双刀の勇者の物語 (追星 翔)
しおりを挟む

第1話

「おお……」

 

 ……誰かの、感嘆の声が聞こえてきた。

 何か感動するようなことでもあったのだろうか?

 というか、何故俺は地面にキスをしているんだ?

 悪いが、俺は地面を愛する趣味はないぞ?

 

 俺は地面から顔を放し、そのまま体を起こした。

 そして辺りを見てみるが、石でできているように見える壁が周りを囲っている。

 ……どこかの部屋だろうか?

 キスをしていた地面を見ていると、俺は祭壇のようなものの上に立っており、その下には魔法陣のような幾何学模様が描かれていた。

 

「……なにこれ、どういうことなの……?」

 

 思わず、そう呟いた。

 しかも、俺の両手には、何やら剣のようなものが握られていた。

 剣の柄には何やら宝石のようなものがついている。

 

 隣を見ていると、俺と同じように混乱している男達が4人いた。

 それぞれ、剣、弓、槍、盾を持っている。

 ……武器だけだと思ったら、防具っぽい盾もあるのか。

 

 つか、これマジで何なの?

 何で俺こんなの持ってるの?

 生憎俺は剣なんて人生で1回も握ったことはない。

 一応地面に置こうかと考えるも……何か、全然離れてくれないんですけど!?

 えっ、まさか超強力接着剤でも塗られたか!?

 誰だこんなイタズラしたやつ! 手がかゆくなった時にかけなくなるだろ!

 

「おお、勇者様方、どうかこの世界をお救いください!」

『はい?』

 

 俺以外の4人が、わけ分かんねぇ何言ってんだコイツと言わんばかりに疑問を返した。

 ……ちなみに俺は、剣を地面に置こうと奮闘している最中である。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 誰かが、質問した。

 ……雰囲気的に、何となく今の状況が分かってきた気がするぞ。

 でも、こんなこと、本当に現実なのだろうか?

 夢を見ているって言われたら納得するレベルだぞ、これ。

 だって、これって……。

 

「色々と込み合った事情があります故、ご理解する言い方ですと、勇者様達を古の儀式で召喚させていただきました」

 

 ほらもうこれ完全に小説でよくあるあれじゃん!

 いきなり召喚させられて世界守るぞー! ってやつじゃん!

 

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

 さっきから話していた、ローブを着た男が深々と頭を下げた。

 

「嫌だな」

「そうですね」

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

 ……え?

 今、もの凄い回答をしたやつが3人ほど居た気がするんだけど?

 主に今半笑いしている剣、弓、槍の人だった気がするんだけど?

 

 ……あー、こいつらも俺と同じ結論に達して、わくわくしてるのかなー。

 いや、でもそれならバッサリ切り捨てないよなぁ……。

 

「人の同意なしでいきなり呼んだことに対する罪悪感を、お前らは持っているのか?」

 

 いや、剣の人、半笑いしたあとにそんなこと言われても……っつか、剣を人に向けるなめっちゃ危ない!

 

「仮に、世界が平和になったらポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」

 

 弓を持った人も、ローブの男を睨み付ける。

 

「こちらの意思をどれくらい汲み取ってくれるんだ? 話によっちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから、覚悟しておけよ」

 

 ……しれっと俺を巻き込むな、イケメン金髪な槍の人。あと、どうせお前敵役なんてやらないんだろう?

 何だかんだ言って世界を守るために戦うんだろうな、こいつ。

 

「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」

 

 慌てたようにローブの男はそう答えて、重そうな扉を開けた。

 ……まぁ、そうなるよなぁ。いきなりんなこと言われるなんて思ってなかっただろうし。

 俺も驚きすぎてドン引きだよ。

 

 その後、俺達は石造りの廊下を歩き、謁見の間と思われる場所に到着した。

 

「ほう、こやつらが古の勇者達か」

 

 ……王様と思われる人が奥の玉座に腰かけていたが……うーん、目が何となく気に入らないな。

 舐められてる気がする。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ、顔を上げよ」

 

 下げてないんだけど……まぁ、偉そうにしたい年頃なのだろう。

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びに向かいつつある」

 

 ……すごい大雑把に纏めると、波というものが訪れるから、それ何とかしてーって話らしい。

 我ながら本当に雑に纏めたな。

 でも、終末の予言とかあんまり興味ないんだよね……何でだろ。

 ちなみに、もう既に1回波が来たらしい。

 魔物がドバドバ出てきて、何とか抑えることはできたらしい。

 だが、話を聞いてると相当厳しそうだなぁ……。

 

 あと、言葉が分かるのは、俺達が持っている武器の効果らしい。

 ……伝説の武器らしいが、凄そうには全く見えない。

 だって、なんというかもう、シンプルー! って感じなんだよな、デザインが。

 いや、デザインにこだわるなって言うけどさ……凄そうな見た目を期待するじゃん、そういうのって!!

 

「なるほど、話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」

「都合のいい話ですね」

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」

 

 お、お前ら……言ってることと感情がバッラバラだな!!

 

「確かに、助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』とかされたらたまったもんじゃないし。というか帰れる手段があるのか聞きたいし、その辺りどうなの?」

 

 うぉ、ずっと黙ってた盾の人も喋りだした。

 あれっ、何もしゃべってないの俺だけじゃん!

