幻次元ゲイム ネプテューヌ -少女達の非日常な日常- (橘 雪華)
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小噺の頁
ジェットストリームラムちゃん


このお話の大部分はノリと勢いで構成されています。
あと、台本形式だったりもします。


-ジェットストリームラムちゃん 始まり-

 

 

 

ネプ「やっほーブラン! 遊びに来たよー!」

ブラ「ネプテューヌ…わたし、あなたほど暇じゃないのだけど」

ネプ「まーまー良いじゃん良いじゃん。なんならラムちゃん達の相手もするよー? ネプギアが!」

ギア「ええっ、わ、私? それはいいけど、お姉ちゃんは何しに来たの?」

ネプ「わたしは…ルウィーで新発売のプリンを食べに!」

ブラ「おい」

ギア「あ、あはは…ところで、ラムちゃん達は…?」

 

「あ、ネプギアだ!」

「え? ネプギア?」

「ネプギアが遊びに来たわ!」

 

ギア「……えっ?」

「「「ネっプギアー! とーぅ!」」」

ギア「え、え、ラムちゃんが三人? って待って待って三人同時には受け止めきれな…ねぷぎゃああああ!?」

 

ネプ「……ねぇ、ブラン? わたしの目が変になったんじゃなければ、ラムちゃんが三人に見えるんだけど」

ブラ「安心しなさい。頭は残念だけど目は変になってないわよ」

ネプ「頭はって何さ頭はって! …っていうか妙に落ち着いてるね」

ブラ「まぁ、どういう状況なのかは大体予想がついてるもの」

ネプ「え? どういうこと? ちょっとーブランー! ひとりで納得してないで教えてよー! ねぇってばー!」

ブラ「…(うぜぇ…)」

 

 

 

 

 

-ジェットストリームラムちゃん 2nd-

 

 

 

ギア「うぅ…も、もうダメ、動けない…」

ラム1「何よネプギア、だらしないわねー」

ラム2「そーよ。これくらいでヘバってたらまた悪い奴らが出てきたときにどうするのよ!」

ラム3「そーゆーこと。休んでる暇なんかないわよっ、ほらほら!」

ギア「だ、誰か助けてー!」

 

ネプ「いやー、このプリン中々美味しいねー(もぐもぐ)」

ブラ「…あなた、結構薄情よね」

ネプ「いやだってさー、あの状況を見たら自分からあれに突っ込むのは流石にねー」

ブラ「そんな事言って、妹を見捨てているとその内痛い目を見るわよ」

ネプ「あはは、まっさかー」

 

ラム1「いっけー、本・ファンネルー!」

ラム3「じゃあわたしのは本・ファングー!」

ラム2「それじゃえっと…本ドラグーン!」

ギア「わあああ! ほ、本は投げたら危ないってばー!」

 

ネプ「…あれーなんか途端に嫌な予感がして…ねぷぅ゛っ!?(ゴゴゴッ」

ブラ「言わんこっちゃない…っていうか、テメーら人の本を投げて遊んでんじゃねぇぇぇ!!!」

ラム1「ひゃー! お姉ちゃんが怒ったー!」

ラム2「にっげろー!」

ラム3「きゃーっ!」

ギア「な、なんで私までー!!」

 

 

 

 

 

-ジェットストリームラムちゃん 終章-

 

 

 

ブラ「少しは反省したか? あぁ?」

「「「ごめんなさい…」」」

ギア「ご、ごめんなさい…」

ブラ「ったく……それで、あなた達はいつまで続ける気?」

ギア「えっ?」

 

ラム1「あ、あれ? お姉ちゃんわかるの?」

ラム3「あー、やっぱりブランさんにはバレちゃうんだ」

ラム2「むぅ…結構自信あったのに(しょんぼり)」

 

ギア「え? も、もしかしてこのラムちゃん達って…」

ラム「そうよ。内二人はロムとグリモでしょうね」

ギア「ぜ、全然わからなかった…そういえば二人を見かけないなと思ったら…」

ラム(グリ)「うん、わたしとロムちゃんがウィッグつけてました、ってね。でも流石にブランさんには見抜かれちゃったとはいえ、それ以外には結構ばれないのかな」

ラム「どーかしら。ネプギアだし」

ギア「…ラムちゃんって時々容赦ないよね」

ラム(ロム)「ね、ネプギアちゃん…(よしよし)」

ラム「あーっ! こらーネプギア! 何ロムちゃんに撫でて貰ってるのよ!」

ギア「えぇ!? 私!? 私が怒られるの!?」

 

 

ブラ「それにしてもグリモ…あなたも結構ノリノリだったわね」

ラム(グリ)「それは言わないでください…」

 

 

 

ギア「って、あれ?」

ネプ「…(頭に三段たんこぶ」

ギア「お、お姉ちゃん!? お姉ちゃんしっかしりて! おねえちゃああああん!!!」

 

 

ラム「あー楽しかった! 今度はロムちゃんでやってみる?」

ロム「それか、グリモちゃん…」

グリ「二人も懲りないね…」

 



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イラストサイト

某イラストサイトを眺めていてふと思いついた短い文。

ちなみに今回グリモちゃん以外の人の出番はほぼありませぬぞ。


とある日の昼間、自室にて。

 

「うぅん…退屈だな…」

 

わたしことグリモは、絶賛暇を持て余し中。

 

「ロムちゃんとラムちゃんは見当たらないし、フィナンシェさんとかミナさんは忙しそうだし…」

 

まぁ、そんな理由があって一人で退屈な所だ。

クエスト受けてモンスター相手に特訓でもいいけど…今はそんな気分でもない。

 

……あ、そうだ。こんな時は…

思い出したようにベッドの脇に置いておいたポーチを開け、中から一つの携帯端末を取り出す。

 

「じゃん! 一見ルウィーで一般的に出回ってる二画面の携帯端末だけど、この前ネプギアに改造してもらってNギア同等の性能になった携帯機!」

 

……って誰に説明してるんだろうわたしは。

ともかく、元の名前同士を合わせたら、うーん…NSってところかな。

 

「確かNギアってネット機能とかあったはずだから、これにも……あった!」

 

NSを操作し、ある項目を見つけてそれを選択する。

その項目とは…インターネット。

 

そう、わたしの思いついた暇つぶし法とは、ネットサーフィンである。

まぁ、読書とかゲームでもよかったんだけど、折角ネプギアに色々してもらった物だし、使ってみたいって気持ちの方が強かった。

 

「ちゃんとネットには…繋がってる。とはいえ、何を検索しよう?」

 

うーん、と暫く考えて、とりあえずということでブランさんの名前を入力して検索をかけてみる。

すると出てきたのはブランさんの事が書かれたneppediaというのや、イベント情報、はたまた女神グッズなんかの情報まで表示された。

 

「はー…流石に色んなサイトがあるんだ…あ、ブランさんのブログだ」

 

ちなみにブランさんがよく書いてるらしい作品に関しては見当たらなかった(恐らく後ろの方のページにはあるだろうけど)

 

「イラスト…? へぇ、ファンアートなんかもあるんだ」

 

ふと目に付いたブランさんのイラスト画像をタッチペンでタッチすると、そのイラストの置いてあるページへと飛ばされる。

そこは、色んな人が絵や小説やらを投稿してるらしいサイトのようだった。

 

「へぇ、こんなサイトが…絵を描ける人ってすごいなぁ」

 

投稿者によって絵柄の違うブランさんの絵を眺めながら関心する。

こういうのって、ファンアートっていうんだっけ?

 

「そうだ、ロムちゃんとラムちゃんの絵はあるかな」

 

ふと気になって、イラストサイトにある検索機能を使って二人の絵を探してみる。

するとヒット数は流石にブランさん程ではないにしろ、沢山の二人の絵が表示された。

基本的に現実でのイメージと一緒で、ラムちゃんは活発そうに、ロムちゃんは大人しい感じに描かれている。

なんとなくだけど、二人の絵を見る度にほっこりというか、嬉しさに似た感情が湧いてくる。

 

そして時々二人と一緒にブランさんが描かれた絵や、背丈の近いもう一人の女の子が一緒に描かれた絵も。

もしかしなくても、これって…

 

「わたし…?」

 

黒色のコートに身を包み、二人に手を引かれて戸惑いながらもどこか嬉しそうな女の子の絵。

絵のタイトルや、タグ?というのを見れば、そこにはやっぱりわたしの名前。

 

「ふ、二人とよく一緒にいるから、かなぁ」

 

自分の絵となるとなんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。

うぅ、顔が暑い…

 

「こ、こっちのページなんか何があるのかな!」

 

端末の前で顔を赤くするわたし。

傍から見たら心配でもされそうな状態を振り払うべく、わたしは適当に目に付いたところをタッチした。

 

――その時は恥ずかしさのせいで、タッチした部分の文字をよく見ていなかった。それが良くなかった。

 

次の瞬間、表示された画面を見てわたしは思わず固まった。

 

「な、な…な…っ!!?」

 

そしてみるみる内に顔に熱が集まる。

それはもう、さっきの比じゃないほどに。

なぜかというと、それは――

 

 

 

――表示されたページは、春画……所謂、えっちな絵が置いてある場所だったからだ。

 

「こ、こっ…こ、これは…」

 

しかも飛んだ元のページのせいか、主に表示されているのはロムちゃんラムちゃんの。

っていうかこれ法的にほっといていいの!? アニメとか漫画みたいな感じの絵にはなってるけどさぁ!

 

絵の種類は、服が破けて大変なことになっていたり、ただ単に何も着ていなかったり…果てには二人が絡み合って……

 

「はわわ…」

 

だ、だ、ダメだダメだこんなもの見たら! 怒られる! ああ、でも、もうちょびっとだけ――

 

「グリモちゃーん、いるー? ミナちゃんがおやつ用意してくれたから一緒に食べよ!」

「ぴきゃああああああああっ!!?!?」

 

突然、それはもう突然部屋の扉をガチャリと開けながら登場したラムちゃんに、わたしは半ば悲鳴じみた声を上げながらNSを上に放り投げてしまった。

 

「わっ! な、なになに!?」

 

わたしの声に驚いてるラムちゃん。

でもわたしの方はそれどころじゃなくて、落ちてきたNSをわたわたとしつつキャッチし、そしてすぐさま電源を強制シャットダウンさせた。

 

「………」

「え、えっと…グリモちゃん?」

 

ラムちゃんがよんでいる。でも、もうだめ。

電源を切るまではなんとかできたけど、既にわたしの頭は驚きやら恥ずかしさやらでぐちゃぐちゃで、完全にオーバーロードじょうたい。

つまり。

 

 

 

「……きゅぅ」

「え? ちょっ、グリモちゃん!? しっかりしてグリモちゃーん!!」

 

そのまま顔を真っ赤にして気絶したわたしは、見事におやつを食べ損ねましたとさ。

 

ちなみにその日以来、NSでのネット機能は当分使わなくなりました。




ちなみに作者はロムちゃんラムちゃんの新しいイラストを見かける度にテンション上がったりしてます。だってかわいいんだもの!

これ、もしもグリモちゃんの絵とか実際に描いてもらったりして見たら歓喜で発狂しそうだなぁ…描く技術もなければそんな物好きな人はいないでしょうけどね! っていうかいない!(断言


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ディールとラムがつんつんしちゃう小噺

元ネタは勿論例のCDです。
つんつんCDを聞いていたらいつの間にか執筆していた…な、何を(ry


「はふ、ふぅ…お、遅くなった…」

 

教会の廊下を早歩きで進むわたしはディール。

ルウィーの教会でお世話になっていて、形式的には女神候補生であるロムちゃんとラムちゃんの従者、のような扱いの、至って普通じゃない女の子です。

普通じゃないのかよ! だって? そういわれても、わたしも女神だし…。

 

……なんて変な事言ったけど、いきなり外伝から読む人なんていないしだろうし、きっと知ってるよね?

 

それで、わたしが今急いでる理由だけど、人を……人?を待たせているせい。

元々別の予定があったけれど、その人がどうしてもと言ってきて、どうにか早く終わらせて向かうと言ったはいいものの…少し手間取って遅れたという訳。

 

その待たせてる人っていうのが、ここの女神候補生のラムちゃんな訳だけども。

 

というのも、今日はロムちゃんがネプギアちゃんとどこかに出掛けるとかで教会を留守にしており、

一人暇を持て余していたラムちゃんにわたしが捕まった…大体はそんな感じ。

 

「……あのおねだりは卑怯だと思う」

 

勿論最初はわたしも予定が入ってるから断ろうとした…断ろうとしたんだよ? 本当に。

でも……

 

『うぅー…ディールちゃん、お願い、ねっ?』

 

なんて潤んだ瞳で見つめられながら言われたら断れる訳ないし!

…どうにか早く終わらせる、って言った時点でころっと笑顔で喜んでた辺り、演技だったんだろうなぁ…うぐぐ。

 

それが解っていても約束は約束、してしまったからには守らなきゃダメだってわたしだってお姉ちゃんに教わった。

なのでこうして、廊下を走らない程度の早歩きでラムちゃんの部屋まで急いでいる訳だ。

 

「つい、たっ…! ラムちゃん、遅れてゴメ……ん?」

 

ラムちゃんとロムちゃんの部屋に到着して、扉を開けると同時に謝罪の言葉を言いかけて、止まる。

 

「……すぅ…」

 

部屋の中には、机に突っ伏して寝息を立てるラムちゃんの姿。

待ちくたびれて寝ちゃったのかな…なんて思いながら部屋の時計に目を移すと、

 

「……って、あれ? 丁度約束の時間? …あれ?」

 

どういう訳か、部屋の時計は約束の時間ピッタリを指していた。

おかしいな…部屋の時計狂ってるのかな…と思いつつ自分の携帯を開くと、時刻は部屋の時計と同じ。

 

…………。

 

「……公園の時計が狂ってたのかぁ…」

 

多分、いや絶対にそうだ。まーちーがーいーなーくー。

後で壊れてる事知らせておこう…

 

……まぁ、公園の時計はとりあえず置いといて。

 

「くぅ…むにゃ……」

 

つまるところこの子は約束の時間にもかかわらずすやすやと居眠りしているということになるわけだけど…

……可愛いから許せるね。許せるけど、あんまりにも無防備。

 

「すやすや…」

「……(じぃ)」

 

物凄く気持ちよさそうに寝ている。

ちょっとだけなら…バレないよね?

 

「……えいっ」

 

あまりにも無防備だったものだから、思わず指でほっぺをつんっと突っつく。

 

「…んんぅ、すぅ…」

 

ぷにっとした感触。けれどラムちゃんはまだ起きる気配なし。

…………。

 

 

つんつん。

 

「ふゃ、ん…」

 

ぷにぷに…

 

「むゃぅ、ぅ~…」

 

むにむにむに。

 

「んふふぅっ…ふぅ…」

「………(やわらかい、楽しい…)」

 

つんつんぷにぷに。

 

「にゃぁ…ロムちゃんくすぐったいぃ…」

 

…………はっ。

ついラムちゃんのほっぺの魔力に取り付かれて…本当にひたすら突っつくだけでお話が終わるところだった。

 

「ラムちゃん、起きてー」

「んんぅぅー…」

 

気を取り直して、ゆさゆさと眠っているラムちゃんの肩を揺らす。

暫くそれを続けると、ラムちゃんはゆっくり身体を起こし、両腕をぐぐっと伸ばした。

 

「ふわぁぁ…はふ、んんーっ……おはよぉ、ロムちゃん…」

「え? あ、おはよ……って、違う違う…」

 

でもラムちゃんは寝起きで寝ぼけてるのか、わたしの事をロムちゃんと勘違いしている様子。

いや、まぁ、部分的にはそうであって、間違ってはないんだけど。

 

「わたしだよ、ディール。ディ・ー・ル」

「んぅ…? むにゃ…………はっ、ほんとだ。ディールちゃんだ…」

 

大きな欠伸をしながらも寝ぼけ眼で暫くわたしを見つめて、やっと気が付いた様子。

……わたしがわたしになる前から知ってたけど、やっぱりラムちゃんかわいいなぁ…

 

「大丈夫? 眠いならお昼寝する?」

「んん…へーき、もう目覚めて来たし」

 

そう言うラムちゃんの目は既にさっきまでの眠たげなものではなくなっていたから、嘘じゃないことはわかった。

 

「まったく、待ちくたびれたんだから」

「…待ちくたびれたも何も、わたしは時間通りに来たよ?」

「……あれ?」

 

ほんの少しむすっとした様子で言うラムちゃんに、わたしはそう言い返す。

…公園の時計がずれてなかったら遅刻してたことは言わない。言わないから。

 

「なのにラムちゃんはくーくー寝てるし」

「むぅぅ……だ、だって仕方ないでしょっ、今日はほんとーにわたしだけすることなくって退屈だったんだから!」

 

寝てる間は寝てる間でぷにぷにつんつん楽しませてもらってたけど、あえてそう言うとラムちゃんはぷくーっと頬を膨らませた。

……あ、つつきたい。

 

「とにかく! 今日はディールちゃんがわたしと遊んでくれるんでしょ?」

「そういう約束したし…」

「そう! それにこうやってる間にも時間はどんどん経っちゃうんだから。時間は大事にしなさいってミナちゃんも言ってたし!」

 

ふんすと得意げにミナさんに教わったことを語るラムちゃん。

まぁ、間違っちゃいないんだけどね。ただ問題は…

 

「…何して遊ぶ?」

「え? うーん…」

 

やる事を 決めていないのであるっ。

 

「うーん、お絵かきとか、ゲームとか…外で鬼ごっことか?」

「…んー…(じー)」

 

ラムちゃんがしたい事ならなんだっていいけど…

さっき突っついたラムちゃんのほっぺの感触が忘れられないでいたせいか、思わずじっとほっぺを見つめていた。

 

「…んん?」

「…(じぃー)」

「な、なに? わたしの顔、なんかついてる?」

 

流石にじーっとずっと見つめていると、ラムちゃんが戸惑ったような顔をする。

そんな視線を受けながらも、わたしはつい無意識にラムちゃんのほっぺに手を伸ばしていた。

 

つんっ

 

「わひゃっ! な、なに?」

 

つんつん

 

「ひゃ、ふふっ、なによぉ」

 

むにむにむに

 

「く、くすぐったいー!」

 

ラムちゃんがくすぐったそうにするのもお構いなしにほっぺを突っつき続ける。

んー、やっぱり柔らかいマシュマロほっぺ。つつくの癖になりそう。

とかなんとか思いながらつんつんし続けていると…

 

「むゅ、ふふっ…! んー…!」

 

かぷっ。

 

「ひゃ…!?」

 

さっと顔を後ろに引いたかと思うと、そのまま指をぱくり、と咥え込まれてしまう。

 

「んふふー、かみかみひひぇやうー」

「ひぅ、ふっ、くすぐった…くふふっ…!」

 

そのまま反撃とばかりにかぷかぷとわたしの指を甘噛みしてくるラムちゃん。

こ、こそばゆい…!

