pso2仮想戦記二年前の戦争 (オラニエ公ジャン・バルジャン)
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1話【嵐の予感】

これはpso2自作仮想戦記の筈だったものですw
この小説はEP3最終章の深遠なる闇との戦闘後マイキャラ達は、皆眠りについた…だけどもし眠りについてなかったら?ついたとしても二年の月日も掛からなかったら?自分がEP4の時系列に存在していなかったら?ダーカーとの戦いが外敵との戦いじゃなくて、完全の戦争だったら?という作者の妄想成分100%の小説ですw
因みに作った経緯はTwitterで自分のマイキャラの死亡フラグを折るか、折らないかと言うドウデモイイ質問をしたら折らない方に投票され、だったらせめてせいぜい良い死に方させてやろうじゃないのと書き出した、自己満小説です。pso2よりも銀河英雄伝説風味が大きいです。NPCキャラクターのキャラ崩壊や、世界観が随分違います。簡単に言うと、プソに銀英伝や政治、戦略要素を追加したようなテイストです。


『1 嵐の予感』

遥か未来…または遠い過去かも知れない

この世…この宇宙には様々な命の営みがある…それが戦争であれ、そうでないであれこれらは必然の出来事である…。

宇宙の遥か彼方、オラクル移民船団と言う移民船団がこの星の海を悠久の昔から航海していた…それを守る者達が居る

アークス…彼らは船団の航海の先に出逢った星々に降り立ち、星を調査する…然し彼等の真の使命は、ダーカーと言われる異性体…そして深遠なる闇という名の巨大な宇宙の脅威から、船団をいや宇宙を守る事が使命とする者達なのだ…

新光暦239年アークス最精鋭六芒均衡を除くアークス最精鋭である第709近衛空間突撃連隊は深遠なる闇と戦闘、これを撃退した…然し、彼等の身体はダーカー因子と言う病細菌に蝕まれ、療養の為暫くの眠りについた…一人の若い男を除いて…

 

記録されていなかった為ホームネームは解っていないが、彼の名はtakumi・F…当時の暫定階級は准将である…彼は、かの戦いにおいて、深遠なる闇討伐部隊のメンバーであり、巨大な火砲を使い、その戦いを勝ち抜いた。

彼も、深遠なる闇と戦い、ダーカー因子に蝕まれたが…彼は奇跡的にダーカー因子の侵食が軽微であった。この理由は他のメンバーが至近距離で戦闘している中彼は戦場の後方で支援攻撃に順次した為その攻撃を受ける事が少なかった為と言われている。決して彼は臆病と言う訳でもない、本人の言葉を借りるのなら『自分は、どうしようもない劣等アークスであります。ですから前で邪魔になるよりこうしていた方が良い』と言う経緯があり、他のメンバーより早く船団戦力に復帰出来ることになった。療養期間は一年、療養冬眠には、身体疲労、軽度記憶障害のリスクを持っていた。されどこれ以外の重度ダーカー因子除去治療は無かった…それに軽度であれ、この程度の期間は必要であった。然し、彼はリスク承知の希望を出した。二ヶ月の冬眠治療…記憶障害は兎も角、身体、精神に掛かる負担は通常の冬眠の数倍、医師達は反対したが結局それを受け入れた。

さて、アークスもダーカーも互いに変わろうとしていた。ダーカーは、以前から彼等の首領格である、ダーク・ファルスと呼ばれる、巨大な戦力その模倣体を複数体作成していたが、深遠なる闇との戦いの後、急激にその数を増やし(然し、初期の複数体に比べ能力は低い)、ダーカーは次第に統率され、それこそ一種の群れ、いや軍隊に近い統率を組み上げたのだ…アークスはその、組織体制の大幅改編完了させ、ダーカーの統率化に対する戦力強化案を模索していた。

ウルク『それでは評定を始めます。』

20を満たぬこの少女の名はウルク。

これでもアークス総司令官である…軍隊の暫定階級であれば元帥である。

その横に歳は同じ位の美少年が待機している。名をテオドールと言い彼は副司令官を任ぜられているそして、優秀なアークスとしても名を連ねている。

若き総司令官の視界には、戦闘、総務、諜報、教練を取り仕切る六芒均衡の面々とその弟子と零の六芒コードをもつ歌姫が鎮座していた。

『今回の評定は、ダーカーの統率化に対する対抗策を決める。各員の英知に期待します。』

『総司令官殿、俺に考えがあります』

『戦闘部ヒューイさんの発言を許可』

『ダーカーの統率化に対し、俺たちも纏まりを持って行動し、人員を増やし、戦えば良いんじゃないだろうか?』

『総司令官殿ちょっと良いかい?』

『総務部マリアさんの発言を許可』

『纏まりとは具体的にどう纏まるつもりだい?具体的に言って貰わないと年寄りには分かんないよそれに人員を増やすなら教練部に動いて貰わないと行けないからね、どうなんだいレギアス?』

『うむ…人員については、実は、ここ最近の戦いで、アークスに為ろうと言う者達は後を絶たんが、育成には時間が掛かりそうだな…急に戦場の戦力を増やすのは無理だろうな…』

『それに教練したとして直ぐに戦場にほっぽり出したって、右も左も分からないんじゃあ戦力にはならんだろう俺やレギアスの爺さんが引率して戦場に行くわけにもいかんしな』

『ううむレギアスやマリア姐さん、ゼノの言う事も一理だな』

『でもヒューイの言う事も一理あるぞ!』

『分かってるわクラリスクレイスでも人員の確保は大変なのよ。』

『じゃあサラはどうしたいのだ!』

『私は、人員の育成もそうだけど、各惑星、要塞の防衛力の強化と補給線の警戒を強化すべきと思うわ。人員を育成しても派遣する惑星や拠点がダーカーに落とされるわけにはいかないもの、人員の潤沢な補充ラインが整うまで現有戦力でこれらの維持をすべきと思います』

『確かに俺たちが、新入りを育てても、拠点とかを失ってもな…テオドールお前はどう思う?』

『ゼノさん、僕は確かに各拠点の防御に徹底すると言うのは分かりますが、現戦力では回りきれないのではと思います』

『ウルク総司令官!お集まりの皆様!失礼します‼︎』

『諜報部の方ですね。どうぞ』

『報告します‼︎ダーカー各拠点から無数のダーカー反応を検知!それらの規模は、戦艦及び巡洋艦クラスです‼︎』

『ダーカーの艦隊戦力⁉︎』

『嘘だろ⁉︎』

『いや、考えなかった訳でもあるまい』

『その通りだよ、連中は、こちらが連中を学ぶ様に向こうもこちらを学んでいるんだからね』

『ご苦労でした。下がってください。』

『はい!カスラ部長、失礼します‼︎』

『ウルク、艦隊を用意したほうが良いみたいだよ』

『各拠点だけでなく、宇宙まで注意を払わなければならないなんて…いよいよ、人手不足ね』

『…総司令官』

『クーナさんの発言を許可』

『私は、人員不足解決、及び戦力強化に基づく、統率面の問題を解決出来る策を持っている人間を知っています。』

『ではその人を此処に』

『彼は、いま此処に連れてくることは出来ません、ですのでホログラムで紹介したいと思います。』

ホログラムに一人の青年の姿が映し出された。20を過ぎた程度だろうか、ハンサムとはお世辞にも言えない、東洋系のヒューマンの特徴の濃い顔して身長175センチ程度のブ男がアークス標準制服を着ってきっちりと敬礼している。

この青年こそ、深遠なる闇と戦い、後のアークス第一艦隊を率いて、2年に及ぶ、ダーカーとの会戦を勝ち抜き、悲劇の戦死を遂げるタクミ・Fである。

『私は、アークス近衛親衛中隊crescentmoon小隊長タクミでありますこの度、本官は、来るべきダーカーとの大規模戦闘に対する対策案を提示する者であります』

『クーナさんこれは…?』

『おい、クーナ‼︎あいつ(タクミ)はいま冬眠中では無かったのか?何であいつがホログラムに』

『恐らくコレは深遠なる闇との戦いの前に撮られたものでしょうクーナさん何故貴方がこれを?私達情報部には存ぜぬ話ですが?』

『彼はこうなる事を予測したのでしょう出来れば、こうならなければ良いと思ったのか、手渡された時は埃を被ってました。でも使う時が来る時の為にと私に託したのです。』

『あいつが人員について説明しだしたぞ、みんな聞いてやんな』

『人員を増やすという問題ですが、確かにアークスに成るまでの時間はかかる…ならば、アークス程では無くとも戦闘訓練や身体訓練を施せばダーカーには充分に戦えるはずです。さすれば、戦力不足は解決、フォトンの感受性が低い者でも戦う事は出来ます。戦力の劣りも、各員の集団戦闘で維持する。それでもダーカーの方が多いでしょうから、人員はこちらも最大限の努力で補充し、質をもって量を覆します‼︎』

『現状戦力に勝らずとも戦える戦力を増やすか。』

『確かにそれであれば、人員は確保出来るかも知れない』

『という事はワシらの仕事はアークスには勝てずともダーカーに勝てる人員を以下に育成するかになった訳だな』

『アークスになりたくともフォトン感受性の低さが理由で、なれなかった人達もこれなら戦える。』

『テオドール、早急に人員は何人近く育成出来るの?』

『タクミさんの言う計画に乗っ取った人員だと…早急に育成出来るのは9000万人』

『『『9000万人⁉︎』』』

『アークスシップの九十隻分の人口か』

『人員育成は各シップの教練場の人数制限を解除‼︎賄えるだけ収容して下さい』

『あいわかった』

『了解』

『タクミさんは人員以外にもアークスの統率は軍隊、またはそれに準ずるもよにすべきと言う事だそうです。』

『敵がそう統率してきているのであれば民間団体のような立ち振る舞いはもう出来ないしな』

『現状戦力各自にその旨を伝達、現在と今後育成するアークス、及び兵員にはこれを浸透しましょう』

『次の案です。艦隊戦力の意見です。再生します。』

『先の意見と被り、そこまで気乗りもしませんが、まず艦隊戦力を見直して下さい。我々はダーク・ファルス・エルダーの復活に際して、船団護衛の為、200m級駆逐艦、450m級巡航艦(巡洋艦)、そして、1㎞級戦艦の建造を開始、これら三種ともに艦艇数は万を超え、駆逐艦に至っては、6桁に到達しようとしています。それは良い。問題はこれら艦隊を統率する超大型戦艦と超大型空母の役目を兼任する3㎞〜5㎞クラスの大型旗艦級艦艇の建造…コレを行う必要があります。現状の艦艇では艦隊を編成しても、万単位の艦隊を指揮するにはあまりにも力不足です。千単位の艦隊であれば旗艦型戦艦で指揮出来ましたが、限りがあります。空母も建造はしていますが、一艦隊に空母を満遍なく配備する余裕は今はありません。そこで、巨体を生かした、司令部機能をを持ち、無数の火砲を装備し、巨大なペイロードを生かした多数の艦載機運用これを可能とする艦が必要なのです。建造についても良い考えがあります。普通ならこのクラスの艦艇だとドックでの建造で半年は掛かります。それを一ヶ月から二ヶ月で可能とする方法がそれは破壊されたアークスシップの残骸を利用します。』

アークスシップ…これはオラクル船団を構成する、全長70㎞全高35㎞全幅30㎞の超大型移民船である。これらは、ダーカーやダーク・ファルスとの戦いで多数撃沈し、無数の命を道連れにした。その巨大さから撃沈されたとしても消滅したと言う例は無く、艦の形を保った残骸は数多く浮いている。それを使い、3㎞〜5㎞の艦艇を作ろうというのである。いわば、資源の再利用といったところである

『これら残骸を収集…ドックにて加工する事により、造船所への資材搬入要員を割く事が出来るのです。さらにマザーシップのドックは巨大で、全自動化されています。シャオの演算に支障を来たすレベルでも無いため、建造を容認してくれるでしょう。シャオにお願いして設計図を作成して貰いました。これに同封します。最後に是非ともお考えになってくれる事を切に願います』

これを最後に青年の姿は消えた。評定はこれらを決議、承認を決定した。これら大規模戦力拡大計画は急ピッチに進められた。手の空いている現役アークスは全て、教導に回り、人員の育成に力を注いだ。その間に各艦艇は建造され、例のアークスシップ残骸の確保も順調に進み、数日後、マザーシップ全自動造船ドックにて建造が始まった。こうして一ヶ月が経った。艦艇は造られては、就役し、人材も配備されて(育成が早期に済み前線配備が可能な人材も数多く存在した)は教練所の門を叩く者は後を絶たなかった。そして例の艦も彼の言う通りめまぐるしい速度で建造され残骸は次第に艦船の形になっていった。この時、ダーカーは、オラクル船団周辺の惑星やそれ以外のオラクル植民地惑星、要塞と言った多数の要所に艦隊を進めていた…そして、深遠なる闇との戦いから二カ月が過ぎた

…………………



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2話【オラクル船団第一艦隊出撃‼︎】

という訳で2話ですwやっと主人公ログインしたと思ったら、そうそうにやらかしたり、シリアスだと思ったら、急にギャグ線に走ったりと結構ドタバタしてます。(まるでアニメ版艦これの様…おい‼︎止めろ‼︎艦これアニメの悪口は許さねぇ‼︎)そんな感じで、主人公が二年の月日を戦い抜く人生の幕開けを迎えます。


…眠い…いや身体が重い…それに寒い…ここは…ああそうだ…俺は…深遠なる闇との戦いでダーカー因子の除去を余儀無くされて…兎に角出た方が良さそうだ…

遠くの方で声が聞こえる。

『フィリアさん?…は大丈夫なんですか?二ヶ月なんて普通耐えられませんよ。死んで無いですよね?』

頭の中で若い女性の声がすると青年は思った然し、これが違うという事が会話相手の名前と声で分かった。

『縁起でも無い事を言わないで下さいローラ!あの人は絶対大丈夫です。』

名前と声で分かった!あの人だ!メディカルセンターのフィリアさんとローラさんだ。数々の戦いで命を助けて貰った。

取り分け、フィリアさんにはマトイの件の事も有るから本当にお世話になった。

マトイは、元気だろうか?彼女との出会いやその後の冒険はアークスや、我が部隊に…取り分けタクミに大きな影響を与えた。それ以降彼女との微妙な距離になっている。

『然し、二人は誰を迎えに来たのだろうか…こんな暗くて狭い場所に来るとは思えないが…。』

瞬間、暗闇の中から光が射してきた。

パシュ…と言う音を立てて、冷気が光に流れ込んで行く。そして…

『おはようございます。タクミさん。何所か痛かったり、動かない場所はありますか。あれば言って下さいね。』

ああ、やっぱりフィリアさん達だ。然し、此処で彼は思った。さっきの会話の中で自分の名前は一言も口にして無かった。人違いでは無かろうか…然し、現に前に立っているのは彼女達だ。兎に角外に出なければ、返事をしながら、外に出る事にした。そう言えば久し振りだな?

『おはようございます。フィリアさ…ウワァ⁉︎』床が滑りやすいのか…俺は転んだ。…ああ、相変わらずだ…幼少期から足下の注意が疎かになる癖が有るから、よく転ぶ。正直自分で煩わしいと思う。

『キャウン…///』転んだ瞬間可愛らしい女性の声がした…おかしい…自分以外転んだ人が居るのだろうか…眼を開けると…何てことだ…青年の手はこの美麗な女性の胸を鷲掴む形で寄りかかってしまったのだ。青年は、突然の事で動転しそうになったが…顔がにやけないよう歯を食い縛り、手を離そうとしたが…時既に遅し…彼女の顔はみるみる赤くなり、『キャアアアアアア‼︎』耳を劈くような悲鳴が聞こえ、瞬間、彼女の腕は青年の胸ぐらを掴み勢いよく放り投げた。タクミは、この人…こんなに怪力だったのか…と思い、そのまま隣のカプセルに激突し、床に落ちた。フィリアはタクミを投げた後、我に返ったのか…直ぐに彼の元に駆け寄った。『タクミさん⁉︎大丈夫ですか‼︎すみません、わざとじゃ無いって分かってたのに』タクミは死ぬかと思った…本当に死ぬかと思った…と恐怖を隠しきれなかったようであった。ローラも、面白い物が見れた嬉しさ半分、珍事が起こって驚いてる半分と言う顔をしていたがこれも直ぐに我に返り、こうタクミに呼びかけた。

『准将!しっかり、立てますか?』

タクミはローラの言葉に違和感を感じた。准将?軍隊の階級で佐官最上級の大佐と将校最低位の少将の間に位置する。真の将校最低位これを採用している軍隊は主流では無いためにこの階級を持っている者は少ない。いやそもそも、アークスは軍隊では無い。こう呼ばれることがおかしいのだ。彼は聞いてみることにした…。正直、予想はついていたが…

『フィリアさん…私は二ヶ月寝ていた筈です。あの日から今日に至るまで、何があったか説明してくれませんか?』

『分かりました。でも先ず先にブリッジに行きましょう。』

彼女は二ヶ月の出来事を説明してくれた。自分の考えた例の構想は採用されたこと、戦力増強に伴う統率の為、準軍事組織だったアークスは正式な軍事組織として活動する事になった、その為自分には様々な戦いの功績を評価された准将になった事、艦隊、兵員増強計画も順調に進み既に、第二、第三艦隊に新造された5㎞クラス旗艦型戦艦が就役し、行動を開始した事…二ヶ月で様々な事が起こったのだ…だが…『あのフィリアさん?第一艦隊はどうしたのです?何故第二、第三艦隊だけ配置についているのですか?』

『それは、ブリッジに居る人達に聞いた方がいいと思いますよ。』

彼女は含みの有る言葉を放ち、艦橋に入っていった。ローラも、『それでは准将、私もこれで〜』とこれもまた含みの有る挨拶で去っていった。

『何なんだ…一体。』入室許可が下りたのでタクミは艦橋に入った。初めて入る艦橋、其処に居たのは、複数のアークスが左右一列に並び、直立不動の敬礼をしている。そして向こうには、フィリアと総司令官と司令補佐になった、ウルクとテオドール。六芒均衡のレギアス、マリア、カスラ、ヒューイ、三代目クラリスクレイス、ゼノ、六芒の零のクーナそしてマリアの弟子のサラ…沢山の人が待っていた。六芒均衡以外は、皆、アークスコートと言うアークスの正装にベレー帽を被っていた。勿論、タクミもそれを着ているのだが…緊張する…きっちり締めて入ってきたのも有るが、大勢が待ってるとなると余計に苦しい。『准将、此方に』総司令の言葉が艦橋に響く。タクミもまた、直立不動の敬礼と返事でそれを返し、近くに歩み寄った。『准将、よく帰って来てくれました。早速ですが、貴方にある職に就いてもらいます。』テオドールが端末を開き、声を上げ、こう宣言した。『タクミ・F准将。貴官を第一艦隊艦隊司令長官の任を与える。ついては貴官に1階級昇進し、少将の階級を与える!』

総司令官ウルクはタクミに歩み寄り、階級章と提督の証である短剣を授けた。

『宜しくタクミ提督』彼女はこう言い放った。これを青年は無表情で聞いていたが心中は穏やかでは無かった。むしろ動転していた。自分が、冬眠治療から目覚めたと思ったら、准将になってて、今、この瞬間に少将に就いて艦隊を預けられ、提督と来たものだ。彼本人はあまり人の上に立つことは得意では無い為、出来れば辞退したいがそうも行かない。やるしか無い、彼は、『この任、微力ではありますが全力を尽くします‼︎』と大きくはっきりと言い、これを引き受けた。俺に出来るのかね〜と言う思いで一杯だが、そもそもこうなったのも自分に責任が有るのだから因果応報とも思った。こうして式典は終了した。

ウルクは、『済まないけど、提督と六芒の皆んなで話したいの、貴方たちは下がってくれる?』コレを聞いた、横に一列で並んでいたアークス達は去っていった。そしてフィリアも仕事が有ると言い、去っていった。かくして部屋に居るのは、11人になった。瞬間、ウルクとテオドールがタクミに飛び込んで来た。

『タクミさん良かった。元気になって』

『テオドール、たかだか二ヶ月じゃ無いか?そんなに心配してくれたの?』

これに対し、ウルクは…

『バカ‼︎二ヶ月でも待つ人にとっては長く感じるのよ‼︎』

青年は、ありがたい気持ちになったこの方生涯女性にモテた試しが無いのでこう言う状況も、悪く無い、正直嬉しい。

次にゼノが寄ってきた。『タクミ久し振りだな!二ヶ月振りか?相変わらず元気で良かったぜそれに随分と背伸びちまってよ。』彼はアークス入隊時にお世話になった先輩だ。まさかあの時は六芒均衡のメンバーだとは露にも思わなかったが、今でもこうして付き合いを続けてくれる。青年はこう返した。

『先輩も相変わらずですね。安心しました!エコーさんとはどうなんですか?』

『お前、一言多いんだよ!エコー連れてこなくて良かった…あいつ絶対大泣きする。そんな事になったらアレだぞ。』

確かに大泣きされると面倒だ。

次にクーナがこう言った。

『タクミさんお元気そうで何よりです。これからもよろしくお願いします。』

六芒均衡としての彼女は、無表情で、愛想も無いが、アイドルとしての彼女は、明るく、激しく、鮮烈に皆に元気を振りまく存在だこのギャップに何時も驚く。

『クーナ不機嫌ですね〜ひょっとして起きて来ない方が良かった〜?』少し憎らしく言ってやった。これに対し、彼女は、顔を真っ赤にしてこう言った。

『そんな訳無いでしょ‼︎貴方が居なかったら、誰がコンサートの空席を埋めるのよ。私のコンサートは満員御礼がモットーなんだから!』少し煽れば本性が出る。そこが可愛らしいのだが。

その後、彼は六芒の面々とも再会の挨拶を交わした。少し経ち、六芒の一レギアスが『総司令、本題に入ろうか』と言った。こう言われたウルクは、ハッとしてタクミにこう言った。

『タクミ直ぐにマザーシップに、貴方の乗艦に案内します。』

マザーシップに移動中にも、彼は二ヶ月に起こった事を説明して貰った。『俺の乗艦は守護衛士(ガーディアン)級二番艦スサノオか…一番艦ガーディアンは、艦隊編成の都合上第二艦隊、三番艦マムルークは第三艦隊、その他分遣艦隊多数…これが現状の艦隊戦力か。』

『貴方は、第一艦隊を率いて、惑星アムドゥスキア周辺宙域を防衛して、ダーカーの艦隊が迫っているのでこれを撃退して欲しいの。分かった?』

『了解しました。総司令官殿』

『着きましたよ。皆さん』

重い鉄の隔壁が開く、その先で待っていたのは、美しい透き通った水色の船体、長方形に艦首は薄みカーブを描き、六門7列合計42門の高出力レーザー砲が並び、全長数十メートルの砲塔が数本並びブリッジに対空ミサイルポッドが搭載され後ろに約1キロに及び数万発のVLSが上下に搭載され、艦舷主砲13門、艦舷副砲30門、そして至る所にレーザー機銃と副砲が搭載されている。そして、アンテナが上舷後方三本、艦底中央前方三本、後方三本、艦舷にウィング状のアンテナ大小片舷二本全長5キロ…この船こそ、守護衛士(ガーディアン)級旗艦型戦艦(または空母)である。しかし、アークス首脳陣は知らないが、この艦は企画主が一から構想したものでは無いのだ。タクミは黙り通すつもりだったが、問屋は下ろさなかった…大急ぎで一人の従卒が若き総司令官に耳打ちした。

『ねぇ〜タクミ〜?ちょっと言うことがあるんじゃ無いの?』

『何の話…あっ⁉︎それは‼︎』

見つかってしまった…自分の人生の教科書であるとあるSFスペースオペラ小説その主人公が座乗した船を参考にこの新型艦を計画したが…バレてしまったのだ

『えっとね…はいパクりました。だけど性能は問題なかったでしょう!』

『まぁそうだけど…じゃなくって‼︎どうすんの著作権とかに引っかからないの⁉︎責任取れるの?』

『待て待て、その点は問題無い。もう原作、アニメ共に数世紀前の代物だ。引っかかる事は無い‼︎』

と断言したものだから、一同は黙ったが、若干血の気が引いてしまっているようだ…。そこでふと彼は気が付いた。

『なぁ、確かこいつはウィング型アンテナは付けてない筈だけど…何で付いてんの?誰か弄った?』

『それ試験艦何ですよ。ウルクがこれを超える船を作ろうって言い出して、指揮通信能力のテスト艦として、ウィング型アンテナを追加したんです。』

『では、タクミさんそろそろ出航命令を出して下さい。』

『時間ですか…総司令官閣下並びに上官殿方、これより、本官は守護衛士級二番艦スサノオ、第一艦隊旗艦の任につき、惑星アムドゥスキア宙域に出撃致します‼︎』

『貴艦の航海の無事と戦果を期待します。第一艦隊旗艦スサノオ出撃せよ‼︎』

轟音がドック全体に鳴り響き、巨体がゆっくりと前進した…ゆっくりとドックを後にし、マザーシップを出て、オラクル船団の真ん中に出た。そして速度を上げて、光の速度へ、スピードを上げていく、そして、速度が最大になった瞬間、艦は光に包まれ、虚空に消えた…空間跳躍…ワープである。同時に船団外縁で待機していた第一艦隊の僚艦一万三千隻もワープを開始、自らの艦隊旗艦の後を追った…一連の出来事をオラクル船団に住む、数百億の人々が見守った。

こうして二年という短い時間で宇宙を所狭しと戦った艦隊の初陣が始まったのだ

……………




はい、という訳で2話です。もう文章だけで分かった方もいると思いますが、はい…守護衛士級は戦艦ヒューベリオンを参考にしてます。Twitterの方でもラフをあげました。(下手な絵ですが)違うのは艦首主砲が元ネタは40門なのに対し、こちらは47門という点や、サイズ、艤装の有無等です。あくまで参考なのでヒューベリオンではありません。あくまで主人公が真似て設計を頼んだだけです(汗)
彼は、ここから文中の最後の様に宇宙を所狭しと戦うことになりますが、宇宙だけでは無く、アークスらしく惑星に降りたって戦うシナリオも考えてますので、お待ちして頂けると幸いです。最後にこんな小説ですがご贔屓にw
活動ship(7) ギョーフ
所属チームcrescentmoon
Twitter(pso2メイン)アカウント @takumipso2ship7


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『3惑星アムドゥスキア宙域防衛戦』

3話ですwここから、主人公は東郷平八郎提督やネルソン提督やヤン・ウェンリーや、ラインハルト・フォン・ローエングラムの様に采配を振るう訳ですが、キャラがキャラなので偉大さゼロだと思いますw


『3惑星アムドゥスキア宙域防衛戦』

星が瞬く宇宙という虚空に光を放ち、一万三千隻に及ぶ、艦隊が出現した。

どうやら無事にワープアウト出来たようだと、司令官席に座る。艦隊司令官タクミ・F准…いや少将は安心した…

ここから二日、通常航行で目的地に移動するのだ。彼は指を鳴らした。すると従卒が、紅茶を持ってきた。紅茶が入ったティーカップにチョコチップが入ったスコーンとブランデーである。

時刻は午後三時…ティータイムであった。彼はブランデーを少量紅茶に加えると、こう号令を出した『艦隊各員適度ニ休息ヲ摂ルベシ』…彼の幕僚は休息を取りに艦橋を出たが、彼の艦隊副司令官はこの時の事をこう話している。

『まさか戦場でティータイムをする人が居るとは思わなかったよ。オマケにブランデーまで入れてる始末だからこの司令官は大丈夫かと心配した。』

艦橋は必要最低限の人のみが残った。彼の居る司令塔は全高6メートルの柱で作られており、これの最上階に司令官以下幕僚が鎮座し、二階に戦闘指揮場、一階に航方指揮場があり、そしてタワーの先の広大なフロアには様々な部署が置かれている。全長50メートルの艦橋は特殊ガラスで覆われており、見晴らしも良く、耐久性も高い、レーザー副砲程度な

ら跳ね返してしまう程である。

彼は指揮官席の端末を開く、そこに映し出されたのは、自分の所属するcrescentmoonのメンバー達の写真…そして画面をスクロールすると映し出された一人の少女…マトイ…彼女の写真であった…彼は紅茶を飲み、スコーンを口にしながら、思った『出航前に会えなかったのは残念だ。』その場の流れで、出撃する事になったとはいえ、彼女に目覚めた事を教えて無かったのは心残りだったのだ…。『婚約者様ですか?』

突然のこの一言に青年は紅茶を吹き出しそうになった。後ろを見ると、金髪の少し、髪を短めに切った女性士官が立っていた。『そんなんじゃありませんよアリス・シンプソン航海長大尉殿…ただの友達です。』取り敢えずこう言っておこう…しかし、アリス航海長は食い下がった。『では、何故彼女一人写ってる写真なんか持ってるんですかそれも笑顔で大きく引き伸ばしてされてありますが』結構グイグイくる人だと、心中で思ったが、正直返す言葉が無い…『兎に角そんなんじゃ無いし!それに用件はそれでは無いでしょう?』少し、ぶっきらぼうに言ってやった。彼女は微笑ったが、直ぐに態度を直し、こう告げた。

『我が艦隊は現在惑星アムドゥスキア宙域を航行しており、敵との戦闘宙域に至るまで通常航行で二日といった具合です。この宙域には補給線があり、敵艦隊による補給線破壊が懸念されます。』

『成る程、だから総司令官殿はアムドゥスキア宙域での防衛戦を行えと命令したのだ…数は恐らく同数…だが戦力的にこちらが有利、下手な事をしなければ、そうそう負けない。』彼は指を二回鳴らした。すると従卒が入ってきた。

『五時間後各幕僚を召集、会議を開く。そう伝えてくれ。』

『はい、閣下』とそう一言を返し、一礼した後艦橋を出て行った。

こうして幕僚達が艦橋に集結した。

タクミは自分の幕僚達に作戦を説明した

『敵艦隊総数は同数の一万三千隻…陣形は横陣…攻撃も防御も程よく行える陣形だ。そこで我らは突撃の体型を取り、敵中央を突破、陣形を乱し、左右に残った艦隊を潰乱させる。恐らく、敵はこちらが中央突破すると分かれば、必死に迎撃してくるだろう。または突破されたまたはされる前に敵が中央を空け、挟み討ちの隊形を取り、後方に回り込む可能性もある。これは何としても阻止したい。神速を持って、敵に突撃する。』

幕僚の一人がこう反論した

『敵は同数の横陣。いくら、こちらが陣形有利の縦陣等で突撃しても数がフェアーではこちらが不利になるのでは?』

『成る程…ではプレゼントを贈ろう。』

『プレゼント?』『何をするのです?』

『突撃前に巡航艦、駆逐艦、そしてこのスサノオの長距離対艦広域ミサイルを使って、敵最前列巡洋艦隊を殲滅、ないしは巡洋艦隊に対し、半数以上の損害を与える。』

『対艦広域ミサイル?』

『戦闘班長。各戦隊司令官に説明して差し上げてくれ。』

『ハイ提督。長距離対艦広域ミサイル…このミサイルは名前の通り、長距離用対艦ミサイルです。通常のミサイルと違うのは、着弾して爆発する際、巨大な火球を作り、ターゲット及び、周囲の敵にも損害を与える兵器ですが、現在、このミサイルを使用した戦いは無いため、効果は未知数です。』

『それを我らが使うのだ。敵艦隊との有効射程で撃ち合うより、合理的だし、何より…』

『『『なにより?』』』

『楽で良い』この発言に各幕僚の表情は様々だった。アリス航海長の、様に一緒に笑う者も居れば、香取大佐(この艦隊の副司令官)の様に眉を顰めたり、ぽかんとする者も居た。

『後は敵に突撃して、崩れてくれればこっちの物だ。レーダー長、敵艦隊は捉えたかな?』

『船団からの情報が正しければ、36時間後には会敵します。超長距離レーダーはまだ精度が高く無い為、敵艦隊の編成艦艇までは分かりませんが敵旗艦に出ている反応はダーク・ファルス・エルダー模倣体の様です。』

『ルーサーでは無いのだな。では間違いなく、対等に殺り合おうとするだろうね。ルーサーとは違い、奴は戦うのが本分だ。計略を巡らすタイプじゃ無い。ましてや大量に量産されたクローン(模倣体)のクローンじゃあね。』

『では、各戦隊はその様に動くと言う事で宜しいですな?司令官閣下?』

『そうして下さい副司令。二十四時間後ワープを行う。敵に先を越されては堪ったもんじゃない。良いな?』

『『『『了解‼︎』』』』

こうして二十四時間が過ぎ、艦隊はワープを開始、目的地に到着した。敵艦隊も予測航路を真っ直ぐ通ってきたのかワープアウトした時には敵艦隊が真正面に見えていた。艦隊は直ぐに第一種戦闘配置が下令、戦闘の開始を待った。

『提督閣下全艦配置につきました。提督には、戦闘前の演説をして戴きたく思いますが?』

『あい分かった。…。第一艦隊の諸君!知らぬ者は居ないだろうがこの艦隊を預かったタクミ・Fだ‼︎我らは今、敵と相対している。だが我らは負けるわけにはいかない。負ければ、惑星アムドゥスキアの同胞や現地の龍族、各拠点の同胞を餓死させてしまうからだ。諸君私から言わせてもらうことは一つだ。それは、国家や主義の為に戦うのでは無く、自らの為に戦え!護るべき人の為に戦え!愛する人の為に戦え!国家や主義といった人間社会の道具の為に死ぬな‼︎心配せずとも何れこれらはひいては国の為に戦う事になる。これは諸君がこの艦隊に居る以上最上位の命令だ!必ず厳守する様、諸君…勝とう!生きて帰ろう!以上だ‼︎』

タクミは目蓋を閉じ、軍人としては言うべき事では無いと思っていたが今日死ぬかも知れないのだから言いたい事を言ってやろうとした結果この演説になったのだ。失笑を買うだろうな…青年はそう思って眼を開けると視界の先に居る、将兵達が敬礼したまま動かず中には涙を流す者までいた…『調子が狂うじゃないか』

彼は一言そう呟いた。

『さぁ諸君、始めよう。』

この一言の直後、スサノオと巡航艦と駆逐艦の群れから数百万発のミサイルが発射された。これらは真っ直ぐ飛翔し、敵艦隊の迎撃ももろともせず敵艦隊最前列で爆発した。

『着弾!敵艦隊最前列の大半の消滅を確認…凄い!』

『感心してる場合では無いよ。全艦突撃開始‼︎神速を持って突撃せよ‼︎尚、全艦各砲座私が良いというまで撃つな。』

艦隊は突撃を開始した。スサノオに、至っては、全長5㎞の船体に似合わず他の艦艇を凌ぐ速度を、見せた。

一方、開幕から損害を受けた、ダーカー艦隊に目を向けてみよう。

『何が…何が起こったのだ‼︎』

艦橋で怒号を挙げて居るのはダーク・ファルス・エルダーの模倣体だ。(ダーク・ファルス・エルダーのオリジナルに遠く及ばないが、元々の能力が高いため、模倣体一体いるだけでも、戦場に与える影響は大きい。

『何故、最前列の巡航艦隊が撃沈した!ありえんだろう‼︎』

計器を確認していたゴルドラーダの一体がその答えを究明した。

『敵艦隊ハ超長距離ミサイルヲ使ッタ模様デス。既ニ最前列ハ大半ガ消滅シマシタ‼︎』

『おのれ…アークスめ…再編を急げ戦列を維持しろ‼︎』

『敵艦隊楔型ノ陣形ヲ取リ突撃シテクル模様…ハ、速イ‼︎』

『グヌゥ…全艦迎撃‼︎』

『敵艦隊迎撃来ます!』

『陣形の外側に居る戦艦各艦にシールドの出力をあげさせろ。こちらも頃合いか…坂東武者の槍の味を馳走してやる‼︎全艦艦首レーザー主砲並びに連装レーザー主砲…ファイヤー‼︎』

若きの提督の号令で全艦が一斉に火蓋を切った。急速に接近した艦隊は敵中央…取り分けに旗艦に対し、火力を集中した。たちまち、敵艦隊中央は爆発が止まらず、敵艦隊の最前列はすでに、一万隻以上の艦隊に左右双方から押さえつけられている。そして艦隊は遂に中央に到達されてしまうのだった。

『おのれ…全速前進‼︎我が艦と敵旗艦と一騎打ちに持ち込め‼︎』

『ナリマセン‼︎既ニ後列ノ戦隊ニスラ被害ガ及ンデイルノデスゾ‼︎』

『煩い‼︎全軍突撃(ヤシャスィーン)‼︎』

『敵艦隊こちらに前進してきます。』

『まさか前進するとは…正しく、向こうから、撃ってくださいか突き殺してくださいと言っているようなものだ。香取大佐、前進する艦は全て撃沈する様、下令して下さい。望みを叶えてやろう。』

『はい閣下!全艦速度そのまま弾幕を強化、敵艦隊は刺し違えるつもりだぞ!』

旗艦スサノオの一斉射がダーカー艦隊の旗艦に襲い掛かる事、6回目遂に中央旗艦エルダー模倣体座乗艦は撃沈した。

『おのれ…アークス…人間風情がぁぁぁぁ………‼︎』

彼の断末魔を最期に敵艦隊旗艦は沈み、艦隊は統率を失った。スサノオが敵艦隊後列中央に至った時には、敵艦隊は思い思いの方向に逃亡していた。この時、提督タクミは、追撃するか、否かを問われたが…

『追撃はするな。こちらは補給線の防衛は完了した。それよりも、生存者を救出して、負傷者の手当てを行え。』

彼は、古の名将達が名将たらしめた要因を思い起こしていた。名将とは引き際を心得ていなければならない。戦う目的を明確にし、それを達成するべく策をめぐらす、目的を達成したのなら残敵は追わず、またはとっとと退却することが出来るのが名将であり、それたらしめる所以でもあるのだ。

『そんな事も出来ないで何が艦隊司令か、何が将軍であろうか…。』

ともかく、艦隊は勝利し、一路、オラクル船団を目指した。タクミが目覚めて、僅か、数日の出来事であった。

……………




まぁこんな感じの3話です。次はもっと戦闘に話を使いたいですね。文中の坂東武者とは、戦国時代北条家が支配した
関東地方の勇猛な武士を指す言葉であり、主人公は、地球の日本関東地方出身の祖先の末裔と言う裏設定がありますので、そこから取って坂東武者となりました。槍は、一万三千隻の艦隊から発射される、数万本のレーザーの比喩です。それを敵艦隊に向ける為、『坂東武者の槍の味を馳走してやる…』となった訳です。次回もどうかご贔屓にw


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『4再会と暗雲と…』

かくして初陣を圧勝で飾った第一艦隊だったが、艦隊建設と、スサノオを姉妹艦である、艦隊旗艦守護衛士級のフル建造の為、ドック要員が足りなくなり、スサノオは帰港出来ず、戦闘で損傷した艦以外は、こうして宇宙に放り出されている。その陣容は、スサノオと無傷の戦艦四隻、駆逐艦八隻であった。それともう一隻全長7㎞にも及ぶドック艦である。これは今、スサノオを収容しており、スサノオの改修を行っていた。主な改造点は艦首レーザー主砲の砲門を増やすことである。砲門数は2倍の十二門七列の八十四門である。口径を狭め、高出力、連射性の高い新型砲を搭載する。他にも、後部に連装主砲を上部に追加する位であるが、艦首の改装は大掛かりの為、全自動の設備でも三日四日は掛かるのであった。その間にタクミはアークス本営に報告をする為に、単身船団に戻った。幕僚達はついて行くと言ったが、面倒になるから良いと言って留まらせた。

タクミの報告は単純なものであった。

敵艦隊を発見し、これを撃破し、補給路を防衛した…これだけである。

ウルクもただ頷き、予定を聞いただけだった。内容は…

『タクミはこれからどうするの?』

『人に会って、その後に艦隊に戻る事にします。』

『マトイさん?(ニヤニヤ)』

『ご想像に任せる。』

こんな感じである。そしてタクミは本営を後にした。全く、そんなじゃ無いと何度も言っているだろうと不満気だったが、目覚めた事も言って無かったし、心配でもあったから良い機会だろうと思ったのだろう。

『アフィンの話だとこの辺りで勤務しているはずなんだが…』

アフィンとはタクミの、同期であり、優秀なアークスでもある。現在では船団直衛の任に就いており、同じく船団直衛であるマトイの宿舎を聞き出したのだ。

『タクミ…?』

後ろから呼ぶ声がするので振り返ると

銀色に輝く、髪を持ち、ツインテールに結び、紅白で彩られた、特殊なデザインの服を着て、立っている少女が居た。

『タクミ!』

そう叫んだと思ったら飛びついてきた。蒸発してしまう。そう思いつつも、腕を彼女の背中に回し、抱き返した。

『ただいま』

『おかえり…良かった』

暫くして、二人は離れた。

『心配したんだよ。起きて直ぐに、艦隊勤務に就いたって聞いたから、フラフラなんじゃ無いかって。』

『ギリギリ平気だけど、また直ぐに艦隊に戻らないといけない。』

彼は続けて、こう言った。

『マトイ、食事に行きませんか?奢るよ?何が良いかな?』

『うん、でも大丈夫なの?』

『平気だよ。では行こうか?』

こうして四時間が過ぎた。ここで二人の端末が呼び出した。一方は艦隊に戻るように、もう一方は、周辺警備にである。

『時間になっちゃったね。』

『またこうして会える?』

『勿論、だけどもう少し、戦況が安定しない事にはね』

『安定させてくれるんでしょう?』

互いに微笑し、別れを告げて、それぞれの場所に戻った。彼は顔をしかめ、考え込んだ。彼は本営に一つの危険性を提示されていたのである。それはオラクル船団現与党がアークスの台頭を許さず、これを妨害し、組織、及び、船団防衛軍の戦力を大幅に縮小しようとしていたのだ。彼らの言い分は、アークスと言う軍組織が、政治の主導権を握り、軍閥政治にするつもりである。吾々はそれを許さず、組織を縮小させると言うものであった。はたから見れば、民主主義の基本概念を軍閥勢力より守り、軍事費用を削減し、それを民衆に均等に配るとつもりと思うだろうが、実態は彼らの私腹を肥やす腹つもり為であり、現政権の政調を乱し、彼らの不当な専横を邪魔せんとする、アークスが邪魔であった。その為、彼らは船団国防軍重職に自分の息のかかった者を入り込ませ、シンパを増やし、更に、野党の過半数迄、支配下に置き、アークスと対立していたのである。更に問題は、彼らの勢力は、防衛軍の四割に及び、勢力の輪は、船団内外に及んでおり、アークス主力の部隊を乗せた艦隊がとある惑星に寄った際、アークスが多数乗っていると言う理由だけで追い返される程であった。次第にアークス内でも、憤慨する声が上がり、政党勢力に天誅を下し、我らが、主権を握るべきという者も現れた。それはアークスとしてはそれをやる訳にもいかないがこのままでは船団の存続にも繋がる事態にもなる可能性が秘めていた為、自制する様に呼び掛けるだけになっていた。

『このまま行けば、内戦になる。』

現に船団直衛のマトイらが警備に頻繁に出されている時点でその兆しは大きくなっている以外にも何物でも無かった。

その為、タクミはこう言われていた。

『クルーと政府関係者に注意せよ』

クルーを疑いたくない。然し、不満を抱えていることは間違いないし、政治家達は間違いなくこちらの動きを読み、攻撃するか、こちらを引き込みに来るに違いない。彼はこの事態を防がねば成らない責任があった。

『少なくともアークスから攻撃する事は有るまい。だが事実上船団を、二分する戦いなんかやってみろ。ダーカーのゴミ虫共はここぞとばかりに、攻めて来るに違いないのだから。』

彼は、歩幅を狭め、半ば駆け足で帰路に着いた。なんにしても警戒せねば成らないし、タクミには政治など分からなかった。ただ彼は政治の概念は、最善の専制より、最悪の民主政が勝る。これだけである。専制というのは、政治の責任を民衆が選んだ為政者に罪をなすりつける事できる、これは専制の罪でもある。民主政は政治の不祥事は全て為政者を選んだ民衆の責任になる。これらの共通点は、為政者を、民衆が選ぶ事が出来ると言う点である。かれは民主政は政治をやるのも一人の人間では無く、民衆である事を考えた上で人間の尊厳と自由を守る事の出来る民主政を支持するのである。

『民主政は我々人間の尊厳と自由が保障されている。然し、専制はそうはいかない。言論と表現の自由が保障されなければ、人間は自分の意思を持たず、考えない生き物になってしまう。それに階級社会は、人間から搾取するのが基本概念であり、彼ら以外の人間は動物またはそれ以下の扱いをされる。これは人間が最もやってはいけない事だ。』

だが今、それは崩れている。表現と言論を司るマスメディアは公平さを無くし、その殆どが政治に加担し、そうでないものは弾劾され、民衆を洗脳し、不満を抑え続けている。これが今のオラクル船団の内情であった。遠からず、この船団は二つに分断され、血で洗う、内戦に突入するのだが、これを見越せない者は居なかった。この日、深遠なる闇との戦いから三ヶ月が過ぎようとしていたのであった。……………

 



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5話 反乱勃発‼︎船団燃ゆ

第一艦隊は旗艦とその麾下の艦隊は修理と補給を終え、一路リリーパに向かっていた。途中で敵分遣艦隊と戦闘これを殲滅し、航海は順調に進んでいた。然し、物事が順調ばかりに進むのなら人間は苦労と言うものを知らずに生きられたであろう。リリーパが肉眼で捉えられる程の距離に艦隊が近づいた位であろうか。それは起こった。艦橋内に警報が鳴り響いた。『提督‼︎船団本営より至急電です‼︎』

通信兵が叫んだ。タクミは、『パネルに出せ』と下令したパネルに若い本営付きの通信兵が映し出された。

『第一艦隊応答願います!こちら大本営指令室‼︎第一艦隊応答願います!』『こちら第一艦隊のF提督だ。状況を説明せよ。』タクミは落ち着いてそう答えた。

『緊急事態です!オラクル防衛軍の一部が反乱を起こし、大本営以下アークス関連施設を包囲しました。船団直営隊も壊滅で、おまけに建造が完了した守護衛士級5番艦アキレスを鹵獲され、状況はもうなんて言うか…その壊滅的です‼︎』『落ち着け!兎に角何が起こってるかデータをこちらに送れ!それと誰が主犯なんだ‼︎』『政府です‼︎』

これを最後に通信は途絶えた。

艦橋内、鎮座していた幕僚達はみんな言葉を発さなかった。ある者は、予想通りになったと閉口し、ある者は、呆れて物が言えず、ある者は、信じられないといった感じであった。タクミに至っては既にこれが起こることは予期こそしていたものの、自分が出撃して直ぐに起こるとは思わず、何とも言えない表情をしていた。やがて彼は口を開いた。『これより幕僚会議を開く。各幕僚は30分後に集結されたし』かくしてタクミの幕僚達は集まった。先ずは艦隊の任務についてだった。この時第一艦隊は惑星リリーパ採掘基地がダーカー六万五千体の包囲軍に囲まれており、基地を守っているのは僅か三千の将兵であった。それを救援する為に、兵力150万(内50万は戦闘兵力)を持ってして援軍に駆けつけていた。だがオラクル船団が内乱状態になった今、リリーパに構っている暇は無かった。かといって、三千の将兵を見殺しにすることも出来ない。だが50万の、将兵を降ろし、大軍を率いている時間は無かった。何より、政府軍を相手にすると言うことは、船団内外で戦わねばならないと言うことを意味しており、戦力を失うわけにはいかなかったのだ。『それなら俺が行こう。』そう声をあげたのは、この初老の男だ。然し、若い時は相当な美男子だったのだろうか、初老になってもその顔つきは一切変わらず、今でも女に困る事の無いであろうマスクを持ち、見るからに強靭であろう体つきをしているこの男は名をフリードリヒ・ケンプ・オイゲンといい階級は准将である。この男はタクミの父の戦友であり、数年前の惑星アムドゥスキアにて起こった、龍族とアークスの初の大規模軍事衝突において互いに武勲を建てた。然し、タクミの父は敵の大将と騎馬の一騎討ちにてあいうちになり戦死、フリードリヒ自身も戦友を失った為にアークスを退役したが、彼の友の遺言に従い、彼の子であるタクミを鍛えた。言うなれば二人は師弟の関係であった。フリードリヒは防衛軍発足時に功績を買われ、防衛軍最精鋭擲弾兵連隊ポツダム連隊を任せられ、タクミの第一艦隊に乗り込んでいた。

『然し、いくら精鋭ポツダム連隊一千名といえど、包囲軍六万五千に対して、守備兵含め四千の兵力で敵にあたるなど自殺行為ではありませんか?』と心配そうにアリス航海長は言った。それに対しタクミは、『大丈夫だよ、アリス大尉。し…准将ならきっと持ち堪えてくれる。』

『その通りだ。だがな提督直ぐに戻ってきてくださいよ?長くは持ち堪えられないと思うからね。』フリードリヒはそう答えた。『ポツダム連隊は直ちに降下‼︎戦線を維持せよ‼︎』タクミは大きく下令した。フリードリヒは踵を返すと自動ドアに消えていった。タクミは師匠の背中を見送った。かくして第一艦隊とポツダム連隊は別れた。このリリーパに置いて、ポツダム連隊は鬼神の如く戦い、敵味方双方に恐れられる事になるのだが、今は語らないでおく。

艦隊は猛スピードで船団に向かっていた。その間彼は第二、第三艦隊を呼び出していた。かくしてパネルに四つの顔が映し出された。第二艦隊提督のジャン中将とジョーゼフ少将と第三艦隊提督のバルバラ少将と第三艦隊指揮官候補生のフーリエ中尉である。先ずジャンとジョーゼフは互いに数十年も昔からアークスとして活躍しており、その老練した戦いは場所を問わないという事で、二人は第二艦隊を預かる事になった。旗艦は、守護衛士級一番艦守護衛士(ガーディアン)第三艦隊のバルバラ少将は以前はアークス教官であったが防衛軍発足時の指揮官不足により現役復帰し、栄達した指揮力を買われ、第三艦隊の提督に就いている。フーリエは歳はタクミと同い年であるが、惑星リリーパに住むリリーパ族との交流の、架け橋になるなど若いながら功績を残しており、その才覚を買われ、第三艦隊指揮官候補生の中尉として艦隊に乗り込んでいた。旗艦は、守護衛士級三番艦ホウショウである。ホウショウは他のガーディアンとは違って後部の形状が異なっている。後部は横に長く、200機を超える艦載機を収容できるように改造されており、位置的には航空戦艦に違い。因みにバルバラは二年前にゲルマン系ヒューマンと結婚しており三十代半ばにして一児の母となっている。それぞれの面々が画面越しでオラクル船団主力艦隊指揮官の顔を見ていた。そしてタクミはオラクル船団の内乱状態を説明した。そしてそれぞれが各々の航路をたどり、障害となる艦隊は撃滅しつつ進むと決まった。然し、彼らには不安要素があった。タクミが遣わした通報艦によると反乱側に五番艦アキレスが第五艦隊の半数近くの戦力を持って、参加した事、身動きが取れない第四艦隊旗艦ムスタファーは乗組員が降ろされ、接収されるのも時間の問題だという事、既に船団内では、反乱を起こした政治家たちに反対的だった僅かな政治家たちの粛清を開始し、反乱側に支持する民衆と反対する民衆または反乱軍と民衆が激突し既に民間人に約五千の死傷者を出してしまっていると言う事だった。

三艦隊の行方には、分遣艦隊が三つ合わさって出来た聯合艦隊がそれぞれの航路に立ち塞がっており、その何れか一つにアキレスが混じっているという事だった。

『アキレスの艦首にはワシらのガーディアンと同じく下部に要塞砲クラスの大出力巨大レーザー砲が搭載されておる。これを食らえば、艦隊はひとたまりもない。』とジャン中将は言った。それに対し、タクミは『ならば、アキレスはそれを撃てば、大きく隙が出来るということ、つまり巨大レーザー砲は回避すれば良い。』『どう回避するつもりなのかしら?』バルバスは尋ねた。光の速さで動く巨大なレーザーの塊を避けれる筈など無いからだ。タクミは『ならば我らは光の速度を超えて、回避すれば良い。』

フーリエは答えが分かった。『ワープですね?』

『その通り‼︎ワープです。』『成る程ワープか確かにそれなら避けれる。だがタイミングが生死を分ける。』タクミの案にジョーゼフは感心した。しかし、これはタイミングが重要だった。失敗すれば跡形も無く消滅する。

だからこそ、効果がある。タクミはそう考えていた。

そして何より、『アキレスは間違いなく、このスサノオを止めに来る。』彼はそう確信していた。その為にこんな危険な案を考えついたのだろう。『兎に角、今は、無事に船団にて逢おう。』ジャン中将はそう言い、通信を切り、もう一方も同じように通信を切った。タクミは、直ぐに艦隊に増速をかけるように指示を出した。時間がない。

政治家たちが船団を掌握しては全てが手遅れになる。それぞれの思いがこの宇宙を交差していた。

 




第5話です。また一人タクミ一党の顔ぶれが明らかになりました。銀英伝で言うところのシェーンコップの、ような立ち位置にいる人です。彼の率いるポツダム連隊は、プロイセン王フリードリヒ1世が編成したポツダム巨人連隊がモチーフで擲弾歩兵連隊でもあった事から、そこから持ってきました。そしてまさかのバルバラが人妻…wwwでも彼女隠れているけど、エメラルドの美しい瞳を持っているため、こういうのでも良いかなと思い書きましたw
さて次回は第一艦隊対反乱軍第一艦隊(防衛軍第五艦隊)との戦闘がメインです。そして、主人公が反乱を起こした政治家達を口汚く批判しますw


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6話 星屑は常に光り輝く…

新光暦239年オラクル船団と惑星リリーパを結ぶ回廊通称ゼノビア回廊にて二つの艦隊が相対しようとしていた。

一つはオラクル船団国防軍第一艦隊、一つはオラクル船団国防軍第五艦隊改オラクル船団現政権軍第一艦隊である。

それぞれ同じ国、同じ組織の艦隊であったが、主義と主張、人間が最も争いを起こす要因で対立し、今まさに砲火を切らんとしていた。オラクル船団国防軍第一艦隊総数13000隻将兵149万9000名対する第五艦隊は総数15000隻将兵170万であった。数は第一艦隊が劣るものの火力は第一艦隊が勝り、練度も桁違いであったが、此度の件で急行した為か、疲労感が漂っており、士気が下がっていた。

タクミは陣形を閣僚達と思案していた。敵は縦陣。火力面を補う為に数と陣形で補おうとしていた。対する第一艦隊は斜陣。陣形的には不利だが、火力を持って、敵艦隊を叩き潰そうという作戦になった。然し、彼は納得しなかった…彼には二つの不安要素があった。一つは何故戦力を分散したのか?確かに現政権軍は国防軍の四割に及び、その殆どが船団付近の戦力であり、アークス側の戦力が六割に対し、本土側に布陣出来る戦力は少ない。布陣出来るのは第一、第二、第三艦隊のみであった。守護衛士級を持たずとも分遣艦隊三つを合わせた連合艦隊を5つも編成できるのに何故各個撃破を取らないのか?現政権軍の布陣位置はこの三艦隊のうちどれかを各個撃破しても船団にすぐ戻る事出来る。残る二艦隊が船団に着いても、5個艦隊は船団を盾に出来る余裕は充分にある。あとは餓死させるだけという比較的楽ができる戦法を何故やらず戦力を各個に当てたのだろう?もう一つ不安要素があったが、これはまだ語るには速いだろう…何にせよ、彼は違和感を禁じ得なかった。

兎に角、目の前の艦隊を倒さねば成らない。

彼は目の前にいる敵を倒す事に集中する事にした。

敵第五艦隊司令は、矢崎大将であった。矢崎は軍人政治家であり、地位を政治圧力と金で買った男であり、贈収賄の常習犯であり、渾名は狸であった。この狸は、アークス不要論を唱えた主要人物であり、この内戦を引き起こした人物でも一人であった。そんな彼は功績も名声も無く、実戦なんかやった事が無く、艦隊運用はこのキャストの副官、名前をチャールズ・グリッドマン中佐に任せていた。

『青二才めが…この数の艦隊に恐れなしたのか攻めてくる様子も無いわ。そうだろうグリッドマン君?』

『左様ですな…』グリッドマンはただ一言こう返した。

攻めてくるわけ無かろう…陣形に置いて、不利なのにむざむざ攻めて兵力を無駄にする愚をするわけが無い。彼は内心思った。この第五艦隊は現政権軍に参加する際現首相におべっかを使うこの狸親父について行った艦隊は半数であり、残り半数は従わず、この狸親父は激怒し、艦から降ろし更迭してしまったのだ。その為残り半数は船団に拘留されており、不足を他の艦隊から引き抜いて編成している状態だった。その為、艦隊の動きにムラがあり、統一性を欠いていた。グリッドマン自体は従わなかった半数につきたかったが、艦隊副司令という立場からそれは無理な話であった。『こんな事ならこの狸親父を更迭して、第一艦隊に白旗でも降った方がマシだった。』彼はこの狸親父の私利私欲の為に兵が殺されるのは堪らなかったのだ。だが上官である以上、従わねば成らない。ひょっとすればあの第一艦隊に勝てるかも知れない。いや勝てる策はこの男は考えていた。それでも歴戦の勇士と戦えるというのは彼の戦士としての喜びを感じ得なかった。『こちらから攻めるぞ‼︎艦隊前進‼︎』矢崎は叫んだ。グリッドマンも前進の号令を出した。タクミは敵が動いたのを見ると直ぐに命令を発した。『敵が動いた!全艦迎撃開始‼︎』『全艦迎撃開始‼︎』

鹿島の号令で13000隻の艦艇が一斉に砲火を放つ。砲火は敵艦隊を捉えたが、大した被害を与えられていなかった。宇宙艦隊戦は陣形の強弱が勝敗を決する要因であり、陣形不利をとったタクミ一党は自然と敗北に向かっていた。

然し、負けるわけには行かない。彼はこう呟いた。負けなければ良い…そう負けなければ良いのだ。この男は負けなければ何とかなると言う用兵法の基本概念があった。『敗北しなければどうとでもなる。』彼は正面の敵を改めて見据えたこう指示した。『全艦火力を敵左右に集中。前は無視しろ。敵にこちらを突破させれるように仕向けろ。一歩も引くんじゃ無いぞ‼︎』第一艦隊は火力を左右に分け不動の体制を取った。第五艦隊は左右に被害を出しつつも前進速度を速めていた。『戦艦敷島轟沈‼︎巡航艦浜風、ハリー、ジョン・ポール・ジョーンズ航行不能‼︎』『閣下我が艦隊の左右に被害が出ておりますが…』『構うな‼︎前進し、あの青二才を殺せ!』グリッドマンは呆れたが直ぐにこの愚劣な指揮官に従った。『はい閣下…全艦進路そのまま、シールド出力を上げ、怯まず突撃せよ。』冷静なこのキャストは敵に疑問を抱いていた。何故このまま横陣を維持し、後退しないのか?このまま後退すれば敵に中央を突破されずに損害を与えられるのに、踏みとどまっている。後退すれば彼の策のメインとも言える物すらも無力化出来るのに何故引かないのか?彼は考えたがひょっとすれば第一艦隊の若造は大した用兵家では無いのかも知れない。

兎に角このまま突撃すれば敵を瓦解させる事が出来るのは間違いなかった。艦隊は猛烈な火力をタクミ一党に突きつけていた。頃合いだ。彼の幕僚は全員思った。そして時は来た。『全艦左右に展開‼︎敵艦隊に中央を突破されたように見せるんだ‼︎』タクミの号令が掛かるやいなや、艦隊が左右に分かれて行った。慌てるようにかつ正確に移動して行った。これを見た矢崎は、『ほら見ろ!敵艦隊は総崩れだ。あの若造に至っては完全に腹を見せてるぞ。』狸親父ははしゃぐように言った。冷静な副官もまた『左様ですな…この分なら敵艦隊は壊滅出来るでしょう』と素っ気なく答えた。然し、彼は違和感に囚われていた。突破されたというよりさせたの方が正しいだろう。我らは敵の中央にすらその砲火を届かせては居ないのだ。確かに敵の三割に被害を与えたがまだ巻き返せるだけの兵力を残している。…まさか敵は、敢えて突破させ、自分は左右に砲火を集中しつつ後方に回り込み、更に攻撃するつもりでは‼︎彼がタクミの策に気がついたときには遅かった。第五艦隊旗艦アキレスは振動で揺れた。ダメージを与えなかっとは言え、敵の砲撃がこちらに届いたのだ。『馬鹿な…』矢崎は絶句した。敵艦隊は左右に分かれて砲撃し、後ろに回り込んでいたのだ。従って、左右と後方から攻撃を受ける形となったのだ。これに近い戦法として地球の日本という伝説の島国の島津と言う豪族が得意とした釣り野伏せと言う戦法があるのをタクミは知っていた。それをこの宇宙艦隊戦で再現したのだ。僅かな違いは釣り野伏せは敵を奥深く攻めさせ、時が来れば敵の退路以外から攻撃し、追いおとすと言うものだが、彼が使ったのは、奥深くまで攻めさせ、左右と敵の退路から攻撃するものだった彼としては『同じ組織の仲間を宇宙の星屑にしたく無い』と言う思いがあった。

ここで敵が諦め、リリーパに方面に潰走してくれれば、戦う必要も無くなり、損害が少なくて済むのだ。然し、問屋は卸さず、狸親父は、と言うより憤慨していた寧ろ達磨に近いだろう。吠え散らしていた。『何故敵艦隊がこうするとは分からなかったグリッドマン‼︎お陰で私の地位と名誉と退路は無くなったんだぞ‼︎』グリッドマンはこの時になっても自分の事ばかり言う指揮官に嫌気がさしてきていた。『これも全部貴様の所為だ‼︎船団に戻ったら法廷に掛けてやる‼︎』帰れるわけも無いだろう。彼はもう目眩のようなものも感じた。彼は未だ、喚き散らしているこの醜く肥った中年の男に銃を向けた。『おいよせ‼︎辞め…』銃声が艦橋に複数鳴り響いた。彼が数発撃ったのでは無く、彼と共にいた第五艦隊幕僚の手によって放たれた銃声だった。かくして、矢崎は醜く穴だらけになった血と糞尿の詰まった袋に成り下がった。幕僚の一人が、降伏するかと聞いたが、グリッドマンは、『後は引けんよ。こうなったら何が何でも勝つ‼︎例の信号を出せ‼︎敵艦隊は後方に回りきってない今がチャンスだ‼︎』新提督の号令が掛かり、旗艦アキレスから通信が流れた。瞬間、第一艦隊の左右に分かれた艦隊のそれぞれ左右に艦隊が出現し砲撃を開始したこれで第一艦隊は左右から砲撃を受ける形になった。グリッドマンはもしもの時のために艦隊とは別に三千隻程度の分遣艦隊を二つ待機させており、もしもの時はこの艦隊でタクミの後方を襲わせるつもりだったのだ。だが今は分散した艦隊を叩かせるために使っている。これで数はタクミの艦隊の2倍に達し、各個撃破するだけであった。対する第一艦隊は既に三割半の艦艇を、轟沈または、戦闘、航続不能状態になっていた。『戦艦三笠、ドーントレス、モルドレッド轟沈‼︎巡洋艦インターセプター、モンゴメリー戦闘不能‼︎駆逐艦白雪、モルドバ、ベートヴェン、モンタナ、シミター通信途絶‼︎』オペレーターの悲鳴じみた報告は艦橋の至る所で聞こえていた。タクミは、もはや何も言わなかった。彼の中には、作戦の加筆修正や何故こうなったとか責任追及とか頭になかった。ただ自分のベストを尽くして負けるのなら後悔はしないということとここで将兵を死なせてしまうという情けなさと申し訳ないと言う思いだった。彼は死を覚悟した。その時、アキレス天井方向から、レーザーの雨が降ってきた。第五艦隊の将兵は、何が起こったか理解できなかった。勿論、第一艦隊の将兵も同様だろう。スサノオに座乗するタクミとその幕僚を覗いては…

『我らはフォトンに見放されては居なかったのだ‼︎来たぞ…我らが国防軍艦隊司令長官率いる秘匿艦隊第六艦隊が‼︎新型艦隊旗艦大和が来た‼︎』国防軍艦隊司令長官ジェームズ・ネルソン元帥…古の名提督であるネルソン提督の血を引くと噂されるこの老人は、ジャンや、ジョーゼフよりも戦歴が長く、正しく生きる化石であった。齢70を過ぎるこの男は今も剣の腕前はレギアスと並び、用兵はオラクルや、ダーカーを始めとする、全勢力の指揮官が束になっても勝てないと言わしめる宇宙最強の名将であった。彼の座乗する新型艦隊旗艦大和は正しく古の超戦艦を拡大し宇宙に引っ張ってきたと言うのが相応しいが、この艦自体は旧式艦で、三十年前に建造されていた。就役間近であったこの超戦艦は、時の事情により、マザーシップで埃をかぶる事になり、その後、完成した。守護衛士級等の技術を詰め込み、やっと数週間前に就役した守護衛士級を超える。真の艦隊旗艦であった。然し、圧倒的なコストが掛かり、そのコストはアークスシップを100隻建造出来るほどであった。その為秘匿され、この一番艦大和は第六艦隊通称秘匿艦隊として殆どの者が知ること無く戦列に参加していたのだ。そんな生きる化石と、動く博物館は今堂々たる戦場に立っているのである。『Fの坊やは無事か…全艦敵を叩き落とすのじゃ…だが撃滅する必要は無い。逃げたければ逃がしてやれ。』この老人に率いられた艦隊に第五艦隊は潰乱してしまい統率は不可能であった。グリッドマンは想像もつかなかった敵の増援にかなう術は無いと分かったのか。降伏を提示した。かくして、オラクル内乱最初の艦隊戦は終結した。第五艦隊残存艦艇は全て降伏し、タクミらの勝利に終わった。タクミは提督席に深く寄りかかり、大きく息を吐いた。『危なかった…もしネルソン閣下が駆けつけてくれなかったら…どうなってたか…』『閣下、もしネルソン元帥が敵方についていたらどうなさったのです?私はネルソン元帥をよく知らないので分かりませんが?』

『アリス大尉それは無いよ。彼は政治家嫌いでね。特に安全な場所で戦争を賛美し、無益な戦いに人々を向かわせようとする。首相のような人がね。僕も同じさ、彼は政治を腐敗させた。政治の腐敗と言うのは、政治家が賄賂を貰ったりする事では無く、それを奨励し、誰も批判しない。それを政治の腐敗と言う。彼は国の為に行動なんてしていない。常に自分のゴシップと財布ばかり気にしている。彼等の真の敵は民衆なんだ。彼等は支持と金の為なら民衆が何人死のうと気にも留めないだろうさ。政治家が真の目的は国を、民衆を飢えさせることなのだ。命を犠牲にしてまで民衆に尽くそうという同業者を片っ端から狩りあげ、国の為に献上した税金を自分の欲の為に使う。それはもはや人間では無く、動物のやる事だ。奴らは自分の立場を理解しようとしない生き物なんだ‼︎彼等が思う、敵は恐ろしく力を持った存在とは知らずにね。話を戻すがまぁ仮にネルソン元帥がついてたら僕は真っ先に降伏しますよ。』この女性は自分より二つ年下のまだ十代の若さが抜けきってないような21の青年がまさか降伏するなどとは考えなかったようだが、彼のそういう素直な所に何かを感じたのか、そっと近づいてこう言った。『提督、紅茶をお持ち致しますか?』『うんでも、それは従卒に…。』『あの子達が疲れてしまいますよ?任せてください。』そう言うと彼女は去っていき、程なくして戻ってきた。ストレートのセイロンで砂糖が入っていた。提督は一口それを飲んだ。彼は直ぐにハッとした。これには何とブランデーが入っていた。その美味いこと美味いこと、彼自身や従卒が淹れたものより遥かに美味だったのである。『どうやってこれを?』彼女はクスクスと、笑って『秘密です』と笑った。彼はまた紅茶を飲むと、死んでいった将兵に哀悼の意を示した。




はい6話です。…宇宙戦艦ヤマト(波動砲はありません。代わりに艦首にはレーザー砲だらけです。)の二番煎じに、ネルソン提督の子孫と思われる老人まで、何でもありですが、自分の物語であるpso2ならではの内容ではないでしょうか?(汗)そう言えば原作にも大和参戦の様ですが、提督である私としては、大和とは戦いたくは無いですねw(色々議論を呼んでるらしいですが)最後にこの様に時折、話の中で我々の人類戦史の例など重ねていくつもりですが、実在の人物、組織等には全くの無関係であり、現政権等を非難するものでは無い事をご理解下さい。


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7話 戦火の帰還

タクミと彼の信頼すべき女性航海士と老練な老副官は、オラクル船団艦隊総旗艦大和艦橋エレベーターにいた。

この戦艦大和は全長4.6㎞全幅200m全高1.8㎞とスサノオ等のガーディアン級に比べたら若干小柄ではあるが全幅や全高の他の艦を凌駕しており、むしろ、ガーディアン級よりも大きく感じるものもいることから文句無しの堂々たる艦隊旗艦型戦艦である。先ず、この艦は他のオラクル船団艦艇とは違う点がある。例えば、主力戦艦から駆逐艦に至るまで艦の主砲は艦首に内蔵されており、つまり、艤装が艦内蔵型に対し、大和の場合、艤装が露出しているのである。先ず、前方に三連装レーザー主砲口径300cm全長350メートル全幅150mこの砲塔一門で駆逐艦サイズである。その後ろに三連装レーザー副砲口径200㎝全長200m全幅80mこれ3機で900mと主力戦艦サイズであり、その後方に全高1.2㎞の艦橋がありその後部にレーザー主砲1機三門、その後ろにもう1機主砲が配置されている。艦腹にレーザー主砲1機と300㎝二連装主砲が前後に配備され、艦艇部にレーザー主砲がそれぞれ前部と後部に配備されている艦首主砲は内蔵式格納式のレーザー主砲20機と中央艦橋ブロック正面に7機4列28門、その他レーザー副砲対空砲が無数。300㎝と200㎝の化物を大量に乗っけたこの戦艦は後部に1㎞に及ぶ航空甲板を持ち、航空戦艦としての側面ももつ。この化物戦艦の艦橋にタクミ一党はいるのだが、1.2㎞に及ぶ艦橋の為、最上階に着くのは時間がかかる。タクミはこの艦を始めてみた時、『戦艦大和そのものかと思ったけど、戦艦比叡の面影もある。』この艦の艦橋は大和型艦橋では無く、むしろ古の戦艦、比叡に搭載された大和型試作艦橋に近いものに設計されていた為に彼がそう思ったのも無理は無い。

 

そしてエレベーターは止まり、ドアが開いた。そこには、白髪の髭を生やした、老人と、中年の副官が待っていた。タクミ一党は敬礼し、この二人の老指揮官も敬礼を返した。『艦隊司令長官殿、援軍感謝します!』タクミは感謝を述べた。ネルソン元帥はかぶりを振り、『何のワシが行かんでも、お前さん一人でどうとでも出来たであろうに。』と謙遜した。(結構ピンチだったんだけどなぁ)そう思いつつもタクミはこれ以上触れずに、現状の戦局を聞いた。『現政権軍は残った戦力を結集して、立て篭っておるよ。彼等を支持する民衆を義勇隊として、戦力にも加えておるようじゃ、お陰で現政権反対派の民衆と義勇隊が毎日、日夜問わず暴れまわっていて、数千隻のアークスシップことごとく戦場と化しておるよ。』

『このままでは民間人の死傷者が増える一方ですね…』

『その為、一刻も早くオラクル船団に帰投しなければなりません。』『貴官は?』『失礼、小官はマグナス・アブラムソン小将であります。第六艦隊副司令と作戦参謀長を兼任しております。』そう答えたスウェーデン系ヒューマンとニューマンのハーフのこの中年の男性は会釈した。

『これは、同階級の将校とは知らず失礼いたしました。』

タクミも敬礼で返した。今後の方針は、第一艦隊と第六艦隊の聯合艦隊で中央ゼノビア回廊を進み、残りの第二、第三艦隊がそれぞれの航路を取り、オラクル船団を包囲する形になった。タクミはとある事をネルソンに聞いた。

『第五艦隊はどうしますか?』

『ああ、あのキャストの若い男だな?あれは暫く、此方で預かる。艦艇は近くの基地に置いておこう。』

老人はタクミのちょっとした表情から、読み取ったのか、『あの男の気に入ったのか?心配するな。時が来たら、あの男をそっちに回せるようにしておくよ。』

タクミ達は艦橋から降り、連絡シャトルで、スサノオに戻った。鹿島大佐は、第五艦隊のグリッドマン中佐を第一艦隊に入れる事に反対だった。『彼を我々の仲間に入れるのですか?彼の上官が、以下に愚劣な男であったにしても、自分の上官を撃ち殺すような男を幕僚に入れるのは反対です。』鹿島大佐の言うことも一理あるが、タクミは聞く耳を持たなかった。彼はスサノオの自室に戻ると、残った戦力を結集し、艦隊の再編を行っていた。彼は今回の戦闘で、とある思いがあった。『ガーディアン級の指揮能力が高くない。』という事であった。実際はそうでも無く艦隊を指揮するのなら十分な性能があったが、彼のような縦横無尽に動き回る策を好む将官にとっては、ガーディアン級の指揮能力に僅かながら不満を抱くものもいた。考案主であるタクミすらこれを感じていた。『大和ような艦に乗れれば、扱える戦術も戦力も増えるんだがな…あんな化け物戦艦使うのは大変だが強者揃いのウチなら何とかできそうだし…』彼のちょっとした願望は後々叶う事になるのだが、これは別の話である。こうして、第一艦隊と第六艦隊の聯合艦隊総数約23,000隻(内第一艦隊約8,000隻第六艦隊15,000隻)はゼノビア回廊の航行していた。第二、第三艦隊も第一艦隊と似たり寄ったりの被害を出しつつも、それぞれの航路でオラクル船団を目指していた。

 

一方オラクル船団現政権は狼狽していた。彼等の唯一の起動戦力を失い、おまけに旗艦は拿捕される始末であった。

彼等は、もしもの時はアキレスに乗り、船団を脱出するつもりだったのだ。だが、現に艦隊は敗北し、残ったのは僅かな分遣艦隊2000隻であり、それに対し約30,000隻以上の艦隊が大挙して押し寄せようとしているのだ。狼狽して当然であった。『クソ‼︎矢崎の役立たずめが‼︎これでは我らの退路は無くなったでは無いか‼︎』首相は怒りに震えていた。外務省大臣は、敵艦隊が刻一刻と近づいている事を

首相に伝えた。彼は、どうしようも無いこの状況に何とか、活路を見出そうとしていた。そして彼は考えた。

『我々を支持する民衆が義勇隊を作っていたな?』

閣僚達がそうだと答えると、彼は『全ての我々を支持する民衆に武器を持たせて、アークスシップの武装を使わせろ。こうなったら、邪魔な連中同士を潰し合わせてやる!』この男は本当に民衆と戦争しているような男であった。皮肉にもこのオラクル船団議事堂にはこれを批判できる者は居らず、むしろこの動きを賛美するものしか居なかった。そう言った者達は一人残らず政治犯として収監してしまったのだ。もはや政治の立て直しなど見込めるはずもなかった。こうして悲劇にも国民は進んで武装し、真に国と民を想って、戦ってきた者達と砲火を交えようとしてしていた。ここにいる連中は誰一人として、議事堂の現政権を疑っていなかった。国民が信じる国家政権の為に戦おうとしている中、家族と共に財産を持って脱出しようとしているとはこの時、誰も知らなかった。

一方現政権軍に更迭されたアークス達は、やるせ無い気持ちで一杯だった。自分達が捕まり、それを助け出そうとした民衆と阻止しようとした民衆同士が殺しあっている。

そんな事を彼等が望むはず無いし、何よりこの時に乗じてダーカーが攻め込んでくるのでは無いかという不安で頭が一杯だった。そんな中、アークス首脳陣は同じ牢に入れられていた。『あ〜あ、つまんない。』とウルクは退屈していた。テオドールはなだめるようにこう言った。『心配せずとも、後で忙しくなるよ。とにかくウルクに怪我をさせた彼奴ら…許さない…』テオドールの殺気の籠った発言にヒューイは『と…取り敢えず落ち着こうじゃ無いか。外は世紀末状態救援は望めない。こうなったらオレ達でどうにかするしか無いだろう。』『でも、どうやって出るのよ。こっちは武器は勿論何もかも取り上げられてるのよ。扉を開ける事は出来ないし』サラの発言に皆が肩を落とした。確かに武器さえあれば、こんな牢簡単に破れるが、武器を持たせて牢に入れる人間などこの世界の何処にいるだろうか?だが出なければ成らないのも事実。古今無双の力を持つ彼等ですら今はなす術もなく、牢に入れらているのである。

 

話を艦隊に戻そう。彼等は数日掛けて、船団に到着した。しかし、民間人の操るアークスシップの武装はことごとくタクミ一向に向けられており、アークスシップ一隻でも脅威なのに、数千隻が、いっぺんに相手にしなければ成らない状況に頭を悩ませていた。艦隊は一切の主砲が使えなかった。特にガーディアン級や大和級の艦首レーザー主砲、200㎝二連装レーザー主砲、300㎝三連装レーザー主砲等を喰らったら、アークスシップはタダでは済まないだろう。最悪都市部に砲火が届き、大惨事を引き起こしかねなかった。かと言って各艦のレーザー副砲で応戦しても、アークスシップの装甲は貫通せず武装のみが破壊可能だとしても、大勢の民間人を殺すだけではなく副砲が届くまで近くに寄らねばならず被害を被ってしまう危険が大きくおいそれと出来なかったのだ。結論は、艦隊を無傷でアークスシップ数千隻を無力化する方法を考える事だった。

『それなら結論はもう出てるじゃあねぇか‼︎』そう言ったのは、第一艦隊航空隊隊長チェン・イェン中佐であった。

彼は歴戦のパイロットで、艦隊一の色男を自称しており、現に女性ファンも多い。確かに素早い艦載機隊の攻撃なら民間人が操るアークスシップ武装群を無力化出来るだろうが、危険な事には変わりなかった。

『チェン中佐、蜂の巣に顔を突っ込むような任務だぞ?貴隊の部隊で屍の山を作る事に成るが良いのか?』タクミは念を押して聞いたが、彼は飄々と答えた。『砲火が恐くて、ガールズハントと戦が出来ますかってね』

この色男は本当に女性の為に生きているのかと鹿島等は思ったがタクミは内心安心していた。この様な男は大局に置いて、落ち着いた判断や行動をとり、武勲を上げるだろうと思ったのだ。チェンは作戦の遂行の条件として、第三艦隊のフレーゲル中佐率いる航空隊にも作戦に当たらせる様要求した。フレーゲル自身もこの作戦に参加したかった為、直ぐに承諾した。チェンとフレーゲルは戦友同士であり、数々の航空戦を戦い抜いていた。そのコンビネーションといい、航空センスといいオラクル船団にこの二人に勝てるパイロットは居ないと言われていた。作戦の決行時間は決まり、パイロット達は、オラクル船団内にいる家族に思いを馳せる者、恋人との最後になるかもしれない時間を共に過ごす者、戦友達とコミュニケーションをとり、絶対に生き残ろうと酒盛りをする者、艦内で惚れた男や女に告白する者で賑わった。

 

 




7話です。今回は冒頭が大和級の説明になってしまいましたが、出来れば物語に重要な艦艇はちゃんと説明したいと思います。この小説も僅か半月程ではありますが沢山の方に見て頂いている様ですので、アクセスしてくれた皆様ありがとうございます‼︎今後ともよろしくお願いします‼︎
感想、評価もお待ちしております‼︎m(__)m


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8話 船団制空戦

艦隊から無人艦が発進し、船団に飛び込んでいった。宇宙戦闘艦艇は前に武装が前に集中している。その理由は艦艇は正面と後方を向くと被弾面積が少なくなる為、被弾率が下がるのである。側面を見せれば、その分被弾する危険が大きくなる。その為、この世界の先頭艦艇は一発でも当たれば、即刻、死を意味する為、少しでもその危険性を少なくする為、正面を向き合って戦うのがセオリーであり、その為に武装が前に集中しているのである。

しかし、それでも、多方向から攻撃されれば意味が無い。無人艦は、船団に近づいたが敢え無く船団の自衛兵装に蜂の巣にされ轟沈した。

『無人艦マシンドール轟沈』技術士官がタクミに報告した。タクミは頷くと直ぐにチェンとフレーゲルの両中佐に細心の注意を払うように通達した。

オラクル船団の航宙戦闘機はかつて地球を飛んでいたF-2戦闘機なる機体を参考にした為か、形が酷似し、戦史研究家からは宇宙飛ぶ化石と言われる。然し、武装は、照射や偏向も可能なレーザー機銃と各種光子ミサイルとこの時代の最新兵装で固めていた。フレーゲルはチェンと会話を楽しんでいた。

『呆れた。また女を作ったのか?これで何人目だ?』

『このチェン・イェンにとっては世の美女全員が恋人さ。だが昨今の女性は愛を説くという事を知らない。だから小生が説き方を教えて差し上げてるのさ。』

『何でお前が痛い目に見ないのか。この十数年不思議でしょうがないぜ。』

『さて本題だが、無人艦の情報によるとこれは…結構なハリネズミだぜ。オラクル船団総旗艦アークスシップ一番艦に乗り込むのは至難の技だ。巡洋艦サイズの船でこれじゃあな。』

『オレ達ならこれを掻い潜れるだろう。だが、少なくとも、揚陸部隊四万人、つまり戦艦三隻分のスペースを確保する必要がある。だがその前に…』

『進行方向にいるアークスシップとその周辺の艦の武装をことごとく破壊して安全を確保しなきゃならん。それ以外のアークスシップは艦隊が引きつけて、突入部隊の援護をするそうだが、負担を軽くしてやる為にオレ達はかなりの数を破壊しなければいけない』

突入部隊を乗せた戦艦三隻以外の艦隊は突入するターゲット以外のアークスシップを引きつける仕事をするのだが、圧倒的な弾幕を張られ、長くは持たないだろうその為にチェン達は、突入部隊が突入後艦隊の援護をしなければならずかなりの疲労を負わなければならなかった。このエースパイロット達やそれについてきた古参パイロットは兎も角、新人パイロット達がついてこれるかという問題だった。第三艦隊は空母機動部隊が艦隊主力を担っている為、それなりに場数は踏んでいたが、それ以外の艦隊は制空戦をしなかった為、新人パイロット達の実戦経験が皆無に等しかったのだ。だが時は既に遅し、作戦時間は迫っていた。結論はこの新人パイロット連中を古参パイロットでカバーしてやる事になった。

 

各パイロットがそれぞれの乗機に乗り込む。命令が来れば直ぐに発艦出来るようにキャノピーは閉められ、全機が即時発進体型を取っていた。船団時間午後6時を迎えた。

『全戦闘機発進せよ!これより作戦を開始する‼︎』タクミの号令が発せられるやいなや、第一艦隊航宙戦闘機隊は発進した。それに合わせて、第三艦隊の航空隊も発進した。

機体数約400機、これが一斉に発艦し、船団に向かって突進していった。『ホーネット、ゼロ、フランカー、サンダーボルト!各中隊揃ってるな?相手は俺たちの家だが、今はクソッタレな偽善者のハリネズミみたいな要塞になっている。だがビビるんじゃねぇぞ!相手は俺たちを落とすなんて出来やしない!各機散開‼︎』チェンの呼びかけに合わせて、400機が思い思いの方向に飛んでいく。4機一個分隊で飛行し目標を攻撃していった。4機でチームプレイを行い、経験の無い新人パイロットをフォローし、経験させていく、これがチェンとフレーゲルの考えた戦法であった。

航宙戦闘機がアークスシップの武装を破壊する度にそれを操る民間人達の命は消えていく。身体が四散し、内臓が溢れ出て、血の大河を作って行く。戦闘機隊も撃墜され、辛うじて脱出出来ても、敵や味方の放った機銃で蜂の巣にされ、または虚空の宇宙に投げ出され、無事に母艦に戻っても、血みどろで近くに腕や足が転がってるような状態であった。戦艦スサノオの艦橋はそういった地獄絵図の様子が何回も飛んできた。パネルにフレーゲルの顔が映し出された。どうやら進路を確保した様だ。タクミは頷き、合図を送ると、鹿島大佐も頷き、『突入部隊突進せよ‼︎アークスシップに取り付け‼︎』戦艦三隻が弾雨の中を突撃して行く。周りに戦闘機隊が護衛の為並走している。別の艦載機は被害拡大を防ぐ為出撃した、現政権軍の航空隊と格闘戦を行っていた。突入部隊を乗せた戦艦は一切の攻撃をしていない。と言うのも三隻で四万人分譲させなければならない為、操艦以外のクルーを乗せられなかった為であった。一方、外の艦隊も支援砲撃を加えつつ、船団に近づいていった。第一艦隊先方のとある戦艦が、アークスシップからの弾幕にシールドが耐えられず、貫徹され轟沈した。このままでは艦隊の被害が大きくなってしまう。

航宙隊もまた、ドックファイトを繰り広げながら、アークスシップの武装を叩いていき、少しでも艦隊の負荷を和らげようとしていた。第二艦隊司令官ジャン提督は、戦闘宙息に敵艦隊が現れない事に疑問を感じていた。何故敵艦隊が現れないのだろう。幾ら、2000隻でも、それ位いれば、400機の編隊など蹴散らせるだろうに、それか味方からの弾幕に巻き込まれるのを恐れているのか…恐らく後者だろうが、あの腰抜けの政治家達の事だから、どさくさに紛れて脱出しそうなものだが…。この疑問は、第一、第二、第三、第六艦隊提督の皆が感じていたし、戦場を飛び回るパイロット達も感じていた。自分達はさっきから、戦闘機と砲台を相手にしているだけで、艦艇には一隻も出くわしてないのである。そんな彼らを尻目に何機かのシャトルがマザーシップに向かっていたのを彼等は知りもしなかった。

艦隊と航宙隊の活躍のお陰で、突入部隊を乗せた戦艦はオラクル船団総旗艦に接舷した。そこから四万人の重武装した将兵が降りていく。彼等は宇宙港を制圧し、都市部に出ると、現政権軍と義勇隊が重武装で出迎えた対する四万人の重武装突入部隊は敵の銃撃をもろともせず、銃撃し、大剣を振り回し、敵の胴を分断した。老若男女問わずの都市戦が開始された。街は爆音と怒号と悲鳴に包まれた。

他のアークスシップもまた航宙隊の活躍により接舷可能になった為、それぞれ突入部隊を出撃させ、そう時間も掛からずアークスシップは次第に抵抗を辞めた。中に侵入した敵を倒す為に人員を割いたか、抵抗を諦めたか、または現政権反対派の民間人達に殺されたか、理由はいくらでもあるが、兎に角抵抗は収まりつつあった。この戦いで失った人命は200万人に登る。アークス艦隊の損耗は戦艦8隻、巡航艦17隻、駆逐艦20隻、艦載機隊は178機も失った。

事実上一個艦隊規模の艦載機を失ったのである。アークスシップ内での戦闘の様子はまちまちであった。四万人の突入した総旗艦のように敵の戦力が集中している船もあれば、戦力が皆無であり、義勇隊のみで守られていて、あっさり幸福する船などもいた。こうしてオラクル船団制空戦は、幕を閉じたが内乱はまだ終わりそうにも無かった。




8話です。今回初の艦載機隊の出撃がありました。
艦載機のイメージが分からなかったので、F-2戦闘機をモチーフにさせて貰いました。(笑)
チェンが点呼をした時の中隊名はそれぞれ戦闘機の名称を使わせて貰いました。あと、今回からこう言う残酷描写も加えていく為、タグに残酷描写を追加させて頂きました。


