣士はその矢を紙一重で躱すも、目を覆うバイザーは砕け、頬から血を流す。

 

その光景に俺も海斗も唖然としてると、急に地面がボコココッ!っと音を上げ割れる。

 

『ご無事ですか美遊様ー!』

 

「さ、サファイア!無事だったの!?」

 

地面からサファイアが飛び出し、思わず驚く。

 

『はい、なんとか地中へ潜って緊急回避を』

 

「凛さんとルヴィアさんは?」

 

『負傷はしましたがご無事です!』

 

そっか、無事なら良かった。

 

そう思った時、剣士の剣がまたあの黒い光を纏い始めた。

 

「アイツ!またあの攻撃を!」

 

「逃げてイリヤスフィール!いくら英霊化しててもあの聖剣には勝てない!」

 

「イリヤ!」

 

俺達が叫ぶも、イリヤはそれが聞こえていないのか無視をする。

 

投影(トレース)……開始(オン)

 

イリヤがそう言うと、光り輝く剣が現れ、イリヤの手に収まる。

 

そして、その剣は黄金に輝く光を纏い始める。

 

「「約束された勝利の剣(エクスカリバ―)!!!」」

 

イリヤと剣士が同時に先程の光の攻撃を放つ。

 

互いの攻撃がぶつかり合い押し合うが、イリヤの攻撃が徐々に、剣士の攻撃を押し、そして、剣士は押し負けた。

 

黄金の光は剣士を飲み込み、倒した。

 

剣士を倒し終わると、イリヤは力尽きたのかその場に倒れ、イリヤの体からアーチャーのカードが飛び出し、イリヤは普段の姿に戻った。

 

何が起きたのか、それは此処に居た誰もが理解出来ていない。

 

だが、俺達は生き延びた。

 

長い夜は終わった。

 

今はそれだけでいい………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、地面から復活した凛さんとルヴィアさんを連れて、俺たちは元の世界に戻った。

 

イリヤをベンチに寝かせ、凛さんが調べる。

 

「大丈夫。気を失ってるだけね」

 

「何が起きたか分かりませんが体のいたるところに負荷が掛かっているようですわ」

 

「とにかく今日はこのまま家に帰すしかないわね。私がおぶって「俺が運びます」

 

凛さんがイリヤを背負う前に俺がイリヤを背負う。

 

「イリヤとは同じ家ですから、俺が運びます。じゃ、失礼します」

 

四人に頭を下げ、イリヤを背負い家に戻る。

 

「………何が守るだよ。守られたのは俺の方じゃないか」

 

一人そう呟き、俺は悔しさと後悔を胸にその日を終えた。

 



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友達

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キャスターとセイバー(後でカードの名前を知って)との戦いから次の日、イリヤは熱を出した。

 

風邪と言う訳ではないらしくただ熱があるだけらしい。

 

セラさんが言うには、今日一日は大事を取って休むとのことだ。

 

朝食を食べ終えた後、俺は登校前にイリヤの部屋に寄った。

 

「イリヤ……大丈夫か?」

 

「あ、レイ。うん、全然平気」

 

ベッドの上で横になるイリヤは笑顔でそう言った。

 

俺は扉を閉め、イリヤに近づく。

 

「ここ最近忙しかったし、疲れが出たんだろう。今日はゆっくり休めよ」

 

「でも、ちょっと罪悪感感じるなー。重病でもないのに学校休むのって」

 

「昨日は激闘だったんだ。休んだって罰は当たらねぇよ。じゃ、俺は学校に行くな」

 

リュックを背負い、部屋を出る。

 

「帰りにコンビニでプリン買って来てやるから大人しく寝てろよ」

 

「はーい」

 

手を振り、扉を閉め登校する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

「暇だ!」

 

ベッドの上で私はそう叫ぶ。

 

「あーもー!暇だわー!なんにもすることなくて寝てるだけって意外ときつい!」

 

『元気な病人ですねー。熱はもういいんですかー?』

 

「もう何ともないよ。元々風邪でもないんだし全然元気」

 

体を起こし、ルビーに言う。

 

「暇って人をダメにするね。勉強とか仕事とかで縛られることで人は人らしく生きていけるんだわ……」

 

『その歳で老成した人生観を持つのもいかがなものかと思いますがー』

 

その時、私は机の上に置いたアーチャーのクラスカードを見る。

 

「0対3…か」

 

『何がですか?』

 

「戦績って言うか、私と美遊さんのカードゲット枚数。なんだかんだで結局敵は全部美遊さんが倒してるんだよねー」

 

『確かに冷静かつ大胆な判断力は見事です。とても素人とは思えません。でも、大丈夫!魔法少女っぽさならイリヤさんが勝ってますから!』

 

「ルビーの魔法少女観がイマイチ良く分からないんだけど………」

 

ベッドに仰向けになると、ふとあることを思った。

 

「美遊さん、今何してるのかな……」

 

『では直接聞いてみましょう!』

 

その瞬間、ルビーの形が変わった。

 

「うわっ!なにその形態!?」

 

『24の秘密機能(シークレットデバイス)の一つ、テレフォンモードです!………もしもーし!サファイアちゃん?起きてますかー?』

 

もう、なんでもありだね、このステッキ…………

 

『どうしたの姉さん?』

 

『今の声……何?サファイア』

 

「つながった?」

 

『イリヤスフィール?』

 

こっちの声が聞こえてるらしく美遊さんが私の名前を呼ぶ。

 

「ど、ども。行き成り、ごめんね」

 

『何か用事?』

 

「あ…ううん。用って訳じゃないけど………何してるのかなーって」

 

『家に居る。ルヴィアさんが今日は休養をとりなさいって。海斗も一緒』

 

「そうなんだ。私と同じだね。零夜は学校に行っちゃって暇で暇で………」

 

『……そう。体はなんともないの?』

 

「うん。ちょっと熱が出たけど、今はもう平気」

 

『……そう』

 

「うん……」

 

『……………』

 

「……………」

 

やっぱり会話が続かない……………

 

どうしよう………

 

『ああ、もうじれったいですねー!何不器用に会話してるんですか!』

 

「そ、そう言われても……」

 

『顔を見ないと話しづらいようならテレビ電話にもできますよ!』

 

「またなんか出た!?」

 

『プロジェクターです』

 

もう何でもありだね!

 

『これでサファイアちゃんが今見てるものをリアルタイムで映せます。ちょうど、白い壁がありますし、ここに映しますね』

 

『テレビ電話!?あ、ちょっと何を!』

 

向うから美遊さんが焦る声が聞こえる。

 

どうしたんだろう?

 

『行きますよー』

 

『待っ!』

 

壁に映し出されたのはメイド服の美遊さんだった。

 

「め、メイド服ーッ!」

 

『あらあら。なんとも良いご趣味をお持ちで』

 

『いやっ!これは……これは違う……!私の趣味とかじゃなくて…………ルヴィアさんに無理矢理着せられて……その……あの……』

 

『美遊、どうした?』

 

その時、部屋の扉が開いて、現れたのは執事服を着た海斗君だった。

 

「か、海斗君は執事服ーッ!」

 

『その声、イリヤスフィールか?』

 

海斗君は珍しそうに見て来る(多分、サファイアを見てるんだと思う)。

 

二人のその姿を見たその時、かちりと、私の中で何か変なスイッチが入る音がした。

 

「美遊さん、海斗君。今すぐ貴方たちに会いたいわ」

 

『『え?』』

 

「うん、すごく会いたい!なんて言うか生で見たい!来て!今すぐ来て!そのまんまの恰好で!」

 

『え?ちょっ!』

 

『イリヤスフィール?とにかく落ち着け。流石にこの恰好で外に出るのは』

 

「家は向かいでしょ!駆け足!」

 

『『は、はい!』』

 

数分後、訪れた二人に私は大興奮だった。

 

「うわぁ~!すご~い!生執事に生メイドだ!生地もいいの使ってるし!作りもしっかりしてるし~!」

 

その場でぴょんぴょんとウサギのように跳ねながら二人と二人の服装をあらゆる角度で観察する。

 

「本当にメイドと執事!?ちょっと私のことご主人様って言ってみて!」

 

「普通はお嬢様じゃ……?」

 

「いいから呼んでみて!」

 

「「ご、ご主人様~!」」

 

思えばこの時の私は少し我を忘れていた。

 

数分後、落ち着きを取り戻した私は二人を解放し、座らせる。

 

「ごめんねー。なんか変なテンションになっちゃって」

 

「い、いえ別に………」

 

「それよりも俺は家の人に変な目で見られたことの方が………ああ、胃が…………」

 

「ごめんなさい、そういうの考えなしでした……」

 

海斗君に迷惑掛けちゃったなぁ。

 

反省しないと。

 

『恥じることはありません。美遊様のメイド服も海斗様の執事服も正式な仕事着なのですから』

 

「じゃあ本当にメイドと執事なの?」

 

「ああ、そうだよ。俺が執事で美遊がレディースメイドって扱い。俺はこっちでの滞在費の確保がうまくできなくて、ルヴィアさんにお願いしたんだ。その代り、執事として働くことになってるんだ」

 

「私は、行くところの無かった私をルヴィアさんが拾ってくれて、生活の保護をして上げるから、それと引き換えにメイドやカード回収の手伝いをしなさいって」

 

海斗君はともかく、美遊さんの行くところが無いってどういうことだろう?

 

家族は?

 

もしかして孤児?

 

………………深く聞かない方がいいかも。

 

「でもすごいよね。メイドや執事、カード回収の両立なんて!昨日の敵も結局美遊さんが倒しちゃったし、本当に凄いよ!」

 

「そんなこと………ない。メイドの仕事も、カード回収も海斗の手助けがあってできてる。昨日だって、イリヤスフィールと零夜がいなかったらキャスターのカードも回収は難しかった。だから私はそんなに凄くなんかない」

 

う~ん。

 

私からにしてみれば十分凄いんだけどなぁ………………

 

それより―――

 

「あのさ?そのイリヤスフィールって呼ぶの長くない?」

 

「え?」

 

「本名で呼ばれるのは何か恥ずかしいし、友達は皆「イリヤ」って呼ぶから」

 

「友達?」

 

「……あれ?もしかしてそう思ってたのって私だけ!」

 

「あ、いやそうじゃなくて…………それなら私も、呼び捨てでいい」

 

「うん!よろしくね、美遊!」

 

「こ、こちらこそ……よろしく、イリヤ」

 

「俺もイリヤって呼んでいいのか?」

 

「うん!」

 

「じゃ、改めてよろしくな、イリヤ」

 

美遊と海斗君の二人と握手をして、私たちは本当の意味で友達になれた。

 

「じゃ、早速体を拭いてもらおうか!」

 

「どうしてそうなるの!?」

 

「俺は外に居るな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

家に着くと、俺は真っ先にイリヤの部屋に向かった。

 

後ろにはイリヤと俺の友達でもある桂美々、栗原雀花、森山那奈亀、嶽間沢龍子の四人がいる。

 

四人がお見舞いに来るとのことで、俺は四人を連れ上に上がる。

 

イリヤの部屋の前に着くと何故か海斗が立っていた。

 

執事服で。

 

なんで執事服?

 

「よぉ、零夜。それと、桂と栗原、森山に嶽間沢だっけか?」

 

海斗が挨拶をして来たので俺達も挨拶をする。

 

後ろで「執事服?」「なんで?」「少年執事と少年ご主人、そう言う組み合わせか……」と聞こえるが無視をする。

 

特に最後を。

 

「お前何でここに居るんだ?」

 

「イリヤに呼ばれたんだ。今、入るのはよしとけ?」

 

「?」

 

良く分からなかったが、その答えはすぐに分かった。

 

「裸!?てかメイド服!?」

 

「美遊さん!?なんでここに……!」

 

「てめーら!いつの間にそんな仲に!プレイか!そういうプレイなのか!」

 

「ちょっと写メ取らせてもらうね」

 

「や、やめてー!」

 

「………分かった。大体察した」

 

「察しが良くて助かる」

 

「ほとぼり冷めるまで俺の部屋来るか?」

 

「有り難い」

 

全員が落ち着くまで、俺と海斗は俺の部屋でゆっくりすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日はお忙しい中、お見舞いを賜りありがとうございました。道中お気を付けてくださいませ」

 

皆が帰る時、何故かセラさんはメイド服だった。

 

昔来ていたメイド服に。

 

全員がそれを珍しそうに見て、帰って行った。

 

「で、その恰好は何?セラ」

 

「私が間違っていたのです、お嬢様」

 

間違えていたって………何を?

 

「長年仕えてきたせいでなぁなぁになっていましたが……私はあくまでメイド!これが本来の姿なのです!」

 

美遊のメイド服に感化されたか…………

 

「私、その服好きじゃないんだよねー、堅苦しくて。もっとフリフリの着ようよ」

 

「必要ありません。この服はアインツベルン家の正当なメイド服で「お、なに?その変な恰好」

 

セラさんのメイド服を見てリズさんがそう言う。

 

アインツベルン家の正当なメイド服なんじゃねぇの?

 

「私たちの制服です!なに忘れてるんですか!」

 

「ただいまーってうおっ!?セラが懐かしい恰好してる!」

 

セラさんの恰好に士郎さんも驚く。

 

「帰りましたか。不本意ですが、お帰りなさいませ、士郎様」

 

「俺の帰宅は不本意なのか………」

 

「今まで自由にさせて来ましたが、士郎様は当家の長男!今日から毎晩、それにふさわしい教育を受けていただきます!」

 

「なにそれ!?なんで急にそんなやる気になってんだよ!?」

 

俺とイリヤはそんな会話を聞きながら、巻き込まれない内に二階に避難する。

 

「美遊の奴、とんでもない爪跡を残していきやがったな」

 

「メイドパワー、恐るべし、だね」

 

イリヤと美遊が本当の友達になったこの日。

 

イリヤは何処か嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また夜が来た



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絆を絶つ言葉

イリヤと美遊が友達となった日の夜。

 

俺達は森の中に居た。

 

正確には鏡面界の森の中だ。

 

クラスカードは残り二枚。

 

そして、六枚目のクラスカードはここにある。

 

ある、はずなのだが…………

 

「どういうことですの?敵はいないしカードもない。もぬけのカラと言う奴ですわ」

 

ルヴィアさんの言う通り、鏡面界に入って時間が経つのに一向に敵とも遭遇しないし、カードも見当たらない。

 

「場所を間違えたとか?」

 

「まさか。それはないわ。元々鏡面界は単なる世界の境界、空間的には存在しない物なの。それがこうして存在してる以上、原因であるカードがあるはずだわ」

 

「そう言えば、今回は空間が狭いような………」

 

イリヤの言う通り、今回の空間は狭い。

 

天井がキャスター戦の時と比べると随分低い。

 

「カードを回収するごとに歪みが減ってきてる証拠ね。最初の頃は数キロ四方もあったらしいし」

 

「うへー……」

 

となると、最初にカードを回収した人は苦労したんだろうな。

 

「取り敢えず歩いて探すしかないだろ。警戒を怠らずに、各自で周囲に気を配りながら」

 

海斗の言葉に頷き、森の中を歩き出す。

 

『なんとも地味な……もっとこう魔法少女らしくド派手にぶっ放しまくって一面焦土に変えるくらいのリリカルな探索魔法をですね』

 

「それは探索じゃなくて破壊だよ……」

 

『今こそ必殺のリリカルラジカルジェノサイドを……』

 

「なにそれ……」

 

ジェノサイドってあぶねぇな。

 

そう思った時、急にイリヤが歩くのを止め、後ろを振り向く。

 

「どうした、イリヤ?」

 

「気のせいかな………今何かが動いた様な……………」

 

その時、森の中から一本のナイフが投げられ、それがイリヤの首筋を掠る。

 

「イリヤ!」

 

俺は慌ててイリヤに駆け寄る。

 

「美遊!あそこだ!」

 

砲射(シュート)!」

 

海斗が指さした方向を美遊が砲撃する。

 

「どうだ?」

 

「……いない。手ごたえが感じられない」

 

逃がしたか。

 

だが、今は敵よりイリヤだ!

 

「イリヤ!大丈夫か!」

 

『ご安心を!物理保護が利きました!薄皮一枚です!』

 

その言葉に安心して俺は敵の襲撃に備え、ディフェンスリングを嵌める。

 

「敵の位置は不明!方陣を組むわ!全方位を警戒!」

 

「不意打ちとはナメた真似をしてくれますわね!」

 

「攻撃される瞬間まで気配が感じ取れなかった」

 

「それに完全な急所狙い!気を抜けば()られる!」

 

密集しての全方位警戒し、死角を無くし、何処からの攻撃にも対処できる陣形を組む。

 

だが、その陣形も無意味だった。

 

『敵を視認!総数50以上!』

 

「そんな!」

 

「嘘でしょ!完全に包囲されてますわ!」

 

「軍勢だなんて聞いてないわよ!」

 

「海斗!これはどういうことだ!」

 

「分からないが、これもクラスカードの力なんだろう!」

 

50以上の敵はそれぞれナイフを手にする。

 

その瞬間、凛さんが敵の一部に向け宝石を投げ爆発させる。

 

「包囲網を突破するわ!」

 

「美遊とイリヤスフィールは前方に火力を一点集中!海斗と零夜は後方及び左右からの攻撃の防御を!」

 

「「「了解!」」」

 

返事の中にイリヤの声は無かった。

 

俺は後ろを振り返る。

 

すると、イリヤは地面に倒れ込んでいた。

 

「イリヤ!?」

 

「か、からだが……うごかない……!」

 

『魔力循環に澱みが……!物理保護維持できません!』

 

「まさか、毒!?」

 

あの時のナイフに塗ってたのか!?

 

くそっ、もっと早く攻撃に気付いていれば!

 

考えるより先に体が動いた。

 

イリヤを守ろうと走り出す。

 

だが、間に合わない。

 

海斗と美遊、ルヴィアさんも走り出すが。

 

ここにいる誰もが間に合わない。

 

イリヤの死が、俺の目の前に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

イリヤから光が溢れ、それがドーム状に広がる。

 

敵の攻撃はその光にかき消され、敵も消え去る。

 

そして、その光は俺たちをも襲う。

 

殆ど直感だった。

 

直感的にあの攻撃はヤバイと俺は判断できた。

 

だが、海斗は判断が遅れ、ディファンスリングを嵌める暇は無かった。

 

俺は四人を守るような形で立ち、ディフェンスリングで障壁を張った。

 

生半可な障壁じゃダメだ。

 

俺が持つ魔力を全部つぎ込み、今現在での強固な障壁を張る。

 

だが、それでも防ぎ切れず、俺達はダメージを負った。

 

服はボロボロになり、所々怪我をしてる。

 

皆の前に立ち、防御した俺は皆よりも酷かった。

 

特に左腕が火傷を負ったみたいに痛む。

 

光りが収まり、地面に開いた穴の中心にはイリヤが無傷でいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

「なに……これ……私がやったの?」

 

私は唖然とした。

 

敵の毒にやられ動けなくなった時、死を感じだ。

 

王手を掛けられた駒みたいに。

 

凛さんの判断は冷静で正確だった。

 

今回の敵だって前野に比べたら決して強くはないはず。

 

ただ一つ、最初の一手で後れを取った。

 

それだけで私は死に掛けた。

 

その時、まるで私ではない別の誰かが私を動かしたような感覚になった。

 

そして、私は敵を全員葬った。

 

訳も分からぬまま、前を見るとそこには皆を守るように立ち、左手を掲げるレイがいた。

 

皆もボロボロだけど、レイはそれ以上にボロボロだった。

 

左手なんか火傷みたいな痕を追ってる。

 

「レ―」

 

「危なかった」

 

レイの名前を呼ぼうとした瞬間、レイがそう言った。

 

「あと少しでも障壁を張るのが遅れてたら、俺達も危なかった。イリヤ………お前の所為でだ」

 

「で、でも………そうしないと皆がやられちゃうと思って………」

 

「その結果がこれだ。結果的には敵は全員倒せたし、クラスカードも回収できた。でも、お前は皆を巻き添えにしようとした。お前がいなければ、こんな目に遭わずに、カードももっと早くに回収できたはずだ」

 

「ちょっと零夜君!いくらなんでも――!」

 

凛さんがレイを止めようとするけど、それを海斗君が止める。

 

「俺はお前を守るって言った。でも…………皆を危険な目に遭わせかねないお前を守ることは出来ない」

 

そして、次のレイの言葉に私はショックと胸の痛みを感じた。

 

「俺は…………もうお前と一緒に戦いたくない」



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契約解除

次の日の朝、目が覚めたらもうレイは家にいなかった。

 

セラに聞いたら朝ご飯も食べずに学校へと向かったらしい。

 

少しだけ朝ご飯を食べ、登校する。

 

「イリヤさん、その………一人で大丈夫ですか?」

 

「何言ってるのセラ?大丈夫だよ。いってきまーす」

 

元気なフリをして家を出る。

 

いつもは隣に居るレイが今日はいない。

 

それだけで、とてつもなく寂しく感じる。

 

教室に着くと雀花たちがおはようっと言ってくれた。

 

だから、私もおはようと返した。

 

レイはと言うと、私の前の席の自分の席で頬杖をつき、外をずっと眺めている。

 

「なぁ、イリヤ。レイと何かあったのか?」

 

雀花にそう尋ねられ思わずどきっとする。

 

「え?どうして?」

 

「いや、普段一緒に登校してるお前たちが今日は珍しくバラバラだからさ」

 

「別に幼馴染だからっていつも一緒に登校するわけじゃないよ」

 

そう誤魔化し、話を逸らす。

 

「海斗君に美遊ちゃんおはよー」

 

二人の名前に思わずドキっとした。

 

「二人ともおはよう」

 

「おっすー」

 

「はよー」

 

雀花たちは二人に挨拶する。

 

「おう、おはよーさん」

 

海斗君が三人に挨拶するのが分かる。

 

二人が通り過ぎ席に着いたのを見て、一安心する。

 

「イリヤちゃん」

 

美々が私の異変に気付いて声を掛けて来る。

 

「あ!私、宿題やってなかったらからやらないと!」

 

誤魔化し、私は自分の席に着いてドリルを取り出す。

 

レイは何も言わず、ずっと外を見てる。

 

気まずくて、話が出来ない。

 

心の中で溜息を吐いて、私は宿題を始める。

 

「ぅオーッス、イリヤ!本日はご機嫌ハウアーユー!!」

 

龍子が元気よくやってくる。

 

悪いけど今は相手にする気分じゃない。

 

「龍子は元気だね……」

 

「オーウ!ソーバット!」

 

「なんだよ元気ねぇーな!朝からそんなんじゃ放課後までもたねーぞ!なぁ、レイ!」

 

そう言って龍子はレイの肩に手を置く。

 

「うるさい、静かにしろ」

 

レイは外を見たまま、そう言う。

 

「ちくしょう……誰か俺に優しくしてくれ………」

 

「ハッハッハ。このウジ虫め」

 

「うーむ……どうにもこれは……」

 

「うん……なんか空気悪いね。イリヤちゃんとレイ君、喧嘩でもしたのかな?」

 

「あの二人にしては珍しい。一体何が………」

 

「もつれか!?もつれた痴情がただれてるのか!?」

 

「それ意味分かってる?」

 

喧嘩か。

 

喧嘩だったらどれだけ良かったか…………

 

私とレイが喧嘩すると、最終的にはいつもレイの方が折れて謝って来て、私も謝って終わり。

 

でも今回は喧嘩じゃない。

 

単に合わせる顔がないってだけなんだけど……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

「美遊。ちょっといいか?」

 

体育の授業中、俺は人目につかない所に、美遊を呼ぶ。

 

「話があるんだ」

 

「イリヤのこと?」

 

「ああ」

 

美遊は分かっていたとでも言いたげな表情で俺を見る。

 

「イリヤはもうクラスカード回収はしたくないって思ってるはずだ。多分、今日辺り凛さんにもそのことを言って魔法少女を止めるはずだ」

 

「本当に?」

 

「確実だ。アイツは変に真面目だから、そのことを凛さんに伝えてから魔法少女を止めると思う。その時に、美遊に協力して欲しいんだ」

 

「私に?」

 

「ああ。だが、協力すればイリヤとは友達でいられなくなるかもしれない。それを承知で頼む。協力してくれないか?」

 

俺の問いに、美遊は暫く目を閉じる。

 

そして―――――

 

「分かった。協力する」

 

「すまない」

 

美遊に謝り、俺は美遊への協力を頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

家に帰ると私は真っ先に自室のベッドの上に倒れ込んだ。

 

レイはいつの間にか教室におらず、先に帰ってしまった。

 

結局、レイとは一度も会話をしないで終わった。

 

「ねぇ、ルビー」

 

『はい?なんでしょう?』

 

「私がもうカード集めしないって言ったらどうする?」

 

『いいんじゃないですか?』

 

何気なく尋ねたことに、ルビーはあっさりと答える。

 

「………止めないんだ」

 

『そもそもカード回収は凛さんとルヴィアさんに課せられた任務ですから、イリヤさんがそこまで気に病む必要はありませんから。それに、あんな血生臭い泥仕事は魔法少女のやることじゃありません!』

 

「………そうだよね。どんなに言い繕っても結局は命のやり取りだったんだよね」

 

『それを怖いと感じるのは当然の事。むしろ、今までよく凛さんたちに付き合ってやったものだと言うべきですねー』

 

怖い………か………

 

どっちかって言うと、私が怖いのは―――――――――

 

「これからどうすればいいのかな?」

 

『そうですねー。イリヤさんの責任のあることではないんですけども、取り敢えず、凛さんにぶっちゃけましょうか』

 

そう言う事で、私は凛さんと公園で会うことにした。

 

辞表を手に。

 

「それは何?」

 

「辞表です……」

 

「……ま、こうなるとは思ってたけど(まさか、零夜君の読みが当たるとはね)」

 

「最初は……興味本位というか……面白半分だったの……」

 

私は正直に自分の本音を凛さんに語る。

 

「でも、実際は魔法少女の仕事は命懸けの仕事だった。考え方が甘かったって思い知った」

 

私は既に二回も本当に死に掛けていた。

 

今頃になって美遊のあの時の言葉が胸に突き刺さる。

 

私には戦う覚悟も理由も……ありはしなかった。

 

「もう、戦うのは嫌です」

 

「…………一つだけ確認したいことがあるんだけど、昨夜のアレは自分の意志で起こしたの?」

 

アレと言う言葉に私は、昨日の出来事を思い出す。

 

「ち、違います!あんなの……私にできるわけない!あれはきっとルビーが!」

 

『私単体には攻撃能力はありませんよ。マスターが振るわない限り、魔力砲の一発も撃てません。昨日の爆発はイリヤさんの力によるものです』

 

「そんなはず………だって、私は普通の人間だもん………あんな……」

 

「(なるほど……本当の理由はそれか………まさか、理由まで零夜君の読み通りだったとは、幼馴染恐るべしね)分かったわ。辞表は受理する」

 

「……いいの?」

 

「いいのよ。協力を要請したのはこっちだし、小学生に戦いの代理をしてもらうこと自体無理があったのよ。感謝こそすれ謝ること無いわ」

 

「………ごめんなさい」

 

「謝ること無いって言ってるでしょ。……さて、もう十分でしょルビー!お遊びはおしまい。マスター登録を私に戻しなさい!」

 

『やなこってす!私のマスターは私が決めます!』

 

ルビーがそう言うと凛さんに捕まれ、引っ張られる。

 

「まぁいいわ。カード枚数も残り一枚。カード回収が済んだらアンタがなんと言っても連れて帰るからそれまでは好きにしなさい」

 

「言われなくてもそうしますよ~っだ!」

 

「まったく……というわけでイリヤ。あとのことは私達に任せなさい。貴女はもう、私の命令を聞かなくていいんだから」

 

「……はい」

 

「今まで本当にありがとう。正式な契約なんてしてないけど、一応言っておくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤスフィール あなたとの契約を 解除する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。もう貴女は戦わなくていいし、私の命令を聞かなくてもいいわ」

 

その言葉は契約の絆を解く言葉。

 

「今日までの事は忘れて生きなさい。一般人が魔術の世界に首を突っ込んでもいいことなんてないわ」

 

これで他人同士だと凛さんは言う。

 

「全部、夢だと思って忘れなさい」

 

自分で望んだことなのに…………

 

「貴女は貴女の日常に戻りなさい」

 

胸が…………痛い……………

 

「……………ま、そう言う訳なんだけど、貴女はそれでいい?美遊」

 

「え?」

 

振り向くと、後ろにはいつの間にか美遊がいた。

 

「問題ありません」

 

美遊はそう言うと、私の方を見る。

 

「最後のカードは私と海斗、そして零夜の三人で回収する。貴女はもう戦わなくていい。後は全部、私が終わらせる」

 

美遊はそう言い残し、凛さんと公園を出て行った。

 

私はその後姿を、ただ黙って見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

予想通り、イリヤは凛さんに魔法少女を止めることを告げた。

 

そして、美遊の言葉でこの戦いに関われないようにもした。

 

これで、イリヤはもう魔法少女になろうとはしないだろう。

 

ルビーが傍に居るのが少し気がかりだが、多分大丈夫。

 

ルビーも無理強いはしないはずだ。

 

「美遊、すまないな。俺の勝手な頼みで、お前とイリヤの仲を裂くような真似して」

 

「別にいい。イリヤを守れるなら構わない。彼女を守りたいのは貴方と同じだから」

 

「すまない。ありがとう」

 

美遊にもう一度謝罪とお礼を言い、俺は家に戻る。

 

今夜が最後の戦い。

 

必ず勝つ!

 



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八枚目

今回はかなり無茶苦茶な話となっております。

ですが、ツッコまずにお楽しみください。


俺は境界面のとある廃ビルに居た。

 

「ここか」

 

海斗と美遊、凛さんとルヴィアさんの四人はクラスカード回収の為、歪みのポイントに向かっている。

 

俺がここに居る理由。

 

それは、ここにもクラスカードがあるからだ。

 

イリヤを欠いたメンバーで最後の歪みのポイントに向かう途中、サファイアが別の歪みを感知し、そこから強烈な力を感じると言った。

 

そのまま放置しておくわけにもいかず、当初は戦力を二つに分けて同時に回収をしようとした。

 

だが、俺は凛さん達に無理を言い、一人で回収へと向かった。

 

凛さんとルヴィアさん、そして海斗と美遊も猛反対したが、俺は一歩も引かず頭を下げた。

 

すると海斗が俺にある指輪を渡してきた。

 

テレポートリング。

 

これを使えば、海斗が事前にマーキングしておいたポイントに跳ぶことができ、境界面で使用しても、こちら側の世界へと跳ぶことが出来るそうだ。

 

危険だと判断したらすぐに逃げろっと言われ、俺はそれを了承した。

 

海斗は即行で終わらせて助けに行くっと言ってた。

 

そして、俺はサファイアに飛ばされ、此処に来た。

 

暫く廃ビル内を歩いてると通路の奥から黒い霧のようなものが現れる。

 

そして、それは徐々に人の形へと変わっていく。

 

服装は紫の羽織袴姿に、長い髪を一つにまとめ、手には身長よりも長い刀を持っていた。

 

剣士?いや、どちらかと言えば侍か。

 

「お前が、ここの空間のクラスカードか」

 

俺は手を握りしめ、侍に向かって走り出す。

 

走ってジャンプし、そのまま拳を叩き込む。

 

「お前は…………ここで俺が倒す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

零夜を見送り、俺達は境界面の冬木市にあるとあるビルの屋上に降り立つ。

 

ここが最後の、いや、七枚目のクラスカードって表現が正しいか。

 

クラスカードは八枚存在した。

 

その八枚目を零夜に回収を頼み、俺達は此処に来た。

 

ここまで来ると恐らく七枚目のクラスカードは生半可な英霊で来るとは思えない。

 

セイバー程じゃないにしろ、きっとそれなりに強力な英霊が来るはずだ。

 

そいつはなるべく早く倒し、零夜の元に行き、最後の英霊も倒す。

 

それにしても―――――

 

「狭いわね」

 

そう。

 

今回の境界面は狭い。

 

ビル一つを覆うぐらいの広さだが、満足に戦えそうなのは屋上の部分ぐらいだ。

 

「歪みが減ってきてる証拠ですわね」

 

その時、敵が現れた。

 

二メートル以上はあるんじゃないかと思える身長に、鋼の様に硬そうな筋肉、そして、コンクリートを粉砕してしまいそうな剛腕。

 

敵は咆哮を上げると、一直線に俺達へと向かって来た。

 

砲射(シュート)!」

 

美遊が敵に向け、一撃お見舞いする。

 

だが、敵は全く利いていないのか、ケロッとし美遊へと攻撃をする。

 

「チェイン!」

 

鎖を出し、敵の腕を縛り引っ張る。

 

美遊への攻撃が少し遅れ、美遊は回避が間に合う。

 

それに気が緩んでしまい、俺は鎖を掴まれ振り回される。

 

「うおっ!!?」

 

そのまま地面に叩き付けられそうになるが、俺は鎖を消し、地面を滑るようにして下がる。

 

「コイツ、今までの敵の中でかなり厄介だぞ」

 

「それでも、倒す!」

 

美遊がサファイアを強く握り締める。

 

「そうだな。いくら強くても俺達には倒すしか道はないんだ」

 

俺はチェインリングを外し、身体強化のリング、パワードリングを嵌める。

 

「さっさと倒して零夜の所に行かないといけないんだよ!」

 




皆大好き、アサシンの小次郎ことアサ次郎の黒英霊です。

なんで出したのかって言うと、ツヴァイ編でどうしても使いたかったからです。

この辺にもツッコまずお楽しみください。


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立ち上がる少女

「は~、やっぱりお風呂は落ち着くねぇ……」

 

今、私はお風呂に入ってる。

 

久々にゆっくりと入れるお風呂はいい。

 

『何だが、ジジむさいですよ、イリヤさん』

 

ルビーが体(?)を洗いながらそう言う。

 

「なにおぅ!お風呂は人類が産んだ至高の文化よ。日本人に生まれてよかったと思う瞬間よねー」

 

『イリヤさんはハーフでしょう………』

 

お風呂は最高に気持ちいい。

 

だけど、やっぱり美遊と海斗君、凛さんにルヴィアさん、そしてレイの事が心配だ。

 

私一人、こんなことしていていいのかな………………

 

「夜だねぇ…」

 

『夜ですねぇ…』

 

「………ま、まぁ今晩からはこうしてゆっくりお風呂を楽しんで………ん?」

 

外が何だが騒がしい。

 

そう思ってると、急にお風呂場の扉が開いた。

 

「イヤッホウ!イリヤちゃーん!お ひ さ ー !」

 

「ま、ママ!?」

 

入って来たのは私のママ、アイリスフィール・フォン・アインツベルンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は――――――、やっぱりお風呂は落ち着くわねぇ……」

 

あの後、ママもお風呂に入って来たルビーはばれたらいけないので近くで動かずにじっとしてる。

 

「あら何コレ?」

 

するとママはルビーを持ち上げた。

 

「お風呂でおもちゃ?イリヤもまだまだ子供ねー」

 

「い、いやー。それほどでも………」

 

どうやらルビーをおもちゃと勘違いしてくれたみたいだ。

 

「そ、それにしてもずいぶん急な帰宅だね、ママ」

 

「んんー?私が急に帰ってきたら何かまずいことでもあるのかにゃー?」

 

「い、いやぁ、別に……」

 

まぁ、ルビーの存在や魔術師とかクラスカードとか色々あるけど、もう関わらないんだし、関係ないよね。

 

「ま、一時帰国よ。仕事が一段落ついたから私だけ帰って来たの。切嗣はまだ向うで仕事中だからすぐ戻らなきゃいけないんだけどね」

 

「そうなんだ」

 

「だから、今はこうして束の間のスキンシップを……成長した?」

 

そう言ってママは私の胸を揉む。

 

「ちょーっと過激じゃないかな、これ」

 

「………ねぇ、留守の間何か変わったことあった?」

 

「え?ううん、別に…」

 

「またまたー!あったでしょ?すっごーく変わったことが!」

 

「ええ!?」

 

私とルビーは思わずビクッとなる。

 

「ほら、うちの目の前に建った豪邸!」

 

あ、そっちか………

 

「ちょっと留守にしてた間にあんなのが建っちゃって。ママ一瞬帰り道間違えたかと思っちゃったわ。セラから聞いたけど、あの豪邸にクラスメートが住んでるんですってね。どういう子なの?」

 

ママは後ろから優しく抱き締めながら私に聞いてくる。

 

「美遊と海斗君」

 

「美遊ちゃんと海斗君かー。転校生なんだよね。友達になれた?」

 

「……うん」

 

その問いに小さくそう答えた。

 

「……どんな子?」

 

「美遊は静かな子。必要なことしか喋らない。ていうか、喋ることにあまり慣れてないのかも。でも、運動も勉強もすっごいんだよ!一気に一番になっちゃった。海斗君は頼りになる子だけど、ちょっとプレッシャーに弱いのかな?良くお腹痛めてる」

 

「そっか。良い子たちね。……………零夜君とはどう?」

 

レイの名前を出され、私は下を向いた。

 

「……レイとは……この間喧嘩しちゃった」

 

「あら、珍しいわね」

 

「喧嘩って言うより、レイが私に失望したって言うかなんというか…………」

 

「………何があったの?」

 

ママが優しく聞いて来る。

 

「…………私とレイと美遊と海斗君の四人でやろうって決めたことがあったの。でも、私の所為で皆に迷惑かけちゃって、それでレイに私の所為って言われて………で、でも!レイの言ったことは正しいし、実際、皆に迷惑を掛けたのは私だし……………」

 

ママは私の言葉をただ黙って聞いていてくれた。

 

「………でも、大丈夫だよ。レイは強いし、それに美遊も海斗君もとても頼りになる。だから、私がいなくてもきっと……………」

 

「………本当にそう思ってる?」

 

「え?」

 

「上がりましょうか。これ以上はのぼせちゃうわよ」

 

笑顔でそう言うと、ママはお湯の入った風呂桶から立ち上がって浴室から出て行った。

 

お風呂からあがると、ママは私の部屋で私の髪を梳いてくれた。

 

髪を梳かしてもらいながらママが私に聞いて来る。

 

「イリヤちゃん、そんなに気になるなら手伝ってあげたらいいじゃない。どうしてそうしないの?」

 

「……」

 

ママの問いかけで私はまたあの時レイに言い放たれた言葉を思い出す。

 

[もうお前と一緒に戦いたくない]

 

あの時の言葉は今も私の胸に突き刺さって残っている。

 

「私は皆みたいに上手くできないから。足を引っ張るだけだから……」

 

「上手くできないってどういうこと?」

 

「……私、皆とずっと前からやってることがあって。最初は好奇心だったけど、私なりに頑張ってきたつもりなんだ。皆と特訓したり、作戦を考えたり、でも……」

 

パジャマの裾を両手で握り締めて全身を震わせる。

 

「この前負けちゃいそうになって、すごくピンチになっちゃって、私何としなきゃって思ったら……それが皆の足を引っ張ることになって……それが皆の迷惑になって……」

 

「イリヤ」

 

私の左肩にママの左手が置かれる。

 

身体の震えが止まる。

 

「そんなに怖い?自分のせいで失敗してしまうことが」

 

「そりゃ怖いよ……私のせいで皆に迷惑掛けて、取り返しのつかないことになっちゃうんだから……」

 

「そう、それは確かに怖いことなのかもしれないわね。でもねイリヤ、怖い思いをしているのは貴女だけだと思う?」

 

「え?」

 

「零夜君も美遊ちゃんも海斗君も皆、貴女と同じ小学生。そんな子達が本当に平気でいられると思う?本当は、皆はそんな貴女のことを察して、辛いことを全部引き受けてくれたんじゃないかしら?」

 

「……でも、レイも美遊も平気そうな顔してたし、そんな事一言も」

 

「貴女、美遊ちゃんは喋ることになれてないって言ったじゃない。それにね、イリヤちゃんは零夜君のこと、強いって言ってるけど、あの子、本当はとても泣き虫なのよ」

 

「え?」

 

初耳だったし、信じられなかった。

 

あのレイが泣き虫だなんて………………

 

「昔、貴方が近所の子に苛められてた時、レイ君が助けたでしょ」

 

それは覚えてる。

 

私の髪の色を中にして苛めて来る虐めっ子がいて、私が一人が泣いてた時、レイが助けに来てくれた。

 

まだ幼稚園の時だったはず。

 

相手は小学生で当時のレイよりも身長も力も強かった。

 

それでもレイは立ち向かって、最後は勝ったもをよく覚えてる。

 

「あの後、イリヤちゃん、泣き疲れて寝ちゃったけど、その後なのよ。零夜君が泣きだしたの」

 

「嘘っ!?」

 

「本当よ。どうして泣くのを我慢してたのって聞いたら、零夜君なんて言ったと思う?」

 

分からなかったから私は首を振った。

 

「それはね―――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリヤちゃんを守るのは僕の役目だもん。だから、イリヤちゃんの前では泣かないって決めたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だってさ。今まで零夜君ったらイリヤちゃんの前では絶対に泣かないで、いつもこっそり一人で泣いてたのよ」

 

あのレイが泣き虫だった事実に驚いたけど、それ以上に小さい頃からレイがそう考えていたことにびっくりした。

 

「きっと、今も零夜君は一人で頑張ってる。泣きたいのを堪えて一人で、ずっと。そして、きっと美遊ちゃんも海斗君も本当は貴女が来るのを待ってるはずよ」

 

私は暫く黙り、自分の手を見つめた。

 

そして、その手をぎゅっと握り、立ち上がる。

 

「ごめん、ママ!私、やることがあった!」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

笑顔で見送ってくれたママに、私も笑顔で答え家を出る。

 

待ってて、皆!




イリヤがとうとう動き出しました。

後残り、4話ぐらいで一期終了予定です。


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夢幻召喚

敵の攻撃は屋上の壁も地面も一撃で粉砕する。

 

パワードリングで強化していても、普通に受け止めたら簡単に腕の骨が折れちまう。

 

俺は攻撃をいなすようにして、英霊の攻撃を受け続ける。

 

砲射(シュート)!」

 

俺が囮になり、美遊が敵への攻撃をするが、攻撃は全く効いておらず、まるで体の表面でかき消されてるような感じがする。

 

「なんてでたらめな腕力……!」

 

『絶対に直撃は避けてください!物理保護でも守り切れません!』

 

「避けろってった、この狭い空間でどう避けろと?」

 

俺は辺りを見渡しながら言う。

 

「逃げ場のないここではあの突進力は脅威ですわ!」

 

「せめて足止めできないの!?」

 

『無理です………魔力砲が効いてる様子がありません!全て体の表面でかき消されているような………』

 

「対魔力じゃない……もっと高度な………」

 

「まさか……宝具か!」

 

『間違いないでしょう。一定ランクに達してない全ての攻撃を無効化する鋼の肉体………それが敵の宝具です』

 

「……美遊。この後、暫く奴の足が止まるはずだ。その時を躊躇わず一気にやれ」

 

「え?」

 

「頼むぞ!」

 

そう言い、俺は敵に向かって走り出す。

 

一撃を躱しつつ、そして効かない攻撃を何度も繰り返す。

 

「はっ!」

 

拳で殴ろうとした瞬間、敵は俺の腕を掴み、そして持ち上げる。

 

俺は宙に浮く様な感じで、ぶら下がる。

 

だが、これでいい。

 

「この時を待ってたぜ」

 

俺は戦いの中で交換したチェインリングに魔力を送る。

 

「チェイン!」

 

鎖が次々と現れ、敵を拘束する。

 

こんな拘束じゃ数秒程度しか止めれないだろう。

 

だが、それで十分だ!

 

「美遊!」

 

美遊は敵の背後におり、手にはランサーの宝具“ゲイボルク”を握りしめてる。

 

「ゲイボルク!」

 

美遊の一突きは見事敵の心臓を貫き、破壊した。

 

「やったな」

 

俺は力が無くなった敵の腕から抜け出し、鎖を解く。

 

その瞬間、敵は腕を振り、美遊に殴りかかる。

 

全力でジャンプし、腕に掴みかかる。

 

俺はそのまま振り回され、壁にたたきつけられる。

 

「海斗!」

 

美遊が慌てて近寄ってくるのがわかる。

 

敵は雄叫びを上げ、貫かれた部分は煙を上げ、修復されていた。

 

「確かに心臓を貫いたはず………!」

 

まさか、これがこいつの宝具の力!

 

蘇生能力とでも言うのか!

 

凛さんは敵わないと判断し、持っていた短剣で壁を斬って破壊する。

 

「撤退よ!あんな相手じゃ勝ち目がない!」

 

俺は美遊に肩を貸してもらいながら、俺達はビルの中を移動する。

 

「ビル内まで空間が続いていて助かったわ。あの図体ならここまではいってこられないはずよ!ここでいいわ、サファイア!」

 

『はい。限定事件反射路形成!鏡界回廊一部反転!』

 

これで、あちら側に帰れる。

 

残念だが、アイツと戦うには零夜の力が必要だ。

 

離界(ジャンプ)

 

だが、向う側へ戻ろうとした瞬間、美遊は魔法陣の上から降り、俺と凛さん、ルヴィアさんの三人だけが帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美遊SIDE

 

三人が帰還したのを見て、私は一息つく。

 

『美遊様!一体何を!?』

 

「これでいい……ようやく一人になれた」

 

『美遊さま………?』

 

「見られるとまずいから………秘密、ね」

 

そう言い、私はセイバーのクラスカードを取り出す。

 

『クラスカード?』

 

「どうしてできたのかわからないけど、依然イリヤがやって見せた。これが、カードの本当の使い方」

 

クラスカードを地面に置き、それをステッキに柄尻部分で押さえる。

 

するとそのクラスカードを中央に青い魔法陣が形成される。

 

「告げる。汝の我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯に寄るべに従い、この意、この理に従うなら答えよ」

 

奥の数km先から天井を突き破る音が聞こえてくる。

 

奴だ。

 

どうやら壁を壊して来たみたいだ。

 

『美遊様!敵が!!』

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常夜総ての悪を敷く者」

 

私が詠唱している間、敵はドスドスと豪快な音を立てながら走ってくる。

 

だが構わず詠唱を続ける。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。夢幻召喚(インストール)!!!」

 

敵の一撃は私が手にした剣で防いだ。

 

そしてそのまま剣で薙ぎ払うように敵を飛ばす。

 

私は剣を両手で握り、構える。

 

「撤退はしない。全ての力をもって、今日、ここで、戦いを終わらせる!」



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無限の可能性

はい、めちゃくちゃな展開になっておりますが、気にせずに見てください。


腕を弾きながら、そのまま腹部にエクスカリバーを突き立てる。

 

そしてそのまま振りあげる。

 

敵はその場に膝を尽き倒れる。

 

これで二回死んだ………

 

『美遊様!』

 

「サファイア?驚いた。その状態でも喋れるんだね」

 

エクスカリバーから聞こえたサファイアの声に驚きながら言う。

 

『一体何が起こっているのですか!?美遊様の恰好、その戦闘力……まるで…………』

 

「カードを介した英霊の座へのアクセス。クラスに応じた英霊の力の一端を写し取り、自身の存在へと上書きする疑似召喚。つまり、英霊になれる。それがカードの本当の力」

 

サファイアに説明してるとアイツがまだ立ち上がり、傷を修復した。

 

「話はおしまい!敵が起きる!」

 

『二度目の蘇生……!美遊様、敵はやはり不死身です!無限に生き返る相手に勝ち目など……!』

 

「無限じゃない。蘇生能力なんて破格の能力、必ず回数制限がある」

 

そう、例え何度蘇ろうとも、そのすべてを倒す!

 

剣を手に走り、振り下ろす。

 

だが、さっきまでは簡単に斬れていたのに、今度は斬れず受け止められた。

 

逆に投げ飛ばされながらも、受け身を取り、攻撃を躱して懐に潜り込む。

 

剣をそのまま腹部に向け振る。

 

だが、またしても斬ることは出来なかった。

 

そして、背中に攻撃を食らい地面を滑るように倒れる。

 

痛む体を押さえながら剣を杖に立ち上がる。

 

明らかに、表面の硬度が上がってる……………

 

『こちらの攻撃に耐性をつけている!?こんな怪物、倒しようがありません!美遊様、お願いです!撤退してください!』

 

サファイアの声が耳に響く。

 

確かに、普通なら撤退するべきかもしれない。

 

だけど、私には撤退できない理由がある。

 

エクスカリバーに魔力を込める。

 

黄金の光が刀身に集まり、輝かせる。

 

「撤退は……しない!」

 

『美遊様!どうして撤退を拒むのですか!今日が駄目でもまた次に態勢を整えて……!』

 

「次じゃダメ!」

 

サファイアの言葉に大声で返す。

 

「今ここで終わらせないと、私一人で終わらせないと………次はイリヤが呼ばれる!イリヤはもう戦いを望んでいない。それは零夜も望んでること。ここで、アイツを倒さないと、零夜が辛い思いをしてまでイリヤを突き放したのが無意味になる!それに…………初めてだった。私を………友達って言ってくれた人………だから!」

 

立ち上がり、こっちに向かって走り出す奴に剣を振り下ろす。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!」

 

放たれた黄金の光は敵を飲みこみ、そして、境界面までも破壊する。

 

多分、アイツは跡形もなく吹き飛んだはず。

 

その時、私の中からセイバーのカードが飛び出し、転身が解け、魔法少女の姿も解ける。

 

魔力切れによる強制送還………今の私の魔力量じゃ、宝具は一回が限界か……………

 

『美遊様!』

 

そうだ。

 

まだ安心は出来ない。

 

速く、魔法少女の姿にならないと…………

 

「戻ってサファイア!すぐに魔力供給を!」

 

『は、はい!』

 

サファイアが慌ててこっちに来ようとする。

 

すると、巨大な手がサファイアを潰す。

 

奴はまだ生きていた。

 

エクスカリバーの攻撃を受けてまだ生きてるなんて…………………

 

宝具を使った影響で体がうまく動かない。

 

奴は私に近づき、拳を振り下ろそうとする。

 

私は目を閉じ覚悟を決めた。

 

そして、死が頭上から降って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前なにしてる?」

 

聞覚えのある声だった。

 

目を開け、前を見る。

 

するとそこには、魔術師の姿の海斗が一本の剣を手にアイツを切り裂き倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

間一髪って所か。

 

歪みを解析して、鏡面界に入るのに時間は掛かったが、美遊は無事みたいだ。

 

「かい………と?」

 

「ああ。大丈夫か」

 

俺は魔力で生み出した剣をコイツの体から引き抜き、軽く振る。

 

斬られた部分は煙を上げ、まだ修復される。

 

まだ蘇るか。

 

だが、傷が完全に治る前に凛さんとルヴィアさんが飛び出す。

 

Anfang(セット)!!」「Zeicben(サイン)!!」

 

「「獣縛の六枷(グレイプニル)」」

 

瞬間契約(テンカウント)レベルの結界。

 

これで、すぐには動けないはずだ。

 

「…………どうして来たの?」

 

「ん?」

 

「海斗は怪我してるのに………どうして戻ってきたの?」

 

美遊は驚きの表情で聞いて来る。

 

俺は頭を掻きながら、美遊を見る。

 

「女一人置いて逃げ出す真似なんかできるかよ。それに、お前は勝手に一人で背負い過ぎだ。俺はお前が背負ってる物を一緒に背負ってやろうと思っただけだ。それに―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めて会った時言っただろ?居場所を下さいって。なら、俺がその居場所になってやろうと思ってな」

 

「………海斗って結構バカだよね」

 

「うっ!………失礼な!」

 

「バカで繊細で、プレッシャーに弱くて、すぐにお腹痛くする」

 

図星過ぎて何も言えない………………

 

「…………心配だから、貴方の隣を私の居場所にする。そして、ずっと傍で見てて上げる」

 

「………そうかい。そりゃ、嬉しいね。やるぞ」

 

「うん」

 

アイツから奪い返したサファイアを美遊に渡し、奴を見る。

 

奴は結界の中で枷を引き千切ろうとしていた。

 

「なんて奴ですの!」

 

「魔獣ですら縛り付ける枷を引き千切ろうって言うの!?どれだけ規格外なのよ!」

 

凛さんとルヴィアさんの言う通りだ。

 

「凛さん、ルヴィアさん。作戦があります」

 

俺は二人を呼び、作戦を話す。

 

「無茶苦茶な作戦ね」

 

「ですが、他に方法はありませんわね」

 

「じゃ、決まりですね。結界が壊れると同時に、四方に散らばって下さい!」

 

そして、とうとう奴を押さえていた枷が引き千切られ、結界が破壊される。

 

「今です!」

 

全員が四方に散らばり、俺は奴に向かって走る。

 

左手の中指に、透明の宝石の指輪を填める。

 

「スタイルチェンジ!アクア!」

 

スタイルチェンジリング。

 

俺の魔力の性質を変化させ、様々な属性へと変えるリング。

 

この指輪で、俺の魔力を無属性から水属性へと変化させる。

 

それに伴い、俺の服装も水色フード付きのコートに変わり、裾に白のラインが入った物へと変わる。

 

「アクアスラッシュ!」

 

俺は水の斬撃を繰り出し、敵に当て続ける。

 

しかし、奴は怯まず俺に攻撃を仕掛ける。

 

それを躱し、俺は水の剣を生み出し、斬りつける。

 

剣は深く切り込まれ、奴の体から血を溢れ出させる。

 

そんなのもお構いなしにと言わんばかりに奴は拳を振る。

 

拳は正確に俺の顔の中心を捉えていた。

 

躱せない。

 

だが、俺には仲間がいる。

 

ルヴィアさんが宝石を投げつけ爆発させることで、奴の動きを止め、凛さんが宝石をスタングレネードの様に光らせ奴の視界を奪う。

 

その隙に、俺は拳を奴の腹部に当てる。

 

「ぶっ飛べ。アクアトルネード!」

 

拳から水が竜巻の様に回転し、敵を巻き上げ、天井を貫き飛ばす。

 

そして、屋上に待機していた美遊がゲイボルグを持ち、狙いを定める。

 

「ゲイ………ボルグ!」

 

槍は再び奴の心臓を貫き、破壊する。

 

俺は破壊した天井から屋上に上がり、美遊の隣に立つ。

 

「なぁ、美遊。アイツ何回死んだ?」

 

「最初に一回、海斗が来る前に二回、海斗が来た時一回、今ので一回。これで五回」

 

五回か。

 

流石にそろそろ死んでくれるとありがたいんだが…………

 

だが、そう都合よくいかず、奴はまだ生きていた。

 

「くそっ……中々倒れてくれないな」

 

「………まだ、諦めない!」

 

「ああ、当たり前だ。ここで諦めたら零夜の奴に顔向けが出来ないしな」

 

俺と美遊はそれぞれの獲物を手に構える。

 

その時、不思議なことが起きた。

 

俺が持っている指輪の中で今まで反応しなかった指輪が輝いていた。

 

「これは…………!」

 

すると、その指輪は勝手にチェーンから外れた二つの指輪になった。

 

片方は俺の左薬指に。

 

もう片方は美遊の左薬指に収まった。

 

そして、宝石部分から赤い糸みたいなのが伸び、俺と美遊を繫げる。

 

俺には分かった。

 

この指輪がなんなのかが。

 

「美遊。奴に見せてやろう。俺達の力を!」

 

「うん!」

 

美遊はセイバーのクラスカードを取り出し、限定展開(インクルード)する

 

だが、現れたのはエクスカリバーではなかった。

 

俺と美遊の絆によって生まれた新たな(リング)

 

絆を結ぶ、エンゲージリング。

 

俺の力と美遊の力、そして俺達の絆の力が合わさり、宝具は更なる力を得て、強くなる。

 

絆の力は無限の可能性を生み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限限定展開(アンリミテッド・インクルード)

 

選定の剣“カリバーン”

 

アーサー王が選定の岩より引き抜いたとされる伝説の剣。

 

美遊の手にはその剣があった。

 

「海斗」

 

美遊が俺の名前を呼ぶ。

 

「力を………貸して!」

 

「………ああ!」

 

後ろから美遊を抱きしめるように一緒に剣を握る。

 

奴が突進してくる。

 

「「くらええええええええええええええええ!!!」」

 

俺と美遊は同時に、剣を振る。

 

剣は奴の体を切り裂き、そして、七回奴を殺した。

 

斬った瞬間、それが感じられた。

 

攻撃を食らった奴は、動きを止め、そして、体が徐々に崩壊し、最後は消えてなくなった。

 

地面にはクラスカード“バーサーカー”のカードが落ちていた。

 

「やったな、美遊」

 

「海斗のお陰。私一人じゃ勝てなかった」

 

「………そうだな。俺達の勝利だ」

 

俺たちは笑い合い、拳をぶつけ合った。




次回からオリ主&イリヤVSアサ次郎になります。

次回もお楽しみに


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再び戦場に

「はっ!」

 

侍の刀をジャンプして躱し、空中で一回転して踵落しを頭に叩き込む。

 

だが、侍は刀を素早く後ろに振り、その時の早さを利用して下がる。

 

さっきからいくら攻撃しても全部躱される。

 

中々決定打が撃てない。

 

俺は今、屋上で戦っている。

 

向うの武器は刀。

 

それも身長ほどあるぐらいの長さだ。

 

なら、屋内ならその刀も活かせないはず。

 

そう考え、俺は屋内へ続く扉に向かって走り出す。

 

だが、侍は俺より早く扉の前に立ち、刀を俺に向けた。

 

咄嗟に足を止め、後ろに下がる。

 

僅かに間に会わず、刀の切っ先が目の下を掠った。

 

こいつ…………速い。

 

多分、今まで戦って来た英霊の中で一番早い。

 

「お前相手に出し惜しみするのは失礼だな」

 

この敵位、自分の力で倒せなきゃイリヤに顔向けできないと思っていたが、そんなことも言ってられない。

 

透明な指輪を左中指に嵌め、魔力を流す。

 

「スタイルチェンジ!フレイム!」

 

スタイルチェンジを使い、魔力に炎属性の力を与える。

 

黒いコートは真っ赤なコートへと変わる。

 

両手に炎を集め、火の弾にする。

 

それを勢いよく投げる。

 

火の玉と言う実体のないもの相手に防御をする奴はいない。

 

と言うより、盾と言った物が無い限り防御は不可能だ。

 

絶対横に避けるはずだ。

 

避けた瞬間、巨大な炎をぶつける。

 

その後に、海斗に教えてもらった魔力を物質に変換し留める技で、剣を作り、止めを刺す。

 

そのはずだった。

 

しかし、侍は避けるそぶりを見せず、火の弾に向かって刀を振り下ろした。

 

そして、炎は空中で散り散りになり、消える。

 

まさか、刀を振った時の風圧だけで火の弾を消したって言うのかよ!

 

そのことに驚いていると、侍は一気に距離を詰め、俺の首を狙ってくる。

 

炎の剣を咄嗟に作り出し、防御するが、即行で作った剣では強度が足りず、すぐに砕けてしまった。

 

だが、僅かな時間は稼げた。

 

しゃがむことに成功し、なんとか髪の毛を数本斬られるだけに留められた。

 

スタイルチェンジしてもこれ程差があるのか。

 

とにかく素早いコイツ相手に屋外は危険過ぎる。

 

何としてでも、屋内に逃げ込まないと。

 

そう思った時、侍は刀を引き、腰を落とした。

 

「秘剣」

 

次の瞬間、嫌な予感がした俺は炎を手の平から出し、その時の勢いを使って後ろに下がる。

 

「燕返し」

 

次の瞬間、当時に三方向から斬撃が来た。

 

頬と首、そして手首を斬られる。

 

幸い、後ろに下がったことで、どれも皮膚を掠る程度で済んだ。

 

もし、後ろに下がって居なかったら、今頃首を斬られ終わっていただろう。

 

それにしても今の斬撃、魔術か?

 

いや、魔術ならコートの魔術防御で手首は斬られないはずだ。

 

だが、コートの袖が斬られ、手首も掠る程度に斬られている。

 

ルビーが言うには魔術防御は一級品で、連続でAランククラスの魔術を食らわない限り、簡単には破れないらしい。

 

その代り、物理防御に関しては、一般のコートより少し高い位だ。

 

となると、今の斬撃は魔術ではなく、あの侍自身の実力。

 

当時に三方向からの斬撃。

 

強過ぎる。

 

これが魔術ではないから余計に凄い。

 

単純な剣の腕ならセイバー以上かもしれない。

 

「手荒だけど、こうするしかないな!」

 

俺は手に魔力を集め、地面に手を付く。

 

すると、手を置いた場所が光り、爆発する。

 

スタイルチェンジで魔力に属性を与えた場合、それに応じた魔術が使える。

 

今のはエクスプロージョンと言う爆発の魔術だ。

 

それで屋上の地面を破壊し、屋内へと入る。

 

これで時間は稼げるはずだ。

 

息を整え、心を落ち着かせる。

 

魔力の残りを考えると、次の戦闘で決めないといけない。

 

チャンスは一度、これで決めるしかない。

 

奴の足音が聞こえる。

 

草鞋がコンクリートの地面を歩く音だ。

 

もっと近づいて来い。

 

扉の前に立った瞬間、最大火力で吹き飛ばしてやる!

 

だが、あと一歩っと言う所で足音が止まった。

 

どうした?

 

そう思った瞬間、俺が背にしていたコンクリートの壁から刀が現れ、俺の脇腹を突き刺す。

 

「がっ!?」

 

刺された瞬間、すぐに刀は引き抜かれ、あっという間に壁も切り裂かれる。

 

侍は感情がこもっていない目で俺を見下ろす。

 

脇腹を押さえながら、片手で構える。

 

俺………死ぬのか?

 

死ぬ?

 

嫌だ!死にたくない!

 

焦りと不意打ちの所為で、死への恐怖が俺の中で溢れだす。

 

足が震え、思考が働かない。

 

「秘剣」

 

侍が先程の構えを取る。

 

逃げようとしても体が動かない。

 

「燕返し」

 

当時に三方向から来る斬撃が俺を襲う。

 

額を斬られ、腕を裂かれ、脇腹を斬られる。

 

剣の威圧感にビビり、足が一歩下がったことで、また致命傷を避けられた。

 

「う、う…………うわあああああああああ!!?」

 

だが、斬られたと言うことから、俺は何も考えず、炎の剣を作り出し、攻撃を仕掛ける。

 

もう冷静じゃなかった。

 

俺はあっさりと吹き飛ばされ、部屋のドアを破壊し、向かいの部屋の壁に叩き付けられる。

 

侍がゆっくりとこちらに近づくのが分かった。

 

身体中が痛み、もう動くことすら出来なかった。

 

そのことに涙が出そうになる。

 

「……………そう言えば、イリヤの前では泣かないって決めてたっけ」

 

もう何年も前になる自分が決めたルールを思い出す。

 

イリヤはいないんだ。

 

「泣いても…………いいよな…」

 

涙が目から溢れ、悔しさと悲しみが溢れる。

 

イリヤが戦わなくていいように、一人でも敵を倒せることを証明しようとして、結局一度も相手に膝を付かせることも、致命傷与えることも出来ず……………そんな自分が情けなかった。

 

「くそ………悔しいな………」

 

侍が俺の前に立ち、刀を振る構えになる。

 

俺は諦め、目を閉じた。

 

もう海斗が渡してくれたテレポートリングを使う時間も気力もない。

 

ごめんな、海斗。

 

ごめんな、美遊。

 

俺、ここで終わりだ。

 

さようなら…………イリヤ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いつまで痛みはこなかった。

 

それ処か、とても懐かしく、そして温かい感じがした。

 

ゆっくりと目を開ける。

 

すると、そこには魔法少女の姿となったイリヤがルビーで侍の刀を受け止めていた。

 

「お待たせ…………レイ」




残り二話になります(内、一話はエピローグ)


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笑顔の為に

「い、イリヤ………」

 

「ふんっ!」

 

イリヤは侍の刀を弾くと、ルビーを侍の脇腹に押し付ける。

 

砲射(ファイア)!」

 

零距離で魔力砲を放ち、侍は壁を破壊して、吹き飛ぶ。

 

イリヤは俺の方を向くと、しゃがみ、そして不思議そうに顔を覗き込んで来る。

 

「な、なんだよ………?」

 

「ママの言った通りだ。レイって泣き虫だったんだね」

 

「な!?泣いてねぇよ!汗だ!」

 

そう言い、目を擦り、立ち上がろうとするがすぐに脇腹を押さえる。

 

そうだった、怪我してるんだった。

 

「酷い怪我………ルビー!」

 

『お任せ下さい!この程度、ルビーちゃんの力を持ってすればちょちょいのちょいです!』

 

ルビーが脇腹に当てられ、光る。

 

すると、脇腹の怪我が塞がり出し、痛みが減っていく。

 

「なんでここに来たんだよ?お前、もう戦いたくないんだろ?」

 

俺は治療してもらいながら、イリヤに尋ねた。

 

「……うん、戦いたくないよ。怖いし、それに死ぬ覚悟だってない。でも、レイが死ぬのはもっと嫌。だから戦うよ!」

 

「………どうして?どうしてそこまでするんだよ?俺は、お前を突き放そうと酷いこと言ったのに…………」

 

治療を終え、イリヤは俺の方を見て言う。

 

「ママから聞いたの。レイは、私を守るために、私の前では泣かないって。確かにレイは強いし、頼りになる。私の自慢の幼馴染だよ。でも、守ってもらうだけはもう嫌」

 

そう言って、俺を守るようにイリヤは立ち上がる。

 

「レイが安心して泣けれる様に私も戦う!もう逃げない!逃げ出してばかりじゃ、何も変わらない!今度は、私がレイを守る!」

 

「………………何勝手言ってるんだよ」

 

まだ脇腹に違和感があるが、動けるならもう大丈夫だ。

 

「お前一人じゃ危なかっしくて、任せられねぇよ」

 

イリヤの隣に立ち、瓦礫の中から現れる侍を見つめる。

 

「勝って帰るぞ、イリヤ!」

 

「うん!」

 

そして、俺達は走り出す。

 

「秘剣 燕返し」

 

一番近くまで接近したイリヤに侍は先程の攻撃を繰り出す。

 

俺はイリヤを引っ張り、侍の攻撃範囲内からイリヤを出させる。

 

『今のは多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)!』

 

ルビーが声を上げ驚く。

 

「ルビー、そのなんとかゼルレッチって?」

 

『簡単に言いますと、あの英霊は平行世界からの攻撃を、こっち側で操り出しているんです!それ以上に、あの英霊は魔術を使わずに、純粋に剣の腕のみで、それを引き起こしたんです!』

 

「どんだけ凄い奴なんだよ、あの英霊……………」

 

俺は炎の剣を生み出し、走り出す。

 

俺に剣の腕も無ければ、特別運動神経が高いわけでもない。

 

我流で、上、下、右、左とデタラメに剣を振る。

 

相手に反撃を与えず、剣を振り下ろす。

 

だが、侍はそのすべてに反応し、全てを受け切った。

 

「せやっ!」

 

するとイリヤがこの間、凛さんがやってたように高密度の魔力で編んだ刃で斬り掛かる。

 

俺も負けじと、斬り掛かる。

 

殆どデタラメに振られる斬撃に侍も徐々にではあるが、下がり始める。

 

「今だ!」

 

イリヤが、ルビーを引っ込め、また零距離から魔力砲を撃とうとする。

 

すると、侍は待っていたと言わんばかりに刀で突きをイリヤの喉に向け放つ。

 

「くそっ!」

 

横から拳で刀身を殴り、起動を逸らす。

 

「ルビー!物理保護全開だ!」

 

刀身がイリヤの首を掠るのと、ルビーの物理保護が間に合うのは殆どギリギリだったが、なんとかイリヤは首を斬られずに済んだ。

 

「イリヤ!大丈夫か!」

 

「う、うん」

 

『物理保護が間に合いました!レイさんのお陰です!』

 

やっぱり、あの剣が問題だな。

 

あの剣を押さえない限り、この勝負勝てない。

 

「イリヤ。今から俺がアイツに攻撃仕掛ける。一瞬でもチャンスと思ったら、迷いなく特大の一撃を入れてくれ」

 

「わ、わかった」

 

「頼むぞ」

 

そして、もう一度スタイルチェンジリングを発動する。

 

「スタイルチェンジ!サンダー!」

 

コートが赤から黄色に変わり、火属性から雷属性へと変わる。

 

雷の剣を生み出し、斬り掛かる。

 

無論、向うはそれを受け止める。

 

「サンダラ!」

 

すると、剣から雷が放電し、侍に襲い掛かる。

 

行き成りの電撃に向うは怯み、膝を付く。

 

体勢を立て直される前に、俺は刀を握ってる手を狙い、蹴りを放つ。

 

手から刀が落ち、侍の背後に落ちる。

 

「今だ!」

 

「全力全開の!……………砲射(フォイア)!」

 

全力の特大魔力砲が零距離で放たれる。

 

イリヤの一撃は侍を吹き飛ばし、ビルの壁をも破壊した。

 

「や、やった………?」

 

イリヤがそう呟いた。

 

だが、侍はまだ立っていた。

 

流石に無傷とまでは行かず、左腕は無くなり、結んであった髪はほどけている。

 

「まだ倒れないのかよ」

 

流石に嫌になってくるな…………

 

「ちょっとショックだな」

 

「やっぱ二人だけだとキツイね」

 

俺は雷の剣を握っていない方の手で、イリヤの手を握る。

 

「れ、レイ?」

 

「イリヤ。俺は一度お前を突き放した。お前が戦わなくていいように、わざと傷付くこと言って、お前を遠ざけた。でも、本当は違うんだ」

 

俺の言葉をイリヤは黙って聞いていた。

 

「俺はお前を守るだけの力が無かった。お前を守るためと言いながら、俺は自分の弱さを隠したんだ」

 

「そ、そんなこと!」

 

「だから!」

 

イリヤを俺の方に向かせ、肩を掴む。

 

「もう一度俺にお前を守らせてくれ」

 

「…………私はずっと昔からレイのこと信じてる。レイの言葉なら信じられる。でも、守られるだけはもう嫌って言ったでしょ」

 

イリヤが俺の頬に触れる。

 

そして、優しい笑みを浮かべた。

 

「一緒に戦おう」

 

その笑顔に、俺は思わず見入った。

 

そっか、俺はイリヤの笑顔を守りたい。

 

この顔を悲しみや苦しみなどの負の感情で歪ませたくない。

 

そのために、イリヤを守ろうと決めたんだ。

 

「……ああ、一緒に戦おう」

 

頬に触れてるイリヤの手を握りしめる。

 

「うん!」

 

その瞬間、俺の持つあるリングが反応した。

 

そのリングはチェーンから外れ、二つの指輪になった。

 

片方は俺の左薬指に。

 

もう片方はイリヤの左薬指に収まった。

 

そして、宝石部分から赤い糸みたいなのが伸び、俺とイリヤを繫げる。

 

エンゲージリング。

 

装備した者同士の絆に反応し、一つの大きな力にする力。

 

「……やるぞ、イリヤ」

 

「うん」

 

「俺達の絆を………見せてやろうぜ、イリヤ!」

 

「うん!」

 

イリヤのステッキと俺の指輪に重ねるように交差させ、アーチャーのクラスカードを取り出し、限定展開(インクルード)をする。

 

そして、俺とイリヤの手に弓が現れる

 

並列限定展開(パラレル・インクルード)

 

俺とイリヤは手に弓を持った。

 

そして、侍に向け、弦を引く。

 

すると、そこに魔力が集まり一本の捻じれた剣の様な矢となった。

 

侍はまるで覚悟を決めたと言わんばかりに、右腕一本で刀を構える。

 

「こういう時、何て言うと思う?」

 

「多分だけどこうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「終わり(フィナーレ)だ(よ)」」

 

同時に矢が放たれる。

 

放たれた矢は侍に向け飛び、空中で幾重にも分裂し襲い掛かる。

 

「秘剣 燕返し」

 

侍は燕返しをするが、三方向から来る斬撃では、襲い掛かる無数に近い矢を防ぐことは出来なかった。

 

全身に魔力の矢を浴びた、侍は、右手に持った刀をゆっくりと下ろし、立ったまま動かなくなった。

 

そして、体が消え、その場にカードだけが残る。

 

「終わったな」

 

「うん、終わったね」

 

終わったのを確認し、俺とイリヤはその場に座り込んだ。

 

顔を見合わせると自然と笑顔になり、笑い出した。

 

「帰るか」

 

「うん」

 

八枚目のクラスカードは二枚目の“アサシン”だった。

 

それを回収し、俺達は俺達の世界へと帰還した。

 

「おーい!零夜!」

 

すると遠くから海斗と美遊がやってきた。

 

「零夜!倒せたのか?」

 

「ああ。でも、イリヤが来てくれたから倒せたんだ。イリヤが来なかったら危なかったよ」

 

そう言うと、二人はイリヤの方を見る。

 

イリヤは気まずそうに笑うと、二人は笑顔になり言った。

 

「イリヤ…………お帰り」

 

「帰ってくるの待ってたぜ」

 

「あ………うん!ただいま!」

 

こうして、俺達の長い夜と戦いは終わりを迎えた。



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続いて行く関係

翌朝

 

今日、俺とイリヤは日直で、日直は早めに登校し、教室内の換気や花の水替えなど、色々やらないといけない。

 

そのため、普段よりも早めに登校し、教室に入った。

 

「イリヤ。チョークの補充は終わったぞ」

 

「私も水替え終わった」

 

「これですることはもうないな」

 

「あっ!日誌持ってくるの忘れた!」

 

しまった。

 

学級日誌は職員室に置いてあり、日直は普通、教室の鍵と一緒に日誌も持ってくる。

 

昨日の事とか色々あり過ぎてうっかりしてた。

 

「日誌、忘れてたぞ、御二人さん」

 

その時、海斗の声が後ろから聞こえ、俺の横から日誌が差し出される。

 

「海斗!悪いな、日誌ありが…………」

 

日誌を受け取りながら振り向くと、俺は言葉を失った。

 

イリヤも目を丸くし驚いてる。

 

「海斗………それは………」

 

「………俺が聞きたい」

 

何に驚いているのかと言うと、美遊が海斗の右腕にぴったりとくっついているからだ。

 

両腕でしっかりと海斗の右腕を掴み、これでもかっというぐらいに体を密着させてる。

 

美遊の表情が読めないのはいつものことだが、なんか嬉しそうだ。

 

「朝起きたら………いつの間にか美遊が、ベッドの中に…………」

 

「そ、そっか、たいへ「着替えようとしても部屋を出て行こうとしないし、朝食の時も椅子をくっ付けて来て、体を寄せてくるし、歯を磨くときも離れないし………………挙句の果てに、トイレまで着いて来ようと…………」本当に大変だな」

 

俺は海斗の肩に手を置き、慰めの言葉を掛けた。

 

美遊はイリヤに挨拶しながらも海斗から離れようとしなかった。

 

そして、まったく海斗から離れようとせずくっついている美遊の豹変ぶりに、クラス一同が驚いていた。

 

「なぁ、美遊ってあんな感じだっけ?」

 

「一晩であのデレっぷり……これは……!」

 

まぁ、驚くわな。

 

「まぁ、ミユキチも丸くなったみたいだし、今後とも仲良くしていこーぜ!」

 

龍子が美遊の頭をべしっべしっと叩いて笑う。

 

すると―――――

 

「は?どうして貴女と仲良くしなくちゃいけないの?」

 

そう言い、龍子の手を弾く。

 

「私の友達はイリヤと零夜。貴方達には関係ないでしょ。もう二人には近づかないで」

 

友達って…………そんなに重かったっけ?

 

「それと……海斗の隣は私の場所。海斗にも近づかないで。海斗は私の大切な人」

 

「美遊!?」

 

何と言うか、すんごい発言だな。

 

本当に何があったんだよ…………………

 

「う……うおおアアアアァァーー!!」

 

「泣かせたぞー!」

 

「美遊!」

 

「何言ってるんだよ!」

 

俺とイリヤは思わず美遊に怒る。

 

「何を怒ってるの?私の友達は生涯二人だけ。他の人なんてどうでもいいでしょ?」

 

「なにそれ重っ!?」

 

「てか、友達の解釈ヘンじゃない!?」

 

割と前から分かっていたけど、美遊の奴、何を考えているのか分からない。

 

「オギャアアアアァァァ!!」

 

「いかん!タッツンまじ泣きだ!」

 

「イリヤ、レイ!なんとかしれー!」

 

「私!?」「俺!?」

 

「えっとね、龍子!美遊は何も本心で言ってる訳じゃないよ!」

 

「そうそう!ちょっとしたジョークだって!」

 

「紛れもない本心だけど?」

 

そんな曇りの無い目でなんて残酷な事言うんだ、この子は!

 

戦いは終わったが、もしかしたら本当に大変なのはこれからなのかもしれない。

 

「ああ………胃が…………」

 

そして、海斗の胃も大変なことになりそうだ………………

 

さらに、凛さんとルヴィアさんは無事にカードを回収し、ロンドンへと持って帰ろうとしたが、時計塔の人から「お前たちは協調性が無さすぎる。日本は「和」を重んじる国だから、一年間留学し、協調性を学んでから戻ってこい」と言われたらしい。

 

俺達の関係はまだまだ続いていくようだ。




次回からツヴァイ編になります。

それに伴い、タグも追加します。

では、次回もお楽しみに。


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番外編 遠坂凛の懐事情

ある日の昼下がり、俺はイリヤの部屋でゲームをしていた。

 

士郎さんは部活、セラさんは買い物、リズさんはお昼寝中。

 

特にすることもなく二人でこうして対戦ゲームをして時間を潰してた。

 

「あ!レイ、今の甲羅、レイでしょ!」

 

「なんのことかな?ほら、もう一発!」

 

「もう一発とか言ったじゃん!わあ、また当たった!?」

 

とある配管工兄弟と、その仲間たちや敵キャラでカーレースをするゲームで白熱している中、俺とイリヤは接近してくる存在に気付けなかった。

 

「やってられっか――――――!!」

 

何故かメイド服の姿の凛さんが、イリヤの部屋の窓を突き破り乱入してきた。

 

「「なに――――――ッ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ―――――たっく!冗談じゃないわよホントに!」

 

凛さんはイライラとしながら胡坐をかく。

 

「ど、どうしてわざわざ窓から……」

 

「ムシャクシャしてやった!あとで直してあげるわよ!」

 

『反省の色なしですね。この若者は。それで、何なんですその恰好は?とうとう頭がイカれました?』

 

ルビーは面白いおもちゃを見付けた反応よろしく、早速からかう。

 

が、次の瞬間、ルビーには鋏やカッター、コンパスが刺さった。

 

「これ以上、私をイラつかせない方が身の為よ……?」

 

『い、イエス元マスター………』

 

いつもより残虐性が高い…………!

 

「好きでメイド服を着てる訳じゃないわよ!こんな機能性の低いヒラヒラの服………でも、「これを着ないと働かせない」ってアイツが言うから………!」

 

「えーと……情報が断片的過ぎて分かり辛いんだけど………」

 

「つまりどういうことですか?」

 

『つまり、端的に言うと凛さんは金の為にプライドを売った!……わけです』

 

「くっ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛さんの話はこうだった。

 

凛さんが使う宝石魔術は使い捨てで一回使うと宝石は砕けるそうだ。

 

そのため、凛さんの魔術は金を食う。

 

そして、この間ルヴィアさんとの喧嘩の際に、全ての宝石を使い果たしてしまった。

 

宝石の無い宝石魔術師は弾の無い銃と同じ。

 

そこで、凛さんは金を稼ぐために、バイトを探していた。

 

そんな時、求人広告にハウスメイドの募集の求人があり、時給はなんと一万。

応募資格は16~20歳で、また黒髪ロング 身長159センチ B77W57H80 ツリ目で赤い服が似合う女性は自給五千円アップ。

 

都合が良すぎる採用条件だった。

 

だが、凛さんはこの時目が曇っており、深く考えていなかった。

 

即応募し、即面接からの即日採用。

 

だが、その屋敷はなんとルヴィアさんの屋敷だった。

 

「と、言う訳で職場環境最悪だけど、背に腹は代えられない凛さんは泣く泣くメイドをやっていたのでした」

 

「トントン拍子の転落人生……」

 

「怪しさMAXの求人情報なのに……」

 

『なんて面白……痛ましい話なんでしょう』

 

ルビー、体震えてんぞ。

 

「そっか……そんなにお金に困ってたんだね……」

 

「凛さん、このお菓子入ります?」

 

「くうっ……子供にこんな目で見られる日が来ようとは………」

 

「でも、こうして逃げてきたってことは………」

 

大体察しが付くな。

 

「仕事内容と給料についてはなんら文句ないわ。というか、あの時給の為なら大概の事は我慢するつもりでいたのよ。でも…………なんなのよあのオーギュストとかいう執事は!私のやる事全部にイチャモン付けやがって!………でも、私は耐えたのよ。仕事だものお金をもらうためだもの。でも………あの金バカだけは我慢ならなかった!」

 

なんというかさっきから緩急が激しいな。

 

「パワハラにも限度があると思うのよね。詳しくは省くけど

・ケツキック

・雑巾バケツ

・高笑い

・身体的特徴に関する不適切な発言

この辺のキーワードで察していただけるかしら」

 

なんて簡単な読解問題だろう……………

 

「で、結果として…………ついカッとなってルヴィアの後頭部を近くに会った壺でゴン………とね」

 

「「殴殺事件だ―――!!」」

 

『人の頭蓋は壺より薄いですよ!』

 

「大丈夫よ、どうせアイツ殺しても死なないし、ていうか死んでてくれたらそれはそれで問題ないわ」

 

「法的に問題だよ!」

 

「殺人犯で捕まりますよ!」

 

ベッドに横になる凛さんに俺とイリヤはツッコむ。

 

「……ま、もとからうまくいくはうなかったってことね。話せて少しスッキリしたわ。突然悪かったわね」

 

「それは別にいいけど………」

 

「これからどうするんですか?」

 

「どうするも何も……これで私はクビだし。他のバイト探すしかないわね」

 

「それでいいんですか?」

 

「美遊!」

 

「海斗!」

 

すると割れた窓から海斗と美遊が執事姿とメイド姿で現れる。

 

「お金が必要なんでしょ?普通のバイトの時給はたかが知れてますよ。それじゃ、宝石一つ買うのにどれだけ時間が掛かると思います?」

 

「ここ以上に高給なアルバイトは見つからないと思います」

 

「………分かってるわよ。でも、これ以上あのバカの相手はやってられないの!」

 

「私が「謝罪」すると言っても?」

 

「え?」

 

割れた窓からルヴィアさんが現れ、部屋に入って来る。

 

………いや、なんで皆窓から来るんだよ

 

「愧ずべきは私の方だったと言う事ですわ。貴方との確執から辛く当たってしまいましたけど……ようやく気付いたのです。こんな形で貴女を屈服させても何の意味もないことに!」

 

そして、凛さんに手を差し出す。

 

「貴女との決着はいつか必ず……正々堂々とつけてみせますわ。けど、それと仕事は別。もう私情を挟むような真似しないと誓います。だから………戻ってきなさい、遠坂凛!」

 

「………廊下の掃除がまだ終わってなかったわね」

 

「「凛さん!」」

 

「ったく、これで逃げたらまるで私が仕事放棄しただけのダメ人間じゃない。………やるわよ。仕事は仕事。ルヴィア(あんた)がそれをわかってるなら、それでいい」

 

そうして、凛さん達は窓から帰って行った。

 

割れた窓はちゃんと元通りに直して行ってくれたから良かった。

 

魔術って凄い。

 

これで一件落着……………となればよかったんだが…………

 

「………レイ。見た?」

 

「……ああ。ルビーは?」

 

『見ちゃいましたね』

 

そう、俺達は見たのだ。

 

去り際にルヴィアさんが見せた邪悪な笑み。

 

あれは「こんな面白い玩具手放してなるものか」っと語っていた。

 

「また近いうちに窓割られそう」

 

『今度は鉄板でも入れときましょうか』

 

「鉄板より防弾ガラスに変えようぜ」

 

「てか、今回私達何もして無くない?」

 

「イリヤ、それは言ったら負けだ」

 

『二期では活躍できますよ、きっと』

 

「「二期ってなに……」」

 



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プリズマ☆イリヤ2wei!
二人と二人


ツヴァイ編、始まります


六月のある日。

 

制服も冬服から夏服に変わり始める。

 

放課後、授業を終え、帰りのホームルームを終えた後、龍子が騒ぎ出した。

 

「海行こうぜ!海!」

 

「何の話?」

 

「海ってまだ六月だぞ」

 

「夏休みの予定だよ」

 

俺達の疑問に雀花が答える。

 

「まだ六月なのに、こいつテンション上がっちゃって」

 

だから、まだ六月だって。

 

テンション上がるの早過ぎるぞ。

 

「海?海に行って何するの?」

 

美遊が海斗を後ろから抱きしめながら不思議そうに聞く。

 

「海に行ったら泳いだり、砂浜でビーチバレーとかとにかく遊ぶんだよ。後、離れてくれないか?」

 

「イヤ」

 

もう見慣れた光景だ。

 

最初の頃は戸惑ったが、今はもう日常の一環として認識が出来る。

 

「あ、スク水は禁止な!各自最高にエロい水着持参で!」

 

最高にはしゃぎまくる龍子に那奈亀がボディに一撃入れ、落ち着かせる。

 

友達に容赦なく腹パンとか恐ろしい奴だ。

 

「美遊、もしかして海行ったことない?」

 

美遊が海斗の後ろからちょっと顔を出し、頷く。

 

「じゃあ、一緒に行こうよ美遊さん!」

 

「あんたの事だから、泳ぎも速いんだろ?折角海が近いんだし、行かなきゃ損だよ!」

 

「あ、えっと………イリヤたちが行くなら………」

 

美々と雀花に詰め寄るように言われた美遊は俺達の方を見る。

 

「うん!みんなで行こうね」

 

「勿論俺も行くぜ。海斗も行くだろ?」

 

「この状態で行かないと言えるかよ」

 

それにしても、美遊の奴、随分と変わったな。

 

最初の頃はまともに会話できなかったしな。

 

それにしても、もう一ヶ月経つんだな。

 

イリヤがルビーに騙されて魔法少女(笑)になって、俺も魔術師になり、凛さんと出会ってカード回収任務を代わりにすることになって、美遊と海斗、ルヴィアさんと出会った。

 

英霊たちと戦い、カードを集めるのは大変だった。

 

今思えば、よく二枚目のアサシンを倒せたし、バーサーカーやセイバーを倒せた。

 

あの時は本当に危なかった……………

 

危なかったって言えば、セイバーに遭遇した時のあのイリヤ。

 

あれはなんだったんだ?