 

「かぷかぷ…いひゃくなーい?」

「い、いたくないけどっ、ん、ひゅふっ」

 

暫くの間指を甘噛みされ続けて、満足したのかぱっと指から離れるラムちゃん。

 

「うー…」

「…さてー、それじゃぁ…」

 

そして何やら不敵な笑みを浮かべながら両手の指をうねうねとさせる。

……そ、その構えはまさか…

 

「な、なにを…」

「何って、もちろん。ディールちゃんのほっぺに、たーっち!」

「にゃふぅっ!」

 

まるで戦闘中に使っているスキルのような動きで、ラムちゃんはわたしのほっぺを突っついてきた。

 

「わぁ、ディールちゃんのほっぺやわらかーい!」

「むゃっ、ふっ、う、うゅぅ~」

 

容赦なんて一切見せずにぷにぷにぷにぷに、つんつんつんつん

擽ったさに思わず身を捩るものの、ラムちゃんは逃がすものかと言わんばかりにほっぺを触り続けてきた。

 

「ふゅ、はふふっ…さわり、ふぎぃ…!」

「ふふん、やられたらやり返す…倍返しなのよ!」

「むゅゅゅ…なら、えいっ!」

「みぁっ!」

 

やられっぱなしはなんか嫌だったから、ほっぺをぷにぷにとされながらわたしからもラムちゃんのほっぺを触る。

 

「ふふふー、もっとふにふにしへやぅー。んひゅ、ふふっ」

「あふ、ふふっ! わたしだってまけにゃいんだからー!」

 

ふにふに、つんつん、ぷにぷに。

気が付けばそんな調子でお互いのほっぺを突っつきあって遊んで(?)いた

 

「ふー、ふぅー…」

「はー、はふぁー…なんか暑くなっちゃった…」

「わたしも…んん、コート脱ぐ…(ぬぎ)」

「あー、じゃあわたしも脱いじゃおーっと」

 

そして二人して激しく動いたせいで少し汗をかいてしまい、二人してコートを脱ぐことに。

雪国だからコート着ててもちょっとは寒いはずなんだけどね、激しく動いたら寒さなんて気にならないくらいには暑くなることもある。暖房もちょっと付いてるし。

 

「ふぅー…だいぶ涼しくなったわねっ」

「ん、そうだね」

「…そ・れ・じゃ・あー…えいっ!」

「うわひゃっ!?」

 

コートを脱いで涼しくなったと思いきや、ラムちゃんが飛びついてきてわたしはそのまま後ろに倒れ込んでしまう。

所謂、押し倒されてるような感じ…?

 

「ちょ、ラムちゃん…?」

「ふふふー、つんつん再会!」

「終わったんじゃなかったの!?」

「まだまだつんつんする場所はあるでしょ! ほら、こことかー!」

「ひぅ!?」

 

そう言ってラムちゃんがつんつん…もとい、触ってきたのは、首元。

突然のくすぐったさに思わず変な声が出た。

 

「あははっ、変な声ー! それそれ、もっとつんつんしちゃえ!」

「ひふっふふふはっ…ちょ、ラムちゃぁっ、そこくすぐったい、からっ!」

 

わたしの反応を見て気を良くしたのか、ラムちゃんはさらに首をつんつんと触ってくる。

流石にくすぐったさに耐えられず、笑いながらさっと両手で首元を隠した。

 

「ふー、ふー…も、もう! 何を…」

「…ふふふー、いいの? そうやって首隠したら……腋が隙だらけっ!」

「ひぁっひゃはぁ!!?」

 

けれどその選択は間違いだった。

首元を隠して諦めてくれると思いきやラムちゃんはにやりと笑みを浮かべて、すっと脇下に手を差し込んできた。

 

「そぉーれ! こちょこちょこちょ~!!」

「ひゃひっあは、はは…っ! も、もう、つんつんじゃ、ないっ、ひひふふっ…!!」

 

咄嗟に脇を締めるもののとっくに脇下に入れられた手を阻めるわけもなく、つんつん…ではなくこちょこちょとくすぐられる。

くすぐったさに身をよじっても、上に乗っかられてるせいで逃げられずに笑い悶えるしかない。

こ、こうなったらぁ…!

 

「あはっあはははっ……へん、しん…っ!」

「え、わぁあっ!?」

 

こちょこちょくすぐられながらもどうにか集中して、変身する。

シェアの光に包まれると驚いたラムちゃんはわたしの上から退いたみたいだ。

 

「はぁ、はぁ…ふぅ…」

「へ、変身なんて卑怯よっ!?」

 

そしてプロセッサユニットを身に纏った(戦闘・移動時じゃないからコアユニット以外は出してないけど)わたしは、しりもちをついているラムちゃんにゆらりゆらりと近づく。

 

「ふ、ふふふっ…(きゅぴーん)」

「ひぃっ!? わ、わたしだってー! へんしん!」

 

と、わたしが変身したからか対抗してかラムちゃんも変身。

こうして、ただつんつんし合ってただけなのに女神二人が対峙する形となった。

 

「先手、必勝!(しゅばっ)」

「変身かんりょ、ちょぉ!?」

 

けれど今は別に真剣勝負でもないわけで、

変身の光が収まると同時にラムちゃんに飛びついた。

 

「さ、さっきからディールちゃんずるいっ!」

「知らないしー…ふふー、スライトユニットはお腹が薄く透けるよね」

「やぅん! く、ひゅっ、ふふ…っ!」

 

ラムちゃんにくっついたまま、お腹の黒く透けた部分をぷにぷにと突っつく。

やっぱり服より素肌触ってる感触。柔らかーい。

 

「うく、ふふっ…ディールちゃんだって、ここっ!」

「ひゃぅぅん!?」

 

負けじとラムちゃんもぎゅっとくっつきながら、わたしの背中に手を伸ばしてつーっとなぞってくる。

わたしのプロセッサユニット…コアは、ディールになる前からのもの。つまりスィルユニットなので、お腹はスライトより薄くない代わりに背中の露出が増えている。

だから背中をなぞられればそれは直接肌をなぞられてるのと同じわけで…

 

「ちょ、それダメだからっ…」

「ふーんだ、先にずるしたディールが悪いもんねー!」

「はぅぅぅっ…く、うぅぅ!」

「ふぁ、くふふっ…ま、負けないんだからー!」

 

つんつん、すりすり。

ぷにぷに、ふにふに。

 

そうやって女神化状態でお互いの身体を突っついたりなでたり、後になって思えば何やってたんだとしか言えない事を、何処からか湧いてくる「負けたくない」という感情に突き動かされて続けていた。

何をして負けなのか、そもそも勝ち負けがあるのかすらよくわかんないけどね…

 

……そして……

 

「ラムちゃんただいま……ふぇえっ!?」

「ふー、ふぅー、はぅー…」

「はーっ、はー、っん、ふぅぅ…っ」

 

ロムちゃんが帰ってくる頃、部屋には女神化が解けて汗びっしょりになりながら一緒に横になって息を切らすラムちゃんとわたしがいたとか……

 

「…な、なにがあったの…?(ぽかーん)」

 

 

──そんな、ある日の出来事でした。

 

 

 

 

 

 

「……ところでディールちゃん」

「うぅ…なに…?」

「なんかさっき、途中でロムちゃんみたいな話し方、してなかった?」

「ふぇ?」

「…? なんのこと?」

「えっ。…うーん、気のせいかなぁ…」

「なにがあったか、わからないけど…おつかれさま…?(ねぎらい)」

「ありがと、ロムちゃん…(ぐったり)」

「……んん??」

 

 

今度こそおしまい。

 



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エピソード:グリモアシスター-カオス化

衝動のままに描いたもの。
なお世界観はギャオスですが当然外伝パラレルなのでどこかと繋がる事はないです。多分ね。


「ハァッ…ハァッ…!」

 

見慣れた街並みの中を息を切らしながら走る。

武器である自分の杖を手にしながらどこへと走っているのかというと、別にゲームの発売日に寝坊しただとか、限定デザートの為だとかそういう訳じゃない。

 

むしろそうだったらどれほど良かったか。

 

「ッ!!」

 

余計な事を考えていると、背後から殺気。

咄嗟に横に跳べば、街中だというのに容赦のない氷塊の一撃がわたしの居た場所に直撃した。

 

「く、ぅ…」

 

咄嗟に跳んだせいで無様に転びつつも何とか起き上がるけど、追ってはすぐそこまで来ていた。

 

「さっすがディールちゃん。そう簡単には捕まらないね」

「鬼ごっこ、上手」

 

ふわり、とわたしの前に降りて来た、二つの影。

それは、わたしのよく知る、わたしが守りたいと思っていた、大切な二人。

 

一人は水色の髪、胸元辺りからお腹下辺りまで露出させたような黒と桃のユニットを装備した…ホワイトシスター・ロム。

一人は桃色の髪に、小悪魔風のプロセッサユニットとロムちゃん以上に露出の多い大胆な恰好になった…ホワイトシスター・ラム。

 

どこか禍々しさのようなものを纏った二人が、わたしを追う"追って"だった。

 

「っ…二人とも、どうして…!」

「だって…ディールちゃん、ディーちゃんの事悪く言うんだもん」

「そうよ。いくらディールちゃんでもそれは許せないんだから!」

 

追いかけ、攻撃してくる理由を問えば、二人から帰ってきたのはそんな言葉。

ディー。本来の名はDCDという、いつだったかこのルウィーにやって来た謎の女性。

あいつが…あいつが来てからだ……全部おかしくなったのは…

 

始めは、ブランさん。

突然DCDの事を"ディー"などと呼ぶようになった上、二人の様などこか禍々しさを感じる姿になったブランさんから始まり、

そしてブランさんが二人をあんな姿に変えてしまった。

 

そんな三人を見て、どう考えてもDCD……というより、DCDと一緒にいた羽虫のような奴が原因だと考えたわたしは、二人をどうにか始末しようとして……

 

結果それがばれて、現在に至るという訳だ。

 

「二人ともおかしくされてるんだよ…! あのDCDって奴に…どうしてわかってくれないの!?」

「おかしいのはディールちゃんの方よ! どうしてそんなひどい事言うの!?」

 

追われながら何度も二人を説得しても、帰ってくるのはそういう答えばかり。

こうなったら、力ずくでも二人を大人しくさせて……

 

「……っ…そんなの、できない…!」

 

杖を構えて二人に攻撃しようとするけど……わたしには、できなかった。

 

「ったく、いつまで手間取らせる気だよー」

 

そこへ、わたしにとって耳障りな声と共に、二人の傍にやって来た人物がいた。

──ブランさんと、DCDの近くにいた羽虫……確か、イクスとかいう名前だったはず。

 

「ッ…お前が…お前達さえ来なければ…ッ!!」

「おー怖」

 

キッ、と睨みつけてもおどけた様子でふわふわと浮かぶイクス。

……せめて、コイツだけでも仕留められれば…

 

「まぁ逃げ回るのは良いけどさー、こっちとしちゃあんまり時間を取られるのはうんざりなわけよ。だから大人しくカオス化されちゃってくんねーかなー?」

「……そっちの事情なんて知った事じゃないです」

「おー? いいのかなぁ。あんまりそういう態度取ってるとぉ……大事な大事な双子チャンの記憶、奪っちゃうよ?」

「…ッ!?」

「なっ、テメェ…!」

 

何がおかしいのかケラケラとしながらとんでもない事を言い出す。

それにはブランさんも気に入らなかったのか、イクスを睨みつけていた。

 

「おっと、あんたは口出ししないでくれよ。あたしは今この子とお話してんだからさー」

「…チッ」

 

イクスの言葉に舌打ちをするブランさん。

いや、それよりも…記憶を奪う…? そんな事…

 

「あ、その顔は信じてないなー? でも本当なんだなーこれが。あんまり記憶奪い過ぎて二人もDCDみたいになったって知らねーよ?」

「なっ…!?」

 

DCDみたいに、だって…?

まさか、こいつ……仲間なんじゃないの…!?

 

「ほーらほーら、早く決めろよー? さもないとー…」

「ぐ……」

「ディール…」

 

ニヤニヤと嫌らしい笑みを向けてくるイクス。

…………いや、そうだ。何を迷ってるんだわたしは。

 

「……わかった」

「物分かりが良い子は好きだよあたしは。じゃ、後はよろしくー」

「……ああ」

 

わたしが肯定の意を込めて頷けばイクスは満足気にして、

そしてブランさんがわたしの前へとやって来た。

 

「……すまねぇ、ディール」

「良いんです、ブランさん。元々、こうなる運命だったんですよ」

「…けどよ」

「やってください」

 

酷く申し訳なさそうにするブランさんに、早くやるようにと促す。

例え…どうなろうと、わたしがするべきことは一つだった。だから、何も問題はない。

 

「…っ!」

 

ブランさんがわたしに手をかざすと同時に目を閉じる。

するとわたしの身体の中に何か…黒いモノが流れ込んでくるような…感覚。

それと同時に、身体の底から力が湧いてきて……

 

「……終わったぞ」

「…はい」

 

ブランさんの言葉にゆっくりと目を開けば、まず複雑そうなブランさんの表情が目に映る。

そして念のためにと自分の身体を見てみれば……案の定。

黒と青を基調としたプロセッサユニットを身に纏っていて、そしてなぜだか髪の色が水色ではなくなっていた。

この色はなんだろう……青の濃い青紫? なんというか、言ってしまえばグリネプ本編に出てきたクロムみたいな髪の色。

 

「……なんでわたしだけ髪の色まで変わってるんですか」

「いやそれはあたしだって知らねーし。そういう体質だったんじゃね?」

「……そうですか」

 

こんな奴に聞いたわたしがバカだった。それはさておき…

不思議……身体の奥からどんどん力が湧いてくる。…なんだか、誰かで試したい。そんな気分。

 

「あ、お話終わったー?」

 

と、ブランさんとイクスが来てややこしい話になりそうだとでも思ってたのか、少し離れた場所で二人で遊んでいたラムちゃんとロムちゃんが戻って来た。

……なんか、闇堕ちみたいな事されてるのに普段と変わらないような…

 

「…ディールちゃん?」

「わ、なんかディールちゃんがカッコよくなってる!」

 

と、わたしの姿に気付いた二人が近くまでやってくる。

カオス化させられたからか知らないけれど、さっきよりも敵対心が薄く感じる。

 

「…そう?」

「うん。かっこいい…!」

「髪の毛の色まで変わってるもん、カッコいいよ!」

 

二人的には今のわたしの姿はカッコいいらしい。自分じゃよくわからないけど…

この姿は…言うなればグリモアシスター〔カオス〕といったところか…

 

…と、そうだ、一つあいつに言っておかないといけないことがあった。

 

「……一つ、言わせてもらいますけど」

「あん? なによー」

「……わたしは、あくまでもロムちゃんとラムちゃんの為に動きます。なので、あなたの仲間になるつもりはありませんから」

 

そう、わたしがカオス化を受け入れた理由は、ロムちゃんとラムちゃん…それにブランさんを守るため。

わたしにとって最も大切な人達を守るためならば、強い力を得られるカオス化はかえって好都合だ。

 

そう、わたしの最も大切な人達"だけ"を守るのなら……たとえ闇に堕ちるのだとしても、構わない。

 

それに、ロムちゃんとラムちゃんはともかく…ブランさんが黙ってる理由も少しだけわかったような気がするし。

 

「ふーん。ま、あたしらに逆らったりしなければ別に良いんじゃねーの?」

「…そうですか」

 

まぁ、下手な真似をすれば本当に二人の記憶を奪いかねない相手だから、そんなことにならないと思っているんだろう。

……いつか、出し抜いてやる。

 

「ふふっ、よーし! それじゃディーちゃんのとこまで帰ろっ!」

「あっ、ラムちゃん待って…!」

「………」

 

こうしてわたしは…ブランさんやロムちゃん、ラムちゃんに続いてカオス化してしまった。

けど、後悔なんてものは微塵もない。

 

 

 

……わたしのすることは、ただ一つ。

ロムちゃんを、ラムちゃんを、ブランさんを……守る事。その為なら、例え知った顔でも……

 

心に黒い感情を抱きながら、はしゃぐ二人の後に続いて教会へと戻るのだった。




~DCDとディール~
ラム「ディーちゃんあそぼ!」
ロム「あそぼ…」
DCD「えぇ……良い、けれど」
ディール「………」
DCD「……視線が、痛いの」
ラム「もー、ディールちゃんてば。ディーちゃんに何か言いたい事あるの?」
ディール「……単純な事。」
DCD「……何?」
ディール「……貴女の愛称がわたしの名前と被ってややこしい…!」
ラム「…え」
ロム「…え」
DCD「そ、そんなこと、言われても…」
ディール「公式の方だから仕方ないですけど…それでも…うぐー!」
DCD「……ディールちゃんも、大変ね…」


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ロム・ラム 誕生…?