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9話 民衆の選ぶ権利

これはフィクションです
実在の人物、組織等に一切関係ありません


アークスシップ1番艦にスサノオが近づき、一艇の揚陸艇が近づいた。中に乗ってるのは指揮官であるタクミと副官の鹿島とフリードリヒ・オイゲン・ケンプが艦内警備に…と言うより、何処か抜けてる弟子にして上司であるこの青年のお守りで残した、ポツダム連隊最精鋭ベテランで構成した老親衛隊500名も乗せて祖国首都に帰った。アークス1番艦都市は戦場と化し、出征前の景色の面影など残していなかった。この500名と2名はそれぞれ武装しており、もしもの時は最前線で撃ち合うだけの装備をしていた。特に老親衛隊に至っては射撃、白兵共にトップクラスの実力を持っており、アークスとしての規定が下がれば、余裕でなれていたであろう。老親衛隊の編成はハンター150名、レンジャー250名、フォース50名、騎兵の代替えとしてブレイバー50名であった。一行は先に乗り込んでいた突入部隊司令部についた。そこには、アークス首脳部と六芒均衡が待っていた。彼らは、軍刑務所に収容されていたが、全員では無かった。この時、六芒均衡の零クーナは近日に行うライブの打ち合わせに出ておりこの時アークス本営に居なかった。そこにこの内乱が起こった。クーナは自分の創生器を使い、刑務所に侵入、彼らを助け出し、ここに無事に逃げ込んだのだ。ウルクはとある場所に注意を引きつけられていた。それは議事堂であった。突入部隊の突入で現政権派の部隊の殆どがとっとと退却してしまったが、未だ、国民を道具の様に扱い、心の底から憎んでいた首相と政治家達を信じる者達が立て籠もっていた。防衛軍はこれを攻撃する事が出来なかった。彼らの後ろにいる首相達は彼らを盾に篭っており、タクミ達の立場から考えれば、国民に銃を向ける事自体がタブーであり、ましてや今回の内乱でそのタブーを冒しており、更に、立て籠もってる民衆はろくに武装して無い民衆の方が多かったのだ。然し、このままでは何時までも内乱が終わらない。かと言って、降伏させようとしても、銃撃される。攻撃すれば、無抵抗の民間人を瓦礫で潰したと汚名を残し、攻撃の種にもされかねなかった。

 

牢から脱獄したウルクは周りを見回して問いた。

『彼らを説得できる人はいる?』

皆、顔を見回した。国民の人気も高い六芒均衡ですら、彼らにとっての悪の権化の如く思われてしまっている以上困難であった。

タクミはこれを買って出る事にした。

『俺が行きます。俺が彼らを説得してみます。』

『タクミ、相手はお前が誰だろうとお構い無しに撃ってくるぞ?それでも行くんだな?』

『ゼノ先輩、彼らを退かせば、この戦いは終わる。無駄に流血をしなくて済むんだ。』

ゼノもそこまで言うのならと了承し、他の面々も同意した。タクミは老親衛隊を置いていこうとしたが、彼らは自分の連隊長の命令に忠実であり、タクミを守る事が命を懸けてもやり通す事であった。その為、彼らはタクミの待機命令に従わなかった。何が何でもついて行くと聞かなかった。タクミは折れ、老親衛隊レンジャー50名を連れて行く事にした。全員ついて行こうとしたが、それでは、多過ぎるし、敵に攻撃する気だと思わせてしまう。そもそも50名でも多いのだが、初老の副官である鹿島大佐が、敵の騙し討ちに遭う可能性を否定出来ないし、老親衛隊を納得させることも必要だと言うので、この50名を連れて行く事になった。そしてタクミ一行は、議事堂に続く、メインストリートを歩いている。この先にゲートがあり、100名ほどの兵士と、武装した民衆が待ち構えており、その横に騎乗した初老の男がいた。タクミ一行はゲートの前に立った。

老親衛隊はもしもの時に備え、装備していた盾を置き、銃を直ぐに撃てるよう軽く構えていた。鹿島は直ぐに少し先に立っていたタクミに近づいた。

『提督!敵の陣地です。敵は部隊を武装させて待ち構えていました。もはや、交渉は無理では?』

鹿島は直ぐに自分の銃剣(ガンスラッシュ)に弾倉を込めた。

だが、タクミはこう返した。

『それはまだ早い。彼らをを刺激するな。』

『提督!然しですな…』

『良いから聞け』

『はい。』

『周りの部隊が退却していく中、どういう訳か彼らは孤立した。そんな中でずっとここを守り続ける事に疑問を感じない筈が無い。特にあの指揮官ならな。』

彼が言った指揮官は白髪に白い髭を生やした初老のフランス系ヒューマンであった。その顔は老練の兵士の顔をしていたが何処か、後悔に塗れた顔をしていた。

『彼はフランシス・ピエール・プレシ騎兵大佐ですな。』

『どういう御仁なんだ?見たところアークスでは無いようだが?鹿島大佐の知り合いか?』

『そこまでではありませんが、実直な指揮官で、防衛軍発足時にその馬術と剣術と槍術を買われて大佐になった男です。ハンターとバウンサーと騎兵の教官をしていると聞いて居ましたが戦場に出るとは、彼は立場としてはアークスよりではあったそうですが、与党重職の者に恩義があるとかで、彼の立場は微妙でしょうな。』

『そんな顔をしてますね。迷いは戦場では禁物なのに。』

タクミらが話しているとプレシ大佐は、麾下に下令していた。『総員攻撃準備‼︎』

プレシの号令に兵士達は銃を構え、杖にフォトンを貯め、テクニックを詠唱していた。テクニックとは、フォトンに自然の摂理に基づいた力をフォトンによって限界まで強化、引きだしたものを攻撃、防御、補助等様々な用途を持つ力であり、この世界の科学で証明出来る魔法の一種と思えば良い。兵士達はタクミ一行に武器を構え、銃口を並べた。対するタクミはこう命令した。

『総員‼︎武器を下せ。』

命を懸けて守り通す主君の命令に忠実な彼らは武器を下ろした。タクミはプレシ等を見て、こう言った。

『プレシ大佐!そして、兵士民衆諸君よ‼︎問おう、君達は一体誰に、誰達に武器を向けているかを‼︎』

プレシは少し黙ったが、こう叫んだ。

『黙れ‼︎総員構え!撃てぇ‼︎‼︎』

誰一人発砲しなかった。兵士達は皆、プレシの顔を見ていた。戸惑っていると言うよりも、疑問を抱き、従えなかったのだ。

プレシはそんな彼らを見てこう言った。

『敵の戯言に乗るな‼︎彼らは己が祖国に剣を向けた逆賊だ‼︎我々の敵なのだぞ‼︎』

『兵士諸君武器を下ろそう。君達の親兄弟、そして友が、こうして帰ってきたのだ。さぁ再会を喜び合おう‼︎』

これを見ていたタクミはゆっくりと歩み寄りながら腕を大きく広げそう兵士達に問いかけた。

プレシが兵士達の顔を見た。彼らもプレシの顔を見返した。そして一人の兵士が武器を地面に置き、前を見ると、議事堂側の兵士と民衆が歓声をあげて走り寄ってきた。

そしてタクミの後ろの老親衛隊も喜びの声をあげて彼らの元に走り寄った。タクミは笑顔でそこに立ち、自分の後ろめがけて走っていく兵士と民衆の背中を叩いてやり、鹿島は驚き、プレシは疲れきった顔でサーベルを鞘に納めた。

そして兵士達は銃を移民船の狭い空に向かって、花火やクラッカーの様に発砲した。兵士達は歓声をあげて、抱き合った。そこに馬から降りたプレシが兵士達の中央にいたタクミに向かって歩み寄った。タクミもそれに気付き、手をプレシに向けてこう言った。『さぁ諸君。プレシ大佐を輪に入れてやろう。彼も苦しい戦いをしていたのだからな。』

プレシは両手でサーベルを持ち、タクミに差し出した。折ってくれと言いたいようだ。西洋に置いて将官のサーベルを折ることは今までの名誉、地位を無に返すことを意味していた。タクミはそれを手で抑え、拒否し、こう言った。

『貴方はオラクル船団に必要な人だ。まだ船団と私の為に戦って貰う。』彼は一連の出来事を許したのだ。

プレシとタクミは抱擁を交わした。その時に兵士達はより一層の歓声をあげた。『小官はこれより改めて閣下と船団の為に微力を尽くしたいと存じます。』プレシは感謝の意を表すと兵士達を見てこう続けた。『我々は今、悪政の中にいる!その責任は悪政の敷いた政治家では無く、我々は民衆国民にある!だがその責任を果たし、悪政を正す事が出来るのも国民だ‼︎今こそ真の民主主義を取り戻そう‼︎閣下に続け‼︎‼︎』雄叫びが上がる。タクミは儀礼服(アーク・バルバトス)の三角帽子を脱ぎ、議事堂をさした。

彼らの先頭にオラクル船団旗を持った鹿島がいた。

彼らの国旗にして軍旗であるこの国旗を先頭に掲げた以上、彼らは戸惑うことは無いだろう。一方議事堂前では防衛していた義勇隊は混乱していた。次々と自分達と同じように信じる政府の為に立ち上がった仲間達が次々と、彼らにとって逆賊であるアークス達と共にここを目指している。次第に彼らは自分の信じる政府に疑問を持ち出し、中には自分が利用されていたことに薄々感づいていた者も居た。そして何人かが投降しようとしたが、止められた。止めたのは政府お囲いの部隊の兵士だった。彼らは自分の主君と同じ性質の人間で編成されていて、首相の分身と言われていた。その分身達は自分の主君、戦友から見捨てられここに孤立し、ぶつけようの無い怒りを抱いていた。民衆達は彼らにこれ以上の戦闘は無意味と言った。然し、彼らは分身を理解していなかった。それを聞くやいなや、分身は発砲、抗議者の老人を射殺し、その周りにいた者達を老若男女問わずで殴り倒した。首相の分身と言われる彼らも、自分の敵は、ダーカーや機甲族や龍族では無く、民衆だった。もっとも憎んでいたのは民衆だった。彼らはこれ以上政府に対し不敬な発言をすれば、射殺すると叫んだ。然し、既に民衆はパニックになっており、その恐喝は届かず、民衆達はそれぞれの方向に逃げ出していた。分身達は命令無視として一人残らず射殺しようとした。が、一発も発射されなかった。分身達が民衆を撃ち殺そうとした瞬間、老親衛隊が突入し、分身達の脳天に鉛玉を喰らわせ、首と胴を分けていたのだ。神業と言える速さであった。

タクミは老親衛隊とプレシの部下に状況の整理を任せ、自分は、鹿島とプレシと老親衛隊の3名と共に議事堂に入った。議事堂はもぬけの空であった。慌てた様子は無いが幾つか物が散乱していた。政治家達はかなり前に脱出していたのだ。タクミは兎に角、首相のオフィスに向かい、情報を引き出すことにした。オフィスの手前の会議室に入った。やはりもぬけの空であったが机に何か置いてあった。それはブービートラップであった。鹿島は直ぐにタクミを庇い…『提督‼︎お逃げください‼︎』言い切った途端トラップは爆発した。プレシと老親衛隊3名は部屋に入って居なかった為軽傷で済み、タクミは鹿島に庇われ殆ど無傷だった。然し、鹿島は至る所を出血してしまい、もう手の施しようもなかった。『鹿島大佐‼︎』タクミはそう叫んで彼の手を握った。鹿島は薄れゆく意識の中でタクミにこう言った。『閣下…私は、貴方の元で戦えて光栄でした…。最期に頼みがあります…。私の娘夫婦には4歳になる孫が居ます。私の代わりに私の自室に置いてある…孫の誕生日プレゼントを渡して下さい…』タクミはそれを聞くやこう叫んだ。『嫌だ‼︎絶対にそんな事するもんか‼︎そんなの自分でやれ!生きて自分で渡さないと意味が無いじゃ無いか‼︎』

彼がそう言い終わり鹿島を見ると、彼は既に息絶えていた。タクミは噎び泣き、プレシと老親衛隊は敬礼を贈っていた。老親衛隊の一名が再度、会議室とオフィスに突入すると彼はとんでもない物を見た。そして大急ぎで戻ってきた。『提督閣下オフィスに来て下さい‼︎敵の脱出口を見つけました‼︎』タクミはそれを聞くと亡骸になった鹿島に手を合わせ、オフィスに入った。そこには脱出口があった。もし政治家達がもっと前に脱出しているのなら最期にここを閉めておけば、この内乱の行く末も分からなかったであろう。タクミは直ぐに外の艦隊に通信取り、船団宙域を見張らせた。

 

 




9話です。 結構時間が空きました。今回登場した老親衛隊のソースはフランスの英雄ナポレオン・ボナパルト率いる大陸軍最精鋭老親衛隊からとっています。銀英伝で言うところのローゼン・リッターの様な立ち位置ですね。(シュワルツ・ランツェンレーター(黒色槍騎兵艦隊)は出しませんよ?)今回でタクミ一党の高級指揮官が死亡しましたが、これからも主要人物が何人か死んでいくのを考えてたりしますwwwマトイ早くEP4で出ませんかね?www


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10話 反乱の終焉

議事堂の首相室の隠し扉にはシャトル発着場に繋がる抜け道があった。首相を始めとした政治家達とその家族はここを通り、シャトルに乗り脱出した様だ。最後の便が発進した時間は船団宙域の制空戦の始まる直前であった。彼らは一体どこに向かったのか?いや見当はこの若い提督には分かっていた。この重囲を突破する方法は一つしか無いからだ。『連中…新造試験艦を盗んで逃げるつもりだ…』新造試験艦とは今後建造が予定されている新型巡航艦と新型戦艦のテストベット兼高速戦艦研究の為に建造されていたストックホルム級高速戦艦であった。従来艦とは違い、全高と全幅を少し抑えスリムな船体を持っている。船団戦闘艦艇の特徴であった艤装型100センチ代のフォトンレーザー主砲をコスト削減の為廃止し代わりにダーカー艦をモデルにした30〜55センチ代の連射、照射が可能の艤装型主砲に取り替える形になり、それを多数取り付ける事になった従来の艤装型主砲とは違い軽量である事から相当数装備できる為、軽量化と火力向上にも繋がっている。その一艦を奪い、船団から逃亡しようと言うのだ。カテゴリーは戦艦である為、500名強の人数はゆったりと搭乗できるだろう。さて船団の外では艦隊が待機していた。だが戦闘時の包囲体型では無く、それぞれがアークスシップへの揚陸作業に従事していた為追撃所では無かった。満足に追撃出来る艦といえばマザーシップ周辺に居た艦のみであった。首相を始めとした者達を乗せた高速戦艦ストックホルム級がマザーシップのドックから出航した。例の如く数隻が追撃行動を取ったがいかんせん速度が違い過ぎた。普通なら巡航艦クラスであれば充分追いつくのだが揚陸作業に従事していた為本来の速度を出せなかったのだ。然しストックホルムは無人の巡航艦と駆逐艦合わせて百数十隻の船隊が全速力で走り抜けていった。もうダメだ…追いつけない。誰もがそう思った。然し、首相達は船団方向から放たれた巨大なエネルギーの帯に飲み込まれてしまった。それは第二艦隊旗艦ガーディアンの放った艦首要塞クラス級レーザー主砲であった。偶然にもジャン提督率いる第二艦隊がこの区域の担当であり、更にガーディアンは首相達の乗るストックホルムの向かう方向に艦首が向いていたのだ。この要塞クラス級レーザー主砲もそうだが、艤装型100センチ代二連〜三連装主砲は元々、深遠なる闇との戦闘の数日前に起きたダーク・ファルス・若人の再封印のさいに使われた新型フォトンキャノンのデータを参考に造られた物であった。その延長線上に最大出力で発射すれば惑星一つ消滅させる程の出力を誇る兵器となったのだ。だがそんな兵器をたかだか100隻単位の艦隊に使うのはいくらなんでもオーバーキル過ぎやしないかと後の学者達が語るが、実際の所これを使う以外手が無かったのだ。仮にあったとしても彼らはこうでもしなければ気が済まなかったのであろう。こうして一連の首謀者は消滅し、内乱は終結した。タクミも、首相達の死亡を聞くとただ一言『そうか。』と返しただけだった。本当は彼自身が自らの手で首相達の首を叩き斬りたかったのだろう。だがそれは叶わない。その悔しさ故に彼はその一言のみ返したのだった。翌日、船団内の混乱は次第に収まっていき、アークス達はアークス本営への帰還を果たした。彼らは早速、船団の外で戦っていたアークスの安否を確認した。然し、結果は最悪な物であった。首相派防衛軍によって老若男女問わずアークス六万将兵が死亡していたのだ。その殆どが前線指揮官であった。まさか突然信頼し、背中を任せていた戦友に背中から撃たれるなど夢にも思わなかっただろう。更に悪い事に首相敗死と聞いてアークスを殺害した将兵は自決し、中には民間人にも自決を強要していた者までいた事が判明したのだ。この内乱で死傷した人数は船団内外合わせて500万人強にも及んだ。450億の国民を保有する国家から見れば大した数字では無い。だが会戦を複数回やって出る死傷者をほんの数週間で出してしまい、失った人々の数を上回る数のその尊い命を失い、悲しみ嘆く人間が出てしまったのだ。アークス本営の面々はなんとも言えない空気の重さに襲われた。こんな大きな傷跡を残したままダーカーという巨大な敵と戦わねばならないのか…彼らは嘆こうにも嘆くことは出来なかった。一方タクミも車内の人となっていた。鹿島の後任で副官となったアリス大尉改少佐と鹿島には個人的な恩のある為同行を希望した若手士官の副砲術長綾瀬士郎中尉そして、船団近衛兵として随行しているマトイと共に鹿島の娘夫婦の住む住居に向かっていた。インターホンが鳴り、扉を開けると喪を示した軍服姿の若い男女達が居たので鹿島の娘は驚いたが直ぐに彼女はタクミ達を応接室に通した。応接室にはタクミと綾瀬、そして鹿島の娘夫婦が座った。4歳を迎えようとしている鹿島の孫娘はアリスとマトイが外で遊んでいる間にタクミは鹿島の死をこの娘夫婦に伝えた。娘は泣きくずれ顔を覆った。夫はそれを支え、震える肩を抱きしめた。綾瀬はそんな娘夫婦を見ていられなかったのか顔を背けた。そして彼の逞しい肩も微かに震えていた。

タクミは暫くして例の遺言を切り出した。『鹿島大佐…いえ鹿島中将閣下はお亡くなりになる際に遺言を残されました。『私の代わりに孫に誕生日プレゼントを渡して欲しい』と』タクミは箱を娘に渡した。『父は、本当にあの子を愛していました。いつかきっと美人に育つ。だからそれまでにこの戦いを終わらせたいって』それを聞いた綾瀬も『中将も同じような事を僕ら若い士官にも仰っておりました。』鹿島は艦隊の中では慎重な男で厳格さ故に口煩い印象もあるが、面倒見の良い男であった。その為、艦隊の若い連中は彼を父の様に慕っていたのだった。そんな彼を失ったのは第一艦隊の面々にとって大きな痛手となったのは言うまでも無い。そこに応接室の扉が開いた。入ってきたのは可愛らしい将来間違いなく美人になるであろうと誰もが思う様な可愛さを持つ鹿島の孫娘だった。彼女はタクミが持ってきたプレゼントに興味津々だった。後から、アリスとマトイが入ってきた。アリスは申し訳無さそうにこう言った。『申し訳ありません閣下。疲れたから帰りたいと言ってたので、うちに入ったらそちらに走って行ってしまってしまって』『ママこれなぁ〜に?』孫はタクミの持ってきた鹿島の遺品であるプレゼント箱を指差して母に尋ねた。娘は、『おじいちゃんからのプレゼントよ。このお兄さん達が持ってきてくれたのよ。お礼を言いなさい。』孫はそれを聞くや、タクミ達には礼を言わずプレゼントを開けてしまった。『すみません…まだどうも…』娘夫婦は謝罪した。タクミはこれに焦り、気にしないでくれと言うしかなかった。プレゼント箱の中身は熊のぬいぐるみであった。女の子にはぴったりな誕生日プレゼントだ。タクミは内心そう思った。孫は目を輝かせ喜んでいた。タクミ達はここを後にしようと立ち上がったが、タクミは孫に裾を引かれた。そして孫はタクミにこう尋ねた。『おにいちゃん、じ〜じはどこ?いつかえってくるの?』タクミの何かがここで切れた。彼を膝を折り、孫を抱きしめ、涙を流し嗚咽を吐いた。そして何度も何度も『ごめんね…ごめんね』と繰り返した。残酷だ…幼子にどうやって自分の祖父の死を告げられようか。そして彼の葬儀の時彼の棺が地に埋められる時孫は恐らく何故自分の祖父を埋めるのかと聞くだろう。そんな孫を自分はどんな気持ちで見なければならないのだろうか…まだ21の青年には答えを出すことは出来なかった。そもそも彼が自分の艦隊の将兵の死を一切語らなかったのはこの答えを出せずにいたからであった。彼にとって自分の艦隊の将兵たちは親兄弟も当然であったのだ。

暫くしてタクミ達は鹿島の娘夫婦の住まいを後にした。車内の中では皆が泣いていた。タクミも綾瀬もアリスもマトイも彼らは泣くしか無かったのだ。戦争と言うのは若者達の心に大きな傷を残すようなものだ。然し、生がある以上彼等に時代という大きな流れに逆らう事は出来ない。そして今、この時時代は血を欲していたのだ。ならばこの時代を生きる者は一切の躊躇無く自らの血を流すであろう。翌日、艦隊司令部においてタクミは辞令を受け取った。第一、第3艦隊は約40万強の将兵を持って惑星リリーパに向かい、同惑星にて拠点包囲行動中のダーカーの大軍を壊滅させよというものであった。彼はその内の第3軍麾下の騎兵軍団長の任も兼任するよう通達されたのだった。艦隊司令官兼騎兵軍団長というのは異例の事態であったが、既にアークス、防衛軍共に反乱による混乱で人事が行き届いておらず特にアークス大虐殺により、指揮官が不足していた事もあった。と言うよりも一番の理由は防衛軍発足時に復活した騎兵というカテゴリーをよく知っていて、それを扱う事の出来る指揮官でうってつけであったと言うことだろう。タクミの父はアムドゥスキアに置いて、龍族とアークスによる初の会戦でアークス騎兵軍団を率いて敵の大軍を幾たびも潰乱させた男であったから、その素質を息子であるタクミが継いでいるだろうから任せようという事になったのだ。タクミからしてみれば迷惑な話ではあったが、彼自身は騎兵として父の様な活躍は望んではいたし、騎兵戦術は上手く応用すれば艦隊戦でも十分使えることから戦術勉強にも良いだろうと考えたのかこれを了承した。そもそも辞令なので拒否権は無いが。休む間無くタクミ達は出兵のパレードに参加した。まだ新政権も船団復興も進んでいない中の出兵式であったがそれでも多くの人間が集まっていた。然し、タクミにとっては…と言うよりこの場にいた将兵達は彼等は自分達の生還を望んでここにいるのでは無く、自分達の死を望んでここにいる。あの笑顔や歓声は、死刑囚が断頭台に登った時の見物客達の歓声と同じだと感じていたのだ。無理も無い。つい二日前にまで自分達は

仕方なかったとはいえ彼等の親兄弟、友人、恋人を殺したのだから無理も無かったのだ。そんな狂気と哀しみに満ち溢れた空気に戦士達は背中を押され、彼の地へ出発しようとしていたのだった。

 




10話です。自分ではかなり重い話なのでは無いかと思います。なおTwitterの方で絵心の無い絵ですがストックホルムや話の中に出てきた兵器の想像図をあげておきますので良かったらこっちも見ていただけると幸いです。本アカ@sky0v pso2メインアカ@takumipso2ship7
それでは皆様これからもどうかご贔屓にお願いいたします。


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11話 進軍開始

11話です。ここから戦場を宇宙では無く地上に移し、戦い方もガラッと変わっていきます。惑星リリーパ戦は3個軍プラスtakumiのそれぞれの視点で話を進めていきますが、先に言っておきます。ここからのtakumi視点のストーリーは結構色々飛びます。


出兵パレードも済み、いざ出陣すべく兵士達はそれぞれの船に乗り込み戦場への航海をする…はずだった。この時第一、第三艦隊は足止めを食っていた。足止めをしているのは同じ国防軍艦艇2,000隻。現政権派最後の戦力であった分艦隊であった。彼らの任務は2,000隻で船団宙域を守り、接近を阻止することだった。が彼らはあろう事か、その任を放棄し、何処かに身を隠しそして自分達の主たる首相達が宇宙の塵と化したのを指を咥えて見てるだけだったのだ。そんな連中が今になって、首相の死へ追いやったアークス勢の不当。更に延々と自分達の正当性を語りだしたのだ。両艦隊の面々は流石に戦力の厳しい中2,000隻を塵にするわけにはいかないので降伏を勧める為これを黙って聞いていたが第一艦隊、特に第一艦隊幕僚陣はハラハラしていた。怒りが頂点に達し今にも爆発しそうな表情をしているタクミが何時、『あの不届き者共を一匹残らず殺せ‼︎』などと怒鳴りつけるのではないかと気が気では無かった。彼自身はそんな怒りやすい性質ではない。ただ自分の主を見捨て戦場から逃げ、今更主の為の弔合戦だ、復讐だと自分達の主の正当性を主張するような連中が嫌いなだけだった。彼は最初連中が来た時、即刻砲撃しようとしたが、本営からの要請でそれは出来ずただずっとここに居るのだ。アークス達の忍耐は限界を超えそうになっていた。そこに救いの手が現れた。現政権派残党の2000隻が彼らが後方からの無数のレーザーの餌食となったのである。だが各艦隊は攻撃を禁じられており、そんな事は出来ない。放ったのは第五艦隊旗艦…改め第一艦隊分艦隊旗艦アキレスであった。今回第一艦隊は増員する事が決定しこの度第一艦隊は15000隻から20,000隻に増員されたのだ。しかし、ここまでの大艦隊になるとスサノオだけでは扱いきれなくなった。そこで第五艦隊旗艦から外されたアキレスを第一艦隊分艦隊旗艦にしようという事になったのだ。なおアキレス艦長兼前第五艦隊副司令官であったチャールズ・グリッドマン中佐は2階級特進し、准将となった。現政権側に居た将兵の中で一番の待遇を受けた彼は第一艦隊への出向を希望した。この時、タクミもグリッドマンを高く買っており是非とも我が艦隊にと言っていたのですんなりと第一艦隊の仲間入りを果たした。尚、アキレスの代わりに第五艦隊旗艦になったのは大和級三番艦信濃になった。同時に第一艦隊旗艦も大和級二番艦武蔵に変更になる筈だったのだが、武蔵を建造していたドックが内乱の影響で人員と物資が行き通らなくなり武蔵の最終調整が大きく延期されたのである。話を戻そう。艦砲射撃を実施した第五艦隊旗艦にいるグリッドマンに本営が通信を送りつけた。何故発砲したと命令違反であると、そこでグリッドマンは『我が国防軍軍紀には船団宙域に一切の敵勢力の侵入を許さずこれに侵入を許した場合は全力を持ってして殲滅すべしとあります。本官はそれに従って迄の事。如何なる理由があったにせよ敵と認識した者達を延々と船団宙域に留まらせた貴公らは軍記違反を起こしているとみたが如何に!』

本営は何も言わず通信を切った。本来ならグリッドマンは更迭されているだろうがただでさえの指揮官不足や、第一艦隊提督であるタクミも取り継ぎ許してもらえる様計らった事もあるが、実際の所本営自体も残党の話を聞く気は一切無く彼らの興味を引いたのは艦船2,000隻であった。タクミは本営の前ではグリッドマンを叱りつけたが、通信を切ると艦橋内で大笑いし、グリッドマンを大いに褒めた。そんな珍事件を起こした一行はリリーパに向けて出航した。そして約1週間が経ち、艦隊はリリーパに到着した。

早速、艦隊指揮官と副官、そして三個軍軍団長が会議を始めた。艦隊側から騎兵軍団長も兼任するタクミとアリス、バルバラとフーリエ。軍団長はカスペン大将、ブロツワフ大将、アサージ大将の3名の大将である。この三大将はアークス出身であり、功績も残している。ゲルマン系の顔つきを濃く残しているキャストのカスペンは、数年前までは勇猛果敢頭脳明晰のヒューマンであったが戦傷の為キャストへの施術を受けた。ブロツワフ大将はポーランド系のヒューマンである。丸々とした太鼓腹を持つこの男は陽気で、良き父親であり、軍、民間問わずの人気を誇る。だが戦闘時の時は部下を叱咤激励し、最前線で指示を取る。最後にアサージ大将はトルコ系ヒューマンである。 彼は片目が義眼であり、付いたあだ名は義眼のスルタン。スルタンとはトルコ語で征服者を意味する。彼は常に戦う時は敵地であった為その名が付いた。無駄の無く合理的な戦いをするこの男は運には恵まれないタチであった。その為勝機を逃す事もしばしばあるが、それでも有能な将としてオラクルを支えた。性格は大人しいが 言うべき時は言う芯の通った人物である。この7人は知恵を出し合い、作戦を決めた。

先ず艦隊で大気圏に降下し成層圏ギリギリで待機。そこから輸送機で3個軍を輸送。カスペン率いる第1軍は空挺降下し集結地点を確保。ブロツワフ、アサージ両大将率いる第2、第3軍は集結地点後方にある敵拠点を奪い、補給路を確保した上で集結地点に向かうというものだった。その後3個軍で包囲軍後詰(後詰というより数的にも主力だと思うが)約四十数万のダーカーの軍勢と交戦し、フリードリヒ達を包囲する包囲軍6万を引きつけさせフリードリヒ達を脱出またはフリードリヒ達が後方を襲い敵を挟み撃ちにするという作戦となった。普通一方を四千で挟み撃ちにするなんて到底不可能である。だが四千の兵力の中には精鋭ポツダム連隊がおり、更にはA.I.Sと言うアークスの切り札である人型機動兵器も温存している為可能であると判断したのだ。協議は終わり作戦は纏まった。数時間後、先発の第1軍が輸送機に乗り込み空挺降下の態勢をとった。歩兵、砲兵、法撃兵(フォースやテクター)、戦車、装甲車。軍団を編成するそれらが航空機の援護を伴って空から飛び降りてくる様は圧倒的であろう。元々カスペンはアークス空挺部隊部隊長を務めていた事もある為この手については専門家であった。この作戦は彼と彼の将兵達が敵の攻撃を一手に引き受ける作戦であったが彼は、両大将に対し『貴公らは安心して敵拠点を陥落せしめよ。敵が貴公らに襲いかかろうとしたら一人残らず蹴散らしてくれる。』と大きく出たのだ。そして第1軍は降下した。道中敵の妨害があったがそれをくぐり抜け損害を出しながらも地点を確保した。

それと並行し第2第3軍もリリーパに降り立った。第1軍は防衛陣形を取り同数またはそれ以上の数で向かってくるダーカーの軍勢を迎撃する準備に入った。17時35分の事である。第3軍の上陸地点にタクミも降り立っていた。艦隊をグリッドマンとアリスに任せているから安心だとしてここからは激しい陸戦が開始されようとしていた。重装甲有翼槍騎兵5000騎、胸甲擲弾騎兵5000騎、通常騎兵10000騎、軽騎兵6000騎、対戦車騎兵(ランチャーを装備した騎兵。位置的には重騎兵扱い)2000騎法撃騎兵2000騎の騎兵30,000騎と歩兵25000、法撃兵2500、戦車兵(砲兵)2500、戦車、装甲兵員輸送車合わせて833輌の第3軍麾下騎兵支隊総勢60000名が第3軍先発の任に就いた。

タクミは馬上で自分と運命を共にする将兵を見やり、少し息を吸い、下令した。『進軍開始‼︎』




11話です。すいません結構ネタがギリギリで色々と飛んでます。最初フォースも歩兵と一括りにしてしまおうかと思ったんですが、どう考えても剣士や弓兵の中に魔法使いが混じってたらなんか違和感半端ないだろうな…と思い新たに法撃兵と言うクラスを作りましたwww次回は出来れば早いうちに投稿したいと思いますが、ちょっと多忙で…w
まぁ気長にお待ちいただけると幸いです。それでは今後ともご贔屓に


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12話 前進!前進!また前進‼︎

惑星リリーパでの陸戦は、オラクル軍の予定通りに進んでいた。第一軍は集結地点で防衛態勢をとり、敵の進撃を食い止め、第二、第三軍はそれぞれ敵の補給基地を目指し進撃していた。この中で騎兵支隊を任せられたタクミはアサージ大将率いる第3軍司令部より別命が下されていた。

『騎兵支隊は、第3軍攻撃目標である、補給基地に到着、偵察後、攻略戦には参加せず長駆して、第一軍と交戦している敵の側面を突き、敵将の首を槍の穂先に刺したまま第一軍総司令官カスペン大将に献上せよ。』つまり、騎兵は騎兵らしく、敵地を偵察し、そして戦闘の一大局面に際しての切り札たらんとせよ。と言う事であった。元々第三軍は他の軍団に比べて機動力が低く、タクミ騎兵支隊は度々第三軍より突出してしまう。それを防ぐ為、敢えて騎兵支隊を先発させたが、今度は逆に離れ過ぎてしまったのである。そこでアサージは第三軍麾下の遊撃戦力として第一軍の支援に向かわせようという事になったのだ。タクミ騎兵支隊は持ち前の機動力を持って第三軍攻撃目標の補給基地に彼らより二日早く到着した。空戦隊からの情報を照らし合わせ陸から見た敵軍の状態をまとめ、第三軍に報告した。『我々だけでも落とせそうだがな…。』タクミはそう呟いたが、騎兵は拠点攻略及び防衛戦において主兵力足りえない事を彼を充分に承知していた。それに敵の数は同数ながらも、拠点と言うだけあって、その砲兵力はタクミを持つそれらを超えていた。タクミは前進を指示し、第一軍の待つ集結地点を目指した。だがそこに立ち塞がる部隊を発見した。大中小を含めたダーカー約七万に立ち塞がれたのだ。タクミの幕僚らは幾ら数に劣っていようが騎兵で突撃し、突き崩してしまおうと言ったが、タクミは拒否した

。もしそうなれば騎兵はダーカーの真正面から突撃する事になり、迎撃され、被害が拡大する。そもそも数に於いて劣る為、突撃して崩そうとすれば半包囲される可能性があったし、騎兵がそういう事になれば騎兵は壊滅する。彼は別案を出し、それを指示した。幕僚達は顔を見合わせたが騎兵の事を知っているのはタクミだけであったからそれに従った。一方兵士達も顔を見合わせた。まさか全ての騎兵は馬から降りて歩兵と同じように地べたに伏せて、小銃にて射撃せよ。なんて来たものだから意外であったに違いない。そうした間にダーカーは前進した。四脚型ダーカー『カルターゴ』の砲撃による支援を受け大中小のダーカーが前進してきた。その攻撃は凄まじい物だった。だがタクミ達の攻撃はもっと凄まじい物だった。大中小の野砲等が唸りを上げ、戦車、装甲車は歩兵を守りつつ、主砲で粉砕し、機銃で薙ぎ払った。そして兵士達も小銃や機関銃で弾幕を張り、法撃兵達はそれぞれテクニックを詠唱し、それが終わり次第ひたすら放った。火力にものを言わせた。防衛態勢であった。この戦法は秋山戦法と言い、これも例の地球の有名な武将の戦法を使っていた。元々秋山が当時最強の騎兵軍団を破る為の策であったが、タクミは戦力温存を目的とし使った。オリジナルの秋山戦法と違うのは、機甲兵力と法撃兵が加わり、オリジナルを超える火力を保有している事であろう。こうして七万のダーカーは約4割の損害を被り、退却した。タクミ側の犠牲は百名にすら満たなかった。タクミ一行はまた前進を開始した。その後、第三軍からの通信文を受け取った。第三軍は無事に補給基地を確保し、補給路を確保したというものであった。第三軍もぜんを開始した為、タクミ一行も前進した。

 

一方第一軍は攻撃に晒されていた。半包囲されていたのだ。強固な防衛態勢と攻撃力を持ってしても数にものを言わせたダーカーの攻勢に辟易していた。当初ダーカーは第一軍と同数程度であったがタクミらに敗れたダーカーの敗残兵をまとめ、次第に戦力を増やし、等々二十万に及ぶ大軍になってしまったのである。この劣勢を見ていた偵察機は直ぐに第二、第三軍、そしてタクミ騎兵支隊に通達した。この三兵力は足を速めた。一方衛星軌道上の艦隊も、あまり良い状況とは言えなかった。というのも制空戦争いは拮抗してしまい、ろくな航空支援を出せなくなってしまったのだ。制空権が双方に無い状況…なるほどそれなら確かに数万の軍勢がぶつかっても航空機が殺到してこなかったのも頷ける。その為、第一軍とダーカー両軍合わせて約35万が泥沼の戦いをしているのである。それを打破し、勝利を収める為にはタクミが敵の顔を横から思いっきり殴りつけなければならかった。第二、第三軍は共に補給基地を確保している。補給路が安全である以上オラクル軍約40数万は飢えることは無いだろう。戦闘が三日目を迎えた朝、第一軍は後退するか否かの決断を下さねばならなくなった。第一軍を損害は3割を超えていた。ダーカーも同数またはそれ以上であったが、兵力に関しては無限の回復力を誇るダーカーにとってこの損害は充分な許容範囲にしかならない。カスペンは先に突破した第三軍に期待したが当の第三軍はまだ到着しない。騎兵支隊も通信しようにも電波が乱れて通信出来ずその為今、何処にいるか分からない。カスペンは止むを得ず後退を指示した。しかし、その時彼の元に伝令が走ってきた。『閣下!カスペン大将閣下‼︎援軍です‼︎タクミ・F中将麾下の騎兵支隊が到着!たった今、敵の側面と交戦中‼︎』カスペンは光明を得たと思った。そして大きく声をあげてこう伝令した。『全軍突撃‼︎タクミの坊やに手柄を横取りされるなよ‼︎若いもんに老兵の戦いを見せてやれ‼︎』第一軍は突撃を開始した。ソードとパルチザンを持った歩兵が全速力で走り、敵を切り裂き、突き崩し、ライフル兵達がひたすら射撃し、法撃兵はひたすら詠唱し、敵を業火に包んだ。一方、タクミ達も壮烈な戦いの中にあった。戦車、装甲車、そして大中小の野砲が唸りを上げ、歩兵達が銃撃し、その中央に騎兵三万が大挙として敵の側面に襲い掛かった。歩兵と砲兵は敵の動きを弾幕を張って抑え、そこに騎兵三万が一発の弾丸の如く直進した。騎兵三万騎の先頭にタクミが自ら槍を握り、甲冑と有翼騎兵の証である羽根飾りをつけ突撃した。たちまち、2方向から押しつぶされる形となったダーカーは堪らず後退した。然し、後退する先は砲火が上がっていた。第一軍と騎兵支隊と白兵戦を繰り広げている間に第二、第三軍は到着し、陣を敷いていた。重砲、野砲がゴウッ‼︎と唸りを上げ、暫くしないうちにドカン‼︎と轟音を立てて大地を割り、その度にダーカーの死体が飛び散った。ダーカーは結局四方八方に逃げ惑う事になり、指揮を執るはずのダーク・ファルス・ルーサーのクローンは予想外の展開に困惑錯乱し、オリジナルの名前が泣こうにも泣けないような有様になり、とうとうダーク・ファルスとしての体になる前に騎兵の突撃にあい、騎馬の蹄に顔を潰されて絶命した。ダーカーはその日の夕方には退却してしまい、フリードリヒ等の基地を包囲しているダーク・ファルス・エルダー(クローン)の率いる本隊まで逃げていった。エルダーは憤慨した‼︎20万のダーカーがたかだか六万の突撃にあっただけで潰乱し、さらに30万以上の敵兵の笑い者になったのである。エルダーは憎々しげに発掘基地を見遣った。そして、こう下令した。『残る我が軍20万を持ってして明日の早朝敵基地を叩く!中に居る者は一人残らず殺せ‼︎男は一人残らず首を切り落とし、女は一人残らず犯してから殺せ‼︎』

この動きはフリードリヒも感じ取っていた。『さて我が不詳の教え子はやたらめったらに暴れまわったらしい。そろそろ俺も動くとするかね。』フリードリヒは振り向き、頷くと、ポツダム連隊副連隊長カール中佐とポツダム連隊次席幕僚シュミット少佐は一礼してそれぞれの場所に走って行った。後のリリーパ496資源基地の攻防戦前夜である。



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13話 496資源基地の攻防戦

496資源基地…リリーパの広大な砂漠に位置するこの資源基地は近隣のオアシスとそれによって生まれた流砂によって囲まれた天然の要塞である。元々旧政権つまり敗北側にたった政治家与党の支持率拡大を狙ったデモンストレーション的な意味を兼ねて作り上げた拠点であったが、いざ作ってみたら、資源は無いわ、オアシスによって出来た地下水脈によって生まれた流砂に囲まれる事になるわでろくな事にならず、莫大な税金を無駄使いをしてしまったのだ。然し、そんな中、唯一の救いと言えるのはこの立地を使えばダーカーに対して強力な拠点として機能する可能性があったのだ。アークスは政府と交渉し、この拠点を作り変えた。地下水脈をコントロールし、流砂を停め、拠点中を広大な迷路の様に作り変え、守勢に立てば先ず不利になる事は考えられない拠点に変貌したのだ。そして戦略上この拠点はリリーパ内のアークス支配圏とダーカー支配圏に対しての重要箇所であった為ダーカーは常にこの基地を攻略せんと策を練り、そして行動に移したという訳だ。オラクル軍最精鋭歩兵連隊ポツダム連隊連隊長フリードリヒは策を練った。内容はこうであった。先ず、次席幕僚シュミット中佐が若い連隊員複数名を連れ、敵の正面に立ち、ダーカーの軍勢を煽り、挑発に乗ったダーカーと地の利を活かしながら戦い、拠点に引いていく。拠点内は迷路状になり、拠点に入ったダーカーは徐々に大軍から少数に分断されていく。そこを副官カール中佐が率いる別働隊がそれぞれの場所で襲いかかり、シュミット中佐の撤退を支援する。やがてシュミット隊は基地の大門に着く。そしてその時にはダーカーはかなりの数に分断されている。そこにフリードリヒ麾下ポツダム連隊が一気に敵に突撃し、崩す。パニックに陥ったダーカー達は各所で各個撃破されていく。そして止めとして地下水脈を流し流砂を起こす。流砂に呑まれ、ダーカーは潰乱し、基地内でただ嬲り殺されるだけとなる。だがフリードリヒはまだこれで納得はしなかった。

何故ならいくら若いシュミット達が口汚く煽ろうが、ダーカー20万悉く策には乗らんだろうという事だった。恐らく策に乗るのは先に包囲していた6万が良いとこであり、残り14万は直ぐには動けないだろうという事や、この策は事実上一回しか使えないのである。それこそ20万全軍を誘い出す為にはそれこそ基地全兵を挙げて出撃しなければならないがあっという間に砲弾の雨に晒されるであろう。そもそもシュミット達が敵を誘い出す為に敵の前に出ただけでも砲撃されそうなものだがフリードリヒはそれは無いという確信があった。それは、ダーカーはこの496資源基地の攻撃の為にありとあらゆる砲撃を加えたが、496基地のシールドを抜く事は出来ず、更に後方からタクミ以下3個軍の戦闘に砲弾を浪費し、極め付けは補給路を寸断された事により砲弾とエネルギーの補給が出来なくなったのだ。それでもダーカーの士気が下がらないのは彼らが生きる為の食事を必要としないからである他ならない。兎も角もフリードリヒにはもっと多くの兵が必要だった。だがそこに吉報が届いた。第二軍と第三軍が基地周辺まで進行し、タクミ麾下騎兵支隊は僅かな距離まで進行出来たという事だった。フリードリヒは直ぐに愛弟子であるタクミと連絡を取り、496基地から逃げおおせる敵を背後から奇襲する様伝えた。『事情は分かりました。准将の取り逃がした敵を我々が平らげれば良い訳ですな?』タクミは口元に微笑を浮かべながら答えた。この時、この会話を見ていたシュミットは、二人が口元に笑みを浮かべていたからこの戦いは勝ったと分かったという。

 

翌日早朝、手筈が整ったのでシュミット達は敵の前に現れ、敵を扇動した。『掛かってこい‼︎この虫けら畜生共‼︎もうそれとも俺たちと戦う余裕なんてもう無いか?そうだよなw20万の味方をあっという間に倒されたら腰抜けにもなるよなぁ?そうだろう?エルダーさんよぉ〜?』この扇動にエルダー本隊6万が誘いに乗り迫ってきた。やはり砲弾に限りがある為、温存するべくシュミット達に対して砲撃することは無かった。シュミット達は戦って逃げ、戦って逃げを繰り返して基地内に引き込んだ。フリードリヒの作戦通り、基地内は迷路状になっておまけに道も狭い為、6万の軍勢は悉く分散された。そして次第にカール達伏兵に攻撃され一部部隊は壊滅する程の痛手を受けた。しかし、ダーカーはシュミット達の扇動に相当きたのか。シュミット達を追うことを止めなかった。ダーカー達は次第に友軍が一人また一人と倒れていき、退路まで塞がれていく事に気付くことは無かった。基地の中はトラップだらけだった。地雷、落とし穴、熱湯、撒菱、油基地内はどんどん死体で埋め尽くされていった。そしてついにダーカーはシュミット達を大門まで追い詰めたのである。ジリジリと迫るダーカー6万。そこに…!大門が開き、現れたのはフリードリヒ麾下ポツダム連隊主力であった。『掛かれぇ‼︎』フリードリヒの号令で大門前に整列していた連隊員が一斉に発砲、更に基地の壁などに潜んでいた連隊員まで現れ、更に銃撃を加えてきた。ダーカーは堪らず後退した。後退するダーカーにポツダム連隊が怒涛の追撃を開始した。ダーカーはパニックになった。後ろから追撃され、前は迷路のようになっており、出口が分からず、トラップや連隊員に攻撃され、死体を積み上げていく。この逃走は3時間に及んだ。もう、この時には基地内に突入したダーカーの生存者は2割にも満たなかった。そもそもポツダム連隊が精鋭アークスを凌ぐ戦闘力を持った者のみで編成された部隊であるから一人で30や50のダーカーをあっという間に倒せなければ入れないと言われる程であった。そんな化け物に八つ裂き寸前になっていた化け物(ダーカー)にとどめを刺したのは、流砂であった。フリードリヒは頃合いを見て地下水脈の関を切り、流砂を発生させ、退路を塞ぎ、敵を生き埋めにする気だったのだ。その後基地内に取り残されたダーカーは一匹残らず殺された事は言うまでも無い。一方、ダーカー14万の準備を整えたエルダーは自分の麾下6万が基地内を地獄絵図にして戻ってくるのを待っていた。だが伝令はとんでもない事実を突きつけたのである。『ダーク・ファルス・エルダー様!我ガ方ノオ味方6万…悉ク玉砕致シマシタ‼︎』エルダーは一気に血の気を失った。更に彼を追い詰めたのは敵の死者が50にも満たないという事であった。因みにこの死者の中に女性が居ないのはフリードリヒの配慮であった。死んだ女性アークスまたは女性兵を死体姦するダーカーが居るという報告を受けたからだと言うが定かでは無い。兎も角彼は死んだ女性達が死後になっても凌辱されなければならない理由なんて無い。という思いがあったのだろうが、まぁただ彼が女好きで、彼女達もフリードリヒの美貌にやられてしまっていたから手元に置いておきたかっただけだろうと連隊員は思ったそうだ。因みにポツダム連隊は全員男である。エルダーは残り14万の兵をまとめ脱出しようと考えた。他の大型、上級ダーカーも意見は一緒であった。しかし彼らはリリーパを出る事は出来なかった。彼らの後ろに第2、第3、そして再編成を終えた第1軍に半包囲されてしまい、おまけに左翼は既にタクミの騎兵支隊に猛攻撃を食らわされてしまっている始末であった。それに呼応して496基地からも重砲による砲撃が開始され、温存していたA.I.Sにまで突撃を食らわされた。A.I.Sとはアークスの汎用人型兵器である。高性能かつ高い攻撃力と防御力を兼ね備えているが、陸上しか使えない上かなりのエネルギーを消費してしまう事から、拠点防衛、または巨大な敵と戦うときのみ姿を現わす。規模が大きければ師団クラスの部隊でも運用は可能であるから、この三個師団にも少数配備されている。ダーカー本陣も戦場になっていた。エルダーもダーク・ファルスとして戦っていたが、付近に砲弾が着弾し、自分以外のダーカーが吹き飛ばされて砂煙りで周りが見えなくなった瞬間、彼の眉間に槍が刺さった。騎兵がここまで突撃したのだ。そしてその槍の持ち主はタクミであった。勝負は決した。将は討ち取られ、ダーカー達も僅かになり四部五裂してしまっていた。こうして496基地の攻防戦は終結した。砂漠はダーカーの死体で真っ黒に染まった。タクミは基地のフリードリヒを訪ねた。二人は互いに握手を交わし、互いの戦果を祝った。そこに…

『閣下〜♡お疲れ様でーす♡』と黄色い声を出して女性アークス及び女性兵がフリードリヒに抱きついた。皆美女ばかりである。『閣下〜♡私に優しくしてください〜♡』『いや!閣下〜♡わたしにも優しくしてください〜♡』

『はははw夜は長い。一人残らず私がお相手をいたそう』これまた黄色い叫びをあげながら美女達は帰っていった。一方タクミは白い目でこの桃色の光景を見ていた。(我が師匠の女好きと女から好かれる才能は知っていたが…)彼はここで心の声を区切りここから声に出した。『もっと磨きが掛かっちゃってるよ…』彼は唖然としてしまった。そんな教え子を見たフリードリヒは、『良いですか提督?女て言うのは、声を掛ける時は堂々として、本番はこっちが向こうの要望に答え、次第に指導権を握っていく事が肝要だ。あんたも好きな奴ぐらい居るでしょう?そろそろ腹を決めた方が良いと思いますな?』タクミとマトイが微妙な位置にいる事はアークスや兵士達の間でも結構有名な話ではあったが、包囲下にあった師匠にまで指摘されるとはタクミも思わなかった。その後師弟は談笑を楽しみ基地の生存者全員と三個師団全員を艦隊に回収するべく手筈を整えた。だがタクミはまだ気づいては居なかった。この直後彼の…いや、彼らの永遠の宿敵に出逢うとは…



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14話 出逢い

惑星リリーパにおける陸戦はオラクル軍の勝利に終わった

オラクル陸軍三個軍団は第三艦隊によって本国に帰投し、惑星リリーパには重砲や戦車等の機甲兵器とこの戦いの功労者であるポツダム連隊を回収するべく残った第一艦隊が衛星軌道にて待機していた。タクミは約一ヶ月振りに旗艦スサノオに戻った。因みにこの時スサノオは第一艦隊旗艦では無く、分艦隊旗艦の位置付けになっている。リリーパの戦いの最中に大和型旗艦型宇宙戦艦武蔵が就航し、第一艦隊旗艦となったのである。然し、武蔵は惑星包囲に就いている第一艦隊に合流する訳には行かず、そのままスサノオは旗艦になっているのだった。連絡シャトルを降りたタクミを待っていたのはアリス副官であった。『提督。無事にお帰りになられて本当に良かったです。』アリスの出迎えにタクミもまた会釈を返した。『アリス少佐出迎えどうも。みんなが無事で良かったよ。』『みんな退屈そうでしたwここ最近戦いぱなしでしたからこう言うのも悪くないかも知れませんね。』『退屈そうにしてたって…そんなこと言ったら私はここ一ヶ月ずっと馬に乗って重い甲冑を着て戦ってたんだぞ?もうちょっと気を引き締めたらどうだい?』『それいつもの貴方に同じこと言えますか。』

アリスの返答にタクミはベレー帽を脱いで頭を掻くしか出来なかった。そんな世間話をしながらタクミは艦橋に着いた。自分たちの上官が帰ってきた事に気がついたのか、クルー達は皆後ろを向き帰ってきた提督に敬礼を送っていた。タクミも敬礼を返し、提督席に着いた。暫くして艦隊の幕僚が集結し、今後の予定を話し合った。内乱が集結して、まだ大した時間も経っておらず事態の収拾の為にも一刻も早く船団に戻ることが先決となった。そこに偵察に出てた駆逐艦より一報が入った。3万宇宙キロ先に次元の歪みを感知、つまり敵艦隊がワープアウトしたのである。総員に戦闘配置が通達され艦隊はその場所に急行した。タクミは、タクミとその一行は何とも言えない不安に襲われた。

 

さて視点を3万キロ先に移そう。次元の歪みから出て来たのは群青いろの二等辺三角形型の流線を描いた美しいフォルムの戦艦。それを先頭にダーカーの大中小の艦艇が続いた。先頭に立つその美しい船の艦橋の司令官席に鎮座するのはどのダーカーやダーク・ファルスにも当てはまらないその若い美男子であった。だがその服装はダーク・ファルスの特有の格好をしているからダーク・ファルスである事は間違い無いだろう。その横に同じぐらいの背格好をした司令官と勝るとも劣らずといった男が立っていた。二人ともかつては、オラクル船団の者であった。だがこの時代より幾百年も昔の事である。かつてオラクル船団はその政治体制は様々であった。専制君主制、民主共和制。この二大政治体制をオラクルは交互に繰り返していた。この時のマザーシップ・シオンの意向はどう言うものであったが知る由も無いが、恐らく、様々な政治体制を経験させ船団運用に相応しい形を作り出そうとしていたに違いない。二人の男の名を言わねばならない。司令官席に座るのは第二次オラクル帝制オーヴェルニュ朝最強の常勝将軍アウグスト・シュヴァーベン元帥。ダーク・ファルス風に言うのであればダーク・ファルス・無敗(Undefeated)である。

もう一人は、フランシス・オーヴェルニュ元帥。軍人にして、第二次オラクル帝政オーヴェルニュ朝第一代皇帝である。ダーク・ファルスとしての名はダーク・ファルス・忠実(Fidelity)である。忠実とはダーカーらしからぬ名だがそれは彼の人生がそれを物語っているのである。もう気づくものいるだろうが、彼ら二人とも過去の人間であり、生きている筈が無い人間である。それがどうしてダーク・ファルスとして蘇ったのか?それはダーク・ファルス・ルーサーが虚空機関(ボイド)内に居た時にこの二人の名将の細胞を入手する機会があり、その細胞をダーク・ファルス・双子(ダブル)がクローン・ダーク・ファルスを作る過程を利用して二人のクローンを作ったのである。そして誕生した二人のクローンにオリジナルの記憶を植え付け、彼らの新たな玩具(道具)にしようとしたのである。然し、ここに双子の誤算があった。確かに二人はオリジナルのクローンでしか無いが、肉体も精神も彼ら自身物であったのだ。彼らは支配者たる双子の支配を一切受け付けない双子と同じ本当のダーク・ファルスとなっていたことを双子は気づいていないのだ。ダーク・ファルス・常勝ことアウグストは絶対に双子の玩具に成り下がることは無いだろうし、その為の指図は一切受け付けないだろうし、ダーク・ファルス・忠実ことフランシスもアウグスト以外の何者の指図を受けるつもりは無かった。彼らは幼少からの親友であり、互いに高みを目指し、15歳に初陣を果たしている。そして20歳を過ぎる頃には二人とも艦隊司令官になっており、当時とそして今もオラクル軍及びアークスの中での最年少記録を残し続けている。二人はアークスになれる可能性もあったが彼らはあえてそれを蹴り、軍に居続けた。そこに当時の腐敗しきった第二帝政王朝滅亡の危機が飛び込んできたのだ。二人はそれに呼応し、軍とアークス、そして国民をまとめ上げ、当時の王朝を倒した。この流れから行くとこの事件の最大の功労者たる二人のうちの誰かが新たな指導者になるのだが、アウグストは軍人である事を固辞し続けた為、フランシスが新たな皇帝となり、オーヴェルニュ朝を建てた。オーヴェルニュ朝の治世は最高の専制君主政治と歴史家達は語る。フランシスは内政に精を出し、アウグストは愛すべき友の為に大軍勢または大艦隊を率いて、ダーカーやその他の人間勢力や生命体と戦った。然し、そこに悲劇が襲いかかる。アウグスト・シュヴァーベン元帥年齢25歳にして陣中にて病死。フランシスはこの悲報を聞いて夜通し泣き続けたという。彼にとって、アウグストは幼少期から主君の様に崇めていた。彼にとって光であったアウグストを失ったフランシスは失意の中に沈んだのは言うまでも無い。そしてフランシス自身も35歳にて戦闘中の負傷で致命傷を負い、愛する妻に子を託して息を引き取った。オーヴェルニュ朝はフランシスを含め3代しか続かない。彼の息子と孫も彼に勝るとも劣らない治世を行い、名君と讃えられるが、薄命の遺伝からは逃れられず、オーヴェルニュ朝は衰退し、その後に立った王朝あまりにも不当な政治体制であった為革命を起こされ、新光暦30年から続く第三次民主共和制になったのである。

 

そんな稀代の名将達は今、自分の祖国に弓引こうとしているのである。『見てみろフランシス。オラクルは多少なりと発展した様だが、進歩したとは到底言えん。未だにダーカーと戦い続けている様ではな。もし俺たちが生きていればダーカーとの戦いなどほんの数年で終わらせてやれるというのに!』フランシスは歯痒い思いでこの親友にそういった。『アウグスト様。確かに我らであればダーカーとの戦いなど数年で片付けてしまえるでしょう。ですがそれは彼らの問題であり、仰ぐ旗も違えば、既に死者である我々が口を出す事ではありません。』フランシスは優しくそう答えた。因みに彼の言葉使いは皆に対してそうであり、皇帝になってもそれを変える事は無かった。『全く、お前はいつもそうだなフランシス。みんなにいつも優しくしていては自分が損をする事になるんだぞ?』『アウグスト様。敵艦隊が出現しました。敵艦隊はこちらと同じ横陣を引いている様です。』『フン!共和主義者の艦隊か…あの狂信者どもがまた我らの前に立ち塞がるとは、所詮大した奴は居ないんだろがな。全艦戦闘態勢‼︎』『閣下‼︎敵ダーカー艦隊が戦闘態勢に移行‼︎前進してきます‼︎』『アリス少佐、直ちに戦闘を開始すると伝えてくれ。チェンとフレーゲルの航空隊も直ちに出撃する様伝えてくれ。』艦橋が戦闘態勢に移るべく慌ただしくなっている中、スサノオの格納庫も慌ただしくなっていた。『フレーゲル!どっちが艦載機を多く落としたか勝負だ!負けた方が一番高いウイスキーを奢りな?』『おいおいそんなで良いのか?またお前の財布が軽くなっちまうぞ?w』『煩い!余計な心配をしてないで、お前の財布の札にお別れを言うんだな‼︎』『へいへい。チェンさんは余程財布にお別れを言うのが飽きたらしい。』二人のエースパイロットのどつき合いも終わり、それぞれが艦載機に乗り込んだ。『チェン中隊全機発艦‼︎』『プレーゲル中隊全機発艦します‼︎』タクミ側の艦隊から艦載機が発艦したと同時にアウグスト側も小型ダーカーとダーカー艦載機を放った。『閣下。有効射程内に敵艦隊を捉えました。』『アウグスト様。敵艦隊射程内に入りました。』『よし…』

『そうか…』そして二人の提督は同時に砲撃を命令した。『ファイアー‼︎‼︎』『フォイヤー‼︎‼︎』両艦隊が一斉に砲火を開き、戦闘が始まった。艦隊戦は拮抗した。この二人の提督は互角に戦いを繰り広げた。ダーカー側は稀代の名将が二人も居たが、オラクル側は進化していく名将とそれを支える優秀な人材によってそれをカバーした。タクミは、この拮抗状態を抜け出そうと一計を打った。彼はグリッドマン准将を呼び寄せた。グリッドマンは直ぐに出た。

『閣下お呼びでしょうか?』『グリッドマン提督。艦隊の中央で敵艦隊を引きつけ、その隙に左右両翼の艦隊で敵艦隊を半包囲出来ないでしょうか?』『敵にこちらが耐えきれず艦隊運動が乱れきった状態で退却する様に見せかけて敵を誘い出せれば可能です。』『両翼の艦隊を任せてもよろしいかな?』『お任せ下さい。閣下は敵の誘い出しを。』『了解した。全艦敵の攻撃で中央を食い破られそうに見せかけながら後退。だが本当に食い破らせるなよ?』

敵艦隊が次第に中央を開け始めてきたのをアウグスト達は見ていた。『どう思う?フランシス。』『恐らく罠ではあるとは思いますが、既に幾つかの艦艇は誘いの乗ってしまっていて次第に前に突進してしまっているようです。』『敢えて罠に飛び込み敵の旗艦ごと中央を食い破るのもまた一興か。』『アウグスト様。全艦に前進させますか?』

『ああ、だが全速力だ。突撃陣形で敵艦隊の奇策を一気に破る。』『敵艦隊前進してきます!すごい速さだ‼︎艦隊運動が間に合いません‼︎』『いかん中央を食いちぎるつもりか!まさか砲撃で穴を広げてから突撃するのではなく、敵に隙を見せる為のあの小さな穴に目掛けて突進してくるとは…グリッドマン提督に未完成だが現状の体型のまま砲撃して敵艦隊の足止めを‼︎』タクミ一行の艦隊は半包囲体型であるU字型では無くV字型になっていたが敵艦隊を足止めをせんと猛攻撃を加えた。その甲斐あってかダーカー艦隊は足を緩めた。タクミはそこを見逃さなかった。『全艦機関最大‼︎陣形を突撃陣形に変更し敵艦隊に接近戦を仕掛ける‼︎』第1艦隊は突撃した!アウグストはこれに対し、『見事な艦隊運動だ!あの猛攻撃を加え我らを足止めし、そこから攻撃に転ずるとは中々敵にもいい指揮官がいる様だ。』『その様ですね。並大抵な相手では無いと思われます。方陣に切り替え敵を迎撃しますか?アウグスト様。(いやアウグスト様はその様な事はしないだろうな)』フランシスの思った通り、アウグストはそのまま突撃陣形のまま前進した。この時、既にタクミとアウグストは同じ事を考えていた。(このまま前進して敵艦隊とすれ違い様に撃ち合って退却するさもなければ共倒れだ)双方の艦隊は砲火を交えつつそれぞれの進路を取り始めた。そして遂に艦隊の先頭を走る旗艦同士がすれ違った。スサノオとアウグスト達が乗る戦艦は互いに至近距離で撃ち合いながら離れていった。彼らの艦隊もそれにならい、それぞれの場所に引き上げていった。タクミは司令官席で考えていた。『あの艦隊の指揮官は何者だろうダーク・ファルスではある様だがルーサーやエルダーとも違う。一体…』新たな謎を残しタクミ一行は船団に帰投すべくワープ航法に移行した。

 




長い長い時間が掛かってしまいましたが14話です(つД`)ノ
アウグストとフランシス…もう分かってると思いますけど銀河英雄伝説のラインハルトとキルヒアイスです(笑)
しょうがないじゃん‼︎エルダーやルーサー当てたってもうモブキャラ扱いだし‼︎オラクルの政治体制やゲームの内容外の設定はオリジナルですが出来るだけ原作に近づける様には努力してます。あとそれらに関してはいずれ解説編でも作りたいと思います。


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人物紹介及びオラクル船団現状まとめ

人物紹介

 

1 主人公 タクミ・F(艦隊司令官・上一級アークス(ゲーム内のレベル70以上准将待遇)称号守護衛士 階級准将待遇→少将→中将)

本作の主人公で年齢はリリーパ戦時点で22歳。オラクル船団の二大軍事組織であるアークスと国防軍に籍を置く青年将校。昇進速度はオラクル船団の歴史の中では指折りに入る。艦隊司令官としても人間としてもまだ成長途中だが、様々な戦術や戦史から取り寄せた名将の常套手段を良く理解している為その戦術レベルは高い。性格は温厚だが激情に駆られることもしばしばあり、かなり不真面目な勤務態度を取る事もある。大の紅茶党であり、一時期オラクル船団を襲った紅茶不足事件の際、錯乱一歩手前になり、急に僧侶になると言い出した程である。レンジャーとしての腕も確かである一方、戦死した父親譲りの騎兵としての才も持つ。物語の始まる二ヶ月前に起こった深遠なる闇封印戦にも参加しており、他のアークスとは違いかなりの荒療治で軍務に復帰している。尚、彼にはデューマンの姉がおり、名をイサラと言う。その為、彼はデューマンのハーフと思われる事もあるが、戦死した父と在命しているデューマンの母から生まれたこの姉弟はそれぞれデューマンとヒューマンに分けられて生まれたとても稀有な姉弟である。

彼の艦隊旗艦はガーディアン(守護衛士)級艦隊旗艦型戦艦二番艦スサノオ→(リリーパ戦後)大和級艦隊旗艦型戦艦二番艦武蔵

 

2 マトイ (上一級アークス称号守護衛士)

タクミによって拾われた少女。年齢はリリーパ戦時点で19歳。発見当時は記憶も無く、唯一覚えていたのはタクミの名前だけだったと言う。彼と彼の所属する部隊員との交流で記憶を取り戻し、数々の戦闘を潜り抜け、自分の存在を自覚した。ダーク・ファルス・双子の放った闇の因子を自分の代わりに受けたタクミを救う為に創世器クラリッサを使って闇の因子を自分に取り込みタクミを救った際に、双子を取り込んだ真の黒幕である深遠なる闇と同化してしまうがタクミらによって救われた。その後ダーカー因子を除去する為に冬眠治療を受けるがタクミが荒療治を受けた事を知ると自分も多少の時間は掛かるものの荒療治と取れる治療を行いタクミとは数日遅れで復帰した。(ゲーム本編ではマイキャラと入れ替わりで冬眠治療を受けていますが同時期に治療を行うのは本作のオリジナル設定です。)タクミとの仲は、恋仲未満親友以上といった微妙な感じであり、アークス内外にも知れ渡る程の噂話になっている。

 

3 アリス・シンプソン(オラクル国防軍階級大尉→少佐)

タクミ麾下オラクル第一宇宙艦隊航海長兼副官を務める女性将校で年齢はリリーパ戦時点で23歳。金髪の少し短めな髪型をした美女である。オラクル国防軍の前体であるオラクル自衛隊の士官学校を首席卒業しておりその数ヶ月後に国防軍が編成された為、国防軍初の首席女性士官となった。頭脳明晰才色兼備な女性であり、タクミとは良きパートナーとして彼を支えている。時折彼に好意を抱く素振りを見せる事があるがタクミ自身はマトイの事しか見ていない為気づいていない。それでもアリス自身は献身的にタクミに尽くしている。航海長としての知識実力も申し分なく戦闘中にコロコロ陣形を変えたり移動を繰り返すタクミの艦隊運動の一翼を支えているのも彼女だ。因みに彼女の淹れた紅茶は宇宙一美味いとタクミに言わしめさせる程の腕前を持っている。

 

4 鹿島大佐(オラクル国防軍階級大佐→殉職によるニ階級特進につき中将)

国防軍の大佐であり第一宇宙艦隊の元副官。オラクル船団内における第三次民主共和制最期の与党及び野党連合派とアークス派に分かれた内戦の最終局面においてタクミを庇って戦死した。享年56歳。彼は娘夫婦がおり、その間に生まれた4歳になる孫娘の誕生日プレゼントを自分の代わりに上官であるタクミに渡して貰えるよう頼んだところを見るとよほど孫娘を溺愛していたと見える。

 

5 アウグスト・シュヴァーベン(在命時階級オラクル第二次帝政オーヴェルニュ朝大元帥 ダーク・ファルス時階級ダーカー軍提督暫定階級上級大将)

生前はオラクル第二次帝政時代の軍人。15歳で初陣し19歳で艦隊指揮官になる。生前時代についた異名を常勝将軍、常勝提督、黄金の獅子と晴れやかな異名を持つ(因みにこれらを与えたのは、領土問題の小競り合いで戦ったグラール太陽系勢力やオラキオ王国の将兵である)何処の時代にも能力を持っているが故に年長の嫉妬を買う者は何処にでも居るがアウグストに至っては宮廷世界という欲望の巣窟の中で生まれたが為にその最たる場にいた事に違い無い。だが彼は自らの力とそして友であるフランシス・オーヴェルニュと共に武勲をあげ二十歳の時点で大将に昇進している。そして友を皇帝に建て、新たな王朝を作り、自分は大元帥として戦ったが25歳の時に友と友に嫁いだ姉を残し死んだ。彼自身は生前のアウグストのダーク・ファルス・クローンであるが記憶、魂、肉体共にアウグスト・シュヴァーベン本人であると言い張っている。因みにこれは創造主であるダーク・ファルス・双子が自負しているが彼らの把握している以上にオリジナルに近い存在である。アウグスト自身は自分の創造主である双子に対し良く思っておらず、深遠なる闇に飲み込まれた筈の存在である双子が今もダーカーの指揮を執り続けている事に思う所があるようだが、何を企んでいるかは定かでは無い。ダーク・ファルス時の呼称はダーク・ファルス・【常勝】である。

 

6フランシス・オーヴェルニュ(生前時オラクル第二次帝政大将→皇帝 ダーク・ファルス時ダーカー軍暫定階級上級)

オラクル第二次帝政時代の軍人にして皇帝。

アウグストと共に当時腐敗した第二次帝政を立て直さんと共に戦った親友である。アウグストと自身の伴侶であるアウグストの姉とは幼少からの付き合いである。フランシスの経歴はアウグストに勝るとも劣らずといったものである。士官学校を首席で卒業したアウグストの次に、つまり次席で卒業し、共に15歳で初陣。その時にはアウグストと1階級差があったという。腐敗した第二次帝政の実権奪取時の階級はアウグストは元帥、フランシスは上級大将出会った。フランシスはアウグストを新たな第二次帝政の皇帝として擁立し、シュヴァーベン朝の成立を考えていたが、彼の愛すべき親友であるアウグストはフランシスを第二次帝政皇帝として逆擁立してしまったのである。フランシスは渋々、その玉座につく。オーヴェルニュ朝は彼を含め、三代名君による統治が続いたが何も薄命に終わったのはアウグストの若き死が原因だろう。ダーク・ファルスになった経緯はアウグストと同じであり、彼もまたフランシス・オーヴェルニュのクローンであるが、自他共にフランシス・オーヴェルニュ本人であると言い張っている。アウグストを凌ぐと言われた卓越した戦術腕を発揮し、今度は友の為の世界を作る為に戦う。

 

7フリードリヒ・ケンプ・オイゲン(アークス上一級アークス→オラクル国防軍少将兼国防軍最精鋭歩兵連隊ポツダム連隊連隊長オラクル国防軍第一艦隊幕僚)退役上一級アークスでありオラクル国防軍の将軍。タクミの父と共にアークスとして武勲を重ねてたが(この頃からポツダム連隊連隊長の職に就いている)、アークスと龍族との初の会戦でタクミの父は自分の妻と幼い姉弟を残し戦死してしまう。それ以降フリードリヒはアークスを退役するが親友の遺言に従い、幼かったタクミを鍛えた。よってこの二人は師弟の間柄になるがタクミにとってフリードリヒは父親にも等しい。白兵戦において右に出るものは居らず、策謀を巡らせる知恵も持ち合わせている。ポツダム連隊をまとめ戦場を駆け巡る彼の戦闘服は常に返り血で真っ赤に染まったことからついた異名は赤備えのフリードリヒ。

 

8ジェームズ・ネルソン(オラクル自衛隊大将→オラクル国防軍元帥兼艦隊司令長官)

オラクルいや全宇宙を探しても最強と讃えられる老将。齢70を超えても、その艦隊指揮のキレは衰えず、むしろ増すばかりと言われている。第二艦隊司令官であり、熟練のアークスであるジャンと副官であるジョーゼフと同軍歴であり三人は戦友同士である。小勢で多勢を迎え撃つ戦い方を得意とし、ダーカーやオラキオ王国の艦隊を翻弄し続けた。タクミら若い指揮官達が増えていく中でもその存在感は圧倒的であり、アークス、国防軍問わずに尊敬と畏敬を集め、民衆の人気も固い。六芒均衡の一レギアスと対等にカタナで戦える大剣豪でもある。

 

9フランシス・ピエール・プレシ(オラクル国防軍騎兵大佐)

オラクル国防軍の老騎兵大佐。オラクル自衛隊時の経歴は不明だが、鹿島の話だと馬術と槍術と剣術のお陰で騎兵大佐になったという話だという事だから歴戦の勇士である事は分かる。ハンターとバウンサーの教官をしていたが、(10話時点の)現政権のクーデター後のオラクル内乱が発生し、自身は中立の立場を取ろうとしたが政府要人に恩人がいた為、恩義を返すべく謀反人の立場になった。自身の兵と現政権派の民衆でタクミの前に立ち塞がったが、タクミに懐柔され以後部下として行動を共にする。

 

10チャールズ・グリッドマン(オラクル国防軍中佐→准将)

オラクル国防軍の若手将校。年齢は32歳。オラクル自衛隊からの優秀な指揮官であり、毒舌家、評論家、芸術家、公正明大な指揮官と様々な呼ばれ方がある人物である。彼は中佐に昇進後、第5艦隊の副官兼作戦参謀として乗り込むが上官は現政権の首相に多額の賄賂を贈った一商人で全くの素人であった。そんな指揮官に嫌気が増しつつも命令である以上従う他なくそのままオラクル内乱に参戦。謀反人側に立ちタクミと戦った。タクミの策に引っかかり、狼狽し、自己中心的な事ばかり言う素人の上官を愛想が尽き、同じ思いであった他の幕僚と共に射殺。その後、秘策と決死の覚悟でタクミに追いすがり、後一歩の所まで追い詰めた。その後、内乱が終結し、自分を取り立ててくれたタクミの元で戦う事を選ぶ。

 

11カスペン(アークス上一級准将待遇オラクル国防陸軍第一軍軍団長大将待遇(陸軍指揮の戦時階級付与の為))オラクル国防軍の陸軍大将待遇。空挺降下作戦や電撃戦を得意とする歴戦のアークス。オラクル国防軍第一軍の軍団長を務める。

 

12ブロツワフ(アークス上一級准将待遇オラクル国防陸軍第二軍軍団長大将待遇(陸軍指揮の戦時階級付与の為))オラクル国防軍の陸軍大将待遇。追撃戦や防衛戦を得意とする歴戦のアークス。オラクル国防軍第二軍の軍団長を務める。

 

13アサージ(アークス上一級准将待遇オラクル国防陸軍第三軍軍団長大将待遇(陸軍指揮の戦時階級付与の為))オラクル国防軍の陸軍大将待遇。塹壕戦や攻城戦を得意とする歴戦のアークス。オラクル国防軍第三軍の軍団長を務める。

 

『pso2現在キャラクター』

pso2オリジナルキャラクターは原作の設定に基本的に軍人の階級を付け加えただけの為(一部例外も存在するが)、階級のみを記す。

14ウルク(アークス総司令官大将待遇)

15テオドール(アーク副服司令官中将待遇)

16レギアス(アークス六芒均衡中将待遇)

17マリア(アークス六芒均衡中将待遇)

18ゼノ(アークス六芒均衡中将待遇)

19ヒューイ(アークス六芒均衡中将待遇)

20 3代目クラリスクラリス(アークス六芒均衡中将待遇)

21 2代目カスラ(アークス六芒均衡中将待遇)

22クーナ(アークス六芒均衡の零兼オラクル船団No. 1アイドル 少将待遇)

23エコー(アークス上二級(ゲームレベル61〜70)大佐待遇)

イオ(アークス中一級(ゲームレベル45〜50)大尉または中尉待遇)

24ルベルト(アークス下一級(ゲームレベル35〜30)曹長待遇)

25ロッティ(アークス下一級曹長待遇)

26ジャン(アークス上一級准将待遇オラクル国防軍第二艦隊艦隊司令官准将待遇→少将→中将)

27ジョーゼフ(アークス上一級准将待遇アークス教官オラクル国防軍第二艦隊副司令官准将待遇→少将)

28バルバラ(アークス上一級准将待遇オラクル国防軍第3艦隊司令官准将待遇→少将→中将 尚、新光暦236年に結婚一児の母(本小説オリジナル設定))

29フーリエ(アークス上3級中佐または少佐待遇オラクル国防軍第3艦隊幕僚少佐待遇)

30アフィン(アークス上二級大佐待遇オラクル国防軍本土防衛隊連隊長大佐待遇)

31オーザ(アークス上3級中佐待遇オラクル国防軍本土防衛隊連隊長中佐待遇)

32リサ(アークス上3級中佐待遇オラクル国防軍本土防衛隊連隊長中佐待遇)

33マールー(アークス上3級中佐待遇オラクル国防軍本土防衛隊連隊長中佐待遇)

 

オラクル船団現在状況年表

新光暦239年6月 タクミ冬眠治療より目覚める。以後第一艦隊司令官として任に着く。アムドゥスキア補給戦の戦いが起こる。

 

新光暦7下旬 オラクル内乱勃発。フリードリヒ惑星リリーパ資源採掘基地の防衛の為、ポツダム連隊と共に艦隊より一時離脱、ゼノビア回廊の戦い。タクミ、グリッドマンを見いだす。

 

新光暦8月上旬 オラクル内乱終結 鹿島戦死

 

新光暦8月中旬〜9月中旬 惑星リリーパの会戦(496資源採掘基地攻防戦

 

新光暦9下旬 タクミとアウグスト初めて戦う。(リリーパ遭遇戦)この時点で深遠なる闇との戦いより半年(新光暦239年4月)が経過している。

 

 

 

 

 

 




本小説をご愛読頂きありがとうございます。本日は以前より話していた解説編今回は人物紹介と物語の時系列を追って確認していく流れになります。今後とも本小説を何卒ご贔屓下さるようお願い申し上げます。


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15話 国民の麻薬

惑星リリーパの勝利は本国であるオラクル船団に伝わり、各植民地星にも伝わった。だが新たな問題が浮上した。タクミが戦った正体不明の艦隊。ダーカーである事は間違いなかった…だとしても明らかにダーカーとは違う明らかに違うものであった。タクミは帰国後即刻この戦闘データを提出。アークス本営にてアークス首脳部と国防軍首脳部による連合作戦会議が開かれた。先ず、敵旗艦と敵の司令官に話しが上がった。資料によるとあの敵艦隊の旗艦は第二次帝政時代の英雄アウグスト・シュヴァーベン大元帥の座乗艦オーディンと瓜二つ、いやそのものでは無いかという議題になった。そして敵の司令官はアウグスト・シュヴァーベン大元帥では無いか?という事だった。もしそうならこれ程大事件かつ危機的状態にある事となるだろう。常勝の天才であったアウグスト・シュヴァーベンがダーカー側に居る。考えただけでも恐ろしかった。確証が無い以上彼らは違うと否定した。だが翌日、新光暦239年10月1日新たな衝撃の事実と共にそれは確証付けられてしまう。

偶然、戦艦スサノオのカメラに敵旗艦オーディンと至近距離で撃ち合ってすれ違った際に敵旗艦の艦橋をカメラに抑える事が出来たのだ。解析した結果ダーク・ファルスの反応を出して、指揮席に座る男はアウグスト・シュヴァーベンの容姿をしていたのだ。そして、その副官についているダーク・ファルスは、第二次帝政オーヴェルニュ朝初代皇帝フランシス・オーヴェルニュである事が判明した。会議参列者は血の気を失っていた。稀代の最強の英雄を相手にしなければならないという現実に耐えきれなくなっていた。どんな方法でこの世に戻ってきた事が不思議でしょうがなかったのだろう。そしてもう一つの事実…。リリーパ遭遇戦の跡地に派遣した工作部隊が、一組の男女の死体を確保した。国防軍の兵士では無く、ダーク・ファルスの着ている装束の塗装と模様で飾られた第二次帝政の軍服を着ていた二人男女。調べた結果ダーカーと同数のネガフォトンを体内に宿し、僅かながらのフォトンも宿し、人間よりも、繁殖能力の高い人間である事が判明した。つまりダーカー型の人間、人間型のダーカー。どちらにしても新たな人類が誕生していて、自分達は知らず知らず戦っていたのだ。オラクル船団は、この新人類、ダーカー型ヒューマンを、ダーク・ヒューマンと呼称した。マザーシップ・シャオの見解によると遥か以前からダーカー因子によって汚染された人間を生存させる研究がダーカー側でも行われており、近年のダーカー・ファーム(ダーカー占領地の人類に僅かながらダーカー因子を注入して、ネガフォトンを量産する農場。遅かれ早かれダーカー因子を注入された人間は死ぬ。)やアークス模倣体のデータが参考になっている事も明白であり、その為かヒューマンより能力が高い事も判明した。その後、15歳程の少年兵や65歳程の老兵までいた事から、かなり前から数を増やしていた事も分かった。これからはダーカーとダーカーにより生み出されたダーク・ヒューマンの連合軍と戦わねばならなくなり、然もこうしている間にダーク・ヒューマンを主力にした師団クラスの陸軍部隊に植民地惑星を占領され、守備隊は全滅、住人も、蹂躙され、成人子供を問わず男性は労働力、成人女性や明らかに処女年齢を超えていない女児すらも女性は慰安目的で凌辱され、老人は皆殺し、そしてひたすらダーカー・ファームに送られる。燦々たる事態にもなっていた。オラクル国防軍はこの情報を現状軍内でのみ公開し、対策と新戦術を構想するよう参謀本部に通達した。

ここでオラクルの新政府について語らねばならない。第三次民主制の後継者はジョージ・マッケンジー率いる政党を与党とする第4次民主共和政治体制であった。国民と軍部の信頼と人気は厚いが、タクミや他のアークスや国防軍の一部はあまり、この男を信用しなかった。この男はダーカーとの戦闘は聖戦と評して戦う事を奨励しており、国民を扇動していたのだ。当の本人は戦場に一度も出た事は無いのだが。タクミはあの男はやり方や言い方は首相とは違うが性根は一緒だろうなと思っていた。しかし、この男の政治手腕はとても高く、現にここ最近の国防軍の華々しい勝利の数々を巧みに使い、自分と自分の所属する政党を与党に引き揚げた。彼の政党は彼と共にクーデターには加わらなかった政治家の殆どを中心に作り上げた政党であり、クーデター時の与党からはマッケンジー派と呼ばれた。更にジョージ首相は自分の配下たるマッケンジー派を各所に配置し国民を扇動した。この時、戦果をあげた提督をピックアップし国民に英雄、愛国者と祭り上げ国民の戦意を向上した。軍内は自衛隊時からのマッケンジー派のシンパである提督や将軍も多かった。だがこれを快く思わない提督や将軍もおり、ジャンやバルバラといったアークス出身将校。ジェームズ、カスペン、ヴロツワフ、アサージといった現場主義将校。そして政治家嫌いで政治に興味をあまり持たないタクミと言った者達であり、取り分けタクミに至っては若年提督ながらもその功績の高さを評価され、公私問わず外を出ればマスコミやパフォーマンスに駆けつけた政治家達の選挙行動に無理やり駆り出され、あらぬ噂でスクープになったりとろくなことになっていなかったのだ。その為か、以前より始まっていた往年の先輩将校達が自分達より功績を上げる若年将校への嫉妬感を大きく成長させる結果にもなり、タクミを初めてとした若年将校は肩身の狭い思いを余儀なくされた。そんな彼らの苦労を知らず国民は打倒ダーカー‼︎全宇宙の民主共和制による解放を声を大きく訴え出したのだ。更に悪い事に一部将校達が例のダーク・ヒューマンやダーク・ヒューマンによって占領された植民地惑星の蹂躙状態を無断で公表してしまい国民の知るところになってしまったのだ!いよいよ怒りと戦意は最高潮に達した。ダーカーとダーク・ヒューマンを一人残らず殺せ‼︎ダーク・ヒューマンを同じ目に合わせてやれ!一人残らず奴隷にしろ‼︎と民主主義国家の国民にあるまじき暴言が普通に出る程の怒りを露わにし、更に情報を秘匿していた軍部主要…取り分けアークス首脳部への反感を高めた。オラクル国防軍はこの機密を暴露した将校を罰しなければならなかったが、マッケンジー首相の口添えもあり処罰はされずマッケンジーはこれを利用し扇動し更に戦意を向上させ、この将校達を愛国者と讃え、自分の側近にしてしまったのだ。そんな渦中にあるオラクル船団では占領された植民地惑星の敵討ちとでも言うのか、ダーカー領内を長駆遠征し、根絶やしにせよ‼︎と遠征軍の機運が高まっていったのだった。そんなオラクルの移民船のとある一隻にあるとある料亭に四人の男が集まっていた。顔ぶれはタクミとクーデター時の第四艦隊司令官の後任として着任した、アークス内でのタクミの同期であるガブリエル・G・アレンスキー年齢22歳の中将と同じくタクミの同期であったが対立していた政治家の政治問題を批判したが為に誠実な政治家であった父を殺され政治家になった。フレーゲル・ジャグホット与党下級議員と三人の後輩であり上二級アークスに昇進したばかりのエドワード・アースグリム大佐待遇といった面々であった。端からみればアークス訓練学校の同窓会みたいに見えるが、後にFファミリーと呼ばれる救国精鋭集団の中核メンバーであり切っても切れぬオラクル四銃士と呼ばれる若者達の最初の会合であり、歴史的瞬間でもあったのだ。この連中は先ず、互いの健康を祝して乾杯し、笑いあって飲んで食べて歌ってと同窓会みたいに騒いでいたがあらかた落ち着いたのか、それぞれワインやビールを片手に今後を見越して討論を行っていた。『おいフレーゲル、小耳に挟んだんだが俺やアレンスキーが艦隊を長駆遠征させてダーカー領内を完全侵略すべしと俺たちに明日の作戦会議に参加させようとしたのはおたくの首相閣下らしいな?』タクミは憎らしげに言った。フレーゲルも不思議な顔をしながら、『そうなのだ。昨日まではあまり乗る気じゃなかったあの人妖首相が今日になって軍部に実行命令を出してな厚生労働大臣で俺の師匠である武田先生が同期のアフマド国土交通省大臣と話してるのを聞いたんだ。理由は知らんがな。』とワインを飲みながらこれは美味いと頷きながら答えた。『何を根拠にこんな戦いをするんだ。補給線も40年前に奪われたSchloss von Gott(神の城)要塞も奪還出来てない。そんな状況で遠征軍なんか無理だ。』と、アレンスキーもビールを片手に言った。『相変わらず我が祖国の政治家さん達は何がしたいか分かりませんな。俺は新造艦を与えられて、まさかタクミ先輩の分艦隊に配置されるなんて、思いもしませんでしたよ。』と言うエドワードにタクミは『あの第12艦隊の司令官の元で参謀をやるよりは良いでしょ?』と言った。『あんな脳筋で発想力の無い馬鹿正直司令官の元にいたら、命がいくつあっても足りはしませんよ。』国防軍は自衛隊時からのベテランも多い、然し、戦闘により経験もあり、柔軟な判断の出来る指揮官が少なくなり、経験こそあるものの固定概念に囚われがちな指揮官が多くなってしまい、能力のある若年将校達との溝を作ってしまい、多数の将兵の白骨を朽ちさせる事になっていたのだ。そういった背景もあってか、国防軍の士官や将校の中にはアークスや、国防軍若手将校を快く思わない者もおり、その一方でそんな老害の元で働いたり死なねばならない事に不満を募らせる将兵も数多く存在した。そんな互いが互いの足を引っ張り合ってるという軍隊の勝利で熱狂的な愛国心に目覚めた国民というのはなんとも滑稽である。どの時代も国民が求めるのは狂気的な出来事であるのは人類史の悲しき性であろうか。狂気、戦争の勝利の余韻それは国家による国民への麻薬である。新光暦239年初秋。オラクルとダーカーの戦いは更に苛烈なものになっていくのだった。