 

そう思いながら、俺達は帰りの用意を終え、校舎を出る。

 

「あ、そう言えば美遊って水着持ってる?」

 

「学校指定のなら……」

 

「それじゃダメだよ。今から街に寄って見に行こうよ。今日買わなくてもどんなのがあるか見て見たいし」

 

そんな会話を聞きながら歩いていると、俺とイリヤ、海斗、美遊の前に黒塗りの車体が長い車が止まる。

 

すると扉が開き、あっという間に俺達は引きずり込まれた。

 

そして、車は動き出した。

 

誘拐か!?

 

そう思ったか、俺達を引きずり込んだ人物を見て俺達は驚いた。

 

「り、凛さんにルヴィアさん!」

 

「急で悪いけど、任務よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛さんとルヴィアさんの話曰く、何でも地脈を乱していたカードは回収されたのにもかかわらず、未だに地脈の乱れが回復には至っておらず、そのため龍穴と言う場所から高圧縮魔力を注入し、地脈を拡張しろとの事らしい。

 

簡単に言うと、地脈が乱れてるから特定の場所に大量に魔力を入れて地脈の回復をさせるということらしい。

 

ちなみにクラスカードは現在は凛さんとルヴィアさんの二人で半分ずつ持ってるらしい。

 

龍穴がある森の中を歩いていると、急に凛さん達が止まる。

 

「結界が張ってあるわ」

 

「一般人が間違って入らないようにするための配慮ですわね」

 

「じゃあ、私たちも入れないんじゃ」

 

「この程度なら問題無いわ。下がってて」

 

そう言うと、凛さんが手を翳す。

 

すると、さっきまで道が無かった場所に道が現れた。

 

「さ、行くわよ」

 

そう言って凛さんとルヴィアさんが歩き出す。

 

「海斗、あの二人って本当は凄いんだな」

 

「ああ。いつも喧嘩ばかりしてるが、あの二人は魔術師としての腕はかなり高い。いつもは喧嘩ばかりしてるが、いざ戦闘になれば息の合った戦いをする。これで、仲が良ければ俺の胃痛の悩みも一つ減るんだがな」

 

やっぱり、この二人凄い実力の持ち主なんだな。

 

そう思った瞬間、二人の姿は消えた。

 

そして、その場には沼が一つあった。

 

「これって…………底なし沼?」

 

「「きゃああああああああ!!」」

 

二人が沼から飛び出す。

 

「なんでこんなところに致死性のトラップが!?」

 

「沈む!沈むっ!」

 

「だ、大丈夫ですかルヴィアさん!」

 

美遊が慌てて、ルヴィアさんの縦ロールを掴む。

 

「あだだだだだだ!?なんで髪を引っ張るんですの美遊――――!!?」

 

やっぱダメかもしれない、この二人……………

 

結局、魔法少女になって力が強くなったイリヤと美遊によって二人は引き上げられた。

 

二人を救助した後、俺達は地下へと続く通路から下へと降りて行く。

 

着いたのはとてつもない大空洞だった。

 

「うわー……凄い大空洞。こんな所があったんだ」

 

イリヤが驚きに声を上げる。

 

「道中危うく死にかけたけどね………」

 

「私の縦ロールがゆるふわカールに………」

 

『開始早々、おマヌケなデッドエンドでしたねー』

 

凛さんは溜息を吐くと、持ってきた筒状の鞄を下ろす。

 

「やれやれ、ちゃっちゃと終わらせて帰るわよ」

 

ルヴィアさんが地面に宝石を置き、その中心に凛さんが鞄から捻じれた木のようなものを出し、突き刺す。

 

すると、宝石が光り、魔法陣が現れる。

 

「地礼針設置完了」

 

そして、イリヤと美遊の二人が木にルビーとサファイアを向ける。

 

「魔力注入開始!最大出力よ!」

 

木に魔力が注入される。

 

俺と海斗はそれを黙って見ていた。

 

「充填率20……40……60……75……90……100……110……115……120!!」

 

「開放!」

 

木が光り輝き、魔力が地面に吸い込まれていくように消える。

 

「………これで終わり?」

 

「一応はね」

 

「効果のほどは改めて観測しないといけないが、多分成功だ」

 

「作業は終了!早く帰りますわよ」

 

帰ろうとした時、妙な揺れが起きた。

 

「これは…………!」

 

揺れは大きくなり、そして地面が割れる。

 

「ノックバック!!?出力は十分だったはずよ!?」

 

「まずい……来ますわ!逆流………!!」

 

地面から魔力が溢れ、天井に当たり、破壊する。

 

天井が砕け、大量の岩が落ちて来る。

 

すると、イリヤが動き、凛さんからアーチャーのカードをすり取る。

 

「クラスカード“アーチャー”!夢幻召喚(インストール)!」

 

イリヤはこの前と同様、アーチャーの恰好になり、降って来た巨大な岩を光の盾で防いだ。

 

だが、どうも様子がおかしい。

 

光りの盾は急に消え、そして、岩が落ちて来る。

 

あれぐらいならやれる。

 

そう確信を持ち、俺は二枚目のアサシンのカードを凛さんから取る。

 

そして、スタイルチェンジリングに当て、叫ぶ。

 

「クラスカード“アサシン”!夢幻召喚(インストール)!」

 

これも最近知ったことだが、スタイルチェンジリングを使えば、俺と海斗も夢幻召喚(インストール)が使える。

 

紫の紫の羽織袴姿になり、髪が伸びて一つにまとめられている。

 

手には一本の長刀。

 

「秘剣………燕返し!」

 

このアサシンの俊敏さと剣技を活かし、燕返しを繰り出す。

 

殆ど脆くなっていた岩は今の一撃で砕ける。

 

まだもう一撃やれる!

 

そう思い、もう一度「燕返し」をしようと構える。

 

が、急に違和感を感じた。

 

練習の時には感じなかった違和感。

 

それに動揺し、俺は二発目の燕返しを放てず、岩が俺達に振ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫ですかみなさーん』

 

ルビーの声が聞こえ、俺は起き上がる。

 

近くでは美遊が倒れていた。

 

「美遊、大丈夫か?」

 

「海斗……うん、私は大丈夫」

 

「美遊!無事ですの!?」

 

ルヴィアさんの声が聞こえ、振り向く。

 

「ルヴィアさん、美遊は無事って、貴女が大丈夫ですか!?」

 

ルヴィアさんの頭に岩が辺り、頭から血を流していた。

 

あれ大丈夫か?

 

「イリヤ!零夜君!」

 

「う~……ここだよー」

 

「………死ぬかと思った」

 

どうやら凛さんと零夜、イリヤも無事みたいだ。

 

「なんか頭いったー………」

 

「俺も……打ったかもしれん」

 

「よかった。無事でえ…………!!?」

 

「はあ……!?なにそれ!?」

 

「これは………どういう……」

 

「…………なんじゃそりゃ」

 

俺、美遊、凛さん、ルヴィアさんはまさに開いた口がふさがらない状態だった。

 

何故なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え……………?」」「「は…………?」」

 

魔法少女の恰好をしたイリヤと魔術師の恰好をした零夜。

 

アーチャーを夢幻召喚(インストール)した時の姿に似たイリヤのそっくりさんと、アサシンを夢幻召喚(インストール)した時の姿に似た零夜のそっくりさん。

 

この四人が、俺達の目の前にいたのだ。

 

「「いや……ないでしょ……これは……」」

 

その光景に零夜とイリヤは一字一句間違えず、そう言った。



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私が貴方で、貴方が私

『今日の運勢、最下位は、ごめんなさいかに座のあなた!何をやってもうまくいかないかも?用事が無ければなるべく家から出ない方が吉!ラッキーカラーは青!』

 

と言うのが朝の占いの結果だ。

 

かに座はイリヤだ。

 

イリヤはどうもこの結果に納得がいかないらしい。

 

「なんて言うかさー聞いてもいないのに朝から「あなたは最下位です」とか失礼過ぎない?」

 

「だったら、占いなんか見なくていいだろ」

 

『そもそも運勢に順位つける時点でアレなんですがー。まぁ、あんな占い信じる必要ありません!イリヤさんにはもっといい神託を授けましょう』

 

そう言うと、ルビーがまた変形する。

 

秘密機能(シークレットデバイス)18!簡易未来事象予報!』

 

なんでもありだな、ルビー。

 

『事象のゆらぎをパターン化して、統計情報から近未来を予報します。テレビの占いなんか比較にならない制度ですよ』

 

「本当に魔法のステッキなの?」

 

「オカルトなんだか科学なんだか、分からなくなってきそうだ」

 

『おっ早速来ました!最初の予報ですよー。えっと………頭上注意』

 

その瞬間、イリヤの目の前に植木鉢が落ちて来た。

 

恐る恐る上を見上げる。

 

この辺にはマンションもビルもない。

 

空には鳥も飛んでない。

 

なのに植木鉢がイリヤのほぼ真上から落ちて来た。

 

「なにこの植木鉢!どこから落ちてきたの!?」

 

『これはいわゆるファフロツキーズ現象?』

 

「ルビー!やっていい冗談と悪い冗談があるぞ!」

 

俺とイリヤは早歩きでその場を去る。

 

『私じゃありませんよー。あ、次の予報でましたよー。えーと……飛び出し注意』

 

そして、俺とイリヤの前にダンプカーが飛び出し、壁に激突する。

 

「「………………ッ!!」」

 

『あらまぁ、無人ダンプ』

 

俺とイリヤは全速力で走った。

 

「なになになに!?なんなのコレ!?」

 

「呪いか!?呪いなのか!?コレ!」

 

『あ、また次の予報です』

 

「「もうやめてー!!」」

 

『猛犬注意』

 

背後から大量の犬に襲われる。

 

「おかしくない!?おかしくない!?」

 

「なんで注意報ばっかなんだよ!」

 

『コレ、そういうもんですしー。次は……火気注意』

 

「「ぎゃああああああ!」」

 

『水濡れ注意』

 

「「にゃあああああああ!」」

 

『感電注意』

 

「「びゃあああああああ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、登校するだけで、ここまで死に掛けるとか………」

 

「も、もう無理…………」

 

俺とイリヤは満身創痍になり、杖を付きながら校門を目指す。

 

そして、校門の前に丁度海斗と美遊がいた。

 

「み、美遊………」

 

「海斗…………」

 

「い、イリヤ!?それに、零夜も!?」

 

「どうした!?ボロボロだぞ!何があった!?」

 

「お……おはよう……そして・・・・・」

 

「ぐっばい」

 

そこで俺とイリヤは疲れ果て倒れた。

 

「イリヤ!」

 

「零夜!」

 

その後、俺たちは二人の手によって保健室に運ばれた。

 

「大した怪我はないわ。擦り傷程度。つまらないわね。次来るときは半死半生の怪我をしてきなさい」

 

「ははぁ……」

 

この人、本当に保険医かよ……………

 

「ま、気分が悪いようならしばらく横になるといいわ」

 

そう言って、保険医の先生はカーテンを閉める。

 

「二人とも体は大丈夫なの?」

 

美遊が椅子に座り聞いて来る。

 

「平気ー」

 

「俺もだ。傷は大したことない」

 

「そっちもあるが、昨日の事もだよ。体に異変はないか?」

 

海斗は壁に寄り掛かって聞いて来る。

 

「なんだったんだろうな、アレは………」

 

「幻覚とかじゃないよね?」

 

「現時点ではちょっと判断できない」

 

「姿は二人に似てたが、中身が何なのか………」

 

「呆然としてるうちにダッシュで逃げちゃったしね」

 

行き成り現れた俺とイリヤのそっくりさん。

 

アーチャーとアサシンに似た服装。

 

そして、消えたアーチャーのカードと、二枚目のアサシンのカード。

 

なんか嫌な予感がするな…………

 

「心当たりはないの?あの黒いイリヤと長髪の零夜に」

 

「ないない。あるわけないよー」

 

「あったらこんなに焦らないって」

 

『まーなんにせよ。正体がどうあれ、イリヤさんと零夜さんのお二人とまったく同じ顔のコスプレ少女とコスプレ少年が野に解き放たれたわけですから』

 

「ほんとだよ!誰かに見られたら絶対誤解される!」

 

「ああー………海斗の気持がちょっとだけ分かる………」

 

「いっそ捜索願とか!」

 

そう言ってイリヤが起き上がる。

 

すると窓ガラスが割れ、先程までイリヤの頭があった位置にサッカーボールがめり込んだ。

 

回転しながら。

 

その光景に呆然としていると、破裂し、サッカーボールの皮がイリヤの顔に張り付く。

 

「い、イリヤ……」

 

「大丈夫か………?」

 

モブバボーボンバーイエ(今日はもう早退します)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままでは身が持たないので俺とイリヤは早退することにした。

 

「美遊と海斗君まで早退することないのに」

 

なんと海斗と美遊の二人まで早退し、俺達に着いてきている。

 

「昨日の事もあるし心配なんだよ」

 

「普通教育の義務より二人の方が大事」

 

「たまに美遊の気持が重いわ……」

 

俺達の事が心配でも海斗の傍は離れないんだな。

 

「……避けて!」

 

そう思いながら歩いてると、美遊がイリヤを突き飛ばす。

 

その直後、何かが道路に突き刺さった。

 

それは杭の様な矢だった。

 

「な、なになに!?」

 

『攻撃です!電柱の上……』

 

電柱の上を見ると、何者かが飛び、イリヤに向け矢を連発で射ってくる。

 

「いや~~~~~ッ!!?」

 

イリヤは自慢の逃げ足で矢から逃げる。

 

そして、何者かはイリヤの前に降り立つ。

 

「ほんと……逃げ足だけは速いわね。イリヤ」

 

それは、昨日のイリヤのそっくりさんだった。

 

「で、でたーーーーーー!!」

 

『喋りましたよ!この黒いの!』

 

人格がある……

 

てことは、クラスカードの英霊とは違うのか?

 

『言葉は通じそうですよ!さっそくコンタクトを!』

 

「ワ、ワタシナカマ!テキジャナイ!」

 

「落ち着け、イリヤ」

 

イリヤを落ち着かせようと近づいた瞬間、イリヤのそっくりさんもとい偽イリヤは剣を出し、投げつける。

 

イリヤは素早くしゃがみ、剣を回避する。

 

代わりに帽子に刺さり、電柱に剣が刺さる。

 

「むぅ…また避けた」

 

「なっ……ななななな……」

 

「やっぱり直感と幸運ランクが高いわねー。なるべく自然にやっちゃおうと思ったんだけど、全部ギリギリで回避されちゃったし」

 

「それはつまり、朝の出来事は全部、お前の仕業ってことか?」

 

俺は剣を引っこ抜き、帽子をイリヤに渡して尋ねる。

 

「そうよ。もっとも、私一人じゃないけどね」

 

その瞬間、背後から俺の首に刀が当てられる。

 

「動くなよ。動けば、首を刎ねる。ま、動かなくても最終的には殺すがな」

 

俺のそっくりさんもとい偽物の俺がいた。

 

「つまり、お前達はグルってことか」

 

「そーいうこと。取り敢えず、事故じゃ殺せなかったし、直接殺すわね」

 

そう言い、偽イリヤは黒と白の剣を生み出し、イリヤに襲い掛かる。

 

「ルビー!」

 

多元転身(プリズムトランス)!』

 

イリヤは素早く転身すると、空へと逃げる。

 

俺は振り向かず、そのまま偽俺の腹に蹴りを入れて距離を取る。

 

「転身!」

 

素早く魔術師に変身すると、フライリングを使い、空に上がり、イリヤといつの間にか転身していた美遊と海斗と合流する。

 

「とにかく、郊外に移動するぞ!街では戦えない!」

 

「了解!」

 

「待ちやがれ!」

 

「逃げるな卑怯者!」

 

みると、偽イリヤと偽俺は民家の屋根を使い追いかけて来る。

 

「うわああ!ピコピコ追いかけて来る!」

 

「あの二人、どうして俺達を狙うんだ!」

 

「目的は分からないが、奴等は確実にお前たちの命が狙いだ!」

 

「殺意を持った敵……このまま放置できない」

 

郊外の森まで移動し、降り立つと、イリヤはステッキを構える。

 

「黙ってやられるわけにはいかないから、ちょっと痛い目に遭っても恨まないでよね!砲射(フォイア)!」

 

魔力弾を撃つが、偽イリヤはそれを片手で弾いた。

 

「………………あれ?」

 

そして、偽イリヤは矢を放ってくる。

 

「あわわわわわわ!!」

 

『ちょっと手加減し過ぎですよ!もっと本気で撃って下さい!』

 

「も、もう一度!全力砲射(フォイア)!」

 

もう一度魔力弾を撃つが、今度は偽俺が刀の切っ先で軽く突っつく様に弾く。

 

「………………なっ、何で――――――――!!?」

 

『なんかイリヤさんの出力が激減してます!!めっちゃ弱くなってますよ!』

 

「ど、どういうこと……!?」

 

「あははははは!そう………弱くなってるんだイリヤ。当然よね。だって私はここにいるんだもの」

 

私はここにいる?

 

どういうことだ?

 

「だから、安心してさくっと死んじゃって!」

 

偽イリヤはもう一度剣を生み出し、斬り掛かる。

 

「簡単に死ねとか言っちゃダメなのに-!」

 

「イリヤ!」

 

俺は走り出そうとすると、偽俺が俺の前に立ちはだかり、刀を向ける。

 

「ここから先は行かせないぞ。お前の相手は俺だ」

 

「チッ!海斗、頼む!」

 

「おう!」

 

俺は偽俺の刀を抑え込むように戦い、海斗が素早くイリヤへと走る。

 

偽イリヤは美遊の攻撃を躱している最中だった。

 

「食らえ!」

 

海斗は魔力で作った槍を手に偽イリヤに攻撃を仕掛ける。

 

が、偽イリヤはそれを躱し、槍を掴む。

 

そして、そのまま引っ張り、海斗を地面に叩き付ける。

 

「ぐはっ!?」

 

「海斗!」

 

「よそ見してる暇があるか?」

 

「くっ!」

 

偽俺の攻撃を受け流しつつ、俺は海斗を見る。

 

海斗は偽イリヤに馬乗りされてる状態だった。

 

そして――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽イリヤは海斗にキスをした。

 

「ん゛………ッッ!!?」

 

「んん………?」

 

「………は?」

 

「…………」

 

上から海斗、イリヤ、俺、美遊の順番だ。

 

なんでキス!?

 

映画やドラマでしかしないようなキスの効果音が響き、十秒ぐらい経つと偽イリヤは海斗を解放した。

 

「ふぅ………ご馳走様」

 

「海斗おおおおおおおおおおおおお!?」

 

「海斗くうううううううううううん!?」

 

『なんでしょう、この展開……』

 

俺は刀を弾き、素早く海斗の元に移動する。

 

「海斗!しっかりしろ!」

 

「お、俺………初めてが、こんな感じに奪われるとは思ってなかった…………」

 

そりゃそうだろうね!

 

『あの………美遊様?』

 

美遊が静かだ。

 

だからこそ、余計に怖い。

 

俺とイリヤは冷や汗を流しながら、後ろを振り向く。

 

そこには無表情で偽イリヤを見ている美遊がいた。

 

「……いいなぁ」

 

ぼそっと美遊が呟いた。

 

え?それだけ?

 

「まだ戦いの途中だぞ」

 

いつのまにか偽俺が、刀を振り下ろそうとして来る。

 

俺は海斗を抱えたまま後ろに下がり、イリヤと美遊も横に避ける。

 

この状態の海斗じゃ満足にも戦えない。

 

取り敢えず、海斗を安全な場所にまで避難させないと。

 

「イリヤ!美遊!あの二人の相手任せられるか?」

 

「う、うん!」

 

「任せて」

 

二人の言葉を聞き、その場をすぐに離れ、海斗を適当な場所に置く。

 

ここなら暫くは大丈夫だろう。

 

「早く援護に向かわないと」

 

再び走り出し、イリヤたちの所へと戻る。

 

斬撃(シュナイデン)!」

 

戻るとイリヤは魔力を魔力弾ではなく斬撃として飛ばし、偽イリヤに攻撃をしていた。

 

偽イリヤはそれを受け止めきれず、モロに喰らった。

 

「いったぁー………やるじゃないイリヤ。ちょっと予想外だわ」

 

そう言い、土煙の中から現れたのは服だけが斬られた偽イリヤだった。

 

「裸ッ!?っていうか、斬れたの服だけ!?」

 

『でも、なんか効いてますよ!』

 

「って、レイ!?レイは見ちゃダメ!」

 

そう言い、イリヤが俺の目を塞いでくる。

 

「これじゃちょっと戦えないわね、残念。今日は見逃してあげるわ。でも、気を抜いちゃダメよ?油断してたら殺しちゃうからね、お姉ちゃん」

 

お姉ちゃん?

 

その言葉に俺は疑問を抱えた。

 

偽俺は偽イリヤが退却すると知ると、攻撃を止め、偽イリヤの傍に移動する。

 

「これを着てろ」

 

偽俺は着ていた羽織を偽イリヤに着せる。

 

「ありがと。それじゃ……じゃーねー」

 

そして、二人はその場を去った。

 

「ちょ……待っ!っていうかその顔で裸で街に出るな――!!」

 

『コスプレ少女からストリーキングに進化しましたねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽イリヤと偽俺が引いた後、気絶してる海斗を起こし、俺達は家に向かう。

 

「なんかすんごい疲れた………」

 

「同感だ」

 

「あの黒い奴意味わかんないし、なにも解決してないし……かに座は運勢最悪って本当だったわー」

 

まだ占いの事言ってるのかよ…………

 

「……イリヤかに座なの?」

 

「ん?うん」

 

「……わたしも……かに座」

 

マジか。

 

すごい偶然だな。

 

「………そっか。美遊も最悪だったよね………」

 

「ま、目の前で大切な人の唇、しかも初めてを奪われたんだしな」

 

「やめろ!思い出したくない!」

 

海斗が隣りで顔を手で覆い、叫ぶ。

 

「別に………それに、海斗の初めては私が既に…………なんでもない」

 

あれ?今、凄い言葉が聞こえたような……………

 

「美遊?今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」

 

「……………」

 

「ちょっと?美遊?美遊さーん!」

 

美遊は海斗の言葉に返事せず、そのまま屋敷へと入って行き、その後を海斗は全力で追い掛けた。

 

「…………帰るか」

 

「………だね」

 

俺とイリヤは何も聞かなかったことにし、家へと入った。

 




偽零夜の姿はstaynightのアサシンの佐々木小次郎の服装を思い浮べてください。

後、髪は長いポニテです。

容姿に着いては偽零夜と和解した辺りで、自己紹介を書き、そこで紹介します。


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そっくりさんを捕まえろ

「という訳で対策会議を始めるわよ!」

 

凛さんがメイド姿でホワイトボードを叩く。

 

そこには「黒イリヤと長髪零夜について」と書かれている。

 

現在、俺達は偽イリヤと偽俺の対策会議の為、ルヴィアさん宅にお邪魔してる。

 

「ルヴィアさん、紅茶です」

 

「今日のお茶請けのクッキーです」

 

「美遊も紅茶の淹れ方が分かって来たようですわね。海斗のクッキーも程よい甘さと焼き加減。今日のは中々ですわ」

 

「「ありがとうございます」」

 

海斗と美遊の二人、執事スキルとメイドスキルめっちゃ上がってるな。

 

「ちゃんと聞けー!」

 

机を叩き凛さんが怒る。

 

「悠長に構えてられないわよ、ルヴィア。イリヤ達一般人を巻き込んだこと協会には報告してないのに、さらにこの異常事態。バレたらただじゃ済まないわ!」

 

ルヴィアさんもそれは理解してるのか、紅茶を飲み溜息を吐く。

 

「で、さし当たっての問題だけど、黒イリヤの目的はイリヤの命、長髪零夜の目的は零夜君の命。で、二人の内イリヤはと言うと、何故か弱体化してると。身体的な異常は一切なく、魔力容量と出力が下がるなんて……………」

 

凛さんは考え込むように、イリヤを見つめる。

 

「ともかく作戦を決めましょう。今の状況で考えても答えは出ないわ。かといって事態の放置・引き伸ばしも無意味よ。イリヤと零夜君の命が狙われてる以上、やることは一つ……黒イリヤ・長髪零夜を捕獲する!」

 

「で、でもどうやって?」

 

「情報が少ないから取れる選択肢も少ないんだけど、幸いにして奴等の目的は分かってる。作戦はあるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、その作戦がこれかよ」

 

俺とイリヤは拘束され、宙ぶらりん状態になってる。

 

俺達は囮役かよ。

 

いや、むしろ餌?

 

「あの……これって本当に効果あるんでしょうか……」

 

「餌で釣るのは単純かつ効率的なやり方よ。奴の狙いがイリヤと零夜君なら例え、罠と分かっていても無視できないはずだわ。後、保険として豪華な料理も置いておいたし」

 

「貴女の案に乗るのは癪ですけど、完璧な作戦ですわ……」

 

どうしてこんなにも自信があるんだ?

 

「凛さんを信じた私がバカだったのかな………」

 

「信じた事より、凛さんを頼る事がバカだったのかもな」

 

そう思って辺りを見渡すと、偽イリヤと偽俺が下から俺達を見上げていた。

 

本当に来た!?

 

二人は下から俺達をぐるぐると見渡す。

 

「ん―――……なんかあからさまに罠過ぎてリアクション取り辛いわー」

 

「てか、こんな罠作るアホとかいたんだな」

 

まぁそうだよね!

 

バレるわな!

 

「まぁいいか。乗ってあげるわ」

 

そう言い、偽イリヤはイリヤに斬り掛かる。

 

「来た――――!」

 

すると凛さんは俺とイリヤを拘束してる布を外し、偽イリヤと偽俺を縛ろうとする。

 

だが、偽イリヤは布を切り裂き、偽俺は拘束される前に布を躱し下がる。

 

Zeicbn(サイン)見えざる鉛鎖の楔(ファオストデアシュヴェーアクラフト)!」

 

ルヴィアさんがあらかじめ仕掛けて置いた魔法陣が発動し、二人を捕縛する。

 

「重力系の捕縛陣だ……」

 

「でも、バーサーカーの時のに比べたら随分と質が落ちるわ!」

 

そう言い、偽イリヤは地面を破壊し、魔法陣を砕く。

 

「無茶苦茶だな!」

 

魔術師に転身し、スタイルチェンジを使う。

 

「スタイルチェンジ!フレイム!」

 

炎の剣を出し、偽俺に斬り掛かる。

 

偽俺は長刀を手に受け止める。

 

その時、偽俺の背後にスタイルチェンジでアクアモードになった海斗が水の槍を手に攻撃を仕掛ける。

 

偽俺は後ろを見ずに、俺の剣を弾き、剣を引いて、柄で海斗の槍を弾く。

 

そして、体勢が崩れた所に、偽俺は刀を振る。

 

海斗は咄嗟に、攻撃をガードし、後ろへと下がる。

 

こいつ戦い慣れしてるし、スピードもある。

 

偽俺を見ながら、背後で偽イリヤと戦ってる皆を横目に見る。

 

見ると凛さんとルヴィアさんが拘束され、今、美遊が戦ってる最中だった。

 

まずいな。

 

偽イリヤは強い。

 

偽俺とどちらが強いかって言えば答えられないが、少なくとも今のイリヤ達では敵わない。

 

なんとしてでも、コイツを倒して二人の援護に………!

 

「グッバーイ!」

 

『美遊さま―――――――……………!』

 

「打った!?」

 

偽イリヤのそんな声と、サファイアの声、そして、美遊の声が聞こえる。

 

振り向くと偽イリヤはサファイアを打って飛ばし、美遊の魔法少女状態を強制的に解除させたみたいだ。

 

「さてと、お待たせイリヤ。ようやく相手してあげられるわ」

 

偽イリヤは剣を手にイリヤに近づく。

 

「イリヤ!」

 

助けに向かおうとするが、俺の前を刀が一閃する。

 

「いかせねぇよ」

 

「ちっ!」

 

俺は舌打ちをし、イリヤの方を見る。

 

イリヤは戦意喪失したのか座り込んでしまった。

 

「やれやれ。仲間が戦えなくなって、戦意喪失………情けないな」

 

偽俺はつまらなさそうに溜息を吐く。

 

「ま、俺の役目はお前の相手だ。楽しく戦おうぜ」

 

「…………そうだな。確かにあの状態からの逆転は難しいだろうな。打つ手もないしもう無理……………だと思うだろ?」

 

その時、偽イリヤの姿が消える。

 

「何?」

 

そのことに気付き、偽俺がイリヤの方を見る。

 

そこには、この間凛さんとルヴィアさんが落ちた底なし沼に落ちた偽イリヤがいた。

 

「「よっしゃあああああああああ!!」」

 

偽イリヤが底なし沼に落ちたのを見て、凛さんとルヴィアさんが声を上げ喜び、拘束布を引き千切る。

 

「地面に擬態させてたのね……!くっ……こんなもの……!」

 

偽イリヤは先程の捕縛陣を壊した様に脱出を図ろうとするが、先程みたいに魔術は発動しなかった。

 

「剣を出現させたのはやはり魔術の一種だったようね」

 

「何かしようとしても無駄ですわよ」

 

「五大元素全ての性質を不活性状態で練り込んだ完全秩序(コスモス)の沼!「何物にも成らない」終末のドロの中ではあらゆる魔術は起動しない」

 

「間抜けなトラップでしょうけど……それに落ちた時点で貴女の負けは確定したものですわ」

 

「間抜け……ふふ……」

 

「フフフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ―――――――ホッホッホ!間抜け!間抜けですわ!」

 

「今時底なし沼に落ちるなんてこっちこそリアクションに困るわ―――ッ!」

 

「ほらほら、どうするの?こうしてる間にもどんどん沈んで行くわよ?」

 

「うぅうぅうぅうぅ………!」

 

「あらあら!この子ったら泣いていますわ!可哀想に!」

 

こ、この人達は……………

 

自分達も沼に落ちたのに、よくそこまで言えるよ。

 

海斗もイリヤも美遊、そしてルビーと戻って来たサファイアまでも引いてる。

 

「………で、お前はどうするんだ?」

 

俺は目の間でその光景を眺めてる偽俺に聞く。

 

「まだ戦うか?降参するか?それとも、アイツを救ってまだ戦うか?」

 

俺が尋ねると偽俺は俺の事を暫く見ると、刀をゆっくりと鞘に納めた。

 

「俺はアイツの為に、行動してるだけだ。アイツが何もできないって言うなら、それは俺も同じこと」

 

そう言って、長刀を俺の方に投げて渡す。

 

「大人しく降参するよ」

 



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お兄ちゃん?

「さて、それじゃあ尋問を始めましょうか」

 

「………この扱いはあんまりじゃない?」

 

俺達は偽イリヤと偽俺の二人をルヴィアさんの家の地下まで連れて行き、抗魔布の拘束帯で拘束し、偽イリヤを完全に動けないようにした。

 

ちなみに偽俺は敵意無しと思われ、武器を預り、簡単な拘束のみで終わらせている。

 

「ここまでしなくたって危害を加えたりしないわよ。イリヤ以外には」

 

「それが問題なんでしょ!?」

 

「残念だけど、貴方達に弁護士を呼ぶ権利も黙秘する権利もないわ。こっちの質問に全部答えてもらうわよ」

 

凛さんが用意した椅子に座り言う。

 

「まずは貴方達の名前を教えてもらおうかしら?」

 

「名前?イリヤだけど。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「曽良島零夜だ」

 

「………ちなみに嘘を吐く権利も認めないわよ」

 

「心外ね。嘘なんかついてないわよ」

 

「逆にこんな嘘で俺達にどんなメリットがあるんだ?」

 

「どうだか………貴方達の目的は?」

 

「まーイリヤを殺すことかなー」

 

「俺は零夜を殺すことだ」

 

「なら、自分で自分の首を絞めればいいじゃない」

 

「私じゃなくてあっちのイリヤよ」

 

「同じく」

 

「ああもう!どっちもイリヤと零夜じゃややこしい!えーと……クロ!黒いイリヤだからクロでいいわ!」

 

「私は猫か……」

 

勝手に名前付けちゃったよ、この人。

 

「じゃ、俺は空也って呼んでくれ」

 

「空也?」

 

「ああ。零夜の零はゼロ。ゼロは空っぽ。だから空也だ」

 

偽俺もとい空也はそう言って笑う。

 

「……で、二人を殺す理由は?まさかオリジナルを殺して私が本物になってやるーとか、そんな陳腐な話じゃないでしょうね?」

 

「あれ?よくわかったわね」

 

「ま、おおむねそんな感じだ」

 

なんか漫画みたいな展開だな。

 

だが、おおむねか………

 

「…………貴方達は何者なの?」

 

「核心部分?んー……ネタバレにはまだちょっと早いんじゃないかなぁ……」

 

クロはそれだけ言い何も言わず、空也も無言だった。

 

「もういいわ」

 

「あら。全部聞き出すんじゃなかったの?」

 

「聞き出すわよ、いずれはね。でも、その前にイリヤ達への抑止力を作っておきましょう」

 

そう言うとルヴィアさんがイリヤを押さえる。

 

「え?」

 

そして、凛さんは手に注射器を持ち、イリヤにじわりじわりと近づく。

 

「え?……え?……いや――――――――ッッ!!?」

 

イリヤの叫びが屋敷中にこだました。

 

「ひ、ひどい……」

 

「ちょっと血を抜いただけよ。大げさね」

 

そう言って凛さんは取り出した血に何かをする。

 

「……何をする気?」

 

「言ったでしょ。抑止力よ」

 

凛さんは血でクロの腹に何かの模様を描き、呪文を唱える。

 

『血と骨と鋼 袋と管と皮 一の一 二の一 混濁の糸 正を実 反を虚 合を観に 強印・死痛の隷属』

 

呪文が終わると同時に、ルヴィアさんがイリヤの手を取り、その血の模様に触れさせる。

 

「これは………人体血印………呪術!?何をしたの!?」

 

クロがそう聞くと、凛さんはイリヤを呼ぶ。

 

イリヤが近寄ると、そのままイリヤを殴った。

 

「「あだっ!?」」

 

するとイリヤが痛がると同時に、クロも痛がった。

 

そして、今度は頬を引っ張り――

 

「いややややややや!?」「いだだだだだだだだだ!?」

 

関節技を極める。

 

「ギブギブギブ!!」「ウーマンリブ!!」

 

「ま、体感した通り痛覚共有。ただし一方的なね。主人の感じた肉体的な痛みをそのまま奴隷に伝え、主人が死ねば「死」すらも伝える。シンプルで、それ故に強い呪いよ」

 

なるほど。

 

これなら、クロはイリヤに手を出せなくなるな。

 

いい考えだ。

 

「そう……つまりこれで貴女は、イリヤスフィールの肉○隷と言う事ですわ!」

 

…………いや、それは違うと思う。

 

全員が引く中、凛さんは空也を見る。

 

「じゃ、次はアンタね」

 

そう言って空也を見る。

 

すると空也は縛られてる両腕を上げ、言う。

 

「そんなことしなくても、俺は零夜にはもう手を出さねぇよ」

 

「………それを信じろと?」

 

「今まで零夜の命を狙ったのはイリy……いや、クロがイリヤの命を狙ってたからだ。黒がイリヤの命を狙えないって言うんなら、それは俺にも同じこと。俺は零夜の命を狙わない」

 

「悪いけど信じられないわ。そんな言葉、ただの口約束でしかないわ」

 

「あの、凛さん」

 

俺はそこで会話に口を挟んだ。

 

「こいつ………空也何ですけど、こいつには何もしなくていいと思います」

 

「え!?な、何言ってるのよ!コイツはアンタの命を狙ってたのよ!」

 

「でも、それはクロがイリヤの命を狙っていたからだって………」

 

「嘘かもしれないじゃない!それを信じて寝首を掻かれたらどうするのよ!」

 

凛さんの言う事はごもっともだ。

 

だが、それでも俺は空也の言葉を信じて見たい。

 

そう思った。

 

「空也。お前の言葉に嘘はないんだな」

 

「ああ。俺は嘘はつかない」

 

「その言葉信じるぞ」

 

「ちょ……ああ!もうどうなっても知らないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えずクロと空也は地下倉庫に監禁しておくわ。取り敢えず、これで二人はもう襲われることはないと思う。と言っても、絶対ではないか気を抜かないように。念のため、カードを渡しておくわ」

 

そう言い、凛さんはイリヤにランサーのカードを渡す。

 

「もしもの時はそれで貫いてやりなさい、遠慮なく!」

 

「わーい…ばいおれんす……」

 

ルヴィアさん宅を後にし、自宅へと戻る。

 

「結局アイツがなんなのか分からないままかぁ……」

 

『ややこしい存在であるのは確かですけどねー』

 

「ま、今は監禁されてるし、あの家には、凛さんにルヴィアさん、それに海斗と美遊もいるんだ。多分大丈夫だろう」

 

そう言い、家に入る。

 

「「ただいまー」」

 

家に入るとリビングから話し声が聞こえる。

 

お客さんでも来てるのか?

 

そう思い、中を覗くと――――――

 

「ねぇ?お兄ちゃんはどんな女の子が好きなの?」

 

「な、なんだよイリヤ。突然……」

 

クロが士郎さんに絡んでいた。

 

てか、なんでいるんだ!?

 

イリヤはあまりの出来事にすっ転んでいた。

 

「な、なんでアイツがここに!?地下倉庫に監禁されてたのに一分足らずで脱走とか警備ゆるすぎ!」

 

『……なるほど。そういうことですか』

 

ルビーは何かに気付いたのか神妙な感じで言う。

 

『恐らくクロさんは別の手段でイリヤさんを抹殺しようとしてるんでしょう』

 

「別の手段?」

 

『イリヤさんの家族に関わり、あたかも自分がイリヤさん本人の様にふるまい、徐々に家族を落としていく。そして、イリヤさんの居場所を無くし、自分の居場所を作る。そういうことです』

 

物理攻撃が効かないから精神攻撃で戦うってことか?

 

「そういやイリヤ、なんか日焼けしてないか?」

 

「んー?気になる?」

 

「まぁ」

 

「お兄ちゃんてば、妹の肌が気になるの?」

 

「へ、変な言い方するなよ。俺はただ……」

 

「お兄ちゃんのはだフェチー」

 

「肌フェチ!?」

 

これはかなり精神に来るな。

 

イリヤ的には、自分そっくりな人が恥ずかしいセリフを言いまくってるだからな。

 

「テロだわ!これは兄妹の仲をヤバイ感じに破壊するテロだわ!」

 

「このままだと一線を越えかねない事態になるぞ」

 

そうこうしてる内にクロは士郎さんとのスキンシップを過激にしていく。

 

このままだと本当に……………

 

「そんなこと…………させるかぁ!」

 

そう言うとイリヤは自分の頬にマジビンタをする。

 

バチンッ!と良い音が響く。

 

するとリビングのクロも頬を叩かれた感じに痛がる。

 

『大丈夫ですかイリヤさん!?』

 

「くううう……っ!」

 

かなり痛いのにも関わらず、イリヤはもう一度自分を叩く。

 

何度も何度も……………

 

「いっ……いだいぃぃ………!で、でも、アイツを止めるにはこれしか……!」

 

「イリヤ……それ以上は流石に……」

 

『イリヤさん、なんて面白健気なんでしょう……ウププププ………』

 

ルビー、お前笑ってるぞ。

 

「くっ!最後にせめて!」

 

だが、クロはしぶとかった。

 

「お兄ちゃん!キスを!」

 

士郎さんにキスをしようと飛び掛かる。

 

「させるか――――!」

 

イリヤは最終手段として、自分の足の小指を思いっきり、壁にぶつける。

 

悶絶しながらイリヤはその場に倒れ込む。

 

その時、玄関の扉が開く。

 

「イリヤ無事!?」

 

「クロが脱走を……!」

 

やってきたのは凛さん、ルヴィアさん、そして海斗と美遊だった。

 

「……何してるの?」

 

まぁ、普通に考えたら玄関で知り合いが悶絶してたらそう思うよな。

 

「小指を壁にぶつけて……それよりクロが今、リビングに!」

 

「ハッ!そうだったわ!クロ!」

 

「観念なさい!逃しは――」

 

凛さんとルヴィアさんがリビングに入る。

 

「え?と、遠坂!?ルヴィアも!」

 

あれ?知り合い?

 

「え?衛宮君……?」

 

士郎(シェロ)……」

 

士郎さんを見た二人の反応は、どう見ても知り合いと偶然会ってしまった顔じゃない。

 

まるで、好きな人に会ったような反応だ。

 

てか、なにその反応?

 

「ごめんね衛宮君!イリヤちょっと借りて行くわ!」

 

「ごめんあそばせ!」

 

「え!?」

 

凛さんとルヴィアさんはクロを抱え、慌てて玄関を出る。

 

そして、俺たち四人は慌てて玄関を占める。

 

「おい、遠坂って、あれ?イリヤ?それに零夜も……」

 

「ど、どうもお兄ちゃん………」

 

「た、ただいまです……」

 

ギリギリセーフだった…………

 

「遠坂とルヴィアは?てか、その前に知り合いだったのか?」

 

「あははー!いやぁ、ちょっと……」

 

「あれ?イリヤなんか肌白く……」

 

「ひ、光の加減じゃない!?」

 

とにかくクロの事はバレてないみたいだな。

 

良かった…………

 

一息吐くと、美遊が恐る恐ると振り向く。

 

「…………お兄ちゃん?」

 

「「「え?」」」

 

美遊が士郎さんを見て、そう言った。

 

いや………お兄ちゃんって………どういうこと?



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壊れる日常

お兄ちゃん。

 

その言葉に俺達は思わず驚いた。

 

美遊が士郎さんをお兄ちゃんって呼んだ。

 

何故?

 

「えっと……君はイリヤと零夜の友達?」

 

士郎さんがそう尋ねると美遊は一瞬悲しそうな表情をした。

 

「はい……クラスメイトの美遊です」

 

「あ、同じくクラスメイトの海斗です」

 

海斗も士郎さんに気付き自己紹介をする。

 

「そ、そう言えば、美遊と海斗君はまだお兄ちゃんに会ったこと無かったんだよね」

 

「初めまして俺は、衛宮士郎。苗字は違うけどイリヤの兄だよ」

 

「………さっきは失礼しました。私の兄に似ていたもので」

 

「そっか。君にもお兄さんが」

 

すると美遊は行き成り士郎さんに抱き付いた。

 

「「美y……!!?」」

 

「なっ!?」

 

その光景に俺達は思わず驚いた。

 

「………失礼します」

 

そう最後に言い、美遊は家を出て行った。

 

海斗は玄関と士郎さんを交互に何度か見て、「失礼しました」っと言って帰って行った。

 

二人が帰った後、なんとなく俺とイリヤは士郎さんの脇腹を殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでが昨日の出来事だ。

 

色々ありすぎて中々寝付けなかった俺とイリヤは寝不足気味に家を出る。

 

「ごきげんようシェロ。家が向かいだなんてこれも運命。今日からは是非もなく私と一緒の車で…………あら?」

 

何故かレットカーペットを引き、ルヴィアさんがそこにいた。

 

「お兄ちゃんなら朝練でとっくに行ったよ………」

 

「ここんとこ毎日です」

 

「くうっ!相変わらずナチュラルスルー……!」

 

相変わらずってことは学校でもこんな具合なんだろう。

 

「まぁいいですわ。折角ですし、貴方達だけでも送りましょうか」

 

ルヴィアさんの好意に甘え車に乗せてもらうが、車の中は微妙な空気が流れてた。

 

車には俺、イリヤ、海斗、美遊、ルヴィアさん、そして運転してる執事の人、後、ルビーとサファイアしかいない。

 

『なんでしょう、この微妙な空気』

 

『姉さん、静かに。刺激してはいけないわ』

 

「……昨日は」

 

「はいっ!?」

 

「驚かせてごめんなさい。もう……大丈夫だから」

 

「そ、そんな謝ることじゃないよ。美遊のお兄ちゃんと勘違いしちゃったんだよね?美遊にもお兄ちゃんがいたなんて知らなかったよー、あはははは……はは……は……」

 

やばい、会話が続かない。

 

「あの……美遊……」

 

「イリヤスフィール」

 

イリヤが何かを言おうとした瞬間、ルヴィアさんが遮る。

 

「誰にでも踏み込まれたくない領域というものはあるわ。過去がどうであれ、今は美遊・エーデルフェルト。私たちにとってはそれで十分なはずでしょう?」

 

「そう……だね」

 

ルヴィアさんの言う通りかもしれない。

 

過去がどうであろうとここにいるのは美遊・エーデルフェルトって言う俺達の友達。

 

それで十分だ。

 

「それに、貴女の兄も士郎・エーデルフェルトになるかもしれませんし……」

 

「「「「は?」」」」

 

「そうなれば貴女とも姉妹ということに」

 

「ほ、本気!?」

 

「ていうか、士郎さん婿入り!?」

 

「そうね!今日から私の事を「お姉さま」と呼んでもよくてよ!むしろ呼びなさい!」

 

………………なんかもう着いていけない。

 

「なぁ、零夜」

 

そう思ってると、海斗が小声で話しかけて来た。

 

「どうした?」

 

「なんか美遊の様子がどうもおかしいんだ」

 

「……まぁ、言われてみればな」

 

「昨日だって、いつもなら何も言わずに俺のベッドに入り込んでくるのに昨日は来なかったし」

 

毎晩そんなことされてんのかよ……………

 

「それと……」

 

「まだあるのか?」

 

「いや、これは俺個人の事なんだが」

 

海斗は神妙な表情で俺に言う。

 

「昨日、美遊がイリヤ兄に抱き付いたとき、なんか胸がズキッていうかグサッっていうか…………とにかく変な痛みを感じたんだよ」

 

変な痛み…………ねぇ~…………

 

「あれは何だったんだろうなって思ってさ。お前、分かるか?」

 

「……さぁね」

 

その問題は自分で答えを見付けなきゃいかん奴だし、俺は何も言わなかった。

 

校門前で下ろしてもらい教室へと向かうと行き成り、雀花、龍子、那奈亀の三人が現れた。

 

「「「イリヤァァァッ!!!」」」

 

「はい!?」

 

「てめこらどういうアレだオラーッ!」

 

「まさかと思ったけどイリヤやっぱ……!」

 

「あんたの性癖は自由だけどそれに人を巻き込まないでくれる!?」

 

「え!?え!?え!?なに!?なんの話!?私、なんかしたっけ!?」

 

「「「なんかだと……………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「人に無理矢理チューしといてすっとぼけてんじゃねぇ――――――!!」」」

 

「は――――――――――――!!?」

 

「ちゅー…?無理矢理……?」

 

「誤解しないで美遊!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着けお前ら!」

 

俺はイリヤたちの間に割って入る。

 

「イリヤはずっと俺達と一緒だった!それは何かの間違いなんじゃ」

 

「イリヤちゃん……」

 

騒ぎを止めようとしてると藤原先生が来た。

 

「わたし……ファーストキスだったの……責任取ってくれる……?」

 

「せんせええええ!!?」

 

先生まで被害者かよ!?

 

てか、どうなってるんだ!?

 

「だから、私知らないってばー!!」

 

イリヤはとうとう逃げ出す。

 

「おのれイリヤ!」

 

「喪女のファーストキスまで奪うとはなんたるキス魔!!」

 

「喪女言うな!」

 

「逃がすな!追えー!!」

 

「ひー!」

 

ブチ切れの女子四人(内一人は大人)が追い掛ける中イリヤは走る。

 

そして、俺と海斗、美遊もそれに付き合う。

 

だが、このままだと逃げきれない。

 

すると、海斗と美遊は掃除ロッカーから箒を取り出し、一本を手に持ち、残りの箒を立てる。

 

「行って、二人とも」

 

「ここは俺達が食い止める」

 

「上等だー!!」

 

「お前らも汚してやんぜー!!」

 

「イリヤ、逃げて!」

 

「イリヤを守れよ、零夜!」

 

そして、何故か昼間の学校で小規模な戦闘が起きた。

 

俺はイリヤと共に屋上へと逃げた。

 

「ね……ねぇ……このちゅー騒ぎって………」

 

「多分だが、アイツの仕業かもな」

 

『昨日の今日ですし、ありえますね』

 

「い、イリヤちゃん……?」

 

その時、近くから美々の声が聞こえた。

 

「イリヤちゃん……どうしたの?なんか怖いよ……」

 

「でも逃げないのね、美々は」

 

やっぱりクロかよ!

 

てか、今度は美々にキスするのか!?

 

「またこのパターン!?一体何が目的なのよアイツは―――!!」

 

『なんか着々とイリヤさんの生活が壊されてますねー』

 

「表じゃ優等生の顔して……本当は好奇心いっぱい。いけないことにも興味あるんでしょう?」

 

どこでそんな言葉覚えて来るんだよ?

 

そして、とうとうクロは美々の唇まで奪った。

 

その出来事にイリヤと俺は数秒間固まった。

 

「んー……やっぱり一般人じゃ何人吸ってもあんまり溜まらないなぁ……」

 

吸っても溜まらない?

 

どういうことだ?

 

「この……名誉毀損変態女!!」

 

「おオッ!!?」

 

俺が考えてるとイリヤはクロに跳び蹴りをした。

 

「美々!大丈夫!?」

 

「気絶してるぞ……」

 

「そんなに凄いちゅーなの!?」

 

「いや、それは急な魔力低下によるショック症状だ。すぐに治る」

 

すると俺の背後でクロに手を貸している空也もいた。

 

「痛いわね……あなた、私に対して手加減なさすぎない?」

 

「魔力低下?」

 

『なるほど。単なるキス魔かと思ってましたが、魔力を吸い取ってたんですねー。海斗さんとのヤツもそれが目的でしたか』

 

「そういうこと。昨日の戦闘でちょっと使い過ぎちゃったからねー。補給してたの。できれば、海斗ともう一回したいなー。相性良いみたい。それと、美遊でもいいかもしれないわね。あの子、魔法少女だし、普通の人より魔力は多いだろうし。それに、海斗と同じ魔術師のレイともしてみたいわね」

 

何やら俺のファーストキスがとんでもないことで奪われそうだ。

 

「いい加減にして!」

 

イリヤがそう叫び、転身する。

 

「貴女が現れてからロクなことがないわ。お兄ちゃんも、友達も、海斗君も………これ以上私の日常を壊さないで!」

 

「…………与えられた日常を甘受してるだけのくせに。悪いことは全部私のせい。わかりやすくていいわね」

 

「……ルヴィアさんの家に戻って!言うこと聞かないなら」

 

「力ずくで?貴女にそれができるかしら?」

 

クロの兆発にイリヤはクラスカードを取り出す。

 

『ちょっとヤバイですよ、イリヤさん!コレは手加減出来ないガチ宝具です!』

 

「いいわ、試してみたら?」

 

クロはクラスカードを出されたのにも関わらず余裕な笑みを浮かべる。

 

「それが貴女の望みなら」

 

「………!」

 

イリヤは我慢の限界が来たのかとうとうクラスカードを使おうとする

 

限定(インク)―――」「投影(トレース――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の言葉を言う直前に屋上の扉が開いた。

 

そして、海斗、美遊、雀花に那奈亀、龍子、最後に下敷きになってる藤村先生が現れた。

 

イリヤの恥ずかし魔法少女の恰好が全員に見られた。

 

「なんだそのかっこー!?」

 

「コスプレ!?学校で!?そんな素敵な趣味が…!」

 

「ていうかイリヤが二人!?それにレイも!?」

 

「あ……ああ……ああああああああ!!」

 

イリヤの処理能力を超えた事態により、イリヤは半泣きで混乱する。

 

「悪い……二人とも……」

 

「抑えきれなかった」

 

「イリヤちゃんと零夜君が二人いるわけないわ!どっちか別人……部外者でしょ!どういうことか説明しなさい!それと私にキスした方は謝罪と賠償を!」

 

先生、落ち着こうぜ。

 

しかし、まずいな。

 

「あばばばばばばば!どぼすれば……どぼすればー!」

 

イリヤは混乱しまくり何を言ってるのか分からない。

 

「海斗、記憶を消す魔術はないのか?」

 

「あるにはあるが、ピンポイントで消すのは無理だ!丸一日分の記憶が消される」

 

「サファイアは?」

 

『できなくもないですがあまりオススメは……』

 

この事態に焦る俺達をよそにクロと空也は平然とし、そして言った。

 

「皆さん、お騒がせしてごめんなさい。私は、クロエ・フォン・アインツベルン。イリヤの従妹です」

 

「俺は曽良島空也。同じく零夜の従弟だ」

 

「来週から私達転校してくる予定なのでその下見にと思ったんです」

 

「クロと俺は最近まで外国暮らしでさ。外国ではキスは挨拶や友情の証みたいなものなんだ」

 

「日本じゃちょっと過激みたい。皆、ごめんね」

 

そう来たか。

 

場を収めるにはこれ以上ないいい方法だ。

 

だが、これはこれでかなり混乱する。

 

イリヤはどうしたらいいのか分からず、逃走した。

 

それを別の意味で追いかける友人がいたが、俺は気にせず教室へと戻った。

 



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新たな転校生

「どーゆーことっ!!」

 

イリヤはルヴィアさんが帰ってくるなり、机を叩き怒る。

 

「なんでちゃんと閉じ込めて置かなかったの!?おかげで私の学校生活が大変なことになったんだよー!?」

 

「イリヤ、落ち着け」

 

「な、なんですの?」

 

今まで学校に行ってたし、事情を知らなくても仕方ないか。

 

「クロと空也の二人が、今日学校に現れたんです。イリヤと零夜の従兄弟と名乗って……」

 

「それに来週転校してくるとまで」

 

「あ、あと私の友達にかたっぱしから、ちゅ………ちゅーを!」

 

「はぁ……やれやれ」

 

ルヴィアさんは溜息を吐き、話す。

 

「地下倉庫の物理的・魔術的施錠は完全でしたわ。それこそアリの一匹通さないぐらいに」

 

「ならどうして!」

 

「私が知りたいですわ。どれほど厳重に閉じ込めてもあの子達はそれをたやすく破る。いったいどうやって………」

 

「そもそも監禁する必要ないんじゃない?」

 

「わっ!いつの間に!」

 

クロと空也はいつの間にか席に着いていた。

 

「クロは呪いの所為でイリヤには手出しできない。なら閉じ込める必要もないと思うぞ。それに、クロはイリヤ以外に害意があるわけでもない」

 

「私たちはただ普通の生活がしてみたいだけ。十歳の子供として普通に学校に通う」

 

「そのぐらい叶えてくれてもいいんじゃないか?」

 

「うぬぬ……おのれこやつ等め!戯言を弄するか!」

 

イリヤはそれに反対なのか、語調がおかしくなるぐらい怒っている。

 

「…………いいでしょう」

 

「え!?ちょっと、ルヴィアさん!?」

 

意外にもルヴィアさんはあっさりとOKを出した。

 

「ただし、許可なく屋敷を出ないこと。他人に危害を加えない事。あくまで二人の従兄弟として振る舞う事。この三つの事を約束できるかしら?」

 

「もちろん。それで学校に行けるなら」

 

「同じく」

 

「ルヴィアさん!どうして……!」

 

「交渉の一手ですわ。いいから任せなさい…………さて、オーギュスト!」

 

「はい、お嬢様」

 

ルヴィアさんが呼ぶとオーギュストさんは行き成り現れる。

 

「戸籍・身分証のでっち上げと転入手続きを。美遊の時と同じですわ」

 

「承知しました。14時間で終わらせましょう」

 

なんか犯罪臭がする会話だ…………

 

深くは考えないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌週。

 

二人は本当に転校してきた。

 

俺達のクラスに。

 

「クロエ・フォン・アインツベルンです。クロって呼んでね」

 

「曽良島空也だ。よろしく頼む」

 

「イリヤちゃんと零夜君の従兄弟なのです……皆、仲良くしてあげてね……ちなみにクロちゃんは私の初めての人なの………」

 

最後だけ凄いどうでもいい内容だった。

 

「あ、席はクロちゃんが美遊ちゃんの隣で、空也君は零夜君の隣ね」

 

「はーい」

 

「分かりました」

 

そう言って、空也は俺の隣に座る。

 

「今日からクロ共々よろしくな、零夜」

 

「おう」

 

空也に挨拶をし、授業が始まった。

 

体育の時間になり、男子は空き教室で着替え、女子は教室で着替える。

 

着替えを終え、海斗と空也の三人で外に出ると、何故か雀花と那奈亀、龍子の三人がボールを手にクロと対峙してた。

 

「なんだこれ?」

 

その光景を見ていると、それがなんなのかすぐに分かった。

 

「クロ組VS初ちゅー奪われまし隊!ドッジボール対決!勝負は一回きりだよ!」

 

どうやら先週の事を根に持ってる三人がクロと勝負するみたいだ。

 

「負けた方は勝った方の舎弟になること!公序良俗に反しない限り命令には絶対服従!アーユーオーケイ!?」

 

「舎弟ねぇ……何を命令するつもりなの?」

 

「給食のプリンよこせ!」

 

「宿題写させて」

 

「夏コミでファンネルになって」

 

ちょっと待て。

 

最初の二つはいいとして、最後のはなんだ?

 

「それじゃ私が勝ったら全員一日一回キスさせて」

 

「「「んなあぁッ!!?」」」

 

まぁ、普通は引くよな。

 

「公序良俗に反しまくってる気がするが…………よかろう!」

 

そう言って三人は何故か決めポーズをする。

 

「栗原雀花!」

 

「嶽間沢龍子!」

 

「森山那奈亀!」

 

穂群原小(ホムショー)の四神とは俺達の事だ――――――!」

 

「簡単に勝てると思うなよ!!」

 

四神とは大きく出たな………………ん?

 

一人足りなくね?

 

「四神………青龍、朱雀、玄武……………白虎は?」

 

「「「はっ!?」」」

 

気付いていなかったんかい!

 

「虎を……御所望かい?」

 

そこに藤村先生が現れる。

 

「初ちゅー奪われまし隊隊員NO.4!!藤村大河!参戦するわよ、コンチクショー!!」

 

先生まで乱入してきた。

 

どうでもいいからさっさと始めてくれ。

 

その光景を見ながら、俺と海斗、空也の三人はキャッチボールを始める。

 

試合開始。

 

ボールは初ちゅー奪われまし隊、もとい初ちゅー隊から。

 

ちなみに審判は美々だ。

 

「先手必勝!うぉらー!」

 

龍子が投げたボールがイリヤに当たり、地面を転がる。

 

「よっしゃあああ!!」

 

「イリヤちゃん、アウト!外野に回って下さい」

 

あっさりとやられた。

 

「ちょっとイリヤ!なに簡単に当たってるのよ!?」

 

「えーだって、私、別に勝つ意味ないし。ていうか、貴女が負けてくれた方が都合よさそう」

 

「あー……しししんちゅーの虫………」

 

「美遊も適当に負けていいからねー」

 

「う、うん」

 

こうして、早くも一対四。

 

クロの圧倒的不利だ。

 

「ふん、いいもんね、別に。味方がいなくたってこれぐらい…………一人で勝てるわ」

 

そして、クロが投げたボールは藤村先生の顔面に当たる。

 

「タイガー!」

 

「嫁入り前の顔になんてことを!?」

 

「先生アウトー。外野に回って下さい」

 

「意外と冷静だな美々!!」

 

その後も、クロはボールを受け止め、当てるを繰り返していた。

 

それも楽しそうに。

 

そして、那奈亀と雀花もやられ、残りは龍子一人。

 

「くそ!なんでうちのクラスのカタカナ苗字は皆強いんだ!」

 

確かにそうだな。

 

「内野は龍子一人!」

 

「嶽間沢流武闘術の今に伝える嶽間沢家の末っ子だ!」

 

「見様見真似で武術を習うも才能が無くてんで弱いタッツンだけだぁー!」

 

どうでもいい個人情報がダダ漏れだ……………

 

その時、龍子の前にイリヤが出る。

 

「選手交代!龍子の代わりに私が戦う!いいでしょ?」

 

「随分横暴だなぁ。でも、ま、いいわ。奴隷(舎弟)が増えるだけだもの」

 

イリヤVSクロか。

 

見ものかもしれないが、クロの身体能力では足がクラスで美遊の次に速い程度のイリヤじゃ勝ち目は薄いだろうな。

 

「一対一の一球勝負。私が負けたら好きにすればいいわ。でも、貴女が負けたら…………学校を出てってもらう!」

 

重いな、勝負の代償……………

 

「自分の日常は………自分で!守らなきゃ!」

 

イリヤは信じられないスピードでボールを投げた。

 

クロも驚いてる。

 

「ほぉー、面白いことをするな」

 

空也はイリヤを見ながらそう言う。

 

俺もイリヤをよく見ると魔法少女になっていた。

 

だが、衣装は体操服のままだ。

 

「恐らく、衣装の分の魔力も全て身体強化に回してるんだろう」

 

「大胆だな」

 

「だが、これで力は互角。となれば…………後は集中力の勝負だ」

 

空也の言う通り、二人の戦いは白熱した。

 

ボールを使った勝負と言うより、ボールを使った喧嘩。

 

ボールを受け止めたら間を開けず一気に投げる。

 

なんだ、この殺戮空間…………

 

「毎度毎度、私の邪魔ばっかして……大体意味分かんないのよ!」

 

「分かろうともしてないくせによく言うわ!駄々ばかりこねて子供みたい!」

 

「こ、子供だもん!貴女だってそうじゃん!」

 

「ホント幼稚!それじゃあ零夜も苦労するわ!」

 

「う、うるさいうるさい!アンタなんか……私の偽物のくせに!」

 

そう言ってイリヤがボールを投げると、クロは急に動きを止めた。

 

「偽物……ね。それはどっちかしら…………ね!」

 

するとクロはボールを受け止めず、拳で殴り跳ね返した。

 

「ぼぎゃっ……!」

 

イリヤはボールを顔面にくらい気絶して倒れる。

 

「イリヤ――!!」

 

「ちくしょ――!イリヤが負けた!」

 

「…………忘れてたわ」

 

全員が騒いでる中、クロはそう言い、鼻血を出して倒れた。

 

「痛覚……共有……」

 

そう言い残し、クロも気絶して倒れる。

 

「やれやれ、勝負はお預けか」

 

「それより二人が大変だぜ」

 

「俺がクロを運ぶから、零夜はイリヤを頼む」

 

「ああ」

 

騒いでる集団に向かい、俺と空也はイリヤとクロを抱え、保健室へと運ぶ。

 

「ただの軽い打撲。殆ど外傷らしい外傷もないわ。つまらないわね」

 

本当にこの人が保健医なのか疑いたくなってきた。

 

俺と空也は保健室を出る。

 

時間もちょうどいいし、このまま着替えの教室に移動するか。

 

「偽物ねぇ………」

 

空也がそう呟いた。

 

「なぁ、零夜。零夜も、俺がお前の偽物だって思うか?」

 

急にそんな事を聞いて来た。

 

俺は空也の顔を見る。

 

空也は何処か真剣な表情だった。

 

「どっちが偽物とか本物とかどうでもいいだろ?そっくりでも違う人格なんだから、その時点でお前はお前だ。偽物だとか本物だとか関係ない。お前は曽良島空也だ」

 

そう言って、俺は歩き出す。

 

「………お前、面白い奴だな」

 

空也はそう言い、俺の後に続く。

 



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最初から

「お風呂貸してください」

 

「……ははぁ」

 

クロと空也が転校して来て数日。

 

俺達は現在ルヴィアさん宅にお邪魔してる。

 

理由はお風呂を借りに来た。

 

実はイリヤがクロには負けられない!とか言い出し、俺と特訓、更に新技開発を行った。

 

家の裏で。

 

その結果、イリヤの手元が狂い、給湯器に魔力弾が直撃。

 

その為、風呂にお湯を入れれなくなった。

 

業者に連絡を取った所、明日にならないと修理に向かえないらしい。

 

俺と士郎さんは一日ぐらいなら風呂に入れなくても構わないんだが、イリヤを始めとした女性陣は無理で、おまけに銭湯は定休日。

 

そこで、最後の手段としてルヴィアさん宅にお願いしに来た。

 

「もちろん構いません!シェ……イリヤの家族なら私の家族も同然!私の方からご招待したいと思っていたところですわ!」

 

まぁ、このようにありがたく引き受けてくれた。

 

おそらく、下心が9割ぐらいあるだろうけど…………

 

「遠坂!?その恰好は……!?」

 

「ギャ――!?なんで衛宮君がここに!?」

 

そう言えば、士郎さんは凛さんがここでメイドのバイトしてるのは知らないんだったっけ。

 

「笑うがいいわ!みじめなこの姿を―――!!」

 

「遠坂――!?」

 

騒がしくも楽しい人達だ。

 

「美遊、海斗。浴場まで案内して差し上げなさい。ついでに貴方達も一緒に入るといいわ」

 

「あ、はい」

 

「了解です」

 

一緒に?

 

「海斗。流石に男の俺達が一緒に入るのはまずくないか?幼稚園児じゃあるまいし」

 

「ああ、それは大丈夫だ。ここ、男と女で浴場分けてあるから」

 

一般家庭で風呂場を男と女で分ける理由が分からない………

 

いや、ルヴィアさんは一般家庭じゃなかったか。

 

流石はセレブ。

 

やる事が俺達の予想を遙かに超えてやがる……………

 

「じゃあ、俺達はそっちの方に」

 

士郎さんがそう言うと、行き成り士郎さんの背後にオーギュストさんが立つ。

 

「おわっ!?え、忍者!?」

 

「お初にお目にかかります。執事のオーギュストと申します。………ふむ」

 

「な……なんでしょうか………」

 

「士郎様はこちらに、海斗殿も零夜殿二人っきりで話したいことがあるそうなので。こちらに使用人用ではございますが、小浴場がございます」

 

そう言い、オーギュストさんは士郎さんの肩を強く掴み、引っ張る。

 

「えっ!あ……痛!肩超痛い!」

 

「ついでにオーギュストも一緒に入るといいわ」

 

「無論そのつもりです」

 

「えええ!?なんでさ―――!?」

 

連れて行かれる士郎さんを見送り、俺は海斗に連れられ、浴場へと向かう。

 

変身用の指輪(ウィザードリング)をチェーンに通し、首からぶら下げ風呂に入る。

 

ちなみにウィザードってのは俺と海斗の魔術師の姿のことだ。

 

指輪の魔術師じゃ長すぎるし、普通の魔術師とは違う魔術師。

 

なので、俺達指輪の魔術師のことはウィザードって呼ぶことにした。

 

浴場は大きかった。

 

明らかに人が一人で入る大きさじゃない。

 

「海斗……ここでかくね?」

 

「俺も一緒に住むからって急遽増やしたんだってさ。ちなみに、女性用の浴場はここの倍の大きさだぞ」

 

嘘だろ………

 

男性用浴場だけで、大人十人は軽く入れるぞ。

 

体を洗い、湯船につかると奥から誰かが現れた。

 

誰だ?

 

「よぉ、零夜。来たか」

 

「空也……お前だったのか。そう言えば、ここに住んでたんだったな」

 

「ああ。一応目が届く範囲に居るのも条件だからな」

 

「士郎さんをオーギュストさんに連れてってもらったのはこのためだ。今頃は女性陣の方でも同じ話をしてると思う」

 

「それは、俺とクロについて知りたいってことか?」

 

空也が手でお湯を掬い、それを自分の顔に掛ける。

 

「いや、正直な話、俺達にとってクロやお前はそこまで問題じゃない。問題なのはクラスカード“アーチャー”と二枚目の“アサシン”のカードが消えたことだ」

 

そう言い、海斗は俺と空也に指を突きつける。

 

「そこでだ。零夜、お前はどうしたい?」

 

「俺?」

 

「ああ。俺達の目的は全てのカードを回収し、協会に持ち変えること。それさえ果たせれば他の事は構わない。だから、俺と凛さん、ルヴィアさんで話し合って決めたんだ。収拾の形はイリヤと零夜、二人の意志に従うってな。……………それで?お前はどうしたい?お前の望みを言ってくれ」

 

俺の望みか………………

 

「まぁ、大した望みじゃねぇけど…………現状維持ってのは無理か?」

 

「現状維持?」

 

「ああ。成り行きで魔術師になっちまったとは言え、そのお陰で海斗に出会えた。他にも、凛さんやルヴィアさん、美遊。それに空也やクロとも出会えた。だから、俺は叶うんだったら、このままの生活を続けたい。もしそれで、何が不都合なことや面倒なことが起きるってなら――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全力でそれをぶっ飛ばす」

 

俺は湯船から腕を上げ、拳を突きつける。

 

海斗はぽかーんとした表情になる。

 

妙な沈黙が流れた。

 

「くっ………あはははははははは!」

 

その沈黙を壊したのは空也の笑い声だった。

 

「本当に面白い奴だよ。まったく…………これじゃ、諦められなくなっちまうな」

 

空也が最後に何か言ったが、良く聞こえなかった。

 

その時、浴場の壁を何かがぶち抜き、さらに壁を破壊した。

 

「なんだ!?」

 

「チッ!」

 

俺と海斗は首からぶら下げてたウィザードリングを素早く指にはめ、ウィザードに変身しようとする。

 

すると、破壊された壁からクロがアーチャーの姿で現れた。

 

「行くわよ、空也。茶番はおしまい。全部、最初からの状態にやり直しよ」

 

「………結局はそうなるんだな」

 

空也は湯船から上がり、アサシンの姿になると、クロと共に、破壊した壁から逃げ出した。

 

「い、一体なんだったんだ?」

 

「分からない。だが、アイツらが再び敵に戻った。それだけは確かだ」

 

俺は二人が逃げた先を見つめた。

 

「なんか本当に振り出しに戻っちゃったよ――――!?」

 

「もう一回捕まえろっての?勘弁してよ……」

 

「せめて家を破壊しないで出て行ってほしいですわ……」

 

俺と海斗が振り向くと、そこにはイリヤ、美遊、凛さん、ルヴィアさんの四人が全裸でいた。

 

「「あ」」

 

「「「「ん?……あ」」」」

 

四人と目が合った。

 

この後、イリヤの声にならない叫びが響いた。



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戦う理由

「やっぱり学校には来ないか」

 

翌日。

 

予想通りと言うか、空也とクロの二人は登校してこなかった。

 

一体何処で何をしてるんだろうか…………

 

「また何処からか、私とレイの命を狙ってるのかな……」

 

「痛覚共有の呪いがある限り、それは無いと思う」

 

「ほんっとアイツってば勝手だし何考えてるのか分かんない!」

 

「………イリヤ。クロは」

 

美遊がイリヤに何かを言おうとするが、そこにランドセルが飛んできて、直撃する。

 

「み、美遊!?大丈夫!?」

 

だが、美遊は反応しなかった。

 

「まだか!!夏休みはまだかー!」

 

どうやら龍子が、夏休みがまだ来ないと言う状況に発作を起こし、暴れ出したみたいだ。

 

「また龍子の発作が出たぞ!」

 

「もう待ってらんねぇ!脱ぐぞー!」

 

「奴を止めろー!」

 

「タツコハウス!」

 

イリヤが段ボールを龍子の頭に被せる。

 

すると龍子はさっきまでの暴走が嘘のように思えるぐらい大人しくなった。

 

猫かよ……………

 

「で、これは何の騒ぎだ?」

 

俺は龍子の暴走理由を雀花に尋ねる。

 

「ほら、前に皆で海に行こうって言っただろ?夏休み初日って確かイリヤの誕生日だったよな?だから、その日に合わせて誕生会もやろうぜって話でさ」

 

「え?ほんと?」

 

「美遊ちゃんと海斗君も来てくれるよね?」

 

「う、うん……」

 

「ああ」

 

「わたし、龍子、那奈亀、美々。イリヤと美遊に零夜と海斗。後、クロと空也も入れて十人だな」

 

「え゛!アレも呼ぶの?」

 

イリヤがちょっと嫌そうに言う。

 

「おいおい、ハブはないだろ。色々面倒起こす奴だけどさ、友達だろ?」

 

「強敵と書いて友と呼ぶ」

 

「タッツン、それ取れよ」

 

「今日は二人とも休みだし、会ったら伝えといてよ」

 

「あー……そうだね」

 

あんな事あったのにクロを友達って言えるのって凄い。

 

流石は雀花達だな。

 

そう思い、俺達は教室を出る。

 

玄関で靴を履き替えてると海斗が何かを見つけ、驚いていた。

 

「どうした、海斗?」

 

「……零夜、イリヤ。先に帰ってて。ちょっと寄る所を思い出した。美遊、来てくれ」

 

そう言い、海斗は美遊を連れ何処かへと向かった。

 

一体どうしたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

俺は美遊を連れ、海に来た。

 

本当に海が近いんだな。

 

「…………海、本当に近かったんだね。知らなかった」

 

「まるで初めて海を見たような反応ね、美遊」

 

その声がした方向を見ると、海面から出ている岩の上にクロがいた。

 

そして、背後に人の気配を感じて後ろを振り向くと空也が木の上から俺達を見下ろしていた。

 

「ちゃんと二人だけで来てくれたのね。嬉しいわ」

 

「……呼び出しに応じただけだ。用件は?」

 

「まず、私の話を聞いてくれるだなんて、やっぱり海斗は優しいわね」

 

「俺と美遊を呼び出した理由を言え。俺達はお前達と談笑しに来たんじゃない」

 

「ま、座って話をしましょ」

 

いつの間にか、クロは俺とイリヤの背後に立ち、俺達を椅子に座らせた。

 

俺と美遊は咄嗟に飛び退き、距離を取る。

 

「あら、そんなに警戒しなくてもいいのに」

 

倒れた椅子は空気に溶けるかのように消える。

 

今のは……………

 

「別にどうこうしようってわけじゃないわ。ただ海斗と美遊、私たちの四人で話してみたいなーって」

 

「……転移と……投影……」

 

美遊がそう呟く。

 

「やっぱり、一般人じゃないんだね。ルヴィアたちと出会う前から魔術(こっち)側の人間だったんだ」

 

クロの言葉に美遊は表情を変える。

 

「それに、海斗も魔術側の人間。だったら、分かりあえるわ。私たちと敵対する理由もないでしょ?」

 

「………一つだけ答えて。貴女はまだイリヤと零夜を殺そうとしてるの?共存はできないの?」

 

「共存ね……それは無理なんじゃない?」

 

「………そう」

 

その言葉を聞くと、美遊はサファイアを手に魔法少女に転身し、攻撃を仕掛ける。

 

「確かに、私たちが戦う理由はないのかもしれない。でも、貴女がイリヤと零夜の敵になるのなら、私はそれを排除する!」

 

「……アイツらの為に戦うっていうの?変なの。アイツらにそんな価値ないのに」

 

「なにを……」

 

「気付いてないの?思い出して、昨日イリヤが言った言葉。イリヤの望みを」

 

凛さんとルヴィアさんも昨日イリヤに、カード回収の収拾の形はイリヤの意志に従うため、イリヤの望みを聞いたはずだ。

 

その時、何かあったのか?

 

「イリヤは言ったわ。元の生活に戻りたいって。それはつまり…………私達全員の出会いを否定したのよ」

 

元の生活か。

 

イリヤでなくても一般人ならそれを求めるのは普通だ。

 

たが、言い換えればそう言う形にもなる。

 

「イリヤの生活が変わったのは凛やルビー、そして美遊達と出会い関わってしまったからよ。出会いが無ければ、私がこうして存在することも無かった。魔術の世界は狂気と妄執渦巻く血塗れの世界。イリヤも無意識にそれを感じ取ってるのかもね。だから、その象徴たる私を避けようとする。元の世界ってのは、魔術世界と関わりが無く、私も空也も、美遊も海斗もいない生活のことよ。……………ねぇ」

 

そこでクロはまた美遊の背後を取り、美遊の肩に触れる。

 

「そんなイリヤの為に、美遊は戦う理由はあるの?」

 

その言葉に美遊は体を震わせる。

 

「零夜も、口ではこの生活を続けたいとか言ってるけど、心の奥底では、きっとそう思ったるはずよ。………それでも、戦う理由はある?」

 

「クロ!イリヤはそんなつもりで言ったんじゃない!それに、零夜も本気でそう思ってた!」

 

「ふん、どうだか」

 

俺の言葉にクロは耳を貸さず、嘲笑うような態度を取る。

 

「………戦う……理由は…………ある!」

 

すると美遊はセイバーのクラスカードを手にそう言った。

 

そして、夢幻召喚(インストール)をする。

 

「貴女が否定しても、例えイリヤや零夜に拒絶されたとしても構わない。理由なんて…………私を友達と呼んでくれた。それだけでいい」

 

セイバーの英霊を憑依させた美遊はエクスカリバーをクロへと向ける。

 



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嘘つき

「ピーマン抜きでお願いします!」

 

家に帰るなり、イリヤはセラさんにそう言った。

 

今日の晩御飯はピーマンの肉詰めだ。

 

イリヤはピーマンが苦手て、食卓にピーマンが出るだけで凄い嫌そうな顔をする。

 

「ピーマンの肉詰めからピーマンを抜いたらただの肉でしょう」

 

「肉でいいじゃない!肉で!」

 

「却下です!」

 

結局、イリヤの言い分は通らず、イリヤは部屋へと戻った。

 

「世の中思い通りにはいかないよねぇ~」

 

イリヤはランドセルを自分の部屋に置くと、俺のベッドに横になる。

 

「イリヤ、ピーマン位で世の中を語るなよ。後、横になるなら自分のベッドでな」

 

「いや、ピーマンじゃなくて………」

 

『クロさんのことですか?』

 

ルビーの言葉にイリヤは無言で肯定した。

 

「皆はなんだかんだでもう友達って思ってるんだよね」

 

『純粋かつ単純で良い子たちですねー』

 

「誕生会……呼んだらアイツ来てたのかな……」

 

「別に今からでも遅くないだろ」

 

「居場所も分からないのに?アイツが今何処に居るのか、正体がなんなのか、何を考えているのかもぜーんぶわかんないよ。あれ?私の誕生日って設定上、アイツも誕生日とかそういう……」

 

『そうですねー。不可解な存在ではありますが、クロさんが昨日怒った理由は分かる気がします』

 

「え?」

 

イリヤが驚いた表情でルビーを見る。

 

『イリヤさん言いましたよね。「元の生活に戻りたい」って。それは、クロさんに消えろ言ってるのと同じではないですかね?』

 

「ち、ちがっ!…………違うとは言えないかも………そうだね。それじゃ、確かにアイツも怒るの当然…………」

 

「いや、多分それは理由の半分だろう」

 

俺は椅子を回転させ、イリヤの方を向く。

 

「拡大解釈かもしれないが、イリヤの『元の生活に戻りたい』ってのは――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

セイバーとなった美遊はクロと過激な戦闘を行う。

 

クロは二本の剣を巧みに使い、美遊の持つエクスカリバ―を受け流しながら戦う。

 

戦い慣れしてるな。

 

本当なら俺も一緒に戦いたいが、美遊から一人で倒すと力強く言われたし、それに空也が乱入しないとも限らない。

 

そう思いながら、俺は木の上で戦いを観戦してる空也を見る。

 

「お前は戦わないのか?」

 

俺はウィザードの姿になり、空也を警戒する。

 

「悪いけど、俺は戦うなら零夜って決めてるんだよ。それに、どうも戦う気が起きないんだよ」

 

「どういうことだ?」

 

「そんなことより、決着付きそうだぞ」

 

空也に言われ、俺は目を二人に戻す。

 

見ると、美遊がクロの二本の剣をへし折っていた。

 

美遊は一気に決めようと接近するが、クロは大量の剣を投影し、投げつける。

 

剣を盾に防御する。

 

するとクロは剣を矢代わりにし、美遊へと弓での攻撃をする。

 

「無から剣を創り出し(投影)、矢に変換し魔力を乗せ放つ。“アーチャー”。文字通りの力ね」

 

容赦なく弓攻撃が美遊を襲う。

 

だが、美遊は怯まずクロへと接近する。

 

矢をギリギリで躱し、そして、クロの胴に向かって剣を振る。

 

しかし、その剣はクロが投影した剣で作られた壁に阻まれ、攻撃が通らなかった。

 

クロは投影で、先端が分かれた剣を創り、それを投げつけ木に美遊の手を拘束する。

 

「ダメよ、美遊。性能(スペック)頼りの力任せ。そんな考えなしの薄い剣じゃ、私には届かない」

 

なるほど。

 

最初クロや空也と闘った時どうも戦いづらくまるでこっちの手口を読んでるかの様に思ったが、違かった。

 

戦闘本能だけで向かってくる黒化英霊とは違う思考する敵。

 

それだけでも、俺達とっては未知の脅威だったんだ。

 

クロは黒い剣を生み出し、美遊の首に当てる。

 

「海斗、動かないでね。動いたら今直ぐにでも美遊を殺すわ」

 

その言葉に俺は動けず、大人しく止まった。

 

「貴女が私の邪魔をするって言うなら、先に貴女を殺して、その後にイリヤを殺すわ」

 

「そ、そんなことをすればクロも!」

 

「そう。痛覚共有(呪い)で私も死ぬ。皆仲良く死んでおしまい。それもいいと思わない?」

 

美遊は手首だけを器用に動かし、木を切り裂き、拘束を解く。

 

「心中に付き合う気も、付き合わせる気もない。もう一度だけ聞く。共存する気はないの?」

 

「言ったでしょ。無理なのよ、共存なんて」

 

「なら!ここで止める!」

 

「残念だわ!美遊!」

 

二人の剣が当時にぶつかろうとする。

 

すると、そこに一発の魔力弾が撃ち込まれる。

 

「な!?」

 

「これは……」

 

そして、美遊とクロの間に、イリヤと零夜の二人が降り立った。

 

「イリヤ!?それに、零夜も!?」

 

「間に合った?」

 

「みたいだな」

 

『サファイアちゃんからの通信が乱れて場所の特定に時間がかかりましたー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

サファイアから救難信号を貰い、俺とイリヤはすぐにその場所へと向かった。

 

そこでは、美遊とクロの二人が戦っていた。

 

「二人ともやめて。戦わないでって美遊の恰好なにそれ!?新コス!?」

 

「うっあっ…えっと…あのその……」

 

イリヤ、ちょっと落ち着け。

 

そう思ってると、行き成り背後からクロが攻撃をしてくる。

 

俺はそれを魔力の剣で防ぎ、イリヤを連れて下がる。

 

「おいおい、行き成り背後から攻撃って卑怯じゃないか?」

 

俺はクロに言いながら剣を構える。

 

「いい加減にして。勝手すぎるわ。私の為に争わないでーってやつ?今更出て来てお姫様気取りしないで」

 

「二人とも、もう話し合いは終わってる。クロに共存の意志はない。なら、ここで倒すしかない!」

 

「それって殺すってこと!?」

 

「………そうしなきゃ、イリヤたちを守れない」

 

「関係ないことよ、イリヤには。貴女の望みは聞いたわ。「元の生活に戻りたい」。だったら、もう私たちに関わらないで!目を閉じて耳を塞いで自室に閉じこもっていればいい!それが望みでしょう?」

 

「………二人とも………嘘つきだ」

 

イリヤが手を強く握り締め言う。

 

「………なんですって?」

 

「知ってるくせに!私だって認めたくない!でも、もう分かってるの!貴女は私だって!」

 

イリヤの言葉にクロが僅かに動揺する。

 

「だから、美遊の言葉も嘘だよ。美遊が私を殺すなんて有り得ない。確かに私は以前自分の力が怖くなって逃げ出した。なにもかも投げ出して閉じ籠っちゃった。でも目をつぶったって、逃げ出したって何も解決しなかった。私が皆との出会いを否定したと思った?また目の前の問題からにげようとしてると思った?知ってるくせに………貴女は知ってる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はもう逃げない!出会った人も、起こってしまったことも、なかったことになんて絶対しない!」

 

イリヤの奴、本当に逞しくなったな。

 

俺はそう思いながらも、クロから意識を外さず剣を構える。

 

「………ご高説ありがとう。それで?どうするの?」

 

どうやらイリヤの言葉はクロには響かないらしい。

 

「これで仲直りして家に帰ればいいのかしら?その後は?ずっと私も空也も、正体を隠したまま生活していこうっていうの?そんな生活続くはずがないわ。今だってかなり無理が出てる。………ねぇ、イリヤ。日常って何なのかしら?」

 

そう言うクロの表情は悲しそうな表情だった。

 

「家族がいて、家があって、友達がいて、幼馴染がいる。私や空也にはそんな当たり前のものですら与えられなかったわ。私たちは「無かったことにされたイリヤと零夜」だから。でも、何の奇跡か私たちはここにいる。関上げる意思がある。動かせる身体がある。だから、この手で日常を盗り返したいと思うの」

 

クロは剣を抜き、イリヤに向ける。

 

「私とイリヤ。零夜と空也。互いに二人。でも与えられた日常は一つずつ。暫定(いつわり)の日常はもうおしまい!もう逃げないって言うなら、私と戦いなさい!」

 

そう言ってクロは剣を手に襲い掛かってくる。

 

だが、そんなクロの前に一本の長刀が地面に突き刺さる。

 

クロは咄嗟に止まり、俯いた。

 

「…………つもりよ」

 

クロが小さくつぶやく。

 

「何のつもりよ!空也!」

 

クロはこれでもかって言うぐらい声を上げ、木の上に居る空也を睨みつける。

 

空也は刀を投げたポーズのまま木の上に立っていた。

 

そして、木の上から飛び降り、長刀の所まで移動する。

 

「クロ……もう止めよう」

 

空也がクロを宥めるように言う。

 

「どう言うつもりよ?」

 

「言葉の通りだ。こんなこと止めて、零夜とイリヤの二人に俺達の事を委ねようって言ってるんだ」

 

「どうしてよ!本来私たちが手にするはずだった日常を、自分の手で取り戻す!そう決めたじゃない!」

 

「………俺は、お前の決めたことに従う。反論する気はないし、今でもその誓いを変える気はない。でもよぉ、零夜が言ってくれたんだよ。「このままの生活を続け、それで、何が不都合なことや面倒なことが起きたなら全力でそれをぶっ飛ばす」って言う、予想の斜め上行くような言葉をな。それを聞いたら、思わず零夜に全部を委ねたくなっちまった。………なぁ、クロ。今からでも遅くないと思う。共存の道を考えないか?」

 

「………そう。空也はそう言う考えなのね。なら、その考え、真正面から砕いてあげる」

 

クロが黒と白の剣を出し、構える。

 

「……こうなっちまうのかよ」

 

空也は残念そうに長刀を地面から抜き、構える。

 

そして、二人が同時に動き出す。

 

「あ――――も――――――!」

 

イリヤが声を上げる。

 

「いい加減に!」

 

その瞬間、俺とイリヤの頭上に一台の車が現れる。

 

「し……てって………いひゃあああああああ!?」

 

「ぬおおおおおおおおお!?」

 

俺とイリヤは奇声を発しながら横に躱す。

 

車は地面に凄い勢いで降りるとその場で回転し、地面を滑るように進み、木にぶつかって止まる。

 

その光景に、俺とイリヤだけでなく海斗と美遊も固まり、さらに、今まさに戦おうとしていた空也とクロも動きを止める。

 

「なっ……どっ……なにこれ!?」

 

「もー、久々に帰って来たって言うのに家にいないんだから。目で探してみたけど意外とみつかるものねって、あれ?ドアが開かないわね」

 

あれ?聞いたことのある声……………

 

「よっ…………しょっと!」

 

運転手は乱暴にドアを蹴り壊し、運転席から降りて来る。

 

「まっ………まままま………!」

 

「あっ………ああああ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ママ(アイリさん)!?」」

 

運転手はイリヤの母親、アイリスフィールことアイリさんだった。

 

「やほー、ただいま。イリヤちゃん、零夜君。もうすぐ夕飯だから迎えに来たわよー」



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アイリの乱入

「あらー……あらまぁ。イリヤちゃんたらいつの間に双子になっちゃったのかしら?零夜君も双子になってるし。それと随分カワイイ恰好とカッコいい恰好ね」

 

ヤバイ、アイリさんに見られた。

 

この人は妙に勘が鋭いし、魔術の事とか魔法少女、そらにウィザードのこととか知られるかもしれない…………

 

すると、クロは行き成り、アイリさんに斬り掛かった。

 

イリヤはルビーを盾に攻撃を防ぐ。

 

「な、何考えてるの!?ママだよ!私の……私たちの!」

 

「………遭いたかったわママ。十年前、私を「なかったこと」にした素敵なママ!」

 

十年前?

