このスバラシイ神機使いに祝福を! (トメィト)
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一発ものの異世界漂流記
この駄女神様に天罰を!


やってしまった。


 

 

 

 

 

 

 「…………死ぬ、マジで死ぬ」

 

 

 ふらふらの足取りで自室へとたどり着いた俺はそんな事を呟きながらゾンビの如く地を這い、自身の寝床に突撃をかました。

 ブラッド隊の隊長となってからしばらくしたけど、俺に回される仕事の量が尋常じゃない。午前中は天井まで届かんばかりの書類の片づけを命じられ、午後には俺宛に届いたアラガミ討伐をこなす毎日。休日なんてものはアラガミの出現と共に姿を消し、俺の癒しはもはやほんの少しの睡眠しかないというひどい状況。ここまできたらボイコット待ったなしである。この前、極東の第一部隊隊長のコウタさんに相談を持ちかけたが、いい笑顔で「コレが普通だ。しばらくすれば慣れる」といわれてしまった。本当に極東は地獄である。

 なけなしの体力を振り絞り、寝巻きへと着替えると俺はそのまま寝床に倒れこみ泥のように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――のが、俺が覚えている最後の記憶である。

 

 

 あの後、調教された体内時計に従い目を覚ましてみれば、星空のような光景で覆われ、椅子がぽつんと二つあるだけの空間に投げ出されていた。

 このパターンは見覚えがある。俺が始めて神機使いとなった時もこんな感じで急展開だったのを今でも覚えている。人間耐性があると案外動揺しなくなるもので、俺は何気なく用意されていた二つの椅子のうちの一つに座って何らかの変化があるまで待ってみることにした。

 椅子に座ってから一分ほどすると、俺の後方からカツカツという足音と共に澄んだソプラノボイスが聞こえてきた。

 

 

 「樫原仁慈さん、ようこそ死後の世界へ」

 

 

 俺の横を通りすぎていくそのソプラノボイスの持ち主は、はっきり言ってこの世のものとは思えないほど美しかった。水色の髪と瞳をもち、体のバランスは黄金比といっていいほどに均衡がとれている。ここまで来ると作り物のようで気味悪く感じるかもしれないが、彼女から発せられる神々しいオーラがそんな事を感じさせないでいた。

 しかし、俺が注目したのは水色の髪や瞳、黄金比とも呼べる肉体バランスではなく、殆どその役目を果たしていないスカートだった。腰にギリギリ届くくらいの長さで、そこ下は透明な生地がわずかについている程度、下着を着けていないのか半分くらい丸見えだった。

 

 

 「(また痴女か……)」

 

 

 そう思った俺を一体誰が責められるだろうか。

 普段からそれ普段着ですか?と思うような服をきる人やもはやそれ着ている意味あるのか?と思うような服を着ている人を見ている俺からすれば気にするのはそこ一点だけだった。どうしてこう俺の知り合う女性は布面積が少ないのか……。エリナやカノンさん、シエルを見習って欲しい。

 俺の視線に気付いているのかいないのかは分からないが、コツコツと歩いてきた彼女は気にせず言葉を続ける。

 

 

 

 「貴方はつい先程、不幸にも亡くなりました……」

 

 

 

 そこで言葉を一旦切り、予めあったもう一つのほうの椅子に座ると足を組んだ後、こちらをまっすぐと見ながら再び口を開いた。

 

 

 

 「……短い人生でしたが、貴方は死んだのです」

 

 

 「死んだ……ねぇ……」

 

 

 心当たりがない。

 俺の最後の記憶は自室で寝たときのことであり決して任務中ではない。つまり、俺が寝ている間に俺の自室へアラガミがダイレクトアタックをかましたりしない限り俺が死ぬことはないはずである。

 

 

 「信じられませんか?」

 

 

 「まぁ……覚えている限りだと、仕事で疲れて寝たのが最後の記憶なので……そこからどうやって死ぬのかと……」

 

 

 「過労死」

 

 

 「えっ」

 

 

 「死因、過労死です」

 

 

 「えぇー……」

 

 

 確かに普通の人間なら即効で過労死するような仕事量だったけれども、俺半分くらい人間じゃないからなぁ……そんな事はないと思ったんだが……。

 

 

 「……まぁ、いいや。終わったことだし、仕方がない」

 

 

 「あれ、意外。もっとうろたえるかと思ったんだけど」

 

 

 「不測の事態には慣れてますので」

 

 

 本当にね。つい最近は任務を受けるたびにハンニバル神速種が2体ほど、必ず乱入してくるからね!アラガミが結託して俺のこと殺しに来てるのかと思ったぜ……。

 

 

 「ふーん……面白いわね、貴方。まぁ、今はおいときましょう。自己紹介をしていなかったわね」

 

 

 そういえばそうだな。

 ここが死後の世界というのであれば、目の前の彼女は一体何者なのだろうか?天使かなんかかな?翼や輪はつけていないようだけど。

 

 

 「私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く『女神』よ」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、反射的に体が動き出していた。

 目の前まで歩いてきていたアクアと名乗る自称女神に対して手刀を繰り出し、まっすぐ寸分の狂いもなく首筋を狙う。

 俺の突然の行動に驚いたのか、大きくのけぞりその場に倒れる自称女神。それをチャンスと拳を振り上げ顔面を潰そうとしたところで、待ったがかけられた。

 

 

 

 「ま、待って待って!タンマタンマ!何っ!?死んだことは気にしてないんじゃなかったの!?ナンデ不意打ち!?」

 

 

 「いや、一応生前は神喰らいなるものをやっていたので……神という単語に過剰反応してしまいました」

 

 

 「何その私たちにまったく優しくない職業!というかそれホントに日本の話!?」

 

 

 「え?俺の死因知っているんですから、どんな世界にいたのかも知っているんじゃないんですか?」

 

 

 「若い人には珍しい死因だなーとは思ったけどそれだけよ!詳しいことは面倒くさいからまったく見てないわ!」

 

 

 「そんな堂々と言われても……」

 

 

 職務怠慢を自信満々に自白する自称女神に毒気を抜かれ、振りかぶっていた拳をもとした後、先程まで座っていた椅子に改めて腰を落とす。アルマ・マータとか、ヴィーナスの人間体とか、俺はあったことないけどシオという完全に人型のアラガミがいたくらいだしこの人もそうかと思ったんだけど、違うようだな。

 

 

 「あー……怖かった……。長いことこの仕事をやってきたけど、私に攻撃を仕掛けてきたのは貴方が初めてよ……」

 

 

 「貴重な体験ができてよかったですね」

 

 

 「だまらっしゃい!……で、話を戻すけど、貴方には二つの選択肢があります。ゼロから新たな人生をやり直すか、天国的なところに行っておじいちゃんみたいに暮らすか」

 

 

 「天国的なところって……」

 

 

 それまた適当な……。

 

 

 「だってあそこ、何もないのよ?漫画やゲーム、テレビもついでに肉体もない。永遠に日向ぼっこするくらいしかやることないの」

 

 

 「……それ、ある意味地獄ですよね」

 

 

 「そうそう、そうなのよ!君もそんなところ行きたくないわよね?」

 

 

 「そうですね」

 「かといってまた、ゼロからやり直すというのも、ね?」

 

 

 顔をずずいっと近づけてそんな事を若干食い気味に言ってくる自称女神様。なんか回りくどいな。いいたいことがあるならはっきりさっさと言って欲しい。

 

 

 「そこで!ちょっといい話があるのよ!……先程の動きを見るに貴方、生前は常日ごろから戦いを繰り広げていたのよね?」

 

 

 「えぇ、まぁ」

 

 

 「……その世界は!長く続いた平和が、魔王の軍勢によって脅かされていた!」

 

 

 「(なんか始まったよ……)」

 

 

 この話は微妙に長かったのでカット。要するに、魔王軍が横行するサツバツな世界だから生まれ変わる人がいなくてすごく困っているらしい。で、そのための対応策として別の世界で死んだ人の肉体と記憶をそのままに送ればいいんじゃね?となったらしい。普通なら記憶と肉体をそのままにその世界に送っても開幕早々デットエンド間違いなしなのだが、そこはこれからその世界に行く人は何でも好きなものを持っていける権利を与えているそうだ。それは、伝説の武器だったりとんでもない才能でもいいらしい。用は強くてニューゲームが出来るというわけだ。眠った中二心が刺激されるな……。

 唯一懸念される言語に対する問題も、万能な神々が頭がぱっぱらぱーになる可能性と引き換えに習得させてくれるらしい。ここまで来ると必死すぎて逆に行きたくなくなる人とかいるんじゃないんだろうか。

 

 

 ある程度の説明を終えた自称女神は何故かその場で紙をばら撒きながら回転し、シャフ度でこういった。

 

 

 「さぁ、選びなさい!貴方に一つだけ、何者にも負けない力を授けて挙げましょう」

 

 

 「じゃあ、俺が使ってた神機ください。刀身を自由に変えられる機能をつけて」

 

 

 「えっ?決めるの早くない?もっとこう、すごいものでもいいのよ?星が精錬した聖剣とか何でも跳ね返せる超能力とか」

 

 

 「エクスカリバーもベクトル操作もいりませんから。自分には自分に合った武器とスタイルがありますし」

 

 

 

 「ふーん……さすが、実際に戦ってた人は言うことが違うわね。貴方が初めてよ、そんなこと言ったのは」

 

 

 「そうですか」

 

 

 

 俺が、そう受け応えた後、ばら撒かれた紙はいつの間にか跡形もなく消えていた。そして俺の足元のに魔方陣が出来上がり蒼い光の柱が出現する。それに伴うように俺の体も空中へ浮き上がった。

 

 

 「さぁ、勇者よ。願わくば数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を打ち倒すことを願っています。さすれば神々からの送り物として、どんな願いでも叶えてあげましょう」

 

 

 「へぇ、そんなオプションがついているんですか」

 

 

 

 「それじゃ、頑張ってねー」

 

 

 「最後まで真面目モードを保ちましょうよ……」 

 

 

 そんなしまらい女神に見送られ、俺は異世界に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 「……えっ?今の人唯の臨死体験者だったの!?もう異世界に送っちゃったんですけど!?……まぁ、いいか」

 

 

 

 最後にそんな声が聞こえ、地獄に落ちろベネ〇トと思った俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その恨みが次に来た若者によって晴らされたということを俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




番外編第一話にしてこのタイトル詐欺である。


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この未知なる世界で冒険を!

 

 あの駄女神にあらん限りの呪いをかけつつ、再び目を開いてみればそこには壮大な光景が広がっていた。俺が元々いた世界では絶対に見られないであろう、豊かな自然やしっかりとその役目を果たしている建造物などがよく見れた。

 それは当然のことだろう。なぜなら俺が今居るのは、上空1000メートル。東京タワーなんてぶっちぎりで抜き去り、スカイツリーすらも見下ろせる位置に居たからである。

 

 

 「これ、選んだものによっては速攻で死ぬんじゃないんだろうか」

 

 

 何のために何でも好きなものをあげたんだよ……。先程心の中で散々呪いつくしたこともあり、あの駄女神にはもはや呆れるしかなかった。あそこまで残念だと逆にこっちが心配になってくる。現在心配されるべきは明らかに俺だけどね!

 

 

 などと1人で寒いボケとツッコミを繰り返している間に、残り300メートルを切っていた。この高さからの落下はさすがにまずい。いくら半分人間じゃないものが混ざってるキメラボディでもトマトみたいにつぶれてデッドエンドを迎える羽目になる。

 俺は神機の刀身をヴァリアントサイズに変更した後、自分の中に眠っている偏食因子をたたき起こし、ブラッドアーツを使った。

 

 

 スピンペンデュラム。

 

 

 空中で自身の体を基点として回転して攻撃する技である。これの特徴は回っている間は何故か落下せずに空中にとどまることができるのである。俺はそれを利用し、残り25メートルの辺りでスピンペンデュラムを発動。今までの勢いをゼロにするには少しばかり足りなかったものの、それでも大部分の勢いを削ることに成功しそのまま地面に着地した。25メートルくらいなら問題ないからな。

 

 

 ドスンと音を立てて着地した所為で、周囲に居た人が俺を取り囲むように集まってきた。ちらりと集まってきた人の服装を確認してみると、なんというかいかにも村人という服装をした人といかにも冒険者もしくは魔法職と分かるような服装をしている人達が多く居た。他にも馬車が普通に使われていることから、一番近いのはドラク〇の世界だろうとも考えた。

 

 

 しかし、ここで困ったことが起きる。異世界に来たはいいが、そこからどう行動すればいいのかまったく分からないのだ。あの駄女神は特にここでの生活については何も説明しなかったが、こんなことなら自分から聞いておくべきだったと若干後悔している。

 かといってこのまま何もしないのもアレなので、自分の周りに集まってきた人の内の1人に話しかけてみることにした。

 

 

 

 「すみません。少し聞きたいことがあるのですが……」

 

 

 「あぁ……?」

 

 

 俺が話しかけたのはモヒカンでちょび髭を生やしている筋肉隆々の男。世紀末臭がするのはご愛嬌として、その人に近付きここで欲しい情報を得ようとした。

 何故ここで筋肉隆々の世紀末モヒカンを選んだのかというと、空中から武器もって現れた人間に動じずに話を聞いてくれそうな人がこの人しか居なかったからである。

 

 

 「なんだてめぇ……見かけねぇ顔だが……ここにいる奴ら傷つけようってんなら、俺は容赦しねェぞ」

 

 

 やだ、この人見かけによらずとってもいい人。

 とても怖い顔でガンを飛ばしてきているはずの男の人にほっこりしつつ、彼に言われたことを思い返す。

 ……そういえば、今の俺の格好は寝巻きなのか?今の今までまったく気付かなかったそのことにあわてて自身の格好を見てみるも、そこには何時も通り背中に狼の顔があしらってある普段着であった。まぁ、この格好も十分に見ない格好なんだろうけど、寝巻きよりマシだな。

 話がそれたな。さて、俺の目的は魔王を倒すことなんだが……どうやって尋ねようか……。

 

 

 「あの……魔王討伐の機関に属したいのですが……そういうことを行っている施設とかありますか?」

 

 

 「なんだオメェ、それは冒険者になりたいってことか?」

 

 

 「そうですそうです」

 

 

 「なんか、変わった言い方しやがるなお前。……まぁ、いい。これから同業になるってんなら俺が案内してやる。ちょうど俺も用事があるからな」

 

 

 

 やだ、この人見た目によらずとってもいい人(二回目)。掛け値なしでいい人。

 お言葉に甘えさせてもらい、ずんずんと前を歩く世紀末モヒカン改めいい人。その後姿を眺めながら、俺は何気なくいい人に話しかけてみる。

 

 

 

 「すみません。目指したいといっておきながら何なんですが、冒険者ってどんな職業ですか?」

 

 

 「はぁ!?それになりたいのに、何でそんなことも知らないんだよ!」

 

 

 「えーっと……家の教育方針だったんです。『お前は魔王を倒すことだけを考えろ!』ってひたすら戦闘技能だけを叩き込まれてきました。さっきの奴も実は家のものがやったことでして……」

 

 

 「………お前、なかなか苦労してんだな……。息子を空中から町に投げるとか普通はしねぇよ……。何でも言え、飯をいっぱい奢るくらいのことくらいはしてやるよ」

 

 

 同情されてしまった……。思いっきり作り話だったのに、心がぁ……心が痛いよぉ!

 ずきずきと来る胸を押さえつけながら何とか情報を引き出すために会話を続ける。

 

 

 「あ、ありがとうございます。それで、冒険者とは?」

 

 

 「冒険者ってぇのはその名の通り冒険者稼業を行うモンのことだ。その内容は様々、依頼品の納入だったり、モンスターの討伐だったりする。なかにはお前の様に魔王を倒そうとするイカレた野朗もいやがる」

 

 

 ふむふむ、要するに何でも屋ってことだな。そこまでは大体予想通り。

 

 

 「他には、冒険者の身分証明書兼スキルカードってのを渡される。これをもらえればはれて冒険者の仲間入りってぇこった。まぁ、多少の手数料はかかるがな」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間俺は思わず足を止めてしまった。今、このいい人はなんといった?手数料が必要だと?俺はこの世界につい先程落ちてきたばかりだ。もちろんのことこの世界の金なんて持ってないし、寝るときにつれてこられたから元々居た世界のお金すら持ってない。ついでに身分証明書もない。

 

 

 ……まずい。

 

 

 ダラダラと冷や汗が流れるのを自覚する。

 今まで案内してくれたいい人も急に立ち止まった俺を不信に思ったのか足を止め、こちらに振り向いた。そして、俺の様子があまりにもおかしかったのだろう。若干口を開こうか迷うそぶりを見せつつ彼は言葉を紡いだ。

 

 

 「ま、まさかお前……」

 

 

 「い、一銭も渡されてません」

 

 

 「大丈夫だ!そのくらい俺が出してらぁ!空中からの着地を見る限りアンタかなり強そうだからな。そんなんが冒険者になれないなんて認められねぇよ!」

 

 

 これから兄貴と呼ばせてください(真顔)。

 もう、この人が親切すぎて思わずそんな事を思ってしまう。この人いい人過ぎるよぉ…その内詐欺にでもあうんじゃないかな?俺が既に詐欺みたいなもんだけど。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなありつつ、俺たちは冒険者ギルドへとたどり着いた。兄貴(心の中での呼び方)が普通に扉を開けて入っていくので俺もそれに続く。

 中に入ると、ショートカットのお姉さんが、ビールジョッキを片手に挨拶をくれた。

 

 

 「いらっしゃいませ!お食事なら空いている席へどうぞ。お仕事案内なら奥のカウンターへお願いしまーす」

 

 

 多分奥のカウンターとやらが冒険者カードの発行をしてくれたり、冒険者が実際に仕事を受けたりするのだろう。

 やっと場所がわかったので、とりあえずお金を稼ぐために俺はいったんここを出ようとするが、

 

 

 「おい、待て。コレを忘れてるぞ」

 

 

 兄貴が俺を呼びとめ、手にお金を握らせてくれた。

 

 

 「兄貴ィ!このご恩は一生忘れません!いつか必ず3倍にしてお返しいたします!」

 

 

 「お、おう」

 

 

 なんか気合を入れすぎた所為で引かれたけど、気にしない!俺は貴方の期待に応えて見せますよ、兄貴!

 

 

 久しぶりに受けた優しさとその他もろもろが爆発した所為で妙に高くなったテンションと共に俺は奥のカウンターへと足を運んだ。

 

 

 「あのー……冒険者登録をしたいんですけど……」

 

 

 「は、はぁ……登録手数料のほうはお持ちでしょうか?」

 

 

 「コレで」

 

 

 「………はい。確認いたしました。それでは、冒険者カードの説明にうつらせていただきます」

 

 

 受付の人の話は俺からしてみれば見るからに信じられないものだった。職業の選択があるのはまぁいい。でもそれがレベルに依存しあまつさえスキルと呼ばれるものも、ポイントを振り分けて習得するといった、ゲームと同じような方式を取っているらしい。

 これ、本当に現実なんだよね?実はソードアート〇オンラインでしたとか止めてね?

 

 

 「では、こちらの機械に手をかざしてください」

 

 

 その言葉と共に差し出されたのは、青い水晶とそれを鉄の輪が囲っているような機械。

 

 

 「これは?」

 

 

 「コレで貴方のステータスが分かるんですよ。その数値によって職業を決めるのが殆どですね」

 

 

 「ふむふむ、こんな感じか?」

 

 

 言われたとおり手をかざしてみると、青い水晶が光りだし、下にあるカードにまったく見たことはないが何故か読める文字を書き込んでいった。

 光が収まると受付の人がカードを手にとって内容を読み上げていく。そういうのって普通個人が管理して他の人には漏れないようにするんじゃないのかね?

