魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】 (月乃杜)
しおりを挟む

序章
第0話:突入 遂にリリカルな世界へ


.

 【受容世界】

 

 それは【現実世界】や【俯瞰世界】や【観測世界】とも呼ばれる世界である。

 

 つまりは、とある世界を俯瞰して観測した結果を、小説やアニメや漫画などのメディアとして発表されている世界の事だ。

 

 緒方優斗は、そんな世界に誕生した。

 

 優斗の家は所謂、剣術道場を開いており戦国時代より端を発する【緒方逸真流】を伝えてきた。

 

 勿論の事、優斗もそれを祖父の緒方優介より習っており、子供の頃より厳しい訓練に耐えて来たものだ。

 

 だが然し、五歳も年下である妹の緒方白亜に比べ、優斗には才能が無かった。

 

 白亜が十二才の頃に目録を獲たのに対し、優斗は全くモノにならない。

 

 結局は、道場は白亜が継ぐ事となって、優斗は普通のサラリーマンになる。

 

 才能ある妹を優斗は疎むものの、純粋に慕ってくる妹を邪険に出来ずに兄妹の仲は悪くはならなかった。

 

 剣術がモノにならなかった優斗は、趣味として漫画やアニメやライトノベルに嵌まる。

 

 そして、優斗が二十歳の時に事故が起きた。

 

 道路にフラフラと躍り出てしまった巫女服の幼女……那由多椎名を救うべく、優斗は道路に飛び出して、諸共にトラックに轢かれて死んでしまったのである。

 

 そんな優斗の前に現れたのが白い服を着た、栗色の髪の毛をサイドテールに結った女性──高町なのは。

 

 【純白の天魔王】と呼ばれる彼女は、別世界で神化してとある神の従属神──神徒となったという。

 

 話を聞けば、平行世界に於いて【ヴィオーレ】という世界に転生した同位体の緒方優斗と同様に、優斗も転生する事になるらしい。

 

 所謂、神様転生だ。

 

 優斗は転生特典として、魔法に対する親和性を貰って【ゼロの使い魔】の世界へと転生する。

 

 ハルケギニアでの役割と人生を終えたユートだが、再び転生を果たす。

 

 その世界の役割も終え、今度は自らが管理する世界の平行世界に転移した。

 

 【ハイスクールD×D】の世界で、ディオドラとの戦いの最中にとある理由でハイペリオンを名乗る男に転移させられる。

 

 エピメテウスの落とし子となり、その世界で八人目の王者として暴れ回った。

 

そうして這い寄る混沌の企みを潰したユートは、更に別世界に転移。

 

 それから幾つかの世界を巡って来たが、遂に来るべき時が来てしまう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「またか。なのはさ〜ん、居るんだよね?」

 

 緒方優斗はキョロキョロと辺りを見回し、この空間を創る張本人である【純白の天魔王】高町なのはの姿を探した。

 

 世界は時空を大樹と見立て【時空樹】と呼ばれる。

 

 その時空樹には各々が見守る星神(ワールドオーダー)が居り、世界を星騎士(ワールドガーディアン)達が守護している。

 

 【純白の天魔王】もだしユートも星騎士であって、世界を護る事を一つの旨としていた。

 

 幾つかの世界を巡って、その地に住まう邪悪を討つ……それが【魔を滅する者】であるユートの仕事だ。

 

 そして今回の世界は……

 

「お久しぶりだね」

 

「なのはさん。また仕事ですか? 休む暇も無い」

 

「しょうがないよ。私もだけど、旦那様やフェイトちゃん達も手が回らないし、仕事はユート君の管理している派生世界だよ?」

 

「うっ!」

 

 昔、ハルケギニアへ最初の転生をした時、カトレアの病を癒す為に地球へと赴いた事がある。

 

 その際【朱翼の天陽神】の差し金で、なのはが別の世界の地球へと送った。

 

 そこは【邪悪】が跳梁跋扈して、【魔を断つ剣】と呼ばれる者が戦う世界。

 

 紆余曲折あって【魔を断つ剣】と共に戦い、超空間での戦闘を経験した。

 

 その時、6500万年前の地球に降り立ったユートが5つの楔を穿つ。

 

 結果としてその場所とその時間を基点として、世界が幾多にも派生する。

 

 それは各々が異なる原典(オリジン・ザ・ワールド)を持つ世界群。

 

 例えば……

 

 【聖闘士星矢】

 

 【ハイスクールD×D】

 

 【マップス】

 

 【マブラヴ】

 

 【IS】

 

 等々、凡そ地球で起こった【物語】が真っ白な世界というキャンバスに、絵を画くが如く上書きしていったものだ。

 

 

 勿論、異世界もその影響を強く受けている。

 

 そんな派生世界群を星神ガイナスティアは、それを創る切っ掛けのユートに管理を任せた。

 

 ユートは自らが創造したにも等しい世界群を、守護する義務を負った訳だ。

 

「それで? 今回の世界の原典銘は?」

 

「うーん、少し言い難いんだけどね。怒らず聞いて」

 

「ハァ」

 

「原典銘はね、【魔法少女リリカルなのは】なの」

 

「ハイ?」

 

 思わず聞き返す。

 

「今、何と?」

 

「だから、今回の原典銘は【魔法少女リリカルなのは】なんだってば!」

 

 ユートは頭を抱えた。

 

 いつかは来ると覚悟はしていたが、来るべき時が遂に来たという事だ。

 

 目の前の上司の【なのはさん】を知る身としては、どう接していけば良いのかが解らない。

 

 勿論だが、目の前の上司様と今から行く世界に住まう【なのはちゃん】は同位体ではあっても、決して【同一人物】では有り得ない訳だが……

 

 【同じ名前】

 

 【同じ宿業】

 

 【同じ世界】

 

 これらを共有しているだけの他人に過ぎないのだ。

 

 それに、ユートが意図的に介入すれば変えられる部分も多々在るであろう。

 

 ただ問題が在るとしたら関わり方や時間軸次第で、原典の知識が役に立たなくなる上に、原典での物語を滅茶苦茶にしてしまう可能性も孕んでいるという事。

 

 極端な話が、なのはが魔砲少女に成らないなんて事も有り得るのだ。

 

「それで、時期は?」

 

 現状、関わる時間軸は割と多いのだが、時期によって立ち位置も変わる。

 

 【無印前】

 

 【無印】

 

 【A’s】

 

 【空白期】

 

 【Strikers】

 

 【Vivid】

 

 【FORCE】

 

 無印の前だと、下手をしたら全てに関わらねばならなくなる。

 

「無印だよ」

 

「却下!」

 

「出来ないから」

 

「くっ!」

 

 必要だから行けと言っているのに、却下など出来よう筈もない。

 

「そもそも、その世界に行く理由は何?」

 

「時空管理局が〝ゲート〟を見付けない内に、何とか護って欲しいの」

 

「ゲートって、楔の事?」

 

「そう。君が穿った楔……地球に将来、過剰に管理局が介入してきた場合、アレを発見されて使われたりしたら拙いからね」

 

「身から出た錆……か」

 

 ゲートを造ったのは確かにユートだし、こればかりは仕方ないと云えよう。

 

「何処までアリ?」

 

「余りにもそぐわない事をしなければ、何をしても構わないよ。ぶっちゃければ【私】を犯すなり殺すなりしても良い。但し、そうなると【物語】としての進行が壊れるから、その場合は責任取ってね?」

 

「原作に深く関わる処か、主人公を殺しても構わないって、それをしてでもやるべき事が在るって事?」

 

「そういう事だよ。ああ、男女の仲になるのは構わないと思うよ? 公開されてる原典では、私もフェイトちゃん達も結婚とかしてないし、彼氏も居ないから。少なくとも26歳まで」

 

「ソウデスネー」

 

 自虐的な事を言いながら遠い目をするなのはには、ユートも何と言えば良いのか判らなかった。

 

 仕方なく、話を無理矢理に進める事にする。

 

「それで、彼方に行く方法って再転生? 転移?」

 

 ユートは特殊能力である【千貌】があるから、転移でも姿を変えて関われる。

 

 再転生だと鍛え直す手間があるが、ステータス値の伸び代が増えるというメリットもあった。

 

 どちらも一長一短。

 

「小さい頃の【私】に関わって貰う必要は無いしね、それに住む場所も高町家や八神家なんかに居候するなり、ホテルを使うなりすれば良いから転移で」

 

「そうやって暮らすのは、僕なんだけどな」

 

 余りにも適当過ぎて泣けてくる。

 

 お人好しなヒロイン達やその家族が、簡単にユートを信じて居候させてくれる事を祈るしかない。

 

「大丈夫だよ。私の旦那様も昔は高町家に居候してたんだから」

 

「さいですか」

 

 よもや此処で惚気とは、流石に思わず……

 

 だけど確かに、あのお人好し揃いの人達なら子供が1人でホテル暮らしと知れば、居候くらいさせてくれそうではある。

 

「いかん……何だか容易に想像が出来る」

 

「あはは」

 

 なのはも否定出来る要素が見出だせないのか、苦笑いをしていた。

 

「そうそう、使ってもいい使徒はシエスタちゃんだけだよ。A’sに入るまではシェーラと那古人も使っちゃダメ。流石に無印で使徒まで行くと、オーバーキルが過ぎるからね」

 

 シエスタ1人でも、充分過ぎるくらいオーバーキルである。

 

 原典の通りなら兎も角、今のシエスタは魔改造済みだし、他の面子も大概だったりするのだから。

 

「確か、ミッド式の魔法を教えたんだよね?」

 

「まあ……ね」

 

 ハルケギニア時代では、ユートがシエスタに力を与えた。最高の武器と防具、そして〝魔法の力〟を。

 

 但し与えた時期が早かったのと、彼女自身の資質故にミッド式の魔法だった。

 

 もう少し後だったなら、【精霊輝石】や量産型である【精霊魔石】で精霊魔法を使える様に出来たが……

 

 尤もあのアイテムは魔法を使えない者にも魔法の力を与えてくれるが、使い方に些か以上の問題がある。

 

 あの石は、内臓に埋め込んで使うのだが、ハルケギニアでは外科手術など無い為に、性交を通じて胎内に埋め込むしかなかった。

 

 勿論、此方では外科手術を以て内臓の何処かに埋め込めば良いが……

 

「(アレが完成したなら、レジアス・ゲイズに接触してみるかな?)」

 

 彼なら良い値段で、自分を買ってくれそうだ。

 

「それじゃ、もう質問は無いかな?」

 

「ん、無いよ」

 

「なら、送るね。リリカル・マジカル……彼の者を、彼の世界へ!」

 

 子供の頃に使ってた呪文を唱え、ユートをあの世界へと転送する。

 

 ユートは身構えた。

 

 何故なら、転送はスッと消える様に送られる訳ではないからだ。

 

 スッと消えるのは、この空間の地面に当たる部分。

 

「っ!」

 

 案の定、ユートの足下から地面が消えて落下した。

 

「慣れちゃったねぇ」

 

 もう何度もやっていれば流石に慣れる。こうして、ユートはいつか在ると思った世界……【リリカルなのは】の世界へと向かうのであった。

 

「頑張ってね、優斗君」

 

 穴を見つめているなのはの表情は、ヴィヴィオを見つめる母親の時の目と同じモノであったという。

 

「さって、と! 一仕事も終わった事だし、旦那様に報告をしたら一休みして、またお仕事だねぇ……」

 

 そう言い残して、なのはもこの空間から消えた。

 

 

.




.
 余り方向性を決めずに書いていたものだったから、少しばかり展開が……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話:テンプレ 誘拐された少女達

.

「……う?」

 

 慣れはしたがやはり意識を保つ事は出来なかった。

 

 いつの間にかブラックアウトしてた意識を回復し、漸くユートの目が覚める。

 

「此処は……着いたのか? だとしたら、海鳴市なんだろうけど」

 

 街の郊外、それも廃ビルが建ち並ぶ少しアウトローな場所だ。

 

 とらハ3のアリサ・ローウェルが監禁され、犯されて殺された場所みたいだと思えば、ユートにも可成り解り易い。

 

 呑気に寝ていたら、財布や着ている物は疎かア○ルの純潔や生命までも奪われるだろう。

 

「げっ、無印に併せたのか身体が縮んでる?」

 

 見た目が10歳前後。

 

 間違いなく【純白の天魔王】の仕業だろう。

 

「まあ、良いか。だけど、何でこんな碌でもない所に送られたんだ?」

 

 どうせいつもの事。

 

 頭を掻きながら辺りを見回すが、特筆するナニかが在るようにも見えない。

 

「待てよ、送られる場所には意味がある。そして二次創作では“とらハのアレ”の影響か、こういう場所に連れ去られて来るご令嬢が2人ばかり居るよね?」

 

 言わずもがな月村すずかとアリサ・バニングスの事である。

 

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 言った傍から絹を引き裂く悲鳴が上がった。

 

「ひょっとして今のフラグ踏んだ? まったく、原作に近いんだから8歳か9歳くらいだろうに、ロリコンが多いのか? この世界にはさ!」

 

 誘拐されただけならば、こんな悲鳴は上げない。

 

 という事は、今の声の主にナニやら有ったのだと、そう見るべきだ。

 

「テンプレ乙……」

 

 ユートはボヤきつつも、悲鳴のあった場所へと急ぎ駆け出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 廃ビルの一角に大学生くらいの男が数人と、縛られている少女が2人居る。

 

 少女達は白い制服に身を包んでおり、1人は金髪碧眼で勝ち気そうな雰囲気を持って、もう1人は光の加減で紫にも見える黒髪に、白いカチューシャを頭に着けていた。

 

 縛られてはいるが、轡はされていない。

 

 2人が叫ばないのは下手に声を上げたらド頭に風穴を空けると、此れ見よがしに拳銃を突き付けられて脅されたからだ。

 

 自分だけならまだしも、友達を巻き込みかねないとお互いに自重していた。

 

「すずか、大丈夫?」

 

「うん、アリサちゃん」

 

 気遣い合っているアリサとすずかだったが、先程から誘拐犯の1人の視線が剰りにも厭らしくて不快感を感じる。

 

 主に、胸や太股の辺りに集中する視線。

 

 正直、成長途中で碌に脹らんでない胸なんか見て、ナニが愉しいのか理解に苦しむが、大人の中には小さな娘に異常な執着を見せる【ロリコン】なる変態が居ると聴く。

 

 この男は恐らくその類いなのだろう。

 

 だとするなら、身の危険を感じてしまう。

 

「にしても、ガキを2匹浚うだけで二千万はボロいよな?」

 

「ああ、実際に浚う必要があったのは月村のガキだけだが、バニングスのご令嬢までくっ付いて来て、追加報酬が出たからな」

 

 隣の声から察するなら、実際に誘拐される予定なのはすずかだけだが、近くに居たアリサも序でに浚われたらしい。

 

 すずかはそれを聴いて泣きたくなった。

 

 自分がアリサを巻き込んでしまったのだ……と。

 

「すずか、アンタが考えてる事は判るわ。だけどね、今回はすずかだったってだけで、アタシがすずかを巻き込む事だってあるのよ。だから気にしちゃ駄目! 判った?」

 

「アリサちゃん……うん」

 

 弱々しいが、涙を目尻に浮かべながら頬を朱に染め確りと頷く。

 

 だが、それがいけなかったのだろう。

 

 まだ小学生とはいえど、すずかは可成りの美少女である。

 

 そんなすずかの態度は、この場の変態(ロリコン)には興奮剤にしかならない。

 

 ガタッと椅子をひっくり返して立ち上がった変態、股間のナニも勃ち上がらせて舌舐めずりする。

 

 そんな男の豹変に、恐怖を覚えたアリサとすずか。

 

 位置的に見せ付けられている股間の盛り上がりに、自身の昏い未来を幻視して青褪める。

 

「ひうっ!」

 

 息を呑むすずか。

 

 そんなすずかの制服を乱暴に掴むと、男は強引に引っ張り上げた。

 

「キャア!?」

 

 ビリィッ!

 

 男に力任せに引っ張られた所為か、白い制服が高い音と共に引き裂かれる。

 

「すずか! アンタ、何すんのよ!?」

 

 周りをチラリと見ると、他の男達は『またか』なんて態度だ。

 

 こいつらはこういう事を何度もしているのだろう。

 

「へっ、バニングスのお嬢ちゃんも後でたっぷり可愛がってヤるから、楽しみにしてなよ!」

 

「なっ!?」

 

 好色な目だと思ったが、もう我慢の限界なのか自重を棄てている。

 

「おいおい、遊び過ぎて壊すなよ?」

 

「まったく、アイツの趣味は理解出来んな」

 

「そう言うなよ。ありゃ、アレで楽しめるぜ」

 

「ビデオ回して売りゃあ、稼げねえか?」

 

「良いねぇ」

 

 犯罪者にモラルを説いても意味が無く、彼らは変態男を咎めるでもなし、寧ろ娯楽の様に楽しんでいる節があった。

 

 男はすずかを押し倒し、スカートの中に手を突っ込みショーツに手を掛ける。

 

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 恐怖と羞恥から、すずかは到頭、堪らず大声で悲鳴を上げた。

 

 今、正にショーツをずり降ろされる直前……

 

 ガッシャーン!

 

 軽快な破壊音が響く。

 

 音がした方向を男が振り向くと、すずか達と変わらない年齢の子供が、割れた硝子を踏んで立っていた。

 

「これからお楽しみって処で何だ、てめえは!」

 

 性的獣欲を満たさんとしていたのを邪魔され、男は怒り狂って子供──ユートに襲い掛かる。

 

 アマレス崩れか、ボディビルダーなのかは伺い知れないが、筋肉隆々の変態な大男が力に任せて殴り付けてきた。

 

「危ない!」

 

 アリサが叫ぶ。

 

 相手の身体は2mくらいはあり、体格差なんて論じるのもバカバカしい程だ。

 

 だが、大凡の想像を裏切りズドンッ! という鈍い音と共に大男が沈む。

 

「がっ! あ、嗚呼……」

 

 白眼を剥くと、泡を吹いて気絶した。

 

 流石に驚愕するアリサとすずかと誘拐犯達。

 

「雅司! てめえ、雅司に何をしやがった!?」

 

「ただ、殴っただけだよ」

 

「巫山戯るな! あの雅司が餓鬼に殴られた程度で簡単に沈む訳がねえだろ!」

 

「力の全てを相手の内部に徹して収束させてやれば、筋肉の鎧を抜いて内臓にダメージを徹す事が出来る。それだけの事だよ」

 

 何処ぞの戦闘民族たる、TAKAMACHI家の面々が使う【徹】という業と同じ様なものだ。

 

 技術的には少し違うのだろうが……

 

 有り得ない戦闘力を見た男達は、一斉に拳銃を構えると引き金を引く。

 

 BANG!

 

 ドラマなんかにある様な鈍い音ではなくて、軽快で何処かしら間抜けな銃声がビル内に響いた。

 

「ご高説どうも。んで、死んどけやボケがぁ!」

 

 舌を出し、ニヤつきながら罵倒する。

 

 今度こそ死んだ。

 

 すずかとアリサはそう思って顔を伏せるが、ユートは倒れていない。

 

「残念、生きてるんだよねこれがさ」

 

 それ処か、指先で鉛弾を摘まんで見せる。

 

「な、莫迦な? 漫画じゃねえんだぞ。チャカの弾ぁ掴むなんて出来る訳……」

 

「出来るんだよねー、出来ちゃうんだよねー、実際に出来るんだからしょうがないっしょ?」

 

等と、某・四次元人間さんのお友達なピンク髪の少女みたいな言い方で、誘拐犯達を挑発した。

 

 某・四次元人間さんのお友達なピンク髪の少女が言うなら未だしも、ユートの様な男に言われるとイラッとするのか……

 

「糞が! 死ね、死ね!」

 

 叫びながら拳銃の引き金を引いた。

 

 BANG! BANG!BANG! BANG! BANG!

 

 カチッ、カチッ!

 

 マガジンに入っていたのがフルで六発らしく、最初の一発で減っていたが故に五発で弾切れとなる。

 

 だが、五発も撃ったというのにユートは倒れない。

 

「な、何で倒れねえんだ? くっ、化物がぁっ!」

 

 もう一挺、リボルバーを持っていたらしく、懐から取り出して喚く。

 

「てめえらも撃て!」

 

 呆けていた男達が、ハッと気付いて拳銃を向ける。

 

「化物……ね。思考停止した愚者の言いそうなセリフをありがとう」

 

「こ、殺せぇぇっ!」

 

 それを合図に一斉に放たれる弾丸。

 

 だが然し、ユートの目に弾丸の軌跡は揺ったりとしてスローで見えている。

 

 一発一発を丁寧に躱す。

 

「う、嘘だ……」

 

 ワナワナと震えながら呟く誘拐犯A。

 

 彼らから見れば、ユートの身体を弾丸がすり抜けていたのだ、本人は全く身動ぎすらもせずに。

 

「チキショー、何なんだよてめえは! こんな化けもんを助けるのかよ?」

 

 紫の髪の毛の少女を指差して言う。

 

「な? 言うに事欠いて、すずかを化物って……」

 

 アリサが憤慨をするが、それに反してすずかが脅えている。

 

「はっ! 月村ってのは、人間じゃねえんだ。人間の血を吸う吸血鬼なんだよ」

 

「やめてぇぇぇっ!」

 

 自棄になって暴露する様に叫ぶ誘拐犯Aの言葉を、すずかは遮る様に絶叫して頭を抱える。

 

「す、すずか……?」

 

 その態度が誘拐犯の言葉が正しいのだと、何よりも雄弁に語っていた。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:砕かれたモノ それは男の尊厳

.

「ハッハッハ! こんな形してるがなぁ、正真正銘のバケモンよ!」

 

「いや、嫌ぁぁぁ……!」

 

 悦に入る誘拐犯と、腕を縛られていなければ頭を抱えていたであろうくらい、涙を流しながらブルブルと頭を横にを振るすずか。

 

 大切な友達には知られたくなかった、自身に流れる闇夜の血脈。

 

 怯えられるかも、軽蔑の目で見られるかもと思うとアリサの顔を見れない。

 

「ふーん、で? 戯れ言はそれで終わり? じゃあ、斃してやるよ……」

 

 ユートにしてみたなら、それは既知の事だし気にした風でなくあっけらかんと言った。

 

「なっ!? 判ってんのか……こいつはなぁ!」

 

「はいはい、ご苦労様」

 

「は? ごぶぁっ!」

 

 それは一瞬すら遅い刹那の刻、ユートが口を開き話したかと思ったら、既に誘拐犯Aは顎を打ち抜かれて吹き飛ばされていたのだ。

 

「吹っ飛べ、そして二度と囀ずるな!」

 

 天井にぶつかり、落ちてきた誘拐犯Aの鳩尾をぶち抜くと、ビルの窓まで飛ばされてガラスを破って落下してしまった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ドシャッ!

 

 ユートを除いたこの場の全員が真っ青になる。

 

「ひっ、人殺しぃ!」

 

 誘拐犯の誰かが叫んで、恐慌状態に陥った。

 

「クックック、アハハハハハハハハハハハハッッ!」

 

『『『っ!?』』』

 

 

「人殺し? 俺を殺そうとして銃を撃ってた連中が、何を今更になって泣き言を言ってんだ? 他人を殺るのは構わないが、自分が殺られんのは嫌ってかぁ?」

 

 誘拐犯達は疎か、すずかとアリサまでが戦慄した。

 

 其処に浮かんでいたのは狂暴なまでの、凶悪なまでの笑顔。

 

「甘ったれんなっっ!」

 

 ビルすら震わせる叫び声が室内を響かせる。

 

「俺の知り合いの言葉だ。自分の目的や欲望の為に、他人の犠牲を厭わぬ者を悪人と呼ぶ。然し、誇りある悪はいつの日自らが同じ悪に滅ぼされるのを覚悟するもの。その覚悟があるか? 無いならそれは只の莫迦か三流で腰抜けの小悪党」

 

「ガハッ!」

 

 叫ぶと同時に走り、誘拐犯の1人の腹部を殴る。

 

「誇り無き悪は、地べたに這いつくばって死ね!」

 

「ゲハッ!」

 

 返す刀で、後ろ回し蹴りを誘拐犯Cに叩き込む。

 

「お前ら如き小悪党が!」

 

「グフッ!」

 

 更に空中を蹴り入れて、誘拐犯Dへと最接近すると蟀谷(こめかみ)を踵で叩き付けた。

 

「巫山戯た事を抜かしてんじゃねぇぇぇっっっ!」

 

「ぺばっ!?」

 

 一回転して踵落としを後頭部に叩き込み、誘拐犯Eを倒して顔面から落とす。

 

 それを見たアリサが混乱しながら呟く。

 

「な、何よあれ? 有り得ないでしょ、あの動き!」

 

 大して広くない空間で、あれだけ縦横無尽に空中を舞う動き……

 

「物理法則を完全に無視してたわよ、あれ……」

 

 それは余りにも物理法則に喧嘩を売る行為だった。

 

「さてと、コイツらの遺伝子はこの先の未来には要らないだろう。決して遺伝子が残らない様にするか」

 

 ユートは手刀を作りまるで切れ味を試すかの様に、ボロボロの机をスラッシュする。

 

「村正抜刀(エクスカリバー)」

 

 ゴトン……

 

 机がアッサリと真っ二つになってしまう。

 

「ちょっ! いったい何なのよ今のは?」

 

 そして次に、倒れて呻いている誘拐犯Bに向けた。

 

「え? 真逆?」

 

 すずかは驚く。

 

 今の切れ味の手刀を人間の柔らかい身体に放つと、果たしてどうなるか?

 

 正に豆腐を切るが如く、スッパリと二つに泣き別れとなるだろう。

 

「だ、駄目です! 殺すなんて……」

 

「見たくなければ目を閉じていろ!」

 

「見たくないとかそんなんじゃありません! 殺しちゃ駄目なんです……っ!」

 

 凄い剣幕で叫ぶ。

 

 気弱そうな外見と裏腹にいざとなれば、このお嬢様は強いのかも知れない。

 

「ふん、仕方がねーなぁ。だったらこっちか」

 

 ユート? は目を閉じ、力を溜めていくと……

 

「天舞宝輪!」

 

 祈る様な形で目を開く。

 

 嘗て、聖域に最初に転移した時の事、黄金十二宮の闘いに参加したユートは、その闘いが終結後に乙女座のシャカから修業を受け、技を一通り喰らっている。

 

 シャカだけでなく、生き残った黄金聖闘士の全員の技を喰らった。

 

 それは覚える為だ。

 

 結果、モノになるまでは普通に修業もした訳だが、ユートは黄金聖闘士の技を修得するに至る。

 

 中でも天舞法輪は小宇宙を磨くのに、セブンセンシズを発露するのに五感剥奪を利用した為、毎日の様に掛けて貰っていた。

 

 五感が剥奪されていて、何も見えないし感じない、喋れない、聴こえない、匂いすらしないという状態を第七感で補って、眠ている時以外は常に天舞法輪に掛かっていたのだ。

 

 覚えもそれは早い。

 

 それに小宇宙で五感を補うのは不可能ではないと、水瓶座のデジェルの件で判っていた。

 

 戦闘中に小宇宙を高めていたから、落ちた視力を補って気にならなかったと、デジェルは発言している。

 

 お陰で視る力もより強くなっていた。

 

 閑話休題……

 

 ユート? は誘拐犯達に指を突き付け……

 

「触覚、その中でも睾丸のの機能を剥奪するぜ!」

 

 ハッキリと宣言する。

 

 それは正しく、この世全ての男を敵に回す行為であったという。

 

 とはいえ、直接的に触れる訳ではないが、男のアレな機能を破壊するのは些か嫌なものがあった。

 

「やれやれ。後はお前に任せるぜ〝ユート〟」

 

 一瞬の停止とフラットな瞳に色が戻る。

 

「暴れるだけ暴れといて、面倒は押し付けるなんて酷い兄さんだ……優雅兄」

 

愚痴りながらユートは少女2人にゆっくりと近付き、膝を付いてアリサ達に視線を合わせる。

 

「どうやら無事みたいだ。間に合って良かったよ」

 

 先程の残忍な目でなく、博愛の籠る優しい目。

 

 まるで〝別人〟だった。

 

「あ、あいつらに何をしたのよ?」

 

「遺伝子を遺せない様に、連中に仕掛けを……ね」

 

 ブチィッ!

 

「げっ! これ、ワイヤーなのよ? 素手で千切るなんて……」

 

 ブチィッ!

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

 アリサとすずかを縛っていたワイヤーロープを引き千切って、2人を自由にしてやるユート。

 

「仕掛けって?」

 

「その前にさ、赤ちゃんがどうすればデキるのか理解出来る?」

 

「そりゃ……」

 

 アリサは言い掛けると、頬を林檎の如く真っ赤に染めて口を噤む。

 

「へえ、識ってるんだね。君がませてるのか、今時の子供はそんなもんなのか」

 

 ふと見れば、すずかの方も真っ赤っかである。

 

「後者みたいだねぇ」

 

「な、何よ! アンタだって子供じゃないの!」

 

「クス、まあね」

 

 ユートは誘拐犯BCDEの4人を、すずか達を縛っていたワイヤーロープでふん縛り、更には下に落ちていた誘拐犯Aも〝持って来て〟縛っておく。

 

「そいつ、生きてんの?」

 

「それ程、高くなかったからか……辛うじてね」

 

 その後は警察に連絡をしておいて、パトカーが来るその短い間に説明をする。

 

「さて、赤ちゃんを作るにはコイツらが君らにしようとしていた行為、それをしなければならない」

 

「う、うん……」

 

 2人は頷いた。

 

「その際には男側の性器、要するにチン……」

 

「そんなもん、詳しく言わなくて良いわよ!」

 

「はいはい」

 

 真っ赤になって怒鳴ってくるアリサに対し、苦笑いをしながら続ける。

 

「性器を通じて、睾丸から作られている精子を女性の生殖器に送り込む訳だ」

 

 アリサは恐怖も有るが、興味もあるのか頬を真っ赤にしながらも、真剣な顔で聞いていた。

 

 すずかも想像しているのであろうか、頭から湯気を出す勢いでクラクラしている様子だ。

 

「なら、睾丸の機能を破壊してしまえば、精子も作られないから遺伝子も遺す事は出来ない。しかも、奴らの生殖器そのものも最早、機能はしない」

 

「それってつまり……」

 

「もう、勃たない」

 

 哀れ、誘拐犯達にはもう男として尊厳は無かった。

 

 すずかは両手で口を覆い青褪め、アリサは犯罪者とはいえど流石に哀れに思ったのか、天に召された誘拐犯の性器に冥福を祈る。

 

 遠くでパトカーの音が鳴り響いてきた。

 

「おっと、そろそろ行かせて貰うかな?」

 

「あっ!」

 

「少女A……」

 

「す、すずかです! 私の名前は月村すずか」

 

「なら、すずか。君の血脈の事、少女Bにきちんと話してみろ!」

 

「アリサよ! アリサ・バニングス!」

 

「逢ったばかりの僕の事を信じる必要はない。自分が信じる親友を信じてみろ、アリサ・バニングスが本当に親友なら、きっと理解を示してくれるから!」

 

 そう言うと、ユートは窓から飛び降りてしまう。

 

 呆気に取られるすずかとムスッとするアリサ。

 

「何よ、アイツ。私が本当に親友なら? そんな事、決まってんじゃない」

 

「うん、そうだね」

 

 だけどすずかは思う。

 

「(あの人、私の血筋について識ってたのかな?)」

 

だとしたら、この侭行かせたのは拙かったかも知れないし、すずかは姉に相談をしておこうと考えた。

 

 だけど今はただ、直ぐ隣の親友を信じてみようと、アリサの顔を横目で見ながら静かに決意した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふう、初顔合わせとしては少しインパクトが強かったかもね」

 

 現場から離脱したユートは独りごちる。

 

「ま、後は警察が保護をしてくれるだろうし、此方は今日の宿を捜さないと」

 

 これからの事を思えば少し憂鬱になった。

 

 やるべき事は沢山ある。

 

 今日の日付の確認、資金の調達、今夜の宿捜し。

 

 特に日付を調べないと、ジュエルシード落下がいつ頃か判らない。

 

 それまでの猶予期間(モラトリアム)がどのくらいなのか、その間に準備をどの程度まで出来るのか。

 

 そん事を考えながらも、ユートは街の雑踏の中へと消えるのであった。

 

 

.




 本当にテンプレなイベントだった……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無印篇
第3話:魔窟 それが海鳴市と呼ばれる地


.

 暫くは平和な時期が続いてくれたが、それを一変させる声が海鳴市に響く。

 

〔助けて、誰か……僕の声が聞こえる貴方、力を貸して……〕

 

 数日前、巨大な魔力の塊の幾つかが海鳴市に降り注いで、そして今日はユーノ・スクライアの念話。

 

「無印編の始まりか」

 

 ユートは直ぐ様、海へと向かって飛んだ。

 

 恐らくはフェイトが無謀にもジュエルシードを暴発させた現場、ユートは其処に浮かんでいる。

 

「それじゃ、回収するか」

 

 この【リリカルマジカル】世界で態々、その張本人と会う必要など無い。

 

 ユートは一切の躊躇いも見せずに海中に飛び込む。

 

 一気に海底まで沈み微弱な魔力の球を造り出すと、球が惹かれる方へと泳ぐ。

 

 原作ではフェイトが手出しをするまで、一切の反応を示さなかったのだ。

 

 ジュエルシードは大人しく沈んでいる筈である。

 

 小さな魔力球は、ユーノ達に覚られる事もないし、急ぐ理由もなかったから、のんびりと海底を進んだ。

 

「そろそろかな?」

 

 儀式魔法のサンダーフォールで、ある程度の広域に魔法をぶち込んでいたが、範囲など高が知れている。

 

 思った通り魔力球が反応を示した。

 

 七つの魔力球は、凄い勢いで各々がジュエルシードの在処へと飛ぶ。

 

 ユートは先ず、その一つの反応を追った。

 

 現状ではライバルが居ない状態であり、急がなくとも問題は無いのだ。

 

 暫く飛ぶと、ジュエルシードを見付ける。

 

「これで一個目」

 

 この調子で海中に沈んだジュエルシード、全て回収してしまった。

 

「割かし楽勝だったね」

 

 余裕のある現在、手に入れに来たのは正解である。

 

 ユートは七つのジュエルシードの一個一個に、丹念に封印を施した。

 

 小宇宙による封印故に、魔力を流した程度ではもう暴走する事は無くて、誰かが起動させようとしても、最早うんともすんとも謂わないだろう。

 

 満足そうに微笑みをうかべると、ユートは宿泊しているホテルへと帰還した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 海中のジュエルシードを手に入れたユートは、今晩のジュエルシード暴走体の備えに関して考える。

 

 今の処だと、先程の海中より一番判り易い位置に在るジュエルシードだ。

 

 手に入れるに越した事はないだろう。

 

「うん? ヒトの気配」

 

 出掛けた先から帰って来たユートは、ホテルの前に誰かが居るのを感知して、自らの気配を周囲の気配と同化させる。

 

 よく漫画なんかでは気配を消すが、実はこれは気配を探れる達人が相手には、ただの下策でしかない。

 

 何故ならば、気配を消してしまうと不自然な気配の空白地帯が出来てしまい、逆にその空白故に察知されてしまうからだ。

 

 上策なのは、気配を周囲と同化する事。

 

 カメレオンなどの保護色の様にだ。

 

 カメレオンなどは、別に身体を透明にして消している訳ではない。

 

 保護色として、周囲の色に併せる事で外敵の目から逃れているのだ。

 

 ユートがこっそりと気配の先を窺って視れば、光の加減で紫色に見える黒髪の女性と、明らかに人間離れした色素の薄い髪の毛を、短めに刈っているスーツ姿の女性が居た。

 

「(月村 忍にノエル・K・エーアリヒカイトか)」

 

 気配は一つだった筈が、実際には二人居る。

 

 どうやら彼女はとらハ的な〝設定〟で、茶々丸よろしく自動人形(オートマタ)であるらしい。

 

 あの二人……あからさまにユートの部屋の前に陣取っている事から鑑みるに、すずかから聞いた容姿から辿り着いたのだろう。

 

 月村はこの海鳴の地では名士であるし、防諜の方もその家系的な性格を考えたならば、人間の一人くらい捜せるという訳だ。

 

「(チッ、面倒な)」

 

 心中で盛大に舌打ちし、そそくさとこの場を離れる事にした。

 

 部屋は寝に帰るだけで、荷物なんて一つたりとも置いてはいない。

 

 正直な話、他人の都合で動かされるのは少しばかり嫌気が差しており、どうせ同じ動くのなら自分が都合よく動かしてやりたい処。

 

この侭、忍とノエルに見付かれば連行されてしまうか逃げるか、いずれにしても後々が面倒臭い事になる。

 

 闘うのにせよ何にせよ、向こうの都合を押し付けらるのは美味くない訳だし、この場は見付からない内に離脱すべきだと判断した。

 

 それにまだ確認する事も残っている。

 

「(折角だし、上手く両方を片付けたいな。高町家に行くか……)」

 

 ユートは音も無くスッとその場を離れた。

 

 同じ頃……僅かな人間の反応を捉えたノエルが忍に進言する。

 

「忍お嬢様」

 

「何かしらノエル?」

 

「先程、少しだけ生体反応が在りましたが、直ぐにもこのホテルから離れてしまいました」

 

「――へ?」

 

「どうやら、我々が部屋の前に居たので怪しんだのだと思われます」

 

 実際に、ホテルの泊まり客でもない人間が、部屋の前をうろちょろしていれば怪しさ大爆発である。

 

「え、私達って怪しい?」

 

「はい、可成り……」

 

 忍は膝を付いて落ち込んでしまう。

 

「困ったわね。一応すずかの恩人だけど、何だか怪しげな力を使っていたみたいだし、それに一族の事も知ってる素振りだったらしいから余り看過する事は出来ないんだけど……」

 

 忍は一族を護る為、力在る者や異能の持ち主の名前や居場所を抑えている。

 

 これは高町恭也と恋人になってから知った事だが、この海鳴市の周辺には異常とも云える数の異能者や、達人級の者が住んでいた。

 

 高町恭也自身も小太刀二刀御神流の裏……不破の剣の使い手だし、父の高町士郎や妹の高町美由希もだ。

 

 さざなみ寮にも最近まで異能者が住んでいた様で、高町恭也はそれをどうやら知っていたらしい。

 

 というか、一人は管理人の養子扱いで今も暮らしている訳だが……

 

 更に、漫画家なのに剣の腕が達人だとか、さざなみ寮の管理人まで達人とか、訳の判らない状態である。

 

 しかも、力在る巫女さんも住んでいるらしく、海鳴のさざなみ寮は正しく魔窟であった。

 

 オマケに、海鳴総合病院にも銀髪で見た目に幼い異能者が居て、恭也の主治医をしているのだとか、忍も話には聴いていた。

 

 HGS──高機能性遺伝子障害。

 

 変異性遺伝子障害の一種であり、特殊な超能力と呼べる力を有する症例。

 

 中でも特に力の強い者を【Pケース】と呼ぶ。

 

 これを何処かの勘違い野郎達に人類の革新だとか、神を侮辱する悪魔だとか、現人神だとか言われず病として扱われるのには理由がある。

 

 剰りに人の身には強過ぎるその力に、HGSの発現者達は殆んど耐えられず、倒れて眠り続ける程度ならまだ軽い方で、最悪だと死ぬケースもあるからだ。

 

 その為、HGSの発現者は基本的に力を抑制する物を身に付けている。

 

 まあ腐れた人間など何処にでも居るし、さざなみ寮と海鳴総合病院に居る彼女らは、何らかの非合法組織が造り出したクローンとそのオリジナルだという。

 

 もう、海鳴の土地そのものが魔窟と言っても過言ではあるまい。

 

 自分達の一族とて、他人の事など言えない来歴を持っているのだから。

 

 【夜の一族】──その名の通り本来は夜を活動の中心とする一族で、異性の血液を摂取する事により様々な恩恵を受ける一族だ。

 

 即ち、吸血種である。

 

 一族の中には普通の人間の事を、食欲と性欲を満たす為の餌程度にしか考えない者も居り、そこも忍が頭を痛めている事柄だ。

 

 それは兎も角、この魔窟というか魔都と言おうか、この海鳴市に現れた新しい異能者か達人、一族を護るべき月村家の次期当主としては早々に接触し、目的など聞き出したい処である。

 

 因みに、現在の月村家の当主は父親の月村征二だ。

 

「仕方ないわね。気付かれたからにはもう戻っては来ないでしょうし、私達も戻るわよノエル」

 

「はい、忍お嬢様」

 

 已むを得ず、忍はノエルの運転する車に乗り込み、家に一度帰る事にした。

 

 その一方で、ユートは既にホテルから離れてとある場所へと向かっている。

 

 戦闘民族TAKAMACHIの家だ。

 

 海鳴市は藤見町の一角に存在する二階建ての家で、小さいながらも庭と道場まで在る、それなりの良物件である。

 

 わざわざこんな場所まで来たのは原作の聖地巡礼なんてものでは決して無く、とある事を確認する為。

 

 ユートは原作を知っている訳だが、その中に〝看過出来ない事実〟が幾つか混じっていた。

 

 勿論それがアニメを製作したスタッフの怠慢からくるモノなら、それはそれで構わない。

 

 だがあの〝事実〟が本当ならば、ユートも流石に赦す事が出来なかった。

 

「此処が、戦闘民族TAKAMACHIの本拠地か」

 

 とてもではないが、拳銃の弾丸より速く動いたり斬ったり出来、100人からの警防をたったの2人で制圧出来る人外染みた人間が棲むとは思えない程、極々普通の家屋である。

 

「見付けた……」

 

 ユートは〝それ〟を掴み小さな箱に仕舞う。

 

「本当に有るとは。最早、呆れるしかないよ」

 

「其処の少年」

 

「何ですか?」

 

 特に振り返らずとも誰なのかは知っている、近付いていたのには気付いていたのだから。

 

「俺の家に何か用かな?」

 

 其処に居たのは黒い髪に黒い瞳の、典型的な日本人の容貌を持った青年。

 

「貴方がTAKAMACHI……高町恭也さん?」

 

「? 今、何だかイントネーションがおかしくなかったか?」

 

「気のせいでしょう」

 

「そうか……まあ、確かに俺の名前は高町恭也だ」

 

 恭也は訝しみながらも、頷いて名乗った。

 

「実は貴方に文句を言いたくて」

 

「俺に? 俺が君に何かをしたのか?」

 

 勿論、初対面な筈の恭也に心当たりは無い。

 

「貴方ではなくて、貴方の恋人に……ですよ」

 

「恋人? って、忍か?」

 

「実はストーカーをされていまして」

 

「は?」

 

「さっきもホテルの前で、色素の薄くて短い髪の毛の女性と、キョロキョロしながら陣取っていて……」

 

 どうして忍との関係を、初対面の少年が知っていたのかは判らないが……

 

「忍、何やってる?」

 

 ユートの言葉を聞いて、恭也は自分の恋人の所業に開いた口が塞がらなかったという。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:強者集結 突き付けられた事実

.

 ユートは忍から離れて、此処へと来るまでに色々と考えてみた。

 

 先程は面倒は御免だと、忍とノエルから逃走してみたが、どうせすずかに接触してしまったのだし、別に忍が嫌いな訳でもない。

 

 苦手としているのは高町なのは、ただ1人。

 

 上司として接していたのもそうなのだが、どうしても苦手意識が先立った。

 

 だけどいつまでも逃げてはいられないし、だったら此方から接触してペースを握ろうと考えたのだ。

 

 それに時空管理局を相手にするなら、月村家と仲良くするのも悪くない。

 

 打算的だが、組織に個人で対抗するのは面倒臭い──ユートなら可能──話でもある。

 

 ユートは、この世界軸のギリシアに聖域を創ろうと考えていた。

 

 故にこそ、高町家である事柄の〝物証〟を掴むのと同時に、TAKAMACHIの誰か……理想を言えばなのは以外と接触を図りたいと思っていた処、恭也が現れたのは丁度良い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あー、すまないな。忍にはよく言って聞かせよう。だがそれはそれとしてだ、どうして俺が忍の恋人だと知っている? 君は何者なんだ?」

 

 恋人のストーカー疑惑を聞いて少しばかり引き攣りながらも、恭也が訊ねるとユートはニヤリと口角を吊り上げる。

 

「グッド! 言葉の端からよく気付けたね」

 

 ユートは軽く説明をするべく口を開いた。

 

「何者かについてや貴方と月村 忍嬢の関係を知っていた理由なんかは後で説明をさせて貰うよ。恭也さんには、この地に住まう達人や異能者を集めて欲しい。さざなみ寮や、八束神社、TAKAMACHIに海鳴総合病院に明心館に夜の一族と言えば、誰を連れて来るべきかは判るよね?」

 

「君は!」

 

「場所は月村家が広くて良いかもね? 貴方の妹にも関わる話になるし、直ぐにでも連絡をして貰いたい」

 

「なのはにだって?」

 

 大事な妹にも関わると言われては、恭也も黙ってはいられない。

 

 自らは認めずとも他が認めるシスコンとしては……

 

「今夜、6時までに月村家の邸に向かってくれる? 深夜には始まるから」

 

 そう言ってユートは姿を消してしまう。

 

 まるで狐か狸に化かされた気分だが、恭也は直ぐ父親である士郎と恋人の忍へと連絡し、その伝手でこの地の達人や異能者と思しき者を言われた通り、集める事にした。

 

 何より妹のなのはが絡むというなら恭也は元より、その父親である高町士郎にも否は無い。

 

 恋人に無理矢理持たされた携帯を操作し、月村 忍へ電話を掛ける。

 

 発信音が数秒聴こえて、向こうが出た音が鳴った。

 

「もしもし、忍」

 

〔恭也? どうしたの?〕

 

「お前がストーカーをしている少年が家に来た」

 

〔は? ストーカー?〕

 

「何でもその少年の宿泊していたホテルに陣取って、ノエルと2人して待ち構えていたらしいな?」

 

〔ブッ! ちょっ、違うからね? 別にストーカーって訳じゃないのよ!〕

 

 とんでもない誤解をされて忍は慌てて弁明する。

 

〔アリサちゃんと、ウチのすずかを誘拐から助けてくれたらしいんだけど、不可思議な力を使っていたらしくて、それに夜の一族の事もバレたかも知れないし〕

 

 誘拐の件については恭也も聞いており、それを救ったのがあのなのはと変わらない年齢の少年だったというのは驚きだが、足取りや仕種が一般人と掛け離れていたのを思い出す。

 

「それなんだが、主だった力の在る者を集めてくれと頼まれた。忍が彼に接触を図りたいなら、言う通りにするのも手だ。場所は忍の邸だと言っていたが、どうする?」

 

〔罠? 余裕? それとも他に何か?〕

 

「それは判らないが、忍に接触する気になったって事はだ、ストーカー行為が嫌になったんじゃないか?」

 

〔だから違うって……まあ良いわ。私も声を掛けてみるから、恭也もお願い〕

 

「判ったよ」

 

 電話を切り、恭也は直ぐにも行動を開始する。

 

 未だにこの行動が吉と出るか凶となるか恭也自信にも判らないが、それでも事態が動くなら自ら行動をせねばならないと考え、先ずは父である高町士朗に相談する事にした。

 

「それにしても、TAKAMACHI……どうしてかイントネーションに違和感を感じたな……」

 

 割とどうでも良い事を考えながら……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 午後の四時頃、高町恭也は思わずずっこけたいという気持ちを、ぐっと抑えて接客をしていた。

 

「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 高町士郎に事を伝えに来た場所は、彼の経営している喫茶店【翠屋】である。

 

 七年前、高町士朗が仕事で──一般やなのはには、事故と伝えてある──怪我負ってしまい、それを期に裏の仕事から足を洗って、喫茶店の店長として妻と共に働いていた。

 

 【喫茶翠屋】は、駅前という絶好の条件を持つ立地に存在しており、開店したばかりの頃は兎も角、今では多くのお客様にご来店頂ける人気店となっている。

 

 何しろ、売約済みとはいえ格好の良い店長に、見目の麗しいパティシエールが経営し、時々だがその子供と思われる三つ編みお下げに眼鏡の美少女と、目付きがやや鋭いが店長に似通った容姿の青年がフロントで接客をしてくれるし、最近では大学生くらいの美しい女性が店を手伝っていた。

 

 要は眺めているだけで目の保養になるのだ。

 

 しかも売っているお菓子やお茶や軽食など、本当に冗談やお世辞抜きで上手いとくれば、通わない理由なんて金欠くらいしか無い。

 

 勿論、その青年というのは高町恭也の事。

 

 報告の序でに店を手伝う事になったのは構わない、手伝えばバイト代くらい出るのだから。

 

 大学生の身には、少しでも稼げるなら稼ぎたいという気持ちもあるし、家族を手伝うのは当然でもある。

 

 だが、今日ばかりは頭を抱えたくなった。

 

「今日さ、何人くらい集まるのかな?」

 

「じゅ、10人以上は集まると思いますよ」

 

「う〜ん、じゃあねぇ……翠屋特製シュークリームを20個。それと此方で食べる分を2個と、紅茶をダージリンで」

 

「畏まりました」

 

 そう言って一旦、奥へ引っ込んだ恭也は両親に注文を伝える。

 

 その上で頭を抱えた。

 

「何で彼が此処に居る?」

 

 何しろ先程、別れたばかりの少年がしれっと店に現れたのだから、驚いてしまうのも無理はない。

 

 だけどお金を払って食べに来れば、誰であれお客様には違いない為、マニュアルに沿って歓待した。

 

 するしか無かったとも言うのだが……

 

 ややあって、母親であり翠屋のパティシエールたる高町桃子が、件の注文の品を寄越してきた。

 

「じゃ、お願いね恭也」

 

「うん、判ったよ母さん」

 

 トレイに載せた注文品を運ぶと、恭也はユートの座る席のテーブルの上に品物を置く。

 

「……ごゆっくり」

 

「ありがと」

 

 ユートは軽く礼を言い、翠屋特製のシュークリームにかぶり付く。

 

 その表情は疑うのがバカらしくなるくらい、とても良い笑顔であった。

 

 嘘偽り無く、心から美味しいと思って綻ばせた笑顔であるのだと、長年に亘って翠屋の手伝いをしてきた恭也には理解出来る。

 

「ホント、おかしな奴だ」

 

 苦笑いをしながら呟き、恭也は奥へと引っ込んだ、高町士朗に事のあらましを伝える為に……

 

「父さん」

 

「うん、どうした恭也?」

 

「実は……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 月村邸……

 

 【夜の一族】を構成している大家の一つ、月村の本家筋が住まう屋敷である。

 

 月村、綺堂、氷村の三家は【夜の一族】では絶大な発言力を持つ大家で、その内の月村と綺堂は海鳴市に居を構えていた。

 

 何しろ、月村の爺様……忍とすずかの祖父は長老格の一人である。

 

 月村邸はそれなりに大きい為、可成りの人数を収容しても充分に機能した。

 

 そして現在、この邸には力在る者達が集っている。

 

 高町家から高町士朗と、高町恭也と高町美由希という【永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術】の使い手達。

 

 流派の名の通り、小太刀を二振り使う古流剣術ではあるが、鋼糸や飛針などの暗器も使っており、要人の護衛が主の御神正統流と、要人の暗殺が主の御神裏・不破流が存在している。

 

 さざなみ寮からは、寮長である槙原耕介と付き添いで妻の槙原 愛が来た。

 

 他にも仁村真雪も強者ではあるが、本職が忙しくて来れなかったらしい。

 

 真雪の妹の仁村知佳も、HGSで力を持っているのだが、現在はカナダ在住で仕事をしている。

 

 槙原耕介は、元さざなみ寮の住人であった神咲 薫から【神咲一刀流】を習っていたが、並外れた霊力を持つ事から【破魔真道剣術・神咲一灯流】の修業に切り替えて、退魔師の力を持っていたりする。

 

 耕介の他のさざなみ寮の住人では、刑事をしているリスティ・槙原と、八束神社の管理を任されている、神咲那美が来ていた。

 

 リスティも知佳と同じくHGSで、那美は【破魔真道剣術・神咲一灯流】を使う退魔師、リスティはある特例で刑事となっており、司法関係にパイプを持つ。

 

 那美の腕の中には子狐が眠っているが、実は三百年前から存在する妖孤の類いで名前は久遠という。

 

 また、海鳴総合病院の女医であるフィリス・矢沢も来ていた。

 

 フィリスはリスティの妹という触れ込みだがクローンという関係上、実は娘とも云える。

 

 リスティと同様、HGSによる超能力を使う。

 

 巻島十蔵は明心館空手・本部道場の館長で、士朗とは友人の関係にある。

 

 忍とすずかの叔母であり【夜の一族】の一員たる、綺堂家の綺堂さくらもこの場に来ていた。

 

 獣人の血が混じる為に、獣耳や尻尾を出す事が出来て力も相当に強い。

 

 これにホストを務める忍とメイドのノエル、更に娘が関わったとしてデビット・バニングスも含んで全員となる。

 

 まあ、ノエルの妹であるファリンも居て、メイドとしてお茶や茶菓子を出すなどをしており、給仕を務めているのだが……

 

 これらを集めたのはたった1人の少年、緒方優斗。

 

「で、君がボクらを集めた理由はなんだい?」

 

 特に自己紹介もせずに、銀髪の女性が話し掛けた。

 

 リスティ・槙原だ。

 

 刑事という職業柄、こういう事には慣れている。

 

 まあ、自己紹介などされずともユートは全員を熟知しているし、リスティ達にしても恭也から名前くらいは伝わっていた。

 

「先ずはご挨拶を、この度は呼び掛けに応えて下さりまして、誠にありがとうございます。僕の名前は緒方優斗、異邦人(ストレンジャー)であり世界の管理人を自称しています」

 

「世界の管理人? それは随分と大きく出たわね? 誘拐犯からすずかを助けてくれたのは感謝するけど、ハッタリや法螺の類いって好きじゃないのよ」

 

 忍は苛立ちを隠す事無くキッパリと言う。

 

 どうやら逃げられたのが余程悔しかったらしい。

 

「僕もストーカーをされるのは好まないよ?」

 

「ストーカーじゃない!」

 

 真っ赤になって怒る忍だったが、ユートは何処吹く風といった感じで笑う。

 

「前置きはこれくらいにするとして、取り敢えず核心に入ろうと思う」

 

 一度言葉を区切り、周りを見回してから再び口を開いた。

 

「この海鳴市で、余り公にはならないだろうけど騒乱が起こる」

 

「騒乱?」

 

「古の遺物がこの海鳴市に降り注いだ、ソイツが騒乱の源となるんだよ。正確には今夜から始まる……否、既に始まっているんだ」

 

「何ですって!?」

 

 余りにも寝耳に水な話であり、それを全く把握してなかった忍が驚愕する。

 

 若しそれが本当だとして今日では、止めるにしても余りに時間が無い。

 

「槙原 愛さん」

 

「はい?」

 

 何故、名前を知っているのかという疑問と、名指しの理由が判らないという、二つの意味から愛は首を傾げてしまう。

 

「その始まりの場所となるのは、槙原動物病院だよ」

 

「へ?」

 

「今日の深夜、謎の怪物が現れて、槙原動物病院の壁や院内や周辺の道路を滅茶苦茶にしてくれる筈だよ」

 

 ユートは薄ら笑いを浮かべつつ、愛にその事実のみを淡々と突き付けた。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:激白 時空管理局への印象操作

.

 愛は混乱の極みにある。

 

 この目の前の少年は今、何と言っただろうか?

 

「え? ウチの病院が? って、どういう……」

 

「落ちてきた災厄の種……それは周囲を巻き込み破壊を齎す。そして、その種は今夜遅くに槙原動物病院を襲うだろうね。その事件にあろう事か、高町なのはが関わる事になる」

 

「なのはが!?」

 

 逸早く反応をしたのは、父親の高町士朗。

 

「災厄の種の名前は【ジュエルシード】といってね、色は蒼白くて、形は菱形の宝石。内部にシリアルナンバーが振ってあり、ナンバーⅠ〜ⅩⅩⅠまでが存在している」

 

「古代遺物だと言っていたけど、どうしてそんな物が海鳴市に?」

 

「異世界……僕の居た平行世界の地球じゃなく、次元の海を隔てた異次元の世界が宇宙の星々の如く存在していて、中には滅亡してしまった世界もある。そんな世界の遺跡には用途不明だったり、とんでも無い何かを秘めていたりするんだ。それを古代遺失物(ロストロギア)と呼ぶ。ジュエルシードはそんなロストロギアの一種で、異世界の人間が掘り出して、運んでいる最中に事故が起きた。結果としてこの世界にジュエルシードが落ちた」

 

 士朗の質問に、出来るだけ噛み砕いて解り易く説明をするユート。

 

「問題はこのジュエルシードというのが、相当に厄介な代物だって事。ジュエルシードというのは分類すると【次元干渉型願望実現器】なんだよ」

 

 【次元干渉型願望実現器】という言葉に戸惑って、集まった者達がざわつく。

 

 何と無く代表し高町士朗が質問をする。

 

「名前からして凄いけど、どういう物なんだい?」

 

「膨大なエネルギーを持っていて、次元干渉……次元そのものを揺るがす事も出来てしまう上、願望実現器の名の通り、手にした者の願望を叶えようとする」

 

「願望を叶えようとするというと、金持ちになりたいとか願えばなれるとか?」

 

「どうだろうね、叶ったとしても歪な叶え方だから、不幸にしかならないよ」

 

「歪?」

 

「例えばさっきの『お金持ちになりたい』だったら、銀行の金庫を破壊して願った者の所に移動させるかも知れないし、『早く大きくなりたい』と願えば成長させるんじゃなく、物理的に巨大化させたり……」

 

 ユートの例え話を聞き、歪の意味を理解した。

 

 成程、危険なだけだ。

 

「危険性はそれだけじゃあない。有り余るエネルギーを秘めてるからね、それが暴走するんだよ。エネルギーが不定形の疑似生物になって暴れたり、現地の生物を取り込んでみたりね」

 

「あ、だからウチの病院が壊れる?」

 

「そういう事だね。既に、絶賛暴走中のジュエルシードがあって、それがとあるフェレットを追っている。心当たりがあるだろ?」

 

 充分過ぎるくらい心当たりが有り、愛が顔面蒼白になって涙ぐむ。

 

「ひ、昼過ぎに小学生の女の子が3人、フェレットを連れて来たわ」

 

「高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかだ」

 

 ガタン!

 

 士朗とデビットと忍が驚いて席を立つ。

 

「なのは?」

 

「ウチのアリサが?」

 

「すずかまで!?」

 

 ユートは落ち着き払い、座る様に促す。

 

 渋々3人が席に座り直したのを確認したユートは、続きを話し始めた。

 

「フェレットは実は人間、年齢の方はまだは9歳だけど仕事で遺跡を調べ、件のジュエルシードを掘り出したんだ。事故の責任を感じて回収に来たけど、残念ながら暴走体との戦闘で怪我を負ってね、フェレットになって代謝効率を上げて、治療に専念していた所を拾われたんだ」

 

 士朗は考え込み、思案してユートに訊ねてみる。

 

 一番基本的な、即ち……

 

「それらが真実だとして、君はどうして其処まで知っているんだ?」

 

 つまりはそういう事だ。

 

 まるで全知全能だと言わんばかりに知り過ぎてて、士朗にはどうしても其処が腑に落ちない。

 

 何より、知っているなら事前に何とか出来る筈だ。

 

「知っている理由に関してはまた後で。実はジュエルシードの在処は幾つかだけど知っている」

 

「っ!?」

 

「僕が月村邸を指定したのはそれが理由なんだよ」

 

「真逆、ウチに有るの?」

 

 忍が真っ先に反応する。

 

「多分、中庭……お茶を飲める場所の草むらに落ちている筈……」

 

「ノエル、ファリン!」

 

「はい、忍お嬢様」

 

「直ぐに捜しなさい!」

 

「わっかりました!」

 

 忍の命令に、ノエル──薄い菫色の短髪なメイドの女性と、ファリン──ノエルより濃い菫色の長髪に明るそうな性格をしたメイド少女が返事をして中庭へと向かった。

 

 ややあって……

 

「青い菱形の宝石……見付かりました」

 

 ノエルがジュエルシードを見付けて、会談をしている此処へ持って来た。

 

「これがジュエルシード。間違いない?」

 

「そうだね。僕が今日、海で確保した七つと含めて、これで八つ目。槙原動物病院に現れる暴走体が抱えているので九つになる」

 

 海には七つ有ったから、月村邸には無い可能性もあったのだが、見付かったならば暴走体が抱えているのは一つだろう。

 

 恐らく、原作に於けるどれかが無くなっている。

 

 確か、ユーノが二つ確保していたから、動物病院のを含めて現在は11個。

 

 残りでユートが覚えているのは……

 

 八束神社。

 

 プール。

 

 ゴールキーパーが拾う。

 

 街中。

 

 海岸沿い。

 

 温泉。

 

 他は詳しい場所まで知らないが、その内に暴走体が現れて見付かるだろう。

 

「さて、ジュエルシードの事だけなら然して問題も無いけど、此処からが重要になってくる。槙原動物病院の事も考えると、時間が余り無いからね」

 

 そう、ジュエルシードだけなら捜して封印すれば良いだけだから、問題にはならない。

 

「問題なのは、ジュエルシードみたいなロストロギアを手に入れる為に動く組織があり、いずれ地球に現れるだろう事」

 

「ロストロギアを手に入れる組織……か、それはどんな組織なんだい?」

 

「名前は【時空管理局】。次元世界を支配下に置き、管理する自称司法組織……実態は軍と警察と裁判所をいっしょくたにした組織。悪く言えば中世の宗教みたいな感じで、戦力を持ち、気に入らなければ国王さえ異端視出来、自分達は贅沢三昧して従う者に恩情を、逆らう者には断罪をって処かな?」

 

「時空管理局……」

 

 高町士郎は想像を巡らせながら思案する。

 

「何か、最低なんだけど」

 

 美由希は義憤に駆られているのか、プリプリと頬を膨らませていた。

 

「勿論、司法組織としての活動はしているけど、組織のトップからして自ら定めた法律に違反している」

 

 最高評議会の事だ。

 

 この時代で既に、ジェイル・スカリエッティを生み出して、彼に【無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)】のコードネームを与えて研究をさせていた。

 

 プロジェクトFと戦闘機人の二つを。

 

 しかも、スカリエッティこそがそういう技術で生み出されたという罠。

 

「時空管理局とそれに列なる世界では、基本的に質量兵器を廃絶して、魔法という技術を代わりに推進している。魔法はファンタジーなんかじゃなく、科学的に立証された一つの技術体系となっているから」

 

「質量兵器とは察するに、銃や爆弾?」

 

「当たり。広義では鋼糸や飛針、小太刀なんかも質量兵器とか言いかねないね」

 

「うわ……」

 

 美由希が嫌な顔をする。

 

「とはいえ、地球は連中にとって管理外世界だから、管理局のルールを押し付けられる謂れは無いよ」

 

「管理外世界とは?」

 

 

「自力で次元世界を航れない上、住民が碌に魔法を使えない〝管理してやる価値も無い埒外な世界〟を略して管理外世界とか?」

 

 ピキリ……

 

「それはまた、何様な組織だよ」

 

 リスティが静かに怒り、他にも忍やさくらが怒りに打ち震えていた。

 

「尤も、地球は目を付けられてるだろうけどね」

 

「何故だい?」

 

「半世紀前、英国で魔力の大きな子供が見付かって、管理局の魔導師になった。だから、稀に強大な魔力を持つ者が居るんじゃないかってね」

 

 それは、ギル・グレアムの事である。

 

 使い魔を二匹を保持し、維持が可能な魔力を持った時空管理局の提督。

 

「そして高町なのはには、強大な魔力がある」

 

「なのはに?」

 

「きっと管理局に勧誘してくるだろうね。断ったら、自分達の法律を持ち出して連れ去ろうとするかも」

 

「どういう……?」

 

「例えば、魔導師が故郷とはいえ管理外世界に住むのは違法だ……とかね」

 

「バカな!」

 

「そんな法律が無くても、でっち上げるとか……」

 

 最早、言葉もない。

 

 この場の全員、管理局に対する印象は最悪だ。

 

「問題なのは、管理局員の全てが悪意ある人間ではないって事。トップが自らの法を破る反面、末端は真面目に頑張っていたりね」

 

「トップが法を破るのは確かに問題だが、後者はどういう意味だい?」

 

「それだけを見て、貴方の娘さんが管理局を次元世界の平和を守護する素晴らしい組織……なんて勘違いをするかもね。向こうにとっては、顔良しで魔力最高な人材なんて客寄せパンダ、プロパガンタの為の道具でしかない」

 

 STSの後も問題は無く管理局が運営されたのも、全ての罪をスカリエッティに擦り付け、管理局はテロを防いだくらいにしか思われていないから。

 

 寧ろ、都合の悪い情報は全く露出していない可能性の方が高いだろう。

 

「兎も角ね、僕が貴方達に接触したのは先ず、ジュエルシード探索で現れるであろう組織、時空管理局に対する法的根拠を補強したいからなんだ」

 

「例えば?」

 

 刑事のリスティ・槙原が挙手しつつ訊ねてきた。

 

「それは……」

 

 ユートは自身の考えを、この場に居る全員に判り易く伝える。

 

 聖域という名の守護組織を設立し、国連で異次元人やその魔法に対する法整備を行うなどだ。

 

 全てを聞き終え、ユートのサポートをするべきだと考えたらしく、その申し出は満場一致で可決された。

 

 これで色々と動き易くもなるであろう。

 

 話も終わり、ユートが邸を出ようとすると、忍から声を掛けられた。

 

「少し待って欲しいの」

 

「何か?」

 

「貴方、夜の一族について知っているわね?」

 

 嘘を吐いても仕方ない、ユートは首肯する。

 

「なら、掟については?」

 

「確か、外部の者に知られた場合は契約を持ち掛けるんだっけ? 友達でも恋人でも良いから、一族の秘密を守りずっと傍に居る事……だったっけ?」

 

「その通りよ」

 

「すずかの事?」

 

「ええ、ずっと気にしているわ」

 

「今夜は槙原動物病院で、一仕事があるんだ。だから後日……ああ! すずかが今晩、抱き枕代わりになってくれるなら、答えは帰ってから聞かせよう」

 

 そう言って、ユートは出ていった。それを確認して口角を吊り上げ、隠れていたすずかに言う。

 

「良かったわね、すずか。契約、オッケーみたいよ」

 

 柱の影に隠れて聴いていたすずかは、真っ赤な顔で頬に手を添えると、ユートが出ていった扉をジーッと見つめていた。

 

 

 

.




.
 取り敢えず、手直しは後回しにします……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話:責任 破壊された動物病院

.

 高町なのはは走る。

 

 頭に響く声に導かれて、声の聴こえてくる方に向かって駆け抜けていた。

 

《お願いします、僕の声が聴こえる貴方、僕に力を貸して……》

 

 先程から聴こえており、どうも切羽詰まっているらしく、声にも余裕は感じられない。

 

「あ、あれは!」

 

 槙原動物病院の塀や壁を破壊し、何やら黒いモノがフェレットを襲っていた。

 

「危ない!」

 

 あわや、フェレットが潰されそうになっていた処を上手く救い出して、電柱の陰へと隠れる。

 

「君は……助けに来てくれたの?」

 

「フェレットが喋った!」

 

「僕の声が聴こえたなら、君には資質がある。お願いします、僕に力を貸して下さい!」

 

「し、資質って何?」

 

 黒い物体が未だに破壊を続けており、暢気にお話はしていられない。

 

「僕はある探し物の為に、此所ではない世界から来ました。でも、僕1人だけの力では想いを遂げられないかも知れないから、迷惑だとは思いますが資質を持っている人に協力をして欲しくて呼び掛けたんです」

 

 フェレットはなのはから降りると、誠心誠意に頼み込んだ。

 

「お礼はします! きっとしますから! 僕の持っている力を貴女に使って欲しいんです。僕の、力を……魔法の力を!」

 

「は? 魔法……?」

 

 なのはは行き成りファンタジーな言葉を聞き、首を傾げたが既にフェレットが言葉を話し、変な黒い物体に攻撃され非日常に今晩はをしている状況なだけに、否定も出来ない。

 

 そんななのはに黒い物体が飛び上がり、上空からの急襲を仕掛けてきた。

 

「危ないっ!」

 

 フェレットから注意を促され、ギリギリではあったが回避に成功する。

 

 然し、なのはが居た場所は見事に砕けてしまう。

 

 ゾッと青褪めながらも、フェレットを連れて壁の陰に隠れた。

 

「お礼は必ずしますから、お願い!」

 

 少しは安全になったのを見計らい、再びフェレットはなのはに願う。

 

 とはいえ、お礼はすると言うフェレットに……

 

「お礼とかそんな場合じゃないでしょ!」

 

 呆れながら言った。

 

「どうすれば良いの?」

 

「これを!」

 

 フェレットが差し出したのは、赤くてサイズの大きなビー玉みたいな玉。

 

「何これ?」

 

「それは魔法の杖です」

 

「どう見ても玉だよね?」

 

「貴女に力を……心を澄まして、僕の言葉を復唱して下さい」

 

 何がなんだか解らない、だけど兎にも角にも言う通りにするしかない。

 

「我、使命を受けし者也」

 

「えっと? 我、使命を受けし者也」

 

 それは誓約。

 

「契約の許、その力を解き放て……」

 

「契約の許、その力を解き放て……」

 

 それは契約。

 

「風は空に」

 

「風は空に」

 

 その名の許に……

 

「星は天に」

 

「星は天に」

 

 眠れる魔力(ちから)を今こそ解き放つ。

 

 

「そして不屈の心は」

 

「そして不屈の心は」

 

「「この胸に……」」

 

 いつの間にやら、なのはの詠唱はフェレットに追い付いている。

 

「この手に魔法を、レイジングハートセーットアーップッ!」

 

 赤い玉を持つ左腕を天高く掲げて叫ぶと……

 

《Stand by ready》

 

 玉に文字が浮かび電子的な音声が響き、桜色の輝きを放った。

 

《Set up》

 

 その色はなのはの色。

 

「な、なんて魔力だ……」

 

 レイジングハートと呼ばれた玉は唯、使用者の力を汲み上げるのみ。

 

「ふえ? これ、何ぃ? 何なのぉぉ!?」

 

「落ち着いて……イメージをして下さいっ! 貴女が想像する魔法使いの杖を、そして力強い衣服を!」

 

「杖と衣服? よく判んないけど……これで!」

 

 フェレットからのアドバイスを受け、なのはが杖を想像するとパーツが顕れ、組上がっていく。

 

 そして桜色をした光の帯がなのはの幼い肢体に絡んでいき、それは固定化されてなのはが通う聖祥大付属小学校の女子制服に似た、謂わば魔導衣が覆う。

 

「やった、大成功だ!」

 

 フェレットは思っていた以上の成功に、思わず笑顔になるが……

 

「ふぇぇぇっ! いったい全体これはなにぃ?」

 

 揺ったりと着地をして、なのはは自分に起きた出来事に付いてこれず、パニックを起こしてしまう。

 

「いけない、来ます!」

 

「えっ!?」

 

 なのはとフェレットを見付けた黒い物体が、なのはへまっしぐらに体当たりをしてきた。

 

「きゃぁあっ!」

 

 何の覚悟も無く、単に流されただけでこの場に居るなのはは、行き成りの展開に目を閉じて両腕で自身を庇おうと顔をガードする。

 

 そんなマスターを守護するべく、レイジングハートが電子音声を響かせた。

 

《Protection》

 

 桜色のシールドが前方になのはを護る様に展開して黒い物体を弾き飛ばすと、その衝撃を受け黒い物体がバラバラとなる。

 

「今です! 封印を!」

 

「封印って言われても……どうすれば良いのか判んないんだけど?」

 

 フェレットはその方法を伝えようと叫ぶ。

 

「僕らの魔法は、発動体に組み込んだプログラムという法式です。そしてその法式を発動させるために必要なのは、術者の精神エネルギーです」

 

 勢いよくシールドにぶつかってバラけた黒い物体だったが、少しずつ構成物質を集めて再生していく。

 

「そしてアレは、忌まわしい力の許に生み出されてしまった思念体。あれを停止させるには、その杖で封印して元の姿に戻さなくてはいけないんです!」

 

「うん、それで?」

 

「レイジングハートは祈願実現型デバイス。先程の様に攻撃や防御などの基本魔法は心に願うだけでも発動しますが、より大きな力を使う魔法には呪文が必要なんです」

 

「その呪文って何?」

 

 祈願実現型とか意味不明ではあるが、取り敢えずは自分の意思をレイジングハートが形に変えるのだろうと考え、大きな力を使うのに必要だという呪文とやらを訊ねる。

 

「心を澄ませて、心の中に貴女の為の呪文が浮かぶ筈ですから」

 

「心を澄ませて……」

 

「燃え上がれ! 僕の心の小宇宙よ!」

 

「燃え上がれ! ぼくの心のこすもよ……?」

 

「いやそれは違うから! っていったい誰だ!?」

 

 だが、フェレットの質問には答えず、行き成り割り込んだ〝何者か〟は、黒い物体へと攻撃を加えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数分前……

 

 ユートは集めた面々と別れた後、直ぐに槙原動物病院へと向かう。

 

 場所に関しては既に把握をしており、迷う事も無く真っ直ぐに駆けていた。

 

「あれは!」

 

 向かう先の前方に桜色の光が立ち昇る。

 

 間違いなく高町なのはの魔力光、この世界の魔導師が使う魔力には波長により固有の色が着く。

 

 波長次第だから似ていたり同じだったりと、被る事も多々ある訳ではあるが、ユートが確認した限りでは桜色はなのはだけ。

 

 未来でキャロ・ル・ルシエが似た色だったが、あれは桜色というより桃色というべきであろう。

 

 つまり似て非なる色だ。

 

 まあ、魔力光なぞユートにとってはどうでも良いのだが……

 

「急ぐか。なのはがジュエルシードを回収する前に、封印してしまいたいしね」

 

 この場合、封印した方が手にする権利がある。

 

 マナー的にはどうかとも思うが、現状ではなのはにジュエルシードを回収させる気は無い。

 

 そして、後れ馳せながらなのはとフェレットが戦う場面に遭遇した。

 

「間に合ったか……」

 

 どうやらクライマックスには間に合ったらしくて、まだジュエルシード思念体はピンピンとしている。

 

 ユートは瞑目をすると、自らの内から沸き上がってくるエネルギーを燃やす。

 

「燃え上がれ! 僕の心の小宇宙よ!」

 

「燃え上がれ! ぼくの心のこすもよ……?」

 

「いやそれは違うから! っていったい誰だ!?」

 

 フェレット……というよりは、ユーノ・スクライアが叫ぶが今は無視して拳を揮った。

 

「極小水晶(ダイヤモンド・ダスト)!」

 

 凍気を拳に纏わせると、ブローと共に撃ち出す。

 

 マイナス運動エネルギーたる氷結攻撃が放たれて、黒い物体を凍結した。

 

「な、何なんだ? 魔力をまるで感じないのにあんな力を!?」

 

 フェレット──ユーノが驚愕する。

 

「妙なる響き闇にて沈め、赦されざる存在(モノ)を封印の輪に……」

 

 ユートが右人差し指と中指を伸ばし、黒の光を湛えた小宇宙の帯が凍り付いた黒い物体を縛り付け、外殻となる物体を破壊してジュエルシードを取り出した。

 

「ジュエルシード・シリアルⅩⅩⅠ、封・印!」

 

 闇に沈むジュエルシードにシリアルナンバーが浮かび上がって、発動していた力が鎮められるとユートの手の内へと納まる。

 

「これで9個目……」

 

 その侭、亜空間ポケットへと仕舞うと、立ち去ろうとするユートに……

 

「ま、待て! それをどうする心算なんだ? その石はとても危険なんだぞ!」

 

 ユーノ・スクライアが呼び止めてきた。

 

 振り返ったユートは冷たい視線でユーノを射抜き、いっそ呆れた口調で言う。

 

「知っているさ。そもそも暴走体を見りゃ判るだろ。それに見てなかったか? 僕がアレを潰して封印していたのを」

 

「そ、それは……」

 

「寧ろ、危ないというなら君らじゃないか?」

 

「え?」

 

 水を向けられて、なのはが反応した。

 

「見ろ、この惨状を」

 

 両腕を拡げ、被害のあったこの場を強く意識させ、更に言い募る。

 

「先程みたいな有り様で、これだけの被害を出したんだぞ。君らがこの件にどう関わっているかは兎も角、若しも危ないのなら手を引け! アレは僕が封ずる、地上を騒がす災いの種なら聖闘士たる僕の仕事だ!」

 

「セイント?」

 

 この地に聖闘士は存在していないが、ユートにとっては管理する世界の一つ。

 

 望んでいなかったとはいっても、来てしまったからには成すべき事を成す……それが聖闘士なのだから。

 

「わ、私は!」

 

 なのはが反論をしようと口を開こうとすると……

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ! 私のガンダ……じゃなく、夢の病院がぁぁぁぁっ!」

 

 白衣の女性──槙原 愛が絶叫を上げた。

 

 ネタに走る辺り、存外と余裕がある。

 

 車に乗ってきた愛より、ユートの足の方が速かったから、途中で完全に追い越してしまったのだが、漸く追い付いて来たのだ。

 

 その結果がこの惨状。

 

 結界を張っていた訳でもないから、壊れた部分は壊れた侭。

 

 幸い、動物を容れていたケージに支障は無いから、預かっていた動物が逃げ出す事態にこそならなかったのだが、壁には大きな穴が空いているわ、室内は滅茶苦茶に散らかっているわ、壁は一部が崩れているわと正に惨劇が目の前に……

 

 しかも電柱が折れて電線も切れ、道路はあっちこっちが穴ぼこだらけ。

 

 決してなのはの所為ではないが、やはり責任を感じてしまって項垂れる。

 

「ごめん、なさい……」

 

 よもや出ていく訳にもいかない為、なのはは小さく謝罪を口にしてその場を離れるのであった。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話:組織 プロジェクト・サンクチュアリ

.
 ユートがジュエルシードを横取りした形となって、なのははユーノと原典の通り公園で互いに自己紹介をしたがやはり元気がない。

 ファーストミッションに失敗したなのはが家に帰ってみると、母親の高町桃子しか居なかった。

 どうやら父親の高町士郎達は会合に出たらしい。

 まあ、母親だけでも迎えてくれたのだから寂しいとは感じないし、鍵っ子の如く誰も家に居ないなんてよりは遥かにマシだ。

「ただいま、お母さん」

「お帰り、なのは」

 何だろう? 今はそれが少しだけ胸に沁みる。


.

 そんななのはは置いておいて、自分の動物病院が壊れてショックを受ける愛を立ち直らせるべく、ユートは肩に手を置いて言う。

 

「ああ、この程度ならすぐにでも直せるから」

 

「ほ、本当に!?」

 

「本当。ちょっと離れておいてね」

 

 愛が下がったのを確認すると、砕けた壁などを素材として元の姿をイメージ、パン! と柏手(かしわで)を打つと、エネルギー……小宇宙を輪転させて体内で円環(ウロボロス)を描き、その力を増幅させて、更に放出には螺旋(カドケウス)を迸らせ、ハルケギニア式の魔法と成して放つ。

 

 使うのが魔力ではなく、小宇宙なのがミソだ。

 

「【錬成】!」

 

 破壊された壁や塀などが時計を逆回ししたかの如く元に戻って、そればかりか穴だらけになって砕けていたアスファルトの道路も、綺麗に補修された。

 

 スレイヤーズでも獣神官ゼロスがリナに見せ付けた妙技、破壊された温室に於いて割れたガラスを元の姿に戻したのと似た現象。

 

 そんな余りの光景に呆然となる槙原 愛。

 

「これで良いかな」

 

「あ、うん……その、ありがとう」

 

「いやいや、愛さんに顔を繋げばさざなみ寮の面々に悪印象を持たれないって、そんな俗物的な打算があっただけだよ」

 

「ふふふ、それでもありがとう」

 

 少し照れてしまったし、愛にはツンデレっぽく見られたのかも知れない。

 

 旦那さんの居る身とはいえど、まだ大学を出たばかりの愛は若くて綺麗な為、若奥様な魅力に溢れて輝いていた。

 

 照れたのは愛の魅力故、それを勘違いされてしまったらしい。

 

 まあ、他人のモノに手を出そうとは思わないから、勘違いされた侭でも構わないのだが……

 

「さて、僕は月村邸に戻らせて貰うよ」

 

「車で送りましょうか?」

 

「ん、大丈夫。走って帰れば車より速いから」

 

「そう?」

 

 平然と宣うユートに少し引き攣りながら苦笑した。

 

 ユートは愛と別れると、月村邸へと戻る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戻ってきたら、何故だかすずかに懐かれた。

 

 抱き枕になると言ったのは少し拙かったろうか? なんて思ったのは、忍が傍でニヤニヤしていたからである。ファリンも、笑顔を浮かべて『すずかちゃん、頑張って下さいね!』などと宣っていたし……

 

「ええと、すずか?」

 

「なに?」

 

「忍さんと話したい事があるから放してくれない?」

 

「っ!? お姉ちゃんの方が良いの?」

 

「何故、そうなるんだ?」

 

 愕然とした表情のすずかの言葉に、ユートは思わずツッコんでしまう。

 

「大丈夫だよ、私はよく似てるって言われてるもの、きっとお姉ちゃんみたいになれると思うから! 寧ろ若い分、お得……って、痛い痛いよお姉ちゃん!」

 

 口を滑らせたすずかに、良い笑顔を浮かべて蟀谷にグリグリと拳を入れる。

 

「年寄りで悪かったわね、すずか!」

 

「ごめ、ごめんなさいお姉ちゃん! あぶぶぶっ!」

 

 暫し姉妹のスキンシップを堪能したが、いい加減で忍の方も気が済んだのか、ウメボシを止めた。

 

「まったく……」

 

「はうう、痛かったよ」

 

 十歳差というのを案外、忍も気にしているらしい。

 

「まあ、良いわ。それじゃ食堂に向かいましょう」

 

「普通に食堂がある個人宅って……」

 

 元の世界の委員長、雪広あやかの家もそうだった。

 

 やはり経済界に名を列ねるだけあり、これが当たり前の世界という訳だ。

 

「待って!」

 

「どうした? 抱き枕にはちゃんとなるから待っててくれないか?」

 

「ち、違うから! いや、なって欲しいんだけど……そうじゃなくて、私も参加させて欲しいの!」

 

 抱き枕にはなって欲しいらしく、赤くなりながらもしどろもどろに言いつつ、自身の思いを伝えてくる。

 

「すずかを? これから先の話は裏に属する。関わらない方が無難だよ」

 

「役には立てないかもだけれど、それでも……っ!」

 

 強い瞳、何処か強迫観念に衝き動かされている感はあるが、少なくとも嘗ての兄よりはマシであろう。

 

「忍さん?」

 

「ふぅ、すずかには裏に関わって欲しくなかったのだけど、すずかが月村である以上はどの道、早いか遅いかの違いしかないか」

 

「あ……」

 

 忍が『やれやれ』といった感じで言うと、すずかの表情がパーっと輝く。

 

「但し、中途半端に投げ出したら許さないわよ?」

 

「うん!」

 

 ユートとしては普通に暮らせるならそうした方が、すずかの一生の為には良いと思う。

 

然しながら、ユート自身のスタンスは自らが考えて、自らが決定するというものであるが故に、すずかさえそう決めて忍が良いと言うのなら構わない。

 

 如何に危険であっても、巻き込まれたのではなくて本人が飛び込むなら、その決定に異を唱えたりする気は無かった。

 

 そう、嘗て近衛木乃香に魔法を教えて選択をさせた様に、選択肢だけは提示するのがユートのやり方だ。

 

 忍はノエルにお茶を3人分用意させ、食堂の方へと向かった。

 

 小さな丸テーブルに席を用意して座り、ユートが話を始める。

 

「時空管理局について先程は話したけど、彼らに僕は余り良いイメージを持ってはいない」

 

「まあ、そんな感じだったわね。私達に悪印象でも持たせたいのかって話し方だったもの」

 

「勿論、末端や一部の官僚は本気で次元世界の平和を目指して頑張っているよ。だけど、組織は大きくなればなる程、上も下も徐々に腐れていく」

 

「……そうね」

 

 忍の言葉には実感が篭っており、まるで経験者の様であったという。

 

 実際、裏に関われば人間や組織の醜い部分だって見えてくるし、綺麗事で済まないのが政経界であると、実感している。

 

 況してや、叔父や氷村といった【夜の一族】の醜聞そのものを鑑みれば、組織の腐敗も理解出来た。

 

「特に時空管理局のトップは酷い有り様だ」

 

 トップ──最高評議会の評議長、副評議長、書記の三名から構成された存在。

 

 時空管理局の黎明期からずっと組織を支えてきたと標榜し、自分達を絶対正義と嘯く連中である。

 

「さっきの話し合いの席でも言っていたけど、そんなに酷いの?」

 

「時空管理局最高評議会、それがトップの通称でね。管理局で禁止している事を自ら行うくらいだ。正義の名の下に……ね」

 

「禁止って?」

 

「人造魔導師や戦闘機人の〝製作〟だよ」

 

「? 人造魔導師に戦闘機人……ね。確かに余り良い印象にならないわね」

 

「人造魔導師はヒト・クローンを造り上げ、人工的に魔導師を製作する技術で、戦闘機人は機械で戦闘力を上げる技術かな? 謂わばサイボーグってヤツだよ。中には……」

 

 チラリとノエル達を見て口を開く。

 

「アンドロイドやガイノイドも視野に入る」

 

 視線の意味に気が付き、表情を固くする一同。

 

 どちらの試みにしても、旧暦の時代より研究されてきたが、いずれにせよ失敗している技術だ。

 

「最高評議会はとある世界の技術を一部とはいえど、その手中に収めて人造生命を造り出した。コードネーム【無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)】……個体名・ジェイル・スカリエッティ。広域次元犯罪者として手配すると同時に、彼に研究所と資金を与えて生命操作技術を研究させ、それを時空管理局の戦力としようとしているんだ」

 

「なんて事を……」

 

「まあ、それ自体は別に構わない」

 

「「構わないの?」」

 

 ユートの物言いに驚愕してしまう忍とすずか。

 

「【夜の一族】だって生命操作技術じゃないにせよ、造ってるだろ? エーアリヒカイトもそうだろうし、イレインも……」

 

「なっ! どうして?」

 

「言ったよね? 僕はその手の情報を持ってるって。だから時空管理局についても知っているんだ」

 

「……そうだったわね」

 

「続けるよ。僕は造り出したモノに責任を持つなら、別に問題は無いと思うよ。でも、連中はそれを禁止していながら、やっている。要するに他人がやっていれば犯罪者として取り締まる癖に、自分達は平然と隠れてやってるのさ。何しろ、司法組織が犯罪に興じているんだ。きっと証拠なんかも見付からないし、下手に踏み込めば……」

 

 右手の親指で首を掻き切る動作をする。

 

「消される訳ね……」

 

 別に倫理問題だとかの、口憚ったい事を言う心算などありはしない。

 

 戦闘機人だろうと介護ロボットだろうとセクサ・ドールだろうと、造りたければ造れば良い。

 

 ユートだって戦力として保持している。

 

 犯罪をして他人に迷惑を掛けなければ、倫理問題や何やは有識者が適当にしてくれるだろう。

 

 そこら辺は、ユートの知った事ではないのだから。

 

 管理局の問題は、自身が禁じておきながら司法組織を隠れ蓑に、それを行っているという一点だ。

 

 戦力不足? 先ずは足下から固めろと言いたい。

 

 才能頼りの魔法技術にのみ頼り切り、他の技術──特に科学技術を用いながら質量兵器を禁じる傲慢。

 

 そのくせ、十数年後には平然と質量兵器紛いの代物を使うのだから呆れる。

 

 ラプターなんて、どう考えても魔法技術というより質量兵器レベルだし……

 

 ユートにとってはそれもどうでも良い事柄、だけど時空管理局のやる事を肯定も出来ない。

 

 今は未だしも、百年間のスパンで考えればいずれ、地球が時空管理局に支配される事も有り得るというのが問題なのだ。

 

 異次元──平行世界の話だから勝手にすれば良いという訳にもいかないのは、この地球には平行世界を渡るゲートが存在するから。

 

 管理局が手にしたなら、平行世界にまで触手を伸ばして来るだろう。

 

 因みに、ゲートの破壊は不可能。何故ならゲートの破壊は即ち、自らが産み出した神獣達を殺すのと同義だからだ。

 

 その為、この世界の時空管理局が地球で好き勝手を出来ない様に、処置をせねばならない。

 

「ジュエルシードを取りに行く前にも言ったけれど、忍さん達に頼みたい事というのは、僕のこの世界での経済基盤を支える事」

 

「経済基盤を……ねぇ」

 

「彼方側で稼いだお金だと問題があるからね」

 

「そうね」

 

 同じ地球だから紙幣貨幣は同じだが、平行世界でのそれは本物であれ、此方側では偽物と同じ。

 

 貨幣は兎も角、紙幣だと当然ながら同じナンバーがあるのだから。

 

 普通に使用は可能でも、万が一にも同じナンバーが見付かれば、精巧な偽物として大騒ぎになる。

 

「後で使った分、金塊なんかを用意するから月村家とバニングス家にギリシアのこの地を買って貰いたい」

 

 ユートが地図を広げて指した位置は、何も存在しない廃墟と言っても過言ではない場所だった。

 

「さっきも言ってたけど、此処、何も無いわよ?」

 

「土地さえ手に入ったら、建物に関しては自分でどうにか出来るよ」

 

「いったい何をしたいの? こんなギリシア政府すら持て余す土地、手に入れても意味が無いでしょう?」

 

「僕にはあるよ。僕の生まれた地球では、この土地に結界が張られて一般人が入れない様になってるんだ。其処にはギリシア神話体系の女神──アテナを奉じている聖域(サンクチュアリ)という組織がある」

 

「世界が違えばって訳?」

 

 ユートは首肯する。

 

 この地は交通の便も悪いのも手伝って、荒れ地でもある為に活用は出来ない、売り地にもならない、治世も行き届かないと三重苦な土地で、望めばお金次第で買えるとデビット・バニングスは言っていた。

 

 問題はお金を即金で払えないという点。

 

「で、目的は?」

 

 

「此処に僕の世界と同様、聖域を創設して地球を裏側から守護する組織にする。アテナの聖闘士として」

 

 組織に個人で挑むのではなく、同じ組織という体裁を整えて、時空管理局の好きにさせないのが目的だ。

 

「判ったわ。時間も無いのでしょう? なら、詳細を直ぐにでも詰めましょう」

 

 こうして、プロジェクト・サンクチュアリが静かに発動するのであった。

 

 

 

.




.
 パソコンとかじゃないから文字数が足りなかった。

 その分を前書きに入れてしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話:同衾 今夜は貴方と一緒だよ

.

 詳細を詰めるべく話をするに当たり、忍が最初に訊いて来たのは……

 

「それで、アテナの聖闘士っていうのは何なの?」

 

 ……であった。

 

「アテナの聖闘士、それは僕の生まれた世界にでは、邪悪が蔓延る時、必ずや現れるという希望の闘士……聖闘士。そんな風に云われているよ」

 

「邪悪って?」

 

「地上支配を目論む神々。冥王ハーデスや海皇ポセイドン、軍神アレスといったギリシャ神話体系だけでも色々と居るし、邪悪な怪物が復活すれば聖闘士が斃しに向かう」

 

 エピソードGでも、復活したエウリュアレーを斃すべく三角座のノイシスが闘っており、逆に殺られても山猫星座のレツが師匠であるノイシスの仇討ちの為、闘っている。

 

「この世界にも怪物なんて存在しているのかしら? 〝私達〟以外に……」

 

「お、お姉ちゃん」

 

 吸血種たる自分達の事を〝怪物〟だと、自嘲気味に揶揄する忍。

 

「少なくとも、ジュエルシードが暴れると怪物化する訳だし、その後にもとある古代遺失物(ロストロギア)が動く筈だよ」

 

 ユートは否定も肯定もしないで、ただ淡々と話の続きを行う。

 

「それに伝説上の怪物は、基本的に封印されている。それが復活しないよう見守るのも、万が一に復活した場合には斃すのも聖闘士の役目だからね。因みに人間同士の戦争には通常、参加はしない」

 

「そうなの?」

 

「聖闘士が付いた方が勝つなんて事になって、聖闘士を戦争の道具にされてしまうと困るからね」

 

 恐らく、ユートであれば付いた勢力を勝たせる事も不可能ではない。

 

「人間同士の争いに参加するのは、凶悪な犯罪者なんかを捕まえたりするくらいだろうか」

 

 そういう意味で云えば、元の世界はそんな存在には困らなかった。

 

 火星の幻想世界ならば、普通に賞金稼ぎなんて職業が横行していた訳だし……

 

 それに、忍達には言わなかった事ではあるが、別の──聖書の神と魔王が滅んだ──世界に本来なら居ない筈の神の闘士が現れた事もあったのだ。

 

 這い寄る混沌が喚び込んでくれた所為で。

 

 這い寄る混沌が介入でもしてくれば、どんな存在が現れても不思議ではない。

 

「とはいえ、聖闘士が現段階で僕1人というのは格好が付かないな」

 

「それは……」

 

 確かに格好付かないと、忍は苦笑いになる。

 

「聖闘士ってどんな存在かもっと教えて欲しいわね」

 

「う〜ん、夜空の88星座を象った聖衣と呼ばれている防具を纏い、厳しい修業で小宇宙という生体エネルギーを使える者達。階級が有って、青銅聖闘士48、白銀聖闘士24、黄金聖闘士12、どれにも属さないのが4。合計で88とされているけど、実際には青銅と白銀の階級に今では使われない星座、地獄の番犬座(ケルベロス)なんかも存在するし、精霊などを象った精霊聖衣も在るからね」

 

 厳密には88人という訳でないと云う事なのだが、基本的には最大限に揃ってもフルメンバーなんて有り得ないのが現実だ。

 

 しかも今代のハーデスとの聖戦では、下手をしたら一番人数が少なかったのかも知れない。

 

 ユートを含めて20人足らずだったのだから。

 

 因みに、前聖戦の時には最大人数で79名が参戦していたらしい。

 

「メンバーの当てはあるのかしら?」

 

「二ヶ月後なら何人か喚べるけど、現段階では1人しか喚べないな」

 

「それは誰?」

 

「黄金聖闘士・牡羊座(アリエス)のシエスタ」

 

「女の子?」

 

「まあね」

 

 忍は思う、『すずかの想いは難しそうだ』と。

 

 だが、逆説的にはすずか〝も〟受け容れられるとも取れる。

 

「まあ、本当の聖闘士ならそれこそ、死に直結する様な修業をして資格と聖衣を手に入れるんだけど、僕の組織する聖域でそこまでは必要無い。共に闘う仲間に聖衣を与えるから。聖衣も本物じゃなく、精巧に造ったレプリカだから。魔法を掛けて、身体能力を上げる事が出来たり、必殺技を使えたりする初心者専用みたいな感じの聖衣だよ」

 

 飽く迄も、魔法で必殺技を再現しただけの代物で、細工──魔力というより、咸卦の氣だから既に別物──をしてあるからAMFでも消せない。

 

 魔力結合の阻害? なにそれ、美味しいの? といった感じだ。

 

「という事は、すずかでも聖闘士をやれるの?」

 

「へ? お姉ちゃん?」

 

 忍の言葉に吃驚したのか目を白黒させる。

 

「闘う覚悟が有るのなら。シエスタだって元は何の力も無い一般人だったのに、今では聖闘士の最高峰たる黄金聖闘士だからね」

 

 アテナのというよりは、ユートの聖闘士だが……

 

 因みに、本物の牡羊座はムウの弟子だった貴鬼が受け継いでいる。

 

「だとしたなら、貴方のお眼鏡に叶えば聖闘士に成れると考えても良いのね?」

 

「一応は」

 

「判ったわ。心当たりがあるから捜してみる。聖域を創る場所の事は任せて貰っても構わないわ」

 

「うん、お願いするよ」

 

「ああ、後……貴方は何の聖闘士なの?」

 

 やはり気になったのか、席を立って食堂を出ようとしたがユートに振り返り、訊ねてきた。

 

「黄金聖闘士の双子座(ジェミニ)だよ」

 

「成程……ね。あ、寝室はすずかと一緒だから案内はすずかがなさいな」

 

 そう言って、ノエルと共に出ていく。

 

 すずかは真っ赤になり、潤んだ瞳でユートを見つめていて、何処か期待の眼差しであった。

 

「ハァー、ファリン」

 

「はい?」

 

「風呂に入れるかな?」

 

「直ぐにでも用意は出来ますよ♪」

 

「女の子と添い寝するなら汚れた侭は良くないから、用意をして貰える?」

 

「はーい」

 

 何だか愉しそうに返事をするファリンは、言われた通りに風呂の用意をする為に食堂から出る。

 

「じゃあ、部屋で待っていてくれないかな? 案内はファリンに頼むから」

 

「私も一緒に入る!」

 

「は?」

 

「優斗君の背中、流して上げるね」

 

 確か引っ込み思案な性格だったと思ったが、いやに積極的なすずかに面喰らってしまう。

 

 結局、説得の材料も特に無かったし、今夜は一緒に入る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ゴシゴシゴシ……

 

 何かを擦る音が響く。

 

 ユートの背中をタオルで擦っているすずかは、顔を真っ赤に染めながら腕を上下に動かしている。

 

 直接、触れてみて判った事だったが、ユートの肉体は細身で筋肉なんて付いていない様にも見えて、実は絞り込まれた筋肉が充分に付いていた。

 

 それでいて柔軟な身体、どれだけ鍛えたらそうなるのか、すずかは全く想像も出来ない。

 

 それに傍に居ると判るのだが、吸血種──【夜の一族】としての嗅覚がユートの血液を〝美味しそう〟だと感じている。

 

 ゴクリ……

 

 我知らず、喉を鳴らしてしまうすずかではあるが、直ぐに我に返ってブルブルと頭を振り衝動を抑えた。

 

 まだ子供のすずかに吸血衝動など無い筈だったが、ユートの血液は余程の味に思えたのだろう。

 

 吸血種の本能を刺激してしまうくらいに。

 

 無理もあるまい、実際にユートの使徒の中には2人の吸血鬼が居て、どちらも血液の味に病み付きだ。

 

 セブンセンシズの小宇宙を含有する血液は、吸血種にとって豊潤で深い味わいの極上ワインにも等しいらしく、下手に噛ませてしまうと吸い尽くす勢いで飲みかねない為、手首を切って其処から溢れた血を飲ませている。

 

 何しろ、小宇宙そのものが正しく【生命の雫】とも云うべきエネルギー。

 

 ちょっと魔力が含有されただけの血液など、これに比べれば泥水にも等しい。

 

 因みに、使徒化を望んでいるハーフヴァンパイアが居るが、術で女性化は可能なものの実際は男であるのがネックで、現在は保留となっていた。

 

 一方のユートも、すずかの未来──15歳と19歳──の姿を識るが故にか、白い肌や少女特有の甘い匂いに、分身が自己主張をしてしまっている。

 

 数えで9歳だとはいえ、流石は【夜の一族】というべきか、異性を誘惑する為この一族は純血になる程、美しく生まれると聞く。

 

 宗家筋──月村、綺堂、氷村──から遠縁になるにつれ、その傾向も薄くなるらしく、月村を名乗っていたとはいえ安次郎は心根と同じくらい醜くかったが。

 

 19歳のすずかを識るからこその反応とはいえど、ユートはそれをぶつけたい訳でもない。

 

 流石にリアル9歳に手を出す程、外道ではないからずっと我慢の子である。

 

 洗い終わってお湯を掛けたすずか、当然だが前の方は自分で洗った。

 

 すずかは湯船に浸かりながらユートに話し掛ける。

 

「ねえ、優斗君……」

 

「なに?」

 

「私も本当に聖闘士をやれるのかな?」

 

「さっきも言った通りで、闘う覚悟があるなら試験をした上で、聖衣を与えるのは吝かじゃないよ」

 

「試験……それに合格したらって事?」

 

「そう」

 

 子供を闘わせる云々に関しても、ユートにとってはどうでも良い……というか自由意思に任せていた。

 

 当然ながら保護者からの同意は必須だし、闘う身となれば護られるだけの存在としては扱わない。

 

 実際、麻帆良でヘルマンが襲撃してきた際、自らが裏に関わった者は後回しにして、本来なら関わっていない人物のみを、優先的に助け出している。

 

 無論、助けないという訳ではないのだが……

 

「私、頑張るよ!」

 

「……平和に暮らせるんだから、わざわざ死と隣り合わせの闘いを選ばなくても良いだろうに」

 

 取り敢えずやる気満々なすずかに、苦笑いをしながら嘗ての生徒達を思い出していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが艦船内の自室に持つキングサイズのベッドには流石に及ぶべくもないものの、それなりの広さを持つベッドは子供2人が寝るには充分で、ある程度なら離れて眠るスペースとて有るというのに、すずかはピッタリとユートに寄り添う様、横になっている。

 

 というか、文字通り抱き枕となっていた。

 

「えへへ、今夜は優斗君と一緒だよ♪」

 

 スリスリと自分の匂いを擦り付けるかの如く、顔をユートの胸板に擦る。

 

 軈て、眠りの淵に落ちてゆくすずかは、ユートが出てくる愉しい夢を視た。

 

 翌日……ユートの今日の予定を訊いた処、朝から昼に掛けてギリシアとの土地売買に関する事を、月村とバニングスに依託。

 

 その日の内に聖域の外観だけでも体裁を整える。

 

 夕方からは残り十二個のジュエルシードを探索。

 

 兎にも角にも、聖域という警護組織の創設を早目に行いたいのだという。

 

 また、今後の予定として一段落したら聖祥大付属小学校に編入する事になる。

 

 実年齢は兎も角、一応は見た目が9歳かそこらな訳だから、小学校には通わなければならないらしい。

 

 これにはすずかも喜ぶ。

 

「それと忍さん」

 

「何かしら?」

 

 ユートはトランクを開いて忍に見せた。

 

「この携帯電話は?」

 

「レスキュー用のパワードスーツを装着する為の携帯ツール。これを日本政府に売れないかな?」

 

 某・特別救急捜査隊などを設立も可能なツールで、マインド・トリガーとキー操作により、粒子状になったパワードスーツを復元、装着が出来る。

 

「交渉はしてみるわ」

 

 何だかキラキラと子供の様に目を輝かせていたが、大丈夫だろうかとユートは少し不安になった。

 

 

 

.




.
 これを移転した時点で、無印篇は全25話が完成していたり……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話:一念発起 聖域創設開始

.

 デビット・バニングスと月村 忍の2人は、ユートを伴って自家用ジェット機でギリシアへと向かう。

 

 ユートの生まれた地球で聖域が存在した土地を購入するべく、値段交渉やその他の諸々を行う為に。

 

 ギリシアのアテネ市内、午前5時と割かし非常識な時間帯を選んでの交渉は、それ自体は割とすんなりといき、凡そ壱億二千万円……百万ユーロ程でその土地を売却された。

 

 完全な自治区とするなどを鑑みれば余りに安いが、元より何の資産価値も無い土地であり、ギリシア共和国政府も持て余していた事が幸いしたというか、先回りで何処ぞの白い魔王様がそうなる様に、細工したと視るべきかも知れない。

 

 ただ、このギリシアにはギリシア正教が普通に在る筈だったが、政府はアテナ神像を造る予定を話すと、可成り良い笑顔で話を進めてくれたのは何故だろう?

 

 この地に聖域が存在しないのは、あの土地に行って理解はしていたが、一応はスニオン岬に行って何処かに岩牢が無いか捜す。

 

 よもや、海皇ポセイドンの三又の矛が存在していたらちょっと事だし……

 

 実際に行ったら、そんなモノは無かった。

 

 どうやら聖闘士星矢的な世界は混ざってないらしい……といってもこの先で、自分から混ぜるのだが。

 

 だとするならば、中国は廬山・五老峰にも老師が居た場所に大滝など無いという事になり、中国とインドの国境付近の標高六千メートルの山岳地帯ジャミールも存在しないという事。

 

 無ければ創れば良いじゃない……とはいかないし、聖域だけで事足りる。

 

 若し必要ならダイオラマ魔法球を使い、其処に再現してしまえば良い。

 

 ユートはギリシアの奥地たる此処に、大きな結界を展開して【錬成】を用い、小宇宙を全力全開で放って聖域を創り上げる。

 

 黄金十二宮、教皇の間、アテナ神殿、スターヒル、聖闘士や雑兵の居住区など全ての施設を完成させた。

 

 また、現在まで所有者が決まっていない黄金聖衣に関しては、聖衣に対応した宮にオブジェ形態で飾っておく事にする。

 

 金牛宮に牡牛座聖衣。

 

 魔羯宮に山羊座聖衣。

 

 二つだけだが……

 

 何気にこれまで渡ってきた世界に、自分も含めれば合計で十名の黄金聖闘士が決定していた。

 

 後は無印が終了してから順次、使徒たる黄金聖闘士を喚べば良い。

 

 現状で喚べるのは一名、牡羊座のシエスタのみだ。

 

「雑兵には田中さんの外見を変えたモノを使うか」

 

 【脱げビーム】を使える田中さんなら、女性魔導師はそれだけで逃げ出すだろうし、男も裸族でもなければ好んで脱げたくはないだろうから使えそうだ。

 

 彼ら管理局がお好みで、ご自慢の非殺傷な魔導兵装でもあるし……

 

 ジャミールが存在しない以上は、聖衣の修復施設も必要になる訳だが、それは白羊宮にでも備え付けておけば良かろう。

 

 シエスタも貴鬼から修復を教わっているし、どうせ形だけでも良いのだから。

 

 形に拘るのは、場合によってアースラのスタッフを案内するかも知れないと、そう考えての事だ。

 

「田中さんは取り敢えず、百機ばかり雑兵装備でもさせて運営させるか」

 

 数が必要なら、超 鈴音と葉加瀬聡美を喚ぶというのもアリだが、喚べるのは最短でも二ヶ月は先。

 

 それまでは、茶々丸型を十機ばかり出して田中さんを統轄させるしかない。

 

 茶々丸型を一機につき、田中さんを十機纏めさせる算段である。

 

「はぁ、これが聖域か」

 

「成程な、これは……」

 

 同行してた忍とデビットが感嘆の声を上げながら、聖域を見て回っている。

 

 この2人には聖域の仕事を各国に承認させるべく、働き掛けをして貰う為にも実際に聖域を見せていた。

 

 つまり、国連を動かそうという訳である。

 

 勿論、月村とバニングスの企業だけではどうしょうもない話だが、彼らの伝手やコネクションも最大限に活用して貰うし、交渉材料としてユートの持つ最先端技術もある程度は解放する心算だった。

 

 少なくとも、ユートが所持する超技術(チャオ・テクノス)やマジックアイテムの数々を、各国が無視するには大き過ぎる。

 

 事実として、ギリシア共和国政府も某・特別救急捜査隊御用達な特救ツールに興味津々だった。

 

 また、生まれた世界での財団法人【OGATA】を此方でも設立し、聖域でのバックアップとする。

 

 超技術(チャオ・テクノス)も【OGATA】財団の一部門として設立して、トップにあの2人を持ってくる心算だ。

 

 外食部門はさっちゃんに頼み、超胞子(チャオパオズ)を設立する。

 

 あの世界では使徒にこそならずとも、ユートを慕って若さを保ち着いてきてくれる者も多く、必要とあらば喚ぶ事も出来た。

 

 ユートも、彼女らの非常識なまでの高性能な能力に一目置いている。

 

 勿論、親しき仲にも礼儀アリという事で、出来得る限りの対価は支払うが……

 

 兎に角、組織として体裁を整えておかねば管理局に舐められるし、何より個人では色々やり難い事も多々あるのだから。

 

 将来的には、レジアス・ゲイズを引き込む為にも、超と葉加瀬に開発を頼んだ量産型鋼鉄聖衣を此方でも用意しておきたい。

 

 鋼鉄聖衣はユートの使徒候補だった者以外に聖衣を与える為、あの2人に開発を依頼した経緯がある。

 

 その中でも、魔導衣と名を変えた量産型鋼鉄聖衣を世に出した。

 

 通常の物と違い、超小型魔導炉を搭載した鋼鉄聖衣であり、デザインも量産型に相応しく没個性。

 

 低コスト化と、整備性の向上を目指した魔導衣は、魔法を扱えない人間に魔法を与えるとはいかないが、魔力による身体強化と単純な魔力弾を放つ事は可能。

 

 戦隊で使われてる銃と剣のコンパッチ型の武装で、魔力弾と魔力刃を飛ばす。

 レジアスもこれならば、採用し易いだろう。

 

 混ぜるな危険というか、あの2人に加えてユーキが入ると、正に狂気のマッドサイエンティストだったという訳である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 国連との交渉などに関しては、忍とデビットに任せる事にして、ユートは早々と日本に帰還する。

 

 原典の第二話で、子犬に憑いたジュエルシード回収をする為だ。

 

 出来るだけ管理局に渡さない為にも、高町なのはには回収させないようにしておきたい。

 

 どうせ、管理局が回収していったとしても、知らない間にジェイル・スカリエッティに盗まれて、ガジェットの動力原にされるだけなのだし、渡す意味などは何処にもなかった。

 

 八束神社へ子犬の散歩に来ていた女性、子犬が拾ったジュエルシードが発動して怪物になってしまう。

 

 ジュエルシードの発動に気付き、なのははユーノと神社まで走った。

 

 先日の槙原動物病院での一件の事も気になったが、街のご近所であんな物騒な代物が発動しては困ってしまうからと、なのはは協力する事にしたらしい。

 

「あれは! 現住生物を取り込んでいるみたいだ!」

 

「ど、どうなるの?」

 

「実体を取り込んでる分、手強くなってるよ!」

 

 単なる思念体だった前回より、現地生命体を取り込んだ分、あやふやな思念体より強いのだという。

 

「どうしよう……」

 

「なのは! レイジングハートの起動を!」

 

「ふぇ! 起動って?」

 

 突然、そんな事をいわれてもどうすれば良いのか、なのはは判らなかった。

 

「『我を使命を』から始まる起動パスワードを!」

 

「えぇっ? あんな長いの覚えてないよぉ!」

 

「それじゃ、もう一度教えるから繰り返して!」

 

「わ、判ったの!」

 

 だけど、怪物がそれを待ってくれる保証など無い。

 

 テレビのヒーロー番組ではあるまいし、変身シーンを大人しく黙って見ている訳がなかった。

 

 怪物はなのはにその鋭い牙で襲い掛かる。

 

「ヒッ!」

 

 凶悪なケダモノが、牙を剥き出しにして涎を滴ながら襲いくる様は、まだ9歳かそこらの少女には耐えられない恐怖を与えた。

 

「い、イヤァァァァッ!」

 

 マスターを危機より護るべく、レイジングハートが起動しようとしたその時、なのはと怪物の間に人影が躍り出る。

 

「死之遠吠(デッドハウリング)!」

 

『ギャワン!』

 

 音速に達する拳の勢いが鎌鼬を呼び、ジュエルシード・モンスターの躰を切り裂いて吹き飛ばした。

 

 その姿は、夜中の事だったがユーノも覚えている。

 

「き、君は昨夜の!」

 

「下がっていろ」

 

 ユーノの言葉に応えず、下がる様に促すがなのはは食い下がってきた。

 

「だ、駄目だよ! あの子は昨夜のより強いんだし、協力をしよう!」

 

「怪物のプレッシャーに負けて悲鳴を上げる様じゃ、足手纏いだ」

 

「そんな事、無い!」

 

 尚も言い募って近付いて来るなのはだが、ユートは右腕を一閃……

 

「キャッ!?」

 

 すると、なのはがまるで壁に阻まれたかの如く弾かれてしまう。

 

「え? 何?」

 

 驚くなのはは、その透明な壁に手をペタペタと添えて首を傾げた。

 

「これは、障壁なのか? 魔法……じゃない。魔方陣も出なかったし、何よりも魔力を全く感じなかった」

 

 魔導師のユーノは当然、魔法を中心に考える。

 

 故にこそ、ユートの技を不可思議に感じていた。

 

「結晶障壁(クリスタル・ウォール)。ちょっとやそっとの衝撃ではその壁を壊せはしない。其処で大人しく見ていろ」

 

 ユートは防護服を着るでもなく、生身の侭で怪物に対峙している。ユーノは、余りにも危険な行為だとも思ったが、こんな障壁を張れるなら……とも思う。

 

 ジュエルシード・モンスターがユートを襲う。

 

「危ない!」

 

 なのはが叫ぶが……

 

「星屑革命(スターダスト・レヴォリーション)!」

 

 ユートが右腕を突き出しながら叫ぶと、幾条もの光がジュエルシード・モンスターを貫いていた。

 

 所詮は序盤の怪物では、相手になどならない。

 

 ジュエルシードが関わらないなら、なのはの経験値稼ぎに良かった気もする。

 

「妙なる響き闇にて沈め、赦されざる存在(モノ)を封印の輪に……ジュエルシード・シリアルⅩⅥ封印!」

 

 倒れたモンスターに闇が突き刺さり、ジュエルシードが浮かび上がってきた。

 

 ユートはそれに、小宇宙による厳重な封印を掛け、封印匣(シーリングボックス)へと仕舞う。

 

「凄い、彼は戦い慣れてるみたいだ」

 

「そ、そうなの?」

 

 余りに鮮やかな手並み、ぎこちなさを感じさせないそれは、何年も戦い続けた熟練者を思わせる。

 

「お喋りフェレット」

 

「へ? 僕?」

 

「お前がジュエルシードをどうしたいのか、どうして現地の一般人を巻き込んだのかの是非は問わないが、その子にやる気と才能が有るにせよ、ちゃんと家族に伝えるくらいはしておけ。万が一に、家族の知らない所でその子に何かしら遭ったなら、その子の家族に殺されても文句は言えんぞ」

 

「うっ……」

 

 ユーノ──管理世界の住人にとって、管理外世界では基本的に魔法は秘匿せねばならないが故に、秘密にしてきた。

 

 だが然し、殺される云々は置いておくにしてもだ、危険な行為をさせているのに家族へ告げないというのは不誠実だと考える。

 

「其処の子もだ、やる気があるのは結構な事だけど、家族には許可くらい取れ。それと戦場に向かうのに、己れの力すら把握していとは何事だ? 敵を知り、己れを知れば百戦危うからずだろう! 況してや、敵を前に目を閉じるな。シャカじゃあるまいし」

 

 戦う直前にどうすれば良いのかオロオロしていたという事実がある故、なのはも反論のしようがない。

 

 一方的に言うと、ユートはその場から直ぐに姿を消してしまう。

 

 障壁はユートの姿が見えなくなると、勝手に自壊して消えた。

 

 なのはとユーノは呆然となり、ユートが消えた先を見つめる事しか出来なかったという。

 

【封印されたJS】

ユート=10個

なのは=1個

○○○○=0個

 

残りのJS=10個

 

 

 

.




.
 少しご都合だけど……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話:集結開始 リリカルな聖闘士候補

.

 なのはとユーノは俯き、どうしたら良いのかが判らずにいた。

 

「家族に話せ……か」

 

「理屈としては間違ってはいないよ、なのは」

 

「けど、それって駄目なんだよね?」

 

「うん、管理外世界で魔法を扱うのは本来駄目だし、当然だけど教えるのも厳禁なんだよ」

 

 緊急避難的になのはへとレイジングハートを託したユーノだったが、本当であれば管理外世界の原住民に接触も余り許可されない。

 

 自分で何とかなるなら、そうしていたのだが……

 

「だけど尤もでもあるし、なのはのご家族には話しておこう」

 

「でも……」

 

 なのはの懸念……それは反対をされる事。

 

 嘗ての時、父である士朗が〝事故〟で大怪我をさて入院した際、まだ小さかったなのはには何も出来ず、母親は兄と翠屋を盛り立てていき、姉は士朗の世話をしていたというのに、自分は公園で独りぼっち。

 

 何も出来ない無力感と、たった独りの淋しさが幼いなのはの心を苛んだ。

 

 それは数年が経った今でも変わりなく、仲良くしている家族を見て少し浮いているなんて思うくらいに、ジワジワと闇が侵食した。

 

 なのはが闇の虜にならなかったのは、偏に親友達との交流と魔法という特技の確立にあるだろう。

 

 だから怖い、家族に話して魔法を取り上げられてしまうのが。自分自身、危険な事をしているという自覚があるし、逆の立場であれば止めると思うからだ。

 

 だが然しだ、あの少年は家族に話せと言っていた。

 

 若しも話さない侭で続けていたら彼はどうするか? きっとなのはが関われないようにするに違いない。

 

 今日の夕方と同じ様に。

 

 そうなれば自分は……

 

「(ヤクタタズ)」

 

「どうしたの、なのは?」

 

「っ!? あ……な、何でも無いよ」

 

 一瞬、頭を過った言葉を振り払う様に頭を振って、「にゃはは」と笑顔を貼り付けながら言う。

 

 ユーノはほんの僅かに、フラットになったなのはの表情が気に掛かるものの、「そう」と首を傾げながら話題を移す。

 

「兎に角だよ、僕としてはなのはの家族くらいには話しておこうと思うんだ」

 

「……判ったの」

 

 内緒にした侭、何かしら遭ったらそれこそ魔法を取りあげられかねない。

 

 そう判断したなのはは、ユーノの提案に乗る。

 

 その後、家族の前で魔法について語ったら、士郎は『覚悟はあるのか?』と訊ねてきた。

 

 それは怪我をする覚悟、失敗をして後悔する覚悟、そして万が一にも死ぬ覚悟である。

 

 士郎は語る、嘗ての士朗は御神裏・不破流という剣の使い手で、ボディガードという仕事で糧を獲ていたという事を。

 

 数年前の〝事故〟による入院も、ボディーガードでとある人物を護る為にテロリストの仕掛けてきた爆弾の爆発を受けた所為だと。

 戦いはほんの僅かな判断ミスが死を呼び、判断ミスをしなくても場合によって大怪我をする。

 

 戦えば誰かしら怨む者も出てくるし、御神と不破も自分達を怨む裏の人間達が爆破事件を起こして、当時は風邪で寝ていた美由希とその看病をしていた士郎の妹の御神美沙斗、風来坊をしていた士郎と恭也だけしか生き残らなかった。

 

 美沙斗は仇討ちの為に、美由希を自分に預けて旅に出てしまい、今は何処で何をしているかも判らない。

 

 魔法に関わるというのは裏に関わると同義、そんな覚悟が小学生のなのはにあるのかを問う。

 

 一緒に風呂に入った事もあるから、士郎の身体中に傷があるのを知るなのは、士郎の言葉が嘘なんかではないと、実感していた。

 

「その覚悟があるというのなら好きにしなさい」

 

 士郎はそう言って席を立つと部屋を出ていく。

 

 考えさせられはしたが、取り敢えず許可だけは得たなのは。

 

 これで自分もジュエルシードに関われると、胸中で安堵していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 深夜になって忍が家に帰ってくると、そこに居たのは妹のすずかとファリンの2人だけ。

 

 ノエルは忍自身の護衛と秘書を兼ね、ギリシアまで連れて行っていたし、その後も様々な伝手やコネクションを使って、国連事務総長などとの会談に付いて来ていた。

 

「優斗君は?」

 

「はぁ? 昨日は兎も角、優斗君はホテル暮らしの筈だよね?」

 

「あ、そっか……」

 

「優斗君、家に呼ぶの?」

 

 何処か期待する目で見てくる妹に苦笑し……

 

「そうね。すずかが一緒に住みたいなら構わないわ。でも、そういえば優斗君に彼女とか居るのかしら?」

 

 余計な一言と共に言う。

 

 その後、忍はユートが泊まるホテルに電話を掛けてみたが、内線に出なかった事から寝ているか、風呂にでも入っているのだろうと判断する。

 

 それから暫くして、電話が掛かってきた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 備え付けのユニットバスから出たユートは、内線があった事に気が付き、直ぐにフロントへ連絡する。

 

 フロントは『月村 忍』と名乗る人物から、外線があったと教えてくれた。

 

 フロントに礼を言うと、ユートは直ぐにも月村家へと電話する。

 

 ややあって、電話に出たのは果たして忍だった。

 

「もすもす、ひねもす」

 

〔いや、もしもしは此方の科白だと思うんだけど?〕

 

「まあ、ラビットジョークってヤツだよ」

 

〔ハァ?〕

 

 意味が解らないと、忍はきっと首を傾げているだろうと想像する。

 

「それは兎も角、外線があったって聴いて電話をしたんだけど?」

 

〔ああ! あのね、優斗君はホテル暮らしよね?〕

 

「そりゃ、今正にホテルで電話してるくらいだし」

 

〔家で暮らさない? 歓迎するわよ。すずかも私も〕

 

「月村の邸で?」

 

〔そうよ〕

 

「まあ、別に僕は構わないんだけど……」

 

〔何かしら?〕

 

「すずかが僕を歓迎するって理由は?」

 

〔……本気で言ってる?〕

 

 呆れていると言おうか、少し怒りを含んでいるというのか、そんなニュアンスで訊いてきた。

 

 ユートは別に鈍感難聴のオリ主ではないから、理解はしている。

 

 とはいえ、ユートとしては今更……であった。

 

〔優斗君は浚われて、貞操の危機にさえあったすずかを救い出したのよ。謂わばナイト様ってやつね。あの子はその手の、騎士がお姫様を救うとかの本が好きだもの。あの時の状況を重ね合わせたでしょうね〕

 

 切っ掛けは些細な事。

 

「すずかの気持ち云々は、取り敢えず置いとくけど、明日チェックアウトする」

 

〔少し納得がいかないけど……判ったわ。私も明日、聖闘士候補になれそうな子を連れて帰るから、ノエルに入れて貰ってね〕

 

「了解」

 

 そう言うとユートは受話器を置いて、すっかり乾いてしまった身体をバスタオルで拭くと、トランクスだけ穿いてベッドに転がる。

 

「やれやれだね、シエスタを招喚して昨夜の昂りを鎮めて貰おうと思ったんだけどな……」

 

 明日から月村邸に行くのなら、今から招喚して連れ立って行くのも拙い。

 

 結局、その日はすぐ寝てしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ピーンポーン……

 

 月村邸のインターホンを鳴らして名乗ると、ノエルとファリンが挙って歓迎をしてくれる。

 

 忍は大学、すずかも学校に通っているから帰ってくるのは夕方だという。

 

 また、忍は昨夜に言った通りに聖闘士候補となれる人材を連れて来るとか……

 

 ユートもプロバイダ契約をしたパソコンを使って、ネットワークに接続すると専用サーバーを立ち上げ、まほネットを構築する。

 

 これの構築に関しては、詳しい人間に教わっているから、直ぐにも構築する事が出来た。

 

 財団法人を創設するとはいっても、直ぐにどうにかなる訳でもないし、差し当たりの処でアイテム売買によって稼ぐ事にする。

 

 密林みたいなモノだ。

 

 実際に、ユートは彼方側でも本物のまほネットを使って、同じ事をして小遣いを稼いでいた。

 

 直ぐに効果が出るとも思えないし、後で茶々丸型を出して管理を任せようと、そう考えている。

 

 夕方になって、ユートはノエルとファリンを相手にお茶を飲みつつ、愉し気に会話をしていた。

 

「ただいま!」

 

 我が主の妹なら我が主も同然……

 

「お帰りなさいませ」

 

 ノエルはすずかを玄関先で出迎えた。

 

「ノエル、優斗君は来てるかな?」

 

「はい、優斗様はサロンにてすずかお嬢様と忍お嬢様をお待ちです」

 

「ありがとう」

 

 直ぐに部屋へ鞄を置き、聖祥大付属小学生の制服から私服に着替えて、サロンへと向かう。

 

「優斗君!」

 

「やあ、すずか。お帰り」

 

 笑顔で『お帰り』などと言われると、何だかユートが自分の旦那様にでもなった気がして、すずかの頬に朱が差す。

 

「ファリン、私にもお茶をお願い」

 

「はい、すずかちゃん」

 

 すずかは忍が帰ってくるまでは、ユートと他愛ない会話を楽しもうと思った。

 

 暫くは学校の話をしたりしていたが、すずかはふと気が付いた様に訊ねる。

 

「ねえ、聖闘士ってどんなものなの?」

 

「前にも言ったけど、邪悪が蔓延る時に必ずや現れる希望の闘士。星座の聖衣を纏い、地上を狙う神々やら侵略者と闘うのが仕事だ。勿論、霞を食べて生きてる訳じゃないから、各国首脳とは繋がりがあってボディガードなんかをしてお金を受け取ったりしてるけど」

 

「星座の聖衣?」

 

「ああ、それはまだ言ってなかったか。聖闘士は死に直結する様な厳しい修業により、常人を遥かに越える力を持つけど、所詮は生身の人間に過ぎない。ずっと昔の事、アテナは武器を嫌う自分の為に素手で闘って傷付く少年──稀に少女も含まれる──達に悲しみ、海皇ポセイドンが擁している海闘士(マリーナ)が纏う鱗衣(スケイル)を参考に、神々の秘法をムウ大陸の者に与え、宇宙の星々の形を模した鎧……聖衣を与える事にしたんだよ」

 

 流石にいつの話かまでは判らないのだが、少なくとも二千年前の軍神アレスと邪闘士(バーサーカー)との闘いでは、既に聖衣を纏っていた筈だから、更に前なのは間違いないだろう。

 

「厳しい修業って、私もしないとダメかな?」

 

「いや、この世界でも神の闘士が出てくるかは判らないし、僕の造る聖衣のレプリカには纏うだけでパワーアップする機能もあるし、必殺技だってオリジナルから再現してあるからね」

 

 ぶっちゃけ、聖衣を纏えば誰でもある程度であれば闘えるのだ。

 

 己が生命を危険に晒し、敵の生命を断ち、赤い血に塗れる覚悟さえあれば……

 

「聖衣には階級があって、一番下に青銅聖衣、二番目に白銀聖衣、そして最高位に黄金聖衣だ。また、精霊を象る精霊聖衣が白銀相当で存在している。それと、青銅相当にマシーンを用いた鋼鉄聖衣が最近、完成をしているよ」

 

 聖衣には限りがあるが、同じ星座の聖衣を量産など出来る訳もなく、それ故に麻生博士が完成させられなかった鋼鉄聖衣を、超一味を使って完成させた。

 

 元よりユートは小宇宙が使えずとも闘える聖衣というのを造っていた訳だし、超と葉加瀬とユーキを加えてマシーンの鎧、鋼鉄聖衣を造るのは決して難しい話ではなかったのだ。

 

「一応、戦闘訓練はして貰うけどね。死ぬ程のキツいものじゃないよ」

 

「そっか……」

 

 そんな話をしていると、忍が帰ってくる。

 

「ただいま〜!」

 

 ノエルは夕飯を作っている為、玄関に迎えに出たのはファリンだった。

 

 ファリンに案内される形でサロンに入って来た忍の後ろには、2人の女の子が一緒に居る。

 

 青い短髪、ボーイッシュな感じの少女。

 

 同じく短髪だが、緑色の少女は雰囲気が柔らかい。

 

「(城島 晶と鳳 蓮飛)」

 

 晶とレン……

 

 それは、とらいあんぐるハート3に登場したヒロイン達であった。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話:襲名! 小犬と龍と鋼鉄の白鳥

 とらいあんぐるハート、それは【リリカルなのは】のパラレルストーリー。

 

 全部で三つナンバリングが存在していて、外伝やらドラマCDやらOVAやらでメディア展開された。

 

 2のOVAは黒歴史認定されているとか……

 

 先日の会合でも明心館の館長の巻島十蔵が居たり、綺堂さくらが居たりした。

 

 そう、明らかにとらいあんぐるハートの方の人物が可成り混じっていたのだ。

 

 ならば成程、城島 晶と 鳳 蓮飛の2人が居たとしてもおかしくはない。

 

 この2人の登場時期は、高町恭也を主人公としている【とらハ3】で、今から一年前を舞台に恋愛劇を繰り広げている。

 

 この世界でもそうなのかまでは判らないが、どちらにしても同じくヒロインであった月村 忍が恋人となったのがこの世界だというのは間違いない。

 

 この2人は同じ中学校に通うが、互いに【亀】とか【お猿】と呼び合う仲で、さざなみ寮に住んでいる。

 

 ボーイッシュな外見に、男勝りな性格、『オレ』という一人称の城島 晶。

 

 中華系な名前だが喋りは関西という鳳 蓮飛。

 

 どちらも格闘が得意。

 

 確かに聖闘士候補にハマり役かも知れない。

 

「痛っ?」

 

 暫し呆然と見つめていたらしく、不意に横腹に痛みを感じて我に返ると、少し不機嫌なすずかが抓ってきていた。

 

「何をするかな?」

 

「知らない!」

 

 頬を脹らませてそっぽを向くすずか。

 

 やれやれと再び2人の方を向くと……

 

「初めまして、緒方優斗という。一応訊いておくけど2人は何の為に此処に連れて来られたか、理解はしている?」

 

「ん? 侵略者をぶっ飛ばすんだろ?」

 

「なんや、違うんか?」

 

「いや、間違っている訳じゃないんだけど……」

 

 晶とレンの答えを聞いて頭を抱えたくなる。

 

 本当にざっくりと話しただけらしく、何をどうするかなどは忍も話してはいなかった様だ。

 

「まあ、概ねは間違ってはいないかな」

 

「後は、就職にも有利だとか聞いたけど?」

 

「は?」

 

 晶が意味不明な事を言ってくれて、思わず間抜けな声を上げてしまった。

 

「違うん? 忍さんはそう言うてたよ」

 

 どうやらレンも同じ認識らしい。

 

「忍さん?」

 

「あれ? 違ったっけ?」

 

「そりゃ、【OGATA】に属して貰う訳だからね、言ってみればスポーツ選手が企業に属して、スポーツで給料を貰う……みたいなものだろうな」

 

「じゃあ、大丈夫よね」

 

「せめて確認くらい取ってから言おうか」

 

 ユートは呆れ顔で言う。

 

 そうなユートにすずかが小首を傾げて問う。

 

「ねえ、優斗君」

 

「何かな? すずか」

 

「その【OGATA】ってどんな企業なの?」

 

「色々な物を扱う複合企業(コングロマリット)だね、今の処は科学部門と外食部門と農業プラントなんかを押し立ててる」

 

「科学……機械を扱うんだよね?」

 

「まあね」

 

 すずかは何処か決意をした様な表情となる。

 

「改めて自己紹介をする、緒方優斗。財団法人【OGATA】の設立者であり、聖域を統べる黄金聖闘士・双子座のユートだ」

 

「オレは城島 晶。明心館空手を習ってる。宜しく」

 

「ウチは鳳 蓮飛って云います。レンって呼んだって下さい」

 

 ユートが自己紹介を促すと、晶がサムズアップをしながら名乗り、レンも一礼をしてから名前と愛称を名乗った。

 

 早速というか、捌けているというか晶はユートへと質問をする。

 

「で、オレらは何すりゃ良いんだ?」

 

「基本的には普通に暮らしてくれて構わないけれど、非常時や仕事を頼みたい時なんか、連絡をするよ」

 

「ほうほう、派遣社員みたいなもん?」

 

 レンの言葉に苦笑して、ユートは頷く。

 

「ある意味でそうだけど、訓練を毎日して貰う事になるし、聖闘士になった時点で給料が支払われるんだ。さっきの〝呼ぶ〟というのは別枠で、危険手当てとかが入るんだと思ってくれれば間違いないよ」

 

「「おおー!」」

 

 喧嘩する程に仲が良いと云うが、普段は基本犬猿だというのにすっかり息を揃えていた。

 

「それじゃあ、少し動きを見せて貰えるかな?」

 

「なんだ? 亀と模擬戦でもすりゃ良いのか?」

 

「はん、お猿にゃ負けん」

 

「言うじゃねーか」

 

 何故か行き成り挑戦的な言動になり、晶とレンから闘志が沸き上がり……

 

「喰らえ!」

 

「やらせんわ、ボケー!」

 

 此方が何を言うでもなく始めてしまう。

 

「良いの? あれ……」

 

「まあ、動きを見たいだけだから相手は誰でも良かったんだよ」

 

 忍がタラリと大粒の汗を流しながら訊くが、ユートは止めるでもなく2人の動きを視ていた。

 

 一時間ばかり暴れて流石に草臥れたのか、晶もレンも座り込み肩で息を吐く。

 

「ゼー、ゼー! どうだ、こんにゃろー!」

 

「はん、ウチの動きに付いてきてから言いや!」

 

 何処までも不敵に言う。

 

 どうでも良いが、レンは心臓疾患は根治しているのだろうか? 随分と元気に見える。

 

「空手に拳法……か」

 

 ユートは亜空間ポケットに手を突っ込み、ガサゴソと探ると何やら取り出す。

 

「晶には、青銅聖衣の小犬星座(カニスミノル)だね。レンのは同じく青銅聖衣の龍星座(ドラゴン)」

 

「小犬星座(カニスミノル)……?」

 

「龍星座(ドラゴン)かぁ」

 

 聖衣石を渡されて、晶もレンもマジマジとそれを見つめる。

 

 子犬星座(カニスミノル)は造って間もない聖衣で、これまでに纏い手も居ないモノだった。

 

 一方の龍星座(ドラゴン)の聖衣は、ハルケギニアの時代にミイナが纏っていた聖衣だが、彼方側で新調していたモノで形状がΩ版の方に近い。

 

 但し、柔らかい布みたいな金属とか訳の判らない物では当然なくて、キチンと星座のオブジェ形態から、聖衣形態となる。

 

 だから実際にはΩ版とも少し形状が違う。

 

「マインド・トリガーといって、基本的にはキーとなる言葉を叫べば使える」

 

「叫ぶのか?」

 

「叫ぶんか……」

 

 晶もレンも戦慄したが、ノリが良いのか早速使ってみようとして……

 

「「マインド・トリガーって何?」」

 

 根本的に、マインド・トリガーを聞いていない事に気が付いて訊いて来た。

 

「聖衣の名前とフルセットって言葉だよ」

 

 ユートは苦笑いを浮かべて教える。

 

「っしゃー! 小犬星座(カニスミノル)……フルセット!」

 

「龍星座(ドラゴン)、フルセット!」

 

 聖衣石を着けた腕を掲げながら叫ぶと、山吹色に輝く小犬のオブジェと翠色に輝く龍のオブジェがそれぞれの頭上に顕れ、自動的に分解装着されていく。

 

「これが聖衣か」

 

「ほえ〜」

 

 自分に装着された聖衣を見つめ満足そうに呟く晶、感嘆の声を上げるレン。

 

「へー、中々に格好良いじゃない?」

 

 忍も関心が有るらしい。

 

「前の龍星座には付いていなかったけど、今回の新調した方には属性がある」

 

「属性?」

 

 ユートの説明に、レンが首を傾げ鸚鵡返しに訊く。

 

「土、水、火、風、雷という五つに加え、光と闇……合わせて七属性。今までは特定の聖衣に付けていた。それを龍星座にも付けてみたんだよ」

 

「オレのもか?」

 

「小犬星座聖衣(カニスミノル・クロス)は土属性。まあ、イメージ次第で出来る事が増えた感じかな」

 

 その辺は魔法に近い。

 

 クイクイと服の裾を引っ張られて振り返ると、瞳をキラキラと輝かせたすずかが居る。

 

「わ、私は?」

 

「すずか、本気で聖闘士になりたいのか?」

 

「うん!」

 

「どうして? 聖闘士になるってのは、平穏を捨てるという事に等しい。格闘家の晶とレンならまだしも、文系のすずかがなる必要は無いと思うんだけど?」

 

「それは……」

 

 モジモジと尻窄みになってしまう。

 

「なら質問を変えようか。すずかは僕が好き?」

 

「ふぇ!?」

 

 すずかは仰天した。

 

 余りにもぶっちゃけている質問だからだ。

 

「僕が好きだから、傍に居たくて聖闘士になりたいって思ってる?」

 

 明け透け過ぎてすずかの顔は真っ赤に染まる。

 

「言っておくけど、茶化している訳じゃない。真面目に訊いているんだ」

 

 確かに雰囲気的に茶化しているとは思えず、すずかも少し熱が冷めたか、まだ頬が赤いが真面目な目になって首肯する。

 

「うん、そうだよ」

 

「やめておいた方が良い」

 

「うっ!」

 

 間髪入れずに答えられ、フラれたのだと思い涙を浮かべた。

 

「私じゃ……ダメ?」

 

「勘違いしないで貰おう。僕はそもそも、恋愛なんて今更出来ないんだよ」

 

「どういう意味?」

 

「すずかは僕の年齢、幾つに見える?」

 

「同い年くらい」

 

「其処からして間違いだ。僕は今生だけで数十年を越えて生きている。前世や前々世で百七十年はプラスされるから、もう二百年以上の人生なんだよ」

 

「に、二百年!?」

 

 前々世は【受容世界】で二十歳まで生きて、ハルケギニアでは約百五十年。

 

 今生は幾つか世界を廻る内に数十年は過ぎた。

 

「前々世では二十歳で死んでしまったし、それまでに縁が無かったというより、妹に邪魔されてたらしくて彼女が居なかったが、前世では恋愛をして結婚だってしている。その記憶は継承されているし、使徒という形で今も存在して繋がってもいるんだ。そんな僕が、恋愛なんて出来ないよ」

 

 精神的にも、繋がり的な意味合いでも……だ。

 

「それでも気に入った娘と使徒契約を結び、増やしている訳なんだけどね」

 

 それは恋愛感情などではなく、性欲や所有欲を満たす為のものでしかない。

 

 勿論、その説明はする。

 

 今、正にすずかに対してしている様に……

 

「つまりはあれか、ハーレムなん?」

 

「レン、正解」

 

 困った様な笑みで言う。

 

「ハーレム要員は何人くらい居るのかしら?」

 

「数え切れない。という訳でだ、それでもすずかは僕と居たいのかな?」

 

 忍の質問を軽く流して、すずかに問うユート。

 

 すずかは少し戸惑いを覚えつつも……

 

「居たいよ、それって私が加わっても問題は無いって事なんだよね?」

 

 ハッキリと答えた上で、自分の枠について問い返して来た。ユートは瞑目し、ゆっくりと頷く。

 

 すずかを【夜の一族】と知りながら受け容れる剛の一般人は居ないだろうし、言ってみればすずかを受け止められて、尚且つすずか自身が好きになった相手。

 

 多少の問題点はあるが、躊躇う理由も無かった。

 

「ハァー、判ったよ」

 

「それじゃあ!」

 

「使徒候補としておく」

 

「うん!」

 

「すずかにはこれを」

 

 ユートがすずかに手渡したのは、青銅聖衣を与えられた晶とレンの聖衣石とはまた異なる物。

 

 何と言おうか、デジタル時計みたいな感じだ。

 

「それは鋼鉄聖衣(スチールクロス)の聖衣石。見ての通り、時計の役割も果たす代物だ。鋼鉄聖衣は他の聖衣みたいな神秘でなく、機械を詰め込んだマシーンクロス。それは大空聖衣(スカイクロス)の白鳥(キグナス)といって、青銅聖衣の白鳥星座(キグナス)とも別物の聖衣だよ」

 

「大空聖衣(スカイクロス)白鳥(キグナス)?」

 

「鋼鉄聖衣はその在り方により、大空聖衣(スカイクロス)、大地聖衣(ランドクロス)、大海聖衣(マリンクロス)の三種が存在する」

 

 空を飛ぶタイプが大空聖衣(スカイクロス)。

 

 地を駆けるタイプが大地聖衣(ランドクロス)。

 

 海を泳ぐタイプが大海聖衣(マリンクロス)。

 

 それぞれの星座のタイプにより、特徴を三つに分けているのである。

 

 鋼鉄聖衣に人間モチーフ──アンドロメダやカシオペアなど──の聖衣や器物──時計座や六分儀星座──の聖衣は無い。

 

 全て鳥獣系である。

 

「マインド・トリガーは、聖衣名にスタンバイだよ」

 

 すずかは首肯して叫ぶ。

 

「大空聖衣(スカイクロス)白鳥(キグナス)……スタンバイ!」

 

《Ready setup》

 

 聖衣石が輝いて、まるで尾羽が派手な飛行マシンの様なオブジェが顕れると、分解されてすずかの身体を鎧っていく。

 

「鋼鉄聖闘士……大空聖衣白鳥(スカイクロス・キグナス)のすずか!」

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話:女神 喩え異世界の貴女(アテナ)でも

 大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)を纏ったすずかは、女の子らしいラインが強調された謂わばレオタードの上に、少しだけ機械っぽさのあるクールホワイトの如く輝きを放っているハイレグアーマーに頬を朱に染めながら、自分の出で立ちを見つめた。

 

 背中の両翼は白鳥らしく静謐だが、これがどうやらスラスターとして機能し、蒼空をも翔べるらしい。

 

「ふわぁぁ……」

 

 感嘆の声を上げたすずかはユートの方へ、何処かしら期待の眼差しを向ける。

 

「うん、まるで誂えたみたいによく似合う。可愛いよすずか」

 

「う、うん……」

 

 顔が熱くなるのを感じながら、すずかは両手で頬を押さえて照れた。

 

 思っていた以上の言葉を貰って嬉しい、それこそがすずかの紛う事なき気持ちである。

 

 忍はユートとすずかのやり取りを見て、少しばかり戦慄を覚えた。

 

 何しろ、ほぼナチュラルに彼処まで誉めたのだ。

 

 ユートは自覚の有る無しに拘わらず、相当な遣り手の女誑しだろうと思う忍であった。そして、それは間違いではない事をいずれ思い知る事になるだろう。

 

「さてと、これで聖闘士が僕を含めて4人。だけど、もう1人喚べるから5人。まだ寂しいものだけれど、一応の体裁は整ったかな。後は象徴だろうか?」

 

「象徴って?」

 

「勿論、アテナの聖闘士の象徴は崇拝すべき女神たるアテナだよ」

 

「ああ、成程ねぇ」

 

 忍はうんうんと頷く。

 

 聖闘士は闘士であるのと同時に、宗教法人みたいな側面があった。

 

 女神であるアテナを崇拝しており、その教敵と闘って【聖戦】等と謳う様は、間違いなく宗教である。

 

 ユート自身は狂信を好むものではないが、アテナが自身に奉じるのを聖闘士達以外に求めないからこそ、やっていられるのだ。

 

「アテナの聖闘士なのに、奉じるべきアテナが居ないというのは片手落ちだね」

 

「けどよ、神様なんて本当に居るってもんでもないだろうに」

 

 ユートの言葉に晶が困った様に言う。

 

「この世界には妖怪が普通に居るし、幽霊だって存在する。魔法や霊能、超能力だって在るんだから、神様だって居ても良いだろう」

 

 内氣功くらいであれば、氣だって存在する世界。

 

 これなら神や神の闘士が居ても不思議ではない。

 

「まあ、無い物ねだりしてもしゃーないやんか」

 

 レンも神の存在に関しては懐疑的の様だ。

 

「無い物ねだり……か」

 

 無い袖は振れない、理解はしているのだが……

 

 忍がふと気が付いた様に提案を出す。

 

「貴方の元居た世界の女神を連れて来るとか?」

 

「沙織お嬢さんは向こうのグラード財団の総帥だし、他所の世界に出向く暇なんて流石に無いよ」

 

 暇を持て余している様に見えて、実際にはグラード財団総帥として、未だ若輩の小娘ながら頑張っているのだから連れてなど来れないだろう。

 

「ダメかぁ」

 

 ガックリ項垂れる忍。

 

「っていうか、財団の総帥なんてしてるの?」

 

「アテナが降誕するのは、聖戦の兆しが見えた時だ。だけど降誕して間も無く、教皇を殺して入れ代わったサガが暗殺しようとして、射手座のアイオロスに止められて失敗。聖域から脱出したアイオロスは、アテナを弑しようとした逆賊として逐われたんだけど偶々、ギリシャへ観光に来ていたグラード財団の総帥の城戸光政と会って、アイオロスは彼に赤子のアテナと射手座の黄金聖衣を託したって訳だよ」

 

「つまり、まだ赤ちゃんだったアテナは、城戸光政に育てられた?」

 

「そう。光政はアテナに全てを捧げたんだ。グラード財団総帥の地位、そして……自身の百人の子供達も」

 

「ひゃ、百人? それは、ツッコミ所なのかしら?」

 

「もう可成りの高齢者っぽかったから、大した絶倫な爺さんだったんだろうね。金に飽かして抱いたのか、それともモテただけか」

 

 一応、百人の中でも同じ母親の兄弟──一輝と瞬──が混じっていた訳だし、そう考えれば本当に百人の女性を抱いたのでは無いとも云えるが、単に妊娠しなかっただけだとしたなら、百人切りを達成していたという可能性は無きにしも非ずだった。

 

「ただ、本当の息子達だってのに財産が全部他所の子に渡ったってのは、どうなのかとも思うよ。一応は、生き残った10人に財産を分与されたけど……」

 

 これは別に遺言があった訳ではなく、沙織が実の子に対して幾らかを渡したというだけだ。

 

 ユートが相談を受けて、お金の問題でもないけれど形だけでもという事で。

 

 『誰か馬になりなさい』なんて言っていた幼少時を思ったら、誰も同一人物だとは気付けないだろう。

 

 それぞれがそれぞれで、お金は使ったらしい。

 

「生き残ったのが10人、それって他の90人は?」

 

「聖闘士の修業に出された100人中90人は死んだか行方不明になった」

 

 本来の聖闘士となる修業がどれだけ過酷か、晶達は改めて知った思いだ。

 

「然し、違う世界のアテナ……か。うん、往けるか」

 

「え? だってさっきは」

 

「嘗て僕が行った世界で、僕が斃したアテナが居る。斃したけど、殺しても滅ぼしてもいない」

 

「は?」

 

 ユートは亜空間ポケットに手を突っ込み、ガサゴソと空間内を探って引っ張り出した。

 

 それは蛇の紋様が刻まれたメダリオン。

 

「それは?」

 

 忍がメダリオンを見て、何か圧迫感を感じるらしく頭を押さえながら訊く。

 

「とある世界に於いては、神話が意味有る形となった神々が存在した。それを、人々は畏怖を籠めてこう呼んだ……【まつろわぬ神】であると」

 

「神話が意味有る形に?」

 

 その世界では超常現象や自然現象、更に人々の歴史などから神々が発生した。

 

 神話という形に括って、奉じる事で封じていたという訳である。

 

 だが、その中から神々が顕現して悪さをする場合も稀にあった。

 

 性質が悪いのは、英霊と呼ばれる者でさえ神に列せられるという事であろう。

 

 それが【まつろわぬ神】という存在。

 

 ユートはとある理由からその世界に行き、パンドラというエピメテウスの妻であり、神々を殺せし存在の支援者と出逢い、羅刹の君だの神殺しの魔王だのと呼ばれる存在へと成った。

 

 ユート自身はその世界の神々を一柱も殺してはいないが、パンドラがユートの真の上司に頼まれ、神殺しの魔王としてその世界にて働く事を条件に、その事を了承したらしい。

 

 それによってユートは、七番目と同時期に八番目の魔王として産声を上げた。

 

 謂わば、双子の羅刹王。

 

 その闘いの中でアテナと出逢い、最終的には降す。

 

 正確にはとある存在との闘いで力を使い果たして、神霊としての意識など喪われようとしていた。

 

 その一部というか、記憶と意識と人格を拾い上げ、依代となるゴルゴネイオンに眠らせたのだ。

 

 勿論、アテナの了承を受けた上で……

 

 その後の事は扨置いて、ユートが沙織からアテナの神力(デュナミス)と血液をゴルゴネイオンに与えて貰う事により、眠るアテナは復活を遂げている。

 

 尤も、活動する必要も無かったが故に、ゴルゴネイオンで眠りっぱなしだ。

 

「そしてコレだ」

 

 更には赤い液体が入った小瓶を出す。

 

「これ、甘くて芳醇な香りがする……血液?」

 

「そう、今代のアテナたる城戸沙織お嬢さんの霊血(イーコール)だよ」

 

「神の……血液」

 

 思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう忍。

 

 アテナは同性であるが、神の血液だからか吸血種としての本能が疼く。

 

「アテナを眠りから醒ますのに必要だからって、貰ったモノだよ」

 

 小瓶の蓋を開け、血液をゴルゴネイオンへ掛けた。

 

 ドックン!

 

 ゴルゴネイオンが脈打つかの如く音が響き、モクモクと煙が上がったかと思ったら、それが密度を増して人の形を執り……

 

「はわわ、これが!」

 

「アテナ?」

 

 銀髪の少女となった。

 

 古の蛇にして夜空を翔るフクロウ、智慧と大地と戦を司る死の使い……

 

 女神アテナ。

 

 アテナはゆっくりと瞼を開き、その空色の瞳を露わにしてユートを見遣る。

 

「久し振りだね、まつろわぬアテナ」

 

「久しいな。我が憎(いとし)き神殺し、緒方優斗」

 

 見た目にはユートが初めて見た時と同じ、小学生……よくても中学生と見紛う少女の姿だったが、忍には理解が出来ていた。

 

 この素っ裸なお子ちゃま女神が、見た目通りの存在では無い事を。

 

 まあ、取り敢えずだ……

 

「ノエル、私のお古で良いから下着と服を見繕って来てくれる?」

 

「判りました、忍お嬢様」

 

 何かを着せなくてはならないだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ノエルが持ってきた服を着ると、アテナはユートから此処に目醒めさせた理由を説明された。

 

「ふむ、相も変わらず厄介な事に首を突っ込む事よ。それで緒方優斗、貴方は要するにまつろわぬアテナである妾に、祀られろと?」

 

「まあね」

 

「しかも、よりにもよって貴方が仕えたアテナの真似事をしろとはな」

 

「嫌かな?」

 

「むう、そんな捨てられた仔犬みたいな表情をするではない。まあ良い、悠久の刻の果てにまつろわぬ妾が祀られるのも悪くはない。何より貴方と妾は、互いに闘い(あいし)合った仲よ。

但し、アテナの聖衣とか言ったか? それを妾に与えるのが条件だ」

 

「アテナの聖衣か」

 

 アテナの聖衣──アテナが自ら纏う聖衣が存在し、聖域はアテナ神殿の巨大なアテナ神像こそ、アテナの聖衣そのものだ。

 

 代々の教皇のみがそれを教えられており、聖戦発動の時にはアテナ自身の霊血(イーコール)を以て、現代に甦るという。

 

 実はそれこそがアテナの神衣ではないかとも云われているが、それは定かではない。

 

 因みに、本来だと霊血(イーコール)の色は青いのだが、アテナは人間に転生して降誕する為に赤い。

 

「確かにアテナの聖衣は造る心算だったし、アテナに上げても構わないだろう」

 

 冥王ハーデスとの聖戦でタップリと視る機会があった為、アテナの聖衣の組成も理解しているユートは、この世界の聖域のアテナの神像として造る心算だ。

 

 このアテナが聖域の象徴となるなら、アテナの聖衣は彼女の物としても問題はあるまい。

 

 ユートとアテナは微笑み合い、ガッシリと互いに固く握手を交わす。

 

 此処に契約は完了した。

 

「じゃあ、次は僕の使徒。牡羊座の黄金聖闘士を担ってくれる、シエスタを招喚するとしようか」

 

 ユートは庭へと出ると、手首を手刀で切って血液を撒き魔方陣を構築する。

 

 魔方陣に小宇宙を通し、咒を唱え始めた。

 

「汝、我が使徒に名を列ねし存在。仕えたる者、優しさを忘れぬ者、歓びを分かち合う者よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 

 因みに、『歓びを分かち合う者』の詠唱で喚ばれる者がもう1人居るが、それは扨置いて……

 

 魔方陣が回転を始める。

 

「汝が名はシエスタ!」

 

 魔方陣が輝かしい光を強く放って徐々に収まると、中央に人影が顕現した。

 

 それは黒髪をボブカットにし、メイド服に身を包む可愛らしい少女。

 

 シエスタ・ササキ。

 

 ハルケギニアで与えられたシュヴァリエの名前は、もうこの世界では関係無いから、これが彼女の名。

 

 ゆっくりと目を開いて、シエスタは跪く。

 

「シエスタ・ササキ、御喚びにより参上致しました、ユート様」

 

「ま〜た呼び方が戻ってるんだけど? シエスタ」

 

「これが私の性(サガ)ですから」

 

 苦笑いをしながら指摘するユートに、ニコリと笑顔で言い放つシエスタ。

 

「まったく、前に魔法世界での世話係として喚んだ時もそうだけど、根っからのメイドだよねシエスタは」

 

「はい!」

 

 周囲を置いてきぼりに、通じ合うユートとシエスタを見て、すずかとアテナは少し剥れていたという。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話:サッカー 事件は起きなければ事件に非ず

.