 

そんな疑問を考える間もなく、クロはアイリさんに攻撃を仕掛ける。

 

「やめろ、クロ!」

 

空也は二人の間に素早く移動し、クロの投げた剣を防ぐ。

 

その隙に、俺とイリヤはアイリさんを連れて逃げる。

 

「燕返し!」

 

すると空也はあの斬撃をクロに放つ。

 

空也の奴、クロを殺す気か!

 

クロは空也の斬撃を剣の自分の周りに配置し、盾にして攻撃を防いだ。

 

そして、空にジャンプし、弓を手に俺達を狙う。

 

まずい!

 

あの攻撃は俺のディフェンスリングでも防げない。

 

そう思ってるとイリヤがルビーを前に出す。

 

「ルビー!物理保護!……錐形(ピュラミーデ)!」

 

するとイリヤは物理保護の障壁を前方に展開し、更に錘形にすることで、受け止めるのではなく受け流す形で攻撃を防いだ。

 

「どうしてママを攻撃するの!?攻撃してどうなるっていうの!?こんなの滅茶苦茶だよ……自分が何してるか分かってるの!?」

 

「………んない。わかんないよ……自分(わたし)感情(気持ち)が………わからない…………」

 

クロが急に不安定になった。

 

どうしたんだ?

 

そんな中、アイリさんは前に出る。

 

「いいわ。おいで、イリヤちゃん」

 

イリヤにではなくクロにそう言う。

 

「ママだめ!あぶな……!」

 

イリヤが止めようとするが、クロの方が早く、走り、アイリさんに攻撃を仕掛ける。

 

「どうしてイリヤちゃんが二人に増えてるのかは分からないけど、貴女が悲しんでることはわかるわ。抱きしめてあげるわ……………でも、その前に」

 

アイリさんは針金を取り出し、それが瞬時に形を作る。

 

針金は巨大な拳になり、クロの真上から落ちる。

 

クロは気絶し、倒れる。

 

「躾は必要よね。喧嘩はめっ!凶器(道具)を振り回しての喧嘩なんて言語道断よ?」

 

「マ……ママママいいい今のなに……!?」

 

「そうそう、こういう時は両成敗よね」

 

そう言って、腕をひょいっと動かすと、今度はイリヤの頭上に針金の拳が出来る。

 

「へ!?いや、ちょ………!話を!」

 

イリヤの話を聞かず拳がイリヤの頭に落ちる。

 

痛覚共有の呪いの所為で、クロの頭には二つたんこぶがある。

 

「あ、そうだった」

 

アイリさんは思い出した様に振り向く。

 

「君も、刀なんて危ない物振り回したからお仕置きね」

 

「え?」

 

そして、空也の頭上にも針金の拳が落ちる。

 

こうして、この場に三人が倒れてる。

 

「さて………零夜君」

 

「は、はい!」

 

「イリヤちゃんを運んでくれるかしら?」

 

「もちろん!」

 

逆らったら()られると本能的に悟り、俺はイリヤを背負う。

 

「海斗君と美遊ちゃんよね。こっちの子達も運んでくれるかしら?」

 

「「は……はい」」

 

海斗が空也を背負い、美遊がクロを背負う。

 

そして、俺達三人はアイリさんが乗って来た車に乗り、家に戻った。

 



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器と守護者

今回も無茶苦茶ですが気にしないで下さい。


あの後、アイリさんにクロと空也、そして、魔法少女とウィザードの事を俺と海斗、美遊に

ルビーとサファイアの五人で話した。

 

流石にクラスカードの回収の話は危険なのでそこは省き、大まかに説明した。

 

その後、ルヴィアさん宅に移動し、アイリさんは行き成りイリヤとクロ、そして空也の服を脱がし、風呂場へと放り込んだ。

 

「さて、私たちも入りましょう」

 

その言葉に俺と海斗は「は?」っと呟いた。

 

「アイリさん、俺と海斗は男ですよ!何を言ってるんですか!?」

 

「あら?でも、零夜君、昔はイリヤとお風呂に入ってたじゃない」

 

「いつの話ですか!」

 

「いいから観念しなさい!」

 

アイリさんに肩を強く掴まれ、逃げられない。

 

助けてもらおうと海斗の方を見る。

 

「美遊!離せ!」

 

「ダメ、海斗も一緒に」

 

あっちもあっちで大変なことになっていた。

 

結局、俺はアイリさんの力に敵わず、海斗は転身した美遊によって強制的に風呂に入ることになった。

 

裸になり、タオルを巻いて準備完了。

 

そして、風呂場に向かう。

 

中ではイリヤとクロ、空也の三人が目を覚ましていた。

 

「おはよう。二人のイリヤちゃんともう一人の零夜君。お湯だけど頭は冷えたかしら?」

 

「ママ!ていうか、何でレイと海斗君が!?」

 

イリヤは体を隠すようにお湯につかる。

 

「いいじゃない。昔は一緒に零夜君と入ってたし、裸の付き合いよ」

 

「ママ………貴女って人はまた突拍子もないことを……」

 

「頭が冷えたって言うか、温度差に頭が付いてこないわ」

 

「中々に個性的な人だな」

 

空也の言う通りかもしれない。

 

個性的と言うか、脊髄反射で動いてる気もするけど…………

 

「なんかママのいない間に色々変なことがあったみたいね。大体のことは美遊ちゃんと海斗君、零夜君とステッキちゃんから聞いたわよー」

 

アイリさんがルビーを引っ張りながら言う。

 

「友バレに続いて親バレ………」

 

「というわけで……『教えて!アイリママ』のコーナー!子供たちからの質問に何でも気分次第で答えるわよー」

 

そう言い、アイリさんはホワイトボードを何処からか出し、お湯に入れた。

 

何故入れたし………

 

「……なら聞くわ。前みたいに誤魔化さないでちゃんと教えて。知りたいの。私は何?」

 

イリヤがアイリさんに尋ねる。

 

そして、アイリさんは語った。

 

イリヤの家、アインツベルン家はドイツの古い貴族の家らしい。

 

だが、それは表向きの話で、実際はどの魔術協会にも属さず、他家とも関わりの一切を絶った単一の魔術一族。

 

その歴史は千年を超える。

 

そして、アインツベルン家はある大規模な儀式を行おうとしていた。

 

その儀式の名前は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争。あなたは、そう呼ばれる儀式の(かぎ)となるべく生まれたの」

 

「聖杯……」

 

「戦争……?」

 

「イリヤにはある程度の範囲で『望んだ事を叶える力があるわ』。いくつか覚えはあるんじゃない?それは願望器としての機能の一作用よ」

 

「その通りだ。クロはその為に生まれた」

 

空也が湯船につかりながらそう言う。

 

「で、そして、それは俺にも言えることだ。そうだろ、アイリさん」

 

「……ええ、そうね。零夜君、貴方の事も話すわ」

 

俺の事?

 

俺にも何かあるのか?

 

「零夜君はイリヤの守り手。聖杯戦争に置いて、イリヤを守る役目を与えられる存在として生まれたの」

 

「ま、守り手?」

 

「儀式の(かぎ)であるイリヤを守り、命を犠牲にしても守る守護者。それが貴方よ」

 

俺がイリヤの守護者?

 

「これで分かったでしょ。私と空也が何のために生まれてきたのか」

 

俺の頭の中の疑問は、クロの言葉でかき消された。

 

「生まれる前から調整され続け、生後数ヶ月で言葉を解し、あらゆる知識を埋め込まれたわ。なのに貴女はそれを封印した。機能を封じ、知識を封じ、記憶を封じた。普通の子として生きる?それもいいわ……でも、どうしてそのままじゃいけなかったの?」

 

クロの言葉にアイリさんは何も言わなかった。

 

「全てをリセットして一からやり直しなんて都合が良すぎる。でも、誤算だったわね、ママ。封じられた記憶はいつしかイリヤと零夜の中で育って私たちになった。そして、ついに肉体を得た。………普通の生をイリヤ達に歩ませるならそれでもいい。けど、ならせめて、私たちには魔術師としての生を頂戴。私たちをアインツベルンに帰して!」

 

クロの叫びに空也は無言で湯船に浸かっていた。

 

まるでその叫びを受け止めるかのように。

 

そして、アイリさんが口を開く。

 

「アインツベルンはもうないわ」

 

「………え?」

 

「もうないの。聖杯戦争はもう起こらないわ」

 

その言葉にクロは言葉を失い呆然とした。

 

空也はある程度は予想していたのか無言だった。

 

「なに……それじゃ……私の居場所は何処にあるのよ!」

 

クロがそう叫ぶと、浴場一帯が荒れ出し、お湯が巻き上げられる。。

 

「全部奪われた!全部失った!何も……何も残ってない!」

 

その光景に俺は動くことが出来ず、顔を覆うしかできなかった。

 

空也に至っては、何もせずただじっとしてた。

 

「なんて惨めで無意味なの!誰からも必要とされてないなんて!こんな……こんなことなら最初から!」

 

その時、クロの動きが止まる。

 

そして、体が泡の様に解けて消え出した。

 

「……ああ、そっか。使い過ぎちゃったか………魔力(いのち)が切れたわ」

 

クロは諦めたように目を閉じる。

 

すると空也が立ち上がり、クロにキスをした。

 

その光景に俺は思わず顔を赤くした。

 

隣ではイリヤも同じように顔が赤い。

 

「空也……どうして………」

 

「……俺はお前の守護者となるはずだった存在。お前が消えかけてるって言うなら、それを何があっても止めるのが俺の役目だ。それに……イリヤはクロに何か言いたいことあるんじゃないのか?」

 

そう言い空也がイリヤを見る。

 

イリヤはクロに近づき、そしてしゃがむ。

 

「正直言うとね。ママの話聞いて私、あまりショック受けてないんだ。自分が魔術の道具として生まれて来たなんて、世界観が変わっちゃうくらい大変なことなのにおかしいよね。でも、私が平穏でいられるのはクロが傷付いてるから」

 

イリヤが初めてクロを名前で呼んだ。

 

「私が背負うはずだったものを貴女が代わりに背負ってくれたんだ。……ごめんね。今だけじゃなく、昔からずっとそうだったんだね」

 

イリヤが泣きながら謝る。

 

だが、クロの体がまた消え始めた。

 

「ど、どうして!?魔力は供給したのに!」

 

「ちっ!供給しても無意味か。崩壊は止められない」

 

空也が悔しそうに舌打ちをする。

 

「……もういいわ。消える時に泣いてくれる人がいるなら、意味はあったわ」

 

こんなの納得できない。

 

なんとかして止める方法を俺は必死に考える。

 

だが思いつかなかった。

 

そんな中、空也は歩いてクロに近づく。

 

「勝手に消えようとしてるなよ、クロ」

 

空也の掌に明るい珠の様なものが現れる。

 

「言っただろ。消えかけてるって言うなら、それを何があっても止めるのが俺の役目だって。受け取れ」

 

そう言い、クロの胸の中央にその光の珠を押し込むように入れる。

 

するとクロの体が一瞬光り輝き、崩壊が止まった。

 

「空也……一体何を……!」

 

クロの崩壊が止まったかと思うと、今度は空也の体が透けはじめていた。

 

「………(かぎ)の命を繋ぎ止めるための禁術。俺と言う存在にはその禁術の発動術式が組み込まれてたんだ。それを使ったんだ。代わりに俺と言う存在が崩壊し、消える」

 

そのことに俺は驚き、叫ぶ。

 

「空也!お前、何を!」

 

「これでいんだよ。クロを守れるならそれで」

 

「でも………それだとお前が救われてないじゃないか!」

 

「救われたさ」

 

空也は俺の方を向き、笑う。

 

「お前の言ってくれた言葉。あれのお陰で俺は救われた。この世に留まりたい。お前達と過ごしたい。そう思えるぐらいに、俺は幸せになれた。だから、十分だ」

 

そう言う空也はとても悲しそうに笑った。

 

「ふざけないでよ」

 

クロが空也に言う。

 

「勝手に助けて、勝手にいなくならないでよ!バカ空也!」

 

クロは空也に泣きつき言う。

 

「お前を助けれたなら、俺はそれでいい。それが守護者としての役目だからな」

 

「嫌だ……いなくならないで……一人にしないで………」

 

「お前はもう一人じゃない。イリヤも零夜も、海斗に美遊もいる。だから、安心しろ」

 

空也はクロを慰めるように言い、クロの涙を手で拭く

 

「空也がいない世界なんで嫌!お願いだから………消えないで………私の傍からいなくならないで!」

 

クロが叫んだ。

 

その時、クロの体がもう一度光、そして、奇跡が起きた………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、今日から一緒に暮らすことになったクロエちゃんと空也君です」

 

「よ…よろしく……」

 

「……どうも」

 

行き成り連れてこられ、紹介させられた二人に士郎さんとセラさんが驚く。

 

リズさんも軽く驚いてる。

 

「イリヤの従妹と零夜の従弟だって?」

 

「は、初耳なのですが!」

 

「細かいことは気にしないのー」

 

騒ぎ立てる士郎さんとセラさんにアイリさんは笑って言う。

 

あの時、何が起きたのか分からない。

 

気が付いたら空也の崩壊は止まり、クロが泣きながら空也に抱き付いていた。

 

そして、アイリさんが二人まとめて面倒を見るとか言い、クロと空也は家族になった。

 

よくよく考えたら最初からこうしてればよかったんだと思う。

 

これから色々苦労すると思うが、まぁ、なんとかやっていけるだろう。



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番外編 魔法少女の夜

時間軸的にはクロと空也と出会う前ぐらいだと思います。

*今回、零夜はでません


ある日の夜、私がベッドで雑誌を読んでるとルビーが話しかけて来た。

 

『イリヤさんイリヤさん!イリヤさんが大好きなレイさんについてなんですが』

 

「……………………なに?」

 

『おや、否定されないんですね』

 

「べっつにー……。レイの事は好きだよ。幼馴染としてね!こういうのは否定するから余計からかわれるのよ。ルビーそう言う話大好きだもんね」

 

私は軽く受け流しながら言う。

 

『あらまぁ、なんとかわいくない……もとい利発なお子様なんでしょう。それで、レイさんなんですけど、どうしてレイさんはこの家で暮らしてるんですか?』

 

「言ってなかったけ?レイのお父さんとお母さんは私のお父さんとママと昔からの知り合いなんだ。レイのお父さんとお母さんはまだ私たちが小っちゃい頃に亡くなっちゃって、お父さんとママが面倒を見ようと引き取ったの」

 

『つまりこれはあれですね……………なんとエロい!』

 

「なにその感想!?」

 

今の何処にエロいなんて感想に繋がる部分があったの!

 

『幼馴染と一つ屋根の下での生活!そして起こる様々なハプニング!ゲームでしかお目に掛かれないようなシチュエーションですよ!』

 

「妄想し過ぎだって…………ちなみにお兄ちゃんと苗字が違うのはお父さんとママは色々あって籍入れてないから、お兄ちゃんの姓は衛宮のままで、お父さんとママは仕事でヨーロッパ出張中で、セラとリズはアインツベルン家のメイド……」

 

『そんな伏線に見せかけて実は何でもないような設定いりません!レイさんの話をしましょう!レイさんの!』

 

いらないって………割と結構重要なことだと思うんだけど…………

 

「とにかくレイの話って言ってもレイはただの幼馴染だよ」

 

『なんとものんきな………そんなのんきなこと言ってうかうかしてると……お友達にレイさんを取られちゃいますよ?』

 

…………え?今なんて言った?

 

「………どゆこと?」

 

『やはりご存じありませんでしたか。お友達の目が細い方とあと、やたら地味な子ですよ』

 

地味な子って美々のこと!?

 

酷い言われよう!

 

目が細いって那奈亀かな?

 

『あのお二人のレイさんを見る目はどう見ても恋する乙女の目でした。それに、目の細い方はレイさんと話すとき、やたらスキンシップも多く、逆にレイさんに触られると顔をちょっと赤くして狼狽えてます。地味な方は絵に描いた様な初心っぷりでレイさんの言葉に慌てたり喜んだりと見ていて飽きませんね』

 

し、知らなかった!

 

まさかあの二人がレイの事を好きだなんて!

 

『その二人以外にもクラスの何人かはレイさんの事を狙ってるようですし、クラス以外でも他クラス、下級生、上級生からも人気が高く、噂だとファンクラブもあるそうですよ』

 

ふぁ、ファンクラブ!?

 

『成績優秀、スポーツ万能。そして、気が利き、優しい。おまけに顔もいい。これ以上にない優良物件ですからね。モテるのもうなずけます』

 

私の知らないレイの事がどんどん出て来る。

 

耐えきれず枕を頭にかぶり、倒れ込む。

 

『さてイリヤさんどうするんですかー?あ、でも「ただの幼馴染」ですもんねー。ただの幼馴染がどうこう言う問題では』

 

「ルビー!」

 

私はルビーを勢い良く握り締める。

 

「…………契約する前、確か言ってたよね………こ、恋の魔法がどうたらって…………」

 

『ええ。実際は魔法ではなく魔法薬……いわゆる惚れ薬の調合ができますが………やりますか?』

 

ルビーがにやりと笑った気がした。

 

「た、試しに一つ!」

 

誘惑には勝てなかった…………

 

「か、勘違いしないでよね!これはあくまでレイを魔の手から守る為の行為であって………」

 

『テンプレなセリフは置いといて、さっそく準備に取り掛かりましょう!私のオクスリならレイさんもイチコロでメロメロでガクガクですよー!』

 

その後、レイがどうなったかはまた別の話ということで…………………



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姉ポイント

「はっきりさせるべきだと思うの!」

 

朝食の時間。

 

イリヤが急にそんな事を言い出した。

 

「イリヤ、立場って?」

 

「それはもちろん…………」

 

言いながらイリヤは席の一角に目を移す。

 

「空也、食べさせて~」

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

そこにはイチャついてる空也とクロがいた。

 

「場所も時間もわきまえずイチャついてる奴等に関してです!」

 

ああ、なるほどね。

 

「クロも空也も家族になったのなら家庭のルールはもちろん、お互いの力関係も最初に取り決めて置くべきだと思うの」

 

「なるほど一理あるわね」

 

アイリさんは頷くと小さいホワイトボードを出す。

 

「取り敢えず、今の力関係はこんな感じね」

 

アイリ|神の壁|切嗣|親の壁|イリヤ|お嬢様の壁|零夜|幼馴染の壁|セラ&リズ|メイドの壁|士郎|

 

神の壁って何さ………

 

「流石ママ、悪びれもせず自分を神に!」

 

「てか、何気にお兄ちゃんの扱い酷くない?」

 

「大丈夫か、士郎」

 

「いいんだよ、俺はもう………」

 

士郎さん、ドンマイ…………

 

「で、もちろんクロと空也は一番下!」

 

そう言って士郎さんの下に|兄の壁|クロ&空也と書き足した。

 

「兄の壁って……随分下の所にあるんだな………」

 

「士郎、俺の目玉焼き食べる?」

 

「気持ちだけ受け取っとくよ」

 

空也から差し出された目玉焼きを士郎さんは泣きながらお礼を言い、返す。

 

「てことはイリヤはクロのお姉さんで、零夜は空也のお兄さん?」

 

リズさんがパンを食べながら言う。

 

「「…姉?」」「「…兄?」」

 

「姉、兄……そう、それは年長者にして権力者。弟妹が発生した瞬間その上に立つことが宿命付けられた上位種。特に姉は家庭内ヒエラルキーに置いて男親を超越した権力を有することすらあり、弟妹には生涯覆らない絶対的な命令権を持つ彼の者曰く………兄姉より優れた弟妹などいねぇ!」

 

アイリさんが何か熱く語ってくれた。

 

「姉………なんて新鮮な響きなのかしら!」

 

イリヤはなんか喜んでる。

 

「私ずっと妹だと思ってたけど、いつの間にか姉デビュー果たしてたのね!」

 

「勝手に姉の自覚持たないでくれる!姉の定義もなんか偏向が酷いし!」

 

ナイスツッコミだ、クロ。

 

「そう言えば以前一回だけ私の事「お姉ちゃん」って呼んでた!」

 

「貴女は皮肉ってものがわからないの!」

 

「一回呼んだからには責任取ってよね!私が姉です!決定!」

 

「そう言う子供っぽい所がふさわしくないわよ!」

 

イリヤとクロは白熱してるな。

 

で、俺と空也はと言うと…………

 

「俺らはどっちなんだ?」

 

「それ、今更気にすることか?」

 

「それもそうだな」

 

ぶっちゃけどっちが兄で弟かどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「どりゃあ――――――!!」」

 

「何事だ!?」

 

イリヤとクロは同時に、教室内へと滑り込み、そのまま龍子を跳ねた。

 

「くっ……同着か……」

 

「微妙に私の方が早くなかった!?」

 

「転身しておいて寝ぼけないで」

 

その光景を見ながら俺と空也は席に着く。

 

「零夜、空也。あの二人どうしたんだ?」

 

海斗が背中に美遊を乗っけながら聞いて来る。

 

「お前の方こそどうしたんだ?美遊を背負ったりなんかして」

 

「空也、聞くだけ無駄だ。イリヤとクロがどっちが姉なのかでもめてるんだよ」

 

「なるほどな」

 

そう言い、海斗は二人の方を見る。

 

まだ言い争ってる。

 

「てか、お前達はどっちが兄なのかとかでもめないのか?」

 

「まぁ、どっちでもいいかなって」

 

「むしろ同い年にあたるのに兄だとか弟だとかどうでもいいだろ」

 

「お前たちは平和だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生会?」

 

「そう。7月20日はイリヤの誕生会を海でやろうとおもってるんだけどさ。クロも来てくれないかなって」

 

休み時間、雀花がクロに海に行く話を持ちかけた。

 

「ふーん……なら、ちょうどいいわ。実は私もその日誕生日なの」

 

「うえええ!?」

 

「顔だけじゃなく誕生日も一緒なのかよ!」

 

「あんたら本当は双子じゃないのか!」

 

「ちょっと、どういうつもり!?」

 

イリヤがクロに小声で聞く。

 

「どういうも何も……貴女が誕生日なら私も誕生日でしょ?なんら不思議なことじゃないわ」

 

いわれてみればそうかもしれないな。

 

じゃあ、俺と空也も同じってことになるな

 

「イリヤの誕生日って7月20日なの?」

 

美遊が海斗に抱き付きながら言う。

 

「え?そうだけど?」

 

「……私も同じ日……誕生日……」

 

その言葉に全員が固まった。

 

海斗も驚いてる。

 

「三人が同じ誕生日ってどうなってんだ!?」

 

「前世で繋がりでもあるのかお前らー!?」

 

「おおお俺も同じ誕生日だぜ!」

 

「嘘つけ!」

 

「“乗るなら今だ”みたいな顔すんな!」

 

皆テンション上がりまくってるなー……………

 

「でも、それなら皆一緒にお祝いできるね」

 

「そうだな。まとめてやっちゃおうか……というわけで!誕生化にかこつけて親からお金貰って海で遊ぼうぜー!」

 

「少しは本音隠してくれないかな!」

 

まぁ、色々本音がダダ漏れだが、楽しそうで何よりだ。

 

そんな中、イリヤは一人納得いかないといった表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから暫く経ち、俺はトイレに行くために席を立った。

 

用を済ませ、トイレから出ると何故か廊下が騒がしかった。

 

何事かと思い、そっちの方に視線を向けると、そこにはイリヤがいた。

 

ただし、髪の毛が逆立ち色々派手な髪留めみたいなのが付けられ、いわゆる昇天ペガサス盛り状態になってる。

 

その光景に唖然としてると、そんなイリヤを階段の陰から見ている雀花たちに気付いた。

 

「お前達、イリヤに何を拭き込んだんだ?」

 

「あ、レイ。これはだな…………」

 

雀花の話曰く、イリヤはクロの姉らしくなりたいため、姉の振る舞いを皆に聞いた。

 

その結果、それをすべてやる事になり、あの状態だそうだ。

 

「事情は理解出来たが、あれは姉らしいのか?」

 

今のイリヤを見て俺は尋ねる。

 

「雑誌に載ってる髪型真似たんだから大丈夫だろ。できればガンプラも盛りたかったんだがな」

 

髪型の話だよな?

 

何故にガンプラ?

 

「おっと、早速前からクロが!」

 

「美遊と海斗、空也も一緒か!」

 

イリヤは四人に近づき、そして――――――

 

「や……やぁ」

 

声を掛けた。

 

すると美遊は驚きのあまり口を開け、海斗は呆然とし、クロは考えるのを止めた様な顔をし、空也は無言でイリヤの頭を見ていた。

 

「今だ!」

 

「かましたれイリヤ!」

 

「べ……別に貴女のことなんてなんとも思ってないんだからねっ!」

 

なんでツンデレ?

 

てか、行き成りそう言われても困るだろ。

 

「テンプレだが威力十分だ!」

 

「休む暇を与えるな!」

 

「畳みかけろ!」

 

今度はジュースの缶を投げ、イリヤはそれをキャッチする。

 

そして、力を込め始める。

 

「きばれイリヤ!」

 

「できる……お前ならきっとできる!」

 

すると、缶がひしゃげ出し、とうとう飲み口が開き中身が飛び出る。

 

「「「いよっしゃあああああああ―――――!!」」」

 

「そして、クロの反応は!?」

 

ジュースまみれになったクロ、そして巻き添えを食らいジュースまみれになった海斗と美遊、空也は固まり、そしてクロが口を開く。

 

「病院行けば?」

 

「「「「パ―――――――フェクツ!!!」」」」

 

そうだな………完全敗北って意味ではパーフェクトだな………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、イリヤは机にうつ伏せになり、酷く落ち込んでいた。

 

「すまんイリヤ……どこかで何かを間違えた……」

 

「何かじゃなくて全部だよね。全部間違えてたよね」

 

「てか、途中からおかしいと思えよ」

 

落ち込むイリヤに俺はそう言う。

 

「イリヤ、きっと疲れてるんだと思う。保健室で診てもらった方が……」

 

「疲れに効くハーブティーあるんだがいるか?」

 

「お願いだから今は優しくしないで………」

 

美遊と海斗のやさしさにイリヤは余計に心が傷つく。

 

「先帰るわよ」

 

「じゃあな」

 

クロと空也はそう言い、先に帰ってしまった。

 

「ううう……姉の威厳どころか人としてのランクが下がった気がするわ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……それであんな行動とってたんだ」

 

帰り道、イリヤは今日の一連の出来事を美遊と海斗に話した。

 

「全部裏目だったけどね…ノリで行動すると痛い目見るわ……」

 

「でも、確かにクロには早めに釘を刺すと言うか……鎖を付けとく必要があるかもしれない……」

 

「え?どういうこと?」

 

「クロは精神的にかなり不安定な上に破壊行動で物事を解決する傾向が強い。その性質がすぐに変わるとは思えない………」

 

「ま、考えすぎかもしれないが、油断はしない方がいいだろう」

 

そう言い、海斗と美遊は家の中へ入っていく。

 

「ちょっと前までクロが何考えているかわかんないって思ってたけど、美遊も同じぐらいわからないよね………」

 

「分かったらエスパーだろ」

 

『思ってること全てペラペラと話してしまう自白剤的なものなら私作れますけど』

 

「物騒なのは止めてよねホント……」

 

自白剤が作れる魔法のステッキってどうなんだ?

 

家に入るとクロと空也は居間で高いプリンを食べていた。

 

「おかえり」

 

「ああ、プリン!しかも高い奴!二人だけずるい!」

 

「うるさいなぁ。二人の分もあるわよ」

 

「え?………これクロが買ったんだよね?」

 

イリヤがプリンを手に尋ねる。

 

「どうして、私たちの分まで?」

 

「そこまで意外そうな顔されるのも不本意だわ。……一応、これでも感謝してるのよ」

 

クロもクロなりに色々考えているんだな。

 

プリンはクロからのお礼みたいな感じか。

 

「それに魔力供給も必要だし……」

 

「へ?」

 

「だから!私が在る為には魔力が必要なの!魔力は何もしなくても少しずつ消費されていくの!いつかは空になっちゃうの!」

 

「つ、つまり?」

 

「……魔力供給……よろしくってこと……………とにかく!プリン食べたんだから応じなさいよね!」

 

「あっ!これはそういう取引!?汚い!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人をよそに、俺はプリンを食べる。

 

うん、うまい。

 

「あれ?これって………姉的行動じゃない!」

 

するとイリヤが急にそう言い出す。

 

「卑劣!こっそり姉ポイント稼いじゃって!」

 

「はぁ!?何言ってるの!?そんなポイント制度知らないし!」

 

「姉の座は譲らないんだから!」

 

「………なぁ、空也。どっちを姉と見なせばいいんだ?」

 

「それはアイツらが決めることだろ」

 

…………それもそうだな。

 

そう思い、俺は二人を無視して残りのプリンを食べ出した。



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料理は愛情、食べるのも愛情

ある日の朝、目が覚めた俺は、俺の部屋で布団を敷き寝ている空也を起こし、そして、部屋の前で合流したイリヤとクロと一緒に一階に降りると丁度士郎さんが台所に立っていた。

 

「士郎さんが朝ご飯作ってるんですか?」

 

「ああ。もうすぐ出来るから座って待ってな」

 

「作ると言えば、今日は家庭科で調理実習があったな」

 

「そう言えばそうだったな。確かパウンドケーキだった?」

 

空也が思い出したように言い、俺も続く。

 

「へぇ、お菓子の調理実習か。いいな」

 

士郎さんは料理をしながら言う。

 

「あ!じゃあ、空也の為に美味しく作るから、空也は楽しみにしててね!」

 

「ああ、楽しみにしとく」

 

そう言い、クロと空也は二人の指定席に座る。

 

「ねぇ、レイ」

 

すると俺の隣に座ったイリヤが俺の服の袖を引っ張ってくる。

 

「レイもさ、私がパウンドケーキ作って渡したら、食べてくれる?」

 

「そりゃ、もらったら食うさ。俺の為に作ってくれるって言うなら尚更な」

 

「べ、別にレイの為とか言ってないもん!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調理実習は給食の後に行われた。

 

ちなみに班分けで俺は海斗と、空也。

 

そして、田中と言う男子生徒と一緒だったのだが、その田中君は熱を出し今日はおやすみなので、三人しかいない。

 

「俺達三人か」

 

「ちなみに、空也と海斗の料理経験は?」

 

「ルヴィアさんのおやつ作ってるからそれなりに得意だぞ」

 

「少しだけ士郎から手解きを受けたから多少は」

 

俺も、士郎さんの手伝いとかしてるし、そこそこ自信はあるから、俺達の班は問題無く終わりそうだ。

 

そして、イリヤ達はと言うと

 

「おかしくない!?戦力の偏りが酷いような気が!」

 

イリヤの班は、メンバーが雀花と那奈亀、そして龍子の四人。

 

クロはと言うと、美遊と美々の三人。

 

美遊もルヴィアさんのおやつを作ったりしてるらしいし、腕はいいんだろう。

 

美々も前に、一度手作りのケーキを貰ったことあるが、中々にうまかったから料理は得意なんだろう。

 

恐らくクロの班は問題無いだろう。

 

だが、イリヤの班は酷い。

 

雀花は図工以外オール2の成績で、那奈亀に至っては昔、アイツの手作りクッキーを貰ったが、酷い物だったのを憶えてる。

 

そして、龍子は戦力外、いや、むしろマイナスな人材かもしれない。

 

イリヤの所、詰んでるんじゃね?

 

「はーい。それじゃ各自調理開始」

 

藤原先生の合図を各自が調理を始める。

 

……………俺達も始めるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

「しょうがない……戦力に差はあるけどやるしかないわ」

 

戦力になる美遊と美々をクロに奪われたけど、やるしかない。

 

「なんか知らんがイリヤの気持ちはなんとなくわかった」

 

「まーウチらに任せときなよ」

 

雀花と那奈亀が頼もしく見えた。

 

「……所で皆は料理に自信あるの?」

 

「レイに手作りのクッキーやったら、泡拭いて倒れるぐらいには出来る」

 

「それってダメじゃん!てか、レイにクッキーって何時の間に!?」

 

「図工以外オール2だが何か!」

 

「その見た目で!?後、威張って言えることじゃないよ!」

 

「早くハンバーグ作ろうぜ!」

 

「もうやだこの班―っ!!」

 

ダメだ。

 

全然戦力になれる人材がいない。

 

那奈亀に至ってはいつの間にかレイにクッキーとか渡してるし………あれ?てことは、美々もレイに何か渡してる?

 

もしかして、私出遅れてるんじゃない?

 

って、今はそれ処じゃない!

 

なんとかして、パウンドケーキを完成させないと!

 

「そう心配するなって。お菓子作りは分量が命って言う。逆を言えばレシピ通りにやれば誰でも作れるってことだろ?」

 

「そ……そうだよね落ち着いてやれば大丈夫……」

 

「よし、分量ぴったり!んで、これを振るうっと」

 

雀花は粉を網で振るい、ボールに移す。

 

そして、数秒後

 

「なぁ……この手順省略してよくね?」

 

「さっきレシピ通りにやるっていったよね!?」

 

イラついている雀花を宥め、次の工程に進む。

 

「えーとバターを混ぜて、バターがクリーム状になったら砂糖を投入っと」

 

クリーム状になったバターに砂糖を入れてると、龍子が横から何かを入れ出した。

 

「……………………龍子がなんか入れた―――――!!」

 

「お前何してんだコラー!!」

 

龍子に雀花と那奈亀がアッパーをぶつける。

 

「何入れた!何を入れたんだ!」

 

「な、ナツメグ……」

 

「ナツメグ!?」

 

「ハンバーグには……入れるだろ……」

 

「しまった!こいつまだハンバーグを作るつもりでいやがった!」

 

「ナツメグとか余計な知識だけはありやがる!」

 

その後、龍子はもう余計な手出しが出来ないように、ラップで巻かれた。

 

「しかし、いきなりなんてこった」

 

「これどうするよイリヤ」

 

「ナツメグって肉料理に使う香辛料だろ?絶対まずいぞ」

 

「ううううう………」

 

「もうバターの予備はないって言われたし……………」

 

どうしよう………もう絶望しかない………

 

「あはははは!無様ねイリヤ!」

 

「こ、この声は………クロ!」

 

振り向くとクロが太陽の逆光を浴びながら椅子の上でポーズを取っていた。

 

「パウンドケーキにナツメグ?貴女らしい滑稽な味になりそうで、よかったじゃない」

 

「う……ううう……そ、そっちはどうなのよ!?」

 

「どうって………こんな感じですけど?」

 

そこには美遊が巨大なケーキにクリームで模様を付けていた。

 

「ウエディングケーキ!?」

 

「材料が余ってたからつい……」

 

「あれは余りじゃなく予備よ!勝手にこんなことしちゃってー!」

 

美遊が先生に肩を掴まれ怒られてるけど、美遊はいつも通りスルーしていた。

 

「ちなみにパウンドケーキは美々が製作済み。地味だけどそつのない仕事をする良い子ね」

 

「クロ何もしてないじゃん!人に任せっきりでずるい!」

 

「人を使うのも能力の内だわ。それじゃ、頑張ってねー」

 

ず、ズル過ぎる…………

 

「イリヤ、残念だけど諦めよう。タネがこんなだし、予備も無いんじゃどうしようも」

 

「待て、雀花。白旗を上げるのはまだ早い。イリヤは………まだ諦めてない!」

 

那奈亀の言う通りだ。

 

私は…………まだ諦めてない!

 

そして、私は二人の前にココアパウダーを見せる。

 

「棚にあったわ。ナツメグが入ったのは確かに大きな痛手。どんなに悔やんでもそれは消せない。料理に引き算は無い。でも………味を足すことなら出来る!」

 

ココアパウダーを掬い、ナツメグ入りのタネに加える。

 

「強力なココアの風味でナツメグの風味を覆い隠そうってわけか!」

 

「しかし、可能なのか!?言ったはずだぞ!お菓子作りは分量が命!目分量でのアレンジだなんて」

 

「違うわ。分量が命?違う。もっと大切なことがあるでしょ」

 

雀花の言葉を私は否定し、そして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理は愛情……でしょ?」

 

「「イ…………イリヤアアアアアアアア!!」」

 

雀花と那奈亀は涙を流し、納得してくれた。

 

それから私たちは

 

「シナモンあったぞ!イリヤ!」

 

「いいね!入れよう!」

 

思いつく限りの

 

「ハチミツあったぞイリヤ!」

 

「ナイス、那奈亀!」

 

スパイスをタネに投入した。

 

「生地完成!」

 

「どうにかそれっぽくなったわね」

 

「そろそろオーブンに入れないと間に合わないわよー」

 

先生の声が私たちを急かす。

 

「急げ急げ!」

 

「後は、ドライフルーツを入れて……よし!いざオーブンへ!」

 

生地をオーブンへと入れようとした瞬間、ラップにぐるぐる巻きになってる龍子が動き出し、生地に何かを入れた。

 

「タツコがまたなんか入れたー!!?」

 

「「お前えええええ!!?」」

 

龍子はまた二人から攻撃を食らった。

 

「今何入れた!?今度は何入れた!?」

 

「ふ……フリ○ク……」

 

「フリ○ク!!?」

 

「ミントの風味を……足そうかと………」

 

「また余計な知恵を!?」

 

「こいつの知恵は悲劇しか生まんのか!?」

 

ど、どうしよう!?

 

これは本当にヤバイ!

 

「イリヤちゃん!時間!」

 

「うあああああん!もうこのまま出すしかないー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリヤ………ケーキくれるんじゃなかったのか?」

 

「いや、その…………」

 

ケーキは完成した。

 

あのトラブルがあった割には意外と食べれる味にはなった。

 

当たりさえ引かなければ………………

 

うう……流石にランドセルの中のこれをレイに渡せない。

 

「あ、これか?」

 

「なんで人のランドセル開けてるの!?」

 

「もらうぞ」

 

「あ、ダメ!」

 

止めようと手を伸ばすが、その前にレイはあのフリスク入りのパウンドケーキを食べる。

 

「………うっ!」

 

フリスクに当たった!?

 

「食べなくていいよ!吐いちゃっていいから!」

 

「………嫌だ。イリヤが作ってくれたんだ。食べなきゃ勿体ない。それに……お前だって、俺が昔作って失敗した卵焼き食べてくれただろ」

 

「え?卵焼き?」

 

あ、思い出した。

 

確か小学校一年生位の時、レイが卵焼きをセラと一緒に作ったんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ごめん、セラさん。卵焼き、失敗しちゃった』

 

『最初はそんなものですよ。今回は焼く時間が長すぎただけですから、次から気を付ければ』

 

『もういいよ。卵も勿体ないし、もうやらない。これ捨てるね』

 

そう言ってレイが捨てようとした卵焼きを横から私が取って食べたっけ。

 

『うへ~……苦くて不味い』

 

『うっ………これは失敗した奴だから食べるな。もう捨てるし』

 

それでも、私はもう一個を手に取って食べた。

 

『……捨てちゃダメだよ』

 

『え?』

 

『レイが頑張って作ったんだもん。だから食べる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えてないかもしれないけど、あの時、俺凄い嬉しかったんだぜ。料理は愛情って言うけど、それは作り手だけじゃなくて食べる側にもいえることなんだよ。イリヤが一生懸命作ったってのは伝わったし、それに、お前が頑張ってるのちゃんと見てたからな。だから、食べるんだよ」

 

そう言ってレイは最後のケーキを食べる。

 

「ご馳走様。不味かった」

 

「うっ!」

 

ここまで来たなら嘘でも美味しかったって言ってよ…………

 

「でも、うまかったぞ」

 

そう言ってレイは笑った。

 

「……ふふ、なにそれ?」

 

釣られて私も笑った。

 

「イリヤ。俺と海斗、空也で作ったケーキ喰おうぜ」

 

「うん。いいよ」

 

レイがリュックから出したパウンドケーキを、一緒に食べた。

 

かなり美味しかった。

 

もしかして、私、レイより料理できない女なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~他の二組~

 

クロ&空也

 

「空也!はい、パウンドケーキ!」

 

「ああ。もらうな」

 

「ねぇ、どう?」

 

「まぁ、うまいぞ。でも、これ美々が一人で作ったんだよな?」

 

「うっ……それはそうだけど………でも、料理なんて誰が作ったって同じでしょ?」

 

「そうかもしれないけど、俺はクロが作ったのが食べたかった」

 

そう言って空也はクロを抱き寄せる。

 

「今度はクロが作ったの食べさせてくれるか?」

 

耳元で囁くように言う。

 

「もう……しょうがないわね。次は私が作ったの食べさせてあげるわよ」

 

クロは頬を赤くし、そう言う。

 

「でも取り敢えず、もうしばらくこのままね!」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~美遊&海斗~

 

「美遊、これどうするんだ?」

 

「………どうしよう?」

 

海斗と美遊は目の前にあるウエディングケーキを眺めながら言う。

 

なんとか学校から家までオーギュストさんが運転する車を使い、運び込んだはいいが、どうすればいいか思いつかない。

 

「小分けして冷蔵庫で保存かな」

 

そう言って海斗がケーキを着る様の包丁を取り出す。

 

すると、その手を美遊が掴む。

 

「美遊?」

 

「その…………一緒に切らない?」

 

「ん?別にいいぞ?」

 

包丁を握ってる海斗の手に重ねるように美遊も手を重ねる。

 

その時の美遊はとても嬉しそうだったと海斗は思った。

 



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封印指定執行者

「――――Anfang(セット)

 

Beantworten(管理者) Sie() Forderung(名に) des(置いて) Abgeordneten(要請する)

 

Boden() :zur(から) Stromung()

 

Stromun():zun(から) Blut()

 

Blut() : zum(から)Pergament(皮に)――― 」

 

Abscgrift(転写)

 

凛は現在、大空洞内で行った地脈の正常化の経過観察を行っていた。

 

宝石を羊皮紙落とし、地脈の流れを写す。

 

「これって………嘘でしょ!まさか………終わってなかったって言うの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わった後、美遊はルヴィアさんに頼まれごとをされたからと言って何処かへと行ってしまった。

 

そのため、今は俺一人でルヴィアさんのお世話をしている。

 

「美遊……遅いですわね」

 

ルヴィアさんに紅茶を淹れてると、ルヴィアさんがそう言う。

 

「ルヴィアさん、美遊に一体何を頼んだんですか?」

 

「コンビニの水羊羹を買いに行くように頼んだだけですわ」

 

み、水羊羹って……………

 

そう言えば水羊羹って作ったことないな。

 

今度作ってみよう。

 

そう思った時、屋敷内に鐘の様な音が鳴り響く。

 

これは侵入者の警告音!

 

誰かが侵入してきた!

 

「ルヴィアさん、様子を見てきます」

 

そう言い残し、俺は玄関へと向かう。

 

向かうとそこにはオーギュストさんが一人の女性と対峙していた。

 

「オーギュストさん!」

 

「海斗殿、下がって下され。この者、只者ではございませぬ」

 

そう言われ、俺は女性を見る。

 

その顔は知っている顔だった。

 

「な、なんでコイツがここに………!」

 

バゼット・フラガ・マクレミッツ。

 

協会一線級の戦闘屋、封印指定執行者だ。

 

「海斗・F・ディオール。時計塔預りの魔術師ですね」

 

バゼットが俺を睨みつけるように見て来る。

 

「それで、お客様。本日はどのようなご用件で?」

 

「主を出しなさい」

 

「アポイントメントはおありですかな?」

 

「まぁ、いいです。出さなくとも自分で探し出します。怪我をしたくなかったら退きなさい」

 

そう言い、バゼットは持っていた筒を落とし、構える。

 

すると俺の背後からガンドが飛び、バゼットに向かう。

 

バゼットはガンドを軽々と手で弾く。

 

「随分と礼儀知らずな来客ですこと」

 

ルヴィアさんが階段を降りながら言う。

 

「貴女は…………何が目的ですの?」

 

「ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。貴女と私の接点は一つしかない。ならば答えは決まっているはず」

 

「………さぁ?なんのことでしたかしら?」

 

「では、思い出させてあげましょう」

 

そう言うとバゼットは床を砕き突進してくる。

 

「やれるものなら!」

 

ルヴィアさんは宝石を取り出しそれに応えようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バゼットの戦い方は、正直言ってデタラメだった。

 

力任せと言った具合に物を破壊し、人間が片手で持つには不可能なものを軽々と持ち上げ投げ飛ばす。

 

ルヴィアさんは宝石魔術を使いながらバゼットに的確に攻撃を当てる。

 

だが、バゼットはそれを物ともせず突っ込んでくる。

 

「ディフェンス!」

 

障壁を張り、バゼットの拳を止めるがバゼットはその障壁も力任せに破壊する。

 

「ぬんっ!」

 

障壁を破壊した瞬間、オーギュストさんが回し蹴りを放つも、それを躱し、裏拳を当てる。

 

「オーギュスト!」

 

「問題ありませぬ」

 

「抵抗は無意味です。貴女方では相手にならない。大人しくカードを渡しなさい。これ以上怪我はしたくないでしょう」

 

「ずいぶん無作法です事。自分からプレゼントを要求するなんてレディのすることではありませんわ」

 

「生憎そう言った教育は受けていません。私には不要な物なので」

 

そう言い、ソファーを軽々と持ち上げ、後ろへ放り投げる。

 

「お嬢様、危険対処レベルを上げても構いませぬか?」

 

「許可しますわ」

 

「では!」

 

オーギュストさんへ服から二丁のサブマシンガンを取り出し、バゼットに発砲する。

 

バゼットは弾丸を躱しながら二階へと移動する。

 

「無粋な!」

 

二階を移動するバゼットに銃口を合わせたまま、発砲し続けてると弾が無くなり、オーギュストさんは銃を捨てる。

 

それをチャンスと見たのか、バゼットは二階から飛び降り、オーギュストさんに接近する。

 

「させるか!チェイン」

 

チェインリングから鎖を出し、天井にあるシャンデリアを落とし、明りを消す。

 

バゼットは邪魔と判断したのか、落ちて来るシャンデリアを殴り飛ばす。

 

跳んできたシャンデリアを転がるように躱し、鎖を振るう。

 

生き物のように動く鎖をバゼットは全て捌き、防御する。

 

オーギュストさんが階段の柱を壊し、中から銃を出して再び発砲する。

 

だが、発砲する前にバゼットは飛び上がり、拳をオーギュストさんの頭上から落す。

 

オーギュストさんも飛んで躱し、二階の階段上に上がる。

 

手すりを滑るように降りながら発砲をする。

 

銃を撃ちながらバゼットを壁際に追い詰めると、バゼットは床を引きはがして壁にする。

 

そこから一歩も動けなようにとオーギュストさんは発砲し続ける。

 

俺は鎖を飛ばし、壁ごとバゼットを縛り上げる。

 

そして、ルヴィアさんが壁に向かって宝石を投げ、爆発させる。

 

俺は鎖を回収して、壁の方を見る。

 

流石に今ので無傷とは行かないはずだ。

 

すると、壁が倒れ、そこから無傷のバゼットが現れた。

 

おいおい、冗談だろ……………

 

「オーギュスト、海斗。あそこまで引き上げますわよ」

 

「はっ!」

 

ルヴィアさんとオーギュストさんが退却しようとする中、俺はバゼットの方を向く。

 

「二人はあそこへ向かってください。こいつは俺が防ぎます」

 

「海斗!何バカなことを!こいつは、貴方一人で叶うような相手ではありませんわ!」

 

「それでも、誰かが残って食い止めないと追いつかれます」

 

「なら、私が残りましょう!」

 

「オーギュストさんはこの屋敷の事、俺以上に熟知してるでしょ。なんかあった時はオーギュストさんがいないとダメです。……………大丈夫ですよ、適当に時間を稼いだら俺もすぐに逃げます」

 

「…………死んだりしたら承知しませんわよ。オーギュスト!」

 

「はっ!…………海斗殿、ご武運を」

 

そう二人は言い残し、屋敷の地下へと通じる通路へと走る。

 

「貴方の様な子供が一人で殿とは………エーデルフェルトも落ちた物ですね」

 

「勘違いしないで下さいよ。これはルヴィアさんの命令じゃない。俺の意志だ。倒せなくても、暫くの時間稼ぎなら出来る。それに……………一人じゃない」

 

その瞬間、バゼットの背後に黒いコートを羽織ったアイツが魔力で作った剣でバゼットに斬り掛かる。

 

バゼットはそれを寸前で躱し、拳を振るう。

 

「ディフェンス!」

 

その拳を防ぐと、ソイツは飛ぶように俺の隣に立つ。

 

「海斗、これはどういうことだ?」

 

零夜が剣を構えながら尋ねて来る。

 

「見ての通りだ。侵入者の封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツだ」

 

「封印指定執行者?」

 

「その説明するには封印指定の話もしないといけないんだが、それはまた今度だ。簡単に言うと、魔術協会が異端とみなした魔術師を財産や研究成果事この世から抹殺する執行人だよ」

 

「そいつは恐ろしいな」

 

「………ディオールと同じ指輪魔術。未所属の魔術師ですか?」

 

「……さぁな。例えそうでもアンタに教える義理はない」

 

「………構いません。二人まとめて、潰せばいいだけです」

 

「随分と脳筋な発想だな。執行者ってのは皆こうなのか?」

 

零夜は剣を握りしめ、言う。

 

「さぁな。執行者なんて俺もお目にかかったこと無いし知らん」

 

「取り敢えず、俺達がやることは時間稼ぎってことでいいのか?」

 

「ま、そんなところだ」

 

そう言い、俺たちはスタイルチェンジリングを嵌める。

 

「スタイルチェンジ!アクア!」

 

「スタイルチェンジ!フレイム!」

 

アクアスタイルとフレイムスタイルに転身し、水の槍と炎の剣を手にする。

 

「「行くぞ!」」

 



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貫かれる心臓

コンビニに買い物をした帰り、何故か妙な胸騒ぎを感じてルヴィアさん宅に行くと、何故か屋敷が崩壊しかけてた。

 

買った物を門の近くに置いて、屋敷に近づくと海斗たちがいて一人の女性と対峙していた。

 

話しの内容から女性はクラスカードが目当てらしく、大人しく渡せと言い出した。

 

海斗が時間を稼ぐ間、ルヴィアさんとオーギュストさんが何処かへと向かうのを確認し、俺も転身して、海斗に加勢した。

 

俺は炎の剣を手に女性に切り掛かるも、女性は全てを手刀で受け流し、俺の腹に蹴りを入れて来る。

 

その隙に、海斗が背後から水の槍で襲い掛かるも、まるで背後が見えてるかのように回し蹴りをし、海斗を蹴り飛ばす。

 

「おい、海斗。この人、デタラメに強いぞ。本当に人間か?」

 

「多分、人間だと思うが………」

 

そう言われても、片手ででっかいソファー持ち上げたり、シャンデリアを素手で殴り飛ばしたりする人間がこの世に居るのか?

 

「………おかしいですね」

 

すると女性が急にそんな事を言い出した。

 

「エーデルフェルトがここを離れて約十分ほど時間が経ちます。なのに、一向に戻って来る気配はない。しかし、逃げ出した気配もない。子供に危険な事を任せ、自分は閉じ籠る。なんとも、卑劣な魔術師だ」

 

女性がそう言った瞬間、海斗から強烈な怒気と殺気を感じた。

 

「………訂正しろ。ルヴィアさんは、この地で住む場所が無かった俺に住む場所を与えてくれて、学校にまで通わせてくれた。そんな人を……………卑劣なんて呼ぶな!」

 

そう言い海斗は懐から一枚のカードを取り出した。

 

それはセイバーのクラスカードだ。

 

「海斗……!」

 

「お前は………ここで倒す!」

 

そして、スタイルチェンジリングにセイバーのカードを重ねる。

 

「クラスカード“セイバー”!夢幻召喚(インストール)!」

 

そう叫び、海斗はセイバーの英霊を自身に憑依させる。

 

エクスカリバ―を握りしめ、そのまま女性に斬り掛かる。

 

女性は海斗の攻撃をバク転して躱し、後ろに下がる。

 

「今の俺は力、速さ、反射、その全てはアンタより上だ。これは警告だ。クラスカードは諦めろ。アレは、俺たちが命を懸けた集めたカードだ。カードを諦めて、退け。でないと、俺はあんたを殺してでも止める」

 

海斗の言葉は本気だった。

 

海斗は脅しのつもりなのか、剣に魔力を送り、宝具を使おうとした。

 

「…………そんな脅し通じるとでも?」

 

「俺は………本気だ」

 

宝具が黄金に輝く光を纏う。

 

約束された(エクス)………勝利の剣(カリバー)!」

 

海斗か宝具の名前を叫んだ瞬間、転がっていた筒から何かが飛び出し、それが女性の拳にぶつかる。

 

それは鉄球だった。

 

鉄球は拳の上で浮き帯電していた。

 

あれは………?

 

そうしてる間にも黄金の光は女性に襲い掛かる。

 

その瞬間、俺は勝ったと確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、次の瞬間、海斗の攻撃は消え、海斗は心臓を貫かれていた。




Q.なんで海斗はバゼットの事は知ってたのに、フラガラックの事を知らなかったのか?

A.海斗は魔術師でもまだ半人前でバゼットが封印指定執行者であることは知っていたが、バゼットがフラガラックを使うことまでは知らなかったからです。


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命を懸けたカード

「がはっ!」

 

床に叩き付けらるように拳を喰らう。

 

ただの拳でありながら重たく、体の奥まで響く様な一撃だった。

 

それをモロに喰らい、俺は倒れる。

 

転身が解け、普段の私服に戻る。

 

「少々時間を食いましたが、誤差の範囲内ですね」

 

そう言い、女性はルヴィアさん達が向かった地下へ続く階段を降りて行く。

 

「………くそっ………!」

 

這いずるように動き、海斗の元へと移動する。

 

海斗の胸には小石程度の小さな穴が空き、そこから血が溢れていた。

 

「おい……海斗………何死んだふりしてるんだよ……起きろよ………」

 

呼び掛けるが海斗は反応せず、ただ黙って床に倒れていた。

 

「くそっ………美遊に………なんて言えばいいんだよ………!」

 

そう言い、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零夜君、しっかりしなさい!」

 

聞覚えのある声に目を開ける。

 

そこには凛さんが俺を見ていた。

 

近くにはオーギュストさんと怪我をしてボロボロのルヴィアさんもいた。

 

「凛さん………あの女性は?」

 

「悪いわね。ルヴィアの持ってたカードは奪われたわ」

 

「ここは屋敷の地下にある緊急避難通路です。屋敷の倒壊直前になんとか逃げ込みました」

 

オーギュストさんの話を聞き、自分が生きてる理由を知る。

 

「………そうだ!凛さん!海斗は?海斗は何処に!」

 

「………残念だけど、海斗は……もう………」

 

壁の方を見ると布を被せられた何かがあった。

 

布から出ている手には指輪が嵌められていた。

 

「……………あの女はまだいるんですか?」

 

「ええ。上でまだ戦闘音が聞こえるわ。恐らく、イリヤ達が戦ってるんだわ」

 

イリヤが………!

 

俺は転身し、テレポートリングを指に嵌め、立ち上がる。

 

「零夜君!何を……!」

 

「凛さん、無茶だって分かってます。でも、幼馴染が戦っているのに俺が戦わないのは嫌なんです。それに、親友の仇を討てないまま下がれないんですよ」

 

そう言い、俺はテレポートする。

 

地上にテレポートすると、クロと空也の二人がボロボロの状態でバゼット相手に戦っていた。

 

「カードを拾ってイリヤ!」

 

「一枚もこいつには渡すな!」

 

クロたちが声を掛けた方を見ると、イリヤが地面に倒れながらも這いずりながら地面に落ちたカードを拾おうとしていた。

 

急いで向かおうとしたが痛みで体が思うように動けなかった。

 

転身して体が強化してるのにも関わらずこれだけのダメージが…………!

 

覚束ない足取りでイリヤへと近づく。

 

イリヤが一枚のクラスカードに手を伸ばし掴んだ瞬間、その手が踏まれる。

 

バゼットはクロと空也の二人を戦闘不能に追い込み、イリヤより早くカードを回収していた。

 

「くっ………イリヤを!離せ!」

 

無理矢理体を動かし、魔力の剣を出し、バゼットに斬り掛かる。

 

だが、バゼットは大きく動かずに、剣を受け止め俺を再び地面に叩き付けた。

 

「がはっ!」

 

「レイ!」

 

「あの倒壊の中で生きていたとは驚きです。子供と思っていましたが、少々侮っていました。ですが、もう終わりです。……カードから手を離しなさい」

 

「………やだ!」

 

イリヤは手を踏まれながらもカードを渡しはしないと拒む。

 

「手加減をしてあげているのがまだ理解できなせんか。その気になれば手首ごとカードを奪うことだってできます。………意地を張るなら骨を踏み砕きましょうか」

 

「……………ごめん、なさい」

 

イリヤは涙声で謝った。

 

「………渡す気に「ごめん……ごめんね、クロ、空也」

 

「折角二人が時間を作ってくれたのに、カードを奪い返せなかった……けど、一枚だけ……この一枚だけは………絶対に渡さないから!」

 

その言葉に、俺もゆっくりではあるが手を伸ばしバゼットの足首を掴む。

 

「奪えるもんなら奪ってみろ。何があっても………俺はこの手を…………離さないからな!」

 

「…………いいでしょう。ならば………覚悟を決めなさい!」

 

バゼットが拳を振り上げ、俺の頭を狙ってくる。

 

俺は目を閉じ、バゼットの足首をありったけの力で握る。

 

例え死んでも、この手だけは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、バゼットの足が動き、勢いよく横に飛び退いた。

 

目を開けると、そこには魔法少女に転身した美遊がいた。

 

「イリヤ、零夜」

 

「………負けちゃった。私もクロも空也も、レイも多分ルヴィアさん達も………けど…………」

 

イリヤは手にしたクラスカードを美遊に差し出す。

 

「……うん。大丈夫。後は私に任せて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆は、私が守る!」

 

美遊はそう言い、イリヤから渡されたカードを夢幻召喚(インストール)した。

 



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斬り抉る戦神の剣

流星の様な眩い燐光を放ち、大地を抉るような暴風がバゼットを襲う。

 

バゼットはそれを両手でガードするもガードしきれず、吹き飛ばされる。

 

「桁違いの突進力……そうか、それがクラスカード“ライダー”の真の力……!」

 

バゼットは上空に居るライダーの英霊を憑依させ、天馬に跨る美遊を見つめそう言う。

 

『ライダーの英霊。その真価は幻獣の召喚と騎乗だったようですね』

 

ルビーはその光景を見てそう言う。

 

『いやはや、イリヤさんとレイさんの初戦の相手がまさかこんな隠し玉をもっていたとは。あの時使われてたら危なかったですね』

 

「どういうこと!?ルビーは何か知ってるの!?」

 

イリヤはルビーを掴み、今の美遊の状況を尋ねる。

 

『知りませんよ。いえ、むしろイリヤさんの方が詳しいのでは?礼装に英霊の武具を宿すのではなく自身に力を宿し英霊と化す。過去にイリヤさんが二度行ったことです』

 

「………わかんないよ。だって、あれはクロがやったんだもん」

 

俺たちがこうしてる間も美遊はライダーの力を使いバゼットを追い詰めて行く。

 

「仮説はありました」

 

バゼットは破れた上着を脱ぎ、話す。

 

「礼装を媒介として英霊の力の一端を召喚できるなら、人間自身を媒介にできるのではないかと。しかし、カードに施された魔術構造は極めて特殊で複雑。協会は未だ解析に至っていない。それをいとも容易く……………」

 

「………一つだけ答えて」

 

美遊は上空からバゼットを見下ろすように尋ねる。

 

「ルヴィアさん達の姿が見えない。……何処へ行ったの?」

 

その質問にバゼットはすぐには答えなかった。

 

「答えて!」

 

「………そこの瓦礫の下です。最も、そこの少年が生きていたとなれば彼女たちも生きている可能性はあるでしょう。ディオールを除いて」

 

「………どういうこと?」

 

「一つだけなのでは?」

 

「いいから答えて!」

 

「……………私が殺しました」

 

その言葉にイリヤもクロも、空也もショックを受け、美遊はショックを受け、怒気、そして殺意をバゼットに向ける。

 

「なら………手加減は――――」

 

目を覆っている目隠しを外しながら美遊はバゼットを睨みつける。

 

「しない!」

 

美遊に睨みつけられたバゼットは驚き、足を止める。

 

いや、足止めを食らっているんだ。

 

美遊は持っていた鎖の付いた杭は光の手綱となり、天馬に掛ける。

 

『天馬の力が倍化しました!』

 

「光の手綱……!あれがライダーの……」

 

あの鎖の付いた杭がライダーの宝具じゃなくて、光の手綱こそがライダーの真の宝具だったのか。

 

騎英の(ベルレ)…………手綱(フォーン)!!!」

 

上空から一気に急降下し突進する。

 

あの力なら確実にバゼットを倒せる。

 

誰もがそう思った。

 

「この時を待っていた」

 

すると、また筒から鉄球が現れ、バゼットの拳の上で浮き、帯電する。

 

後より出でて先に断つもの(アンサラ―)……………………斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!」

 

あの時と同じだった。

 

海斗がエクスカリバ―を発動した瞬間、鉄球から光の刀身が現れ、フラガラックの名とバゼットの拳の動きと共に刀身から光弾が高速でレーザーのごとく放たれ、攻撃が消えるのと同時に、海斗はアレに貫かれた。

 

同じようにその攻撃は天馬を貫き、そして、美遊が行った攻撃は消えた。

 

暴風の様な突進も、眩い燐光も、攻撃の事実そのものが消された。

 

バゼットは天馬が消え、無防備となった美遊を殴りつける。

 

美遊は地面を滑るように倒れ、体からライダーのカードがはじき出される。

 

「同じだ………海斗が殺された時と同じだ…………ルビー……あれはなんだ?」

 

声を震わせながら尋ねる。

 

『敵の切り札より後に発動しながら時間(運命)を遡って切り札発動前の敵の心臓を貫く………フラガが現代まで伝えきった神代の魔剣、宝具(エース)を殺す宝具(ジョーカー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『逆光剣斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!』

 



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九枚目

『通常攻撃は通用せず、宝具を使えば必ず負ける。これは最初から積んでいる勝負だったんです。もうこれ以上は……………』

 

ルビーの言葉を聞きながら俺は考えた。

 

どうすれば勝てるのか?

 

だが、その考えを俺はすぐに放棄した。

 

バゼットはランサーとアーチャーの英霊を倒した人だ。

 

つまり、素手で英霊を追い詰め、宝具を使わせるまで追い込むことのできる人間だ。

 

どうやっても勝つことは無理だ。

 

「何が起こったの………!?」

 

美遊が体を起こし言う。

 

『危ない所でした!もし使用者自ら振るうタイプの宝具だったら心臓を貫かれてたのは美遊様の方です!』

 

「美遊!後ろ!」

 

クロが叫ぶが、美遊が気付くより早くバゼットは美遊の足首を掴み地面を割る勢いで叩き付ける。

 

「これで………六枚目。残るは………」

 

美遊の持っていたキャスターのクラスカードを手に、バゼットはクロを見る。

 

空也は動けない黒の前に立ち、長刀を構える。

 

「クラスカードを狙ってるんだろ?俺の中にもクラスカードはある。二枚目のアサシンのカードだ。クロを狙うなら、俺を最初に狙え!」

 

「二枚目のアサシン?どうやらイレギュラーがあったみたいですね。ですが、関係ない。その二枚目のアサシンごと奪うまで」

 

空也がバゼットに立ち向かう中、イリヤが立ち上がった。

 

「イリヤ?」

 

イリヤは治癒の終わってない体を引きずるようにして立ち上がる。

 

「レイ、ルビー……一つだけ作戦があるの」

 

その作戦の内容を聞き、俺は驚いた。

 

それはあまりにも無謀過ぎる作戦だった。

 

「…………イリヤ。それがどれだけ無謀なのか分かってるのか?」

 

「あの人に勝つにはアレに賭けるしかないない。アレはきっと凛さんが残してくれた突破口………!」

 

「分かった。お前を信じる。だから、必ず成功させるぞ!スタイルチェンジ!ダークネス!」

 

スタイルチェンジ ダークネススタイル。

 

本来スタイルチェンジは五つの属性のスタイルがある。

 

フレイム、アクア、ウィンド、サンダー、ランドの五つだ。

 

それに加え、指輪の魔術師個人によって一つの特殊属性がある。

 

俺の特殊属性はダークネス。

 

海斗曰く、攻撃に特化したスタイルで全スタイルの中で最も強いらしい。

 

その代り、防御力は紙装甲だ。

 

俺は二本の剣を創り、バゼットに向かって走る。

 

闇の力を纏った剣で、バゼットを襲う。

 

「零夜!お前何してるんだよ!?」

 

「勝ち目なんて無いわよ!」

 

「挑む前から勝ち目がないって決めつけるな!」

 

空也とクロの二人に向かってそう言う。

 

「諦めてやられるぐらいなら、最後まであがけよ!カッコ悪くてもあがいて見せろ!」

 

「…………まったく、とんだ頑固もんだな」

 

「…………でも、そんな零夜のこと信じてるんでしょ?」

 

「それはお前もだろ」

 

「違いないわね」

 

「そんじゃ」

 

「一つカッコ悪くあがきましょうか!」

 

空也とクロの二人も獲物を手にバゼットに攻撃を仕掛ける。

 

イリヤは物理保護を展開しつつ、バゼットの進路を塞いでいく。

 

「多方向からによる攻撃………最後の悪あがきですね。なら、まずはその厄介な目を………封じる!」

 

バゼットは俺達の視界を封じようと地面を叩き割り、土煙を巻き起こす。

 

勝負の時だ。

 

タイムリミットは土煙が晴れる瞬間!

 

クロが投影で剣を新たに四つ生み出し、バゼットに投げる。

 

空也はギリギリまで接近し、燕返しを放とうとし、俺はバゼットの背後からクロと共に斬り掛かる。

 

バゼットはクロと俺、更に空也の斬撃と飛来する四つの剣の攻撃を食らいながらも、俺達三人を殴り蹴り飛ばした。

 

そして、俺とクロを振りむいて蹴り飛ばした瞬間、その背後からイリヤの放った魔力砲が来る。

 

しかし、バゼットはそれも回し蹴りで弾いた。

 

驚いたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、ここまで計画通りなんてな。

 

バゼットが蹴り飛ばした魔力弾の真下からイリヤが現れる。

 

「ルビー!お願い!」

 

体勢を戻せない、バゼットはイリヤの接近を許し、イリヤはルビーをバゼットのズボンの左ポケットに当てる。

 

限定展開(インクルード)!」

 

「ポケット越しにカードを限定展開(インクルード)…………!?これが狙いか!」

 

バゼットが焦るのが分かった。

 

だが、焦っていてもバゼットはすぐに冷静になった。

 

「だが、無駄です!どのカードを使おうと………発動前に使用者を潰せばいい!」

 

そのままバゼットはイリヤを殴り、地面に叩き付ける。

 

するとイリヤび体が急にふくらみだし、そして間抜けな音を出して消える。

 

『いっ………………たいですねも―――――!!』

 

イリヤだと思ったのはルビーだった。

 

あの時、限定展開(インクルード)したのはアサシンのクラスカード。

 

本物のイリヤはバゼットの背後に居る。

 

イリヤはバゼットの首に向かって手を伸ばす。

 

だが、転身を解いた所為で痛みが体を襲い、イリヤは顔をしかめる。

 

あと一歩、その一歩がバゼットに届かなかった。

 

「ここで」

 

その時、声が聞こえた。

 

するとバゼットの真下の地面が盛り上がり、そこから剣が飛び出る。

 

「終わらせられるか!」

 

海斗がランドスタイルで地面を掘り、剣をバゼットに向ける。

 

「海斗!?」

 

バゼットは死んだはずの海斗が生きていたことと、行き成りの不意打ちに驚き、剣を躱そうと仰け反る。

 

そのお陰でイリヤの手がバゼットに届いた。

 

光りが起き、イリヤとバゼットを包むように光る。

 

バゼットはすぐにイリヤから距離を置く。

 

「何をしたのです?」

 

バゼットの問いにイリヤは答えない。

 

「答えないのなら!」

 

バゼットはイリヤに攻撃しようと飛び掛かる。

 

しかし、俺は素早く動き、イリヤの前に立ち剣を交差させ受け止める。

 

「これ以上イリヤを…………傷つけさせるか!」

 

剣でバゼットを押し戻す。

 

「チェックメイトよ、バゼット」

 

すると俺とイリヤの背後に凛さんが現れる。

 

「よく持ちこたえたわね。それに自力で気付いて発動までさせるとはね」

 

「………首筋に魔術の発動を感知。それ以降、腹部の鈍痛が止まない。一体何を…………?」

 

「それは今イリヤが感じてる痛み。『死痛の隷属』。主人の受けた痛みを奴隷にも共有させ、主人が死ねば奴隷も命を落とす。とある貴族が用いてた古い呪いよ」

 

「呪術……協会の魔術師とあろう者が………」

 

あれってクロに施したのと同じ奴だな。

 

「痛みと死の共有と言いましたか?」

 

「そう、つまりこれでフラガラックは使えない」

 

フラガラックは相手の切り札より後に発動して時間を遡り、心臓を貫く宝具。

 

切り札発動前に、使用者が死んでいる事実を後付して発動の事象そのものをキャンセルしている。

 

だが、足手の死と同時にバゼットも死ぬとしたら、「フラガラックを撃つことにより、フラガラックを撃つ前にバゼットが死ぬ」と言う矛盾が発生し、因果の葛藤(コンフリクト)と言うのが発生する。

 

それが凛さんの説明だった。

 

「…………50点ですね。これでフラガラックは封じられたかもしれません。ですが、ただそれだけのこと。死なない程度に殴ればいい。その気になれば自分の痛覚など無視できる」

 

なんという脳筋な人なんだ…………

 

「そう。なら…………加点をお願いするわ」

 

そう言い、凛さんが一枚の大きな羊皮紙を出す。

 

「それは?」

 

「この街の地脈図。以前地脈の正常化を行ってね。その経過観察の為に撮ったレントゲン写真みたいなものよ。わかるかしら?左下の方」

 

地脈図の左下には正方形みたいなマークがあった。

 

「地脈の収縮点に……正方形の場?まさか………」

 

「前任者なら分かるわよね。正確には正方形ではなくて立方体。虚数域からの魔力吸収………………………九枚目のカードよ」

 

その言葉に全員が驚いた。

 

「九枚目……………」

 

「地脈の本幹のど真ん中。協会も探知できなかったんでしょうね。カードの正確な場所を知ってるのは私だけ。地脈を探ることが出来るのも冬木の管理者たる遠坂の者だけよ。さて、貴女の任務が『全カードの回収』だとするなら……………コレも数に入ってるんじゃない?」

 

結局、それが決定打となり、バゼット……さんは、現場判断を越えた事態と判断し、一時休戦と言う事で協会の指示を仰ぐことになった。

 

さらに、凛さんの交渉のお陰で奪われた六枚のクラスカードの内三枚は返してもらった。

 

納得いかなかったが、凛さんが「バゼット相手にこの結果なら十分勝ち」と言っていた。

 

取り敢えず今回はそこで解散となり、俺とイリヤ、空也にクロは家へと帰宅した。

 

リゼさんの小言を聞き、交代で風呂に入って俺たちはそれぞれの部屋へと戻った。

 

ベッドに横になると一気に睡魔が襲って来た。

 

意識が落ちて行く中、俺は一つあることを思い出した。

 

九枚目のカードの事を聞いたとき、美遊が

 

「八枚目でもありえないのに九枚目なんて………そんなもの………あるはずが…………」

 

小声だったが、その言葉は俺とイリヤの耳に入っていた。

 

あれはどういう意味だったんだ?

 

そう思いながら、俺は睡魔に身を任せ、そのまま眠った。

 




海斗が生きていました。

生きていた理由は次回明かします。


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一時の団欒

聖杯

それはあらゆる願いを叶えるとされる「万能の願望機」。

その所有をめぐり一定のルールを設けて争いを繰り広げる争い、それが聖杯戦争。

勝者は聖杯を使って何でも願いを叶えられる事ができる。

七人のマスターは騎士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)のクラスに選ばれた英霊一人と手を組み、最後の生き残りになるまで戦う。

「なぁ、切嗣。出来ると思うか。八人目のサーヴァントの召喚だなんて」

その男は、魔術師殺しの異名を持つ魔術師だった。

「さぁね。だが、過去にアインツベルンは八人目のサーヴァント“アヴェンジャー”を召喚した前例がある。もっとも全サーヴァント中最弱だったそうだがね」

「ま、やるだけやってみるか」

男は、相棒である男と、弟子であり妻であった女以外誰も信じなかった。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

その目は悲しみと憎しみに満ち

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang(セット)

悲しいまでの優しさと強い欲望を持っていた。

「告げる。汝の我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯に寄るべに従い、この意、この理に従うなら答えよ」

そして、男は八人目のマスターでもあった

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常夜総ての悪を敷く者」

男が聖杯に願うのはただ一つ。それは―――――――――

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」



















争いも差別も無い世界の平和だった………………












「サーヴァント“知恵者(ジーニアス)”。(マスター)の命の下、参上仕りました」

召喚されし、八人目のサーヴァント。

「お手並み拝見だ。可愛い軍師殿」

魔術師殺しの男とジーニアスが手を結び、新たな聖杯戦争が起こされる。

Fate/Zero~魔術師殺しと知恵者~ 近日公開(未定)
















作者「だったらよかったね」

零夜「願望かよ」


翌日、目が覚めると俺はイリヤ、クロ、空也、アイリさん、セラさんの六人でエーデルフェルト邸跡地へと向かった。

 

そこではもう工事が始まっていた。

 

「もう工事始まってるんだね」

 

工事の様子を眺めてる四人に近づき声を掛ける。

 

「本当にぺしゃんこになっちゃったのねー。あはははははははは」

 

「奥様!?笑う所ではありません!」

 

「やほーい」

 

「お見舞いに来ました-」

 

「元気か?」

 

「これささやかだが、お土産だ」

 

「丁寧にすまない」

 

海斗が美遊を背負った状態でお見舞いの品を受け取る。

 

いや、背負ってると言うか、美遊が海斗の首に手を回し、足で海斗の胴をしっかりホールドしてる。

 

「海斗、美遊はどうした?」

 

「いや、昨日の夜、俺が生きてる理由を話してからすっとこの状態で…………」

 

「そう言えばそうだ。海斗、お前確かにバゼットさんに心臓を貫かれたよな。なんで生きてたんだ?」

 

「まぁ、俺の体に仕掛けてた魔術のお陰だよ」

 

海斗の説明によると、海斗はディオール家の唯一の人間で現当主でもある。

 

そのため、海斗の死はそのままディオール家の終わりを意味する。

 

だから、海斗の体には万が一死ぬほどの大怪我を追っても一時的に体内の時間を止め、仮死状態にし、時間を掛けて怪我を再生する二つの魔術が施されてるそうだ。

 

そして、それに気付いた凛さんが宝石魔術で魔力を大量に使い、殆どごり押しに近い形で貫かれた心臓を修復し、海斗は助かった。

 

頭を潰されるか、心臓を抉り出されるでもしない限り、海斗はそう簡単には死なないそうだ。

 

「つまりその魔術が無かったら死んでたってことか?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「ところでさ」

 

俺と海斗が話してると、クロがふと思い出したように言う。

 

「昨日、美遊たちは何処に泊まったの?まさか野宿?」

 

「ルヴィアがそんなことするわけないでしょ」

 

「新都の方にホテル借りてしばらくはそこで寝泊りするつもり」

 

「一棟丸ごと貸切ろうとしたのに断りやがりましたのでオーギュストに株を買い占めるように頼んだとこですわ」

 

「なんでこのバカが金持ってるのかしら!」

 

まぁ、時給一万でメイドを雇ったり、月の小遣いで十万出すぐらいの人だから金銭感覚が人よりおかしくても仕方ないだろうけど、通常の小遣いで一ヶ月やりくりしてる身からすれば羨ましい。

 

「そんなわざわざホテルなんて取らなくても、皆うちに泊まればいいのに」

 

またアイリさんが突拍子もないことを言い出した。

 

「え!?」

 

「奥様!いくら何でも四人は……!ぶっちゃけ今でもそうとうキツキツなんですよ!?」

 

「あららーダメなの?」

 

「どうぞお気遣いなく。私は実家があるので大丈夫です。ルヴィアもホテルの方が気を使わないでしょうし……………ルヴィア?」

 

さっきから固まって動かないルヴィアさんに凛さんが声を掛ける。

 

「(宿泊→同衾→既成事実→妊娠→責任婚!!)いけませんわ!まだ早過ぎます、お義母様!」

 

「何がよ!?」

 

「というか順番が逆でしてよ、お義母様!」

 

「だからアンタは何の話してんのよ!」

 

「でも、本人たちの同意の上であるならば多少本来の手順と異なってもそれはそれで!」

 

「ああもう!いいから黙れ!永久に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、海斗と美遊の二人だけ止まってもらうことになりましたー」

 

「一日だけだけどねー」

 

「お、お世話になります」

 

「ちなみに海斗は用事があるから後で来るってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

取り敢えず、今日は零夜とイリヤの家に止まる事になり、俺は家にお邪魔する前に、凛さんとルヴィアさんと話をすることにした。

 

「バゼットの件ですけど、大師父は関与していない。別部署の独断専行のようですわ」

 

「でしょうね。と言っても、あのジジイの事だから知ってたところであえて無視してそうだけど」

 

「もしかしたら、カードが封印指定のカテゴリに入るんじゃ………」

 

「冗談でしょ?確かに英霊の力を引き出せる強力なアイテムだけど………」

 

「その程度で協会が禁忌と見なすとは思えませんわね」

 

「あくまで可能性の話です。ともかく、カードの解析を進めないと何も始まりません」

 

「はぁ~、カードの回収に加えて、解析までが弟子入りの条件にされちゃったし…………九枚目のこともあるしね」

 

凛さんは溜息交じりに言う。

 

「九枚目のクラスカード。地表じゃなく地中にあって、なおかつ地脈から魔力を吸い上げ続けていたとなると……………想像以上の物になってる可能性がありますね」

 

「ともかく現状ではまだ回収に取り掛かれないし、バゼットの事もある。体勢を整えて万全の状態で臨みましょう」

 

「そうですわね………………ふふ」

 

急にルヴィアさんが笑い出した。

 

「何よ?」

 

「いえ、なんだがこれって仲間同士の会話みたいと思って」

 

「…………みたいって一応あんたと私は同じ人を受けた仲間でしょう」

 

「そうですけど、貴女とこんな会話をしてるのが少し不思議で………………らしくないかしら」

 

ルヴィアさんが凛さんに仲間意識を持ち始めてる!?

 

これは……………俺の胃の負担が減るチャンス!

 

「(今度はなにたくらんでやがるこのアマ!今更和平交渉のつもり!?どんだけ味方ヅラしようがあんたはカードを持ち逃げした前科があるのよ!つーかそれ以前に、絶対あんただけは生涯信用しないっての!)…………ま、たまにはそんなのもいいんじゃない?」

 

「ふふ、そうですわね…………(やれやれ……まんまとほだされてますわ。この雌豚!仲間?冗談じゃないわ!黒やバゼットに仕込んだ呪術はもともと私にかけるつもりで習得したのだと調べは着いていますのよ!貴女の様な卑劣でゲスな女……利用するだけして海に棄てて上げますわ!)なんだか少し照れますわ」

 

あれ?なんか言葉の裏に本心が隠れている気がする…………………

 

「ふふ」

 

「ふふふ……」

 

「うふふふふ………」

 

「ふふふふふふふふふふふふふ………」

 

あれ?なんだが笑い声が怖いぞ……………………

 

もしかして、俺の胃の負担は減らない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

夕飯の時間になると海斗君がやって来て、美遊が抱き付き、お兄ちゃんのご飯を食べて、美遊とクロの三人でお風呂に入ったり、お話してたりするうちに、夜になり寝る時間になった。

 

「ねぇ、ママ…………なにも四人で寝る必要なくない!?」

 

現在、本来はママとお父さんの寝室で私と美遊、クロ、ママの四人で横になってる。

 

「折角美遊ちゃんがお泊りに来てるんだから、みんな一緒の方がいいでしょー?」

 

「だとしてもママがいる必要はないし!」

 

「狭いし暑い………」

 

「ガールズトークの花は夜に開くのよ?では、順番に好きな男子は的な話を」

 

「子供は寝る時間です!」

 

そんな話したくない!

 

したら、絶対言う流れになりそうだもん!

 

「私は空也が好きー」

 

言っちゃうの、クロ!?

 

「美遊は海斗よね?」

 

「えっと…………うん」

 

美遊まで肯定しちゃった!?

 

「あら、二人とも青春してるわね。じゃあ、次はイリヤちゃんねって、イリヤちゃんが好きな子は決まってるわね」

 

「「零夜(ね)」」

 

なんかバレてる!?

 

(むしろバレてないと思ってるのかしら?)