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16話 大遠征軍出撃‼︎第10次Schloss von Gott(神の城)要塞攻略戦 1

10月2日、オラクル首都の国防軍大本営にアークス首脳陣、国防軍首脳陣、そしてオラクルの保有する大中小問わず数百の艦隊司令官と参謀が集まった。理由は、このオラクルから長駆遠征し、ダーカーの本拠地を破壊、ひいては深遠なる闇の完全破壊を目的とした大遠征の軍議であった。

この大遠征を立案したのはベルナジューという若い将校であった。内容は銀河外縁から銀河系の外に通じているアルカリスク回廊を通り、銀河系の外から19万光年先の銀河系に広がるダーカー支配圏を正義の大軍勢を持って解放するというものだった。ここで物語の舞台の宇宙の構図を話さねばならない。銀河中心に位置するオラクルや諸惑星を初めてとした銀河系、その十数万光年先にふた回り大きい銀河系があり、銀河系まるまるダーカーの支配圏になっている。この二つの銀河の中心にタクミ達の銀河系とほぼ同じ大きさを誇るもう一つの銀河系があり、そこにオラキオ王国や、グラール太陽系…改グラール及びその他惑星国家連合はそこにあり、オラクルとは別路線でダーカーと戦っている。この3つの銀河系はそれぞれ回廊によってつながっている。この三銀河は航行不能の宙域が交差しており、おいそれと艦を進める事が出来ないのだ。そのためもし、航行不能宙域に出れば、船体が耐えられず崩壊してしまう。その中を通過可能なのが回廊である。その回廊がこの三銀河を結んでいるのだ。だが近年、もう1つの回廊を発見したのだ。それは三銀河を結ぶ回廊の間の航行不能宙域の中央に存在した。銀河を結ぶ三回廊のどれよりも広く、大艦隊を通過させるのも容易であった。この回廊を通り、遠征を行うというのだ。然し、問題点はある。

それはこの回廊内に一切の居住可能惑星及び要塞や基地の類が無い。つまりこの回廊を通った場合、無補給を強要されるだけで無く、補給線寸断を起こせば、退却するのも困難であった。回廊に入って、出れるか、出れないかというギリギリのラインで艦隊のエネルギーは切れてしまうからである。実はその点を含めた幾つかの問題を提示してタクミ達は反対していた。この軍議とリリーパ会戦の間に一ヶ月の期間があった。その一ヶ月の間に様々な問題や事件が起きていた。内乱の元凶であり未だ生き残っていた反乱軍残党の始末。惑星アムドゥスキアにてオラクルと共に生きる事を良しとしない龍族の内乱鎮圧支援。ウォパルやリリーパにおける原生種の暴走。とてもでは無いが、大戦力を送るような余裕は無かったのだ。

 

そんな状態ではあったが軍議は行われた。『以上が今作戦の内容であります。大戦力を持って長駆遠征し、ダーカー支配圏を正義の大軍勢を持って解放する‼︎横合いから分断せんとする輩は大軍を持って撃滅する。』ベルナジューは熱意を持ってこの遠征作戦の意義を強調した。多数の提督達はこれに好意的な態度をとった。オラクル国防軍大元帥スミルノフは、この作戦を承認する気になったが、ネルソン艦隊司令長官やウルクアークス総司令官の表情が優れない事を目に取った。ネルソンと同年代で衰えを極めつつもかつては勇名を馳せた人物であったから、彼らの意見を聞こうという気を起こした。『ネルソン元帥、何か思うところでも?』

ネルソンは席から立ち上がってこう反論した。『長駆遠征なさることは確かにこの戦いを終わらせる上で必ず必要な事でしょう。ですが我が領内にはこの遠征をやるには不安要素が多すぎます。先のアムドゥスキアの内乱鎮圧やリリーパ、ウォパルの原生種暴走。いささか戦力が足らん気がしますが?』ベルナジューはこれに対し、『原生種がなんです?あの獣畜生共に何が出来るというのです?それに龍族などのような野蛮人共に戦力を割く必要性もありません。やがて彼らは我らの勝利をしり、無益な争いを止め、進んで我らに加担するでしょう。』『野蛮人とは聞き捨てなりませんな?』とこれに対し異を唱えたのが、タクミであった。『龍族を野蛮人とベルナジュー少将は仰いましたが、これは失礼ではありませんか?彼ら龍族と我々は同盟の間柄つまり同志です。その友人たる彼らを…いや同じ人類たる彼らを野蛮人とまるで獣の如く扱うのは民主主義の軍人として恥すべきところであると思います。それに作戦案で我が軍の大軍が大挙として1つの列を作り進撃出来るとは思えません。ダーカーの、少なくとも3割、多くて半数の戦力を手中を収めるアウグスト・シュヴァーベンがあの戦争の天才が手をこまねいて見ているはずがありません。恐らく、最も取るべき行動は先ほどベルナジュー少将が言った通りに横から分断せんとする事でしょうが、恐らくこれは成功してしまいます。我らはその中に補給路を建設しなければならない挙句、この列は各艦隊の行動を阻害しあってしまいます。そして薄い薄氷のような箇所を見つければ、容赦無く寸断するでしょう。ここは先ず、国防を優先するべく、Schloss von Gott(神の城)要塞の攻略を先決なさるべきかと思います。』『成る程、龍族は人と見なければならないか…閣下はアークスとして数々の同僚や、友人、そしてお父君を殺したのは誰かという事をお忘れになられたようだ。彼らは所詮敵ではありませんか?それを同志と呼ぶなど国家に対し不敬ではありませんか!それと閣下は慎重のご様子、ですが敵がその様な事を出来るとは思えません。2000万将兵を乗せた数百万隻の艦隊を目にして戦える敵など存在しません!Schloss von Gott(神の城)要塞に至っては要塞守備戦力のたかだか2万隻。長駆遠征を完了しまえば無視して然るべきではありませんか?』『それはあくまで戦術レベルでは確かに脅威では無いでしょう。ですが戦略レベルでは敗北は免れません。我らが船団から離れれば、我が領内は手薄です。そして我らが第二銀河を解放するよりも早くに船団は殲滅されてしまいます。…長駆遠征をなさるのであればやれば宜しいでしょう。我が国民もそれを望んでいます。だがその前に後故の憂いを絶ち、盤石の態勢をもって当たるべきと思います。』ベルナジューは尚も、そうであったとしても必要なし!と言いたかったのだろうがタクミが折れた事や、正論が出て諸提督も納得してしまったためかスミルノフ大元帥も静止の合図を送った為、ベルナジューもここは黙った。決議は、長駆遠征を行う際の方針、作戦はベルナジューのもので行くと決まり、並行して行っていたオラクル政府の各省大臣達によって行われる民主的(閉鎖されていて何処が民主的だろうか)な会議によって遠征するか否かを決めた。結果は半々であったが僅かな差で遠征が決定した。その反対側にフレーゲルの政治家としての師匠である。武田厚生労働大臣、アフマド国土交通相大臣が居たが、その中にこの遠征を行うかの決議を取ると言いだしたマッケンジー首相も居た事は皆を驚愕させたが、彼としては、遠征などどうでも良く、国民の戦意と愛国心を煽る材料として使っただけであり、その目的も達し、無謀である事も分かっていたからであった。因みにベルナジューは作戦案をマッケンジーに私的なルートで提出していた事が後に分かった。

 

大遠征に備えて、艦隊は増強された。パトロール艦隊は2000隻から4000隻に、駐屯艦隊は5000から艦隊にもよるが8000〜1万隻、戦闘艦隊は旗艦が守護衛士級の場合1万5000隻から1万8000隻に、大和級であれば2万隻から2万5000隻に及び、分艦隊(オラクル国防軍艦隊は本隊合わせて4個分艦隊で構成する)構成数6250隻である。よって艦隊の構成将兵も増員された。第一艦隊には分艦隊司令官として、エドワードと攻勢と多勢との戦いに置いて定評のあるヒューズという中年将校を艦隊幕僚に加えた。そしてもう一人加えた。経理を担当するルイ少将も加えられた。ルイはタクミ達の先輩であり、秀才であり後方勤務のエキスパートである。歳は29歳で同い年の妻と2歳の娘を持つ。更に、未成年のアークスや兵士も艦隊に加えると本営から沙汰があり、補充兵の内300名が未成年でありその代表としてアークス3名がタクミの元に訪れる事になっていた。『オラクルは未成年を戦場に出すのは、アークス時代からやってるからね。あまり珍しくも無いのだろうけど、未来の国を作る子供達を戦わせるのはやはり大人としてはやりたく無いな。』とタクミはアリスに淹れて貰った紅茶を啜っていた。『閣下、そろそろ代表の3名が来るはずです。お通しする準備をしても?』『アリス少佐の宜しきように〜』とタクミは気怠く返し、アリスもクスクス微笑しながら部屋を出た。暫くして、準備が出来たのかアリスは部屋に戻ってきた。『代表者3名を連れてまいりました。』『ご苦労さま』ノックが3回ほど起きた。『どうぞ』とタクミは返すと『失礼致します!』と若い三人の男女の声が帰ってきて、タクミは驚きのあまりに紅茶を吹き出した。タクミは驚きと喜びの声をあげた。『まさか…嘘だろ?イオ!ルベルト!ロッティ!』タクミは若いアークス達の名を呼んだ。一人はデューマンの少女で、一人はヒューマンの少年で、一人はニューマンの少女であった。三人はお手本通りの敬礼をしていたがタクミの感嘆の声に気を良くし敬礼を下げた。『先輩、じゃなくってF提督お久しぶりです!』イオの挨拶に続けて、『お久しぶりです閣下‼︎』と挨拶を行った。『300名共々よろしくお願いします‼︎』と三人で声を揃えたものだ。タクミはすっかり成長した三人を見て、ただひたすら祝福してやった。そこにアリスが三人に目配せを送った。三人も目で合図をした。これは何かを企んでる時にやる常套手段だ。ロッティはタクミに話しかけた。『閣下。もう一人紹介したい人が居るんです。お呼びしても良いですか?』『おっ!誰だい?君達の友達?』とこの後輩が可愛くてしょうがない提督は完全に惚けていた。そして四人がニヤリと笑うと、『どうぞお入りください‼︎』と口を揃えた。そしてドアから入ってきたその人を見て、タクミはおもわずティーカップを落とした。

パリンッ!と乾いた音を立てた部屋に入ってきたのは、マトイだった。タクミも開いた口が塞がらないといった感じであった。『タクミ…宜しくね?』マトイの言葉でタクミは我に返った。『な、なんで君が、なんで貴女が…そんな辞令も、そもそも私は君にはこんな所に来てほしくは…』とタクミは悲痛な返事をした。だがマトイは強く押した!『タクミの力になりたい!私も戦えるよ!』タクミは部屋にいる者の顔を見た。みな頷き、おまけに何処から聞いてきたのか、フリードリヒやガブリエル、アースグリムに、グリッドマンまでドアからこっちを覗いて頷く始末だ。タクミは察した。タクミと一緒に戦いたいとマトイが、シャオかウルクあたりに言ったのだろう。そこに大本営の連中と艦隊幕僚が乗っかり、こういう大イベントにしてしまったのだ。つまりアークス広報担当のシー女史曰くyou付き合っちゃいなよ!という事だった。どんなに姿を変えようとアークスはアークスであり、仲間の幸せの為にここまでやるのである。(しかもクリスマスとかハロウィンなればアークスシップ一隻を丸々使ってパーティーする位である)こうしてタクミは波乱万丈の大遠征に行く事になるのである。



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17話 大遠征軍出撃‼︎第10次Schloss von Gott(神の塞)要塞攻略戦 2

どうもお久しぶりです。作者ですwww
やっと要塞攻略が始まります。でもなんかややこしくなってきたなと自分でも思ってたりするので、結構キツくなって来ましたwww以前、pso2感が薄れてきたとご指摘を頂きましたので、今回それっぽさを追加すべく、VR訓練を冒頭に持ってきましたwww今後もpso2感が出せるように頑張りますねwww


第一艦隊と、第四艦隊は、新回廊から進む大艦隊と別れ、国歌と国民の声援に推され、一路、schloss von gott要塞に向かって航行していた。彼らに課せられたのは、要塞の攻略だけでなく、この無益な大遠征そのものを止める事だった。要塞そのものを奪還できれば、国防を磐石に出来るだけでなく、国民に対しても、納得させ得る戦果になるからである。さて、ここで第一艦隊分艦隊旗艦パンゲアに目を向けてみよう。艦隊旗艦型新造戦艦パンゲア。ガーディアン級を二隻横につけた双胴戦艦である。双胴化したガーディアンはありとあらゆる点に於いて、ガーディアンを超える艦であった。正面火力は艦首内臓、艤装型主砲含め、100門以上の火力を展開でき、装甲面においては大和級に譲るが火力面は最強を誇る戦艦である。その内装も豪華で巨大なVR訓練通称エクストリームクエスト場も完備しており、アークスや兵員の訓練もかなり質の良いものを提供出来るのである。その訓練場に、イオ、ロッティ、ルベルトが三人チームを組んでいた。因みに相手はタクミ一人であった。この三人はタクミに久し振りに模擬戦の相手になってほしいとねだったのである。タクミも了承した。ルールは先ず、三人は10のレベルをクリアし、最後のレベルに居るタクミを倒すと言うものだった。この三人は何事もなく10のレベルをクリアした。最後の、タクミとの模擬戦場は惑星ナベリウスの密林を再現したものだった。三人は周囲を警戒しながら進んでいた。相手は上一級の称号を持つアークスの射手(レンジャー)いつ何処から狙っているか解ったもんじゃなかったのだ。『先輩何処から狙ってるんだろう?』ロッティは不安そうに言った。『少なくとも銃声を聞いてない。まだ先生は俺たちを見つけて無いはずだ。』ルベルトはそう答えた。イオは襲いかかってきたナベリウス原生種(ガロンゴ)に放った矢を抜きながら考えていた。『先輩の使ってるライフルは300式超長距離狙撃用対物ライフル『ファイアー・アームズ』。ガロンゴの硬い甲殻も粉々にするだけの威力がある。撃たれたらひとたまりも無いけど、とても大きい銃だ。それを使える場所も限りがある筈だそれに動くのは大変な筈だ。せめて、何処から撃ってくるかわかれば良いんだけど…』イオはその場に倒れてるガロンゴの仮想体の死体を見た。その瞬間閃いた。暫くして、一匹のガロンゴがとち狂った様にしか転がってきた。とても大きな銃声が鳴り響いた。ガロンゴは粉々になった甲殻を背に仰向けになって息耐えた。イオの作戦は成功した。『見つけた!総員ゴーグル装着!射程距離まで全速で突撃する‼︎ムーブ(前進)‼︎三人はガロンゴを射抜いたタクミのいる方へ木を盾に前進した。タクミは敵の牽制に乗った事を知った。だが、彼は冷静にスコープをサーマルで覗き三人を見つけ、引き金を引いた。砲声と聞き間違えるほどの銃声が響き、ロッティの側にいた、ウーダンの頭を吹っ飛ばした。『ひっ…』ロッティは怯んだ。イオは、『怯むな!もう私達を見つけてる証拠だ!』イオに叱責され、ロッティも戦意を取り戻し、また走り出した。タクミは、ガンスラッシュの弾倉を調べた。そしてファイアー・アームズを自動化するとその場を離れた。イオとロッティ、ルベルトの三人はファイアー・アームズの弾幕を掻い潜り接近した。イオは、バレットボウを空に向け放った。無数のフォトンの矢がタクミの居る、居ると思われる場所に降り注ぐ。

弾幕がやんだ。三人は狙撃地点に来てみると…そこには矢を受けて故障したファイアー・アームズだけが残っていた。『先輩は何処に行った!』イオが叫んだ瞬間、スモークグレネードが投げられた。三人は煙幕の中に包まれた。銃声が至る所で響き、三人は身を隠すべく思い思いの方に走って行った。気がついたら三人は散り散りになっていた。ロッティは不安と恐怖に駆られながらも武器を構え、周りを警戒しながら進んだ。然し、頭上には息を殺して待ち構える者がいた。跳躍‼︎それは木から飛び降り少女に襲いかかった。少女の悲鳴が密林に木霊する。イオとルベルトは直ぐに声のする方にひた走る。『はい。ロッティ、アウト。残念でした。』とタクミはニヤニヤと言った。ロッティは泣き顔で『ふえぇぇ…タクミ先輩怖いですよ…(泣)』

と言ったがタクミはこれも戦法だよと言うとロッティを転送した。タクミはまた身を隠したその時にイオとルベルトは到着した。タクミは近くに居る。その確信はあった。イオは意識を集中した。そして矢をつがえるとそこの草むらに放った。金属音がなり、矢が跳ね返ってきた。タクミはルベルトを殴り倒すとガンスラッシュで一発頭を吹っ飛ばした。風穴を開けられルベルトは絶命判定を喰らい、失格となった。可哀想にルベルトはそのまま気絶してしまった。イオは矢を持ってタクミに突き刺そうと飛びかかる。タクミもガンスラッシュで応戦する。イオはこの時あまり使わないと言うより殆ど使わないカタナを抜刀した。

タクミはいささか驚いたが、更に踏み込んでガンスラッシュで斬りつけてくる。イオはカタナであしらいつつ、タクミのガンスラッシュをカタナごと叩き落とした。『武器は無い!もう終わりだ先輩‼︎』イオは隠し持っていた矢でタクミを突き刺そうと飛びかかる。『まだ終わってない‼︎』イオにタクミはナイフを引き抜き、突進した。二人の動きは同時だった。2つの肉を突き刺す音が聞こえ、二人に同時の絶命判定を受けた。模擬戦は引き分けとなった。

VR風景が崩れ殺風景な広場になった。横に設置された観客席から拍手喝采が巻き起こっていた。要塞宙域に着くまで暇な将兵が観戦に来ていたのだ。その中に、フリードリヒ、アリス、マトイ、アースグリム、グリッドマンといった艦隊幕僚も観戦に来ていた。(マトイは本土防衛隊連隊長と言う肩書きがあるので艦隊保安主任になった。)『久し振りにアークスらしい事をしたご感想は?提督。』『帰ってきたと言う感じだね。だけど危なかった。危うく負けるとこだった。』『どうにかこうにか引き分けに持ち込んだって訳ですか?w』タクミとフリードリヒとアリスが話してる所に、若い三人が走り寄ってきた。『ああああ!勝てなかった〜。先輩現場から離れてたんじゃ無かったのかよ?』イオは地団駄踏みながら聞いた。『レンジャーとしての現場は少し離れたけど陸地での戦いから離れたとは言ってないよ?それにしても三人とも強くなった。本当にこれでアークスは安泰だ。なぁ諸君?』タクミの問いに皆が頷いた。そこにルイ少将が入ってきた。『お疲れのところ悪いが、要塞攻略にあたっての必要な物と今後の補給物資の消耗具合を予想してまとめた物だ。』『先輩お疲れ様でした。鹵獲したダーカー戦艦、ダーク・ヒューマン仕様。確かに受理しました。こっちは…』タクミは書類を暫く眺めていた。ページをめくる度に彼の表情は曇って行った。

『やはり途中で補給線を破壊されれば我々は飢える他無くなる訳ですか。』『ああ、補給担当将校として言わせて貰うと今すぐ、こんな馬鹿馬鹿しい戦いはさっさと止めるべきだな。資源の無駄遣いだ。要塞の攻略する分は保証するがそれ以上はどうなるか…』ルイは険しい表情を浮かべて答えた。『分かりました。ルイ少将お疲れ様でした。みんなも今日は解散だ。二日後の今頃には要塞宙域でドンパチする事になってるからな。』タクミは自分の旗艦に戻るとベレー帽で顔を覆い、足を机に投げ出し居眠りをするような形となり、ひたすら戦場をイメージした。小一時間程の『居眠り』で彼は作戦を纏めた。なかなかのスピードとタイミングが必要となるが、この艦隊なら可能だと確証をタクミは得た。だが、彼は要塞そのものに興味はこの時無かった。彼は、要塞より遥か彼方、先に居る一人の男を意識していた。アウグスト・シュヴァーベン。奴は何処で待ち構えている。恐らく、ダーカーの指揮を取っているダーク・ファルス・双子…あの深遠なる闇の残骸は自らは出てこない。まだ奴には力が足りない。だからこそ彼らの中ではイレギュラーなかれが指揮を執るはずだ。そして彼が生前の彼と同一人物なら、ずっと、支配される側には居るはずが無い。恐らくいずれ叛旗を翻す。その為の生贄に我々はなりに行く事になる。奴は要塞に居るのか。それとも新回廊で我が軍の大艦隊を飼い主の居なくなった羊を狩る狼の如く、蹂躙するべく待ち構えているのだろうか?それとも第二銀河の奥深くで待っているのか?いやそれはどうでもいい。何処にいても今回は彼に勝利を奢ることは間違い無いのだから。問題は奴がいつ動くかだった。要塞を攻略する前に動かれてしまえば、オラクルに明日は無い。いや、もし自分がアウグスト・シュヴァーベンだったら、schloss von gott要塞そのものは興味は無いだろう。彼は間違いなく、情勢が不安定な第三銀河を平定して、2つの銀河を手に入れる。そこで第一銀河と第三銀河をつなぐ回廊を通り侵入するはずだ。少なくともschloss von gott要塞を落とすより圧倒的に彼にとっては楽だろう。だがそれは出来ない。アウグストは現在この第二銀河の防衛を命令され、そして既に我々は敵の領地に足を踏み入れている。彼とて第二銀河を失いたくは無いはずだ。そもそも彼はこの時点でこんな大攻勢に出れる程の権力と兵力が有るとは思えない。『少なくとも今回は彼が受け身になるだろう。だが、痛烈なカウンターを用意して待ち構えているだろうがね。』と独り言を言いつつ、タクミは端末を開き、schloss von gott要塞の図面を見て、紅茶を啜った。そして暫くして、エドワード・アースグリム、チャールズ・グリッドマン、ソーマ・ヒューズと言った分艦隊司令官を呼んだ。三人の提督は、神妙な顔つきで艦隊総司令官の指示を待った。タクミは口を開いた。『あと数時間後には要塞の警戒網に入る。貴官らはこの艦隊を率いて、敵の艦隊を釘付けにして欲しい。』『提督閣下は如何なさるのです?』『私は要塞内部に突入するポツダム連隊と共に行く。と言うのも敵艦隊を引きつけるという仕事は私には少し難しい。そこでエドワード、君に艦隊の運動を任せようと思う。二人には話を通したから、心配しなくて良いよ?』『私がですか⁉︎大佐の身分である私が、艦隊運動をですか?』とエドワードは開いた口が塞がらないと言った感じだった。『偽装撤退の達人アースグリムの采配。俺は見てみたいな〜?』『俺も見たいな?若い連中がどんな戦い方をするのか参考になるしな。』とグリッドマンとヒューズが口々に言うもんだからエドワードは引くことは出来なくなった。エドワードは、溜息を1つ吐くと、渋々、了承した。



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18話 大遠征軍出撃‼︎schloss von gott(神の城)要塞攻略戦3

schloss von gott要塞内は慌しく、ダーカーとダーク・ヒューマンが要塞内を走り回っていた。要塞内の市街地にすむダーク・ヒューマンの民間人も、不安に駆られていた。要塞宙域に手負いの、今、まさに轟沈しそうな戦艦が救援を求めていたのだ。この手負いの戦艦は、偵察艦隊の旗艦護衛艦であったが、突如、現れたオラクル軍の大艦隊にたった一回の主砲斉射でこの一艦を残して、全滅したらしいのだ。要塞には、今、二人の主人が居る。ダーク・ファルス・ルーサーとエルダーの模像体その中でも最初期に作られた個体の一体であり、能力も高かった。ルーサーは要塞司令官を任せられ、エルダーは、要塞防衛艦隊司令官を任せられていた。然し、この二体…二人?が仲良く、要塞の二大君主で収まっているわけ無かったのだ。そもそもオリジナルのルーサーとエルダーがウマが合わなかったように、クローンである彼らもそれを受け継いでいた。軍団の大将としての統率力、参謀としての軍略と知識。エルダーには前者があり、ルーサーには後者があった。この二人が共に手を取り合って戦っていたら、この戦争の戦況はもっとダーカー…いや深遠なる闇のとって有利に働いていたかも知れない。然し、問屋は下ろさなかった。理屈家と猪武者は馴れ合う事は無いのは、歴史が証明しているが、国家、種族、主義…いや宇宙の存亡の掛かったこの戦争でもこれらの理由で、軍団指揮官クラスの人間が内輪揉めを起こすような状態では落ちぬ要塞も落ちるのは赤子でも分かるだろう。ただ、彼らの共通点…全てのダーク・ファルス・クローン(強躯『エルダー』、敗者『ルーサー』、若人『アプレンティス』)の共通点があるとしたら、創造主たる深遠なる闇同様に、ダーク・ヒューマンを同族とは見ておらず、対アークス及びフォトン使用可能生命体戦用の人間兵器程度にしか見ていないのだ。その為、もとは、オラクル陣営にあったこの要塞のコントロールの為に50000名のダーク・ヒューマン兵とその家族が要塞に居るが、ダーク・ファルス果ては中級以上のダーカーまでもが気に入らなかったら、殴る、蹴る果ては性的暴行まで、加える始末であった。その為、両種族は大変仲が悪く、ダーク・ヒューマンはダーカーからの独立を目指す動きも活発になりつつあった。そんな一種の爆薬のような要塞に突きつけられた非常事態。エルダーは麾下艦隊に出撃を命じ、ルーサーは防衛態勢を敷き、要塞主砲『Atem Gottes(神の息吹)』を、発射可能な体制にした。Atem Gottes。要塞主砲の中で、トップクラスの威力を誇る巨大レーザー兵器であり、第二次帝政末期にこの要塞に搭載された破壊兵器であり、属する陣営が変わる度に様々な国に恐れられた為、宇宙では知らぬ者は居ない。その破壊兵器を警戒し、尚且つ、堂々と、25000隻の大艦隊がワープアウトし、瞬く間に手負いの戦艦にレーザーを放ち、手負いの戦艦は塵となった。そして猛スピードで、要塞に向かって行った。と思いきや、急速に進路を変え、背を見せ、まるで挑発、と言うより誘惑するように悠々と引き返していった。エルダーは堪らず艦隊出撃させた。仮に劣等種が乗り組む船だったとしてもエルダーの武人としての矜持が敗残の戦力とも見なされない一隻の艦に全艦で当たったこの卑劣さに感化されたのか、いや恐らくこの艦隊の挑発に乗せられたからであろう。ルーサーは呆れつつも、エルダーの出撃を許可し、敵艦隊方向に、要塞主砲と要塞各種兵装を向けた。さてこの要塞に住まう者たち全員に喧嘩を売った酔狂な輩はやはり、我らの若い提督(タクミ)の艦隊であった。そしてその先頭にエドワード・アースグリム大佐が乗艦する戦艦パンゲアが居た。『さて、これで奴さんに手袋を叩きつけたぞ。次は敵艦隊が、こっちを射程に収めてくれるまで待つ。』

『やはり、待たねばなりませんか?』アースグリムの副官である。ロン・ヤオ中佐は聞いた。『喧嘩を売った張本人が逃げたらあかんでしょ?各艦隊に準備をするように伝えてくれヤオ中佐。敵が顔を真っ赤にして来てるんだからな。』アースグリムが生気に満ち溢れた顔をして命令するとその副官も力強く頷き下層環境に戻り、伝令した。(さてさて、後輩に気難しい客を押し付けて柔な客を相手するひどい先輩は上手くやるかな?)アースグリムは後方の艦隊旗艦、いや今は、偽装旗艦である。武蔵をみてこう思っていた。今、艦隊旗艦は武蔵では無かった。今、この時の第一艦隊旗艦はパンゲアであった。何故ならこの時第一艦隊司令官タクミ・Fは居ないからであった。話は数時間前に戻る。タクミは艦隊の幕僚達と要塞攻略を思案していた。課題はやはり要塞の占拠であった。艦隊を撃破しても、宇宙トップクラスの威力を誇る破壊兵器を持つ要塞とまともに戦って、勝てる筈が無かった。そこで要塞と艦隊を完全に分け、別手段で各個撃破する策が提示された。タクミはダーク・ヒューマンの戦艦を一隻、ルイに用意させていた。それに高純度のフォトン粒子を充満させ、要塞と艦隊の間で沈め、艦隊と要塞を一本の粒子の帯で結ぶという物だった。この宇宙で生きる者が使うワープ。ダーカーとダーク・ヒューマンを除く全ての生物はフォトン粒子をエネルギーにしてそれらを可能にしていた。要塞宙域はネガフォトンで覆われている要塞宙域にフォトン粒子の道を作り、オラクル最精鋭アークス、オラクル陸軍連合歩兵連隊ポツダム連隊を要塞内に直接送り込む作戦であった。彼らが要塞を中から制圧してる間、第一艦隊が敵艦隊を惹きつける。然し、何故艦隊指揮官であるタクミが行かねばならぬのか?彼は敵艦隊を引き付けるように逃げる演技は自分よりアースグリムの方が上手いことを知っていた為彼に艦隊を任せていたが、それとは別に彼自身がポツダム連隊と共に要塞内に侵入する事で敵将に降るよう仕向けさせることが目的であった。もっとも相手はルーサーなので可能性は低いのだが、(良くて自決だろうな)とタクミも思っていた。あるいはただ要塞内に突入し、武勲をあげたかっただけかも知れない。真意は分からない。ともかくタクミはポツダム連隊と共に武蔵のポツダム連隊控え室にいた。ここに居るアークスと兵士は皆、紅い装甲服(ソルプロテクトル)を身につけ、武器を点検し、砥石で削り、弾倉を装填し、イメージトレーニングをしていた。連隊長フリードリヒは立ち上がって口を開いた。『そろそろ時間だ。本日のゲスト兼助っ人の提督閣下よりお言葉を貰おうとしよう。』フリードリヒの洒落た呼び掛けに連隊員は盛り上がった。入ってきたのは、これまた紅い和装型装甲服(新光漢大鎧)に身を包んだタクミであった。武器は上級カタナ兵装の中でも普及率の高い剣影、ガンスラッシュゼロと言う出で立ちである。『え〜…まぁあれだ。健闘を祈る。ただでさえ馬鹿馬鹿しい戦いなんだ。こんな所で死んだら面白くないからね。以上。』実に簡素であったが兵士達には充分であった。『さぁ時間だ。行くぞ‼︎』フリードリヒが叫ぶと連隊員は雄叫びをあげた。タクミはこの連中の狂気と覇気を肌で感じ取っていた。(流石は船団一の戦闘集団。やはり只者では無い。)タクミは胸中にある畏敬と畏怖の眼差しをこの3000名の男達に向けるのだった。瞬間、辺り一面光に包まれ、目を開けた時には見慣れない廊下に立っていた。テレポートしたのだ…schloss von gott要塞内部に。彼らは外の敵艦隊に感づかれる前に要塞中心部、司令室を占拠しなければならない。もし感づかれれば、敵艦隊は第一艦隊を無視して要塞内に突入し、挟み撃ちにしてポツダム連隊を皆殺しにしてしまうだろう。そうなる前に要塞中心部を占拠し、敵艦隊を挟み撃ちにして殲滅しなければならない。フリードリヒは連隊員全員に合図し、何班かに分かれ、要塞重要部各所を制圧に、掛かった。幸い、フォトン粒子散布と同時に通信妨害を掛けておいたお陰で要塞内で大暴れしても敵艦隊に、救援要請が届く事は暫く無い。それでも短い時間である事は変わり無い。タクミとフリードリヒの班が司令室を目指して走っていると、廊下に気配がしてきた。止まって様子を見ると、ダーク・ヒューマンの兵士数人が銃を壁において、片手にコーヒーと談笑していた。内容はダーク・ファルスとダーカーに対する愚痴であった。連隊員のフォースがロッドにフォトンを溜めて詠唱しながら、フラッシュバンを投げた。激しい閃光と耳をつんざく爆音で兵士達は怯んだ。そこにポツダム連隊が襲いかかった。一人は脳天から斬られ、一人は突き殺され、一人は蜂の巣にされ、一人は焼き殺された。彼らは悲鳴をあげる間もなく殺された。この様子が司令室にたまたま映されており、要塞の者は、どうやったかは知らんが敵の侵入を受けた事を知った。そこにはタクミとフリードリヒと数十名の連隊員が居たが、全員歯を見せ、眼を紅く光らせ不気味に笑う姿が映されたという。つかの間に要塞各所で敵襲の連絡が後を絶たなくなった。要塞司令室は援軍を差し向けようとしたが、いかんせん要塞内での戦いを想定しなかった所為か、白兵戦兵力は僅かしか居らず、数は充分では無かった。その結果、要塞戦力は増援に来てはやられ、また来てはやられのジリ貧であった。タクミはガンスラッシュゼロの弾倉を変えていた。フリードリヒはそんなタクミを見て、こう言った。『ゼロは手間取るな。』『弾の威力は高いのだが、装填数六発、装填に時間が掛かるとなかなか、構ってちゃんですよこの娘は。』『銃や剣と同じように、女の扱いも上手くなってくれれば師匠としては嬉しいんだけどね〜,。』こう言ったふざけた世間話をしながらも二人は手持ちの武器でまた一人、また二人、また三人と冥府に送って行った。暫く行くとよく出来た氷の像に出くわした。痛みに苦しみ、断末魔を上げているような像だった。だがよく見るとそれは像では無く、ダーク・ヒューマンの氷漬けにされた命を絶たれた姿であった。『シュミットの奴だな。あいつのフォースの戦闘テクニックは氷系で固めてるからな、退役したら、これで金が取れるぞ。』フリードリヒが何処か悪趣味な像を見ていると血塗れになったロッドを持ったシュミット少佐達が合流した。彼らの担当している重要部は全て制圧し終わったようだった。どうやらシュミット班はフォースで固めていた癖に、ロットで撲殺したダーク・ヒューマンの方が多いのか、皆ロッドが血塗れだった。暫くして、カール中佐が要塞重要部は司令室を除く全ての箇所の制圧に成功したと連絡を入れてきた。要塞司令部はもう目の前であった。新光歴239年10月上旬schloss von gott要塞攻略戦の勝敗が今、決しようとしていた…。

 



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19話 大遠征軍出撃‼︎第10次schloss von gott要塞攻略戦4(終)

エドワード・アースグリム大佐がタクミより一時的に任された。(と言うより押し付けられた)第一艦隊が、エルダー率いる要塞防衛艦隊をひたすら挑発して要塞に帰らせないように引きつけている間、要塞内は混沌の極みにあった。戦闘という狂気によって悪魔の化身となったポツダム連隊は次から来る敵(ダーカーとダーク・ヒューマン)を千切って投げるなんていうとても可愛い表現では表せない有様にしていた。さてタクミ一行は要塞指令室の一歩手前で奮戦していた。ダーカーの部隊が体制を立て直して、何とか数を掻き集めて司令室前で抵抗していた。敵の銃火は激しく決死の覚悟で迎撃していた。『カールの奴、何している。まだ遊んでるのか?』フリードリヒはまだ合流しない副官をイライラしながら待っていた。タクミは無線機でカールを呼び出してみた。『おーい!カールそろそろ着いちゃうぞ〜何してんの〜?まさかダーク・ヒューマンの女の子を相手にガールズハントかい?』『いやそれはまたの機会にしますよ提督。ダーク・ヒューマンの部隊がやたら食らいついてきて、なかなか突破させてくれないんですよ。』『何人か捕虜にとって早く来てくれ。何も索敵殲滅を命令したんじゃ無いんだから、多人数を相手にしての格闘術は君の十八番でしょ?頼むよ。』まるで携帯電話で世間話をするみたいな内容の通信を終えるとカールは武器を部下に預け、身体をほぐしながら言った。『お前ら、支援射撃を止めるなよ?これからパフォーマンスを見せてやる。』言い終わったから終わらなかったぐらいにカールは全速力で走った。それに合わせポツダム連隊のレンジャーとフォースが支援射撃を行う。『何だ、あいつ…』ダーク・ヒューマンの女性士官の目に有り得ない光景が飛んで来た。急激に接近してきた一人の男に襲い掛かった自分の部下がその男に武器も使わず無力化されていったのだ。まるで1つの舞をするかのように男は飛んでくる拳を抑えそのまま投げ、カウンターで倒していった。その瞬間女性士官は身体がフワッと宙に浮いた事を感じた。この女も他の兵士と同様にカール中佐という男の体術の餌食となったのだ。あまりの早業に女性士官も受け身を取れずそのまま、床に叩きつけられた。倒しきった男はホルスターから銃を引き抜いた。止めなければ部下が…女性士官が立とうと動くのをカールは見逃さなかった。『驚いたな、立てるだけの気力があったのかい?綺麗な顔してるのにやるね?』『ハァ…ハァ…殺すのか?』『いや、ちょっと眠ってもらう。』ピシュッ‼︎という聞き取れるかも分からない消音器特有の発砲音がなり、女は倒れた。額には注射針が刺さっていた。麻酔針であった。他の兵士にも同様の処置をするとカール隊はタクミ、フリードリヒ、シュミット隊と合流し、ポツダム連隊本隊が結集した。指令室前の敵は殲滅していた。扉を破壊し、要塞の指令室に約200名程の兵隊が雪崩れ込んだ。どうやらここの兵員が武装していないようだ『全員動くな‼︎経った今、要塞は我々の手で占拠した‼︎大人しく明け渡して貰おう‼︎』タクミは指令室に充分聞こえるように大声を出し、降伏を呼び掛けた。『アークスめ…どうやって何故ここに居る‼︎』『良いか、ルーサーよく聞くんだ。我々は君らと違って、ネガフォトンでは無く、フォトンを使ってテレポートやテクニック、その他日常に必要な物を使用している。だがこの要塞宙域はネガフォトンで囲まれている。なら純フォトンを散布すれば良い。フォトンが満ちてる場所なら俺たちは何処にでも行ける。君達がネガフォトンで色んな所に出てくるのと同じさ。』『考えれば分かる事だったとは、僕が君らの艦隊があの脳筋(エルダー)を騙して奇策か何かを仕掛けてくる物だと思ったら…これか。』『さぁ、ルーサー。降伏するんだ。今回は命は助けて、君らの親玉の所に帰してやる。』とタクミが言うと、ルーサーは激昂した。『ふざけるなぁ‼︎命を助けてやるだと⁉︎劣等種如きが我々に慈悲を掛けるだと?笑わせるんじゃあ無い‼︎貴様らに負けておめおめ我らが創造主様(深淵なる闇)の元に帰してやるだと⁉︎そんな事ぐらいならここに住む民間人纏めて討ち死にしてくれる!総員自決せよ‼︎』だが、もうこの要塞にはダーカーなんて一匹も居ないし、指令室やまだ要塞内で抵抗してるダーク・ヒューマンは誰も、ルーサーの命令には従わなかった。『聞こえなかったのか‼︎こいつらを道連れに自決せよと言ったのだ‼︎』ルーサーは叫んだが誰も従わなかった。ダーク・ファルスの命令には絶対服従するダーカーとは大違いであった。もしルーサーがダーク・ヒューマンの指揮官であれば、生存していたダーク・ヒューマンの兵士はおろか、民間人も運命を共にしていたであろう。と言うのもダーカーへの敵愾心とダーク・ヒューマンの団結力の高さは他の人間型生物のそれを上回るのだそうだ。だとしても軍人であれば上官の命令は絶対である。それを無視して何もしないと言うのは彼らのダーク・ファルスとダーカーへの敵対心は計り知れぬ物であったのだろう。『おのれ…奴隷共め!もう良い。貴様ら諸共要塞を吹っ飛ばしてくれる‼︎』ルーサーは要塞の自爆スイッチを取り出した。周りの兵士は驚愕したがタクミは驚きもしなかった。ルーサーの様な人間はそういう物を持ってそうなのは分かっていたし、要塞司令官ともあれば尚更考えられそうな物だと思っていた。そして既に手は打ってある、いや打ってもらっていたのだ。タクミはニヤッと笑うと『ルーサー?後ろ後ろ〜(棒読み)』と言って、タクミの言葉にルーサーが振り返るとそこには大剣(ソード)を振り被ると恐らく普通の人間では不可能であろう笑い方をする赤い悪魔(フリードリヒ)がいた。驚く間も無くルーサーは絶命した。自分達の上官が死んだのを見るやいなやダーク・ヒューマンは降伏した。こうして要塞の占拠は完了した。要塞掌握の報告は敵艦隊とぬるま湯を掛け合っているアースグリムに直ぐ伝えられた。『やったか先輩。グリッドマン提督とヒューズ提督に打電。我、禁断ノ果実ヲ得タリ!直ちに前進‼︎敵艦隊側面を抜け、要塞内に入る‼︎』第1艦隊は、緩やかな後退をしていたが急速に速度を上げ前進した。エルダーはどうせまた直ぐに下がると踏んで前進と砲撃の命令を出したままにしていた。然し、敵は依然後退せず前進してくる。『急に前進しだすとは、急速後退敵を抜かせるな!』然し、艦隊は直ぐには後退出来なかった。『エルダー様!度重ナル前進後退運動ノ負荷デ船体固定スラスター

ニ負荷ガ、現在ノ方向ヲ向イテノ後退ハ不可能デス』エルダーの副官のゴルドラーダの報告にエルダーは歯軋りをした。『まだだ、敵は要塞主砲Atem Gottes(神の息吹)射線上には入らん。きっと主砲の死角から要塞を直接叩くはずだその為に要塞に沿って回る。我々はそれを予測して敵艦隊到達予測地点に直進して叩けば十分追い落とせる‼︎』エルダーの判断は間違ってはいない。だがそれはあくまで要塞を手中に収めている勢力の戦術。そして彼らの手にはもう要塞は無いのである。敵艦隊が要塞射程を気にせず前進している事にエルダーは疑問に思い出した。だがその時には既に手遅れであった。要塞主砲射程に敵艦隊まるまる収まっているのである。それでも要塞は発射しない。エルダーはまさかとは思いつつも最悪の状況を連想した。(いくら司令官があの役立たず(ルーサー)であったとしても要塞を取られる様な事は無いはずだ。だがそれなら既にAtem Gottesが発射されてもおかしくない。トラブルでもあったのだろうか?)だが、トラブルでも無い事をエルダーは知った。敵艦隊は円形に艦隊を広げ要塞中央をエルダー達に見せた。そして彼らの前にエネルギーを充填し、今にも放たれそうなAtem Gottesがエルダー達を捉えていたのだ。エルダーは直ちに後退を命じた。かくして数時間前とは立場が変わったエルダーは腸が煮えくり返っていた。と同時に失意に駆られていた。勝ち目など無かったのだ。敵艦隊は損害など殆ど与えていないし、おまけに要塞まで掠め取られている始末…。生きて帰れる訳がない。エルダーは覚悟を決めた顔をして、かつての自分達の根拠地そして今は、敵要塞となったschloss von gott要塞に通信を入れる様に指示した。指令室のモニターにエルダーの顔が映し出された。一方、エルダーのモニターには血塗れになった装甲服を着込んだ集団と手錠を掛けられた奴隷(ダーク・ヒューマン)が映し出された。エルダーはこの時に要塞が落ちた事を改めて認め、指揮官は誰かと問うた。タクミもまた指揮官は自分だと名乗り出た。『貴公が艦隊司令官か。まだ若いな。アークスは子供も司令官にするのか。』『能力のある者が高みに立つ。歳は関係無い。力と知恵。そして弱き者を思いやる事の出来る高潔な者が人々を率いるに相応しい人間だ。私はその類では無いが少なくとも知恵だけはギリギリ当てはまった様だ。』『提督殿、我々はダーカーは決して貴公らに命乞いなどせぬ。我らをお創りたもうた創造主(深淵なる闇)の子として、武人としての矜恃を守るべく我々は全艦ここで討ち死する事に致すそれでは!』通信が切れるとタクミは怒りを露わにした。『馬鹿馬鹿しい‼︎武人の矜恃だと⁉︎なるほど自分は良いかもしれない。だがその為に何万の命を道連れにするなど…要塞主砲直ちに発射‼︎敵艦隊はとっくに射程に入っているぞ‼︎』Atem Gottesは特攻せんと向かってくるエルダー艦隊を捉えたその巨大な砲口は36個のエネルギー発生装置を要塞を覆う流体金属から出し、それぞれで発生させたエネルギーを中央に集めた。『ファイアー(撃て)‼︎』Atem Gottesによって放たれた大出力高純度のフォトンレーザーの巨大な帯はエルダー麾下艦隊を飲み込んだ。その時、ほぼ全ての艦隊が無線回線をオープンにしていたのか。レーザーに溶ける瞬間、創造主万歳‼︎‼︎と叫び消えていった。エネルギーが減衰しレーザーが消えるとエルダー麾下艦隊が居た場所に100隻余りの戦艦が発光信号を送っていた。すべてダーク・ヒューマンの戦艦であり、身の安全の保護を要請していた。タクミはその100隻を収容するべくアースグリム隊に迎えに行かせた。こうしてschloss von gott要塞は第二次帝政末期から現在に至る二百数十年振りにオラクル陣営の手に戻ったのである。




はい、19話です。色々ネタをぶっ込みまくってこうなりましたが如何でしょうか?リオオリンピックも上々の結果を残しつつあり、pso2も益々発展しておりプレイヤーを増やしている中、この小説はどんどんpso2よりも銀河英雄伝説風味を増しつつあります。(オカシイナー)そろそろ場所を変えて、アウグストゥスメインで話しを作って行こうとも思っています。EP2、EP4も鋭意進めていますので、色々原作設定、ストーリーに沿って行きたいと思います。後、近日中に設定紹介編2隻目を出航しようと思っていますのでそちらもご贔屓下さい。因みに内容は、各勢力の立ち位置、戦術、戦法、現在の思惑と今後のストーリーのキーパーソンを含めたものになります。


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20話 オラクル大遠征軍敗走。ダーク・ヒューマンの野望と、使命は漆黒に染まる

要塞陥落から約4日後、schloss von gott要塞にガブリエル麾下第四艦隊と、ウルク麾下アークス首脳部とオラクル軍大元帥セルゲイ、そしてschloss von gott要塞都市市長として、フレーゲル・ジャグホットが到着した。驚愕の事実を土産に…。

『何だと⁉︎ベルナジューと一部の提督達が全軍を囃し立てて、俺たち抜きで遠征して、第二銀河で暴れてるだと‼︎』エドワードは声を荒げると同時に呆れ返った表情を浮かべた。タクミに至ってはベレー帽越しに頭を掻いて首を振った。ガブリエルは続きを話した。『お前さんらの戦果を受けて焦ったんだろう。schloss von gott要塞を無視して遠征すると言ったのは奴さんだが、要塞奪還の戦果は国民に大いに評価される。むしろ、この遠征軍に匹敵するぐらいのな。恐らくベルナジューはお前さんら(第一艦隊)の後ろに偵察用艦載機でも尾行させてたんだろう。やつの思惑通り、タクミが失敗して散々叩く為に、そして万が一成功してしまった時にすぐ行動する為にな。』『全く何て事を何でそんな馬鹿な事をしたんだ。』『お前…ひょっとして冗談のつもりで言ってる?』『へ?』タクミのまさかの発言に一同は唖然とした。(こいつ話の流れで理解してねぇ…)この場にいた全員が感じた。この恐ろしく鈍感な阿呆を除いて。セルゲイは咳払いをして話を続けた。『兎に角、私にはもう止められなくなってな…情けない話だが、ジェームズや、ウルク総司令殿にも説得をお願いしたが、閣下の言動は兵の士気に、関わり、勝機を逃す原因となります。この様な発言は控えて頂きたいの一点張りでな…。本当に後悔しても仕方の無いことだが、あんな男に全軍の参謀などにするのでは無かった。』『今更遅いんですよ。貴方がもっとしっかりしていれば、こんな事になら無いんです。あんたの所為で2000万将兵が死ぬんだ!』『やめろ‼︎エドワード‼︎閣下一人の責任では無いだろう‼︎』ガブリエルはエドワードを叱責した。『…閣下。貴方はもう既に軍の中では完全な置物だ。ですが貴方の仕事はある筈です。全軍の指揮を!軌道修正はこの我々が致します。至らぬ身ではありますが微力を尽くさせていただきます。』『F中将…済まぬ…済まぬ。』然しタクミはそう言ったものの大きく溜息をついて言った。『然し、もう既に手遅れだと思いますので尻拭いにしかならぬでしょうが…』次の瞬間、ドアが開き、イオとマトイが入ってきた。『センパ…閣下‼︎緊急事態だ‼︎第4回廊にて、補給線各所寸断されてしまった。第4回廊を通ってた補給艦隊はほぼ壊滅‼︎』『それだけじゃないの!第二銀河側の出口を封鎖されてしまって使えないの!何とか逃げ切って第一銀河に帰ってこれた補給艦隊も混乱してて。』次にアリスが入ってきた。『閣下。第二銀河各惑星に展開していたと思われる艦隊が次から次へと交信途絶。更に後衛の第二艦隊から緊急通信が入っております!』『回してくれ!』タクミは急かした。パネルにジャンが映し出された。『おおタクミ君か。久しいな、緊急事態だ他のみんなも落ち着いて聞いてほしい。4日前儂等は第二銀河に入った。ダーカー艦隊も順調に撃破し、第二銀河の3割程度に脚を掛けていた。ところが…補給艦隊は壊滅し、各所各所で奇襲されかなりの艦隊がやられている‼︎今、中艦隊以下の艦隊は主力艦隊に結集を命令しているが、もうどれぐらいの主力艦隊が残ってるかも分からん!遅まきだが、至急、増援を頼む‼︎』通信はここで途絶えた。タクミは口を開いた。『ベルナジューめ…頭を下げるくらいなら人を使うか。アウグスト・シュヴァーベン…やはりそう来るか。』話は要塞陥落の数週間前に戻る。この時、アウグストはフランシスと共にダーク・ファルス・双子のいるダーカーの巣窟に呼び出されていた。『アウグスト君、来たよ来たよ♪愚かな人間…ゴミ屑の君達を棄てた。ドブの奥にあるようなゴミ屑が☆』『楽しいね?たくさん殺せるね。』狂気に満ちた口調…例え傀儡と化してもやはりそれらはダーク・ファルス・双子そのものであった。『創造主様。我らをお呼びしたのは何の為でございましょう?そのような事を言う為に呼んだのであらば帰らせて頂く。』アウグストは苛立ちを抑えながら、問うた。『せっかちだな君は。言いたいことは簡単。君達、操り人形はひたすら僕達の為に死ぬ事だけを考えて、今回の戦いに当たれば良い。ただそれだけ♪』『そうだよ。君たちは元は僕達のオモチャだったけどせっかく食べないであげたんだから働いて貰わないとね☆』アウグストはただ眼を閉じ『創造主様の為に命を惜しまず道具らしく死んでご覧にいれましょう。』とひと言答え、双子の間を去った。それから暫くするとこの男の親友に心中を語った。『おのれ‼︎操り人形如きが、此処まで余とお前と余の同胞をを愚弄するとはな許せぬ抜け殻だった癖に宿主の搾りかすで生きてる様な存在に‼︎』『はい!決して許しては置けません。我らの遺伝子とダーク・ファルスの力を持っている私達を望んでもいないのに無理矢理産まされ、それでも愛してくれた両親、愛してくれている同胞達、そして何より貴方の実家で待ってくれる貴方の姉君であり、私の妻アントワネットの為にも!』『まさか産まれた瞬間、姉君の生まれ変わりにお会いするとは思わなかった。生前の記憶がある俺たちのとってこれ程の幸せは無かった。そして今は、あの時とは違う。今度は俺たち三人と、我らと共に戦うダーク・ヒューマンの同胞達と共に宇宙を手に入れるんだ‼︎その為の第一歩だ。』『はいアウグスト様…いやアウグスト!やろう‼︎僕達の手で‼︎』この青年たちは如何に年月が過ぎようとその友情を忘れる事は無かった。二人が一室に入るとそこには複数人の男女が待っていた。皆、二十代後半から30代前半といった年齢であったが皆、ダーク・ヒューマンの誇る最高の指揮官達であった。そして同時にアウグストに忠誠を誓う韋駄天達である。一人はハンブルク・シューマッハ。31歳三つ下の妻を持ち、機動戦に長けた艦隊運用を行う。他の諸将のまとめ役として、第三銀河でグラール、オラキオと戦い、圧倒的な力量を見せつける。一人は、ゲオルグ・ガラハウ。32歳。大将。攻守に長け万能な艦隊運用を行う。ハンブルク・シューマッハとは従兄弟であり、良き友、良きライバルである。女性関係がハデであるが結局は振ってしまう。理由は定かではない。早くに両親をダーカーによって喪い、ダーカーに対して忍従を誓い、ダーク・ヒューマン独立を夢見ていた。この中でフランシスを除き、最も早くアウグストに忠誠を誓った男でもある。一人はハインリヒ・クラウゼヴィッツ。34歳。大将。冷静沈着、極度の合理主義者で人付き合いの悪さが目立つがその知性は並び立つ者が存在せず、その智略は一個大艦隊に匹敵すると言わしめる程、尚、性格の所為か、ハンブルクと、ゲオルグ、そして猫位しかこの男と落ち着いて話せる人間がいないと言われるほど交友関係が少ない上ダーク・ヒューマンの、他の諸将からは嫌われている。一人はレオポルド・パウエル。32歳。大将。 攻勢に特化した艦隊運用を行う事で有名で勇猛果敢な男であるが、ハインリヒ・クラウゼヴィッツとは馬が合わない為、よく衝突し、そしてハインリヒに何時も論破、または封殺されている。極度の負けず嫌いである。一人はフランチェスカ・セープ。29歳。ダーク・ヒューマン女性将兵の中でも珍しく、大将の位を持つ女性。ダーク・ヒューマンとヒューマンの間で生まれたハーフで絶世の美女。ダーク・ヒューマンの父親の様な同胞の為に戦う軍人に成りたいと努力し、今の地位を手に入れた。2歳年下のヤン・ザムエルスキ中将を可愛がっている。

一人は、ヤン・ザムエルスキ。27歳。中将。この中で最も若い青年将校。27歳と他の諸将と同じく異例の若さで将校になっている。ダーク・ヒューマンが僅か70年の月日しかこの世に生まれ出た時間が経ってないとは言え、やはり20数歳での将校は異例だろう。艦隊運用は守勢に特化しており、アウグストへの忠誠心は人一倍と言われ、ダーク・ヒューマン諸将も信頼を寄せている。この6名がアウグストの覇業を支える手と足になるのだ。アウグストは皆の顔を見渡し、口を開いた。『皆、よく無事に戻った。グラールやオラキオは一筋縄ではいかん相手ではあったが良く戦ってくれた。次の相手は我らを棄て去った裏切り者オラクルだ!今の奴等はもはや我らの足元にも及ばん。あの傀儡(ダーク・ファルス・双子)は我らとオラクルを共倒れにするつもりの様だがそうはいかん。この戦いはあくまで序曲なのだ。私は、彼奴らを圧倒的な大勝利を叩きつけるつもりでいる。卿らはこの私と共に戦ってくれれば良い。先ず、ハンブルグ、ゲオルグ両大将は第四回廊のこちら側の出口西側の敵を殲滅せよ‼︎』『ハッ‼︎』二人は同じタイミングで答えた。『次にフランチェスカ、ヤンの艦隊は東側の敵を殲滅せよ。』『畏まりました。我が王。』『必ずや!』

フランチェスカ、ヤンはそれぞれ別の返事を返した。『フランシス、レオポルドの両大将は第一回廊に展開せよ。』『お言葉ですが閣下。第一回廊にはschloss von gott要塞があります。そこから敵が来るとは思えません。』『レオポルド、落ちぬ要塞など存在しない、あの要塞は落ちる。あの男(タクミ・F)によってな、あの男の徒によってな。その為の配慮だ。奴が第四回廊からくるのならそれで良し。寧ろそれはあの男の力量そのものの終焉を物語るような物だ。だがそれは無いだろう。奴は必ず来る。その時はお前の武勇を期待しているぞ。』『ハハッ‼︎尽力致します。』『何時もの卿なら必ず亡き者にすると言いそうなものだが怖気付いたか?レオポルド大将。』『黙れ‼︎ハインリヒ‼︎貴様に言われる筋合いは無い‼︎そんな事を言わずとも閣下を煩わせる輩など一人残らず塵にしてくれるわ‼︎』『ならば期待するぞ。』『ハインリヒ。もうその位にしておけ。またレオポルドを俺とゲオルグに抑えさせるつもりか?もうごめんだね。』『ハンブルグの言う通りだ今は1分も惜しいのだ。ハインリヒは後方に残り、作戦参謀総長として任を果たせ。それと占領されると思われる各惑星への指示も貴様に任せるぞ。』『お任せ下さい閣下。』『皆!我らの為の、我らが同胞の為の戦が今、始まるのだ。ヴァルキリーの加護あらん事を‼︎』『『『『『『『『ヴァルキリーの加護あらん事を‼︎』』』』』』』『以上。解散せよ。』こうしてダーク・ヒューマン諸将はそれぞれの場所に向かった。『アウグスト。』『ああ、フランシス。君にはもしもの時の切り札になってもらう。各戦場に気を払っておいてくれ。オラクル自体は全く大した事無い。だがアークスや陸や宇宙で戦う将兵の中には有能な者が居るのも確かだ。その有能な一人の人間の元に奴等の中で、少しでもやる奴らが集まる前にどうにかしなければならん。』アウグストとフランシスは宇宙の彼方に居る。仇敵を意識していた。




20話です。いきなりダーク・ヒューマンにダーク・ファルスファミリーのようなボスキャラぽいのが現れました。彼らとオラクルサイドの色んな人達が彼らと闘う事になります。モチーフは銀河英雄伝説のラインハルト派帝国軍大将軍団の幾人をモチーフに全く新しい人物として書いてみました。(因みにフランチェスカ・セープは爆乳です(^p^))ここからオラクルは敗走。事態の深刻化を防ぐ為にオラクルの戦士達は奔走する事になります。


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第二次設定説明 登場勢力、及び登場予定勢力現状及び物語内の構成

ここではオラクルを始めとした各勢力の現状、構成、兵力分布、戦法等を解説または説明(と言う名のネタバラシ)しておく。

 

一番 オラクル船団

 

宇宙最大の移民船団国家。100万人強を収容する移民船で約一万隻の船団を構成しており、球体型の超大型宇宙船通称マザーシップを中枢におき、国家運用を行なっている。

旧暦(光歴)以来、長い間国家として存在してきた為、国家体制が二転三転して居る。新光歴239年7月現在は、民主共和制である。過去に二回専制君主制と現在を含め、3回の民主共和政を経験している。

フォトンの強大な力を持ち、ダーカーと戦う事を目的とするアークスを船団の守りの要になっている。然し、現在はオラクル船団国防軍が編成され、アークス含め、一億人に満たないか満たすか程度の兵力を保有し、その見た目とは裏腹に巨大な軍事力も保有する。

 

その内訳、海軍(宇宙軍)主力艦隊(一万五千〜二万五千隻)30

中小艦隊(分艦隊規模)(五千〜七千)850

パトロール艦隊及び各種支援艦隊(五百〜千程度)多数

 

陸軍 10万人編成歩兵師団300〜500

機甲師団 250

騎兵150万騎

A.I.S 九千機

各種大砲、装甲兵器多数

 

勇敢、百戦練磨の歩兵で編成された圧倒的な数の師団に新兵器A.I.Sを多数配備する傍ら目を引くのは騎兵という存在である。確かにジャミングやステルス技術は大きく発展し、特に戦闘中はレーダーは完全に無効になる戦いは殆どと言っても過言では無く、戦い方は先祖帰りする傾向はあるものの銃弾や砲弾おまけに法撃まで飛び交う戦場に騎兵は、どうなのか?と首を捻る者も少なくない。だがオラクルに騎兵が存在するのは、色々と訳があるのだ。まずダーカーの陸上での戦いは中小サイズのダーカーを主力に編成して居る。以前はそれらをアークスが対処していたが物量差は如何とし難かった。(それでもアークス一人一人の力量でカバーしてきたが、戦場に於いて数の要素は圧倒的である。)そこで歩兵に比べ少数でも圧倒的な機動力と強力な突進力を持った物で突撃し、敵戦列を突き崩す戦法が研究された。そこで着目されたのは、オラクル内で家畜として育てられてきたウ・マという4足の動物である。その中でも身体の大きく足の速い種類を戦闘用に訓練を施した。勿論、それに乗る騎手の配慮も欠かさなかった。特殊素材を用いて、軽量かつ強固な硬さを持つ胸甲、ヘルメット、専用のカタナ、ライフル、戦闘服の開発を開始。オラクルは比較的短い時間で重騎兵、軽騎兵のカテゴリーを確立、そこから更にアークス内に存在する各戦闘クラスに対応した騎兵戦術を開発。オラクル騎兵軍団は誕生した。最初はアークス限定であったが、新光歴239年6月には新設されたオラクル国防軍にも普及し、一気に数を増やした。そして肝心の戦果も上々で、ダーカーの大群に突撃し、それを潰乱させる事もしばしばあり、更に同じ第一銀河内でも騎兵文化を持つ龍族騎士を相手に騎兵戦を挑んでも互角またはそれ以上の戦果を残している。(因みに当コンプセントは後のA.I.S開発に大きく貢献する)

 

オラクルにとっての艦隊戦

オラクル海軍の歴史は、とても長い。然し、何度も荒廃を繰り返していたのだ。まず始まりは第二次民主共和政時代にさかのぼる。この当時、オラキオ王国の植民地が第一銀河にまで達していた。次第に航海を続けるオラクルと領土問題に発展。アークスは彼等の領土を船団を守るためには奪わねば成らないと判断。彼等の領土に侵攻を開始。この時のオラクル海軍はどちらかと言うと輸送船団に近かった。そこから時が流れ、第二次帝政時代フェデル朝(オーヴェルヌ朝の前の王朝)はオラクルによる全宇宙支配、パクス・オラクルーナ(オラクルによる平和)を掲げ、ダーカーとの戦いは勿論、第三銀河勢力であるオラキオ王国、当時まだ三惑星間が争っていたグラール太陽系内への侵攻を開始。勢力問わずその屈強な艦隊を持って宇宙を支配せんと戦っていた。この当時から主力戦艦の全長は1キロあった所を見ると現代の大艦巨砲主義的艦隊運用は存在していた模様。数千程度の数の艦隊が宇宙を跋扈し、オーヴェルヌ朝設立の数十年前の時点で第一銀河の殆どの居住可能惑星を発見及び占領して居る。戦法は現代と変わらず集団による長距離艦隊戦であり、現代と違うのは艦隊丸ごと惑星内に降下し直接対地攻撃を敢行していたらしい(新光歴239年現在でも惑星降下は可能だが艦隊丸ごとの対地攻撃はやっていない。)この時代まで艦隊の陣形は横一列に並ぶ横陣が主体だった。然し、ある男の登場でオラクル艦隊は銀河有数の海軍国家になった。アウグスト・シュヴァーベン。第二次帝政末期に登場した戦争の天才は、この艦隊戦の様式を一気に変えた。彼の元で様々な陣形、運用理論が組み立てあげられ、それは実戦に於いて、有効と判断され打ち立てていった。寧ろこの時代、アークスよりも、帝国軍人の方が護国の英雄と言っても過言では無かった。7度のschloss von gott要塞襲撃も、アウグストにより発展した艦隊戦術により、寄せるダーカーを完膚なきまでに粉砕した。然し、schloss von gott要塞はアウグストが死に、オーヴェルヌ朝が絶えた数年後に呆気なく奪取されるのである。

然しそこから更に時が流れ、オラクルは新気鋭の戦術家達を抱え込むことに成功しており、その戦い方は多岐に渡る。例えば、タクミ・F中将麾下艦隊は高い火力と精錬された艦隊運動を活かした戦術を展開して居るし、ガブリエル麾下艦隊は攻守にバランスを於いて、ここぞという時に旗艦ムスタファーの艦首フォトン要塞主砲を発射し、敵艦隊を散りにする戦法を使ったり、その提督や陸戦においてもそれぞれの現場指揮官によって様々な戦い方が編み出され、これが強固なオラクルの盾として機能している。

 

今後の動向

既にオラクルは第二銀河遠征は破綻しかけている為、やる事は、唯一つ戦力を結集し、第一銀河まで後退し、無駄な戦力の浪費を防ぐ事…何処ぞの輩が徹底抗戦を強調して、全軍の動きを掻き乱さなければの話だが。然し、ここに至るまで徹底抗戦、戦争・戦勝ムードを煽り、煽られを繰り返したオラクル国内がこの敗戦を聞いたら、どうなるか?想像するのは難しくない。問題はどう国内を安定し、荒れていく宇宙の情勢を乗り越えるかだろう。そうなると自力でやって行くのは限界…という事は…?

 

二番ダーカー

深淵なる闇という強大な正体不明の宇宙の脅威から生み出された凶悪な生物、アークス…いやオラクルやオラキオにとっては不倶戴天の敵であるダーカーは、深淵なる闇を封印(とは言え操り人形であるダーク・ファルス・双子までは封印出来なかったので完全に封印したとは言い難い。)されたがまだまだ強大な力を保有している。今の所第二銀河の殆どの惑星を軸に活動しており、その幾つかの惑星が、フォトン・ファーム又は捕虜にしたオラクル国民やオラキオ、グラール国民果てはダーク・ヒューマンの婦女子達を強制的にダーカーと性交させ無理やり孕ませるダーク・ヒューマン強制製造場がある。(それが原因でダーク・ヒューマンの独立気運は高まっているのだが)彼等のこの様な暴掠行為の陰にあるのはやはり人間型種族への敵意と敵性種族理解の為であろう。後者は完全に眉唾だが…。

 

ダーカーの戦術

彼等に戦術という概念があるとすればそれは宇宙戦のみだろう。何故なら陸では圧倒的物量を持って蹂躙するだけで程足りるのだ。それ程ダーカーは恐ろしい存在なのだ。

話が脇道に逸れた。ダーカーの艦隊戦戦術は、ダーク・ヒューマンが研究してきたものを使っている。その為、彼等にとっては劣等種族であるダーク・ヒューマンの戦術なのである。本来ならダーカーはこんな物を使う事はないだろう。然し、ダーク・ファルス・ルーサーの模倣体達はこれが有効的である事は分かっていた。その為、渋々これを採用更に発展させ、ダーク・ファルス・エルダーや大型、上級ダーカーにフィードバックしている。その為、数の差を一人一人の技量でカバーしていたアークスは苦戦を強いられる事も増えてきた。

 

何故ダーカーは艦隊を持ったのか?

ダーカーは艦隊を持つ前は有翼型ダーカーの大群を艦艇に突撃させ、自爆又は外から侵食、あるいはネガフォトンによるテレポートで通常型ダーカーを艦内に出現させ、破壊する戦い方を採用していたが、何故、今更自前の宇宙艦隊

を持ったのかはそれなりの理由があった。オラクルは深淵なる闇の襲撃でかなりの損害を受けただけで無く、それまで続いた第一銀河各地の戦いで疲弊していた。これ以上の損害を防ぐべくオラクルは新兵器を投入する。ネガフォトンジャマー。ダーカーを力の源である。ネガフォトンを浄化、消滅させる装置である。これをオラクルは短い時間で大量生産し、第一銀河各地に配備、宇宙空間にも大量に散布した。結果ダーカーは第一銀河内にテレポート不可になってしまいかつての様なテレポートして戦地に赴く事が出来なくなってしまったのだ。こうなってしまっては自ら行くしかない。そう考えるのは当たり前だろう。結果ダーカーは艦隊を持つ事になる。まるで生物の様な形をした艦艇だが、特殊な鉱石を使い建造している為その様な形も作れる様だがどんな鉱石かは分かってない因みにダーク・ヒューマンを強制労働させ、建造している。

 

ダーカーの今後の動向

第二銀河遠征を押し返しつつあるダーカーは恐らく戦勝ムード真っ盛りだろうが実際の戦果を稼いでいるのはダーク・ヒューマンを率いるアウグスト達であるから、ダーク・ファルス・双子としては、共倒れしてもらうつもりが片方が大勝利しようとしてる為、何とも言えない状況になっているだろうし、ダーク・ファルスの模造体達も良い気はしないだろう。そして何よりこれがダーク・ヒューマン独立のきっかけになる危険を孕んでいるが、この戦争の謀略を司ってきた双子がみすみす手を拱いる様な事をする筈が無い。恐らく何かしらの対策は取ることは間違いないだろう。

 

三番 ダーク・ヒューマン

ダーカーと人間が交配した事によって生まれた種族。人間型種族を遥かに超える身体能力、繁殖能力、生命力を誇る。彼らは生まれた時から悲惨な歴史を歩んでいると言っても過言では無い。一概にはダーク・ヒューマンは全て、ダーカーによって交配させられた人間の子供だけでは無く、フォトンファームや、強制労働場、ダーク・ヒューマン強制製造場に押し込められている人間も指す。然し、ダーカーの道具として終わる事を彼等は良しとはしなかった。七十数年の間、彼等はただ復讐心のみを抱いて、屈辱を耐え忍んできた。自分達を虫けらの如く扱うダーカー、自分達を見捨て、自分達の存在を消した祖国(オラクル、オラキオ、グラール)そしていつかは宇宙を我が物にと、高潔で気高い指導者(アウグスト)と共に。

 

ダーク・ファルス・クローンとは?

ダーク・ファルス・クローン。ダーク・ファルス・模倣体と良く混同されるが、実際は別の物である。ダーク・ファルス・クローンはクローンを作る為の人間の遺伝子にダーク・ファルスと同数値のネガフォトンを持たせ、それをネガフォトンを使うダーク・ヒューマンの母体の子宮に移し出産させる事で生まれるものである。アウグスト・シュヴァーベンとフランシス・オーヴェルニュはそのダーク・ファルス・クローンとして生まれた第二次帝政末期オーヴェルニュ朝の若き初代皇帝と若き大元帥のクローンである。

元々オリジナルの能力に加え、ダーク・ファルスと同等の圧倒的な力を持つ。アウグストはその力と野望を抱き宇宙へ歩みだしていくだろう。

 

ダーク・ヒューマンの艦隊と戦術

ダーク・ヒューマンの艦艇は基本楔形の船体に流線型を持つ。艦首砲は他の艦艇に比べたら少なく中口径だが、この連中の主力攻撃方法は艦後方艦橋横上下に、ズラッと配備された大口径艤装型中性子レーザーカノンなのだ。他の艦隊が艦首砲のレーザーは照射式だが、こちらは単発式で高威力のレーザーの弾幕を貼る事ができ、更に、艦底にも同じものが配備されてる為、他勢力の艦隊の対地攻撃能力を遥かに上回るのである。これ程、攻撃力と手数に拘ったのはダーク・ヒューマンが小勢である事が原因であろう。それをカバーする為の火力と手数、それを可能にする全長と全幅共に広い艦型。そしてそれを活かせる艦隊陣形を保有している。例としてアウグスト・シュヴァーベンの戦法は、敵の艦隊陣形の弱点を突き、永続的な攻撃力を維持する為に戦場を縦横無尽に動く戦い方を好む。ダーク・ヒューマンの艦艇は360度に攻撃可能と言う他勢力艦隊には無い利点がある為、アウグストの様に迂回、左右逆進をしても敵艦隊に艦首を向ける事無く、充分な攻撃力を発揮できるのだ。一方、陸戦の戦術や構成は、オラクルに近い為、至る所重複する。然し、そこに他勢力の利点を追加しており、一つはオラキオの重装甲騎士だったり、グラールの強行突撃フォース軍団など様々な勢力の特徴的な兵科を採用している。

 

ダーク・ヒューマンの今後の動向

大挙として攻め寄せたオラクル軍を何らかの方法で潰滅の危機に叩き落としたダーク・ヒューマン。どうやらアウグストは冷静沈着な参謀長(ハインリヒ)にある作戦を任しており、他の提督達が襲撃した時に合わせて行動する様にしていた様だ。さて肝心のアウグスト麾下艦隊は姿を現していない。戦争の天才が戦場に現れる時、それは、彼の好敵手が戦場に立った時だろう。

 

四番 第三銀河勢力

(グラール太陽系及び所惑星連邦・オラキオ王国)

 

第三銀河の勢力の戦力と今後の動向

未だ、物語には出てきてはいないもののオラキオとグラールは、オラクルとは別路線でダーカーと戦っていた様だ。と言うよりも第三銀河内でダーカーの活動している区域は少ない。と言うのも、オラキオはダーカーと長い戦闘経験があり、グラールは近年までSEEDと言うダーカーと同じく強大な宇宙の脅威と戦い抜き、鍛え上げられた軍勢を持つ。そんな百戦錬磨の二国家を相手にダーカーは大損害を受け、領土は本当に僅かしない。ダーク・ヒューマンはそのダーカーの大損害を食い止めるべく第三銀河に出兵させられたが、このお陰でダーク・ヒューマンは鍛え上げられ、有能な人材を数多く輩出する事が出来た。まずオラキオは艦艇は帆船型の宇宙戦闘艦底を採用しており、等級も戦列艦表記である。その型から、大気園飛行だけで無く、水上航行も可能と思われる。陸軍はオラクルと似通っているが、彼らのシンボルでもある黒の軽装で身を包む他、全身を黒く、重く、そして圧倒的な硬度を誇る鎧で身を包む重装甲兵が存在する。この連中は、オラキオにおける、陸戦軍団にとって勝利を約束する存在であり、この連中が突撃した後には敵の死体しか残っていないと言われる程である。次にグラールはこれもオラクルと同等編成で、騎兵や、A.I.Sの様な物は無いが、グラールに生息する五種族の特性を活かした編成を組んでおり、特に星霊教徒で編成された軽装強行突撃フォース軍団はグラール歩兵軍団の中でも最も機動力と火力に特化した軍団として編成されている。艦艇はオラクルと同様長方形の艦型を持つ為、戦い方もほぼ同じである。そしてそれらをグラールにて誕生した英雄達の手でどう扱っていくのか、興味が尽きない。

 

第三銀河の今後の動向

第二銀河と第四回廊にて起こったこの戦いをこの2カ国が見過ごすとは思えない。特に今、隙をつけばオラクルは潰滅させる事も出来る…が未だ、動きを見せない。この後に起こる戦いを予見してなのか?それとも変事が起こったのか?それを知るにはまだ時間が必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




以上が現在まで更新した所までを踏まえた設定説明と物語の背景です。これを見ておけば今後の話の展開が少し分かりやすくなると思います。それでは今後ともご贔屓に!


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21話 第二銀河退却戦 レオポルド艦隊を突破せよ

新光歴239年10月11日午後23時。レオポルド麾下ダーク・ヒューマン高速艦隊はschloss von gott回廊第二銀河出口から数十光年先に布陣していた。『閣下の仰った男の艦隊か…フン!そんな物、我がレオポルド高速艦隊に掛かれば一隻も失わずに勝利できるわ‼︎我が艦隊の攻撃力と速度に追いつけたオラキオやグラールの艦隊は居なかった。今回も当然追いつける者などおらん‼︎』レオポルドは、大きく出た。一方その頃、第一艦隊は先に先行した第四艦隊がダーカー約3万隻の艦隊をほぼ完封勝利で殲滅したと連絡を受け合流地点を連絡しあっていた。『R359で待っててくれ。それとガブリエル、そこは後衛を担当していた第二艦隊に連絡可能な空域になってる。先に連絡を取っておいてくれると助かる。』『あいよ!お前(タクミ)も気をつけてな‼︎』ガブリエルは通信をきった。タクミは指揮官席に寄りかかった。『ダーカー艦隊しか居ないってことは無いだろう。きっとどっかその辺に…』と言いかけた瞬間、ブリッジクルーの一人が叫んだ‼︎『閣下‼︎約六光年先に友軍艦。巡航艦です‼︎』『直ちに回収!念の為戦闘態勢を取れ‼︎』アリスは的確に号令を出した。タクミは目を閉じて考えた。恐らくその巡行艦は敵艦隊索敵が役目だ。つまり、一艦でいるという事は原隊から逸れたか、自分達を残して、全滅したかしかない。全くこんな後方にまで戦局的不利が響いてくるとはね。やれやれ大変だぞこれは。ひとしきり考えた後、タクミは回収した巡航艦の艦長を呼び出した。その艦長によると、数十光年先にダーク・ヒューマン高速艦隊を発見したため、原隊が所属する第二艦隊に帰還するところをダーカーの偵察艦隊に発見され(恐らく、第四艦隊が壊滅させた艦隊の生き残り)オラクル、戦艦三隻巡航艦四隻対ダーカー戦艦三隻巡航艦三隻の偵察艦隊同士の撃ちあいでこの巡航艦は生き残ったというのだ。数十光年先という事は発見されてもおかしくは無い。第一艦隊は直ちに戦闘態勢をとり、敵艦隊が居る空域を目指した。数時間経った後、レオポルド、タクミの両艦隊は戦闘空域に近づいた。レオポルドは通信機を片手に演説を行った。『良いか!我が同胞よ‼︎我らの眼前にまたもやシュヴァーベン閣下の覇道を邪魔立てせんとする逆賊が現れた。閣下は生まれながらにして宇宙の覇者であらせられるお方だ!よって閣下に敵対する者は宇宙の皇帝たる閣下の逆賊である!閣下の覇道の為、我らが同胞の為、兵たちよ‼︎いざ戦わん‼︎ヴァルキリーの加護あれ‼︎』レオポルドの演説にレオポルド高速艦隊の将兵は士気天を貫くと言わんばかりの雄叫びをあげた。一方、タクミもまた艦橋にて演説の用意をしていた。『シンプソン少佐、マイクは良いかな?』『出来ております。』『諸君、戦いの時だ。そもそも要塞攻略戦の時から繰り返し言っていると思うがロクでも無い戦いだが、それだからこそ勝てねば意味は無い。策は用意したから各員は、それぞれの義務を果たしてくれ。どうやら今の状況は国家の存亡とやらが掛かっているらしいが民主的な事を言わせて貰えば、個人の自由と権利より勝る者は無い。そして今、我らが戦友たる二千万将兵が個人の自由と権利を剥奪され、無駄死にしようとしている。それはあってはならぬ事だ。その為に今は戦って、ちゃっちゃと済ませるとしよう。何よりもう直ぐで朝食の時間だしね。それでは以上だ。』両提督の演説は終わった。『提督敵高速艦隊発見!距離八万宇宙キロ!』『全艦諸元固定!移動後に一斉射!』『レオポルド閣下‼︎敵艦隊前方より消滅と同時に左舷方向に出現!一斉射を加えてきました!』『小ワープで横に出るだと⁉︎小癪な全艦回頭!突撃力は活かせなくなったが、火力で粉砕しろ!』初戦をタクミがとった。然し、レオポルドの反撃は、タクミたちの度肝の抜いた。『何だよ⁉︎あの火力。センパイ、彼奴らヤバイよ士気も崩さない!』『前から行かなくって正解だったな。だがこれ程、猛烈に反撃してくるとはね。よく見ておくんだイオ。これが勇者との戦いだ。ヒューズ提督に敵中央を分断させろ。』『ようやく出番だな!全艦突撃!敵は攻撃力と速度だけの化け物だ。守勢に立たされた奴らが、勢いを取り戻す事は無い!』ヒューズは意気揚々と言う中ロッティは恐る恐る聞いた。『ほ、本当に突撃しちゃうんですか?』『びびってんのか嬢ちゃん?こう言う時は勢いが必要なんだよ。ボーイフレンドに振り向いて欲しかったらな!w』『からかわないで下さい‼︎///』こうしてヒューズ艦隊スサノオ以下6250隻はレオポルド高速艦隊の中央に突撃した。かくして守勢に弱い高速艦隊は、中央を分断された。幸いレオポルド座乗艦ハンニバルは前衛に立っていた為、この中央突破の犠牲にはならなかった。『次はアースグリムに敵艦隊の3割を占める前衛を引きつけさせる。良いなアースグリム。』『引っ掻き回してやりますよ。敵旗艦も居るとなると難しいですが奴さん偉く単純な人間な気がしますよ。』エドワード・アースグリム座乗艦パンゲア以下6250隻が敵艦隊前方旗艦ハンニバルにピタリと真正面についた。『おのれ散々とやってくれたな…構わん‼︎前衛全艦突撃‼︎我が艦隊3割を持って敵艦隊に突進する!』『来たな‼︎ちょっと挑発しただけで来やがった。全艦後退‼︎』十数分後…『我が、グリッドマン分艦隊はこの3ポイントに艦隊全体を誘導し、効果的に攻撃する。各艦は率先として攻撃すべし。』こうして各艦隊司令官はそれぞれの役割をこなしていた。オラクルの艦艇は次から次へと砲火を開きその度にダーク・ヒューマンの艦艇は塵になっていく。然し、それはオラクル側も同じであった。圧倒的に有利に立ち、損害も僅かではあったにしろたった一撃で数百人の男女が死ぬとあっては大事では済まないだろう。この時、レオポルドは全く戦う気が無いエドワード艦隊に苛立ちを覚えていた。『敵は戦う気が全く無いのか⁉︎全艦反転‼︎』『おっと、付いてこないと困るんだが、全艦全速前進!主砲三連!ファイヤー‼︎』パンゲアの艦首レーザー80門と同時に多数配備された大口径艤装型二連装レーザー主砲合わせて120門以上のレーザーの帯が伸びたと同時にパンゲア麾下約6500隻も発砲する。『怯むな‼︎押し返せ‼︎』レオポルド本人の闘志を表しているかの様にレオポルド高速艦隊は一隻も戦場から退くことなく戦い続けた。

タクミ『撃て‼︎』

アリス『撃て‼︎』

レオポルド『フォイヤー‼︎』

イオ『撃て‼︎』

マトイ『良く狙って、ファイヤー‼︎』

アースグリム『ファイヤー‼︎』

グリッドマン『撃ち方始め‼︎』

ヒューズ『撃ちまくってやれ‼︎』

フリードリヒ『撃てぇい‼︎』

ダーク・ヒューマン将校A『撃て‼︎』

ダーク・ヒューマン将校B『反撃せよ‼︎撃て‼︎』

ルベルト『主砲を‼︎発射‼︎』

ロッティ『退いてはダメ!発射して下さい‼︎』

撃て‼︎撃て‼︎撃て‼︎撃て‼︎撃て‼︎撃て‼︎撃て‼︎

この戦場にいる全ての者がただ一言同じ単語を連呼した。

戦いの開始から数時間経過した。タクミ側の本隊は敵艦隊の7割を壊滅に追い込んだが未だ前衛の3割は持ち堪えていた。『…このまま死ねば、閣下に申し開き出来ん…全艦突撃‼︎敵分艦隊を突破しワープ航行にて退却する‼︎』この判断が、レオポルドの人生を大きく変えた。レオポルド高速艦隊の圧倒的打撃力と突進力だけでなく、以後レオポルドはタクミと戦えば、してやられ。アースグリムと戦えば一進一退毎度毎度相打ちに近い熾烈な攻防戦の始まりを意味したのだった。レオポルド高速艦隊残存戦力3割は猛スピードでアースグリム分艦隊に突進し、艦隊を掻き乱していった。旗艦ハンニバルの砲撃がパンゲアに当たった。パンゲアは被弾した。艦橋は大きく振動し、立っていた者たちは倒れ艦内は悲鳴が響いた。アースグリムもまた艦橋にいた為、負傷した。倒れた上官を副官であるロン・ヤオ大佐が起こした。『准将閣下。起きて下さい。』『くそ…イテテ…なんだあの猪武者最後の最後に派手にやりやがって!取り逃がした挙句俺の船に傷つけやがって、ヤオ大佐本隊に戻ろう。』『はっ!全艦!これより本隊と合流する。』アースグリムはこう誓った。(あの猪武者。絶対にツケを払わしてやるからな)新光歴239年10月12日午前7時30分第二銀河入り口の戦いはこうして幕を降ろす。



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22話 全軍結集せよ!繰り返す全軍結集されたし‼︎

砂漠に包まれた惑星…カパルノチア。ここは第三艦隊が、駐留していた。ここにダーク・ヒューマン屈指の女性提督フランチェスカ・セープ麾下艦隊襲い掛かり、3日にも及ぶ攻防戦を繰り広げていた。『我が王の本隊が到着するまで時間がないと言うのに、まさか同じ空母機動艦隊と戦うことになるとわ…。』『此処で退いては、惑星に降下した味方が拾えなくなる。撤収が完了するまで、決して退くな‼︎』双方が死力を尽くして戦っている最中、四時方向から何者かがワープアウトしたのだ。敵の援軍か?バルバラは絶望しかけた。然し、ワープアウトしたのは味方だったのだ。第一、第四艦隊の聯合艦隊だった。フランチェスカはこの招からざる敵の援軍に対し、呪いの一つでも掛けてやりたくなったが既に戦力差二倍以上の差をつけられた以上、そんな敵とまともにやり合うなど愚かな事だと彼女は充分承知していた。(惑星を守備しているのは全てダーカーならば我々が此処にいる必要は無い。今は我が王の元に出来るだけ多くの戦力を集める事こそ肝要。)『…撤退します。全艦反転!急速離脱‼︎』第一艦隊旗艦武蔵第一艦橋に鎮座するタクミは逃げる敵を見送った。『敵は逃げたか。3日も撃ち合うとはな…バルバラ提督に繋いでくれ。』『タクミ、久し振りね。助かったわ。来援感謝します。』『バルバラ教官。確かカパルノチアには駐屯上陸部隊が居たはず、そちらの回収は?』『まだ最後の部隊を回収して居ないの。急がなくては既に惑星はダーカーだらけ。彼らがやられてしまう。』『部隊の指揮を執っているのは?』『第一騎兵師団師団長フランシス・ピエール・プレシ少将、オーザ上三級アークス、リサ上三級アークス、マールー上三級アークスの3人の首都防衛大隊大隊長。それと工作部隊を伴って、フーリエも降下しているわ。』『首都防衛大隊まで借り出してたのか。プレシ少将にあの三人を死なせるわけには行かないですね。チェン!フレーゲル!航空隊発進準備‼︎ポツダム連隊第一小隊をデッキに集めろ‼︎』旗艦武蔵からガンシップ(キャンプシップ)が、何機かの艦載機を伴って惑星に向けて発進した。ところ変わってカパルノチア地表ではプレシ少将、リサ、オーザ、マールー以下数十名のアークスと将兵が最後の撤退戦を繰り広げていた。一方で一本のパルチザンがゴルラーダを斬り裂き、ミ・クダを串刺しにした。硬い甲殻を持つミ・クダを串刺しにすると言うことは相当の剛腕の持ち主なのだろう。その剛腕の持ち主はパルチザンからミ・クダを離した。逞しい鋼の身体を持つその男は首都防衛大隊の大隊長の一人、オーザである。歳は23の若者である。一方で多数のダーカーが眉間を撃ち抜かれ、または蜂の巣にされ倒れていく。一挺の小銃で大中小のダーカーを倒していくのは青い機械の身体を持つ一人の美女。その優れた射撃の才能を発揮すると同時に顔に浮かぶ狂気を帯びた笑み。首都防衛大隊の大隊長の一人、リサである。歳は明確には出来ないが、オーザ達と同期なので差して変わらないだろう。彼女談乙女という事だ。一方では、ダーク・ラグネが四肢をフォトンの刃に貫かれ、業火に焼かれていた。テクニックの影響で身体が宙に浮いていたのか、砂の大地に紫の髪を持つニューマンの美女が降り立った。首都防衛大隊の大隊長の一人、マールーである。歳は23である。『くっ…きりが無い。倒せども倒せども、出てくる。』『もう…限界。流石に疲れたわ。』『リサはまだまだ戦えますよ?こんなにダーカーが居て、リサは狂喜乱舞したいくらいですからね。…あら?アラアラアラアラアラアラ‼︎弾が足りないですね?まだまだ沢山いるのに…弾が無いなら仕方ありませんね。銃床と銃剣で殺すだけですね‼︎こうやって…』リサは己の小銃に着いている銃剣でダカンを突き刺した。『こうやってグリグリするとみんな思い思いの悲鳴をあげてとっても楽しいですよ‼︎↑』『よく言う。全く。』『三人とも無事か⁉︎』そう叫んで向かってきたのは黒毛の軍馬に跨る中年の男はフランシス・ピエール・プレシである。プレシの前に一体のエル・アーダが立ち塞がる。『邪魔だ!退け‼︎』プレシは騎兵刀の一関でエル・アーダを斬り裂いた。『プレシ少将!脱出状況は?』『後は我々が乗れば最後だ。適当に片付けて撤収するぞ!(閣下(タクミ)より預かった騎兵20万騎のうち半数も失うとは、申し開き出来ぬ。)』風が止み、砂塵が戦場から離れていく。その広大な砂の大地にはダーカーと数多の人間の老若男女の死体が横たわっていた。然し、それを埋め尽くすだけのダーカーが迫っていた。四人は、敵を次から次へと葬っていった。そこにフーリエが来た。『皆さん脱出艇の準備が出来ました!行きましょう‼︎』『良し、退くぞ。マールー、リサを連れてくるんだ!』『2人とも、危ない‼︎』マールーの警告が2人の耳に届いた直後、ダーカーの攻撃が脱出艇を爆発四散させた。かくして5人は逃げる手段を失ったのだ。5人はいつの間にか、ダーカーに囲まれてしまった。そこにこのダーカーの軍勢の指揮官であるダーク・ファルス・ルーサー・模像体が出てきた。『君達数十人は本当に手こずらせてくれたよ。お陰で随分、眷族と他の眷族を失った。然し、君たち5人以外は全員死に、君たち5人も風前の灯火…お前達!こいつらはオラクルの上級将校だが、男は殺しても構わん、女はお前らの慰め物か苗床にしてしまえ!』『『『『ヒャッハー‼︎流石、ルーサー様!話シガ分カッテル〜♡』』』』『オイ!アノ青イ女胸ガデカイゾ!オレ、アイツガ良イ!』『オレ、黄色』『オレハ紫ノ女ダ!』プレシとオーザは武器を構え直し、三人の娘も武器を構え直すと同時に嫌悪の表情を浮かべた。『下品…。』『最低です…。』『リサとリサのお胸は高くありませんよ〜?それと、こんなに怒ったの初めてですね〜ゆっくりじっくりこってりとブチ殺してあげましょうか⁉︎↑』ルーサーは鼻で笑うと手で合図を出した。『やれ』と