Re1+が出るということで、その記念? みたいな感じのRe1次元でのお話。
ここからお話が続いていくかは…未定!


「ブランさんブランさん。ちょっとよろしいですか?」

 

ある日の事。

一時的にネプテューヌらと別行動を取っていたブランの元へ、イストワールから連絡が入る。

 

「その声は…イストワール? 珍しいわね、貴女から連絡なんて」

「実はですね、ブランさんに会わせたい方がいるのですが…」

 

どうやらブランに誰かを会わせたい様子のイストワール。

しかしどこか歯切れの悪い言葉に、ブランは疑問を感じながら問いかける。

 

「どうかしたの?」

「ああいえ…それも含めて、一度こちらに来て頂けますか?」

「…? わかったわ」

 

イストワールとの通信を終え、ブランはひとり思案しながら歩き出す。

 

「私に会わせたい人…一体誰なのかしら…それに…」

 

イストワールが自分に会わせたいという人物と、少し不自然だったイストワールの態度に疑問を感じながらも、彼女の待つ場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「イストワール、来たわよ」

 

そうしてイストワールの元へとやってきたブラン。

その直後、イストワールが口を開くよりも先に、ひゅん…と風を切る音を立てて何かが飛来してきた。

 

──ガッ

 

「…ってぇな! いきなり何しやがる!」

 

突如として飛来してきたソレ()は見事ブランの額に直撃し、あんまりな歓迎に目を赤く光らせて怒るブラン。

本の飛んできた先へと視線を移すと、そこに居たのは、

 

「いっえーい! 大当たりー♪」

「…痛そう(おろおろ)」

 

見覚えのない二人の幼い子供だった。

一人は桃色のコートに身を包み、今しがた本を投げた張本人であろう、長い髪でコートと同じ色、デザインの帽子をかぶった少女。

もう一人は水色のコートに、おろおろと擬音を口にしながら不安そうな、短い髪でこちらもコートと同じ色、デザインの帽子を被っている少女。

 

二人の少女は、服の色、髪の長さこそ違うものの、瓜二つの容姿をしていた。

 

「子供…?」

「あわわわわ…ダメですよラムさん、本は投げるものではなく、読むものなんですから」

 

見知らぬ子供の姿に怒りよりも疑問が勝るブランの横で、イストワールが慌てて注意する。

 

「はーいっ、ごめんなさーい」

「ご、ごめんなさい…」

 

叱られて、あまり反省の色が見えない様子で謝る少女と、その横で一緒になって謝る少女。

そんな二人を(というよりは主に反省していない方を)見ながらイストワールはため息を吐きながら、ブランに謝罪する。

 

「すみませんブランさん。ラムさんがご迷惑をおかけしてしまって…」

「………別に。子供のする事だから、今回は我慢してあげる。それで、私に会わせたい人って言うのは、その子達なの?」

 

流石に子供相手にすぐ怒鳴り散らす訳にも行かず、ブランはぐっと怒りを抑えながら、疑問をイストワールに投げかける。

するとイストワールは、突拍子のないことを言いだした。

 

「はい。彼女達は、ロムさんとラムさん。ブランさんの妹です」

「………」

 

突然の"妹紹介"に、目を瞑って思案顔になるブラン。

 

「あの、ブランさん?」

「…ちょっと待って。今、私に妹がいたか思い出すから…」

「いえ、元々いたのではなく生まれたばかりなんです」

「…どういうこと?」

 

自分が忘れているだけで、妹がいたかもしれない。そう考えたブランは自身の記憶から二人の少女を思い出そうとするが、初対面なので思い出せるはずもなく、

話が拗れる前に、イストワールが二人の正体について説明を始めた。

 

「先の戦いで過剰に増えたルウィーのシェアが元になり、新たな女神が誕生したんです。しかも双子です」

「…シェアって便利な言葉ね」

「それは言わないお約束です。…まぁ、そこまでなら何ら問題はないのですが…」

 

ぽん、と突然妹が生まれ、それを成したシェアに戦慄するブラン。

するとイストワールが何やら困ったような表情を見せ、ブランは首を傾げた。

 

「何か問題があるの?」

「はい、実は…」

 

ブランがそう訊ねると、イストワールは視線を双子へと移し、つられてブランも双子を見やる。

 

──すると、不思議なことに双子の数が増えていたのである。

 

「もー、やるならもっとこう、勢いつけなきゃでしょ」

「えー。最初からゼンリョクはどうかと思うんだけどー」

「…いや、まず本を投げるのがどうかと思うような…?」

「うん…音、痛そうだった…」

 

「……は?」

 

さっきまでいた双子のロムとラムの二人親しげに会話する、新たな双子。

その容姿は二人と似た……というレベルではなく、まるでロムとラムがもう一組いると錯覚する程そっくりであった。

 

辛うじて衣装の色が青と赤で、ロムとラムと違い帽子ではなくそれぞれ髪を色つきリボンを使い、後ろで結いているから判別できるものの、あまりの光景に思わずブランは呆然としていた。

 

「……何かの異常なのか、はたまたバグなのか…分裂? 増殖してしまったといえばいいのか…」

「いや…え、四つ子…? 流石の私でも理解が追いつかないわ…」

 

イストワール自身も困惑した様子でそう言うと、話を聞いていたのかもうひとりのラム? がぶすぅ、と不機嫌そうな顔になる。

 

「なによー、わたし達はバグ扱い? ひどーい」

「そう言われるとちょっと悲しい、かも…です」

「あー。お姉ちゃんとイストワールがディールちゃんとエストいじめてるー」

「なっ、私はそんなつもりじゃ…」

 

むくれるラム似の少女エストと、しゅん、と悲しそうに俯くロム似の少女ディール。

戸惑ったことは事実と言えど、幼い子供を傷付けるつもりのなかったブランはそんな二人の様子を前に狼狽える。

 

「言い方が不適切でしたね…申し訳ありません、ディールさん、エストさん」

「ふーん。ま、別に良いけどね。わたし達自身なんでこうなったのかわかんないし」

「本当に女神のシステムにバグが発生してる…んでしょうか…?」

「どうでしょう…女神のシステムと言うより、お二人はロムさんラムさんから生まれたようにも感じます」

「イストワール、故意ではないのでしょうけどその発言は色々と危険よ…」

 

不満そうにしていたと思いきや、あまり気にしてないと言うエスト、ディールはまだ緊張が抜けきってない様子で原因に着いて考え込む。

そうすると、今度はロムとラムの二人がむぅ、と膨れ顔に。

 

「もーっ、ぶんれつでもぞーしょくでもばぐでも別にいいよー! わたしはこのままでもいいもん!」

「みんなでいっしょの方が、たのしい…(ぷんぷん)」

 

そんなロムとラムの様子を見て「今度はこっちがご機嫌ななめね、やれやれ…」と思いつつも、ブランは二人の頭に手を乗せて撫でてやる。

 

「大丈夫よ。なにもなかったことにしようだとかそんな事は考えていないわ…そうよね、イストワール」

「はい。原因はともあれ、お二人もブランさんの妹に変わりはありませんから」

 

落ち着かせるように頭を撫でながらイストワールに確認を取れば、イレギュラーとはいえ物騒な処置にはならないとの答え。

それにロムとラムは「よかったー」と安堵した表情。ディールとエストもどこか安心した様子だ。

 

「ふふ。見ての通りまだまだ子供ですが、可愛がってあげてくださいね、ブランさん」

「…えぇ」

「ですが、甘やかしてはいけませんよ? 教育ははじめが肝心ですから」

「わかったわ」

 

…自分が姉なら、イストワールはまるで母親みたいだ、とブランは感じながらも、新たに誕生した自分の妹達を見つめる。

 

ロムとディールはまだ緊張し、少し怯えの混じった顔。

ラムとエストは二人ほど緊張していないものの、片方からは興味の眼差し、片方からは警戒の眼差しが感じられる。

 

「…これからよろしく。ロム、ラム」

「よろしくね、お姉ちゃん!」

「よ、よろしく…(ぺこり)」

「えぇ。それと、ディールとエストも」

「ん。…よろしくー」

「よ、よろしくお願いします。…お姉ちゃん」

 

数もそうだが、それぞれの性格も含めてこれからたいへんそうだ…

そう感じつつも、自分に妹ができたことに思わずふっと微笑んで喜ぶブランだった。



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10周年記念のプチパーティー

即興なのでへぼいですが、折角なので


「今日というおめでたい日にー!」

 

カンパーイ!

と、集まったみんなの声が響いた。

 

今日はプラネテューヌの教会で、女神みんなであつまっのパーティー。

お祝いの日だから、わたしもラムちゃんもお姉ちゃんも……ううん。みんなきれいなドレス姿。

ちょっぴり恥ずかしい……かも。

 

「で、何のお祝いなの、これ」

「ユニちゃん、知らないの…?」

「いつも通りお姉ちゃんのお手伝いを終わらせて、特訓してたら呼び出されて……って感じだったのよ」

 

お姉ちゃん達守護女神と、わたし達女神候補生で分かれてお話していると、ユニちゃんがそんな事を言い出した。

ユニちゃん、忙しくしててよく聞かされずに来たみたい。

 

「えっとねー。ネプテューヌちゃんが初めて主人公してから10年目のお祝いと、ネプギアが初めて主人公してわたし達をぼっこぼこにして回ってから9年目のお祝い! らしいわ?」

「ぼ、ぼっこぼこって。ラムちゃん、わたしそんな事してないよ…」

「ああ、なるほど。確かにあの時はアタシもネプギアにボッコボコにされたわね」

「ゆ、ユニちゃんまでー!」

 

ラムちゃんが意地悪そうに答えると、ユニちゃんも同じような顔をしてネプギアちゃんがいじられる。

ふたりとも、負けず嫌いだから……根に持ってたのかな…?

 

「うう。でも、今まで色んなことがあったよね」

「うん……ネプギアちゃんが、みんなをぼこぼこにしたり…?」

 

ぼこぼこ…? ざくざく…?

 

「ロムちゃんまで!? あとそれってもしかして……ふ、深く掘り返すのはやめよ? ね?」

「あれは……どうしてああなったのかしらね」

「らいたーさんの悪ノリ?」

「うわーん! 私の話を聞いてー!」

 

えっと……いやな、じけんだったね…?

 

「その後も大変だったわよね…」

「わたしとロムちゃんとユニちゃんの立ち絵がない上に出番もぜんっぜんなかったり! ネプギアは出番あったけど、なんか…」

「……大変そうだった」

「うっ。……そ、そうだね、なんだかみんなして私の事を弄ったり、変な属性着いちゃったりで…」

「ルートによっては、ネプギアちゃん、帰って来れなくなったりした…(ふるふる)」

 

代わりにプルルートさんがこっちに……ううぅ、あの人、こわい…。

 

「お姉ちゃん達がアイドルになったりもしたわよね!」

「あれもあれで色んな意味で大変そうだったけど。それとお姉ちゃんが主人公になったりもあったわね」

「あの世界、色んな人がいたよね。まぁ私達は会ったことないんだけど…」

「アクションゲームで、お洋服破かれた……恥ずかしかった…(かぁっ)」

 

他にも漫画とか、本とか、アニメとか……色んな次元で、色んなお話。

 

「とにかく、色んなことがあったけど、もう9年にもなるんだね」

「お姉ちゃん達は10年だっけ。ホント、なんかあっという間ね」

「えー、まだまだ遊び足りないわよ! ね、ロムちゃん!」

「うん。もっともっと、ネプギアちゃん達と遊びたい」

 

主役はお姉ちゃん達……ネプテューヌさんだけど、わたし達ももっともっと、遊びたい。

最近はお留守番ばかりだから、なおさら。

 

「次は忍者なのかな? 忍者ならわたしやったことあるし、ラムちゃんにおまかせよ!」

「えぇ、アンタ忍ばないタイプの忍者じゃない」

「ばってしてごぉーってするひっとあんどうぇーい! だもん!」

「ヒット&アウェイね」

「そうとも言うわ!」

 

ラムちゃんがふんす、と得意げに言うと、ユニちゃんが「そうとしか言わないわよ…」って呟いていた。

 

そんな……えっと、ネプテューヌさん風にいうなら、めた? なお話を、いつも通りにしていくわたし達わたし達。

きっと、お姉ちゃん達も同じようなお話、してると思う。

 

だから、だからね…?

 

「ネプギアちゃん。これからも、よろしくね…♪(にこにこ)」

「ロムちゃんがよろしくするなら、わたしもよろしくしてあげるわ! こーえいに思う事ね!」

「そうね。まぁ、アタシもよろしくしてあげてもいいわよ」

「あはは……そうだね。これからもよろしくね、みんな」

 

これからもずっとずっと、仲良しでいられるように。

そんな願いを込めながら、わたしは笑った。

 

 

 

 

 

「そういえば、ディールちゃんとエストちゃんは?」

「それがね、今日はお留守番なんだってー。ミナちゃんとかフィナンシェちゃんもいないから」

「ざんねん……」

 

 



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季節の頁
三人少女の小さなチョコレートパーティー


数日遅れのバレンタイン小話です!
遅れすぎですけどもねー…




2月14日。

 

世間はバレンタインデーなんていう行事で、ある人は想い人の男性にチョコレートを渡していたり、ある人は「リア充爆ぜろ」などと世間のカップルを恨む日。

それはルウィーも例外じゃなくて、バレンタインデー前日の今日も何だか賑わっている気がした。

 

「まぁ、わたしは特に好きな異性なんていないからどうでもいいけど…」

 

そもそも男の人なんて敵かモブにしk「グリモちゃん!」

「うわっ! び、びっくりした…」

 

地の分に割り込みながらバァン!と勢いよくドアを開けてきたのは、我らがルウィーの女神…候補生、ラムちゃんだ。

あの様子だとわたしに何か用があるんだろうけど…まぁ、今日やることと言えばね。

 

「グリモちゃん、今暇ー?」

「もう、そんな乱暴にドア開けないでよ、壊れたらどうするの」

「あ、うん、ごめん……じゃなくて! 暇かって聞いてるの!」

 

それとなく話を逸らそうとしたけど失敗したようだ。チッ

 

「ねぇ、今心の中で舌打ちしなかった?」

「気のせいじゃない? それより、何の用事?」

「あ、そうだった。チョコ作るわよ、チョコ!」

 

案の定、ラムちゃんはわたしをチョコ作りに呼びに来たみたい。

わかりやすいなぁ。

 

「えー。面倒…」

「面倒って…そんな事言わないで作ろーよー! ロムちゃんも一緒だから!」

「えーー…っていうか渡す人とかいないし…」

「わたし達にくれたらいいのよ!」

「…いや、バレンタインデーだよね? 普通男の人に渡すものなんじゃ」

 

そう言うと「えー、グリモちゃんてば知らないのー?」とか言いながらにやにやとしてきた。

うわぁ…うざい…

 

「…ねぇ、グリモちゃんさっきから心の中で悪口言ってない?」

「気のせい気のせい。…で? 得意げに何言おうとしてたの?」

「あ、そうそう。最近のバレンタインデーってね、同性のお友達にあげたりもするんだよ! だから問題ないの!」

「へぇ…」

 

でもラムちゃんの言った事は本当に知らない事だった。

最近はそんな風になってるんだね…

 