 取り敢えずアテナの聖衣に関しては、ダイオラマ魔法球を使ってでも早急に造るとしようと考えて、今後の事を忍と相談をする事になる。

 

「優斗君、貴方はこれからウチで暮らす訳だけれど、アテナさんとシエスタさんも一緒なのよね?」

 

「駄目なら何処か廃棄区画を買って、家でも建てて暮らすけど?」

 

「駄目ではないわ。アテナさんは何をするの?」

 

「見た目には小学生だし、聖祥大付属小学校に転校でもするか?」

 

 ユートの言葉に憮然となったアテナは文句を言う。

 

「貴方は妾を莫迦にしているのか?」

 

「真逆。けど、折角だから一緒に通おうと思っただけだよ」

 

「む、そうか……」

 

 普段は余り感情を表には出さないアテナだったが、何処か照れた表情だ。

 

 だが今度はすずかが剥れている。

 

「すずか様、これくらいで剥れていてはユート様とはやっていけませんよ?」

 

「え?」

 

 その声にすずかが振り返ってみると、シエスタが微笑んで立っていた。

 

「ユート様は世界を転々としながら二千年を生きてきました。その中で、何度か結婚もしてたのですよ?」

 

「そ、それは……」

 

 すずかもそれに関しては聞いている。

 

 年齢が見た目と一致しないという事も、ハルケギニアでは結婚をしていた事も……だ。

 

「因みに、妻となられたのはとてもお綺麗な方です。カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ様、それに、カトレア様も閃姫の御一人なので、条件さえ合えば喚べます。つまり、ユート様の女性関係に煩く言っても無意味。誰かに絞るならカトレア様ですよ」

 

 ガーン! という金槌で殴られたかの如く衝撃を受けるすずか。

 

 ハッキリと言えば解っていた心算で、理解していなかった事に……

 

「それに、憚りながら私もカトレア様と共に御一緒に輿入れもしましたし」

 

「え゛?」

 

 頬を両手で押さえて赤らめながら言うシエスタに、すずかは〝その意味〟を理解して真っ赤になる。

 

 確かにユートは死んでしまったら転生こそするが、とある理由から一六歳以降の肉体的な成長も無ければ老化も無い。

 

 代謝機能は存在するからトイレには行くし、髪の毛や爪等も普通に伸びるが、テロメアが傷付かないというか、精神が磨り切れない限りは生き続ける。

 

「世界を転々と……か……ん? 確か妾の属する世界の巫女が、貴方の聖騎士だったな」

 

「ああ、そうだよ」

 

 ユートは何気無くアテナの問いに答えたが、すずかからすれば看過出来ない様な情報である。

 

「ア、アテナさん!」

 

「む? 何だ?」

 

「アテナさんの世界で優斗君が聖騎士にした人って、いったいどんな人?」

 

「妾もよくは知らぬよ……当人に訊けば良かろう」

 

 すずかがキッとユートに視線を移すと、やれやれと謂わんばかりに右腕を上げて左腕は腰に添え、頭を軽く振った。

 

 結局、興味津々な忍達に圧されて話す事にする。

 

「アテナの所属する世界。其処は神を殺した人間が、殺した神の力──権能を獲て【神殺し】とか【魔王】とか【羅刹の君】とか呼ばれる存在となるシステムが有る世界だ。そのシステムの管理者はパンドラ、神殺しの偉業を成した者達への支援者で、エピメテウスの妻でもある。故に、神殺しの魔王は【エピメテウスの落とし子】とも呼ばれる」

 

「神殺し……」

 

 忍はチラリとアテナの方を見遣る。

 

 神殺しが神と仲好くしているのは、忍には余程奇妙にみえるのであろう。

 

「また、王者──チャンピオン──のイタリア語で、カンピオーネとも称する。あの世界のカンピオーネは僕を含めて八名。その内の一人は僕と同様に日本人、そして同時期にカンピオーネとなった者でもあるよ。彼がカンピオーネになったのはイタリアだったけど、僕は日本に転移させられたんだ。それで僕が神殺しだとソッコーでバレた」

 

「それってつまり、神殺しを探知出来る人が?」

 

 そうでもなければ一般人にバレるとも思えない。

 

 果たして、忍の思っていた通りで……

 

「優秀な霊視能力を持った媛巫女で名は万里谷祐理。身を守る術として、杯座(クラテリス)の白銀聖衣を渡した白銀聖騎士」

 

 杯座(クラテリス)は元々がユートに与えられていた白銀聖衣で、本来なら強化術式を施した物ではなかったのだが、万里谷祐理へと譲る際に陰気と陽気の合一術式と水気を操る力を付与してある。

 

「行き成り土下座でもしかねない勢いだったし、ブルブルと震えていたからね、何事かと思ったよ」

 

「剱の媛巫女には、ハルケギニア時代に義妹のルイズに与えていた白銀聖衣である祭壇座(アルター)を渡してある」

 

 ユートが聖衣を渡したのはこの二人のみだ。

 

 大騎士の二人は七番目の方に付いた為、聖衣を渡す義理も無かったし……

 

 祭壇も杯も神に捧げるべきモノ、媛巫女たる二人の性質に合わせたチョイスの心算である。

 

「まあ、その内に会えるだろう」

 

 その後も、諸々の事柄を決めていった。

 

 特に聖祥大付属小学校に編入する事などは、確りと決めておかねばならないと忍は言う。

 

 ユートも見た目が小学生である以上、小学校に通う必要があるとの事。

 

 小学校……実の処、通ったのは二百年近く前に一回のみ、つまり【受容世界】での義務教育の時だけ。

 

 とはいえ、流石に小学校は今更な気がする。

 

「まあ、デビット・バニングス氏の娘さんも通っているんだったか、すずかとだけ話して同じ誘拐されてた彼女と話さないと、すずかと一緒に責められそうだ」

 

「あうう……アリサちゃんはその辺、煩いだろうな」

 

 親友の性格を考えると、少しだけ鬱になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 編入の当日……

 

 すずかと同じクラスへと編入を果たす〝二人〟は、教壇の前に立っている。

 

「緒方優斗です」

 

「妾は緒方亞弖那だ」

 

 物凄い宛字に、ユートは苦笑いを浮かべてしまう。

 

 だが、それより前に……

 

「「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

 他人の迷惑んも顧みない絶叫が二つばかり、教室の中を谺した。

 

「君は!」

 

「アンタは!」

 

「「へ?」」

 

 その絶叫の主の2人は、思わず顔を見合わせて間抜けな表情を晒す。

 

「何でアリサちゃんが?」

 

「どうしてなのはが?」

 

 これには、事情を知らされているすずかも苦笑いになってしまう。

 

 その後、ユートとアテナはクラスメイトに揉みくちゃにされていた。

 

 主にユートが女の子に、アテナが男子に……

 

 アテナは煩わしいみたいではあるが、まつろわぬ神だった頃に比べて〝人間〟を見ている為、質問に対しても言葉少なにとはいえ、答えていた。

 

 ユートは笑顔を向けて、女子からの質問に明確な答えを返す。

 

 ある少女が訊ねた。

 

「緒方君と緒方さんって、従兄妹なんだよね?」

 

「そうだよ」

 

「髪の毛と瞳の色が違うのは何で?」

 

「アテナはギリシア人だった叔母夫婦の娘で、クォーターなんだよ。僕は日本人と英国人のクォーターなんだけど、日本人の血が濃かったからこんなんだよ」

 

 自分の髪の毛を軽く引っ張りながら言う。

 

 つまりは、そういう設定という訳である。

 

 クォーターという事にしたのは、幾つか複数の血が混じっているとした方が、髪の毛や瞳の色の言い訳に丁度良かったから。

 

 アテナは原典に近しいのだが、ギリシア系にしたのはやはりユートにはアテナはギリシャ神話体系という意識が強かったのだ。

 

 何とか昼休みには落ち着いた為、すずかの案内によって屋上に連れて来られ、なのは、アリサ、すずか、アテナ、ユートの五人組で弁当を食べる事になる。

 

 その際、当然の事ながらアリサに問い詰められて、なのはからも睨まれた。

 

「どういう事? すずかはこいつの事を知ってたの? 何か驚いてないけど」

 

「うん、知っていたよ」

 

「なっ!? アタシだって捜してたの知ってる癖に、黙ってた訳?」

 

「それはゴメン。だけど、知ったのはつい最近だし、私の家に呼んだのも最近の事だったから……」

 

 ピキリ!

 

「家に、呼んだ? 一緒に暮らしてんの?」

 

 凍り付いた表情になり、アリサはすずかに訊ねる。

 

「うん、アテナさんも一緒にね」

 

「そ、そう……」

 

 すずかへの言及が終わると同時に、今度はユートの方を向いて口を開いた。

 

「アンタ、あの時のアレって何なのよ?」

 

「アレ?」

 

「惚けないで! 拳銃の弾を掴んだり、手でテーブルを斬ったりしたやつよ!」

 

 なのはがギョッとなる。

 

「僕は破壊の根元を身に付けているからね」

 

「破壊の根元?」

 

「原子を砕く。だからこそテーブルを斬れた。弾を掴んだのは僕の動きがマッハに達するから」

 

 隠す事も無く、ハッキリと真実を告げてやった。

 

「じゃあ、あの時は何で逃げたのよ?」

 

「あの時点での僕は家なき子状態に近くて、ホテルに住んでたからね。警察から事情聴取は避けたかった」

 

「すずかの家に暮らしてるのは何でよ?」

 

「忍さんの好意」

 

「そ、そう……」

 

 ユートは少し身を乗り出すと、アリサの耳元に口を近付けて、囁く様に言う。

 

「もっと僕の事を深く知りたければ、一人ですずかの家を訪ねると良いよ」

 

 言外になのはを伴うなと言っているのに気が付き、チラリとなのはを見遣る。

 

 少し納得がいかない表情だったが、少し思案するとコクリと首肯した。

 

 なのはを伴ったら教えてくれそうにはなかったし、あの時の事は自分とすずかしか関わっていないから。

 

 今度の日曜日、高町士朗が監督のサッカーチームの試合を観戦するが、後からの用事が済んだら夕方にでもお邪魔すると約束した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 日曜日……

 

 朝の朝っぱらからユートはすずか達と、サッカーの観戦をしている。

 

 目的は勿論、ジュエルシードを手に入れる事。

 

 なのはとユーノは何やら訊きたそうにしているが、ユートは特に話す心算など無い為、完全に無視を決め込んでいた。

 

 それ以外でなら会話もしているのだが……

 

 試合は知っている通りの展開で、翠屋FCの勝利。

 

 その後のお疲れ様会にも参加して観察していたら、なのはがジュエルシードの気配に気付いた感じだが、やはり見逃してしまう。

 

 ユートはゴールキーパーだった少年を追う。

 

「やあ、大活躍だったね」

 

「ああ、確か応援をしてくれていた……何か用?」

 

「少し話せない?」

 

「うん、良いよ」

 

 少年は彼女であろう女の子に謝り、ユートと人気の無い場所に移動する。

 

「君はこれと同じ石を持ってるよね?」

 

 碧い菱形の石──ジュエルシードを見せた。

 

「よく知ってたね」

 

 少年もポケットの中からジュエルシードを出す。

 

「さっきポケットから出したろ? 少し見えたんだ。用件はそれを譲って欲しいって話だよ」

 

「え、それは……」

 

 言い淀む少年。

 

「さっきの女の子にプレゼントしたいから?」

 

「う、うん」

 

 同じ石を持つのならば、自分のこれも彼の物かもと思うと、困ってしまう。

 

「ならこれと交換しよう」

 

「え?」

 

 少年が驚きに目を見開くのだが、それは無理もない事であろう。ユートが出したのは硝子玉だろうけど、ペンダントに加工をされた立派な代物だ。

 

「露店売りで千円程度だけどね、何の加工もしてない石よりはプレゼント向きだと思うよ」

 

「寧ろ、良いのかい?」

 

「趣味で造ってる物だよ。だから問題は無い」

 

「判った」

 

 相互理解による円満解決が出来た。

 

 きっと彼は、女の子へとアレを渡すのだろう。

 

 ユートは小宇宙を用い、ジュエルシードを厳重に封じてしまう。

 

「ジュエルシード……シリアルⅩを封印っと。事件は起きなきゃ事件じゃないからねぇ」

 

 封印した後に独りごち、すずか達と合流してから月村邸へと帰った。すずかは習い事の為に途中で別れたが……

 

 そしてアリサを待つ事、数時間……すずかを連れて訪ねて来た。

 

 

 

【封印されたJS】

ユート=11個

なのは=1個

○○○○=0個

 

残りのJS=9個

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話:バーニング 灼熱の小獅子星座爆誕?

.

 なのはとユーノは部屋で話し合いをしていた。

 

 ユートの行動を興味半分と疑念半分に見ていたら、行き成りおかしな動きを始めた為、コッソリと付けてみたらGKをしていた少年と会話を始めて、少年から何とジュエルシードを受け取ると、代わりにペンダントを渡していたのだ。

 

 会話も聴いていたから、どうしてジュエルシードをGKの少年が持っていたのかの経緯と、それに気付いた理由も知っている。

 

 その事をなのはと話していた。

 

「つまり、優斗君はあの子がジュエルシードを持っているのを魔力反応から気が付いて、持っていたペンダントと交換したって事?」

 

「うん、ペンダントに魔力反応は無かったし、趣味で作ったのを偶々持っていたのは本当だろうね。だけどジュエルシードを発見した方法は、彼への説明とは違うと思うんだ」

 

「そっか、だったらあの時の魔力反応が微かに在ったのって、気のせいじゃなかったんだ……」

 

 なのはも微弱だといえ、魔力反応はキャッチしていたのだが、本当に弱かった上に直ぐ消えてしまった事から、気のせいだと断じてしまったのだ。

 

「ねぇ、ユーノ君」

 

「何? なのは」

 

「若しも……だよ、若しも優斗君がその場に居なかったとしたら、GKの男の子はその侭ジュエルシードを持っていたんだよね?」

 

「うん……」

 

 言いたい事は解る。

 

 これはきっと告解だ。

 

「〝その時〟は……どうなっていたのかな?」

 

 慰めに嘘を言っても傷付けるだけ、だからユーノは厳しいとは思いつつ事実のみを告げた。

 

「魔力反応が微かにでも在ったのなら、きっとあの子を取り込んで大惨事になっただろうね」

 

「そっ、か……」

 

 なのはの表情は泣きそうになっており、恐らく自分が見逃していた場合に起きたかも知れない惨事に思いを馳せ、責任を感じているのだろう。

 

「なのは……結果論だけどジュエルシードの暴走は無かった訳なんだし、なのはが責任を感じる必要はないと思うんだ!」

 

 だけどそんな科白が何の慰めにもならない事など、ユーノは百も承知である。

 

 事実、なのはは首を横に振って……

 

「優斗君が気付いて、適切な処置をしてくれただけ。ユーノ君のお手伝いをしたくって頑張ってたけれど、私は何も出来てない!」

 

 現在、レイジングハートの内部に封印処理を成して仕舞ってあるジュエルシードは1個のみで、それにしてもユーノが何とか独力で封印してあった代物だ。

 

 なのはが封印したジュエルシードは、実は1個も無いのが現状だった。

 

 その癖、草臥れてしまうくらい必死に探し回っていたというのに、それを嘲笑うかの如くユートはジュエルシードを手にしている。

 

 まあ、ユートのは反則というか原作知識が在るからというのが理由だが……

 

「ユーノ君、私ね決めた」

 

「何をだい?」

 

「今まではユーノ君のお手伝いでしかなかったけど、これからは私自身の意思でジュエルシードを捜す!」

 

 決意に満ちたなのはの瞳にはユーノも力強さを感じたものだが、それ人は……

 

『明日からは本気を出す』

 

 と言っているに等しい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夕方、月村邸にやって来たアリサ・バニングスは、ユートが下宿している部屋に案内された。

 

 ユートはアリサとすずかを部屋へと入れはしたが、机に向かって何やら機械を弄っている。

 

「アンタ、何してんの?」

 

「悪いけど少し静かにしていてくれる? 今、ちょっと手が放せないから」

 

「むぅ……」

 

 アリサとしては、こんな美少女(笑)が訪ねて来たというのに、そっちのけにするのはどうかと思う。

 

 というか、アリサも実はすずかと同じ穴の狢というやつで、誘拐騒ぎであわやという所を救われた経緯もあり、ユートが気になって仕方がない。

 

 既にコンタクト済みだという親友に出遅れた分を、何とか取り戻しておきたいのだが、ユートのつれない態度にやきもきしている。

 

 かといって、今のユートを邪魔してしまえば嫌われかねないと考え、大人しく待つしかない。

 

 少し時間が過ぎて……

 

「よし、取り敢えず完成」

 

 ユートが万歳しながら、懐中時計みたいな物を手に歓声を上げた。

 

「それ、何よ?」

 

「うん、これはジュエルンレーダー」

 

「「ジュエルンレーダァァァーー?」」

 

「そう、こいつはジュエルシードの微弱な魔力波長をキャッチしてくれて、大方の場所を映すレーダー」

 

 ぶっちゃけるとドラゴンレーダーだった。

 

「ジュエルシードって何なのよ?」

 

 とはいえ、ジュエルシードを知らないアリサは首を傾げてしまう。

 

「それじゃ、少しアリサとすずかにも先ずはそこら辺の説明をしないとね」

 

 すずかには聖闘士関連は話してあるが、そもそもの聖域を設立する計画である【プロジェクト・サンクチュアリ】の理由は未だ話していない。

 

 ユートはアリサとすずかとアテナとシエスタの4人に対し、街の有力者や達人に話したのと同じ内容を、詳らかに説明していく。

 

「先ず大前提として、世界には魔法というのが在る」

 

「嘘ね」

 

 一言で断じるアリサ。

 

 ユートは右掌を掲げて、漆黒の魔力光を湛えた球を作り出して見せる。

 

「これが魔力を形にして作った魔力スフィア。漆黒射手(ブラックシューター)。これとはまた違う力なら、聞いた事くらいあると思うんだけど?」

 

「違う力?」

 

「HGSの能力者は念力で似た事が出来るし、霊能者なら霊力でやっぱり同じ事が可能だよ」

 

 HGSはフィリス・矢沢などが、背中に羽根を出しながら力を使える。

 

 あの羽根が念力の制御を司るのだろう。

 

 霊能者というのならば、さざなみ寮に在住の巫女っ娘な神咲那美が使えた。

 

「確かにHGSなら聞いた事はあるわね……」

 

 それに目の前で魔力というのを使われて、それでも信じないなどと頑なに言う心算は無かった。

 

 ユートはデバイスを使わずとも、頭の中で演算をして術式を組む事が可能で、判り易く魔方陣が出てくる事も無いが、古代ベルカ式がユートの魔法。

 

 大魔力と高速演算はコンフリクトすると言われているが、ユートの場合は経験則も含めてそれを可能としているから、バスターの様な魔法を高速演算しつつ、放つ事も可能。

 

 古代ベルカ式とはいえ、砲撃や収束砲や射撃も可能となればチート全開だが、ユートの存在年齢は二百歳を越えると考えれば、欠陥を欠陥の侭にしていなかっただけだと理解出来る。

 

「他にも暗黒砲撃(ダークネスキャノン)とか、黒太陽炮(ブラック・サン・ブレイカー)なんてのも使えるけどね、此処で使ったらこの辺一帯を破壊し尽くすから」

 

「く、黒いからって何だか物騒な名前よね……」

 

「魔力光は魔力の波長によるから、人によって色が異なるんだよ。シエスタだと魔力光は白」

 

「2人で力を合わせて放つ輝石螺旋(マーブルスクリュー)とか出来ますね」

 

 シエスタが笑顔で言うのだが、アリサは少し小首を傾げていた。

 

「何でラテン語と英語?」

 

 元々、大理石をマーブルというのだが、これは輝く石をラテン語にしたものが原典となっている。

 

「というか、美しい心で邪悪な心でも打ち砕く気?」

 

「その内に、何とかセラピーとかやるのかな?」

 

 アリサとすずかの的確? なツッコミに……

 

「やらん、やらん」

 

「しませんよ!」

 

 ユートもシエスタも苦笑いで否定したものだった。

 

「今の魔法は魔力を純粋に運用するタイプ。他には、精霊に働き掛けるタイプ」

 

 ユートは指を立てると、呪文を詠唱する。

 

「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデス・カット)」

 

「うわっ!」

 

 立てた指に、ライター並の火が本当に灯ったのを見てアリサは驚いた。

 

「最初の〝プラクテ・ビギ・ナル〟は始動キーと呼ばれている。これは初心者が使う為のキーで、慣れたら自分専用の始動キーを考えるらしい。僕はこの系列の魔法は余り使わないから、初心者用の始動キーの侭なんだけどね。後、魔力制御に普通は杖を使う」

 

 取り出したのは子供が使う初心者用の杖、ずっと昔に幼馴染みの少女から兄共々、貰った物である。

 

 兄のは星が、ユートのは三日月が先に付いていた。

 

「始動キーねぇ。どんなのがあるのよ?」

 

「う〜ん、弐十院 光って教師は『ニクマン・ピザマン・フカヒレマン』だったかな? 変えた方が良いって同僚に言われてたけど」

 

 ユートとシエスタ以外、何とアテナでさえもずっこけていた。

 

「まぁ、韻やインスピレーションで決めるからねぇ。僕の知り合いだと意味的に『我、魔法を使う最後の魔法使い』になるのかな? 『ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル』という、始動キーだったよ」

 

 勿論、それは【OGATA】の超技術(チャオ・テクノス)のトップとなるであろう、超 鈴音の事。

 

「他には超常存在から力を借りた魔法だね」

 

「超常って、神様とか?」

 

「そう、後は魔族だね」

 

「魔法か、それってアタシにも使えるの?」

 

「一応は。リンカーコアが不活性だから最初の魔法は無理だけど、精霊との親和性を付けて精神力を消費するタイプなら可能だから。人工的に魔力を集積出来る人造リンカーコアなんてのも有るし」

 

 後付けの人造リンカーコアを使えば、ある程度ではあるが強い魔法も使える。

 

「じゃあ、アタシも魔法を使いたい!」

 

「駄目」

 

「な、何でよ!」

 

「この世界で魔法を使うと煩い連中が居るんだ」

 

「誰?」

 

「時空管理局という組織。地球は連中の尺度で云うと第97管理外世界。管理局は地球を、魔法技術や次元渡航技術を持たない世界と認識している。だからこそ管理局が管理しない世界、〝管理外世界〟と呼んでるんだが、仮にアリサが魔法を使っていれば連中は干渉をしてくるだろうね」

 

「何で? 管理局と関係無いのに、管理局のルールを押し付けようっての?」

 

「平然とやるだろうね」

 

 個人なら間違いなく干渉するだろう。

 

 実際に原典で、ジュエルシードに当たっていたのが高町なのはとユーノ・スクライアという個人だから、自分達が後はやると言って干渉してきた。

 

 だから、ユートは組織を設立したのだ。

 

「ああ、それで聖闘士なんだね?」

 

「すずか、正解だよ」

 

 流石に小宇宙は使えないとはいえ、魔力と氣を合一した咸卦の氣を聖衣装着で可能となるし、それはもう魔法の範疇ではない。

 

 似たようなナニかだ。

 

「聖闘士?」

 

 ユートはすずかにもした説明をアリサにもする。

 

「聖衣を纏うだけで魔法みたいな力がねぇ? すずかも聖衣を貰ったの?」

 

「うん。大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)っていう鋼鉄聖衣を」

 

 見せびらかすかの如く、すずかは腕時計を見せた。

 

「すずかは聖域に所属する鋼鉄聖闘士として、訓練をやっている」

 

 ダイオラマ魔法球を用いての訓練で、既にこの一日で八時間……八日間の訓練に臨んでいる。

 

「アリサが聖域に所属し、聖闘士を目指すなら聖衣を与えるよ?」

 

「…………良いわ、やってやろうじゃない!」

 

 親友と同じステージに立つ為、ユートと同じ場所に往く為にアリサは決意。

 

「辞めたくなったら留めはしない。聖衣は返却して貰うけど、経験は何処かで活きるだろうからね」

 

 ユートが差し出した銀色の腕輪には茜色の宝玉が濱っており、アリサが受け取った聖衣とは……

 

「小獅子星座(ライオネット)の青銅聖衣だ。聖衣の名前にフルセットと叫ぶと使えるよ」

 

 アリサは頷く。

 

「小獅子星座(ライオネット)……フルセット!」

 

 アリサの声に応じると、聖衣石から茜色な唐獅子のオブジェが顕れ、カシャーンと甲高い音を響かせて、各パーツに分解され聖衣がアリサの美しく白い肢体を鎧っていった。

 

「アアン……」

 

 うっとりとした表情で、炎を背後に噴き上げながら右脚では回し蹴りを放ち、更には両腕で軽くラッシュを繰り出す。

 

「小獅子星座(ライオネット)のアリサ見参よ!」

 

 それは、ユートが知っている新世代の聖闘士の1人が纏う灼熱(バーニング)な聖衣であったという。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話:女神戯心 えっちいのはいけません!

.
 未来を導く天使に掲載されてない、本来の第15話となります。

 ちと、えちぃです。



.

「小獅子星座(ライオネット)……フルセット!」

 

 アリサの声に応じると、聖衣石から茜色な唐獅子のオブジェが顕れ、カシャーンと甲高い音を響かせて、各パーツに分解され聖衣がアリサの美しく白い肢体を鎧っていった。

 

「う、ん……っ!」

 

 うっとりとした表情で、炎を背後に噴き上げながら右脚では回し蹴りを放ち、更には両腕で軽くラッシュを繰り出す。

 

「小獅子星座(ライオネット)のアリサ参・上!」

 

 プルプルと伸ばしていた右腕を震わせ……

 

「くはぁ! この大見栄を切るのって少し快感かも」

 

 まだ小学生なのに、というより小学生だからこそ、中二を患っているアリサ。

 

 どうやら少しお気に入りな様で、訓練の為にやって来たダイオラマ魔法球へと入るなり、小獅子星座聖衣(ライオネットクロス)を纏って感動に打ち震えた。

 

「にしても、魔法ってのは凄いわよねぇ。こんな空間を造って自然を閉じ込めちゃうなんてさ」

 

「うん、しかも時間加速で中と外の時間をずらして、逆浦島太郎状態だよ」

 

 聖衣装着の後で、改めて周囲を見渡したアリサは、ダイオラマ魔法球なんていうイカした魔法空間に驚きの表情をすると、すずかがスクール水着の姿でアリサの隣に立ち、やはり魔法の齎らす効果に驚いている。

 

「って、アンタ……すずかは何でスクール水着なんて着てんのよ?」

 

「勿論、泳ぐ為だよ?」

 

 至極当然だと言わんばかりに首を傾げ、普段着で来たアリサこそおかしいと、目が語っていた。

 

「折角の南国ちっくな海だもん、それに水泳は柔軟な筋肉を作るって、ユート君もお奨めしてくれたよ」

 

「む、そうなの?」

 

「うん、先ずは確りと泳いで女の子らしくしなやかな筋肉を作ろうよ!」

 

「ちょっ、すずか!?」

 

「水着ならアリサちゃんの分も用意してきたよ」

 

 結局、この──ダイオラマ魔法球での──日は一日中を泳ぎ回ったという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 カチャカチャと、ユートは機械を弄っている。

 

 昔は科学的な物には触れていなかったが、いつまでもそれではいけないだろうと考え、周囲の科学大好きな連中に習った事により、超天才な連中程では無いにしろ、この手の開発が可能となっていた。

 

「優斗君、お茶が入りましたから休憩しませんか?」

 

「ん、ありがとう。そうしようかファリン」

 

 ファリンはユートの邪魔をしない様に、いつもだと発揮するドジっ子メイドの本領を発揮せず、慎重を期してお茶を運んだ。

 

 やれば出来る子なのに、普段は慌てたりハプニングに見舞われたりと、どうしてかファリンはドジる。

 

「どうぞ」

 

「ああ」

 

 珈琲派の知り合いに付き合って飲む事も多いから、ユート自身もそれなりには珈琲を嗜むが、再転生では風体こそ日本人でも一応は英国人(ブリティッシュ)。

 

 ティータイムを嗜むのも忘れはしない。

 

 何よりトリステインでは普通に紅茶を飲んでいたのだから、特に違和感を感じるでもなく過ごせた。

 

「ほう、ティータイムか。ファリン、妾にも淹れては貰えるか」

 

「はい、アテナ様」

 

 其処に現れたのはすずか達の紺色とは違う、白色のスクール水着を身に付けたアテナ。

 

 白い肢体に銀髪が擬似的とはいえ、太陽の光を反射して目映い。

 

 アテナは設置された機械を見遣ると問い掛ける。

 

「造っているのは妾の聖衣ではないな。誰のだ?」

 

「ノエルとファリンだよ」

 

「ふえ? 私とお姉さまのですかぁ!?」

 

 意外なユートの返答に、ファリンは驚いたらしくて頬を朱に染めた。

 

「ああ、楽しみにしてろ」

 

「は、はい!」

 

 感動したのかファリンはユートの腕に絡み付いて、アテナやすずかやアリサに比べればまだ成長している胸を、惜し気もなく押し当てている。

 

「ム!」

 

 少しばかりアテナからの視線が鋭い。

 

 そして〝何故か〟自分の薄い胸をペタペタと触り、ファリンの大して大きくもない胸を憎々しく見遣る。

 

 ファリンも水着なので、それなりに躯のラインが露わとなっていた。

 

 ノエルに比べれば小さな胸だが、今の少女バージョンなアテナはナインペタンである為に、太刀打ち出来るモノではない。

 

 とはいえど、ファリンは自動人形(オートマタ)で、究極の偽乳なのだが……

 

「コホン、ああ……何だ。ユートよ、思えば妾は貴方とは血腥い闘争の中で絆を育んだものよな」

 

「うん? というよりは、基本的に神と神殺しの間柄なんだから、そうなるのも必然っちゃ必然だしね」

 

 最初の闘いではユートも何とか戦闘回避の為にと、戦闘中止を呼び掛けた。

 

 然し、沸き立つ闘争本能は刺激されるわ、アテナは止まらないわで結局は周囲を破壊しながら闘う事に。

 

「けど、あの時にアテナが神力(デュナミス)をくれたお陰で神聖衣の発現が少し簡単になったし、神力を基にアテナの鎌を顕現する事も出来たから助かったよ」

 

「そ、そうか?」

 

 世界を飛び越え、理の違う地に居るが故だろうか、以前には感じた闘争本能がまるで感じられず、アテナは力の程は兎も角として、男の子の言葉に照れて頬を染めている辺りは、普通の女の子みたいだった。

 

 アテナはユートの膝の上に座って、首に腕を回すと端から見れば恋人同士の睦み合う様な雰囲気で、紅茶を口に含んでユートの唇に自身の唇を重ね、口移しで含んだ紅茶を飲ませる。

 

 その際、アテナの舌が潜り込んできて、ユートの舌と絡ませ合った。

 

 それをつぶさに見ていたファリンは……

 

「はや〜」

 

 目を手で覆いながらも、指の隙間から覗き見ていたりする。

 

「ふふ、どうだ? 優斗。妾の味は……」

 

 艶かしい瞳で頬を朱に染めた侭、アテナはペロリとユートの唇の後味を味わい尽くすかの如く舐めた。

 

 だが、ユートが答えるまでもなくアテナはそれを知って悦びの笑みを浮かべ、更に強く抱き着く。

 

「答えずとも貴方の身体が雄弁に語っておるぞ?」

 

「ああ、周囲の低年齢化で少し溜まってたからねぇ」

 

 よもや、アリサやすずかに手は出せないし、デキる知り合いが居るでもなく、欲求不満は溜まる一方だ。

 

 それでアテナが、女を感じさせる行為に及んだものだから自然とそうなった。

 

「ふふふ、草薙護堂が揮うは東方の軍神の雄弁な剣であったが、優斗の剣も性に関しては雄弁なのだな」

 

「誰が上手い事を言えと? とはいえ、流石にこれは困ったな……」

 

「妾の責でもあるし、少し鎮めてくれよう」

 

「は?」

 

「と言っても、妾とて古の女神であり、神話に於いては処女神と謳われた者よ。容易く陰を赦しはせぬぞ」

 

 ウィンクしながら言うとアテナはユートの膝から降りて、その場で跪きズボンのチャックを降ろし、窮屈そうに脹れたソレを外気に曝してやる。

 

 そして自らの可憐な唇を大きく開き……

 

「あむ!」

 

 名状し難いナニかが背筋を駆け抜ける感覚を与え、ユートのソレを口に含む。

 

「どうだ? 奉るべき女王たる妾を跪かせた気分は」

 

 クスクスと見た目には、アリサやすずかやなのはと大して変わらないながら、無垢と妖艶の相反する顔は不思議な気分だった。

 

 だが、素直にそれを言うのは少しムカつくからか、間断無くクる刺激に耐えながらもそっぽを向く。

 

 その様子をファリンは頬に手を添え、蒸気でも噴き出さんばかりな真っ赤な顔になって、オロオロと戸惑いつつ右往左往していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 最後にコクリと喉を鳴らしたアテナは、頭を抱えるユートに含み笑いを向け、ちょっとだけ勝ち誇る。

 

「ふふ、それにしても優斗も随分な益荒男振りよな」

 

「何が!?」

 

 ちょっと涙を浮かべて、悪戯された女の子みたいな反応をするユートに対し、噴き出したくなるのを抑えるアテナ。

 

 思えば自分も丸くなったものだと……

 

 嘗てのまつろわぬアテナであった頃ならば、決して有り得ない笑みを浮かべ、宿敵たる神殺しを相手にして睦み合っている。

 

 神祖グィネヴィアの企みによって不死性を損なったアテナは、最期の闘いへと弓状列島に向かった。

 

 二人の神殺し……どちらかでも決着を着けるべく。

 

 結果は押し並べて類推すれば良いとして、それによってユートが執ったのは、彼女を生かす策。

 

 よって、あの世界線では如何なる事があろうとも、此処に存在する人格や意識を持ったアテナが復活する事は有り得ない。

 

 その際にまつろわぬ性質が損なわれたのか、本当に角が取れて丸くなった。

 

 アテナはユートを見遣ってクスクスと笑い……

 

「貴方の精だけで妾の肚を満たすのだからな」

 

 ポンポンと満たされた肚を軽く叩いて言う。

 

 その言葉を聞き、ユートはガックリと項垂れたものだった。

 

「ふむ、妾も一泳ぎしてくるとするか。其処な下婢、妾は肚も脹れた事であるし昼餉は要らぬ」

 

「は、は、は、はい!」

 

 立ち去るアテナ。

 

 残されたのは項垂れた侭のユートと、ノエルと違い〝はぢめてじょうじ〟を見て戸惑うファリンだけ。

 

 取り敢えずは、昼食後に何とか精神を持ち直して、アリサとすずかを鍛えた訳だが、やはり少しばかりは精彩を欠いたという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 皆でプールに行く約束をしているユートだったが、アリサとすずかの二人と連れ立って、前日の土曜日の昼から三人だけでプールにやって来ていた。

 

 目的はジュエルシード。

 

 当然ながら二人の水着は前日の様なスク水でなく、アリサが赤いセパレート、すずかは淡い菫色の水着と少し気合いが入っている。

 

 一応は普通に遊んでいたユート達だが、思っていた通りにジュエルシード・モンスターが現れた。

 

 水着泥棒の思念を増幅、プールの水そのものが盛り上がって、まるでスライムみたいなモンスターとなって暴れ始める。

 

 実は現在、プールに居る客は全員がサクラ。

 

 バニングスグループ名義でプールを借り切り、客を装ったさざなみ寮の皆様や晶やレンが、遊んでいる振り──事実、事件が起きるまで全力全開で遊んでいた──をしてジュエルシード・モンスターに備えていたという訳だ。

 

 本体が此処に無い事は解っているから、分体の方をさざなみ寮組やアリサ達に任せ、本体を叩くべく女子更衣室にユートは向かう。

 

 因みに、今日の着替えは男は外で行い、女性陣だけ男子更衣室で着替えた。

 

「小犬星座(カニスミノル)……フルセット!」

 

「龍星座(ドラゴン)、フルセット!」

 

「小獅子星座(ライオネット)……フルセット!」

 

「大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)、スタンバイ!」

 

《Ready Setup》

 

 青銅聖闘士が三人。

 

 鋼鉄聖闘士が一人。

 

 聖衣持ちの全員が聖衣を纏い、氷結の力を持っているすずかを主軸に、この場の皆が力合して闘った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは本体の存在する空間で……

 

「麒麟星座(カルメパロダリス)……フルセット!」

 

 本来のキリンではない、中国の瑞獣たる麒麟を象る闇翠色の輝きのオブジェを喚び出し、各聖衣のパーツに分解されたソレを纏う。

 

「さあ、邪なる思念に毒されし願望の器よ。今こそ、浄化してくれる!」

 

『ガァァァァァァッ!』

 

 襲い来る思念体。

 

「浄化の焔、邪なる思念を灼き尽くせぇぇぇぇっ! ……燐氣煉獄覇!」

 

「ゴァァァァァァァッ!」

 

 ユートが放つ焔は、黄金の色を以てジュエルシード・モンスターを灼き祓う。

 

 余計な物は一切灼かぬ、浄化の焔……金。

 

 神凪一族が千年の昔に、炎の精霊王から【炎雷覇】という神宝と共に授かった加護と同じ力。

 

 別に神炎でも良かったのだがユートのは黒炎だし、ちょっとイメージが悪い。

 

「ジュエルシード、シリアルⅩⅦ……封印!」

 

 小宇宙で固く封印を施して戻ると、何故か水着やら聖衣やらを脱衣して大事な部分を隠す面々が……

 

「ナニしてんだ?」

 

「脱がされた〜!」

 

 アリサが悔しげに言う。

 

 どうやら何体もダミーが出てきて手に負えなくなったらしく、結局は脱がされたらしい。

 

 ユートは頭を抱えるしかなかったという。

 

 

.




.
 文字数が足りず、最後が相変わらず雑に……

 アテナってこんなんか? と思うかも知れないのですが、一応の説明は本文中に入れてあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話:ゴールデン 運命と吸血種と灼熱と

.

 それはある日の事。

 

 長い金髪を両横に括った黒衣に赤で裏打ちされている黒マントを羽織る、紅玉の如く赤い瞳の少女がビルの上に立っていた。

 

「形状は菱形の碧い宝石。名称はジュエルシード」

 

 手にした無骨な、長い柄の斧を持つ力を少し強めながら、少女はビルディングの狭間を飛び立つ。

 

「必ず、手に入れる!」

 

 それに付き従うかの様に橙色の毛並みに赤い宝石を額に持つ狼が、同じくビルの狭間へ飛び立ち消えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 月村邸へのお誘いを受けた高町なのはは、同じく誘われた兄の高町恭也と共に邸へとバスで向かう。

 

 恭也は早々に恋人の忍と部屋に引っ込み、なのははすずかとアリサとユートと共にサロンでお茶会だ。

 

 それは特に何が起きるでもなく、恙無く終わりを迎える事が出来、夕方になると恭也を伴い帰宅する。

 

 その後ユート達は二時間──ダイオラマ魔法球内で二日間──を修業をする事に費やしていた。

 

 修業こそしないものの、興味本位と加速時間を使いたいという理由から、忍も一緒に入っている。

 

 【夜の一族】は異性を惑わす為に、若い時分が普通の人間に比べて長いからこそ年を二十四倍で取る事を許容して入っていた。

 

 アリサは小獅子星座聖衣(ライオネットクロス)を纏って、必殺技を放ったり、動いたりの修業だ。

 

 自分に何が出来るのかを把握し、何が出来ないかを理解する事が勝利に繋がるというのがユートの弁。

 

 本来の聖闘士だと修業を完遂し、資格を師匠から与えられて聖衣を授与される訳だが、ユートの聖衣だとその籠められた力を使うのが前提の為、先払いみたいに与えてしまう。

 

 修業相手には事欠かないアリサは、少しずつではあったが着実に強くなる。

 

 それはなのはを除いて、プールに遊びに行く前日に実戦を想定したジュエルシード捕獲にも如実に表れ、さざなみ寮の皆さんに加えて小犬星座の晶、龍星座のレンも含めた結構な人数で戦闘をしているが、何も出来ずに終わるなんて事だけは無かったらしい。

 

 その際、あれだ……

 

 ダミーのモンスターの数が増え、圧し切られてしまった女性陣が脱がされてしまうハプニングがあった。

 

 すずかとアリサは小学生だと思わなければ眼福であったのだが、那美や美由希や愛なんかは本当に御馳走様である。

 

 其処はまあ良いだろう。

 

 少しだけ刻は流れ、五月となって大型連休……謂わばゴールデンウィークが訪れた訳だが、毎年の恒例で高町家、月村家にアリサを含めて温泉旅行に行く。

 

 当然の事ながら、ユートとアテナとシエスタも同行するという話になった。

 

 既にアリサは、なのはがしている事に関しても説明を受けており、何で話してくれないのかと憤慨していたが、ユートから時空管理局のルールに、未開世界の保護条約みたいなモノが存在しており、助言者であるユーノ・スクライアが管理世界の人間故に、それに従って内緒にさせているのだと伝えてある。

 

 まあ、それはそれで再びアリサが憤慨する事になった訳だが……

 

 さて温泉だが、対外的に十歳未満のユートと正真正銘の十歳未満のユーノは、女風呂でも問題が無かったりするが、未だに人間だと話していない──けど全員が知っている──為、下手に一緒に入って後に真実を知られたら怖いし、何より入りたい訳でもないから、ユートに連れられて男風呂に入浴していた。

 

 諄い様だけど、ユーノが人間なのは周知である為、アリサとすずかも特に反対をせず、見送ったという。

 

 男風呂でユーノは、今まで訊きたかった事をぶつけるべく話し掛けた。

 

「君はジュエルシードを、どうする心算なんだい?」

 

「封印する心算だが?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 どうやら訊き方を間違えたらしいと、ユーノは再び質問をする。

 

「ジュエルシードを集め終わったら、あれをどうしたいんだい?」

 

「強固な封印場所に仕舞っておくが?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 どうやらまたも訊き方を間違えたらしい。

 

 ユーノは三度の質問をするべく口を開いた。

 

「それじゃあ、君は何の為にジュエルシードを集めているんだい?」

 

「聖域の使命だからだよ」

 

「さんくちゅあり?」

 

「聖闘士と呼ばれるこの地の守護者が所属する組織。その使命は地上の愛と平和を妨げる存在や、異世界からの侵略者から護る事」

 

「異世界からの侵略者」

 

 ユーノは呟く。

 

 これは種蒔きである。

 

 いずれ、ユーノが管理局に接触した際に、聖闘士や聖域についても話す筈。

 

 これで管理局の連中が、聖域と守護者たる聖闘士を認識するであろう。

 

 ユートはさっさと温泉から出てしまった。

 

 原典とは違い、月村邸のジュエルシードは既に回収されていたが故に、なのはとフェイトがぶつかり合う事も無かったから、今回の温泉旅行で初顔合わせだ。

 

 故にこそ、どっかの橙色の毛並みの狼娘がなのはに接触して脅迫をしてくる事もなかった。

 

 ユートはアリサとすずかを連れ、この地のジュエルシード回収に向かう。

 

 2人はそれぞれに聖衣を纏い、すずかが大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)の鋼鉄聖衣を纏い、アリサが小獅子星座(ライオネット)の青銅聖衣を纏っている。

 

 また、聖闘士の女子が着ける仮面も被っていた。

 

 この仮面、別に〝掟〟で身に付けさせたのでなく、軽い認識阻害魔法を仕掛けた物で、被っていたら正体がバレないのである。

 

 具体的には明らかに素顔丸出しの変身ヒロインが、変身後に決して変身する前の正体がバレない感じだ。

 

 ヒロインが目の前で変身をしない限りは。

 

 だから仮令、声や髪の毛の色や髪型を変えていなくても、この仮面を被っているだけで正体がバレない。

 

 これはなのはとユーノへ正体バレの対策だ。

 

 ユートはその手に持った【ジュエルンレーダー】を見ながら、反応を示している方角を目指して進む。

 

 割と狭い範囲しか映せないという欠点が有るから、いまいち使えないレーダーだったりするが、それでも場所が判明している以上、その場所の近くで使えた。

 

「うん?」

 

 小川の近くに反応が在るのに気付き、よく観察をしてみると菱形の宝石が水に浸かってるのを見付ける。

 

「有った!」

 

 水に手を浸け、ジュエルシードを確保して小宇宙で封印を掛けた。

 

 プールで見付けて封印したのを含め……

 

「これで13個目」

 

 なのはの側に、初めからユーノが封印したジュエルシードが有るから、確保された物は14個となる。

 

 つまり、未封印のジュエルシードは残り7個。

 

「待って!」

 

 声を掛けられ、振り返れば金髪紅目な黒衣の少女が金色に輝く長柄のエネルギー鎌を構えていた。

 

「それを渡して下さい」

 

「何? 強盗?」

 

「ち、違います。兎に角、そのジュエルシードを此方に渡して!」

 

「何故? 渡す理由が見当たらないな」

 

「くっ!」

 

 長柄の鎌を振りかぶり、戦闘体勢に入る少女。

 

「ま、話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと何も変わらないし、伝わらない。だから……」

 

 其処へ背後から雄叫びが響き……

 

「ごちゃごちゃ言ってないでソイツを渡せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 橙色の髪の毛の、ラフな格好をした女が拳を揮って襲い掛かってきた。

 

「奇襲をするなら声を上げるのは無意味であり……」

 

 パチン!

 

 

 ユートが小さく呟いて、右腕を上げ指を鳴らす。

 

「伏兵を配置していたのが自分達だけだと思うのは、愚かでしかない」

 

「なにぃ!?」

 

 女の驚愕を他所に……

 

「炎熱無法(フレイム・デスペラード)!」

 

 炎の帯が襲って火達磨にしてしまう。

 

「ウギャァァァァッ!?」

 

「アルフ!」

 

 叫ぶ金髪少女、アルフと呼ばれた女は炎を消そうと転げ回った。

 

「動かないで!」

 

「うっ!?」

 

 いつの間に背後に廻られたのか判らないが、金髪の少女の後ろには誰かが立って武器を突き付けている。

 

「くそ、フェイトから放れろぉぉぉぉっ!」

 

 何とか火を消し止めて、アルフが飛び出すが……

 

「行かせるか、莫迦!」

 

 火を放った仮面少女が、アルフのボディを蹴り上げてしまった。

 

「ゲウッ!」

 

「ア、アルフ!」

 

 

 フェイトはアルフの強さを知っているが、目の前と背後に居る3人からは大して魔力を感じない事から、完全に実力を見誤っていたと気付く。

 

「あ、貴方達は何者?」

 

「答えても多分、意味がない……」

 

「っ!?」

 

 驚愕に目を見開いているのは何もフェイトばかりではなく、アルフも、そして連れの2人の……すずかとアリサもそうだ。

 

 ユートの声は、フェイトのそれとそっくりその侭、気味が悪いくらいに似ていたのだから。

 

 しかも機械で音声を変えたとか、声帯模写なんてのではなく完全な生声で。

 

「君ならそう言うだろ?」

 

「!?」

 

 まるで見透かした様に言われたが、何と無くではあるがその通りだと思った。

 

 仮に自分が話し掛けられたとしたら、間違いなく同じ様な事を言うであろう。

 

「さて、引くなら見逃しても良いけど、引かないというのなら……」

 

 笑顔、だけど全く目が笑っていない。

 

「覚悟を決めろ!」

 

 いっそ清々しいくらいに背筋が凍る殺気を受けて、失禁してヘタリ込みたくなるのを我慢し……

 

「わ、かりました……今回は引きます」

 

 そう宣言すると、アルフを回収すると翔んでいき、その場にはユート達3人のみが残される。

 

「ふぃぃ、帰るか」

 

 こうして、フェイトとの初顔合わせは済み、後は何事も無く終わった。

 

 ユートとしては不意討ち気味とはいえ、アリサ達がフェイトとアルフに遅れを取らなかった事にある程度の満足感を得ている。

 

 帰りの最中……

 

「そういえば、なのはちゃんは来なかったね」

 

 ふと、すずかが言う。

 

「ああ、そっか! 今回はジュエルシードが発動する前に封印したからな」

 

 原典に於いて、なのはがジュエルシードに気が付く事が出来たのは、発動の際の魔力を感知したから。

 

 発動しなかったからには今頃、ぐっすりと夢の中の住人であろう。

 

「意外と抜けてるわね」

 

「まあ、面倒が無くて良いんだけどね」

 

 アリサの嫌味ともつかない科白に、ユートは苦笑をして言ったものだった。

 

「まあ、残りの期間は温泉を楽しもうか」

 

「「賛成」」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ダイオラマ魔法球を持ってきてないから軽く修業こそするが、なのはとユーノの目もあるし飽く迄も不審に思われない程度にだ。

 

 そんな中、必然的に恭也の目に留まっての模擬戦が行われたりする。

 

 元々、機会があるならば戦ってみたいと思っていたらしくて、実に愉しそうに木刀を揮ってきたものだ。

 

「大地聖衣・大熊(ランドクロス・ベア)ですか」

 

「私は大地聖衣・小熊(ランドクロス・ウルサミノル)ですね」

 

 温泉地で調整を終わらせた鋼鉄聖衣……大地聖衣(ランドクロス)の二つを、エーアリヒカイト姉妹へと渡しておく。

 

 これで聖闘士の数が二人──二機──増えた。

 

 ノエルとファリンに聖衣を渡したからか、そこはかとなくジト目を向けてくる忍に対し、仕方がないので髪の毛座(コーマ)の青銅聖衣と、研究用に大地聖衣・キリン(ランドクロス・ジラフ)を渡しておく。

 

 元来だと髪の毛座は青銅聖衣(ブロンズ)でないが、流石に盟が纏った髪の毛座(コーマ)の聖衣は見た事がないし、コロナの髪の毛座(コーマ)は竜骨座(カリナ)や山猫座(リンクス)と違って粉々になっており、修復を後回しにしていた為に、今を以て未修復状態。

 

 だから青銅聖衣として、新たに製作した訳だ。

 

 忍は異様に喜んでおり、恭也曰くどうやらすずかを羨んでいたらしい。

 

 その事実には、すずかも苦笑いをしたものだった。

 

 因みにアテナとシエスタは普通に温泉に浸かって、今回は何もせず平和に過ごしていたという。

 

 

 

【封印されたJS】

ユート=13個

なのは=1個

フェイト=0個

 

残りのJS=7個

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話:衝突!? 茶番劇は程々に

.
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」

 アリサの大声が教室内に響き渡って、高町なのはの机を強く叩いた。

「この間から何を話しても上の空でボーッとして!」

「あ、う……ご、ゴメンねアリサちゃん」

「ゴメンじゃないわよ! アタシ達と会話してんのがそんなに退屈ってんなら、1人で幾らでもボーッとしてなさいよ!」

 その余りの剣幕に圧されてしまうなのは、アリサはプイッとそっぽを向くと、踵を返す。

「行くわよ、すずか」

「あ……アリサちゃん! あのね、なのはちゃん……アリサちゃんも悪気があった訳じゃないんだよ?」

「良いよ、すずかちゃん。さっきのはなのはが悪かったから……」

「う〜ん、そんな事は無いと思うんだけど、取り敢えずアリサちゃんも言い過ぎだよ。少し話してくるね」

「ゴメンね……」

 苦笑いをするなのはに、すずかも同じく苦笑を返すとアリサを追いかけるべく教室を出ていく。

「此方こそ、ゴメンね」

 教室を出てからすずかは呟いた。尤も、同じゴメンでも少し意味合いが違う。

 すずかは廊下を走らない程度に駆け足で、アリサが待つ階段まで急いだ。

「アリサちゃん!」

「あ、すずか」

 目的の相手を見付けて、すずかは直ぐに合流する。

「言われた通りしたけど、あんな感じで良かった訳? 何だか理不尽に怒鳴ったみたいで心が痛むわ」

「うん、だと思うよ」

「けど、これって何の意味があるのよ?」

「さぁ?」

 この茶番劇、いずれ来るべき日になのはは思い知る事になるのだが、ユートは其処まで詳しく教えてはいなかった。





.

 放課後、トボトボと昔を思い出しながらなのはは、帰宅をしている。

 

 父、高町士朗が入院した事故……否、事件の際にはたった独りで留守番をしていた事を。

 

 一昨年の喧嘩。

 

 まだ、アリサともすずかとも友達ではなかった頃、アリサがすずかのカチューシャを取り上げ、涙ながらに『返して』と抗議していたのを見て、なのはが平手打ちにした時の事。

 

 その後、アリサと取っ組み合いになって、一番大人しかったすずかの『やめて』の一言で我に返った事。

 

 両親が仲良くなったのを契機に、アリサとすずかの2人とも友達になり、去年は兄の恭也がすずかの姉の忍と恋人になった事。

 

 色々とあったのだが悪くはない二年間。

 

 そして現在、アリサを怒らせてまでやっている事、ジュエルシードの探索だったけれど、全く上手くいっていなかった。

 

 ジュエルシードの数も、ユーノが予め手に入れていた1個のみで増えてない。

 

 探索しても見付からない上に、自分の判断ミスによってむざむざと取られた。

 

「私、何をやってんだろ」

 

 なのはの呟きが、誰も居ない路地に空しく響く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「うーん、こっちの世界の食事もまぁ中々、悪くないよね。さ〜てウチのお姫様はっと!」

 

 狼を自認するクセして、ドッグフードを頬張っていたアルフは、フェイトの様子を見に行く為に立ち上がると、テーブルの上に置いたドッグフードの箱を持って寝室に向かう。

 

 ベッドに横たわっているフェイト、そして残された食事を見て頭を抱えた。

 

「あー、また食べてない。フェイトォ、ちゃんと食べなきゃダメじゃないか」

 

「大丈夫……少しだけど食べたよ」

 

 苦笑いをしながら力無く起き上がって、ベッドから降りつつ言うフェイト。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。次のジュエルシードの大まかな位置の特定は済んでいるし、余り母さんを待たせたくないしね」

 

「そりゃまぁ、フェイトは私のご主人様な訳で、私はフェイトの使い魔だから、行こうって言われりゃ行くけどさぁ」

 

「ああ、それ食べ終わってからで良いから」

 

 手にしたドッグフードを指差され、アルフは慌ててそれを後ろ手に隠すと愛想笑いをする。

 

「そうじゃないよ、私はねフェイトが心配なの。広域探索は可成りの体力使うのにフェイトは碌に食べないし休まないし。その傷だって軽くはないんだよ!」

 

 背中には傷があり、治す間も無く動いていた。

 

「平気だよアルフ。私は強いんだから」

 

 漆黒のバリアジャケットを纏うと、手袋を填めて、マントを羽織る。

 

「フェイト、それにアイツらの事だってあるんだよ」

 

 アルフは思い出す。

 

 あの時、自分を軽く一蹴した〝炎熱変換〟の仮面。

 

 フェイトの背後を取ったもう1人の仮面。

 

 そして、恐らくは指示を出していた少年。

 

「あれが何者か判らない、若しかしたら同じ探索者なんだろうけど、今度こそは後れは取らないよ。さぁ、行こうかアルフ。母さんが待っているんだから」

 

 そしてフェイトとアルフの2人は、空が薄暗くなった街へと溶けて往く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 喫茶翠屋で洗い物の仕事する恭也と忍は、なのはの事について話しをする。

 

「なのはちゃんは相変わらずなの? 恭也」

 

「ああ、少し遅くなる事も屡々あってな。とはいえ、基本的にはユートも居るんだし、大丈夫だと思うが」

 

「そっか、ウチのすずかも実戦を積む段階になったって喜んでたわ。大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)も使い熟せる様になっていたしね」

 

「そういえば忍も聖衣を貰っていたな。確か大地聖衣・キリン(ランドクロス・ジラフ)だったか?」

 

「ええ、あれは面白いわ。開発した麻森博士にお話を伺いたいくらいよ」

 

 完成させたのはユーキと超 鈴音と葉加瀬聡美な訳ではあるが……

 

 ジェットボード形態……

 

 オブジェ形態と聖衣形態だけでなく、大地聖衣なら地を駆けるジェットボード形態になるし、大空聖衣は空を翔るジェットウィング形態に、大海聖衣は海を往くジェットマリン形態へと変化する。

 

 マシーン聖衣の特徴だ。

 

「良い玩具だな……」

 

「ん? 恭也、何か言ったかしら」

 

「いや、何も」

 

 余りなのはを心配していないのは、妹達を信じているからなのか、イチャイチャするのが忙しいのか判断に迷う処だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 なのはとユーノが地面を歩いてジュエルシードを捜している頃に、フェイトとアルフはビルの上で方針を話し合う。

 

「だいたいこの辺りだと思うんだけど、大まかな位置しか判らないんだ」

 

「ハァー、確かにこれだけ人や建物が多いと捜すのにも一苦労だぁねぇ……」

 

 溜息を吐きながらアルフは面倒臭そうな口調になって言う。掌サイズのジュエルシードを見付けるには、この街でも広すぎる。

 

「ちょっと乱暴だけれど、周辺に魔力流を打ち込んで強制的に発動させるよ」

 

 フェイトは長柄の斧たるバルディッシュを、サイズフォームに変換をすると、魔法を撃ち込むべく振り上げるが……

 

「ああ、待った! それは私がやるよ」

 

「アルフ、大丈夫かな? これ、結構疲れるよ」

 

 フェイトはアルフを心配そうに気遣うが……

 

「フフ、この私を一体誰の使い魔だとお思い?」

 

 現在のフェイトには無いナニかを張って、エヘンと自慢気に言うアルフ。

 

「じゃあ、お願い」

 

「そんじゃ、往くよ!」

 

 主譲りの魔力、円形となる魔方陣を足元に展開し、橙色の魔力光の輝きを持つ魔力が、電撃変換された力を撃ち込んだ。

 

 その過剰な魔力に反応を示して、光の柱が街中から立ち上る。

 

 魔力は天を突き、街周辺に魔力波が流れて行く。

 

 ソレを感知出来るのは、魔力を持って感じ取る事が可能な者達。

 

 その様子を見たユーノが慌てていた。

 

「こんな街中で強制発動? いったい誰が? くそ、広域結界……間に合え!」

 

 少なくともユートに魔力が無いと思っているユーノには、彼がやったなどとは思えない。ジュエルシードを封印した力も魔力は感じなかったからだ。

 

 だが然し、今の感じだと明らかに魔力によるもの。

 

 それは兎も角、ユーノは翠に輝ける魔力を放って、円形の魔方陣を形成すると結界を展開した。

 

その頃、なのはは急いで現場に向かう。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

 赤い宝玉で待機状態たるレイジングハートを天高く投げると、レイジングハートが桜色に輝き、フレームを完成させて魔導師の杖に変形する。

 

 なのはの纏った衣服も、白と青のツートンカラー、金のパーツがアクセントとなったバリアジャケットに換装された。

 

 ジュエルシードが発動した影響で雷雲が発生して、雷が稲光りする。

 

 一方のフェイト達も……

 

「見付けた!」

 

「けど、アッチも近くに居るみたいだね。あの3人組かな?」

 

 周囲の景色が幾何学的に変化したのに気が付いて、少なくとも誰か自分達以外の探索者が居る事を知る。

 

「それじゃあ早く片付けようか。バルディッシュ!」

 

《Grave form Set up》

 

フェイトのコールに応え、バルディッシュが変形してポールアームになる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

〔なのは、発動したジュエルシードが見える?〕

 

「うん、直ぐ近くだよ!」

 

 天を突く光を見てなのはは頷く。

 

「多分、彼以外にも探索者が居るんだよ。その誰かが先を越す前に封印して!」

 

「判った!」

 

 なのははレイジングハートをカノンモードに換え、砲撃準備をする。

 

 ほぼ同時に、桜色と金色の魔力がジュエルシードを包み込んだ。

 

 なのはが唱える。

 

「リリカル・マジカル!」

 

 フェイトが叫ぶ。

 

「ジュエルシード・シリアルⅩⅨ!」

 

 なのはが、フェイトが、ジュエルシードへ放ち……

 

「「封・印!」」

 

 その一撃は見事に命中。

 

 二条の砲撃がジュエルシードに命中して、大魔力により発動を抑た。

 

《Device mode》

 

 レイジングハートを元の形態に戻すと、溜息を吐いてなのはは翔ぶ。

 

 それはフェイトも同様。

 

 お互いを知らないが故、なのはもフェイトも相手よりも早くジュエルシードを確保をするべく、なのははデバイスモードのレイジングハートを、フェイトの方はグレイブフォームのバルディッシュを揮い、ジュエルシードへと向けて突進を試みた。

 

 ジュエルシードを間に挟んで、レイジングハートとバルディッシュが強く激突してしまい、なのはの魔力とフェイトの魔力がジュエルシードに共振……

 

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 空間そのものを揺るがす震動が起き、目を開けていられないくらい余りにも眩い閃光に目を灼かれつつ、2人は後ろへと吹き飛ばされてしまった。

 

 次元震と呼ばれる現象。

 

 その結果、可成り強固に造られた両者のデバイスに罅が入り中破してしまう。

 

 フェイトはバルディッシュを見ると、物悲しそうな表情になった。

 

 自分の迂闊な行動で傷付けてしまったのが悲しく、バルディッシュの罅の入ったコアが明滅しているのを見つめて、フェイトは優しく言う。

 

「大丈夫……戻って、バルディッシュ?」

 

《Yes Sir》

 

 三角形の金色の宝石……待機状態に戻り、フェイトの手袋に装着された。

 

 ソレを確認すると、真っ直ぐ前を見据える。

 

 目の前のジュエルシードが今にも発動しそうな不安定な状態で、プカプカと浮いているのが見えた。

 

 フェイトは、意を決してジュエルシードへ飛ぶが、直ぐに停止する。

 

 3人の人間がジュエルシードの前に立つ、だが然しその内の1人は以前に見た少年ではない。

 

 橙色の鎧を纏った金髪の少女、白色の鎧を纏う紫色の髪の少女、そして黄金に煌めく鎧を纏う黒髪の女性の3人組だった。

 

「アンタ達、こんな都心部で結界張ってるとはいえ、次元震を起こすなんてどういう心算よ!?」

 

「これが暴発したら街が吹き飛ぶかも知れないよ?」

 

 金髪と紫髪の少女が矢継ぎ早に叫ぶ。

 

 そして、瞑目しながらも黄金の鎧を纏い、マントを羽織る女性がジュエルシードへと近付くと……

 

「今の貴女達にはジュエルシードは任せられません」

 

 そう言って右掌で包み込む様に握る。

 

「ジュエルシード、疾く収まりなさい!」

 

 暴走寸前のジュエルシードだったが、女性が魔力とは違うエネルギーを伴って確り握ると、徐々にエネルギーが鎮まっていく。

 

「封印完了ですね」

 

 踵を返す女性とそれに付いていく少女達、それに待ったを掛けたのは……

 

「そのジュエルシードは、持っていかせない!」

 

 フェイトだった。

 

 フォトンランサーのスフィアを撃ち放つ。

 

「フォトンランサー、ファイヤ!」

 

「結晶障壁(クリスタル・ウォール)!」

 

 パキン!

 

 軽快な音を響かせて跳ね返してしまい……

 

「うわっ!?」

 

「フェイト!」

 

 フェイトにぶつかる。

 

「待って、貴女は……貴女達は何者なんだ!?」

 

 黄金の女性が振り返り、ユーノの質問に答えた。

 

「既に貴方は教皇より聞いたでしょう? この世界の守護組織たる聖域の人間。アテナの聖闘士ですよ」

 

 そう言って姿を消すのであった。

 

「教皇?」

 

 ユーノは呆然と呟く。

 

 

 

 

【封印されたJS】

ユート=14個

なのは=1個

フェイト=0個

 

残りのJS=6個

 

 

.




.
 文字数が足らず、序盤を前書きに書きました……

 因みに、未来を導く天使の際には削った一部を此方では前書きに前半の分を入れる事で、完全版となって入っています。

 具体的には、恭也と忍の会話部分。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話:超常 2人の緒方が世界を舞う

.

 現在、なのはは呼び出しを受けて屋上に来ている。

 

 これにはユーノも一緒に来ているが、それは呼び出しの相手が相手だからだ。

 

「待たせたね」

 

「優斗君……」

 

 重々しい金属製の扉を開いて現れたのは、なのはを呼び出した張本人であり、恐らくはジュエルシードを最も多く持つ少年。

 

 敢えてなのはに攻撃を加えたりはしないが、決して油断出来る相手ではない。

 

 同じクラスだし、すずかの家で暮らしている事も知っているが、ユーノは勿論の事、なのはもユートについては全く知らなかった。

 

「牡羊座から聞いたけど、昨夜デバイスを壊したらしいね? 言った通り持ってきてくれたかな?」

 

「う、うん」

 

 まだ完全には自己修復が済んでなく、所々に傷が残っている赤い宝玉を出す。

 

「レイジングハートをどうする気なんだ?」

 

 全く警戒を解けない為、ユーノは睨みながら訊く。

 

「なに、ちょっと改造でもしようかと思ってね」

 

「「改造!?」」

 

 インテリジェントデバイスを改造する、そんな事をアッサリ言うユートに驚愕を隠せないユーノ。

 

 デバイス技師とて簡単とは言えない、レイジングハートはユーノが見付けたとはいえ、いまいち解っていない部分も多いのだから。

 

「修復も確りやるさ」

 

 ユートが素材らしき物を何処からともなく出して、待機状態のレイジングハートに何事かを言う。

 

「管理者権限発動コード、********−*******−****」

 

《yes An administrator right is exercised(了解、管理者権限発動します)》

 

「なっ!?」

 

 ユーノは驚愕に目を見開いてしまう。

 

 今のコードはユーノでさえも知らない、謂わば隠しコードと云えた。

 

 機能をフルパフォーマンスで使えていた訳ではなかったが、それでもある程度は調べている。

 

 マスター以外が管理者権限を発動する為のコード、レイジングハートに初めて触れたユートがそれを知る筈も無いというのに。

 

 若しあるというのなら、それはレイジングハートのマスターが、ユートにそれを教えなければならない。

 

 だが、今のレイジングハートのマスターはなのは。

 

 しかもなのは自身が茫然自失となっている現状を鑑みて、彼女も知らなかったという事になる。

 

 ユートを信頼する誰か、その誰かさんが教えた事になる訳だが、今まで持っていたユーノも、正式な持ち主となったなのはも教えてなどいないし、知りもしなかった。

 

 隠しコードは管理者権限をマスター以外が発動出来る性質上、一度教えたら変えるだろうから、さっきのコードは最初期設定。

 

 レイジングハートが造られた時からのコード。

 

 ユーノに考えられる可能性は一つだが、それは流石に有り得ない。

 

 それだと、レイジングハートのマイスターがユートという事になるからだ。

 

 ユーノが考え込んでいる間にも、ユートは予め組む予定だったと言わんばかりの部品を組み込んでいく。

 

「神鍛鋼(オリハルコン)にガマニオン、銀星砂(スターダストサンド)」

 

「は?」

 

 見た事も聞いた事も無い鉱物を使って、レイジングハートのフレームを造り上げてしまう。

 

「い、今のは?」

 

「この世界に存在しているレアメタル。あ、管理局には報告するなよ? 連中、知ったら嬉々として地球を征服して、勝手気儘に採掘しようとするだろうから」

 

「か、管理局はそんな組織じゃないですよ!」

 

「果たしてそうかな?」

 

「え?」

 

 淡々と言うユートに呆けた声を出すユーノ。

 

「確かに末端で頑張ってる連中ならそうだろうけど、組織なんてでっかくなれば腐るもんだ。況してや35の管理世界を抱えた管理局だからな。利権争いなんて日常茶飯事だろう。其処で特殊なレアメタルを見付けたとなれば、上に昇る事に腐心する屑なら、幾らでもやるだろうね」

 

「うっ……」

 

 無いとは言い切れない。

 

 それから一時間は経ったであろうか、レイジングハートは傷一つ付いていない新品同然となっていた。

 

「レイジングハート・エクセリオン+だ」

 

「エクセリオンは兎も角、プラスって何?」

 

「その疑問は置いといて、マガジン式のカートリッジシステムを組み込み、フレームも強化して暴発を防ぐ形にしてある。エクセリオンを使う場合、クロスアップ・パーヴォと〝叫ぶ〟様にしようか」

 

「「何故に?」」

 

 なのはとユーノはハモりながら訊ねる。

 

「まあ、通常モードで倒せない敵に当たってから使えば良いよ。普段はアクセルモードとバスターカノンモードで充分だしね」

 

 ユートはデバイスモードの強化版のアクセルモードと、カノンモードの強化版のバスターカノンモードについて説明を行う。

 

 エクセリオンモードは、本当にヤバいと思った時のみに、レイジングハートが使用を進言する形を執る。

 

「カートリッジシステムも今は使わない様に。序でに附けたけど、頼り切りになると腕が上がらないから」

 

「う、うん……」

 

 ユートがレイジングハートに組み込んだのは、鋼鉄聖衣の一つで大空聖衣・孔雀(スカイクロス・パーヴォ)である。

 

 基本的に科学的な産物のレイジングハートだから、マシーン聖衣は親和性が高かった。

 

《Pot out》

 

「「あ゛!?」」

 

 レイジングハートが勝手にジュエルシードを出し、ユートが受け取る。

 

「レイジングハート、いったい何を?」

 

《Is price of the remodeling(改造の対価です)》

 

「へ?」

 

「レイジングハートも素直だね。改造が気に入ったらジュエルシードを貰うと言っておいたんだけど、気に入らないと言えば良かったのに」

 

《Because it's my pride(それが私の矜持です)》

 

「そうか」

 

「どういう事なの?」

 

 訳が解らないよと言わんばかりのなのはに、ユートは軽く説明をした。

 

「レイジングハートにとっては、この改造は石ころを一つ渡しても惜しくない、それだけの価値が有ったと判断したんだよ」

 

「そうなの? レイジングハート」

 

《Yes my master》

 

 なのはの確認に、レイジングハートは嬉しそうにしながら答える。

 

 元よりジュエルシードの問題は、マスター権限が無かったユーノの問題だし、レイジングハートにとっては割とどうでも良かった。

 

「後は、仮想練習モードで性能を確認しつつ、確りと使い熟せる様になれば良いだろうね。何しろ、普通車からF1に乗り換えたのと同じくらい、今のなのはにはピーキーだから」

 

「う、うん。判ったの」

 

 ユートは既に隠しコードは変更済みで、組み込んだ部品に関してもブラックボックス化してあり、管理局が調べても解らない様にしてある。

 

 ユートはとことんまで、管理局を信じていない。

 

 当然であるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 同じ頃、フェイトは怯えた表情でマンションの屋上に立って居た。

 

 今日はジュエルシードを集める指示を出した者に、母親に定期報告をする日だったのだが、肝心要となるジュエルシードを一つも手に入れられていないのだ。

 

 きっと〝また〟鞭で叩かれてしまうし、何より母親を悲しませてしまう。

 

 だが、行くしか無い。

 

「よう、フェイト・テスタロッサ」

 

「「っ!?」」

 

 今、正に転移しようとしたその時に、背後から行き成り声を掛けられて、驚愕しながら振り返ると……

 

「あ、アンタ!」

 

 薄ら笑いを浮かべる黒髪黒瞳の少年、ジュエルシードを持って行った3人組の1人──もう1人居る──が立っていた。

 

「悪いが俺も連れていって貰えないか?」

 

「巫山戯んじゃないよ!」

 

「ほう? ジュエルシードを一つも手に入れていないから、鞭でシバかれるんだろうに。俺が防波堤になってやるって言ってんだし、素直に聞いとけや」

 

「ぐっ、ぬけぬけと!」

 

 目の前の少年の所為だと言うのに、まるで悪びれもしない態度に、アルフは腹が立つ。

 

「プレシア・テスタロッサが破滅しても構わないなら拒否して良いが、フェイト・テスタロッサはどうしたいんだ?」

 

「母さんが……破滅?」

 

「狂人の行き着く先なんて破滅しかないさ」

 

 狂人というのに引っ掛かりを感じるが、フェイトは意を決して……

 

「判りました」

 

 頷く事にした。

 

 正直、信用が出来るかは解らないのだが、どっちにしろフェイトでは目の前の少年をどうにも出来ない。

 

「フェイト、本当に良いのかい?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「まあ、アタシはフェイトが良いなら構わないさ」

 

 フェイトは次元転送の為の詠唱に入る。

 

「次元転移、次元座標……876C44193312D6993583D1460779F3125……開け誘いの扉。時の庭園……テスタロッサの主の元へ」

 

 足下には巨大な魔方陣が顕れて、フェイト達をその場から消し去る。

 

 次の瞬間、全くの異空間に浮かんだ庭園に居た。

 

「さてと、ちょっと秘密のOHANASHIをしてくるから、良い子でジッとしていろよ?」

 

「あ……」

 

「ちょっ、アンタ!」

 

 フェイトとアルフが止める間も無く、少年は建物の中へと入って行った。

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「別にババァはどうでも良いんだけど、アイツは本気で話をするのかねぇ?」

 

 扉が閉まってしまっては追い掛け様もなく、フェイトもアルフも黙って待つしか無か出来ない。

 

 カツン、カツン、カツンと石造りの床が反響する。

 

 進んだ先には玉座が存在しており、其処には黒衣の女性が気だるそうにしながら座っていた。

 

「誰かしら?」

 

「初めて御目に掛かるな、俺は緒方優雅。フェイトの知り合いって処か」

 

「チッ……」

 

 プレシアは舌打ちする。

 

 秘密の隠れ家に赤の他人を連れて来るなど、とんだ失態を演じたからだろう。

 

「まあ、フェイトを怒ってやるなよ。別に此処を誰かに伝えたりはしないさ」

 

「口を封じた方が簡単だと思うけど?」

 

 杖を手にすると、紫色の魔力光の魔方陣が展開し、紫の雷撃を放つ。

 

 ズガァァァァァンッ!

 

 耳が痛くなるくらい強大な雷が、優雅と名乗る少年を撃ち据えた。

 

 もうもうと上がる土煙が晴れると……

 

「残念、魔法は効かないんだよな」

 

 平然と立つ少年が、相も変わらずの薄ら笑いで立っていた。

 

「真逆?」

 

「俺はエピメテウスの落とし子だ。攻撃だろうが快復だろうがお構い無しに無効化してしまう」

 

「エピメテウスの落とし子ですって? 聞いた事もないわね」

 

「地球の概念だしな」

 

 というより、異世界での地球の概念なのだが……

 

 真偽の程は兎も角としてもだ、魔法が効いていないのは間違いない。

 

「何の用事なの?」

 

「なぁに、俺の弟は俺とは違って博愛主義者でなぁ。出来たらアンタを救ってやりてーってよ」

 

「救う? フッ、アリシアを生き返らせてでもくれるのかしら?」

 

 プレシアはまるで嘲笑うかの如く言う。

 

「クックッ、ただ生き返らせても救いにはならんさ」

 

「どういう意味?」

 

「教えてやる。さあ、お前の罪を数えろ! 天空覇邪魑魅魍魎!」

 

 突如として辺りが暗くなって、この部屋を重苦しい空気が支配する。

 

『シクシク、シクシク』

 

「な、何? この声……」

 

『ゴメンなさい』

 

「アリシア?」

 

 それは愛しいアリシアの声に他ならない。

 

『ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい』

 

「何故? 何故、アリシアが謝っているの?」

 

『死んでしまってゴメンなさい、生まれてきてゴメンなさい、謝るから、謝るからママを誰か止めて』

 

「アリシア? 本当に? アリシアなの?」

 

 混乱するプレシア。

 

『もうフェイトを虐めないで……助けて、誰か私の妹を助けて、ゴメンなさい、生まれてしまってゴメンなさい、死んでしまってゴメンなさい……』

 

 延々と延々と、アリシアの声が謝り続けていた。

 

「死して尚、死んだ事にも最初は気付かなかったが、今は理解している」

 

 指差した方向に、少女の霊が蹲っていた。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話:顕現 新しいフォーム

.

「ア、アリシア……なの? 本当に?」

 

 ブルブルと手を痙攣させながらプレシアは手を伸ばすのだが、そもそも霊体のアリシアに三次元に属するプレシアが触れられる筈もなく、すり抜けてしまう。

 

「アリシア! 何故?」

 

「アリシア・テスタロッサは謂わば幽霊だ。アンタの世界でも幽霊くらい概念としては在っただろう?」

 

「在るけど……」

 

「地球では悪霊を徐霊する巫女さんなんてのも居たりするからな、況してや俺は積尸気使いだ。霊は居るのが当たり前ってヤツさ」

 

「それよりも、アリシアはどうして泣いてるの?」

 

 人の説明を〝それより〟の一言で済ましてくれて、プレシアは訊きたい事だけを訊ねてきた。

 

「ハァー、んなもん決まってんだろ? 大好きな母親が妹(フェイト)を鞭でシバきあげてんのを見せ付けられてんだぜ? やめてと言っても聴いて貰えないし、止めようにも触れない……気が狂いそうになるくらい嘆いたんだろうな」

 

「全部……視てた? 私がフェイトを虐待している所を全て……?」

 

 ヨロヨロとショックから後退り、頭を抱えながらもアリシアを見遣る。

 

「苦しみもなく、一瞬で死んだから死んだという自覚もなかった。話し掛けてもアンタは視えないから無視した形になり、寂しさを抱えていて、いつしか自分が死んでいるのに気が付き、アンタが苦しんでいるのに何も出来ないと嘆き、成仏も出来ずに在り続けた」

 

 というのは予測に過ぎないが、あらましはそんな処だと考えている。

 

「アリシア、アリシア……嗚呼、嗚呼、嗚呼!」

 

 自分の仕出かした事こそアリシアを傷付け、哀しませたのだと覚ったプレシアは頭を抱え、慟哭しながら叫んだ。

 

「さっき、アリシアを生き返らせてくれるのかと訊いてきたな? 魂と保存された肉体が在るのなら、蘇生は可能だ」

 

「ほ、本当に!?」

 

「だけど、今のアリシアが肉体に戻っても、精神崩壊してしまうぞ」

 

「そんな……」

 

 愕然となるプレシア。

 

 自らの行いに後悔などは無かったろうが、アリシアを壊しかねない事をしていたとなれば話は別だ。

 

「フェイトと仲良くすれば良い」

 

「え?」

 

「フェイトと仲良くして、アリシアに妹の幸せな顔を見せてやれ。そうすれば、蘇生に際して精神崩壊を防げるし、アリシアも笑ってくれる様になるだろうよ」

 

 それで満足されて成仏をしなければ……だが。

 

「妹?」

 

「クローンってのは、そもそも本人を創る行為じゃないんだ。フェイトはアリシアの娘であり妹。それが、同じ細胞から生み出されたフェイトという存在だぜ。代わりになどそれが仮令、本人のクローンでも務まる訳がねえよ」

 

「そういう、ものなのね」

 

 何処か憑き物でも落ちた様な、サッパリとした表情で受け答えるプレシア。

 

「アリシアが笑える様になったら、アリシアの魂を身体に入れ蘇生させてやる」

 

「その対価に、貴方は何を望むのかしら?」

 

「話が早くて助かるな……アリシアのクローンを用立ててくれ」

 

「? クローンを? 嫁が欲しいのならアリシアでもフェイトでも上げるわよ」

 

「いや、嫁じゃねーから。欲しいのは嫁じゃねー!」

 

 大事な事だから二度言う優雅。

 

「まあ、良いわ。研究用に造ってある素体を上げる」

 

 生きた肉体だが、魂すら宿らなかった為に置いてあるモノで、流石にアリシアとそっくりだから破棄まで出来なかったのだ。

 

「それと、病を治すってのは難しいから、自分の複製を造っておけ。魂を入れ換えれば若くてボロの無い身体になるからな」

 

「……解ったわ」

 

 アリシアが蘇生可能だというなら、プレシアも生きたいという欲が出た。

 

 故に、言う通りにしようと考えたのである。

 

 あれだけの力を見せ付けられては、優雅を信じるしかないのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 重苦しい音と共にゆっくりと扉が開いて、其処から人影──優雅が出てきた。

 

「あっ!」

 

「フェイト、話は終わったからアルフを連れて行くと良い。それと、デバイスを置いていけ」

 

「バルディッシュを?」

 

「ああ、少し改造をする」

 

 優雅の言葉に、不審そうな目でアルフが睨む。

 

「改造? アンタなんかにそんな事出来るのかい?」

 

「当然だ。言っておくが、前回に出逢った白い魔導師のデバイスも改造しているからな、此処で改造を受けなけりゃ突き放される事になるぜ?」

 

「あの子のデバイスも? ……判った」

 

 少し考えたが、嘘を言っているとも思えず……

 

「バルディッシュの事を宜しく」

 

「ああ、任せな」

 

 フェイトは、待機状態のバルディッシュを優雅へと手渡す。

 

「じゃあ、報告に行ってくるんだな。その間にコイツの改造を終わらせておく」

 

「う、うん……」

 

 フェイトは何処か心配気にバルディッシュを見て、母親──プレシアの許へと向かった。

 

「じゃあ、改造を始めようかバルディッシュ?」

 

《Hand softly please》

 

 きっと人間なら大粒の汗を流していたであろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 フェイトはアルフを連れ立って廊下を進む。

 

 広間に出て、玉座の如く設置された椅子に座っているプレシアを見ると、唯の一個もジュエルシードを手に入れられなかったという現実に、脹らみ掛けの──年齢の割には大きめな胸が張り裂けそうになった。

 

「た、ただいま帰りました……母さん」

 

「ジュエルシードは?」

 

「ま、まだ手に入って……いません……」

 

 ビクビクと怯えながら、事実として報告をする。

 

「そう。まあ、彼が対抗馬じゃあ無理よね」

 

「え?」

 

「運が無かったわ。でも、どうやら彼が私の願いを叶えてくれそうだし、彼と出会ったのがお手柄と言えばお手柄ね」

 

 何故か最近では珍しくもなくなった激昂しない母親の姿に、叩かれないで済むみたいな言い方に、多少の違和感を感じた。

 

「うん? フェイト、それは何かしら?」

 

「あ、これは……母さんにお土産をと思って」

 

「そう。なら、お茶にでもしましょうか」

 

「は? はい! じゅ、準備をしてきます」

 

「あ! フェイト、アタシも手伝うよ」

 

 パタパタと厨房に向かうフェイトを見遣り、やはりアリシアとは違うと犇々と思ったが成程、アリシアと違うならあの子はフェイトという個人。

 

 アリシアの娘であり妹。

 

 何故だろう、今更ながらそれが胸の奥にストンと入ってきた。

 

 脳裏に浮かぶのは、2人でピクニック行った時の事である。アリシアに誕生日は何が欲しいのかと訊いた際に、〝妹〟が欲しいと答えたのではなかったか?

 

「(ああ、そうか。私は……あの子の願いを叶えていたのね)」

 

 我知らず涙を零しつつ、椅子の背凭れに寄り掛かり瞑目するプレシア。

 

 それはフェイトとアルフが戻るまで続いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 小一時間も経ったであろうか、重々しい扉が開かれてフェイトとアルフが外に出て来る。

 

「フェイトか。どうした? 話はできたのか?」

 

「うん。あのね、母さんがジュエルシードを欲しがる訳を聞いたの」

 

「なに?」

 

 よもや話したのか? と優雅は訝しむ。

 

「私に実は姉さんが居て、姉さんは現代医療では治せない病に臥しているから、今は眠っているって。だから母さんはジュエルシードを欲しかったんだって言ってたんだ。けれど、貴方が治療の目処を立たせてくれたから、ジュエルシードは必要無くなったんだって、笑顔で言ってくれたんだ。だから、今後は貴方の手伝いをしなさいって」

 

「そうか。バルディッシュの改造は終わったぞ」

 

 優雅はフェイトにバルディッシュを手渡す。

 

 先程まではまだ、小さな罅が残っていた筈だけど、既に新品なのも同然の美しい光沢を放っていた。

 

「起きてバルディッシュ」

 

《Get set》

 

 一瞬、煌めくと長柄が顕れて部品がそれぞれにドッキングしていき、フェイトのバリアジャケットを魔力により構築する。

 

《Barrier jacket Lightnig form》

 

 漆黒のバリアジャケットを纏い、マントを羽織ったその姿は元のモノとは若干だが変わっていた。

 

「ブローヴァフォームだ。バルディッシュの基本形、カートリッジシステムという魔力増幅の機構を積んだから少し大型化したけど、まあ問題は無いだろうな。サイズフォームの強化形態がクレッセントフォーム。物理フレームが大型になったから、魔力刃が無くても鎌って感じだ。ザンバーフォーム。新形態で、大型の魔力刃を持つ大剣となる。この形態はバルディッシュが必要と感じたら解放される事になる。ザンバーにするには……クロスアップ・エイパスと叫べ」

 

「「叫ぶの!?」」

 

 主従でハモる。

 

「何を驚く? セットアップでいつも『バルディッシュ・セットアップ!』とか叫んでんだろ? 変身魔法少女の如く」

 

「あう……」

 

 急に恥ずかしくなったのだろう、顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。

 

 バルディッシュの方には大空聖衣・風鳥(スカイクロス・エイパス)が組み込まれており、フルドライブであるザンバーフォームにする際は、これを起動せねばならない。

 

「スピードが欲しいなら、『エイパス・セットアップ』と叫べ。パーツが装着されスピードも上がるから」

 

「は、はぁ……」

 

 勿論、フルセットした方がより速度も上がるが……

 

「俺は戻る。ジュエルシードを集めるなら、フェイトも降りた方が良いぞ」

 

「あ、はい!」

 

 優雅はその侭、ユートの中へと還った。

 

 優雅が消えた場所を暫く眺めると、フェイトはふとアルフの方を見て……

 

「行こうか、アルフ」

 

「はいよ、フェイト」

 

 笑顔で転移した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 放課後も完全に過ぎて、夕方となった逢魔が刻に、ジュエルシードの海鳴臨海公園に反応が出る。

 

 なのはとユーノの組と、フェイトとアルフの組。

 

 双方が現場に辿り着き、ジュエルシード・モンスターとなった樹木の怪物を見付けた。

 

「結界を張るから、なのははアレを止めて!」

 

「うん、ユーノ君。レイジングハート、セェェェーットアーップ!」

 

《Stand by Ready Setup》

 

 桜色の魔力光に包まれ、なのはの幼い肢体をバリアジャケットが覆う。

 

《Barrier jacket Sacred form》

 

 セットアップを完了し、なのはがレイジングハートを構えると、背後から金色の閃光が飛来する。

 

 それは樹木の怪物に命中して爆ぜた。

 

「あ、黒衣の子!」

 

「君は……」

 

 原典とは異なり、まともな会話はこれが初めてとなるなのはとフェイト。

 

 アルフは特に気にする事もなく、樹木の怪物を見て右拳を左掌に打ち付け……

 

「生意気にバリアを張るのかい!」

 

 不敵に笑っていた。

 

「今までのより強い、それに昨日の子も居る」

 

「あ、あの……」

 

 なのはがフェイトに話し掛けるが……

 

「今はアレを止めるのが先だよ。話したい事があるのなら後にして」

 

 にべもなく言う。

 

「う、うん……あれ?」

 

 なのははバルディッシュを見て、以前に打ち合った時と形状が異なるのに気が付いた。

 

 フェイトがバルディッシュにコールする。

 

「バルディッシュ、クレッセントフォーム」

 

《Yes sir Crescent form get set》

 

 バルディッシュが大鎌に変換された。

 

「レイジングハート!」

 

《Buster cannon mode》

 

 なのはもレイジングハートをバスターカノンモードへと変換し、樹木の怪物へ構えを執る。

 

「今日は喧嘩しないんだ」

 

「「あっ!」」

 

 其処に居たのは、クールホワイトの鎧を身に付けた仮面少女に、茜色の鎧を身に付けた仮面少女。

 

「待って、私はもう君達と争う心算は無い!」

 

「うん、教皇から話は聞いてるよ」

 

 フェイトの言葉に、白い鎧の少女が答えた。

 

「で? そっちのアンタはどうするのよ?」

 

「わ、私も争いたい訳じゃ無いから!」

 

 茜色の鎧の少女の問い掛けに、なのはも困った表情で答える。

 

「なら、先ずは怪物を殺っちゃうわよ!」

 

 茜色の鎧の少女が音頭を執り、他の3人も頷く。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話:激突必至 管理局の黒い奴

.

 ユートとユーガが各々、なのはとフェイトに接触をしている頃……

 

 それは幾何学的な周囲、次元空間での事。

 

 次元空間はある世界で、各世界を陸に例えて海と呼ばれている。

 

 とある人にして神なら、世界の繋がりを『次元の海に隔てられた並行世界』、『次元の壁に隔てられた平行世界』と評していた。

 

 そんな場所に艦船らしきモノが翔んでいる。

 

 L級八番艦アースラ……

 

 その内部にはアースラのスタッフが働いていた。

 

 そんなブリッジへの扉がスライドし、ミントグリーンの髪の毛をポニーテールに揺った女性が入室する。

 

 座った位置は艦長が座る椅子だった。

 

「皆どうかしら? 今回の旅は順調?」

 

 アースラのスタッフへと話し掛ける女性、それに応える様に男性スタッフが口を開く。

 

「はい。現在第三船速にて航行中です。目標次元には今よりおよそ160ヘクサ後に到着の予定」

 

 次いでもう1人のスタッフが答えた。

 

「前回に起きた小規模次元震以来、特に目立った動きはないようですが、三つ巴の捜索者が再度衝突する危険性は非常に高いですね」

 

 スタッフから報告を受けると満足気に頷く。

 

「失礼します、艦長」

 

 女性の背後から茶色の髪を短く刈った女性が、お茶を持って艦長の机へと持って来た。

 

「ありがとう、エイミィ」

 

 笑顔でお茶を受け取り、香りを楽しむと一杯、また一杯と砂糖を入れる。

 

 それを平然と口に含み、美味しそうに飲み込む女性の名前はリンディ・ハラオウンといい、このアースラの艦長にして時空管理局の提督を務める謂わばキャリアウーマンというヤツだ。

 

「そうね、小規模とはいえ次元震の発生というのは、ちょっと厄介なものだし、危なくなったら急いで行って現場に向かって貰わないと……ね? クロノ?」

 

 リンディがチラッと目を向ける先に居たのは、漆黒の服を纏う黒髪の少年。

 

「大丈夫、分かってますよ艦長。僕はその為に居るんですから」

 

 クロノと呼ばれた少年の瞳には自信に満ち溢れて、その右手には金属のカードが挟まれている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そして現在……

 

 なのは組、フェイト組、聖闘士組の三つ巴ながらも力を合わせてジュエルシードを鎮める事に同意して、攻撃能力を持つ全員で掛かる事にした。

 

「んじゃ、アタシらで一斉に攻撃するわよ!」

 

 皆が橙色の鎧を纏う仮面の少女の言葉に頷き、それぞれが攻撃の準備をする。

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

 

《Yes my Master》

 

「バルディッシュ・アサルト!」

 

《Yes sir Bullova form》

 

 カートリッジシステムは搭載しているが、ユートとユーガに言われた通り使用はしていない。

 

橙色鎧の仮面の少女と白色の鎧の仮面少女も準備し、咸卦の氣を籠めていく。

 

 また、樹木の怪物からの邪魔が入らない様にユーノとアルフがチェーンバインドを仕掛けた。

 

「征くよ! 全力全開……ディバインバスター!」

 

「貫け轟雷! トライデントスマッシャー!」

 

「燃え上がりなさいっ! 炎熱無法(フレイムデスペラード)!」

 

「白光吹雪(シュトラール・シュネーシュトゥルム)ッ!」

 

 展開されていたバリアを桜色の砲撃と、黄金の三叉砲撃が削っていき、火炎の帯が本体を燃やして、最後には吹雪が怪物を凍結させてしまった。

 

 パキィィィンッ!

 

 砕け散った樹木の怪物、その中から碧い輝きを放つ菱形の宝石が浮かぶ。

 

「リリカル・マジカル!」

 

「ジュエルシード」

 

「シリアルⅦ」

 

「封印!」

 

 なのはが、フェイトが、アリサが、すずかが……

 

 それぞれに封印術式を撃ち放ち、ジュエルシードがそれを受けて完全に沈黙、問題は誰が持っていくか。

 

「黒衣の子、アンタはまだジュエルシードが必要?」

 

「いえ、私は単にジュエルシードが発動したら危険だから封印に参加しただけ。必要ではありません」

 

 橙色の鎧の仮面少女──アリサに言われ、フェイトは静かに答える。

 

「それじゃあ、白服の貴女の方は?」

 

「私は……ユーノ君の手伝いでやっていただけだし、私自身は必要じゃないよ。でも、元々はユーノ君の物だから返して上げたい」

 

 白色の鎧の仮面少女──すずかから問われたなのはが質問に答えた。

 

「ユーノ? それで、そのユーノというのはジュエルシードをどうしたい訳? 使うの? それとも研究をしたいのかしら? 管理局に引き渡すなら交渉の余地も無いけどね」

 

「僕は、事故とはいえバラ撒いた責任を果たしたい。それが僕の望みです」

 

 アリサの言葉にユーノは確固たる意志を以て答え、それを聞いたアリサは取り敢えずは良いかと頷く。

 

「じゃあ、アタシ達が持っていっても構わないわね? 教皇がキチンと封印してくれるから、二度と暴れる事も無いでしょうよ」

 

 正直に言うと時空管理局に渡してしまいたいと思っているが、彼女らが使うという目的ではないのなら、いっそ託すのも有りかも知れないと考えた。

 

 実際、封印後に暴れたという事も今の処無いし。

 

「あ、あの!」

 

 浮かぶジュエルシードへと手を掛けようとすると、なのはが近付いて話し掛けてきた。

 

「何かしら?」

 

「あ、貴女達がジュエルシードを集める理由って何なんですか?」

 

「……封印して二度と表に出さない為と、今も覗き見して介入の機会を窺ってる覗き魔(ピーピングトム)に渡さない為よ」

 

「覗き魔?」

 

「そう、この世界を管理外世界と見下していながら、今も覗き魔法で此方を観ている連中、現在は虎視眈々とジュエルシードを狙ってるんでしょう。時空管理局とかいう胡乱な組織は」

 

 これは事実である。

 

 現在、時空管理局の艦船アースラがこの状況を覗いており、暴走するジュエルシードを放ったらかしに、なのは達が封印しているのを〝観察〟して、バトルを開始したならば転移魔法で介入する心算なのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数分前……

 

「現地では既に、三つ巴による戦闘が開始されている模様です」

 

「中心となっている遺失物(ロストロギア)の等級は、A+クラス。動作不安定ですが無差別攻撃の特性を見せています」

 

 男性オペレーターであるアレックスとランディが、艦長のリンディ・ハラオウンと執務官のクロノ・ハラオウンに報告をする。

 

 リンディとて、何も手を拱いている訳ではない。

 

「次元干渉型の禁忌物品、回収を急がないといけないわね。クロノ・ハラオウン執務官、出られる?」

 

「転移座標の特定は出来てますから、命令さえ有ればいつでも!」

 

「それじゃクロノ。これより現地の者への戦闘行動の停止と、古代遺失物(ロストロギア)の回収、それと彼女らから事情聴取を!」

 

「了解です、艦長!」

 

 己れの仕事に自信と意義と誇りを持ち、あの戦闘に介入をするべく転移魔方陣に入った。

 

「気を付けてね〜♪」

 

「はい、行ってきます」

 

 何故か白いハンカチを、ピラピラと振るリンディの姿に、クロノは苦笑いをしながら現場へ向かう為に、転移魔方陣を起動してその場から消える。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 現在……海鳴臨海公園。

 

「ストップだ! 此処での戦闘は危険過ぎる。時空管理局の執務官……クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせて貰おうか!」

 

 アリサがジュエルシードを手にした瞬間、行き成り転移をしてきたクロノに、なのはは二重の意味合いで驚愕した。

 

 一つは行き成りの転移により純粋に吃驚した事。

 

 今一つは、アリサ──といってもなのはは正体に気付いていない──の言葉が本当だったという事だ。

 

「それと、君はそのジュエルシードを此方に渡せ!」

 

「断るわ」

 

「なにぃ?」

 

「封印作業にも加わらず、今更出て来て何を偉そうにジュエルシードを求めてるのよ? アンタにはこれを手にする資格も権利も一切無いわよ!」

 

 アリサはそう言ってジュエルシードを投げる。

 

 受け取ったのはユート。

 

「ジュエルシード・シリアルⅦ……封印!」

 

 完全封印をすると、匣に仕舞って亜空間ポケットに突っ込んだ。

 

 これにより、ユート以外が取り出す事は事実上で、不可能となった。

 

「おい、ジュエルシードを此方に渡せ!」

 

「小獅子星座が言っていただろう? 傍観していたお前達にはジュエルシードを得る権利が無い!」

 

「巫山戯るな! 僕は時空管理局の執務官だ! 古代遺失物(ロストロギア)は、僕ら時空管理局が回収し、管理しなければならない。然もなくば公務執行妨害と古代遺失物(ロストロギア)不法所持、及び管理外世界での無断魔法使用の現行犯で逮捕する! 今ならまだ罪は軽くて済むぞ!」

 

 自身のデバイスのS2Uを突き付けると、ユートに対して恫喝をする。

 

「お前の言う罪とやらは、此方が従う法的根拠が全く無い! 故にそんなでっち上げの罪には問われない」

 

「な、何だと!?」

 

「お前は……否、お前らは此処を何処だと思ってる」

 

「ハァ? 第97管理外世界だろうが。当該惑星名は地球! それがどうしたと言うんだ!?」

 

「まあ、数字に関してはどうでも良いよ。僕が言いたいのはその後、管理外世界という部分だからな」

 

「どういう意味だ?」

 

「つまり、此処はお前らの〝支配領域〟じゃないって事だよ!」

 

「支配じゃない、管理だ」

 

「ハァー!」

 

 ユートは、あからさまに溜息を吐いてやった。

 

「な、何だ? そのダメな人間を見た様な溜息は!」

 

「支配の前に管理は無し、管理の後に支配無しだよ。管理されるのは、何らかの理由で自由を奪われ支配されているからこそだ」

 

「なっ!?」

 

「お前らの管理する世界、それの定義上は魔法文明の発達と、次元世界への自力での進出。それらの世界に管理局の武力を見せ付け、管理世界への加入を強制、管理局法の徹底を行う……だったか? ユーノ」

 

「へ? はい……」

 

 訊ねられたユーノは思わず肯定してしまう。

 

「然るにこの地球は、文明レベルBと定義付けられ、管理局の管理する世界ではない【97番目の管理外】世界であるとされている。そうだったな?」

 

「そ、そうです」

 

「即ち、この地球出身である僕らが地球内で起こした事柄に関して、司法権限を持つのは地球の司法組織に他ならない。故に、地球でお前への公務執行妨害も、古代遺失物(ロストロギア)不法所持も、地球に於ける無断での魔法使用禁止にしても、異次元人であるお前らに裁く権限は無い!」

 

「な、な、な……っっ!」

 

 クロノは余りの言葉に、顔を真っ赤にしている。

 

 ユートの言葉の意味が解らないのか、なのはが首を傾げてアリサ──まだ知らないが──に訊ねた。

 

「えっと、どういう意味なのかな?」

 

「管理世界とか管理外世界とかだと解らないならこう考えなさいよ。日本人であるなのはが日本内で、米国にとって犯罪行為をしたとするわよ?」

 

「う、うん」

 

「日本でそれは法的に犯罪ではないけど、米国の法律では違反。それをなのはが行ったら、米国のポリスがズカズカ勝手に日本の国土に侵入して、なのはを米国の国法に違反したから逮捕すると言って連れ去るの。アイツらがしようとしてるのはそういう事よ。勿論、国際法に違反していても、日本で罪を犯したなら日本で裁くのが普通。米国が連れ去って良い訳じゃない」

 

「成程……あれ? じゃああの人が言ってるのは?」

 

「自分達の法律に違反するから、地球の法律なんて丸っと無視して連れ去ろうって魂胆ね。つまりは、言い掛かりよ」

 

 凄く極端な言い方ではあるが、アリサの言っている事は容赦なく正しい。

 

「当たり前だけど、アイツらの支配領域で同じ事をしたら、その時は向こうの法に従わなければならない。郷に入っては郷に従えって言うでしょ?」

 

「うん……」

 

 アリサの説明に、クロノは額に血管を浮かせながらピクピクと引き攣る。

 

 そしてユートは言う。

 

「その逆もまた然りだな」

 

「ど、どういう意味だ?」

 

「地球で罪を犯したなら、時空管理局の、余所の世界の人間を此方の法で裁く事が出来るという事だ」

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話:論破可能 優斗VSクロノ

.

 その言葉にクロノは驚愕して目を見開く。

 

「時空管理局の執務官とか言ったか? クロノ・ハラオウン。お前は地球で定められる三つの法に抵触しているんだ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「一つ目、異次元人による不法な密入国を禁止する。二つ目が、異次元人による地球への覗き道具の使用を禁止。三つ目、異次元人による武装の持ち込みや使用を禁止する」

 

「何だって!?」

 

「例外として、国連平和維持組織の責任者が同意をしている場合は、特例として許可される。本来ならば、フェイトも執務官と同様の立場だが、僕が既に国連へ口利きをしているから許可はされているんだ」

 

 それを聞き、フェイトはあからさまにホッと胸を撫で下ろす。

 

 正確にはユートの裁量で許可と不許可を決めて良いとされており、法整備を性急に進めている。

 

 つまり、半分はブラフという事だ。

 

「だから、此方はお前に対する処分が委任されているんだ。今すぐに地球から出ていくなら良し、然もなくば退治する!」

 

「え゛? 逮捕じゃなく、行き成り退治なの?」

 

 なのはは大混乱だ。

 

「そうそう、管理外世界での魔法使用に関してどうのこうの言っていたけどな、この世界にその辺りの法は存在しない。だから使える人間は普通に使う訳だが、全員を連れ去る心算か?」

 

「な、何だと!?」

 

 まあ、正確に言うならば魔法ではなく超能力と霊能力に当たるのだが……

 

「くそ、大した魔力も無い癖に!」

 

《Blaze cannon》

 

 炎熱変換された魔力が、青白い炎となり放たれる。

 

 クロノに属性変換スキルは無いが、術式による変換を行う事が可能だ。

 

「どうだ! 大した力も無いのに出しゃばるからだ。後、君達には話を聞かせて貰うから……」

 

「何を既に勝った風情で話してるのよ?」

 

「なにぃ?」

 

 呆れるアリサの言葉に、クロノは未だ煙の上がっている場所を見た。

 

 其処にはまるでダメージを受けていないユートの姿があり、何事も無かったかの如く右手で埃を払う仕草をしている。

 

「ば、莫迦な!?」

 

 防御魔法を使った兆しも見えず、無造作に受けていたにも拘らず効いてない。

 

 クロノは再びデバイスを構えると、今度は魔力スフィアによるシューター系の魔法を放ったが……

 

 ズガン!

 

「効かないんだよ、魔法なんてさ」

 

 先程は砲撃の余波に巻き上げられた煙に遮られて、何がどうなったのか判らなかったが成程、ユートには魔法はまるで無きが如く、躱しも防ぎもしていない。

 

 ユート本人の言う通り、確かに魔法が効いていないのである。

 

「くっ、お前は……魔法を無効化しているとでも言うのか!?」

 

 苛立ち紛れに、クロノはユートへと叫んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その様子をアースラから観ていたリンディ・ハラオウンと、エイミィ・リミエッタも驚愕していた。

 

「魔法を無効化ですって? だとしたら、魔法が主な戦力である時空管理局では彼を制圧出来ない?」

 

「でも、そんなレアスキルなんて私は聞いた事もないですよ? 艦長……」

 

「私だってないわよ。だとしたら、なんて危険な!」

 

 時空管理局は質量兵器に対するアレルギーみたいな処があり、魔法至上主義に傾倒するきらいがある。

 

 現在の管理局は質量兵器など、魔法が使えない一部の局員が様々な審査をパスした上で、許可を得る事によってのみ携帯をする程度でしかない。

 

 魔法が効かないならば、時空管理局のほぼ全ての戦力が意味を成さないという事であり、1人で管理局の制圧すら可能という事だ。

 

 現に、AAA+ランクという魔導師ランクのクロノの攻撃など、歯牙にも掛けていないのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クロノは何らかの魔法が予め掛けられ、それで防いでいる可能性も視野に入れて強化魔法を無効にして、その上で相手を拘束出来る魔法を放つ。

 

《Struggle bind》

 

「喰らえ、ストラグルバインド!」

 

蒼い魔力光を放つロープがユートの周囲に顕れると、拘束をするべく絞まる。

 

 パキィン!

 

「なっ!?」

 

「う、嘘……」

 

 クロノだけでなく、この手の魔法に詳しく得意としているユーノも驚いた。

 

 ストラグルバインドというのは、対象の強化魔法や変身魔法などを無効化し、消し去る効力を持つ。

 

 それが、バインド自体を消し去るとは思わなかった事態だ。

 

「言ったろ? 僕に魔法は効かない。エピメテウスの落とし子となった時から、そういう体質なんでね」

 

「エピメテウス? 確か、それってプロメテウスの弟にして、始まりの女性の夫だっていう?」

 

「そうだよ、ユーノ」

 

 ユーノもジュエルシード捜しばかりをしていた訳ではなく、時折だが図書館などに行って本を読んでいる事もあった。

 

 その際、地球の歴史を紐解くのに神話の本を選んだのである。

 

 何故なら、神話というのは史実を神々の物語に隠してる事が多々あるからだ。

 

 とはいえ、流石にユーノもエピメテウスの落とし子なんて寡聞にして聴かない言葉だった。

 

「まあ、エピメテウスの落とし子が何なのかなんてのは置いといて、その結果として魔力を使った力の一切が効かなくなったんだ」

 

 魔術や魔法ではなくて、同種の権能や神々の神力、小宇宙での攻撃ならば普通に効く訳だが……

 

 神々でさえ、魔術関係を掛けたければ体内へ直接的に吹き込むしか無い。

 

 斃すのならば、丈夫になった肉体の限界を越えた物理的攻撃で破壊するのが、手っ取り早いだろう。

 

「さて、最後通牒だクロノ・ハラオウン。この世界から出ていけ、お前達に渡す物は何も無い。ジュエルシードが欲しかったのなら、初めからユーノが掘り出した時に輸送を管理局でしていれば良かった。そうすれば事故とやらも無かったんだろうしね」

 

「子供のお遣いじゃあるまいし、そうはいくか!」

 

 ユートはなのはを呼ぶ。

 

「何なの?」

 

「なのは、思い切り低めのこう声で言ってやれ……」

 

「判ったの」

 

 ユートに言われた通り、なのははクロノに向かって言う……

 

「本局へ帰れ」

 

 何故だろう、何と無くだが抗い難い雰囲気だ。

 

「くっ!」

 

 その抗い難い雰囲気を振り切る様に頭を振り……

 

「そうはいかないと言っている! 僕は時空管理局の執務官クロノ・ハラオウンなんだ!」

 

「そりゃ良かったな。給料幾らだ?」

 

 ズドン!

 

「ホゲッ!」

 

 叫んだ直後に突っ込んで来たユートの右ストレートが綺麗に極り、吹き飛ばされてしまうクロノ。

 

「このネタ振りで終わっても良いけど、どうする? 帰るならこれで拳を引いても良い。だけど、これ以上抗うなら……」

 

 ユートが雰囲気を一変させて、然し決して恫喝でさえない声で……

 

「覚悟を決めろ!」

 

 そう言った。

 

 だが、クロノとて自身の仕事に信念を持って臨んでいるのだ、だからと言って『はい、そうですか』などと退ける訳も無い。

 

「そういう訳にいくか!」

 

「それなら仕方ないな」

 

 ユートは両腕を胸元にまで掲げ……

 

「強制的に退場願おうか、異界次元(アナザーディメンション)!」

 

 右腕を天高く伸ばした。

 

「なにぃ!? な、何なんだこれは?」

 

 幾何学的な空間が上空に顕れ、クロノの身体が浮かび上がってパックリと口を開いた異界への入口へと、抗う暇も与えずに飛ばしてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 それをモニターで見ていたリンディが叫ぶ。

 

「クロノッ!」

 

 そんな叫びも空しく艦橋に響き、そして直ぐにも消えてしまった。

 

 現場の海鳴臨海公園は、人1人が消失した事実からシンと静まり返る。

 

「えっと、さっきの黒い男の子はどうなったの?」

 

「異次元空間に飛ばして、閉じ込めたんだ。出てくる事はないだろう、常えに」

 

 空間制御を得意としている双子座の聖闘士らしく、ユートもこの技を用いての技能を保有していた。

 

 その気になれば敵を放逐する以外にも、自らを別の空間に跳ばして転移に使う事も可能となっている。

 

「まあ……不法密入国や、覗き、武装の持ち込みに、地球人への攻撃という感じで罪を犯したんだ。地球からの強制退去くらいは当然の処置だろう」

 

 尤も、地球から処か人生をもログアウトしかねないのだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「エイミィ、クロノはどうなりましたか!?」

 

「クロノ君……クロノ執務官の反応、ロスト。完全に見失いました!」

 

 コンソールを操作して、あちこちを捜し回っていたエイミィ・リミエッタだったが、何処にもマーカーが見付からない。

 

 クロノ・ハラオウンという個人を追う為のマーカーが地球上から、完全に消えてるのは間違いなかった。

 

 リンディ・ハラオウンはクロノの上司でもあるが、実の母親でもある。

 

 デスクに肘を突き、額を両手で支えながら項垂れ、リンディは愕然と呟く。

 

「そ、んな……クロノ!」

 

 11年前の【闇の書事件】で夫のクライド・ハラオウンを喪い、今また息子のクロノまで居なくなっては全ての希望が潰える。

 

「いえ、まだクロノは死んだ訳じゃない。エイミィ、彼らに通信を!」

 

「了解、モニターを艦長席の方に出します!」

 

 地球のパソコンなんかのキーボードを、より高度に空中タッチパネルとも云えるコンソールという形にしたモノを、ボードも見ずにブラインドタッチで操作をしていくと、インタラクティブに会話が可能な様に、サーチャーを設定して艦長席に回した。

 

「艦長、モニターと音声を出します」

 

 大きなモニターにも出てはいるが、会話し易い様に小さなモニターをリンディに回すと、ユートの目の前に空中モニターが顕れる。

 

「待って下さい!」

 

 リンディは帰ろうとするユートに話し掛けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どちら様?」

 

〔時空管理局・艦船アースラの艦長で、リンディ・ハラオウンです〕

 

 ユートは知っているが、敢えて訊ねた。

 

「ハラオウンね、さっきの黒いのは家族か何か?」

 

〔一応、息子よ〕

 

 といっても、任務中だと親子云々でなく上司と部下として接するが……

 

「国連承認地球守護機関・聖域の教皇、緒方優斗だ」

 

〔聖域? その様な組織は聞いた事がありませんが〕

 

 ユートが名乗ると、案の定というか首を傾げた為、揚げ足を取りにいく。

 

「ほう? まるで地球の事をよく知っているみたいな言い種だね? 管理外世界だと謳いながら、常に監視でもしていたのかな?」

 

〔ち、違います。私の知り合いにそちらの世界出身の方が居るだけです!〕

 

「知り合い? その知り合いとやらは、地球に存在するどんな組織にも精通しているとでも?」

 

〔そうは言いませんが〕

 

 リンディは困った表情となって視線を彷徨わせる。

 

「で、話とは組織がどうのこうのって事? だとしたら管理外世界の事なんて、どうでも良いだろう?」

 

〔違います! それが無いとは言いませんが、クロノ・ハラオウン執務官はどうなったのですか?〕

 

「クロノ……ね。異次元に跳ばしたから、餓死するまで生きながら次元の狭間を彷徨い続けるだろうな」

 

 一応は、息が出来るから窒息はしない。食べ物が無いからいずれ餓死るが……

 

〔生きているのですね?〕

 

「今は……ね」

 

 あからさまに胸を撫で下ろす辺り、佳き上官で佳き母親なのかも知れない。

 

「それで? 通信で済ます話ならそろそろ終わりたい処なんだけど」

 

「いえ、古代遺失物に関する事もそうですが、クロノの事も相談がしたいので、此方に来て貰えませんか」

 

「断る。此方に話は無い。なのにアウェイに行くメリットがあるか? これ以上を話したければ武装無し、サーチャーをバラ撒かないと約束した上で、通信主任と2人だけ上陸を許可してやるから、深夜零時に海鳴臨海公園……つまり此処へ来れば、話くらいは聴いてやっても良い」

 

〔……判りました〕

 

 確かに尤もな話。主導権は彼方にあると理解して、リンディは承諾の意を以て頷くしかなかった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話:聖域 教皇ユートとリンディ提督

.

 深夜零時……

 

 転送で海鳴臨海公園へとやって来た、リンディ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタの2人。

 

 辺りは暗く、街灯くらいしか灯りが存在しない公園では仄かな潮の香りがし、遠くからは僅かながら小波の音が響いてくる。

 

 五月とはいえ、夜の公園は未だに冷えるものだが、一応は魔法で風をガードしている為、リンディ達が寒さに打ち震える事はない。

 

「クロノ君、大丈夫なんでしょうか、艦長……」

 

「判らないわ。だけど彼は生きていると言ってたし、それを信じるしかないわ」

 

「そうですね」

 

 指定されたのはリンディと通信主任のエイミィ。

 

 アレックスやランディやギャレットといった男手、武装局員の様な戦力を連れては来れなかった。

 

 背信に対するペナルティを課せられては堪らない、故にサーチャーの配置も行う訳にはいかない。

 

「来たようだね」

 

 現れたのはユートだけではなく、今回の件に関わっていた者が全員。

 

 つまりフェイトとアルフも居るし、なのはとユーノもこの場に来ていた。

 

「では、聖域の本拠地へと案内をしよう」

 

 リンディとエイミィに近付くと、ユートは転移陣を起動させて聖域に跳ぶ。

 

 リンディとエイミィは、突然の転移に慌てているが最早どうしようも無い。

 

 転移陣が顕れ、ユート達が姿を顕した場所は明るい太陽が昇っていた。

 

 時差がある場所、つまり此処は日本ではなく日付変更線すら越えた海外だ。

 

 其処は村だった。

 

「此処は?」

 

「ロドリオ村。聖域の傘下にある小さな村だよ」

 

 敢えて言わなかったが、ギリシア政府が数十世帯の家族を移住させてる村で、出来てから一ヶ月其処らしか経っていない。

 

 ユートがアテナの加護と精霊の加護を以て、この辺の大地や風や水や気温などを変化させ、豊かな土地にした事を伝えたら政府から村を作ってギリシア国民の移住を推し進めたいと言って来たので、特別自治区とするのならと認めたのだ。

 

 自治区とはいえ、政府に旨味が無い訳ではないとして双方が同意した。

 

 閑話休題……

 

 ユートはリンディ達を、聖域へと案内する。

 

 アテネのアクロポリスに建つパルテノスの神殿……パルテノンに似た建造物が建ち並ぶ。

 

 聖域には雑兵の姿をした田中さんや、同じく茶々号達が動いている。

 

 リンディやエイミィは元より、此処に初めて訪れたなのはやアリサ達もキョロキョロと辺りを珍しそうに見回し、余りにも壮大なる光景に呆然となっていた。

 

「此処が聖域……」

 

 ミッドチルダや、故郷の第4世界ファストラウムの中央大陸都市部とも違う、原始的なものであった。

 

 暫く歩くと、巨大な神殿が目前に存在している。

 

 入口の天井近くには紋様が刻まれており、山を直接的に削り出した様なそれが幾つも上の方に見えた。

 

 どうやら階段で繋がっているらしくて、リンディは一つの可能性に思い至り、ギリギリとユートの方へと首を動かして訊ねる。

 

「ま、真逆……この長大な階段を登れと?」

 

「聖域の根幹を為す場所、黄金十二宮(ゴールド・ゾディアック)。話し合いの場所は殆んど天頂となっている教皇の間。つまりは、頑張れ! あ、転移なんて出来ない仕様だから」

 

 それを聞いた途端に青褪めて、一気にへたり込む。

 

 艦長席に座っている事の多いリンディは、フィジカルでの運動不足である。

 

 こんな先の見えない階段なんて登ったら、間違いなく明日は筋肉痛に呻く事になるだろう。

 

 三十代前半だとはいえ、キツい事になりそうだ。

 

「まあ、今回は自分の脚で登れとは言わないさ」

 

「え?」

 

「敵として現れたならば、十二宮を護る黄金聖闘士と闘いながら、この長ったらしい階段を一段一段、登って貰う事になるけどね」

 

 上空にはAMFが展開されており、魔法で飛行する事も不可能だ。

 

「それじゃ、どうやって登るのですか?」

 

「勿論、魔法で」

 

「は?」

 

 息子のクロノより小さな少年は、然も当たり前の様に言い放った。

 

「先ずは第一の宮、白羊宮を護る黄金聖闘士に挨拶をしてからだ」

 

「優斗君、黄金聖闘士ってなーに?」

 

 なのはが訊ねてきた。

 

「聖域に所属しているのは聖闘士という。時空管理局に魔導師が所属しているのと同じだね」

 

 ユートは歩きながら説明をする。

 

 尤も、正規の聖闘士となるのはユートのみだが……

 

「聖闘士には階級があり、それは魔導師ランクみたいなものだね。但し、聖闘士は基本的にフィジカルな訓練をするのと、戦闘訓練をするだけで魔力が有る必要性は無い。事実、小獅子星座(ライオネット)に魔力の資質は持っていない」

 

「なっ!? では彼女が使っていた炎は?」

 

「あれは聖衣の力だよ」

 

「聖衣?」

 

「星座の名前を冠した鎧、それが聖衣。その聖衣の色が階級に当たるんだ」

 

 リンディは考える。

 

 魔力を持たない非魔法資質者でも、あの聖衣を持てばあれだけ戦えるとなれば管理局の人手不足を補えるのではないか? と。

 

「それで、階級とは?」

 

「小獅子星座(ライオネット)は最下級の青銅聖闘士と呼ばれていて、同じ階級としてマシーン聖衣である大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)の鋼鉄聖闘士が在る」

 

 ユートはアリサとすずかを指差して言う。

 

「聖闘士の名前を持たない雑兵も居るけどね」

 

 この聖域での雑兵とは、現状では田中さんモデルと茶々号達の事である。

 

「次の階級が白銀聖闘士と精霊聖闘士。精霊聖闘士は正確に云うと青銅と白銀の間になるけどね。そして、最高位が十二宮を預かっている十二人の黄金聖闘士。とはいえ、今は二人しか居ないけど」

 

「これから会うのがつまり黄金聖闘士だと?」

 

 リンディがユートに訊ねると、それを肯定する様に首肯した。

 

「黄金十二宮・第一の宮、白羊宮を守護しているのは牡羊座のシエスタ」

 

 白磁色の階段を登り詰めると、黄金の鎧に身を包んでマントを羽織る女性──シエスタが立っている。

 

「皆さん、お待ちしておりました。白羊宮を守護する牡羊座・アリエスの黄金聖闘士シエスタです」

 

 温和な表情で頭を下げるシエスタは、とても戦闘者には見えない。

 

「さて、此処からはさっさと教皇の間まで行く。余り離れない様に」

 

 そう言ってユートが何事かを呟くと……

 

「キャッ!?」

 

「ひえ?」

 

 行き成り道が動き始め、驚愕してしまうリンディとエイミィ。

 

「ロラーザ・ロードという魔法だよ」

 

「魔法? これが?」

 

「神に近しい黄金竜(ゴールデンドラゴン)ミルガズィアが、歩くのが面倒だと言って開発したという」

 

 スレイヤーズに登場するカタート山脈はドラゴンズ・ピークに棲まう黄金竜、その長であるミルガズィアが人間に扮して動いていた際に、片手間で組んでみた魔法である。

 

「これの速さなら30分もすれば着くだろう」

 

 確かに周りの景色がどんどん変わってるからには、相当な速度が出ているのだろうが、揺れもしなければ風も感じなかった。

 

 リンディとて魔法行使者である、これがどれだけの高度な魔法なのかは理解する事が出来るが、行使したのが魔力反応皆無なユートだというのが解らない。

 

 否、魔法を行使したその瞬間だけは魔力を感じる事が出来たからには、ユートが意図的に魔力を隠蔽しているのが解る。

 

 然し、仮にオーバーSの魔導師だったとしてもだ、デバイスも無しに呪文を唱えるだけで、これだけ高度な魔法を扱えるなどリンディには信じられなかった。

 

 凡そ3分後に新しい宮が見えてくる。

 

「聖闘士自体が無人だが、此処が牡牛座(タウラス)の守護宮、金牛宮」

 

 宮内に入ると、少し暗い内部に牛を象るオブジェが飾られていた。

 

「あれは?」

 

「あれが牡牛座の黄金聖衣だよ」

 

 あっという間に通り過ぎてしまい、質問をしている暇もない。

 

「聖闘士が居ない場合は、ああしてオブジェ形態になって守護宮に飾られてる」

 

 更に3分後、新しい宮に着いた。

 

「第三の双児宮。双子座の黄金聖闘士が守護する宮。尤も不在でこそないけど、聖衣がオブジェ形態で飾っていたりする」

 

 内部へと入ると確かに、四本の腕と二つの貌を持つ黄金のオブジェが有る。

 

「次が第四の巨蟹宮だね。今は居ないけど、一ヶ月もすれば蟹座のエルザが守護する事になるよ」

 

 3分後、巨蟹宮をあっという間に素通りした。

 

 オブジェが無かったという事は、無人ではあったが不在ではないのだろう。

 

「第五の獅子宮。獅子座の朱乃せ……が守護する」

 

 どんどん進む。

 

「第六の処女宮。乙女座のアタナシアが守護する宮」

 

 勿論、現在は居ない。

 

「第七の天秤宮。天秤座の木乃香が守護する宮」

 

「えっと、女の子ばかりなのね? 名前からして」

 

「まあね」

 

 本来の聖闘士は女人禁制ではあるが、此方は飽く迄もユートの使徒が中心。

 

 使徒は異性のみしかなれないから、必然的に女の子しか居ない。

 

「第八の天蝎宮だ。蠍座のケティが守護している」

 

 余り説明する事も無く、説明する暇もないが故に次々と進んでいく。

 

「第九の人馬宮。射手座のシーナが守護する宮だよ」

 

 此処までに凡そ24分。

 

「第十の魔羯宮。現在無人の宮だよ」

 

 内部には確かに山羊座を象るオブジェが有る。

 

 昔はルクシャナという名のエルフが担っていたが、ユートの使徒ではなかったから今は契約も途切れて、無人となっていた。

 

「第十一の宝瓶宮。水瓶座のシャルロットが守護する宮だね」

 

 とはいえど、基本的にはタバサと呼んでいるが……

 

「守護宮最後の第十二番目の双魚宮。魚座のモンモランシーが守護している」

 

 無人なのは二つだけ。

 

 1人くらいはこの世界で見付けたいと思っている。

 

「そして、双魚宮の先にあるのが教皇の間だ。聖域を束ねる教皇が居る」

 

 教皇の間の前まで来ると魔法が解除され、大きくて重々しい荘厳な雰囲気の、金属の扉の前で止まった。

 

「大きいわね……」

 

 二機の雑兵スタイルをした田中さんが扉の前で待機しており、ユートが声を掛けると『イエス、マスター』と答えて扉を開く。

 

 十二宮も大概広いと感じたが、教皇の間はそれに輪を掛けて広い。

 

 赤い絨毯が入口から続いており、その先には玉座が鎮座していて、玉座に銀髪の女性が座っている。

 

「彼女が教皇?」

 

「え、違うけど……」

 

 ずっ転けるリンディ。

 

「だって、教皇の間なんでしょう?」

 

 ユートはツカツカと歩いて進み出て、銀髪の女性の前まで来ると跪く。

 

「アテナよ、客人をお連れ致しました」

 

「うむ……」

 

 ユートと黄金の杖を持つ銀髪の女性の遣り取りで、女性がアテナという事が判ったが、リンディとエイミィはアテナを知らない。

 

 だが、ユーノはアテナを知るが故に驚愕していた。

 

「待ってよ、アテナって……聖闘士が奉じてる女神様の事だよね?」

 

「そうだけど?」

 

 それは即ち……

 

「彼女が神様だっての? っていうか、神様が実在しているって事?」

 

 てっきり偶像崇拝かと思っていたが、実在を知って驚くユーノ。

 

「そうだよ。人の姿をしているけど、彼女こそが智慧と芸術と工芸と戦略を司るギリシア神話の女神アテナだよ」

 

 少なくとも、魔導師では何百人が掛かっても斃せはしない相手である。

 

 とはいえ、絶対とも言えないからこそ【神殺し】という概念が存在する訳だ。

 

「そして、僕こそが聖域をアテナの代行者として束ねている教皇。双子座の黄金聖闘士でもある優斗だ」

 

「「はっ!?」」

 

 ユーノは教皇がユートだと判っていたから驚いたりはしなかったが、リンディとエイミィは目の前に居るのが女神だという事実と、ユートが聖域のトップだという事に、驚愕して茫然自失となってしまう。

 

 目を白黒させる2人。

 

「ようこそ、我が聖域に。時空管理局提督・リンディ・ハラオウン艦長」

 

 だから、一瞬で黄金に輝く竜の飾りが付いた兜に、豪奢な黒い法衣を纏って、教皇の正装をした事に関しても、ツッコミを入れている余裕は無かったという。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話:映像記録 時空管理局の行った事?

.

 嘗て無い程の緊張感に、エイミィ・リミエッタの胃には穴が空きそうだ。

 

「貴方が教皇……なの?」

 

「そうだよ」

 

 教皇の法衣を身に纏ったユートに、意識を回復したリンディが訊ねた。

 

 ユートはそれを肯定。

 

 更に重苦しい雰囲気になってしまう。

 

 エイミィは何処か現実なら逃避する様に教皇の間を見回すと、他の十二宮など及びもつかないくらい豪奢なのが判った。

 

 敷き詰められた赤い絨毯だけでなく、天井から垂れ掛かっている絹飾り、それに趣味が良いとも云えない黄金の像。

 

「あ、あの〜」

 

「何かな? えっと……」

 

「あ、エイミィ・リミエッタです」

 

「エイミィね。で?」

 

「いえ、少し気になったんだけど……周囲の像って、何なのかなって」

 

 玉座に続く花道を護るかの如く置かれた黄金の像、それに色とりどりの五つの像が玉座の周りに侍る。

 

 エイミィの質問に、少し誇らしく答えた。

 

「英雄像って処かな」

 

「英雄像?」

 

「そう、最終聖戦に於いて特に活躍した青銅聖闘士と黄金聖闘士の像だよ」

 

 嘆きの壁を打ち破るべく文字通り生命を賭した黄金聖闘士、神聖衣を纏い最後まで闘った青銅聖闘士。

 

 即ち、星矢達の像だ。

 

 教皇の間に飾り気が無いのもアレだったし、折角だから今は亡きムウ達十二人の黄金聖闘士と、星矢達の像を造って飾っておいた。

 

 因みに、アテナ神殿の方には偉大な先代教皇シオンの像が置かれている。

 

 更に言うと、彼方側──ユートの再転生地の聖域では天秤座の紫龍が教皇の座を引き継いでいた。

 

 星矢で良くないか? という意見も有ったのだが、常にアテナを護る位置に居るのなら、黄金聖闘士として在った方が何かと都合が良いので、仁義に厚い紫龍という事に……

 

 少し異例だが春麗を聖域に住まわせ、教皇として働きながらも同時に義息子の翔龍を育てていた。

 

 また、天秤座に関しては老師の最後の弟子の玄武に引き継がせる事になる。

 

 玄武は翔龍が聖闘士になった場合、翔龍が継ぐならと天秤座を襲名した。

 

 更に紫龍と春麗の間に、実の息子の龍峰が誕生。

 

 いずれは龍星座の聖衣を継ぐだろうと目される。

 

 ユートは一応、彼方側で双子座として双児宮を守護する黄金聖闘士として認められており、普段は権能で分かたれた優雅が双子座の任に就いていた。

 

 兄と弟が逆転してるが、サガとカノンみたいな感じになっている。

 

 優雅に否は無いが……

 

 閑話休題……

 

「それで、クロノはどうなったのかお訊きしたいのですが?」

 

 子供とはいえ、この世界の組織のトップだ。

 

 口調は丁寧にユートへとクロノの事を訊ねる。

 

「双子座の聖闘士の特技、その中に空間操作というのがある。それを応用したのが【異界次元(アナザーディメンション)】だ。これを用いれば、対象を遥かな次元の果てへ追放出来る。更に次元を連結し、凄まじいエネルギーを取りだしたりも可能で、他には次元と次元を渡り歩く事も簡単に出来てしまうんだ。双子座の黄金聖闘士が最強なんて云われる所以だね」

 

 代々の双子座の聖闘士でも出来なかった次元連結、やれなくはないが人間の躰がそれに耐えられない。

 

 だが、エピメテウスの落とし子となったユートは、肉体の強度が半端なく上がっており、次元エネルギーさえ扱える。

 

 平たく言えば、次元震を起こすも停めるも自由自在であり、素で【メイオウ】が可能という事だ。

 

 勿論、言わないが……

 

 とはいえ、それがどれだけ無茶苦茶かリンディにも理解は出来た。

 

 正に比喩無しで【人間ロストロギア】である。

 

 当然、時空管理局がそう言ってユートを捕まえようとすれば、何の呵責もなく本局を墜とすだろう。

 

 そしてそれだけの力を揮っての封印は、普通の人間の魔導師では解けない。

 

 ジュエルシードは最早、ただの石ころと変わらない代物と成り果てていた。

 

 それは兎も角、リンディは考え込むとユートに頭を下げて頼む。

 

「お願いです。クロノを、息子を助けて下さい」

 

 それはアースラの艦長ではなく、1人の母親としての顔だった。

 

 そして、ユートなら聖域の結界を抜いてクロノを呼び寄せる事も可能だ。

 

 何故なら、本物の聖域でも出来る事なのだから。

 

 アテナの結界の中でも、サガの異界次元(アナザーディメンション)で十二宮間を移動可能なのは、氷河の双児宮から天秤宮の移動でも明らかだし、瞬の星雲鎖(ネビュラチェーン)とて双子座の聖衣を通じ、教皇の間へ攻撃を仕掛けた。

 

 NDでも、蟹座のデストールが積尸気を通じて獅子宮に抜けたし、LCの方でも暗黒祭壇座のアヴィドが積尸気を使い、魂のみだが教皇の間まで入り込んだ。

 

 積尸気使いと空間使いが素通りとか、どうやら普通のテレポーテーションが不可能というだけで、存外と穴だらけな結界らしい。

 

「襲われると解っていて、解放する訳無いだろうに」

 

「私が必ず止めます」

 

「ふう。アテナ、宜しいでしょうか?」

 

 ユートがアテナに確認を取ると……

 

「善きに計らえ」

 

 頷いて許可を出す。

 

 ユートがパチンと指を鳴らすと、一瞬の間に黒い穴が開いたかと思うとクロノが落ちてきた。

 

「クロノ!」

 

「クロノ君!」

 

 意識は無いが、気絶をしているだけらしく脈拍も確りしているし、呼吸も普通にしている。

 

 ややあって……

 

「うっ、僕は?」

 

 クロノが目を覚ます。

 

 案の定、クロノが攻撃を仕掛けようとしてきたが、約束通りにリンディがそれを止めた。

 

 取り敢えず、話を聞いて落ち着いたクロノは、話し合いに参加する事となる。

 

「聖域とはギリシア神話の女神アテナを奉じる組織、聖闘士とは異界からの侵攻や人々を苦しめる怪物との闘いを、牙無き人の代わりに牙となり盾となり行っている希望の闘士。例えば、時空管理局が地球に対して管理世界認定したと言い、侵攻をしてくればそれを討ち滅ぼすのも役目となる」

 

「「「なっ!?」」」

 

「何を驚く? 聖闘士とは邪悪が蔓延る時、必ずや現れる希望の闘士だ。侵略者の好きにさせる訳もない」

 

「その場合、話し合いが成される筈です!」

 

 リンディが言うが、寧ろ嘲笑を込めて首を振る。

 

「地球は基本的にお前らで言う質量兵器に頼っているんだ。管理世界になるにはそれを棄てろと管理局は命じるだろう。地球側がそれを出来る筈が無いな」

 

 基本方針が真逆な為に、地球は管理世界とは馴染めないのだ。一部の魔法能力者以外は……

 

「だからこそ、とある理由から異次元人に対する法が整備された。あの時に言ったのがその一部だ」

 

 3人はユートが言っていた国際法を思い出す。

 

 狙い澄ましたかの如く、異次元人と謳う法律に辟易とした。

 

「理由とは?」

 

「そうだね。茶々拾号」

 

「はい」

 

「例のモノを」

 

「イエス、マスター」

 

 女官の姿をした茶々拾号に命令を出すと、一礼をして空中に顕れたコンソールを操作し始める。

 

 管理世界では普通に採用されているが、よもや地球でも使われているとは思わなかったのか、リンディ達管理局組とユーノは驚く。

 

 だが、本当に驚くべきはそんなものではなかった。

 

 それは記録映像。

 

『行ってきまーす!』

 

 栗色の髪の毛をツインテールに結った、眩く輝いている白い制服に身を包み、元気よく玄関から出る少女の姿は、何処にでも在るであろう日常の登校風景。

 

 バスに乗り、友達とお喋りをしながら学校に通い、授業を受けて放課後になったら家に帰る。

 

 家族で夕飯を摂った後、入浴して一日の汚れを洗い流して……

 

「うにゃぁぁぁぁぁっ! み、見ないでぇぇぇぇ!」

 

 その場面を見せ付けられてしまい、何処ぞの魔砲少女が真っ赤な顔で空中に浮かぶモニターを、両腕を振りながら消そうと頑張る。

 

「何、何なのこの映像?」

 

 涙ぐみながら未だに赤い顔で怒鳴るなのは。

 

 それはなのはの映像記録だった。

 

「それはなのはが魔砲少女になる前に録られた記録。その証拠に、その映像にはユーノもレイジングハートも映ってはいない」

 

 確かに、それらしき存在は何処にも映っていない。

 

「そして、これは管理局で制式採用されたサーチャーを鹵獲したモノだよ」

 

「え? 管理局……なの? へ〜?」

 

 ユラ〜リと、空恐ろしい表情──StrikersTV版の少し頭、冷やそうか的な──でクロノを見遣った。

 

 ゾワリ!

 

 冷たいナニかが背筋を奔り抜けるのを感じたクロノは、ブンブンと首を横に振って青褪める。

 

「ま、待て! それが本当に管理局のサーチャーだなんて何故言える?」

 

「お前らがバラ撒いていたサーチャーと全く同じで、製造番号も通しでこそないけど同じだと判る」

 

「うっ!」

 

 ユートが摘まんでいるのはあの時に鹵獲した物で、確かに同じ代物だった。

 

「勿論、入浴シーンを撮るのが目的じゃないだろう。まあ、需要はあるから連中が売るかも知れないけど」

 

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 なのは、涙ぐみ絶叫。

 

「ええと、それじゃあそのサーチャーを配置した人は何の目的で?」

 

「地球には時折、突然変異的に高魔力の持ち主が誕生する事がある。そういった高い魔力資質を持つ人間を監視し、魔力が目覚めたら管理局法を持ち出て管理局入りさせ、戦力とする為だろうね」

 

「ば、莫迦な!?」

 

 クロノが激昂するのは、当然の反応だった。

 

 それではまるで、管理局を人浚いと言うに等しい。

 

「半世紀前、英国人の少年が傷付き倒れた男を助けたらしい。その男は明らかに武装していたが、手にしていたのは銃とかではなく、杖だったとか。それ以降、少年は姿を消して、時折は帰って来るけど殆んど音沙汰無し、帰って来る時には双子らしき女性を侍らせ、お父様と呼ばせてる様だ」

 

 然も、記録された事のように話すが、それは原典の知識によるもの。

 

 そして、ハラオウン親子には心当たりがあった。

 

 ギル・グレアム提督。

 

「時空管理局はそれによってその事実を知り、高い魔力資質を持つ人間をサーチャーで捜して、見付けたら監視する様にしてたんだ。それがなのはだった」

 

 クロノは項垂れる。

 

「そんな……莫迦な……」

 

 ユートがこのサーチャーを発見したのは、高町恭也と初めて出会った時だ。

 

 原作を観ていた時、明らかにおかしな部分が在り、真逆と思って確認したのだがビンゴだった。

 

 あのStrikersの高町なのは教の布教行為の際に使われた映像記録は、どう考えてもおかしい。

 

 レイジングハートさえ持たないなのはの姿、ユーノを拾った際の第三者視線の映像に……

 

「これ、なのはと黒衣の子が戦った時の!」

 

 小規模次元震が起きた時の映像がある。

 

「それは別に見付けたサーチャーの映像だよ。こんな映像が在るなら、どうしてこんなに来るのが遅くなったのかな?」

 

「そ、それは……」

 

 リンディもクロノも何も言えずにいる。

 

 これをアニメ的に視たならば、単純に無印やA’sの映像を使い回しただけ、そう言っても良い。

 

 でも、これが現実だったらどう視るべきか?

 

 明らかに魔法に出逢う前のなのはの映像は、いったい誰がいつ撮ったのか?

 

 そういう話になる。

 

 況してや、小規模次元震が起きる原因の映像が有るのに、管理局がこの事件を知らなかったなど、果たして有り得るのか?

 

 理由付けをするならば、ギル・グレアムの例から見て魔力資質の高い人間を、管理局がマークしていたなら理解も出来る。

 

「こんな事を平然としてる組織、時空管理局。そんな犯罪予備軍が好き勝手しているのだと知った国連は、異次元人に対する法整備を急いだんだよ」

 

「なんて事なの……」

 

「更に、海鳴市に住んでいる高い戦闘能力を持つ者、彼らが協力してくれる運びとなっている。高町士郎、高町恭也、高町美由希に、そして……」

 

 ユートが2人へと振り向くと、待ってましたとばかりに仮面を外す。

 

「あっ!?」

 

 その素顔を見て、なのはは驚愕するしか無かった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話:会談 残酷な現実となのはの疑問

.

 信じ難いがそれが現実。

 

 なのはの目の前に仮面を外して立つのは、アリサ・バニングスと月村すずか。

 

 自分の大切な親友……の筈なのに、なのははまるで知らなかった。アリサが、すずかが、こんな風に自身の前に現れるなどと。

 

「どうして? 私、何も知らない……アリサちゃんとすずかちゃんがどうして、聖闘士なんてしてるの?」

 

 困惑気味に訊ねると……

 

「なのはに教える訳にはいかないじゃない。一応は、秘密にしておけというのが教皇の指示だしね」

 

「そんな……だって私達、友達なのに!」

 

「友達だからって、何でも話す訳じゃないでしょ? 現になのはだって、自分が魔導師なのを隠してたし」

 

「あ……」

 

 此処で盛大なブーメランを喰らい、茫然自失となるなのは。

 

「けど、それはユーノ君が魔法の事は本来、原住民には秘密にしないといけないからって言うから、仕方無かったの!」

 

「それなら此方も、アタシとすずかは教皇から指示をされたって言ったわよ?」

 

「う、それは……」

 

「第一、何よ? 原住民だか現地人だか知らないけれどね、アタシ達は未開大陸か何かの原始人扱いなの? ユーノ・スクライアだっっけ? それと管理局……地球人を無礼めるな!」

 

 それは最早、弾劾。

 

 時空管理局の定めた法律であるのだろうが、勝手に地球に入り込んでサーチャーなんて覗き道具をあちこちにバラ撒いて、ユートの説が正しければ魔導師になれそうな地球人を監視していた事になる。

 

 下手をすれば、管理局の人間がコンピューターなどを弄くり回して、戸籍やら何やらを改竄して暮らしている可能性もあった。

 

 それ処か、神隠しに遭った人間の一部は時空管理局乃至、その前身となる組織がそれこそ誘拐したという可能性も捨て切れない。

 

 ユートが時空管理局への印象を操作してたからか、悪い方向へ悪い方向へ考えがいってしまう。

 

 まあ、当たらずも遠からずといった処だろうが……

 

「わ、私達は決して第97管理外世界の人々を舐めている訳ではないわ」

 

「そうやって、勝手に数字を付けて呼ぶ事自体が下に見てる証拠じゃないの! 数字で呼べば嘸や管理し易い家畜よね?」

 

「そんな事!」

 

 リンディは否定するが、〝管理物〟に名前など要らない、数字で呼べばそれで良いというのは基本的に、誰でも考える事だ。

 

 因みに、ユートが茶々丸型を数字で呼ぶのは本人達からの要望であり、実際には個体名がちゃんとある。

 

 茶々拾号は絡繰桃花。

 

 拾号までは数字に因んだ名前だったりするが、彼女らは真名としてユート以外には呼ばせないし、聞かせたくないらしい。

 

 閑話休題……

 

「まあ、隠してたとかに関してはお互い様だろうし、此処までにして貰おうか」

 

 ユートがそう言って2人を止め、管理局への弾劾もやめさせた。

 

「それでは、貴方に訊きたい事があります」

 

「何? リンディ提督」

 

「貴方は、聖域はジュエルシードをどうする心算なのですか?」

 

「よく訊かれる質問だね。封印して仕舞っておくよ、使う必要も無いし」

 

 言ってみれば死蔵するという事である。

 

「なら、管理局に渡して頂けませんか?」

 

「断る」

 

「なっ! 何故ですか?」

 

「有り体に言えば、管理局を信頼も信用もしてないからだね。管理局がジュエルシードを手に入れたなら、きっと研究でもするんだろうし、それで地方に貸し出して犯罪者に盗まれでもしたらどうする? 大人しく仕舞っておかないだろ?」

 

 それを聞いて、クロノが激昂した。

 

「君は管理局を莫迦にしているのか! 確かに研究の為にそういう事もあるだろうけど、犯罪者になど盗ませる訳がない!」

 

「果たしてどうかな?」

 

「なにぃ!?」

 

「管理局が万が一、そんな事態に遭遇した場合だと、どういう措置を執る?」

 

「即刻、犯罪者を検挙して取り返すに決まってる!」

 

「違うね。恐らく管理局の上層部はその不祥事を隠蔽してしまうだろう」

 

「巫山戯るな! 管理局を何だと思っている!?」

 

「少なくとも、人間の運営する組織だね」

 

「っ!?」

 

 クロノは息を呑む。

 

 そう、人間の運営している組織である以上は、絶対的な正義の組織などある訳がなく、組織が大きくなれば上も下も腐敗するもの。

 

 それは、原作知識に頼るまでもない事だ。

 

 それに原作知識で語ってみるなら、ジュエルシードはスカリエッティに盗まれているし、どういう訳なのかジュエルシードが、ガジェットに使われている事が判明するまで、盗まれている事を執務官が知らないという事態にになっており、某・執務官は事実を知っても懐かしがるだけで慌てていないという体たらく。

 

 時空管理局がそうするのだと、そうする組織なのだと知っている以上、預けるなど愚の骨頂。

 

 未来を知っているとか、原作知識とか言っても理解は出来ないだろうし、尤もらしい事を言って煙に巻く心算だが……

 

「それに先程も言った筈、欲しければ初めから輸送に管理局が就けば良かった。そうすればジュエルシードは管理局が手に出来たし、事故も起きなかったろう」

 

「それは……」

 

 リンディは呻く事しか出来なかった。

 

 尤も、事故ではなく事件だったなら、どちらにせよ起きていただろう。

 

「それに訊きたいんだが、ジュエルシードを渡したとして、持ち主は誰という事になる?」

 

「管理局に決まっているだろう! 管理局が責任を持って保管するさ!」

 

「ならば、渡した場合だと管理局に賠償責任があり、報奨をする義務が生じるって訳だな?」

 

「ハァ? 何を言っているんだ君は!」

 

 呆れた表情で言うクロノだったが、リンディはその意味に気が付いたのか……

 

「それはどの程度です?」

 

 逸早くそれを訊ねた。

 

 クロノは驚愕に目を見開くが、それをリンディは敢えて無視する。

 

「公道や公共施設の破壊、私的財産の破壊と信用失墜による精神的、経済的苦痛に対する賠償なども含め、数十億。危険物の早期発見と回収による報奨で数億を最低限に求めるね」

 

「な、何を巫山戯た事を! 何で管理局がそんな額を支払わねばならない!?」

 

「ジュエルシードにより、槙原動物病院が破壊され、その周辺の公道が可成りのダメージを受けた。それにプール施設が破壊されて、その施設で起きた出来事で客足が遠退いているんだ。ジュエルシードの持ち主に賠償を求めるのは当然だ」

 

「だったら、其処のフェレットモドキに言え!」

 

「管理局が持ち主になるのなら、ユーノ・スクライア個人ではなく、時空管理局という組織に賠償を求めるに決まっている。ユーノはジュエルシードの取得権を放棄するんだからな」

 

 そこまでは言っていないのだが、賠償と報奨の話が本気なら放棄した方が無難だと考えて何も言わない。

 

「言っておくが、有耶無耶に出来るとは思うなよ? それと、管理外世界だから管理世界の通貨は地球では通用していない」

 

 場合によっては可成りの支出になってしまう。

 

 だいたい、この手の報奨に数億など管理局では法外としか言い様が無い。

 

 しかも賠償に数十億だ。

 

「当たり前だけど、支払いをするまではジュエルシードを渡す心算など無い」

 

 先渡しなどすれば踏み倒すのが目に見えている。

 

 そう言われたと感じたのだろう、クロノだけでなくリンディとエイミィも表情が堅くなった。

 

「それに、管理局が研究も出来ない石ころにそんな額を支払うのか?」

 

「どういう意味です?」

 

「ジュエルシードはもう、発動もしないし構造を調べる事も不可能だ」

 

「どうしてそう言えるのですか?」

 

「決まっている、封印したのは僕だ。僕の封印は魔導師では解けない」

 

 ユートはジュエルシードを一つ、リンディに投げて渡す。

 

「魔力を流してみろ」

 

「そ、そんな事をしたら、ジュエルシードが暴走してしまう!」

 

「良いから、どうせ発動はしないし、結界を張ってるから外に影響もしないよ。発動出来たらくれてやる」

 

 戸惑いながら、リンディはジュエルシードに魔力を流してみる。

 

「え?」

 

 魔導師ランク総合AA+のリンディ、その魔力を流されたというのにウンとも寸とも言わない。

 

 因みに、アースラの駆動炉に接続すればオーバーSランクの出力を出せる。

 

 今回は素の魔力だったとはいえ、ジュエルシードが発動する事はなかった。

 

 つまり、ユートの言っている事に偽りが無いという事が証明されたのだ。

 

 呆然となるリンディの手からジュエルシードを取り上げ、ユートは再び匣の中に仕舞うと、亜空間ポケットへと放り込む。

 

「これで理解出来たな?」

 

「くっ!」

 

 管理外世界で全く思う様にいかず、クロノは悔しさから表情を歪めた。

 

 別に莫迦にしていた訳ではないが、やはり技術力や魔導で上を往くという自負と矜持は有ったのだ。

 

「この先もジュエルシード探索は我々が行う。余所の世界の人間に関わって貰う話じゃない。だから即刻、地球から退去して貰おう」

 

 クロノ達、管理局は法的根拠に基づいてこの地球に居る訳ではない。

 

 普段なら、勝手に入り込んで勝手に捜したりするのだが、ユート達が組織的に動いていてはそうもいかないだろう。

 

 若し、ユートが個人で動いていたなら、管理局の法を持ち出せば良い。

 

 所詮は個人だから、どうにも出来ないのだろう。

 

 然し、国連を抱き込んだ組織というなら、時空管理局の法律など管理外世界の地球には意味を為さない。

 

 とても自分より年下──実際はずっと年上──とは思えないと、クロノはそんな風に思った。

 

「どうやって捜すのです? それに後、何個のジュエルシードが残っているのですか?」

 

 リンディの質問にユートはあっけらかんと答える。

 

「16個を集めてるから、残りは5個だね」

 

『『『え゛?』』』

 

 驚いたのはリンディ達、管理局組だけではない。

 

 なのはとフェイトとアルフの3人もだ。

 

 よもや、既に大半が集まっているとは思いもよらなかった。

 

「ユートさん、16個も集めていたのですか?」

 

「そうだけど、何か?」

 

 これでは本当にアースラチームに出番が無い。

 

「残り5個も【ジュエルンレーダー】を使えば、数日もあれば集まるだろうね」

 

「ジュ、【ジュエルンレーダー】?」

 

「ジュエルシードの波長を拾い、有る場所を教えてくれるんだ。これで海鳴市の達人達と聖闘士で協力し、残りのジュエルシードを集めてしまう。発動しなくてもレーダーには映るから、後手に回る事もないしね」

 

 どうやら、管理局として管理外世界に対して強硬するという愚行を犯さない限りは、本当に用無しであるとリンディは項垂れた。

 

「艦長、宜しいのですか? 古代遺失物(ロストロギア)は時空管理局が然るべき手続きを以て、然るべき場所に保管しなければならないのですよ!?」

 

「囀ずるな、小僧!」

 

「なっ? 誰が小僧だ!」

 

 自分より小さなユートの叱責にクロノは鼻白む。

 

「〝管理局が〟だとぉ? 僕に言わせりゃ管理局など然るべき場所なんかじゃ、決して無いんだよ。驕りが過ぎるぞ管理局! そもそもにして、地球への立ち入りが許されない管理局員がどうやってジュエルシードを捜す?」

 

「ぐっ!」

 

 今は飽く迄もユートから許可を得て、この地に招かれているに過ぎない。

 

 会合が終われば出ていかねばならないのだ。

 

 ユートも国連G7の承認の元、その権限を行使した上で招いたのだから、この先で管理局員が地球に降り立つのは許されない事。

 

「それとも、管理局の管理する世界では余所の世界の人間が武装して、勝手気儘に大挙して押し寄せたら、歓迎するのか? お前らの今の立場はそういう事だ」

 

「有り得ませんね……」

 

 静かに言うリンディ。

 

「あの、優斗君。ちょっと言い過ぎなんじゃ」

 

「なのは、僕達は常に最善の選択をしないといけないんだ。残酷に見えるかもしれないが、これが現実」

 

「う、うん。そう言えば、ロストロギアって何?」

 

 なのはは原作通り、基本的な事が解ってなかった。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話:事件解決 全ては丸く収まった?

.

 なのはの『ロストロギアって何?』という、基本的な事が理解できてない発言を受け、ユートはユーノ・スクライアを見遣り……

 

「ユーノ・スクライア」

 

「は、は、はいぃっ!?」

 

 明らかな威圧を受けて、ビクビクと脅えながら返事をするユーノのド頭に光速でハリセンの一撃を加え、ツッコミを入れた。

 

「ど・う・し・て、なのはが古代遺失物(ロストロギア)についての知識をまるで持ってないんだ?」

 

「ヒィッ! すみません! 詳しく教えていませんでしたぁぁぁぁぁっ!」

 

 恐怖からDOGEZAで謝るユーノ。

 

 溜息を吐くと、ユートはなのはの方を向いて説明を始める。

 

「次元空間の中には幾つもの世界がある。それぞれに生まれ、独自の文化を発展させていく世界。その中に極稀に進化し過ぎる世界があるんだよ。技術や科学、進化し過ぎたそれらが自分達の世界を滅ぼす。その後に取り残され失われた世界の危険な技術の負の遺産。それらを総称して古代遺失物(ロストロギア)と呼ぶ」

 

「そんなに危険なの?」

 

 一気に説明して渇いてしまった喉を紅茶で潤しているユートに、なのはが若干の怯えを見せながらも訊ねて来た。

 

「例えばジュエルシードを数個、平行励起させて発動すれば軽く地球がぶっ飛ぶだろうね。次元震に、最悪で次元断層が引き起こる」

 

「次元震と次元断層?」

 

「次元震はほら、なのはとフェイトがあの時レイジングハートとバルディッシュでジュエルシードをサンドイッチした際に爆発みたいな現象が起きたろ?」

 

「う、うん。空気が痛いくらい震えてた」

 

「小規模だが、あれが次元震ってヤツだよ。次元断層は空間が破壊される現象と考えれば間違いない」

 

「空間が破壊……」

 

 今更ながら自分の仕出かした事の恐ろしさを実感してしまい、ガタガタと震えるなのは。

 

「暴走しそうなジュエルシードをシエスタが封印したから、大事にはならなかったんだけど、放っておいたら危険だったね」

 

 まあ、その場合は原作の通りにフェイトが怪我をしてまで封印しただろう。

 

「管理局はサーチャーを置いていたから、ジュエルシードの事には気付いていた筈だが、ユーノに遅れるて一ヶ月も掛けてやっと到着の重役出勤。若し封印をする人間が居なくて、聖闘士も居なかったなら海鳴市はズタズタになり、死者多数の大惨事だったろうに」

 

 普通の人間ではジュエルシード・モンスターを斃す事も、封印をする事も出来なかったであろうし、他のジュエルシードに触発されて次々と目覚めていた可能性も否めない。

 

「管理局は監視対象Nが、魔法に目覚める切っ掛けとなる事を期待し、ジュエルシードの事を知らん顔していた可能性が高い。なのはが魔法に目覚めてジュエルシードに関わり、その最中にしれっと管理局が入り込んでしまえば、時空管理局の都合の良い駒とし易い。万が一、管理局の介入前に死ぬ様なら必要がない人材だったと考えれば良い」

 

 どっちにしろ管理外世界での出来事であり、管理局が痛む事は何もない。

 

 正に、ローリスク・ハイリターンという訳だ。

 

「莫迦な、管理局がそんな事をする筈が……」

 

「まあ、9歳の少女を盗撮する組織ではあるけどね」

 

 確たる証拠が出てきている以上、決して嘘だと叫べないクロノは項垂れる。

 

 ユートはクロノを嫌っていないが、この頃のクロノは少し管理局の思想に染まり過ぎているきらいがあるから、信頼はしていない。

 

「ユートさん」

 

「何かな、リンディ・ハラオウン提督」

 

「貴方はどうやって管理局の情報を得たのですか?」

 

 リンディは其処が腑に落ちない処。まるでユートが管理局をよく知っているのだと言わんばかりの体で、どうしても訊いておきたい事だった。

 

 一応は原作知識だが……

 

「サーチャーの運用概念を考えれば解る筈なんだが。こいつから幾らでも情報を得られたよ」

 

「あ!」

 

 サーチャーは基本的に、幾つかを纏めて運用するものであって、一つのサーチャーから他のサーチャーを中継し、管理局から情報を抜き取る事も容易い。

 

 普通はサーチャーを鹵獲される事など無いし、その辺の情報管理がなっていなかった様だ。

 

「まあ、サーチャーをバラ撒いて地球の情報を盗んでいたんだし、逆にハックされても文句は言わさない」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「では彼女らが着けている鎧……」

 

「聖衣がどうかしたか?」

 

「聖衣だけど、あれはどうしたの?」

 

「造ったに決まってる」

 

「「「造った!?」」」

 

 管理局組は驚愕した。

 

 一応は調べて、明らかに未知の金属で出来ており、未知のエネルギーを秘めている鎧、古代遺失物(ロストロギア)の類いだと考えていたのが、よもや現代人が造った物とは思わなかったのである。

 

「どうせ未知の金属とエネルギーから、古代遺失物(ロストロギア)だと思ったんだろうが、現代の聖衣は僕が本物の聖衣を参考に、再構築した物だよ」

 

「本物を参考に?」

 

「この場に存在する本物の聖衣は、僕の纏う双子座の黄金聖衣のみだ。それ以外は僕の造ったレプリカ……と言っても、本物と変わらない金属で造っているし、本物と遜色はない。違いは戦闘初心者でも闘える様、パワーアシストや必殺技の登録が成されている事だ。デバイスと変わらないな」

 

「出来れば聖衣が欲しいのだけれど……」

 

「駄目だ、聖衣は聖闘士の象徴だ。それを部外者になんて渡せる筈がないだろ。しかも聖衣は造る為に大量の聖闘士の血液が要るし、量産が利かないんだよ」

 

 鋼鉄聖衣はマシーン故に違うのだが……

 

「聖闘士の血液、何故?」

 

「聖衣は生きている。喋ったりはしないが生命の息吹きを確かに持ってるんだ。その息吹きを与えてるのが聖闘士の血液。この場合の聖闘士は小宇宙を持っている真の聖闘士の事。アリサ達の血液では意味が無い」

 

 現状で血液の供給が可能なのは、ユートとシエスタの2人のみだ。

 

 他にも小宇宙を持っている聖闘士は居るが、現在のこの場には居ない。

 

 しかも必要な血液は聖衣一つにつき、半分近い量となっているからユートは、少しずつ製作していた。

 

 大量の血液が必要とあっては無理も言えず、溜息を吐きながらリンディは会談の終了を考える。

 

「こうなると完全に私達は出番も無いわね」

 

「かあ……艦長、然し!」

 

 クロノは納得がいかないのか、喰って掛かろうとしたものの、自分でも何を言って良いのか判らない。

 

 少なくとも双子座の黄金聖衣は、時空管理局の定義で云えば古代遺失物(ロストロギア)に当たる。

 

 だが、取り上げようにもその場合には、ユートを敵に回す事になってしまい、再び次元の狭間に跳ばされてしまいかねない。

 

 況してや、エピメテウスの落とし子という訳の解らない力で、クロノの魔法の一切を無効化してしまう。

 

 それに、ルールに基づいてこの地に居る訳でなく、ミッドチルダでも武装をして勝手に入り込めば犯罪だというのに、管理局員たる自分がそれをやったというのはやはり憚られる。

 

「私達は地球を出ます」

 

 故に、リンディの言葉にこれ以上の反論も無くて、黙って従うしかなかった。

 

 一応、全てのジュエルシードが集まれば、伝えて貰える様に、連絡法をユートに伝えており、事件解決の確認が終わるまでは軌道上での滞在許可をリンディが受けている様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから数日……

 

 【ジユエルンレーダー】を片手に海鳴市の力在る者達が協力し合い、聖闘士や魔導師が見付けたジュエルシードに封印を施ていた。

 

 例えば……

 

「父さん、ジュエルンレーダーによればこの辺りなのは間違いない」

 

「そうか」

 

 高町士郎と高町恭也が、木刀を片手に持って動き回っており……

 

「む、これだな」

 

「そうみたいだ」

 

 士郎が発見して、恭也が確かめてみると碧い菱形の宝石が確かに有った。

 

「じゃあ、すずかちゃん。封印を頼むよ」

 

「はい、恭也さん」

 

 封印担当は大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)のすずか。

 

「凍てついて、凍れる柩(フリーレン・サージ)!」

 

 一時的な処置で、ユートが後から厳重に封印を施す訳だが、これでもほぼ絶対零度の氷結封印だ。

 

 ユートの許に運ぶまでの間は大人しいであろう。

 

 更には……

 

「鮫島、見付かった?」

 

「はい、アリサお嬢様……此方に御座います」

 

 バニングス家執事の鮫島と組み、アリサはジュエルシードを捜した。

 

「じゃ、ちゃっちゃと封印しますかね。えっと、始動キーは、コノ・バカ・イヌウルサイ・モフ・モフカリカリ……Signum is.lost famenle o resurrectio vetus universitas(封印せよ旧き遺失物)」

 

 ネギま!系で、始動キーからラテン語の詠唱に入って発動ワードを紡ぐ。

 

「eminor includo(閉ざす脅威)!」

 

 ジュエルシードは見事に封印されたのだが、アリサはプルプル震えている。

 

「ねえ、鮫島。この始動キーってさ、若しかして莫迦にされてるのかしら?」

 

「御答えしかねます」

 

 一礼する初老の執事は、視線を逸らして言う。

 

「絶対、変えてやる!」

 

 アリサは決意した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはジュエルシードに最早、用はないから封印をした後はどうするか?