、然しそれが実行される事は無かった。後方のダーカー達が薙ぎ払われるように放たれた一条のビームに蒸発させられ、更に空から機銃が掃射され、大中小のダーカーが悲鳴をあげながら、倒れていった。揚陸艇(キャンプシップ)から一個小隊が出てきて、あっという間に五人を囲んでいたダーカーを骸に変えた。5機のA.I.Sがダーカーを蹂躙していった。そして揚陸艇のハッチから最後に出てきたのは、小銃を持ったタクミと、イオとマトイ、そしてフリードリヒだった。『五人とも久し振りだな。さぁ、逃げるぞ‼︎』そう言いながらタクミは、ルーサーに照準を合わせて、その眉間に風穴を開け、イオは矢を強く放ちダーカーを貫き、マトイは創世器クラリッサの強大な力が生み出す強力なテクニックを撃ち出し、フリードリヒは重機関銃で薙ぎ払った。五人はポツダム連隊の小隊に守られながら揚陸艇に乗り込み、揚陸艇が浮上すると同時に、A.I.Sと航空隊も引き揚げを開始したのだった。かくして五人は無事に第三艦隊に帰還した。第三艦隊の消耗は3割と比較的少なかった。フランチェスカ艦隊も同様の空母機動部隊で、更に数と火力も同等であったこともあり、双方ともに消滅を恐れてた結果だろう。タクミは第三艦隊旗艦鳳翔に赴いた。『我が軍の残存戦力が、恒星スパルタンに集結している?』『ええ。例のベルナジューが各残存艦隊に結集を指示しているの。幾ら、作戦行動の全権をを与えられているとはいえ、非常事態時での各艦隊行動は各提督と現場指揮官に一任されているのに、口を出すなんて、なんて身の程知らずで傲慢なのかしら!』『それでみんなスパルタンに?』『我が軍は各地で大敗北を致しましたからな。集団による安心を得ようと言う者もいれば、一矢報いたいと思う者もいるのでしょうな。』『スパルタンは確か、schloss von gott回廊の目と鼻の先だ。撤退戦をやるにしても良い位置だが、あのベルナジューの指揮で戦うとなると、メチャクチャになりそうだな。大元帥閣下からネルソン提督宛の命令書があるからそれを渡せばマシになるとは思うけど、ネルソン提督はご無事だろうか?』さてそのネルソン元帥は麾下第6艦隊及び複数の中小艦隊を率いてひたすら敵艦隊から逃亡していた。敵艦隊司令官はゲオルグ・ガラハウであった。『流石だな。我らと当たる前に逃げの形をとっていたとは、お陰で此方は大した戦果もあげられず追いすがるのみだ。例のオラクル最強の良将と謳われるご老体の艦隊か。(然し、こうして戦局の流れを改めて見ると流石だな。この布陣、作戦もあの方が考えたのだろうか?それともクラウゼウィッツかな?)』一方

ネルソンはホッと胸を撫で下ろしていた。『ふぅ〜何とか間一髪で逃げれたわい。あの艦隊運動といい、攻撃のタイミングといい、実にいい指揮官がいるようじゃな。』副官のマグナス・アブラムソン少将は各現場指揮官の被害報告をまとめ、この老元帥に報告した。『元帥閣下。現在の我が艦隊の被害ですが、逃亡に成功したとはいえ、全体の3割を失いました。このままスパルタンに向かって起死回生を図るのは無理がありませんか?と言うかそもそも大元帥閣下のご命令とは到底思えないのですが。』『あの例のベルナジューとか言う若い将官がセルゲイの権限をネコババしてな、この始末よ。あいつ昔からどうも要領が悪いと言うか、後輩に抱き込まれてしまうところがあったりとか、兎に角不憫な奴でな。今回もそんなとこだろう。こうなればスパルタンについたらあの若造から権限を取らねばなるまいて。(要塞は落ちた。きっとタクミが援軍を率いてスパルタンに向かってくれるはずじゃ。そうすれば如何にあの戦争の天才アウグスト・シュヴァーベン相手でも負ける事だけは回避できそうじゃからの。)』第6艦隊は一路恒星スパルタンに向かう。各オラクル軍残存艦隊も似たり寄ったりの損害を出し、スパルタンに向かっていた。後に語られる恒星スパルタンの戦い、そしてオラクル奇跡の退き戦と呼ばれる戦いの序章が始まらんとしていた。

 



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23話 スパルタン撤退戦1

恒星スパルタンに大中小の艦艇約100万隻が結集した。然し、どの艦隊、どの艦艇も多かれ少なかれ、損害を被っており、占領作戦の都合上、戦える艦は60万隻が良いとこだった。対するダーカー・ダーク・ヒューマン連合軍艦艇数180万隻そのうちダーク・ヒューマン85万隻、890万将兵が参加した。ダーカー総数は諸説あるが約1200万体が有力な総数だと言う。第6艦隊司令官ネルソン元帥は、第12艦隊司令官、ハルトマン中将を呼び出した。数刻もせずにパネルにハルトマン中将は映し出された。多くの若者(タクミやアースグリム、ガブリエル等)に愚将と罵られているこのオラクルの宿将と言われている中年の男は、まるで自らの行いの後悔に打ちひしがれた様な顔をして居た。ネルソンは、少し、眉を動かしたが直ぐに口を開き、本題に入ったのだった。『お互い無事だったな、ハルトマン君。ちょっと用があるでな。これからマグナス君とそっちに行くから、君んとこの作戦参謀長(ベルナジュー)を呼び出しておいてくれ。』ハルトマンは重い口を開いた。『はい閣下。御用についてはなんであるかはおおよそ予想はつきます。我々にお任せください。』(あれは…なんか有ったな…ハルトマン…)ネルソンはこの憔悴しきった男に何か不安を感じながら通信を切った。10数分後、総旗艦大和より、シャトルが発信し、第12艦隊旗艦、守護衛士級サラマンダーに向かった。艦橋には、立っているのもやっとな表情を浮かべるハルトマンと、何故こうなったか分からんと言った顔をしたベルナジューが待って居た。ネルソンは口を開いた。『皆、よく無事に帰って来た。だがご覧の通り、我が軍は半数以下の艦艇にまで撃ち減らされ、約半数の将兵…一千万の老若男女を死なせてしまった。このまま戦っても、勝ち目は無い。これより全艦でschloss von gottschloss要塞…つまり第一回廊へ入り、撤退すべきだと思うのじゃが。』ネルソンは撤退を進言した。当然の判断だった。数の上で負けてる上、至る所に死傷者を抱えている中で戦うのも無理な話である事は一目瞭然であった。だが、『撤退ですと⁉︎元帥閣下!耄碌なされたか‼︎我らはまだ半数も戦力があるのです!ここスパルタンで奮戦し、敵を退け、長駆遠征を再開すべきです!このまま引けばそれこそ敵を我らが領中に誘い込むようなもの‼︎仮に全滅しようとも武人の魂を遺憾なく奴等に見せつけることが出来る。我らの大勝利ではありませんか!』ベルナジューは声を荒げで吠えた!ネルソンは、目の色を変えてこの凡骨の目つきの悪い骸骨男に向かってより大きく吠えた!『武人の魂じゃと⁉︎ふざけるな‼︎お前のような若者がおるからいつまで経っても戦が終わらんのじゃ‼︎お前のその武人の魂とやらに巻き込まれた兵士達はみな犬死するじゃろう。そうなれば未来の父と母を数百万人失う事になるのだ!加えて言うなら、ここで壊滅すれば誰が国を護るのだ?我等がここで悉く討ち死にすれば誰もオラクルを護る者は居なくなるだろう!…貴官は巷では秀才と言われておったようだが、ちょっとは考えてくれると思ったが、実に残念じゃ、ベルナジュー少将。貴官より今遠征における全ての権利を剥奪する。そして貴官は、全軍を混乱に陥れた罪により軍法会議に掛ける。連れて行け‼︎』二人のアークスがベルナジューを取り押さえた…然し、『貴様ァァァ‼︎‼︎』ベルナジューは逆上して、拳銃を取り出し、アークスを振り払い、ネルソンにその銃口を向けた。『閣下‼︎』アブラムソンが身を庇おうとした。銃声が艦橋に鳴り響いた。然しネルソンは崩れる様子も無かった。ベルナジューは手を抑えていた。発砲したのは、ハルトマン中将だった。『ベルナジュー…もうやめよう。止めるんだ。無駄に戦って、勝機を逃し、兵を死なせるのは止めよう。私は、常に間違いを起こしては、兵を死なせた。もうこれ以上は死なせてはならん。』(驚いた。あの猛将が、こんなに人が変わるのか…いや、元々この人は愚将では無い。だが後の世代にとって変われる事を恐れて、戦果に目が眩んだ哀れな指揮官なんだ。だからと言って無駄に兵を死なせる理由にはならないが、この人に何かしらの変化をもたらしたんだ。)アブラムソンはこの傲慢であった初老の猛将の変化に驚きつつも、この男の矜持に共感した。然し、ベルナジューは、もう一丁拳銃を隠し持っていた。

そして今度はハルトマンに向けた。ハルトマンは避けるそぶりを見せなかった。死ぬつもりだったのだ。あまりにもその拳銃が小さかったので周りの者は気づかず取りおさえる事は出来なかった。銃声がまた響いた。然し、これもベルナジューが撃ったものでは無かった。ベルナジューは血塗れの腕を抑えながら絶叫していた。艦橋の影から拳銃を持って出て来たのは、タクミだった。『終わりだ。ベルナジュー、ワンマンショーは終わりだ。やり過ぎたんだお前達は…。おっと、お怪我は?提督。』『き、君は、タクミ・F中将…?』タクミの後ろから、ジャン、ジョーゼフ、バルバラ、マトイ、イオ、ガブリエル、アースグリムといった顔ぶれが出てきた。『第1艦隊及び第二、第三、第四艦隊集結命令により、ここに参集のご挨拶に参りました。加えてネルソン元帥には大元帥閣下より、命令書が御座いますのでご確認の程をお願いいたします!』マトイから命令書を受け取ったネルソンは自分に全権を与えると言うセルゲイの命令書を見た。『拝命仕った。では最初の命令だが、第1艦隊司令官F中将に撤退戦時の作戦の立案とその時の全権を与える。各提督、各作戦参謀と協力して立案せよ。』『ハッ!』タクミは勢いよく敬礼をし、ネルソンも力強く敬礼を返した。一旦自分の艦に戻ろうとしたタクミをハルトマンは呼び止めた。『F中将。作戦会議の際、この男の案を聞いてやってくれないか?』ハルトマンが連れてきた男は、年はタクミと同い年か少し上。体格は普通で髪の毛は青みが掛かった癖っ毛の黒髪の青年将校だった。タクミは驚いた。この男を知っていたのだ。『サミュエル、サミュエル・ジャクソンじゃないか⁉︎久し振りだな!』この男サミュエル・ジャクソンアークス上一級准将待遇は、タクミ達の同期であり、タクミと劣等生争いを繰り広げた仲間であった。然し、サミュエルはタクミと違い最後の最後で卒業生指折りの成績を残している。(タクミはなんとか中の上ギリギリだった)この男は作戦を立てると言う面、つまり戦術面では右に出る者がいないと言われる男だったのだ。この男はハルトマン中将の作戦参謀だったが、自分が立てた作戦は大抵常識外れなものばっかりだったのでこの時まで、ハルトマンやベルナジューに採用される事は無く、とりわけベルナジューには、罵倒される始末だったが彼は今日まで生き残ってきたし、彼の提案や発言を取り上げなかったばっかりにこの第12艦隊は彼が言った最悪のケースにハマり、戦力を損耗していった。ハルトマンはそれ以来、彼の提案の正しさと自分の愚かさを知り、ベルナジューはタクミと同等の自分の出世を邪魔しかねない存在として蹴落そうと思案したのだ。そんなサミュエルは久し振りに同期と再会したのだ。『お久ぶりです。中将。…相変わらず紅茶臭いぞタクミ。おまけに俺より出世しやがって!俺が先に提督になって、お前を何が何でも呼び寄せてこき使ってやろうとしたのにw』『それは残念だったなwハルトマン中将が勧めてきたんだ何かいい案が有るんだろうな?期待してるぞ!』『任せとけって!エド(エドワード・アースグリム)とガブリエルとルイ先輩には顔を見せないとな、ジャグ(フレーゲル・ジャグホット)の野郎には顔を出したからお前達だけだったんだ。さてと、閣下!これより本官は第1艦隊に一時移らせて頂きます。』『ウム。了解した。戦闘が始まると移動は出来なくなるかも知れん。サミュエル君。君はそのまま第一艦隊にいたまえ。友人達に顔を見せてくるといい。』『感謝します!』タクミとサミュエルは、シャトル発着場に着いた。イオがシャトルの前で待っていた。『お帰りセンパ…提督。あれ?その人は?』『今日からウチに来る友人だ。仲良くやってくれ!』『サミュエル・ジャクソン上一級アークスだ。宜しくな嬢ちゃん。』『イオ中一級アークスであります。宜しくお願いします!それと准将閣下。嬢ちゃんは辞めてくれますか?これでも19になるんですが…』『おっと、それは済まない。レディにその扱いは行けなかったな。大尉宜しくな!』シャトルがサラマンダーから発進し、武蔵に着陸した。発着場ではアリスが待っていた。『おかえりなさいませ閣下。無事に事は運びましたか?』『勿論、アリス少佐紹介したい人が居るんだが…?』アリスは視線をただ一点に集中し、眼を潤ませた。その先には、サミュエルが居た。サミュエルもアリスに気が付いた。そしてハッと身体を強張らせた。アリスは走ってサミュエルに抱きついた。『やっと…やっと逢えた…貴方に…探しましたよ…。貴方に会いたくって軍人になったんです。』アリスは涙を流しながら、サミュエルに話した。サミュエルもただ黙ってアリスを包み込んだ。タクミは何が起こった分からなかった。『お、お〜い?エド?これは一体?』『あっ!先輩知らなかったんですね。アリス少佐の故郷は、アークスシップじゃなくって、第87植民地惑星なんですよ。』『第87って…あのダーカーの攻撃を受けて、壊滅的被害を被った星か?確かあの時、サミュエルの研修先がそこでダーカー殲滅と民間人の避難誘導を担当するアークス訓練生中隊の中隊長だったけど?』『その中でただの成績の良い女子高生だったアリス少佐は、サミュエル先輩に会い、命を救われた。そして二人は恋に落ちた。と言うわけで御座います。知らなかったのは先輩だけですよ?まさか先輩、アリス少佐好きなんですか?確かに貴方はどこかサミュエル先輩に似てるし、アリス少佐も貴方の事気に入っていた見たいですが?良いのかな〜?浮気じゃ無いの〜?マトイ様に言いつけちゃおうかな〜?』『そ、そんなわけ無いだろう⁉︎親切な綺麗な人だな〜と思っただけで、決して浮気とかじゃ!』そのやり取りをアリスとサミュエルは、笑って見て居た。そしてマトイも…『タクミ…。』『マトイ…マトイさん?決してそんなんじゃ…』『浮気者!もう知らない‼︎』マトイはフォトンを溜めてタクミに放った。(訓練出力。死にはしないがかなりの激痛は走る)『ここでテクニックはダメ…ギャアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎』宇宙に一人の若者の断末魔が響いた。こんな馬鹿馬鹿しいやり取りをして居る若者達がこの戦いで重要な役割を担う人間とは側からみたら見えないだろう。新光暦239年11月19日。恒星スパルタンの会戦が始まらんとしていた。




お待たせしました。最新話です。そろそろこの無駄に引っ張った遠征編が、終わろうとしています。作者は自動車免許を取得すべく励んで居る中の執筆という事で、カーアクションの一つや二つあっても良かったと思いつつも、無理があったので、それはまたの機会にwハルトマン中将のモチーフは銀河英雄伝説のパエッタ中将です(でも彼よりは有能なつもりです…うん)サミュエルは我らがミラクルヤンことヤン・ウェンリー提督をモチーフにしました。結構中身変わってますが…。むしろ中身はオリジナル?でもゼノやアッテンボローやポプランの匂いもする?なんか混ざったキャラになってます。pso2は益々面白くなってきて作者としては嬉しい限りですが…銀河英雄伝説の新アニメが目前にも関わらず、銀河英雄伝説タクティスのサービス終了のお知らせを聞いて私は当たりどころの無い悲しみに包まれております…(´・ω・`)


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24話 スパルタン撤退戦2

恒星スパルタン上空でオラクル艦隊とダーク・ファルス・ダーク・ヒューマンの聯合艦隊と近距離の砲撃戦を繰り広げていた。この時、この場にいた全ての者が何故こうなったのか…理解していなかった。一人を除いては…。

ジャクソン少将は敵艦隊が一つの指揮系統には置かれていない事を見抜いていた。彼曰く、敵は三つの動きがあると考えていた。これについては第二銀河勢力である彼らの状況を見なければならない。

 

この時、ダーク・ヒューマンは二つに割れていた。アウグストを旗頭にする独立派。ダーク・ファルス、深淵なる闇の力を畏怖、神格する非独立派である。この非独立派はアウグストの台頭前にダーク・ヒューマンを纏めていた人物達とその子孫達で構成された通称貴族と呼ばれる連中が中心になっている。この連中は自分とその家族の私利私欲の為に時には同族すら売り、私腹を肥やす為に無意味な戦いを繰り広げる者達であった。そこに自分達の支配体制を脅かしかねないアウグストという人物の誕生いや復活という事態に遭遇する。更に彼らの栄華は彼らの同族から搾取支配するという権利を与えた深淵なる闇によって保証されていたのだが、アウグストはその深淵なる闇を倒すべく行動を取り、挙句深淵なる闇には自分が手をかけた事もあってか、寵愛にも似た感情をアウグストに抱いていた。貴族は自分達の立場をこの200年前から蘇った英雄に追い落とされるのでは無いかという恐怖に駆られ、彼と彼に付き従う民を水面下ではあるものの亡き者にせんと動いていた。

 

そしてダーカーに至ってはダーク・ヒューマンはただの肉壁か喋る生理用品にしか見ておらず、自分達を作った創造主(深淵なる闇)が何故彼らを生かしておくのかも理解が出来なかった。こういった事もある為、彼らにとってダーク・ヒューマンと手を取り合って戦うという事は屈辱意外何にでも無いのだが、彼らだけではオラクルの敗残兵達に負ける事は理解している為、取り敢えず共にその場に居るという体だ。

 

さて残るもう一つの勢力は、アウグスト・シュヴァーベン率いるダーク・ヒューマン独立派、因みにダーク・ヒューマンは正式な君主長らく空位の為居ないが暗黒銀河教国と国名を持って居た、独立派はダーク・ファルスやダーカーからの独立を掲げている為、そしてアウグストを君主としている為別名神聖銀河帝国とも言われている。神聖…高貴かつ高潔な人物であるアウグストを君主として崇めるのであれば神聖はぴったりであろう。そんなアウグストはこの戦いを火蓋に自らの野望を叶える戦いを始めようと雄々しくその旗艦の司令官席に鎮座していた。自分を信じついてきてくれる臣下と民の為に…。

 

そんな三勢力を抱える第二銀河聯合艦隊を倒すべくサミュエル・ジャクソン少将は敵艦隊指揮系統の弱点を突く作戦を立てた。敵艦隊は横に広い横陣を敷いていた。しかしやはり指揮系統の統一を欠いており足並みはバラバラだった。そこを艦隊全艦で砲撃を加え、動きが鈍った所を、随時、艦隊を撤退させて第一銀河、schloss von gotts要塞に退却する作戦であった。

 

サミュエル

『…以上が本作戦であります。如何でしょう?』

その場にいた多くの提督と参謀は喉を唸られせた。

ネルソン

『ウム。確かに我が艦隊の火力は敵に勝る。分断出来れば一つ一つの艦隊は数は劣る。そこを全軍で叩きつつ後退すれば勝機はあるだろう。』

タクミ

『サミュエル。敵左翼は、間違いなくアウグスト・シュヴァーベンだ。何をしても可笑しく無い。射程に入ったらすぐに左翼に砲撃を加えよう。アウグスト・シュヴァーベン程の人なら戦力分散の愚を起こさない。如何に遅かろうがきっと足並みを揃える筈だ。初戦の左翼を決めれば後が楽で済む。』

サミュエル

『ああ。初戦は左翼を叩こう』

ネルソン

『では、各々抜かりなく。…これより敵艦隊を壊乱せしめ無事帰還せんとする、いざ‼︎』

各艦隊提督・幕僚

『『『『『いざぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』』』』』

各司令官及び幕僚はグラスに入ったシャンパンを一気に飲み干すとそのグラスを床で叩き割った。

 

 

一方、この時アウグスト・シュヴァーベンは新旗艦に席を移していた。艦体は全体的に楕円を描き、艦後部から左右に広がる美しい巨大戦艦に乗り換えていた。全長7・6㎞艦全体に無数の埋没式主砲と副砲が点在しており、艦両側部に150㎝級艤装型連装主砲が片舷30機60門、搭載艦載機200機という超高性能大型航空戦艦イラストリアスである。因みにイラストリアスは現在一番艦から四番艦まであり、残り三隻は、それぞれハンブルグ・シューマッハ、ゲオルグ・ガラハウ、ハインリヒ・クラウゼウィッツの三大将麾下艦隊旗艦に就任している。アウグストは、自分の前に立ちはだかる貴族達が煩わしくて仕方が無かった。

 

反独立派の戦力を指揮するのはヨーゼフ・トゥハチェスキー元帥である。叩き上げの軍人でその人物像は堂々たる威風を放つ。彼自身はダーカーやダーク・ファルスへの陶酔等は無く、寧ろ独立派寄りとも見れる行動を取るが、アウグストが創造主深淵なる闇に寵愛のみでのし上がった存在と元帥は見ており、個人的な嫌悪であった。アウグスト自身も彼を邪魔な堅物としてしか見ては居なかった。そして元帥の周りを固める愚かな貴族共によって軍律を乱されるのもたまったものでは無かった。挙句、アウグストの艦隊は戦闘開始直後に前進せよと命令を受けて居た。

 

アウグスト

『我らを餌にするつもりだな元帥は。』

ハインリヒ

『恐らく、我々諸共敵艦隊を撃つつもりでしょう。挟まれた我々は…』

アウグスト

『全滅…それ以外は考えられないな。』

ハインリヒ

『それにしてもレオポルド提督の高速艦隊が残り3割とは、攻撃力は元々、普通の艦隊より群を抜けて居たので一個艦隊程度の火力は出るでしょうが。』

アウグスト

『レオポルドめ…あれほど注意せよと言ったのに、フランシスが止めなければ処罰して居たものを』

ハインリヒ

『然し、フランシス提督の艦隊を例の場所で待機させたままでも良いのですか?このまま我々がもしかしたら彼の者を始末してしまうかも知れませんが。』

アウグスト

『そうなったのであれば、あの男はその程度だったという事だし、フランシスに要塞と第一銀河を征服させれば良い。余であればひと月で済むがあいつなら同じ程度、遅くてもふた月もあれば終わる。』

ハインリヒ

『やたらフランシス提督をご寵愛なさいますな。』

アウグスト

『なんだ?また卿のno.2不要論か?』

ハインリヒ

『もうそれについてはとやかく言う気はありませんが、他の者を蔑ろにすることの無いようお願い申し上げます。フランシス提督にも重々ご忠告頂きますようお願いいたしましたので。』

アウグスト

『あれは卿の差し金か‼︎フランシスが久し振りに通信をよこしたと思ったら飛んだ説教を喰らわされたのだぞ!』

ハインリヒ

『元帥が戦闘開始命令を出しましたな。前進命令も間も無く下るでしょう。閣下ご準備を。』

アウグスト

『(逃げたな貴様)…全艦戦闘態勢をとれ‼︎』

 

アウグストの戦闘態勢指示を彼の元で戦う提督達に届いた。瞬間、彼らの顔つきは変わる。

 

ハンブルグ

『全艦最大戦速!』

ゲオルグ

『全艦!俺に続け!』

レオポルド

『行くぞ!名誉挽回のチャンスだ‼︎』

ハインリヒ

『艦隊の指揮は任せたぞ、フェルトン。』

フェルトン中将

『ハッ‼︎全艦前進‼︎』

ヤン・ザムエルスキー

『行くぞ‼︎我らがシュヴァーベン公の為に‼︎』

フランチェスカ・セープ

『我が王の為に…出陣します!』

 

アウグスト率いる艦隊が戦闘態勢を整えるのを元帥ヨーゼフ・トゥハチェスキーは眺めて居た。そこに彼の参謀が報告に来た。

参謀

『あの小僧…いえシュヴァーベン上級大将麾下艦隊が戦闘態勢を取り終えたとの事です。元帥閣下御下知を。』

トゥハチェスキー

『ウム。左翼艦隊直ちに前進せよ。(幕だな小僧)』

ハンブルグ

『…やはり、やはり右翼も中央も出てこない!』

ゲオルグ

『餌か…我々は。』

アウグスト

『驚く事も有るまい。貴族共にとって我々は邪魔な存在に過ぎないのだからな。』

ハインリヒ

『しかし、ダーカーは動きが有りませんな。既に教国艦隊が動いているのに我意に介さずと言わんばかりですな、何か企んでいるのでしょうが』

アウグスト

『動かないのであれば放っておけ。掻き乱してくる様なら敵諸共粉砕してくれる。』

ハインリヒ

『まだ事を動かす時ではない事をお忘れなき様。』

アウグスト

『フン!』

アウグストは、素っ気なく返すと正面にいるであろう好敵手に想いを馳せるのであった。

(さぁ、どうするタクミ・F。お前の先祖の様に勇名を馳せられるのか俺に見せてみろ!)

 

敵の奇妙な状況をオラクル側も確認して居た。

その奇妙な状況にオラクルの将兵達は不審には思うが何をするのか全く分からず敵はヤラレに来たと思うものが主流になるのだった。この時までは…

 

サミュエル

『何のつもりだ…最初の獲物がのこのこ出て来てくれた…と思うほうが妥当か?』

タクミ

『間違い無い、アウグスト・シュヴァーベン候だ…だけどこれでは敵の餌になりに行く様な物だ。まさか!』

サミュエル

『罠だな。これは下手に手を出せば不味いことにry』

タクミ

『いや!ダメだ‼︎いま砲撃するんだ!第一艦隊全艦砲撃せよ‼︎目標、敵艦隊!』

サミュエル

『どうしたんだ!敵が何をするのか分かったのか?』

タクミ

『アウグスト・シュヴァーベン候は同じ事を生前時代にやった。敵艦隊の目の前を針路を転換して横切った。結果、彼以外の艦隊と当時の敵艦隊が至近距離で砲撃戦をやるという羽目になり、オマケに餌にされる筈だったシュヴァーベン候は無傷。結果シュヴァーベン候はその戦いの戦功を独り占めしたんだ。』

サミュエル

『それが本当ならやばい‼︎全艦に砲撃指示を‼︎』

アリス

『閣下!敵艦隊が‼︎』

タクミとサミュエルは視線をアウグスト達に向けた。

 

トゥハチェスキー

『射程に入ったな。全艦砲撃を用意せよ!』

アウグスト

『全艦‼︎針路変換せよ‼︎全速力だ!』

アウグストの指揮により、麾下の艦隊はオラクルとダーカーとトゥハチェスキーの艦隊の間を横切った。そしてそれが終わった時、双方の艦隊は、至近距離で砲撃戦を開始する事になった。この歴史の宇宙艦隊戦は至近距離での砲撃戦をやるという事は果てしない消耗戦を繰り広げるという意味を持っている。艦艇の持てる全ての武装を使う事の出来るメリットの代わりに、個艦における装甲や防御スクリーン等の防御兵器が全く通用しない戦いになるのだ。

そしてこの状況に落とし入れられた時、双方が引き際を理解しなければ、抜け出す事の出来ない地獄と化す。

 

タクミ

『くそ‼︎手遅れだったか!全艦砲撃開始‼︎ファイアー‼︎』

サミュエル

『やってくれたな‼︎畜生‼︎全艦砲撃せよ‼︎』

アースグリム

『やってくれる‼︎砲撃を止めるな!うちの艦隊は殿だって事を忘れるなよ‼︎』

グリッドマン

『皆、落ち着いて事に当たれ。各戦隊指示通りに運動せよ。駆逐戦隊は空母の護衛を優先せよ。』

ヒューズ

『ここが勝負どころだな…艦載機隊は準備しろ‼︎ミサイルは広範囲弾頭を装填しろ!』

ネルソン

『敵の指揮系統は分断されている。どれか一方の崩壊は必ず影響する。今は正面の敵に集中するんじゃ‼︎』

 

オラクルの提督達は臨機応変に対応を開始した。提督達にとっては数は圧倒的に不利ではあるものの火力の高さが敵より優位である事や、敵艦隊の中には前進を怖れ、攻撃の手を緩めて防御に徹した艦長もいた為、それがオラクル艦隊の優勢に繋がった静観していたダーカー艦隊もトゥハチェスキー艦隊の劣勢を見かねたのか救援に出撃した。結果、ダーカー艦隊とトゥハチェスキー艦隊の連合艦隊を相手にする事になったオラクルだが、より密度を上げた敵艦隊の状況は寧ろ、一回斉射すれば三隻以上を撃破出来る状況になった為、数の有利を巻き返せる可能性すら見出しいたのだ。そんな混戦をアウグストは静観していた。

 

アウグスト

『この状況は、助けに行かない訳には行くまい。』

ハインリヒ

『貴族共の非難より数百万将兵の命、という事ですな。』

アウグスト

『ハンブルグ!ゲオルグ!レオポルド!ヤン!フランチェスカ‼︎答えよ‼︎』

5人の大将の顔がイラストリアス艦橋のパネルに現れた。

(この時、ヤン・ザムエルスキーはオラクル艦隊撃破の戦功で大将に昇進している)

 

アウグスト

『これより我が艦隊も戦闘を開始する。数百万将兵を貴族の馬鹿共に死なせる訳には行かない。良いな!』

五大将

『『『『『仰せのままに‼︎』』』』』

 

アウグスト艦隊は敵左翼に、向かって突進した。その的確な攻撃位置は敵に対して圧倒的なダメージを与えるのに充分であった。

 

オラクル兵

『敵艦隊左翼に突かれました‼︎』

ヤコブチェフ中将

『何⁉︎無傷の艦隊か!我が第14艦隊は転身を…』

第14艦隊将兵

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

アリス

『閣下!我が方の第14艦隊からの通信が途絶えました…』

マトイ

『第14艦隊旗艦スワロフ轟沈…艦隊司令官ヤコブチェフ中将以下8割の損失…チェンバレン少将の分艦隊を残すのみとなりました…戦力的価値は0…。』

 

イオ

『先輩!じゃなくて提督!作戦参謀長殿‼︎第21艦隊旗艦ヴィクトリー航行不能!スパルタンの引力に引き寄せられて消滅!』

サミュエル

『司令官は‼︎ハルヨシ・キダ提督は!』

十数分前…

オラクル兵

『閣下脱出を‼︎この艦は無理です‼︎』

キダ

『その様だな…部下の仇も取れ切れてない。今は逃げるとしよう。すまんなヴィクトリー…お前をオラクルに連れて帰りたかったが…すまんっ!』

 

………

 

イオ

『ご無事です。第五艦隊旗艦大和に御移りになったと』

タクミ

『不味いな…。』

サミュエル

『策があるんだが…乗ってみるか?飛んだ博打だが。』

タクミ

『乗ろう。出来る出来ないじゃない。やる事が肝要だからな…乗るぞお前の策。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久し振りの投稿w
アウグストの新旗艦は、スター・ウォーズのモン・カラマリ・スタークルーザーをイメージしてます。ホーム・ワン型では無く、リバティ型。因みに他の提督(アウグスト以下三人以外)はエキュゼクター級スター・ドレッドノートが、4.5㎞クラスにサイズダウンしたものに乗ってるとイメージしてますwww私に絵心があれば描いてるのだけどいかんせんないからなー。(そしてこの男初プソしてない)


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25話 スパルタン撤退戦3 猛虎伏草

スパルタンの会戦はオラクル軍の劣勢という形で進んで行く。タクミの友人、サミュエル・ジャクソン少将はオラクル艦隊撤退を成功させる事が出来る大博打をタクミに示す。そして、二人は歴戦の老元帥に具申していた。


ネルソン

『少数の艦を引き連れて後方に回り込み、敵の注意を引いて退却する?』

 

老元帥はこの若い提督の提案に目を丸くした。タクミはサミュエルの博打をネルソンに説明した。

 

タクミ

『はい。敵がこの少数艦隊に退路を断たれるのを阻止すべく後退します。その隙に本体は撤退します。』

ネルソン

『成る程、だが敵はこれだけの物量だ。囮艦隊に割く戦力は十分にあるし、仮に撤退したとしても、誰がその囮艦隊をやるのだね?』

タクミ

『それについても考えがあります。』

 

 

オラクル艦隊の要塞クラス主砲搭載艦が一斉に火を噴いた。十数本の光線の一本々が数万隻の艦を溶かしていった。更に一つの艦隊が他の僚艦を守るべく突出し、更に大きく横に開いた。その一個艦隊から数十本の核ミサイルが飛び、これも敵の艦隊を屠った。他の艦隊もミサイルや主砲を撃ちつつ、後方に進路を変換していった。銀河教国元帥、トゥハチェスキーは、敵が撤退すると見た。

 

トゥハチェスキー元帥

『敵が撤退する!逃すな‼︎砲撃しつつ、全速前進!』

教国兵

『元帥閣下!後方に3万キロ、敵八千の艦隊が出現。退路を断たんとしています。』

トゥハチェスキー元帥

『第45艦隊を向かわせろ。』

教国兵

『それが…ダーカー艦隊と友軍艦隊が先の要塞砲と核ミサイルの被害と回避運動の為、通信が乱れており、各艦隊の統制が…その…』

トゥハチェスキー元帥

『ではシャトルを出せ‼︎何のための伝令か⁉︎』

教国兵

『敵核ミサイル及び要塞砲第二射来ます‼︎』

トゥハチェスキー元帥

『狙いはダーカー艦隊か…所詮艦隊戦は彼らには向かん。全艦後退!退路を護れ!創造主様の加護ある我らには彼奴らの妨害など形骸に過ぎん!』

 

しかし、この事態をただ静観していたアウグストは苦々しい顔で見ていた。その美しい顔は怒りで曇っていた。

 

アウグスト

『愚かな…あの程度で我が軍の退路を立てるものか!』

ハインリヒ

『このままでは敵に逃げられますな…というよりもう既に何割かは離脱したようですが。』

アウグスト

『…ハンブルグ大将。要らぬ手間だが、あの痴れ者供を潰してくれ。』

ハンブルグ

『既に水雷戦隊三個部隊を派遣しました。』

アウグスト

『うむ。それ程あれば足りる。如何に良くできていようと人の血が通っていない兵器など恐るるに足らん。』

 

ハンブルグ大将麾下三個水雷戦隊はオラクル軍の囮艦隊を撃滅した。囮艦隊は一艦を除いて無人艦であった。しかも、急場しのぎだった為、航行以外のプロセスは最低限であり、敵艦隊に本当の数を悟られないように発射したビーコン以外の武装は一切使えなかった。因みに本当の数は30隻である。無人艦コントロール艦は、アゴリアと言う、ストックホルム級高速戦艦であった。それにアゴリアの艦長。そして、タクミと、マトイと、サミュエルと、アースグリムが乗り、それ以外のクルーは下船させていた。ネルソンはこの囮艦隊の少なさに驚いたという。アゴリアは全速力である方向に向かっていた。

さて、視点を第一艦隊に戻す。提督不在の第一艦隊は味方残存艦隊を逃すべく奮戦していた。この時、臨時でグリッドマン提督が指揮を執っていた。

 

グリッドマン

『全艦砲撃を緩めるな!あともう少し堪えるのだ‼︎』

アリス

『友軍艦隊脱出成功‼︎』

グリッドマン

『良し!これより敵陽動の為、Bルートを取り、第一銀河回廊に退却する。各艦あともう少しだけ耐えてくれ!』

イオ

『先輩…頼む‼︎』

 

敵の陽動と分かった第二銀河勢力艦隊はオラクル艦隊に追いすがり追撃していた。そんな時、アウグスト艦隊旗艦に接近する超高速物体があった。高速戦艦アゴリアだ。イラストリアスに振動が走った。

 

アウグスト

『何事か!』

神聖銀河帝国兵

『敵艦です!位置は本艦の真下!』

ゲオルグ

『やってくれる…撃ち方やめ!』

ハンブルグ

『誰も撃つな‼︎』

フランチェスカ

『嗚呼…何ということを!』

銀河教国貴族士官

『閣下今です。今こそあの小賢しい小僧と敵を屠るチャンスです‼︎』

トゥハチェスキー元帥

『馬鹿者‼︎そんなことしてみろ!復讐に駆られた小僧の配下の艦隊と撤退した敵の艦隊が戻って来て刺し違えんと襲い掛かってくるわ‼︎』

 

アゴリアでは…

 

タクミ

『凄い…静かだね。』

マトイ

『気づいてない…って事は無い…よね?』

アースグリム

『この上にいる人を殺したく無いんだよ。きっと。』

サミュエル

『好都合だ。このまま第一艦隊を逃がしてもらおうよ。』

 

第一艦隊は敵連合艦隊に、悠々と腹を見せながら、退却した友軍とは別の方向に退却させていた。

 

アウグスト

『私の身を引き換えにこのまま勝利を逃すわけにはいかん!ここで勝利を逃すなど耐えられん‼︎』

ハインリヒ

『お待ちを閣下!』

アウグスト

『攻撃せよ‼︎』

イラストリアス艦長

『閣下お待ち下さい‼︎当艦の指揮は艦長を任された自分にあります‼︎上級大将閣下は、艦隊司令官としてのご自身の責務をお果たし下さいますよう!』

 

アウグストは艦長の言葉で我に帰り、そして穏やかな顔に敬意を表しながらこの壮漢に謝罪した。

 

アウグスト

『そうだな…イラストリアスについては艦長。卿に任せるものであったな。艦隊司令官である私にその権限は無い。済まなかった、二度とせぬ。』

イラストリアス艦長

『このまま待機致します。』

 

後にこの艦長、名を、シィファール・オゼス大佐は、この件でアウグストと親しくなり、後に艦隊を任せられ、フランシス麾下連合艦隊後衛を任せられる様になる。第一艦隊が戦闘宙域を離脱したのに合わせて、アゴリアもまた、イラストリアスから離れていった。

 

ハインリヒ

『追わなくて良いのですか?』

アウグスト

『良い。これ以上の犠牲は無用。追撃はフランシスに任せてある。我らは例の作戦に備える。』

ハインリヒ

『時期早々ではありませんか?まだ調略のしようは有りますが?良いのですか?』

アウグスト

『クラウゼウィッツ。もし敵に聡明な人間が一人でも居れば、自らこちらに来るだろう。勝機は、奴らには無い事を分かっているのならな。』

ハインリヒ

『それはそうと、元帥は引退を承諾致しました。』

アウグスト

『あの老人がな…俺を殺そうとしたが失敗して恐れを抱いたか?クラウゼウィッツ…どうだ?』

ハインリヒ

『そうでは、無いと存じます。引退を承諾なさったのは会戦の2日前です。恐れながら、閣下は試されたのです。』

アウグスト

『やってくれるな…あの老人め。…おや貴族の奴らは追撃する気だな。六個艦隊も差しむけるのか。』

ハインリヒ

『元帥が許可なさったのですかな?』

アウグスト

『それも無いな。あの男は、貴族の権力争いを嫌う。奴は貴族との関わりを持たん。あれはきっと私利私欲と私怨に駆られた者達の暴走よ…さてハインリヒ・クラウゼウィッツ大将よ、何個艦隊戻ってくると思う?』

ハインリヒ

『1個艦隊程度かと。上級大将閣下。』

アウグスト

『卿も、時には甘い見積もりをするのだなw…ゼロだ。戻って来て5,000隻行くか、行かないかだろう。』

ハインリヒ

『敵を買っておりますな。(分からなくも無いがな)』

 

その頃、アゴリアは第一艦隊に合流しており、タクミは武蔵の自室の中で古代の兵法書を読んでいた。

 

イオ

『センパ…提督、失礼します。ん?古代の兵法書?』

タクミ

『ああ、うちの屋敷の古い書庫に入ってた、オラクル船団創立前の兵法書だ。あんまり古いから、出所は異界かもしれない物なんだが、ついさっき翻訳が完了してね。いやはや…』

マトイ

『アリス少佐に持って来て貰ってから唸りぱなし。そんなに凄いことが書いてあるのかな?私にはサッパリ。』

イオ

『風り…なんだ?これ?』

タクミ

『風林火山。早きこと風の如く。静かなること林の如く。侵略すること火の如く。動かざること山の如し。兵が動く時は風の如く早く動き、陣を構え、並ぶ姿は林の様に静かに、攻めたてる時は、火の勢いの様に、そして如何なる謀略、攻撃に晒されようとも、その場を死守する様は山の様に…軍隊運動の基本だ。そしてもう一つ、言い伝えの異界ではこの兵法書に則った戦い方をしたことで有名な英雄が居るらしくて、その人が言った言葉もここに、新たに書き加えられて居る。』

マトイ

『人は城…』

イオ

『人は石垣…』

タクミ

『如何に堅牢な要塞にいても、人心が離れれば、呆気なく落ちる。だから自分の周りの人々を大切にすれば、人々を自分から離れない。そして自分を守ってくれる。そしてその逆も然り。って事さ。全くその通りだよ。schloss von gotts要塞が最前線になった今、これが正しく該当する状況だ。この戦争という時代。より一層人の心を大切にしないとね。』

マトイ

『うん!』

イオ

『人は城…か。』

サミュエル

『おーい。夕飯時だぜ?そろそろ行こう。 』

アリス

『早く来ないと、席取れなくなりますよ?』

 

タクミは二人の少女の顔を見て、席を立った。

 

タクミ

『腹が減っては…だね。行こうみんな。』

 

 

 

 

 

 

 



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26話 退き際

第一艦隊は、秘密の補給物資を積み込んでいた。これは、タクミとガブリエルが、もしもの時のために用意した、特殊迷彩を施した、少数の輸送艦である。その僅かな休息時間で、第一艦隊の面々は敵の追跡艦隊の対処を考慮していた。

 

フリードリヒ

『6個艦隊とは、随分豪勢な追撃ですな。』

タクミ

『そりゃ、要塞奪った挙句、決戦で本隊の殿やって、オマケに敵の大将人質にして、スパルタン宙域を悠々と一周して、遠回りで逃げてるんだもの。そりゃ喧嘩売ったと思われてもしょうがない。』

アリス

『本隊は、我々が宙域を一周している間に、ワープして回廊の入り口まで飛びましたから追撃も不可。腹いせの対象に出来るは私達位なものです。』

アースグリム

『だったら我々もワープして仕舞えば良かったのでは?』

グリッドマン

『それは無理ですな。要塞クラス主砲搭載艦はあの一斉射でエネルギーをかなり使いましたからな、ワープするだけの出力とそれを得る時間はありませんでしたから。』

ヒューズ

『そのエネルギーを得た瞬間、この6個艦隊…ワープしてこっちに来られたら、終わりですな。まだワープ可能な艦艇が揃ってないからな。』

 

サミュエル

『少なくともあと数時間必要だ。そうすれば、回廊手前まではワープ出来る。』

 

タクミ

『何処かでやり過ごすか…マトイ、この周辺の宙域図を見せてくれないか?』

 

マトイは頷いて、コンソールを操作した。艦隊旗艦武蔵の会議室の大パネルに宙域図は映し出された。

 

タクミ

『近くにアステロイド帯か…艦隊丸々治りそうだな。』

 

グリッドマン

『補給物資が足らんので籠城は出来ませんがね。』

 

マトイ

『増援は望めないから…そうなると。』

 

タクミ

『あの岩ん中でひたすら敵を叩いて突破。それしか無いな。まともに撃ち合ったら負ける。』

 

サミュエル

『あのアステロイド帯はかなり広大だな。この中に敵をおびき出してはどうか?』

 

アースグリム

『どうするんです?』

 

サミュエル

『1個分艦隊程度の戦力をアステロイド正面に待機。他の艦隊はアステロイド帯に分散、分艦隊が敵の艦隊をアステロイド内に引き寄せたら、分散した艦隊が袋叩きにする。敵はアステロイド内に別の方向から迂回するだろう。今度は反対側の出口に機雷を撒いておいて侵入を阻む。これで二個艦隊は削れる。残り4個艦隊のうち何方かを突破する。』

 

タクミ

『なるほど。それに付け足しても良いかな?敵がこのアステロイドを包囲すれば其れなりの包囲陣になる。結構厚い線だ。普通に突破は難しいどころか不可能。本来ならアステロイド帯に入ること自体が詰みなようなものだが、このまま会戦をやるのは自ら首を差し出すようなものだ。そこでアステロイド帯の大型隕石に熱核エンジンを装着して特攻兵器を作る。これで突破口を開こう。』

 

グリッドマン

『では急がねば。敵がワープアウトしてから現在四時間、敵が此方にワープするまであと二時間しか有りません。』

 

タクミ

『敵迎撃艦隊は、ヒューズ少将麾下艦隊!その他、艦隊はアステロイド帯に進入し、準備に掛かれ‼︎』

 

幕僚一同

『『『『ハッ‼︎‼︎』』』』

 

第一艦隊は慌ただしく、アステロイド帯に入り、準備を始めた。この一見すれば、非現実的な籠城戦をやらざる得なくなった理由があるとすれば、schloss von gotts要塞迄敵を引き寄せたく無いと言った理由であった。要塞付近迄、敵を近づけてしまうと、要塞付近での戦に発展するだけでなく、実は、schloss von gotts要塞はこの時ルイ・フィリップ少将により、改修と補強作業が行われており、今後の第一銀河防衛には不可欠であった。その予算は、艦隊旗艦級戦艦守護衛士(ガーディアン)級だけで一個艦隊を組めるほどの予算が掛かっており、これを戦闘で中止されれば、多額の国費が消えるのだ。後は単純に、要塞を包囲され、戦力余裕のない内にオラクル国領を荒らされるのを防ぎたいからでもあった。

 

 

数時間が経過した。暗黒銀河教国追撃艦隊6個艦隊総艦艇数

約60,000隻がワープアウトした。その前にヒューズ提督麾下、スサノオを旗艦にした、5,000隻の艦隊が立ち塞がった。銀河教国艦隊から見れば、虫ケラの様な存在であるヒューズ艦隊を見た貴族達は笑いを隠せなかった。

 

銀河教国貴族

『フン!たかだかその程度の数で、我ら貴族の道を阻もうなどと、不届き者め!粉砕せよ‼︎』

銀河教国貴族

『虫ケラめ!消えるが良い‼︎』

銀河教国貴族

『人間如きに‼︎』

 

総勢60,000の艦隊はひたすらこの5,000隻に砲火を加えた、が一発も有効打を与えられ無かった。彼らは撃った、

しかし射程距離外から撃っていたのだ。砲術士官も参謀も距離外である事を教えてやれば良いのだが、肝心のそれらも貴族である事から、戦を知らなければ、出陣していても距離すら測れない者ばかりだったのだ。もしくはそうじゃ無くても、余計な口出しを、しかも平民如きがその様な事をすれば軍法会議など掛けられることもなく、その場で射殺される事への怖れが彼らの口を閉ざした。そう考えれば、この60,000隻に乗る数十から百数十万の将兵達は実に不運であった。そしてこの杜撰な砲撃の中に立たされたヒューズは正直、実に不服そうであった。彼としては猛火の中、勇猛に反撃し、敵艦を撃ち減らしながら、退却する事を想像していたのだが、猛火には包まれたものの、全く熱を持たぬ猛火に立たされた事への不満が募っていた。

 

ヒューズ提督

『なんと杜撰な射撃だ‼︎こんな程度の腕しか持たん連中とはガッカリだ!今から、戻って、F提督とオイゲン少将からポツダム連隊をお借りして白兵戦を行うぐらい余裕があるぞ。全く、どんな連中が指揮を取っておるのやら。』

 

オラクル士官

『射程に入りました。全艦にミサイルと魚雷を発射させ、逐次砲撃しつつ後退します。』

 

ヒューズ提督

『それで問題無い。あと、残った核ミサイル三発も発射しろ。持っていても仕方が無いからな。』

 

ヒューズ提督は敵艦隊を撃ち減らしながら後退を開始した。やっと敵艦隊がヒューズ艦隊との距離を縮めてきたのでやがて、砲火が迫る様になり、次第に被害が出る様になった。しかし、それでもヒューズ艦隊は衝突艦を出す事なく、後退したのだ。

 

教国士官

『敵旗艦が判明しました。G型艦隊旗艦型戦艦(第二銀河側のガーディアン級の呼称)スサノオです。』

 

教国貴族

『まて、それはあの小僧が手を焼いている人間の艦か。あれを撃ち取り、あの小僧の鼻を明かしてやれ‼︎』

 

ヒューズ提督

『付いて来たな…全艦機雷に気をつけながら後退。』

 

ヒューズ艦隊がアステロイドに侵入し、そして敵の艦隊も後を追う。そしてアステロイド帯に閃光が走った。大小の光がついたり、消えたりしているのだ。

 

教国貴族

『何事⁉︎』

 

教国下士官

『き、機雷です。アステロイド帯の入り口一帯に撒いてあります!』

 

教国貴族

『後退だ!急げ‼︎』

 

教国士官

『無理です。既に二個か三個艦隊がこの入り口に入ってしまっております!玉突きの状態のうえ、四方八方友軍の艦で身動きが取れません!』

 

教国貴族

『無理とはなんだ‼︎それをやるのが貴様ら平民の仕事…』

 

無数の機雷と、ヒューズ艦隊からの砲撃で、敵艦隊は沈められていった。正面から突き崩すのは無理と判断した残りの艦隊はアステロイドを迂回してヒューズ艦隊の後方にある入り口から侵入しようとした。

 

教国貴族

『敵艦隊の後ろについた‼︎全艦砲撃開…』

 

後方に回り込んだ艦隊はアステロイドに隠れていた第一艦隊の残存艦艇から砲撃を加えられ、これもまた正面の艦隊と同じく玉突きになり、屍を重ねていった。暫くして、敵の艦隊はやっと後退し、アステロイドを包囲した。

 

タクミ

『やっと退いてくれたか。どれだけ敵の艦隊を撃ったかもう数えきれないな。』

 

アリス

『我が方、轟沈143隻、敵は20,000隻程を失いました。』

 

イオ

『敵はあのしっちゃかめっちゃかの中でも良く砲撃していたのにこっちの損害はたったそれだけだなんて…。こっちが凄いのか、それとも相手の酷さなのか。』

 

フリードリヒ

『間違い無く後者さ。ヒューズ艦隊はこっちに後退するまでに沈んだ艦は片手あれば数えられるほどだったんだぞ。恐らくあれは殆ど会戦なんかに出た事ない司令官と兵士を満載した戦闘艦隊と言うより、練習…遠足艦隊だな。』

 

そこに艦橋の隔壁が開き、サミュエルが宇宙服のヘルメットを取って、軍用ベレーを被りながら入ってきた。

 

サミュエル

『ただいま。手頃な隕石に熱核エンジンと核爆薬を装着してきた。正直どれ程被害を与えられるか分からんが、いやはや、外から武蔵を見てみるとたかだか数十メートルのビルに匹敵する艦橋が数キロの船体のど真ん中に立っていると小さくて可愛く見えるな。』

 

タクミ

『よしよし!とても良し‼︎さっさとトンズラするぞ!良し、全艦回廊方面に転換!隕石ミサイル点火‼︎』

 

 

突如、アステロイドから大きな小惑星クラスの隕石が数個包囲艦隊に向かって突き進んできた。勿論、包囲していた敵艦隊は大混乱である。迎撃しようにも、艦砲ではビクともせず、駆逐艦程度に至っては簡単に潰されてしまった。そして隕石ミサイルは一定距離になると核爆薬が作動して爆発し、更に敵艦隊を削っていった。こうして艦隊は包囲陣の数カ所に穴が空いた。そして回廊方面に空いた穴を通って第一艦隊は離脱した。

 

タクミ

『マトイ。敵艦隊全艦に通信を繋げてくれ。』

 

マトイ

『分かった。…良いよ大丈夫。』

 

敵艦隊全艦にこの若い青年将校の顔が映し出された。敵の将兵は何が起こった分からずただ呆然とそれを見ていた。

 

タクミ

『此方は、オラクル船団共和国第一宇宙艦隊司令長官のタクミ・F中将です。先ずは互いの健闘を讃えさせてもらう。そしてもう一つ、当方はこれ以上の流血は望まぬ。どうか貴公らにはそのまま御国に帰って頂きたいと思っている。この戦闘でもそうだがどうやらそちらは経験が不足しているようだ。だが対する此方はみな将校から一兵卒に至るまで百戦錬磨。既に実力に違いがある事がお分かりいただいたと思う。悪い事は言いません。即刻退去なさい。』

 

と通信を送った。実力不足だ。格が違う。相手にもならんと言われた貴族達は激昂した‼︎『貴族を侮辱しおって‼︎』

『おのれ!あのみどり髮の小僧みたいに気に入らん奴だ!』『我ら貴族をなんと心得る‼︎』と怒りを露わにしたが、その下につく将兵達、とりわけ平民出身の下士官達は今すぐに引き返したかった。惜しみなく核ミサイルやら、機雷やら使って、大軍に屈さずただひたすら戦い続けていたあの艦隊をまるで気狂いのような物に感じていたのだ。

 

教国士官

『閣下。フランシス・オーヴェルニュ大将が、PG4エリアにてかの艦隊を待ち伏せしているので、追撃任務を譲られたしと通信を送っておりますが?』

 

教国貴族

『…しせよ。』

 

教国士官

『…は?』

 

教国貴族

『無視しろと言っている‼︎おのれ緑髮の小僧の片割れめが…手柄を独り占めしよって…そうか。』

 

この艦隊を束ねる貴族出身の提督は副官にニヤリと笑いながら振り返った。

 

教国貴族

『回廊入り口までワープせよ。小僧の片割れがあの人間どもを逃せば、我らが奴らにとどめを刺すのだ。もしあの人間どもが片割れに滅ぼされたら、その時には片割れの艦隊は30000程だから20,000隻程度には減らされているだろう。此方はまだ35000隻程おる。あの小僧の片割れの首を取ってやろう!敵にやられたと見せてな。』

 

黒い企みが英雄を襲おうとしているがこの時の英雄達に取っては実にどうでも良い事であった。

 

 

 

 



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27話 光を放つ英雄の半身と、船団国家の若き戦士。

新光歴239年。10月29日。この日、第1艦隊残存艦艇約1万6,000隻が午前零時ジャストに回廊入り口付近で針路を転換した。旗艦武蔵艦内は騒然として居た。

 

オラクル兵

『何でこんな事になったんだ!後もう少しで要塞なのに!こんな事があるか‼︎』

 

オラクル士官

『知るか‼︎もうしょうがない!各主砲のエネルギー注入、充填率の再チェック急げよ!』

 

オラクル兵

『申し上げます。敵艦隊は総数約三万。敵軍の指揮官、フランシス・オーヴェルニュ大将の名で降伏を呼び掛けております。尚、降伏に応じなければ即刻攻撃すると。』

 

イオ

『先輩。』

 

タクミ

『本当なら願っても無い事だがね…要塞が目の前にある以上降伏をする必要も感じられないし…少なくとも私は彼らに膝を屈する気はないね。返答はNOだ。』

 

これは直ぐにフランシス・オーヴェルニュ大将旗艦サンタンフェルに伝えられた。

 

フランシス

『やむを得ないですね。全艦砲撃用意…ファイヤー!』

 

午前零時30分、フランシス艦隊30,000隻が砲火を開いた。対するタクミ麾下第一艦隊約1万6,000隻も砲火を開いた。元々の数もさる事ながら、フランシスの用兵にタクミ達は舌を巻くしかなかった。そこから数十分が経過した。

 

マトイ

『我が艦隊の損耗は著しく残存艦艇、12,000隻。対する敵は未だ29,000隻程は残存しています。』

 

タクミ

『オラクル最強…第一艦隊が聞いて呆れる…ものの数十分で4,000隻も失ったのか…。』

 

フリードリヒ

『どうする?提督。』

 

サミュエル

『ひとつ意見具申するなら…これを使って見ないか?』

 

サミュエルに手渡された物…それは兵器の設計図だった。それに書かれていたものは、オラクルの名作。機動人型兵器A.i.S。その宇宙専用の試作機だった。この試作機は745試験部隊がガーディアン級改造型工作戦艦アコンカグアを伴って第6艦隊の元で評価を試験をしており、スパルタンにて、損傷も少なく、何よりアコンカグアは元はスサノオと同じくガーディアン級旗艦型戦艦、その戦力は侮り難く、殿を務める第1艦隊の為にと元帥ジェームズ・ネルソンは第1艦隊にこの試作機と共に回してくれたのだ。勿論、この試作機の事もタクミは艦隊の戦力把握の過程で知っていた。然し、彼は表情を曇らせてこう言った。

 

タクミ

『だが、この機体は使い物にならないから不採用になったんじゃ無いのか?此奴は空中分解を起こして居るんだろう?外観こそ今までのA.I.Sとは違うが、中身は既存のもので、挙句一型(エネルギー的な問題で機動時間に時間制限があるもの)の試作型のフレームをそのまま使ってるもんだから圧倒的な機動力と推進力を生み出す高出力の戦闘艇エンジンにフレームが耐えられないんじゃ無いのか?』

 

サミュエル

『だが、使わねば生きて帰れないかも知れない。それにウチにはそんな悍馬を扱える奴が三人も居るじゃ無いか?』

 

艦橋にチェン、フレーゲルの両航空隊長が呼び出された。

チェンとフレーゲルはアークス時代は戦闘ヘリのパイロットとして武勲を上げてきた。オラクル軍創立以前のエースパイロットは、A.I.Sの操縦も長けていた。然し、彼らが乗るのは死と隣り合わせの試作機。サミュエルはこの任務に拒否権を与えた上で説明した。

 

チェン

『お引き受けするにあたり条件があります。その試作機…三型に搭載された空中分解阻止の為のリミッターを外してください。』

 

サミュエル

『なっ…⁉︎話を聞いていたのか?そのリミッターは空…』

 

フレーゲル

『閣下我々はパイロットです。常に死と隣り合わせで戦って参りました。ですから戦うからには死を防ぐ保険の様なものがあれば、我々パイロットは覚悟が揺らいでしまうのです。ですのでリミッターは…』

 

タクミ

『分かった。リミッターは、外そう。さてサミュエル君?もう一機は誰が乗るんだね?うん?』

 

サミュエル

『おお!忘れていた。それにはお前さんが乗ってくれ。』

 

タクミ

『了解した…は?え?私にやらせるのか??』

 

サミュエル

『A.I.Sの操縦はアークスの中でも上手くやれるものは少ない。折角三機あるんだから使わねば損だろう?』

 

タクミ

『んで私か…。全く分かった行くよ。回線は開けておいてくれよ?戦いながら艦隊の指揮も取るからな。』

 

チェン

『フレーゲル!ちゃんとやれよ?此奴は戦闘機とは違うからな。』

 

フレーゲル

『少なくともお前さんよりはマシだと思うがね?第二航空隊!行くぞ!』

 

チェン

『あっ!このやろう先に行きやがって‼︎第1航空隊発進するぞ!俺に続け‼︎』

 

サミュエル

『とは言ってもこれに乗るのは久し振りだろう?本当に良いのか?今なら間に合うぞ?』

 

タクミ

『今更、降りれるかテメェコノヤロー!やって見るさ。イオ、マトイと艦隊を頼む。』

 

イオ

『先輩気をつけて。』

 

タクミ

『オーライ!CMC007、タクミ・Fだ。出る‼︎』

 

タクミ

『空母を叩く!各機は我々三機の援護に回ってくれ。』

 

 

午前1時27分。第1艦隊は陣形を半円に再編し、敵艦隊左翼にひたすら近距離で砲撃を仕掛けた。この左翼が、フランシス艦隊の空母集中配備部署である事はタクミ達は導き出した。

 

フランシス

『敵は左翼に近距離で砲撃を仕掛けてきて居る…空母各艦に通達!全機発艦!敵艦隊に対して総攻撃を掛けます!』

 

銀河帝国士官

『はっ!直ちに。』

 

帝国兵

『左翼空母部隊!通信が途絶していきます‼︎空母からの通信が途絶‼︎』

 

帝国士官

『なにが起きている‼︎報告せよ‼︎』

 

帝国兵

『はっ!敵艦隊より高速熱源体が三つ発進し、その直後、空母からの通信が途絶して行きました。現在左翼艦隊目下対空戦闘中ですがどの艦もそれらを補足しきれていないとの事。…お待ちを!たった今画像が来ました‼︎』

 

帝国兵はその画像をサミュエルの居る。艦橋の大パネルに映した。それは巨大な機械の人形の後ろに大中小の大型ブースターにプロペラントタンク、ミサイルポッドやらレーザーキャノンやらがついたランドセルを背よった物が暴れまわって居る。人と同じ様にAMBAC(無重力においてある巨大な質量を傾けることによって方向や体制の向きを変える方法。)を繰り出し、空母やその直営機を撃ち落とし、はたき落とし、斬り落としている。

 

タクミ

『二隻目!そこにもう一隻いるな。』

 

タクミの乗るA.I.Sは敵の空母目掛けて突っ込んでいった。そして対空砲火を避け敵の艦橋の真正面に出た。

 

タクミ

『堕ちろ‼︎堕ちて滅びろ!』

 

かくして、艦橋に大量の弾丸を喰らった空母は制御不能になり、やがて爆沈した。

 

チェン

『フレーゲル!何機落とした?』

 

フレーゲル

『45機』

 

チェン

『俺は48機。プラス空母三隻だ。』

 

フレーゲル

『撃墜数は負けてるが撃沈数は勝ったな空母五隻だ。』

 

オラクル側の機動部隊による先制攻撃で帝国側の損害は増していた。この状況を見ていたフランシスは口を開いた。

 

フランシス

『敵の新兵器ですね。全くなんて言うものを作り上げたものでしょう。これではジリ貧です。』

 

帝国士官

『こんなものを量産されたら…』

 

フランシス

『いえ、量産はされないでしょう。されても少数です。あれらはこう言う近距離でなら役に立つでしょうが、艦隊戦の基本は長距離から中距離での砲撃戦です。戦闘艇も中距離からなら敵の艦隊に飛び込めますがあれは推力や機動力を強化されていたとしても、近距離迄がやっと…此れでは出番が貰えないでしょう。』

 

三型はこの時、フランシス艦隊の空母の殆どを轟沈ないしは発艦不能に迄破壊し、艦隊に帰還していた。かつての不採用の烙印を押された機体はそれを払拭せんと戦っていた、歴史に確かな存在の証を残すために。

 

タクミ

『ふぅ〜暴れまわってやったぞ!敵は?』

 

サミュエル

『空母を大半やられたから近距離での攻撃力はかなり削がれた事も敵は知っている。その為、中距離からの攻撃に専念し始めた。少し下がるかと思ったら、下がる時も隙がなく、しかも中距離で最も攻撃的な距離を保っている。逃げ出すのは難しいぞ。』

 

タクミ

『マトイはグリッドマン中将を呼び寄せてくれ。アリス少佐は、アースグリム、ヒューズ提督の二人を。イオは紅茶を持って来てくれブランデー入りで。』

 

暫くして三人の提督が集まった。三人とも疲労の色を隠せていなかった。その為三人とも、目の下にはクマが出来、歩く時もぎこちなかった。

 

タクミ

『敵の機動部隊をやったが、敵は相変わらず有利なまま攻撃を繰り出してくる。このままでは殲滅される。そこで陣形を整え直そうと思う。グリットマン提督、艦隊をU字形に再編して貰いたい。』

 

グリットマン

『U字形ですか?』

 

タクミ

『そうです。敵に敢えて、此方の中央が食い破られた様に見せるのです。敵艦隊がそれに釣られて追ってきた所に正面と左右から砲撃を加え、敵が後退した瞬間を狙って、エンジンが故障しないギリギリのラインまで速力をあげて回廊内に逃げ込みます。』

 

アースグリム

『敵もそこまで追ってこないって事ですね。』

 

サミュエル

『ああ、司令官が凡庸か優秀な奴だったらね。』

 

フリードリヒ

『愚劣で、かつ愚かな私怨に駆られた人間が指揮を執っていたら話は別だがね?』

 

イオ

『幾ら馬鹿でも、そんな事しないでしょう?』

 

ヒューズ

『案外居るものさ。例えば第2帝政フェデル王朝末期の貴族の様な連中みたいな感じの奴とかね。』

 

この時のヒューズの言葉にタクミが少しが少し俯いた事をマトイはこの場にいる中でただ一人気づいていたという。

結果、このキャストの中年の紳士(グリットマン)によって艦隊はU字形に再編された。午前二時五十三分。フランシス艦隊の一部が、タクミ艦隊の中央に突出したが、三方からの砲撃で、損害が大きく増していった。これに対し、フランシス艦隊分艦隊提督サマル・パウワル少将が、連絡シャトルを大量に飛ばし突出した艦の逃走を指示再編するがフランシス艦隊の陣形は、先鋒から中衛に掛けて陣形がメチャクチャになっていた為、一時後退を強いられるのである。フランシス・オーヴェルニュは前方への警戒を厳にしつつ後退を開始した。

 

マトイ

『敵艦隊後退!』

 

タクミ

『良し‼︎艦隊全艦全速力で逃げろ‼︎』

 

この異様な逃走劇は、ダーク・ヒューマン。神聖銀河帝国側の将兵達にとっても、実に不思議な光景だったという。

 

副官

『オーヴェルニュ大将閣下。敵艦隊が、進路を変更。回廊内に逃走しました。』

 

フランシス

『どうやら我々は嵌められた様ですね。構いません。これ以上追うわけにも行きません。直ちに本星に…』

 

帝国兵士

『大将閣下‼︎総参謀長(ハインリヒ・クラウゼウィッツ)より

至急電文が!読み上げます。』

 

我、時来タレリ。

ハインリヒ・クラウゼウィッツ総参謀長

 

フランシス

(そうか、始めるのですね…アウグスト…アウグスト様の作る世界…今度こそ私の手でお支えする‼︎)全艦に通達‼︎全速力で本星に向かう‼︎

 

今、第1銀河と第2銀河で、新たな局面を迎えようとしていたのだった。

 

 



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28話 我ら、鬼神の如く

フランシス・オーヴェルニュ艦隊を退け、第1艦隊は、schloss von gott回廊に進入していた。そんな中、マトイは、タクミが顔を曇らせた事に気になっていた。かつての王朝の象徴…貴族、王族に彼は思う所が有るのだろうか…。普通の人間なら過去の遺物。然れど、彼はそんな物では無かった。まるで思い出させたくない物を無理やり思い出させられた様な顔をしていたのだ。物思いに耽る彼女は、武蔵艦内を歩いていた。

 

マトイ

『タクミ…大丈夫かな?』

 

アリス

『あっ、マトイ様。どうかしましたか?』

 

マトイ

『アリスさん。あの…』

 

マトイはアリスに自分が気になっている事を洗いざらい話した。アリスは一瞬、驚きを見せたが、タクミという男の人となりを知れば納得が行くこともマトイに伝えた。

 

アリス

『閣下は歴史家になりたかったって言ってた事もありましたよね?ならば彼等の愚劣さもよく分かってるはずですよね?それを思い出して、不愉快になっただけだと思いますよ?』

 

マトイ

『それなら良いんですが…。』

 

マトイは納得した様なしてない様な微妙な感覚に囚われた。彼女はタクミの一瞬だけ見せた表情にとてつもない嫌悪感を覗かせていたのが忘れられなかったのだ。

 

その時、艦内に警報が鳴り響いた。戦闘配置。それを知らせる警報が艦隊全艦に鳴り響いた。艦隊の将兵達の表情は一気に影を落とした。

 

マトイとアリスが艦橋に登ると、すでに、タクミとサミュエル、そしてフリードリヒが防衛配置を命令していた。

 

マトイ

『敵艦隊?何処から。』

 

タクミ

『待ち伏せだね…こんなところに待ち伏せているとは。残骸も見当たらないから、我々を待ち構えていたんだね。きっと回廊手前のアステロイドで戦った艦隊だろう。もう既に艦載機隊が発艦してこっちに向かってるらしい。』

 

チェン

『第1航空団!出撃します‼︎』

 

サミュエル

『健闘を祈る!次、第2航空団出撃!A.I.Sもスタンバイさせろ。甲板に立たせて対空火器がわりにする。』

 

フリードリヒ

『近距離戦になりそうですな。ポツダム連隊以下各白兵戦要員に武装待機を命じます。』

 

タクミ

『宜しくお願いします。schloss von gott要塞に通信は送ったか?』

 

オラクル兵

『はっ‼︎現在返答を待っているところであります!』

 

タクミ

『宜しい。(とは言っても残してきたのはたかだか2,000隻。相手は30,000隻ちょっと。14000対30,000勝負にならんな。要塞まで逃げるに越したことは無いが…)

 

その頃、要塞に救援要請が届いており、要塞司令官代理、ルイ・フィリップ少将は、この現状に目眩の様なものを感じていた…

 

ルイ

『不味い…本当に不味いな。要塞は改修の影響で浮遊砲台の殆どが使えんし、要塞主砲【神の息吹】エイテム・ゴッデスを発射するには時間が掛かるし、あとは…』

 

ルイは如何にか自分の後輩達を救う手立てを考えようとしていた。そこに、

 

ネルソン

『どうしたんじゃ?フィリップ君。なにやら騒がしいのう。』

 

ルイ

『ネルソン元帥。たった今、第1艦隊より通信が入りまして、救援を要請してきたのですが、現在の駐屯戦力2,000隻。浮遊砲台の実に95%が現状使用不可能、要塞主砲は発射体制が全く整っておらず、チャージを始めるにしても時間が掛かってしまいどうしようかと思っていた所です。』

ネルソン

『フム、少なくとも駐屯戦力に間違いがある様じゃな14000足して16,000隻じゃな。これでタクミのとを合わせて30,000対30,000これでイーブン。良くて此方が少数残るか悪くて相手が少し残るか、普通に対消滅するかの三択になったのぉ。どう転んでも要塞は無傷じゃい。』

 

ルイ

『元帥の艦隊が出撃なさるのですか⁉︎やっと無事に帰ってきたのに!』

 

ネルソン

『こんな老骨より未来ある若者を生かした方が何万倍もマシだとは思わぬかね?フィリップ君?』

 

?

『それなら私も付き合いましょう!』

 

ルイ

『貴女は、シャオメイ・ミン中将。第9艦隊も出撃なさるのですか?第九艦隊の残存艦艇8000隻も?』

 

シャオメイ

『命を助けて貰った。それだけでも彼を助ける理由になると私は考えます。』

 

ネルソン

『本当は三十代未満の未成年は来るなと言おうと思うたが、誰も彼もろくに兵隊を持っとらんからの。ミン提督頼む。』

 

シャオメイ

『はっ‼︎』

 

ルイ

『これで38,000隻!両提督。あいつがこの要塞の防衛戦術として考案してあったものがあったので、是非ともお使い下さい。向こうには伝えておきます。』

 

ネルソン

『ウム、了解した。』

 

これは直ぐにタクミ達に伝えられた。

 

タクミ

『良し!みんな聞いたな?援軍が駆けつけてくれるぞ!それまで何が何でも逃げるのだ‼︎』

 

『『『『『オオオオオォ‼︎』』』』』

 

イオ

『敵艦隊が降伏通信を送ってきました。パネルに写しますか?』

 

タクミ

『please』

 

敵の首領の顔が正面のパネルに移された。その顔立ちや服装から見ても、大貴族でございと言わんばかりの姿であった。後にイオが笑い話として、敵の司令官の顔が移された時、タクミは腰のホルスターに手を置いていて、作り笑いを浮かべていたと話した。

 

敵司令官

『オラクル船団を名乗る叛徒どもに告げる。我々は創造主の名の下に貴公らに天誅を下さんと参った。司令官の首を差し出さねば皆殺しにする。さっさと選ばれるが良い。』

 

通信は切れた。タクミは、ザッと立ち上がり…

 

タクミ

『アースグリム‼︎グリットマン‼︎ヒューズ‼︎全艦転進‼︎後退しつつ撃ちまくれ‼︎援軍が到着したら全速力で敵旗艦に突進する‼︎あのカツラ頭の首を私の前に持ってこい‼︎』

 

『『『はっ‼︎‼︎‼︎』』』

 

イオ

『煽られて、見下されて怒ってるんでしょ?』

 

タクミ

『………。』

 

イオ

『でも、先輩も相当酷い煽りを向こうにやったよね?』

 

タクミはそれを聞くと、ベレー帽を目深に被った。第1艦隊は後退しつつも遮二無二撃ちまくっていた。一方防空戦闘についていたチェンは提督同士のやりとりをこう部下に話していた

 

チェン

『あれを大人の中でもかなりな低レベルな戦いと諸君は思ったろう。確かに我らが提督閣下はまだ成人になりたてなので未成長の部分があるものの、お偉いさんがたのやり取りってのは基本そう言う低レベルなしろ物なのさ。』

 

この時、タクミは言い分があり、それを後輩と自分の参謀と想い人に語った。

 

タクミ

『彼奴らはこっちが降伏すると高を括って来た。弱きものを足蹴にして、鼻っ面を引っ張る奴らのやり口が気に入らんのだ!人の世ですることでは無い。これを日常でありとあらゆる所で起きてると考えると余計腹が立つ!』

(尚、後にポツダム連隊副隊長シュミット(この時点でフリードリヒは要塞防衛司令官になっていて、ポツダム連隊連隊長はカールになって居る。)はこの時、『いや、あんたらいる時点で象(タクミ御一行)に喧嘩売ってる虫ケラ(銀河教国)でしょうが。』と呟いたと明かしている。)

 

然し、象は手負い。相手は軍隊アリ。

いずれ、象は食い尽くされてしまう。現に第一艦隊の戦力は半数程度になっていた。旗艦武蔵の前方にいた戦艦が撃沈され、彼等の眼前に敵の戦列が現れた。

 

オラクル兵

『戦艦シアーズ撃沈!本艦は、敵の真ん前に出ます!』

 

タクミ

『クッ…!』

 

アリス

『艦長!退避を‼︎』

 

艦長

『周りの僚艦が、近過ぎて無理です!回避不能‼︎』

 

然し、武蔵に敵の砲火が来る事は無かった。敵の艦隊は左右から突如現れた艦隊に挟まれて、次から次へと沈んでいった。

 

ネルソン

『無事かね?諸君。』

 

サミュエル

『元帥閣下⁉︎どうしてそんな所から??』

 

シャオメイ

『貴方方を置いて、国に帰れるわけありません!』

 

サミュエル

『いや、あの…嬉しいんですけど…どうやってそんな所から…。』

 

タクミ

『話してなかったけ?この回廊は、要塞取り返した後、第1銀河から第2銀河の出口まで、一帯をフォトンで満たして居るんだ。だから回廊内、航行可能領域何処へでもおまけに無制限にワープ出来るようにしたのさ。これが新しい要塞防衛戦術の要よ。』

 

アリス

『閣下知らないのは無理ありませんよ。だってサミュ…ジャクソン少将は要塞回廊を一度も通ってないんですから。高級将校でただ一人通ってないって気にしてたんですよ。』

 

タクミ

『そ、そうなの?(チラ)』

 

サミュエル

『ショボーン(´・ω・`) 』

 

タクミ

『ごめん。』

 

サミュエル

『今は戦闘中です!閣下御采配を。』

 

タクミ

『全艦!L382に小ワープ。座標を第6艦隊と第9艦隊に送信。』

 

ネルソン

『ワープ。』

 

シャオメイ

『ワープを!』

 

三艦隊は瞬く間に空間を跳び、敵の艦隊を包囲した。そのワープ速度は彼等の尺度を超えて居た。

 

タクミ

『ファイアー‼︎』

 

ネルソン

『ファイヤー‼︎』

 

シャオメイ

『ファウ‼︎』

 

三提督のそれぞれの号令に合わせて艦隊は斉射し、また空間を跳び、また斉射を繰り返した。

 

タクミ

『頃合いだ。敵旗艦に突進!ポツダム連隊に乗り込み用意をさせろ。』

 

フリードリヒ

『敵の首とってご覧にいれる。ついでに将校と兵卒をそれぞれ捕虜にとって参ります。』

 

ポツダム連隊を乗せた揚陸艇が敵の旗艦に肉薄する頃には敵の艦隊は小さくすり潰されていた。この要塞防衛軍の新戦術は、駐屯艦隊が絶えず小ワープを繰り返し、敵に対して全方位から攻撃し続けるというものであり、回廊一杯に包囲し、回廊に満ちたフォトンのお陰でエネルギーに困る事なく無制限に跳躍出来るうえ、敵はオラクルを攻撃出来ないのだ。そのうえ、敵の旗艦にピンポイントに砲火、揚陸部隊を差し向けられるので、一気に無力化も図れるなど、オラクル内に於いては革新的な戦術であり、此方の損害も全くなく敵を壊滅できるのだ。(実施する上で、各艦隊の連携が取れていればの話しではあるが)

ポツダム連隊は敵の旗艦に乗り込んだ。数百名の装甲擲弾兵が艦内に侵入した。それを非装甲の軍服を着た兵や装甲を着た兵が銃撃しつつ、軍刀や戦斧を持って迎撃せんと襲い掛かってきた。

 

フリードリヒ

『フォース、レンジャーは下がれ!ハンター、ブレイバー、ファイターはついて来い‼︎』

 

カール

『よく見ておけ、新入りども!今、目の前で暴れまわってるのがポツダム連隊アークス出身者、その中で10年この連隊で戦い抜いた者、この連隊で華々しい功績を挙げた者が入れる栄光ある部隊、老親衛隊だ。この戦いで武功を挙げた者は、軍歴、出身(アークスかオラクル軍かと言う意味で)関係無く老親衛隊に入れるぞ‼︎』

 

連隊員

『オオオオオオォ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

ポツダム連隊は敵司令塔目掛けて突進した。オラクルのユニット技術は、当時の宇宙の中でトップクラスを誇る清廉さと美しさと防御力を秘めていた。

背中、腕部、脚部の三箇所に装着できるこの鎧は基本ステルス化して軍服や装甲服に装着して居る。そこから発生する力場で銃弾や打撃を防げる。(然し、砲弾や斬撃には無力で、これについてはユニットと装甲服の素材の防御力に一存していた。)特に装甲服を纏う、装甲擲弾兵は、正しく、歩く戦車。ポツダム連隊は基本接近戦を担当するハンターやブレイバー、激しい戦闘ではレンジャーやフォースも身につける為、全員が装甲擲弾兵であると言っても良い。元々アークスしか着けられないユニットを一般人であったオラクル兵が着けられるのは、軍発足に基づいた技術革新の賜物であった。兎も角も、ポツダム連隊はその圧倒的な戦闘力とオラクル驚異の技術力が生み出した防御力の二つの力によって、敵を粉砕して行った。後にタクミが一個軍20万の将兵の内、11万を装甲擲弾兵にしてしまうのだが、これは後の話である。話が逸れた。…ポツダム連隊が敵の旗艦を占領するのに対して時間は掛からなかった。元々宇宙戦闘艦は航行と戦闘に必要な人材さえあれば良いので、必要最低限の人材しか乗せなかった。そこにクルーの数倍の歩く装甲が乗り込んできたら、結果は火を見るより明らかだろう。さて、この時にはシュミットがロッドにフォトンを溜めて、敵の旗艦の司令塔に繋がる隔壁を破壊した。フリードリヒ以下老親衛隊が艦橋に雪崩れ込んだ。抵抗は無かった。フリードリヒは辺りを見回した。

 

フリードリヒ

『この艦隊の司令官は誰か?名乗り出るが良い‼︎』

 

すると一人の貴族が手を挙げた。

 

艦隊司令

『わ、私だ。降伏する。残った艦隊の命ばかりは…』

 

フリードリヒ

『そうか、あんたか、 。とは言って残ってる艦隊なんて、旗艦と数隻だ。他は沈んだか逃げちまったよ。』

 

フリードリヒはそう言い終わると首を動かして合図をした。するとレンジャーの老親衛隊隊員が二人で艦隊司令を組み伏せた。そしてその艦隊司令の前には斧を持ったシュミットが居た。

 

フリードリヒ

『我が司令官殿は貴公の首を欲して居られる。将兵は助けよう、然し、貴公の首と引き換えだ。』

 

そう言い終わると同時にシュミットが斧を振り下ろし、艦隊司令の悲鳴が艦内に木霊した。

 

フリードリヒ

『閣下。仕事は済みました。ご要望通り、敵の大将首と捕虜を取りました。はい…では残った艦を鹵獲して帰投します。他の艦は…ハイ、ハイ。逆らうようであれば斬り伏せよと、はい。流石にそこまでは愚かでは有りますまい。では直ちに。』

 

タクミ

『勝った…ふぅ…どうなるかと思った。帰れぬものかと…』

 

マトイ

『敵の捕虜はどうするの?』

 

タクミ

『どうしたもんかね…捕虜交換を申し込まなければ、射殺するしか無いんだけど…出来ればそんな事はしたく無いから、当面は要塞内で大人しくしてもらうさ。首狩り軍団(ポツダム連隊)が常時うろついてる要塞に入ったら生きた心地はしないだろうけど暴れないだけマシだよ。』

 

マトイ

『………。』

 

タクミ

『そんな顔をしないでくれよ(汗)さぁ、帰ろう?マトイ。』

 




☆【オマケ】☆
pso2で御伽噺(アラビアン・ナイト)をしたら…

昔々あるところに一人の青年…じゃ無かった。やたらボーイッシュな少女がおった。その名をイオと言う。
イオ
『なんでこんな事になってるんだ?』
イオは懐も胸も貧しい少女であったが
イオ
『余計なお世話だ‼︎』
ある日、ひょんな事からこの国の王女…マトイ姫に出会う。
マトイ
『わ、私お姫様なんてやった事ry(汗)』
然し、イオは兵隊に捕まり、牢屋の中。(薄い本に成らんぞ?)姫は城に連れ戻された。はてさて、この国の大臣ジャフ…ならぬ、ルーサー大臣はどうにか姫を我が物に従った。
ルーサー
『僕の計算に間違いは無い‼︎(通算114514回求婚して失敗)今度こそマトイ姫を嫁に!』
ルーサーは考えた。どうやったら姫は振り向いてくれるか…そうだ伝説の魔法のランプを使おうと考えた。そこでルーサーは賢者に聞いた。
賢者ドゥドゥ
『魔法のランプは此処から遥か東の砂漠のバンサーの宝物庫にあるかね。光輝く黄金で出来てるからすぐ分かる。欲しかったらそこまでは言って取ってきたまえ。地図は弟子のモニカに書かせるから。』
賢者の弟子モニカ
『あの、これで分かると思います。…多分』
然し、バンサーの宝物庫は危険な魔法が掛かっていて危険な場所であった。かつてえら〜い剣士とやたら暑苦しい武闘家とやたら老爺心を焼く熟女戦士が、巨人ダーク・ナンチャラ・エナントカダーを封印した時の穴がその宝物庫なのだ。そこでルーサーは…。
ルーサー
『そうだ、あの姫を誑かした貧乳人間風情を利用してやれそうすれば僕は安全だ!』
と思った。さてその頃イオは牢屋に捕まっていたが友達のウーダンが助けに入ってきて枷を外そうとしていた。そのウーダンの名はアフィン。
アフィン
『なんで俺は猿なんだウキー‼︎説明しろよ責任者‼︎』
枷が外れたその時、暗闇から老人の声が聞こえた。
老人(cvオラクル最強剣士さん)
『お若いの…枷を外したところで牢屋から出られんぞ。』
イオ
『あんたは?』
老人
『ワシもお前さんと一緒じゃよ。だがなワシはこの牢屋から出る方法を知っておる。出たいならワシの手伝いをしておくれ…どうじゃ?』
老人が言うには、かつて城で働いていたが、ある砂漠に王様が大事にしていたランプを落としてしまったのだと言う。それを見つけて持って帰れば罪を許すと言うのだ。王様に許されて褒美を出るのならと親切なイオは手伝う事にした。さて二人と一匹は砂漠にある宝物庫に着いた。
イオ
『この中なんだな?ランプは?』
老人
『そうじゃ。この宝物庫の中にある。魔法が掛かっておるからの。気をつけるんじゃぞ!』
バンサーの宝物庫(cvハンター推しのアークスさん)
『おう!よく来たな!少女よ。勇気があるなら入るが良い!豊胸グッズも沢山あるかな!あと何よりハンター教本がつらつら…』
イオ
『胸胸煩いよ…好きで貧乳になったんじゃ…でも豊胸…』
アフィン
『スッゲー気にしてたもんな?ランプはどっかその辺の見つけて豊胸グッズ頂いて帰ろうぜ…アイタ‼︎』
イオと猿のアフィンは宝物庫に入っていった。その中には信じられないほどの宝石や金銀財宝が溢れていた。暫く、行くと、おかしな人形が有った。綺麗な鉄で出来た人形だったが、イオには重すぎて持っていけ無かった。
イオ
『仕方ない。諦めよう。』
?(cv彼女大好きガンスラ六芒さん)
『おーい?ランプが目当てか?遠すぎて歩くには辛いぜ?のたれ死んじまうぞ?』
誰も居ないはずなのに声がして、イオは辺りを見回したが、誰も居らず有るのは人形だけ。
イオは肩を叩かれたので振り向いてみると、なんと人形が動いてるでは無いか!
イオ
『うわ‼︎人形が動いてる!もしかして御伽噺の空飛ぶ魔法の人形?』
魔法の人形
『おお‼︎よくぞ推理してくださいました‼︎お礼に乗っけててやるよ!』
魔法の人形で直ぐにランプのある場所に飛んでいったイオはついにランプを手に入れました。
アフィン
『ふぅ…やっと一段落だなぁ。はやく出ようぜ…おっと?なんだぁ?』
アフィンは銅像に触った。すると…
銅像(cv狂った美少女レンジャーキャストさん)
『アレ?アレレレレレレ⁇⁉︎貴方、リサに触っちゃいましたね?リサはお安い女の子じゃあ無いので、ゴメンナサイですけど宝物庫は崩壊します。ホントはリサが鉛玉をご馳走出来れば良かったんですけどね?まぁ!圧死するのも楽しいですよ‼︎⁉︎』
イオ
『逃げろ‼︎』
イオ達は魔法の人形で宝物庫の出口まで飛んだが宝物庫は崩れて、イオは片手でバンサーの口に捕まった。
そこに老人が現れ、ランプを手に取ると…
老人
『ありがとう。イオ。だがもう用無しだ。』
そう言うとイオを突き落とし、イオとアフィンと魔法の人形は落ちていった。
老人→ルーサー
『やった。これで魔法のランプは僕の物。これで姫を…』
しかしどこを探してもランプは無かった。
ルーサー
『未知の事象だと‼︎バカな確かにランプを仕舞ったはずだ‼︎バカなァァァァァァ‼︎』
さて落とされたイオ達は途方に暮れていた。
イオ
『騙されてたんだな…ランプも取られ、ここで死ぬのかな?はぁ…。』
アフィン
『おっと…失望するのは早いぜ‼︎ランプ登場!』
人形
『スゲーな!あの一瞬で盗ったのか?』
イオ
『魔法のランプって言うくらいだから明かりになる筈だ。なんだこれ?変なシミが…』
イオがランプを擦ると…ランプから光線が出て来て辺りはしっちゃかめっちゃか。煙がモクモクと出て来て…
?(cvヤン提督もどきのアークス)
『やーっと出て来たー‼︎ふぅ‼︎流石に一億二千年もランプ中にいたら肩こるは腰はあかんわ、いい事なしだね!あっちょっと待ってて?』
そう言うとランプから出て来た巨大なモノはイオは空中に吊るした。イオはポカンとしたまんまだ。