 

 

 「樫原仁慈(かしはらじんじ)さんですね。ステータスは………ふぁっ!?」

 

 

 ステータスの欄を読み上げるときに急に奇声を発するお姉さん。なんぞ。

 

 

 「幸運地は平均より若干低く、知能はまるっきり平均レベルですが、それ以外のステータスが過去最高レベルを記録しているんですけどっ!?」

 

 

 あー……まぁ、ここに来る前から大いに暴れまわってきたきたからなぁ。その辺にいる奴よりは高いと思うけど。そこまで騒ぎ立てるほどのことだったか?

 

 

 「それがどうかしましたか?」

 

 

 「どうかしましたか?じゃありませんよ!!コレはすごいことですよ!?初めから殆どの職業につくことが出来るんですからっ!!」

 

 

 「は、はぁ……」

 

 

 すごいのは分かったから、ボリュームをもう少し下げてもらえませんかね?ほら、あそこで食事している人たちや店員さんもみんなこっち向いてますことよ?職業に神喰らいとかないかな?

 

 

 「特に適正があるのは狂戦士ですね!」

 

 

 「ちょっと待とうか」

 

 

 誰がバーサーカーか。

 

 

 

 「どうもジンジ様は物理に重点を置いたステータスのようですし、狂戦士じゃなくても前衛職が最もあっていると思いますよ?」

 

 

 「狂戦士でいいです」

 

 

 どんな職業があるのかも分からないし、適当に選んでていいや。とにかく戦ってみないことにはわからないしな。

 

 

 「それでは、」

 

 

 そういって改めて姿勢を正した受付の人。その背後にはいつの間にか別のギルド員が集まっており皆姿勢を正して直立していた。周りを見てみても、今まで食事をしていた人達が俺のことを囲っていたりもした。

 リンチでも始まるんですか?

 

 

 「冒険者ギルドへようこそ、ジンジ様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています」

 

 

 「お、おう……」

 

 

 『わぁあああああああ!!』

 

 

 ……もうついていけません。

 ギルド職員の皆さんの言葉と共に盛り上がり始める周囲の人たち。その中には兄貴の姿もあった。何やってんですか、兄貴。

 

 

 

 三十分ほどもみくちゃにされたがようやく開放された俺はお仕事案内の場所に来ていた。兄貴に貸してもらった分のお金を返済することとここまで親切にしてくれたお礼をするためである。

 

 

 今の自分でも受けられそうな仕事を受注してもらい、意気揚々と仕事をこなそうとその場を離れようとしたとき、服の裾を何かに引っ張られる感覚を覚えた。

 引っ張られたほうに視線を向けてみればそこにはいかにも魔法使いですといわんばかりの格好をしている少女が居た。三角帽子にマント、眼帯に包帯と若干属性を盛りすぎているのか、怪我でそうなっているのかは分からないがどちらにせよ、どこか痛々しい風貌だった。

 その少女は俺が自分に意識を向けていることを確認したのか、俺の目をまっすぐ見ながら口を開いた。

 

 

 「先程の言葉、聞かせてもらった。何でも、このギルド始まって以来のイレギュラーだとか……我は貴方のような存在を待っていた!」

 

 

 少女はそこで一度言葉を切り、その後ビシッ!っとよくわかんないポーズを決めると、

 

 

 「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの!さぁ、イレギュラーよ。我と共にこの世の全てを意のままに操ろうではないかっ!」

 

 

 

 少女はドヤ顔でこういった。

 

 

 

 

 

 

 

 やべぇ、また変なのに会った……。 

 

 

 

 

 




二話連続でサブタイトル詐欺である。


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この爆裂魔法師にご注意を!

アニメ基準に描いているのですが、やっぱり原作を読んだほうがいいのかと三話あげた後に悩み始めました。

相変らずの無計画ですみません。


 

 

 

 

 

 俺は今、なんとも奇妙な状況に陥っていた。色々騒ぎはあったものの何とか冒険者になった俺はここまで散々世話になった兄貴にお礼をするためにも、資金集めとこの世界の敵の戦闘力を把握するために仕事を請けた。そこまでは良かった。普通だった。何の問題もなかった。

 が、その後。見た目魔法使い兼中二病(疑惑)の少女に声をかけられ熊本弁擬きで何かに誘われるという予想していなかった事態が発生。現在は俺と変なポーズを取った中二少女がお互いに向き合ったまま固まるという状態が出来上がったのである。

 

 

 正直、相手にしたくなかった。この少女と話していると昔の傷(中二病)が疼くし、何よりこの子は俺がこの世界に来る前に会ったあの駄女神と同じにおいがする。発言とポーズからあふれ出る残念臭は到底無視できるものではなかった。

 

 

 「結構です」

 

 

 こういう勧誘はちょっと遠慮がちに断るとなかなか引いてくれないことが多い。交渉の余地もないと思わせるくらいきっぱりと断るくらいがちょうどいいのだ。一礼をして少女から視線を外すと仕事に行くために出口へと向かう。すると先程より強い力で服の袖を掴まれた。伸びる伸びる。俺の唯一の服が伸びる。

 

 

 「何ですか?まだ何か用が?」

 

 

 「ま、待って待って、待ってください!」

 

 

 あまりに必死に止めるもんだから思わず足を止める。見た目が中学生のように幼いということも原因の一つかもしれない。え?さっきと言っていることが違うって?少しだけムツミちゃんに重なって見えちゃったんだよ……。そのまま無視できるわけないじゃないですかーやだー。

 

 

 「で、結局なんですか?」

 

 

 「だ、だから……!我と共にこの世界を―――」

 「すみません。どうやら私と貴方では使っている言語が違うようなので……」

 

 

 やっぱり無理だわ……。何言ってるのか分からないからどうして欲しいのかまったく分からないし。彼女が心に重い病(中二病)を患っているのは発言と外見で一目瞭然なんだけど、俺に翻訳機能は付いていないんだ。

 人間、不可能なこともあるよね。うん。

 

 

 「あぁ!待ってください!ちゃんと話す!ちゃんと話しますからぁ!」

 

 

 あぁ、もうなんか本当にめんどくさい。

 ぐいぐいと袖を引っ張る……を遥かに越え、袖を振り回して引きちぎろうかとするような勢いで動かすので俺は観念して適当に空いている席に腰を下ろして話を聞くことにしたのだった。

 

 

 

 

             

            ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 この痛々しい少女、名は先程名乗ったとおりめぐみんというらしい。驚くべきことに本名である。一体何を考えたらこんな名前をつけることになるんだろうか……。本人に名前のことを聞いてみると意外に気にしていないようだった。念のため両親の名前を聞いてみると母親がゆいゆい、父親はひょいざぶろーと言うらしい。それを聞いた段階で俺は考えるのを止めた。

 

 

 さて、そんな少女めぐみんは紅魔族という若干普通の人とは異なる一族の出らしい。なんでもこの紅魔族、生まれつき高い知力と魔力を持っているらしく魔法系統の職業につく人が殆どらしい。で、この少女めぐみんはそんな紅魔族の中でも特に飛びぬけた才能を持って生まれたらしく魔法系統の上級職、アークウィザードについて尚且つ習得が困難といわれている最強の攻撃魔法「爆裂魔法」を使えるらしい。俺を呼び止めたのは一緒にパーティーを組んで欲しいからだそうだ。まぁ後衛なら前衛は必須だよな。

 

 

 話を聞く限り、彼女が物凄い人物だということが分かった。中二病だけど。一族随一の才能を持ち、最強の魔法を習得しているという点からしてそれは間違いないだろう。中二病だけど。しかし、ここで一つ疑問に思うことがある。

 そんなにすごい人物なら他の人は喉から手が出るほど欲しい人材である。日常生活やコミュニケーションが若干……いや、割と残念だがそれを補ってあまりあるものだと思う。なのにどうして話題になっていたとは言え、つい先程冒険者カードを発行してもらった新人の俺をパートナーに指名したのだろうか?

 どうにもおかしいなと思ったので本人に直接尋ねてみる。

 

 

 「貴女が何者なのかはよく分かりました。しかし、どうしてそれが私とパーティーを組むことにつながるのですか?」

 

 

 「……なり立ての冒険者なら簡単にパーティーを組んでくれると思ったからです。今まで何人か頼んでみたのですが、断られてしまったのです」

 

 

 そのキャラで頼みに言ったらそら空振りするだろうよ。俺だってなるべく関わりたくないわ。断りを入れた人たちの気持ちに共感しつつ、これで彼女が俺を頼る理由も分かった。自分の病気を受け入れてくれる人が居なかったんだろう。結構強烈なキャラをしているし、仕方ないとは思う。

 

 

 「それで……汝は我と契約を交わす気になったか?」

 

 

 「あぁ……言葉がまた公用語から外れた……。まぁ、今のは言いたいことがわかったからいいけど」

 

 

 再発した病気(中二病)が原因でまた言語能力に障害が発生したことは無視するとして、この提案を受けようと思う。

 先程は極東支部に居た頃と変わらない感じで仕事を請け負ってしまったが、ここは異世界。ためしに請けた討伐の仕事も俺では歯が立たない可能性も考えられる。その分、この世界で生まれ、この世界の基準で最強の魔法が使える少女めぐみんの力にはその心配はない。もちろん魔法無効といった特殊能力を持った奴も居るかもしれないがそれは俺が最悪素手で殴りに行けばいい。

 彼女が持っているこの世界の知識も大変重要なものだ。例えばお金の単位。仕事を完遂し報酬をもらっても単位が分からなければ色々心配だからな。持病は少々面倒だがメリットのほうが大きい。

 

 

 「分かりました。私は貴方とパーティーを組みます。職業狂戦士の樫原仁慈です、これからよろしく」

 

 

 「今ここに契約はなされた!改めて名乗ろう!我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手であり、爆裂魔法を操る者なり……!」

 

 

 お互いに改めて自己紹介をする。この時をもって、異世界の人間と中二病の珍妙パーティーが誕生した。

 話が纏まったところで、早速俺が受けた仕事について説明をする。

 

 

 「それで、早速仕事の話なのですが……このジャイアント・トードってどんな奴なんですかね?討伐数は十体と書かれていますが」

 

 

 「知らないで受けたんですか……まぁ、いいです」

 

 

 少女めぐみんは呆れたようにジト目を俺に向けてきた。言葉も標準語になっている。

 

 

 ……呆れられても文句は言えないな。でも一応ギルドの職員さんには俺でも出来そうな仕事を紹介してもらったはずなのでそこまでのものが来ることはないと思うよ。

 

 

 「ジャイアント・トードはパッと見ただの大きなカエルですが、繁殖期になると産卵のための体力をつけるために人里まで降りてきて、人とかヤギとかを丸呑みしていくんです。ちなみに、その肉は若干固めですが焼くと結構いけるんですよ」

 

 

 大きなカエルか。

 巨大化したことによって驚異的な脚力を持り、尚且つ伸びる舌によって遠距離からも攻撃が出来るものととりあえず考えて戦闘をしようか。

 

 

 「なるほど。大体分かりました。今からさっそく討伐に向かおうと思うのですがよろしいでしょうか?」

 

 

 「問題ないです。爆裂魔法の威力、とくと見せてあげます」

 

 

 話しをまとめ、今度こそ俺は仕事を完遂するために冒険者ギルドの建物を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 カカッとジャイアント・トードが出現する場所に来てみると、そこは見晴らしのいい草原であった。ざっと見渡す限り遮蔽物は特になく、少しはなれたところに居るジャイアント・トードがよく見える。

 

 

 「私がアレに爆裂魔法をかけますからしばらく足止めをお願いします」

 

 

 「あのジャイアント・トードはこちらに気付いている様子もないですし、今のうちに詠唱でもしてたらどうですか?」

 

 

 「言われずとも……!『黒より黒く闇より暗き漆黒に―――』」

 

 

 少女めぐみんが持っている杖を上に掲げ、詠唱を始めるとその杖にある宝石のような部分に黒い流動が渦巻き始めた。

 彼女の周囲が暗闇を帯び、激しく風が荒れ狂う。素人目から見ても強大な力が渦巻いていることが一目瞭然だった。

 

 

 その変化を感じたのは俺だけではなく、少し遠くに居るジャイアント・トードも同じだったらしい。こちらに顔を向けて俺たちを視界に捉えると、その大きく強靭な足を使ってこちらに一気に接近してきた―――――――ということはなく、普通のカエルのようにぴょこぴょここちらに向かってきた。体の大きさが大きいために効果音はぴょんぴょんではくドスンドスンだったが。その分進む距離は長い。

 

 

 未だに詠唱をしている少女めぐみんを一瞥した後、俺は神機を両手で構えるとそのまま地面を蹴ってジャイアント・トードに肉薄する。

 お互いがお互いのほうに向かっているためすぐに俺とジャイアント・トードの距離はゼロになる。近くで見てみると予想よりも大きいがアラガミもこんな感じだったので気にすることなく神機を水平に薙ぎ払う。しかし、その攻撃はジャイアント・トードがその脚力で体を宙へと躍らせたために不発に終わった。

 今度はジャイアント・トードが先程のお返しだといわんばかりに口から舌を出し、こちらに向けて高速で打ち出した。目にも留まらぬ速さで繰り出される舌を体勢を低くし、低いハードルを潜り抜けるように移動して回避すると舌を仕舞おうとして無防備な姿をさらしているジャイアント・トードに一太刀浴びせようと再び接近……したところで、

 

 

 

 「エクスプロージョン!!」

 

 

 一際大きかった少女めぐみんの声が背後から聞こえてきた。詠唱を終えたのだろう、そうと分かればこいつに用はないと、接近しようとしていた力を全てバックステップにまわした。その直後、

 

 

 ズドォン!!

 

 

 ジャイアント・トードの頭上に渦巻いていたエネルギーが一気にジャイアント・トードに殺到、接触し、巨大な火柱を作り出した。

 その余波に俺は大きく吹き飛ばされ、衣服を若干燃やされたが、空中で二回転ほどして勢いを弱めた後地面に着地した。その後、火柱が立っていた場所に目を向けると、小型の隕石が振ってきたかのような光景が飛び込んできた。これはすごい威力だ。さすが、最強の攻撃魔法といわれるだけのことはある。攻撃のタイミングがいささか早くて俺が少々巻き込まれたりもしたけど。

 それでも、いい仲間に出会えたと、コレを起こした張本人に視線を向ければ、そこには地面に突っ伏している少女めぐみんの姿があった。

 

 

 「なんで!?」

 

 

 まさか爆発の余波で自分がダメージを喰らったとかか!?

 

 

 「ぐ……我が爆裂魔法はその絶大な威力に比例して消費する魔力も絶大なのだ。……要約すると、私の魔力量を超える魔力を使うのでこのように魔法を撃った後は動けなくなります」

 

 

 「ファッ!?」

 

 

 使い勝手悪すぎィ!

 ついでに今の爆発音で起きたのか、そこらへんからジャイアント・トードがぽこぽこわいてきやがった。

 

 

 「あの、この音なんですか?地面から湧いてきたんですか?」

 

 

 「大正解っ!?」

 

 

 「ヤバイです。食べられちゃいます。助けてください。へるぷみー」

 

 

 「ざっと見た感じ6体は軽くいるんですけどぉ!?」

 

 

 ジャイアント・トードが近付いている音が聞こえているにも関わらず動く気配の見せない少女めぐみん。これは本気で動けない奴や……と思った俺は、覚悟を決めて少女めぐみん一番近いところにいるジャイアント・トードに向けて神機を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 ジャイアント・トード 七匹を討伐  ジャイアント・トード×7=35000エリス

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 何とか七体のジャイアント・トードを倒した俺はこれ以上増えないうちに、ぶっ倒れている少女めぐみんを背負って俺が駄女神に落とされた町に帰って来た。どうやら仕事の報酬とは別にモンスターを倒した分もお金がもらえるらしく先に倒した分だけ換金してもらう。

 ついでにもらったお金で宿を取り、ぶっ倒れている少女めぐみんをベットに放り投げた。

 

 

 「へぶっ!?な、なにするんです……病人はもっと丁寧に扱ってください……」

 

 

 「貴女が患っているのは心の病だけでしょうが……」

 

 

 頭を動かすくらいの力は回復したのか、顔だけをこちらに向けて恨めしい視線で俺を射抜いてくる。しかし、そんな事は今はどうでもいい。

 

 

 「爆裂魔法は何時もあんな感じなんですか?」

 

 

 「そうです。強大な威力と引き換えに魔力の消費も多いのです」

 

 

 「えー……じゃあ他に小技として使える魔法は?」

 

 

 「私は爆裂魔法一筋なのです」

 

 

 「じゃあ他の魔法は……」

 

 

 「習得なんてしてませんし、今後一切するつもりはないです」

 

 

 「はぁ……」

 

 

 思わず額に手を当てて、溜息を吐く。

 確かに、爆裂魔法は最強の攻撃魔法と呼ばれるだけの威力だった。ターゲットの頭上に狙いを定めていたことから追尾能力もまぁあるのだろう。……でも、一発撃ったら再起不能は痛い。かなり痛い。戦闘時にこれでは正直話にもならん。

 

 

 「すいません。おなかがすきました。何か食べ物はありませんか?魔法もつかったのでもうおなかペコペコなのです」

 

 

 ……俺は選択を間違えたかもしれない。

 ベットの上を芋虫の如くにょきにょきしながら近付いてくる少女めぐみんを見て俺はしみじみそう思った。

 

 

 

 

 

 

 




めぐみん「パーティーを組んでくれて助かりました。コレで心置きなく爆裂魔法が使えますです」

仁慈「少しはこっちにも配慮してくれませんかねぇ……」


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この邂逅に後悔を!

 

 

 

 翌日。

 

 

 見知らぬ天井の部屋で目が覚めた俺は寝起きの鈍い頭もあり、混乱した。ここは何処だ!?と寝ていたベットから飛び起きてしきりに自分が居る部屋を観察したりして、自分が駄女神の所為で異世界に放り込まれたことを思い出した。……ついでに若干使えない疑惑があるアークウィザードの少女、めぐみんとパーティーを組み、なし崩しに同じ宿に泊まったことも思い出した。

 ある程度の間隔をあけた場所に備え付けられているもう一つのベットにめぐみんが寝ている。それはもういい顔で寝ている。魔法一発撃ってぶっ倒れた挙句、俺に飯を食わさせたのに、いかにも一仕事したあとの快眠という風に寝ている。少しだけイラっとした。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 完全に頭が覚醒したので、今後の予定を組み立てていく。

 まずは昨日しとめ損ねたジャイアント・トードの討伐だ。昨日で七体倒したので、残りは三体……このくらいならパパッと終わらせることが出来る。多分午前中で片付くだろうし、そのときに受け取る報酬で昼飯を取った後にまた別の仕事をすればいいか。

 

 

 「それにしても……」

 

 

 考え事がひと段落したため、俺は自分の冒険者カードを取り出して眺める。そこには狂戦士レベル4と書かれていた。どうやら本当にレベルが上がったりする仕様らしい。しっかりと能力値も上昇していた。

 元々、こういったことがないところで化け物相手に戦っていた身としてはちょっと複雑な気持ちだけど。

 

 

 「うぅ……んぅ……ん?あ、おはようございます」

 

 

 めぐみん起床。

 冒険者カードを眺めていた俺を不思議そうな顔で見つつ、目をくしくしこすっている。ちなみに左目の眼帯はつけていない。強大な力が封印されているとか言っている割には、ごく普通に外して寝ていた。

 なんか色々適当だよね。この子。

 

 

 「おはようございます。さっそくで悪いんですけど、今日の予定について話したいのですがよろしいですか?」

 

 

 「ん、問題ないです。……それと、敬語じゃなくてもいいですよ?私のほうが明らかに年下なのに敬語使われるってなんか違和感が……」

 

 

 「そうですか?なら―――――そうさせてもらうわ」

 

 

 俺も久しぶりに敬語使ってたから違和感あったんだよね。まぁ、それはいいとして。俺は先程考えていた予定をめぐみんに話す。一通り話し終わると彼女も異議はないのかすんなりと頷いてくれた。

 

 

 「よし、予定も決まったことだし、さっさと朝ごはん食べて昨日の続きをしようか」

 

 

 「そうですね。私も早く爆裂魔法を使いたいです」

 

 

 壁に立てかけてあった杖を手にとって立ち上がっためぐみんが言う。

 

 

 「あ、それは無しの方向で……」

 

 

 「えぇっ!?」

 

 

 何故そんな驚くのだろうか。

 詠唱に時間がかかり、範囲も割りと広く、何より撃った後に行動不能になる超ピーキー魔法を使わせると思っていたのだろうか?上記のことを戦いの場でやった場合は普通は即死である。昨日はたまたま運が良かっただけに過ぎない。いや、本当に。俺が居たとこで行動不能になってみろ。上田!からの即死コンボ安定だぞ。

 

 

 ごく当たり前なことを言ったと思うのだが、言われた本人は世界の終わりといわんばかりの表情でベットに座り込み、体を震わせていた。そこまでか。そこまでして魔法を使いたいのか。

 

 

 「あのさ、他には何か覚えてないのか?上級職についているんだから、他の魔法もある程度使えるはずだろ?」

 

 

 「使えません」

 

 

 「えっ」

 

 

 「他の魔法は使えない」

 

 

 「何それ怖い」

 

 

 え?爆裂魔法は最強の攻撃魔法で、めぐみんは魔法職の上位版であるアークウィザードとかいうものなんだろう?だったら下級魔法の一つや二つくらい使えたりしないのだろうか?