 

 実際、ジュエルシードは既に実物も発動の瞬間も、必要なシーケンスは全てを〝視ていた〟ユートなら、複製を造るのも容易い……とまでは言わないが、不可能ではなくなった。

 

 オリジナルのジュエルシードに用はないのだ。

 

 封印匣の中に入っているジュエルシードを見つめ、ユートは思案する。

 

「ふむ、どうせ解析も使用も出来ない代物だし、管理局に渡しても問題は無い。なら、貸しを作るのも将来的な意味で悪くないか」

 

 ユートの封印を破りたければ、それこそ阿頼耶識の小宇宙を越えた力でぶち破るしか方法は無い。

 

「まあ、取り敢えず管理局にはさっさとお帰り願いたいし、お土産にジュエルシードを渡せば喜んで帰るだろうからな」

 

 まだ、アリシアの蘇生もやるのに、管理局がうろちょろしていてはやり難い。

 

 因みに、フェイトは原作とは違って連れて行かれる事は無かったりする。

 

 既にプレシアも含めて、日本国籍を月村家やバニングス家を後見人に作ってあるから、管理局法で裁かれる謂れが無い。

 

 何故なら、彼女らのした事は飽く迄も善意の探索。

 

 現地で魔導師となった子と〝誤解〟から戦闘になってしまい、小規模次元震が起きているものの、それも管理外世界での話であり、しかも所属する世界で起こったトラブルに過ぎない。

 

 それで〝無関係〟な管理局が出しゃばるのならば、是非を問うべく管理世界の全てに、今回の〝事故〟の全容をぶっちゃけてやるとリンディに言っておいた。

 

 リンディは涙を流しながら喜んで了承している。

 

 尚、貴重な時間を貸してくれた協力者の方々には、ユートが確りとお礼をしておいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、リンディ・ハラオウン提督」

 

「はい」

 

「ジュエルシードの全ては集め終わったよ」

 

「そうですか……」

 

 本当に数日で終わらせてしまったユートに、呆れるやら何やら。

 

「で、聖域の総意でこいつを進呈しても良い」

 

 ユートが開いた匣の中には21個のジュエルシードが入っており、リンディとクロノは目を見開く。

 

「対価は?」

 

「管理世界への渡航許可を取って貰いたい」

 

「渡航許可ですか?」

 

「前にも言ったけれどね、法を犯すのは良くないからきちんと許可が欲しい」

 

「……成程、判りました」

 

 どうやら、リンディにはユートの言わんとする事が理解出来たらしく、苦笑いをしながらジュエルシードを受け取った。

 

 序でにユーノも、一度はミッドチルダへと帰って、部族の方に報告をしてからもう一度、地球に来たいと言うので地球への旅行ビザを与えておく。

 

 新たに施行された【地球国連法】を守るのならば、旅行者が来るのを拒む事は無いという訳だ。

 

 こうして、時空管理局の一部隊は管理局の本局へと帰還した。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話:大団円 生命の煌めきのその先に

.

「さあ、始めようか」

 

 時の庭園に来ていた。

 

 プレシアの新しい肉体は完成しており、時間加速を用いて何とか24歳にまで年齢を調整してある。

 

 戸籍上は30歳だが……

 

「積尸気転輪波!」

 

「ぐっ、うう……っ!」

 

 プレシアの肉体から魂魄が抜け出て、プロジェクトFの応用で新しく造り上げた肉体へと転輪させる。

 

 崩れ落ちるプレシア。

 

 そして、新しい肉体を獲たプレシアが起きた。

 

「ほ、本当にこんな事が出来るだなんて……」

 

 ある意味で若返ったとも云えるプレシアは、自分の掌を交互に見つめながら、驚愕している。

 

「じゃあ、次だ」

 

 ユートが見ている其処に存在するのは、フェイトに瓜二つながら多少の幼さを見せる少女の姿だった。

 

 端からはあどけない顔で眠っている様にしか見えないがこの少女──アリシア・テスタロッサの心臓の鼓動は脈打たず、呼吸も全くしていない。

 

 実際、眠っているだけであるなら胸が呼吸で上下している筈、この美しい少女は間違いなく死んでいた。

 

 だが、プレシアが早い内に肉体を保存しておいた事が効を奏し、先程の技でなら未だにこの世に残留しているアリシアの聖霊体を、肉体へと戻す事が可能だ。

 

 プレシアは既に体験しているが故に、もうユートを微塵も疑ってはいない。

 

 愛しい娘が無事に帰ってきて、暖かい身体で抱き締めさせて貰えれば、それで良かった。

 

 この部屋にはアリシアの聖霊体が居り、生き返るのを今か今かと待っている。

 

「それじゃあ、アリシア・テスタロッサ」

 

『はい!』

 

「これから君のお母さんにしたのと同じ技を使う」

 

『うん!』

 

「多少の圧迫感は有るかも知れないけど、少しの間で良いから我慢してくれ」

 

「はーい!」

 

 少し前まで精神崩壊寸前に追い詰められていたとは思えないくらい元気? な声で、右腕を挙げながらも返事をした。

 

 アリシアの聖霊に指差したユートは、再び技を放つべく究極すら越えて小宇宙を高めていく。

 

 第七感の未那識を越え、阿頼耶識の位まで……

 

「積尸気転輪波ぁぁっ!」

 

 真新しいTシャツ服を着せられた少女の肉体へと、ユートは動かした魂魄を入れて定着させる。

 

 パチパチと瞬きをして、アリシアが口を開く。

 

「う、ううん……」

 

「アリシア!」

 

 動いて目を開きいて確かに声を出したアリシアは、感極まったプレシアの声に反応して……

 

「ママ?」

 

 声のする方に顔を向け、ゆっくりと身体を起こす。

 

「ええ、ママよ! 嗚呼、ごめんなさいアリシア! ずっと貴女にツラい思いをさせてしまって!」

 

 フェイトへの虐待、それがアリシアを精神崩壊寸前まで追い詰めていた。

 

 ミッドチルダには、幽霊という概念こそ在ったが、魔法至上主義であるが故に霊能など発展せず、科学が進歩したが故に霊や死後の世界を科学者は否定する。

 

 だから科学者のプレシアはアリシアの霊魂を見ず、新しい器に記憶を張り付けて宿ったアリシアではない魂に絶望したのだ。

 

 全てをアリシアが見ていたとも知らずに……

 

 ユートはアリシアの崩壊し掛かっている精神を持ち直させるべく、プレシアに一つの事をやらせている。

 

 そう、フェイトとアルフとの関係改善を……だ。

 

 26年も存在し続けていたとはいえ、所詮は成長をしない幽霊のアリシアは、ある程度は兎も角としても子供に過ぎない。

 

 妹が母と仲良くし始めれば気になり、直ぐに羨む様になるだろう。

 

 正しく一石二鳥とはこの事だ。

 

 果たして、天岩戸に隠れた天照大御神の如く沈んでいたアリシアであったが、笑顔で食事をしたり風呂に入ったりして、愉しそうにしている家族の姿を見て、心を開いたのである。

 

 プレシアはアリシアを抱き締めて、泣きながら謝るのであった。

 

 その後のテスタロッサ家は家族仲も円満で、最初は少し腑に落ちなかったらしいアルフも、フェイトが幸せなら良いかと考え、今は普通に接している様だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 取り敢えず、今日は時の庭園に御宿泊と相成った。

 

 家族水入らずとさせたかったが、ユートもまだ用事が残っていたし、積尸気の技とはいえ転輪波は凄まじいまでの力を消耗する。

 

 それを二連発したから、疲れ果てていた。

 

 今夜は確りと食べ、睡眠を取ってから翌日に用事を済ませようと考え、お邪魔させて貰ったのだが……

 

「お兄ちゃん、一緒に寝ようよ!」

 

 アリシアとフェイトが、ユートに宛かわれた寝室に突撃して来て、目論見なんて霧散した。

 

 まあ、フェイトは突撃してきたというか、アリシアに引っ張られて来たと言った方が正しそうだ。

 

 26年振りに実体を得たからか、美味しそうにご飯を食べて、フェイトと風呂に入ったアリシア。

 

 眠るというのも26年振りの事、折角だから妹と眠りたいというのは理解も出来たのだが、よもや自分の所に来るとは想定外だ。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

 別に間違ってはないが、26年を眠っていた5歳児だから、アリシアに戸籍が残っていれば31歳。

 

 見た目は兎も角、そんなアリシアにお兄ちゃん呼びをされると、歳を食ったみたいで微妙な気分だった。

 

「わたしもフェイトみたいに魔法を使えるかな?」

 

「難しいかな。アリシアの魔力ランクはEだからね、まるで使えないFよりマシって程度でしかないから。でも、アリシアは死んだのを切っ掛けに、ちょっとだけ特別な力を得ているよ」

 

「特別な力って?」

 

「小宇宙」

 

「コスモ?」

 

「小宇宙は魂の奥より湧いてくる生命の秘蹟。単純な魔力なんかより遥かに強大だし、慣れれば魔力だけを分離して使えるだろう」

 

 第八感である阿頼耶識、それは普通の人間であれば死ぬその刹那のみ目覚めるという、究極の小宇宙とされる未那識すら越えているとされた。

 

 【神に最も近い男】と呼ばれた乙女座のシャカは、この八識に目覚めていたからこそ、そう云われているのだと老師は言う。

 

 ユートが阿頼耶識に目覚めた際、生命の煌めきの先に在ると称したが、それは正に正鵠を射ていたのだ。

 

 死んだ事を切っ掛けに、アリシアは小宇宙に目覚めており、本来なら永らく動かしていない肉体は窶れ細っていた筈なのに、未那識(セブンセンシズ)の小宇宙で無意識に補っている。

 

 それに気が付いた時に、ユートは本当に驚愕をしたものだった。

 

「リニスがフェイトに視た理想の最終形……【全てを断ち切る閃光の刃】に至れるかもな」

 

 フェイトには既に道筋を付けてある。

 

「なぁに?」

 

 ユートの呟きが聞こえたのか、アリシアが無邪気な笑みを浮かべ訊いてきた。

 

 嗚呼、闘いに巻き込むなんてする必要が無いのに、誘惑に勝てない。

 

「アリシア」

 

「うん?」

 

「聖闘士になってみる?」

 

 美しい原石を前にして、ユートはそう訊かずには居られなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、ユートがプレシアに案内されたのは、破棄された研究室みたいな部屋。

 

 其処にはポッドに眠る……否、機能していないから単に横たわったアリシアやフェイトに似た躰が、存在している。

 

「これが用意したモノよ」

 

 今やSAN値が戻っているからか、動かない少女の肉体に少しばかりプレシアの心が痛んでいた。

 

 これが自身の犯した罪だと突き付けられて、それを背負う義務を負っている。

 

「これ、私……?」

 

 この場にはフェイト達も来ていた。

 

 自身の罪の証を見せて、それすらも背負う為に。

 

「フェイト、この子に魂は存在していないんだ」

 

「魂?」

 

「コンピューターで云うならハードは完成したけど、プログラムを動かすOSがインストールされてない。デバイスで例えるのなら、バルディッシュの本体こそ完成したけど、AIが組まれてない状態なんだよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「この魂無き躰に僕の使徒であるユーキを招喚する」

 

 ユートは血を以て魔方陣を描くと、招喚の為の咒を詠唱し始めた。

 

「汝、我が仮初めたる使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……我が言之葉に応えて来よ!」

 

描かれた魔方陣が、激しく回転しながら輝きを発していく。

 

目も開けていられない程に強い光だが、それも徐々に収まっていった。

 

「汝が名は祐希!」

 

 招喚するべき者の名前を呼ぶと、アリシアに似ている躰が変化する。

 

「こ、これは?」

 

 プレシアは驚愕した。

 

 金髪は青くなり背中まで伸ばして、恐らくは紅玉の如く瞳もマリンブルーに変わり辺りを見回している。

 

「気分はどうだ?」

 

「まあまあだね」

 

 ユートはマントを出し、ユーキに掛けてやった。

 

 ユーキが立ち上がると、プレシア、アリシア、フェイト、アルフを順繰りに見遣って首をコテンと傾げ、ユートを見つめて訊く。

 

「リリカルなのはの無印なのかな? アリシアの生存ルートって訳?」

 

「そういう事だね」

 

 プレシア達には意味が解らないが、きっとその話は何かしら秘密が有るのだとは理解が出来た。

 

「鳳凰星座(フェニックス)の聖衣だ」

 

「サンクス、兄貴」

 

 端から視れば兄妹というより、寧ろ兄弟みたいだがユーキの肉体は女の子。

 

 血縁的にはプレシアの娘であり、アリシアとフェイトの姉妹なのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはプレシア達に、ユーキについて話す。

 

 ユーキが使徒と呼ばれる存在で、どの世界に廻ろうともその世界の某かの器を用意すれば喚べるのだ。

 

 器は基本的に魂の姿へと変化する。

 

 故に、今のユーキの姿はアリシアやフェイトと似ても似つかない。

 

 そして大事な相棒。

 

「それで兄貴、今は何処で暮らしてるのさ? ひょっとして高町家?」

 

「いや、月村家」

 

「すずかの家か〜。ああ、そう言えば今は何をやってんの?」

 

「戦力の拡充」

 

「は? じゃあ、聖闘士を集めてるんだ」

 

「ああ、後は使徒を何人か喚ぶ予定だよ。組織が肝要なんでね」

 

「そっか……」

 

 ユーキにはユートの考えが何と無く理解でき、唯の一言を返すのみ。

 

「まあ、良いか。えっと、初めましてかな、お母様」

 

「え? あ、ああ! 確かにそうね」

 

 プレシアはユーキが自分の血縁だと理解し、慌てて頷いた。

 

「そして、初めまして……アリシア姉さん、フェイトにアルフ」

 

「うん、初めまして」

 

「は、初めまして……」

 

「何で行き成り名前を知ってんだろ? まあ、初めましてだね」

 

 アリシアと、フェイトにアルフの3人とも挨拶を交わしたユーキは……

 

「僕の名前は、ユーキ・T・緒方って処かな?」

 

「Tってやっぱり、テスタロッサ?」

 

「その通りだよ、アリシア姉さん」

 

 テスタロッサ家に新しい家族が増えた瞬間だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時の庭園はユーキの謹製ASRSを展開し、周囲から隠蔽しておいてテスタロッサ家の面々は取り敢えず月村家へと移動をする。

 

「Anti Sensor and Rader Suffia−Fieldか……助かるね」

 

「鈴音と一緒に開発したんだよ」

 

 何度か共に動いていた際に開発して、遂に完成させたらしい。

 

 テスタロッサ家は月村家に挨拶をし、暫くはお世話になる旨を伝える。

 

「混ぜるな危険……」

 

 ユーキに忍にプレシア、マッドサイエンティストの極致が此処にあり、更にはいずれ招喚する時計座(ホロロギウム)の白銀聖闘士とあの子が加われば……

 

「怖っ!」

 

 フェイトとアリシアは、聖祥大付属小学校にユーキも含めて通う事になる。

 

 フェイトとユーキが二卵性の双子、アリシアは病気で一年留年した姉として、ユート達と同じ学年に。

 

 なのはもアリサもすずかも大喜びだった。

 

 高町家、月村家、テスタロッサ家、バニングス家、そしてジュエルシード捜しに協力してくれた皆さん、全員を集めて事件が解決したパーティーを行う。

 

 無印からA'sへ……

 

 世界は、全ては、事態は推移するのであった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A's篇
第1話:訓練 聖闘士と魔導師の論舞曲


 こっからA's篇です。





.

「オオオオオオッ! 天馬流星拳!」

 

「キャァァァァッ!」

 

 ユートが放った一秒間に百発の拳がフェイトに叩き込まれ、その全てを喰らって吹き飛ばされてしまう。

 

 聖域(サンクチュアリ)の訓練スペースに於いては、聖闘士に任命された者達が修業で汗を流していた。

 

 フェイトは魔導師だが、修業は決して無駄にはならないし、何より二ヶ月前に終わった【JS事故】で、バルディッシュがアサルトの名前を得てパワーアップしている為、使い熟すという意味合いでも必要な事だという事になったのだ。

 

 修業を始めてから二ヶ月が経って、頃合いだと考えたフェイトがユートに挑んでみたら簡単に吹き飛ばされてしまった訳である。

 

 ユート自身は青銅聖闘士と変わらない能力で相手をしたが、最高速度が亜音速のフェイトでは、音速である青銅聖闘士の速度に追い付けないでいた。

 

 一応、新魔法の【ソニックムーブ】を使えば、最高速度は名前の通りで音速に達する機動も可能とされているが、思考速度まで上がる訳ではないから旋回能力が少し弱い。

 

 それを補うべく、マッハ1の青銅聖闘士の速度に、素でも追い付ける様になる為にも、カートリッジなどを使わずに動いていた。

 

 バリアジャケットを展開していたし、速度は兎も角としても威力そのものは、確り手加減していたからか目立ったダメージは無いみたいだが、未だに音速に到達出来ない事に落ち込んでしまっているみたいだ。

 

 それでも単純な速度なら聖闘士に成りたての星矢と同等程度はある、但し飽く迄も移動速度は……だが。

 

 旧移動魔法のブリッツアクションを使えば可能で、フェイトは流石に1秒間で85発もの攻撃は出来ないだろう。

 

 因みに、単純なパンチを打たせてみたら、1秒間に12発の拳を振るえた。

 

 計算上、マッハ0.12程度の速さである。

 

 これなら鋼鉄聖衣を展開すれば、恐らくは白銀聖闘士並の能力は固い。

 

 これでも修業の成果は出ている様だ。

 

「ねえ、ユート」

 

「どうした?」

 

「あんな風に成れるには、どのくらい掛かる?」

 

 フェイトが唖然となって見遣る方向には、なのはとすずかとアリサを相手取り模擬戦を行うアリシアの姿があった。

 

 【JS事故】から二ヶ月が経つが、未だに身体の慣らし中なアリシアは、それでも3人掛かりで相手にすらなっていない。

 

 今のアリシアは碌に機能しない五感を小宇宙で補っており、戦闘に小宇宙の全てを使えない状態にある。

 

 にも拘らず、3人を完封しているのだから信じ難いフェイト。

 

「現段階でのアリシアで、最大速度がマッハ2.4って処かな? アリシアならそこら辺の青銅聖闘士には負けないだろうね」

 

 尤も、なのはがクロス・アップすれば、簡単に逆転が可能な程度でしかない。

 

 それ処か、カートリッジを使えば普通に勝てる。

 

 所詮、現在のアリシアは拙い戦闘技能しか持たない素人であるし、僅かとはいえなのはは実戦経験を積んでいるのだから。

 

 現段階では……

 

 身体が本格的に治れば、小宇宙をフルパフォーマンスで使える様になる。

 

 未那識に覚醒しているとはいえ、まだ引き出し方も知らないアリシアだから、すぐに黄金聖闘士の力は使えないだろうが、訓練を積んで未那識にまで小宇宙を燃焼が出来る様になれば、【全てを断ち切る閃光の刃】を体現するだろう。

 

「おらぁっ! ぶっ飛べや亀がぁぁぁっ!」

 

「そりゃ、此方の科白や! このお猿!」

 

 仲良く喧嘩するが如く、城島 晶と鳳 蓮飛が戦闘をしていた。

 

 小犬星座(カニスミノル)の青銅聖衣を纏う晶。

 

 龍星座(ドラゴン)の青銅聖衣を纏うレン。

 

 山吹色と翠色に輝く聖衣が幾度と無く交差する。

 

 この2人は謂わばライバルの関係にあり、別に憎み合っている訳ではないが、何と無く相手に従ったら負けかな? とか考えてしまうのか、事ある毎に口喧嘩をしていたし、最終的には手や脚が出ていた。

 

 身体能力では晶に分があったが、戦闘巧者なレンが毎回勝利を納めている。

 

 それは聖衣を纏った状態でも変わらず、バカ正直な闘い方をする晶は技巧派のレンに翻弄され……

 

「廬山龍飛翔!」

 

 龍の様な水の塊を纏い、高速で突っ込んで来るレンの蹴りを受けて、吹き飛ばされていた。

 

「ふんぎゃぁぁぁぁっ!」

 

「おっしゃぁ! ビクトリーや!」

 

 気絶する晶を見下ろし、ピースサインを出しながら勝利宣言をするレン。

 

 それはいつもの日常。

 

 アリサとすずかも模擬戦を行っている。

 

 纏う聖衣は青銅と鋼鉄、お互いに違うモノだけど、階級的には変わり無い。

 

 橙色の聖衣、小獅子星座(ライオネット)を纏っているアリサ。

 

 クールホワイトの聖衣、大空聖衣・白鳥(スカイクロス・キグナス)を纏ったすずか。

 

 片や灼熱の力を宿して、片や氷結の力を宿す。

 

 アリサとすずかには秘めた──なのはが知らないだけで、殆んどの身内がしっている──トラウマを持っており、お互いに強くなりたいという想いがある。

 

 誘拐されて、穢らわしい男の欲棒が盛り上がる下半身を見せ付けられ、恐怖と嫌悪を植え付けられた。

 

 故に、大人の男に対して強い嫌悪感を感じる。

 

 それでも親しい相手ならまだ大丈夫、なのはの家族や自分の家族なら信頼もあるからだろうか、嫌悪感を感じたりはしない。

 

 執事の鮫島もだ。

 

 クラスメイトも〝今〟なら大丈夫だが、成長をして性に興味を覚え始めたら、もう無理だと思うアリサとすずか。

 

 然し、助けて貰ったからだろうか? 唯一、ユートにだけは肌を晒しても触れられても、すずかは大丈夫だった。

 

 そして、恐らくアリサも同じなのだ。

 

 すずかはそう見ている。

 

 強くなりたかった、二度とあんな事にならない様にもっと強く。

 

 幸いにも切っ掛けは獲たのだから、後は自分達次第という訳だ。

 

 アリサもすずかも拳を交えながら、ある程度は同じ事を考えていた。

 

 ユートなら大丈夫、幾ら同級生とはいえ異性に肌を容易く晒せる程にすずかは大胆ではなくて、それでもユートには晒せたから。

 

 一族の血がいずれすずかを苛むのは忍にも判っていたから、異性へトラウマを持ってしまったすずかが、嫌悪感と一族の血に悩まされて、心が壊れかねないと懸念しており、最悪の選択としてまだマシな恭也に頼む事も視野に入れていた。

 

 そんな中、ユートの存在が挙がったのである。

 

 ユートに対するすずかの態度が紅潮する頬、潤んだ瞳と、まるで恋する乙女。

 

 今にして思えば自分自身も惹かれた事を鑑みれば、ユートの血液にも原因があったのだろうが……

 

 あの後に忍が聞いた話によると、ユートの血は吸血種には堪らない逸品なのだという。

 

 好意もあったし、血液への反応もあったのが相乗効果を醸し出して、すずかの中の嫌悪感を打ち消してくれたのだろう。

 

 一方のアリサの場合。

 

 アリサは直接的に何かをされなかったが故に、トラウマはすずか程ではなく、単純な好意だけで嫌悪感を上書き出来ている。

 

 それでも将来を考えれば下手な男は宛がえない。

 

 そんな時にデビット・バニングスは知った。

 

 ユートの存在を。

 

 忍から聞いたらアリサを救ったのがユートなのだという、娘のアリサが誘拐事件で語る事は自身を救った少年の話ばかり。

 

 其処へアレだ。

 

 下手な男を宛がえない、だがユートならば……実際に会ってみて、そう思ったものだった。

 

「征くわよ、すずか!」

 

「負けないよ! アリサちゃん!」

 

 2人が必殺技の体勢へと以降して放つと……

 

「小獅子・灼熱火炎(ライオネット・バーニングファイヤー)!」

 

「光輝氷結(グレンツェン・ゲフリーレン)!」

 

 アリサとすずかのプラスの熱とマイナスの熱の正反対で莫大なエネルギーがぶつかり合って、丁度互いの中央で燻っていた。

 

 そのエネルギーは時間が経過すると……

 

「え?」

 

「なに?」

 

 突如としてスパークし、消滅してしまう。

 

「「何だったの?」」

 

 2人は呆然とエネルギーが消滅した先を見つめた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは訓練の合間を縫って、何人かの使徒を招喚しておく。

 

 いの一番に招喚したのが超 鈴音と葉加瀬聡美。

 

 理由は簡単で、超技術(チャオ・テクノス)の発足を急ぐ為である。

 

 運の良い事に、超 鈴音は基本的に超一味として、纏めて招喚が可能だ。

 

 超一味の内訳は、超本人と葉加瀬聡美とさっちゃんと龍宮真名の4名。

 

 ユートが嘗ての彼是で、超一味をその様に認識していたからだ。

 

 超は緒方鈴音(おがたすずね)として、超技術(チャオ・テクノス)の纏め役をして貰い、葉加瀬聡美には開発や量産に専念させて、龍宮真名には給料を支払って護衛スナイパーとなって貰っている。

 

 また、黄金聖衣の持ち主を全員招喚してあり、今はギリシアの聖域で十二宮に住んでいる。

 

 天秤座の木乃香は、付属品として烏座の刹那が付いてくるのでお得だ。

 

 他にもペルセウス座の桜を招喚、ハルケギニア組の青銅聖闘士も喚んでおり、杯座の裕理、祭壇座の恵那も招喚しておいた。

 

 お陰で聖域は賑わいを見せている。

 

 それは兎も角、ユートが着手したのは魔導衣(マギウス)の量産整備と日本やギリシアなどの国に販売するパワードスーツの量産。

 

 この辺りは超技術(チャオ・テクノス)の本領で、プレシアや忍やユーキまで参戦し、正に混ぜるな危険を地で逝きそうだ。

 

 勿論、技術拡散を防ぐ為の措置も行われている。

 

 何処ぞの大陸には、劣化模造品を濫造させた挙げ句の果てに、マフィアなどに流し捲られても困るから、量産型さえ渡してない。

 

 基本的に量産型だとはいえど、個人認証が必要となるから持ち主以外は起動すら出来ない仕組みであり、無くした場合の責任は重大だとされている。

 

 製品そのものを完全管理しておかねば、人間というやつは何を仕出かすか解らないからだ。

 

 無論、某・大陸は文句を言ってきたが、先ずはその地を根城にするマフィアをどうにかしろと言ってやったものである。

 

 このパワードスーツは、飽く迄もガーディアンとかレスキューの為の物だし、下手に軍事転用はされたくなかった。

 

 まあ、自分達は戦闘用に使っている訳だが……

 

 四葉五月──さっちゃんには超包子の纏め役として此処らは人を雇い、一種のグループとしている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 暫くの時間は準備期間として消費され、その間にも訓練は普通にしていた。

 

 なのはとフェイトも連携訓練など、コンビを組んだ想定で動いている。

 

 なのは&フェイトコンビVSアリサ&すずかコンビの対戦、空を飛ぶ空戦魔導師のなのフェイだったが、すずかも飛べるからアドバンテージ殆んどない。

 

 基本的に陸戦型のアリサも空を飛べない訳でなく、完全に空戦が得意な大空聖衣を使うすずかのサポートを確りと熟していた。

 

「白光吹雪(シュトラール・シュネーシュトゥルム)ッ!」

 

 両手を前の方で組むと、聖衣の腕部に付いたプロペラが回転して、螺旋を描きながら猛吹雪が襲う。

 

「キャァァァァッ!」

 

「な、なのは!」

 

 フェイトは何とか躱したのだが、なのはが諸に喰らって墜ちる。

 

 其処へアリサが炎を拳に纏って殴り付けた。

 

「炎熱無法(フレイム・デスペラード)!」

 

「パチューーン!?」

 

 強力な一撃で、なのはは堪らず気絶してしまう。

 

「ああ、なのはがっ!? は! すずかは何処に?」

 

 動揺していたとはいえ、戦闘中に敵を見失うなどとあってはならない失態。

 

「まだまだだね……」

 

「うっ!」

 

 以前と同じく背後を取られたフェイトは……

 

「ま、参りました」

 

 降参する以外無かった。

 

 穏やかな日々は過ぎて、その最中に運命は既に顕れている。

 

 とある一軒家、其処に住まう少女の元に存在していた一冊の書物の縛鎖は徐々に解かれて、少女は〝夜の天に懸かる雲〟に既に傅かれる運命にあるのだから。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:幻魔拳 邪魔者を消したいのはお互い様

 少女は独りきりだった。

 

 脚が動かず両親とは早くに死に別れ、父の友人だというおじさんが遺産の管理と生活援助をしてくれて、何とかかんとか生きているのが現状。

 

 最近になって行き付けの図書館で友達が出来たし、時々は一緒に本を読んだりして愉しい気持ちになる。

 

 半身不随の為に病院に通っているが、少女の担当医は優しくていつも気遣ってくれていた。

 

 だけど広い家には誰も居ないから、買い物や病院から帰ってもシンとしてて、寂しい気持ちが強くなる。

 

「独りは嫌やな……」

 

 少女は暗い家の灯りを点けて呟いた。

 

 バリアフリーのこの家は立たずとも大概のモノは扱える為、生活が困難という事は無いのだが、小学生の年齢で義務教育たる学校にも通わず、たった独りで暮らしている事に対し、主治医である石田先生すらも、これを異常と考えない。

 

 少女自身、助けを呼ぶという思いを放棄しており、独り暮らしを当たり前の様に享受していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「親和系の結界……だな」

 

 親和系結界はその状態を異常だと感じさせない結界であり、これに掛かったらそれを常態として受け容れてしまう。

 

 ユートは八神はやての家の近くで調査をし、結界の種類を調べてみた。

 

 可成りの広域範囲にて、『八神はやてが独り暮らしなのは当然である』という認識を固定し、疑問を懐かせない結界が展開されて、誰もおかしいと感じてはいないらしい。

 

 似た様な親和系結界を、麻帆良学園都市で視ているから、ユートには直ぐ理解する事が出来た。

 

「異常を異常だと感じさせない結界、ちうでもなければ抜けられないか」

 

 彼女は一般人ながらも、その手の結界の効きが悪かったものだ。

 

「取り敢えず、何をするにもあの猫姉妹とグレアムは邪魔にしかならないから、先に始末をしてしまうか」

 

 数多在る二次創作では、何故か放ったらかしになっている為、原作準拠で進む事も多いのだが、ユートは邪魔だと解っていて放置をする気も無かった。

 

「八神はやての家に向かいながら魔力を垂れ流せば、慌てて出てくるだろう……少なくとも猫姉妹の二匹の内の一匹は」

 

 早速ユートがそれを実行に移すと案の定というか、気配が二つ付いてくる。

 

 情報交換か見張りの交代なのかは窺い知れないが、どうやら運の良い事に二匹共が居たらしい。

 

「待て、貴様は何者だ」

 

 見た目では流石にどちらか判らないが、蒼髪に白い仮面の男が現れた。

 

 もう一匹は待機しているのだろう、気配はしているが出て来ない。

 

 恐らく、目の前の仮面がリーゼロッテだろう。

 

 ユートは携帯電話を取り出すと、フラットで塵芥を視る様な視線を送りながら110番通報……

 

 ガシャン!

 

 をしようとしたら、背後から魔力弾が放たれて携帯電話を壊す。

 

「何をしようとした?」

 

「んなもん、110番通報に決まっている。何者? それは仮面を被って如何にも怪しい風体の〝お前ら〟が言っても良い科白じゃあないだろう? 寧ろ何者は此方の科白だな」

 

 ユートの至極尤もな意見に対して仮面の男Aは……

 

「我らが何者かなどどうでも良い、貴様は何者だ!」

 

 人には質問しながら自分は答えない……などという巫山戯たスタンスで来た。

 

「……身体に障害を持つなら仕方ないが、僕は健常者の癖に難聴な奴は嫌いだ」

 

「答えねば実力で排除するまでだ!」

 

 どうやら本格的に〝話し合う〟事が出来ない人種? らしい。

 

 多分──リーゼロッテが襲い掛かって来た。

 

 成程、クロノ・ハラオウンにフィジカルな訓練を施したというだけあり、相当な手練れだと判る。

 

 同時にやはり、目の前の仮面Aはリーゼロッテだ、魔法は身体強化にのみ使い格闘で挑んできた。

 

 その腕前というか足捌きは見事であり、AAA+のクロノ・ハラオウンでさえ真正面から闘えば翻弄し、討ち据えるだろう。

 

 だが所詮は神々の強壮に比べれば、少し巧いだけの戦闘巧者でしかなかった。

 

 あの荒ぶる理不尽の塊達を知る身とすれば、リーゼロッテは見劣りすると云うのも烏滸がましい。

 

 拳より蹴りが主体の戦闘法は成程、切れ味も良さそうだが……

 

「くっ、何故だ? 〝すり抜ける〟!」

 

 一歩も動かず佇んで瞑目すらしているユート相手に蹴りは当たらず、それ処か何の手応えすらもなく身体をすり抜けてしまう。

 

 其処へ深い紺色の魔力光を湛えた二本のフープが、ユートの身体を縛るべく顕れて縮んだ。

 

 パキン!

 

「な、なにぃ!?」

 

 必勝を期してのタイミングで放ったバインドだが、ユートに触れたのと同時に砕け散る。

 

「気付いてないとでも思ったのか? 気配を消すのはやめた方が良い。それだと気配の空白が出来て却って目立つ」

 

「だ、黙れぇぇえっ!」

 

 ガシッ!

 

「うっ!?」

 

 飛び蹴りを放った仮面Aの脚を取り……

 

「そうら、ぶつかれ!」

 

 コンクリートのブロック塀に叩き付けた。

 

「ガハッ!」

 

 その衝撃で仮面が落ち、色素の薄い茶髪を短く刈った猫娘の姿が露わとなる。

 

 やはり、リーゼロッテ。

 

「さて、お前らを国連法に反する犯罪者として、退治させて貰おうか」

 

「な!?」

 

 ユートが小宇宙の塊を、背後に居る仮面の男B──リーゼアリアにぶつけた。

 

「ぐ、は……っ!」

 

 単なる力の塊に過ぎぬとはいえ、重たい鉄球を腹に打ち据えたに等しい。

 

 肺の中の酸素を強制的に吐き出さされ、涙を浮かべながら地面に倒れ伏す。

 

「ア、アリア!」

 

 リーゼアリアも仮面が剥がれ落ち、本来の姿を露わにしていた。

 

 リーゼロッテの髪の毛を肩まで伸ばした同じ顔……双子の猫の使い魔。

 

「さあ、話して貰おうか。自分が何者で、何の目的で結界を張っていたのか」

 

「ふん、何の事かしら?」

 

 リーゼアリアがそっぽを向いて言う。

 

 逃げる為の算段を付けているのだろうが、彼女らが張った結界にハックして、今やユートが掌握している為に最早逃走は不可能だ。

 

「話さないなら話したくなるようにしてやるまでさ、OHANASHIの時だ」

 

 ユートが自身の目前へと右腕を掲げ人差し指を立てると、それをリーゼアリアの方に向けた。

 

「敵の脳を支配する事で、精神をズタズタに引き裂く伝説の幻魔拳でな」

 

「ヒッ!」

 

 その説明に恐怖を覚え、リーゼアリアが息を呑む。

 鳳凰幻魔拳は意外と便利な技で、嘗てこの拳の使い手たる鳳凰星座の一輝も、海龍(シードラゴン)の名を偽ったカノンに使い、過去を洗いざらい喋らせた。

 

 まあ、別に幻朧拳でも構わないのだが……

 

 リーゼ姉妹はどちらも動けず、ユートを止める事は疎か逃走すら叶わない。

 

「喰らえ、鳳凰幻魔拳!」

 

 ピシィ!

 

「ヒッ! あ、あう……」

 

 脳髄に直撃する衝撃が、リーゼアリアの電気信号を支配すると、本人の意に反してギル・グレアムの計画をペラペラと話し始める。

 

 ユートは原作知識として知っているが、リーゼアリアの口から言わせる事で、確かな証明としたのだ。

 

 当然ながらリーゼロッテ達はサーチャーを仕込んであり、ユートはそれを利用する心算だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ギル・グレアムの執務室に武装局員が雪崩れ込む。

 

「な、何事かね?」

 

「ギル・グレアム提督……貴方を第一級捜索指定古代遺失物・【闇の書】の主として逮捕する!」

 

「な、何を莫迦な? 闇の書の主は私ではない!」

 

「ならば、それは何だ?」

 

 武装局員のリーダーらしき男が指差した先に、封印が解除された闇の書がプカプカと浮かんでいた。

 

「なっ! 闇の書だと? どうして此処に!?」

 

 驚愕するギル・グレアムに杖型デバイスを突き付ける武装局員、英雄とはいえ闇の書の主は赦されない。

 

「貴方は闇の書を暴走させその瞬間に凍結封印する」

 

 そう言って顎をしゃくり上げると、背後の武装局員がギル・グレアムと使い魔のリーゼを拘束した。

 

 暴れるリーゼ達と呆然となるギル・グレアム。

 

 そして時は流れ、闇の書が強制的に起動させられ、ギル・グレアムと融合……

 

 ギル・グレアムの元で、強制押収された氷結の杖デュランダルを握るクロノ・ハラオウンが、憎しみの目で睨んでいた。

 

「グレアム提督、闇の書の主……父さんの仇を今こそ討つ!」

 

 リーゼアリアは違うのだと叫び、闇の書の主は父様じゃないのだと訴えた。

 

 然し、ギル・グレアムが闇の書の主として覚醒を果たしては、誰も信じない。

 

 嘗て、闇の書に家族を奪われた人々から怨嗟の声が上がっている。

 

 その筆頭がハラオウン家の家族だった。

 

 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う!

 

 闇の書の主だからって、どうして以前の主の罪を背負わされねばならない?

 

 父様は悪くない、父様の罪じゃない、父様は何もしていない!

 

 リーゼアリアは叫んだ。

 

 だけど、クロノ・ハラオウンは汚ならしいモノでも視るかの如く視線を向け、鼻で嗤い飛ばす。

 

「他人なら良くても、いざ自分達がその立場になったら泣き言か?」

 

「な、何を……」

 

 クロノは応えず、デュランダルに命じた。

 

「征くぞ、デュランダル。闇の終焉の刻だ!」

 

《Ok,boss》

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ。凍てつけ!」

 

《Eternal coffin》

 

 無慈悲な魔法が放たれ、ギル・グレアムを完膚なきまでに凍結封印する。

 

 封印されたギル・グレアムは虚数空間に落とされ、闇の書による被害者遺族達は万歳三唱で悦んだ。

 

 唯一人の人間に咎を被せる事で、ババを引かせる事により【闇の書事件】とも【ギル・グレアム事件】とも呼ばれた一件は終結し、世界に平和が訪れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「う、嗚呼……い、い……イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ! 父様、父様、父様ぁぁ!」

 

 頭を抱えて涙を流しながら絶叫するリーゼアリア。

 

「何が、何が闇の終焉の刻だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! この人でなしぃぃいっ!」

 

「アリア、アリア、どうしたのさ! お前、アリアに何をしたんだ!?」

 

 ユートに問われ、計画の全貌を話したと思ったら、行き成り恐怖と絶望に表情を歪め、突然の絶叫だ。

 

 訳が解るまい。

 

「お前らの目的は解った。最後のはほんのオマケだったんだがな……」

 

 尤も、ギル・グレアムは恐らく本当にリーゼアリアに見せた通り、自分自身が闇の書の主だったのなら、喜んで我が身を差し出して封印されたであろうが……

 

 他人事だからあんな手に出たとは思えないし、覚悟だってしていただろう。

 

 それは兎も角、リーゼロッテが起き上がり……

 

「ち、畜生!」

 

 痛んだ身体を押してでもユートへと襲い掛かるが、既に最初の時の攻撃程ではなく、精彩を欠いていた。

 

 ユートは拳を地面に叩き付けて……

 

「雷光雷牙(ライトニングファング)!」

 

「ギャン!」

 

 地を奔る雷を放つ。

 

 それはリーゼロッテのすぐ下にまでくると、まるで牙を持つ獣が喰らい付くかの如く襲い掛かり、高電圧の煌めきでリーゼロッテを灼き払った。

 

「あ、が……」

 

 その後、ユートは二匹に魔力封じの手錠を掛けて、協力者の一人のリスティ・槙原を呼んで、牢獄送りの為に連行して貰う。

 

 既に八神はやてに対し、すずかが接触をしている。

 

 後は、誕生日の前に友達として紹介して貰うだけ。

 

「さあ、邪魔者は居なくなった事だし、闇の書事件の始まりだ」

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話:なの神楽(前編) 八束の神域に神楽舞う

.

 6月1日

 

 最近、八神はやてはとてもご機嫌な様子だった。

 

 図書館で出逢った同い年の女の子……月村すずかと友達になれたからだ。

 

 いつの日からか半身不随となり、下半身が機能せず車椅子生活をして、両親を早くに亡くしてからは独り暮らしをしており、孤独感に苛まれていたはやては、図書館に行けば時々とはいえ友達とお喋りが出来る。

 

 こんな嬉しい事はない。

 

 広い家に独りきりの寂しさを、すずかという存在が癒してくれた。

 

 今日も今日とて、すずかと図書館で好きな本を紹介したり、逆にお薦めな本を教えて貰ったりと、楽しい時間を過ごす。

 

 本日は恋愛系の本だ。

 

「すずかちゃんは学校とかで好きな男の子とかは居るん?」

 

「うん、居るよ」

 

「へえ、どんな人?」

 

「う〜ん、女誑しかな?」

 

「はい?」

 

 すずかの好きな人の特徴を訊いた筈が、とんでもない答えが返ってきた。

 

「私のお友達のアリサちゃんや阿弖那ちゃんに他にもシエスタさんとか、それこそ一杯の女の子に囲まれてるもん」

 

「うわぁ、すずかちゃんはそれでエエん?」

 

「それでも好きだから」

 

「ありゃりゃ、これ完璧に恋する乙女やね」

 

 うっとりと頬を染めて、ポーッと遠くを視ている様は正に……というやつだ。

 

「そうだ! 折角だし今度紹介するよ」

 

「そら楽しみやね。すずかちゃんらを誑らかす、悪い男の子をこの目で見極めたるよ!」

 

「フフ、はやてちゃん。木乃伊取りが木乃伊にならないと良いね?」

 

 意気込むはやてに、艶やかな笑みを浮かべながらすずかはそう言い放った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【八束神社】

 

 神咲那美は八束神社の境内で落ち葉などを掃き掃除で集めていた。

 

 現在は風芽丘高校三年生であり、今年で卒業をして現在は大学一年生の高町恭也とは先輩後輩の仲である。

 

 嘗ては恭也を『良いな』と思っていた那美ではあったが、その想いが那美の内で育って告白に至る前に恭也が月村 忍 と付き合い出したと聞いて涙を呑んだ経験があった。

 

 悲しかったが那美が出遅れたのは事実であったのだし、素直に二人を祝福した那美は姉の薫に想いをぶちまけた後で慰められたという。

 

 薫もまた、那美と同じく恋に破れた乙女であるが故に。

 

 最近では疎遠になりつつあった恭也と再び接する機会も有るのだが、忍と恭也がイチャイチャするのを見る度にチクリとサイズ72──一年経過で育った──の胸の奥が痛む。

 

「今日からは夏だし、矢っ張り徐々に暑くなってくるわね」

 

 もう夕方だとはいえど、少し汗を掻いて上気している頬に少し潤んだ瞳も相俟って、可愛らしさの中にも独特な色気を醸し出す。

 

「最近、神社で妙な気配があるのよね。それに今は物騒だし……」

 

 つい先日の事、強姦事件が発生した。

 

 被害者は最寄りの大学に通う女子大生で、リスティ・槙原が曰く犯人が何故か割り出せないのだとか。

 

 科学捜査で何の進展も無かった事から、人間が犯人ではない可能性もあると、苦々しい表情で言っていたのが印象的だった。

 

「人間じゃない……か」

 

 那美は傍で寝ている小狐の久遠を見遣る。

 

 久遠は見た目には小狐に過ぎないが、三百年くらい前から生きる妖狐であり、人に化ける能力で人間の少年に出逢って恋をした。

 

 その少年が疫病を運ぶ災厄の原因だと神主が声高に叫び、無惨な殺し方をした事によって久遠は人間……取り分け神社の関係者を酷く憎悪して、タタリとなって神社仏閣を攻撃をし多くの人間を殺して回る。

 

 表世界では単なる物語程度にしか思われてはいないが、妖怪はこの世界に存在しているし、それが人の世に仇を為す時には那美が所属をしている【神咲】の家も動く。

 

 義姉の神咲 薫も鹿児島に帰って今は退魔士として腕を磨いているという、そんな世界に住む那美だからこそオカルト犯罪が存在する事も理解をしているのだ。

 

「あの、すみません」

 

「え? はい、何でしょうか?」

 

 行き成り声を掛けられ、肩を震わせつつ吃驚した那美は声がした方を振り返る。

 

 それは少女だった。

 

 恐らく高校生くらいだろうか、艶やかな黒髪を背中まで伸ばしており、とても可愛らしい大和撫子とでも云えば良いだろう、とても清楚な雰囲気を醸し出している。

 

「此処の八束神社でしたか、どんな祭神を祀られているんでしょうか?」

 

「祭神……ですか? 実はよく知らないんです。私は仮の管理者ですし、恐らくは本来の管理者の神主様も知らないかと……」

 

「そうですか……」

 

 少し残念そうな表情で頭を下げた。

 

「変な事を訊いてごめんなさい……私は天乃杜神社で巫女をしています瑞葉市乃と云います」

 

「え? 瑞葉さんって巫女さんなんですか?」

 

「はい、天乃杜神社は水神様を祀る神社だったんですよ」

 

「だった……ですか?」

 

「凡そ一六年前、祭神様は御役目を終えて天へと還られたそうです」

 

「成程……」

 

 市乃が曰く、天乃杜神社はその昔に鬼の被害を治めるべく水神を招来、鬼神たる鬼の分身を神器の鏡で生み出して戦わせて右腕を落として封印したのだとか。

 

 然し、一六年前に鬼神の復活を目論む鬼人が現れて水神の鏡を盗んだらしい。

 

 それを祭神が天乃杜神社の巫女姉妹と、力を喪っていた祭神に代わり別の神社から助っ人に来たその神社の祭神、その護衛の女性、そして鬼人を家族の仇と付け狙う青年、更に一人の少年を加えて鬼人と戦ったのだとか。

 

 祭神は最終的に少年へと自らの神氣を託して、少年が青年と巫女姉妹と共に邪悪な鬼人を退治したらしく、鬼神封印の御役目に括られた祭神は天に還ったのだという。

 

 現在の天乃杜神社は巫女姉妹の内の気弱な妹の方が青年と結婚して継いだらしい。

 

 そして二年前に天乃杜神社へと訪れた市乃は、何故かその神社に居たいと思い両親を説得すると巫女になったのだと語る。

 

「それから、私は神社仏閣を方々に色々と巡っているんですよ」

 

「そうだったんですか」

 

 そういえば那美は業界で聞いた事があるのを思い出す。

 

 一昔前、色々な地域にて妖怪変化が暴れ回った時期があり、その地域の退魔巫女が協力者を募って封じていたのだという事を。

 

「……真逆(まさか)?」

 

 女子大生強姦事件、そして科学捜査が何故だか通用しない犯人……

 

 若し、妖怪変化の仕業であるのなら有り得ない話ではないかも知れない。

 

 ならば灘杜神社から退魔巫女を派遣して貰った方が良いのかも知れないと那美は久遠を見ながら思う、基本的に那美は戦闘行為は余り得意でなくその辺は義姉の薫の領分だったから。

 

 霞ノ杜神社も在るのだけど彼処は那美の立場ではちょっと頼む事が出来ない、灘杜神社と霞ノ杜神社はとある理由で対立をしていてとても仲が悪いと聞く。

 

 その理由というのが妖怪に対するスタンスの違いであり、灘杜神社は善良妖怪は保護すべきという妖怪との共存派、霞ノ杜神社では妖怪変化は全て殲滅すべきという妖怪殲滅派。

 

 久遠が居る八束神社で、間違っても妖怪殲滅派である霞ノ杜神社の退魔巫女など呼べはしない。

 

 その理由となるのが灘杜神社が動けば、つまり妖怪在りと霞ノ杜神社も動く可能性があるという事だろうか。

 

 依頼しなければ来ないという可能性が高いが、それでも久遠の為に万一を考えてしまうと……

 

「ハァー」

 

「どうしました?」

 

「あ、いえ。すみません、ちょっとボーッとしてしまって」

 

「いえいえ、気にしないで下さいな」

 

 微笑む市乃は同性の那美から見てとても綺麗だと思える。

 

「何かあるなら話してみてくれませんか? 力にはなれないかも知れませんが、話せば少しくらいはスッキリしますよ。神社ですけど懺悔でもするくらいの気持ちで」

 

「そうですね、実は……」

 

 那美は市乃に現在、海鳴市で起きてる不可思議な事件の事を話してみた。

 

 話を聞いた市乃は顎に手を添えて思案すると頷いて那美の方へと視線を戻す。

 

「成程、そんな事件が……確かに戦巫女を派遣して貰った方が良いのかも知れませんが、久遠ちゃんの存在が霞ノ杜神社にバレたら、タダでは済みませんね」

 

 矢張り市乃も同じ意見だったらしく、灘杜神社に依頼するのも拙いと考える。

 

「最近、ギリシアを本拠地にして出来たっていう【聖域】に依頼が出来れば良いんですが」

 

「聖域!?」

 

「はい、確か聖域ではその手の依頼なんかも受けていると聞きます」

 

「聖域だったら伝手があります!」

 

「そうなんですか?」

 

「はい!」

 

 聖域の長は那美の知り合いである。

 

 それに少し前にプールに出たモンスターを斃すのに協力していて実力の程も判っていた。

 

 薫を鹿児島から呼べれば良かったが、偶に旅へと出てしまっていて連絡が着かない。

 

 霞ノ杜神社は勿論の事、灘杜神社にも依頼がし難い現実、那美は聖域に依頼するのも有りかもと思った。

 

「私の意見がお役に立ったなら良かったです」

 

 一人で抱え込んでも碌な考えが沸かず、那美は改めて相談する事の大切さを学んだ気がする。

 

 その後は市乃が今夜の宿をまだ決めていないと聞き、那美はさざなみ寮に連れていって一晩だけでも泊めて貰える様に槙原耕介と槙原 愛の夫妻を説得した。

 

 槙原夫妻もさざなみ寮の住人も特に反対意見は出さず市乃が宿泊する事に……

 

 夕飯を戴いた後、庭へと出た壱市乃海鳴市に入ってからというもの、ずっと感じていた昂りを抑えていた。

 

「どうしてだろう、この地に来てから胸がドキドキして高鳴ります……」

 

 市乃は生まれて物心がついた頃か、ずっと無くしたモノを捜している。

 

 若しかしたら……

 

「この地に捜し物が?」

 

 市乃は未成熟で小さな胸が締め付けられる様な感覚に想いが逸らずには居られなかった。

 

「うん? あれは……」

 

 ベランダで優雅に月見をしていると外へと出る那美の姿が在る。

 

「こんな時間に何処へ?」

 

 那美を追い掛けて走った壱乃はすぐに追い付いてしまう。

 

「那美ちゃん!」

 

「え? 市乃ちゃん?」

 

 二人は仲良くなった為にお互いを『ちゃん』付けで呼んでいる。

 

「こんな時間に、そんな物を持って何処へ?」

 

 それは木刀ではなく真剣。

 

「ああ、日課なんですよ」

 

「日課ですか?」

 

「はい、家の流派の訓練をしてるんです」

 

 那美が退魔の剣、【神咲一灯流】を修めている事は聞いていたが、こんな夜中に訓練しているとは流石に思わなかった。

 

「危険があるのですから、修業はやめておいた方が宜しいですよ? 少なくとも妖怪は夜中に現れますし、修業は日が落ちる前にする事をお勧めします」

 

「それは確かに……」

 

 普段からやっている事だっただけに何も考えずに家を出た那美であったが、よく考えれば本当に単なる性犯罪でなく妖怪変化の仕業であるのならば可成りの危険性がある。

 

 性犯罪は危険でないという訳でもないが、那美からすれば両親を殺した妖怪の方が恐ろしい。

 

 ブルリ!

 

 そう思うと夏になったばかりの今の気温でさえ寒気を覚えた。

 

「か、帰りましょうか」

 

「はい」

 

「明日、聖域の伝手を使ってみます」

 

「そうしましょう」

 

 話も纏まり、那美と市乃が踵を返すと……

 

「イヤァァァァァッ!」

 

 絹を引き裂くかの如く悲鳴が聴こえてきた為、那美と市乃はお互いに顔を見合わせて頷くとすぐ悲鳴の上が った方へと走る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 はやてはご機嫌だった。

 

 今日も今日とてすずかと愉しく図書館でデート……という訳でもないが、女の子として大好物な恋ばなが出来たのは嬉しい。

 

 自分は生憎と下半身が不自由な身である為に、恐らくは恋人なんて出来ないのだろう。

 

 だから寂しいけど友達のそんな話を聞けただけで少しは幸福な気分にもなれる。

 

『ゲッゲッゲ』

 

「え?」

 

 はやては突然、聞こえてきた声にキョロキョロと辺りを見回す。

 

 ズシャッ!

 

 ナニかが落ちる様な物音に肩を震わせ、ソーッと音のあった場所を振り向く。

 

「ヒッ!」

 

 其処には赤茶けた肌に、子供の如く身長、腹だけが異様な程出ていて素っ裸、股間には醜悪なるナニかがぶら下がっていた。

 

 はやては図書館の霞ノ杜神社謹製、【妖怪事典】というもので見知っている。

 

「あ、あれは餓鬼か?」

 

 ブラックジョーク的な本だと思って読んでいたが目の前のアレは確かに餓鬼と呼ばれる妖怪。

 

 雑食で人間すらも喰らう餓鬼は、男なら生きた侭に肉を噛み千切り、女は捕らえて慰みモノにするとか。

 

 それが明らかに一〇匹以上。

 

「イヤァァァァァッ!」

 

 はやては得も知れぬ恐怖から涙目になって大きな悲鳴を上げるのだった。

 

 

.




 今回登場した瑞葉市乃は苗字に関しては兎も角としても、名前と立場は今は亡きエロゲーブランドの作品から出典です。

 尚、復活した模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:なの神楽(中編) 妖怪の乱舞と曼珠沙華

.

 悲鳴の聞こえた場所まで駆け抜けると、茶髪をボブカットにした少女が餓鬼に集(たか)られている。

 

「まだ間に合う、征って! 爆炎札!」

 

 壱が札を投げ付けると、炎が上がって餓鬼を火達磨にしてしまう。

 

『ギャァァァァァァッ!』

 

 那美と壱の来襲に餓鬼達は少女から離れて、一斉に二人へ飛び掛かってきた。

 

「神咲一灯流、閃の太刀・弧月!」

 

 燐光を纏う〝木刀〟を揮って、下段からの一刀は剣氣となって弧月状、つまり三日月の様な形に斬撃を飛ばすと、餓鬼を真っ二つに斬り裂く。

 

「くっ、やっぱり木刀だと威力が出せない……」

 

「此方もお札の数的にキツいですね」

 

 元々が、壱が持っていたお札は護身用にと、天乃杜神社の戦巫女の一人である天神かんなが持たせていた代物である。

 

 相手を脅かして逃げる為の囮に近い。

 

 〝今の〟壱は術などお札無しには使えず、在庫切れで無力化されてしまう。

 

 従って、戦闘は那美に任せて自分は少女の所へ駆け付ける程度だった。

 

 万が一にも餓鬼が近付いて来たなら、お札を使って撃退するしかない。

 

「何だか増えている?」

 

 一撃で斃すのに必殺級の技が必要では、元々の数に加えて更なる増援など相手にしていられなかった。

 

 かといって、逃げたくても車椅子の少女を連れてはまともな逃走は不可能。

 

 那美の霊力と壱のお札が尽きたその時こそ、押し切られて敗北するだろう。

 

 そうなればどういう事態に陥るか、戦巫女のかんなやうづきから壱も聞いているから知っていた。

 

 幸いな事に壱が巫女になった頃には、霞ノ杜神社と灘杜神社の様な、戦巫女を養成し各地に送り込む機関も完成しており、妖怪との戦闘は基本的にそちらへと任せる事が出来る為、壱が前線に出る事は無い。

 

「爆炎札!」

 

 壱の方もお札の数が心許なくなり、徐々に餓鬼達が近付いて来ている。

 

「せめて霊刀だったら!」

 

 無銘であるが那美も霊刀は持っており、あれならば木刀よりはマシに戦えた。

 

「この、神咲一灯流真威・桜月刃!」

 

 餓鬼だけでなく、不定形なモヤモヤしたナニかや、巨大な蜘蛛や大蛇、妖怪が種類まで増えている。

 

 先程の技は燐光を纏った剣で、霊体そのものを斬るものだった。

 

「だ、ダメ……本当に押し切られる!」

 

 数の暴力の前に、那美の力は及ばなかった様だ。

 

「あ、あ……キャァァァァァァッ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は少し戻って、場所は隆宮市に有る月村邸。

 

 ユートが言う海鳴の土地というのは、隆宮市や遠見市や矢後市など近隣の市街も含めており、中心となる海鳴市の名前を取ってそう呼んでいる。

 

 隆宮市には月村家、矢後市には綺堂家が居を置いていて、遠見市にはフェイトが住んでいた。

 

 フェイトというか、テスタロッサ家は海鳴市の方に住居を見付けるまでの間、この月村邸に御厄介になっている。

 

「お久し振りね、緒方優斗君だったしら」

 

「ええっと、二ヶ月振りになるのかな? 綺堂さくらさん」

 

「四月の始めに会って以来だからそうなるわ」

 

 七年前のとらハ1で風芽丘高校の一年生だったし、今は二十三歳か。

 

 ユートが覚えている限りでは、確か彼女は大学院生で西欧の古文化を専攻していた筈だ。

 

 どうでも良い情報だが。

 

「お姉さんの、エリザベート・ドロワーテ・フォン・エッシェンシュタインさんにもお世話になったみたいですね」

 

「ええ、結構ノリノリだったみたいよ」

 

 ユートは無遠慮にさくらの姿を見つめた。

 

「どうしたの? じろじろと見て……」

 

「ああ、いや。忍さんに比べて小さいなと思って……確か貴女の方が歳上だったと思うけど?」

 

「ええ、大した年齢差も無いけど一応、私は叔母に当たるもの。征二さんと結婚した義理の姉の、飛鳥義姉さんの子供が忍とすずかだから……」

 

 とらハでは月村の両親は他界していたが、すずかが生まれている訳だし、当然ながら生きている。

 

 だが忍の苦々しい表情を見るに、どうやら親子間の仲はやはり良好とはいかないらしい。

 

 まあ、生きているにも拘わらず忍とすずかを邸へと放ったらかし、海外で仕事をしているのだから無理もあるまいが……

 

「中学生くらいにしか見えないんだけど?」

 

「それは仕方ないわ。私は血を吸わないから、忍みたいに育たなかったの」

 

「あれ? 恋人は?」

 

 ピクリ……

 

 笑顔の侭、さくらの額に青筋が浮かんでいる辺り、地雷を踏んだらしい。

 

「好きだった先輩にはフラれたけど……なにか?」

 

 とらハ1の主人公である相川真一郎氏は、さくらを選ばなかった様だ。

 

 だとすれば、選ばれたのは幼馴染みの鷹城唯子か、若しくは野々村小鳥か。

 

 まあ、どちらでも構わないだろう。

 

 真一郎が恋人にならなかったから、定期的に血液を供給して貰ってない所為で育たなかったらしい。

 

 とらハ3で見たさくらと違うのはその為かと、悟った様に納得してしまう。

 

 月村家と同様、綺堂家も聖域の設立に骨を折って貰っており、ユートはさくらに挨拶をしたいと思っていたが、向こうから来てくれるとは思わなかった。

 

 何でも、忍やすずかの弾んだ声を聞いていたら興味を覚えたのだとか。

 

「うん?」

 

「どうかした?」

 

「いや、何だか知っている妖気が海鳴市の方に……」

 

「妖気?」

 

「霊力の妖怪版だけど……これ、百近いぞ!」

 

 雑魚妖怪の小さな妖気を感じる事はないが、流石に百にも及ぶ数が近場に揃えば【妖気溜まり】となり、中ボス級の妖気を形成するから、少しは感知する事が可能となる。

 

 遥か昔に軍人が集まり、軍氣を形成したのと同じという訳だ。

 

「ちょっと行ってくる」

 

「行くと言っても、隆宮市から海鳴市じゃそれなりに時間が掛かるわよ?」

 

 さくらが言う通り、それなりに近いが海鳴市に住むなのはが、バスで行かなければならない程度には離れている。

 

「問題は無いよ!」

 

 邸をすぐに出て、ユートは一気に駆け出した。

 

 ユートが居るのは隆宮市の月村邸で普通なら到底、間に合う筈もないがユートは瞬間移動呪文で転移をする事が出来る。

 

「瞬間移動呪文(ルーラ)」

 

 海鳴臨海公園に転移し、聖域に居る聖闘士の二人を招喚した。

 

「我求むるは斬り裂く者、神憑る者、言之葉に応えて来よ太刀の媛巫女! 使徒招喚……『清秋院恵那』、言祝ぐ者、視知るし者、言之葉に応えて来よ霊視の媛巫女! 使徒招喚……『万里谷祐理』!」

 

 ベースとしているのは、キャロやルーテシアの召喚呪文だ。

 

 別の世界からの招喚とは異なり、同一世界間の招喚であるが故に詠唱と魔力だけで簡単に喚べる。

 

 招喚魔方陣が顕れると、いつもの巫女装束姿の祐理と制服姿の恵那が飛び出して来た。

 

「お呼びですか優斗さん」

 

「来たよ、王様!」

 

 招喚を受け、祐理と恵那が優斗の走る速さに併せて駆ける……のは無理だから可成り前方に喚び、走れる恵那は兎も角として祐理を抱きかかえる。

 

「ゆ、優斗さん?」

 

「あ、祐理ってば良いな」

 

 慌てる祐理と羨む恵那。

 

「直ぐに聖衣を!」

 

「え? はい!」

 

「了解!」

 

 ユートの命令で聖衣石を掲げて叫ぶと……

 

「麒麟星座(カメロパルダリス)……フルセット!」

 

「杯座(クラテリス)、フルセット!」

 

「祭壇座(アルター)、フルセット!」

 

 闇翠色の麒麟を象っているオブジェがユートの身体を鎧い、白銀色の杯と祭壇を象ったオブジェが祐理と恵那を鎧った。

 

 暫くの間、駆け抜けると巨大な蜘蛛の巣に絡め取られて気絶する那美に、巨大な蜘蛛が迫っているのと、車椅子の少女を餓鬼から庇う黒髪の少女を見付ける。

 

「那美、それにはやてか? どういう状況だよ!」

 

 悪態を吐くが、そういう場合でもない。

 

「祐理は黒髪の少女と車椅子の少女を助けろ、序でに妖怪が暴れる原因を霊視してくれ!」

 

「判りました!」

 

 ユートから降りた祐理はすぐに駆けて……

 

「悲槍白蓮華!」

 

 水気を凝結させた氷の槍を放ち、餓鬼共を粉砕して少女達と妖怪の間に躍り込んだ。

 

「恵那は周囲の妖怪を叩き斬れ!」

 

「うん、解り易いよ!」

 

 大雑把で脳筋な恵那には細かい事をやらせるより、解り易い命令を出す。

 

 恵那が手にする獲物は、天叢雲剱ではない。

 

 ユートが使う村正の影打ちを打ち直した剱で、銘は【天雲燿剱】という。

 

「征くよ、相棒!」

 

《了》

 

 雷を纏う刀身を持つ剱、天雲耀剱を揮う恵那は次々と蛇やら蜘蛛やら餓鬼やらを斬り捨てていく。

 

 ユート本人は右腕を振り翳して、唐竹に那美の服を破り去っていざ触腕を秘所へと、挿入せんとしていた大蜘蛛を……

 

「村正抜刀(エクスカリバー)!」

 

 真っ二つに斬り裂いた。

 

 ユートのエクスカリバーはシュラとはイメージが異なっており、西洋剣でなく自身が使用する妙法村正を想像して放つ。

 

 故に名前こそ聖剣の銘を冠するが、宛てる字は村正という訳だ。

 

 昔はこのイメージの齟齬に苦しめられ、威力が上がらなかったものだが……

 

「那美!」

 

 普段は見た目を考慮してさん付けだが、慌てていたからか呼び捨てる。

 

 返事がない、どうも那美は気絶している様だと判断したユートは、股座を弄(まさぐ)ると秘所へと軽く指を突っ込んだ。

 

 やっている事は変態以外の何物でもないが、妖怪に襲われた場合は疾く検査をせねばならない。

 

「ん、あ……っ!」

 

 意図した事ではないが、那美の性感帯を刺激したらしく、甘い吐息を洩らす。

 

 だが、濡れてさえいない秘所に妖気は無く、それ処か那美はまだ何もされていなかったらしい。

 

 ホッと撫で下ろしたのも束の間、バッチリ目を開けた那美がワナワナと震えながら顔を真っ赤にしつつ、ユートを見つめていた。

 

「(あちゃー、拙ったな)」

 

 ユートは頭を抱えたくなったが此処は素直に……

 

 パシィン!

 

 叩かれておく。

 

 尤も、以前に桐ヶ谷直葉がやったのと同じで、大して鍛えてない掌の方が赤く腫れ上がっていた。

 

「り、理不尽……」

 

「説明したいけれど、今は我慢してくれる?」

 

「っ!」

 

 その言葉にはたと気付いた那美は、自分の今の格好──服がボロボロで、胸や下半身が露わ──を鑑みて咄嗟に大事な部位を隠す。

 

 ユートはそんな那美を、祐理の方へと連れていってマントを羽織らせてやる。

 

「恵那だけで大丈夫だろうけど、少しムカついたから奴らを潰してくる」

 

「存分に暴れ遊ばしませ、我が君」

 

 ユートは漆黒の鎌を何処からともなく出現させて、妖怪連中を狩り立てた。

 

 それはまつろわぬアテナが使う鎌、ユートは彼女の権能も扱える為、これを使う事も出来る。

 

 ユートが権能を獲るのに必ずしも殺す必要はなく、相手の神氣を喰らう事によって獲る事も可能だ。

 

 そもそもが、まつろわぬアテナの居た世界でアテナと闘った際にも権能は使っていたが、それらは別世界で神を殺したか、神氣を喰らったかで体内に存在していた力を顕在させたモノ。

 

 例えば、とある大騎士の態度に怒って、彼女の故国を全体的に眠らせたのは、聖戦で弑奉ったヒュプノスの権能で、永遠睡眠(エターナルドラウジネス)だったし、なのはとフェイトの所へ同時にユートとユーガが現れたのも、解釈と想像力でリョウメンスクナノカミの権能を使った結果だ。

 

 大して労力も使わずに、百匹近い妖怪を殲滅してしまったユートと恵那。

 

 先程の変態行為の意味を伝えると、那美は真っ青に青褪めてしまう。

 

「君らも大丈夫?」

 

「あ、はい。助けて頂き、ありがとうございます」

 

「ほんま、助かったわ」

 

 艶やかな黒髪の少女と、八神はやてがお礼を言う。

 

「え? イッちゃん?」

 

「は? 確かに私は神社でイッちゃんと呼ばれていますけど、貴方は?」

 

 小首を傾げる少女、壱。

 

「僕は緒方優斗」

 

「緒方優斗さんですか……私の名前は瑞葉 壱です」

 

「壱……」

 

 ユートは思い出していた……嘗て、天に還った水神であるイチ様を。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:なの神楽(後編) 弁天来たりて市乃は還る

.

 嘗て、鬼神の腕が意志を持って顕現した鬼が居た。

 

 芳賀真人、人を食った性格で虚仮にしてくる鬼は、木島 卓の両親を無惨にも食い散らかし、妹を犯しながら食らったという。

 

 目の前で苦しそうにしながら悦楽に喘ぐ妹が、生きた侭に牙を突き立てられ、虚ろな瞳で生命を喪う処を見せ付けられ、芳賀真人へ復讐を誓う木島 卓。

 

 後に、一人の少年と出逢った木島 卓は、天神姉妹と天乃杜神社の祭神イチ、水杜神社から派遣されてきた夏の神のナツ、九尾の狐の音羽葉子と供に芳賀真人と戦い、遂には勝利する。

 

 そんな戦いに加わったという少年、言わずと知れたユート・オガタ・シュヴァリエ・ド・オルニエール。

 

 傷だらけで墜ちてきた、そんなユートを看病したのが天乃杜神社の祭神であるイチ様だった。

 

 イチ様は水神の一種で、伎芸の女神でもある。

 

 そんなイチ様の力を維持する龍脈……霊脈を封じられてしまい、更には御神鏡を盗まれてしまったのだ。

 

 長い様で短く、短い様で長い芳賀真人との戦いが始まり、そして……

 

 ユート自身、激しい戦いの所為で力を一時的に喪失していた事もあり、戦いは熾烈を極めた。

 

 そう、天神かんなも天神うづきも妖怪に斃されて、地獄を視たのである。

 

 全ての戦いを終わらせるべく、イチ様とナツ様から神力(デュナミス)を受け、全ての能力を取り戻す事に成功したユートは、木島 卓と合力して芳賀真人を討ち斃し、鬼神すらも滅ぼしたのだった。

 

 役割に括られたイチ様は解き放たれ、実体を失って天へと還って逝く。

 

 そしてユート自身も役割を遂げ、元のハルケギニアへと還る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それがよもや、この世界だったとは思わなかった。いや、或いは習合してたのかも知れないな……」

 

「成程、つまり貴方は前世で実はこの世界に来た事があったのね?」

 

「そうみたいだね」

 

 一通りの人間──夜の一族や自動人形も込みだが──を集めての説明会となった為、イチ様の転生体と思しき瑞葉 市乃を月村邸へと招き、被害者である那美と八神はやても加え、自分の全てを語った。

 

 とはいえど、流石に神様転生の話まではしない。

 

 よもや、自分達がよく知る高町なのはの同位体が神をやっているとは言えなかったし……

 

「あ、あの……私、本当に大丈夫だったの?」

 

「取り敢えず、子宮はね」

 

「子宮は……って?」

 

 不安なのか、那美は紅くなりながらも確りと訊く。

 

「妖怪は三つの穴に妖気や卵を植え付ける。つまり、口内、子宮、直腸だよ」

 

「う、うん……」

 

「僕が検査したのは飽く迄も子宮だけ。妖気が無い処かそもそも、膜が無事だったから其処は大丈夫だね。けどあの一瞬で直腸と口内まで判ると思う?」

 

「あう……」

 

 膣内に指を挿入し、妖気の有無を確かめはしたが、那美が直ぐに目を覚ましてしまい、他の部位まで検査していなかった。

 

「今から検査した方が良いと思うけど、どうする?」

 

「え、と……それじゃあ、壱ちゃんに」

 

「ごめんなさい」

 

「へ?」

 

 行き成り市乃に謝られ、面喰らう那美。

 

「元々、検査と治療は一つの作業なんです。そして、治療は男性にしか出来ないんですよ」

 

「ど、どういう意味?」

 

 その先に関してはユートが応えた。

 

「陰の氣たる妖気を相殺するには、陽の氣をぶつけなければならない。陽の氣を持つのは男。妖怪が女性を狙うのは同じ陰の氣を持っているから。陽の氣を男の精液と共に放ち、陰の氣を相殺する行為を〝治療〟と呼ぶんだ〟」

 

「けど、それだと妊娠……しちゃうんですけど」

 

「心配無い。陰の氣を相殺するって事は、陽の氣も同じく相殺されるという事。精子の機能も殺されるし、妊娠はしない。現に、何度か治療行為をしてたうづきとかんなも妊娠はしなかったしね」

 

 治療をしたという言葉を聞いて、すずかが真っ暗にドンヨリと落ち込んだ。

 

 シエスタから気にしたら負けだといわれたが、全く気にしないというのも無理だった。

 

 その後、那美は誰も居ない場所でユートから検査を受ける。口内に指を突っ込まれ、唾液に塗れたその指を菊門へ突っ込まれてしまった那美は、『もうお嫁に行けないよー!』と涙目になりながら駆け出したものだった。

 

 勿論、検査に引っ掛かる事はなくて、綺麗な身体だったので那美は少しホッとしているらしい

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで祐理、原因は特定出来たか?」

 

「はい、恐らくは八束神社の霊脈が一部破損、それで封じられていた幽世に穴が空き、妖怪が溢れ出したのではないかと……」

 

「八束神社か。若しかしてジュエルシードの影響?」

 

「だと思われます」

 

 二ヶ月前の八束神社でのジュエルシード覚醒、それの影響だと解る。

 

「明日の夜、八束神社での霊穴を塞いで霊脈を正す」

 

「判りました、我が君よ。御伴を致します」

 

「はいはい、王様! 恵那も頑張るよ!」

 

「それと、霊穴を四個同時に塞いで中央で儀式をしないとならないみたいです。その為、巫女が四人必要になりますね」

 

 ユートは頷くと、巫女を四人選出すると翌晩に向けて英気を養う為に眠る事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 選ばれたのは純正の巫女である万里谷祐理、清秋院恵那、瑞葉市乃、神咲那美の四名だ。

 

 巫女とはいえど、祐理と恵那は白銀聖衣を纏って、確り武装をしているし那美も霊刀を携えている。

 

 問題は市乃だ。

 

「力が欲しい?」

 

「はい、優斗さんのお話が本当なら私は元神様です。その力をどうやったら発揮出来ますか?」

 

 ナツ様と共にユートへと神力を譲渡したが、それで力を喪った訳ではない。

 

 現に、未だに水杜神社でナツ様は祭神をしている。

 

 人間に転生して、肉体は人間の市乃だったが依然として神力を内包していた。

 

 それの解放の仕方が解らないのだ。

 

「前世の記憶を取り戻したなら或いは……」

 

「前世の記憶?」

 

「イッちゃんだった頃の記憶が戻れば、力の解放法が自然と理解出来る筈だよ。でもお薦めはしない」

 

「どうしてですか?」

 

「ベースは瑞葉市乃だし、前世の記憶に引っ張られたらアイデンティティーを失いかねないぞ」

 

「それは想い出を取り戻すだけだと思います。かんなちゃんとうづきちゃんと、それに貴方や木島さんの」

 

 覚悟は伝わってくるが、忘れたのだろうか?

 

 ユートが喪失していた力を取り戻す為に、イチ様とナツ様が神力を譲渡したという事が意味する処を。

 

 きっと忘れたのだろう。

 

 ユートは溜息を吐くと、少し詠唱をする。

 

 水が形を成し、市乃の中からもう一人の市乃? が現れて、その水はイチ様の姿を形成した。

 

「え? 私?」

 

『そうだよ、私は貴女の中に宿る貴女自身。弁財天の分御霊たる水神のイチ』

 

 ユートのイチ様から獲た権能で、これは二種類の力の使い方が出来る。

 

 一つは御神鏡と同じで、性格が正反対の分身を生み出す権能、今一つが他者の中の人格に水の器を与える事により会話させる権能。

 

 イチ様らしく戦闘に向かない権能だが、使い処さえ弁えれば割と使えた。

 

 ユートは席を外し、壱とイチ様の二人? だけで話をさせている。

 

 幾らかの会話をした後でイチ様が市乃にキスをし、まるで融け合うかの如く消えてしまうと、残ったのは巫女装束の市乃だけだ。

 

 市乃がユートを見遣ると真っ赤になって俯く。

 

 恐らくは思い出したのだろう、神力譲渡の為にイチ様とナツ様がユートに抱かれた事実を。

 

 しかも最終決戦がいつ起きてもおかしくない事態、一人一人を個別に抱いている暇は無く、3Pで同時にヤったのだという事を……

 

「あ、あの……私は……」

 

「イッちゃんはイッちゃんだし、市乃は市乃で良いだろう? その上で尚、イッちゃんとして居たいなら、それはそれでもいんじゃないかな?」

 

「! はい」

 

 そして作戦が始まる。

 

 内容は至って簡単なものであり、四人の巫女が霊穴の上に立ち、中央でユートが封印の儀式を行う。

 

 妖怪は呼び寄せた聖騎士や恭也と美由希と士郎が担って、次々と討ち滅ぼしていった。

 

 祝詞を唱える市乃達。

 

 ジュエルシード覚醒による余波を受け、破壊されてしまった封印はその夜の内に修復が成された。

 

 妖怪に襲われた件の女子大生に関しては後日、改めて本人の同意の許に検査をしたが、三穴全てに妖気が宿っており、危なく活性化されて妖怪化して、妖怪の子供を産み落とす処。

 

 すぐに説明して、ユートが確りと浄化しておいた。

 

 話を聞く限り、女子大生を襲った妖怪はサトリ。

 

 ゲーム的には二人でないと戦い難いが、ユートには某・風術師と同じ手段が執れる為、大した相手にはならなかった。

 

 つまり、心を詠んだとしても躱せない絨毯爆撃。

 

 それにサトリ風情では、ユートの心は詠めないという事もある。あれも括りとしては魔術らしく、羅刹の君に掛かる筈もない。

 

 こうしてユートが命名、【なの神楽事件】は解決を見たのだが、事件にまるで関わらなかったなのはは、事件名に自分の名前が入っているのを大層、不満に思っていたらしい。

 

 また、妖怪への対処など的確だと灘杜神社が太鼓判を捺した事で、聖域の有用性も国連に示せた。

 

 市乃は本来の予定を超過してさざなみ寮に泊まらざるを得なくなり、天乃杜神社には少なくとも数日掛かる旨を伝えておく。

 

 そして市乃が天乃杜神社へと帰る事になった。

 

「この度は皆さん、御迷惑をお掛けしました」

 

「市乃ちゃん、そんな事はないよ」

 

 さざなみ寮を出る市乃を那美やリスティや美緒達が見送っている。

 

 其処にはユートも居り、市乃には銀色に輝く腕輪を渡した。

 

「これは?」

 

「水杜神社のナッちゃんにも渡して欲しいんだ。水色の宝玉が市乃の分。橙色の宝玉がナッちゃんのだ」

 

「確かこれ、万里谷祐理さん達が着けていた聖衣石(クロストーン)という物ですか?」

 

 聖衣や聖騎士に関しては既に話してあり、市乃に渡したのは精霊聖衣である。

 

水精霊(スワティ)の精霊聖衣と、夏精霊(サーマル)の精霊聖衣だよ」

 

 この数日でユートが造った聖衣であり、聖闘士の血の代わりにユートの中に在るイチ様とナツ様の神力を注ぎ込んだ、謂わば専用の装備だった。

 

 水神の市乃に水精霊聖衣を渡し、夏の神のナツ様には夏精霊聖衣を渡したという訳だ。

 

 因みに、水精霊聖衣の事をスワティとルビるのは、イチ様が弁財天……つまりサラスヴァティの分御霊という側面を持つから。

 

 某・PCゲームに登場する弁財天がサラスワティ、愛称がスワティだったのを思い出したユートが、半ばジョークで付けた名前だったりする。

 

 因みに、ユートの直接的な知り合いにスワティが居たりする訳だが……

 

 こうして、数日という日が過ぎ去った訳だが、全てが順調だった訳でもない。

 

 それは二日前の事だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 六月三日

 

 ユートはこの日、被害者の一人であった八神はやてから招待を受け、誕生日の前日パーティーが催された八神家に訪れていた。

 

 パーティー参加者となるのは、友達の月村すずかを始めとして、すずかの親友アリサとなのはとフェイトとアリシア。

 

 更には同じく被害者ではあるが、助けに来てくれた那美と市乃もやはり招待を受けていた。

 

 何故、前日パーティーなのかと云うと、妖怪の被害を受けたはやてが事情聴取を受けて、病院での検査が誕生日当日にズレ込んで、パーティーを前日に繰り上げた為だ。

 

「みんな、いらっしゃい」

 

 嬉しそうな表情をして、ユート達を迎え入れてくれるはやては、初めての豪華絢爛な誕生日パーティーに興奮気味だ。

 

 翌日は平日であったが、妖怪被害があったばかりという事もあり、一週間程の臨時休校となっている。

 

 現在は昔と違い、妖怪の事は余り隠されていない。

 

 少なくとも被害者や学校や自衛隊などには。

 

 はやてが知らなかったのは一般人だからで、被害者となった時点で教わった。

 

 今日は折角のパーティーだし、はやても嫌な事は忘れて楽しむ事にする。

 

 この日は、はやての家に宿泊をする事になったが、ユートには好都合だ。

 

 そして、深夜零時……

 

 本がフワフワと浮かび上がって、室内を大きな魔力が吹き荒れた。

 

 

.




 壱が帰る前に闇の書事件の最初の一歩が……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話:封印解除 聖闘士+αVS雲の騎士団

.
 それはきっと愉しい一時だったと思う。

 八神はやての初めての友達である月村すずか、そのすずかの友達のアリサ達。

 そして初めての男友達のユート。

 6月4日の誕生日の前日に開いた前日パーティー、それに招いて遊んだ。

 ご宿泊は良いが、流石に男のユートはリビングの方で寝ると言い、部屋は女子に譲った。

 午前0時、そろそろ寝ようかという時……

 突如としてはやての机の棚に仕舞ってあった、鎖で雁字搦めにされた高そうなハードカバー装丁に金色の剣十字の本が動き、はやての目の前まで浮かんできて表紙が何故か脈動して……

《Ich entferne eine Versiegelung(封印を解除します)》

 鎖が弾け飛び、ページが開いていくと喋った。

《Anfang》

「な、何や?」

「これ、何なの?」

「また、古代遺失物(ロストロギア)絡み?」

「ハァー、また何かが始まっちゃうんだね……」

「厄介事でしょうか?」

「この本はいったい?」

 はやてが驚愕し、なのはもアリサもすずかも那美も壱も本に目が釘付けだ。

 尚、テスタロッサ姉妹は別の部屋を使っている。

「ひうっ!?」

 はやての小学生相当──休学中だから──胸からは白い光が顕れ、それが本の中に取り込まれる。

 その衝撃の所為か、それとも思考の限界を超えてしまったのか、はやては遂に意識を手放した。

 そんな時に漆黒の三角形を二つ重ね合わせた魔方陣がグルグルと回っており、その中にはまるではやてに跪くかの如く四人の何者かが顕れる。

 ピンク髪をポニーテールに結った女性が言う。

「闇の書の起動を確認しました」

 金髪ショートボブの女性が次ぐ。

「我らは、闇の書の蒐集を行い主を護る守護騎士にて御座います」

 獣耳に尻尾の生えた筋肉質な男が口を開いた。

「我らは夜天の主の許に集いし雲……」

 最後に小柄で紅い髪の毛をお下げにした少女が……

「ヴォルケンリッター……なんなりと御命令を」

 などと言って締め括る。

 だけどそんな一番大事な名乗りなんて、誰も聞いてはいなかった。

 気絶したはやてに近付くなのは。

「はやてちゃん!」

 様子を見るアリサ。

「うわ、完璧に気絶してるじゃない?」

 オロオロとするすずか。

「こういう時、どんな顔をしたら良いんだろう?」

 すずかに応える壱。

「笑えば良いと思います」

 苦笑いの那美。

「壱ちゃ〜ん、何でも笑えば解決するなんてないよ」

 ヴォルケンリッター達は気絶する主を見て、其処に群がる少女達を敵と判断したのか……

「貴様ら、我らが主に何をしている!」

 ピンク髪の女性が激昂して行き成り剣を出す。

「デバイス!?」

 なのはの言葉が如何にも拙かったらしく、ヴォルケンリッターは魔力持ちにしてデバイスを知るなのはを魔導師だと見た。

「てめえ、管理局の魔導師だな? 早速、主を斃しに来やがったか!」

 どう見てもそんな訳の無い光景だが、基本的に戦う事ばかりであり主が管理局に斃される光景だけは半端に覚えていたのか、敵意を剥き出しにする紅い少女。

「あ、アンタらこそ何者なのよ!?」

「黙れ、最早問答無用! レヴァンティン!」

《Jawohl》

  女性の声に応える剣。

「グラーフアイゼン!」

《Ja》

 紅い少女の命令に、ペンダントが応えて長柄の金槌へと変化。

「うわ、アリサちゃん並に短気だ!」

「な〜の〜は〜? アンタとは一回、OHANASHIが必要かしら?」

 ブンブンと首を横に振るなのは。

 漫才には構わず、女性と少女が襲い掛かって来る。

「チッ! この侭じゃあ、はやての家が壊されるわ。外に出るわよ!」

「判ったの!」

 アリサとなのはは女性と少女に体当たりして、窓をぶち破ると強引に夜の外出と洒落込んだ。

 追い掛ける金髪の女性。

 獣耳の男は残って那美と壱を睨んでいる。


.

 当然ながら原作知識持ちのユート、この事態を俯瞰して確りと気付いていた。

 

「フェイト、アリシア」

 

〔何?〕

 

「なのは達が古代遺失物(ロストロギア)の本から出てきた存在と戦い始めた。援護に行ってくれ」

 

〔うん、判った〕

 

〔了解だよ、お兄ちゃん〕

 

 フェイトとアリシアは、ユートに応えて……

 

「バルディッシュ」

 

《Yes Sir. Barrier jacket Lightning form》

 

 それは正に阿吽の呼吸、名前を呼んだだけで相棒のバルディッシュは、その意を反映してくれた。

 

「大地聖衣・山羊(ランドクロス・ゴート)、スタンバイ!」

 

《Ready Setup》

 

 一方のアリシアが機械的な腕輪に填め込まれた緑色の宝玉に命じると、返事を返して光り輝き頭上に山羊を象るオブジェが顕れて、分解装着が成された。

 

 フェイトとアリシアは、互いに頷いて外に出る。

 

 ユートは今の処、戦闘をする気は無かった。

 

 ベルカの騎士とはいえ、白銀聖闘士までならばまだしも、純正ではないにせよ黄金聖闘士のユートが出れば簡単に終わる。

 

 折角だからなのは達の為の経験値になって貰おう、それがユートの考え。

 

 純正古代ベルカの騎士と戦闘なんて、そうそう経験出来る事は無いだろうし、何より条件的に勝てる戦いなのだから。

 

 理由は簡単で、原作とは違って既に強化処か魔改造済みのなのフェイのデバイス達に、同等のアリサ達が随行しており、戦闘要員も此方が多い。

 

 しかも彼女らは起動したばかりで本調子ではなく、何より主から騎士甲冑を賜ってはいなかった。

 

 今のヴォルケンリッター達は、『装甲が薄い、当たれば墜ちるぞ』なフェイトの痴女(ソニック)フォーム以上に防御力が低い。

 

 それこそ、ディバインバスターの一発、プラズマスマッシャーの一発も当てれば軽く墜とせるのだ。

 

 この状態では防御魔法が使えるとはいえ、余りにも心許ない。

 

 何より現在、戦っているアリサは不完全な状態で降せる程……

 

「でりゃぁぁぁぁっ!」

 

「ぐっ、己れ!」

 

 決して弱くはない。

 

 アリサは本物の小獅子星座の蒼摩の動きをトレースした動きで、ピンク侍へと拳を叩き付けていた。

 

 聖闘士模者符(セイントレーサーカード)。

 

 聖闘士の戦闘法をインプットされたカードであり、インストールした人間の中にアウトプットして焼き付けるシステム。

 

 パライストラの聖闘士候補生達はいまいちな者も多かったが、光るものを持つ者も少なくなかった。

 

 その中の一人が蒼摩で、南十字座(サザンクロス)の一摩の息子である。

 

 アリサの中には、蒼摩の戦闘技術がインストールされており、それをアリサの肉体で行える様に慣らされていた。

 

 故に、単純なコピーという訳でもない。

 

 解り易いのが、師匠の動きを弟子が真似るという、師弟的な感じだろう。

 

 素人を安易に闘わせるという外道な手法であるが、修業で身体を慣らした上で実戦向きに変えていく為、アリサも確りと弁えて動いている。

 

 すずかは金髪の女性と、なのはが紅い少女と闘っており、フェイトはアリシアを伴って壱と那美を睨んでいる、獣耳で筋肉質な男を相手にしていた。

 

 ユートは出ていない。

 

 また、先程まで睨まれていた壱を那美が護る様に立っている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ、やるな……だが、これ以上はやらせん!」

 

《Explosion》

 

 剣の柄から弾丸らしき物が排出され、ピンク侍から緋色のオーラが立ち上る。

 

「紫電……一・閃っ!」

 

 燃え盛る刀身を大きく振り被って、アリサへ向けて振り下ろした。

 

それに対し、アリサも全身に灼熱の炎を纏い……

 

「此方もやらせないわ! 小獅子爆裂(ライオネット・ボンバー)!」

 

 タックルを敢行した。

 

 紫電一閃と小獅子爆裂がぶつかり合う。

 

 ピシィ!

 

「な、なにぃ!?」

 

 押し合う中、レヴァンティンの刀身に罅が入る。

 

 元より聖衣の持つ強度はデバイスなど遥かに凌駕しており、それは青銅聖衣といえど変わらない。

 

 所詮は世界に当たり前に存在する金属と、神の金属を混ぜた稀少金属では相手にならないという事だ。

 

 レヴァンティンの様な、アームドデバイスといった種類は、インテリジェントデバイスに比べれば強度も高いのだろうが……

 

 パキィン!

 

「ば、莫迦な? レヴァンティンの刀身が砕け……」

 

 最後まで驚愕している暇など無く……

 

「ガハァァァァァアッ!」

 

 ピンク侍はまともに攻撃を受けて吹き飛んだ。

 

 一方、なのはは紅い少女と闘っている。

 

 今や空戦も慣れたもの、紅い少女のハンマーを上手く躱しながら、反撃の機会を窺っていた。

 

「貴女、何処の子?」

 

「うっせー!」

 

「話してくんなきゃ、判んないってば!」

 

「知るかよ、アイゼン! カートリッジロードだ!」

 

《Explosion》

 

「え、カートリッジ?」

 

 紅い少女のハンマー……グラーフアイゼンのヘッド近くから空薬莢が排出されると、紅い魔力がオーラとなって放出された。

 

「吹っ飛べ、テートリヒ・シュラァァァーークッ!」

 

 横薙ぎ一閃、なのはを襲う一撃だったが……

 

「レイジングハート、カートリッジロード!」

 

「なっ!?」

 

《Load cartridge》

 

 マガジンからカートリッジを炸裂させ、魔力を引き出すと空薬莢が排出され、桜色の魔力が溢れ出て……

 

《Protection Powerd》

 

 通常の防御魔法など及びも付かない強度となって、なのはを護る。

 

「ミッドの魔導師がベルカ式カートリッジだと?」

 

 自分達と出会う以前から積まれていたのは確実で、紅い少女は驚愕した。

 

「か、硬ぇ!」

 

「ほ、本当だ……」

 

 今まではユートやユーキを相手に、パリンパリンと何処ぞの研究所のバリアの如く割られていた所為か、いまいち自信が無かったのだが、充分な強度で自分を護ってくれて安堵する。

 

「レイジングハート、新しいモード……イケる?」

 

《Yes my Master. Load cartridge》

 

 ガコン、ガコン! と、何度か空薬莢を排出しながら形態を変化する。

 

 バスターキャノンモードから、なのはとレイジングハートは更に別の形態を編み出していた。

 

《Lancre mode》

 

 見た目にはエクセリオンに近いが、これは中・近距離の攻撃形態……

 

 最近の猛特訓には御神流のフィジカルなものも混じっており、魔法を併用すれば基本技や奥義も付け焼き刃程度には扱える。

 

 ランサーモードはそれを扱う為の形態だ。

 

「さあ、征くよ!」

 

《Divine lancre》

 

「ディバイーン・ランサァァァァァァァァーーッ!」

 

 余りの収束魔力を見て、紅い少女は慌てる。

 

「ヤベェ! アイゼン!」

 

《Panzer Hindernis》

 

 ぶつかり合う桜色の魔刃と紅い壁……

 

 ピキ。

 

「う、嘘だろっ!?」

 

 紅い少女の防御魔法は、可成りの堅牢さを誇る。

 

 それに罅を入れたのだ。

 

 少女の護りを貫く男の聖剣の如く、徐々に魔刃が壁の中に侵食していき……

 

「A・C・Sドライブ!」

 

《Divine》

 

「ディバイィィィン……」

 

《Buster》

 

「バスタァァァァーッ!」

 

 内部から砲撃を撃たれては堪らず……

 

「ウワァァァアアッ!」

 

 紅い少女は桜色の爆光をモロに浴びて、吹き飛びながら気絶してしまった。

 

 すずかの方も始終、優勢だと云える。

 

 元より補助型の金髪女性では、たったの一人で戦闘を熟す事は普通無い。

 

 すずかによる氷結攻撃にすっかり翻弄されており、反撃すら侭ならなかった。

 

「氷之弾丸(アイセス・ゲショス)!」

 

「キャァァッ!」

 

 まるで弾丸の如く音速の倍の速さで放たれる氷に、何とかかんとか防御魔法で防ぐものの、勢いのある尖った氷は幾つかが防御を抜けて、金髪女性の肉体を穿ってくる。

 

 金髪女性がダメージに伴って目を閉じ、身体の重要器官を思わず庇った。

 

 それは決定的な隙。

 

 すずかは訓練中にユートから言われている。

 

 相手が隙を見せたなら、罠でないと判断した場合は透かさず攻めろ……と。

 

 すずかは瞬時に距離を詰めると、孔に手を突っ込んで更に攻撃した。

 

「冷却之霧(カルト・ネーベル)!」

 

「な、何? これ、寒っ」

 

 防御魔法の孔から普通の水では有り得ないくらいに冷却された霧を注入され、肉体が徐々に凍結する。

 

「嘘! こ、凍る!?」

 

 展開していたのがフィールド系だったのが災いし、霧を逃がす事さえ叶わなかった金髪女性は氷の中に閉じ込められた。

 

「終わりっと!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 別の場所では獣耳な男とフェイト、アリシアのコンビが闘っていた。

 

 獣耳の男の防御は高く、簡単には防御を抜けない。

 

「喰らえ、鋼の軛! でぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

 敵を拘束する事が目的ながらも、鋭いパイルの如く突き出してくる魔力槍。

 

「バルディッシュ!」

 

《Defenser plus》

 

 フェイトはそれを防御魔法で防ぎ……

 

「そや! てや!」

 

 アリシアは、ピョンピョンと跳ねて躱していた。

 

「くっ!」

 

 それを忌々しげに睨んでくる獣耳に対し……

 

《Crescent》

 

「セイバー!」

 

 フェイトはバルディッシュの魔力刃を飛ばす。

 

 ジャリン! 甲高い音を響かせてベルカの魔方陣を顕現し、獣耳がクレッセント・セイバーを弾いた。

 

「こんなものか!?」

 

 だが、そこへアリシアも攻撃体勢に入る。

 

 アリシアは、ユートから小宇宙の扱い方を習って、黄金聖衣の山羊座(カプリコーン)を獲る為、シュラからユートが習った必殺技の【聖剣抜刀】を修得するべく修業をしていた。

 

 今はまだ、アリシアでは完全処か未熟も良い処でしかない刃でしかない。

 

 それでも、真面目に修業をしていたアリシア故に、それなりな出来の技には成っていた。

 

 もっと薄くもっと鋭く、イメージするはアーサー王が揮ったという聖剣。

 

 何物をも妨げる事の叶わない絶断の刃の……

 

「聖剣抜刀(エクスカリバー)ッッ!」

 

 左腕を降り下ろす。

 

「我は盾の守護獣ザフィーラだ! この程度の攻撃は凌いで見せる!」

 

 だけど、獣耳改めザフィーラは勘違いをしている。

 

 これは一対一ではない、敵には相方が居るのだ。

 

「フルドライブ……クロスアップ・エイパス!」

 

《Cross up Apus. Zamber form》

 

 暗黒聖衣とはまた別物の黒い金属製の鎧、大空聖衣・風鳥の鋼鉄聖衣がその躰を覆い、バルディッシュの形状が大剣となる。

 

 白いマントをはためかせつつ、フェイトはバルディッシュ・ザンバーを大きく振り被り……

 

「疾風迅雷!」

 

《Jet Zamber》

 

 天から落ちる金色の雷撃を収束し振り下ろした。

 

 先に盾へと当たっていた聖剣(エクスカリバー)に、十字を切るが如くジェットザンバーが重なり……

 

「ば、莫迦な!」

 

 パリィン!

 

 盾が木端微塵に砕けて、ザフィーラの強靭な肉体を斜め十字に切り裂いた。

 

「ガハァァッ!」

 

 フェイトの攻撃なら未だしも、アリシアの聖剣抜刀に非殺傷設定なんて便利なものなど無く、右肩から左胸に掛けて裂傷が出来て、大量の出血が生じる。

 

 吹き飛んだザフィーラはその侭の勢いで壁に衝突、それきり動かなくなった。

 

 消滅しないから生きてはいるのだろうが、それなりのダメージだろう。

 

 フェイトがライトニング・バインドで拘束すると、ユートが小瓶を出して傷口に掛けてやると、みるみる内に傷が塞がった。

 

「二人共、よく頑張った。それじゃ運んでしまうか」

 

 フェイトとアリシアの頭を軽くポンポンと叩いて、ザフィーラを持ち上げると八神邸へと運ぶ。

 

 そんなユートを見送り、二人は自分の頭を両手で撫でながら、互いに顔を見合わせて『えへへ』と笑顔を浮かべ、ユートを追い掛けるべく空を舞った。

 

 気絶をしたヴォルケンズを改めて縛って、ユートは未だに意識を取り戻していないはやてを起こす為に、八神邸の中に入ると起きたはやてを連れて、庭へと戻ってきた。

 

 

.




 流石に黄金聖衣は早いという意見があった為、暫くアリシアの聖衣は鋼鉄聖衣の山羊座に変更します。

 それに伴い、内容を少し増量したので前書きを利用して対応しました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話:話し合い そして新たに現わる少女

.

「……う、ん?」

 

「起きたか、シグナム?」

 

「ヴィータ? 我々はどうしたのだ?」

 

「自分で見て現状を確認しろよ」

 

 紅い少女──ヴィータの言葉に、ピンク侍──シグナムが辺りを見回す。

 

 其処には先程まで闘っていた少女達と、指示を与えていた少年……更に主である少女が居た。

 

「あ、主?」

 

 驚くシグナムを見遣り、主と呼ばれたはやてがスルスルと車椅子で近付くと、ポカリと頭を叩く。

 

 物理的には小さな少女の拳など全く痛くはないが、主に叩かれたという事実が精神的に痛い。

 

「あ、主?」

 

「アホウ! 私の友達に何をしてくれてんのや!」

 

「と、友達?」

 

 目を覚ましたはやては、いの一番にユートから事情の説明を受けた。

 

 八神はやては時空管理局と呼ばれる組織に於いて、【第一級捜索指定古代遺失物】とされる【闇の書】に選ばれた主であり、誕生日の午前0時に顕れたのが、【闇の書】に宿る主を護る【守護騎士プログラム】である事。

 

 守護騎士達はユート達を主の敵と判断し、攻撃を仕掛けてきたので無力化したのだと云う事。

 

 そして、はやてが闇の書の主だと確認された為に、話さなければならない事があるのだと……

 

「話はみんなユート君から聞かせて貰うた。アンタらが闇の書の主、つまりは私を護る守護騎士や云う事、管理局とやらと勘違いして友達を襲ったんもや」

 

「か、勘違い?」

 

 呆然となるシグナムに、ユートが話す。

 

「管理局風に言えば此処は第97管理外世界となる。敢えて敵対しようとも思わないけど、管理局の法に従う義理も無い世界だ」

 

「む、う……」

 

「当然、この場に居るのは管理局と直接的には関わりの無い者達ばかり。地球の守護組織の聖域が擁している聖闘士と、ある理由から魔導師も何人か居る」

 

「聖域? 聞かないな」

 

「管理局対策で創ったばかりの組織だしね」

 

「敵対しないのでは?」

 

「地球にサーチャーを勝手に飛ばすは、勝手に武装して入り込むは、認識阻害の結界は張るは碌な事をしないからね。法整備や組織の創設なんかは必須だよ」

 

「……成程」

 

 説明を聞いて、一応納得したのかシグナムは頷く。

 

「まあ、拘束は暴れない様に用心しての事。暴れないなら解いても構わない」

 

 ユートが言うと……

 

「暴れんよな?」

 

 主たるはやてが確認をしてきた。

 

 主に言われては……

 

「是非も無し! この身は既に主のモノ。主の御命令とあらば従いましょう」

 

 そう言い放った。

 

 ユートは溜息を吐くと、指を鳴らして拘束を解く。

 

 そして改めてピンク侍達がはやてに跪き、自己紹介を行う。

 

「私はヴォルケンリッターが将、剣の騎士シグナム」

 

 ピンク侍改め、シグナムが名を名乗った。

 

 ヴォルケンリッターの纏め役、烈火の将の二つ名を持ったベルカの騎士としてオーソドックスな戦闘スタイルな女性だ。

 

「同じく、湖の騎士シャマルです」

 

 金髪ボブで碧眼の女性、リング型アームドデバイスのクラールヴィントを持っており、癒しと補助が専門の参謀役で、風の癒し手という二つ名を持つ。

 

「盾の守護獣ザフィーラ」

 

 狼の耳と尻尾を持つ褐色の肌で筋肉質な男、守護獣というミッドチルダに於ける使い魔と似た役割を与えられて、蒼き狼の二つ名を持っている。

 

「鉄槌の騎士ヴィータ」

 

 紅い髪の毛をお下げに結った少女、見た目は兎も角として突撃隊長的な立場だと云え、ハンマーを片手にどんな敵にも臆する事無く闘う。二つ名は紅の鉄騎。

 

「私の名前は八神はやて、一応はヴォルケンリッターの主……云う事になるんかな?」

 

 はやては何だか照れ臭そうにはにかみ、頭を掻きながら言うのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さてと、現状とこの先の説明をしようか」

 

 一頻り家族の触れ合いを楽しませた後、ユートによる説明会というか暴露会を始める事となる。

 

「先ず、この世界は管理局基準で第九七管理外世界・当該惑星名は地球、某県・海鳴市となる。この地球には最近になって守護組織として【聖域(サンクチュアリ)】が創設されて、次元世界に対するカウンターとなっている。特に時空管理局が割と好きに潜り込んだりサーチャーをバラ撒いたりしていて、国際連合からの受けは最悪でね、犯罪を犯した異次元人には厳しい沙汰が為されるだろうな」

 

「ああ、聞いた事あるわ。何や、ギリシアの何処かに本拠地が在って、自治体みたくなっとるんやろ?」

 

 一般人がまるで知らないのも具合が悪く、聖域に関しては概要のみだが地球中に伝わっている。

 

 それに伴って、財団法人【OGATA】とそれが擁する超技術(チャオ・テクノス)の発表もされた。

 

「ヴォルケンリッターは、八神はやてが主だとはいえ異次元人に相当するから、下手に武装して暴れるのは地球人を刺激する。今回は突発的な事として処理するけど、そこら辺弁えて行動しないとはやてに迷惑が掛かると思ってくれ」

 

「う、了解した」

 

 シグナム達とて主はやてに迷惑を掛ける気は無く、素直に従ってくれる様だ。

 

「で、問題なのはこの次。管理局基準で【第一級捜索指定古代遺失物】にされているのが、【闇の書】……はやてが持つ本なんだよ」

 

「はぁ、せやけどこれ……闇の書やったか? これが何やあるんか?」

 

「一番最近で一一年前……前回の【闇の書事件】でも多くの犠牲が出た。たったの一一年だ、被害者遺族も可成り生きているだろう。はやてに罪は無いけれど、闇の書の主というだけで、理性的にはなれない人間も多く居る。有り体に言えば復讐したい奴らが居るって事だね。場合によっては、何の解決にもならないのにはやてを殺して、溜飲を下げたい莫迦も出かねない」

 

「そ、それは怖いな……」

 

 若干、引きながらはやては呟くが、瞳は真剣そのものと云えた。

 

「既にその第一陣とも言える連中が入り込んでてね、先日捕まえたばかりだよ」

 

 それは当然リーゼアリアとリーゼロッテの事だったが、その事実に対してはやては愕然となってしまう。

 

 やはり実際にそんな人間が居るのだと聞いてしまっては、ショックも大きいという事だろうか。

 

「まあ、理由が何であれ、地球に入り込んで武装を振るえば単なる犯罪者だし、すぐに捕まえて拘置所送りにしてやったよ」

 

「私の所為なん?」

 

「違うな。ヴォルケンリッターの所為でもないだろ。悪いのは復讐に取り憑かれて罪無きはやてを狙っていた莫迦と、前までの闇の書の主だから」

 

 はやてはそもそも、真の意味で魔法や守護騎士達を知ったのは今日の事だし、守護騎士達も未だに蒐集を行っていない以上、前回までの主の罪などはやてが被る理由は一片たりとも存在していない。

 

 第一、ギル・グレアムに関してはそもそも闇の書を恨む事も、ある意味で筋違いと云える。

 

 どの様にして闇の書の主を降し、闇の書を確保したのかは窺い知れない。

 

 然し、何にせよ暴走させてナハトヴァールの侵食を許したのは、管理局の不手際だからだ。

 

 ギル・グレアムが管理局に勤め始めてから、何度めの闇の書事件なのかは知らないが、何度もあった事件 なのに対策一つ練らずに、事件に向かったのだ。

 

 古代ベルカ時代から存在した【夜天の魔導書】は、幾度か主を変えていた頃に改悪を受け、【闇の書】に変貌を遂げた。

 

 管理局の前身となる組織が在り、管理局が成立して凡そ一四〇年──STSで一五〇年──も経つ。

 

 何の準備もされていなかったのか、益体もない対策しか為されなかったのか、いずれにせよ自分達の失態まで押し付けられても此方とて困るのだ。

 

「大前提から話すと、実は闇の書は壊れている」

 

「「「「は?」」」」

 

 意味が解らないと言わんばかりに、ヴォルケンリッターが間抜けた声を出す。

 

「待て、壊れているというのはどういう意味だ?」

 

「簡単だ。闇の書はデータが破損していて、正常には動いていない」

 

 シグナムの問いにユートが答えると……

 

「莫迦な!? 我々はある意味で云えば闇の書そのものだ!」

 

「だから当たり前だ、アタシらが一番闇の書の事を知ってるんだ!」

 

 シグナムとヴィータが、激昂してきた。

 

「なら、どうしてお前達は【闇の書】と呼ぶ?」

 

「なにぃ?」

 

「闇の書と呼ばれる以前、本当の名前が有った筈だ」

 

「闇の書の本当の名前?」

 

 ヴィータは違和感を感じたのだろう、激昂していた感情を鎮めると考え込む。

 

「解らないなら、思い出させてやろう。今からはやての前に顕れた際の口上を、もう一度再現して貰おう」

 

「「「「?」」」」

 

 やはり解らない四人であったが、取り敢えず言われた通りにやってみる。

 

 はやてがベッドの上に、ヴォルケンリッターが目前で跪いた。

 

 先ずはシグナムから。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

 次にシャマル。

 

「我らは、闇の書の蒐集を行い主を護る守護騎士にて御座います」

 

 その次がザフィーラ。

 

「我らは夜天の主の許に集いし雲……」

 

 最後にヴィータだ。

 

「ヴォルケンリッター……なんなりと御命令を」

 

 市乃がふと訊ねた。

 

「夜天の主? 闇の主ではなくてですか?」

 

「「「「え?」」」」」

 

 元より市乃は頭が良い故、違和感があれば必ず気が付く。

 

 指摘を受けたヴォルケンリッターはお互いに顔を見合わせていた。

 

「ど、どういう事?」

 

「おい、ザフィーラ。どうなってんだよ?」

 

「わ、我にも解らん」

 

「これはいったい……」

 

 シャマルが戸惑いの表情を浮かべ、ヴィータが詳細をザフィーラへと訪ねてみるが、本人もよく解っていないと答えて、シグナムも顎に手を添えて悩む。

 

「結局は、自分の事を一番理解してないのは自分自身って訳だよね」

 

「む、う……」

 

 痛烈な返しにシグナムが唸り、ヴィータも顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「闇の書の壊れてバグる前の名前は【夜天の魔導書】といい、機能も絶大な力を得るなんてモノではなく、世界を旅して各地の魔導を研究する為の資料本だ」

 

「資料本……だと?」

 

「そう、本来の機能が歪んでしまった結果、無限転生だの主を蝕むだの、おかしな機能に変わったんだよ」

 

「そんな、莫迦な……」

 

 膝を付いて項垂れてしまうシグナム、ヴィータ達ももう何も言えない。

 

「万が一、蒐集をして完成させてしまうと此方で知る限り、主と管制人格による強制ユニゾン、それによって主を呑み込んでの暴走、そして破滅。だが、蒐集をしないと今度は主に侵食を始めてしまう。結局、どちらにしても主は死ぬ」

 

「ならば、どうしろと言うのだ!?」

 

「それらを踏まえた上で、君らが協力をしてくれるのなら、闇の書を夜天の魔導書に作り直す事が出来る」

 

 守護騎士に否はない。

 

 はやてにだって反対する理由がないのだ。

 

 こうして、聖域と最後の夜天の王とその配下による協力体制は出来上がった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 学校が再開されて、市乃も天乃杜神社へと戻ったある日……

 

「は〜い、今日は転校生を紹介します」

 

 担任の先生が言う。

 

 ガラリと扉が開いて入ってきたのは……

 

 長い黒髪に、ターコイズブルーの瞳、顔立ちは然し日本人離れしている少女。

 

 黒板にチョークで自分の名前を書く。

 

 【パルティータ・セルシウス】

 

「イタリアから留学してきました、パルティータ・セルシウスです。皆さん宜しくお願いしますね」

 

 柔らかい雰囲気、それに子供と思えぬ知性を感じさせる。

 

 そしてユートは彼女の顔を知っていた。

 

 実際に出逢って、そして〝彼〟との闘いも見た事があるのだから当然だ。

 

「それじゃあ、席は緒方君の後ろですよ」

 

「はい、判りました先生」

 

 ツカツカと近付いてくる少女は、ユートのすぐ傍まで歩いて来ると、ユートにだけ判る様に小宇宙による念話を飛ばしてきた。

 

〔お久し振りね、麒麟星座(カメロパルダリス)。いえ……双子座(ジェミニ)と呼んだ方が宜しいかしら?〕

 

 その内容は間違いない、嘗てはアテナへと仕えた(オウル)のパルティータであった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話:陰謀 闇に消えるは暗き企み

.

 先代アテナの時代、未だに神の領域に存在していたアテナは、人間として誕生する事によって器の人間を抑える作戦に出た。

 

 アテナの側仕え、眷属であるオウルのパルティータはそんなアテナに先駆け、常にアテナの傍に在る宿星の持ち主、天馬星座を世に出すべく人の身に堕ちて、日本人の杳馬と結ばれる事で天馬星座の魂を持つ子供を身籠る。

 

 子供の名前はテンマ。

 

 然し、杳馬は冥闘士たる天魁星メフィストフェレスとしての本性を露わに……

 

 歯車は歪みながら、然れど孤児としてテンマは宿星に従い、アテナの化身であるサーシャと、ハーデスの器のアローンと出逢う。

 

 後にテンマは天馬星座の聖闘士となり、サーシャの許へ馳せ参じてアローンと闘う道を選んだ。

 

 そして、父親の杳馬との邂逅や魔宮の一つ天王星を守護する冥闘士……オウルのパルティータとの出逢いを経験したのだ。

 

 人間としての杳馬は冥闘士だが、その魂は封ぜられし時の神カイロスとして、テンマ達の前に立つ。

 

 闘いの末、杳馬を封じるパルティータは消えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、パルティータがどうしてこの世界に?」

 

 屋上にパルティータを呼び出したユートは、詰問という訳ではないが訊ねる。

 

「私が再びアテナ様の眷属となるのは難しいけれど、その御加護に縋って人間としての転生は可能。貴方が面白そうな事をしていたので見に来たのですわ」

 

 そのはっちゃけた答えに天を仰ぎ見るユート。

 

「それにどうやら、貴方の敵が此方の世界にちょっかいを掛けておりますの」

 

「僕の……敵? 這い寄る混沌が?」

 

「ええ、何人かの人間を殺めて此方に転生させた様ですのよ」

 

「うわ……」

 

 何人かというのならば、一人や二人では済まないという事だろう。

 

「転生者を送り込むのは、自身が直にちょっかいを仕掛ける為の仕込みです」

 

「だとすれば、本人が仕掛けて来るのは10年後か」

 

 それまでの繋ぎとして、A'sから空白期に転生者をぶつけて来る気だと判断した。

 

「面倒な。踏み台は力の有無に拘わらず、空気を読まないから来て欲しくはないな……」

 

 切実に思うユート。

 

「既に二人ばかり捕捉しているわ。兄妹みたいね」

 

「早速か」

 

「現在、聖祥大付属小学校に転入する為に動いているから、その内に来るわよ」

 

「なら、待つしかないな。パルティータはこれからどうするんだ?」

 

「私は今、イタリアにあるセルシウス家の令嬢だし、実は此方に留学するに当たって、お父様と約束をしているのよ」

 

「約束……それはOGATAと関係有り?」

 

「御明察、貴方とのパイプ作りね。セルシウスを事業に加えて欲しいの」

 

 まあ、それが妥当な線かとユートはそう考えた。

 

「月村とバニングスの方にも訊かないと、直ぐに返事は出来ないよ?」

 

「構わないわ。それと聖衣を貰えると嬉しいわね」

 

「聖域に入るって事?」

 

「貴方が擁立したアテナ様にも興味あるもの」

 

「……了解した」

 

 溜息を吐きながら言う。

 

 嘗ては冥闘士として動いていたとはいえど、それはテンマの魂を神殺しの天馬星座として目覚めさせるのが目的だったからだ。

 

 彼女……パルティータは決して敵ではない。

 

 それに此方で擁立をした元まつろわぬアテナ、彼女も梟を眷属としていたし、仲違いはしないだろう。

 

 ……多分だが。

 

 然し、ユートにとっては厄介な話を聞いたものだ。

 

 あの銀髪アホ毛の少女型邪神、這い寄る混沌ナイアルラトホテップが来る。

 

 時期的には恐らくSTSの時代で、場所は間違いなくミッドチルダになる。

 

 とはいえ、ユートにそもそもミッドチルダを救うなんて義務は無い。

 

 這い寄る混沌が悪事を働くとはいっても、基本的にその世界の悪徳を助長する形に過ぎず、つまりは悪徳が無ければ這い寄る混沌に誑らかされる事もない。

 

 ミッドチルダが混沌に堕ちるなら、それはあの世界の悪徳故の事なのだ。

 

 そして、ミッドチルダには充分な悪徳が存在する。

 

 故にこそ、這い寄る混沌に弄ばれる事になろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはコロコロと菱形の碧い石を、テーブルの上で転がしていた。

 

 なのは、アリサ、すずかに加えて、パルティータとフェイトとアリシアも一緒に居るし、ユーノとアテナもお茶を飲んでいる。

 

「そ、それ!」

 

「ジュエルシード?」

 

 驚愕をしたのはなのはとユーノの二人。

 

「管理局に上げたって言っていたのに?」

 

「上げたよ。本物のジュエルシードを21個」

 

 ガチガチに封印されて、使用は疎か解析すら叶わない代物となっているが……

 

「〝本物〟って、それじゃそのジュエルシードは?」

 

「レプリカだ。機能の幾つかをオミットした……な」

 

「どういう事ですか?」

 

 学者気質なユーノには、随分と興味深い話らしくて身を乗り出して訊ねる。

 

「そもそも、ジュエルシードが危険な古代遺失物として存在したのは何故だ?」

 

「それはエネルギーの暴走を引き起こし、触れた者の願いを読み取って歪んだ形で叶えようとするから」

 

「正にその通りだよ」

 

 だから、ユートは自分の目的にそぐわない機能に関してオミットし、ある意味で安全なジュエルシードを造り出した。

 

「オミットしたのは願望器として、願いを叶えようとする機能。アレが暴走したエネルギーを使い、思念体やらジュエルシード・モンスターを生み出していた。それとジュエルシードには無制限に次元世界のエネルギーを吸い上げ、貯めておく機能がある」

 

「無制限に?」

 

「器の限界を超えても更にエネルギーを吸い上げる。それ故に器からはみ出て、暴発して次元震や次元断層を引き起こす」

 

「その通りですね」

 

 そこら辺はユーノも理解しており、発動したジュエルシードの危険性を示唆していた理由でもある。

 

「だからこれには制限を設けた。器が90%までエネルギーを貯めたら自動的に吸い上げを停止する様に」

 

 残り10%は安全の為のマージンだ。

 

「最後に、連結して使えない様に共振機能も付けてはいない。並行励起で爆発的なエネルギーの高まりを見せているし、単体でのみの運用しか出来ない」

 

「願望器でなく、汲み上げるエネルギーは90%で、共振もしないか。理想的なエネルギー集積器ですね」

 

「ジュエルシードの魅力を削ったから、魔力集積器としてならば兎も角として、それ以外は何の意味も為さないけどね」

 

 必要だったのは次元空間からエネルギーを汲み上げる機能のみで、他の機能はユートには不要だった。

 

 獅子の心臓(コル・レニオス)より小型で、それと似た機能を持つ魔導炉。

 

 デバイスや鋼鉄聖衣へと取り付ければ、ある意味で制限付きの永久機関だ。

 

「確か、ノエルとファリンは夜中に充電する事で日中に活動していたよね?」

 

「あ、はい」

 

「そうですよ〜♪」

 

 水を向けられたノエルとファリンが答えた。

 

「これを組み込めば、常にエネルギーを汲み上げて、充電の必要性も無くなる。それに、エネルギーは魔力に準じるから魔法も扱える様になる筈だ」

 

「! そんな事が……」

 

「すごいですぅ!」

 

 組み込む組み込まないは忍が決める事だが、大きな力を得るならばノエルとしては欲しいと思う。

 

 月村家のメイドであり、忍の護衛役としては……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【時空管理局本局】

 

 次元の海に浮かぶ巨大なステーション、それを想像すればとても解り易いであろう。

 

 大きな次元航行艦を何十隻も抱え、メンテナンスドッグも存在しており、何万という職員が暮らしているコロニーみたいなモノだ。

 

 リンディ・ハラオウンは上官に呼び出され、執務室へとやって来ていた。

 

 上官のデスクの上には、ジュエルシードが入っているトランクが載っている。

 

「ハラオウン提督、これは何だね?」

 

「はっ! 本艦アースラが第97管理外世界に事故でバラ撒かれた為、回収任務に就いて手に入れて来ましたジュエルシードです」

 

「そんな事を訊いているのではない! 研究員が解析しようとしても無反応で、魔力を流してもうんともすんとも言わん! いったいどうなっているのかね?」

 

「それは、現地組織の方の協力で封印されましたが、その封印の影響かと」

 

「封印の解除は?」

 

「実質、不可能と聞いております!」

 

「チッ、解った。古代遺失物保管庫に持って行きたまえ……」

 

「ハッ! 失礼しました」

 

 リンディはトランクを手にし、古代遺失物保管庫へと持っていく。

 

 厳重な巨大金庫みたいな場所で、常に厳戒体制だと云っても過言ではない。

 

「彼の言う通り、解析は出来なかった……か」

 

 保管庫に来ると、トランクを職員に渡して次に行くべき場所へと向かった。

 

 ギル・グレアムの執務室である。

 

「提督、今は宜しいでしょうか?」

 

「入りたまえ」

 

 お伺いを立てると、扉がスライドして開く。

 

「失礼致します!」

 

 敬礼しながら執務室へと入るリンディ。

 

「どうしたかね?」

 

「? はい、少し提督にお訊きしたい事が」

 

 何処か焦燥感を滲ませているグレアムに疑問を懐きながら、リンディは訊くべき事を訊ねる。

 

「提督は第97管理外世界の出身でしたね、エピメテウスの落とし子という言葉を御存知でしょうか?」

 

「いや、知らないがな……エピメテウスというのは、確か始まりの女性パンドラを妻とした、プロメテウスの弟神だったか。後の知恵という意味で、愚鈍な者だったとされているな。兄弟に自らの力を奪われたとか謂れがあったが」

 

「そう……ですか」

 

「どうかしたかね?」

 

「いえ、第97管理外世界へと任務で赴きましたが、エピメテウスの落とし子を名乗る少年に一泡吹かせられまして、管理世界の少年がエピメテウスがギリシア神話の神だと言ってましたので、提督が御存知かと」

 

「ふむ? 残念だが寡聞にして聞いた事がないな」

 

「そうですか、魔法が効かない存在でしたので、有名なのかと思いましたが」

 

「なに?」

 

 リンディの言葉は流石に聞き捨てならず、グレアムは表情を変える。

 

「それでは聖域という組織やアテナの聖闘士は?」

 

「いや、聞かないな」

 

 先日からリーゼ達の連絡が途絶えている。

 

 最後の通信で、『魔法が効かない』とあった。

 

 こうなったら已むを得無しと、八神はやての確保の為に戦力を人事部に気付かれない様に、自身の親派を使って送り込んだが、早まったかも知れないと嫌な汗を流す。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夜中、武装隊の数十名が八神はやて確保の為に動いていた。

 

「行くぞ!」

 

『『『『ハッ!』』』』

 

 地球に近付いた時点で、既にユートに気付かれているとは知らないで、武装隊の隊員達は動く。

 

 結界を展開……

 

 武装の持ち込み、魔法の使用、誘拐〝未遂〟は赦されざる犯罪だ。

 

 それを確認したユートは権能を使う為に動いた。

 

 はやてを狙った時点で、誰の差し金かは解る。

 

「小さな女の子を永遠に眠らせようってんだ、お前らがそうされても文句は無いんだよね?」

 

 ユートはそう呟き右腕を天に掲げ、左腕を地に向けて権能を発動させた。

 

「永遠睡眠(エターナル・ドラウジネス)!」

 

 眠りの神ヒュプノスを弑奉り、その神氣を喰らって獲た権能の一つ。

 

 エピメテウスの落とし子になるまでは、これらの力を使えなかったユート。

 

 今は普通に使えていた。

 

 次々と眠りに落ちていく武装隊員。

 

 最早、ユートが術を解くか神の御技に頼るかしない限り、武装隊員達が目覚める事は有り得ない。

 

「複雑ですわね、嘗ての敵の力を使うなんて……」

 

「パルティータか。割かし便利ではあるんだよ」

 

「解りますけど……」

 

 国を一つ、丸々と眠らせた事すらあるユートには、これを使うのに躊躇う理由自体が見当たらない。

 

「それじゃ、連中を拘置所に送ってくれる?」

 

〔了解〕

 

 リスティに頼むと、手早く武装隊員を連れて行ってしまった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話:交渉 永久追放の元地球人

 通信してきたのは久方ぶりの相手、第97管理外世界に恐らくは管理局対策に組織を創設した、息子より年下──勘違い──の少年の緒方優斗。

 

 どんな手練手管を使って成し遂げたか解らないが、見た目にはクロノと変わらない身長の子供が、コネクションを頼っただろうとはいえ、創設した組織の長を務めていた。

 

 クロノにやれと言ってもやれはしないだろう。

 

 それ程までに緒方優斗は老獪だった。

 

 通信を受けたライムグリーンの髪の毛を、ポニーテールにした女性が知らない事実がある。

 

 それは、緒方優斗が実は前世と前々世を含めれば、優に二百年以上を生き続けている事だ。

 

 ハルケギニアの時代に、使い魔として召喚したのが【スレイヤーズ】の魔族、覇王将軍シェーラ。

 

 彼女との契約に於いて、お互いの魂に刻まれたのが【共生】のルーンだった。

 

 これによって、ユートはシェーラが普段執っている姿……十六歳程度まで成長をすると、それ以上は見た目が大きく変わる事無く、寿命も無いに等しい。

 

 謂わば、不老長寿というものになってしまった。

 

 不死ではないのは殺されれば死ぬという事、とはいっても窮めて死に難いが。

 

 だからリンディ・ハラオウンも気付かない、よもやモニターに映った少年が、最高評議会の脳味噌よりも永く存在している事など。

 

 まあ、最高評議会の御歴々が真逆、百五十年以上を脳味噌だけを保存した形で在り続けているなど、知る由も無いだろうが……

 

「それで、通信をしてきたのは何故ですか? 貴方は管理局に関わりたく無いと思っていたのですが?」

 

 突然、リンディ・ハラオウンの許に通信をしてきたユートに、皮肉タップリな口調で話し掛ける。

 

〔ルールさえ守れば地球が異世界に門戸を閉じたりはしないさ。武装したり覗きをしたりするから、管理局を地球から叩き出したってだけでね〕

 

「……そうね」

 

 皮肉に皮肉で返されて、リンディは苦々しい表情で答えるしかない。

 

〔まあ、互いに忙しい身の上だし本題に入ろうか〕

 

「そうね」

 

 一応、何かがあった場合の為のホットラインとし、連絡の仕方を互いに教え合っていたが、本局に着いてジュエルシードの事で嫌味を言われた翌日、行き成り連絡をしてくるとは流石に予想外な事だ。

 

〔先日、時空管理局本局の武装隊らしき連中と交戦をした〕

 

「は? 武装隊と?」

 

〔ふむ、その様子だと知らなかったか? まあ、それはどうでも良いんだけど、それより前にも海鳴のとある場所に張られた親和系の結界を調査していた時に、白い仮面を被った男二人に襲われた。魔法を使う際にミッド式……なのはが使う魔法と同じ魔方陣が出ていたし、そいつらも管理局のモノだろうね〕

 

「ま、待って! ミッド式だからと言って、管理局が送り込んだとどうして言えるのかしら?」

 

〔そりゃ、返り討ちにして吐かせたからね。ああ! そういえば男二人は変身した姿で、実際は猫耳と尻尾を付けた使い魔で、リーゼロッテ、リーゼアリアという名前らしいけど、管理局と関係が無いならさっさと始末するか?〕

 

「リーゼ!?」

 

 リンディは勿論、その名を知っていた。

 

 リーゼロッテとリーゼアリアとは、今は亡き夫であるクライド・ハラオウンの上司、ギル・グレアム提督の使い魔なのだ。

 

 序でに言うなら、クロノの魔法や格闘の師匠こそ、そのリーゼ姉妹。

 

 管理局とは無関係処ではなく、バリバリの関係者。

 

〔結界の調査をしていて襲ってきたから、あの結界を張ったのはリーゼ達という

事になる。しかも親和系の結界だからね〕

 

「親和系?」

 

〔そう、違和感を消したりするのに使う結界の事で、例えばその場で起きた異常を異常と感じさせない……そんな結界だね〕

 

「ああ、貴方達は認識阻害結界をそう呼んでるのね。でもそれをリーゼ達が?」

 

 つまり、其処には違和感を普通なら覚えるであろう事があり、それを隠していたという事になる。

 

 そして使い魔のリーゼ達が動いたのなら、命令を出したのは主たるグレアムだと云えた。

 

〔結界の中心には、独り暮らしをする九歳の女の子が居たよ。しかも下半身不随で車椅子生活。学校にも行けず、両親も可成り前に亡くしているみたいだね〕

 

「なっ!?」

 

 成程、それが本当ならば違和感しかない事態だし、それを隠したかったのならその結界も当然。

 

 然しギル・グレアム提督の意図が解らない。

 

 地球の少女をまるで孤独にするかの如く所行。

 

〔現在は、リーゼロッテとリーゼアリアの両名を魔力封印した上で、独房に閉じ込めてある。主からの魔力供給も生きられて、姿を保てる最低限にリミッターを掛けてある。それに焦ったのかね? 武装隊の記憶を覗いたら、命令を出したのはリーゼアリア達の主だ〕

 

「っ!? それは……」

 

〔目的は少女と、少女が持っている一冊の書物〕

 

「少女……と、書物?」

 

 ドクン!

 

 リンディは第六感が囁くのを感じた。

 

 これは福音だろうか? 若しくは悪神の囁きか……

 

〔壊れた夜天の魔導書と、その主だ〕

 

「夜天の魔導書?」

 

 聞いた事がない。

 

 第六感は外れたのか?

 

 リンディはそう思ったが〝壊れた〟という部分が、未だに第六感を刺激する。

 

〔ああ、貴女にはこう言った方が良いかな? 第一級捜索指定古代遺失物【闇の書】……とね〕

 

「っ!? 闇の書?」

 

〔まあ、理由はどうあれ、異次元人による不正な密入国に魔法使用に武装の持ち込み、更には地球人に対する悪意をぶつけた行為は赦されない。国際連合法に基づき処断する〕

 

「処断? 何を!」

 

〔幾つもの罪状、地球側の異次元人に対する怒りなどから、死刑が妥当だね〕

 

「なっ!? そんな野蛮な事は赦されないわ!」

 

 管理局では非殺傷設定を当たり前に使うが、それは犯罪者とはいえど軽々しく生命を奪わず、更正を促す事が目的だからだ。

 

 他者を殺すなど犯罪者でもあるまいし、司法機関の人間にあるまじき行為。

 

 故に、管理局では死刑などそうそう有り得ない。

 

 ユートが言った罪状で、時空管理局は死刑を求刑したりしないだろう。

 

〔野蛮……ねぇ? 何の罪も犯していない二桁にもならない女の子を、魔法を使って誰からも気にされない様に孤独にして、その挙げ句そんな孤独の果てに凍結して殺すのは野蛮ではないとでも?〕

 

「それは……」

 

〔ギル・グレアムが個人でやった事だから、管理局には関係無いとでも?〕

 

 息を呑むリンディ。

 

 勿論、そんな事を言う気は更々ないが、それそのものがリンディ個人の思いでしかない。

 

 果たして、管理局は認めるだろうか?

 

「(きっと、切り捨てるでしょうね……)」

 

 蜥蜴の尻尾の如く。

 

〔それで使い魔から連絡が途絶えたから、武装隊を使って夜天の主を拉致ろうとしたんだろうが、彼らには〝永遠の眠り〟を与えてやったよ。まあ、小さな女の子に凍らせて永遠の眠りに就けようとした人間の仲間だし、随分と皮肉が利いているだろう?〕

 

「永遠の眠り? 殺したとでもいうの?」

 

〔文字通り、永遠の眠り。眠らせたのさね。二度と覚めない永遠の……な〕

 

「どういう……?」

 

 戸惑うリンディ。

 

 魔法とて万能ではない、決して〝永遠の眠り〟に就ける魔法は存在しない。

 

〔言ったよね? 僕はエピメテウスの落とし子だと〕

 

「え、ええ」

 

 グレアムに訊いた際に、そんなモノは聞いた事が無いと言われたが……

 

 魔法が効かないというのは判ったが、それ以上の事はまるで解らない。

 

 実の処、ユートは少しばかりの実験で単一エネルギーでは傷付き難いという、そんな結果を出している。

 

 魔力だけ、霊力だけでは傷付き難いなら、両方を合わせれば良い。

 

 例えば咸卦法は魔力と氣を融合したエネルギーで、エピメテウスの落とし子にも通用する。

 

 氣だけでも物理的なエネルギー故に通用はするが、此方は威力が足りない。

 

 余程の大量のエネルギーを一度にぶつけねば、頑丈な彼らを害する程ではなかったのだ。

 

 呪力が魔力であれ霊力であれ、単一エネルギーでしかないから効かない。

 

 然し、二元の融合エネルギーなら処理が間に合わずダメージを与える事も可能だし、単純な物理的な攻撃は威力次第で通る。

 

 ユート自身が他の羅刹王と闘った結果、見出だした謂わば闘い方だった。

 

 それは兎も角……

 

〔エピメテウスの落とし子というのは別名、神殺しの魔王、羅刹王等と呼ばれ、裏の一般的にカンピオーネと呼ばれている〕

 

「カンピオーネ?」

 

〔イタリア語で王者、チャンピオンを意味している。神を殺してその権能を簒奪したが故に、人類では決して敵わない絶対の王者……その気になれば簒奪をした権能次第で、都市や国など平然と破壊してしまえる。だから逆らってはならない勝者であり王〕

 

「古代ベルカの聖王みたいなものですか?」

 

〔さあ? そちらの世界の昔の王がどんなのか知らないし、比べようがないね〕

 

 無論、大嘘である。

 

 少なくとも【最後の聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】くらいなら、2011年後期までの情報であれば識っていた。

 

 聖王、冥王、雷帝、覇王といった諸王時代の全てではないが、それでも原作の知識レベルのモノを持っているのだから。

 

 ユートが思い描いたのはそこら辺の魔導師が、唯の一人で完全な状態の【聖王のゆりかご】を相手にする姿であった。

 

 そのぐらいの差があるのではなかろうか? 羅刹王と人間の闘いは……

 

〔さて、余談が過ぎたね。神を殺して神の能力、権能を簒奪したと言ったけど、ならばどんな力が在るのか気になるだろ?〕

 

「そうね……」

 

〔一つだけ教えようか……眠りの神ヒュプノスだよ。僕はヒュプノスの権能を使って武装隊の面々を眠らせたんだ〕

 

「眠りの神ヒュプノス?」

 

〔グリニッジ賢人機関には【永遠睡眠(エターナル・ドラウジネス)】と報告をしてやった〕

 

 グリニッジ賢人機関とはロンドンは南東部グリニッジに本拠を置いた、魔術やオカルトなどの研究機関。

 

 彼らはカンピオーネの持つ権能に、中二病も宛らの名前を付けてくれる。

 

 例えば、イタリアの魔王サルバトーレ・ドニ。

 

 【斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)】、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】、【いにしえの世に帰れ(リターン・トゥ・メディーバル・スタイル)】という素敵? な名前が在るが、あのドニがわざわざそんな名前など付けはしない。

 

 彼が持つ権能を見知った彼らが、判り易く名前を付けたに過ぎなかった。

 

 とはいえ、この世界にはそんな機関は存在しない。

 

 名前を出したからには、〝ユートが用意している〟というだけだ。

 

 トップの名前はグィネヴィア・デュ・ラック。

 

 嘗て、ユートの怒りを買ってしまい囚われた神祖、前魔女王である。

 

 本来の歴史なら彼女は、聖杯に全てを託して消滅していたのだ訳だが、ユートがそれを赦す筈もない。

 

 現在のグィネヴィアは、ユートに仕える身の上。

 

 この世界でのグリニッジ賢人機関の長として、忙しい日々を送っていた。

 

 伯父様? と共に……

 

 リンディは神殺しについて知り、そしてそれが嘘やハッタリの類いではないと確信する。

 

「貴方は何をしたいの?」

 

〔別に、闇の書に関わるなと言いたいなと、グレアムの地球から永久追放を言いたかっただけだよ〕

 

「関わるなって! モノは闇の書よ? しかも提督を永久追放って……」

 

〔そっちじゃ英雄なのかも知れないけど、地球じゃあ何も成してない家出少年に過ぎないな。財産も英国が押さえてるし、国際指名手配がされてるから、居場所なんて既に無い〕

 

「な、何て事を……」

 

〔もう一つ、武装隊員を返して欲しければ此方の言う人間を差し出して貰う〕

 

「なっ!?」

 

 リンディは驚愕した。

 

 ユートが提示した人間、リンディは頷けなかったが頷くしかない。

 

 その人間を一人差し出す代わりに武装隊員を返し、そして一つの対価が示されたから、故に折り返し連絡する旨を伝えた。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話:覇者 まつろわぬ者への預言

.

 ミッドチルダ極北地区・ベルカ自治領。

 

 この地は【最後の聖王】オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを奉じて、ベルカ騎士達が治めている聖王教会が存在している。

 

真正古代ベルカ式を継承するグラシア家の少女カリム・グラシアには、稀少技能(レアスキル)の【預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)】が備わっており、これを使って未来を垣間見る事が可能だ。

 

 とはいえ万能には程遠い能力で、双月の魔力が揃う年に一度しか使えない上、詩文形式が古代ベルカ語で表記されており、解読するのが至極難解であった。

 

 何しろ古代ベルカ語は、他国を併呑で言語が多様であり、地方によっては同じ言葉でも意味合いが多様に変化する。

 

 マリアージュも、婚姻や祝福という意味かと思えば他では、食べ合わせの事だったりするらしい。

 

 まあ、それは兎も角……

 

 カリム・グラシアは、新たに出ていた預言の結果に頭を抱えていた。

 

 幼い頃から発現し、慣れ親しんだ稀少技能(レアスキル)だったが、これ程に困った結果を出した事などありはしない。

 

──古より来る覇、その血と記憶を以て甦る。然れど王はまつろわぬ。愛しき死せる王を求めて移ろうであろう。羅刹の君と立ち会うその日まで──

 

 何を意味しているのか、カリムにも解らない。

 

 だが然し、恐らくは余り良い預言ではなさそうだ。

 

 13歳の小娘には重責が過ぎる内容だと、第六感が囁いている。

 

「本当にどうしましょう。死せる王とか古より来る覇とか、何だか厄介事の予感しかしませんね」

 

 カリム・グラシアはこの後に思い知る事となるであろう、【最後の夜天の王】の事件が第97管理外世界で終わる頃、預言が成就をしてミッドチルダに未曾有の危機が起きる事を。

 

 決してまつろう事無く、死せる王──最後のゆりかごの聖王を求めて移ろいし覇なる王が甦る事を……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうだったのだ?」

 

「バッチリだよ。管理局に無駄な邪魔はさせない」

 

 烈火の将シグナムからの問いに対し、ユートは交渉が上手くいった事を伝え、サムズアップで応える。

 

「さて、君らの真実と未来の一端を……IFの世界を教えようか」

 

 ユートは闇の書の真実、起こり得る未来を伝えた。

 

「あ、主はやてが死ぬ?」

 

「ああ、放って置いたなら闇の書の呪いははやてを蝕んで殺す。下半身の麻痺が上半身に至り、重要臓器を麻痺させればそうなるのは必然だろう。胃、肝臓、膵臓、肺、心臓。どれも機能不全を起こせば……」

 

「だからといって闇の書で蒐集を行えば?」

 

「その時は、ナハトヴァールが暴走してはやてを呑み込んで……やはり死ぬ」

 

「何という事だ……」

 

 今はまだ守護騎士達も、はやてを他の主と同じ程度にしか思っておらず、主の死を許容出来ないのは守護騎士としてのプログラムに過ぎない。

 

 だが、はやてが以前までの主と違うと認識をして、本当の意味で死なせたくないと思えば、蒐集をしなければと考える筈。

 

 ユートにはナハトヴァールを切り離し、管制人格を救う作戦があるから、取り敢えず蒐集を勝手にやられても困る。

 

 だから釘を刺したのだ。

 

 さて、ユートは上司からアニメDVDなんかを特別報酬で貰う事がある。

 

 聖書の神の神話体系が、主に戦っていた世界に行く前に貰ったDVDに、面白いものが混じっていた。

 

 劇場版NANOHAで、2ndA&sという。

 

 それを見て、その時にはユートも面白いで済ませた訳だが、この世界に来てから今一度観直した。

 

 闇の書の闇(ナハトヴァール)……防衛プログラムが劇場版だったら、可成り厄介なものになるだろう。

 

 守護騎士達が相談を始めて少し経つと、烈火の将・シグナムが代表してユートに話し掛けてきた。

 

「話し合った結果だがな、やはりお前を全面的に信頼する事は難しい」

 

「だろうね。ぽっと出の僕の事を行き成り全面的に信じたら、寧ろその方が吃驚だからね。だけど、だとしたらどうするんだ?」

 

「私と戦え!」

 

 古いタイプの騎士だと、自らを揶揄するくらいには頭が固いシグナム、何と無く想像出来ていた訳だが、戦闘中毒者(バトルジャンキー)らしい答えだ。

 

「先の戦いで、お前は指示を出すだけで自らが戦う事がなかった。戦闘能力が全てだとはいわないが、私は古いタイプの騎士なのだ。他者を信じるのにもこいつを持ちいらねばならん」

 

 自分の佩刀のレヴァンティンを腰から外し、見せ付けるが如く右手に持って、真っ直ぐに突き出す。

 

「ハァー、僕は戦闘中毒者でも戦闘狂でもないんだけどなぁ……」

 

 コキコキと首を鳴らし、守護騎士を見回すとニヤリと口角を吊り上げた。

 

「先ず体調を整えてから、主から騎士甲冑を賜われ」

 

「む!」

 

 シグナムが痛い所を突かれた表情となり、苦々しい口調で口を開いた。

 

「気付いていたのか」

 

「? どういう事よ?」

 

 アリサの疑問はなのは達も同じらしく、皆が一様に首を傾げている。

 

「アリサ、君は……君らはよもや本当に守護騎士達に圧勝したなんて思っているのか?」

 

『『『『え?』』』』

 

 守護騎士戦に関わった者が声を上げる。

 

「守護騎士戦は言い方は悪いが、起動したばかりだったから本調子じゃなかっただけだし、騎士甲冑も纏ってはいなかった。君らが強くなってるのも勝てた要因の一つだけど、あの時だとそうだな……本来の実力の三割って処だろうね」

 

『『『『三割!?』』』』

 

「解り易く説明するなら、守護騎士達を一律して百の戦闘力だとして、経験値の分で百二十としようか?」

 

 アリサ達だけではなく、はやてと守護騎士達も聞き入りながら頷く。

 

「だけど起動したばかり、騎士甲冑も無いからあの時は実力の三割……四十くらいしか出せなかったんだ。アリサ達は経験値分の+は無しで純戦闘力のみしか出せないとして、実力的にはだいたい……六十〜八十も出せれば御の字だね」

 

「それじゃ、本当なら勝てないの?」

 

「まあ、一律百とは言ったけど実際には将のシグナムを百二十、ヴィータを百、シャマルを六十、ザフィーラを八十くらいに見て良いと思うよ、すずか」

 

 ユートの見立てで考えたものだし、経験値や作戦や相性など戦闘は様々に要素が加わり、まるで水の如く様変わりしていくもの。

 

 天秤が傾けば戦闘力の低い者が、高い者に勝利を収める事さえある。

 

 只人が神に勝利をして、カンピオーネとなる事こそがその象徴だろう。

 

 力無き人間が、神話に沿った行動しか出来なくなったとはいえ、神々を殺してしまえるのだから。

 

 それは一の力の人間が、千とも万とも云える神を弑奉るという矛盾。

 

 決してそれが不可能では無いのだから、百も離れていない者なら勝てても不思議ではあるまい。

 

 それにシャマルの戦闘力が六十というのも、飽く迄も純粋な戦闘力の数値がという意味で、それで絶対にシグナムには勝てないという訳で無い。

 

 勝利者とは……天の佑、地の利、人の和、時の運、武装、情報、あらゆるものを以て最後まで立っていた者を指す。

 

 だが、守護騎士に勝利の女神は微笑まなかった。

 

 唯それだけの事。

 

 まあ、それでも……

 

「僕を相手にするのなら、今の君らではどうしょうもないんだよね。先ずは最大限に能力を発揮出来る様に自己調律をして、主からは騎士甲冑を賜るのが最善だと思うな」

 

「んだと、さっきから聴いてりゃ好き放題に言いやがって!」

 

 到頭、ヴィータがキレて怒鳴り付けてくる。

 

「なのはに負けたヴィータが何を言っても、負け犬の遠吠えだよ」

 

「あんときゃ、目覚めたばっかで本調子じゃなかっただけだ!」

 

「だからその調子を整えろと言ってるんだが? 僕はなのはより強いのに、戦って負けたらまた本調子じゃなかったと言い訳でもするのか?」

 

「ぐっ!」

 

「一対一ならベルカの騎士に負けは無いだったかな? 負けたら調子が悪かったと言い訳して、認めないから負けは無いなんて言ってるんじゃないよね?」

 

「巫山戯ろよ、タコが!」

 

 ユートの安っぽい挑発にヒートアップするヴィータだったが、シグナムがそれを手で制する。

 

「んだよ、シグナム!」

 

「挑発に乗るな。騎士甲冑を賜り、自己調律をしなければ先程の二の舞だぞ」

 

「ぐっ!」

 

「それで、戦闘条件は?」

 

 流石は【烈火の将】等と呼ばれるだけの事はあり、冷静に事を進めていく。

 

「バトルフィールドに関しては、廃棄されてるビル群で空戦も陸戦も自由だね。人数はヴォルケンズ四名と僕が一人の変則団体戦」

 

「なっ!」

 

「本気か?」

 

 ヴィータがまたキレて、シグナムも少しカチンときたらしく、ユートを睨み付けてきた。

 

「本気だよ。というより、その程度の事すら出来ない奴に、僕の言ったプランが実行出来るとでも?」

 

「……判った。それなら、いつにする?」

 

「一ヶ月後、学校が夏休みに入ってからで良いだろ。七月二十五日にしよう」

 

「了解した」

 

 話し合いも一時的に終了して、八神はやてと守護騎士達は家に帰る。

 

 その後は、守護騎士の服を買いに行ったり、食事を一緒に食べたり風呂に入ったりと、凡そ人間らしい生活をする事になるだろう。

 

 原作的にもはやての性格的にも……

 

 一ヶ月とはいえ、守護騎士達が八神はやての人柄を知るには充分な時間だ。

 

「何であんなやっすい挑発なんてしたのよ?」

 

 アリサが近付いて来るとユートに訊ね……

 

「ん? 怒りは力になる。だけど怒りのボルテージは一ヶ月も保たないからね、いい具合に冷静にもなれると思うんだ」

 

 それに用意していた答えを教えた。

 

「成程ね……」

 

 答えに納得をしたのか、アリサがウンウンと頷く。

 

「シグナムは古いタイプの騎士だからさ、どうしても考え方があんな感じになるみたいだね」

 

 真正古代ベルカの騎士、古代ベルカの諸王群雄割拠の時代をも駆け抜けたであろう闇の書だ、どうしたって考え方が殺伐とする。

 

 結局、この世界の話し合いとはOHANASHIが主となるのだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 自宅に戻ったはやては、守護騎士達の服を買いに行く事になった。

 

 メジャーで三サイズなどの寸法を計り、それに併せたサイズの服を買う。

 

 それに食材も多く買ってきて、美味しい食事を作って皆で食べた。

 

 散歩の最中、シグナムははやてに相談をする。

 

「騎士甲冑?」

 

「はい。彼も言っていましたが、我らは武器は持っていますが甲冑は主より賜わらねばなりません」

 

「イメージさえ創って頂ければ、後は私達が魔力にて構築致します」

 

 車椅子を押すシャマルがシグナムに次いで言う。

 

「ああ、戦うんやったね。私は余りみんなを戦わせとうないけどなぁ、ほんなら服でエエ?」

 

「はい、構いません」

 

「ほなら格好エエのを考えんとな。騎士らしい服を」

 

 愉しそうに言うはやて。

 

 トイザらスへ入り、騎士甲冑のヒントを捜す事にするはやて、そんな中でキラキラした瞳で頬を赤らめながらヴィータが見つめているモノが……

 

 それのどこらがヴィータの琴線に触れたのか、ジッと見ている辺りまるで子供みたいで、はやてはホンワカとなった。

 

 店を出た時にはヴィータは紙袋を手にしている。

 

「もう開けたってもエエよヴィータ」

 

 パーっと笑顔になって、紙袋からそれを取り出す。

 

 それは一般的な可愛い気は皆無だったが、ヴィータはどうしてか気に入ってしまった【のろいうさぎ】。

 

 通称【のろうさ】……

 

 家に居る時はベッドにまで持ち込んで、起きたなら寝惚け眼で片手に持っている入れ込みよう。

 

 デバイスの調子は良く、守護騎士達の自己調律の方も上手くやり、騎士甲冑も主はやてから賜った。

 

 戦闘準備は万端だ。

 

 新しき主のはやてには、闇の書で仮に大きな力が手に入るにせよ、望む事は何も無いという。

 

 はやてが望むのは家族、だからある意味で守護騎士達は、はやての望みを既に叶えたとも云える。

 

 穏やかな日々を送って、そして凡そ一ヶ月後……

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話:決戦 ユートVSヴォルケンリッター

 まだ第13話を書き終えてないのに、ストック放出とか……早目に書くしかないのかな?





.

 広い場所に結界を展開、周囲に影響を及ばさない様にして、ヴォルケンリッターと対峙するユート。

 

「本当に四対一でだと?」

 

 予め言われてはいたが、本気だとは思わない。

 

「そうだよ」

 

「我らヴォルケンリッターを舐めているのか?」

 

 シグナムが怒りを露わに言い、短気なヴィータも苛立った表情になる。

 

 普段はおっとりして笑顔を振り撒くシャマルとて、流石にカチンときたらしく睨んでいた。

 

 狼モードのザフィーラは表情が読めないが、やはり舐められたと考えているのかも知れない。

 

「舐めてなどいない。純然たる実力差を考慮したら、これでも足りないくらいな訳だしね。だから僕は聖衣も纏わないし、クリーンヒットを受けたらその時点で負けで良い」

 

 つまり、ユートは一発も受けてはならないという、ハードモードで闘うのだ。

 

「てめえ、舐めやがって! だったらアイゼンの頑固な汚れにしてやる!」

 

「どうぞご自由に。出来るものなら……ね?」

 

 激昂するヴィータだが、せれをアッサリと流してしまうユート。

 

 ヴォルケンリッターは、武器の形のペンダントを外して、天高く掲げ叫ぶ。

 

「レヴァンティン!」

 

《Sieg》

 

 レヴァンティンが待機状態から片刃の剣となって、シグナムは薄いピンク色を基調とした騎士甲冑の姿に変化する。

 

「導いて、クラールヴィント!」

 

《Anfang》

 

 風のリングという意味のシャマルのアームドデバイスたるクラールヴィント、指輪形態(リンゲフォルム)となってシャマルの指に嵌まる。

 

 シャマル自身は薄い碧の騎士甲冑姿になった。

 

「やるよ、グラーフアイゼン!」

 

《Bewegung》

 

 ハンマーの形に変化したグラーフアイゼンを手に、ヴィータは紅い騎士甲冑を身に纏う。

 

 最後にザフィーラも狼の姿から、褐色の肌で筋肉質な大男へと姿を変えた。

 

 頭には狼の耳、後ろの腰辺りに尻尾が生えている。

 

「さあ、それでは闘いを始めようか」

 

 プカプカと浮きながら、ユートは右腰に手を添えて言った。

 

 更には左掌を上に向けて腕を前に突き出すと、クイクイとまるで掛かって来いと言わんばかりに動かす。

 

「我らを余り舐めるな! 喰らえ鋼の軛、デヤァァァァァァァァァアアッ!」

 

 ザフィーラの前方に三角の魔方陣が顕れ、その瞬間にユートの周囲から三角錐の槍が突き出た。

 

 パキィン!

 

 軽快な音を響かせると、【鋼の軛】が粉々に砕け散ってしまう。

 

「っ!?」

 

 驚いたのも束の間でしかなく、直ぐにも次の行動に出ようとしたが……

 

「守護騎士防御型ユニット・ザフィーラ! この縛鎖は僕には意味を為さない」

 

 いつの間にか背後に廻られていた。

 

「天馬・回転激突(ペガサス・ローリングクラァァァァァァッシュ)!」

 

 ザフィーラを羽交い締めにして、空中だというのに更に跳んで天頂まで至り、激しく螺旋を描いて地面に激突する。

 

「ゴハ!」

 

 防御力に優れているとはいっても、無防備に頭から激突しては堪らない。

 

 碧の魔力光を放つ鎖が、ユートを縛るべく囲む。

 

 パキィン!

 

「そ、そんな!?」

 

 未だに理解していない。

 

 エピメテウスの落とし子にこの程度の魔力で編んだ縛鎖など、意識をせずとも消し去れる。

 

「守護騎士補助型ユニット・シャマル、癒しと補助を本領とするその力では魔法が効かない僕に対し、何の脅威にもならない!」

 

「はっ!?」

 

 直接的な戦闘を不得手とする補助型のシャマルは、一気に懐に入られた挙げ句に顎を打ち抜かれ……

 

「キャァァァァッ!」

 

 気絶して墜ちてしまう。

 フォローに入る暇さえも与えられず、呆然と仲間が二人も墜とされるのを見せられたヴィータが……

 

「てんめー! アイゼン、カートリッジロードだ!」

 

《Explosion》

 

 ヘッド部が上下に動き、薬莢を排出する。

 

《Raketen form》

 

 その場でハンマーの片方に穿角、もう片方に何故かブースターが顕れて、名前の通りロケットの如く魔力を噴き出す。

 

 その勢いを利用した強烈な攻撃がユートを襲う。

 

「喰らえ、ラケーテン……ハンマァァァァァァァァァァァァーーッ!」

 

 クルクルと回転しながらユートに近付く姿は、少し間抜けにも見えるのだが、まともに喰らえばなのはも危ない。

 

 だが、ユートは危なげ無くヘッドを掴む。

 

「なっ、にぃ!?」

 

「守護騎士強襲型ユニット・ヴィータ。魔力によった攻撃が効かない以上、物理的な攻撃しかない訳だが、個人で来るのは言語道断! 一対一でベルカの騎士に敗けは無いか? 巫山戯た幻想だな」

 

 バキン!

 

「アイゼンが?」

 

 掴んでいたグラーフアイゼンのヘッド、ハンマーの部位に力を籠めて破壊してやった。

 

 この程度の破壊ならば、リカバリーを掛ければ直るだろうが、そんな暇を与えてやる程にユートは優しくはない。

 

「終わりだ、金牛のパワーを見るが良い……威風激穿(グレートホーン)!」

 

 腕組みからの居合い拳とも云うべき技で、凄まじいばかりの衝撃を生む。

 

 それはトラックとの激突の方がまだしもマシだと、ヴィータをしてそう思える程であったと云う。

 

 撥ねられた事は無いが、きっとそんな感じだと後に語ったのである。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 威風激穿に吹き飛ばされたヴィータは、地面に打ち据えられてクレーターを作りながら跳ねる。

 

「そもそも、折角の四対一なのに何でわざわざ一人で向かってくるかねぇ?」

 

 ユートを侮っていた……正にそれが原因だろう。

 

 因みに、何だかモニターで観ていたはやてが絶叫を上げている。

 

『イヤァァァァァァッ! 私の守護騎士(ガンダム)がぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 みたいな感じで……

 

「強いな。我らは自惚れている貴様を叩き潰して鼻っ柱をへし折る心算だった。だが、自惚れていたのは寧ろ我らの方か」

 

「そもそも、格上を相手に一対一とか正気の沙汰じゃないね。個人でならせめて無限連還システム・U−Dを連れてくるんだな」

 

「何だ、それは?」

 

「闇の書の奥深くに沈められた闇の書の闇よりも尚、暗き闇。【砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダークネス)】の事だ。あれなら、僕と互角に近い闘いも出来るだろう」

 

 守護騎士相手みないに、問答無用で叩き伏せられないという意味でだが……

 

「待て、我らはそんなモノは知らないぞ?」

 

「? 『我らはある意味で闇の書の一部だ。だから当たり前だ、私達が一番闇の書について知っているんだ……』とか言っておいて、何で【砕け得ぬ闇】を知らないんだろうね?」

 

「うぐっ!」

 

 どや顔で言った科白を、淡々と……しかも反証付きで言われては、何も言い返せない処か恥ずかしいだけであった。

 

 まあ、ユートもGODを識らなければ指摘も出来なかったし、ある意味で反則的な情報源(ソース)に頼っている訳だが……

 

「闇の書より尚、暗き底、夜天より尚、深き場所……然れどそれは全き虚の狭間の内で、いつの日にか夜の闇が明ける紫天を夢見続ける存在。隠された存在だから知らなくても無理は無いけど、あの時は笑いを堪えるのに必死だったよ。何しろ【闇の書】の事は何でも知っている……とかドヤ顔で言うしさ」

 

「ガハッ!」

 

 吐血する。

 

 シグナムの精神に五〇のダメージを与えた。

 

「さて、もう勝敗なんて見えているけどね、守護騎士闘将型ユニット・シグナム……実際に敗北を喫しなければ納得もしないか?」

 

「当然だ!」

 

 真面目な顔に戻り、自らのデバイスのレヴァンティンを構える。

 

 ガコン! レヴァンティンの柄の部位がスライド、薬筴を排出した。

 

 その瞬間に刀身が赤紫色の焔で燃え上がる。

 

「紫電……一閃っっ!」

 

「緒方逸真流【飛来芯】」

 

 迫り来る燃える白刃の腹を軽く叩いて軌道をずらしてやると、その勢いの侭に盛大な空振りになった。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するが、そんな暇など無いと言わんばかりに、ユートの拳が迫る。

 

《Panzer schild》

 

 勢いを殺せず防ぐ術を持たない主に代わり、レヴァンティンが防御魔法を用いて防いだ。

 

 パリン!