「とにかくグリモちゃんも一緒に作るったら作るの!」

 

と、言いながらラムちゃんに腕を掴まれ、無理矢理引っ張りだされてしまった。

こうなるという事聞かないんだよね…はぁ、面倒な…

 

「もー、そんなに面倒そうな顔しないのー! ロムちゃーん! グリモちゃん連れてきたよ!」

「あ、ラムちゃん、グリモちゃんも…えへへ」

 

ラムちゃんに連れられて向かった先にはロムちゃんが。

多分、ラムちゃんが「グリモちゃんのせっとくはわたしにまかせて!」とか言って待たせてたんだろうね。

 

「よーっし、メンバーはそろったし、行くわよ!」

「行くって…でかけるの? 台所じゃなくて?」

「だって、材料まだ買ってないもん」

 

そこからか…

 

「はい、グリモちゃんの分のお小遣い…」

「あ、うん。ありがと…」

「ほら、はやくいこー!」

 

ロムちゃんからクレジットを受け取るとラムちゃんが急かしてくる。

うーん、厄介な事になった…

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「えへへ、どんな形にしよっかー」

「うぅん…はーと?」

「星とかもいいかも!」

 

きゃっきゃと楽しげにチョコの話をするふたり。

チョコ作りと言っても溶かして好きな形に固めるだけらしい。凝った物はまだ危ないからとフィナンシェさんに止められたとかなんとか。

 

「…グリモちゃん、歩きながらそーゆーの危ないからやめなよー」

「ぶつかっちゃうよ…?(しんぱい)」

 

と、いつの間にやらふたりがこっちを見て注意してきた。

まぁ、歩きながら携帯端末を開いてたわたしが悪いのはわかってるけど。

 

「…ちゃんと前も見てるから、平気だよ」

「そう言う問題じゃないの! 取り上げちゃうよ!」

「……わかったよ」

 

腰に手を当てて怒るラムちゃんの言葉に渋々従う。

…まぁ、また後でで良いか。

 

「もーグリモちゃんは…っと、あったあった、チョコ売り場!」

 

と、いつの間にやら目的の場所についてたみたいで。

少ししたらここに集合ね、と言ってふたりとも自分の好きなものを買いに行ってしまった。

 

「…ま、この方がやりやすいか」

 

 

……………

 

 

「グリモちゃんおそーい!」

「ごめん、道に迷っちゃって…」

 

暫くして元の場所に戻ると、既に二人とも戻ってきていた。

 

「グリモちゃん、何買うの…?」

「ただの板チョコ。どうせ溶かして固めるだけだし、これだけでいいでしょ」

「むぅ、つまんないわねー。わたしとロムちゃんは他にも買うのに」

「他?」

「うん。マシュマロとか、いちごとか…。最初はかわいい形にしようとしたんだけど、そっちも面白そうって、ラムちゃんが」

 

はぁ、なるほど。ただ溶かすだけじゃなくて溶かしたチョコを何かにつけて固めるっていうのもあるのね。

 

「…ラムちゃんにしては良い考えだね」

「ねぇ、グリモちゃんさっきからわたしの扱い悪くない?」

「きのせいきのせい」

「ふたりとも、はやく買っちゃおう…?」

 

そんなこんなで、暫くラムちゃんにじとーっとした視線を向けられながらも材料を購入。

 

「後は帰って作るだけだね!」

「うんっ、がんばる…(ぐっ)」

「…あー、ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」

「えー。もう、グリモちゃんは…早く行ってきてよね!」

「トイレくらいゆっくりさせてよ…」

「わ、わたし達待ってるから、ゆっくりでいいからね…?」

 

不機嫌そうなラムちゃんをロムちゃんに任せて。

……さて、と。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

それから教会に戻ったわたし達は、フィナンシェさんに見てもらいながらチョコ作り始めて…

と言っても本当に溶かして付けて固めるだけだったからその辺は割合。

 

そして次の日…バレンタイン当日。

 

「さってさってとー! チョコ綺麗に固まってるかなー!」

「(わくわく どきどき)」

「眠い…」

 

気持ちよくお昼寝しているところを叩き起こされて、台所。

欠伸をしながらわくわくと冷蔵庫を開ける二人を見守る。

それよりも眠い…寝直したい…

 

「…うん! うまく固まってるね!」

「おいしそう…♪」

 

二人の反応を見るに上手くできたみたいだ。

まぁ、ちょこちょこフィナンシェさんが手伝ってたしね。

 

「グリモちゃんのも綺麗に固まってるよ…♪」

「んー…? おー、ほんとだ」

 

眠さで目を擦りながら二人の脇から覗き込めば、わたしの超手抜きチョコもしっかりと固まっていた。

まぁ、適当にあった型に流し込んだだけのチョコだけど。

 

「…ん? まだ奥になにか…」

「さて、それじゃふたりとも、早速食べよう?」

「わ、わっ…ちょっとー!」

 

冷蔵庫からラムちゃんを引っぺがしながらそう言う。

冷えちゃうからね、うん…うん?

 

「これ…誰のだろ…?」

「あっ、ちょっ!」

「あ、わわっ…!」

 

今度は冷蔵庫の奥を覗きこみながら首を傾げるロムちゃんを引っぺがす。

…さ、流石に苦しいか…

 

「もうっ! グリモちゃん! なんなのよ!」

「あー、うん…とりあえず、ふたりだけ先にテーブルに行っててくれる?」

「なんでよーっ?」

「…うん、わかった(くす)」

 

若干焦りつつもそう言うと、むすっとしたラムちゃんに反してすぐに言う事を聞いてくれるロムちゃん。

…あの笑い、絶対もうわかってるでしょ…うぅ

 

「え? ロムちゃん?」

「いいから。ラムちゃん、行こ…?」

「え? え? ちょ、ちょっとー!」

「あっと、これふたりのチョコね」

 

ラムちゃんを引きずりながらテーブルの方に向かうロムちゃんに、二人が作ったチョコとわたしの適当チョコを乗せたお盆を渡す。

それを意味あり気な笑みを浮かべながらロムちゃんは受け取って、テーブルの方に向かっていった。

 

「…ふぅ、最後の最後で…」

 

…まぁ、いいか。

 

 

……………

 

 

「……はい、これ」

 

暫くしてわたしは、ふたりの前に白と茶の球型のチョコを持ってくる。

 

「わぁ…」

「え? これ、もしかしてグリモちゃんが?」

 

きらきらとした目でチョコを見るロムちゃんと、驚いたようにそう聞いてくるラムちゃん。

うー、なんか恥ずかしくなってきた

 

「ふふっ…お二人を驚かそうって、寝た後に起きてこっそり作っていたんですよ」

「ちょっ、フィナンシェさん!?」

「ふーん、へー…こっそりねー…」

「に、にやにやしないでよっ!」

 

ひょっこりといつの間にやらいたフィナンシェさんのネタばらしを聞いて、にやにやとしながらこっちを見てくるラムちゃん。

あー、うー、なんかもう、顔が熱いっ!

 

「これ、なんていうの…?」

「え、えっと…チョコトリュフ、だったかな? ネットで作り方見ながらにしては上手く出来たとは思いたいんだけど」

 

頬を掻きながらチョコについて説明する。

まぁ、適当にネットでわたしにも簡単に作れそうなのを選んだだけなんだけどね。

 

「でも、材料とかいつの間にー?」

「それはほら、昨日帰りにトイレ行ったでしょ? あの時」

 

質問に答えながら、お皿にそれぞれ白色三つと茶色三つを移して二人の前に置く。

 

「白はロムちゃんに、茶はラムちゃんに」

「えへへ…食べてみていい?」

「うん。良いよ。ラムちゃんも食べてみて?」

「う、うんっ」

 

自分も席に座りながらそう言うと、二人ともチョコを食べ始める。

さて、味って見た目以上に大事だよね。…どきどき。

 

「ど、どう、かな…?」

 

恐る恐る感想を聞いてみる。

二人の答えは…

 

「…美味しいっ!」

「うん、甘くて、美味しい…♪」

「よ、よかった…」

 

二人のその言葉にほっと胸をなでおろす。

お菓子作りなんてしたことがなかったから不安だったけど…本当によかった。

 

「それにしても、興味なさそうな感じだったのにこんなの作ってたなんてねー」

「う、それは、その……元々作る気はあったんだよ? でも、このチョコレートで二人を驚かせたくって…そう思ってたら二人にチョコ作り誘われちゃって、ばれないようにって思ってたらあんな態度に…」

 

気恥ずかしさやらなにやらが色々合わさってよくわかんない気持ちになって、目も合わせられずに右手で横髪をくるくる弄りながらそんな事を言う。

あぁ、誰かわたしに混乱解除の薬を…

 

「…グリモちゃんって、けっこうぶきよう?」

「うぐっ」

 

なんて自分でもよくわからない事を言っていたら、ロムちゃんの言葉がぐっさりと刺さった。

そう言われると何も言い返せない…

 

「ねぇねぇロムちゃん! そっちの白いの一個ちょーだい! わたしのも一個あげるから!」

「うんっ、いいよ…?」

「あ、それ、色違いなだけで味は変わんないと思うよ?」

 

チョコの交換をしようとしているラムちゃんにそう言うと「それでもいーの!」と言って二人で交換して食べていた。

…まぁ、本人達が良いならそれでいっか。

 

「そうだ。グリモちゃんのチョコのお礼に、わたしが作ったチョコ食べさせてあげる…」

「え? いいよ、わたしはラムちゃん達と作った方の手抜きチョコ食べてるから」

「わたしのチョコ、食べたくない…?」

「いやそういう訳じゃ……ん、じゃあ、貰うよ」

 

自作手抜きチョコをひっそりと食べているとそんな提案をされ、断ろうにも断れ無い雰囲気になって結局貰う事に。

ロムちゃんが作ってたのはマシュマロチョコだったかな、確か。

 

「はいっ、あーん…」

「……え?」

 

なんて昨日のチョコ作りを思い出していると、にこにこと笑みを浮かべながらわたしの顔の前にチョコを持ってくるロムちゃん。

…食べさせるって、そう言う意味!? しかも素手だし!

 

「え、あ…いや…」

「…やっぱり、食べたくない?(うるうる)」

「う、うぅ…」

 

このっ…ロムちゃんって時々卑怯だって感じる事がある…

 

「……あ、あーん…」

「…えへへ、はいっ」

 

結局折れて、口を開けてロムちゃんが持ってきたチョコをぱくり。

……うん、美味しい。美味しいけど、なんかもう恥ずかしさとかのせいでちょっとよく分かんなくなってきてる…

 

「じゃー次はわたしのね!」

「ラムちゃんもやるの!?」

 

羞恥に押しつぶされそうになりながらもなんとか乗り越えたと思ったら、さらに次がありました。

…わたしもうバレンタインデーが苦手になりそう…

 

「なによー、ロムちゃんのは食べれて、わたしのは食べられないっていうの!?」

「うぅ…わ、わかった、わかったよ! 食べるから!」

「最初からそう言えばいいのよっ。はいっ、あーん♪」

 

こうなったら自棄だ、とことん二人に付き合ってやるっ…!

ロムちゃんに続いてわたしの顔の前にを持ってきたラムちゃんのチョコイチゴ(ピンク色のチョコじゃなくてチョコに付けたイチゴ)をぱくり。

 

「んー! んーーっ!!?」

「ふーんだ、素直じゃないグリモちゃんへのおしおきよっ! うりうりー!」

 

始めはイチゴの甘酸っぱさとチョコ甘さが丁度いいなと思っていたら、なんとラムちゃんの指がそのままわたしの口の中に。

そしてラムちゃんはそんな事を言いながらわたしの口の中をかき回すかのように指を動かし始めた。

 

「んっ、ぷぁっ、らむ、ひゃ…っ!」

「…あ、これ、ちょっと楽しいかも…」

「はわわわ…」

 

流石に指に噛みつく訳にはいかないし、でも、でも…!

だ、誰か、助けて…

 

 

……………

 

 

「あぅ、ぅ…」

「ふふん、ちゃんと最初から素直に食べるって言わないのが悪いんだもんねー」

 

お仕置きなのか好奇心なのか分からないけど暫くわたしの口を指で弄り倒したラムちゃんは、自分の指を拭きながら悪戯っ子の笑みを浮かべてそう言う。

絶対楽しんでたよこの子。うー…

 

「さてと。グリモちゃん弄り「やっぱり弄ってたんだぁ…」…もとい、おしおきも済んだし! チョコパーティーを再開しよっ!」

「う、うん」

「まだまだチョコはたくさんあるからね!」

 

ラムちゃんに恨めしげな視線を送るもスルーされながら、再び二人は元いた席に。わたしも口を拭きながら戻る。

机にはまだチョコレートが残っていて、二人ともまだ食べる気らしい。

わたしは色んな意味でお腹いっぱいだけどね…

 

「三人とも、あんまり食べすぎないように、ですよ。虫歯になって歯医者さんに行くことになっても知りませんよ?」

「うっ、それは確かに…」

「歯医者さん、いやっ…」

 

歯医者という言葉にあからさまな嫌悪を示す二人。

まぁ歯医者が好きな人なんてそうそういないか、あのドリルで削る音が…

……歯医者として削る側になったら案外面白かったりするのかな、痛がる様子とか…いやいやいや

 

「…それが嫌なら、程々にして歯磨きしないとね」

「(こくこく)」

「そ、そうね…」

 

余程歯医者が嫌なのか、わたしがそう言うと二人とも頷いていた。

 

「では、チョコレートとお皿は私が片付けておきますから、しっかり歯を磨いて寝るんですよ?」

「「はーい」」

「…はい」

 

フィナンシェさんに見送られながら、わたし達は洗面所へと向かった。

 

 

……こうして、わたし達三人の小さなバレンタインは終わりを告げた。

 

…今度またやる時は、ブランさんとも一緒にできたらいいな、と願いながら…



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ハロウィンの一幕

割と突貫で薄ーい内容ですが、ハロウィン話です。

ちなみに本編で真名登場済なので、グリモちゃんではなくディールちゃんになっています。
新キャラとかじゃないのでご注意をば。


10月31日。

世間では、ハロウィンとかいうお祭りで賑わっているらしい。

それはルウィーでも例外ではなくて、街の方を見るとカボチャやらコウモリやらで街が飾り付けられていた。

 

「…」

 

そんな日の夕方。

わたしはと言うと普段と変わらなく、鋼魔法で生成した少し重めの刀で素振りをしていた。

 

「498…499…500…」

 

「……ぐり、じゃなかったや。ディールちゃんってあんな感じだったっけ?」

「本編の方で、豹変ふらぐ? っていうのがオンになるところまで、進んだから…だって」

「わたしには、どっかの魔法格闘家の影響もろに受けてるようにしかみえないけど…」

 

と、いつも通りの鍛錬をしていると、そんな話し声が聞こえてきて、わたしは素振りを中断して刀を消した。

 

「何か用事──」

 

わたしの話をしてたし、何か用事かと思いながら声のした方を向いて、その姿を見て一瞬硬直。

 

だって…二人揃って頭に蝙蝠みたいな羽飾りつけたり変なコスプレみたいなことしてるんだもの…

よく見ると口元もなんか牙っぽいのつけてるし。

 

「あ、ディールちゃん! トリックオアトリート!」

「トリックオアトリートー…♪」

「え、あ…え?」

 

そしていきなりよくわからないことを言われて、余計に混乱する。

…新しい遊びか何かかな。

 

「もー! ディールちゃん知らないの? ハロウィンだよ、ハロウィン!」

「あ、あー…えっと、その格好とか今の言葉が?」

「(こくこく)」

 

わたしが惚けてたせいか、ラムちゃんが不機嫌そうに怒りながら言った言葉で察しがついた。

どうやらハロウィンが関係してるみたいだ。ロムちゃんも頷いてるし。

 

「…わたし、そういうのに疎いから。よくは知らない、かな」

「むー、しょーがないわね、わたしが教えてあげる! ハロウィンっていうのはねー…」

「…子供が仮装して、お菓子を貰う、イベント」

「ちょっ、ロムちゃんなんで先に言っちゃうのー!」

 

得意げな顔で説明しようとして、ロムちゃんに先を越されるラムちゃん。

仮装…ああ、だから二人も妙な格好なんだ。

 

「もー! …こほん! それで、お菓子を貰う時にさっき言ったあの言葉を言うのよ!」

「トリックオアトリート…だっけ?」

 

ぷんぷんと怒りつつも咳払いをして気を取り直し、改めて説明してくれるラムちゃん。

さっきの言葉を思い出しながら言ってみると、ラムちゃんは「そう! それ!」と言った。

でも、どういう意味だろ。

 

「お菓子をくれなきゃ、いたずらするよ…? って意味なの」

「ふーん…」

 

正直、トリックの辺りがとてつもなく嫌なやつを思い出すからちょっと嫌なんだけど…っていうか、

 

「…そんなこと言われても、わたし今まで素振りしてたし、お菓子なんか持ってないよ?」

 