『アッソーレっと!(首を360度回す。)はいどうも、お待たせしました。お名前とご用件をどうぞ?』
イオ
『イオだ。』

『イオさん!どうもイオさん本日のゲストにようこそ!私は魔法のランプの精。お気軽にターニーとお呼び下さい。願い事を三回叶えてあげましょう。何せ貴女は私のご主人なのですから!』
アフィン
『なぁ、イオ。(ゴニョゴニョ)』
イオ
『そうだな。勿体無いもんな(ゴニョゴニョ)』
ターニー
『おっ!魔法の人形君じゃ無い⁉︎元気してた?』
イオ
『本当にランプの魔人?そうは見えないなぁ〜なんつうかアホっつかバカぽいし〜』
アフィン
『詐欺師みてぇ〜!』
ターニー
『ほう…そこまで言いますか?良いでしょう。見せてやりますよ!ランプの魔人の底力ァァァァァァ‼︎』
そう言うと一行は人形に乗ってあっという間に砂漠と岩を吹き飛ばして空の彼方に消えていった。そして砂漠の真ん中に着地した。ランプの精はドヤ顔。一人と一匹とはクラクラしていた。
ターニー
『どうですかこれが魔人の力!そして願い事は一個消費しました!』
イオ
『うん?お願いしてないよね?』
ターニー
『あっ…せやな…。では気を取り直して、願い事1個目〜聴いちゃう‼︎』
イオ
『もう一度、あのお姫様に逢いたい…ターニー俺を王子様にしてくれ!』
ターニー
『○塚風の?』
イオ
『普通の‼︎』
ターニー
『王子なら乗り物も必要だな…ウーダンさんを…ドーン‼︎』
アフィン
『うん?なにしやが…った…ウワアアアアア‼︎何だよこれ‼︎マルモス⁇』
暫くして…

王様(三代目クラリスクライス)
『一体何時になったら姫は婿を取るのだ?私は待ちきれなくてまた爆破しちゃったぞ』
家来(サラ)
『(何で私が家来なのよ〜)王様‼︎外に、外になんか、おかしな行列が!なんかディ○ニーのパレードか、ラスボスの電飾ロボみたいのが沢山来ました!』
王様
『ナ、ナンダッテー⁉︎』
マトイ姫
『お外が騒がしいわ…何かしら?』
街の大通りに行列が練り歩いていた。
ターニー
『イオ王子様の御なーりー!』
BGMにあば○ん○将軍を流しながらその行列は王宮に向かっていた。行列には巨大なヒヨコやらウサギみたいは生き物やらアイドルやら沢山連れて来ていた。
クーナ&ラッピー&リリーパ
(我々の扱い雑じゃ無いすか⁉︎)
そんな感じでお祭り騒ぎを起こしながら宮殿に着いたイオは早速、国王に謁見した。国王はポカンと何があったか分からんといった顔をしていた。するとそこにマトイ姫が入ってきた。
マトイ姫
『ああ、やっぱりあの人!』
マトイ姫はイオに走って行き、再会を喜ぶ二人を見て、もっと訳が分からなくなった国王は泣きそうな顔をしていた。二人が事情を説明すると国王は…
国王
『そうかそうか!よし式の用意‼︎サラ‼︎式の用意!式…式ってなんだ?』
家来
『ちょっと王様には早かったわね〜後で教えるからそっち行こうね〜?』
国王
『こら!子供扱いするな‼︎』
ターニー
『なんか早々にバレちゃったけど…結果オーライ!ハッピーエンドやね‼︎』
ルーサー
『何がハッピーエンドだコラー‼︎俺の姫とランプ取りやがって‼︎』
イオ
『うるせぇ‼︎このロリコン!こちとら死にかけたんじゃ‼︎ボケェ‼︎‼︎』
ルーサー
『ええい‼︎人間風情が‼︎死ねぇぇぇぇぇ‼︎‼︎』
すると宮殿の裏から、金色に輝く時計を抱えたフクロウの様な人形が出てきたのだ。
イオ
『な…なんだこれー‼︎ターニーふたつ目の願い事!俺たちを守って‼︎』
ターニー
『ハイハ〜イ!ヨッシャァ‼︎動くんじゃね鳥畜生‼︎動いたらこの改人形君スタ○ドが火を噴くぜ‼︎』
ルーサー
『………。』
ターニー
『………。』
ターニー
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼︎‼︎』
ルーサー
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄‼︎‼︎』
バキッ‼︎
ターニー→タクミ
『うん?』
ギィィィィィ…ドスン!(セットが壊れる音)
監督
『カーァット‼︎カットカット!何してんの⁉︎』
タクミ
『いやいや‼︎幾ら何でも低予算にも程があるでしょう‼︎もうあらすじとか飛びまくってたし!』
イオ
『つかこれ民間用のアークス、オラクル軍PVに使うんだよな?こんなんで良いのか本当に!』
魔法の人形→ゼノ
『つかなんでルーサー居るんだよ⁉︎出演陣からツッコミどころ満載だわ‼︎』
ルーサー
『いやちょっと最近ゲームでも出番無いし…ギャラが…』
タクミ
『クッソ生々しい話聞いちゃったよ!』
ウルク
『コラァ!ちょっと待ちなさいよ‼︎』
タクミ
『総司令⁉︎』
ウルク
『なんでアークスのPVなのに私達にお呼びがかかんないのよ‼︎こんな楽しそうな事秘密にして!』
監督
『いやだから予算が…』
マリア
『あたしゃなんか、ただの字幕だけじゃないのさ!』
ゼノ
『マリア姉さんどっから出てきたんだ?』
ドゥドゥ
『そう言えば私の主演映画はどうなったのかね?』
イオ
『そんなもん一生ねぇよ!どいつもこいつもムネ!ムネ‼︎ムネ!!!ムネ‼︎‼︎』
パティ
『私達これどころか上のだって出れてないんだけど‼︎どうゆうことよ!』
ティア
『ああとうとうパティちゃん気がついちゃったか〜喜んで良いのやら悪いのやら。』
タクミ
『お前らの出番は薄い本だけだよ!もうどいつもこいつも出番出番』
スクナヒメ以下地球キャラその他アークスキャラ諸々
『オドリャアー‼︎出番よこせー‼︎』
タクミ
『あっ!ちょwそんなに入ってきたら…あっ!』

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アークス民間用PV制作計画………凍結!(完)






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29話 大将と、傷跡と

新光暦239年11月10日…。この日…オラクル船団より出撃した第二銀河侵攻軍が全軍の帰投が完了した日である。

 

総兵力約2000万、総出撃主力艦隊数26、その他半個艦隊、小艦隊多数、参加艦艇(民間徴用も含む)200万隻。

 

内、戦闘可能将兵924万人、総死者数約1000万人残存主力艦隊数9(主力艦隊として機能する艦隊のみを計算)。

 

オラクル船団の歴史上で最大かつ最悪の敗戦であった。この膨大な死者は、大勢のオラクル国民の父、母、娘、息子、孫、友、恋人を奪った。

 

11月11日。オラクル内閣は、大変遺憾であるが無駄死にでは無いと発表した。そして、その翌日に追悼セレモニーを行うとも発表した。

 

追悼セレモニーの皮を被った、国民へのプロパガンダ、デモンストレーションをやると言ったのだ。タクミはあの後要塞には帰らず艦隊幕僚全員を自分の旗艦に集め、僅かな護衛を伴って故郷に帰還した。

 

セレモニーへの出席を通達された時、タクミは艦隊司令部のデスクで自分の艦隊が支払った犠牲によって生まれた多くの未亡人や孤児を助けるべく、知人がやっている財団へ援助を依頼していた。

 

タクミ・F 大将(schloss von gott要塞方面軍司令官兼schloss von gott要塞司令官)

『死者を弔う気があるんだか無いんだか分からん物に私に出ろと言うのですか?しかもあのマッケンジーの演説付きと言う大層ありがた迷惑なオマケ付きなのに!』

 

ルイ・フィリップ中将(schloss von gott要塞副司令官)

『給料のうちと思って諦めろ。死者を弔う事は必要だ。それにこの敗戦で国民は生きる気力でも無くしたみたいな落胆気味だ。薬が切れて、我に帰った虚しさを紛らわしたのさ。だからあの白アリの話を聞きたがる。』

 

タクミ

『亡くなった1000万将兵が望んでいるのは弔いの言葉なんかじゃ無くって食べ物と銃弾だった。それが何の意味を持たない戯言になってしまった。

民主主義の限界は見え隠れしだした時点で取り返しのつかない所まで行ってると思った方が良いとなんかで読んだ事あるが本当にごもっともだ。全く…。』

 

オラクル下士官

『大将閣下。お時間です。』

 

タクミ

『やだなぁ…大将って…。』

 

フィリップ

『なんだ?お前まであの噂を信じてるのか?くだらない。そんな迷信じみたもん良く信じられるな?』

 

オラクルは奇妙な歴史がある。第二帝政が崩壊後、第3民主主義体制は初期の数十年間は軍隊を保有していた。その中で奇妙な、実に奇妙な事が起こった。

 

大将に就任した人間は一年経たず戦死すると言うものだった。当初は噂に過ぎなかったのだが、次から次へと将校が死んでいったので大将は呪われた地位と言われるようになる。

 

何でもある時、アウグスト・シュヴァーベンの配下の大将が捨て駒にされた事で祖国を呪い続けているなんて話が出てきて、今ではほぼ定説になりつつある。

 

つまり大将から元帥に昇進した人間はこの第3民主主義体制内に存在していないのだ。(ネルソンの様な元帥になった者は10年近く中将の座に座りそこから特進している)フィリップはそれだったらお前がそうなれとこの青年に言ったのだが本人はこの調子。

 

セレモニー会場に着くと、二人は別れた。タクミはかの遠征で生き残った提督の一人として兵士たちより更に前の列に並んだ。

 

フィリップはその直ぐ後ろの幕僚達の列に並んだ。そこには、アースグリムとイオとマトイとサミュエルが待っていた。フィリップはサミュエルとアースグリムを見るなり、

 

フィリップ

『おい、お前達があいつに変な噂を教えたのか?』

 

アースグリム

『そんな⁉︎言い掛かりはよしてくださいよ先輩。』

 

サミュエル

『あいつ曰くパティ・ティア姉妹に聞いたって言ってました。お、あいつら昇進したんだ。中一級に並んでやがる』

 

フィリップ

『ハァ…(;´д`)(妻と息子と娘に早く会いたい)』

 

すると民間ブース、軍人ブースから盛大な拍手が送られ、送られた先にはオラクル内閣総理大臣ジョージ・マッケンジーが居た。彼はただ此方をみて佇んで居た。

 

アースグリム

『彼奴、待ってやがる。』

 

イオ

『えっ?何を?』

 

サミュエル

『彼奴は、皆んなが静かになるのを待ってるんだ。奴の計算さ。熱狂した人間は一気にエネルギーを消費するからな上手い一種の催眠効果を狙ってるのさ。演説の一流テクニックと言っても過言では無い。』

 

会場はだんだんその強大なエネルギーを使い果たしていき、騒ぐ者は誰一人いなくなった。

 

ジョージ・マッケンジー

『国民の皆さん。何故、何故我らがこうして無益な戦いをしているのか分かりますか…?』

 

一同はどよめき出した。無益な戦いとはなんぞや?だいじんは何をおっしゃっているのだと、口々に疑問を回しあった。やがてマッケンジーは口を開くと、

 

『最初はダーカーの脅威から我々人類を守る為の戦いだった。それが今では、ダーク・ヒューマンという得体のしれん人類の様なものとの戦いに発展した。

 

もはや何の意味すら見出せない泥沼の戦いに発展した。ではダーク・ヒューマンと手を取り、ダーカーと戦うのか?成る程さされば我々の元の戦う理由を取り戻すだろう。

 

だがそれは断じてない‼︎彼等は人間では無い‼︎ダーカーなのだ‼︎数ヶ月前我らの植民地惑星が襲撃され、奴らはそこで何をしたか?男は労働力にし、殺し、女子供は犯してから殺した!

 

死を免れた者も結局はダーカーの為の栄養源になるか慰み物になって結局は殺される!』

 

群衆は、そうだ!奴らは敵だ許しておけない!奴らを今度はこっちが同じ目に合わせてやる!奴等こそ悪だ‼︎と憎悪を剥き出しにしていた。

 

マッケンジー

『我らは自由主義者だ!平等と平和を望む共和主義者だ!奴らは支配と服従を望む!第二帝政の皇帝達と何ら変わらん悪魔なのだ!迷妄から醒めよ!奴らとは手を取れん‼︎

 

国民よ‼︎武器を取れ‼︎奴らの黒き血を持って田畑を染め上げ、我らの議会を全宇宙に造りあげよう‼︎‼︎』

 

オラクルのほぼ全ての人が憎悪による歓声と拍手をこの男に送った。そして口々に言ったのだ。彼こそ英雄‼︎彼こそ宇宙の良心と…そう思わない者達も居たのだが。

 

タクミ

『寒気がする…国家主義の独裁者と何ら変わらん。こんなのを国民が選ぶのか…。』

 

ガブリエル(第四艦隊司令官海軍少将→中将)

『もはや英雄とはこういう扇動者の事を言う言葉になってしまったのだとしたら何とも幸づらいもんだ。』

 

タクミ

『前線から離れれば離れるほど人間は好戦的になると言うが…な。』

 

ガブリエル

『もうその裏もあるぞ。マッケンジーは自衛隊の義務兵役三年間を全て後方で過ごしたんだ。いくら後方を志願しても、一度は戦場に立つのは義務付けられて居て拒否できる筈は無いのにな。恐らく賄賂でも使ったんだろう。』

 

タクミ

『奴は良いとこの出じゃないか。あり得るな。』

 

『大将殿、少しお静かに願いたい。』

 

タクミ

『申し訳ない。シュラー提督。以後気をつけます。』

 

シュラー提督(第九艦隊司令官海軍中将)

『総理大臣閣下がここを通られる。将校の品格を問われる事はやめて頂きたい。』

 

ガブリエル

(何処に対しての品格なんだか?本当は我らが総理大臣閣下への自分の評価が心配なんじゃないの?)

 

ジョージ・マッケンジーは将校の列を悠々と歩いてきた。そして次第にタクミ達の方に近づいてきていた。

 

シュラー

『ああ!大臣閣下が此方にいらっしゃる!近づきたい、何とか吉見を結びたいな。』

 

ガブリエル

(あんたの方がよっぽど品格落としていると思うぞオッサンよ〜)

 

しかし、シュラーには気の毒な事にマッケンジーが目を向けたのはタクミだった。

 

マッケンジー

『うん?君は、タクミ・F提督ではないかね?守護衛士の⁉︎そうだろう?』

 

タクミ

『は、はい。私がそうです。(なんでお前来るんだよー!こちとら見たくもなかったのに!同時に至る所から敵意に満ちた視線が刺さってきてんだけどーありがた迷惑過ぎるんですけどー‼︎)』

 

マッケンジー

『君に聞きたいことがあるんだがね?君においての最高の戦術とは何かね?』

 

タクミ

『まず常に敵の情報を集める事、次に敵より数倍の兵を常に用意し、敵と当たることです。良くて三倍、最良で六倍。六倍は敵と戦うにしろ、敵の伏兵から補給線を守るにしろ十分にこなすことが出来ますので。後は補給は完全にし、司令官の命令を誤りなく伝達することです。』

 

マッケンジー

『ろ、六倍かね?だが戦は数でするものではあるまい、一兵士、一指揮官の能力が優れていれば数など問題にはならないのでは無いかな?』

 

タクミ

『指揮官の優劣、兵の優劣は確かに重要なファクターです。ですが戦は数でするものではないと言うのはそれを用意出来なかった自己正当化に過ぎません。

 

もっと言えば、如何に精強な軍を戦地にやったとしても補給が無ければ、力を発揮出来なくなるどころかそれはもう、無駄に兵を死なせるただの愚行にry』

 

シュラー

『F提督‼︎大臣閣下に失礼では無いか!あっ、大臣閣下ご機嫌麗しく、私めは第九艦隊の司令官をやっておりますシュラーと申します。以後お見知り置きを。』

 

タクミの発言はこの場に居た多くの軍人とアークスと民衆が聞いていた。そしてタクミは多くの殺意に満ちた視線を感じていた。

 

将兵達の中にはタクミを見ながら腰のホルスターに手を掛けている者が居たが、その者たちを見て同じように腰のホルスターに手を当て、または抜き身の拳銃を背中に向けた第一、第四艦隊の将兵やアークス達が居たのだ。

 

この時より、タクミは歴史の表舞台に出てくるだけでは無く、マッケンジーとの水面下の政争の幕開けにもなったのである。

 

タクミは奇しくもアウグスト・シュヴァーベンと同じ境遇になった。彼を狙う者は国内外何処にでも居るという事になったのだから。

 

そしてその序曲に当たる事件が勃発する。

 

翌日、午前7時半。第一艦隊司令部の前に大量のマスコミと群衆が怒号を持って司令部を圧していた。事の発端は、第二銀河遠征のあの惨事は、要塞内からの出撃を拒んだ第一艦隊と司令官のタクミ・Fが敵に内通し、待ち伏せを誘ったと言う虚偽の事実がタレコミされたのだ。しかもそれはSMSにも流され、オラクル国民のほぼ全ての人々を敵に回す事になってしまったのだ。

 

タクミ

『これはなんの騒ぎか?説明してくれ、アリス少佐。』

 

アリス

『閣下が敵に内通したとタレコミがマスコミと民衆に広まって居るみたいで…。』

 

タクミ

『へぇ…そうなんだ、ウェ!(◎_◎;)』

 

タクミは我が副官を二度見した。アークスの中でも特殊な者達を集めた部隊の出身であったタクミはアリスの纏うフォトンに狂気の色が写って居るのを見て取った。

 

アリス

(閣下に対してのなんたら侮辱…マスコミめ…男は一人残らず○○○を○○○○○て鍋で煮てやる。女は○○○○○○○に乗せて○○○から引き裂いてやる!)

 

タクミ

(ヤバイよ、とんでも無い事考えてるよ…我が友の彼女ながら、美女の顔には似つかぬブラックなこと考えてるよ)

 

そしたら今度は隣でドンと言う音が聞こえたので見て見たらマトイがクラリッサを出して、物凄いフォトンを貯め始めていて、その度に杖で床を叩くのだった

タクミ前途多難な道に落とされたのだった。

 



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30話 進展と明かされる秘密…それを超え、獅子は建つ!

タクミは窓から群がる白アリ(マスコミ)を見て見て、やがて口を開いた。

 

タクミ

『記者会見の準備をしてくれ。洗いざらい吐いてやろうじゃないか。それが国民の望みらしい。』

 

イオ

『了解…記者会見の準備を…ハァァァァ⁉︎』

 

イオは驚きのあまり、自分がどうかしているのでは無いかと誰かに聴きたい衝動に駆られた。

 

サミュエル

『おい、お前今何つった?』

 

タクミ

『いや、記者会見をしてやろうとry』

 

イオ、マトイ、アリス、サミュエル、フィリップ

『ふざけてんのかゴラァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎!』

(五人から蹴りが飛んでくる。)

タクミ

『バブリシャス‼︎_:(´ཀ`」 ∠):(断末魔)』

 

五人からの強烈な蹴りを食らったこのバカ(若者)は何が起こったか全く分からんと言った顔をしていた。

 

イオ

『何考えてんだ!そんなことをしたら認めたと同じじゃ無いですか!貴方はそんな冤罪で歴史に売国奴として記録されたいのですか?』

 

タクミ

『待て待て待て待て!俺が本当にそう答えると思うか?』

 

フィリップ

『じゃあどうする気だったんだ?何処ぞの政治家みたいに会見中号泣して何をしているか分からん場でも作る気だったのか?』

 

タクミは閃いたとばかりに振り返り、フィリップを指差し、こう言った。

 

タクミ

『そう、それだ。』

 

暫くして記者会見会場の中は多くのマスコミでごった返した。皆、今か今かと待ちくたびれていた。

 

ニュースキャスター

『あっ来ました!売国行為を行ったタクミ・F大将が今、現れました。』

 

その頃、舞台の裏では第一艦隊の幕僚と護衛の憲兵が控えていた。

 

イオ

『ついさっきまで疑惑だったのにもうやったに変わってんじゃねぇか…。』

 

イオは苦々しくキャスターの報道を聞いて、軽蔑に溢れた視線を送っていた。因みにイオの後ろでは血に飢えた獣みたいに狂気を剥き出しているマトイとアリスをサミュエルとフィリップが食い止めていた。

 

フィリップ

『ステイステイ!マトイ様落ち着いて!お願いだから‼︎』

 

サミュエル

『今この二人を解き放ったら、美女が野獣になっちまう。会場が血の海になっちまう!』

 

ひな壇ではタクミが軍の正装でマイクの上に立っていた。

そして重い口を開いた。

 

タクミ

『え〜…この度、第二銀河遠征の際の売国行為について先ず釈明と謝罪を致しますがその前に…大変お待たせしてすいませんでした‼︎』

 

タクミが深々と頭を下げると大量のカメラからフラッシュをたかれ、暫くタクミはその姿勢を続けた。やがてフラッシュが収まってくると席に座り、静かに待った。

 

記者

『質問宜しいでしょうか?』

 

タクミ

『どうぞ。』

 

記者

『今回の売国行為疑惑について一言…』

 

タクミ

『うワァァァォァァァァンンンンン‼︎‼︎』

 

記者

『何で泣き出してんの⁉︎まだ何も聞いてないんですが‼︎』

 

タクミ

『私はぁ‼︎これでもね精一杯やったんです‼︎そしたらこんな感じになってて‼︎そりゃ皆さんもねあんな後ですから‼︎誰かに責任を押し付けたいんでしょうけどね‼︎

 

私は良かれと思ってやって!多くの将兵はついて来てくれて感謝の気持ちで一杯ぉぉぉぉううう‼︎大仕事の後の紅茶はこれまた格別でェェェぇぇ‼︎』

 

記者

『さっきから何言ってんのこの人⁉︎』

 

タクミ

『そして気がついたら金の亡者どもに目をつけられ!そうかと思ったら勝手に大将とかになってるしoに至っては女遊びやめちゃってるし!

 

でもね貴方に何がわかるんですか‼︎うちのoの何がわかるっていうんですか‼︎彼は、仕事のストレスで、毎日の女性兵士の情事の数が100から50に減っちゃって見るに堪えない姿になってるのに‼︎』

 

記者

『もう何の話か理解できないんだけど⁉︎寧ろ、良い方に傾いてない?』

 

タクミ

『ですから!私が伝えたいのは!こんな感じのォォォォォォォォォォ‼︎オオゥ‼︎………今、謝ったんで記者会見は終了しまーす。』

 

報道陣一同

『フザケンナ‼︎(一斉に椅子を投げる)』

 

然し、椅子はタクミに当たることは無く、ことごとく目の前で跳ね返った。

 

タクミ

『フハハハハハハ‼︎硬化テクタイトの複合ガラスだ!傷もつかんよ白アリ共ぉ‼︎』

 

?

『あっそう。』

 

突然現れた謎の人物はたった一発の拳骨で強化テクタイトガラスごと、タクミを思いっきりぶん殴った!

その威力はその他報道陣すらも吹き飛ばす程の威力を持っていた。

 

イオ

『あ、貴方はフレーゲル・ジャグホッド下院議員‼︎』

 

タクミ

『おっ!ジャグ久しぶり!何しに来たの?要塞のみんな元気でやってる?』

 

ジャグホッド

『ああ、そりゃもう…じゃなくって‼︎何だお前の今の茶番は‼︎これ全国放送なんだぞ!二番煎じの二番煎じって何だよ?意味わかんねぇよ‼︎』

 

タクミ

『イデデ、胸ぐら掴むなよ?いやだってこんなよく分からん戯言に付き合うのもバカらしいから盛大にふざけてやろうと思って…。』

 

ジャグホッド

『ほっとけば良いの‼︎ホントガキの頃からのアホさ加減は変わらんなお前は。国民の笑いもんだぞ大体お前は…』

 

タクミ

『本当にそう思ってんのなら説教やめてくんない?それこそ笑いもんじゃね?』

 

ジャグホッド

『とにかく、武田先生が話があるんだと、逃げるぞ!』

 

第一艦隊面々

『どうやって‼︎』

 

ジャグホッドは、懐から手榴弾を取り出した。そして軽く投げると…

 

ジャグホッド

『みんなサングラスか目を瞑って耳を塞げ‼︎』

 

フラッシュバンであった。眩い閃光と爆音で報道陣は呻きと悲鳴をあげていた。

 

ジャグホッド

『今の内だ。駐車場まで走れ!』

 

タクミ

『運転は任せたぞ!』

 

サミュエル

『おう!任せろ‼︎』

 

皆は大急ぎで駐車場に走り、その場から脱した。追っ手を振り切ったタクミ達は、首都の北側にある国土交通大臣武田大臣の邸宅に転がり込んだ。そこにはユ・カタ姿の武田大臣が腕を組んで待っていた。

 

タクミ

『お久しぶりです。武田先生。その節はどうも。』

 

武田

『何が久しぶりだ。全くお前は昔から…派手にやってくれて、全く。取り敢えずこい。マスコミはこっちで何とかする。話があるからな。』

 

完全に縮み込んだタクミを待っていたのは、ネルソン元帥と今回の責任を取り、辞任したセルゲイ退役元帥が待っていた。タクミは二人に敬礼すると二人も敬礼を返した。

 

武田

『先程の行為は大変愚かな行為である事は君も分かっているのだろう?まぁ、余りにも君には酷な事だと言うのも承知しているし、君を弁護する準備も出来ているからそれは置いておいて…ジェームズ頼む。』

 

ネルソン

『あい分かった。さて、タクミ。お前さん第3銀河の事は知っているな?第3銀河は…』

 

タクミ

『第3銀河。オラクルでは御伽噺の世界。異世界…異次元として伝わっているが…実態は第3銀河とここを繋ぐこちらからは通過困難な回廊の先にある銀河。異次元ではなくこの次元に確かに存在する銀河。オラクルの中で知る人は上の立場にある人間のみ。』

 

ネルソン

『そうか…そこまで分かってるのなら、オラキオやグラールも知っているな。早速本題だが、オラキオは王政国家なのは知っているな。』

 

タクミ

『はい、ここ最近に公開された情報では国王が病に倒れ、あまり良いとは言えぬ状況だとか。』

 

セルゲイ

『その国王がね、タクミ君。崩御なされた。つい四ヶ月前程出そうだ。』

 

武田

『そして王国は二分した。第一王子シュメルヒ、第二王子スレイマン。第一王子は嫡男となるのが普通だが、母親は妾の子、弟は王妃の子。

 

第一王子は武勇に優れたが人心を返さぬ政を行い、先王から危惧された。だが第二王子は武勇には劣るものの知恵と思いやりに溢れた子だった。先王は第二王子に至尊の冠を与えようとした。だが。』

 

ネルソン

『第一王子はそれに反発。国の殆どの軍勢を手中に収めた。第二王子は配下を連れ逃げることしか出来ず、グラールに保護を求めた。道中兵を集め、グラールの軍勢が加わったが戦力差はいかんとし難く、敗戦続き。』

 

セルゲイ

『グラール政府はこのままでは自国領まで脅かされると言う恐怖に襲われた。然し、友好を深めた先王の形見である王子を見捨てられず、シュヘルミは、はなからグラールも飲み込むつもりだったのか圧倒的な武力で迫った。』

 

ネルソン

『いや、結論から言ってやったほうが良かったの。全く年は取りたくない。つまり、グラール政府は我々に助けを求めた。オラクル政府、いやマッケンジーに。』

 

タクミ

『まさか出兵せよと⁉︎参戦義務のない事後同盟なのに?あれだけの敗戦の後に‼︎』

 

もはや世論はいや時代は、世界は!血を欲していた。もはやこの宇宙は滅びの道をひた走るが如く無数の命の消滅を望んでいたのだ。この若い英雄は絶望に陥ろうと…いや陥る間すらも与えようとはしなかった。

 

タクミ

『もはや…これまで…いえ、国民も血を望むのなら、国民に選ばれた政府の為なら、民主主義国家の軍人としての責務を果たします。』

 

ネルソン

『…貴官の第一艦隊総勢20,000と半個艦隊6合計80,000の戦闘艦艇と陸戦将兵80万分の輸送船団を伴い、第3銀河に迎え、なお、追加補充された第一艦隊10,000隻は要塞の守備に残してもらい、よって貴官の分艦隊司令官と及びその座乗艦は要塞に残す事。良いな。』

 

タクミは背筋をサッと正し、右手先にまで生気を感じさせる手つきで敬礼を、彼の中の人生で一番誇れる敬礼をし、こう答えた。

 

タクミ

『覇ッ‼︎』

 

ネルソン

『2日後の出征式典後、速やかに出撃せよ!…それとな…耳を貸せ。二つある先ず良い方から、故郷の屋敷へ皆を連れて行け、母君と姉君が待っている。父君に会ってこい。それと悪い方は…』

 

タクミはその悪い方を聞いた時、少し驚いた…と言うより予想こそしていたがと言う顔をして聞いていた。

 

タクミ

『我々は…大量の流血と犠牲で束の間の平和を得たのですね…なんと言う皮肉…。これが理由で出征するのなら我々はもはや救いようが無いですね…。』

 

ネルソン

『歴史とはそう言うものだ。第3銀河の航路はセルゲイが用意してくれた。これがこのジジイの得意分野だからの。』

 

セルゲイ

『私の贖罪は果たす事は出来ぬだろうが、地獄に行く前の執行猶予に良い事をしておきたくてな。目を通しておいてくれ。

 

諜報部の情報のみだから信用性はかかるが…使えると思う。それとな第3銀河の情報を伝えてきた諜報部員も追加される部員も君の手足になるようカスラ君が手配してくれた。先に潜入してる方は現地で連絡してくれ。』

 

タクミは感謝を述べ、三人に一礼すると、きびすを返して部屋を後にした。

 

タクミは外で待っていた幕僚達を自分の故郷に誘った。皆、戦の疲れを癒したくて仕方がなかったのでついて言った。途中、都市を散策していたガブリエルを見つけたので、第四艦隊の首脳部も連れ、アークスシップ710番艦アテナイへと向かった。そこはアークスシップの居住区の地下部分を除く全てが、草原と森林で広がっている農業シップであり、タクミの故郷でもあった。

 

その日の夕暮れ時に一行は着いた。タクミやフリードリヒは勿論。Fファミリーの連中は何度か来たことがあるので

普通にしていたがそれ以外の連中は空いた口が塞がらなかったのだ。目の前に眩い光を放つ大豪邸。まるで宮殿の如くアークスシップの中央に建っていた。

 

イオ

『センパイ…これ誰の家ってオシロ?キュウデン?』

 

タクミ

『…は?何言ってんの俺ん家だよ?』

 

イオ

『こんな大宮殿に住んでんすか?』

 

フリードリヒ

『こいつの家系は、古い地主でなこのアテナイが建造された時にこいつの酪農業全般を取り仕切ってたのさ。だからこんな豪邸を用意できる。』

 

?

『まぁ!誰かと思えばタクミ!貴方なのね‼︎』

 

タクミ

『姉上!』

 

イオ、マトイ

『姉上⁉︎』

 

イサラ

『姉のイサラと申します。皆様には大変弟が迷惑をお掛けして、申し訳無く…。』

 

イオ

『いえいえ!大将閣下…弟さんにはいつもお世話に!』

 

マトイ

『あれ?タクミはヒューマンなのにイサラさんはデューマンだね?ちょっとおかしく無い?』

 

タクミ

『ああ〜それは〜…サミュエル宜しく!』

 

サミュエル

『説明しよう。普通、ヒューマンとデューマンの間に子が出来たら、双方の遺伝子的な問題で、ヒューマンかデューマンに分かれるか、何万分の一の確率だが悪ければ子が出来ない。

 

双子も然りで、どっちか片方ずつでしか誕生しない…だが、子が出来ない何万分の1よりも遥かに超える何十万分の1の確率で片方がヒューマン、片方がデューマンで生まれる事もあるんだ。理由とかは未だ解明されてなくて、この国だけでも今はこの姉弟だけだ。両方生まれて来たのは、ミラクルな話だろ?』

 

?

『イサラ?どなたかしら?頼んでた運送屋の方?』

 

イサラ

『母上!タクミです!タクミが帰って来ました‼︎』

 

イザベル

『まぁ!何年も帰ってこなかったから心配したんですよ!まぁ大きくなって…。』

 

アリス

『お母様もずいぶんお若いですね。』

 

フリードリヒ

『こいつを生んだのは確か22だからな…電撃出来婚だった…本当に早かった。』

 

イザベル

『イサラ、皆様をお通しして。タクミ、それとフリードヒリはあの人に会って来なさい。』

 

フリードヒリ

『俺も行くのか?イザベル、俺はいいよ。』

 

イザベル

『あの人の友達は貴方くらいしか残ってないんだから行かなきゃダメです。』

 

フリードヒリ

『とほほ…はい。』

 

タクミとフリードヒリは皆と別れると、日の沈みかけた森の中に入っていった。暫くすると、ひらけた広場に出た。そこには龍族の剣と騎兵刀で出来た十字の墓があった。

 

タクミ

『父上…今戻りました。家を出たのは15の時。あれから七年の月日が経ちました。貴方が予想した通り、我が祖国はより激しい戦いに身を投じましたよ。』

 

フリードヒリはタクミがいくつかの言葉を物言わぬ墓碑に向けていたのをただ見守っていた。 フリードヒリはタクミが自分の友人…つまりタクミの父の生き写しのように感じていた。彼は葉巻に火をつけると誰にも聞かれぬ大きさで呟いた。

 

フリードヒリ

『お前たち親子は…本当に何処まで似てるんだが…』

 

その頃、マトイたちは屋敷に通され、屋敷の外の露天風呂に入っていた。

 

アリス

『もう益々、閣下の素性が分かんなくなって来たわね。』

 

イオ

『お金持ちの域…超えちゃってるもんね。』

 

マトイ

『いい湯……(*´ω`*)』

 

アリス・イオ

『ホント…(*´ω`*)』

 

イオ

『マトイさん胸おっきくなってない…』

 

マトイ

『そ、そんな事ないよ(汗)アリスさんの方がおっきいよ。』

 

イオ

『どうやったらそんな大っきくなるんだよ…(涙)』

 

アリス

『グフフ…(^p^)こうするんだよ!』

 

アリスはイオのまだ未発達…されど有望な乳房に手をやり揉みしだき始めた。

 

イオ

『キャ⁉︎何スンダヨ⁉︎:(;゙゚'ω゚'):』

 

イオは普段の男勝りな口調を感じさせない実に乙女らしい悲鳴をあげた。更にマトイも気を治められなくなり、

 

マトイ

『フフw私も!エイ‼︎』

 

イオ

『ソンナニ…触るなよ…変な気持ち…ニ…///』

 

ロッティ

『何やってんだろ…。』

 

そんな楽園の如く広がる光景を隣の男湯から見る無粋な輩がいた…。

 

ガブリエル

『おい桃源郷が広がってるぞ…。』

 

アースグリム

『それぞれの良さがあって良いな…。』

 

サミュエル

『ああ‼︎くそ!この壁さえ無ければ…』

 

リベリオ

『提督方…。』

 

マトイ

『………。それ。』

 

マトイは少し手を動かすと男湯で眩い閃光が走り、数人の男達の悲鳴が走った。

 

ロッティ

『な、何ですか今の⁉︎:(;゙゚'ω゚'):』

 

マトイ

『向こうの人たちが転んだんじゃない?』

 

因みに、その様子をまた少し離れたところから見ていた師弟が居たのだが、そちらも似たような末路を辿った。

 

消し炭を落としたタクミが、広間に入ると、沢山の人でごった返していた。そこには六芒均衡とウルク総司令とテオドール、ゼノ、エコー、リサ、マールー、オーザ、その他諸々の人々がいた。

 

タクミ

『こんなに呼んだだっけ?』

 

そこに、幼い娘を抱いて歩いてるフィリップが居たのでタクミは事の顛末を聞くと、彼曰く。

 

フィリップ

『本当はそれぞれ別の所でやるつもりだったんだがこの大人数ではどうしようもなくてな、そこでかなりのスペースが取れて、

 

気概なく使えるとなったらお前のとこしか無かったのさ。ネルソン爺さんから聴いてるだろう?』

 

タクミは無言で首を左右に大きく振った。ふとフィリップが指を指したので指した方を見てみると、焼き鳥とビールで上機嫌なネルソンが居た。ネルソンはタクミを見ると手を合わせて、老人には似つかぬ早足でその場を後にした。

 

タクミ

『まぁ、みんな楽しんでるから良いけど…なんか、複雑…。バルコニーに居るわ。』

 

フィリップ

『あ、ああ。』

 

マトイはバルコニーの方へ遠ざかっていくタクミを見ていた。マトイは撤退戦の頃からの違和感を払拭出来ていなかった。マトイは後を追い掛けた。

 

マトイ

『何をしてるの?』

 

タクミ

『酔い覚まし。さっきオーザとゼノ先輩とアフィンと一緒に高い酒飲んで、クラクラしぱなしなんだ。』

 

マトイ

『ねぇ…隠してる事とか無い?この前から変だよ?ここに帰って来てからもっと変。』

 

タクミ

『何も隠してない。飲み過ぎただけさ。』

 

マトイ

『でもタクミ!』

 

タクミ

『今は‼︎………一人にさせてくれ。すまない頭を冷ましてくるよ。マトイも楽しんでね。』

 

タクミは力無く屋敷の奥に歩いて行った。

 

マトイはただそこに立ち竦むしか無かった。

私は、ただ力になりたい…ただそれだけなのに。あの人はどんどん遠くへ行ってしまう。私を置いて行ってしまう。

自然とマトイの瞼は熱くなって行った。

 

フリードヒリ

『あまり、あいつを責めないでやってくれ。』

 

声のする方を振り返るとそこにはグラス片手にフリードヒリが立っていた。フリードヒリは片手を顎にやり少し考えてまた口を開いた。

 

フリードヒリ

『マトイちゃんになら話して良いだろう。あいつは今な大事な決断をしなきゃならん年頃になっちまったんだ。事と場合によれば、この国を、世界を敵に回すかも知れない。

 

あいつは情けない話だが、それで頭が一杯になっちまったんだ。女を泣かせるなとあれだけ言ったんだがな。…俺たちはあいつに残酷な運命を押し付けちまった。

 

俺から頼むのは少し変な気もするが頼む。あいつの力になってやってくれないか。あいつが道を踏み外さないように導いてやってくれ。』

 

マトイは少し目を拭うと、小さく、しかし力強く頷いた。

その目には決意があった。

するとフリードヒリは、グラスに入った赤ワインと親指程の小瓶から何かを取り出し、赤ワインに入れるとマトイに差し出した。

 

フリードヒリ

『ま、湿ったれた話は終わりだ。飲んで元気出そうや!』

 

マトイ

『はい。頂きます!』

 

マトイは勢いよくグッと飲んだ。すると身体が熱くなった。視界も少しトロンとしている。

 

するとフリードヒリはマトイを支えると、酒の勢いに任せて大騒ぎする連中から出してやった。

 

フリードヒリ

『こっちが部屋だからな?ちゃんと鍵掛けろよ?』

 

マトイはふわふわした返事をして、ふわふわした足取りで部屋に歩いていった。

フリードヒリは申し訳なさそうな表情で見送った。

(こんなやり方は好かんが…だがもうそろそろ素直になっても良い頃だ。男になれ!青年(タクミ)‼︎)

 

その頃、タクミは自室で礼服の上着を脱ぎ、シャツとズボンの姿でベットに転がっていた。靴と靴下も脱がずにである。この男は大抵こんな感じで余暇を過ごす。

 

然し、彼の目の前には天井ではなく、第3銀河が写っていた。そして大小の艦隊が自分の艦隊を止めに襲いかかってきたり、あるいは何処かの星を効率よく制圧すべく、その地表を焼き払い、兵を進撃させ、敵の陸軍を潰走させる為の方法を考えていた。

 

そして自分が勝てばそのまま駒を進めて、負ければ消して考え直すという作業を繰り返した。

 

タクミ

『はぁ…。さて、考えれば考えるほど面倒くさい事になった。やはり敵中枢突破。それしか無いな。時間は掛けられない。他は後続部隊に任せて飢え死にさせれば良いか。(いや、その事も大事だが…今の自分とオサラバするのもなんか気が進まない。

 

もし私が本当の自分を言ってしまえば、旧体制の栄光や特権を復活させたい、それを手にしたいと思う輩に利用されかねないし、今や私は国家の守り手にして国民の敵になった。自ら墓穴を掘るようなものだが…。)』

 

物思いに耽っていると戸口が空き、マトイが入ってきた。タクミは驚いて飛び起きた。さっきの事もある。怒ってるかも知れない。タクミは慎重に言葉を掛けた。

 

タクミ

『マ、マトイ。どうやってこの部屋に?えっ〜と…さっきはごめん。ちょっと酔ってたのかも知れないけどさ、もう大丈夫だから、さ。ハハハ…。』

 

然し、マトイは黙ってそこに立っている。しかも、少し左右に揺れていた。タクミはむしろ恐怖を感じていた。

 

タクミ

『マトイ…さん?様?あの、もしも〜し?ダイジョウ…ブ??オ〜…イ⁉︎』

 

マトイは顔をあげた。すると顔は真っ赤に赤く、体からはとても強い酒の匂いがしていた。そして彼女の表情は大変上機嫌で、口元も緩みまくっていて、おまけにドレスも少しはだけていて胸元や肩が少し見えていた。

 

マトイ

『デヘヘ〜。タクミ〜。横になりなよ〜。』

 

タクミはマトイに押し倒された。鼻には強烈な刺激臭が奥を刺激する一方で実に甘美な香りが漂っていた。タクミはこの強烈な酒の匂いを知っていた。

 

タクミ

『この強烈な酔いっぷり。フォトンのアルコール分解を振り切ることの出来る強い酒は一つしかない。新光歴90年物…悪魔のワイン!バタリード・イヴ(ろくでなしの酔っ払い)‼︎うちの家の中で一番強い酒…秘蔵の酒。』

 

タクミは酒の匂いこそ直ぐに当てたものの、このもう一つの香りは分からなかった。然し、その甘い香りに自我を囚われそうになっていた。

 

然し、そんなタクミを他所に、マトイはタクミを押し倒して更にそこに馬乗りになった。

 

マトイ

『ウフフ、ウヘヘ〜wwwタクミ〜。私暑くなっちゃった〜♡良い事シヨ〜?』

 

タクミはマトイに押され気味になり、その甘い香りで自我を失い掛けた…がマトイが自分のシャツに手を掛け、ボタンを外して、胸元が完全に見える所まで外していた。

 

このままでは不味い。タクミは平手を作るとマトイの頬を叩いた。彼女の頬は赤く腫れた。

 

タクミ

『なにしてるんだよ…。こんな…。』

 

マトイは我に帰ると、暗い影を落とし、重い口を開いた。

 

マトイ

『ごめんね。私もどうしたら良いのか…良かったのか分からないんだ…でも…。』

 

マトイの目から大粒の涙が流れていた。透き通った涙だった。それを絶えず流している。

 

マトイ

『好きな人が困ってるのに、悩んでいるのに!それを助けてやれないなんて嫌だよ!貴方が離れていくみたいで私は嫌だよ…‼︎』

 

マトイの言葉に押されたタクミは拍子が抜けてしまっており、もはやこのまま黙るしかなかった。

 

マトイ

『だってタクミ…此処まで帰ってくるまで態度がおかしかったもの‼︎貴方はまるで思い出したくない物を思い出した。自分の存在そのものが許せなくなったみたいになっていた。私には分かる!貴方のフォトンが教えてくれた。』

 

タクミ

『私の…俺のフォトン?』

 

マトイはタクミの上半身を起こすとそのまま抱擁した。抱擁されたタクミは耳まで赤くなった。この青年は己の師匠とは打って変わって全くこういう経験が無かったのだ。

 

マトイ

『私は貴方が誰であろうと、どんな事をしようと、どんな決断をしようと、何を隠していようと私は貴方を信じてる!だから私をみんなを信じて。もう…一人で悩まないで…。』

 

マトイの言葉に胸を打たれた。タクミは自らの行いを恥じた。自分の周りにはこうして自分を心配してくれる人がいるのに、それを避け、自らの問題を誰にも出さず、心と口を閉ざした事を恥じた。その一方。

 

マトイは自分が何をしているのか、何をしていたのかが分からなくなった。マトイはもっと顔を赤くした。目の前には胸元がほぼ露わになったタクミがおり、その腰に乗っている。そして訳も分からず自分は涙を流している。

 

気の毒に、マトイは此処に来て、酔いと、フリードリヒに渡された小瓶…惚れ薬が切れてしまったのだ。

マトイは項垂れているタクミを見てバツが悪くなりマトイは無言で床に立ち、ベットから離れようとした。

 

しかし、マトイの手はタクミの若い手に掴まれた。その顔にはさっきのマトイ程まで行かずとも、その顔は涙に濡れていた。

 

タクミ

『マトイ…その一人にしないでくれないか?一緒に居て欲しいんだ。ダメ…かな?』

 

マトイはその一言で頭が真っ白になった。そのまま手を引かれるまま、マトイはタクミに寄り添い、二人は体を密着させた。そして部屋の明かりを消した。

 

部屋の明かりが消えるのをフリードリヒは屋敷の外で見守っていた。そして空にグラスを掲げ、中の物を一気に飲み干した。

 

フリードリヒ

『やっとくっついたか。下らん老爺心を沸かせるものじゃ無いと思ってたが帰って良かったかも知れんな。』

 

この時、フリードリヒの独り言を聞いている者が居た。イオだった。フリードリヒの言葉の意味を知ったイオはただ静かに佇んで居た。

 

翌日、タクミは目が覚めた。かなり飲んだ筈だが、不思議と頭に痛みは無かった。そしてまだ体全体が暖かな温もりを感じて居た。

 

昨日の事を幾らか覚えていたこの青年は、変な罪悪感に襲われた。どうせ酔ってたからろくな誘い方をしなかったのだろう…最悪切腹しようとも、考え始めた。

 

すると二人分の紅茶を持ってマトイが現れた。格好はシャツ一枚。それ以外何も着ていなかった。タクミはとうとう自分の行いに確証を持った。

 

マトイ

『おはよう、よく眠ってたね///』

 

タクミ

『う、うん…。僕なんか…しました?』

 

マトイ

『初めてを貰っていきましたwその代わり可愛い寝顔を見させて貰いましたけど///』

 

タクミはベットから出た。幸い全裸ではなく、ズボンは履いていた。そして深々と土下座した。

 

タクミ

『ゴメン‼︎こんな事、君は望んで無かったと思う!だけど私が不甲斐ないばっかりに!男として誠心誠意責任は果たす…』

 

タクミが言いかけた所にマトイの柔らかい唇がタクミの唇に当たった。その薄いピンク色の肉が当たり、タクミは自分が何を話すつもりだったのか忘れてしまった。

 

マトイ

『これが答え。約束して、困ったら何があっても私を頼るって。もう私は貴方のもの。絶対離れないから。』

 

タクミ

『チームのみんなが目覚めたら、殺されそうだ。…約束する…頼らせて欲しい。そして守る。何があっても。話そう。俺が何者であるかを。』

 

タクミはマトイに洗いざらい話した。自分の本当の名前。自分の家。背負う過去、責任。全て話した。

 

マトイ

『長い名前だね。まぁそういう事なら仕方ないのかも。』

 

タクミ

『俺の代が宿命の代。自らの血に従って、全てを欺いてでもこの国を守らないといけない。その為にはこの名前も必要かも知れない。』

 

するとノックが掛かったので、二人は大慌てで服を着たが間に合わず、二人揃って中途半端になった。しかも、よりによって入って来たのはイオだった。イオは奇妙な光景を見た。

 

タクミに至ってはボタンが掛け間違えてて、首や胸元がチラホラ見えている。マトイは上の下着と下の下着がそれぞれ衣服から少しはみ出す始末だった。

 

イオ

『…出直します。』

 

タクミ・マトイ

『待って待って‼︎そんな憐れんだ目で見ないで⁉︎お願い‼︎Σ(゚д゚lll)』

 

イオから受け取った羊皮紙を見ると、出兵式の日程に不備があり、今日の正午の間違いだったとネルソンが直筆で書いてあった。然し、達筆な老元帥の字にしては字が違う感じになっていた。

 

イオ曰く、昨日の酔いに任せて書いたからこんな字になったという。そして皆、実は早めに帰った事を知った。

 

タクミ

『嘘だろ⁉︎あんな大騒ぎしてたのに!数百人近くバカ騒ぎしてたのに⁉︎それが帰った?全く気がつかなかった。』

 

気がつくわけもなかった。実はこの時の為に壁や窓に防音加工を施しており、宴会の喧騒を録音して違和感無く流しておきておき、そして本物の宴会は早めにおひらきになっていた。

 

これはフリードリヒをはじめとした人々が手を回しておいたお陰で出来た事であった。つまり、数百人のアークスと軍の高官がみんなグルでキューピッドになったのだ。何もかも出来ていたのだ。

 

然し、やはり大いに飲んだ事は間違い無かったので、式典に参加した者は二日酔いの中立っているので、屍が群れをなして立っている光景が広がったという。

 

正午には首都艦フェオに戻らなければならない。タクミとマトイは軍の礼装に着替え、イサラとイザベルに別れを告げるとフェオに向かった。

 

船団間移動シャトルのポートに第1艦隊分艦隊司令官アースグリム少将とポツダム連隊…ではもう無く。ポツダム師団二代目師団長カール准将(特殊師団なので准将が指揮を執る。総兵力10万。オラクルの通常の師団が20万なのでその規模は半個師団であるが師団である。ちなみに旅団は80万〜90万)首席幕僚シュミット大佐が、待っていた。

 

アースグリム

『おはようございます。先輩。式までの道中、私達三人で護衛します!』

 

カール

『どんな暗殺者や手練れの殺し屋、それどころか一個師団が襲いかかってきても!』

 

シュミット

『我々の大剣で守ってみせます!フリードリヒ閣下の元で鍛えられた我々にかかればお茶の子さいさいです‼︎』

 

イオ

『とか言ってたらなんかたくさん来ましたよ⁉︎』

 

すると沢山の民間人がタクミ達目掛けて走って来た。

三人はタクミ達の前に立ち塞がる。然し、護衛をする必要は無かった。民間人達は、口々にこう言った。

 

『軍神!』『我らが英雄!』『我らの守り神!』

 

オラクルの中にはまだこの青年を英雄と慕ってくれる人々が大勢いたのだ。本人からしてみれば、英雄と大量殺戮者は同義なのでなんとも言えない気持ちになるが有難いと思う一面もあった。

 

この青年は、死ぬその時まで、この隣にいる銀髪の美少女と愛すべき祖国の人々が心の拠り所であったと言われている。

 

すると一人の少年が母親に背中を支えられながら出てきた。その手にはペンとボードだ。

 

少年

『Nous aimons l'Amiral(我等が提督)!どうかサインを下さい‼︎閣下お願いします‼︎』

 

タクミ

『うん。名前を教えてくれるかな?』

 

エルヴィン・シュタイナー

『エルヴィン・シュタイナーであります!Nous aimons l'Amiral‼︎』

 

タクミ

『エルヴィン・シュタイナーに愛と真心、そして散っていた戦士達の加護を込めてっと。はい、良いよ。』

 

エルヴィン・シュタイナー

『僕、閣下のような英雄になりたいんです‼︎どうなったらなれますか!』

 

母親

『こ、こらエルヴィン!すいません閣下!この子、あの内乱の時に貴方を見かけて、それ以来。』

 

タクミ

『エルヴィン、よく聞くんだよ?英雄とはなれるものじゃないんだ。人々に認められてなるものなんだ。そして沢山の人をその手に掛けなければならない。そして君は私の様にはなれない。

 

君はエルヴィン・シュタイナーという一人の人間なんだ。君が僕の様になったらエルヴィン・シュタイナーは何処に消えたとなってしまう。でももし英雄になりたいと思うのなら、お母さんを、家族を、友達を守ってやれる強い人間になるんだ。それが出来て君は英雄になれる。英雄エルヴィン・シュタイナーとして!』

 

タクミは礼服のポケットから軍用ベレー帽を取り出した。それは第1銀河への撤退戦の時まで被っていたものであった。彼はそれをエルヴィンに被せ、与えてやった。

 

タクミ

『お母さん。カメラはありますか?この子と未来の英雄と写真を撮りたいのです。』

 

母親の手で二人の写真は撮られた。青年は少年を抱き、片手で少年の手を握り、力強く映った。

 

六人は沢山の民間人に見送られながら、車に乗り、式典に向かった。車内でアースグリムはタクミにニヤニヤとしながら話し掛けた。

 

アースグリム

『驚きましたよ。貴方にそんな一面があるなんてwそう言うマスコミが喜びそうな宣伝材料を作るなんてしないと思ってたのに。』

 

タクミ

『子供には弱いんだ。それにあの子は優しい子だとフォトンが教えてくれたんだ。その純粋さを失わないようにって思ったのさ。』

 

他の四人もクスクス笑っていた。そんな話をしていると、車は式典会場に着いた。カールとシュミットはいち早く降りると式典の為、配置に着くと言い、車から出た。

 

タクミが車を降りるとルイ・フィリップ、サミュエル・ジャクソン、ガブリエル・G・アレンスキー、シャオメイ,ミン四中将が待っていた。

 

更にこの後ろにグリッドマン、ヒューズ両少将、フレーゲル・ジャグホッド下院議員、六芒均衡の一人にして、諜報部司令官カスラ、次席司令官にしてオラクルの歌姫クーナ、教練部次席司令官にして六芒均衡の内の一人ゼノ、その相棒エコー、戦闘部司令官にして六芒均衡の一人ヒューイ、次席司令官三代目クラリスクライスが待っていた。

 

それぞれに敬礼するとタクミは彼らの先頭に立ち、歩き始めた。両側をカスラ、ヒューイが固め、直ぐ後ろをゼノとサミュエル。その後ろから今行った人々の他に今回の遠征で配下につく、中小艦隊の司令官、陸軍各師団長が着いてきた。

 

すると式典の閲兵式の先頭を行く騎兵を統率するジャン・ピエール・プレシ中将が居た。ジャン・ピエールはタクミを見ると馬を降りようとしたが、タクミはそのままと合図を出し、それに従った老騎兵軍団長は会釈を送りタクミもそれを返した。

 

閲兵式に参加する者達と、別れタクミは来賓席の方に向かった。目指す先にジョージ・マッケンジーが居た。その周りを彼の派閥に参加する政治家や軍人が固めて居た。

 

タクミを見ると憎らしい口調でシュラー提督が話しかけてきた。

 

シュラー

『お早いお着きで、大将閣下には予定の時間に着けば良いと思っているらしい。マナーは我関せずだそうだ。』

 

彼の周りにいた軍高官と政治家は皆笑った。然し、タクミは見向きもせず、マッケンジーの隣に来た。

 

マッケンジー

『良かった。無事に着いたみたいで、遅れるのかとヒヤヒヤしたよ。どうやら空港で時間を潰していたみたいの様だね?』

 

タクミ

『前途有望な若者を見つけ、それを激励する事、いかなる物事にも優りますゆえ、そう例えば、兵を無益に死地に送り込む事よりもね。』

 

タクミは一瞥すると席に座った。その隣にはフリードリヒが退屈そうに座っていた。そしてこの不良師匠にこう呟いた。敵が多くて、敵わん。

 

この様子を後に著名な歴史学者になる、アレクサンドル・D・ブラウンが同席しており、このやり取りをこう表現した

『一つの国家に二人の国家元首がいる様だった。』

 

先ず式典は閲兵式から始まった。ジャン・ピエールに統率された式典に参加する代表の騎兵数百、半数が胸甲騎兵、残り半数がカービンを携えた軽騎兵。銃剣をアサルトライフルに着剣した歩兵二千。槍と盾、斧と盾、大砲と盾をそれぞれ持った全身が赤く染まった装甲擲弾兵200。砲兵200。走行車両、戦車5輌、装甲車5輌、自走砲3輌。

補給部隊、トラック数輌、補給兵250が行進した。

 

彼らは来賓席を通るたびに敬礼を送り、騎兵と装甲擲弾兵に至ってはマッケンジーに敬礼をした後、もう一度、しかもさっきよりもより丁寧にタクミに向かって再敬礼する程であった。

 

その後、マッケンジーが演説を行った。鑑賞に訪れた国民からの歓声に包まれながら演説した。要約すると、第三銀河の同盟国について話し、それは同じ共和体制の国であり、それを悪しき専制君主の国家が脅かそうとしており、負ければ、彼らだけでなく我らも夫は労働力として死ぬまで働かせられ、女子供は敵に孕ませられやはり殺される。悪しき専制君主の奴隷になることは屈辱であり許してはならない、よって戦おうという内容だった。

 

勿論、国民は憎悪一色になった。マッケンジーは満足そうな顔をして、席に戻った。次にタクミが演説する番になった。原稿用紙を見ながらひな壇に登るタクミに向けられた国民からの声はその殆どが罵声であった。国民からの歓声はチラホラ聞く程度でしかなかったが、彼にはどうでも良いことであり、むしろ歓声しか聞こえなかった。

 

マッケンジーが演説している時はただ黙っていた閲兵式に出た将兵達が雄叫びと歓声をあげたから。その気迫にやがて罵声を送る国民は押され、静かになった。

 

タクミはゆっくり口を開いた。

 

タクミ

『新愛すべき兵士諸君、並びに国民の皆様。お騒がせしております。タクミ・F大将であります。此度の出征につきまして、司令官に任ぜられたのは皆様のお陰である事を胸に精一杯戦って参ります。

 

国民の皆様はどうかご自分のご家族が無事に帰ってくることだけ祈っていてください。国家が永らえても、貴方の隣に愛すべき家族が居なければ意味がありません。

 

この世に、名誉の死、犠牲はありません。あるのは生か、無駄死にか、無駄ではないが最悪な死しかありません。結局死ねば終わり、国家の主人たる我々が死に、国家が生き長らえるという逆転現象は起こしてはならないという事を国民の皆様にはご理解いただきたい。

 

私は後世に残したい!今日まで戦って死んだ者は国家のためでは無く、自分の信じるものの為に戦って死んだと!後世に誇れる国を残したい。人命を軽んじる民主国家など残したくない!だから私、タクミ・F…いや私は本当の名前でここに宣言する‼︎』

 

国民は一気にどよめいた。更に来賓席や中継を見ていた政治家や軍高官、アークス高官は、特にマッケンジーは死ぬ程青い顔をした。彼らにとって、オラクル民主共和体制にとって二度と口にされてはならない一族…それは…。

第二次オラクル帝政を作り上げ、今のオラクルの基礎を作り上げ、この第一銀河に君臨する大国家を作り上げた者達

 

タクミ→タジム・クブァシルヒ・ミシェル(M)・フェデル

『第2帝政フェデル王朝初代皇帝アーサー・フェデル大帝、フェデル王朝第四代皇帝ムスタファ・フェデル皇帝の子孫!タジム・クブァシルヒ・M・フェデルとして、一人のオラクル共和国国民として、自由民主主義者として、オラクル共和国数十万将兵の命!責任を持ってお預かりして、ここに戻ると‼︎』

 

歓喜、恐怖、驚愕の悲鳴が船団に住まう450億の人々があげた。滅びた、滅亡したとされた恐怖によってオラクルを支配した宇宙の侵略者フェデル王朝の一族がオラクルに生きていた。それは歴史が変わった瞬間でもあった。

 

恐怖政治をしいたフェデル王朝…しかしフェデル王朝は一つでは無い。少し解説すると、

 

四代までは確かに名君アーサー大帝の子孫であった。(四代に渡って暗君無しと謳われる)然し5代目は三代に渡り残虐政治を極めた分家のカストロプ家に家督を奪われ、皇帝ムスタファの子孫達は蟄居し、二度と表舞台に出ることはなかった。(流石に初代皇帝の血筋なので滅亡させるわけにはいかなかった。)

 

第2帝政崩壊後の第三民主共和体制は成立直後は大変な混乱状態に陥っていた。やがて国民の有識者達は、アーサー大帝の子孫達が生き残っていることを唱え、彼らを再び玉座に座らせようとした。第三民主共和体制の要人達は体制の確保の為、有識者の粛清を行い、更にこの当時生きていた大帝アーサーの一族も悉く殺害しようとした。

 

しかしこれは第三民主共和体制の要人達の一部の反対や、マザーシップ・シオンの反対を受け、一族抹殺は叶わなかった。然し、要人達は強引に決行、事故や猟奇的殺人に見せかけ一族郎党全員を抹殺した。

 

…かに見えたが、シオンに要請により当時のアークス達によって一人の若い美しい女性だけはこの惨たらしい事態から逃れ、そしてその腹には男児がいた。この妊婦はアークスとシオンによる強力な圧力のお陰で第三民主共和体制を生きることが出来たが第三民主共和体制はフェデルの血の抹消を諦めておらず妥協案としてホームネームを名乗らないという条件をつけた。

 

そして生まれたのがF家である。

 

シオンの保護と第三民主共和体制の監視下に置かれ、未だ生き永らえていたフェデルの末裔それこそがタクミ、タジム・クブァシルヒ・M・フェデルであった。

 

さて式場は大混乱である。軍神と讃えられるフェデルの末裔に涙を流す将兵達、専制君主国家再建を夢見る王政主義者、悪魔が降臨したと恐怖に陥る熱狂的民主主義者然し、この混乱は長くは続かなかった。

 

レギアス

『静まれぇ‼︎』

 

レギアスの一喝が式場を首都艦フェオをオラクル船団を跳んだ。誰も言葉を発することは出来ない。

 

レギアス

『首相殿、大将の演説も終わったようだ。兵士たちは明日出征するから早く休ませてやりたいのだが?』

 

マッケンジー

『あ、ああ了解した。』

 

レギアス

『今まで通りタクミで良いのか?』

 

タクミ

『は、はい。私もその方が落ち着きます。』

 

レギアス

『うむ、では戦果を期待する。無事に帰ってくるように。分かったな?大将?』

 

タクミ

『はっ!』

 

新光歴239年11月、オラクルは新たな局面を迎えようとしていた。そしてもう一方の銀河でも新たな局面を迎えていた。宇宙は未だ戦火の絶えない地獄のままであった。

 

 

 

 

 

 

 



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30.5話 現状の補足説明 フェデル王朝

オラクル共和国補足説明

 

第二次帝政 フェデル王朝とは?

 

第二次帝政フェデル王朝は第二次民主共和体制末期に発生した政治混乱によって生まれた王朝。

 

始祖、アーサー・ヤコブノフ・フェデルはこの当時、有能なアークス師団に所属する中隊長だった。この当時のオラクルは第一次帝政以来の、多額の負債、更に第二次民主共和体制の求心力の低下に基づいての地方反乱や騒動、おまけにダーカーの大規模侵攻にその植民地惑星も全て占領される程の衰退を見せており、国民も飢えて死ぬのが先か、ダーカーに殺されるのが先かという状態になっていた。

 

当初、アークスは現政府に反対する革命派(共和政府打倒派)の粛清、鎮圧を行なっており、アーサーもそれに従事していたが、マザーシップ・シオンは暴虐の限りを尽くす現政府を見限り、革命派の支援をアークスに指示。アーサーも昨日まで地鳴らしをしていた相手と今度は一緒に戦い、逆に守るはずだった存在を踏み潰す事になった。

 

かくして、第二次民主共和体制は打倒されたが、今度は、革命派内の共産主義派と王政派が分裂、武力衝突に至る。アーサーは国家再建の為には共産主義のやり方では不可能と判断し、王政派に移る。

 

この革命派の分裂は当時の船団の人口の約半分が死傷したと記錄されている(然し、詳細資料が殆ど残ってないので実際の数は不明)。

 

アーサーはこの時期より、頭角を現し始め、穏和な人柄とは裏腹に鬼神の如く戦う姿は多くの人々を魅了し、共産主義派の殲滅が完了した時には王政派のリーダーになっていた。

 

そして首都艦フェオにサン・ドーバー宮殿(現在のサン・ドーバー首都艦博物館)を建築し、第二次帝政フェデル王朝を建てる。アーサーはその後の生涯を国家再建に捧げた。

 

然し、アーサーの寿命は国家を蘇らすには足りたが肥えさせるには足りな過ぎたのだ。アーサーは無念にその59の生涯を終える。

 

第2代皇帝フレデリック・シュルツ・フェデルは、その王位継承当初は実に困難極まる道を歩んだ。父王アーサーと同じく、国民に対して、実に穏和な政治を行おうとしたが、父王ほどの求心力を得られないばかりか、刻一刻とダーカーに迫られる現状、旧臣による王位簒奪、民主主義者の残党による、革命運動など、問題は山積みであった。

 

この当時、アーサーの血も滲む努力によって負債の返済は実に順調ではあったが、度重なる騒動からこの船団国家を立て直す為に行った政策により、実際のところ、未だ多額の負債が、残っていた。フレデリックは、求心力の確保の為、そして王位簒奪阻止を図るべく、迫り来るダーカーの大群を討伐する事を選ぶ。

 

この当時、まだ内戦の最中ではあったもののグラール三惑星の植民地惑星とオラキオ植民地惑星が第一銀河に存在した。フレデリックは先ず、両国に不可侵を約束させると、自ら兵を率いた。

 

そしてかの有名な第六ブラックホールの死闘を演じる事になる。フレデリック軍総勢艦船80,000、総兵力180万対するダーカーは大中小合わせてその数2000万体…。もはや勝負にならない、然し、フレデリックは秘策を用意した。大規模改修を施したアークスシップ10隻、更にマザーシップ・シオンに参戦を要請した。マザーシップ・シオンとアークスシップから放たれるスーパー・レーザーの巨大な光の帯は無数のダーカーを飲み込んだ。それでも兵力差は埋まらない。

 

然し、フレデリックは戦う事を選んだ。フレデリックはブラックホールを利用した、実に不安定な宙域で戦闘に臨む決断をする。フレデリック軍はブラックホールに布陣するとそれを追ったダーカーはブラックホールに飲み込まれていく。大混乱の中、覚悟を決めたフレデリック軍の決死の突撃により、ダーカーは潰走、指揮を執ったルーサー(敗者)(オリジナル)も逃げ帰る事になった。

 

これを気に、フレデリックは第一銀河に覇を唱える事になるのだった。フレデリックはこの戦いにより、獅子王と呼ばれる。先王アーサーにも劣らぬ鬼神の如く武勇と常に先頭で戦に臨む勇気は国民によって称えられた。

 

フレデリックはその後領土拡大に勤しみ、国家を大いに繁栄させるが、国家内蠢く問題の種を一掃することは遂に敵わなかったがその治世60年、フェデル王朝黄金期の基礎をその八十年の人生で作り上げたのだ。

 

第3代皇帝、アレクサンデル・ムスタファ・フェデル

通称憲兵帝は、国家の治安維持や福祉面にも力を入れた民政家だが、その心は氷のように冷たく、マキャベリズム(権謀術数主義)を人の形にした存在と言われている。

 

彼は現実主義に基づいた国家政策や侵略政策を展開した為、武闘家の旧臣達からは嫌われ、不協和音を大いに奏でたが、当の本人は全く意に返さず、そして国家安泰意外何も考えていない。つまり私心も全くないので、余計配下の軍人やアークスの敵意を煽る事になった。だが反乱等は起きなかった。

 

彼が、如何に己を嫌う家臣であっても評価するところは評価し、その功績に答えてからである。然し、それでも第2代皇帝フレデリックの頃からの宿将たちは最後まで、アレクサンデルに誠の忠誠を誓うことはなかった。

 

アレクサンデルの治世の真髄は謀略によって国を立たせてしまった事である。不可能と言われていたことをやってのけたアレクサンデルであったが多くの国民にも忌避をかう。アレクサンデル廃位運動すら起きる寸前にまで発展したが、決行前に全て阻止され、中にはその計画を立てた途端捕縛される者すらおり、そしてそれぞれが共通した末路、一族郎党全員の斬首による処刑を賜った。

 

堪り兼ねた民衆と貴族はオラキオ王国とグラール三惑星に出兵を要請し、オラキオ、グラール連合軍が組織されるが、アレクサンデル軍とオラキオ、グラール連合軍が相撃つ事は無かった。

 

アレクサンデルは先ず両国に出兵を要請した貴族、民衆を処刑。更にオラキオ、グラール両国に欺瞞を種を蒔いた。結果、オラキオ、グラール各三惑星の四つ巴の戦いにまで成長させ、結果、原因を作った反逆者の血を除けばオラクルは無血に勝利を収めたのである。

 

更にアレクサンデルの行為をプロパガンダにより国民の情報操作を行い、名君と讃えさせたのである。もっとも、アレクサンデルの治世が、始まって直ぐに犯罪検挙率はうなぎ登りになり、国家治安は格段に上がり、暗君は勿論、凡君とも言う事は出来ない功績を残していたので、あまりそこは苦労しなかったと言う。

 

国家の為、私情も全て捨て、ただ国家の為、その一心で働いた。アレクサンデルにとっての心の拠り所は、皇妃エリザベータであった。この慈愛に満ちた美女とアレクサンデルは美女と野獣とよく揶揄されるのだが、エリザベータはその美しい微笑みを浮かべながら常に言った。

 

『陛下は皆さんが言うほど、悪い人ではありません。ただ不器用なだけ。現にこうして、私も、この皇子ムスタファ(第四代皇帝)も幸せに今を生きていますもの。』

(アレクサンデルとは15歳差である。故にアレクサンデルにロリコン説が浮上する要因にもなった。)

 

アレクサンデルと皇妃エリザベータの間にはなんと8人の子がおり、しかも全員エリザベータの子宮から生まれたのである。アレクサンデルとエリザベータは夫婦仲は大変良好で、アレクサンデルは日々のストレスや苦痛をエリザベータに打ち明けていた。

 

氷の皇帝、裏の顔は大変な愛妻家。アレクサンデル・ムスタファ・フェデルは治世28年。58歳の生涯を終えた。その後、第一銀河の覇者、ムスタファ・ヤハウェ・フェデルの為に残した彼の遺産、強き鉄の法を持った国家と武勇、智勇に優れた兄弟、姉妹達。第四代皇帝ムスタファ・ヤハウェ・フェデルの覇道はアレクサンデルの死ぬ、数年前から始まる。

 

ムスタファ・ヤハウェ・フェデルが王位に就いたのは21の時である。58の若さで死ぬアレクサンデル皇帝に死の数年前から言われ続けている事があった。

 

『我が愛すべきムスタファ・ヤハウェ・フェデルよ。決して父のように、余のようにはなるな。』

 

皇子ムスタファはそれを守り知略に優れた父から学ぶ一方、武を磨き、公正な態度を作り上げた。

 

やがて、政の師である父を失い、皇子ムスタファは第四代皇帝ムスタファになる。ムスタファの治世の始まりは戦から始まった。先帝アレクサンデルに復讐を誓う第3銀河勢力が再び同盟、大挙としてオラクル船団に向かった。

 

非ダーカー種族との戦いにマザーシップは介入は決してしない。アークスも、先帝との因縁で兵を出したがらず、ムスタファの手勢は数で劣った。

 

然し、ムスタファは軍略の神に好かれていた。そしてこの戦いで今に続く軍神フェデル家信仰を盤石なものとする根拠を築くのだった。

 

ムスタファ率いる艦隊は各地で連合軍を寸断、補給線を断ち、敵艦隊に白兵戦を仕掛け、艦隊を丸ごと奪い、それを使い騙し討ちを行い、各地、各地の海戦で勝利し、結果連合軍を潰滅させたのだ。その神憑り的な用兵術と武勇は瞬く間に広がり、軍神として国内外に畏れられ、鬼神は、軍神への道を突き進むようになる。

 

ムスタファの次の仕事は今でも難攻不落の大要塞schloss von gott要塞の建造であった。超巨大ゼロ沸点型核融合炉によって稼働し、直径120キロの巨大な球体を自力航行、ワープを可能とし、数万隻の艦隊を消滅させることが出来る神の息吹(エイテム・ゴッデス)と呼ばれるXフォトン線レーザー砲を搭載するという、要塞というより殺戮マシーンと化した人工天体である。

 

空気、電力は勿論、水、食料も自給自足可能。民間人500万人居住可能。もはや小型の惑星である。schloss von gott要塞は完成するやいなや直ぐに攻略目標にされた。

第一次schloss von gott要塞攻略戦はオラキオ王国海軍艦艇25000隻の襲撃を受けるも、防衛艦隊10000隻と要塞の連携により完封勝利を収め、第二次攻略戦も同様の結果で終わった。(第三次から第7次までの要塞攻略戦はアウグスト・シュヴァーベン対等による、ダーカーとの戦いで何も勝利。第8次は国軍が全く機能せずほぼ無抵抗で奪取。第9次はダーカー側の不自然すぎるほどの戦術行動により、奪還失敗。この当時のアークス第三艦隊の参謀にまだアークスなりたてのタクミが参加していた。)内と外の政に比類なき功績を残したムスタファであったが、彼の不幸は余命が無かったことである。彼は36で暗殺されるのである。

その後、分家カストロプ家による王位簒奪、アウグスト・シュヴァーベン、フランシス・オーヴェルニュ対等により、第二次帝政において、フェデル家が表舞台に出ることは無く、更に発足直後の第三次民主共和体制により身篭った女と赤子を残して一族郎党皆殺しに合うという悲劇を乗り越えながらもフェデルので血筋は守られ…

 

第10代当主 ダジム・クヴァシルヒ・M(ミシェル)・フェデル(タクミ・F)

 

フェデル家10代当主(フェデル王家は男子のみを当主とする決まりがあり女性は当主代理として家を守り、結果フェデル王家は多くの当主代理が家系図に存在する。)にして、フェデル家最後の男児。第9代当主であった父を早くに亡くしたが、父の友人であるフリードリヒ・ケンプ・オイゲンに、戦闘の修行を受け、槍術を三つ年上の姉、イサラ・フェデルに習い、戦術をオラクル軍元帥ジェームズ・ネルソンに習った、正しく戦う為に生まれた青年である。フォトンは他のアークスに比べると少し少なめだが、体内に流れるフェデル家の遺伝子と、母イザベルから貰ったデューマンの遺伝子のお陰で戦闘において、一つの才能を持っている。

 

そのお陰で、アークス精鋭チームに所属し、深淵なる闇討伐メンバーの一人として守護衛士の称号を持つ。彼はフェデル王家の末裔ではあるが王政復古には興味は無く、彼自身は敬虔な民主主義者であった。タクミは何故、第3銀河の出征の時に本名、フェデル王家の人間としての本名を出したのかは諸説あるが、一種の覚悟の様なものであったと言う。自分を偽ることなく戦うための…。二つ名を持つ青年は名前にも無頓着であり、タクミと呼ぶものもいれば、ダジム・フェデルと王家の名で呼ぶものもいるので好きに言わせているようである。

 

軍神フェデル信仰をそのまま具現したような戦ぶりを見せるこの青年に何が待ち構えているのか。この男の不幸にも残り少ない命で何を残すのか。きっとそれは後の人が判断するのかも知れない。ただ一つ言えることは、この男は今、死神を纏いて死地に向かおうとしているという事だけである。



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31話 第二銀河燃ゆ

第一艦隊がオラクル船団に帰還するべく、奮闘する中、アウグスト・シュヴァーベンは遂に動き出した。ダーカーから第二銀河から奪い取るべく動き出す。光さす道に何があるのか…アウグストの伝説が今、再び動き出そうとしていた。英雄は蘇るのか…きっとそれは、神の意志のみが出来ることだろう。ならばこの翡翠の髪を持つ若者は神に愛された男であった。勝利の女神に愛された存在なのだろう。


新光暦239年11月。オラクル軍は恒星スパルタンの撤退戦を成し遂げた後、ダーク・ヒューマン及びダーカーの連合軍は撤退を始めていた。その中で、ダーク・ヒューマン独立派を率いるアウグスト・シュヴァーベンは行動に移ろうとしていた。ダーカーから、深淵なる闇からの、ダーク・ヒューマンという人類の独立を懸けた戦いを始めようとしていた。深淵なる闇自体は、アークス達によって封印されたが、その刹那、作り出したダーク・ファルス・双子の模造体の一体にその意思を残していた。そしてそれが膨大なダーカーを使役し、ダーク・ヒューマンを家畜の如く飼育していることはすでに述べた。

 

アウグストは深淵なる闇が作り出した物だが、二百年の眠りについていた黄金の意思を屈服させる事は出来なかったのだ。ましてや宇宙最恐の存在といえどその搾りカス程度では。

 

アウグストはクラウゼウィッツを伴いながらダーク・ヒューマン第二本星シャーテンブルグに向かった。道中、ゲオルグやフランチェスカら重鎮の手勢を各惑星に振り分けていた。勿論これは、深淵なる闇の、と言うより深淵なる闇の飼い犬になる事によって自らの栄光と私腹を肥やしている暗黒銀河教国貴族通称、反独立派または教会派と呼ばれる連中の差し金であった。

 

アウグスト

『この私を始末するつもりだと言う事だ。』

 

クラウゼウィッツ

『やはり漏れていましたか。流石に幾百年も飼いならされ謀略を重ねた者達を少し侮りましたな。』

 

アウグスト

『奴との一騎打ちを邪魔されることだけは阻止しなければな…クラウゼヴィッツ。フランシスには言ってないな?』

 

クラウゼヴィッツ

『はい。諸提督にも内密にしておりますが…本当にやるのですか?危険が大きい上、御身に何かあれば…』

 

アウグスト

『奴が力を蓄えていない上、双子の幼子の姿をしている今こそ、奴を殺すチャンスだ。今しかないのだ。奴が完全に油断している今こそ時なのだ。そしてこの戦いに皆を巻き込ませぬ。これは余の戦いだ!』

 

クラウゼヴィッツ

『そこまで言うのであれば止めは致しませんが、閣下の命は閣下ご自身の物だけではないことをお忘れなきよう。』

 

クラウゼヴィッツは一礼すると艦橋から降りていった。階段の下りた先にはクラウゼヴィッツの副官であるカウリバス少将が待っていた

 

クラウゼヴィッツ

『各提督達には伝えたか?』

 

カウリバス

『ハッ!全艦隊は6時間後直ちに転身。全指令を停止し、第二本星シャーテンブルグへ向かえと打電しました。』

 

クラウゼヴィッツ

『いかに閣下の力がダーク・ファルスと同等といえど、相手は腐っても深淵なる闇。下手をすれば命に関わる。だが倒すには今しかない。その為には諸提督の協力が必要だ。結果さえ良ければ後は閣下に申し開きするだけのこと…結果が出てしまえば、その過程など取るに足らん。』

 

イラストリアス麾下二万の艦隊はシャーテンブルグ衛星軌道に乗った。艦隊をその場に残し、そしてこのクジラの様な優美な船体を持つ全長7.6キロの巨大な鉄塊はシャーテンブルグの美しい地表に降下していった。

 

ドックの外には多くのダーク・ヒューマンの民と兵士達が英雄の帰りを待っていた。そして口々に叫んだ。

 

『sieg Reich‼︎(帝国よ勝利せよ‼︎) Der Sieg Held‼︎(英雄に勝利を‼︎)』

 

皇帝を名乗るだけの力を持ちながら至尊の冠を友に託し、そして友に為に戦ったこの緑髪の青年は、生前も、死後も、そして今も目に移る者に光を与える存在であった。

 

クラウゼヴィッツ

『足らんと言う顔をしてますな。』

アウグスト

『当然だ。我が手に収めるは全てよ!』

(そうだな…フランシス。姉上を守る為に戦った頃と変わってない…お前の父上の仇を打ち滅ぼした後の虚しさ。忘れなれないほど苦しかった。互いに生の充足を得られなくなった。だから誓った。全てを手に入れると。)

 

?

『おやおや、元帥のお帰りだ。』

 

アウグストの視線の先には豪華絢爛な服を着たやせ細った若い男が立っていた。

 

アトラス・ヴォン・アインツヴェルン。

 

銀河教国貴族の中で名門中の名門アインツヴェルン家の若き当主である。教国教会にも大きな力を持っており、ダーク・ファルスのご機嫌をとって大きくなった家を相続した…ようはボンボンである。当然教国教会の力を使う事が出来るから、反独立派である。

 

アウグストは折角、過去の美しい記憶に浸っていたのを、この男によって邪魔されたこの青年は恐ろしい程の形相をこの貴族に向けた。

 

そしてその貴族も恐ろしい形相を浮かべる男を見て憎らしくニタニタと笑っていた。ダーク・ヒューマンの民達は、この二人が、互いに剣を抜いた時、この第二銀河が炎に包まれる事を分かっていた。

 

民達は二つの思いを持っていた。一つは家畜の如く飼い慣らされ続けるとしても強大な力の庇護の元でふ生き長らえる事を選ぶ者、本当の自由のために全身全霊を持って戦う事を決めた者。

 

人々は大きく揺れていた。兎に角にもこの二人のやりとりを固唾を飲んで見守った。

 

アインツヴェルン

『言っておくけど、今回は表彰では無いよ。敵を潰乱させたのにも関わらず撃滅するまで追撃しなかった事、敵に人質にされた事で我らが主人はご立腹だ。

 

先に帰ったトゥハチェスキー元帥はそれが原因で引退したのにも関わらず蟄居させられたのだからね。貴族特権も剥奪され、息子も強制敵に兵に取られ、二人の娘も今頃我が主人の使徒(ダーカー)達の慰め物になってるだろうよ。死にたくても許されず、老いるまで犯される続けるのさ!