 

「ぐわっ!?」

 

 だが然し、パンツァーシルトは敢えなく破壊され、脇腹に拳が突き刺さる。

 

 防御魔法で何とか打点をずらせたが、まともに受けたら終わっていたかも知れないと、改めて脅威を感じたシグナム。

 

「レヴァンティン、シュランゲフォルム!」

 

《Ja.SchlangeS form》

 

 柄から薬筴を排出して、形状を連結刃へと変える。

 

 予測の付き難い空間攻撃が可能な蛇蝎剣は、元の長さからは有り得ない伸び方をしていた。

 

「シュランゲヴァイセン・アングリフ!」

 

 縦横無尽に空間を奔る刃だったが、ユートはそれも躱してしまう。

 

「くっ、これも避けるか」

 

「僕の知り合いに、もっとえげつない空間攻撃を仕掛ける娘が居てね!」

 

 シエスタの必殺技、空間星雲(ディメンシス・ネビュラ)……空間を飛び越える星雲鎖(ネビュラチェーン)の特性を応用する事によって、音速を越える鎖を時間差により周囲の空間から一斉に襲撃する。

 

 あれに比べれば温い。

 

 あの技は何処ぞの慢心王の宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を敵となる個人の周囲に展開し、一斉掃射をするのに等しい空間爆撃だった。

 

 その経験値は決して無駄とはならず、シグナムの技を避けさせてくれる。

 

 まあ、ユートが黄金聖闘士の力で向かえば普通に避ける事も可能。

 

「それでは無理だね」

 

 ほんの僅かな、刹那でしかない隙を見出だして真っ直ぐにシグナムの懐に飛び込んだ。

 

「この技は僅かコンマ一秒の刹那、全くの無防備になる隙が出来るみたいだよ」

 

「なにぃ!?」

 

「廬山龍飛翔!」

 

 小宇宙を纏い、龍飛翔とか言いながら中国の瑞獣である麒麟のオーラを放ち、シグナムに突進……

 

「チィッ!」

 

 しようとしたが、行き成り黄金に輝く矢が無数に飛んできた。

 

 シグナムは避けるまでもなく狙われてはおらずに、向かう先はユートのみ。

 

 躱すのは無理。

 

 ユートは已むを得ず腕を十字に組んでガードをし、攻撃に耐える事にした。

 

「これは無限破砕(インフィニティブレイク)か?」

 

 しかもシーナが使う紛い物ではなくて、間違いなく小宇宙を使った本物。

 

 ユートは無限破砕らしき技に圧され、抉られていく地面にぶつかる。

 

 一連の動きに茫然自失となるシグナム。

 

 先の技の発射地点であろう場所を向くと、翼をはためかせる黄金の鎧兜に身を包む少年が、腕を伸ばした状態で立っていた。

 

「だ、誰だ?」

 

「俺の名前は射手座(サジタリアス)のアイオロス。相生呂守だぜ!」

 

 ドヤ顔でサムズアップした親指を自分に向けると、そう名乗る。

 

 日本人の様だが何故だか赤毛で、一二歳前後っぽい身長に少し日本人離れした顔立ちだけど、名前が取って付けた様な日本名。

 

 モニタリングをしていたユーキは、アイオロスと名乗る少年に唖然となって、大口を開けていた。

 

 更に結界の隅に待機をしていたなのは達の傍には、もう一人の黄金の鎧兜を着た少年が立っている。

 

「もう、恥ずかしいな兄さんは……」

 

「うわ、此方にも?」

 

 突然の登場に、なのはもフェイトも驚愕した。

 

「はーい、ボクは獅子座(レオ)の相生璃亜。宜しくお願いね、なのはちゃん、フェイトちゃん♪」

 

 愉しそうに右手を振って笑顔を向けてくる少年は? 全く無邪気に振る舞う。

 

 それを見たユーキは汗を流しながら……

 

「アイオロスにアイオリアって、それに黄金聖衣? パルティータが言っていた転生者って、彼らの事? でも兄妹って言ってた筈、という事はアイオリアとか名乗ったのは女の子ぉ?」

 

 確かに獅子座の黄金聖闘士アイオリアを名乗るが、見た目には寧ろ……

 

「あれって、ひょっとしてリトス?」

 

 エピソードGに出てきたアイオリアの義妹にして、専属の従者であるリトスにしか見えない。

 

 因みに、ユートの心配はしていなかったりする。

 

 ユーキから見て〝ユートの〟無限破砕に比べても、未熟以外の何物でもない様な一撃など……

 

「不意討ち上等ってか?」

 

 碌なダメージになろう筈もないのだから。

 

「チッ、まだ動けんのか。まあ、どうせアイツはどっかのオレ主様──俺が主人公様の略──だろう。俺の相手じゃねーぜ!」

 

 アイオロスと名乗る少年は太々しい表情で見遣り、ニヤリと口角を吊り上げて構えを執る。

 

 カオスな現場が更に混沌としてきたものだった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝噺:転生 斯くして新たな黄金は目覚めた

 これは、魔法少女リリカルなのは【魔を滅する転生砲】外法典:黄金転生 闇に吼える嗤い聲 を加筆修正したモノです。

 倍くらいのボリュームになってしまった。





.

 とあるアホ毛を伸ばした銀髪の神が、リリカル世界に転生者を送り込む。

 

 己れの目的の為に。

 

 既に幾つかのファクターは送り込み、干渉値はある程度だが満たしているし、とある場所にとあるモノを送り込んであるが、やはり愉しく遊ぶのなら自分自身を送り込みたい。

 

 その為にこそ再び干渉値を満たすべく、転生者という存在を送り込む。

 

 世界の容量を増やす為、己が自身を送る為に。

 

 

 

 

『いや〜、すみませんね。貴方達を殺してしまいましたよ』

 

 少年と少女は唖然とし、銀髪アホ毛を見つめる。

 

 人を殺しておいて軽すぎる態度に呆れていたのだ。

 

 この見た事のある少女、だが然し記憶に在るモノと比べて、何処か邪悪にも見えて不気味だった。

 

『まあ、あれですよ。貴方達にはテンプレ通りに転生して貰いましょうかね』

 

 ドヤ顔でサムズアップしてくる銀髪アホ毛に、軽くイラッときた少年と殺意を覚える少女。

 

 少年と少女が死んでしまった切っ掛けは、交通事故というやつである。

 

 二人は兄妹で、両親を亡くして親戚にそれぞれ引き取られて暮らしていた。

 

 特に虐げられておらず、兄妹が会うのにも障害がある訳でもない。

 

 よくある盥回しでなく、親戚は親切心で引き取ったのだから当然だ。

 

 兄の方は、一人暮らしの母親の姉の伯母と暮らし、夫に先立たれてしまい子供も居なかった伯母は、兄妹によくお小遣いを上げて、遊園地などに遊びに連れていってくれたりもした。

 

 妹も父親の弟夫婦に引き取られ、生まれて二年しか経っていない義弟が出来、楽しく暮らしている。

 

 どちらかが両方を引き取れれば良かったが、流石に両方を引き取るには経済的に難しかったらしい。

 

 幸せに暮らして、互いに成人した時に独立したら、どちらかが結婚するまでは一緒に暮らそうと話して、その日……妹の成人式の日にアクセル全開で突っ込んでくる車が……

 

 妹を庇ったは良いが諸供に轢かれて死亡した。

 

 そして兄妹は今、此処に──真っ白な何も無い空間に来ている。

 

『まあ、転生特典を三つ付けて上げますから、言って下さいな』

 

 顔を見合わせる兄妹。

 

「待ってくれ」

 

『何ですか?』

 

「俺達、何処に転生をするんだ? 一応、知っておきたいんだけど……」

 

『何故ですか?』

 

「例えば、ファンタジーな世界に機械技術を持っても余り意味が無いし、竜騎士がステータスな世界で魔法の才能だけじゃ片手落ちになるからだよ」

 

『成程、確かにそうです。魔法少女リリカルなのはの世界ですよ(他にも混じってますが)』

 

「おお! 原作ブレイクとかハーレムとかヤっちゃってオッケーなのか?」

 

『ええ。所謂、平行異世界のリリカルなのはですし、ヒロインが欲しければお好きにどうぞ?』

 

「っしゃー! 俺の時代がキタァァァァァァァァ!」

 

 両腕を上げながら叫ぶ。

 

「お兄ちゃん、恥ずかしいんだけど……」

 

 ヒートアップする兄に、妹は真っ赤になる。

 

 とはいえ、妹も兄に無理矢理? アニメを観せられていて原作は知ってたし、翠屋のシュークリームには憧れていた。

 

 女の子故に、体重を気にしながらも甘いものは大好きだからだ。

 

 それに魔王や天然や子狸と友達になるのも、面白いかも知れないと考える。

 

『それで、どんな特典が欲しいですか?』

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 兄が欲した特典は……

 

・自分と妹を再び兄妹として転生させて欲しい。

 

・自分と妹に射手座と獅子座の聖闘士の力を。

 

 上記は兎も角、もう一つは願いが二つ分になると言われてそれを承諾した。

 

「ちょっと、お兄ちゃん? 何してんのよ!」

 

「これでお前が簡単に死ぬなんて無いだろ?」

 

「……お兄ちゃん」

 

 少しばかり感動した妹、兄が自身の特典を使ってまで自分を慮ってくれて。

 

 銀髪アホ毛は特典についての説明を行う。

 

『小宇宙は使えますけど、セブンセンシズに至るには要修業になります。修業さえすれば、必ず目覚める様に才能を付加しましょう』

 

 妹も訝しみながら願いを三つ、確かに頼んだ。

 

『願いは叶えました。では佳き人生を……」

 

 パカッ!

 

「へ?」

 

「ひあ?」

 

 足下に行き成り穴が空いたかと思うと、兄妹は重力に惹かれて(誤字に非ず)落ちてしまう。

 

「こーれーもー、テーンープーレーかーーっ!」

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

 兄はドップラー効果を残しながら、妹は悲鳴を上げて落ちて逝くのだった。

 

 なのは達が誕生する一年前に、相生(あいお)家へと誕生した兄の呂守(ろす)。

 

 翌年、両親が夜の運動を頑張った末に、年子として妹の璃亜(りあ)が誕生。

 

 既に意識がハッキリしているとは露にも知らずに、隣のベビーベッドで呂守が寝ている──実際には隣で『アンアン』と母親の嬌声が煩くて眠れていない──中で、夫の身体の上で母親が腰を振りながら嬌声を上げているのを、『妹の為、妹の為……』と念じながら叫びたいのを我慢していた呂守は、自分を誉めてやりたい気分だったとか。

 

 それにしても親父殿……美人で五歳も年下な妻を貰ったからと、『毎夜毎夜が激しすぎるだろう』と文句をというか、隣で息子が寝てるのだから自重しろと、声を大にして言いたい。

 

 況してや、生まれたばかりの息子の食事(ぼにゅう)を飲んでんじゃねーよ! と叫びたかった。

 

 そして苦節一年、ようやっと妹が産まれてくれる。

 

 因みに、妻の懐妊で自重するかと思ったら、大きくなるお腹に悦びを感じて、『腹ボテプレイだ!』などと興じており、入院をする二ヶ月前までヤりまくっていた父親に、呂守は呆れるより先に妹が流産しないかハラハラしたと云う。

 

 そして、此処に相生呂守(アイオロス)と相生璃亜(アイオリア)が揃い踏み、兄は日本人離れをした顔立ちだが金髪ではなく赤毛、妹の方はアイオリアというより、寧ろエピソードGに登場したリトスな顔立ちであり、髪の毛は茶髪を短めにしてある。

 

 リトスっぽい外見の所為ではあるまいが、一人称が『ボク』となっていた。

 

 然しこの兄妹には一つ、大きな誤算が……

 

「う、海鳴市じゃねーし」

 

「原作に関われそうに無いねぇ、兄さん」

 

 此処は海鳴市ではなかったという。

 

 果たして兄妹は無印にも間に合わず、A’sの時期に転校という形を採るしか無かった、妹の転生特典(ギフト)【OHANASHI】──ある程度の意見を通す能力──によって……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

『ふふふ、上手く潜り込ませる事が出来ましたね』

 

 邪悪な笑みを浮かべて、銀髪アホ毛は生まれ変わった兄妹を見遣る。

 

『介入条件は整いました。さあ、張り切って遊びましょうユートさん。何度も何度も、無限螺旋も斯くやのシミュレーションと思考誘導で造った転生者ですよ。お仲間にするなり、踏み台にするなり御好きどうぞ。何しろその為だけに〝殺した〟んですから。うふふ、あはは……アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!』

 

 銀髪アホ毛はダークヒーローの如く漆黒の鎧兜の姿になると、その額には燃える様な第三の眼が不気味に輝いていたと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 呂守は四歳になった頃、原作に関わる為の修業に精を出し始める。

 

 妹のリトス……でなく、璃亜も同じく一年遅れながら四歳で修業を始めた。

 

 聖衣に関しては、家に伝わるアーティファクト的な扱いで簡単に手に入るが、小宇宙に関しては鍛えて身に付けるしかない。

 

 どんな修業をするべきなのか判らなかったが、取り敢えずは肉体を普通に鍛えながら、小宇宙を引き出す為に瞑想をしたりした。

 

 三年間もの修業の成果なのか、小宇宙を感じ取れる様になった呂守と璃亜は、近くの森の中で模擬戦などをやっている。

 

 呂守は七歳で璃亜が六歳となっており、原作の開始まであと二年くらいだ。

 

 才能は与えられている筈だけど、二人は未だ第七感(セブンセンシズ)には目覚めておらず、取り敢えずは聖衣を纏ってみようという話になり、その日は各々が射手座と獅子座の黄金聖衣を持って来ていた。

 

「う〜ん……」

 

「どうしたの、兄さん?」

 

「いや、これだと目立つんだよな」

 

「それは……まあ、ね」

 

 背中から降ろした聖衣櫃(パンドラボックス)を二人は見遣り、呂守は溜息を吐いてしまうし、璃亜も苦笑いしか出せない。

 

「聖衣の形状はこの侭で、聖衣石(クロストーン)だったら持ち運びが楽なのに」

 

「聖衣に関してはお任せって感じで頼んだからね」

 

 聖衣櫃を背中に背負っていたら、果てしなく目立っていたので溜息を吐くのも仕方ないだろう。

 

「けど、そろそろ模擬戦もやっていかないとな、他の転生者が居たらバトルになる可能性もあるし……」

 

「他の転生者か……ボクは楽しみだけどね。それに、喧嘩になるとは限らないと思うんだ。それとも兄さんはヒロインを先に奪われたからって、喧嘩を売る心算なの?」

 

「んな事する訳無いだろ」

 

 ヒロイン云々で言えば、ハッキリといって後手に回ったとしか思えない。

 

 少なくとも、高町なのはは堕ちている可能性大だ。

 

 転生者の能力次第だが、高町士郎の怪我を治療して高町恭也への御説教、このテンプレな行動で好感度は駄々上がりする事だろう。

 

 他に二次創作よろしく、月村すずかとアリサ・バニングスの誘拐事件の解決。

 

 フェイト・テスタロッサであるなら、プレシアとの和解やアリシアの蘇生。

 

 八神はやて、【闇の書】事件でリインフォース救済とかだろうか?

 

 好感度アップイベントは原作開始からだし、多少の遅れは取り戻せる筈。

 

「そういやさ、どうやって海鳴市に引っ越すんだ? 任せろと言っていたけど」

 

「うん、ボクが貰った転生特典のOHANASHI。ある程度の無理を通して、道理を引っ込ませる能力」

 

「ならすぐに引っ越せなかったのか?」

 

「それは不可能なんだよ。だって、それだと明らかに不自然だからね」

 

「不自然?」

 

「ボクのOHANASHIってのは、飽く迄も可能なレベルの無理を通す能力。不可能な事は押し通せないんだよ」

 

「? よく解らないが」

 

 璃亜の説明に首を傾げる呂守、莫迦ではないのだが若干ながら脳筋気味。

 

「そうだね、例えばだよ。五〇キロの重量を持ち上げられる人が、無理をすれば七〇キロなら持ち上げられるかも知れない。だけど、だからって二〇〇キロもの重量は持ち上がらない」

 

「そりゃ……な」

 

「ボクのOHANASHIというのは、七〇キロの物を無理して持ち上げろと言って持ち上げさせる能力なんだよ。必要なら身体を鍛えて万全の状態で。行き成り二〇〇キロを持ち上げろと言っても無理だよ?」

 

「成程な。つまり今は準備中って事なのか?」

 

「うん! 取り敢えずは、お母さんに交渉してみた。何とかなりそうだよ」

 

「そっか。子供だけじゃ、どうしょうもないからな」

 

 時間を掛ければ海鳴市に行けそうだと知り、呂守も少し安心をする。

 

 ヒロイン争奪戦は勝てないかも知れないが……

 

 だけど前世から続く可愛い妹の頑張りを否定する程に狭量ではなく、『まあ、良いか』と考えていた。

 

「然しな、此処って本当に【魔法少女リリカルなのは】の世界なのか?」

 

「間違いないよ。お母さんがミッドチルダ出身の騎士だもん」

 

「へ?」

 

「アイラ・レオンフィード・相生。海外の人処か異世界人だなんてね」

 

「まぢ?」

 

 目を点にする呂守の問いに頷く璃亜。

 

「時空管理局じゃなくて、聖王教会の魔導騎士だって言ってたよ」

 

「おいおい、何だよそれ」

 

 気付きもしなかった呂守としては、あのエロ親父がどうやって知り合ったのかが気になる。

 

 何しろ、流石に最近だと情操教育上には宜しくないからと自重を覚えてくれたものの、まだ璃亜が物心付く前は──物心はとっくに付いていたが──お猿さんの如くヤっていた。

 

 正しくエロ親父。

 

「お母さんは、地球に任務で入り込んだらしいんだ。この地球は何か特殊なモノが在るらしくて、その調査って事みたい」

 

「何でそんな事を知ってるんだよ?」

 

「聖王教会に連絡を入れていたのを見てたから」

 

「って、母さんは聖王教会のスパイかよ!? 何で、父さんと結婚したんだ?」

 

「ああ、それは……埼玉県のとある場所に入り込んだ時に傷を負ったらしくて、それでお父さんに助けて貰ったのが出逢いだって」

 

 割とベタな出逢い方だ。

 

「にしても、何で埼玉県? 彼処に何が在るんだ?」

 

「埼玉県……麻帆良学園都市が有るよね? 【魔法先生ネギま!】だったら」

 

「世界樹か? だけどな、麻帆良が存在しないから、世界樹なんかが在れば大騒ぎだろうに……」

 

「それ以前に世界樹なんて無いけどね」

 

「だったら?」

 

「通信中の内容しか判らなかったけど、ロストロギアが在るかも知れないって」

 

「ロストロギア……か」

 

「しかも聖王所縁の」

 

 聖王教会もロストロギアを集める事はしているが、よもや地球に聖王と関係のあるロストロギア発見と、有り得ない情報に呂守は頭を抱えたくなった。

 

「むっ! 妖怪か!?」

 

「……みたいだね」

 

 いつの間にか囲まれて、二人は背中合わせになる。

 

 最近の事だが、この世界には妖怪が居るらしいと、それが判明した。

 

 灘杜神社と霞ノ杜神社が存在する事を、強大な霊力を持っていると璃亜をスカウトに来た事から判る。

 

 小宇宙を鍛えて霊力が強くなったからだろう。

 

 すわ神楽シリーズかよ! と、呂守は突っ込まずにいられなかった。

 

 そして【はぐれ妖怪】とも云える妖怪が、この森に現れたのか気配──妖気が幾つも周囲に在る。

 

「はん、実戦経験には丁度良いぜ!」

 

「そうだね……」

 

 二人は聖衣櫃を開く。

 

 黄金色の聖衣櫃が開き、その中から黄金に煌めきを放つオブジェが現れた。

 

 テュポーンとエキドナの間に生まれた、ギリシアはペロポネス半島のネメア谷に棲まう雄々しい獅子。

 

 彼の英雄ヘラクレスと闘ったネメアの獅子を象る、獅子座の黄金聖衣。

 

「来て、獅子座聖衣(レオ・クロス)!」

 

 半人半馬のケンタウルス族の賢者ケイローン。

 

 戦闘、薬剤、医術、音楽などに精通したケイローンは英雄の育成をしたのだと云われている。

 

 ネメアの獅子とケイローンには共通点があった。

 

 それは理由はどうあれ、ヘラクレスに殺された点。

 

 そんなケイローンを象る黄金聖衣……

 

「来い! 射手座聖衣(サジタリアス・クロス)!」

 

 金色の光を放った聖衣が分解され、獅子座は璃亜、射手座は呂守に鎧う。

 

「征くぜ、妖怪共!」

 

「貴方達を街には出して上げない!」

 

 呂守と璃亜は二手に分かれると、各々で黄金聖闘士として妖怪退治を始めた。

 

「原子崩雷(アトミック・サンダーボルト)!」

 

 黄金聖衣を纏って漸く、白銀聖闘士並みの力であるとはいえ、相手は雑魚妖怪なだけに拳の一撃で叩き潰せる程度でしかなく、軽く屠っていく呂守。

 

「雷光放電(ライトニングプラズマ)!」

 

 一方の璃亜も、実力的に呂守と変わりないのだが、危なげ無く妖怪を屠る。

 

 二人は光速にはまるで足りない、それでもマッハ五〜七という驚異的な速度、妖怪達は呂守と璃亜の放つ拳すら見えず、その穢らわしい躰を砕かれていった。

 

「キャッ!?」

 

 他の妖怪達の背後から、大蜘蛛が強靭で粘着力の強い糸を吐き出すと、璃亜の身体を絡め取ってしまう。

 

「璃亜っ!?」

 

 璃亜の悲鳴を聞いた呂守が叫ぶが……

 

「だ、大丈夫……兄さん。このくらい!」

 

 呂守を止めた璃亜が胸元に両腕を添えると、瞑目をして小宇宙を燃焼させる。

 

「ハァァァァッ!」

 

 そして一気に爆発させ、糸を断ち切ってやった。

 

「雷光大鎌(ライトニングクラウン)!」

 

 自由を取り戻した璃亜は右腕に小宇宙を籠めると、鎌の如く星の並びをイメージした技で、大蜘蛛の生命を文字通り刈り取った。

 

 死屍累々とはこの事か、闘いが終わって辺りを見回せば、妖怪達の死骸で一杯になっている。

 

 とはいえ、その内に死骸は妖力も消えて消滅をしてしまうのだろうが……

 

「さて、剥ぎ取りだな」

 

 妖怪が消える前に使えそうなパーツを剥ぎ取ると、そのパーツだけは消えないという不思議。

 

 呂守は大蜘蛛から【蜘蛛の糸】を、河童から【尻子玉】を、大蛇から【毒線】といったアイテムを剥ぎ取ってしまう。

 

 これを灘杜神社に持って行けば、結構なお小遣いになるから美味しい。

 

「さて、剥ぎ取り終了! 何か修業って雰囲気でもなくなったし、帰るか」

 

「そうだね、兄さん」

 

 こんな生活を続けながら更に二年の時が経つ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 OHANASHIの成果が漸く出て、呂守と璃亜の相生兄妹は遂に念願だった海鳴市に引っ越した。

 

 本来ならもっと遅くなっていて、どう上手く立ち回っても【空白期】に突入をしそうだったが、どうやら聖王教会からの指令を受けた母親──アイラが急いで海鳴市に向かう事となり、引っ越しが早まったとか。

 

 四月に入ってすぐに世界に変化があった。

 

 聖域(サンクチュアリ)のギリシアへの設立、英国はグリニッジに【グリニッジ賢人議会】の設立などと、何処の【聖闘士星矢】や、【カンピオーネ!】だ? などど思ったものだ。

 

 しかも【グリニッジ賢人議会】のトップであるというのが、長い金髪に広々としたオデコ、宝玉にも似たサファイア色の瞳な十代の前半の少女グィネヴィア、ハニーブロンドを短めに刈っており、揉み上げ部分を三つ編みとした空色の瞳の十代後半の美しい少女──ランスロット。

 

 何が起きているのか? どうやら母親の急な引っ越しにも関わるらしい。

 

 七月二五日……

 

 海鳴市のマンションへと移動をした呂守と璃亜は、引っ越しの手伝いや挨拶もそこそこに、結界が展開されているのに気が付いて、現場に急ぎ駆け出した。

 

「おかしいなぁ、ジュエルシードの事件は時期的には終わってるし、闇の書事件には早過ぎるぜ……」

 

「なのはちゃん辺りが魔法の練習してるんじゃ?」

 

「バカ言え、幾らなんでもこんな市街地に近い場所でする訳が無いだろ?」

 

「それもそっか……」

 

 すぐにも廃棄ビル群にて展開された結界の場所まで移動した二人は、結界へと干渉をして入り込む。

 

 ヴォルケンズの封鎖領域だった為、小宇宙の使い手である二人は簡単に干渉をして、結界内に入れた。

 

「な、何だこれ?」

 

 ヴィータらしき少女と、黒髪の少年が闘っている。

 

 ヴィータと少年の声が聞こえてきた。

 

「てんめー! アイゼン、カートリッジロードだ!」

 

《Explosion》

 

 ヘッド部が上下に動き、薬莢を排出する。

 

《Raketen form》

 

 その場でハンマーの片方に穿角、もう片方に何故かブースターが顕れて、名前の通りロケットの如く魔力を噴き出す。

 

 その勢いを利用した強烈な攻撃が少年を襲う。

 

「喰らえ、ラケーテン……ハンマァァァァァァァァァァァァーーッ!」

 

 クルクルと回転をしながら少年に近付く姿は、少し間抜けにも見えるのだが、その猛烈な一撃は喰らうと危険な技。

 

 少年は危なげ無くヘッド部分を掴んだ。

 

「なっ、にぃ!?」

 

「守護騎士強襲型ユニット・ヴィータ。魔力によった攻撃が効かない以上、物理的な攻撃しかない訳だが、個人で来るのは言語道断! 一対一でベルカの騎士に敗けは無いか? 巫山戯た幻想だな」

 

 バキン!

 

「アイゼンが?」

 

 掴んでいたグラーフアイゼンのヘッドを、握力を籠めて少年が砕く。

 

「終わりだ、金牛のパワーを見るが良い……威風激穿(グレートホーン)!」

 

 腕組みからの居合い拳とも云うべき技で、凄まじいばかりの衝撃を生んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 威風激穿に吹き飛ばされたヴィータは、地面に打ち据えられてクレーターを作りながら跳ねる。

 

「そもそも、折角の四対一なのに何でわざわざ一人で向かってくるかねぇ?」

 

 へらへらとした笑い声、あんな技を使うのはどういう訳か?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「アイツ、転生者か!」

 

 呂守は当たりを付けた。

 

「兄さん、あっちに!」

 

「な、何で!?」

 

 現在はまだ七月の下旬、六日もすれば八月に入る。

 

 ヴォルケンズが居るのは理解も出来るが、なのは達が彼女らに既に会っている筈はない。

 

 本来ならヴォルケンズがなのはチームと出逢うのは十二月の初旬、数ヶ月は先の話だと云うのに……

 

「何で、なのは達が?」

 

 呂守は呆然と呟く。

 

「あれ? あの青い髪の毛をポニーテールにした子、タバサにそっくり」

 

「って事は、あれも転生者って訳か?」

 

「だろうね。ボクがアッチを押さえるよ」

 

「判った、頼むぞ璃亜」

 

 向こうはシグナムが闘いを始めており、シュランゲ・フォルムからの一撃を、少年へと放つ。

 

 転生者だからか、少年は軽々とシュランゲ・ヴァイセンを躱すと、すぐに技の体勢に入った。

 

「させるかよ! 喰らえ、無限破砕(インフィニティブレイク)!」

 

 黄金の煌めきを放つ矢、それが数百本もの数となり少年を射止めるべく、高速で飛翔した。

 

 璃亜もまた、なのは達の許へと向かう。

 

 そして事態は【闇の書の終焉事件」へと続く……

 

 

 

.




 このオリキャラ二人は、この世界の護りを担う事になります。


【オリキャラ】
名前:相生呂守
年齢:一〇歳
髪の毛:赤毛
瞳の色:青色
身長:一五八センチ
体重:五六キロ
見た目は赤毛のアイオロス
転生特典(ギフト)
妹の玲於奈と転生
自分が射手座の黄金聖闘士の力を得る
玲於奈が獅子座の黄金聖闘士の力を得る

名前:相生璃亜
年齢:九歳
髪の毛:茶髪
瞳の色:青色
身長:一四二センチ
体重:??キロ
見た目は茶髪のリトス
転生特典(ギフト)
OHANASHI
????
????





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話:衝撃的 それは余りに残酷な真実

.

 ユートが光の矢によって吹き飛ばされたのを見て、ユーキは盛大な溜息を吐くと黄金の鎧を着た少年の方を見遣り、最大級の憐れみを籠め……

 

「莫迦な奴だねぇ、兄貴に問答無用で攻撃を仕掛けるなんて。殺されても文句は言えないよ?」

 

 寧ろ嘲笑いながら言う。

 

 擁護する気は無い。

 

 何を思ったかは何と無く想像は付くが、それは余りにも愚かな選択だった。

 

 ユートを相手にした場合だと、少年の行為など正に悪手と……否、愚行であるとしか言えない。

 

「誰を敵に回したか思い知るが良いさ」

 

 それを聞いていた璃亜は真逆と思いつつ、兄である呂守を見る。

 

 此方は黄金聖闘士。

 

 射手座のアイオロスと、獅子座のアイオリアだ。

 

 まあ、姓名を続けて読めばそうなるだけであって、実際は射手座の呂守と獅子座の璃亜ではあるが……

 

 相生呂守と相生璃亜……この兄妹は転生者である。

 

 兄妹は前世で事故に遇ってしまい、庇った兄諸供にトラックに轢かれて死んでしまった。

 

 両親の死後、優しい親戚にそれぞれが引き取られた後も、時々は会ってデートではないが愉しく遊んだりして、そこそこ幸せな日々を過ごしていたが、結局は死んでしまう。

 

 その後は、神様を名乗る長いサラサラな銀髪靡かせてアホ毛をピローンと伸ばした少女に会い、転生させてくれると聞いた。

 

 理由は訊かなかったが、転生して何とか口が利ける様になった後、呂守と話した結果だが単純にテンプレなのではないか? という結論に至る。

 

 兄の呂守は兎も角、自分は口調も少し変わったが、取り敢えず折角リリカルな世界に生まれ変わったのだから、高町なのはなど主人公達に会いたいと云うのが兄妹の共通した願い。

 

 だけど問題が一つ。

 

 生活の地が海鳴市ではなかった為、直ぐには動けなかったのである。

 

 何とか最悪でも原作までに転校したいと思っていたのだが、璃亜は自分自身が獲た転生特典(ギフト)で、【OHANASHI】──不可能でなければ状況などを調整し、道理を引っ込ませて実行する──によって呂守と共に転校をする話を成功させた。

 

 呂守と璃亜が海鳴市へと引っ越すのは、不可能な事ではなかったらしい。

 

 璃亜はある程度の説得を行える能力としてこれを頼んだ訳だが、使い勝手の方は余り良くなかった。

 

 この能力では余程の入念さを以て当たらなければ、説得などを行うのは困難な事になってしまうだろう。

 

 まだ他の二つの転生特典(ギフト)に関しては、試してさえいなかったものの、使い勝手がもう少し良かったらなぁ……なんて璃亜は考えていた

 

 いずれにしても、精神を操作するタイプの能力だと意味を為さない可能性が高いと考え、そんな転生特典(ギフト)にはしてない。

 

 呂守は流石に其処までの真理に辿り着いてないが、今や二次創作のテンプレな踏み台にならない為にも、決して地雷にならない転生特典(ギフト)を選んだ。

 

 先ずは見た目には銀髪とオッドアイ、能力的にならニコポやナデポ。

 

 これは明らかに地雷だ。

 

 更に、使い熟せるならば強力なのだが、普通ならば余りに役に立てる事が出来ない能力──無限の剣製、王の財宝、直視の魔眼に、魔力SSSなどだ。

 

 確かに原作では強力なのだろうが、熟練者ならまだ兎も角として、殆んどの者が修業もしないでギフトに頼り切る。

 

 結果、力に振り回されてしまうという訳だ。

 

 呂守はそれを避ける為、シンプルに黄金聖闘士の力のみを選ぶ。

 

 〝力〟とは小宇宙や聖衣

や必殺技など全てが該当するから、射手座と獅子座の黄金聖衣を持って、いずれセブンセンシズにも目覚めるであろう。

 

 能力に振り回されない様にするべく、兄と模擬戦をしたりして使い熟す為に、修業だってしている。

 

 兄が二つ分の願いで自分にも黄金聖闘士の力を貰ってくれた為、璃亜は戦闘系以外のギフトを貰えた。

 

 璃亜はそのギフトを以て兄のサポートをする。

 

 そう考えていた。

 

 目の前の長い青髪をポニーテールに結った少女を、璃亜は見つめた。

 

 髪の毛が長いという以外では、明らかにその容姿はタバサのもの。

 

「(この子、偶然似ているというには似過ぎてるし、タバサの容姿で転生を望んだのかな?)」

 

 恐らくは転生者だろうと当たりを付け、先程の少年の事を考える。

 

「(イレギュラーという事は彼も転生者。でも何故、シグナムと戦って?)」

 

 可能性として考えるなら家族を闇の書に殺されて、憎んでいるというものだろうが、少年は自分達とそう変わらない年齢に見えた。

 

 仮に少年が中学一年生だとしても、一歳かそこらで物心など付いてはいまい。

 

 もう一つ気になるのが、青髪の少女の少年に対する信頼感だろう。

 

「(〝兄貴〟と呼んでいたって事は、あの子と少年は兄妹だよね?)」

 

 其処まで考えていると、青髪の少女が自分に目を向けてきた。

 

「獅子座のアイオリアとか言ったっけ? アイツとは名前からして兄妹だね? つまり敵って事でファイナルアンサー?」

 

「闘う気? 君もボクと同じでしょう。なら知っているんじゃないの? ボクと兄さんの力が何かを」

 

「聖闘士星矢。黄金聖闘士だね。だから何? 真逆、聖衣を纏ったくらいで勝てるとでも思った? ボクも舐められたもんだね」

 

 ユーキは自身の内に在る小宇宙を燃焼させる。

 

「小宇宙? 君は!」

 

 ユーキは左腕を掲げて、その名を叫んだ。

 

鳳凰星座(フェニックス)……フルセット!」

 

 膨大な灼熱の小宇宙が、まるで空を覆うかの如く拡がり、ユーキの頭上に灼熱色をした翼広げる鳳凰の形のオブジェが顕現すると、各パーツに分解されユーキの身体に装着されていく。

 

「相手をして上げるよ……この鳳凰星座のユーキが」

 

「セ、聖闘士?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方その頃、アイオロスはと言えば……

 

「(く〜っ、悪漢から護る男の図だ。今の俺、最高に輝いてるぜ! シグナムからはやてに俺の勇姿が伝われば、はやても俺に首ったけってな♪)」

 

 当のシグナムからすれば心踊る闘いを、行き成り現れて邪魔した金ぴかに対して怒りしか沸かない。

 

 事情も知らず気儘な介入をした結果、踏み台になりかねない地雷を踏んでしまったのだがアイオロス……否、相生呂守は自分の行為に酔って気付かなかった。

 

「随分と愉しそうだな」

 

「あん?」

 

 背後から話し掛けられて呂守が振り向くと、たった今さっきブッ飛ばした筈の少年が浮かんでいる。

 

「射手座の黄金聖衣って事はだ、お前と彼処でユーキと対峙してるリトスっぽいのが獅子座の黄金聖衣を纏っているのが、転生者か」

 

「なっ!? さっきの小宇宙はあのタバサ似の子?」

 

 小宇宙は感じていたが、自分に酔っていた事もあってか、特には気にしていなかった呂守は、やはり単に小宇宙と聖衣を持っているだけの感が強い。

 

 しかも灼熱色の鎧を纏った姿……形状こそ違うが、あれは正しく……

 

「フェニックスだと?」

 

 驚愕しながらユートへと顔を向ける。

 

「何を驚く? お前らは、そもそも僕らに併せて選ばれたに過ぎない」

 

「どういう意味だよ?」

 

 ユートはパルティータから獲た情報を元に構築した残酷な真実、それを冷酷に冷静に伝えてやった。

 

「お前らを転生させた神、あれの容姿で気付かなかったのか?」

 

「容姿? ニャル子に似ていたが……」

 

「ああ、そういう認識か」

 

 まあ、ユートからすれば【純白の天魔王】はなのはに似たナニかではなくて、〝高町なのは〟そのものだったから考えた事もない。

 

 目の前の少年は、アレをニャル子〝そっくりさん〟と認識していたのだ。

 

 だけどそれは違う。

 

 アレはユーキからの情報のみだが、八坂真尋に逢う運命を持つ事の無かった、ニャルラトホテプ星人であるニャル子そのもの……にアクセスしている。

 

 ほんの僅かな天秤の傾きにより、決定的に運命を変えてしまったニャル子とは同一存在だった。

 

 初めの初めに特別クラスに配置され、クー子と逢う事も無かったニャル子が、八坂真尋に逢わずにいた為かクー子と滅ぼし合うなんて不毛も、過去へと遡った八坂真尋がそれを目撃する事も無くて、クー子も自宅警備員をおじさんとらやに説得されてしまい、自発的に管理局入りした世界。

 

 八坂真尋も特異な世界に浸かる事無く、割と平々凡々──代わりにユートがとばっちりを受けている──な生活をしている。

 

 聞き齧る限り、八坂真尋は暮井珠緒なる少女に告白され、普通に結婚して幸せな人生を歩んでいるとか。

 

 本来なら邪神ハーレムを築き上げ──中に男の娘っぽいのやNTRでしか興奮出来ない変態が混じる──波瀾万丈な高校生活を送った筈の少年の運命は、派生世界に生まれたが故にある意味で幸福な人生を送る事になった訳だが、彼は原作の自分とを見比べたなら、果たしてどちらを幸せだと断じるだろう?

 

 今となっては議論する事にも意味がないIFだ。

 

 尚、彼の原作キャラクター達は基本的に聖闘士星矢を準拠とした設定を以て、邪悪な神々として二〇一二年の九頭竜との闘いで次々と現れた。

 

 クー子もユートが造って渡した炎衣(イグニス)を、邪炎衣として纏い行き成り現れたのだ。

 

 閑話休題……

 

「どうやら根本的に勘違いしているみたいだけどね、奴はニャル子と同一存在。別の可能性、IFの邪神生(じんせい)を歩んだね」

 

 

「何だと?」

 

「お前らは、何らかの運命を持っているとか、誤って殺したとか何かじゃなく、僕に当てる為に君らの人生を弄くって、敢えて殺したんだろうな」

 

「ど、どういう意味だ!」

 

「膨大なシミュレーション……それこそ無限螺旋並の労力を使い、聖闘士の力を獲たいと望むであろう人間を捜し出し、殺したんだ。一二人が居るのか、数人しか確保出来なかったのか、それは知らないけどね」

 

「莫迦な……じゃあ、妹は……玲於奈はそんなお遊びで殺された?」

 

 愕然となる呂守。

 

「這い寄る混沌がそういう存在なのは、君も知っているんじゃないか? 神々の世界のトリックスターで、最大の愉快犯。人間世界の悪徳を助長させて、自らが破滅する様に仕掛ける神。原典にせよペルソナにせよ無限螺旋にせよね」

 

「お前に併せてってのは、どういう事だよ?」

 

「僕が奴の興味の対象になったからだ。無限螺旋では九郎さん共々、奴の罠を食い破って、他にも色々と闘ったからな。奴がニャル子の姿と人格を選んだのは、未だに姿が曖昧だった頃、僕がクー子を招喚したからなんだろうけど、ともあれ奴は僕が聖闘士だからこそ聖闘士の力を望む君ら……否、君を選んだんだ。妹を共に殺したのも、そうすれば君が妹に聖闘士の力を与えようとするというシミュレーションの結果だろう」

 

「っ!?」

 

 余りにも衝撃的な事実を聞いて、呂守は守護騎士に格好いい所を魅せ、はやてへの印象を善くしよう何て考えた事など吹き飛んだ。

 

「お前の、お前の所為で……お前の所為で玲於奈が殺されたのか!?」

 

「違うな。三分の一はそうかも知れないが、三分の一は這い寄る混沌の所為だ」

 

「じゃあ、残りは?」

 

「誤魔化すなよ。気付いてるんだろう?」

 

「──っ!」

 

「奴は膨大な、数十億年を越えるシミュレーションを行い……」

 

「言うな!」

 

 呂守が叫ぶが、ユートは残酷な真実を突き付ける。

 

「他ならない、〝お前が〟聖闘士の力を望むと知ったからこそ、奴はお前と妹を殺したんだよ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!」

 

 耐え切れない真実の重みに絶叫し……

 

「消えろ、無限破砕(インフィニティブレイク)!」

 

 無数の光の矢を放つ。

 

 全てがヒットして濛々と立ち込める煙。

 

 暫くしてそれが晴れると其処には、まるでダメージの無いユートが悠々と浮かんでいる。

 

「莫迦な? どうして!」

 

「お前も聖闘士なんだし、聞いた事くらい有るだろ? 聖闘士に一度視た拳など二度も通用しない……と」

 

「なにぃ!?」

 

 ユートは右腕を掲げて、人差し指を立て……

 

「此処に来て僕の躰を鎧え我が聖衣よ!」

 

 自らの聖衣を喚ぶ。

 

 光が立ち昇り、ユートの頭上に顕れたそれには見覚えがある。

 

「あれは……双子座(ジェミニ)の黄金聖衣!?」

 

 

.




 ペガサスだけではなく、他の聖衣も進化……

 OPに併せた変化は僅か二回しか使われずに終わるとか、OPでの長い前フリは何だったのか?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話:連行 グリニッジ賢人議会本部へ

 連投しました。

 そろそろ闇の書関連には決着を着けて、A’sでのメインヒロインを出したい今日この頃。





.

 双子座の黄金聖衣は音を立てて分解され、ユートの肉体を鎧う。

 

「──な! て、てめえ、何で聖衣を!?」

 

聖域(サンクチュアリ)の存在くらいは知っているだろう? その聖域を組織したのは僕だ」

 

「なっ! 聖域を!?」

 

「さて、それはどうでも良いとして……だ。邪魔をしてくれた理由を聞こうか」

 

「決まってんだろうが! お前がシグナム攻撃をしてるからだよ!」

 

「ハァ? 全く意味が解らないな。だいたいシグナムとの戦闘がお前に何の関係があるんだ?」

 

 此方はシグナムの要望で闘っていたというのにだ、事情を知らない筈の人間が勝手に横入りしてきた。

 

 意味不明だ。

 

「ふむ、どうでも良いか。お前を潰してあっちの獅子座聖衣(レオ・クロス)の奴に訊けば良い」

 

「なっ!? お前、玲於奈に手ぇ出す気かよ!」

 

「勘違いするなよ、射手座モドキ。先に手を出してきたのはそっちだ!」

 

 ユートは言うが早いか、手刀を作ると右腕を揮う。

 

村正抜刀(エクスカリバー)ッッ!」

 

「んなっ!」

 

 山羊座のシュラの技を放つ双子座に、射手座の少年の呂守は驚愕に目を見開きながら跳躍して躱す。

 

 だが、ユートは既に跳躍した先……最大跳躍点で待ち構えていた。

 

「うっ!」

 

 最大跳躍点というのは、要するにジャンプした際の上昇と、落ちる際の下降、この狭間の無重力地点の事を云う。

 

 空を翔べない以上、この地点に来たら後は落ちるしかない為、攻撃をされたら踏ん張りが利かないから、自発的な攻撃をしても半端なものにしかならないし、防御してもやっぱり脆くも吹き飛ばされる。

 

 虚空瞬動を使うか翔ぶかしなければ、射手座モドキは躱す事すら侭ならない。

 

威風激穿(グレートホーン)ッ!」

 

 腕組み状態からの抜刀術とも云える、高速……否、光速のぶちかまし。

 

「ガハァァァアアッ!」

 

 地上へ真っ逆さまに吹き飛ばされ、崩れかけたビルへて激突した。

 

「に、兄さん!」

 

 璃亜が右腕を伸ばしながら叫ぶ。

 

 ユートは激突した場所に降り立つと、射手座モドキを捜してみた。

 

「ぐっ!」

 

 ガラリと音を立てながら瓦礫から這い出てくる。

 

「へえ、流石に本物と同じ造りだけあって丈夫なモンだな。聖衣〝だけ〟は大したもんだ」

 

 殊更に〝だけ〟と強調をしながら言う。

 

 ユートの見立てでは初の転生、肉体的にはユートと異なりリアルに一〇歳前後でしかあるまい。

 

 元の年齢は知らないが、ユートの様に古武術を習ったなんて事も無く、聖闘士の修業も独学といった処。

 

 究極の小宇宙たる第七感──セブンセンシズに目覚めてもいない様だ。

 

 速さも白銀聖闘士は越えているが、雷速──一五〇キロメートル毎秒にも達してはいなかった。

 

 ならば速度も実際に生身でならもっと遅い。

 

射手座(サジタリアス)を名乗る割に弱いな」

 

 総じて、黄金聖闘士と呼ぶには力不足が過ぎた。

 

「ぐっ、何だと?」

 

「黄金聖衣のお陰で力不足を誤魔化しているけれど、お前自身は大した実力じゃなさそうだ」

 

 ユートはそう断じる。

 

「く、そっ!」

 

 相生呂守は悔しげな表情になり、吐き捨てるかの様に悪態を吐いた。

 

 呂守とて最早、実力差は理解が出来てはいるのだ。

 

 目の前の双子座聖衣(ジェミニ・クロス)を纏った黒髪の少年は、間違いなく自分よりも強い……と。

 

 しかも双子座の聖闘士の技ばかりか、他の黄金聖闘士の技まで使えるなんて、有り得ない事までしてくる輩だ、下手をしたら自分の射手座(サジタリアス)関係の必殺技まで使える可能性だってあった。

 

 基本的に聖闘士とはいえ中身は生身の人間であり、身体能力も実は鍛えている普通の人間──とも言い難いものはあれど、人間には違いが無かったりする。

 

 魔導師が魔力で身体強化をする事で常人以上の能力を発揮し、例えばフラッシュムーヴやソニックムーヴなどで高速移動をしたり、明らかに自分より重たい岩を運んだりが出来るのや、光弾を放ったり魔力刃を発動させたりが出来る様に、聖闘士も亜音速から極超音速で動き、剰え光速なんて巫山戯た速度を出せたり、地面を穿って大きなクレーターを作ったり、絶対零度なんて極低温を発生したり出来るのだ。

 

 中には手刀を一振りしただけで、鋼鉄すらバターの如く真っ二つにしてしまう黄金聖闘士だって居る。

 

 その真髄は魔導師ならば魔力であり、聖闘士ならば小宇宙(コスモ)という体内エネルギー。

 

 【リリカルなのは】系統の魔導師なら、連結する核(リンカーコア)と呼ばれる器官を持ち、其処へ呼吸をする様に外側からマナを取り込み、体内のリンカーコアでオドへと変換をして、魔法を扱っている。

 

 リンカーコアのリンカーとは連結(リンク)をしているという意味で、コアとは核の事だ。

 

 ユートが関わったSAOを主体としながら習合されていた【戦姫絶唱シンフォギア】に登場をした薬品──【LiNKER】というのも役割は、シンフォギアシステムと奏者を結合(リンク)させる事。

 

 名前の由来は生物と世界の魔力を結合する核器官、これはこれで便利なのだが今はどうでも良い。

 

 元より魔力は体内に存在する生体エネルギーの一種であり、それが世界にも溢れていたというだけだ。

 

 そしてそれは、他の生体エネルギーの霊力や気力や念力も同様、魔力と同じ事が可能となっている。

 

 だけどこれらは全て支流に過ぎない。ならば在る筈のモノ──即ち源流というのも存在するだろう。

 

 根っ子となる源流は同じだったが、用途などで分岐をしたのが魔力など。

 

 その源流の事を小宇宙(コスモ)と呼び、最源流を神力(デュナミス)と呼ぶ。

 

 故に、聖闘士が小宇宙の更なる深淵に──末那識(セブンセンシズ)に覚醒をした上でその上の阿頼耶識(エイトセンシズ)へ目覚める事で、新たなる可能性という扉が開かれる。

 

 つまり、阿摩羅識(ナインセンシズ)へと至る扉。

 

 これは先に覚醒する程、純化される事を意味する。

 

 支流を纏めると源流へ、源流を更に辿れば最源流にまで至るという事を。

 

 クロノではユートに勝てなかったのも当然、魔力は支流の力に過ぎないから。

 

 より大きな源流、小宇宙を使うユートは同じ量でも純度の高い力を使っているのと同義。

 

 例えるならば、一の魔力で発揮される能力は十で、一の小宇宙で発揮が出来る能力は百だという事。

 

 そして同じ事がユートと呂守にも云えた。

 

 呂守は射手座(サジタリアス)の黄金聖衣を纏い、ユートは双子座(ジェミニ)の黄金聖衣を纏う。

 

 聖衣は同じ黄金聖衣で、装備的には互角だった。

 

 それなのに圧倒的な差を以てユートが勝利を納めたのは、肉体的な差異も有るのだろうけど小宇宙の純度の差が大き過ぎる。

 

 そう、普通の人間を超越している身体能力を持ち得る【カンピオーネ】だった事も無関係ではないのだろうが、一番の差は小宇宙の純度──末那識に目覚めていたユートと未覚醒だった呂守という処にあった。

 

 黄金聖衣を纏えば、それだけで白銀聖闘士の数人を圧倒出来るが、それにしても本物の黄金聖闘士に敵う道理は無い。

 

 嘗て、ペガサスの聖闘士である星矢も、絶対安静の身体で射手座《サジタリアス》を纏って白銀聖闘士の三人を軽く屠ったのだが、その後での獅子座(レオ)の黄金聖闘士・アイオリアとの戦闘では苦戦。

 

 兄であるアイオロスの魂の説得で事無きを得た。

 

 その結果を踏まえれば、末那識に未覚醒な相生呂守に勝ち目は無い。

 

 因みに、仏教の宗派には八識論や九識論だけでなく十識論まで存在しており、十識を乾栗陀耶識と呼ぶ。

 

 小宇宙の共振現象による【大いなる小宇宙(マクロ・コスモ)】──宇宙創造たるビッグバンの前の状態のインフレーションの事を【Ω(オメガ)】とするのならば差し詰め、それより更に前の状態──超弦宇宙論(ストリング・コスモロジー)Α(アルファ)】とでも呼ぼうか? 或いはテンセンス。

 

 ある意味で同一にして、全くの真逆なモノだ。

 

 

 閑話休題……

 

 

 自分だけなら闘いを続けても構わないが、妹の璃亜までも傷付けられるのは、呂守としても業腹だ。

 

「判ったよ、俺の敗けだ。だから玲於奈……否、璃亜には手を出さないでくれ」

 

 血を吐く思いで言う。

 

 其処へシグナム達が飛んで来た。

 

「緒方優斗、結局はどうなったのだ?」

 

「襲撃者が降参したよ」

 

「そうか……」

 

 親しそうに話をしているシグナムとユートの姿に、呂守は驚愕をしてしまう。

 

 シグナムを襲う【オレ主様】と思って介入したら、親しそうでおかしな気分となったのだ。

 

「シグナム、丁度良いから君らヴォルケンズにも来て貰おうか」

 

「何処へだ?」

 

「英国はグリニッジ」

 

「グリニッジ……とは?」

 

「其処にはこの地球に於ける神秘の記録などを行っている組織、グリニッジ賢人機関が存在している」

 

 グリニッジ賢人機関は、【カンピオーネ!】を主体とする世界で、アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールを名誉顧問に据えて、実際に 存在していた組織だ。

 

 ユートはそれをこの世界の英国に置いた。

 

 トップにはとある方法を用いて無理矢理に味方へと引き込んで、此方側に連れて来た魔女王グィネヴィアを据えている。

 

 その護衛兼副議長を務めるのがランスロット・デュ・ラックで、現在は嘗て纏っていた無骨な鎧兜を脱いでおり、金髪の美少女姿を晒していた。

 

 最早、まつろわぬ性質(サガ)には囚われぬが故、鎧兜は不要なのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 相生兄妹とヴォルケンズを連れて、転移陣を使うとユートとユーキは英国へと一気に跳んだ。

 

 転移陣は各国に設置されているが、使うには相応の理由を必要とする。

 

 何しろ、この転移陣とは入国審査処か有りとあらゆる緒手続きを無視出来て、どの国にも跳べてしまう。

 

 犯罪者が使っては余りにも危険極まりない代物で、だからこそ簡単に使わせる訳にはいかなかった。

 

 ユート達の様にグリニッジ賢人議会に登録をしている【異能者】であるなら、カード一枚で簡単に転移陣も使えるのだが……

 

 今回、相生兄妹とヴォルケンズはユート達の随行者として使う事になる。

 

 グリニッジ賢人議会本部に着くと、すぐに議長室へ通されたユート達一同。

 

 議長室は大きな部屋で、どう考えても部屋の規模と建物の外観が合わない。

 

 空間湾曲技術を用いて、部屋の内部を拡大しているという訳だ。

 

「これはユート様、お久し振りというには少しばかり御早い再会ですね」

 

「まあね。グィネヴィア、用件はこの二人の……相生呂守と相生璃亜の尋問と、ヴォルケンズ四名のグリニッジ賢人議会への登録だ。それとこの場には来ていないが、八神はやても登録をしておきたい」

 

「了解致しました、それでは必要な書類をお渡ししますね? 伯父様、ユート様に書類を」

 

「判った、我が愛し子よ」

 

 グィネヴィアはユートの要請を請け、ランスロットに書類を持ってきて貰う。

 

 そんな遣り取りを見て、相生呂守は目を見開きながら驚愕していた。

 

 当然であろう、呂守からすればライトノベルの人物が──しかも【リリカルなのは】と無関係な【カンピオーネ!】のキャラが堂々と公的機関に籍を置いて、ユートと仲好さげに会話をしていたのだから。

 

 何故か魔女王グィネヴィアだったし……

 

 ユートは緒手続きをさっさと終えると、相生兄妹の尋問へ移るべく二人をソファーに座らせた。

 

 この二人は犯罪者とまではいかずとも、殆んどそれに近い立場にある。

 

 ヴォルケンズとのアレは正規の模擬戦、それを全くの未登録者が攻撃を仕掛けての横入りだ。

 

「さて、今更名乗るというのもおかしな話だけどね、僕は緒方優斗だ。どうやらグィネヴィア達については説明するまでもなさそうだけど、此方の女性用フェニックスを纏っていたのが、緒方祐希。僕の義妹だ」

 

「俺の名前は相生呂守(あいおろす)

 

「私は相生璃亜(あいおりあ)

 

 ユートの自己紹介に合わせて二人も名乗るが、本当に冗談みたいな名前だ。

 

「確認するけど、銀髪アホ毛な少女に『誤って殺してしまったから、転生特典(ギフト)を付けて転生させる』と言われ、それを受け容れて今の親元に転生したという事で間違いない?」

 

「あ、ああ……」

 

「それで間違いないよ」

 

 二人はユートからの確認を受け、認識として間違いはないと肯定をした。

 

 銀髪アホ毛──ユートの認識に在る【這い寄る混沌ナイアルラトホテップ】、若しくはニャルラトホテプと呼ばれる邪神。

 

 無貌の神であるが故に、逆説的に千の貌を持つとされる彼の邪神は、様々な姿を以て顕現をする。

 

 例えば【無限螺旋】で、黒の王と白の王を相手にした時は、黒髪赤眼で巨乳なパイナップルヘアの年増──ではなくお姉さんの姿でナイアと名乗った。

 

 同じく【無限螺旋】で、オーガスタ・エイダ・ダーレスの前で褐色肌なメイドの姿ニアーラを演じる。

 

 ユートの前では何故だかクトゥグア星人のクー子に合わせるかの如く、ニャルラトホテプ星人のニャル子の姿を執っていた。

 

 それが翠目で銀髪アホ毛少女の姿である。

 

 とはいえ、よもやユートがその姿を知らないとまでは思わなかったらしい。

 

 それは兎も角として……一通りの事情を聞いた議長のグィネヴィアは、ユートの方を向き直り……

 

「成程、でしたらユート様はこの御二人に謝罪をすべきではありませんか?」

 

「何故?」

 

「早い話が、這い寄る混沌とユート様の戦いに御二人は巻き込まれた訳ですし」

 

「直に戦闘をしていて攻撃が当たったとかなら、確かにそうだろうね。けれど、そうじゃないな。這い寄る混沌は僕に二人を当てる為に殺したらしいが、それはつまり……銀行強盗が人質を取って、『俺を包囲して逃がさないから人質が死ぬんだ!』と喚き散らして、人質を殺害した様なもの。まあ、第三者なマスコミとかなら『警察の不手際』とか煽って記事を書くのだろうけど、僕はこの場合だと警察役ですらない」

 

「と、言いますと?」

 

「銀行強盗が強盗を働いた理由が僕から金を借りて、返済に困り切羽詰まったからだった……人質が殺された理由に『銀行強盗が僕への借金返済に困り強盗し、銀行員が人質となって最終的に殺害された』訳だね。果たして金を貸していた僕は被害者に謝罪をしなければならないのかな?」

 

「………………」

 

「『強盗をした奴に金を貸して御免なさい』って? それこそ愚かな話だろう。それに、それを突き詰めるのなら人質が銀行員として働いていた事、それこそが殺害された遠因とも云えるだろうしね」

 

 例え話では人質が銀行員だから殺害され、この二人は呂守が聖闘士に成りたいと考える要素があったから殺害された。

 

 責任は言い過ぎにせよ、縁は繋がっている。

 

 か細い蜘蛛の糸程度でしかない縁ではあるが……

 

「それに何より、この二人は既に独自に這い寄る混沌から示談金を受け取っているんだ」

 

「示談金……ですか?」

 

「そうだよ。記憶を保持した侭で転生特典(ギフト)を貰い、この世界へと転生をした事自体が示談金として示され、二人はそれを受け容れたんだ。つまり奴に殺されただとか云々に関していえば、既に解決を見ているって訳だな。示談金の二重取りは良くない」

 

 示談とは、争い事を裁判など通さずに話し合いにて解決を図る事。

 

 示談金というのはその際の条件に支払われる金で、受け取った以上はもう兎や角言う権利は無くなる。

 

「それでは責任云々と言ったのは? ユート様自身も彼らに責任があると思ってはいないのでしょう?」

 

 呂守に責任があるとまで言ってないが……

 

「ああ、そりゃアレだよ。成り行きすら知らない無関係な人間に行き成り攻撃をされて、少しばかり苛立っていたからね」

 

 流石のユートもムカついていたらしい。

 

「成程……」

 

 苦笑いのグィネヴィア。

 

 ユートとて別に聖人君子ではないから、感情に任せて行動もするであろうし、それで失敗だってする。

 

 ユートもよく言っているだろう、『自分はどうしようもないくらい人間』──決して完璧な存在などではなくて、移ろい易く愚かで安易な行動をしがちな人間に過ぎないのだ……と。

 

「さて、その話はもう終わりだ。次の議題に移るぞ。相生呂守、相生璃亜、君らの両親に関してだ」

 

 ギクリ……二人は両親という単語に肩を震わせた。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話:スパイ容疑 選ぶは女の道か騎士の道か

.

 アイラ・レオンフィード・相生──それが相生兄妹の母親の名前。

 

 相生兄妹は……殊更に、相生璃亜は知っている。

 

 そう、だから二人は嫌な汗を流してしまう。

 

〔どうしよう、兄さん……ボクらのお母さんは〕

 

〔んな事、訊かれてもよ〕

 

 璃亜と呂守は超能力を使って念話が可能で、それを用いて二人は会話をする。

 

〔母さんはベルカの騎士、謂わば聖王教会のスパイ。調べられたらすぐ判るよ〕

 

〔っつーても、その過去を無かった事にも出来ねー。それに過去というより現在進行形でベルカの騎士だ〕

 

〔うん……〕

 

 二人の意思は一致した。

 

〔〔どうしようか?〕〕

 

 そんな璃亜と呂守を見ていたユートは、既にそんな様子から両親か或いはどちらかが裏に関わっているのは理解している。

 

 そしてこの二人がそれを熟知している事も。

 

「さて、二人の両親を呼んで貰わなければな」

 

「「うっ!」」

 

 父親は純血純粋な日本人だから問題は無かったが、母親は明らかに日本人離れした容姿だったし、普段から魔力を抑えていない。

 

 周囲に魔力を感知出来る者が居らず、全く気にする必要性が無かったからだ。

 

 父親の……アイラの夫の相生新也(あいおしんや)は完全な一般人だし、よもや呂守と璃亜が裏街道驀地(まっしぐら)だとは思っていない。

 

 何故なら、アイラは二人から魔力を感じなかったから自分の血──遺伝子を強く引かなかったのだと少し残念に思っていた様だ。

 

 璃亜はそれも知っていたのだが、余り母親が拘りを見せないから黙っている。

 

 勿論、これはアイラの勘違いであった。

 

 嘗てのユートと同じだ、生まれながら小宇宙を発現していたが故に、魔力など感じられなかっただけ。

 

 そもそもが、魔力というのは小宇宙から分かたれた川の支流みたいなモノ。

 

 だから、その気になれば魔法だって使えるのだ。

 

 まあ、ユートとは違って小宇宙の修業ばかりしていたから、改めて魔法の修業は必要になるだろうが……

 

 ハッキリと云って呼ばないという選択肢は有り得ないとはいえ、素直に呼べば間違いなくスパイ容疑にて捕縛は確定。

 

「……判りました。父さんと母さんを呼びます」

 

「璃亜!?」

 

「兄さんは黙って!」

 

「は、はい……」

 

 妹の余りの剣幕に思わず押し黙る呂守。

 

「連れて来る以上、誰かが付いてくるんですよね?」

 

「ああ、僕が行こう」

 

「はい」

 

 璃亜はユートと共に部屋を出て行き、それを見守るしかない呂守。

 

 心配そうな表情は正しく【お兄ちゃん】だった。

 

 そんな呂守を見た魔女王様は……

 

「心配は要らないですわ。ユート様は無体を為さりません……と良いですわね」

 

 思い切り言葉を濁して、不安を煽る。

 

「心配しか出来ない科白をありがとう」

 

 呂守は半眼で睨みながら皮肉を言ったものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 璃亜が両親に連絡を入れて呼び出す。

 

 来るまでの間は暇だし、ユートは璃亜とちょっとした会話をする事にした。 

 

「相生璃亜」

 

「璃亜で良いですよ。ボクは女の子ですので、流石にアイオリアはちょっと……と思うので。貴方の事は、どう呼べば?」

 

「ユート。緒方優斗だから優斗で」

 

「判りました、優斗さん」

 

 互いに自己紹介を終え、会話を始める。

 

「先ず、君は両親か或いはどちらかが裏に関わっていると知ってるな?」

 

「はい」

 

「やはりか。あの慌て様は相生呂守も知っている……そうだな?」

 

「教えましたから」

 

 素直に認める璃亜だが、 これは別に母親への裏切り行為ではない。

 

 恐らくはユート……否、あの魔女王様は調べている筈だと考えたのだ。

 

 何しろ、永い年月を掛けて神話を編纂して魔術式として構成し、まんまと彼の【まつろわぬ神】アーサーを喚び出したくらい情報に精通をしており、世界中で様々な情報を獲てきた実績もあるのだ。

 

 まあ、喚び出した存在は目論見とは異なっており、半狂乱になってしまったという片手落ちな間抜けさも魅せていたが……

 

 実はそんな間抜けさ加減を気に入り、ユートは彼女を──〝彼女ら〟を取り込んだ訳ではあるが、そこら辺に関しては璃亜もどうやって取り込んだのかと疑問を感じていた。

 

 それはユートが初めて、〝あの力〟を使った時の事であり、グィネヴィアからすれば悪夢かホラーの類いであっただろう。

 

 とはいえ〝アレ〟が成立した時点で、その全てが終わっているのだ。

 

 グィネヴィアも、そしてランスロットも。

 

 ユートは使う時は使うにしても、実は余り〝アレ〟が好きではなかった。

 

 好き嫌いで使わないなんて甘い事は言わない。

 

 唯、それだけの事。

 

「貴方はセブンセンシズに目醒めてるの?」

 

「ああ、末那識……つまり第七識には目醒めている」

 

 仏教的な識はシャカが使った様に、小宇宙の段階にも用いられている。

 

 五識の事を触覚、視覚、味覚、聴覚、嗅覚と呼び、第六感を意識と呼んだ。

 

 この意識の部分が小宇宙に当たるとされた。

 

 故に、第七識たる末那識が第七感──セブンセンシズとなる。

 

 その究極の小宇宙であるセブンセンシズを越えるとされるのが、対ハーデス戦の折りに乙女座のシャカが提示した第八の感覚。

 

 阿頼耶識──エイトセンシズという訳だ。

 

 【最も神に近い男】と呼ばれたシャカではあるが、彼がその様に呼ばれた背景には黄金聖闘士の中に在って唯一、エイトセンシズに目醒めていた事にある。

 

 神仏と対話が可能なのも窮めて神に近い位置へと、自らを置いているから。

 

 阿摩羅識(あまらしき)乾栗陀耶識(けんりつだやしき)を以て唯識論は完成を見る。

 

 第十識──乾栗陀耶識は真の根源ともされており、魂の最深層となる場所にして神なる領域。

 

 

 閑話休題……

 

 

「どうしたらセブンセンシズに目醒められますか? ボクも兄さんも未だに覚醒出来ないんだ」

 

「まだ年齢は十にも満たないんだし、焦っても仕方無いと思うけど?」

 

「けど、貴方は!」

 

「僕はそもそも、リアルに見た目と年齢が一致してる訳じゃない。セブンセンシズに……末那識に覚醒したのも随分と昔だ」

 

「昔……?」

 

「もう二百年以上も前に、デモンベインとリベル・レギスの最終決戦の際、彼奴──這い寄る混沌のナイアとの闘いで……ね」

 

「はい?」

 

 小首を傾げる璃亜。

 

 這い寄る混沌ナイアルラトホテップが関わるのは、これまでの話から理解もしてはいたが、デモンベインまで関わるとは思わなかったのだろう。

 

「二百年、デモンベイン……って……それじゃ、貴方は何歳なの?」

 

「さて? 相対年齢なんて数えてないし、不老長寿で一六歳から基本的に身体的な成長も老いも無い僕には実年齢は意味を為さない。世界を渡れば僕みたいなのに年齢云々は……ね」

 

「は、はぁ……」

 

 シェーラとの契約で得た擬似的な不老、だがユートはカンピオーネとなる事により、それとは異なる意味で不老や長寿を得た。

 

 更に、第九識にまで覚醒を遂げたユートは完全に、そう……完全に人間の部分から足を踏み外している。

 

 第十識には届かないし、第九識にも一瞬しか覚醒をしていない為に大分、変質していてもギリギリで人間の領域な訳だが……

 

 本当にギリギリで。

 

「まあ、黄金聖闘士は十歳にも満たないでセブンセンシズに覚醒してるけどね」

 

「……」

 

「取り敢えず、僕の場合を参考にはし難いだろうね」

 

「どうしてですか?」

 

「僕は小宇宙より末那識に覚醒する方が早かった」

 

「……え?」

 

「末那識に覚醒をした後、再誕世界──【魔法先生ネギま!】と【聖闘士星矢】を主体とした世界で十二宮の闘いに参戦、牡牛座(タウラス)のアルデバランとの腕試しの時に小宇宙へと目醒めたからね」

 

 腕試しだとはいっても、攻撃をしてアルデバランに膝を付かせるだけ。

 

 それが難しい訳だけど、ユートは小宇宙に覚醒をしてセブンセンシズを以て、輝光新星(ブリエ・エトワールノヴァ)を撃ち放ち、見事に膝を付かせて土を着けてやったのだ。

 

「一応、僕が普段からやっていた修業というのも有るには有るけど……」

 

「それは?」

 

天舞宝輪(てんぶほうりん)で五感を封じ、其処から這い上がった上で生活を行う」

 

「……いや、無理でしょ? そんな無茶振りは!」

 

「僕はそうした。それに、この世界のアリシア・テスタロッサは蘇生こそ成功はしたけど、長い時間を動かしていなかった肉体がガタガタでね。幸い、小宇宙とセブンセンシズに覚醒していたから、今は碌に動かない身体をそれで補ってる」

 

「──え゛?」

 

 どうやら無茶振りを実行している存在が居たらしい事に、璃亜は思わず間抜けな声を上げて頭を抱えてしまったと云う。

 

 しかも、アリシア・テスタロッサは本来なら死者。

 

 それを蘇生させたなど、どれだけ転生特典(チート)を持つのだろうか? 何ていう失礼な事を考える。

 

「そういえば、貴方も転生者ですよね?」

 

「そうだな」

 

「優斗さんはどんな転生特典(チート)を貰ったんですか?」

 

「チート……ねぇ。強ち間違いじゃないけど」

 

 正規の手順を経て手にした能力ではなく、神様によってインストールされる事で使える様になった訳で、謂わばシステムクラックをして能力を勝手に書き換えたに等しい。

 

 だからこそ、基本的には神様転生により得た能力に限らず、この手の力をこう呼ぶ──チート……と。

 

 ユートはこれをマイルドにギフトと呼んでいる。

 

「アリシアを蘇生出来る程の能力だし、それなら相当なモノだと思うけど……」

 

「魔法への親和性とよく視える目。それが僕の望んだ能力だよ」

 

「は? それだけ?」

 

「唯、オマケで生前に持っていたサブカルチャーを、亜空間ポケットに全部入れて寄越してくれたけどね」

 

「亜空間ポケット? 要するにアイテムボックス的なモノだよね?」

 

 然しそれでは解せない。

 

「それだけで、どうやってアリシアを蘇生したの?」

 

「別に、転生特典(ギフト)だけしか能力が無い訳じゃないんだが……積尸気転輪波で魂を肉体に繋ぐだけ。それで蘇生は可能だ」

 

「積尸気……転輪波……? そんなの有ったっけ?」

 

 過去の英霊を力に変える積尸気転霊波なら知っていたが、ユートが言った技には聞き覚えが無い。

 

 あれは冥界の掟を破る程の小宇宙で、魂を召喚する超が付くくらいの大技だ。

 

 積尸気転輪波というのとは全くの別物。

 

「僕のオリジナルだよ」

 

「へぇ?」

 

「積尸気の力で魂を肉体に封じ込め、繋がりを作る為の技なんだ。これによってアリシアを蘇生した」

 

 璃亜からすれば驚くしかない話だ。

 

「セブンセンシズに覚醒をしたいなら、聖域に所属をすれば手伝おう」

 

「か、考えておくよ」

 

 黄金聖衣を纏うだけでは黄金聖闘士は名乗れない、それは双子座(ジェミニ)を纏ったユートと兄の圧倒的というのも戦闘と呼ぶのも烏滸がましいアレを見て、犇々(ひしひし)と実感してしまった。

 

 セブンセンシズを会得する事が出来るなら、聖域へ参加するのも吝かではないとも考える。

 

「そういえば、貴方は時空管理局についてどう考えてるのかな?」

 

「時空管理局について?」

 

「ほら、二次創作なんかでよくあるよね? 殺す覚悟が無いだとか、子供を兵士に仕立てるだとかSEKKYOU系な主人公が言ってるやつ……」

 

「殺す覚悟……ね。誰かを殺すのに覚悟は要らない。人は衝動的に誰かを殺せる訳だし、ちょっと後押しをされれば幾らでも殺れる様な生物だからね。寧ろ必要なのはそのブーメラン」

 

「ブーメラン?」

 

「自分を殺される覚悟の無い奴は無様を晒す」

 

 仲間や大切な存在を殺されるのは兎も角、自分自身は戦っていれば殺される事も仕方がない。

 

 最後まで『生きるのを諦めない』のと、恐怖に負けて無様を晒すのとは意味合いがまるで違う。

 

「他人を傷付けたり殺す事は平然とする癖に、自分の番となると醜くて無様な姿を晒す。前にも麻痺らせてモンスターが蔓延るダンジョンに置き去りにしてやったら、涙と鼻水で汚れた面で泣き叫んでいたし」

 

「それは……」

 

「モンスターに生きながら喰われて大人しくなったけどね、クスクス」

 

 ゾクリ……嗤うユートに背筋が冷えた。

 

 確かに麻痺して置き去りになれば、モンスターにとっては美味しい獲物でしかあるまい。

 

 

「後は、少年兵だっけ? フッ、それは少年が闘う事になるアテナの聖闘士が、言える事じゃないからね」

 

「ああ、それもそうか」

 

「僕自身、忌避感も無い。そもそもにして、少年兵がどうのってのも日本の法律に基づいた話で、ミッドチルダという地球ですらない異世界、異国の法に文句を言ってどうする? 彼方側ではそれが普通なだけだ。自分の狭い世界の常識を、他国に押し付けてもね」

 

 日本には日本の法律やら常識が有り、ミッドチルダにはミッドチルダで法律も常識も有る。

 

 そして往々にして価値観に違いがあれば、ローカルなルールとして異なる法律を施行しているだろう。

 

 地球の国々でさえそうだと云うのに、異世界ならば言わずもがなである。

 

「ミッドチルダの法律に対して是非を問いたいなら、彼方の行政に関われる立場になって、法律そのものを変えれば良い。その世界、その国の人間でさえない者がどうこう言う資格は無いだろう?」

 

「……そうだね」

 

「若し、それ以外で自分の我を通したいなら……支配をする者として君臨するしかないな」

 

 ユートがこの世界にて、法律に手を加えたのだってその立場に在るからだ。

 

 支配者ではなく行政に関わる者として……

 

 璃亜は少し考える素振りを見せて頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 会話をしていると時間は刻々と過ぎて、相生新也とアイラ・レオンフィード・相生が現れた。

 

「「璃亜!」」

 

 声を揃えて璃亜の名前を呼んでくる。

 

「父さん、母さん!」

 

 駆け出す璃亜は二人へとしがみつく。

 

「相生新也、アイラ・レオンフィード・相生だね?」

 

「君は?」

 

「地球連邦委託防衛組織・聖域(サンクチュアリ)……そのトップの教皇だ」

 

「なっ!? 君の様な子供が聖域の教皇?」

 

 ユートの名乗りに驚愕をする相生新也。

 

 新しい組織が立ち上がったのは知っていたのだが、よもや息子や娘と変わらない年齢の子供がトップとは思わなかったのだ。

 

「貴方達にはスパイ容疑が掛かっている。取り敢えず同行して貰おうか」

 

「スパイ容疑だって!?」

 

 再び驚愕する新也だが、表情を強張らせたアイラ・レオンフィード・相生の方は魔力を漲切らせ、自身のデバイスに手を掛けると、三角形の青い魔法陣を展開した。

 

真正古代(エンシェント)ベルカ式……か。無駄な事をする!」

 

 ユートは脚を上げると、魔法陣を踏み抜く。

 

 パキン!

 

「そ、そんな!?」

 

 魔法陣が木っ端微塵となって砕け散って、雲散霧消してしまうとアイラ・レオンフィード・相生は慌てた様子で下がる。

 

「スパイ容疑、異世界人の不法滞在、異世界人による現地組織への攻撃未遂……逮捕には充分な理由だね」

 

「くっ!」

 

「先程も言った事だけど、無駄な事はしない方が良いと思うが? 今のを見ただろう? 僕が触れれば魔法なぞ木っ端微塵だ」

 

 単一の呪力で普通の手法では、カンピオーネに対してダメージを通す事なんて出来はしない。

 

「何より、さっきはデモンストレーションの為に赦したが、今度は魔法陣の展開すらさせずに制圧するぞ。大人しく同行した方が身の為だと思うがな」

 

 それを聞いた璃亜は真実だと理解をしていた。

 

 真の黄金聖闘士は全員が光速の動きを可能としているのだから、魔法陣を展開しようと魔力を籠めただけで撃ち抜かれるだろう。

 

「母さん、やめて! 彼には敵わないから」

 

「璃亜……貴女……?」

 

 娘の悲痛な表情による訴えに、アイラ・レオンフィード・相生は信じられないという顔で見遣った。

 

 そして両腕をダランと垂らすと、諦めた目でユートを見つめる。

 

「好きになさい」

 

 璃亜に何をしたのか? 或いはされたのかは解らなかったが、少なくとも味方に付けているらしいと理解をし、抵抗をやめたのだ。

 

「これから英国はグリニッジに在る、グリニッジ賢人議会本部に行く。其処で、二つの道を選んで貰おう。今から考えておくと良い」

 

 ユートは右腕を掲げて、Vサインを出すと先ず中指を折って見せる。

 

「一つ。聖王教会との連絡を絶ち妻として母として生きる女の道」

 

 次に残る人差し指を折って言葉を紡いだ。

 

「二つ。地球から退去し、ミッドチルダはベルカ自治区へと帰る騎士の道だ」

 

 真正古代ベルカの魔方陣を展開したなら、普通に考えて聖王教会の騎士。

 

 時空管理局の魔導師ではないのだろう。

 

 一応は、目的が合致する部分も有るから提携こそしているが、全くの別組織。

 

 ユートは提案をしてすぐにゲートへと向かうべく、踵を返して歩き始めた。

 

 

.




 次回の後半、闇の書関連を終息させるべく動く……予定です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話:介入 転生する破界者

.

 グリニッジ賢人議会本部へと戻って来たユートと、その他に相生ファミリーはグィネヴィアとランスロットの待つ執務室へ向かう。

 

「初めまして、アイラ・レオンフィードさんと相生新也さん」

 

 アイラは旧姓をミドルネームに使っており、普段はアイラ・L・相生と名乗っている。原作のフェイトが【フェイト・T・ハラオウン】と名乗っているみたいなものだろう。

 

「私はグィネヴィア・ディ・ラック。此方は私の秘書兼ボディーガードをしているランスロット・ディ・ラック。グリニッジ賢人議会の議長と副議長ですわ」

 

 にこやかに自己紹介するグィネヴィアだが、それを聞いて眉根を寄せて訝しい表情となる相生新也。

 

 グィネヴィアと云えば、アーサー王伝説などで有名なアーサーの妻で、更にはランスロットとの不義でも有名な王妃の名前だ。

 

 しかも、副議長の名前がランスロットとは狙い過ぎではなかろうか?

 

「アイラ・レオンフィードさん……ベルカの騎士で、聖王教会所属という事で宜しいですね?」

 

「ええ……」

 

 隠してもどうしようもないと考え、アイラは頷いてグィネヴィアの言葉に対して肯定の意を示す。

 

「ベルカの騎士とか聖王教会とか、いったいどういう事なんだ?」

 

 話に付いていけない新也が声を荒げて訊ねた。

 

「簡単に云えば彼女は……アイラ・レオンフィード女史は異世界人。次元の海を越えた先のミッドチルダと呼ばれる世界、その北部のベルカ自治区・聖王教会に所属する騎士だって事」

 

「い、異世界って……確か侵略者の!?」

 

「異世界人の全員が侵略者って訳じゃない。時空管理局と呼ばれる組織が、地球に魔法や魔導の類いが在ると知れば、自分達が管理をすべきだ……とか言って来るだろうけどね」

 

 アイラは何も言えない。

 

「現在、連中は地球の事を第九六管理外世界と呼び、基本的には時空管理法によって好き勝手出来ない様に決められている。とはいっても、よくSFなんかであるみたいな【未開惑星保護条約】みたいなもんだよ。文化レベルBとか言ってるみたいだし。連中の法に照らし合わせたなら、地球を管理世界とするにはレベルが低いって事なんだろう。恐らく最低限、異なる次元へ自力で飛び立てなければならないって感じか」

 

 未開の世界──そんな風に認識されているとなれば新也ならずとも鼻白む。

 

「聖王教会風に云うならば騎士アイラ、貴女に与えた選択肢はどれを選んだ? 短い時間とはいえそれなりに吟味は出来た筈。分割思考──マルチタスクで色々と考えたのだろう?」

 

「ちょっと待ってよっ! 貴方、何者なの? 幾ら何でも管理世界に対する知識が有り過ぎる! 貴方自身が管理世界の人間なのではないの? だとしたら重大な管理局法違反だわ!」

 

 確かにユートが管理世界の人間であれば【未開世界保護法】に反し、犯罪となるのであろうが……

 

「残念だが、僕は純粋な──異世界の──地球人だし──英国と火星の幻想世界人の混血だけど魂的に──日本人だよ」

 

 副音声が結構おかしい事になっているが、副音声も含めて嘘は言ってない。

 

 そう、嘘は……

 

 実際、ユートは再誕世界の日本に於いて緒方家に入っており、書類上では緒方優斗と緒方白亜は生きていた事になっている。

 

 白亜はあの世界の緒方家で暮らしており、取り敢えずは後継者として娘を置いておいた。

 

 但し、この世界には分家が存在しなかったが故に、闘神都市で再会した白夜達は居なかったが……

 

 それは兎も角、あらゆる

彼是を使っての力業だが、間違い無く日本人としての戸籍を持つのだし特に問題は無いだろう。

 

 血筋的には英国人(ブリティッシュ)でウェスペルタティア王国の人間だが、その魂はやはり前々世での国籍的に日本人を名乗りたいのが心情なのだ。

 

「なら、どうして!?」

 

「さて? 第三視点(ブリック・ヴィンケル)の賜物とかじゃないか?」

 

 そう言うユートに対して噴き出すグィネヴィア。

 

 グィネヴィアとランスロットはユートが転生者である事情を知り、故に隠語みたいに使ったBWの意味も理解をしている。

 

「ブリック・ヴィンケル? それは何?」

 

 当然、理解が出来なかったアイラは眉根を寄せながら首を傾げた。

 

「世界を俯瞰する一次元上に存在する視点。例えば、今の我々が漫画やアニメを観ているとして、アニメのキャラクターは我々を認知が出来ないが、確かに我々は〝彼ら〟を観ている……それを名付けてBW(ブリック・ヴィンケル)

 

 勿論、それはとある作品に於いて呼ばれた──喚ばれた存在の事。

 

【Ever17〜the out of infinity〜】

 

 二〇一七年と二〇三四年を駆ける物語で、主人公の視点を借りつつ現世界へと降臨したBWは、過去である二〇一七年のヒロインの一人──田中優美清春香菜にメッセージを伝える事により、二〇三四年での物語へと繋げる役回りを持ち、それが故に田中優美清春香菜は二〇一七年の出来事を二〇三四年で再現をして、BWを現世界へと召喚する必要があった。

 

 自分にメッセージを伝えて貰う為に。

 

 因みに、メッセージの伝え方がオリジナルとXBOX360版とで異なる。

 

 ユートはこの第三視点である処のBWを、転生者の隠語として用いていた。

 

「それと同じ、世界の様相をとある人物を中心に物語の如く見通す。第三視点、正に世界を俯瞰してね」

 

「そ、そんな莫迦な。信じられる訳が無い!」

 

「別に信じて貰う必要性は何処にも無いな。問題なのは其処じゃないんだしね。騎士アイラ、貴女の処遇こそが現在の問題なんだ」

 

「くっ!」

 

「それと今一つ……貴女の息子のアイオロスと娘であるアイオリア、その二人も同じ知識を持っている筈」

 

「……え?」

 

 何と無く名前のイントネーションがおかしかった気もしたが、今はそんな些事を考える余裕が無い。

 

 思わずアイラが振り返ってみれば、面白いくらいに動揺をする子供達の姿。

 

 それが、ユートの言葉の真実味を上げていた。

 

「呂守、璃亜……? ほ、本当なの?」

 

 目を逸らす二人、それが全て事実であると云う事を如実に語っている。

 

「まあ、稀に居るんだよ。第三視点の持ち主が。万能ではないけど、ある程度の情報は得られるから介入をして変える事すら可能だ。実際、僕は本来であるならジュエルシード事件と呼ばれていた筈の出来事に介入をして、大筋から〝物語〟を変えているからね」

 

 勿論、誇れる事でも況してや誉められる事でも無いのかも知れないし、ユートの都合でねじ曲げたのだ、この世界でそれに関わっていた人間の“一部“からすれば堪らない。

 

「こういう存在を僕は所謂……破界者と呼んでるね」

 

 ディケイドとかガイオウっぽくなるけど。

 

 因みに、ユートは○○○○○○と同質な訳だけど、ユートの識らないとある──禁書目録に非ず──ライトノベルの物語に複数顕れた中に、割と見知った姿が散見されていた中で、何故かシルエットで存在した。

 

 他にもケイン・ムラサメやらナイアやら上泉信綱やらっぽいのが……

 

 あれは良かったのか? とも思うが、良かったから出せたのだろう。

 

 というより、確かに沢山の仮面(かお)を持っているのだが、それはアレと同義と視られるのか?

 

「では、貴方の目的は世界の破壊だと云うの!?」

 

 ズレた発言をしてくれるアイラに、ユートは溜息を隠さずにやれやれとオーバーアクションを是見よがしに執ってやる。

 

「俯瞰された物語を世界、介入して変化せしめた事を破壊と、便宜上でそう呼んでいるに過ぎない」

 

 所謂、二次創作物に有りがちなというか、その為の二次創作な訳ではあるが、オリ主が原典平行世界へと介入し、知識に照らし合わせて内容を都合よく変える行為、ユートはそれを世界の破壊者ディケイドからの揶揄でディケイディアンと呼んでいる訳だ。

 

 無論、自分自身も含めての話である。

 

「それに其処の二人の目的だって、基本的には僕と変わらないぞ」

 

「っ!?」

 

「この時期にわざわざ海鳴市へ引っ越し、恐らく聖祥大学付属小学校への転入もするんだろう?」

 

「そ、それは……」

 

 璃亜の為に何故か引っ越しや転入を認め、時間こそ掛けたが海鳴市への引っ越しはアイラ的にも利が有ったが故に敢行をした。

 

 そう、引っ越しや転入は璃亜が言い出した事。

 

「まさか、貴方の言う通りなら海鳴市でまた某か起こると云うの? しかも二人はそれを知っていて関わろうとしている……と?」

 

 アイラがユートに向き直って問うと……

 

「イグザクトリィー!」

 

 満面の笑みと共にサムズアップし、ウザいくらいに強調しながら答えた。

 

「ベルカの騎士なら多少の因縁が有る管理局準拠で云う処の、第一級捜索指定・古代遺失物(ロストロギア)が稼働している」

 

「な、何ですってぇっ!? 第一級捜索指定のロストロギアって、相当な危険物という事じゃない!」

 

 相生新也は話に着いては往けず、困った表情で首を傾げると呂守に訊ねる。

 

「呂守、ロストロギアって何なんだ?」

 

「古代遺失物、つまり古代文明の遺産だよ父さん」

 

「危険物なのか?」

 

「物にもよるだろうけど、俺が関わる心算だったのは確かに危険物だな」

 

 アイラも耳にした呂守の説明、正しくユートの言った通りであったらしい。

 

「その名を【夜天の魔導書】と云う」

 

「夜天の魔導書? そんなロストロギア、私は聞いた事も無いわよ?」

 

「……確か、古代ベルカという扱いで一番新しいのが三百年くらい前だっけ? 聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトがロストロギア【聖王のゆりかご】を起動してから加速度的に亡びに向かったのがその時期だし……その程度の年月で本来の名がロストしたのか? とはいっても、実際の稼働からきっと千年は経ってるんだろうし、その間に真の名前は喪われたのか」

 

「真の名前?  それは、どういう意味? 聖王様の御名まで知ってるなんて、それも第三視点とやら?」

 

 本来なら此方が選択結果を訊きたいのだが、やはり気になるらしいアイラ。

 

「題して、無印、A’s、Strikers、Vivid、FORCE。第三視点(ブリック・ヴィンケル)による俯瞰知識だ。空白期というA’s〜Strilersを補完する部位も在るし、THE BATTLE OF ACESやTHE GEARS OF DESTINYとか有るけどね。現在の時期はA’sと呼んでいる。【夜天の魔導書】が歴代の主によって改悪をされた【闇の書】を巡った戦いだな」

 

「や、闇の書!?」

 

 流石はベルカの騎士か、【闇の書】という名前には凄く反応をした。

 

 まるで他の事は聞いていなかったくらいに。

 

「それにそんな沢山の事件が起きるとでも? 闇の書が改悪されたシステム?」

 

 聞いていたみたいだ。

 

 とはいえ、余りに情報が多くて混乱するアイラ。

 

 正に『識らないというのは罪だが、識り過ぎる事は罠』というべきだろう。

 

 原典でも【闇の書】についての基本的な知識が欠落していて、ユーノが無限書庫で拾い出すまで殆んど何も識らなかったくらいだ、無理もあるまい。

 

「お願いがあるわ」

 

「何かな?」

 

「上司に連絡をさせて欲しいのよ。此処までの大事、私個人で判断は出来ない」

 

 当然と云えば当然だが、どうしたものか? ユートは少し顔を伏せつつ黙考をして、おもむろにアイラへと視線を向ける。

 

「上司とは誰だ?」

 

「私が此処に初めて来た時から十二年、上司は代替わりして若きグラシア家次期当主の──騎士カリム・グラシアになっているわね。今年からなんだけど……」

 

 驚く呂守と璃亜。

 

「カリム・グラシアね……どんな符合だこれは?」

 

 顎に手を添えてユートは呟く。

 

 本来の道筋に於いては、将来的に【最後の夜天の王】たる八神はやてと、歳の少し離れている友人的な付き合いをする人物。

 

「……Strikersでは多分、二五歳か其処ら。なら今は一五歳? いや、クロノが一四歳でカリムの義弟のヴェロッサが同い年なら一六歳〜一八歳か?」

 

 詳しくは知らないけど、そんな処だろうとユートは当たりを付ける。

 

 ぶつぶつと呟いている姿は少し怖い。

 

 というより、女性の年齢を詮索するのはマナー違反だと、ユートは考えるのを止めた(笑)

 

「余計な報告を入れたら、問答無用で拘束してスパイの現行犯として当局に引き渡すぞ?」

 

「解ったわ……」

 

 恐らくは自らのアームドデバイスに仕込んだ通信機を作動させたのか、周囲に仮想キーボードが顕れる。

 

 リズミカルにキーボードを叩くと、次元通信が彼方に届いたらしく金髪碧眼の少女が空中モニターに出現をした。

 

 まだ少女と呼べるだろうStrikersから見て十年前──若き魔導騎士のカリム・グラシアである。

 

〔あら、定期連絡にはまだ早いわよ? 騎士アイラ〕

 

 呑気に言うカリムだが、周囲に居る人間に気が付いたのか、難しい表情となって口を開く。

 

〔騎士アイラ、彼らは?〕

 

「私の夫と子供、それから現地の魔導組織の方々……ですね」

 

〔それはいったいどういう事ですか? 夫と子供は判りますが、第九六管理外世界に確か魔導技術は無い筈ですよ? それが魔導組織が存在するなんて!?〕

 

 どうやらまだ報告が上がっていないのか、カリムは聖域(笑)の事や他にも土着の組織が存在している事実を知らないらしい。

 

 というか、どれだけ地球を未開世界だと思っているのだろうか?

 

「初めまして、聖王教会の騎士カリム・グラシア殿。僕が御宅の騎士から御紹介与った聖域(笑)の教皇を務める緒方優斗だ」

 

〔きょ、教皇!?〕

 

 異世界、それも管理世界ではないとはいえ、一組織のトップとして名乗り上げると、カリムは仰天したかの如く反応を返す。

 

 今の見た目は十歳前後、それは驚くであろう。

 

「そして私がグリニッジ賢人議会の議長、グィネヴィア・デュ・ラックですわ」

 

 見た目には、十二歳前後の不敵な顔付きでおでこが広い少女に挨拶される。

 

〔ハァ?〕

 

 幾ら管理世界では十歳児の就労が認められているとはいえ、流石にそんな年齢の少年少女が組織を統べるトップとは思えないのか、最早カリムは開いた口が塞がらなかった様だ。

 

「侮るなよ、グィネヴィアは見た目に幼いだろうが、その身は神祖。嘗ては女神であった存在が滅した後に転生した者だ。見た目相応とは思わない事だね」

 

〔め、女神……ですか?〕

 

 胡散臭げにグィネヴィアを見遣るカリム。

 

「アースラの艦長リンディ・ハラオウンから報告を受けてないのか?」

 

〔報告を? シャッハ!〕

 

〔はい、カリム。調べて参ります!〕

 

 髪の毛ショートカットな少女が、パタパタと部屋から出ていく。

 

 どうやらこの頃から既に護衛兼秘書らしい。

 

〔それで? いったいどの様な御用件でしょうか?〕

 

 居住まいを正してカリムが訊ねて来た。

 

「僕から用事は無いけど、騎士アイラの進退問題ってやつでね」

 

〔騎士アイラの?〕

 

 意を決したか、アイラがカリムを見つめながら結論を述べる。

 

「騎士カリム、私を聖王教会騎士の任から解任をして下さい!」

 

 それこそがアイラの出した答えだったと云う。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話:Ω いつの世でも情報とは力也

.

 遂に結論は出たらしく、アイラは騎士解任をカリム・グラシアに申し出る。

 

 目を見張るカリムだが、溜息を吐いてアイラへと話し掛けてきた。

 

〔その言葉の意味を正しく理解していますか?〕

 

「勿論です。私が夫と──新也と結婚したのは、別にカモフラージュの為ではありませんから。夫を愛し、だから子供達が……呂守と璃亜が生まれました。信也や呂守と璃亜と別れたくはありません。だから地球を追放されては困りますし、ミッドチルダにも帰る訳にはいきません!」

 

 それは女として、母親として生きる決意をしたのと同時に、聖王教会騎士としての生き方を捨てるという決意の表れ。

 

 口頭で辞表を提出した様なものだろう。

 

「まあ、地球側に帰服するなら追放はしないけど」

 

 ユートは呟く。

 

 元より、アイラの不法密入国は海外なんてレベルではない規模だったし、一応は正式な戸籍を取得している為に、今後は兎も角として過去の罪は問わない。

 

 その上でミッドチルダに帰るか、地球に地球人として残るかの選択肢を与えたのである。

 

「アイラ・L・相生は地球に住むという事だな?」

 

「はい、先も言った通りで家族と離れる気はありませんから」

 

 アイラは一切の躊躇いも無く確りと頷いた。

 

 その表情はいっそ清々しいまでの笑顔。

 

「まあ、それならそれで構わないけど……貴女の財産ってどうなるんだ?」

 

「へ? ざいさん……?」

 

「そう、例えば教会の騎士らしいけど、給金は彼方の口座に振り込まれてるんじゃないのか? 十二年分、一ヶ月が日本円で三十万だったとして、一年で三百六十万。そいつが十二年間で四千三百二十万だ。勿論、一年毎に昇給だって有るだろうし、ボーナスも出てる筈だからもっとか。しかも十二年間を地球で夫の稼ぎを以て暮らしてきたから、手付かずの侭の……ね」

 

 ピシリッ!

 

 当然というべきだろう、アイラは硬直した。

 

〔そういえば、そうです。騎士アイラに振り込まれた金額は……シャッハ?〕

 

〔少々、御待ち下さい〕

 

 恐らくはアイラに関する資料を捜しに行ったのか、シャッハ・ヌエラが部屋を一時的に辞する。

 

 十分程度も待つと、再び部屋へと戻ってきてカリムに報告をした。

 

 その金額は日本円に換算すれば、凡そだが一億に近いとだけは言っておこう。

 

 塵も積もれば何とやら、元々がユートの想定よりも可成り多く、意外と高給取りだったらしい。

 

 何しろ、管理外世界への超長期出張任務な訳だし、それだけでも特別手当てが付いていたのだ。

 

「がふっ!」

 

 そして金額を聞いてしまったアイラが膝を付く。

 

「くっ、十二年も経ったからサイズ的に使えなくなった衣類とか、昔のお気に入りだった食器とかは兎も角として、流石に十二年間の仕事の報酬が消滅とか……嫌過ぎる」

 

 アイラは決して夫である新也とイチャコラしていただけでなく、必要な調査を確実に行っていた。

 

 ミッドチルダの大手銀行に預けてあるであろう給金とは、そんな汗の結晶だと言っても過言ではない。

 

 否、相生新也と出逢った切っ掛けとなる応龍(おうる)の分体との戦いで負った傷を鑑みれば、文字通り血と汗と涙とちょこっとだけ御小水の結晶か?

 

 東の要たる応龍は人型を執ると女性体で、応龍と書いて『おうる』と名乗っており、彼女──アイラは有能故に平行時空門のゲートとなる場所に近付き過ぎ、応龍が派遣していた分体に撃退されたのだ。

 

 苦労して見付けたは良かったが、手痛いダメージと圧倒的な戦力差による恐怖を刻まれてしまう。

 

 パンツを濡らしてしまったのも無理はあるまい。

 

 命辛々で全力全開の逃走をしたアイラは、何とかかんとか人里の近くまで逃げ延びた処で意識を失って、其処を偶さか通りすがった新也に保護されたのだ。

 

 

 閑話休題……

 

 

 そんな身体を張った苦労をして本来は手に出来る筈の大金、それが正しく水の泡と消えるとなればアイラならずとも茫然自失となってしまう。

 

 日本円にして一億近いとなれば、流石に一生を遊んで暮らせるとまでは言わないまでも、子供達──呂守と璃亜──が一人立ちする頃まで仕事をせず慎ましく生きていける。

 

 普通に大学まで通わせてやれるし、一人立ちの祝い金くらい出してやれるかも知れない。

 

 そんなお金がパーに……

 

 アイラは今、スゴく泣きたい気分であろう。

 

〔ああ、どうしましょう。確かにこの侭というのは、どうにも……〕

 

 困った顔で苦笑いを浮かべるカリム。

 

「そうだね、それだったらカリム・グラシア……貴女が彼女の財産を引き揚げて貴金属にでも換えてから、此方に持って来るのは?」

 

〔それは……難しいです。流石に他人の口座を勝手には出来ません〕

 

「彼女が財産の引き揚げを委任するなら?」

 

〔それでも……〕

 

 やはり難しいらしい。

 

「仕方ない、アイラ・L・相生を一時的にミッドチルダに帰還させ、財産の引き揚げや処分をさせよう」

 

〔帰還を許す……と?〕

 

「本人が此方に帰属するのなら、普通に戻って来るだろうからね。実際に此方が〝闇の書〟の終焉作戦を行うのは夏休みに入ってからだから、一ヶ月くらい猶予もある。それまでにカリム・グラシアを連れて来ると良い。それから情報を開示するしないは好きにしても構わないけど、下手な開示をして管理局が動いたら、僕は遠慮無く襲撃者を殲滅するから、よく考えて報告するんだね」

 

「は、はぁ……」

 

 呆然と聞いていたアイラは突然の事に生返事。

 

〔いえ、ちょっと待って下さい! 何ですか、闇の書の終焉というのは!?〕

 

「そういえば話してなかったか。現在、地球で闇の書とその主を確保している。永きに亘る闇の書の活動、それを終わらせる計画だ」

 

〔なっ!?〕

 

 カリムが驚くのも無理はあるまい、闇の書は管理局のみならず管理世界全体に影響を及ぼしてきた古代遺失物であり、真正古代(エンシェント)ベルカの知識を伝える数少ない遺産。

 

 それが地球に在るなど、想像の埒外なのだから。

 

〔まさか、本当に闇の書が地球に存在していると?〕

 

「ああ、ギル・グレアムが隠蔽していたが、地球には未完成な闇の書が主と共に存在する。僕は〝闇の書〟を終わらせるべく動いているんだ。闇の書が管理世界でどんな災厄を齎らしたかは知っている。だからこそ下手に情報を外には出せないんだよ」

 

〔な、成程……それが事実なら確かに〕

 

 ユートは然も〝闇の書こそが重大な秘密の情報〟と謂わんばかりに言い放ち、本来の情報からカリム・グラシアの目を逸らす。

 

 アイラがミッドチルダに戻っては、ある程度は情報の漏洩も已む無しである、ユートはそう肚を括った訳なのだが、当然ながら下手に此方側へ攻撃を仕掛けて来たのならば、情容赦無く殲滅をするだろう。

 

 ユートとしても一億に近い努力の結晶を放棄させるのは偲び無く、ある意味で温情を掛けたとも云える。

 

 別にそれを恩に着せる気は無いが、彼女が仇で返すなら相応の報いは受ける事になるであろう。

 

「ミッドチルダの……管理世界の通貨は地球じゃ紙切れに等しい。ちゃんと地球に存在する貴金属に換えてから持ち帰る事を推奨するけど、口座をその侭にしておく手もある。まあ、余り経済に影響を及ばさない様にしてくれ」

 

 億単位には届かないが、それでも数千万ともなれば行き成り全額を換えてしまうと局地的な混乱も予測されるし、これは推奨出来ないと考えていた。

 

 とはいえ、管理世界に於ける価値と地球……日本の通貨価値はまた異なるし、何処までどうなるかユートにも推し量れない。

 

 それに基本的にはどうでも良かったし

 

 こうして話し合いは終わった。カリム・グラシアはシャッハ・ヌエラを含み、何人か護衛を付けて地球に来ると云う事で纏まる。

 

 真正古代(エンシェント)ベルカに列なる古代遺産、【闇の書】を巡る終焉を見守りたいというのは、同じ真正古代ベルカの力を継承するカリムからしなたら、当然の欲求なのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アイラと新也はグィネヴィアから細かい話をするという事になり、子供達──ユートも含む──だけ別室に通されていた。

 

 因みに、呂守と璃亜の傍には金色に輝く櫃──黄金聖衣の入ったパンドラボックスが置かれている。

 

 レリーフは呂守の場合が射手座、璃亜の場合が獅子座のモノだ。

 

「そういやさ、アンタ達の聖衣はどうしたんだ?」

 

 ユートは双子座(ジェミニ)、ユーキが鳳凰星座(フェニックス)の聖衣をそれぞれに纏っていた筈なのに、いつの間にか普段着になっていながら聖衣櫃(クロスボックス)が見当たらない事を不思議に思い、呂守が思い切って訊ねる。

 

 璃亜はユーキが聖衣を纏う処を見ていたから知っているが、呂守はそれを見てはいなかったし、ユートはサガ風に聖衣を喚んで纏った為、何処に持っているか判らなかった。

 

「聖衣? 此処だが?」

 

 左腕を掲げると金と闇翠に輝く石が填め込まれて、鈍い煌めきを放った腕輪が装備されている。

 

 尤も、普段の双子座聖衣(ジェミニ・クロス)聖域(サンクチュアリ)に放置……もとい、安置しているから聖衣石には収まってはいないのだが……

 

「どういう意味だ?」

 

聖衣石(クロストーン)に容れているんだよ」

 

 

「はぁ? クロストーンって言っても、形が全く違うじゃねーか!?」

 

 

 呂守が知るのはアニメに登場した聖衣石だ。

 

「形? お前は何を言ってるんだ? 聖闘士星矢にはこんな聖衣を仕舞える便利アイテムなんて無いだろ」

 

「「えっ!?」」

 

 ユートの言葉に、呂守と璃亜が驚愕してしまう。

 

 ユートは聖闘士星矢Ωを識らない。

 

 聖衣石(クロストーン)も聖衣櫃では不便だからと、ユートがハルケギニア時代に独自で造り上げてた収納用のアイテムである。

 

 それは仕舞っている聖衣と同じ色の宝玉が填まった銀色の腕輪で、ユート達の腕で銀が光を反射して鈍い輝きを放っていた

 

 名前が同じなのは虚空(アーカーシャ)の記憶から拾い上げた結果であって、識っていて名付けたという訳では無い。

 

「アンタ、聖闘士星矢Ωをまさか識らないのか?」

 

「聖闘士星矢……Ωだと? 何だ、そのΩ小宇宙を使いそうなタイトルは?」

 

「Ω小宇宙って、オメガを識っていて何で聖闘士星矢Ωは識らないんだよ!?」

 

 余りにもちぐはぐ過ぎる答えに、相生呂守はどうにもエキサイトしていた。

 

「Ω小宇宙は光牙達が……新世代の聖闘士達が到達した小宇宙だし、その概念は一応だけど昔から在ったんだから勿論識っているさ。サターンとの決戦で光牙が闘えたのも、Ω小宇宙のお陰だったしな。若しかしてパラスやサターンの闘いもアニメになってたのか?」

 

 呂守は目を見開く。

 

 まるで、ユートの言葉は〝自らが体験した〟かの如くだったからだ。

 

「聖闘士星矢Ωってのは、二〇一二年の四月に第一期を放映、第二期を翌年四月に放映していたアニメからの続編だ。第一期はマルスとの闘い、第二期はパラスとサターンとの闘いを描いているんだ」

 

 取り敢えずは説明をしてみると……

 

「また、随分と間が開いているんだな?」

 

 今度はユートが驚いた。

 

「間が開いた?」

 

「一九九九年の闘いから、二〇一三年の闘いまで間があるじゃないか」

 

「? マルスとの闘いって二〇一二年って設定だと思ったんだが……?」

 

 シン……

 

 聖闘士星矢Ωの年代は、ハッキリと明確な時代背景が描かれておらず、第一期の旅先から文明が廃れている様にも見えたくらいだ。

 

 とはいえ、第二期の日本なんて普通に現代をしていたから、以前でのマルスの侵攻によって廃れたとかは無かったらしいし、回想でも明らかに現代だった。

 

 公式で星矢がハーデスと闘って後、沙織が過去へと跳んだNDに於いて地上暦一九九〇年とされており、故に聖闘士星矢のスタートを一九八九年で、そこから数ヶ月の間が銀河戦争からハーデスとの聖戦の期間だと考えても良いだろう。

 

 更には、聖闘士星矢Ωの放映が二〇一二年という事も鑑みて、Ωの時代を併せたなら第一次マルス侵攻はそれより以前、しかも光牙とアリアが赤ん坊の頃で、Ωの光牙が一三歳であるならば、一九九九九年こそがその時だという事に……

 

 きっと、聖闘士星矢Ωの第一期もその年代に合わせて作成されたのだろう。

 

「二〇一二年? マルスは一九九九年にぶっちめてやったし、どうやって闘いなんてするんだ? そもそもルードヴィグは全く動かなかったぞ?」

 

 ルードヴィグはマルスの人間としての名前であり、妻であるミーシャとの間にソニア、後妻的な立場へと納まった魔女メディアとの間にエデンを儲けている。

 

 ミーシャを喪った後──ユートが助けていたが──にマルスとして覚醒をし、アテナ軍と闘った。

 

 本来の流れではメディアが闇の隕石を召喚、それによる影響でマルスの銀河衣(ギャラクシーメイル)や、聖闘士の聖衣が聖衣石化など変異を起こしているが、ユートが再誕した二巡目の世界では、七歳のユートによりメディアとその弟であるコーカサスのアモールが殺され、闇の隕石は双子座のユートによって吸収をされて、聖戦はアテナ軍勝利で終了をした。

 

 隕石は大きさに比べて、質と量共に大したエネルギーではなかったのが、少しばかり気にはなったが……

 

 あんな程度の隕石なぞ、メディアはどうして召喚をしたのだろうか? と。

 

 まあ、既に一九九九年の闘いから何年も経ってしまっているし、メディアとてもう居ないのだから今更気にしても仕方ないだろう。

 

「あ、アンタは一九九九年にマルスを斃したってか? じゃあ、二〇一二年にはマルスとの聖戦は起きなかったのか……どうやって、光牙はパラサイトと戦ったんだ?」

 

 二〇一三年にて行き成りパラサイトが現れた場合、光牙や龍峰達の新世代が生き残れたとは思えず、呂守は首を傾げてしまう。

 

 ユートは前に近衛鈴音から聞いた話を思い出す。

 

 そういえば、二〇一二年の聖戦で火星に深刻な被害があったのだ……と。

 

「二〇一二年に起きたのは邪神大戦だ」

 

「邪神大戦? ネットでのエイプリルフール企画……混沌大戦の亜種か?」

 

「何だそりゃ?」

 

 混沌大戦──某サイトで冗談企画として上がったとか云うモノで、様々な這い寄る混沌を集めたスパロボっぽいヤツである。

 

 ナイアからニャル子まで作品の枠を越えて様々に。

 

 所詮は冗談企画だから、どうでも良い話だ。

 

 ユートは混沌大戦に疑問を感じたが、どうでも良さそうだったから話を続ける事にした。

 

「這い寄る混沌が手練手管で九頭竜を復活させるべく動いてね、その兆候自体は二〇〇〇年に既にあった。お陰で聖域もネカ姉達も、可成り忙しかったらしい」

 

 マルスとの聖戦が終了をして翌年、魚海士(インスマウス)深淵士(ディープ・ワン)が現れ始める。

 

 その為に黄金聖闘士達は疎か、青銅や白銀やオリジナル鋼鉄聖闘士まで出し、討伐を行ってきた。

 

 二〇〇八年には海を汚す深淵士を許せない海皇軍と話し合い、呉越同舟というか敵の敵は味方というか、アスガルドや冥界軍も含めて手を結び、二〇一二年に一大決戦に及んでいる。

 

 因みに、その際に冥界軍からは天暴星ベヌウの朱璃が星矢とソレントの許へと赴き、ポセイドンの別邸での話し合いに臨んだ。

 

 

【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集◇海皇との対談 現れるのは異世界の太陽鷺◇参照

 

 

 冥王軍とは、既にユートの固有戦力なのだ。

 

 朱璃というのは姫島朱璃が本名で、ユートが別世界に行った際に冥王の権能で甦らせ、更にその世界固有のアイテム──【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】というチェスの駒をモチーフとした駒で、【騎士(ナイト)】を与え戦力化に成功をした。

 

 本来、ユートの権能による復活は十二時間限定で、永続はされない。

 

 だが然し、死に瀕していた人間でも復活が可能な力により、永続化が出来た。

 

 ユートはそうなる前には助けたし、原典を見てはいないから知らなかったが、アーシア・アルジェントは間違いなく死んでいたにも拘わらず、【僧侶(ビショップ)】の駒で甦っている。

 

 ハイスクールD×Dという噺に於いての事だ。

 

 それだけの能力を持つ駒であるが故に、十二時間という枷を外せた。

 

 

 閑話休題……

 

 

 ネカ姉って誰だよ!? などと、呂守は思ったけど口には出さなかった。

 

 一二年の歳月が掛かったのも、或いは這い寄る混沌が聖闘士星矢Ωに併せたのかも知れない。

 

 とことんまで他者を弄ぶのが好きな邪神だ。

 

「ちょっと待てよ?」

 

「うん?」

 

「今って確か、二〇〇四年じゃなかったか?」

 

「そうだな」

 

「何で二〇一二年の闘い……って、アンタまさか……トリッパーか!?」

 

「そうだが?」

 

 今更になって気付いたらしく、大いに驚く呂守を生暖かく見遣る。

 

 ユートは二度の転生をしているし、世界転移も複数回を行っているから転生者とも転移者(トリッパー)とも云えた。

 

 呂守は自分の情報不足に膝を付いたと云う。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話:対話 ユートと相生呂守

.

 呂守の知りたい事は幾つか判明したが、他にも知りたい事は有った。

 

「なあ、アンタ……」

 

「別に名前で構わないぞ。此方もお前とかじゃなく、呂守と呼ばせて貰うから」

 

「わ、判った」

 

 派手に敗けた所為もあってか、どうしても呂守的には構えてしまうのだ。

 

 とはいえ、ユート本人が良いなら是非も無し。

 

「えっと、確か?」

 

「改めて名乗ろう。僕の名は緒方優斗。十二宮騎士団が長であり、アテナの聖闘士・双子座の優斗だ」

 

「十二宮騎士団?」

 

「僕が昔に創設した私設武装組織。通称はゾディアック。僕の聖騎士(セイント)を始め、魔導隊や他にも幾つか部隊を持っている」

 

 アクティブドレスを纏う部隊や機動兵器を用いて戦う部隊、それらが十二宮騎士団(ゾディアック)の形成をしている。

 

 勿論、今は冥王軍をも含まれた組織。

 

 まだまだ人数は足りないものの、単純に地球を護るだけなら充分だろう。

 

 一騎当千なのだから。

 

「私設武装組織って、それ何処のソレスタルビーイングだよ……」

 

「必要なら武力介入も辞さないから、ある意味で間違いじゃないかも……ね?」

 

 ハルケギニア時代に於いてトリステイン王国の一軍だった筈だが、その軛から抜けた今となっては完全な私設武装組織となった。

 

 基本的には閃姫──使徒によって構成されており、それ以外なにも何名か使徒とは違う者も居る。

 

 

 例えば使徒には成れない存在、聖霊──精霊やまつろわぬ神──なども組織に居るし、夫が居る人妻だって所属をしていた。

 

 ユートは決して独りだけではない。

 

「現在のこの世界の聖域(サンクチュアリ)は基本的に僕の十二宮騎士団を中心に組織されてるし、とてもこの世界独自の組織とは言い難い。いずれはこの世界の人間を中心にしていくにしても、可成りの時間を掛けるだろう」

 

 まさか永遠にこの世界に留まる訳にもいかないし、此方の地球の人員を育て上げて組織に置く。

 

 呂守と璃亜もその為にこそ取り込むべく、アイラに選択肢を与えたのだから。

 

「それじゃ、優斗は時空管理局についてどう考えているんだ?」

 

「どう……とは?」

 

「アンタの言い種からさ、如何にも管理局を毛嫌いしてるって感じだから」

 

「別に殊更に嫌っている訳じゃない。というよりも、地球にさえ関わらないならどうでも良い。興味自体が無いかな」

 

「どうでもって……」

 

 呂守は呆れてしまうが、ユートからすればミッドチルダや管理世界や管理局がどうあれ、地球に関わってこないのなら関心など全く持ってはいない。

 

 それこそ、十年後に起きるJS事件で滅んだとしてもである。

 

 自分に厳しくて他人には無関心、身内には殊更に甘くて敵には等しく冷酷無情というのがユートの基本的なスタイルだ。

 

 勿論、他人に無関心だとは云っても本当に全く関心を持たない訳ではない。

 

 それなら、そもそもにしてユートが最初に転生する切っ掛け、那由多椎名を救わんとする……それ自体が起こり得ないのだから。

 

「だったら管理局にどんな印象を持ってる?」

 

「印象……ねぇ……」

 

 ユートは暫くの間瞑目をすると、考えを纏めたのか(おもむ)ろに口を開く。

 

「そうだな、例えば……」

 

「「例えば?」」

 

 呂守と璃亜がハモる。

 

「六歳か其処らの女の子の目の前で、力の制御が利かないから乱戦にでもぶち込むくらいしか使えない……なんて平然と口に出来る様な奴が発言力を持つ組織」

 

「「………………」」

 

 シンとなる二人。

 

 勿論、そんなエピソードがあったのは知っている。

 

 確か【第5話:星と雷】だった筈。

 

 白衣を着ていた事を鑑みれば研究者で、その一人が執務官のフェイト・T・ハラオウンに説明をしていたというもの。

 

 目の前に座るキャロ・ル・ルシエ、その本人を前に力の制御が出来ないから、乱戦に於ける殲滅戦に放り込むくらいにしか役に立たないと断じ、フェイトが引き取る事へ難色を示す。

 

 思う事は自由だろうが、それを本来なら学ぶ時期の子供に言い放つのは無神経が過ぎる。

 

 それが訓練で辛く当たるなら良いし、寧ろそんなのは当たり前の範疇だろう、だがあの場面でそれは必要が無いし、自信喪失に繋がる言動をするなぞ発言力を持つ人間としては失格だ。

 

 というより、訓練も施さずに実戦に投入を前提で話す辺り、無能の極み。

 

 訓練無しで戦闘を熟す、そんな事余程の戦闘センスがなければ不可能なレベルなのだから。

 

 ユートから視れば自分の無能をひけらかし、得意気に語るアホな大人でしかなかったと云う。

 

「序でに言えば……」

 

「「…………」」

 

 何を言いたいかはすぐに理解出来た二人。

 

「遺族、それも十歳そこそこの子供の前で殉職をした部下を平然と罵倒する莫迦が上に立てる組織かな?」

 

 まあ、そんなのは珍しくも何ともないだろうけど、少なくともそれは倫理観の無い会話。

 

 まともな神経を持ち合わせていれば、普通は絶対にしないであろう。

 

「通夜の席で殉職した部下の罵倒、そんな事を出来る器の小さな人間を上に立たせるんだ。管理局に問題が無いとは思えないけど?」

 

「それは……」

 

「確か、ティーダ・ランスターは一等空尉だった筈。それならば上官は最低でも三佐以上の身分だ。そんな身分に在りながら、やって良い事と悪い事の区別すらつかないんじゃあねぇ? 確かに任務に失敗したのなら無能の謗りは免れない。だけどそれを、唯一の肉親を喪ったばかりの民間人の子供の前で、それも通夜の席だろうけど言い放つか、普通?」

 

 実際にあった出来事なだけに否定も出来ない。

 

 当時の身分だと言っていたから、殉職して二階級特進とかで一等空尉だった訳でもないし間違ってはいない筈だ。

 

「それにそれで無能だって云うなら、陽動に引っ掛かった挙げ句の果てに護衛をすべき対象をまんまと連れ去られて、更には本拠地を破壊された原作なのは達はどれだけの無能者だよ? あれ、ヴァイスとか死んでいてもおかしくないぞ」

 

「そ、それは……」

 

 既に部隊を預かる立場になった以上、経験不足など言い訳にもならない。

 

 それを言い訳にするのであれば、やはり地上なり何なりから経験豊富な人間を隊長として迎え入れ、自分達は補佐役として副隊長にでも納まるべきだった。

 

 経験を積む為に。

 

「で、極め付けとなるのが自分達で定めた法すら守れない司法組織。それこそ、時空管理局という組織だ」

 

「ああ……」

 

「それはね」

 

 呂守も璃亜も目を逸らしながら肯定した。

 

 ギル・グレアムの場合、まだ情状酌量の余地もありそうだが……

 

「時空管理局を設立した……延いては管理局法を定めた筈の時空管理局最高評議会が自ら法を破った。これはちょっと戴けないな」

 

 ヒト・クローンの作製、人造魔導師や戦闘機人などの製作、いずれにせよ彼らが法律で禁止したもの。

 

 何より、ジェイル・スカリエッティという次元犯罪者を産み出し、スケープゴートとして自分達は関係がありませんといった態度を取り、その癖に『自分達が居なければ世界は滅ぶ』と嘯く厚顔無恥振り。

 

 ユートに言わせれば最高評議会なんぞ、最早単なる老害な犯罪者集団だ。

 

「自分達の定めた法律すら守れず、それで司法組織を自称するのだから笑える」

 

「けどあれだ、それは管理局が常に人手不足だから」

 

「それは基本的に管理局が個人の才能に頼り切りになる方策のみで対応していたにも拘わらず、あちこちに管理という名の触手を伸ばしていったから。法を破る言い訳としては最低だろ。況してや、足下を護る事すら覚束無いというのに」

 

 第一世界ミッドチルダ──その数字が示す通りで、ミッドチルダとは管理局の発祥の地であり、管理世界の一つでありながらそう呼ばれない唯一の世界。

 

 にも拘らず犯罪発生率の高さは異常な程で、そこを護る地上部隊は中々に苦労をしている。

 

 しかも、同じ管理局の括りにありながら海と陸では互いに仲違いをしていた。

 

 海は時空管理局の花形であり謂わばエリート、地上は泥臭い現場みたいなイメージが付き纏って、地上の戦力は海に一方的な吸収をされている。

 

 物語中、原作八神はやてが地上の動きの遅さを批判していたが、次々と優秀な魔導師を海が持っていき、更にはヘッドハンティングも行われてるであろう状態では、どれだけ訓練をしても命令系統に穴が空いたりして結果、動きも遅くなるのはどうしようもない。

 

 はっきり云うと、海の者が決して言ってはいけない科白であろう。

 

 原作はやての言葉も強ち間違いではないが、自分が部隊を持って活躍をすれば地上の人間も目を覚ますみたいな言い方をしていた辺りは、海の者らしいと云えるのかも知れないが……

 

 高がはやて一人が部隊を持って活躍したからとて、それで変わるなどと本気で思っていたのだろうか?

 

 時空管理局のトップからして、その実は犯罪の温床だったというのに。

 

 寧ろ、犯罪者でしかない最高評議会の面々からしたならば、はやての考えなど愚者の浅知恵でしかない。

 

 使える内は使い倒して、邪魔になればゼスト隊の時と同じく……くらいにしか思っていないだろう。

 

 まあ、結果としてトップが消えた事もあり、将来的には特務六課の設立なども可能となったが、そんなのは本当に結果論だ。

 

 何処か一つ、ピースが欠ければ終わっていた。

 

 因みにこの世界に於いては機動六課隊長陣が丸々、ミッドチルダには行かない可能性があり、そうなるとジェイル・スカリエッティの野望は完遂されてしまう可能性もあるが、そんなのはユート的にどうでも良い話でしかない。

 

 何故ならそれは、ジェイル・スカリエッティを造った管理局の自業自得だし、管理局を奉じる管理世界の人間の認識の甘さだから。

 

 ジェイル・スカリエッティの暴発は、ユートが何かをしたのでも這い寄る混沌の企みでも何でもなくて、世界の何処にでもある悲劇や喜劇の一幕でしかない。

 

 そんな事に頼まれもしないのに手を貸す程、ユートは暇ではないのだから。

 

 実質、最高評議会は二番(ドゥーエ)に壊された──最早、殺されたとは表現が出来ない存在──事で報いを受けている。

 

「それに、訓練や試験なんかでも使用されているみたいだが所謂、廃棄都市区画が放置されているとかね。犯罪の温床になりかねないだろうに。実際、悪名高きとらハ3でもそんな場所で拉致レ○プなんて云う犯罪が行われていたし……」

 

「え? そうなの?」

 

 流石に女の子である璃亜はプレイしてないらしく、驚いた表情で訊ねて来た。

 

「ああ、アリサ・ローウェルが数人の男に廃ビルへと連れ込まれて、代わる代わる輪姦(まわ)されていたんだよ。それでバレたらバレたでアリサを殺して逃げようとしたんだからな」

 

 ユートにとっては正しくトラウマを植え付けてくれたシーンで、しかも笑えない事にユートの閃姫(しと)の一人のシャロンこそが、死んだアリサ・ローウェルの転生体である。

 

 つまり、輪姦(まわ)されて殺されたアリサが怨念で連中を取り殺し、地縛霊となって〝なのはちゃん〟と久遠と出逢い、彼女に害を与えてしまう前に成仏した記憶を持ち合わせていると云う事だ。

 

 本来ならそれで成仏していたのだろうが、誰かさんによってハルケギニアへと記憶を持った侭で転生させられてしまった。

 

 それが今の──蛇遣座(オピュクス)の白銀聖騎士シャロンである。

 

「それじゃあ、時空管理局というより原作のなのは、ストライカーズでよく取り沙汰されてるティアナ撃墜事件に関しては?」

 

「随分と話が飛んだな?」

 

 呂守としては自分自身と最愛の妹、璃亜が所属をするであろう組織の長とも云えるユートの意識調査をしておきたいのだ。

 

 この世界がリリカル世界だと云うのなら、リリカルなのはに関する質問は当然の選択であろう。

 

 だからこそ特に有名だったり、或いは細かな事でも時空管理局に対する考え方を知りたかった。

 

 とはいえ、まさか漠然とした質問の一つで知りたかった事を幾つか纏めて答えられるとは、流石に呂守も予想外だったのだが……

 

 つまり、キャロのエピソードとティーダ&ティアナに関するエピソード。

 

 呂守もキャロへの扱いは論外だと思うが、果たしてティーダに関してはどの様な考えなのか?

 

 ユートはティーダは無能の謗りを受けても仕方無いと断じ、然しそれを平然と通夜の席にて幼い遺族の前で言い放つ無神経さを言及もしていた。

 

 組織全体での倫理観ではないにしても、一等空尉の上司──最低でも三佐という立場の人間がそんな程度の低い倫理観である事。

 

 スバルの話し振りから、どうやら直接的に死ねば良いなどとも口走っていたらしいから、人として最低の部類はのは間違いない。

 

 きっと大した功績も無い年功序列だけで上に昇った人間で、呂守の主観からすれば若くして一等空尉にまで駆け上がり、躍進をする部下を疎んでいたのだろうと考えている。

 

 故に、嘸や喝采を挙げた事であろうとも。

 

 飽く迄も呂守の主観でしかないが……

 

 ユートは客観的に見て、軍事組織乃至、警察組織で犯人を逃したというミスを犯したティーダがそんな風に思われる事そのものは、仕方がないと言う。

 

 現実に強盗犯を追い掛けていた警察官が、アッサリと犯人に逃げられたとしたら一般人はその警官を何と思うだろうか?

 

 それを鑑みて、ティーダが無能と言われたのは確かに仕方無い。

 

 そんな一度のミスが後にどんな被害を出すかを考えれば、この次を頑張れば良いなどと軽く云える職場でも立場でもないのだから。

 

 だが、ティアナの一件は話が別である。

 

 メタ的に云えばティアナが感情を暴走させる理由付けであり、それが故にこそ時空管理局の腐敗っ振りが浮き彫りになったエピソードとも云えた。

 

「ティアナ撃墜事件……、軍事組織や警察組織なんかに限らず、上司の命令に対する不服従は首を切られてもおかしくはないかな」

 

「ドライなんだな……」

 

「現実にはそうだろう? 『あれをやれ』という上司に部下が『やってられるかコンチクショー!』とか、そんな事を言って『なら仕方無いか』と済ますなんてあると思うか?」

 

「……無いな」

 

 場合によっては即クビ、良くて減給されるし昇進は絶望的だろう。

 

 というか、ユート本人が上司(なのは)様の命令で、この世界に来ているだけあって凄く実感的だ。

 

 それは兎も角……

 

 ティアナの場合、あの時の模擬戦は習った事を元に戦術を構築し、それで成果を見せるという意味合いがあった訳で、勝手に自主練をして習った事を活かしもしない戦術で挑んだというのがそもそもの間違い。

 

 あれは成果の確認をするのが目的であって、自分の力を誇示する場では決して無いのだから。

 

 だが、同時に現場の判断だけで勝手に粛清したのもまた正しいと云えない。

 

「だけどね、高町教導官も正しくは無かったよ。あの場合だと模擬戦を止めるまでは良かったけど、あの後に撃墜する必要は無いな。やるべきは上官、部隊長の八神はやてを交えて対応を決める事。その間ティアナは謹慎処分って処かな?」

 

 あれでは自分の言う事を聞かないティアナにキレ、私刑(リンチ)に掛けたと言われても文句は言えない。

 

「まあ、結局はその場その場で臨機応変。絶対の正解なんて普通は無いからね。ゲームみたくセーブ&ロードって訳にもいかないし」

 

「そりゃ……な」

 

「それにアニメを視聴してからの意見なんて、所詮はコロンブスの卵だよ」

 

 知った後なら幾らでも周りで『自分ならこうした』と言える。

 

 だけど若し、本当に現場で決断を求められたなら、そいつは正しく判断を出来るだろうか?

 

「ティアナの一件、視聴をした立場だからこそこうして言えるだけだね。後から訳知り顔で言ってもな? 意見を求められたから答えはしたけど、意味のある事でも無いだろうに」

 

 呂守にとってティアナのエピソード自体は確かに、意味のある事では無い。

 

 単に上司になるであろうユートが、その辺をどんな風に考えるのかを知りたかっただけである。

 

「取り敢えず最後に訊いておきたいんだが……」

 

「何だ?」

 

「闇の書事件に関しては、どうするんだ?」

 

「ジュエルシードの時と変わらない。時まで待つ気は一切無いんでね」

 

「っ!?」

 

 ユートは言い放つのだ、原作に沿う心算は無いと。

 

 未だに六月で、ユートは先の宣言通り八月になったら闇の書に関する事を終わらせる気であった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話:紹介 ユートの聖騎士達

 今回は謂わばおさらい回になり、細かな会話に関してはカットしています。





.

 ギリシアはアテネの山奥の更に向こう側、其処には一般人の誰も気付けず入れない様に、ちょっと特殊な結界を張ってある。

 

 結界の基点は山の頂上、アテナ神殿と呼ばれる場所の巨大な女性の像。

 

 然し、像そのものが基点なのではなく、その台座にこそ基点を設けてあった。

 

 また、この結界は転移を妨げる仕掛けが施されている為に、アテナ神殿の在る頂上まで行くには十二宮と呼ばれている宮殿を、一つ一つクリアしていかなければならない。

 

 この地を人は聖域(サンクチュアリ)と呼んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「初めまして、私は牡羊座・アリエスのシエスタ」

 

 開いた口が塞がらないといった体な相生呂守。

 

 目の前に【ゼロの使い魔】のヒロインの一人にしてメイドさんな筈の少女が、牡羊座の黄金聖衣を纏って白羊宮の入口に立っているのだから無理もない。

 

 黄金聖衣とは云ったが、実は色が黄金聖衣の耀きではなく、寧ろ海将軍の鱗衣みたいな彩りだ。

 

 黄金聖衣はまるで太陽の耀きの如く燦々とした彩りをしているが、鱗衣は少しくすんだ感じの……黄金ではなく金色と呼び分けたくなる程に違いがある。

 

 同じ色なのにきらびやかさに差があると云うのか、兎にも角にもシエスタが纏う牡羊座は、本物の牡羊座と耀きが違った。

 

 青銅聖衣や白銀聖衣こそ彩りは同じだが、やっぱり太陽の光を永年吸収してきた聖衣と、最近になって造られた聖衣とでは差が付いたのかも知れない。

 

 だけど、相生呂守と相生璃亜が驚いたのは黄金聖衣がどうのではなく、目の前のシエスタ本人に対しての驚愕であった。

 

「ど、どうして【ゼロ魔】のシエスタが此処に?」

 

「そりゃ、ハルケギニアから連れ出したからな」

 

「「ハァ?」」

 

 意味不明だと謂わんばかりに二人は驚きの声を揃えて上げ、説明をしたユートと今も微笑みを浮かべているシエスタを交互に見る。

 

「そもそもだ、僕が本当に転生をした世界は【ゼロの使い魔】……ハルケギニアなんだよ。其処で生きて、そして死んだ後でまた新たに【ネギま!】の世界観に再誕をしたんだ」

 

「うわ、何つーか……って事は何か? ゼロの使い魔や魔法先生ネギま! なんかのヒロイン喰いまくりって事なのか!?」

 

「人聞きの悪い事を言う。間違いじゃないが、介入をしていたら自然と増えたんだから仕方ないだろ?」

 

 【ゼロの使い魔】など、原作介入をしなければ仮に這い寄る混沌の事が無かったにせよ、間違いなく自分にも波及するのだ。

 

 ならば介入した方が御得と云うもの。

 

「さて、それじゃあ十二宮を登るぞ」

 

「うっ! 〝これ〟を登るのかよ?」

 

 嫌そうに黄金十二宮(ゴールド・ゾディアック)の全体を見上げ、溜息を吐きながら両親や妹を見た。

 

 三人もタラリと汗を流している辺り、十二宮の踏破に難色を示している様だ。

 

「僕の仲間に紹介するのと同時に、君らの働き口を見せる為でもあるんだが?」

 

「判ってるけどよ……」

 

「まあ、金牛宮は無人だ。スルーしても構わないだろうし、魔法で一気に突き進むのも良いか。全員、近くに寄るように」

 

「え? 金牛宮って無人なんだ?」

 

 璃亜は首を傾げた。

 

「まだ決まっていないし、聖衣をオブジェ形態で置いてあるだけだよ」

 

 因みに、アリシアが未だに聖衣を受け取っていないが故に、魔羯宮の山羊座聖衣(カプリコーン・クロス)も同じくである。

 

「現在、黄金聖騎士は十人までが揃っている。それは君ら二人の獅子座や射手座もそうだ」

 

「へ? マジか?」

 

「とはいえ、獅子座はそれなりに忙しいから別に任命をするのも有りだと思う。それがこの世界の人間なら言う事無しだろう」

 

 獅子宮の守護をしている獅子座(レオ)聖騎士(セイント)は、立場的に忙しい身の上。

 

 いつもこの世界に詰める訳にはいかなかった。

 

「さて、行くぞ……ロラーザロード!」

 

「な、んだと!?」

 

 ユートが唱えたのは明らかに人語ではなく、効果を発する為の【力在る言葉】を呂守は識っている。

 

 果たして、呂守の識る通りの魔法の効果。

 

 不動の筈の地面が突如として動き出し、進行方向に併せて空気が動く為に可成りのスピードがあるにも拘わらず風を感じない。

 

「これ、【スレイヤーズ】でミルガズィアが使っていた便利魔法……」

 

「まあね、竜言語で唱えた呪文で効果を成す魔法だ」

 

 【スレイヤーズ】世界、カタート山脈に住んでいる黄金竜(ゴールデンドラゴン)の長のミルガズィア。

 

 駄洒落で周囲を凍結させる特技? を持っていると云う通称【オヤジギャグ・ドラゴン】とか。

 

 竜族は神々が竜の姿をしている事から神族として数えられており、降魔戦争で水竜王ラグラディアによってカタート山脈の山頂へと氷付けで括られ、動けない【レイ・マグナス=シャブラニグドゥ】の監視を行っている。

 

 そんな黄金竜の長老格なミルガズィアが、人間である主人公──リナ・インバースに何度か接触をしたのも魔族絡み。

 

 その中でミルガズィアが披露した魔法の一つこそ、ユートが先程に唱えたモノ……ロラーザロードだ。

 

 不動の地面を他との歪みを生む事なく動かし、しかも風も同時に操っていたのか進行方向から風の抵抗を一切感じない、人間であるリナ・インバースからすれば高度な魔法も、だが然しミルガズィアからしたならちょっとした便利な生活魔法でしかなかった。

 

 スピード感も風が感じられないから余り無く、何と無く車の中から外を観ている感覚に近い。

 

 ほんの僅かな時間で次の金牛宮に着き、そしてあっという間に通り越す。

 

 金牛宮内には牛を象った金色のオブジェが鎮座し、まるで入口を睨み付けているかの様だったと云う。

 

 第三の双児宮──

 

「双児宮は僕が教皇と兼任をしている。つまり此処に僕が居る以上は無人だから通り抜けるよ」

 

 内部にオブジェは無い。

 

 不用心にも見えようが、実は十二宮には特殊な結界が張られた場所が有る。

 

 教皇の間には神々すらも迷わせる迷宮、処女宮には【四門】という四つの門を強制的に選ばせる結界。

 

 そして双児宮にはやはり迷いの結界があり、守護者の小宇宙によって迷宮と化すのである。

 

 勿論、今は通り抜けるのが目的だから迷宮など展開されておらず、アッサリと双児宮を抜けてしまう。

 

 第四の宮は巨蟹宮。

 

 本来は死臭の漂う宮な訳だが、此処を守護している蟹座の黄金聖騎士は本物のキャンサー、デスマスクやデストールみたいな悪趣味は無く、彼らが守護してた時みたいな死の顔も無く、死臭もしない。

 

 ロラーザロードを解除して中に入った呂守と璃亜は拍子抜けし、それと同時に胸を撫で下ろしていた。

 

「あら、お帰りユート」

 

 迎えたのは蟹座の黄金聖衣を纏い、マントを背中に羽織る金髪ボブカットに碧い瞳を持つ十四歳くらいの美少女だ。

 

「彼女が蟹座・キャンサーのエルザ。二人にも解り易く言えば【ゼロの使い魔】のサビエラ村で悪さをしていた吸血鬼……だな」

 

 茫然自失となる二人。

 

 相生新也とアイラの方は事情を知らないから特には変わらないが、ゼロの使い魔を識る呂守と璃亜はそうもいかない。

 

 見た目は成長したからだと考えるとして、此処に居ると云う事はつまりエルザもユートが性的に喰ったという証左であり、サビエラ村から連れ出したという事でもある。

 

 それは事情だ。

 

 ハルケギニアの吸血鬼は人間の血液でしか腹は満たせはせぬと云われてたが、然し【烈風の騎士姫】に於いて血液に近い成分を含む体液ならある程度は腹も満たされると明言された。

 

 故にユートはエルザを村から出し、自分の許で飼う様な形と相成る。

 

 血液と汗、更には唾液や汗と同じ成分の小水、全ての要素を含む筈の精液などを提供するのと引き換えにして、彼女の協力を取り付けるべく。

 

 吸血鬼というのは基本的に個人主義らしく、エルザの様な子供──人間の暦的には数十年を生きている──すら独りで過ごす。

 

 少し例外的にダルシニとアミアスの双子の吸血鬼、この二人は姉妹で行動をしており、姉妹仲も可成りの良好さを見せている。

 

 それは兎も角、エルザは本来だとタバサにより討たれる筈の謂わばその場限りの一発キャラだと、呂守はそう考えていた。

 

 確かに二次ではエルザが救われる噺も無くはない、だが然し現実とは非情なるものだとも知っている。

 

 エルザは吸血鬼であり、軽い食人鬼に近い。

 

 人間こそが食料なのだ。

 

 原作──【タバサの冒険】でもエルザは、吸血鬼が人間の血液を吸うというのは人間が牛や豚、植物などを食べるのと同じ事であると主張をし、タバサは自分が人間であるが故に相容れない吸血鬼のエルザを討った訳である。

 

「さて、次に行こうか」

 

「なあ……」

 

「何だ?」

 

「宮の入口まであの魔法を使うのは駄目なのか?」

 

「……まあ、時間の短縮は必要か」

 

 呂守の主張は受け容れられて、ホッと安心をしたのは体力が並の相生新也。

 

 男として親として、妻や娘に負けているのは悔しいものがあったが、意地を張る場面でもないのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ロラーザロードで次の宮……獅子宮に着く。

 

「あらあら、御待ちしておりましたわ」

 

 再びがっくんと顎が外れんばかりに口を開け放ち、目の前の人物を見つめた。

 

 女性用の調整こそ施されていたが、明らかに獅子座の黄金聖衣の意匠を持った聖衣を纏い、ほんわかとした雰囲気で出迎えてくれたのは、長く艶やかな黒髪を橙色のリボンでポニーテールに結わい付けた紫の瞳の女性で、聖衣の胸部が可成りの自己主張をしているのに呂守の目が逝く。

 

「わたくしは、ユウ君から獅子宮を預からせて頂いている獅子座の朱乃ですわ」

 

 名乗られたからには他人の空似では有り得ないし、間違いなく【ハイスクールD×D】に於けるヒロインの一人、リアス・グレモリーの【女王】の姫島朱乃。

 

 取り敢えずは、呂守達も礼儀に則り名乗っておく。

 

「朱乃の聖衣は人工神器に組み込んである。こいつは禁手状態な訳だね」

 

「人工神器って、アザゼルが研究をしていた?」

 

「ああ、アザゼル〝も〟確かに研究していたな」

 

 ユートの場合はマジックアイテム感覚で造っていた訳で、アザゼルとも意見の交換などをしている。

 

「因みに、朱乃は上級悪魔としてレーティングゲームに出たり、領地開発なんかで元の世界に帰る事も多いからね。獅子宮は基本的に無人だったりする」

 

 極稀に居る程度だ。

 

「んじゃ、次の処女宮だ」

 

「なあ、乙女座(バルゴ)は誰なんだよ?」

 

「着いてからのお楽しみ」

 

 そんな遣り取りをしながら第六の処女宮に向かう。

 

 処女宮……

 

 本物の聖域なら神に近いとか云われる者がその任に就くが、此方ではある意味で最も神に遠い。

 

「やっと来たか」

 

 腕組みをしてふんぞり返るのは、見た目には二十代後半くらいの女性。

 

 乙女座の聖衣を纏って、金糸の如くサラサラな髪の毛を棚引かせている。

 

「雪姫!?」

 

「ほう? 我が仮の名を知るという事はユートと同じという訳か?」

 

 それは【UQ HOLDER】の雪姫……というよりは、特殊な年齢詐称薬を飲んで大人の姿を執っているエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 ユートの再誕世界に於ける世界線に、彼の組織なぞ存在してはいはいし、当然ながらネギの孫に近衛刀太も存在しない。

 

 後者の理由は次の天秤宮にある。

 

「【ゼロ魔】に【ハイスクールD×D】に……今度は【ネギま!】かよ!?」

 

 ツッコミを入れる呂守。

 

「アンタ、幾つの世界を巡ったんだ!?」

 

「さあ? 少なくとも十の世界じゃ利かないな」

 

 とんでもない話だった。

 

 何処ぞのマゼンダカラーも大概だろうが、ユートはそれに輪を掛けている。

 

 第七の宮の天秤宮……

 

 聖闘士なら善悪を計る要の者だが、其処には聖衣を着た大和撫子が居た。

 

「おお、ユウ君や!」

 

 事前に来る事を話していたからか、その女性は嬉しそうな表情で抱き着く。

 

 スリスリと頬擦りをしてきて、柔らかな頬の感触が実に気持ち好い。

 

 何しろ、閃姫の肉体年齢は基本的に一六歳くらいで止まる為、年輪をどれだけ重ねてもそれを感じさせたりはしないのだ。

 

 でも今は取り敢えず……

 

「まずは自己紹介だろ?」

 

「はいな。ウチは近衛木乃香云います。天秤宮を護っとるんよ?」

 

 【UQ HOLDER】が存在しない理由、つまり近衛木乃香はユートの制御下に在ったという事だ。

 

 仮に近衛刀太が木乃香とネギの孫だとして、ネギが木乃香と結婚出来る状況でなければ生まれない。

 

 木乃香が別の誰かと結ばれて、ネギも別の誰かと結ばれての孫だったにせよ、木乃香の子供とてユートの許に居たなら、当然ながらその可能性も無くなる。

 

 ユートは別にネギを嫌っていないし、微妙ではあっても兄弟仲が殊更に悪かった訳でもない。

 

 まあ、先生をやっていた最中は色々と有ったが……

 

 とはいえ、ネギは基本的に火星の新生ウェスペルタティア王国の王子をやっていたし、ユートと木乃香の子供がネギの子供と接触をする機会は無かった。

 

 故に、近衛刀太がどんな形で誕生をしたにしても、この世界線で生まれてくる可能性は皆無。

 

 当然だけど、そうなれば超 鈴音の誕生も有り得なくなる訳だが、だからといって今現在に存在をしている彼女が忽然と姿を消してしまう事も無いだろう。

 

 何故か? それは彼女が一巡目の世界線上に生まれた存在であり、元より二巡目の世界線とは無縁であったからに他ならない。

 

 何しろ、原典世界に於いては当の本人が【渡界機】なる平行世界を渡る機械を造り、その存在を肯定してしまっているのだし。

 

 【航時機】と【渡界機】で無敵と化した超 鈴音、『もう何も怖くない!』と言い放てよう。

 

 言い放ったらきっと……マミられるだろうけど。

 

 一通りの説明と一通りのイチャイチャが終わって、一行は再び十二宮を進む。

 

 飽く迄もロラーザロードによって。

 

 第八の宮・天蝎宮。

 

 其処には地味目な茶髪をロングにした少女が、蠍座の黄金聖衣を纏って立っており、両横には呂守も璃亜も知らない顔が居る。

 

 だけど、クールホワイトの聖衣と輝翠の聖衣には見覚えがあった。

 

 キグナスとドラゴン。

 

「えっと、誰だっけ?」

 

「酷っ!」

 

 呂守から申し訳なさそうに訊ねられた少女は、涙目でガーン! とショックを受けてしまう。

 

「……蠍座・スコーピオンのケティ。本名はケティ・ド・ラ・ロッタだよ」

 

 ユートが言う。

 

「おお!」

 

 どうやら思い出したらしい呂守は、ポン! と左掌を右拳の横手で打った。

 

 まあ、思い出せなくても無理はあるまい。

 

 原作での出番は僅かで、アニメでも第一期の第一話以降で出番は無かった。

 

 謂わば、二つ名とフルネームが明かされた中途半端なモブ娘なのである。

 

 両横の二人も口を開く。

 

「私はドラゴンのシエラ」

 

 シエラ……栗色の長い髪の毛をポニーテールに結った碧い瞳の少女。

 

「私がキグナスのミイナ」

 

 ミイナ……緑色の髪の毛を短く切り揃えている茶色の瞳の少女。

 

 二人は長年をケティ個人に仕えるメイドだ。

 

 昔はもう一人の仲間が居たのだが、とある事件にてケティを含む四人が浚われた際に、ストーカー気質な変態によって犯された挙げ句の果てに殺さた。

 

 あの誘拐された日の変態野郎の無情、彼女の無念、そして自分達の無力は決して忘れはしない。

 

 罪悪感はある。

 

 自分達だけが好きになった人に抱かれ、力を与えて貰ったのだから。

 

 だからこそ忘れはしないというより、きっと忘れる事なんて出来ないというのが正解だろう。

 

 第九番目の人馬宮に向かう一行を見送りながらも、ケティとシエラとミイナはいつもの通り、忘れられない過去を追憶していた。

 

 

.




 尚、験が悪いという理由で天蝎宮と人馬宮の間には蛇夫宮を造っていません。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話:終わりの始まり 黄金十二宮制覇

.

「なあ、蛇夫宮は?」

 

「無いよ、そんな験の悪い宮なんか」

 

「……そりゃそうだ」

 

 納得したのか、呂守は頷きながら表情を緩ませる。

 

 蛇夫宮──それは蛇遣座(オピュクス)の黄金聖闘士の宮であり、十三宮の一つに当たる天蝎宮と人馬宮の間に存在していたモノで、伝説の魔宮とまで呼ばれていた不吉の象徴。

 

 現代では既に打ち砕かれており、蛇遣座の聖闘士も階級を落とした白銀聖闘士のみとなっている。

 

 最も神に近い男が乙女座の黄金聖闘士なら、聖域で唯一人『神と呼ばれた男』こそが蛇遣座(オピュクス)の黄金聖闘士。

 

 前聖戦の時代、その存在を教皇すら恐れた蛇遣座の黄金聖闘士だった。

 

 白い蛇を使い魔として寄越し、牡羊座のシオンへと話し掛けたりして色々混乱を呼んだら存在でもある。

 

 聖域で最も高貴なる存在とも云われ、アテナでさえ弑逆せんとした。

 

 そんな黄金聖闘士の宮は仮令、そんな者がユートの使徒には居なくても験が余りにも悪かろう。

 

「んー、じゃあ蛇夫宮が無いんなら蛇遣座の黄金聖闘士も居ないのか?」

 

「いや、蛇遣座は居る」

 

 言うと同時にユートが指差した方を視ると、其処には中高生くらいの少女。

 

「ア、アリサ・バニングス……だと?」

 

 それは明らかにアリサ・バニングスと同じ顔だが、呂守の洩らした呟きに璃亜は眉根を顰めた。

 

「違うよ、兄さん」

 

「違う?」

 

「うん、アリサちゃんって金髪碧眼な一般的な欧米人って容姿じゃない。だけどあの子は亜麻色の髪の毛」

 

「そういや……」

 

 目の前の少女は碧眼ではあったが、金髪ではなくて亜麻色の髪の毛である。

 

 着ているのは女性用へと調整が為された黄金聖衣、二次的な形でシャイナが纏っていたゲームの蛇遣座(オピュクス)聖衣とはまた別物の様だ。

 

「初めましてね、私の名前はシャロン。蛇遣座、オピュクスのシャロンよ」

 

 初めて会う四人に話し掛ける少女──シャロン。

 

「シャロン? アリサじゃなくてか?」

 

「それは昔の名前ね。今は余り思い出したくない忌々しい過去の名前……唯一、あの頃の事で楽しかったのはなのはと久遠と出会った事かしら?」

 

「久遠って、とらハ3!」

 

「流石に理解したか」

 

 シャロンは苦笑する。

 

 とらいあんぐるハート3というPCゲームが在り、その中のおまけシナリオに高町なのはと久遠が、幽霊のアリサ・ローウェルと出逢うというものがあった。

 

 死んだ理由は屑共に廃棄ビルに拉致られた挙げ句、代わる代わる輪姦された後に警察らしき者が現れた事への焦りから、口封じと称して殺害された事。

 

 エロゲらしい最後と云えなくもないが、余りに余りな過去だと云える。

 

「本来なら成仏していた筈だが、ハルケギニアに転生をしてきたんだ。シャロンという別人としてね」

 

 ユートみたいに名前まで生前と同じでなかったが、顔形は生前の通りだったが故に、シャロンがアリサ・ローウェルだと気付いた。

 

「普段は白銀聖騎士(シルバーセイント)として活動してる。いざという時にはこうして黄金聖衣を纏うって訳だね」

 

「な、成程……」

 

 ユートの説明に呂守は頷いて、璃亜もシャロンの方を仰視している。

 

「じゃあ、シャロン。僕らは先に進むから」

 

「うん、じゃあね」

 

 駆け足で──ロラーザ・ロードを使っているが──進む為に挨拶もそこそこに次の宮へと行く。

 

 ある程度の時間は掛けたものの、本来なら蛇夫宮が在った場所からはそれなりに近いからか、人馬宮が割とすぐに見えてきた。

 

「人馬宮。俺の射手座(サジタリアス)は基本的には此処なんだよな」

 

「確かにそうだな。射手座の相生呂守(アイオロス)

 

「ブフッ!」

 

 ユーキが吹き出す。

 

 呂守、それに同じ立場な璃亜は憮然となった。

 

「此処はどの原作から? ゼロ魔? D×D? 或いはカンピオーネ? それともネギまか?」

 

「逢ったのはハルケギニアだったけど、元々は僕らと同じ世界の出身だよ」

 

「それって、転生者か?」

 

 【転生者】の部分は両親に聞こえない様に呟くと、ユートはコクリと首肯。

 

 人馬宮の守護をしているのは、嘗てユートの本来の世界で交通事故から救おうとして……諸共に死ぬ羽目になった少女。

 

「まあ、気になるか。位置的に自分の場所だしね」

 

 人馬宮に入ると、金髪の少女が射手座(サジタリアス)を纏って立っていた。

 

「耳が……長い?」

 

「エルフ?」

 

 呂守も璃亜も驚愕する。

 

 金髪碧眼は良いとして、黄金聖衣も良い、肌の白さも白色人種っぽいだけだから問題は無い、ただ一ヶ所だけ……耳が横に長いという事実が無ければ普通だと断定出来たろう。

 

 ハルケギニアに転生した長い耳の少女、それは即ちエルフという亜人種であるという事。

 

「彼女はエルフだからね、ハルケギニアではまだ生きているんだ。出来ればそちらに専念させたい。呂守が射手座としていざって時に人馬宮を守護するのもアリって訳だ」

 

「ユート、この子達?」

 

「ああ。特に男の方は君の代わりになれる……かも」

 

「かも……なんだね」

 

 クスリと笑う。

 

「初めまして、私の名前はシーナ。射手座・サジタリアスのシーナだよ。那由多椎名だったんだけどね」

 

「初めまして、一応は射手座・サジタリアスの呂守……になるのかな?」

 

「私は獅子座・レオの璃亜です」

 

 一応は持っている聖衣で名乗った二人だったけど、セブンセンシズに目覚めていない状況で、聖衣だけを持つ身としては……しかも双子座のユートに敗れたばかりで名乗り辛そうだ。

 

「だから、相生呂守(アイオロス)相生璃亜(アイオリア)って名乗れば?」

 

「「名乗れるかーっ!」」

 

 ユートのからかい半分な言葉に、呂守と璃亜は二人揃って叫んでいた。

 

 仁・智・勇に秀で、何事も無ければ海皇や冥王との聖戦前に教皇の座に就いていたであろう偉大な聖闘士であったアイオロス。

 

 そんなアイオロスの実弟にして、勇猛果敢な雄獅子の化身の如く強さと分け隔てない優しさを合わせ持つ黄金の獅子アイオリア。

 

 各々、人間であるからには欠点だって有ったのだろうが、それを補って余りあるモノがあると感じた。

 

 その名前を名乗るには、自らが余りにも弱く不甲斐ないと知っている二人は、そっちの意味で恥ずかしくて名乗れない。

 

 まあ、ユートにもそんな気持ちは解らないでもないと思ってはいる。

 

 仮面ライダー。

 

 年齢的にユートが生で観たのは平成仮面ライダーの仮面ライダークウガから。

 

 完全シリーズ化しているクウガからを平成として、同じく平成に作られた筈の真・仮面ライダーやZOやJは括りとして昭和ライダーの一角となり、BLACKやRXはギリギリで昭和ライダーとなる。

 

 何しろRXの放映の時期が昭和六三年だから。

 

 ユートの嘗ての誕生日は平成五年の五月二一日で、死亡したのが平成二五年。

 

 とはいえ、仮面ライダーBLACKやRXは十作目の仮面ライダーディケイドに登場して以来、割と気に入っているライダーだ。

 

 仮に転生した後の姿形が南 光太郎だったとして、そうだからといってユートが果たして『南 光太郎』を名乗るか? といえば、名乗る筈もない。

 

 理由は呂守と璃亜の思いと似ているだろう。

 

 因みに、ユート的に気に入っているのはBLACKへの変身シーン、光太郎がギリギリギリと拳を握り締めた際の音を鳴らす所。

 

 変な部分が好きなものではあるが、ディケイドを観て以来は偶にBLACKの変身シーンを真似たりもしたものだった。

 

 更に云うと、南 光太郎を名乗りはしないのだが、仮面ライダーBLACKやRXに変身はする。

 

 【魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)】により創造した聖魔獣を着込む形だが、確りベルトを出して指貫手袋をギリギリギリといわせながらポーズを決めて、仮面ライダーBLACKに成るのだ。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 一頻りシーナと会話をした呂守は、どうやら色々と触発をされたらしい。

 

 悪くはない。

 

 シーナは死亡時期が幼年期だったから、前世の知識など在って無きが如しだった訳だが、ハルケギニアに於ける戦闘の経験は間違いなく呂守や璃亜には貴重な財産となろう。

 

「じゃあ、そろそろ次の宮に向かおうか」

 

「十番目、魔羯宮か。其処は誰が守護してるんだ?」

 

「誰も? 山羊座・カプリコーンには候補が居るだけだからね」

 

「無人の宮か。候補ってのは誰が?」

 

「アリシア・テスタロッサだよ。妹が原作で【全てを断ち斬る閃光の刃】を目指す資質を持っていたから、正しく全て斬り裂く聖剣がピッタリだろうね」

 

 リニスが曰くフェイトの資質らしく、それに合わせる形でバルディッシュを造ったのだと云う。

 

 確かユートの記憶にそういったエピソードがある。

 

 故に、アリシアが小宇宙に覚醒した上にセブンセンシズに駆け上がった時に、ユートは山羊座を考えた。

 

 一度は死んでしまって、然し小宇宙に目覚めた関係で二十数年を地上に在り、甦ったアリシア第八感覚の阿頼耶識を体験した。

 

 老師……天秤座が黄金聖闘士の童虎が曰く、人間は死の間際たるその刹那にてエイトセンシズに至る。

 

 その侭では普通に死に、目覚めたという自覚も持たないが、アリシアは甦る事で一段階下のセブンセンシズに覚醒をしたのだ。

 

「となると、魔羯宮は素通りするのか?」

 

「無人の宮でゆっくりしたいなら止めないけど?」

 

「いや、宝瓶宮に行こう」

 

 何が悲しくて古めかしい外装内装の無人な建物へと長々と居なければならないのか、それに他人のモノだとはいえ美少女を見れた方がまだ目の保養だろう。

 

 話し合いにもならなかった会話も終わり、第十の宮魔羯宮は素通りをした。

 

 其処にはオブジェ形態の山羊座聖衣(カプリコーン・クロス)が寂しく佇み、何だかとっても哀愁を誘ったのだけど気のせいか?