 

 

 「確かに、習得しようとすればある程度のものは習得できるでしょう。それらを習得すれば今後はさらに楽になることでしょう。しかし……!ダメなのです。私は、私は爆裂魔法しか愛せない。使えない!例え、魔力の消費が大きく、一日一回しか使えないとしても……それでもッ!私は爆裂魔法しか愛せない!なぜなら、爆裂魔法を使いたいがために私はアークウィザードになったのだからっ!」

 

 

 拳を強く握り締めて、気付けば俺の懐に入り込んでそう熱弁する。あまりの迫力に俺は声が出せずにただ「お、おう……」という言葉が口からこぼれただけだった。

 

 

 「そもそも、私の目的は爆裂魔法を使うことにあります。ぶっちゃけそれが出来ないならパーティーを組む理由がありません」

 

 

 「だったら解消する?パーティー」

 

 

 「…………」

 

 

 俺の言葉に黙り込む彼女の様子を見て、俺はある一つの答えにたどり着いた。昨日、めぐみんが最強の攻撃魔法を使え、上位職であるアークウィザードであるにも関わらず新人の俺とパーティーを組むのかということを考えていた。昨日はめぐみんが自分で言ったとおりの理由かと思ったが……。これは違う。新人で何も知らなさそうな俺としかパーティーを組めなかったのか。

 上級職とは言え、使える魔法が超ピーキー魔法、それも味方を巻き添えにする危険を孕んだものしか使えないというのであればパーティーを組めないことにも納得だ。

 

 

 めぐみんはまるで捨てられた子猫のような瞳でこちらを見てきた。軽く言った一言でここまでの反応をされると結構罪悪感が……。

 

 

 

 「冗談、冗談。パーティーは解消しないからその目で俺を見るのは止めてくれ。俺の精神がゴリゴリ削られていく」

 

 

 「でも、爆裂魔法……」

 

 

 「周囲に敵が居ないことを確認したら使わせてあげるから」

 

 

 そう言った瞬間、今までの暗い表情から一転して太陽のような笑みを見せるめぐみん。その笑顔のまま俺の近くまで来て袖を引っ張ると、

 

 

 「さぁ、早速爆裂魔法を使いにいきましょう!」

 

 

 「目的変わってますけど、俺たちは仕事をしにいくんですけど」

 

 

 「その前に腹ごしらえですね。行きますよ、ジンジさん」

 

 

 「聞いて」

 

 

 この子人の話聞かなさすぎィ!

 ぐいぐいと外見からは想像もできない力で引っ張られる袖と同じく引っぱられている俺は何とか壁に立てかけてあった神機を回収して彼女の後についていった。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――

 

 

 

 

 と、こんな感じで異世界で生活を始めて早数日が経過した。え?あの後はどうしたのかって?普通にジャイアント・トードを討伐してめぐみんが爆裂魔法をブッパしただけだよ。そして、その仕事で稼いだお金で初仕事成功パーティーしたりしただけだ。別の日にもまた別の仕事を請けて過ごしただけだし。森に変な影響を与える木をめぐみんが爆発させたり、戦い方を教えて欲しいという人に神機使い式戦闘技術を叩き込んだり、兄貴にお礼したりしていた。

 

 

 そして、今日も同じように簡単な仕事をこなして過ごそうと思ったために冒険者ギルドの仕事案内の場所へとやってきたのである。いや、俺の目的は魔王を倒してもとの世界に帰る事なんだけど、手がかりがまったくないんだよね。だからこうして金策に走っているんである。俺、RPGではサブクエも出来るだけクリアしていくタイプだし。

 

 

 「ん?これは……」

 

 

 しかし、仕事受付カウンターへと向かっている途中めぐみんが何を見つけたのか、一つの掲示板へとその歩を進め、その掲示板に張ってある一つの張り紙を読み始めた。

 どうしたのかと思い、俺も彼女の背後からその紙を覗き込む。

 

 

 『急募!アットホームで和気藹々としたパーティーです。美しく気高きアークプリースト、アクア様と旅をしたい冒険者はこちらまで!』

 

 

 パーティーに加わったAさん

 『このパーティーに入ってから毎日がハッピーですよ。宝くじにも当たりました』

 

 

 同じくBさん

 『アクア様のパーティーに入ったおかげで病気が治ってモテモテになりました』

 

 

 『採用条件、上級職に限ります』

 

 

 

 「うわぁ……」

 

 

 うわぁ……。

 掲示板に書かれていたその内容に心の中で思ったことがついつい口に出てしまう。なんだこの内容。典型的な詐欺の手口じゃないか。このAさんBさんの証言が本当だったらもう募集する意味もないだろうし……。コレ考えた奴頭が残念なのかな?

 

 

 「上級職……ジンジさん。私たちいけますよ。当てはまってますよ」

 

 

 「やめろ」

 

 

 何故かこの急募用紙を見てパーティーに加わる気満々のめぐみんを引き止める。なんでこの内容でパーティーに加わろうと思えるんだ。一応俺より知力高いんだからさ。もう少し物事を考えてから行動に移しましょうよ。

 

 

 「何ですかその馬鹿を見るような視線は……。私のほうが知力高いんですからね」

 

 

 「ホント、ステータスの数値は当てにならないよね」

 

 

 「それは遠回しに私が馬鹿ってことですか!?これにはちゃんと理由があるんですよ」

 

 

 「へぇ……その理由は?」

 

 

 

 「いいですか?ここに書いてあるアークプリーストというのは私たちと同じ上級職で、回復魔法や蘇生魔法を使うことが出来る職業です。また、こういう職業にありがちな接近戦も問題なくこなせる万能職です。この職業の人が1人いるだけで、戦闘面での効率がかなり変わってきます」

 

 

 なるほど。回復魔法はともかく蘇生魔法まで使えるのか……。というかこの世界では蘇生できるのが一般的なのか……。本当にゲームみたいになってんな。今度めぐみんが倒れたら棺おけに入れて引きずって町に帰ってこようか。まぁ、それはともかく。

 アークプリーストが物凄い職業だということは分かった。それに伴いアークプリーストになるその人物も凄いのだろう。でも、なんか名前に引っかかりを覚えるんだよなぁ。こう、つい最近ひどい目に遭わされたような、そんな感じが。

 

 

 「まぁ、行くだけ行ってみようか」

 

 

 「そうですね。ついでに、爆裂魔法も普及させます」

 

 

 「おいやめろ」

 

 

 あんな魔法を放つ奴を量産されてたまるか。

 必死にめぐみんを抑えつつ紙に書いてあった場所に向かう。すると、この世界では絶対にありえないジャージ姿の少年と、どこかで見たことのある青髪の痴女擬きが木製の椅子に座っていた。

 どうしよう。今すぐ帰りたくなってきた。

 

 

 直接本人を見たことにより、疑惑が確信に変わりすぐに帰ろうと思うがとき既に遅し、めぐみんが既に異世界人組みに話しかけていた。

 

 

 

 「募集の張り紙、見させてもらいました」

 

 

 

 あぁ、もうどうにでも成れ。

 ずんずん話しを進めていくめぐみんを見て俺は一つ溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仁慈「あれ?めぐみんがコレでパーティー組めたら俺要らないんじゃないか?……よし、解消だな」

めぐみん「止めてください、置いていかないでください。あなたが居ないとわたしカエルに喰われる気がします!」




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このパーティーメンバーに常識を!

キャラ崩壊注意!



 

 

 

 

 

 

 トラクターに轢かれそうになりショック死して、駄女神を引っ張って異世界に転生してしばらくが経ち、ようやく冒険者らしいことをしようと思ったら早速壁にぶち当たってしまった。

 俺たちが仕事として請け負った巨大カエル、ジャイアント・トードは思っていた以上の強敵だった。昨日はアクアが食われているうちに俺が倒すという囮作戦でなんとかなっていたのだが、それでも二体倒すのが精一杯だ。そこで、アクアが仲間を募集しようと言い出した。ろくに装備もそろっていないパーティーに人が来てくれるかどうか不安があったが、アクア曰くアークウィザードは引く手が数多なので心配ないとのこと。

 

 

 で、その翌日なのだが……。

 

 

 

 「……………来ないわねぇ………」

 

 

 アクアが寂しそうに呟いた。

 張り紙を張ってからはや半日が経過したが、誰も俺たちのパーティーに加わってくれるという人は現れていない。だからといって誰も掲示板を見ていないかといえばそういうわけでもない。別の張り紙を見て、パーティーを組んでいた人たちも近くに居たからである。つまりは俺たちの張り紙を読んでそれで遠慮しているのだろう。いや、気持ちは分かる。張り紙に書いてあることが書いてあることだからだ。

 

 

 

 『急募!アットホームで和気藹々としたパーティーです。美しく気高きアークプリースト、アクア様と旅をしたい冒険者はこちらまで!』

 

 

 パーティーに加わったAさん

 『このパーティーに入ってから毎日がハッピーですよ。宝くじにも当たりました』

 

 

 同じくBさん

 『アクア様のパーティーに入ったおかげで病気が治ってモテモテになりました』

 

 

 『採用条件、上級職に限ります』

 

 

 うん。コレで来るのは、アクア並みに知力が低い奴だと思う。内容は詐欺と変わらなからな。せめて上級職限定の条件を外すとかはしたほうがいいよな。

 この条件を外すだけで大分ハードルは下がるし、何より上級職だけだと俺の肩身が狭くなる。

 このままだとまた昨日と同じくアクアに食われてもらうしかなくなるぞ。

 

 

 「募集の張り紙、見させてもらいました……」

 

 

 『えっ?』

 

 

 そんなセリフと共に現れたのは、見た目十代前半の少女と十代後半の青年。少女のほうはマントにローブ、帽子に杖といかにも魔法使いと言った外見で左目には眼帯をつけている。髪の色は黒髪だが瞳の色は珍しく赤色であった。

 青年のほうはここらでは絶対に見かけないであろう服装。明らかにこの世界で作られたわけではないデザインのジャケットとズボンを身につけている。髪の色は銀髪で瞳は少女と同じく赤色。ぶっちゃけ、一昔前に流行った「ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこう」のような外見だった。手に持っている武器はまたも見たことないもので鎌のような形状だが、外側にはシールドらしきもの、持ち手に近いところには銃口のようなものも確認できる。変形でもするのか?

 

 

 「私はあなた方のような存在を待ち望んでいた!」

 

 

 『えっ』

 

 

 「我が名は、めぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの!」

 

 

 「えっと……」

 

 

 どうしよう。すごく反応に困るんだが……。

 後ろに居る銀髪の青年も頭を抱えてあちゃーって言ってるし。

 

 

 「フフン……あまりの強大さ故に、世界から疎まれし我が禁断のt「いい加減にしなさい」痛っ!?」

 

 

 呆然と彼女の話を聞いていると、めぐみんと名乗った少女と共にいた青年が彼女の頭をスパーンと叩き言葉を中断させてくれた。めぐみんはそのことに対して青年に抗議し始める。

 この隙にアクアへと話しを振った。

 

 

 「なぁ、あの子一体なんだと思う?」

 

 

 「あの赤い瞳からするに多分紅魔族よ。紅魔族は生まれたときから高い魔力と知力を兼ね備えているの。そのことから大抵はみんな魔法使いのエキスパートで、変な名前を持っているわ」

 

 

 

 だからめぐみんなのか。

 ん?待てよ。アクアの言葉が本当だとするならば、あの隣の青年も紅魔族なのか?装備とか格好とか、明らかに魔法職じゃあなさそうだけど。

 

 

 「なら、あの隣の銀髪の奴は?同じ赤色の瞳を持ってるし、紅魔族なのか?」

 

 

 アクアに尋ねる。すると今度は先程のようにすぐに答えるのではなくすすーっと視線を逸らした。何でだ。

 

 

 「えーっとアレは、違うわ……違う……うん」

 

 

 どこか煮え切らない言葉を溢す。

 視線を逸らすってことは何か後ろめたいことがあるってことだろう。そして、あの明らかにこの世界で作られたわけではないであろう服……。個々から導き出される答えは。

 

 

 

 「俺と同類か……」

 

 

 これに限る。

 けれど、ここに来るのは肉体と記憶を引き継がなくてはならない。そのことから考えるとあの容姿は元からということになる。アルビノだったのだろうか。

 そのようなことを考えているとあちらのやり取りは一通り終わったらく、再びこちらに向き直っていた。

 

 

 「この子は話しをややこしくするので変わりに説明しますね。簡単に言ってしまうと私たちをパーティーに入れてくれませんか?ということです」

 

 

 

 「それは是h「じじじじじ、条件は見てきたんでしょうねッ!?」おい駄女神……」

 

 

 せっかくパーティーに入ってくれるって言ってるのに何でそんな事言ってんだ。このまま行くとまたお前に喰われてもらわなといけなくなるのが分からんのか。この戯けが。

 

 

 「特にそこの貴方!上級職じゃないと、このアクア様のパーティーには入れないわよ!?」

 

 

 俺の気持ちなんて露知らず、銀髪の青年に指を突きつけてそう宣言する。宣言されたほうの青年は額に青筋を浮かばせて、顔を引きつらせつつ自身の冒険者カードを取り出して俺に見せた。

 

 

 「ば、狂戦士(バーサーカー)?」

 

 

 「一応、上級職です。実は私、とてもこのパーティーに入りたかったんです。………そちらの女性とも……話したいことが……あるので……ね?」

 

 

 「ピィ!?」

 

 

 アクアが涙目で怯え始める。

 今回ばかりは俺も同じ気分だ。なんだ今の笑顔超怖ェ……。俺と同じ地球から来た(暫定)とは思えない気配だった。多分、アレが殺気って言うんだろう。

 ダメだ。常識人かと思ったが、こいつもぶっ飛び枠だった。俺に味方は居ないのか。

 

 

 「まぁ、なんにせよ。コレで条件はそろっているわけですし、パーティーに入れてもらえますか?」

 

 

 「あ、あぁ……上級職2人がパーティーに加わってくれれば、俺たちとしても心強いよ」

 

 

 若干一名ほど猛反対している元なんたらが居るが、大した問題じゃないだろう。

 

 

 「さっそく向かおうか。ジャイアント・トードを狩りに」

 

 

 

 

 

                ――――――――――――――

 

 

 

 

 またあのカエルか……。

 めぐみんが突撃したパーティーになんとか加わることが出来たのだが、明らかにあのアークプリースト……俺をこの世界に「手違い」で送り込んだ駄女神だろ。ちょっと威圧したら涙目になったし。隣にいるのはこの世界観にかけらも合わないジャージを身に纏った少年だ、彼がこの世界に来たときに巻き込まれたか、「なんでも」の条件に当てはめて連れ込んだんだろう。

 

 

 「ところでめぐみん。コレで念願のパーティーを組めたわけだが、俺はもう用済みじゃないか?」

 

 

 「んなっ!?この数日、一緒にパーティーを組んだというのに愛着とかわかないんですか!?」

 

 

 「特に」

 

 

 「鬼!悪魔!仁慈!」

 

 

 何でそこまで言われなくちゃいけないんですかねぇ……。初めはこの世界の知識をもらえていいかもしれないとか思ったけど、よくよく考えてみれば兄貴のほうがこの世界に詳しそうだし。知力が高いといっても色々残念だし。

 

 

 「ひどいです……ひどすぎます……あんなに良くしてくれたのに」

 

 

 「まぁ、一日一回は必ず爆裂魔法を撃たせてあげてたしね」

 

 

 「私のおなかにいっぱい熱いものを注いでくれたのに」

 

 

 「勝手に頼んでたからね。コーンスープ。しかも注いでないし、自分でがぶ飲みしてたし」

 

 

 「な、何度も夜を共にしたのにッ……!」

 

 

 「十代前半の小娘が何をほざくか。同じ部屋で寝泊りしただけだろ」

 

 

 「辛辣ッ!?」

 

 

 がっくりと肩を落とすめぐみん。

 

 

 「何がそんなに不安なわけ?」

 

 

 「だって……私の実態を知ったらあの人達もパーティーから外そうとするのでは」

 

 

 「大丈夫だろ」

 

 

 だって駄女神を同じパーティーに加えているくらいだし。あの少年、色々不幸な目に遭いそうな人相をしているが、案外面倒見良さそうだしね。

 

 

 「そうだといいんですが……」

 

 

 そうこう話し合っているうちに目的地に到着した。見覚えのある草原で、この前十匹倒したにも関わらず再び何体か沸いている。

 ざっと見渡す限り、2、3……3匹か。

 

 

 「爆裂魔法は最強魔法……その分、魔法を使うのには準備時間がかかります。なので、カエルの足止めをお願いします」

 

 

 「といっても……カエルは3体居る。俺たちも三人だけど、正直俺とアクアで一体の足止めが精一杯だ。だから一番遠いカエルを魔法の標的にしてくれ」

 

 

 「わかりました」

 

 

 「アンタには悪いんだが、一人でカエルの相手をしてもらいたい」

 

 

 「問題ありません」

 

 

 指示を出すジャージ少年にそう言葉を返す。

 伊達にジャイアント・トードを10体狩ったわけではない。そのことを証明しようじゃあないか。

 俺に指示を出し終えたジャージ少年と駄女神が何かを言い合っている間に俺は一番近いジャイアント・トードに接近する。俺はコイツの効率的な倒し方を編み出したんだ。

 

 

 接近した俺に対して戦闘態勢を取るジャイアント・トードに対して俺はヴァリアントサイズを咬刃展開状態にし、地面を踏みしめて飛び上がると、そのまま宙で横回転をする。回転の力と重力の力を足した神機は普段よりも強い力でジャイアント・トードに向かい、その巨体を真っ二つに両断した。

 コレが効率のいいやり方である。横薙ぎにすると、脚力を生かして回避されるので飛んでも問題ないように縦に切りつける……コレこそが一番いい対処法である。

 

 

 「震えながら眠るがいい!ゴットレクイエム!!」

 

 

 両断し終えたジャイアント・トードを眺めていると、俺の右斜め前からそんな気合の入った声が届く。視線を向ければ、手に持っている杖から金色の光が出現しそれを伴いながらジャイアント・トードのお腹に向かって突撃をかまし………喰われた。

 

 

 「………歯もないし、足も出てる。口内で消化されることはないだろうし、放置でいいか」

 

 

 駄女神から視線を外すと、今度はめぐみんが詠唱の最終段階に入っていた。

 そして、

 

 

 「エクスプロージョン!」

 

 

 最強の魔法が放たれる。

 威力だけは最強の名に恥じないものであり、今回も対象となったジャイアント・トードは跡形もなく消滅していて、地面には溶解した地面だけが残った。案の定、めぐみんは倒れた。

 

 

 「コレが魔法か……すごいじゃないか!めぐみ……ん……?」

 

 

 そして、ジャージ少年が魔法の威力を称えようとと振り向いたときに地面に倒れているめぐみんの姿を発見していた。

 

 

 「……………えっ?」

 

 

 「爆裂魔法は威力こそ強いものの、燃費がすっごく悪いんですよ。で、めぐみんが撃った場合はああなります」

 

 

 混乱を極めているであろうジャージ少年に説明を入れる。

 

 

 「えー………ところでアンタに頼んでおいたカエルは?」

 

 

 「あそこ」

 

 

 「ヴェ!?」

 

 

 どうやら刺激が良すぎたらしい。俺が指差したところを一瞬だけ視界に入れて、すぐさま逸らしていた。

 まぁ、今まで戦いとは無縁の世界に居たんだし、仕方ないのかもしれないけど。

 

 

 「仁慈さん。暢気にしゃべってないで、早く回収してください。食べられます。カエルに食べられちゃいます」

 

 

 「あーはいはい。ちょっと待っててねー!……ところで、そろそろあの駄女神助けないと不味いんじゃ……」

 

 

 「そうだ!忘れてた!こぉらぁ、駄女神!結局喰われてんじゃねーぁあああああ!!」

 

 

 ………大変そうだなぁ。

 もう靴しか見えないほど駄女神を丸呑みしているジャイアント・トードに向かって叫びながらジャージ少年は駆け出していった。俺もめぐみんを回収しないと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。昨日ほどじゃないが疲れた。

 どろどろの粘液にまみれた元なんたらと、赤目の白黒コンビを伴い町に帰って来た俺はそう思った。

 アクアが使えないのは、まぁ知ってた。しかし、アークウィザードを名乗るめぐみんも同類だったとは……。威力は確かにすごかった。けど一日一発という制限がキツすぎる。唯一上級職の貫禄を見せる戦いをしたのは銀髪の青年、仁慈だけだった。彼だけ引き抜くということは出来ないのであろうか?