馬鹿正直にそんな事を言ってしまうわたし。

その言葉を聞いた瞬間、二人の表情がいたずらする時の、にやぁっとした不敵な笑みへと変わって、

 

「…ロムちゃん、確保!」

「らじゃー…!」

「ちょっ、えっ!?」

 

ラムちゃんがそう言ったと思えば、いつの間にかロムちゃんがわたしの背後に回り込んでいて、そのまま羽交い締めにされる。

 

「お菓子がないなら…いたずらよね!」

「ひっ!? ま、まって、お菓子なら部屋に戻ればあるから…!」

「問答無用! とりゃー!」

 

ラムちゃんの目つきがなんだか怖くて咄嗟に言った言葉も意味を成さず、ラムちゃんが飛びかかってきた。

 

「ひゃっ! ちょ、ロムちゃん離して! あっ、ラムちゃんなんで服引っ張ってるの!? 脱げちゃうから、まって、やめっ……いやあああああああっ!!?」

 

ルウィー教会の中庭に、わたしの悲鳴が響き渡った……

 

 

 

----------

 

 

 

「これでおっけー!」

「うぅぅー……」

 

暫くして、わたしは二人の手によって二人と同じ吸血鬼(の仮装)にされてしまっていた。

っていうか一度剥かれたし…ぐすん…

 

「ふふん、これでディールちゃんはわたしのけんぞくね!」

「…違うよ、ディールちゃんは、わたしのけんぞく」

「え?」

「え?」

 

人の身体をさんざん弄っておいて(仮装させられただけ)なんか二人が剣呑な雰囲気を放ちながら互いに見つめあっている。

どっちの眷族だかけんぞくぅだかなんか、わたしにとってはどうでもよかった。

 

「…それで、わたしを巻き込んでなにがしたいの」

 

無理やり着替えさせられた事もあり、若干不機嫌になりながら二人に聞く。

 

「あ、そうだった。お菓子!」

「お菓子?」

「うん。ディールちゃんもいっしょに連れていったら、お菓子も三人分貰えるかなって、ラムちゃんが」

「はぁ…」

 

どうやらお菓子の量を増やしたくて、わたしを巻き込んだらしい。

別にそんなことしなくても…

 

「…力ずくで奪ったらダメなの?」

「ディールちゃん…それただの強盗…」

 

なんか二人から物凄い引かれてしまった。

むぅ。

 

「もうっ! なんでもかんでも力で解決しようとしないの!」

「あいにーどもあぱわー」

「ディールちゃんー!!」

「ら、ラムちゃん落ち着いて…」

 

半分くらい冗談で言ったらぷんすかと怒ってしまうラムちゃん。

っていうか意味わかったんだ、今の。

 

「とにかく! そんなのーきんな考え方だと、お姉ちゃんみたいなお胸になっちゃうよ!」

「誰の、何?」

 

ラムちゃんがそう言った瞬間、狙ってたかの如きタイミングでブランさんが現れた。

 

「ぎゃーお姉ちゃん!?」

「ラムちゃん、女の子がぎゃーって悲鳴はどうかなって、わたしは思うな」

「ディールちゃんのせいでしょー!? な、何でもないからねお姉ちゃん!」

「…そう? だとしたらどうして私の顔を見てそんな悲鳴を上げたのかしら」

「そ、それはー…」

 

じとーっと、ラムちゃんを見つめて不審がるブランさん。

お説教コースかなー?

 

「えっとね…ハロウィンだから、みんなでお姉ちゃんを驚かそうと思ってて、それでびっくりしちゃったんだと思う。…ね、ディールちゃん」

「……ああ、うん。そうだね、本人が出てきちゃったら作戦も何も無いですから」

 

と、そんなラムちゃんを助けようとしてか、ロムちゃんがそう言いながらわたしに話を振ってきた。

ラムちゃんが勝手に自滅しただけと言っても、折角のハロウィンに怒られるのはあれかなと思って、わたしもそれに合わせる。

するとラムちゃんは無言でこくこくと頷いていた。

 

「…ふうん。まったく、イタズラなら普段からしてるでしょうに…」

「まぁまぁ。それよりもブランさん。仮装したわたし達と出会ってしまったということで、言うことがあります」

「なにかしら」

 

腕を組んでむっとしているブランさんに言いながら、わたしは二人に目配せをして、

それで察してくれたのか、二人もこくんと頷く。そして、

 

「「「トリックオアトリート!!」」」

 

声を揃えて、その言葉を言い放った。

 

「…はいはい、お菓子ね」

 

するとブランさんはふっと小さく笑いながら、ごそごそと棒キャンディを3つ取り出して、わたし達の方へと差し出してきた。

 

「「わーい♪」」

「…わたしの分も用意してたんですね」

 

二人は喜んでそれを受け取り、わたしは自分の分があったことに少し驚きつつも棒キャンディを受け取った。

 

「あなたの事だから、きっと二人に引っ張り回されてるだろうと思ってね。でも、仮装は似合ってるわよ」

「…うるさいです」

 

予想されていたこと、また無理矢理着せられた仮装を褒められて複雑な気持ちになって、ふいっとブランさんから顔を逸らしながらキャンディを咥える。

…あまい。

 

「よーし、次はミナちゃんとフィナンシェちゃんのとこね! ほらディールちゃん行くよっ!」

「いこー…♪」

「わ、わっ…ひ、引っ張らなくてもついていくから…!」

 

お菓子が貰えて上機嫌な二人にがしっと両側から腕をホールドされて、引きずられるようにして連れて行かれる。

イベントの時はいつにもまして元気だなぁ、なんて思いながらも、何だかんだで二人に付き合う事になるのでした。

 

ハロウィンの夜は、まだ始まったばかり。

 




ちら、と知り合いのお方がコラボ何やらをしてるのを見て、やってみたいが3割私程度じゃ絶対迷惑かけそうが7割で何とも言えずに眺める側になる橘氏でした。


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候補生達の夏の一幕

「………あづい……」

 

さんさんと光を降り注ぐ太陽を恨めしい思いで見上げながら、わたしは呟く。

 

「わーい! 海だーっ♪」

「わぁい…♪」

 

そして視線を目前に落とすと、広がるのは海と砂浜。そして水着姿ではしゃぐロムちゃんとラムちゃんの姿。

 

えぇ、それは勿論可愛いし、良いと思う。でも、でもね、それでもね、

 

「…………あづいぃ…」

「アンタ来てからそればっかじゃない…」

「あ、あはは…」

 

ぐってりと肩を落としながら再度呟くと、横にいたユニちゃんが呆れたように言う。

ネプギアちゃんまで苦笑いだ。

 

で、今わたし達が何をしているのか、だけど…今ので何となく分るよね、分かったよね。分かれ。

……え? ちゃんと説明してって? …うぅ、ただでさえ暑くて気怠いっていうのに、まったく……

 

 

…じゃあはい、まず状況説明からー。

今わたし達がいるのは、リーンボックスから船で少しした場所にある孤島。

ちょっとしたリゾート地みたいになっていて、お金持ちの人なんかが貸切りで遊んだりする場所だそう。

 

そんな島にわたし含め全員が水着姿で来ているからには、バカンスにでも来たのかと思うけど、実際のところそれは半分正解。

なんでも、最近この島にモンスターが増えたとかで、それの調査、原因排除の為……つまり、クエスト目的でもある。

 

なんだけど、依頼主が解決できたらそのままバカンスを楽しんでなどと余計な事をほざいたお陰で、ベールさんの計らいにより女神がクエスト兼バカンスにやって来ている、という訳。

 

「な、なんかディールちゃん、やさぐれてない?」

「そうですか? いつもこんなじゃないですかね」

「いや、今の態度も地の文からもどう見たってなんか不機嫌じゃない」

 

ナチュラルに地の文を読むんじゃない。

まぁいいや。それで、女神ズで島にやってきたところ、何を思ったのかベールさんが、

 

『クエストの方は私達で終わらせて、ネプギアちゃん達妹には先にバカンスを楽しんでもらいましょう!』

 

とかなんとか言い出して、こうなった。

…ネプテューヌさんは遊びたいと駄々をこねていた気がするけど。

 

「だってぇ…わたし室内で待ってるって言ったのに…」

「ダメよ! ディールちゃんもいっしょに遊ぶんだから!」

 

げんなりしながらそう言うと、はしゃいでたラムちゃんが戻って来てびしっと指差しながら言う。

まぁ、そう言うと思ってたけどね…?

 

「うー、でも暑いのやだぁー…」

「…ディールちゃん、わたし達と遊ぶの、やだ…?(うるうる)」

「うぐっ」

 

室内でもうだる暑さなのに…とか思いながらひたすら嫌がると、今度はロムちゃんがうるうるした目で泣き落としにかかってきた。

そんな顔されたら断れないでしょ…むぐぐぐ。

 

「ほーら、唸ってないで行くわよーっ!」

「うわっ、ちょっ!」

「ごーっ…♪」

「泣きそうだったのに既に立ち直ってる!?」

 

ロムちゃんのうるうる目に怯んだ隙にがしっと二人に腕を掴まれ引っ張られる。

うぅ、結局こうなるんだ…

 

「……あれ、ホントに同一人物なのかしらね? 自分自身に負けてるようなもんじゃない?」

「さ、流石にそういうことにはならないんじゃないかなぁ…」

 

傍観していた二人もそんな会話を交わしながら歩いてくる。

こうして、わたし達の海遊びが始まったのだった。

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 

で、まぁ。海というわけでわたし達の装いも当然水着なんだけど。

 

「ひゃぁー! つめたーい!」

「つめたーい…♪」

 

浅瀬に入りながらきゃっきゃとはしゃぐ二人。

二人の水着はお揃いのワンピース水着で、それぞれロムちゃんがピンクと赤の、ラムちゃんが黄色とオレンジの色だ。

 

それで、本編で別次元のロムだと明かしたわたしはというと、これまた色違いで二人とお揃い……というわけではなく、

水色でタンクトップのような形の上と、白色のフリフリとした下の水着と言った感じというかなんというか。

まぁ具体的なイメージは漫画の超次元ゲイム ネプテューヌ THE ANIMATION コミックアンソロジーの「子供なんて言わせないっ!」を参照してね!

 

宣伝はまぁいいとして、ちなみにこの水着を選んだのはエスちゃんだったりする。

そのエスちゃんだけど、今回一緒に来てないのはどうしてかというと…

 

『海ぃ? 水辺遊びはちょっと…ほら、私一応本が本体だしさ?』

 

とかなんとか。

 

「…にしても、やっぱり都会から離れた島というだけあってなのかな、綺麗な海」

 

二人に続いてちゃぷ…と浅瀬に足を入れながら呟く。

元々海とか殆ど来たりしてないからよくは知らないけど、水中まで透き通って見えるんだから綺麗な方だと思う。

 

「えいっ!」

「ぴゃぶっ!!」

 

とか思いながら海を見つめていたら、突然顔に水をかけられる。

ビックリしたし、口の中がしょっぱい…

 

「ふっふーん、隙ありよー!」

 

犯人は言わずもがな、目の前で腰に手を当てて得意げな顔をしているラムちゃん。

ロムちゃんもその後ろでくすくす笑ってるし…むむむ。

 

「……ふ、ふふ。いいよ、そっちがその気なら…」

「…ディールちゃん…?」

「──戦争だー!」

「「わひゃぁっ!?」」

 

やられたらやり返す…倍にして、の精神で、二人目掛けてばしゃぁっ! と両手で水をかける。

 

「やったなー! いくよロムちゃん!」

「しょうぶっ…!(ぐっ)」

 

バシャバシャと、三人で水のかけ合いが始まる。

二対一で不利だけど…そこは技術で補うだけ。

 

「素手でも魔法は使えるんだから! オーシャンウェーブ!」

 

両手を水中につけて魔力を流し込み、思いっきり振り上げると水が波の如く二人に襲い掛かる。

名前は勢いとノリだから深い意味はない。大人げないとか知らない、わたし子供だもん。

 

「ちょっ、ずるい!? きゃー!!」

「ぶくぶく…ぷひゃっ」

 

勿論、溺れたりとかしない様にちゃんと注意してみておく。

波が過ぎ去ると二人ともぷるぷると見ずを振るって水を払ってるから、大丈夫そう。

 

「こ、このー! てぇい!」

「ふぶっ、なにをー!」

「ひゃぁっ、きゃー…♪」

 

なんて、わたし達が三人で水遊びをしている最中、残りの二人はというと、

 

「あいつら、元気ねぇ」

「でも元気なのは良い事だと思うよ?」

 

なんとまぁ、浜辺でのんびりしている。

わたしはこんな暑い中こうやって引っ張り出されている(まぁ割と楽しいけど)のに…!

 

……だったら、ふふふっ。

わたしは一度二人に水かけを止めるようにとジェスチャーを送り、こっそりと一掬いの水に魔力を込める。

 

「…シュートっ!」

 

そしてそのままその水を浜辺でのんびりしているユニちゃんに向かって投擲。

 

「ぶはっ!?」

「ひゃぁ! ゆ、ユニちゃん!?」

 

放たれた水はそのまま吸い込まれるようにして、ユニちゃんの顔面にクリーンヒット。

 

「おおあたりー…♪(ぱちぱち)」

「ディールちゃんやるぅっ!」

「ふふーん、まぁねっ」

「………アンタ達ぃ…!!」

 

いえーい、とロムちゃんラムちゃんの二人とハイタッチしていると、殺気。

振り返ってみればそこには二丁ライフル(水鉄砲)を構えたユニちゃんが、ご立腹な様子で立っていた。

 

「わー、ユニちゃんが怒った!」

「にっげろー!」

「ひゃー…♪」

「このっ、待ちなさいっ!!」

 

水鉄砲を乱射しながら追いかけてくるユニちゃんから、三人で逃げ回る。

ここまで若干影の薄いネプギアちゃんに苦笑いで眺められながら、追いかけっこが始まったのだった。

 

「…い、今なんか影が薄いとか言われた気が…」

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 

「ふぅ、ふぅ…」

 

即興で作り上げた壁に隠れながら、どうにか乱れた息を整える。

 

──飛び交う弾丸、飛び散る液体

そう、今やこの場は、戦場……

 

「…いや、なんか水鉄砲勝負に発展しただけだけどね」

 

そういうわたしの手にも、二丁の水鉄砲。

あ、壁っていうのは砂で作られた壁のことだよ。

 

「3対2ってのは卑怯なんじゃないの!?」

「あ、私ユニちゃん側なんだね。ユニちゃんに水鉄砲持たされたしそうかなって思ってたけど…」

「そっち二人とも銃使ってるんだからハンデですよ!」

 

ユニちゃんの(ついでにネプギアちゃんの)声だけが聞こえてきて、わたしはそう答える。

 

「えへへ、スプラッシューン楽しいね、ロムちゃん!」

「うんっ、どきどきする…♪」

 

楽しげなラムちゃんとロムちゃんの声。

ラムちゃんはなんかこういうの経験ありそうな気がしたけど…なんでだろ?

 

いつまでも隠れているわけにもいかないしと、こっそり砂山の影から様子を伺う。

 

「挟み撃ちよ! ネプギア覚悟!」

「えーいっ…!」

「えっ、いつの間に!? ひゃぁぁ!!」

 

すると丁度、ピンクの横ストライプ模様のビキニ姿のネプギアちゃんが、ロムちゃんラムちゃんの襲撃を受けて水浸しにされている所だった。

巻き込まれた挙句あんなに思い切り…顔面狙ってるし…ドンマイネプギアちゃん。

 

……というか、ユニちゃんはどこに…

 

「…っ!」

 

ユニちゃんの姿を探していると、不意に視線を感じてその場から飛び退く。

 

「ちっ、アタシが外すなんて!」

 

さっきまでわたしの居た場所に狙い済ました水の弾が炸裂する。

厄介なことにユニちゃんの水鉄砲は狙撃銃型だから、気を抜いたら狙い撃たれる。

……でも、今ので居場所はわかったし、そうなったら!

 

「うりゃぁっ!!」

「なっ! 視界が…!」

 

砂山のあんまり濡れてない箇所を思いきり蹴飛ばして、砂の煙幕を張る。

この煙に紛れて…!

 

「やあぁぁぁっ!」

「っ、そう上手く行くと、思わないことねぇぇぇッ!!」

 

 

 

 

 

「で、相打ちになったのね」

「ふぎゅぅ…」

 

数分後。

わたしは砂浜で伸びるようにして横たわっていた。

あ、頭が…おでこが割れるぅ…っ!!