 

 ロラーザ・ロードによる快走は続き、第十一番目の宮たる宝瓶宮が見える。

 

 入口には白に水色で裏打ちされたマントを棚引かせつつ、何処か丸みを帯びた女性的な形状の黄金聖衣を身に纏う──青色なショートヘアに眼鏡を掛けた小柄な少女が立っていた。

 

 見覚えがある容姿。

 

 ユーキである。

 

 だが然しユーキは表情がコロコロ変わるのに対し、無表情とは云わないまでもクールビューティなもの、更にユーキはロングヘアーをポニーテールに結わい付けていた。

 

 何よりユーキは自分達のすぐ傍に居る。

 

「タバサ……か?」

 

 即ちそれが答え。

 

「そう、水瓶座・アクエリアスのタバサ。若しくは、シャルロットだね」

 

「確かにタバサは氷系魔法を得意としてる。だけど、確か基本的に十二宮に居るのってアンタの女だろ?」

 

「……言い方はアレだが、間違いじゃないな」

 

 シエスタ、エルザ、朱乃やシャロン、エヴァンジェリン、木乃香にケティ達、シーナに目の前のタバサ。

 

 ユートの寵を受けた者達ばかりなのは確かだ。

 

 中にはその世界に生きる最中に子を成し、母となった者だって居る訳だし。

 

 呂守は『あんなロリっ娘とあんな事やこんな事を』……とか呟くが、ユートは全力全開手加減抜きに無視をした。

 

「……ユート、この子達? 聖域を任せるのは」

 

「場合によりけり……な」

 

「……そう」

 

 タバサは相生一家へ向き直ると……

 

「……私の名前はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。水瓶座・アクエリアスのタバサとも云う」

 

 軽く名乗る。

 

「あ、ああ。宜しくな」

 

「宜しくお願いします」

 

 基本的に代表をして挨拶を交わすのは相生兄妹。

 

 とはいえ、新也とアイラも後から普通に挨拶くらいはしていた。

 

 タバサは二人きりの時、シャルロットという名前の愛称として『シャロ』と呼ばれるのを好む。

 

 従姉であるイザベラが、愛称で『ベル』と呼ばれる様になった可愛らしい対抗意識というものだろう。

 

 嘗ては、ユートから父親の形見の杖が折られた後に貰った【偽・瞬撃槍(ラグドメゼギス・レプリカ)】を手にしていたが、現在はそれを返還している。

 

 実質、黄金聖衣さえ纏えば魔法は普通に使えたし、技の出し方の問題から無い方が良かったのだ。

 

 ユートが再転生をして、記憶が戻った時に【偽・瞬撃槍】を使えたのは、既に返還をされていた為。

 

 挨拶とお話も終わったらしく、満足気な二人を見たユートは次に往くべく促して魔法を使う。

 

 ロラーザ・ロードにより再び駆ける。

 

 暫くして視界に入ってくる建物。

 

「あそこが最後の宮となる双魚宮だ。守護するのは、魚座・ピスケスのモンモランシー。二人は知っているだろうが、ハルケギニアではモンモランシ伯爵家に生まれた【香水】のモンモランシーだ」

 

「またゼロ魔からかよ? ゼロ魔率がたけーな」

 

 シエスタにケティにタバサにエルザにモンモランシーだし、確かにゼロ魔率が非常に高いのはユートにも決して否定出来ない。

 

「元々、ハルケギニアの方で結成して現在も大半を残して存続してる十二宮騎士団(ゾディアック)が聖域の抜本的な骨子だ。その分、ゼロ魔率は高いよ」

 

 そんな会話をしている内に双魚宮に入る。

 

 其処には金髪ドリル娘、優雅に佇みながら紅い薔薇を指先で弄ぶ。

 

「初めまして。私の名前はモンモランシー・マルガリータ・ラフェール・ド・モンモランシ。魚座・ピスケスのモンモランシーよ」

 

 ゼロ魔を識る二人は何と無く思った。

 

『ギーシュっぽい』

 

 女の子? だし、黄金聖衣を纏うから胸元をはだけたりはしていないのだが、見た感じ自己陶酔っぽいのがアレだし、薔薇を指先でクルクルと回しているのが何ともはや。

 

 だけどタバサ……だけではなく、今までに見てきた十二宮の守護者に共通している点として、ユートを見つめる瞳に熱が籠っていると呂守は感じていた。

 

 それはきっと家族と違う意味で愛しい者を見る瞳、モンモランシーも下の宮に居た黄金聖騎士(ゴールドセイント)と同じ、ユートに不断の愛を誓っている。

 

「あ、あのさ……」

 

「何かしら?」

 

「何であいつなんだ?」

 

「?」

 

 モンモランシーは意味が判らないと小首を傾げた。

 

「ほら、あいつってメイドや他の貴族……処か吸血鬼にだって手を出してるぞ。あんたは何と云うかさ……浮気とか嫌って感じがするって思ったんだ」

 

「ああ、そりゃ……ねぇ。トリステイン貴族は基本的に女に貞淑さを求めるわ。代わりに女も恋人や夫には自分だけをって思うもの。けど、私の場合はちょっとアレだったのよ」

 

「アレ?」

 

「出逢いの最初は最低最悪な印象ね。借金の形に私を求められたんだもの」

 

 そう言いながらも懐かしい想い出だと、モンモランシーの表情が語っている。

 

「十万エキューもの借金。ユートのド・オルニエール家にお父様がそれを申し込んで、受ける代わりに私をな〜んて言われたのよね。後から考えれば十万エキューの価値って言われた様なものだけどね、借金の形にナニをされるのかって当時は憤ったわ」

 

 クスクスと愉しげに笑うモンモランシーに陰りなど無く、寧ろ誇らしい事の様に嘗てのハルケギニア時代を語っていた。

 

「ま、結局は御家存続の為の人身御供? ユートの下に身を寄せたわ。修業修業の毎日に新しい香水作り、実際には苦しくも楽しかった毎日、ユートには好きな女の子が居たし、そういう関係にはならないと思っていたけど、何時しか私は彼に惹かれていったわ」

 

「えっと、ギーシュは?」

 

「ギーシュ? 顔くらいしか取り柄が無かったのに、惹かれると思う? 胸元は変にはだけていたしね? 薔薇の扱いは参考になったのかしら?」

 

 ギーシュに対して余りにも辛辣で驚く。

 

「そういえば、一年の初めに告白されたわね。ユートを引き合いに断ったけど」

 

「うわ……」

 

 完全な原作ブレイクだ。

 

「借金に関してはアルビオン戦役の後、私がユートに抱かれて帳消し。それに、水の精霊との交渉の御役目への復帰をユートにして貰ったし、全部が終わったら私がユートの子を生んで、モンモランシ伯爵家の後継ぎにしたからね」

 

 話には出さなかったが、子を成す為には毎晩毎晩の情事を一夜で二十回以上を熟し、それを一年以上も頑張って漸くだったりする。

 

 それだけに懐妊をして、徐々にだが確実に大きくなっていくお腹、それを優しく撫でるのが好きだった、ユートが愛しそうに撫でてくれるのが嬉しかった。

 

「そ、そっか……」

 

 納得したのか? 呂守もこれ以上は訊こうとしなかったが、何だか甘ったるい話になったからか『ブラック珈琲が欲しい』と呟く。

 

「それじゃ、教皇の間に行こうか」

 

 モンモランシーとの会話も終わり、遂に一行は教皇の間へと向かう。

 

 尤も、そこを治めているのはユートなのだが……

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話:宴 一つの区切りと新たな展開

 黄金聖騎士(ゴールドセイント)の紹介を終えて、ユート一行は【教皇の間】と呼ばれる双魚宮の先へと向かった。

 

 漓亜は『そういえば』と思い出す。

 

 まだ兄には告げていなかったが、聖域の教皇というのは創設者たる緒方優斗の事ではなかったか?

 

 そう、ユートは漓亜に対してアイラと新也を迎えに行く際の話で、既に教皇である事を両親を交えて聞かせている。

 

 呂守は居なかったから、ある意味でハブられた形。

 

 とはいえ、すぐに知れる事だったし『まあ、良いか』で済ましてしまう。

 

 ユートを見つめる漓亜、【魔法少女リリカルなのは】の世界に降り立つ転生者にして、然し数多の世界にも干渉していた転移者(トリッパー)でもある。

 

 その年齢は本人ですら、トータルでは覚えていないと言わしめ、聖域はユートが独自に創った私設武装集団【十二宮騎士団(ゾディアック)】を基にしているのだと云う。

 

 何処のソレスタルビーイングだと訊きたい。

 

 その起源はハルケギニアに初めての転生をした際、トリステイン王国に創った組織らしく、幾つかの部隊に分かれているのだとか。

 

 余り詳しくは聞いていないが、聖騎士(セイント)は聖闘士を基にして独自開発した聖衣で武装しており、今は殆んど所属してないが男も居た様だ。

 

 聖衣を造る……修復師の存在は知っているのだが、造れる人間が居るとは?

 

 何でもユートは再誕世界で聖衣創成師で、聖域に在る聖衣は双子座以外の黄金聖衣を除くと、全てユートと牡羊座の貴鬼が造った物に変えているとか。

 

 双子座の黄金聖衣に関しては、アテナ──城戸沙織からユートに贈られた為、代わりの双子座聖衣を聖域に置いてきたらしい。

 

 形としては交換だ。

 

 それ故という訳でもなかったが、今の双子座聖衣にはこれまでには存在していなかった秘密が在る。

 

 そして、その秘密の所為で形状もそれなりに変化せしめていた。

 

 尤も、呂守や漓亜が見て双子座聖衣だと判る程度の変化でしかないが……

 

 あのバケツ……もとい、マスクも大きく形状を変えてはいない。

 

 とはいえ、強度や輝きはこれまで以上である。

 

 

 閑話休題

 

 

 ロラーザ・ロードによる移動も終わりに近付く。

 

 目の前には今までの宮に比べても荘厳な雰囲気で、重苦しい空気に包まれているみたいだ。

 

「教皇の間……か」

 

「そう、此処が聖域を統べる謂わば中枢部。教皇が住まうべき教皇の間」

 

 聖域に於いて、十二宮を守護する黄金聖闘士はそもそも何処に住むのか?

 

 答えは十二宮そのもの。

 

 牡羊座の貴鬼なら白羊宮だし、牡牛座のハービンジャーなら金牛宮といった感じで十二宮には個室が存在しており、其処にそれぞれが暮らしている。

 

 それは教皇も同じ事。

 

 教皇の間には謁見の間とも云える赤絨毯を敷かれた玉座も有るが、サガが入っていた様な広々とした風呂だって有るし、天蓋付きのベッドだって有るだろう。

 

 その割にはアテナの寝所は石のベッドだったが……

 

 そんな実際に見た本当の聖域をモデルとしてる為、教皇の間には暮らしの必需品も置かれていた。

 

 欠点が有るとするなら、ユートは滅多にこの教皇の間に来ない為、基本的には誰も住んでいない事か。

 

 折角、神々の迷宮も構築しているのに勿体無い気もしないではないが、困った事にユートの活動拠点となるのは日本。

 

 しかも、本物の聖域に居た時ですら一年以上を留まった事は稀だし。

 

 オリオン星座のエデンを鍛えた時くらいだろうか、ユートが聖域に一年も留まり続けたのは。

 

 オマケに処女神を奉った聖域で、星華を相手にヤっていたのだから頭を抱えたくなったであろう。

 

 宗教観念で云うならば、えらく罰当たりな行為だ。

 

 カツカツカツ……

 

 大理石っぽい床を踏み締める音を響かせながらも、ユート達は奥を目指して歩いて進んで行った。

 

 ギギギギギッ!

 

 重々しい音が鳴り響き、本物の聖域で星矢が殴り開いたのと同じ鉄扉が開く。

 

 その先の広間こそ教皇の間の本殿とも云うべき部屋であり、赤い絨毯が敷かれた向こうには玉座が置かれていて、それに座る誰かが確かに存在をしていた。

 

「あれが教皇か?」

 

「ぶふっ!」

 

「何だよ、漓亜?」

 

「な、何でもないよ」

 

 教皇が誰なのかを把握している漓亜は、未だに知らない呂守がてんで外れている事を大真面目に言ったものだから、思わず吹き出してしまったのである。

 

 まあ、言う気も無い。

 

 それに、あそこの玉座に座るのが誰か気になった。

 

 玉座に近付くと其処には女性──否、中学生くらいの少女が座っている。

 

 短い銀髪、闇色の瞳。

 

 来ているのは、古ギリシアで普段着にされていた物よりも上等な貫頭衣。

 

 小さい姿だがその顔はといえば美しい。

 

 人形の様な……それは確かに一つの美の形容だが、少女のそれはそんなもので形容をし切れなかった。

 

 女王の如く心は気高く、母の如く深い包容を持ち、少女の如く瑞々しい肢体は完成に近い女体。

 

 玉座に立て掛けた長物、それは少女の背より遥かに長い柄の鎌。

 

 それを見た呂守は目を見開いて……

 

「ア、アテナ!?」

 

 叫んでしまった。

 

「「アテナ?」」

 

 此処はギリシアはアテネであり、其処に居る少女がアテナと聞き新也とアイラは顔を見合わせる。

 

「しかも、聖闘士星矢じゃなくてカンピかよ!?」

 

「セイントせいや?」

 

「カンピ?」

 

 新也もアイラも意味が判らず首を傾げてしまう。

 

 城戸沙織でなく闇の女神たるアテナ、その本地とは決してギリシア神話に与する神々の一柱などでなく、地方で奉られるの土着神的な存在であり、冥府の闇を司る地母神とされる。

 

 女王メドゥサと母神たるメティス、そしてアテナという三相一体の源流である夜闇の女神アテナ。

 

 唯、原作とは違って白いチョーカーを首に填めているのが違いだが……

 

「フフフ、よくぞ我が神殿たる聖域に参った。我が名はアテナ。この地に祀られし女神也!」

 

 立ち上がって外連味たっぷりに言い放つアテナは、何処か愉しそうに笑みを浮かべながら大仰な動作で、鎌を持って右腕を内側から外側へと揮い、コツン! と石突きを床に突く。

 

 嘗てなら人間など塵芥の如くであり、視界にも入れていなかった女神様だが、今ではこんな小芝居までもを演じて魅せている訳で、えらい変わり様だ。

 

 そんなアテナの御前にて跪いて頭を下げると、まるっきり彼女に仕える騎士の様な態度を取るユート。

 

「新たなる聖域の守護者とその家族をお連れしました……我らが女神アテナよ」

 

「ふむ、使命を果たしての帰還……御苦労であった、双子座・ジェミニの聖騎士にして教皇ユートよ」

 

「へ? 教……皇……? 優斗がか?」

 

 ポカンと間抜けな顔を晒す呂守、漓亜は然も可笑しそうに軽く吹き出す。

 

「僕が聖域やグリニッジ賢人機関、日本にも正史編纂委員会なんかを設立したと話した筈だけど? 流石にグリニッジ賢人機関や正史編纂委員会まで纏めるのはキツいから、聖域だけに留めてはいるけどね。それでも他の組織にも僕の関係者がトップを張っているよ。で……だ、聖域のトップの教皇には僕が就いている」

 

 呂守は呆然。

 

 気付けるヒントは有ったのだが、それに気付けなかったという訳だ。

 

 他の主要国にもこの手の裏組織は設立をしていて、全てにユートのメスが入っている。

 

 少なくともG8には。

 

 つまり……

 

 フランス

 

 アメリカ合衆国

 

 イギリス

 

 ドイツ

 

 日本

 

 イタリア

 

 カナダ

 

 ロシア

 

 この八か国の事だ。

 

 これに加えて、【カンピオーネ!】主体な世界には羅濠水蓮が居た中国、更にユートの再誕世界では聖域が存在したギリシアという訳である。

 

 まあ、中国はあれやこれやが有ったりして困る事も多々なのだが……

 

 同じ廬山にユートの再誕世界で紫龍や春麗や老師が暮らしていたし、ユートも何度か足を運んでそれなりに愛着もあったしで、切り捨てるにはという状態。

 

 彼らとて裏側──様々に存在する悪鬼羅刹に魑魅魍魎を識るが故に、それに対してどの道であれ裏組織に頼らねばならぬと理解を示すが故に、更に国益に反さないと説明をされた上で、国防に関する物を受け取れるメリットを視て、ユートの提案を受け容れたのだ。

 

「さて、それじゃそろそろ降りようか」

 

「うむ、今宵は何を食せるのか楽しみだな」

 

「すっかり腹ペコ女神になったな」

 

「ふん、食の楽しみを妾に教えたのは貴方であろう」

 

「まぁ……ね」

 

 恥ずかしそうに白い顔を赤らめつつユートに言い、それを受けた張本人はといえば、頬を掻きながら苦笑いを浮かべて肯定した。

 

「へ? あ、降りる?」

 

「ああ、今頃は仲間が宴の準備をしているよ。新しい仲間を迎える……ね?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夜の帳が降りて月と星の光が煌めく聖域で、飲めや歌えやの宴会が開催をされている。

 

 ギリシア政府から雇用対策に派遣をされた現地人、雑兵の皆さん達も普段から粗末な食事を摂っている訳でもないが、それでも豪華絢爛な食事が出た事に喜びを露わにし、警備係を順繰りに代わる代わる行いながらも、全員が美味い食事に有り付いていた。

 

 そんな宴の中で、やはり驚愕している呂守と漓亜。

 

 改めて白銀聖衣を纏ったシャロンは良いとしても、他に紹介された青銅聖騎士や白銀聖騎士、それは確かに驚くであろう。

 

 明らかに【カンピオーネ!】世界の人物が数人と、更には【風の聖痕】世界の人物が何人か、何故か仲良くしているという不思議。

 

 混淆世界というのを知るユート達は兎も角、二人が驚くのは無理もなかった。

 

「ってか、あの娘らって……全員が優斗の嫁かよ?」

 

「いや、全員って訳じゃないんだが? 城島 晶とか鳳 蓮飛とかの現地雇用だとソコまでの仲にはなってないしね」

 

「ああ、そりゃ例外か」

 

 基本的に十歳そこらでの年齢を通していたからか、流石にこの二人がユートに靡いたりはしない。

 

 とも限らないが、現時点では間違いなく靡いたりはしていない筈だ。

 

「アリシア……だよな? 山羊座(カプリコーン)候補になってるって」

 

 フェイトに似ていながらちんまい、それは対外的には仮死状態で眠り続けていたから、新陳代謝が殆んど無かった所為だとされて、真実は死んでいたアリシアを復活させたから。

 

 精神が子供の侭なのに、身体だけ成長させても害にしかならないし、死からの復活で会得したセブンセンシズも、今は肉体の動きに使っている現状もある。

 

 フェイトとは仲良くしていて、プレシアがそんな娘の姿を微笑ましく見守っているのが印象的だ。

 

 二人は鋼鉄聖騎士としての参加で、プレシアは保護者としての参加だとユートは教える。

 

 道理でなのはやその家族も居る訳だと、呂守も漓亜も納得をしていた。

 

 仔獅子星座・ライオネットの聖衣を纏うアリサ・バニングスも、大空聖衣・キグナスを纏うすずかと共にジュースを飲みつつ、食事を摘まんでいる様だけど、其処へ白銀聖衣を纏い仮面を着けた少女が近付く。

 

「初めまして、アリサ・バニングスに月村すずか」

 

「誰よ、あんた?」

 

「アリサちゃん、この人は白銀聖騎士だよ? 上役に当たるんだから失礼だよ」

 

「そうかもだけど……」

 

 行き成り話し掛けられれば警戒もする。

 

「ふふ、私は白銀聖騎士で蛇遣座(オピュクス)よ」

 

 そう言って白銀色に隈取りが付いた仮面を取った。

 

「「っ!?」」

 

 その素顔に二人は驚愕をするしか出来ない。

 

「あ、私?」

 

「アリサちゃん!?」

 

 髪型と色こそ違ったが、其処には見慣れた顔の成長した姿が在ったのだ。

 

「改めて自己紹介するわ、白銀聖騎士・蛇遣座(オピュクス)のシャロン。ファミリーネームはローウェルと云うのよ」

 

「シャロン・ローウェル? 何で私と同じ顔を……」

 

「簡単ね。私が貴女とは魂の根源が同じだから」

 

「魂の根源?」

 

「つまり、私は平行世界のアリサ・バニングス……というかアリサ・ローウェルなのよ」

 

「──へ?」

 

「え?」

 

 突然の激白に二人は目が点となり……

 

「「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーッ!?」」

 

 そして揃って叫んだものだった。

 

「私は一度死んでいるわ。だけどとある理由から転生をした。生まれ変わったって事だけど、本来ならそれで魂がどうあれ顔形は変わるのよ。だけど私は転生体として、前世の記憶を持った侭で転生をしたねよね。その結果、私は前世に引き摺られて同じ顔を持ってしまったって訳」

 

「声の違いは?」

 

 仮面を着けていたとして気付けなかった理由は声が違ったからで、すずかがそれを訊ねるとシャロンは笑いながら言う。

 

「私はアリサ・バニングスのお父さんじゃなく、孤児だったから見た事も無かったけどローウェルという名の人と結婚したお母さんを持つの。つまりは母親は同じで父親が違う。顔は母親に似たけど髪の毛と声に関しては違ってしまった……というのがユートの弁よ」

 

 とはいっても、飽く迄も解り易く説明をしただけ、本当にそうかはユートにも判らない。

 

 納得はさせ易い話だが、結局は原作大元十八禁ゲームとそれを元に再構築したテレビアニメの差、それが本当の処であろうとユートは考えていた。

 

 実際、両親が同じな者も声は違うのだから。

 

「平行世界か、それが本当なら色々とこの世界と違いが有るの?」

 

 アリサがシャロンに訊いてみれば、当然だと謂わんばかりに頷いている。

 

「例えば、月村家にすずかは存在してない」

 

「え、私が?」

 

「私が説明を受けた際に、違いも話して貰ったのよ。月村家は今を基点に十年前になるわ、当主夫妻が亡くなっているのよ。現当主は月村 忍ね」

 

 十年前──確かにすずかの誕生以前に死んでいては生まれたりはしない。

 

「その結果かしら、ファリンというメイドも居ない」

 

「ファリンも!?」

 

 これにはショックだったのか、すずかは激しく狼狽をしている様子。

 

「所詮、平行世界の話よ。貴女がショックを受ける必要は無いわ」

 

「う、はい……」

 

 確かにその通り。

 

 行ける訳でもない世界、そんな世界に自分が存在しないからといって、すずかがショックを受けてみても詮無き事だろう。

 

 条件さえ揃えばゲートを通じてユートなら行けたりするが、そんな話まではしなくても良いのだし。

 

「そういえば、えっと」

 

「シャロンで良いわよ? 私はさっきも言った通り、アリサ・ローウェルとしては既に死んでるもの」

 

 死んでいる……アリサは表情を一瞬だけ顰めてしまうが、すぐにも取り繕って話を続けた。

 

「シャロンさんは優斗とはどんな関係なの?」

 

「私とユート? 恋人に近い関係……かしら?」

 

「「こ、恋人!?」」

 

「正確には愛人?」

 

「ちょ、ちょっと愛人って……だってアイツ、私達と同い年で!」

 

「本気でそう思う?」

 

「うっ!」

 

 アリサも莫迦でないし、ユートが同い年だと言われても違和感しかない。

 

「ユートは何らかの理由で今の姿だけど、本当だったら恭也さんレベルの背格好なのよ。身体は子供で頭脳は大人……って感じ?」

 

 行き成りの暴露に狼狽えてしまうアリサとすずか。

 

「とはいえ、見た目相応に接すれば良いわ。ユートもそう望むしね?」

 

「は、はぁ……」

 

 あちこちで様々な話し合いが為され、宴に関しては概ねが成功だと云える。

 

 そしていよいよ夏休み、ユートは時空管理局の提督であるリンディ・ハラオウンへと連絡をした。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話:曼珠沙華 再会する夏の神ちゃま

.

〔なっ! 君は、自分が言っている意味を理解しているのかっっ!?〕

 

 黒の子……ではなくて、クロノ・ハラオウンが映像の向こう側でがなる。

 

 勿論、リンディ・ハラオウンも良い顔はしない。

 

「理解しているさ。君らに無人世界の紹介と其処までの足代わりにアースラを使わせてくれるなら、夏休みに予定している【闇の書の終焉】ってのを見る権利を与えよう……と、そう言っているんだからね」

 

 本来なら時空管理局など御呼びでないが、何かしらを手伝わせる事で見学くらいはさせても構わないとは考えている。

 

 とはいえ、足代わりにされる方は堪ったものではなくて、それがクロノ・ハラオウンの叫びに繋がった。

 

「本来なら必要なんて無いけど、とある使い魔を捕縛して得た情報にハラオウンと闇の書の関係を知った。だから温情として此方側の条件を呑むなら、見学させると言ってやっている」

 

〔くっ!〕

 

「嫌なら構わない。さっきも言ったけど、別に必要な訳じゃないからね。断るなら火星にでも行って、勝手に決着を着けるまでだよ」

 

 それは困る。

 

 リンディにせよクロノにせよ、闇の書は夫を父を喪う原因となったモノ。

 

 知らなかったというなら未だしも、知ってしまっては関わらない選択肢なんてそもそも有り得ない。

 

〔何故、私達が関わってはいけないのですか? 手勢は必要となるでしょう? 私達、時空管理局からすれば第一級捜索指定古代遺失物(ロストロギア)闇の書は強大なる破壊を齎らすわ。ならばこそ、手勢で攻めて往かないと逃げられてしまうかも知れないし、何より闇の書には特殊な能力なども確認されているの〕

 

「無限転生機能とか?」

 

〔っ! 知っていたの?〕

 

「貴女達の言う闇の書──正式名称は【夜天の魔導書】と云い、幾代にも代替わりした主達の中の誰かによって改悪、それによる性質の変化は名前すら歪めた。本来の夜天の魔導書の役割とは、次元世界を旅して回り魔導の知識などを蒐集、後世に遺したり研究をする謂わば資料本だね」

 

〔〔え?〕〕

 

 何を言われたのか理解が及ばず、ユートの説明を呆けた口調で返す。

 

「何故にそんな口調?」

 

〔そ、それは……〕

 

 リンディもクロノも知らなかった、闇の書の来歴に関する情報の一切を。

 

 原作でもユーノ・スクライアが無限書庫で調べて、初めて【夜天の魔導書】の名前を知ったくらいだ。

 

 識っているのは飽く迄も闇の書となってからの性質やら、守護騎士が感情など持たないプログラムに過ぎないという誤った認識。

 

 とはいえ、闇の書の来歴を知ったとしてもリンディにとってアレが夫を殺したロストロギアに違いなく、クロノにとっても父親を奪った事に変わり無い。

 

 だからこそ闇の書に関われるのなら関わりたいし、出来得る事ならば自らの手で決着を着けたかった。

 

「大体にして、僕の勘だと一山幾らな武装局員が何人集まろうと、闇の書に対しては何も出来ない」

 

〔か、勘って! 僕らの事を莫迦にしてるのか!?〕

 

「君こそ、カンピオーネが勘を働かせる意味を知らないだろう?」

 

〔な、なにぃ!?〕

 

「予知とかじゃないけど、カンピオーネの勘……少なくとも戦闘に関しての勘は当たり易いんだ」

 

 それこそ、ニュータイプだサイコドライバーだのと云われる連中よりも。

 

 そう、勘だ。

 

 予感と言い換えても良いだろうが、ユートは闇の書との決戦で或いは全力全開手加減無しに闘わねばならないと感じている。

 

 〝なのはさん〟に掛けられた子供化を解除する為、神の精気を吸収しなければならないかも知れない。

 

 嘗て、力を喪ってしまったユートが一時的に力を取り戻すべく、ナツ様イチ様から口移しで精気を貰っていたが、恐らくそれでは足りないだろうから……

 

「(ナッちゃんに会いにいかないといけないか?)」

 

 イチ様は既に十六年くらい前に、ユートが関わった鬼神楽事件で人間の市乃に転生して神力を喪失しているが為、未だに健在しているナツ様に頼むしかない。

 

 鬼神と融合してとんでもなく強化された芳賀真人を倒すべく、真なる力の解放をする為にユートはイチ様とナツ様を抱いた。

 

 特にイチ様はどうせ芳賀が死ねば消える身だから、殆んど全ての神力を与えてくれたのだ。

 

 回復が不可能なレベルで神力を喪い、イチ様は鬼神の死を見た後で消滅する。

 

 その後、人間として転生していたのはユートも知らなかった訳で、この世界に来て良かったと思える数少ない出来事だったろう。

 

 ユートが〝ナッちゃん〟と呼んでいるナツ様だが、確かあの時にも協力者だった音羽葉子と共に水杜神社に居る事は知っている。

 

 相当な美人ではあるが、享楽的で基本的には自分が楽しめるのが一番みたいな感じであり、確か旦那さんが水杜神社に住んでいると聞いた事があった。

 

 九尾の狐たる葉子を抑える実力を持ち、水杜神社の巫女さん姉妹──天乃杜神社の姉妹みたいなもの──とも仲は良いらしい。

 

 ユートはそんな気は無かったとはいえど、端から見ればナツ様をヤり捨てたとされてもおかしくないし、殴られる覚悟はしておこうと心に決めた。

 

 そもそも、ナツ様は元が人間から神化した神様で、次第に置いていかれる寂しさもあり、人見知り全開で生きてきたらしい。

 

 それを葉子の旦那さんが色々と世話を焼き、ようやっと少しは向き合える様に改善がされたのだとか。

 

 謂わば保護者に近い。

 

 市乃は既にナツ様に会っており、どうやらユートの事に関しては納得をしているらしいが、葉子の旦那がそれを許容するかは別問題であろうし。

 

 因みに、ナツ様も市乃──というかイチ様だけど、この二柱は見た目が幼いが故に、抱き締めるとすっぽりと納まる感じで気に入っている。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 結局はリンディ・ハラオウンが折れ、クロノもそれには従わざるを得なかったという形となり、ユートは決戦の場となる無人世界と其処へ向かう足を得た。

 

 当たり前だが、聖王教会から来るであろう少女達も乗せて来る筈。

 

 とはいえ……

 

「どうなるかな? なあ、キューブ」

 

「……」

 

 傍に佇むのは不気味に輝く黒い鎧兜を身に付けて、静謐な雰囲気を出す男?

 

 兜には仮面が付いている所為で、この人物の正確な性別は判らない。

 

 まあ、身体の線が女とは思えないから男だろう。

 

 彼はキューブと呼ばれているが、それはハーデスの百八の魔星が一つ……地陰星デュラハンの冥衣を纏っていたのがキューブだったからであり、ユートの冥闘士としての彼は仮名で呼ばれているに過ぎない。

 

「君の進退は〝其処〟で決まる訳だからね」

 

「……」

 

 キューブ(仮)はただ静かに佇んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夏休みの始めの日……

 

 ユートは水杜神社へと足を運んでいた。

 

 子供化した身体を戻す為には、やっぱり神の精気が必須となる訳ではあるが、アテナとは初めて出逢ってからこっち、御触りなどしかしてない仲だし行き成り抱かせて欲しいと言ったとして、抱かせてくれないだろう事は想像に難くない。

 

 彼女は古のアテナだが、一応はギリシア神話に習合された処女神の相も間違いなく持つし、故にこそ中々に進展もしないのだ。

 

 市乃はそもそも人間で、はっきり言って論外。

 

 こうなるとユートが知る現人神は、水杜神社に住まうナツ様のみとなる。

 

 前に市乃に逢って以来、いずれは挨拶も込みで会いに行かねばと考えてたが、割と早い再会となりそうで何よりだ。

 

「こんにちは」

 

「おや、こんにちは」

 

 穏やかな笑みを浮かべて掃除をする男性、三十路も半ばの見た目から恐らくは件の滝峰幹也だろう。

 

 以前にナツ様から聞いた話からすると、滝峰幹也は何らかの仕事へと就くべく修業や勉強をしていたらしいが、この場に居るのなら諦めたか? 或いは夢は叶っているかのいずれかだ。

 

 どちらにせよ、音羽葉子の住処がこの水杜神社なのだし、旦那さんが同じ敷地に住むのはおかしくない。

 

「君は参拝に来たのかな? お父さんか、お母さんは一緒じゃないのかい?」

 

 見た目が十歳前後だからだろう、滝峰幹也は完全に子供に対する応対できた。

 

「参拝するのは吝かじゃないけど、水杜神社に来たのは神様に会いに……だよ」

 

「っ!」

 

 この言葉を聞き滝峰幹也は警戒心を上げた。

 

「神様? 何の事だい?」

 

「居るだろう? 犬の耳に尻尾、髪の毛は極めて白髪に近いアッシュブロンド、体型は幼めで物静かな夏の神様──ナッちゃんが」

 

「っ!? それは……」

 

 流石にそこまで容姿を言われては、滝峰幹也としても誤魔化すのは不可能だと感じたのだろう、言い淀みながらも社殿を見遣る。

 

「ハァ……桂香、悪いけどナツ様を呼んできて貰えないかな?」

 

「良いの? その子、あからさまに怪しいけど……」

 

「邪気は感じないからな」

 

「了解」

 

 桂香──水杜神社に於ける戦巫女、音羽姉妹の姉である音羽桂香に滝峰幹也はナツ様を呼ぶ様に言う。

 

 尚、音羽桂香は三十路の半ばくらいである。

 

 彼としても余りナツ様を前面に出したくはないが、少年──ユートからは邪気を感じなかった事もあり、仕方がないと考えた。

 

 暫くして幼い容貌に犬耳を付けた巫女装束姿の少女──ナツ様を連れ音羽桂香が歩いてくる。

 

 序でに音羽家の次女たる音羽初花も一緒だ。

 

 三十路の前半くらいで、然し元々が幼かった事から二十代半ばでも通じそうな見た目で、茶髪をポニーテールに結わい付けていた。

 

「桂香、何で初花まで来たんだ?」

 

「ナツ様と一緒に居たから着いてきたのよ」

 

「そうか……」

 

 そういえば初花にナツ様の御相手を任せていたと、滝峰幹也は思い出しながら首肯をする。

 

 因みに、この桂香と初花は正史ではどうなのか知らないが、この世界では滝峰幹也と結ばれていた。

 

 何度かの〝浄化〟をした事もあり、やはりある程度の情が沸いたらしい。

 

 正式に結ばれた御相手は音羽葉子だったが、謂わば愛人的な立ち居地に姉妹が納まっていた。

 

 この辺は天乃杜神社に於ける天神かんなとユート、この二人の関係が似ているのかも知れない。

 

 まあ最も、最終決戦後にユートは帰還を果たした──正確には別の世界に転移──から、天神かんなには子供も出来なかったが……

 

「久し振りというには長過ぎるか、それにこの姿じゃ解らないかな?」

 

「ん、ユート……十六年振り……」

 

「あ、解ったんだ」

 

「んー、けはい?」

 

「成程ね」

 

 流石は神様。

 

 単純な戦闘力は低いが、はっきりとユートの気配を読み取ったらしく、何処か得意気にも見えた。

 

「けど、泣いて抱き着いて来ても良かったのにな? 割と普通な反応なんだ」

 

「ん、居るのいちのから聞いてたから……」

 

 心の準備は出来ていたと言いたいのか、右手首へと填まる精霊聖衣の聖衣石を掲げて見せてくる。

 

 市乃からバッチリと受け取っていた様だ。

 

「そっか。今日、会いに来たのは他でもない……現在の姿だと全力を出し切れないんだが、どうにも全力を出さないといけない事態になりそうでさ。市乃は既に人間だから論外、もう一柱の神様に心当たりはあるんだが、気位が高いからね。まだ当分は無理なんだよ」

 

「ん、理解した。なら部屋に行く」

 

「助かる」

 

「問題無い」

 

  二人の会話に付いていけてない滝峰幹也と桂香と初花の三人、仕方がないと滝峰幹也が代表となって、ユートに話し掛ける。

 

「待ってくれないか?」

 

「何かな?」

 

「結局、どういう事なのかさっぱりなんだが……」

 

「ああ、そうだったね」

 

 ユートは説明をした。

 

 十六年前に天乃杜神社へ応援に行ったナツ様だが、その際にユートと出逢っている事、そして力を喪っていたユートに力を一時的に取り戻させるべく、精気を口移しで与えていた事。

 

 鬼神との最終決戦にて、真の力を完全に取り戻す為にイチ様とナツ様を抱き、相当な量の精気を吸収して闘いに勝利した事もだ。

 

「……だ、抱いてって」

 

 桂香はユートとナツ様を交互に見遣り、顔を真っ赤に染めてしまう。

 

「うわー、ナツ様があんな子供とえっちっち?」

 

「いや、子供なのは仮の姿であって本来の姿じゃないんだけど……」

 

 初花の中では十歳前後なユートとナツ様の情交で、とってもアブノーマルだったりする。

 

 目をキラキラと輝かせている辺り、本気でそう思っているのが見て取れた。

 

「つまり、君は……ナツ様をヤり捨てたと?」

 

「捨てた心算は無いけど、結果だけを視ればヤり捨てた上に、再びヤろうとか思って現れた不貞の輩だね」

 

 バキィッ!

 

 その瞬間、滝峰幹也の拳がユートの頬に突き刺さって吹き飛ばされた。

 

「ちょっ、幹也!?」

 

「幹也さん!?」

 

 行き成りの行為に桂香も初花も驚愕し、目を見開いて抗議の声を出す。

 

 まあ、見た目が十歳前後なだけに仕方がない。

 

「気は済んだ?」

 

「まだまだだ。とはいえ、ナツ様が気にしていないのに俺が気にし過ぎてもおかしいし、これ以上は何もする気は無いさ」

 

「そ、なら行かせて貰うけど構わない?」

 

「行く? 何処へだ?」

 

「ナッちゃんの寝室」

 

「「「ブフッ!」」」

 

 余りにも明け透け過ぎ、三人は噎せてしまった。

 

「十六年前の鬼神戦と同じだよ。僕は全力を出す為に神の精気を大量に必要としているけど、現人神で僕にある当てはナッちゃんと、ギリシア神話のアテナだ。市乃は論外だからね」

 

「アテナ……まあ、処女神は抱けないよな」

 

「いや、正確にはアテナの源流だから。処女神の相はアルテミス程に厳格じゃあないんだよ。単に其処までの仲じゃないだけだね」

 

 六と九的な事まではスるけど、流石に本番までヤるにはちょっとアテナ側には覚悟が足りない。

 

 かといって、今や人間の市乃では意味がなかった。

 

 つまり、現状で最有力の現人神でユートに抱かれても好いとまで言えるのは、ナツ様のみと云う事。

 

 唯でさえ神とは我が強いもの、ユートの再誕世界のアテナなんて子供の頃には同い年くらいの少年へと、『馬になりなさい』などとほざくくらいに。

 

 それは兎も角、だからこそナツ様や過去のイチ様は貴重な存在でもある。

 

 芳賀真人が本体の鬼神と合一し、木島 卓やかんなとうづきだけでは手が付けられなくなり、だからといって力を喪ったユートでは僅かばかり力を取り戻しても意味は無かった。

 

 イチ様とナツ様はユートの人となりを理解したし、好意もうづきがユートへと向けるより、寧ろかんながユートに向ける好意に近い想いを二人が懐いていた事も手伝って、自らが申し出た事である。

 

 イチ様は真っ赤になって吃りながら、ナツ様も白い肌の頬を薄く桃色付けて、神氣譲渡と称した情交をと言い出したのだ。

 

 芳賀真人を放ってはおけないし、美しい女神様からの申し出を断る筈もなく、ユートは木島 卓達に時間稼ぎをさせる中で、イチ様とナツ様を抱いた。

 

「ん、寝室……着いた」

 

 ナツ様が普段から使っている寝室で、布団が畳んで置いてあるのは今回の事を予見していなかったから。

 

 ナツ様は布団をいそいそと敷き、その上でちょこんと正座をするとユートの方を見上げ、何処か潤んだ瞳で待っていた。

 

 そんなナツ様を軽めに押し倒すと、巫女装束をはだけさせて双丘と呼ぶのには烏滸がましいレベルで小さな胸を晒させ、腕で首を浮かせて唇を重ねる。

 

 無抵抗なのを良い事に、舌を口内に侵入させて蹂躙していき、ナツ様の舌へと自分の舌を絡めていく。

 

 唇を離せば絡め合っていた舌と舌の間に、混ざっていた二人の唾液が糸を引いて淫靡な気分を弥増す。

 

「ナッちゃんにとってみれば十六年振り、僕の主観時間からなら二百年以上か。だから……愉しもうか」

 

「ん……」

 

 既に重なり合った人影、それでも二つだったものが完全に一つに溶け合う。

 

 衣擦れと水音が淫らに乱れて室内に響き、その日は全く二人が寝室から出て来る事は無かった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話:解放 闇の書

.

 巡航L級八番・艦次元空間航行艦船・アースラ。

 

 リンディ・ハラオウンを艦長とし、執務官には息子であるクロノ・ハラオウンが就いている。

 

 アースラのスタッフは皆が有能で、それはリンディ・ハラオウン艦長やクロノ・ハラオウン執務官も同様であり、様々な任務を遂行してきた実績もあった。

 

 実際に、執務官になる為には優れた知識と判断力、実務能力が求められる。

 

 その分、事件捜査や法の執行の権利、現場人員への指揮権を持った管理職という高い権限があった。

 

 然し、今回の任務でそれは一切合切が求められず、単に随行するに過ぎない。

 

 無念ではある。

 

 父親の仇であるのも然る事乍ら、これまでに多くの破壊と混乱を齎らしてきた【闇の書】に手出しが出来ないのだから。

 

 だが然し、現状で【闇の書】に関わるには〝一切の手を出さない〟事が条件である以上は、クロノも納得してしまったし動く訳にはいかなかった。

 

 否、正確には決して納得などしてはいなかったが、それだけにキュッ! と手を握り締めている。

 

「直接会うのは久し振り、リンディ・ハラオウン提督──相変わらず十四歳にもなる息子が居るとは思えない美しさだ」

 

「息子の目の前で母を……艦長を口説かないでくれ」

 

 ユートの口上に『頭痛が痛い』と謂わんばかりに、クロノが頭を押さえながら釘を刺してくる。

 

「……えっと、ありがとうと言えば良いのかしら? アースラ艦長のリンディ・ハラオウンです。久し振りねユートさん」

 

 リンディとしても三十路に入り、まさか息子よりも見た目に若い少年にナチュラルに口説き文句を言われるとは思わず、苦笑いを浮かべながら挨拶を交わす。

 

 とはいえ、実際に彼女は三十路を越えながら見た目にはクロノを生んだ母親とは思えない程の若々しさを保ち、プロポーションとて時空管の理局提督としての制服に身を包んだ状態ではあるが、肢体の線が二十代でも通用しそうだ。

 

「それにしても、御世辞が上手いのね」

 

「いやいや、僕も幾度かは言ってきた言葉ではあるんだけど……決して嘘偽りで口にした事はないよ」

 

「そ、そう? それじゃ、素直に受け取っておきましょうか」

 

 何故かストンと胸の内に納まり、リンディは十代の小娘の如く赤くなりつつ、視線を逸らしてしまう。

 

「艦長……」

 

 息子としても部下としても少し言いたい事が有りそうではあるのだが、クロノは盛大な溜息を吐きながら自らの自己紹介を始める。

 

 勿論、初めから知っているユートが相手というより後ろの……相生呂守と相生璃亜の兄妹、それに両親の相生新也とアイラ・レオンフィード・相生と、更には剣十字の刻印を持つ茶色のハードカバーの本を手にした茶髪をショートボブにした少女──今代に於いての【闇の書】の主である八神はやてと守護騎士達に対してのものだ。

 

「時空管理局執務官であるクロノ・ハラオウンだ……短い間だが宜しく頼む」

 

 時空管理局についてよくは識らないはやてと新也は『宜しく』と返したけど、守護騎士とアイラと相生兄妹は窺う様な視線となる。

 

 守護騎士は時空管理局と敵対関係となるが故にで、アイラは謂わば聖王教会の騎士が離反した様な感じだからだし、相生兄妹は実際の時空管理局をアニメを通じて識っているから。

 

 【闇の書】の主のはやては兎も角、相生新也は本来だと何の関係も無かった筈なのに、運命の悪戯で関わった様なものだろう。

 

「聖王教会の騎士、カリム・グラシアです。皆さん、宜しくお願いします」

 

 ブロンドのロングヘア、紫色のリボン、蒼い瞳などアニメの通りの姿形だが、原作から十年前だからだろうけど若いというか幼い。

 

 十六歳か其処らだから、それも仕方がないだろう。

 

 ミッドチルダ極北地区・ベルカ自治領で暮らしているからか、余り外へと出る機会が少ないからなのか、アニメより肌が白い。

 

「護衛のシャッハ・ヌエラと申します」

 

 短い挨拶をしてきたのがシグナムと同じ髪の毛の色をした短髪の少女、やはり十年後を描いたStSにて初登場をしたカリムの護衛をする修道女。

 

 StSで近代ベルカ式の陸戦AAAの実力を誇る。

 

「時空管理局顧問官のギル・グレアム提督だ……」

 

 白髪のオールバックで、髭がダンディーなギル・グレアムが、リーゼ・ロッテを伴って前に出た。

 

「やあ、久し振りだね? リーゼ・ロッテ」

 

「キッ!」

 

 殊更に睨んでくるリーゼ・ロッテ。

 

「アリアは?」

 

「此処には居ない。今朝も〝楽しかった〟よ?」

 

「このっっ!」

 

「よしなさい、ロッテ!」

 

「けど、父様!」

 

「ロッテ!」

 

「……はい」

 

 叱られてしまいシュンと俯くリーゼ・ロッテだが、やはりユートを睨み付けるのを忘れない。

 

「済まないね。だけど理解はして欲しい」

 

「リーゼ・アリアが捕まったのは、此方の世界の法を破ったからだ。そっちこそ理解して欲しいものだね。その後の事は……彼女自身の選択だし」

 

 本来、リーゼ・ロッテも囚われていたのだが、上手くギル・グレアムの許へと〝脱出〟をしていた。

 

「それじゃあ、此方の自己紹介もさせて貰おうか」

 

 ユートが促す事で全員が自己紹介を終えた。

 

 ユートとユーキと相生家は元より、八神家やなのはにフェイトにアリサにすずかまでリリカル勢が挨拶を交わし、次にカンピオーネ世界のグィネヴィアとランスロットとアテナが自己紹介をした。

 

 とはいえ『妾はアテナという。見知りおくが良い』──何てまるで上官の如く言われてしまって、ものの見事にアースラ組が硬直してしまったものである。

 

「それで、そちらの黒い鎧の彼? ……は?」

 

「彼で間違いない。名前は地陰星デュラハンのキューブという」

 

「地陰星? デュラハン? それはいったい?」

 

「彼は冥王の臣下であり、冥衣を纏う冥闘士が一人」

 

「スペクター? それに、冥王というのもよく判らないわね……」

 

 まあ、時空管理局本局へ在住している上にリンディ・ハラオウンの出身世界は第四世界ファストラウム、冥王ハーデスは地球の神な訳だから識らなくとも無理はあるまい。

 

 若し、仮に原典と同じく一時的にでも地球に住んでいれば、神話に触れる機会もあったかも知れないが、現状では単なるifだ。

 

「理解しなくても良いよ。取り敢えず、地球の一国家的な大神の一柱が冥王だと思えば間違いはないから。因みに、アテナからすれば冥王ハーデスは伯父に当たるんだったかな?」

 

「そうだな。妾はゼウスを父とするが故に、ハーデスはゼウスの兄だから伯父で間違いはあるまいよ」

 

「天帝ゼウス、海皇ポセイドン、冥王ハーデスといえばギリシア神話の三大神。ハーデスは死んだけどね」

 

「そうか! あんたは確かカンピオーネだったっけ。だからハーデスの権能を持っているのか!?」

 

「ハーデスを斃した時点ではまだカンピオーネじゃなかったけど、僕は神々を斃す度に神氣を喰らってきたからね。カンピオーネに成った際に、その神氣が権能へと変化をした。キューブもハーデスの権能の一つ、【転輪する百八の魔星(ランブル・スペクターズ)】で喚び出した地陰星デュラハンの冥衣で創ったんだ」

 

 尤も、纏っている冥闘士は【冥界返し(ヘブンズ・キャンセラー)】によって黄泉返らせたのだが……

 

 ユートは都合、三回にも及ぶ冥王ハーデスの討伐をしており、しかもそれらは同一でありながらも異質故にか、パソコンなどで云えば別ホルダ扱いであった。

 

 その為、三回に亘る神氣の吸収で得られた権能は、即ち三つである。

 

 死者を甦らせる──【冥界返し(ヘブンズ・キャンセラー)

 

 冥衣を創る──【転輪する百八の魔星(ランブル・スペクターズ)

 

 自らの冥界を創成する──【冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)

 

 まあ、三つ目の権能には別の能力も在るが……

 

「さてと、四方山話はこの辺で終わるとして……だ、はやて」

 

「はいな?」

 

「着いたら計画通りに」

 

「了解や!」

 

 やるべき事は決まっているのだし、はやてには既にそれを伝えていた。

 

「クロノ」

 

「何だ?」

 

「それで、無人世界にはいつ頃着く?」

 

「第九七管理外せ──否、地球からはそれ程離れていないから、そろそろ着くと思うんだが?」

 

「そうか」

 

 ユートは瞑目をすると、黙って腕組みをしながら壁へと凭れ掛かり、ただ着くのを待つばかりとなる。

 

 そうして暫くの時間が経って、エイミィ・リミエッタから到着したと連絡を受けると……

 

「なら、そろそろ本来の姿に戻るかな」

 

 〝本来の姿〟という処に疑問を持つ一堂──ユーキやカンピオーネ組は別──を他所に、ユートは十六歳くらいの青年へと姿を変えていた。

 

「なに? まさか、僕より背が高い……だ……と!」

 

「一応、見た目は十六歳なんだから十四歳のクロノより背が高くてもおかしくはないだろうに」

 

「じゅ、十六歳……」

 

 思わず戦慄してしまったクロノだが、ユートの見た目の年齢を聞いて落ち着きを取り戻す。

 

 成程、十歳かそこらでのあれは有り得なかったが、十六歳なら問題は無い……と思う事にした。

 

「処で、どうしてその姿になったのですか?」

 

「有り体に云えば本気モードで戦闘するのに、子供の姿じゃ不便だったから」

 

 リーチは短いは体重なんて軽過ぎるわ、やはり闘いで少し不利な部分があり、ユートはだからこそナツ様に頼み、この姿に戻れる様になったのだ。

 

 尚、ナツ様は無表情に近いが実質的には大喜びで、久方振りにユートの腕枕で眠った事に満足していた。

 

 無人世界とはいっても、それは人間が住んでいないだけであり、自然が豊かな世界──カルナージとか──なら様々に生物が存在しているだろうが、ユートのオーダーはそれすらまともに居ない不毛な世界。

 

 荒れ地でしかない世界を所望していた。

 

「うん、重常重常」

 

「見事に荒れ果てとるな」

 

「それくらいで丁度良い。さあ、はやて」

 

「ん、【闇の書】」

 

 はやてが呼ぶとページをパラパラと開き、浮かび上がる【闇の書】。

 

 本当なら【夜天の魔導書】と呼んでやりたいけど、現状の名前は【闇の書】に固定されている。

 

 ユートは魔法──ステータス・ウィンドウを展開、アイテムストレージの中から二一個の碧い菱形をした宝石を取り出す。

 

「なっ! あ、あれは……ジュエルシードだと!?」

 

 クロノが驚愕する。

 

「まさか……ジュエルシードは全て管理局に譲渡された筈では?」

 

「リンディ提督。確かに、ジュエルシードは管理局に兄貴が渡した。だからあれはジュエルシードじゃなく──ジュエルシード・レプリカ。兄貴が【闇の書終焉計画】で、この時に使う為に造ったんだよ」

 

「ジュ、ジュエルシードを造ったですって!?」

 

 有り得ないと思った。

 

 そも、古代遺失物(ロストロギア)の定義とは現代では喪われた文明に喪われた技術で造られた事にある訳で、少なくとも完全再現が不可能であるが故にこそ遺失(ロスト)なのだ。

 

 某・宇宙艦みたいに。

 

 それなのに、ジュエルシードを二一個……全て造ってしまったユート。

 

「ま、兄貴は魔法に関する高い親和性があるしね」

 

 ユーキが小さく呟く。

 

 これは飽く迄も、ユーキみたいな天然物という訳ではないが、この能力ならば魔導具を造り出すのも容易いとまでいわないのだが、少なくともそこら辺の天才よりは余程上手くやれた。

 

 糅てて加えて、ユートが【純白の天魔王】に頼んだ転生特典(ギフト)が【よく視える目】とは可成り拡大解釈成され、【魔法への親和性】と相俟って強力だ。

 

 ジュエルシードを視た。

 

 それで解析してしまい、複製品を構築したのだから正に【模倣者(イミテイター)】としての面目躍如といった処か?

 

「さ、やって【闇の書】」

 

《Sammlung》

 

 闇の触手が伸びていき、ジュエルシード・レプリカに取り憑くと、【闇の書】はレプリカから魔力の蒐集を始めた。

 

「本当に可能だとはな」

 

「ああ、最初に聞いた時は懐疑的だったが、こうして見せられたら信じるしかねーもんな」

 

 シグナムもヴィータも、そしてシャマルとザッフィまでが驚いている。

 

 ユートが仮説でしかないと前置きして、『若しかしたら生物以外からでも魔力蒐集が出来るかも知れない』と言い放ったのだ。

 

 話によれば、そもそもが【闇の書】の魔力蒐集というのは、リンカーコアから魔力を喰らった際に情報も同時に奪う行為。

 

 リンカーコアを持つ生物は大気中の大魔力──マナを呼吸するかの様に吸収、小魔力(オド)に変換をして高い魔法力を保有する。

 

 肉体を巡る内に小魔力は生物の持つ機能や能力などの情報を乗せる為、魔力の蒐集で起動に必要な魔力を確保しつつ、ページ内部に術式などを保存する。

 

 まあ、原典アニメを観た事があるなら理解も出来るだろうが、例えば巨大生物だった場合は肉体的特徴が術となって形が顕れたり、防衛プログラムがキメラ化したりする訳だが……

 

 蒐集そのものは魔力さえ在れば可能──否、それに伴う情報が在れば……か。

 

 否定するシグナム達ではあるが、ユートは決定的に掛けているヴォルケンズの記憶に関する事に触れる。

 

『君達が蒐集を終える頃、場合によっては君達自身を蒐集されて、【闇の書】が起動する事もあった』

 

『え?』

 

 驚くヴィータ。

 

『さて、では君達は何だろうね? 人間をフル・エミュレートしたプログラム、リンカーコアすら持ち得る存在。だけど明らかに人間ではないな? ロストロギア【闇の書】の一部だ』

 

『『『『っ!』』』』

 

 即ち、人間ではなくとも蒐集が可能である根拠。

 

 しかも、ロストロギアの一部であるという確かなる根拠であり、ユートはそれを元に作戦を考えた。

 

 そう、ジュエルシード・レプリカを二一個全て蒐集させて【闇の書】を起動、これによってシグナム達は罪を犯す必要性が無い。

 

 過去の罪?

 

 ユートが曰く『知るか』である。

 

 ユートは何処ぞの正義の味方でなければ掃除屋でもない、正しい正しい管理局様を崇拝もしていない。

 

 味方をしたいと思った方の味方であり、敵対心を持った相手を敵と見なす。

 

 ただそれだけのちっぽけで軽い存在、我侭な餓鬼。

 

 見も知らぬ【闇の書】の被害者遺族なぞ知った事ではなかったし、そんな連中に味方する意義なぞ見出だしたり出来ないのだから。

 

 それは兎も角、ユートの目論見通りに【闇の書】はジュエルシード・レプリカの魔力と情報を貪り喰い、パラパラとページを一気に埋めていっている。

 

 ジュエルシード・レプリカ一個一個では到底足りないだろうが、二一個を全て平行励起させて出力を最大にまで引き上げ、次元エネルギーさえ繰り出せばこの通りだった。

 

 パタム!

 

 完全にページが閉じて、今こそ【闇の書】の総ページ六六六が埋まり切る。

 

 はやては【闇の書】を抱き締めると……

 

「我が名は八神はやて……闇の書の主也。封印解放」

 

《Freilassung》

 

 【闇の書】を起動した。

 

 其処からの変化は唐突ではあるし劇的過ぎるきらいはあったものの、ユートやユーキや相生兄妹からしてみればアニメで見慣れている変化でもある。

 

 手足が伸びてペチャ……まだなだらかというのにも達してない胸も膨らんで、茶髪が銀髪となってショートボブがロングヘアーに、服装も謂わば騎士甲冑となっており、頬や腕や脚には赤い紋様が入った。

 

 リインフォース・アイン──後にそう呼ばれるであろう【闇の書】の管制人格融合騎の姿に取って変わられた八神はやて。

 

 意識も夢と現の狭間で、表には管制人格が出てきている状態だ。

 

「何故だ?」

 

「何が?」

 

「何故、私を起こした?」

 

 つい先程まで眠っていたとは思えないくらい情報を得ていたらしく、管制人格が憎々しげにユートを睨み付けてくる。

 

「何故……か。僕が此処でやるべきと考えて全てを懸けてきた。そう、この瞬間を迎える為に……ね」

 

「この瞬間だと? だが、全ては最早……私が奴に取って変わられる前に終わらせねばなるまい」

 

 闇が強く強くなった。

 

「そうだね、御約束(テンプレ)の前に楽しもうか……ちょっとした逢瀬をさ。琴里風に言うなら『僕達の戦争(デート)を始めましょう』って処か!」

 

 ユートが右腕を天高く掲げると……

 

「其処までだ!」

 

 突如として顕れたるは、同一規格の服装に身を包んだ兵士らしき者達。

 

 数にして百名近く。

 

「武装局員……時空管理局は手出ししない約束だった筈だが?」

 

「民間人の命令など効力は無い! 大人しく下がっていて貰おうか」

 

 傲然と言い放つ男が隊長だろうが、こいつが首謀者では有り得ないだろう。

 

 恐らくはハラオウンでもないだろうし、消去法からギル・グレアムが首謀者。

 

 ユートは武装局員を見て嘲笑を浮かべ、すぐに踵を返して言う。

 

「勝手にしろ」

 

 そしてさっさとアースラへと戻る。

 

 ブリッジではアースラ組がギル・グレアムから離れて立ち、どうしてこんな事を……とクロノが叫ぶ。

 

「ま、想定内だね」

 

 決着を着けるのならば、やはり自分の手で。

 

 解らなくもないがこれは悪手でしかなく、リーゼで執拗に行動をしていた原典からしてやりそうだとも考えていた。

 

 キューブを見遣る。

 

 闇の書終焉計画に遅延も停滞も、況してや中断など有り得ない。

 

 それは数分後、ユートの予測通りに事が進んで明らかになった。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話:闇 目醒める存在

.

 武装局員達は、ユートが居なくなってから透かさず【闇の書】の管制人格を取り囲むと、ストレージデバイスを向けて飛ぶ。

 

 相手は第一級捜索指定の古代遺失物(ロストロギア)である以上、決して油断を許されない状況であるのだと全員が理解をしていた。

 

《Start Up》

 

 そしてアースラから今回の裏切りの首謀者が出て、自らの持つデバイスを起動させて転移。

 

 このデバイスの名前は、聖騎士ローランが持っていたと云う不滅の聖剣と同じもの……

 

「征くぞ、デュランダル」

 

《OK.BOSS》

 

 即ちデュランダル。

 

「グレアム提督……」

 

 クロノは悔しくてならない気分で一杯となる。

 

 二重に悔しい。

 

 父親の仇の【闇の書】を前にして動けない悔しさ、そして交わした約束を反故にしたグレアム提督を止められなかった悔しさ。

 

 自分は時空管理局の一員として、執務官として何をしているのか……と。

 

 武装局員達が管制人格にバインドを一斉に掛けて、決して直接的には戦わない様にしている。

 

 まともにぶつかっても、武装局員のランクは高くてAランク程度に過ぎなく、低ければCランクがやっとの者も居るくらい。

 

 そもそも、Aランクを越える程の実力者であれば、クロノみたいな執務官を目指しても良いし、資質次第では教導官やエリート官僚にもなれるのだから、この一山幾らなガンダム的に云えばジムでしかない武装局員の能力が高くないのは、時空管理局の性質上は仕方がないのだろう。

 

 というか、一つのぶたいに対する保有ランク制限に引っ掛かるから、高ランク魔導師は謂わば部隊の切札(ジョーカー)な扱い。

 

 Aランクもあれば隊長、それが武装局員なのだ。

 

 だが然し、【闇の書】の管制人格はそんな武装局員を嘲笑うくらいの能力で、蒐集した魔力資質によって更に強くなってしまう。

 

 幸い、今回はジュエルシード・レプリカのみだし、その作り方や扱い方の資料としては兎も角、行き成り収束砲撃をかましたり出来ないのが救いか?

 

 場所は海にまで達した。

 

「暴走開始の数分間が勝負となる。その隙にデュランダルで凍結し、誰にも手の届かない虚数空間に落としてしまえば……」

 

 その為には元来、何の罪も無い八神はやてを偶さか【闇の書】の主になってしまったからと、犠牲にしてしまわねばならない。

 

「すまない、はやて君……私は愚かな大人だな」

 

 グレアムははやてを憎んでいる訳では決してなく、寧ろ知らない間に古代遺失物の主とされた哀れな子、くらいの認識はある。

 

 だからこそ、身内を喪ったはやてが誰からも知られない内に【闇の書】と共に封印する前に、生活に不自由しないくらいの手間を掛ける程度には良心が痛む。

 

 八神はやてに罪は無い。

 

 だけど【闇の書】はそのはやての意志など無関係に暴れ回り、周囲を破壊していくのだから永久封印してでも止めねばならない。

 

 嘗て、十一年前に殉職をした部下──クライド・ハラオウンの仇をこの最後の機会に討つ為にも。

 

「カンピオーネだか何だかは知らんが、あんな子供に何が出来るものか。あの子は世界を甘く見過ぎているのだ。この世界は……いつだってこんな筈じゃなかった事ばかりなのだよ!」

 

 【闇の書】の封印解放から凡そ三分、資料ではだいたい五分くらいが目処。

 

「そろそろだな。悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ……」

 

 グレアムの足元に顕れたミッドチルダ式の魔法陣、この詠唱の間にも凍結魔法の威力がデュランダルから既に漏れ出ていた。

 

 街から追い立て海にまで出たのも、この魔法を十全に使う為なのだ。

 

 だが異変はすぐに起き、グレアムは目を見張る。

 

「ああ、もう留め置けないのか……申し訳御座いません我が優しき主よ」

 

 まるで今まで留め置いた闇が溢れ出るかの様に一条二条、無数の闇が身体全体から噴き出していた。

 

「な、何だあの変化は?」

 

 それに伴い、【闇の書】の管制人格が縮んでいき、見た目には十歳にも満たない姿になり、その顔は明らかに管制人格などでなく、八神はやて本人のもの。

 

 とはいえショートボブが逆立った髪型に灰色の肌、極め付けが血の様にドロリとした紅い瞳は別人だとしか思えなかった。

 

 闇もユートやペガサスの光牙みたいな煌めく闇ではなく、凶悪な迄にドス黒い無明なる暗黒である。

 

 闇黒のオーラを全身から噴き出し、左腕には劇場版で管制人格が装備していたナハトヴァールを身に付けていて、服は脆過ぎたからか弾け飛んで全裸。

 

 闇黒が絶壁な胸や大事な部位を隠していなければ、九歳児にして見知らぬ国のストリッパーだった。

 

 まあ、そうだからといって欲情するにはどうか? というオーラも漂っていた上に、その表情ははやてとは思えないくらい凶暴で、ユートや呂守の識っている【王様】なんて可愛く見えてしまう程だ。

 

 そんな【闇はやて】を見た呂守と璃亜は、ガチガチと歯の根が合わないくらい震えている。

 

「そ、そんな……」

 

「嘘……でしょ?」

 

 明らかに【闇はやて】を識っている様子。

 

「これじゃあ、原作Ωとも変わらないじゃないか! 何処にアイツが現れるなんて情報が、伏線が在ったって云うんだよ!? コンチクショーがぁぁっっ!」

 

 呂守の前世で放映をした【聖闘士星矢Ω】だけど、余りにも余りな出来だった事もあり、非難の対象にしかなっていない作品。

 

 挙げればキリが無いが、最後の最後でまたもやらかしてくれた。

 

 ほんっとーに唐突に名前が出てきたラスボスの神、しかももうギリシア神話は疎か、マルスに関係しているローマ神話ですらない。

 

 それは【エヌマ・エリシュ】で最初に生じた淡水の神であり、海水の神の伴侶として描かれる。

 

 地底の淡水の海を擬神化したのだから、確かに闇の化身的な神として描かれても悪い訳ではないが……

 

 いずれにせよ神だ。

 

 未だに聖衣を纏わねば、白銀聖闘士すら越えられない二人には、余りにも強大な相手と云えよう。

 

「識っているのか雷電?」

 

「誰が雷電か!? って言うか、アンタは識らないのかよ!? 聖闘士星矢的な世界を識っているのに?」

 

「? あんなの見た覚えは無いけどな……」

 

「聖闘士星矢Ωだぞ?」

 

「Ω? 確か二〇一二年に放映したとか云う?」

 

「そうだよ! 【聖闘士星矢Ω】で出た敵!」

 

「パラスとの闘いであんな神は居たっけ?」

 

 二〇一二年、邪神大戦を闘い抜いた際にもユートは見掛けていない。

 

 ユート自身は邪神大戦で中核的な戦力であったし、光牙達……若き青銅聖闘士と共にクトゥルーとも闘ってはいるし、パラス戦でも普通に闘ってサターン戦でもほんの刹那、完全な神々の領域たるテンセンスへと目覚めて闘った。

 

 神化していないが故に、まだ人間と認識しているのだが、人間の精子を毒とする闘神都市の女の子モンスターが死なない処を見て、可成り微妙な一線に居るのは確からしいけど。

 

「で、奴の名前は?」

 

「アプス。闇の神アプス」

 

「アプス……ね。ティアマトーの伴侶だったか?」

 

 ユートも神話はそれなりに識っている。

 

 神々と闘うなら神話を識るのは必須だからだ。

 

「ちょっと待て、あれが神とはどういう意味なんだ? 多少、変わってはいてもあれは八神はやてでは?」

 

 クロノが叫ぶ。

 

 見遣ればクロノ以外も、聖王教会組やリンディ・ハラオウンなどアースラ組、果てはなのは達も驚きが勝っている様だ。

 

「あれは管制人格でも八神はやてでも無い。揺らめく闇色のオーラに対して魔力を感じない筈だ」

 

「あ! 確かに……」

 

 エイミィ・リミエッタが計器を見て呟く。

 

 示された魔力値は〇。

 

 先程から観測されていた管制人格なら、間違いなくオーバーSランクもの魔力を弾き出していたにも拘わらず、あの小型化している【闇はやて】からは一切の魔力が観測出来ない。

 

 であるのに、目に見える程に濃縮されたオーラという矛盾はおかしかった。

 

「神の放つ神力(デュナミス)というのは、最低限でも小宇宙を感じられないと関知は不可能だよ。一応は圧力くらいは感じるんだけど……ね。これが力の純度の差ってやつさ」

 

 純度の高い力を持つ者の力の気配を感じる為には、少しでもその領域へと足を踏み込まねばならない。

 

 何処ぞの怪奇警察さんも神の領域に無かった者は、ラスボスの力を感じ取る事が出来ていなかった。

 

 主人公が最低限、核エネルギーを吸収して力を得た事により座天使級とされるレベルとなっても、相手にすらならないのだからしょうがないのだろう。

 

 所詮、魔力は小宇宙より剥離した上澄みに過ぎず、純度は余りにも低い。

 

 それは兎も角、モニターの向こうの【闇はやて】は暴虐な力で武装局員を蹂躙しており、二十人を越える人数が一分と保たず地へと伏していた。

 

「そ、そんな!? あんな一瞬で武装局員が!」

 

 クロノの驚愕は更に続く事となる。

 

「凍てつけ!」

 

《Eternal Coffin》

 

 グレアムが武装局員を救うべく、氷結の杖デュランダルを揮ってエターナル・コフィンを発動。

 

 パキン!

 

「な、なにぃ!?」

 

 煩わしいと謂わんばかりに【闇はやて】が左腕で払うと、エターナル・コフィンの威力は霧散した。

 

「人間の魔法が神に通じるものか。せめて小宇宙を放てないとダメージなんて通りはしない」

 

 他人事の様なユート。

 

「くっ、早く助けないと」

 

「そうか、頑張れ」

 

「き、君は! 何もしない心算なのか!?」

 

「言った筈だが? 管理局が勝手をしたら僕は一切の行動を起こさない……と」

 

「そ、それは……っ!」

 

 仮に生命の危機に陥ろうとも助けない、それこそが管理局と交わした約束。

 

 それが嫌なら約束通りに手を出さねば良かったが、復讐に逸るグレアムは約束をあっさりと反故にした。

 

 勿論、グレアムとしても心苦しくはあったのだが、どちらにしても高が子供にロストロギアに関して全権委任など出来なかったし、何よりも魔導師ですらないユートを信じる余地が全く無かったのが災いした形。

 

 その気になれば真正古代(エンシェント)ベルカ式の魔法すら使い熟し、ランクもそれこそ測定不能レベルなユートも、普段から魔力ではなく小宇宙を使っていたから、クロノすらユートの魔導師としての能力を識らないのだから無理は無いのだろうが……

 

「だけど人道的見地から言ったら!」

 

「約束の反故は道徳的にはどうなんだ?」

 

「うっ!」

 

「それとも、時空管理局では一度交わした約束とはいえ口約束なんぞ、破っても問題は無いと教えているのかな? 或いは、管理外の蛮族との約束は塵より軽いとでも言う心算か?」

 

「そ、そんな事は……」

 

「だいたい、やる気の無い人間を使おうと時間を無駄にするより自分で行ってきたらどうだ? まあ尤も、二次遭難レベルでクロノが死ぬだろうが」

 

「っ! エイミィ! 僕を転移させてくれ!」

 

「む、無理よクロノ君」

 

「無理?」

 

「はやてちゃん……というかアプス? の周辺の空間が歪んでいて、転移は可成り離れた位置でないと出来ないみたい。さっきから、武装局員を回収しようとはしてるんだけど、一番離れていたグレアム提督だけしか回収は出来なかったの」

 

「そ、そんな!?」

 

 クロノが助けに行く事は疎か、回収するのさえ不可能となれば武装局員達は助けようが無い。

 

 これでは確かにクロノが行ってもアプスに殺られかねないし、転移回収が出来ないから見殺しになる。

 

「呂守」

 

「ん? 何だよ……」

 

「武装局員の身体に浮いた黒い斑点は何だ?」

 

「魔傷。アプスは敵を侵食する魔傷を与える事が出来るんだが、あれをやられたら魔力や小宇宙を使えなくなるだろうな。肉体が拒絶反応を起こすから」

 

「成程……」

 

 それを聞いて目を見開いたのは、アースラ組と聖王教会組が主だった。

 

「つまり仮令、生命が助かったとしても彼らは!?」

 

「魔導師としては、どうしようもなく終わってるな」

 

 世界は確かに、こんな筈じゃなかった事ばかりだ。

 

 【聖闘士星矢Ω】で魔傷に犯された瞬や紫龍や氷河や星矢、それにユナ達が癒されたのはアリアの小宇宙による浄化であり、此方でアプスを斃せたとしても、魔傷の治癒はしない。

 

 彼らは既に魔導師としては終わっていた。

 

「(まあ、あの娘なら癒せるかも知れないけどな)」

 

 唯一の希望は在るが……

 

「ま、僕は行かないけど。キューブはどうしたい? 今はまだ僕は君をそこまで拘束しない。行きたいなら行って構わないぞ?」

 

 全員が黒い冥界の鉱石で創られた鎧兜に身を包む男──地陰星デュラハンのキューブを見遣る。

 

 キューブは静かにエイミィに歩み寄った。

 

「え? あの……?」

 

 困惑するエイミィを他所にシステムを動かし、転移準備を行うキューブ。

 

「そ、そんな? アースラのシステムを操作して?」

 

 転移準備が完了したらしく再び歩くキューブへと、リーゼロッテがグレアムの持っていたデュランダルを投げ渡す。

 

「邪魔にはならないから、持って行って!」

 

 ゆっくり頷いて転移。

 

 驚いたのはグレアムだ。

 

「ロッテ、君は!」

 

「ごめんねぇ、父様。私も実はアリアと同じなんだ」

 

 苦笑いをしながら頭を掻いているリーゼロッテは、申し訳無さそうな顔ではあっても、決して悪びれてはいない様子だった。

 

「スパイ……か」

 

 リーゼロッテは〝脱出〟したのではなく、スパイとして送り返されたのだ──ユートによって。

 

 敗北者の女……それは、ユートの権能を行使する為の条件となる。

 

 嘗て、ペルセウスを斃した後に簒奪して掌握をした権能であり、最初に被害? に遭ったのが他ならないランスロット・デュ・ラックで、続いてグィネヴィアが毒牙に掛かった。

 

 その名を【降されし女王よ妃と成れ(プリンセス・アンドロメダ)】と云う。

 

 そもそも、あの世界に於いてのエチオピアの美しき王女アンドロメダというのは海獣そのもの。

 

 海獣──竜蛇たるティアマトーを降した鋼の英雄のペルセウスは、救い出した美姫アンドロメダ王女を、自らの妃として迎えたとされる訳だが、ペルセウスは即ち討ち斃したティアマトーをアンドロメダとして、妃にしたのである。

 

 それは闘った【まつろわぬペルセウス】本神から聞いた事だし、その影響からか彼から簒奪をした権能がこんなモノになっていた。

 

 問答無用で洗脳する権能ではないからか、洗脳解除を試みても失敗するというのは、以前にとある鬼姫が試して解っている。

 

 この権能の胆は、ユートと敵対する理由を打ち消してしまい、その結果として空いた部分を目の前の施術者の存在で埋めるのだ。

 

 そして、その埋める方法というのが親愛なり友愛なり恋愛なりの──愛情。

 

 恋人が居たり、そうでなくとも好きな相手が居たりした場合、優先順位が下がってしまう結果となる。

 

 好きな気持ちまで変わらないが、どちらを選ぶのか訊かれれば【ユート】だと答えるだろう。

 

「さて、キューブは無事に武装局員を救い出したか」

 

 今度はユートが進む。

 

「ユート!」

 

「私達の主を、はやてを」

 

「宜しくお願いね?」

 

「頼んだぞ!」

 

 守護騎士達は一緒に行きたいのを堪え、ユートへと主を託していた。

 

 そんなシグナム達に……

 

「任せろ!」

 

 確りと応える。

 

「我が身を鎧え、我が聖衣──双子座(ジェミニ)!」

 

 顕現する黄金の二面四臂なるオブジェ、顔にはアルカイックな二つの面。

 

「あ、あ……そんな!? 黄金星聖衣・双子座(ゴールドスタークロス・ジェミニ)? 聖王様が身に付けたとされ、戦船と共に喪われた筈の戦鎧が何故!?」

 

 カリム・グラシアの驚愕の声が響く中で、ユートは転移をすると【闇はやて】と真っ正面から対峙した。

 

 

.

 




 ユートの権能の名前は、仮に付けたモノです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話:双子座 神なる聖衣

.

「はやて……否、闇の神だったか? アプス!」

 

 双子座の黄金聖衣を纏ったユートが叫ぶ。

 

 ニヤリと口角を吊り上げて笑う【闇はやて】だが、何かしらを喋ろうとは考えていないのか、ユートへと魔傷を与える心算らしく動き始めた。

 

「無駄だ」

 

「──?」

 

「僕にこの手の力は通用しない。呪い系は純粋なエネルギーに還元して吸収してしまえるからね」

 

 流石に小宇宙は無理ではあるが、魔法ならその気になったなら最初の人生から生まれ付き持っていた太陰体質で、やはり純粋なエネルギーに還元して吸収出来るくらいであり、小宇宙でも魔傷みたいなタイプならやはり吸収が可能。

 

「我は戦神、我が右手には勝利の天使。汝が我と共に在る時、常勝は我にあり」

 

 聖句を口ずさみながらもアプスの攻撃を躱す。

 

「【勝利を呼び込む天使(ニケ)】!」

 

 それは小さな少女の姿をした天使、城戸沙織はその右手に常に黄金に輝く杖を手にしていたが、それこそアテナ神殿に佇む巨大なるアテナ神像が右掌に乗せている勝利の天使ニケ。

 

 ユートが、【まつろわぬアテナ】との戦闘後に譲渡された神氣、それで発現をした権能がこれだった。

 

「ニケ、ユナイト!」

 

「ピッ!」

 

 ユニゾンデバイスの如くユートの胸より吸い込まれていくのは、アテナに似た容貌で羽根を持つ少女。

 

 然し、ユニゾンデバイスとは違ってユートの髪の毛や瞳の色などに変化無く、変わったのは黄金聖衣である双子座(ジェミニ)

 

 まるでクリスタルの如く燦然と煌めく黄金色。

 

 それは生命の輝きと太陽の耀きみたいな神々しさ、背中には本来だと双子座が持たない天使の如く翼を広げており、重厚感を増して鋭角的なデザインへと変わった姿──双子座の神聖衣(ゴッドクロス)だった。

 

 アースラに残っていて、神聖衣の知識を持つ三人の内のユーキは満足そうで、呂守と璃亜は双子座の神聖衣に驚愕を露わにした。

 

「あ、アレって……まさか……Ω聖衣じゃないよな? 翼を持つ双子座って……神聖衣なのか?」

 

「だけど、ボクらは流石に識らないよ。双子座の黄金聖衣が神聖衣化なんて?」

 

 二人はユーキを見た。

 

 その瞳には説明を求む、そんな色が宿っている。

 

「兄貴の纏う双子座聖衣(ジェミニ・クロス)はね、再誕世界の聖域に神代の頃から存在した本物なんだ」

 

「っ!?」

 

「ボクが纏う鳳凰星座聖衣(フェニックス・クロス)は兄貴の造った物だけどね、ちゃんとアテナの……城戸沙織お嬢さんの許可を得て持ち出したんだ。その際、兄貴が造った双子座聖衣を交換に渡している。まさか聖域の双子座の黄金聖闘士を無意味に不在には出来ないからね」

 

 射手座の星矢は疎か光牙すら引退する刻を越えて、ユートは聖域の守護者で在り続け、漸くのお役御免の時に沙織から双子座聖衣を渡されて、目の前で手首を切ると霊血(イーコール)を聖衣へと掛けた。

 

 最終青銅聖衣みたいな、形状の変化こそ見られはしなかったまのの、輝きやら強度やらは軒並み上がり、生命力に満ち充ちたのだ。

 

「元々、兄貴が使っていた麒麟星座(カメロパルダリス)も謂わば最終青銅聖衣として、神聖衣化が可能ではあったんだ。けどまあ、双子座聖衣も可能になったのなら、こうして神聖衣として使うなら黄金聖衣たる双子座だよ」

 

「ま、マジかよ?」

 

「勿論、マジなんだよね」

 

 その戦闘能力の高さは、今現在のモニターを見ればよく判り、【闇はやて】の攻撃を凌ぎ続けつつ何やら話し掛けているらしい。

 

『とっとと起きないか! こんの……チビ狸っ!』

 

 などと叫んでいる辺り、どうやら八神はやての覚醒を促している様だ。

 

 流石に肉体的にはやてだからか、まともには攻撃を仕掛けていなかったりするのだが、【闇はやて】からの攻撃を回避や防御をする為に技を放つ事はある。

 

 だが、如何な防衛の為だとはいえその威力は魔導師が喰らえばまず間違いなく一撃必討となり、屍山血河が築かれているだろう。

 

「はやては起きるのか?」

 

「原作では起きてたよね。だけどこれは、アニメじゃない……ホントの事だよ」

 

 アニメならハッピーエンドを前提、最悪でもバッドエンドではないレベル──作風次第だが──で描かれるから、八神はやてが制御を取り戻し【闇の書の闇】を討てたものの、飽く迄も現実の世界である此方側で上手くいく保証は無い。

 

 呂守も璃亜もそれが心配だった。

 

「……確かに、アニメじゃないからハッピーエンドを確定は出来ないね。例え話をすれば、本来なら物語ではメインヒロインであり、主人公と物語中にヤっちゃう筈の女の子を、間違って兄貴が堕としちゃったからさぁ大変。主人公と女の子が結ばれて初めて世界が救われるのに、兄貴にメロメロなヒロインが本来の主人公と結ばれるのを良しとはしないし、然りとて結ばれないと世界は崩壊する……本当、世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだね」

 

「「……」」

 

 ユーキの説明に唖然となってしまう二人。

 

「因みに、それって何の噺だったんだ?」

 

「アスラクライン。女の子の名前は嵩月 奏だね」

 

「ブッ! 確かに主人公と最終的に結ばれないと世界が非在化する!?」

 

「まぁ、正確には主人公がアスラクラインにならないといけないからだからね、苦労したらしいよ? ボクは見てないから知らないんだけど、ニアが主人公の兄に惹かれない様に手を回して何とかって感じらしい」

 

「ニア……ああ、アニア・フォルチュナ・ソメシェル・ミク・クラウゼンブルヒの事か?」

 

「おお、兄貴もフルネームは忘れていたのに、よくも覚えていたよね?」

 

「ま〜な。けどあの子って十歳じゃなかったか?」

 

「悪魔だから契約は可能だったし、一巡目の世界では五年を暮らしていたから、十五歳だったし問題ない。何より、六歳差なら理想的なくらいじゃないかな? 奏嬢との接触は向こうからの間違いだし、それが切っ掛けで主人公──夏目智春との仲が進展しなくなって焦ったらしいよ」

 

「うわ……」

 

 下手をすれば世界崩壊のお知らせだった。

 

「その例えだと兄貴が関わってるけどね、当然ながら世界はイレギュラーなんてざらにあるもんだ。世界によっては八神はやてが凍結封印された世界も在るかも知れないし、フェイトによる海上決戦で地球が崩壊した世界も在るかもねぇ?」

 

「た、確かにな……」

 

「だから決して予断は赦さない状況なんだけど、さ。兄貴だってある程度の想定はしていたよ」

 

 流石に神が相手になるのは想定していても、其処まで深刻に考えてはいなかったのだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お眠り下さい我が主……この侭、闇に囚われてしまうならいっそ目覚めぬ夢の奥深く、最後のその時まで幸せな夢を」

 

「あかんな」

 

「──え?」

 

「そんなん、あかんよ」

 

「な、何故? 起きていらっしゃるのです!?」

 

「優斗君がこんな事もあろうかと、夢神の権能で私が自分の意志と無関係に眠ろうとしたら、叩き起こしてくれるゆーとったけどな、うん! お目々バッチリ」

 

 眠りの神(ヒュプノス)ではなかったのは、起きると眠るの狭間である夢こそが肝要だったから。

 

 万が一にも眠り続けられても困ると、ユートは夢神の権能ではやてが明晰夢に入り、自らの意志で彼女と接触を図れるようにした。

 

 当然、それを伝えるべくユートは神殺しの、カンピオーネの権能についても話をしている。

 

「にしても、優斗君は……誰がチビ狸やの? こないな可愛い娘に向かって!」

 

 外からの呼び掛けは聞こえており、はやてはムスッと頬を膨らませて拗ねた。

 

「とはいえ、早ようせんとまた狸呼ばわりされるな。まず貴女に名前を上げる」

 

「え、名前……?」

 

「せや、もう【闇の書】とか【呪いの魔導書】とか言わせへん。この私が呼ばせへん!」

 

「ですが、未だに管理者権限の無い貴女では……」

 

「そこら辺も大丈夫やよ、優斗君から預かったこれが有れば……と」

 

 それははやての魔力光、そしてベルカ式魔法陣。

 

「ハッキング開始……管理者権限を現マスターの八神はやてに正式登録」

 

「ま、まさか!?」

 

「優斗君曰く、マスターでもない人間がこれをやったらあかんけど、マスターの私なら弾かれんそうや」

 

 不正な侵入に違いはないのだが、元来だと【闇の書】はこの時点で八神はやてを真のマスターと認めているはずだから、はやてによるハッキングとシステムの掌握は受け容れるのだ。

 

 そもそも、ユートは余りにギャンブル性が高い作戦をやる心算は無かった。

 

 やるなら間違いなく成功する様に、ギャンブル性はあっても『分の悪い賭けは嫌いじゃない』と言わず、ある程度の保証が為されるくらいの手は入れている。

 

 それが夢神の権能によるはやての目覚めと、ハッキングプログラムによる管理者権限の奪取。

 

 ジュエルシード・レプリカによる比較的安全な魔力蒐集と併せ、後は防衛プログラムをどうにかする事で計画は終盤に持っていける──筈だった。

 

 可能性には入れてたが、何処かから引っ張ってきたアプスさえ無ければ。

 

 権能や聖衣も含めて万全を期していたが、仮にも神であるなら苦戦は必至。

 

 そして神が相手であるのなら、魔導師は元より呂守と璃亜も役に立たない。

 

 神聖衣に自由な覚醒が出来ないユーキも闘いに出せないし、こうなれば原作のフルボッコからアルカンシェルの流れは不可能。

 

 実際、NDで黄金聖闘士を相手に四苦八苦していた一輝や瞬を考えれば、ボロボロな聖衣である事を差し引いてもやられ過ぎだし、神聖衣処か黄金聖衣でさえ持たないユーキが、アプスとは闘えないだろう。

 

 故に、ユートは一人だけで決戦を行うしかない。

 

「さて、管理者権限取得。【闇の書】の名前を変更、【夜天の魔導書】に戻す。管制人格に命名──夜天の主の名に於いて私から貴女に新たな名を贈る。私を強く支える者。私の欲しかったものを運んでくれた幸運の追い風。いつだって私を──私達を応援してくれた祝福のエール……」

 

 この命名の儀式だけは、ユートも一切の関わりを断っている。

 

 だからこそ、これだけは八神はやての想いの丈。

 

「だから貴女は祝福の風、リインフォースや!」

 

「祝福の風……この血塗られた魔導書の私に、その様な綺麗な名を戴けるとは。私は……世界一幸福な魔導書です」

 

〔魔導書の名称を【夜天の魔導書】に変更。管制人格に新名称リインフォースを認識致しました〕

 

 機械的な声で応えるのは【夜天の魔導書】のシステム部分だろう、リインフォースは口を開いていない。

 

「おっしゃあ! 優斗君、オール・オッケーや!」

 

 外でずっと堪え忍んでいたユートは、はやてからの返答にニヤリと口角を吊り上げると……

 

「よくやった、後は此方の仕事だ!」

 

 一旦は距離を取る。

 

 現在、ユニゾンをしている八神はやてはとても複雑な状態となっていた。

 

 本体ははやての肉体で、操るのはアプス。

 

 然るにアプスは闇の書の闇たるナハトヴァールこそが依り代で、ならばそれを切り離せばどうなるか?

 

 そしてどうやってナハトヴァールを切り離す?

 

 八神はやては現時点ではリインフォースと融合し、肉体的にも精神的にも一つの状態、ナハトヴァールも本来はリインフォースとの一体化をしていたのだが、アプスが融合していて可成り箍が外れた状態。

 

 だからこそ可能な方法。

 

 八神はやてとリインフォースを本体、アプスとナハトヴァールを霊魂に見立てての──

 

「積尸気冥界波!」

 

 高次生命体の神とプログラムのナハトヴァールは、ある意味では霊魂みたいな存在である。

 

 本体側の八神はやてから抜き出す事も可能だ。

 

「っ、重いっっ!」

 

 

 問題はその重さ。

 

 大半の情報を肉体に依存する普通の生命体と違い、高次元知性体たる神というのは肉体より魂にこそ情報を多く持つ。

 

 よって、人間の魂を抜き取るのと神の魂を抜き取るのは似て非なる行為。

 

 蟹座・キャンサーのマニゴルドが、一人では冥界波を仕掛け切れなかったのがその証左と云えよう。

 

 だけど、今のユートにはマニゴルドに無かったモノが在り、故に重くても確かに引き出しつつあった。

 

 カンピオーネの肉体は、通常の人間より丈夫。

 

 ユートとマニゴルドでは異なるのが肉体的な強度、力ずくにでもアプス本体を引き摺り出す心算だ。

 

「く、ぐおおおおっっ!」

 

 片目を閉じて歯を食いしばった状態で、右腕を左手で持ちながら無理矢理にでも引っ張るユートは……

 

「ウオリャァァァァァァァァァァァァァッッ!」

 

 まるで一本釣りの如く、アプスと依り代たるナハトヴァールをはやて本体から引き出した。

 

 素っ裸なはやてはすぐに騎士甲冑の素体姿となり、シュヴェルト・クロイツを右手に持つと天高く掲げ、高らかに叫ぶ。

 

 まあ、正確にはシュべルト・クロイツの元となった杖……である。

 

「夜天の光よ我が手に集え……祝福の風リインフォース──ユニゾン・イン!」

 

 騎士甲冑のオーバージャケットが装備され、はやての髪の毛が茶髪から白雪、瞳の色も碧から水色に変化が起こり、完全なユニゾンを成功させた。

 

「おし、アースラに急いで戻るよ!」

 

《は、はい!》

 

 スレイプニール……背中の黒い翼をはためかせて、はやては大空を翔ぶとすぐに転移を行う。

 

 アースラのブリッジへと戻ったはやては、守護騎士やなのはにフェイトといった面々から祝福された。

 

 現場に残されたのは正にユートとナハトヴァールに寄生をしたアプスのみで、今度こそユートは全力全開手加減抜きの戦闘をする。

 

 アプスは【闇はやて】から本来の姿に戻って、些か不安定ではあるが神としての力を揮うだろう。

 

 神聖衣・双子座を装備したユートと本来の姿形となったアプス、ジリジリ──距離を詰めていった。

 

「さて、闇の神アプス? 始めようか二人だけの聖戦ってやつを」

 

『何故、我がこの場に在るのかは解らぬ。だが、貴様はアテナの聖闘士か?』

 

「ああ、アテナの聖闘士。双子座の優斗だ」

 

 成程、アプスはユートの知る【聖闘士星矢】と関わる神らしい。

 

 呂守の言ったアニメ……恐らくパラスより以前に現れたのだろうが、ユートの世界では邪神大戦だった。

 

 当然ながらアプスなんて出てこない。

 

 つまり、呂守の言っていた二〇一二年の闘いとは、ユートの知る聖戦と全く異なる事を意味する。

 

 一九九九年にマルスとの闘いがあったのは同じで、呂守が曰く二〇一二年でも基本的にはマルスと火星士が敵だったとか。

 

 そして、マルスとの最終決戦の直後に彼の銀河衣(ギャラクシーメイル)から引き出された闇、そいつを光牙が受け容れた状態。

 

 それがアプスの第一形態であり、光牙から抜け出た第二形態──

 

「(あれがそうか)」

 

 上半身は丸みを帯びて、胸の発達から女性の様ではあるが、声色や顔から鑑みてやはり男神か?

 

「(思い出した! 確かに魔女メディアは言っていた筈だ! 闇の神アプスと。リアルで七歳の頃だったからすっかり忘れていた)」

 

 ここにきて漸く思い出したユート、西暦一九九九年のマルス戦で過去に跳んだ双子座のユートと、七年を生きた麒麟星座のユートで同時に存在をしていた時、七歳のユートは闇の隕石を召喚した魔女メディアと、彼女を姉と呼ぶコーカサスのアモールと闘った。

 

 その戦闘の際、メディアはコーカサスのアモールを斃した時に、闇の神アプスの名を出していた筈。

 

『アモール!? 何という事! マルス様ではない、貴方こそが闇の神アプスの器と成り得る存在!』

 

 アプスの器、アニメではマルスよりも光牙がそれに抜擢された訳だ。

 

 まあ、もうどうでも良い話ではある。

 

「さあ、闇の神アプスよ。我が力以て……金色の御許へ還るが良い!」

 

 この二人だけの聖戦は、ユートとアプスによる闘いに他ならないのだから。

 

 

.




 リリなの分が少ない……取り敢えず名付け終了。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話:モニタリング アースラ内の面々

.

 アースラのスタッフは、聖王教会からの使者であるカリム・グラシア達は……それ処かなのはやすずかや守護騎士は疎か、同じ転生した口である筈の相生呂守と相生璃亜までが唖然となっている。

 

 尚、ギル・グレアムに関しては魔傷に侵されてしまった武装局員を看るべく、このブリッジから既に出て医務室へと向かっていた。

 

 闇の神アプスとの戦闘、それはギリギリにまでも落とした速度にて見ても尚、見損ねる逸さである。

 

記録された映像をすぐにも万分の一の速度で再生し、それでもギリギリで見える速度、それは正に神なる逸さだと云えた。

 

 神速……カンピオーネの世界に於けるそれは謂わば雷速の事を云い、大凡そで秒速百五十キロ〜二百キロくらいの速度となる。

 

 だが、ユートとアプスのそれは明らかにそれを越えた速度であり、アースラに備え付けられた器機は優秀なれど、捉え切るにはまだ足りない程。

 

「光速……なのか?」

 

 未だに呂守が至れない、そんな世界が光速。

 

 黄金聖衣を持ちながら、然し未だに究極の小宇宙たるセブンセンシズに目覚めていないが故に、光速には至れない状態だった。

 

 黄金に輝く小宇宙を纏うユートが、アプスを相手に光速としか云えない速度で闘っている。

 

「呂守の考えは半分当たっている。今の兄貴は光速をも超克した速度だ」

 

「光速を超克?」

 

「そう、兄貴の肉体は既に常人のモノじゃない」

 

「カンピオーネ……か?」

 

「そう。神殺し、羅刹王、羅刹の君、時には堕天使とか呼ばれる。神を殺して、その神氣を獲て肉体を謂わば神の権能を操れる様にと改変された存在。皮膚は硬くて柔性に富み、骨はまるで鋼鉄の如く。肉体的には素で聖闘士並と言えば解り易いかな?」

 

「あ、ああ……俺はな」

 

 当然、聞いていた周りは置いてけぼりを喰う。

 

「更に常人の数百倍とも云われる呪力。そんな兄貴だから小宇宙の量も格段に増えているね。普通の人間が幾ら鍛えても辿り着けない高み、そんな兄貴が黄金聖闘士と同じセブンセンシズを持てば、黄金聖闘士を越えるのは当然の帰結だ」

 

「あ!」

 

「星矢さん達も光速だったけど、肉体的には常人が極限まで鍛えたレベルだし、素では兄貴に敵うべくもないのは当たり前」

 

 聖闘士の拳が空を裂き、蹴りが大地を割り、音速をも越える速度を出せるのは小宇宙を使えるから。

 

 破壊の根源を身に付ければ小宇宙無しで岩くらいは割れるが、LC版のテンマが崖崩れをどうにかしようと殴っても拳を痛めるだけだったのが、小宇宙を僅かに発露しただけで崩れていた崖を吹き飛ばした事からも明らかだろう。

 

 肉体は飽く迄も常人で、小宇宙が超人を作った。

 

 それが聖闘士。

 

 とはいえ、次の瞬間には有り得ないモノを見た気分になってしまう。

 

 ユートが右腕を一閃しただけで……

 

「莫迦な! 山が、山が斬れた……だとっっ!」

 

 スッパリと巨大な山を斬り裂いてしまった。

 

 クロノの絶叫は仕方がない話だろう。

 

「何だよあれは……」

 

村正抜刃(エクスカリバー)だよ、相生呂守」

 

「エ、エクスカリバー? 山羊座の必殺技かよ!? あんなん、規模がダンチじゃねーか!」

 

 本家本元である山羊座のシュラ、彼が使った場合は果たして山を斬れるか?

 

 呂守は青褪める。

 

 光速で空中戦闘をして、山が吹き飛び大地が抉れるともなれば、もうこいつは聖闘士星矢というかDBの世界だろう。

 

 相生呂守から見てもその闘いとは、星矢VSタナトスより悟空VS魔人ブウ。

 

 正に既知外である。

 

 とはいえ、神に対抗するべく小宇宙を燃焼させている今のユートは、阿頼耶識──エイトセンシズにまで高めているし、ほんの刹那の時間だが第九識にまでも高めたのだから、これくらいは当然ながら可能。

 

 ユートの認識からして、神々にはランクがある。

 

 所謂【まつろわぬ神】を天災級とし、自分の世界の冥王ハーデスや海皇ポセイドンや天帝ゼウスを惑星級としている。

 

 いずれにせよ、只人にはどうにもならない存在。

 

 尚、死の神のタナトスや眠りの神のヒュプノスといった惑星級の神に仕える神を衛星級としている。

 

 そして、闇の神アプスは能力的に衛星級よりやや上だと思われるが、何故だか明らかに惑星級として確固たる力を揮う。

 

 ユートの力が余り効いていない辺り、冥王ハーデスを思わせてくれた。

 

 流石に、突っ立っていて力を跳ね返す様な能力までは持たないが……

 

「あの、ユーキさん……でしたか?」

 

「何かな? カリム・グラシア」

 

 モニターに釘付けにしていた目を、カリム・グラシアへと向けて問う。

 

「あの方が使うのは星聖衣(スタークロス)……なのでしょうか?」

 

「さっきも言っていたね。どうして未だに兄貴がボク以外に閃姫にすら見せていない星聖衣を知ってる?」

 

「我が聖王教会では、最後の聖王が戦船を浮かべる際に纏っていた黄金に煌めく聖なる衣、星聖衣であると伝えられています。戦船と共に喪われてはいますが、絵画が遺されていまして」

 

 カリムが絵画の映像を見せてきた。

 

「……成程、確かにこの絵のオリヴィエ・ゼーゲブレヒトが纏っている鎧兜……双子座の黄金星聖衣だね」

 

 見覚えがある。

 

 兄が新たに造ったという星聖衣、勿論ながら三種類の階級からなるが絶対的に小宇宙が必須でもなくて、今までみたいなパワーアシストも付いていない。

 

 魔力や霊力や氣力や念力でも扱えて、小宇宙も当然ながら使える割と万能型。

 

 パワーアシストが無いから素人には扱い様もなく、然れどエネルギーを扱えるならデバイス代わりになる優れものでもあった。

 

 だけど、ユーキは見知っていたがまだ誰にも渡した事は無い筈で、況んや過去の人間が持ち得る訳も無いのだが、だけど似た事例を知ってるから性質が悪い。

 

「(〝また〟過去に跳ぶって訳だねぇ……)」

 

 再誕世界でも二十年以上のスパンで跳ばされた事があり、故にこそ大分裂戦争に参加して母親の若かりし日に出逢い、あの第三皇女様の幼き日に出逢った。

 

 アスガルド戦や海皇戦、冥王との最終聖戦や過去の冥王戦などに参加が出来たのもそのお陰。

 

 実に微妙な話である。

 

 苦しくも楽しいという、困った状況だったから。

 

 恐らくは跳んだ先にて、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトやクラウス・G・S・イングヴァルトや当代のエレミアと出逢うのだろう。

 

「(あれ? エレミアって何だっけ?)」

 

 何と無く覚えているが、はっきりとではない。

 

「(ま、良いか)」

 

 もう随分と昔だったし、度忘れでもしたのだろう。

 

 それにオリヴィエ達と絡めて覚えていたのならば、古代ベルカの関係者。

 

 それだけ判れば充分だ。

 

「兄貴が造って誰にも渡した事は無いからねぇ」

 

「誰にも?」

 

「だからいずれ、過去にでも行くんじゃない?」

 

「そ、そんな……まさか」

 

「魔法を習う者なら誰もが知っている。過去を覆す事も死者を甦らせる事も……魔法では不可能だって?」

 

「は、はい」

 

 カリムばかりかクロノも頷いている。

 

「魔法でもある程度なら、時間操作も死者蘇生も可能だよ。現にボクは時粒子に干渉して多少の過去遡行が出来るし、兄貴も時の砂の呪文で多少の干渉が出来たりする。死者蘇生にしても条件付きで出来るからね。管理局の使う一般的な魔法──ミッドチルダ式に無いってだけで……ね」

 

「そんな事が?」

 

 やはりショックなのか、管理局組が呆然となった。

 

「時の砂の呪文って大賢者カダルが使っていた……」

 

「そうだよ。兄貴は、あの世界にも行った事がある。疑似転生で勇者アレルとは双子の弟になって、早々に爺さんから勘当されて旅に出たらしい。色々と旅をして最終的にジパングに住み着いたってさ」

 

「おいおい……」

 

「卑弥呼は間に合わなかったけど、卑弥呼の娘と良い仲になって魔王バラモスや大魔王ゾーマが倒れた後、大王になったから……ね。ロト紋のイヨって、兄貴の子孫に当たるんだよね」

 

 勿論、ユートが行ってきた世界に限っての話だ。

 

 その後、ロト紋そのものにも関わっている。

 

 合体魔法を極めるべく。

 

 更には無印やⅡにも関わりを持ち、やりたい放題をしていたユートだったが、その後は天空シリーズにも向かう事に。

 

 ターニアの大転生術で、彼女の魂がⅣとⅤのキャラに転生し、天空シリーズを共に駆け巡ったものだ。

 

 それは兎も角として……

 

「それに兄貴は魔法がダメなら他の力を使えば良いじゃないか? 何て言ってるくらいには色々と修得しているからねぇ」

 

「他の? あ、神の権能! 若しかしてその手の権能を持ってるのか?」

 

「ハイパークロックアップとか、ヘブンズ・キャンセラーとかだね」

 

「ハイパークロックアップって、仮面ライダーカブトのハイパーカブトか?」

 

「いや、ニャルラトホテプから簒奪した権能に付けた名前だよ」

 

「ニャルラトホテプ!? 俺と漓亜を転生させた!」

 

「知ってるだろ? ナイアが無限螺旋を生み出したって事を。時空間を乱す能力をナイアは持っていた」

 

「それが転じてか?」

 

 実際、【機神強襲デモンベイン】に於いてマスターテリオンと千日手となった男の歴史をリセット、なんて暴挙にも出ている。

 

「時の神クロノスや刻の神カイロスの権能も有る」

 

 刻の神カイロスの権能、【刻限の快楽神(カイロス・ジ・ゴッド)】。

 

 刻を留める権能としては──【素晴らしき停止時間(マーベラス・タイム)】を何度か使ったが、そいつは派生系の一つに過ぎない。

 

 物質を元の状態に戻す、生命体の時間を巻き戻すと似た様な権能だが、似て非なる権能として独立もしているのが有るし、単純に刻を進める事も出来た。

 

 そんな話を内々にしていると、栗毛を外はねさせた十六歳の少女オペレーターであるエイミィ・リミエッタが呆れながら、顔を青褪めさせながら右手で口元を押さえて呟く。

 

「ふわ、スゴい……」

 

「どうした、エイミィ?」

 

「クロノ君、彼の攻撃って只の一撃一撃がオーバーS越えの威力だよ!」

 

「なにぃ!?」

 

「必殺技でも何でも無い、単なるパンチがオーバーSの大威力砲撃を越えてる。若し、彼の今の一撃だったら余波でさえもクロノ君を蒸発させられるよ?」

 

「よ、余波だけで!?」

 

「うん、余波の煽りを喰らうだけで全力でシールドの魔法を使って防御一辺倒になっても、一瞬でシールドが破れて蒸発かな?」

 

「ば、莫迦な……」

 

 驚愕するクロノ。

 

 勿論、周りで聞いていたリンディやカリム達も驚愕をしているし、ユーキ以外は一様に同じ顔だ。

 

「あの戦場にクロノ君が入れば、一当てする前に木端微塵になって死んじゃうだけだよ」

 

「……」

 

 最早、言葉も無い。

 

「かといって、影響が及ばない程の遠方から砲撃(ブレイズ・キャノン)を撃ったとしても、多分だけど届く前に掻き消される……というより、届かないかな」

 有効射程距離は疎か限界射程すら程遠く、クロノの能力では全力でも当てる事さえ不可能だった。

 

 まあ、クロノの魔力量はなのはやフェイトに比べて遥かに劣るし、魔導師ランクAAA+は技術有りきのランクなのだから。

 

 実際、なのはもフェイトも魔力量に技術を足しての十年後は実にS+ランク、はやてなど総合だとはいえSSランクである。

 

 流石は平均発揮時魔力が一二七万の高町なのはと、一四三万のフェイト・テスタロッサだろうか?

 

 はやてはどうか判らないけれど、クロノは恐らくだが百万にも届くまい。

 

 因みに、呑気に会話をしている様にも見えてるが、基本的に地球の魔導師組やミッドチルダ組、聖王教会組などはマルチタスクによってモニタリングしているが故に、闘いの趨勢を見誤る事などは無かった。

 

 アリサとすずかは不完全なマルチタスクだからか、会話には参加していない。

 

 相生新也と相生兄妹も、マルチタスクは未修得だから会話は余り出来ず、辛うじて資質が母親譲りなのか兄妹は何とか付いていけている感じだ。

 

 その時である。

 

 斬っっ!

 

 モニターの向こう側で、ユートの右腕が闇の刃にて斬り落とされた。

 

「兄貴!」

 

 ギリィッ!

 

 先程からユートが攻撃を受ける度、表情には出ないものの掌の皮が破れるくらいの力で手を握り締めていたのだが、遂には〝破れるくらい〟ではなく破れて血が滴り落ちていく。

 

 表情もアプスを憎悪の瞳で睨む程に歪めて、今にも飛び出しそうな雰囲気だ。

 

 それでも本気で飛び出したりしなかったユーキは、ユートがこの程度で参る様なタマではないと理解をしており、何よりも致命的なダメージを負ってしまった訳でもないから。

 

 事実、ユートは小さく某かを口ずさむ。

 

「在りし姿を取り戻せ……【輝ける刻の追想(リターン・オブ・タイム)】」

 

 エイミィが唇の動きからアースラのコンピューターに解析させ、それで判った文言は権能の聖句。

 

 【刻限の快楽神(カイロス・ジ・ゴッド)】の派生系となる権能で、云ってみれば草薙護堂の使う権能──【東方の軍神(ザ・ペルシアン・ウォーロード)】に十の派生権能が有る様なものだろう。

 

 尤も、黄金の剣に怪力に雷速に加護に雷撃に灼熱に脚力に復活に神獣に召喚に……と、てんでんばらばらな能力ではなく、飽く迄も【刻】に関する権能であると統一されてはいるが……

 

「な、何だと!?」

 

 クロノは驚愕に目を見張るが、それも仕方がない事なのだろうか……実際に、識っているユーキ以外だとやはり驚いている。

 

 まるでビデオの巻き戻しを観るかの如く、ユートの右腕がくっ付いたのだ。

 

 聖衣の切断部分の損傷も無くなっていた。

 

「何だよありゃ……」

 

 呟く相生呂守に答えるかの如くユーキが口を開く。

 

「先程も話題に出した刻の神カイロスの権能だよ」

 

「カイロスの?」

 

「そう、識っているかもだけど【聖闘士星矢LC】に於いて、天魁星メフィストフェレスの杳馬はカイロスの化身ってか、人間の杳馬の肉体に縫い付けられた……そうだね、シャブラニグドゥの人間体に近い感じに封印されていた状態かな。そんか刻の神カイロスは、刻を留めたり戻したりなんて真似をしていた訳だね。兄貴の権能はそのイメージから構築されているんだ」

 

 未だに手からポタポタと血を流しながら、それでも顔は平然とした侭に話す。

 

 そんなユーキの手を取ったアイラは、急ぎ治療魔法を掛けてやる。

 

「ん? ああ、ありがと」

 

「余り自分を傷付けちゃあ駄目よ?」

 

「了解」

 

 自傷行為の心算も無かったのだが、やはりユートが傷付くのは嫌なのだろう、無意識にやらかした。

 

「鈴鹿御前の権能を使う暇があれば、多少のパワーダウンは出来そうだけど」

 

「鈴鹿御前の権能?」

 

「鈴鹿御前が持っていたとされる三振りの剣、大通連は草薙護堂の権能【戦士】と似た智慧の剣だからね。来歴を詳細に明かしてやれば斬れるんだけど……」

 

「聖句を詠む暇が無いか」

 

「それなりに長いからね。カイロスの権能は短いから使えたけどさ」

 

 今や秒速で六十万キロの速度に達し接近戦をしているだけに、短いカイロスの権能は未だしも、他の権能は少しばかり使い難い。

 

「っていうか、アプスにしちゃ強過ぎないか?」

 

「はぁ?」

 

「いや〜、だってよぅ……黄金聖衣とはいえボロボロだった射手座を纏った光牙が単独撃破した程度だし、幾ら何でもあれは強過ぎにしか思えないんだが?」

 

「っ! チィッ、やられたかも……」

 

「どういう意味だよ?」

 

「アプスはニャルラトホテプに強化されてるんだ!」

 

「なっ!?」

 

「こうなれば、兄貴単独で闘うのは難しいかな?」

 

 苦々しい表情で言う。

 

「だけど……兄貴の顔は」

 

 ユーキがモニターの向こうのユートを観た限りで、決して絶望に囚われた表情ではなく、何処か何かしらを狙ったものに見える。

 

「兄貴、何を企んでる?」

 

 義妹として、ユートの囲う閃姫の一人として永らく共に在ったユーキだけど、その考えを推し量るのにはまだ足りなかった。

 

 

.




 一応は予定通りに進めたとはいえ、早くリリカルな成分を戻したいかも……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話:冥王 真なる力が闇を裂く

.

 ユートはアプスの能力に舌を巻く。

 

 これ程だとは思わなかったのもあるが、ハーデスやポセイドンみたいなバリアは無いけれど、下手に高い格闘能力が補っていた。

 

 言っては何だろうけど、あの二柱は剣や三ツ又の矛を武器に持つ割に、対して高い格闘戦技や武具戦技を持ってはいなかった。

 

 素人とは云えないが玄人と云うには拙い、それこそユートがハーデスやポセイドンに懐いたイメージ。

 

 人間に比べたら余りある能力や小宇宙が高いから、良い様にやられてはいたけれど、若しもステータスが同格ならば敗けは無いとも不遜と取れる思いすら持てる程に……だ。

 

 正直、アプスも同じ。

 

 格闘戦技は決して高いとは云えず、小宇宙と能力に依存している様だ。

 

 しかも普通に特殊な力も使うから、先程も右腕を斬りとばされたばかり。

 

 だからこそ厄介。

 

「(やっぱり、魔導師組を連れて来なかったのは正解だったみたいだね)」

 

 ユートとしては魔導師組を決して虚仮にする気も、無意味に下に見る心算なども更々無いが、現実として彼らがこの闘いに付いて来れないのは純然たる事実。

 

 ドラゴンボールの様に、闘氣を漲ぎらせれば身体の能力が上がる。

 

 幽☆遊☆白書の様に霊氣を漲ぎらせればやはり身体能力は上がる。

 

 ハンター×ハンターみたいに念力を漲ぎらせたら、やはり身体能力は上がる。

 

 魔法先生ネギま!の様に魔力を漲ぎらせれば、やっぱり身体能力は弥増すし、魔力と氣力の融合をさせる咸卦の氣なら大幅な向上も見込めるだろう。

 

 だけどこの手の神々は、人間からすれば基礎能力からして不正(チート)であると喚きたくなるくらいで、更には魔力や氣力に比べて遥かに純粋で原始的な力、小宇宙を濾して純度を増した神力(デュナミス)を使うが故に、魔力を扱えるだけの人間──魔導師では戦力として数えるには全く以て足りない。

 

 魔力で神々に対抗したいのなら、せめてカンピオーネ世界のエリカ・ブランデッリやリリアナ・クラニチャールが使う【ダヴィデの言霊】を用いるか、或いはSSS級魔力にまで達した星光破壊(スターライトブレイカー)を聖剣抜刃並に薄く薄く鋭い刃と化して、高速で斬り捨てるくらいはしないとならないだろう。

 

 単純な戦技はこの際に、余り意味が無いからクロノの魔導師ランクAAA+も無いに等しい。

 

 ユートだって単純な魔力で構築した村正抜刃(エクスカリバー)で、神々を斬るなんて無謀は犯したくないと思っている。

 

 絶対に効かないから。

 

 先に挙げたのにしても、軽く傷くらいは付けられる程度で、斃すのは疎か大きなダメージすら与える事は叶うまい。

 

 今は何とか聖句の短目な権能や、振りの小さい技で何とかしている状態だ。

 

 削れているかも怪しい。

 

 超光速戦闘の最中ながらマルチタスクで思考を巡らせている辺りは、ユートがそれを得意とする魔導師に対してある程度の力を信頼している様だった。

 

「少し、コンマ〇一秒でも構わないから隙が作れれば……引き離して策を講じる事も出来るのにな」

 

 苦笑いと共に呟いた科白だったが、そんな冗談ともつかない言葉を真に受けて実行をした者が居る。

 

 勿論、科白自体は冗談の類いでなく本心だったが、それで誰かしらが動くという可能性までは考慮に入れていなかったのだ。

 

 それは唯一、この場にて〝それ〟を──そんな無茶を実行に移せる人間。

 

 水晶の如く透明感溢れる灼熱色の──鳳凰星座(フェニックス)の神聖衣を纏った小さな少女の形をしたナニかである。

 

 ユートの為なら限界すら越えて魅せた。

 

「右手に鳳翼天翔、左手に凰翼氷嵐。交ざりて産み出せ消滅の光! 我が敵を穿て鳳凰滅皇覇ぁぁっっ!」

 

 灼熱と氷結の不死鳥……それが交じわりて新たなる生命とも取れる光、覇滅の不死鳥が誕生をする。

 

 全てを穿ちて覇滅へと導く光は、闇を呑み込むべく光速を以て飛翔した。

 

 とはいえ、相手は紛りなりにも神である以上は消滅の特性を持った光でも謂わば一撃死をする筈も無く、少しは削ったものの殆んど無傷に近い。

 

 だが然し、それでも自らに掠り傷とはいえ負わせた人間を、アプスも容認出来なかったらしくジロリと睨むと闇を放つ。

 

 受ければ魔傷に侵食される闇の波動が、ユーキに向かって放たれたのだ。

 

「が、アアアアアッ!」

 

 ユート程に多彩な技を持たないユーキは、当然ながら防御技も持っていないと思われ勝ちだが、実はムウやシオンの結晶障壁(クリスタルウォール)に近い技を持っていた。

 

 炎凰結界(ファイヤーウォール)である。

 

 だけど、流石に秘奥技を放った直後に新たな技なぞ使えはしない。

 

 ユーキはモロに闇の波動を受けてしまった。

 

「む、だ……だよ……ボクは兄貴程に無茶苦茶な能力は持ち合わせないからね、あんたの闇、ダメージこそ受けるさ。でも……ね? 虚無魔法は便利……でさ、魔傷の侵食は防げるのさ」

 

 神聖衣は罅割れ破壊されていたが、確かに言う通り魔傷は負っていない。

 

 そしてユートが欲していた時間は稼がれた。

 

銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッッッ!」

 

 ユートはユーキに一目も呉れず、目的を果たすべく銀河爆砕をアプスに放つ。

 

 薄情に思えるだろうか?

 

 寧ろ、ユートがこれで躊躇いを覚えて攻撃の手を休める方こそ、緒方祐希──比翼連理たる彼女に対する侮辱以外の何物でもない。

 

 だからユーキは笑う。

 

 何処ぞの妹キャラみたく──『流石ですお兄様』と言って誉めたいくらい。

 

 銀河爆砕は使い手によってその理が変わる場合があって、ユートの場合であれば物質と反物質の融合による対消滅現象を応用して、歴代でも凄まじいばかりの破壊力を誇る。

 

 ハルケギニア時代に於いてだが、竜破斬(ドラグスレイブ)っぽい魔法を使う為に、水素原子と反水素原子による対消滅を利用した事があり、そこから拡大解釈したのがこの銀河爆砕。

 

 勿論、最初の内はサガからコピーした銀河爆砕を使っていたが、カンピオーネに成ったのが切っ掛けで、今の銀河爆砕が使用可能となったのである。

 二〇〇九年に麻帆良学園都市に侵攻してきた帝国軍に対し、この銀河爆砕を使ってやったら一発で全軍を消滅させてしまった。

 

 正しくペンペン草すらも生えない大地となり果て、ユートは穿たれた大穴へと水を流し込み、巨大な湖として活用をしている。

 

 それは兎も角、そんな技ですらアプスにとってみればダメージこそ受けても、それは涼風も同然。

 

 人間の世で云うならば、ちょっとクーラーの温度を下げ過ぎて鼻風邪を引いた……くらいであろうか?

 

 僅か……刹那よりも僅かに遅かったのはユート。

 

 コンマ〇一秒は稼げた、だけどコンマ〇〇一秒までは稼げなかったのだ。

 

 ユートが策を使うには、コンマ〇六秒は遅い。

 

「くそっ、たれぇぇっ!」

 

 ならばそれこそ自らが持つ全て──生命すらも懸けてやるまでだと、邪神大戦の折りに届いたテンセンスを燃やし尽くさんとした……その虚空の刻にアプスを揺るがす大きな漆黒の鎌。

 

 死と大地の暗黒の気配を漂わせるデスサイス。

 

「フッ、妾がしてやれるはこの程度よ」

 

 高校生くらいの見た目、長い銀髪に闇色の瞳を持つ古代ギリシアの貴族の衣服に身を包む女神が、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「埋まった!」

 

 足りなかった刻が。

 

 埋まって尚も余りある刻を用いて、ユートはゲートをこの無人世界に開く。

 

 その先に在るは天国──エリシオン。

 

 現れたるは昏き闇に輝く鎧を纏う闘士達。

 

 冥王の聖闘士招喚の門。

 

「牡羊座のムウ」

 

「牡羊座のシオン」

 

「牡牛座のアルデバラン」

 

「双子座のサガ」

 

「双子座のカノン」

 

「蟹座のデスマスク」

 

「獅子座のアイオリア」

 

「乙女座のシャカ」

 

「天秤座の童虎」

 

「蠍座のミロ」

 

 

「射手座のアイオロス」

 

「山羊座のシュラ」

 

「水瓶座のカミュ」

 

「魚座のアフロディーテ」

 

 それは嘗ての日、ユートの再誕世界で時に争い合いながら、時に共に闘ったという最強の称号を持っていた十二人と+α。

 

 黄金聖闘士であった。

 

 そもそも、ユートだって何の準備もしないで闘いに挑む猪武者ではない。

 

 某・猪姫武将達を見てきた経験もある。

 

 主に華雄とか夏侯惇とか文醜とか、そういえば華雄の真名はユートも教えて貰ってはいなかった。

 

 割と美人ではあったし、弓状列島にも付いてきていたから何度かは抱いた事もあったのだが、何故か影が薄いといえば良いのか? 結局、転生もしていなかったからあれっきり見ない。

 

 否、それは最早どうでも良い話ではある。

 

 折角、入念に準備をする期間が与えられていたし、ユートは考え得る幾つもの場合を想定して準備を整えてきたものだった。

 

 神の降臨さえ少ない可能性ながら想定していたし、黄金聖闘士を招喚する為の準備や、闘いの為の作戦も一応は考えていたのだ。

 

「ヒッヒッ、苦戦しているじゃねーの?」

 

「デスマスク、今は配置に着け!」

 

「へっ、判ってるよ」

 

 シュラに言われ、肩を竦めながら配置とやらに着いたデスマスク。

 

 アプスを取り囲む様に、ムウとアイオリアとミロ、デスマスクとシュラとアフロディーテ、アイオロスと童虎とシオン、アルデバランとシャカとカミュ。

 

 そして双子座の三人──ユートとサガとカノン。

 

 三人五組が五芒星(ペンタゴン)を描く点に配置を為され、一斉にとある構えを全員が執った。

 

「あ、あれは!」

 

「う、嘘……でしょ?」

 

 相生呂守と相生漓亜──流石にこの二人はその構えが何なのか理解した。

 

「知っているのか雷電?」

 

「誰が雷電か!?」

 

「いや、何と無く言わなければならない気がして?」

 

 ツッコミの出所は、何とクロノであったという。

 

 何か変な電波でも受け取ったのだろうか?

 

「で、あれは?」

 

「禁じ手さ」

 

「禁じ手だって?」

 

「アテナ軍にも幾つか破ってはならない掟が在る」

 

 クロノの質問に答える形で説明をしていく呂守。

 

「例えばあからさまな武器の使用を禁じる。鎖だとか円盤だとか薔薇だとか……それらは技に組み込んで使っているが、武器だと精々が射手座の弓矢が聖衣的に存在している程度だな」

 

 正直、射手座の弓矢とか武器に入らないのか疑問は残るのだが、聖衣のというか星座的には有りなのだろう射手座だけは。

 

 弓矢を持たない〝射手〟座なんて、トンチを利かせる意味も無いのだろうし、矢を持たない矢座も間抜けでしかあるまい。

 

「例外的な聖衣だからな、射手座ってのは。唯一武器を持つ聖闘士も居る。それが天秤座(ライブラ)だな。二対六種の武器を仕込んだ聖衣、アテナが許可を出すか天秤座の黄金聖闘士が認めない限り、使う事が許されない強力無比な武器」

 

 これこそ本当の意味での例外となる。

 

「例えば女性聖闘士は必ず仮面を着け、自らが女である事を捨てる事。聖闘士の世界が基本的にアテナとか巫女以外だと男の世界で、本来は女性が聖闘士になる事は認められてはいない。若し仮面の下を異性に見られたら見た相手を殺すか、或いは愛するしかないって言われてるくらいだ」

 

 まあ、敵なら愛するという選択自体が有り得ない。

 

「女性聖闘士にとっては、仮面の下を見られる事とは裸を見られる以上に屈辱的な事だからな」

 

 とはいえ、ユート聖域に於いてはその掟自体が存在しないのだが……。

 

「そしてアレだ。最強を誇る黄金聖闘士が三人掛かりで一人を相手に技を仕掛けるという行為、それを卑劣として時のアテナが禁じ手として封じたんだ」

 

「破ればどうなる?」

 

「未来永劫・過去永劫……鬼畜にも劣るとしてレッテルを貼られ、聖闘士だった全てを剥奪される」

 

 資格も聖衣も栄光も誇りでさえも。

 

「(まあ尤も、敢えて使うという事は元の世界に於けるアテナをもう信仰してはいないか、若しくは許可を得ているかだろうな)」

 

 そして呂守は後者であると判断を下す。

 

「だけど、あいつは正気なのかよ? 神が相手だとはいえアレを五組で同時使用するとか……」

 

 単純に二組がぶつけ合っただけで、小振りながらもビッグバンにも匹敵するであろう威力を孕むという、それをあんな〝増幅陣〟すら用いて五組だ。

 

 呂守からすれば正気を疑って当然である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 僅かな遅れを以て観ていたアースラの面々だけど、既にユート達は〝ソレ〟を放つべく小宇宙を臨界点すらも越えて燃焼していた。

 

『『『『『今こそ燃えろ、我らが小宇宙よ! 此処に奇跡を起こせ!』』』』』

 

 【DQ ダイの大冒険】という噺が在る。

 

 元勇者アバンが手にした秘法──破邪の秘法を以て特殊な呪文を最大限に増幅して極大化をいたのだが、その応用とも云える陣形であった。

 

 ゴールドフェザーを用いる部分は冥衣で代用して、極大化をするのは使い手達の小宇宙そのもの。

 

 彼の世界に行った際に習った技法、それは今この時に於いて役立った。

 

 臨界も限界も天元突破、正にそれは二〇一三年にてペガサスの光牙が発露したΩの片鱗を集め、完全なるΩとして発動したのに等しい輝きを放つ。

 

『アテナ・エクスクラメーション!』

 

 燦然と煌めく光が闇の神を呑み込んだ。

 

「ぎぃぃぃぃぃああああアアアアアアアアアッ!」

 

 元より闇の神であるが故にか、冥王ハーデスよりも光には弱いのだろう。

 

 アテナ・エクスクラメーションの輝きに、アプスは絶叫を上げて悶えた。

 

 だが仮にも神であるし、何より彼の邪神による強化が施されていた為、未だに消滅は疎か死んでさえいないらしい。

 

 無人世界は最早、崩壊の危機を迎えているのにだ。

 

 ユートは黙って双子座の神聖衣を脱ぐ。

 

 神聖衣は自動的にオブジェ形態へと組み上がって、ユートの頭上に佇んだかと思うと聖衣石内に消えた。

 

「我は冥王。死の世界たる冥界を治める者也。浄土より来たれ我が冥衣よ」

 

 聖句を唱えるとエリシオンより飛翔してきたのは、冥王ハーデスを象る冥衣。

 

 いっそ神々しいとすらも云える煌めきを放っている偉容は、明らかに他の冥衣とは一線を画している。

 

 それはアテナの聖衣が、他の聖衣と違うのと同様。

 

 ユートの権能──【冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)】の派生権能、それこそが冥王の冥衣を召喚する事。

 

 そして今一つ。

 

「今こそ、此処に真なる力を解き放て我が冥衣!」

 

 ピシリ、ピシリ……罅割れて中から似た形状ながら明らかに別物なオブジェが顕れた。

 

 黄金より尚煌めきつつ、水晶より尚透明感がある。

 

 神聖衣にも似た威容を放ちながら、それすら越える絶対なる力の塊が弾けて、ユートの肉体を鎧う。

 

 それを見た呂守が驚愕に目を見張った。

 

「莫迦な! 神衣(カムイ)だとでも云うのか!?」

 

 有り得ない。

 

 そんなニュアンスで絶叫を上げたのだ。

 

「神衣はオリンポス十二神にのみ赦された究極の鎧。だけど冥王ハーデスはそもそもオリンポス十二神ではない!」

 

 オリンポス十二神──

 

 天帝ゼウス

 

 海皇ポセイドン

 

 婚姻の女神ヘラ

 

 鍛冶神ヘパイストス

 

 伝令神ヘルメス

 

 豊穣神デメテル

 

 愛の女神アフロディーテ

 

 軍神アレス

 

 太陽神アポロン

 

 月と狩猟の神アルテミス

 

 竈の女神ヘスティア或いは酒神デュオニソス

 

 戦神アテナ

 

 ハーデスは冥界の支配者として属性の違いからか、オリンポス十二神に基本的には含まれないのだ。

 

 だが然し、冥王ハーデスは天帝ゼウスと海皇ポセイドンと並ぶ大神の一柱。

 

 なれば在っても不思議ではない。

 

 ハーデスが冥衣ではなく真に纏う鎧、神衣が。

 

 鞘から抜かれた剣。

 

 それは冥衣のモノよりも猛々しく、強力なる神氣を放っていた。

 

 ユートはまだこれを使い熟しておらず、目は光を……ハイライトを失っていて程無く暴走するだろう。

 

 意識を残せるのは僅かに一閃だけでしかない。

 

「闇の神アプス。邪神に弄ばれた哀れな神よ……先に逝っていろ。我らが母たる金色の御許へ還るが良い、我が敵……アプスよ!」

 

 一閃!

 

 アプスを両断した。

 

 今度こそ自らを保てなくなり、神氣を撒き散らしながら消え逝くアプス。

 

 ユートはその神氣を集められるだけ集めて、それを口に入れてしまう。

 

 いつもの通りに。

 

「全員、撤収!」

 

 その言葉を皮切りにして黄金聖闘士達がエリシオンへと戻り、ユートも神衣を送還してユーキとアテナを拾い、アースラへと帰還を果たすのであった。

 

 

.




 終わらなかった……次回はエピローグ的な。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話:真実を 闘いは終わって

.

 アースラに帰還してすぐユートはブリッジに入り、フラフラと進んでいく。

 

「あの、ユートさん!」

 

「今の兄貴に近付くな!」

 

 ユーキの怒鳴り声に肩を震わせ、カリムは思わず足を止めてしまう。

 

「あ、あの?」

 

「兄貴は激しい闘いに赴くと血に酔うんだ。そうなった兄貴は戦闘後、可成りの狂暴性を持つ。カリム・グラシア、アンタが兄貴に身を任せて構わないなら止めはしないけど?」

 

「み、身を任せる……ですか?」

 

「そう、今の兄貴の状態を鎮める為には性行が一番。尤も普段は優しいけれど、この時ばかりは……ねぇ」

 

 普段から思う様に抱くのは同じだが、現在のユートは射精する為に相手の負担を全く考慮に入れない。

 

 それを覚悟しないといけなかった。

 

「少なくとも、処女にお奨めはしないね」

 

「そ、そうですか。星聖衣の事を是非に訊きたかったのですが……」

 

 今のユートは十六歳前後の容姿であり、カリムからすれば同い年くらいの男、まだまだ乙女な彼女が異性のグロテスクな分身を胎内に受け容れ、吐き出される熱い欲望の塊を受け止める覚悟など有りはしない。

 

 況してや、分身を拒む壁を貫かれるなどゾッとしない話だった。

 

 とはいえ、興味はあるのだろうか? カリムが赤らめた顔でチラホラとユートの方を見遣っている。

 

「まあ、仕事仕事でいつの間にか十年が経って、延いては十五年が経ってしまって三十路のお局様となり、婚期を逃して処女の侭……よりは此処で兄貴に散らして貰った方がマシかな?」

 

「な、何ですかそのリアルに想像が出来る未来予想図はぁぁぁっ!?」

 

 絶叫するカリムだけど、残念ながらこれは未来予想図というより、ユーキからすれば確度の高い事実。

 

 現在(A's)から見て、十五年後のForcs編でカリム・グラシアに男の影は無かったのだから。

 

 今が十六歳であるなら、十五年後は三十一歳。

 

 若い人間が仕事に就き、先に進むミッドチルダからすればそろそろ嫁き遅れ、グラシア家の明日はどっちだろうか? 的な頃。

 

 単純に必要性が無いから描写をされなかっただけ、なら良いのだけど二十五歳か其処らのなのはさん達も明らかに結婚とかしていなさそうだったし、カリムが婚期を逃していたとしてもやはりおかしくはない。

 

「フッ、貴女の継承しているレアスキル──【預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)】だけが未来を知る術じゃないさ」

 

「わ、私のレアスキルを知っているのですか!?」

 

「だから言ったろ? 貴女のレアスキルだけが某かを知る術じゃないって」

 

 ユーキはカリムにニコリと笑って言う。

 

「それで、どうする?」

 

「いえ、どうするとか訊かれましても……」

 

「ボクとしては生贄は多い程良かったりするしねぇ」

 

「い、生贄!?」

 

「大丈夫、処女なカリムにはぶっちゃけ後方支援からして貰うし、ある程度なら兄貴が落ち着いた頃に貫いて貰えば負担も減るよ」

 

「って、私の参加が何故か前提に話が進んでます!」

 

「え? 処女、捨てたくはないの? 兄貴なら其処らの男よりよっぽど巧い……と思うよ?」

 

「断定はしないのですね」

 

「だって、ボクは他の男のなんて……」

 

 ハルケギニア時代に結婚したコルベールくらい。

 

 況してや、アラフォーな童貞コルベールは技術など無かったし、最初は挿入の瞬間に射精()してしまって落ち込んだくらいだ。

 

 仕方がないから二度目はユーキがお口で御奉仕し、三回くらい射精()させてから挿入をさせた。

 

 その結果として一分と保たずに果てたが……

 

 ユーキは処女だったが、それでも男の頃の経験から果て易い部位も把握して、更には翔子という良き教材が居たから、勉強にはなったのであろう。

 

 その頃にはユーキの事も自分の中で決着を着けて、ユートとの関係を深めていたから、見学をさせて貰ったりしていたから。

 

 しかも、挿入こそしなかったがお口の御奉仕は練習だってしたくらい。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「それに、兄貴だって抱いた女を無碍には扱わない。カリムが抱かれた上でさ、星聖衣を求めれば存外とくれるかもよ?」

 

「……え!?」

 

 目を見張るカリム。

 

「知りたかったんでしょ? 星聖衣の事をさ」

 

「そ、それは……聖王様の所縁となる物ですから」

 

「その聖王様、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが纏っていたのが星聖衣双子座……なら、それ以外だろうね」

 

「? 何故ですか?」

 

「双子座はオリヴィエが手にした。ならば、双子座を兄貴が喪ってはならない。いつか、兄貴はオリヴィエに双子座を与えるからね」

 

「っな!?」

 

 クロノが驚愕する。

 

「あ、でもそうだなぁ……そうなると兄貴の事だから覇王にも渡すか? 序でにエレミアにも」

 

 覇王なら獅子座だろう、エレミアだと……何だろうかとユーキは考えた。

 

 黒のエレミア──現代に継承者へ記憶として技術を伝えているが、若しやすれば星聖衣さえも?

 

「ま、無理にとは言わないけどさ。カリムにも覚悟とか要るだろうし」

 

 ヤレヤレ的な身振り手振りで言い、チラリと猫姉妹の方を見遣って……

 

「アリアとロッテは強制的に連れてくからね?」

 

 釘を刺す。

 

「にゃはは、やっぱり?」

 

「お父様、先立つ不幸を許してね?」

 

 引き攣るアリアとロッテの二人、既にユートと致しているからどんな事になるかは知っていた。

 

 敗けて拘留されてから、二人はユートの権能を受けていた為、優先順位に変動が起きてユートに付く。

 

 そして人間形態で戴かれてしまったのだ。

 

「後は……グィネヴィアとランスロットかな?」

 

「はい、ユーキ様」

 

「心得ておるとも」

 

 呼ばれたグィネヴィアとランスロットは快諾した。

 

 久方振りだからだろう、二人は嬉しそうだ。

 

「アテナはどうする?」

 

「妾は処女神故な……」

 

「けど、(メティス)の相だって持っているよね? 貴女は、女王(メドゥサ)(メティス)とアテナという三相から成る原初の女神なんだから」

 

「確かに……な。だが赦せよユーキ。妾もこればかりは如何ともし難い」

 

「ま、しょうがないか」

 

 【カンピオーネ!】世界で出逢ってより幾年月か、未だにアテナはユートとの直接的な性行にまでは及んでいない。

 

 口や手では致すが……

 

 その後、二十四時間という長い時間をユート達は居なくなり、一夜が明けてから夕方となった頃にやっとユートがスッキリした顔で戻ってきた。

 

 因みに、養護室は何処のレ○プ現場かという有り様となっており、担当者が片付けるのに難儀したとか。

 

 ユーキ、グィネヴィア、ランスロット、猫姉妹。

 

 五人はきっと頑張った。

 

 尚、小学生組は真っ赤になって俯いていたらしい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 数日後、アースラ組にしろ聖王教会組にしろ、相生家にしろ、高町家にしろ、月村家にしろ喫茶翠屋へと集合をしていた。

 

 理由は簡単で、ユートがこの面子を呼んだのだ。

 

「さて、今日は喫茶翠屋の貸切状態にしてまで集合して貰った訳だが、君らとて知りたい事が山程にある筈だから、君ら自身が辿り着いた疑問には答えよう」

 

 それは余りにも魅力的、カリムが早速挙手した。

 

「はい、カリム」

 

 席を立ったカリムが質問をする。

 

「あの、貴方は星聖衣を持つと聞きましたが……」

 

「星聖衣、今までに僕が造った聖衣はパワーアシスト機能が付いた初心者向け。星聖衣はどんなエネルギーでも扱えるが、アシストの機能はオミットしてある。確かに僕は星聖衣を所持しているね。何故か数百年も前の聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが手にしていたと聞いたが」

 

 そう、氣と魔力の強制的な融合によって咸卦の氣を扱える機能、これをパワーアシストにしていた。

 

 だが、新たに造ったこの星聖衣は小宇宙でも魔力でも氣力でも霊力でも念力でも扱える代わりに、パワーアシストはオミットする。

 

 以前のが素人向けなら、星聖衣は玄人の武装用だ。

 

 例えなら単に武装をした武装怪獣と、鍛え上げられた戦士が武装した闘士程。

 

 星聖衣は魔力でも充分に扱えるから成程、オリヴィエにはピッタリの武装となるであろう。

 

「前にも言ったが、聖衣は僕が使う双子座以外は僕の造った物だよ。当然ながら星聖衣も同じくだね」

 

「ですが、オリヴィエ陛下は星聖衣を使っておられました。貴方が時間すら越えて渡した……とは聞きましたけど、やはりその……」

 

「確かに僕には時間移動を可能とする能力があるね。【刻の支配者(ハイパークロックアップ)】という、仮面ライダーハイパーカブトが使うのと同じ権能だ。まあ、仮面ライダーだとか言われても解らないかな。特撮ヒーローなんだよね」

 

「は、はぁ……」

 

 とはいえ、この世界での地球に仮面ライダーなんて存在しないし、特撮番組でさえ作られてはいない。

 

 よって、地球でもそんな情報は得られないのだ。

 

「だから、捜せば在るかも知れない。僕が古代ベルカ時代の諸王達の戦いに加わった証拠とかが」

 

「……そういえば、真王という王が覇王や聖王陛下と懇意だったとか。その真王が纏うのは闇の如く翠に輝く水晶の様な鎧だったと。ただ、実在は疑われていますけど……」

 

「真王ね。実在の疑いというのは?」

 

「聖王陛下と覇王陛下──両陛下は絵画が残されていますが、真王陛下は僅かに名前が残るのみでした」

 

「真王……か。確かマダラは双子だった筈だけど……真王に成るのを嫌がったって彼の王名とは」

 

 魍魎戦記マダラという、主人公のマダラは光の王子として、双子の兄の影王が闇の王子として戦った。

 

 恐らくは其処から取った名前だろう。

 

「折角だし他に質問は?」

 

 挙手したのはリンディ。

 

「貴方の持つ星聖衣というのを、我々管理局が購入とか出来るのかしら?」

 

「不可能、以上」

 

「何故、と訊いても?」

 

「聖衣を造るネックは通常の聖衣と変わらないから、一つの星聖衣に大量の神秘金属と小宇宙の篭る血液が必要なんだ。量産は利かないんだよ。それを売れる筈も無いだろう?」

 

 僅か五百足らずのコアで世界各国に分け、二十個か其処らを用いて量産機だとか何だとほざくISじゃあるまいし、これで市場に出せる訳もなかった。

 

 一応、黒鍛星聖衣(ブラック・スタークロス)ならある程度の量産も見込めるのだが、それは黒鍛鋼という神秘金属を精製しなければならず、少なくとも情報を持たない管理局にどうこうは出来ない。

 

 まあ、昔の暗黒聖衣なら通常金属も混じってるが、それでも神鍛鋼(オリハルコン)とガマニオンと銀星砂(スターダストサンド)が必要となってくる。

 

 況してや、暗黒聖衣とて聖衣には違いないのだし、多少なり小宇宙は必要だ。

 

「そうですか……」

 

 余り期待はしていなかったらしく、肩は落としても激しく落胆はしていない。

 

 次に挙手したのはクロノ・ハラオウン。

 

「君が時空管理局に対し、どんな感情を持っているか訊きたい」

 

「呂守にも訊かれたな……同じ答えだ、何とも思ってはいない」

 

「何とも?」

 

「地球にさえ関わらないのなら栄枯盛衰、勝手にやっていれば良いんだ。但し、地球に干渉をするなら覚悟を決めろ。その時は地球上の愛と平和を守るといった名目の元、時空管理局本局に銀河爆砕をぶっ放す! 本局の座標は把握しているからね、この場からでも放てるんだ。そうなったら、次元の海の藻屑すら残らず消滅するだろうな」

 

 銀河爆砕はアプスとの闘いでも観ていたし、クロノは真っ青になっていた。

 

「そ、そうか……」

 

 銀河爆砕である必要性も無くて、何ならタナトスの権能でも構わない。

 

 この場合、本局は無事に残るだろうけど中身となる人間は全滅をする。

 

 タナトスは死を司る神、如何な次元を隔てようとも死の概念を届け、生命体に対して死を送り付けた。

 

 小宇宙による防御は可能なれど、そもそもこの世界に小宇宙を扱える人間など限り無く少ない為、少なくとも魔法至上主義とも云える管理局の人間に、防御を行うのはまず不可能。

 

 とはいえ、神ならぬ身で生を至上とする生命体たるユートは、死の概念を自在にする事が出来ない。

 

 故に、死の神タナトスの権能を扱うには可成り厳しい制限がある。

 

 因みに、眠りの神であるヒュプノスに関してだが、眠りは生命体に必須である事からか、タナトスの権能みたいな制限は無い。

 

「地球が管理世界入りとかは考えないのか?」

 

「それは僕個人で答えられはしないけど、その質問は予測もされていたからね。既に連邦政府と掛け合い、答えも受けている」

 

「それは?」

 

「NOだ。そもそも、僕と交渉を持つまでは自分達、地球内の意見すら纏められなかったんだぞ? それが今更、管理世界の後進国として搾取されるなんてのを受け容れる訳無いだろ?」

 

「搾取って……」

 

「保安維持に必要とかで、税金なり何なり徴収するのだろう? とはいっても、戦力は本局に吸収されていっては本来の治安維持なんて出来ないのは、第一世界ミッドチルダが証明済み。管理世界入りは百害あって一利無しという事さ」

 

 尚、ミッドチルダというのは【第一管理世界】ではなく【第一世界】である。

 

 つまり、実は時空管理局は管理世界と管理外世界の二極化ではなく、ミッドチルダみたいな【管理】の付かない世界も存在している差別化を行っている。

 

 尚、無人世界など言い回しが他にも有るには有るのだが、それらはオマケみたいなものであり、植民化が可能になった世界は管理世界となるのだろう。

 

 また第四管理世界カルナログはヴァイス・グランセニックの出身世界であり、第四世界ファストラウムはリンディ・ハラオウンの出身世界である。

 

 クロノ、リンディにしても心当たりでもあるのか、押し黙ってしまった。

 

 何故だか冥闘士・地陰星デュラハンのキューブ(仮)が頭を振っている。

 

「はい」

 

 すずかが挙手した。

 

「すずか?」

 

「あの、ね? ユート君のその姿って……本来の姿って言っていたよね?」

 

「ああ、そうだが」

 

「どうして私達と同じくらいの姿で居たの?」

 

「答えは簡単、この平行異世界の地球に送り込まれた際に子供化されたから」

 

「平行異世界の地球?」

 

「忍や高町の大人組やら、海鳴の力在る者達や連邦政府は知っているけれどね、僕は別の地球──平行世界から来たんだ」

 

『なっ!?』

 

 管理局や聖王教会組から驚愕が漏れた。

 

「地球人には違いないし、この世界には何度か来ていた事も手伝って、僕は戸籍をきちんと持っているよ。何処ぞの別世界の人間や、死亡扱いに近い追放された地球人と違ってね」

 

 そう言われては返す言葉も無い。

 

 とはいえ、この世界にてユートが関わった出来事は基本的にエロゲばかり。

 

 【鬼神楽】

 

 【AYAKASHI】

 

 【MAPLE COLOS】

 

 他に幾つか。

 

 リリカルなのはだって、元を正せば【とらいあんぐるハート】を源流としているエロゲからだし。

 

「まさか! 貴方が秘密にしたがっていたのは!?」

 

「そう、地球には平行異世界へのゲートが存在する。時空管理局が知ったら嬉々として占拠、平行異世界をも管理すべきと莫迦な主張をしかねないからね」

 

「それを今、話したのは」

 

「僕を斃せるとアイラなら思うのか? 或いは管理局の面々は?」

 

 思える筈も無い。

 

 単なるパンチがSSS級の砲撃魔法並だとか、生命が幾ら在っても足りないであろうから。

 

「それに、彼処にはおうる……守護神の欠片が存在していて護っている。それはアイラも知っている筈だ」

 

「……そうね、だから私は死に掛けた。新也に出逢った切っ掛けでもあるけど」

 

「オーバーSランク騎士である貴女が!?」

 

「ええ、騎士カリム。私を以てしても数秒間も保たない程の強さ。近付けば死ぬしかないでしょうね」

 

 アイラ・レオンフォードは運が良かったに過ぎず、彼処の守りは魔導師や騎士に突破は出来ない。

 

 守護騎が強過ぎる。

 

 おうるの眷属の龍人機、スパロボでのクスハ・ミズハの乗機……龍王機のカスタマイズされた姿であり、ユートの記憶から生み出された訳で、大きさもユートのゴーレムと同じくらい。

 

 しかも一機や二機なんかではなく、それが数個師団くらいは存在している。

 

 一機にやられたアイラ、つまりオーバーSが百人は束になっても突破不可能という結果になるだろう。

 

 おうる本人は応龍皇の姿を好んで取るが、これだけでも時空管理局という組織を滅ぼすには充分過ぎる。

 

 何しろ、龍鱗機を飛ばすだけで済むのだから。

 

「じゃあ、今はどうして元の姿になってるの?」

 

「神の精気を吸収して元の姿に戻ったから」

 

「神の……精気を吸収?」

 

「水杜神社の祭神の夏の神ナツ。ナッちゃんから分けて貰ったんだよ」

 

 流石にエッチして吸収したとは言えない。

 

 そして話し合いは続く。

 

 

.




 管理世界の考察はコミック版を読んで、ミッドチルダを第一世界としていて、リンディの出身世界の事を第四世界としていた事からかです。

 明らかに後付けな新設定っぽいけど……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話:魔法少女 リリカルマジカル頑張ります

.

「もう一つ良いだろうか」

 

「クロノ、訊きたい人間は他にも居るみたいだし……出来たら連続は遠慮して貰いたいんだけどな?」

 

「うっ、そうか」

 

「まあ、良いけどさ」

 

「良いのか?」

 

「次は駄目だぞ」

 

「了解だ」

 

 クロノとてマジでKYという訳ではないし、其処は素直に従う事にした。

 

「それで?」

 

「ああ、君は前の事件でも今回の事件でも、基本的に前々から準備をしていた様にも思える。何処から情報を得ていたのか解らない、だけど間違いなくそうだと云えるレベルの周到さだ」

 

 それはリンディも疑問として頭にあった事。

 

 前回の【ジュエルシード事件】にしても、今回の【闇の書の終焉事件】にしても余りに用意周到過ぎて、違和感を感じていたのだ。

 

 それこそ、カリム・グラシアのレアスキル以上の某かがあるのでは?

 

 そんな思いすら去来し、訊きたくてウズウズする。

 

 そしてリンディには……今一つ訊かねばならない事が在った。どうしても訊かねばならない事が。

 

 そんなリンディの想いも他所に、ユートは瞑目しながら嘆息をした。

 

「ま、訊かれなければ言う心算も無かったけどね? 自ら辿り着いた疑問に答える約束は反故にしないさ」

 

「兄貴、言うの?」

 

「ああ、前みたく最終決戦の直前に敵からぶっちゃけられるより数段マシだ」

 

 やれやれとオーバーアクションで苦笑いを浮かべ、すぐにも真面目な表情となって周囲を見回す。

 

 カリムとクロノが居り、関わらせる心算は更々無かったが、原典ではバッチリ関わる三人娘も居る。

 

 高町家も無関係では居られないとなれば、クロノが辿り着いた疑問に答えるのも決して悪い話ではない。

 

「僕の信条というか持論、それは万国共通だと思う。即ち──【情報とは力也】と【未知こそが最大の敵】という事だ」

 

 時空管理局提督や執務官としては頷ける。

 

 情報はとても大事であり且つ、誰にでも必要なモノでもあるのだから。

 

 斯く云うクロノも事前に情報も渡されず、犯人が立て籠るビルに突撃しろなどと命令されたら堪らない。

 

 やれと命令されればやるしかないにせよ、出来る限りの情報は欲しいもの。

 

 だからユートの言葉には共感が持てた。

 

「では、貴重で価値の高いこれらの情報を僕は何処から得たのか?」

 

 皆が皆──ユーキや相生兄妹みたいに理由を知る者以外は固唾を呑む。

 

「今現在のある所に青年が居ました」

 

『『『『は?』』』』

 

「青年は父親から家に伝わる剣を習い、各地を転々としながら暮らしています。ある日、父親は仕事の最中に出逢った女性と縁を持ちました。美味しいお菓子を作るパティシエールの女性が出してくれたお菓子を、青年の父親は実に美味しそうに食べ、そんな彼に女性も嬉しそうにしてました。二人はいずれ惹かれ合い、愛し合う様になって青年も青年の義妹もそれを祝福しました。だけど青年の父親は危ない仕事をしており、すぐには一緒になれない身であり、何とか身綺麗にはしたけど何かと恨みを買う職だった為、何より一族が滅ぼされていた事もあり、女性の姓を名乗る事にしたのです。幸せな生活を手にした一家、青年と義妹も、新しい母親となった女性を慕い、女性は新たなお菓子の店を出店が出来る様にもなり順風満帆。とはいえ、青年の父は最後の仕事に赴かねばなりませんでした。そして帰ってくる事はなかった……」

 

 ガタンッ! 恭也が椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「待て待て待て!」

 

「どうした恭也?」

 

「家の話をしてるのかと思って聞いてたが、それだと父さんが死んでしまってるじゃないか!」

 

「まあ、黙って聞け。理由はすぐに理解出来るから」

 

「む、ううむ……」

 

 椅子に座り直す恭也。

 

「わざわざ名前を伏せていたのに、恭也が呆気なくもバラしてくれたからこっからは名前を出すよ」

 

 宣言したユートは氷の入ったグラスに水を注ぐと、それを飲んで喉を湿らせて再び口を開いた。

 

「友人、アルバート・クリステラの護衛が最後の仕事であった高町士郎だけど、テロリストによって爆弾が爆発、アルバートを庇ったのが原因だ。夫の死の報せを聞いて沈み込む高町桃子だが、義息子や義娘に支えられてお腹の子供を無事に生む使命感も手伝ってか、顔を上げ前を向く」

 

 当人以外の全員がなのはを見て、次いで高町桃子の方へと視線を遣る。

 

「迎える三月十五日に遂に出産をした。名前はなのはとしたのは判るだろ?」

 

 それは理解が出来たが、高町家としては微妙な表情となるしかない。

 

「ギリギリだった。士郎が死ぬ前に仕込み済みだったから高町なのはは生まれた訳だからね。然し、間に合わなかった事例もあった。なのはが仕込まれた後か、月村家の当主の月村征二と細君たる月村飛鳥は事故死していたから、月村すずかは誕生すらしていない」

 

「「今度はウチがターゲットされた!?」」

 

 驚く月村姉妹。

 

「しかも、私は生まれてさえいないの!?」

 

 すずかは更なる驚愕。

 

「当然、専属メイドであるノエル・綺堂・エーアリヒカイトは居たけど、すずかが生まれなかった以上は、ファリン・綺堂・エーアリヒカイトも存在しない」

 

「今度は私ですか〜?」

 

 すずかの傍に控えていたファリンも驚く。

 

「存在すらしないなんて」

 

 ガックリと膝を付いた。

 

「ああ、ファリンが目に見えて落ち込んで入る!?」

 

 流石のノエルもオロオロとしている。

 

「って事は、次はあたし……よね?」

 

 既に、すずかと共に聞かされているからか諦観したアリサ・バニングス。

 

「アリサ──ローウェル。IQ200の天才児だが、日本人ではない事や才気の発露、子供特有の排他的な感情に晒されて孤立した。現在から三年前に廃ビルに拉致され、散々に此処では言えない目に遭わされ挙げ句の果てに口封じと称して殺害される。享年は十歳の小学四年生だな」

 

 溜息しか出ない経歴に、アリサは頭を抱えていた。

 

「へ? 三年前に十歳ってどういう……」

 

「今年に入って地縛霊化していたアリサは高町なのはに出逢い、幽霊ながら大切な友達となった。心残りが無くなったアリサは成仏、なのはは毎年の墓参りをする様になる」

 

「にゃ? 私がアリサちゃんのお墓参り!?」

 

 尤も、アリサ・ローウェルは這い寄る混沌により、ハルケギニアに転生させられてしまい、今やユートの閃姫のシャロンである。

 

 昔と異なり、シャロンは現在だと──シャロン・A・ローウェルを名乗って、昔に住んでいた海鳴市とは似て非なる此処で、割と楽しみながら暮らしていた。

 

 ユートの個人的見解は、アリサの母親がデビット・バニングスとは結ばれず、ほにゃらら・ローウェル氏と結婚し、その後に夫妻はアリサを残して死亡してしまい孤児となった。

 

 生きていれば十四歳だったのも、この世界のアリサの両親より早く結婚をしていたからであろう……と。

 

 余りに衝撃的だったが、忘れてはならないのが今の話は現状に全く則さないという事で、然し話にのめり込んで気付かない。

 

「なのははある日、妖精と出逢う」

 

「妖精? 私が出逢ったのはユーノ君だよ?」

 

「その妖精は……」

 

「無視!?」

 

「ライムグリーンの髪の毛をポニーテールに結わい付けて、四枚の光る羽根を持った三十センチ程度の女性だった」

 

 無視された形のなのはではあるものの、容姿が出てきてすぐに視線を件の容姿の女性へと向ける。

 

「えっと、それって若しかしなくても私でしょうか」

 

 リンディ・ハラオウンが汗を流しながら問う。

 

「詳しくは省く。次元災害ヒドゥンを何とかする為、ミッドチルダからやって来たクロノ・ハーヴェイとは対立し、イデアシードを得るべく高町なのはに祈願型デバイスのレイジングハートを贈った。理由はユーノと似た状況だったか?」

 余り覚えていない。

 

 【魔法少女りりかるなのは】は観ていたが、原作に当たる【とらいあんぐるハート】シリーズのプレイは一度切りだったからだ。

 

 況してや、アリサの一件はユートにトラウマを植え付けていたのが痛い。

 

「最終的には対立していたなのはとクロノが力を合わせてヒドゥンを消滅して、クロノはクロノ・ハラオウンに戻り、母親のリンディと抱き締め合ったか?」

 

「んな!?」

 

 真っ赤になって絶句してしまうクロノ。

 

「それから何年後か忘れたけど、クロノはなのはとの再会を果たして……」

 

「果たして?」

 

「ベッド・イン」

 

「何故にっ!?」

 

 解せぬとばかりに叫ぶ。

 

「そんなエロゲが在る」

 

『『『『『何でだあああああああっ!?』』』』』

 

 今度こそ全員がツッコミを入れてきた。

 

 高校生レベルな年齢でも処女だからか、顔が赤くなっている美由希やカリムやえいみぃ、小学生組は言わずもがなであるし、忍が赤いのは恭也との情事でも思い出したのだろうか?

 

 ノエルは流石に冷静で、ファリンは真っ赤になってアワアワしている。

 

 未亡人なリンディや人妻な桃子は苦笑い。

 

 クロノは冷静なフリをしているが、瞑目していても頬に朱が差している。

 

 士郎も苦笑いしており、恭也など『頭痛が痛い』と謂わんばかりだった。

 

「エロゲって、つまりは……18禁ゲームよね?」

 

「そうだね」

 

「私達が18禁ゲームでのキャラクターだと?」

 

 忍も赤くなりつつちょっと引き攣る。

 

「まあ、ゲームではね」

 

「ゲームでは?」

 

「今、この場に居る忍という人間は特定の会話能力しかない、若しくはある程度の言語機能しかないAIなのか? 違うだろ?」

 

「……そうね」

 

 よくある二次的な命題の一つに、その世界に降りたとして其処に住まう人間は生命かキャラクターか? などと取り沙汰される。

 

 だけど、キャラクターだと思うならゲームでもやっていれば良いし、ユートからすれば命題でも何でもない普通の事。

 

「だが、そんな……」

 

 クロノはお堅いが故に、行き成りエロゲの世界だとかいわれてあたふたしてしまい、女の子達は自分達がどの様に描かれて、すずかなどユートが自分をオカズにして、どんな具合に分身を扱いたのか興味津々だ。

 

 とらいあんぐるハートに自分が出ない事は忘れているらしく、真っ赤な頬を手で押さえて妄想中。

 

 耳年増な小学生ではあるのだが、何しろ【夜の一族】にはちょっとしたアレがあるから、早い内に性知識を覚えさせねばならない。

 

 感覚が今から暴走したりすれば、何も解らず行きずりで処女貫通なんてヤりかねないし、それでなくとも一族の身体について教えるという事は、どうした処でこれは避けては通れない道なのだから。

 

 当然、すずかも【こんにちは赤ちゃん】的な知識を教わっていた。

 

「さて、だけど最初の方でツッコミが入った訳だが、これではそもそも現状に於いて矛盾する。アリサは既に知っているだろうけど」

 

 頷くアリサ。

 

 すずかも同時に聞いていたけど、妄想中だから数には入れていない。

 

「え、何でアリサちゃんが判るの?」

 

「そりゃ、あたしは聖域でパーティーした時にすずかと聞かされたもの」

 

「へ?」

 

「なのはに教えなかったのは〝彼女〟の我侭よ」

 

「彼女って?」

 

「あたしにこの事を教えてくれた娘よ。白銀聖騎士・蛇遣座(オピュクス)のシャロン」

 

 チラリとユート側に居る仮面を着けた少女、自己紹介の時にも沈黙を貫いてはいたが、事ここに至っては黙っているのも有り得ないらしく顔を上げ、その手を仮面に掛けて一気に外す。

 

『『『『『っ!』』』』』

 

 事情を知らない全員が、素顔を見て息を呑んだ。

 

「ア、アリサちゃんが……二人居る?」

 

 掠れた声でなのはは相互にアリサ×アリサを見て、空いた口が塞がらないと謂わんばかりに呆然となる。

 

「自己紹介をしていなかったわね。私はシャロン……シャロン・アリサ・ローウェルよ。ユートの言ってたエロゲ的な世界で、チンピラに浚われて犯された挙げ句の果てに殺された元自縛霊ってやつね。まあ尤も、なのはと久遠との逢瀬から未練が無くなって成仏しようとしたら、這い寄る混沌に転生させられて生きている訳だけど……ね」

 

「這い寄る混沌? それって確かナイアルラトホテップとかいう邪神じゃあ? けど架空の神よね……」

 

「美由希さん、それを言ったら全ての神が架空だし、神話なんて大昔の中二病が描いたアホ噺の羅列よ?」

 

「それを言ったらお仕舞いなんだけど……」

 

 苦笑いしながら人差し指で頬を掻く。

 

「それは兎も角としてよ、私が本来だと生きていたのがユートの言ってた世界。士郎さんが死んですずかもファリンさんも居ないし、なのはがなのちゃんな世界って訳ね」

 

「それじゃあ、この世界はエロゲとやらの世界とは異なる世界……謂わばパラレルワールドかい?」

 

 士郎からの質問にアリサが首肯をした。

 

「そう、その通り!」

 

 腕を腰に当ててアリサがアリサを見遣る。

 

「アリサ・ローウェルとはアリサ・バニングスにとって一つの可能性。そういった可能性が織り成している平行世界、そしてユートが時空管理局を地球に入れたくない理由、それは地球に平行世界へのゲートが存在しているから!」

 

『『『『『な、何だってええええっ!?』』』』』

 

 意外とノリが良い。

 

 シャロンに次いでユートが口を開く。

 

「とはいえ、ゲートはそもそも創った【楔の神獣】である五柱と、そのマスターでなければまともには使えないんだけどな」

 

「マスター?」

 

「五柱の神獣を産み出し、世界の五ヶ所に配置をした世界の管理者。嘗て一つの平行世界で起きた無限螺旋の戦い、その際にイレギュラーとして参戦した騎士。生まれ付き無限にエネルギーを貯め籠める太陰体質、それが故にか膨大に過ぎて普通なら破裂、それ以前に精神がSAN値直葬されてもおかしくないクトゥルーの神氣を呑み込み、それを核に五神獣を創造した」

 

「無限螺旋にクトゥルー、デモンベインだな。だとしたら五神獣のマスターってユートか!?」

 

「当たりだ、相生呂守」

 

 アッサリ認めた。

 

 もう隠す意味も無い。

 

 何故なら、ユートが過去に跳ぶ時期を既に本人が覚ってしまっているから。

 

「若しも、ゲートとやらを貴方以外が使うとどうなりますか?」

 

「リンディ・ハラオウン。無限−1という膨大過ぎる平行世界、其処に何の指標も無く入って自分の位置を把握が出来るか?」

 

「そ、それは……」

 

「ミラーラビリンスみたいなものだからね、間違いなく入れば二度と元の世界に復帰は出来ない。平行世界を管理局が管理するなんて不可能って訳だ」

 

「確かに」

 

「だが、管理局はそれでもゲートを知れば我が物顔で占拠するだろう。研究の名の下に人体実験でもするかも知れないな」

 

「ば、莫迦な! 管理局はそんな組織じゃない!」

 

「さて、それはどうかな。若し、クロノが言う通りならフェイトは誕生しなかったと思うけどね」

 

「え? 私?」

 

 行き成り話を振られて、狼狽するフェイト。

 

「そういう事か……」

 

 いけしゃあしゃあと居るプレシアが歯軋りする。

 

「ま、今回は余り関係無いから置いとくぞ」

 

「う、うん……」

 

 ちょっと残念そうだが、今のフェイトは原典とは違って母親を喪わず、仲良くしてくれる小さな姉が傍に居てくれるからか、精神的な余裕が少し有った為に、ヒステリックな部分が抑えられているので、納得はしてくれたらしい。

 

「因みに、エロゲのタイトルは【とらいあんぐるハート3】で、主人公の名前は高町恭也」

 

「お、俺……だと?」

 

「恋愛型なゲームだから、ヒロインが何人か用意されていて、続編とかは基本的にとあるヒロインと結ばれた事が前提。『メインじゃない公式ヒロイン』と呼ばれる月村 忍だ」

 

「成程って、メインじゃないの!?」

 

「メインヒロインってか、パッケージとかだと忍は前に出てない。前に出るのは高町美由希やフィアッセ・クリステラだね」

 

「わ、私が!?」

 

「フィアッセもかい?」

 

 美由希と士郎が驚く。

 

「公式になれなかったメインヒロイン」

 

「ガハッ!」

 

 余りな科白に血を吐く思いな美由希は、恭也が従兄と知っていたし少しは想いも向いていた。

 

 それこそが、なのはをして疎外感を感じるラブラブっぷりの正体である。

 

「話を戻す。パラレルワールドとなると、この世界にもタイトルが付いている訳だが……即ち『魔法少女リリカルなのは』」

 

「え? ええええっ!?」

 

 アニメの主人公がやっと表に立つのであった。

 

 

.