 

 

 「んー……難しいですね」

 

 

 本人に聞いてみた。

 そして返答がコレである。

 

 

 「何でだ?俺たちが弱小パーティーだからか?それともコレが居るからか?」

 

 

 「ちょっと、コレって何よ。私は女神様なのよ?もっと敬いを持ちなさいよ」

 

 

 「……神……」

 

 

 「ヒィ!?」

 

 

 やっぱり、仁慈という青年は欲しい。本人の戦闘力はもちろんこの駄女神を封じ込めることが出来るのはでかい。

 

 

 「単品はダメです。セットなら大歓迎です」

 

 

 「なんでお前が答えたんだよ」

 

 

 「まぁ、こういうことなので……」

 

 

 「んー……でも、いいか。これからお願いするよ」

 

 

 めぐみんの攻撃力は確かなものだし、彼女のフォローには仁慈に回ってもらえばいい。

 

 

 仁慈とめぐみんをパーティーに加えた後、べとべとな状態のアクアと風呂に入りたいと言っていためぐみんを銭湯に叩き込むと男組みである俺たちはギルドのほうで仕事完了の報告をして報酬をもらう。

 

 

 「全部で十一万か……山分けして1人約二万八千ほどか……命を賭けたのに、割りにあわねぇ」

 

 

 「あ、今回は私とめぐみんの分はいりませんよ。あの駄女神と2人で分けてくださって結構です」

 

 

 「マジで!?」

 

 

 やっぱこの人、いい人だなぁ。

 ……そういえばすっかり忘れてたけどこの人も俺と同じく日本から来た人だよな。アクアのことを女神と認識しているし、武器も服もここで調達したものとは思えないし。それにしては戦いに慣れすぎている気がする。結構長くこの世界に居たりするんだろうか?

 

 

 「なぁ。アンタも俺と同じように日本から来たんだよな?」

 

 

 「そうですよ」

 

 

 「ここで生活して長いのか?」

 

 

 「そうでもないですよ。まだ一週間とちょっとです」

 

 

 「俺たちとそう変わらないのかッ!?」

 

 

 意外だ。戦い方からして結構長いのかと思っていた。なら、頼んだものは戦いの才能とかなのだろうか?

 

 

 「アクアから何もらったんだ?戦いの才能?」

 

 

 「いや、この武器ですね」

 

 

 ということは戦闘能力は自前なのか……。どうなってんだ?はたから見ても決して使いやすいとはいえない武器であんな戦いが出来るなんて……。

 一体どんな生活をしていたのかと尋ねようとするが、それよりも早く俺たちに声をかけた人物が居た。

 

 

 「募集の張り紙、見させてもらった。まだメンバーは募集しているだろうか?」

 

 

 一応パーティーの基本の4人はそろっているし、断りを入れようと振り返る。するとそこに居たのはプレートメイルに身を包んだ金髪の美女。凛とした瞳が、長い髪を後ろで一つにまとめるいわゆるポニーテイルと呼ばれる髪型と実によく似合っていた。

 

 

 「は、はい!」

 

 

 断るつもりだったのに美人とわかってそう答えてしまうのは男として悲しい性だな。

 

 

 「よかった。私は、貴方達のような存在を待っていた。わ、私の名前はダクネス……ん、はぁ……く、クルセイダーを生業とする者だ……はぁ……はぁ…あっ」

 

 

 「………あ、これヤバイ奴だ」

 

 

 息が荒く、頬を上気させる金髪美人の様子に隣に座っている仁慈がそんな言葉を洩らした。

 

 

 「ぜ、是非この私を、ぱぱぱぱぱ、パーティーに……ッ!」

 

 

 このとき、仁慈の言葉を聞いて置けばよかったと思うことを俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダクネス「あ、貴方は相当力が強いらしいな……」
仁慈「こっちみんな」


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この神機使いに平穏を!

サブタイトル考えるのが辛くなってきた……。


 

 「考え直すんだジャージ少年。この人をパーティーに入れると後々絶対後悔するぞ」

 

 

 誰がジャージ少年だ。ってそういえばお互いに自己紹介してなかった。俺は冒険者カードを見て、向こうはアクアとの会話を聞いて名前はお互いに知ってるけど、自分で自己紹介しないと名前は呼ばないタイプらしい。

 

 

 まぁ、今はそんな事はどうでもいいとして……。どうして仁慈はそこまで言って彼女のパーティー入りを阻止しようとするのだろうか?取り分が減るからか?いや、知り合ってからまだ間もないが、一緒に居てトクなんてほぼないめぐみんと数日パーティーを組んでいる奴だ。そういった欲はあまりないだろう。

 

 

 「あ、あの粘液まみれの少女は君のパーティーメンバーだろう?一体何をどうやったらああなるんだ……」

 

 

 ……変なことを聞く人だな。

 

 

 「えーっと……ジャイアントトードに捕食されて粘液まみれn「なッ!?」」

 

 

 

 俺が言った言葉にかぶせる形で驚愕するダクネスと名乗る女騎士。

 

 

 

 「想像以上だ……」

 

 

 ……なんだろう、この女騎士…………目がヤバイ。

 今も、年端も行かない少女がそんな目に遭うなんてッ!とか言っているけど、若干トリップしている目で息を荒くしていらっしゃる……。

 

 

 「……ちょっと用事を思い出したからいったん席を外しますね」

 

 

 「待て待て待て待て!」

 

 

 ちょと待てwait!置いていかないで!一生のお願いだからッ!

俺に忠告してきたくらいだからもっと早くこの女騎士の特異性というか異常性を見抜いていたであろう仁慈が脱出を図ろうと席を立つ。俺も今になって感じた。こいつはアクアやめぐみんに通じるものを持っている。……簡単に言えば、残念属性を内包しているッ!

 それに対して、こちらそうはさせるかと言わんばかりに彼の袖を掴んだ。

 

 

 「どうしたんですか?今日は早めに寝たいのですが……(何をする。俺の忠告を無視して断ることを躊躇ったのはジャージ少年のほうだろう?こんなとこに居られるか、俺は宿屋に帰らせてもらう)」

 

 

 「いやいや、夜はまだ長い。今日の報酬で一杯やってこうぜ(コイツ……直接脳内に……ッ!じゃなくて、自分だけ逃げようたってそうはいかねぇぞ!というかそれがお前の素か)」

 

 

 女騎士に見えない位置で、攻防を繰り広げる俺たち。負けられない戦いがここにあった。この結果によっては負担する重荷がかなり変わってくる。逃がすわけには行かないッ!

 

 

 しかし、現実は非常である。俺が引きこもりやってたときから分かっていたことだが、まさにその通りだ。

 やり取りの中心にいる女騎士は仁慈の袖を掴んでいないほうの腕を掴んで俺に顔を近づけていた。

 

 

 くっ、こうなったらウチのパーティーのダメさ加減を知らせて本人のほうから離れてもらうしかない!

 

 

 「いやーお勧めはしませんよ?1人はよく分からないし、もう1人は一日一発しか魔法が撃てないし、そこに居る奴は1人だけ世界観違うし、俺は最弱職の冒険者。このようにポンコツパーティーなので他のところをお勧m「なら尚更都合がいい!」いだだだ!?」

 

 

 なんて力してんだこの女!

 強力な力で握られた腕をさすっていると、女騎士は若干恥ずかしそうに口を開いた。

 

 

 「ちょっと言い辛かったのだが……私は力と耐久力には自信があるが、不器用で……攻撃がまったく当たらないのだ」

 

 

 「完全なる肉盾……だと……!?」

 

 

 まさにメイン盾(盾しかできないという意味)。

 戦慄する仁慈を他所に、俺は自身のセンサーが正しかったことを確信した。

 

 

 「というわけで、ガンガン前に出るので盾代わりにこき使って欲しい!もちろん、モンスターの攻撃の盾、触手、捕食もバッチコイだ!」

 

 

 「「うわぁ……」」

 

 

 

 思わず、引き気味な声が口から零れだす。

 

 

 「(……これって、性能だけでなく中身まで残念な奴だよな……?)」

 

 

 「(そうだな。彼女は被虐嗜好の人……ありていに言ってしまえばドMだ)」

 

 

 仁慈と顔を見合わせ、自分の中の懸念が事実に変わったことを自覚したとき俺たちは同時に溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 なんでこの世界まともな人が居ないんだろうか……。

 昨日、カズマ―――昨日の一件でカズマと呼べといわれた――――のパーティーに入りたいと希望したクルセイダーのダクネスを思い出して俺はしみじみとそんな事を考えていた。

 

 

 「あ、仁慈。おはようございます、早速ご飯を食べに行きましょう」

 

 

 「………はぁ」

 

 

 「人の顔見て早々溜息とはいい根性してますね」

 

 

 「はぁ」

 

 

 「直しすらしないっ」

 

 

 「いや、ごめん。別にめぐみんは悪くないんだ。ただ、周りには残念な人が多いなということについて考えてたらたまたまめぐみんが目に入ってね」

 

 

 「先程の溜息を含めて考えると、それは私を残念な奴と認識していることになりますが?」

 

 

 「そうだよ」

 

 

 「直球!」

 

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐ爆裂娘を背後につれて冒険者ギルドへと足を運ぶ。目的はもちろん朝食である。

 花鳥風月!といいながら宴会芸をノリノリで他の冒険者に見せている駄女神をスルーしつつ、席に座り近くに居たウェイトレスに注文をする。ご飯を食べると分かった瞬間に静かになっていためぐみんもちゃっかり料理を注文していた。俺の金で。

 

 

 しばらくしてやってきたご飯に舌づつみをうつ。極東とは違って、料理の素材が全て天然物だからかなりおいしい。もちろん、ムツミちゃんの料理にはかないませんけど。

 

 

 「朝から肉かよ」

 

 

 「……食べますか?」

 

 

 「いらない」

 

 

 重くて朝からは食べられないわ。

 しばらく2人で黙々とご飯を口に入れる。

 数分ほどで食べ終わり、我らがリーダーカズマを待っているのだが、一考に来る気配がない。もしかすると、昨日のドM騎士襲来で精神を削られすぎているのかもしれない。

 

 

 「んー……カズマも来ないみたいだし、なんかすぐに終わるような仕事でも請けてこようか」

 

 

 未だに大きい肉と格闘しているめぐみんを置いて席を立ち、適当に仕事を選んでさっさと冒険者ギルドを後にした。

 ちなみにめぐみんは目の前の肉に集中して一切気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「この世界のモンスターって割りと脆いよな……いや、神機の特性上しょうがないのかな?」

 

 

 珍しくヴァリアントサイズではなくロングブレードの刀身に変えた神機を振るいつつ、今回の討伐目標をサクサク切裂く。

 目標は5体だったが、どうやら群れに遭遇したらしく、今斬ったので10体目に突入していた。後で紐でくくってギルドに持って帰ろう。この世界、死体も換金してくれるので元々居た世界より金策が楽だ。敵もそこまで強くないし。

 

 

 

 死んだパーティーメンバーを棺桶に入れて引きずる勇者の如く、モンスターの死体を引きずりながら帰還した俺は専門の人たちを呼び、死体を持っていってもらった後、お金を引き取るために再び冒険者ギルドへと立ち寄る。

 時間もいい感じだし、ついでに昼ごはんでも食べていこうかなと考えていると、

 

 

 

 「財布返すだけじゃダメだって……じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら、自分のパンツの値段は自分で決めろって」

 

 

 という、いかにも信じがたいセリフを口走る女性の声と、

 

 

 「待てよ!おぉい待て!間違ってないけど……ホント待て!」

 

 

 信じたくないことに、知り合いの声とよく似た声がそんな事をあせって口走っていた。

 騒動の中心に目を向けてみれば、そこには残念女性三人組と涙を浮かべて足をもじもじさせる見知らぬ女性、そして必死に弁解しているジャージ姿の少年だった。

 帰ろう。換金なら別の日にでもできる。あのパーティーに居ると人として何か大切なものを失うかもしれない。

 

 

 

 「帰ろう」

 

 

 踵を翻して、俺はこの世界に来てからずっと使っている宿屋に向けて歩き出そうとした。

 

 

 「あ、仁慈」

 

 

 が、ダメッ!

 

 

 無常にも俺の後姿は爆裂娘に捕らえられてしまった。めぐみんの言葉でカズマ(パンツ泥棒)の視線も俺を捕らえ、まるで救世主を見るような目を向けてきた。

 俺はそんな彼に性犯罪者に向ける冷たい視線をプレゼントする。

 

 

 「そんなとこでなにやってるんですかー?」

 

 

 「そうだよ。俺たち同じパーティーメンバーだろ!」

 

 

 こいつら……。

 俺を全力で巻き込みに来やがったな。

 

 

 「そんなに大きな声を出さなくてもすぐに行くよ」

 

 

 本当は行きたくないけどな。

 しぶしぶと変人集団に近付いた俺は、先程のパンツ泥棒騒動の経緯を聴くことにした。

 

 

 

 で、聞いてみた感じだとカズマが相手の持ちものをランダムで剥ぎ取れる盗賊スキルを試しに使ったらたまたまパンツが取れたらしい。その後パンツを取ったカズマは若干調子に乗って盗賊スキルを教えてくれた女性、クリスをからかったと。

 

 

 「普通に返してやればよかったじゃん……」

 

 

 「うぐっ」

 

 

 なんでそこではしゃいじゃったかなぁ……。

 カズマの行動に呆れていると、ふとめぐみんが疑問に思ったのか口を開く。

 

 

 「それで、カズマは無事に盗賊スキルを覚えられたのですか?」

 

 

 覚えられたからパンツ取ったんじゃないの?そんな疑問をぶつける前にカズマがにやりと笑い、

 

 

 「まぁ、見てろよ」

 

 

 といってめぐみんに向けて盗賊スキルを発動させた。

 …………まぁ、取れたのは黒い女性用パンツだったんですけどね。

 

 

 

 「何ですか。レベルが上がってステータスが上がって……冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?」

 

 

 「ぷっ、ククク……フフ……」

 

 

 変態にジョブチェンジとは……その発想はなかった。思わず吹きだしちゃったぜ。

 

 

 「笑い事じゃないです!後、スースーするのでパンツ返してください……」

 

 

 「カズマ……あんた……」

 

 

 「い、いや……コレは、ちがっ!」

 

 

 あー……面白かった。でも、状況が落ち着くまでしばらくかかりそうだし、先に換金してこよう。

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 帰ってきたらカズマが物凄い沈んだ表情をして、めぐみんとダクネスの表情が対照的

に生き生きしていた。

 どういうことなの?

 

 

 

 「どうしたパンツ泥棒(カズマ)?そんな疲れた顔して」

 

 

 「お前今なんて書いてカズマって読んだ?なぁ、おい!」

 

 

 

 「なんか、私たちに魔王を倒しに行く覚悟はあるかと聞かれたので私たちの意気込みを言ったらこうなりました」

 

 

 俺の質問にめぐみんが答える。

 あぁ、なるほど。大方、性能も中身も残念な奴らしか居ないから魔王の名前をだして脅し、篩いにかけようとしたんだろう。でも、そうだな……ダクネスは魔王の奴らにいろいろひどいことをされそうだから、めぐみんは私の爆裂魔法で吹き飛ばしてやるとか言ってどっちも引かなかったんだろう。

 

 

 「ところで仁慈は大丈夫なのですか?魔王を相手に取るらしいですけど」

 

 

 「元々俺の目的は魔王を倒すことだし、問題ないな」

 

 

 「えっ?アンタ魔王の仲間かもしくは本人とかじゃないの?」

 

 

 「何でそれをお前(アクア)が尋ねた?」

 

 

 俺が魔王じゃないって知ってんだろ。送り込んだ本人なんだから。

 

 

 

 『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は正門に集まってください!繰り返します!冒険者各員は至急、正門に集まってください!』

 

 

 駄女神の残念さを改めて思い知っていると、切羽詰った放送がギルド……いや、町中に響き渡る。

 この放送を聴いた冒険者達は、一斉にギルドから出て行き、正門を目指して走り出した。何がなんだか分からないがとりあえず俺たちも彼らの後ろについていく。

 

 

 外に出れば、どの家もドアと窓を閉め切っており、誰一人として外に出ているものは居なかった。

 緊急クエストって言うくらいだし、結構やばいのが来てるのかもしれない。

 そう考えて気を引き締める。

 

 

 正門につくと、はるか彼方から緑色の大群がこちらに高速で接近してきているのが確認できた。遠すぎてよく見えないが、どこか丸いフォルムをしている。

 

 

 「緊急クエストって何だ!?モンスターの襲撃か!?」

 

 

 「言ってなかったけ?キャベツよキャベツ」

 

 

 「はぁ……?」

 

 

 俺と同じくこの世界に来たばかりで何がなんだか分からないといった感じのカズマにアクアが大きな網のかごを運びながらそう答えた。 

 先程よりは距離が近付いたためか、神機使いの驚異的な視力で捕らえたその姿は確かにキャベツだった。星〇カービィに出てきそうな外見だった。

 

 

 「今年は荒れるな」

 

 

 何言ってるんですか、兄貴。

 

 

 「嵐が、来る」

 

 

 そのポーズは何だ、めぐみん。

 

 

 『収穫だー!』

 

 

 一斉に騒ぎ出す冒険者。マヨネーズを求める元女神。

 

 

 

 そんな状況の中、俺は生の野菜を知らないナナたちがここにいたらキャベツは飛ぶものだと誤解しそうだなぁと現実逃避気味に考えた。

 

 

 

 

 

 

 ――――はぁ。まさか、アラガミ蔓延る世界が恋しくなるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば、息抜きで一話で終わるような異世界漂流記を考えているんですが、いい感じの世界ありますかね?

活動報告で意見を募っています。
暇があり、気が向いたら覗いていってください。


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このキャベツたちに収穫を!