 

(バレバレ…………)

 

「あああああああもー!皆寝て――――!」

 

こうして、この日の夜は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃の男子陣~

 

「…………なぁ、零夜。お前、♢のQ止めてるだろ」←手札残り一枚

 

「さぁな」←手札残り三枚 ♠のQ出す

 

「あがり」←♠のK出す

 

「海斗だぞ」

 

「……………パス3」

 

「じゃ、これ」←♣のA出す

 

「…………パス」

 

「俺の勝ち」←♢のQ

 

「くそおおおおおおおおおお!!」

 

七ならべをしていました

 




前半のあれはまったく今後の予定と関係ありません。

嘘予告です。

本当はエイプリールフールの時にやりたかったんですが、完成が間に合わず、ここでお披露目です。

私が、Fateのゲームを全てプレイし、Fateを完全に理解したら書くかもしれません。

では、また次回もお楽しみに


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プリズマ☆イリヤ2wei Herz!
夏の始まり


「来た来たキタ――――!!キタよコレー!」

 

「来たしか言ってないね!」

 

「来てしまったもんは仕方ない!」

 

「うっ……ううっ……うううみみみみっ……!!」

 

「早まるなタッツン!それはこの次だ!」

 

「タイミングあるの!?」

 

「トーゼン!」

 

「行くぞ!」

 

「「「「「「「海だ――――――――――ッ!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というのをやってみたいんだ」

 

「あれ!?今の妄想!?」

 

「いやいや未来予想図だよ」

 

「そのために、皆で水着を買いに来たわけだろ」

 

そう。

 

俺たちは今日、この街にあるデパートに今度海に行くときの水着を買いに来てる。

 

まぁ、空也以外の俺と海斗は買う必要はないと思ったんだが、ルヴィアさんから俺達全員へのプレゼントと言う事と、折角だからということで買うことになった。

 

「でも、ほんとにどれ選んでもいいのミユッチ?」

 

「(ミユッチ?)うん。ルヴィアさんから皆へのプレゼントだって。これを出せば店ごと買えるって言ってた」

 

そう言って、美遊は虹色に光輝くカードを出した。

 

「なんだその虹色に光り輝くカード!?」

 

「店ごとはいらないからな!」

 

俺と海斗は取り敢えず、美遊にそうツッコム。

 

「いやーほんと美遊様と友達になれてよかったですぅー」

 

「ずっと友達でいてくださいねぇー」

 

雀花、那奈亀、龍子の三人が土下座ではなく土下寝を美遊にする。

 

「やめてー!それはどう見ても友達の画じゃない!!」

 

「貴女達と友達になった覚えはないんだけど」

 

「そんなくもり泣き眼で!?」

 

騒がしい中、空也は溜息を吐いていた。

 

バゼットさんとの戦闘してからここ数日、どこか元気なさそうにしている。

 

そう言えば、クロもなんだが元気が無い。

 

「空也、どうした?」

 

「え?……ああ、気にするな。大丈夫だ」

 

そう言って、空也は適当な水着を手に取る。

 

「無理無理!そんなの着れる訳ないでしょ!」

 

イリヤが試着室から上半身裸(服で隠している)で飛び出す。

 

慌てて俺は反対方向を見る。

 

「海斗、この水着が私に似合うか見てほしい」

 

「だからって、俺まで試着室に入る必要はないだろ!」

 

目の前では試着室に海斗を連れ込もうとする美遊と必死に、その場で踏み止まろうとする海斗がいた。

 

「いいから試しに着てみなって」

 

「嫌だよ!私が知ってる水着はそんなV字じゃないもん!」

 

「ダイジョウブ、ダイジョウブ。怖くない。痛くないから」

 

「そのカメラは何!?」

 

「俺、これ買うわ」

 

「龍子ちゃーん!」

 

「しまった!ちょっと目を離したすきに、龍子の奴、マイクロな水着に手を出しやがった!」

 

「あの露出狂を止めろ!」

 

「この歩く児童ポルノ製造器が!!」

 

「なにをする貴様らー!そうか、ついに俺の魅力にやられて!!」

 

「うっさい!キモいんだよ、お前!!」

 

「ちょ……そのセリフも友達としてどうかと………!」

 

なにやら水着コーナーが騒がしくなってきてる。

 

結果、俺達十人は店員に怒られた。

 

俺と空也、海斗は殆どとばっちりだ。

 

「大人しく粛々と水着を選ぼうね」

 

「そうだね。外で騒ぐのはよくない」

 

「私らもいい歳なんだがら………あら、このライトブルーのトップスとってもかわいらしいわ」

 

「いい趣味ですわね。でもフリルの甘さが少し気になりますわ」

 

「それならこちらのデニムと合わせてみてはいかがかしら?」

 

「なんでルヴィアさんみたいな語調に……?」

 

イリヤ達は淑女っぽい(イリヤ達にとっては)話し方で水着を選ぶ中、空也とクロはやはり辛そうにしている。

 

「………やっぱり限界か」

 

「そうね」

 

「零夜、すまないが来てくれ」

 

「イリヤもちょっと来て」

 

クロがイリヤの首根っこを掴む。

 

「あう!なに?今、淑女っぽく水着を選んでる最中なんですけど!」

 

「そんなのどうでもいいから!……魔力が切れそうなの」

 

「え!?………それって………」

 

「……補給……お願い」

 

「………てことは」

 

俺は空也の方を恐る恐ると見る。

 

「すまないが俺もだ」

 

マジかよ……………

 

「ていうかなんで今このタイミング!?おかしいでしょ!?」

 

「バゼットとの戦いで使い過ぎたのよ!我慢してたけど、限界来ちゃったの!」

 

イリヤとクロが小声で騒いでると、那奈亀が気付き声を掛けて来る。

 

「どうしました?イリクロさん?」

 

「いや!ええっと……花を!ちょっとクロとお花を詰みに行こうかなと思いまして!」

 

そう言い残し、イリヤはクロを連れて移動する。

 

「俺と空也もちょっとトイレに行ってくる」

 

俺もそう言い、空也とその場を移動する。

 

「花を詰むってなんだ?」

 

「お排尿の隠語でしてよ、龍子さん」

 

「詰むと言うよりむしろ花の肥料になりそうですわね」

 

「お前ら、それのどこに淑女らしさがあるんだ?」

 

「淑女から最も遠い会話になってる…………」

 

「………美遊。お前はいい加減に俺の手を離せ」

 

「嫌」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、イリヤとクロはトイレへと向かい、魔力補給をすることになった。

 

「で、俺はどうやって魔力をお前にやればいいんだ?」

 

「普通なら俺も粘膜接触、つまり接吻がいいんだが………お前はいやだろ?」

 

「当たり前だ」

 

いくら空也の命の危機とは言え、男とキスは出来れば避けたい。

 

「で、粘膜接触以外にも一つだけ効率は悪いが、方法はある」

 

「なんだよ、それは?」

 

「血だ」

 

「血?」

 

「血を飲めば、キス程じゃないにしろ魔力は補給できる。だが、痛みを伴う。どうする?」

 

「キスよりかはマシだな。俺は血でも構わないが、空也は大丈夫なのか?血だと効率が悪いんだろ?」

 

「いや。多分だが、お前となら普通の奴とするよりは効率はいいはずだ。無論、キスよりは劣るが、俺としても血を吸う方がいい」

 

「わかった。じゃあ、ちょっと待ってくれ」

 

そう言い残し、俺は安全ピンを取り出し、少し深めに人差指に針を突き刺す。

 

突き刺した所から血が出てくる。

 

「ほらよ」

 

「悪いな」

 

そう言い、空也は俺の人差指を加え、血を吸い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

空也が零夜の指を口に加え、血を吸ってる時、その光景を眺めている影に二人は気付かなかった。

 

(零夜君と空也君って…………そういうアレだったの!?)

 

それは美々だった。

 

零夜と空也の様子がおかしいのに気づき、後を付けたらこの現場に遭遇し、美々は階段の陰に隠れその光景を眺めている。

 

「空也、もういいか?」

 

「悪い。もう少し、血を吸わせてくれ」

 

(血を吸うって変にも思えるけど、世の中にはそう言う愛し合い方もあるって聞いたことあるし…………でも、意外………私、てっきり零夜君は海斗君と…………って!何で私は自分の好きな男の子でこんなことを!でも、それはそれでアリな気も………って!やっぱおかしいよ!)

 

美々が一人百面相している中、ある人物が近寄る。

 

「よぉ、美々、何してる?」

 

「きゃあ!!?」

 

その人物は海斗で、海斗は耳に声を掛けた。

 

「何見てたんだ?」

 

海斗は階段から首を出し、覗き込む。

 

「あ~……なるほどな。悪いが美々、このことは見なかったことにしてくれ」

 

美々は首がちぎれる勢いで首を振る。

 

「………海斗君はいいの?零夜君と空也君があんなことしてて?」

 

「え?」

 

「い、いや!別にその男の子同士が悪いっていみじゃなくて!私、てっきりそう言うアレは海斗君だと思って………!」

 

「えっと………言ってる意味がよく分からないんだが…………とにかく、アレはあの二人にとって必要な行為なんだ。だから、あまり誰かに言うってのはしないでくれ」

 

「そ、それは分かったけど………平気なの?零夜君と空也君が………あんなことしてて…………」

 

「言っただろ。アレは二人にとって必要な行為なんだ。そこに俺がとやかく言う理由は無い。俺はただ見守る。それだけだよ」

 

そう言い、海斗は階段を上がり、上の階へと戻ろうとする。

 

(す………凄い大人だ!まさか三人がそこまで複雑な関係だったなんて…………お手上げです!もう私にはどうこうできる事案ではありません!私に出来るのはせいぜいこの事を活かして小説に書き留めることぐらいしか……………)

 

美々は頭から煙を上げかねない勢いで、顔を真っ赤にし、海斗に続いて階段を上って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~終業式当日~

 

「成夏の候。皆様いかがお過ごしでしょうか?夏空が眩しい季節ですが、皆さんは暑さにも負けず元気いっぱいの姿を見せてくださいました。蝉の声が岩に染み入るのならばこの校舎には皆さんの声が沢山染み入っていることでしょう。今皆さんはどんな気持ちでしょうか?私は少し寂しくも一ヶ月後が楽しみであります。この夏に皆さんがどんな経験をし、何を見、何を知り、何を成すのか……………二学期また皆さんに会えるのを楽しみにしています。それでは皆さん…………………夏休み開始だオラ――――――!!!」

 

先生のその声と龍子が夏休みが楽しみ過ぎて嬉しさのあまり卒倒する音と共に、俺たちの夏休みが始まった。

 



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海での誕生会

「来た来たキタ――――!!キタよコレー!」

 

「ほ、ほんとにやるのこれっ!?」

 

「当たり前だ!何のために全開イメージ練習したと思ってる!」

 

「海だー!!」

 

「龍子が決め台詞先走ったよ!?」

 

「台無しだ!台無し!」

 

「ええい、もう構わん!予定通り行くぞ!」

 

「ちょっと待って!そんなすぐ服脱げない!」

 

「ぶぼらっ!?」

 

「キャ―――!?」

 

「タッツンが車に撥ねられた!?」

 

こうして、俺達の海遊びは龍子が車に撥ねられたのと同時に開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーまいったまいった。危うくイリヤ達の誕生日がタッツンの命日になるところだったぜ」

 

「シャレになってないから!?」

 

「撥ねられたのが受け身だけは天才的なタッツンでよかったよ」

 

受け身でどうにかなる問題なのか?

 

「ふははははは、ないてないぞ」

 

「ねぇねぇ……さっきの運転手がお詫びに一万円置いていったんだけど…………」

 

「一万だと!?」

 

「世間じゃ、ひと轢き一万が相場なのか?」

 

「もしかしたらタッツンで一稼ぎできるんじゃ……」

 

「それは人道的にも龍子的にもアウトだから、やめてやれ」

 

「全く、道路に飛び出すなんて二度とやっちゃダメだぞ」

 

「怪我が無かったのは奇跡だ」

 

そう言って、俺達の背後から荷物を持った士郎さんと、一成さんが現れる。

 

「なぁなぁ、レイ」

 

「なんだ?」

 

那奈亀が俺の肩を突っついて呼ぶので振り向く。

 

「短髪の方がイリヤ兄なのは知ってるけど、隣の眼鏡男子はどなた?」

 

「ああ、一成さんだよ。士郎さんの友達」

 

「柳洞一成だ。お初にお目にかかる」

 

「皆を引率するのに俺一人じゃ心もとないかと思ってさ。応援頼んだんだよ。柳洞寺って知ってるか?そこの息子なんだ」

 

一成さんの自己紹介と士郎さんの説明に全員が納得する。

 

「ほほーう、ほうほうほう…………それでお二人はどのような関係で?」

 

「「関係?」」

 

雀花の目がなんかヤバく見えた。

 

「関係って言っても、まぁ普通の友人関係だよな?」

 

「ふむ……普通の一言で済ませるのもいささか寂しいな。衛宮にはいつも生徒会の雑務を手伝ってもらっていてな。堅実で確実な仕事ぶりにいつも助けられている。衛宮がいなかったらと思うと、俺はどうして良いのかわからんよ」

 

「なんだよ、急に……褒め殺しか?俺は自分が出来ることをやれる範囲でやってるだけだ。それに、俺がいなかった所で生徒会長(お前)がどうとでも仕切れるだろ」

 

「いや、お前がいなくてはダメだ。衛宮手製の弁当が食えなくなると俺の士気に関わる」

 

「それかよ……まぁ張り合いがあっていいけどさ」

 

「衛宮の味噌汁なら毎日飲んでもいいぞ」

 

「毎日は流石に勘弁だな」

 

士郎さんと一成さんがこんな会話をしている間、雀花は涎を出しながら必死にメモを取っていた。

 

それがとてつもなく怖かった。

 

美々まで怯えて…………あれ?

 

なんで顔が赤いんだ?

 

てか、なんで俺と海斗、空也を交互に見て来るんだ?

 

怖いんだけど………………

 

「アリガトウゴザイマシタッッ!!!」

 

なんか雀花は最高の笑顔でお礼を言い、満足そうだった。

 

その後、俺たちは海で泳いだり、ビーチバレーをしたりしていると、美遊と海斗がその辺を少し歩いて来ると言う事で、俺とイリヤ、空也とクロもついて行き六人で散歩することにした。

 

暫く話しながら歩いていると、岩場があり、そこに行くことにした。

 

「え?じゃあ、美遊は海来るの初めてなの?」

 

「来たのは二回目。入るのは……初めてだから海で何をするべきなのか良く分からない」

 

「そんな難しく考えなくていいよ。自由に遊べばいいし………でも珍しいね。こんな海が近い街に住んでるのに」

 

「少し前まで海外に居たから。小さい頃は冬木市に住んでた。父と兄の三人で。でも、父が病死して、それから海外に引き取られて、こっちに帰って来たのはつい最近」

 

「もしかしてそのお兄さんって………」

 

「………うん。士郎さんによく似てる」

 

「…………そっか」

 

イリヤと美遊の二人の会話を聞きながら俺は海斗の方を見る。

 

「なぁ、海斗。恐らくだが、美遊の奴何かを隠してる……いや、抱えてると思う」

 

「だろうな。それは俺も薄々感づいてはいる」

 

「おそらく俺達に深く関係することだろう。で、いつまでこの事を棚に上げとくつもりだ」

 

「俺としては美遊が自分から話してくれるのを待つべきだと思うんだが………」

 

「俺も海斗の意見に賛成だ。言うにしろ言わないにしろ、それは美遊が決めることだ」

 

「…………分かった。零夜がそう言うならそれでいい。それに、俺もあまり人の隠し事を無理矢理聞き出すってのは好きじゃないしな」

 

俺達の結論として、美遊が自分から言い出すのを待つと言う結論になった。

 

「アイスキャンディー!いかがっすかー!!」

 

その時、割と近くでアイスキャンデイー屋の声が聞こえた。

 

この時期、海であればそう珍しくも無い。

 

だが、この声……………聞き覚えがある。

 

俺たちは恐る恐るとその声の方を見る。

 

「アイスキャ……む?おや、貴方方は」

 

それはバゼットさんだった。

 

「「バゼット!?」」

 

海斗と美遊が同時にハモる。

 

「また出たわね、このバサカ女!!」

 

「こんな時にまでカードを奪いに来るか!」

 

空也とクロは臨戦態勢に入る。

 

「ててて転身しなきゃ!?ルビー!ルビー!?いない!?なんで!?」

 

「落ち着け、イリヤ!」

 

俺たちがギャーギャー騒ぐ中、バゼットさんは溜息を吐く。

 

「子供にそう反応されると流石に凹みます。安心しなさい。今ここで貴方方とやり合うつもりはありません。何故なら………………今の私は、アイスキャンディー屋さんですから!」

 

そう言うバゼットさんは、水着の上からエプロンをつけ、首からメガホンをぶら下げ、アイスキャンディーと書かれた旗を持ち、アイスの入ったクーラーボックスを手にしていた。

 

…………………なにそれ?

 

恐らくここにいる全員がそう思った。

 

「先日の戦闘行為で発生した被害の修繕費用が何故か協会を素通りして私に請求が………カードも止められ路銀も尽きました」

 

(ルヴィアさんか……)

 

(ルヴィアさんだね……)

 

(ルヴィアさん、マジでやったのか………)

 

(カードまで止めるなんて…………)

 

(エーデルフェルト、恐ろしい子…………)

 

(エーデルフェルト家って凄いんだな……………)

 

ルヴィアさんの恐ろしさと共に、エーデルフェルト家の凄さを俺たちは感じた。

 

「ですが、大した問題ではありません。金など日雇いの仕事(バイト)で繫げばいい。その気になれば道端の草だって食べられる」

 

((((((この人なんかダメっぽい!!))))))

 

 

 

「この前と全然キャラが違くない!?」

 

「状況も言動も……心なしか顔つきまでダメっぽく見えるよ……」

 

「これが封印指定執行者……?」

 

「海斗、封印指定執行者って皆あんな感じなのか?」

 

「知らないが、多分絶対違うって断言できる」

 

「俺達、こんな奴に苦戦してたんだな………」

 

小声でバゼットさんに聞こえないように、俺たちは話す。

 

「とまぁ、そう言う訳ですので…………一本五百円です。お買い上げありがとうございます」

 

一本五百円って………約束された観光地価格(ボッタクリ)じゃねぇか!

 

結局、バゼットさんの気迫に負け、俺と海斗、空也で六人分金を払い、六人でアイスキャンディーを舐めた。

 

「じゃあ、そろそろ会場に移動するか」

 

アイスを舐め終ると士郎さんが荷物を手にそう言う。

 

「会場?なんの?」

 

「疲れたから帰ろうかと思ってるんだけど」

 

「ちょっと!?今日の趣旨忘れてない!?」

 

「え?なんだっけ?」

 

こいつら…………マジでいってるのか?

 

「ほら、今日はイリヤちゃんたち三人の誕生日で……」

 

「あ、あー………すまん、イリヤズ。ぶっちゃけ、誕生会とか海に来る名目でしかなかったから半分忘れてた」

 

「半分って言うか、殆ど忘れてただろ」

 

「しかし、自分から「誕生日祝ってくれ」とか言うのもどうかと……」

 

「そんなはしゃぐ歳でもあるまいし」

 

「う……うわあああーん!!」

 

とうとうイリヤが泣き出し、俺に泣きつく。

 

イリヤの頭を撫でながら、俺は雀花と那奈亀を見る。

 

「じゃあ、これからお前ら二人の誕生日は祝わないってことでいいな?」

 

「「友達の誕生日は祝わないとな!!」」

 

掌返しが早い……………

 

「ま、まぁそう落ち込むなよ。店は俺が予約しといたからさ。そう大したもてなしはできないけど、ささやかな誕生会をやろう」

 

そして、俺たちは海にある海の家へと向かった。

 

「海の家……がくまざわ?」

 

「ん?がくまざわってまさか………」

 

「あ、ここ、俺んちがやってる店だ」

 

「「ナニィ――――!!?」」

 

え?この海の家って龍子の家の店なのか?

 

「お前んちって道場じゃなかったか!?」

 

「夏の間は道場よりも儲かってるって父ちゃん言ってたぞ」

 

「ありがたみないな、嶽間沢道場!」

 

「お、なんだ、龍子じゃねーか」

 

「やぁ、そちらはお友達かな?」

 

店先で騒いでると店の中から声を掛けられた。

 

「おお、兄貴!」

 

「あ、どうも。予約した衛宮です」

 

「兄貴まで出やがった!?」

 

龍子の兄貴、滅茶苦茶イケメンだな。

 

「衛宮さんね、待ってたよ」

 

「なんだ、龍子のダチか!んじゃいっちょサービスしてやっか!」

 

「両親まで!?」

 

てか、龍子の母親外人なんだ。

 

てことは、龍子ってハーフ?

 

「何が起きてるんだ!」

 

「別に知りたくも無かったタッツンちの一同が勢ぞろいだ!」

「まるで主役級の扱いじゃないか!」

 

「生意気だぞ!」

 

「人は誰しも自分の人生と言う名の物語の主役を演じてるんだ」

 

「この野郎、何時の間にこれほどの貫録を!」

 

「お前ら、いいから中入ろうぜ」

 

なにやら驚き、暴走仕掛けてる連中に声をかけ、店の中へと入る。

 

用意された席に座り、クラッカーを持つ。

 

「「「「「「「「「イリヤ&クロ&美遊、誕生日おめでとー!」」」」」」」」」

 

一斉にクラッカーを鳴らし、誕生会を始める。

 

「なんかすごいね、これ」

 

「かき氷とアイス?」

 

「海でケーキはキツイと思って、特別に作ってもらったんだ」

 

「………誕生会ってなにをするものなの?」

 

皆で楽しみ始めてると美遊がそう言って来た。

 

「誕生会なんだから誕生日を祝うものでしょ?」

 

「……誕生日って祝うような物なの?」

 

その言葉に全員が固まる。

 

「ず、随分と根本的な質問だな」

 

「今まで祝ってもらったことないの?」

 

「……ない」

 

もしかして、これって結構地雷な質問なんじゃ……………

 

「ファンタうめー!世界一うめー!」

 

龍子がファンタを飲み干し、空気の読めてないことを言ってるが、ここではある意味有難かった。

 

「誕生日ってのは生まれてきたことを祝福し、生んでくれたことに感謝し、今日まで生きてこられたことを確認する日だ…………でもまぁ、そう難しく考える必要はないぞ。皆で騒いで楽しんで飲んで食べて、プレゼントを渡し受け取る。それで充分だろ。と言う訳で、俺から三人へのプレゼントだ」

 

そう言い、士郎さんはイリヤと美遊、クロにプレゼントを渡す。

 

「これって、ブレスレット?」

 

三人が渡されたのは星のアクセサリーの付いたブレスレットだ。

 

「かわいい!気に入ったわ!ありがとね、お兄ちゃん!」

 

「大切にするよ!ほら、美遊も!」

 

イリヤが美遊の肩を叩き、何か言うようにさせる。

 

「……生まれてきたこと。今日まで生きてこられたこと、イリヤに零夜に会えたこと、皆に会えたこと…………海斗に会えたこと。その全てに……………感謝します。ありがとう」

 

嬉しそうにそう言った美遊は何故か泣いてるように見えた。

 

「お、重いわ!」

 

「感謝の言葉が重すぎる!」

 

「結婚式のスピーチかと思ったわ!」

 

「そんならウチらからのプレゼントも受け取れ!そんで感謝しろ!」

 

「ちょ、これって龍子が来てたヒモ水着じゃない!?いらないわよ!」

 

一気に騒がしくなる誕生会を見て、俺は笑い、海斗と空也も笑う。

 

その瞬間、急に重機が動く様な大きな音と機械音が辺り一帯に響き渡る。

 

「うるさっ……!?」

 

「なんの音!?」

 

慌てて外に出ると、外では何故か工事が始まっていた。

 

「工事?なんでビーチのすぐそばで?」

 

「あら?イリヤじゃない?」

 

「え?あ!」

 

何故か凛さんとルヴィアさんの二人がいた。

 

「あれは……遠坂とルヴィア?」

 

「こんな所でなにを?」

 

「あ!」

 

士郎さんと一成さんもやってきて、凛さん達に気付く。

 

「アイスキャン……む?」

 

「あうっ!」

 

そして、バゼットさんまで現れる。

 

…………………なんだろう、このカオスな組み合わせ……



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カオスな海岸

「……奇遇ですね。このような場所で」

 

「バゼット!」

 

「なんですのその恰好は!というかシェロ!」

 

「なんだなんだ?」

 

「知り合いか…?」

 

どうしよう……

 

どうやってこの状況を乗り越えればいいんだ…………

 

「ほんと突然現れる奴ね!どうする…!?こっちは準備がまだ……」

 

「落ち着きなさい、ここで事を始めるほど、愚かではないでしょう。こんな大衆の面前で……というかシェロの面前で……というかシェロ!」

 

「シェロシェロうっさいわね!」

 

シェロシェロ症候群とか名前が付きそうだ…………

 

「……お前達はここで何をしているのだ?海水浴と言うわけでもなさそうだが………まさかと思うがその怪しげな工事が関係しているのか?」

 

一成さんが眼鏡をくいっと上げ、尋ねる。

 

「オホホホ、そんなまさか」

 

「ふむ……施工主がエーデルフェルトとなっているのは何故だろうな?」

 

目敏いな、一成さん。

 

「これは九枚目のカードの元へトンネルを掘る工事だ」

 

海斗が俺達に聞こえる範囲でこっそりと言う。

 

「カードが地中深くにあるから、そこまで掘り進んで鏡面界にジャンプするみたい」

 

「なるほど……」

 

九枚目のクラスカードか…………

 

美遊の言ってたあの言葉…………やっぱり気になるな。

 

「おーいたいた、イリヤズに男子共」

 

「なんの工事なんこれ?」

 

「うおお、デケー!はたらくくるまだな!」

 

龍子たちまで集まってきやがった……

 

「しまったボヤボヤしてるうちに皆集まっちゃった……!」

 

「これ以上ややこしくなる前に撤退させるのよ!」

 

「なんでもないから気にするな」

 

「ここは危ないし、向うで遊ぶぞ」

 

「それがいい」

 

俺と海斗、空也で全員をこの場から離れさせようとするが、その時那奈亀が声を上げた。

 

「あ!金ドリルとツインテール!」

 

「え?」

 

「なんですの?」

 

「なんだ知り合いか?」

 

「あいつらは………あたしの姉ちゃん、森山奈菜巳の恋路をぶっ壊した悪魔だ!」

 

「な、なんですと―――!」

 

一体どういうことだ?

 

「人違いでしょう。私たちが人の恋路を邪魔するわけ……」

 

「いや、待って。森山……なんか引っ掛かるものが……あ!もしかして、カエルの時の」

 

「その時だ!」

 

「カエルの時ってどんな時!?」

 

「状況が掴めないんだが!?」

 

「聞いたことがある!ある女生徒が解剖用のカエルが入った袋を投げつけ大惨事になったとか!」

 

有名な事件だった!?

 

「あれ以来姉ちゃんはカエル恐怖症になっちゃったんだ!名前に「(へび)」を持つ者がなんたる悲劇………」

 

「そうだ!あの時は後始末が大変だったんだぞ!一体何を考えているのだ貴様ら!」

 

「しょうがないじゃない!中身がカエルだって知らなかったんだし!」

 

「だからって森山に物を投げつけることないだろ」

 

「あの女を庇う気ですの、シェロ!」

 

「そういう話をしてるんじゃ……」

 

これって修羅場?

 

「ちょっとイリヤ!どうにかしなさいよ!」

 

「なんで私に!?」

 

「これは士郎を巡ったイザコザだな。となると、これはイリヤを中心とした三つのコミュニティ間の争いになるな」

 

那奈亀と友達のイリヤ、士郎さんと義兄妹のイリヤ、凛さんとルヴィアさんとの仕事仲間のイリヤ。

 

確かに中心にイリヤがいるな。

 

「だいたい、元はと言えばあの子が衛宮君にちょっかいをかけるから……」

 

「姉ちゃんの悪口いうなー!」

 

「あれ?衛宮君?もしかして、奈菜巳さんの好きな人って、イリヤの兄貴?」

 

「へ?…………お義姉様!」

 

そう叫び、那奈亀がイリヤに抱き付く。

 

「私を抗争に巻き込まないで!」

 

「卑劣な!妹を使ってまずイリヤの方から落しにかかる戦略ですわね!」

 

いや、貴女も似たようなこと、前にしてましたよね。

 

「しかし、無駄なこと!イリヤスフィールは既に私と義姉妹の契りを交わしています!」

 

「交わしてないよ!?」

 

「わ、私は別に衛宮君とか関係ないけど…イリヤとは主従関係結んだことある仲なんだから!」

 

「また余計な誤解を招きそうな単語を!?」

 

「あたしなんかイリヤの恥ずかしい所にホクロあるの知ってるもんね!」

 

「なんで知ってるの!?」

 

「ええい!先程から破廉恥な!やはり衛宮は女なんぞに渡せん!男だけの柳洞寺で面倒をみよう!」

 

「それはそれでなんか別の不安が!?」

 

「アイスキャンディーいかがっすか!!」

 

「まだいたの!?」

 

夏の砂浜で、ここだけ混沌と欲望が渦巻いてるなぁ…………

 

「さぁ、どうするんですの!?」

 

「イリヤは誰の味方なんだ!?」

 

「アイスキャンディーいかがっすか!」

 

「へうっ!?いええああぅ………」

 

皆から迫られ、イリヤはとうとう全力で逃げ出した。

 

「逃げた!?」

 

「待てイリヤー!!」

 

「白黒つけなさい!」

 

「ヤバくなったらすぐ逃げるのは悪い癖よ!」

 

「そーだ、そーだ!」

 

「追ってこないでー!」

 

凛さんとルヴィアさん、一成さんだけでなく、クロや美遊、他のメンツもイリヤを追い掛ける。

 

「海斗、空也。俺たちも後を追うぞ」

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

皆好き勝手言いたいこと言って………!

 

収拾付けられる訳ないじゃない!

 

大体私関係ないし!

 

砂浜を全力で走りながら逃げてると、遠くからなんか声が聞こえた。

 

『イーリーヤーさん!』

 

「いった!?」

 

遠くからルビーが飛んできて、私の額に直撃する。

 

「る、ルビー!?今まで何処に!?」

 

『できました!ついにできましたよ、イリヤさん!』

 

「何がって今はそれどころじゃ!」

 

『イリヤさんに依頼されてから33の夜を越え……熟成に熟成を重ね……ついに今日完成したんです!ルビーちゃん特製“惚れ薬”が!!』

 

………ああ………あったなぁ、そう言えばそんなネタ *詳しくは番外編 魔法少女の夜参照

 

「てか、なんで今ここで!?なんてタイミング!?」

 

『イリヤさんの誕生日に間に合わせようと、ここ数話は出番を削ってまで最後の仕上げをしておりました!』

 

「悪いけど、嫌な予感しかしないから、その話は無かったことに『と言う訳で!レイさんにシュゥゥゥゥゥゥゥト!!』ってああああああ!!」

 

ルビーが投げた注射器は真っ直ぐレイに向かって飛ぶ。

 

「うおっ!あぶね!」

 

だが、レイは間一髪で注射器を躱し、注射器は代わりにお兄ちゃんに刺さった。

 

そして、お兄ちゃんは急激に意識を無くし、そのまま頭から地面に倒れた。

 

「衛宮君!?」

 

「シェロ!?」

 

「顔面から行ったぞ!」

 

「まるで糸の切れた操り人形のように!」

 

「ああああああ、もう後戻りできない………!!」

 

目の前の光景に、思わず狼狽する。

 

『ありゃりゃ、まずいですね。効果は刷り込み方式(インプリティング)ですから、士郎さんは、最初に目に入った人に惚れますよ』

 

「ほんとになんてことしてくれるの!?」

 

「シェロ!しっかりしなさい、シェロ!」

 

「ああっ!?」

 

なんとかしようとする前に、ルヴィアさんがお兄ちゃんを抱え、起こそうとする。

 

「ル………ヴィ……ア……?」

 

そして、とうとうお兄ちゃんが目覚め、ルヴィアさんを見てしまう。

 

「大丈夫ですの、シェロ!?」

 

「ルヴィアは………おっぱいが大きいなぁ……」

 

………………………へ?

 

「あれは質量の暴力だ…見まい見まいと思っても、顔の直ぐ下で圧倒的な存在感を放つソレに自然と目が吸い寄せられる……たまに無防備に当てられるソレの感触は忘れようと思ってもなお深く記憶に刻み込まれ「なななななっ……何を言ってるんですのシェロ!?」

 

急に変なことを言い出したお兄ちゃんをルヴィアさんは、顔を真っ赤にして突き飛ばす。

 

突き飛ばした先には凛さんがいて、凛さんがお兄ちゃんをとっさに受け止める。

 

「遠……坂……遠坂は……足を出し過ぎだ……スカートの短さは胸の自信の無さからだろうか……しかし、あんな丈で完全なガードなど望むべくも無く、しばしば奥の布があらわになる……大腿から臀部にかけてのラインは筆舌しがたい美とエロスを「なんなの!?なんなの!?なんなのコイツ!?」

 

凛さんも顔を真っ赤にし、お兄ちゃんを何度も踏みつける。

 

「どうしちゃったの、お兄ちゃん!?」

 

「士郎さん……まさかそんなこと考えて………」

 

「おいおい、士郎さん急にどうしたんだ?」

 

「分からないが、急に様子がおかしくなったな」

 

クロと美遊、そして海斗君と空也がお兄ちゃんを見て言う。

 

てか、これなんなの!?

 

「ルビー!ちょっとどういうこと!?」

 

『間違っていつも持ってる自白剤の方を投げちゃったっぽいです』

 

「ルビィィー!!!?」

 

「一成はときどき目が怖い……」

 

「なんだと!?どういう意味だ、衛宮!!」

 

「最近の小学生は発育が……」

 

「ぎゃーッ!!ウチらにまで矛先がーッ!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

なんかもう取り返しのつかない事態に………………

 

「もーイヤ―――――ッ!誰かなんとかしてーッ!」

 

『しましょう』

 

私がそう叫ぶとルビーが上空から全員の頭目掛け注射器を落とす。

 

注射器が刺さると、急に皆が震えだす。

 

そして―――――――――

 

「なっ……なにを……今度は何をしたのルビ―――ッ!」

 

皆が何故か悟りを開いたような顔をし、動かなくなった。

 

『鎮静剤を打ました。強力な奴で暫く涅槃状態になります。いやー静かになりましたね』

 

「静かすぎるでしょ!大丈夫なのこれ!?」

 

「おい、イリヤ。それに、ルビーこれはどういう状況なんだ?」

 

「れ、レイ!?」

 

どうやらレイだけは鎮静剤を打たれなかったらしく、涅槃状態になっていなかった。

 

「士郎さんの事と言い、この状況と言い…………一体何を『スキあり!!』うっ!」

 

レイがよそ見をしてる内に、ルビーが背後からこっそりと、レイの首筋に惚れ薬を打ち込む。

 

レイは首筋を押さえ、暫く呻き声を上げる。

 

「レイ!?」

 

レイは首筋を押さえたまんま、私の方を見る。

 

『イリヤさん、言いましたよね。この惚れ薬は刷り込み方式(インプリティング)ですよ』

 

そ、そうだった!

 

つ、つまり…………レ、レイは私の事を……………

 

『周りは人目のない岩場………さぁ!ロマンティックなひと時を!』

 

ロマンチックっていうか、涅槃状態になってる人に囲まれてるこの状況の何処がロマンチック!?

 

って、レイがどんどん近づいて来る!?

 

「レイ待って!正気に戻って!」

 

近づいて来るレイが怖く見え、おもわず後ろに下がるが、背後に岩壁があり、退路を防がれる。

 

岩壁を背に、私は座り込む。

 

レイは私の事を生気の無い虚ろな目で見て来る。

 

そして、レイは徐々に私の顔に近づいて来る。

 

ここで……?

 

こんな形で…………?

 

ヤダ……ヤダよ……こんなの……イヤ!

 

「ダメェェェェェ!!」

 

思わずレイにタックルし、レイを逆に押し倒す。

 

このままなんとかして意識を奪って…………!

 

「うっ………あれ?俺は何を?」

 

「………え?」

 

「ん?うおっ!こ、これはどういう状況だ?」

 

急にいつものレイの声が聞こえ、私は驚く。

 

レイを見るとレイの目はいつもの優しい物になっていた。

 

「イリヤ、これはどういう状況なんだ?」

 

レイに尋ねられ今の状況に気付く。

 

涅槃状態になってる皆。

 

そして、水着姿でレイに跨ってる私。

 

一気に羞恥心が沸き上がり、顔が熱くなるのを感じた。

 

「イッ………………イヤァァァァァァァァァァァ!!!」

 

思いっきり拳を握り、レイの腹部に叩き込む。

 

「ごふっ!?」

 

レイはそんな声を出し、気絶した。

 

「う……う………うわあああああああああああああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

『うーん……おかしいですねぇ』

 

ルビーは体を捻り、考え出す。

 

ルビーの作った惚れ薬はそこそこ強力な奴で、効果は少なくとも一時間は持つ物だった。

 

にも関わらず、レイは一分も経たない内に正気に戻っていた。

 

『恐らくどこかで配合を間違えてしまったんでしょうけど…………まぁ、イリヤさんの百面相が楽しめたので良しとしましょうか!』

 

『姉さん』

 

『はわっ!?サファイアちゃん!』

 

サファイアが行き成り現れ、ルビーは驚く。

 

『いくらなんでもやり過ぎです』

 

『えー!でも、マスター弄りは私の生きがいですしー。ここの所、バトルや何やでずっと我慢させられてきたんですよ』

 

『けど、凛さまやルヴィア様ならともかく、幼いイリヤ様相手にこれは………』

 

ルビーとサファイアの眼下では、泣いてるイリヤと泡を吹いて気絶してるレイがいた。

 

『心が壊れてしまいかねません』

 

『うっ……うーん……けどですねー……』

 

『はぁ……仕方ないですね。では、後片付けと姉さんへのお仕置きは……私がするわ』

 

そう言うとサファイアは自身の秘密機能(シークレットデバイス)を起動させる。

 

『えっ!?それは洗脳デバイス!?あ…ダメっ…ちょ…ああ~~~~~ん…………』

 

洗脳電波を食らいながら、薄れゆく意識の中、ルビーは思い出した。

 

⦅そう言えばあの惚れ薬、効果は絶大ですけど、恋愛や恋に興味が無い人や、見た相手が既に好きな人だった場合、効果は数秒程度になるんでしたっけ……………でも、もうルビーちゃんには関係ないですね………カンケイナイデス………カンケイ………⦆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

「んー……は―――!疲れたー」

 

「ちょっと遊びすぎたかな」

 

日も暮れはじめ、俺たちは帰りのバスのバス停まで歩いている。

 

「いやー…一時はどうなることかと……どうなる……ん?何がどうなったんだっけ?」

 

クロが頭に?を浮かべ言う。

 

「なんのこと?」

 

「今日は徹頭徹尾ユカイで楽しい日でしたよ?」

 

「ほんとだねー」

 

確かに楽しい日だった。

 

でも、どうも記憶があやふやな部分がある。

 

それと腹部が妙に痛い………

 

腹を押さえながら、工事をしてる現場を見る。

 

九枚目のクラスカード。

 

絶対に俺たちで回収して見せる。

 

そう決意を胸に、俺はバスへと乗り込んだ。

 

そして、ルビーは何故か三日間ほど、壊れていた。

 

『コンニチハ。ワタシ ルビーチャン デス。イッチョ ヤッテマッカ-』

 

どうしたんだ、このステッキ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

零夜&イリヤ

 

「イリヤ、ちょっといいか?」

 

「ん?何?」

 

家に帰ると零夜はイリヤの部屋へと行き、部屋に入る。

 

「海で渡せなかったからな。ほい、誕生日おめでとう」

 

そう言って、零夜はイリヤに小包を渡す。

 

「これって……」

 

「誕生日プレゼント。美遊とクロの分は流石に用意できなくて、取り敢えずお前の分だけ用意した」

 

「あ、ありがとう!何かな?」

 

イリヤは嬉しそうに包みを開け、中を見る。

 

そこには星のアクセサリーが付いたペンダントがあった。

 

「うわー!綺麗!」

 

「士郎さんと一緒に誕生日プレゼント買いに行った時、似合いそうだなって思ってさ」

 

「付けていいかな?」

 

「ああ、いいぞ」

 

イリヤは嬉しそうにペンダントを付け始める。

 

「どうかな?」

 

「ああ、似合ってる」

 

「えへへ……ありがとね、レイ」

 

 

 

空也&クロ

 

「クロ」

 

「なにー?」

 

クロがリビングにあるソファーに座りながら、雑誌を読みながら空也の言葉に耳を傾けていた。

 

「ほらよ」

 

空也はクロ後ろから差し出すように小包を出す。

 

「一応、今日が誕生日なんだろ。誕生日プレゼントだ」

 

「え!ほんと!ありがとう!」

 

クロは雑誌を放り捨て、小包を受け取る。

 

小包を受け取ると直ぐに包装紙を外し、中を見る。

 

「これって……指輪?」

 

「ああ。零夜とイリヤ、海斗と美遊はそれぞれ指輪持ってるだろ」

 

空也が言ってる指輪とは、四人が付けてる二つで一対の指輪“エンゲージリング”のことだ。

 

エンゲージリングは、装備者同士の絆を繫げ、強大な力へと返還する指輪。

 

「なんかアイツらだけ持っていて俺らだけ無いのは不公平みたいだからな。折角だし、俺とお揃いのでな」

 

「………ねぇ、空也。この指輪、空也が嵌めて」

 

「ああ」

 

空也は指輪を受け取り、それをクロの左手の薬指に嵌める。

 

「……えへへ」

 

クロは薬指に嵌められた指輪を見て、笑う。

 

その笑顔を見て、空也は渡して良かったと心から思った。

 

 

海斗&美遊

 

「美遊、誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、海斗」

 

現在仮住まい著してるホテルに着き、執事服に着替えた海斗はメイド服に着替えた美遊に髪留めを渡した。

 

「仕事中に髪を纏めるシュシュと、普段からつける髪留めだ。一応魔術を施して、ちょっとした恩恵がある」

 

「………今付け替える」

 

美遊は今使ってる髪ゴムを外し、シュシュを使い、髪を纏める。

 

「どう?」

 

「ああ、似合ってるぞ」

 

「うん……ありがとう」

 

美遊はもう一度お礼を言い、心の底から嬉しそうに笑った。

 



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魔法少女&魔術師in温泉旅行

今回の話はOVAの話となっております。


海に行ってから数日。

 

今日、俺とイリヤ、海斗に美遊、空也にクロ、そして、セラさん、リズさん、士郎さんの9人でとある温泉旅館に来ている。

 

事の発端はイリヤが商店街の福引きで、温泉旅行のチケットを当てたのが始まりだった。

 

チケットは三枚も付いていて、一枚で三人までが利用可能。

 

アイリさんは都合で来れず、切嗣さんはいつも通りいないので、二人分の空きがあり、折角なので海斗と美遊の二人を誘ったところ、ルヴィアさんがいないので仕事もなく暇だからってことで来てくれた。

 

「どうやらこちらが旅館だそうです」

 

「へ~、風情があっていいな」

 

「商店街の福引きの割にはいい旅館ですね」

 

「これも、イリヤが福引きで引き当てたお陰だな」

 

「イリヤ、グッジョブ」

 

リズさんが親指を立てて言う。

 

「温泉、温泉!」

 

クロが待ちきれないと言わんばかりに前を歩き出す。

 

「クロ、温泉好きなの?」

 

「そうね……一回来てみたかったのよね」

 

てか、クロや空也にとっては殆どのことが始めて何じゃないか?

 

「そう言えば、何気に俺も温泉とかは初めてだな」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。生まれてからずっと魔術と家の跡継ぎとしてのことしか教えられてこなかったし、親が死んでからはずっと時計塔の中で過ごして来たから」

 

「じゃ、今日は温泉旅行を思いっきり楽しもうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

そして、俺たちは旅館の中に入る。

 

入った瞬間、俺たち六人は唖然とした。

 

何故なら目の前で俺たちが見たことあるような人たちが浴衣姿でマッサージチェアで寛いでいるからだ。

 

「六人とも、部屋に行くぞ」

 

士郎さんに呼ばれ、俺たちはとりあえず見なかったことにして部屋へと向かう。

 

「うわ~!」

 

「いい眺めね~」

 

イリヤとクロ、美遊の三人は窓から外を眺めはしゃいでいる。

 

俺と海斗、空也は暇だしトランプでもしようかって話になり、トランプを始めようとしていた。

 

その時、隣のふすまが開き、手が見えた。

 

「こっちに来い」

 

手の動きがそう語ってるように見えた。

 

それに気づいたのは俺達だけでなく、イリヤたちも気づき、俺達は適当な理由を言い残し、その手に招かれ一階へと降りた。

 

「いい?一応言っとくけど、私たちは遊びに来てるんじゃないの」

 

「任務の場所が偶々ここだっただけですわ」

 

だったら態々念を押すように言わなくてもいいのに。

 

それだと、余計遊びに来てる風に見える。

 

「はぁ」

 

「任務?」

 

「ふぅ~ん」

 

「で?ここに何しにきたのよ?」

 

「大した事じゃないわ。あるポイントに魔力的刺激を与えるって指示。ほんと、めんどくさいったらありゃしない」

 

「「「「「「ふぅ~ん」」」」」」

 

本当に面倒なのかどうかはおいておき、その割には十分楽しんでたよなぁ………

 

「場所は聞いていますが、正確な位置はダウジングで調査する必要がありますの。その為、人が少なくなる夜を待っていますの」

 

「だから、別にサボってるってわけじゃないんだからね」

 

するとルビーがイリヤの髪の中から姿を現す。

 

『さっきの姿からはそうは見えませんけどねぇ。大した仕事熱心ぶりで』

 

「なんですって!?」

 

凛さんが怒り、ルビーを掴もうとするがルビーはさっとイリヤの髪の中へと逃げ込む。

 

「でも、どうして二人だけなんですか?俺も一応は時計塔の人間だし、任務なら俺も行くべきなんじゃ………」

 

海斗がそう尋ねると凛さんは組んでいた足を入れ替え、頭を掻く。

 

「あんたはまだ小学生だし折角の夏休みでしょ。邪魔するのも気が引けたし、今を逃したら一生友達と仲良く遊ぶなんてこともできないと思ったのよ」

 

「だから今回の任務は私たちだけですることにしましたの。魔力的刺激を与えるだけなら美遊やイリヤスフィールの力を借りる必要もありませんし、こんな簡単なことで折角の夏休みを潰したくなかったんですわ」

 

海斗のことを思ってくれて、任務のことを言わなかった二人に俺は感動した。

 

イリヤも同じらしく、二人を尊敬でもするかのようなまなざしで見つめる。

 

「さてと。温泉、温泉」

 

するとそこに浴衣姿の士郎さんが現れた。

 

「あれ?遠坂にルヴィアじゃないか。奇遇だな、二人も旅行か?」

 

「え、衛宮君!?」

 

「シェロ!?」

 

ああ……………おなじみの反応だ。

 

俺たちは見飽きたっと言った具合に、その光景を見つめる。

 

「え、ええ。まぁ、そんな感じね」

 

「そ、そうですわね」

 

凛さんは足を下ろし、浴衣を直し、ルヴィアさんも胸元を隠すように浴衣を直す。

 

なんというわかりやすい反応…………

 

「いつも喧嘩してるのに、二人で旅行とか本当は仲がいいんだな」

 

「え゛?ま、まぁ……」

 

「え、ええ……」

 

「そう言えばイリヤたちとは知り合いなんだよな。よかったら遊んでやってくれよ。じゃあ」

 

そう言って士郎さんは、温泉へと向かっていった。

 

「シェロと一つ屋根の下!何が起こるかわかりませんし、もう一度体を清めておかないと!」

 

「何が起きるって言うのよ!?馬鹿じゃないの!」

 

ルヴィアさんって士郎さんが絡むとかなり壊れた発言するよな………

 

「あんた達も入ってきたら?露天風呂、気持ちいいわよ」

 

凛さんに言われて、俺たちは露天風呂へと向かった。

 

士郎さんは先に内風呂で体を流すらしく、露天風呂にはいない。

 

「これが温泉か………」

 

「家の風呂とは違う感じだな………」

 

海斗と空也は初めての温泉に感動してるのか、目を閉じおとなしく浸かっている。

 

「俺は違いとかよく分からないが、二人が楽しめてるならよかったよ」

 

「なんか少しピリピリするんだが、温泉ってこういうものなのか?」

 

「さぁな。でも、体に悪いってことはないと思うぞ」

 

「まぁ、慣れればこれが気持ちいのかもね」

 

「だろうな」

 

………………ん?

 

今、ここにいたらおかしい人がいたような…………

 

海斗も気づいたらしく目を開けて声がした方、つまり空也の隣を見る。

 

そこにはクロがいた。

 

「「クロ!?」」

 

「なんだ?今気づいたのか?」

 

「ここ男湯だぞ!?」

 

「何してるんだよ!?」

 

「だって向こうは空也いないし。ちょうどセラとリズがあがったから、こっちに来ようかなって」

 

俺と海斗はクロの自由過ぎる理由に唖然としてると、俺の後頭部目掛け何かが飛んできた。

 

『ああああああ!?』

 

「おごっ!?」

 

俺は変な声を上げ、湯船に倒れる。

 

最後に聞こえた声からすると飛んできたのはルビーみたいだ。

 

「何やってるの!?クロ!」

 

「え?美遊?てか、風呂場で転身するとそうなるの?裸マント?」

 

「黙って!」

 

どうやら美遊がクロを連れて行ったらしい。

 

「クロ!これは明らかにアウトだよ!レッドカード!後!レイのエッチ!不潔!変態!」

 

そして、イリヤの声が聞こえなくなった。

 

「……海斗。なんで俺はこんなに罵倒されなきゃいけないんだ?」

 

「お前だからじゃないか?」

 

「てか、お前はなんで何もされないんだよ?」

 

「…………お前さ、毎日風呂に入る度に女子が乱入してくるような日常を送りたいか?」

 

「………悪い」

 

海斗の方を見て謝ると、海斗は遠くを見つめ諦めた表情をしていた。

 

その時、急に空也が倒れ、湯船の中に沈む。

 

「「空也!?」」

 

俺と海斗は慌てて空也を湯船から出し、寝かせる。

 

「のぼせたのか?」

 

「いや……魔力が足りないみたいだ」

 

「嘘だろ?この間血を飲ませたばっかじゃないか?」

 

「とりあえず、魔力を補給しないとな」

 

そういうと海斗は親指の腹を噛み、そこから血を出す。

 

「ほら、飲め」

 

「悪い」

 

俺も海斗と同様に指を噛み、血を出して飲ませる。

 

ある程度の魔力補給を終わらせ、俺たちはまだ動けない空也の着替えをさせ、運ぶ。

 

するとちょうど、イリヤたちも上がった所らしく、向こうも同じようにクロを運んでいた。

 

ただ事ではないと察し、俺たちは凛さんとルヴィアさんの部屋まで運ぶ。

 

二人を布団に寝かせ、ルビーは扇風機のように回転し、サファイアは団扇を使い二人の熱を冷まそうとする。

 

「軽く調べてみたけど、どうやらここら辺の温泉には魔力の伝達率が高いって性質があるみたいなの」

 

「一般人なら体内の魔力が微妙に刺激され、ちょっとピリピリする程度ですけど、クロと空也は別ですの」

 

「そっか。二人は存在するだけで魔力を消費する。つまり、ここの温泉に浸かればいつも以上に魔力を消費するんだ」

 

海斗の説明に俺たちは納得する。

 

「魔力供給もしたならもう大丈夫よ」

 

「現象的にはいつも起こってる事と変わりませんし、直に目を覚ますでしょう」

 

「あの、これからの対処は?」

 

「そんなの簡単よ。温泉に濡れなければいいの」

 

「え~!?じゃあ、もう温泉は入れないの?」

 

話を聞いてたらしく、クロは布団から起き上がる。

 

「仕方ないだろ。態々命を脅かしてまで入る理由はない」

 

「そうだけど………楽しみにしてたのになぁ~」

 

空也に言われ、クロは諦めるがここまで来て温泉に入れないのは辛いよな。

 

「しょうがないな。ここは一肌脱ぎますか、姉として!」

 

イリヤは立ち上がり宣言する。

 

「何言ってるの?」

 

「ここには温泉以外にも楽しめることはいっぱいあるよ。今日は妹と弟の我侭を一杯聞いてあげる!レイと美遊、海斗君も一緒だよ!」

 

そして、俺たちはイリヤに連れられ、温泉以外の楽しいことを満喫した。

 

卓球に始まり、温泉街で土産屋をのぞいたり、ちょっとした催し物を体験したりと、楽しめるだけ楽しんだ。

 

楽しんだ後は、旅館へと戻り晩御飯を食べた。

 

食べ終わると、士郎さんは腹ごなしにジョギングをしに行き、セラさんとリズさんはまた温泉に入りに行った。

 

俺たちは部屋で寛ぎなら、暇を潰していた。

 

そんな中、クロと空也は空を見上げていた。

 

「クロ、空也、どうした?」

 

俺は二人に近づき、尋ねる。

 

「ん?いや……ちょっとな」

 

「………ただ、私たちは違うんだなって思ってただけ」

 

やっぱり、気にしてるんだな…………

 

「それは多かれ少なかれ皆一緒だと思う」

 

すると美遊が立ち上がってそう言う。

 

「え?」

 

「ん?」

 

「例えば、私はイリヤみたいに空を飛べない」

 

「私も空也も飛べないけど」

 

「でも、私は美遊みたいに勉強が得意じゃないし、レイみたいに我慢強くもない」

 

「俺だって、海斗と比べたら魔術の腕は劣る。それにイリヤはいざという時は迷わず行動できる」

 

「つまりそれでいいんだ。皆違うから助け合う。違うからこそ、助け合おうと思うんだよ」

 

海斗が俺達の言いたいことを簡潔にまとめてくれた。

 

「だから行こう」

 

「行くって何処に?」

 

「このまま寝るなんて勿体ないよ。最後に、クロと空也を案内したい場所、もう一個できちゃった」

 

そう言うとイリヤと美遊はクロの手を取り、転身する。

 

俺と海斗も空也の腕を掴み、転身する。

 

そして、夜の空中散歩へと出かけた。

 

空から明りが灯る温泉街を見下ろし、風を感じる。

 

こんな贅沢な散歩、俺達ぐらいしかできない。

 

「どう?二人とも」

 

「……悪くないわね」

 

「でも、もうちょっとスリリングでもいいぞ」

 

その言葉を聞き、スピードを上げようとした時、急にクロが声を上げた。

 

「ちょっと待って。アレ………」

 

『おや?凛さんとルヴィアさんの様ですね』

 

恐らく、昼間言ってたポイントを探してるんだろう。

 

「凛さ~ん」

 

「あれ?アンタたち、そんな恰好で何してるの?」

 

「えっと………散歩的な?」

 

「二人は昼間言ってた任務中ですか?」

 

「ええ、そうですわ。ですが、こんな夜中に出歩く者じゃないですわね。やぶ蚊が多くて………」

 

ルヴィアさんはやぶ蚊に食われた所を掻きながら言う。

 

「なんか大変そうだね」

 

「凛さん、俺たちで良ければ手伝えることはありますか?」

 

「そうね………あ、ちょっと待って。ポイントが近いわ」

 

凛さんの後に続いて歩くと、地面に大きな割れ目がある場所へと着いた。

 

「ここみたいね」

 

「できるだけポイントの地中深くに魔力的刺激を与えろ……と言う事でしたわね」

 

「ええ。適当に宝石弾を何発か撃てばいいから、アンタたちに手伝ってもらうつもりはなかったんだけど………」

 

「でも、宝石って使い捨てでしょ」

 

「どうせなら、節約した方がいいだろ」

 

クロと空也がそう言うと、凛さんは嬉しそうに声を上げる。

 

「そうよ、それ!節約!やっぱり日本人たる者、勿体ないの精神は大事よね!」

 

「は!流石は庶民。されど庶民。未来永劫庶民ですわね」

 

「うっさいわね!とにかく、アンタたちの旅行を邪魔する気は無かったけど、折角だし!」

 

「じゃ、やりますか」

 

俺と海斗は掌で魔力弾を生成し、イリヤと美遊はルビーとサファイアを割れ目に向け、クロは弓を構え、空也は長刀に魔力を纏わせ、魔力の斬撃を飛ばす構えに入る。

 

「タイミングは合わせた方がいいよね」

 

「うん」

 

「じゃあ、1、2の3で行くか?」

 

「3って言った瞬間か?それとも言い終わった瞬間か?」

 

「そんなもん適当でいいだろ」

 

「適当でも大丈夫よ」

 

空也とクロにそう言われ、俺たちは頷き笑う。

 

「それじゃあ、せーの!」

 

そして、俺たちは一秒のずれも無く、同時に割れ目に攻撃を撃った。

 

「これでいいんですか?」

 

「さぁね。私たちは言われたことをやっただけだから」

 

その時、急に地響きが怒り、割れ目から何かが昇ってくる音が聞こえる。

 

俺と海斗、空也は構え警戒していると、割れ目から大量の水が吹き出した。

 

「な、ナニコレ!?」

 

俺たちは目を閉じ、そのまま頭から水を被る。

 

あれ?この水…………あったかい?

 

恐る恐る目を開けると、俺たちがいた窪みにお湯が溜まり露天風呂が出来ていた。

 

「温泉!?」

 

「美遊、無事か?」

 

「うん。私は大丈夫……」

 

「温泉?ってことは………クロ、空也!」

 

慌てて空也たちの方を振り向くと、二人も同じように温泉を頭から被っていた。

 

「大丈夫か!?」

 

「え?……あ、うん。今のところは」

 

「というより、何も感じないぞ」

 

『ほほう。これは』

 

温泉にツッコまれていたルビーが話し出す。

 

『私の簡易水質検査によると、この温泉からは魔力の伝達率が高いと言う性質は消えてるようですよ』

 

『恐らく、先程の魔力的刺激が大元の水源に伝わり、魔力的性質が消えたのではないかと』

 

ルビーとサファイアの説明に俺たちは納得する。

 

「でも、それっていいのかな?」

 

『いいんじゃないですか?ぶっちゃけ、今まで以上に体に良くなってますよ。滋養強壮、疲労回復、美肌効果!なんでも来いです!』

 

『この辺一体の温泉がそうなってると思われます。特にこの温泉にはその効果が色濃く出ています』

 

「つまりこういうことね」

 

するとクロはいつの間にか裸になり(俺はイリヤ、海斗は美遊の手によって目を塞がれてる)空也と温泉に浸かっていた。

 

「凛とルヴィアの任務は終わった。そして、魔力的刺激を与えたら性質が良くなってここに最高の秘湯が出来た」

 

「なら、一番風呂は俺達にあるだろう」

 

そう言う二人の言葉を聞き、俺たちはその温泉に浸かることになった。

 

イリヤからは今回だけだからねっと強く念を押された。

 

そして海斗はと言うと、美遊に自分以外の人を見ないようにっと言われていた。

 

「今回の任務、ここの温泉の性質を正すことが目的だったのかしら」

 

「案外、ここに温泉を作ることが目的だったのかも。年寄りって温泉好きだし」

 

「大師父が裏で糸を引いていたと?有り得そうですわね」

 

凛さんとルヴィアさんの話を聞きながら、俺は空を見上げる。

 

夜空には星が輝き、とても綺麗だった。

 

「色々あったが、これはこれでいいか」

 

一人そう思ってると、誰かの足音が聞こえる。

 

振り向くとそこには士郎さんがいた。

 

「士郎さん!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「衛宮君!?」

 

「シェロ!?」

 

「いや………これは不幸な事故で…………ごめんなさい!」

 

そう言い残し、士郎さんは来た道を大慌てで引き返した。

 

その後、旅館に戻ると何故か魂が抜けたような表情で士郎さんが布団に横たわっていたが、俺たちは気にせず、そのまま眠った。

 

こうして、俺達の温泉旅行は終わりを迎えた。

 



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番外編 ビーストフォーム

今回もOVAの話ですが、話の都合上、オリ主たちが絡めれるように、話を少し変えてあります。


ある日の休日。

 

イリヤと美遊、クロの三人は家のリビングで映画を観ていた。

 

タイトルはにゃんにゃん物語という映画で、ただひたすら仔猫の映像が流れる物だ。

 

イリヤ曰く、凄い人気のある映画らしい。

 

少なくともイリヤの頭の中では……………

 

そんな三人をよそに、俺と海斗、空也の三人はトランプで神経衰弱をしていた。

 

……………思うんだが、この三人で集まるといつもトランプをしてる気がするんだが、気のせいか?

 

「はぁ~……やっぱ猫可愛いな~」

 

「うん、可愛い」

 

「そうかな?なんだか私、猫って好きになれないんだけど………」

 

「分かってないな~、クロは……あ!今の動きも最高!」

 

もうイリヤは絶好調だ。

 

「なぁ、零夜、海斗。猫ってのは知識としては知っているんだが、そんなに可愛い物なのか?」

 

「まぁ~可愛いんじゃないか?俺はちょっと苦手だけど」

 

「苦手?」

 

「小さい頃に、野良猫に手を噛まれたことがあってな。それ以来ちょっとな。でも、仔猫ぐらいなら平気だぞ」

 

「俺は好きなんだが、猫アレルギーなんだよ。猫好きにはキツイぜ」

 

「そうだったのか?」

 

「ああ。猫が近くに居るだけで涙と鼻水が止まらないんだ」

 

海斗は少し悲しそうに笑い、トランプを捲る。

 

映画を観終わるとイリヤたちはイリヤの部屋へと向かった。

 

それと同時に、俺達の方も神経衰弱を終える。

 

「次どうする?」

 

「七ならべは飽きたな」

 

「ババ抜きも、大富豪も飽きたな」

 

三人で次は何をするか悩むが、いい物が思いつかず、三人で外に出ることにした。

 

「公園行ってなにする」

 

「鬼ごっこや缶けりをする気分でもないしな」

 

「キャッチボールは?」

 

「ボールとグローブないぞ」

 

「じゃ、海斗の上着を丸めてボール代わりに」

 

「するな」

 

三人で話ながら歩いてると、ちょうど俺達の前に猫が現れる。

 

仔猫を三匹連れて歩いてる所を見ると、どうやら親子みたいだ。

 

「お、猫だ」

 

「へー、これが猫か」

 

空也は興味深そうに猫に近づく。

 

海斗は一歩下がり、猫に近づかないようにする。

 

「おい、空也。危ないぞ」

 

「大丈夫だって。いくら牙や爪があるからって、こんな小動物、怖くねぇよ」

 

そう言い、空也は仔猫に手を伸ばす。

 

その瞬間、親猫が眼にも止まらぬ速さで、動き、空也の手を思いっきり引っ掻いた。

 

「イテエエエエエエエエエエエエ!!?」

 

空也は涙目になりながら引っ掻いた親猫を睨む。

 

「この野郎……!よくも!」

 

「フシャアアアア!!」

 

「ごめんなさい!」

 

結局、猫の威嚇にビビり、俺たちは公園に向かわず家へと戻った。

 

ちなみに、海斗は離れたにもかかわらず猫アレルギーの影響でくしゃみをしていた。

 

「ただいま~」

 

「あ、零夜君。おかえりなさい」

 

家に帰るとセラさんが出迎えてくれた。

 

「ちょうどよかったです。これ、イリヤさん達とお食べになって下さい」

 

そう言って、お菓子の入った皿を渡される。

 

「わかりました。二人とも、行くぞ」

 

二人を連れて二階のイリヤの部屋に行く。

 

「イリヤ~。入るぞ~」

 

『え!?レイ!ちょ、ちょっと今は!』

 

「入るぞ~」

 

中からイリヤが慌てる声が聞こえたが、構わず中に入る。

 

するとそこには猫耳にしっぽを付け、やたら露出の多い服を着たイリヤと美遊、クロの三人がいた。

 

これはどういう状況だ?

 

「なんで入って来たの!?」

 

「いや、これ。セラさんが皆で食べろって」

 

「だからって今入ってこなくてもいいじゃん!」

 

イリヤは今の自分の恰好が恥ずかしいのか隠そうとする。

 

「てか、お前ら何やってたんだ?」

 

「えっと……美遊が猫好きなのに、アレルギーの所為で猫が触れない海斗君の為に何かしてあげたいって言って、そしたらルビーが『なら猫になればいいんです!』って言って、なんか流れでそのまま…………」

 

なるほど。

 

大体理解した。

 

「で、その結果あれか?」

 

俺は海斗と美遊のいる方を見る。

 

「えっと………海斗?」

 

「あ……ああ………」

 

海斗の奴………どうすればいいか困惑してやがる………

 

てか、美遊の服、イリヤやクロのよりなんかエロい。

 

そう言えば、美遊の魔法少女の時の服もイリヤよりエロいよな。

 

「………一緒に遊ぼう……ニャン」

 

美遊は手を顔の傍まで持っていき、軽く曲げてそう言う。

 

これは………中々の破壊力だ。

 

恐らく猫アレルギーの海斗の事を想っての行動なんだろうけど…………どうしてそうなった?

 

「ねぇ、空也。この恰好どう?」

 

「俺にはクロで丁度いいのかもしれないな」

 

空也は本物の猫はコリゴリだっと言い残し、クロを抱きしめ癒されていた。

 

……………なに、コレ?

 

俺はそう思ったが敢えて言わず、その光景を眺めながらお菓子を口にした。

 

ちなみに、イリヤはと言うと、先程の美遊のポーズとセリフによって変なスイッチが入り、写真を撮りまくっていた。

 



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腐り易い季節

ある日の夜、桂美々は夢を見た。

 

この前、デパートで零夜が空也に血を与え、空也はそれを飲み、それに対して海斗の大人な対応。

 

それを見てからというもの、夜な夜な夢の中であの日の出来事が蘇る。

 

「はっ!………またあの夢」

 

夢の内容を再び思い出すと美々は顔を真っ赤にして布団の中にもぐりこむ。

 

「皆乱れすぎだよー!………このままだと私、駄目になる!どこかに、この邪な気持ちを吐き出さないと!」

 

そう言い、机の上に置いてあるノートを見つめる。

 

「取りあえず…………この気持ちを小説に………」

 

その日の夜、美々の部屋から明かりが消えることはなかった…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やる気が起きないよ~」

 

次の日、イリヤの家に美遊、雀花、那奈亀そして美々の四人が集まり、そこにイリヤとクロを交えた六人で夏休みの宿題をやっていた。

 

イリヤは早々にやる気をなくし机に上半身を預けるように倒れる。

 

ちなみに零夜と海斗、空也の三人も誘われたのだが、三人は宿題を夏休みが始まって三日で全てを終わらせていた。

 

「なによ。集まって宿題やろうって言い出したのイリヤじゃない」

 

「そうだけど…………」

 

「頑張って。この時期から終わらせて置けば、後が楽になるから」

 

「でも、分かるかも。この時期にやる宿題ってどうにも気分に乗らないって言うか」

 

「だよね~」

 

「駄目人間の発想ね」

 

「あう~」

 

クロにそう言われイリヤが落ち込んでると雀花が口を開く。

 

「でもな、イリヤ。美遊の言う通りだぞ。計画を立てて早めの行動をとって置けばギリギリで苦しまないですむ」

 

「どうしたの?」

 

「暑さで頭でもやられた?」

 

「いや……ちょっと色々学ぶことがあったのさ………」

 

「でもさ、やっぱやる気でないよ。タッツンに至っては不参加だし」

 

「龍子は祭りの準備って言ってたね」

 

「祭り?」

 

「ほら、来週末にある夏祭り………そうだ!今度のお祭り、みんなで行こうよ!」

 

イリヤが思いついたようにそう言うと、全員がそれに賛同した。

 

「美々も来るよね?」

 

返事のなかった美々に尋ねると、美々は浮かない顔をしてノートに何かを書いていた。

 

書いてたのは小説の設定だったが、自分の邪な気持ちをうまく文章にすることができず、美々は悩んでいた。

 

「美々、どうしたの?元気がなさそうだけど」

 

「え?あ、ううん。大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけで………」

 

「寝不足?」

 

「何か悩みでもあるの?」

 

「悩みって言うか……自分の気持ちを表現できないって言うか……キャラが思い通りに動かなかったり……」

 

「気持ちの表現?」

 

「国語の宿題?」

 

「自由研究とか?」

 

「そんなに悩んでるなら皆で考えようよ」

 

イリヤがそう言うが、悩んでる内容が内容のため、美々は言い出せずノートを隠す。

 

「い、いいよ別に。一人で何とかするから」

 

「でも、皆がいるんだし折角だから教えてよ」

 

イリヤは一歩も引かず、美々に悩みを言うように言ってくる。

 

「イリヤ。一人でなんとかできるって言うなら、無理に聞き出さないほうがいいと思う」

 

そんなイリヤを見て美遊がそう言う。

 

「え?でも、友達が困ってるなら助けてあげるべきでしょ」

 

「場合にもよる。友達だからこそ、迷惑をかけたくないって思うこともある」

 

どこか悲しそうに美遊はそう言う。

 

「それはどうかしら?」

 

そんな美遊にクロは自分の意見を言う。

 

「迷惑がどうかなんてそんなの本人が決めることじゃない。話も聞かずに迷惑だなんて決め付けるなんておかしいじゃない」

 

「でも、話した時点で迷惑になるということもある」

 

「だから、それも話してみなきゃわかんないでしょ」

 

「それだと事後承諾になる。友達にそんなことはできない」

 

ヒートアップしだす、二人の話にイリヤが入り、二人を止めようとする。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて二人とも」

 

「なによ?イリヤも美遊と同じ意見なの?」

 

「わ、私は隠したいことなら無理して聞き出すのはそうかと思うけど………でも友達だからできれば話してほしいって言うか………」

 

「なによ、その煮え切らない返事!そんなんだから貴女は!」

 

「クロ、イリヤは関係ない。イリヤを責めるのは違う」

 

「そうやってすぐイリヤを庇う。貴女の友情ってそれなの!」

 

喧嘩にまで発展しそうな勢いの二人に、イリヤは右往左往する。

 

「ただいま~」

 

「戻ってきたぞ~」

 

「あ~、暑かった」

 

その時、外に出ていた零夜たちが帰ってきた。

 

「なんだ?喧嘩か?」

 

「たく、喧嘩してる暇あるならさっさと宿題やれよな」

 

「ほら、差し入れのアイスだ」

 

そう言い、零夜は持っていた袋からアイスを出し全員に渡す。

 

「話は廊下まで聞こえてた。イリヤ、友達の助けになりたいってのはいいことだが、助けること全部が全部正しいわけじゃない」

 

「だけど、友達が苦しんでたり悩んでたりしてるとき、助けたいって思うのは悪いことじゃない」

 

「ようは、クロと美遊の意見は両方正しい。その時に応じて正しいと思うことをすればいいんだよ」

 

そう言って三人はアイスを食べ始める。

 

「………ま、まぁ美遊の意見も一理あるわね」

 

クロはそっぽを向きながらそう言う。

 

「あ……えっと……私も、クロの言い分は一理あると思う」

 

美遊も少し戸惑いながらもそう言う。

 

「凄いな。ヒートアップしてた争いを一瞬で鎮火させやがった」

 

「流石はレイと海斗に空也。息が合ってる」

 

「男同士の友情って奴かね」

 

雀花と那奈亀がそう話してる中、美々ははっと気づく。

 

(………息の合った……男の子同士の熱い友情…………!)

 

その瞬間、美々の中で何かが破裂し、猛然とノートに書き込んでいく。

 

その気迫に全員が唖然としたが、雀花だけは違った目つきで美々を見ていた。

 

その後、宿題が一段落つき、今日はそこでお開きになった。

 

「ただいまー」

 

雀花が家に帰ると最初に見たのは何故か殺気立ってる姉だった。

 

「お、おねえ?」

 

「………雀花、今から漫画十二ページ書け」

 

「はぁ!?」

 

「落としたんだよ!アキラの奴が!合同で出すはずだった十二ページ!」

 

「無理に決まってんだろ!常識で物言えや!」

 

「常識の範疇なんかで生きてねぇんだよ!いいから、漫画でも小説でもいいから十二ページ用意しろ!」

 

「そう都合よく漫画や小説のストックがあるわけ…………あるかも」

 

そして、雀花は美々を呼び出し、来た瞬間布団で包んで縛り、口をガムテープで塞ぐと、持って来てもらったノートを掴む。

 

「む~~~~~~~~~!!?」

 

美々は布団に包まれたままもがくが小説の書いたノートを見られる。

 

「ほほ~う!ノーマルな主人公を好きになったホ○の転校生が、主人公の従弟(ホ○)に迫られ関係を持ってしまい、それを知った主人公の話か!いいねぇ!紙面からぐつぐつと煮え滾った妄想が滲み出てるよ!」

 

自身の恥ずかしい妄想の小説を見られ、美々は顔を真っ赤にして暴れる。

 

「頼む、美々。この小説、私らに寄贈してくれないか?」

 

美々は首をぶんぶんと振って断ろうとする。

 

すると、雀花姉はそんな美々に優しく触れる。

 

「これだけの妄想………溜め込んでたのはさぞかし辛かっただろう」

 

「分かるよ。溢れ出す思いを隠さなきゃいけない辛さ。でも、私らはその気持ちを理解できる」

 

「そうさ。私らは同志さ」

 

そう言う雀花と雀花姉の言葉に美々は光を見た気がした。

 

「悪いようにはしない。アンタのその想いと小説………私らに預けてはくれないか?」

 

美々とうとう首を立てに振った。

 

そして、ここから始まった。

 

美々の新しい一歩(腐女子としての一歩)が……………………

 




美々の小説を詳しい設定

主人公
ノーマルな男子。
転校生とはすぐに友達になった。
転校生と従弟がそういう関係になったことを知り、惑うと同時に、胸の置くがズキリとした痛みを感じ、二人を見てるのが辛くなっている

転校生
ホ○の男子。
前の学校で、ホモもとい同性愛者であることを知られ転校してきた。
二度と男に恋をしないと誓うも、主人公の明るい性格と人の良さに惹かれる。
だが、主人公の従弟に迫られ、拒もうとするも主人公そっくりな従弟に思わず拒むのをやめてしまって、関係を持ってしまう

従弟
主人公の従弟。
ホ○ではなく、主人公のことが好き。
だが、想いを伝えて引かれるのを恐れていた。
そんな時、主人公と仲良くしてる転校生を見かけ、転校生に嫉妬するも、自分と同じ主人公が好きだと知ると、主人公が好きな想いを殺して、転校生でその気持ちをごまかそうと転校生に迫る。







以上、美々ちゃんの小説の設定です。


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友情

「初めはノーマルだったんだ」

 

勉強会をしてから数日後。

 

家にやってきた雀花が部屋に上がるなりそう言ってきた。

 

「へ?」

 

「ノーマル?」

 

「どういうことだ?」

 

「てか、何が?」

 

ちなみにこの部屋には俺と空也、そしてイリヤとクロがいる。

 

「ノートにさ、レイと空也、そんでここにはいないけど海斗を元にしたノーマルな小説を書いてたんだよ。でも、それがどうもしっぽりもといしっくりこなかったみたいでさ。それで、ノーマルじゃなくてBL物にしたら、光の速さで腐っていって、坂道を転がるように深みに填って行ったって感じ。あ、今はまだソフトな一般向けな奴だから大丈夫………ってBLの何が一般向けだっつーの!自分で言ってて受けるわ!」

 

なんか一人で喋って興奮してるな。

 

というより、言葉の殆ど何を言ってるのか分からない。

 

「お願い!もう少しアクセル緩めて!」

 

「正直言って何を言ってるのか九割も理解できないぞ」

 

「………美々だよ」

 

「「美々?」」

 

「腐女子になった」

 

「婦女子?」

 

「あ、腐ってる方のね」

 

腐った婦女子?

 

なんだそれ?

 

「まぁ、私も腐ってるんだけどね」

 

理解できず俺たちは顔を見合わせる。

 

「ああもう!口で言っても埒があかない!うちに来い!現物見せてやる!あと、海斗と美遊も連れてくぞ!」

 

雀花の勢いに押され、俺たちは海斗と美遊の二人を連れて雀花の家へと連れてかれた。

 

雀花の部屋は和室で、壁一面に本棚があり、棚には様々な本がギッチリと埋められていた。

 

さらに入りきれない本とかはそのまま本棚の隣に無造作に積まれて置かれている。

 

そして本棚の上には色んなアニメのフィギュアが置かれている。

 

「うわぁ~」

 

「本が沢山……」

 

「凄い」

 

「これ全部、雀花の?」

 

「いや、八割ぐらいはおねえの本。適当に座ってよ」

 

雀花に言われ、俺たちは座布団を受け取り座る。

 

「まぁ、ぶっちゃけると私は腐女子って奴で、BL愛好家なわけよ」

 

「B?」「L?」「………?」

 

イリヤとクロ、美遊が意味が分からないと言いだげにする。

 

「やっぱそこから説明しないとか。えっと」

 

そう言って雀花は本棚から一冊本を取り出す。

 

その時、インターホンが鳴り、美々の声が聞こえる。

 

「まずい!美々の奴、もう来やがった!」

 

「え?美々も呼んだの?」

 

「取り敢えず、お前らは押し入れに隠れろ!」

 

雀花は押し入れの扉を開けて、中に俺達を放り込む。

 

「BLはこれを読めば分かるから!」

 

そして、一冊の本と懐中電灯を投げ込む。

 

「いいか。お前ら、物音立てるなよ!」

 

そう言い残して、扉を閉める。

 

「お邪魔しまーす」

 

「そこら辺、適当に座ってよ」

 

「うん」

 

押し入れの扉を少し開けて、外の様子を見る。

 

美々は普通に座布団に座る。

 

「美々……」

 

「別に変ってない気がするんだけど……」

 

「変わったのは外見じゃないってこと?」

 

「じゃあ、中身が変わったのか」

 

「つまり雀花が言ってた腐女子って奴か」

 

「で、腐女子ってなんだ?」

 

そこが一番の問題だな。

 

「貸してもらった本。凄く良かったよ!」

 

美々は鞄からやたら薄い本を取り出し、急に熱く語り出した。

 

「最初スケアクロウ様が弱気で、これってリバじゃないのって思ったんだけど後半まさかのドルフィン誘い受けでホムラの火が灯ったらもう、私………!」

 

「お、おお……わかるわー」

 

何の会話だ?

 

リバ?誘い受け?

 

「なんなの?」

 

「BLって奴の話なんじゃない?」

 

「取り敢えず、それを読めば分かるって………」

 

美遊の目線の先には耳の持ってるのと同じ薄い本がある。

 

「しかしやたら薄い本だな」

 

海斗が本を手に取り開く。

 

そして、空也が拾った懐中電灯で明りを付ける。

 

その瞬間、俺たちが見たのは裸の男と男が何やら■■■■■■■■■みたいなことをしてる漫画か描かれていた。

 

海斗は開いて、そのページを見た瞬間、速攻で閉じた。

 

「…………え?」

 

海斗は青ざめながら振り向く、美遊は顔を赤くしてそっぽを向き、イリヤも顔を赤くして口から変な声を出す。

 

「なっ!なななななななっ……ななっ……!」

 

「これって……まさか…………」

 

「そのまさかだな…………」

 

「「ホ○漫画だ!!」」

 

俺と空也は同時に言った。

 

「BL……思い出したわ。聞いたことがある。BL,またの名をボーイズラブ。それは男同士の恋愛を描いた美しく儚い業の世界。許されない愛だからこそ、どこまでも燃え上がる………!尚、一般的には二次創作物をやおいと呼び、商業BLとは別物になるが、ここでは特に区別しない物とする」

 

「なんでそんなに詳しいの!?」

 

押し入れの中でBLが何なのかを知った俺たちが唖然とする中、外では美々が更なる暴走をする。

 

「それでね!スケアクロウ様の■■■■が■■■■になったのは■■■■は■■走ったからで、結局■■■■は合意の上だったと思うの!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着け美々。な?」

 

「体の■■■■は、二人の■■■■で、つまり■■■■は■■■■行為なの!」

 

「あの優等生だった美々が教育的配慮の必要そうな単語を………!」

 

扉の隙間から外の様子を見てるイリヤが震えながらそう言う。

 

「それで■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

「何を言ってるのか分からなくなってきた………」

 

「なんかもうバーサーカーみたいになってきてるわね」

 

「もう見てられない!美々を止めないと!」

 

「待って!面白そうだからもう少しこのまま」

 

「離して!」

 

「お前ら落ち着け!」

 

「こんな所で大声を出すな!」

 

二人を止めようと俺と空也が止めに入るが必要以上に暴れる二人に押し負け、俺は空也と一緒に突き飛ばされる形で外に出る。

 

押し入れの扉を押し倒し、俺の上に空也が乗るような感じで出る。

 

「あ、いや……美々」

 

「これはだな………」

 

隠れていた言い訳を何といおうか考えていると美々は急に顔を赤くする。

 

「押し入れの中で汗だくになって…………二人は一体ナニをしてたの…………?」

 

「「思考が完全にピンク色だ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、こんな感じで私の手には負えなくなったからお前達を呼んだって訳だ」

 

結局、隠れていたことを話し、全員で部屋に集まる。

 

「酷いよ、雀花ちゃん……イリヤちゃんたちにバラすなんて………それにレイ君にまで…………」

 

「でも、急にどうしたの?」

 

「すっと前からこうだったのか?」

 

「ち、違うよ!び、BL小説を書き始めたのは最近で…………それでも、誰にも見せずに隠してきたのに雀花ちゃんが…………」

 

「コミマに美々の書いたBL小説載っけちった!」

 

元凶はお前かよ!

 

「美々をそっちの道に引きずり込んだの明らかに雀花じゃない!」

 

「しょうがなかったんだよ!修羅場の焦燥感とイベントの昂揚感が我々を狂わせたんだ!」

 

「狂ったのは美々の思考よ!」

 

「やめて!」

 

そこで、急に美々が大声を上げる。

 

「雀花ちゃんを責めないで………誰かの所為じゃないの……小説は元々私の趣味だったんだもん………雀花ちゃんはキッカケをくれただけ………」

 

「美々………」

 

涙声でそう言う美々の言葉に、俺は何も言えなくなった。

 

美々の奴……泣く程苦しんでたのか…………

 

「ただ……私の……私の魂が………BLの形をしてただけなの……」

 

「戻って来て美々!」

 

ああ………これは本格的にダメなパターンかも………

 

「最近だと、男の人が二人で歩いてるののを見ただけでドキドキしちゃって……!」

 

「末期だわ………」

 

「いや、それは腐女子の基本スキル」

 

そこで美々は鞄から十冊以上のノートを出す。

 

「最近では士郎さんと一成さんのみだらな妄想が止まらなくてもうノート十二冊分の小説を!」

 

「いやぁ~!!」

 

イリヤが絶叫する中、美遊はその山から一冊本を手にして読み出す。

 

え?読むの?

 

「凄いわね……ちなみにどっちが攻めで受けなの?」

 

「クロも何を聞いてるの!?」

 

「士郎さんヘタレ攻めの一成さん誘い受けが………」

 

「本当に何を言ってるの!?美々も正気に戻って!」

 

「私は正気なの!それに、これは純愛なの!どうして分かってくれないの!」

 

「そんなの分かんないし、分かりたくもないよー!」

 

とうとうイリヤと美々の言い合いが始まり、俺と海斗が右往左往しながら止めようとする。

 

「うるせぇんだよ、じゃり共がー!!」

 

その瞬間、部屋の襖がけ破られ、一人の女性が現れる。

 

「ちょ、おねえ!」

 

雀花のお姉さん!?

 

「お姉さま!」

 

こっちはお姉さま!?