 終わらなかった……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話:終わり それは新たなる始まりの鐘

.

「魔法少女リリカルなのはって、若しかしてそれってば私が主人公なの!?」

 

 なのはが絶叫する。

 

「ジュエルシード事件……若しくは【PT事件】と称される、ジュエルシードが地球に落ちた事件。それはユーノ・スクライアが発掘した古代遺失物、事故にて落ちたジュエルシード回収の為に、ミッドチルダでの書類審査までしてやって来たユーノ・スクライアは、然し地球の魔力と適合不全を起こし、況してや戦闘型魔導師ではないからジュエルシード・モンスターに倒されてしまった。最後の手段とばかりに念話で周辺に才能在る者に呼び掛けた。それに応えたのがなのは」

 

「確かに……」

 

「その後、僕が干渉しない世界で高町なのはは幾つか順調にジュエルシードを集めたけど、月村家に御呼ばれしたお茶会で初めて出逢ったフェイト・テスタロッサとの戦闘で敗北を喫し、それからも何度かぶつかり合う事となる」

 

「ウチ……まさかそれって私達を集めた時に手に入れたジュエルシード?」

 

「そうだよ忍。僕が月村家に落ちていたジュエルシードを知っていた理由だね。正に原作知識からだから」

 

「なら、この世界もゲームという訳? でも18禁のゲームなのになのはちゃんが主人公? 百合なゲームなのかしら……」

 

「ハハハ、当たらずとも遠からず」

 

「え゛?」

 

 忍の推測を否定しなかったユートに、なのはが顔を青褪めさせてしまう。

 

「何しろ、なのはにとってフェイトは『俺の嫁』状態に等しかったからねぇ? 何か手順が違えばすずかやアリサやはやてがなのはの毒牙に掛かっていたね」

 

 ガーン!

 

 否定しないというより、なのはの百合説を全肯定されてしまい、ショックを受けてしまった。

 

「けど! 女の子同士じゃ赤ちゃんを作れないの!」

 

「其処で【闇の書事件】から十年後だよ」

 

「闇の書事件?」

 

 カリムが声を上げる。

 

「そう、本来なら今回の件は十二月になのはがヴォルケンリッターのヴィータに襲撃され、最終的に魔力を蒐集されたのを皮切りに、スタートをする物語だよ。カートリッジシステムだってその時に初めて実装だ。十二月二十四日にリーゼ達がはやての目の前でヴォルケンリッターを蒐集して、遂に目覚めた闇の書の管制人格。最終的にナハト・ヴァールを討ち果たすけど、リインフォースは消滅の道を選んで、六年後を描いたエピローグでは学校の屋上で自らのデバイスを起動させる三人娘。はやての下には【蒼天の書】と融合騎──リインフォース・ツヴァイの姿が在った」

 

「リインフォース・ツヴァイやて?」

 

「はやてのリンカーコアをコピーして、新しい融合騎に使用したんだよ。それが通称リイン」

 

「ほえ〜」

 

 次々に明かされる未来の情報、はやてもリインフォース・ツヴァイの存在には驚愕してばかりだ。

 

「十年後と仰有いましたが……まさか!」

 

「カリム、正解。【闇の書事件】の次の事件は十年後にミッドチルダで起きた。広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが起こした〝反乱〟事件。通称となるのが【JS事件】だね」

 

「はん、らん……?」

 

「そう、反乱だクロノ」

 

 やはりクロノは執務官になれるくらい頭は良くて、すぐにも〝反乱〟の意味に気付いてしまった。

 

「スカリエッティが管理局と繋がっていると?」

 

「その通りだよ。彼が生まれたその時から……ね」

 

「なっ!?」

 

 余りにも余りな衝撃的な事実に、クロノの頭は一杯一杯になってしまう。

 

「【無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)】……そういう風に造られた存在が彼なんだよ」

 

「どういう事なんだ!? あの広域次元犯罪者であるスカリエッティが、寄りに寄って管理局と癒着していると云うのか!? いや、さっき君は造られたとか言ったていたが……まさか」

 

「簡単な話だ。時空管理局はアルハザードからの流出物を回収し、それを自分達の為に使った。モノが何かまでは知らないが、産み出されたのは生命……アルハザードの知識のある程度を持つアルハザードの遺児。人工的に産み出された挙げ句の果てに【無限の欲望】なんて鎖に雁字搦めにされていて、管理局では違法だから出来ない研究を裏からやらされていた。コードネームの欲望が動くから素直に研究をしているけどね。その研究の内容は生命に関して。戦闘機人と人造魔導師の製作だ。その余録的にプロジェクト・FATEというものが企画された」

 

「フェイトって、私?」

 

 驚くフェイト。

 

「君は正に人造魔導師で、プロジェクト・FATEによって生み出された存在。当時、プレシアは記憶転写型クローンの君に名前を付ける際、プロジェクト名をその侭に付けたんだ」

 

「……母さん」

 

「ママ、酷い」

 

「ご、ごめんなさい。あの頃の私は精神的に参ってしまっていたのよ」

 

 アリシアを喪った為か、精神的な異常を来していたプレシアは、人の心すらも見失って娘を生き返らせる事に執着をしていた。

 

 名前を考えるなど本当の母親の様だと自らを笑い、フェイトを手駒とするべく使い魔を創り、アリシアの復活に邁進をする。

 

 子を喪った母の狂気……一万もの子を持つハーリティーがたった一人の子を隠されただけで半狂乱となったというが、正に子を想う鬼子母神という訳だ。

 

 今はアリシアの心を救いたい一心で、フェイトの事を『アリシアの場所を奪った偽者』ではなく『アリシアの妹』として扱ったが、今は精神も安定してそちらがスタンダードとなる。

 

「プロジェクト・FATEはスカリエッティが技術をプレシアに供与、そいつを完成に至らせたプレシアもそれはそれで凄いけどね。彼は生命操作技術の先端を往く訳だよ」

 

「生命操作技術、管理局では完全な違法だというのに管理局が関わる?」

 

「末端や幹部なんてセコい事は言わないさ。何しろ、【無限の欲望】を創り出して違法研究をやらせていたのは……時空管理局・最高評議会の議長達だからね」

 

「ば、莫迦な!」

 

 バンッ! とテーブルを叩きながらクロノは立ち上がると、有らん限りの声を上げて叫んだ。

 

「事実だよ。アニメからの原作知識、だけどそれは即ちとある世界の情報を受け取り、物語としたのだとすれば何の干渉もされていない以上、事は情報の通りに起きている筈だからね」

 

「くっ! だけど……」

 

「所属する組織を信じたい気持ちはあるんだろうが、事実を事実として呑み込む……清濁併せ飲めなければやっていけないぞ?」

 

「清濁併せ飲むって、それは最高評議会が悪事をしているのを見逃せとか?」

 

「知らんよ」

 

「知らんって……」

 

「僕自身は時空管理局に何ら興味が無い。地球にさえ手を出さなければ栄枯盛衰……好きにすれば良いさ」

 

 それがユートの管理局に対するスタンス故に。

 

 時空管理局が栄えようが滅亡しようが、ユートからすれば対岸の出来事。

 

 羨みもしなければ同情もしないであろう。

 

 唯一、地球に手出し口出しをしなければの話だが。

 

 嘗て、とあるファンタジーな世界に行って一つの国を栄えさせたが、それとてその国の姫と懇ろになっていたからこそのサービス、〝原作通り〟に姫が神官の青年と結ばれていたなら、流れの騎士の青年と旅にでも出たであろうから。

 

 ユートがこの世界に来た理由は、そもそも管理局がゲートを接収しない様に、地球に組織を創る事。

 

 一応、それは成ったから後は組織を継続させる。

 

 ゲートが万が一にでも、管理局の手に堕ちたならば管理者たるおうる達は世界を消滅させ、それを以て護り抜いてしまう。

 

 今のユートはそれを望んではいなかった。

 

 市乃やナッちゃんが住まう世界であり、他にも知り合いが居るなら是非も無しという訳である。

 

「(そういや、この世界にはアヤカシも居るんだし、当然ながらあいつらも居る筈なんだよな。時間軸的にはどうなってんのかね)」

 

 

 知らず知らずの内に来ており、関わったアヤカシの事件で仲好くなった少女達が住まう訳で、では果たして彼女らは現在の時間軸でどうしているのか?

 

 【ハイスクールD×D】主体世界では、修学旅行中に英雄派と呼ばれるテロリストとの戦闘に備え、一人だけ──夜明エイムを招喚した訳だが……

 

 いずれは会いに行きたいと思いつつ話を進める。

 

「十年後、西暦二〇一四年であり新暦七五年。今回のA’sと呼ばれる時代からStrikerSと呼ばれる時代にスカリエッティが事を起こす。だけどそれを知っても管理局員では何も出来はしない。そして……StrikerSで事件を収めた人間が居なければ、時空管理局は滅ぶだろう」

 

「っ!? 事件を収めたのは誰なんだ?」

 

「八神はやて二等陸佐及び高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官を先頭に、ヴォルケンリッターやその他諸々の部隊員って処だね」

 

「私が二等陸佐?」

 

「一等空尉なの?」

 

「執務官……」

 

 本来の自分達の地位を知って驚く三人娘。

 

「だけど、君らをミッドチルダに遣る心算は無いぞ。況してや、ミッドチルダへと移り住んでから碌すっぽ帰る処か、連絡すらしないバカ娘をあちらになんぞ遣れるものかよ」

 

「そ、それって若しかして私なの?」

 

「そうだが?」

 

 家族が地球には居ない──グレアムやエイミィ辺りは居たけど──八神はやてとフェイト・T・ハラオウンは未だしも、高町なのはがそれは拙いだろう。

 

 まあ、まったく音信不通ではあるまいが……

 

「それに空白期になのはは撃墜事件に遭う。歩く事も侭ならないかも知れない、怪我だけでなく蓄積していた極度の疲労、それが蝕んでいたから……な」

 

 この話に気色ばんだのはなのはの家族。

 

「それは本当かい?」

 

「ああ。高町なのはを魔王足らしめる部下撃墜事件、それは無茶をした自分自身の経験からきたものだが、流石にやり過ぎだったよ。しかも後の高町なのは教の布教活動にも等しい行為。併せて魔王様、冥王様扱いだったさ。僕の本来の世界ではね……」

 

「ま、魔王って何?」

 

「元々は、本来の闇の書事件でヴィータとの戦闘中」

 

 不意討ちでのフランメ・シュラークを受け、無傷に等しく炎の中から現れて、自分達の邪魔をするなのはに向け、ヴィータは言う。

 

『悪魔め……』

 

 それに対するなのは。

 

『悪魔で良いよ。悪魔らしいやり方で話を聞いて貰うから』

 

 自らを悪魔で良いと言い切ったのだ。

 

「それで僕らの世界で付いた渾名というのが【管理局の白い悪魔】だったけど、あのStSの一件以降では魔王陛下ってね」

 

 ガーン!

 

 鈍器で頭を殴られた様な精神的衝撃を受ける。

 

「然し、18禁ゲームだと思えば今度はアニメか」

 

 恭也が溜息を吐く。

 

 何しろエロゲ的に主人公だと言われたのだし、とても他人事とは云えない。

 

「深夜枠だったけど健全な戦う魔法少女モノだよ」

 

「だが、十年後ならなのはは十九歳……魔法少女?」

 

「恭也が言いたい事は理解するが、成人年齢にギリギリ達していないから少女で一応、間違ってはいない」

 

 それにStSは中心的にスバルやティアナ、新人達が担う筈だったのだ。

 

 仮令、某・種な運命みたいに前回の主人公に立場を喰われたとしても。

 

「(エリオとキャロはどうなるかな? エリオは実験材料で摩り潰されてキャロは良くて飢え死に、悪ければ悪い程悲惨な結果か)」

 

 フェイトが居ないだけで主要人物が死ぬ。

 

 流石に防ぐべきか?

 

「取り敢えず、噺の流れは理解したと思うが? これが僕が事件に対して準備万端だった理由だからね」

 

「原作知識……か。だけどそれによると、なのは達の存在は不可欠だろう。派遣はしないと?」

 

「しない。この子らは地球できちんとしたポストに就いて貰う。だからこそ鋼鉄聖衣を与えたんだからね。さっきも言った、僕は時空管理局に興味は無いんだ」

 

「む、うう……」

 

「管理世界の事は管理局が熟すべきで、管理外世界の人間を頼るなよな。言っておくが、人手不足は自業自得でしかないぞ? 個人の才能頼りな魔法オンリー、魔法を使えば広域破壊兵器すら備える組織、況してや次元犯罪者をわざわざ産み出す上層部。お前ら魔法を神聖視し過ぎだよ」

 

「くっ!」

 

 ユートは知っている。

 

 魔法の源たる魔力だって決してクリーンと言い切れないし、事実として魔力による弊害はあちこちの世界で起きていた。

 

 それに魔法は十年後に、AMFによる弱点を晒している上、更に五年後に魔導殺しが現れてしまう。

 

 決して万能ではないし、神ですら万能には程遠いのが世界というもの。

 

「で、他に何か訊きたい事はあるのかな?」

 

「はい」

 

「フェイトか、何だ?」

 

「さっき、私をフェイト・T・ハラオウン執務官って言っていたよね?」

 

「ああ、本来の世界線では虚数空間にプレシアとアリシアの遺体が入ったカプセルは落ちていてね。闇の書事件以後にハラオウン家へ養子入りしたんだよ」

 

「それで、ハラオウン」

 

 プレシアの死は病もあったから、ある意味で仕方がないとはいっても、やはりショックは受けていた。

 

「俺からも良いか?」

 

「呂守は大概、知っている筈だろうに」

 

「知識はな。アンタはあれがどうなるか判るか?」

 

「あれ?」

 

「エグザミア」

 

「ああ、【砕けえぬ闇】の事か。あれなら確保してあるからな」

 

「は?」

 

「【闇はやて】からアプスを抜き出す際、永遠結晶のエグザミアも同時に抜き出したからね。ま、エグザミアが地球に在るんだから、何かが起きるなら地球で起きるんじゃないか?」

 

「おいおい……」

 

 呂守は呆れてしまう。

 

 永遠結晶エグザミア──【砕け得ぬ闇((アンブレイカブル・ダーク)】とか、システムU−Dとか呼ばれている無限連還システム。

 

 これがゲーム版ストーリー【ギアーズ・オブ・デステニィ】を綴る。

 

「これを確保するのは必須だったからね」

 

「必須?」

 

「タイミング的に見れば、僕が過去に跳ぶのはギアーズが顕れる頃だろうから」

 

「あっ!」

 

 確かにそうだ。

 

 ヴィヴィオやアインハルトやトーマといった未来組が顕れたのは、ギアーズが過去へと跳んだ影響らしいのだから、ユートが跳ばされるには丁度合う。

 

 だからこそ、エグザミアを予め確保したのだ。

 

「そのエグザミアとやら、闇の書と関わりがあるみたいだが? ひょっとして、ロストロギアなのか?」

 

「まあ、確かに分類的にはそうだな。沈む事なき黒い太陽――影落とす月―――故に、決して砕かれぬ闇。それがシステムU−D……永遠結晶エグザミアだ」

 

「渡しては……」

 

「貰えるとでも?」

 

「ハァ、だよな」

 

 答えは解り切ってるし、無理矢理に奪える相手でもないのだから、溜め息を吐くしか出来ないクロノ。

 

「悪いが、管理局に協力をする気は無いんでね」

 

 この後も色々な質問が飛び交い、それにユートが答えていって約五時間。

 

「そろそろ終わりにしようと思うが?」

 

「最後に良いかしら?」

 

「何かな?」

 

「貴方に質問というより」

 

 リンディは今まで話し合いに参加こそしていたが、何処かボーッとしている感が強かった。

 

 此処にきての質問とは?

 

「ずっと、どういう事か解らなくて考えていたのよ」

 

 視線の先には地陰星デュラハンのキューブの姿。

 

「だけど漸く納得したわ。来て……」

 

 キューブはコツコツ……と足音を響かせ、リンディの方へと近付いていく。

 

「お願い、マスクを取って素顔を見せて……」

 

 チラリとキューブが見遣るは主たるユート。

 

 瞑目したユートはコクリと頷いて見せた。

 

 カチャリ、マスクを外したキューブの今まで判らなかった素顔が露わとなる。

 

 リンディは涙を零しながらキューブを見ていた。

 

「久しいね、リンディ」

 

「ええ、アナタ。久し振り……クライド」

 

 思わず感極まって抱き合う二人、なのは達はよく判らないまでも紅く頬を染めていたりする。

 

「とう……さん……?」

 

「ああ、大きくなったな……クロノ」

 

 リンディを抱き締めた侭で顔を上げ、優しい笑みを浮かべて応えた。

 

 椅子に座り紅茶を飲んで喉を湿らし、自分が此処に居る理由を話し始める。

 

「私はこの方に誘われて、再び生命を与えられた」

 

 冥王の権能を持つが故、ユートは死者を黄泉より返す事が可能。

 

 但し、聖闘士星矢に於けるハーデスのイメージからだろうか? 十二時間限定での蘇生でしかない。

 

 この限界を打ち破る術、一つは特殊な【悪魔の駒】を使う事。

 

 今一つが【魔獣創造】の神器(セイクリッド・ギア)を禁手化させた【至高と究極の聖魔獣】で新たに肉体を創り出す方法で、ユートがクライドを永らえさせる手法は後者を採っていた。

 

「だけど、どうして?」

 

「賭けをしていたんだよ」

 

「賭け……?」

 

「管理局が主の言葉に従うか否か。私が勝てばリンディやクロノの元に帰れる。主が勝てば私は冥闘士として働く。残念ながらクロノは従ってくれたが……」

 

 全員がギル・グレアムの方を見た。

 

 タラリ……

 

 約束を反故にした上に、全く役立たずだったが故に反論など出来ず、大粒の汗を流すしかない。

 

「す、済まない!」

 

 英国人ながらも見事なるDOGEZA。

 

「また引き離されるなんて……クライド!」

 

「リンディ」

 

 二人のイチャイチャは、まるでグレアムを突き刺す刃の如くであったと云う。

 

「まあ、管理局を辞めてから地球に帰化をすればまた一緒に……」

 

「グレアム提督、辞表です……受理して下さい」

 

『『『『はやっ?』』』』

 

 クロックアップでもしたかの如く、ユートの言葉を遮って辞表を用意して提出するリンディに対し全員がツッコまずにいられない。

 

 しかも早速、再びイチャイチャとし始めた。

 

 こうして大暴露会は終わりを迎え、万感の意を籠めてかえるカリム・グラシア達……聖王教会組。

 

 クロノを中心としているアースラ組は、リンディのあれやこれやに『頭痛が痛い』感じだ。

 

 夏休みの宿題に追われ、然しながら確りと終わらせた小学生組、残りの夏休みを満喫していた。

 

 本来なら十二月二十四日に終わる筈の【闇の書事件】だが、夏休みに【闇の書の終焉事件】とさて終わった事により、八神はやては早目のリハビリに取り掛かる事が出来、二学期早々に復学が可能とされる。

 

 ユートは夏休みを利用、この世界の知り合いと再会行脚を行い、夜明エイム達──アヤカシ組や天神かんなや瑞葉市乃とも会う。

 

 勿論、三十路も過ぎたとはいえかんなは喰った。

 

 十六年振りに淫らに乱れたかんな、然し『おばかんは』は治っていない。

 

 現在は『伯母かんな』的な状態で涙目だ。

 

 市乃は嘗てユートと閨を共にしたが、流石に現在だと十六歳になったばかりの乙女な為、覚悟完了とまではいかず簡単な御奉仕だけで終わっている。

 

 だが然し、木島皐月という木島 卓とうづきの娘がユートに目を付け、ライバル宣言されてしまったから今度は躊躇わないとか。

 

 双子の妹の木島 歩も同じく、此方は前世を覚える転生体──木島 卓の妹の木島 歩──であり、図らずも仇討ちをしてくれていたユートに惹かれた。

 

 この二人、同じ魂が二つに分かれたタイプの一卵性の双子で、二つに分かれた際に肉体的に皐月は鬼因子と融合、隠忍に成る特性を得てしまっている。

 

 ユートが関わって覚醒をした名前は弁財媛子。

 

 天乃杜神社の祭神に因んでおり、またユートが知る女性鬼神の吉祥媛子からも肖っていた。

 

 歩は楽しくない前世最後の経験から霊力が高い。

 

 天乃杜神社の巫女姉妹+市乃で、三柱之巫女となり仕事をしている様だ。

 

 夏休みを楽しく過ごしていたが八月二十日の朝……ユートは忽然と姿を消してしまっていた。

 

 

.

 




 少し無理矢理感があるけど漸く今回にてA’s篇が終了、次回からはGOD篇に入ります。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GOD篇
第1話:すずか 発情期の備えの為に?


 今回、エロエロです。





.

 グィネヴィア・デュ・ラック──金髪オデコちゃんであり見た目は幼女で頭脳はロリババァ。

 

 小学生高学年から新入学な中学生で通じる容姿は、ユートも大好きな合法ロリというやつで、某・名探偵より凄まじい存在。

 

 デュ・ラックは伯父様──ランスロット・デュ・ラックから名乗っている。

 

 美幼女なグィネヴィア、その正体とは【カンピオーネ!】主体世界に於いて、魔女王を名乗っていた神祖というやつで、本来ならば【白き女神】として降臨をしながら、【最強の鋼】にして【最後の王】によってまつろわされた神の一柱。

 

 そうなった時点で彼女は【最後の王】たる【まつろわぬ神】の下僕となって、増えた羅刹王を誅殺する為に復活を促す存在に成り果ててしまう。

 

 実際に、グィネヴィアもそうやって【最後の王】を復活させるべく腐心をし、ユートと対立をしていた。

 

 そう、恋い焦がれる相手に見て貰いたくて幾度となく挫けそうになりながら、それでも【最後の王】を蘇らせんとした、これは即ちグィネヴィアの頑張り物語という訳である。

 

 然し、ユートを敵に回したのは痛恨事だった。

 

 悉くを跳ね返されてしまったグィネヴィア、遂にはランスロットも堕とされてしまうが、それに気付けなかった為にランスロットから羽交い締めにされ、権能を口移しで吹き込まれてしまったグィネヴィアは敗北を認め、更にはユートの腕に抱かれて頬を染める。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝の朝っぱらから優雅にシャワーを浴びる少女──グィネヴィア・デュ・ラックはランスロットと擬似的な情事……百合百合しい、レズ行為に耽っていた。

 

 元々、伯父様ことランスロットはフルプレートメイルに身を包み、端から見れば『伯父様』の呼び名通り男性だったが、中身はといえばユートの世界のアーサー王がアルトリア・ペンドラゴンという女の子だったみたく、何と女子高生でも通じる少女の姿。

 

 鎧を脱いだ場合、彼女は【槍の神】を意味している『ランシア』と名乗る。

 

 感覚的に此方の方が女性の名前らしいし、ユートがセ○クスの際に呼ぶ名前はランスロット的にも此方が相応しいと思ったから。

 

 というか、ユート本人は出会っていなかったとはいえ第四次聖杯戦争でバーサーカーのクラスで現界していたランスロット、彼を思い出すから情事の真っ最中にランスロットと呼びたくは無かったり。

 

 バーサーカーと出会わなかった理由、それは雁夜がマスターにはならなかった上に、間桐そのものが間桐 桜を救出した際に消滅してしまった為、ランスロット=バーサーカーが召喚をされなかった。

 

 おまけにバーサーカーを召喚して得る筈の令呪を、桜が掠め取る形で獲てしまったし、そもそもサーヴァント召喚なんてしないで、ユートに譲渡してしまったからサーヴァントは初めから六騎だけである。

 

 しかも、キャスターに関してはユートがマスターと共に抹殺、令呪を奪ってしまってから改めてサーヴァントを召喚していた。

 

 クラスは【グランドマスター】で、生きて北極圏で眠りに就いてた〝彼〟の事をサーヴァントとして引っ張って召喚を行う。

 

 宝具となったのは勿論、〝彼女〟である。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 グィネヴィアとランシアがイチャイチャとしているバスルーム、其処にはペタンと座り込んだ紫髪な少女の姿……

 

 月村すずかである。

 

 昨夜はユートがグィネヴィアとランシアを呼んで、三人で色々とヤっていたら聞き耳を立てていた。

 

 だから、こっそり聞くよりまざまざと見せ付けながら堂々とヤったのだ。

 

 すずかは固唾を呑んで、真っ赤になりつつ観ているしかなかったと云う。

 

 月村すずかは──月村家とは【夜の一族】と名乗る吸血種族で、血液の摂取をする事によって様々な事象を起こせる。

 

 身体能力は普段から並より上で、明らかに文系であるすずかは体育なんかでも大活躍する程。

 

 また、洗脳が可能なのは月村と同族の者が、数年前に騒ぎを起こした際に少女達を操った事から窺える。

 

 記憶操作も可能だ。

 

 そんな一族ではあるが、姉たる忍がそうである様にすずかも、高校生くらいに長じれば激しい性欲に翻弄される事となる。

 

 発情期、それこそ場合によっては誰彼構わず求めてしまいたくなる程の性欲、忍は学校で恭也を連れ回して発散していた。

 

 茂みの中や保健室や屋上やトイレ、我慢の限界なら空き教室すら使う。

 

 ユートみたいな無限リロードとかが出来ない恭也であるが、彼は本っ当によく頑張ったと言える……筈。

 

 きっと限界を越えてまで忍の性欲を満足させたのだろうし、それがあったればこその現在なのだから。

 

 勿論、すずかが発情期に入ったとしてもユートなら寧ろ、いつでも戴きますといった処。

 

 すずかの方こそが『もう許して……』と懇願してくる程に、何回でもヤってしまう事だろう。

 

 そんなすずかに予備知識を与えるべく、夜中の格闘を観戦させたのだ。

 

 他の女とヤってショックというより、いつかは自分もと考えたのか『優斗君、スゴい……』なんて的外れな感想を洩らしていた。

 

 内股でモジモジしていたのはご愛敬か。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「私とユート様の馴れ初め……ですか?」

 

「は、はい」

 

 シャワー後……ユートは既に朝食を摂って出掛けていたが、グィネヴィア達も用意された朝食を食べて、すずかは二人を自分の部屋に上げると、ちょっとした疑問として質問をした。

 

 グィネヴィアとランシアがユートと出逢い、如何にして現在のえちぃ関係にまで成ったのか?

 

 ランシアと違って年齢が自分に近いグィネヴィアだけに、すこしばかり気になるのも仕方がない。

 

 見た目だけで実際には、百年以上を生きてるが……

 

「そうですね、ユート様と最初は敵でした。私はずっと【最後の王】を目覚めさせるべく伯父様と奔走し、ユート様は【最後の王】にとっては討つべき魔王様。なればそれを目覚めさせる私は、ユート様から見れば敵以外の何者でもありませんでしたね」

 

「魔王様?」

 

「神を殺した神殺しの魔王──近代ではカンピオーネと呼ばれていますね」

 

「神殺し、確かにこないだ優斗君が斃したのが闇の神アプス……」

 

「はい。ユート様は儀式も無しに相手の神氣を喰らい権能を獲ます。故にアプス様の権能も獲ている筈」

 

「そ、そうなんだ」

 

「さて、そんな私と伯父様でしたが……伯父様は戦いで敗れ、私自身も追い詰められてしまいました」

 

 それは情け容赦無い。

 

「そして、ズタボロな姿で現れた伯父様。私はすぐに駆け寄りました」

 

「……」

 

 グィネヴィアは大慌てで駆け寄ったものだ。

 

「ですが、伯父様は微笑みながら私を羽交い締めにしてしまわれましたわ」

 

「へ?」

 

「これが愛し子の為だと、私がどれだけホラーで恐怖をした事か」

 

「そ、そうだろうね」

 

 カツカツとランシアにより拘束されたグィネヴィアに近付くユート、イヤイヤと涙目になりながら首を横に振るが動けない。

 

 聖句を唱えている辺り、某かしてこようとしているのは確かである。

 

 そしてグィネヴィアへと顔を近付けて……

 

『我が妃になるが良い』

 

 唇を奪った。

 

『んんんっ!?』

 

 決して初モノではなかったにせよ、回数が多い訳でもビッチな訳でもなかったグィネヴィアは行き成りな濃密な口付けに、全く何も出来ずユートの熱い舌を受け入れるしかない。

 

 混じり合う二人の唾液、ユートが流し込む呪力と共に唾液を嚥下してしまう。

 

 胃の中を焼く唾液に隅々まで奔る呪力、ポッカリと穴が空いた気分になって、目を開けば目の前にユートの姿が在る。

 

 スッと穴を埋めた。

 

 潤んだ瞳でグィネヴィアはユートに縋る。

 

 その時に、【最後の王】よりもユートを選んだ。

 

 この瞬間、ナニで埋めるかの選択権は相手にあり、然し確実に影響を及ぼしているからこそ、基本的にはユートを選ぶのである。

 

 洗脳に近い能力ながら、選択権が僅かながら与えられているが故に、決して操る類いの権能ではない。

 

 この時点でユートのキスが巧みだったのも大きく、権能の成功率は可成りの高さを誇っていた。

 

「ハァ、思わずユート様を選んでしまいました』

 

 ホゥ……と頬を朱に染めながら溜息を吐く様は見た目の幼さに反比例をして、それは大人の魅力を醸し出していたと云う。

 

「フフ、私は元より愛し子を守護する括りにあったに過ぎぬが、あの時はもう既にまつろわぬ性に立ち戻っていた故な。まつろわぬ性よりユートを望んだのよ」

 

 快活な笑うランシア。

 

「そういえば、あの頃より伯父様の一人称が余から、私……に変わりましたわ」

 

「最早、私はユートの騎士であり愛し子の騎士故な。王の如き振る舞いも必要はあるまい?」

 

「成程、そうでしたか」

 

 ランスロット自身の来歴は兎も角、槍の神ランシアとしてはサルマタイの民に信仰された、軍神アーレスの娘たるアマゾネスの女王に由来する〝鋼の女神〟と云う女性騎士で所謂、戦闘狂な部分が在るのはその為である。

 

 その由縁か、同じサマルタイで信仰されていたとされる智慧の女王──【白き女神(グウェンフィファル)】であり、【最後の王】にまつろわされて神祖として転生をしたグィネヴィアを守護する騎士となった。

 

 ランシアは女王にして、高潔な騎士として動いていたという訳だ。

 

 まあ、その間がミッシング・リンクとなっているのだろうが、ユートにとっては最早どうでも良くなり、まつろわせたその日の内に『戴きます』をしている。

 

 まつろわぬペルセウス、ミトラスより簒奪した権能は敵対者の女性を、どんな形でも良いから倒して勝利を収め、口付けで権能を流し込めばまつろわせる事を可能としるモノ。

 

 それは正に、怪物ティアマトーでもあったアンドロメダをエチオピアの王女と同一視し、斃す事でまつろわせて妃にした神話通り。

 

 これは斃したペルセウス自身が言っていた、彼方側での神話としての真実。

 

 それ故にこんな権能となったのである。

 

「私は……最初、ユート様を御恨みしました」

 

「え? そうなんですか? 何だか権能……を受けて問答無用で愛する様になった印象なんですけど?」

 

「あれは洗脳の類いでは無いのです。私は自由意思を以てこの場に居ますよ」

 

「それは私もだな」

 

 別に思い込まされているのではない。

 

 事実、選んだ後でウジウジと考え込んでいたのだ。

 

『本当にこれで良かったのでしょうか?』

 

 【白き女神】からまつろわされ、神祖グィネヴィアとなって消えてからこの世に再び転生してまで千年を越えており、そんな想いを全て否定してしまった。

 

 ランシアは自分に勝利をしたユートのモノにされ、意気揚々としているのだろうが、グィネヴィアとしては複雑な事極まりない。

 

 自らが選んだ以上は不本意とまで言わないけれど、複雑な気持ちになるくらいは許して欲しかった。

 

「とはいえ、やはり今までの自分を否定するのです。恨まずには居れません」

 

「けど、グィネヴィアさんは優斗君と居るのを楽しんでいる様に思えます」

 

「所詮、私も元女神の神祖だとか言ってみたとして、【女】に違いなかった……という訳ですよ」

 

「? 女ですか?」

 

「ええ。【最後の王】は、どれだけ尽くそうと何も語っては下さらない。助けを呼んでも来て下さらない。そんな折り、ユート様からまつろわされて色々と気を遣って頂きました」

 

「色々……」

 

 ポッと頬を染めた。

 

「ナニをお考えかは理解していますし、事実その通りなのですが……」

 

 話を振った本人も苦笑いを浮かべてしまう。

 

「私は前世……初代グィネヴィアがどうだったのか、記憶は殆んど有りませんので判りませんが、二代目のこの私は術を使うなどキスをする事は侭ありますが、殿方に抱かれた経験は皆無でした。それに気付かれてでしょうか? ユート様は私をまつろわせてその日の内に抱きましたが、伯父様を交えず一対一で普通に抱いて下さいました」

 

「普通に……」

 

 それは当たり前な話だろうが、ユートの性欲の事はすずかも既に解ってるし、ならば行き成り三人体制でヤっても不思議ではない。

 

 否、寧ろランシアも含めて謂わば3Pによる御乱交をしたかった筈。

 

「それに、初めてだからと随分と手加減されました。まあ、これはいつもの事らしいのですが……」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「すずか様は御近くで観ておられたので、ユート様の日本人離れしたアレとか、強い性欲とか御存知です。あんなモノが、初めて女にされたばかりの中で暴れるのですよ? どれだけキツいか解りますわね?」

 

 ゴクリ……

 

 真っ赤になって固唾を呑んだすずか、グィネヴィアの初めてを想像した後で、それを自分に当て嵌める。

 

 ユートの分身の大きさ、性欲の強さなどはそもそもハルケギニア時代、別世界に行った際に戦いに巻き込まれ……というか飛び込んで最終決戦となる時の事、敵の本拠地に突入をしてからすぐ、本拠地と一つに成っていた邪神クトゥルーに囚われ、正にエロゲチックな触手に絡め取られた状態にて菊やら口を犯されて、まだ普通なサイズであった分身は女陰(ほと)の形状をした触手に搾られた。

 

 分身からは精を搾取されながら、菊や口からは逆に神氣を精気と共に注ぎ込まれて一種の循環状態となって精神を穢されていった。

 

 本来ならそれで精神破綻を起こし、SAN値直葬をされていたのだろうけど、ユートの体質──全てを呑み込む太陰体質によって、神氣を自身の内に純化しながら溜め込んで、出ていく精気を一としたら溜め込む精気を百以上と云う、有利なレートで逆に搾取する。

 

 これによりクトゥルーは神氣の大半をユートにより奪われて、気付いた時には既に遅く触手の維持すらも困難となって解放した。

 

 この時にユートは精神を壊されなかったが、影響が皆無で有り得なかった為、魂魄にまで刻み込む形にて性欲強壮、分身の肥大化とエッチ関係が何倍にも強化されてしまったのである。

 

 しかも、エロゲも斯くやのド派手な射精とか。

 

 普通なら、一メートルか其処らを常識的で僅かな量を出すものだが、ユートの場合は数メートルをリットル単位で放つ。

 

 おかしいにも程があるのだろうが、それをデフォルトにしているのだから仕方ないのだろう。

 

 邪神が原因だとはいえ、決して悪影響を及ぼす訳ではないのだから。

 

 尚、確率の問題だけれど子供がデキ難くなってしまったのは誤算である。

 

 それこそ、早く欲しいなら回数を熟すしかない。

 

 これまでのユートの歴史に於いて、一発で妊娠したのは星矢の姉の星華が星那を身籠った時のみだ。

 

 ユートは星華に知らされていなかったが……

 

 それ以外は一日に二十回以上をヤり、早くて数ヶ月で遅ければ数年も掛かる。

 

 まあ、身勝手を言う様だが男としては助かる話。

 

 それだけヤっても妊娠率が思い切り低いのだから、避妊無しで存分に楽しめるというのだし。

 

 リットル単位の精が相手の胎内に染み渡る感覚は、ユートからすれば可成りの心地好さであるが故に。

 

「今や、私はすっかりあの方の虜にされてしまいましたから」

 

「それは私もだな」

 

 幸福そうな瞳で語っているグィネヴィア。

 

 ランシアも愉しげな表情でお腹を擦る。

 

 未だにそんな関係になれないすずかからしたなら、それは途轍もなく羨ましい気持ちで一杯だ。

 

 幾ら、リリカルなのは勢の少女が早熟であるとはいっても、肉体的にはリアル九歳児でしかない小学生。

 

 ユートの守備範囲外だ。

 

 最低限、十○歳。

 

 数えで十○歳に入っていないと手出し──御触りやキスはアリ──しない。

 

 法令無視? 仮令、背中にランドセルを背負っていても、エロゲ的には全員が十八歳以上です!

 

 ユートは貴族だった為、しかも最終的には可成りの権威を持った為か、貴族の二女以降の相手をする事も侭あって、四女とかになると幼いくらいの娘も幾らか混じっていたし、ちょっと感覚が麻痺気味なのだ。

 

 因みに、四女というのはヴァリエール家のである。

 

 嘗て、母親が男装をしていた時の名前を与えられ、ユートが原作に関わっていた頃には地味に六歳児としてヴァリエール本家に住んでおり、容姿はルイズよりカリーヌの若い頃の侭。

 

 そして六年後、ユートに嫁ぐと宣言をして押し掛け嫁になり……

 

 当然、正妻のカトレアや側室のエレオノールも茫然となったのは、言うまでもない事であろう。

 

「そういえば、優斗君って朝には居なかったけど……何処に行ったのかな?」

 

「市乃様やおばかんな様に会いに行くとか」

 

「おばかんな?」

 

 市乃は兎も角としても、名前とは思えない人物名にすずかは、軽く小首を傾げるしかなかったと云う。

 

 

 

.




 現状、過去にはまだ跳びません。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:鬼神楽 天神乱舞

 イチ様の転生後の名前は瑞葉市乃としました。





.

 天乃杜神社──日上市に存在する神社で、十数年前に祭神であった神様が役目を終えて消えてしまった。

 

 それでも尚、天乃杜神社ではそな神様……市寸島比売命を祀る。

 

 市寸島比売命──通称をイチ様、気安い者であればイっちゃんと呼ぶ水の女神であり、彼女は恥ずかしがりながら弁財天の分御霊であると語っていた。

 

 よって、水だけではなく伎芸の女神でもある。

 

 まあ、より正確に云うなら仏教の弁財天と習合された神格なのだが……

 

 役目を終えたというのは即ち、喚ばれた理由となる鬼神の消滅だった。

 

 鬼神は昔に大暴れをし、それを鎮めるべく当代達が祭神を召喚、喚び出されたイチ様は神器の鏡を用いて鬼神をコピーすると、互いに相食ませる。

 

 最終的に相討ちとなり、封印された鬼神。

 

 戦いの際に落ちた右腕とともに永らく眠りに就く。

 

 その右腕が独自の意志を持ち、人型を執った存在が芳賀真人である。

 

 戦闘狂である芳賀は様々な手法で強い存在と戦い、その中で木島 卓の両親を殺害、妹の歩は犯しながら喰い殺すという残虐な現場を彼に見せ付け、その後に木島へ自分の血を飲ませて姿を消した。

 

 生きて自分を殺しに来ればそれで良し、来なければそれはそれで構わないといういい加減な感じで居り、復讐者となった木島に対して喜んだものだ。

 

 芳賀はユートと木島が殺した訳で、だからこそ役目を果たしたと云えた。

 

 そんなイチ様の唯一とも云える心残りを慮ったか、〝座〟に在った本体が彼女を瑞葉家へと転生させる。

 

 瑞葉市乃として転生したイチ様は、十五歳になって訪れた天乃杜神社で働く事となり、そして一年後には一番会いたかった青年との再会を、海鳴市で果たす。

 

 お土産に精霊聖衣を神友のナツ様の分まで貰って、意気揚々と天乃杜神社まで帰ったは良いが、ユートと再会が出来た事を話すと、天神かんなが落ち込んだ。

 

 天神かんなは天神姉妹の長女で、次女の天神うづきが木島 卓と結婚をしたのだが、未だに忘れられないユートを想って三十路過ぎても独り身を貫いており、なのに当のユートは全くの音沙汰無しときて、確かに無理からぬ事なのだろう。

 

 今や数えでは三十四歳の『伯母かんな』である。

 

 むつきと皐月と歩という姪が居る身としては。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「二百年以上振りかな? 天乃杜神社に来たのは」

 

 とはいえ、それはユートの主観時間での話であり、この世界の住人からすればまだあれから十六年。

 

 当時は十八歳くらいだった天神かんなもその妹たる天神うづきも木島 卓も未だに健在、水杜神社の方にはあの時は会わなかったが滝峰葉子も居る。

 

 石造りの階段を登り切ると箒で落ち葉を掃いている少女が居り、緋袴の巫女装束を着ているのを見る限りは神社の巫女さんだろう。

 

 そして、天乃杜神社とは管理する人間が住む場所も在り、つまりは彼女はこの神社の管理者と関係している場合もあった。

 

「こんにちは」

 

「え? ああ、こんにちはですね優斗さん」

 

「何? どうして僕の名前を知ってるんだ?」

 

 初顔合わせの筈だが……

 

「確かに初めましてです。私は木島 歩……貴方と共に鬼神と戦った木島 卓と木島むつきの三女ですよ。そして前世ではお父さんの妹だった木島 歩です」

 

「──は?」

 

「くすくす、成仏する時に『ありがとう』ってお礼を言ったじゃないですか」

 

「っ!」

 

 それを聞いていた対象は自分と木島 卓のみ。

 

 だから、自分達以外で知るのは確かに木島 歩だけ

という事になる。

 

 木島 歩が成仏したのは芳賀を斃した後、それまでは木島 卓に憑いていた。

 

 当時、ユートは最終決戦で全ての力を使い果たしていた為、歩の存在には気付いていなかったのだけど、鬼神との闘いに於いてイチ様とナツ様から神氣を受け取り、完全復活をして気付く事が出来たのである。

 

 目の前で微笑む木島 歩とは、木島 卓の妹だった木島 歩の転生体という。

 

「因みに、皐月という双子の姉が居ますけど……彼女も木島 歩の転生ですよ」

 

「何? つまり君と皐月という娘は同じ魂が二つに分かたれた双子か?」

 

「はい。尤も、歩としての記憶は有してませんけど」

 

 どうやら記憶のに関しては殆んど、大部分を歩の方で受け取ったらしい。

 

「皐月には、芳賀に犯されながら喰われた記憶は要らないんですよ」

 

 芳賀が恐かった。

 

 芳賀のモノが怖かった。

 

 それを捩じ込まれて凄く痛かった。

 

 なのに、暫くしたら勝手に身体が順応してしまい、気持ち良くなっていく。

 

 そして生命の輝きが費えるまで快楽と痛みの狭間、もがき苦しんだのだ。

 

 そんな苦い記憶を双子の姉は持たなくて良い。

 

 歩は記憶を持つ代償に、高いチカラを得た。

 

 尤も、皐月は皐月で実は力を持っている事を歩は知っている。

 

 故にこそ、退魔巫女として今まで母親や伯母かんなとは違い、妖怪との戦いに於いて敗けた事は無い。

 

 二人はそこら辺の妖怪が相手なら強過ぎた。

 

「さ、伯母かんなさん達もきっと会いたがってます。上がって下さいな」

 

「……姪からもおばかんな呼ばわりか、憐れなり」

 

 元は木島 卓の妹なれど今は姪である。

 

 しかも、幽霊時代ユートがよくかんなをおばかんな呼びしていたのを知っていたし、伯母である事を掛けて【伯母かんな】だ。

 

 勿論、短気なかんなだから奇声を上げる訳で……

 

「あ、伯母かんなさん!」

 

「うきぃぃ! おばかんな言うな!」

 

 手を挙げて堂々とバカ呼ばわりされ、黒髪を腰にまで伸ばして額にはバンダナを巻いた巫女装束の女性、天神かんなが憤る。

 

「あれ?」

 

 だけどすぐに気付いた。

 

「ゆう……と……?」

 

「拝啓、ボンジュール、こんにちは」

 

 ズシャッ!

 

 余りにも悪巫山戯が過ぎる挨拶に、かんなは思わずずっこけてしまう。

 

「な、何を寄りにも寄って芳賀みたいな挨拶を!?」

 

 嘗ての宿敵たる芳賀真人も同じ挨拶で人を喰った──本当に人喰い鬼だが──態度で接してくる。

 

 所謂、戦闘狂(バトルマニア)戦闘中毒(バトルジャンキー)の類い。

 

 ハッキリ言えばイカれている、ユートが演った様な挨拶を木島相手にかまし、怒りを誘う辺りがまた……

 

 芳賀真人のイカれ具合、それは木島家を腹を満たすべく襲撃し、夫妻を殺害して木島の妹の歩は御自慢の操縦棹で犯しながら喰い、憎しみに染まる木島が復讐者となるならと、毒にも等しい自らの血を飲ませた。

 

 生き残れば鬼の力を持つ人間──鬼人となるだろうと考えたからだ。

 

 勿論、木島 卓に関してはお遊び半分、だからこそ天乃杜神社を襲撃して御鏡を奪取したのだし。

 

 御鏡の力は映した存在の分身を〝正反対〟の性格で顕現する事、自分を映して生まれた芳賀真人なら楽しめると思ったのである。

 

 まあ、期待外れに終わってしまったけど。

 

 そんなイカれ野郎の挨拶を真似られては、かんなも膨れっ面になるだろう。

 

「バカ!」

 

「うおっ! おばかんなにバカとか言われただと!? 地味に傷付くなぁ」

 

「うるっさい! バカ! バカ! 大バカ 女誑し! 何で此方の世界に来たなら会いに来ないのよ!」

 

「まあ、女誑しは否定出来ないけどね……」

 

 愛人百人デキるかな? 百人じゃ足りないなとか、正に女誑しの権化だから。

 

「それともアレ? イチ様が言うには小さな娘を侍らせてたとか、三十路越えの年増には用は無いって? そうよね、イチ様とナツ様を嬉しそうに抱いてたし、私なんて妖怪に処女を喰われた年増のはした……」

 

 ガバッ!

 

「ひあっ!?」

 

 最後まで言わさずに抱き締めるユート。

 

 歩は紅くなりながらも、そんな二人をガン見する。

 

「ちょっ、放しなさい!」

 

「ごめんな? 確かに……イッちゃんがこの世界に居た時点で、嘗て僕が関わった世界だと解っていたよ。だけど僕にはやるべき事が幾つもあった。すぐに君の所には、天乃杜神社には来れなかったんだ」

 

「小学生を侍らせる事が、優斗のやるべき事?」

 

「……」

 

 ジト目で言うかんな。

 

「この世界に落ちた災厄、更には別の災厄が内包されていた地……海鳴市」

 

「海鳴市……」

 

「それに地球連邦成立と、君らみたいな力を持った者──退魔巫女や退魔剣士、魔法使いやHGSの総括。特にHGSは差別や迫害の対象や、あまつさえ身体実験を受けたりもする。早い内に対処したい事だった」

 

 それがゲートを守護する目的の序でだとしても。

 

 言わずもがな高機能性遺伝子障害病──通称HGSとは、名前の通り遺伝子に障害を持った病気とされているが、高機能性と云われるのは病気を患っている者達がリアーフィンを展開、超能力としか呼べない能力を扱える特徴を持つ。

 

 故に、心無い人間達には高機能性遺伝子障害病者は兵器を造る材料だとしか見えないらしく、事実としてクローンを製作して量産をしようとしていた。

 

 海鳴市に住むリスティ・槙原やフィリス・矢沢が正にそうで、リスティは嘗てリスティ・シンクレア・クロフォードと自称──実際にはエルシーと呼ばれていた──していた【劉機関】で高機能性遺伝子障害病者同士を、人工受精にて掛け合わせ造られた生体兵器。

 

 フィリス・矢沢、そして海鳴市には居ないセルフィもそうだ。

 

 何処の世界でも有りがちな事象に過ぎない。

 

 以前の世界も人造魔法師が造られていたし……

 

 元は三十路処女で死んだ彼女を権能で蘇生をして、取り敢えず高校入学まではヤりまくった。

 

 本人は死ぬ時期を選べて良かったと考えていたが、元主の子供達が気になったからと誘いに乗ったのだ。

 

「兎に角、海鳴市から出る選択肢は選べなかった」

 

「ハァ、解ったわよ」

 

 取り敢えず、おばかんなとはいえある程度は納得もしてくれたらしい。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 皆の所へ案内をするべく先導するかんな、ユートと歩は黙って後に続いた。

 

 市乃もこの神社に住み込みでバイトみたいな扱いであるらしいから、久し振りに──とはいえどかんなやうづきや木島に比べれば、僅か二ヶ月か其処ら振りでしかないが、会う事も出来るだろう。

 

 そして、歩の双子の姉の皐月と長女たるむつきとは初顔合わせになる。

 

 住居区となる場所にまで来ると、木島 卓が嘗ての復讐者とは思えないくらい穏やかな表情で庭の落ち葉を箒で掃き、歩にそっくりな少女が塵取りを構えて、うづきがにこやかにそれを見ており、どちらかと云えばむつき似の少女だが木島にも面影が重なる少女が、うづきの肩を揉んでいた。

 

 何ともアットホームというか、穏やかな日常風景を見た気分である。

 

 市乃は見当たらない。

 

「うづき、木島!」

 

「あ、お姉ちゃん?」

 

「どうした、かんな?」

 

 此方を見た二人だけど、すぐにかんなの後ろで歩いて来るユートに気付く。

 

「お前、優斗か!?」

 

「ああ、久し振りって言うか十六年振りだね……卓」

 

 目を見開いて驚く木島、そして同じく右手で口元を覆いながら驚くうづき。

 

 初の顔合わせなだけに、むつきと皐月は首を傾げるに留まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「粗茶ですが……」

 

 コトッ、置かれる湯飲みは十六年前にユートが使っていた物に相違無い。

 

 むつきが全員分の麦茶を淹れてくれた。

 

 八月上旬の真夏だけに、冷たい麦茶で涼を取るのだろうが、何故にユートの分が湯飲みなのやら?

 

 口を付けてみれば普通に氷の利いた麦茶だ。

 

 まあ、湯飲みとしてみれば大きめだからグラスでなくとも構わない。

 

「改めて、久し振りだね。卓にうづき」

 

「そうだな、久し振りというには間が空き過ぎだが。何せ十六年だからな」

 

「本当に、もう二度と会えないんじゃないかって思っていたんですよ?」

 

「悪かった。でも、僕自身が此処に来る術が限られていたからね。今回の来訪は正に偶々ってやつさ」

 

 とはいえど、某・次元の魔女は『全ての事象に偶然は無い』と言うだろう。

 

「然し、建物の方は変わらないが……君らは随分と変わったか? 復讐者の木島とオドオドしたうづきが、三人の子持ちだからね」

 

「うっ……」

 

「あうっ!」

 

 二人は紅潮してしまう、何しろ木島ときたら芳賀への復讐心で一杯、うづきは男が苦手で最初の頃は木島やユートを相手にかんなの背後へ隠れる始末。

 

 正確には対人恐怖症だ。

 

 そんな二人が手を取り合って子を成し、神社を事実上で継いでいるのだから。

 

 ユート的にも感慨無量と云うべきか。

 

「そういや、お前は変わっていないな……性格云々よりも見た目が」

 

「そういえば、十六年前に別れたっ切りでしたけど、あの頃とまるで変わりませんね? 容姿が……」

 

「ま、色々とあってね」

 

「いやいや、寧ろ色々とあったなら変わるだろうに」

 

 木島の当然なツッコミ。

 

「僕はハルケギニアに帰った後、百五十歳越えて生きていたけど……とある闘いの後遺症から死んだんだ」

 

「「「は?」」」

 

「んて、ハルケギニアという地球に似た異世界から、正真正銘の地球……とはいってもこの世界じゃなく、別の地球だけどね。転生をして、ユート・オガタ・シュヴァリエ・ド・オルニエールから、ユート・スプリングフィールドになった。今は基本的に【緒方優斗】と名乗っているよ」

 

 三人──否、事実として転生した経験を持った歩を除く全員が唖然となる。

 

「驚く事か? イッちゃんだって、実際に転生をして市寸島比売命から瑞葉市乃になっているじゃないか」

 

「そりゃ、市乃は元とはいえ神様だったからな」

 

「神様が転生出来るなら、人間にだって出来るだろ。事実、輪廻転生という概念は仏教に存在しているし」

 

「む、そうだが……」

 

 木島は何と無く納得がいかない表情となるものの、それでも理解はした様だ。

 

「後遺症というのは?」

 

「うづき……僕が時折に、黒血を吐き出していたのは覚えているか?」

 

「あ、うん」

 

「【混沌の種】──【這い寄る混沌】に埋め込まれた人を蝕む欠片。百五十歳まで生きられたのは、生ける炎たる這い寄る混沌の天敵……クトゥグアの焔が有ったからだね。まあ、流石に限界がきて死んだんだよ」

 

「クトゥグアの焔って……若しかして黒血を吐いた時に飲んでいた?」

 

「そう、あれはクトゥグアの焔を凝縮したカプセル。傍にクトゥグアが居なかった場合、あれを飲んで当座を凌ぐんだ」

 

 クトゥグア星人のクー子がよもや、あの場で招喚をされるとは思わなかった訳ではあるが、ユートはそもそもクー子が登場する作品を知らなかったり。

 

 それは兎も角、ユートはクー子からあのクトゥグアの焔のカプセルを千単位で作って貰っていたが故に、クー子が居ない世界行脚にも堪えられたのである。

 

 まあ、元がクトゥグアの焔なだけに解放すれば凄まじい爆発力を持つ。

 

 だから攻撃に使う事も。

 

「今はどうなのよ?」

 

「大丈夫だよ、かんな……転生して古い肉体は喪われたからね。幸いにも魂にまで干渉されていなかった。だから転生して肉体を蝕む【混沌の種】は最早無い」

 

「そっか……」

 

 胸を撫で下ろすかんな。

 

 いつからだったろう?

 

 かんなは鬼が大嫌いで、当然ながら生粋ではないが鬼である木島 卓とは正に犬猿の仲、うづきやイチ様が間に入らねば……若しもあの頃に二人きりだったら間違いなく破綻したと自信を持って言えるくらいに、かんなと木島の仲はかんなが一方的に嫌っていたとはいえ、最悪の二歩くらいは手前の仲だった。

 

 木島も木島でかんなの事を殊更、嫌ってはいなかったのだろうが歩の仇討ちに凝り固まった精神状況で、余裕が無かった事から決して歩み寄りはしない。

 

 本来の世界線では時間が解決したし、場合によっては木島が姉妹の治療に当たるから、仲違いなどしてはいられずにズルズルとなし崩しで改善されたが……

 

 勿論、木島が彼女らと共にトラウマやら何やらと、改善をしたのも大きい。

 

 妻のうづきはカマイタチに関する事、ペットとして飼っていたカマイタチを、誤射してしまって弓を使えなくなっていた。

 

 かんなは芳賀の事件より以前、親友が百目鬼によって意識不明となった。

 

 尚、この世界線でうづきの一件に木島がドップリと浸かり、ユートがうづきに【暴君の魔銃】のレプリカを渡している。

 

 また、かんなの親友の件はユートが首を突っ込み、本来なら床島 霧は死んでいたが、力を喪っていたとはいえマジックアイテムの製作は可能だったユート、見事に霧を救っている。

 

 まあ、半妖化は免れなかった訳ではあるが……

 

 それでも無事に社会復帰も成され、かんなと霧は抱き合って涙を流していた。

 

 思えば、ユートに霧が込みだとはいえ自分の意志で抱かれたのはあの時が初めてであり、その時からだろうか……ユートへの想いが変化してきたのは。

 

 一応、おバカだといっても容姿は悪くないかんな、両親が見合い話を持ってきたのも一度や二度でなく、然し決して結婚には踏み切れなかったのは、いつの日かユートが戻ってきた時、結婚していたらもう見ては貰えないのが怖くて、戻らない可能性が高いと知りながら、どうしても受け容れられなかった。

 

 幸い、天乃杜神社に関してはうづきと結婚した木島が二人で継ぎ、かんな自身はその手伝いをするだけに留まれたので、割と堂々と未婚の侭に過ごす。

 

 そして今年の春、かんなは市乃からの報告で自分の判断が間違っていないと、確信が出来た。

 

 会いに来てくれないが、それでもユートは戻ってきているのだと、市乃が興奮気味に話してくれたのだ。

 

 そして今日、かんなは遂にユートと再会をして想いの再確認も出来た。

 

 天神かんな三十四歳……この日こそ女を賭ける瞬間であったと云う。

 

 

.




 この世界、不思議パワー持ちが割と多目です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話:新たな存在 御手洗史伽

 ちょっと不愉快になりかねない表現が有りますが、それを認識した上でお読み下さい。





.

「それにしても、頭の中身は変わらないけど美人に育ったよね、かんな」

 

「あ、頭の中身は変わらないって……」

 

 天神かんなが〝おばか〟なのは最早常識! 高校生だった当時、まともに勉強すら出来なかったくらい。

 

 だからだろう、おバカ呼ばわりされても『美人』の一言で頬を朱に染めるのは基本的におめでたいから。

 

「でも、私は歳を取った。優斗は以前と変わらない、私は三十路過ぎ……」

 

 女として年齢と体重というのはやはりアンタッチャブルと云おうか、敢えて触れられたい話題ではない。

 

 見た目に十六歳なユートに対し、かんなは三十代も半ばに達していた。

 

 ユートが気にしなくてもかんな自身は気になる。

 

「何なら今晩にでも証明をして見せようか? かんなも十六年振りに女を感じたいだろう?」

 

「ば、ばか! うづきや姪達の前で何言ってんの!」

 

 完全にテンパっており、かんなは慌てふためく。

 

 とはいえ、妖怪に犯された以外ではユートしか相手にしていなかったが故に、かんなも少し期待しているらしく、ちらほらと視線がユートに向かう。

 

 女にだって性欲くらいはあるし、好きな男とならば睦み合うのに否やは無い。

 

 だからか、かんなはいつになく御機嫌な様子だが、何故だか歩の方はブスッとしていた。

 

 そこはかとなく皐月の方も不機嫌だし。

 

「歩、皐月……何だか膨れてるけど、どうした?」

 

「べっつに?」

 

「何でも無い……」

 

 明らかに膨れているが、二人はプイッと顔を逸らして否定する。

 

「ちょっと来て!」

 

「うおっ!?」

 

「優斗が拉致られた?」

 

 かんなは、歩に連れ去らせたユートを見て驚きを露わに叫んだ。

 

 部屋から連れ出されて、しかも背が足りないのにも拘わらず壁ドンされる。

 

 何と、ユートの初壁ドンが女の子からの逆ドン。

 

 っていうか、ユート自身そういうマネはした事が無かったのだが……

 

「で、何かな歩?」

 

「皐月の事なんだけど」

 

「皐月の?」

 

「うん、私……木島 歩は前世というか幽霊だった頃の私は貴方に惹かれてた」

 

 まあ、そうだろうなとは思っていたユート。

 

 自惚れではなければ歩から好かれているのは理解をしていたし、ユートは何処かの超鈍感型オリ主なんかではないし、ちゃんと向き合えるのだから。

 

「芳賀に犯されて喰われた記憶は私が一方的に引き継いだけど、(あゆむ)の中の正の想いは僅かながらも皐月に残されている」

 

「記憶ではなく想いが」

 

「そう、記憶じゃないから明確には覚えていないわ。でも歩の貴方への想い……それだけは残せたのよ」

 

 記憶の引き継ぎで恣意的に自らのみが、木島 歩の持つ記憶を獲た訳だけど、その中でも歩に芽生えていた初恋の想いだけは、皐月と共有が出来たのだ。

 

「で? 歩は僕にどうして欲しいんだ?」

 

「上手く皐月の中の想いを昇華させて欲しい」

 

「手を出せ……と?」

 

「うん」

 

 何となし想像は出来ていたが、よもやの手を出せという宣言。

 

「勿論、段階を踏んでね。当たり前だけど無理えっちは駄目だよ?」

 

「んなの当然だろうに」

 

 ユートの信条、ルールを守って楽しくセ○クスだ。

 

 とはいえルールさえ守られていれば良いのであり、必ずしも相手の心情を慮るとは限らない。

 

 例えば、賭けの対象となっていた場合だと勝利者が賞品を得る訳で、ユートもそれで嫌がる娘を抱いた事だってある。

 

 闘神都市と呼ばれた都市での闘いが正しくそれで、パートナーを賭けて闘って

勝てば一晩、好きに出来る権限を得られるのだ。

 

 当然ながら相手は喜んで抱かれる訳ではなく、悔しさや恨み言と共にヤられる者も居た。

 

 だからといってユートが躊躇する筈もなく、遠慮も容赦も全くせず場合によっては処か大半が純潔の肉体を貪り、一晩だけで可成りの開発をしてしまう。

 

 また、ルール上では殺害をする以外は〝何をしても許される〟が故に、権能を用い引き入れた者も居り、今でもその娘達はユートの側に居たりする。

 

 端から見れば強姦でしかなくとも、彼女らは試合に出場する選手のパートナーとして、受付からくどいくらいに説明を受けた上で、闘神大会のルールに従うと契約書にサインをした為、謂わば合法であり和姦であると言われても、文句を言える立場ではない。

 

 相手の心情さえ無視してしまえば……

 

「まあ、皐月に手を出すとか云々は置いとくとして、歩にも手は出して構わないのかな?」

 

 ソッと右手を歩の頬へと這わせて訊ねると、真っ赤になりながら……

 

「う、うん」

 

 歩は頷いた。

 

 そんな歩の顎を取ると、ツイッと顔を上向かせてやって、頬を赤らめた侭に目を閉じた歩の唇に自らの唇を軽く触れ合う程度だが、間違えようが無いくらいに確りと重ねてやる。

 

 僅か数秒間の触れ合い。

 

 それでも歩は満足したらしく、ニコニコしながらも部屋へと戻って行った。

 

 それからはユートも戻って色々と話をしていたが、一時間くらいしてからだろうか? 二人の少女が部屋に入って来て一悶着。

 

「イヤァァァァァッ!?」

 

 おかっぱっぽい髪型をした小さめな少女が、恐怖に悲鳴を上げたのである。

 

 楽しく会話中に「ただいま戻りました」と入ってきたのは、ユートもよく知る少女で瑞葉市乃。

 

 嘗てのイチ様である。

 

 此処までは問題無い。

 

 着ていた服がイチ様ルックだったりしたが、それでも個人の趣味と捉えたなら容認も可能だから。

 

 問題だったのは今一人、ユーキ並にミニマムな黒髪ボブカットで、軽く左目が前髪に隠れた少女だ。

 

 ユートを見るなり悲鳴を上げてくれて、まるっきりレイパーでも見た様な怯え様で震え、かんなを楯にするが如く隠れてしまう。

 

「ごめんね、優斗さん」

 

 少女の代わりに謝ってくれる市乃だが、今を以てもかんなの背後な少女はチラッと見ただけでビクリッ! 肩を震わせて涙目だ。

 

 流石に舌打ちしたくなる態度ではあるものの、初見で此処まで怯えるというのはただ事ではない。

 

「えっと、この子の名前は御手洗史伽。八年前くらいにこの神社に捨てられていたんです」

 

「捨て子……ね。今時なら日本じゃ珍しいな」

 

「そうですね。だけどその──実は捨てられた理由は判っています」

 

「理由? 経済的な理由とかじゃ無さそうだね」

 

「は、はい……」

 

 言い辛いのか言葉を濁す市乃に、他の面々もまた暗い表情となる。

 

「その、史伽ちゃんは……え〜っとですね? あの、だから……」

 

「何処まで言い辛いんだよその理由って」

 

 ユートはほとほと呆れてしまうが、神だった市乃がこれだけ言い淀むなら余程の理由なのか、或いは本当に余人には話せないかだ。

 

「話せないなら話さなくても構わないけど?」

 

「うう……」

 

 オロオロし始める市乃。

 

「もう良いです市乃さん、ボクが話しますから」

 

「史伽ちゃん? けど!」

 

「市乃さんが話そうとしたなら、この方はボクという存在を知っても態度を変えたりしないんでしょうし、市乃さんや姉様達を困らせたくはないですから」

 

「ごめんね史伽ちゃん」

 

 申し訳無さで一杯な表情を見るに、どうやら一般的には受け容れられない様な話らしい。

 

 例えば、人の道を外れた生まれ方をした……とか。

 

 一親等から三親等内にての交わりから誕生した……みたいな話なら余人に話すべきではないし。

 

 少なくとも、日本の法律で子を成して良いのは四親等からだから。

 

 因みに、親や兄弟や伯父や伯母などは三親等内で、イトコからが四親等。

 

 血縁で結ばれて良いのはイトコ以上に離れた関係、当然ながらそれより近しい近親では赦されない。

 

 根が日本人だからユートも流石に近親相姦はせず、白亜と子を成したりもしたけどそれは既に、精神的には兎も角として肉体的には遠過ぎる血縁だったから。

 

 二百年は前に分かたれたからには、最早他人でしかないくらいのものだ。

 

 然し、史伽はおもむろにショーツを膝下までずり降ろした上で、何とスカートをたくし上げて見せて……理由を正しく露わにした為に違う理由だと理解した。

 

 見た目には少女で服装もスカートを穿いた筈だが、股間には少女に付いていてはいけないモノが、小さいまでも確かにぶら下がって揺れていたのである。

 

「男の娘? だけどそれが捨てる理由になるか?」

 

 嘗て出逢ったギャスパー・ヴラディとか、男の娘と呼べる少年もユートからすれば珍しくもない。

 

 その後の史伽の行為により判明した事実……

 

 槍と鞘の同居。

 

「アンドロギュノスか……性分化疾患とも呼ばれている所謂、両性具有者」

 

 ユートは識っていた──その存在を。

 

 羞恥心からか真っ赤に染めた顔を逸らし、自身の持つ〝異常性〟を見せ付ける史伽は、涙を零している。

 

「ハァ……もうスカートを降ろせ」

 

「や、やっぱり気持ちが悪い……ですか?」

 

 言われた通りにスカートを降ろし、ショーツも穿き直してから史伽はおずおずとユートに訊ねてきた。

 

「別に……珍しくはあるけど皆無じゃないからね」

 

「──っ!?」

 

 麻帆良の図書館島によく居る少女、その娘がそうだったのを確認しているし、他にも知らない訳ではないからこそ、史伽の事も珍しいと驚いたに過ぎない。

 

「(それにしても、八歳にしては随分と大人びている気がするな)」

 

 リリカルなのは原作勢であれば、八歳児らしからぬのもまだ理解の範疇だが、この御手洗史伽という少女──両性具有だが本人的には女と認識しているらしい──はリリカルなのは原作勢ではない。

 

 そりゃ確かに、原作勢であれ顔すら出していないというのも存在するだろう、だけどそれだって原作勢と何らかの繋がりは有る。

 

 例えば、まだ生まれてすらいない月村 雫。

 

 とらハ的には存在が認識されていても、リリカルには名前すら出ない〝月村〟恭也と月村 忍の娘だ。

 

 恐らく、StSの時点で普通に小学生くらいにはなっている筈。

 

 然し、御手洗なんて姓はユートも識らない上、この場はそもそもリリカルとは何ら関係の無い地。

 

 イギリスやドイツやカナダ辺りなら、国外であってもリリカルと無縁ではないのだが……

 

 主にフィアッセ・クリステラや、月村 忍のとらハでの生活先や、何故か未だに海鳴市に住む仁村知佳の関係である。

 

 況してや、両性具有なんてのはリリカル勢にも確か登場はしていない筈。

 

 因みに云うと、ユートは仁村知佳というとらいあんぐるハート2のヒロインを識らなかったが、海鳴市に住んでいたからユーキから教えて貰えた。

 

 ユーキはとらいあんぐるハートを全作プレイ済み、しかも仁村知佳は高校生の時点でユーキより僅かながらミニマムな為か、笑顔でそれを語ってくれたのだ。

 

「(それに……)」

 

 史伽は最初こそ羞恥心から目を確り閉じ、顔を横に逸らしながら股座を見せていたが、暫くして甘い吐息を溢して明らかにユートに視られて感じていた。

 

 知らない男に恐怖すらも懐き、なのにそんな相手に女性的には最も見せるのを躊躇う部位を見せながら、その行為に快楽を見出だすという矛盾。

 

 否、それ以前に小学生が性的な快楽に耽るなどと、まるでソレを識るかの如く行為に違和感があった。

 

 単純に快楽を知る機会は無くもない。

 

 ちょっとした動作で性感帯が刺激を受け、そこから自慰を知るという程度ならユートも知識が在った。

 

 だが然し、八歳児が男に視られて感じるなんて少しディープに過ぎる。

 

 しかも史伽は、スカートを降ろす様に言われて胸を撫で下ろすなら未だしも、何処か残念そうな女の表情を醸し出していた。

 

 それも『気持ちが悪いですか?』と訊ねながらも、何処か期待する顔はまるで見せた先を想像しているかの如くで、本当に性経験が有るみたいな感じだ。

 

 チラリと市乃を見遣るがフルフルと横に首を振る。

 

 どうやら妖怪に犯された訳では無さそうだ。

 

 だからといって男に……という訳でも無い。

 

 一応、それなら見知らぬ男を怖がる理由付けにはなりそうだが、市乃と出掛けていたなら違うだろう。

 

「(可能性は……やはり)」

 

 ひょっとしたら? その可能性に気付いたユート、瞑目して小さく嘆息すると御手洗史伽を確り見据え、口を開いた。

 

「御手洗史伽」

 

「は、はい?」

 

「君が貰ったであろう聖衣の銘は?」

 

「……え?」

 

「君が貰った黄金聖衣……その銘を訊いたんだ」

 

「ど、どうして──?」

 

 思った通り、相生呂守と相生璃亜と同じケース。

 

 彼の邪神……這い寄る混沌ナイアルラトホテップの悪戯で転生をした者だ──新たな存在。

 

 ユートのよく知る姿で──ニャルラトホテプ星人のニャル子と名乗って。

 

「若しかして貴方も!?」

 

「ちょっと違うがね」

 

「違うって?」

 

「僕を転生させた神と君を転生させた神は別神だし、僕が貰ったのは『よく視える目』と『魔法に関しての親和性』だからね」

 

「……別人?」

 

「ああ、だけど最近になって君と同じ状況でこの世界に転生した兄妹と逢った。つまり特典は一律で三つ、その中に必ず黄金聖衣を願う誰かを何人か転生させたという情報を持っている」

 

 それが黄金聖衣の数通りなのか、或いは一部だけなのかは解らないけれど。

 

 こうして三人目が見付かったとなると、少なくとも半数の六人は転生しているのかも知れない。

 

 下手をすれば十二人……処かあの十三人目──蛇遣座(オピュクス)すらも。

 

「ボクが貰ったのは魚座、ピスケスの黄金聖衣です」

 

「ピスケス? その割には薔薇の香りが無いけど?」

 

「は? 薔薇って何です? 魚座のアモールはそんなの使いませんよ?」

 

「いや、魚座のアモールってそれこそ何だ? 奴は確か上級火星士(ハイマーシアン)でコーカサスだった筈だけど……」

 

 互いの認識がおかしい。

 

「ボクが知るアモールは、水と闇の属性を使います」

 

「闇は確かに使ってたが、水の属性? そんな攻撃はしてこなかったぞ」

 

「──へ? 何でまるで戦ったみたいな事を?」

 

「まるでも何も、アモールの奴とはマルスが攻めてきた一九九九年に闘った」

 

「嘘!? 聖闘士星矢Ωはテレビアニメだよ?」

 

「……ひょっとしたらさ、君は認識していないのか? そもそも、この世界自体が【魔法少女リリカルなのは】を主体にした世界だって事を」

 

「リリカルなのは? って事は海鳴市が存在するのは偶然じゃない!?」

 

 史伽は海鳴市を知っていたらしいが、どうやら単純に平行世界だからと見過ごしてきたらしい。

 

「僕の転生先は【魔法先生ネギま!】とか【聖闘士星矢】とか色々と混じっている世界でね、僕も聖闘士として活動をしていたんだ」

 

 Ωに関しては一応、超からの報告である程度の認識はしていたが、アモールが魚座の黄金聖闘士というのは知らなかった。

 

「ま、この世界も恐らくは色々と混じっているけど」

 

 チラッと市乃達を見る。

 

「なあ、転生とか何とかはユートがそうなのを聞いたけどさ、史伽も転生だとかそうなのか?」

 

 木島 卓が訊ねてきたのをユートは首肯した。

 

「そうだよ。僕と同じ地球の出身かは知らないけど、少なくとも彼女は転生者。それは間違いないね」

 

 とはいえ、転生者云々はこの際どうでも良い。

 

「敵対しないなら問題無いけど……」

 

「しません!」

 

「なら、残り二つの特典を教えてくれるかな?」

 

「【格闘技術】と【男好きしない肉体】です!」

 

「格闘技術? そりゃ確かに聖闘士なら格闘は普通だろうが、魚座の黄金聖闘士の技術とかじゃなくか? いや、アモールをピスケスと判断していたなら薔薇は使わないか」

 

「何で薔薇なんですか?」

 

 うづきが小首を傾げながら訊いてきたが、三十路も過ぎていながら実に可愛らしい姿だ。

 

「本来、魚座の黄金聖闘士は薔薇を使う。猛毒を持つ【王魔薔薇(ロイヤルデモンローズ)】、全てを噛み砕く【黒鋸薔薇(ピラニアンローズ)】、放てば心臓を突き破り血を吸って紅く染まる【紅血薔薇(ブラッディローズ)】をね」

 

「……知らなかった」

 

 どうやら御手洗史伽は、原典たる【聖闘士星矢】を識らない完全な【Ω世代】だったらしい。

 

 恐らく【聖闘士星矢Ω】は観たものの、原典までは興味を持たなかったタイプであり、即ち視聴をしたであろうΩも好きで観たのではなく、誰かしらが観ていたのを一緒に観ただけ。

 

「男好きしない肉体って、そのミニマムさか? 態度から両性具有を望んだ訳じゃないだろうし」

 

「は、はい! 勿論です。その……ボクは前世だと、自分で言うのも何ですけど可成りのスタイルでして、だからかは知りません……知りたくもありませんが、ホームレスに襲われてしまいました」

 

 ブルッと両腕で自らを抱き締める様にしつつ震え、それでも何とか声を絞り出す様に言う。

 

「嫌だって、痛いって叫んでも聴いてくれなくって、あいつらは欲望の赴く侭にボクを貪ったんだ! だからボクは……」

 

 自殺したのだろう。

 

「という事は、君の両性具有は奴の……ナイアルラトホテップの仕業だろうね」

 

「神様の?」

 

「奴は快楽的な道化師だ。君の願いをわざと曲解してその肉体にした」

 

「っ! そんな……」

 

「きっと、君が世界を恨んで破壊活動をするも良し、そんな君を僕が滅ぼすのも良しとか考えたんだろう」

 

「おいおい、そりゃシャレになってないぜ?」

 

「卓、奴はそういう手合いの神だよ。実際、芳賀を知るなら理解は出来るだろ」

 

「ああ、そうだな! 奴みたいなタイプかよ!」

 

 家族の仇だった鬼の名を出され、木島 卓はテーブルをドカッ! と殴りつつ怒鳴るのだった。

 

 

.

 




 尚、御手洗史伽の容姿はこの名前で検索すればすぐに出ます。

 何しろ、這い寄る混沌は神代文華という前世の本名から姿を選択したので。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:邪神 這い寄るは恐怖の源

 半年振りかな?





.

 芳賀真人という名の鬼──鬼神の欠片に全てを奪われた木島 卓だからこそ、あの最悪の存在と同じ者と聴いて怒りを露わとする。

 

 人を喰った性格の人食い鬼など、要らないトンチを利かせた存在。

 

 トリックスター。

 

 道化師という厄介極まりない存在、芳賀真人という鬼を一言で表すのであればこの言葉が一番だ。

 

 人喰い鬼としての衝動、女喰いとしての性衝動など満たす欲を見境無く満たす鬼人・芳賀真人、木島 卓からすればそれにより歩や両親を喪った訳で、正しく怒髪天を衝く勢いだろう。

 

「あれは物理的な恐怖だ。鬼は本来だと精神的な恐怖を司るが、奴は暴力性のみが突出していた。喰らう……この一点に愉悦を足した物理的な恐怖。そして何よりの暴力性――バトル・ジャンキーだって事だ」

 

 芳賀真人は食欲と性欲を除けば最大の欲――戦闘欲を持っている。

 

 あの性格を思い出すと、芳賀真人を知る全員が苦い表情となった。

 

 強者と戦いたい。

 

 生命を懸けてしのぎを削りたい。

 

 勝って殺すのが愉しい、負けて殺されるのも良い。

 

 だから芳賀は、わざわざ天乃杜神社から御神鏡を奪ったりしたのだ。

 

 あの御神鏡はイチ様だった頃の市乃の力の象徴で、その能力は写した存在そのものの性格を正反対にしたコピーを生み出す事。

 

 遂に芳賀はそれに成功をしたが、性格が正反対となるが故に博愛主義というか無抵抗主義みたいな権化、芳賀と互角の力を有しながら戦えはしなかった。

 

 その後、芳賀は木島コピーやかんなコピーやうづきコピーを送り込む。

 

 このコピートリオに対してはユートが相手取でて、木島達には御神鏡を持った芳賀を追わせた訳だが……

 

 苦戦はしたが木島コピーを殺したユート、残り二人――かんなコピーとうづきコピーは遠距離攻撃が可能なうづきコピーを大氷結輪(グランカリツォ)で縛り、近接戦闘しか出来なかったかんなコピーを一対一にて討ち破る。

 

 イっちゃんとナっちゃんから力の一部を譲渡され、闘えたから苦戦こそ免れなかったがかんなコピーを斃したユートは、彼女を犯して内部の霊力を吸収した。

 

 純粋な力に還元されて、消滅したかんなコピー。

 

 次いで暴れるうづきコピーもシバき斃し、同じく犯して吸収をしてやる。

 

 こんな能力がある事にはユートも驚くが、何故だかそれが可能な気がしたし、これは本来だと別の存在に行う行為だと気付く。

 

 ユートが斃した神々から神氣を喰らえたり、イっちゃんとナっちゃんから力を譲渡されたりと、こんな事が可能なのはこの不可思議な力故だと理解をした。

 

 まあ、無理えっちに近かったが幸い? コピー二人はコピー元の正反対だったから可成り淫蕩だったし、敵と同じ事をヤったに過ぎないと認識をしていた。

 

 お陰で抱いた事も無かったうづきの感じる部分を、ユートは図らずも知り得てしまったり。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「肝心の【這い寄る混沌】――ナイアルラトホテップだけど、奴というより奴ら邪神はその名の通り邪悪。取り分けナイアルラトホテップは醜悪ですらあるな」

 

「そんな風には見えませんでしたが……」

 

 史伽が言うが……

 

「邪悪が解り易く邪悪に見えるとでも? 一流を越える邪悪は見た目じゃ計れないものなんだよ」

 

 そう断言をするユート。

 

「実際、ニャル子の場合は普通のナイアルラトホテップとはちょっと違うんだ。邪悪さはあるが……」

 

 ユートへの愛情もある。

 

 本来、ニャル子から愛情を受けるべきは別人。

 

 八坂真尋だったろう。

 

 騒がしくも愉しい毎日を過ごし、偶にはフォークが飛んではニャル子のド頭に刺さったり、クー子からのラブコールを受けてみたりと色々ある筈だった。

 

 然しながら枠組みからは外れて、ナイアルラトホテップとしての邪悪を内包しながらも真尋に向けられる予定だった愛をユートに向けて動いている。

 

 これは彼女が真にナイアルラトホテップとして顕現した為と、ナイアの記憶を知識として持ち得たが故にユートを識り、尚且つ最初の戦いで忌々しいクトゥグアを喚んだとはいえ自分に打ち勝てた。

 

 まあ、混沌の種を仕込まれたから百五十余歳程度しか生きられず、この現在の自分に転生をしたが……

 

 ナイアルラトホテップは敗けた際、自らが成るべき姿を喚び込んだ。

 

 勿論、斃されたナイアルラトホテップ自体は消え去るが定めだが、喚び込んだのも自分自身(ナイアルラトホテップ)なれば問題など在りはしない。

 

 その時から、ニャル子とユートの永遠にも近い戦いは始まった。

 

「アイツはどうも、僕個人に妄執にも似た執着を持っているんだ。本人が曰く、僕への迸る愛だとか」

 

「……それはまた」

 

 木島的にはヤンデレか何かに好かれた感じに思え、ユートに対する哀愁すらも覚えてしまう。

 

「敵ですね」

 

 市乃は市乃でプクッと、膨れっ面となっていた。

 

 神様をやっていた頃からユートとのスキンシップに溺れ、遂にはナツと一緒に処女まで捧げたのだから、敵にかっ浚われては納得が出来ないだろう。

 

 皐月はまだ解ってないが歩は市乃と似た感覚だし、かんなも十数年も操を立てた相手を、敵の神に盗られるのは業腹でしかない。

 

 妖怪に犯されて泣いて、最初の警告を聞けば良かったと後悔しつつ、ユートに散らされた処女を診て貰って浄化をされた。

 

 序盤から暫くは大丈夫だったが、大量の餓鬼が墓場のあちこちから襲撃してきてすぐにも手札を失って、何も出来なくなったかんなは無防備な状態で餓鬼から攻撃を受け、堪らず転げた処へ一匹や二匹じゃなく、十にも及ぶ数が巫女装束を引き千切ると、汚ならしいモノを口へ菊へそして大事な部位へ押し込み、呆気なく中で抵抗する部分もズタズタにされ、あの穢らわしいモノが胎内を蹂躙する。

 

 情け容赦など全く無く、凄く痛くて堪らなく悔しくて酷く哀しくなり、奴らは熱い汚濁にも似たナニかを身体の中へ発射。

 

 突っ込まれた以上の屈辱がかんなの脳を焼き、涙と汗と涎を撒き散らしながら『早く終わって』と半ば心が折れ掛けていた。

 

 これが【鬼神楽】というゲームなら、浄化をしてから翌日にまた昨夜を忘れたみたいに頑張るだろうが、現実にこんな事になったらこんなもんだ。

 

 覚悟なんて初めから無いに等しく、『鬼なんて』と認めてなかった木島にさえ救いを求めたいと思って、更に自分の不甲斐なさに悲しみを覚えたもの。

 

 結局、木島はうづきの方を優先して助けていた。

 

 普段の言動からかんななら大丈夫だと思われたし、うづきの弱々しい雰囲気は率先して助けた方が良いと考えたらしい。

 

 自業自得だ。

 

 結局、かんなは二度目を放たれる前にユートに助けられていた。

 

 餓鬼は残らず駆逐され、自分はマントへと包まれた状態でお姫様抱っこ。

 

 余りに紳士的な行為に、かんなは真っ赤になっていたが、すぐに我へと返ると――『見ないでよ……』と涙と共に小さく溢した。

 

 その後の治療だったが、木島がうづきを引き受けていたから、自動的にユートがかんなの担当に。

 

 この時の担当が後の仲に影響を与え、木島とうづきが芳賀との決戦前に本当のいみで結ばれた。

 

 ユートはイチ様とナツ様を相手に力を取り戻さんとしていたから、かんな無残というべきなのか?

 

 まあ、最終決戦後に結ばれたからセーフだろう。

 

 だからか、かんなにとっても市乃にとってもユートをニャル子に奪われるのは単純な敗けより屈辱的だ。

 

「ニャル子は通常が史伽も知る姿だ。だから大丈夫なんだけど、邪神っていうのはその眷属すら直視すると正気を喪う」

 

「正気をですか?」

 

 うづきが訊ねる。

 

「そう。SAN値と呼ばれる正気度で表されれ数値、これがゼロになると終わりだね。一気にゼロになる事をSAN値直葬なんて云われている」

 

 ユート自身はその知識が余り無いが、ネットなどを巡るとクトゥルフ系でよく聞かれる言葉だ。

 

 邪神は肉体や精神より、寧ろ魂を汚してくる。

 

 無論、肉体的にも壊されはするがSAN値を削るのが即ち、魂へのダイレクトアタックな訳だ。

 

 嘗て、ユートが夢幻心母へデモンベインと共に突入した際、クトゥルーの触手により散々犯されたけど、これがユートだったから良かったが、そうでなければそれこそSAN値直葬されていたであろう。

 

 クトゥルー内部に入り込むだけでSAN値などガリガリと削られていくのに、クトゥルーの体液や神氣をタバダバと流し込まれたりしたら普通に死ぬ。

 

 ユートは体液も神氣も、全てを取り込んでその逆に搾り尽くしてやった。

 

 クトゥルーが弱体化してしまうレベルで。

 

 そもそも、星神ガイナスティア――原典の場合だと星神アーシェリエル――がユートを転生者に選んで、協力者の【朱翼の天陽神】に転生を行わせた理由とはこの力にあった。

 

 まあ、彼の五源将自身は妻の一人にして部下的存在たる【純白の天魔王】へと役割を託し、自らは暫くの間を会わないでいたが……

 

 天陰魂と呼ばれる至極、珍しい魂を持つ存在。

 

 その役割は吸収。

 

 その限界は無限。

 

 その性質は模倣。

 

 それはブラックホールにも似ており、故に【合わせ鏡の黒穴】と揶揄される。

 

 だから緒方優斗は選ばれたのだ。

 

 スィルォ・エルトラムの――否、緒方 白の子孫にして〝真逆〟の魂を象るであろう存在として。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

「正気度が一気にゼロか、正に狂気に堕ちる訳だな」

 

 木島の言葉に頷く。

 

「まあ、邪神がこの世界に干渉はしないだろうさね」

 

「どうしてそう思う?」

 

「太平洋、南緯四七度九分 西経一二六度四三分……その海底にルルイエは存在しなかった。つまりはこの世界にクトゥルーが顕れていない証左。クトゥルーが居ないならハスターやクトゥグアなども存在しない。這い寄る混沌は銀の鍵によるゲート解放で世界を渡れから、史伽みたいな転生者を送ったりしているけど、他の邪神までは来ない――人間が招喚しない限りは」

 

「そ、そうか」

 

 招喚にしても、人間側に知識が無ければ事実上として招喚は不可能である。

 

 ユートが調べた限りで、この世界は基本的に様々な怪奇は存在してはいるが、クトゥルフ神話系は物語に至るまで存在しない。

 

 つまり、あの長ったらしい招喚呪文も無かった。

 

 誰かが教えれば或いはとも云えるが、邪神が此方側の世界に居ないなら次元を越えた招喚となり、難易度は数百倍にも跳ね上がる。

 

 星辰も変わるだろうし、生贄も増やさねばならないとなれば、無理しても招喚する莫迦も居ないだろう。

 

 実質的に這い寄る混沌の干渉以外、注意をする必要は特に無い訳だ。

 

「まあ、這い寄る混沌からの干渉は止められないし、果たして他に何人の転生者を送り込んだやら」

 

 全員が難しい表情だ。

 

「闘神都市では結構な人数を送り込んでいたからな」

 

 同士討ちみたいなぶつかり合い、他にも闘神都市に干渉しなかったり、勝手に消えていたりなど会わなかった転生者も居たのだが、闘神大会に出場をした者も何人か居た。

 

 中には現実世界以外――岳画 殺という【大悪司】世界から転生をした少女まで居たから驚きだ。

 

「さて、取り敢えず史珈は未だしも木島達には恐らく関係の無い邪神云々は扨置くとして、史伽の事も考えないといけないな」

 

「ボク……ですか?」

 

「そう。トラウマが酷いのは理解したよ。そいつを何とかしないと」

 

「それは……はい」

 

「神楽巫女をやる心算ならトラウマなんて無い方が良いだろうし、やる心算が無くても結婚とか考えたなら要らないデバフだろう」

 

 木島は頷く。

 

「確かに、史伽のトラウマを刺激するからな。巫女として戦い……敗けたら」

 

 その言葉に神楽巫女たるかんなとうづき、巫女見習いの歩と皐月は微妙な表情となってしまう。

 

 勿論、嘗ては送り出していた立場の市乃もだ。

 

 妖怪と戦って勝てば良いのだが、敗北は即ち妖怪に犯されて新たな妖怪を産む苗床とされる。

 

 たがらこそ、【なの神楽事件】でユートは真っ先に調査をしたのだ。

 

 万が一、犯されていたら妖気を男の陽の氣を以て、速やかに浄化をしなければ三つの結末の一つを辿る。

 

 妖化、産卵、受胎。

 

 本人が妖怪化する妖化。

 

 卵型の誕生をする妖怪の卵を産卵。

 

 人間と同じく受胎する。

 

 大まかにはこの三つに分けられていた。

 

 いずれにせよ、妖怪によって犯されるのはトラウマを刺激し、下手をしたなら精神が壊れてしまう。

 

 それに耐えても陽の氣で浄化――男の精液を受け容れる行為に及ぶ訳だから、二重に苦痛の筈。

 

「何とか出来るのか?」

 

「トラウマならね」

 

 全員が息を呑む。

 

「そもそも、トラウマとはいったい何なのか? それは生物の持つ防衛本能ってやつが過剰反応を示している謂わば暴走に近いんだ。『それは恐ろしい事だ』と無意識に刻まれて、同じか似た現象や事象を『避けなければ』と脳の無意識領域が過剰な命令を下す。だからトラウマは起きる」

 

「ふむ、確かにそうだな」

 

 木島も心当たりがあるのだろう、すぐにも理解を示してくれた。

 

「ならば、史伽のトラウマを――過剰反応をしている無意識領域からブロックをすれは、過剰な反応をしなくなるだろう」

 

「それって可能なのか?」

 

「それ自体は割と簡単に」

 

 ユートと木島は史伽の方を見遣る。

 

「するかどうかを決めるのは史伽だ」

 

「どうするんだ史伽?」

 

 ユートと木島に訊ねられた史伽は、すぐには答えられずに悩んでいた。

 

「記憶を消したりするんでしょうか?」

 

「いや、そんな事はしないけど……何でだ?」

 

「いえ、以前に読んだ漫画に記憶を消去する魔法というのが在りまして、それを使われると思考力が阻害をされてパーになるから」

 

「……」

 

 スッゴく覚えのある魔法の内容である。

 

「だ、大丈夫。記憶を消去する魔法なんて使わない。必要なのは無意識領域からくる過剰な防衛本能の抑制だからね」

 

「そうですか……それならお願いします」

 

 深々と頭を下げた。

 

「任された。それなら早速始めようか」

 

「え? 準備とかは?」

 

「要らない。この身が一つ在れば事足りる」

 

「は、はぁ……」

 

 ユートは立ち上がると、史伽に向けて人差し指を立てて……

 

「幻朧拳!」

 

「ちょっ!?」

 

 幻朧拳を放った。

 

「これで終了」

 

「――へ?」

 

 茫然となる史伽。

 

「な、何で幻朧拳? それに幻を見ないけど……若しかして今が幻の真っ最中って事?」

 

「いや、幻朧拳とはいったけどあれは通常のものじゃないんだよ。まあ、論より証拠ってね……木島!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 あろう事かユートは木島を史伽に向けて投げる。

 

 ヒシッ! 史伽を怪我させぬ様に木島は彼女を抱き締める様に……だが勢いもあってか見た目にオッサン――鬼の力の影響から若々しいが――が幼女を押し倒す形だったり。

 

「ヒッ!」

 

 青褪めて息を呑む史伽であったが、何故か嫌悪感で叫んだり暴力を振るったりを無意識にやらかさない。

 

「こ、れ……は……?」

 

「トラウマを克服した訳じゃないが、ブロックをしたから発動もしない。但し、注意をしろ。さっきも言ったがトラウマは防衛本能、それをブロックしたからにはそれが少し鈍る筈だし、意識的にそこら辺を考えないとまたぞろパクッとヤられてしまう。それに余りに過剰な恐怖を得たら再発もしかねないから」

 

「わ、判りました」

 

 神妙に頷く史伽。

 

「と・こ・ろ・で、卓さんはいつまで史伽ちゃんを抱き締めているんですか?」

 

 笑顔だが、瞳がまるで笑ってないうづきという名の鬼が降臨していた。

 

「ま、待てうづき! これって別に俺が悪い訳じゃあ無いだろう!?」

 

 鬼人が鬼女に恐怖する。

 

「優斗さん!」

 

「何だ?」

 

「私を十歳くらいにして貰えませんか?」

 

「ブフッ! 待てうづき! 俺はロリコンじゃないんだから、流石に無理だ! うづきは愛しているけど、十歳にまで幼くなってしまったら抱けん!」

 

「……卓さん」

 

 愛していると言われて、うづきがポーッと頬を朱に染め、年甲斐もなくラブ臭の溢れる空間が構築され、娘からジト目で視られる。

 

「とはいえ、木島って鬼人な所為で寿命も鬼並だろ。そうなるとうづきだけが年老いていく訳で……」

 

「うっ! 確かにそろそろお肌が曲がり角に」

 

 まだ三十路の前半だが、女性だから気になった。

 

「という訳で――嘗ての栄光は今此処に――【美しきあの頃へ(リワインド・バイオ)】!」

 

 うづきの背後に時計……反時計回りでうづきの刻が戻っていく。

 

「本来なら胎児……以前の前世にまで戻せるけど」

 

 時計が停まると懐かしい十六歳くらいの、若々しく美しい当時の姿に成った。

 

 ガシッ!

 

 木島が凄い形相でうづきの肩を掴むと……

 

「うづき、今夜は寝かせないからな!」

 

「卓さん……」

 

 お姫様抱っこで掻っ浚って寝室へ走る。

 

「木島の奴……」

 

 頭を抱えるかんな。

 

「お母さん、嬉しそう」

 

 皐月は先程の乙女な母を見て複雑な顔。

 

「さて、歩の言っていた事も尤もだけど……今は取り敢えずかんなかな?」

 

「へ? ――あ!?」

 

 リワインドバイオを受けたかんなは、ソッコーで連れ去られてしまい若い啼き声を部屋に響かせた。

 

 現在のかんなを抱くのもアリだったが、若いうづきを見たら若いかんなを啼かせたくなったのだ。

 

 尚、うづきと同じ年齢まで若返らせたから処女膜が復活しており、ユート相手に破爪の痛みを感じて悦んだと云う。

 

 




 過ぎた莫迦はウザい……かんなの場合はおば可愛いレベル――かなぁ?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:魔導甲冑 未来を見据えた話し合い

 噺が飛びます。





.

 ミッドチルダ。

 

 それは時空管理局のお膝元と云える第一世界。

 

 間違えてはいけないのがミッドチルダとは管理世界ではない点、つまりは管理世界の上位に位置している最初の世界。

 

 何度か述べたが……

 

 例えば、第四世界と第四管理世界では名前も異なる訳だが、第四管理世界とはカルナログ――ヴァイスの故郷に当たる世界であり、第四世界とはファストラウム――リンディ・ハラオウンの出身世界だ。

 

 それは兎も角てして……今現在、ユートは長い黒髪を三つ編みツインなお下げにした眼鏡少女と一緒に、第一世界ミッドチルダへとやって来ていた。

 

「此処がミッドチルダ中央都市部――首都クラナガン……ですか」

 

「ああ、時空管理局発足の世界だから第一世界と呼ばれているな」

 

 少女の言葉に頷く。

 

 時空管理局の本局自体は次元空間に浮かぶ人工衛星に近い建造物で、地上には地上本部という形でまるで別組織みたいに存在する。

 

 恐らく、特定の世界へと本局を置くと要らぬ軋轢を生むからだろう。

 

「さて、地上本部に行くのはカリムや三提督から貰った紹介状があるし、ルール的な問題は無いだろうね」

 

 尤も、ミッドチルダ管理局地上本部はカリム・グラシアの希少技能の類いを嫌うレジアス・ゲイズ中将が実質的な支配者となって、中心人物としてミッドチルダの守護を担っていた。

 

 余り良い顔はすまい。

 

 だが、ユートには勝算も確実にあったりする。

 

 少女が持つ小さなトランクケース、それがレジアスへの勝利の鍵だ!?

 

「ふう、街中の風景自体は余り見滝原と変わりがありませんね」

 

「そうだな、とはいっても地球には無い乗り物とかも動いているけど」

 

「それは……はい、そうですよね」

 

 別に観光をしている訳ではなかったが、地上本部に向かうまでに街を観て回るくらいは許されよう。

 

「ほむほむ」

 

「もう、その愛称はやめて下さいよ〜、優斗さん」

 

 少女の名前は暁美ほむらと云い、少し前にユートが関わった事件で出逢う。

 

 本来なら夜明エイム達の様子を見に行こうと思い、天神神社を後にしたユートだったが、結界が張られていた事から今現在こそが、前世のユートの居る時期だと知り、仕方なく街を離れた後に見滝原市という地を見付けたのだ。

 

 【魔法少女まどか☆マギカ】というアニメに登場をする土地であり、ユートは興味本位で入ってみた。

 

 そして見事に当たりを引いてしまう。

 

 【魔女の結界】に囚われてしまったのである。

 

 その中には緑の子が倒れており、どうやら彼女も巻き込まれてしまった様で、目を覚まさないか少しばかりドキドキした。

 

 目を覚ましたらパニックは必至だったから。

 

 そして現れたるは我らが巨乳ちゃん――黄色の子と天然真っ直ぐな桃色の子、そして眼鏡を掛けて三つ編みお下げ髪にした黒色の子である。

 

 赤色の子や水色の子は、今の処だと居ない。

 

 そしてユートはどっぷりと事件に関わり、物語的には途中でラスボス? を斃して打ち切りエンドにしてしまい、魔法少女達に関してはアニメよりマシな未来を紡いでイケる様に。

 

 そしてユートは黒色の子を誘拐――ではなく、連れてミッドチルダに渡航。

 

 現在に至る。

 

「可愛いと思うけど?」

 

「か、わ……っ!?」

 

 真っ赤になったほむら、頭からまるで湯気が噴出しているみたいだ。

 

 容姿からも理解が出来るだろうが、この可愛らしい生物――ほむほむは幾度となくループして精神的に磨り切れ、冷徹になってまで桃色の子――鹿目まどかを救わんとした暁美ほむらではなく、まだ弱々しかった

ほむらちゃんだ。

 

 だからこそ、鹿目まどかは魔法少女だった訳で……

 

 とはいえ、流石にこれは御都合主義が過ぎる。

 

 まどか☆マギカは学校での生活を挟んだ物語の筈、それが夏休みの中盤に起きるのは如何にもおかしい。

 

 まあ、原作との変化とは習合された混淆世界でならよくある話だし、今回のもそれに当たるのだろう。

 

 お陰様で何人かまどマギ世界の娘をゲット出来た。

 

 その一人がほむほむ――暁美ほむらである。

 

 ユートの秘書的な立場でこの場に居る彼女、手にしたトランクも立場的に必要な代物であった。

 

 ユートとしてはあの覚めた瞳な鹿目まどか至上主義の暁美ほむらも良いけど、だからといってあの絶望的な混乱を望みはしない。

 

 ミッドチルダ・時空管理局地上本部……

 

 ユートはレジアス・ゲイズとの接触を求めた。

 

 彼は決して悪人てなく、法の執行者としては厳格な態度で臨んでいる。

 

 彼の過ちは焦燥感に駆られて悪の元締め――時空管理局最高評議会の連中により絡め取られ、悪事だとは知りつつジェイル・スカリエッティの存在を受け容れてしまった事。

 

 結果、親友を亡くしてしまいその部下を死なせた。

 

 彼はその時点で突き進むしか無くなってしまう。

 

 だが今なら、十年前である今ならば踏み留まる事が出来る筈なのだ。

 

「それにしても、やっぱり僕は過去に跳ぶんだな」

 

 ほむらが両手で提げているトランクケースを視て、溜息を吐きながら自分自身の未来――であり過去での所業を脳裏に馳せた。

 

 ミッドチルダ・財団法人【OGATA】――そう、トランクケースは案内人に案内されて行ったビル……【OGATA】本社で受け取った物である。

 

 中央都市部、即ち首都のクラナガンに本社ビルを持つ程の財団ともなるなら、相当な影響力がある筈だ。

 

「開発していながら今まで放って置いたのは、やはりパラドックスを防ぐ為ってのがあるんだろうな」

 

 ほむら用として秘書に相応しい、しかも管理局地上組の制服なぞお話にもならないセンスの良いスーツが用意されていたし、用意をしたのは間違いなくユートであろう。

 

 しかもスーツ自体がどうやらマジックアイテムで、温度調整や防弾防刃防水防塵機能も在り、簡単にではあるがパワーアシストさえも備え付けられ、常に清潔性を保つ機能まで在る。

 

 やり過ぎなくらい多機能なスーツ、日本でこいつを売るなら軽く十億の値が付くと思われた。

 

 否、それでも尚安い。

 

 ソウル・ジェムから魂を解放したとはいえ、ほむらは未だに魔法少女としての能力を保持してはいるが、『マミられる』という事態が原作であった事を鑑みれば防衛機能は必要。

 

 魔法少女モードに変身をする一瞬の隙を突かれて、ブスッと心臓を貫かれましたじゃ困るのだから。

 

 ユートは地上本部を見つめると……

 

「行くぞほむほむ」

 

「はい! って、その愛称はやめて下さいってば!」

 

 ほむほむ……ではなく、秘書の暁美ほむらを連れて入っていった。

 

 ほむらの抗議は聞かない振りをして。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 地上本部の一番頂上。

 

 屋上を除いたら最も高い場所に当たるだろう部屋、其処にはレジアス・ゲイズの執務室が存在する。

 

 見知らぬ女性を秘書に侍らせているが、娘のオーリス・ゲイズは恐らく原作時に二十代半ばから後半で、今は十代の小娘だろうから居なくても当然。

 

「フム、三提督や教会からの紹介状を持ってきたのがまさか【OGATA】からの使者とはな」

 

 髭面強面なおっちゃん、レジアスがユートの顔を見ながら言う。

 

「緒方優斗。【OGATA】の謂わば代表取締役って処かな?」

 

 正確に云うならば未来のユートが……だ。

 

「それで、単刀直入に訊こうか……儂に接触を持った理由は何だ?」

 

 面倒な駆け引きは不要とばかりに、レジアスは目を細めながら訊ねてきた。

 

「貴方はミッド地上の平和を護るべく、管理局へ入局以来……約三十年を駆け抜けてきた」

 

「……その通りだ」

 

 十年後のオーリス・ゲイズと八神はやての会話で、レジアスが入局から四十年が経っているとあったし、今なら三十年な訳だ。

 

「然し、地上の良質な戦力は海に引き抜かれ、それも侭ならない状況にある」

 

「それが何だ?」

 

 不快そうな表情、今更ながらそんな事を若造に指摘されるまでも無いのだ。

 

「だが、最高評議会は貴方を認めてバックアップなどを約束してくれた。それが人造魔導師計画や戦闘機人計画であり、次元犯罪者のジェイル・スカリエッティと手を組む梯子役だった」

 

「っ!? 貴様……」

 

 十年くらい前から急激に進んだ人造魔導師や戦闘機人の技術、前者はプレシアが持っていた技術を幾らかサルベージ出来たものと、ジェイル・スカリエッティ本人の技術の融合か何か。

 

 結果、エリオ・モンディアルの記憶転写型クローンのエリオ・モンディアルが誕生するのに一役買った。

 

 後者は原作とは関わらなかった何処かで、クイント・ナカジマのクローニング型戦闘機人の開発成功。

 

 少なくとも彼女らが救出される数年前だろうけど、管理局側で押さえたそれによって、ジェイル・スカリエッティ自身も技術的ブレイクスルーがあった筈。

 

 そう、原作は十年後だが実際の始まりはこの数年間を前後した時期。

 

 それにレジアス・ゲイズはまだ間に合う。

 

 だからユートはわざわざ此処に来たのだから。

 

「余りよろしく無い事を知り過ぎの様ですね!」

 

 秘書の女性が動く。

 

 魔力は感じていたから、魔導師だとは思っていた。

 

 そもそも、この事態そのものが想定内の事である。

 

 ユートは右手にグリップを持ち、それを口元へ持っていくと……

 

「変身っ!」

 

 叫んだ。

 

《STANDING BY》

 

 そしてすぐにグリップを派手な白と黒を基調としたベルトの右側、其処に装着された機器へと差し込む。

 

《COMPLETE》

 

 ベルトのバックルからは白い光が伸びて、ユートの肉体を覆っていくと装甲もアンダーも黒を基調に白いラインの姿に成る。

 

 橙色の複眼が光を放ち、仮面ライダーデルタの姿に変わったユート。

 

 強大なエネルギーを生むブライトストリーム、そのエネルギーはデルタに強い力を与えてくれる。

 

 デルタフォンとデルタムーバを結合した【フォンブラスター】を腰から外し、再び口元まで持っていく。

 

「ファイヤ」

 

《BURST MODE》

 

 電子音声が応える。

 

 トリガーを引くとフォトンブラッド光弾が三発――四回引いて全部で一二発もの光弾が秘書を貫いた。

 

「キャァァァッ!?」

 

 吹き飛ばされた秘書は、壁にぶつかって気絶する。

 

「最高評議会の狗か?」

 

「いや、普通に地上本部に勤務するAランク魔導師なのだがな……」

 

「へぇ、Aランクかぁ! ギリギリ本局に取られなかった訳?」

 

「一応、引き抜きはされたらしいがな。地上を護りたい想いが強かったのだ」

 

「そ、だとしたらちょっと悪い事をしたかな?」

 

「今はそれは良いだろう。然し、それは何なのだ?」

 

 興味が沸いたらしい。

 

 ならば丁度良いだろう、何故ならユートはレジアスと商売をするべく来た。

 

 商品はユートが今使った【デルタギア】と似て非なる物であり、安定性の高い【ファイズギア】の量産型みたいなアイテム。

 

 【スマートバックル】と呼ばれる物だ。

 

 名前は別に変えており、またバックルのデザインもあれとは少し異なる。

 

 造ったのがスマートブレインではないし、あの会社のロゴマークは要らない。

 

「こいつは【デルタギア】という魔導甲冑。貴方へと売りたい商品の試作型だ」

 

「ほう?」

 

「レジアス・ゲイズ、貴方が最高評議会やジェイル・スカリエッティと切れれば供給したいと思っている」

 

「何故、スカリエッティは兎も角として最高評議会までもを敵視する?」

 

「時空管理局の膿に過ぎないからだ」

 

「な、に――?」

 

「嘗ては理想に燃えていたのだろうし、夢に満ちてもいた存在だったのだろう。だが、自らが作った法すら歪め破る法の執行者など、笑い話にもならない」

 

「……」

 

「人造魔導師も戦闘機人も研究を禁忌とした生命操作技術、それをスケープゴートのスカリエッティの陰でこそこそとやってるんだ。最早、単なる膿だろうさ」

 

「ムウ……」

 

 ユート自身はクロノ達にも言った通り、時空管理局に何ら興味は無い。

 

 栄えようが衰退しようが好きにすれば良いとすら、何の感慨に耽る事なども全く無く思っている。

 

 わざわざこんな真似する必要だって無かった。

 

 それを、面倒なこんな事をしてまで行ってるのは、時空管理局なんかの為では決して無いのだ。

 

 いずれ関わる聖王や覇王など、その子孫達に罪が無いからこそのか細い助け。

 

 もうすぐ過去に跳ぶのは理解している。

 

 ミッドチルダに【OGATA】が存在する時点で、それはもう避けられないであろう運命なのだから。

 

 そも、【OGATA】というのはユートが世界に対して影響力を及ぼすべく、設立をしている財団法人。

 

 【聖闘士星矢】や【魔法先生ネギま!】などの世界にも【OGATA】は存在しているし、津名魅と約束した来世の世界にも当然ながら設立をするだろう。

 

「その商品とは?」

 

「量産型魔導甲冑【ライオットギア】……コストダウンを行って量産ラインに乗せた物だよ。ほむほむ」

 

 パチンと指を鳴らしながらほむらを呼ぶ。

 

「だから、ほむほむはやめて下さい……」

 

 頬を朱に染めている辺り恥ずかしいらしい。

 

 トランクケースを机に置いて、ケースを開くと中からバックルが立ったベルトと何やら機器を取り出し、自らの腰へと装着する。

 

 機器は左腰に。

 

「変身!」

 

 叫びながらバックル部分を倒す。

 

《COMPLETE》

 

 フォトンブラッドは用いてない、アンダースーツに青い胸当てなどが装着された顔がΟ(オミクロン)を象るその名を――ライオトルーパーと云う。

 

 本来のライオトルーパーとは鎧の色が異なるけど、姿は間違いなくソレだ。

 

 画一的にし易いシンプルなデザイン、またデルタや他のライダーズギアとは異なり飽く迄も魔力を形にしただけの甲冑となっているが故に、本当に使う者など選んだりしない。

 

 ユートが造ったファイズギアやカイザギア、デルタギアにオーガギアにサイガギアは聖魔獣を着込む為のツールなのだから。

 

 ぶっちゃけ、本物と完全に別物にも近かったり。

 

「特徴として、魔導師でなくとも使えるから戦闘訓練さえ施せば戦力になる為、地上本部みたいな状況下にはピッタリだろう」

 

「っ! 魔導師でなくとも……例えば儂でもか?」

 

「勿論。普段から運動をしてないなら後で筋肉痛にはなるだろうけど、変身するだけなら普通に出来るし、パワーアシスト機能も付いているから、非力な者でも戦う事が出来る。それに、災害救助なんかにも活用が出来る様、耐熱性も耐寒性も耐電性もバッチリだよ。勿論耐水性もあるからね、深度一万mくらいなら圧壊したりしないし、内部酸素ボンベで一時間くらい保つから、沈んでも生き残れる可能性は無くもない」

 

「ムウ……これは」

 

「更に、電気を魔力に変換して充填すればフルチャージして戦闘稼働十二時間、通常稼働なら更に倍」

 

「電気を魔力にだと!?」

 

「そう、充填時間も一時間くらいでフルチャージだ。そういう外部バッテリー式だから、リンカーコアを持たずとも戦えるんだよ」

 

「確かにこれなら戦闘機人やら人造魔導師みたいな、道から外れた行いは要らぬやも知れん……」

 

 大分、レジアスの気持ちは傾いてきている。

 

 彼が外道に堕ちながらも戦闘機人――人間に機械を埋め込んで戦力と化す――やら、人造魔導師――クローニングを筆頭に人工リンカーコアなど人為的に魔導師を造り出す手法――などに拘ったか?

 

 それは他に方法が在った訳ではなく、違法なれども上手くやれば管理局で違法研究所を摘発し、保護した後の進路という形で戦力に取り込めるから。

 

 管理局は飽く迄も人道的な倫理観に則って、彼らを人の道で自分が得てしまった能力わ活かせる道を与えられた……と、そんな形に持っていけるからだ。

 

 然し、未完成な技術ではクローニングによる細胞の劣化に伴う短命化だとか、機械を埋め込んだ拒絶反応だとか兎に角、問題が多くて〝完成品〟に程遠い。

 

 ジェイル・スカリエッティが造った戦闘機人とて、一応の完成をみたのが数機だというのを鑑みて、コンスタンスに産み出せていないのが現状。

 

 量産体制が整うにはまだ十年以上は掛かる。

 

 因みに、十数年後にとある会社から人型デバイスみたいなものが開発されて、社会に投じられたり……

 

「この一機はレジアス・ゲイズ閣下にお渡ししよう。貴方が自らの良識に懸けて扱う事を期待する」

 

 ユートが言うとほむらが変身解除、ベルトをトランクケースに仕舞いレジアスへと渡した。

 

 それでも尚、最高評議会やジェイル・スカリエッティに拘るなら、ユート的にレジアス・ゲイズはそれまでだと見捨てるだろう。

 

「特定の誰かに頼るのではその特定の誰かが居る間、魔導師として戦える時間までしか使えないが、こいつは時間が経てば使えなくなるだろうけど、新しく購入すれば良い訳だから」

 

「だが、こういったモノは謂わば技術のいたちごっこでもある。旧式になれば、新式に敵うまい?」

 

 確かに、初代ガンダムがガンダムF91に勝てるかと訊かれれば、間違いなく勝てないと答えるだろう。

 

「技術云々は一応、此方の方にアドバンテージがあるからね。それに採算度外視すればデルタみたいな強力な魔導甲冑も造れる訳で、それをコストダウン出来れば今は何とかなる。その上で更に技術を高めていくという事になるね」

 

 ガンダムF91が相手ならば、V2ガンダムなりをぶつけてやるという暴論。

 

 暴論だが出来ない訳でもない――ユートの側に超技術(チャオ・テクノス)が在るのもそうだし、技術主任や顧問はユートと閃姫契約を交わしており、基本的に不老長寿だからダイオラマ魔法球に篭って、年単位で技術を高めれば良いのだ。

 

 それにパワーアシストも普通にライオトルーパーの能力再現に使われ、咸卦法を擬似的に行使するユートの〝初期技術〟すらも使われていない。

 

 少なくともレジアスが生きている内に、技術で追い抜かれたりしないだろう。

 

「若し、儂がこれを採用するとしてだが……すぐにでもと条件を付けたら幾つくらい量産が出来る?」

 

「うん? 一万機だね」

 

「――は?」

 

 それはそれは可成りの数に上ったと云う。

 

 

 

.




 まどマギはまた横道に逸れて時間が取られるので、バッサリと切りました。

 ほむほむのループも途中な上、まだ眼鏡三つ編みっ子な頃だからアルティメットまどか誕生はありませんでした。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話:戸惑い 未来を選ぶゲイズ父娘の決意

 今回は前回の続き。





.

 その日の夜、レジアスは家に帰り着いて悩む。

 

 広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティやそれを紹介してきた最高評議会、それを切ればあの旧暦の頃より――噂では古代ベルカの時代から活動をしてきた時空管理局にも多大な影響力を持つ財団法人【OGATA】から、魔導甲冑という非魔導師すら魔導師みたいに戦えるデバイスを安く供給すると云う。

 

 その安さは有り得ないと云えるレベル、ユート曰くコストダウンに成功しているからこその価格であり、其処へレジアスが先の連中と切れる対価的な意味合いもあるとか。

 

 序でに、試験運用が可能な様に一〇機程を無料配布しても構わないと、確かに破格な申し出だと思った。

 

 試験運用で配布されたら親友のゼスト・グランガイツが指揮する首都防衛隊、そのゼスト隊に使わせてみるのもアリだろう。

 

 あの部隊は隊長のゼストがオーバーSランクと破格な上、地上陸士一〇八部隊に所属する隊長ゲンヤ・ナカジマの妻であるクイント・ナカジマやその親友であるメガーヌ・アルピーノ……二人が陸戦AAランクでいるから活躍しているが、それ以外の隊員ともなると一気にランクが落ちてしまい良くてBランク、下手をするとCランクである。

 

 非魔導師でさえ戦えるとなれば、ランクの低い魔導師に使わせる手もあった。

 

 とはいえ、ユートが曰くAAランクくらいになると防御力以外は余り意味が無くなるらしく、非魔導師か低ランク魔導師が扱う為のツールだと言ってたが……

 

「お父さん、どうしたの? 難しい顔したりニヤニヤしたり……」

 

 不気味なモノを視るかの如く、茶髪はレジアスとも同じだが明らかに顔は母親似と思われる実の娘であるオーリス・ゲイズが、ちょっと引きながら訊ねた。

 

「ム、オーリスか」

 

 ゴホンと咳払いをして、居住まいを正す。

 

「ちょっとあってな」

 

「は、はぁ……」

 

 まだ若い――原作時も若いよ? ――顔を困惑に染めながら気のない返事。

 

 【OGATA】の責任者ともなれば金持ちなんて、そんなレベルではない。

 

 だが、それでもコストに気を遣う辺り解っている。

 

 レジアス・ゲイズは知っている、あの巨大財団法人がミッドチルダにどれだけ貢献してきたかを。

 

 例えば、ミッドチルダには廃棄予定になってた区画が首都近郊にすらあるが、その幾つかを【OGATA】が買い取り、立派な都市に再生させたり学術都市として活用したりしていて、更に地上本部の方に非魔導師だが活躍が可能な人員を送り込み、中には訓練を施されて武装を持たされた上でそこそこの活躍をする者だって居た。

 

 非魔導師だから海の方に取られたりしなかったし、新暦になってこの数十年間を【OGATA】は支えてきている。

 

 個人に入れ込まない程度の干渉、然しながら遥かな古の昔より存在する組織。

 

 地上本部も可成りの恩恵を受けてきた。

 

 ミッドチルダの地上本部だけでなく、各管理世界の支部にしてもそうだ。

 

 本局には余り接触しない方向性だが、地上(おか)には恩恵が大きい。

 

 本局――海は扱う事件が地上など問題にもならないくらい大きいのだからと、地上の人員――高ランクの魔導師を主に引き抜いていったし、期待出来る新人も奪われていった。

 

 予算もかつかつな地上、毎年度予算案では海の優遇が余りにも酷い。

 

 それが原因で地上の犯罪発生率は高く、検挙率は低いと悪循環ばかり。

 

 そんな中で【OGATA】が地上に対し、ある程度の寄付や人員の確保なんかをしてくれていた。

 

 だから何とかなっていたのだとも云える。

 

 正直な話、レジアス自身もこれらは助かっていた。

 

 未来のユートが関わると決めたから、ある時期を境に寄付や人員の送り込みが行われ始める。

 

 また、その人員は非魔導師であるが故に時空管理局への入局――正確には本局に入るのを拒まれた者達。

 

 多少の腕はあるにせよ、所詮は非魔導師だから本局では必要とされない。

 

 事務や艦船のスタッフ、そういった事に従事出来ればまだ入局は出来たろう。

 

 エイミィなど艦船スタッフが魔導師である必要などないし、武装局員や執務官でないならそちら方面だ。

 

 それが出来ない者に門戸は開かれてない。

 

 謂わば彼、若しくは彼女らは武装局員になりたい、乃至はそれしか道を選べない人間であり、その思いも試験によって破れたのだ。

 

 未来ユートはそんな連中を集め、学術都市で学ばせつつ鍛えてもいた。

 

 その後、武装を持たせた上で地上本部に勤務可能な様に働き掛け、彼らは見事に務めを果たしている。

 

 魔導師になれる魔力が無いから、本局からの御誘いも全く無い為にそれなりの成果を挙げても引き抜きが無く、中には隊長格を任せられる者まで居た。

 

 装備品のお陰だし本局は取り上げようとしたらしいのだが、使い手を登録式にしていた上に管理局の技術では解除不可能ときては、取り上げる意味が無くなり捨て置かれたのである。

 

 レジアスとしては何年間か非常に助かっていた。

 

 自分が実質的なトップになったとはいえ、本局からの横槍を全て止めたり出来ないのが歯痒いが、そんな地上に理解を示す企業こそ【OGATA】だったからこそ、其処から派遣された二人の話を聞く気にもなった訳だ。

 

「そうだ、オーリス」

 

「はい?」

 

「明日、ゼストに地上本部訓練室に来る様に連絡をしておいてくれ」

 

「? 訓練室ですね、了解しました」

 

 首を傾げはしたものの、中将の顔で言われてしまっては二尉でしかない自分に反論は出来ず、すぐに居住まいを正して敬礼しながら命令に応える。

 

「それと今一つ」

 

「はい!」

 

「お前は財団法人【OGATA】の本社に行き、とある任務に従事してくれ」

 

「は、はぁ?」

 

 意味が解らないオーリスは思わずマヌケな返答。

 

「では、頼んだぞ」

 

「りょ、了解です……」

 

 取り敢えず、ゼストへと連絡をするべくオーリスは端末に細い指を掛けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートが帰り際に一つの要請をしてくる。

 

 レジアスはユートからの要請に困惑はしたのだが、それを受ける方向性で返答をしてしまった。

 

 それは人員を一人だけで良いから、本社ビルに回して欲しいという。

 

 それも必ず非魔導師を。

 

 首を傾げたレジアスではあるが、【OGATA】には多大な借りなどもあったから頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、レジアスは地上本部訓練室へと赴きオーリスは【OGATA】の本社へと向かう。

 

「それでレジアス、わざわざ俺を呼び出した理由を聞かせてくれるか?」

 

 大柄な男――ゼスト・グランガイツが訊ねる。

 

 四十代ながら若々しく見えるゼストは、下品にならない程度に茶髪をざんぎり頭にしており、陸士の制服を着込んでいた。

 

「先日、あの【OGATA】の使者が来てな」

 

「何? レジアス、お前に接触をしてきたのか?」

 

「ウム、それで新しい装備の売買契約をしたいと申し出があった」

 

「それはあの……」

 

 当然ながらゼストだってこの名前の意味は知っていたし、それがどれだけ親友の苛立ちを慰めたかなんて計り知れない。

 

 海の側が言う事も理解が出来ない訳でもない。

 

 彼方は単純に見たなら、地上に比べて事件の規模も範囲も脅威も大きいから、多くの人員は必要となってくるだろうし、人員を動かす人件費や装備品に掛かる資金、艦船を一隻動かすだけでも多大な金が要る。

 

 予算を多く持っていき、地上から引き抜きはするし新人も優秀な魔導師を次々と持っていくのも、それに対処するのにはどうしても必要だからだ。

 

 だけど、だからといって本来ならば護るべき足元を疎かにしても良いのか?

 

 第一世界ミッドチルダ、言うまでも無く時空管理局発祥の地だ。

 

 そこが犯罪者の巣窟となって、密売や違法研究などが当たり前に行われるなど有り得ない。

 

 地上本部の怠慢?

 

 巫山戯るな……だ。

 

 千円掛かる防衛を百円でやれる訳が無く、百人必要な防衛が十人でやれる訳が無く、百食は必要な防衛が十食でやれる訳が無い。

 

 それを強要しておいて、怠慢の一言で済ますか?

 

 それでも遣り繰りをして十年間を保たせたレジアスの手腕、仮令それが犯罪者の力を使うアウトコースであれ、最高評議会の掌の上で踊る道化であれ、それは称えられる偉業だろう。

 

 だからユートは手を打ったのだ、レジアスが破滅をするその前に。

 

 その手こそレジアスに渡した【ライオットギア】、【OGATA】では型落ちにも等しいが、量産型魔導甲冑として地上では重宝をされる筈の戦力供給だ。

 

 ゼストも彼の財団法人は既知のもの――否、ミッドチルダに住まうなら誰しも知る程のもの。

 

 いつから存在したのか、もうミッドチルダの政府もよく判らない昔、旧暦の頃から存在するとも云われる名家でもあった。

 

「フム、その新装備というのはどんな物だ?」

 

 とはいっても、チラホラとレジアスの手に握られているトランクケースに目を向ける辺り、既に当たりは付けているゼスト。

 

「こいつだ」

 

 開けば大きめなバックルが上方に立てられ、赤色の派手なベルトに結ばれている代物に、アタッチメントと思われる機器。

 

 アタッチメントに関しては見た覚えがあるデザインと似ており、どうやらこれで一組になるのだとすぐにゼストは理解した。

 

「儂がこれを使うのでな、ゼストは儂と軽く模擬戦をしてくれんか?」

 

「な、何? それは本気かレジアス!?」

 

「勿論だとも。何、これを使えば儂でもある程度は戦えるらしいし、ちょっとした模擬戦くらいは出来る」

 

「む、ウウム……」

 

「それで装備の評価を頼みたいのだ」

 

「判った」

 

 どうやら随分と自信を持ったらしいと感じ、装備品の戦力評価の為だとあらば一部隊を預かる身として、決して否やは無い。

 

 セットアップして無骨なアームドデバイスを構え、その身には茶色を基調とした騎士甲冑を纏う。

 

 一方のレジアスもベルトを腰に巻き付け……

 

「変身!」

 

 叫びながら立てられているバックルを横倒しに。

 

《COMPLETE》

 

 電子音声を響かせつつ、黒いアンダーに青い甲冑姿となり、顔にΟを象る仮面を装着した簡素な兵士姿――ライオトルーパーとなる。

 

 違いは両側の頭に付いたセンサーで、コイツは指揮官用のライオットギアだった。

 

「それが新装備か!」

 

「そうだ。儂が彼らの計画に乗れば一万を可成り安値で購入が出来る」

 

「そうか、ならばレジアス……始めるぞ!」

 

「望む処だ!」

 

 頷くレジアス。

 

 地上本部に併設をされた訓練室、二つの巨体が互いにぶつかり合った。

 

 むさい青春のぶつかり合いとも云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 レジアスとゼストという四十路男が、遅めの青春を謳歌しているのと同じ頃、【OGATA】本社ビルに辿り着いたオーリス・ゲイズがユートと会っていた。

 

「初めまして、時空管理局地上本部勤務のオーリス・ゲイズ二尉と申します」

 

「緒方優斗……財団法人【OGATA】のCEOだ」

 

 より正確には未来ユートがではあるが、今のユートも同一人物だから特に問題などは無い。

 

「それで、ゲイズ中将より此処へ来る様に言われたのですが……私はいったい何をすれば?」

 

「娘を生け贄に差し出したって訳か」

 

「い、生け贄っ!?」

 

 余りに不穏な言葉に驚愕して、美しい顔を歪めながら目を見開くオーリス。

 

「そう、今この部屋に僕と君以外にだ〜れも居らず、扉には余計な茶々が入らない様にロックが……」

 

「えっ!?」

 

 ギョッとして試しに扉をガチャガチャ。

 

「あ、開かない!?」

 

 本当にロックされていて部屋の内部は空調も効いていて涼しいにも拘わらず、オーリスの額から汗が流れ落ちるのを止められない。

 

「丁度、この部屋には寝具も置いてあるんだ」

 

「ヒッ!」

 

 カツンと床を踏み締める音に息を呑んだ。

 

 はたと寝具――ベッドの在る方を見遣って、急激に身の……貞操の危険を感じとったか、オーリスは自分を抱き締める様に腕を肢体に巻き付ける。

 

「ま、待って……お願い……来ないで!?」

 

 オーリス・ゲイズ――それはレジアス・ゲイズの娘であり、明らかな母親似だから美少女ではあったが、父親の職業を誇りに少女の時代を歩み、現在の二十歳で二尉という魔導師でない身の上としては早い出世をする程度にエリートというキャリアを進む。

 

 だからだろう、駆け抜けた感がある思春期は遊びに夢中にならず、彼氏の一人も作らず勉強をしてきた。

 

 その為、男といえば父親かゼストくらいしかまともに見た事など無く、学生の時代の男なぞ名前を知っていればマシなレベル。

 

 今現在なら上司くらいは名前を知り、仕事の会話をしている程度だろう。

 

 一尉になれば父親の下へ配属になる予定で、そうなれば会話は部下との仕事のものくらいとなり、十年を駆け抜ければ三十路に到達してしまい、立派なオールドミス候補となる筈。

 

 キャリアウーマンと云えば聞こえは良いが、言ってしまえば仕事仕事で処女を拗らせたキツい女だ。

 

 二十歳の今はそこまででも無く、化粧もまだうっすらとしているだけで魅せられるし、経験も無かったからユートに迫られれば恐怖を感じてしまう。

 

 逃げたくても扉はロックされているし、部屋自体はそこそこの広さを持つが、逃げ場隠れ場が無いのだからいずれは捕まる。

 

 捕まってしまえば男と女では体力や腕力の差から、あっという間に押し倒されてしまう。

 

 そうなれば……

 

 ゾクッ! 背筋に氷でも入れられたかの様な寒気が奔った。

 

 彼氏が居る訳ではなく、婚約者が居る訳でもなく、プライベートな会話で思い出せる異性なぞ、父親と変わらぬ年齢のゼスト・グランガイツくらい。

 

 実のある会話という意味ではそれだけである。

 

 将来の予定がある訳ではないにせよ、だからといってこんな形で初めてを散らしたい筈もなかった。

 

 下がるオーリス、それを徐々に追い詰めるユート。

 

「い、イヤ……」

 

 弱々しい声しか出ない。

 

 護身用のスタンガンみたいな物は持っているけど、それを取り出す暇をくれるとも思えず、非魔導師たるオーリスに魔法なんて便利なスキルは無かった。

 

 ガタン!

 

 足を取られてバフッ! 背中から倒れたオーリスを柔らかく受け止めてくれたのはベッドと布団であり、気が付いて前を見れば追い付いたユートが笑顔を浮かべて両腕を頭の上でホールドアップ、細い手首を大きな手が片手でガッチリと掴んでしまい、オーリスの上に覆い被さってくる。

 

 脚で脚も縫い留められ、もう身動きが取れない。

 

「つ〜かま〜えた♪」

 

「あ、あ……赦して……」

 

 恐怖しかなかった。

 

 一度も開かれた事が無いというのに、こんな形での貫通なんてイヤだ。

 

 ユートの顔が近付く。

 

 顎をサワサワと触りながら上向かせられ、ナニをされそうなのか理解した。

 

 数センチ……一センチ……五ミリ……一ミリ……

 

 息が掛かる。

 

 もうダメと目をキュッと閉じて耐えた。

 

 でも中々、唇を塞がれる様な感触がこない。

 

「……?」

 

 ソッと目を開くと……

 

「クックッ」

 

 然も愉しそうにユートが笑っていた。

 

「冗談はこのくらいにしておこうか」

 

「じょ、冗談?」

 

「流石に嫌がる娘を相手に無理えっちは無いよ」

 

「――っ!」

 

 サッと解放されてすぐに身を縮め竦ませていたが、もう全く見ていない。

 

「ああ、胸元が見える様にブラジャーも外してくれていたら助かる」

 

「へ?」

 

「これから君にこいつ――人工リンカーコアを埋め込むんだからね」

 

「じ、人工リンカーコア? それはいったい?」

 

 聞いた事も無い単語に、オーリスは驚きを隠せないでいた。

 

「世間に存在する人造魔法師……じゃなく魔導師計画に喧嘩を売る代物、レジアス・ゲイズ中将にはその為に非魔導師を寄越して貰ったんだ」

 

 ユートの手の中には煌めく翠の宝玉が在る。

 

「心配しなくても非人道的な実験やら何やら、やった血塗られたアイテムなんかじゃない。完全な人体エミュレータで実験シミュレーションを繰り返して、成功した代物を永久禁固な犯罪者で臨床、完全に成功させたもんだからね」

 

 それこそ、ヤればセ○クスすら現状宛らの感覚すら得られ、斬れば殴れば普通に現実感半端ない感触を受けるし、血も流れて痣なんかも出来るエミュレータ。

 

 そこら辺のVRなぞ全くお話にならないVR。

 

 それで繰り返された臨床データで改良に改良を重ねていき、完璧に作用をするというデータから作り出されたモノを、居なくなっても惜しくない永久禁固刑に処されたり、死刑囚だったりを使って臨床試験をした結果、完全な完成品であるとされた物を量産化。

 

 商品ベースに乗せた代物である。

 

 違法研究所みたいに浚った人間で人体実験したり、クローンを大量に生産して実験したりと、非人道的且つ非効率な事は必要無い。

 

 時間なんかはダイオラマ魔法球で幾らでも稼げていたし、この頃にもなったら科学に魂を売った者とかが居たし、様々な意味合いで完成度も高まった。

 

「だから、ぜったい大丈夫だよ」

 

 オーリスは呆然と聞いていたが、正直に言えば信じられないと思ったもの。

 

 だけど何故か……

 

「判りました」

 

 そう答えていた。

 

 上着を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外してブラジャーも取ってしまう。

 

 恥ずかしいからブラジャーは隠し、胸元を晒した侭でベッドに寝転がった。

 

「お、お願いします」

 

「任された。まあ、すぐに済むけど……ね」

 

 ユートは翠の宝玉を親指人差し指中指、三本の指で挟んでオーリスの胸元へと持っていく。

 

 肌に触れるとちょっとだけひんやりし、オーリスは思わず――『ア、ン!』と嬌声にも似た声を上げた。

 

 別にユートならテレポートを使い、直接的に体内に入れる事も出来る。

 

 事実、想子核(サイオン・コア)を使った際にそのやり方だったのだから。

 

 ズブズブとインストールカードと同じ様に沈み往く宝玉、オーリスは体内での発熱に本物の嬌声を上げ、ジュンと子宮の奥深くからナニかを感じていた。

 

 完全に沈み込んだ宝玉、人工リンカーコアはすぐに働きを始め、マナを吸収してオドへと変換すると――

 

「くっうっ……」

 

 初めて体内を回り始めた魔力による違和感があり、オーリスは呻いた。

 

 だけど確かに感じられる今までに無い感覚により、全能感とまでは云わないにしても、とても高揚していて気分が良い。

 

「これが魔力……ですか」

 

「まあ、人工リンカーコアで獲られるのは今の処で、魔力ランクがBまでだよ。魔導師ランクも頑張って上げればA〜AAだね」

 

「充分でしょうね、地上で使う分には」

 

 地上でもAランクとなれば上を目指せるのだから。

 

「おめでとう、オーリス・ゲイズ女史。今日から君は魔導師だよ」

 

 その後の十年間の頑張りにより、オーリス・ゲイズは原作では三佐だった階級が一佐という確かな形で、表れたのだと云う。

 

 尚、ゼストとレジアスの年季の入った青春の結果、【ライオットギア】購入は決定をされるのだった

 

 

.




 次回は過去へ……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話:マテリアル 夕暮れに輝く一番星

 やっと書き終えたし……





.

 八月二〇日……

 

 突如としてユートの姿が消えてしまい、皆が方々を捜してみたが見付からない侭に二日が過ぎた頃。

 

「クライド、本当なの?」

 

「ああ、間違いない。私が聞かされていた通りの事態が確かに起きている」

 

「彼が消えてすぐに異変、確かに起きたわね」

 

 リンディ・ハラオウンとクライド・ハラオウン――ハラオウン夫妻はこの深刻な事態に歯噛みする。

 

「だが、取り敢えずユートの事は大丈夫だ。事件が起きる頃に数百年を過ごした本人が戻って来るらしい」

 

「それは……朗報ね」

 

 朗らかな笑みを浮かべ、リンディ茶を飲む。

 

「兎に角、日本に住んでいる聖域メンバーを向かわせねばならないな」

 

「なのはさんにはやてさんにフェイトさん、アリサさんにすずかさんもね」

 

「ああ、飛べるメンバーは全て出動だな」

 

 頷くリンディ。

 

 単純に飛べるという意味なら、黄金聖騎士達ならば全員が飛べるのだろうが、クライドに与えられている指揮権では、青銅聖騎士と鋼鉄聖騎士を動かすだけで精一杯だった。

 

 クライド・ハラオウンが大人であり、指揮経験などもあるからなのは達の指揮をユートが居ないなど緊急の場合、預かる事となる。

 

 白銀聖騎士や黄金聖騎士はユートが指揮をするか、居なければ独自に動くのが常だし、裁量権は基本的に黄金聖騎士が最高位だ。

 

 他の組織の場合は命令権は無いが要請は可能だし、現地に於ける指揮権を預かる事はあった。

 

 はやての個人戦力となるヴォルケンリッターだと、基本的な指揮権ははやてにあり、戦闘指揮権に限ればクライドにある。

 

 個人戦力だからだ。

 

「了解しました!」

 

 クライドから命令を受けた高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての三人に加えてアリサ・バニングスと月村すずかは、空を飛んで異変が起きたであろう空域に急ぐ。

 

 他にも聖衣を与えられている城島 晶や鳳 蓮飛も居るのだが、この二人の場合は飛行ユニットを与えられておらず、つまりは空を飛べなかったりする。

 

 異変――PSPゲーム、【魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY-】にて起きた事件であり、前作の事件は起きてはいない。

 

 何故なら【砕けえぬ闇】たるエグザミアをユートが手にしており、放置をされていた原作とは根本的に異なるからだ。

 

「にしても、全く以て減らないわね」

 

「そうだね……」

 

 どういうカラクリかまでは知らないが、本来の仕様を聞いてたアリサとすずかとしては有り難いけれど、ユートが現れない。

 

 今回の異変では【闇の書】へと関わったであろう、魔導師などが中途半端過ぎる記憶で再生されるとか。

 

 だが、一番に関わっていたユートは出てこないで、何故か余り関わらなかった筈のなのはやフェイトが現れるし、ヴォルケンリッターは良いとしてクロノなども出てきていた。

 

「困ったねぇ、クロすけは比較的殺り易いけどさ」

 

「文句言わない。マスターが出てこないだけ有り難いでしょ? ロッテ」

 

「そうだけどさぁ」

 

 ツーマンセルで動いている訳で、リーゼアリアとリーゼロッテの組はクロノが比較的に現れ易かったが、場合によってはヴォルケンリッターや、下手をすればプレシア・テスタロッサが病んだ瞳で現れる。

 

 正直、今現在のプレシアとは似ても似つかないし、言ってる事は支離滅裂だからちょっと恐い。

 

「兎に角、私達は大元を捜し出して叩きましょう」

 

「オッケー、アリア!」

 

 まあ、やるべき事に変更は無いのだから今は唯動く

のみのリーゼ達であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 なのはとフェイトの組は戸惑いを隠せない。

 

「ボク、参上! 凄いぞ、強いぞ、カッコいー!」

 

 突如として現れたるは、フェイトの2Pカラー?

 

「あれ、私かな?」

 

「でもフェイトちゃんにしては髪の毛が青いよ」

 

「寧ろ水色?」

 

 今まで現れた連中と明らかに一線を画する存在感、しかもビシッとデバイスを突き付け……

 

「見付けた、オリジナル! さぁ……ボクと戦え!」

 

 フェイトに宣戦布告なんてしてきたり。

 

「オリジナルって、やっぱり私のコピーって事かな」

 

「う〜ん、多分……」

 

「だけど、あんなに意識がはっきりしてるなんて」

 

 今までの闇の欠片は中途半端な記憶で再生されてたのに、あの水色のフェイトっぽい少女は明らかに作りからして違う。

 

「さぁ、いっくぞー!」

 

「ま、待って!」

 

「何だ? オリジナル」

 

「そのオリジナルって言い方はやめて欲しいかな? 私はフェイト。フェイト・テスタロッサだよ」

 

「ふーん。ボクは雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)さ!」

 

「レヴィ・ザ・スラッシャーって……レヴィで良いのかな?」

 

「そうさ、ボクは紫天の下に集う力の構築体(マテリアル)なんだ!」

 

「え? え?」

 

 新しい単語が増えてしまって混乱するフェイト。

 

「バルニフィカス!」

 

 ガチャン!

 

 手にしたデバイスが青い魔力光の光刃を持つ大鎌となり、まるでバルディッシュのクレッセントだ。

 

「やっぱりマテリアルとか言っても私のコピーか」

 

 武装もバリアジャケットも似たり寄ったり、コピーされたのが丸見えな存在。

 

「だけど! 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――バルディッシュ・アサルト! エイパス……セットアップ!」

 

 見た処、雷刃の襲撃者は飽く迄もフェイトの本来の武装のみコピーされた存在であり、ユートから貰った鋼鉄聖衣は再現が成されていないらしい。

 

 それは即ち大空聖衣・風鳥(エイパス)、風鳥星座の青銅聖衣を模して造られたマシーン聖衣だが、当然ながら普通の聖衣に比べると機械機会した見た目だ。

 

 空を飛ぶ生き物を象ったモノを大空聖衣(スカイ・クロス)と呼び、鳳凰星座や烏座や風鳥星座や巨嘴鳥星座や孔雀座など、基本的には鳥の聖衣ばかりだ。

 

《Apus Get set》

 

 バルディッシュが復唱、パーツがフェイトの白い肌を覆い、漆黒の機械聖衣が組み上げられていく。

 

「な、何だ何だ!?」

 

 驚きに目を見開く雷刃の襲撃者――レヴィ。

 

「さあ、バルディッシュ……往くよ!」

 

《Yes ser》

 

鋼鉄聖騎士(スチールセイント)が一人、大空聖衣・風鳥(エイパス)のフェイト……征きます!」

 

 本来の風鳥星座(エイパス)は青銅聖衣であるが、フェイトのは【名前付き(ネームド)】とされる鋼鉄のマシーン聖衣。

 

 量産型ではない逸品物、本来の鋼鉄聖衣はユートが居た世界で造られ、量産に適した形で落ち着いている訳だが、そのコンセプトは低価で扱い易くてメンテナンスや修理がやり易くて、大量に造れる環境が整え易いというもの。

 

 後から染め直せる色なら未だしも、形は当然ながら同一規格でなければならなかったし、余りゴテゴテとしないシンプルさが必須、機能も同じ規格だ。

 

 それが量産型。

 

 然しながら【名前付き】はそれと異なり、形状だけでもバラバラで機能だって大空聖衣は空を専門とし、大地聖衣は地を、大海聖衣は海を専門とした聖衣。

 

 まあ、どれも翔べないとか泳げない走れないという訳ではなく、スパロボ的なステータス理論で……

 

 大空聖衣ー空:S 陸:A 海:B 宇:D

 

 大地聖衣ー空:B 陸:S 海:B 宇:D

 

 大海聖衣ー空:B 陸:A 海:S 宇:C

 

 こんな感じとなる。

 

 大海聖衣が宇宙でC評価なのは、同じではないけど似た感じで動く事になるのに加えて、酸素ボンベ標準装備だから一時間くらいは宇宙空間に出られる為。

 

 全身を覆うスーツ自体が身体を守護するし、気密も海中を進む大海聖衣だから完璧なのだ。

 

 だけど専門でもないからC評価がやっと。

 

 フェイトのは風鳥星座を模した鋼鉄聖衣、名前の通り鳥だから大空聖衣に属しており、空での戦闘に一番適した聖衣でもある。

 

 フェイトのバルディッシュ・アサルトが、クレッセントフォームでレヴィの持つバルニフィカスの大鎌形態(バルニフィカス・スライサー)と打ち合う。

 

「電刃衝!」

 

「プラズマランサー!」

 

 レヴィが放つ雷の玉へ、同質のプラズマランサーで相殺すると――

 

「クレッセント……セイバー!」

 

 バルディッシュの魔力刃を飛ばした。

 

「光翼斬っ!」

 

 それに合わせてバルニフィカスの青い魔力刃を飛ばすレヴィ、中央にて魔力刃同士がぶつかり合って相殺されると消滅する。

 

「バルディッシュ、カートリッジロード!」

 

《Yes ser. Load cartridge!》

 

 ガコン! バルディッシュ内のスピードローダーから弾丸が消費され、一時的なブーストが掛かる。

 

「フルドライブ!」

 

《Zamber form get set》

 

 形を大幅に変えて最早、元々の形態を保持しない程の変形、それは斬馬刀も斯くやの巨大な黄金の魔力刃を持つ大剣。

 

 いったい何処が杖なのかと謂わんばかり。

 

「そっちがそうなら此方もこうだ! 超刀バルニフィカス・ブレイバー!」

 

「なっ!?」

 

 カートリッジが着いていないから、フェイト的には無いと思っていた形態。

 

「なら、撃ち抜け雷刃!」

 

《Jet Zamber!》

 

 巨大な魔力刃が更に巨大となり半実体化されると、それをレヴィに向けて振り下ろすフェイト。

 

「唸れ超刀バルニフィカス・ブレイバー! 斬撃一閃……塵と消えろォーっ!」

 黄金の雷刃と空色の雷刃が互いにぶつかっ……

 

「パイロシューター」

 

「アッツ!」

 

「熱い熱い熱い!」

 

 ……たりはしなかった。

 

 飛んできた炎の塊みたいなシューター、それが二人に当たって熱がるのに夢中となり、結果として攻撃は中断されてしまったから。

 

「へ?」

 

 見ていたなのはは聞き覚えのある声に間抜けた声を上げ、発生地点を探るべくキョロキョロと辺りを見回すと……

 

「居た!」

 

 なのはと似た顔立ちで、髪の毛は短めに刈っていて濃い紫色のバリアジャケットを纏い、無表情ながらも青い瞳の可愛らしい少女。

 

 間違いなく先程の魔法は彼女が放ったものだ。

 

 まあ、なのはが彼女の事を『可愛らしい』とか表現したら、とんだ手前味噌になってしまうのだけど。

 

「貴女が私のコピーというか……えっと、マテリアルっていうやつなの?」

 

「そうですよ、タカマチ・ナノハ。私は【理のマテリアル】……」

 

「シュ、シュテるん!?」

 

 レヴィが驚く。

 

「シュテルン・ノイ・レジセイアです」

 

「「??」」

 

 なのはとフェイトが首を傾げているのを見遣って、外したらしいと小首をカクンと横に傾ける。

 

「まあ、本当は【星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)】ですけどね。取り敢えず、私の事は――シュテル・スタークスだと認識して下さい」

 

「へ? スタークスってのは何処からきたの?」

 

「【ザ・デストラクター】は何処に行ったんだ?」

 

 なのはもフェイトも混乱してしまう。

 

「私は地球連邦・守護機関【聖域(サンクチュアリ)】所属、シュテル・スタークスです。ちゃんと戸籍だって持っていますよ?」

 

「その身分証は!」

 

 この世界の技術で偽造は不可能――ミッドチルダも含む――な身分証。

 

 同じく【聖域】に所属をしるなのはとフェイトも、全く同じ身分証を持つ。

 

 この身分証、有事の際に魔法や霊能や超能力など、超常の力を戦闘に使う為の免許証でもあった。

 

「ど、どうやって手に入れたの!?」

 

「勿論、試験を受けて」

 

 至極真っ当な手段だ。

 

「それよりそれよりさ! シュテるんがおっきいのは何で?」

 

「そういえば、私より身長が高いの……」

 

 レヴィの指摘になのはがシュテルを見れば、確かに小学三年生な高町なのはをコピーしたにしては身長が中学生くらい。

 

「取り敢えず、三人は戦闘を止めなさい」

 

「え? けど……」

 

 フェイトが戸惑ってしまうのも無理は無い。

 

 そもそも襲ってきたのはシュテルの仲間の筈であるレヴィ――雷刃の襲撃者。

 

 ならば自己防衛の観点から戦うしか無いだろう。

 

「レヴィ、戦いは不要ですから武器を下ろしなさい」

 

「うう? だってだって、シュテるん! ボク達にはもくてきがあって、その為に必要なものを手に入れなきゃなんだよ?」

 

「不要と言いましたよ? 最早三度目はありません、武器を下ろしなさい」

 

「うぐ!」

 

 絶対零度の視線。

 

 無表情がデフォなだけに凄く怖い。

 

「やだ! ボクは王様の為にも【砕け得ぬ闇】を見付けないといけないんだ! オリジナルを斃さないと、それを邪魔される!」

 

「仕方がありませんね……悪い子にはOSHIOKIが必要です!」

 

 レイジングハートに似たデバイスを構える。

 

「くっ! 理と力、ボクの方がパワーは上だい!」

 

 レヴィもバルニフィカス・ブレイバーを構えた。

 

「確かにそうです。【力】のマテリアルである貴女の方が【理】のマテリアルの私より、出力という意味では上でしたね」

 

 わざわざ【力】や【理】と役分けなんてしているからには、当然ながら割り振られたステータス値が異なっている事を意味する。

 

 レヴィは【力】のマテリアルだから、戦闘に必要な高出力を持たされており、可成り単純な作りのプログラムとなっていた。

 

 基本的に能天気でパワー莫迦と思えば正解だ。

 

 反面、シュテルは出力で云えばレヴィ程ではなく、然しながら高い知性と知識を持つ頭脳派である。

 

 だから、若し真っ正面からのガチンコ勝負をすればシュテルが敗ける筈。

 

 それこそシュテル自身が一番よく知っている事。

 

 それでも、今の自分ならレヴィを相手に敗けたりはしないと、確かな自信を持って相対していた。

 

「タカマチ・ナノハ」

 

「へ?」

 

「封時結界は張ってありますね?」

 

「えと、うん……」

 

 敵か味方かも判らなかったシュテル、なのはとしてはやはり戸惑う。

 

 結界は既に言われる迄もなく張ってあるし、問題は何も無いから良いが……

 

「さて、レヴィ。これから貴女にOSHIOKIする訳ですが、何か言い残す事はありますか?」

 

「へん、シュテるんこそ! 後悔しても知らないんだからな!」

 

 その会話を皮切りとし、二人はぶつかり合う。

 

 シュテルは高町なのはの能力をコピー、炎熱変換を独自に持ったマテリアル。

 

 当たり前だが近接戦闘に長けてはいない。

 

 本来であれば……だが。

 

「ルシフェリオンACS」

 

 なのはのACSと同じくな攻撃を、レヴィは何とか躱してみせたものの簡単に方向転換してきた。

 

「いっ!?」

 

 驚愕するレヴィ。

 

「慣性制御です!」

 

 慣性の法則を無視している機動、それは慣性を制御していたらしい。

 

「このっ!」

 

 レヴィはバルニフィカスを鎌に換え、小回りを利かせて対処をした。

 

 だが、それはシュテルの目論見通りである。

 

 一気に上空へと上がったシュテルが、自らのデバイスたるルシフェリオンを構えて……

 

「疾れ、明星(あかぼし)。全てを焼き消す炎と変われ……」

 

 詠唱を開始。

 

 魔力が集束されていき、更には炎熱変換による焔が赤々と燃ゆる。

 

 それは既に宵闇となりつつある夜空へと、一際輝く一番星の如く見えた。

 

「し、しまっ!?」

 

 レヴィはバルニフィカスを再び変形させようと試みるが、既に今更で間に合う筈もなかった。

 

「真・ルシフェリオン……ブレイカァァァーッ!」

 

 最早、レヴィに打つ手はなくなっていたから魔法を喰らう他に道は無く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 

 原典でSLB(スターライトブレイカー)を喰らったフェイトの如く、レヴィもSLB(真・ルシフェリオンブレイカー)を喰らい、目を回して地上に墜ちた。

 

「きゅ〜」

 

「勝利のV! です」

 

 そんなレヴィを見遣り、無表情ながらVサインにて勝利を自ら讃える。

 

 そんな様子を高町なのはとフェイト・テスタロッサの両名は、茫然自失となって見つめ続けていたとか。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 バインドでグルグル巻きにしてるレヴィを連れて、シュテル・スタークス達はクライドとリンディの住むマンションに移動をする。

 事前に連絡をしていたからか、クライドとリンディはシュテルを受け入れるだけの時間を取れた。

 

「私達は紫天の王と盟主と共に在る構築体――即ち、マテリアルという存在となります」

 

「紫天?」

 

「はい。闇の書の内部に、歴代の持ち主でしょうが……我らを加えたらしいのですけど、そもそも紫天の書や紫天の盟主を操る事など叶わず、我らは闇の書の最も深き場に眠ってました」

 

 シュテルが説明する。

 

「ですが闇の書が消えて、夜天の魔導書に回帰した上に【紫天の書】の力の源、エグザミアが彼の手に渡ってしまいました」

 

「彼って、優斗君?」

 

「他に誰が居ますか?」

 

「居ないね、うん」

 

 なのはは頷いた。

 

 事実、アプスとの戦いでユートはエグザミアと呼ばれる赤い結晶体を手に入れたのを、なのはもフェイトも見ているのだから。

 

「永遠結晶エグザミア……又の名を【システムUーD】、アンブレイカブル・ダーク。即ち【砕け得ぬ闇】であり紫天の盟主、これが【無限連還機構】ですね。私達マテリアルは【王】を筆頭に【理】たる私と【力】たるレヴィが存在して、紫天の盟主を補佐して支えるプログラム。本来であれば闇の書の守護騎士とは違って決まった形を持たないのですが、ユートが介入をした結果として私はナノハの姿を、レヴィはフェイトの姿を得ています」

 

「ふ、ふぇ?」

 

 行き成り余りもの情報が開示され、頭から湯気を噴き出すくらい混乱してしまうなのは。

 

「だ、大丈夫? なのは」

 

「うう……」

 

 プスプスと音を響かせる勢いである。

 

「まだ【王】は未覚醒で、エグザミア本体はユートの手の内、レヴィは墜としたので後は……ユート曰く、未来からの来訪者とエルトリアの使者が問題ですね」

 

 シュテルに暴れる意図は無く、寧ろユートから言われてレヴィを止めに来た。

 

「どうして私達に協力してくれるんだ?」

 

 フェイトが訊ねる。

 

「私はレヴィより早く形を成しましたが、記憶が曖昧でナノハのコピーっぽい今の姿でフラフラと歩いていました。それをユートに見付けられて保護されましたから。まあ、一緒に過去へ跳ばされたから時間だけは豊富に在りましたし、記憶も回復しました。私が成長しているのはユートから貰った肉体のお陰ですしね」

 

 今のシュテルは中学生か其処らの年齢で、通常だと眼鏡を掛けた文学少女だ。

 

「さて、タカマチ・ナノハ――貴女の上司のクライド・ハラオウン氏に合わせて頂けませんか? 貴女達に先程も話した情報を伝えねばなりませんから」

 

「う、うん」

 

 何とか気を持ち直して、なのははフェイトと一緒にシュテルとレヴィ、二人をクライドの許へと連れて行く事にするのであった。

 

 

.




 王様にはやっぱり〝あの台詞〟を言わせるかな?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話:未来人 ただの人間には興味ありませんとか

 約一年と二ヶ月振り?





.

 クライドはなのは達が連れて来たマテリアル娘に、頭が痛いとばかりに溜息を吐いてしまう。

 

 別にマテリアル娘が悪い訳ではなく、その話の内容に頭痛の種が有ったから。

 

『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が居たら、私の所に来なさい!』

 

 という部分から始まればそりゃ頭痛もする。

 

 尚、まだ未来人は居ないが宇宙人以外は海鳴市に揃い踏みだったり。

 

 なのはやフェイトは魔法使いにカテゴライズされ、超能力者ならHGS患者が何人か存在もしているし、ユートは正しく異世界人にカテゴライズされた。

 

 そして、原典的に未来人が数名だが顕れる筈。

 

 宇宙人が居ないのが残念なくらいだった。

 

 それは兎も角、シュテルが大真面目に言うから身を乗り出せば、まさかこんなジョークを聞く羽目になるとは思わなかった。

 

 尚、遥かな未来に於いてユートは宇宙人の血を引く家系に転生予定である為、宇宙人、未来人、異世界人に超能力者をたった一人にて網羅してしまう。

 

「まあ、冗談はこの際ですから置いときましょうか」

 

((((自分から言っておいて!?))))