 

おお、凄い‼︎一体何十、何百の使徒の母親になるのやら、ついでに君の姉君と妹君も加えてあげようか?アハハハハハハハハハwww』

 

アウグストは嫌悪の表情を浮かべながら、そのまま車に乗り、その場を後にした。しかし車内では、この美しい翡翠の鬣を持った獅子が荒れ狂っていた。

 

アウグスト

『おのれ‼︎よくも姉上とセーニャを侮辱したな‼︎あいつは俺が殺す‼︎その憎らしい皮を剥いで、髑髏を引っぺがしてそれで酔い潰れるまで酒を飲んでやる‼︎』

 

それをクラウゼヴィッツは無表情でそれを見ていた。やがてアウグストはこの鉄仮面を被っているのか一切喜怒哀楽を見せないこの参謀見て、冷静さを取り戻した。

 

アウグスト

『冷静になれと言いたそうだな。』

 

クラウゼヴィッツ

『ご推理の程、感服いたします。』

 

アウグスト

『全く、私もそうだが、他の提督は卿を気に入らんと思っているのに、よくシューマッハとガラハウは卿とまともに喋れるな。』

 

クラウゼヴィッツ

『別に気に入ってもらおうとも思っておりませんが、あの二人、ついでにセープ大将とは幼少からの腐れ縁にございます。特にこれといったものはありません。』

 

アウグスト達は、豪華な宮殿の前で車を降りた。その宮殿は黒く塗られた巨大な建物であり、そこらかしこにネガフォトンスフィアや金細工で飾られていた。

 

黒宮殿と呼ばれるそれはダーク・ファルス・双子の姿を模した深淵なる闇の本拠地であった。控えの間にてクラウゼヴィッツは控えると、アウグストは礼装を身に纏い、堂々と広間に向かっていった。そこには右に貴族や武官の列。左は大中の上級ダーカーとダーク・ファルス・模造体が列を作っていた。

 

そして奥の玉座では双子がそれぞれ寄りかかるように座っていた。アウグストはこの双子の前にひざまづいた。

 

双子

『アウグスト…君には失望したよ。もう少し僕らの役に立ってくれると期待してたのに。』

 

アウグスト

『期待を裏切ってしまって誠に申し訳無く存じます。然し、我が忠勇なる将兵を無駄に死なせるは創造主様の子らを無駄に死なせる事となりますので、必要無いと判断いたしました。』

 

双子

『そうか。だか僕たちとしては君をこれ以上生かしておく必要が無いんだ。君の中にある27年分のネガフォトンそれは僕の体から出たものだ。さぁ、返して貰うよ。』

 

双子は狂気に満ちた笑いをあげながら黒い霧となって、アウグストを包んだ。しかし、呑み込まれる直前。二発の銃声がなる。そして双子の死体が転がっていた。

 

アウグスト

『私はアウグスト・ヴォン・シュヴァーベンだ!アウグスト・ヴォン・シュヴァーベンという一人の人間だ‼︎そして、銀河教国…いや銀河帝国の皇帝だ。よって私は誰かによって利用される存在では無い‼︎私は貴様らの道具では無いさぁ、立て!どうせ死んではおるまい‼︎』

 

双子→深淵なる闇

『フフフ…手荒い事をしてくれる。だが残念だ。君を取り込むのはやめにしよう。お腹を壊しそうだ。』

 

深淵なる闇が手を挙げると貴族達は銘々に武器を取り出し、ありとあらゆる扉が開き、ダーカーと貴族の手勢が入ってきて、広間は二千から三千の人員で埋まった。そしてただ一人アウグストはそこに残されている。

 

アインツヴェルン

『終わりだ。苔頭‼︎』

 

アインツヴェルンは引き金を引こうとした。然し、宮殿が大きく振動して引き金を引く事は出来なかった。

 

貴族

『何事か‼︎衛兵報告せよ。』

 

貴族兵

『申し上げます!黒宮殿をおよそ四万の兵に囲まれました!敵兵は全て装甲擲弾兵と思われます‼︎更に、シャーテンブルグ衛星軌道に約20万の艦影を確認‼︎』

 

アインツヴェルン

『バカな⁉︎それだけの大兵を何処から⁉︎』

 

ハンブルグ

『簡単な事さ!』

 

大広間一帯にハンブルグ・シューマッハの声が響き渡る。

 

ゲオルグ

『我々はこのために引き返し、衛星軌道を制圧。兵を降下させ、御前の前に手勢を率いて来れば良い。クーデターを起こすのであれば普通はここまでするからな。』

 

アウグストは苦笑いした。クーデターを起こすのであれば、自らの手勢を持って制圧するのが普通であった。だがアウグストは本人のプライド故に自分の部下の力抜きで勝ち得ようとした。確かにアウグストの力であれば切り抜ける事も不可能ではない。然し、確実性は無く、アウグストはダーク・ファルスでは無く人間である事を前提にしたクラウゼヴィッツは諸提督に密書を渡して置いたのである。

 

深淵なる闇

『どうやら数の上では勝てなさそうだ。良いだろうアウグスト。僕に…いや我に勝てるものならやってみるが良い。所詮貴様も余から生まれた存在。我を倒す事など叶わぬ。待っておるぞ…フハハハハ‼︎』

 

所詮なる闇はアインツヴェルンを始めとした貴族達を伴いネガフォトンで何処へと消え、ダーカーも各々消えていった。

 

ゲオルグ

『閣下!お怪我は?』

 

アウグスト

『いや…無い。何故卿らがここにいる?』

 

ハンブルグ

『クラウゼヴィッツより密書を貰いました。そこで大急ぎで回頭し戻ってまいりました。』

 

アウグスト

『そうか…。然し、奴を逃してしまったな。』

 

ハンブルグ

『閣下。ご無礼を承知で申し上げます。陛下は実に強大な敵に向かって進んでおられます。その姿は多くの臣や民を惹きつけ、その姿は立派です。

 

ですが、陛下をお支えする我らは閣下をお守りするが使命。なれど閣下が己が道を走る一方、同じ道を行くものたちをお忘れになられてしまうのです。

 

どうか閣下には、才無く、不甲斐なき身であれど閣下と共に歩む者たちがいる事をどうか忘れないで欲しいのです。閣下の野望、大志は臣下皆の大志でもあります。どうか御理解を頂きたく存じます。』

 

アウグストは微笑を浮かべるとハンブルグの肩をしっかり掴み、こう答えた。

 

アウグスト

『そうであった。私は卿らのような優秀かつ仁義に溢れる者たちと共に歩んでいる事を私は忘れてしまっていた。我が人生最大の過ちであるな。二度とせぬ。』

 

クラウゼヴィッツが大広間に入って来た。気がついたアウグストはクラウゼヴィッツの方に向いた。

 

クラウゼヴィッツ

『閣下。貴族軍が艦隊を派遣しました。数二万。先鋒部隊であることは明白ですが、敵の指揮官が、バルトハルト・シュヴァルである事が判明いたしました。』

 

アウグスト

『バルトハルト・シュヴァル…死なずには惜しい男よ。ハンブルグ‼︎ゲオルグ‼︎直ちにバルトハルト艦隊を迎え撃て‼︎クラウゼヴィッツは全軍の統制を取れ!フランチェスカ、ザムエルスキは他の艦隊に召集を呼び掛けよ!出陣する‼︎皆、己が義務を果たせ‼︎』

 

提督一同

『はっ‼︎』

 

新光暦239年10月29日第二銀河内乱が幕を開けた…

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、第一銀河では、タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデルことタクミ・F中将の第一艦隊が教国艦隊を相手に撤退戦を繰り広げていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄達は…違う道を歩む…

 

 

 



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32話 苔頭対飼い犬

第二銀河で内乱が起きた。アウグスト・ヴォン・シュヴァーベン率いる独立派。アインツヴェルン率いる反独立派。そしてそれを操る深淵なる闇が率いるダーカー。黒い姿をした連中同士の壮絶な内輪揉めは、ハンブルグ・シューマッハがバルトハルト・シュヴァルを撃退した戦いから始まる。

 

若き艦隊司令官バルトハルト・シュヴァルは己の手勢が如何に問題児ばかりを抱えているかという現実から逃げたくて仕方がなかった。戦を知らぬ者、自己中心的な物言いをする者。正論のみしか話す者。バルトハルトの周りには戦ができる者が居なかった。

 

おまけに相手は百戦錬磨のハンブルグ艦隊。勝ち負けは火を見るよりも明らかであった。

 

バルトハルト

『まさか、シューマッハ提督と戦う事になるとは。隙を見せれば逃げることは叶わぬだろう。さてどう戦えば良いものか。…チッ!こんな時においでなすったか。』

 

艦橋の隔壁が開くと、分艦隊司令官を務める貴族達がづかづかと入ってきた。

 

貴族A

『総司令官閣下!何故攻勢に出ないのですか‼︎我らは敵の二倍、三万隻の艦隊です!対する敵は約一万七千。圧倒的に我が方が有利ではありませんか?』

 

貴族B

『敵はこの広大なアステロイド帯を挟んで向こう側におります。そこに我らが戦力を分散し敵を挟み込めば、大勝利間違いなしですぞ‼︎』

 

貴族C

『母上が言ってたよ。平民は貴族に手を出さないって。攻撃しちゃおうよ!』

 

バルトハルトはこの三人が思い思いに喋り始めるので耳が聞こえなくなったのかと錯覚したくなったという。バルトハルトとしては戦う気なんて更々なかったのだ。

 

バルトハルトは士官学校時代、サラザール・ヴォン・ディートリッヒと言うダーク・ヒューマンの中で高名な戦士に教えを請うていた。ディートリッヒが貴族側に参加すると聞いて、バルトハルトも参加したのだが、二人ともアウグストの麾下で戦ったことがあり、ディートリッヒは陸戦においても、宇宙戦においてもアウグストを戦争の申し子とその能力を早くから認めていた。(アウグスト自身も二人を麾下に加えたかったものの貴族側の対応が早く調略に失敗してしまっている。)

 

バルトハルトとしては、指揮系統がバラバラになっているところをディートリッヒが一本化して、統制が取れるまでの時間稼ぎをすれば良く、統制が取れれば、物量を活かして、大軍を援軍に差し向けてくれることも分かっていた。

 

もっと言えば、この星域は第二銀河における航路の中心に位置しており、殆どのワープ航路にこの星域は繋がっており、ここでワープ妨害をすれば、第二銀河を航行する全ての艦船をこの星域に足止めできる程である。

 

その星域を支配下に置いている貴族側の優位を盤石にするのが当面のバルトハルト達の役目だが、それを理解せず己の武勲ばかりを気にする貴族達にバルトハルトは嫌気がさしていた。

 

バルトハルト

『とにかく、攻勢には出ぬ‼︎総員第三種のまま待機‼︎』

 

貴族達は怒りを表しながら引き上げていった。

バルトハルトは傍らの女性侍従兵を見て、指で合図した。侍従兵は首を振ったが、バルトハルトが強く合図したので近寄った。侍従兵が胸に手を当てて、ポケットからカードキーを取り出した。

 

カードキーを受け取るとバルトハルトは自分の座席にかざした。するとラム酒の瓶が出て来た。バルトハルトはそれを掴み、一気にラッパ飲みした。

 

バルトハルト

(恐らく、シュヴァーベン候はクラウゼウィッツ大将から俺がいるのを聴いているだろう。ならばシューマッハ提督だけをさし向ける訳がない。多分ゲオルグ提督も差し向けているだろう。艦隊は見えないから、ゲオルグ提督がシューマッハ提督の艦に乗り込んでいるのだろう。)

 

『全く…やれやれだ。これぞ厄日。』

 

バルトハルトの考えは当たった。ゲオルグはシューマッハの艦に乗っていた。

 

ゲオルグ

『流石バルトハルト…貴族の餓鬼どもをよく抑えているな。ディートリヒ老人の援軍を待っているな。』

 

シューマッハ

『ディートリヒとバルトハルトは不味い。あの二人が軍の統制を整えれば一年二年じゃあ戦いは終わらないぞ。』

 

ゲオルグ

『俺たちの半分は死ぬだろう。だが…貴族の餓鬼どもを戦に連れていては無理があるだろうな。レーダー妨害のお陰で、敵はこっちが動いた事を知らん。

 

必ず痺れを切らす。おい!バルトハルト艦隊旗艦、アイヘンドロフの監視を怠っては居ないな。』

 

帝国兵

『ハッ!バッチリです!動き出せばレーダー上に映るようにしておきました。』

 

シューマッハ

『ヨォーシ‼︎狼ども!狩の時間だ‼︎アップを済ましておけ‼︎しっかり嚙み殺すのだ‼︎』

 

その頃、バルトハルトは女性侍従兵に酒の飲みすぎを説教されて居た。突然…。

 

教国兵

『バルトハルト提督!我が艦隊の左翼側半数が、移動を開始!アステロイド上回運動を開始しました‼︎』

 

バルトハルト

『何だと‼︎クソッ‼︎全艦最大出力、右翼側に回る!敵艦隊を挟む‼︎撃滅出来れば、どうとでも成る‼︎』

 

バルトハルト麾下半数は右翼側からシューマッハ艦隊を挟むべく移動を開始した。バルトハルト直属の半数は高出力反応炉と高速艦改装が施されて居て、レオポルド騎兵艦隊やシューマッハ艦隊程のスピードは出せないが、それでもダーク・ヒューマン艦隊の中で指折りのスピードを誇っている為、先に移動した左翼艦隊に合わせることが出来る。

 

そこにバルトハルトは賭けた。もしシューマッハ艦隊がまだ動いてないのなら、十分挟み込めるし、数の上で圧倒的に不利な左翼艦隊が全滅する前に後ろにつけると踏んだのだ。しかし!神はそれを許さなかった。

 

左翼艦隊がアステロイドの四分の一程の距離で戦闘状態になった。シューマッハ艦隊は移動して居た。そして左翼艦隊の二倍の兵力で圧した。温室育ちの猫に野山を駆け回った虎が襲い掛かるが如く、左翼艦隊はあっという間に消えた。消滅してしまった。

 

シューマッハ

『我々平民が何もせずに殴られに来るかといったらそれは大間違いだ。それも分からぬとは貴族というのは度し難いな。それに付き合わせられる兵が惨めで堪らぬ。』

 

ゲオルグ

『同感だ。だが、まだ敵は残ってる。相手はバルトハルト。下手をすれば残りの兵と共に玉砕して、我らの半数以上を道連れにしかねない。』

 

シューマッハ

『海賊と呼ばれる男だ。その麾下の兵も勇者揃いだ。』

 

ゲオルグ

『荒くれ者をあそこまで統率するカリスマ。大艦隊を率いらせれば、御前も舌を巻くだろう。だが御前や俺たちもその時は五分以上の兵力で当たるがな。』

 

帝国兵

『提督!敵艦隊からの抵抗が消えました。敵に残存艦艇はありません。残りの半数は回頭。我が艦隊の前に出ようとして居ます。』

 

シューマッハ

『真っ向からか。乗り込みを考えてるかも知れないな。』

 

ゲオルグ

『艦載機隊も発艦させろ。先手を取られれば面倒な事になる。対空監視を強化!』

 

シューマッハ

『全艦鶴翼に開け!敵は死に物狂いで突っ込んで来るぞ‼︎海賊共を近づけるな‼︎』

 

シューマッハ艦隊は鶴翼に開いて、迎撃の体制を整えた。一方のバルトハルト艦隊は紡錘陣のまま突撃していた。そしてその先頭に旗艦アイヘンドロフが居た。アイヘンドロフは全長5キロの楔形の船体の戦艦であり、フランチェスカの乗る艦と同型艦だが、艦首から中央部が開いており、ネガフォトン・スーパーレーザー砲が搭載されている。実に攻撃的な艦であり、レオポルド騎兵艦隊旗艦と一位二位を争う事の出来る攻撃力を持つ。

 

バルトハルト

『敵と会敵次第、スーパーレーザーを撃つ。その後全艦近距離での砲撃戦に移れ!白兵戦も許可する!存分にやれ!目にもの見せてやるのだ‼︎』

 

両艦隊は射程距離に入った。

 

シューマッハ

『来たか!全艦砲撃開始‼︎』

 

バルトハルト

『スーパーレーザー…フォイヤー‼︎』

 

アイヘンドロフからドス黒い光線が放たれた。その光線はそこらに浮遊して居た隕石も全て飲み込んで向かっていった。その破壊力は最大出力で撃てば、惑星を粉微塵に出来るという。(然し、撃てばアイヘンドロフは艦首部が完全に崩壊するらしい。)

 

ゲオルグ

『しまった‼︎全艦回避しろ‼︎』

 

シューマッハ

『緊急回避‼︎』

 

両提督の対応が間に合ったお陰で艦隊そのものは救われたが、それでも3割の艦艇を失ってしまった。

 

シューマッハ

『やってくれる‼︎全艦アイヘンドロフに砲火集中‼︎』

 

ゲオルグ

『ダメだ!距離が近過ぎて、ロクにダメージが通らん!距離を置きつつ砲撃する。』

 

バルトハルト

『何が何でも追いつけ‼︎近距離の撃ち合いで俺たちに敵う者は居ない。居たとしてもレオポルドの猪武者ぐらいだからな!わはははははは‼︎』

 

双方の艦隊は、引きつつ、追いつつ砲撃していた。一隻の戦闘艦の主砲が光るたびに数百の人間が死ぬ。それでもやめない。艦腹にレーザーが当たるたびにその場に居合わせた老若男女の悲鳴と呻きが起こった。女性兵の首が無い状態で糞尿を撒き散らしながら、死体かわビクビク動いていたり、溶ける若い少年侍従兵。下半身の無い男。艦の破片が身体中に刺さっている者を現れた。

 

艦載機の小隊が一隻の戦艦に群がり、分解していく。そのレーザーやミサイル、爆弾に当たり、また多くの将兵が死んでいく。

 

シューマッハ

『そろそろトドメだ。全艦前進!合わせて主砲‼︎斉射三連‼︎‼︎』

 

教国兵

『バルトハルト提督!艦隊の損耗率8割に達しました。本艦にも被弾箇所からの損害が見受けられます。これ以上は‼︎』

 

バルトハルト

『ああ。潮時だ、逃げるぞ‼︎勝負にならんわ!』

 

ゲオルグ

『逃げるか…バルトハルト。』

 

シューマッハ

『御前から生かして捕まえろと言われているが、骨が折れそうだ。』

 

ゲオルグ

『この戦いもな…』

 

 

32話終

 

 

 

 

 

 



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33話 サスタナの戦い

シューマッハとゲオルグがバルトハルト艦隊を撃退する事に成功したので、アウグスト軍は安全通行可能なルートを手に入れた。自分の本隊を軸に各諸将を第二銀河各星系の確保に向かわせた。だがただ戦力を分散させればどうなるかはアウグストは分かって居た。その為、ある惑星を攻略し、この周辺星域の敵の指揮系統及び補給を完全に断ち切ってしまおうと考えた。

 

惑星サスタナ…人類居住可能惑星の中ではかなり巨大な部類に入る星全体が砂漠、そしてある程度の間隔をあけて存在する大きさがまちまちなオアシスによって出来ている。

シャーオン星系の中で太陽を除いて一番巨大な惑星である。そこに教国軍つまり貴族達は惑星首都周辺を超巨大な軍事要塞でガードし、星そのものを守る為の宇宙港を作り一大拠点として居た…が実際は要塞を作っただけで止まってしまった。

 

宇宙港は手が回らずこの内戦を迎えてしまったのだ。そこにアウグスト軍が迫り、シャーオン以下周辺星系の制圧に掛かりだした為、各星系の防衛に戦力を回してしまい、シャーオンは、サスタナはほぼ無防備であった。一応一個艦隊総数一万二千が守備についたが、アウグスト本隊二万、更に護衛として、ヤン・ザムエルスキ大将一万二千の聯合艦隊に為す術も無く消滅した。

 

この時代、1つの惑星を占領するのに一年二年と言う長い月日は食わない。最悪一週間ほどである。理由は上陸兵力を各主要都市に降下させ、占領。おまけに衛星軌道からの艦隊からの地表爆撃。中には大気園内に入って来て空中から支援する艦隊もいる。すなわち全主要都市の制圧を持って惑星を支配下に出来るのだ。

 

もちろん、アウグストは自ら指揮を取るべく、降下した。だがアウグストは別の考えがあった。それは自分を支える大将達の中でヤンだけが陸戦での手柄を持って居なかったからであり、この若武者に手柄を立てさせる事が目的であった。そうでなければ、彼はヤンを連れて降りなかったであろうし、そもそも艦隊司令官二人が惑星制圧にかかること自体が異例であった。

 

そして二人が兵45万を連れて降り立って2日がたった。

場所は首都の近くの町である。

 

帝国士官

『閣下!各主要都市が陥落し、残すは首都のみとなりました。閣下直属の近衛10万皆指揮旺盛!いつでも出陣できます!どうか御裁可を!』

 

アウグスト

『ご苦労。夜の砂漠は冷える。下手に兵を動かすのは宜しくない。適度な時間で休憩を作り、見張らせろ。食事と睡眠を忘れるな。』

 

帝国士官

『はっ!失礼します‼︎』

 

士官は敬礼し、去っていった。アウグストはこの砂漠の街を見て、気になった。余りにも住人が少な過ぎる事に。居ても、老人や子供ばかり、男は?女は?何処に行ったのだ?アウグストは太刀を下げたまま散策する事にした。

 

暫く行くと脇に兜を抱えて立っているヤン・ザムエルスキに会った。

 

アウグスト

『ザムエルスキ、何をしている。…この村の女達か?』

 

ザムエルスキ

『分かりません。かなり遠くから連れて来られたやも知れませぬ。可哀想にダーカーに無残に処女を奪われ、あられのない姿で孕み、産み、貴族やその家臣にまた犯され、殺された…。』

 

アウグスト

『ここはダーカーの神殿か!中のダーカーは殺したか?』

 

ザムエルスキ

『はい。悉く八つ裂きに致しました。情事の最中の物も居ましたので、混沌を極めましたが無事な者は救うことは出来ました。そこに倒れている娘達は我らが助けに来る前に手遅れだった者たちに御座います。もっともここの娘達は全員手遅れでした。』

 

アウグスト

『いたわしい…みな奪われたか…恋も知らぬ年頃の者まで、 怖かったろうに…ザムエルスキ。この娘らを責任を持って家族の元へ帰してやれ。死んだ者はせめて美しく着飾ってから手厚く葬るのだ。良いな?』

 

ザムエルスキ

『ハハッ…。』

 

アウグスト

『明日出陣する。捕虜は取らぬ。卿に命ずる。多くのダーカーの首とここの領主の首をお前の槍と軍刀に突き刺し、我が目の前に持ってこい。』

 

ザムエルスキ

『必ずや‼︎』

 

翌日サスタナの首都サスタナ・ポリスの戦いが起きた。

侵攻兵力10万に対し、防衛兵力6万もはや勝負にならない。が、サスタナ公(惑星サスタナを治める領主)は首都及び首都手前の要塞を更に小規模の兵で運用しても威力を発揮できるように備え付きの重機関銃を更に塹壕内に取り付け、対戦車砲陣地を増やし、それらを前線の前に集中させた。更に驚くべき事に火炎放射器を塹壕に備えつけた。

普通塹壕戦での火炎放射器は攻め手が塹壕にいる敵を炙り殺す為に使うが塹壕側につまり土の中にいる連中が火炎放射器使うのは異例であった。余程防衛側の状況が苦しいか物語って居た。

 

そんな守り手とは裏腹に、攻め手であるアウグスト軍は万全な編成であった。10万の機甲軍団であり、そのうち2つの師団で構成されている。戦車重・中・小合わせて68輌、支援車両25輌、歩兵6万5千、騎兵4千6百、山砲、野砲、重砲合わせて250門。完全な大部隊である。

 

アウグストは自分の専用の重戦車で指揮を執った。

だが陸戦においてアウグストは采配を殆ど振らなかった。制空権は勿論、制宙権をあるので空爆し放題であり、(勿論対空防御は行われているので下手をすると危ないが )更に、第二銀河侵略を掛けたオラクル軍に対抗すべく開発された、アンチネガフォトン800mm重砲(開発が間に合わなかったのでオラクル軍相手には使われて居ない)をなんと20門も持って来ており、いかに塹壕を掘っていようと、そのまま抉られてしまうのだ。そんな強烈な支援砲撃の中、戦車と歩兵が塹壕から塹壕へと走っていった。

 

その中をヤン・ザムエルスキは、軍刀型のカタナとパルチザンを持って駆け抜けて居た。塹壕から塹壕へと兵を率いて走り、敵の塹壕の中にいる兵を悉く斬り殺した。お陰で24歳の若者が身に纏う灰色の軍服が赤黒く染まった。

 

ザムエルスキ

『引くな‼︎この戦いは圧倒的に我らの有利に運んでいる!敵の砲撃に臆すな、進め‼︎』

 

ザムエルスキに叱咤激励に兵達は士気をより古い立たせた。貴族軍の塹壕からの機関銃の薙射で多くの兵が犠牲なったが砲兵陣地からの砲撃が塹壕の中の兵士を吹き飛ばしていく。アウグストは前線の兵達を支援すべく、機甲部隊を自分の本陣と合わせて、最前線に移した。戦車の突破力に加え、撃破するのが難しいと言われる重戦車を主力にしたアウグスト軍の猛攻は、遂に塹壕帯を超え、要塞に取り付いた。ヤンは要塞の城壁で指揮をとる豪勢な鎧を着ている人物を見た。それを敵の指揮官だとヤンは分かった。

 

ヤンはワイヤーを使って一気に城壁を駆け登った。

 

ザムエルスキ

『敵将、サスタナ候とお見受け致す。それがしはアウグスト・ヴォン・シュヴァーベン候の家臣。ヤン・ザムエルスキ。その首貰い受ける。』

 

サスタナ候

『サスタナ4世である。若造。我が剣に掛かって死ねる事を誇りに思うが良い。行くぞぉ‼︎』

 

サスタナの重い一撃がザムエルスキに迫った。ザムエルスキは槍で防いだがザムエルスキの槍を斬り落とされてしまった。ザムエルスキはこの大男の一撃の威力を直ぐに理解した。そしてその隙も見つけ出した。

 

サスタナ候

『死ねぇぇぇ‼︎』

 

ザムエルスキ

『さらばだ。サスタナ候。』

 

サスタナの剣をザムエルスキはスレスレで回避しその腹を横に一刀両断した。サスタナ候の胴体と足は分かたれた。ザムエルスキはサスタナ候の胴体を切り、首を掴んだ。

 

ザムエルスキ

『敵将‼︎討ち取ったり‼︎』

 

ザムエルスキはサスタナ候の首をその辺に落ちて居たパルチザンに突き刺し、高々と掲げた。サスタナ候の兵は抵抗を辞めた。サスタナはアウグストの手に落ちた。

 

アウグストは残ったダーカーを殲滅すると同時に捕虜の始末を行なった。ダーカー神殿に居た女に手を掛けた者以外は助命し、それ以外は生きながら首を斬り落とした。それでも大多数の捕虜が首を斬られる事になったが。

 

首都の牢獄に、先の街の住人達が囚われており、男達は労働力として使われる所であり、女達は他のダーカー神殿の慰め物になる所であり、もう既に何人かはサスタナ候、その家臣に手を出された後であったがそれでも命を取られた者が居なかったのは幸運であった。

 

首都の住人達はアウグストを喜びを持って迎え入れた。アウグストはサスタナの住人に公正を約束すると同時に全軍の前線基地として機能させる事を宣言した。

内戦が始まって3週間後の事である。

そして同日、フランシス・オーヴェルニュがアウグストの元に馳せ参じようとする勢力を連れ、約80000の艦隊を連れ、シャーオン星系に到着した。

 



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34話 第36ブラックホール宙域会戦

第一首都、ヴィサンチ・ノープル。惑星全体が古風なゴシック調の街並みが広がる大陸型惑星である。ダーク・ヒューマンの母星である。その周りを赤黒いネガフォトンが覆っているが、その中身は美しい星である。その中央に立つ巨大な宮殿こそが生き長らえた深遠なる闇を隠す柩である。宮殿の名は永遠鬱宮である。

 

その廊下を歩く一人の老将が居た。かれこそがディートリッヒ元帥である。バルトハルトの師であり、ダーク・ヒューマンの中で最も最古参の戦士であり指揮官である。ディートリッヒはアウグスト軍との一進一退の戦況を打破しなければならないと強い意志を持って居た。先日、フランシス艦隊の合流に伴い20万隻にも及ぶ戦力がアウグストの手に渡った。

 

少しずつではあるもののアウグスト軍がジワジワと数の不利を埋めてきていた。もし戦力差が五分になって仕舞えば勝ち目がないのはこちら側である事をディートリッヒは理解していた。

 

ディートリッヒ

(現戦況を打破するためにも近日中に大会戦をやる必要がある、敵が増えうちに。貴族達はやる気満々だが、実際戦うとなると不安要素が大きすぎる。労せず敵に出血を強いる必要がある。となれば格好の戦場が必要だが…。)

 

ディートリッヒは宮殿内の住まいに戻ると長い間共に過ごした妻に上着を渡すと会話を交わす事なく、玄関から離れ、娘と孫にも顔を見せず、戦死した娘婿の写真に敬礼を送る事なく、自室に籠もった。

 

そして自室の星域図を広げては丸め、広げては丸めを繰り返した。そして一枚の星域に目を向けた。彼にはこの星域で戦う事でアウグスト軍に被害を負わせる事が出来ると確信した。そして直ぐに意見書を書いた。

 

翌日、アインツヴェルン候にその意見書を、多くの貴族の前で手渡した。

 

アインツヴェルン

『第36ブラックホール宙域で敵を迎え撃つと言いたいのですね?ディートリッヒ元帥。』

 

ディートリッヒ

『左様。この宙域は片方に巨大ブラックホール、もう片方には広大かつ小型艦でも航行困難なアステロイド帯。一種の回廊の様な場所になっております。我が軍も敵軍もこの僅かに空いたこの狭く細い道で戦わないと行けません。

 

更にこの宙域は特殊な磁場が流れていてレーザーやミサイルも長距離をまともに飛びません。つまり至近距離での撃ち合いになります。至近距離の白兵戦と艦載機による格闘戦。現状我が方の方が数が多いので、数に劣るアウグスト軍は損害を負えば負う程、戦闘継続に支障が出ますので我が方に有利な体制を作る事が出来ます。』

 

貴族

『おお…』

 

貴族

『成る程…数に劣る彼奴等は一隻でも戦力が惜しい。)

 

貴族

『近接戦で、尚且つ制限のある場合ならあの小僧も奇策は使えまい。』

 

ディートリッヒ

『アインツヴェルン候、創造主様の御裁可を。』

 

アインツヴェルン

『私は、主に全権を委託されている。直ちに取り掛かり、あの苔頭の首を我ら貴族の手で掲げよう‼︎』

 

貴族達は雄叫びを挙げた。必ずかの苔頭を倒すと…

 

 

その頃、イラストリアス作戦室

 

アウグストは諸将を集めて、軍議を開いていた。

 

 

アウグスト

『苔頭を倒せ!首を切り落とせ!などと先程言った事も踏まえて、遠吠えでも吠えている事だろうよ。36番ブラックホールを奴らの墓場にすると言うのならその通りにしてやるまでよ。』

 

フランシス

『然し近距離戦になれば不利なのは十中八九我々ですね。ディートリッヒ老人はやはり我々にとっては強敵となる御仁だった様です。』

 

クラウゼウィッツ

『せめてバルトハルトを捕まえていれば良かったが…』

 

シューマッハ

『グッ…。』

 

ゲオルグ

『確かにバルトハルトを逃したのは痛い。だが奴が勇者たる所以は我々にはそう簡単には下らぬと言う所だ。むしろ今回の戦い、決して我らが終始不利に立たせられるとは限らない。卿らも分かっているだろう。』

 

アウグスト

『その通りだ。フランチェスカ。お前の艦隊は特殊装備を受け取り後方に待機せよ。レオポルドは最前衛を私と交代しろ。その他編成は今まで通りだ。』

 

レオポルド

『最前衛を御前がなさるのですか⁉︎敵の砲火を真っ向から受ける事に成りますぞ!』

 

アウグスト

『そこが肝心なのだ。貴族共は私を討ち取ろうと我先にと来るはずだそこにこそ活路がある。』

 

フランシス

(アウグストは自分こそが敵の狙いである事を分かっているからこそ敢えて危険の中に身を投じようとしている。アウグストは欲しているんだ。自分を満足させることのできる強敵を…そして自分を追い詰めるに値する状況に立たされたから気分が高揚しているのだ。)『シュヴァーベン候。私もレオポルド提督と共に前衛に就きとうございます。どうか御裁可を…。』

 

アウグストは口元に微笑を浮かべるとそのまま頷いた。

内心、アウグストは自分の近くに信頼の置ける配下を置いておくことで自身と兵を安心させたかったのだ。兵達はレオポルドの勇猛果敢な振る舞いで鼓舞されるが、アウグストの場合200年来の親友が背中を支えてくれる程心強いものは無かった。戦の達人といえど、虚無の具現体…存在そのものが暗黒を象徴するブラックホールが自分の真横にあると言う状況に恐怖を覚えない訳が無かったのだ。

 

翌日

 

アウグスト軍総艦艇数約26万、アインツヴェルン軍総艦艇数約36万(内ダーカー艦は約4万)両軍共に6割に及ぶ戦力が第36ブラックホール宙域に布陣した。

先鋒、アウグスト艦隊(フランシス・オーヴェルニュ上級大将、ヤン・ザムエルスキ大将直属戦隊二千五百隻臨時編入。 )35000隻。次鋒レオポルド、シューマッハ艦隊30,000隻×2その他1万隻×2。中堅フランチェスカ、ゲオルグ艦隊30000隻×2。後衛シャルチアン・ヴォン・ペテルブルク男爵(貴族内でアウグスト派についた僅かな貴族の代表。ダーク・ヒューマン内では著名な兵法家としてフランシス・オーヴェルニュに三顧の礼で迎え入れられた。今年で62になる。)麾下60,000隻。最後衛クラウゼウィッツ艦隊20,000隻。

 

アウグスト軍先鋒は総勢約35,000隻。対する貴族軍はディートリッヒ老人麾下25,000隻である。数の上で勝る貴族軍が敢えて数に劣る編成を取った理由は実に単純明快であった。

 

ディートリッヒ

『突っかかっては困るからのぉ…。』

 

事実、アウグスト艦隊は数でこそ勝るものの…

 

アウグスト

『う、動きにくい…これ程とは…俺もまだ未熟。こんな子供でも分かる愚行をやってしまうとは。』

 

この狭い通路に35,000の大軍は不似合いであり、寧ろ、この回廊によく入れたもの当時の人々は思っただろう。とにかくこの狭い回廊での身動きを取れなくなったアウグストは仕方なく戦力を後方に回しつつ慎重に距離を詰めることにした。だがそれこそディートリッヒの狙いでもあった。

 

ディートリッヒ

『敵が玉突きになったな。全艦急速前進‼︎主砲斉射‼︎撃って撃って撃ちまくれ‼︎』

 

ディートリッヒ麾下25,000はアウグスト35,000に襲い掛かる。襲い掛かられたアウグスト軍は大混乱に陥る。更に主君の危機と、レオポルド提督らの艦隊の一部部隊が回廊内に侵入。退路を塞いでしまう。

 

ザムエルスキ

『皆落ち着け‼︎これは敵の策だ‼︎取り乱してはならん‼︎』

 

フランシス

『艦隊を再編‼︎戦艦は最前線に移動!駆逐艦と砲艦の盾になれ!駆逐艦と砲艦は中距離より敵艦載機と水雷戦隊の突入を防げ‼︎白兵戦用意‼︎艦載機隊は発艦できない、全艦対空監視を厳にしろ‼︎決して御前に近づけてはならん‼︎』

 

アウグスト

『狼狽えるな‼︎かえって好都合よ‼︎退路は絶たれたならば進むのみ‼︎全艦前進‼︎敵は我らが死兵になったと気づいてはいない‼︎』

 

ディートリッヒ

『…不味いな。敵は退路絶たれたとみて死兵と化した様だな。後続部隊の準備を急げ。白兵戦用意。』

(此処までは予想通り。貴族の小倅どもに邪魔されぬ内に手を打てるか否かに勝敗は掛かっている。)

 

アウグスト

『艦長‼︎あの敵戦艦に接舷できるか?手始めにあの艦を血祭りにあげる!』

 

シィファール・オゼス艦長

『閣下!旗艦がそんな前方に出ては指揮や統制が…』

 

アウグスト

『もはや策も陣も乱れた!だが敵も同じ。ディートリッヒめ…貴族どもを下がらせたな。ヤケに統制が取れてると思ったら…だが時間の問題よ。手に取るように分かるぞお前の焦りが!ディートリッヒ老人さえ退ければ後は弱兵‼︎皆‼︎ここは切り抜けるぞ‼︎』

 

帝国軍将兵

『オオオオオオオオオオオォォォォ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

旗艦イラストリアスの突進を見た他の艦艇はそれに鼓舞され、おもいおもいの敵艦に接岸した。そして両軍による白兵戦が開始した。

 

ディートリッヒは自らの予想を上回る事態に狼狽する事なく、ただ戦場を見つめていた。彼の真の狙いはアウグスト麾下の諸将の出血を強いることであり、やがてくる決戦を有利に運ぶための戦いであった。だが、アウグスト自らの出陣は想定外であった。だがディートリッヒはこの状況すらもまるで織り込み済みだったのか、目的を変換し、敵の大将の始末に掛かった。ディートリッヒの描いたようには行かずともこの短時間でアウグスト軍に与えた損害は多大なものになった。

 

ディートリッヒ軍25000に対し、体制を立て直したアウグスト軍24000が追い詰められた獣の如く食らいついていた。この短時間で九千も失ったのはアウグストにとって人生初の経験であった。

 

アウグスト

『…これ以上はやらせん!甲冑を持て!我も出る!』

 

イラストリアスは敵の戦艦に接岸した。ハッチが開くと二千人強の装甲擲弾兵が武器を持って整列しており、その先頭に全身漆黒の鎧をつけ、一振りのカタナを持ったアウグストが立っていた。

 

抜刀!アウグストは床を強く蹴って、真空の宇宙に飛び出した。兵達もそれに続く!敵艦に乗り移ると、5、6人の兵士がいきなりアウグストに襲い掛かった。

 

アウグスト

『桜蓮弾(サクラレンダン)‼︎』

 

カタナのフォトンアーツ(ダーク・ヒューマンでは単純に剣技と呼ばれる。)200年来の洗練されたら動きで繰り出したアウグストの周りには多数の肉片が舞った。

 

アウグストは駆けながら、手に届く敵を斬り捨てていった。アウグストに続く装甲擲弾兵達も己が主君の戦いに感服しつつも、害そうとする敵に容赦なく戦斧を振り下ろした。敵艦の中は地獄絵図となった。

 

アウグスト達はイラストリアスに戻ると、また別の艦に乗り込み、同じように白兵戦を繰り広げて行った。

 

しかし、アウグストの奮戦虚しく、ディートリッヒ軍の優勢は変わらなかった。徹底した狭い戦場での立ち回りにアウグスト軍は、振り回され続け、次鋒のレオポルド、シューマッハ艦隊もまた、ディートリッヒの匠な用兵の前では手も足も出ず、もはや、退くアウグストの盾になる事しか出来なかった。

 

戦いはディートリッヒの優勢に終わるかと思われたが、クラウゼウィッツは秘策を用意していた。後衛のペテルブルク男爵麾下60,000隻になんとアステロイドに大穴を開けさせ、その穴からディートリッヒ老人を急襲した。

 

クラウゼウィッツはもしもの対策として、バルトハルト提督の旗艦と同型の艦数隻を連れてきており、もしもの時はこのアステロイドベルトを貫通させようと考えていた。艦隊旗艦級戦艦といえどたった五隻であれば、星域の領内ギリギリに沿って、アステロイドを後方に出る事は可能であり、回廊内の大混戦により、回廊の外に気を向ける暇が無くなっていたので、60,000隻を延々と迂回させるだけの時間も発生していたのである。

 

ディートリッヒ老は不利を悟ると、残存の兵と後方に待機していた兵を纏め、撤退した。

アウグスト軍は勝利を収めた型になったが、その損害はディートリッヒ軍が負った被害の二倍から三倍に及ぶものになってしまっていた。アウグスト軍の未来に影が覆い被ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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35話 軍神の末裔は今、一歩を踏み出した。

アウグスト・ヴォン・シュヴァーベン軍が第2銀河を平定すべく兵を進めている中、第1銀河においても新たな動きがあった…大将に昇進したタクミは第三銀河出兵の準備をして居た。


タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデルことタクミ・F大将率いる第三銀河勢力、グラール・オラキオ第二王子軍救援軍の出兵式は驚愕の事実によって締めくくられ、終わった。然し、タクミにさらなる困難が襲い掛かることになる。出兵式の最中、第一銀河内に残るダーカー・ネストのダーカーの一斉蜂起、ダーカー占領惑星の蜂起、更に惑星リリーパでの機甲種の大暴走、ハルコタンでの黒の民の模造体残党の襲撃、そしてアムドゥスキアの龍族の複数の大規模蜂起が起きた。これら反乱騒動に繰り出す兵が必要になったのである。それも練度の積んだ兵が。第三銀河救援軍に配備された陸軍部隊はその6割が、大本営勅令で直ぐに外され、代わりに新兵ばかり、と言うより新兵のみの師団や大隊をタクミは押し付けられた。

 

さてタクミは気が気でない。確かに今のオラクルは非常事態だろう。だが精兵師団、大隊を引き抜いて当てがう程ではない事をタクミは分かっていた。何せオラクルはまだ宇宙艦隊を、それこそオラクルの治安維持に回すだけの艦隊が足りており、それらを各地に派遣する事で早期的な解決ができる事を知っていた。然し、大本営と言うよりマッケンジー首相の言い分としては、混乱の収拾の為、精鋭軍を送り込み、早期解決及び環境破壊を最小限(艦隊を派遣して爆撃するよりは)をにしたい。これも間違っては居ない。

 

だがタクミが行こうとしているのは完全な敵地であり、熟練した兵の存在こそ勝利の近道になると思って居た矢先にこの始末。タクミの落胆は凄まじいものになった。翌日、明日に控える出兵の為に全軍の把握を艦隊司令部で一人自室に篭りながら行なっていた。タクミは部屋の片隅に置いてある。陸戦、または白兵戦時に着用する装甲服…と言うより具足を見やると一息つくべく席を立った。本来なら紅茶をイオかアリスが持ってくるのだが、二人とも今回は要塞に残すと決めて居るためこの場には居なかった。マトイも出陣前のケアという事でメディカルセンターに居るため、タクミは一人で紅茶を作って、席に戻った。

 

タクミ

(国家が軍事力を内では反乱鎮圧、外では侵略行為に使うような状況に立たされればそれは亡国の兆しと誰かが言っていたが…どうなのだろうな?)

 

タクミは一口飲むと手元の資料を見た。

 

タクミ

(然し、今回の緊急動員で騎兵旅団と砲兵旅団を動かされなくて良かった。私の直属として精鋭重騎兵とA.I.Sを含む機甲部隊を集め、装備を赤く塗装した具足に一新した精鋭混成騎兵旅団、『赤備え』。うちの家が続けて来た騎兵プロジェクトの集大成。大規模野戦において先方を務めるべく編成された軍団だ。今回は、敵の歩兵集団を相手に全面突撃を敢行する場面があるかは分からんが、敵も騎兵を使うことを考えると可能性は高い。)

 

タクミは別の資料に目を向けた。

 

タクミ

(今回はダーカー相手に戦う訳では無い。人間を相手にした対人戦闘になる。かつてのアーカスのような突撃主義を葬り去らないといけない。砲兵とフォースやテクターの火力で敵を翻弄する。その合間をレンジャーやガンナーが銃撃を加え、敵が崩れたところをハンターやファイター、あとブレイバーが騎兵と共に突撃する。)

 

タクミ

(最新型重砲30サンチ重榴弾砲を大量配備したお陰で陸戦は凄ぶる楽になるはずだ。制空権確保という圧倒的な戦況の中で巨弾を敵に叩き込む。いかにオラキオの兵が精強だろうとこれには敵わないはずさ。)

 

すると部屋のブザーがなった。タクミは内線を繋ぐと女性兵士が画面に映し出された。女性将校は口を開くとタクミに報告を行った。

 

女性士官

『提督。ネルソン元帥がお見えになっています。隣の応接室にお通し致しました。』

 

タクミ

『ありがとう直ぐに行くよ。』

 

応接室に入るとネルソンは和服に身を包み、杖をついて座っていた。ネルソンはタクミを見ると立とうとしたが、タクミは制止した。

 

タクミ

『お体の調子が悪いと聞いていましたが、元帥、その大丈夫でしょうか?』

 

ネルソン

『ここ最近立ち仕事が多かったからのぉ…。家内に無理をするなと言われたわい。心配するで無いわ、軍務に差し違いは無い。それに暫くはウォパル衛生軌道上の軍港に勤めることになったから、養生するぐらいの時間はあろう。』

 

タクミ

『そうでしたか。して、御用件は?』

 

ネルソン

『お前さんはどう思ってるのかと思ってな。アウグスト・ヴォン・シュヴァーベンをな。あと、第三銀河ではどう戦うつもりなのかをな。』

 

タクミ

『アウグスト・ヴォン・シュヴァーベンはまさしく覇王になる為に生まれた存在でしょうね。彼の戦術、戦略の才は紛う事なき神にでも授けられたものとでも言った方が良いでしょう。でも彼の様な君主は何も珍しい訳では無いので、必ずボロを出すでしょう。そこを突けば負けはしません。…勝てるかと言われたら望み薄ですけどね。

 

さて、元帥、次にこれをご覧下さい。これは、諜報班とグラール側からの情報を元に作った第三銀河における敵の配置図です。複数の艦隊で戦線を構築して居ますが、それぞれの位置は連携を取るには遠すぎます。つまりこれは多くの手柄を取ったものに何かしらの褒美を取らせると第1王子が配下に言ったのでしょう。その所為で功を焦り過ぎた連中の頭の中に連携と言う文字は消えたようです。

 

そしてここが敵の前線においての重要拠点。惑星セーシャン、砂の惑星です。先ずはここを目指し三国の精鋭艦隊で聯合艦隊を編成し戦線中央突破を図ります。同時に補給線を完全に断ち、敵最前線の艦隊を孤立、更に飢えさせます。あとはグラール、第二王子派オラキオ艦隊に殲滅させるもよし、此方側に付かせるもよし、この方針を敵本拠、オラキオンまで繰り返します。

 

敵艦隊を一つずつ倒しては時間が足りません。我々はアウグスト・シュヴァーベンとダーカーの両方を敵に回している事を忘れてはいけませんからね。』

 

ネルソン

『短期決戦か…。やはり第二銀河側が気になるか?』

 

タクミ

『ええ、どうしようもなく。彼なら要塞を奪うとかそんな事はせず破壊しに来そうですからね。奪いにくるなら誰でも退けられるとは思いますが、なにせ、スクロゥス・ヴォン・ゴッデス要塞は無敵ですからね。』

 

ネルソン

『しかしお前だけでは此度の遠征軍を統率するのはちと手を焼くかも知れんなぁ。』

 

タクミ

『そう思って何人か連れてけるようにウルク総司令にお願いしましたよ。シャオも連れてって良いと言ってたみたいなので、大丈夫でしょう。』

 

ネルソン

『そうか。そう言えばタクミ、お前さん武蔵を人に譲ったそうだな。ヒューズ君に譲ったと聞いた。』

 

タクミ

『ええ、今後は艦隊旗艦をスサノオ…じゃなくって、武装、通信システム、推進力を大幅に改装した改ガーディアン級艦隊旗艦型大型戦艦一番艦金剛に移そうかと。武蔵でも良かったんですけど、足が遅いのと、あと幸運を呼ぶ艦としては金剛の方が良いんです。

 

武蔵はトップクラスの戦艦ですが、前にシールド突き破って被弾してるので危ういと思いましたので(損傷は軽微で死人も出なかったんですけど)幸運艦金剛にした訳です。ヒューズ提督も武蔵を気に入ってたので話は直ぐにまとまりました。』

 

ネルソン

『ウム、ではお暇するかな。』

 

タクミ

『送りましょうか?』

 

ネルソン

『心配せんで良い。今は目下の課題を片付けるのじゃ。こっちの事は任せろ。』

 

タクミは祖国の老将を見送ると机につき、ペンと一枚の紙を取り出した。そして紙に何かを書き出した。それは演説の原稿だった。タクミは数万の新兵を戦いの中で古強者に変貌させなければならない。その為には出だしが肝心だったのだ。

 

 

翌日宇宙港の大広間の特設ステージにタクミは立った。傍らにはマトイや、今回の遠征に出陣する諸将も居た。

 

タクミは口を開き、この場で自分をただじっと見つめる一万余人の将兵に語りかけた。

 

タクミ

『諸君。知っての通りだが、我々は第三銀河に向けて出陣する。我らは参戦義務の無い戦争に介入する。普通に考えれば、我々は無益な殺生と流血をしに行く。これは我らにとって意味のない戦だ。だが諸君!我々は、我々オラクルの戦士達が意味の無い戦をした事はあっただろうか?

 

彼らは皆、必ず戦うにあたっての目的があった。意思があった。私は本来固い信念を持った人間ほど信用できないと公言して来たが、我々は常に確固たる意志を持って戦って来た。その意思とはなんだ?祖国を、いや、オラクル船団に生きとし生ける者の自由と平等、そして権利を守るという目的があった!確かに今回の戦場にオラクルの民は居らぬ。だが、同じ民主主義の旗を仰ぐ者、和をもって至尊の冠を頂き、民を導こうとする者とそれを慕う者、そして後のオラクルの民の為に戦うのだ!』

 

タクミの言葉に、居合わす兵士たちは口々に囁き始めた。

 

『後のオラクルの為?』『提督閣下は何をお考えになられているのだ?』『今ではなく未来の話をしているのか?』

 

タクミ

『我らの真の敵は、ダーカーと、戦争を賛美し、安楽な場所から幼気な民衆を戦争に駆り出す恥知らず共だ。我々は彼らを相手に生きる為に戦う!後のオラクルの民が憂う事なく、後世を生きる為に戦う。…諸君らに問う!』

 

一喝が飛び、将兵は再び姿勢を正した。

 

タクミ

『諸君らは、民主主義の軍人か?』

 

将兵

『『『『『そうだ。』』』』』

 

タクミ

『オラクルに忠誠を誓った兵士か?』

 

将兵

『『『『『そうだ!』』』』』

 

タクミ

『自由の灯火を守るために生まれた戦士か‼︎』

 

将兵

『『『『『そうだ‼︎』』』』』

 

タクミ

『ならば付いて来い!ここから先は未知の航路。我らは冒険者にして、戦の神々に魅入られし狂戦士…自由の殉教者。そして!祖国の地を再び踏まんと誓った絶対帰還者‼︎

軍団指揮官として命令する。皆、生きて、この船団の土を踏むぞ‼︎‼︎』

 

将兵

『おおおおおおおおおおおおああおおおお‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

タクミは我ながら偉く大層な事を言ってのけた者だと内心呆れて居たが、厭戦気分が充満するのは予防しておきたかった上、更にはこれがオラクルの為になる物にしなければならぬと言う彼本人に対しての誓いでもあった。

 

なんにしても、こう言った皆を鼓舞するような大言を吐くのが滅法苦手なこの青年はなんとか自力でやってのけた。(大抵こういうのは、アースグリムや今は亡き、鹿島大佐やグリッドマン、ヒューズに任せっきりであった。)だがこの男には、この演説以上に難題な仕事はまだ残っていることを忘れてはならない。後に彼は国そのものを背負う事に成るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主要人物紹介(ゲームキャラ優先)
小説での立ち位置や設定込みで挿入しておきます。
(年齢は作中の時系列に沿って考えて居るので結構適当)
1 タクミ・F(タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデル)年齢22。
種族ヒューマン。
身分 アークス(守護衛士)・オラクル国防宇宙軍大将、要塞方面艦隊司令官
(王族(フェデル王家))
アークス出身の若き艦隊司令官。奇策を多用する一方、堅実的な戦法も得意とする。
深遠なる闇との戦いでゆういつ治療冬眠を免れた(正確には短期間で済んだ)アークスにして、かつてオラクルを治め、栄華を誇った本家フェデル帝室の末裔。一時期、自分はオラクル共和制の国民として立っているのか、オラクル帝政の末裔として立っているのかと迷っていたが、マトイのお陰で踏ん切りがついた。父を早くに亡くしており、姉と母を実家に残している。
幼少期はフリードリヒ・ケンプ・オイゲン、ジェームズ・ネルソンに師事してした。

2 マトイ 年齢19
種族ヒューマン
アークス(守護衛士)オラクル国防宇宙軍第一艦隊首席副官(少佐待遇)
強力なフォトン感受性を持つヒューマンの女性。その正体は2代目クラリスクレイス。時を超えて起こった奇妙な事件の中でタクミと出会う。以後掛け替えのない戦友として数多の戦地を駆け巡るが等々、友人以上恋人未満を超えてしまった様子。実は結婚願望有り

3 イオ 年齢17
種族デューマン
身分アークス中一級(ゲームレベル60以上65未満)オラクル国防宇宙軍第一艦隊提督付き侍従→作戦参謀(少佐待遇)
デューマンの少女。種族の特性もあって未成年アークスの中でトップクラスの技能を持つ。タクミやアフィンを先輩として慕っている。タクミ麾下の第一艦隊に配属になった時に、タクミから艦隊運用や戦術の手解きを受ける。
その才能は、タクミやネルソン、更にウルクや、レギアス、シャオも認める程、優れた物を持っている。

4アウグスト・ヴォン・シュヴァーベン 年齢??(死後200年近く経っている)
種族ヒューマン→ダーク・ファルス・クローン(模造体とは違い普通のクローンにネガフォトンを持たせたもの。元の人間によるが、ダーク・ファルス模造体より高度な存在になる。)
身分 オラクル第二帝政軍大元帥永久欠番兼宰相(生前)
ダーク・ヒューマン独立派指導者(死後)
オラクル第二帝政期の軍人、貴族。若くして軍のトップに登り詰め、その戦略、戦術眼はダーカー、グラール、オラキオといった勢力に追従を許さず、宇宙を統一しかけた。しかし、病で早逝してしまう上、遺体からダーカーによってDNAを採取され、ダーカーの操り人形として復活させられるも、オリジナルの記憶を植え付けられていた事から前世の頃の野望であった、ダーカー殲滅、宇宙統一を目指す。

5シャオ
種族? 年齢?
身分アークス・マザーシップ
オラクル船団マザーシップそのもの。見た目は少年のような姿だが、言動はとても落ち着いている。深遠なる闇との戦い以降演算に集中しており、姿を表さなくなる。然し、指示だけは飛んでくるのでアークス総司令であるウルクは苛立ちを隠せないでいる。巷では、一切船団内に顔を出さないので巷では『家に居るのに、消息不明の存在』と言われて居る。

6ウルク 年齢18
種族ニューマン
身分アークス総司令(元帥又は大将と同格の待遇。)
オラクルに住むニューマンの少女。類い稀な創造力を持ち、決断力、判断力が優れて居る女性である。様々な経緯があり、アークスの長である総司令に就任する。因みに本人はフォトン感受性が低い為、アークスに成れなかったと言う苦い過去がある。副司令として自分を支えてくれるテオドールとは幼馴染である。今は戦力再編と国防のために奔走して居る彼女だが、時が来れば国防の為、陣頭に立つ日が来るかも知れない。因みに隠れ戦闘艦船フェチでもある。

7アフィン 年齢18
種族ニューマン
身分アークス上一級(ゲームレベル65以上70未満)首都防衛大隊第四大隊大隊長(大佐待遇)
ニューマンの少年アークス。タクミと同じ時にアークスになった少年。
アークスになった当初は戦いに対する覚悟や判断力が欠落していたが、姉を探すという目的の為に次第に成長していき、遂に姉ユクリータをダーク・ファルス若人から取り戻した。深遠なる闇以降はオラクル船団首都防衛大隊(首都だけでなく、オラクル船団の全居住艦の治安と、防衛を担う部隊。)の大隊長になるまで成長する。

8オーザ 年齢24
種族ヒューマン
身分アークス上一級
首都防衛大隊第一大隊大隊長
ヒューマンの青年。
ハンターとしてアークスに在籍しており、タクミやアフィンとは先輩になる。性格は真面目な勇者気質で頼れる兄貴的な存在である。当初はハンター第一と他職種特にフォースを蔑ろにしてきたが、戦いを通して、他の職業との連携を重視するようになる。マールーと何か因縁があるらしい…が詳細は定かでは無い。

9マールー 年齢24
種族ニューマン
身分アークス上一級首都防衛大隊第二大隊大隊長
ニューマンの女性。
アークスにはフォースとして在籍している。性格は大人しく、病弱な印象があるが、テクニックに対しての才能は一級品であり、芯の強い面もある。フォースこそ至高であると考えており、他職種特にハンターを蔑ろにしてきたが、戦いを通して、ハンターの良さを知った。どうやらオーザとは何か因縁があるらしい…

10リサ 年齢(?) 恐らくオーザー達と同じ位23〜26前後
種族キャスト(幼少時に難病の為キャスト施術を受けた模様)
身分 アークス上一級首都防衛大隊第3大隊大隊長
キャストの女性。幼少期に難病の為キャスト施術を受けた。(普通のキャストは、生まれたヒューマンの赤子を施術または胎児の時からナノマシンによる施術が行われる)
レンジャーとして在籍している。その丁寧な可愛らしい容姿と裏腹にとんでもない狂気が眠っており、味方も撃ちかねない程であるが、本人は乙女兼そういうものは弁えてると供述している。因みに、ウルクからその攻撃的性格を買われて、オラクル海兵隊の創設メンバー入りの打診を受けており本人は、『リサとしては、沢山敵さん撃てるなら何でも良いですよ♪』と答えている。

11テオドール 年齢18
種族ニューマン
身分アークス副司令(中将待遇)
アークス副司令を務めるニューマンの少年。
類い稀な才能を持っているが当時は自信が持てなかった。
ある時、ウルクの死を知り、ダーク・ファルス・敗者に闇に落とされていたが、タクミと配属されていた部隊のアークスの活躍により、ウルクの死は回避され、彼も闇から自分を取り戻した。今は六芒均衡達と共にオラクルの戦力再編と国防の為に奮闘している。

12 深遠なる闇 年齢(年齢の概念が無い)
種族 深遠なる闇
身分 深遠なる闇(闇の支配者)
全てを闇に染めようとする全宇宙規模の脅威。ダーカーとダーク・ファルス、そしてダーク・ヒューマンを使って宇宙の支配を目論んでいた。然し、オラクルに攻め入った際にアークス決死の特攻により、封印される。然し、この戦いの中、封印を免れたダーク・ファルス・双子模造体が居た為完全封印は免れる。(それでも自身の存在の99.8%は封印されてしまった。)大量のダーカーとダーク・ファルス模造体とダーク・ヒューマンを支配下に置くが、アウグスト・ヴォン・シュヴァーベン以下、ダーク・ヒューマンの一部に反乱を起こされる。然し、深遠なる闇は狼狽するどころかその状況を楽しんでいた。全宇宙の規模の脅威はまだ我々の知らない力を持っていることを伺わせるが…







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36話 災いは常に後ろから

 

 

第2銀河の回廊での戦いを制したのアウグスト・ヴォン・シュヴァーベン候だった。彼は合流したフランシス艦隊と共に勢いに乗り、進撃するが…。

 

シューマッハ

『御前!報告いたします!地方の貴族達が手勢を率いて、我が軍の支配星域に侵略を開始しました!既に予備補給路の一部を寸断された模様‼︎』

 

アウグスト

『…如何にあの老提督が入れ知恵しようと貴族どもが手を取り合うことなど無い、もし取り合ったとしても何処まで保つか見物だと思っていたが…ここまで組織だった動きには何かありそうだな。』

 

フランシス

『貴族達を束ねられる様な要素…』

 

クラウゼウィッツ

『考えられるのは1つかしかあるまい、深遠なる闇が出てきたのだ。』

 

ゲオルグ

『それについて卿はどうするつもりだ?クラウゼウィッツ、総参謀長殿の意見を是非聞きたいものだ。』

 

クラウゼウィッツ

『地方貴族と反乱軍の貴族共の間に疑心の種を蒔こうと思っている。我が配下によると、反乱軍は蜂起した地方貴族の軍勢を配下に加えて、戦力の穴埋めをしている。そこに付け入る。』

 

フランチェスカ

『どんなやり方をするのかしら?総参謀長閣下?』

 

クラウゼウィッツ

『先ず、地方貴族達には、自分達の同胞である中央の貴族の一部はアウグスト軍に繋がっていて、時が来れば友軍に牙を剥く。当然その牙も自分にも剥くから気をつけろと広め、反乱軍側の有力貴族達には、地方貴族の殆ど、特にアウグスト・ヴォン・シュヴァーベン候の支配領域周辺の者達は既に調略済みで、戦闘になれば後ろから撃って来るから気をつけろと広める。しかも有力貴族側にばらまく噂で地方貴族の間にも疑いの芽を作り出せると言う寸法だ。何せ誰も調略してないからな。皆が嘘をついて居ると思い出すだろう。』

 

レオポルド

『成る程な、普段からお互いの腹の探り合いをして、陰謀を企てるのが貴族共の日常だからな。自分達の背中を撃ちかねない連中が居るとなったら、周りが信用できなくなってもおかしくないしな。実にお前らしい考え方だな参謀長。』

 

クラウゼウィッツはレオポルドを見やったが直ぐに視線を戻した。レオポルドもそれに気がついたのか、愛想を尽かしたように顔を背けた。

 

アウグスト

『ともかく貴族共は自ずと自滅するのを我々はそれを促すだけで良いと言う事だな。総参謀長。』

 

クラウゼウィッツ

『左様に御座います閣下。』

 

アウグスト

『では、皆この方針に則って進撃せよ。進撃再開は明朝のマルロクマルマルとする。クラウゼウィッツは調略を済ませ、敵の撹乱に努めよ。レオポルド、卿は先陣だ。フランチェスカ艦隊が後方から援護する。一直線に帝都へ進め!他の艦隊は進撃に伴い、各星系を征服せよ。後方の敵は、残しておいた予備艦隊で片付けろ。後方からわずわらしくされても目障りなだけだ。』

 

フランシス

『後方艦隊の司令官は如何致しましょう?私が行きましょうか?』

 

アウグスト

『いや、オーヴェルニュ提督には、世の前を頼みたい。誰か適任者を知らぬか?出来れば後方の整備も出来る者が良い。』

 

シューマッハ

『では、マシヤ・ケベック中将など如何でしょう?』

 

アウグスト

『どういう男か?』

 

シューマッハ

『はっ、長らく地方艦隊の司令官を担当していたのですが、後方整備の達人でしかも本人は参謀本部の出身なので戦術にも明るく、有能な男です。』

 

ゲオルグ

『参謀本部出の地方艦隊司令官か…なにかやった口だな。』

 

シューマッハ

『なんでも貴族が建てた戦略が穴だらけの矛盾に矛盾を重ねた酷いものだったから考え直すように言ったら忌避を買って飛ばされたそうだ。』

 

アウグスト

『シューマッハ大将がそこまで推す男なら安心だな。ではその男に任せよう。その前に会ってみたいな。』

 

数十分後、一隻の戦艦が総旗艦イラストリアスに近づいてきた。その戦艦から一隻のシャトルが飛び出してきてイラストリアスのエアロックに接続した。手の空いた衛兵が儀仗整列して乗ってきた人物を迎えた。一地方艦隊の司令官といえど将官である以上これぐらいしなければならないが、何よりこれから重用するであろう有能な人物に対して礼を尽くさなければならないというアウグストの配慮もあった。

 

イラストリアス艦橋に一人の男が入ってきた。歳は40になったかならないか。首ヒゲが関羽髭の様になって居る。髪型は首を覆うぐらいの長さ、背格好は長身だが、ガッチリしている。手には白手袋をつけて、上着のポケットからはモノクルが垂れている。見るからに紳士だ。だが彼が戦士だという証なのか、大型のガンスラッシュが腰に挿してある。

 

ケベック

『マシヤ・ケベック中将であります。元帥閣下。ご命令により参上仕りました。』

 

アウグスト

『ご苦労、ケベック中将。卿には、後方の地方貴族どもを殲滅して貰いたい。予備艦隊を率いて任務に当たってくれたまえ。』

 

ケベック

『ハッ!』

 

アウグスト

『そして、聞いても良いか?何故、艦橋の中なのにも関わらず、大柄な銃剣(ガンスラッシュ)を携行している。嫌なら別にこれ以上詮索せぬが。』

 

ケベック

『いえ、閣下。お答えします。私の家系は代々帝国騎士(貴族階級の最下位)でして、その証としてこの様に我が家に伝わる銃剣を携行しているのであります。ご不況を買ったのであれば、直ちに外しますが?』

 

アウグスト

『いや、良い。帝国騎士か…随分と懐かしい響きだ。私もオラクルに居た頃は帝国騎士だったのだ。懐かしいな…。』

 

アウグストは過去に想いを馳せたが直ぐに我に帰った。そして目つきを変えると、席から立ち上がり、皆に聞こえる様に艦橋一体に響く声を出して己の新たな僕に命令した。

 

アウグスト

『では、ケベック中将。直ぐに任務につけ、その他各諸将も抜かりなく掛かれ。良いな!』

 

一同

『はっ!』

 

アウグストの諸将達は己が主君を敬礼で見送ると、また席に着き、深い溜息をついた。

 

ゲオルグ

『さて、どうしたものかな?』

 

シューマッハ

『ああは言ったが、実際後ろを取られているのは痛い。地方貴族ども自体は1つ1つの軍勢は蟻同然だが、よって集られては話にならんからな。』

 

提督一同

『ハァァァ〜…。』

 

提督達の溜息が会議室一体に広がる。提督達は、気を落としながらも次の戦いに備えて、それぞれの座乗艦にかえっていったこの提督達にとっての幸運は、命を預けるに値する君主の元に生まれた事だが、彼らの不幸はこの戦の申し子のような君主の元に居る以上、生涯戦場から離れらなくなるという呪いと、この君主の容赦ない人使いの荒さであろう。

 

シューマッハ

『しかし、我らは武人。戦場から離れる事など考えられん。』

ゲオルグ

『同感だ。我らは、忠誠を捧げるに値する君主の元に居られるだけで良い。不惜身命、出なければ我が王には仕えられんよ。』

 

シューマッハとゲオルグは互いの盃を交わして、その中身を飲みほした。

その頃、クラウゼヴィッツとフランチェスカ両大将は、ケベック中将の見送りに行っていた。

 

クラウゼヴィッツ

『卿の任務は大変重要なものだ。我が軍の退路と補給線をこれ以上奴らの好きにはさせる訳にはいかない。』

 

フランチェスカ

『多くの兵の命が掛かって居ます。どうか我らをお救いください。』

 

ケベックは二人の手を取り、力強く答えた。

 

ケベック

『必ずや、殿下の後背を害しようとする不届き者どもを成敗してまいります。なのでどうか例の件は良しなに…。』

 

クラウゼヴィッツ

『案ずるな。閣下も了承なされた。必ずや探し出そう。あの男もまだ戦えるのなら我らの助けになるであろうしな。』

 

ケベックはクラウゼヴィッツの返事に満足すると、右手を頭の前に持っていき、敬礼の形を取ると

 

ケベック

『では出立致します。』

 

と言い、自分のシャトルに乗り込んで行った。

こうして、ケベック中将は配下5000隻を連れ、予備艦隊20000隻との合流の為、戦列から離れ、アウグスト軍は、行軍を再開した。目指すは、第1帝政。至尊の冠を頂くために、王は進む。そして同じ時に、貴族軍もまた、艦隊を派遣し、アウグスト軍の侵攻を阻むべく出撃していたのである。

 



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37話 至尊の冠によって賽は投げられた。

アウグスト・フォン・シュヴァーベンが、マシヤ・フォン・ケベック中将の予備艦隊に地方貴族の各個撃破を命じたお陰で、アウグスト軍は、後顧の憂いを断つことに成功し、補給線の再確保も成功した。アウグスト軍は、後顧の憂いを断つことで勢いづき、一気に貴族軍を追い詰めていた。地方貴族の悉くを平らげたケベック中将は、本隊と合流しようとしていた。

 

ケベック

『全く、とるに足らん戦いであったな。地方貴族がまとまっていたならもう少し骨のある戦いが出来ただろうが、ああも連携がバラバラではな…期待外れと言ったところか。』

 

副官

『しかし、敵がなかなか巧妙な連中であれば、我々は決戦に出る事も出来なかったのですから、これは女神の加護があったと思い、次の戦いに期待なさった方が得策と存じます閣下。』

 

ケベック

『そうだな、さて総参謀長殿は約束を果たしてくれるだろうか…。』

 

副官

『トゥハチェスキー元帥とそのご家族の行方ですか?』

 

ケベック

『元上官とそのご家族の行方ぐらい元部下が知らんでどうする?それにあんな事になればな…』

 

理由はこうだ。

アウグストの前にダーク・ヒューマン全軍を統括していたのがトゥハチェスキー元帥である。その元帥が、自分達の神の如く振る舞う深遠なる闇に与えられた指揮権を、アウグストに渡し、尚且つ、撤退するオラクル軍をそのまま逃した事で深遠なる闇の忌避を買う事になった。結果、深遠なる闇は元帥の娘二人を、後宮に召し抱えさせる様に沙汰を出したのだ。後宮とは言うが実態は名ばかりの売春宿の様なものである。下級貴族、又は平民、又は農奴の若い美少女、美女達(または女性貴族、ダーク・ファルス・若人(模造体)向きに美少年、美男)が強引に連れてこられ、(尚、第2銀河内の文明は同性愛を徹底的に根絶したので、同性愛者が存在しない。)ダーク・ファルスやダーカー、貴族達に休む間も無く性の捌け口にされ、望まぬ子を孕ませられ、また犯され、何処かの貴族に気に入れられ拾われればまだ良いが、そうでなければ飽きられた挙句、捨てられ、そのまま別の売春宿に身を寄せるか、更に農奴や、浮浪者に凌辱され、悲惨な人生を送るか挙句そのままあられのない姿で死ぬ。まさに地獄である。

 

そんな地獄に深遠なる闇は、容赦なくトゥハチェスキーの娘二人を突き出した。次女に至っては恋も知らぬ歳であったという。トゥハチェスキーは妻とただそれを見ていることしか出来なかったのだ。然し、彼女らはこの地獄の釜に入れられることは無かった。アインツヴェルン家の重鎮に、ケベックと同じ様にかつてのトゥハチェスキーの部下がいたのだ。その男は主君にトゥハチェスキーの娘達を助けてもらえる様に懇願したが聞き入れられず、男は娘二人を乗せた馬車を、数名の部下と共に襲撃し、娘達を何処かに隠した。それを知ったアインツヴェルンはその部下を斬首にしたが、娘達の行方は分からず、なんと更にトゥハチェスキーとその妻の行方も分からなくなったのだ。ケベックは死んだ同僚の遺志を継いで、自分の元上官とその家族の行く末を見守ろうとしているのだ。クラウゼウィッツに約束させたのもその件であり、アウグストの人材探しの際にシューマッハがケベックを推挙したのもこの件についてシューマッハも知っていたので手柄を立てさせシュヴァーベン候の助けを得させようと思ったからであった。

 

ところ代わり、アウグスト軍は、第一帝星一歩手前の星系まで進軍していた。しかし彼らの前には更に困難が待ち構えていた。

 

ゲオルグ

『出てきたな…』

 

シューマッハ

『出てきてしまったな…』

 

二人の男の視線の先にあるもの、それは巨大な人工球体、超巨大な宇宙ステーションである。直径はスクロウス・ヴォン・ゴッデス要塞より一回り小さく、流体金属が表面を覆っているわけでもないが、超硬質デュラスチールとチタニウムの混合装甲により、戦艦クラスのレーザーや実弾も全く効かず、表面各所に武装ステーションが立っている。そして要塞表面にあるちょっとした窪みはエイテム・ゴッデス並みの威力を持ち、最大出力で撃てば惑星そのものを粉砕可能な、フォトン・スーパー・レーザーを装備したこの要塞こそ、第二銀河の歴史において、もっとも危険な兵器、『ドラゴツィニン・カメン・ツメルキ(オラキオ語で黒の宝石)(地球言語のロシア語で死の宝石)』である。名前の由来は、超硬質デュラスチールとチタニウムの混合装甲の吸い込まれそうな黒が太陽光線で黒く輝いている事から付けられた。この要塞は本来第3銀河のダーカー・ダーク・ヒューマン植民地を守る一大拠点であり、相対したオラキオ軍は、この要塞を兵器で囲まれた惑星と称しており、オラキオ王朝屈指の名君、無敗の王として名高い先王『ウィレム・オスマン・オラキオ』が自ら大艦隊を指揮したのにすら、攻略出来なかったほど強力な武装と装甲を持っている。

そんな大要塞が第一帝星の前に浮かんでいる。然し、アウグスト達にとって幸運なのは、この要塞のスーパー・フォトン・レーザーが使用できない事であった。ウィレム・オスマン王生涯最後の遠征により、ウィレム・オスマン率いる大艦隊と、当時、アウグストの上官で後見人であった、ハロルド・フォン・ノイマン上級大将の指揮する『ドラゴツィニン・カメン・ツメルキ』とその防衛艦隊の戦闘が一年前にあった。その戦闘中の最中、オラキオ艦載機隊の決死の突入によりスーパー・フォトン・レーザーは壊滅的な損傷を受けた。この戦闘で要塞とその防衛艦隊は大損害を受け、ノイマン上級大将もまた、アウグストにダーク・ヒューマンの未来を託し、戦死した。結果、アウグストに率いられ、傷ついた要塞と軍勢は、第2銀河に逃亡し、ウィレム・オスマンは念願の領土奪還を果たしたのだ。

 

ゲオルグ

『されど、フォトン・レーザーが使えなくてもあの化け物は危険だ。あれが一個あるだけで惑星そのものが消滅する。骨が折れるぞこれは。』

 

シューマッハ

『どうなさるおつもりかな、あのお方は、弱点は百も承知だろうが…』

 

クラウゼウィッツ

『だとしても簡単にはつけぬだろうな。』

 

クラウゼウィッツの声に二人は振り向いた。シューマッハとゲオルグは敬礼をするとクラウゼウィッツも敬礼を返した。

 

シューマッハ

『総参謀長が自ら起こしか、閣下が我らを呼んでいるのだろう?』

 

クラウゼウィッツ

『卿達は察しが良くて助かるな。直ぐに行ってくれ。』

 

ゲオルグ

『で、そう言う卿は何処へ行くのかな?』

 

クラウゼウィッツ

『私は部屋から取ってくるものがある。少し厄介な仕事が入ってな。』

 

クラウゼウィッツと別れた二人は、会議室に入った。既に諸将が集まっていた。フランチェスカは愛用のルージュを唇に塗り、レオポルドは生搾りレモンサワーをあおり、その他提督も、それぞれ思い思いの事をしていた。シューマッハとゲオルグもそれぞれの席についた。ゲオルグは給仕兵にワインを持ってくる様に要求し、シューマッハは、コーヒーとクリームを頼むと、愛妻に送る手紙を書いていた。来年の春に待望の一子が生まれることになったこの若き上級大将は、胸を弾ませていた。大扉が開き、アウグスト・フォン・シュヴァーベンが入ってきた。この場にいた全提督が起立し、敬礼した。アウグストもそれを返した。その後からフランシス・オーヴェルニュが入ってきたが、酷い顔しており、両脇を近衛兵が支えていた。アウグストも親友を労わりながら入ってきた。諸将達は戸惑いを隠せなかった。実はフランシスはとある持病を持っていた。それはクローンである今のフランシス・オーヴェルニュにも受け継がれた。『フォトン過剰消費性栄養失調症』という病である。通常の人間よりもフォトンの消費が激しく、それに伴った栄養失調等を引き起こすという奇病なのだが200年以上前は有効な治療法が見つからず、ヒューマンであり、皇帝だった彼はこの病で世を去った。今は、十分対処が可能な病であり、完治も可能だが、それまでは長い時間がかかり、発作として激しい脱力感や、吐き気、熱、頭痛、食欲不振といったものを不定期に起こすのである。そしてその発作が今、運悪くこの未来の皇帝の右腕に襲いかかっていた。別のドアからクラウゼウィッツと軍医が大急ぎで入ってきた。クラウゼウィッツが上着のポケットから小瓶を取り出すと、軍医がその小瓶に注射器を刺し、中の黄緑色の液体を吸い出した。そしてそれをフランシスの右腕に注射した。するとフランシスの顔はみるみるうちに血の気を取り戻した。息も安定し、口も聞ける様になった。

 

フランシス

『ありがとうございます。総参謀長殿、いつも申し訳ない。』

 

クラウゼウィッツ

『卿は我々には必要な男。これくらいはしなくてどうします。然し、提督、あまり無茶はなさいますな。この薬は、まだ臨床試験中で過信は禁物です。』

 

アウグスト

『より速く完治できる物は作れんのか?』

 

クラウゼウィッツ

『材料は取りにやらせていますが、調合が難しく、今打ったのも、我が配下が苦労の末完成させたもの。量産には今少し時間を頂きたい。』

 

ヤン・ザムエルスキ大将

『セープ提督、クラウゼウィッツ総参謀長の実家は確か…』

 

フランチェスカ

『病院よ、その中に薬局もあって結構大きい病院をクラウゼウィッツのお父様が運営していたの。そのツテで軍用の新薬開発とか協力して貰ってるのよ。だって彼、元は軍医になりたかったみたいだしね。』

 

ザムエルスキ

『軍医⁉︎総参謀長殿が軍医ですか?』

 

ザムエルスキは軍医の軍服を着用したクラウゼウィッツを想像したがこの才気溢れる若者には想像はできなかったと後に語ったという。

 

アウグスト

『フランシスが元気になったところで、軍議を始める。まず『ドラゴツィニン・カメン・ツメルキ』要塞だが、あれは第三銀河の戦いで要塞は数年間は使用不可能な損傷を受けていた。これは間違いないな?』

 

クラウゼウィッツ

『はい。要塞は原型を留めたのが奇跡と言われるほど損傷していました。要塞全体の修復に数年。スーパー・フォトン・レーザー砲だけでも修復するとしても三年の月日が掛かるはずでした。』

 

シューマッハ

『然し、一年足らずでもう我らの前に出てきた。見たところかなり修理してあるな。』

 

ゲオルグ

『労働者を飲まず食わず不眠不休で働かしたとしても、ここまでは行くまい。これは間違いなく…』

 

フランシス

『深遠なる闇がいる。奴が何かしたと考えるのが妥当でしょう。』

 

フランチェスカ

『その上、敵残存艦艇は28万弱、現在の我が軍の艦艇は35万と数の上で勝っていますが、要塞を考慮すれば戦力的には我が軍は劣っている様ですね。』

 

レオポルド

『おまけにあの老人もいる。恐らく艦隊の指揮官はアインツヴェルンだろうが、実際はあの戦の名人だろうな。』

 

アウグスト

『少なくとも近距離戦に持ち込まぬ方が賢明だろうな、ともかく、皆は先ず敵艦隊、および要塞の無力化に専念せよ。要塞に深遠なる闇がいるのなら今度こそ仕留めねばならん。惑星と要塞の二重の白兵戦になる。ケベック艦隊にもそれなりの陸戦兵力を渡してある。それさえあれば如何に要塞の白兵戦で、損害を覆うとも我が軍の進撃になんの影響を与えることは無い。民心も彼奴等から離れ切った。この戦、既に我らの勝ちが決まったも同然だ!皆、存分に手柄を立てよ‼︎』

 

諸将

『『『『御意‼︎‼︎‼︎‼︎』』』』

 

一方その頃、帝都ヴァイエルシュタットでは貴族達が宴を始めて居た。戦時であろうとも彼らの日常は変わらず、酒宴に耽る毎日であるらしい。彼らがこうしている一方彼らの為に戦う兵士達は一人、また一人と死んでいるのだが、彼等にはどうでも良いことらしい。

 

アインツヴェルンの取り巻き1

『しかし、苔頭小僧めが何も知らずにここまで来たのは幸運でしたな。』

 

アインツヴェルンの取り巻き2

『幸運ではない。アインツヴェルン候の策略通りに事が運んでいるだけの事だ。流石は帝国を支える一大一族の当主!感服致しますぞ。』

 

アインツヴェルン

『よせ、我らが主の助力無くしては我が策はならなかった。敵は間違いなく、要塞の至近までワープし、一気に無力化を図るだろうが、その次の瞬間彼等は主の裁きによって滅ぶのだ。』

 

アインツヴェルンの取り巻き1

『苔頭小僧め、これで終わりよ‼︎』

 

『『『『ワハハハハハハハ‼︎』』』

 

貴族達の笑い声が響く中、全く喜べない師弟が居た。それは元帥ディートリッヒと大将に昇進したバルトハルトであった。

 

バルトハルト

『愚かな…いかにあの要塞があろうとももう我らの負け戦は目に見えているであろうが!』

 

ディートリッヒ

『しかし、ひょっとすれば勝ち目はあるかも知れないというのは事実。』

 

バルトハルト

『勝利の為に深淵なる闇を頼るなど、多くの同胞が納得する筈がありません。それに要塞は危険な状態、もし戦闘の影響で爆発し、ヴィサンチ・ノープルにでも落ちたら…』

 

ディートリッヒ

『今、考えても仕方あるまい。』

 

ディートリッヒは大急ぎで大広間に入る伝令を見やるとボソっと呟いた。

 

ディートリッヒ

『どうやらもう始まったようだからな。』

 

アインツヴェルン

『ディートリッヒ‼︎バルトハルト‼︎これに!』

 

ディートリッヒ&バルトハルト

『『ハッ‼︎』』

 

アインツヴェルン

『たった今、反乱軍が星系の端にワープアウトしたと情報が入った。よってこれより出陣する!艦隊は私が指揮を執る!二人は左右の艦隊を率い私を支えろ。左右艦隊は要塞の陰に入り、時が来れば両翼から襲い掛かれ、私の中央艦隊は、主のご命令が出次第出陣する。卿らも戦機を見計らうのも忘れるな、では行くぞ!』

 

貴族達

『うおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎』

 

貴族達は右の拳を天に向かって突き出し勝鬨をあげた。そしてその頃、『ドラゴツィニン・カメン・ツメルキ』のコアには不敵に笑う双子の姿があった

 

ヴィサンチ・ノープルより少し離れた宙域にアウグスト艦隊がワープアウトした。総参加艦艇35万弱。アウグスト軍の保有戦力の殆どを投入していた。

彼等の目の前にはドラゴツィニン・カメン・ツメルキ要塞が浮かんでいた。アウグスト軍の作戦は、要塞至近までワープで近寄り、急襲を掛け、一気に要塞を無力化、そのまま帝都に降下するものだった。

 

〔アウグスト艦隊〕

 

通信士官

『全艦隊のワープアウトを確認。全艦砲撃準備完了です。殿下ご命令を!』

 

アウグスト

『全艦砲撃開始!主砲、斉射三連‼︎艦首、艤装のレーザー砲だけでなく、ミサイル、レールガンもありったけ叩き込め‼︎撃って撃って撃ちまくるのだ‼︎』

 

レオポルド

『撃て撃て‼︎弾薬を惜しむな‼︎向こうに反撃されたらただじゃ済まんぞ!』

 

フランチェスカ

『艦載機隊も合わせて発進!同胞達の怒りや苦しみも全てを掛けて撃つのです‼︎これは聖戦と心得なさい‼︎』

 

35万の艦艇から撃ち込まれた数百万のレーザーの帯やミサイルや高速飛翔体は真っ直ぐ要塞に向かっていった。

然し、その数百万の攻撃は全て要塞のシールドで防がれてしまった。防がれた瞬間アウグスト軍の将兵たちはどよめき出し、アウグストですら座席から立ち、その顔には驚愕という表情を露わにしていた。

 

〔アウグスト軍右翼中央・シューマッハ艦隊〕

シューマッハ

『どうした⁉︎』

 

女性通信士官

『敵要塞のシールドの様です…シールド出力、設計上の最大出力を超えています!尚も増大中‼︎』

 

シューマッハ

『シールド発生装置は一年前に修復不可能になるほど破壊されていた筈だろう‼︎何故そんな事が出来る‼︎‼︎』

 

シューマッハ艦隊幕僚

『提督‼︎敵要塞より高エネルギー反応‼︎場所は…要塞主砲です‼︎狙いは殿下の本隊と思われます‼︎‼︎』

 

シューマッハ

『殿下‼︎‼︎』

 

イラストリアス〔艦橋〕

 

アウグスト艦隊幕僚

『殿下をお守り致せ‼︎艦隊全艦散開!緊急回避‼︎‼︎』

 

航海士官

『了解!緊急回避、上昇一杯‼︎』

 

アウグスト

『クッ、間違いない…こんな事を出来るのは、深淵なる闇だ!全艦に警告を出せ!』

 

通信士官

『要塞主砲、来ます‼︎』

 

ドラゴツィニン・カメン・ツメルキから禍々しい紫色の巨大なレーザーの光が放たれた。各艦隊はそれぞれ回避行動を取ったがワープ後という事が災いして回避行動に遅れが生じ、巨大なレーザーの光に飲み込まれる艦艇が出た。レーザーに飲み込まれた艦の乗組員は苦痛も感じずに消滅し、至近で沈みゆく艦はまさに生き地獄であり、男も女も関係なく、灼熱の業火の熱を感じながら焼かれ、自らの体が溶けるのを感じながら死んでゆく。この砲撃で沈んだ艦艇は一万数千隻、更に戦闘、航行不能艦艇を含め、二万五千隻近くの艦艇が損害を受けたと言われている。幸運だったのはこの砲撃で死んだアウグスト軍の将が居なかった事であったが、アウグスト軍は戦闘開始10分で2万以上の艦艇、数十万の将兵を失ったのである。こうして第2銀河内戦最期の戦いが始まったのだ…。

 

 




オラクルのアークス達が数とり団をやったらこうなっちゃう様です。
(ただの自己満妄想シリーズ)

タクミ
『と言うわけでこれから作者がちびっ子の頃大好きだった数とり団やることになったんで夜露死苦ぅ‼︎』

ゼノ&エコー&アフィン&ユクリータ&イオ&クーナ&ルーサー&カスラ
『夜露死苦ぅ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

タクミ
『そして何が楽しくてこんなもんやってるか分かんないクソ作者の無茶ぶりに超絶な笑顔でマトイに参加してもらってるから、これもうみんな可愛い過ぎて死するしか無いから夜露死苦ぅ‼︎』

ゼノ&エコー&アフィン&ユクリータ&イオ&クーナ&ルーサー&カスラ
『夜露死苦ぅ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

タクミ
『因みにマトイへのペナルティはイオとクーナのスク水撮影会で肩代わりだから夜露死苦ぅ‼︎』

イオ
『えっ…?』

クーナ
『ちょ…。』

ゼノ&エコー&アフィン&ユクリータ&ルーサー&カスラ
『夜露死苦ぅ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

イオ&クーナ
(解せぬ)

タクミ
『よしやるぞ‼︎せーの!』

一同
『ぶんぶん!ぶぶぶん‼︎』

イオ
『アークス!ぶんぶん‼︎』

クーナ
『マイキャラ(主人公)!ぶんぶん‼︎』

マトイ
『みんな大好き♡』

一同
『ああああああああああああ‼︎‼︎‼︎///もうこれだよぉぉぉぉぉぉぉ‼︎///』

結論 マトイがかわい過ぎてみんなダメになる。


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38話 世代交代

新光歴240年1月2日。

アウグストは遂に、首都ヴィサンチ・ノープルへ軍を進めた。然し、そこで待って居たのは深遠なる闇による周到な計画により配備された貴族艦隊と、当面復活してこないはずだったドラゴツィニン・カメン・ツメルキ要塞であった。更にアウグストは初戦10分で2万以上の艦艇を失う結果を招いてしまっていた…。

 

[ゲオルグ・ガラハウ上級大将 旗艦イラストリアス級艦隊旗艦型超大型戦艦アッシリア 艦橋]

ゲオルグ

『まずいな…初戦10分で2万以上は流石にまずい。』

 

幕僚

『提督、殿下が全提督にホログラム通信を行うようです。こちらに映します。』

 

ゲオルグ

『ああ、頼む。』

 

ゲオルグはそう言うと提督席から立ち、姿勢を正した。すると青白いホログラムが映し出され、アウグストや他の提督達のホログラムが映し出された。ゲオルグは敬礼をすると他の者もそれに習った。

 

アウグスト

『皆、無事のようだな。』

 

クラウゼウィッツ

『敵の要塞主砲は完全に使えるようですな。今入った配下からの情報によると、深淵なる闇をコアにして、要塞の全動力を賄っているようだ。要塞主砲の次の発射までの時間は冷却時間を含めてのチャージ時間は35分。』

 

レオポルド

『つまり、我々は後30分足らずに要塞主砲を無力化しなければまた一個艦隊クラスの損害を被るわけだ

 

フランチェスカ

『しかし、敵のシールドのせいでレーザーの類は効きません。ミサイルやレールガンを叩き込ませ様にも迎撃を掻い潜り、接近しなければ意味がありません。』

 

シューマッハ

『虎穴はいらずんば虎児を得ずと言うことさ。殿下、その任はこのハンブルグ・シューマッハが果たして見せましょうぞ!』

 

アウグスト

『そうか、ではシューマッハは要塞の肉薄部隊を率いて突撃しろ。クラウゼウィッツ、直ちにミサイル艦を集め戦隊を編成しろ。それをシューマッハが指揮を執る。』

 

クラウゼウィッツ

『はっ。してその間のシューマッハ艦隊の指揮は誰に任せましょう?』

 

フランシス

『では、それは私めが。』

 

ゲオルグ

『卿だけではちと手を焼くだろう。俺が半数を肩代わりしよう。』

 

シューマッハ

『では二人にお願いしよう。』

 

提督達が方針の確認をしている間に、敵方の動きがあったらしく、アッシリア艦内に警報が鳴り響いた。

 

レーダー手

『敵艦隊の発進を確認しました!左右両翼、中央にも敵艦隊が現れました‼︎敵は包囲体形を作ろうとしています‼︎敵艦隊中央にアインツヴェルン家のIFFを確認しました!』

 

アウグスト

『決まったな。全艦‼︎敵中央、アインツヴェルン艦隊を突破し、シューマッハミサイル戦隊の道を作るぞ!』

 

ホログラム通信が消え、ゲオルグは正面を見据えると配下の兵達に命令した。

 

ゲオルグ

『聞いたな?全艦中央に火力集中!左右両翼の艦隊が襲い掛かってくる前に仕留めるぞ!』

 

[ハンブルグ・シューマッハ上級大将 旗艦イラストリアス級艦隊旗艦型超大型戦艦シャムシュ 艦橋]

 

シューマッハ

『全艦、ミサイル戦隊に指一本触れさせるな!ガードを固めつつ、敵艦隊に強烈なアッパーを食らわしてやるんだ!』

 

その頃、左翼艦隊を率いるディートリッヒ元帥は艦載機隊と雷撃艇による第1攻撃隊を発艦させていた。

 

[ハンス・フォン・ディートリッヒ元帥 艦隊旗艦オーディン級艦隊旗艦型大型戦艦マラケシュ 艦橋]

 

ディートリッヒ

『やはり中央突破せざる得んだろうな。然し、いかに軟弱な貴族達の艦隊といえど後ろの要塞からの支援攻撃がある。そう簡単には抜かれまい。』

 

副官

『しかし、予想より早く中央突破に移りましたな。第一次攻撃隊は何とか間に合いますが、敵が態勢を立て直せば第二次攻撃隊は迎撃されるかもしれませんな。』

 

ディートリッヒ

『敵はこういった状態にも即応できる者たちばかりだ。仕方あるまいよ。でなければシュヴァーベン候が登用する訳があるまい。』

 

副官

『第二次攻撃隊は発艦準備は完了していますが、如何致しましょう?』

 

ディートリッヒ

『敵の兵は出来るだけ削いだ方が良さそうだからな。第二次攻撃隊も発艦させてくれ。バルトハルト大将にもそう伝えてくれ。』

 

 

[コータ・フォン・バルトハルト大将 艦隊旗艦オーディン級艦隊旗艦型大型戦艦 ダレン=ジャン]

 

バルトハルト

『中央は期待出来んからな、第二次攻撃隊全機全艇発艦‼︎同時に艦隊最大戦速!敵側面を火だるまにしてやるんだ‼︎』

 

アウグスト

『側面の守りを強化する!装甲の厚い戦艦は艦隊の側面に集中配備、その横に駆逐艦と砲艦は貼り付け!戦艦を盾にしながら、敵の両翼艦隊を迎え撃つ‼︎』

 

アウグスト軍の艦隊の戦艦は艦隊の盾になるべく敵に腹を見せ、その強力なシールドと装甲で守り、その盾から駆逐艦と砲艦が弾幕を展開していった。次第にディートリッヒが放った艦載機隊も落とされていった。

 

更にアウグスト軍の諸将達の働きもあり、次第に両翼は押し戻され、中央はみるみる数を減らし始めていた。そして遂に中央に穴が空き、シューマッハ率いるミサイル艦戦隊のミサイル攻撃がドラゴツィニン・カメン・ツメルキ(D.K.T)要塞の外壁を焼き始めた。

 

 

『D.K.T要塞 主砲用エネルギー生産反物質炉コア』

 

深淵なる闇

『喰らい付かれたか…。やはり、アインツヴェルンは使い物にならないね。』

『そうだね。この際だからアウグスト諸共さ、一気に吹っ飛ばしちゃおう‼︎』

『『そうしよう‼︎』』

 

この時、要塞の異変にクラウゼウィッツの旗艦に所属する分析士官が気がついた。彼は要塞の異常なエネルギーの上昇を見て取り、一大事であることを瞬時に理解した。

 

分析士官

『総参謀長‼︎敵要塞より高エネルギー反応‼︎異常な上昇数値を示しつつ尚も増大中‼︎』

 

クラウゼウィッツ

『そんな馬鹿な‼︎そんな事が…そんな事があり得るのか‼︎ええい!直ちに全艦隊に緊急警報発令‼︎急げ‼︎』

 

[フランシス艦隊]

フランシス

『艦内から見て天井方向に緊急退避‼︎』

 

[ゲオルグ艦隊]

ゲオルグ

『上だ‼︎急げ‼︎‼︎』

 

[シューマッハ艦隊]

シューマッハ

『射程に捉えたのに…!クソッ‼︎‼︎退避だー‼︎』

 

アウグスト軍は狼狽しつつも的確な退避行動等の対応を取っている一方。アウグスト軍の数倍狼狽している者たちがいた。

 

[貴族軍艦隊総旗艦兼アインツヴェルン家座乗艦

ソヴェリン]

 

貴族軍兵

『ご、ご主人様!要塞より高エネルギー反応‼︎本艦が軸線の中心です‼︎‼︎』

 

アインツヴェルン

『つ、通信を!我らの主人に繋げ‼︎』

 

豪華絢爛な環境の正面に禍々しい光景が映し出され、その中央に核に体が生まれている双子の片割れとその側に佇む片割れが映し出された。

 

アインツヴェルン

『我が君!我が艦隊の殆どが射線より出て居ませぬ、もう暫し、お待ち…を!…ガハッ‼︎』

 

アインツヴェルンは何者かに首を掴まれたように悶絶し始め、体が宙に浮き始めた。艦橋にいた将兵達は何が起きて居るのか全く想像が出来ないでいた。既にアインツヴェルンの目が血走り始めていた。そんな中双子は高い声をあげて笑っていた。

 

深淵なる闇

『ヘクター(アインツヴェルン)。君の退避を待って居るとアウグスト達に逃げられるんだよ。』

『それに、君をもう生かしておく必要は無いんだよ…主砲発射用意。』

 

双子の前に拳銃型コントローラーが降りて来た。そして要塞の何処かから電子アナウンスが流れた。

 

『声紋分析開始、声紋分析の結果、我らが主人と認識しました。主砲発射シークエンス開始、発射許可を願いします。』

 

深遠なる闇

『主砲発射を許可。最終セイフティ解除。』

 

『了解。最終セイフティ解除、発射準備完了。』

 

深淵なる闇

『さよなら、ヘクター。君はもう要らない。…発射!』

 

カチッ

 

引き金の鳴ると同時に要塞が獣のように吠えた、瞬間‼︎ドス黒い光が撃ち出され、その光は真っ直ぐアインツヴェルンに向かって行き、瞬く間に飲み込んでいった。本当のターゲットにされたアウグスト艦隊は間一髪、全艦の回避が間に合っていた為被害は無かった。

 

深遠なる闇

『…逃したか。最期まで役立たずとはね。』

『もう一撃くらいなら撃てそうだよ?』

『いや、もう間に合わないよ。迎えてあげようじゃないか?お望みどおり相手してあげよう。』

 

[アウグスト艦隊旗艦 イラストリアス]

 

アウグスト

『…近衛兵長!この場にいる全ダーク・ヒューマンの同胞に我が声を伝えよ!急げ‼︎』

 

近衛兵長

『両翼の敵艦隊にもですか?本艦の位置がバレますので問答無用で襲い掛かってくる可能性が恐れがありますが?』

 

アウグスト

『構わぬ!繋げよ‼︎』

 

通信士官

『元帥閣下!敵将アウグスト・フォン・シュヴァーベンが全ダーク・ヒューマン艦隊に一斉送信のバースト通信を行なっています!』

 

ディートリッヒ

『急ぎ、繋がるのだ!全将兵に聴こえる様に‼︎』

 

 

アウグスト

『全ダーク・ヒューマンの同志諸君‼︎今、卿らの棟梁と同胞が有無も言わさず消滅させられた。卿らが主人と、神と崇める存在は我らの生命などこれっぽっちも考えてはおらん!我らは所詮彼等の道具に過ぎんと言う事だ!