 

色んな出来事に驚いていると、俺は雀花姉の方から強烈なプレッシャーを感じた。

 

俺だけでなくここにいる全員がそれを感じ取った。

 

なんか背中からオーラの翼みたいなのが見える…………

 

「こ、これは………!」

 

「この禍々しいプレッシャーに近いオーラは……!」

 

「へぇ~、クロと空也も感じ取れるんだ。おねえの腐のオーラを。おねえは私らなんかと比較にならない腐女子の上位種、貴腐人と呼ばれる存在だ!」

 

「また新しい単語が!」

 

「まったく………BLドラマCDを流してクローゼットに入りながら聞く疑似覗きプレイを邪魔しやがって!」

 

「本当だ、レベルが違い過ぎる!」

 

「レベルって言うか、かなり高度な遊びだぞ!」

 

俺とイリヤが驚いてる中、雀花姉は美々の方に顔を向ける。

 

「で、美々。友バレした気分はどうだ?」

 

「……その……凄く…恥ずかしいけど……BLは好きだから………」

 

涙を流して美々はそう言う。

 

「それで、そっちのお嬢ちゃんはどう思った?」

 

「……えっと………やっぱり、男の人同士なんておかしいし……BLは止めてほしいっていうか………」

 

「うん、そうか……なら簡単な話だ。お前ら、友達止めろ」

 

親指を下に向け、雀花姉はそう言った。

 

「ちょ!ちょっとおねえ!」

 

「だってそうだろ。BLが理解できないからって止めさせるなんて……そんな友達、こっちから願い下げだ」

 

「でも!だって……おかしいし……!」

 

「そうだよ。確かにBLは変だし、恥ずかしい趣味だ。親にも友達にも言えない。分かってるんだ。私たちも。でも、BLが好きだって気持ちは止められない。だってのに、変だからって干渉するのが友達なのか?理解できないからって否定するのが友情なのか?………そんなの糞くらえだ。友達なら相手の恥ぐらい笑って飛ばせ!できなきゃ、見て見ぬフリをしろ!」

 

雀花姉の言葉を聞き、イリヤと美々は顔を見合わせ、笑い出した。

 

そして俺も海斗も空也も、クロも雀花も笑い出す。

 

「な、なんだよ!?笑うトコ違うだろ!」

 

「だって言ってること滅茶苦茶じゃない」

 

「要するにそっとしておいてくれってことだろ」

 

クロと空也が笑いながらそう言う。

 

そんな中、イリヤは美々に近づく。

 

「ごめんね、美々。私、美々の気持ち無視してた」

 

「イリヤちゃん……」

 

どうやら和解できたみたいだな。

 

「でも、隠したい趣味なんでしょ?だったら美々はもうちょっと押さえた方がいいんじゃない?」

 

「そうそう、私らまだ子供なんだからさ」

 

雀花が美々の肩を掴んで言う。

 

「美々とはもっとゆっくりBLと付き合って行って欲しいんだよ」

 

「雀花ちゃん……」

 

「私らはまだ下り始めたばっかなんだからさ。この果てしないBL坂を」

 

下り限定なんだな…………

 

「あれ?そう言えば」

 

するとイリヤが急にふと思い出したかのように言い出す。

 

「男の人同士が好きってことはBL趣味の人は彼氏とかいらないとか思ってるのかな?」

 

「いやいや、BLはあくまでファンタジー。現実の恋愛や結婚とは別物なんだよ」

 

「良かった。じゃあ、美々も将来……」

 

「そんな!私彼氏さんなんていらないよ!」

 

美々は両手を振りながらそう言う。

 

「その歳で独り身宣言とか、悲し過ぎるわよ」

 

「ううん。そうじゃないの。私ね―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男の人は男の人同士で。女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑顔でそう言う美々の言葉に、俺たちは思わず凍り付いた。

 

「………あれ?」

 

俺とイリヤ、空也とクロは顔を見合わせ頷く。

 

「じゃあ、私たちはこれで……」

 

「またな……」

 

「お邪魔しました……」

 

「失礼する……」

 

「私もちょっと用事が……」

 

適当な理由を言い、俺たちは部屋を出る。

 

「どうして逃げるの!?待ってよ!?」

 

「………美遊。俺たちも帰ろう」

 

海斗は未だにBL本を読んでる美遊にそう言う。

 

美遊は本を閉じ、そして呟いた。

 

「理解………できなくもない」

 

「……えぇ~…………」

 



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遊園地パニック

放射(フォイア)!」

 

火球弾(ファイア)!」

 

九枚目のクラスカードを取りに行くための穴で俺は火の魔力を固めて作った火球弾を、イリヤが魔力砲を撃つ。

 

火球弾と魔力砲は跳ね返り、背後の鉄骨に当たる。

 

「ルヴィアさーん!これでいいの?」

 

「ええ。軽い動作確認ですから充分ですわ」

 

「で、それってなんなの?」

 

クロが上の鉄骨に座りながら聞いて来る。

 

「もしもの時の備え、ですわ」

 

「ルヴィアさん、奥の岩盤が一番硬い所を崩してきました」

 

「いやー、結構硬くて疲れたぜ」

 

「落ちて来る瓦礫や破片を弾いてた俺の方がもっと疲れたよ」

 

奥の方から美遊と海斗、空也の三人がやってくる。

 

三人は掘削機で穴を開けられない岩盤の破壊に向かってもらい、岩盤破壊は海斗と美遊が、そして破壊した時に生じる破片や瓦礫の防御を、この中で一番俊敏な空也に頼んだ。

 

ちなみにクロは空也が戻って来るや否や、急いで鉄骨から降り、抱き付いていた。

 

「三人共お疲れ」

 

帰って来た三人を凛さんが労う。

 

「今更だけどしつもーん」

 

するとクロが空也に抱き付いたまま聞いて来る。

 

「いくらこっちで工事してもジャンプ先は地中なんじゃない?」

 

「あ、そっか」

 

そう言えば、そうだな。

 

『それは大丈夫です。境界面は可能性の重ね合わせの世界ですから、我々がジャンプすることによって重ね合わせの中から相対状態を選び取るわけです』

 

『シュレディンガーの猫を思い浮べれば分かりやすいかと』

 

「えっと、つまりどういうこと?」

 

「要するに、この工事場所からジャンプすれば、自動的にむこうもこっちと同じ状態になるってことだろ」

 

「あー、なるほど」

 

俺の説明に、イリヤは納得する。

 

「まぁ、ちょっと違うんだが、そういう解釈で構わない」

 

「で、どうなの進み具合は?」

 

「まぁ、後三割って所ね。手伝ってくれてありがとう」

 

「いやー、むしろ今まで夏休みを満喫していて申し訳なかったというか………」

 

「何言ってるのよ、子供は遊ぶのも仕事よ」

 

「遊ぶと言えば……これは今日のお駄賃ですわ」

 

そう言ってルヴィアさんがイリヤに何かを渡す。

 

「わぁ~!遊園地だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルヴィアさんからもらったチケットの遊園地は最近できた物らしく、結構賑わっていた。

 

そして、俺たちだけで行くのは勿体ないので、雀花と那奈亀、美々、龍子の四人も誘って亥ことになった。

 

「いい。皆、こうして遊園地に来たけど、最初に注意点を言います」

 

引率にはアイリさんが同行してくれている。

 

「一つ、危ないことはしない。二つ、逸れない。三つ、困ったことがあれば遠慮なく言う」

 

「「「「はーい」」」」

 

「ねぇ、引率の大人がママだけで大丈夫なの?」

 

「しょうがないよ。お兄ちゃんは部活、セラたちは予定があるんだし」

 

凛さんやルヴィアさんも掘削工事の続きをするとかで来れないし、ちょうど手が空いてるのがアイリさんだけだから、仕方ない。

 

「イリヤちゃんのお母さん綺麗だねー」

 

「うちの母ちゃんと交換してくれないかなー、一日だけでいいから」

 

「だが、戦ったら勝つのは俺の母ちゃんだぜ!」

 

「何故戦わせる?」

 

「ふふっ、皆素直な子ね」

 

やばい………凄い不安になってくる。

 

「よし!じゃあ、今日は閉演時間まで遊び倒すぞー!」

 

「「「おー!」」」

 

まぁ、遊園地なんて久々だし、俺も楽しむとするか。

 

最初に俺たちが向かったのはジェットコースターだった。

 

遊園地に来たならこれは必須だな。

 

「なぁ、龍子は大丈夫なのか?」

 

「何がだ?」

 

何がって、身長制限的な意味でだよ。

 

結果、従業員さんの判定が甘かったお陰で、龍子もジェットコースターに乗れることになった。

 

ちなみに、席は前から海斗と美遊、俺とイリヤ、空也とクロ、美々と雀花、那奈亀と龍子、そして最後にアイリさんの組み合わせだ。

 

「あれだな。ジェットコースターでのこの時間が一番緊張するな」

 

「その気持ち、凄い分かる」

 

「どうして?位置エネルギーを運動エネルギーに変換するために、最初にこう昇って行くうぉおおおおおおおおお!!?」

 

美遊が喋ってると急に下がり出し、今まで美遊から聞いたことの無い声が響く。

 

その後も、色々と絶叫系のアトラクションを周り、そしてゴーカートやメリーゴーランドなど、遊園地だなっと思わせるアトラクションを巡った。

 

そして、一通り遊ぶと俺たちはフードコートで休憩を取った。

 

「どう美遊?初めての遊園地は?楽しい?」

 

「うん。特にコースターとフリーフォールの動きには感服した。安全率を考えると並大抵の設計難易度ではないはず……!」

 

「ま、まぁ、楽しんでいるならよかったな………」

 

やっぱ、何処かズレてる感じはあるが………ま、いっか。

 

「楽しんでるって言えば………」

 

「ふふっ、遊園地って楽しいわね」

 

隣のテーブルで、休憩をしながら話をしているアイリさんと雀花、那奈亀、美々、龍子の方を見る。

 

「引率の大人が一番楽しんでるな」

 

「普通に皆と馴染んでるし………」

 

「そうね。切嗣とは恋愛結婚で、色々あって式は上げられなかったけど……」

 

なんか、さり気なく家庭の事情まで漏れ出してる……………

 

その時、遊園地内でアナウンスが流れた。

 

内容を聞くと、これからこの遊園地のパレードが始まるそうだ。

 

「パレードだって!」

 

「行こうぜ!」

 

「いいけど、逸れないように気を付けてね。パレードに巻き込まれたら二度と会えなくなっちゃうから」

 

「大げさだなぁママは…パレードぐらいで」

 

イリヤ………それフラグだぞ。

 

そして、イリヤはそのフラグを早々に回収した。

 

パレードを観ようとしてる来園者に巻き込まれ、イリヤと逸れてしまった。

 

俺はすぐに動き、イリヤを見付けると手を掴んで人だかりの中から連れ出す。

 

「イリヤを回収したぞ」

 

「お疲れ」

 

「着ぐるみが可愛いのはいいんだけど……」

 

「凄い人口密度だな」

 

しかし、同じ顔をした着ぐるみが歩いてる姿ってのはシュールだな。

 

その時、何故か死んでる龍子が目に入った。

 

「龍子の奴、どうしたんだ?」

 

「パレードが始まった瞬間、一目散に突っ込んで行ってライオン号君に助けてもらったんだ」

 

「助けてもらったって言うか、邪魔なゴミを片付けたって感じ」

 

「いや、ゴミって」

 

「あれ?ママは?」

 

そう言えばアイリさんがいないな。

 

「まさか逸れたか?」

 

逸れたことに動揺したが、すぐに落ち着き、俺たちは迷子センターへと向かう。

 

アイリさんも俺たちがいないと知れば、多分探そうと迷子センターに来るはずだ。

 

「聞き覚えのある声がすると思ったら」

 

なんと迷子センターのは俺達の知ってる人がいた。

 

「カレン先生!?」

 

「言ったでしょ。健康な子供の声は耳障りなの」

 

本当にこの人教員かよ………

 

「なんでここに?」

 

「バイトか?」

 

「教員のバイトは禁止されてるわ。ここは寄る辺を失った子供の泣き顔が見れる場所。私にとってはオアシスなの」

 

本当によくこの人教員になれたな………

 

その時、俺ポッケから携帯が鳴る。

 

「あ、忘れてた。アイリさんから携帯渡されてたんだ」

 

「なんで私じゃなくてレイなのさ……」

 

「イリヤだと心配だからだろ」

 

そう言い、携帯に出る

 

『あ、レイ君』

 

「はい、俺です。アイリさん、今どこにいますか?」

 

『それがね、パレードで皆と逸れて、人波に流されるまま歩いてたら園内の結婚式場に来ちゃって、そしたら私が丁度一万人目らしくて、記念にウエディングドレスで撮影してくれるって………』

 

「ウエディングドレスで撮影ですか?」

 

『でも、保護者がいないと乗れないアトラクションもあるし、今から戻るから、場所教えてくれる?』

 

そこで、俺はあることを思いついた。

 

「アイリさん、こっちは大丈夫ですから記念撮影してもらってください」

 

『え?でも』

 

「こっちは大丈夫です。学校の先生がいたから、先生に引率を頼みますし、折角ですし、撮った写真、切嗣さんに送ってあげたらきっと喜んでくれますから。じゃ」

 

『あ!ちょっと、レイ君!』

 

そのまま何も言わず携帯を切る。

 

「と言う訳で、カレン先生。俺達の引率お願いできませんか?」

 

携帯を仕舞い、カレン先生に頭を下げてお願いする。

 

「………いいわよ」

 

意外にもあっさりと引き受けてくれた。

 

その時の、イリヤ達の顔は驚きに満ちていた。

 

カレン先生に引率をお願いして園内を歩いていると、子供が一人泣いていた。

 

どうやら、持っていた風船が飛んで行ってしまったみたいだ。

 

すると、ライオン号君の着ぐるみを着た人が、ベンチを踏み、街灯を蹴り、壁を蹴って空を飛び、風船を捕まえ、地面に降り、子供に風船を渡した。

 

凄い動きだな……………

 

するとカレン先生は着ぐるみに近づくと何かを話す。

 

「この着ぐるみも貴方達に同行してくれることになったわ」

 

一体何を言ったんだ?

 

「ん?あの動き………ま、いっか」

 

空也が何かに気付いたみたいだが、気にせず、俺たちは再び遊園地内を歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤSIDE

 

あの後、ライオン号君とカレン先生に同行してもらい、遊園地内を回ったけど、何故か色々疲れた。

 

具体的に言うと、お化け屋敷でライオン号君がお化けを殴ったり、園内にあるゲームセンターのパンチングマシーンを破壊したりと、色々あった。

 

またある程度回った後、休憩所に向かい、飲み物を美々と雀花、那奈亀の四人で買いに行く。

 

「楽しいけど……部分的に疲れた……」

 

「しかし、何処を見てもライオンが多いな」

 

「夢に出てきそうだね」

 

「可愛い物はいくらあってもいいんだよ」

 

「イリヤ……目が死んでるぞ……」

 

「そうだよ……」

 

「美々まで!?」

 

買った飲み物を手に、皆が待っている休憩所に向かう。

 

「ただいまー」

 

「お帰り、イリヤ」

 

「あれ?レイたちは?」

 

「零夜と海斗、空也ならトイレに行った」

 

「そっか。あ、はいこれ。美遊はレモンティーでよかったよね」

 

「うん。……イリヤ!」

 

急に美遊が声を上げてビックリする。

 

「な、なに?」

 

「ペンダントがない!」

 

「え!?」

 

慌てて胸元を触るが、そこにあるはずのペンダントがなかった。

 

「無くしたの!?」

 

「それってレイからの誕生日プレゼントだろ」

 

「何処で落したんだ?」

 

「……分からない」

 

「とにかく、今まで言った所を探してみる」

 

「しょうがない、付き合って上げるわよ」

 

「手分けして探そう」

 

「カレン先生、レイたちが帰ってきたらお願いします」

 

カレン先生たちにそうお願いして、私はペンダントを探しに行く。

 

取り敢えず、落し物センターに向かったけど、ペンダントは届いてなく、私はもう一度探しに行く。

 

「どこで落したんだろ……レイからもらった物なのに………」

 

『あの~イリヤさん』

 

「なに?」

 

焦りながら探してると、ルビーが話しかけて来る。

 

『一応報告しておこうと思うんですけどサファイアちゃんがですね―――――――――』

 

ルビーの話だと、美遊が魔法少女になってペンダントを探してくれてるとのことだった。

 

私も魔法少女に転身して、美遊の所に向かう。

 

「美遊!」

 

「イリヤ」

 

美遊は観覧車の上でサファイアを構えていた。

 

「何してるの?」

 

「サファイアに探してもらうの手伝ってもらおうと」

 

「そうじゃなくて、こんな所で転身したら……」

 

「大丈夫。他の人には催し物に見えるから」

 

「そ、そうかな………」

 

「もう一度やってみる」

 

そう言って美遊はもう一度サファイアを構える。

 

「なら、私一緒に!」

 

美遊の隣に立ち、ルビーを構える。

 

「ルビーもできるよね」

 

『もちろんです!』

 

ルビーに持頼み、二人でペンダントを探索する。

 

だけど、やっぱり捜索範囲が広すぎることもあり、見付けることは出来なかった。

 

誰かが見つけてくれてるかと思い、一度みんなと合流する。

 

「イリヤ!どうだった?」

 

クロがそう聞いて来るってことは、見つからなかったんだ。

 

私は力なく、首を振る。

 

その時、閉園を知らせるアナウンスが園内に響く。

 

「まずい、もう閉園時間だ」

 

「事情を説明してもダメかな?」

 

「探しておくから帰れって言われるだけだろう」

 

「ここは俺に任せて先に行け!」

 

「お前に任してどうなるんだよ!」

 

「………もういいよ、皆」

 

これ以上、皆に迷惑を掛ける訳には行かないし、私はそう言う。

 

「閉園時間じゃしょうがないし、レイだって事情を言えば分かってくれて……」

 

「それじゃダメ……私、もう一度探して来る!」

 

すると美遊がそう言い、探しに行ってしまう。

 

「あ、美遊!」

 

慌てて美遊の後を追うと、カレン先生と何か話していたみたいだったが、私が着くころにはもう話し終えた後だった。

 

「美遊、探してくれるのは嬉しいけど、でももう…………」

 

「………イリヤのペンダントは金具で止めるタイプの物。簡単には外れない。なら、落したんじゃなく、何か特別な力が加わって外れたと考えるべき」

 

「特別な力………」

 

美遊に言われて、私ははっとする。

 

「「パレードの場所!」」

 

美遊も同時に思いついたらしく、私たちは走り出す。

 

パレードで私が人混みに巻き込まれた場所に向かうと、そこには既に誰かがいた。

 

「海斗、あったか?」

 

「いや、こっちにはない。空也は?」

 

「まだだ」

 

見ると、レイたち三人が川に入り、何かを探してた。

 

「レイ!それに海斗君に空也も!」

 

「三人共、何を……!」

 

私たちに気付き、レイが顔を見上げる。

 

「イリヤ、ペンダント落したんだろ」

 

レイが胸元を叩きながら言う。

 

「零夜が言うには、落したんならこの辺が怪しいってな」

 

「だが、まだ見つかってない」

 

「待って。今、サファイアの探索能力で………零夜、その辺り!」

 

美遊が指を刺した所にレイが移動し、手を入れて探る。

 

「お、あったぞ!」

 

そう言ってレイが上げた手にはあのペンダントがあった。

 

その瞬間、私は思わず橋を飛び降り、レイに抱き付いた。

 

「ありがとう!ごめんね………折角レイがくれた物なのに落しちゃって………」

 

「たっく……別に怒ってないし、次からは気を付けてくれればいいよ」

 

レイは私の頭を撫でながらそう言う。

 

「うん……ありがとう」

 

「よし!帰るか!海斗と空也もありがとな。態々手伝ってくれて」

 

「いいってことさ」

 

「困ったときはお互い様だ」

 

私は二人にもお礼をいい、川から出ると後からやってきた雀花たちにペンダントが見つかったことを言い、もう一度お礼を言った。

 

遊園地の入口まで移動して、暫く待ってると遠くからママがやってきた。

 

「ごめ~ん!ドレスを取っかえ換っかえで何十着も着せられて………引率してくれた先生は?」

 

「それならあそこに……」

 

レイが指を刺した方向をママが見ると、ママは一瞬険しい顔をして、先生に近づく。

 

どうしたんだろう?

 

「イリヤちゃん、お土産屋さんで何買ったの?」

 

「え?えっとね」

 

気になったけど、すぐに美々がそう聞いて来たから私はすぐにそのことを忘れた。

 

ママと先生が何かを話し終え、ママが近づいて来る。

 

「じゃあ、私たちも帰りましょうか」

 

「うん!」

 

笑顔でそう言い、私たちは遊園地を後にした。



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祭りと隠し事

「空也、準備出来たか?」

 

「ああ、なんとかな」

 

今日は夏祭りの日。

 

イリヤたちは現在、一階でセラに浴衣の着付けをしてもらい、俺たちは自室で甚平に着替えた。

 

「思うんだが、態々男の俺たちまでこれに着替える必要はないんじゃないか?」

 

「そう言うなって。この先、後何回こういうのが着れるかわからないんだし、それにイリヤたちは浴衣着るって言ってるんだ。俺たちだけ私服だと浮くだろ」

 

甚平が嫌なのか、げんなりとして言う空也を宥める。

 

「レイ~!行くよ~!」

 

「空也~!早く~!」

 

一階からイリヤとクロが俺たちを呼ぶ。

 

「じゃ、行くか」

 

「ああ」

 

一階に降り、玄関で待っていたイリヤたちと合流し、途中で海斗と美遊とも合流してもうお馴染みのメンバーで祭りの会場に向かう。

 

「へ~、結構いい雰囲気ねー」

 

「これが祭りか……」

 

クロと空也は始めて目にする祭りに感嘆の声を上げる。

 

「このでは結構大きいお祭りなんだよ」

 

「隣町からも来る人もいるしね」

 

「夜には花火大会もあるからな」

 

皆が楽しそうにする中、海斗と美遊は戸惑い気味に辺りを見渡す。

 

「海斗と美遊はやっぱこういうのも初めてか」

 

「まぁな。ずっとロンドンにいたってのもあるけど、日本の祭りはいつか行ってみた行って思ってたから、今は戸惑い半分と興味半分って感じだな」

 

「私は始めてでちょっと緊張してる」

 

「普段は見ないお店ばっかで戸惑うかもしれないけれど、それもお祭りの醍醐味なんだよ。分からないことがあったら何でも聞いてね」

 

「ありがとう。じゃあ、早速……あれは?」

 

美遊が指差したのはわたあめだった。

 

「あれはね、わたあめって言ってふわふわの甘い「アレは砂糖を溶かして綿状に加工しただけの単純な食べ物のはず。原価が砂糖のみなら数円。包装の袋を考慮しても数十円程度。飲食店の原価率を25%と仮定しても二百円程度が妥当で、値段設定が明らかに高過ぎる。なのに……何故、多くの人はああも購入して」待って!私には美遊の言ってることが分からない!」

 

イリヤは別方向で祭りに疑問を思った美遊にツッコむ。

 

「ごめん……簡潔にまとめる。あの店は………」

 

「あの店は?」

 

「酷いボッタクリをしている」

 

「やっぱ言葉濁して!」

 

ボッタクリという言葉が聞こえたらしく店主の人がこっちを睨んで来る。

 

俺とイリヤ、海斗は慌てて、美遊を連れてその場を離れ、皆の所に戻る。

 

「何処行ってたのよ?」

 

合流するとクロがそう聞いてきた。

 

「イリヤに祭りのことで疑問に答えてもらってた」

 

「疑問って?」

 

「原価率と適正価格について」

 

「また難しそうなことを……」

 

「あの店も……」

 

美遊は今度は、水風船の店を指差す。

 

「二百円もあれば、あの程度の玩具を一ダース以上作れる。それなのに、消費者はああも並んでる。理由が分からない」

 

「あのな、美遊。祭りってのはそう言うのは考えないんだ」

 

「そうだ!祭りは計算なんかじゃねぇ!これが、祭りの楽しみ方だ!」

 

そこに現れたのは何故か神輿に乗って巨大な団扇を振り回す龍子がいた。

 

「な………なにやってんだ?」

 

龍子は調子に乗りに乗って、神輿から足を滑らせ、顔面から落ちた。

 

「た、龍子ちゃん!」

 

「大丈夫か?」

 

すると龍子はすばやく立ち上がり、また団扇を振り回す。

 

「ばかな!」

 

「無傷だと!」

 

「受身だけは免許皆伝の俺様を舐めてもらっちゃ困るぜ!」

 

そう言い残し、龍子を乗せた神輿は移動する。

 

「もし……今のが祭りの楽しみ方だとすれば………私には到底出来そうにない………」

 

「いや、龍子の楽しみ方は上級者向けだから………」

 

「上級者って言うか、龍子の楽しみ方は正直異常なんだが…………」

 

そう言うも、美遊は何処か悲しそうにため息を吐く。

 

「大丈夫!一般的なお祭りの楽しみ方を教えてあげるから!」

 

「まぁ、祭りなんて教わるもんじゃなくて自分なりに楽しめたらいいんだよ」

 

「行こ!」

 

「………うん!」

 

その後、水風船を釣ったり、りんご雨を食べたり輪投げをしたりと俺たちは祭りを思う存分に楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、美遊?楽しい?」

 

「うん、悪くない」

 

美遊は両手に水風船の輪ゴムを指に嵌めて叩いたりして楽しそうにする。

 

「海斗はどうだ?」

 

「ああ、結構楽しんでるぞ」

 

そう言い、海斗は手にしたラムネを一口飲む。

 

やっぱ、祭りには瓶ラムネだな。

 

「てか、イリヤ。アンタ本物持ってるのに、今更そんな玩具でどうすんのよ?」

 

「それとこれとは別だよ。これで、私もマジカルブシドームサシ!」

 

イリヤはお面屋で買ったお面を被り、輪投げで手に入れた玩具を構える。

 

『イリヤさんの浮気者!』

 

するとルビーがイリヤの髪から出てきて、お面の中に移動して叫ぶ。

 

『そんなに若い子がいいんですか!古い私にはもう飽きましたか!便利に使って、後はポイですか!このドロボー猫!貴女なんでお呼びじゃないんですよ!』

 

ルビーはお面に攻撃を仕掛けてそう叫ぶ度に、イリヤの頭が前と後ろにがっくんがっくんと揺れる。

 

『諦めなさい!諦めなさい!私とイリヤさんの間に、貴女の入る隙などありはしませーん!』

 

イリヤはお面をはずし、そのままルビーごとゴミ箱に捨てる。

 

「やっぱお面なんて子供っぽいよね~」

 

「…………そうだな」

 

俺はそう言いながら、ゴミ箱に入れられたルビーを見つめる。

 

あ、上からゴミ置かれた。

 

…………………ま、ルビーならいっか。

 

『美遊様。美遊様は浮気などなさいませんよね?』

 

サファイアまで何を言い出すんだ?

 

「うん。大丈夫。私は海斗一筋だから」

 

おおう。

 

凄いことをさらっとよく言えるな。

 

海斗の反応は…………

 

「なぁ、零夜。このビー玉ってどうやって取り出すんだ?」

 

聞いちゃいなかったか………………

 

再び会場に足を運び、見て回ってるとイリヤがひもくじ屋を見つける。

 

「見て!あのお店の景品凄いよ!」

 

「一等がハワイ旅行で二等が大型テレビか」

 

「一回やってみようよ!」

 

「やめましょうよ。こういうのって、どうせ当たりには繋がってないんだから」

 

「そんなことないよ。お店の人を信じないと」

 

そう言って店の前まで着き、店主の顔を見る。

 

「いらっしゃいませ」

 

((((((なんかダメっぽい人が来た!!?))))))

 

なんと店主はバゼットさんだった。

 

「あ、海でアイス売ってた人だ」

 

「すみません。一回いくらですか?」

 

「一回五百円です」

 

雀花と那奈亀、美々の三人は五百円を払い、ひもを引く。

 

そして、ひもの先には何もなかった。

 

「外れか」

 

「私もだ」

 

「残念。これだと何がもらえるんですか?」

 

「………そうですね。…………では、これを」

 

渡されたのは先ほどのひもだった。

 

「え?」

 

「これは……」

 

「残念賞です」

 

「いや、普通こういうのって駄菓子とか小さい玩具だろ!」

 

「外れで景品を与える気など微塵もありません!」

 

それをはっきり言うなよ!

 

「………行くか」

 

「正真正銘の残念賞だね」

 

「気を取り直してカキ氷でも食べよっか」

 

カキ氷屋に向かう、三人に続いてその場を離れようとしたが、バゼットさんは俺たち六人を、見てくる。

 

「さぁ、そちらも!」

 

「……ど、どうしよう?」

 

「海でのことを考えるとあのくじに当たりがある確立は低い………」

 

「一回五百円。六回で三千円です!」

 

「すっごいグイグイ来てる!」

 

「これが押し売り……!」

 

「押し売りって言うか脅迫だぞ!」

 

「てか六回で三千円って………」

 

ビタ一文もまける気ないぞ、この人………

 

投影(トレース)開始(オン)

 

すると、クロが景品の入ってるケースに触れ、そう言い出す。

 

「基本骨子解明……構成材質解明……」

 

「何してるの、クロ!」

 

「何って、魔術による構造解せ………くじの当たるおまじないよ」

 

「絶対嘘だ!」

 

「なによ、このくじに当たりがあるか確認しようとしただけじゃないの」

 

「だからってやって良い事と悪い事があるでしょ!」

 

「なら、このインチキ商売を黙って見過ごせって言うの?」

 

「インチキとは失礼な」

 

インチキと呼ばれるとバゼットさんは腕を組み、そう言う。

 

「雇い主から絶対二等以上は当たらないと言われましたが……決してインチキなどではありません!」

 

もう絶対インチキだよね、コレ!

 

「では、何回引きますか?」

 

「うっ……えっと……」

 

「では、残りのくじ全てを」

 

すると横から行き成りルヴィアさんが現れ、一万円の束を出す。

 

「ルヴィアさん!?」

 

「これならここにある景品全部持って帰っても問題ないわよね」

 

「凜さんも!?」

 

「…………そうですね。問題ありません。くじが全部売れて雇い主も満足でしょう。では、郵送の手続きをしてきます」

 

そう言い、バゼットさんは景品の入ったケースを両手で持ち、郵送の手続きに向かった。

 

「景品を全て五十万円で買い取る。今までの無駄使いの元を取っても、有り余るぐらいの金額………これが、一般的なお祭りの楽しみ方…………!」

 

「違うからね!」

 

このままだと美遊の一般的な祭りの考えがおかしい方向になりうそうだ。

 

「ともかく、ルヴィアさん。ありがとうございました。もう少しで、ボッタクリに会う所でした」

 

「これぐらい構いませんわ」

 

「そうそう。この下品な女が成金を見せびらかしてるだけだから」

 

「あらあら、見せびらかす財力もない自称名門の遠吠えが聞こえますわね」

 

「浴衣の着付けもできない自称淑女が偉そうに」

 

「淑女だからこそ、着付けは自称名門のメイドにやらせるんですわ!」

 

また始まったよ、この二人…………

 

「あ!金ドリルにツインテ!」

 

帰ってきた那奈亀が凜さんとルヴィアさんを見て叫ぶ。

 

そう言えばお姉さんがこの二人のせいで蛙がトラウマになったんだっけ?

 

今にも飛び掛りそうな雰囲気だったため、俺はそれを止める。

 

「那奈亀落ち着け。今日は祭りだ。今日ぐらい穏便に……な?」

 

「くっ………わかった」

 

悔しそうに引き下がる那奈亀を見て一安心する。

 

これで、この間の海の様になる自体は避けれた………あれ?海の様な自体ってなんだっけ?

 

ま、いっか。

 

「ありがとな、那奈亀。大人しく引き下がってくれて」

 

那奈亀の頭を軽く叩き、お礼を言う。

 

「………まぁ、レイに言われたらしょうがないかなって言うか……」

 

なんで顔が赤くなるんだ?

 

後、イリヤ。

 

なんで俺の脛を蹴って来るんだ?

 

痛いから止めろ!

 

「那奈亀ちゃん、いいなぁ~」

 

美々、何が羨ましいんだ?

 

「まぁ、いいわ。折角の浴衣が着崩れしたら台無しだし」

 

「そうですわね」

 

すると、意外にも凜さんとルヴィアさんは普段の様な喧嘩を起こさず、穏便に終わらせた。

 

イリヤたちも取っ組み合いになると思ってたらしく、意外そうにする。

 

「まったく、シェロに会うのでなければ、この女なんかと祭りなんて」

 

「あら?珍しく意見があったわね」

 

ああ、そういうことね。

 

穏便に終わった理由に納得し、俺たちは冷ややかに二人を見つめる。

 

どの道、そろそろ士郎さんが手伝っている店に行くつもりだったので、全員で士郎さんのところへ向かう。

 

「「お兄ちゃん!」」

 

「士郎さん、来ましたよ」

 

「おお、皆。遠坂とルヴィアも来てくれたのか」

 

「御機嫌よう、シェロ」

 

「クラスメイトが屋台の手伝いしてるって言うから顔ぐらい出してあげないと……」

 

「あはは、ありがと」

 

「それにしても、イリヤ兄はこんな所で手伝いをしていたのか」

 

「ああ、海の家ではお世話になったから」

 

ん?海の家?

 

「海の家って………まさか………」

 

「龍子のダチじゃねぇーか!よく来たな!」

 

やっぱり龍子父親かよ。

 

「「龍子の父親再びだと!?」」

 

「夏の間は海の家とこれで商売よ!」

 

「大して興味もないのに」

 

「タッツンちの家庭事情をここまで知ることになるとは」

 

「二人とも、さり気に酷いよ………」

 

「それにしても本当に助かるぜ!料理はうめぇし、気は回るし、よく働く!海の家の事もあったし、大助かりだ!」

 

流石は士郎さんってとこだな。

 

「そんなに大変なら、龍子にも手伝ってもらえば良いのに」

 

「大丈夫!あいつは、居ないことの方が手伝いになるからよ」

 

「あの豪快な親父さんにここまで言わせるとは」

 

「さすがタッツン」

 

「家庭科の時を思い出すよ」

 

家庭科って言うと、フリスクパウンドケーキのことか?

 

「で、士郎。まだ手伝いは時間かかるのか?」

 

空也がふと思ったらしく尋ねる。

 

「ああ、まだもうちょっとな」

 

「おっと、そういやもうすぐ、せがれと嫁がこっちに来てくれる時間だから、兄ちゃんはもう上がっていいぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「それとコイツはサービスだ!もってきな!」

 

龍子父は豪快に笑い、お好み焼きをたくさん渡してくる。

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「いいってことよ!………変わりにアイツも連れて行ってくれ」

 

龍子父の視線の先には神輿を終え、こっちに走ってくる龍子の姿があった。

 

どんだけ遠ざけられてるんだよ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、龍子を連れて花火が見える場所に移動すると、俺と海斗、空也は三人で近くのコンビニに向かった。

 

「えっと、花火はあった、これだな」

 

「打ち上げ花火のあとに、手持ち花火か」

 

「祭りの最後って言ったらこれだろ」

 

適当に手持ちの花火の袋を三つほど購入し、皆のところへ戻る。

 

「なぁ、海斗」

 

「なんだ?」

 

「美遊の奴はまだ何も言わないのか?」

 

空也の言葉に海斗が足を止める。

 

「もうそろそろ九枚目のクラスカードの回収が始まる。だが、今の美遊は不安要素だ。あの時、九枚目のカードの存在を知ったときの美遊の表情と言葉、覚えてるだろ?」

 

空也の言葉に海斗は何も言わない。

 

「明らかに美遊は何かを隠してる。それは俺たち全員に関わる事かもしれない。何時まで棚上げしておくつもりだ?」

 

「…………その話は、海でカタは着いただろ。美遊から言い出すまで待つって」

 

「あの時は、そう決まった。だが、これ以上は待てない!もう意地でも美遊から聞き出すべきだろ!」

 

「なんだよ!空也は美遊が信じられないのかよ!」

 

「信じる以前に、俺たちに隠してることを言わないって事は、美遊自身が俺たちを信じてないって事だろ!」

 

「お前!」

 

「いい加減にしろ!」

 

今にも殴り合いなりそうな二人を止める。

 

「海斗も空也も落ち着け。空也、美遊が何も言わないって事は言わなくてもいい、もしくは言い出せないってことだ。それを無理矢理聞き出すのは間違いだ。それと海斗。周りが美遊を信じてる信じてないは関係ないだろ」

 

「どういう意味だよ?」

 

「周りが美遊を信じてなくても、お前だけは美遊を信じてやればいい。お前だけでも美遊を信じてれば、いつか話してくれるさ」

 

「………悪かったよ、海斗。九枚目のクラスカードの回収が近くなって少し神経質になり過ぎてた。悪い」

 

「………いや、俺の方こそ悪い。怒鳴ったりして」

 

「よし、じゃあ戻ろうぜ」

 

一件落着になり、皆のところに戻ろうとすると、突如、空が明るくなった。

 

見ると花火が打ちあがり、空を明るく色んな色で照らしていた。

 

「お!上がったな」

 

「へー、これが花火か………」

 

「綺麗だな………」

 

「…………早く戻ろうぜ。皆も待ってる」

 

「ああ」「おう」

 

俺たちは笑い合い、皆のところへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それからまもなく、とうとう九枚目のクラスカードのある位置までポーリング作業が完了した。

 



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最後の決戦

「エーデルフェルト邸、再建おめでとうございまーす」

 

「おめでとー。大したお祝いも出来なくて恐縮ですが」

 

「あら、そんな他人行儀なことは不要ですわよ」

 

バゼットさんとの戦闘が起きてからやっと今日、ルヴィアさんちは再建が完了し、海斗たちも家の向かい側に戻って来た。

 

「はい、お祝いムードはそのくらいにして。九枚目のカード回収作戦会議始めるわよ」

 

凛さんが司会となり、作戦会議を始める。

 

「屋敷の再建と同時にボーリング工事も完了。地中深くに眠ってるカードの下へ辿り着いたわ。後は、境界面にジャンプしてカードを回収!」

 

「凛さん、バゼットさんの方はどうなんですか?」

 

俺は気になってることを凛さんに尋ねる。

 

「それが問題なんだけど、彼女も同行することになったわ」

 

「え!?」

 

「と言っても、仲間ではない。どちらが先にカードを回収するか……競争相手よ」

 

「なら速攻!あっという間にケリを付けてあの筋肉女より早くカードを回収!」

 

クロの意見はもっともだ。

 

競争相手がいるって言うならこちらの持てる最大火力で一気にケリを付けて回収。

 

それがベストだ。

 

「それが第二の問題よ。九枚目のカードはこれまでの比にならないぐらいに魔力を吸ってる。よりによって地脈の本幹ど真ん中。二ヶ月半にもわたって途方もない量の魔力を吸収し続けているのよ」

 

「それも地脈が収縮するほどにだ。そう考えると、どれだけの物になってるか想像もできない」

 

海斗の言葉に全員が息を飲む。

 

「………なら、クロの言う通り一瞬で終わらせた方がいいんじゃないか?」

 

空也の言葉に凛さんは頷く。

 

「その通りね。正体不明にしておそらく過去最強。そんな相手に取れる作戦は一つだけよ。最大火力を持って初撃で終わらせる!」

 

最大火力か。

 

となると最悪、俺と海斗はあの技を使う必要があるな。

 

だが、あの技はまだ未完成だ。

 

成功率は海斗が八割だが、俺は三割。

 

「なんだけど、イリヤ!今あるクラスカードは?」

 

「え?えっと“キャスター”“アサシン”“バーサーカー”」

 

「見事に火力不足なメンツですわね」

 

「つ、使いようじゃないかなぁ……」

 

キャスターの限定展開(インクルード)破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)で、魔力で構成されたモノ・契約を破壊する宝具。

 

アサシンは囮を作ることが出来る。

 

「イリヤ、バーサーカーの限定展開(インクルード)はなんなんだ?」

 

「なんかでっかい剣になったよ。でも、重すぎて持ち上がらない……」

 

「実用は無理か………」

 

「でも、やるしかないんだろ」

 

「そうよ。これが本当に最後の戦い。持てる手段をずべて用いて勝つわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決行は今夜零時。

 

それまでの間、凛さんからは休むように言われてるが、どうも寝付けない。

 

ちょっと外でも歩くかな。

 

そう思い、部屋を出ると丁度イリヤも部屋を出た所だった。

 

「レイ……どうしたの?」

 

「ちょっと寝付けなくて……イリヤは?」

 

「私もそんな感じ」

 

二人で笑い合い、俺は一階に降りようとすると、アイリさんの部屋から声が聞こえた。

 

「教えてママ。カードと聖杯戦争の関係を」

 

…………え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗SIDE

 

「美遊、不安なのか?」

 

決行の時間まで残り一時間半程度になり俺は眠れず、屋敷内を散歩してると、美遊が外に出てるのが見えたので、声を掛けた。

 

「………海斗」

 

「………実はさ。俺と零夜、空也はお前が俺達に何かを隠してるんだと思ってる。それに、九枚目のカード……いや、八枚目のカードの時からお前の様子がおかしかった」

 

俺が自分の思ってることを言うと美遊は俯いたまま、口を開く。

 

「海斗。今回の作戦から私を外しても構わない」

 

「………美遊」

 

「不確実な要素はなるべく排すべき。海斗も半ば気付いてるんでしょ。私は「美遊」

 

俺は美遊の言葉を遮る様に言い、後ろから抱きしめる。

 

美遊は驚いたらしく、それが体を通して伝わった。

 

「事情があるんだろ。それも、とても根の深い問題だ。でも、別にお前から聞き出すつもりはない」

 

美遊に言い聞かせるように抱きしめ言う。

 

「お前が話してくれるまで待つし、言いたくないなら言わなくていい。俺はそれでも…………………ずっとお前の傍に居るからな」

 

「………うん、ありがとう」

 

美遊が手を伸ばし、俺の手を上から握る。

 

この戦い………必ず勝ってやる……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

「聖杯戦争とあのカード……関係あるの?」

 

イリヤはアイリさんの部屋に入り尋ねる。

 

俺もそれに続いて部屋に入る。

 

「カードって何?」

 

アイリさんはそう言う。

 

「とぼけないで!私と空也が眠ってる間に聖杯戦争のシステムが変わったんじゃないの!」

 

「召喚にはカードを媒介するようになって、数も八人に増やした……俺とクロはそう考えてる」

 

「……聖杯戦争は、七人の英霊を召喚し、聖杯を求めて戦い合う疑似戦争。聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望器。この儀式はそれを成すために行われるの」

 

「召喚する七人の英霊は七つのクラスを与えられ召喚される」

 

「そのクラス内訳は騎士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)

 

それって……カードに書かれたクラスと同じ…………!

 

「そう。それで全部よ。八人目のクラスは存在しないし、英霊の召喚にカードなんか使わない。………一体、何の話をしてるの、クロちゃん、空也君」

 

「………聖杯戦争は……終わったのよね?」

 

「終わったわ。十年前は未然で終わり、そして、二度と起こらないように今も切嗣が頑張ってる」

 

そこまで聞き、イリヤはクロを連れて部屋を出る。

 

「………空也、部屋に戻ろうぜ。アイリさん、おやすみなさい」

 

俺も空也を連れて部屋に戻る。

 

「…………聖杯戦争で使われるクラスがカードと一致してる。どう考えても偶然とは思えない」

 

「だろうな。恐らく、聖杯戦争とカードは関係があると思う」

 

「なら!」

 

「でも、アイリさんはそれを知らない。それに、とぼけてもいない。それは空也も分かるだろ」

 

空也は分かっているのか何も言わない。

 

「これは俺達の問題だ。分からないことが多い、不安要素もある。それでも、俺たちで答えを見つける。見つけないといけないんだ。例え、それがどんなものだとしても……………この目で、見届けるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えを見つけるために、俺たちは今夜、最後の戦いに向かう。

 

終わっていなかったこの争いを終わらせるために。

 



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壊れた幻想

「暗くて殺風景………エクストラステージにしては華のない舞台ねー」

 

カードのある地点まで、階段で降りているとクロがそう言う。

 

「ちょっとクロ。もう少し緊張感持って」

 

そんなクロをイリヤが叱る。

 

「結構。本番こそリラックスして臨むべきですわ」

 

「集中するのも忘れないように」

 

「はーい」

 

ルヴィアさんと凛さんの言葉にクロはそう返事をする。

 

「手筈は昨日確認した通りよ。小細工なしの一本勝負。最も効率的な戦術………すなわち初撃必殺!」

 

全員がその言葉を噛みしめ、目当てのポイントに到達する。

 

「そろそろ時間だ………だが………」

 

海斗が持っていた懐中時計で時刻を確認しながら階段の方を見る。

 

「来ないな」

 

バゼットさんはまだ来ていない。

 

仲間と言う訳じゃないんだが、

 

「遅刻者はほっといて先やっちゃおうよー」

 

クロは待っていられないのかそう言う。

 

「俺も同感だ。元々仲間じゃないんだし、競争相手だ。その相手がいないんならいないで構わないだろ」

 

空也もクロに賛成するかのようにそう言う。

 

「うーん……それもやむなしかしら………」

 

「残り五秒です」

 

海斗が残り時間を言う。

 

そして、ラスト三秒の瞬間、階段の方から音が響く。

 

徐々に音が近づいて来る。

 

残り時間がゼロになった瞬間、バゼットさんは階段からそのまま落下しながら、地面に降り立った。

 

「………始めましょうか」

 

それと同時に、美遊が境界面へ行くための魔法陣を展開する。

 

「配置に着いて!ジャンプと同時に攻撃を開始するわ!とにかく最大の攻撃を放つだけの作戦だけど、もし敵からの反撃があったら守りの要はイリヤの物理保護障壁よ。でも、それを別にしてもとにかくイリヤはダメージを受けないように」

 

「え?なんで?」

 

「忘れたのか?痛覚共有の呪い」

 

「あ!」

 

クロとバゼットには痛覚共有の呪いが掛けられてる。

 

二人が怪我してもイリヤは平気だが、イリヤが怪我をすればあの二人もイリヤが受けたのと同じ痛みを喰らう。

 

そのためにも、イリヤはダメージを受けてはいけない。

 

「あ、そっか!私が怪我したらクロとバゼットさんまで怪我しちゃうんだ!」

 

「そんな呪い(もの)、とっくに解呪済みですが」

 

「え!?」

 

バゼットさんの言葉に全員が驚く。

 

「腕はいいが、性格の悪いシスターに祓ってもらいました。驚くほどの事でもないでしょう。それほど難解な呪いでもありませんし」

 

「そんなに簡単な物なの……?」

 

死まで伝えるから凄い呪いと想ってたんだが……………

 

まてよ、だとしたらどうしてクロは呪いをそのままにしてるんだ?

 

「ま、呪いがあろうが無かろうが、もはや関係ないわね。この戦いは………先にカードを手にした物が所有権を得る!ただそれだけの勝負よ!」

 

「行きます!」

 

そして、俺たちは再び、鏡面界へと向かった。

 

鏡面界に降り立ち、俺たちの前に、九枚目のクラスカードの英霊が現れる。

 

ただし、その英霊は悪意に満ちていた。

 

黒い魔力の霧が渦巻き、その英霊を覆っていた。

 

「この霧………セイバーの時と同じか!」

 

「いや、セイバーなんかと比較にならない。桁違いだ」

 

海斗が英霊を見つめながら、声を震わせる。

 

「惑わされないで!敵がどんな姿であろうとすべきことは同じですわ!」

 

ルヴィアさんが全員を叱咤激励し、走り出す。

 

霧の攻撃を巧みにかわしながら宝石を投げつける。

 

Zeiben(サイン)世界蛇の口(ヨルムガンド)!」

 

ルヴィアさんが一人で強力な捕縛陣を敷き、英霊を抑え込む。

 

「捕縛成功!イリヤ!美遊!それに、零夜君に海斗、空也!チャージ開始!二十秒!」

 

イリヤと美遊が同時に魔力をチャージするのと同時に、俺と海斗はスタイルチェンジであるスタイルになる。

 

スタイルチェンジできるスタイルは全部で五つ。

 

フレイム、アクア、ウィンド、サンダー、ランド。

 

そこに六つ目の特殊属性がある。

 

俺ならダークネス。

 

海斗の六つ目の特殊属性はライトニングだ。

 

そして、属性を組み合わせることもできる。

 

俺は自分が得意とするフレイムとサンダー。

 

海斗はアクアとウィンド。

 

それで出来た属性。

 

「ホノイカズチスタイル!」

 

「ブリザードスタイル!」

 

俺の手には炎と雷が集まった魔力弾が、海斗の手には氷の魔力弾が出来ていた。

 

これが、ダブルスタイル。

 

「なるほど。吸引圧縮型の捕縛陣で敵を一ヶ所に留めつつ魔力チャージの時間を稼ぐそして……………」

 

VomErstenzumacbten(1番から8番)EineFolgescbaltung(直列起動) 打ち砕く雷神の指(トールハンマー)!!」

 

凛さんが短剣を向け、宝石を一列に並べると宝石一つ一つが魔法陣を展開する。

 

「砲台か!」

 

「魔力の高速回転増幅路。お互い妨害はしない約束だけど、一応忠告しておくわ」

 

「いくぞ!三人共!」

 

「うん!」

 

「いける!」

 

「こっちもだ!」

 

「こっちも魔力は十分に込めた。行ける!」

 

海斗の声を合図に同時に攻撃を放つ。

 

強力な魔力砲と、魔力弾、斬撃は凛さんの用意した魔法陣を通り抜け、威力を増やし、英霊に向かう。

 

強力な攻撃は英霊に直撃し、魔力の霧をかき消し、体を壊す。

 

「今だクロ!」

 

空也が叫ぶと、クロは弓を構え、英霊に照準を合わせていた。

 

「仕上げよ!最悪カードごと破壊してもいいから、敵が再生する前に撃って!」

 

そして、クロはその一撃を放つ。

 

空也から聞いたが、クロのあの攻撃は壊れた幻想(ブロークン・ファンタズマ)と呼ぶそうだ。

 

剣を投影し、矢に変換して弓で放つ。

 

それは剣の持つ概念そのものを、使い捨ての一撃とする技。

 

そして、一度見たから分かる。

 

クロが今、放った()は聖剣:約束された勝利の剣(エクスカリバ―)

 

恐らく、クロが撃てる最大最強の一手だと思う。

 

その一撃は英霊に向かって飛び、そして、英霊の辺り一帯を爆発で襲う。

 

誰もがやったと思った。

 

だが、俺達の予想は大きく裏切られた。

 

何故なら、クロの一撃は巨大な盾によって阻まれ、英霊を倒していなかったからだ。

 

「盾!?」

 

「一体何処から!?」

 

「そんなことどうでもいい!問題なのは………俺達の最大の一手を塞がれたことだ!」

 

それが意味することは一つ。

 

俺たちでは奴を倒せないってことだ。

 

「退却ですわ!作戦は失敗!戻って立て直しを!」

 

「では、次は私の番ですね」

 

バゼットさんはそう言うと、きっきに走り出し英霊に向かう。

 

「美遊は皆を連れて脱出して!私はバゼットさんを!」

 

イリヤはバゼットさんを助けようと、走り出す。

 

「無駄よ!」

 

そんなイリヤをクロが止める。

 

「もう間に合わない……あの女は………死ぬわ」

 

クロがそう言うと同時に、バゼットさんの体は八本の剣によって貫かれた。



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神話

何が起きてるのが理解が出来なかった。

 

行き成り八本の剣が現れ、それがバゼットさんの体を貫き、それだけに留まらずあの英霊は地面に黒い沼のようなものを作り、そこから大量に剣を出した。

 

「なに……あれ……なんなの!?何が起きてるの!?」

 

イリヤが叫ぶ中、バゼットさんは血を流しながらも立ち上がる。

 

「刺創……八ヶ所……うち致命傷は腹部の二創………」

 

バゼットさんが立ち上がろうとすると、現れた剣の中から一つの剣が飛び出し、バゼットさんの心臓を貫く。

 

「バゼットさん!?」

 

「……心臓を!?あれはもう……!」

 

「…………条件……完了」

 

すると急にバゼットさんが動き出し、先程と変わらない速度で英霊に接近する。

 

そして、そのまま英霊を殴りつけた。

 

「嘘!?心臓を貫かれたのにどうして!?」

 

「蘇生のルーンだ!心停止した瞬間に発動したんだ!」

 

「宝具クラスの魔術を!」

 

「……それじゃ正真正銘、バーサーカー女ってことね」

 

俺たちが唖然としてる中、バゼットさんは英霊に拳を叩き込み、攻撃をする。

 

だが、いくら攻撃しても損傷した部分をあの黒い魔力が修復する。

 

加えて、黒い泥から無造作に現れる無数に近い剣の攻撃。

 

これがあの英霊に決定打を与えることのできない理由だ。

 

「無理だわ。いくらバゼットが英霊じみた力を持っていても叶いっこない」

 

「どういう…!?」

 

「まったく、何の冗談だよ………ありゃ、あの剣全てが宝具だ」

 

空也の言葉に俺たちは驚く。

 

「そんなバカな!宝具はそれぞれの英霊の伝説を象徴する武具だ!原則一人一つ!多くても二つか三つだろ!」

 

「ああ、そうだろうな。でも、分かるんだよ………あれは全て宝具だ」

 

いつの間にか天井を覆い尽くすほどの剣が俺達の頭上にあった。

 

そして、剣は一斉に俺達に振り掛かった。

 

「ルビー!物理保護!」

 

「そんなの聞くわけないでしょ!宝具には……宝具しかない!熾天覆う七 つの円環(ロー・アイアス)!」

 

クロが熾天覆う七 つの円環(ロー・アイアス)を展開し、俺たちを守り、バゼットさんは人間離れしたスピードで躱しながら英霊に接近する。

 

「ダメ!盾が持たない!脱出して!早く!」

 

クロの言葉に従い、美遊は素早く脱出準備をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

離界(ジャンプ)!」

 

バゼットはその言葉を聞き、全員が脱出したことを理解する。

 

(賢明な判断だ。これで私には、あの怪物を倒す以外の選択肢がなくなった)

 

バゼット目掛け、真正面から大量の宝具が襲い掛かる。

 

「詰めだ!」

 

バゼットは一気に、三つの斬り抉る戦神の剣(フラガラック)を発動する。

 

それでも、全ての宝具の発動を無かったことにはできなかった。

 

だが、僅かな道が出来ればバゼットには十分だった。

 

バゼットは一瞬で英霊の懐に潜り込み、拳を握る。

 

(これが最後!この先、勝機は二度と来ない!ここで………仕留める!)

 

その瞬間、一本の槍がバゼットの額に狙いを定められていた。

 

そして、バゼットは悟った。

 

(………一手……届かなかった………)

 

一瞬で死を悟った。

 

だが、その瞬間、槍は弾かれバゼットは死を回避した。

 

「まったく……世話が焼けるわね」

 

槍を弾いたのはクロだった。

 

弓を手に、矢を使って槍を弾いた。

 

そして、英霊の手と足に星形の物理障壁が付けられ、動きを拘束される。

 

「バゼットさん、お願い!」

 

イリヤはルビーを手に、バゼットに叫ぶ。

 

「……まさか子供二人に助けられるとは」

 

(人一人仕留めるのに大仰な攻撃手段はいらない)

 

「硬化」

 

(速く)

 

「強化」

 

(深く)

 

「加速」

 

(確実に)

 

「相乗…!」

 

(ただ………心臓(カード)のみを抉り出す!!)

 

バゼットの一撃は英霊の胸を貫き、そこにある九枚目のクラスカードを掴み取った。

 

「決まった!?」

 

「うげっ!素手で心臓貫通って!」

 

イリヤとクロが声を上げる中、バゼットは九枚目のカードのクラスを確認する。

 

九枚目のカードのクラス。

 

それは………………アーチャーだった。

 

その時、バゼットは直感で何かを感じ取り、カードを手放し下がる。

 

核であるカードを取り出されたのにも関わらず、英霊はまだ動いていた。

 

「そんな!」

 

「バカな……!カードを抉り出されてもなお……動けるのか!」

 

「………セイ……ハ……イ………」

 

セイハイ。

 

その言葉にバゼットだけでなくイリヤとクロは驚いた。

 

だが、考える間もなく三人は根源的な恐怖を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

境界面から離脱しようとした瞬間、イリヤとクロが飛び出すのが見えた。

 

「あの二人一体何を!?」

 

「美遊!俺をもう一度あっち送ってくれ!」

 

俺は美遊の肩を掴み、境界面に戻してもらおうと頼む。

 

だが、それからすぐにイリヤ達三人が戻って来た。

 

「イリヤ!」

 

「クロ!」

 

俺と空也は急いで二人に駆け寄る。

 

「バカ野郎!何、ジャンプ直前で飛び出してるんだよ!」

 

「ご、ごめん」

 

俺がイリヤに怒る中、空也は冷静に黒の肩に手を置き、落ち着かせてから尋ねた。

 

「クロ………何があった?」

 

空也の言葉にクロは答えなかった。

 

そして、クロの代わりにバゼットさんが答える。

 

「地獄を………いや、神話を見ました」

 

………神話?

 

「分かったことは二つ。あの英霊の正体は不明ですが、クラスはアーチャーです」

 

二枚目のアーチャーのカードか。

 

アーチャー……弓兵………弓を使う英霊には見えなかった。

 

「そして、アレ相手に我々では、どうあっても勝ち目はない。最早。カードを回収するのではなく、別の解決案を模索すべきだ」

 

「私も同感ね。正直、二度と戦うのはゴメンだわ」

 

「だからってこのまま放って置くのは……」

 

「とにかく一度協会に……」

 

境界面から戻ってきた俺たちは落ち着きを取り戻しながら、その場を後にしようとしていた。

 

クラスカードの英霊はこちらには来れない。

 

そういう事もあり、安心感があった。

 

だが、それは間違っていた。

 

俺達の背後、そこの空間に亀裂が入り、悪意と地獄、そして神話が現れようとしていた。

 



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監視者

ガラスに亀裂が入るような音が背後から聞こえた。

 

振り向くと、空間に亀裂が入り、それが徐々に広がって行ってた。

 

「これは一体!?」

 

「亀裂が広がって……割れてる!」

 

「割れるって何がよ!何が割れてるの!?」

 

空間に入った亀裂は広がり、そして砕けた。

 

亀裂が入り砕けた空間から風が吹き荒れ、そこにはあの英霊が一本の剣を手に立っていた。

 

敵が境界面を破壊し、こちら側にやって来た。

 

それだけの事実を誰もが受け止め、理解することを拒んだ。

 

そんな中、ルヴィアさんは壁に手を付き、動いた。

 

Zeicben(サイン)

 

壁と天井に設置された宝石が光りで繋がり、そして爆発を起こした

 

「爆発!?」

 

「まさか最終手段をこちらで使うことになろうとは………逃げますわよ!生き埋めになるのはアイツ一人で十分ですわ!」

 

「階段じゃ間に合わない!イリヤ!美遊!私とルヴィアを運んで!」

 

「わ、わかった!」

 

「海斗!俺たちは、空也とクロを!」

 

「ああ」

 

イリヤが凛さんの手を持って飛び、美遊はルヴィアさんを抱え跳躍し、俺と海斗は、俺がクロ、海斗が空也を連れ空を飛んだ。

 

バゼットさんはどうしようかと思ったが、あの人は既に階段を登らず手すりを踏み台にし、跳んでいた。

 

「想定外のことが起き過ぎてるわ!敵がこっちに来るなんて!」

 

『一体向うで何があったの姉さん?敵も虚軸の移動手段を持っているの?』

 

『いいえ、私たちとはまったく異なるやり方ですよ。恐らく……敵が最後に出した奇妙な宝具。あの剣が鏡面界そのものを切り裂いたのではないかと』

 

「そんなことが出来る宝具なんかあるのか!?」

 

俺は叫ぶように尋ねる

 

「ですが、どんな宝具を持っていようと、160万トンのコンクリートと720万トンの地層に押し潰されれば」

 

「ダメ………かもね」

 

凛さんの言葉通りだった。

 

敵は妙な飛行物体に乗り、コンクリートと地層突き抜け、そのまま外へと出て来た。

 

「敵が……市街地に出てしまった…………」

 

「90メートルの地層をいとも簡単に!」

 

「いくつ宝具持ってるのよ!後出しで出されちゃかないっこないわ!」

 

「まずいそ……魔術の秘匿は第一原則!人に見られるだけでもまずいのに……このままだと街に被害が………!」

 

 

どうする!?

 

どうすればこの状況を回避できる!

 

必死に考えるが全く思いつかない。

 

どうやっても最悪な結果が頭を過る。

 

「市街地から離したいところですが、空中に居る限り手出しできない」

 

「私と海斗、イリヤに零夜なら飛べます!」

 

「危険過ぎる!近づいた所で勝算はないのよ!」

 

「宝具の投射を誘発するだけでしょうね。その内、一本でも街に落ちたら………」

 

「なら、海側に誘き寄せるか地面に叩き落として……!」

 

「仮にそれができたとしてどうするの?こっちの全力が効かなかったのよ!」

 

「でも、だからってこのまま放っておくわけには!」

 

なんとかして方法を思いつこうとするもどれも効果が薄い……………

 

「手詰まりよ!こんなのどうしようも!」

 

「豚の鳴き声がするわね」

 

凛さんが叫ぶと、聞いたことのある声が後ろからする。

 

「まったく名家の魔術師二人に執行者が雁首並べてビイビイと無様なものね」

 

「ど、どうしてここに!」

 

「カレン先生!?」

 

現れたのはカレン先生だった。

 

「何この女!知り合いなの!」

 

「えっと知り合いって言うか……学校の保健医で……」

 

「始めまして、折手死亜(オルテシア)華憐(カレン)と申します」

 

カレン先生は夜露死苦みたいな感じに、名前を見せる

 

((うさんくさい!))

 

「カレン・オルテンシア。聖堂教会所属。此度のカード回収作業のバックアップ兼監視者です」

 

「監視者!?聖堂教会が絡んでるなんて聞いてませんわよ!?」

 

「てか、保険の先生って嘘だったの!?」

 

「嘘と言うか………趣味?怪我した子供を間近で見るの楽しくて」

 

やっぱりこの人、人格壊れてる……………

 

「表立って動くつもりは無かったのですけど、迷える子豚があまりにも無様で可愛いそうだったものだから」

 

「なにを!」

 

凛さんがキレようとするが、カレン先生はそれを無視し、指を立て上を差す。

 

(こたえ)を見付けるプロセスなんて決まっています。観察し、思考し、行動しなさい。貴女方にできることなんてそれだけでしょう?」

 

「祈りなさいじゃないの?教会の人間とは思えない言葉ね」

 

「信仰の無い者に教えを説く程疲れることはしないわ」

 

カレン先生の言ったことを考えていると、海斗が声を出した。

 

「………無い」

 

「え?」

 

「街に……明りが無い」

 

海斗に言われ街を見ると確かに明りが街灯を除き、一つもなかった。

 

「正解。一キロ四方に人避けと誘眠の結界を張ってあるわ。それが私の仕事の一つだから」

 

おかしい。

 

俺はそう思った。

 

先程の出来事は僅か数分前の出来事だ。

 

それなのに一キロ四方の結界を張ることが、その僅かな時間で出来るのか?

 

「これで人目を気にする必要はなくなりました。では、次に見るべきは?」

 

「あからさまな誘導が癪に触るわね。そんなの決まってるでしょ」

 

「アイツをどうするかだな」

 

その言葉と一緒に空也は空を見る。

 

敵は未だに空を飛んでいる。

 

「さっきから浮いてるだけで……何もしないよね」

 

「少なくとも無差別攻撃をする意志はない……というわけですわね」

 

意志だって?

 

今まで戦って来た英霊たちに意志なんてものは無く、ただ目の前の敵を倒すだけの存在だった。

 

なのに、あの英霊は意志を持っている?

 

どういうことだ?

 

「何か、アレの意志を推定できそうな情報は?」

 

「情報って言ったって………」

 

「………セイハイ、と言ってました」

 

セイハイ。

 

その言葉に俺たちはバゼットさんを見る。

 

「なんだ。殆ど答えが出ていたじゃありませんか」

 

その時、敵が動き出し、移動を始めた。

 

「動いた!?」

 

「何処に行く気だ!?」

 

「セイハイ、と言ったのでしょ?なら決まっているではないですか。聖杯の眠る地―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円蔵山のはらわた……地下大空洞です」

 



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現れる少年

「このままじゃ見失う!」

 

「アイツを追うぞ!」

 

海斗と美遊が同時に飛び出し、敵を追う。

 

「イリヤ、俺たちも!」

 

「うん!」

 

「二人とも、追うだけよ!私たちが追い付くまで交戦はダメ!」

 

「「はい!」」

 

返事をし、空を飛んだ瞬間、イリヤは何かを思い出し、後ろを振り向く。

 

「カレン先生!色々聞きたいことが……」

 

「イリヤ!時間が無いんだぞ!それは後に!」

 

「分かってる!だから……一つだけ!」

 

「……何かしら?」

 

時間が無いのにも関わらず、それでも聞きたいこと………一体何なんだ?

 

「スカート!履き忘れてませんか!?」

 

「………は?」

 

イリヤの言う通り、よく見るとカレン先生は服の下、つまりスカートを履いてないようにも見える。

 

「……………これは、ファッションです」

 

(言い切った!?)

 

(でも、ちょっと照れてる!?)

 

「この緊急時に………余計なツッコミしてる場合か!」

 

「善意で言ったのにー!」

 

凛さんから大量のガンドを撃たれまくり、俺とイリヤは急いで海斗たちの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

零夜とイリヤが海斗と美遊を追った後、他のメンバーは乗り物を使い、地下大空洞のある場所へ向かう。

 

「聖杯戦争?」

 

「そう、アインツベルンが十年前に起こした願望器降臨儀式。今回の事件は、その残骸が招いたと見られているようね」

 

「でも、違った。少なくともクラスカードは私達の聖杯戦争には関係なかった」

 

クロの言葉に全員が耳を傾ける。

 

「聖杯戦争は十年前、不完全な形で終結。聖杯は成ることなく、術式は半壊したまま、今も大空洞に眠っているはずだ」

 

「聖杯戦争がこの土地で起こったということ!?ありえないわ!それほど、大掛かりな儀式を冬木の管理者(セカンドオーナー)である遠坂に知られることなく「なら知ってたんだろ」

 

凛の言葉を空也が遮る。

 

「冬木の管理者(セカンドオーナー)に知られずに、これだけの儀式を行う。絶対に目立つ。なら、遠坂は儀式の事を知ってたか、もしくはなんらかの形で関与してたんだろう」

 

「いずれにせよ、それは終わったことよ」

 

「問題は今起こってることだ」

 

「では、アインツベルンの聖杯戦争は無関係だと?」

 

バゼットの問いに、カレンが答える。

 

「教会は十年前からずっと大空洞を監視しているわ。術式の発動は観測されていません。そして、アインツベルンの聖杯戦争は、英霊の召喚にカードなんて用いない」

 

「ならば……」

 

「もう大分予想はついてるんじゃないの?ねぇ、ルヴィア」

 

「……つまり、貴女はこう言いたいのですね。アインツベルンの物とは別に、もう一つの聖杯戦争が存在すると」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

海斗たちに追いつき、敵の後を追うと、アイツは、大空洞のある山の上で止まり、そして、大量の宝具を落とした。

 

山は一瞬で破壊され、大空洞がむき出しになった。

 

「こんなの……滅茶苦茶だよ……!!」

 

敵は手に巨大な剣を持ち、そして飛び降り、地面に剣を突き刺す。

 

すると、地面が割れ、そこからあるものが出た。

 

「そんな……どうして……どうしてここにあるの……!?」

 

そこにあったのは魔法陣だった。

 

なんでこんなものが…………

 

『途方もなく巨大で複雑な術式です……!……ですが、何か、見覚えのあるような………?』

 

敵が剣を突き刺した地面から何かが渦の様に出て来て、敵を包み込む。

 

「まずいよ………分からないけど……このままじゃ大変なことになる!」

 

イリヤはそう叫ぶと一気に飛び出した。

 

「イリヤ!」

 

「レイ、手伝って!美遊と海斗君も!アイツを魔法陣の外に出す!」

 

『危険ですよ、イリヤさん!交戦はダメって凛さんにも言われたでしょ!』

 

「分かってる!でも、今止めないと……きっと取り返しのつかないことになる!斬撃(シュナイデン)!」

 

「最大出力……!放射(シュート)!」

 

「アクアスタイル!水斬撃(アクアスラッシュ)!」

 

「フレイムスタイル!火球弾(ファイヤ)!!」

 

四人同時に攻撃をし、敵に当てる。

 

「敵は!?」

 

「まだ渦の中だ!」

 

「でも、渦は晴れた!」

 

「これなら直接、敵を押し出す!」

 

イリヤはためらうことなく、ルビーを構え、突っ込む。

 

敵とイリヤがぶつかり、イリヤは全力で力を込める。

 

そして、イリヤは敵を押し出し、渦の外に出る。

 

「な、何が………!」

 

「どういうことだ!?まだ渦の中に居るぞ!」

 

海斗の言う通り、渦の中に敵はまだいた。

 

じゃあ、さっきイリヤと一緒に飛び出してきたのは一体……!?

 

俺たちは急いで、イリヤの方に走る。

 

「い、一体何が起こったの!?」

 

向かうと丁度イリヤが起き上がった所だった。

 

「イリヤ!無………事………か………」

 

「こ、これは………」

 

「い、イリヤ……それ……!」

 

「へっ?」

 

「イッター……君さぁ、もうちょっと優しくしてくれないかなぁ」

 

そこにはイリヤ以外に金髪で、俺達とそう歳の変わらなさそうな男がいた。

 

「あ、その左手の事も含めてね」

 

イリヤはその男の股○に手を当てた状態で。

 

イリヤは自分が何を掴んでいたのかを理解した瞬間、声にならなない叫びを上げ、大量に魔力弾をばら撒いた。

 

「うわぁ!ちょっとちょっと!!行き成りソレは酷くない!?叫びたいのはこっちだっていうのにさー」

 

ソイツは岩の陰に隠れながらこちらを見て来る。

 

「さわっちゃったさわっちゃったさわっちゃった、にぎっちゃったよ―――――――!!」

 

イリヤの悲痛な叫びが、辺り一帯に響き渡った。

 



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お姫様

「まったく、やれやれだね。一番驚いてるのは僕だよ?間違いなくさ」

 

その少年はゆっくりと岩陰から出てきて近づいてくる。

 

「それにしても、これ本当に参ったなぁ。まさかこんな風になるとは思ってもいなかった。軽はずみなことをしてくれたものだよね、どう責任とってくれるのさ?」

 

少年は全裸で仁王立ちのようなポーズで言ってくる。

 

「い……いやあああああああ!?」

 

「わわっ!?またこのパターン!?」

 

イリヤがまた大量に魔力弾をばら撒く様に、少年目掛けて撃つ。

 

「イリヤ落ち着け!無闇に攻撃するな!」

 

「だって!だって……!何か大切なものを汚された気がして……!」

 

「あ~、分かった。分かったから泣くなって」

 

泣いて俺に縋り付くイリヤの頭を撫でながらイリヤを落ち着かせる。

 

『いやー、しかし何が何やらー。一体どういうことなんです、これは?』

 

「それはこっちが聞きたいねー。僕だって突然のことで困惑してるんだ。まったくおかしいよ、この場。こんな混じり方してるなんて」

 

『混じり方?』

 

「あっ!」

 

急にイリヤが声を上げ、イリヤが見ている方向を見る。

 

「渦が……ドーム状に!?」

 

「どんどん広がってきてる!」

 

「あらら、あっちは順調だなぁ」

 

その光景を眺めながら少年は暢気に言う。

 

「気をつけてね。あの泥に触れると多分死ぬよ」

 

「はい!?」

 

「まずいぞ!ドームの膨張速度が速い!」

 

「どこまで膨れるか分からない!」

 

「逃げるぞ!」

 

「う、うん!」

 

「あ、ちょっと!待ってよ!君らだけ飛んで逃げるなんてズルくない!?僕も助けてよ!」

 

「はぁ!?お前逃げる手段ないのかよ!」

 

下の方で必死に走る姿を見れば、どうやら本当に自分で逃げる手段はないみたいだ。

 

「どうする、零夜?」

 

「……見捨てるわけにもいかないだろ」

 

俺と海斗で少年の腕を掴み、持ち上げ、そのまま安全な場所に避難をする。

 

「結界の膨張は止まったみたいだね。結構な大きさだけど………なるほど、あそこが境界なわけだ。はた迷惑なことしてくれるなぁ…………今度は君らが隠れるの?」

 

少年は俺たちの方を見てそう言う。

 

現在、イリヤと美遊は俺と海斗の後ろに隠れている。

 

「誰だか知らないけど、取り敢えずその格好なんとかしてよ!これじゃ話もできないわ!ちょっとは恥ずかしいと思わないのー!?」

 

「なんだ、そんなことか。安心してよ。僕の身体に恥ずかしい所なんてないから」

 

「「そういう問題じゃねぇよ!」」

 

「「ワールドワイド!!」」

 

ツッコんだ後、イリヤはまだ魔力弾を撃つ。

 

「はいはい、このパターンね。じゃあ、これでいい?」

 

今度は大事な部分を葉っぱで隠して現れる。

 

「いいわけないでしょ!?」

 

「分かったよ、もう……服を着ろってことなんでしょ?でも、今の僕じゃ……ちゃんと繋がってるか怪しいんだから期待しないでよね」

 

そう言うと、少年は手を突っ込むように動かすと、手が消え、何かを弄くり出す。

 

「あーやっぱりロクなものがないなぁ……えーと、服服……あった!」

 

空中から服を取り出し、少年はそれを着出す。

 

「あの技……あの英霊が無数の宝具を出したのとおんなじ能力だ!」

 

「大体予想はしてたが、つまりこいつは………」

 

『その様ですね。姿こそ変われど九枚目のカード……その英霊です!』

 

少年が着替え終わると同時に、渦の中が光輝き出した。

 

それと同時に、イリヤは持っていたクラスカードを出す。

 

「カードが……脈打ってる……!?」

 

カードは光り、そして、心臓の鼓動の様に動いていた。

 

「へぇ、君もカードを持ってたんだ。他のカードもここに近づいてるみたいだし、やっぱり惹かれ合うものなのかな。…………ねぇ、美遊ちゃん?」

 

こいつ………なんで美遊の名前を…………!?

 

「まさか……記憶があるの?」

 

「……そこらの英霊とは違うさ。ごめんね、僕の半身は聖杯が欲しいみたいだ。聖杯戦争の続きをするにしても、君がいなくちゃ始まらない」

 

「やめて……」

 

「なにせ君は「それ以上口を…開くな!!」

 

美遊は少年に怒鳴り、攻撃を仕掛けた。

 

「どうしたんだ!?いつもの美遊らしくないぞ!」

 

「美遊、止まれ!」

 

海斗が呼びかけるも、美遊は止まらず、どんどん攻撃を仕掛ける。

 

だが、少年は美遊の攻撃全てを顔色一つ変えず、防いでいる。

 

攻撃が止むと、少年は感心するように話し出す。

 

「眠ってばかりだった君が随分とお転婆になったものだ。もしかして、秘密だったのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 「平行世界のお姫様」



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ツヴァイフォームとプリズムスタイルチェンジ

「平行……世界…?」

 

「ごめんね。人の隠し事を暴くのは趣味じゃないんだけど、でも、状況がこうなってしまったんだからしょうがない」

 

少年は悪びれる様子もなく言う。

 

「許してね。運が悪かったと思って、諦めてね。これが君のFate(運命)だと思って」

 

「ど……どういう意味!?一体、何の話を……!」

 

『なるほど、やはりそう言う事でしたか』

 

ルビーはまるで知っていたかのような口ぶりで言う。

 

『仮説の一つとしてあったのです。用途・製作者不明のクラスカードが発見された空間……鏡面界。虚数域のあの場所は……この世界と平行世界の境界面ですから』

 

「ああ、君達にはお礼を言わなきゃね。境目で迷子になっていた僕を実数域の方から見つけてくれたんだから」

 

その瞬間、渦の中から黒い巨大な腕が現れ、美遊を捕まえた。

 

「美遊!」

 

海斗が叫び、美遊の手を掴もうとするが間に合わず、美遊はそのまま渦の中へと引きずり込まれそうになる。

 

「美遊!今助けるから!斬撃(シュナイデン)!」

 

イリヤは飛び上がり、美遊を掴んでる腕目掛け、斬撃を出す。

 

が、斬撃は防がれた。

 

「あー……やっぱりか。受肉が半端で終わっちゃったせいなのかなぁ。僕の財宝の内、大半の武具はあっちもちみたいだね」

 

イリヤの斬撃が当たった部分には大量の盾が貼り付けられ、イリヤの攻撃を防いでいた。

 

「美遊!俺の手を掴め!」

 

海斗が飛び上がり、美遊に手を伸ばす。

 

「ダメだったんだ………拒んでも……抗っても……逃げても無駄だった……これが……私の運命」

 

美遊はそう言い、海斗にサファイアを渡した。

 

海斗は反射的にサファイアを掴む。

 

「美遊!?」

 

『美遊様!?』

 

「壊して、私ごと。この怪物を。……ごめんなさい。関係ない三人を巻き込んでしまって……ごめんなさい。今までずっと……言えなくて。…………さよなら」

 

その言葉を最後に、美遊は渦の中へと引きずり込まれ、俺達の前から消えた。

 

『これが運命なんですか?これが、美遊さんの世界の……聖杯戦争……?』

 

「そう。イレギュラーは多過ぎるけどね」

 

いつの間にか、少年は俺達の横に立ち、そう言う。

 

「万能の願望器たる聖杯を降霊させる儀式、聖杯戦争。その為に、僕ら英霊までも利用しようって言うんだから迷惑な話さ」

 

「美遊は……美遊も聖杯戦争の為に生まれたの?」

 

「美遊も?ああ、君も聖杯戦争の関係者なのか。ま、別に珍しくもない。色んな世界で、色んな時代で繰り返された儀式()だものね。………けどね、彼女は特別だ。聖杯戦争の為に、彼女が生まれたんじゃない。彼女の為に聖杯戦争が作られたんだよ。彼女は生まれながらにして完成された聖杯だった」

 

その言葉に、俺だけでなく、イリヤも、海斗も衝撃を受けた。

 

「天然もので中身入り。オリジナルに極めて近いとびきりのレアリティさ。人間が聖杯の機能を持ってしまったと言うより、聖杯に人間めいた人格がついてしまったのかな。いずれにせよ、あれは世界が生んだバグさ」

 

その言葉に俺はキレ、炎の剣を出し、少年に向ける。

 

「勝手なことを言うな!」

 

「怒りなら僕じゃなくて、彼女の運命か、それを利用しようとした大人たちか、理性()を失って肥大化した、哀れなこの僕にぶつけてよ」

 

渦が消え、そこから巨大な巨人と言った禍々しい英霊が現れた。

 

「これが……英霊…!?」

 

その姿に海斗は驚愕する。

 

「ああ、醜いね。受肉して切り離された僕は、正直どちらの味方でもないんだけど、それでもこうするのが自然なのかな」

 

少年は、そのまま泥の塊のような英霊に向かって背中から落ちて行った。

 

「もうこの戦争は止まらない。死にたくなければ、カードを置いて逃げなよ」

 

そう言い残し、少年はそのまま英霊の中へと沈んで行った。

 

「なん……なのよ…!美遊も、あの英霊の子も………勝手なことばっか!」

 

イリヤが叫び、バーサーカーのカードを出す。

 

「クラスカード“バーサーカー”!限定展開(インクルード)射殺す百頭(ナインライブス)!!」

 

巨大な石斧を手にイリヤが少年の真上から攻撃を仕掛ける。

 

少年は全身を泥で覆われ、イリヤを見ていた。

 

劣化物(レプリカ)じゃ、原典(オリジナル)には勝てないよ。真・射殺す百頭(ナインライブス)!!」

 

少年が出したのはイリヤが出したバーサーカーの宝具と同じものだった。

 

ただ、少年のは石斧の様な宝具ではなく、巨大な矛の様な宝具だった。

 

その宝具によりイリヤの持つ宝具は簡単に砕かれ、そのままイリヤの体を貫いた。

 

「イリヤ!?」

 

「あーあ、逃げてればよかったのに、こんな形で、無駄に命を、散らすなんて……」

 

憐れむかのような目で少年はイリヤを見る。

 

するとイリヤの体が消え、代わりにサファイアとアサシンのクラスカードが現れる。

 

イリヤはあの一瞬で、サファイアにアサシンを限定展開(インクルード)し、囮としていた。

 

そして、イリヤは、少年の下に降り、そして、全力でビンタした。

 

「………驚いた。後一本ステッキがあったらまずかったかも」

 

「美遊は何処!?」

 

「僕の中さ。ちょうど中心部かな。ちゃんと生きてるよ。……でも、気を付けて。君は今ここで死んじゃうかもしれない」

 

いつの間にか、イリヤの周りから大量の武具が現れ、イリヤを狙っていた。

 

「うまく避けてね」

 

転身を解いてるイリヤでは確実に死ぬ。

 

そう思った瞬間、俺の視界がブレ、いつの間にかイリヤの隣に立っていた。

 

何が起きたのか分からないが、俺はイリヤを掴み、そこから全力で離れた。

 

だが、俺とイリヤ目掛け、武具が何本が追ってくる。

 

逃げきれないと悟り、俺は剣を構え、防御態勢を取る。

 

すると、俺の横を空也とクロが走り抜け、空也は自慢の剣技で、クロは投影で剣を生み出し、飛んでくる武具に向かってぶつけて、俺達を守ってくれた。

 

「クロ!空也!」

 

「バッッッカじゃないの!?こんな奴の前に生身なんて!」

 

クロが文句を言いながらも、俺たちは地面に降り、イリヤはルビーを手にもう一度魔法少女に転身する。

 

「零夜、コイツは何なんだ?」

 

「攻撃方法から見て、九枚目のカードでしょう」

 

バゼットさんも追い付き、俺達の隣に並ぶ。

 

「しかし、どうしてこんな異形に………」

 

「俺が説明する」

 

海斗が悔しそうに、そして、辛そうに起きたことを説明した。

 

「あの中に美遊が!?」

 

「平行世界の聖杯……それが美遊だって………」

 

「信じ難いことですが、どうりであの翁が首を突っ込んで来たわけだ」

 

「でも、どうするのよ!?助けるにしてもこんなの近づくことすら……!」

 

「美遊は………自分ごと壊してって言った」

 

「…………だから何?」

 

「これが運命だ……って。私達には関係ないことだって………!」

 

「だから何よ!?」

 

クロはイリヤの手を掴み、叫ぶ。

 

「……だから見捨てるって言うの?」

 

「違う!…………違うの」

 

そう言うイリヤの目には涙が溜まり、溢れかけていた。

 

そんなイリヤにクロは何も言えず、黙ってイリヤを見ていた。

 

美遊を助けたい。

 

だが、どうすればいいのか俺には分からなかった。

 

あんな巨大で悪意の塊のような敵に、どうやったら対抗できるんだよ………!