 

 きっと、この瞬間だけは皆の心は一つだった。

 

「まず、ユートさんです」

 

「あ、そうだよそうだよ! シュテルちゃん、優斗君は何処に居るの!?」

 

「落ち着きなさいナノハ。彼は現在、過去の彼が消えた瞬間に姿を現して探し者をしています」

 

「探し物?」

 

「はい、未来人を」

 

『『『『それはもうええっちゅーねん!』』』』

 

 全ツッコミが入るけど、フルフルと首を横に振ったシュテル。

 

「違います、間違っていますよ皆さん」

 

「何がかな?」

 

「私の言った未来人とは、ミッドチルダに十数年間で確かに現れる存在です」

 

「――へ?」

 

 なのはは吃驚したのか、目を見開いていた。

 

 それはクライドやリンディなんかも同じ……どうもそこまで詳しくは聞いていなかったらしい。

 

「私が聞かされたのは……滅び逝く世界から機械人が顕れ、紫天の書の構築体や盟主と共に【砕け得ぬ闇】を手にする為に行動する事になりますが、彼女らが使ったタイムマシン? みたいなのに引っ張られナノハに所縁のある人物が数名、現在に跳ばされるとか」

 

「にゃ? わ、私ぃ?」

 

「とはいえ、それは本来の歴史ですがね」

 

 と、正しておく。

 

「本来の……か。つまり、彼が言っていた十年後に起きる大きな事件」

 

「無関係ではありません。そして途中までは歴史通りに動いて貰う予定です」

 

「何故だい?」

 

「そうしないと誕生しない子が居ます。エゴだと理解していてもユートは事件を起こさせる心算でしょう」

 

 クイッと眼鏡を手で上げながら言う。

 

 二番ドゥーエによるハニトラで聖遺物が盗まれて、ソコにこびり付いた聖王の血からクローンを産む。

 

 それを阻止すれば良いだけだが、恐らくは別の形で結局は事件が起きる可能性が高く、それなら事象制御が可能な方が有り難い。

 

 そんな目論見もあった。

 

「ねぇねぇ、シュテるん」

 

「何ですか、レヴィ?」

 

「みらいから来るきかいじんってどんなの?」

 

「確か、エルトリアという世界から姉妹が来るとか。機械人――ギアーズと呼ばれています。エルトリアの滅びを回避しようとしたらしいグランツ博士が病で死に掛け、死ぬ前に滅亡回避が出来たエルトリアを見せたい一心で、わざわざ過去まで遡って来るのですよ。まあ、自然主義とかギアーズを造ったとは思えない人ですが……」

 

 機械人といってみても、人型のギアーズは二人しか存在しないけど。

 

 ギアーズを造った理由は理解も出来るが、然しながら本人は自然主義だったから病も本格的に治さない。

 

 ユート的には『だったら世界の滅亡もまた自然だろうに』となる。

 

 実際、人間による滅亡ではなく自然の不可思議現象での滅亡なら、それを受け容れろという話だった。

 

 【死蝕】と呼ばれる現象による緩やかな滅び。

 

 星の人間は移住を余儀無くされたのだと云う。

 

 アトリエ世界でフローベル教会から、錬金術の事を『神が定めた形を不自然に歪める技術』として否定的な事を言っていたのだが、ユートは『如何なるモノであれ加工をしたら、錬金術と同じく不自然に歪めているだろう』と反論。

 

 更にぶっちゃけてしまい――『自然に生きるのが良いなら、家に住まず服を着る事も無く料理もせずに、自然を体現する動物と同じ生活をしたら良い』……とミルカッセ・フローベルに言ってみたら、不満はあるからか膨れっ面ではあったものの、考え込んで『もう少し考えてみます』と言ってきた。

 

 自然に生きるとは確かに医学に掛かるのは宜しくないかもだが、そもそもの話がギアーズはモロに人工物な訳だし、自然は何処に逝ったと物申したい。

 

「話を戻しますと、ナノハが関わるのは飽く迄も本来の歴史です。ユートは初めから地球の魔導師をミッドチルダに関わらせる心算が全くありません」

 

「けど、それなら十年後の事件とやらは?」

 

「既に地上本部にテコ入れをしています。事件は地上で起きるのに、縄張りからわざわざはみ出して本局が動くのは不自然ですから」

 

「本局が?」

 

「はい。まあ、本来の目的の為には事態の把握とかをしたいのでしょうし、事件の解決を本局側でやれたら地上も……レジアス・ゲイズも強硬には出られないでしょうからね」

 

 リンディの疑問に答えたシュテル、原典にて事件を解決したのは本局付き……古代遺物管理部・機動六課が動いて解決している。

 

 尤も、本来であれば事を動かしていた連中はスカリエッティの造反で死亡し、レジアス・ゲイズも死んでしまったから有耶無耶になってしまったらしい。

 

 あれはトップが事件を起こしたに等しい訳だから、時空管理局の進退……最低でも可成り上が懲戒を喰らっていないといけない。

 

 幾らなんでも上が全く知らなかった……というのは有り得ないのだから。

 

 結構な数が居た筈である……最高評議会のシンパ、息の掛かった者達が。

 

 それが全く居ないクリーンな組織? 少なくとも、最高評議会というトップがやらかしていた組織には、クリーンなんて無い。

 

 勿論、真面目に次元世界の守護者をやっている局員だって相当数が居る筈ではあるが、事は善きより悪しきの方こそが目立つもの。

 

 そういう意味では、正しい管理局員は割を喰っているとも云える。

 

 まあ、ユートは時空管理局に関しては善きも悪しきも関係無いけど。

 

 簡易魔導ギアをレジアスに渡して地上本部に肩入れをした形にはなるのだが、それはミッドチルダ地上に拠点を公で持つ為。

 

 Vivid編はミッドチルダが主な活動場所だし、ならばどうしたって必要となってくるからだ。

 

「ユートが将来の為に力を貸したみたいなものです」

 

「そう……」

 

 少し考えるリンディ。

 

「未来から来るのは誰? 若しかして、それが関係をしてくるのではない?」

 

「御明察です。未来から跳ばされて来るのは五名……高町ヴィヴィオ」

 

「にゃ? 高町って?」

 

「本来の世界線でナノハが養子にした形です」

 

「養子なの? 何だ、本当の子供じゃないんだ……」

 

「ええ、そもそも二五歳にもなって結婚してません」

 

「へ?」

 

「寧ろ、恋人ポジションがフェイトですから」

 

 ピシッ!

 

 空気が凍る。

 

 一応、クロノ・ハラオウンやユーノ・スクライアといった男キャラは存在してはいるが、原作とも云える【とらいあんぐるハート3】の外伝では恋人となったクロノはエイミィ・リミエッタと結婚し、ユーノとは遅々として仲が進まない。

 

 ひょっとしたら三十路に突入したら或いは? ともなるだろうが、少なくともForceの時点でそんな気配は微塵にも無かった。

 

 そんな中でもフェイトとは同じ家に住み、ヴィヴィオの両親っぽい形になっているとなれば、もういっそフェイトと同性婚してしまえと言いたくなる。

 

「まあ、高町なのは本来の話に過ぎませんよ。ナノハが関わらないならヴィヴィオを引き取るも何もありませんからね」

 

「本来の私って……」

 

「私がなのはの旦那様? 寧ろお嫁さん?」

 

 なのはとフェイトが撃沈されていたが、構う事無くシュテルは話を続ける。

 

「一緒にアインハルトという子が来る筈です」

 

「アインハルト?」

 

「本名はハイディ・E・S(アインハルト・ストラトス)・イングヴァルト」

 

「イングヴァルトって……まさか覇王の?」

 

「ええ……覇王クラウス・G・S・イングヴァルトの子孫に当たります」

 

 記憶継承が成された辺りを鑑みれば直系、シュテルは嘗て得た知識から類推してアインハルトの正体に気付いていた。

 

 ベルカに乱立した王達。

 

 例えば【聖王】。

 

 例えば【覇王】。

 

 例えば【冥王】。

 

 例えば【雷帝】。

 

 例えば【真王】。

 

 時は古代ベルカの時代。

 

 群雄割拠して合戦に明け暮れ、各国の王達は勝利と栄光を目指して鎬を削っていた訳だ。

 

 勿論、中には時代が違っていた場合もあった。

 

 その中でも不可思議で、最後の【聖王】と【真王】が知り合いであったという情報は、何故か現代に於いても伝わっている。

 

 双子座の星聖衣の存在と共に……だ。

 

「この関係でユートと私が過去、古代ベルカの時代に跳ばされました。三百年かそこら前ですね」

 

「……最後の聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの」

 

「その通りです。詳細は省きますが……オリヴィエとの邂逅はその侭、覇王イングヴァルトや鉄腕のエレミアとの出逢いに直結をしていまして、恐らく子孫には星聖衣が継承されていると思われます」

 

 ユートとシュテルが過去に降り立ってすぐ、賊らしき者共な襲撃される馬車を発見した。

 

 馬車内に居たのは長袖の両腕の部位が風に揺れて、然し強さと可憐さを合わせ持つ美少女と、ちょっとだけ年上の御付きらしき女性が何人かだった。

 

 戦えたのはあろう事か、両腕を持たない女の子のみであり、ユートとシュテルはすぐに加勢をする。

 

 時を同じくして加勢したのが黒いフーデッドマントを被る者、後にエレミアという事を聞かされた。

 

 ヴィルフリット・エレミアと名乗られたのだ。

 

 【鉄腕】のスキルを持つエレミア、記憶継承に似た魔導を以て【技術】【技能】【経験】のみを継承していく体で後世に技を伝える一族である。

 

 クラウス自身の記憶を、子孫へ継承するのともまた異なる方式だ。

 

 その魔導の形は【破壊】に特化されていた。

 

 【黒のエレミア】と呼ばれるが、代々が黒装束を好んで纏うからだろうか?

 

「後に彼は真王となりましたが、聖王女や覇王となる前のイングヴァルト殿下、ヴィルフリッド・エレミアとの交流は続きました」

 

「古代ベルカの王族と」

 

 幾ら冥闘士となったからとはいえ、そこら辺までは知らなかったクライド。

 

「序でに言えばヴィルフリッドとは男女の仲です」

 

『『『『え゛?』』』』

 

 なのはやフェイト達が、凄まじい驚き様だ。

 

「何を驚いてるのです?」

 

「だって、だって!」

 

「それって、ヴィルフリッド……さん? とは恋人って事だよね?」

 

「わ、私敗けましたわ」

 

 三人娘が面白い反応をしているのを横目にしつつ、ダメなナニかを視る目をしながら溜息を吐く。

 

「忘れているかも知れませんが、ユートはそも何千年も生きています。今更ながら愛だ恋だと考えたりすると思いますか?」

 

「「「……」」」

 

「そんなのは前世で済ませていますよ。いえ、前々世で一応は初恋も経験済みだとか聞きましたね」

 

 混乱するだろうし寝物語にとは言わずにおく。

 

 三百年も傍に居たのだ、そりゃ恋愛沙汰無しであれ欲情して肉欲的に求め愛をしてもおかしくはないし、彼女自身の心はとっくの昔にユートに寄っていた。

 

 記憶が混濁をしながら、フラフラと海鳴市を彷徨っていたのを拾われてから、ずっとシュテルはユートに依存していたし、記憶の方がスッキリとしてからも、その想いは消えずに残る。

 

 見た目は今現在のなのはの2Pカラーに等しかったのだが、オリヴィエが居なくなってから後にクラウスも死亡、ヴィルフリッドは閃姫契約をしていたけど、精神性が一つ所に留まらないからフラッと居なくなっては現れていた。

 

 そんな中にあってユートの傍に常に侍るシュテル、それは【真王】ユートの妃と視られておかしくない。

 

 特に一回だけとはいえ、その身を委ねてから肉体を自在に変化が可能となり、謂わば大人モードを体得したから余計に……だ。

 

 今のシュテルがレヴィと違って大きいのも、ユートから肉体を貰ったと言っていたが、実際には抱かれて構築体としては変質した、それが理由だったりする。

 

 魔法とは違う形での形態であり、その姿は自由自在に成長率を変えられた。

 

 その気になれば幼稚園児や小学生や中学生、高校生に大学生に中年に老婆と、そうなりたいと望むだけで変化が可能。

 

 それは何もシュテルに限った事ではない。

 

 半閃姫は状態維持が限度だが、真なる閃姫なら同じく成長率変化が出来る。

 

 実際、ユートはシュテルとヴィルフリッドを使い、古代ベルカの【真王】として君臨していた頃、妃となる存在を交互に回しながら子供も同じくしていた。

 

 子供が成長したらキリが良い処で、やはり姿を変えたユートが婿入りをする。

 

 事実上、妃がシュテルとヴィルフリッドで王女様は妃ではない方、そして王として立つのは常にユートという形だった。

 

 まあ、ヴィルフリッドは勝手に居なくなる事もあったし、本当の子供の子孫を見守ってもいたのだが……

 

 尚、現在はまだ二歳にも満たないジークリンデ・エレミアが居る。

 

 きっとヴィルフリッドはジークリンデを、何処かで見守っているのだろう。

 

 つまり、ジークリンデ・エレミアとはこの世界線に限れば、実質ユートの子孫という事にもなる。

 

 シュテルもそれとなく、ジークリンデを捜し当てて見守っていた。

 

 【真王】が歴史の闇に埋もれてからは、【OGATA】という企業が興る。

 

 今現在のミッドチルダに存在するあの企業だ。

 

 古代ベルカの頃から土台が在った為、ミッドチルダにもスムーズに移行した。

 

 そう、ユートは全てに於いて原作へ備えていたという訳だ。

 

 そも、【ライオットギア】だって型落ちな代物でしかない魔導甲冑であるが、それは最新鋭版に劣るというだけであり、また型落ちだから安く仕上げて売れる品となっていた。

 

 古代ベルカ時代から続くならば、その程度の積み重ねは普通に有るのだから。

 

 装備品にしても素人に与える訳でなく、確りと鍛え上げられた局員に与える。

 

 インスタント魔導師など地上本部や支部には不要、【ライオットギア】を与えられるという事は、超闘士激伝で云えば極限まで鍛えられた者が武装する【闘士】になるというに等しい。

 

 謂わば、インスタント魔導師は【武装怪獣ゴモラ】であり、【ライオットギア】を与えられるのは【闘士ゴモラ】である。

 

 ユートは今まで素人でもある程度は戦える武装を、謂わば【武装怪獣】の量産で戦力を補う事もあった。

 

 だが、再誕世界などでは鍛えて武装を与える形……【闘士】を生み出す事を、主眼としてきたもの。

 

 鋼鉄聖闘士がそれだ。

 

 旧作アニメでは可成り叩かれた存在だが、鋼鉄聖衣を量産して鍛えた人間へと与え、雑兵の皆さんと違った戦力としてきた。

 

 そもそも、敵側は雑兵といえど簡易鱗衣やスケルトンの冥衣を与えられているのに、聖闘士側の雑兵だと頑丈なだけの服に革のプロテクターである。

 

 正規の聖闘士も聖域では普段がこの格好。

 

 正に『死んでこい』とか言わんばかりの装備だ。

 

 その改善に鋼鉄聖衣というのはアリだった。

 

 まあ、形は旧作に出てきたオリジナル鋼鉄聖闘士の鋼鉄聖衣を元にデザインをしたし、だから野暮ったい感じにはなったが……

 

「それと、更に少し経った時代からトーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックが顕れます」

 

「それは?」

 

「所謂、違法研究で生み出されたEC兵器。その為の改造ツールたるECウィルスに感染した少年。それとディバイダー996とそれの対である銀十字の書と、リアクト・プラグと呼ばれる少女……この少女というのがリリィ・シュトロゼックですね」

 

「ま、待って頂戴!」

 

「何ですか? リンディ・ハラオウン」

 

 リンディからの待ったに首を傾げるシュテル。

 

「EC兵器にウィルス? そのトーマ君だったかしら……大丈夫なの?」

 

「まあ、リアクトして特殊な能力――ゼロ・エフェクトを使うと五感に異常を来したりしますし、殺人衝動があったりしますからね。大丈夫とは言い難いです。適合力が高かったらしく、取り敢えずは何とかなっていますが」

 

「そ、そう……」

 

 下手に殺人衝動へ抗うと対消滅して肉塊化するし。

 

「心配しなくとも普段からは良い子らしいですね」

 

「まあ、それなら良いわ」

 

 無闇矢鱈と暴れないのであれば、本人にあるマイナス面は兎も角として許容範囲であろう。

 

「この二組に問題があるとしたら、それはこの世界線ではどんな感じになっているか判らない点でしょう」

 

「……というと?」

 

 続きを促すクライド。

 

「そもそも私からして本来の立ち位置と異なります。それにナノハ達が未来での事件に関わらないのなら、ヴィヴィオのママは誰でしょうか?」

 

「ママって、本来は私……なんだよね?」

 

「はい。ナノハママとフェイトママですね」

 

「「そうでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 余りに百合百合しい関係に頭を抱える二人。

 

「頬を染めながら『なのは』『フェイトちゃん』と、呼び合いつつ一つのベッドに二人の影が……」

 

「「やーめーてー!」」

 

 勿論、一緒のベッドで寝ているだけで如何わしい事を致している訳ではない。

 

 とはいえ、そんな雰囲気だから男がデキなかったという可能性も?

 

 忙しさでそれにかまけて婚期を逃す、一応はなのはもフェイトもはやてもまだ二五歳、三十路にも達してはいないのだろうが……

 

 原典のオーリス・ゲイズもファミリーネームから判る通り、三十路で未婚たるキャリアウーマンだ。

 

 あの三人がそうならないと誰が思えるか?

 

 なのははユーノ・スクライアと良い雰囲気だけど、それだけでしかないとも取れるのも確か。

 

 取り敢えず、養子とはいえ娘も居るから結婚とかは考えなくなった可能性も。

 

 お腹を痛めて産んだ娘ではないけど、全身全霊にして全力全開の手加減無しにぶつかり合ったから解り合えた我が子だから。

 

 問題なのは、この世界線でのヴィヴィオが果たしてどうなっているのか?

 

 それが未知という事。

 

(まあ、ユートはヴィヴィオをお気に入りみたいですからね。上手く取り込んでいる可能性もありますか)

 

 最初の転生でユートの、緒方優斗の前に高町なのは――否、日乃森なのはが現れた際にも『ヴィヴィオなら良かったのに』とか発言しているくらいだし。

 

 目の前のなのはに喧嘩を売る発言だったと云う。

 

「大変です!」

 

「どうしたのエイミィ?」

 

 リンディが辞職後に彼女も辞職している。

 

 未来の姑と仲良くするのは良い事であろう……というジョークは置いといて、時空管理局のトップが真っ黒と知り、クロノが辞職を勧めたのである。

 

 勿論、将来のあれやこれやを約束した上で。

 

「海鳴市の上空に時空震動現象が!」

 

「来ましたね、来訪者が」

 

「なら、これが時空間転移だと云うの?」

 

「ええ、クライド・ハラオウン……すぐにナノハ達を向かわせなさい」

 

 リンディの問い掛けに頷いて、シュテルはクライドへと命令を下す。

 

 一応、クライドが日本での司令官となっているが、総司令官とは即ちユートであり、その副司令がシュテルとなっているから命令権があった。

 

「了解をした。聖騎士部隊はすぐに出動!」

 

『『『了解!』』』

 

 なのは達の実働部隊は、未来からの来訪者を迎えるべく出動した。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話:来訪 未来からの闖入者

 漸くGoDっぽく……





.

「キリエ、やっと追い付きましたよ!」

 

「んもう、アミタってば。追っては来ないでって私があんなに言ったのにぃ……私のお姉ちゃんってば割と本気でおバカさんなの?」

 

 赤毛を後ろで三つ編みに結わい付けた翠の瞳の少女――アミタと呼ばれた彼女はピンク髪を腰まで伸ばす色違いの服の妹――キリエを追い込んだ。

 

 互いに持つは同じ武器、アミタは蒼を基調とした服であり、キリエは緋を基調としている服。

 

「莫迦はどっちよ? 妹が莫迦な事をしようとしてるのに、それを止めない姉は居ません!」

 

「ちょっとくらい早めに生まれたからって、それで妹の生き方を曲げる権利なんてあるのかな? 兎に角、私はこの時代のこの場所でやるべき事があるのよ! なるべく此方の世界の人に迷惑は掛けない様に頑張る心算だし、良いからアミタは私の邪魔をしないで!」

 

「させませんっ! 荒縄で亀甲縛りにしても、お尻をつねり上げてでも! 私達の世界……エルトリアに、博士が待ってるあの家に、連れて帰ります!」

 

 話から二人は地球の人間ではないのが窺える。

 

「いや、亀甲縛りって……アミタってばおバカさんから変態さんにクラスチェンジしたの?」

 

 キリエは銃と剣が一体となった武器で、肩をポンポンと叩きながら笑う。

 

「ま、力尽くは望む処よ。やってみたらアミタ、お姉ちゃんは妹に勝てないって事を教えてあげる!」

 

 武器を構えながら言う。

 

 そんなキリエに対して、アミタも武器を構えた。

 

 二人のぶつかり合い。

 

 ブレードモードとガンモードを互いに使い熟して、互角の実力による空中戦闘が繰り広げられる。

 

 実弾ではないエネルギーの弾丸が飛び交い、剣と剣がぶつかり鍔迫り合いを演じていた。

 

 その戦闘を制したのは、アミタと呼ばれた少女。

 

 キリエは然し敗北したという訳でもなく、取り敢えず不利な状況に置かれたというだけである。

 

 キリエは肩で息を吐きながら、眠たそうな目を姉のアミタへと向けていた。

 

「どう、反省した?」

 

「うう、やられたぁ……」

 

 しおらしい態度……

 

「なーんてね。アミタってばやっぱ脳筋さん。まさか私が本気で戦っていたとでも思った? っていうか、気付く事さえ出来なかったでしょ」

 

「っ!? こ、これは……いったい……?」

 

 急に動きが鈍るアミタ。

 

「あはは、効いてきた? 戦闘中に特製ウィルス弾を撃ち込んでいたの。ふふ、動けないでしょう?」

 

「な、ん……ですって?」

 

「ま、死ぬ事は無いから。其処は安心して? あーんなに止めたのに、私を追ってくる莫迦なお姉ちゃん。いっそこの場で本当にぶっ壊しちゃっても良いんだけどねぇ……」

 

 不敵に言うキリエに辛そうな表情で睨む。

 

「や、殺れるもんなら!」

 

「クス、や・ら・な・い。私がアミタを傷付けたりしたら、きっと博士は悲しむものね」

 

「キリエ、待ちなさい!」

 

「バイバイ、アミタ。多分もう……会わないわ」

 

 笑いながら、だけど悲しそうに複雑な表情で別れを告げると、キリエはアミタを於いて空の彼方へ。

 

「キ、キリエ……」

 

 アミタはそれを見送るしか出来なかった。

 

 だけど諦める訳にはいかなくて。

 

「追い掛けなくっちゃ……撃ち込まれたウィルスは、身体機能阻害弾。抗ウィルス剤か治癒術があればすぐにも治る筈。この世界の人に迷惑は掛けたくないけど……キリエを止めなきゃ、取り返しの付かない事になってしまう!」

 

 アミタは決意を胸にしながらも、身動ぎが出来ない我が身を不甲斐なく思う。

 

「捜さなきゃ駄目かな……地元の人で治癒術の使い手か若しくは、AC93系の抗ウィルス剤を」

 

 フラフラと飛行しながら呟くアミタだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「此処、何処でしょうか? アインハルトさん……」

 

「地球……海鳴市上空みたいです」

 

「え……? 本当ですか、それって?」

 

「はい、兄様に連れて来て貰った事がありますから」

 

「ユート兄ちゃんに?」

 

「はい、この街並みは間違いありません。恐らくは、この地に何らかの力が働いて跳ばされたのかと」

 

 アインハルトと呼ばれた少女は、この状況を分析して金髪の少女に答える。

 

「ヴィヴィオさん、こうなれば兄様に保護を願い出るしかありません」

 

「待って下さい、ユート兄ちゃんってミッドチルダに居た筈ですよ?」

 

「あ……済みません、私も冷静ではないみたいです」

 

「仕方ありませんよ。けど今なら確か地球側にほむ姉ちゃんが居る筈です」

 

「ほむらさんが?」

 

「はい、今度の試合に皆が来るんでその調整に」

 

「だったら……」

 

《にゃーにゃー!》

 

「どうしました、ティオ」

 

 猫っぽいぬいぐるみ……ティオと呼ばれたそれが、何故か暴れ出す。

 

「え? 時間軸が違う? アクセスをしたら今は西暦二〇〇四年だった?」

 

「二〇〇四年? それって新暦六六年の頃ですよ? アインハルトさん」

 

「まさか、兄様が言っていた時間移動?」

 

「私達の時代は西暦に直すと二〇一七年……一三年も前って事?」

 

 どうやらアインハルトは兄様……会話の流れからしてヴィヴィオが言うユート兄ちゃんから、時間移動に関して聞いていたらしい。

 

「はっ! 魔力反応が……二つ?」

 

「アインハルトさん!」

 

「取り敢えずは武装しますよヴィヴィオさん!」

 

「はい!」

 

 二人は小型のぬいぐるみ……デバイスを、天高く掲げながら叫ぶ。

 

「セイクリッドハート!」

 

「アスティオン!」

 

 それが二人のデバイスの名前だろう。

 

「「セーットアップ!」」

 

 それぞれ、虹色の魔力光と碧銀の魔力光に包まれながらにょきにょきと手足が伸びた。

 

 ヴィヴィオの胸なんかは可成りグラマーで、服装は嘗て大暴れした時のアンダースーツ。

 

 アインハルトもスレンダーな大人という感じだ。

 

 白を基調に短いスカートは薄い碧、長袖は普通に緑なバリアジャケット。

 

 そして二人に共通するはポニーテール。

 

「双子座!」

 

「獅子座!」

 

 セットアップ終了後に、二人が掲げた右腕の手首には銀色の腕輪が、それには金色の宝玉が填まる。

 

「「フルセット!」」

 

 言葉と同時にヴィヴィオの背後に双子座、アインハルトの背後に獅子座が浮かんで、其処から黄金に耀くオブジェが顕現した。

 

 カシャーンッ!

 

 オブジェはすぐに分解、細かなパーツに分かれると二人を鎧っていく。

 

 脚に腰に胸に腕に肩に、そして頭にヘッドギア。

 

「双子座の黄金星闘士……ヴィヴィオ!」

 

「獅子座の黄金星闘士……アインハルト!」

 

 軽くポージング。

 

「「推参!」」

 

 戦隊モノならカラフルな爆発でも起きそうだけど、取り敢えずは自分の魔力光で輝く二人であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 副司令とも云える身分のシュテルから命令を受け、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやてはそれぞれに時空震動が起きた地を調査する。

 

 また、アリサ・バニングスと月村すずかも召集を受けて任務に就いた。

 

 目的は三つのお客様……エルトリアのギアーズ二人に新暦七九年と新暦八二年から来る来訪者。

 

「キリエ・フローリアンの目的は王です」

 

「王様?」

 

「【闇統べる王】ロード・ディアーチェ。我々、マテリアルの纏め役ですね」

 

「ほんなら、わざわざ私に言うんは……」

 

「王はハヤテ、貴女を雛型としていますから」

 

「ああ、やっぱりなぁ……シュテルがなのはちゃん、レヴィがフェイトちゃんを雛型にしとるんなら、私を雛型にしとるマテリアルも居るっちゅー事やね」

 

 はやてもそんな気はしていたのである。

 

「どんな娘ぉか、判っとるんかな?」

 

「中二病真っ只中です」

 

「そ、そっか……」

 

 自分と同じ顔で中二病、はやても何と無〜く想像がついたのか、どうにも何かを言う事が出来なかった。

 

「痛いなぁ」

 

「痛いですね」

 

 シュテルも同情する。

 

「兎も角、闇王(ディアーチェ)は話を聞いてくれないかと思われますので」

 

「戦闘になるんはしゃーないかなぁ」

 

「はい」

 

 中二な病気なだけに聞く耳は持たない。

 

 何故なら、彼らは取り敢えず自分の言いたい事を叫ばずにはいられないから。

 

 会話も成立している様でずれている。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 別れて捜索をしていたらなのはが当たりを引く。

 

「嘘、双子座と獅子座……ジェミニとレオなの?」

 

 きらびやかな耀きを放つ黄金の鎧、その形は多少の差違こそあるが大きな変化は無いから解る。

 

 女性用に調整を受けて、明らかにそのボディラインは女性のモノであったし、顔も知っているものではないにせよ、纏う鎧は確かな黄金聖衣だった。

 

「なのは……さん……」

 

「すずかさん」

 

 シュテルがはやてを伴うのと同じく、なのはの方はすずかを伴っていた。

 

「私達を識ってる。なのはちゃん、やっぱり二人は」

 

「うん、みたいだね」

 

 双子座らしき黄金聖衣を纏う金髪をポニーテールに結わい付けた女性、左の瞳が紅で右の瞳が翠のオッドアイな肢体のメリハリが眩しい美少女。

 

 そして獅子座の黄金聖衣を纏うは、薄いグリーンが掛かった長い銀髪をやはりポニーテールに結わい付けており、左の瞳が青に右の瞳が紺色なオッドアイで、雪の様な白い肌とスレンダーな肢体な美少女だった。

 

(あれ、ポニーテール? 聞いた話だとヴィヴィオちゃんはサイドポニーだし、アインハルトちゃんはツインテールだったのに?)

 

 髪型が聞いていたのとは違うので、黄金聖衣を纏っているのはまだ魔力反応が在ったからセットアップしたのだと理解をしたけど、髪型でちょっと驚く。

 

「あのぉ……異世界からの渡航者の方ですよね?」

 

 なのはが問い掛けると、双子座の黄金聖衣を纏った女性が頷く。

 

「私達は地球連邦に所属する聖域(サンクチュアリ)、日本支部・正史編纂委員会の高町なのはです」

 

「同じく月村すずかです。貴女達のお名前は?」

 

 自己紹介後にすずかが問い掛けると……

 

「聖域ミッドチルダ支部、黄金星闘士(ゴールドセイント)の双子座・ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒト」

 

「同じく獅子座のハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトです」

 

 ちゃんと答えてくれた。

 

 尚、本来は鋼鉄聖衣を与えられて練習をしていたのだが、二人は過去から継承した“黄金星聖衣”を使う星闘士でもある。

 

「……え? ミッドチルダ支部って何かな?」

 

 ユートがミッドチルダに支部を創った話は聞いていなかったし、セイントとも名乗る二人に戸惑いを隠せないなのはとすずか。

 

「恐らく御二方は理解しているかと思いますが、私達は未来からの来訪者です。不測の事態ですが過去へと跳ばされて、今現在は此処に居る次第です。なので、勝手に地球に入りました事につきましては御寛恕願えると幸いです」

 

「ああ、まぁ。事故なのは聞いていますから、咎め立てはしませんよ」

 

「武装を解除して、此方に同行して頂けますか?」

 

 すずかが訊くと顔を見合わせた二人が頷き、聖衣と強化変身魔法を解除すると子供の……一〇歳と一二歳の姿へと戻った。

 

 どちらも制服を着ているのだが、地球とは違うからなのはもすずかも見覚えはなかったり。

 

 まあ、何はともあれ戦闘にもならず大人しく付いて来てくれるなら、なのは達としても文句は無い。

 

 その一方で……

 

灼火破壊(バーンブレイク)!」

 

「くうっ!」

 

 橙色な青銅聖衣の仔獅子星座(ライオネット)を纏うアリサが、大剣を手にした黒い衣服の騎士と戦闘を繰り広げていた。

 

 切っ掛けは単純明快で、黒騎士が戦闘する気満々な格好をして『ツンデレなバーニングさん!』……と、素でバニングスとバーニングを間違った上に、誤ってツンデレと呼んだのが琴線に触れてしまったのだ。

 

『誰がツンデレでダ・レが バーニングよ!』

 

 などとキレてしまって、フェイトが止める間もなく戦闘になったのだ。

 

 黒騎士に戦闘の意志など無く、本来の実力が上なのかどうかは定かではないのだが、少なくとも今現在は劣勢に立たされている。

 

灼熱蜥蜴(バーニングサラマンダァァァー)ッ!」

 

 拳から次々と放たれる炎の塊に、黒騎士は翻弄されながらも何とか躱す。

 

「くっ、バニングスさん……謝りますから静まって下さい!」

 

「喧しい!」

 

「おわっ!?」

 

 今度は蹴りだ。

 

どいつ(ユート)こいつ(黒騎士)も人をバーニングバーニングと!」

 

「うわ、うわっ!?」

 

 連続で放たれる蹴りを、どうにか避ける黒騎士。

 

「兎に角、一回くらいブッ飛ばされなさい!」

 

「じょ、冗談!」

 

 ヒートアップする様は、正にバーニングだが……

 

「ア、アリサ……取り敢えず話を聞こう?」

 

「ふん、如何にも悪者っぽい格好だったし、バーニング呼びが気に入らない! けどまあ、フェイトの言う事も一理あるわね」

 

 戦闘を中断するアリサに胸を撫で下ろす黒騎士。

 

「どうやら一応、い・ち・お・う・私の事は知ってるみたいだけど……」

 

 見た目の上では年上ではあるが、未来から来たなら本来は年下と判断したか、或いはこれがデフォなのか話し方は変わらない。

 

「お、俺はトーマ。トーマ・アヴェニールって云います!」

 

《私はリリィ・シュトロゼック。浮かんでいるのは、銀十字の書です》

 

「ひょっとしたらユニゾンデバイス? 何だかはやてとリインフォースと夜天の魔導書みたいね」

 

 二人の自己紹介にアリサは首を傾げた。

 

「あ、多分だけどそこら辺を真似たシステムかと」

 

 真正古代(エンシェント)ベルカの遺産、であるからには明らかにECウイルスの兵器が後発だろう。

 

 実際に、ウイルス自体は兎も角としてリアクトするべきリアクター、シュトロゼックシリーズを製作したのはヴァンデイン・コーポレーションだ。

 

 真似たというか参考にしたくらいだと思われる。

 

「だいたいの話はユートから聞かされてるわ。というより、アンタ……トーマはユートを識ってるの?」

 

「まあ、知り合いではあるんだけどね……」

 

 言葉を濁すトーマ。

 

「若しかしてコテンパンにのされちゃった?」

 

「うぐっ!」

 

 フェイトからの質問が槍の如く突き刺さる。

 

「ぼ、暴走した時に……」

 

 周囲がまともに見えず、荒れ狂った状態だったのをぶちのめされ、無理矢理に鎮められた……といよりは沈められたのだ。

 

《あはは……》

 

 リアクト・エンゲージをして、銀十字の書の管制をリリィがするまでフルボッコだったと云う。

 

「ユ、ユートらしいね」

 

「男には厳しい?」

 

「……それ否定出来ないよアリサ」

 

 そんな会話にあれこそが平常運転だと知り、トーマはガックリと項垂れた。

 

「ト、トーマ……ファイトだよ!」

 

「うう、慰めてくれてありがとうリリィ」

 

 トーマ・アヴェニール、ちょっとばかり情けない姿であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「やっと見付けた。やっぱり僕の冥界に引っ掛かっていたみたいだね」

 

 その世界に来れば冥界も自動で展開される仕組み、それ故にユートは可成りの前にこの世界に、神殺しになる前とはいえ来ていたから冥界も存在している。

 

「リニス。ゲームのGoDで登場していたにしても、闇の欠片事件は潰れたから何らかの形で何処かに存在するとは思ったけど……」

 

 闇の欠片よりはっきりとした意識を持ったリニスの記録再生体、プレシアは生き残ってしまったのだからリニスも見付かる筈だと、ユートは闇王捜しと平行してリニスも捜していた。

 

「さあ、目覚めの時だ……我は願う。それは深淵の底より来る者、忌むべきはその非道の行い。我が下僕となりて死界の穴より這い上がれその名を以て我は命じよう……【冥界返し(ヘブンズ・キャンセラー)】」

 

 神殺しとしての権能を使う際の聖句、冥王ハーデスが仮初めの命を聖闘士に与えたのと同じで、一二時間だけ生き返らせるモノだ。

 

「う……」

 

 猫の姿から人型に。

 

 何故か何も身に纏わない裸体を晒している。

 

「此処は……私はいったい……?」

 

「おはよう、リニス」

 

「……貴方が私のマスターですか?」

 

「まあ、そうだね」

 

 リニスは確かな繋がりを感じていた。

 

「私の前のマスターは……どうなったか判りますか? 判るなら教えて貰いたいのですが」

 

「普通に暮らしているよ。プレシアもフェイトも……アリシアやアルフもね」

 

「アリシア? いえ、私をこうして甦らせたマスターならば、死んだアリシアを生き返らせる事も?」

 

「そういう事だよ」

 

「……会いたい、プレシアにもフェイトとアルフにも……そしてアリシアにも」

 

「会わせるのは吝かじやあないんだ。だけど今の君は仮初めの……一二時間だけの生命でしかない」

 

「一二時間だけ……」

 

「だから訊こう。リニス、君は僕のモノとなって従う意志はあるか?」

 

「私はマスターの使い魔、ならば強制すれば……」

 

「無理矢理は良くないだろうに? だから従うからには願いも叶えようってね」

 

 飴と鞭みたいなものか。

 

「……私はプレシアと……フェイトとアルフみたいな関係を築きたかった。それを叶えてくれますか?」

 

「叶えよう。リニスを手に入れる為ならばその妄執を受け容れよう」

 

 その言葉にリニスは跪いて宣誓する。

 

「我が名はリニス。新たなマスター、私は貴方に忠誠を誓いましょう」

 

「闇に蠢く冥府の住人達、暗く果てない大地の底より魔なる星は甦る。汝ら我が闘士となりて来たれ!」

 

 リニスの宣誓に伴って、ユートは新たな聖句を口にして紡ぐ。

 

「【転輪する百八の魔星(ランブル・スペクターズ)】……地獣星ケットシーよ来たれ!」

 

 冥界の鉱石にて造られた冥衣、地星七二の一つである地獣星ケットシーを招喚したユート。

 

 正伝ではない【聖闘士星矢LC】に登場した冥闘士――地獣星ケットシーのチェシャが纏った冥衣だ。

 

 リニスがソッと冥衣へと触れると……

 

 カシャーンッ! 分解してリニスを鎧う。

 

「地獣星ケットシーのリニス……冥王たるマスターの下に」

 

 こうしてリニスは新たなユートの冥闘士となった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話:王様 降臨するは闇統べる王

.

 今、八神はやてに絶望の時が訪れていた。

 

 それは少し前……

 

「やっと見付けた」

 

 はやてとシュテルの前にピンク髪の女性が現れる。

 

「王様、初めましてぇ……私はキリエ・フローリアンと申しますぅ」

 

 ともすれば媚びていると取られかねない、甘ったるい喋り方ではやてに自己の紹介をしてきた。

 

「はぁ、初めましては確かにそうやけどな。あんな、キリエさんいうたかな? 私はキリエさんが言う王様ちゃうんよ」

 

「……へ?」

 

 はやてからの言葉に対しキリエは、全く意味が解らないと首を傾げる。

 

「私の名前は八神はやて。【夜天の魔導書】の現在のマスターです」

 

「夜天の魔導書? えっと……【闇の書】は?」

 

「綺麗サッパリ消えましたから、今はもう存在しとりませんよ」

 

「はい?」

 

 【闇の書】の中に存在してる永遠結晶エグザミア、【アンブレイカブル・ダーク】というシステムの核。

 

 【闇の書】が消滅したならエグザミアは?

 

 【システムU−D】は?

 

「私らの目的もキリエさんと同じや」

 

「私と同じ?」

 

「そ、王様やね。ちょお、目的があってな? 王様の確保をせなあかんねん」

 

「目的……ねぇ」

 

「キリエさんも一緒に来ぃへんか?」

 

「んん? 私も?」

 

「キリエさんの目的も実は識っとるんよ。必要なのは永遠結晶エグザミア。それを手に入れてエルトリアの【死触】をどうにかしたいゆうんやろ?」

 

「っ!? 何で? まさかアミタと接触したの?」

 

「アミタ? ああ、お姉さんのアミティエ・フローリアンさんの事やね。それは違うよ、私らは事情に詳しいブレインが居るだけや。王様の確保もそのブレインが予め、私らの司令官さんに言っとった事やもん」

 

 どうあっても原典通りにはいかないから、ある程度の指標をユートは司令官のクライド・ハラオウンへと伝えてあり、それを基にしてファジーに動かしているのが現状だ。

 

 例えばなのはがキリエに会う可能性もあったけど、この場合はなのはが王様に接触をしただろう。

 

「どや? 優斗君なら悪い様にせぇへんよ?」

 

「……悪いけど信用は出来ないわね」

 

「やっぱりかぁ。出逢うたその日に信用してくれ云うんは虫が良すぎやな」

 

「貴女が王様じゃないなら用は無いわね」

 

 飛び去ろうとするキリエだったが……

 

「私が居ますよ」

 

 待ったを掛ける者が此処に居た。

 

「……誰?」

 

「王の補佐役、理の構築体(マテリアル)たるシュテルと申します」

 

「! マテリアルッ!? どうしてそれがソコの娘と一緒に居るのかしら?」

 

「記憶を無くして彷徨っていた私を、ユートが拾ってくれましたので」

 

「……」

 

「今ならレヴィ……つまり【力】のマテリアルも共に居ますね」

 

「っ! 後は王様だけか。しかも【砕け得ぬ闇】たるエグザミアも確保済みね」

 

 シュテル・ザ・デストラクターとレヴィ・ザ・スラッシャーの構築体、そしてロード・ディアーチェが揃えば【システムU−D】の制御はし易くなる。

 

 ユートが彷徨うシュテルを拾ったのは、伊達や酔狂などでは決して無い。

 

「はっ!」

 

「この感覚は……王?」

 

 魔素が集まる。

 

 それを基にプログラム体がリアライズ、はやてに似た実体を作り始めていた。

 

 ぶっちゃけ、目付きを悪くした銀髪青目なはやて。

 

「ふふふ……はははっ……はーーっはっはっはっ! 黒天に座す闇統べる王! 降っ! 臨っっ!」

 

 その名はいと高き王――【闇統べる王(ロード・ディアーチェ)】。

 

「漲ぎるパゥワァァーッ! 溢れるぞ魔力ッ! 奮えるほど暗黒ゥゥゥゥウウウッッッ!」

 

 バッと両腕を開きながら叫び笑うディアーチェ。

 

「ホンマに中二病全開や」

 

 原典では気にしなかった筈だが、ユートに出逢って少し感覚が変わったのか?

 

 自分に似た“美少女”の発言に、八神はやては絶望にも似た表情を浮かべてしまうのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 相生家。

 

 今現在、相生呂守の部屋に璃亜が訪ねて来ている。

 

「兄さん、ボク達はどうするのかな?」

 

「どうって?」

 

「彼からは好きにして構わないって言われてるけど、ボクらはこれからどう動いていく?」

 

「……そう言われてもな。聖衣は取り上げられてないから確かに、地球で聖域に参加するのもアリだろう。ミッドチルダに渡って時空管理局に入るなり聖王教会に入るなりも可能だ」

 

 とはいえ、現段階で時空管理局というのは悪手。

 

 ユートは子供がどうの、違法がどうのには無頓着みたいに言ってはいたけど、そもそも原作でクイントが死亡し、メガーヌが利用をされていたりしたのだって管理局の不備からだ。

 

 トップである最高評議会からしたら、ゼスト隊とは極めて邪魔で不愉快な存在だったのだろう。

 

 況してや、自らの暗部を探る連中を生かしておくなどある筈もない。

 

 結果、ゼスト隊は全滅。

 

 他のメンバーは描写すら無かったが、隊長のゼストは死亡後にレリック・ウェポンの実験体に、クイント・ナカジマは死亡後に家族の許へ遺体が還された。

 

 メガーヌ・アルピーノは肉体的には生きていたが、謂わば仮死状態の侭に放置されており、ルーテシアに言う事を聞かせる道具扱いとなってしまう。

 

「……ミッドチルダに行けば助けられたりするか?」

 

「多分、意味が無い」

 

「何でだよ? そりゃあ、まだ俺らはセブンセンシズにすら目覚めていないし、黄金聖衣を持つには半端者かも知れないが、魔導師が相手なら敵は居ないぜ?」

 

 黄金聖闘士と呼ぶには、正しく半端者でしかないにせよ、それでもそこら辺の白銀聖闘士よりは強い筈。

 

 白銀聖闘士の最高峰とは極超音速――ハイパーソニックに達するマッハ5以上という速度。

 

 最低限でもマッハ2以上という超音速である。

 

 翻って魔導師は高速型のフェイトでさえ、最高速度はマッハ1に到達するか否か程度の亜音速が通常でしかなく、良くて音速にまで到達が出来る程度。

 

 それはスカリエッティの娘達の三番目も同じ。

 

 音速にまでは届くけど、超音速には届かない。

 

 だけどそれでも彼女らは並ぶ者の少ない高速型。

 

 聖闘士なら青銅聖闘士を相手にするのがやっとで、然し高速型の基本的な弱点である紙装甲は、聖闘士の原子を砕く拳に一発で沈められてしまうだろう。

 

 なのはみたいな防御力が高いタイプは、スピードがどうしても犠牲となる。

 

 つまり、相生呂守であれば半端者とはいえ魔導師に敗ける道理が無い。

 

 それは相生璃亜も同様。

 

「ユートさんはミッドチルダや時空管理局という組織は興味が無いらしいけど、それでもある程度の関わりを持てば放って置くのも違うって思うみたい」

 

「ん? 管理局に入局するって事か?」

 

「違う。ボクも話に聞いただけだけど、地上本部の方にテコ入れしたみたいだ」

 

「地上本部……? ああ、ゼスト隊やナカジマ一家やレジアスか?」

 

「将来的にはランスターやキャロもね」

 

 確かに今挙げたのは基本的には地上の局員であり、本局が関わるのは機動六課絡みの時くらい。

 

 機動六課が解散後には、ある程度の進路を融通する約束をしていた筈。

 

「エリオ・モンディアルはどうなるんだろうな?」

 

 主人公でもないのに何故か行き成りラッキースケベをキャロにかましたけど、エリオ本人は顔が紅くなって謝ったものの、キャロは特に気にした風でもなかったのが対照的だった。

 

 これでもう少し成長していた時期ならば、エリオの股間が潰されていてもおかしくなかっただろう。

 

 照れ隠しで股間を蹴り潰すとかで。

 

 二重の意味でラッキー。

 

 まあ、キャロが其処まで殺るかは兎も角として。

 

 そんなエリオ・モンディアルだが、ユートが若しも死んだモンディアル家子息のエリオ・モンディアルを救った場合、後に造られた記憶転写型クローンである彼は存在しなくなる。

 

 また、仮にエリオ誕生の為にオリジナルを見殺しにしたとしても、フェイトが管理局の執務官でないなら研究所から救われた後に、荒れたエリオがどうなるかなど火を見るより明らか。

 

 間違いなく【Fの遺産】の残滓として、ジェイル・スカリエッティに下げ渡されていくだろう。

 

 最高評議会が手を回せば後ろ楯も無いクローン体の小僧など、何とでも出来てしまうというのが謂わば腐れた現実というやつ。

 

 実際、モンディアル夫妻は紙を見せられてエリオを諦めていた辺り、明言こそされていなかったにしても最高評議会が手を回していた可能性が高い。

 

 法的機関からの追及で、諸々の手続きが成されていたからこそ、モンディアル夫妻はエリオを手放すしか無くなったのだろう。

 

 この場合、法的機関とは時空管理局しか有り得ないから解り易い。

 

 仮令、明言されていなくても法的機関=管理局。

 

 それも通常の部署などではなく、裏から最高評議会が手を回せる暗部だ。

 

 明言されていないのなら管理局ではない?

 

 それは都合の良い妄想。

 

 【Fの遺産】に最も興味を注いでいたのは誰だ? そいつを裏から操っていたのは一体何処のどいつだ?

 

 そしてそいつらは好都合な正義の皮を被った脳ミソであり、黎明期の頃ならばいざ知らず現在でも果たして正義足り得るのか?

 

 所詮、虎の皮を被っても狐は狐でしかない。

 

 正義の皮を被ったとしても悪は悪、そんな正義に悪と称されるならばユートは悪でも良かった。

 

 寧ろ、『俺は相当、邪悪だぜ!』と叫んでも構わないくらい。

 

 ユートは正義の味方では決してなく、況してや悪党という訳でもないのだが、それでもユートは【悪】であるのだろう。

 

「この場合、オリジナルを救えば原作のエリオ・モンディアルは誕生すらしないだろうし、オリジナルを見捨ててもフェイトちゃんが執務官じゃないから救われないよね」

 

「生まれる筈だったってのを無視すれば、問題とかは無いんだろうけどな」

 

 寧ろクローンなエリオの誕生こそイレギュラー。

 

 ユートが、オリジナルを見捨ててまでも誕生させる意味を見出だすのか?

 

「多分、この世界で誕生はしないんだろうね」

 

 璃亜もまだそれ程に長い付き合いではないにせよ、ちょっと考えればユートの為人はだいたい判った。

 

「彼は原作通りに進ませようとは思ってない」

 

「だからエリオを誕生させないと?」

 

「結局、どちらかしか選べないのならオリジナルを見捨てず、騎士のエリオ誕生をスルーするんじゃない? アニメだと生まれているんだから、モンディアル家のエリオに死ね……だなんて言えないでしょ」

 

「そうだな……」

 

 死ぬ運命を覆してでも、デメリットは若き竜騎士の誕生を潰す、メリットとはモンディアル夫妻に余計な罪禍を背負わせない。

 

 恐らくオリジナルであるエリオ・モンディアルは、魔力を碌に持たない一般人だと思われる。

 

 アリシアとフェイトという関係性を見れば解るが、オリジナルに魔力が無いからといって、クローン先に魔力が宿らないとは限らないのだ。

 

 プレシアの態度から彼女はフェイト――記憶転写型クローンを、人造魔導師としては造っていない。

 

 高い魔力を得ていたのは偶然の産物だろう。

 

 或いは、プロジェクトFで造られたクローンに魔力が宿る様に、スカリエッティが技術内に組み込んでいた可能性もあるが……

 

 どちらにせよオリジナルのエリオ・モンディアル、彼が魔導師や騎士となるのは有り得ない未来である。

 

 初めから魔力が高かったキャロ、ティアナ、スバルは別方向からアプローチをすれば良いし、エリオに関しては竜騎士エリオの誕生そのものを潰す方向性となるのだと、璃亜は何と無くだが理解をしていた。

 

「そういや、地上本部へのテコ入れって何だ?」

 

「兄さんは余りあの人には関わらないし、聞いてないのかもしれないけどね? 仮面ライダーの量産型ってのを大量に売ったって」

 

「量産型仮面ライダー? っても幾つか在るぞ」

 

 量産型仮面ライダー。

 

 その礎となるのは意外にも初代、仮面ライダー1号と仮面ライダー2号が活躍した【仮面ライダー】から登場した【ショッカーライダー】である。

 

 ショッカー風に云うと、そもそも仮面ライダーとは『バッタ男』という名前の改造人間だが、脳改造前に脱走をして仮面ライダーと名乗る様になった。

 

 つまり元々の技術自体はショッカー側に在る為に、その気になれば同じ怪人を量産も可能らしい。

 

 まあ、ショッカーライダーを造ったのはゲルショッカーなんだけど。

 

 一応、量産型とはいってもオリジナルとスペック的には同じとか、意外と性能は高く造られている。

 

 決してガンダムに於けるジムではない……とか。

 

 それ以降で量産型仮面ライダーは造られないけど、【仮面ライダー555】で満を持して? 登場したのが【ライオトルーパー】。

 

 TVでは数名だけでしかないが、劇場版ではリアルに一万名が登場している。

 

 その後の量産型といえば――【仮面ライダーメイジ】や【黒影トルーパー】や【ライドプレイヤー】などが出ており、明確な活躍をしていない【仮面ライダーアギト】での【仮面ライダーG5】や【仮面ライダードライブ】では【仮面ライダーマッハ】が量産されるみたいに云われた。

 

 【仮面ライダーネクロム】も劇場版に三体、TV版に一体が登場しているけど量産型と云えるか微妙。

 

「造ったのはライオトルーパーだって」

 

「ファイズからか……」

 

 そもそも、ユートの知識にはライドプレイヤーとか黒影トルーパーとか仮面ライダーネクロムは無い。

 

 G5は識っているけど、G3を鑑みれば戦力的には微妙だと考えたろうし。

 

 配備されたのもアンノウンが消えた後の筈だ。

 

 一番の強敵たるグロンギやアンノウンが消えた後に配備されたG5の能力は、少なくともG3−Xに比べれば案山子も同然というのがユートの認識。

 

 最低限でG3よりマシなレベルの大量生産品だ。

 

 G3が基本的にやられ役だったみたいに、怪人と戦うには足りないスペック。

 

 とはいえ、アギトの世界では怪人が居なくなっていたから、既にそれでも充分なスペックだったろう。

 

「実は最近、彼に会った。それで聞いたんだけどね、その時に御試しだって変身させて貰ったんだ」

 

「なっ! 羨ましいぞ!」

 

「兄さんはユートさんとは関わりが薄い、だからこそこういう時にハブられるんだよ?」

 

「うぐっ!」

 

 出逢いが良くなかったから苦手意識があるのだ。

 

「あれって、魔導師だけでなく非魔導師でも扱える様にしたデバイスだったよ」

 

「デバイスだって?」

 

「うん。電気を魔力に変換するコンバーターを装備していて、基本的には誰でもライオトルーパーになれるみたい。アンダースーツやアーマーも、魔力で形作られたバリアジャケットみたいなモノだったし」

 

「へぇ……」

 

 まさか本物という訳でもないとは思っていたけど、よもやのバリアジャケットだと云うのに感心した。

 

「然し電気を魔力に変換? どうやってだ?」

 

「そこまでは解んないよ。変換機(コンバーター)を積んでいると言ってたけど」

 

 全ての物質は暗黒物質、即ちダークマタを最源流としており、それは精神的なエネルギーも同様。

 

 神々の力たる神力(デュナミス)でさえ、そこは変わらないのである。

 

 神々とてマクロ宇宙発生の大爆発(ビッグバン)にて発生した存在、それよりも以前から在ったのは謂わば【大いなる意志(ビッグ・ウィル)】とされる存在。

 

 混沌の海そのものだ。

 

 それはアザトースであったりL様であったり様々、そんな幾つもの意志が宇宙の侵食者を討つべく放ったのがビッグバンだった。

 

 尤もそれは百億年程度のスパンで時間稼ぎしただけに過ぎず、未だに侵食者はこの宇宙の外から狙いを定めてきている。

 

 全ての支配を目論む機械の化け物だろうが、平行する世界すら統一して自らに染める魔神の我であろうが構わない、あの侵食者を討てるならば今の宇宙の破滅すら容認すると、彼の意志達は口々に宣っていた。

 

 そんな意志が放った無限の暗黒物質、ダークマタは人類からすれば未知でしかないモノだが、物質にして精神という矛盾すら孕んだ代物であり、魔素もやはり暗黒物質から生まれた派生したエネルギーだ。

 

 物質にして精神を地で往く魔素は、一つ所に留め置けば魔物を湧出させる。

 

 肉体の物質化(マテリアライゼーション)と精神と魂の固着化(ソウルアップ)が同時に起こり、一瞬にして魔物という生命体を産み出していた。

 

 そして魔素というのは、魔力の素焼きをしたモノ。

 

 例えば、魔素を体内へと取り込んだ魔法使いが如何にしてかは兎も角、精錬をして魔力へと換え魔法なり魔術なりを使う。

 

 型月辺りで云う大源とか小源が言い方に近い。

 

 ともあれ、電気も謂わば大元となるのはダークマタであり、ユートは機械的に電気をダークマタに還し、それを再び魔力化しているのがコンバーターユニットという訳だ。

 

 電気専用だから電気さえ有れば魔力を補充可能で、ライオットフォンを充電しておけば、魔法的デバイスとして活用が出来る。

 

「魔法具とか魔導具とか、そう呼ばれる物を扱うのは得意だって言ってた」

 

「限度があるだろうが」

 

「世界の現象に理不尽さは無く、全ては計算が可能なシステムとなっている……だから魔導具は造れるというのが持論だって」

 

「マジにか……」

 

「アジュカも大いに賛同してくれたとも言ってたよ」

 

「アジュカ?」

 

 少し首を傾げる呂守ではあるが、紹介された連中の中に塔城小猫やアーシア・アルジェントが居たのを思い出した。

 

「アジュカ・ベルゼブブ」

 

 四大魔王の一角であり、その手の技術には一家言を持つアスタロト家の天才、超越者アジュカ・ベルゼブブという存在。

 

 彼はこの世の法則の全て計算式で成り立つとさえ、言い放ち止まない程に別のナニかを世界に視ていた。

 

「あ、それから龍騎になっちゃったよ」

 

「何だ、そりゃ?」

 

「仮面ライダー龍騎」

 

「そりゃ理解しているよ。龍騎になったって意味が解らないと言って……は! まさか?」

 

「うん、彼が龍騎のカードデッキを貸してくれてね。あ、でもドラゴンナイトな変身だったけどね」

 

「ああ、鏡に向かってとかじゃなくて叫んだのか?」

 

 仮面ライダー龍騎の海外バージョン、【KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT】が存在しているが、あれは変身の時に『カメンライダー!』と叫んでベルトを顕現させている。

 

「一応、どっちも可能な様に造ったらしいけどね」

 

「鏡とか写る物が無かったってか?」

 

「うん」

 

「で、それもデバイス?」

 

「違うみたい」

 

「というと?」

 

神器(セイクリッド・ギア)で創った聖魔獣を着込む形らしいよ」

 

「……は?」

 

 神器は識っている。

 

 【ハイスクールD×D】世界に行っていたのだし、持っていても別に不思議ではないだろう。

 

「聖魔獣?」

 

「元々は【魔獣創造】って上位神滅具(ハイ・ロンギヌス)で、禁手になったら聖魔獣の創造が出来る様になったらしいよ」

 

「木場祐斗の神器である、魔剣創造の禁手と同じ」

 

「【至高と究極の聖魔獣】って名前なんだって」

 

「完っ全っに亜種だな」

 

「一部以外の仮面ライダーは聖魔獣で創ったみたい」

 

「一部以外?」

 

「仮面ライダーウィザードや仮面ライダービルド」

 

 より正確に云うならば、仮面ライダービルドを造ったのはユーキだ。

 

 エボルドライバーも一緒に造って、ダークライダー好きなユートに渡したし。

 

「まあ、取り敢えず仮面ライダー系は色々と自分の持つ技術を応用して造れる……って訳か」

 

 そして量産型として造られたライオトルーパーを、ユートは地上本部の未来のトップ――レジアス・ゲイズ少将に売ったらしい。

 

 中将になるのはもう少し先の事みたいだ。

 

「いずれにせよ、ミッドチルダにも干渉はしてるか。俺らは……どうするべきなのかね?」

 

 最初の璃亜の言葉を呂守は噛み締める様に呟いた。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話:大混乱 集まる鍵の少女達

.

「む? 貴様は小鴉か? それと何だその頭の悪そうなのは?」

 

「ええっ!? それってば若しかして私の事?」

 

 行き成りな科白に吃驚なキリエ、それは全くの心外だと心中で思った。

 

「あやや、口が悪いなぁ」

 

「ふん、我の口調に文句など言わせんわ!」

 

「ほんま、王様やねぇ」

 

 偉そうな口振りは確かに王様らしいかも知れない。

 とはいえ、キリエ的には彼女らの話には付いていけないけど、王様が現れてくれたのなら良い機会なのだろう。

 

「折角だ、王たるこの身の無敵の力! さっそく披露してやるとしよう!」

 

 はやてのシュベルトクロイツに似た杖を手にして、王様――ロード・ディアーチェがニヤリと笑う。

 

「我が主!」

 

「リインフォース!」

 

 リインフォースが合流、目の前のはやてそっくりな2Pカラーを見遣る。

 

「あれが嘗て闇の書の中に在った【闇統べる王】」

 

「はい。私達マテリアルを纏める王です。とはいえ、降臨したばかりでは魔力が不安定、今なら戦って勝つ事も難しくありません」

 

「んん、なら取り敢えずは制圧しよか」

 

 必要不可欠なマテリアル三人娘、そしてフローリアンであるキリエも居た。

 

 連絡を受けて未来からの来訪者、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトとアインハルトとトーマとリリィは確保、この二人を確保したならば残りはアミティエ・フローリアンのみだ。

 

 ヴィヴィオは本来の流れではなのはの義娘らしく、高町ヴィヴィオとなっていたと聞くが、ゼーゲブレヒトを名乗った辺り未来では随分と歴史が違うらしい。

 

「さあ、一踏ん張りやな」

 

「では、我が主」

 

 はやてとリインフォースが向き合う。

 

「「ユニゾン・イン!」」

 

 ユニゾン。

 

 融合騎と呼ばれる特殊なデバイス、リインフォースはそんな融合騎の一騎。

 

 融合すると多少の外見が変化し、パワーアップしてしまえるから便利。

 

 元々、大容量な魔力持ちの八神はやては並列処理が苦手なのだが、ユニゾンしたリインフォースがそちらの処理も可能となり。

 

「ほう、融合したか」

 

 【闇統べる王】は余裕な態度でリインフォースとの融合をしたはやてを見る。

 

 今のはやては騎士甲冑な姿は元より、髪の毛や瞳の色に変化があった。

 

 剣十字(シュベルトクロイツ)を握るはやて。

 

 正確にはシュベルトクロイツとは、未来ではやてが今の杖の代わりをデバイスとして造った物だが……

 

「大空聖衣・(クロウ)! スタンバイ!」

 

《Ready Setup》

 

 黒い鴉を象った機械的なオブジェが顕れた。

 

 夜空に輝く星々。

 

 古来、人はその並びへと名前と形を見出だした。

 

 星座と呼ばれるそれは、基本的に生物を象る。

 

 空を翔るモノ。

 

 海を泳ぐモノ。

 

 地を走るモノ。

 

 無論、無生物な星座とて存在している。

 

 顕微鏡座やら杯座やら、アルゴ船を形作る要素には艫座や竜骨座や羅針盤座や帆座なども在るが、これらは生物でなくとも大海聖衣にカテゴライズされる。

 

 とはいえ大半が生物で、故に大空と大海と大地という名前を持たせたのだ。

 

 なのはとフェイトと加えてすずか、この三人に与えたのは空を舞う鳥を象った大空聖衣。

 

 そしてはやてに与えたのも烏座から大空聖衣だ。

 

 尚、これらの読み方だがオリジナル鋼鉄聖衣から、大空聖衣(スカイクロス)大海聖衣(マリンクロス)大地聖衣(ランドクロス)と呼ばれている。

 

(うん、優斗君の事やから狸関連の星座が有ったら、間違いなくそっちを造っとったんやろうね)

 

 小狸座とか?

 

 残念だが小狐座ならあるのだけど。

 

「な、何だそれは!?」

 

「夜空に煌めく星々の並び……星座を象る鋼鉄聖衣! 大空聖衣(スカイクロス)(クロウ)や!」

 

 小鴉なだけに。

 

「よもや我も知らぬ武装を持ち出すとはな! だが、我とて長々と雌伏の時を過ごしてはおらぬわ!」

 

「待って下さい王よ」

 

「うん? ……貴様まさかシュテルか?」

 

「ロード・ディアーチェ、この姿ではお初です」

 

 呼ばれて振り向けば何と無く解る気配、自分と比べ見た目が中学生くらいだからすぐに気付かなかった。

 

「何故シュテルが小鴉と共に在るのだ!?」

 

「それは記憶を喪い彷徨っていたのを、彼女らを纏める方に救われたからです」

 

「むむ?」

 

 仲間な筈のマテリアル−Sたるシュテルがまさかの離反、ディアーチェとしては戸惑いを隠せない。

 

「序でに言うならレヴィも確保済みですよ」

 

「な、何だとぉぉっ!?」

 

 マテリアル三基の中で、既に二基があちら側に与している……そんな情報を受けては驚くしかない。

 

「という訳でディアーチェも来ませんか?」

 

「ぬぬぅっ!」

 

 おいでおいでしてる。

 

「ディアーチェのしたい事は理解もしますが、地球で下手に暴れたらユートに潰されますよ?」

 

「塵芥などに潰される筈があるまい! 【砕け得ぬ闇】さえ手に入れば!」

 

「そちらも既にユートにより回収されてます」

 

「なっ!? ぬわんだとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 最早、ディアーチェとて開いた口が塞がらない。

 

「それにやりたい事に理解は示しますが、私はユートの傍に在りたいので参加は出来ませんよ?」

 

「シュテル! 貴様は!」

 

 真っ向から裏切り宣言、然しながらシュテルは元々の所属が紫天ファミリーというだけで、記憶喪失状態で彷徨ってユートに拾われた時点でユート陣営、記憶が戻ると同時に紫天陣営に戻るかユート陣営に残るか選んだだけ。

 

 ユートの嫌いな、不利になったから裏切る裏切者という訳ではない。

 

 まあ、ユートの場合だと傭兵の仁義みたいなものが根底に有り、それに関してはファイゼル・リッターと仲良くなったのが大きい。

 

 ハルケギニア時代にて、彼方側――ゼロの使い魔――の世界に習合されていたエレンシア大陸より来て、早い内にユートと接触を持った【新生フェンリル】。

 

 そのリーダーとなるのがファイゼル・リッターだ。

 

 エレンシア大陸での戦争――エレンシア戦役が終結して後、戦闘集団で在り続けるのは難しいと考えていたファイゼルは、政治関連を仲間だった二人に任せて大陸を出奔。

 

 愛するラピスを筆頭に、ファイゼルの新しく創った傭兵団【新生フェンリル】で船旅に出る。

 

 その果てに流れ着いたのがハルケギニア大陸。

 

 ファイゼルはユートと共に提唱された傭兵の纏めを積極的に行い、最終的には戦争が無ければ必要とされない傭兵を、冒険者という形で活かす仕事に就いた。

 

 ハルケギニアにはユートが創ったダンジョンが存在するし、ハルケギニア大陸で出されるクエストでお金は稼げる為、傭兵達は皆が基本的に冒険者と化した。

 

 それは兎も角として……

 

 傭兵は雇い主を絶対に裏切ってはならない。

 

 これがファイゼルの言う傭兵の仁義、下手に傭兵が裏切ったりすると他の傭兵も裏切るのではないか? と懸念されるからだ。

 

 だからエレンシア大陸に於いて、傭兵は裏切者を許したりはしない。

 

 仮に味方であれ裏切者の傭兵は処分されるのだ。

 

 但し、裏切っても構わない事が唯一存在する。

 

 即ち、雇い主が先に裏切った場合という訳だ。

 

 偶にあるらしい。

 

 報酬の払い渋りとかで、雇い主が傭兵を裏切るという事態が。

 

 ある意味で当然の仁義、だけど守られるとは限らないから堪らない。

 

 取り敢えずシュテルのは全くの別物だった。

 

「くっ! よもやシュテルが彼方に付くとは……な。しかもレヴィは既に確保をされているとか! 更には【砕け得ぬ闇】もだと?」

 

 ぐぬぬ! とばかりに、ディアーチェはシュテルを睨み付けた。

 

「お願いですディアーチェ……降伏しろとかは言いませんから、私達と一緒に来て貰えませんか?」

 

「くっ、信用ならんわ!」

 

「私は貴女と同じく紫天の下に集う者。マテリアルなのですよ?」

 

「どうやら男に絆された様に見えるが? 大方、その男のモノに貫かれアンアンと啼かされたのであろう? 快楽に堕ちよって!」

 

「……ポッ」

 

「無表情で頬を染めるな! 何だか無性に腹が立ってならんわ!」

 

 数百年前に跳ばされて、ほむらとシュテルはベルカの群雄割拠に巻き込まれ、戦わざるを得なかった。

 

 そうなるとユートは血に酔う事もあり、敵兵に女が居れば荒々しく壊しかねない勢いで犯す事も。

 

 それが無辜の民にまでも波及しない様、シュテルがその身を捧げたのである。

 

 幸いにも人間ではなく、マテリアルでプログラム体なシュテルは、肉体的にはそれなりに頑丈だったから受け容れ、受け止める事も何とか出来た。

 

 問題は同じく過去に跳ばされた暁美ほむら。

 

 彼女は魔法少女であり、然しながらソウルジェムから解放された存在。

 

 同じ魔法少女でも此方のリリカル製と異なる。

 

 インキュベイター製となる“魔法少女”と呼ばれる存在は、ソウルジェムという小さな宝珠に魂を移し、肉体は謂わばラジコンみたいに動かす器と化す。

 

 その気になれば痛みなどキャンセル出来てしまい、壊れても魔力で修復してしまえる。

 

 ソウルジェムこそ本体。

 

 原典で巴 マミが『マミられ』て死亡をしたのは、飽く迄も頭に着けた飾りとしてのソウルジェムが砕けたからだ。

 

 万が一にもソウルジェムが無事なら仮令、頭から喰われていても修復して生き永らえていたであろう。

 

 まあ、だから実は肉体だけなら不老を貫けたかも知れないが、精神までは人間の侭なのは痛い話。

 

 尚、この世界ではほむらがあれで仲違いしてないにせよ、普通に『マミられ』掛けたがユートにギリギリで救われている。

 

 実際には『マミられ』たのを、権能の【刻の支配者(ハイパークロックアップ)】で時間遡行して助けた。

 

 正確には遡行ではなく、時間の巻き戻しだけど。

 

 あれは普通に時間遡行も可能だが、巻き戻しというのも可能としている。

 

 違いは時間遡行が空間を跳んで過去へ戻るのだが、時間巻き戻しは正にビデオで巻き戻しをするかの如く戻っていく。

 

 そして後者はパラレル化をしない。

 

 『マミられ』たマミと、『マミられ』なかったマミの世界線が、別に創られたりはしないという訳だ。

 

 巴 マミは先輩キャラを演じ、男慣れなどしていない寂しん坊な少女だから、『チョロイン』みたくあっさりとユートに惚れた。

 

 まあ、マミの力を借りるのに時間が掛からないのは良い事だろう。

 

 それは置いといて……

 

 暁美ほむらは魔法少女とはいえその身は人間。

 

 数百年なんて生きられる訳がないのである。

 

 だからユートはほむらに選択肢を与えた。

 

 選択肢は三つ。

 

 一つ目はこの古代ベルカの時代を数十年間を生き、極普通に老いて死ぬという過去時代で終わるルート。

 

 二つ目がコールドスリープなりハイバネーションなりをし、数百年という年月を永らえて過去に跳ばされた直後で覚醒するルート。

 

 三つ目がいっそユートの閃姫となり、共に数百年間を生き抜くルートだ。

 

 ほむらはシュテルを見て更には、ユートと仲良しなオリヴィエやヴィルフリッドを見て、意を決した様に選択肢に答えた。

 

 つまり閃姫となるルートを選んだのである。

 

 ユートは殊更にほむらを性的な目で見てこないが、実はそれが結構ショックだったりするし。

 

 それは即ち、暁美ほむらが魅力的には映ってないと言われた様なもの。

 

 確かに巴 マミに比べれば胸は薄いけど……

 

 そんな自虐に走ったり。

 

 それで閃姫契約の話。

 

 閃姫とは異世界に於いてユートの特殊な武姫だが、この世界でのユートは使徒の事を閃姫と呼んだ。

 

 契約条件はそれ程に厳しくもない。

 

 処女である事。

 

 契約を受け容れる事。

 

 敵意が無い事。

 

 とはいえ、処女でなくとも一応の契約は可能だが、その場合は真の契約者より特典が少ない。

 

 それでも精神強化は有り難いであろう。

 

 ほむらは紅くなりながらも喜んで受け容れた。

 

 実際年齢的には兎も角、幾らかの逆行でそれなりに精神年齢は高い。

 

 知識はどうあれ契約するのに必要な行為に関して、ほむらは確りと理解を示していたのである。

 

 シャワーを浴びてバスタオルに包まれた凹凸の少ない肢体、当然ながら眼鏡も掛けてないし髪の毛もいつもの御下げではない為に、この時ばかりはあのほむらを彷彿とさせる姿。

 

 目付きだけが違う。

 

 キスを受け容れ、愛撫を受け容れ、そして自分自身の胎内でユートの分身をも受け容れて契約をした。

 

 古代ベルカの時代を生き抜く為には力も必要だし、閃姫契約をすれば身体能力もブーストされるから便利は便利である。

 

 魔法少女としては最弱、故にそれ以外の力が必須。

 

 実際にほむらが戦う際、暴力団の事務所から拳銃を失敬したりして、武装頼りな戦い方だったのだから。

 

 魔法少女として多少の、ちょっとした時間操作くらいは可能だが、元々の魔力が低いのは如何ともし難い実状であろう。

 

 それに幼気な少女の姿、敵性国家の一般兵士にとっては殺すよりも愉しい事をしたいだろうし、正体を隠す意味でも仮面ライダーに変身をさせた。

 

 時間逆行的な意味合いからオーディンでも良いが、敢えて仮面ライダーカイザを用いてみる。

 

 カイザドライバーを腰に装着、各種のツールを装備したほむらがカイザフォンに【913】と入力して、【ENTER】キーを押す。

 

 『変身!』と叫びながらカイザフォンをドライバーのバックルに装填すると、黄色のダブルストリームが身体を走り、黒のアンダースーツとアーマーが鎧う。

 

 尚、魔法少女の力も併用可能だから寧ろライダーになった方が強い。

 

 仮面ライダーカイザとはいえ、別に一回変身したら灰になって崩れ去る訳でもなければ、オルフェノクの印が必要な訳でも無い。

 

 何しろそいつはユートの創った聖魔獣カイザだし、単純な能力で云うなら悪魔や天使や堕天使の最上級を相手取れる。

 

 主役級の仮面ライダー、ファイズやブレイドならば更にパワーアップをして、魔王級とも充分以上に殺り合えるのだ。

 

 否、パワーアップしなくともカンピオーネの肉体を持つユートが変身したら、それだけでも魔王級の力を越えてしまう。

 

 それは元々が仮面ライダーにも勝るとも劣らない、そんな身体能力に+をして仮面ライダーの力が有るのだから当然かも知れない。

 

 幾らベルカの騎士とはいっても人間、魔法で身体の能力を上げてもやはりタカが知れている為、そんなのを――仮面ライダーを相手に勝てる筈も無かった。

 

 聖王オリヴィエ――双子座星聖衣。

 

 覇王イングヴァルト――獅子座星聖衣。

 

 拳士ヴィルフリッド・エレミア――牡牛座星聖衣。

 

 この三人に黄金星聖衣を与えていた為、ユート側は基本的に仮面ライダーでの戦闘が主だ。

 

 折角だから、シュテルにはルシフェリオンとルシファーズハンマー繋がりからデルタギアを渡しておき、ユート自身はファイズでの戦闘をしていた。

 

 レジアスへ渡したのが、【ライオトルーパー】を元にしたツールだったのは、真王ユートとその妻――という事になっていたらしい――シュテルとほむらが使った仮面ライダーが所謂、【仮面ライダー555】系であったからだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ユートに快楽責めされ、心を堕とされてしまったのは否定しません」

 

「せぬのか!?」

 

「した処で無意味です」

 

 数百年間をほむらと共に寄り添ったのだ。

 

 今更、ユートから離れる選択なぞ選べはしない。

 

 選べる程に浅い繋がりではなくなっている。

 

「ですがそれだけにユートをよく知る機会に恵まれ、私は彼と敵対する道が貴女の志しを妨げると、その様に判断をしました」

 

「チッ、流石に口はよく回る様だなシュテル」

 

「御褒めに与り光栄です」

 

「褒めとらん! 嫌味に決まっておろう戯けめが!」

 

 激昂するディアーチェ、シュテルは涼しい表情。

 

「まあまあ、余り怒っても精神衛生上よくありませんから。少し落ち着きませんか? ディアーチェ」

 

「だ、誰の所為だと……」

 

 “頭痛が痛い”と謂わんばかりに頭を抱える。

 

「それでどうです?」

 

「何故に今までのやり取りから、我がシュテルに賛同すると思えるのか?」

 

「ダメ……ですか?」

 

「ええい! 上目遣いして涙ぐむな! いったい何を覚えて来とるんだ!」

 

「私がこの仕草でユートの男の子を舐めて上げると、ユートは悦びますから」

 

「聞いとらんわ! お前の艶話しなんぞ!」

 

 少し顔が紅い辺り何も感じてない訳ではなさそう。

 

「ふう、成るべく説得は尽くした心算ですが」

 

 バッッ! 服を裾からはためかせると、腰には少し派手なバックルが付いてるベルトが装着されていた。

 

「――ぬ?」

 

 シュテルが右手に持つはデルタフォン、それに向けて――「変身っ!」――と叫んだ。

 

《STANDING BY!》

 

 そして電子音声と待機音が響くそれを……

 

《COMPLETE!》

 

 デルタムーバのスリットへと装填した。

 

 白いブライトストリームがシュテルの身体を走り、アンダースーツとアーマーがその身を鎧う。

 

 白と黒のモノトーンで、赤いアルティメットファインダー、拡張性は無いけど仮面ライダーデルタは出力がファイズやカイザを上回っていた。

 

 それに拡張性が無いのは飽く迄も原典。

 

 付けようと思えば普通に付ける事も可能であるし、何よりシュテルは魔導師な訳だから魔法も扱える分、多少のデメリットも補って余りある。

 

 デルタフォンとデルタムーバを合体したブラスタ、わざわざそれを引き抜かなくても手にルシフェリオンを出現させた。

 

「少し痛い思いをして貰いますが、我慢をして下さいディアーチェ」

 

「我と戦うかシュテル!」

 

 互いに杖を持ち相対するシュテルとディアーチェ。

 

「あら? 私はどうしたら良いのかしら? 王様が戦うとなると……ねぇ」

 

 キリエはパチクリと目を瞬かせ、頭を掻き上げながら拳銃を手にする。

 

「キリエさん、あんたの事は私が相手を……」

 

 『する』と、はやてが言おうとした瞬間に……

 

「待ちなさいッ!」

 

 新たな声が響いた。

 

「今度は何やの?」

 

「あらあら、アミタったらまたかしらぁ?」

 

「アミタ? アミティエ・フローリアンさんかい! 全く以て千客万来やね」

 

 確かに声のした方を見遣れば、赤毛を御下げ一本に結わい付けた女性。

 

 然しながら、武器や服装の意匠は色違いでキリエと同じものだ。

 

「黒羽白髪なお嬢さん……ピンクで不肖の妹が御迷惑をお掛けしました! この場は私が何とかします! なので皆さんは下がっていてください!」

 

「ちょ、アミタ! 手を出さないでってば! だいたい貴女ウィルスは?」

 

 キリエ訊ねるとアミタは握り拳を作り言い放つ。

 

「あんなもの気合いで!」

 

「はぁぁぁっ!?」

 

「そう! 気合で何とかしてみせます! それこそが私の中に燃え上がるお姉ちゃん魂ぃぃぃっ!」

 

「って、どんな魂や!?」

 

 ポーズをビッ! と決めながら気合を入れアミタ、その姿にははやてだけではなくキリエにディアーチェにシュテルまで呆然。

 

「さあ、参りますよっ! エルトリアの【ギアーズ】たるアミティエ・フローリアン! この世界の運命は私が変えますっ!」

 

「貴女は仮面ライダーエグゼイドですか!?」

 

 シュテルはシュテルで、アミタにツッコンだ。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話:エグザミア システムU−D顕現

.

「それでしたら此処は私達が御相手しましょう!」

 

 空気も読まずアミタとは別の方向から、その明らかに女の子ですみたいな声が響いてくる。

 

「今度は何なんよ? もう御客さんはお腹一杯や!」

 

 泣きたいレベルで現れたお客さん、声のした方向を向いたらきんきらきんとか目に痛い姿。

 

「ゴ、黄金聖衣? って事はアイオリアちゃんか?」

 

 同い年な女の子の知り合いに相生璃亜という子が、ユートみたいに聖衣を持っているのは知っていた。

 

 兄の相生呂守も同様。

 

 人影が二人分在るから、アイオロスも居るのか? はやてはそう思った。

 

 然し声が違った気もするから首を傾げる。

 

「何だかんだと訊かれたら……」

 

「こ、答えて上げるが世の情け……って、これはやっぱり恥ずかしいですよ?」

 

「ええ、そうですかぁ?」

 

 何やらネタでもやる気だったらしいが、相方が恥ずかしいと嫌がった様だ。

 

「まあ、良いです。私の名はヴィヴィオ・ゼーゲブレヒト!」

 

「ハイディ・E・S・イングヴァルトです」

 

 その名乗りに反応を逸早く返したのはデルタ。

 

 つまりはシュテルだ。

 

「イングヴァルトですか、貴女はクラウスの子孫なのですね?」

 

「貴女は……デルタ!? 暁の魔王シュテル!」

 

「誰がナノハですか?」

 

 アインハルト・ストラトスはクラウスの記憶保持者である為、彼の知り合いのシュテルを知識……記憶の上では知っている。

 

「えっとシュテルちゃん? 誰が魔王なの!?」

 

「おや、ナノハも居たのですか?」

 

 口調や声から間違いなくシュテルっぽい感じだし、なのはがそんな仮面ライダーデルタに文句を言った。

 

「暁の魔王ですか?」

 

「はい、ヴィヴィオさん。シュテル・スタークス・オガタとホムラ・アケミ・オガタと名乗る真王ユートの二人の妻。とはいっても、実際には結婚をしていた訳ではありませんが」

 

「ユート兄ちゃんの姓を名乗ってたから?」

 

「はい、周囲はそう考えていたみたいです」

 

 流石はクラウスの記憶保持者というべきであろう、当時の事もクラウスの視点でよく理解をしている。

 

「暁の魔王シュテルと黄昏の魔女ホムラ。真王ユートと共にカメンライダーなる姿に変身していました」

 

「それがあれですか?」

 

「そうです。カメンライダーデルタと云います」

 

 黄昏の魔女ホムラ。

 

 魔法少女の成れの果てが魔女だけに、知らなかったとはいえ痛烈な皮肉。

 

「兎に角っ! 黄金星闘士・双子座のヴィヴィオ! ピンクの人に勝負を挑ませて頂きます!」

 

「同じくっ、黄金星闘士・獅子座のアインハルト! 赤い人、いざ尋常に勝負を願います!」

 

 黄金星闘士として二人はフローリアン姉妹に対し、勝負を仕掛ける事を高らかに宣言をする。

 

「ちょお、確か未来からの来訪者やな?」

 

「そうです。八神はやてさんですね?」

 

「せや! 地球連邦の聖域所属、鋼鉄聖騎士はやて。これからピンクのお姉さん……キリエさんの説得兼、戦闘をしようかと思ってんけど?」

 

「そうでしたか? 困りましたね……」

 

 アインハルトはちょっと困り顔で言う。

 

「私が赤い人を相手にするのはオッケーですね?」

 

 ヴィヴィオはシュッシュッ! とシャドーをしながらアミタを見遣った。

 

 殺る気満々である。

 

「いや、話し合いをな?」

 

「ユート兄ちゃんは言っていました!」

 

 何故か右腕を上げて人差し指を伸ばした形で語り始めるヴィヴィオ、その様はまるで天の道を往き総べてを司る男の如くだ。

 

「戦う気満々な相手が中途で話は聞きません。ならば一旦は心をへし折って聞きたくなる様にするべきと」

 

 ユートの経験談だけど、ヴィヴィオに教えていたという事か? 彼女は平然と語ったものだった。

 

 実際にユートも問答無用で殴るばかりではなくて、一応の説得モドキはした事もあるにはある。

 

 勿論、失敗して攻撃してきたからぶん殴った。

 

 というよりもユート的には攻撃されるのを期待してもいて、自分から手は決して出さずに向こうから攻撃させた上で勝つ。

 

 敗ければ兎も角として、勝てば官軍という訳だ。

 

 当たり前だが、未来に於いてユートはそんな理屈はヴィヴィオに教えてなんておらず、飽く迄も取り敢えずやる気の相手を打ち斃して話し合いの席に着かせろ――のレベルであろう。

 

「という訳で赤い人は私と戦って貰います!」

 

「え? えっと、私はあのピンクを押さえたいだけですので……」

 

「多分、もうそんな段階は過ぎちゃってますよ」

 

「……へ?」

 

「私が聞いた通りならば、そろそろユート兄ちゃんがエグザミアを解放します」

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 アミタとキリエと闇王が一斉に声を上げる。

 

「未来からの巻き込まれ組たる私とアインハルトさん……そしてトーマ君達が揃ってマテリアルも揃って、フローリアン姉妹も顕れた頃には、ユート兄ちゃんがエグザミアを……【システムU−D】を解放すると話していました。もう世界の破壊だとかエルトリアの為だとか、それを止めるんだとかなんて段階じゃあ無いんですよ」

 

「そんな! エグザミアは何処に!」

 

「ソコまでは知りません。私が知るのは概要だけでしたから。後は関わる人達の名前くらいですね」

 

「私が兄様から教えて貰ったのも同じく。私達が巻き込まれるのは判っていたからと……」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの発言に、キリエからしたら冗談ではない話。

 

「エルトリアを救う為に、私はエグザミアが! 【砕け得ぬ闇】が必要なのに、何で無関係な誰かに掻き回されなきゃならないの!」

 

「無関係ちゃうやろうな」

 

「何ですって!?」

 

 はやての言葉に苛立ちが抑えられないキリエ。

 

「そもそもが、闇の書から【砕け得ぬ闇】を抜き出したのは優斗君や。シュテルを救い出したのもエグザミアが起こす被害を押さえたんも優斗君。ならお姉さんの方が優斗君からしたら、無関係ちゃうん?」

 

「なっ!」

 

 確かに確保をしていたのはユートで、エルトリアのギアーズこそ無関係。

 

 ユートからすれば。

 

 とはいえ、ユートはこの事件の原典たるゲームは識っていたし、キリエの想いも当然ながら識っている。

 

 はやてが言う程に冷血な感じでは居なかった。

 

(恐らく、あの人こそ……この場に居ない“彼女”がその鍵ですね)

 

 アインハルトの知り合いの中に、ピックアップされた女性が居る。

 

 【夜の一族】よりも尚、深き夜に生きる一族。

 

 月の御寵の下に、本来の生きた世界の月を一族の新たな世界とすべく、謂わばテラフォーミングをしたという王女。

 

 本当ならそれで命を落としていたが、ユートが対価と引き換えに記憶を無くした彼女を再構成、転生させて確保をしたのだとか。

 

 ヴァンパイア一族の王女――アーデルハイト。

 

 【腐蝕の月光】の忌み名を持つ女性である。

 

 魔法球で成長を早めて、閃姫契約をしたアーデルハイトは、その特典の一つであるユートが持つ本人が使えない閃姫専用の魔力タンクを使い、恐れられた忌み名から能力の名前になった【腐蝕の月光】で、ユートの再誕世界の火星をテラフォーミングしたらしい。

 

 エルトリアは【死蝕】に蝕まれる世界で、生き残っていた生物も世界に合わせた“進化”をしてしまい、いずれは終わるだけの星。

 

 だけどユートは彼女――アーデルハイトを見遣り、世界の終わりは無いとばかりに笑顔を浮かべていた。

 

 つまりはそういう事。

 

 でもこれは言っても詮無い事、誰が信じると云うのだろうか? 暴走させたら星一つを腐らせる魔力を持つ存在なんて。

 

 きっちりコントロールをしたら、小惑星くらいなら一時間足らずで消し去れる魔力の持ち主なんて話を。

 

 だから戦いである。

 

 基本的にアインハルトは頭は良いが戦闘脳な脳筋、勉強は普通以上に成績を残しているが、拳と拳で解り合うタイプだから。

 

 こうしてグッと拳を握り締め、覇王流(カイザーアーツ)の構えを執る。

 

 だからこそはやてや闇王やフローリアン姉妹など、全員が思ってしまった感想があった。

 

『この子はバトル脳だ!』

 

 何処ぞのカードゲーマーがデュエルで解り合うのと同じで、戦って拳を合わせれば解り合えると考えてしまうタイプだ……と。

 

「という訳で、赤い人は私と決闘開始(デュエル・スタンバイ)ですよ!」

 

 ヴィヴィオはヴィヴィオでストライクアーツの構えだろうか? 何らかの構えを執ってアミティエ・フローリアンに向かう。

 

 当然ながらシュテル――仮面ライダーデルタの方はディアーチェへ。

 

「私に勝てば兄様に進言をしましょう。貴女に【砕け得ぬ闇】を渡す様に」

 

「本当に?」

 

「ベルカの覇王クラウス・G・S・イングヴァルトの名前、そして私自身の矜持に懸けても!」

 

「なら、乗ったわ!」

 

 くるくると二挺拳銃――ヴァリアントザッパーを回しながら言う。

 

「赤い人も同じですよ? 我を通すなら先ずは私と戦って勝って下さい!」

 

「それならばエルトリアの【ギアーズ】、アミティエ・フローリアン……推して参ります!」

 

 アミタもヴァリアントザッパーを手に叫んだ。

 

 ヴィヴィオとアミタも、どうやら対戦が決まったという事らしい。

 

「ディアーチェ、そこら辺は貴女にも云えますよ?」

 

「良かろう、シュテルよ。ならば我が勝ってお前も、【砕け得ぬ闇】も取り戻して見せようぞ!」

 

 エルシニアクロイツと、紫色の装丁な【紫天の書】を手にして、ディアーチェもシュテルの言葉に頷く。

 

 こうして戦うべくユニゾンまでした八神はやてを置いてきぼりに、六人による対戦カードが決まった。

 

「私、余った?」

 

「ゴメンねはやてちゃん」

 

「なのはちゃん……」

 

 なのはとすずかがはやてに近付いてくる。

 

「二人がどうしてもって、聞きそうになかったから連れて来ちゃったんだ」

 

 すずかも困り顔だ。

 

「まあ、しゃあないかな。多分やけどあの二人は彼に色々と聞かされたんやろ」

「うん、そうみたいだよ。私達の事も識っていたし、二人は優斗君を“兄”と呼んで慕ってる。本来の歴史ならなのはちゃんをママって呼んでたらしいのにね、パパじゃないのはちょっと吃驚だよ」

 

 戦い始めた六人を横目に見ながら、三人の鋼鉄魔導騎士は話し合う。

 

「そこはあれよ、なのはちゃん一九歳より若々しいんにパパ呼びはイヤとか?」

 

 グサッ!

 

 実際にはユートの方が、年齢的には上の筈なのに。

 

 ナニかが突き刺さる。

 

「その癖、彼氏いない歴が年齢と同じを二五年継続で処女……っと」

 

「ぐふっ!」

 

 魔法戦記リリカルなのはFORCE――今から一五年後を舞台にした噺であるが、唯一の未婚な幼馴染み枠のユーノ・スクライアとさえ結ばれず、フェイトと共にヴィヴィオのママで在り続けていた。

 

「まあ、私達もまだ結婚は疎か婚約者……彼氏すらも居なかったっぽいけどね」

 

 すずかが自嘲気味だ。

 

「存外とアニメとかで描写されとらんだけで、普通にユーノ君を取り合って独身ならまだ救われるんにな。なのは×フェイトが成立をしとる勢いよ?」

 

「若しかしてすずか×アリサなんてのも?」

 

「で、私は闇の書関連での生き急ぎから彼氏とか考えてすら無かった……」

 

 互いに見回しそんな未来は嫌だなと思った。

 

 リアルでメタな話では、原作者が恋愛描写嫌いかららしいが……

 

 いずれにしても【嫁かず後家】な御局様コースで、女性エリートに有りがちな感じに四十路を越えていたかも知れない。

 

「それにしてもシュテルもそうやけど、あの二人は何や可成り強いなぁ」

 

「黄金星聖衣。騎士カリムが言っていた古代ベルカの聖王が纏った聖衣……か」

 

 はやてのボヤきになのはも思い出す。

 

「しかも双子座ならマジに聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトが使うとった聖衣、つまりヴィヴィオは聖王の子孫……なんかな?」

 

「アインハルトちゃんのは獅子座、璃亜ちゃんの聖衣に似てるのも頷けるよ」

 

 二人は確実にフローリアン姉妹を追い詰めていた。

 

 璃亜の聖衣は原典と同じ物を、謂わば纏い易くした感じだろうか?

 

 そのスタイルは間違いなく女性だったか。

 

 因みに、二十歳のアイオリアが成り立ての頃と同じ聖衣を違和感無く纏う件、間違いなく使い手に併せて聖衣はサイズを変える。

 

「カイザーアーツ。覇王の娘はそう言っていたけど、聖王の娘は何だろう?」

 

「なのはちゃん、多分だけどあれは優斗君の流派だと思うよ」

 

「すずかちゃん本当に?」

 

「うん。優斗君が庭に出て一人で格闘の型をやっていたのに動きが似てるもん」

 

 今も一応は月村家に居候な形は変わらず、当然ながら稽古は月村邸で行っていたユートは、すずかに割と稽古中の姿を晒していた。

 

 ヴィヴィオの型は間違いなく我流なんかではなく、誰かから教わったのだろうと解る確りしたもの。

 

 ならば教えたのは?

 

 『ユート兄ちゃん』とか呼び慕う程、ならユートが一番の候補で間違いない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ、何てスピード……パワーも強い!」

 

 キリエはカイザーアーツだと言うアインハルトに、その身体能力の余りの高さから舌打ちしたくなる。

 

 離れてバリアントザッパーを拳銃型に変換。

 

「ラピッドトリガー・ファイアーッッ!」

 

 

 右から左から両手の拳銃を高速で撃ち放つも……

 

 ガンガンガン!

 

 それを甲の部分で容易く弾いてしまう。

 

「ちょっ! それなら! ファイネストカノン!」

 

 高速連弾のラピッドトリガーに比べて出は遅いが、そな威力は普通に高い砲撃をキリエは放った。

 

「はっ!」

 

 然しそれも蹴りで砕かれてしまう。

 

「うっそ〜ん!?」

 

「キリエさん、残念ですがこれまでですね」

 

「なら、アクセラレイタァァァァーッッ!」

 

「高速移動? いえこれは……時間にも作用してる。若しや兄様のアクセルフォームみたいな……」

 

 クラウスがファイズとの戦いをした際、アクセルフォームなる姿になった。

 

 一〇秒だけ高速で動けるフォームらしい。

 

 とはいえ、アインハルトは勘違いをしているけど、アクセルフォームは時間に干渉はしていなかったり。

 

 飽く迄も一〇秒間だけ、約一〇〇〇倍の速度を出せるだけのフォームだ。

 

 クロックアップやキリエのアクセラレイターとは異なり、体感時間まで変わらないから高い動体視力がないと動きは制限される。

 

 ユートは聖闘士としての見切りや動体視力が有り、更には視るに特化した魔眼持ちな上、【心眼之法訣】も身に付けているから問題も無く扱えた。

 

 乾 巧や門矢 士の場合、持ち前の動体視力で使い熟していたと思われる。

 

「ですが無駄です!」

 

 仮にも黄金星聖衣を持ってる身、光速は流石に無理でも普通にこの速度になら付いて往ける。

 

 何よりも……

 

「兄様から【心眼之法訣】を習った私に、時間干渉をしているとはいえ高速移動で煙には撒けません!」

 

 カイザーアーツだけではなく、ユートの体術だって多少は習っていた。

 

「普通に付いて来た!?」

 

「オガタイッシンリュウの奥義が一つ、ソウマトウというそうです!」

 

「嘘っ!?」

 

 アクセラレイター発動の真っ最中に捉えられる。

 

「覇王断空拳・雷光電撃(ライトニングボルト)!」

 

「キャァァァァァァッ!」

 

 けたたましい轟音と共に吹き飛ぶキリエ。

 

「終わりです!」

 

 押忍! とばかりに腰へ両腕を曲げ拳を据える。

 

「キリエが? ひょっとして君も似た事が?」

 

 形は違えど同じきんきらきんな鎧だし、下手をしたらキリエの二の舞を演じる羽目になる。

 

 だから確認だ。

 

「勿論、出来ますよ」

 

「でぇすよねぇぇぇっ?」

 

 そして現実とは常に残酷であったと云う。

 

 故にアミタは白旗を上げながら……

 

「降参〜」

 

 するしかなかった。

 

 あれがヴィヴィオに出来るなら、戦闘力が似たり寄ったりなアミタではやはりキリエの二の舞だから。

 

 シュテルなデルタと戦うディアーチェ、魔法を放つもデルタには効果が無いに等しい。

 

「莫迦な! 我が魔法の悉くが効いておらんだと?」

 

「元々、古代ベルカで戦うのを前提としたのがデルタ――否、仮面ライダーなのですから当然かと」

 

「むう……」

 

「ではそろそろ」

 

 そう言ってデバイスではなく、デルタブラスターを右腰から外す。

 

 バックルからミッションメモリーを外し、そいつをブラスターの上部に装填。

 

《READY》

 

 音声が響く。

 

 デルタブラスターを口元に持っていくと……

 

「チェック!」

 

 音声コードを入力。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 電子音声が鳴り響いて、甲高い音と共にフォトンブラッドの高エネルギーが、デルタブラスターにチャージされていった。

 

 トリガーを引くと銀色の円錐形なエネルギーが放たれて、ディアーチェの動きを束縛してしまう。

 

「ぬっ、動けん……まさかバインドの効果が?」

 

 それには答えずシュテルは一際高くジャンプ。

 

「タァァァァッ!」

 

 それは飛び蹴り。

 

「ルシファーズ・ハンマァァァァァーッ!」

 

 本来のファイズ系なら、特に技の名前は言わないのだろうが、ユートが必殺技の時に名前を叫ぶからか、シュテルもそれに従っての大見得である。

 

 まるで吸い込まれるかの如くデルタが円錐エネルギーに突っ込み、いつの間にかディアーチェの背後にまで移動をした。

 

「ガハァァァァッ!?」

 

 赤い炎が上がりながら、Δの紋様が浮かんでいる。

 

 24tの凄まじい衝撃がディアーチェを襲った。

 

「一応、非殺傷設定有りの攻撃ですよディアーチェ」

 

 倒れ伏すディアーチェ、だけど流石に非殺傷設定というだけあり、決して灰になって崩れたりしない。

 

 ユートは基本的に敵へは容赦しないが、空気は読んで地球で殺人を犯さない様に非殺傷設定を付けた。

 

 戦う毎に敵対者を殺害していては、地球の治安的な意味で困るからだ。

 

「あれ? 終わったか」

 

 折り良く現れるユート、別に見物をしていた訳ではなくて、つい先頃に冥界から此方に出てきたのだ。

 

「ユート兄ちゃん!」

 

「兄様!」

 

「ヴィヴィオにアインハルト……か? 兄呼びって事はやっぱガッツリと関わるって訳だ」

 

 まあ、判ってはいた。

 

「ああ! 見付けたぞ! 王様と……シュテルん?」

 

「そうですよ、レヴィ」

 

 シュテルはデルタフォンを外して変身解除。

 

 レヴィに素顔を見せる。

 

「うわ、ユートさん!」

 

 これまた折り良くか? アリサとフェイトに連れられて、黒騎士姿なトーマ・アヴェニールも現れる。

 

「ふむ、これは丁度良い。マテリアル三人娘に未来からの来訪者、フローリアンの姉妹まで揃うとはね」

 

 バラバラで居られても困る面子が勢揃い。

 

「ならばこの場で【砕け得ぬ闇】を解放しようか」

 

 戦うのが前提に集まっていただけに、住宅地などは避けて海上にまで移動している事だし、ユートは懐よりエグザミアを取り出す。

 

「【砕け得ぬ闇】!」

 

 キリエが反応した。

 

「マテリアル三人娘!」

 

「うぬ?」

 

「ほえ?」

 

「了解していますユート」

 

 訳が解らないらしくて、ディアーチェとレヴィは首を傾げるが、シュテルだけはそもそも作戦も聞いていたから頷く。

 

「さあ、【GOD事件】を終わらせよう。顕れ出でよ紫天の盟主……ユーリ・エーベルヴァイン!」

 

 既に解放寸前までいっていた為、ユートの後押しにより顕れた人型。

 

 白を基調とした上着に、ズボンは炎をあしらう紅い色で、長い金髪に金瞳を持つ見た目に幼い少女。

 

 背中からは緋色の翼。

 

「なっ!? あれが我らの捜した【砕け得ぬ闇】?」

 

 驚愕のディアーチェ。

 

 それは彼女のみに非ず、ユートとシュテルみたいな訳知り以外の全員。

 

「さあ、始めようか」

 

 いよいよ、ユートの考え通りの終局が訪れる。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話:紫天 だって家族なのだから!

.

「ユニット起動、無限連環機構作動開始。システム【アンブレイカブル・ダーク】正常作動。何故? 貴方は何故……私を解放したのですか?」

 

「面倒事を片す為だ」

 

「――?」

 

 意味が解らないと小首を傾げるユーリは、端から見れば保護欲を掻き立てられる可愛らしさ。

 

「永遠結晶エグザミア……ちゃんとした持ち主が浮いた侭だと面倒なだけだし、だから紫天の盟主ユーリ・エーべルヴァインに起きて貰った。放っておいたら、それだけで面倒ばかりになるのは、周りを見れば判る通りだからね」

 

 キリエとアミタ。

 

 ディアーチェ。

 

 更にはタイムシフトに巻き込まれた未来組。

 

「マテリアル−D及びSとLを確認、ディアーチェとシュテルとレヴィ……」

 

 約一名、デルタな姿をしているけど判るらしい。

 

「ですがこのシステムは私にも制御は出来ません……皆が私を制御しようとしました。だけどそれは出来ませんでした。だから必死で沈めました……私に繋がるシステムを破断した上で、別のシステムで上書きして闇の書に関わる全ての情報から私のデータを抹消し、夜天の主と管制融合騎も知り得ない、闇の書が抱える真なる闇……それこそが、私なんです」

 

「説明をありがとう。取り敢えず僕の口から説明する手間は省けたな」

 

「貴方は!」

 

「心配しなくても君の制御は可能だ。その為の手段は既にシュテルに伝えてあるからね」

 

「……っ!?」

 

 ユーリは驚きに目を見開いてしまう。

 

「私を……制御……?」

 

「ああ」

 

「そんな……造られてからずっと、何百年と制御が出来なかったこの【システムU−D】を?」

 

 その口調は『有り得ない』と言っている。

 

 ユーリ自身が何度も試みたのだ、【システムU−D】の制御を。

 

 それをぽっと出なユートに可能とは思えない。

 

「今までにマテリアル三基が揃った事は?」

 

「ありません。そもそもが私もディアーチェ達に会うのは初めてです」

 

「だろうな。ディアーチェも【大いなる翼】という事以外、何ら情報を持っていないくらいだからね」

 

 原典でも人型だとは思ってもなかったみたいだし。

 

「貴方は本当に私を制御、止められる心算ですか? 言っておきますが今の私の状態は……」

 

「識ってる。赤い戦闘モードが在るんだろ?」

 

「っ! 何故、其処まで知ってるんですか? いえ、知りながら私を目覚めさせたというんですか!?」

 

「言ったろ? 僕には君の制御をする方法が有ると。ならばやらない理由は何処にも無いな」

 

「いったいどうやって?」

 

「まず、赤い戦闘モードなユーリをぶっ飛ばす」

 

「ぶっ飛ばされるんですか私は!?」

 

 行き成りぶっ飛んだ方法に吃驚してしまう。

 

「次に弱ったユーリに対して紫天チームが必殺技」

 

「またぶっ飛ばされるのが確定!?」

 

 その為のアイテムだって用意をしてある。

 

 原典ではデルタギアからデータを得て造られたとされる二つのギア、劇場版の前日譚で三原修二がカイザ――草加に殺されている。

 

 その後に回収されたギアを元に、オーガとサイガのギアは作製された。

 

 つまりシュテルが着けたデルタギア、それと深い関わりを持っているのだ。

 

「ディアーチェ、レヴィ、貴女達も変身を」

 

「ぬ?」

 

「おお!?」

 

 シュテルが二人に渡したトランク、特にそういった描写は無かったのだけど、ファイズギアもカイザギアデルタギアも、トランクへ普通に納められているのだから、それもアリと考えて造ったのだろう。

 

「ディアーチェに渡したのはオーガギア。レヴィのはサイガギアです」

 

 二人が早速、トランクを開けてみると入っていたのはドライバーと携帯電話。

 

 そしてオーガギアには、オーガストランザーという武器が入っている。

 

「ふむ? どうすれば……シュテルのとは形が違う」

 

「それは今から見れます」

 

 シュテル……デルタが指差す先にはユート。

 

 腰にファイズドライバーを装着、右腰にファイズポインターを左腰にファイズショットを装備していた。

 

「ベルトを腰に装着して、これは右に装備……か?」

 

 ディアーチェが辿々しくオーガギアを装着。

 

「ボクも!」

 

 同じくサイガギアを装着するレヴィ。

 

 ユートが携帯電話を――ファイズフォンを開いて、【5】【5】【5】というコードを押して【ENTER】キーを最後に押す。

 

《STANDING BY》

 

「変身っ!」

 

 電子音声が響くとそれを高らかに掲げ、ドライバーのバックル部に装填してから横倒しにする。

 

 この変身ポーズは原典で主人公、乾 巧がやっていたものだ。

 

 変身するのがファイズ、それならば……という。

 

《COMPLETE!》

 

 赤い流動……フォトンブラッドが身体全体を奔り、黒いアンダースーツに銀色のアーマー、黄色のアルティメットファインダーを持った顔にΦを象る騎士――仮面ライダーファイズの姿に変身をした。

 

 乾 巧の如く右手をスナップさせる。

 

「さあ、始めようか」

 

 ユーリも服の色が血の様な禍々しい赤に変わって、目が据わった状態となるとファイズへ攻撃を開始。

 

「ぬ、どれを押したのだ? 此処からでは見えんぞ」

 

「あ、コードはそれぞれで違いますよ」

 

「ならばさっさとそれを教えんか!」

 

 ディアーチェは至極尤もなツッコミを入れた。

 

 ユーリというか無限連還機構エグザミアを制御する為には、マテリアル三基が揃っていなければならないのは原典から判る。

 

 とはいえ、色々とすっ飛ばしているから原典みたいな融合とかは出来ないであろうし、それを補う意味で先ずはユートが闘って相手を弱らせる。

 

 なのは達に特殊カートリッジを渡すのも無理だし。

 

 三人の役目はその次だ。

 

 ディアーチェがコードを入力していく。

 

 【0】【0】【0】……

 

 ファイズフォンとは異なる音、ディアーチェは次に【ENTER】を押した。

 

《STANDING BY》

 

「変身!」

 

《COMPLETE!》

 

 ユートが先程やった様にオーガフォンを装填。

 

 電子音声と共にベルトから金色のオメガストリームが奔って、黒いアーマーや【賢者の衣(ワイズマンローブ)】を装着。

 

 顔はΩを象り赤いアルティメットファインダー。

 

 仮面ライダーオーガ。

 

 所謂、ダークライダー枠となる仮面ライダーだ。

 

「次はボクだね!」

 

 【3】【1】【5】……【ENTER】

 

《STANDING BY》

 

「変身!」

 

 何故かクルッと回しながら軽く宙に投げ、受け取ると同時にドライバーへ装填しながらキメ顔で叫ぶ。

 

《COMPLETE!》

 

 青いフォトンストリーム Ver.2が奔り、白いアンダースーツに白いアーマー、Ψを象る顔に紫のアルティメットファインダー。

 

 帝王のベルト【天】……仮面ライダーサイガだ。

 

 本来はデルタではなく、此方が三人目のライダーとしてデザインされていた。

 

 尚、帝王のベルト【地】が仮面ライダーオーガ。

 

 サイガは機動性。

 

 オーガはパワー。

 

 それぞれに設計思想が異なる仮面ライダーである。

 

「ふむ、何故か身長が伸びておるな」

 

「おお、なんだかスゴいぞ! カッコいい!」

 

 取り敢えずチェックするディアーチェと、はしゃぎまくるレヴィ。

 

「ディアーチェ、レヴィ、準備をして下さい」

 

「うん? まだ戦い始めて然程経たぬぞ?」

 

「時間はそんなに掛かりませんよ。古代ベルカに於いて列強なる王を差し置いて【真なる王】、【真王】と呼ばれたのは伊達や酔狂ではありませんから」

 

 当初、ユートは【真王】を自らが【魍魎戦記MADARA】の摩陀羅から名付けたものと思っていたが、王として名乗り上げるより前から、諸王より【真王】と呼ばれ始めていた。

 

 民を護り激しい強さと涼やかな守護、そして目にも留まらぬ疾さで敵兵や王を圧倒していたから。

 

 仮令、護る事と戦う事のジレンマが終わらずとも、ユートは走り続けてきた。

 

 まあ、その姿は当然ながら仮面ライダーファイズ。

 

 安定した通常フォーム、速度に特化をしたアクセルフォーム、そして強大な力を持つブラスターフォームへの変身。

 

 傍らに侍る弐姫、ほむらのカイザとシュテルが変身したデルタ、【555】系の三ライダー揃い踏みでの力は、いざや敵対した覇王も冷や汗を掻いたと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、原典に存在しないフォームを魅せてやる!」

 

 適度に戦いをしながら、やはり守りの硬いユーリに対して言い放つ。

 

 原典に存在しないというより、やろうと思えば出来たのでは? というもの。

 

「ま、一〇秒間しか使えないんだがな……」

 

 トランクみたいな物を取り出し、バックルに填まるファイズフォンを外すと、手にしたそれのスロットへ装填する。

 

《AWAKENING》

 

 そして手にしたそれ――ファイズブラスターの方に変身コード入力。

 

 【5】【5】【5】……【ENTER】。

 

《STANDING BY》

 

 ファイズブラスターから激しい光が明滅、原典ならコードを受け取った衛星から強化変身のあれこれではあるが、こいつは単に模倣しただけだから強化ツールに適切な行動をすれば変身が可能となる。

 

 強化ツールの方に必要なエネルギー、フォームの為のデータが在るからだ。

 

 先ずはフォトンブラッドが止まり、フォトンストリームの流動が無くなったから黒くなった。

 

 逆にスーツの部位全て、そこにフォトンブラッドが流れる事で赤く染まる。

 

 アーマー部分も形状が変わって、背中に新ユニットとして【フォトン・フィールド・フローター】が装備された。

 

 また、そのユニットから【ブラッディキャノン】を展開が可能。

 

「光栄に思え、覇王クラウスにさえ使わなかったんだからな!」

 

 それを聞いたアインハルトが眉根を寄せる。

 

 ユートはファイズブラスターに装填されたファイズフォンから、ミッションメモリを外して左手首に填まる【ファイズアクセル】に装填をする。

 

《COMPLETE!》

 

 仮面ライダーファイズ・アクセルブラスター。

 

 ブラスターフォーム時にアクセル化するものだ。

 

 勿論、公式には存在しないフォームである。

 

 だけどブラスターフォーム時にも、【ファイズアクセル】は普通に装着されているのだし、ミッションメモリを装填すれば不可能ではない筈だ……が、そもそもブラスター自体がオルフェノクにとって負担が掛かるものを、更に負担を掛ける形だから恐らく使ったらその瞬間に死ぬ。

 

 というのが予測される。

 

 アークオルフェノクなら判らないけど。

 

 とはいえこれは本物ではなく、更にはユートも別にオルフェノクという訳でもないし、負担など気にせず変身が出来たりする。

 

 ブラスターフォームによるフルメタルラングが展開して、両肩のショルダーアーマーの様になった。

 

 色もフォトンブラッドが止まったフォトンストリームは黒の侭、アクセルフォームの白銀なフォトンブラッドがスーツを染める。

 

 アクセルフォームの複眼と同じく複眼が赤に染まっており、最強を越えた究極のフォームと成った。

 

「シュテル!」

 

「準備万端です!」

 

「っしゃ!」

 

 ファイズアクセルのスイッチを押す。

 

《START UP!》

 

 アイドリングモードからスタート。

 

 約一〇〇〇倍のスピードは即ち、通常フォームより逸いブラスターフォームなら更にスピードアップだ。

 

 負担が関係無くても同じ一〇秒間縛りとなるのは、聖魔獣の創造(クリエイション)にはユート自身の持つ想像力(イマジネーション)が肝だから。

 

 ユートの中でアクセルフォームは一〇秒間だから、創造された聖魔獣ファイズのアクセルフォームもまた一〇秒間という訳だ。

 

 ユートの知識が想像力にプラスされ、仮面ライダーの聖魔獣を創造が出来ていた様に、逆に知識が阻害をした形となるだろう。

 

 意味無くチートというのではなく、やはり何処かで何かの縛りはあるらしい。

 

 ユートが動く。

 

 然しながら仮面ライダーディケイドで、カブト系列のクロックアップと同列の疾さであったアクセルフォームが、更にブラスターで底上げされているから誰の目にも留まらない。

 

「ああ! もう始まっちゃってるなんて!」

 

 などと叫ぶ眼鏡に黒髪なお下げ二本の暁美ほむら、そしてシュテル・スタークスの二人を除いて。

 

 否、未来組とフローリアン姉妹も視えていた。

 

 フローリアン姉妹はそもそも、アクセラレイターなる技を使えるから高速化にも慣れていたし、未来組はユートからの修行によって【心眼之法訣】を修得さすられていたから。

 

 ヴィヴィオに至っては、【神眼】に開花するだけのモノがある訳だし。

 

 現代の聖域組は修業不足から視えていない。

 

 刹那、幾つものポインターがユーリを囲む。

 

「アクセルブラスター・クリムゾンスマッシュ!」

 

「嗚呼っ!?」

 

 Φの紋様が浮かびながらユーリが燃える。

 

 まあ、非殺傷設定込みだから死なないけど。

 

《TIME OUT》

 

 そしてカウンターは00を指し示す。

 

《REFRMATION》

 

 フルメタルラングが再び閉じ、ブラスターフォームへと戻るファイズ。

 

 流石の硬いユーリとはいっても、アクセルブラスターフォームの必殺技には耐え切れなかったらしい。

 

「マテリアルズ!」

 

「チィ、解っておるわ!」

 

 ユートからの指令に文句を言いつつ……

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 【ENTER】キーを押す。

 

「よし、ボクもだね!」

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 仮面ライダーオーガは、ミッションメモリをオーガストランザーに。

 

 ポインターを持ってないサイガは、背中のフライングアタッカーにエネルギーをチャージして飛翔。

 

 ミッションメモリーを、デルタが装填する。

 

《READY》

 

「チェック!」

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 デルタは当然ポインターモードのデルタムーバへの口頭命令、ベルトから銃身にフォトンブラッドがチャージされていく。

 

「オーガストラッシュ!」

 

「コバルトスマッシュ!」

 

「ルシファーズハンマァァァァーッ!」

 

 伸びた剣身がユーリを薙ぎ斬って、コバルトブルーとシルバーのポインターが更に拘束、二人の蹴り技がユーリへと炸裂した。

 

 尚、ファイズ関係は普通に技名は叫ばない。

 

接続(アクセス)、アエテュル表に依る暗号解読! 術式置換!」

 

「我が手に在る紫天の書、ユーリ・エーベルヴァインを受け容れよ!」

 

「だってボクらは家族なんだからさ!」

 

 三人が揃って制御術式を発動させた。

 

 元々、ユートが数百年の暇な時間に構築した術式。

 

 一番扱い易かったのが、デモンベインでアル・アジフが自身の断章を取り戻す為にやっていたアレ。

 

 あの術式を紫天の書用に再構築、【王】と【理】と【力】でユーリを制御可能にするものとした。

 

 因みに、【紫天の書】のデータはゲーム原典を遊び直した上で、シュテルを抱いてその絶頂の瞬間に彼女の内部にアクセスをして、データの一部をコピーする事でだいたいを把握する。

 

 高速展開されるは魔法陣――しかも魔法陣の文字がそれぞれにやっぱり極小な魔法陣で形成されており、立体的な巨大魔法陣を造り出していた。

 

 それは嘗てハルケギニア時代の最終決戦に於いて、ユーキ発案でユートが作成した【大封印(オン・リヤーク)】と同種の魔法陣。

 

 あれは這い寄る混沌以外を封印せしめた術式だが、今回のこれは制御不可能と云われた【システムU−D】の制御の為。

 

「何つー術式だ……」

 

「おっきい……」

 

「思い出しますね。私の初めてを貫かれて初めて絶頂をしたあの日を……」

 

「だから、聞いとらん! んな艶話なんぞ!」

 

 頬を赤らめるシュテル、それに対して裏拳ツッコミを入れるディアーチェに、意味が解らないレヴィが首を傾げている。

 

 そんなバカをやっている間に、ユーリの赤い服装が再び白に戻っていった。

 

「む! 戻るのか?」

 

「どうやら上手くいったみたいですね」

 

 空中でヘタリ込むとか、器用な座り方をしながらもペタペタと自分を触る。

 

「そんな……本当に制御がされています!?」

 

 暴走していない。

 

 自分の意志の侭に動き、全てを決められる状態。

 

 その名は【自由】。

 

「本当……だった……」

 

 涙が溢れ止まらない。

 

「やれやれ、終わったか」

 

 ファイズフォンをファイズブラスターから外して、変身解除を行ったユートは本来の姿に戻る。

 

「はぁ、優斗さんとゴルドスマッシュを極めたかったんだけどな〜」

 

 魔法少女モードなほむらが苦笑いで近付く。

 

 その肩には猫。

 

「済みません、ほむら……私の登録に付き合わせてしまったばかりに」

 

「ううん。誰かがやらなきゃいけないなら、優斗さんとシュテルは無理だから、自然と私になっちゃうよ」

 

「……え? ま、まさか……リニス?」

 

「ええ。久し振りですね、フェイト」

 

 ほむらの肩から降りて、人型を取ったリニス。

 

「どうして? だって……リニスは……」

 

「私は魂がユートの冥界に堕ちていて、それを拾われて契約を交わしたのです。今の私はユートの冥闘士、地獣星ケットシーのリニスを名乗っています」

 

「冥闘士って……クロノのお父さんと同じ?」

 

「はい」

 

 にこやかに笑うリニス。

 

 どうやらこちらも色々と解決がされそうだ。

 

「俺達って結局、何だったんだ?」

 

「ねえ?」

 

 トーマとリリィがぼやいてしまうが、そもそもにして未来組はゲスト参戦。

 

 メタ的に云うなら単純に過去に跳ばして参加させたに過ぎないから、戦力としてはユートの方も考えてはいなかった。

 

 実際、ゲームでも戦っていくのはなのは達だし。

 

「あのう……」

 

 遠慮がちに小さく挙手をするのはキリエ。

 

「何かな?」

 

「いえ、何だか大団円っぽいんだけど……エルトリアはどうなるのかなと」

 

「シュテル辺りが説明しなかったか?」

 

「されましたけど……」

 

「【システムU−D】を使わずとも、僕がエルトリアまで【腐蝕の月光】を伴って往けば、【死蝕】に侵された星を甦らせる事が可能だよ。序でにグランツ博士も説得して治療もしよう」

 

「ほ、本当に?」

 

「博士の病が……治るのですか?」

 

 キリエもアミタも驚く。

 

「説得が成功したらな」

 

 そもそも、グランツ博士は自分の病を治そうとは考えていない。

 

 それが不自然な事であると思っているからだ。

 

 仮に彼の病を治せるにしても、本人が治療を拒否っていてはどうにもならないのである。

 

 恐らく治せる筈だ。

 

 事実としてグランツ博士の病は識らない、それでも後天性免疫不全症候群や、先天性免疫不全症候群なども治療をしていたりする。

 

 尚、前者は紺野木綿季と紺野藍子であり、後者ではミシェール・リードブルクの事を指す。

 

 視れば……ユートになら解る筈だから。

 

「だから、行こうか」

 

「……え?」

 

「アミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアンの故郷……エルトリアに」

 

 ユートの言葉にポカンとなる二人。

 

「アーデルハイトは現地で招喚すれば良いとして……コストは普通に足りてる。まあ、数百年を過ごしていたから当然かな?」

 

「あの、良いの?」

 

「元より君らの世界を救うのもプランの内。仲好くなったシュテルをエルトリアに連れて行かれても困る」

 

 ユーリやディアーチェやレヴィは兎も角、シュテルは共に数百年を過ごしてきた訳で、連れて行かれてしまってはやはりアレだ。

 

「古代ベルカ時代から練り上げたプラン、舐めて貰っちゃいけないな」

 

 こうしてユートはほむらや紫天ファミリーを連れ、未来組は未来に還した上でエルトリアへと航る。

 

 【腐蝕の月光】と渾名されるアーデルハイト招喚、彼女の二つ名と同じ名前の能力――【腐蝕の月光】で【死触】に侵され滅亡するのみだったエルトリアを、ユートは救うのに成功。

 

 グランツ博士の病も説得して視て治療、無事にそれにも成功をして彼は寿命が尽きるまで生きるだろう。

 

 感極まったキリエが何とアミタを引き連れ、ユートが使っていた寝室にダイブをしてきた。

 

 ギアーズとはいっても、どうやら二人は完全な機械ではなく、元々が今は亡きエレノア・フローリアンの産んだ双子らしい。

 

 道理で子供の頃の写真が存在する訳だ。

 

 要するに彼女らはスバルやギンガ、戦闘機人みたいな存在であるらしい。

 

 生体部分には子を産む為の部位も在り、えちぃ行為も普通に出来たのである。

 

 アミタは――『キリエ、もっとムードとかあるでしょう!?』とか、真っ赤になりながら叫んでいたり。

 

 それでも受け容れた辺りから、やはり感謝をしていたのであろう。

 

 グランツ博士は呑気に、『エレノア……孫を抱ける日が近そうだよ』とか墓に話し掛けていた。

 

 何はともあれ色々とおかしな部分もあったろうが、【砕け得ぬ闇事件】は終息したのである。

 

 それから暫く経って預言の出来事が起き、その解決を以てミッドチルダの地上本部に更なる伝手が。

 

 物語は新たなる事件へと向かうのだった。

 

 

.

 




 僕は漸く登り始めたばかりだからな、この果てしなく遠いリリカル坂をよ!


 ユートは叫びながら坂を登って行きました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話:帰還 未来組とエルトリア組

 取り敢えず完結を外し、続ける事にしました。





.

「まあ、取り敢えずだけど行くのは少し待とうか」

 

「……へ?」

 

「それはどういう?」

 

 意味が解らないとキリエもアミタもポカンとなる。

 

「先に未来組を未来に還してやらないと」

 

「「ああ!」」

 

 今尚、ヴィヴィオを含む未来組はこの時代に。

 

 流石にいつまでもこんな過去時代に置いとけない、かといってユートみたいな感じで、この時代に過ごさせて十数年を頑張らせても問題ばかり。

 

 だから『さっさとお家に帰りなさい!』 である。

 

「けどどうやってなの? 確か優斗さんは目印も無しに平行世界間移動は出来ないって……」

 

「ヴィヴィオとアインハルトのVivid組に、トーマとリリィのForce組で二人ずつ居るから問題は無いよ」

 

「……へ?」

 

 意味が解らなかったらしいほむらは、首を傾げてしまうしかない。

 

「しかも二組は地続きしているから、一度だけ使えば済むんだよね」

 

「な、何を?」

 

「【偽・劫の眼(フェイク・アイオンのめ)】」

 

 【11eyes】という世界が存在している。

 

 今は亡き会社より造られた作品であり、六人の仲間で謂わば十一の眼を示す。

 

 奇数なのは主人公である皐月 駆が【劫の眼】を右に持ち、そちらを眼帯にて覆って基本的に左眼だけで見ているからだ。

 

 右眼が金色で目立つし、普通には見えてないから。

 

 尚、百野 栞は仲間という括りから除外される。

 

 あれはエロゲなのだが、ユートが情報を持っている理由はプレイしたから……では勿論無くて、再誕世界で麻帆良学園都市に教師をしに行った頃、第二魔法の権威な爺様があの世界での『死の因果』を掻き集めたヒロインズを連れて来て、再誕世界での黒羊歯 鼎――黒芝かなえに預けた為。

 

 彼の世界にてトゥーレと名乗る存在に在籍していた魔術師、黒羊歯なる一族の出である彼女だが……

 

 再誕世界にはトゥーレという組織自体が存在せず、当然ながらその組織の面子も存在はしていたかも知れないが、少なくとも彼女は全く面識が無さそうだ。

 

 事実、トゥーレの一員だった【色欲(ベギール)】のリーズロッテ・ヴェルクマイスターを見ても、全くの無反応だったらしいし。

 

 因みに黒羊歯 鼎の場合は【憤怒(ツォーン)】だ。

 

 とはいっても再誕世界では単なるフリー魔術師で、麻帆良の図書館島で正しく主の如く【図書館島の魔女】と呼ばれていた。

 

 そんな【11eyes】世界のヒロインズを預かった彼女だけど、『判断に迷った時は面白そうな方を選ぶ事に決めているの』と言い放ってユートに丸投げをしてきたのである。

 

 取り敢えず目を覚ましたヒロインズは、麻帆良学園高等部に入れておいた。

 

 さて、何故に再誕世界で出逢った【11eyes】のヒロインズの話に飛んだか?

 

 勿論、【偽・劫の眼】の説明もあったからなのだが……今一つ、平行世界という話にも繋がるからだ。

 

 【赤い夜】と駆達が呼ぶ現象、その正体はリーゼロッテの幻橙結界(ファンタズマゴリア)であり、これは虚無魔石の欠片を所持する者を捕らえる結界。

 

 この欠片は基本的に同じ世界には存在しておらず、一つ一つが別の平行世界に点在をしていた。

 

 故にこの【赤い夜】へと捕らわれた者達……

 

 水奈瀬ゆか。

 

 草壁美鈴。

 

 橘 菊理。

 

 広原雪子。

 

 田島賢久。

 

 百野 栞。

 

 この六人は実は全く別の平行世界から来た存在。

 

 唯一、皐月 駆はイレギュラーで水奈瀬ゆかと同じ世界の人間である。

 

 それ故に初期から全員の認識にズレが生じていた。

 

 大して違いの無い近似の世界だから、首を傾げていた程度で済んだけど。

 

 特に、皐月 駆+水奈瀬ゆかのコンビと橘 菊理の世界は出鱈目。

 

 駆と菊理は姉弟であり、駆の世界では菊理が自殺をして、菊理の世界では彼女が駆を殺害している。

 

 尚、平行世界だからか? 駆と菊理はDNA鑑定で姉弟とされなかった。

 

 だから、普通にヒロインとして結ばれた世界も在ったりする。

 

 兎も角、下手に飛んだらユートの場合は平行世界に跳ぶ可能性が高い。

 

 事実として実際に試してみたら、もう無くなった筈の第五次聖杯戦争の世界、ユートを識らないエヴァンジェリンが少年と暮らしている世界など、明らかに繋がらない世界に跳んだ。

 

 だからこそ必要。

 

 繋げるべき世界の人間が二人以上。

 

 それを以て共振現象を引き起こし、【偽・劫の眼】でその先の事象を観察。

 

 そして二人の世界を発見するのである。

 

 欠点は負担がでかくて、前に使った際に片眼が失明寸前となった事。

 

 ユーキが知れば間違いなく荒ぶるであろう。

 

「ああ、私らが帰るのに合わせれば大丈夫……の筈」

 

「だから無理はしなくて良いですよ?」

 

「それは助かるな」

 

 キリエとアミタが気遣ってくれている。

 

 あれは使うと危険。

 

 今はユーキが所用で居ないけど、居れば反対間違いなしだったから。

 

 後で知れば荒ぶるし。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新暦七九年。

 

 ミッドチルダはクラナガンに存在する【聖域・ミッドチルダ支部】……

 

「帰って来ましたね」

 

「はい、ヴィヴィオさん」

 

 St.ヒルデ魔法学院に在籍しながら、ヴィヴィオとアインハルトは聖域へと所属し、ミッドチルダ支部にも出入りをしている。

 

 ユートが曰く――『少年兵? 六歳で修業開始して九歳とか一三歳で実戦投入される聖闘士だぞ? んなもん今更だろうに』とか。

 

 事実、黄金聖闘士の大半が一年か其処らで修業を終えて、十歳にもならないかの年齢で聖闘士になった。

 

 一応、アフロディーテやデスマスクやシュラは年が少し上だけど。

 

 ハーデスとの最終聖戦、一番の活躍者で被害者だった星矢、彼をして一三歳の年端もいかぬ少年だった。

 

 アテナの城戸沙織も。

 

 どう見ても高校生は越えてるだろ? 的なプロポーションを誇ろうと一三歳の少女に過ぎない。

 

 そんな中に在ったユートだからか、少年兵がどうのとかはどうでも良かった。

 

 というか、ミッドチルダの……延いては時空管理局の法に抵触しないのなら、地球の倫理だ法だを持ち出すのは無意味であろう。

 

「結局、トーマが言う通りだったですよね」

 

「私達は何の為に過去へと跳んだのか……ですか」

 

 ゲームより活躍しなかった未来組、それはユートが成るべく『最速で最短で、真っ直ぐに一直線に!』とばかりに動いた為。

 

 本来ならマテリアルズを貫いた後、ユーリが何処かに消える筈なのが流れ。

 

 それをさせずその場にて終わらせたのだ。

 

『まあ、久々に真王ユートを見れて私は満足ですよ』

 

「オリヴィエ……」

 

 ヴィヴィオとは違う表情で柔らかく笑う。

 

 それはヴィヴィオの中に共生するオリヴィエ。

 

「確かに兄様の真王モードなファイズを直に見れて、私も満足はしていますよ。ですが……」

 

『クラウスにも使わなかった切札、ファイズ・アクセルブラスターを別の相手に出したのが不満?』

 

「はい……」

 

 可愛らしくプクーッと、頬を膨らませている。

 

 クラウスとの対戦では、ファイズ・ブラスターフォームで闘って、アクセルは使っていなかった。

 

 一〇秒間しか使えないのが理由だが、アインハルトとしては不満たらたら。

 

「でもでも、ユート兄ちゃんは格好良かったですよ。ほむ姉ちゃんは抜けていましたけど」

 

「完全に出遅れましたから仕方がありませんよ」

 

 ヴィヴィオとオリヴィエが入れ代わろうと、全く気にせず会話を続けている。

 

 最早、慣れたのだろう。

 

「さ、戻りましょう」

 

「ええ、私達の居場所に」

 

 頷きながらミッドチルダ支部の建物へ入っていく。

 

 二人の大事な場所へ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新暦八一年。

 

 俺、トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックは元居た時代に帰った。

 

「およ、お帰り」

 

 青み掛かった黒髪を持つお姉さん、カレン・フッケバインが立っていた。

 

「ただいま、カレン」

 

 元は次元犯罪者フッケバイン・ファミリーの首領、今現在は聖域・ミッドチルダ支部の副支部長の一人。

 

 俺と同じで更に大先輩的な【エクリプス・ウィルス】の罹患者、そして同じく罹患者な皆をフッケバイン・ファミリーとして纏め、色々と抗っていた人だ。

 

 【エクリプス・ウィルス】は一種のナノマシンで、罹患すると病化能力というスキルみたいなものを使える様になり、EC兵器をも使い熟せる様にもなる。

 

 俺の持つ【ディバイダー996】と【銀十字の書】とリアクトプラグ【リリィ・シュトロゼック-4th】、これにより俺は【黒騎士】なんて姿にも成れた。

 

 カレンも似た【書】を持っているし、サイファー達みたいなファミリーの一員もディバイダーやリアクトプラグを持つ。

 

「それでカレン、副支部長がこんな所で油を売っていて良いのかよ?」

 

「何を言ってんの。トーマを迎えに来たのよ」

 

「俺を?」

 

「過去に跳んだんでしょ。支部長は識ってるからね」

 

「ああ、ほむらさん……」

 

 現在のミッドチルダ支部はほむらさんが支部長で、カレンとオーリス・ゲイズさんが副支部長をしてる。

 

 カレン達――フッケバインと和解が成立するまではオーリスさんが副支部長、支部長にやはりほむらさんが就いていた。

 

 とはいえ、副支部長とは一人で回せないもので追加を欲しがっていたのだが、ユートさんとフッケバインとの間で取り引きが成立した為にか、フッケバインを丸ごと雇う形でユートさんが聖域・ミッドチルダ支部に引き込んだのだ。

 

 まあ、カレンは元首領なだけあって有能だからか、オーリスさんも今では能力を認め力を合わせていた。

 

「兎に角、帰って来たなら早速お仕事よ」

 

「うげっ!」

 

「あう〜」

 

 休む間も無いとは……

 

「アイシスも待ってるから早く来なさいな」

 

「わ、判ったよ」

 

 アイシス・イーグレットも俺の仲間、ミッドチルダ支部ではリリィとアイシスと俺でチームを組んでる。

 

 尚、フッケバインだった連中はカレンの補佐役とかは兎も角として、サイファーなどは基本的に単独任務を仰せ付かる。

 

 飛翔戦艇(エスクアッド)フッケバインの操舵手で、そのエクリプスドライバーであるステラも居るけど、彼女はフッケバインが墜ちそうになった際に、それをユートさんが救った事から吊り橋効果? 的にアレな状態ではあるのだが、流石に実年齢でアウトらしいから今は妹扱いみたいだ。

 

 ステラはフッケバイン組が動く時に、必要に応じて母艦的な役割に就く。

 

 但し、普段はSt.ヒルデ魔法学院の学生。

 

「皆は?」

 

「ちょっと厄介な事件が起きたからね、ステラにまで出動要請をしたくらいだ。フォルテスも付けてね」

 

「まさか……カレン以外の全員が動いてるのか?」

 

「そういう事。トーマにも同じ任務が下るわ」

 

「そっか……」

 

「フォルテス達に合流し、事件解決に動きなさい」

 

「了解したよ支部長」

 

 こうして俺達の日常……聖域・ミッドチルダ支部の仕事が再開された。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 何処かの時代、何処かの世界に在るエルトリア……

 

「さて、エルトリアに来てみた訳だけど」

 

「確かに酷い有り様だね」

 

 ユートもほむらも周りを視て溜息が出る。

 

「ふむ、我やエグザミアを欲する程だ。一筋縄ではいかぬだろうよ」

 

「そうですねディアーチェ……やはりこれは」

 

「むむむ……」

 

 マテリアルズも有り様に何かしら言いたそう。

 

「ですが、ユートは本当にエグザミアや私達を抜きに何とか出来ますか?」

 

「大丈夫だよユーリ」

 

 ポンポンと軽く頭を叩いてやり、ユートは安心させる様に優しい声で言う。

 

「テラフォーミングなら、再誕世界の火星でも普通にやれたんだ。【死蝕】だって根本を潰した上でテラフォーミングをすれば良い。その為にアーデルハイトを喚ぶんだからな」

 

「【腐蝕の月光】ですか」

 

 とある平行世界の地球、ヴァンパイアと人間が争う世界、後に【腐蝕の月光】と称されたアーデルハイトと【赤バラ】ローズレッド・ストラウスの物語。

 

 最終的にローズレッド・ストラウスは第五〇代目の【黒鳥憑き】である比良坂花雪に討たれて、アーデルハイトも同族の為に月へとテラフォーミングを行い、二人の……最後の純血であるヴァンパイアが消えた。

 

 ユートはアーデルハイトの能力が、後に再誕世界で必要だと考えた為に契約を持ち掛ける。

 

 アーデルハイトは契約に乗り、全てを擲って消えた後にユートが再構成して、再誕世界に於ける吸血鬼であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルへと託したのであった。

 

 赤ん坊にまで退行していたアーデルハイトだけど、ダイオラマ魔法球でスクスクと成長をする。

 

 必要になった時期には、閃姫契約が可能な年齢にまで育っていた。

 

 わざわざ肉体の再構成をしたのは、ローズレッド・ストラウスの妻だったから処女でない彼女と閃姫契約をする為なのだから。

 

 再構成したからには処女に戻っているし。

 

 閃姫になるとユートが持つ【閃姫専用魔力タンク】を使え、アーデルハイトが全力で星全体をテラフォーミングしても力尽きない。

 

 閃姫契約はその為だ。

 

 まあ、彼女が美女だからというのもあったけど。

 

 非処女だと半閃姫でしかなくなり、特典たる【閃姫専用魔力タンク】も使えないから必須でもあった。

 

「そういえば、まだ星に生きてる動植物は宇宙に避難させるとして、適応しちゃった生物はどうするの?」

 

 キリエが気になったのか訊ねてきた。

 

「エルトリアをテラフォーミングしたら、再適応とか出来ないだろうから斃してしまうしかないな」

 

「……そっか」

 

 まあ、テラフォーミングの時に腐蝕してしまうのだろうが、アーデルハイトは無防備になるから邪魔される可能性も多分にある。

 

 今から少し間引く必要性があるだろう。

 

「紫天ファミリーは怪物を退治に行ってくれるか?」

 

「貴様はどうする?」

 

「博士の説得と治療だな」

 

「そうか、解った。それでは往くぞお前達!」

 

 オーガフォンを掲げながら命じるディアーチェ。

 

 気に入ったらしい。

 

 コードを入力。

 

《STANDING BY》

 

《STANDING BY》

 

「「「変身!」」」

 

《STANDING BY》

 

 オーガフォンとサイガフォンにコード入力。

 

 デルタフォンに音声入力も成される。

 

 それぞれ、ドライバーとデルタムーバに装填。

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

《COMPLETE!》

 

 仮面ライダーオーガ。

 

 仮面ライダーサイガ。

 

 仮面ライダーデルタ。

 

 このエルトリアの大地に仮面ライダーが立った。

 

「私もカメンライダーってやりたいですね」

 

「いや、ユーリには必要が無かろうに……」

 

 

 オーガ――ディアーチェが困った様に言う。

 

 tレベルの衝撃さえものともしない防御力、確かにわざわざ仮面ライダーによるアーマーは要らない。

 

 攻撃力も高いのだし。

 

「では征くぞ!」

 

 オーガは飛べないけど、本人が飛べるから問題無く飛翔する。

 

 それはサイガとデルタも同様で、ユーリも翼をはためかせながら飛んだ。

 

 その頃、ユートはといえばグランツ・フローリアンと面会中だった。

 

 治療の説得の為に。

 

「だから治さなくても構わないんだよ」

 

 難航してるけど。

 

(こりゃ、僕らしくないかもだが……SEKKYOUかな)

 

 割とそうでもないのは、ユート自身が気付いていない事なのが御約束。

 

「アンタは結局、逃げたいだけなんだろう?」

 

「どういう意味だい?」

 

「死は一種の逃避先だよ。アンタはこう思ったのさ、もうエルトリアはどうにもならないし、自分の病など不治の病だから治らない。ならばもう死んでも仕方がないじゃないか……とね」

 

「む、うう……」

 

「不治の病で死んだから、エルトリアを【死蝕】から解放出来なくても仕方がないじゃないかってさ」

 

「そんな事は……」

 

「死んで投げ出したいってだけなんだろう?」

 

「違っ……うとは言い切れないのかもしれないね」

 

 グランツ博士は項垂れながら呟く。

 

「博士……」

 

 アミタが悲しそうな表情になっているし、キリエも泣きそうな顔になりながらグランツ博士を見遣る。

 

「私は【死蝕】から星を救おうと頑張ってきたけど、成果は微々たるものでしかなく、寧ろ【死蝕】による侵食の方が早い。ギアーズも元々は生身の人間に出来ない作業を代わりにさせるべく造ったのが始まりだ。まあ、アミタとキリエみたいに凝り過ぎた子も居たりする訳だけどね」

 

 本当に凝り過ぎただけなのか? とも思ったけど、この場で言う事でもないと自重をした。

 

「結果が、見付かった遺跡のタイムマシンでアミタとキリエが跳んでしまった。本当に私はいったい何をしていたのか」

 

 それは正に自嘲だった。

 

「然し訊ねたい」

 

「何を?」

 

「私の病はエルトリアに於いて不治の病。君に私を治す事が出来るのかい?」

 

「う〜ん、無理だな」

 

 ドンガラガッシャンッ!

 

 全員がズッコケた。

 

「こ、此処まで引っ張っといてそれ!?」

 

「有り得ませんよね!」

 

 キリエもアミタも叫ぶ。

 

「一応、僕の治療ポッドは様々な病や怪我を治しているんだ。末期癌やAIDSとか糖尿病、部位欠損なんか」

 

「それは確かに凄いな」

 

 末期癌ともなると扱い的に不治の病にも等しいし、AIDSだって根治をしたなんて聞かない。

 

 糖尿病も不治の病の一種に数えられるし、ゲームならまだしも現実の部位欠損は治し様が無かった。

 

「それでもグランツ博士の病は……僕の【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】で視た限り、治せる要素が無かったんだよ」

 

「……それは治療ポッドでかい?」

 

「そう、治療ポッドで」

 

「つまり、別の手段が君には在るのだね?」

 

「流石は博士なんて呼ばれるだけあるな。正解だよ」

 

 はっきり言うと治療ポッドによる治療は、データの不足や技術的なあれやこれやで不可能だ。

 

 然しながら、ユート自身には彼を治す術に心当たりがあった。

 

「さて、今すぐにでも治療を始めるけど構わない?」

 

「え、そうなのか? 準備とかしなくても……」

 

「別に手術をする訳じゃないんだ。僕の持つ能力を使うだけだからね」

 

「た、頼んだよ」

 

 ユートは両手を博士へと向けて言葉を紡ぐ。

 

「嘗ての栄光は今此処に、【美しきあの頃へ(リワインド・バインド)】」

 

 それは聖句。

 

 神を弑逆して神より簒奪せしめた権能。

 

 それを行使する詞。

 

 嘗て、平行世界の過去で闘った刻の神カイロスより簒奪をしたものだ。

 

 【刻限の快楽神(カイロス・ジ・ゴッド)】と名付けた権能、奴が行使をしていた幾つかの派生した力。

 

 その内の一つ。

 

 それは生物の刻を戻し、胎児以前にまで戻し切って消滅すらさせる。

 

 今回はそれを一部分のみ適応、病の根元が病に侵される以前にまで戻した。

 

「ありゃ? ちょっと余波があったか……」

 

「な、何か失敗を?」

 

「鏡を見ると良い」

 

 グランツ博士が鏡を覗いてみると……

 

「おわっ!? 若い?」

 

 若返った姿が在った。

 

 権能の余波で二十代にまで若返っていたのだ。

 

「「博士!」」

 

 治療が済んだのは判ったらしく、キリエとアミタがグランツ博士の胸へと泣きながら飛び込む。

 

 一頻り泣いて愉しくご飯を食べて、風呂に入ってから寝る事になった。

 

 紫天ファミリーは野宿……というには準備万端ではあるが、取り敢えず今夜は此方へ帰って来ない。

 

「うん、帰って来ないんだけど……まさかの逆夜這いとかね」

 

「お礼よお礼。博士に未来が出来た。お父さんだもん……嬉しかったから」

 

「だからって私まで引っ張り込みますか?」

 

「あら、アミタだって満更でもないんでしょ?」

 

「う……」

 

 気持ちはキリエと同様、姉妹であるが故かそれによりフラグが建ったっぽい。

 

「ま、取り敢えず」

 

「「キャッ!?」」

 

「僕としては主導権を取られる心算、無いんだよね」

 

 起き上がってからキリエとアミタを押し倒す形で、二人はギアーズとして持つ力が通用しないのに慌て、だけど……

 

「んっ!」

 

 唇を奪われてその侭……大人しくなったと云う。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話:再世 破界された星を救え

.

 あれから数日が経過。

 

 紫天ファミリーは元気に害獣退治に勤しんでると、シュテルからの定期報告が上がってきている。

 

 食糧はたっぷりと渡してある訳だし、少なく見積もっても一〇日は保つ筈。

 

 という事はもう数日くらいは戻らないだろう。

 

 そんなもんだから退廃的な生活が続いていた。

 

 最初は文句も言っていたグランツ博士ではあるが、もう諦めてしまったらしくて何も言わない。

 

 何しろ、部屋はキリエとアミタとグランツ博士とで分けられているとはいえ、そこまで厚い壁でもないのに毎晩毎晩、二人の娘によるデュエットを聴かされるのは辛い。

 

 何が辛いって、肉体的に二十代に戻ってしまったから主に下半身が。

 

 まさか娘のデュエットで自家発電は出来ないから、眠る時間――一二時を過ぎた頃〜五時頃まで殆んど休みもせずのデュエットに、寝不足気味で目の下に隈が浮かんでいたり。

 

 声の感じから前戯後にはひたすら挿入れてる感じなのだが、そうなると一時間に数回の絶頂で射精している筈なのに五時間くらい、二人と代わる代わるヤり続けているユート、それなのに毎晩ヤっている持続力が空恐ろしい。

 

 今日も今日とて娘によるデュエットは響いていた。

 

 尚、ユートの声は特に響いてはきていない。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何してんの?」

 

 ふと光がちらつきキリエが目を覚ますと、ユートが空間モニタを視ながら何かをポチポチやっていた。

 

「エッチなゲームでもしてるの? それなら私で解消すれば良いじゃない」

 

「僕はエロゲは好きじゃないんだよ」

 

「? そうなんだ……」

 

 ならば何を? とばかりにモニタを視てみれば……

 

「エッチなゲームじゃないけど、女の子の画像じゃないのよ! だからまだ溜まってるんなら相手になるってのに! アミタと」

 

「私もですか!?」

 

「やっぱ起きてたわね……お・ね・え・ちゃん?」

 

「うぐっ!」

 

「狸寝入りは宜しくないと思わない? 熱血乙女――じゃなくなってるか」

 

 乙女とは男性経験の無い女性を主に指すから。

 

「にしても割と美人よね。えっと、紫紋? う〜ん、確かそれって竜王(ダイゴジョウ)国の王妃様じゃなかったっけ?」

 

「まあな」

 

「若しかしてNTR?」

 

「ち・が・う!」

 

 そう、断じて違う。

 

 ユートには寝取った覚えはないのだから。

 

「とはいえ問題がな」

 

「問題って?」

 

「実は紫紋はまだ生きていたりする」

 

「「はぁ?」」

 

 古代ベルカ時代はユートの居る時代から六〇〇年は前に当たり、不老長寿であるユートやほむらならいざ知らず、普通の人間が生きている筈など無かった。

 

「元々、他所の国と戦争中に紫紋が魔法の余波を受けたらしくてな。竜王が自分の首と引き換えにしてでも救って欲しいとか言って、ウチに連れて来たんだよ」

 

「うわぁ、愛されてるね」

 

「私の熱血お姉ちゃんハートがドキドキします」

 

「僕なら治せると思ったからこそだな。とはいっても戦争で首級を挙げるんならまだしも、それで首を落としてもつまらないからな。取り敢えず対価は後でって事にして帰した」

 

「王としての矜持?」

 

「そんなもんだ」

 

 まあ、別に理由が無いでもなかったが……

 

「だけどあっちの国の莫迦の所為で、真王国と竜王国が戦争に突入した」

 

「「はぁぁぁっ?」」

 

「最終的には真王国の勝利に終わり、莫迦は拷問に掛けてから苦しめながら殺してやった」

 

「うわぁ、目に浮かぶわ」

 

「そんな事になっていたんですか?」

 

 ユートにとってあの手のは大嫌いだから。

 

 即ち、裏切者だ。

 

 その昔に気が合った友人――ファイゼル・リッターの影響が強いから。

 

 竜王国より真王国の方が良さそうだと考えたのか、或いは共倒れさせて第三国に亡命する気だったのかは判らないが、竜王国の要人の一人が莫迦な行動をした所為で戦争が勃発した。

 

 尚、拷問は苦しめる為の行為に過ぎなかった為に、情報などまるで引き出してはいない。

 

 どうせその時には竜王国も竜王を欠き、滅んでしまっていたのだから。

 

「竜王から今際の際に紫紋とその側女を預かった」

 

「側女って所謂、侍女とかそういう意味よね?」

 

「ああ。名前は蘭々」

 

 この辺りも同じ……か。

 

 ユートは当時にそんな思いを抱えていた。

 

 識っているのだ。

 

 竜王や紫紋や蘭々の事、別の世界で別の彼らを。

 

 正直、真王と呼ばれる様になってから竜王や紫紋と出逢い、『ここはリリカルでマジカルな世界なんだけど!?』と驚愕した。

 

 群雄割拠して合戦に明け暮れてはいるが、その舞台はベルカであって銀河ではないのだが……

 

 とはいえ、戦さえ無くば仲良く出来そうな相手で、王妃の紫紋と笑い合っていたのは良い想い出。

 

「竜王の戦死以外にも問題があってね。蘭々と紫紋は時間凍結させて眠らせた」

 

「問題?」

 

「紫紋のダメージが予想を遥かに上回ったんだ」

 

 アミタの問いへの答え、それは確かに大問題。

 

「脳に深刻なダメージを負っていてね。他なら兎も角として、脳だけを下手に弄れなかった。しかも手術でどうのも無理な状態だ」

 

「命に関わるんですか?」

 

「否、私生活に問題なんかは起こらないし、寿命的な問題も無いだろうね」

 

「それなら何が?」

 

「脳の記憶野に深刻な傷、それから先の記憶に問題は無いが、それまでの記憶はエピソード記憶がごっそり消失している」

 

「「っ!?」」

 

「まあ、それだけならまだ良かった。最低最悪だが、僕が婚約者とか言って宥めて真王国の王妃に迎えて、真王国の王子でも産んで貰えば最低限の幸せくらいは与えられたから」

 

「ほんっとーに、最低最悪ですよそれ」

 

 アミタのジト目が突き刺さるが仕方ない。

 

「嘘も死ぬまで吐き通せば真実と変わらんよ。少なくとも紫紋にとってはね」

 

「だけど……そうじゃなかったのよね? 私もエグザミアを調べる過程でベルカの諸王について調べたよ。真王国はベルカの戦争末期に何故か、国民と共に消失してしまっている。それが真王が“創作”だとまで云われた原因だもの」

 

 真王の存在の真偽。

 

 聖王教会でもそこら辺、実は諸説があった。

 

 そもそも、カリムの言で【双子座黄金星聖衣】とは聖王が戦時に纏う鎧としか伝わっておらず、真王の名は出てきてはいない。

 

 それでも何故か麒麟星座の神聖衣を纏っていた……という有り得ない嘘と共に真王という名前は伝わっていたらしい。

 

 実際の真王はファイズ、それから最後の最後辺りでもう一つを使った。

 

 では何故か?

 

 ユートが全てを“投げ出す”時、麒麟星座の神聖衣を纏って敵兵に銀河爆砕を放っている。

 

 それが僅かに伝わっていたのであろう。

 

 幸運にも生き残った兵、そして報告を受けた将による伝聞で。

 

「それで問題点は?」

 

「前世の記憶を思い出していたんだ」

 

「「ハァァァッ?」」

 

「迂闊だったよ。前世でも竜王の妻……第一王妃だったからね。暫く会話の方に違和感が無かった。側女が蘭々だったのもそれに拍車を掛けた。蘭々も前世では同じ名前で同じ姿で立場も同じだったから」

 

「それは……また……」

 

 竜王の名前も同じ。

 

「だけどやっぱり違うし、どうしても違和感は出る。竜王国には居ない筈の人間の名前、更には存在しない国の名前が出て違和感を覚えた僕は……今生に存在しない第二王妃について訊いてみた」

 

「何て答えたのよ?」

 

「麗羅という名前が出た」

 

「麗羅?」

 

「竜王が前世で一兵卒だった頃に仕えていた王の娘」

 

 竜王の前世は貴族の子息とかではなく、田舎の孤児で一兵卒として雇われていたに過ぎない。

 

 それが敵国の宗主を討ち果たし、死んだ仲間の家族が暮らせる報奨の直訴にて王や将軍に気に入られて、紅一点な四天王の将軍により師団長として引き立てられ立身出世を繰り返す。

 

 それが未来で皇帝にまで登り詰めた竜王の物語。

 

「蘭々と相談をした結果、取り敢えず僕が元の時代に戻るまで、約六〇〇年間を時間凍結で眠らせた」

 

「じゃあ、もう起きているんですか?」

 

「まだだよ。エグザミアの関連を全て済まさないと」

 

「じゃあ、今は何処に?」

 

「真王国の一つに」

 

「――は?」

 

 意味が解らないとアミタが間抜けな声を出す。

 

「実は真王国ってベルカをバックレた後、カルナージを始めとする無人世界へと移動させた。地球の近くの無人世界とカルナージ……それにミッドチルダに在る【OGATA】の社員は、基本的に真王国の国民達の子孫で成り立っている」

 

「うわぁ」

 

 だとすれば、最大宗教として残った聖王国よりも、隠れた勝ち組であろう。

 

 本来のリリカル世界ではカルナージは無人世界で、十数年後にアルピーノ母娘が移住するまで開墾さえもされてなかったのだけど、この世界に於いてカルナージは王国に等しい。

 

 尚、アルピーノ母娘が暮らす筈だった地は無人の侭に置いてある。

 

 当たり前だがそれなりに離れているとはいっても、次元航行艦で四時間程度の距離、ミッドチルダからのというか時空管理局からの接触も何度かあった。

 

 管理世界になる気は無いというのが、カルナージの答えではあるが管理局とて近場にこんな王国が在るというのに、管理外世界というのは落ち着かないのか、何年か置きに軍事行動的な襲撃を受けている。

 

 然しユートはカルナージを渡す気は無く、おうるの娘である“おうら”を住まわせており、時空管理局が攻めてきたら応龍皇と眷属を出して対抗させていた。

 

 おうると同様におうらも戦闘モードは応龍皇。

 

 あの巨体な龍を相手に、アルカンシェルさえ無力化されては、時空管理局とてどうしようもなかった。

 

 因みに、聖域ミッドチルダ支部はカルナージ支部の支部というのが正しい。

 

「あれ? ならユートって実は今でも真王様?」

 

「一応はね」

 

 しかもベルカ全土を越える領土を、世界間すら越えて保持している正に皇帝。

 

「今じゃ真皇とか呼ばれてしまってるな。でもあれは……ジョークなんだろうが大魔時王はやめて欲しい」

 

 酷い当て字だし白夜からきいたソレは、余りにも余りな王様だったから。

 

「じゃあ、私も王妃様とかになれたりするの?」

 

「ちょ、キリエ!?」

 

 とんでもない事を言っている妹に慌てるが……

 

「幾つか後継者無しな領土が在るし、子供を作ったら其処で王妃をしても構わないけど?」

 

「え、マジに?」

 

「君ら子供って作れる?」

 

「作れるわよ」

 

「博士からは作れると聞いています」

 

「……」

 

 そうなると二人は完全な人工生命体でなく、一種のサイボーグという事だ。

 

 人造人間18号みたく、改造された人間……

 

 恐らくはグランツ博士と亡くなった奥さん、そんな二人の実子かクローン体を改造したのがアミタ・フローリアンとキリエ・フローリアンなのであろう。

 

 人工的な子宮を造るだけならいざ知らず、人工的に卵巣が造れたりはしない。

 

 余程の外法を用いらない限りは。

 

 実際、人体改造も外法。

 

 だからベルカでは当たり前に使われてた技術でも、今現在のミッドチルダなど主要世界や管理世界に於いては、違法な技術に分類されていた。

 

 だから生命操作技術を使うジェイル・スカリエッティは、広域次元犯罪者として広く手配をされている。

 

 元はといえば管理局でのトップ、最高評議会が造り上げたというのに……だ。

 

 正しくスケープゴート、生贄の羊という事か。

 

「う〜ん、なら孕むまでは頑張って貰いましょ」

 

「それ以前に、私達の方が保ちませんけどね」

 

 この数日間、ギアーズで普通の人間より遥かに体力がある二人が、二人掛かりで気絶させられている。

 

「ま、残り日数からしても孕まないだろう。僕って、孕ませ難い体質みたいだからね」

 

 呟きながらも二人を抱き始めるユート。

 

 二時間後、まるでレ○プ現場にも等しい惨状が広がるベッドに二人が倒れて、再び仕事に戻るユートの姿が在ったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 紫天ファミリーでは斃せないレベルの魔獣が出てきた為に、ユートが代わりにそれを討った事で随分と静かになったエルトリア。

 

 まあ、それで彼女ら――シュテルは除く――の多分だがフラグが立った。

 

 というか、好感度が上がったというべきか?

 

 元より一〇〇%になってるシュテルは置いといて、一番高かったのがやっぱり自分を救ってくれたと考えているユーリ。

 

 次にレヴィであり最後にディアーチェ。

 

 ディアーチェは一桁%でしかなかったのが、今なら二桁%に入ったくらいか?