 

だが、しかし!私は、私達は人だ‼︎道具じゃない‼︎一人一人の名前がある‼︎権利がある‼︎個性がある‼︎守る物がある‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人としての誇りがある‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は決して‼︎このまま家畜のまま人生を終わらせたくない‼︎だがその為には奴を…深遠なる闇を退ける必要がある。悔しいが私にはあれと戦うにはまだ足りない!だからこそ卿らの力を貸して欲しい‼︎命の為!守りたいものの為に‼︎』

 

 

アウグストは一呼吸を置くと通信機を収めた。辺りを見るとイラストリアスの艦橋に居る将兵は全員が敬礼を送っており、通信パネルにフランシス、シューマッハ、ゲオルグ、クラウゼウィッツ、レオパルド、フランチェスカ、ザムエルスキと言った大将達の他、他の将校達も敬礼を送っていた。

 

フランシス

『我々はアウグスト様と運命を共にする所存であります。残存艦艇三十余万、総将兵数約500万。改めてアウグスト様に、いえシュヴァーベン候に忠誠を誓います。』

 

アウグスト

『迷惑かけるなフランシス。皆も良いのか?』

 

シューマッハ

『私は閣下に救われました。死ぬ覚悟はとうに出来ております。』

 

ゲオルグ

『我らは貴方の盾、貴方の剣。この身果てるまでお側を離れませぬ。』

 

クラウゼウィッツ

『貴方には皇帝になっていただかなければ。でなければ私の悲願は叶いませぬ。その為に命を懸けているのです。全力でお支え致しますぞ!』

 

フランチェスカ

『我が王の為。例えヴァルハラに旅立とうとも後悔はございませんわ!』

 

レオポルド

『我らレオポルド高速艦隊、殿下の名が命あれば何処へでも駆けて行く所存。何処へでもお供つかまつる!』

 

ザムエルスキ

『私は殿下の盾になると決めました!貴方以外の人の元では戦いとうありません。これが最後の戦場になるのなら華々しく散ってみせましょうぞ‼︎』

 

アウグストは拳を握りしめ、嗚咽を噛み殺しながら答えた

 

アウグスト

『すまぬ…皆、私と共に駆けてくれ!』

 

兵士

『閣下。ディートリッヒ元帥より通信が入っております。パネルに写します!』

 

ディートリッヒ

『シュヴァーベン候。我らも貴方の軍門に加えていただきたい。我らは既に仕える君主もおらず、このまま生き残っても嬲り殺される位なら自分の正しいと思った事の為に戦いたいのです。』

 

バルトハルト

『我々は見て見たいのです。家畜としてでは無く人として我らが同胞が生きる世界を!』

 

フランシス

『閣下。総員の準備は出来ております。下知を頂戴したく存じます。』

 

アウグストは椅子から立ち上がると、腰に挿したカタナを抜刀した。そしてその刃先を要塞に向け、こう叫んだ。

 

アウグスト

『皆‼︎これより我らはかの者達より我らダーク・ヒューマンを解放する!目標、ダーカー!目標、深遠なる闇!我の通る道を阻むものは悉く刃のつゆにせよ!全艦‼︎突撃開始‼︎‼︎』

 

フランシス

『全艦隊突撃隊形‼︎殿下の…皇帝陛下の御前を阻むものを攻め滅ぼします!全艦対艦隊戦対白兵戦用意‼︎白兵要員は装甲服を装着し、甲板に待機!ダーカーは必ず侵食して来るはず。絶対に防ぐぞ‼︎』

 

『『『おおおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎』』』

 

ダーク・ヒューマンの雄叫びが宇宙に響いていた。士気高揚。まさしく字の如くであった。対する深遠なる闇は己の眷属(ダーカー)達を呼び出し、それらをアウグスト達に向けて放っていた。

 

アウグスト

『全艦突撃!目標は要塞のスペースゲート。座礁しても構わん。どんな手を使っても要塞内に乗り込むのだ‼︎』

 

参謀

『近衛師団と装甲擲弾兵に上陸準備をさせます。』

 

アウグスト

『私の装甲服も用意してくれ。姉上が編んでくれたマントも忘れるな。』

 

参謀

『元帥閣下…いえ皇帝陛下御身自らお出ましになるのですか⁉︎あまりにも危険過ぎますぞ!』

 

アウグスト

『だから行くのだ。今もこうして居る間に多くの将兵が戦っている。そして要塞内にも私に共感した兵達が立ち上がっている頃だ。指揮官が後ろに居ては申し訳ないと思わんか?(奴との決着もつけたいところだしな)

 

参謀

『……ではご用意致します。』

 

アウグストは無言で頷くとまた正面を向いた。パネルには艦隊の眼の前までにダーカー達が迫っている事が映し出されていた。アウグストは席から立ち上がり、右腕を大きく横に振った。それは薙ぎ払えという意味だった。

 

アウグスト

『全艦!撃ち方始め‼︎』

 

全艦が一斉に砲火を開いた。ダーカー達は激しい弾幕を掻い潜り、おもいおもいの獲物(艦艇)に着陸するが、甲板に待機していた装甲擲弾兵のソードか専用の戦斧に真っ二つに割られたり、フォースで焼き尽くされたり、氷漬けにされたり、蜂の巣にされたりした。だが同様に装甲服に身を包んだダーク・ヒューマンの老若男女が、ダーカーに串刺しにされたり、食い殺されたり、抉られたり、あるいは侵食されそのまま生き絶えたりと正しく多くの艦が地獄絵図になった。

 

そんな中、旗艦イラストリアスは巨大な船体からは想像できない速度で戦場を抜け、向かってくるレーザーを跳ね返し、遂に要塞にたどり着こうとしていた。

 

アウグスト

『このままスペース・ゲートに突っ込め‼︎』

 

通信士官

『陛下!本艦直上に艦艇クラスのダーカーが急接近、数2万!』

 

アウグスト

『撃ち落とせ‼︎』

 

通信士官

『手遅れです!至近弾来ます‼︎』

 

イラストリアスにダーカーの砲撃が襲いかかった。強固な装甲とシールドを持ったイラストリアスはともかく、その随伴の艦艇は次々と撃沈していった。イラストリアス艦内は衝撃で大きく揺れ動き老若男女の悲鳴が艦橋内に響いた。更に各通信兵に被害状況が報告され、混乱の極みに陥った。

 

しかしそこに獅子の咆哮が轟いた!

 

アウグスト

『狼狽えるでない我が兵達よ‼︎あれだけの砲火の中、少なくとも我と共にいる卿らは誰一人屍になる事なくこうして生きているではないか‼︎この戦はもはや勝った!天は我らに味方した‼︎勝鬨をあげよ‼︎この戦は勝ったのだ‼︎‼︎』

 

その次の瞬間、イラストリアス直上にまたワープアウトする物体が現れた。しかし、それはダーカーではなく艦隊だった。先頭を航行するのはマシヤ・フォン・ケベック中将の旗艦オーディンであった。

 

ケベック

『陛下!マシヤ・フォン・ケベック中将麾下地方平定軍ただいま帰陣致しました。道中改めて我らにつくと表明した地方貴族の同胞も伴い、その数約六万今一度陛下に忠義を尽くす所存にございます‼︎』

 

アウグスト

『ケベック。よく戻って来てくれた!早速だが余の背中は卿に任せたぞ!わたしはこのままスペース・ゲートに行く!』

 

アウグストは多くの忠臣に守られ、遂に要塞のスペース・ゲートにたどり着かんとして居た。しかしそこにも多数の砲火がイラストリアスを食い止めるべく火を噴いた。

 

アウグスト

『このまま乗り上げろ‼︎乗り上げたと同時に上陸‼︎』

 

数多の鋼鉄の部品がへし折れ、崩れる音を立てて、スペース・ゲートを瓦礫の山に変えながら総旗艦イラストリアスは突入した‼︎

 

 

抜刀‼︎

 

 

アウグストは己の剣を鞘から引き離す。同時に装甲服に身を包む騎士たちが槍と剣、そして戦斧を目の前に捧げ、幾千の兵士達は一斉に跳躍した‼︎

 

アウグスト

『Bitte schreibe‼︎‼︎(かかれ‼︎‼︎)』

 

帝国近衛装甲擲弾兵軍団

『おおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

エルダー・模造体

『者共かかれ‼︎』

 

ダーカーの群れ

『ウオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』

 

両者は激しくぶつかり合った、無数のダーカーに挑むは一騎当千の数千の騎士達。その剣は、その槍は、その斧は、只々、主君の為にダーカーの血に染まり、ダーカーの牙は、釜は、手は、爪は、自らを生み出した創造主の為にダーク・ヒューマン…いや未来の帝国人の血に染まり、一方の主君は倒すべきものに身1つ剣を振り、追迫り、一方は全能の神の如く玉座に座り、自らを断つべく希望をその手で殺し、絶望を与えんと爪を研いだ。

 

アウグストは阻むダーカーやダーク・ファルスの模造体を悉く切り捨てた。生前の頃よりどのアークスを凌いだ剣の技は今も健在だった。ダーカーとダーク・ファルスは太刀筋を見極められず一刀両断されていく。

 

アウグスト

『何処だ‼︎何処だ、深淵なる闇‼︎お前だけは決して俺は生かしておかんと決めている‼︎出てこい‼︎』

 

ダーカー

『イカセルナ‼︎ココデクイトメル‼︎‼︎』

 

アウグスト

『退ケェェェェェェェェェ‼︎‼︎』

 

アウグストは剣を振りまわした。その度に多くのダーカーが命を散らした。近衛装甲擲弾兵軍団の活躍もあってか、アウグストの周りにはダーカーが少なくなって居た。しかしそれはアウグストに構ってやれる兵がいないという事であった。正しくこの皇帝になる男の正念場であった。

 

アウグストは狭い通路を走っていった。その途中でダーカーや、貴族側のダーク・ヒューマンの兵が襲い掛かってきたが、クラウゼウィッツが放っていた密偵部隊やそれに扇動された貴族軍内の裏切り者達がそれらを抑えるべく挙兵し、正しく要塞内は地獄絵図であった。アウグストの白い装甲服は血みどろに染まった。しかしこれは全て返り血であった。しかしこれ程の犠牲を払ったのにも関わらず、この狂気は終わらない。何故なら深淵なる闇が生き続けているからである

 

アウグスト

『制御コア…。………見つけたぞ!双子!いや深遠なる闇‼︎お前の死に場所をくれてやりに来たぞ!』

 

深遠なる闇

『遅かったね。もっと早く来ると思っていたよ。』

『君達はまだ僕らの手の内にある。だから早く動いてくれないと困るんだよね?お腹空くし。』

 

アウグスト

『ならば二度と腹が減らぬようにしてくれよう!姿を表せ‼︎あの悪趣味な花の怪物ではなく、お前が本当に復讐したがっている男の姿に‼︎‼︎』

 

深遠なる闇

『『粋がりあって若僧が‼︎良いだろう見せてやろう‼︎‼︎あの男の姿を‼︎』』

 

深遠なる闇は、双子の姿からある男の姿に変わった。その姿をみたアウグストは笑みと恐怖を抱いた。

 

アウグスト

『本当にあの男の姿になるとはな…俺なら兎も角、オラクルの、特にタクミ・F中将(昇進を知らない)が見ればどれ程怒り狂う事やら。』

 

深遠なる闇

『この男さえ居なければ、余は宇宙を手に入れて居たものを、この男が全て台無しにした‼︎だが皮肉にもこの男は死に際にフォトンを絶った。そのお陰でこの体を支配できる‼︎フォトナーの直系の肉体を‼︎この肉体で全ての銀河を支配する‼︎そしてこの男の子孫の命を絶ってやる、それが余の復讐よ‼︎』

 

深遠なる闇が言い終わった瞬間にアウグストの剣が眉間目掛けて突進してくる。それを深遠なる闇はスレスレで回避する。

 

抜刀‼︎

 

深遠なる闇も、腰に下げて居たガンスラッシュを引き抜く、それはアークスの士官が使う事が出来るガンスラッシュ『ナーゲリング』であった。しかし形が完全に剣の柄の形になっており、そこについて居たであろう拳銃は取り外されて居た。そしてその柄からドス黒いネガフォトンのレーザーが伸びる‼︎

 

二人は切り結んだ‼︎何合も打ち合う‼︎もう常人であれば何十、何百と倒れたであろう剣の残像がその場に光っては消えた。

 

踊るような二人の動きは見る者が居れば間違い無く魅了されたであろう。しかし殺意しか存在しないこの戦場には余りにも不釣り合いな美しさと狂気が確かにあった。アウグストは力の限り剣を振るう。しかし深遠なる闇もまた強大な力と殺意に身を任せ、剣を振った。そして鉄を斬る音がその場に響いた。アウグストの剣が正しく刃の根元から断ち切られてしまったのだ。絶体絶命‼︎深遠なる闇のレーザーの刃が迫る‼︎

 

しかし次に聞こえるのは肉が焼き切れる音では無かった。レーザーがぶつかり合う音だった。アウグストの剣、正確には残った柄からは青色の光が出ていた。それはアークスの、つまりフォトンを使えるものしか出せない色をしたフォトンの光だった。

 

深遠なる闇

『何故だ…記憶や元になった人格は兎も角、貴様の肉体と力は余の物、少量とは言えど体内にフォトンを宿しているだけのお前が何故それを使える‼︎』

 

アウグストにも詳しい事は分からなかった。しかしアウグストは剣が折れた時こう願った。『力が欲しい‼︎この闇を打ち払う力を‼︎』とそしてフォトンが答えた。アウグストは口を開いた。

 

アウグスト

『確かに貴様の言う通り、肉体と力はお前に授けられたものだ。紛い物だ。だが1つわかる事がある。それは俺が、私が!オラクル帝国軍大元帥、オラドニア(オラクルの旧称)帝国皇帝アウグスト・フォン・シュヴァーベンである事だ‼︎その力は!意志は‼︎フォトンと共にある‼︎‼︎』

 

アウグストは青の光刃の剣を構え直す。深遠なる闇もまた、黒の光刃の剣を構え直した。

 

斬撃‼︎二人はまた切り結ぶ。レーザーの接触音がアウグストの耳をつんざく、しかしアウグストは力を入れ、深遠なる闇を押し戻す。その力は正しくネガフォトンの力だけでは到底出ない力だった。正しくアウグストは正と悪の如く存在するフォトンとネガフォトンをコントロールしていた。そう、正しく二百数十年の時を経て、オラクルの英雄が蘇った事を深遠なる闇は感じ取った。

 

深遠なる闇

『貴様らオラクル人はいつもそうだ…絶えず絶望を与えても、ほんの僅かな希望とフォトンだけでそれを覆そうとする。貴様らは…いつも、いつも余の邪魔を、煩わせる‼︎その存在そのものが万死に値する‼︎‼︎』

 

アウグスト

『………。』

 

深遠なる闇をを見つめるアウグスト瞳は正しく光を放っていた。この翡翠の髪の色をした青目の青年に怒りを露わにした深遠なる闇は勢いをつけて突進してきた。その剣は正しくアウグストの首を狙っていた。

 

しかしアウグストは眼を閉じた。そして剣を構えた。そんなアウグストにフォトンとネガフォトンは語り掛けた。

 

(そのまま真っ直ぐ振り下ろすんだ。)

 

アウグスト

『ぬおおおおおああああああああ‼︎‼︎』

 

アウグストは真っ直ぐ剣を振り下ろした‼︎それは深遠なる闇の胸に当たった。深遠なる闇は胸にフォトンの切り傷を患った。

 

そのまま蹌踉めきながら深遠なる闇は下がっていった。

 

深遠なる闇

『クッ…ククク…アハハ、アハハハハハハ‼︎凄いね‼︎君がこんな事が出来るとはね!でももう遅い‼︎』

 

深遠なる闇は元の双子の姿に戻った。

 

深遠なる闇

『この要塞にいる間多くのエネルギーを得られた。君にはやられたが、次に会った時にはあっという間に殺せるだけの力は手に入った。』

 

アウグスト

『‼︎…まさか、この戦いは最初からそのつもりだったのか‼︎全てお前のエネルギーのためにあれだけの犠牲を出させたのか‼︎』

 

深遠なる闇

『そうだよ。今の君にやられるに至るこの決闘は完全に想定外だったけど、君はよく働いたよ。実に多くの憎悪とネガフォトンがこの銀河に溢れ、僕はたらふくそれを食べれた。この銀河に用は無い。僕は向こうの銀河、そう君達が第四銀河と呼ばれるダーカーの銀河に戻るとしよう。手の内にある以上君達はいつでも僕等は殺せる。』

『でもその時じゃ無い。せいぜい殺しあってくれたまえ。同じオラクル人同士、君達の宿命の戦いは必ず起こる。君は彼らが許せないし、向こうも君と戦わねばならない事を理解している。その時に、丸ごと頂くとしよう』

『『またね。コケ頭のお坊っちゃんw』』

 

深遠なる闇は次元の玄関を作り出し、そこに消えていった。同時にその場にいたダーカーやダーク・ファルス達も消え、アウグスト達だけが残された。

 

アウグスト

『次会った時は徹底的に殺すと言う事だろう…そしてお前は一瞬負けを認めた。これで分かった。お前にはもう後がない事が…次は殺せる‼︎だがその前にオラクルの者達だ。我らの民は決してオラクルを許さない。俺自身も、オラクルから銀河を奪いたい。その為には奴を倒さねばならない。お前もそう思っているのだろうか?タクミ・F、いやタジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデル。フェデル王朝の末裔。お前を至尊の冠から叩き落とした男はここにいるぞ‼︎もう一度姿を表せ‼︎俺に見せてみろ、今のオラクルが生き残るに値するのかを!』

 

その後、アウグストは首都星ヴィサンチ・ノープルに降り立つ。そこでアウグストはオラドニア銀河帝国の建国と自身が初代皇帝に即位する事を宣言する。

 

『ジーク・カイザー‼︎ジーク・ノイエ・ライヒ‼︎』の叫びは第2銀河全土に轟いた。新光歴240年1月4日。オラクルの深遠なる闇封印戦より一周年を迎えるまであと一月を残す今日、オラドニア銀河帝国皇帝、アウグスト・フォン・シュヴァーベンは第2銀河内の全争乱が終結した事を宣言した!第三銀河内戦がまだ終わってないこの日に内乱が終わった事は後に帝国にとって栄光の一ヶ月になり、オラクルにとって最悪の一ヶ月になる事になるのだが、それはまだ後の話である。そして、オラクルはタクミ・F大将麾下のオラクル軍遠征軍団に物語の視点が映るのである。一人の英雄は全ての希望を力にし、勝利を納めた。もう一人の英雄は正しく全てを超え、真実を知る事になる。



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39話 オラクルより出でし者

無限に広がる虚空の中に無数の光が煌めいた。そこには巨大な鉄の塊が沢山その光から飛び出てきた。それは艦隊がワープアウトしたのだ。先頭を行く巨大な長方形の船体を持った水色の戦艦が他の艦艇を導くように進んでいく。その艦橋にまだ二十歳を少し過ぎたくらいの若者が腕を組み、自分の下のフロアで行き来する人々の気配を感じながらただ前を見つめていた。淡く青色に光る収まりがつかない黒色の髪の毛を持ち、顔は全体的に平たいが目や鼻はしっかりした堀があり、数世紀前であれば間違いなく美男子であろう顔付きをしたこの若い大将が、takumi・F大将である。本名はタジム・クヴァシルヒ・ミシェル(M)・フェデル、かつて栄華を誇ったオラクル第二帝政フェデル王朝本家の末裔である。彼はアークスでもあり、皇族でもあり、提督でもあり、また一人の恋人でもあった。そんな彼はただ前を見つめていた。この真空の闇の中に光る無数の星々を見ながら一人溜息を吐いき、そして力を抜きながら呟いた。

 

タクミ

『…三ヶ月で国に帰れればいいが、そうは行かないのだろうな〜。』

 

されど、帰らなければならない。祖国オラクル船団(他国からはオラクル共和国と言われることもある)は一月ほど前に大規模な遠征を展開した。総出撃艦艇数約百万隻、総兵力二千万将兵、内帰還兵力は艦艇約三十万隻、残存兵力約一千万(内健在兵力は四百万弱)という大敗北を期したのにも関わらず、事後同盟の参戦義務のない戦争に加担したオラクルにいつ、ダーカー、ダーク・ヒューマンが攻めて来るかわからないからである。

 

しかしタクミが向かう第三銀河は2つの勢力に二分され、いつ終わるか知らぬ血みどろの戦いを繰り広げて居たのである。1つは、オラキオ王国。一言にいってしまえば騎士の納める巨大星間王国である。その後継争いに強引な手法で第2皇子を追いやった第一皇子が支配する力のある者達こそ正義と称える国である。以前オラクルに工作員を送り込み、オラクルの監視、及び研究を行っていた。

 

1つはグラール太陽系及び星間植民地星系連合共和国。グラール太陽系を軸に数多の星系に進出した新興の星間民主主義国家である。数年前、このグラール太陽系はSEEDと呼ばれる宇宙生物の脅威を退けたばかりである。無数の犠牲を払った末、グラール太陽系は勝利した。それ以前は、グラール太陽系の三惑星パルム、モトゥブ、ニューデイズに住まうヒューマン、キャスト、ビースト、ニューマンがグラール太陽系やその他星系をまたにかけ百年近くの戦争を繰り広げたという過去がある。そんな国に約束された王位を追われ、祖国及び王位奪還を誓う第二皇子派がグラール共和国に助力を求め、銀河1つに及ぶ、王位継承戦争をしているのである。この2つの勢力が戦争を始めて既に3年の月日が経っていた。

 

しかし遂に三年の膠着状態は崩れ、オラキオ軍はグラール星系に迫ったのである。グラール評議会は満場一致でオラクルに救援を依頼する事を決め、オラクルも国家最高戦力に匹敵する戦力を派兵する事に相成ったのである。

 

タクミ

『その最高戦力の殆どが実は心配ばっかりの師団と大隊で混成されたお遊戯集団だと知ればどれ程落胆されることやら……ハァ〜…。』

 

この男の溜息が力なく口から漏れて、無に消えた。

 

その後ろに銀髪のツインテールをした美少女が後ろに立っていた。

 

マトイ

『各艦隊司令官が集合しました。直ぐに軍議を行いたいとの事です。』

 

タクミ

『分かった。直ぐにブリッジに上がってくれるように伝えてくれ守護衛士(ガーディアン)殿。』

 

マトイ

『副官で構いません。提督、いえ大提督。(大提督とはオラクル海軍において大将以上の提督に与えられる特別階級である。現時点ではタクミの他、ジェームズ・ネルソン元帥、セルゲイ退役元帥の合わせて三人しか名乗れる者は居ないが、以下の2名は既に元帥職に就いている、又は退役しているので実質タクミだけである。)』

 

マトイはタクミと同じくアークスの中でトップクラスの者に与えられる称号である守護衛士を持つ者であり、仲間でもあり、副官でもあり、恋人でもあった。この男女は互いに支え合い、共に生きようと誓っていたのである。

 

ハッチの開く音が聞こえ、タクミは振り返ると八人の提督が入ってきていた。

 

右から元第21艦隊司令官のハルヨシ・キダ中将、元第12艦隊分艦隊司令官チェンバレン中将。及び分艦隊司令官を務める少将6名がブリッジに入ってきた。第三銀河の派兵が終わればこの両中将の元に少将を三人ずつ派遣し、第21艦隊と第12艦隊を再編しようと艦隊司令部が考えて居たので、この際という事でタクミの元に派遣されたのである。

 

キダ

『大提督、お待たせ致しました。キダ、チェンバレン中将以下少将6名出頭致しました。』

 

タクミ

『よく来てくれました。早速ですが、大提督権限で第12艦隊と第21艦隊を再編します。各少将は両名の指示に従って行動するように。』

 

少将達

『はっ!』(少将たちは直立不動の姿勢で敬礼した)

 

タクミ

『我々はこれより第三回廊に侵入し、第三銀河に入ります。回廊内をジャンプドライブで航行出来れば楽なんですが、これを見てもらうと分かるように』

 

タクミがパネルを起動すると、第三回廊の図が表示された。そこには重力磁場や暗黒ガス帯が入り組んで存在している事を表していた。

 

タクミ

『我が国に残されていた星図も最新のものではない事もあり、いざジャンプしたらあらぬ方向に飛ばされる危険性が高く、我々は時間の短縮が出来ない事が分かりました。)

 

チェンバレン

『かと言って通常航行で行けばこの回廊を抜けるには4日は掛かる。我々にはそんな時間は残されては居ないという事ですな?大提督。』

 

タクミ

『左様。そこで回廊内の詳しいデータを迅速に採取し、再度、ジャンプ可能なナビデータの製作を行うべく、強行偵察型a.i.s三型を送り込もうかと思っています。』

 

諸将から声が漏れた。

少将1

『三型の強行偵察型か…。』

 

少将2

『確かにあれなら迅速かつ正確な航路作成が行動可能だ。』

 

キダ

『しかし、パイロット達がなんと言うでしょうか?2日間もあの狭いコックピットの中に二人。しかも機体はピーキーで安全性が保証されない実験機、聞けば廃棄処分同然の評価をされたとか、オマケにいつ目の前に敵艦隊が現れるか判らない中、快く引き受けてくれる者がいるでしょうか?』

 

タクミ

『だからこれについては専門家を使う事にしました。入って来てくれ。』

 

皆の前に二人のパイロットが現れた。一人は体つきの良いヒューマンの男ともう一人は細身の肌黒いニューマンの男だった。

 

アジス(体つきを良い方)

『第四航空師団のアジス中尉であります。』

 

マチェス(細身の黒人の方)

『同じくマチェス中尉であります。』

 

タクミ

『この二人はa.i.s三型強行偵察型のテストパイロットチームのリーダーで、三型の機動プロセスやデータ処理能力調整に一役買っていたんだ。だから今回はこの二人に任せようと思う。』

 

チェンバレン

『それであれば小官達の心配は杞憂で済みそうですな。しかし、危険な任務であることは変わりありません。そこでこの両人に特別配給を受けさせては?』

 

タクミ

『そりゃあ良い!仕事に見合った対価は必要だからね!』

 

キダ

『酒保を開放する。任務に必要な日常品や食糧を必要な分のみだが好きな物を持って行くと良い。』

 

アジス・マチェス

『はっ!感謝致します、大提督‼︎』

 

数時間後、旗艦金剛に繋留されたa.i.s三型強行偵察型に二人のパイロットが乗り込んだ。三型に大型の駆逐艦サイズのブースターに大口径戦艦クラスの中性子フォトン・レーザーカノン二門、大型クラスターミサイル他各種中型、小型ミサイルコンテナ、対空フォトン・レーザー四門、大型レドーム、航路作成用支援マシナリーO2、そして駆逐艦クラスのワープドライブが搭載されたまるで一種の駆逐艦の様な機械の塊の中央に専用の耐G、急加速による本体空中分解対策用の増加装甲が施されたa.i.sが固定されていた。

 

そのa.i.sの背部から二人のパイロットが乗り込んだ。

 

アジス

『マチェス!O2が航路作成中にセンサーブイを投下するのは無理だって言ってるぞ!』

 

マチェス

『しょうがねぇよ!O2本来の性能を引き出してもこいつの制御には限界がある。そこは俺たちがやるしかない、時限設置式の設定を書き換える。センサーブイの接続を確認してくれ!』

 

アジス

『よし!センサーブイは問題ない。ワープドライブ、各種武装良し。出撃準備完了!頼むぜ相棒(O2)、俺たちが艦隊に帰れるかはお前にかかってるんだからな!』

 

O2は機械音を鳴らして威勢良く返事をした。

 

アジス

『管制コントロール、こちらアジス中尉。各種武装弾薬十分。ワープドライブ、レドーム問題無し、加速プロセス最終セイフティ解除確認。全ブースターノズル稼働率120%。三型強行偵察型発進準備よし!命令を待つ。』

 

女性管制官

『了解中尉。準備加速を開始して下さい。一分後、第一加速を開始、本艦の繋留ケーブルを外して下さい。』

 

タクミ

『アジス、マチェス両中尉。危険な任務だが私は君達ならやり遂げられると信じている。それと開発部より強行偵察型のコールサインが届いた。ライトニング。これよりa.i.s三型強行偵察型のコールネームはライトニングだ。ではライトニング1、発進せよ‼︎』

 

マチェス

『ライトニング1了解。第一加速開始!金剛の艦首より数百メートル前に出る。』

 

ライトニングが徐々に加速しながら金剛の艦首の前に出て行く。そこより数百メートル先になった頃には第一加速の最大速度に達し、ケーブルも伸びきって居た。

 

女性管制官

『ライトニング1GO‼︎』

 

女性管制官の掛け声と共にライトニングは繋留ケーブルを抜き、一気に加速し瞬く間に見えなくなった。

 

女性管制官

『ライトニング1第二加速に移行。30分後には第三回廊に侵入します。出口までの予想到着時間は二日後のマルマル・マルマルです。』

 

タクミ

『フォトンと共にあらん事を…。』

 

ライトニングは加速し続け、遂に第三回郎に入った。パイロット達は目に映る景色を見て、目を疑ったと言う。それは漆黒の真空の中に暗黒ガスや放電帯がありとあらゆる所にあり、正しく獣道という方が正しく危険な航路であり、更に重力地帯により航行可能航路が入り組んでいるという魔境であったが、二人は宇宙の神秘と言うものに触れていてそれどころではなかった。

 

アジス

『マチェス見てみろよ。こんな宇宙の危険をてんこ盛りにした回廊を俺たちは進むのか?』

 

マチェス

『命令だからな。それにしても神秘的な景色だ。O2とレドームのお陰で最新航路作成とそれに伴った自動航法のお陰でこんな景色が見れるが、そうじゃなかったら気でも狂いそうだ。』

 

アジス

『おっ!そうだ忘れてた。おいマチェス!』

 

マチェスが振り返るとアジスが葉巻を手渡してきた。

 

アジス

『ギョーフ産の上等な葉巻だ。軍艦内だと排気が厳しいからな。士官用の物がたくさん残ってた。』

 

マチェス

『ギョーフか!久しく吸ってなかったな、下士官の頃少し贅沢しようと思って買ったら美味かったが財布に響いて彼女に説教されたっけ。』

 

アジス

『感謝しろよ?何時もなら彼女にお前はすぐ目を離すと吸い出すから止めてくれって言われてるが、まさかのギョーフ産の葉巻にこんな命懸けの任務ときたもんだ。吸わなきゃやってらんないぜ。』

 

マチェス

『そう言うお前さんもガキと嫁さんの目が厳しいから吸えなくなったクチだったなwありがたく頂戴するぜ。』

 

その時、O2が高い機械音を上げて二人に話しかけてきた。

 

マチェス

『どうしたO2!問題か?』

 

O2は今度は明るい機械音を鳴らし、コクピット内の機器の二本のロボアームを伸ばすと、火をつけた。

 

アジス

『成る程、火を貸してくれたみたいだ。サンキューO2!』

 

二人は暫く葉巻を吹かしながら景色と計器を見ながら談笑していた。その間に二人は交代で食事と睡眠を取りながら、任務を遂行した。そして遂に、回廊の出口に到着したのだ。道中、特に何も起こらなかったので二人は少し退屈していたと言う。

 

アジス

『マチェス、管制コントロールに通信を入れてくれ。我、新大陸ヲ発見セリ、てな。』

 

マチェス

『了解、管制コントロールへライトニング1から愛を込めて送る。我、新大陸ヲ発見セリ。』

 

女性管制官

『こちら、管制コントロール。確かに受け取りました。ライトニング1はその場で待機せよ。本艦隊は回廊の中間地点を航行中。六時間後にはその周辺にワープ予定。』

 

マチェス

『了解、ライトニング1アウト……コントロール!コントロール!緊急連絡‼︎』

 

女性管制官

『ライトニング1どうしたの?状況を教えて下さい。』

 

マチェス

『レーダーにワープアウト反応!数は20、駆逐艦と巡航艦クラス。画像を送る。識別を要求する‼︎』

 

女性管制官

『了解!ライトニング1待機して下さい。ブリッジより大提督以下作戦指揮官に伝達、至急ブリッジにお越し下さい。繰り返します、至急ブリッジにお越し下さい。』

 

数分後、タクミ以下各作戦指揮官がブリッジに到着し、ライトニング1より送られた、画像を吟味の始めた。

 

キダ

『見たところトラップ設置艦みたいですな。巡航艦のあの両舷の球体は恐らく重力井戸発生装置(ジャンプしようとする艦艇を重力を発生させて妨害する装置)でしょう。』

 

タクミ

『つまりミニサイズのブラックホール搭載艦だな。うちやお隣さん(第2銀河)では実用試験認可待ちなのに、向こうはもう前線に出してくるのか。オマケに駆逐艦は対艦用重機雷散布艦ときた。もしこのままワープアウトしたら…勿論。』

 

チェンバレン

『みんなまとめてローストビーフですな。老いぼれの肉など誰も食べんでしょうがの。』

 

マトイ

『付近の宙域及び回廊内にセンサーと機雷を撒いている見たいですね。多分手前でジャンプしても、引っかかっちゃうかも…』

 

タクミ

『…ライトニング1。敵の戦隊に対し、奇襲攻撃を掛ける事は可能か?』

 

その場にいた全員がタクミの顔を見た。当然だろう。孤立している味方に隠れるのを辞めて、その場で暴れろと言っているのだから、正しく遠回りの死刑宣告に等しかった。しかし、この二人のパイロットは…

 

アジス『ライトニングはあんなウスノロに追いつかれる事は有りません。充分翻弄できます‼︎』

 

マチェス

『本機の武装は全て、機動戦仕様でセッティングされております。以下に小回りの効く駆逐艦であろうとコッチとは次元が違います。一気に沈めて見せます!』

 

タクミ

『ライトニング1、すまない。直ぐに我々も飛ぶ。恐らくセンサーと機雷を管理しているのはあのボールを抱えた巡航艦だ。あれを沈めれば我々は安全に航行できる。』

 

マトイ

『タクミ、本当にやらせるの?危険過ぎるよ!』

 

タクミ

『だがやってもらわなければならない。彼らを信じよう。』

 

アジス

『では早速取り掛かりますアウト。』

 

アジスは通信を切ると、直ぐに機体のチェックと、プロペラントタンクの残り燃料残量を確認を始めた。マチェスも、武装の再点検と、各ミサイル発射制御をO2に覚えさせ、戦術プログラムを製作し始めていた。

 

アジス

『必要分の燃料を機体に搭載した。デッドウェイトのプロペラントタンクは切り離すぞ。ミサイルポッドも残弾が切れたと同時に切り離すように設定しておけば戦えば戦う程こいつの逃げ足は速くなる。』

 

マチェス

『マルチロック機構のチェック良し。各フォトンレーザー砲動作良し。ミサイル各種弾頭準備良し。』

 

アジス

『行くぞマチェス、飛ばせ‼︎』

 

マチェス

『おうよ‼︎』

 

マチェスは自分の右側の計器に付いているレバーを押し込むと、ライトニングのブースターユニットが一斉に火がついた。瞬間一気に機体は加速し、敵艦に突っ込んでいった。敵艦がライトニングに気づいた時には既に遅く、陣形を整える前に各艦が対空射撃を始めても既にライトニングは撃沈コースに入っていた。

 

マチェス

『先ずはそこの駆逐艦だ!主砲発射!』

 

ライトニングの大口径ロング・フォトン・レーザー主砲が火を噴くと、砲門から青味が掛かった緑色の太い光線が敵の駆逐艦目掛けて飛んでいった。

 

大きな爆発が起こり、駆逐艦は粉微塵になった。

 

マチェス

『ライトニング1一隻撃沈!』

 

アジス

『後ろにもう一匹いるぞ!O2、四番のミサイルポッドを開け!全弾発射‼︎』

 

甲高い機械音をO2が鳴らすと一つのミサイルポッドのハッチが開き、ライトニングの後方にいる駆逐艦目掛けて百数十のミサイルが飛んでいった。

駆逐艦がフレアと対空砲火を放ちミサイルを撃ち落とすが、ミサイルは無誘導の広範囲を焼き払うタイプの弾頭を装填していた為か、対空砲火が余計ミサイルの誘爆を誘発し、哀れこの駆逐艦も消滅した。

 

マチェス

『もう一隻だ!アジス、大型レーザー・サーベルを使おう!ハハハ!良いぞ、ライトニングはゴーストファイターなんかじゃない‼︎評価試験官の能無どもめ!こいつは鉄の棺桶なんかじゃない‼︎』

 

マチェスはライトニングに与えられた評価結果に不満を覚えており、再評価と、量産許可を直訴した結果があり、それをずっと引きずっているのだ。

 

アジス

『熱くなるなよマチェス。レーザー・ソード起動!さぁ真っ二つにしてやるぜ‼︎喰らいやがれ‼︎』

 

機体の下部に取り付けられた二機のクローの中に収納されている大型のレーザー・フォトン・サーベルを起動するとライトニングは駆逐艦を三枚におろしてしまった。そしてアジスは機体の操縦桿を巡航艦に向け、機体を向かわせた。

 

途中に砲火に曝され、機体に何発かのミサイルとレーザーが当たったが強硬な装甲と、偏向シールドのお陰で機体は無傷だった。(しかし振動は防げないのでパイロット達は少なからず揺らされたり、計器に頭をぶつけたりはした。

 

マチェス

『イテテ…何しやがる!このヤロー、これでも喰らえや‼︎』

 

マチェスが引き金を引くと、主砲が発射され巡航艦に致命傷を与えたが撃沈は出来なかった。

 

アジス

『チッ!巡航艦のくせに戦艦クラスの偏向シールド持ちかよ。もう一発…』

 

しかしその瞬間機体の後部が爆発した。ライトニングのブースターユニットに敵のミサイルが当たったのだ。勿論自動制御の対空レーザーが発射されていたが、敵が広範囲爆撃用の弾頭に切り替えて使用していたのだろう。つまるところさっきのお返しという事だ

 

マチェス

『偏向シールドと対空砲火の死角を突かれた!メインブースターユニットの一番と四番が損傷‼︎爆発する前に二機をパージする‼︎クソ‼︎お陰で重量をカバー出来ない‼︎』

 

アジス

『ミサイルを全弾ばら撒いて、ポッドを外そう!ある程度は軽くなる筈だ‼O2、全ミサイル︎、近接信管で発射‼︎』

 

数百発のミサイルが一斉に放たれ、ライトニングの周囲を炎で包んだ。このミサイルの雨で更に三隻の駆逐艦を撃破したが、手負いの巡航艦と14隻の駆逐艦がまだ残っていた。

 

マチェス

『シールドの冷却装置に異常。シールドの出力が40%ダウン!』

 

アジス

『エネルギー効率も悪くなってきやがった。主砲をぶっ放すと、もうそれ以降武器は使えねぇ。さっきのダメージで動力系に何かしらの以上が起きたようだ。正しく絶体絶命だな。』

 

アジスはそう言うと機体を、瀕死の巡航艦に向けると、マチェスは引き金を引き、主砲から閃光が伸びていった。そしてそれは巡航艦を灰燼に変えてしまった。だがそれは同時に二人に死を宣告するという事でもあった。

 

マチェス

『アジス、ガキの頃からの付き合いだったが、楽しかったぜ。』

 

アジス

『おうよ。お前は最高の友達だ。こちらこそ楽しかったぜ!』

 

残された駆逐艦はライトニングを取り囲み、一斉に宙間魚雷を放った。それと同時にライトニングが自爆。機体の中に残っていたエネルギーと魚雷が誘爆し、駆逐艦諸共大爆発を引き起こした。そして辺りはデブリが漂うただの常闇に戻った。

 

暫くして8万隻のオラクル艦隊がパイパースペースからワープアウトした。だが、もうそこには何も残ってはいなかった。タクミや他の提督達は駆逐艦や、艦載機、更には増加ブースターを装着したa.i.sを発艦して捜索したが…見つかったのは2人のものと思われる壊れたヘルメットと、奇跡的にスクラップを免れていたサポートマシナリーO2のみだった。

 

タクミ

『a.i.s三型強行偵察型、通称ライトニングは決してゴーストファイターなどではない。勇敢な英雄2人と共に確かにこの宇宙の歴史において、重要な局面を戦った。過去の評価、現場配備という事実上の廃棄処分という結果を彼らは覆し、更に我が艦隊百数十万将兵の命を救った。…犠牲になった英雄2人とライトニングに対し、全艦将兵、起立、敬礼すべし!』

 

タクミが敬礼すると、マトイや他の提督、幕僚、更に一兵卒に至るまでが全員起立し、彼らの目の前に広がるただの暗闇に敬礼した。だが彼らには2人のパイロットと一機の兵器の墓標が確かに見えていたのだ。

 

タクミ

『マトイ、彼らを殺したのは私…いや僕だ。その罪滅ぼしってわけじゃないけど、大元帥権限で、大本営に2人を讃える勲章の作成を具申しておいてくれ。それと2人の遺族にはフェデル家の秘密口座から慰霊金を送って欲しい。あと壊れたヘルメットも修理して送ってやってくれ。』

 

マトイ

『任せて。…タクミ、敵艦隊は私達と同じ、8万隻程の艦隊で編成してるみたいだから何か考えた方が良いかもしれない。みんなを作戦室に集めておいてあげようか?』

 

タクミ

『良いよ。もう作戦は立てた。A8のフォルダーに入ってるから送っておいてくれるだけで良いよ。』

 

マトイ

『了解しました。あれ?あなた煙草吸うの?初めて見たけど。』

 

タクミ

『煙草じゃない、葉巻だよ。』

 

慣れない手つきで葉巻に火をつけるとタクミは煙を吸い、吐いた。だが吸い込みすぎたのか、彼はそのまま咳き込み始めた。

 

タクミ

『ゲホッ‼︎ゲホッ!…コレ、2人が好きだったらしいんだ。代わりに吸ってやろうと思ったんだけど…初めて吸ったけど、これはキツイな。まだまだ私も子供だね。いつかこれが似合う大人になってみせる。カッコいい大人に。』

 

マトイは少し、鼻で笑った様な表情を浮かべたがタクミの隣に佇み、2人はそのまま宇宙を見つめ続けた。

_________________

 

しばらくして、各艦隊に、タクミの立案した作戦が送られた。それを見た提督や艦長達は、眉を動かしたり、首を傾げたりしていたが、彼らは特に反論や質問もせずその準備に取り掛かった。彼らの共通の認識があったとすれば、『それはこの作戦なら死なずに済みそうだ!』と言ったところであろう。

 

艦隊は遂に敵艦隊との交戦距離に近づこうとしていた。指揮官隻に座っていたタクミは立ち上がると右手を上げた。すると、後続の艦二万と、それに続く大型輸送船数百隻が艦隊から離れ、敵艦隊を避ける様に迂回運動を始めた。コレで戦力差は六万対八万。二万も戦力差が開いてしまっていた。しかし、艦隊は全身をやめない。更にあろうかとか、艦隊は右に二万五千、左に同数で分かれていたのだ。そして中央には総旗艦金剛以下五千。常人から見れば戦力分散の愚を犯している。正しく乱心したと見るだろう。

 

マトイ

『全艦隊。作戦通りに展開しました。大提督、ご命令を。』

 

タクミ

『各艦隊に告ぐ、もう一度作戦を説明するぞ。まず後続の輸送船団の護衛で二万。これらは後続艦隊とし、諸君らは敵艦隊を迂回し、所定のポイントで待機せよ。残り六万は二手に分かれる。二万五千は敵右翼艦隊に当たれ、指揮はキダ中将に任せる。残り二万五千は左翼艦隊だ。チェンバレン中将が指揮を執れ。残り五千は金剛の直掩隊だ。敵中央は金剛が相手をする。』

 

マトイ

『前衛全艦、特殊兵器の装填が完了したと報告が入りました。』

 

タクミ

『敵の砲撃に合わせて発射する。まだ待つんだ。先攻をゆずろう。』

 

その頃、オラキオ艦隊の八万は目の前の敵の謎の陣形に首を傾げていた。だが中央、左右共に数の優位がある。少し突けば簡単に瓦解すると、この艦隊の指揮官になっていたルフェーブル伯爵は考えた。だから彼は迷いなく全艦に砲撃を下礼した。

 

だがこれはオラクル史上複数ある圧倒的な勝利の一翼に数えられる戦いとなり、オラキオは史上最悪の戦いとして記憶されることになる事をこの時は誰も知らない。

 

ルフェーブル伯爵

『全艦、撃て‼︎』

 

オラキオ艦隊は一斉に砲火を開き、数百万の閃光がタクミ達に迫ってきた。

だが彼らは一切ひるまなかった。

 

タクミ

『今だ!各艦、フォトン・リフレクター・シールド・ミサイル発射‼︎』

 

タクミの号令が掛かると複数の艦がミサイルを放った。そしてそれは、艦隊より少し前の位置で爆発するとその周囲にエネルギーの壁が出来上がった。

その壁に当たったミサイルは爆発し、レーザーはなんと、跳ね返ってきたのだ。更に壁の中にいるオラクル艦隊の砲火は一切壁に遮られること無くオラキオ艦隊に向かっていった。

 

伯爵は何が起こったか理解できなかっただろうし、彼の配下もそうだったろう。しかしオラクル側もこの自分達の前に現れた無敵の盾が起こした所業に息を飲んだが、しかしこの無敵の盾が永遠のものではない事を知っていた。

 

このミサイルは元々、第二銀河の研究所で作られていたものをオラクル軍がその研究所を占領。そのままサンプルと製造ラインを持ち帰ったものであった。原理としてはミサイルの中にフォトンエナジーが入っており、それを偏向シールドやエネルギーリフレクターの技術を使って、爆発と同時にエネルギーの壁を作るというものだった。エネルギー攻撃は偏向、跳ね返され、実弾系統はエネルギーの壁に突っ込むので、誘爆、溶解するという代物である。

 

しかし、瞬間的にエネルギーを消費する為、コストは高騰し、シールドとして機能する時間も実に短く、オマケに砲火が激しければ激しいほどエネルギーを消費する為、ゴリ押しで破る事が出来るという弱点があるのだ。

 

その為、オラクル側の凄まじい反撃を加えた。シールドが機能している間に、出来るだけ敵の数を減らさなければならないのだから。

 

タクミ

『敵を撃滅する必要はない!後続艦隊が迂回し終われば、我々も逃げる。全艦無理はせず、されど怯まず勇ましく戦え‼︎左右艦隊前進せよ。中央艦隊は左右より速度を落として前進だ。第2段階用意。』

 

マトイ

『第2段階用意。』

 

キダ

『第2段階か、敵の砲撃は左右の艦隊に集まってるか?』

 

下士官

『はい。予定通り左右に砲火が集中し始めております。僅かながら損害が出てきております。』

 

キダ

『よし、右翼艦隊‼︎戦列を偽装崩壊させよ‼︎いいか、押し込まれてグロッキーになってる様に見せるんだぞ‼︎』

 

チェンバレン

『少し工夫を凝らしてやろう。ダミーバルンに気化爆薬を詰めて放出し、時限式で起爆させろ‼︎』

 

オラキオ艦隊は左右の戦列崩壊(してるふり)を見逃さず後退した事により突出した中央艦隊に火力を集中させた。

 

タクミ

『動かざること山の如し‼︎決して退くな‼︎反撃し続けろ‼︎ミサイルは下手に撃つんじゃないぞ‼︎』

 

マトイ

『左右艦隊、展開率25%まだ半包囲には及びません。』

 

タクミ

『ゆっくりでもいい、気づかれない事が重要だ。よし艦長!』

 

艦長

『撃ちますか?』

 

タクミ

『おうやったろうやないけ!艦首要塞クラス拡散フォトン・レーザー砲用意。目標、敵前衛艦隊!』

 

金剛の艦首がゆっくりだが下に動き始めた。40門の艦首レーザー砲ユニットを含めた艦首が下にずれると、巨大な要塞砲が金剛から顔を出した。

 

そしてその巨砲は、エネルギーを溜めると、一気にエネルギーの濁流を吐き出した。一定距離を飛んで行ったそれは敵の艦隊の前で四方八方に拡散していき、数百の光線の帯になり、オラキオ艦艇を襲った。

 

立て続けに繰り出されるオラクル軍の新兵器に翻弄されるオラキオ艦隊の将兵達は大混乱に陥っていた。だが彼らの不幸はまだ終わってはいなかった。

 

戦列が崩壊したはずの両翼の艦隊がいつのまにか自分達を囲む様に展開していたのだ。そしてそれらから放たれる広範囲弾頭を搭載した長距離ミサイルの雨。避けても時限式で爆発する弾頭の所為で回避出来ず、出来たとしても他の艦に衝突して火球に変わり果てるしか道が無かったのだ。

 

オラキオの将兵は自分達より寡勢の艦隊が何故こうも戦えるのか理解が出来なかった。逆にオラクルは敵の弾が飛び交い、いつ自分にそれが当たるかも知れぬ最前方で自分達の前を堂々と進む総旗艦とそこに仁王立ちする大将に鼓舞され、または旗艦と司令官を失うわけには行かぬという義務感に駆られ追いかけていく。

 

将が前線に立つ事は異常な事である。だが常勝の軍勢は、常に指導者が最前線に立ち、兵達と苦楽を共にすることによって勝利を勝ち得る。

 

この矛盾がいつの時代も将兵達の中に存在し、そしてその矛盾は常にまかり通ってきたのだ。

 

そしてオラキオの旗艦に、その勇敢なオラクルの旗艦が強行接舷してきたのだ。敵将ルフェーブルはこの時になって自分の配下の艦隊が完全に壊滅していた事に気がついたのだ。

 

オラキオの兵達は敵が侵入するであろうエアロックに集まった。ある者は剣を構え、ある者は銃を構え、ある者はロッドを構え、ある者は斧を構えた。

 

そして不幸にも彼らの前に突っ込んできたのはオラクル最精鋭装甲擲弾兵師団ポツダム師団選抜部隊、老親衛隊であった。哀れオラキオの兵達は氷漬けにされ、真っ二つにされ、蜂の巣にされ、焼き尽くされ、引き裂かれ、粉微塵にされてしまった。

 

敵将ルフェーブルは呆気なく捕虜になり、自分がついさっきまで座っていた提督の椅子には、自分の兵を血祭りにあげた化け物を乗せた化け物みたいな戦艦に乗っていた、二十歳を少し過ぎた青年の見た目をした化け物が座っていた。そしてその化け物を白兵戦に参加したのか同じく返り血まみれの甲冑を身につけていた。

 

そして彼らはオラクル語で何かを話していた。

(尚、後年地球の秘密機関マザークラスタの調査ではオラクル語を他国の人間が聞くとフランス語、オラキオ語を聞くとトルコ語に聞こえるという事が分かった。)

 

カール准将(ポツダム師団2代目師団長)

『Que diriez-vous de la survie de l'ennemi?(敵の生き残りは如何致しましょう?)』

 

タクミ

『Conformément à la loi militaire, tout le monde devrait être prisonnier.(軍法に則り、皆捕虜にせよ。)』

 

シュミット大佐(ポツダム師団副師団長兼第1大隊大隊長)

『Votre honneur n'est absolument pas plus élevé. C'était une victoire facile.(閣下、此方の損害は全くありません。楽勝でした。)』

 

タクミ

『Eh bien, devons-nous demander ce que cette personne devrait écouter?(さてこの男に聞くべき事を聞くとしよう?)』

 

ルフェーブルはこの若い三人の高級将校の離している言葉を理解できなかったが少なくとも自分を尋問か何かの類を掛けようとしている事は理解した。

 

ルフェーブル

『Ne derse konuşsana, beni öldürme! ︎(何でも話すから殺さないでくれ!)』

 

タクミは少し眉を動かすと口笛を吹いた。すると何処から出てきたのか、全身タイツの様な特殊戦闘服を着た少女が現れた。その少女は六芒均衡の零、アークス諜報部副司令官クーナだった。クーナはルフェーブルの首に武器を突きつけ、実に流暢なオラキオ語で尋問した。

 

クーナ

『İlk Prensin ordusu nerede, Graal hakkında neler oluyor? Cevap vermezsen anlıyor musun?(第1皇子の軍勢は何処に居ますか?グラールの状況はどうなって居るのですか?…答えなければ、判りますよね?)』

 

ルフェーブル

『Gura'nın üç büyük gezegende üç bin filosu ile çevrilidir ve her biri 200.000 askerle iniş yapmaktadır. Zemin savaşının şimdiye kadar bu sefer başlaması gerekiyordu!(グラール主要3惑星にそれぞれ三万の艦隊で包囲、それぞれ二十万の軍勢で降下作戦を行う。もう今頃地上戦を展開して居る頃だろう!)』

 

クーナ

『既にグラール主要3惑星が戦場になっている様です。少し遅かったみたいですね。どうしますか?大提督。』

 

タクミ

『それも織り込み済みだ。すぐに向かおう。それと敵将よ、名は知らぬが一言言わしてもらう。』

 

タクミは腰につけたカタナを目にも留まらぬ速さで抜刀し、ルフェーブルの首を刎ね落としてしまった。ルフェーブルの首を失った体は痙攣しながらそのまま血を流しながら倒れこみ、やがて動かなくなった。タクミはカタナを鞘に収めながら死体に冷たい視線を送り、こう言い放った。

 

タクミ

『Eğer Olak konuşmazsan öleceğiz.

(オラクル語を喋れないなら死ね。)』

 

オラクル訛りは、あるものの会話は可能なレベルのオラキオ語を言い放ったタクミはそのまま旗艦金剛に戻っていった。この一連の出来事を見ていたオラキオの将兵は後にオラクル人とりわけタクミを人の姿をした悪魔と言ったという正しく恐怖を植え付けたのである。そしてこの恐怖のオラクル人の参戦は、グラール、そしてオラキオの運命を変えていくのだ。後のオラキオ、グラールの歴史家はこう語る。

『戦に関してはもはや桁違いの強さを誇ったあのフェデル帝国時代のオラクル人が、御伽噺に出てきた鬼の様に恐ろしいあのオラクル人が帰ってきたと誰もが思った。

 

何故なら彼らの通った道には敵として合間見えた我らの同胞の首だけが無い死骸が山を成していたからだ。』



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第40話 グラール星系各個撃破戦

オラクル遠征軍は徐々にグラール星系へ近づいていた。戦闘艦艇8万、総陸戦兵力(海兵隊、各艦隊陸戦隊含む)60万の遠征軍である。それらは決して多いとは言えず、オマケに殆どの部隊が新兵で構成されている、実質戦力として数えられるのは5万程度が良いところであろう。しかし、この弱兵軍団はこの内乱の三ヶ月を通して屈強な精兵軍団に変貌するのだがこの時は、まだ先の話である。そんな軍団を率いる者達をここで挙げておこう。

 

陸軍よりジャン・ピエール・プレシ騎兵少将、首都防衛大隊より引き抜かれた、アフィン、オーザ、マールー、アザナミ、カトリ、サガ、海兵隊第1師団長になったリサ、工兵師団長フーリエ、そして新クラスサモナーの伝道者としてこの遠征軍にアークスより徴兵されたピエロである。アフィンらは兎も角、アザナミ、カトリ、サガ、ピエロは軍団指揮の経験は無く、本部付きのアークスであったが、指揮官不足と、アークスの新クラスの伝道者、教官をした経緯から引き抜かれたのだ。その点ピエロは新クラスサモナーの伝道者、オマケに今回の遠征が彼にとっても、サモナーにとっても初陣になる。武勲を残せば大成する。だが彼はこの遠征をチャンスと捉える一方憂いてもいたのだ。新フォトン生物ペットを使役して戦うサモナーにとってペットは大事な存在であり、家族にも等しい存在である。それが戦争に使われるとあっては憂いたくなるのも当然であった。しかしここで武勲を立てればサモナーの知名度は上がる。正しくピエロは苦悩していた。苦悩する者は他にもいる。サガは自分が教練したカトリがしっかり機能するかが心配であった。彼女はあまり訓練に乗る気では無かったが、そのクセ、自分のクラス(バウンサー)の布教は熱心であった。センスがあるのに覚悟が伴わない。サガは彼女の無自覚かつ無責任な指揮で多くの兵が死ぬのでは無いかと不安に頭を抱えていた。そしてこんな状況な軍勢を抱えて戦をしなければならないタクミもまた苦悩していた。戦の知らない兵達が多くてはもし指揮崩壊を起こした時に立て直すのが困難になるだけで無く、未熟故の驕りや厭戦、恐怖といったものが広まるのはそう時間が掛からないのだ。正しく死生知らずの野武士の如く戦うアークスが前線にたってもそれ以外の昨日までのほほんと暮らしていた民間人大多数では意味がないのである。彼は正しく死を恐れない兵子をこの遠征で作り上げなければならないのである。彼は机上で何度も何度も兵を動かしては、散り散りになったり、全滅したらやり直して行進させて敵兵に肉弾させたり等繰り返したが、彼の不安は暫く離れることは無かった。実際に戦ってみなければ何とも言えないのだ。自室の扉が開いたのでタクミは襟を正すと、マトイが入ってきた。

 

マトイ

『大提督、全艦の準備が出来ました。直ぐに作戦に移れます。』

 

タクミ

『2人の時ぐらいは名前で呼んでくれても良いんだよ?(イケボ)』

 

彼は不敵に笑いを浮かべ、精一杯の甘い声で彼女に話しかけた。これはタクミなりのユーモアであったことが後に分かった。

 

マトイ

『…みんな待ってますよ。(もう…///)』

 

2人がブリッジに着くと先の陸戦軍団各司令官、チェンバレン、キダ両中将、麾下の少将六人が待っていた。

 

タクミ

『おはよう諸君。これより敵艦隊をワープによる急襲、包囲殲滅戦を開始する。敵は三万隻に分かれ、三惑星を攻撃している。我々は八万だが敵は九万。それが三方にわかれている。各個撃破の機会をくれてやると言ってくれているのだから有意義に使おうよ。』

 

チェンバレン

『問題は計算ですね。少し間違えれば、同士討ちで消滅しますよ。』

 

タクミ

『それについてはマシナリーO2数万機をフル運用して計算中だ!お陰でメカニックが冷却材と修理部品を担いで東奔西走よwww』

 

オーザ・マールー

『(マシナリー酷使の境地…。)』

 

フーリエ

『何分はじめての超精密ワープですから上手くいかない事が多くて、マシナリーの子達にすごい無理をさせてしまう事になってしまいました。でも今やっと最終調整にこぎつけたんですよ本当一時はどうなるかと思った!』

 

タクミ

『20〜30分後には宇宙史上最高の精密小ワープを行う。敵艦隊を倒す為の時間は40分。艦隊を撃滅後、それぞれに軍を降下させる。順番は、モトゥブ、ニューデイズ、そしてパルムだ。

モトゥブ軍団はアフィン、サガ、カトリの軍団!ニューデイズはオーザ、マールー、ピエロの軍団だ!残りの、プレシ、アザナミ、リサ、フーリエは私と来い!艦隊戦は各指揮官同士の連携を密に行い、陸戦は速攻で首都を奪還し、敵の戦意を削げ!殲滅の必要はない。三割から四割削れば、艦隊が居なければ降伏する。以上である!総員直ちに配置につけ‼︎』

 

マトイ

『皆さんの降下の際には我が聯合艦隊の直掩航空師団である第四航空師団が援護、降下後の対地支援を行います。敵艦隊撃滅後、空母数隻と直掩隊を衛星軌道上に残します。積極的に活用してください。』

 

マトイが説明し終わると、ハッチから赤髪の褐色の肌を持った女性が現れた。完璧なグラマーボディをラインの目立つパイロットスーツで包み、そして歩く度にゆったりと揺れる豊満な胸の胸元をはだけさせた豪快な出で立ちであった。

 

ホークス

『ご紹介に預かったが第四航空師団を預かるホークス中佐だ。宜しくな!アークスさんよ♪』

 

オーザ

『オーザだ、宜しくな中佐。』

 

オーザが名乗るとホークスはジロジロとオーザを見つめた。

 

オーザ

『お、おい。何をしている?』

 

ホークス

『いやぁ〜、私と対して年変わらんのに軍団長様とは世の中面白いねぇ〜と思ってね。』

 

リサ

『ホークスさんはおいくつなんですか〜?私は男の子じゃないのでおとしを聞いても失礼じゃないですよね?』

 

ホークス

『男も女も関係ないぜ!あたしは25だ!どうだ〜まだまだピチピチだぜ!』

 

マールー

『二十代半ばで航空師団長もなかなか珍しいわよ。』

 

タクミ

『諸君、自己紹介は後にしてくれ?あんまり時間は無いのだからね。』

 

オーザ

『了解。』

マールー

『はっ!』

ホークス

『アイ!』

 

軍議を終え、諸将たちはおもいおもいの方に去っていった。兵達の顔には緊張が滲み出ていた。初の実戦、使い慣れない武器、体を締めつける軍服、そして間も無く対面する敵、興奮と恐怖が交差する中、彼らが一切の弱音を吐かなかったのは彼らの唯一の財産である若さと、テレビや新聞、はるか彼方の存在であった英雄達と轡を並べるという栄誉が彼らを奮い立たせたのだろう。でなければ得体の知れない土地で、しかもダーカーでは無く、同じ人類と戦えと言われているのだから、士気を維持できるわけが無いのだ。出来るとしても戸惑いが出るのは当然よ事だった。

 

航方士官

『全艦ワープ準備完了です。誤差も許容範囲です。』

 

タクミ

『全艦ワープ開始。ワープアウトと同時に一斉射撃。』

 

マトイ

『全艦ワープ開始‼︎』

 

八万の戦闘艦と数百の輸送艦と輸送船が同時にワープした。八万数百の鉄の塊が一斉に空間跳躍するとはなかなか圧巻の光景ではあるが、今はそれをゆるりと眺める機会は無い。

 

_________________

 

グラール太陽系はモトゥブと呼ばれる砂漠と荒野の惑星では、ローグスと呼ばれる海賊を束ねるアルフォート・タイラーと旗艦ランディール号が率いるローグスとグラール同盟軍連合艦隊八千がモトゥブに降下した敵揚陸兵力を輸送したオラキオ艦隊三万と戦闘を行っていた。タイラーの天才的用兵術によって三倍以上の戦力と渡り合っていたが、それも限界に近づいていた。

 

リィナ・リマ(ローグス ランディール号副船長) 『艦隊の損害が三割に達した。このままだとあたし達も…!』

 

タイラー

『今更、逃げられぬよ。全艦、方陣を組み直せ!敵は遠路を渡ってここに来た、つまり敵は疲労が困憊している!必ず限界が来る、それまで持ちこたえろ!私達の縄張りを荒らした連中を痛い目に合わせてやれ‼︎』

 

ヒル・ボル(ランディール号戦闘員)

『ワープアウト反応!数は…は、八万⁉︎八万がワープアウトしてくる‼︎』

 

ノ・ボル(同上)

『相手の旗印(IFF)は…。船長!こりゃあ…』

 

ド・ボル(同上)

『オラクル共和国の軍隊だ‼︎』

 

オラクル艦隊が一斉に空間から飛び出して来ては、更に敵艦隊を包囲してしまった。オラキオ艦隊の将兵達は驚愕のあまり、誰もが手を、思考を、止めてしまった。然し、そこに軍神と讃えられた皇帝の後継者は容赦なくその左手を振り下ろした。

 

タクミ

『ファイアー‼︎』

 

キダ

『ファイアー‼︎』

 

チェンバレン

『フー‼︎』

 

オラクルの提督達の喝が飛ぶと同時に翡翠の光線が三方より飛び、オラキオ艦隊は混乱した。オラキオ艦隊の司令官はこの包囲脱すべく行動しようとするが、前方のタイラー艦隊八千すら抜けなかったオラキオ艦隊が八万の包囲を破れるわけなく、旗艦も被弾し、爆散した。更にホークス中佐麾下第四航空師団が襲い掛かり、更にオラキオ艦隊は削られていき、1時間後には三万から三千隻程度に撃ち減らされていた。

 

タクミ

『撃ち方やめ‼︎』

 

オラクル艦隊の砲撃はピタッと止んだ。総旗艦金剛は発光通信を敵艦に送った。内容はこうだった。

『我、コレ以上ノ、貴艦隊ノ流血ヲ強イルハ、本意ナラズ。降伏セヨ、然ラバ、我モ、スレイマン殿下ノ寛大ナル処置ヲ願イ出ル事ヲ誓オウ。オラクル海軍 第一艦隊司令官タクミ・F』

 

因みに、三国同盟の盟主たるオラキオ第二王子スレイマンの名を出し、降伏を勧告したのは、タクミなりの配慮であった。そして敵の兵達も、この悪魔的な勢いで奇襲を仕掛けた艦隊と戦をする気は既になく、この勧告に従った。

 

タクミは前方の味方艦隊(テイラー艦隊)を見ると通信を行う様に指示を出した。その指示を受けたマトイが端末を触ると、肌黒のビーストマンの姿が映し出された。生まれて初めて見るビーストマンの姿を見たオラクル人は阿鼻叫喚を囁き始めた。タクミはそう言った連中を見やると止めよという合図を出した。その後、この海賊王を見つめ、口を開いた。

 

タクミ

『私はオラクル共和国オラクル要塞方面軍及び、グラール・オラキオ王国救援軍総司令官タクミ・F大将です。貴方の官姓名をお教え頂きたい。』

 

タイラー

『私は、ローグスの長を務めているアルフォート・タイラーだ。共和国の救援に感謝するぞ大将。だが、まだ我々にはのんびりと自己紹介をしている暇はない。他の二艦隊が合流を始め、こちらに向かっている。』

 

タクミ

『おや、予想よりも対応が早いな。マトイ、敵艦隊の合流完了時間は?』

 

マトイ

『二時間です。我々の接敵時間はそれよりも遅い、三時間です。』

 

タクミ

『フム、よし陸軍部隊は予定通り降下、衛星軌道で支援を行う艦隊だけを残し、それ以外はそのまま付いて来い。タイラー殿、我らはこのまま敵艦隊を撃滅しなければならないが出来る事なら貴艦隊の力も借りたい。諸君らは海賊ゆえ、自由を好む達なのは分かる。戦列を組んでくれるだけで良い。接敵したら諸君らの自由にやってくれて構わない。どうか共に来てはもらえぬか?』

 

タイラー

『そこまで分かっているのなら、文句はない。共に行こう。』

 

タクミ

『よし、アフィン、サガ、カトリ、ピエロ、頼むぞ!それでは各々、行こうか。』

 

八万八千隻の艦隊が敵艦隊に向かって前進を始めた。その一方アフィンのレンジャーを主力とする軍団(10万)、サガ、カトリのバウンサーを主力とする軍団(5万)、ピエロのサモナーを主力とする軍団(5万)がモトゥブに降下した。対するオラキオ艦隊は約六万隻であり、数的不利を被っただけでなく、完全な奇襲を仕掛けたオラクル艦隊への恐怖が回り始めていた。その為、射程が僅かに優るオラキオ艦隊は有効射程にはまだ遠いものの先手を取るべく、砲撃を開始した。然し、オラクル艦隊は動じず、攻撃を後方に受け流しながら、U時型に戦列を組み直した。

 

タクミ

『全艦載機は直掩に回れ!先ずは敵右翼を攻撃する。その後、左翼!その後中央突破だ‼︎撃ち方はじめ‼︎』

 

マトイ

『撃ちぃ〜方始め‼︎』

 

旗艦金剛の斉射に合わせて、各艦が各々のタイミングで砲撃を始めた。右翼に砲撃が集中し始めたオラキオ艦隊は左翼及び中央の戦力を小出しして穴埋めに掛かったが、戦力の逐次投入は戦場においての最大の愚策、何の成果にも繋がらないばかりか右翼崩壊の危機を迎えつつあった。

 

タクミ

『今だ!チェンバレン艦隊は左翼に砲撃集中‼︎その後、本隊、キダ艦隊の順で砲撃目標を変える!』

 

通信士官

『閣下、アルフォート・タイラー殿より通信、『これより上方より敵中央を攻撃を行う。同盟艦隊の支援を期待する』以上です。』

 

タクミ

『了解した。聞いたな諸君、全艦左翼に砲撃集中‼︎艦載機隊の鎖を解け、そろそろ餌が恋しくなるはずだ。』

 

ホークス

『よし、行くよあんた達!先ずは左翼空母艦隊を潰す‼︎一機も発艦させるな‼︎』

 

機首をオレンジに塗装したホークス機が敵艦隊目掛けてすっ飛んで行くと、他の艦載機もそれに続いた。オラキオ艦隊が、対空戦闘に移行したが、正面と上面から敵の砲火が迫り来る状況故にちゃんとした体制が取れず、次第にオラクル艦載機隊の蹂躙を許す形になっていった。

 

敵の空母を撃沈しようとホークスは機体を加速させていた。彼女の獲物は艦載機を発艦させようと側面ハッチを解放していた空母だった。ホークスは愛機を空母の側面に回り込ませ、機首を向けた。そこから、バレルロールを繰り出し、各ハッチに駐機していた敵機に機銃をお見舞いした。破壊された艦載機が誘爆し、かくして空母は業火の中に消えた。ホークスは隣の空母に狙いを定めると、対空砲火を掻い潜り敵艦の艦橋目掛けて、機体の背部に搭載されているレーザーカノンを照射し、艦橋を吹っ飛ばした。更に、そのままミサイルを敵艦中央に放ち、かくして空母は爆散したが、運良く逃れられた艦載機四機がホークスを追いかけてきた。ホークスは今の状況を瞬時に把握すると、逃げるに如かずと言わんばかりに加速して振り切る事にした。

 

ホークス

『四機かぁ、モテる女は辛いね。でもホークス姐さんは負けないぞ!』

 

ホークスは敵機が追いかけてる事を確認すると、エンジンを急停止し敵機を追い抜かせた。追う側と逃げる側が入れ替わると、ホークスは四機を瞬時にロックオンすると、2機を機銃、残りの2機をミサイルで撃墜した。

 

ホークス

『イィィィィィィハァァァァァァ‼︎‼︎撃墜スコア更新‼︎ホークス機から母艦へ、補給の為帰還します。』

 

一方その頃、アルフォート・タイラー率いるローグス艦隊はオラクル艦隊とは違い、敵艦隊上方から砲撃を加えていた。アルフォート・タイラーはこの外宇宙からの来訪者がどのような戦い方をするのか見ていた。

 

タイラー

『(もはや見事としか言いようがない。火力の一点集中戦法、それによって起こる戦列の混乱。それらを全てこちらで管理し、頃合いを見計らって、全て平らげる。かといって攻めばかりではなく、守りも付け入る隙が無い。艦隊の陣形や、各艦の回避運動、そしてシールドを宇宙空間に発生させるあの得体の知れないミサイル。これらを全て使い、味方の犠牲を最小限にとどめている。オマケにさっきのワープ直後の包囲戦だ。オラクルの技術力の高さが可能にした戦法であるにしろ、ワープで敵艦隊に近づき、そのまま包囲すると考える者は多くは無い。

 

恐らく、あの手の男(タクミ)は全神経と思考が敵を倒す事に集中しているのだ。見た目と話した感じではそうは感じないだろうが、と言うよりそもそも本人が気づいていないに違いない。先程の敵艦隊に対し、降伏を呼び掛ける時も勧告を行うギリギリまで砲撃を弱めなかった。降伏を呼び掛けるのなら徐々に攻撃を弱めるのが常道。恐らくあの若者の肉体の中には戦を好む者とそうでないものが同棲して居るのだそして互いが噛み合わぬばかりに常人には分からぬ隙が生まれる。そしてその隙は決して小さくはない。いつか必ず障りになる。)…敵艦隊はあと何隻残っている?』

 

ヒル・ボル

『後、六千が良いとこですぜ、お頭。対するこっちの損害はかわいいもんでさぁ、大勝利ですぜ!』

 

タイラー

『味方艦隊に通信を送れ、『ここらで良いだろう。』とな。』

 

通信は直ぐに金剛に送られ、艦橋の司令官席にのんびり座っていたタクミに届けられた。

 

タクミ

『引き際か、敵艦隊旗艦が一隻生き残っていたな。通信を繋げ、パネルにな?顔を見たい。』

 

マトイは頷くと端末を操作し、敵旗艦との通信を繋いだ。映し出されたのは初老の白髪白鬚の男であった。

 

タクミ

『貴艦隊の敗北は決した。これ以上は双方に出血を強いるのみ。降伏せよ。助命は約束する。』

 

オラキオ艦隊提督

『我が六千と先にやられた三千。これでスレイマン殿下は新たに戦力を得たと言うわけですな…降伏する。私を除いて全ての将兵がスレイマン殿下に忠誠を誓う。私は敗軍の将として死して我らがシュメルヒ殿下にお詫びを致す。』

 

初老の提督が拳銃を取り出すと、自分の眉間に銃口を当て、引き金を引いた

乾いた銃声が辺りに響き渡った。マトイはその瞬間に目を逸らし、タクミは死にゆく老人に敬礼を送った。

 

タクミ

『まだ戦いは終わってない!オラクルの兵ども‼︎ニューデイズとパルムに降り、そこに巣食う敵の首を刈り取ってこい‼︎行くぞ!配置につけぇぇぇぇ‼︎』

 

オラクル軍将兵

『雄ォォォォォォォォォォ‼︎‼︎』

 

オラクル軍はニューデイズ、パルムの双方に兵を降下させた。各惑星に派遣したのは二十万。対するオラキオ軍は三十万であった。いかに現地の戦力があったとしても十万の差はとても覆せるものではない。オラクル人の苦しい戦いが今、正に始まろうとしていた。




オマケ
オラクル軍使用艦艇略図

1 ガーディアン級艦隊旗艦型大型戦艦
(有名な艦 ガーディアン、スサノオ等)
新光暦239年に建造されたオラクル史上初の全長三キロ越えの大型戦艦である。特一等アークス(タクミ・F)の宇宙艦隊再建計画に基づき建造された本艦は希少資源採掘技術の乏しいオラクルのなけなしの希少資源をふんだんに使った戦艦であり、艦隊旗艦になるべく建造された。通常のオラクル艦艇(アークスシップ)とは違い、直線的なデザインであり、モジュール構造を採用して居るため、修理性と建造時間の簡略化も図られている。火力防御力も申し分ないが、特筆すべきはオラクル艦艇特有の機動力にあるだろう。5キロという巨体で戦場を順応無地に飛び回り、翻弄するというもはや常識はずれといっても過言ではない。そんな無敵な戦艦のように聞こえるが、五番艦アキレウス以降は希少資源の採掘量が間に合わない為、既存の装甲材を使った装甲を何層にも重ねて装着するという方式に変わっており、初期型に比べるとかなり打たれ弱くなってしまった。(初期型に比べればなので十分堅い)その為、艦隊指揮官の好みの改造によっては、一撃で爆沈する危険性をはらむ事になり、第二銀河侵攻戦の際、第9艦隊旗艦サーコノスはミサイルの搭載量を増やす為外付けミサイルポッドやサイロを搭載していたが、当たりどころが悪くレールガンの一撃で誘爆し爆沈したり、第四艦隊分艦隊旗艦サリーマは高機動高速力を求めた為、装甲を幾分か削っていたが、コントロール不能に陥った高速戦艦ミーシャに激突され、小惑星と挟まれる形になり、装甲の薄さが災いして船体が潰れ、そのまま撃沈したといった報告がいくつも上がるようになる。しかし、それでもガーディアン級は拡張性に富み、バランスの良い戦艦であることは認識されており、相当数量産されたそうである。

2 オラクル主力戦艦(標準戦艦)
オラクル宇宙艦隊の主力を担う戦艦。量産性と機動性と長距離攻撃能力を重視して作られており、防戦に強い。モジュール構造を採用している為、艦首主砲が増強されているタイプや艤装特化改造がされて原型を留めていない重武装タイプと言ったバリエーションも存在する。

3 オラクル軍巡航艦
艦隊の中核を担う巡洋艦である。モジュール構造を採用している為、量産性拡張性に富む。(因みにオラクルは各勢力に比べて、領土の割に国力が低くく、四カ国で建造数を計算したところ戦艦は二位、空母は同率三位(オラキオと同数)、駆逐艦二位という結果になっているが、巡航艦の一週間の量産数だけは各国一位を誇る。建造数×一週間オラクル800〜1000 オラドニア帝国750〜900 グラール500〜600 オラキオ約750)

4 オラクル主力駆逐艦
オラクル艦隊の前線を担当する駆逐艦。モジュール構造を採用している為量産性が高い。他国の駆逐艦よりも重武装であることも知られており、他の駆逐艦の艦首フォトン・レーザー砲が12.7cmなのに対し、この艦は14cm砲を採用している。艦首が少し重くなる為バランスを取るという目的で艦中央部に搭載された艤装型12.7cm二連装レールガンや艦首側面に搭載された61cm対艦魚雷も強力であり、類を見ない強力な艦であるが、欠点として、装甲がどの駆逐艦よりも薄く、生存性に欠けるということである。これは重装備になった本級が駆逐艦としての速度と機動力を発揮出来るように取られた措置によるものであった。

5 オラクル主力空母
オラクル軍の主力量産空母。他国の空母とは違い、量より質を求めて建造されて居る為、他国の空母生産量では大きく劣る。然しこの艦が搭載する艦載機量はなんと二百機であり、飛行甲板及び、艦底部の急速発進ベイから発艦される艦載機の大軍で一気に制空権を確保、打撃を与えるというコンセプトで作られている。勿論、それらを運用する為の搭載力もさる事、艦自体の戦闘力も高く、艦隊指揮能力も通常の戦艦以上の力を保有して居る。(艦載機管制面の確保の為、大型アンテナを旗艦クラスの物を装備して居る為、その余波によるものである。)尚、オラクルではこの艦級のみが戦闘艦としては唯一モジュール構造を採用していない。

6 ヤマト級艦隊旗艦型大型戦艦
新光暦190年代に建造されたと思われる大型戦艦である。後のオラクル艦艇とは異なり、艦の艤装が全て外付けの460cmレーザー砲や12.7cm〜20cm副砲、各種対空砲で装備されており、そしてそれらが全て強力という鉄の化け物である。(修復後艦首レーザー主砲と、ミサイルサイロを搭載した。)シールドシステムや装甲は独自の技術が使われており、どれも新光暦239年時点で研究中の代物が使われており、40年前の驚異的な技術とは到底思えないと多くの技術者が口を揃えて言ったほどである。全長は3.6 kmと他の艦隊旗艦に比べれば大分小柄だが、ヤマト級一艦で3万隻以上の艦艇を統率可能であるなどありとあらゆる点で既存艦艇を凌駕していた。というのも元々ヤマト級は、これをコアシップにした超大型重武装アークスシップ建造計画の一環で出来上がったものだが計画は頓挫し、初期生産の三艦を、ナベリウスの月の中に存在する秘密造船所に封印、そのまま計画も抹消された。然し新光暦239年、軍拡を進めていたオラクルの技術陣はこの艦の存在に目をつけ、封印されていたこの三艦を復活させた。一番艦ヤマトは第六艦隊旗艦として就任し、ジェームズ・ネルソン元帥が座乗し、二番艦ムサシは第一艦隊旗艦、分艦隊旗艦として、タクミ・F大将、ヒューズ少将が座乗し、三番艦シナノは超大型空母として改造作業が続けられており、完了次第アークス第一艦隊(アークス総司令部直属の独自艦隊)に編入されるという。

7 ソールハル級艦隊旗艦型大型戦艦
簡単にいうと超ガーディアン級戦艦を作ろうとして生まれた、ガーディアン級を横に二隻くっつけたような見た目をしている。火力はどの勢力の軍艦を凌駕し、正面火力200門以上(艤装型兵装も含め)という馬鹿げた数字を叩き出した本級はガーディアン級の改良艦として製造されたが、莫大なコストが掛かるため、ガーディアン級程の量産はされず五隻程度しか建造されなかったそうである。然し、総合能力はガーディアン級を凌駕し、艦隊旗艦としては申し分のない評価を受けた為、この艦を配備された艦隊はそれ相応の評価を受けているという証になった。(因みにこの艦を受け取った提督達は艦隊旗艦をこの艦にこぞって変更するが、第一艦隊所属の二番艦パンゲアは分艦隊司令官エドワード・アースグリム准将の座乗艦になっている。)

8 改ガーディアン級戦艦(通称金剛級)
ガーディアン級はロールアウト以降戦果を稼いできたが、一部の司令官からは不満の声が上がっていた。というのもオラドニア帝国にはイラストリアス級という優秀な艦隊旗艦が存在しており、その艦に比べるとガーディアン級は万能型というより、平凡な性能しか無いと感じさせられる様になったからである。そこで開発されたのがガーディアン級の火力、防御力、速力、指揮能力を向上させた改ガーディアン級の計画が持ち上がる。最大の改造点は艦首に大型の要塞クラスレーザー主砲を搭載している事である。それは艦首内に搭載されており、発車の際は艦首主砲ブロックが下に外れ、その中にその巨砲が隠されている。収束と拡散に使い分けられる様に発射機関が加工されており、状況によって使い分けられる。更に指揮能力向上につき、初めてデータリンク機能を搭載しており、一艦で3万隻近くをコントロールする事も可能になった。基本的に金剛級は既存のガーディアン級を改修して就役させたものなので一から建造された艦は居ない。(三番艦、四番艦は建造途中のガーディアン級を改修する形になったので実質一から建造しているといっても過言では無い。)因みに一番艦コンゴウはガーディアン級二番艦スサノオを改修した艦で二番艦ヒエイは四十三番艦シキシマを改修したものである。