 

「どうにも、身体が大きくなると攻撃まで大雑把になっていけない。でもまぁ、どうせなら……………もっと大雑把に行こうか」

 

英霊の手には一振りでここら辺の山を一瞬で、切り開けそうな巨大な剣を出し、水平に構える。

 

「流石にもう、避けてとは言えないな」

 

『薙ぎ払いが来ます!イリヤさん、上空に!』

 

「海斗!空也たちを連れて、俺たちも空に飛ぶぞ!」

 

「くそっ!」

 

俺と海斗は三人を抱え、空に飛ぼうとするが、イリヤは上空に避難しようとせず、その場に立ち尽くしていた。

 

「イリヤ!何してる!早く逃げないと………!」

 

「……美遊もこんな気持ちだったのかな」

 

『イリヤ様………!?』

 

「バーサーカーの戦い……私が逃げた時、美遊は一人ででも戦っていたんだよね。敵いっこない敵と…………どうしてなのかな?」

 

『…………美遊様は、イリヤ様が初めての友達だから……と』

 

「………………うん。そっか」

 

イリヤは涙を拭き、そして英霊を見上げる。

 

そうしてる間にも、英霊の薙ぎ払いは俺達に向かっていた。

 

「何してるの!?早く逃げるわよ!」

 

「しかし、逃げ場など………」

 

「くそっ!間に合わないか!」

 

「逃げられるはずがない」

 

俺たちが慌てる中、イリヤは覚悟を決めた様な声色で言う。

 

「私、しなくちゃいかねいことができた。美遊を…………絶対、絶ッッ対引っ叩く!」

 

「はぁ!?」

 

「何を……」

 

「サファイア!力を貸して!ルビーも!お願い!」

 

『はい!イリヤ様!』

 

『もちろんです!』

 

イリヤは左手にルビーを持ち、右手にサファイアを持つ。

 

そして、その瞬間、眩い光が放たれ、俺達の背後にさっきの剣が、派手な音を立てて突き刺さる。

 

見ると剣は真ん中あたりでぽっきりと折れていた。

 

「美遊。私ね、怒ってるんだよ。私ごと壊して?関係ない貴女達を巻き込んでしまってごめんなさい?そんなの――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達に言うセリフじゃないってのに!絶対に!引きずり出して、引っ叩いてやるんだから!」

 

カレイドライナー ツヴァイフォーム

 

イリヤの手にはルビーとサファイアが一つになってステッキが握られ、服装もイリヤのと美遊の魔法少女の服を混ぜた様な服に変わり、背中からは翼のようなものが出ていた。

 

「…………そうだったな。何も難しく考える必要は無かったんだ」

 

俺はイリヤの隣に立ち、指輪を構える。

 

「アイツをぶん殴って、美遊を助け出し、お説教。それだけでいいんだ」

 

「レイ………一緒に戦って」

 

「ああ。そして、一緒に美遊に教えてやろうぜ。友達ってものをさ」

 

「………待てよ、お前ら」

 

海斗も俺の隣に立ち、英霊を見上げる。

 

「俺も行く。俺の隣には、美遊がいないといけない。そして、アイツの隣には俺がいないといけない。それに約束したんだ。ずっと傍に居るって」

 

「なら、その約束を果たさないとな」

 

「ああ」

 

そして、俺と海斗は右手の人差指に、ウィザードリングとスタイルチェンジリングを重ねるように嵌める。

 

「やるぞ、海斗!」

 

「ああ!」

 

二つの指輪に同時に魔力を送り込み、俺達の奥の手を出す。

 

正直、これでもアイツに勝てるかどうか分からない。

 

でも、俺たちが力を合わせれば……………勝てる気がする。

 

俺と海斗の持つ、ウィザードリングとスタイルチェンジリング以外のリングがチェーンから外れ、俺達を囲むようにリングが飛ぶ。

 

「「プリズムスタイルチェンジ!!」」

 

そう叫ぶと、飛んでいたリングがスタイルチェンジリングに吸い込まれるように消え、そして、スタイルチェンジリングとウィザードリングが融合し、一つの指輪になる。

 

全ての指輪の力と、スタイルチェンジリングに宿る五つの属性と、各々が持つ特殊属性。

 

「インフィニティスタイル!」

 

「レイジングスタイル!」

 

俺の銀色のコートを羽織り、手には刀身に幾つものの指輪の宝石がはめ込まれた剣を手にしたインフィニティスタイル。

 

海斗の金のラインが入った白いフード付きのコートに手には指輪の宝石が柄に嵌め込まれた槍を手にしたレイジングスタイル。

 

俺達の最強のスタイルだ。

 

「イリヤ、海斗。これで終わらせるぞ」

 

「ああ。アイツを倒し、美遊を救う!」

 

「二人とも、行くよ!」

 

そして、俺たちは大切な友達を救うために、走り出した。

 



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平行世界からの来訪者

「なんなのよ、あれ!?」

 

「一体………何がどうなってますの!?」

 

やっと追いついた凛とルヴィアは目の前の光景に驚きを隠せなかった。

 

見たことのないイリヤの魔法少女姿に、零夜と海斗の姿。

 

そして、巨大な英霊。

 

何が起きているのかが、頭の中で追いついていなかった。

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!!凄い、凄いよ、君たち!正直言うと心配だったんだ!僕とまともに渡り合える者がいるのかって………!」

 

英霊の少年は声を上げ、笑う。

 

「一方的な虐殺じゃ意味がない。…………さぁ、僕と奪い合おう………聖杯(美遊)を!」

 

三人は同時に飛び出し、イリヤはステッキを、零夜は剣を、海斗は槍を叩き付ける様に攻撃をする。

 

英霊はその攻撃を盾で防ぎ、攻撃が当たる度に空気が振動し、森一体に響く。

 

「クロ!空也!バゼット!」

 

「一体何が起きてるのですの!?」

 

「あれは………イリヤと零夜君、それに海斗なの?」

 

凛は上空を見上げ、訪ねる。

 

「……そうよ。二つのステッキが一つになって真の力発揮ってところじゃない?」

 

「零夜と海斗のはよくわからないが、おそらく二人の奥の手なんだと思う」

 

「そんなことが………!?」

 

「いや……だとしても………」

 

バゼットは戦っている三人を見上げる。

 

イリヤは今までとは比較にならない威力と魔法量の砲撃を行い、零夜は剣に嵌め込まれた指輪の力を使いつつ、魔力を斬撃として放ち、海斗も同様の戦い方をしていた。

 

「力の規模が大きすぎる………個人であんな魔力の行使が可能なのか……!?」

 

「あれだけの大出力………!」

 

「……なんらかのインチキをしてるわね。それも………代償の要る……」

 

凛の予想通り、イリヤの体は傷ついていた。

 

それはイリヤが現在なっている姿、ツヴァイフォームの代償だった。

 

『いいですか、イリヤさん。可能な限り短期決戦でお願いします。このモードは使用者の限界を超えた力を引き出せるようです。しかし、通常の魔術回路だけでなく筋系、血管系、リンパ系、神経系までも擬似的な魔術回路として意図的に誤認させているんです。力を使えば、使うほどそれらは磨耗し傷ついていくでしょう』

 

ルビーの話を聞きながら、イリヤは飛んでくる攻撃をかわし、障壁を使い防ぎながら接近する。

 

「零夜、お前もだぞ。この力は今のお前じゃまだ使いこなせない」

 

海斗に言われ、零夜は飛んでくる武具を弾きながら、剣を握り締めた右腕を見る。

 

右腕は火傷の様な痕ができ、傷ついていた。

 

零夜と海斗の最強スタイル、インフィニティスタイルとレイジングスタイルは自身の魔力だけでなく、空気中を漂う魔力の残滓をかき集め、自身の魔力に変換する。

 

特に森や川などの自然が豊かな所では魔力の残滓だけでなく木や草に宿る生命の力なども吸収し、自身の魔力に変換できす。

 

そして、この場所には龍穴、地脈の中心がある。

 

そのため、今の二人は本来の力より、数倍、数十倍の力を発揮できていた。

 

だが、膨大な魔力は、二人の体をも傷つける。

 

海斗は長年の特訓の成果もあり、今はまだなんとか旨く魔力を制御しきれているも、零夜は特訓を始めまだ数ヶ月程度。

 

普通の市街地でも零夜の体を酷使され傷ついた。

 

そのため、普段よりも力が強力になったインフィニティスタイルは零夜の体を傷つけ、ゆるやかに壊していく。

 

それは零夜自身も分かっていた。

 

零夜は海斗に対して頷き、剣を握り締め迫ってきた巨大な剣、イガリマを叩き折った。

 

「うっ……!くっ………!」

 

その時、クロが呻き声を上げ、膝をつく。

 

「クロ!どうした!」

 

空也が慌てて駆け寄ると、クロは痛覚共有の呪いでイリヤが受けてるダメージと同じものを受けていた。

 

上空ではイリヤと零夜が武具を弾き、海斗が隙を見て攻撃を仕掛けるも、広範囲に飛ばされる

 

「あれだけの痛み……いずれ怪我だけでは………!」

 

「出来る事なら止めさせるべきでしょう」

 

「そうね。イリヤ!零夜に海斗!」

 

凜は戦っている三人に声をかけ、戦闘を止めさせようとする。

 

「そうじゃ………そうじゃないでしょ!」

 

するとクロは立ち上がり叫んだ。

 

「クロ……!」

 

「三人が無茶してでも美遊を助けたいって言うなら……その背中を押してあげるべきでしょ!」

 

弓と矢を出し、構えながらそう言う。

 

「………そうだな。俺も、あいつらに賭けて見たいって言ったんだ。なら、その為の後押ししてやらないとな!」

 

空也も長刀を構え、笑う。

 

「……そうね。ここは」

 

「クロの言う通りですわ!」

 

凛とルヴィアは覚悟を決め、バゼットもそれに応える様に拳を握る。

 

「ハハハハハハハハハ!!」

 

少年は笑い、武具を投げつける。

 

イリヤは障壁を前方に展開し、昔、クロの矢を防いだときと同様に武具の投擲を防ぐ。

 

その横から、英霊の手が伸びて襲い掛かるが、それを零夜が剣で受け止め、そして、手を切り飛ばした。

 

斬り飛ばした瞬間、海斗は槍を回し、強烈な冷気を出し、腕を凍りつかせる。

 

「今よ!」

 

凛とルヴィアは正面に移動し、宝石を投げ、打ち砕く雷神の指(トールハンマー)を起動させる。

 

バゼットが拳を構え、ジャンプしたクロの足の裏を殴り、クロは一気に飛び上がる。

 

矢を番え、弦を引き、魔方陣目掛け放とうとすると、クロ目掛け武具が飛んでくる。

 

空也が持ち前の俊敏さを生かし、クロの前に移動して長刀で弾く。

 

「行け!」

 

「ふっ!」

 

矢を放ち、高速回転増幅路で威力の上がった矢は、英霊の持つイガリマに当たり、イリヤ達に斬りかかろうとした、イガリマは弾かれる。

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

「せやああああああああ!!!」

 

零夜の持つ剣が炎を纏い、そして、風の魔力によって炎の威力が上がり、海斗は槍に水を纏わせ、そこに雷の魔力を流す。

 

巨大な焔の斬撃と、雷を帯びた水の刺突が英霊の持つ盾に当たり、盾に大きなヒビが入る。

 

「イリヤ!」

 

「任せて!こんなもの……………すぐに壊してあげるから!」

 

そして、イリヤの放った一撃は大盾を破壊し、そのまま少年の体を貫く。

 

「……………ッハハ……そうか。神々の盾すら貫くか。これなら……あるいは成るかもしれない」

 

そう言い、少年は突き刺さった光の矢を片手で握り潰し言う。

 

「友の為に身を滅ぼすか。ああ………君たちは……君たちこそは………僕の全力に相応しい!!」

 

手には鏡面界で使い、鏡面界を破壊して現界に来たときに抜いた剣があった。

 

剣を抜くと、豪風が吹き荒れる。

 

「銘は無い。僕はただ“エア”、と呼んでる。かつて天と地を分けた……文字通り世界を切り裂き創造した最古の剣さ。感じるかい?遺伝子に刻み込まれた始まりの記憶さ。世界(ゆりかご)ごと君達を切り裂き、今ここに、原初の地獄を織り成そう!!」

 

「……ルビー、まだ全力じゃないよね」

 

イリヤは静かにそう尋ねる。

 

『しかし、イリヤさん!』

 

「イリヤ!死ぬ気か!?」

 

イリヤのその言葉が何を意味してるのかはルビーにも海斗にも理解できた。

 

そして、零夜にも。

 

「どっちにしろここで負けたらお終いだよ。だからお願い」

 

「イリヤ」

 

零夜はイリヤに呼びかけ、剣から一つの指輪を取り出す。

 

エンゲージリング。

 

それを零夜はイリヤの左薬指に嵌める。

 

「エンゲージ発動。イリヤの負担を、半分だが俺も受け持つ」

 

「レイ………」

 

「お前だけが負担を背負うことはない。俺も一緒に背負う。一緒に美遊を助けるって言っただろ」

 

「……うん。ありがとう、レイ」

 

イリヤは英霊と少年を見下ろし、ステッキを構える。

 

「ルビー、筋肉も、血管も、リンパ腺も神経も………私たちの全部を使って!」

 

少年がエアを開放しようと構え、イリヤと零夜もステッキと剣を構える。

 

多次元重奏飽和砲撃(クインテッドフォイア)!!!」

 

「インフィニティヴァンダライズ!!!」

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!」

 

エアの一撃にイリヤと零夜の一撃がぶつかる。

 

だが、イリヤと零夜の特大の一撃を持ってしても世界を切り裂き創造した最古の剣の一撃を押し切ることは出来なかった。

 

加えて、零夜半分だけイリヤの負担を受け持つと言ったが、実際はイリヤの負担の八割を受け持ち、体へのダメージは深刻だった。

 

さらに、イリヤ自身二割の負担とは言え、それだけでも十分深刻なダメージだった。

 

エアの一撃を破れない。

 

零夜はそう確信した。

 

「海斗!」

 

だからこそ、最後の一撃(海斗)を最後まで残しておいた。

 

海斗は槍に魔力を込め、二人の攻撃に重ねる様に槍での一撃を放つ。

 

「レイジングフォールスピア」

 

海斗の一撃が二人の攻撃を押し、エアの威力を殺し始める。

 

そして、最後に海斗の攻撃が二人の攻撃ごと、威力の弱まったエアの一撃を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美遊SIDE

 

水の音がする。

 

光も音も無いのに……どうしてこの音だけ聞こえてくるんだろう。

 

黒……何も無い暗闇。

 

そうだ……これが本来の私の世界。

 

全てを叶える力と引き換えに、私は全てを失った。

 

望んでそう生まれたんじゃない。

 

でも、聖杯として生まれてしまった以上、私の意志は関係ない。

 

私は光を与える役目の器。

 

私自身に光は必要ない。

 

なのに………光をくれた人たちがいた。

 

居場所をくれた人がいた。

 

隣に居るっと言ってくれた人が居た。

 

こんな私でも、ちょっとだけ人間らしくなれる世界があった。

 

でも、その優しい嘘ももう終わり。

 

それは本来、私が手にすることができなかったもの。

 

この世界で過ごした三ヶ月は、きっと最後に見ることを許された夢。

 

悲しみは無い。

 

夢から覚めるだけ。

 

ただ、元の自分に戻るだけだから………

 

ただ一つ、心残りがあるとすれば……

 

「……お兄ちゃん」

 

ごめんね。

 

お兄ちゃんの最後の願い、ちゃんと叶えられなかった。

 

運命からは………逃れられなかった。

 

『美遊がもう苦しまなくてもいい世界になりますように』

 

そう願ってくれたのに、私に出来たことは別の世界に逃げて来ただけ。

 

でも…………

 

『優しい人たちに出会って―――』

 

出会えたよ。

 

とても優しい人たちに。

 

そして……

 

『笑い会える友達を作って―――』

 

うん、作れたんだ。

 

とても大切な友達。

 

銀色の髪が綺麗でまるで月の光みたいな子と、友達想いで一人で色んなことを抱え込んじゃう優しい子。

 

『これはちょっと嫌だけど……好きな人とか出来て―――』

 

うん、出来た。

 

ずっと一緒にいたい。

 

彼と一緒に人生を歩みたい。

 

そう思える人。

 

『暖かでささやかな―――』

 

名前は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎えに来たぞ。………美遊」

 

「………海斗」

 

 

『幸せをつかめます様に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

三人の一撃はエアを打ち破り、英霊ごと吹き飛ばした。

 

英霊の残骸の中から美遊の姿が見え、海斗は真っ先に美遊の所に降りた。

 

それを見て、零夜も行こうとしたが、体がふら付き倒れそうになる。

 

なんとかイリヤに支えてもらい、二人でそのまま美遊の所に行く。

 

「………泣いてるとこ、初めて見た」

 

「だな、いいもの見れた気分だ」

 

「え………?」

 

美遊は泣いており、その涙を海斗は優しく指で拭った。

 

「美遊!?」

 

「四人とも無事!?」

 

三人の一撃で開いた大穴の斜面を滑りながら凛とルヴィア、そしてクロと空也、バゼットが降りてくる。

 

「ははっ……まさかエアが打ち負けるなんて……黒い方の僕も…とうとうカードに戻っちゃったか…………ま、半身だけでも受肉出来たんだし、これで良しとするかな」

 

少年は仰向けになり、夜空を仰いだ。

 

『美遊様!酷いです!私を置いて行くなんて……!』

 

「サファイア…」

 

サファイアはルビーとの融合を解き、美遊に抱きついた。

 

それに伴ってイリヤのツヴァイフォームも解ける。

 

零夜と海斗もインフィニティスタイルとレイジングスタイルを解き、いつもの服装に戻っていた。

 

「美遊、私ね。分かってたんだ」

 

「え?」

 

「美遊が何かとても大きな秘密を抱え込んでるって分かってた。分かってたのに踏み込めなかったんだ。その秘密に触れちゃったら……もう元の関係には戻れないような気がして………」

 

「俺もだ。美遊からいつかそれを話してくれるまで待つとか都合のいいこと言ってたけど、本当は自分から踏み込む勇気が無かっただけなんだ」

 

「でも、もう逃げないよ。美遊は私たちの友達だから!」

 

「友達が苦しんでるなら……もうほっとかない」

 

「美遊は一人じゃないよ」

 

「うん……うん……っ!」

 

零夜とイリヤの言葉に、美遊は涙を流し頷く。

 

『あらあらー。絶対引っ叩いてやるんじゃなかったんですかー?レイさんも、説教してやるとかー』

 

「あはは……そのつもりだったんだけど、こんな顔見ちゃったできないや」

 

「同じくな」

 

誤魔化す様に言う二人を見ながら、海斗は美遊に手を差し出す。

 

「帰ろうぜ。俺たちの家に」

 

「………うん」

 

美遊は手を伸ばし、海斗の手を握ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その瞬間、空が光り輝き、巨大な雷が全員を襲った。

 

「があああっ………!!?」

 

「きゃああああああ!!?」

 

「…………ッ!!?」

 

その一撃を食らい全員が動けなくなる。

 

すると、上空にはエアの一撃で裂けた空間があり、そこから三人の人影が現れる。

 

「エアで切り裂いた世界の裂け目……まさか……!」

 

少年は驚きながら降りてきた人影を見つめる。

 

降り立った金髪のツインテールの女は落ちていた二枚目のアーチャーのカードを踏み付け…………

 

夢幻召還(インストール)

 

二枚目のアーチャーの英霊を自身に憑依させた。

 

「な……!?」

 

夢幻召還(インストール)!?」

 

「なんなのよ……」

 

「こいつら……」

 

「誰よ!?」

 

アーチャーを夢幻召還(インストール)した女性に、ゴスロリを着て右腕が巨人のような腕をし巨大なハンマーの様な武具を持った少女。

 

そして、黒いボロボロの布を身にまとい腰に二本の短剣を持った少年。

 

世界の裂け目から現れたなぞの三人に、零夜たちは驚いていた。

 

「はン!ようやく見っかったと思ったらなんだがオマケがウジャウジャいるんですけどー?」

 

「捨て置け。今は最優先対象のみ回収する」

 

そう言い、金髪の女性は美遊に近づき、話しかける。

 

「お迎えにあがりました。美遊様」

 

「い……嫌………!戻りたく……ない……!」

 

「……そんな口が利ける様になるとは。ですが、バカンスはもうお終いです」

 

その時、上空の裂け目が広がり、光り出す。

 

「空が…!いや、これは……世界が割れているのか……!?」

 

バゼットが驚いていると、ゴスロリの少女は美遊に近づき蹴りを放つ。

 

すると、その蹴りを少年が短剣で防いでいた。

 

「おい、お前。美遊に何しやがる?お前なんかより、美遊の方が遥かに大切なんだぞ」

 

「ケッ!相変わらずムカつく野郎だな、テメーは」

 

ゴスロリ少女はそう言い、足を下ろす。

 

少年も短剣を納め、そして美遊を抱きかかえる。

 

「帰るぞ美遊。お前の本来の居場所にな」

 

「離せ!」

 

「ん?」

 

海斗は立ち上がり、ボロボロの状態で魔力の槍を作り出す。

 

「美遊を…………離せ!」

 

槍を構え、突っ込むがその一撃は簡単に交わされ、海斗の腹に少年は拳を叩き込む。

 

「がはっ!」

 

海斗はそのまま腹を抱えてうずくまり、倒れる。

 

「チッ!雑魚が。雑魚の分際で美遊の名前を口にするな」

 

「その辺にしておけ。向こうに戻る時間だ」

 

「ああ、揺り戻しだ」

 

その瞬間、辺りが白い光に包まれ、全員が目を覆う。

 

「くっ………なにも見えない……!」

 

海斗は必死に手を美遊がいる方向に伸ばす。

 

「美遊!」

 

「海斗……!」

 

美遊も少年に抱きかかえられながらも、海斗のいる方向に手を伸ばす。

 

だが、二人の手は決して繋がることなく、そして―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界から全員、姿を消した。




ツヴァイ編終了です。

次回からドライ編に突入です。

最後に出てきた短剣を持った少年。

その正体もドライで明かします。

ドライ編、お楽しみに。


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プリズマ☆イリヤ3rei!!
平行世界


いよいよドライ編スタートです!


頬に冷たい何かがあたった。

 

更に寒さも感じた。

 

「……ん?あれ?俺は………!美遊!」

 

何があったのか思い出し、起き上がる。

 

俺がいたのは、あの英霊と少年と闘った後のクレーターの中だ。

 

隣ではイリヤも倒れていた。

 

「イリヤ!起きろ!」

 

体を揺するとイリヤは徐々に目を開け、俺を見る。

 

「……レイ?………そうだ!美遊!」

 

イリヤも起き上がり、辺りを見渡す。

 

「皆……何処?」

 

「分からない・目が覚めたら俺とイリヤしかいなかった」

 

「そう……ってさむっ……!」

 

イリヤがそう言って俺も寒さに気が付く。

 

今は夏なのに、何故か雪が降っていた。

 

俺は来ていた上着をイリヤに貸し、山の中を歩く。

 

「なんで真夏なのに雪が降ってるの……!?」

 

「美遊もクロも、それに海斗に空也もいない。一体何がどうなってるんだ?」

 

「とにかくこのままじゃ凍えちゃう……!」

 

「ああ、早く山を降りよう!」

 

イリヤの手を握り、山の斜面を降りて行く。

 

そこで、俺とイリヤは有り得ない物を見た。

 

それは、街の真ん中に巨大なクレーターが出来ていたからだ。

 

「…………なに…………これ……………?」

 

「なんでクレーターは街の真ん中に!?」

 

「海が……海岸があんなに遠く……!?」

 

その時、俺とイリヤの頭に最悪の自体が過った。

 

「イリヤ、掴まれ!」

 

俺はヴィザードリングを嵌め、転身し、イリヤを抱え、空を飛ぶ。

 

誰かに見られるかもしれない。

 

だが、今はそんなこと言ってる暇はない!

 

焦りながら空を飛び、家を目指す。

 

家に行けば誰かがいる。

 

アイリさんやセラさん、リズさんに士郎さん。

 

きっとあの家に居てくれてる。

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、家には誰もいなかった。

 

正確には家にいないのではなく、家そのものがなかった。

 

家の向かい側にはルヴィアさんちもない。

 

イリヤは膝から崩れ降り、涙を流す。

 

雪が降ってる。

 

クレーターがある。

 

街は廃墟みたい。

 

人の気配が無い。

 

ここは、平行世界(知らない世界)だ。

 

「なんで………何がどうなってるの……どうすればいいの……分かんないよ、こんなの………ルビー、凛さん、ルヴィアさん、海斗君、空也、クロ…………何処に行ったの!美遊!」

 

イリヤは大声で誰もいない、街に向かって叫ぶ。

 

「ひやっ!」

 

「え?」

 

すると、俺達の背後で誰かの声が聞こえた。

 

振り向くと、そこには俺に向かって飛んでくる「田中」の二文字があった。

 

「たっ……なかああああああああああ!!?」

 

「レイッ!?」

 

俺はそのまま飛んできたなにかと一緒に飛び、そのまま近くの家の塀にぶつかる。

 

「レイ!?大丈夫!?」

 

「い、痛い……冷たい………それと重い………」

 

後頭部を押さえながら跳んできたものを見る。

 

「ふいー。頭とお尻打ったです……もー、急に大きな声出すからコケちゃったですよ。発声練習ですか?」

 

飛んできたのは体操服(下はブルマ)を来た少女だった。

 

「うわっ!?雪降ってるのに薄着でバカみたいですね。寒くないです?後、そっちの貴方は恥ずかしい恰好してますね」

 

「貴女に言われたくないんだけど!?」

 

「ブルマ履いてるアンタの方が恥ずかしいだろ!?てか、降りろ!」

 

謎の少女に降りてもらい俺は立ち上がる。

 

ともかく、この世界にも人はいた。

 

とにかく、今は少しでも情報を集めないと。

 

「あ、あの!教えてください!」

 

そう思ってると、イリヤが真っ先に話し掛ける。

 

「この街はどうなってるの?人は何処に行っちゃったの!?」

 

「………わからないです」

 

「わからないって………ここに住んでるんだろ?全部は分からなくても、少しは何か知ってることが………」

 

「というか―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこですか?私は誰ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちより、困ってる人がいました。

 

「あ、なんかお腹が切ないです。なんですかこれ?」



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何をする人か

「んっ……んっ……んっ………んぱー!んまいです!水分が体を沁み渡っていくです!」

 

「雪さえ降ってなければ、部活の一コマっぽいんだけどね………」

 

「転身してても寒い………」

 

少女もとい田中さんはお腹が空いてるらしく、俺とイリヤは応急処置代わりに、公園の水を飲ませた。

 

寒空の下でそんなもん飲んでる所を見るとこっちまで寒くなってくる。

 

イリヤは俺の上着だけでは寒さに耐えれないらしく、落ちていた段ボールを身体に巻き付けている。

 

「こんな金属のポッチから水が出るなんて凄いです!お腹が切なくなったら水を飲めばいいんですね!」

 

「記憶喪失とは言え、一体何処までモノを忘れてるの、田中さん………」

 

「タナカサン?」

 

「田中さんだろ?胸のゼッケンに名前が書いてるし」

 

俺が指を差すと、田中さんは胸の部分を引っ張り、ゼッケンを見下ろす。

 

「中田!!」

 

「田中!!」

 

アンタから見れば中田だけど!

 

取り敢えず振っている雪を凌ぐため、俺たちは遊具の中に入る。

 

「ううう……なんでこんなことになっちゃったんだろ………折角人に会えたと思ったのに………」

 

「ガタガタ震えてるですねぇ。そんなに寒いなら、なんで服着ないですか?」

 

「だから、貴女に言われたくないですけど!?」

 

「田中さんこそ、寒くないのかよ?」

 

「全然寒くないです!あっ……ていうか、寒いってなんですか!?」

 

「「現在進行形で忘れていってない!?」」

 

久しぶりにイリヤとハモる。

 

「田中はぽかぽかですよー。ほら!」

 

そう言って田中さんは俺とイリヤに抱き付く。

 

「わっ!本当にあったかい!?」

 

「どうなってるんだ!?」

 

まぁ、温かいのはいいんだが……………

 

「ねぇ、田中さん。色々聞きたいことがあるんだけど」

 

「いいですよー!田中なんでも答えるです!」

 

「じゃあ、田中さんは何処から来たんだ?」

 

「さぁ……分かんないです」

 

「どうして体操服を着てるの?」

 

「体操服って何ですか?」

 

「……今は夏だよな。どうして雪が降ってるんだ?」

 

「え?夏って雪が降るもんじゃないです?」

 

「………街の人たちは何処に行ったの?」

 

「人居たんですか?この街」

 

「………街の真ん中にあるクレーターはなんだ?」

 

「クレーターってなんですか?んまそうな名前ですね」

 

「………………!!」

 

「………………!!」

 

「…………………?」

 

つまり何も分かんないってことか。

 

「言いたくないけど……言いたくないけどっ!田中さんの役立たず!」

 

「田中罵倒されたです!?」

 

イリヤは頭を壁に打ち付け嘆く。

 

「ああ、もう……せめて美遊の居場所が分かればいいのに……」

 

「そうだな。美遊が何処に居るのかさえ分かればこっちである程度の考えは立てられるんだが…………」

 

「ん?美遊はエインズワース家に捕まったですよ。平行世界に飛んでたみたいですけど帰ってきたんですね」

 

急に俺たちが知りたかった情報を言い出し、俺とイリヤは田中さんを見る。

 

「な、なんで……!?美遊の事知ってるの!?」

 

「それに、平行世界のことまで……!?」

 

「わ……分かんないです。するっと出てきただけで……なんでしょう?この記憶………」

 

「お願い!思い出して!」

 

「俺達にとって凄く大切なことなんだ!頼む!」

 

俺達にとっては唯一の手かがり。

 

俺とイリヤは必死になって田中さんに頼む。

 

「エインズワース……なんでしょう、この名前……なにか………思い出しそうな………」

 

「見ィ――――っけ♡」

 

その時、遊具の穴から誰かが中を覗いて来る。

 

「侵入者発見っと。あれ?三人いるけどいいんかな?」

 

こいつ………あの時、美遊を攫った三人の内の一人………ゴスロリ少女だ…………!

 

どうする?

 

この中で戦えるのは俺だけ。

 

でも、コイツはかなり強い。

 

一人じゃ勝てない!

 

だが、イリヤはルビーがいないから戦えれない。

 

「ンなとこ入ってないで出て来たらどうですかァー?痛くしないからさァ」

 

ここは逃げるしか……………

 

「田中さん、後ろの穴から出て走って!」

 

イリヤが小声で田中さんにそう言う。

 

だが、田中さんから返事は無い。

 

「田中さん?」

 

田中さんの方を振り向くと、そこに田中さんはいなかった。

 

「田中です!ここは何処ですか!?私は誰ですか!?」

 

田中さんは遊具から飛び出し、ゴスロリ少女に近づく。

 

「「田中さぁ―――――ん!!?」」

 

「うぎゃっ!?ブルマだ!?バカだ!!変態だ!!」

 

ゴスロリ少女は田中さんをみてそう言う。

 

いや、アンタの恰好も結構アレですが!

 

「なんなのコイツゥ?こんなのいたっけかなァ……まァ、なんでもいいや。取り敢えず…………限定展開(インクルード)!」

 

ゴスロリ少女は“バーサーカー”のカードを出し、限定展開(インクルード)した。

 

ゴスロリ少女の腕は巨大な腕になり、そして、俺達に向かって来た。

 

ゴスロリ少女は田中さんごと遊具を破壊しようとするがイリヤが咄嗟に、田中さんを突き飛ばし、田中さんを守る。

 

「あ!いたいた白い方!それに、髪が短い方!アンタらはあの時、美遊の周りにいたよねェ!」

 

コイツ、俺とイリヤを狙ってる!?

 

「走るよ、田中さん!」

 

「ふいぃ?」

 

田中さんの手を掴み、俺たちはその場を全力で逃げ出す。

 

あの女、カードを腕に限定展開(インクルード)した!

 

二枚目の“バーサーカー”か!?

 

どうして俺とイリヤを狙う!?

 

それに白い方と髪の短い方ってもしかして…………いや、とにかかう今は逃げないと!

 

そう思うと、俺達の目の前に一台の車が落ちて来て、道を塞ぐ。

 

「なーんだ。ちょー張り合いないんですけど。もっと色々投げ付けたかったんだけどなァ」

 

ゴスロリ少女は電柱を片手で持ち、近寄って来る。

 

まさか、この車を投げてきたのもコイツか……………!

 

「戦うしかないか………!」

 

俺は覚悟を決め、スタイルチェンジリングを嵌めようとする。

 

すると、行き成り田中さんが前に出る。

 

「田中さん?」

 

「なに?命乞いならなるべくみっともないのがあたし好みだよ♡」

 

「あの…………私は誰ですかー!?」

 

「知るかァーッ!!バッカだろ!?アンタ超絶バッカだろ!」

 

「田中さん!今はそう言う空気じゃないから!頼むから空気を読んでくれ!」

 

「うーんと……じゃあ、貴女は誰ですか?」

 

先程とは違う言い方に、俺とイリヤは一瞬唖然とした。

 

「……まァ、いいわ。聞かれたからにはメイドギフトって奴?馬鹿に名乗るのもアホらしいけどォ…………あたしはベアトリス・フラワーチャイルド!!エインズワースの超絶美少女ドールズよ!!今後ともよッろしくゥ!!後、一秒ぐらいの付き合いですけどォ!」

 

そう言い、ゴスロリ少女もといベアトリスは電柱を田中さんに振り下ろす。

 

咄嗟の事に俺は反応できず、田中さんは電柱で叩き潰される。

 

「たなっ………!?」

 

「はン!まずは一匹目―ッと」

 

ベアトリスはまるで蚊でも潰すかのように言い、電柱を叩く。

 

だが、次の瞬間、俺とイリヤ、そしてベアトリスまでも唖然とした。

 

何故なら、田中さんは立ち上がり、あまり大きな怪我を負っていなかったからだ。

 

「田中……さん……?」

 

「エインズワース………」

 

「なんなの……アンタ……なんなんだよォ!!」

 

ベアトリスは叫びながら田中さんを殴りつけ、田中さんは道を塞いでる車に叩き付けられる。

 

「「田中さん!?」」

 

俺とイリヤは田中さんに慌てて駆け寄る。

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

「貴方達は……貴方達は誰ですか?」

 

田中さんは自身の怪我を気にせず、俺達を見て来る。

 

「貴方達は何をする人ですか?逃げる人ですか?」

 

…………違う!

 

そうだ。

 

逃げてる場合じゃないんだ。

 

アイツがエインズワースの人間と繋がりがあるって言うなら……………俺達のやる事は一つだ!

 

「私はイリヤ!イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!私は美遊の友達で、美遊を助けるためにこの世界に来た!」

 

「俺は零夜!曽良島零夜!イリヤを守る幼馴染で、美遊の友達!同じく、美遊を助けにこの世界に来た!」

 

田中さんに教えるように、そして、ベアトリスを含めたエインズワースに宣戦布告するように俺とイリヤは宣言する。

 

「………ふゥん。ウチの聖杯を横取りしようってコト?そーゆーんなら………遠慮はいらないよねェ」

 

ベアトリスは限定展開(インクルード)を解除し、カードに戻す。

 

「全力で行くよ?灰すら残さない……!!」

 

強力なプレッシャーが放たれ、カードが輝く。

 

これは、まさか……………!!

 

俺は嫌な予感がし、インフィニティスタイルになろうとする。

 

「………………あン?」

 

すると、ベアトリスは急に動きを止めカードを手に取る。

 

「なに?今ちょーいい所だったんですけど!?バッチリ決めポーズとってたのに台無しじゃん!」

 

誰かと話してるのか、ベアトリスは話し出す。

 

「チッ……!……………しょーがない。アンタらはまた今度ね。次は絶対ブチ殺すから!」

 

そう言い残し、ベアトリスは近くの民家の屋根に上がり、走り去って行った。

 

「行っちゃった……?」

 

「………だな」

 

「ふいー、ビックリしたですねー」

 

「そうだ!田中さん!身体は大丈夫なの!?」

 

「大丈夫?何がですが?」

 

「いや!さっき攻撃食らってただろ!怪我とか………!」

 

田中さんの身体の事を心配してると田中さんは笑顔で答える。

 

「なんか身体中くまなくズンガズンガしてますけど大丈夫です!」

 

「大丈夫な表現なの!?」

 

「絶対大丈夫じゃないよな!?」

 

「さて、それじゃ行くですか」

 

田中さんはそう言うと、体操服の埃を払い、歩き出す。

 

「ど、何処へ?」

 

「何処って目的地は一つしかないですよ?」

 

「それって………!」

 

「さっき教えてくれたですよね。イリヤさんと零夜さんは何をする人でしたっけ?」

 

俺とイリヤは目を合わせ頷き合う。

 

「「私達は(俺達は)美遊を助ける!!」」

 

「はい、そおれなら私も一緒に行くですよ!相変わらず何も覚えてないですけど、一つだけやらなきゃいけないことを思い出したです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エインズワース家を滅ぼす。それが田中の役目です」



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麻婆ラーメン

「エインズワース家を滅ぼすって………」

 

「どういうことだ!?」

 

田中さんの役目。

 

それがエインズワース家を滅ぼすと言う事に俺とイリヤは困惑し、尋ねる。

 

「よく分からないです。でも、絶対に滅ぼさなきゃいけない。なぜかそれだけは覚えているんです」

 

「………わかった。田中さんはエインズワース家を滅ぼす。俺たちは美遊を助け出す。目的は違うが、過程は殆ど同じだ。どの道、美遊を助け出すにはエインズワース家相手に戦わないといけないしな」

 

「うん。正直ちょっとだけ……ううん、凄く怖いけど………覚悟は決めた!行こう!田中さん!エインズワース家は何処にあるの!?」

 

イリヤが尋ねると田中さんは笑って言う。

 

「分かんないです」

 

うん、知ってた。

 

「そうだよね。記憶喪失だもんね。覚えてなくて当然だよね。田中さんは何も悪くないよね。ただノリに流されて一瞬でも田中さんが頼もしいとかおもっちゃった私が決定的に間違ってただけだよね…………」

 

「田中糾弾されてるです?」

 

「これからどうしよう………」

 

「美遊がエインズワース家に捕まってることは分かっても肝心の場所が分からないんじゃな……………田中さん、何か手かがりになるような記憶はないか?」

 

改めて田中さんに尋ねようと振り向く。

 

すると、田中さんは道路に倒れていた。

 

「「田中さ―――――ん!!?」」

 

「どうしたの田中さん!やっぱりさっきのでどこか怪我を……!?」

 

「お……お……おなかがせつないです………」

 

………ああ。

 

そう言えば、水しか飲んでなかったな…………

 

「公園に連れてってくさだいです………」

 

「水!?水飲む気!?」

 

「ごめん、田中さん!正しくは言わなかったけど、本気の空腹は水じゃ癒せないんだ!」

 

「どどどどどうしよう!?食べ物なんて何処に行ったら………」

 

「それ以前に、食べ物売ってる店なんてあるのか!?」

 

二人であたふたしていると、背後から誰かが近づいて来る。

 

「どうした?行き倒れか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………んが?何か良い匂いがするです!」

 

「あ、起きた」

 

「………はりゃ?ここは何処ですか?」

 

「ラーメン屋。田中さんが気絶してる間に運んでもらった」

 

「後、私は誰ですか?」

 

「それ持ちネタにする気?」

 

「直に出来る。大人しく座して待て」

 

田中さんが倒れた後、俺達に話し掛けてきたのはここのラーメン屋の店主さんだった。

 

空腹で倒れてしまった田中さんを運んでもらい、ラーメンを食べさせてくれるとのことだ。

 

「あの、すみません。田中さんを運んでもらってその上、食事まで………」

 

「構わん。倒れるほどの空腹なのだろう?ラーメン屋の店主として捨て置けん」

 

「んまそうな匂いですね!なんですかそれは!?」

 

「君はラーメンを知らんのか?」

 

「知らないです!でも、まるで小麦を砕いて粉にして水で練って固めた物をゆでたような匂いがするです!」

 

「なんなのだこいつは?」

 

「知識の偏りが滅茶苦茶な人でして…………」

 

そうしてる内にラーメンは完成し、俺達の前に置かれる。

 

「出来たぞ。存分に味わうといい」

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

「それじゃいただき………」

 

俺達の前に置かれたラーメンは何故か赤色だった。

 

赤って言うより赤過ぎる赤だ……………

 

「あの………これは一体………」

 

「ん?麻婆豆腐だが?」

 

「ラーメンは何処に行ったんですか!?」

 

「麺なぞ飾りだ。麻婆の海の底に申し訳程度に沈んでいる」

 

「うわぁ!ラーメンのスープすらない!」

 

「全部麻婆のあんかけだ!?」

 

「しかも見た目通り辛い!!」

 

「し、舌が麻痺しそうな辛さだ………!」

 

「文句の多い客だ。連れを見習ったらどうだ?」

 

店主に言われ隣を見ると、田中さんは麻婆ラーメンもとい麻婆豆腐を飲み物でも飲むかの様に飲み込んでいた。

 

「ごちそうさまです」

 

「田中さぁ―――――ん!!?」

 

「食べきった!?このラー油の塊のようなラーメンを!?」

 

「口の中とお腹が焼け爛れた様にズンガズンガして汗と震えが止まらないです」

 

「「最早料理の感想じゃない!?」」

 

「食べ残しは許さぬ。どうしても無理と言うなら首から下を土に埋めて口から麻婆を流し込んでやろう」

 

「ひぐぅっ……!珍味にはなりたくないよぅ……!」

 

「ここは何としてでも………!」

 

店主からの威圧と脅迫めいた言葉に、俺とイリヤは必死に麻婆を掻き込む。

 

この人なら本気でやりかねない

 

数分後、なんとかやり切った俺たちはテーブルに倒れ込んだ。

 

「ごちそう……さまげぷた………」

 

「もう麻婆はコリゴリだ………」

 

「うむ。喜べ、少年少女。君たちはこれで一日分のカロリーを摂取出来だ」

 

「どこまで残酷な料理なのー!!?」

 

水を貰い一息ついた所で俺は店主に話し掛ける。

 

この街で出会えた田中さん以外の人間。

 

情報を集めないと。

 

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、この街で何があったんですか?」

 

「何の話だ?」

 

「街の真ん中にあるでっかいクレーターとか……」

 

「君たちはよそから来た人間か?」

 

まぁ、よそ(の世界)から来た人間には違いない……………

 

「えっと……はい」

 

「そうか。観光のつもりか知らんが酔狂なことだ。おかしな恰好をしていると思ったが、都会ではそういうのが流行っているのだな」

 

店主は田中さんを見ながら言う。

 

「あの大穴はガス爆発によるものだ」

 

「「ガス爆発?」」

 

「今から五年前。冬木の地下に眠っていた膨大な天然ガスが何かの弾みで着火。数キロ四方を吹き飛ばす大災害となった。まだ天然ガスが埋まっている危険性が高いとして、避難勧告も出され、今では街の外れに細々と人が暮らしている。このマウント深山商店街もシャッターが随分と増えたものだ」

 

なるほど。

 

だから、人がいないのか……………

 

「えっと……それじゃ雪が降ってるのはどうして……?」

 

「雪?夏には雪が降るものだろう?」

 

「田中さんと同じ回答!?」

 

「あ、そうだ。この人田中さんって言うんですけど、見覚えとか……」

 

「あるわけなかろう」

 

「この体操服を着る学校とか……」

 

「この辺りに学校はもうない」

 

色々情報は知れてるけど、これと言った情報はないな。

 

それに、田中さんの正体も分からない。

 

「じゃあ、エインズワース家は何処にありますか?」

 

すると、店主は急に表情を変え、目を見開く。

 

「……知らんな」

 

「今の表情はなに!?」

 

「なにか知ってるんですか!?」

 

カウンターを乗り出す勢いで立ち上がり、店主に問い詰める。

 

「知らんと言っているだろう。そんなことより……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻婆ラーメン三つで四八○○円だ」

 

「………………………………………………………有料?」

 

「当たり前だ」

 

「いや!あの流れだとごちそうしてくれるもんじゃ……!」

 

「ていうか高くない!?」

 

「私特製の“辛そうで辛くないむしろ辛かったことを脳が認識しようとしてくれないラー油”を湯水のごとく使っているのだぞ」

 

「「余計なことを!!」」

 

「まさか………文無しじゃあるまいな」

 

「た……田中さん……お金は……」

 

「なんですかそれ?んまいものですか?」

 

「「ですよね!」」

 

「食い逃げとは舐められたものだ。だが、ちょうど豚骨が切れていた所だ。文字通り、身体で支払ってもらうとしよう」

 

店主は殺気を放ちながら片手にでっかい包丁を持ち、手脱ぎを外す。

 

「ラーメン屋が放っていいさレベルの殺気じゃないよ!?」

 

「田中さん、起きろ!このままだと俺達ダシになっちまう!」

 

「むにゃむにゃ、もう二度と食べられないです……」

 

「「不吉な事言ってないで起きて!!」」

 

「心臓より肝臓や腎臓が高く売れると知っているか?」

 

「この世界の人たち殺伐とし過ぎなんですけど!?」

 

「なんなんだよ、この世界は!?」

 

「最後の晩餐が私の麻婆だったことを幸運に思い逝くがいい……!!」

 

「「いやあああああああっ!!」」

 

俺とイリヤは半ば死を覚悟し、悲鳴を上げる。

 

「こんにちはー。おじさんやってるー?」

 

その時、店の扉が開き、一人の少年が入って来る。

 

「ん?」

 

「はへ?」

 

「あ?」

 

「あら?…………らら?」

 

あ―――――――――らららら――――………………

 



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英霊の少年

久しぶりの投稿です。

アニメでもドライが始まり、楽しくなってきました。

これからもよろしくお願いします。


「全く……折角立て替えて上げたのに、なんだってのさ」

 

無駄に高い麻婆ラーメンの代金を立て替えてくれたのは、あの時の黒い英霊と一体化した少年、つまりあの英霊の半身だった。

 

「今回は僕服着てるのに隠れるの?」

 

イリヤは少年を見ると、電柱の陰に田中さんと隠れる。

 

「立て替えてくれたのは感謝してる。それで………お前は一体何が目的なんだ?」

 

イリヤン前に立ち、指輪に魔力を送ろうと集中する。

 

「野暮だなぁ。勝った君たちがその話を蒸し返すのかい?確かに僕たちは君達と闘った。でも、あれは君たちの勝利で終わったことだろう?それに、僕は黒い方の僕の意志を尊重しただけ。僕個人としては君たちと敵対する理由は無いんだ」

 

「…………敵対する理由がないだけで、味方って訳じゃないんだろ」

 

「まぁ、その通りだけど今ぐらいは仲良くしてくれてもいんじゃないかな………ところで、そちらのお姉さんは?」

 

少年は田中さんの方を見て言う。

 

「田中です!貴方は誰ですか!?何する人ですか!?」

 

「外国語を直訳したような聞き方する人だね」

 

「えっと自称記憶喪失らしくて……」

 

イリヤが田中さんについて簡単に言う。

 

「では、自己紹介をしよう。僕の事は「ギル」って呼んでください。何をする人かって言われると困るけど、取り敢えず、今は現代の生を謳歌しているところです。この時代でも黄金の価値は変わってないようで助かるよ」

 

そう言って、空中から金塊を出現させ、少年もといギルはそう言う。

 

金持ちなのか…………

 

「それにしても記憶喪失のお姉さんか」

 

ギルは田中さんを見て興味深そうにする。

 

当の本人である田中さんは何も分かってないような表情で、ギルを見返す。

 

「召喚時にこの時代の事やエインズワース家周りの知識は入ってきたんだけど、田中さんの事は分からないな」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

俺はギルの口からエインズワースと言う言葉が出て事に驚き、尋ねる。

 

「エインズワース家のことを知ってるのか!?」

 

「知ってるも何も、僕はそいつらが作ったカードから召喚されたもの。エインズワース家がこの世界で聖杯戦争を起こしたんだ。美遊と言う聖杯を据えてね………それで、どうして君がその名前を知って「滅ぼします」

 

ギルの言葉を遮ったのは、田中さんだった。

 

「え?」

 

「田中は……エインズワース家を滅ぼす為にいます」

 

田中さんがギルに強い意志を持ってそう言う。

 

俺とイリヤも互いに頷き、目的を言う。

 

「私たちは、美遊を助け出す!」

 

「そのために、ここにいるんだ!」

 

「………あはっ」

 

俺達の目的を聞き、ギルは笑う。

 

「君たちぶっ飛んでるね。相手がどれ程醜悪で根深いのか知ってるのかな?“エインズワース家を滅ぼす”“美遊を助け出す”。その二つの願いは殆ど同質だ」

 

「そんなの分かってる。それを理解した上で俺たちは美遊を「どうやってそれを?」え?」

 

「見た所戦えるのは君だけ。他の二人はろくに武器も持っちゃいない。僕の“エア”を打ち破ったステッキは何処だい?そして、君の力ではエインズワースどころか、美遊を連れ去った三人にも敵わない。戦闘は不可避なのにそれでも行こうって言うの?そんなの……ただ殺されに行くだけだ」

 

ギルの言う事は正論だ。

 

俺一人の力では、あの強大な力を持った三人には敵わない。

 

だが、それでも…………

 

「………うん。でも、面白い!」

 

「「…………え?」」

 

ギルの言葉に俺とイリヤは同時そう言う。

 

「行こうか。僕も僕でエインズワースに用が無いわけでもない」

 

「あ、案内してくれるの!?」

 

「さびれて退屈なこの街に感謝しなよ。じゃなきゃ、僕もこんな気まぐれ起こさない」

 

「……はっ!話長かったので田中、寝てました!何がどうなったです!?」

 

「寝てたの?……目的はそれぞれ。目指す場所は一緒。案内するよ。エインズワースの攻防は……………クレーターの真ん中にある」

 



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囚われの兄

「はふぅ~……コートってなんてあったかいんだろう………」

 

エインズワース家に向かいながらイリヤがそう言う。

 

イリヤはギルに好意に寄って今はコートを着ている。

 

「薄着で寒がっている女の子を放って置くわけにもいかないしね」

 

「私よりちっこいのに何という経済力と包容力……」

 

「でも、お兄さんよかったの?」

 

ギルが俺の方を見ながら聞いくる。

 

「俺は大丈夫だ」

 

俺は現在転身しており、それほど寒さを感じていない。

 

「さぁ!打倒エインズワース!やるですよー!」

 

田中さんは体操服の上にジャージの上着を来た姿で叫ぶ。

 

見てるこっちが寒くなる………

 

「どう見てもこれから部活するぞって風にしか見えないのがどーにも………」

 

「狙うは全国です!」

 

「わざとやってるんじゃないよね、田中さん」

 

「本物の天然さんはやっかいだね」

 

こうして俺とイリヤ、田中さん、ギルの四人はクレーターへと近づいていく。

 

「近くで見ると凄い迫力……こんな大きな穴がガス爆発でできるなんて………」

 

「ガス爆発?」

 

「さっき、ラーメン屋の店長が教えてくれたんだよ」

 

「ふ~ん、一応仕事はしてるんだなぁ」

 

ギルの意味深な言葉に俺は引っ掛かる。

 

「何ボヤボヤしてるですか。敵陣は目の前!後先考えずブッ込むっすよ!」

 

田中さんが鉢巻を絞め、大声を上げる。

 

「鉢巻絞めたらキャラ変わった!?」

 

クレーター内に突っ込もうとした田中さんをイリヤが抑え込む。

 

「やっぱり君達、無意味に楽しくて好きだな。でも、間違ってもクレーター内には入らないでね。あっという間に感知されるから」

 

「感知?」

 

「クレーター内は全部エインズワースの索敵感知内なんだ。中央まではおよそ一キロ。車廃物の無いこの荒野はあらゆる奇襲を許さない見えない城壁ってわけ」

 

「そ、それじゃあどうするの?車とかで一気に走り抜けるとか……?」

 

イリヤは田中さんの鉢巻を取りながら言う。

 

「その車って音速に近いスピードでも出せるのかい?」

 

つまり、車程度のスピードじゃ無理って事か。

 

テレポートリングは転移先に自分の魔力をマーキングしないと使えないし………

 

俺は万が一の事を考え、緊急脱出が出来る様にとクレーターの外でマーキングしておく。

 

「ヴィマーナがあれば一発だけど………流石にそれはないか」

 

ギルは空中に手を突っ込み、何かを探し出す。

 

「どうしたものかな……あれでもない、これでもない……」

 

どっかの猫型ロボットの如く色んなものを投げだしながら、中を物色する。

 

「おっ!うん、これで行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとどうかと思う……」

 

「何がですか?」

 

「この格好だと思うぞ」

 

「田中は超楽しいですよ!」

 

「あっはっは!」

 

「敵陣に乗り込むって言うのに楽しくしちゃダメでしょ!?」

 

「なんで電車ごっこ!?」

 

俺たちはギルが取り出した布を輪にして、その輪の中に入り、輪を掴んで電車ごっこの様にクレーター内を走っていた。

 

「童心に帰って電車ごっこってのの乙なものじゃない?それに、この布はのお陰で奴等に気付かれずに進めるんだ」

 

そう言われ、俺は掴んでいる布を見る。

 

「この布でくくられた者は魔術的・視覚的に完全な隠匿状態となる。相手が索敵を魔術に頼っている限り、僕らを感知することはできない。だけど、この布、音までは消せないから本拠地内に入ったら、絶対に喋らないでね。話すときは小声で。敵と遭遇したら呼吸も止めてやり過ごすんだ………………そろそろ中央だ」

 

「おい、ギル。外から見ても思ったんだが、中央には何もないぞ?」

 

「大丈夫。そのままゆっくり進んで。ここからなら、ちょうど正面だ」

 

ギルの言う通り、後一歩踏み出したら、急に暖かい風が俺達の肌を撫でる。

 

急な風に思わず目を瞑る。

 

そして、次に目を開けたら俺の目の前には豪勢な屋敷と綺麗な庭園、上空には清らかな青空が広がっていた。

 

「な!なにこモガッ!」

 

「イリヤ!忘れたのか!大声は出すな!(小声)」

 

叫びそうになったイリヤの口を押さえ、イリヤの耳元でそう言う。

 

「なんだが秋みたいにポカポカして気持ちいです……」

 

「春じゃなくて!?てかそうじゃなくて………どうなってるの?」

 

「さっきまで確かに何もなかったのに………これは一体………」

 

「何も無いように見せてるのさ」

 

庭園の中を歩き、ギルが話す。

 

「見えない城壁に見えない本拠地。こんな派手派手に居を構えて置きながら完璧に隠すんだ。まったく魔術師ってのはひねくれてるよね」

 

俺とイリヤは辺りを見渡しながらギルと田中さんと進む。

 

「……ここだけ別世界の楽園みたい……」

 

イリヤがそう呟く。

 

確かにその通りだ。

 

そして、これほどの魔術をやってのけるのが俺達の敵なのか………

 

「さて、どうしたものかな……」

 

正面からは入らず、俺たちは屋敷の裏側に回り込む。

 

「なんで中に入らないですか?」

 

「流石に正面から入るのはまずそうだし、お城の中に美遊はいるとも限らないでしょ?」

 

「こう言う場合なら、離れの建物とかに監禁されてると思うんだが………」

 

「まぁ定番だね」

 

裏口と思しき扉を見付け、そこに近づこうとした瞬間、扉が開き、一人の女性が出て来る。

 

それは、美遊を連れ攫った三人の内の一人。

 

二枚目のアーチャーをカードを夢幻召喚(インストール)した人だ。

 

壁に張り付き、息を殺して前を通り過ぎるのを待つ。

 

女性は俺たちに近づき、通り過ぎようとした瞬間、ナイフを抜き、イリヤの頭の上を切りつけ、壁に傷をつける。

 

「…………何もない…か」

 

ナイフを仕舞い、前を通り過ぎる。

 

「麻婆の匂いがしたのだが……」

 

女性が見えなくなるのを確認して、俺たちは息を吐く。

 

「そう言えば、匂いも隠せないんだった」

 

「そう言う事、忘れるなよ……」

 

「また麻婆のせいで命を落とすトコだった………」

 

額の汗を拭いながら俺たちは軽く一息つく。

 

「それにしても、危うくゲームオーバーになるとこだったね」

 

「あの人、美遊を連れ去った………」

 

「気も付けなよ。彼女はドールズの中でも特に手強いから」

 

「ドールズってベアトリスも言ってたな」

 

「彼女とも会ったんだ。アレはまた別の意味でまずいね。ドールズはエインズワースが使役する兵隊みたいなものだよ。この家を滅ぼすってのなら必ず立ちはだかるけど………どうする田中さん?」

 

ギルが田中さんに尋ねると、田中さんは少し考える様に唸る。

 

「うーん……よくわかんないですけど、あの人は田中が滅ぼす人じゃない気がするです」

 

「ふーん……それならいいけど」

 

「………ねぇ、レイ」

 

イリヤが俺に話し掛けて来るので、俺はギルと田中さんから視線を外し、イリヤの方を向く。

 

「どうした?」

 

「怪しくない?この先……」

 

「……ああ。意味も無く、あの女が出入りするとは考えにくいな」

 

「行ってみよう」

 

イリヤが扉を開け、俺たちは中に入る。

 

階段を下り、付いたのは地下水路だった。

 

「どうなってるのこのお城……ここ、本当に冬木市?」

 

「地下水路だね。どこから持ってきたんだが」

 

持ってきたってことは魔術的な何かってことか。

 

「外れかな?美遊がここにいるとは思えな「誰かいるです」

 

ふいに田中さんがそう言う。

 

「え?」

 

「あそこの扉……中に誰かいるです」

 

通路の先には鋼鉄の扉があり、田中さんはそこを見つめていた。

 

「いかにも牢獄って感じの扉だね。それに、あの大げさな錠前……」

 

「それじゃ……」

 

「まさか……」

 

「「美遊!?」」

 

俺とイリヤは布から飛び出し、走り出す。

 

扉の前に着くとイリヤは扉を叩き声を掛ける。

 

「美遊!そこにいるの!」

 

「美遊!いるなら返事をしてくれ!」

 

二人で扉を叩きながら呼び続ける。

 

『………誰だ?』

 

扉の中から声が聞こえる。

 

だが、美遊の声じゃない。

 

「お、男の人?」

 

「美遊じゃない……」

 

「別人だったか。それにしても酷くガラガラ声だねぇ」

 

『エインズワースの人間じゃ……ないのか?……お前達は……美遊を……知っているのか……?』

 

「私達は美遊の友達です!」

 

「美遊を助けに来たんだ!」

 

『とも……だち……?』

 

すると扉の中から嬉しそうな声と泣いてる声が聞こえた。

 

『はははっ……そうか……そうなのか……叶っていたんだ………俺は――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美遊の兄だ』

 



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立ち塞がる敵

「美遊の……お兄さん?」

 

どうしてここにいるんだ?

 

俺はそう思いながらも、この人を助けようと扉を破壊しようとする。

 

「君か……!」

 

すると、ギルは嬉しそうな声を上げる。

 

「驚いたよ。まさかまだ生きていたなんて!その様子じゃ、随分酷い目にあわされたようだけど」

 

『お前は誰だ?俺を……知ってるのか?』

 

「知ってるよ。初めましてだけど」

 

「あ、あの!」

 

ギルと美遊のお兄さんの会話を遮り、イリヤがお兄さんに声を掛ける。

 

「美遊のお兄さんは……どうしてこんな所に閉じ込められているんですか?」

 

『………俺は……失敗しちまったんだ』

 

力無くそう言ってくる。

 

『美遊を取り戻すために……俺はエインズワースと戦った。使える物は何だって使ったさ。そうして美遊を……このクソったれな世界から解放してあげられたんだ。………だってのに、美遊はまたここに戻ってきちまった……!ああまでしいても……運命の鎖から逃げられなかったんだ……!』

 

声が震え、怒りと自分自身に対する情けなさが言葉を通して伝わって来る。

 

『分かってるさ。俺が最低の悪だってことは……!けど、どうか………頼む……!美遊を救ってくれ……!!』

 

お兄さんからの精一杯の願い。

 

その言葉の裏に自分は何も出来ないと言う、自信への蔑みの気持があるのを理解出来た。

 

そのため、俺もギルも、田中さんも何も言えなかった。

 

「運命……っていうのが何なのかは分かりません」

 

そんな中、イリヤが口を開く。

 

「美遊は過去の事を話してくれないから……美遊がここまで大きな……とんでもない何かに囚われてるなんて……知らなかった。私が知ってる美遊は喋るのが苦手で、表情もあまり読み取れなくて、何を考えてるのか分からなくて………最初はちょっとだけ怖かった。でも、今なら解る。美遊はただ…………すっ………ごく不器用なだけ!」

 

イリヤは笑っていた。

 

自分の友達の事を親に話すように楽しそうに………

 

「不器用な表情の向こうに、美遊の不器用な気持ちが隠れてた。友達になろうって言った私の言葉に、命懸けで応えてくれた。わたしにとって理由はそれだけで十分。友達だから助けます!美遊を不幸にする人がいるなら………絶対に許さない!」

 

イリヤの言葉を聞き、俺も扉の向こう側に居るお兄さんに声を掛ける。

 

「俺も同じです。美遊は俺の友達。それ以外に美遊を助ける理由なんていらない。それに…………お兄さんは悪なんかじゃない。お兄さんは美遊の為に必死に戦った。そんな人が悪なわけない。どんな事情があったにせよ、お兄さんは美遊にとっては正義のヒーローです」

 

俺は今、俺が思ってることを言った。

 

すると、またしても扉から声が聞こえた。

 

だが、今度のは今までのとは違う声音だった。

 

『ああ……ああ……君達のお陰で……もう俺の願いは半分は叶ったよ……それに、ありがとう。そう言ってくれるだけで、俺は自分のしたことを誇れそうだ…………美遊の所に行ってくれ。俺の事は放ってくれて構わない……』

 

「な、何言ってるんですか!?」

 

「お兄さんも一緒に行くんです!それに、美遊もきっと貴方を待ってる!」

 

「レイ!この錠前壊せないの!?」

 

「分かってるすぐに壊してやる!」

 

「やめときな」

 

錠前を破壊しようとした俺をギルが止める。

 

「それは魔術式の錠前。単純な力じゃ壊せないよ。それにどんな罠がわるかもわからな……!!」

 

ギルがそこまで言い掛けると、突如振り向き、光の盾を出す。

 

すると盾に何かが当たり、盾を砕き、盾を砕いたものは背後に飛ぶ。

 

「な、なに!?」

 

「あっぶないなぁ。不意打ちも小者のすることだよ」

 

ギルは通路の奥の暗闇に向かってそう言う。

 

「どうやって侵入したのか答えろ」

 

奥の暗闇から人が現れる。

 

「結構複雑な気分さ。僕がその姿に相対するなんて」

 

「答えぬのなら……………一人ずつ殺していく」

 

金髪のあの女が、アーチャーの姿となり背後に大量の剣を従え、俺達の前に立ち塞がっていた。

 



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謎の少年

女の背後に従えるように浮いてる大量の剣。

 

「空中から剣が……!?」

 

その光景にイリヤは圧倒される。

 

「貴女は誰ですか!?金ぴかでかっこいいですね!」

 

田中さんは呑気にこんなことを言い出す。

 

「はいはい、少しは空気を呼んでよね。このシーンはちょっとした………絶体絶命なんだから」

 

『戻って来たのか……!逃げろッ!そいつは……その女は……危険だッ!』

 

お兄さんが叫ぶ。

 

だが、俺たちは逃げられなかった。恐らく何処へ逃げてもあの女は、俺達を殺す。

 

逃げられない!

 

「お前たちの侵入方法・目的を答えろ。三秒以内に答えねば……一人ずつ殺す。3」

 

「に、逃げろって言われても!」

 

「2……1……一人目だ」

 

女は剣の一本を弓で射る矢の様に放ち、イリヤを狙う。

 

だが、イリヤに当たる前にギルが前に立ち、剣の前に立つ。

 

すると、剣はギルに当たる前に空間に溶けるかのように剣先から消えた。

 

「……なんだ?何をした……何をした貴様……!」

 

女はギルに向かって残りの剣を一斉に撃つ。

 

だが、全ての剣はギルに当たらず一つ残らず消えた。

 

「十二本、総数に比べれば塵みたいな数だけど……ご返却どーも」

 

「何が起きてるです?」

 

「剣が飛び出して………それでギル君に当たる前に……」

 

「まるで吸い込まれるように消えた………」

 

俺とイリヤ、田中さんは目の前の光景に目を見開く。

 

「こうして見ると贅沢で傲慢な戦い方だ。本来、一人の英霊に対し、宝具は一つ。そんな神話や伝承に謳われる宝具の原典を星の数ほど有し、それを矢の様に無造作に無尽蔵には夏。故にアーチャー。故に最強。それこそ人類最古の英霊――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄王ギルガメッシュ、その宝具は宝物庫そのもの、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。僕のカードの使い心地はどうだい?アンジェリカ」

 

英雄王ギルガメッシュ。

 

古代メソポタミア神話における、シュメール初期王朝時代のウルク第1王朝の王。

 

圧倒的神性を持つ半神半人であり、最古にして世界の全てを手中に収めた王。

 

それがギルの本当の名前だ。

 

「まさか……受肉したのか?」

 

「流石理解が早い。まぁ、受肉と言っても半分だけだけどね」

 

「なるほど財宝の一部が消えていたのはお前と二分したためか。むこうの世界で随分と遊んで来たらしい」

 

「君らにとっては幸運だったかもね。完全な受肉だったらこんな物語、僕が塗り替えていた」「あ……あの……」

 

「カード風情がよく吼える。大人しく使われていれば良かったものを」「ちょっと……」

 

「ああ、全く。傲慢や慢心まで真似しなくたっていいのにさ!」「ねぇってば!」

 

「全然話が見えないんですけど!」

 

話に追い付けていないイリヤが叫ぶ。

 

そして、俺もよく話が分かっていない。

 

「いやぁ、この辺予定調和とイレギュラーが酷く入り組んだ話でさぁ」

 

「さっきから田中置いてけぼりで眠くなってきたでぐぅ」

 

「田中さん、寝るな!」

 

「ごめんね、ギル君!おねむの人もいるからその話はまたの機会に!」

 

「それより俺たちが知りたいのは一つだ!」

 

「美遊は何処!」

 

金髪の女もといアンジェリカに向かって俺とイリヤは言う。

 

「知ってどうす『美遊は、城の中央……一番高い塔の最上階だ!頼む……美遊を』gusb(奔れ)

 

「が……アッ!!?ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」

 

アンジェリカが何かを口走るとお兄さんの叫び声の様な悲鳴が聞こえる。

 

「「お兄さん!?」」

 

「余計な口は寿命を縮めるぞ。だがどの道無意味なこと。お前達はこの場で死ぬ」

 

そう言い、アンジェリカは宝具を開き、先程よりも多く宝具の原典を放とうとする。

 

「零夜君、イリヤさん。合図したらこの布で隠れて田中さんと逃げて」

 

「えっ…でも、それじゃギル君は……!」

 

「言ったでしょ。僕の目的は彼女の使ってる僕のカード。君たちは自分の目的を果たしなよ」

 

「だが、一人で戦うのは無茶だろ!それに、武器の数だってお前より向うが多い!なら、俺も残って一緒に!」

 

「そしたらイリヤさんと田中さんはどうするんだい?武器もない二人が他のドールズと出会えば簡単に殺されるよ。君が守らなきゃ」

 

ギルにそう言われ、俺はイリヤと田中さんを見る。

 

「……わかった、すまない」

 

「礼はいいよ。ただのついでさ」

 

胸元の金のペンダントを引き千切り、それをギルは投げる。

 

すると、ペンダントは眩い光を放つ。

 

その隙に、俺とイリヤ、田中さんはその布を使いその場を後にする。

 

庭の中を走り、高い塔への入口を探す。

 

「何処に向かってるです?」

 

「決まってるでしょ!美遊が捕まってる塔!」

 

「だが、塔は見えてるのに行き方が分からない………」

 

「いつもなら空飛んですぐなのに……レイ、先に塔へ行くのは」

 

「いや、空から簡単に行けるなら苦労はしない。きっとなんかしらの罠があるはずだ。それに、イリヤと田中さんを置いてはいけない」

 

「ぶフぅー!」

 

急に田中さんが吹き出した。

 

「夢見がちなお子様です!人は飛べないですよ!」

 

「なんでここだけ常識的な意見なの!?」

 

「もう分かったから急ぐぞ!こうなったら、正面から突入だ!」

 

「おお、ぶっ込むですね!」

 

正面入り口に向かおうと、玄関前の庭園に出る。

 

だが、俺たちは思わず足を止めた。

 

「これは…………霧?」

 

玄関前の庭園は何故か霧に覆われていた。

 

「なんだこれは?」

 

その光景に唖然としていて俺は横からの奇襲に気が付かなかった。

 

気付いたときには、既に白刃が俺に迫っていた。

 

「ぐっ!」

 

後ろに仰け反り、攻撃をなんとかギリギリで躱すが、僅かに俺の左腕が切り裂かれる。

 

「くっ!」

 

傷口を押さえ、俺は奇襲をして来た相手を見る。

 

それは美遊を連れ攫ったもう一人の少年だった。

 

黒いボロ布のようなマントを纏い、両手にナイフを持っていた。

 

「そこにいるのは分かってる。出て来い」

 

 

俺は覚悟を決め、そいつの前に立つ。

 

「お前は、美遊の近くに居た……」

 

「……ああ、そうだ。俺は美遊の友達だよ」

 

そいつを睨みつけながら、俺は剣を創り構える。

 

「………美遊に友達はいらない。俺だけが……俺だけが居れば……美遊はいいんだ」

 

「イリヤ。こいつは俺が押さえる。今の内に美遊を」

 

目を相手から離さず、小声でイリヤに話し掛ける。

 

「そ、そんな!」

 

「こいつは強い。一緒に逃げた所でどうせ捕まる。なら、俺が相手をする。だから、急げ。美遊を……頼むぞ」

 

「レイ………うん。田中さん!」

 

イリヤは田中さんを連れて、走り出す。

 

「そこにもか!」

 

ナイフを手にアイツが走り出そうとする。

 

俺は前に立ち、剣でナイフを受け止める。

 

「イリヤには触れさせない!」

 

「チッ!………まぁいい。最初にお前を殺す」

 

そう言って男は一枚のカードを取り出し、それを掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、俺の居た空間は闇に飲まれた。

 




最後が後味悪い終わりですが、次回までのお楽しみとします。

謎の少年とのバトル。

少年が使っている英霊は一体………

恐らく、今回の話の流れで誰かは予想が付くと思います。

正解は、次回に。

では、次回もお楽しみに。


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倫敦の殺人鬼

三○一秒の永久深淵(アプネイックアグリー)

 

そう言い、カードを落とすと、カードは地面に吸い込まれるように消え、俺とそいつの周りを暗闇で覆った。

 

「クラスカードによる結界。ここでは誰も俺には勝てない」

 

当たりを見渡すとそこは正確には暗闇の中ではなかった。

 

ここは霧に覆われた街。

 

古めかしい街灯が立ち並び石造りの道。

 

そして、立ち並ぶレトロ感のある家。

 

「ここは………ロンドンの街?」

 

「よそ見してる暇があるか?」

 

気が付くと既に俺の懐に入り込み、ナイフを振り上げようとしていた。

 

剣で防御し、後ろに下がりつつ、スタイルチェンジをする。

 

「スタイルチェンジ!フレイム!」

 

フレイムスタイルになり、炎の剣を手に斬り掛かる。

 

炎の剣を素早く躱され、脇腹に向けナイフが降られる。

 

避けれないと理解し、右手でナイフを受け止める。

 

そのままナイフを掴み、左手の剣を振り下ろす。

 

左の剣はナイフで受け止められ、そのまま受け流し、俺の首を狙ってくる。

 

ギリギリで躱し、なんどか薄皮一枚着られる程度で済んだ。

 

実力は五分五分って所か……………

 

だが、素早さなら向こうが上。

 

こっちも速さに特化したウィンドスタイルになるか?

 

いや、苦手なスタイルで戦っても焼け石に水程度だ。

 

なら、強力な一撃を与える。

 

「スタイルチェンジ!ダークネス!」

 

ダークネススタイルになると闇の剣を手にし、魔力を帯びさせ、振り抜く。

 

闇の力を宿した魔力が斬撃となって襲い掛かる。

 

ナイフを交差させ、防御するも、黒い斬撃はナイフを破壊し、奴に当たる。

 

「やった!」

 

確かに手ごたえを感じた。

 

早くイリヤの所に!

 

「不愉快だ」

 

「な!?」

 

砂煙が晴れ、そこから奴が現れた。

 

使い物にならなくなった布マントを剥ぎ取り、その姿を見せる。

 

裾丈の極端に短いノースリーブのジャケット、その下には右肩から左わき腹にかけて大きな傷跡があった。

 

「どんな傷も、俺には効かない。負った傍から治すからな」

 

まさか、今の一瞬で治療したって言うのか!

 

そう思った瞬間、急に体がふらつき、膝を付いてしまう。

 

「くっ……!体が……!」

 

「ようやく聞き始めたか」

 

「何!?」

 

「この霧は宝具、暗黒霧都(ザ・ミスト)。ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を再現する結界宝具だ。一般人ならすぐに死んでしまうが、魔術師はすぐには死なない。その代り、ダメージを蓄積し続ける。もう立っていられないぐらいに弱ってるだろ?」

 

「くっ…………くそったれが!」

 

ウィザードリングを嵌めた指に、スタイルチェンジリングを重ねる様に嵌める。

 

今ここで、インフィニティスタイルになればこいつを倒せるかもしれない!

 

だが、この霧は魔力そのもの。

 

使えば、身体がどうなるか…………いや、そんなの関係ない!

 

どの道、コイツを倒さないと死ぬだけだ!

 

他のリングがチェーンから外れ、俺を囲むようにリングが飛ぶ。

 

「プリズムスタイルチェンジ!!」

 

全てのリングがスタイルチェンジリングに吸い込まれ、スタイルチェンジリングはウィザードリングと一つになる。

 

「インフィニティスタイル!」

 

銀色のコートを羽織り、刀身に幾つものの指輪の宝石がはめ込まれた剣、インフィニティソードを持つ。

 

魔力を剣に集中させ、構える。

 

これでお前を倒す!

 

「インフィニティヴァンダライズ!」

 

俺の持つ最大の一撃が放たれる。

 

集められた魔力の制御が出来ず、身体はもうボロボロだった。

 

だが、この距離なら確実に倒せる!

 

そう思った。

 

限定展開(インクルード)、無名:盾」

 

だが、奴は五枚のクラスカードを取り出し、限定展開(インクルード)する。

 

すると黒い塊のような盾が五枚重なって展開され、俺の一撃はその後枚の盾に寄って阻まれた。

 

盾が砕け散り、爆発が起きる。

 

奴はボロボロになった体を治癒しながら、近づいて来る。

 

「まさか、無銘の宝具の盾を五枚とも破壊するとは思わなかった。だが、これで本当に終わりだ」

 

傷跡を増やしながら、ナイフを抜く。

 

身体が…………動かない。

 

剣を杖代わりにして何とか起き上がろうとするが無理だった。

 

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力。殺戮をここに……!」

 

奴は一気に接近し、俺をナイフで切り裂いていく。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 

「がっ!!」

 

「三百一秒経過。結界が解かれるな」

 

夜のロンドンの街が消えゆく中、俺は理解したコイツが何の英霊を夢幻召喚(インストール)してるのか。

 

夜のロンドン、ナイフ、硫酸の霧の大災害、そして今の技。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

19世紀のロンドンを震撼させた連続殺人鬼“切り裂きジャック”。

 

ジャック・ザ・リッパーだ。

 



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本当の敵

「がっ………!」

 

背中から地面に強く打ち付けられる。

 

転身も解け、叩きつけられた衝撃でウィザードリングが指から抜け落ちる。

 

奴は倒れた俺を見下ろしながら、ゆっくりと近づき、そして、落ちてるウィザードリングに気付く。

 

そして、足を上げ、ウィザードリングの上にゆっくりと置く。

 

「………おい……何を……する気だ……?」

 

嫌な予感が俺の背筋を奔った。

 

奴は俺の言葉に返事をせず、ゆっくりと脚に力を入れて行く。

 

足の下のウィザードリングがミシッ!と音を鳴らし、僅かに形を変える。

 

「や、やめろ…………!」

 

力はどんどん籠められ、宝石にヒビが入る。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

その叫びと共に、俺の指輪は砕けた。

 

俺の力が………父さんの形見が………消えた。

 

「あっても邪魔なだけだからな。………さて、そろそろ終わらせよう」

 

ナイフを逆手に変え、俺に向ける。

 

「まずは一人。全員……全員殺さないと………美遊に外の世界はいらない。俺との世界があれば………いいんだ」

 

ナイフが振り下ろされる。

 

その瞬間、奴に向かって槍が投擲される。

 

槍をナイフで弾き、投擲された方向に向かってナイフを投げる。

 

ナイフが弾かれる音がし、足音が聞こえる。

 

そして、槍とナイフがぶつかり金属音を響かせる。

 

現れたのは海斗だった。

 

海斗はスタイルチェンジを構え、叫ぶ。

 

「スタイルチェンジ!ライトニング!フラッシュ!」

 

海斗の特殊属性、ライトニング。

 

閃光を起こし、奴の視界を奪って来た。

 

「くっ……ちぃ!」

 

「零夜!逃げるぞ!」

 

「海斗……!お前、どうして………!」

 

「話は後だ!」

 

海斗は俺を背負い、走り出す。

 

「ま、待ってくれ!まだ、イリヤ達が!」

 

「大丈夫だ」

 

海斗が後ろに目をやると、転身してるイリヤとボロボロのギル、そして全裸で体の至る所にやけどを負った田中さんが居た。

 

「二人ほど新顔だが、無事だ」

 

その時、海斗は美遊が捕まってる塔の最上階を見つめる。

 

俺もそっちの方を向くと、そこから美遊の姿が見えた。

 

海斗は唇を噛みしめ、悔しそうに俯く。

 

「逃げるぞ!イリヤ!それと後の二人、こっちだ!」

 

海斗はそう言うと、俺を背負ったまま走り出した。

 

エインズワース邸の庭を抜け出し、荒野に出る。

 

「急げ!」

 

海斗の声が切羽詰まったモノになる。

 

背後からはアンジェリカ、ベアトリス、そしてアイツがいた。

 

ベアトリスは持っていた巨大なハンマーを俺達に向け、投げ飛ばしてきた。

 

「この……っ!蛮神が…!」

 

ギルは手にした鎖を回転させ、ハンマーを受け止め、そのまま後ろへと飛ばす。

 

ハンマーはそのまま回転しながらベアトリスの手の中に戻る。

 

「さっきは悪かったなぁ……屋内だったんで耐雷無しで撃っちゃった。けど………次はちゃんとぶっ壊してあげる♪」

 

手にしたハンマーが雷を帯び、強力なプレッシャーを放ってくる。

 

『ハンマーの力が倍加……!?』

 

「嘘!あれ以上なんて……!!ルビー!物理保護と魔術障壁を!」

 

『無理です!あのハンマーは遙か格上です!防ぎきれません!』

 

ルビーの言葉が絶望となり、全員が悔しそうに顔を歪める。

 

「消し飛べ!悉く打ち砕く(ミョル)――――」

 

ベアトリスが宝具を放とうとした瞬間、一本の矢がハンマーに当たり、爆発を起こした。

 

それにより、宝具の発動は止まった。

 

「何が!?」

 

「狙撃だ!避けろ!」

 

三人目掛け遠くからの狙撃。

 

三人はそれを回避し続ける。

 

「………ちっ!」

 

「あのカードだ」

 

「またかよ……!誰だが知らねぇがコソコソちまちまと………クズカード共が!」

 

ベアトリスは怒りを強く露にし、ハンマーを掲げる。

 

そして、さっきよりも強力な雷を纏わせる。

 

「テメェから消してやる!」

 

『さらに強化!?』

 

「そんな!?どこまで……!」

 

「壊れろ!」

 

その一撃を放とうとした。

 

その瞬間―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『下がれ、ベアトリス!』

 

「……………ちっ!」

 

ベアトリスは突如響いた声を聞くと大人しくハンマーを下げた。

 

『小さな淑女(レディ)紳士(ジェントルマン)の帰路を邪魔してはいけない』

 

「この声……どこから……」

 

『魔術で遠隔から送られてきてます』

 

「この声をよく聞いておきなよ、イリヤさん、零夜君」

 

『名乗るのが遅れてしまったね。私は』

 

「こいつは」

 

『ダリウス・エインズワース。エインズワース家の当主だ』

 

「君達の本当の敵だ」

 

そのことに俺たちは何も言えず、ただ呆然とした。

 

『ウチの使用人が失礼をした。三人には悪気はないんだ。許してあげてくれ』

 

ダリウスの声を聴きながら、あの三人は夢幻召喚(インストール)を解き、去っていく。

 

「次は必ず殺す」

 

「また壊し合おうぜ」

 

アイツとベアトリスはそう言い残し、エインズワース邸へと帰って行った。

 

『それではごきげんようイリヤスフィール君、零夜君』

 

声が聞こえなくなり、静けさが辺りを流れる。

 

「………行こう。これ以上とどまっても」

 

ギルがそう言った瞬間、イリヤは叫んだ。

 

「今は……敵わなくても、届かなくても………………必ず助け出す!美遊は貴方達のオモチャじゃない!」

 

イリヤのその叫びを聞き、俺は意識が薄れゆくのを感じた。

 

目を閉じ、薄れゆく意識の中、俺はアイツに敵わなかった自分を、そして、戦えなくなった自分を責めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~クレーターから離れた町の瓦礫の山~

 

「どうにか切り抜けたみたいだけど、たぶんあの先に本拠地があるんでしょ?行き成り乗り込むなんてバッカじゃないの!」

 

「ですが、その意外性こそ彼女と彼の強みかもしれません」

 

「なにはともあれ、今は再会を喜ぶべきだ」

 

クレーターから大分離れた位置。

 

そこには、クロと空也、バゼットの三人が遠くから歩いて来る零夜たちを見つめて、再会を待ちわびていた。

 



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向けられる刃

燃える冬木の街。

 

身体を切り裂かれ血を流して死んでるクロ。

 

そのクロに寄り添うように紫袴を血で真っ赤に染めて死んでる空也。

 

全身を滅多切りにされ死んでる海斗。

 

海斗の死に絶望し、セイバーの剣を自身の腹部に突き刺し自害した美遊。

 

凛さん、ルヴィアさんも地に伏せ亡くなり、バゼットさんは全身に剣や槍を突き刺され壁に貼り付けとなって死んでる。

 

俺を守る様に両手を広げ、攻撃を食らい、イリヤが死ぬ。

 

転身も出来ないウィザードでなくなった俺はその光景をただ呆然と眺めるだけしかできなかった。

 

そして、俺をあざ笑うかのように死と言う名の刃が振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

そこで目が覚めた。

 

今のは………夢か………

 

「レイ!」

 

イリヤの声が聞こえる。

 

前を向くと、ベッドの傍にイリヤがいた。

 

今にも泣きだしそうな、嬉しそうな、そんな顔をしていた。

 

「良かったよぉ~!!」

 

「うわっ!行き成り抱き付くなって!」

 

泣きながら俺に抱き付いて来るイリヤに困惑しながら俺は周りを見る。

 

「ここは……学校……の保健室?」

 

見覚えのある場所に俺は呟く。

 

「目が覚めましたか」

 

すると、壁代わりのカーテンを開け、バゼットさんが顔を出す。

 

「バゼットさん!」

 

「精神と体力を余程消耗していたのでしょう。我々と合流する前からずっと気を失ったままでした。イリヤスフィールも合流してすぐに気を失ったので拠点としていたこの学校に運びました」

 

バゼットさんの話を聞き、俺は外を見る。

 

外は夜になっていた。

 

「俺、何時間気を失ってました?」

 

「何時間じゃないよ!丸一日眠りっ放しだったんだから!」

 

「え!?」

 

イリヤの答えに驚く。

 

一日も目が覚めなかったのか…………

 

「ともかく君が目覚めたのなら話は早い。これから戦略会議です」

 

バゼットさんに言われ、俺はある教室へと向かう。

 

「零夜!目が覚めたか!」

 

「全く!こっちは心配してたのよ!」

 

「空也、それにクロ。悪い、心配かけたな」

 

空也とクロにそう言い、俺は海斗を見る。

 

「海斗、助けてくれたありがとな。助かった」

 

「気にすんな」

 

海斗は笑ってそう言う。

 

「やぁ、零夜君随分と寝坊助だね」

 

「零夜さんはおねぼーですね!子供は寝るのが早いですか?田中は大人なので眠くありません!」

 

ギルと田中さんも無事っぽくて何よりだ。

 

「それじゃ零夜もそろったし、戦略会議よ」

 

そう言うと、クロと空也は伊達眼鏡を掛け、黒板の前に立つ。

 

「まず状況の整理からね」

 

クロは黒板に図を描いて説明を始める。

 

「今いるこの世界は私たちが居た世界ではなく美遊が居た世界、つまり平行世界」

 

「おそらく、大空洞の周辺数百メートルの空間ごとこの世界に飛ばされたと推測できる」

 

「私とレイが来た時、誰も傍にいなかったけど………」

 

『どーも、皆さん飛ばされてきた時間には数日の誤差が出ているようです』

 

ルビーの説明に、俺とイリヤは納得する。

 

「私とクロエ、空也は三日ほど前に飛ばされてきました。平行世界への移動など完全に魔法の域………今でも信じ難い状況です」

 

バゼットさんはこの状況を信じられなさそうに言う。

 

しかし、大の大人が小学生用の机の椅子に座ってる光景はかなりシュールな光景だ。

 

「なぁ、海斗。海斗は一体いつからこっちに居るんだ?」

 

「俺は四日前だ。エインズワースの情報を得て、ステルスリングを使って潜入してからはずっと、美遊を救う機会を探ってた」

 

そうだったのか…………

 

それって俺があの時ピンチにならなければ、海斗はずっとあの城の中で美遊を救う機会を得れたかもしれないってことか…………

 

「しかし、美遊が平行世界に住人だったとはねぇ……」

 

「彼女からしてみれば君たちが平行世界の住人だけど」

 

ギルは机の上に足を乗せ、言う。

 

「ギルガメッシュ君。授業態度が悪いわよ!」

 

「堅苦しいのは無しだよ、先生。それに、もっと不真面目な生徒がいるけど?」

 

ギルは隣で眠っている田中さんを指差す。

 

「そいつはそのままでいい」

 

「起きてるとうるさいしね。……それで、美遊はクレーターの中心にある敵の工房に囚われてるのね」

 

「お姫様は“完成してる聖杯”だからね。エインズワースが手放すわけがない。でも、彼女を聖杯として機能させるには面倒な手順が要るらしいよ。その手順がいつ完了するのかはわからないけど………そう猶予はないだろうね」

 

その言葉にイリヤと海斗は俯いて口を閉ざす。

 

「さしあたって、分かってる敵の戦力は三人」

 

クロが黒板に例の三人を描く。

 

酷い絵だ………

 

「アンジェリカ、金髪のツインテの方が使うカードは“アーチャー”。英霊はギルガメッシュだ」

 

「僕のカードだね」

 

「イリヤ達と再会したらしれっと仲間になってるってのがまず信じられなかったんだけそ」

 

「仲間じゃなくて一時的な協力関係。利害が一致してる間は味方だよ」

 

そう言うギルをバゼットは険し目つきで見ていた。

 

「クロ、ベアトリスのカードは?」

 

「それは予想がつくわ。あれは……」

 

『雷神トール……ですね』

 

ルビーがベアトリスのカードの英霊の名を言う。

 

「透?」

 

「トールよ!ミョルニル=トールハンマー!知らないの!?」

 

「北欧神話の最強の神です。それこそ信じ難い……悪夢のような話ですが、主神オーディンすらも超える信仰を集める雷神。もしその力を十全と発揮されたら、その戦力は人の域を涼がする!」

 

それほどに凄い英霊なのか…………

 

「どうにもインチキ臭い話だけど、なんにせよあのカードはやっかいだね」

 

「それで、最後の一人。短剣を使うコイツ」

 

「コイツとは零夜が実際に戦ってる。零夜、コイツがなんの英霊のカードを使うか分かるか?真名がわからなくても宝具や戦闘スタイルだけでもいい」

 

空也に言われ、俺はアイツとの戦いから得た情報を話そうとする。

 

だが、思い出せなかった。

 

「………思い出せない」

 

「は?」

 

「あいつがなんの英霊なのか。どんな宝具だったのか、どんな戦闘スタイルだったか……………全部思い出せない………」

 

なんでだ……?