 

「ユニちゃん、いくら水鉄砲でもそれは痛いと思うな…?」

「くぅ…だ、だって、アタシだってこんなガチバトルになるとは思ってなかったのよ」

 

ふいっとツンデレっぽく顔を逸らしながらも少し申し訳なさそうに言うユニちゃん。

あ、遅れたけどユニちゃんの水着は星模様の入った黒いビキニ。

 

「…なんかアタシとネプギアだけ雑な扱いされてる気がする」

 

作品的にもメインはルウィーだもん。

とにかく、今度やるならレギュラーとかおきらくな感じてお願いしたいと思うわたしなのでした。

 

「ね、ね、次は何して遊ぶー?」

「(わくわく)」

 

と思いきや、二人はまだ遊ぶ気満々な様子…

暑い中張り切っちゃったわたしにはちょっと辛いし……そうだ。

 

「遊ぶのもいいけど、一度小屋に戻らない? 確かかき氷機が置いてあったから、それで、ね?」

「「かき氷!!」」

 

ふと小屋にそんなものがあったことを思い出し言ってみれば、即食いつく二人。

かわいいなぁ。

 

「うまく逃げたわね」

「…そんなこというユニちゃんにはかき氷抜き」

「うっ…わ、悪かったわよ」

「ふふっ」

 

ユニちゃんとそんなやりとりをしながら、ふいにネプギアが小さく笑っているのに気がつく。

 

「…何かおかしいことでもあった?」

「あ、ううん。そうじゃないけど、来年もこうやって皆で夏を過ごせたらいいなって」

「…ネプギアちゃん、影薄かったけど」

「そんな事ないよ!?」

 

なんか変な事を言ってきたから、からかう様にそう言ってやる。

…ネプギアちゃんって弄り甲斐あるよね。

 

「…まぁ、いい感じに纏めようったってそうはいかないもん」

「えっ? ひゃうっ!?」

 

ここでしれっとまだ持ってたままだった水鉄砲をネプギアちゃんに向けて発射。

完全に不意打ちだったからか、面白い声が聞けた。

 

「『ひゃうっ!』だってー…ふふふっ」

「も、もーっ! ディールちゃんっ!?」

「きゃぁー、ネプギアちゃんが怒ったー」

 

わざと棒読みでぱたぱたと逃げるように走る。

隙だらけなのが悪いもんね、ふふん。

 

「……テンション上がると元の性格に近くなるのかしら…?」

 

ユニちゃんがなんか呟いてたけど、よく聞こえなかったから気にしない。

そのままわたしは(なぜか途中ロムちゃんラムちゃんも一緒になって)追ってくるネプギアちゃんから逃げるようにして小屋まで戻り、皆でかき氷を食べたのでした。

 

ちなみにかき氷はブルーハワイ味にした。




コミックの留守番三人組がR18アイランドに行く話の水着可愛いですよね。
でもアニメ特典のビキニっぽいのも可愛いですよね!
でもでも原作のワンピース水着も…

あ、そういえばねぷねぷコネクトで夏イベントとか始まってましたね。
ロムちゃんラムちゃんが一カードに纏められたのはちょっと物申したいですが白いワンピース水着可愛いのでオッケーです。まじかわいい。

ちなみにそのイベントの舞台がちょうどエイティーンアイランドとかいう元R18アイランドだったりしました。どうでもいいですね。


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オンラインの頁
タイトル:皆の選んだ職業について


ニックネーム:青色D
投稿日時:12/19 17:15:59
もう少ししたらβテストが始まる訳だけど、新バージョンで使う職業とかってどうしているんですか?


皆の選んだ職業について

 

ニックネーム:青色D

投稿日時:12/19 17:15:59

もう少ししたらβテストが始まる訳だけど、新バージョンで使う職業とかってどうしているんですか?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

2:ねぷねぷ 11/19 17:17:04

わたしは聖騎士にしたよ! ザ・主人公って感じだしね!

 

3:青色D 11/19 17:18:34

聖騎士ですか。攻撃、魔法、回復までこなす万能型ですし、確かに主人公って感じはしますね

 

4:のわこ 11/19 17:19:05

でも器用貧乏にもなりそうよね

 

5:姉の妹 12/19 17:21:56

やっぱり、色々できちゃうのは器用貧乏なんでしょうか…

 

6:青色D 12/19 17:22:31

なんか別の人に飛び火してるんですけど

 

7:†グリーンハート† 12/19 17:23:44

>>1は何かこうしたいとかの希望はあったりしますの?

 

8:青色D 12/19 17:24:27

そうですね、個人的な要望があるとすれば…一緒にβテストに参加する知り合いが近接職でやるそうなので、

遠距離から支援とか攻撃ができるようなのにしようかなと

 

9:M82 12/19 17:26:01

遠距離と言ったらやっぱり銃じゃない?

 

10:うずめ 12/19 17:27:49

>>9

どっか別の場所で同じ様なコメントした気がするが、

世界観ぶち壊しじゃないか?

 

11:青色D 12/19 17:29:00

ファンタジー世界でもカジノがあるゲームとかありましたしあんまりにも極端なものじゃなければ世界観云々は平気じゃないでしょうか。

あ、そういえば盗賊の武器が短銃なんでしたっけ。うーん

 

12:雪ノ宮 真白 12/19 17:31:12

他の遠距離職業となると、魔法系かしら

 

15:らむちゃん 12/19 17:32:50

ニンジャもいちおうえんきょりできるよ! にんにん!

 

16:ろむちゃん 12/19 17:33:42

らむちゃん、にんじゃはちゅうきょりだとおもう…

 

17:青色D 12/19 17:34:32

魔法かぁ。それだとなんかリアルもゲームも変わらない感じが

忍者は、諸事情でパスするよ…

 

18:†グリーンハート† 12/19 17:35:03

でしたら、狩人なんてどうでしょうか?

 

19:青色D 12/19 17:35:56

>>14

詳しく

 

20:のわこ 12/19 17:36:38

狩人…って言ったら、弓かしら?

そういえば、弓を得物にしている人って見たことないわね

遠距離と言えば銃か魔法のイメージ

 

21:ねぷねぷ 12/19 17:38:52

確かにー。これだけシリーズいっぱい出してるのに弓使ってる人いないかも

 

22:青色D 12/19 17:39:55

はいはいメタネタはやめましょうね。

 

23:†グリーンハート† 12/19 17:42:07

今少し話題に出ていた通り、狩人というのは弓を主武装として戦う職業ですの

後方、遠距離から矢を放ち援護するのは当然ですが、簡単な風のエンチャント魔法や特殊矢などを使えるので、ロールとしては後ろからバフ・デバフをばら撒くようなスタイルで戦う感じの職業ですわ

 

24:青色D 12/19 17:44:17

なるほど…良いですね!

情報、ありがとうございます

 

25:ねぷねぷ 12/19 17:46:23

でもさー >>1が弓使うって…

衣装は赤色で結局剣使ってそうだよねー

 

26:青色D 12/19 17:47:46

>>25

あなたの じょうしに あそんでること いいますね

 

27:ねぷねぷ 12/19 17:49:09

ヤメロォ! やめてぇ!?

 

28:みっかかかりますよ 12/19 17:53:42

>>27

お部屋に伺いますね

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「あ、ほんとに呼んだつもりないのに見つかってるし…」

 

自分で立てたスレッドを眺め終えて、椅子の背もたれに寄りかかりながらふぅ、と溜め息一つ。

弓、弓かぁ。確かに、一番新鮮な感じがしていいかもしれない。

 

流石はネットゲームベテランのベールさんだなぁ、なんて思っていると、自室のドアが開く音。

うだーっとしながら首だけを音のした方に向けると、一人の女の子の姿が。

 

「ディー、いい加減使う職業決まったー? …って、何よその顔は」

 

わたしの顔を見るなりじとーっとした目で見つめてくる彼女は、エスちゃんことエスト・レッドハート。

正直この場にいる時点で未だ進み悩んでいる本編のネタバレ感が否めないけどそれはそれとして話を進める。

だってネプテューヌでオンラインゲームモノなんて、ねぇ?

 

「モノローグでメタメタな事言うのはやめなさいよ」

「そういうエスちゃんこそ、地の文に突っ込んでこないでよ…」

「わたしはいいのよ、わたしは」

 

理不尽染みた言い分に「なにそれ…」と今度はこちらがじとーっとした視線を送りつつ、本題に戻る。

 

「決めたよ、職業。わたしは狩人にする」

「狩人…ってことは弓系? なーんだ、結局遠距離系にしたの。別に気にしなくていいのに」

「なるべく二人でって話なら、お互い連携を取りやすくした方が良いと思って…エスちゃんは何にしたんだっけ」

「わたし? わたしは舞剣士。タゲ取りながら双剣でザックザクする奴よ」

 

ゲームでも戦いはやっぱり近接戦闘が一番! と言うエスちゃん。

まぁ、それがエスちゃんらしいといえばらしいけどね。

 

 

――そんな感じで。

なんやかんやあってわたし達も参加することになったゲーム――四女神オンライン βテスト。

なんだかんだで始まる日を楽しみにしながら、エスちゃんと四女神オンラインについて話ながら夜が更けていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちも、

ネトゲ始めます。

 

四女神オンラインGrimoire of Neptune

 

 

 

To Be Continue...?

 

 




 ~狩人~
新緑と風を纏い、疾風の如き矢で敵を穿つ
自然の弓兵。
遠距離からの精密な矢の狙撃を得意とし、
長距離戦闘で敵を翻弄する。
また、低級の回復魔法や属性矢、
付与術士に近しいためエンチャントも可能であり、
生粋の後方援護職と呼べるだろう。
彼らの放つ矢には風の精霊が宿り、
一度放てば仲間に加護を与え、邪を祓う
一陣の風となる。

『付与術士』がエルフ族にとって歴史の浅い
技術だとすれば『狩人』は古くから彼らと
共にあったと言える技術。
『付与術』と同じく、意志を同じくする人間の
冒険者に術を授けている。


 ~舞剣士~
二本の剣を手に戦場を舞う剣士。
二刀流による手数で敵を圧倒するが、身軽さを
生かすが為に防御は軽装。
その剣舞は味方だけに留まらず敵をも魅了し、
見惚れたが最期、斬られたことにすら気付かないだろう。

とある踊り子がパフォーマンスの為、
二つの剣を用いた舞を舞ったのが起源であり、
文字通り舞い踊るように敵を切り刻む。
起源となった踊り子は伝説の踊り子となり、
この「舞」と「剣術」は踊り子を讃え語り継ぐ
為の技術となった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あくまで予告なのでシリーズ化するかは未定です。


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オンラインゲーム、始めました?

バグやらなにやら多いけどわたしは楽しんでます。
ロムちゃんかっこかわいくて強い!
ラムちゃんは、モーションが可愛い!

あ、もしかしたら四女神オンラインの序盤のネタバレになるかもしれないのでご注意を。


「はぁっ、桜輪舞!」

 

二刀を手足の様に振るいながら、ばっさばっさとモンスターを斬り倒していく赤色軽装備な衣装のエスちゃん。

スキルも活用して、一人でガンガン進んでいく。

 

「ピンポイント…エイム。てやっ」

 

とはいえ、それでも普段とは違うせいで隙は生まれてしまうわけで。

エスちゃんが仕留めるのに間に合わないようなのを、少し離れた場所からわたしが弓矢で穿つ。

 

待ちに待たれた(主にベールさん達に)四女神オンライン最新バージョンのβテストが始まって、

エスちゃんがどこかから入手してきたβテスター参加権で、わたしとエスちゃんもさっそくゲームを始めていた。

……言っておくけど、変なルートとかじゃないのは調べ済みだからね? 大丈夫だから。

 

ただ、わたし達はベールさんとは合流せずに進めている。

理由はエスちゃんにあるんだけど。

 

「ふぅ…この辺の敵は粗方仕留めたわねー」

「もう…一人でどんどん突っ込みすぎ。…シー・メディック」

 

フィールドにPOPしていたモンスターを一掃して(ほとんどエスちゃんがやった)ひと段落ついたところでわたしはエスちゃんに近寄って魔法スキルを発動する。

シー・メディックっていうのは、自分と周りの味方のHPを回復する、『司祭』以外でも覚える職業があるような初級回復魔法。

 

…っと、ここら辺で一度自己紹介でも挟んでおくね。

わたしはディール。ルウィーの教会で、ホワイトシスターズの専属侍女みたいなことをやっています。

今回、このβテストを始めた理由だけど、目の前のこの子…エスちゃんに半ば強引に誘われたから…って感じ。

まぁ、強引ではあったけど興味はあったから、嫌ではなかったんだけどね。

 

それで、わたしの選択した職業は「狩人」。

さっき説明した初級回復魔法とエンチャント魔法、そしてこの弓を使った長距離からの射撃を得意としている職業だよ。

…まぁ要するにベールさんが使ってるらしい「付与術士」の遠距離版ってことだね。

 

「あっ、ありがとー。さってとー、お宝お宝~♪」

「…もーっ」

 

わたしが不満げにしている事をさして気にしてない様子で二刀を収めてアイテムを漁りだすエスちゃん。

 

この子はエスちゃんこと、エスト。

見た目はわたしに…というか、わたし達二人自体がホワイトシスターズに似てるんだけど…まぁ、色々深い事情とか縁があって、今はルウィーで一緒に暮らしている。

 

で、このエスちゃん。こんな様子だけど、別に職業が『探検家』って訳じゃなくて、

彼女の職業は「舞剣士」っていう、前衛アタッカー兼支援型。

舞、っていう特殊スキルで自分と味方を強化しながら、二刀でずばばっと斬り込む…そんな感じのアタッカータイプ。

ガンガン突っ込むタイプだから、わたしが遠くから狙撃する間に、どんどん敵を倒しちゃっているんだけどね。

…ちなみにどこかのオンラインゲームと違ってユニークでもなんてもないよ。

 

そんなエスちゃんだけど、わたしを巻き込んでまでこのβテストに参加した理由は…

 

『このゲームに出てくる魔法とかスキルとか、武器とかいろいろ見てみたいのよ』

 

…なんて理由だったかな。

っていうのもエスちゃんは世界の魔法とか機械が好きで、それはゲームや物語のものも例外じゃないの。だからこういうことになったわけで。

…まぁ、こういう子なのは知ってるから、いいんだけどね。

 

「んー、こんなものか……このフィールドのドロップ品も見飽きてきたわねー」

「まぁ、相当あちこち歩き回ったり、リポップさせる為に出入り繰り返したもんね…」

「そうなのよねー。この辺のモンスタードロ品とか採取素材で作れるような武器は粗方タムソフトに作って見せてもらったし」

 

手を頭の後ろで組みながらうんうんと唸りだすエスちゃん。

今話に出てきたタムソフトっていうのは、職業『鍛冶工』のプレイヤーさんで、

このゲームの拠点となる街『ウィシュエル』で、他のプレイヤーさんの武器防具を強化したり作ったりしている人の事。エスちゃんの目的のせいもあって出会ったのはゲームを始めてすぐだったかな。

使わない武器を作ったりで迷惑じゃないかと思っていたけど、タムソフトさん的には良い鍛冶スキル上げになるとかで良いんだとか。

 

「よし! ディー、ストーリー進めるわよ!」

「え? また、唐突な…」

 

そして悩んでいたエスちゃんが出した結論は、ストーリーを進めることだった。

 

「だってー、よくよく考えたらストーリー進めなくちゃ先のフィールドに進めないし」

「…まぁ、それもそっか。いい加減この辺のモンスターじゃレベルも上がりにくいし、装備なんかはそれこそストーリーを魔王倒す辺りまで進めないと凄いのは出てこなさそう」

「でしょ? だから、進める!」

「……え、二人で?」

 

ストーリーを進めるっていうのはわかったけど、ふと疑問に思って聞いてみると、何を当たり前の事をみたいな顔をされた。

え、えぇ…

 

「そもそもこの平原も見飽きてたのよ! 次の目的地は、えーっと…」

「……ロギ山麓?」

「そうそこ! 行くわよディー!」

「…うん」

 

むしろ今まで平原だけでよく飽きなかったな、とは言わないでおこう。

意気揚々と街に戻るオブジェクトに触れるエスちゃんに続いて、わたしもオブジェクトに手を触れて街へと戻るのでした。

 

 

 

 

 

 

「よぉし、特に何事もなくアメジストの盃もゲットできて行ける場所も増えたわね!」

「…そうだね(草みたいな埋まってた変な奴の自爆特攻で死にかけたくせに)」

「じゃ、早速この神殿に行ってみよー!」

「神殿…? って、そこ神器揃えてから行くところだし…わたしは行きたくない」

「えー。なら良いわよわたし一人で行くし!」

「あっ。ちょっとエスちゃん……もう、そこモンスターレベルとかも跳ね上がってるって言おうとしたのに…まぁ、少ししたら帰ってくるよね」

 

 

……数分後。

 

 

「……むぐぅ」

「あ、おかえり」

「……あそこはまた今度にしましょう」

「そうだね(これを機にもう少し突っ込み気味なの抑えてくれればいいのに)」

 

 




衣装イメージはそれぞれ
ディール:ベールさんみたいなデザインで胸元・首元辺りが露出していない青色の服
エスト:軽装(胸当てとか無し)和スカートの赤色の服
って感じでしょうか。


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暗黒星オンライン…?