 何かしゃべるべきだろうか……。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です」

 

 4人が、グッと握り拳を作った。

 

「他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

 

 ……うーん、盾の人以外上から目線だなー。

 

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 

 王様がそう言った後に、剣を持った人が前に出て自己紹介を始めた。

 

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ」

 

 ……俺より2歳ほど年下のようだ。

 年下のくせに俺より口が回るご様子で。

 しかもしかも! 黒いショートヘアで顔も整ってるとか、何だかもう俺よりクールっぽいぞ!

 畜生、俺のほうが背が高いのに!!

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

 

 次に槍の人が、自己紹介をした。

 ふむ、このイケメンは大学生か。

 ……さっきから思ってたんだけど、軽そうだよなぁ、こいつ。

 彼女とかわんさかいそう。

 あと、髪型がポニーテールだ。

 男の人もポニーテールってするんだな。

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です」

 

 その次に弓の人が、自己紹介をした。

 ……なんというか、病弱そうな印象だ。

 ウェーブヘアーっていうのも重なって、何だか神話の中にいそうなやつだという感想を持った。

 

「次は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

 

 盾の人が自己紹介をした。

 背はそれなりに高く、黒髪で、この中で一番落ち着いているように見える。

 ……結構逞しく生きてそうだ。

 

「……んで、お前は?」

 

 槍の人に聞かれて、慌てて俺は自己紹介を始めた。

 

「うぉ、忘れてた! えーっと、俺の名前は、上谷良介です。年齢が18の現役高校生です」

「ふむ。レン、モトヤス、イツキ、そしてリョウスケか」

「王様、俺を忘れてる」

 

 綺麗に忘れられた尚文くん。

 ……そんなに影薄いかなー、この人。

 まぁでも、1番落ち着いてるからこそ影が薄くなるのかもしれない。

 

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 

 ……んんー? 詫びてるようには見えないなー、この顔。

 気のせいだろうか?

 

「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

「ん? ……ステータスって、あれ、か?」

 

 ステータスっつったら、ゲームとかでよくある、自分の性能を確認できるあれだよな?

 でも、そんなもの見たことないから、どうやって確認するかなんて知らんがな!

 

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 

 樹が、おずおずと王様に進言した。

 そうだよなー、そりゃ聞きたくもなるよなぁ……。

 

「何だお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 

 いや、錬、そんなことを呆れたように言われても知らんがな。

 そんなに色々と気付けるほど落ち着いてないし、こっちは。

 

「なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」

「ん? ……これか?」

 

 何となく視界の端に、アイコンのようなものが見えてきた。

 

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 

 アイコンをじっと見つめ続けてみると、ピコーンと軽い音がして、視界に大きな、ウィンドウのようなものが現れた。

 

 上谷良介

 職業 双刀の勇者 Lv 1

 装備 スモールダブルソード(伝説武器)

    異世界の学生服

 スキル 無し

 魔法 無し

 

 ……これ以外にもいろいろと項目があったが、後で見ることにしよう。

 なるほど、これ、まんまゲームのステータスだな!

 ていうか、俺はいつから職業が学生から勇者になったのだろうか。

 あ、召喚された時かな?

 

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界では存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」

「まじか、普通にあるのかこんなのが」

 

 驚きだ。自分を数値化してみることが普通にできるなんて。

 中々慣れないぞ、こんなの。

 

「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

 

 ふむ、何だか本当にゲームっぽいなぁ。

 つか、さすがに最初から俺TUEEEEは許してくれないみたいだ。

 

「伝承、伝承ね。その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」

 

 元康が、くるくると槍を回しながら意見した。

 だから、あぶねぇって。つか、どうやって回してんだそれ。

 

「そこは後々、片付けて行けば良いだろ。とにかく、頼まれたのなら俺達は自分磨きをするべきだよな」

 

 槍を回しているのに驚いていたため、誰が発言したのかはわからなかったが、興奮しているという感情が言葉ににじみ出ていた。

 

 ……まぁ、こんなの興奮するよなぁ。かくいう俺も、結構興奮している。

 勇者とか、結構あこがれてたんだよね。

 

「ふむ、となると……自分磨きするにしたって、Lv1じゃやっぱ危ないよなぁ……」

「じゃあ、俺達5人でパーティーを結成するのか?」

 

 俺の独り言に、元康が答えた。

 そうしたほうが安全じゃないかな、と答えようとした時。

 

「お待ちください勇者様方」

「んん?」

 

 大臣らしき人が進言した。

 

「勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

 

 まじか、そんな性質があるのか?

 ……ん? ヘルプなんてものがあるのか。

 試しにちょっと読んでみよう。

 

 しばらく読んでいると、こんな文を発見した。

 

注意、伝説の武器同士を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別々行動しましょう。

 

 ……本当みたいだ。

 となると、仲間探しから始めないといけないのか。

 

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

 

 そう思ったとき、王様が太っ腹なことを言ってくれた。

 

「うぉぉ、ありがとうございます」

 

 それぞれがそれぞれの言葉で感謝を示した後、その日は王様が用意した部屋で、俺たちは休むこととなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。