 

あれだけ痛めつけられたのに………目の前で指輪を破壊されたのに………アイツへの怒りがあるはずなのに………何も思い出せない。

 

「恐らく、奴の英霊としての力だろ。俺も少しだが奴と戦ったが、戦闘スタイルが思い出せない。考えられるのは情報の隠蔽。」

 

「となると完全に一人だけ武器以外の情報なしね。」

 

「………対抗策はほぼ皆無か」

 

「対抗策ならあります」

 

バゼットさんは三枚のクラスカード“セイバー”“ランサー”“アーチャー”を叩き付ける様にイリヤの机の上に置く。

 

「私が保持していたカードです。これらを持ち帰ることが私の任務でしたが……現状、このカードを使いこなせるのはディオールと貴女のみ。すなわち、現状を打破できる可能性があるとしたら………イリヤスフィール。貴女とディオールのみです」

 

………ああ、そっか。

 

俺はもう……………

 

「それじゃ、イリヤと海斗の二人は一通りカードの夢幻召喚(インストール)を試して―――」

 

クロがそう言うと、突如、田中さんから空腹を訴える音が響く。

 

「おなかがせつないです……」

 

「いったん会議は切り上げてそろそろディナーにしよっか」

 

ギルがそう提案してくる。

 

「でも、食べる物なんて……」

 

「木の根っこならまだ蓄えがあります」

 

バゼットさんが自信満々に木の根っこを見せて来る。

 

「それはもう二度とごめんよ!」

 

「もう絶対口にしない!」

 

「食べたの!?」

 

「出前でいい?」

 

ギルが金の携帯を出して何処かに電話をする。

 

俺は立ち上がり、ギルに声を掛ける。

 

「ギル、俺の分はいらない」

 

「ん?いいのかい?」

 

「ああ。少し外に出てる……」

 

それだけ言い、俺は教室を出て行く。

 

明りの無い夜の廊下を一人で歩く。

 

正直、普段はこんなことできないから少しだけ新鮮だった。

 

「レイ!」

 

暫く廊下を歩いていると、イリヤが走ってやって来た。

 

「イリヤ………どうしたんだ?」

 

「その……レイが心配で………」

 

「そうか………でも大丈夫だ」

 

「で、でも!もし敵に襲われたりでもしたら…………」

 

きっとイリヤは俺の事を純粋に心配してそう言ってくれてるのだろう。

 

だが、その言葉を今の俺にとっては、ただ単に俺の心を傷付ける言葉でしかなかった。

 

「……そうだよな。今の俺は戦う事も出来ない役立たずだもんな」

 

「……レイ?何を………」

 

「戦えない俺の事を憐れんでるのか?……イリヤ」

 

「ち、違う!私そんなこと……!」

 

「違う?違わないだろ。敵に襲われたらってことは、今の俺には襲われても対抗手段が無いって思ってるからだろ?」

 

「私……本当にそんなこと…………」

 

イリヤは今にも泣きだしそうに表情になって俯く。

 

自分がなにをやってるのかは分かってる。

 

こんなの、ただの八つ当たりに過ぎない。

 

「………もういい。頼むから一人にしてくれ」

 

それだけ言い、俺は足早にその場を去った。

 

気が付けば、俺はグラウンドに出ていた。

 

グラウンドに設置されてるベンチに座り、俺は溜息を吐く。

 

「…………何やってるんだ……俺は………」

 

自分のしたことに落ち込み、自分が嫌になりそうだった。

 

「全くだな」

 

その声に振り向くと、空也が木に寄り掛かりながら立っていた。

 

「戦えなくなって一人で凹んで、揚句、心配してくれた幼馴染に八つ当たり………最低だな」

 

「………そんなの分かってる。でも…………どうしようもないだろ。もう戦う事が出来ないって思うと……………」

 

「たっく、とんだ腑抜けだな」

 

空也がそう言った瞬間、空也はアサシン姿へと変わる。

 

そして、行き成り刀を抜き、俺に斬り掛かって来た。

 

俺は咄嗟に横に飛び、刀を躱す。

 

「空也!お前、これはなんの真似だ!」

 

「なんの真似かって?決まってるだろ」

 

空也は刀を肩に担いで世間話でもするかの様に言う。

 

「腑抜けたお前に呆れて殺す。それだけだ」

 

「………なんだよ?………なんなんだよ!そんなに悪いかよ!俺は戦えなくなったんだぞ!もう………美遊を救う事も………イリヤを守ることも出来ない………!それなのに、落ち込んだらいけないのかよ!自分の無力さを嘆くのがいけないのかよ!」

 

「だからどうした?」

 

その言葉に俺は目を見開いた。

 

「お前がどう思おうと勝手だ。俺は俺の為にお前を殺す。それは……クロも同じだ」

 

「クロも?それって………」

 

すると、屋上で破壊音が起きた。

 

見上げると屋上のフェンスの一角が破壊され、屋上の一部も破壊されてる。

 

「まさか……!」

 

「その通りだ。今、屋上ではクロとイリヤが戦ってる。言っておくが、クロも本気でイリヤを殺しにかかってるぞ」

 

「お前ら………本当に何考えてるんだよ………?」

 

「…………話はここまでだ。さぁ、続きを始めるぞ」

 

空也の言葉は本気だった。

 

本気で俺を殺しに来るつもりだ………………!

 



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零夜の覚悟

空也の剣は確実に俺の命を奪いに来ていた。

 

落ちていた鉄パイプを拾い、攻撃を受け流すも、空也の持つ刀は中々の業物らしく、鉄パイプ程度じゃ防ぎ切れない。

 

「防御に徹してるだけじゃ勝てないぞ。もっと踏み込んで来い」

 

「ふざけてるのか?お前、自分が何の英霊なのか分かってるのか?」

 

そう言うと、空也は手に持った刀を見つめる。

 

「備前長船長光、通称、物干し竿。三尺余りの太刀で、物干し竿のように長いだけで振り回すのには向いていない蔑称がこの刀の名前の由来だ。これを扱い、燕返しを繰り出すことのできる剣豪はただ一人。佐々木小次郎、巌流島で宮本武蔵に敗れた剣豪だ」

 

燕返しを使う時点でそれは分かっていた。

 

そして、空也自身も自分が何の英霊なのかも理解している。

 

「なら、佐々木小次郎がどれ程の英雄なのかは分かってるだろ!それに、俺はその英霊に勝てなかった!イリヤと協力して互いにボロボロになって勝てたんだぞ!そんな相手に勝てる訳………………」

 

「確かに佐々木小次郎は日本でも屈指の剣豪だ。普通に考えたら魔術が使えないお前では勝てないだろ。……………だがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この英霊は佐々木小次郎なんかじゃない」

 

「…………え?」

 

「確かに佐々木小次郎と言う名の人間はいただろう。物干し竿を使う武芸者もいただろう。だがな、佐々木小次郎と言う名の剣豪は実在しない。架空の英霊だ」

 

「存在しない………英霊………」

 

その事実に俺は驚愕した。

 

「そうだ。佐々木小次郎と言う殻を被るのに適した人物。秘剣と謳われる“燕返し”を使える名無しの亡霊。それがこの英霊の正体だ」

 

刀を下ろし、空也は悲しそうに笑う。

 

「このアサシンのカードを核としてこの世に現界した時、コイツの情報が頭の中に流れ込んだ。この男は、ただ純粋に剣を極めようとしていた。修業に修業を重ね、血反吐を吐く思いをしながら……………そして、魔術の域に到達した」

 

切っ先を向け、空也は言う。

 

「話はここまでだ。時間だ、死ね」

 

一気に踏み込んできて、俺の下から刀を振る。

 

鉄パイプで受け止めるも、鉄パイプは切り落とされ使い物にならなくなる。

 

そこで腹部に蹴りを入れられ地面を転がる様に倒れる。

 

「…………吹抜けてるから殺すって、全然意味が分かんねぇよ!納得のいく説明をしてくれよ!戦えなくなって、弱気になって、弱音を吐くのがそんなにいけないことかよ!」

 

「…………美遊は……一度でも弱音を吐いたか?」

 

「え?」

 

空也を見ると、空也は優しい目をしていた。

 

「アイツは一人で知らない世界に放り出された。頼れる人もいない。心細い。何があった時、何も出来ない恐怖。それでも、アイツは弱音を吐かなかった」

 

そこで俺は気付いた。

 

今、俺が感じてることはかつて美遊も感じたことなのだと。

 

「気付いたか………だが!」

 

空也が突きを放ってくる。

 

躱し、後ろに下がる。

 

「今更気付いた所でもう遅い!お前は………ここで終わりだ!」

 

気が付くと背後に校舎の壁があった。

 

空也の刃が迫って来る。

 

避けられない。

 

死を……………覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ!

 

死にたくない!

 

俺は………美遊を救うんだ!

 

そして………………!

 

「イリヤを守るのは……………俺だあああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属音が鳴り響いた。

 

空也は俺の背後に立っていた。

 

そして、俺の手には一本の剣が握りしめられていた。

 

魔力で作った剣。

 

ウィザードでもないのに作ることが出来た。

 

「やれやれ、荒療治完了だな」

 

空也はそう言うと、長刀を鞘に仕舞い、元の姿に戻る。

 

「空也………お前、まさか!」

 

「ウィザードになれる以上、魔力はあるんだ。なら、魔力を使って武器にも出来るって思ったんだが、やっぱりな」

 

「………やっぱりって、確証は無かったのかよ」

 

「まぁな」

 

「………あの戦いは?」

 

「追い込んで活路を見出す作戦。人間死ぬ気になれば何でもできるんだよ。俺の中の英霊が、燕返しを編み出した様にな」

 

なるほどな。

 

道理で燕返しを使ってこない訳だ。

 

もし、使っていれば、俺は今頃死んでいただろうし…………

 

空也はそう言って笑い、校舎内に戻って行こうとする。

 

「空也!」

 

その背中に向かって俺は言葉を掛ける。

 

「………ありがとな。それと、悪かった」

 

「……礼は兎も角、謝るのは俺じゃないだろ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎内に戻ると、ちょうどイリヤ達と出会った。

 

「「あっ」」

 

イリヤと声がハモる。

 

「クロ、俺たちはもう寝よう」

 

「そうね。疲れたし、早く寝ましょう」

 

クロは空也の腕に抱き付くと、二人はそのまま保健室に向かった。

 

気を利かせてくれたのだろうか……………

 

「………イリヤ」

 

「……レイ」

 

沈黙が流れ気まずい空気になる。

 

そして…………

 

「「ごめん(なさい)!」」

 

二人同時に謝った。

 

そのことに一瞬きょとんとしたが、俺はすぐにイリヤに言い訳をした。

 

「お前が心配してくれてたのは分かってたんだが、俺が勝手に腑抜けて、落ち込んで、お前に八つ当たりしちまった。すまなかった」

 

「わ、私だってレイのこと考えずに、失礼なこと言ったし………だから、ごめんね」

 

そして、また沈黙が流れる。

 

俺は窓から見える月と星空を何気なく見つめた。

 

「………イリヤ」

 

「……何?」

 

「必ず美遊を助けような」

 

「うん!」

 

いつの間にか普段の俺たちへと戻っていた。

 

俺とイリヤは笑い合い、皆の所へ戻った。

 

ちなみに、ギルが気を利かせて俺とイリヤの分もラーメンを取って置いてくれた。

 

醤油ラーメン麻婆控えめ。

 

あそこのラーメン屋かよ………………

 



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田中さんの決意

翌日、俺とイリヤ、空也にクロ、海斗の五人はストーブの周りに集まっていた。

 

「点くかな?」

 

「点いてくれないとこっちは困るぞ」

 

「爆発したりしないよね?」

 

「今までメンテもされてなかったし、保証は出来ないな」

 

「点けるぞ」

 

海斗がそう言い、ストーブを点火する。

 

すると、灯油に見事着火し、ストーブが点く。

 

次第に空気が温かくなり心と体がホッとする。

 

「何と言う文明の利器……」

 

「これで少しは寒さもマシになるわね」

 

「それにしても、随分と大慌てで避難したみたいだな」

 

「灯油もストーブも放ったらかしだしな」

 

俺は学校の備品倉庫の中に遭った灯油を見ながら思う。

 

五年前の灯油なんて使えるのかと思ったが、酸化して使えないかと思ったが、意外と使えた。

 

「ま、隕石が降って来たんじゃしょうがないじゃない」

 

「「隕石?」」

 

「街のど真ん中のクレーターよ」

 

「五年前に降って来た隕石が原因だって街の人から聞いた」

 

「ええ!?私とレイはガス爆発って聞いたけど……」

 

「ガス爆発って……」

 

「そんな訳ないだろ」

 

「情報が錯綜してますね。恐らく作為的に」

 

「で、実際どうなんだ?ギル」

 

空也がベッドでくつろいでるギルに向かって尋ねる。

 

「あのね、一応断っておきますけど、僕を索引するのは止めてくれないかなぁ?」

 

「お前、いつもなんか訳知り顔してるだろ」

 

「……してないよ」

 

顔に影が差し、目を合わせないでギルは言う。

 

「その顔だよ!」

 

「これは呆れ顔。お察しの通り、アレはガス爆発でも隕石でもないよ。五年前、エインズワース……もしくは他の誰かが引き起こした何かとてつもない災害の爪跡」

 

「“誰か”とか“何か”とかカッコつけないではっきり言ったら?」

 

クロも空也と同じようにギルに言う。

 

「君達、僕に対してちょっとトゲない?詳しくは知らないよ、本当にね。僕が召喚されたのはほんの数ヶ月前。それより、前の事なんて知る由もない。だから、もっと実のある話をしようじゃないか。敵陣にどうやって乗り込むとか……田中さんは何者なのか……とかね」

 

「ふい?」

 

ギルが指差した田中さんは、壁に落書きをしていた。

 

「あー!!田中さん!壁に落書きしちゃ駄目でしょ!?」

 

「落書きじゃないです!パッションです!」

 

パッションって……そんな芸術家じゃあるまいし。

 

「ちゃんと躾けときなさいよ」

 

「お前たちが拾って来たんだから、俺らは面倒見ないぞ」

 

「「そんなペットみたいに!!」」

 

「とにかく田中さん、ちゃんとしようよ!記憶が戻る様に私もお手伝いす「イリヤさんもパッションです!」

 

田中さんはそう言い、イリヤの顔に皺を書く。

 

「何するのー!!」

 

「お婆ちゃんが怒ったです!?」

 

「おばっ……!?」

 

逃げ出す田中さんをイリヤも追い掛け、外へと出て行く。

 

『では、最低限の社会常識を私が教えて差し上げましょう』

 

そして、ルビーも後を追う。

 

「「お前(あなだ)がそれを………!!」」

 

クロと空也が飛んでいくルビーを見て、そう言う。

 

「………ホント、何者なんだろうね」

 

ギルは壁に描かれた田中さんの絵を見つめ、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上で剣と剣がぶつかり、音が鳴る。

 

俺は今、海斗に頼んで剣の指南をしてもらってる。

 

今の俺に出来ることは、魔力で剣を創ることだけ。

 

元々海斗から教えを受けていたが、今後の為にも海斗から本格的に実践に近い形で剣術を教わることにした。

 

そして、俺の両手に握られてる剣はクロがよく使ってる双剣だ。

 

海斗が言うには、一から魔力で剣を創ると、イメージが追い付かずすぐには出来ない為、日頃から見慣れてる剣を創った方が早いらしい。

 

俺が見慣れてる剣はくうやの長刀とクロの双剣の二つ。

 

長刀は扱いが難しいので、クロの双剣を使ってる。

 

ちなみに、この双剣の名前は干将・莫耶と言う、中国の雌雄一対の双剣で、夫婦剣とも言われてる剣だ。

 

「はっ!」

 

黒い剣、干将を振り、海斗の右から攻める。

 

海斗はそれを剣で受け止め、弾き、斬りつけて来る。

 

それを白い剣、莫耶で受け止め抑え込み、干将を振る。

 

だが、海斗は瞬時にもう片方の手に別の剣を創り、それを受け止め、弾いた。

 

弾かれ、後ろによろけると、ガラ空きになった胴に、海斗は剣を振り、当たる直前で止めた。

 

ついでに、もう片方の剣は喉元に突きつけられている。

 

「………まいった」

 

「ふぅ、大分上達してると思うぞ。最初の頃よりは随分と良くなってる」

 

「………それじゃあダメなんだよ」

 

「ん?」

 

「イリヤを守れるぐらい強くならないと………ダメなんだ………」

 

それにこの程度じゃアイツには勝てない。

 

「……そうか。なら、少し休憩したら続き始めるか」

 

「ああ!」

 

二人で座って休憩していると、田中さんが屋上にやって来た。

 

田中さんは俺達に気付かず、昨夜のイリヤとクロの戦いで壊れた屋上の場所から、クレーターの方を見つめる。

 

そう言えば、田中さんはエインズワース家を滅ぼすって言ってるけど何故なんだ?

 

関わりがありそうだけど、向うは田中さんの事を知らないみたいだけど………

 

「…………って!田中さん危ないぞ!」

 

今日は風が強い。

 

もし今ここで突風が吹いたりしたら………!

 

「あ!零夜さ………」

 

田中さんは俺に気付き、振り向いて手を振ろうとする。

 

そこで突風が吹き、田中さんはそのまま屋上から放り飛ばされる。

 

「田中さん!!」

 

「落ちたぞ!」

 

海斗は俺の手を掴み、空を飛んで下へと降りる。

 

下に降りると、イリヤもいた。

 

「イリヤ!」

 

「レイ!田中さんが屋上から!」

 

「分かってる!田中さんは大丈夫か!?」

 

「地面にアニメの様に埋まってるよ!」

 

見ると、地面が人型に抉れ、そこに田中さんがすっぽりとハマっていた。

 

「た、田中さん………」

 

恐る恐る話しかけると、田中さんは平然と起き上がった。

 

「痛いですぅぅぅ……!!」

 

顔を真っ赤にして、全身泥だらけで、涙を流していた。

 

「そりゃ痛いでしょうけども!!痛いで済むの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!一体どうしたのよ?」

 

帰って来るなり、クロは田中さんの姿を見てそう言った。

 

「ちょっと地面と盛大なキスを………」

 

「身体と服を洗った方がいい。風呂の準備をしましょう」

 

バゼットさんが田中さんの姿を見てそう言う。

 

「お風呂あるの!?私も入りたい!」

 

「あー……お風呂って言っても。こういうのよ…………」

 

クロが黒板に書いた絵はドラム缶風呂だった。

 

そういうのか…………

 

「何か問題が?」

 

バゼットさんはこういうのに慣れてるだろうけど、イリヤやクロは慣れてないだろう………

 

すると、落ち込む二人を見てギルが言う。

 

「お姉さんたちお風呂入りたいの?じゃあ……屋上でいいかな」

 

「え?」

 

「何が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか屋上に温泉が出来るとは………」

 

「宝具の温泉とか…………デタラメにも程があるぞ」

 

「ま、入れるんだから別にいいだろ」

 

ギルは屋上に温泉を作り、皆に振る舞ってくれた。

 

丁寧に男湯と女湯にも分けて。

 

隣からは女性陣の声も聞こえる。

 

「おっきなお風呂サイコー!」

 

クロのはしゃぐ声が聞こえる。

 

「折角だから国風に合わせてデザインしておいたよ」

 

「それについては大失敗だけど許すわ!」

 

久々の風呂を満喫してると、また女湯から声が聞こえる。

 

「田中さん、田中さんが覚えていること、教えてくれる?」

 

「なんにも覚えてないです」

 

「なんでもいいの!何か引っ掛かりそうなこととか……」

 

「逆に考えて見れば?いつからの記憶ならあるの?」

 

なるほど。

 

記憶が無くなる直後の事が分かれば直前の事が推測できるかもしれないか。

 

「………雪が降ってたです。周りに誰も居なくて、歩こうとして足がズルってなって、地面が冷たくて、手とか足とか痛くて……………見下ろしたら零夜さんがいました」

 

「それって俺達と出会った時じゃないか!」

 

「つまり、記憶を無くしたのは出会う直前ってことか」

 

「覚えてないですけど、田中はイリヤさんと零夜さんに出会う前、暗くてなんかモヤモヤしたとこにいた気がするです。田中はずっと、一人だったような…………」

 

いつも元気な田中さんらしくない力の無い声だった。

 

「でも、田中は今……たぶん幸せです!」

 

今度は、急にいつもの元気な田中さんの声が聞こえる。

 

「イリヤさんと零夜さんに出会えたから、記憶が無くても寂しく無かったです!怖くなかったです!だから、もう昔の事は思い出さなくてもいいかなって思ったですけど………どうしても一つだけ無視できない気持ちが残ってるです。………………田中はエインズワースを滅ぼす。その為だったら自分がどうなっても構わない。……わかんないですけど、これだけは絶対に忘れられない気がするです」

 

その言葉に、全員が口を紡ぐ。

 

そんな中、最初に口を開いたのはクロだった。

 

「空也。今、ギルの奴、訳知り顔したでしょ」

 

「ああ、してたぞ」

 

「し……してないってば!なんなのさ!?………まぁ、なんにせよさ。エインズワースとはもう一度やり合うことになるんだ。記憶がどうであれ決着はつくよ……遠くない未来にね」

 

「田中やってやるです!」

 

田中さんの決意も、ギルの真意も…………美遊や凛さんたちの安否も未だに分かっていない。

 

だけど、もう迷ってる暇はない。

 

再戦の時は、きっとすぐ………もう傍にまで迫って来てるんだ…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んゅ―――………何処に行けば会えるのかなぁ……イリヤお姉ちゃんと零夜お兄ちゃん」

 



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鳴り響く音

風呂から上がったと、バゼットさんはコピー用紙に大きな文字を一文字書いては、新しいコピー用紙に書くと言う作業を繰り返していた。

 

「バゼットさん。それなに?」

 

「結界用のルーンです」

 

「結界?」

 

「これって敵感知の結界よね?」

 

「今よりも範囲を広げるのか?」

 

空也とクロは知ってるのか、バゼットさんにそう尋ねる。

 

「ええ。既に校舎内にこのルーンを張り巡らせていますが、人手も増えたことですし、学校の敷地全域に拡大しようかと」

 

「結界ってバリアみたいなの?」

 

イリヤが目を輝かせて聞く。

 

「あいにく、戦闘以外の魔術は得意ではなく…そこまでは……」

 

「私達に敵意を持った者が侵入すると、警報が鳴るのよ」

 

「無いよりはマシだろう。少なくとも急襲されるのは避けられるからな」

 

そう言ってクロと空也は寝ている田中さんを起こそうと、フライパンをお玉で叩いたり、シンバルを耳元で鳴らしたりしている。

 

それでも田中さんは起きない。

 

「警報鳴っても起きなさそうな人がいるんですが…………」

 

「できました。では、手分けしてルーンの設置を」

 

俺たちはルーンの書かれた紙を受け取り、設置を始める。

 

俺はイリヤと回り、次々と紙を張って行く。

 

「よしっと……これで後は校門前で終わりだね」

 

「しっかし、こんなコピー用紙に書いただけで効果あるのか?」

 

『ルーン魔術はそれ自体に意味を帯びた文字の組み合わせで事を成すものですから、簡易な物なら最低限の魔力を込めたもので十分なのでしょう』

 

「「ふ~ん」」

 

ルビーの説明を聞きながら校門前まで行き、紙を張る。

 

「これでラスト!」

 

「早く戻ろう。寒い」

 

「そうだね」

 

イリヤと足早に校舎内へと戻ろうと移動する。

 

「「………………………」」

 

なんか塀の所にいたような………………

 

振り返って見てみると、そこには人の下半身がぶら下がっていた。

 

何コレ?

 

「えっと………人形……じゃないよね………」

 

「プルプル震えてるしな……」

 

『おやまぁ、なんと可愛らしいお尻でしょう!』

 

ルビーがおっさんみたいなことを言い出してると、急にぶら下がってる人が喋り出した。

 

「…………っ………!ぜったいわたしを下ろさないでね!」

 

「……えっ………と、なに?」

 

「視線を感じるよ!なにか聞きたそうなふいんきだね!でも、教えないよ!これはレディとしてのそんげんにかかわることなんだから!」

 

なんだが生意気だな…………

 

そう思いながら、俺は校門を見る。

 

しっかり施錠されてる…………

 

「校内に入ろうとしたけど、校門が閉まっていて入れなかったから、塀を乗り越えようとしたけど、降りる時、足が着かなくて固まってるって所か?」

 

「なんで知ってるのー!?」

 

図星だったか…………

 

「ううっ……レディの秘密がはくじつのもとに晒されちゃったよぅ……」

 

『生意気なお子様ですね。折角ですし、生意気お子様パンツでも晒して起きましょう』

 

ルビーはその子のスカートをめくり、パンツを晒し出す。

 

「きゃ――――っ!!?」

 

「ちょっとルビー!?って、レイは見ちゃ駄目!」

 

「見てない!見てないから目を潰す勢いで押さえるな」

 

イリヤとぎゃーぎゃー騒いでると、急にその子は静かになる。

 

「うっ………うゅっ………」

 

どうしたんだ?

 

「ふぎゅぅぅぅぅっっっ…………!」

 

再びプルプル震えながら変な声を上げる。

 

「え!?な、泣いてるのかな、これ!?」

 

「た、多分そうじゃないか?」

 

『絵面に変化が無さ過ぎてわかりませんね!』

 

「ご、ごめんね。泣かないで」

 

「今下ろしてやるから泣くなって」

 

このまま放置するのも出来ないし助けようとする。

 

「ぜんぜん泣いてないし……下ろさなくていいもん……」

 

どうしたらいいんだ、この子………

 

「わ、わたしが三回下ろさないでって言ったら……ぜっっっ……たい、下ろさないで………」

 

「うん、もうわかったよ!フリと受け取るからね!!」

 

「てかフリだろ!フリだよな!下ろしても文句言うなよ!」

 

イリヤと協力して何とかその子を塀から下ろす。

 

なんか、どっと疲れた………

 

「ねぇ、大丈夫?怪我とかしてない?」

 

「うゅぅ……怖がったよ……ずっとあのままなのかとおも………思ってないよ!ちょっと遊んで……そう!ぶらさがりっこしてただけだもん!」

 

顔を真っ赤にし、今にも泣き出しそうな顔で、その子は叫ぶ。

 

「「もうなんでもいいよ」」

 

「あれ?二人だけ?もう一人誰かいなかった?」

 

「ううん、さっぱりキッパリいないよ」

 

「きっと空耳じゃないかな?」

 

(お二人も随分と図太くなってきましたね……)

 

ルビーは何か言いたげにイリヤの髪の中へと隠れる。

 

「んっ……と、あのね……さっきのことは……」

 

「ああ……大丈夫。誰にも言わないよ」

 

「レディの尊厳なんだろ」

 

そう言うと、その子は嬉しそうに笑う。

 

「ねえねえ!お名前は?」

 

「私?私はイリヤスフィール。長いから皆はイリヤって呼ぶよ」

 

「俺は零夜だ」

 

「わたしはエリカ!会えたのがお姉ちゃんとお兄ちゃんで良かった!助けてくれてありがとう!イリヤお姉ちゃん、零夜お兄ちゃん!」

 

エリカちゃんは笑ってそう言うと、イリヤは物凄く嬉しそうにする。

 

「そ、そそそそそんなお礼なんて………うん、お礼なんていいから、もっとお姉ちゃんって言ってみて?」

 

「お姉ちゃん?」

 

「何かな!」

 

イリヤの奴、チョロ過ぎるぞ……

 

そう思ってると、エリカちゃんはまだ震えはじめた。

 

「ん?また震えて……?」

 

「そんなに高い所に居たことが怖かったか?」

 

「あのね、イリヤお姉ちゃん、零夜お兄ちゃん……………ぜっっっ…………たいに、エリカをトイレに連れていかないでね」

 

股を押さえプルプルとエリカちゃんは震える。

 

……………そう言う震えかぁ…………

 

「立って歩ける!?」

 

エリカちゃんは首を横に振る。

 

「駄目!?もうそんな水位レベル!?」

 

「れれれ、レイ!?どうすれば…………」

 

ここはそっと持ち上げてトイレまで運べばなんとか…………

 

「イリヤさーん!零夜さーん!すっごく便利な乗り物見つけたですー!」

 

そして、田中さんが一輪車に載って現れる。

 

この状況でややこしい人が――――――!!

 

「はら?誰ですか?」

 

「ちょっと待ってて田中さん。この子をトイレに連れてかないと……」

 

「その後でいくらでも相手してやるから今は、な?」

 

「トイレですか?とんだお子様ですー!田中は一人でトイレ行けるです!」

 

田中さんは吹き出しながら笑ってそう言う。

 

「それ威張れることじゃないから!?」

 

「………ないで……」

 

「へっ?」

 

「こども扱いしないでくださる!?エリカはレディなんだから!ひとりでおしっこできるもん!」

 

「「張り合ったー!?」」

 

エリカちゃんはプルプルと震えながら、立ち上がり、トイレへと向かおうとする。

 

「てだすけむようだよ……」

 

「無茶だよ、エリカちゃん!そんな足プルップルの状態で!」

 

「生まれたての小鹿の様になってるんだぞ!」

 

「レディには退けないときが……絶対に負けられないときがあるの………!」

 

「「少なくとも今じゃないと思うけど!?」」

 

「こんなブルマで一輪車乗ってるノーテンキな人に、負けたりしないんだから!」

 

エリカちゃんはそう叫び、田中さんを指差す。

 

田中さんはと言うと、突きつけられた指をじーっと見つめ、そして…………………

 

「がうっ!!」

 

行き成り噛みついた。

 

「「ええ―――――――――ッッ!!?」」

 

「何してるの田中さん!?」

 

「離せ!早く離すんだ!」

 

「なんで本気噛みなの!?」

 

イリヤと二人で田中さんを離そうとするが、田中さんは離そうとしない。

 

「ごめんねエリカちゃん!すぐにやめさせ…………」

 

「……………っ………!!………………………………………ふぎゅっ……………っっ……………!!」

 

「「すっごい我慢してる――!!」」

 

「声すら押し殺して!!」

 

「痛いなら痛いって言っていいんだぞ!」

 

「こ゛の゛ま゛ま゛で゛い゛い゛………」

 

「どこまで強がりなこなの!?」

 

これ以上はエリカちゃんが可哀想なので実力行使に出ようと、拳を握る。

 

その直後

 

「あっ……!」

 

エリカちゃんの口からそう言葉が漏れた。

 

「へっ……?」

 

「んっ……?」

 

「ふぃ?」

 

そこでやっと田中さんが口を離した。

 

エリカちゃんは顔を真っ赤にし、涙を流し、そして、悔しそうに唇を噛んで俯く。

 

そして、ゆっくりと内股に成りながら地面に座り込む。

 

「…………………………………………………………………………」

 

「…………………えっと…………」

 

「……イリヤ………お姉ちゃん。零夜………お兄ちゃん………エリカを絶対着替えさせないで………」

 

「わかったよ!最後まで面倒見るよ!」

 

「田中さんは後でお仕置きだからな!」

 

「田中悪くないですー!」

 

「「十割田中さんの過失だよ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………貴方達は児童を拾って保護する趣味でもあるの?」

 

クロが下を着替えたエリカちゃんを見て尋ねて来る。

 

「しょうがないでしょ!目の前でおもらし「してないもん!」……局所的な雨があったんだから」

 

エリカちゃんをそのまま校舎内に連れて行き、濡れたスカートと靴下、下着を洗ってストーブで乾かしてるので、エリカちゃんには、保健室にあった予備の下着と田中さんの予備のブルマを履かせている。

 

「バゼット、何か感じる?」

 

クロが隣りのバゼットさんにそう尋ねると、バゼットさんは手袋を抜きながら言う。

 

「いえ、結界の警報は鳴っていません。少なくとも敵意はない………」

 

「田中のブルマでお漏らししないでほしいです!」

 

「もらしてないもん!」

 

「まぁ敵じゃないだろ。見るからにお子様だし」

 

海斗の言葉に全員が頷く。

 

「田中さん、どうして仲良くできないの!?さっきだって行き成り噛みつくし………」

 

「なんでかわからないですけど……この子せーり的に嫌いです」

 

「そんなストレートな!?」

 

「………………………エリカだってあなたのこと……………キライ……だもん………っ」

 

エリカちゃんがまた泣き出しそうに言う。

 

「私、この子を生理的にほっとけない!」

 

同感だな。

 

「あのね、田中さん!生理的にでも人を噛んだりしちゃ駄目!」

 

「なんでです?」

 

「田中さん自分で言ってたじゃない。痛いのは嫌だって、私が痛いのはもっと嫌だって!だったらわかるはずだよ。他人が痛がることもしちゃダメ。訳も無く人を傷つけるのは、いけないことだよ」

 

「つまりは自分がされて嫌なことは相手にとっても嫌なことなんだ。だから、そういうことしたらいけない………って言ってる傍から!?」

 

俺とイリヤの言葉を聞きながら、田中さんはエリカちゃんの口に指を入れ、左右に引っ張っていた。

 

「田中さんのバカ――!!」

 

「バカじゃないです――!!」

 

「あーもー!外でやりなさい!」

 

キィー!ムキィー!とイリヤと田中さんが騒ぐ中、エリカちゃんは窓の外を見て気付く。

 

「あっ!パパだ!迎えに来てくれたんだ!」

 

エリカちゃんはそう言うと、保健室を飛び出し、外に出る。

 

「あ!待って、エリカちゃん!スカートと靴下と下着!」

 

「イリヤ!それなら、持って行ってやれよ!」

 

俺は紙袋にエリカちゃんのスカートと靴下、下着を入れ、後を追う。

 

「パパー!」

 

「エリカ。やっぱりここだったか。おや?そちらは?」

 

エリカちゃんのパパは俺とイリヤを見てそう言う。

 

「イリヤお姉ちゃんと零夜お兄ちゃんだよ!」

 

「そうか…すまないね。娘が世話になったようだ」

 

「いえ、そんな…あっ、門開けますね」

 

イリヤはエリカちゃんのパパを中に入れるために門を開ける。

 

「あ、これエリカちゃんのスカートと靴下、それに下着です。ちょっと諸事情で濡れてしまって………」

 

「これはこれは。本当にすまないね」

 

エリカちゃんのパパは紙袋を受け取り、辺りを見渡す。

 

「いやー、それにしても………寒いねぇ………」

 

「そんな薄着だからだと思いますけど!?」

 

エリカちゃんのパパの服装は、薄着のスウェットのみで、コートやマフラーと言った防寒着を見に付けていない。

 

「あまり家から出ない物だから外の寒さを忘れていたよ………」

 

「パパったら、ジェントルマンにあるまじきドジっこなの!」

 

似たもの親子だな…………

 

「この子は七つでね。本来ならこの学校に通ってるはずだったんだ。廃校になって時々こうして家を抜け出しては学校で遊んでるんだ」

 

「そうだったんですか………」

 

「遊びじゃないよ、レディのたしなみー!」

 

「はいはい」

 

親子で楽しそうにしながら話す光景を見て、仲の良い親子だと俺は思った。

 

「あ……ルーンの紙が」

 

イリヤは校門に張り付けたルーンの紙が剥がれてるのを見付け、張り直そうと近づく。

 

「まったくいつも言ってるだろ?勝手に家を抜け出してはいけない……と」

 

「うー………でもでもっ、どうしても自分の目で見たかったの!」

 

「そうか……それでどうだった?」

 

「うーんとね………」

 

一体何の話だ?

 

そう思いながら、イリヤの方を見る。

 

イリヤは丁度ルーンの紙を張ろうと紙に触れていた。

 

「聞いてたよりちょっとたよりないかな。でも、すっごくやさしかったよ!」

 

「そうか……それはよかったね」

 

その瞬間、俺はある事に気付いた。

 

この声………

 

「それじゃあ、帰ろうか」

 

この声を………………………俺は知ってる…………………

 

『この声をよく聞いておきなよ、イリヤさん、零夜君』

 

ギルの言葉が鮮明に思い出されていく。

 

 

ビ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ ! ! ! 

 

 

イリヤが紙を張り直した瞬間、警報がけたたましく鳴り響く。

 

この声は―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……センスのない警報だねぇ」

 

ダリウス・エインズワース。

 

俺達の、本当の敵だ!

 



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裏切りの子

ドライ三巻購入したので投稿します!


警報が鳴り響き、俺達の敵、ダリウス・エインズワースは立ち上がる。

 

俺は素早く、魔力を集め、剣を創り出す。

 

それと同時に、バゼットさんが窓ガラスを突き破り、飛び出して来る。

 

「この結界を張った魔術師は君かな?」

 

ダリウスはバゼットさんにそう尋ねるが、バゼットさんは答えず、攻撃を仕掛ける。

 

「実用一辺倒も美学の一つだけど、君も魔術師ならば少しは舞台演出を考えてほしいね。例えば、結界なら………こうだ」

 

ダリウスは一枚のカードを取り出し、地面に落す。

 

カードは地面に溶ける様に消えると、巨大な氷のドームを作り、俺とイリヤもろとも自分達を囲う。

 

三○一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティー)。即興の舞台で恐縮だが、君達とは一度落ち着いて話をしたかったのでね。改めまして、だ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン君、曽良島零夜君。私はダリウス。エインズワース家の当主だ」

 

「貴方が……」

 

「そう私が、美遊と言う生きた聖杯を見つけ、英霊の力の一端を引き出すカードを創り上げ、聖杯を完成させるための大儀式、聖杯戦争を興した。君らからすれば、私は倒すべき魔王なんだろうね」

 

俺とイリヤはダリウスの得体のしれない恐怖に、身体を震わせる。

 

剣を持つ手が震え、冷や汗が止まらない。

 

俺がダリウスに怯えていると、外からの声が聞こえて来る。

 

氷を殴る音、爆発音、そして、ルビーの声が。

 

「外が騒がしいねぇ。失敗だったかな。防音だったらよかった。ああ、全く失敗だ………」

 

ダリウスはそう呟きながら、俺達を見て来る。

 

「ますます寒くて堪らない………」

 

そう言って、ダリウスは体を抱きしめ、震える。

 

何がしたいんだこの人!?

 

「ぜんぜん寒くないから毛布とか、持ってこないでね」

 

エリカちゃんもエリカちゃんで寒さに震えてる。

 

この子はこの子で!

 

「エリカちゃん!私達を騙したの!?」

 

イリヤはそんな中、エリカちゃんに言う。

 

「敵だったのに、正体を隠して近づいて!」

 

「え!?だましてないよ!?エリカは、ただたしかめてみたかっただけだもん!イリヤお姉ちゃんと零夜お兄ちゃんが、美遊お姉ちゃんの言ってた通りの人なのか」

 

美遊から俺達の事を聞いた?

 

美遊が自分から話すとは思えない。

 

一体何を……………

 

「君たちの事は美遊から聞いたよ。もちろん、美遊が思いを寄せてる彼の事も。出会った人、起こった事、全てをね。いやいや全く持って……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 素 ッ ッ 晴 ら ッ し い ! 」

 

ダリウスは大声を上げ、そう言う。

 

「平行世界に単身飛ばされ!奇怪な魔術礼装を契約し!自身が招いたカードの災厄を回収する傍ら、初めての友情を知り、愛情を知る!だが偽りの日常は終わりを告げまた美遊(聖杯)は私の元へ帰って来た!偶然と必然と運命が世界戦を越えて紡いだ王道の物語(マイソロジー)じゃないか!!」

 

そのダリウスの姿は、俺とイリヤから見て、異様な光景に見えた。

 

この男………狂ってるのか?

 

「私のカードを集めてくれてありがとうイリヤスフィール!零夜!いやいや返してくれとは言わないよ!存分に使って我々と「パパ」」

 

エリカちゃんがダリウスの袖を急に掴む。

 

「……なんだいエリカ?」

 

「ちょっと違う、やりすぎだよ」

 

「………そうか」

 

ダリウスは急に大人しくなり、さっきと同じ雰囲気を醸し出す。

 

「み、美遊が!自分からそんなこと貴方に教えるはずがない!美遊は自分の気持ちを内に閉じ込めちゃうから……良いことも悪いことも自分で抱えて、私達に何も言ってくれなかったのに!貴方、美遊に……一体何を……う……はッ………!?」

 

突如イリヤがふらつき、倒れる。

 

「イリヤ!?どうした!しっかりしろ!」

 

イリヤの肩を掴んで揺する。

 

一体どうしたんだ!?

 

「あまり大声を上げない方がいいよ」

 

ダリウスがゆっくりとそう言って来た。

 

「この氷宮は外界からの力では絶対に破れない。だが、その代償として氷宮内からは少しずつ酸素が失われていく。発動から三○一秒で酸素濃度はゼロになる」

 

そうか、通りで妙に息苦しいと思ってのはそう言う事か。

 

「だから……酸素を無駄使い……しちゃ……いけな………」

 

ダリウスは苦しそうに口元を押さえ、顔を青くする。

 

あんたが一番苦しそうだが!?

 

「さんそ……とか……いらな…いし……」

 

エリカちゃんも顔を青くして、苦しそうに息をする。

 

この子はどこまで………!

 

「いやいやまいったね。そろそろ限界だ。すまないが続きは外で」

 

そう言ってダリウスは手を上げようとした瞬間、氷宮が急に破壊され、外からの冷たい空気が一気に流れて来る。

 

そして、壊れた壁の所には田中さんが立っていた。

 

まさか、田中さんが氷宮を…………

 

「ああ、そうだ。君だけは美遊の記録になかった。困るんだよなぁ、端役(エキストラ)に舞台を荒らされるのは……!」

 

ダリウスが新たなカードを出した瞬間、クロと空也、そしてバゼットさんが飛び掛かる。

 

だが、三人の攻撃はいとも簡単に、弾かれた。

 

『イリヤさん!』

 

「ルビー!夢幻召喚(インストール)!」

 

イリヤはルビーを使い素早く転身すると、セイバーのカードを夢幻召喚(インストール)する。

 

エクスカリバーを手に、ダリウスへと攻撃を仕掛ける。

 

だが、ダリウスはエクスカリバーを素手で受け止めた。

 

「非常識じゃないか。子供の前で、こんな(モノ)振り回して………怪我でもしたらどうする?…………黒玉皇に顔は無し(オーソリテリアン・パーソナリズム)

 

カードを使った瞬間、急に俺達は地面に一斉に倒された。

 

身体が……動かせない………!

 

「重力でも……身体操作でもない………!」

 

「なによ……これ………!」

 

「概念的な干渉………!私のルーンの守りも容易く突破して………!」

 

俺達が動けない中、ダリウスは田中さんに近づく。

 

「さて、君は何もかな?」

 

田中さんはダリウスの言葉に何も答えなかった。

 

「うん、沈黙も答えだ。ただし、私の舞台に台詞の無い端役(エキストラ)はいらないんだよ」

 

もう一枚の新たなカードからナイフを召喚し、田中さんを刺そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カウンターフェイター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田中さんがそう言った。

 

その瞬間、ダリウスは驚きの表情になると、ナイフを消した。

 

「なるほど。端役(エキストラ)ではないらしい。ここで、君の出番にピリオドを打つのは簡単だが、それでは余りにも芸が無いな。歓迎しよう、君たちの舞台入りを。幕間は開けた。さぁ、第六次聖杯戦争の再開だ。私の元へたどり着くまで、精々踊って魅せろ…………ああ、そうだった」

 

ダリウスは校門へと歩いていた足を止め、振り返る。

 

そして、俺の方を真っ直ぐ見て行った。

 

「零夜君、何よりも君が私の元へたどり着くのを待っているよ。私達を裏切った曽良島晋也の息子よ」

 

心が冷えた感覚になった。

 

曽良島晋也。

 

俺の…………父さんの名だ。

 

「ま、待て!どうして………どうしてお前が父さんの名前を知ってる!?」

 

ダリウスはその言葉に返事はせず、校門を出て行く。

 

「イリヤお姉ちゃん……人を傷つけちゃダメって言ったのに、お姉ちゃん嘘吐きだね」

 

エリカちゃんはイリヤにそう言い、ダリウスの後を追って出て行った。

 

ダリウスたちが去った後、俺達の体の自由は戻った。

 

「なんなのよ!なんなのよアイツは!」

 

クロは怒鳴り、地面を叩く。

 

「あの言葉……どう言う意味か……贋作屋(カウンターフェイカー)………」

 

バゼットさんはダリウスが去って行った方を見てそう言う。

 

だが、そんなこと俺にはどうでもよかった。

 

「………裏切ったって………一体どういうことなんだよ……父さん………」

 



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信じる事、そして自覚

「本人は捻ったつもりかもしれないけどさ、本当に炒飯に麻婆が乗って出て来たとは笑っちゃったよ。いやはや、あの執着は何処から来てるんだかね。次は餃子を頼んでみようと思うんだけど、中身が何か賭けてみる気は「読みなさいよ!空気!」

 

外に昼飯を食べに行ったギルと、ギルの監視の為に一緒に外に出ていた海斗が戻って来た。

 

ギルは空気を読んでるかの読んでないのか知らないが、笑ってそう言って来た。

 

そんなギルにクロがツッコむ。

 

「俺たちがいない間に何かあったのか?それに…………零夜の奴が妙に落ち込んでるのが気になる………」

 

そう言って、海斗は保健室のベッドに腰かけ、零夜を見る。

 

「落ち込んでるって言うより、いろいろあり過ぎて混乱してる所に、余計に混乱させることを言われて、処理が追い付いてないんだよ」

 

話が出来ない零夜に代わり、俺は、海斗にさっきの出来事を話す。

 

「俺たちが居ない間にそんなことが………」

 

「まさかダリウス自ら乗り込んでくるなんてね。大ボスが行き成り登場とか、初手で本拠地に乗り込んできたイリヤさんと零夜君への意趣返しのつもりかもね。奇をてらってばかりじゃ、物語を破綻しかねないだろうに」

 

「それ、ダリウス(あいつ)も言ってたけど、なんなの?舞台とか役者とか」

 

「エインズワースの連中はどうも演出やらなんやらこだわるようでね。予定した段取りを壊されるのが嫌いらしい」

 

「なんだそれ?舞台劇でもするつもりか?」

 

「……それよりも不可解なのはダリウスの異様な……不条理なまでの強さです」

 

バゼットが先程の光景を思い出すように冷や汗を掻きながら言う。

 

三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティー)黒玉皇の顔無し(オーソリテリアン・パーソナリズム)と言う、正体不明の宝具……それに素手でエクスカリバー(聖剣)を受け止めるなど………」

 

三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティー)黒玉皇の顔無し(オーソリテリアン・パーソナリズム)?なにそれ?」

 

三〇一秒の永久氷宮(アプネイック・ビューティー)が巨大な氷宮だ。クロのカラボルグでも打ち抜けなかった。黒玉皇の顔無し(オーソリテリアン・パーソナリズム)は」

 

「いや、そうじゃなくて……そんな宝具、僕知らないんだけど」

 

ギルは急に顔色を変え、考え込む。

 

「………そりゃ、知らない宝具ぐらいあるでしょ?」

 

「木っ端な宝具ならね。でも、それだけ強力な宝具なら知らないはずがない」

 

「どういうこと?」

 

「僕はこの世の殆ど全ての宝具の原典を持ってる。黄金の都の宝物庫にね。あらゆる宝具はなんらかの原典から流れて成った物なんだ。自慢じゃないけど、現代に伝わるほどの名のある宝具は本を正せば僕の物なんだよ。その僕が知らないと言ってる。それが本当に宝具なら、一体どこの出典なんだい?」

 

「………こっちが聞きたいんですけど」

 

「それじゃ、その謎の宝具を打ち破った田中さんこそ何者なの?」

 

イリヤはベッドに寝かせ寝ている田中の額にぬれタオルを乗せて言う。

 

「……あれからずっと眠ってる」

 

『怪我などしてる様子はないんですけどねー。必要以上に安らかな寝顔です』

 

「それにしてもこの部屋熱くない?」

 

「確かに、ストーブを切った方がいいぞ」

 

「いや、ストーブは付けてない」

 

「熱いのは田中の身体。まるで焼けた石の様だわ」

 

俺とクロは田中を見てそう言う。

 

田中の身体は普通の人間が発せる熱量を遙かに超えている。

 

『“触ると火傷するわよ”を物理的になさってますねー、小悪魔さんですねー』

 

こんな時でも、平常運転なルビーだ。

 

「どこまでデタラメなんだか」

 

ギルは田中を見つめ言う。

 

「結局攻撃が通じたのは田中さんの謎の力だけ。私達の攻撃は全部……」

 

「イリヤ」

 

「……分かってる。もう泣き言は言わない。負ける理由を探しても意味なんかない。勝てる方法を探さなきゃ……」

 

「……それがわかってるならいいわ」

 

「いいけど、どうなれば勝ちなんだが」

 

暗い雰囲気の中、急に零夜が立ち上がる。

 

「ちょっと外出てる」

 

そう言って、零夜は出て行こうとする。

 

「レイ!」

 

そんな零夜にイリヤが呼び掛けると、零夜は悲しそうに笑った。

 

「大丈夫だよ。本当に、ちょっと外に出てるだけだから」

 

そう言い、零夜は保健室を出て行った。

 

イリヤはおろおろしながら、扉と俺達を交互に見る。

 

そんなイリヤを見て、クロは溜息を吐く。

 

「追い掛けなさいよ」

 

「え?」

 

「心配なんでしょ。だったら、傍にて上げなさい」

 

「きっと、零夜も俺らよりも、イリヤに居てほしいと思うぞ」

 

「……うん、ありがとう。ちょっと行ってくる」

 

イリヤは急ぎ足で保健室を出て行き、零夜の後を追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零夜SIDE

 

屋上で、俺は星空を見ながらあることを考えていた。

 

ダリウスの言葉がずっと頭の中で引っ掛かってる。

 

『私達を裏切った曽良島晋也の息子よ』

 

裏切ったってことは、父さんはダリウスと協力関係にあったってことだよな。

 

じゃあ、父さんは聖杯である美遊を利用しようとしてるダリウスのことを知ってたってことだよな。

 

「…………父さん」

 

「レイ」

 

すると、イリヤが屋上にやって来た。

 

「……イリヤ」

 

「えへへ……来ちゃった」

 

そう言うとイリヤは黙って俺の隣に立つ。

 

二人で黙ったまま星を見上げる。

 

「………星、綺麗だよね」

 

「……ああ、そうだな」

 

「……ねぇ、もしかしてお父さんの事で悩んでる」

 

「………ああ。正直、父さんがダリウスと協力関係にあったって言うのが信じられない。そもそも、父さんは死んだって聞かされてたのに、実は生きてたなんて三文芝居にも程がある。……………父さんは、敵だったのかな………」

 

独り言を言うように、イリヤに語る。

 

「………でもさ、レイのお父さんは裏切ったんだよね。それって、間違いに気付いたってことじゃない?」

 

イリヤがそう言った。

 

「間違いに気付いたから裏切った。うん!きっとそうだよ!」

 

「………どうしてそう思うんだ?」

 

「……私はレイのお父さんの事は知らないよ。でも、レイの事はいっぱい知ってる。レイは優しくて、頼りになる私の大切な幼馴染。そんなレイのお父さんだもん。絶対良い人に決まってるよ」

 

そう言って笑うイリヤはとても綺麗に思った。

 

俺はイリヤを守りたい。

 

その気持ちは何処から来るのか。

 

イリヤの笑顔を悲しみや苦しみなどの負の感情で歪ませたくない。

 

あの日思った気持ちは本心だ。

 

だが、それ以外にも、俺がイリヤを守りたいと思う理由があった。

 

俺はそれを今自覚した。

 

俺は、イリヤのことが……………………

 

「…………なぁ、イリヤ」

 

「うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                「月が綺麗だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?月?」

 

イリヤはそう言って、空を見る。

 

「えっと………星は出てるけど、月は出てないよ?」

 

「……やっぱ、イリヤには分からないか。お前、本より漫画派だもんな」

 

「え?どういうこと?」

 

「分かんなかったらいいよ」

 

「ちょっと!教えてよ!どう言う意味!?」

 

イリヤが横で叫びながら腕を引っ張る。

 

「なぁ、イリヤ」

 

イリヤを宥め、イリヤの方を向く。

 

「ありがとな。俺、父さんの事信じるよ」

 

「………そっか」

 

「よし、戻ろうぜ。遅いし、もう寝ようぜ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、クロは雨が降る音と雨粒が窓を叩く音で目が覚める。

 

欠伸をし、目を擦りながら隣で眠る空也の寝顔を見つめ、笑う。

 

「今日は雨ね……田中は……」

 

カーテンを捲り、隣のベッドで眠る田中を見ると、田中は未だに眠っていた。

 

「相変わらずぐー寝ね……腹立たしい程に……ほら、空也起きなさい」

 

「うっ……ふぁー……おはよう、クロ……」

 

空也を揺すり起こし、隣のベッドで眠るイリヤと零夜にも声を掛ける。

 

「イリヤー、零夜ー、起きてるー?朝ご飯どうしよっか?」

 

身体を伸ばしなそう言うが、二人の声が聞こえないことに、首を傾げる。

 

「ねぇってば、まだ寝てるの?」

 

カーテンを捲り、隣のベッドを確認する。

 

だが、そこにイリヤと零夜はおらず、窓は開けられ、クラスカードがベッドの上に散乱していた。

 

「…………イリヤ?零夜?」

 




イリヤと零夜が一緒のベッドで寝てる理由

ベッドの数が少ないから

クロと空也はいつも通り。


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歪な子

「零夜とイリヤが攫われたって!?」

 

空也から話を聞いた海斗は全員である人物の所に全力で走っていた。

 

「隣で寝てて気づかなかったなんて!」

 

「結界はなにも反応していません。まだ攫われたと確定したわけでは……」

 

「いや、確定だ!いくらなんでも、この状況で外に出る訳が無い!」

 

『カードや私を置いてどこかに行くわけありませんものねぇ』

 

「ならば敵はどうやって……!?」

 

「それは分からない。だが、一人もしかしたら知ってるかもしれない奴がいる!」

 

そう言って全員が訪れたのは、ギルが寝室代わりに使っている教室だった。

 

「ギル!零夜とイリヤが攫われた!」

 

「いけないな。お転婆も嫌いじゃないけど……朝のまどろみには似合わない」

 

ギルは天蓋付きの豪華なベッドの上で、ワイングラス片手に優雅なひと時を満喫していた。

 

「………クロ、やっていいぞ」

 

「言われなくても」

 

クロはハリセンを投影し、ギルに近づく。

 

「あ、その扇子(ペーパーファン)知ってるよ!まさかと思うけど、そんな低俗なもので僕の頭を………」

 

スパァンと良い音が校舎内に響き渡る。

 

「いや、ホント君ね。僕が大人に戻ったら真っ先に殺されるよ、まったく」

 

「ボケには容赦ないのがこの国のルールよ」

 

「そんなことより、零夜とイリヤが攫われた。お前なら何か知ってるんじゃないのか?」

 

「カードはベッドに散乱。おまけに窓は開いていた」

 

「油断してたわ。まさか昨日の今日でダリウスがこんな手を……」

 

「私の判断ミスです。拠点がバレた時点で、場所を移すべきでした」

 

「いや、拠点を一から作り直すのが最善とは限らない。それは結果論だ」

 

海斗はバゼットにそう言い、腕を組む。

 

「それより、どうして連中がこの学校の敷地内に入れたんだ?」

 

「結界が破られた痕跡はありません。少なくとも、敵の侵入はなかったはずです」

 

「なら、二人は自分から何処かに行ったって言うのか?」

 

「私達に内緒で、それも窓から?」

 

「現状からはそうとしか……」

 

「それが有り得ないって言ってるのよ!」

 

全員が騒ぐ中、ギルはベッドに仰向けに寝転がりながら、呟く。

 

「………使われたかな」

 

その言葉に、騒ぎが収まり、全員ギルを見つめる。

 

「とにかく魔術師さんはなんでも魔術に頼りたがる。殆ど妄信的にね。だから、その前提に空いた穴に気付かない。僕たちがエインズワース邸に乗り込んだ時に使った宝具、あらゆる魔術的な探知を遮断・透過する“身隠しの布”を使ったんだろう」

 

「はぁ!?なによそれ!」

 

「イリヤさんが戦闘の際に落したらしくてね。紛失されて横領されて、踏んだり蹴ったりだよ」

 

「じゃあ、ダリウスはその布を使って二人を………」

 

「いや、それには違和感がある」

 

海斗が口元に指を添え、言う。

 

「もし、二人を攫うなら昨日の時点で攫ったはずだ。それに、アイツらは俺たちから自分の所に来るのを待ちわびる様な事を言ったんだろ。なら、二人を攫うのは矛盾してる」

 

「彼の言う通りだ。この脈絡の無さと頭の悪さ。首謀者は多分……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは一体………俺は……どうしてここ?

 

あれ?そもそも………俺は………なんだっけ?

 

「せんのーおわった?」

 

「……まだです。この者たちは妙に入りが鈍い……いくらか耐性を持っているのかもしれません。少し時間が掛かります」

 

「ふーん……」

 

あれ?俺は………確か保健室で寝てたはずじゃ………

 

Into.oblivion(忘却せよ) Into.oblivion(忘却せよ) Into.oblivion(忘却せよ) Fall.fall.fall.to,the.abyss(忘却に忘却せよ) Your.life.no.exist(死を蘇し生を弔え) You.know.you.no(忘却の果て流転の果て) Lose.lose.lose.your.all.and(汝は今ここより)………」

 

目の前の女、アンジェリカか何かを呟く。

 

それと同時に、記憶が……徐々に消えて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生まれ変わるんだ、零夜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの声が頭の中に響いた。

 

そうだ、忘れたらダメだ!

 

俺の記憶は………俺だけの物だ!

 

その瞬間、頭の中でパチンと何かが破裂する音が聞こえた。

 

ハッとし、眼を見開く、目の前にはアンジェリカとエリカちゃんが居た。

 

思い出した!

 

俺は保健室でイリヤと同じベッドで眠っていたら、見えない手に捕まれたんだ。

 

ギルの見隠しの布とか言う奴で。

 

「くっ!」

 

俺は椅子を倒しながら後ろに下がり、剣を創り出す。

 

「洗脳に失敗したか。しかも、完全に解いてる」

 

アンジェリカは淡々と言う。

 

見ると、俺と同じようにイリヤも椅子に座らされていた。

 

「イリヤ!」

 

声を掛けるが、反応が無い。

 

俺と同じように何かされたのか。

 

洗脳か?

 

卑怯な手使いやがって!

 

「一体なんのつもりだ!俺とイリヤに何を……いや、イリヤに何をした!」

 

「きゅうにつれてきちゃってごめんね、零夜お兄ちゃん」

 

俺が大声で尋ねると、エリカちゃんが申し訳なさそうに謝って来る。

 

「パパが眠ってるあいだにすませたかったの。美遊お姉ちゃんがいってたの。イリヤお姉ちゃんや零夜お兄ちゃん、それと海斗お兄ちゃんといっしょにいたいって。でも、美遊お姉ちゃんはウチからぜったい出ちゃダメでしょ?だから、三人をつれてきてってアンジェリカにお願いしたの。海斗お兄ちゃんはずっと起きてたみたいだからつれてこれなかったけど……………」

 

エリカちゃんは自分がしようとしていたイタズラがバレてしまい残念そうにイタズラの内容を言う子供の様に言う。

 

「でも、パパはきっとダメっていうからアンジェリカに頼んでせんのーしてもらって、むりょくかしたの!そうすれば零夜お兄ちゃんもイリヤお姉ちゃんも美遊お姉ちゃんとずっといっしょにいられるよ!」

 

そう言って笑うエリカちゃんに、俺は恐怖した。

 

この子は、何も考えていない。

 

本心で言ってる。

 

無邪気に、何の悪意も無くこんな方法を選んだ……歪過ぎる…………

 

「ねぇ、アンジェリカ。イリヤお姉ちゃんはどうしたの?」

 

「こちらも失敗です。こちらから干渉できない領域があり、そこに記憶を退避したようです。乖離による防衛反応としても、ここまで完全なのは異様です。空の領域……まるで、そこにあった人格が抜け出た後の様な………」

 

そうか、聖杯としての人格。

 

クロの人格があった場所に、イリヤは逃げ込んだんだ。

 

恐らく、俺も似たような感じだろう。

 

だが、俺だけ洗脳が解けたのはなんでだ……………

 

「ともかく、貴様はもう一度捕まえて洗脳を施そう」

 

そう言って、アンジェリカはギルガメッシュのカードを夢幻召喚(インストール)する。

 

俺は歯を噛みしめ、イリヤを見る。

 

イリヤを助け出しても、抱えた状態じゃ戦えないし、今の俺じゃ簡単に追い付かれる。

 

俺は剣を握りしめ、アンジェリカに投げつける。

 

アンジェリカは剣を簡単に弾く。

 

それでいい!

 

俺が狙ったのは……………お前の背後の扉だ!

 

剣が扉に向かって落ちる。

 

その瞬間、俺は遠隔で、剣を構成してる魔力を暴走させ、爆発させる。

 

剣は爆発し、辺りを煙に充満させる。

 

これで視界は一瞬だけだが、潰せた。

 

(イリヤ…ごめん……)

 

心の中でイリヤに謝り、俺は部屋を飛び出す。

 

とにかく今は、何とかして外の海斗たちと連絡を取らないと……………

 



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選択肢

アンジェリカたちから逃げ出して、俺は城の中を隠れながら移動する。

 

恐らく、俺の事はアンジェリカとエリカちゃん以外には知られてない。

 

エリカちゃんの言葉から考えるに、俺とイリヤを連れて来たのはダリウスの命令じゃない。

 

つまり、ダリウスは俺たちがこの城に居ることは知らない。

 

あいつは、俺たち自らが自分の元に来ることを望んでた。

 

なら、俺が城の中にいることは知られないはずだ。

 

少なくともダリウスは出てこないだろう。

 

壁を背に曲がり角を確認しながら移動する。

 

「それにしても……これだけデカい城なのに静かだな……」

 

もしかして、ダリウスやアンジェリカ、ベアトリス、それとあの男、エリカちゃん以外には誰もいないのか?

 

「とにかく外に出よう……くそっ、指輪があれば転身してテレポートリングですぐに脱出できるのに…………」

 

自分の無力さを感じながら、俺は外へと出るための扉を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!探しても探しても、外に出る扉が見つからない!」

 

俺は苛立ちながら、城の中を移動する。

 

外に出れそうな扉を開けば、外ではなく、城の内部の何処かに出てしまう。

 

この城の構造はどうなってるんだ?

 

その時、背後から靴音が聞こえた。

 

「覚えのある魔力を感じたから来て見れば、お前だったか」

 

「お前は……!」

 

ナイフ使いがゆっくりと現れ、カードを手にする。

 

「どうやってこの城に潜り込んだが、知らないが、まぁいい。この間は邪魔が入ったが、今度はちゃんと殺してやる………夢幻召喚(インストール)!」

 

持っていたカードはアサシンだった。

 

アサシンの英霊を夢幻召喚(インストール)し、ナイフを抜く。

 

「今度こそ、お前を殺す。美遊は………渡さない!」

 

「くっ!」

 

俺は剣を創り、構える。

 

「魔力で剣を創ったか。だが、それでも所詮は付け焼き刃だろ。すぐに終わらせる」

 

一瞬で俺の視界から消え、俺の背後に立つ。

 

剣を後ろに回し、防御し、振り返りつつ、剣を振るう。

 

剣をガードしつつ、ソイツは俺を見る。

 

「………少しは出来る様だな」

 

「力が無くたって………俺は美遊を救う!イリヤを守るんだよ!」

 

ナイフを弾き、横から剣を振る。

 

剣は深々とアイツの脇腹を切り裂く。

 

「よしっ!」

 

「無駄だ」

 

次の瞬間、アイツは傷を瞬時に治療し、立っていた。

 

脇腹には生々しく傷跡が残ってる。

 

「どうやら俺の事は完全に忘れてるな。それも仕方ないがな」

 

ナイフを手の中で回転させながら、ソイツは言う。

 

「なに?」

 

「俺と戦った時の内容を憶えてないだろ?それはこの英霊の能力だ。情報抹消スキルと言ってな、戦闘を終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から俺の能力・真名・外見特徴などの情報が消失するんだ」

 

そうか、道理でこいつと戦った時の事が思い出せない訳だ。

 

「少し話し過ぎたな。もう死ね」

 

まずい!

 

このままだと確実に殺される。

 

時間を……時間を伸ばさないと!

 

「おい!俺の質問に答えろ!どうしてエインズワースは美遊を攫う!?一体、エインズワースは何を企んでるんだ!?」

 

「………いいだろ。冥土の土産に教えてやる」

 

アイツはナイフを下ろし、口を開いた。

 

「世界はまもなく滅ぶ」

 

その言葉に思わず、言葉を失った。

 

世界が………滅ぶだって?

 

「早ければ十世代も保たない。エインズワースはこの終わりが決定づけられた世界を救済する。そう、美遊を使って」

 

「どういうことだ……?」

 

「魔力ってのは魔術を動かす燃料だ。魔力は生命力と言ってもいい。生物の体内で作られる魔力が小源(オド)。世界に満ちてる魔力が大源(マナ)。そして、原因不明だが、この星の大源(マナ)は枯渇し始めている。大源(マナ)が無くなれば、魔術師は魔術が使えなくなる。それは、世界から神秘や奇跡が消えることを意味する」

 

「それが何だって言うんだ!魔力が無くなって困るのは魔術師だけだだろ!そんなのお前たちの勝手な都合だ!」

 

「違う。大源(マナ)はこの星の生命力と言っただろ。それがなくなれば、植物の育成は衰え、多くの動物が死滅する。無論、人も例外じゃない。大源(マナ)が枯渇するまでおよそ数百年とされてる。例え、星の恵みがなくても、人間には科学が残される。科学に寄って人が生き延びれる対策もできるだろう。だが、それでも人類は滅びる。世界のルールそのものが置き換わるからだ」

 

「る……ルール……?」

 

「すでに地上にはいくつかの枯渇地域(ドライスポット)が発生してる。大源(マナ)が枯れた地域では大源(マナ)ではない別の何かが充満し始めている。解析どころか計測も観測すらも出来ない。だが、確実にそこにある。それは全ての生物に対し、猛毒だ。危機に瀕した星が滅ばないように世界のルールそのものを変えようとしているんだ。つまり、新たな世界、新世界を作ろうとしている。そして…………その新世界では、今の人類は生きることは出来ない」

 

ソイツから告げられた事実に俺は困惑しながらの口を開く。

 

「なら………お前達は、美遊を使って大源(マナ)の枯渇を止めるつもりなのか?」

 

「いや、違う。いかに聖杯と言えども、魔力を糧に動く願望器。魔力を用いてより多くの魔力を生み出すことは等価交換の原則に反する。大源(マナ)増やすんじゃない。俺たちはが美遊(せいはい)に願うのは、人類が新世界でも生きられる生物に置き換えることだ。旧世界は死ぬ。だが、人類は生き続ける。これがエインズワースがもたらす世界……人類の救済だ…………話はここまでだ。満足して死ね」

 

衝撃的なことに、呆然とし、接近を許してしまった。

 

咄嗟に剣でガードするが、剣を砕け散り、俺は蹴り飛ばされる。

 

蹴り飛ばされながらも新しい剣を創り、それを投げつけ、爆発させ、逃げる。

 

角を曲がり、手近な部屋へを転がり込む。

 

息を切りながら、ドアを背に座り込む。

 

「…………世界か、美遊か。どっちかを選べってことか……………」

 

額に手を当て、考え込む。

 

「………父さんはこの事を知ってエインズワースを裏切ったのか……それじゃあ、父さんは人類を見捨てたってこと…………くそっ!何を信じればいいんだよ…………!」

 

頭を抱え、悩んでいると不意に懐かしい匂いを感じた。

 

「これって…………」

 

立ち上がると体が勝手に動き、部屋の奥へと進む。

 

部屋の中は薄暗く、俺が足を進めるとそれに反応するかのようにランプに灯りが順番に点く。

 

聳え立つ棚。

 

そこに並ぶ沢山の本。

 

そして、更に奥に進むと一つの机の前に辿り着いた。

 

その上には一つの箱と封筒が一つあった。

 

おもむろに封筒に手を取る。

 

長い間放置されてたらしく封筒は埃を被っていた。

 

埃を払い、封筒の表面を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我が息子 零夜へ         父より』

 

その文字に手が震えた。

 

俺は震える手を動かし、封筒を開け、中身を読んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリヤは悩んでいた。

 

零夜と別れた後、イリヤはアンジェリカに寄って意識と肉体を分けられ、ぬいぐるみの身体に意識を入れられながらも、逃げ出し、サファイアと合流して、なんとか体を取り戻すことが出来た。

 

だが、その直後にアンジェリカにエインズワースの目的と、人類の未来を聞かされ、美遊か世界か、その選択を迫られた。

 

攫われる際に、隠し持っていたアサシン“ハサン・ザッバーハ”のクラスカードを夢幻召喚(インストール)し、隠れて時間を稼ごうとした。

 

「出てこないつもりか?なら仕方あるまい。“シュルシャガナ”焼き払え!」

 

王の財宝(ゲード・オブ・バビロン)から巨大な剣を出し、アンジェリカは辺り一帯を焼き払う。

 

イリヤは咄嗟に隠れていた木から飛び出し、攻撃を回避するが、イリヤが回避した先に落す様に、“イガリマ”が落とされる。

 

「この剣………!?」

 

「このイガリマを斬ったのは貴様だそうだな。賊には過ぎた墓標だが………それも因果だ」

 

イリヤは目を閉じ、死を覚悟した。

 

だが、イガリマは一枚の盾に寄って防がれ、イリヤは何者かに救出された。

 

「……失態だな。クレーター内の監視が疎かになっていた」

 

「まったく、またウジウジイリヤ?」

 

「敵を目の前にして呆けるなんて死ぬ気か?」

 

イリヤを助けたのはクロと空也だった。

 

クロが熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影し、イガリマを防ぎ、その隙に空也がイリヤを助けたのだ。

 

「だ……だって……!美遊と世界を天秤に掛けられて………」

 

「ああ、その話?」

 

「そう言えば、そんな話が聞こえてたな」

 

「くだらないことで悩んでるんじゃないわよ」

 

「くだらぬだと?」

 

クロの言葉にアンジェリカは反応する。

 

「ならば答えろ。貴様らは美遊様と世界どちらを「「美遊!!!」」

 

アンジェリカの言葉を最後まで聞かずに、クロはアンジェリカの背後に転移し、空也は一瞬でアンジェリカとの間合いを詰める。

 

クロの回し蹴りと、空也の一振りはアンジェリカに当たり、アンジェリカは距離を取る。

 

「迷うまでもないっての!」

 

「覚えて置け、真性年増ツインテール!」

 

「人間(女の子)の命は世界より重いんだよ(のよ)!!」」

 

「………度し難い」

 

あっさりと世界より美遊を選んだ二人に、イリヤは悩んだ。

 

本当にその選択が正しいのか…………………

 



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イリヤの選択

アンジェリカが飛ばして来る剣をクロと空也は弾きつつ、アンジェリカに攻撃するも、攻撃はすべて盾の様に展開される剣で弾かれ、攻撃が届かずにいた。

 

それでも、二人は攻撃の手を止めることなく、攻撃を仕掛ける。

 

「数でこのカード(ギルガメッシュ)に挑むなど、愚昧だな」

 

射出される巨大な剣を躱し、軌道をずらしたりとクロと空也はなんとか食らいつく。

 

そんな中、イリヤは意識を入れ替えられ、敵として戦っている凛とルヴィアを元に戻そうと、鳩尾にあるマークを攻撃する。

 

だが、投げたナイフは受け止められ攻撃は当たらなかった。

 

「受け止められちゃった………!」

 

『想定以上に感知・反射能力が高いです……!』

 

「なんであの二人あっち側に寝返ってるのよ!」

 

「ううん、寝返りじゃなくて……」

 

『意識を別物に入れ替えられているのです!』

 

「てか、その髑髏の仮面がサファイアなのか……」

 

「ていうか、それアサシン?」

 

「攫われるとき、一枚だけ咄嗟に隠し持って………」

 

「え?隠し持つって何処に?」

 

「え!?そっ……その……ぱん……!」

 

限定展開(インクルード)。無名・剣」

 

背後から凛が無名・剣を出し、斬り掛かって来て、それをクロは受け止める。

 

「そんな長いだけの獲物……!」

 

だが、無名・剣はクロの剣をすり抜ける様に動き、クロを斬ろうとする。

 

「だあぁっ!?」

 

クロは咄嗟に凛の足の間をすり抜け、攻撃を躱し、イリヤの隣に立つ。

 

「クロ!」

 

「なによあれ!?」

 

『使い捨ての宝具を出すカードのようです!威力自体は大したことありませんので、確実に対処をして……』

 

「宝具?嘘でしょそれ?あんなの剣ですらないわ」

 

「鳩尾のマークを叩けば元に戻るんだけど……」

 

「今じゃそれも難しいな」

 

「すっかり手駒として使われちゃってるわね。情けないったらありゃしないわ」

 

「……ねぇ、クロ、空也」

 

イリヤは少し躊躇いながらに、クロと空也に先程の選択に付いて尋ねた。

 

「本当に良いの?美遊を助けるって選択で………」

 

「……どう言う意味よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。また私が寝ている間にいろいろお転婆しちゃったんだね、エリカ」

 

ダリウスは美遊を監禁している塔で、エリカを膝の上に寝かせていた。

 

「いやぁ、まさかイリヤスフィールと零夜の二人を拉致してくるとは思わなかったよ、エリカ」

 

「ぎゅッ……!」

 

ダリウスはそう言って、エリカの尻を叩く。

 

ダリウスにとって、エリカの行動は自分の物語が崩壊しかねない行為だった。

 

ダリウスが叱るには十分だった。

 

「え、エリカは……美遊お姉ちゃんがよろこぶとおもって………」

 

「私が一番許せないことが何か分かるかい?それはね物語の破綻だ」

 

そう言って、さっきよりも強く叩く。

 

「この物語の完遂の為!俺がどれだけ心血を注いできたと思ってる!もうすぐだ!あと、僅か二節で神話が成ると言う段階で!破綻させたいのか!?人類を滅ぼしたいのか!?よりにもよってお前が!」

 

「止めて!」

 

エリカを何度も何度も強く叩かれる光景に美遊は我慢できず、エリカを庇う。

 

「もう、止めて………!」

 

「いだくないよっ……美遊お姉ちゃん……!エリカ……ぜんぜん………!へいき……だもん………!」

 

こんな時でも、強がるエリカ。

 

すると、ダリウスは先程までの形相が嘘の様に思える笑みを浮かべる。

 

「……………よく耐えたね、エリカ。大丈夫、パパはもう怒ってないよ」

 

その時、外から戦闘音が聞こえて来る。

 

「まったく……アンジェリカめ。うちの庭で好き放題荒らしてくれるねぇ……決戦にはまだ早いと言うのに……それに、コウも零夜と戦っているみたいだ……二人がここで死んだらさて、どうするか………」

 

「止めて!二人には手を出さないで!もし二人が死んだら私も!」

 

「おっと、自害などさせないし、できないよ」

 

ダリウスは美遊の頭を掴み、言う。

 

「しかし、それほどまでに二人が気になるのなら自分の目で見て来るがいい」

 

そう言われ、美遊が目にしたのは地面に倒れるイリヤとクロ、空也、そして、その周りに突き刺さる幾多の刀剣だった。

 

「ご覧、君の為に傷付き戦う友の姿だ」

 

「イリヤ!クロ!空也!」

 

「あー無駄無駄。君の意識を飛ばしてるだけだから、声は届かないよ」

 

「理解できんな」

 

アンジェリカが倒れるイリヤ達を見つめ言う。

 

「何故、美遊様を選べるのだ。世界より個人。人一人の価値はそれ程まで高くあってはならない」

 

「……情って奴なんじゃねぇのか?」

 

空也は刀を杖代わりに立ち上がり言う。

 

「人の気持は理屈なんかじゃないのよ……」

 

クロも干将・莫耶を手に、フラフラになりながらも立つ。

 

「と言ってもお前には分からないだろうな」

 

「そんなものは忘れた。本当にそんなものに価値があるのか?世界を滅ぼす選択をさせるようなものに?それが人だと………それが無ければ人ではないとお前らは言うのか?そんなものの為に、全人類を犠牲にするのが人間なのか?」

 

「……………ま、俺たちは間違ってるんだろうな」

 

「そうね……それでも……私達は世界を……正義を選べない」

 

「お前達と同じよう人達………知ってるぜ。大勢を救うために少数を切り捨てる……そんな正義の味方になろうとした人だ」

 

「でも、その人達は少数の為に、全てを捨てたわ。間違ってると知りながら、正義の味方じゃなく人間になる道を選んだ……」

 

「その少数とは貴様たちか?」

 

「そう………と言いたいところだけど」

 

クロは背後にいるイリヤを見て、アンジェリカに答えた。

 

「妹と弟の方よ」

 

「世界なんて知るか。俺たちはそんな大層なもん背負うことなんて出来ない」

 

「そうね。でも………それでも!」

 

「「自分の家族と友達なら背負える!」」

 

クロは干将・莫耶を強化し、空也も長刀を構え、走り出す。

 

「認めぬ。滅亡を選ぶ意志が人間などど!」

 

(もういい……!もう止めて、クロ、空也!私の所為で誰かが傷付くのはもうたくさん……!どんな言葉を繕っても……人一人の命が世界より重いわけがない……!)

 

美遊はその光景を見て、涙を流す。

 

(こいつ相手に遠距離戦は絶対に不利だ!)

 

(戦法は一つ!バゼットがやったように………)

 

((距離を詰める!))

 

クロと空也は襲い掛かる宝具の剣を弾き、躱しアンジェリカとの距離を詰める。

 

そして飛んで来た一本の巨大な剣を躱し、踏み台にして跳躍する。

 

二人はアンジェリカの頭上を取った。

 

((捕えた!))

 

二人は勝ちを確信した。

 

「違うだろ。そのカードはそう使うのではない」

 

だが、次の瞬間、クロと空也の剣はアンジェリカには届かず、空間を置換され、剣先は自分達の背後に出現し、自らの背中を切りつけた。

 

空也は咄嗟に、身体と腕を動かし、背中を軽く切る程度に収まったが、クロは間に合わず、深々と背中を斬ってしまった。

 

「最も警戒していたカードだったが……こんなものか」

 

クロに向かって剣を出し、射出仕様とする。

 

「クロ!」

 

空也はクロを助けようとするが、アンジェリカが剣を地面に突き刺し、空也の行く手を阻む。

 

剣がクロに向かって撃ち出される。

 

その瞬間、イリヤがクロを突き飛ばし、クロの身代わりとなった。

 

「イリヤ!?」

 

(うそ………そんな………)

 

イリヤが殺されるのを見て、美遊は取り乱す。

 

「大馬鹿!あんたが身代わりになってどうすんのよ!?起きなさいよ、イリヤ!」

 

「クロ!後ろだ!」

 

「後を追え」

 

空也の声が間に合わず、新たな剣がクロに向かって射出される。

 

すると、何者かがクロの手を引っ張り、後ろへと引き摺る。

 

クロを助けたのはイリヤだった。

 

「イリヤ!?どうして……!」

 

「大丈夫。あれは………」

 

イリヤが見つめるイリヤの遺体は砂の様に消えていいった。

 

妄想幻像(サバーニーヤ)……アサシンの分身能力か」

 

「クロ、聞いて。私………クロと空也の選択に賛成できない」

 

「は、はぁ!?」

 

イリヤのその言葉にクロは声を上げた。

 

「なによそれ!?アンタにとって美遊はその程度なの!?見損なったわ!」

 

「美遊は!美遊は………絶対に失いたくない大切な人……!だけど、それはクロも空也も同じ!」

 

クロはその言葉に口をつぐみ、言い返せなかった。

 

「クロが私を心配してくれてるように、失いたくないし、失わせたくない人がいる……きっと世界中の誰もが……!だから私は選べない。美遊の為に、全てを犠牲にするなんて………!」

 

(………そう。それが正しい答え……世界を救える可能性の前に個人の感情なんて何の意味も無い……これが聖杯として、生まれてきてしまった私の運命……運命の鎖は……決して外れは………)

 

美遊はイリヤの言葉が正しいと思いながら、自身の悲しみを抑え込んだ。

 

運命と言う名の鎖が自身の身体を絞めつけて来る。

 

それを感じながら………

 

「選べないよ。だから私は…………美遊も世界も両方救う!!」

 

イリヤはその言葉に自身の決意と覚悟を乗せ、言い放つ。

 

その瞬間、美遊は自身の身体を絞めつけていたうんめいの鎖が音を立てて、崩れて行くのを聞いた。

 

「どっちかしか選べないなんて始めから間違ってる!」

 

「世迷言を」

 

「聖杯なんでしょ!?人の願いを!希望を託すのが聖杯なんでしょ!?だったら………どうして全ての幸せを願わないの!!!」

 

その叫びにクロと空也は笑みを浮かべ、もう一度武器を構える。

 

「なにそれ?アテがあって言ってるの?」

 

「やり方なんて分からないよ!でも!」

 

「でも、そんな夢みたいな願いこそ聖杯に託すべき願いなのかもな………」

 

「そうね。むしろ、それ以外に何を願えばいいのかって話よね」

 

「…………うん!」

 

そう言って笑う二人に、イリヤも笑って頷く。

 

その時、城の城壁が破壊され、そこから誰かが投げ飛ばされ、庭園の木をなぎ倒す。

 

「な、なに!?」

 

「どうやら向うは片付いたようだな………」

 

アンジェリカは分かっていたかのように言う。

 

「城の中で曽良島零夜とコウが戦っていたのは知っている。戦う術を持たない曽良島零夜など………もはや敵では………なっ!?」

 

するとアンジェリカは目を見開き、驚きを口にする。

 

砂煙が晴れ、木を背に倒れていたのは零夜ではなくジャックザリッパ―を夢幻召喚(インストール)したコウだった。

 

「イリヤの言う通りだよ」

 

その時、ある人物の声が響く。

 

「一を犠牲に全を救う。確かにそっちの方が効率はいいだろうし、確実だろう」

 

裏地が赤で裾に銀のラインが入った黒いコート。

 

そして、ズボンのベルトを通す穴にはチェーンが通され、チェーンには数個の指輪が通されていた。

 

「それでも俺達両方を救う道を選ぶ!」

 

壊れた城壁からウィザードとなった零夜が現れた。

 




次回は零夜に何があったのかになります。


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父の手紙

父さんから俺宛の手紙。

 

父さんは俺が平行世界であるここに来ることを知っていたのか?