いつだったかの電プレに載ってたネプの四コマ見てふと思いついていた小話です。
タイトルから察せる通り、あの人が…


ロムちゃんとラムちゃん達女神組、通称C.P.U(ゲイムギョウ界の守護女神をそう呼ぶことがあるって理由で付けられたらしい)と呼ばれているパーティーは順調に前線の方で攻略を進めている中。

わたしとエスちゃんはマイペースな調子で四女神オンラインを楽しんでいた。

……まぁ、エスちゃんがヒャッハー状態でモンスター狩りしまくってるから微妙に進みが悪いだけともいうけど。おかげでレベルばっかり上がり気味だし…

 

で、今日はそのエスちゃんとは別行動中。

何でも現実(リアル)の方でイストワールさんと会う約束しているとかで、今日はinできないとのこと。

何をするのかは知らないけど…本系の存在同士ってことで何かあるんだろう。

 

「ぼー………」

 

わたしも特に教会でやることも請け負ったクエストもないからログインしてみたものの、特にこれをしよう! って目的もなくてウィシュエルの広場にあるベンチでぼけーっとしていた。

ストーリー進めるのは…今までがエスちゃんと一緒にだったから一人で進める気もないし…

 

…あぁー…でもほんとになにしよう…することないのにログインしてる意味あるのかな…

 

「…んぅ…?」

 

なんて考えながらぼーっとしていたところ、ふとなんだか見たことがあるような姿が目に映った。

 

あのオレンジ色の特殊な形のツインテールは…もしかして…

…いや、でもうずめさんはいつもの姿にキャラメイクしてたはず…この前会ってソロプレイで遊んでるって言ってたし…

ファンが似せて作ったアバターの可能性もあるけれど、オレンジハートってまだ超次元のゲイムギョウ界じゃあんまり知られてないし…っていうかなんかあんまり目立たないように隠れてる…?

 

…なんとなく気になったわたしはそのオレンジハート? の人の様子を伺ってみようとベンチから立ち上がった。

 

「……むぅ、どうしたものかな…」

 

何やらオレンジハート姿の人は広場の影でぶつぶつ呟きながら唸っていた。

着ている衣装や腰にある得物……刀から察するに、職業は侍かな。

……なんか困ってるみたいだし、声かけてみよう。

 

「あの…どうか、しましたか?」

 

そう思ってその背中に声をかけてみると、何故だかびくりと驚いた様な反応の後、ゆっくりこちらに振り替えるオレンジハート姿の人。

…顔もまんまオレンジハートと同じに作られている。ここまでクオリティが高いとなると、プラネテューヌ教会の誰か?

 

「…き、君は……」

 

まるで見られたくなかった相手に見つかったみたいな顔をしながらそう言いかけて…固まる。

…あ、あれ?

 

「………君はどっちの方だ…?」

 

どっちって…あぁ、もしかしてロムちゃんかわたしのどっちって意味か。

確かにわたしもロムちゃんも現実(リアル)の姿まんまに作ってるから、見分けにくいもんね…

 

「…えっと、ディールの方、です」

「ああ、可愛げの少ない方だね…」

 

仕方ない事だと思いつつ失敗したかなぁ、なんて考えながらそう名乗ると、随分と喧嘩を売ってるような言葉が返ってきた。

……うずめさんはこんな失礼なこと言わないし、でも声はうずめさんで、でもでも声が少し低い……

…なるほど、ねぇ…

 

「……まさかあなたもこのゲームをやっているとは思いませんでしたけどね。暗黒星くろめさん」

「ぐっ!? な、何故オレだと…」

「少し話せばわかるかと……それにしても、随分可愛らしい姿ですね」

「ぐはっ!」

 

にっこり、笑顔でそう褒めてあげると、悶える様に震え出すオレンジハート…こと、暗黒星くろめ。

反応からして知ってる顔には出くわしたくなかった様子。

…反応面白いからもう少し弄ってみたくもあるけど…我慢我慢。

 

「…それで、どうしてあなたが? なんだかこういうゲームやる様なイメージではありませんでしたけど」

「……俺に誘われたのさ。ネトゲの招待チケット分けるからやろうって。でも俺の奴、一緒にはやらないとかって…」

「あぁ…このゲームでは絶対ソロプレイで貫くっていってましたからね、うずめさん…」

 

誘うだけ誘ってほっぽりだしたんですかうずめさん…流石に少しくらい付き合ってあげてもいいと思うのに…

 

「それで、オレもソロプレイで始めたんだが…」

「…? どこかで詰まってるんです?」

「…まぁ、そうさ。次のイベントが発生しないんだ」

 

ふむ、イベントが発生しない…か。

進行不能バグだったらとっくに報告やら運営対応が済んでる筈だし…

 

「…えっと、くろめ。一つお聞きしますけど、ストーリーイベントはどの辺まで…?」

「…確か、アメジストの盃だかが手に入った所だよ。新しく増えた場所は敵が強くてどうにも進むことができないしな…」

「…なるほど」

 

くろめの話を聞いて、大体の原因がわかってきた。あとは…

 

「ええと…ギルドクエストはこなしてますか?」

「…? ああ、そういえばあまり受けてないけれど」

「…」

 

そしてこの質問で原因がわかった。

なんというか、初歩的というか…

 

「…なんだ、君には原因がわかったとでも?」

「はい。恐らくですけど、くろめはギルドのキークエストをこなしていないのが原因でストーリーの進行が停止しているんだと思います」

「キークエスト…ああ、成程、どういうことか…」

 

わたしが告げた答えでくろめも何となく理解したらしい。

チッ、オレとしたことが…なんて呟いている。

 

……オレンジハートの姿だといまいち元より迫力に欠ける

なぁ…

 

「兎も角、原因が分かれば後はオレだけでもなんとかなる」

「そうですね。結構引っかかる人多いみたいですから、クエスト消化」

「ふぅん、そうなのか」

「はい。ああ、これから先も何も起こらなくなったと思ったらギルドクエストをこなすと何か起こるかもしれないので、覚えておくことをおすすめします」

「なら、そうさせてもらうよ」

 

と、そこまで説明すると早速ギルドに向かうのか、歩き出すくろめ。

…かと思うと足を止めて、こちらに振り返り、

 

「…まあ、今回は助かった、と礼を言っておこうか」

 

なんて言ってきて、

返事をしようとするものの、それだけ言ってくろめは足早に去っていってしまった。

…なんていうか、不器用なのかな、あの人。

 

「……でも、どうしてオレンジハートの姿にしたんだろう」

 

……ああ見えてうずめさんみたいに可愛いもの好きとか? 元はうずめさんと同じなんだし…

うーん…

 

「あー! ディールぅー!」

 

くろめが去っていった方を見つめながら考えていると、後ろから聞きなれた声。

振り返ってみれば、そこにいたのは忍者なラムちゃんと侍なロムちゃんだった。

 

「ああ、二人共。お仕事は終わったの?」

「もっちろん! わたし達にかかればあれくらいらくしょーよ!」

 

ふふん、と胸をはりながら答えるラムちゃん。

あ、ここで言ったお仕事っていうのはクエストのことね。

二人とも今日は現実(リアル)の方で討伐クエストに出ていたから。

 

「…ディールちゃんは、何してたの?」

「そーいえばそうだね。何かギルドクエストとかやってなかったの? ディールちゃん」

 

二人がそう聞いてきて、

本当はまさかのくろめと出会って話していたけれど…

 

「んー…秘密」

「えぇー、なによそれー!」

 

あえてそれは言わずにおいた。

ラムちゃんがぶーぶー不満げだけど、言いふらすことでもないしね。

 

…まぁ、うずめさんには今度あったら話しておこうかな…?

 

 

 

「…ね、ディールちゃん。いっしょにあそぼ…?」

「あっ、そうよ! なんだかんだディールちゃんとあんまりこのゲームいっしょにしてなかったし、やろやろー!」

「…そうだね。そうしよっか」

「決まりー! それじゃーれっつごー!」

「「おー!」」




本編で彼女らが出会うのはいつになるかわからないほどに先の話であり、この話もIFかもしれないしそうじゃないかもしれない。

そんなちょっとした思いつきのお話でした。


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コラボの頁
蒼紅の魔法姉妹と大人ピーシェ 1


えー、今回はエクソダス様の「大人ピーシェが頑張る話。」とのコラボ話となります。が、登場人物の都合で外伝扱いとなります。
ついでにあちらのものより小出しになるので進行もあっちに比べるとちょっと遅めになります。

以上の注意に気を付けてオッケーな方は、続きをどうぞ!


いつからこうしていたのか、なんてわからないけれど、気が付いたら周りが真っ暗闇に包まれていた。

あれ? どうなってるの? わたしは確か……と直前の記憶を思い出そうとしていると、ふっと辺りに光が満ちる。

 

眩しくて目が眩んで、同時に浮遊感と風の音がうるさいくらいに聞こえてきて、

どうにか目を開いてみれば──

 

 

 

そこは空中だった。

 

「ひゃああああああ!?」

「あー、落ちてるわねー。稀に良くある事よー、うん」

「エスちゃん!? 無いよぉ! なんでそんな落ち着いてるのぉぉ!!」

「ふおおおおお! すごい! 景色すごい!」

「ひいぃぃぃぃ!!」

 

空から落ちている。にも関わらず、取り乱しているのはわたし一人だけ。

近くには「久々ねー」と余裕そうにしている妹、エスト(エスちゃん)ともう一人。

興奮したような口ぶりで落ちながら景色を眺めているイオンちゃんがいた。

 

いやああああ死ぬ! 死んじゃううう!!

 

「ま、流石にネプテューヌちゃん程頑丈じゃないし。ディーちゃん魔法準備ー」

 

地面に背中を向けて随分と余裕そうなエスちゃんは冷静で、そう指示を飛ばしてきた。

ま、魔法……風魔法? 確かに身体は軽いからそれでどうにかなるかも…

後で考えたら女神化って手もあったけど、この時のわたし達は魔法でこの窮地を脱することを選択した。

 

「たああああああぁすけぇぇにきいいいいいた──」

 

ただ、いざ手に魔力を集中させ始めると、地上からものすごい速さで飛んでくる何かが見えた。

 

「うん? ディーちゃんなんか言った?」

「いやわたしじゃなくて下に」

「それよりそろそろヤバいわよ! ほら構えて!」

「だから下に……ああもう!」

 

エスちゃんは既に魔法発動に集中してるのか聞こえてもないみたいで、だからと言ってわたしと一緒に唱える前提で進めてるからわたしだけ止めるわけにもいかず。

 

「ごめんなさぁぁい!!」

 

わたしはそう地上から来る何かに向けてそう叫びながら地面の方……その人がいるのも構わずに、風魔法を発動する。

翳した手の先に緑色の魔法陣が展開されて、辺りに突風が吹き荒れた。

巻き起こされた突風は向かってきた誰かを巻き込み吹き飛ばしながらもわたしとエスちゃんの身体を受け止めて、風の力で落下の勢いを無くしたわたし達の身体はふわりとゆっくり地面へと降り立った。

 

「おおー、息ぴったりー」

 

イオンちゃんはというと、感心するようにわたし達を見降ろしながら、大きな真っ黒い手に受け止められてゆったりと降りてきた。

どうやら彼女の"お友達"はこの状況でも健在みたい。

 

「ふう、これで一安心ね!」

「わたし達はね? 誰か巻き込んでたからその人は安心じゃないよ…? ええと…」

 

 

やり切ったとでも言いたげにドヤ顔をするエスちゃんをじとーっとした目で見つめつつ、辺りを見回して巻き込んでしまったであろう存在を探す。

 

「みんなありがとね! あ、ディールちゃん。あっちに人がいるよー」

 

わたしがそうしていると遅れて地上に降りてきたイオンちゃんが"お友達"にお礼を言いながら、そう言って木の方を指差した

 

「き、きみたち~大丈夫~~~」

 

そしてイオンちゃんが指差した方からどこか見覚えのある姿の女性が、こちらの身を案じるような声をかけながら近づいて来た。

 

身体に木の枝の刺さった姿で。

 

「ひい!? おばけ!?」

「? その人生きてるよ?」

「こんな真昼間の外に幽霊なんか……いるっちゃいるけど。とにかくあんたこそ大丈夫?」

 

あんまりにもショッキングな姿だったものだから思わずおばけとか言っちゃった。いやでも枝刺さって血塗れとかホントにびっくりしたから……"そっち"の事に精通してるイオンちゃんが言うにはちゃんと生きてる存在みたい。

エスちゃんは多分イオンちゃんの"お友達"の事を差す事を呟きながら、見覚えのある女性──イエローハートに酷似した人を心配する声をかけた。

 

「うんっ。大丈夫…大丈夫…」

 

イエローハート似の女性はそう言いながら頭に刺さっていた枝を強引に引っこ抜いた。

ぶしゅぅ、と枝が抜かれた場所から血が溢れる。

 

「ほら!血が出るからおーるおっけー!生きてるよっ!」

 

頭から血を噴出させながら、にこやかに語り掛けてきた。

 

「ぴぃっ!!」

「ふぉー、噴水みたい! おもしろーい!!」

「うわぁ」

 

当然そんなので安心できるはずもなく余計に怖くなった。

エスちゃんも引いてるし、イオンちゃんは何故か楽しんでるけど。

 

「かか、かいふく、しますから…!」

 

と、とにかく怪我を治してあげないと……多分わたし達のせいで負った傷だろうし。

イエローハート似の人に──エスちゃんの背を押して隠れながら──近寄り、傷口に回復魔法をかけて治療していく。

普通の人の怪我ならすぐには治らないけど、この人が見た目通りならすぐに治るはず……ほら、治った。

 

「ありがとっ、もう大丈夫だよ!」

 

傷が塞がるとイエローハート似の人はそう言って光に包まれる。

光が収まると……そこに立っていたのはピーシェちゃんに似た、けれど子供じゃなく成長した姿をした女性だった。

 

「回復、感謝します。小さな魔術師さん」

 

話し方や雰囲気もイメージと違う女性はそう言ってわたしの頭を撫でてくる。

 

「あぅ…」

「助けてくれようとしたけど役立たずだったわね。なんてことは流石に言わないけど、まぁ運が悪かったわね」

 

それを見てエスちゃんが警戒心をそのままにわたしと女性の間に立ち塞がるように立って言う。

う、うう。まぁ見た目が似てるからって無警戒だったね…反省しなきゃ。 

 

「わたしはエストよ。それで、あんたの名前を聞いても?」

「自己紹介感謝します。私はピーシェです。以後お見知りおきを」

 

エスちゃんがそう言うと、女性──ピーシェは軽く一礼した。

 

「あー、やっぱりピーシェちゃんなんだ! …色々おっきいけどー」

「そこ、不貞腐れない。後同じ名前だからって同一視もダメよ」

「流石に手馴れてるよね……あ、ディールです」

「ボクはイオン!」

 

イオンちゃんがピーシェという名前に反応しつつその大きな胸を見てむすっとして、そんなイオンちゃんをエスちゃんが窘めて「はぁーい」と返事を返す。

次元を旅してこういう状況に慣れてるエスちゃんが仕切る中で、わたしとイオンも自己紹介を済ませる。

 

「…反応から察するに、多少次元移動のご経験がありそうですね」

 

そう言って、ピーシェちゃん……ピーシェさんはため息をついた。

うーん。ピーシェさんならさっきの姿はイエローハート……だよね。プラネテューヌの女神なのか、それとも……

 

「ここは超次元、という世界線です。私は神次元という所の出身ですがね。ご存じであればどこの次元軸か教えていただけますか?」

 

どこか業務的に淡々と説明しつつ、こっちの出身次元を聞いてくるピーシェさん。

 

「…だって」

「ボクは神次元ってとこだったよね?」

「でもあのピーシェちゃ…さんとは別の神次元じゃないかな…?」

「でしょうね……んんと、わたし達はこことは別の超次元からだと思うわ。…多分」

 

ピーシェさんの言葉にさっと三人で集まり、即席会議。

……確かグリモが「縁を結んでない存在からは秘匿された次元……名付けるなら幻次元とかですかね~?」とか言ってたけど、通称は「超次元」と「神次元」だったから…そっちの名前でいいよね。

短い会話でそんな結論に至り、この中で対人経験値が一番高いエスちゃんがそう答えた。

 

「わかりました。ゲイムギョウ界とわかるだけで十分です」

 

ピーシェさんはそう言って、微笑みを浮かべた。

すごく自然な、けれどもどこか作った笑顔……そう感じさせる微笑み。

 

「取り合えず、ここから近いプラネテューヌの協会まで案内します。よろしいですか?」

 

そのまま手慣れた様子で、焦る様子もなく淡々とピーシェさんは会話を続ける。

信用できるとは言い切れないけど……かといってグリモから連絡が来るまで彷徨うっていうのもなんかあれだよね……

 

「ふーん……いいわ。ついていく」

「えっと……よろしく、お願いします」

 

警戒は解かないままだけど、一先ず彼女の誘いに乗っかることに。

イオンちゃんは多分こういう状況の時はわたしとエスちゃんについていくようにとあの人に言われてるはずだから、いつも通りのにこにこした表情で依存はなさそう。

 

「はい、ではいきま───」

 

ピーシェさんが音頭を取って、協会まで向かおうとする。

その時だった。

 

ガアアァァァーーッ!