もうタイトルが意味分からん……。

あと、適当に書きなぐっただんまち編が意外と好評でした。
さっさとこのすば編書けとか言われるかと思ったけど……続きとかまったく考えてなかったんだけど、まぁいいよネ!(投げやり)


 

 

 

 

 

 どうやらこの世界マジでキャベツと一戦交えるつもりらしい。

 

 

 アクア曰く。この世界のキャベツは味が濃縮してきて収穫の時期になると、食われてたまるかと言わんばかりに町や草原を疾走し、最終的には人知れない秘境のようなところでひっそりと息を引き取るらしい。

 

 

 まぁ、言いたいことは割と沢山ある。

 何でキャベツが飛ぶのかとか、何処から声を出しているのかとか、そもそも呼吸する器官があるのかとか色々ある。

 けれど、俺が一番言いたいのは………このキャベツ、どれもコレも地味に強いことだ。

 

 

 キャベツ一つにつき一万エリス(要するに一万円)分出すらしい。キャベツを捕まえるって何だ。斬ったりしたらダメなのだろうか……。

 念のため、神機は使わずに素手で相手することにするが、先程も言ったとおりこのキャベツ……地味に強い。

 アバドン張りに的が小さいにも関わらず、その早い速度から成される体当たりの威力は割りと洒落にならない。

 今俺がキャベツを蹴り返したり、地面に叩きつけている横で、何人かの冒険者がキャベツ君に吹っ飛ばされたー!しているのを目撃している。ガッツでどうにかなるレベルではない。

 

 

 カズマなんて遠い目をして帰っていいかなと呟いていたりする。

 頑張れ。一体につき一万エリスはなかなか高いぞ。お得だお得。

 

 

 

 というか、他人に意識を向けてる場合じゃない。この数を捕まえるとなるとさすがに骨が折れる。

 次々とやってくるキャベツをオラオララッシュで迎撃しつつ、流れが途切れた隙に近くに居るキャベツたちを拾い上げて、キャベツ収容所へシュートする。

 

 

 それを数分くらいやると、俺を倒すことは得策ではないと考えたのか、今度は俺が居る場所を避け始めた。ついにキャベツにすら避けられるようになったか……。

 

 

 若干ショックを受けて、がっくりと肩を落とす。その後、顔を上げると、俺の視界にキャベツの群れに突っ込んでいくダクネスの姿を捉えた。

 彼女は手に持った両手剣をキャベツの集団に対して振るうが、なんということでしょう。一回もあたらないではありませんか。……自己申告で聞かされていた不器用という言葉は間違っているわけではないらしい。むしろ、アレは不器用というレベルで片付けていいのだろうか。

 

 

 そんな中、ある冒険者が自分よりも大きい冒険者の下敷きになり動けない事態が発生した。

 キャベツたちはそれをチャンスと捉えたのか、その冒険者に殺到する。いち早くそのことに気付いたダクネスは、剣を捨てて、自身の体を通してその冒険者達を庇った。キャベツは遠慮することなく次々とダクネスの体に体当たりしていく。

 

 

 鎧が取れ、服が切裂かれてもなお力強く立ち、後ろの冒険者を守る様はまさしく騎士の鏡だろう。実際、周りに居る冒険者達もダクネスを尊敬しつつ心配した目で見ている。

 けれど……俺が注目しているのはそこじゃない。……赤みを増した頬である。

 

 

 視線を周囲に居る冒険者、特に男に向けて、頬を染め上げ息を荒げて悦んでいるダクネスの姿を見た。

 ここまでして、痛みを求める姿は尊敬に値するな。俺はしないけど。

 

 

 

 「我が必殺の爆裂魔法を前にして、何者も抗うこと叶わず」

 

 

 やべぇ……変な奴二号が始動しやがった……。

 嫌な予感がした俺は神機を持って行動を開始。キャベツの大群に体当たりされて悦んでいるダクネスのそばに近寄り、彼女に向かってくるキャベツを神機で両断しながら話しかける。

 

 

 「ここはいったん自分が受け持ちますから、後ろの2人を連れて逃げてください!」

 

 

 「何を言う!仲間を庇うのはクルセイダーである私の務め!仁慈の方こそ、後ろの2人を連れて逃げてくれ!」

 

 

 「今背後で爆裂娘が魔法を使おうとしてます!思いっきり俺たちを巻き込む気です!今のアイツは大量の敵を焼くだけのことしか頭になくて俺たちのことはまったく考えてません。このままだとキャベツと一緒にBBQにされます!」

 

 

 「なに!?………それほどまでの威力なのか……」

 

 

 

 「あぁ、もう!ホントダメだコイツ!!」

 

 

 

 「光に覆われし漆黒よ、夜を纏いし爆炎よ――――――」

 

 

 

 ダクネスの駄目さ加減に思わず罵倒する。それを受けてさらに悦ぶダクネスに呆れると、後方からめぐみんの詠唱が聞こえてきた。

 なんで毎回毎回、詠唱内容が違うんですかね………。

 

 

 そんなことを思っていると、俺たちが居る場所を中心に赤い色の魔方陣が形成された。この段階までくると、爆裂魔法発動まで秒読みだ。

 俺は一向に引く気がないダクネスを放置して、彼女に庇われていた冒険者2人を掴んで脱出した。

 

 

 「お、おいあの人はどうするんだよ!」

 

 

 「引く気がまったく感じられないので放置です」

 

 

 「あの人は俺たちの恩人なんだぞ!?見捨てられるか!」

 

 

 冒険者の1人がそう言った瞬間、

 

 

 

 「エクスプロージョン!」

 

 

 ダクネスが居た場所を中心にして、膨大な熱と爆音が響き渡り、この世界に来てから見慣れてしまった、天も燃やし尽くしそうな火柱が立った。

 そして例の如く衝撃に巻き込まれる俺。

 

 

 爆風に逆らわずある程度流された後、影響が弱くなった場所で体勢を立て直して着地する。この動きにも慣れたものである。

 

 

 「……今から、貴方も焼かれに行きますか?アレに」

 

 

 「…………思えば、兄ちゃんはしっかりと忠告してもんな。それであの場にあの人が残ったんだ。自己責任だよな。うん」

 

 

 分かってくれたようで何より。

 さてと………とりあえず、自分の欲望を優先して勝手に魔法を発動した馬鹿を説教しに行くとしますかね。

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「おぉ……」

 

 

 何だコレ無駄に美味いぞ。

 ムツミちゃんの料理に匹敵するレベルのおいしさだ……。

 

 

 と考えつつむしゃむしゃ食べているのは先程一戦交えたキャベツたちで作られた野菜炒めである。

 キャベツと他の野菜が少しだけ入っているだけなのにとってもおいしいということはよほどキャベツそのものが美味いということになる。何だろう。動くようになって味も進化したのだろうか。

 

 

 むしゃむしゃしていると、アクアやめぐみん、ダクネスがお互いの健闘を称えあっていた。まぁ、どれもコレもいまいち同意しにくい内容だった。

 

 

 「貴女さすがクルセイダーね。あの鉄壁の守りにはさすがのキャベツたちも攻めあぐねていたわ」

 

 

 味方を爆炎の中に引きずりこもうとしてましたけどね。

 

 

 「アクアの花鳥風月も見事なものでした。冒険者達の士気を高めつつ、キャベツの鮮度まで保つとは……」

 

 

 「まぁねー。みんなを癒すアークプリーストとしては当たり前よねー」

 

 

 俺の思ってた癒しと違うんだけど。

 

 

 「それ、大事か?」

 

 

 「何言ってるの。アークプリーストの魔法の水は、とっても清いのよ」

 

 

 「「へー」」

 

 

 とてもどうでもいい情報をもらった。

 

 

 「めぐみんの魔法もすさまじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたじゃないか」

 

 

 「ふふん、紅魔の血の力思い知りましたか」

 

 

 「あぁ、あんな火力の直撃喰らったことはない」

 

 

 味方から攻撃されたことに違和感を覚えようぜ。

 このままだと本気で誤射姫コースだぞ。めぐみん。

 

 

 「直撃させんなよ……」

 

 

 「「はぁ……」」

 

 

 カズマと溜息のタイミングが重なる。

 めぐみんの奴、あれだけ説教したのにかけらも反省してない……。やはり誤射姫と同じく修正不可能なのだろうか。

 

 

 「あ、そういえばカズマもなかなかのものだったわよ」

 

 

 アクアの言葉で一気にカズマに注目が集まる。

 そうなのだ。この男、習得した盗賊スキルと潜伏スキルの両方を使って何ちゃってアサシンをやっていたらしく、ちゃっかり結構な数のキャベツを集めていた。

 

 

 このことからアクアから華麗なるキャベツ泥棒の称号が送られていた。実にいらない称号である。

 

 

 「やかましいわ!………そういえば、仁慈もおかしかったよな」

 

 

 「ん?何かおかしかった?」

 

 

 「いや、だってお前。物凄い数のキャベツが四方八方から来たのに全部捌ききったじゃねーか。一瞬日向かと思っちゃったぜ」

 

 

 仁慈は極東にて最強とか言っちゃうの?極東最強は問答無用でユウさんだと思うけどね。

 

 

 「そういえばそんな動きもしてましたね。おかげでキャベツにも避けられる始末です」

 

 

 「私、キャベツに逃げられる奴は初めてみたわ……」

 

 

 アクアに呆れられるとか屈辱の極み過ぎる……。

 あまりのショックに机に突っ伏す。

 

 

 俺がそんなことしている間に、ダクネスが正式にカズマパーティーに加入してしまった。

 頑張れカズマ。お前の苦労はさらに加速するだろうけど、超頑張れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仁慈「あのさ、せめて味方に被害が及ばないようにしてくれないかな?」
めぐみん「仁慈ならアレくらいどうってことないでしょう?」
仁慈「俺以外にも人居たでしょうが!」
めぐみん「わかりました。今度は仁慈かダクネス以外が居たときには使わないよう努力します」
仁慈「俺もその項目から外せよ」


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このグダグダな日常を!

すまない。
まったく話しが進んでなくてすまない。


 

 

 

 

 「クリエイトウォータ!」

 

 

 朝一、気合の入ったカズマの声が人の少ない冒険者ギルド内に響き渡る。その言葉と共にカズマの手のひらから蛇口を適度に回したときと同じ位の勢いで水が噴出し、目の前にあるコップをいっぱいにした。

 彼はそれを飲むと、どこか満足そうに呟く。

 

 

 「まぁ、初級魔法なんてこんなもんだろ。俺もようやく冒険者らしくなってきたな」

 

 

 「初級魔法で水分補給とは……冒険者とは一体なんだったのか……」

 

 

 有用なのは認めざるを得ない事実だけどさ。それでいいのかなぁ……なんていうかこう、体裁的に。

 こんなことを言いつつ、カズマから水を一杯注いでもらい喉を潤す。うん、今は懐かしき水道水に近い味がするな。

 

 

 「見てくれ!キャベツの報酬で鎧を新調したのだが、こんなにもピカピカになったぞ!どう思う?」

 

 

 「なんか成金趣味のボンボンがつける鎧みたい」

 

 

 「むしろ、貴方なら鎧、要らないのでは?」

 

 

 どうせ、鎧がダメになるくらい攻撃を受けて恍惚とするんでしょう?その辺の初期装備とかでいいんじゃない?

 

 

 「む、私だって普通にほめて欲しい時だってあるのだが………君たちはどんなときでも容赦がないんだな……」

 

 

 「悦ぶな変態」

 

 

 「はぅ……!」

 

 

 ダメだこいつ。

 物理もダメ、精神攻撃もダメとかもう放置するしかない。それか視界に入れないくらいしかない。もしそれも放置プレイと受け入れるようになったらどうしようもなくなるけど。

 

 

 「今は構ってやる余裕はないぞ。あそこのお前を越えそうな変態を何とかしろ。というか、仁慈何とかしろ」

 

 

 「俺に、アレをか?」

 

 

 「魔力溢れるマナタイト性の杖のこの色艶……はぁ……はぁ……あっ」

 

 

 カズマと共に視線を向けた先には新しく新調した杖に足を絡ませ、頬すりをしては息を荒げるめぐみんの姿が。絶対に相手したくない。こういうときは見なかったときに限る。俺は自身のスキル習得を行うことでめぐみんの存在を一時的に忘却することにした。

 

 

 えーっと……狂戦士のスキルって何があるんだ?

 

 

 戦闘続行 20ポイント

 

 

 読んで字の如くのスキルだろう。便利そうだから習得しておこう。

 

絶対回避(あたらなければどうということはない) 50ポイント

 

 

 ネタ臭ヤバイなこのスキル。しかも、ポイントがやたら高い。効果の確認とか出来ないのだろうか。

 

 

 効果:回避行動に一定の補正がかかる。大体の攻撃があたらないようになるが、あたったら通常よりも倍のダメージを受ける。

 

 

 一定の補正ってどのくらいだよ。

 それが詳しく分からないと怖くて取れないなこのスキル。もし、大した補正もかからないのにダメージ二倍とかだったら目も当てられない。

 とりあえず今回は戦闘続行スキルでも取っておこう。

 

 

 「カーズーマーさん、今回の報酬はお幾ら万円?」

 

 

 一体なんだこの状況。

 冒険者カードから目を離すと、今まで居なかったアクアがいつの間にかカズマの前に居り、昨日のキャベツクエストで稼いだ金額を尋ねていた。何で?

 

 

 「アクアが捕まえたキャベツは殆どレタスだったからですよ。レタスは換金率が低いのです」

 

 

 「で、儲からなかった分の金をカズマからたかろうと」

 

 

  元とはいえ、それでいいのか女神……。

 

 

 「………百万ちょい」

 

 

 『ひゃくまっ!?』

 

 

 「………さすが華麗なるキャベツ泥棒。高額のキャベツをピンポイントで収穫するとは……」

 

 

 「うるせぇ」

 

 

 それにしても、百万はすげぇな。

 俺、二十五万くらいしか稼げなかったんだが。……キャベツに避けられるという状況に陥った所為で。

 

 

 「カズマさん!私、今回のクエストの報酬が高額になると思って、有り金全部使っちゃったんですけど!っていうかもう既にこの酒場に十万近いツケまであるんですけど!?」

 

 

 アホだ……。

 さすが一般よりも低い知力を持つ女神(笑)だけある。というか、女神がツケって……それでいいのだろうか……。案外、神様達もこの人が居なくなって逆に喜んでいる奴らのほうが多いんじゃないかな。

 

 

 「知るか!今回の報酬はそれぞれのものにって言ったのはお前だろう!」

 

 

 「だって、私だけ大儲けできると思ったのよ!」

 

 

 幸運値すっごく低いんじゃなかったっけ?あの女神。

 というか、醜いやり取りだなー。女神が一般人に金をせびるなんて。確かこの女神を崇めているアクシス教団とか言うのがあるんだっけ………この光景、絶対に見せられないな。

 

 

 「はぁ………」

 

 

 「どうしたんですか、そんな溜息吐いて」

 

 

 「いや、このパーティーに加わったのは俺の人生の中で最大の過ちだったかも知れない」

 

 

 「そこまでですか……」

 

 

 

 そう思っても仕方ないだろ、この光景。

 カズマは結局この後アクアに握られていた弱みをチラつかされてお金を代わりに払っていた。いやー……やっぱりあれは女神じゃねーだろ。

 

 

 

  

 

             ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 翌日。

 そこにはジャージ姿から一転、いかにもファンタジー物に出てきそうな服装をしたカズマの姿が……!

 地味に似合ってるな。

 

 

 「初級とはいえ、魔法スキルも習得したからな。盾は持たず、魔法剣士のようなスタイルでいこうと思う」

 

 

 「言うことだけはいっちょ前なんだから」

 

 

 「でも、盾を持たないというのは正解だ。化け物を相手にする場合。往々にして素人の盾は役に立たない。そういうのはそこの肉盾に任せるべきだな。本人もその気だし」

 

 

 「あぁ、是非とも任せてくれ。それと、仁慈。その言い方いいな………もっと言ってくれ」

 

 

 「余計なこと言うな雌豚」

 

 

 「はぁん……!」 

 

 

 段々こいつの扱い方が分かってきたことは喜ぶべきなのか嘆くべきなのか……。

 

 

 「準備が出来たら、早速討伐に行きましょう!出来れば沢山のザコモンスターが出る奴です!新調した杖の威力を確かめたいです」

 

 

 「いや、一撃が重くて気持ちいい……強い奴にしよう!」

 

 

 「いいえ、お金が沢山稼げるクエストよ。ツケを払ったから、今晩のご飯代もないの!」

 

 

 「まとまりがねー」

 

 

 「俺は別に何でもいいぞ?多分、何が来てもある程度戦えると思うし……あ、そういえばジャイアント・トードが再び繁殖しだしたみたいだし――――」

 

 

 

 『カエルは止めましょう!!(止めようぜ)』

 

 

 「ん?何故だ?」

 

 

 「あー……アクアはカエルにばっくりいかれて粘液まみれにされたことがトラウマになっているのでしょう。でもカズマはどうしてです?」

 

 

 「俺が両断したカエルを見せたからじゃないかな」

 

 

 「そんなことしたんですか……」

 

 

 まさかここまで尾を引くとは思わなくて……。結局、ジャイアント・トードは却下になり、とりあえずギルドに張られている内容を見て決めることにした……んだけど、

 

 

 「何だコレ、依頼が殆どないじゃないか?」

 

 

 「カズマ!これだ、これにしよう!ブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐を―――」

 

 

 「却下だ却下!」

 

 

 後で行こう。

 熊とは戦ったことないからちょっとやりやってみたいという気持ちもあるし、何より金額が悪くない。熊の肉も食べれるらしいし、倒した後の死体も高値で買い取ってくれるだろうし。

 

 

 「なんだこれ、高難易度のクエストしか残ってないぞ?」

 

 

 「申し訳ありません。実は最近、魔王の幹部らしきモノが町の近くに住み着きまして……その影響か、近くの弱いモンスターたちは隠れてしまい、仕事が激減しているのです」

 

 

 

 「えぇー……」

 

 

 

 さすがにこのパーティーで強力なモンスターは倒せないと、今日は解散するらしい。

 みんなが居なくなってから俺は先程、任務激減の理由を教えてくれたギルド職員にブラックファング討伐の紙を見せて討伐に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ぶっちゃけ、でかいだけだけのカカシだった。攻撃は大振りだし、特に強い攻撃もしてこない。一撃一撃は確かに強いけどそれだけだった。俺やユウさんなら瞬きしている間に皆殺しにできます(ベネット感)

 

 

 

 

 

 

 

 

             ――――――――‐――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 熊があまりにも期待はずれだったので、若干不貞寝気味に宿屋に帰ったのが昨日の出来事で。

 

 

 「仁慈、ちょっと付き合ってくれませんか?」

 

 

 めぐみんにたたき起こされたのが、今朝の出来事である。

 ギルドの酒場で簡単に腹を満たした後は来たこともない山道をめぐみん先導のもと歩いている。

 

 

 「…………魔法の訓練なのになんで山道登ってるの?この辺を燃やすため?」

 

 

 「そんなわけないです。ただ、爆裂魔法の的となるものを探しているんです。大き目の岩とかがあればいいんですけど………あ」

 

 

 しばらく歩いていると、視線の先に断崖絶壁に立つ廃城のような建物を発見した。壁は罅割れ、コケのようなものが生えているのを神機使いの視力で確認する。どこからどう見ても人が住んでいるようには思えなかった。

 

 

 「アレにしましょう。あれなら、盛大に破壊しても文句はないでしょうし」

 

 

 「一応許可とかとっておいたほうがいいんじゃないか?何か歴史的遺産とかだったら目もあてられn」

 

 

 「紅き刻印―――」

 

 

 こいつ、人の話しを最後まで聞かないで詠唱始めやがった。

 例の如く前回と違う詠唱を言いながら、杖に魔力を送り込むめぐみん。実は爆裂魔法って詠唱いらないんじゃないかとここ最近思い始めた俺です。

 

 

 「エクスプロージョン!」

 

 

 

 大惨事確定。

 

 

 廃城目掛けて放たれた爆炎は幸いというべきか、しっかりと廃城に着弾。黒煙を撒き散らして廃城をすっかりと覆ってしまった。

 そして倒れるめぐみん。ここまでテンプレ。

 

 

 「燃え尽きろ……紅蓮の中で…………」

 

 

 地面に突っ伏しながらめぐみんは決め顔でそう言った。

 

 

 「はぁ……最高です……」

 

 

 「それはようござんした。それで?これが爆裂魔法の訓練なのはわかったけど、いつまでやる気なんだ?」

 

 

 「これから毎日です。なに、時間は取らせませんよ。朝一にぶっ放すだけですから。時間が決まっていたほうが、仁慈もいいでしょう?」

 

 

 「まぁ、確かに」

 

 

 

 

 

 こうして、めぐみんの爆裂魔法特訓が始まったわけである。

 毎回毎回、廃城を爆破するので見る見る破壊されていくのだが、特にギルドから抗議がくることもなく。普通に続けていた。

 雨の日でも雪の日でもやるというのだから執念とは恐ろしいものである。

 

 

 「エクスプロージョン!」

 

 

 あぁ、今日も山奥で廃城が爆破される。

 もはや日課というか日常の一部になりつつあるめぐみんの運送をしつつそう思う。

 

 

 「そういえば、今日の魔法はいい感じだったな。俺の知っている爆発の中でも一位二位を争う破壊力だったと思うぞ」

 

 

 「マジですか!」

 

 

 「まじまじ。ぶっちゃけ、誤射姫とたまに被って見えて超怖い」

 

 

 「誤射姫?」

 

 

 うん、誤射姫。

 本当にあの人と被ってきてるから、なるべく味方は巻き込まないように爆裂魔法を使って欲しい。

 

 

 めぐみんの特訓で、半壊した廃城を視界に納めつつ俺は切実にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この強敵と激闘を!