 

震える手で封筒に入っていた手紙を取り出し、開く。

 

『零夜へ

 

この手紙を読んでると言う事は、恐らくお前はイリヤちゃん、そして仲間と共にこの世界、平行世界へと来ているのだろう。

 

平行世界に来たのは事故ではあるが、お前達は美遊ちゃんと言う中身の入った聖杯を救うために、ここ、エインズワース邸へと来ている。』

 

当たっている………

 

まるで、最初から俺たちがここに来るのを知っていたのか様に記されている。

 

『お前は今、最初から自分たちがここに来るのを知っていた様だと思っただろう。

 

それもそのはず。

 

私はその光景を実際見ているからだ。

 

私が、いや、曽良島一族が生涯を賭けて“平行世界干渉”に関する魔術。

 

その研究の副産物として私には未来予知に近い力を持っている。

 

だが、今はこの話をしている暇はない。

 

話を戻そう。

 

私は、アインツベルン家から逃げ出す時、深手を負って死を待つだけの身だった。

 

だが、どう言う訳か、平行世界への移動が偶然にもあの時出来てしまった。

 

一族の歴代当主たちが重ねに重ねた術式が私の代でとうとう完成の一歩手前まで来れていた。

 

そして、この平行世界へと流れつき、そして、エインズワース家の当主と出会った。

 

彼は私の妻の亡骸を手厚く埋葬してくれた上に、私の怪我の手当てまでもしてくれた。

 

だから、私は恩返しのつもりで、彼等の人類救済の手伝いをすることにした。

 

だが、人類の救済に、聖杯である美遊ちゃんを犠牲にすると言う事は私にはできなかった。

 

昔の私ならあるいはその選択も取っただろうか、今の私には出来ない。

 

だからこそ、私は違う手段で人類の救済法を考えた。

 

しかし、見つからなかった。

 

さらに、奴は俺の行動を裏切りと言い、殺しに来た。

 

この手紙を書いてる今でさえ、傷が深い所為で意識がもう殆どない状態だ………

 

だが、私は一つの望みに賭けることにする。

 

私が最後に見た予知。

 

それは、お前達が笑っている未来だった。

 

私はそれを信じ、お前達に賭ける。

 

最後にお前に三つ託すものがある。

 

一つは曽良島一族の集大成ともいえる魔術刻印。

 

もう一つは、新たなウィザードリング。

 

そして、お前達の力となってくれる者たちの力だ。

 

どんな選択を取っても構わない。

 

お前はお前の信じる選択肢を取りなさい。

 

そして、いつまでも皆と………イリヤちゃんと仲良くな。

 

お前の成長した姿をこの目で見れないのが心残りだ。

 

さらばだ……愛しているぞ、零夜

 

父より』

 

手紙は其処で終わり、最後の一枚に文字書かれていた。

 

「曽良島家39代目当主、曽良島晋也からその息子、曽良島零夜へ。曽良島の名の下に、当主の証である魔術刻印を授ける」

 

その文字を読むと、手紙が光り輝き、手紙から刻印が浮かび上がり、俺の右腕にくっ付く。

 

「これが魔術刻印………」

 

右腕を眺めつつ、俺は箱を開ける。

 

そこには俺が持っていた指輪と似た指輪が入っていた。

 

そして、指輪と一緒に納められていたある物。

 

それを手に握りしめ、俺は涙を流していた。

 

「ありがとう……父さん。父さんは…………最後まで人類を救う事を諦めなかったんだ……………信じるよ。父さんが俺を信じてくれたように、俺を信じてくれた父さんを信じる」

 

指輪を指に嵌め、部屋を出た。

 

「そこに隠れてたか」

 

アイツの背後に立ち、俺はアイツを見つめる。

 

「大人しくしていろ。一瞬で終わらせてやる」

 

「いや、終わらない。俺は全てを救う。美遊も人類も!だからこそ、俺は戦う!」

 

指輪を掲げ、叫ぶ。

 

「転身!」

 

指輪が光り、俺は再びウィザードへとなる。

 

「何故力が!?」

 

「スタイルチェンジ!ダークネス!」

 

ダークネススタイルになり、闇の剣を振るう。

 

「くっ!ま、前よりも力が…………!」

 

凄い………前から指輪の力が凄まじい物だと理解していたが、魔術刻印を継承してからその出力が上がった感じがする。

 

剣を持つ手に力を込め、そのままソイツを吹き飛ばす。

 

吹き飛ばす際に、イリヤの声が外から聞こえた。

 

『美遊も世界も両方救う!!』

 

イリヤらしい結論だ。

 

なら、俺もその選択に乗っかろう。

 




なんか無茶苦茶になってる気もしますが、その辺は見逃してほしいです。

辻褄はあってると思うので、問題は無いと思ってます


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三つ目の力

俺は城壁から飛び出し、イリヤの隣に降り立つ。

 

「イリヤ、待たせたな」

 

「レイ………おかえり」

 

「ああ……ただいま。空也とクロも随分と心配かけたな」

 

「全くだ」

 

「心配された分、ちゃんと返してよね」

 

『ははハははハハは!!』

 

俺たちが笑い合っていると、空からダリウスの声が響き渡る。

 

『ん?いや、失敬笑い方の加減がイマイチ分からなくてね。いや、しかし見事な啖呵だったよ。イリヤスフィール。傲慢で感情的で非論理的で、だけど、とても胸を打つ。そして曽良島零夜。見事、曽良島晋也の隠し工房を見つけ、力を得た。そうでなくては、聖杯(美遊)を求め続けれもらわねば困る』

 

「何を!」

 

「まるで見てたように言うわね」

 

『見ていたさ、美遊と一緒にね』

 

『美遊お姉ちゃん、泣いてるの?かなしいの?』

 

『涙は……悲しい時にだけ出るものじゃない。聖杯として死ぬのが私の運命だと思ってた。逃れられない運命だと思ってた……でも!』

 

『何の保証もない理想論に、握れば消える様な儚い希望にすがるのかい?』

 

『私はもう絶望したりしない!』

 

力強い、美遊の言葉。

 

その言葉に俺たちは自然と笑みがこぼれた。

 

Moving(感動的だ)………!聞こえたかな、イリヤスフィール!曽良島零夜!君たちの意志がお姫様に希望をもたらしたよ!どうか精一杯戦ってほしい!私から美遊を奪って見せろ!希望こそ最悪の毒だ』

 

そんな俺達をあざ笑うかのように、ダリウスはそう言う。

 

「言われなくたって……!」

 

「アゴヒゲ剃って待ってなさい、おっさん」

 

「あの二人を倒したら次はアンタの番だ」

 

「その前に、イリヤ。アサシンを解除(アンインスト)しておけ」

 

「え?どうして?」

 

「今の俺だから分かるが、その英霊弱すぎる。ノーマルな方がまだマシだ」

 

「ううっ………そんなよーな気はしてたけど………」

 

イリヤはアサシンのカードを解除し、ノーマルな状態に戻る。

 

サファイアを使って転身してる所為か、その姿はルビーを使った時よりも、際どい物になってる。

 

「うわっ!何その恰好!美遊のもそうだけど、サファイアの方がエッチな趣味してるのね!」

 

クロはイリヤに近づいてそう言う。

 

そして、近づくと同時に、イリヤの足のカードホルスターにあるカードを忍ばせる。

 

「サファイア、会話は出来るか?」

 

空也がサファイアに尋ねる。

 

『………!はい、状況を整理します。白の前庭にいて交戦中。敵は置換魔術に特化。空間の繋がりを操る為正面からやり合うのは危険です。凛様とルヴィア様は意識を置換されていますが、鳩尾付近の基印を叩けば、元に戻ります』

 

「何を話している?」

 

アンジェリカがサファイアの行動に問いを掛けるが、それを無視し、会話を続ける。

 

「凛とルヴィアは想定外だったけど……一番の問題だったイリヤと零夜は勝手に脱出してくれたのは幸いか」

 

「それに零夜はウィザードの力を取り戻した」

 

「なにを………いや」

 

「最低限情報は集まったわ。まずはおバカペアの救出。タイミングは………」

 

「誰に話してる!?」

 

そこまで聞いて、俺は理解した。

 

空也とクロが何をしようとしているのかを。

 

「任せるわ」

 

「了!」「解!」

 

アンジェリカの後ろから海斗とバゼットさん、ギルが現れる。

 

海斗は凛さんを、バゼットさんはルヴィアさんの鳩尾の基印を叩き、ギルは鎖でアンジェリカを拘束する。

 

「海斗君にバゼットさんにギル君!?一体何処から!?」

 

「その布は……!?」

 

「イリヤさんが落してくれたのを拾ってくれてありがとう。でも、王の財宝(ゲード・オブ・バビロン)にしまっちゃダメだよ。これの所有権は僕にあるんから僕の王の財宝(ゲード・オブ・バビロン)で取り出せてしまう。この……ハデスの隠れ兜はね」

 

ギルの持っていた身隠しの布は帽子の形となり、ギルはそれを被る。

 

「はへっ!?か……体が戻っ……!」

 

「きゃあああああ!!なんですのこのトップレス衣装は!?」

 

凛さんとルヴィアさんは意識が戻り、いつもの様子に戻る。

 

ルヴィアさんの衣装は何故か上半身が破れており、ルヴィアさんは慌てていた。

 

『イリヤさーん!心配しましたよー!』

 

「ルビー!」

 

ルビーも現れ、イリヤに飛びつく。

 

「陽動……!始めから五人で侵入して隠れていたのか……!」

 

「気付くのが一瞬遅かったわね」

 

クロは弓を構え、アンジェリカを狙っていた。

 

「撃たせん!」

 

アンジェリカが、クロに向かって剣を放つ。

 

だが、剣はクロに当たる前に消える。

 

「学習しないね、君」

 

ギルがクロに当たる前に、全て回収したため、剣での射出攻撃は意味が無かった。

 

「なら防ぐまで!」

 

今度は盾を出し、クロの攻撃に構える。

 

すると、クロは照準をアンジェリカから逸らし、上へ向ける。

 

「悪いわね、おばさん。アンタなんかに構ってられないわ」

 

クロが狙っているのは美遊が幽閉されている塔だ。

 

「くそっ!させるか!」

 

それに気付くと、コウと呼ばれたアイツが、ナイフを手にクロに攻撃を仕掛ける。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

闇の剣を手に、ナイフを受け止め、弾き飛ばす。

 

「退け!解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

 

あの対人宝具が放たれた。

 

「ディフェンス!」

 

デイフェンスリングで障壁を張り、攻撃を受け止める。

 

障壁は破壊されたが、アイツの視界を一瞬だけ遮ることが出来た!

 

その隙に背後に回り、剣を振る。

 

「チッ!」

 

ナイフでガードをし、アイツは距離を取る。

 

そして、クロの放った一撃は美遊が幽閉されている塔に当たり、塔を破壊する。

 

「よし!」

 

それを見て俺はガッツポーズをする。

 

「貴様ら………これで済むと思うなよ!」

 

コウは先程よりも強い殺気を放ち、クラスカードを出す。

 

三○一秒の永久深淵(アプネイックアグリー)

 

またしてもあの夜のロンドンの結界が張られる。

 

「本気で来る気だな。なら、俺も本気で行かせてもらうぞ」

 

そう言って、俺は懐から一枚の()()()()()()を取り出す。

 

「………なんだ、それは?」

 

「クラスカードだよ。ランサーのな」

 

「違う!俺が聞いてるのはそうじゃない!それは…………()()()()()クラスカードだ!?」

 

「誰が作っただって?決まってるだろ………俺の父さんだよ」

 

スタイルチェンジリングにカードを重ね、叫ぶ。

 

夢幻召喚(インストール)!」

 

黒い貴族服を身に纏い、手には一本の槍を握りしめ、俺はコウの前に立つ。

 

「お前は自分の英霊の正体を俺に教えた。だから、俺もこの英霊の正体を教えよう」

 

槍を回転させ、槍の穂先を向ける。

 

「ヴラド三世。ワラキア公国の王であり、当時最強の軍事力を誇っていたオスマン帝国の侵攻を幾たびも退けた大英雄だ」

 




三つ目の力、それはクラスカードでした。

ランサー以外にも、セイバー、アーチャー、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカー、ルーラーを用意しています。

各クラスカードの英霊が誰なのかは今後分かってくるのでお楽しみに。

ランサーはヴラド三世にしました。


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亡霊の贋作者

零夜がコウに寄って結界に閉じ込められるのを見て、イリヤは焦ったが、零夜を信じ、自分は今出来ることをしようと塔に向かって飛ぶ。

 

イリヤに続いて、海斗も飛び、美遊の元へと向かう。

 

「やはり子供は嫌いだ……どいつもこいつも段取りをわきまえない……!!」

 

ダリウスはイリヤ達を睨みつけ言う。

 

「待たせてごめんね、助けに来たよ、美遊!」

 

イリヤはルビーでいつもの魔法少女の姿になり、空から美遊を見下ろしていった。

 

海斗は素早くランサーのカードを出し、夢幻召喚(インストール)をする。

 

ゲイ・ボルクを手に、ダリウスへと攻撃をする。

 

イリヤもセイバーを夢幻召喚(インストール)し、エクスカリバーを手にダリウスに斬り掛かる。

 

だが、ダリウスは二つの宝具を両手で、素手の状態で受け止めた。

 

「効かないんだよ!そんなものは!」

 

「いや、これが狙いさ」

 

海斗は笑い、イリヤの手からエクスカリバーを受け取り、ゲイ・ボルグとエクスカリバーでダリウスの両手を抑える。

 

そして、イリヤは隠し持っていたサファイアを使いキャスターのカードを限定展開(インストール)した。

 

その光景に、ダリウスは目を見開く。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!」

 

イリヤは手にした短剣をダリウスの胸へと突き立てる。

 

「あらゆる魔術を初期化する」という特性を持つ最強の対魔術宝具。

 

「ダリウス様!?」

 

アンジェリカはダリウスに予想外の事が起きたのを悟り、急いで駆けつける。

 

「やった!あらゆる魔術を破戒する刃!この聖杯戦争を執行してるのがアイツなら、うまくいけば儀式を丸ごと無に!」

 

「………いや、何かおかしいぞ!」

 

空也はその異常を感じ取り声を出す。

 

「ぐ………お……あ……ァァアア……!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?」

 

ダリウスは声を荒げ、そして、体から崩れ出す。

 

「一体……何が……」

 

海斗はその光景を見つめ、そう呟く。

 

「……よく……も……!」

 

すると、ダリウスの身体から誰かが倒れる様に落ちる。

 

(な……何が起きてるの………!!?)

 

イリヤはダリウスから人が出て来たこと、そして、城が岩山へ変わっていく光景に目を疑った。

 

「城が岩山に!?」

 

「いや、戻っているんだ!」

 

「ちょっとちょっと!展開についていけないんだけど!」

 

「誰か説明をして下さいませ!後、上着を貸してくださいまし!」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐ凛とルヴィアを無視し、クロたちは会話を続ける。

 

「ダリウスが岩山と城を置換していたってわけね」

 

「何という規模の魔術行使……!これを個人で……!」

 

(何か嫌な予感がする……)

 

「クソが……クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソガキが……!」

 

ダリウスの身体から出て来たその者はおぞましい目でイリヤと海斗を睨みつける。

 

『イリヤ様!海斗様!美遊様を!』

 

「そ、そうだ!今はとにかく美遊を最優先に「な!に!を!してくれてんだテメェェー!!」

 

美遊を助けに向かおうとした瞬間、ベアトリスが現れ、イリヤの行く手を阻む。

 

「遅いぞ。今まで何をしていた?」

 

アンジェリカはベアトリスにそう言って、ダリウスから出て来たその者に布を被せる。

 

「賢者モードってやつ?言わせんなっての。つーかテメェこそなんだよ、このザマはよ!」

 

『美遊様!』

 

「おあっ!?」

 

アンジェリカとベアトリスが話をしてる隙に、サファイアは飛び出し、美遊の元に向かう。

 

「サファイア!」

 

『ようやく……再会できました……マスター!』

 

美遊がサファイアを手に取る。

その瞬間、美遊は転身し、上空へと移動したイリヤと海斗と再会を果たした。

 

「美遊!美遊!」

 

「イリヤ……!」

 

イリヤと美遊は抱きしめ合い再会を喜んだ。

 

「海斗……来てくれてありがとう……!」

 

「礼なんて良いよ。俺は何もしてない。全部イリヤと零夜のお陰だ」

 

「空中でイチャコラしやがって……トンボがテメーら!」

 

ベアトリスはハンマーを投げ付けるが、海斗がハンマーを弾き、二人を守る。

 

「零夜やイリヤが頑張ってくれたんだ。今度は俺が頑張る番だ。お前ら二人まとめて掛かってこい」

 

海斗は槍を手に、レイジングスタイルへとなって挑発する。

 

「何を……見下してやがる……たかが器が俺を……!」

 

ダリウスの身体から出て来たその者は、美遊を睨み言う。

 

だが、美優は強い決意を持った目でその者を見つめ返す。

 

「さようなら、エインズワース」

 

「美優お姉ちゃん」

 

美遊にエリカが声を掛ける。

 

「何処か行っちゃうの?」

 

「エリカちゃん………私はね、やっぱり誰かを犠牲にすることはしたくない。例え大きな理由があったとしても、皆が助かる道があるのなら、それがとても細い道でも、私はそれを選びたいんだ」

 

「クッッソくだらねぇ!道徳の授業かよ!マジでそんなお花畑理論信じちゃう訳!?美遊さんよ!」

 

「信じられる、イリヤは友達だから」

 

「………あたまイッてる方だわ、これ」

 

「頭イッてるのはテメーじゃねぇのか?」

 

「ああん!?」

 

「本当は脳内お花畑でぬいぐるみが友達なメルヘンだろ?ま、お前みたいなやつ、頼まれても友達になりたくないしな。意志の無いぬいぐるみが可哀想だぜ。意志があれば、お前から逃げれるのによ」

 

海斗はベアトリスを見下し、挑発する。

 

海斗の言葉にベアトリスはキレ、今にも飛び掛かりそうだったが、それをアンジェリカが静する。

 

「ともだち……エリカも……美遊お姉ちゃんのともだちだよね?」

 

無垢な瞳でエリカは美遊を見つめる。

 

美遊は理解していた。

 

エリカはエインズワースから見た世界しか知らない。

 

その為、悪意も害意も無い。

 

それでも………エリカはエインズワースの庇護下でしか生きられないことを………

 

「エリカ……アナタは……友達じゃない」

 

「そう……なんだ……ちがうんだ……やぱりエリカは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタたちの目論見ももうおしまいよ!」

 

「ご自慢の結界も破戒された!美遊から手を引け!」

 

クロと空也は岩山の頂上に入るエインズワースの者たちに向かって叫ぶ。

 

「そうすれば不毛な戦いをする必要ももうないわ!」

 

「……はっ!引けるわけ……ねぇだろ……」

 

「……お忘れですか、美遊様」

 

アンジェリカは上空の美遊に声を掛ける。

 

「貴女の兄君の命は我々が握っていることを」

 

その言葉に美遊はハッとする。

 

「止めて!お兄ちゃんは!「残念ね」

 

美遊の言葉を遮りクロが言う。

 

「それもお生憎様だ」

 

~エインズワース邸地下水路~

 

「これ、早くしないと置換解けちゃって生き埋めになっちゃうんじゃないの?なんだか地味な使い走りさせられてる気がするよ。でもまぁ、僕も君には一度……直接あってみたかったから」

 

ハデスの隠れ兜で身を隠したギルは美遊の兄が囚われている地下牢獄の扉を破壊する。

 

「……だ……誰だ…!?」

 

「起きなよ、出所だ。お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロと空也の言葉を聞き、ダリウスの身体から出て来たその者は笑い声を上げた。

 

「……ク……くはハ……ははハははハハは!!』ははははっはははあはははあああはははは!!はははははハハハハはハハハハハハハハハハハ!!…………なんて笑うのも疲れたんだよな」

 

声が急に若い男の声に変わり、全員が顔色を変える。

 

「笑えねぇ、笑えねぇよ。まったくもって、くだらねぇ。たかが器が、未来を語るな。お前らの言葉も、意志も、感情も、ただの材料だ。無駄なんだよ」

 

その者は手を上空に上げると、頭上に巨大な黒い箱が姿を現した。

 

「なっ……何ですのアレは!?」

 

「解るわけないでしょ!?」

 

「解らないが確実にアレは………人の手に余るものです!」

 

巨大な黒い箱に誰もが言葉を失った。

 

その光景を表現するだけの言葉が見つからなかった。

 

いや、無かった。

 

「お前らに選択肢などない。選択したつもりでいるだけだ足掻こうと、抗おうと、結末は一つに収束する。俺が作る神話の結論に」

 

「なんなの……これ……どこからこんな………!?」

 

イリヤは困惑し、そう言う。

 

「まさか……ずっとここにあったの?城の上空に……私の頭の上にずっと隠されていた・・……!」

 

「美遊!何か知ってるのか!?アレはなんだ!?ダリウスは一体、何者なんだ!?」

 

海斗は美遊に尋ねると、美遊は口をゆっくりと開いた。

 

「………………………あれは、ダリウスなんかじゃない」

 

「「……え?」」

 

その言葉に、またしても二人は言葉を失った。

 

「ダリウスはとっくに死んでいる。あそこにいるのはその死を偽造し、亡霊にしがみついた贋作者。彼は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュリアン・エインズワース。ダリウス・エインズワースの息子」

 



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悪を成す正義の味方

「息子………ジュリアン……?」

 

イリヤはジュリアンと呼ばれたその人物を見つめる。

 

見たことある顔と、聞き覚えのある名前に気付く。

 

そして、ジュリアンとは、ぬいぐるみに意識を移されて居た時、ベアトリスの部屋で見た抱き枕に張られていた写真の青年であることに気付いた。

 

(あのジュリアン様!?写真より目つき悪い!?後、なんで制服!?)

 

『どうしましたイリヤさん!?変質者を見た様な顔して!』

 

イリヤは混乱になりながら、ベアトリスを見る。

 

ベアトリスはそわそわとしながらジュリアンをチラ見していた。

 

「偽物じゃねぇ………私はダリウスだよ」

 

その時、イリヤの背後の空間にダリウスだった者が現れ、イリヤに攻撃をする。

 

持っていたクラスカードが落ち、その内の一枚、キャスターのカードがジュリアンの手に渡す。

 

「イリヤスフィール。俺はお前を赦そう。聖杯(美遊)に余計な知恵と力を与えたこと。俺達の家を壊したこと。父の概念置換をも破戒したこと。そんなことは些事に過ぎねぇ。…………だが、覚えて置け。俺の神話を壊そうとするなら、俺が定めた結末を覆そうとするのなら……………この手でお前を消す!」

 

ジュリアンはそう言い、キャスターのカードを握り潰し、砕いた。

 

「キャスターのカードか!?」

 

「捕まらないで!ジュリアンは聖杯戦争のルールマスター!カードを作ることも消すことも自在……!」

 

「クロ!空也!お前らは絶対にジュリアンに近づくな!」

 

クロと空也はアーチャーとアサシンのクラスカードを核として現界している。

 

ジュリアンに捕まれば、カードを破壊され、消されてしまう。

 

そう思った海斗は二人に近づかないように言う。

 

クロは、弓を使い、ジュリアンの頭上にある黒い箱に攻撃をするが、黒い箱は傷一つ付かず、びくともしなかった。

 

「クロ!」

 

イリヤと美遊、海斗はクロと空也の近くに降り立つと、美遊は申し訳なさそうにする。

 

「よ、久しぶりだな」

 

「私もハグしてあげたいけど、それ処かなさそうね」

 

クロと空也は溜息を吐き、そう言う。

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「美遊お姉ちゃんが、私は友達じゃないって……なんで?ずっとなかよくしてたのに……お世話してたのに……あたまなでてくれたのに………」

 

エリカは悲しそうにスカートの裾を掴み、そう言う。

 

「ンなのたりめーだろ!」

 

そんなエリカにベアトリスは声を荒げる。

 

「エリカは美遊の精神がぶっ壊れないようにあてがっただけの話し相手役だろ!役なんだよ役!美遊からにしてみれば、あたしら全員まとめて適役だろうが!」

 

「誰が……発言を許可した?」

 

ジュリアンはベアトリスの背後に回り、背後から体を貫く。

 

性格には空間を置換しベアトリスの心臓を鷲掴みにした。

 

「あ……ハッ……心臓(ハート)鷲掴みってやつ……?」

 

ベアトリスは心臓を掴まれながらも、嬉しそうにし、座り込む。

 

「エリカ、お前の味方は、家族は兄であり父である俺一人だけだ。他にはもなにもねぇんだよ。他人(ひと)は滅びるために生まれた。世界(ほし)はもう壊れている。選択肢(みらい)は行き詰った。だからこそ、俺が必ず救って見せる。エインズワースの悲願は、俺とお前で成し遂げる。……良いな」

 

「…………………エリカ、ぜんっぜんかなしくないよ!」

 

エリカは涙を拭きながら笑って言う。

 

「エリカにはお兄ちゃんがいるもんね!エリカがんばるよ!お兄ちゃん、しんじる」

 

その言葉と共に、エリカの頭上に、黒い箱から黒い泥の様な何かがあふれ出し、降り注ぐ・

 

「神話を一節進める。逃げるのなら好きにしろよ。夢より儚い希望を抱いてたな。だが、エインズワース(おれたち)の暗闇は、地の獄まで覆い尽くす」

 

クレーター内部を覆う黒い泥から黒い人型の何かが生まれ出す。

 

「泥が人型に!?」

 

「いや……ただの人じゃない!?」

 

「まさか……冗談でしょ………」

 

「冗談なんかじゃない………一つ一つ………英霊だ!」

 

泥の英霊たち武器を手にイリヤ達に襲い掛かる。

 

「下がって!」

 

バゼットは戦う術の無い凛とルヴィアを下がらせ、英霊に攻撃を仕掛ける。

 

クロと空也も泥の英霊相手に攻撃を仕掛けるもその強力な力に押される。

 

「くっ……こいつら、雑魚じゃない!」

 

「全方位……斬撃(シュナイデン)!!」

 

イリヤは二人の背後から迫る英霊に向かい、攻撃を放つも、攻撃は泥の英霊たちが手にする宝具によって防がれた。

 

「効いてない!」

 

『本気でヤバイですよ……!』

 

「一体なんなのよコイツラ!」

 

「くっ……!」

 

「バゼット!?」

 

「逃げてください!時間を稼ぐ……事すら難しい!!数も、質も。対処不能です!」

 

大量の泥の英霊に囲まれ、全員が英霊相手に戦いを繰り広げるが、その数を見れば、どちらか不利かは一目でわかる。

 

「セイ……ハイ……」

 

その時、一体の泥の英霊がそう呟くのを美遊は聞いた。

 

その声は次第に大きくなり、口々に泥の英霊が言い出す。

 

「この泥の英霊共は、聖杯を得られなかった亡者だ」

 

ジュリアンは美遊の背後に現れ、そう言う。

 

「セイハイを追い求める意志だけの獣。聖杯が見つかるまで無人層に増え続け、この星を絶望で埋め尽くしていく………解るな?この災害を止めたいのなら俺の手の中へ戻れ。自分の意志でな」

 

ジュリアンは手を差し出してそう言う。

 

戻りたくは無かった。

 

覚悟を決め、全てを救うつもりでいた。

 

だが、今も下で戦うイリヤ達を見て、美遊はその覚悟が崩れそうになっていた。

 

美遊はゆっくりと震えながら、ジュリアンの手を掴もうとしていた。

 

ジュリアンは笑みを浮かべ、その手を取ろうとする。

 

『いけません、美遊様!!ここで戻ってしまっては、全てが水泡に……美遊様!』

 

サファイアの声も届かない。

 

そして、美遊とジュリアンの手が触れ合う。

 

だが、触れ合う直前で、美遊の手は誰かに捕まれた。

 

「そんな奴の手を握るな、美遊」

 

美遊の手を掴んだのは海斗だった。

 

美遊の後ろに立ち、美遊を抱きしめる様に手を掴んでいた。

 

「チッ!どいつもこいつも…………そんなに人類を滅ぼしたいか?」

 

「おい、ジュリアン。はっきり言わせてもらうぞ。俺は、正直、人類の救済なんかどうでもいい」

 

海斗のその言葉に、ジュリアンは目を僅かに見開く。

 

「人類が滅ぶのは数百年後の未来の事だろ?だったら、俺達には関係ない。数百年後どころか、百年後には俺たちは誰一人生きてない。俺たちが生きても無いのに、人類を救う意味なんてあるか?俺は無いと思うね」

 

「………自分勝手だな。自分に利益が無いから動かないとはな」

 

「未来の事なんか未来の人間に任せればいい、現在(いま)を生きる俺たちは現在(いま)を精一杯生きればいいんだよ。…………でもな、イリヤと零夜はそれでも、美遊も人類も両方救うって言った。そして、クロも空也も、美遊もその希望を願った。なら、俺もその希望を願う!全を救うために、一を切り捨てる考えを、俺は否定してやる!」

 

美遊を抱きしめる腕の力を強くし、海斗はジュリアンを睨みつける。

 

「そうだ……美優。もう……お前は、その男に縛られなくていい」

 

「えっ……?」

 

一人の青年が全員の背後から現れ、その青年の姿に全員が驚いた。

 

「状況は金髪の少年から聞いたよ。ありがとう、妹の為に、こんなになるまで戦ってくれて………」

 

「う……嘘……!?どうして貴方が……!?」

 

「妹……?どういう……………まさか……!」

 

肌が所々褐色になり、髪の毛は一部が白髪になった青年は。ボロボロの身体を動かし、岩山の頂点に立つジュリアンを見上げる。

 

「後は俺が始末をつける。それが兄としての務めだ………投影(トレース)―――――開始(オン)!」

 

その瞬間、泥の英霊は一瞬にして吹き飛ばされた。

 

「何!?バゼット!?」

 

「いや、違う!バゼットじゃない!」

 

遠くで戦っていたクロと空也は戦闘が突如行われた場所に目を移す。

 

「あれは……」

 

「……どういうことだよ………」

 

「あれは……!?」

 

イリヤとクロ、空也は目を見開き、驚きに口を開けた。

 

「ジュリアン、やっぱりお前を倒さない限り、美遊は幸せにはなれないみたいだ。お前が全の為に一を殺すと言うのなら、俺は何度でも悪を成そう!」

 

その青年、衛宮士郎は手に投影して作り出した射殺す百頭(ナインライブス)を手に、ジュリアンを見据える。

 

「覚悟はいいか、正義の味方」

 

「衛宮士郎……!」

 

士郎に向け、泥の英霊たちは弓を手に構える。

 

「エミヤ……」

 

「シロウ……?」

 

イリヤとクロは頭が追い付かず、士郎の名前を言う。

 

「お兄ちゃん!」

 

美遊の言葉と同時に、一斉に矢が放たれる。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

士郎は熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影し、矢を防ぐと新たな投影を始める。

 

投影(トレース)開始(オン)!………………全行程(ロール)破棄(キャンセル)虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)!」

 

イガリマを投影し、ジュリアンのいる岩山へとぶつけ、道を作ると士郎はそこを一気に駆け上がる。

 

「形だけのハリボテとは言え、新造兵装まで造れるとはね。なんて無為で不毛で無価値なんだろう。偽物と贋作が争うなんて」

 

ギルはその光景を見つめ、前髪を掻き上げる。

 

「お、お兄ちゃ……!」

 

イガリマを駆け上って来る士郎に、イリヤは声を掛けようとする。

 

だが、士郎はイリヤをスルーし、美遊の前に立つ。

 

「美遊、守ってやれなくてごめんな。今度こそ、終わらせてくる」

 

美遊の頭を撫で、士郎は再び走り出す。

 

自身の敵、ジュリアンの元へ。

 

「どこまで出しゃばる気だ、衛宮士郎……!俺の神話に、てめぇの役なんざねぇんだよ………!!」

 



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極刑王

硫酸の霧が覆う夜のロンドンの街。

 

そこで俺は、コウと一騎打ちをしていた。

 

短剣と槍がぶつかり合い、火花を散らし金属音が響く。

 

「何故だ!何故人類の救済を拒む!?」

 

「決まってる!美遊は友達だからだ!友達を助けるのに理由なんかいるか!」

 

「やはりお前は美遊を惑わす!外に居た長髪の奴と、白い服の魔術師も、黒い肌の女と、白い髪の女も全員殺す!」

 

槍を弾かれ、短剣を俺の心臓に向かって突き出して来る。

 

バク転をし、短剣を躱すと、槍を地面に突き刺す。

 

すると、地面から杭が現れ、コウを襲う。

 

「くっ!?」

 

コウは杭の攻撃を食らいながらも、短剣で杭を破壊しながら接近してくる。

 

短剣を槍でいなしながら、俺はコウに問う。

 

「お前はどうして美遊を犠牲に世界を救おうとするんだ!」

 

「何?」

 

「お前の発言はどうもおかしい!美遊と一緒にいたいから俺達を排除する。だが、世界を救うために美遊を犠牲にする。明らかに矛盾してるだろ!お前は一体何を考えているんだ!?」

 

「………俺は……俺は……美遊を………うっ!」

 

するとコウは急に頭を押さえ、蹲る。

 

「お、おい………?」

 

「俺は……美遊を……救う……人類の……救済……朔月家……神稚児……士郎兄ちゃん……!」

 

耳を疑った。

 

コイツは今、士郎兄ちゃんって…………まさか!

 

「おい!お前は本当な何者なんだ!士郎さんと関係があるのか!答えろ!」

 

「俺は……俺は………!うああああああああ!!」

 

頭を抱え苦しむように倒れる。

 

そして、次の瞬間、コウは物凄い形相で俺を睨みつけて来る。

 

「殺す!」

 

コウはスピードを上げ斬り掛かって来る。

 

捌き切れない…………!

 

「終わりだ!聖母解体(マリア・ザ・リッパー)!」

 

俺の身体を切り裂く。

 

「………ようやく近づいたな」

 

短剣を素手で受け止め、槍を突き刺す。

 

槍は肩を貫き、コウにダメージを与える。

 

「くっ………この程度、すぐに治療してやる」

 

「いや、もう終わりだ」

 

その瞬間、辺りの雰囲気が変わる。

 

「これは……!」

 

向うも感じたらしく驚く。

 

「護国の鬼将。特定の範囲を"自らの領土"とし、領土内の戦闘において、領主はAランクの「狂化」に匹敵する高い戦闘力を得る。この結界内は既に俺の領土だ。そして、領土となったこの場所だからこそ、使える宝具。その名は、極刑王(カズィクル・ベイ)!」

 

宝具を発動する。

 

すると多くの杭がコウに襲い掛かる。

 

コウは領土から現れる杭を躱し、俺に接近してくる。

 

俺は次々に杭を出し、コウの進路を防ぐ。

 

「くそっ!これならどうだ!」

 

コウは一本の医療用ナイフを出し、俺に投げて来る。

 

それを新たな杭を出現させ、防ぎ、コウに攻撃する。

 

「無駄だ。領土内出せる杭の数は最大2万本。さらに、杭は破壊されても、魔力供給源さえあれば再生しほぼ無限に生み出し続けることが出来る。加えて、出現する杭はお前の進路を狭め、後退を難しくする」

 

「何!?………くそっ、しまった!」

 

コウは自分が追い込まれたことを知り、慌てだす。

 

「そして、この槍で一撃を与えた事実があれば“串刺しにした”という概念が生まれ、対象の心臓を起点として突き刺さった状態で杭を顕現させることが出来る」

 

「く………くそがああああああ!!」

 

「これで終わりだ!」

 

コウの心臓から杭が現れる。

 

そして、杭の先には穴の開いたアサシンのカード。

 

アサシンのカードは杭に貫かれたまま、塵になって消滅した。

 

「がはっ!」

 

俺が宝具の発動を止めると、コウの心臓から突き出ていた杭が消え、コウが地面に倒れる。

 

心臓から杭が出た瞬間、夢幻召喚(インストール)が解除されるギリギリで、医療スキルで治療したらしくまだかろうじて生きていた。

 

「お前にはまだ聞きたいことがたっぷりある。それまで大人しくしてるんだな」

 

結界が崩れ、外に戻る。

 

「な………なんだよ、これ………」

 

結界から外に出た俺が見たのは、黒い人型の英霊相手にイリヤたちが戦ってる姿だった。

 



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一人ではない

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を駆け上るシロウの前にアンジェリカが立ちはだかる。

 

「通さん、貴様だけは」

 

「奇しくも逆だな、あの時と」

 

「ほざくな。汚らわしい偽物(フェイカー)が」

 

アンジェリカは王の財宝(ゲード・オブ・バビロン)を発動し、剣を射出する。

 

「お互いさまだろ、贋作屋(カウンターフェイター)……!!」

 

士郎はアンジェリカが射出した剣を全て投影し、ぶつけ、相殺した。

 

「相も変わらず、高速投影に寄る同種剣の相打ち狙いか。分かっているはずだ、それでは追いない」

 

アンジェリカはそう言って、再び大量の剣を射出する。

 

投影(トレース)開始(オン)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

 

打ち出される数多の宝具を士郎は全て投影し、次々と打ち落としていく。

 

(誘っているんだろ?あれをもう一度使えと、そして自滅せよ………と。あるいは、今度こそ正面から圧し潰す………か)

 

「泥の英霊が足場(イガリマ)を登り始めたぞ。退路は無い…………いや、もとより貴様に行く末などない」

 

「それも解っているさ……!とうに捨て身、命の使い道は…………もう決めてある!―――――――I.am.the.bone.of.my.sword(体は剣で出来ている).」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

「………なんだエリカ?」

 

エリカは黒い箱から流れ出す泥を浴びながらジュリアンに尋ねた。

 

「このドロドロ、多分ずっと出て来るよ。ドロドロがちきゅういっぱいに広がっちゃったら、今生きてる人達はどうなるのかなぁ……」

 

「お前はそんな心配しなくて良い」

 

ジュリアンは泥の溜まった地面を歩き、エリカに近づく。

 

美遊(せいはい)が戻れば止まる。戻らないのなら、このまま最終節を迎えるだけだ。……何度も言わせるな。世界が絶望で満ちても人は必ず生き残る。たとえ形を変えても、存在を変えてでも。余計なことは考えるな」

 

「…………………人ってそんなに強いのかなぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎が何らかの魔術を行使しようとした瞬間、士郎は強烈な痛みを感じ、右腕を抑え、蹲る。

 

「ぐっ………ああッ………!」

 

右腕はまるで浸食されるかの様に褐色の肌へと変わっていき、右腕の殆どが褐色の肌へと変わる

 

(身体が先に音を上げちまった……!当たり前か……魔術回路を先取りしただけで、入れ物はポンコツのまま………!)

 

「もはや発動すらできんか。ならばもう見るべきものはない。退場せよ。貴様の出番は終わっている。今度こそ、存在ごと消してやろう」

 

「……………神話とか、出番とか……………さ……………お前らのおままごとにはうんざりだよ。そこをどけ、三文役者!」

 

士郎は再び剣を投影し、走り出す。

 

(やる事は同じだ!そうさ、元より俺に出来ることなんて一つだけ……!致命傷以外は構うな!どうせ数でも質でも敵わない!一つでも多くの宝具を落とし、一歩でも多く、前へ!)

 

だが、アンジェリカは空間の置換をし、士郎の背後に剣を出現させた。

 

「愚直なだけでは、我ら(エインズワース)には届かぬ」

 

「くっ!投影(トレース)!」

 

士郎は背後を向き、同種の剣を投影し、打ち落としていく。

 

だが、アンジェリカは前にも宝具を展開する。

 

「終わりだ」

 

士郎の背に、宝具が迫る。

 

(死ねるか……!こんなところで………俺が死んだら、誰が美遊を……!)

 

剣が士郎に当たる。

 

その瞬間、クロが士郎と宝具の間に立ち、剣を叩き落とす。

 

「君は……!?」

 

「美遊の事とか、投影魔術のこととか、聞きたいことは山ほどあるけど………ひとまず今は、手を貸すわ、お兄ちゃん」

 

クロは干将・莫耶を手にアンジェリカに向く。

 

「貴方達が何なのかは分からないけど……今だけは邪魔しないで」

 

イリヤはセイバーを夢幻召喚(インストール)し、登って来る泥の英霊と対峙する。

 

(本当は問いただしたい。別人だとしても、その胸に飛び込みたい……けど今は!)

 

「ここは通行止めだよ!」

 

(お兄ちゃん)の邪魔はさせない……!)

 

「俺たちもいるぞ」

 

「三人で食い止めるぞ」

 

海斗はレイジングスタイルで、空也も刀を手にイリヤの隣に立つ。

 

「いいや、五人だ」

 

速射(シュート)!」

 

極刑王(カズィクル・ベイ)!」

 

美遊の放った魔力弾と、零夜が出した杭が泥の英霊を襲う。

 

「零夜!美遊!」

 

「援護は任せて!私も戦う!戦える……みんなと一緒なら!サファイアと一緒なら!」

 

「零夜、その恰好はなんだ?」

 

「説明は後だ。とにかく、俺から半径1km以内は任せろ。イリヤ達は俺が討ち漏らした敵に集中してくれ!」

 

零夜は槍を手に、次々と杭を出現させていき、泥の英霊を串刺しにしていく。

 

「軍勢の流れが変わりました!貴女達は今のうちに撤退を!」

 

バゼットは流れが変わったことで、余裕が出来、凛とルヴィアを引かせようとする。

 

「何を寝ぼけていらっしゃるの?」

 

ルヴィアはバゼットから借りたコートを着直し言う。

 

「宝石は無いわ、意識は乗っ取られるわ、衛宮君(トーヘンボク)のそっくりさんまで出て来るわ……正直全然ついて行けてないんだけどね」

 

「ええ、本当ですけど……子供たちがまだ戦ってますわ」

 

「それを見捨てて大人が逃げるわけには」「いきませんわ!!」

 

凛とルヴィアも覚悟を決め、戦場に残る決意をする。

 

それを見た士郎は嬉しそうに目を閉じる。

 

「ああ……そうか、もう一人じゃなかったんだな……美遊」

 

「一人じゃないし、囚われのお姫様でもなかったわね」

 

「参ったな。兄の威厳が無くなりそうだ。いや、しかし、あの破廉恥な恰好は一体……兄として注意すべきか………」

 

「恰好以外にも、好きな相手もいるわよ」

 

「なに!?それは本当か!?」

 

「ええ、それも相思相愛。あそこの白いフード付きのコートを着てる彼が相手よ」

 

士郎は戦っている海斗を見つめ、嬉しそうな、そして、複雑そうな笑みを浮かべる。

 

「兄として喜ぶべきか、いや、一度あの彼と話を………」

 

そんな士郎を見てクロは頭を掻きながら笑う。

 

「話さなきゃいけないことが山ほどあるんだけど……まずは……」

 

「ああ、まずは……この雑魚を蹴散らさなきゃな!」

 

干将・莫耶を投影し、士郎はクロと共に、アンジェリカを見る。

 

「おぞましいな、偽物(フェイカー)が二人、吐き気を催す光景だ。等価交換の原則に反し、真に迫る偽物を瞬時に作り出すその魔術。エインズワースに対する侮辱に他ならん」

 

アンジェリカは王の財宝(ゲード・オブ・バビロン)から出した宝具を、置換魔術で上下を繫ぎ、宝具を延々と落し続けた。

 

「なにあれ……!?」

 

「空間を……上下につないでループさせて………宝具を加速させてるのか!?」

 

士郎の読みは当たっていた。

 

加速させ、射出スピードの上がった宝剣は眼にも止まらぬ速さで、士郎の脇腹を掠った。

 

(早過ぎる……!……迎撃は…………不可能!)

 

それを一瞬で判断した士郎とクロは熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影し、宝具を防御する。

 

莫迦の一つ覚えか(one-track-mind)

 

アンジェリカはそう呟き、次々と加速させた宝具をぶつけ続ける。

 

「極限まで研ぎ澄ませ」

 

士郎はクロに教える様に言う。

 

「一手一手が致命。一瞬一瞬が必死。余分な思考は殺せ。俺たちが今見るべきは生と死の境界。読み切れ。そして……勝ち取れ……五秒後の生存を!」

 

士郎とクロは干将・莫耶を強化し、そして、新たに投影した干将・莫耶を投げつける。

 

(一刀一刀全てが必殺。回避も防御も許さない斬撃の重ね当て。この英霊の絶技!さらにその二重!だから、必ず!)

 

「無駄だ」

 

士郎の放った斬撃は空間の置換により躱わされる。

 

「死ね」

 

アンジェリカは手にした剣を士郎に振り下ろそうとする。

 

そして気付いた。

 

クロが居ないことに。

 

「だから、お前は必ず、最も信頼する置換魔術(守り方)に頼る!」

 

そして、アンジェリカの背後、虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)の裏側から、強化された干将・莫耶が付き出され、アンジェリカにダメージを与える。

 

「なっ……!?裏側から……!?空間置換の意識外………!……そうか、こいつは……転移の使い手……!」

 

(不思議、頭の中が澄み渡ってる。どうしてなの?(お兄ちゃん)を見てると……この英霊(ちから)の使い方が分かる………!)

 

「お前の宝具は見飽きた!道を譲れ!英雄王!」

 

そして、上と下から士郎とクロによって投影された大量の剣がアンジェリカを襲う。

 

「フェイ………カー…………!」

 

アンジェリカは怨みを吐くかのようにそう言うと、身体から“ギルガメッシュ”カードは弾き出される。

 

「やった!」

 

その光景を見ていた零夜は思わず声を上げる。

 

そして、他の全員も士郎とクロの勝利に声を上げた。

 

「辿り着いたぞ!ジュリアン!」

 

士郎は強化した干将・莫耶を手に、ジュリアンの頭上から襲い掛かる。

 

(言葉はもういらない!お前の正義(ただしさ)と俺の正義(我儘)は絶対に相容れない!俺は、美遊(いもうと)の為に、世界を捨てる!それが悪だと言うのなら………!)

 

腕に力を込め、ジュリアンに剣を振る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメですよ、先輩」

 

次の瞬間、泥の中から、泥の英霊とは違う何かが現れ、強化された干将・莫耶の内、白い方、干将を素手で掴む。

 

その瞬間、干将の所有権は士郎ではなくなり、奪われた干将で士郎はそのまま切り裂かれた。

 



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ギルの半身

「(奪われた………干将・莫耶……自らの手で投影(うみだ)した愛剣が……一対の別ちがたい夫婦剣が………あの手に触れられた瞬間、俺の物ではなくなった……!)おま………えは………いったい………」

 

士郎はその存在が掴んだ強化された干将に切り裂かれ、そのまま倒れる。

 

それを見るや否や、美遊は走り出す。

 

「美遊!」

 

その後を、海斗も走り出し、追い掛ける。

 

美遊は走りながら、アンジェリカの身体から出た“ギルガメッシュ”のクラスカード.を手早く拾う。

 

「クラスカード!!“アーチャー(ギルガメッシュ)”!夢幻召喚(インストール)!」

 

ギルガメッシュを夢幻召喚(インストール)し、士郎を襲ったソレに攻撃を仕掛ける。

 

だが、夢幻召喚(インストール)した瞬間、サファイアが弾き飛ばされる。

 

にも関わらず、夢幻召喚(インストール)は解除されず、美遊は気付かないで、攻撃を仕掛ける。

 

「な、サファイアが解除された!?」

 

『海斗様、あの英霊(カード)……何かおかしいです……!』

 

海斗はすぐに嫌な予感を感じ、サファイアと共に足を速める。

 

「非道いです先輩、他の人に手を出すなんて。先輩にするのもされるのも私じゃなくちゃダメなのに」

 

「そ、そんな……はずは……!お前は………まさか………!」

 

「私、ずっと待ってたんですよ。先輩に(あい)してもらえるのを」

 

そう言う、ソレの頭上から美遊は宝具を展開する。

 

「お兄ちゃんから離れろ!」

 

雨の様に放たれる宝具。

 

宝具は寸分の狂いなく、全てソレに向かう。

 

「お兄ちゃん!」

 

「来るな……!美遊……!逃げ……ろ……!そいつは……!」

 

「何なんですか?」

 

「な……!?」

 

「私と先輩がお話してるのに……どうして知らない女が入って来るんですか?」

 

美遊は驚いた。

 

何故なら、あの大量の宝具をソレは全ていなし、揚句所有権を奪った。

 

「単なる無刀取りとは違う……!所有権ごとの強奪能力……!?…………下郎が……(オレ)の財を盗むか………っ!?」

 

美遊は驚き、口を押さえる。

 

自分でない何者かが、自分の口で言葉を発した。

 

「無数の財を持つ英雄王。それらを複製する偽物(フェイカー)。結構な事だな。いくらでも自慢の宝具を出して見せろよ、こいつはその全てを奪う……………いい加減目障りなんだよ、衛宮士郎。………叩き出せ」

 

「はぁい、ジュリアン様!」

 

ベアトリスがハンマーを手に士郎を殴り飛ばす。

 

士郎はそのまま岩山から飛ばされ、下へと落下していく。

 

「まずい!落ちるわ!」

 

「私が……!」

 

「ジュリアン様に近づくんじゃねぇ!」

 

士郎を助けに行こうとしたイリヤを邪魔するように、ベアトリスがハンマーを虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を殴りつける。

 

すると、虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)は叩き折れ、倒れる。

 

「はぁん?何だこりゃ、ハリボテかよ」

 

中身が空洞の虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を見て、ベアトリスは詰まらなさそうに言う。

 

「剣が倒れる!?」

 

「ここにいるとまずい!早く移動しないと!」

 

「待って!お兄ちゃんが!」

 

倒れる剣の上から落ちて行く士郎を見つめ、慌てるイリヤ達。

 

Es.ist.gros(軽量) Es.ist.klein(重圧)

 

「ふっ!」

 

士郎が落ちる前に、ルヴィアは魔術で凛の身体を軽量化し、重力を操作する。

 

そこに、バゼットの腕力を合わせ、凛はとてつもないスピードで士郎を助け出す。

 

その光景に、イリヤ達は安心し、離れる。

 

「貴様……私ごと………」

 

倒れる剣の上で、アンジェリカはベアトリスを見つめる。

 

「あんたを助けろとは言われてねぇんで。じゃーな、用済みのお人形さん」

 

そう言われ、アンジェリカは剣と共に、落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美遊は宝具をいくつも出し、投げつけ戦うが、ソレは投げ出される宝具を全て奪い、弾きを繰り返す。

 

「なんなの貴女は!?今はお兄ちゃんを助けないと……!」

 

「そう言う事だったんですね。後でお仕置きしなきゃ」

 

「何を言って!?」

 

「最近会ってくれないと思ったら、他の女の所に行ってたなんて、可哀想な先輩。騙されてるんですね。先輩を理解できるのも、愛せるのも、殺せるのも…………わたしだけなのに」

 

狂ってる、いや、壊れている。

 

美遊はそう判断し、得体のしれないソレに恐怖をする。

 

「(逃げながら戦える相手じゃない……!なら……なら………!)…………仕方あるまい。(ころ)してやろう、人形」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛さん!?」

 

「士郎さんは!?」

 

凛の所に降り立ち、イリヤと零夜は凛に、尋ねる。

 

「無事……とは言えないわね。傷が深すぎる……ショック死してないのが不思議なぐらいよ……ああもう!治癒魔術は苦手だってのに!」

 

凛が悔しそうに言うなか、泥の英霊たちはイリヤ達へと向かって集まって来る。

 

「空也!俺たちで食い止めるぞ!」

 

「凛!士郎を頼む!」

 

「随分好き勝手言うわね………なんとか繫いで見せる!時間稼ぎお願い!」

 

「う、うん!」

 

「……って言ってもね。こんなの……一分も保たないわよ」

 

クロは集まる大量の泥の英霊を見つめ、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美遊!」

 

『美遊様!』

 

海斗とサファイアは美遊に追いつき、後ろに並ぶ。

 

「美遊、そのカードは危険だ!早く解除を!」

 

海斗は美遊の肩を掴み、叫ぶ。

 

「五月蝿いぞ、羽虫が」

 

「なっ……!?」

 

次の瞬間、海斗の肩を一本の剣が貫く。

 

「がっ!?」

 

『海斗様!?』

 

海斗は肩を抑え、美遊を見つめる。

 

「ほう……今度のは幾分面白い器ではないか」

 

(なに……これ……!?)

 

「人形遊びには飽いた所だ」

 

(口が……身体が勝手に……何か、巨大な……!)

 

「恐れ入ったぞ、雑種ども。我が力と財をこうまで怪我して辱めるとは、王たる(オレ)に働いた狼藉と蛮行、その生の全てを以って償ってもらおう!!」

 

「(巨大な意識に乗っ取られる……!?)」

 

美遊は自分が危険なカードを使用したことに気付いた。

 

だが、すでに遅く、その巨大な意識によって、自分の身体が乗っ取られていくのを理解した。

 

「…限界だな」

 

「!」

 

ジュリアンは美遊の背後に現れ、空間を置換し、美遊の背中から、身体の中を掴む。

 

そして、そこにある“アーチャー(ギルガメッシュ)”のカードを握りしめる。

 

「その英霊は箱を通じて汚染しきれなかった自我を持つ。お前の脆弱な自我など大海の一滴にも満たない。優秀な駒だったが仕方がない。完全に意識が食いつぶされる前に、このカードも……廃棄する!」

 

「……雑種風情が!?」

 

カードにひびが入り、砕かれそうになる。

 

その瞬間、一本の鎖が伸び、ジュリアンが作った空間から美遊の中に入り、カードを奪う。

 

「鎖!?」

 

「本当に情けないよね。偽物に負けて、それでもまた利用されて、でももう、十分遊んだでしょ」

 

鎖を手元に戻し、鎖の持ち主、ギルは“アーチャー(ギルガメッシュ)”のカードを手にする。

 

「おかえり、僕の半身。ご返却ありがとう、延滞料金は、安くないよ?」

 



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叛逆の騎士

「実際の所、君たちが何をしようとどうなろうと、僕にはどうでもいい。だけど、(オレ)は少し、怒ってる」

 

ギルはカードを手に、ジュリアンを見下し言う。

 

「アレの参戦はイレギュラー過ぎる、カードも使われる前に、殺せ」

 

「はぁい、ジュリアン様!」

 

ベアトリスが叫び、ギルに襲い掛かる。

 

ギルは鎖を手に、そして、ベアトリスも見下す様に反撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美遊!?大丈夫か!?」

 

海斗は肩の怪我を治療しながら美遊に駆け寄る。

 

「あ、危なかった……!まさか精神を侵食してくる英霊だなんて………!」

 

『美遊様!ここは危険です!転身して脱出を!』

 

美遊はサファイアを手に、転身し、海斗と共に脱出しようとする。

 

「分かってるんですよ。先輩の所に行くんですね、そんなことさせるわけないじゃないですか」

 

ソレは鎧の背中から鞭の様なモノを出し、美遊に攻撃を仕掛ける。

 

海斗は剣を創り、それを弾き、防御するも。

 

剣はあっさりと砕かれ、体を切りつけられる。

 

「がっ!?」

 

「海斗!?」

 

『物理保護でも相殺しきれません……!早く逃げて……!』

 

「先輩褒めてくれるかな?」

 

逃げようとする海斗たちに、ソレは容赦なく攻撃を繰り返す。

 

海斗はなんとか応戦しながらも、美遊を庇う。

 

「私、こう見えて得意なんですよ。害虫を駆除するの」

 

ソレの攻撃で、海斗がバランスを崩す。

 

そして、頭上から攻撃を落とされる。

 

美遊はサファイアを構え、物理保護と魔術障壁を張り、守る。

 

限定展開(インクルード) 両立する螺旋の右手(シャドウハンド・オブ・コード)

 

するとジュリアンはアサシンのカードを出し、宝具を使ってソレと美遊、海斗の三人を拘束する。

 

「これは……影の手……!?」

 

『動けません……!』

 

「誰ですかぁ?お掃除の邪魔するなら貴方から先にころ「そいつは俺の妹なんだ」

 

そこに居たのはジュリアンではなく、士郎が居た。

 

その光景に美遊と海斗は驚く。

 

「……………あ、そうなんですか。ごめんなさい、先輩。私……」

 

「今日はもう帰るんだろ?」

 

「えっ………?でも、部活が………」

 

「弓道場は改築工事だって言ってたじゃないか」

 

「あっ……そうでした。最近忘れっぽくて私ったら………」

 

「良いんだよ、また明日な」

 

「はい、さようならです先輩。また……明日……」

 

ジュリアン(士郎)と話すとソレは、急に大人しくなり、そのまま泥の中へと消えて行った。

 

そして、ジュリアンの身体は光り出し、元の姿に戻る。

 

「へぇ、そうやって操縦してるんだ。酷い事するよねぇ」

 

ギルは光の階段を降りながら、ジュリアンに近づく。

 

「何なんだこの鎖!?力帯(メギンギョルズ)で倍化した腕力でも、千切れねぇ!」

 

ベアトリスは鎖に寄って拘束されていた。

 

「対神兵装か」

 

「蛮神の偽物でも、僕の鎖は仕事をしてくれるみたいだ。それにしても、分からないな。君の望みは人類の救済じゃないのかい?なのに、今やってることは真逆に見える。正義の味方にしては随分自暴自棄じゃないか。君の本当の望みは「お兄ちゃんのジャマをしないで、ギルガメッシュ」

 

ギルの言葉を遮り、エリカが言う。

 

「わたしにはもうわからないけど、お兄ちゃんが……みんなを……すくってくれるの。わがら、わたしはなにも考えなくていいんだって。わたしはただ……頑張ってピトスをあけるの」

 

その言葉に、ギルは表情を変える。

 

その表情は驚きに満ち溢れていた。

 

「君は………そうなのか………?ならこれは………!はっ……ははは……はははハはハハハハハ!!なんてことだ!そういう軸か!なるほど、この世界は詰んでいる!どうしようもなく行き詰っているわけだ!放って置けばシステムダウンを起こした星に人類は殺され!かと言って、救いを求めれば泥に星を覆い尽くされる!まったく……哀れな行き止まりを作ってくれたんだ!ああ……君って女はまさしく………災厄の泥人形か」

 

ギルは憐れむように泥を被り続けているエリカを見つめそう言う。

 

「ネチネチいびりやがって………姑がテメェは!!」

 

ベアトリスはハンマーに雷を落とし、その衝撃で、鎖を振り払う。

 

「ジュリアン様と言葉責め楽しんでんじゃねぇ!」

 

「屋外で君とやり合うのは嫌だねぇ」

 

ギルはハデスの隠れ兜を使い、姿を消す。

 

「気が変わったよ、エインズワースのお兄さん。君たちの最後の悪あがき、見届けたくなった。どうか存分に踊って僕を楽しませてよ。結末は知れているけどね。ま、最後に可哀想な君にアドバイスをしておこう。一つだけじゃだめだ。君の望みを叶えるには…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下ではイリヤ達が泥の英霊相手に戦っていた。

 

士郎の治療が終わらず、零夜とイリヤ、空也、クロの四人が必死に、士郎と凛を守りながら戦い続けていた。

 

「キリがないわ!」

 

クロは巨大な剣を何本も投影し、それをバリケードの様にする。

 

極刑王(カズィクル・ベイ)!」

 

零夜は自分が槍で刺した泥の英霊の心臓から杭を作り、一気に十体の英霊を倒すも、千は超えると思われる泥の英霊の総数からしてみれば、塵の様な数だ。

 

「くそっ!全員突き刺すことが出来れば一気に倒せるのに!」

 

「奴等、無駄に硬いし強いから、それもできないな」

 

空也も燕返しや魔力の斬撃を繰り出すも、まっとく泥の英霊には効いていなかった。

 

「どうしよう、レイ……なんとか今は押し返せてるけど、次また総攻撃が来たら………!」

 

「凛!お兄ちゃんの治療はまだなの!?」

 

「全力でやってるわ!けど……!」

 

その時、一体の巨大な泥の英霊が手にしたハンマーでバリケードを破壊し、現れる。

 

「なんて巨大……!」

 

「弓を射るわ!足止めして!」

 

振り下ろされる巨大なハンマー!

 

「このっ!」

 

「くらえっ!」

 

イリヤはエクスカリバ―でハンマーを受け止め、攻撃をそらし、零夜は杭を出し、その泥の英霊の足を貫く。

 

「クロ!」

 

「今だ!」

 

だが、クロからの狙撃はなかった。

 

振り向くと、クロは足元の泥から生まれた英霊によって足を短剣で刺されてた。

 

「この野郎!」

 

空也は刀を振り、攻撃をするが、その英霊は泥の中へと消える。

 

そして、新たに背後から現れた泥の英霊によって、背中を斬られる。

 

「がっ!」

 

「空也!」

 

「クロ!」

 

クロと空也に気を取られ、イリヤと零夜は攻撃の手を止めてしまう。

 

そこに、ハンマーで殴り飛ばされ、イリヤは岩壁にぶつか、零夜は槍を手放してしまう。

 

「イリヤ!零夜君!」

 

凛が声を上げ、二人に駆け寄る。

 

『大丈夫ですか、イリヤさん!?レイさん!?』

 

「大……丈夫……!おに……士郎さんの……治療を続けて……!」

 

「まだ……戦えます………」

 

エクスカリバーを杖にし、立ち上がるイリヤと、槍を拾い、血を口から吐き捨てる零夜。

 

「………イリヤ、零夜君。クロと空也と一緒に逃げなさい」

 

そんな二人に凛はそう言った。

 

「え!?」

 

「な、なんで……!」

 

「私の稚拙な治癒魔術じゃ時間が掛かり過ぎるの………!このまま粘っても全員死ぬだけだわ!辛い選択させてしまってごめんなさい!迷ってる時間は無いわ!早く……………!」

 

凛は諦めていた。

 

諦めたくなかったが、諦めなければならなかった。

 

凛は手を握り、自身の力の無さを悔しがり言う。

 

投影(トレース)開始(オン)!」

 

「燕返し!」

 

そんな中、クロと空也は諦めてなかった。

 

クロは熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影し、先程のハンマーを持った英霊の攻撃を防ぎ、空也は横からやってくる英霊相手に秘剣を繰り出し続ける。

 

それを見て、零夜はランサーのカードを解除し、新たなカードを出す。

 

「イリヤ………覚悟は決まってるか?」

 

「………うん。凛さん、治療に戻って」

 

「!?アンタたち、話を聞いて……!」

 

「選択ならもうしたんだ」

 

「俺たちは美遊も世界も、両方救う!」

 

「だから、逃げない!」

 

「俺達は何も諦めない!」

 

そう叫び、零夜はクラスカード“セイバー”を夢幻召喚(インストール)する。

 

「クラスカード“セイバー”!夢幻召喚(インストール)!」

 

白銀の鎧を纏い、手には白銀の剣を携えた英霊。

 

剣の名は“燦然と輝く王剣(クラレント)

 

その英霊の名は、アーサー王の子にして、ブリテン崩壊の原因を作った者。

 

叛逆の騎士、モードレッド。

 

「行くぞ、イリヤ!」

 

「うん!」

 

イリヤ(アーサー王)零夜(モードレッド)が肩を並べ、聖剣と邪剣を構える。

 

約束された(エクス)―――――」

 

我が麗しき(クラレント)―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可哀想な君にアドバイスをしておこう。

 

一つだけはだめだ。

 

君の望みを叶えるには――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利の剣(カリバー)!!」

 

父への叛逆(ブラッドアーサー)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――聖杯がもう一つ必要だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜空に向かって伸びる、強烈な眩い光と、赤雷を見つめ、ジュリアンは何かを決意するかのような暗い笑みを浮かべるていた

 




セイバーはモードレッドです。

最初は沖田さんにしようと思ったのですが、どうせならアルトリアみたいに、ビーム的なものを撃てる英霊が良いと思い、モードレッドにしました。


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救国の聖女

イリヤと零夜の持つ聖剣と邪剣から放たれた一撃は見事、直線状の泥の英霊を吹き飛ばし、余波で周りの泥の英霊も吹き飛ばした。

 

すると、イリヤの身体からアーサー王(セイバー)のカードが弾き出され、姿が元に戻る。

 

「魔力……切れ……?」

 

『あの宝具は魔力消費量が大きすぎます!魔力供給には時間がかかりますよ!』

 

「けど隙は出来た!」

 

「凛!今の内にお兄ちゃんを安全な所へ!」

 

「………動かせば命の保証はないわ」

 

その言葉に、誰もが言葉を失った。

 

「今はかろうじて出血を抑えてる程度なのよ!せめて血管を繫がないことには…………!」

 

凛が叫ぶ中、泥は広がり、そして新たな泥の英霊を生み出した。

 

「どうやら無尽蔵に湧き出てくるみたいだな」

 

「泥を流し続けてるアレはどうにかしなきゃダメってことか…………」

 

零夜は泥を今だ流し続けている箱を見つめ上げて言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソガキが!どこに行きやがった!」

 

ベアトリスは消えたギルを探そうと、辺り一帯に雷を落としまくる。

 

「無駄だ。奴はとっくに逃げた。それより………エリカ。開くのか?開かないのか?」

 

「………ごめんなさい」

 

泥を浴びながら、エリカはジュリアンに謝る。

 

「人類は俺が救う。美遊(せいはい)を使って……それでも、お前は開けないのか?」

 

影の手に捕まれ、泥に引きずり込まれていく美遊を見ながらジュリアンは言う。

 

「………お兄ちゃんのことはしんじてる。あけようとしてる。でも………でも……あかないの………!」

 

「…………そうか、ならやはり…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに現れる泥の英霊に気を取られていると、一体の泥の英霊が地面に手を着く。

 

すると、地面から剣が現れ、イリヤ達を襲う。

 

イリヤは咄嗟に障壁を張ってガードするも簡単に障壁を破壊される。

 

「イリヤ!?」

 

零夜は咄嗟にイリヤを助けに向かおうとするが、突如飛んで来た魔力弾が直撃し吹き飛ばされる。

 

「何……!?一体……!!」

 

「この威力……普通の攻撃じゃない……!」

 

『まずいですよ!さっきので敵さんを怒らせたのか……宝具を使い始めました!』

 

泥の英霊たちは各々の宝具を構え、イリヤ達に向ける。

 

「ルビー!保護と障壁を……!」

 

『無理ですよ!そんなもので防げる攻撃じゃありません!!』

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)で防ぐ!?いや、発動前に狙撃で………ダメ!絶対に間に合わない………!!)

 

「下がれ!俺が防ぐ!」

 

零夜は新たなカードを取り出す構える。

 

「クラスカード“ルーラー”!夢幻召喚(インストール)!」

 

今度はルーラーのカードを夢幻召喚(インストール)する。

 

すると、零夜は鎧の上から青い外套を羽織、手には一本の旗を持った姿になる。

 

ジャンヌ・ダルク。

 

オルレアンの聖処女と呼ばれたフランスの救国の少女の英霊だ。

 

「行くぞ!我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

旗を天に掲げると、聖なる光がイリヤ達を包む。

 

その直後、泥の英霊たちから、一斉に宝具が放たれる。

 

しかし、宝具の攻撃は全て、見えない壁の様なモノで阻まれ通らずに済んだ。

 

宝具の嵐が収まると、零夜は何度も浅い呼吸をし、そして膝を付いた。

 

「レイ!」

 

イリヤが慌てて零夜に駆け寄ると、零夜の身体からセイバーとルーラーのクラスカードが放り出される。

 

「くっ………!ルーラーの力………凄いけど、今の一撃で魔力を殆ど持ってかれちまった………!」

 

「確かに、零夜のお陰で何とか何たっけど…………」

 

「最悪だ………第二波が来るぞ!」

 

零夜の今の宝具はあくまで攻撃を防ぐための物。

 

そのため、泥の英霊は倒せなかった。

 

「終わりか。最強の聖剣であろうと、邪剣であろうと、全てを守る光の加護であろうと、無限に湧く泥の英霊を消し去ることは出来ない。世界を救う………などと軽々しく口するんじゃねぇ」

 

その様子をジュリアンは岩山から見下ろしていた。

 

「………治療を続けるわ」

 

すると凛は何かを決意し、士郎の治療を再開する。

 

その言葉に、全員が驚いた。

 

「何驚いてるのよ。貴女が言ったんでしょ。何も諦めないって。なら、この程度の逆境吹き飛ばしなさい!」

 

凛に激励され、イリヤは頷く。

 

「ルビー!魔力供給の方はどう?」

 

『レイさんが時間を稼いでくれてお陰で、なんとか……それでも、一発が限界です!』

 

「なら、セイバーを限定展開(インクルード)で使う!クロ!私の後ろで、レイたちを護って!」

 

「い、良いけど、アンタは……」

 

「早く!」

 

クロはイリヤに言われた通り、イリヤの背後で熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影する。

 

イリヤは障壁を周りに出し、敵からの攻撃を自身の正面に集中させる。

 

「セイバー!限定展開(インクルード)!車線上の攻撃を全部、跳ね返す!」

 

エクスカリバーに魔力を送り込み、聖剣が光り輝く。

 

「足掻くのか?無限の絶望を前にして……」

 

「イリヤたちは……負けない!」

 

泥の中に沈みながらも美遊は声を上げる。

 

「何故そんな口が利ける?お前はただ下を向いて状況を受け入れるだけの器でしかない。何故理解しない?何故絶望しない?まさか奇跡が起こると思ってるのか?願望器の副作用で「違ぇよ!」

 

ジュリアンの言葉を遮り、海斗が声を開ける。

 

「そんなことじゃ……ない……俺たちは信じてるんだよ。イリヤの、零夜の思いを!アイツらは、どんな時でも前を向き続けた!だから、俺たちは信じてるんだ!お前の諦めた正義なんかじゃなく、我儘の正義を!」

 

海斗が叫ぶと同時に、二発目の光の一撃がイリヤは体中がボロボロとなり、息をするだけで精一杯だった。

 

イリヤの一撃で倒された泥の英霊の一人が、自身の宝具を地面胃突き刺す。

 

すると、地面から巨大な岩山が出現し、イリヤ達に向かう。

 

「い、岩山が!?」

 

『大質量で圧し潰す気です!魔力供給、間に合いません!逃げて下さい!』

 

「………逃げない!」

 

ルビーの言葉をイリヤは振り払う。

 

僅かな魔力を絞り出し、魔力砲を放とうとする。

 

「未来はいつだって……前にしかない!」

 

その瞬間、遠くから何かが飛んで来た。

 

飛んで来たそれは、有り得ないスピードでイリヤ達に迫る、岩山へと向かい、岩山を破壊した。

「こっ……これは……剣!?」

 

岩山が破壊された場所の中心には柄の無い一本の剣が刺さっていた。

 

「なんだ……あれは…!?」

 

「一撃で岩山を砕いた……」

 

「それだけじゃない!あの剣、泥の英霊も焼き払ったぞ!」



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涙の再会

「だめ……あれは……あれはだめ……!」

 

「エリカ……?」

 

エリカは突如降って来た剣を見ると怯え出し、その様子にジュリアンはエリカに声を掛ける。

 

「イリヤ!その剣だ!その剣を手にしろ!」

 

零夜は声を上げ、イリヤに言う。

 

「よく分からんが、その剣はあの泥に効く!それに、アイツらも驚いて混乱してるはずだ!やるなら今だ!」

 

「で、でも……この剣熱くて……!」

 

『私が持ちます!』

 

「ルビー!お願い!」

 

ルビーは羽の部分で剣を持ち、ステッキに固定する。

 

「行け!狙うは、泥の根源だ!」

 

イリヤは勢いよく飛び上がり、泥を今だに流し続けている箱へと向かう。

 

「駄目!来ないで!!」

 

エリカは声を上げ、イリヤに泥で攻撃をする。

 

だが、イリヤは手にした剣で泥を切り裂き、箱へと向かう。

 

「止まれ!その剣を……捨てろ、イリヤスフィール!両立する螺旋の右手(シャドウハンド・オブ・コード)!」

 

影の手がイリヤに襲い掛かるも、だが、その怪我の手を振り払う物が居た。

 

「悪いが、イリヤには手を出させないぞ」

 

零夜がセイバーを限定展開(インクルード)し、燦然と輝く王剣(クラレント)を手にしていた。

 

「行け!イリヤ!」

 

「やめて!やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて…………やめて!」

 

エリカの叫びをイリヤは無視し、そのまま剣を泥が出ている部分に剣を突き立てる。

 

「くうっ………ああああああああああ!!!」

 

叫び声をあげ、剣を振り上げる。

 

その一撃は流れ出る泥を止め、地面を流れていた泥を晴らした。

 

そして、泥の中にいた美遊と海斗も解放され、地面に転がる。

 

「ジュリアン、私の………ううん。私たちの勝ちだよ」

 

そして、二人を守るかのようにイリヤが立っていた。

 

ルビーが握っていた剣は腕になっていたが……………

 

「……………って、腕!?手ぇぇぇぇぇぇ!?剣が手に……ええええええええ!?」

 

「イ……イリヤ、落ち着いて……!」

 

騒ぐ二人を見ながら、零夜も三人の元に降り、剣を構える。

 

「それは……この世界の理……贋作を……わたしたちを断罪する………火の矢」

 

泥が落ち、姿を露にしたエリカはそう言う。

 

「そうか……ついに……見つかってしまったか」

 

ジュリアンはそう言うと、箱に触れる。

 

触れたとたん、箱は音を立て小さくなり、ルービックキューブサイズの大きさになった。

 

「ベアトリス、帯雷二つまで許可する」

 

「愛してるわ、ジュリアン様」

 

ベアトリスは雷をハンマーに帯びさせ、その威力を高める。

 

「おい、ジュリアン!」

 

海斗がジュリアンに呼び掛ける。

 

「どうして争おうとするんだ!?世界を救いたいのは俺たちも同じだ!両方助かる道を一緒に探したって「万に一つ、両方救う手があったとして………世界と美遊……それだけしか救えねぇんだよ」

 

「……どう言う……」

 

ジュリアンのその言葉に海斗だけでなく、全員が疑問を持った。

 

「召雷!」

 

すると、ベアトリスのハンマーが今まで以上に雷を帯で、凄まじい雷光を放つ。

 

二撃目(こいつ)をブッパすんのはあたしも初めてだぜ」

 

『まずいですよ!!この魔力凝縮、あの時受けた一撃の三倍です!』

 

「さ、三……!?」

 

「逃げて!少しでも遠く射程外に!」

 

「くぅっ………!!」

 

四人は慌てて岩山から飛び降り、離れようとする。

 

その時、イリヤと零夜は見た。

 

小さくなった箱をエリカが受け取り、今までとは違う存在感を放つ者になったのに。

 

「吹き狂え!元素の彼方まで!万雷打ち轟く雷神の嵐(ミョルニル)!!」

 

ベアトリスの叫びと共に、質量を持った雷の柱が四人に迫る。

 

「こっちに来るぞ!」

 

「逃げ………られない………!」

 

零夜はイリヤを、海斗は美遊を、二人を庇うように抱きしめ、ディフェンスリングを二人は構える。

 

だが、この程度で防ぎ切れないのは分かってた。

 

すると、遠くから何かが飛んできて、雷の柱を打ち消した。

 

雷の柱を打ち消したのは士郎だった。

 

ボロボロで瀕死の身体を無理矢理動かし、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を投影して、雷の柱を打ち消したのだった。

 

「イリヤスフィール、美遊。そして、晋也の息子、零夜。せいぜい束の間の夢を見るがいい」

 

ジュリアンは空間置換で、コウが寝かされてる場所に移動すると、コウを抱える。

 

「お前らの望みと俺の望みは決して交わらない。忘れるな。お前達は…………」

 

「必ず俺が使う」

 

背後に現れ、不吉な呪詛(ことば)をジュリアンは残し、消えた。

 

「しまった………コウを連れてかれた………色々聞きたいことがあったのに…………」

 

「それより、今は士郎さんだ!あの怪我であんな無茶をしたんだ!もしかすると………」

 

「お兄ちゃん!」

 

美遊は慌てて凛の元に降り、士郎の傍に座り込む。

 

「凛さん、お兄ちゃんは!?」

 

「………最後に動いたのが致命的………かろうじて繫いだ傷口が開いて………これじゃもう……………長くは保たないわ…………」

 

凛の言葉にその場の全員が絶望した。

 

「どうして!?どうにもならないの!?魔術なら治せるんじゃなかったの!?」

 

「手は尽くしてるわよ!けど、血流を維持しながら欠損箇所の修復なんて効率が悪すぎる!肉体の衰弱に治療速度がおいつかないの!治すには…………魔力が絶望的に足りない………」

 

「………おにい……ちゃん……ようやく……再会できたのに………またお別れなの……?ひどいよ……そんなのないよ……お兄ちゃん!」

 

美遊は士郎の手を握りしめ、泣き出す。

 

その瞬間、凛の前に、ある物が差し出された。

 

それは巨大な紅い宝石のペンダントだった。

 

「この世界に来た直後……大空洞内に落ちていました。この宝石は……貴女のモノでは?」

 

差し出したのはバゼットだった。

 

凛は唖然とし、そして笑みを浮かべた。

 

「見せて上げるわ。宝石魔術の奇跡を!」

 

バゼットから宝石を受け取り、凛は治療を再開する。

 

士郎の身体はみるみる治って行き、血色も良くなった。

 

完治した士郎に美遊は泣きながら抱き着いた。

 

その姿に、誰もが涙を流して、兄妹の再会を喜んだ。

 



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過去の話

「いやあああああああああ!!来ないで―――――!!ヒィィィィッ!!?」

 

戦いを終えた俺達は、エインズワース邸があったクレーターを離れ、雪の降る冬木の街を移動していた。

 

イリヤは、腕になった剣、いや、剣だった腕?どっちでもいいか。

 

とにかく、現在、その腕に追われている。

 

「なんだが面白ホラーな光景ね」

 

「こんな映画見たことあるぞ」

 

クロと空也は呑気そうにそう言う。

 

「剣だと思ったら手で?しかも自立歩行するなんて……」

 

「まぁ、懐かれてるようですし、害はなさそうですわね」

 

「そう言う問題でしょうか」

 

皆があの腕の事について話してると、士郎さんが体を震わせる。

 

「うっ……!」

 

「お兄ちゃん!まだ怪我が……!?」

 

「いや、それはもう大丈夫だ。ただ流石にこの格好は冷えるな…」

 

確かに、夏だけど雪が降ってるこの気候だと、今の士郎さんには寒いだろうな。

 

服はボロボロで腹とか見えてるし。

 

ちなみに美遊は海斗のコートを借り、海斗の背に負ぶさっている。

 

「それより、皆、助けてくれて本当にありがとう。それで……どうだろう。もし行く当てがないなら、うちに来ないか?」

 

「衛宮君の家に?」

 

「それは美遊の家でもあるということでしょうか……」

 

「賛成!行きたい!」

 

「わ、わたしも!」

 

「俺も賛成だ」

 

「言葉に甘えさせてもらいます」

 

「良いのではないでしょうか。どの道、拠点を移す必要はありました」

 

『私どもも異論はありません』

 

『ですねー』

 

ここまで全員が賛成。

 

「………あんたもそれで良いか?アンジェリカ」

 

「はい」

 

俺達の背後を静かに歩いて来るアンジェリカも肯定する。

 

「なぁ、零夜。本当に良かったのか?アイツは敵だぞ?」

 

「そうは言われてもあの場に放って置くことも出来ないし、士郎さんも連れて行っても問題無いって言ってるから………」

 

「私は廃棄された人形です。いかなる意志も持ちません。どうぞ、如何様に」

 

「……分かった。なら付いて来てくれ」

 

本当に意志の無い人形のようになったアンジェリカが気になりつつも、俺たちは歩き出す。

 

その時、クロと空也が背後のクレーターを見つめていることに気付く。

 

「クロ?空也?」

 

イリヤも気付き、二人に声を掛ける。

 

「……なんでもない」

 

「早く行こう」

 

そう言って二人は歩き出す。

 

そう言えば、ギルは何処かに消えてしまった。

 

自分のカードを取り戻すのが目的なのは知っていたが、せめて一言何か言ってくれても良かったんだがな…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが………士郎さんと美遊の家……!?」

 

俺達が着いたのは武家屋敷とでも言えばいいのか、とにかく大きい邸宅だった。

 

これが美遊の家…………

 

「違い過ぎる!?ウチはふつーの一軒家なのにこの差は一体……!?」

 

「美遊ってばお嬢様だったのね」

 

「箱入り娘っぽい感じはしてたからそんな気はしてたがな」

 

門を潜り、玄関の前に着くと、士郎さんは扉を開けて、美遊を見る。

 

「おかえり、美遊」

 

「……ただいま、お兄ちゃん」

 

見たことも無い美遊の表情に俺たちは自然と笑顔になる。

 

もしかしたら、あれが美遊の本当の顔なのかもな。

 

「……………………………なに?」

 

そんな俺達に気付き、美遊は振り向く。

 

「ん?んんっ……」

 

「べーつに」

 

「なんでもないぞ」

 

「気にするな」

 

そう言って家の中にお邪魔する。

 

「まずは着替えと……その前に風呂だな。電気と水道が止まってなくて良かった。沸かすから順番に入ってくれ」

 

士郎さんに言われ、俺たちは順番に風呂に入り、用意された着替えを着る。

 

ちなみに、あの腕は風呂場まで着いて来て軽く風呂場が大騒ぎになっていた。

 

「はぁ……酷い目にあったよ……」

 

「貴女って変なのに好かれる質よね。ルビーといい、歩く手といい…………後は何だったけ?」

 

「他に有ったか?」

 

「しかし、この服はなんだ?」

 

海斗がそう言って、今来ている服を指差す。

 

俺たちが来ているのは着ぐるみパジャマだ。

 

丁寧に、男用、女用とあった。

 

「士郎さんが貸してくれたが、一体誰の服なんだ?」

 

ちなみに、イリヤは猫、クロはパンダ、空也はペンギン、海斗はライオンで、俺は狐だ。

 

廊下を歩いてると、一室から明りが漏れ、美遊と士郎さんの声が聞こえる。

 

「お兄ちゃん、別の出して」

 

「でも、お前、このくまさんパジャマ、一番のお気に入りだったじゃないか」

 

「そうだけど……今日は別なのが良い………」

 

興味本位でこっそり覗いてみたが……………このパジャマ美遊の!?

 

「いや、考えてみればそうだよな」

 

「え?え?美遊ってそう言う趣味なの!?」

 

「向うの私服は全部ルヴィアが選んでだから分からなかったわ……!」

 

「海斗的にはどうなんだ?」

 

「えっと……まぁ、いいんじゃないか?可愛いし……」

 

暫く中の様子を窺ってると、美遊は和服に着替えていた。

 

「ほぉ、和服か」

 

「似合うわね」

 

「美遊ってば和服美人……」

 

「黒髪が映えるな」

 

「ああ、本当にな」

 

各々、美遊の和服への感想を言う。

 

「お兄ちゃん、髪結って」

 

「そのぐらい自分で出来るだろ?」

 

「いいから、やって」

 

美遊は顔を少し赤くし、頬を膨らませて言う。

 

(なんか、凄い甘えん坊だな)

 

(あんな美遊、見たこと無いぞ……)

 

(案外、あっちが素なのかもな)

 

(久々に変なスイッチが入っちゃいそう……!!)

 

(妹モードの美遊……そんな隠し玉があったなんて……!)

 

髪を結ってもらってる光景を見ているうちに、俺たちは本当に二人が兄妹なんだと実感した。

 

「やっぱり、あの人は………」

 

「士郎さんだけど、士郎さんじゃないな」

 

「うん……そっか。美遊も、こんな気持ちだったんだ……」

 

そこで、俺たちは何も言わず沈黙する。

 

「よし、これでいいだろ」

 

「すぐ寝るのに、こんな髪型……」

 

「いや、寝るには早いだろ。皆と話さなきゃいけないことが沢山ある。そうだろ?君たちも」

 

急に背にしていた襖が開き、部屋の中に転がる形で入る。

 

「えっ……あっ……!いっ……いつから……?」

 

「えっ……と……」

 

「いつからかっと言うとだな………」

 

「くまさんパジャマの辺りから?」

 

「だな」

 

そう言うと、美遊は顔を真っ赤にし、叩いて来る。

 

海斗を。

 

「なんで俺なんだよ!?」

 

「忘れて……いますぐ忘れて……!」

 

思えば、こんなにも感情を表に出す美遊は初めてだな。

 

なんかレアなものを見た気分だ………

 

その時、窓から何かが部屋の中に入って来る。

 

入って来たのはあの腕と何故かボロボロのルビーだった。

 

「うわっ!?手!?」

 

「あ、また出た!」

 

その腕は机の上のマジックを手に取ると、机に何かを書き始める。

 

それは……………中田?

 

「中田?」

 

「なかた?」

 

「なか………た……なか……あ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いですー!田中の事忘れてたですかー!」

 

田中さんの事に気付き、俺とイリヤは学校へと慌てて戻った。

 

「大人しく待ってなさいって書いてあったからがっっこーで待ってたですのにー!」

 

「わ、忘れてたわけじゃ……」

 

「そうそう、ちょっとド忘れをなって田中さんその手!!」

 

見ると、田中さんの右腕は肘から先が無かった。

 

「あ!田中の腕持って来てくれたですね!ありがとうです!」

 

イリヤの頭を叩いていた腕を掴み、それを右肘にぐりぐりと押し込む。

 

すると、腕はしっかりとくっ付いていた。

 

「復活の田中!」

 

「そんな簡単に!?」

 

「プラモデルか何か!?」

 

「田中さん……貴女は何者なの……?」

 

「イリヤさん、零夜さん……田中、思い出したです」

 

その言葉に俺たちは驚く。

 

「どうしてこんな大事なことを忘れてたのか……田中もまだちょっと混乱してるですけど……二人には知っておいて欲しいので言うです。実は…………」

 

田中さんが次言う言葉を固唾を飲んで待つ。

 

「地球のぐるぐるがなんかおかしくなって、季節とかかんきょーとかいろいろヘンになって、とにかくなんだが地球がヤバイです!!」

 

…………………それ、もう知ってる……………………………

 

「田中さんの……田中さんの期待外れ……!」

 

「田中失望されたです!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、しかし……この家にこんなに人が集まる日が来るとはなぁ……」

 

現在、衛宮家の居間に集まり、テーブルを囲って十一人が集まっている。

 

アンジェリカは部屋の隅で大人しく正座してる。

 

「お互い、聞きたいことが沢山あるだろう。きっと………長い話になる。だから、まずはこちらのことから話をしようと思う」

 

そこで、俺は気になっていたことを、思わず士郎さんに尋ねた。

 

「あの、士郎さん。話を遮って悪いんですけど、教えて下さい。コウって一体誰なんですか?アイツと戦った時、俺がアイツに、美遊と一緒にいたいから俺達を排除する。だが、世界を救うために美遊を犠牲にする。明らかにこの二つが矛盾してるって聞いたらアイツ、急に頭を抱えて、苦しみだして言ったんです。………人類の救済、朔月家、神稚児……士郎兄ちゃん」

 

そう言うと、士郎さんだけでなく美遊も驚いた表情になる。

 

「一体、アイツは………」

 

「そうだな………まずはコウのことから話そう。アイツの名前は……衛宮鋼。俺の義弟(おとうと)だ」

 

衝撃的な事にまたしても、言葉を失った。

 

「それじゃあ、話すぞ。俺と美遊、そして鋼の……これまでの物語(はなし)

 




次回からドライ7巻になります。

鋼の秘密も明らかに。

では、次回もお楽しみに


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告知

この前、「劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い」を観てきました。

そこで創作意欲がわき、この作品を作り直すことにしました。


『零夜、お前に力を与える』

 

倒産の残した手紙にはそう書いてあった。

 

ウィザードで無くなった俺に与えられる力。

 

もしかしたら、新たなウィザードリングか?

 

ありえる。

 

元々あの指輪は父さんの物だったんだ。

 

『サーヴァントユニヴァースと呼ばれる時空から来訪したストレンジャー。

 

その者がお前に力を貸してくれる。』

 

「………え?サーヴァントユニヴァースって何?」

 

『今こそ、アルトリウムの導きに従え!』

 

「アルトリウムって何さ!?」

 

そう叫んだ瞬間、手紙が光り輝く。

 

「な、なんだこれ……!」

 

そして、俺は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE

 

「そうか……そう言うことか。やっとわかった俺が何をするべきなのか」

 

そう呟き、零夜は部屋の外に出る。

 

「そこに隠れてたか。大人しくしていろ。一瞬で終わらせて………なんだ、その恰好は?」

 

エインズワースの魔術師の少年は零夜の格好を見て、思わずそう言った。

 

なぜなら、今の零夜の格好は、上は青いジャージ、下は黒の短パン、そして黒い帽子に、青いマフラーを巻いていた。

 

「この格好?これは、サーヴァントユニバースより来訪したストレンジャーの力を借り受けた姿。この力は、たった一つ。ある使命の為に与えられた。世界の救済。そう!つまり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバーをぶっ○す!」

 

「なんでそうなる!?」

 

「お前のそれ、武器か?」

 

零夜は敵の持つナイフを見ている。

 

「ナイフ……つまり、刃物。貴様、セイバーだな!」

 

「いや、俺はアサシ…」

 

「死ねえええええ!」

 

「ぐああああああああっ!」

 

相手に有無を言わさず、零夜は一太刀で切り伏せる。

 

「まだまだ!」

 

切り伏せたにも拘らず、何度も切り裂き攻撃をし続ける。

 

「これで決める!」

 

「ちょっ!これ、オーバーキル……!」

 

「星光の剣よ! 赤とか白とか黒とか消し去るべし!無銘勝利剣(エックス・カリバー)!!」

 

「ぎゃああああああああああああっ!!?」

 

零夜の一撃はアサシンの少年を斬り飛ばし、そのまま城壁を破壊する。

 

そして、それを追うかのように零夜も外へと出る。

 

そこから零夜の快進撃はすごかった。

 

セイバーもしくはセイバーと思しき者には次々と斬りかかった。

 

刀を持ってる空也、双剣を持つクロ、セイバーを夢幻召喚したイリヤにも襲い掛かったりもしたが最終的にすべての敵をストレンジャーの力と星光の剣で倒した。

 

「つまり、俺こそ最良にして最優のセイバーだ!」

 

「で、アレは戻らないのか?」

 

「安心しろ。これは作者による報告のための茶番回だ」

 

「最強セイバー零夜の力がすべてを救うと信じて!ご愛読ありがとうございます!」




この作品はここで終わりにし、新たに「Fate/kaleid liner~指輪の魔術師少年~」改め「Fate/kaleid liner~指輪の魔術師~」を投稿します。

この作品は一応完結とします


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