 

わたし達の行く手を遮るように、一匹のモンスター──ドラゴン種のモンスターが立ち塞がった。

 

「ちっ、タイミングが悪い……下がっててください」

 

ピーシェさんはドラゴンを見てため息をつくと、ポケットからナイフを取り出して構える。

 

「あ、ドラゴンだー」

「そうね、ドラゴンね」

「えっと…そう、だね?」

 

まぁ、確かにドラゴン種だし、それもステータス、レベル共にかなり高い部類に見られる個体だけれども、わたし達のドラゴンに対する反応はあっさりとしたものだった。

故に、ピーシェさんの言葉には従うことなく、前に出る。

 

「いーよいーよ、ただでさえお世話になる人にこれ以上貸しつくりたくないし」

「言い方…」

「それにわたし達なら、よゆーだし。ね、イオン」

「はーいっ。みんな、お願いっ!」

 

警戒してるとはいえ言い方がアレなことを咎めるような視線をエスちゃんに向けつつ、杖を手に持つ。

まぁ、ほら。今回わたし達の立ち位置ってパラレルというか、諸々伏せつつの神次元編後って感じだから、わたし達のスペックも…ね?

 

エスちゃんがイオンちゃんに声をかけて、イオンちゃんが武ギターを手にしてかき鳴らすと、エンシェントドラゴンの足元からゴーストウルフ達が飛び出し、ドラゴンにまとわりついて動きを封じ始める。

 

「……エスちゃん、チャージいいよ」

 

イオンちゃんがドラゴンの動きを止めている間に魔法の展開を終わらせて、エスちゃんに伝える。

エスちゃんの方も魔法陣を展開していて、もう準備は万端。

 

「わたし達を相手するなら──禍津日神クラスになって出直す事ね!」

 

エスちゃんのキメ台詞を合図にイオンちゃんがゴーストウルフを散らせてドラゴンの拘束が解ける。

でもドラゴンに何か行動を許した訳ではなく、すかさずわたしとエスちゃんの魔法が発動してキィィン…とドラゴンが一瞬で氷漬けになると、そのままバキィンッ、と氷ごとドラゴンは粉々に砕け散っていった。

 

 

チャージ時間をイオンちゃんの拘束で補って、わたしとエスちゃんの二人分の魔力で放ったエターナルフォースブリザード──相手は死ぬ。

 

「……いやそれレベル100以上のクラス!!ていうか四糸乃ちゃんレベルに規格外ぃ!!」

 

なんて感じにドラゴンを瞬殺したらピーシェさんからツッコミが。

レベル100くらいなら瞬殺できないと……追加マップは魔境だよ…。

 

「ふぇっくしゅん!」

「うーん…ディーちゃんちょっと出力上げすぎじゃない? 環境破壊したいの?」

「ち、ちが……そこそこ強そうだったから倒しきれなくっても困ると思って…」

 

ただちょっとばかり過剰に魔力を込めすぎたみたいで、辺りの気温がすっかり下がってしまった。

やれやれとエスちゃんが魔法で火球を宙に浮かばせて、下がった気温を戻そうとしてくれていた。

イオンちゃんも寒そうにしてるし、失敗したなぁ…。

 

「……は、はは……世も末」

 

ピーシェさんはピーシェさんでわたし達を見ながら顔が引きつらせていたし。

……まぁ頭に枝刺して笑う人よりは……

 

「はい、こんなもんね。さ、案内を頼めるかしら?」

 

気温が元通りになって、エスちゃんが火球を消してからピーシェさんに向き直り、何事も無かったように振る舞っていた。

 

「…正直、聞きたいことが山ほどありますが……ついてきてください、私を利用しようと思うのならば」

「はいはい、ついていきますよー」

「……」

「ふんふんふーん♪」

 

気を取り直した様子のピーシェさんが改めてすまし顔でそう告げて、わたし達は彼女の後に続くようについていった。



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蒼紅の魔法姉妹と大人ピーシェ 2

コラボ回その2です。
今回語り手(視点主)が特殊な子なのでちょこちょこお話を聞いてない(という描写)所があったりします。手抜きじゃないよ。


「……あれ?」

 

ピーシェ……お姉さん? の後に着いてプラネテューヌの協会。

教会に着くと、ピーシェお姉さんが声を上げた。

どうしたんだろ。

 

「おかしいな……」

「間取りは同じねー」

「……ご不在、ですか?」

 

何か気になる見たいで呟くピーシェお姉さん。

そんな彼女を見てディールちゃんも何かに気づいたみたいで、そう声をかけていた。

 

エストちゃんは教会の中をきょろきょろ見回してる。うーん、なんだろ?

 

『……どうやら女神共と近しい連中が不在のようだ』

(あ、そーちゃん。いないってネプテューヌさん達のこと?)

 

ふわり、と今はボク以外には見えない状態のそーちゃんがそう教えてくれた。

お出かけかな?

 

「そう…みたいですね。どうしましょうか…」

 

ピーシェお姉さんが顎に手を当て、考えている。

そんな時だった。

 

ぐぅぅぅ〜〜。

 

とお腹のなる音が聞こえてきたのは。

 

「っ!」

 

横でディールちゃんがエストちゃんの影に隠れている。

そう言えばお昼ご飯食べてない!

 

「あー、ボクもお腹空いた!」

「……まぁ、そうね。言われてみたら」

「ううぅぅ…!」

 

 

思い出した空腹を訴えるとエストちゃんも同意してくれた。

ディールちゃんはなんでか変な声出してたけど、どうしたんだろ?

 

「…ですね、なにか作りましょう」

 

ボク達の言葉を聞いたピーシェお姉さんはそう言うと、タンスから白色のエプロンを取り出して身につけた。

うーんなんかすごく似合ってる! えになるってやつ?

 

「なにかリクエストはありますか?」

「美味しいもの!!」

「し、シイタケ以外なら…」

「…だ、そうよ」

 

聞いてきたピーシェお姉さんにばっと答える。

一番は飴ちゃんとかお菓子だけど、お昼ご飯はそういうのじゃないもんね。

炭とか食べられないものじゃなかったらオッケー!

 

ディールちゃんは相変わらずシイタケが嫌みたいでそう言って、エストちゃんは特に何にも言わなかった。

 

「…出来ればもう少し…、エストさん。リクエストは?」

 

ボク達の答えではわからない、と言いたげにピーシェお姉さんは苦笑いを浮かべて、エストちゃんにそう聞いていた。

 

「って言われてもねー。なにが作れるのよ、あなた」

 

するとエストちゃんは「任せると言うよりはわからないのよ」と言いながら答える。

そう言われて、ピーシェお姉さんは冷蔵庫を開けて材料を確認しながらお料理の名前を挙げていく。

 

「え…と、この材料なら。オムライス…生姜焼き…、卵焼き…カレー…」

 

卵焼きっ! 作り方で甘くなるやつだ!

 

「卵焼き! 甘いヤツ!」

 

思わず勢いで答える。

ディールちゃんとエストちゃんはなんでか苦笑いしながら見つめてきてるだけで、特に何も言わなかった。

 

「わかりました、角砂糖50くらい入れますね」

 

ピーシェお姉さんは微笑んで、そんな事を言ってくる。

角砂糖50…? すっごく甘々になりそう!!

 

「いいよ!!」

「よくないよ!?」

 

あまーい卵焼きを想像してそう答えるものの、ディールちゃんから待ったをかけられて。

えー、あまあま卵焼き食べてみたいのにー。

 

「……常識の範囲で頼むわね」

「わかっています、では…」

 

結局あまあま卵焼きはふつーの甘口卵焼きにされちゃって、ピーシェお姉さんは台所へと向かっていった。

 

「……で? ディーちゃん的にどう?」

「なんとも……ただ、あの感じは…」

「そう、ディーちゃんも感じたのね」

 

ピーシェお姉さんがいなくなると二人が何か話し始めるけど、ボクは卵焼きが楽しみで今か今かと待っていて話には混ざらなかった。

 

と、そーちゃんがふよふよと台所の方に向かっていくのが見えた。

 

(そーちゃん?)

『おかしなものを混ぜていないか、監視だ』

 

もう、疑り深いんだから。

 

 

 


 

 

 

それから数分して、

「出来ました、お口に合いますように」

 

そう言って、ピーシェお姉さんが三人分のお料理を持ってきた。

並べられたのはリクエスト通りの卵焼きとお味噌汁、それとご飯!

 

「ふぉぉ、美味しそう!」

「イオン、大丈夫?」

 

ほかほかなお料理に早く食べたいと思っていると、エストちゃんがそう聞いてきた。

これはきっと、そーちゃんと同じ心配してるね?

 

(そーちゃん、どうだったー?)

『おかしなものは入っていない。食べても平気だ』

「うん! 大丈夫だってー」

 

そーちゃんに聞いて、その答えをエストちゃんにも伝えると、エストちゃんはふぅと一息吐いた。

 

「っそ。なら、いただくわね」

「いただきまーす!」「いただきます…」

 

そーちゃんからのオッケーも出てエストちゃんも納得したみたいで、三人で手を合わせていただきますをして食べ始める。

ふわぁっ、甘い! おいしい!

 

「んんんー! おいしいっ!!」

「…うん、甘口。お味噌汁も、おいしい…」

「ん、そうね」

 

お味噌汁もおいしいっ、これはご飯が進んじゃうね!

 

「お口にあったのならなにより、では。いただきます」

 

料理を作ったピーシェさんはまだ食べてなかったみたいで、そう言って自分も食べ始めた。

そうして出された料理を食べていき、あっという間に全部食終わった。

 

「「ごちそうさまでした」」

「ごちそーさま!」

「はい、お粗末様でした」

 

はふぅ、まんぷくー♪

お腹いっぱいになって満足していると、ピーシェお姉さんが真面目な表情になった。

 

「さて、何から話しましょうか…」

 

あ、そっか。ボク達の今後? どうするかだっけ。

でも確かグリモワール? っていうのから連絡が来たらいつでも帰れる、みたいなことを昔エストちゃんに聞いたっけ。

うーん……そっちのお話はエストちゃん達に任せておこうかな…。

ボク次元とかなんとか見たいなお話についていける気がしないし。内容が気になる人はピーシェお姉さんのとこで聞いてきてね!

 

んー。……あ、そういえば。

 

(そうだそーちゃん。戦いの時とかふつーに呼んじゃってたけど、みんなも来ちゃってるの?)

『そのようだ。とはいえ、流石に普段よりも数が減っている。今ついてきているものはワタシ達と共に巻き込まれたのだろう』

(そっかー。じゃあ戻ればいないみんなとは合流できるかな?)

 

みんないつもボクが戦うの手伝ってくれるし、お話相手にもなるからいなくなっちゃうのはイヤだ。

でもそんな心配はなさそう、なのかな? 戻ってみないとわかんないかも。

 

「帰る方法が確立されているのならば、危険のないプラネテューヌまで連れてきた私は用無し…ですよね?」

「それなんだけど、そもそもここってここまで人が居ない、なんてことあるのかしら?」

 

ちょっとだけエストちゃん達のお話の方に意識を向けてみると、エストちゃんが教会に見知った顔がいないことについて聞いていた。

 

「お祭りでみんないないとかー?」

「だとしたら外が騒がしいと思うよ…」

 

ボクがそう言うと、ディールちゃんがそう答えた。

あ、そっか。じゃあ違うかぁ。

 

「ああ、えっと。さっき置き手紙がありまして『ラステイションいってくる~!』と書いてあったので、皆さんそちらに行っているのかと。イストワール様は急用でリーンボックスに行ってますし」

「防犯大丈夫なのこの国…機密とかあるでしょ…」

 

エストちゃんの質問にピーシェお姉さんはそう答えてくれた。

みんなでお出かけ……ラステイションでお祭りしてるとか!!

 

その後はエストちゃんが色々言って質問会みたいになって、エストちゃんとディールちゃんが元はルウィーの女神候補生ラムちゃんとロムちゃんだということを明かしたりしていた。

 

「そちらの情報は聞きました。ではこちらの情報を、何か提示しましょう」

「わたしはその人とは一切関係もありませんしましてやこっちは嫌って──」

「はいはい別の外伝軸のネタ持ってこないの」

「ごほん。じゃあこれは知ってるかの確認だけなんだけど、デザイアエナジーって知ってるかしら?」

 

それから今度はエストちゃんが質問する番になると、エストちゃんはデザイアエナジーについて聞き始める。

それについてはボクも色々気になるところだけど……あんまり触れないでおく。だって本編でまだ触れてないもん!

 

「デザイアエナジー?いえ、存じ上げません」

 

デザイアエナジーについて聞かれたピーシェお姉さんは本当に知らないみたいで、辞書捲りながらもそう答えた。

 

「ん、"あなた"が知らないなら良いのよ。むしろ知らないって方がいい事だわ」

 

エストちゃんはそう言いながらちらりととボクの方を見て、すぐに視線を外した。

うん、知らないならほっといていいことだもんね。

 

なんて真面目なお話をしていると、"お友達"の一人がボクにじゃれついてきた。

 

「……そうですか、一つだけいいですかね?」

「ん、いいわよー」

(もうっ、お話に飽きたのかな? わわ、くすぐったい! めっ!)

 

ボクがお友達の相手をしていると、ピーシェお姉さんがこっちを……というよりボクにじゃれついてきてる子を見たような気がした。

あれ、見えてるのかな?

 

「…三人は、霊がいる事に気がついてますか?」

 

そしてピーシェお姉さんが周りを見渡しながらそう聞いてくる。

うぅん、あれは……見えてなさそうかな。感じ取ってはいるみたいだけど。

 

「そりゃまぁ」

「ね…?」

「あれ、わかるの? ボクのお友達だよー!」

 

幽霊だってわかるといきなり除霊! とか言い出す人もいるから、ちゃんとボクのお友達だって言う事を伝える。

ボクにじゃれついてた子の頭をなでなでしてから離すと、その子はすうっと少し薄くなる。こうなるとボク以外には見えなくなるみたい。

戦うときとか、ボクと遊ぶときは今見たいに実体化するから、他の人にも見えたりするんだって。そーちゃんが言ってた。

 

『ほう、流石にこれだけ警戒されれば気が付くか』

(あっ、そーちゃんわざとやったの? もーっ、ダメでしょ!)

『……遭遇して間もない存在を警戒しているだけだ。それに腹立たしい事だがワタシ達が束になっても勝ち目は薄いだろう』

(ピーシェお姉さん、そんなに強いの?)

『強い、というよりは得体の知れない力を持っているようだ。故に、あまり近づくんじゃない』

(むぅ。気を付けてはおくー)

 

なんでかディールちゃんとエストちゃんがボクの方をみながらため息を吐いてたけど、そーちゃんが気をつけろって言うからなるべく気を付けることにする。

でも美味しいご飯作ってくれたしなぁ…。

 

「さて、他には?」

「んんー…こっちからはこんなとこかしらね」

「わかりました、こちらからも質問する事はありません」

 

と、どうやら質問会は終わったみたい。

ピーシェお姉さんが立ち上がると、冷蔵庫から何かを出して持ってきた。

 

あれは…!

 

「食べますか?自作プリンですが」

「そんなに「食べるっ!!」……はぁ、頂くわ」

 

エストちゃんが何か言いかけてたけど、ボクは出されたプリンに釘付けになりながら答えた。

わーい、プリン~♪

 

『……まるで餌付けだ』

(そーちゃんどうかしたー?)

『何でもない。それも食べて問題ないようだから、ゆっくり食べなさい』

(はーいっ!)

 

プリンがディールちゃんにも配られて、いざ食べよう! と思ったところでピーシェお姉さんの分が無い事に気がすいた。

 

「あれ? お姉さんの分はないの? ボクの半分食べる?」

「いえ、私はいりません」

 

わざとなのかなー、って思いながらもそう聞いてみると、キッパリとそんな答えが返ってきた。

うーん、いらないならいっか。えんしょりないぞー!

 

「そうなの? それなら食べちゃう!」

 

ぱくりとプリンを一口。んんー、あまーい! おいしー!

 

「…なんか一番年上に見えるのに、一番年下っぽいですね」

「よく言われるわね」「よく言われます」

「むぅー」

 

ピーシェさんがボクを見ながらそう言うと、エストちゃんとディールちゃんもそれに同意する。

この三人でいると見た目はボクが一番上なのに、中身はボクが一番下だって本当によく言われる。むぐぐ、なんでー!

 

その後もなんかピーシェお姉さんとエストちゃんが色々やってたけど、それからどうしようか、なんて話に。

別次元に飛ばされる、という状況だからか人嫌いなみんなにしては珍しく、今はエストちゃん達に従ってついていくようにと言っているし、ボクは二人について回るだけだけど。

 

「うぅーん…………では。図書館にでも行きますか?」

 

すると、ピーシェお姉さんがそんなことを言いだして。

ボク達は図書館に向かうことになったのでした。




イオンが聞いてなかった(聞き流していた)ピーシェとエスト達のお話の内容が気になったら「大人ピーシェが頑張る話。」にて!


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