原作の流れを阻害する内容が書かれています。
今更ですが、ご注意ください。


 

 

 

 

 

 

 

 「嫌ー!回復魔法だけは嫌よ!私の存在意義を奪わないでよ!私が居るんだからいいじゃない!うぁああああん!!」

 

 

 例の如くギルドの酒場で、アクアの泣き声が響き渡る。本当になんなんだろうなぁー。また厄介ごとかなー。

 

 

 「みんなおはよう。で、そこで泣いているアクア………今度は何をやらかして泣いてるの?多額の借金でも抱えた?」

 

 

 とりあえず、この元女神が泣いている事はわりと頻繁にあるのでスルーしつつ、状況を把握しているであろう他の三人に話を伺う。

 

 

 「あぁ、仁慈か。おはよう。それがなぁ……」

 

 

 「カズマがアクアから回復魔法を教わろうとしたんですよ。で、そのときにカズマのえげつない口撃が火を噴いたようで……」

 

 

 「メンタル面も脆弱なアクアは泣き出した、と」

 

 

 でもなんかリアクションがおかしい気がするんだよなぁ。何時ものアクアならこう、机に突っ伏すんじゃなくて、カズマにすがり付いて泣き叫ぶ感じだと思うんだけど。

 そんな疑念を抱きつつアクアのほうを見てみると、

 

 

 「…………」

 

 

 こちらをじっと観察していた。涙も浮かべていない瞳で。

 

 

 

 「…………」

 

 

 嘘泣きかよ………。女神が泣き落としとは、字面だけ見ればこれ以上ないほど効果がありそうなのにその女神がアクアだと分かった瞬間有用性が消えているように感じるな。これも常日頃の行いという奴なのか。

 

 

 割と初めからだけど、ここ最近はさらにアクアを女神と思えなくなった気がする。もうそこらへんに居るダメ人間でしょこの人……。親近感が沸くといえば聞こえはいいかもしれないけど、言い換えれば神としての威厳がないとも言えるからなぁ。

 嘘泣きに気付いたらしいカズマも自身の拳をかなりの力で握り締め、眉間に皺を寄せまくっていた。

 

 

 「緊急、緊急!全冒険者の皆様は直ちに武装して、戦闘態勢で町の正門に集まってください」

 

 

 しかし、そんな空気の中、ギルド職員がこの前のような放送を使わず肉声でこんなことを口にした。キャベツはこの前収穫したことと、切羽詰ったような様子からこれはキャベツのように想定されていなかった事態だと予想し、ギルド職員の言うとおり、武装してこの町(そういえばこの町の名前知らない)の正門に集まった。

 

 

 外に出てみると、空は分厚い雲に覆われ、所々雷が落ちていた。先程の空気とは一転して今にもラスボスが出てきそうな雰囲気である。

 

 

 「あ、あれは……!」

 

 

 正門に集まった冒険者の誰かがそう言った。

 皆が彼と同じ場所に視線を移すと、落雷をバックに、首無しの馬に乗って佇んでいる同じく首無しの騎士が居た。首から上は自分の左腕に抱えている。………ああいう妖怪が居たよな西洋に。なんだっけ………。

 

 

 「なになに?」

 

 

 「何だアイツ。無茶苦茶強そうだぞ!」

 

 

 

 確かに。

 今まで戦ってきた奴らとは一戦を画す雰囲気を纏っている。アレは強者が発する雰囲気だ。

 

 

 「俺はつい先日、この辺りの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが………毎日毎日毎日毎日ッ!お、俺の城に!毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んで来る、頭のおかしい大馬鹿は誰だぁああああああ!!!」

 

 

 うん?なんだろう。すごく心当たりのあることをいわれた気がする。

 再び落ちた雷とタイミングを共にナポレオンみたいなポーズを取る自称魔王軍幹部の者。はたから見ても分かる。激おこぷんぷん丸である。

 

 

 「アレはデュラハンか!?」

 

 

 あぁ、そうだ。デュラハンだデュラハン。思い出した。

 というか、あのデュラハン、さっき爆裂魔法って言ったよな?そうだよな?

 

 

 「爆裂魔法?」「爆裂魔法を使えるっていったら……」「爆裂魔法って言ったら……」

 

 

 周囲に居た冒険者の視線が一斉にめぐみんへと殺到する。彼女は自分に向けられた視線を横にずらした。

 すると、たまたまそこに居た魔法職の人が目に見えてうろたえていた。普通だったらかわいそうに、と思うのかもしれないが今の俺にそんな余裕はない。

 だって、思いっきり片棒担いでいるんだもの。毎日毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込む頭のおかしい奴を毎日欠かさず運送していたもの。

 

 

 めぐみんに向けられていた視線をキラーパスされた魔法職の人はもうパニックだった。さすがにいたたまれないと思ったのか彼女は震えながらも前に出る。これ、俺も言ったほうがいいかな。

 

 

 

 「お前が……」

 

 

 デュラハンが目の前まで来ためぐみんに………あらん限りの文句を口にした!

 

 

 「お前が毎日毎日俺の城に爆裂魔法をぶち込んでくる大馬鹿者か!俺がぁ↑魔王軍の幹部と知って喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい!その気がないなら町で震えているがいい!!ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせするの?お前の所為であの城半壊して、完全に野晒しなんだけど!?雨風も防げないんですけど!?どうせ雑魚しか居ない町だと放置しておれば、調子に乗って毎日ポンポンポンポン撃ちこんできやがってッ!頭おかしいんじゃないか!?貴様ァ!」

 

 

 正論だった。アイツが魔王軍の奴ということを除けばもう速攻で土下座して壊した城を直すレベルのものだった。

 でも、相手は極論で言うと人類の敵だし、冒険者としてはこの行動が正しくも感じるような感じないような……。

 これは謝罪するべきかしないべきか、迷うな。

 

 

 「………っ、我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操るものッ!!」

 

 

 

 めぐみんが自身を振るい立たせる意味も込めて何時もの名乗りを上げる。それに大したデュラハンは、

 

 

 「めぐみんってなんだ。馬鹿にしているのか!?」

 

 

 「ち、違うわいっ!」

 

 

 デュラハンでも思うのか。そのこと。

 

 

 「我は紅魔族のものにしてこの町随一の魔法使い。爆裂魔法を毎日撃ち続けていたのは、魔王軍幹部である貴方をこの町におびき出すための作戦……こうしてまんまとこの町に1人で来たことが、運のつきです」

 

 

 え、何それ初耳。

 

 

 「……いつの間に作戦になったんだ?」

 

 

 「というかさらっとこの町随一の魔法使いとか言ってたな」

 

 

 「毎日めぐみんのこと運送してきたけど、作戦だなんて初耳だったな」

 

 

 『仁慈(お前)の所為かッ!?』

 

 

 はい、ごめんなさい。まさかこうなるとは思ってなかったんです。

 

 

 「しー。今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろに沢山の冒険者がいるから強気なのよ。今いいところだからこのまま見守るのよ」

 

 

 アクアの言葉に納得したのかカズマとダクネスは黙って視線を戻す。

 

 

 「フン、まぁいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいかけにこの地に来たわけではない。しばらくはあの城に滞在することになると思うが、これからは爆裂魔法を使うな。いいな」

 

 

 あら、意外と紳士的だぞあのデュラハン。というか、あの人何気に俺がこの世界に来てから会った中で一番完璧な性格をしているのではなかろうか。おしい。人間だったら速攻で友達になるレベルなのにっ。

 

 

 

 「無理です。紅魔族は一日に一回爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

 

 それお前だけだろ。

 

 

 「お、おい!聞いたことないぞ、そんな話!適当な嘘を吐くなよ!?………どうやっても爆裂魔法を撃つことを止める気はないと?」

 

 

 「(コクリ)」

 

 

 頷くな頷くな。

 別にあの城じゃなくてもそこらへんに的はいっぱいあるだろ。

 

 

 「俺は魔に身を堕とした身ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味はない……だが……」

 

 

 「ふん。余裕ぶっていられるのも今のうちです!……先生!お願いします!!」

 

 

 おい。いい感じで話が終わりそうだったのに、何でこうややこしい事態にするの。今回は片棒を担いでるからあんまり強くいえないけどさ。もっとこう、あるじゃん?他にも対応ってモノが。後、そんだけ火に油を注いでおきながら丸投げかよ。

 

 

 「おい……」

 

 

 「え?もう、しょうがないわね」

 

 

 カズマは呆れているが、何故かアクアはやる気満々らしく、デュラハンとめぐみんの元へ駆けて行く。

 

 

 「あ、すいません。アクアじゃなくて仁慈のほうです!」

 

 

 おぉっとここで、めぐみんからのチェンジコール。アクアは道半ばで呆然としています。というか、名指しされたんだけど……行かなきゃダメだろうか。

 

 

 「この騒動の片棒ガッツリ担いでんだから、おとなしく行け」

 

 

 「ですよねー」

 

 

 仕方がないので、小走りでめぐみんとデュラハンの元へと向かう。

 そうして目の前まで来た俺をデュラハンは面白そうな目で見た。

 

 

 「ほう、狂戦士とは……これは珍しいものを見た。その職業はその名の通り戦いに狂ったモノ達が率先してなる職業……それになるとは相当外れた奴のようだが、俺は仮にも魔王軍の幹部の1人。こんな町にいる低レベルn」

 

 

 「隙あり」

 

 

 

 「え?ぬぅおおおお!?」

 

 

 

 なんか1人で長々と語っているので、その隙に体勢を低くして左腕に持っている頭の視界に入らないようにしつつ、素早く背後に回りこむ。そして、そのまま馬に乗っているデュラハンを蹴り飛ばす。

 落馬したデュラハンは困惑していて、未だに行動を起こさないために俺は左腕にあった頭を地面に叩きつけて埋めると、無防備な体をマウントポジションから殴りつける。

 

 

 「連打連打連打連打」

 

 

 

 いつ死ぬか分からないけど、とりあえず死ぬまで殴り飛ばせばいいかな。

 

 

 

 

          

 

 

           ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺も最近になって鬼畜とか言われ始めたけどさ、アイツのほうがよっぽど鬼畜なんじゃないかな。

 マウントポジションを取ってひたすら首のない西洋鎧を殴りつける仁慈を見ながらそんな事を考える。

 

 

 「えっ、ちょ、待て!待て!き、貴様ぁ!もう少し正々堂々と戦えんのか!?」

 

 

 「何言ってんだ。戦いっていうのは何でもありでしょう?油断しているほうが悪い」

 

 

 「そうだが、そうなんだが!いいのかこの絵面!」

 

 

 「形式に囚われてはいけません。争いとはもっと醜いものなのです」

 

 

 「その割には満面の笑みを浮かべおってッ!ええい、調子に乗るなッ!」

 

 

 

 コントのようなやり取りをしていたデュラハンと仁慈だったが、デュラハンが乗っていた同じく首のない馬が仁慈を蹴り飛ばそうとする。

 それに気付いたらしい仁慈は、いち早くデュラハンの体から飛び退き、馬の攻撃を回避した。その隙にデュラハンは自身の頭を抱えて体勢を立て直していた。

 

 

 「何なんだお前!?え?この町駆け出しの冒険者達が集まるところじゃないの!?ま、まさか……名だたる冒険者の1人が、たまたま滞在していたというのか!?」

 

 

 「いや、つい最近冒険者になったばっかりだけど。レベルもまだ5ぐらいだし」

 

 

 「レベル5!?えぇい、初めに気付くべきだったわ!頭のおかしい奴の仲間はおかしい奴だと!!」

 

 

 「失礼な、頭取れてる奴に言われたくないね」

 

 

 

 お互いに言葉を交わしながらも俺には決して見えないレベルの戦闘を繰り替えす2人。

 その様子に他の冒険者を初め、仁慈を呼んだめぐみんすら唖然としている。というか、アイツだけやっぱりおかしいよな。

 デュラハンの大きな剣と、仁慈の変わった武器が激突して火花を散らす。しばらく拮抗していたが、やがて仁慈のほうが弾かれた。

 

 

 「力強いな……」

 

 

 「フン、レベル差というやつだ。………むしろ、ここまでのレベル差があるにも関わらずここまで堂々と戦えるほうが異常なのだ………貴様、一体何者だ?」

 

 

 

 「樫原仁慈。職業はさっき言ったように狂戦士やってます。よろしく」

 

 

 

 「そういうことじゃない!だが、名乗られたからには元騎士として名乗り返しておこう。俺は魔王の幹部の1人、デュラハンのベルディアだ。………元々は爆裂魔法を使う頭のおかしい奴に忠告するために来たんだが……思いもよらない収穫だったな。ここで貴様との決着をつけるにはおしい。また後日、俺の城に来るがいい。そこで決着をつけようぞ」

 

 

 

 仁慈が吹き飛ばされ、一定の距離が出来たデュラハンは仁慈にそう語りかけた後に、地面から吹き出した闇に飲まれて消えていった。

 

 

 仁慈は少しの間戦闘態勢を解かずに、ベルディアが消えたところを注視し続けていたが、本当に帰ったと判断したらしく武器を肩に担いで帰って来た。

 

 

 

 「強かった(小並感)」

 

 

 「他にもっと言うことあっただろ……」

 

 

 魔王の幹部と激闘を繰り広げておいて感想はそれかよ。あまりにも緊張感がない仁慈に思わず呆れるが、他の冒険者達はそうではないらしく、仁慈を取り囲んでお祭り騒ぎだった。

 

 

 

 「頼んでおいてなんですが、仁慈はやっぱりおかしいですね」

 

 

 「なによ!アンデット相手だったら私もあのくらい出来るんだから!」

 

 

 「本当に仁慈は強いんだな………あの力で殴ったりしてくれないものだろうか……」

 

 

 「はぁ……なんかどっと疲れたわ……」

 

 

 とりあえず、仁慈も改めてまともじゃないということが今回のことで分かった。俺のパーティーに普通の奴は居ないのか。

 そんな事を考えていると仁慈が小声で「お前が言うなパンツ泥棒」と言った。それはもう言うなよ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

                緊急クエスト

 

 

           デュラハンの撃退  クエストクリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まともな戦いが出来てベルディアさんは満足そうです。
ただし、所々神機に食われた剣を直すのに苦労した模様。


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ロト〇勇者と手合わせを!

これはひどい。


 

 

 

 魔王軍の幹部の1人、デュラハンのベルディアと一戦交えてから数日が過ぎた。アレから俺があの爆破していた廃城に向かったかと言われれば、行っていない。

 まぁ、待て。これにはしっかりとした理由がある。

 

 

 

 直接魔王の幹部と一戦を交えてみてレベル差というのが重く身にしみたことが今も廃城に行かない理由だ。アラガミとドン☆パチやってたときは結局、初期装備より一段階強化した武器で最後までごり押せた。なぜなら自分がどう行動できるか、どのような攻撃が出来るか……これが戦術の最も重要なことだからである。

 しかし、今回は違う。向こうもどちらかと言えば俺たちと同じ戦闘スタイルをとっている。すなわち、身体能力だけでなく技術も持っているパターンの敵だ。

 今まで身体能力だけで戦う化け物とばかり対峙してきた身としては、あの手の相手は物凄く相手にし難い。

 身体能力の差を埋めるための技術であるにも関わらず、向こうも技術を持っているとなるとこちらも身体能力の差をなるべく少ないものにしなければならない。

 それに、俺強敵に立ち向かうときはレベルをガン上げしてから挑む派だし。ポケ〇ンだと大体20後半から30いくか行かないか位のジムに、平均40後半にしてから挑むし。

 ベルディアも律儀に俺を待っているんじゃなくて、もし挑んでくるなら来い的なノリでいったんだと思う。俺のレベル5だったしな。

 

 

 というわけで、あの一件でめぐみんも懲りたのか俺を誘うことはなくなったため、ここ最近はもっぱらレベル上げもかねた高難易度クエスト消化を行っていた。

 初めは信じられないような顔で俺を見ていたギルド職員のお姉さんも今では普通に笑顔で仕事を出してくれるまでになったからな。

 つい最近五つの首を持つ竜を討伐したけど、結構レベル上がったんだ。今ではこの前の2倍の10レベになったし。

 

 

 しかし、今日はパーティーで何かをやる気なのかギルドの酒場で何時もの如く集まっていた。挨拶を交わして席に座ると、いきなりアクアがテーブルをドン!と叩く。

 

 

 「もう、限界!借金に追われる生活っ!……クエストよ、あのデュラハンの所為でキツイクエストしかないけど受けましょう!というか仁慈!あんたあんなに強いなら今すぐデュラハン倒してきなさいよ!」

 

 

 「無茶言うな」

 

 

 あれだとちょっときついかなと思ったからこそ、こうやって地道にレベル上げをしているんでしょうが。ていうかまた借金の話し?この前カズマに集って返したんじゃないのか。

 

 

 「とりあえずお金が欲しいの!もう商店街のバイトは嫌なの!!」

 

 

 またカズマにすがり付いている………。

 見慣れた光景とはいえ、いつ見てもなんというか……なんともいえない気分になる。アレが元々は日本で早死にした人たちを転生やら生まれ変わらせたりしていたって言うんだから驚きだ。

 

 

 「お、俺の金もいずれなくなるだろうし……良さそうなクエスト、何か探して来いよ」

 

 

 「わかったわ!」

 

 

 敬礼をして元気よく仕事を張っている掲示板へと向かっていくアクア。その様はまるではじめてのお使いのようである。

 

 

 「というか、仁慈が居れば大体のクエストはクリアできるのでは?」

 

 

 「……その手があったか」

 

 

 「いいのか?道中結構過酷だけど……」

 

 

 「例えば?」

 

 

 「その辺からブラックファングレベルの奴らがうじゃうじゃ出てくる森の中に居る巨大トカゲとか?」

 

 

 「やめよう」

 

 

 「ですね」

 

 

 懸命な判断だな。

 さすがに四方八方から囲まれたら庇いきれないし。最悪の場合、俺も巻き添えでやられる可能性もある。ダクネスのほうはなんか乗り気だが、多数決で却下された。

 

 

 「そういえば、アクアに仕事を探してきてもらっていいのか?あの人今は金に困ってて唯でさえ低い知力が数値以上に残念なことになっていると思うんだが……」

 

 

 俺の言葉にハッとしたカズマはすぐに立ち上がるとアクアの元へと足早にかけて行った。

 

 

 「仁慈はこの数日、どんな仕事をしていたのですか?」

 

 

 「割と何でもやってたな。危険生物がうじゃうじゃ出てくる森に貴重な山菜摘みに行ったり、それこそめちゃめちゃ強そうな生物と対峙したり」

 

 

 「例えばどんな奴だ?」

 

 

 「そうだな………五つ首の竜とか相手にしたな。最近」

 

 

 「それまた強そうな奴ですね。首によってブレスの属性とか違ったりするんですか?」

 

 

 「違った違った。炎とか氷とか風とか雷とか水だった気がする」

 

 

 「すさまじいな………どうやって勝った?」

 

 

 「首をまとめて刈り取った」

 

 

 『えっ?』

 

 

 「嘘だよ、嘘。本当は一個ずつ地道に首を切って落とした」

 

 

 「それはそれで凄まじいんですが………」

 

 

 ごめんなさいそれも嘘です。

 言えるわけがない。本当は敵の五属性ブレスを神機の捕食形態でモグモグして無効化した後、咬刃展開状態のヴァリアントサイズでまとめて刈り取りましたなんて。

 俺知ってるよ。捕食形態は他から見たらすごい怖いって。魔王軍の仲間といわれても文句は言えないって、俺知ってるよ。

 

 

 正直に答えれば今後の生活に支障をきたすんだと自分に対して必死に言い訳をしているとアクアとカズマが帰って来た。しかし、アクアの表情はどこか沈んでいる。またカズマと言い合いをして負かされたのだろうか?