9 ストックホルム級高速戦艦
オラクル軍初のの主力量産高速戦艦である。艦首が傾斜しているため、高速戦艦でありながらある程度の防御力も保有する。通常の艦首レーザー砲に加え、砲塔は他の艦艇の様に大口径では無く、60cm砲に変更が加えられているが、既存の艤装よりも連射と貫通力の高いものを採用しているため、総合的な火力はむしろ向上している。高速戦艦は兵科で言うところの騎兵であり、その高速力で敵艦隊を翻弄し、そして火力を持って敵を屠ることが役目だが、こう言う艦は決まって防御力が低い。守勢に立たされれば、とことん弱く、第四艦隊はその構成艦がほぼこのストックホルム級だった事が災いし、スパルタン撤退戦では、かなりの犠牲を出したという。(それでも三割程の損害であり、ガブリエルが遅陣した事が幸いした。)然しストックホルム級はそもそも守勢に回る様な艦では無く、敵に対して圧倒的な打撃を与える事をモットーとして建造されているので、この艦を艦隊に入れている司令官は如何に上手く攻め、如何に上手くこの艦を守るかという判断を行わなければならない。尚、他のオラクル艦艇と同じくモジュール構造を採用しているため、量産性はそれなりに確保しており、外見こそ違えど、標準戦艦と内部の部品は互換性がある。


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41話 惑星パルム上陸戦

グラール星系での勝利を収めたオラクル軍は各惑星への降下を始めていた。揚陸艦の中でタクミは先にモトゥブに降下して戦闘を行なっているアフィンに通信を行なって居た。

 

タクミ

『アフィン、俺だ。そっちの条件を教えてくれ。今の戦況はどうなんだ?』

 

アフィン

『ありと…ゆる…攻撃を仕掛けて…るが…奴さんは意地でも…』

 

妨害電波が出ているのか、通信はたどたどしく、ノイズ混じりであった。通信兵が出力を弄ると少しだけだが通信が安定したお陰で、2人はどうにか話しやすくなった。

 

アフィン

『奴さん意地でもこの惑星を支配するらしい。衛星軌道からの砲撃や、対地爆撃もしてるのに、全く諦めない。こら、骨が…』

 

アフィンの後ろに敵兵が現れ、戦斧で薙ぎ払ってきた。然し、アフィンはそれを躱し、銃剣を取り出し、頭部に一発弾丸をお見舞いすると、首を切り飛ばした。アフィンは返り血を浴びたまま通信を続けた。

 

アフィン

『とまあ、結構こっちの陣地や塹壕まで斬り込んで来る始末だ。多分そっちも激しい抵抗を受けると思う。敵は背水の陣を敷いてしまったらしい。』

 

タクミ

『良い兵子だな。だが敵とあれば厄介な存在にしかならないな。分かった、ここの敵の海軍戦力は壊滅したからそっちに艦隊を差し向ける。

 

幸いそっちは民間人があんまりいないから大規模の惑星爆撃が出来るはずだ。そっちの仕事も楽になると思う。

もう大気圏に入る。また連絡する。』

 

アフィン

『そっちも気をつけてな…』

 

通信が切れ、揚陸艦の窓には大気園で燃える船体が見えていた。タクミは一緒に同乗した第485歩兵師団(新兵師団)に艦内に響く声で喝を入れた。

 

タクミ

『良いか、boys(ボーイズ)‼︎これより貴様らが降り立つ地はお前たちにとって初舞台であって、異国の地だ!オラクル人が誰一人踏み入れたことのない土地を我々は今、足を踏み入れるのだ。

 

諸君らスロウチ帽(初陣前の新兵はベレー帽ではなくスロウチ帽を被る決まりになっている。)にベレー帽を被った先輩たちと同じだけの武勲は期待しない、ただ生き残れ!その頭に乗っかってるものを俺や他の連中と同じ名誉というベレー帽にしたかったらな‼︎なんだかんだ言ったが心配するな!負けはしない‼︎』

 

艦内に放送が流れた。

(降下完了まであと10秒‼︎)

 

タクミ

『我々こそオラクルの先駆けだ!先に降りた海兵隊の連中が早速大暴れしてる様だから早めに合流するぞ。』

 

揚陸艦のハッチが開き、その先には緑豊かな草原が広がっていた。

 

タクミ

『Marchons‼︎(前進)』

 

銃剣をつけたライフルを持ったタクミに続き、多くの若い兵が走っていく、少し進んだ所でオラキオ側の銃弾や砲撃やテクニックが飛んできた。タクミ達はあっという間に硝煙に包まれた。

 

タクミ

『頭を下げろ!脳みそに風穴開けられたくなければな‼︎弾幕を張りつつ、隙を見て前進する!戦車と装甲車部隊が来る前に出来るだけ戦線を上げるんだ‼︎』

 

敵の銃撃は激しく、オラクル兵はうつ伏せになりながら銃撃を行うしか無かった。然し、そこにオラクル軍の爆撃機が飛来し、敵の塹壕を爆撃で吹き飛ばした。

 

オラクル兵

『敵の戦線が下がってるぞ!』

オラクル兵

『今だ、前進!前進‼︎』

 

オラクル兵達は立ち上がり、銃撃しながら敵の塹壕に向かって突進した。中に残っていた敵兵は悉く銃剣で突き刺し殺した。然し間に合わなかった兵達は野砲と重機関銃で八つ裂きにされていった。然し、数の差があれど、戦局は完全にこちらが有利にある状況であると兵達は分かっていた。その為、戦意は高く、敵の迎撃に怯むことは無かった。

 

その間にタクミは最前線の海兵隊の陣地に向かっていた。陣地はオラキオ軍の防衛戦に配置してあった前線司令部を再利用したものであった。

 

タクミ

『やぁ、リサ。海兵隊の戦いぶり実に見事だったぞ。予想よりも早く敵を後退させることが出来た。』

 

リサ

『どうもご丁寧にありがとうございます。でも不思議ですね〜。敵さん達、リサを見たらみんな揃って逃げ出しちゃったんですよ〜?まだまだリサは人を撃ち足りないのに…タクミさん撃って良いですか?』

 

タクミ

『ダメ。(そら逃げるよね)』

 

だがタクミは、敵に対して決定的な打撃を与えられていない事を内心分かっていた。確かにリサの狂気はその場にいた敵兵には通用したが、全体的に見ても本当に極一部の効果しかない。この恐怖を敵軍全体に広めなければならないのだ。

 

タクミ

『(今、騎兵を降ろすのは時間が掛かるが装甲車や戦車は直ぐに下ろせそうだな。ついでに装甲擲弾兵と拠点用レイ・シールドも…)悪いが誰か地図を持ってきてくれ。』

 

海兵隊員が地図を持ってくるとタクミはそれを受け取り、テーブルにそれを広げた。すると近くに川とそれを塞きとめる関がある事を知った。

 

タクミ

『この川の関は何のためにあるんだ?』

 

リサ

『保護した農民の方によりますと、今は雨季でこの川は関を設けておかないと、濁流や氾濫で大変な事になるそうですよ。大変ですね?』

 

タクミ

『そうね〜大変ね〜。(ニヤリ)』

 

タクミは薄ら暗い笑みを浮かべ、指を鳴らした。すると何処からか六芒均衡の零、クーナが現れた。タクミは地図を指差し、例の関を説明した。

 

タクミ

『合図が上がったら、関を切ってくれ。これで敵に打撃を与えられる。』

 

クーナ

『承知しましたが、どうやって敵の全軍を川まで追いやる気なんですか?』

 

タクミ

『それは…』

 

タクミは司令部の扉を開けると、仮面とカタナを持ってマトイが立っていた。そのまま二つをマトイから受け取るとタクミは仮面をつけ、カタナを引き抜いた。

 

タクミ

『敵の中に突っ込んでいってがっぷり四つにするのは我々オラクル人の独壇場だろう?』

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

暫くして、第二防衛戦で守りを固めていたオラキオ軍は、自分達の正面にいるオラクル軍に動きがある事を感じ取った。士官が双眼鏡に眼を当てると、戦車と装甲車を主軸にする機甲軍団の進撃を目の当たりにした。

 

オラキオ軍士官

『敵の機甲軍団だ!防戦よーい‼︎対戦車砲と重機関銃を用意しろ‼︎』

 

オラキオ軍は大砲と重機関銃を撃ちまくった。然し、塹壕を突破する事に関しては右に出る者がいない戦車と装甲車の進撃には重機関銃は頼りにならず、対戦車砲も戦車と装甲車の弾幕で狙いが付けにくくなった。更に装甲車部隊が対戦車ロケットから身を隠す為、スモークを焚いた為、余計狙いが付けにくくなった。

 

オラキオ士官

『クソ、オラクル人め…味な真似を!こうなったら撃ちまくってやれ‼︎相手もこの砲火の中を進めるわ…』

 

進めるわけ無いと言いたかったのだろうがこのオラクル人の将校の命はこの瞬間に首を切り落とされ絶えた。オラキオ人将兵が目の当たりにしたのは全身を統一された赤の具足で身を包んだオラクル精鋭装甲擲弾兵及び各種精鋭騎兵通称『赤備え』がカタナとパルチザンと銃剣を構えて突進する姿であった。その先頭を、赤色の大鎧に身を包み、その兜に白色の毛を獅子の鬣の様につけ、仮面をつけた若い男が駆けてゆく、カタナを大きく振りかぶり、一刀の下に斬り伏せんとしていた。

 

タクミ

『行くどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎首を獲れぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

赤備え

『『『ウオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎』』』

 

赤備えの突撃で、前線のオラキオ軍は総崩れになった。羅刹の如く荒々しく戦う赤備えに恐怖を抱いたのだ。そんな中、タクミは狂気の渦の中でカタナで斬っては斬ってを繰り返していた。すると1輌の戦車を見つけた。タクミは近くに居た赤備えの2名を口笛で呼ぶと、2名は頷き、氷のテクニックを詠唱して戦車の足回りを凍らせた。タクミはカタナを収め、ライフルを構えると戦車の車体を登り、砲塔のハッチを銃撃で抉じ開けると、その中に手榴弾を投げ込み、戦車を破壊した。更にそこに戦車の仇を取ろうと重装甲歩兵が斧を持って襲い掛かってきたが、タクミは懐に入り、腹にゼロ距離から射撃を加え、極め付けはそのままカタナを引き抜いて首を装甲服ごと斬り落としてしまった。

 

タクミ

『川まで追い散らせ‼︎敵として抵抗する者は女子供だろうと殺せ!蹂躙しろ‼︎戦場というこんなロクでもない場所にいた事を連中に後悔させてやれ‼︎』

 

リサ

『目移りしちゃいますね。こんなに動く的が一つ、二つ、三つ…もうそれだけでリサは幸せです☆』

 

リサはライフルの弾倉をドラムマガジンの弾倉に変えると、横方向に薙ぎ払うように撃ちまくった。発射音が鳴るたびに一人、一人と死んでいった。そしてその亡骸の上に、悶絶したような表情を浮かべた機械の身体を持つ美女が立っていた。

 

リサ

『最ッ高…♡(ウットリ)』

 

マトイ

(普通にしていれば綺麗な人なのに、銃を持つとこんなに変わっちゃうなんて…世の中分かんないね。)

 

タクミ

(私も陸と宇宙だとテンション全然違う(意外!自覚していた!)けどあれはもう化け物やな。訳も分からず言いよった男が痛い目に合うのも無理はない。)

 

リサ

『二人とも何してんですか〜?手が止まってますよ〜疲れてるなら休ませてあげましょうか?』

 

タクミ&マトイ

『(永遠のですね⁉︎分かります!)いえ、結構です‼︎ご気遣いありがとうございました‼︎』

 

すると蹄の音を響かせて一人の初老の男が近寄ってきて、タクミに刀剣の礼を行った。タクミもまた敬礼を返した

 

タクミ

『プレシ少将。騎兵の準備は万端といった所か。やる事は分かっていますね?』

 

プレシ

『勿論です。大将閣下の轍が飛びますれば皆抜刀し突撃する所存であります。竜騎兵は例の装備を用意し、待機しています。』

 

タクミ

『竜騎兵には重装甲兵と遊んで貰わないとな。その為の例のブツだ。』

 

プレシ

『閣下の赤備えは?皆下馬しているようですが?』

 

タクミ

『まだまだ出さんよ。出すのはスレイマン坊やの前に我らの武勇を見せる時だ。先ずは…敵を屈服させる事だ。』

 

プレシ

『重装甲騎兵を走らせます。陣頭は私が執ります。』

 

マトイ

『フォースとテクターに支援させます。これで少しは切り崩しやすくなりますよ。』

 

プレシ

『マトイ様、どうも申し訳ない。これで兵達も安心して戦えるでしょう。それでは閣下行って参ります。』

 

プレシは将校用マントを取り外し、抜刀、そのまま馬を走らせ、重騎兵達の前に出た。重騎兵達はヘルメットと胸甲を着け、槍とカタナとライフルを持ち、みなその表情は堅く、ただ、突撃の令が下るのを待っていた。

 

プレシ

『Assort‼︎(突撃)』

 

号令を聞いたと同時に一万数千の重装騎兵が雄叫びを上げ、ラッパを吹き鳴らしながら突撃していく。向かう先のオラキオ兵達は槍衾を築くことも、塹壕に身を潜め銃撃で突撃を止める事も敵わず、ただ逃げる事しか出来ない。憐れなオラキオ人達は、斬られ、串刺しにされ、風穴を開けられ、そして踏み潰された。次第にオラキオ軍は川に入っていった。もはや悲鳴をあげ逃げ惑うしかなかった。その光景を、上空にいるオラクルの観測機が捉えていた。

 

オラクルパイロット

『CQ(司令部)、敵のほぼ全軍が川に入った。現在川上に向かって北上中。』

 

CQ

『了解、観測機はその場で待機せよ。敵の戦闘機が残ってるかもしれない。十分に注意せよ。アウト。』

 

その頃川上のクーナにも敵の現状が伝えられていた。

 

クーナ

『頃合いですね。関を切りなさい!』

 

関が切れ、濁流が一気に川下へ流れ始めた。そしてそれはオラキオ軍を飲み込んだ。その光景に、オラクル人達は当事者であったにも関わらず、この惨たらしい光景に目を背けた。

 

タクミ

『無責任かも知れないが…これはもはや戦闘では無いな、正しく虐殺だ。』

 

マトイ

『二度とやらなければ良い。そして私達の後の人達がこれを見て、どう考えるか。そこが肝要、でしょ?』

 

タクミ

『その通りだ。我々の行動は後の世の人々に必ず評価され、判断材料となる。その時に良い考えを浮かぶ為の礎になれば重畳だ。』

 

タクミは振り返り、後ろに控えた多くの兵達を見た。そして高々と声を挙げた。そう堂々と。

 

タクミ

『まだ、戦いは終わりではない。だがもう直ぐだ!もはや敵は崩れ、首都を包囲する敵軍も、この濁流に流された敵の亡骸を見て、一気に戦意を失うだろう‼︎されど決して油断するでないぞ‼︎勝って兜の緒を締めよ、そして高々と軍旗と敵の首を掲げよ‼︎』

 

オラクル軍将兵

『『『応‼︎‼︎』』』

_________________

 

グラール連邦及び惑星パルム首都キャピタルシティを包囲するオラキオ軍と相対して戦っていたのは同じオラキオ軍である。その陣頭に銀髪の少年が二振りの剣を持ち、駆け抜けていた。その剣さばきは誰も見切る事敵わず斬り伏せられていった。この少年こそ、オラキオ王国第二王子、王位正当後継者スレイマン・オラキオであった。齢16である。その容姿は遠目で見れば少女と見間違うほど、中世的な見た目をしており、その顔つきは正しく凛々しい若き王族であった。この少年が背負う旗印こそ、正当オラキオ軍である。

 

正当オラキオ兵

『殿下!これ以上は危のうございます!どうか、おさがりください‼︎』

 

スレイマン

『ダメだ!お主達のように私と戦ってくれる兵達や我らを匿ってくれた盟友グラールの民や兵達が戦っているのになぜ私が逃げられようか。』

 

正当オラキオ兵

『しかし、援軍に来たはずのオラクル軍は未だ現れず、既に多くの敵兵に侵入されております。この上は殿下だけでも…』

 

伝令

『伝令‼︎伝令‼︎殿下、パルム川より濁流が流れて参りました!その中には大量の敵の死骸が混じっているようです。これに合わせて敵軍が都市より離脱した模様です。』

 

スレイマン

『渡河中に流されたのか?』

 

伝令

『はい。然し、いくつかの死体を検分したところ槍傷に刀傷、銃創が有るものもありましたので、敗走しているところを関を切られ濁流に飲まれたと思われます。』

 

スレイマン

『これをやったのは間違いなくオラクル軍だ。という事は彼らはもう近くに来ている!』

 

スレイマンが都市の外を見ると、包囲軍の少し先に布陣する大軍を見てとれた。両翼は青、赤、白で塗装された軍服を着た兵達が並び、中央は全身が赤で統一された具足と軍服を着た兵達が並んでいた。その前に一つの長机が置かれ、その上にいくつかの男女の首が並べられていた。

 

そしてその近くに馬に跨る一人の男とその傍に銀髪の美少女が同じように馬に跨って居た。赤の大鎧にマントを着け、兜には獅子の如く毛が生えた、この少し変わった出で立ちの男が大将だとスレイマンは一目で分かった。その男は少し馬を進ませると大声で叫んだ。

 

タクミ

『我が名はオラクル軍第一艦隊及びオラクル要塞方面軍総司令官タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデルである!諸君らの同胞15万は悉く余と余の同胞達によってみな骸に変えられ、残るはそなたらのみ。これ以上の戦闘は無意味に等しい。降伏されよ、さもなくば軍神フェデルの戦を馳走してくれようぞ‼︎10分待とうそれ以上はならぬ‼︎』

 

フェデルという名はグラールやオラキオにとって悪魔と同意義と考えられてきた。理由は第2帝政時代の初代から四代目の皇帝が出したグラール及びオラキオの夥しい死者の数が原因である。軍神フェデルの伝説は数多のグラール人やオラキオ人の屍によって出来たもの。その為、オラクルに援軍を請うことを反対する者も数多く居た。

悪魔の復活を知ったオラキオ軍は混乱状態に陥った。降伏すべし、ここで玉砕してでもスレイマンと悪魔フェデルの末裔を討つべし、結局話は後者でまとまったらしくオラキオ軍は全速力でキャピタルシティを目指し始めた。

 

タクミ

『愚かな…そんなに死にたいなら死なせてやろう。殿は、重装甲兵か。竜騎兵隊、奴らを始末しろ。砲兵隊は弾込めして待機。 』

 

タクミは軍配を振ると竜騎兵達は一斉に走り出した。その手にはグレネードランチャーを付けたライフルを持っていた。重装甲兵達の銃撃や爆撃の所為で犠牲者が次から次へと出ているのにも関わらず騎兵達は突進を辞めない。騎兵になる者は大抵皆命知らずであり、そこが難点でもあった。(若い男性の死傷者数が大変な事になる為)そうしている間に竜騎兵達は敵を射程内に収めた。

 

オラクル竜騎兵隊隊長

『良し、この距離なら届くな。擲弾撃てぇい‼︎』

 

ポンッ!という音がありとあらゆる兵からなり、一万数千の擲弾が重装甲兵達の頭上を飛んだ。そしてそれらは空中で破裂し、中からトリモチのような 物体が飛び出し、重装甲兵達の動きを封じた。彼らはトリモチの引き千切ろうとしたが、更にオラクルの攻撃が彼らを襲った。

 

マトイ

『ブレイバー弓兵隊、構え。』

 

バレットボウを持ったブレイバー達が一斉に矢をつがえ、つるを引き絞った。そして矢を空に向けた。

 

マトイ

『放て!』

 

号令と共に幾万の矢が重装甲兵達に向かう。鏃には鉄の刃では無く水の入った風船が付いていた。矢が当たった重装甲兵達のトリモチは硬く硬化した。竜騎兵達が撃ったのはトリモチに似た水を掛けると硬くなる特殊な薬品であった。身動きが完全に取れなくなった哀れな重装甲兵達にトドメを刺すべく30サンチ重榴弾砲が一斉に火を噴いた。爆音と同時に重装甲兵の悲鳴が響き、爆音が鳴り止んだ時にはもはやその場所に五体満足の死体は残されていなかった。

 

オラキオ兵達は爆煙の中に蠢く影が自分達の同胞(重装甲兵)である事を願った。あいつらは王国最強の兵種、分隊から小隊クラスに固まって盾を構えれば重榴弾砲でも傷をつけられない!そうだ正しく無敵なんだ!と。然し現実はそうはいかず、煙から現れた蠢く影の正体は、乗馬した赤備えであった。そこからは蹂躙であった。外からはオラクル軍の突撃。都市からは態勢を整えたグラールの防衛機構であるガーディアンズと同盟軍、そして正当オラキオ軍の連合軍の反撃。オラキオ軍が降伏したのはそれから僅か一時間半。残余の兵は27568名であった。

 

敵の降伏がスレイマンに伝えられると直ちに軍門に下る旨を敗残兵に伝えさせ、援軍に来てくれたオラクル軍に礼を述べるべく、グラール側の重要人物を待った。グラール側の重要人物はガーディアンズ総裁ライア・マルチネス、同盟軍元帥フルエン・カーツ、SEED事変の英雄イーサン・ウェイバーとカレン・エラ、GER社社長ヒューガ・ライトである。

程なくしてこの人物達は集った。

 

スレイマン

『皆、無事であったか!』

 

イーサン

『おっ!王子さんも無事だったみたいだな、何よりだぜ!』

 

ヒューマンの男性が軽い口振りでヒラヒラとスレイマンに手を振ると、隣のデューマンが諌めた。

 

ヒューガ

『イーサン、失礼ですよ?お許しを殿下、イーサンは少し頭のネジが数本抜けておりまして。』

 

スレイマン

『よい、そなたらは私の臣下では無い。そなたらは我が友人だ。礼は無用だ。私もその方が良い。』

 

カーツ

『して、あれがオラクル軍か。凄まじい戦いぶりだった。あの場に居る兵達皆が全精神力と思考が戦に向かって居るかのような戦いだった。』

 

カレン

『こう言ってはあれだが、死を恐れぬ死兵。まるでSEEDのようだ。』

 

ライラ

『肝が座ってる、なんて言葉じゃ説明がいくような強さじゃないね。正しく殺戮マシーンが人の形をしてるって言った方が良いくらいの強さだよ。』

 

するとオラクル軍の方から勝鬨が響いて来た。それは都市にいる者全員の視線を集めるほどの熱気であった。

 

オラクル軍

『共和国万歳‼︎自由、平等万歳‼︎司令官閣下万歳‼︎そして我が愛すべき家族に乾杯‼︎』

 

それを見たイーサンは、何処か安心したような笑みを浮かべてこう言った。

 

イーサン

『一つだけ確かな事があるとすれば、あいつらも血の通った人間だって事だな。面白い連中だと思わねぇか?』

 

それを聞いた一同は同じ様な笑みを浮かべ、オラクル軍の戦闘で勝鬨の音頭を取る男に視線を向けた。そして同時にオラクル側の大将であるタクミもまた音頭を取りつつ、都市の入り口に立つ五人の人物を見つめていた。そしてこう呟いた。

 

タクミ

『向こうにも面白そうな人達が居るみたいだな。退屈はしなさそうだ。』

 

命知らずの精兵オラクル軍。多種多様な種族の特性をとことん引き出したグラール連邦軍、一見古臭い様に見えるが、実に合理的で強力な力を発揮する正当オラキオ軍。三ヶ国の軍勢が轡を並べた瞬間であった。

 

五人は車輌を手配し、オラクル軍の陣に向かった。陣頭には既に下馬し、兜を脱いだタクミが待っていた。五人は車輌から降り、タクミの前に立った。タクミは五人の近くに寄り、頭を恭しく下げ、こう言った。

 

タクミ

『殿下、この度拝謁を許して頂き恐悦至極。されど某は民主共和主義の旗を掲げて戦っています。無礼は承知ですが膝を屈さぬ事をお許し下さい。』

 

スレイマン

『良い、貴方は今宵より我が盟友になる、礼は不要。どうぞ頭をお上げください。良くぞ来てくれました、フェデル大将。貴方が来てくれなければ我らは今頃屍と化していたでしょう。』

 

タクミ

『我らオラクル軍総勢約70万(艦隊乗組員を含む)今より殿下の軍と轡を並べる事を誓いましょう。必ずや至高の玉座を取り戻してご覧に入れましょう。』

 

この瞬間、このやり取りを見ていた人々はそれぞれ頭の中では思い思いの事を考えていた。

 

スレイマンはタクミと握手を交わした瞬間に生物的な本能に訴えかける何かを感じた。『この男はどんな物の考え方をしているのだろう?国の命令とは言え、何のメリットもないこの事後同盟に参加し、なんの躊躇いも無く力を貸すと言った。それだけ聞けばまだお人好しや義理堅い人物と考えられるが首から下がその様な熱を感じさせない。むしろ感じるのは焦燥や怒り、憤りだった。自らの命運を気に入らない奴に握られた様な怒り、

 

ライアは『この男、妙に下手に出るな。確かに恩を返される側とは言え、礼を尽くすのは当然、だが妙だ。不自然だし、なんとも言えぬ怪しさがある。ご覧に入れる?助力や合力する等なら兎も角、ご覧に入れるだと?こいつ一人でこの坊やを王にしてやると言わんばかりの口調ではないか、恐らくだが何か企んでいるな?』と考えていた。

 

イーサンは『俺とあまり年は変わらねぇみたいだが落ち着きがあって、胆も座ってる。何より躊躇がない。見た目とは裏腹に非情な手段すら厭わんと言った覇気がある。現に大量の死体が川に流されているのも証拠だ。効率的かつ合理的、この二つさえあれば惑星すら破壊しかねないような狂気を俺は感じる。近くに来た瞬間ビリビリと感じた。御伽噺そのまんまの軍神の末裔…もしそうならこいつは人の形をした狂気そのものではないのだろうか?』と考えていた。

 

カレンは『あの大将もそうだが、その傍にいる少女もとんでもないフォトンを感じる。ヒューマンでここまでのフォトンを宿すのは並大抵の事ではない。もはや不可能の領域。まるで戦い方を知らない、人畜無害と言ったまだあどけなさの残る見た目だがこの戦場に散らばるテクニックを使った痕を見れば一目瞭然だ。跡から凄まじい力がまだ残っている、そしてその源からも同じ力を感じる。これでは、まるでーーー』

 

一方のオラクル側も別の事を考えていた。スレイマンと握手を交わしながらタクミの脳裏には、『ふむ、この少年、思った以上にやるみたいだな。二振りの剣を操るだけの腕力、掌の豆、余程鍛錬したな。話し方や雰囲気も王族らしい優雅なものだ。後は政の才を見たいが、恐らくズブの素人。他のグラール領があまり被害を受けていないのはバラバラに進軍したオラキオ軍に対抗するために戦力を分散し防御に徹し戦線の崩壊を防いだからだ、にも関わらず何故、本陣がこれだけの大兵に攻撃されたのか。答えは単純だ。内通者の存在よ。先の艦隊戦での生き残りを締め上げたがこの王子の側近が内通者らしい。防衛に徹したグラール軍の戦力が各惑星に配置替え為に生まれた僅かな戦線の穴、そして本陣の戦力がカラという隙を突いての侵入をお膳立てしたらしい。内通者を察知するのは至難の業だがこういう時こそ生まれやすいのも事実。それが分からんようでは素人と見る他ない。内政干渉になる事疑いなしだが、この王子を王にする為には俺自らが手を加えなければならないな…折角の好青年を死なせるのも惜しいもんだろうよ。』っと考えていた。

 

マトイは、『みんな私より少し年上位なのにみんなどこか落ち着いているというより、これよりも酷い戦いを経験しているという顔をしている。あれだけの物量をあの少しの戦力で支えられたのは単にこの人達のお陰なんだ。全くフォトンに乱れがない。あの赤い服を着た女の人(カレン)は私と似たようなフォトンが流れてる。凄い力、ニューマンってだけじゃないけど、辛い喪失と深い愛情を経験したような暖かさも感じる。だからこそ恐ろしい、もし使い方を誤っていたならーーー』

 

カレン&マトイ

『怪物になる。今、この場に者は全員化け物じみた連中なんだ。運命の悪戯を辛うじて逃げ切った猛者達なんだ。そうでなければ何故、この修羅場の中で笑っていられる。』

 

そう、後の各陣営に所属した兵士らの話によると、これらの者達はこの戦場にいる間、誰一人苦悶の表情をしておらず、皆、笑みを浮かべていたのだ。使命や重責に押し潰される恐怖から逃れる為、一世一代の出来事に心が踊った為、戦いの緊張感や躍動感に取り憑かれた為、他者を鼓舞する為、理由は数あれど、共通するのは…こう言った連中は等しく化け物と評された事である。だが彼らに何も戦いを楽しむ、殺戮を楽しむと言った悪趣味は無い。

 

あるのはただ一つ生き残るという意思であった。それが魂に刻み込まれ、その魂の発露として現れたのは戦場に居ながら笑みを浮かべるというものだったのだ。これは一番先に挙げたものに通じる物が有るが、恐怖を紛らわす為では無く、我がものとする為だからだ。人間の讃歌は勇気の讃歌。勇気の素晴らしさは人間の素晴らしさであるなら、彼らは勇気という非科学的かつ最も強力な人間の原動力を無意識に発揮しているのだ。彼らは無自覚ゆえに同じ状況にある人間と相対した時に思うのは狂気であった。ある意味、勇気と狂気は表裏一体であるが、お国柄戦う事自体に疑問を抱かない性質を持つもの同士互いに拒否反応を起こしていたのだ。

 

互いが何故戦場で笑いながら立っていられるかの疑問はここで溶けたが、大元の互いの猜疑心の出所が何も語られていないのでここで語ることにする。

 

互いにまず単純に初対面の人間の人格や考え方が知りたかった。これは誰にでもあることだ。学年が上がって別のクラスに編入された時に初めて話した相手がどんな奴かと頭の中で考えるそれと同じ事だ。信用に足るのか、有能か、無能か。軍事同盟とあれば尚更この点は重要だ。次に、と言うよりもこれが一番の理由だが、過去の歴史の因縁であった。

 

オラクル、オラキオ、グラールは一定時期に互いの植民地を争って泥沼の戦いを繰り広げており、特にオラクルは今の領土のほぼ半分が、オラキオ、グラールから奪取したものであり、この植民地争いで死んだオラキオ、グラール人の数は50億を下らないと言う。だがオラクル側もそれとほぼ同数に近い莫大な数の死者を出し、船団そのものの存亡が危ぶまれたのは一度や二度では無い。この戦乱は一定期間に限定され、何度も何度も戦いを繰り返した。

然し、実際最期の戦乱が終わってから既に何世紀も経過している、つまり過去の因縁というには余りにも遠過ぎる話であり、もはや当事者は勿論、実際に何が起こったかあやふやな所も数多く存在してしまう体たらくであった。

 

然し、言い伝えられたものは簡単に途絶えることは無く、互いが互いを鬼だ悪魔だと言い続けていたのだ。それがやがて憎しみから恐れに変わった。そうここに居る者達は起こしたくないのだ。過去の戦乱を。そしてそれが起きる理由は、グラール人とオラキオ人とオラクル人が同じ場所に居る事だと思っている。出来ることなら追い出したい。出て行きたい。その思考に囚われていたが互いが互いの手を取り合わなければ当面の敵に勝てない。だから手を取り合う前に寝首を掻かれないように、掻けるように互いの腹を探っていたのだ。

 

そんな薄ら暗い握手を終えるとオラクル軍はスレイマンにキャピタルシティ入城を要請された。タクミは少し、眉を動かしたが二つ返事で了承。大急ぎで陣にとって返した。

 

然し、この出来事はタクミの策であった。オラクル人に対し、無類の信頼を勝ち得る。これがタクミの外交戦術であった。必要なだけ、オラキオ正当政府に手を入れなければならないと思っていたタクミは先ず何が何でもスレイマンの信用を勝ち得なければならなかった。そこで二段構えの策を用意した。一つ、スレイマンの前で鬼の如く戦い、オラクルの武勇を見せつけ、尊敬と畏怖を植え付ける。二つ、先とは打って変わり、清廉なイメージを持ってもらうべくオラクル人が義を重んじ、風流や芸術を愛し、規律正しく、清廉な人間の集まりである所をスレイマン他各勢力の実力者に認識させる事である。文武両道、清廉潔白。この二つは他者を惹きつける要因としては確実なものであり、彼の外交認識である、『所詮国の外交とは人付き合いの延長線でしかない。』に基づいたものだった。兎も角も作戦は第2段階に入り、タクミとマトイは大急ぎで馬を駆けさせると、大急ぎで通信所に入り、タクミは直ぐに電話口に飛びついた。

 

タクミ

『全将兵、直ちに軍服及び装甲服を正装に着替えろ‼︎返り血一つでもついていたら許さんぞ‼︎軍楽隊は正装と楽器準備の上待機。』

 

タクミは振り返り、マトイを見ると、同じようにアークスの正装(通称、アークスコート(オラクル軍の標準制服になっている。))を着替えるようにいうと、マトイは、

 

マトイ

『あれ、少し胸の方がキツイんだけど…頑張って着てみるね。』

 

と言って更衣室の方に走っていった。それを聞いたタクミはベレー帽を目深かに被り、顔を赤らめていたのを隠した。そしてその場でマトイの制服の新調を要請する手続き書を用意し、近くを歩いていた主計科の士官を呼び止め

、書類を手渡した。

 

一時間程経ったであろうか。全軍の着替えが済み、キャピタルシティの郊外に全軍の布陣を整えたタクミは全軍を前に布告を行なっていた。

 

タクミ

『総員、よく聞くのだ!これより都市に入ったら、如何なる狼藉は許さぬ‼︎暴行、略奪等を行った者は軍法会議に掛けられる事なく現場に居合わせた上官により処刑を行なわれるものと思え!我々は流浪の蛮族ではないことをあの都市に住まう人々に見せつけるのだ‼︎他の惑星でも戦勝の報告が上がり、我らと同じ様に入城する者達が居る、その者達の先駆けを我らが行う。足並みを揃え、銃剣を煌びやかせ、堂々と進め!advance(前進)‼︎』

 

軍楽隊がドラムとファイフを奏で始め、軍団より先に歩き始めた。それから少し経つと各部隊指揮官が前進の号令を出し始め、総勢約二十万の軍勢が軍靴を響かせ行進を始めた。

_________________

都市では多くの住人がオラクル軍の戦列の到着を今か、今かと待ち構えていた。彼らからしてみれば異国の軍隊は遠くの地から旅をしてきたサーカス団の様に物珍しい存在だったのだ。すると都市の外から軍靴と軍歌の音が響き始めてきた。遂にオラクル軍が入城したのだ。先頭は豪華な装飾品をつけた軽騎兵が務めた。その後ろを歩兵、戦車、装甲車、砲兵、歩兵、重騎兵、竜騎兵、歩兵の順番で次々と行進した。都市の住民の阿鼻叫喚が都市中に木霊していた。三色の軍服とはまた派手なとか、女性兵の数が多いなとか、さっきまで戦っていた連中とは思えないとか、そう言った類であったが一番驚いたのは全身を赤く塗装した赤備え達を見た時だった。最初は皆、返り血で染まったのかと恐怖の叫び声をあげるものをいたが、やがてそれは染めた物と判り、安堵したが、微かに見える彼らの瞳が一騎当千の古強者である事を都市の住人は理解した。これらに対し、兵達は全く動じず精悍な顔つきで歩いた。これが更にグラール人の歓声を買った。砲兵と装甲車の間で馬に乗り行進の列にいたタクミはほくそ笑んでいた。少し先に閲兵のために待機していたスレイマンやグラールの英雄達が居るのを見た。タクミは各司令官に無線で合図を送ると先頭の軍楽隊が曲を変えた。それはグラールのSEEDと戦った人々を讃える歌だった。そして軽騎兵が刀剣の礼をスレイマン達に送ったのを皮切りに『頭、右!』と前を通る部隊がスレイマンに礼を行いながら行進を行った。行進があらかた区切りがついた所でタクミやマトイ達はグラール国会議事堂に入った。供に赤備えとポツダム師団老親衛隊が付いていった。

 

その国会議事堂の一室で今後の戦略を練る軍議が行われることになった。その間、タクミは現状のグラールやオラキオの情報を調べる為ある人物の協力を仰いでいた。ローシュ・クラナス参謀はスレイマンを幼少期から支える忠臣であり軍才に富み、外交の才もある将来有望の中年の男性将官である。元々軍人になりたい訳では無かった為、タクミとは話が合った。しかも歴史家志望であったから余計意気投合していた。そんな二人は今後の事を協議する上でどう意見を出すかを相談していた。

 

クラナス

『殿下に対し、意見を申し上げる時は率直な事を仰っても構いません。先王陛下の如く他者の話に耳を傾け、理解し、それを実行することの出来るお方ですので先程の策もご理解頂けると思われます。』

 

タクミ

『それを聞いて安心致しました。してクラナス殿、現在の殿下の手勢は如何程か?艦隊は最低三万、陸戦兵力は二十万は欲しいのですが?』

 

それを聞いたクラナスは肩を竦め俯き気味で答えた。

 

クラナス

『残念ながら、今殿下の手勢は、艦隊が一万四千、陸戦兵力は11万。先の降伏した兵と艦を合わせたら艦隊は二万、兵が13万といった所です。』

 

それを聞くと、タクミは後ろに寄り掛かると少し考えを巡らした。傍の捕虜を尋問した末に作った敵の配置図を観ながら考えていた。そして暫くしてタクミはクラナスにある問いを投げた。

 

タクミ

『クラナス殿、何故敵の最前線の戦力がこう少ない所が多いのでしょうか?見ると本拠地に近くなると一線級の戦力を抱えてる部隊が殆どだが最前線はとてもじゃないが防衛をするにもお粗末な数しか居ないのですが、何か訳でも有るのですかな?』

 

クラナス

『我が祖国は、徹底した身分制度が敷かれており、我が国は身分の低い平民、下級貴族は僅かな兵しか与えられるず、そのくせ最前線に送られ、命を散らす。一方高い身分の人間はそれに見合った大兵を抱えられますが、殆ど前線に出ることは無く、その所為で戦ったことの有る者が少なく、戦闘といったものは下々がするのが当然と考えている者が多いのです。そういった歪んだ身分制度によって組まれたのがこの配置図でしょう。

 

先王陛下が長い年月を掛けてこの身分制度を廃止したのですが、シュメルヒ殿下はこの身分制度を復活させてしまったのです。もといこの身分制度廃止は多くの貴族から否定的に捉えられておりまして、先王陛下が亡くなられた折、貴族の大半がシュメルヒ殿下をお立てしたのはこの制度を復活させようと利用しようと貴族が考えたという所が妥当でしょう。先王陛下の御恩を無下にする売国奴達によって身代わりにされた最前線の将兵達は、本当に可哀想でしかありません。』

 

その身分制度を恩恵を受ける貴族出身の筈のクラナスがそこまで酷く言うにも理由があり、クラナスは下級貴族の出身であったが、先王により抜擢されその力を発揮し、上流の貴族の暴虐を辞めさせようとしたことがあったからであった。

 

タクミ

『そうですか…私が先程申した作戦が成就されれば多くの血を流す心配が無くなります。その上で登校を呼び掛け、殿下の軍門に降らせる事が叶えば戦力増強も叶うでしょう。』

 

とタクミは紅茶を飲みながら答え、次は連合の現状の戦力に目を向けた。流石にグラールの人材は優秀であった。英雄イーサン・ウェイバーを始めとした人々は正しく数百年の逸材と言っても過言では無かった。だが逆に正当オラキオは有能な武官が僅かしか居らず、殆どが文官であるどころか、戦を経験した者も少なく、寧ろこの連合では邪魔になると分かった。この連合の盟主は当然、スレイマンである、そして当然盟主の部下である文官たちもある程度デカイ顔が出来るのだ。スレイマンの周りを固める文官の中で当面のタクミの障害になる可能性のある人間は四人いた。宰相マッセナ、イゴール・ロイシュナー、ティムル・カトラ、セリム・ロームこれら3名の提督であった。宰相マッセナはこの内戦で自身の権力の向上を目指しており、以下の3名はマッセナの取り巻きの文官上がりの提督で全くの素人であった。この4名がこの同盟の戦略を担ったが結局この有様でありグラール・オラキオの陸、宇宙両軍に無益な犠牲を強いてきたのだ。タクミはこの4名を排除し、同盟内でのオラクルの発言力強化、及び同盟の強化が目的としていた。オラクル出発時に諜報部よりある程度の内情を聞いていたが実際の状況は彼を辟易させたが先の内通疑惑を考慮すると正しくチャンスに成り得るとも考えていた。発言力強化どころか、この転がり込んだ大義名分によって4名の排除を行う事によって各国からの英雄視と、スレイマンの信頼を得る事によって同盟そのものの掌握すら夢では無くなったのだ。タクミは出征前にこれはオラクルの戦にすると将兵達を前に言った。正しくその時が訪れようとして居たのだ。

 

 

 



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42話 御前会議

惑星パルム中央政庁に三ヶ国の武官、文官が集まった。(オラクルは軍人のみなので武官オンリー)皇子スレイマンの左右に長机を置き皆がそこに座った。例外として、スレイマンの近くに立つ四人の男が居た。宰相マッセナ、イゴール、ティムル、セリムの三提督である。タクミの現状の目的はこの四人の内通の証拠を掴み、排除する事であるが、この四人はこの通りスレイマンの重臣である。重臣を君主から取り払ってしまえば、それは手足を捥がれたも当然である。その手足を新しく付け替える。その外科医をタクミはやらねばならない。クラナス卿を始めとする忠臣派の将校達をその新しい手足に変える、そしてその恩義を傘に後に起こるであろう祖国の危機に際し、軍勢を借り入れられるようにする。そしてその為の交渉をするに当たっての知己を得る。それはグラール、オラキオ、オラクルの三国同盟を完全な対等な物にする為の交渉をやりやすくする為の準備であった。

 

タクミ

(だが、今だけはその主導権を我々が握りたい。あの名君の卵を凡君、暗君になるのを救ってやるんだ。感謝しろよオラキオ人)

 

そうしている間にマッセナは杖で床を強く叩いた。ガンッという音に皆が顔を向けた。

 

マッセナ

『皆の者、これより恩賞授与、並びに軍議を行う。恩賞は既に卿らの前にあるのでありがたく受け取るように、陛下の御前である頭を下げ控えよ。』

 

オラキオの武官、文官は直ぐに頭を下げ、民主主義国家であるグラールの将官達も礼儀として頭を下げた。だがオラクルの将官達は誰も頭を下げなかった。決して礼儀知らずでは無い。彼らの信条である。民主主義者は、自由主義者は、決して権力、そして君主に頭を下げ、膝を屈する事はあってはならぬ事であった。少なくとも彼らはそう教えられてきた。それが彼らの規範と言っても良かった。

 

マッセナは目の色を変え吼えたてた。

 

マッセナ

『貴様ら‼︎如何に卿らが我らの恩人もいえど同盟の盟主たるスレイマン様に頭を垂れぬとは礼儀知らずも甚だしいぞ‼︎』

 

タクミ

『我らは‼︎臣下では無い‼︎‼礼はすべき所ではするが、一つ言わせて欲しい。︎民主主義とは対等な友を作る思想。主従を作る思想では無い。ましてや我らは対等な盟友のはず、友であるはずの我らが交わすべくは、臣下の礼では無い。』

 

マトイは直ぐにワイングラスを取り出した。そこにワインを注ぐとタクミに渡した。

 

タクミ

『交わすは友情の盃。ただ一つにござろう。そうであろう皆々様?我らは先の戦いで初対面であるにも関わらず十年来の戦友の如く、力を合わせ、戦い抜いた。もうそこに臣下もクソもあらんでしょう。』

 

それを聞いたイーサン、ヒューガを始めとしたグラール勢は下げた頭をあげ、マトイから盃を手に取りそこにワインを注ぎ立ち上がった。更にスレイマンも微笑を浮かべると侍従に皆に盃を渡し、酒を注ぐように命令した。

 

スレイマン

『マッセナ、大将の言や良しだ。我々は盟友だ。交わすべくは友への賛美だ。彼らの誇りを貫き通す姿勢は称賛に値する。そう簡単に出来ることではない。』

 

スレイマンは盃を取ると、立ち上がり、前に出た。他の武官、文官も盃を取り立ち上がった。スレイマンは息を吸い込み覇気を込め、言った。

 

スレイマン

『共に戦い、勝利を収めた我々同盟の勝利と散っていった盟友と今日新たに得た友達の武運長久を願って‼︎』

 

スレイマンは慣れないながらも飲み干すと、タクミ達もそれに従い飲み干した。

 

マッセナや三提督は開いた口が塞がらず、マッセナに至っては全身をフルフルと震わせて居た。スレイマンはそんな宰相を一瞥すると不思議そうに声を掛けた。

 

スレイマン

『宰相、どうしたのだ?軍議を行うのではなかったのか?』

 

マッセナ

『お、おぉう!そうでしたな。殿下これが今の我らの軍勢の配置にございます。』

 

マッセナがホログラムを起動すると二分された第3銀河が映し出された。青い領域が同盟、赤い領域がシュメルヒ皇子の領土だ。

両軍の領域線に同程度の小規模部隊が複数置かれて居た。スレイマン側でも下級貴族が少数部隊を率いて前線に配置されもしもの時の矢面に立たせられるのである。そもそも何故両軍共に前線に少数の兵力しか置かず、大規模兵力を保有する貴族や王侯が一人も居ないのが、理解出来ないオラクルやグラールの将官も複数人いた。当然である。常識的に考えられないことだ。前線に兵力を集中させればさせるほどその戦線に穴が空くリスクは減る。敵に大きく迂回され、後方を侵される可能性が無ければ尚更である。もしまたグラール三惑星を攻撃した程度の規模を誇る艦隊に前線を攻撃されたらほぼ間違いなく突破されるのがオチである。

 

しかし、マッセナや三提督は前線に同程度の部隊を満遍なく置き、敵の進撃を食い止められると豪語し自らの布陣を自慢げに己の君主に見せつけた。先の敵の襲撃は配置変更を行なっているちょっとしたスキを突かれて起こった事なのでこの布陣なら敵は進撃しようにも直ぐに我々に筒抜けになり、仮に進撃してきたとしても、その場の部隊と周辺部隊が集結し、包囲殲滅出来るとも話していた。

 

スレイマンは辺りを見渡すと誰も意見者が居ないかを確認した。するとそこにまたスッと手を挙げる者が居た。

 

タクミである。宰相達は嫌がらせをされていると考えるくらいこの男に食いかかられるのに閉口していたが、窮地を救った恩人であり、戦においての玄人であるという事は確かであろうという事から無視する訳にはいかなかった。

 

マッセナ

『では大将。意見を述べていただこう。』

 

タクミはすっと立ち上がると、ホログラムに指揮棒を当て、喋り始めた。

 

タクミ

『この配置ですが、戦線に敵と同数程度の部隊を列に並べておりますが、普通はこんな事しません。可能な限り戦力を前線に集中し、敵の侵入を阻止する、それが常道です。しかし、これでは今回の様な戦力を動員されれば突破は間違いありませんし、各領域の部隊を増援に駆けつけさせれば戦力を小出しにするという愚策をやる事になり、結果として各個撃破されます。かと言って集結させるのは今度は穴だらけになり、敵の戦線突破を許します。そこで…』

 

タクミはホログラムを指揮棒で払うと新たなホログラムが映し出された。それは前線に小規模の部隊を並べるのは変わらないが、各部隊の数は1.5〜2倍程度に増やされており、それ以外の場所に配置された部隊は全て結集し、一つの巨大な塊になり、敵の中央領域を貫いていた。

 

マッセナ

『こ、これは…。』

 

タクミ

『我が同盟の現戦力をまとめ、行う中央打通作戦です。その為に最低限の戦力を守備に残し、それ以外は全て攻撃に回します。』

 

この意見には他国の諸将は浮き足だった。事実上の守備放棄、攻撃一辺倒な配置であった。そこに一人のオラキオの文官が質問した。彼は立ち上がると、自分の名を述べ、その後に質問した。

 

文官

『何故、今こんな攻撃的な布陣を取る必要があるのでしょうか?我らは攻撃を受け、それを癒し、国力を蓄えるべきでしょう。残念ですが今の我らは劣勢。それを覆すには力が足りませぬ。そんな状態では薄布も破けないのではありませんか?』

 

タクミ

『たしかにそれもその通り、然れどそれは敵も必ず国力の増強を狙い、戦線を膠着させられる恐れがあるからです。恐らく時が経つにつれ有利になるのは向こう側。領有する星系や、兵や艦の数は向こうが上、だが今なら互いにそこまでの差は有りませぬ。むしろ敵が弱い薄陣を敷いている今こそ、一気に領土拡大を図る好機なのです。』

 

文官

『好機とは言いますが中央以外の敵戦力に補給線遮断をされる可能性があり、ともすれば潰乱する恐れも出てきますぞ!』

 

タクミ

『それ以外の前線連中は、全て此方に引き入れます。惑星セーシャンを失えば、彼らは中央の統制を失い、更に補給線も断たれる。彼らが生き残る為にはスレイマン殿下の旗を扇ぐ他ありません。』

 

文官

『しかし、彼らがそうすんなりと受け入れるでしょうか。仮にセーシャンを我が物に出来たとして、その交渉が難航すれば我々の優位は揺らぐことになるのではありませんか?』

 

タクミ

『誰が交渉すると決めた?』

 

この一言に武官、文官はざわめきだした。

無傷で手に入れるのでは無いのか。支離滅裂ではないかと、しかしこの若者は机を叩きながら他を黙らせるだけの声量でこう続けた。

 

タクミ

『無傷で軍団を手に入れる方法などない!中央の統制を受けなくなった彼らは各地で群雄割拠するだろう。各部隊がそれぞれ守備している星系を己の領地として旗揚げするだろう。その辺りは彼らが本来治めている領地よりも遥かに豊かな地が多いそうです。彼らはここぞとばかりに我らとシュメルヒに刃を向けるでしょう。我らが互いを食い合って疲弊している間にその隙間を塗り潰していくのが狙いでしょう。だからこそセーシャンを奪取した時点で全戦線に配備した部隊も一斉に進撃敵に対して圧力を掛けます。そして各地で敗走した兵と艦を収容。これで後方の憂いは無くなるばかりか敵の敗残兵からはスレイマン殿下は仁義に熱く、シュメルヒと違い寛容で扇ぐ旗が違っていた自分たちを受け入れてくれる君主というイメージを広めるのです。』

 

タクミはスレイマンの前にそれこそ互いの白目が見える位置まで近寄った。傍を固めていた衛兵たちもこれには堪らず武器を構えるが、スレイマンは制止した。そしてタクミはスレイマンにこう続けた。

 

タクミ

『殿下、大事なのは今をどう戦い抜くかを考える事ではありません。如何に迅速に勝利し、民を安んじられるかです。それが君主としての勤めにございます。』

 

スレイマンは眼を閉じ、少し物思いに耽ったりが直ぐに眼を見開き、立ち上がった。

 

スレイマン

『マッセナ‼︎これより詔を遣わす!同盟軍の諸君も良く聞いて頂きたい。』

 

マッセナを初めとしたオラキオの武官、文官は皆席から立ち上がり、床にひざまづいた。

オラクル、グラールの将官達はその場で起立、そのまま直立不動の姿勢を取った。

 

スレイマン

『これより我が軍は、フェデル大将の言を取り、持てる戦力の全てを投入し、一ヶ月以内に惑星セーシャンを奪取、前線に広がる各諸侯を配下にし、逆臣シュメルヒを討つ‼︎‼︎』

 

一同

『必ずや‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

会議は攻勢に転じる形で幕を閉じた。その後、戦勝祝いで宴を一席催すと言うことになったので各々自分の陣地に戻っていった。

 

タクミとマトイが施設から出ると護衛の赤備え十数名と各惑星に散開したアフィンら陸軍司令官が待っていた。タクミは彼らに会議の結果を伝えると同時にこう忠告した。

 

タクミ

『少なくとも、これで我らはマッセナ達から政敵と認識されただろう。道中襲撃の恐れがあるから覚悟するように。こんな大都市だろうと御構い無しに掛かってくるかも知れないから市街地戦も想定せねばならないからな。』

 

オラクルから持ち込んだ外交用車輌にタクミとマトイが乗り込み、その周りを他の者が騎乗し周りを固めて街を後にすべく走りだした。暫く市街地を走っていると突然車輌の窓が少し凹んだ。そう狙撃されたのだ、幸いこの車に使っている窓は戦艦等に使われる超硬化テクタイト複合型ガラスだったことから戦車砲でも持ってこない限り割れる事は無い。何にしても暗殺者襲来の危機が訪れた事は一行は理解した。そして直ぐに下手人達は姿を現した。全身黒装束の三人の暗殺者だった。三人は護衛の赤備えの3名を刺殺。更に諸将に襲い掛かったが歴戦のアークス達が簡単にやられる事などなく、オーザ、サガ、アザナミは刃を受け止めると直ぐにアフィン、リサ、フーリエが銃撃を開始した。マールーはテクニックで壁を作り、ピエロは車輌の上にペットを配置して守らせた。タクミとマトイが堪らず加勢に出ようとしたがアフィンに止められた。アフィンはリロードしながら叫んだ。

 

アフィン

『相棒達は出るな!奴らの狙いはそれだ。あんたらをその中から燻り出す気だ。そこから出られたら守りきれない!』

 

一方の暗殺者達も多勢に無勢と判断したのか、逃げていった。

 

周辺の住民達は悲鳴を上げ逃げ惑っていて、そこにガーディアンが数名駆けつけた。フーリエがすぐにガーディアンに事の次第を話すと、彼らは直ぐに応援と警戒強化を求める無線を入れた。

 

タクミ

『兎に角一度本陣に戻ろう。このままでは何も出来ん。今の敵の黒幕を見つけ出す事もな、何も出来ん。』

 

本営に戻るとプレシ少将や諸提督が待っていた。彼らに会議の結果と、自身が暗殺されかけた事を知ると、既に敵に裏切り者がいるに違いない。成敗してくれる‼︎と各将兵が吼えたてたが、プレシが一喝して抑えた。

 

プレシ

『辞めぬか‼︎若造ども、まだ我らの盟友の中に裏切り者がいるか決まった訳ではなかろう‼︎』

 

キダ

『その通り、裏にいる人物は、我々をこの同盟に亀裂を持たらす為に大将閣下を襲ったのだ。ここで騒ぎ立てればそれこそ敵の思う壺だぞ‼︎少しは考えろ‼︎』

 

チェンバレン

『然し、それなりの態度を見せつけたほうが良いのは事実。大提督暗殺未遂など無かったと思われる程の堂々たる態度を。』

 

タクミ

『そこで何だけど…』

 

タクミが提案した内容には皆驚いたが、自分達の御大将がやるなら仕方がないと、諦め、それぞれ準備についた。そんな中自分の宿舎に戻ろうとするプレシをタクミは呼び止めた。そして小さな声で聞いた。

 

タクミ

『女性をダンスに誘うのってどうやんの?』

____________________

 

夕刻になると中央政庁に多くの富裕層や武官、文官、知識人が煌びやかな衣装や愛人を連れ、集まりだした。皆、まだ戦争が始まって間も無いと言うのを知っているのか知らないのか、兎に角派手に過ごそうとありとあらゆる見栄を張ろうと必死になっていた。

 

国王直属精兵歩兵軍団イェニチェリが正装し、礼装に身を包んだ客人達の接待や給仕を行なっていたが、全員高周波ヤタガンと拳銃を下げ、もし国王、正統な国王として任命されたスレイマンに大事が有れば命を差し出しても守る。その構えを崩さずにいた。

 

(※国王直属精兵歩兵軍団イェニチェリ。

オラキオ王国国王直属の精兵歩兵軍団。幼少期より身分を問わず徴収され訓練された青年達で構成されている。彼らはその絶対の忠誠心を国王の為に振るう為に訓練されており、そこから繰り出される剣技や射撃の技術はオラキオ随一である。因みに国王では無いスレイマンの陣営に彼らが居る理由は、先王が自身の後継をスレイマンに指名した事により、王の死の直後に彼らの忠誠はスレイマンの映った為である。元より若年兵ばかりで編成するのがセオリーであるこの軍団は、自分の君主が年齢が近い事への親近感や、王位簒奪を図ったシュメルヒは彼らが何としても討取らねばならない存在であり、さもなければ歴代先王達に顔向けが出来ないという彼らの面子もあるのである。)

 

そんな彼らが警護して居るエントランスにオラクルの一行が到着した。数名のイェニチェリが整列し、刀剣の礼で迎え、イェニチェリの士官が車の戸を開け、中の人間の道を開けた。車から出てきたのは赤、青、白のトリコロール、通称要塞方面軍カラーで色付けされた豪華な軍服に身を包み、頭にツーコーンを頭に乗っけたタクミと、銀に赤のラインが目を惹くナイトドレスを着て、髪を上げ、淡いルージュを塗り、ヒールサンダルに足の爪に赤、手の爪に黒のマニキュアを塗ったマトイだ。マトイを知る人間が見たらまず間違い無く驚く変化だが、マトイを知らないイェニチェリの青年兵達は正しく女神の降臨を目の当たりにしたようなものである。まだ少年の青春を残す彼らにとってはその膨よかな乳房や露わになっている滑らかそうな背中やうなじ、大胆に魅せるすらりと伸びる細い腕と手や足の爪から光る赤や黒い光は余りにも刺激が強過ぎたのだ。

 

その後から、何時もの宇宙軍用アークスコートに装飾用のサイドマントを左肩に掛けたキダ、チェンバレン両提督や、タクミの軍服と同じ配色の重騎兵用の軍服と胸甲とヘルメットをつけたプレシ少将とアークスコート(一部要塞方面軍トリコロールカラーの)で正装したアークスの英雄の面々が到着した。そしてそれぞれの手には楽器が握られていた。

 

タクミの策とは暗殺の危険を承知の上でこの舞踏会に参加し、同盟内に居るかも知れない黒幕に対して、自分達は全く恐れていないという事を見せつける事であった。

 

タクミはマトイの手を取り、スレイマンの前に現れ、招待された事への感謝と、改めて今回の盟約において互いの武運長久を祈った。

 

スレイマン

『然し、マトイ殿のお姿は本当に驚きました。息を呑むほど美しい。先の会議でのお姿とは比べものになりませぬな!』

 

マトイ

『お誉め頂き、嬉しいです///こんな格好初めてで、ちょっと恥ずかしいです。』

 

タクミ

『殿下さえ宜しければこの後のダンスパーティでどうかマトイと踊って頂けませんか?』

 

スレイマン

『それは素晴らしい!光栄なことです大将殿、然しマトイ殿は貴方の奥方なのに宜しいのですか?』

 

タクミは吹き出し、マトイは顔面真っ赤になり二人揃ってモジモジし始めて、スレイマンは首を傾げた。タクミは咳込みながら自分たちはそういう関係では無いことを説明した。スレイマンは納得すると何故楽器を持ち込んできたのかを問いたが、これに対してはマトイが殿下と踊る際に我々も演奏に加えて貰いたいと願い出る為だと答えた。スレイマン自身も他国の音楽に触れられる良い機会だと喜んで許可を出した。

 

スレイマンと別れた二人はホールまで戻るとマトイは化粧直しに行きたいと離れ、タクミはそこの柱にもたれかかった。多くの笑い声が響く宴の中、自分の後ろの気配を見逃す程タクミは浮かれてはいない。そしてそれが直ぐにアフィンだと気がついた。

 

アフィン

『右の窓に一人、左のテーブル二人。イェニチェリじゃない。それとは違う殺気だ。』

 

タクミ

『奥に三人。結構いるな、二階の左右にオーザとサガが居るな。』

 

二階のバルコニーの左右に分かれたオーザとサガが二人を見つけると、ハンドサインを送った。その内容は二階にも三人から四人の刺客が居ることを示した。

 

アフィン

『ここで仕掛けてくるかな?一応向こうの建物の屋根にファイアーアームズをセットしてリサさんが待機中。クーナが創世器を使ってホール内に侵入。いつでも先手は取れる様にはしてある。』

 

タクミ

『可能性はあるな…そこまで空気を読まんとは思えないが、クーナには後でしっかり粧し込んで来るように言っておいて、後で殿下に紹介したい。』

 

そうして居る内にダンスパーティ開幕の報せが届き、二人は楽器を持って音楽家達の元に向かった。(タクミはフルート、アフィンはトランペット、オーザはホルン、マールーは竪琴、サガはクラリネット、カトリはピアノ、フーリエはヴァイオリン、ピエロはチェロを演奏する)音楽家達と対面を果たした彼らは演奏する曲の打ち合わせを行った。その最中に一人の音楽家達が音楽をやるだけの時間はあったのかとか楽器を触ることが出来ないくらいの戦闘訓練を受けていたと聞いたと思い思いに質問をした。

それに対し、フーリエはこう返した。

 

フーリエ

『元々、我々オラクル人は戦の民である前に音楽の民でも有るのです。我々オラクル人は幼少期より音楽に携わるのはステータスで、皆、何かしらの楽器を齧っています。我々は如何なる場合でも音楽を手放す事は有りません。我が祖国のかつての皇帝の中には戦場にオーケストラの一団を連れてきて戦場で音楽を演奏させて程、我々にとって音楽は重要なものなのです。』

 

 

それを聞いた音楽家達は感銘の声を挙げた。そんな一面が有るとは思わなかったのだろう。だがその反応こそタクミの狙い通りであった。文武両道の民、それがオラクル人。決して蛮族ではない事を多くの人間に知ってもらう。これはとても重要な事であった。

 

暫くしてダンスパーティーを始めると言う事を知らせるラッパが鳴った為、各々が準備に入った。最初に踊るのはスレイマンとマトイだ。因みにマトイはダンスをした事が無かったが、マトイとタクミの体調管理(ネガフォトン浄化が甘い為定期的に検診しなければならないのだ)の為に従軍したフィリア看護長の数時間のみの突貫工事で練習を行ったおかげでマシなレベルまでに引き上げたのだ。勿論、スレイマンは知る由も無いが、スレイマンがマトイをエスコートしてくれていたお陰でより磨きが掛かっていた。因みにタクミはフルートを吹きながらしめたと思い胸を撫で下ろしたい気持ちになっていた。

 

一通り踊り終わった時にホールの至る所から称賛の拍手と歓声が上がった。スレイマンとマトイが礼をすると、スレイマンはマトイに感謝の意を述べた。

 

スレイマン

『感謝しますマトイ殿。貴女の様な素敵な方と踊れたのは神がお与えになった幸運かも知れません。』

 

マトイ

『いえ⁉︎そんな、ちゃんと踊れてたか私全然分からなくて、足引っ張っちゃったらどうしようって、頭真っ白で。』

 

マトイはオドオドして答えたが、スレイマンはもっと自信を持って構わないと賛辞を述べ、マトイもまだ少し上がった様子で感謝を述べた。すると今度は参加者全員が誰と踊っても良いという許しが出た。

 

タクミはオラキオの軍楽隊の隊長にオラクル勢を代表して合同演奏の礼を述べると折角だから踊るかと思いホールの方に向かった。

 

すると煌びやかな美しい衣装に身を包んだクーナに声を掛けられた。

 

タクミ

『おっ、クーナか。ちゃんと粧し込んで来たね?感心感心。』

 

クーナは少し顔を赤らめたが、すぐに本題を切り出した。

 

クーナ

『何目線ですか…。然し、私にこんな格好にさせて良いのですか刺客は?』

 

タクミ

『相手の位置を把握した様に連中もこちらの事を把握している。そして力量も。コッソリやりたいと思ってる以上圧倒的に分が悪いのは奴らだよ。強行すれば無用な騒ぎも引き起こす。それだけは連中の黒幕は避けたいはずさ。』

 

タクミは手をヒラヒラさせながら答えた。それを見たマトイは少し思う所があったが、納得し、タクミと別れ、その場の近くに居た若いイェニチェリ士官にダンスを申し込みに行った。

 

タクミはマトイを探したが見つからずに居た。すると声を掛けられたので振り返ると、長い赤髪を持ち、スラリと伸びた手足に豊満な乳房を揺らしながら近寄ってくる美女が居た。勿論、タクミはその美女が何者かは知らない。然し、向こうは知っている様だ。

 

美女

『タジム・クヴァシルヒ・ミシェル・フェデル大提督とお見受けします。私は王室付き侍女のソフィアと申します。どうか私と踊っては頂けないでしょうか?』

 

タクミ

『タクミ・Fで結構。では喜んでお受けしましょう。』

 

タクミがこれを受けたのは勿論、驚く程妖艶な美女から誘われた事もあるが、後の事を考えるとスレイマンに近付く為のコネクションが必要だと思ったのだ。

 

タクミ

(スレイマン皇子に近付く為には王室に近い人間を味方に引き入れる必要がある。王室付きだから相当な名門出に違いない。然し、このソフィアという女性…恐ろしい程妖艶な魅力を感じる。虜にされそうだ。少しマトイに申し訳ない気がするけど、どうせ彼女もありとあらゆる男に声掛けられてクルクル踊ってるだろうな…負ぶって帰る事になりそう…。)

 

タクミとこのソフィアという侍女が踊り始めた頃、マトイはというとありとあらゆる男達に声を掛けられたがその全てを上手く断りタクミを探していた。因みにマトイに断られた男達はマトイの魅力にやられてしまっており、断られたにも関わらず悪い気はせず寧ろもっと骨抜きにされていた。すると周りの人間達がまた賞賛の声を上げたのでマトイはその声の向かう先を見た。そこにはタクミと長い赤髪の妖艶な美女が楽しげに踊る光景が映し出された。マトイは何かにヒビが入った様なものを感じた。踊る二人の表情は正しく楽しげであり、かたや美女の方は遥かに自分より大人びており、異性を虜にするだけの魅力は充分に持ち合わせているのをマトイは一目で理解した。マトイはその場に居られなくなった。辛くなったマトイはバルコニーの方へ走った。

 

その頃、タクミはというと何か痛い視線を感じた。幸い踊り終わった後だったのでその原因を探すだけの時間は有った。タクミはソフィアに別れを告げると、その原因を探し始めた。彼にはその予想がついていた。踊っている最中、彼はマトイがそれを見ていて、直ぐにその場を離れた所を見ていたのだ。

 

タクミはバルコニーに一人立つマトイを見つけた。マトイの肩は小刻みに震えていた。タクミは申し訳なくなり、どうにか上手くやろうと意識して声を掛けた。

 

タクミ

『フゥウ‼︎こんなに人が居ると暑くなるね。マトイも涼みに来たのかな?』

 

マトイ

『うん…少しね。落ち着こうと思って。』

 

タクミはマトイの反応を見て、これは正直に言ってしまった方が良いと考えた。

 

タクミ

『何か、勘違いしてるみたいだけどあれは別にそういう訳ではないんだ。あれは、そう彼女は王室付きの侍女で皇子に近付く為には味方にしておくのが都合が良いと思ったんだ。だから別にそういう訳じゃないんだ。』

 

マトイはそれを聞くと振り返り、軽蔑する様な苦笑いを浮かべた。

 

マトイ

『そうなんだ。じゃあ私と居るのも同じ理由?私が2代目クラリスクレイスだから、深淵なる闇を倒せる英雄だから、都合が良いから私を手元に置いてるんでしょ?ねぇ、私が貴方の副官になった時、指揮権を持つ貴方は拒否する権利が有ったの知ってた?私を戦場に出したくないって思ってたのなら、貴方はダメだと言えば良いのに、良いと言った。それは私が居た方が自分の兵隊の士気が上がると思ったからでしょ。貴方にとって私も駒でしかないんでしょう⁉︎』

 

マトイが自分が想像していた答えとは全く違う答えを出してきたのでタクミは狼狽した。

 

何故こんな事になった?マトイを、というより今まで戦ってきた将兵達を駒扱いした事は一度もない!どうしてそう思われてしまったのか?まるで分からない。

 

タクミは思考が停止したも同然の状態になった。彼は苦し紛れに答えるしかなかった。

 

タクミ

『ち、違う!そうじゃない‼︎君や、共に戦った将兵達を一度も駒扱いしたことなんて一度もない。都合が良いとか、悪いとかで人付き合いなんてそんなタチの悪い事しないよ!』

 

マトイ

『でもソフィアさんはスレイマン皇子に近づく為に都合が良いから踊ったんでしょう?そうでなければ貴方は踊らない。』

 

タクミは頭に血が上って来ていた。そして彼は遂に下手を打ってしまうのだ。恐らくこの時までで一番の愚策で有ったに違いない。

 

タクミ

『ナニ?君はひょっとしてヤキモチでも妬いてるの?ていうかさっきから俺が都合が良い悪いで人付き合いをしているって君は言うが、その考えに行き着いた君こそどうなんだ!俺がイオに戦術の手解きをしている時や、ウルク、クーナと今後の作戦や調略を相談している時とか俺が他の女の子達と話してる時必ず君が引き攣った表情をしていたのを俺が知らないと思ったら大間違いだぞ。よくもそんな事言えたものだ!俺が君にどんな想いを抱いているかも知らずに‼︎』

 

マトイは遂に耐えきれなくなったのか、辛く今にも泣き出しそうな表情で走っていった。タクミは彼女がバルコニーから去った直後に我に帰ったが既に遅かった。そして突然彼の体は吹っ飛ばされた。頬には何者かに殴られた跡があり、口元が切れていた。だが目の前には誰も居ない。だがそれこそが答えだった。タクミの予想通り、目元に涙を垂らしたクーナが立っていた。彼女は倒れたタクミに馬乗りになり、そのまま胸ぐらを掴み、更に平手打ちを食らわした。

 

クーナ

『貴方は、あんたは自分が何を言ったか分かっているの‼︎よくも女の子にそんな酷いこと言えたものね!良い?よく聞きなさいタクミ、女の子がヤキモチ妬くってことは本当にその人の事が好きだって証拠なの‼︎』

 

タクミ

『………。』

 

クーナは息を整えながら、タクミの首元から手を離した。そしてマトイの去った方向を指差した。

 

クーナ

『追っかけて、今すぐ‼︎』

 

タクミ

『あっ…うん。』

 

クーナ

『駆け足‼︎』

 

タクミ

『イエス・マム‼︎』

 

タクミは全速力で追いかけた。タクミが見えなくなるとクーナはバルコニーの柵にもたれかかると一言ボソッと呟いた。

クーナ

『バカ…』

 

タクミは追いかけたが既にマトイの姿は無く、後に先に本営に帰った事が分かった。

舞踏会が終わった後、それぞれがおもいおもいの方に去っていくなか、イェニチェリの伝令がタクミに翌日の出陣した後スレイマンの旗艦に来て欲しいと伝えた。それを聞いたタクミの表情が、先の軍議の時とは比べ物にならない程生気を感じられないものになっていたのでイェニチェリは大変驚いた。というより事情を知っているクーナ以外の他のオラクル勢もこの出所不明の重苦しい空気にやられてしまっていた。だが彼らに気を滅入る暇すら残されておらず、また新たな戦いを知らせる軍靴の音が近づいていたのだ。




おまけ1 もしもタクミとマトイが893だったら
マトイ
『他の女に手ェ出してんじゃねぇぞバカヤロー‼︎』

タクミ
『いちいち目くじら立てんじゃねぇバカヤロー‼︎』

マトイ
『浮気したら玉取る言うたやろがコノヤロー‼︎』

タクミ
『浮気じゃねえって言ってんだろバカヤロー殺ろされてぇのかこのヤロー‼︎』

クーナ
『こうなったら全面戦争じゃあコノヤロー‼︎』

タクミ&マトイ
『なんでお前が仕掛けとんねんバカヤローコノヤロー‼︎』

(これは酷い…)
オマケ2 オラクル勢の出し物がアレだったら

タクミ
『お集まりの皆様もご一緒に、ミュージックスタート‼︎』
♪♪♪♪

オラクル勢
『    ∧_∧   ♪ダーレガ
    (´∀` )
    (つ⊂ )
    | | |
    (_(_)

           ♪コロシタ
    ∧_∧_
  ⊂⌒   ○⌒つ
     ̄丶( /
        し

     ∧_∧   ♪クク
    (´∀` )
    (つ⊂ )
    | | |
    (_(_)

           ♪ロ-ビン
    ∧_∧_
  ⊂⌒   ○⌒つ
     ̄丶( /
        し

    ∧ ∧∩
    ( ゚Д゚)ノ ア・ソーレ!
    /  ⊃
  ~( ヽノ
   ヽ∪
    ∪
花は段々、咲き乱れ…』

(尚、直後政庁のブレーカーが何故か落ち、その後本国より覚悟は出来てんだろうなテメーみたいな内容が送られ模様)


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43話 ただ気まずいだけなんだ

惑星パルム軌道上に大艦隊が結集した。オラクル、オラキオ、パルムの連合艦隊である。

オラキオ艦隊総旗艦シャーオを中心に艦隊を組んだこの連合艦隊の中には勿論我らがオラクル勢の艦艇も参加していた。各提督、将軍達は総旗艦シャーオに呼び出され、スレイマンの前に揃った。然し、その顔に生気は無い。というのもこの連中の中央に立つタクミとマトイの方から重い空気が流れているからであり、スレイマンは直ぐに様子がおかしい事を理解したが、何故かは聞かないことにした。結局、タクミとマトイは仲直りしてないのだ。マトイは先に帰り、タクミは探し回ったが当然見つからず、結果気まずいままになった。それで艦隊司令官と司令官付き副官の立場を変える事は出来ずこの体たらくになったのだ。

 

スレイマン

『と、取り敢えず我が軍の進路を再度確認しておこう。大提督、我が軍はセーシャンに向かう。そこは宜しいな?』

 

タクミ

『ハッ。我が軍は中央突破を掛ける形でセーシャンに向かいます。途中でどんな相手と戦う事になっても全て蹂躙して行かねばなりません。それも可及的速やかに。』

 

タイラー

『足を止めてはならないという事だな。止めれば止まっている分、追い詰められる。』

 

イーサン

『シュメルヒと椅子取りゲームって事か。あいつより多くの拠点を持てば勝つのは俺たちだという事だな。』

 

タクミ

『左様。だからこそ敵も全力で阻止する筈その為に兵力差を活かして大軍を持ってぶつけてくる筈…。』

 

すると艦橋のハッチが開き、伝令が走り込んできた。

 

伝令

『申し上げます!我が軍の前線中央に敵艦隊発見。数は五万。陸戦兵力は伴ってはいない様子。敵将は大将軍マフムットと思われます!』

 

その瞬間艦橋内が一気に騒めき出し、スレイマンに至っては驚愕の表情を浮かべ、そのまま席に沈み込んでしまった。

 

タクミは事の次第が分からないのでクラナス参謀に説明を願い出た。

 

クラナス

『大将軍マフムットは先王陛下の代から仕える武人でして、その武勇は他の追従を許しません。正しくオラキオ屈指の将軍です。公明正大で民や将兵からの人気も絶大。更にはスレイマン殿下の教育係を務められたお方なのですが、シュメルヒの挙兵の際、マフムット大将軍はシュメルヒ軍の元に配属されており、それも僻地の僻地にね。その為、マフムット大将軍は殿下をお助けする事が出来ず、更には領地の一族や領民を人質に取られている始末でして、結果シュメルヒ軍に籍を置いているのです。』

 

タクミ

『こちらに寝返られせることはできると思いますか?』

 

クラナス

『不可能では有りませんが、彼がシュメルヒの下にいるのは先王陛下の詔なのです。大名君とされる先王陛下の詔を無視することは武人のすることでは無いと考えており、こちらの内応にも良き返事を返したことは有りません。』

 

タクミ

『おまけに罪悪感もあるだろう。だがそんな人間だからこそ良心の呵責に苛まれている筈だ。そこにこそ糸口はある。』

 

すると宰相マッセナは床を杖で叩き、皆を黙らせた。

 

マッセナ

『静まれ、大将軍が戦場に現れ、取り乱すのは分かるが、今我らがすべき事はこの敵を撃退する事だ。殿下、迎撃の詔を頂戴しとうございます。』

 

スレイマン

『うむ、して数と指揮官はどうする。』

 

マッセナは薄気味悪く笑うと杖で指し示した。示された方向にはオラクル勢が居た。

 

マッセナ

『艦艇五万を持って迎撃にあたり、その指揮官をフェデル大提督にとって頂いてはどうかと臣は愚考いたします。』

 

これには堪らずクラナスが異を唱えた。

 

クラナス

『お、お待ち下さい‼︎如何に大提督といえでも相手は大将軍。戦術的になる事を考えても実力は拮抗しているであろう司令官同士に加え同数の兵力で迎え撃つという事は双方に消滅せよと命令するも同義です。殿下、宰相殿どうか、お考え直し下さい。一万、せめて五千程増強すべきです!』

 

マッセナ

『フェデル大提督は既に何度も数的優位の戦況をひっくり返し、勝利してきた。今回もその為の策を用意しているに相違ない。クラナス卿、卿は大提督が信用ならんからそう言っているのか?』

 

クラナス

『な、何を仰る‼︎』

 

タクミ

『宜しい‼︎引き受けましょう。』

 

クラナス

『だ、大提督!それでは…』

 

マッセナ

『素晴らしい!それではお願い致しますぞ。』

 

クラナスはマッセナの魂胆を理解した。というより露骨だったので嫌でも分かったが、つまり当面の政敵になり得るタクミと過去と現在、そして未来に掛けて政敵になる大将軍マフムットをここで始末してしまうつもりなのだ。だから同兵力をぶつけるという法則的には対消滅する戦術を提案したのだ。然し、こんな状況を何故タクミが敢えて臨むのか理解が出来なかった。

 

クラナス

『何故あんな作戦に乗ってしまったのです。アレはどう見ても…』

 

タクミ

『自殺行為、分かってる。ただ好奇心の方が強かったと言うべきかな。勿論マッセナが白か黒かを見極める意味もあったが。』

 

クラナス

『好奇心?』

 

タクミ

『大将軍と言われる他国の英雄がどれだけの実力を持っているのか。それが知りたかった。その為にあんなのを受けたんだ。』

 

クラナス

『然し、これでは勝利するのは難しいのでは?マフムット大将軍とその麾下の将兵達は勇猛果敢、彼らは大将軍の号令が掛かれば死ぬまで戦いますぞ。』

 

タクミ

『勝つ気なんてさらさら無いよ。ただ帰ってもらいたいだけだがら、負けない戦いをしなければ良い。あわよければ勝ちたいが。』

 

そう言ってタクミは端末を開くと、艦隊の編成を組んだ。組み分けは、第一艦隊より一万五千(内五千は他の二艦隊より借り受けた戦力)、第十二、第二十一艦隊が約一万七千強という編成である。そして幕僚は全員を従軍させた。勿論マトイも従軍する。残り三万と白兵戦部隊はスレイマン皇子直衛として残すとした。

 

タクミ

『この五万で魔法を見せてやるさ。』

 

タクミはそう言ったがクラナスはその顔が何処か引きつっていたと後に語ったという。

 

そしてオラクル勢五万が進撃を開始した。最前線に着いた時は敵も恐らく着いた頃であろうと予測が出たので、攻守のイニシアチブは互いに無い遭遇戦になると言う事が分かった。オラクル艦隊は到着と同時に偵察機を発進させる事に決め、ワープで目的地まで飛んだ。流石にワープ航行なだけあってあっという間だった。タクミは偵察機の発進を命じた

 

タクミ

『偵察機隊を発艦させろ。』

 

マトイ

『ハッ、偵察機隊全機発艦。直ちに星系を捜索を開始せよ。』

 

このやり取りにも既にギクシャクした空気が流れていた。もう幕僚は勿論だが、丁度艦橋に勤めていたクルーの総員もこの重い空気にやられつつあった。

 

一方オラキオ側の艦隊司令官であるマフムットは戸惑いを感じていた。未来の王を教育していた立場にあったのにも関わらず図らずも簒奪者(シュメルヒ側は奪還としている。)の側につき、正当な王位継承者を追撃するなど彼にとっては屈辱に近かった。然し武人としての矜持もある以上従わねばならない。そして現に自分の首を手に入れようと相手も手勢を出してきたのは事実。それについては容赦なく叩かねばならない。マフムットはそう納得していた。然しそれでも心のシコリは消えない。然し、彼の武人としての魂はその答えを知っていた。己が仕えるべき真の主人に刃を向けた事への罪悪と怒りであったそれが彼を乱していた。

 

しばらくして両軍の偵察機はそれぞれの母艦に電文を打った。

 

『我、敵艦隊見ユ!』

 

先手を取るべく先に動いたのはオラクル軍だ。タクミは直ぐに第二戦速を艦隊に下令、全偵察機を戻すと同時に、第四航空師団に出撃準備と第1〜第六空間機械歩兵部隊(A.I.S部隊)に専用装備を装備した上で各母艦にて待機せよという命令も同時に出した。

 

後手に回る事になるマフムットは全艦に中、近距離戦の体型を取らせ、全母艦に艦載機と雷撃、爆撃艇の出撃準備を下令した。

 

程なくして両軍は相対した。双方共に横陣である。オラクル軍は両翼をキダ、チェンバレン両中将に任せ、中央はタクミが自ら率いる陣形を取り、マフムットは艦隊全体に目が行き届くよう中央に陣取り、全艦隊を忙しく動かしていた。

 

タクミ

『キダ艦隊前進。チェンバレン艦隊は現状のまま待機。』

 

マトイはタクミが指示を出し終えるのを確認すると無言でコンソールを動かし、両翼の艦隊に指示を出した。

 

キダ

『よし行くぞお前達!暴れてやれ‼︎』

 

キダ艦隊の猛突進が始まり、双方は砲火を開いた、キダ艦隊からは艦艇の武装だけでなく、各部ハッチから対空、対艦兵装に改装されたA.I.Sが出てきて、ソレがさらに被害を与え始め、敵艦隊右翼は瞬く間に地獄絵図となり、後退を始めた。それと同時に敵艦隊左翼は前進を開始した。目標は隙だらけのチェンバレン艦隊…正確には隙だらけにしたチェンバレン艦隊である。キダ艦隊が敵艦隊をボコボコ攻撃している間に敵左翼及び中央は正しくフリーであり、おまけにオラクルの中央ととりわけ右翼は戦闘が始まっていない上、キダ艦隊の猛烈な突進を傍観しているだけで無く、将兵達に隙が生まれる。そこをつき敵が右翼から来るならこちらは左翼から食いつぶす作戦で行こうと言うのだ。だが、マフムットは、歴戦の大将軍である。敵の陣容に違和感があるのを既に感じ取っていた。余りにも敵右翼艦隊が突出し過ぎているのである。これでは左翼が無防備になるだけでなく、マフムットが大出血をする覚悟があるなら敵右翼艦隊を分断にかかる事も出来るのだ。兎に角攻めてくださいと言っているような物なのだ。そして現にその誘いに乗り、左翼艦隊に向かって攻撃を掛けている。そしてマフムットの感じた不快感は現実のものになる。なんとチェンバレン艦隊は無防備に見せて、敵の砲撃が来る前に急速後退、更に防御シールドの出力を上昇して攻撃を無力化したのだ。そう、オラクルの…タクミの目的は偏心、後退運動と呼ばれる横陣を斜めに動くように展開するこの行動は、敵の片翼が猛攻撃を加え、後ろに離し、もう一方の片翼に隙を見せ、大いに攻めさせ敵の中央から大きく引き離そうとしていたのだ。結果横陣同士のぶつかり合いでは法則上勝てないオラクル艦隊は優勢に戦い、そして両翼が伸びきった段階でタクミ直衛の金剛以下ストックホルム級高速戦艦二千隻で分断を仕掛けようという奇策を展開する隙が生じたのだ。

 

タクミ

『今だ‼︎全艦全速前進!チェンバレン艦隊が担当している敵艦隊を中央と引き離す‼︎』

 

二千隻の別働隊の攻撃を受け、敵左翼艦隊は引き離された。別働隊を攻撃しようと左翼艦隊は回頭しようとするも今度はトドメを刺すために前進してきたチェンバレン艦隊に一方的に沈めまられていた。タクミはそのまま敵右翼も分断しようと突入を命令した。だがオラキオの大将軍はそれを許さなかった。

 

マフムット

『中央艦隊全艦緊急後退!回頭し敵左翼艦隊に弾幕を浴びせろ!次、右翼艦隊全指揮官に打電‼︎各指揮官これ以上の醜態を見せるようならワシ自ら始末してやるとな‼︎』

 

オラキオ兵一同

『ははっ‼︎』

 

マフムットの檄の入ったオラキオ艦隊は即座に陣形を立て直した。結果タクミ麾下2,000隻は敵中に孤立しかけたが、チェンバレン艦隊の援護でどうにかそれだけは回避している。だが強烈な弾幕が彼等を襲い、別働隊は一隻、また一隻と撃破されていった。

 

タクミ

『怯むな‼︎そのまま突っ込め‼︎このまま逃げ帰るんだ‼︎』

 

然し、金剛の艦橋付近にレールガンが被弾。一気に艦橋内に悲鳴がありとあらゆるところで響いた。ありとあらゆるパネルが割れなんと更に悪い事にその真下にはマトイが居た。

無数の破片がマトイに襲い掛からんとしていた。

 

マトイ

『きゃあああああああああああ‼︎‼︎』

 

マトイは無数の破片によって串刺しに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にはならなかった。何かがマトイを庇った。お陰でマトイは頬に切り傷が出来た程度である。その何かは他でもないタクミだ。タクミは軍服の右肩に着いた提督用の防弾素材で出来たロングマントを使ってマトイと己の肉体を守ったのだ。然し限度を超え、いくつかの破片は彼に突き刺さっていた。マトイの頬に涙と、彼の口や傷から出る血が滴り落ちていた。

 

 

マトイ

『どうして…』

 

タクミ

『君が居ないと困る…』

 

そう言って彼はそのまま倒れ、マトイはそれを両の腕で支えた。そして直ぐにマトイは己の役目を思い出し直ぐに対応した。傷は深く、治療用テクニックではどうにもならない。直ぐに付近の士官に被害の報告と衛生兵を呼ぶように指示した。そしてマトイはタクミの代わりに指揮官席に着くと、指揮を取り始めた。

 

マトイ

『全艦進路はそのままで、旗艦金剛は健在です!このまま逃げ切れば我が艦隊の役目は達せられます、大提督の策をこのまま不意にすることは守護衛士の名において許しません!』

 

英雄の檄が飛び、恐れおののいていた将兵達は正気に戻り、更に総指揮官を傷つけられた怒りをぶつけ、結果別働隊は無事に生還した。結果両軍の戦闘はそのまま膠着状態になった。オラクル軍約四万五千弱、オラキオ軍約三万。数的不利を覆す手段を思いつかないマフムットは後退を指示、退却を開始した。オラクル軍はこの宙域の死守に成功。勝利という事になったがあの場にいた将兵達が皆口を揃えて後に述べたことは、『あのまま戦い続けたらどうなっていたか分からない』である。それ程この戦闘は拮抗していたのだ。一段落がついたマトイは金剛のメディカルセンターで治療を受けるタクミを見守った。従軍していたフィリア看護長の話では軽傷な部類に入る為直ぐに目を覚ますだろうという。

 

フィリアは眠るタクミに寄り添うマトイを見て二人の蟠りは少し溶けた様に感じたという。尚、ただ気まずいだけでギクシャクしていたタクミとマトイにモヤモヤしたオラクルの面々は納得せず後日大量の見舞い品と被害届がタクミの元に届いたと言う。



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