 

 

 「いや、今回は違うぞ。たった今、湖の水を浄化するクエストを受けてきたんだが……汚れた水に生息する生物からの妨害が考えられるから、檻にコイツを入れてモンスターから身を守りつつ水を浄化する作戦を提案したんだ」

 

 

 「それは……なんというか……」

 

 

 今回ばかりはアクアに同情すr………いや、でも借金作ったのはアクアだし割りと自業自得か?

 

 

 「あのー………」

 

 

 アクアに同情するか、自業自得として済ますか心の中で若干悩んでいると、ここ最近で顔見知りといえるくらいにはなったギルド職員さんが話しかけてきた。

 

 

 「なんですか?」

 

 

 「実は最近、魔王の幹部が現れた所為で弱いモンスターたちがいなくなったじゃないですか。そのためか、この近辺で強いモンスター同士がお互いを喰らうために闘争を繰り広げているんです。その被害は未だ小さいものですが、放置するとさらに強大になる可能性があるので……争っているモンスターを至急討伐していただけないでしょうか?」

 

 

 「どんな奴なんですか?それ?」

 

 

 「キメラとグリフォンです」

 

 

 「それ、普通この町に張り出されるレベルの仕事じゃないですよ……」

 

 

 「この方は、魔王の幹部と互角に渡り合った実績がありますから」

 

 

 「納得です」

 

 

 「早いな」

 

 

 でも、一応こっちも仕事請けたしなぁ……。

 

 

 「ん?行って来いよ。今回の仕事は戦闘ないし、檻に入っているアクアをひたすら眺めるだけになりそうだから」

 

 

 「あ、そう?」

 

 

 ならお言葉に甘えて。

 

 俺はアクアを檻に入れて湖へと向かっていったカズマ一行を見送り、ギルド職員さんにモンスターが暴れているところまでの道程を教えてもらった。

 

 

 

 後、檻に入れられて運ばれていくアクアを見て頭の中でドナドナが流れた。

 売られてゆーくーよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――  

 

 

 

 

 

 「なぁ、アクア。一つ質問していいか?」

 

 

 「何?檻の中の居心地でも聞きたいの?悪くはないわよ。これから自分が売られるんじゃないかと錯覚はするけど」

 

 

 「聞きたいのはそのことじゃねーよ。仁慈の事だよ」

 

 

 「仁慈?なんで?」

 

 

 不思議そうに首を傾げるアクア。

 いや、聞きたいのは当然だろ。前にアイツに直接聞いたことがあるけど、アイツも俺と同じくこの世界に転生……というか転移してきた身だ。その際の特典とやらが何時も持ち歩いている武器ということも聞いてる。

 しかし、どうにも戦いに慣れすぎている気がする。動き一つ一つがスムーズに行われていて、とても俺と同じく日本から転移してきた身とは思えない。

 

 

 「あー……その答えは簡単よ。アイツ、この世界に来る前からドン☆パチやってたの」

 

 

 「つまり、日本に居た頃から戦っていたと?」

 

 

 

 「そう。といっても、カズマが思っているような日本じゃないわ。もっと荒廃した、灰色の世界………アイツは2080頃の日本から来た転生者よ」

 

 

 

 ………マジで?

 

 

 

 「マジマジ。私もアイツをこの世界に送り込んでからちょっとだけアイツの居た世界を覗いてみたけど、この世界なんて目じゃないくらいの酷さよ」

 

 

 「アイツが特典でもらった武器に身体能力を上げるとかの効果はないのか?」

 

 

 「通常はないわね。あの武器を扱えるようになるためにまず、死ぬかもしれないリスクを犯して改造といっても差し違えないことを体に施していたもの。その時点で普通の人間から外れた身体能力を手に入れることが出来るわ。あの武器は変形するだけのとても重たい武器よ」

 

 

 「つまり、あいつがあそこまで戦えるのは………?」

 

 

 「圧倒的経験ね。幾千、幾万の化け物の死を積み上げて得た、圧倒的経験……それが、アイツの強さの根源よ」

 

 

 

 アクアの語った内容に俺は言葉が出なかった。今の話がゲームの話だといわれたほうがよっぽど納得できる内容だったからである。

 しかし、同時に納得もした。あの理不尽なまでの強さは、今まであいつが乗り越えてきた理不尽の数と同等なのだと。

 

 

 「………ちなみに、その世界で化け物を相手にする奴らをなんて言ってたんだ?」

 

 

 「………化け物を日本の八百万の神という考え方の基、アラガミと名付けられた。それを倒す人類の反撃手段として、彼らはゴッドイーターと呼ばれていたわ」

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「はっくしょん!」

 

 

 何だろう。どこかで誰かが俺の噂でもささやいているのだろうか。よかったわ。戦っている時にくしゃみでなくて。

 

 

 目の前にはズタボロになった巨大な生物の屍骸。両方ともなかなかの強さだった。グリフォンは空に飛び上がって風をバンバン俺にぶつけてくるというチキン戦法を決行してきたし、キメラ―――というかあれ完全にモザイクマンティコアだったよ――――は一撃がでかい。空を裂き、木々をなぎ倒す攻撃をバンバン撃って来た。

 

 

 だが、甘い。

 木々を登って空に居るグリフォンの翼を喰いちぎって地面に落とし、モザイクマンティコアにぶつけて動けなくして、ひたすら斬りつける。それで二体とも屠った。

 二体以上敵がいるときはこの手が有効なんだよ本当に……。この戦法を編み出すまで、どれだけ乱入してきたアラガミたちに手を焼かされたことか……。やはり、利用できるものは全て利用しなくちゃね。

 一応神機の捕食形態を使ってしまったので、証拠を残さないように二体を丸々飲み込んでから俺は討伐報告をするために町へ帰った。

 

 

 

 

 で、帰って来たんだけども……ボロボロの檻を運びながら帰って来たらしいカズマがロト〇勇者擬きのイケメンに絡まれているのを発見した。一体どうしてああなったんだ……。たまたま発動した窃盗スキル・スティールがあのロト擬きの持ち物を奪ったとかかな?

 

 

 あ、戦いが始まった。

 

 

 なにやら戦いで解決することになったらしく、殆ど不意打ち気味に剣を抜くカズマ。ロト擬きはそれをなんとか回避し剣を抜こうとするもカズマのスティールが炸裂し、たった今抜こうとしたロト〇剣(仮)を盗み取った。とどめに取った剣で頭を殴打、ロト擬きは気絶した。

 ………カズマのスティールは本当にいいタイミングでいい物を取っていくよな。アレで取れるものは完全にランダムらしいんだけど……幸運値が高いからあんな素晴らしい戦果を上げるのだろうか。

 

 

 「おーいカズマー」

 

 

 「ん?お、おう。よぉ」

 

 

 「何でそんなに言葉がぎこちないんですかねぇ……。まぁ、いいや。この状況は一体何なの?」

 

 

 

 「実は………」

 

 

 

 ふむふむ。この人は俺たちの同類で、アクアが檻に入れられているのを見て色々勘違いを起こし、アクアをめぐって戦ったと………。

 

 

 「よかったな、アクア。2人の男に奪い合ってもらえて」

 

 

 「全然嬉しくないわ。私は今の環境でもいいっていてるのに、そこのナルシスト擬きが話を聞かないんだもの」

 

 

 「へー意外。ちやほやされたかったんじゃなかったか?」

 

 

 「アレはさすがに………」

 

 

 ガチ引きである。

 あの時なにやってたんだろう。この人。

 

 

 「卑怯者卑怯者卑怯者!」

 

 

 「あんな勝負、私は認めないわよ!」

 

 

 急にそう声をかけて来たのはナナを彷彿させる露出度の高い服を着た女の子2人組。

 うん、もう突っ込まないよ。服装に関しては。

 

 

 「魔剣グラムを返しなさい!その剣は、キョウヤにしか扱えないんだから!」

 

 

 「えっ?マジで?」

 

 

 「えぇ。魔剣グラムはその痛い人専用よ」

 

 

 「マジでか…………どうしよう……」

 

 

 「売れば?」

 

 

 『その手があったか!』

 

 

 『やめてっ!』

 

 

 余計なこと言ったかもしれない。

 俺が言った一言でカズマ達は盲点だった!といわんばかりの表情を浮かべた後、それぞれどのくらいの金額だろうか想像しだし、一方の女の子2人は涙目で必死に止めている。

 そうして大人数で騒いだ所為か、ロト擬きがもぞもぞと起きてきた。

 

 

 「う、うぅん……僕はいったい……」

 

 

 「あ、起きた」

 

 

 「あ、あー!そうだ、君!僕の魔剣グラムを返してくれ!というか、さっきの勝負は無効だ!卑怯だろう、あんなの!?」

 

 

 「勝負に卑怯も何もあるかよ。というか、そもそも駆け出し冒険者の俺にいかにも強そうな装備をしたお前と真正面から戦って俺が勝てるわけないだろ。そもそもこの勝負自体が不公平だ」

 

 

 「ぐ、ぐぬぬ……。じゃあ、どうすればいい……」

 

 

 「んー……そうだな……」

 

 

 カズマは持っていたグラムを地面にさして顎に手を当てるとうんうんうなり始める。そして、俺のほうを見るとニヤリとお見せできない笑みを浮かべると意気揚々とロト擬きに口を開いた。

 

 

 「じゃあ、あそこに居る奴と戦って勝てたら返してやってもいいぞ。何を隠そう、あそこに居るお方は俺の師匠でもある。俺に戦い方を教えてくれた、あのお方が負けたら俺もこの剣を返さざるを得ないからな」

 

 

 「おい……」

 

 

 コイツ思いっきり関係のない俺を巻き込みやがった……。しかも師匠という下手をすれば今までのことが全て俺から教えられたんだという形で相手が考えかねない位置に沿えて、あわよくば責任を押し付けようとすらしている。汚いな流石カズマきたない。

 

 

 「……いいだろう。こんなことを平気で行う人を、量産する奴はどの道ここで倒さなければならない」

 

 

 ほらー、勘違いしちゃってるじゃん。

 

 

 「じゃあ、ほい。今だけはこれを返してやるよ。武器がなくて負けましたとか、言い訳されても困るしな」

 

 

 「わかった」

 

 

 そういってカズマから魔剣グラムを受け取ったロト擬きは剣を俺に向けて構えた。何これ。俺が悪いの?何であの人は、親の敵を見るような視線を俺に向けてくるの?

 

 

 「(おい、お前の所為でそこはかとなく面倒くさいことになったんだけど。どうしてくれるんですかね)」

 

 

 「(俺だって魔剣持ちのチート野郎に上から目線で色々言われて、腹が立ってるんだよ。そこで、お前に真正面から叩き潰してもらいプライドを完全にへし折りつつ、何でも言うことを聞くというお願いと魔剣を手に入れようというわけだ)」

 

 

 「(えげつない……)」

 

 

 「おい、早く構えろ」

 

 

 予想以上にえげつないカズマの考えにげっそりしつつ、ロト擬きの言うとおり武器を構える。刀身はロングブレードである。

 

 

 「開始の合図は僕が出す。先程のように不意打ちされてはたまったものじゃないからね」

 

 

 「はいはい」

 

 

 「では、始め!」

 

 

 一応不意打ちはしないという意思表示なのか、自分が合図を言ってから一拍置いてロト擬きは動き出した。

 その速さは結構なもので俺が今日相手にした2体のモンスターを上回る速度だった。それだけで、彼が高いレベルであることが分かる。が……あのデュラハンと比べると若干力に任せた戦い方だ。

 最小限の力で最大限のパフォーマンスをするための技術ではない。それならば、いくら速くても、剣の軌道を読むことはたやすい。

 

 

 俺は大きく振りおろされた剣の腹に神機をぶつけて軌道を逸らすと、空いている左腕で魔剣を掴んでいる右腕を取りそのまま背負い込んで地面に叩きつける。

 そのあと素早く胴体を踏みつけて動きを制限すると、持っている魔剣を神機で吹き飛ばしてその辺に転がす。そして、顔の前に神機を構えて、降参を促す。

 

 

 「まだやる?」

 

 

 「こ、降参だ」

 

 

 その言葉を聞き届けると、足をどけて神機を下ろしカズマたちの下へ戻る。

 

 

 「お前、今日のご飯奢れよな」

 

 

 「もちろん。そのくらいならお安い御用だ」

 

 

 ニシシと笑うカズマ。どうやら今の光景はコイツの求めるものであったらしい。

 いやー……ホント、えげつないわ。

 呆然と地面に寝転んだままのロト擬きを視界に納めつつ俺は心底そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カズマ「えげつないとかお前がいうな。しっかりガッツリ打ちのめしてるじゃねえか」
仁慈「手加減はいけない(戒め)」


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あの強敵と遭遇を?

今回は短いし、話が進んでいません。

え?理由?F/GOのコラボで力尽きました……。


 

 

 

 レベルが12になった。めぐみんやダクネスからは異例の速さだと驚かれたが相手しているモンスターを言うと納得したらしい。レベルって結構すごいんだな。デュラハンのベルディアと戦った時に比べて7レべ上がったけど、体がとても軽いし、ちょっとの力でもかなりのパフォーマンスが可能になった。レベルが一気に上がりすぎた所為で、上がった身体能力に少しだけ振り回されたこともあった。

 そして、上がった身体能力も完全に掌握し、ついにこのときが来た。魔王軍の幹部、ベルディアと一戦交える時が来たのだ。なんだかんだでベルディアが去ってから一月経って、向こうも待ちくたびれている頃だしな。

 

 

 「というわけで、今からちょっと行ってくる」

 

 

 「いやいやいやいやいや!ちょっと待て!そんなちょっとコンビニ行ってくる的な流れで魔王の幹部に勝負挑みに行くなよ!」

 

 

 一応パーティーを組んでいるカズマに報告をしてからさぁ出発だといったところで、報告をした相手であるカズマに肩を掴まれてその場に留められた。なんぞ。

 

 

 「なんぞじゃねーよ!お前、ちょっとは段階ってモンを踏め!始まりの町から一歩も出てないのにいきなり魔王軍の幹部に挑むやつが何処に居るってんだよ!?どうした?このパーティーの中で、俺たちは同じ立場だったじゃないか!一癖も二癖もあるパーティーメンバーの愚痴を言い合った仲じゃないか!なのに、ここ最近お前は変人(むこう)側よりなんだよ!?」

 

 

 「お前だって人の事いえないだろ。公衆の面前でパンツ盗む奴と露骨に仲間だと見せ付けさせられたり、よくわかんないロト擬き俺に押し付けたりしやがって!」

 

 

 「それ言われると結構キツイ!」

 

 

 なにやら色々好き勝手言っているのでこちらも負けじと言い返す。すると思いのほかクリーンヒットしたようでカズマが若干たじろいだ。

 

 

 「そもそも、何で今日に限ってそんなにやる気なんだお前?」

 

 

 「ほら、あのベルディアというデュラハンさ。俺たちがびっくりするくらいいい人そう………というかまともな性格してただろ?」

 

 

 「確かに」

 

 

 あの町に来た理由は至極最もな理由だし、今回は忠告だけと言って、直接的な攻撃は殆どせず、あっさりと引き下がったからな。ベルディアが攻撃したのも元々俺が仕掛けたからだし。

 そのことを言うと、カズマも同じ気持ちなのかうんうんと頷く。

 

 

 「そのことから改めて考えるとさ……意外と俺のこと待っているんじゃないかという疑念が浮かび上がったんだよ。元騎士とか言ってたしさ」

 

 

 「言ってたな………約束というか自分の発言は違えなさそうだ……」

 

 

 「だからさ、きっと待ってるんだよ。めぐみんが爆破して半壊になった廃城で……」

 

 

 「…………」

 

 

 「…………」

 

 

 「……勝算は?」

 

 

 「十分だ」

 

 

 「よし、行って来い!」

 

 

 「じゃあ、行って来る!」

 

 

 俺の言いたいことが分かってくれたのか、カズマは最低限の問いかけだけして快く俺のことを見送ってくれた。

 まってろよ、ベルディア(いい人)!十分勝算があるレベルにまで達したから、今からお前に挑みに行くぞぉ!

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 これで、仁慈がデュラハンを倒してくれたら万々歳だな。弱いモンスターもまた出現するようになって仕事の幅も増えるだろうし。もちろん、それだけが理由で仁慈を送り出したわけじゃない。流石に誰か別のやつがあのデュラハンに1人で挑みに行くとなったら止めに入るが、挑みに行ったのは何を隠そう仁慈である。

 常識で測りきれない奴に常識を迫ったところでまったくの無駄骨だし、レベル5だったあいつが今ではレベル12まで急成長したらしいじゃないか。ならもういけるんじゃないかな。

 

 

 「カズマ、仁慈知りませんか?私が起きたとき既にベットに居なかったので探しているのですが……」

 

 

 と、仁慈と入れ替わる形でギルドにやってきためぐみんが言う。

 

 

 「仁慈ならこの前お前らが怒らせたデュラハン倒しに行ったよ」

 

 

 「はぁ!?カズマはそのことが分かってみすみす仁慈をデュラハンの元に向かわせたのですか!?」

 

 

 常識的に考えてありえないのですよ!と豪語するめぐみん。そんな彼女に俺はやさしく肩を叩いて諭すように口を開く。

 

 

 「いいか。あいつに対して常識なんて何の役にも立たないんだ。今まであいつがやってきたことを思い出してみろ」

 

 

 そうして俺自身思い返すことが出来るのは、カエルの両断、魔王幹部との戦い、チート勇者を速攻で地面に沈めた姿……それらの姿はレベル差から来る圧倒的不利をまったく感じさせない。はっきり言おう。あいつが敵に追い詰められ、地面に膝をつけている姿がまったく想像できない。

 めぐみんは俺たちが町でバイトをしている間、仁慈といくつか仕事を請け負ったという。その中には当然討伐系も含まれていた。つまり、仁慈の理不尽さをこの中で誰よりも見てきたのはめぐみんなのである。

 

 

 「……今日は帰りが若干遅くなりそうですね。廃城まで結構距離ありそうでしたし」

 

 

 「まぁ、そうなるな」

 

 

 もう主人公はあいつでいいよ。

 初めは物語の主人公のような扱いを受けたいとも考えていたけど、よくよく考えると戦いなんて痛いだけだし、苦労は進んでするものじゃないし、何より本物はあそこまでぶっ飛ばなきゃいけないって言うのが自覚できたし。

 一年もすれば魔王倒せるんじゃないか?

 

 

 めぐみんといつ頃仁慈が帰ってくるかを話し合っているとダクネスも来たり、アクアが騒いだり、チート持ち勇者が来たり、アクアが女神だと認めてもらえなかったりと色々な事が何時ものごとくあったが、それらの出来事を全て吹っ飛ばす放送がキャベツの時と同様に入った。

 

 

 『緊急、緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、町の正門に集まってください!特にサトウカズマさんのパーティーに在籍しているカシハラジンジさんは大至急でお願いします』

 

 

 「この町、駆け出し冒険者が集まる割には色々忙しいのな」

 

 

 三度目となればもうなれたもので、さっさと正門に到着した俺たちはこの前とまったく同じ場所に現れているデュラハンを見つけた。

 

 

 「またアイツか…………」

 

 

 「貴様らぁ………どうして忠告したにも関わらず、毎日毎日爆裂魔法をぶつけて来るんだ!!後、あの狂戦士は何で俺の城に来ないんだぁあああああ!!!」

 

 

 

 「…………」

 

 

 本当に律儀に待っていたのかこのデュラハン。

 声の大きさが、どれほどそのことに対して頭にキているかが示しているようにも感じられる。

 というか、

 

 

 「爆裂魔法?もう仁慈は付き添っていないって行っていたはずだけど……」

 

 

 「あぁ?アレから毎日変わらず撃ち込まれているわ!!おかげで、半壊していた天井は全て破壊され、もはや建物として機能していない状態だ!!」

 

 

 「めぐみん」

 

 

 「すみません。もう廃城に準ずる強度と大きさのものでないと私の欲求は満たされなくなりました」

 

 

 「お前、後で説教な。仁慈から」

 

 

 「―――――――っ!?」

 

 

 この世の全てに絶望したという表情で地面に両手をつけるめぐみんを一瞥し、彼女を連れて帰るための役目は誰が補ったのかということに思考ソースを使う。ダクネスを見てみるが首を捻るだけで知らない様子であった。ならばとアクアを見ると、露骨に視線を逸らし、音もならない口笛を吹いた。

 

 

 「お前が犯人か……」

 

 

 「だ、だってあのデュラハンの所為で碌なクエストがないから……」

 

 

 だからって腹いせにしろぶっ放すなよ……。

 

 

 

 「えぇい、もはや頭のおかしい爆裂娘のことなどどうでもよい!それよりも、この前俺と剣を交えた狂戦士、カシハラジンジは何処へ行ったのだ!?」

 

 

 「今朝、廃城に向かって不在だけど」

 

 

 「は?」

 

 

 「だから、入れ違い」

 

 

 

 「はぁあああああああああああああああ!!??」

 

 

 

 

 俺の言葉を飲み込んだ魔王の幹部様はそれはそれは大きな叫び声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――――――――同時刻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『天井もない場所であの狂戦士を待つことに限界を感じたので、自分から行って来ます。配下の者共、昼食は各自で用意せよ』

 

 

 

 「………はぁあああああああああああ!!??」

 

 

 無数のアンデットたちの屍を築き上げて、天井がない廃城のいかにもボスの間というところにようやく到着した仁慈は、なんとベルディアと同じタイミングで叫んでいた。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近これ短編ではないのでは?と言われ、もうベルディア倒したら終わりでいいんじゃないかと思い始めた……。


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この強敵とか物語とか色々なものに決着を!

何だこれ。
……何だこれ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 今俺、樫原仁慈は全速力で駆けていた。森の中を。

 

 

 

 「うぉぉおおおお!!なんでさぁあああ!!」

 

 

 何故俺がこうして叫びながら森の中を爆走しているかといわれれば、今朝意気揚々と倒しに行こうとした魔王軍の幹部、ベルディアがどうやら待ちきれずに俺が今拠点としている町へわざわざ行ってしまったからである。あいつ割りといい人だから、むやみやたらに人は襲わないと根拠のない自信があるが、カズマと愉快な仲間達(特にアクア)が余計なちょっかいを出す可能性がある。

 そうなったら多分戦いは避けられない。いや、あいつらならなんだかんだで勝ちそうな気もするけど、念のためね?

 

 

 「グォオオオオオオ!!!」

 

 

 「道をお開けくださいぃぃぃ!!」

 

 

 「GUAAAAAAA!!??」

 

 

 急に目の前に出現したモンスターを、疾走の勢いを乗せた攻撃で切り伏せる。そして、そのモンスターのやられた姿を確認せずにそのまま自分が来た道を逆そうして町まで向かった。キャラ崩壊?気にしていられるか!

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 意外!俺が町に帰ってみれば、そこには大量の水と崩壊した正門があった。

 いったいどういうことなの……。

 

 

 冒険者達はずぶぬれになりながらも地面に横たわっており、ベルディアも乗っていた馬をどこかにやってしまったようだった。ついでに頭も。

 

 

 「あ、仁慈」

 

 

 「何!?何でこうもタイミングが悪いんだ貴様!!」

 

 

 声のしたほうを見てみれば、そこには頭をボール代わりにされている憐れな魔王幹部の姿が。

 頭が離れすぎた結果なのか、蹴られまくって意識がむかないのか体すら動かなくなっている。

 ………なんていうか色々ひどい。これもう俺の出番ないでしょ。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 なんなんだろうなぁ。この感じ。言葉にするとすれば、萎えたの一言に尽きる。やる気満々で倒しに行ったときに限ってこの状況だもの、そうなっても仕方がないと思うんです。まぁ、カズマ達が無事だったのはいいことだけどさ。

 

 

 「お、おい狂戦士!この者たちを止めろ!そして俺と戦え!」

 

 

 「それは俺に言うべきことなんでしょうか……」

 

 

 魔王の幹部を倒す絶好の機会だし、誰も止めないと思うんですよ。俺は。

 ダクネスだってそろそろ止めをさしてあげようとか言ってるし、カズマもそれに対して頷きアクア声をかけているし………ぶっちゃけ、何もかも手遅れだと思うんだ。

 

 

 「ベルディアすまん!多分言ってもこの人たち止まらないと思うから、そのまま成仏してくれ!」

 

 

 「はぁあああ!?ゲフッ……ちょっとさっぱりし過ぎじゃないか貴様!?あの戦いを通じて再び剣を交えたくてこの町まで来たんだぞ!」

 

 

 「でも、もう詠唱入ってるぞ?」

 

 

 「え?」

 

 

 俺の視界には、町の中から飛んできた杖をキャッチして、ベルディアの体に対アンデットの浄化魔法を唱えるアクアの姿が映る。

 そして、彼女はそのまま詠唱を終えると杖を前に突き出し、魔法の名前を口にした。

 

 

 「セイクリッド・ターン・アンデット!」

 

 

 「うぇあ!?ちょ、マj――――オォ……」

 

 

 

 魔方陣から出た光の柱はベルディアの体を光の分子にまで返還させて跡形もなく消し去った。

 その光の柱はそれで収まることはなく、空まで突き抜け、一面を覆っていた雲を霧散させた。

 その場に居た冒険者達が両手を挙げて喜ぶ中、俺は静かにベルディアの冥福を祈ったのだった。なんか、本当にすまん。だが、戦場にことの善悪はなく勝てば官軍なんだよ……。

 見上げた空ではベルディアがこちらに向かって親指を立てた……そんな気がした。

 

 

 

 

 その後、魔王軍の幹部を倒したということでギルド内の酒場で打ち上げのようなものが行われていたが、ぶっちゃけ俺は何もしていないので物凄く居心地が悪かった。なので挨拶もそこそこに一人足早に宿屋に帰る。

 ちなみに、この町の壁を壊したときに発生した借金の返済は俺も入っていた。解せぬ。結果的に戦うことこそなかったものの、全速力で駆け回ったこともあり俺はすぐに眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

            ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 目が覚めると知らないところに居た(三回目)

 もう色々いい加減にして欲しい。一体俺はどれだけ別空間に移動すればいいのだろうか。

 と、頭で考えつつも周囲の把握をほぼ無意識でやってしまう。慣れって怖い。マジ怖い。そして周囲を見渡してみた結果、この空間は俺が始めてアクアとであった空間に近いものであることが分かった。

 二つしかない椅子とか物凄い見覚えがある。ということは、俺はまた寝てる間に死亡したのだろうか?

 

 

 「いえ、貴方は死んだわけではありません。今回は睡眠中の貴方をお呼び出ししました。体ごと」

 

 

 「体ごと!?」

 

 

 そんなこと出来るんですか!?

 というか初対面ですね。新しい神様か何かだろうか……。ここで働いていたアクアはカズマにつれられて異世界へと旅立ってしまったわけだし。

 

 

 

 「察しがいいですね。私はエリスです。今回は貴方にお話しがあってこちらにお呼びしました。体ごと」

 

 

 「それはもういいです。それで、話っていうのは……?」

 

 

 そう尋ねてみれば、エリスと名乗った新しい神様は

 

 

 

 「この度は、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

 「はぃ?」

 

 

 しまった。あまりに不意打ち過ぎて右京さんみたいな声が漏れた。あわてて口をふさいでエリスさん……エリス様のほうを向いても頭を下げたままであった。どうやら聞こえていないようである。 

 ほっと一息つきつつ、何に対しての謝罪なのか問うてみる。

 

 

 「それは、何に対する謝罪なんでしょうか……」

 

 

 「もちろん、死んでもいない貴方を他の世界に送ってしまったことです」

 

 

 そういえば、俺は臨死体験中に異世界に送り込まれたんだっけ……。あの世界で割りと濃い毎日を送ってたから若干忘れてたわ……。

 

 

 「そのことですか……」

 

 

 「はい。私がここの担当になって、今後の参考にするために過去の資料等を見直していたら、貴方のことを見つけて………神々の間でも問題となっています。まだ生きている人間を魔王討伐に向かわせるのは流石にアレということで、今回ここにお呼びさせてもらった次第です」

 

 

 「それは分かりましたけど……」

 

 

 謝罪をもらってどうしろというのだろうか。まさか元の世界に返してもらえるとかそんなのかな?

 

 

 「まさにその通りです。今回お呼びしたのは、貴方を元の世界に戻すためです」

 

 

 「MAJKA」

 

 

 「MAJIです」

 

 

 急展開過ぎる……。いきなり自分の世界に帰れるといっても……いっても……何も問題はないな。特にあの世界でやりたいことはないし、そろそろ帰らないと、残してきた肉体が何されるのか分かったものじゃない。

 カズマたちのことは少々気がかりだが……カズマが知力と幸運で何とかするだろう。

 

 

 「じゃあ、お願いします」

 

 

 「は、はい!(よかった。下手に残られて、敵味方問わずキチガイにするんじゃないかという懸念からさっさと追い出すことに決めたとかいわなくて本当によかった……)」

 

 

 今物凄く失礼なことを思われた気もするが、そこは気にしないことにする。

 

 

 「それでは今から、貴方の世界に送りますが……最期に一つお願いを聞いてもらっていいですか?」

 

 

 「なんですか?」

 

 

 今から送り返されるとい状況のなかでするお願いとは一体何なのだろか?

 そのようなことを思いつつ首を傾げると、エリス様の隣に黒いもやのようなものが突然吹き出し、一気に膨れ上がった。

 

 

 大量の酸素を一気に受けた炎のように広がる黒いもやはしばらくの間出ていたが、やがてそれらすべてがフッと跡形もなく消えた。

 しかし、黒いもやの変わりにそこにはどこか見覚えのある黒い鎧で全身を覆っている人型が立っていた。

 

 

 「ahh………」

 

 

 「何だあれ……」

 

 

 人の言葉を発さずにうめき声のようなものを上げた黒い鎧は虚空からこれまた見覚えのある剣を取り出してこちらに突きつけた。

 

 

 「ahh……aaaaaaa……ジン゛ジィィイイイ!!」

 

 

 そのまま叫び声をあげてこちらに剣を振り下ろす。

 振り下ろされた剣は空を裂き、かまいたちのように俺の体に飛んできた。マジか。

 間一髪体を斜めにしてその斬撃を回避すると、既に目の前にまで黒い鎧は接近していた。回避は間に合わない。

 俺は振り下ろされた剣に対して一か八かの白刃取りを決行。なんとか自身に迫る凶刃を受け止める。

 

 

 「すみません!これなんですか!?」

 

 

 頭がぱっくりいかれるかいかれないかの瀬戸際に、この状況の全貌が分かっているであろうエリス様に半ばというか殆ど叫び声のような声で尋ねる。

 

 

 「えーっと、実はその方……ついさっき浄化された魔王軍幹部のデュラハンなのですが、よほど未練が強いのか生前の姿で復活して戦おうとしてたんですよ。貴方と」

 

 

 「お前ベルディアかよぉ!」

 

 

 ランス〇ット見たいな恰好と声しやがって。どこが騎士だ。お前のほうが狂戦士じゃないか。

 

 

 「お願いというのはほかでもありません。彼の未練を晴らして欲しいのです」

 

 

 「そういうのはもっと早く言って欲しかった……ッ!」

 

 

 俺も不完全燃焼だったからいいけどさ。

 とりあえず、剣を弾き返して鎧の腹を蹴り飛ばして距離を稼ぐとあいつがやったように自分の武器を思い描く。

 半ば適当だったがしっかりと自分の手に握られた神機の刀身をロングブレードに変えると、こちらも構えを取った。

 

 

 

 

 

             ――――――――――――

 

 

 

 

 白銀に輝く両手剣とクロガネ性のロングブレードが火花を散らしてぶつかり合う。お互いに一歩も引かず、普通なら崩れるはずの両手剣もその切れ味と形を保っていた。しかし、そんな事は関係ない。お互いがお互いの全力を尽くして武器を交える。

 

 

 「アアァアアアアア!!」

 

 

 「どぉりゃぁああああ!!」

 

 

 交えるたびに速度を増していく。もはや常人には刀身が見えず斬撃が一度に複数出ているようにも見えるだろう。

 一瞬でも気を抜けば瞬く間に細切れになりそうな斬撃の嵐の中、仁慈は確かにその口の端を釣り上げて笑みを作っていた。黒い鎧、ベルディアも表情こそ見えないものの笑っているようにも感じられる。

 もう100合にも到達する衝突で同時に後方に吹き飛ばされる。ベルディアは地面に剣を刺すことでその衝撃を殺し、仁慈は身軽な装備だからこそ出来るバック宙でで衝撃を受け流してから着地する。

 武器がぶつかり合う甲高い音はなりを潜め静寂が空間を支配する。

 この場にちゃっかり居座っている女神エリスは目の前で行われる尋常じゃない戦いに目を奪われ、物凄くキラキラした視線を2人に送っていた。

 まるでヒーローショーを前にした子どもである。

 

 

 「………」

 

 

 「ahhhhh……そうだ。これだ、これだよ。俺が貴様と望んでいた戦いは、こういうものだ!は、はは……ハハッハハハハ!!そうだ、これこそが俺が求めていたものだ!この戦いこそが!」

 

 

 「………なんかすまんね。色々」

 

 

 思いっきり見捨てたしと仁慈は続ける。

 そんな彼にベルディアは気にするなとでも言うかのごとく手を振り払った。

 

 

 「構わん。あの状況はしょうがないものだと割り切っている。雑魚だと見下し、油断した俺が悪いのだ。戦場にことの善悪はない。過程がどうだろうと、結果が全てだ。それに……」

 

 

 ここでベルディアは言葉を切る。

 そして、地面に刺していた剣を引き抜くとその剣を眺めながら、続きを紡いだ。

 

 

 「俺の願いはあの世であろうと、叶った。魔王軍の配下となり、盛大に暴れた俺にはもったいないくらいの結果だ。だからこそ、無粋な感情は捨てろ。純粋に向かって来い!」

 

 

 「…………分かった」

 

 

 仁慈は一回顔を下に向ける。そして、数秒してその顔を上げた。

 そこには、かつてマルドゥークを屠ったときと同じ表情を浮かべていた。犬歯をむき出しにして獣のように笑う様はもうラスボスである。

 

 

 「いざ――――」

 

 

 「尋常に――――」

 

 

 『――――勝負!』

 

 

 エリスから見たら2人が瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。先程までの静かな空間はすっかり変貌し、再び甲高い音が連続して聞こえる死の空間へと変貌した。

 

 

 ベルディアの薙ぎ払いをギリギリのラインを見極めて背面とびのように回避し、捻った体と重力を加えた一閃を放つも、腕を捻って剣の向きを変えて受け止められる。逆に宙に上がって無防備となっていた体に蹴りを受けて吹き飛ばされる。お返しとばかりに今まで使うそぶりを見せなかった神機の銃形態を使いベルディアの左腕を吹っ飛ばした。

 

 

 「貴様!それ剣じゃないのか!?」

 

 

 「残念だったなぁ!トリックだよ!」

 

 

 こんなことをいいつつお互いに笑顔である。

 

 

 

 このような戦いを何時間続けたか、お互いに息が切れ始めた頃、ベルディアがふと呟く。

 

 

 「………次で最期としよう」

 

 

 「お約束だな」

 

 

 「そういうことは言うな」

 

 

 

 軽口を叩きつつも、いつでも相手を倒せるように武器を構える。

 そして、

 

 

 「――――――」

 

 

 「――――――」

 

 

 お互いの体が交差し、位置が入れ替わる。

 そのまま武器を下ろし、振り返ったのは仁慈だった。

 ベルディアは剣を落として地面に倒れこむ。

 

 

 「………完敗だ。俺は結局、お前に致命打を与えることは出来なかったな……」

 

 

 「………まぁ、改造人間みたいなものだし」

 

 

 「そうか……」

 

 

 キラキラと、ベルディアの体が光の粒へと変わっていく。

 それは未練が晴れたときに起きる、消失だった。

 

 

 「だが、よい。満足だ。魔法も、何もなく純粋に剣技で挑んだのは初めてだった。お前は銃を使ったがな」

 

 

 「勝てばよかろうなのだ」

 

 

 「……やっぱり、お前はあいつらの仲間だわ……」

 

 

 そう口にするベルディアであったがそこには暗い感情は含まれていなかった。純粋に賞賛しているようである。

 

 

 「……まぁ、よい。これで俺はなんの未練もなく逝ける。感謝するぞ、樫原仁慈」

 

 

 その言葉を最期にベルディアの体は完全に消失した。

 それを見届けた仁慈は神機を担いで肩に乗せる。

 

 

 「すごいたたかいですね!私、興奮しっぱなしでした!」

 

 

 「それはようござんした」

 

 

 両目をキラッキラさせたエリスが仁慈にいう。彼はその言葉におざなりな返事を返しつつ、自分を元の世界に返すように視線で訴えた。

 その意図を汲み取ったエリスは両手を仁慈のほうに向けると両手に神様パワー的なものを集めて放つ。

 

 

 「それでは樫原仁慈さん。もう遭うことはないでしょう。精一杯自分の生を謳歌してください」

 

 

 その言葉を最後に意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

             ――――――――――――

 

 

 

 ふと目を開けるとそこは何度かお世話になった極東の病室の天井だった。

 

 

 「よかった。見知ってる天井だ」

 

 

 しっかりと帰ってきていることに安心し、体を起こそうと思うと、何故か起き上がらなかった。

 ずっと寝てたから起き上がんないか?でも俺の体そんな柔じゃあないしな……。

 そう思いつつ、体を見てみると色々なコードが体につながれていた。

 

 

 「なんじゃこりゃ!!」

 

 

 俺の体がスパゲッティ絡めてるフォークみたいになってるんですけど!?俺があげた叫び声に気付いたのか看護師のヤエさんが入ってきた。

 

 

 「あ、目が覚めたんですね。よかったです」

 

 

 「俺は全然良くないんですが!?目が覚めたらスパゲッティってどういうこと!?」

 

 

 「知らないほうが身のためですよ?ラのつく人とサのつく人が」

 

 

 「聞かなきゃよかった!」

 

 

 ヤエさんとそんなくだらないやり取りをしながら、あぁ極東に帰って来たんだなぁとしみじみ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――その数日後

 

 

 

 

 「やっぱり貴方の理不尽さはいざというときの切り札になるという結論が神々の間で出まして……」

 

 

 「………そいつら纏めて喰らいつくしてくれようか」

 

 

 

 例の空間でそんなやり取りがあったとかなかったとか。

 仁慈の異世界での生活は、まだまだ続く………かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……文句があるのは分かる。あの人もはやベルディアじゃあねーよという文句は最もです。反省してます。後悔はしません。


まぁ、それはともかく。とりあえずこの短編はこれで完結ということで、お付き合いいただきありがとうございました。


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