 

 つまり二〇%未満。

 

「さて、【腐蝕の月光】……アーデルハイト招喚を行おうか」

 

 ミッドチルダとかで使われる召喚テンプレートとも異なる魔法陣が出現して、ユートの力を受けたからかクルクルと回転を始めた。

 

「汝、我が閃姫に名を列ねし存在。支配者たる女王、果ての無き眠りにある者、全てを腐蝕させる者よ……我が言之葉に応え来よ!」

 

 激しくなる魔法陣の回転と共に、中央には人影が確かに顕れていた。

 

「来よ、汝が名はアーデルハイト!」

 

 詠唱終了と共に余りにも美しい少女が姿を結ぶ。

 

「御喚びにより参上を致しました。アーデルハイト、罷り越して御座います……御父様!」

 

「「御父様!?」」

 

 アーデルハイトの言葉、『御父様』にフローリアン姉妹が反応した。

 

「予てより言ってあった通りに、この惑星エルトリアを“準テラフォーミング”するから【腐蝕の月光】を頼むよ」

 

「はい!」

 

 それはそれはとても素敵な笑顔で即答をする。

 

 準テラフォーミング……通常のテラフォーミングは謂わば、地球の月や火星など住むに適さない星を地球と同じ環境に造り変えるというものであり、“準”と付くのは荒れた地球と似た環境の星を造り直す事。

 

 どちらもアーデルハイトが【腐蝕の月光】で行えるから、どっちのテラフォーミングにせよ彼女を招喚して力を使わせる。

 

 単に腐蝕させる攻撃行動だけなら良いが、テラフォーミングには多少の無防備な時間があるから、巨獣には消えて貰った訳だ。

 

 光が大地に降りる。

 

 光臨するアーデルハイトの力、【腐蝕の月光】によりエルトリアは破界され、そして再世されていく。

 

「まさか、そんな!?」

 

「ありえません!」

 

 キリエもアミタも余りの光景に叫んだ。

 

「これだけの魔力をいったい何処から!?」

 

 グランツ博士もそうだ、アーデルハイトが発している【腐蝕の月光】と称される力、これが放つエネルギーゲインは明らかに人が持つには余るモノ。

 

 否、次元航行艦の魔導炉でさえ出せない程だろう。

 

「あんな魔力量に強度を、いったいどうやって出しているんだね!?」

 

「閃姫になると幾つか特典が付く」

 

「へ? 特典……かい?」

 

「僕が滅びない限り僕と同じ無限の寿命を得られ、。更には身体能力が何倍にも上がる。そして閃姫専用の魔力タンクを得られる」

 

「魔力タンク……それか」

 

「まあね。僕は使えない、閃姫の為の魔力タンクだ。その量も強度も膨大で強大……それこそ恒星数個分のレベルで使えるんだよ」

 

 惑星の一つをテラフォーミングした程度で無くなりはしないし、強度が大きいから魔力効率も良い。

 

 しかも使い切りでなく、普通に回復をする。

 

 ユート自身には扱えず、何故か閃姫が専用で使える魔力タンク、魔法関係を扱うタイプには凄まじいまでのギフトであると云う。

 

 特にアーデルハイトによるテラフォーミングだと、月の一部を造り変えるだけで全魔力と生命力を搾り出し尽くして消滅した。

 

 まあ、ユートが再構成をしたのだけど。

 

 それが自身の生命力は疎か魔力すら使わず、完全なテラフォーミングを月より大きな惑星全土で行える程だから、正に魔力タンクの大きさを実感出来た。

 

 そして【死蝕】の根源を消滅というか腐蝕させて、完全に原因となるモノを断ったのを確認してから後、テラフォーミングを実行したアーデルハイトがユート達の所に戻って来る。

 

「テラフォーミング完了。聞かされていた【死蝕】とらやの原因も私の腐蝕二より消失。エルトリアは滅びから救われました」

 

 ニコリと笑顔を浮かべ、ユートとフローリアン父娘に報告をした。

 

 僅か一日足らずの間に,エルトリアはすっかり様子が変わり、穏やかな月光が地上を照らしている。

 

「それじゃあ、御父様……今夜は宜しくね?」

 

「ああ、判った」

 

 肩を竦めながら頷いた。

 

 親子の様な呼び方をしているが、アーデルハイトもユートの閃姫なのだ。

 

 当然ながら契約済み。

 

 エヴァンジェリンを母親として、ユートを父親として慕ってたアーデルハイトだったけど、血の繋がりが双方共に無いのは初めから理解していたし、年月が経つと記憶も戻り始めていたから余計にだ。

 

 嘗て【閃姫契約】をしたあの日、完全に記憶が戻ったアーデルハイト。

 

 自身が納得して契約したとはいえ、やはり複雑ではあったのだろう。

 

 再構成前の夫――ローズレッド・ストラウスを思い出したのかも知れない。

 

 とはいっても、あれから随分と時間も経っている上にストラウスも居ないし、嘗てのストラウスの敵であった【黒鳥憑き】、比良坂花雪やストラウスの養い子に近いレティシアも居た事で逆に安定した。

 

 テラフォーミングに関しては、一度やったからだろうか? 今や慣れたもの。

 

 請われて火星のテラフォーミングをした際、以前に血族の為のテラフォーミングを月でやった以上に効率も良くやれていたと思う。

 

 仕事の後はたっぷり愛されるのも悪くない。

 

 ストラウスの妻であった時は、アーデルハイト本人は確かな愛を彼に感じながら仮面夫婦みたいな、そんな間柄だったのも大きい。

 

 結婚してから九年間……閨を共にするのも“仕事”みたいな感覚だったから。

 

 ストラウスを愛していた筈なのに、望んだ居場所の筈だったのに空しいだけ。

 

 再構成して初めての行為であり、記憶も完全に取り戻す前だったあれが余りに鮮烈で、ストラウスとの事を押し流すレベルだったのが新鮮に感じ、ストラウスへ懐いた想いとはまた違う愛情を育んでいた。

 

 だからアーデルハイトは今此処に居る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 エルトリアの復興。

 

 長年の夢が他人によってとはいえ叶い、グランツ・フローリアン博士も肩の荷が降りた思いだ。

 

 勿論、ちゃんとした復興にはまた時間が掛かるが、【死蝕】に星が蝕まれていた頃とは大違い。

 

 自分の病も最早完治し、肉体的には若返ってもいるから精力的に働く。

 

 フローリアン姉妹は博士を手伝って、ギアーズとしての本分を全うした。

 

 とはいえ、ギアーズ自体は他にも存在しているし、数年後にはユートの許へと二人は赴く。

 

 【閃姫契約】しているから数年が経過していても、エルトリアで別れたその時と全く容姿が変わらない。

 

 紫天ファミリーも暫くはエルトリア復興の手助け、数年後にフローリアン姉妹と共に戻る事になる。

 

 そしてユートはある意味でまた、独力で原典の事件を潰した形になった。

 

 なのは、フェイト、はやての三人娘の進路も原典とは異なり、時空管理局とは関わらない方向性となる。

 

 聖域の日本支部所属で、十年後の【JS事件】となる筈だった事件の最中に、ミッドチルダ支部へ出向をする形ではあるが……

 

 十年後、それは這い寄る混沌の介入もあって本来の流れがやはり変わる。

 

 【CG事件】と後に呼ばれたそれは、時空管理局の権威が大きく揺らいだ楔となる事件であったと云う。

 

 

.




 これにてGOD篇は終了と相成ります。予告通りに次回からは空白期とStS篇をやっていきます。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空白期
第1話:進化論 その美しい翼に魅せられて


 宣伝通り空白期とStSは基本的にStSを進め、少しずつ空白期も埋めていく形になります。





.

 闇の書の終焉と無限結晶に関わる彼是が終結して、ユートは一〇年後に起きる【JS事件】に考えを向けていた。

 

 勿論、【JS事件】とは原典に於ける事件の名称に過ぎず、実際にはどうなるか全くの未知数。

 

 とはいえ、【JS事件】の首謀者たるジェイル・スカリエッティは確かに存在すると、クロノ・ハラオウンからも聞いていた。

 

 広域次元犯罪者であり、手配もされてるとか。

 

 彼がいつ誕生したか判らないが、少なくとも今現在に於いて四十路は越えていないだろう。

 

 何故って?

 

 管理局の成立は新暦からの筈だから、現在は六五年が経過している訳だ。

 

 然しながら管理局の前身となる組織は存在していたろうし、諸説はあるにせよ旧暦と新暦を含めて最低でも一〇〇年は経っている。

 

 最高評議会の三人とは、即ち旧暦の頃から管理局の黎明期に組織を立ち上げ、管理局システムを構築した偉大なる存在である……とされていたり。

 

 ユートからすれば彼らは偉大なる(笑)存在だが……

 

 そんな彼らが自由に研究を出来た時期はいつか?

 

 少なくとも管理局黎明期の頃ではない。

 

 忙し過ぎてそんな事をしている暇が無いから。

 

 安定期だろうか?

 

 黎明期に比べて主要世界――管理云々などが付かない世界――も増えており、管理世界も順調に増えつつあって、今現在の伝説と謳われる三提督が現役で活躍をしていた時期である。

 

 暇は出来たろう。

 

 然し技術が追い付かないと思われる。

 

 伝説の都アルハザードからの流出物、それを秘匿してヒト・クローンを造り出すとなれば、相応の技術力が必須となるのだから。

 

 だから完成にはそれだけの時が経過していた筈で、更にはすぐに使える様にするべく、成長促進も行われたであろう。

 

 だからこの時期だったら二十歳前半か其処ら。

 

 それがユートの推測。

 

「まぁ、ミッドチルダには以前とは比べ物にならないくらい情報を得た今なら、凄まじいまでに僕の手が入っていたのが判るけどね」

 

 【OGATA】ミッドチルダ支部、真皇ユートにより創られた複合企業(コングロマリット)だ。

 

 地球に本部を置いているのは周知の事実。

 

 コングロマリットとは、基本的に様々な業種が合併したりして成立をするが、【OGATA】は初めから複合企業として創立されている企業である。

 

 技術に関してはやはり、【超技術(チャオ・テクノス)】が一番だった。

 

 様々な世界から集めてきた技術者、超 鈴音を資金集めも出来る支社長として扱い、技術顧問にユーキを据えて技術開発局の局長に葉加瀬聡美を置いた。

 

 他にも放浪期に集めてきた閃姫や、再誕世界を出てから集めた閃姫まで居る。

 

 今やプレシア・テスタロッサもその一員であるし、管理局から貰ったマリエル・アテンザも就職した。

 

 勿論、錬金術士も在籍。

 

 最早、怖いもの無しとか豪語しても良いレベルだ。

 

 そういう意味で云えば、ジェイル・スカリエッティが何するものぞ! と声を大にして言いたい。

 

 特に技術者としてみれば錬金術士はヤバいレベル、と言いますかユート本人が正に錬金術士。

 

 放浪期に不思議世界――とユートは呼んでいる――や黄昏世界、アーランド、そしてザールブルグやグラムナートの在る世界を跳んで回り、錬金術士の女の子と仲好くなって閃姫にした数は一桁ではない。

 

 何しろ、別に堕としても世界が滅びる訳ではなく、仲好く錬金術をやっていれば良かった。

 

 まあ、可哀想な思春期君とか騎士とか居たが……

 

 そして錬金術士とは得てして危険人物である。

 

 ユートも含めて。

 

 人格はまだしも造り出したフラムを投げまくるし。

 

 尚、錬金術士は戦闘なども出来るから聖域では一種の技術職で参戦する。

 

 バトったら取り敢えずはフラム、フラム、フラム!

 

 ミッドチルダでフラム……爆弾は良いのか?

 

 フラムは魔力爆弾。

 

 火薬式ではないのだし、管理局から文句を言われる筋合いは無い。

 

 ユートの閃姫となっている錬金術士は、イリス関連やマナケミア関連を除いた各ヒロイン達。

 

 何故にイリスとマナケミアが除かれたか?

 

 理由は行かなかった為。

 

 ユートが選んで跳んだのなら、恐らくは行って友誼の一つも育んだろうけど、行かなかったというよりは行けなかったからどうしようも無い。

 

 出逢いは有ったのだが、其処(ネルケ)ではまた趣旨が違うという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 予定通りなのはとはやてとフェイト、本来の世界線なら時空管理局のエースを地球で仮就職させ、管理局には入らない様にした。

 

 恐らくは一〇年後には、可成り人手不足だろう。

 

 将来的に、時空管理局のプロパガンタに使えるであろうエースが居なくなるのだから。

 

 事実としてスバル・ナカジマとギンガ・ナカジマ、この二人は事故の折り救ってくれたなのはとフェイトに感謝や憧れを持った。

 

 ならば似た様な出来事、或いは彼女らの活躍に胸を踊らせて入局した者も居ただろうし、正しくプロパガンタに持って来いである。

 

 然しそうなると逆説的に二人を救う人間が居らず、そこら辺はユートが対処に廻るしか無い。

 

 取り敢えずはエルトリアの事も終わり、ユートは兼ねてからの予定通り紫紋と蘭々を起こす事にした。

 

「先ずは蘭々かな」

 

 紫紋の側女であり友人、彼女は記憶を失ってからも側に在ったし、蘭々が居れば混乱も少なかろう。

 

 二基のポッドを月村家のユートに与えられた自室に運び込み、蘭々の眠る方のポッドの蘇生処置をした上で扉を開ける。

 

 プシューッ! ウィーンとか鳴りながら開く扉。

 

 中から目を開いた黒髪の少女が、ポッド内に横たわっていた上半身を起こす。

 

「お早う、蘭々」

 

「し……お……さま……」

 

 まだ上手く喋れないのか辿々しい口調。

 

「ゆっくりで良いから」

 

 コクリと頷く蘭々。

 

「ユート……様……」

 

「栄養点滴はしているが、やっぱり舌とお腹で味わうご飯も食べたいだろ?」

 

「……は……い」

 

「何しろ約六〇〇年の眠りから覚めたばかりだしね、流動食から始めてお粥を食べて、それからゆっくりと固形物に移ろうか。大丈夫だよ、ウチの流動食はそれなりに食える味だからさ」

 

「し、紋様……は?」

 

「まだ眠ってる。隣だ」

 

 言われた蘭々が振り向けばもう一基、彼女が眠っていたポッドと同じポッド。

 

「それと、いつまでも裸は無いだろう」

 

「……え? あ!」

 

 ずっと冬眠状態だったから生理年齢は一二歳程度、前世の記憶も曖昧だったから精神年齢も精々が高校生と変わらないが、それなら男に裸を視られて羞恥心は普通に沸く。

 

 とても恥ずかしそうに、大事な部位や胸を隠した。

 

「……ユート様なら」

 

 見たいですか? なんて視線を向けてきた。

 

「今は無理はしない」

 

「……はい」

 

 その後、ゆったり風呂に入ってから謂わば巫女装束に身を包んだ。

 

 食事も摂ったから血色も随分と良くなり、昔の活発な部分がまだ出てこないからちょっと心配となるも、健康には特に問題は無さそうでホッとするユート。

 

 一週間ばかり蘭々の回復に努め、いよいよ紫紋を目覚めさせる運びとなる。

 

「ユート様、紫紋様の傷はやっぱり……」

 

「ああ、深刻なものだ」

 

 古代ベルカの時代から見て約六〇〇年後、時空管理局が幅を利かせて新暦とか呼ばれて久しいなど蘭々も色々、今の時代に関しての知識を確りと得ていた。

 

「命に別状は無いんだが、古代ベルカの記憶を喪っていて、更に前世の記憶が戻ってしまっているのも相変わらずだろうね」

 

「……前世。雷様が宇宙を駆けていた頃ですね」

 

「ああ、何の因果か生まれ変わっても戦乱の地だし、再び廻り合った紫紋をまた護り切れなかった。しかも今回は真王たる僕に敗れたんだからね」

 

「私は余り覚えてはいませんけど、何と無くライ様と紫紋様が夫婦になった幸せな風景は有るんです」

 

 まあ、お邪魔虫とか色々と居た気もするけど。

 

 兎に角、紫紋のポッドの扉を開いてみた。

 

 プシューッ!

 

 蒸気を撒き散らしながらも扉が開くと、長い金髪を足元にまで伸ばしているだろう女性が目を開く。

 

「こ、こは……」

 

「久しいな竜王妃紫紋」

 

「……確かユート様……でしたか?」

 

「混乱する貴女を割と強引に眠らせたけど、あれから六〇〇年が経過している。頭の方は大丈夫か?」

 

「頭がおかしな娘扱いをしないで下さい……」

 

「蘭々よりは意識が確りとしているみたいだね」

 

「蘭々!?」

 

「紫紋様……」

 

 巫女装束に腰まで伸ばした黒髪の少女、それは前世と恐らく今生で世話をしてくれていた側女。

 

「……私にあるのは昔の、ライと結婚して彼が師である狼刃元帥や偽帝を討ち、竜王となったあの人と過ごした記憶だけだけど、貴女はその後に死んで生まれ変わった私の事も御世話してくれたのね」

 

「はい、はい!」

 

 泣いている蘭々の頭を優しく撫でる紫紋。

 

「ありがとう、蘭々」

 

「紫紋さまぁぁぁ!」

 

 何と無く寸劇でも見せられた気分だが、取り敢えずは話を進めねばならない。

 

「それで、紫紋はこれからどうするんだ?」

 

「……雷、はもう居ませんから。しかも私が生きていた時代より数百年も後……記憶に有りませんけど」

 

 一応、無くした記憶補完の為に眠る前に蘭々が色々と教えてある。

 

「夫が居た身ではしたないとは思いますが、今の私には一切の頼れる(よすが)もありませんし。真王様の御慈悲に縋る(はしため)と御思い下さいませ」

 

「一応は一国の王妃だったのに、それで良いのか? 紫紋は」

 

「はい。雷と私の国は既に亡びています。それでなくとも六〇〇年も経っていては居場所もありません」

 

「ま、そりゃあ……なぁ」

 

 行き場が無いなら生きる為にも、誰かしら縋らなければならなかった。

 

 況してや紫紋はお姫様から王妃様、一般的な生活をした事など無いに等しい。

 

 記憶が前世に跳んでいるとはいえ、やはりお姫様だった紫紋ではアルバイトも出来ないだろう。

 

 炊き出しくらいは出来るけど、この時代に必須項目とは云えないから。

 

「まあ、竜王から頼まれてもいるし……な」

 

「ありがとうございます」

 

 まるで主に対するかの様な最上礼をする紫紋。

 

「取り敢えず天竜領で暮らして貰う」

 

「天竜領?」

 

「嘗て、僕は真王国が激しい戦火に曝され始めた時、ベルカの地を捨てて民達を移民させた。嘗て無人世界と言われていた誰も住まない世界の幾つか、其処へと移民させてから国としての体裁も整えた。天竜領は嘗ての竜王国の民が多く暮らす領国で、今現在はその子孫達が生きる場所だよ」

 

 ゴジョウと呼ばれていた竜王国、竜王雷が倒れたからには路頭に迷ってしまう訳だが、ユートは竜王を討った責任として竜王国民を保護していた。

 

 そしてベルカからバックレた後、彼らには地球にも近い無人世界に領国を作って移民させている。

 

 それが天竜領国。

 

 真皇ユートが治めている二五の領国の一つだ。

 

 六〇〇年ですっかり落ち着いているし、領主が居ない領国も多かったりする。

 

 天竜領国は元より紫紋を領主にする予定も考えていたから、初めからそんなのは決めてすらいない。

 

 ベルカ諸王の群雄割拠をする時代に跳ばされる前は識らなかったが、現在でのユートはそれら全てを把握している状態だ。

 

 こうして紫紋は天竜領国へ蘭々と共に移住をして、真皇の妃の一人という形で領主をする事になる。

 

 尚、蘭々も妾みたいな形で紫紋のサポーターとして側女を継続、仕事も夜中にユートが渡って来た場合の性活もサポートする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 紫紋を天竜領国へ送り、民に嘗ての竜王の妃で今はユートの真皇妃の一人だと紹介、やっぱり竜王の民の子孫だけに受け容れられた紫紋は、領主として城住まいとなった。

 

 それから数日後、土曜日にユートは【さざなみ寮】に何故か御招待をされて、夕飯を御馳走になる。

 

「いや〜、君には前に愛がお世話になったからね」

 

 槙原耕介が白米を飲み込んでから言う。

 

 槙原耕介の妻の槙原 愛は槙原動物病院の院長で、【PT事件】となる筈だったジュエルシードの暴走、それで病院が被害を受けたのだが、ユートが直したから余計な出費をしなくても済んだらしい。

 

 只でさえ聖域の教皇で、恩を受けたなら御礼の一つはしておきたかったとか。

 

「まあ、御礼を言いたいというのは判ったよ。美味しいご飯も食べれたしね」

 

「良かったら御代わり幾らでもしてね」

 

 愛がにこやかに言う。

 

 メンバーは所謂、原典の頃から七年間を暮らしている者や、少し前に入った者など何人かという処。

 

 特にユートが持ち込んだ酒を旨そうに飲む女性は、耕介が管理人代行を頼まれた前から済む豪の者。

 

 漫画家らしいが、ユートの見立てでは剣士で通用しそうな筋肉の付き方。

 

 それは槙原耕介も同じ。

 

 神咲那美が【神咲一灯流】を修めた退魔巫女なのは【なの神楽事件】で知っていたし、リスティ・槙原は警察関係で銃の扱いくらいは心得ているみたいだ。

 

 食後の酒を飲む漫画家、仁村真雪と国際救助隊へと入隊していたが、帰ってきている妹の仁村知佳。

 

 二二歳と成人をしているのだが、七年前の槙原耕介が管理人代行を始めた頃からプロポーションに大した変化は無く、姉の真雪とは正反対な御子様な肢体。

 

 バストサイズも七〇にすらなっていない。

 

 陣内美緒は九九.九%の人間の遺伝子に、ほんの僅か〇.一%の猫的要素を持つ女性である。

 

 今は大学生らしい。

 

 ふとユートが視線を感じて見れば……

 

「あうっ!」

 

 真っ赤になりながら顔を逸らす神咲那美。

 

 無理も無い。

 

 【なの神楽事件】では、“診察”されてしまった訳であるし、何より行き成り指を膣□内に挿入()れられただけでも卑猥なのに、更に口内や菊門にまで挿入()れられたのだから。

 

 口内に挿入()れた指をしゃぶらされ、唾液塗れになったそれが菊門へ突っ込まれてしまい、グリグリと優しく掻き回されたのだ。

 

 勿論、嫌いな相手や興味の無い相手からヤられたら通報モノだが、“検査”であるのも手伝って嫌だとは思わなかったのも大きい。

 

 まあ、膣□を嬲られた時はひっぱたいだが……

 

 兎に角、女の子としてはもう『お嫁に行けない』と悩むくらいの出来事。

 

 そんな相手が目の前に居るのだから、恥ずかしくて顔を背けたくなるのは仕方がない事であろう。

 

「ご、御馳走様」

 

 取り敢えず逃げた。

 

 本当は気になって気になって仕方が無かったけど、今を以てまともに会話が出来ないのだから。

 

 宴も酣が過ぎた頃合い、ユートは耕介に訊ねる。

 

「それで?」

 

「それで……とは?」

 

「わざわざ僕をさざなみ寮の夕飯に誘った理由だよ。奥さんの病院の御礼とかだけじゃないよね」

 

「う〜ん、まぁね」

 

 バツが悪そうな耕介ではあるが、それでも意を決したのか口を開いた。

 

「君は色々な“力”について詳しいらしいね」

 

「力? 耕介が使う霊力みたいな?」

 

「そう」

 

「まあ、知識は有るね」

 

「それなら訊きたいんだ。HGSを知ってるかい?」

 

「HGS? 高機能性遺伝障害、中でも二〇人に一人の割合で所謂、超能力が扱える様になる病気……とか云われているね」

 

 ぶっちゃけ、今も座っているリスティや知佳がそうだし、英国のクリステラ・ソングスクールのフィアッセ・クリステラや海鳴大学病院のフィリス・矢沢など幾人かが存在する。

 

 尚、フィリスはリスティのクローンだったり。

 

 更に海外には同じ境遇の姉妹が居たりする。

 

「変異遺伝性なだけにこれは遺伝子そのものが変容した病とされ、故に先天性のものでしかも治療法は未だに確立されていない」

 

 勿論、変異遺伝性の中には後天性のものもある。

 

 だけどHGSは基本的に先天性変異高機能遺伝障害に当たり、知佳やフィアッセ・クリステラなどは生まれつきこうだった。

 

 そして遺伝性なだけに、子や孫や玄孫にと子々孫々に受け継がれていく。

 

 だからこそ、リスティの遺伝子情報から産み出されたクローン――フィリスとセルフィは同じタイプで、同じ力を持ったのだから。

 

(それは決して……)

 

 ユートは瞑目する。

 

「はっきり言おう。HGSは病の類いじゃない」

 

「……え?」

 

 そんなユートの言葉に呆ける知佳。

 

「病じゃ……ない……?」

 

「人によっては確かに病、だけどそれは未知を病とするからだ」

 

「未知……」

 

「HGSは進化の前兆」

 

「進化ですか?」

 

 愛が小首を傾げた。

 

 進化体そのものでなく、前兆が前面に出たもの。

 

 百年以上、五世代以上を以て完全な進化体が顕れる可能性を秘める。

 

 オルフェノク程に急速でもなければ、アギトみたいな大きな変化もしない。

 

 今の状態を突き詰めた、そんな形となるだろう。

 

「それにその手を病とするのは以前にも見たよ」

 

「と、言うと?」

 

 耕介が先を促す。

 

「超能力、その源となるはPSYON(サイオン)。それへ術式を使って一般化させた“魔法”を扱う。そんな中で瞳に力を持った人間に、【霊子放射光過敏症】という名前を付けた瞳。病であると定義をする事で秘密を暴いた気にでもなったか、だから彼女も自分の力には気付けなかった。視るという行為に特化した【魔眼】の力に……ね」

 

「魔眼……」

 

「知佳、進化の前兆は何処に顕れるか未知数なんだ。また因果関係も様々だな。オルフェノクみたいな情報を顕在化、急激にその肉体へと顕すタイプも居たし、神の光を受けてアギトとして進化した場合も有った。宇宙に上がる事で適応する為に頭脳、延いては直感力に進化を促すニュータイプなんてのも居たよ」

 

「オルフェノク、アギト、ニュータイプ……」

 

「HGSの場合は超能力、PSYONをエネルギーとした力を発現させた。とはいえ元々は扱えないエネルギーを扱う為に多少の変化をしなければならなかったか、リアーフィンという光の翼を瞬かせる。PSYONの翼だから直に触れられない光翼は余剰エネルギーで形成されているんだ」

 

 

「服薬や制御装置が無ければならない進化なんて……そんなのが進化と?」

 

「さっきも言ったろう? 人間には備わっていなかった力に行き成り目覚めた、だからこそ暴発するんだ。より上位の力を持ったり、制御装置を着けたり色々と抑える手段は必要だよ」

 

「より上位の力?」

 

「例えば小宇宙だよ。僕ら聖闘士が扱うエネルギー、そして魔力や霊力なんかの源流に位置する。因みに、最源流が神の力たる神氣となる訳だ」

 

 力を扱う素質が無いのに扱えてしまう、それが暴走を促したり寿命を縮めたりする要因となる。

 

「ユートが使う小宇宙ってのは?」

 

「これもさっき言った通り力の源流。神氣より薄められた人間が扱える中で原初のエネルギー。基本的には小宇宙を扱うに素質とかはきかない。テンマ……過去のペガサスの聖闘士も天然で使えたしね。処が源流から支流となる分かたれた筈のエネルギーは資質が要る場合もある。この世界ではリンカーコアが存在するから魔力資質は高いんだが、それだけにPSYONとの相性が“良い”んだ」

 

「良い事に聞こえるが?」

 

「耕介、そもそもが魔力、霊力、念力、氣力は大元が一つながら再び合成するには難しいよ。例えば魔力と氣力を合成する咸卦法による咸卦の氣。魔力と氣力は反発するから合成するのが大変なんだ。謂わば磁石の同極みたいにね」

 

「ならPSYONと魔力は?」

 

「磁石のSとN処の話じゃなく、ガソリンに火を付けるに等しい。暴発はそれが原因でもあるんだろうね」

 

「マジに?」

 

「前に関わった世界では、魔力とPSYON……魔術と超能力を合わせようとして、造られた術者は力を暴発させて全員が死亡した」

 

 ゾッ! 背筋が冷える。

 

「この世界の人間はリンカーコアを持たない乃至は、不活性だったとしても魔力が染み付いている。だからPSYONに適合し難いんだ。それを数世代掛けて慣らしていくのが普通だよ」

 

 そして更に進化をすれば或いは暴発させる事無く、魔力とPSYONの融合エネルギーを扱えるかもだ。

 

「なあ、あんたなら知らないか? 知佳やリスティが制御装置だ服薬だとしなくて済む方法」

 

「知らん」

 

「即答だな?」

 

「正確には効率の良い制御装置を造る事は出来るし、服薬なんかに頼らない方法も提示自体は可能だ」

 

「は?」

 

「知佳は彼氏とか?」

 

「え? 居ません」

 

 知佳がチラッと見て耕介が顔を背ける。

 

 要するに振られたのだ。

 

「言い難いだろうけど……性経験は?」

 

「あ、ありません!」

 

 知佳は羞恥か憤りなのか真っ赤になって答えた。

 

「お前……まさか知佳に言い寄る気か?」

 

 別に大人になった知佳を縛る気は無い真雪だけど、巫山戯た奴や生産性の無い奴やロリコンなど近付ける気にはならない。

 

 最後のは『誰がエターナルロリータよ!』と怒られそうだけど。

 

 まあ、エターナルではないにせよ二十歳を越えては最早、成長の余地なんかは無いだろう。

 

 背丈も胸も。

 

「若し服薬や制御装置無しで尚、力を制御したいのだと望むなら僕が提示出来るのは唯一、【閃姫契約】だけだからね」

 

「せんきけいやく?」

 

「閃姫の部分は、使徒とか聖僕とか従士とかに置き換えられる。主となる相手に身も心も捧げてある種の力を獲る手段だよ」

 

「身も心もって、つまりはさっきの質問の意味は?」

 

「捧げるべきは無垢な肢体……処女だよ」

 

「っ!」

 

「おまっ!?」

 

 更に紅くなる知佳と激昂しながら立ち上がる真雪。

 

「特典なんだよ。能力値の上昇や制御力の上昇や不老長寿、恒星数個分のエネルギータンク。そして願いを叶える権利とか……ね」

 

「はぁ?」

 

「僕としては知佳の白い、天使の様な翼を愛でる権利が得られるなら問題無い」

 

「うっ!?」

 

 TEー01【エンジェルブレス】と称される知佳の翼、その美しい翼をゲーム画面でなく実際に見てみたい、ユートもそんな思いが無いでもなかった。

 

 とはいえ契約が性行為とイコールであるからには、軽々しくも押し付けられるものではない。

 

 知佳は考える時間が欲しいと、真っ赤な顔で食堂を退室していった。

 

 尚、仁村真雪はジトっとした目で睨んでいたり。

 

 そして御風呂上がりで、寝間着姿にベッドの上へとダイブした知佳は、枕に顔を埋めながらゴロゴロと見悶えていたと云う。

 

 

.

 




 わざとリーディングさせて契約でナニをするのか、具体的なヴィジョンを見せたのが原因で見悶えてしう仁村知佳でした。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:黒い可能性 辛い未来の回避は間違っているだろうか

.

 剣檄音が響き渡る。

 

 さざなみ寮の庭で二つの影が月夜の晩に交わって、時には離れて剣と剣がぶつかり合っていた。

 

「オラァァッ!」

 

 一人は女性だったけど、その掛け声は女性らしくない雄々しさに満ちる。

 

 片やユート。

 

 緒方優斗が刀と鉄扇を持って相対していた。

 

 刀と鉄扇の二刀流だが、問題無く扱えている。

 

 鉄扇でぬらりくらりと、相手の刀を往なしながらも自らの刀で攻撃。

 

「チィッ!」

 

 女性は舌打ちをしながら往なされた刀を戻す。

 

「まだヤる?」

 

「当然だ! 私に敵うと思うなよ!」

 

「それは此方の科白だね」

 

 緒方の技とは舞いが基本にあり、戦場(いくさば)を縦横無尽に駆け抜けるべく速度と体力を付ける。

 

 そして後の先を以て戦う胆力を必須としていた。

 

 敵の刃を紙一重で躱し、カウンター気味に当てる。

 

 その為の技術も多い。

 

 ぶっちゃけ体力を付けるには赤い筋肉が必須だが、瞬間的な速度には白い筋肉が必須となる。

 

 例えば魚。

 

 赤身の魚の鮪。

 

 白身の魚の鮃。

 

 それが即ち筋肉の色を示している。

 

 泳ぎ続けないと死んでしまう鮪は、全身が赤い筋肉で持続力を以て泳ぐ。

 

 片や鮃は天敵から瞬間的な疾さで、謂わば逃げる為の瞬発力を以て泳ぐ。

 

 必要な筋肉の質の違いが色の差違を生じさせた。

 

 だけど【緒方逸真流】に求められるのは、舞い続ける持続力と瞬間的に駆け抜ける瞬発力の双方、両立をさせる筋肉であった。

 

 戦国時代は医学的見地で現代と比べて遅れている訳だから、そうは云ってみてもどうすれば良いかなんて判らない。

 

 だけど【緒方逸真流】の始祖は、奇跡的な鍛え方をして手に入れたのだ。

 

 現代で云う【タイプⅡα繊維】――俗に云うピンク色筋肉というやつを。

 

 どっち付かずな事もあるから、心無い人間は中途半端な扱いをするのだけど、ちゃんと鍛えればユートの如くも可能となる。

 

 例えばプロボクサーという存在、それもヘビー級とされるチャンピオンの拳の威力はどんなものか?

 

 調子が良ければ1t弱を記録する威力を誇る。

 

 基本的には約1tでしかなく、950k辺りが妥当な数値……らしい。

 

 ユートのパンチ力は素の力で全力を出し約10t、小宇宙は疎か魔力や氣力や念力や霊力を使わずにだ。

 

 その最たる理由がタイプⅡα繊維、それを作り上げた上で最大限にまで鍛えたユートは、見た目には細身な優男っぽい。

 

 だけど抱かれた女性陣は識っている、その実は硬くてしなやかな凄まじい筋肉質な肉体だという事を。

 

 敢えてそれを例えるなら変身前の響鬼、じつはあの仮面ライダー響鬼のスペックは強化前でもパンチ力が20tだったりする。

 

 通常パンチが其処まで、そんな響鬼は鍛えに鍛えて変身をしているタイプで、生身でも今のユートと同じくらいだ。

 

 勿論、威吹鬼の様な腕力的に少し劣るタイプも居るけど、それでも相当に鍛えているのは間違いない。

 

「くっ!」

 

 実家の剣道場名取り予定だった程の剣才、素晴らしいまでに強い仁村真雪ではあるが、【緒方逸真流】を前々世で習っていた上に、前世では嘗ての妹の白亜をも上回って、今やスペックが凄まじい事になっているユートには勝てなかった。

 

 多彩な剣技と疾さが自慢の真雪の剣術、然しながら【緒方逸真流】の戦国時代を生き残った刀舞(ソードダンス)は決して引けを取らない。

 

「敗けたよ、コンチクショウめが!」

 

「やれやれ」

 

「くっそー! 魔法や霊力なんかを使わないでも強いとか反則じゃないか!」

 

「鍛えてますから、シュッ……何てね」

 

 敬礼に近い動きで手を動かし、口でシュッと言うのは響鬼のポーズだ。

 

「約束通りに知佳を口説くのに何も言わないけどな、ムリえちぃとかやらかしたら命に代えても殺すぞ!」

 

「ヤるなら合意の上だよ」

 

 ユートは真雪と約束していた、妹の仁村知佳を口説きに行くのを邪魔しないで欲しい……という話をし、ならばせめて剣で自分に勝てという話で。

 

 知佳の部屋の前。

 

 このさざなみ寮には専用の部屋が存在する。

 

 仁村真雪と仁村知佳……二人の部屋だった。

 

 昔、まだ力が不安定だった知佳がさざなみ寮を半壊させた事があり、寮を修復した際に真雪が責任を持って自分と知佳の部屋を買い取ったのだ。

 

 真雪がいつまでも此処にすんでいる理由でもある。

 

「知佳〜、居る?」

 

「へ? ユートさん?」

 

 夕飯後からずっと身悶えていた知佳も、流石に疲れたのかぬいぐるみを抱き締めながらベッドに横たわっていた。

 

 紅潮する頬を自覚して、ユートがわざと見せ付けたシーンに僅かな股間の潤いでまた恥ずかしく紅潮し、そろそろ堪らず手を股間に伸ばし掛けていた処、当のユートからの声に驚愕を禁じ得ない。

 

「入れて欲しいんだけど」

 

「え? 挿入()れて貰うのは私なんじゃ……」

 

「はぁ? いったい何の話をしてる? 部屋に入れて欲しいと言ったんだが?」

 

「へ? 部屋にって、ああ……うん、そうだよね! 鍵は閉まってないから入っても良いよ」

 

「また、無用心な……って言っても基本的にこの寮は女子寮で、耕介は既婚者だから安全と言えば安全か」

 

 勿論、全てを失う覚悟で槙原耕介が血迷わなければの話が前提で。

 

 とはいっても血迷ったら真雪に殺されそうだけど。

 

「それで、契約する?」

 

「はうっ!? それは……でも……」

 

 二二歳でそれなりな年齢ながら、反応がまるで高校生の小娘みたいだ。

 

「初恋の相手が忘れられないとかか?」

 

「お兄ち……耕介さんの事は吹っ切れてます。因みに処女なのは明かした訳だから判るとは思いますけど、彼氏も居ませんから」

 

「まあ、二二歳で彼氏持ちならとっくにヤってるか」

 

「それは偏見だと思いますけど、取り敢えずそういう存在は居ないです。一応はお付き合いをしてこなかった訳じゃありませんけど、真面目に結婚前提の付き合いはしたくないみたいで」

 

「それは遊びで突き合いをしたいだけだろ」

 

 知佳の頬が染まる辺り、意味を察した様だ。

 

「知佳は可愛いから遊びでヤる対象に見られたか?」

 

「嬉しくないですね……」

 

「だろうな」

 

 要するに、デザートの摘まみ食い程度にしか見られてはおらず、ちょっとした火遊びの相手としてナンパなどされたらしい。

 

 まだ焦る年齢ではないにせよ、嬉しくない事実には知佳も少し凹む。

 

「ユートさんも私と寝たいだけですか? こんな子供みたいな体型ですけど……言ってて哀しくなっちゃいました」

 

「寝たいか寝たくないか、それだけ切り取って訊かれたら答えは一つ、寝たいと言うしかないんだよな」

 

「そ、そうですか……」

 

「子供みたいな体型とか、それは別に僕が君を抱きたくなくなる要因にはならないしね」

 

「ロリコンなんですか?」

 

「君は二二歳だろ?」

 

「それは……まぁ……」

 

 結局、バストも六九とか七〇にも達さなかったし、身長も一五〇に届かない。

 

「それと、私って実は……重たいですよ?」

 

「想いがってやつ? 或いは体重が?」

 

「体重です」

 

「何キロ?」

 

「訊きますか、普通……」

 

 プクッと膨れっ面となりながらも……

 

「一四七キロです」

 

 体重を答えた。

 

「ちょっとした障害なんでしょうね。見た目は普通でも標準体重はさっきも言った通りです」

 

 恥ずかしそうなのは仕方がない、太っている訳でもないのに体重が相撲取り。

 

「普段はサイコキネシスで三六キロくらいに調節をしています」

 

「成程。まぁ、別に太っていて体重がある訳じゃないんだから問題無いだろ」

 

「そ、そうですか?」

 

「僕は気にしない」

 

 こう見えて力持ちな為、二百や三百キロでも軽々と片手で持ち上がる。

 

 況んや、二百キロ足らずなんて軽いものだ。

 

「何なら調節を解除してみると良い」

 

「え、はい」

 

 言われる侭に解除をした知佳に対し……

 

「ちょっとゴメンね」

 

「え? キャァァッ!」

 

 一言謝ってから片手で持ち上げてやる。

 

「す、凄い……」

 

 感嘆の声を上げる知佳。

 

「因みに……」

 

「はい?」

 

 クルッと回して自分の方を向かせ、両脚をM字開脚させると自身の腰の辺りに知佳の股間が触れそうな辺りで止めた。

 

「所謂、駅弁と呼ばれているえちぃの体位だ」

 

「ふぇぇぇぇぇっ!?」

 

「こういうのも君の体重で可能だから」

 

「お、降ろして下さい! 恥ずかしいです〜」

 

「そりゃそうだ」

 

 降ろしてやるが真っ赤な知佳は俯いてしまう。

 

「兎に角、体重云々も体型も僕にとっては問題無い。知佳は充分に可愛らしい、性の対象になる女の子だ」

 

「は、はい……」

 

 はっきり性の対象となるなどと言われて、羞恥心から更に知佳は頬を真っ赤に染めてしまう。

 

「さて、【閃姫】になれば特典が付くと言ったな?」

 

「あ、はい」

 

「前に言った通り、可成りの容量のエネルギータンクが得られる」

 

「エネルギータンク?」

 

「普段は解り易くも割かしポピュラーに、魔力タンクという呼び方をしている。実際にはもっとプリミティブなエネルギーで、欲する者の必要なエネルギーへと変換をするからね。例えばなのはなら魔力になるし、那美なら霊力、そして知佳ならPSYON(サイオン)って事になるな」

 

「そんな事が? 容量って確か……」

 

「恒星で四個分だね」

 

「恒星って……」

 

「それも可成り大きい恒星のエネルギーだし、容量は相当なものになる」

 

 何しろテラフォーミングを個人の魔力で支える程、しかもそれでさえ一個分にもならないエネルギー量で済む為、普通に個人で使う分には一日中でさえ使い続けても枯渇はしない。

 

「序でに云えば力の制御力も上がる筈だから、投薬や制御装置に頼る必要も無くなるだろうね」

 

「それは良いですね、というか良い事尽くめ?」

 

「その対価が処女の喪失、その後も謂わば愛人枠として奉仕を望まれたら応える義務が発生する。後は閃姫招喚で喚ばれる可能性もあるから」

 

「処女喪失……愛人……」

 

 瞬間湯沸し器みたいな早さで真っ赤になり、頭からはスチームが噴出した。

 

「お、奥さんじゃなく?」

 

「その世界世界で形ばかり結婚したりはするんだが、基本的に【閃姫】の地位に上下関係は無いからね」

 

「形ばかり?」

 

「結婚したという意味ならそれこそ複数回、別に死別離婚をした訳でも無いから重婚ってやつだからね」

 

「重婚……ですか?」

 

「最初は異世界ハルケギニアで。次は放浪先の世界で何度か。再誕世界でもね」

 

 写真を残していた分にはそれを見せる。

 

「うわ、綺麗な人……」

 

「カトレアとシエスタだ。それとシアに木乃香」

 

 飽く迄も写真に残っているだけであり、他にも当然ながら何人かが居た。

 

 カトレアとシエスタなど云うに及ばず、シアというのはシア・ドナースタークであり、アトリエの世界で出逢った商人の娘だ。

 

 本来なら貴族の某かとの結婚をする筈であったが、ユートとの出逢いから想い通じ合って政略的な婚姻をシアが忌避、ユートが錬金術の有用性を示しシアの病を治す事で許可を得た。

 

「うう、カトレアさん? シエスタさん? 胸が……胸がおっきいよ……」

 

 シアは控えめだろうが、それでも目に見えて脹らみがあるし、木乃香は本気で控えめであるけど日本人形を思わせる美女である。

 

「胸は気にするな」

 

「だってぇ……」

 

 七〇にすら達しなかった知佳が勝てるのは、見た目が一〇歳なエヴァンジェリンとかユーキやタバサみたいなタイプだろう。

 

「何なら今すぐに奪ってやろうか?」

 

「へ?」

 

「気にしなくて済む様に、僕が今から押し倒して知佳の貞操、処女を奪って見せようか……と言っている」

 

「さ、流石にちょっと」

 

 行き成りは勇気が出ないらしい。

 

「まあ、提案はしておく。後は知佳がどうしたいかを決めるだけ……だ」

 

「は、はい……」

 

 この日はそれで御開きとなった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さざなみ寮での彼是が終わり、ユートは月村家へと戻って来ていた。

 

 那美とも接触を持って、【閃姫契約】を促しているけど、知佳と同じく真っ赤になって保留にしている。

 

 尚、この世界の神咲那美は神咲 薫共々に退魔巫女を兼任しており、水杜神社や天乃杜神社や月杜神社や灘杜神社や龍杜神社や霞ノ杜神社といった、退魔巫女を預かっている神社と提携していた。

 

「それで?」

 

「ミッドチルダに行ったんですよね?」

 

「正確には跳ばされた先が古代ベルカ時代、六〇〇年は前の世界だったんだよ。其処で覇王国や聖王国といった国々と闘った」

 

 尤も、そう呼んでいたのは基本的にユートだけで、他はちゃんとした国号にて呼んでいたが……

 

「覇王国?」

 

「クラウスが治めていた国……シュトゥラの事だよ」

 

「ああ、変だと思ったよ。イングヴァルトが覇王となったのは、【最後の聖王】であるオリヴィエが居なくなった後だしね」

 

「オリヴィエとクラウス、クロにリッド。ある意味で愉しい日々だったさ」

 

「知り合い……になったんだっけ?」

 

「まぁね」

 

「リッドってヴィルフリッド・エレミア?」

 

「ああ、【黒のエレミア】の当代だった娘だよ」

 

 ヴィルフリッドとは男女の関係となり、その後には子を成した為にこの世界のジークリンデ・エレミアはユートの子孫に当たる。

 

「さて、僕はそんなだからミッドチルダには可成り関わったからね。【JS事件】やフッケバインなんかを何とかしなければ……とは思っているよ」

 

「関わらなかったら本気で何もしなかったんだ?」

 

「その場合は無関係だし、する義理立てが無いな」

 

 冷酷薄情と言うなかれ、無関係な世界を救うなんて押し付けはしない。

 

「で? ミッドチルダに行きたいのか?」

 

「それは……」

 

「相生璃亜」

 

「あの、フルネームで呼ばないで下さい。アイオリアって呼ばれてるみたいで……ちょっと困ります」

 

 アイオリアは聖闘士星矢で男の名前、そんな名前で呼ばれるのは女の子としては嫌なのだろう。

 

「そうか、なら相生?」

 

「皮肉ですか? 普通に、璃亜で良いですから」

 

「さよか」

 

 御許しも出たから早速、璃亜と呼ぶ事にした。

 

「ミッドチルダに行きたいなら行けば良い。だが……帰って来れなくなるぞ?」

 

「う、追放ですか?」

 

「……彼方には恐らくだが君らのお仲間が居る」

 

「お仲間? 私に仲間なんて兄さんくらいですよ」

 

「言い方が悪かったかな。君らと同じでニャル子から黄金聖衣を与えられた者、黄金聖衣の持ち主だよ」

 

「黄金聖闘士ではなく?」

 

「君らもそうだが、聖衣を持っていても聖闘士とは認められんよ。認められたきゃせめてセブンセンシズくらいには目覚めるんだね」

 

「うう……」

 

 目覚めろと言われて目覚められる天才ではない。

 

 これでも数年間は程々ながら修業をしてきた身で、だけどセブンセンシズには目覚める予兆もなかった。

 

「ひょっとして、帰れないっていうのは“お仲間”に攫われるから?」

 

「そうだ。特に双子座とか居たら最悪だろ?」

 

「双子座……幻朧魔皇拳」

 

「そういう事。なのは達が時空管理局入りしない上、僕はキャロ・ル・ルシエもスバル・ナカジマもティアナ・ランスターも連中へとプレゼントする気は無い。下手に可愛い女の子が彼方に行くと、誰彼構わず手出しするだろうね」

 

「かわ……っ! 兎に角、オススメはしない……と? そういう事?」

 

 

「まぁ、そうだね。どうしても行かなければならない用事があるなら未だしも、そうでないなら連中が破滅するまで待つんだね」

 

「破滅させるんだ?」

 

「前は何も情報が無かったからどうでも良かったよ。だけど知っての通り関わってしまったからね」

 

 ミッドチルダ支部なんて有るくらいだし、何よりもヴィヴィオやアインハルトが未来から顕れ、ユートを『兄』と呼んだ流れからして原典で云う【JS事件】やその先にも関わった筈。

 

 トーマもユートの事を識っていたし。

 

「……まぁ、絶対に行かなきゃいけない訳でもないんだけど」

 

「けど?」

 

「貴方がキャロやスバルをどうしたいのか、それが気になってしまったから……偽善だし未来を知るが故の傲慢とは思うし、救われないのは彼女らだけじゃないのも解るけど、でも!」

 

「理解はしたよ。キャロやスバルやギンガという面々に関しては、干渉する事にしているから問題は無い」

 

「本当に!?」

 

「ああ、本当だ」

 

「エリオ……は?」

 

「人造魔導師エリオは誕生しない」

 

「やっぱり……か」

 

 予想はしていたから。

 

「それともエリオ・モンディアルを見殺しにしろと? 原作の通りにする為に」

 

「そうは……言わない」

 

 二律背反。

 

 エリオ・モンディアルを選べば人造魔導師エリオが存在しなくなり、人造魔導師エリオを選ぶなら今現在を生きるエリオ・モンディアルを見殺しに。

 

 ならユートが選ぶのは、未だ存在しない人造魔導師であるエリオではない。

 

 未来に誕生した“かも”知れない違法人造魔導師、現在で確かに今を生きている少年、果たしてどちらを選ぶのか? モンディアル夫妻はどうしたいか?

 

 自ずと見えてくる。

 

 産まれてさえいないなら人造魔導師のエリオを選ぶ理由は無く、モンディアル夫妻にしても若し『今を生きるエリオを見捨てて違法に造ったクローンを選ぶか?』とか訊かれたならば、間違いなく腹を痛めて産んだエリオを選ぶ。

 

 原作云々でモンディアル夫妻の心、想いを無視するなど出来る訳も無いから、ユートはエリオ・モンディアルを救う。

 

「それは本当に正しいの? エリオ君の誕生をさせないなんて……」

 

「それはアニメを識るからこその思考だ。そもそもがあれだ、モンディアル夫妻に子供の死を見せ付けて、大金を違法研究に搾り出させた挙げ句、クローン体のエリオも奪われるのを体験させると? それが自分の識る歴史だから……と? それがどんだけ残酷な事か理解は出来ないか?」

 

「そ、それは……」

 

「エリオ・モンディアルを救えないなら仕方がない、だけど救うのが可能であれば救うべきだ。本来ならばモンディアル夫妻が賽子の1を引きまくる事をさせるべきじゃない。フェイトが人体実験されるエリオを助けにも行けないしな」

 

「うん……」

 

 少し俯き気味だ。

 

 璃亜が何を思って原典のエリオを誕生させたいのかは窺い知れないが、ユートとしてはそれは何としても防ぎたかった。

 

「前にも説明はしたけど、エリオに関しては間違いなく管理局が関わっている」

 

「待って、なら何で彼の事をスカリエッティは知らなかったの?」

 

「エリオがプロジェクトFの残滓だとは知っていた。それにプロジェクトFってのはそもそも、スカリエッティが基礎を構築したものを管理局経由でプレシアに伝え、彼女が完成をさせた技術はアースラを通しての接収が成され、管理局経由で違法研究所に回されて、モンディアル夫妻から資金を得つつエリオを完成し、ある程度育ってから管理局の権威で接収、別の研究所で人体実験をしながらも、プロジェクトFで造られたフェイトに救出させた」

 

「穿ち過ぎじゃない?」

 

「結果として、時空管理局はプロジェクトFの残滓という人造魔導師を新しく、懐も痛めず自らを汚さずに手に入れた訳だ」

 

「あ、りえない……」

 

「そう考えたら、戦闘機人のタイプ0ファーストやらセカンド、これも似た経緯で造られた可能性が高い」

 

「っ!?」

 

「技術的にスカリエッティのモノが使われていると、アニメで間違いなく言っていた。その上でクイントの遺伝子が使われているから彼女にソックリだ」

 

「だ、だから……?」

 

「その遺伝子を掠め取れた組織は何処だ? いつの間にかその遺伝子をクローニングして戦闘機人を造れる研究所を用意が出来たのは誰だ? スカリエッティすらも知らない侭に彼の研究を使えたのは?」

 

「最高評議会……」

 

「そうだ。プロジェクトFとスカリエッティが設計をした戦闘機人、同じ開発者が基礎理論を構築して同じ境遇、これは本当に偶然と切って捨てられる事か?」

 

「そう言われても……」

 

「最高評議会は正義を掲げながら、やっている事など自分達が犯罪だと決めた事を自らが犯す愚行。自分達は正義だから何をやっても許される、そう言う犯罪者の常套句な訳だが?」

 

「そんなの……」

 

「妄想かも知れないな? 管理局の局員は基本的には真っ当な人間だろうけど、中には真っ黒な闇も存在している。トップからして」

 

 遂にガクリと膝を付く。

 

「まぁ、もう遅いんだけど……な」

 

 忘れてはならないのが、人造魔導師エリオ・モンディアルは原典では一〇歳、つまりは一〇年前の今現在は既に誕生済み。

 

 何年か後に死亡をして、その年齢までに成長させた肉体に、エリオの記憶転写で知らない内に何歳だかのエリオとして暮らした。

 

 既にモンディアル家に関しては把握して、監視もさせているから死なせない事は可能となっている。

 

 エリオの死そのものが、既に怪しいのもあった。

 

 モンディアル家の寄付を得るべく、暗殺をしたという黒い可能性が……

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話:遺失物 妄りに封を解くべからず

 置き場をミスってた……





.

 とある無人世界。

 

 幾つかの無人世界には、ユートの手が入って無人でなくなり、真皇国の領国として活用が成されている。

 

 例えば一〇年後に島流しになる筈だったルーテシア・アルピーノの流し先……無人世界【カルナージ】も真皇国・幻世領国となって普通に住民が住んでいた。

 

 例えば嘗て古代ベルカの時代、竜王ライが治めていたゴジョウの民が主に住む天竜領国。

 

 時空管理局に従わない、そんな領国が幾つも有る。

 

 勿論、新暦より数十年が経過している今現在とて、管理局は自分達の管理世界へと恭順する様、真皇国へと常に通達をしていた。

 

 魔法を持っていて、自ら次元世界を航る術を手にする真皇本国と真皇領国は、時空管理局の理念から云うなら管理世界として登録をされて然るべきだからだ。

 

 しかも古代ベルカ時代、約六〇〇年間の積み重ねを維持しており、時空管理局が云う古代遺失物(ロスト・ロギア)も有る筈。

 

 事実として真皇国は本国も領国も、時空管理局からの使者を名乗る侵略者とも云える武力介入をしてくる連中を、特殊な機械兵器により退けてきた。

 

 すわ、質量兵器かと怒りを露わにする管理局員達ではあるが、時空管理局とは無関係な真皇国が彼らの掲げる理念や法律に従う謂れなど無く、更には魔導兵器だから質量兵器という訳では決して無い。

 

 彼ら真皇国民が守護者(クストース)と呼ぶ存在、見た目が鷲や鮫や豹に似た三種類が謂わば雑兵の如くわらわらと現れ、それらを同じ姿ながら大きな三機が操っているらしい。

 

 更には龍や虎や亀や鳥を象る人型の機体。

 

 それはゲートを守護し、アイラ――呂守や璃亜の母を討ち斃した【龍人機】、更に【虎人機】と【玄人機】と【雀人機】だ。

 

 そしてその下位互換的に鋼機人(ヒューマシン)――【轟龍】と【雷虎】と【光雀】と【嵐武】が。

 

 但し本来の鋼機人と違い基本的に人型から獣型へ、トランスフォームが可能になっている。

 

 尚、管理局員は見てないが更に上位互換に超機人が存在しており、【龍王機】と【虎王機】と【雀王機】と【武王機】が存在している上に、四霊の超機人まで中ボスに設定されていた。

 

 各領国の全てに。

 

 そして本国は統括をするガンエデンが在る。

 

 真皇閃妃の一人、イルイ・ナシム・ガンエデン・オガタが護っているのだ。

 

 真皇閃妃というよりは、【閃妃】となった【閃姫】な訳だけど、彼女らは必ず名前に【緒方】か【オガタ】を入れている。

 

 とはいっても【閃姫】も中には【緒方】か【オガタ】を名乗る場合もあるし、厳密な意味合いで使われている訳でも無かった。

 

 解り易く云うと【閃姫】は恋人枠、【閃妃】が妻枠として呼び分けられてる。

 

 イルイは【閃妃】だが、何故か見た目を大人(ナシム)モードではなく、子供(イルイ)モードで過ごしていた。

 

 まあ、年齢的に合法ロリだから問題も無い。

 

 クストースと共に出現をする黒い忍者らしき機体、DGGの三号機たる雷鳳の量産型も小型化された物が領国を護っている。

 

 量産型【雷鳳】。

 

 これの基型はジンライだったけど、【磁雷夜】というのが此方で正式な機体名となる。

 

 戦力が多過ぎて管理局は基本的に逃げ帰っていた。

 

 結果として地球側から離れた地へ管理局の艦船は向かっており、L級第八番艦アースラも艦長を若き少年とも云えるクロノ・ハラオウンに代えて向かう。

 

 提督でもあったリンディ・ハラオウンが辞職をした為に、その御鉢がクロノへと回ってきたからだ。

 だけど今現在のクロノは後悔の真っ只中。

 

 地球とは真反対の方向に存在したとある無人世界、名前というか管理局謹製のナンバーすら無い世界へと古代遺失物(ロスト・ロギア)を求めて来たのだが、見付かった七隻もの黒い艦に艦隊を率いていた某提督は喜色満面、反対に一緒に任務として来ていたユーノ・スクライアは渋面。

 

 クロノは提督に封印解除をしない様に上申したが、全く聞き入れられずクロノとユーノを外して作業開始の運びとなった。

 

「クソ! ユーノ、本当にあのロスト・ロギアはヤバい物なのか!?」

 

「う、うん。殆んどの文面は全く解らない文字だったから読めないんだけどさ、一隻の艦に在った文だけが何故か古代ベルカの文字に似ていて、何と無くだけど意味が解る文章だったよ」

 

 ――次元世界に撒かれた闇を畏れよ。

 

 ――恐るべきは魔王。

 

 ――六つの恐怖。

 

 ――銀河に悪夢を。

 

「銀河というのは宇宙の事なのだろうが、悪夢というのはどういう事なんだ?」

 

「僕に訊かないでよ!」

 

「それに六つの恐怖とは? 艦の事を云っているなら数が合わないぞ」

 

「だから訊かないでって。解る文字だけを文章に起こしたらそうなったんだ!」

 

「兎に角、封印解除は拙いと言うんだな?」

 

「うん。前にユートから聞いたんだ」

 

「む、何をだ?」

 

 若干、苦手意識があるのだろうか? 少し躊躇いがちに訊ねた。

 

「封印とは大概が良くないナニかを閉じ込める為に在るんだって」

 

「それは当たり前と言えば当たり前だが……」

 

「事、ロスト・ロギア相手なら封印は解かない方が良いらしい」

 

「何故だ?」

 

「場合によっては良くないナニかが解放されるから」

 

 ロスト・ロギアの定義は『喪われた世界や喪われた技術により造られており、現代では完全なる再現などが難しいモノ』だろう。

 

 ジュエルシードや闇の書もそれに当たる。

 

 とはいえジュエルシードならユートは造れるから、最早ロスト・ロギアとも云えなくなった。

 

 実際、何処ぞのドクターがやったみたいに模造品のジュエルシードを、ユートは新造した機体のエネルギー源として使っている。

 

 他はまた別のエネルギー源を使い、魔力稼働の機体として扱っていた。

 

 つまり、時空管理局から質量兵器がどうのという、ある種のクレームは来ないという訳だ。

 

 若しこれを質量兵器呼ばわりするなら、時空管理局の艦船も質量兵器だと弾劾される為、クレームなんて付け様がなかった。

 

 しかもその稼働に使っているのが、元ロスト・ロギアとあっては時空管理局の面目は丸潰れだろう。

 

 説明を受けて報告をしたクロノは胃が痛かった。

 

 だけどだからこそユートならば? とも考える。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「という訳なんだが……」

 

〔そうか、すぐに逃げろ〕

 

「は?」

 

〔時空管理局、莫迦だ莫迦だとは思っていたけどな。此処まで飛び抜けた莫迦だったとは愚かに過ぎる〕

 

「どういう事だ?」

 

〔まさか地球の反対側に、そんなのが在ったとか迂闊だったが、時空管理局は調べもせずに封印を解除なんてしたのか?〕

 

「何か知ってるのか?」

 

〔遺失宇宙船〕

 

「ロスト・シップ?」

 

〔万年レベルで昔に、先史文明時代に造られた艦船。それもたった七隻しか造られていない特別製〕

 

「なな……隻……?」

 

 確かに七隻在った。

 

 遺失宇宙船とはピンからキリまで在るが、特別製と云える艦船はたった七隻。

 

〔六隻の闇の艦船と最新鋭となる光の艦船。訊くが、遺失宇宙船は其処に何隻が在った?〕

 

「七隻だ」

 

〔終わったな。先に目覚めるのは闇側の方だろうし、唯一の光側の遺失宇宙船は目覚める前に破壊される〕

 

 ユートは溜息を吐いて、時空管理局という組織の愚かさを再認識した。

 

「何故、闇側が先にと?」

 

〔七隻の特別製の艦船には特別製足り得るシステムが有り、その中に感情を艦船のエネルギー源とする物が存在する。光の側は愛情と勇気と希望という正の感情をエネルギー源に。闇側は憎悪と恐怖と絶望という負の感情をエネルギー源だ〕

 

「感情を……?」

 

〔そうだ。そして派生的な負の感情や欲望を丸出しな感情も闇側には美味しい。人間は正より負の感情の方が先立ち易いから、当然ながら闇側の遺失宇宙船が先に目覚める訳だな〕

 

 実際、ユートが識っている噺でも闇側の遺失宇宙船がアルバート・ヴァン・スターゲイザーに接触して、彼を闇に引き入れてしまっている。

 

 その後アルバートを捜していたアリシア・ツォン・スターゲイザーに、光側の遺失宇宙船ヴォルフィードが接触した。

 

「然し、仮にそうだとしてもそこら辺は乗り手次第じゃないのか?」

 

〔クロノ、自分でも信じていない事は口にするな〕

 

「ぐっ!」

 

 欲望丸出しな提督が封印を解くべく動き、だからこそ今の内にクロノはユートに連絡をしたのだ。

 

 成程、上手くやれたなら“成果”としては充分。

 

 きっと上を目指せるだけのアドバンテージでも得られるだろうが、場合によればその場で生命すら失う事を考慮していない。

 

〔特別製の遺失宇宙船は、本来なら造られるのは一隻だけ。紡錘形の艦船が無かったか?〕

 

「在った。二等辺三角形みたいなのとか、翼を閉じた鳥みたいなのとか、紡錘形だとか色々な形だったな」

 

〔二等辺三角形はラグド・メゼギス、翼を閉じた鳥型はゴルン・ノヴァだろう。でだ、紡錘形の艦船の名はデュグラ・ディグドゥだ。本来ならそいつだけを造る計画だったが、二つのミスから六隻が追加された〕

 

「二つのミス?」

 

〔一つは搭載されたシステムがどうしても納まり切らなくて、艦船のリソースを完全に使い切ってしまったから護衛艦が必要になったって事〕

 

 デュグラ・ディグドゥに与えられたシステムとは、即ちシステム・ダークスターと呼ばれる致死兵器。

 

 システム・ダークスターを使うと赤い魔法陣が顕現して、それを直に処か映像越しでも視れば死ぬ。

 

 そんな説明を受けては、クロノとしても青褪めた。

 

「そんなシステムが?」

 

〔まるで魔法的だろう? だから当時の科学者連中はシステムに、遥かな古の頃に暴れたという魔王の名前を取り『闇を撒くもの』、システム・ダークスターと名付けたのさね〕

 

「闇を……撒くだって? 次元世界に撒かれた闇を畏れよってのは!」

 

〔碑を遺したのが誰なのかは兎も角、その誰かさんは理解していたんだろうね〕

 

「くっ、君はその碑文から僕らに逃げろと言ったな。ならば君もやはり識っていたのか?」

 

〔【闇を撒くもの(ダークスター)】デュグラ・ディグドゥの存在は……な〕

 

「そうか……」

 

 沈黙するクロノ。

 

〔二つ目の欠陥だけどな、システムは艦内にも及ぶからブリッジに誰も入れなかった。だからブリッジは造られたが、実際に使われたりはしなかったんだけど、その為に連中は人格を持たせる事にした。つまりは、無人艦という訳だね〕

 

「それで?」

 

〔連中は創造主を裏切り、システム・ダークスターの最初の犠牲者にしたんだ〕

 

「はぁ? あ、それだったら提督達は!」

 

〔生きて帰りはしないな〕

 

 ゾクリと背筋に氷水でもぶちまけられた気分に。

 

「即刻、此処を離れるぞ! ランディ、アレックス、ルキノ!」

 

「「「了解!」」」

 

 取り敢えずオペレーターに出発を命じる。

 

「それで? 五隻というのはどんな謂れが?」

 

 アースラが現場を離れるのを確認後、クロノは再びモニターに視線を戻す。

 

〔デュグラ・ディグドゥの二つ名、【闇を撒くもの】というのは己れの分身とも云える五つの武器を別世界に撒いた事に由来をする。【烈光の剣(ゴルン・ノヴァ)】、【瞬撃槍(ラグド・メゼギス)】、【毒牙爪(ネザード)】、【破神縋(ボーディガー)】、【颶風弓(ガルヴェイラ)】だ。五隻の艦船には嘗て魔王が振るった五つの武器の名前を名付けたらしい〕

 

 その能力は飽く迄も当時の兵器だが、名前は普通にダークスターの五つの武器を由来としていた。

 

〔故にこそ、対抗する手段としてどうにか一隻だけ、光側の艦船が造られた〕

 

「光側……ね」

 

〔先ず、システム・ダークスター有りきだから無人艦である必要がある〕

 

「だろうね……」

 

〔次にメンテナンスフリーで自己修復機能も必要で、エネルギー源も確保する為に感情をという、闇側と同じシステムが必須だろう〕

 

「確かにその通りだよ」

 

 魔王を討伐する勇者は、魔王と同じかそれ以上の力を持たねばならない。

 

 仮面ライダークウガが、ダグバを斃すべくアルティメットフォーム化したみたいに、同じ存在にまで自身を引き上げる必要がある。

 

〔とはいえ、また暴走とかされても困るから使われる感情は正の感情な訳だよ。それで暴走しないかは賭けに等しいが……〕

 

「確かにね」

 

〔そうして奴らを一掃するシステム、自身のエネルギーにより相手のエネルギーを対消滅、実質的に封印をするシステムを搭載した。【戦闘封印艦】が完成だ。名前は魔王に対抗してか、デュグラ・ディグドゥとは不倶戴天たる光側の神――【漆黒の竜神(ナイト・ドラゴン)】を由来として、ヴォルフィードとした〕

 

 一九六メートル級【戦闘封印艦】ヴォルフィード。

 

 彼の艦船は六隻全てを、一度に相手取りエネルギーを対消滅、自身と共に敵艦を行動不可能にしたのだ。

 

 当時の人類が完全滅亡をした後に。

 

 間抜けな話だが、人類側は連中に気付かれない様にしていた筈だけど、遂にはバレて攻撃を受けたのだ。

 

 幸いにもヴォルフィードは完成していたが、出撃が出来ない状態に陥ってしまったから、何とか抜け出そうと四苦八苦して脱出を図るものの、間に合わず人類は滅亡させられていた。

 

 それでもヴォルフィードは使命を果たしたのだ。

 

〔何で【ロスト・ユニバース】のロスト・シップが、とかは考えても意味すら無いだろうな。どんな形かは兎も角として物語が習合されているんだろう。それにチャンスかも知れないし〕

 

 ユートはニヤリと笑い、クロノは何故か寒気が増していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは嘗て、前世に於いて異世界を放浪していた時期がある。

 

 ハルケギニア邪神大戦、その最終決戦で【黒の王】と【白の王】から託された神器を使い、世界から弾かれてしまったのが原因だ。

 

 最初に訪れたのが実は、この世界の別地域である。

 

 【鬼神楽】と呼ばれているエロゲな世界観、ユートは現在の市乃……イチ様に拾われたのだ。

 

 実際には何度かこの世界に来ており、【AYAKASHI】的な世界観も目にした。

 

 因みに、今がその時分らしくて結界が張られて同じ人間が居る状態を緩和中。

 

 【ハイスクールD×D】世界で、ユートが招喚した一人である夜明エイムとはこの時に出逢う。

 

「混ざり過ぎ……とは言うまい。僕の再誕世界だって混淆世界としては正しく、混沌としていたからな」

 

 簡単に挙げても……

 

 魔法先生ネギま!。

 

 聖闘士星矢。

 

 ONI!シリーズ。

 

 Fate/シリーズ。

 

 エルドランシリーズ。

 

 GATE。

 

 ゼロの使い魔。

 

 真・恋姫†無双。

 

 魔法戦士シリーズ。

 

 キャッスルファンタジアシリーズ。

 

 ゴッドハンド輝。

 

 東京ザナドゥ。

 

 軽く考えてもこれだ。

 

 魔法戦士シリーズに関してはユーキから聞き齧り、【世界扉(ワールド・ドア)】の魔法で異世界ロアへと落とされて知った。

 

 落ちた先で今正に、銀髪なイケメンに犯されそうになっていた金髪少女を救出して、取り敢えず銀髪男は二度と使えない様に踏み躙って処分しておく。

 

 序でに鋭い槍で後ろの穴を掘ってやった。

 

 ココノ・アクアと名乗った少女に案内され、王国の女王たるクイーングロリアに謁見、彼女らの敵対組織を潰すその代わりにココノと王女ティアナを貰い受ける契約をした。

 

 その後、本来の歴史なら地上の魔法戦士となる筈だった少女――若干一名ばかり少女じゃないが――達を聖闘少女として採り入れ、数年後に魔法戦士となる筈だった少女達は、鋼鉄聖衣を与えてやった。

 

 【ゼロの使い魔】と【真・恋姫†無双】は同じ世界の違う地域、キャッスルファンタジアも同じくだ。

 

 ユートの再誕世界と繋がるハルケギニア大陸。

 

 故にある意味でユートが三人居た形だ。

 

 ハルケギニアのユート、再誕世界現代版のユートと過去へ跳んだユート。

 

「さて、時間はまだ掛かるんだろうけど此方も準備をしておくか」

 

 機動光覇艦アウローラ、或いは神魔因子保有艦シャブラニグドゥを。

 

 ユートが嘗て関わった、【ロスト・ユニバース】の遺失宇宙船の技術を得て造った艦である。

 

 主に光側ヴォルフィードの技術、何しろあの手は使えないから一隻一隻を斃さないといけないから、基本的にはプラズマブラストで破壊していた。

 

 主砲に焼かれた闇側は、完全破壊を免れない。

 

 だから破片から技術を取り入れるしかなかったが、幸いにもヴォルフィードにはシステム・ダークスターを始めとする、闇側の技術で造られた兵器の資料などが残っていた為、ある程度は再現が可能だったのは助かる話。

 

 だからといってシステム・ダークスターを造らなくても良いのに、取り敢えずは試しにと造っている。

 

 シャブラニグドゥに搭載しているものの、やっぱり乗組員が居たら使えない。

 

 尤も、造った当初は確かにそうだったのだが、今なら多少ながら話が違う。

 

 先ず、冥王たるユートにはシステム・ダークスターなど既に効かない訳だし、ユートの保護下の【閃姫】達にも効く事は無いから。

 

 そして冥闘士もやっぱりシステム・ダークスターは効かない為、クライド・ハラオウンを副官としてなら連れても行ける。

 

 相手が遺失宇宙船だからシステム・ダークスターは使えないけど。

 

「一隻でも手に入ったら、色々と解剖しちゃる!」

 

 その瞬間、この場に居ない筈のデュグラ・ディグドゥ達が、何故か凄まじいばかりの悪寒に襲われた。

 

 ユートはどう足掻いても正義の味方っぽくはなく、下手をしたら悪より悪徳を積む悪党でもある。

 

 【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】世界でも、メインヒロインなティア・ノート・ヨーコを拉致してるし、【ゲンジ通信あげだま】な世界ではノットリダマス側に付いて、怨夜巫女と共にあげだマンを叩き潰した。

 

 【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】世界では、世界の滅亡後に時間を巻き戻して無かった事にした挙げ句、時間の外側に残されてしまったヨーコは喰った訳で、その後はシレッとDS側で戦いつつ、シーン・ハリをマジ喰い――原典では耳朶を甘噛みしただけだった――してみたり、カイ・ハーンを斃して喰ってみたり、封印を破る為に攫われていたシーラ・ウィル・メタ=リカーナを喰ってみたりと好き放題し放題。

 

 遂にはガブリエルにまで手を出していた。

 

 【ゲンジ通信あげだま】世界では、ノットリダマスの方に味方した後にボコったあげだマンを故郷送りにしてしまい、平家いぶきを攫ってしまった。

 

 尚、怨夜巫女の九鬼 麗とは契約を交わしており、あげだマンを斃した場合は麗が下に付く……と。

 

 その後は世界制覇が私の野望とばかりに世界征服、麗が高校生に上がったばかりの頃に完了した。

 

 九鬼 麗と平家いぶきを両手に華と抱え、逆襲しに来たあげだマンを叩き潰してやる。

 

 完全な悪であった。

 

 そんなユートがクスクスと悪党な嗤いを見せつつ、クロノ・ハラオウンの到着を待っている。

 

 これから行われるのは、悪か善か? それはもう神にすら解らない事だった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:遺失宇宙船 手に入れるは闇撒く王〈前編〉

.

 アースラが地球のすぐ傍の次元空間に在るポートへ入り、固定されて入口が開くとクロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタに、ユーノ・スクライアという主要メンバーが出てきた。

 

 他の乗組員は艦内で半舷休息を取らせている。

 

 地球は管理外世界だし、異世界の人間に対する法律が整備され、下手に入れる訳にはいかないからだ。

 

「直接的に会うのは久方振りになる、クロノ・ハラオウンにユーノ・スクライアにエイミィ・リミエッタ」

 

 フルネームで呼ぶ辺り、余り歓迎していないというのが本心だろうが、それは厄介事を持ってきた連中に甘い顔はしないだけ。

 

「今回は要請を受けてくれた事に感謝する」

 

 一同を代表してクロノが謝辞を述べた。

 

 初めて会った時に比べ、背丈が伸びて顔も少しだが大人びている。

 

 一六歳にもなれば成長期もそろそろ終わりだけど、当初がまだ伸び盛りだったからか、上手くすれば隣の副官より背が高くなりそうで何よりだ。

 

 流石に彼女より背丈が無いのは悔しいだろうし。

 

 最近になって、クロノはエイミィと恋人という間柄となったて聞く。

 

 順当な事だと思う。

 

 元より原典でもクロノはStSでエイミィと結婚、二卵性な双子の息子と娘を儲けていた。

 

 ユートか他の転生者共が何かしら干渉しない限り、原典の通りに進むのは他の世界でも確認した事実。

 

 逆に云えば干渉したら、まず間違いなく原典からは外れてしまうという事で、ユートは取り敢えずクロノとエイミィには不干渉を貫こうと考えた。

 

 幸いにも時空管理局に居るらしき転生者は、クロノとエイミィというよりかはエイミィに手出ししなかったらしく、二人は正に順当に付き合い始めた。

 

 クロノが一六歳でエイミィが一八歳の筈で、順当にいくなら二年後には結婚をするのではなかろうか?

 

 とはいえカレルとリエラはStS時点では三歳で、つまりエイミィが二二歳の時に仕込まれて、二三歳で出産をした計算となる。

 

 となると行き成り結婚ではなく、仕事が忙しいから婚約で落ち着いてクロノが二〇歳くらいで結婚をし、初夜からも遠くない時期に仕込まれたと視るべきか?

 

 ユートはそこら辺の設定までは識らない。

 

 ユートが原典介入して、ひょっとしたら付き合いやそれに伴うあれこれが変わった可能性もあり、必ずしも同じ流れになるとは限らないのも痛い。

 

「さて、厄介な事をしてくれたな? ユーノ・スクライア」

 

「うっ!」

 

「確か前にも言ったよな? 遺跡発掘を僕は是としていない。否定もしないが、下手な発掘は場合によっては危険を伴う。本人だけが死ぬなら勝手に死ねば良いんだが、それに世界を巻き込むなど言語道断だと」

 

「は、はい……」

 

「ま、今回は時空管理局に責任の多くがあるみたいだけど……な」

 

 【仮面ライダークウガ】の例もある。

 

 知らなかったとはいえ、グロンギを復活させた上に本人はさっさと退場して、後始末を生きていた人間にさせているとか。

 

「さて、それじゃあ早速だが行こうか」

 

「何処へだ?」

 

「発掘現場に決まってる。発見された遺失宇宙船(ロストシップ)は全部で七隻 だけど、闇の遺失宇宙船は六隻なんだ。ならば残りの一隻はヴォルフィード……形が残ってりゃ御の字なんだがね」

 

 原典ではデュグラ・ディグドゥ達は、特にヴォルフィードへと攻撃を仕掛けず去っている。

 

 だからアリシアと呑気に会話し、契約を交わす事が原典のヴォルフィードには出来たのだが、流石にそれは望み薄であろう。

 

「然し、アースラのクルーには半舷休息を言い渡しているんだが?」

 

「アースラ? 時空管理局のポンコツ艦なんか使えるものかよ」

 

「ポ、ポンコツ艦!?」

 

 最新鋭とかではないが、これでもアースラは充分な技術で造られた艦であり、決してポンコツ艦などでは無いとクロノは声を大にして言いたい。

 

 父、クライドが乗っていた二番艦エスティアと謂わば同型艦なのだし。

 

 L級二番艦エスティア、アースラの同型艦で嘗ての【闇の書事件】で暴走した闇の書に取り込まれた為、ギル・グレアムが魔導砲のアルカンシェルで消し飛ばした経緯がある。

 

「僕の艦であるアウローラを使う。あれはヴォルフィードやデュグラ・ディグドゥなんかの技術も使っている現代版遺失宇宙船だ」

 

「現代版?」

 

「要は君らで言う古代遺失物(ロスト・ロギア)を解析して再構築したみたいな、そういった艦だって話だ」

 

「なっ!?」

 

 失われた古代技術の再生とは、時空管理局であっても苦労に苦労を重ねる必要があった。

 

 それ程の偉業である。

 

「ユーキが居てこその技術再生だけど……な」

 

「ユーキか。確か君の妹という話だったが?」

 

「まぁね」

 

 前世での義妹に過ぎない上に、自分の槍をユーキの鞘に納める関係だけど。

 

「ユーキは科学、僕は魔法を主に研究発展させてきたからね。まぁ、尤も今ならお互いにそれぞれを手伝える程度に技術も知識も持ち合わせているけどな」

 

 流石に専門的に過ぎると無理だけど、ちょっとした技術ならユートも持つ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 機動光覇艦アウローラ。

 

 機動と名前が付く通り、高速機動が可能な艦だ。

 

 尚、光覇は神と似た意味合いで使っている。

 

 単純なシルエットだけならヴォルフィードに似て、中央にブリッジや居住区を含む機能を、その左右には武装を持たせたモジュールを装着させていた。

 

 ソードブレイカー自体を思い返せば解り易い。

 

 中央に有る居住区こそ、【ハイスクールD×D】の世界で我が家的に使っていた部分、その一部だった。

 

「これが遺失宇宙船の技術を取り込んだ艦なのか」

 

「見た目には普通だよね。アースラとそんなに変わんないかな?」

 

「だけど、外装はアースラと違って何処かしら有機的なフォルムだったよね」

 

 クロノ、エイミィ、序でにユーノが感想を述べる。

 

「内装なんて其処まで奇抜にする部分じゃないだろ。外装が有機的なのは遺失宇宙船の特徴だね」

 

 ヴォルフィードやらデュグラ・ディグドゥは疎か、海賊が拾って使っていた艦でさえそうなのだから。

 

「システム・ダークスターのキャンセル自体は不可能だが、僕が居れば致死系の能力にせよ何にせよ防御をする事が可能だ」

 

 冥王の加護とでもいうべきだろうか、相手を死へと至らしめるシステムに防衛が出来る。

 

 アウローラに積んでいるシステム・ダークスター、それを防げるのは実験済みなのだから。

 

「これは?」

 

「三角錐の形をしてるのが三〇〇m級攻撃艦【ガルヴェイラ】だ。魔王の弓……【颶風弓(ガルヴェイラ)】の名前を与えられた艦」

 

 ユートが現場に着くまでの暇潰しがてら、モニターに敵となる遺失宇宙船の姿を映し出した。

 

「特徴らしい特徴は無い。極めて平均的な機能を持たされた艦だよ」

 

 次に映し出されたのは、元となる武器のレプリカ。

 

「これが【颶風弓】だ」

 

「って、魔王の武器とやらの映像?」

 

 見た目に弓には見えないのだが、手にして精神力を汲み上げたならリムと弦を精神力で形成する訳だ。

 

「レプリカだ。飽く迄も、僕が造った……な」

 

 精神力を使い手から汲み出し、光の矢に換えて放つ【颶風弓】はアニメ版では切札的な武器となる。

 

 次の艦は蝙蝠に似た三枚の翼を持つ様な艦。

 

「三〇〇m級機動殲滅艦【ネザード】。攻撃力自体は大したもんじゃないけど、機動殲滅艦なだけあってか機動力は高い。ニードルレーザーもアースラの装甲なら紙を貫くが如くだろう。また、ヴォルフィードにも実装されているリープ・レールガンを持つ唯一の艦」

 

「リープ・レールガンとは何なんだ?」

 

「要はレールガンでリープ弾を放つ兵器。時空管理局の嫌いな質量兵器の類いってやつさ。リープ弾とは、命中した衝撃を切っ掛けに発動をする空間兵器でね、半径五〇mを何処とも知れない空間に放逐するんだ」

 

「何だって!?」

 

「あれの前にはどんな装甲だろうが御構い無く消し飛ばされるし、下手に装甲を貫通されたら終わりだな」

 

 相当に危険な兵装だ。

 

「こいつが魔王の爪……【毒牙爪(ネザード)】だな。見た目には杖に熊手みたいな三本の精神力の刃が爪の様に出る感じか」

 

 アニメ版【スレイヤーズTRY】に出てきた武器であり、当然ながユートが今もレプリカを持つ。

 

「一七〇m級機動駆逐艦【ラグド・メゼギス】だよ。二等辺三角形ってのが似合う艦体に、周囲には五基の慣性中和チップ」

 

 

「慣性中和チップとは?」

 

「物理法則上、如何なる物も動けば慣性が生じるが、それを正に中和するチップという訳だ。それにより、ラグド・メゼギスは物理的な法則を越えた動きを可能としている。例えば、真っ直ぐ高速で突っ込みながら行き成り横にスライドしてみたり……な」

 

「ば、莫迦な……」

 

 確かに物理法則を気にしない動きである。

 

「とはいえ、ネザードと同じく攻撃力は低い。武器はニードルビームくらいだ」

 

 ニードルレーザーとどちらがマシか? それはその時のシチュエーション次第であろう。

 

「機動力確保の為に装甲は薄いが、それでもアースラの通常兵装じゃあ弾かれて終わりだろう」

 

「判ったよ!」

 

 憮然となるクロノ。

 

(まぁ、攻撃力がアニメ版に準じていたら間違いなくヤバいけどな)

 

 アニメ版【ロスト・ユニバース】のラグド・メゼギスとは、グラビトン砲なんて重力兵器を搭載していた凄まじい火力の艦。

 

 そうでない事を祈る。

 

「この上下に精神力の刃を生むのが魔王の槍、【瞬撃槍(ラグド・メゼギス)】。僕もレプリカをよく使う」

 

「そ、そうか……」

 

 嘗てはタバサに使わせていたが、今は返還をされてユートが使っていた。

 

 使い勝手の良さから他より使用頻度が高い。

 

 次が映し出される。

 

「五五〇m級超長距離砲撃艦【ボーディガー】、見た目は基本が円錐形で特殊な武装は五基一組でボーディガーの放つ攻撃を操る照準(サイト)チップだ。これにより砲撃を曲げるのは御手の物だし、超長距離砲撃艦の名に恥じない距離を砲撃する事も可能」

 

 五基一組が一〇セット、つまりは全部で五〇基。

 

「これはまた、とんでもない代物だな……」

 

「とはいっても欠点も割とあってね、エネルギーチャージの問題から連続攻撃は出来ないんでタイムラグが生じるし、そもそも砲撃しかやれる事が無い」

 

「それは欠陥だな」

 

「とはいえ、奴等は本来だとデュグラ・ディグドゥの護衛艦。つまり五機で連携をするのが理想なんだ」

 

「――む?」

 

 ヴォルフィードに搭載された【消去(イレイズ)システム】さえ無かったなら、原典で連中はバラバラに戦う事は有り得なかった。

 

 嘗ては一括りに纏めて、六機がシステムで封印されてしまったし、エネルギーの問題から一機ずつ戦うしか無かったのである。

 

「ま、砲撃艦なだけに火力は高い筈だよ」

 

「だろうな」

 

 頷くクロノ。

 

「これが魔王の槌――【破神槌(ボーディガー)】だ。槌とか云いながら生じているのは斧の刃なんだけど」

 

 アニメではエルロゴスが主に使っていた。

 

「レプリカを持っているんだよな?」

 

「ま、造ったのは僕だから当然だろうね」

 

 余り使わないけど。

 

「四一〇m級重砲撃艦【ゴルンノヴァ】、見た目には翼を閉じた鳥って感じだ。六基の空間レンズを使って攻撃と防御をする。空間レンズを使えば『奴』は攻撃を収束も拡散も出来る」

 

 攻防一体で、リープ・レールガン以外では有効打を与えられない。

 

 但し、艦首の眼となっている部分は湾曲された空間の外を視るべく、レンズの範疇外となっていて唯一の弱点である。

 

「魔王の剣、【烈光の剣(ゴルンノヴァ)】。狂える魔王【闇を撒くもの】デュグラ・ディグドゥを、魔王自身の武器たるコイツにて天使キャナルが滅ぼした。それが遺失宇宙船を造り出した先史文明の神話だよ」

 

「そんな神話が?」

 

「そして、赤の竜神スィーフィードと【赤眼の魔王】シャブラニグドゥの世界、其処に撒かれていた【烈光の剣】は、魔王の腹心たる冥王フィブリゾが元の世界へと戻した。という事は、間接的にフィブリゾが魔王を滅ぼす手伝いをしたって事になる。仕える相手じゃない魔王とはいえ……な」

 

 何とも間抜けな話。

 

「そして、紡錘形を基本とした生体殲滅艦【デュグラ・ディグドゥ】。最初から教えた通り生体殲滅に特化した艦で、システム・ダークスターを持つ」

 

「あ、ああ」

 

「狂える魔王【闇を撒くもの(ダークスター)】デュグラ・ディグドゥの名を与えられ、先史文明を滅ぼし尽くした正しく魔王」

 

 ゴクリと固唾を呑む。

 

「最後に漆黒の竜神(ナイトドラゴン)ヴォルフィードの名を与えられた艦――一九五m級戦闘封印艦(ソードブレイカー)ヴォルフィードだ」

 

 サイ・バリア。

 

 サイ・ブラスター。

 

 リープ・レールガン。

 

 プラズマブラスト。

 

 消去システム。

 

 その時代の全てを懸けて造り出された最新最終艦、先史文明が最後に造り上げた正に『最後の希望』。

 

「果たして、何とかなるかどうか……」

 

「どういう意味だ?」

 

「僕がわざわざ発掘現場に向かう理由、それは破壊をされた可能性の高いヴォルフィードの回収だよ」

 

『『『『っ!?』』』』

 

 初めて目的を知らされ、全員が絶句をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「発掘現場……何て事に。滅茶苦茶じゃないか!」

 

 ユーノ・スクライアが憤るのも無理は無い、発掘をしていた遺跡が攻撃に晒されてズタズタなのだから。

 

 ユートは余り良い顔をしないが、考古学者もそれはそれで矜持がある。

 

 勿論、単なる名誉欲に駈られた俗物もいるだろう、然しユーノには矜持というものが確かにあった。

 

「ユーノ、捜せ。ヴォルフィードを」

 

「う、うん。判ったよ」

 

 闇側の六隻の艦は影も形も無く、思っていた通りにヴォルフィードを攻撃したらしい。

 

「なのは、フェイトも捜索を頼むぞ」

 

「それは了解したけど」

 

「艦と艦の戦いになるなら私達って居るのかな?」

 

 この場には高町なのは、フェイト・テスタロッサの二名も来ている。

 

 勿論、夜天ファミリーの面々も来てて早々にはやてが指揮を執っていた。

 

 探索に関しては湖の騎士シャマルが担当しており、補助に盾の守護獣ザフィーラが付き、剣の騎士シグナムと鉄槌の騎士ヴィータは力仕事を担当する。

 

 主に瓦礫撤去だ。

 

「いや、最近ってか最初から【魔法少女リリカルなのは】らしくなかったから、ある程度の出番をね」

 

「うにゃぁぁぁああっ! 魔法少女じゃないよ!? ってか、そのタイトルで呼ばないでぇぇぇぇっ!」

 

 なのはは自身が主人公のアニメの事を聞かされて、余りにも恥ずかしくなったらしく、『リリカル・マジカル』とか言い辛くなっていたらしい。

 

「処で、また辛くて長い戦いになるのかな?」

 

「ん? ならないだろう」

 

「……へ?」

 

「再生怪人なんてワンパンで終わる事すらあるんだ」

 

「えっと……?」

 

 意味が解らないという顔のフェイト。

 

「あのね、フェイトちゃん……再生怪人っていうのは一回は登場した怪人が悪く言えば使い回されるんだ。そんな再生怪人って主人公に一蹴されちゃうんだよ」

 

「そういうものなの?」

 

「うん」

 

 流石になのはは理解していたのか、フェイトに懇切丁寧? な説明をした。

 

 それは理に叶っているかどうか微妙だが、フリーザでさえ再生怪人として現れた劇場版で、悟飯によって一撃の下に斃された程だ。

 

 当時は指先一つでダウンさせられた筈の敵だけど、その時ばかりは関係が逆転していた。

 

「白夜から聞いた【仮面ライダージオウ】の最終回、ン・ダグバ・ゼバでさえも僅か一蹴りだったみたいだからな。それと仮面ライダーエボルもか」

 

「ン・ダグバ・ゼバって? 仮面ライダーエボル?」

 

「ン・ダグバ・ゼバってのは【仮面ライダークウガ】に出てくるラスボスでね、究極の闇とか言われる最悪の存在だった。主人公であるクウガが同質の存在にならないと戦えないレベル。そいつが一蹴りらしいから再生怪人ってのは……」

 

 まぁ、主人公はそもそも全ての【仮面ライダー】の王な訳で、アルティメット・クウガより強かったのかも知れないが……

 

「仮面ライダーエボルは、僕も一応はレプリカとはいえ変身が出来る【仮面ライダービルド】のラスボス。まぁ、聞いた話しによるとブラックホールフォームじゃなかったらしいけどな」

 

「ブラックホールフォームって何?」

 

「主人公の仮面ライダービルドのハザードフォーム、それと似た強化アイテムで変身をするフォームだよ。僕は気に入って変身したりしてるけど、一応はダークライダーなんだよね」

 

 ラスボスだし。

 

「敵なんだよね?」

 

「ユーキが以前に造ってくれたエボルドライバーと、ブラックホールフォームに変身するエボルトリガーでなれるんだよ」

 

「ユ、ユーキちゃんって」

 

「因みに、ユーキは仮面ライダービルドに変身する」

 

 当然、スプラッシュとかハザードにジーニアスをも網羅している。

 

 何故にユートへ【エボルドライバー】を渡したのかといえば、ユートの特性がブラックホールだったからだった。

 

「まぁ、それは兎も角……デュグラ・ディグドゥらは以前にも戦っているんだ。僕からしたら再生怪人と変わりないよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「私達は初めてだからそれは複雑かな」

 

 ざっくりと説明を受け、タラリと汗を流してしまうなのはとフェイト。

 

「おおい、何か崩れ落ちた跡みたいなのがあんぞ!」

 

 話しているとヴィータが叫んで此方を呼ぶ。

 

「何か見付けたか」

 

「崩落の跡?」

 

「行ってみよう、ユート、なのは!」

 

 ヴィータの居る場所へと全員が駆け寄り、崩落の跡とやらを観察してみる。

 

「此処、確か遺失宇宙船が並んでいた場所に近いね」

 

 ユーノが言う。

 

「となると、この下へと落ちた可能性があるんだな。だったら万が一にも無事に残っているか?」

 

「だとしたら、僕としても面目が立つし嬉しいけど」

 

「取り敢えずは、爆裂呪文(イオラ)!」

 

 バカンッ!

 

 穴を塞ぐ岩の塊をイオラでぶっ飛ばす。

 

「ちょっ、何をやってくれてんの!?」

 

「爆裂呪文で瓦礫撤去」

 

 事も無げに言うユート、遺跡その物は既に木端微塵になっていたし、瓦礫の下が穴になっているのも確認済み、ならば多少は乱暴でも爆裂呪文で退かすのみ。

 

「降りるぞ」

 

 穴に飛び込むユートに続く形で全員が降りた。

 

 穴の底に有ったのは艦、有機的な黒い装甲を持った全長一九五m、中央に艦橋を据えて左右に武装を兼ねたモジュールを備えた正しく戦艦であったと云う。

 

「見付けた、ヴォルフィードに間違いない」

 

 嘗てソードブレイカーとしての外装をパージして、本来の姿に戻ったヴォルフィードを見たユートには、目の前の艦が本物なのを確かに識っている。

 

(折角だからな、ヴォルフィードにはやっぱり女の子の姿になって貰うか)

 

 ケイン・ブルーリバー、アリシア・ツォン・スターゲイザー、この二人をマスターとした際にフォログラムが女性型で人格も女性だったのは、初めて出逢ったアリシアを怖がらせない為の措置だった。

 

 結果、姿は自らを造った研究者の一人から構築し、名前はモデルの女性は長過ぎたから、ヴォルフィードの名に相応しくデュグラ・ディグドゥを滅ぼした天使キャナルから貰っている。

 

 どうせならその姿と名前で頼みたい。

 

 ユートは男だからムサい男を隣に侍らすよりかは、やはり可愛らしい女の子の方が良かったから。

 

「ちゃんと聞こえてるか、ヴォルフィード!?」

 

『――何者?』

 

 ノイズ混じりながら声を出すヴォルフィード。

 

「喋った? 艦が!?」

 

「煩い、ユーノ。デバイスだって喋るだろうが」

 

「それはそうだけど!?」

 

「兎に角、黙れ!」

 

「は、い……」

 

 口を閉じるユーノ。

 

「状況は理解してるか?」

 

『デュグラ・ディグドゥ達が解き放たれ、私は攻撃を喰らってこの様……』

 

「君は自分の造られた使命を覚えているよな?」

 

『デュグラ・ディグドゥらを封印する』

 

「既に先史文明と云われ、君を造った連中はデュグラ・ディグドゥの力によって滅びたが、それでも使命を果たしたいのか?」

 

『それが我が使命』

 

「なら、利害は一致する。僕も滅びを齎らすデュグラ・ディグドゥを許す心算は無いからな」

 

 ヴォルフィードは沈黙、ユートを視て考えているのであろう。

 

『貴方の傍には闇が在る。負の想念を喰らう存在だ』

 

「伝説の魔王【闇を撒くもの】デュグラ・ディグドゥと同質な存在、【赤眼の魔王(ルビーアイ)】シャブラニグドゥの五人の腹心……覇王グラウシェラーが産み出した覇王将軍シェーラ。彼女を管制人格としている艦船を持ってるからな」

 

『……』

 

 再び沈黙。

 

「既に彼女は一蓮托生だ。負の想念こそ喰らうけど、滅びを望む存在じゃない」

 

『了解した。どの道、貴方を頼らねば使命は果たせない様だ。今は信じよう』

 

 ヴォルフィードは取り敢えずだが、ユートを信じてみる事にするのだった。

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:遺失宇宙船 手に入れるは闇撒く王〈後編〉

 2012年にユートの噺のオリジナルを始めてから漸く出た名前、二次の方へ先に出しちゃったよ……





.

「ふむ、内部は特に問題も無さそうだね」

 

 外装は凹みがあったりしたし、サイ・ブラスターの発射口が破壊されていたりもしたが、内部にまで破壊の余波は及んでいない。

 

「こりゃ、割と早い内から穴に落ちたんだな」

 

 ラッキーだった。

 

 正に幸運であるのだとしか云い様がないくらいに、ヴォルフィードが欲しくて急ぎ発掘現場まで来たが、下手したら完全破壊されている心配までしていた。

 

 それが大した瑕疵の無い状態であり、人工知能にも全く問題は無さそうだ。

 

「此処が艦橋か。ヴォルフィード……僕がマスターになるのに問題は?」

 

『貴方の精神力は人間としては有り得ないレベルで、私のエネルギー供給者として見れば充分にマスターとして合格点』

 

「何か引っ掛かりが?」

 

『貴方の属性はどちらかと云えば、デュグラ・ディグドゥ達みたいな闇。それが心配の種と云えば種』

 

「フッ、別世界の君も同じ事を言っていたよ。流石は同位体というべきかな」

 

『別世界の私?』

 

「ああ。僕は色々と故あって様々な世界を渡るんだ。方法は主に三つでね、転生と転移と疑似転生だ」

 

『? 転生の概念は理解も出来る。然し疑似転生とはどう違うのか……』

 

「転生は僕が死ぬ事で行われるが、疑似転生は肉体を凍結した状態で魂だけとなってから、他の人間の腹に宿る事を云う。死んだ訳じゃないからその人生を終えたら本来の肉体に戻れる。デメリットは疑似転生中、僕の能力に可成りの制限が掛かってしまう」

 

『成程……』

 

 実際、【DQⅢ】世界で勇者アレルの双子の弟としてルビスから疑似転生させられた際、肉体を鍛えなければ大した力は使えなかった上に、魔法もDQ由来のものしか扱えなかった。

 

 だけど困りはしない。

 

 何故ならユートの亜空間ポケットは、ステイタス・ウィンドウに形を変えて残されており、中に入っていた品物も普通に出せたし、錬金術士の技能も別に失った訳ではないから。

 

 錬金術は魔力と精神力を持っていれば、後は技能を修得していれば普通に使えるものなのだ。

 

 とはいえ、DQⅢ世界の父親は勇者オルテガだし、その父親が死んでから祖父の期待は当然ながら息子達に移り、四歳にもなったら厳しい訓練をさせた。

 

 だが然し、技能が残るからにはユートの戦闘技術は【緒方逸真流】を中心に、既に完成をしていると云っても過言ではない。

 

 つまり、彼の行わせていた訓練はアレルは兎も角、ユートからしたら的外れでしかなかったのである。

 

 だからサボタージュしてきたし、だからこそ一〇歳になった日に勘当された。

 

 その後はすぐ用意していた小舟を使い、アリアハンからその日の内に出ていってしまう。

 

 小舟でアリアハンからとなると、普通は不可能でしかないのだろうがユートはモンスターの群れを呪文で叩き、食糧や水は亜空間ポケット内から幾らでも出せたたから、舟が転覆さえしなければ問題も無かった。

 

 最終的には古代日本に似た文化を持つジパングを目指したが、アリアハン北から直にジパングへは行かないで、ランシールを経由してネクロゴンド地方へ向かった。

 

 ランシールから出ていた船が目当てだし、当時まだ滅びていなかったテドンに行き、バラモス城の見学をしてからイシスへ行く。

 

 その後は若きイシス王女との軽い逢瀬、原典に於いてアレルが一六歳の時には二〇代前半から中盤辺りだったイシス女王、ユートを一六歳くらいだと勘違いをしての逢瀬だったり。

 

 飽く迄も一晩限りの火遊び感覚の王女だったのが、どうにも本気になるくらいハマり込み、ちょっとだけ大変だったのは良い想い出だろうか?

 

 後に勇者の道程を逆回りにカザーブ村へ辿り着き、偶々出逢ったフォンという名前の武闘家の少女と決闘騒ぎとなり、容赦無く討ち勝ってやった。

 

 そして理解する。

 

 DQⅢはDQⅢでも実は【ドラゴンクエスト〜ロトの紋章〜】世界だったと。

 

 フォンは後の世でアレルの仲間となり、バラモスを討ってからアレフガルドへ向かいゾーマをも討って、【拳王】と称えられる重要人物の一人なのだから。

 

 ユートがネクロゴンドへ向かった理由、それは戦闘経験を積んでレベルアップする事にあり、それが成ったからには幾らフォンでも敵わなかった。

 

 そして竜の女王の城から世界樹、ムオルからダーマへと向かって賢者になり、ジパングでヤマタノオロチを退治、ジパングのヒミコの娘のイヨ姫と結婚した。

 

 尚、約百年後の未来にも同じ名前の王女が居るが、少なくともあの世界に於いてはユートの子孫である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さて、修復は大した手間でもない。ヴォルフィードのデータは有るからすぐにも直せるよ」

 

『私のデータ? 別世界の私から受け取ったと?』

 

「まぁね。あ、折角だからその時のデータをその侭、使ってくれたら嬉しい」

 

『構いませんが……では、インストールして下さい』

 

「オッケー」

 

 ユートはヴォルフィードのメインコンピューターへデータをインストールし、ヴォルフィード本人もそれを元に最適化を始めた。

 

『マスター、私のグラフィックや人格などのデータも有りますが、この姿と人格をその侭使っても大丈夫なのですか?』

 

「同じヴォルフィードだ。問題は無いと思うけど?」

 

『……ホログラム化された姿は、確か私を造った研究者の一人だったと記録しています。キャナルというのは遥か古代の神話で魔王を討った天使の名ですか』

 

 やはりそこら辺は変わらなかったらしい。

 

 そうなるとこの次元世界の何処かは、所謂【ヴォルフィード世界】だったと考えて差し支え無さそうだ。

 

『インストール完了です。私のグラフィックをダウンロード、ホログラムで形成をします』

 

 碧銀の長い髪の毛を御下げにした白い肌、紫水晶の様な瞳にメイドさんに近い服装はアニメ版か?

 

「データ上は巫女っぽい服じゃなかったか?」

 

「あれ? おかしいですね……どっかで混線でもしたんでしょうか?」

 

 原典小説での服装は巫女っぽいものだが、アニメ版ではメイド服だった。

 

 何故か今のキャナルは、そちら側になっている。

 

「まぁ、構わないか」

 

 どうせ、キャナルの頭脳というかサブ・ブレインは特殊な人造体に移す。

 

 そうしないと彼女自身が船外活動を出来ないから。

 

「さて、それじゃ早速だが出発しようか」

 

「マスター、目的はデュグラ・ディグドゥ達の封印、若しくは破壊ですね?」

 

「違う」

 

「……え?」

 

「どうしても不可能と判断したら破壊もするんだが、基本的には拿捕を目的にして戦う」

 

「拿捕……ですか?」

 

「ああ。勿論、必要なのは遺失宇宙船の本体だけだ。つまり人工知能はクラッシュしてしまう」

 

「遺失宇宙船の技術確保が目的ですか?」

 

「そういう事。ヴォルフィードの本体を分解とかされたくないだろ?」

 

「デュグラ・ディグドゥ達の拿捕に全力を尽します」

 

 あっさりと封印や破壊から拿捕に切り替えた。

 

 流石に自身の本体と云える船体を分解は、キャナルとしてもやっぱり嬉しくなかったらしい。

 

「なぁに、一度は戦っているんだ。所詮、奴らは僕にとっては再生怪人なのさ。聖闘士に一度視た技は通用しない、それは究極の見切りを持つが故だからな」

 

 相手の戦い方なんてのは一度でも視れば見切れてしまう、それが聖闘士という神の闘士である。

 

 勿論、強敵を相手取れば敗けたりもするであろう、それでも相手の技を完全に掛からない程度の事くらいはやって見せるのだ。

 

 双子座のカインが放った銀河爆砕を、フェニックスの一輝が僅かながら外せた様に……である。

 

 一二宮の闘いや海底神殿での闘いで、一輝は双子座のサガや海龍のカノンから銀河爆砕を喰らっていた。

 

 だから過去の世界での、双児宮にて双子座のカインと闘えたのだ。

 

「あっちの艦は遺失宇宙船と戦えるのですか?」

 

「以前に関わった別世界の君ら、当然ながらデータだけはヴォルフィード内に有ったからね。ソイツをコピらせて貰ったよ。それに、曲がり形にもデュグラ・ディグドゥらとも実際に戦っているし、性能や機能なら視る機会が充分にあった。それらの能力をアウローラには与えてある」

 

「それはまさか!?」

 

「ゴルンノヴァからは空間レンズ、ボーディガーから照準チップ、ラグド・メゼギスから慣性中和チップ、デュグラ・ディグドゥからシステム・ダークスター。ネザードとガルヴェイラには特殊な物が無かったし、特に何かは入れてないな」

 

「シ、システム・ダークスターまでも!?」

 

「尚、エネルギーに関しては正と負の両方を吸収するシステムだ。何せ管制人格が魔族のシェーラだから」

 

「はぁ、もう何も言いませんよ。マスターに奴らを討つ気があるなら問題なんてありませんから」

 

 究極的にヴォルフィードはデュグラ・ディグドゥ達を討てれば良し、そんな風に自分を納得させてユートと契約を結んだ。

 

「高いステルスに高性能なレーダー、相転移航法(フェイズ・ドライブ)とか、精神兵器の類いなどに関してはヴォルフィードからのデータ提供だよ」

 

「そう、でしょうね」

 

 サイ・バリアにしても、サイ・ブラスターにしてもヴォルフィード、というよりはキャナルから提供をされている。

 

 プラズマブラストもだ。

 

 それに魔法を撃ち出せるシステムも独自に積んである為に、なのはやフェイトやはやてを連れて来た。

 

 そう……今回の彼女らは正しく砲台の役割だ。

 

 魔砲システム。

 

 人型機動兵器や戦艦へてユートが積む魔導兵装で、艦内や機体内で魔法を使ってそれを魔導砲として撃ち放つシステムである。

 

 アウローラの砲台役で、操船はシェーラ任せにしておけば良いし、ユートとはラインで繋がっているから離れていても精神力の供給もきちんと可能。

 

 心置無くヴォルフィードに乗っていられた。

 

「う〜ん、操船は僕がやるとしてガンナーにミリィ並の奴が居たらな……」

 

「誰ですか?」

 

「ミレニアム・フェリア・ノクターン、本名はミレニアム・フェリア・スターゲイザー。別世界のデュグラ・ディグドゥのマスターを務めたアルバート・ヴァン・スターゲイザーの孫娘。両親を始末されて復讐を考えていた元探偵見習いで、射撃の腕前はピカ一だよ。序でに厨房を破壊しながら美味しい料理を作る料理の達人でもある」

 

「射撃は兎も角としても、料理はいったいどんな理屈ですか?」

 

「さぁ? ヴォルフィードのマスター、ケインも鍋に穴を空けて作った料理なのに何故か美味いから首を傾げていたよ」

 

 そういうのは理屈ではないのであろう。

 

 世の中には普段はへロい絵を描きながら、自慰をしながらだと普通に漫画を描ける漫画家も居るくらいには不可思議に満ちている。

 

「処で、私達は何処に向かってるんですか? 言われるが侭に進んでますが」

 

「勿論、デュグラ・ディグドゥの居る宙域だ」

 

「判るのですか?」

 

「奴らは星々で犠牲を出しながら飛んでいる。どうもヴォルフィードを片付けたと思い込んで、油断をしてくれているらしいね」

 

「成程」

 

「フッ、実際にはヴォルフィードは健在で、同等以上の艦まで存在するがな」

 

 デュグラ・ディグドゥらからすれば、これは完全な誤算だと云えよう。

 

「兎に角、連中は一蹴してやる! 所詮は再生怪人にも等しいからな。一日は掛からんだろうよ」

 

 ケインとミリィとキャナルも、遺失宇宙船が直に現れ始めてから一年足らずで【ナイトメア】壊滅にまで追い込んでいる。

 

 再生怪人如きは一日足らずで殺れないと嘘だろう。

 

「見付けた。やっぱりね、ヴォルフィードを破壊したと思い込んでるからバラけていない」

 

「舐められてますね」

 

 キャナルの額に青筋が浮かぶが、芸の細かい事だと苦笑いしてしまう。

 

 今現在のキャナルの姿はホログラムであり、表情の一つを取っても計算から成り立った結果である。

 

 浮かぶ青筋も云ってみれば【怒り】の演出だ。

 

「なら、作戦通りにやる。アウローラ側も此方に合わせて攻撃だ!」

 

〔了〜解〜〕

 

 アウローラはユーキの方に任せてある為、返ってきたのはユーキの声だった。

 

「さぁ、金色の御許へ還るが良い!」

 

 とはいえ、今回の作戦で遺失宇宙船の本体は完全な破壊をする気はないが……

 

 先ずは逃げられない様に結界の超々広域展開する、これに関しては八神一家が総出で行う。

 

《何だ?》

 

 驚いた様子のデュグラ・ディグドゥ。

 

 約一光年分の距離を結界で覆った為、戦闘には一切の支障が出ない筈だ。

 

「デュグラ・ディグドゥのシステム・ダークスターは此方で防ぐ! 奴は無力だから最初にボーディガーを潰せ!」

 

〔了解、先ずボーディガーを叩くよ!〕

 

 アウローラは超長距離で砲撃が可能なボーディガーを叩き、ヴォルフィードはまた別の遺失宇宙船を叩くべく動いた。

 

「キャナル! 此方が叩くのはゴルンノヴァだ!」

 

「了解です、マスター!」

 

 敵が体勢を整える前に、一気呵成に厄介な連中から叩いていく。

 

「サイ・ブラスター!」

 

「はい、サイ・ブラスターを発射します!」

 

 放たれる二条の光。

 

《むう、ヴォルフィード! 生きていたのか!?》

 

「ええ……さっきは随分と世話になったわね? ゴルンノヴァ!」

 

《無駄だ!》

 

 放たれたサイ・ブラスターは悉くが弾かれる。

 

「マスター、ゴルンノヴァの空間レンズです。あれが展開されていり限りサイ・ブラスターは効きませんがどうします?」

 

「此方の狙いさえ覚られなきゃ良い!」

 

「了解です!」

 

 サイ・ブラスターを連写しつつ、ゴルンノヴァへと僅かずつ近付いていく。

 

《何の心算だ? ヴォルフィード!》

 

 空間レンズに関しては、ヴォルフィード側にデータが有るのは判っている。

 

 にも拘らず、無駄に攻撃をしてくる事に訝しんだ。

 

《ヴォルフィード!》

 

《前の封印の恨み!》

 

「ネザード、ラグド・メゼギス!」

 

 高速機動艦の二隻が援護に現れた。

 

「今だ!」

 

 ユートは短距離ジャンプでゴルンノヴァ内部へと跳び移り、AIが納められているメインコンピュータの区画へと向かう。

 

《なにぃ!? 貴様は……ヴォルフィードのマスターなのか!?》

 

「終わりだゴルンノヴァ、乗り移られた時点でな!」

 

 手に握られているのは、ディーアークと呼ばれているデジタルデヴァイス。

 

 デジヴァイス・タイプアークである。

 

「奴の頭脳を制圧しろ! デュークモン!」

 

「応っ!」

 

 デジタルモンスター……通称はデジモン。

 

 とはいっても、本物という訳でなく飽く迄もユートが神器――【魔獣創造(アナイアレイション・メイカー)】の禁手たる【至高と究極の聖魔獣】で創造した聖魔獣である。

 

 然し、想像をした通りに創造が出来る神器なだけあって、本物のデジモンと変わらない性能を持つ。

 

《が、がぁぁぁっ!?》

 

 それなりに先史文明による技術が用いられていたのだろうが、内部に直接干渉されては然しもの遺失宇宙船といえど堪るまい。

 

《ゴルンノヴァ?》

 

《どうした!?》

 

 ネザードとラグド・メゼギスが話し掛けるものの、ゴルンノヴァからしたなら返事の余裕は全く無い。

 

 デジモン、しかも究極体でありウィルス種なロイヤルナイツ、敵のデータ破壊や掌握は御手の物だった。

 

 ややあってゴルンノヴァは完全に沈黙する。

 

「掌握完了!」

 

 どうせデータ取りの為の船体であり、ゴルンノヴァを運用する訳ではない。

 

 だから、ゴルンノヴァの頭脳は完全に破壊した。

 

「次はラグド・メゼギス、ネザード、お前らの番だから覚悟しろ!」

 

《ヒッ!》

 

 ゴルンノヴァの様子からそれがどれだけ、AIにとって悍ましいかを理解したらしく、AIの癖に息を呑んでしまうネザード。

 

《ボーディガー、奴を……ゴルンノヴァごと破壊を! ボーディガー? 返事をしろ、ボーディガーッ! まさか? まさかまさかまさかまさか!?》

 

 それは最悪の予想。

〔兄貴、ボーディガー及びガルヴェイラの制圧完了〕

 

「流石に早いな」

 

 同じ手法にて、ユーキが既にボーディガーだけでなくガルヴェイラも制圧。

 

〔此方はなのはとフェイトの二枚看板が、魔法をぶっ放してくれていたからね。虚無魔法のテレポート使ってさっと乗り込んで、頭ん中にロードナイトモンを入れてやるだけの簡単な仕事だもんさ〕

 

 ロードナイトモンも同じくロイヤルナイツな究極体でウィルス種、速度に優れて所謂ナルシストな処があるデジモンだ。

 

 そういう風に創られたというか、元々の設定からしてナルシストだったからこそそう創られた。

 

「残りはネザードとラグド・メゼギス、そしてデュグラ・ディグドゥ!」

 

〔ラグド・メゼギスは此方に任せて〕

 

「判ったユーキ、なら此方はネザードを狙う!」

 

 狙いをネザードに絞り、ヴォルフィードが翔ぶ。

 

《く、来るな!》

 

「どうした? 人々の恐怖や絶望を糧にする遺失宇宙船が恐怖するのか?」

 

《うわぁぁぁっ!》

 

 リープ・レールガン。

 

 ヴォルフィードにも装備された武装で、レールガンでリープ弾を撃ち出す。

 

 リープ弾はぶつかった際の衝撃で発動、周囲五〇mを別空間にLeapの文字通り跳ばしてしまう。

 

 空間が抉り取られる為、当たれば防御に関係も無くダメージ必至の武装だ。

 

 ヴォルフィードの方は、当時で最新鋭の技術により造られたもので、ネザードの方は旧式となっている。

 

 威力は大して変わらないから、ヴォルフィードといえど当たる訳にはいかないのが現状である。

 

《死ね死ね死ねェェェッ! ヴォルフィィィィィィィィィィィードッッ!》

 

「恨まれてるな」

 

「ちょっと封印しただけじゃないですか。それなのに蛇蝎の如く嫌いますか?」

 

「キャナルもネザードなんて嫌いだろ?」

 

「勿論、台所のGくらいには好きくありませんよ」

 

 どっちもどっちだった。

 

 現状、リープ・レールガンを撃ち合う形で相殺しており、どちらも取り分け大きなダメージは負っていないのだが、これではお互いにリープ・レールガンを撃ち尽くすまで千日手だし、万が一にもヴォルフィードのリープ・レールガンの弾が少なかったら、その時点で詰みとなってしまう。

 

「キャナル、僕が奴を止めるからその隙にリープ・レールガンを翼に撃ち込め」

 

「翼に……破壊はしないという方向性ですか」

 

「勿体無いだろ?」

 

「まぁ、先史文明時代……それも万年の単位で遥かな昔の遺物。それも活動可能な機体ともなれば確かに」

 

「折角だから改造をして、ラグラディアやヴラバザードやバールウィンやランゴートの名前を与えようかと思って……ね」

 

「何ですか、それは?」

 

「赤の竜神スィーフィードが【赤眼の魔王】シャブラニグドゥと相討ちになった際に、自らの力を四分割にして遺した四竜王の名前」

 

「皮肉ですか? 【闇を撒くもの】デュグラ・ディグドゥの五つの武器の名前を冠する(ふね)に、別世界のとはいえ神の名前を付けるだなんて」

 

「大いに皮肉さ」

 

 とはいえ、そうなったら一つ余る上にデュグラ・ディグドゥは数に入ってない事になる。

 

「ゴルンノヴァは【光の剣】と呼ばれて人間側に長く在ったし、最後はキャナルにより創り手を滅ぼしたから名前は変えない。デュグラ・ディグドゥはシステム・ダークスターしか見るべき所も無いからな、適当に仕舞っておくだけさね」

 

 人、それを死蔵と呼ぶ。

 

《ZIKU DRIVER!》

 

 ユートがジクウドライバーを腰へと装着をすると、バックル部分が鈍い輝きの虹色に変化をした。

 

 形も可成り大仰に変わっている。

 

「オーマジオウドライバーならぬ、テンマシンオウドライバーかな?」

 

「テンマシンオウドライバー? ですか……」

 

「仮面ライダージオウ……本来は逢魔時王として君臨する最低最悪の魔王となる未来、白夜が曰くそれ自体が欺瞞だったのかも知れないらしいが。オーマジオウ本人は自らこそ最高最善の王であるって言っていたみたいだし」

 

「は、はぁ……?」

 

 よく解らないという風情で小首を傾げる仕草だが、余りにもあざとい可愛らしさを表現していた。

 

「僕が成るのは見た目だけはオーマジオウの色違い、だけど実際には平行世界の僕が、天魔王を滅ぼして成った【天魔真王】。真なる天魔王だから……ね」

 

 実はユートはジクウドライバーこそ作製したけど、それにテンマシンオウドライバーに変化する機能なんて付けていない。

 

 どうして変化したのか、造り主たるユートにさえも解らないが、明らかにそれはオーマジオウドライバーに準じた力を持っていた。

 

 金色ではなく虹色とか、二次創作的な色か? なんて邪推してしまう。

 

 二次色……

 

「変身っっ!」

 

 ゴーン、ゴーンッ! と鐘の音が鳴り響きながら、足元にオーマジオウならぬテンマシンオウの紋様。

 

 右側の装飾――テンマクリエイザー、左側の装飾――テンマデストリューザーはユートが視てきた王達や仮面ライダーやウルトラマンなどの創造と破壊の歴史が綴られていると云う。

 

《禍福の刻! 天よ! 魔よ! 仰ぎ見よ! 真なる王! テンマシンオウ!》

 こんなの造った覚えなど無いが、使えるのなら問題も無いだろうという事。

 

 オーマジオウの色違い、テンマシンオウとなる。

 

 姿形はオーマジオウと殆んど変わらないが、細部と色だけはやはり別物。

 

 瞬間移動でヴォルフィードの艦橋の上へ移動して、必殺技を放つ為の動作へと移るテンマシンオウ。

 

 ぶっちゃけ、変身の時と同じくテンマクリエイザーとテンマデストリューザーを押し込む動作だ。

 

《超越の刻……天魔真王・超殺撃っっ!》

 

「はぁぁぁぁぁああっっ! どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 それは光をも超越して、ネザードの本体を貫いた。

 

《ギャァァァァッ!?》

 

「今です!」

 

 キャナルがネザードに向けてリープ・レールガンを叩き込み、それにより翼の一枚が完全に破壊される。

 

「勇者王ジェネシックガオガイガーの力!」

 

《イギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!》

 

 勇者王ジェネシックガオガイガー、それは破壊神と称される最強の勇者。

 

 それを操る獅子王 凱のエヴォリュダーとしての力の一端とは、手を翳してやるだけでもコンピューターを操作してしまえる。

 

 テンマシンオウは、機械の勇者達の力をも持ち合わせていた。

 

 その実体が謂わばAI、コンピューターである処のネザードからしたならば、それは脳味噌を掻き回される様な超絶不快感。

 

 嘗て、八神和麻が似た事をある霊具を用いて人間にやったが、ヤられた人間は完全に壊れてしまった。

 

 ユートの目的は狂ってしまった連中のメインコンピューター、頭脳を破壊してしまう事にあるのだから、デジモンを頼る以外の方法も有ると云う訳だ。

 

「討伐完了!」

 

 それからすぐラグド・メゼギスも斃されてしまい、完全な無防備になったデュグラ・ディグドゥは、呆気なく捕縛されてメインコンピューターも破砕されたのだと云う。

 

 こうしてユートは管理局を出し抜き、遺失宇宙船の七隻共全てを手に入れた。

 

 クロノにせよユーノにせよエイミィにせよ、文句を言える立場で無かった上、時空管理局の提督が起こした不祥事を黙っていて貰う為に、遺失宇宙船は破壊されたと報告を挙げるより他に無かった。

 

 何しろ、管理局が管理しない管理外世界だけならば兎も角、幾つか管理世界も死滅させられている。

 

 誰かが手に入れたとか、管理局が手に入れたなんて話は争乱の元、ハッキリと云えばクロノ・ハラオウンとしては要らないのだ。

 

 一応、伝説の三提督にはユートから真実を話す。

 

 ミゼット達はユートが手にしたなら……と、黙認の姿勢で往く事を決定した。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話:科学者 科学の光は影を差す

 年越しなだけにだいぶ迷走して書いたのでおかしな部位、或いは重複した部位なんかが在ったりするかも知れません……





.

 ヴォルフィードを含めれば七隻もの遺失宇宙船を手に入れたユート、生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥは使う予定も無かったから、取り敢えずユニクロン内部の大博物館にでも飾っておくとして、考えていたいた通りにゴルンノヴァを除く四隻は改造し四竜王の名前を与える心算であった。

 

 それに当たって科学者陣の力を借りるのは当然の流れであり、義妹のユーキは勿論の事ながらプレシア・テスタロッサ、マリエル・アテンザというリリカル組だけでなく、篠ノ之 束、 緒方鈴音、葉加瀬聡美に、天樹菜々芭、メルヴィナ・アードヴァニー、大星林檎などの科学や魔法科学へと精通した人材を惜しみ無く注ぎ込んだ。

 

 また、【ハイスクールD×D】世界の魔王の一角であるアジュカ・ベルゼブブを招いたし、契約によって【機動戦士ガンダムSEED】世界のロウ・ギュールなんかも招いている。

 

「で、君はどうして此処に居るのかな?」

 

「えっと、マリエル先輩に誘われまして……」

 

「マリー?」

 

 ユートが管理局に賠償代わりに求めた少女、マリエル・アテンザは時空管理局の技術官であり、現在まで管理局に勤務をしていたら五年目になる筈だった。

 

 愛称はマリー。

 

 勤続三年目に管理局から移る形で【OGATA】に所属となり、二年間という時間をなのは達のデバイス整備しながら、新しい技術の習得に腐心している。

 

 最近、ユートと身体を重ねているけど目的有りで、どうあっても時間という抗えないものに抗えるから。

 

 正に科学に魂を売り渡した女の一人で、基本的には他の者もユートへの好意もあるにはあるが、科学の為に長い時間を欲して身体を重ねている部分もある。

 

 人間であるからには時間はどうしても有限な上に、現役で居られる時期も僅か数十年程度でしかない。

 

 激しく運動をするから肉体的にキツくなってしまうスポーツ選手なんかよりは保つが、老化すればどうしても脳だって衰えてくる。

 

 プレシア・テスタロッサは時間の有限性というのを、深く深く実感してしまった一人であるからには初心(うぶ)な処女でもあるまいし、さっさとユートと肢体を重ねて時間の確保をした程。

 

 とはいえ、実年齢がフィフサーなプレシアなだけに若返らないと精神も肉体も付いてこない。

 

 一応、アラサーくらいの見た目になっていたのだけど女の矜持か? 若い自分を魅せたかったとかもあって年齢詐称薬を使い二十代前半の見た目にまで若返って抱かれた。

 

 今のプレシアは二十歳だった頃の肉体な為に、精神まで若返り研究をしながらユートの求めに応じてベッドに向かうとか結構、愉しい第二の人生を歩んでいるみたいである。

 

 メルヴィナ・アードヴァニーはユーキが転生をした世界――【MuvーLuv Alternative】に於いて、豪州海軍の少尉として技術士官をしていたのを見付けてスカウトした少女。

 

 正確には豪州海軍だったが、船を喪ってしまっていたのをユーキが取り込んだのである。

 

 アンリミテッドでも似た境遇だったのを、向こうではJFK艦隊の駆逐艦シドニーに乗っていてBATEにより撃沈、戦死して更には遺体を保存されてしまったという悲劇があった。

 

 技術士官ではあるが大きく特筆したモノは持たない、それでも貴重な人材の一人としてユーキは雇用に踏み切ったのだ。

 

 何しろユーキは個人で戦術機……ってかMSを造っていたからどうしても人手不足は否めない。

 

 それと、ユートを喚んだ際の相手を務めさせる為に女の子であるのは必須事項だった。

 

 一応は婚約者なれど、流石に結婚しないで抱かれる訳にはいかない身だったから。

 

 それなりに開放的な性格でしかも御都合的にも処女、ユーキもそれなりにヤっていると思っていただけにラッキーだと思ったらしい。

 

 手に入れた時期が早かったからか?

 

 特筆してなかっただけに魔導科学を覚えさせるにも丁度良く、ある意味でメルヴィナ・アードヴァニーはユーキの愛弟子となっていた。

 

 天樹菜々芭はユートの再誕世界に生まれていたユーキに近い少女、その頭脳は高い科学力を持つに至りながら魔法という未知をも取り込む事で、特殊な衣服を造り上げた……というのが本来。

 

 【魔法戦士シリーズ】が混じっていると知り、スイートナイツ誕生前にユートをロアという名の異世界へ送り、シリーズが始まる前に全てを終わらせてしまったので天樹菜々芭も魔力こそ持っていたが、残念ながらそれを上手く利用するまでには至れなかったらしい。

 

 本来の流れではロアでメッツァー・ハインケルが提唱する作戦を行い、最初の犠牲者に選ばれたのがアップルナイツの副隊長ココノ・アクア。

 

 メッツァーは元々が組織の最下部だったのを、この作戦が成功した事で異例の出世をした。

 

 ココノ・アクアはメッツァー相手に快楽堕ちをしてしまい、地球に現れた新たな女神騎士団――【スイートナイツ】を倒すべく動いた。

 

 この世界線でも作戦自体は確かに行われたが、ココノ・アクアを連れ去る前にユートと遭遇してしまい討たれ、人生終了の御知らせとなってしまったのはどうでも良い話。

 

 救われたココノはメッツァーではなくユートに惚れ込み、ユート自身はロアのトランシルヴェール女王たるクイーン・グロリアと交渉した。

 

 その後は【魔法戦士シリーズ】そのものが崩壊をしていまい、【魔法戦士スイートナイツ】、【魔法戦士プリンセス・ティア】、【魔法戦士スイートナイツ2】、【魔法戦士シンフォニックナイツ】、【魔法戦士エリクシルナイツ】、【魔法戦士レムティアナイツ】などが喪われている。

 

 勿論、派生作品やそれ以前以後のものも。

 

 そしてそれらの物語で魔法戦士となる筈だった少女達に関しては、ユーキが内容と共に把握していたから鋼鉄聖闘士や次世代の聖闘少女などへと勧誘をしていた。

 

 天樹菜々芭は【魔法戦士シンフォニックナイツ】の一人だった為、今一人の百合瀬莉々奈と共に鋼鉄聖闘士として聖域入りしている。

 

 そして現在の天樹菜々芭はユートのサポートも可能な技術者兼【閃姫】であった。

 

 魔導科学の真髄を極めたいという願いもあり、菜々芭はユートの傍で闘いを続けていたし莉々奈も賛同し、未完成だったM3システムの完成も目指したかったからユートとユーキの二人の傍というのは都合が良い。

 

 本来なら魔力が世界に満ちてM3システムと、それを纏い美しく闘う【ミネルヴァ・ガード】の設立が成されたが、魔力は魔法使いが跋扈する程に在るものの女神騎士団第一三部隊【スイートナイツ】が存在しなかった為、見本が無い状態では流石の菜々芭も苦労してしまったのだ。

 

 尚、本来ならスイートナイツだった少女立ちとティア王女は聖闘少女として活動をしていた。

 

 緒方鈴音――超 鈴音と葉加瀬聡美は麻帆良学園都市にて、教鞭を執っていたユートの教え子という立場に在った少女達である。

 

 財団法人【OGATA】のセクションの一つに有る【超技術(チャオ・テクノス)】とは超 鈴音の名前から取り、実際に彼女に所長的な身分を与えて研究開発をやらせていた。

 

 勿論、再誕世界では新たなアテナが誕生する程に時が経過しているからには二百歳を越えている筈の二人だったが、見た目には中学生時代と何ら変わる事もない姿をしているのは【閃姫】契約をしていたからに他ならない。

 

 まぁ、【ハイスクールD×D】世界の転生システムで転生悪魔や転生天使に成っていた場合とかもあるし、必ずしも【閃姫】に成っているとは限らない訳ではあるが……

 

 事実として姫島朱乃や塔城小猫や()()()()()()()()()()みたいに出逢った時から転生悪魔だった例もあるし、普通に長命種が存在している場合だって稀にだが有るものだ。

 

 それは兎も角、二人はきちんとしてればそれなりに可愛らしい容姿なのに余り頓着しないから、ユートも暫くは契約を持ち掛けていなかったのだけど、『科学に魂を売った女』を自称するだけにユートとユーキの魔導科学は自分達の上位互換と位置付けたらしく、【閃姫】に成りたいと自分達から申し出て来たのである。

 

 はっきり言うと色気もクソもない初夜だったとしか云えないものだった。

 

 裸で寝るのがデフォルトなユートの寝室に裸で押し掛けた二人が……

 

『さぁ、【閃姫】契約とやらをしましょう』

 

『私達に永い研究時間を与えるネ』

 

 何て言いながら処女喪失したのだから。

 

 役には立つし、研究の合間にヤる事はヤるからユートも特に文句は無い。

 

 特に超 鈴音はそもそも未来に帰れなくなってしまっており、それはユートが原因だったから未来は変わっただろうから世界線こそ異なるにせよ、歩いて百年後に帰れる様に【閃姫】契約はアリだと考えていた。

 

 魔導科学を修得してしまった二人に死角は最早無くなり、ユートの冥界のエリシオンでは如何無く実力と趣味を発揮しているらしい。

 

 そもそも、【リリカル】主体世界のこの地へと創設した聖域の護りに置く茶々号や田中さん達、その駆体を設計したのはやはりこの二人。

 

 窮めて有機的なアンドロイドとガイノイドは、DB世界の人造人間17号や18号に近い肉体を持って造られており、茶々号達は擬似的にではなく本格的なセ○クスも可能だった。

 

 システム的にヤる動くダッチワイフではなく、自らの駆体が生産する体液を以て様々に応用を熟していき、遂には出産も可能なレベルに持って行く事に成功をする。

 

 ちゃんと月経や空腹などの生理現象も有って、五感や第六感さえも普通に備える超駆体。

 

 それは既に人間と全く変わらない、神の領域に足を踏み入れ踏み抜いた科学者と成った二人は、ユートの助け無しに肉体の用意が出来た。

 

 大星林檎はとある平行異世界の地球で謎? の転移現象で何故かハルケギニアに跳ばされてしまった四人の少女の一人。

 

 超人高校生と呼ばれていたある分野に於いては最高峰に立ち、地球という舞台で所狭しと大暴れをしていたらしいのは聞いている。

 

 七人の超人高校生が居たのだが転移されたのは科学者の大星林檎、忍者、医者、侍の四人だけで男の政治家、商人、手品師は何処を捜しても――ハルケギニア大陸以外にも居なかった。

 

 ユーキが曰く、超人高校生は異世界召喚された筈だから他の三人の男子は本来の行くべき世界へ普通に言ったのでは? とか。

 

 四人の少女達は基本的にバラバラに跳ばされていて、トリステイン王国に大星林檎、ガリア王国に医者、帝政ゲルマニアに侍、アルビオン王国に忍者がそれぞれに点在したのを回収した。

 

 その後は彼女らの面倒を見つつ独立の手助けをしてやる事で好感度も上がり、最終的には好きな男が居たらしい林檎も含めて【閃姫】契約を結んだのである。

 

 元の世界を捜す約束をした上で。

 

 約束は未だに果たされていなかったりするが、四人は別に帰りたかった訳ではないから見付かるのをゆっくり待っている。

 

 林檎だけはもう一度だけでも彼に会いたいとか思っていたし、せめて足跡だけでも何とか知りたいのが本当の処だったけど。

 

 科学の無い世界で科学を成せる林檎なだけに、ユーキからしたら可成り有用な人材。

 

 是非とも欲しくて口八丁を駆使してまで口説き落としてしまい、医者なんて面白そうに見物をしていたくらいだった。

 

 魔導科学を修得してからは更なる高みに至り、ユートの真似事にも近い魔法すら使える。

 

 名前は【金属錬成】といい、ハルケギニア魔法で云えば【錬金】に近い魔法であろう。

 

 金属を汎暗黒物質から錬成する魔法である為、好きに金属を創り出せてしまうのだ。

 

 但し、通常金属と魔法金属までで神秘金属を創るには今を以て至っていないのだが……

 

 尚、通常金属は何ら帯びない普通の金属であり金、銀、銅、錫、タングステンなどを云い、魔法金属は有名な処で流白銀(ミスリル)青鍛鋼(ブルーメタル)、神秘金属とは神剛鋼(オリハルコン)神金剛(アダマンタイト)の事を指している。

 

 マリーと一緒に居る長い茶髪に眼鏡を掛けている少女の名前はシャリオ・フィニーノ、原典では【魔法少女リリカルなのはStrikerS】でデバイスの製作やメンテナンスを行う為の技術スタッフであり、一級通信士として通信主任もしていた筈であるし本編から二年前には、フェイト・T・ハラオウンの執務官補佐をしている優秀な人材。

 

 マリエル・アテンザの後輩な訳だが、正直な話まさか連れて来ているとは思いもよらず驚いた。

 

 見た目には可成り幼いが一〇年後のStSで一七歳だった筈だから、現在は七歳――小学二年生相当の年齢でしかない筈だ。

 

「シャリオ・フィニーノです」

 

「ああ、緒方優斗だ」

 

 ユートは説明しろと目で訴える。

 

「え~っと、ね? 私が此方に来たでしょう? この子は後輩なんだけど、色々と目を掛けていたから此方で刺激を与えたいなってさ。ユーキちゃんに訊いたら是非連れて来いって言われて」

 

「ユーキの仕業か……」

 

「め、迷惑でしたか?」

 

「いや? 居るからには働いて貰うがね」

 

「はい!」

 

 シャリオ・フィニーノは元気に返事する。

 

 劇場版は観てないが、白夜からの情報で知る限りはこの年齢より僅かに上で地球の事件に関わったらしいし、普通に優秀な人間だから特に問題がある訳ではない。

 

 よくこの作品の二次では『子供を闘わせるなんて』とか、少年兵的に忌避させるのがトレンドみたいな風潮があったけど、ユートは特に忌避をしたりはしていなかった。

 

 抑々にしてユートは聖闘士をしていたから幼くして――五歳くらいから修業をして一〇歳未満でも闘うのは普通、無理矢理に闘わせるのは問題しか無いが自らの意志ならそれを尊重する。

 

 まぁ、自分の意志という名の強制もあるのだから一概には云えないが……

 

 だが少なくともシャリオ・フィニーノの場合は一〇〇%が自らの意志であろう。

 

「あ、シャーリーって呼んで下さい」

 

「判った、シャーリー」

 

 別に困る事もないから普通に呼んだ。

 

 古代遺失物の艦船を調査するとなればやっぱりというか、科学者としてはテンションフォルテッシモでマックスとなる。

 

 マリエルもシャーリーも実物――ヴォルフィードや闇の遺失宇宙船を見て、口を大きく開けながらその船体に感動すらしているらしい。

 

「マリー先輩、凄い凄いスッゴいです~!」

 

「う、うん。本当に凄いわね」

 

 はしゃぐシャーリーを抑える事も忘れて呆然としているマリエル、どうやら異様な雰囲気に呑まれてしまっている様である。

 

 遥かな古の先史文明が造り出した艦船であり、単純な機能は明らかに勝っていた。

 

 戦闘には無関係な居住性は勝っていたのだが、それは元々が闇側の遺失宇宙船もヴォルフィードも居住性は求められておらず、寧ろアニメとかでヴォルフィードというかソードブレイカー内にてあんな居住性が有ったのに驚きだ。

 

 恐らくアリスの時代から改修を繰り返していたのだろうと思われる。

 

 実際のヴォルフィードは当たり前だが居住性は皆無に等しく、システム・ダークスターを相手にするのに艦橋が有ったのが意外な程。

 

 とはいえ、ヴォルフィードもラノベ版で普通にアリシアへマスターになるのを頼んでいたから、完全な無人艦として造船されていた訳ではなかったのも確か。

 

 システム・ダークスターは映像越しからであれ機能する為、マスターが艦橋に居たら間違いなく殺られてしまう筈なのに……だ。

 

 まぁ、完全な無人艦だとデュグラディグドゥらの前例から怖かったのかも知れない。

 

 はっきり云ってしまうとデュグラディグドゥらの暴走は原因が不明、負の想念をエネルギー源としたのが抑々の間違いだったとも推測されたからヴォルフィードは、情愛や希望や勇気など謂わば逆に正の想念をエネルギー源にした訳だけれど、だからといってそれで一〇〇%安全だと言い切れなかったのもあり、マスターが乗る艦橋も設置をされたのであろう。

 

 だけどシステム・ダークスター対策が成されていないのは、ケイン・ブルーリバーがマスターをして最終決戦時で明らかになっている。

 

 マスターは下手したら死ぬ。

 

 ケイン・ブルーリバーが死ななかったのは偏に恐怖を――悪夢をバラ撒くデュグラ・ディグドゥが、ヴォルフィードを延いてはケイン・ブルーリバーを恐怖したが故に。

 

 若しもデュグラ・ディグドゥがケイン・ブルーリバーを怖れず、システム・ダークスターを使っていれば間違いなく銀河には悪夢が――闇が撒かれていたであろう。

 

 彼の【ヴォルフィード世界】の魔王の二つ名、【闇を撒くもの(ダークスター)】というその通りに。

 

 まさか恐怖を武器にする筈が自らの恐怖に負けて討たれるとは、デュグラ・ディグドゥも何というか皮肉なものであったと云う。

 

 とはいえ、技術は流石に先史文明の遺産というべきであろうか? 何処か有機的なフォルムをしている漆黒の装甲材だけで、時空管理局では再現をする処か碌すっぽ解析すら叶わない。

 

 当然ながらサイ・システムとか、それを流用した兵器だとか、想念をエネルギーに変換をするのだとか、遺失宇宙船を遺失宇宙船足らしめている部分が軒並みにアウト。

 

 時空管理局のL級八番艦アースラもそうだが、現在は何兆も掛けて開発している新型艦となるであろうXV級でさえ、単なる標準的な攻撃艦たるガルヴェイラにも性能が及ばない。

 

 まぁ、流石に主砲アルカンシェルを撃ったなら墜ちるのかも知れないけど、それ以前に当てる当てないではなく撃つ暇も与えられないだろうし、それに何よりもヴォルフィードの主砲ならXV級の新造艦船だろうが何だろうが砕けるし、何なら火力が低いラグド・メゼギスでもイケるだろう。

 

 というよりアニメ版のラグド・メゼギスなら、その火力すらも充分過ぎるくらいに有る。

 

 それにアルカンシェルは未だしも、通常兵器なら遺失宇宙船の装甲で止めてしまえる筈だ。

 

 それこそヴォルフィードのリープ・レールガンやサイ・ブラスターくらいの威力が無いと貫く事も覚束無いし、果ては破壊なんて不可能の領域と云うしかあるまい。

 

 更にその後に現れるメンバー。

 

「来たよ」

 

 何人も居る【閃姫】な工学系達。

 

 プログラマーなタイプにはAI関連を作って貰っているし、機械に強いタイプなら躯躰を製作して貰っている。

 

「翔子、解析は頼んだよ」

 

「フフ、任せて」

 

 プログラマーの増山翔子、ユートの尺度に於いては大した能力とは云えなかったのだが、ユーキに鍛えられたからか既にプログラマーとしての腕はユートを遥かに越えていた。

 

 父親は将棋のプロ棋士、祖父は元政府の内閣府サイバーセキュリティ戦略室の室長で、翔子自身は幼い頃に祖父からプログラムを学んだらしい。

 

 通称『絶世の美少女プログラマー』というのは本人を知らない世間の噂。

 

 元からプログラミングには精通をしている為、更なるスキルアップをした彼女に遺失宇宙船たるゴルン・ノヴァ達の頭脳、AIの解析を任せるのは彼女を於いて他には無いであろう。

 

 ハードもソフトも任せるに足る人材が【閃姫】や【準閃姫】には揃い踏みをしているのだから、【超技術(チャオ・テクノス)】として一つの部門に纏めておくのが吉という訳である。

 

 知識は勉強して補える、技術は実践して研いていける、今のシャーリーにはどちらも足らないからマリーに付いて学ぶ為に来た訳だが、果たして彼女はマリエル・アテンザやその他の【超技術】のスタッフみたいな覚悟は固まるのか?

 

 魔導科学に全てを捧げる覚悟を……

 

 具体的に云えばそれらを吸収していく時間を得る為に若さを保つ術、【閃姫】契約を受け容れるだけの覚悟というやつを持てるか否か。

 

 【閃姫】契約をすれば基本的にユートと同じだけの寿命を、若い侭に得られるからそれこそ幾らでも年月を掛けられる様になる。

 

 科学に魂をも捧げた超 鈴音や葉加瀬聡美みたいに愛情云々より前に、科学の為にこそ女としての自分を捧げるのが大前提となるのだから。

 

 マリーは慣れた様子で空中モニターを見る事も無く、一心不乱に展開されたキーボードを叩いてデータ取りを始めていた。

 

 シャーリーはそのアシスタントだ。

 

 翔子も手慣れた感じにプログラムの構築をしていくし、他のメンバーも遺憾なく実力を発揮している辺り職場としては最高の環境らしい。

 

〔ユート様〕

 

「どうした?」

 

〔時空管理局よりクロノ・ハラオウン艦長がお出でになられています〕

 

「クロノが? 判った」

 

 事務員からの連絡を受けたユートは仕事現場を後にすると、クロノが通された筈な来客用の部屋へと足早に向かう。

 

 部屋に入るとお茶を啜るクロノの姿が在って、その格好は普段着でバリアジャケットや局員としての制服では無く、単純に仕事関連で来たという感じではどうやら無いらしい。

 

「一カ月振りだなクロノ」

 

「ああ。遺失宇宙船の報告書を上げてから漸く得た休暇だよ」

 

「一カ月間も休暇無しとかとんだブラック企業だよな……時空管理局」

 

「はは、全くだ」

 

 まだ一六歳の、地球なら高校生でしかない筈のクロノ・ハラオウンだけど、其処に浮かぶのは明らかにアラサーを過ぎた中年男の哀愁感が溢れる表情であったという。

 

 

.




 次はいつになるやら……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話:来客 クロノ・ハラオウンは御悩み中

 時間軸とか書いてないけど原作から三年くらいが過ぎています。





.

「それで、用件は? まさか忙しい艦船の艦長が休暇を利用して遊びに来た訳でもあるまいし? 用事が有って来たんだろ」

 

「まぁ、確かに気軽に遊びに来る仲では無いな。用件としては以前に君から聞いた未来についての話を少し詳しく知りたくてね」

 

 シニカルな笑みを浮かべて言うクロノ。

 

「未来? 一〇年後に起きる『JS事件』の事を言っているのか?」

 

「ああ。父さん達も関わったエルトリアからの来訪者、エグザミアや紫天ファミリー、そして来訪者に引っ張られる形で顕れた未来人達。その未来から来た連中、どうやら君との関わりが深いみたいだったし、君もあの子らについてな情報は持っていたみたいだからね」

 

 だからどうしても気になったというクロノに、ユートはお茶を飲んでから溜息を吐く。

 

「確かに僕は未来を識っていると言っても過言じゃないが、それは飽く迄も僕が全く関わらなかったα世界線での未来だ。僕が関わる現在のβ世界線の未来は確定されている訳じゃ無い」

 

「世界線?」

 

「時間とは一本のロープの如く伸びているという訳では無く、樹の枝葉の如く本筋から幾つにも枝分かれをする不確定性の高いモノ。仮に僕の識る未来をα世界線とするなら、僕が関わって変化が起きたであろう未来をβ世界線とするってね」

 

「成程……」

 

 一本のロープなら変えようが無い概念だけど、樹木の枝葉の如く枝分かれしているなら変化する事も有り得る、そういう前提で聞かないといけないのだとユートは指摘する。

 

「事実、ヴィヴィオ達は僕を識っていたけど……僕が関わって無い筈の世界なら当然ながら識っている筈も無い。あの子らが僕を識る以上は未来も僕が識るものと異なるんだろう。だから参考以上にはならないと思うぞ?」

 

「それで構わない」

 

 クロノは万事を承知したと頷いた。

 

「前にも言ったけどあの事件は時空管理局最高評議会により造られた、コードネーム『無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)』ジェイル・スカリエッティが引き起こした」

 

「広域次元犯罪者が管理局の選りにも選って最高評議会により造られた……か。時空管理局の局員としては決して信じたくは無いな」

 

 それを認めたら自分達の組織こそ犯罪結社だと言う様なものなのだから。

 

「勿論、大半の局員が真面目に次元世界の平和の為にと日夜動いているんだろう。というよりは、最高評議会も自分達を正義に邁進する徒なんだと確信して動いている」

 

「ハァ?」

 

「否、自分達こそが正義の体言者だと謂わんばかりなんじゃないかな?」

 

「犯罪に手を染めているという自覚すら無しに、自分達を正義の味方だと称しているというのか」

 

 アニメでもそんな遣り取りは確かに在ったし、ユートからしたら――否、大半の人間からしたなら巫山戯ているとしか思えない。

 

「まぁ、大半の管理局を識る人間は言うだろう。『管理局はそんな組織じゃない!』とね」

 

「言いたくもなるさ」

 

 ユートも別に時空管理局を全否定しているという訳では無く、確実に悪党がのさばっているといった認識を持っているという事。

 

 例えばティアナ・ランスターの兄のティーダ・ランスターの葬式時、遺族たるティアナの居る前で平然と罵倒をした上司が居た様に。

 

 しかも可成り酷い言い種だったとか。

 

 例えば時空管理局を実質的に支配下へと置いている最高評議会、真意はどうあれ彼らのやらかした事は明らかに管理局法を逸脱した犯罪だ。

 

 しかもジェイル・スカリエッティを云ってみればスケープゴートにしている。

 

 正確にはアレの頭脳を以て目的を達成しようとしている……だが。

 

 他にもキャロ・ル・ルシエに対して可成り辛辣な(あげつら)い方をした管理局の研究員、フェイトが怒りから自ら引き取る事を強行した程度には酷い。

 

「少なくとも、君や嘗てのリンディ・ハラオウン提督が不祥事などしていないのは識っているし、彼女の親友のレティ・ロウラン提督も間違い無く汚職はしていない」

 

「レティ提督の事も識ってるのか」

 

「其処まで詳しくは識らんよ。飽く迄もアニメや漫画などの媒体で出演した分くらいだ」

 

「それがまた判らないものだな。僕らのやってきた事がアニメーションに成ってるなんて」

 

「何なら観るか?」

 

「っ!?」

 

 思わずといった具合に息を呑んだクロノだったけど忙しなく視線を動かし、然しながらすぐにもユートに視線を戻すと首を横に振った。

 

「取り敢えず今は止めておこう」

 

「理由は?」

 

「恥ずかしいじゃないか」

 

 そりゃ、役者なら兎も角として一般の人間なら映像化された自分を客観的に観るのは、何処かしら気恥ずかしさを感じるのも無理は無い。

 

「いずれ、歳を取って振り返ってみたくなったら試しに違う自分を観てみたくなるかも知れない。その時には頼むかもな」

 

 プイッと明後日の方向へ顔を背けながら顔に朱を差して言うクロノ、誰得なツンデレっぽさを魅せてくるのはどうなんだろうか?

 

「そうか、ならそうしよう」

 

 ユートも頷いておく。

 

「さて、本来の世界線の未来……か。それならばこれは外せないな」

 

「外せない情報?」

 

「『(ふる)き結晶と、無限の欲望が交わる地。死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。使者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の法の船は砕け墜ちる』」

 

「それは……?」

 

「騎士カリム――カリム・グラシアの保有しているレアスキル『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』にて、少しずつだけど付け足されていく形で出た預言だよ」

 

「確か古代ベルカ語の詩文形式で最短で数ヶ月、最長では数年先の未来を記すとされてるな」

 

「まぁね。その真髄は世界の情報を精査した上で起きるであろう未来の不完全な予測。発動するにはミッドチルダの二つの月が上手く合わさった時である必要性から一年に一度、しかも古代ベルカの言語は地域によって同じ言葉が別の意味合いを持つ事もあり、更に世界に起きる事件をランダムに書き記すだけだからな。彼のレアスキルの正確性というか確度は割とよく当たる占い程度」

 

「つまり、今のは『JS事件』と君が呼ぶ事件の数年前から出ていた預言という事か?」

 

 ユートはクロノの問いに頷く。

 

「とはいえ、詳しく知った処でこの世界線で起きるとは限らない。Dr.ジェイル・スカリエッティは確かに存在するみたいだし、彼が生み出したであろう人造魔導師や戦闘機人も存在してはいるが、前提条件を破綻させる謂わば破壊者が此処に居るんだからな」

 

「それが君か」

 

「イグザクトリー。だからこそ地上本部のお偉いさんに繋ぎを作ったんだ」

 

 事実上、ジェイル・スカリエッティや最高評議会と繋がる筈の男――レジアス・ゲイズ。

 

 処がぎっちょんというか、ユートはレジアス・ゲイズに渡りを付けてライオットギアと呼称をされる魔導具、見た目には仮面ライダーファイズの量産型みたいなライオトルーパーの色違いとなるバリアジャケットだか騎士甲冑、パワーアシストが付いているから単純な身体能力が引き上げられて人類枠から外れ過ぎない程度にパワーアップ、それをある程度ながら譲渡して更に売買契約も結ぶ事で人手不足を補える様にした。

 

 人手自体もユートの聖域から補充をする一種の傭兵契約もしており、レジアス・ゲイズは違法な手段に出なくても良くなっている。

 

 故に今は最高評議会ともジェイル・スカリエッティとも手は切れていた……が、とは言ってみても管理局員であるからには最高評議会と完璧に切れるのは勿論ながら不可能だけど。

 

 だからといって最早、最高評議会から指令を受けるという事も有り得ないだろう。

 

 問題はジェイル・スカリエッティ側で役に立たないレジアス・ゲイズを暗殺するべく、その役割に特化したIS『ライアーズマスク』の使い手たる戦闘機人の二番ドゥーエが動きかねない事。

 

 一応、本当に一応だけどレジアス・ゲイズとしても暗殺されるのは面白くない為、仕事中の腰には専用のライオットギアが装着されている。

 

 指揮官用にと、部の両側には指令用のパーツが追加されていた。

 

 感じとしては【機動戦士Vガンダム】に登場をする『Vガンダムヘキサ』、あれを主人公が乗る『Vガンダム』と比較すればきっと解り易い。

 

 家には家でユートが護衛を()()()いるからか、特に彼への過干渉は見受けられなかった。

 

 ユートが嘗て生きた世界――勿論だけど其処は太陽系な第三惑星地球に間違い無いのだけれど、この世界の地球では無い別の地球……平行異世界と呼ばれる場所の事、通常の平行世界とは飽く迄もその世界の理と枠組みで鏡合わせとなっている世界をいみするが、平行異世界とは理すら違っている正しく異世界と呼べるモノ。

 

 解り易く云えば【機動戦士ガンダム】の世界と【重甲ビーファイター】の世界、もっと云うなら【カンピオーネ!】の世界と【ハイスクールD×D】の世界とかを想像してみれば良い。

 

 【カンピオーネ!】に存在する闇の女神であるアテナと、【ハイスクールD×D】に存在するとされるオリンポス一二神のアテナは当然別な存在。

 

 根源的には同じでも生まれ方から在り方まで、全てが異なる女神アテナという存在だ。

 

 ユートが嘗て住んだ平行異世界の地球なんて云ってみても、それはユートにとってみれば幾百と在る筈の住んだ経験がある平行異世界の一つに過ぎないという事。

 

 転生者という枠組みとしての通常転生は二度だけしかしていなかったけど、疑似転生や世界転移という手段を用いて様々な世界へと赴いた。

 

 其処は【メガテン】シリーズが連なるとされたマルチバース、例えば【女神転生】と【女神転生Ⅱ】は同じ世界の過去と未来。

 

 然しながら【真・女神転生】とこの二つに繋がりは全く存在しない。

 

 【真・女神転生】と【真・女神転生Ⅱ】は矢張り同じ世界の過去と未来だが、【真・女神転生Ⅲ】や【真・女神転生Ⅳ】や【真・女神転生Ⅴ】では各々で繋がりは無かった。

 

 スティーブンは同一存在らしいが……

 

 同じ【真・女神転生】のタイトルを冠してはいても、世界観の繋がり自体は無いけどマルチバースとしては同一世界として存在する。

 

 それは例えるならばウルトラマンの世界みたいな感じで、昭和から平成に掛けて連綿と続いてきたMー78星雲を主とするウルトラマンの世界とは別に、ウルトラマンギンガが守った地球やウルトラマンXが守った地球やウルトラマンオーブが守った地球やウルトラマンジードが守った地球など別の世界の地球が存在する宇宙、時空の壁と次元の海に隔てられた平行世界としてマルチバースといった概念が在るみたいな。

 

 尚、ウルトラマンジードはMー78星雲が存在する宇宙出身のウルトラマンベリアルの息子だが、守った地球は初代ウルトラマン~ウルトラマンメビウスが守った地球とは別の地球である。

 

 それは兎も角、ユートが行った【メガテン】が連なるマルチバースの中でもちょっと特殊な立ち位置な世界で、【真・女神転生-東京黙示録-】と【真・女神転生if】ときて【女神異聞録ペルソナ】へと繋がる世界観だった。

 

 【真・女神転生-東京黙示録-】は後のゲームに【偽典女神転生-東京黙示録-】が出て、世界観的には【真・女神転生】で主人公達が東京大破壊から金剛神界へ跳んだ三〇年間の噺で、その前日譚となる【真・女神転生-東京黙示録-】は東京大破壊が起きていない【ペルソナ】とは繋がらない。

 

 世界は同じでも明確に平行世界として分かたれた世界観だったが、大破壊を起こす元凶は判っているのだからユートが排除してしまった。

 

 つまりゴトウとトールマンを。

 

 それはそれとして、【真・女神転生-東京黙示録-】のヒロイン枠となるキョウコという少女が、この世界ではガイア教が潰れて祖父も死亡してしまった上、本人も記憶喪失となって契約をしていた妖精の女王マブとの契約が更新されなかった事から、ユートがキョウコを保護した後にマブとの契約の上書きをしてしまっている。

 

 妖精の女王のマブを通じてユートはピクシーを何体か契約し育てていたが、その内の一体を護りとしてレジアス・ゲイズに憑けていた。

 

 通常のピクシーはユニゾンデバイスと変わらない体長でしかなく、魔力も決して強い訳では無い存在だが幸いにも()()()であるから方法は有り、その方法で膨大なる魔力を持たせて魔法を覚えさせれば充分過ぎる戦力と成る。

 

 仮にドゥーエがレジアス・ゲイズの暗殺に動いたとしても、ユートが張り憑けたピクシーにより撃退をされてしまうであろう。

 

 何しろレベル自体が高くなっている上で加護と祝福を与えられ、更にインストール・カードによりユートが扱える魔界魔法も修得している。

 

 因みに、魔界魔法とはメガテン系で扱われているアギやブフやディアなどのメガテンで主に悪魔と呼ばれる存在が使う魔法を指す。

 

 そしてユートが派遣をしたピクシーには初めから修得していたディアとジオに因んで、ジオンガとジオダインとマハジオとマハジオンガとディアラマを修得させている。

 

 つまり戦闘機人が何の対策もしないで闘ったら普通に木っ端微塵になるのだ。

 

 尚、メタを張られてジオ系が効かない可能性も鑑みてフレイダインも修得させていた。

 

 実験をしていて判ったけど、実は魔界魔法だとAMFは効果を顕さなかったりする。

 

 理由は実に簡単で、リリカル系の魔法は使う前に魔法陣を形成しつつ魔力を集めて発動に至るのだけど、魔界魔法は体内で魔法を既に形成してから放っているという相違点、そして似た方法を用いてリリカル系の魔法でも多少は重たくなるにせよ使用可能、AMFとは魔法に変換される前の魔力の形成を阻害する魔法であり、完成された魔法に干渉をする程の力は持ち合わせていない。

 

 故にこそ戦闘機人が虎の子のAMFを出してきてもピクシーは問題無く魔法を使える。

 

 

 閑話休題

 

 

「さて、最早起きない事件に考えを及ばせるより次に起きる筈の事件を考えようか」

 

「……というと?」

 

「少なくとも『JS事件』はその侭な形で起きないだろうが、それでも似たり寄ったりな事件として何かが起きる筈だからな」

 

「それは何故だ?」

 

「前にも教えたとは思うが、僕以外にもこの世界には転生者が入り込んでいる」

 

「聞いたな」

 

 ニャル子の姿をした這い寄る混沌――ニャルラトホテプ或いはナイアルラトホテップ、作品により呼ばれ方が変わる事も屡々あるけどそんな神が送り込んで来たのだ。

 

 その人数は不明だが、黄金聖衣を欲しがる筈の人間を事故に見せ掛けたりなどで死亡させた上、転生特典に黄金聖衣を与えている。

 

 今までにも相生呂守と相生璃亜という射手座と獅子座の黄金聖衣を与えられた兄妹、御手洗史珈という名前の魚座の黄金聖衣を特典に与えられた少女……というか両性具有体、そんな三人とは既に出逢っていた。

 

 現状では三人だったけど、黄金聖闘士とは全部で黄道一二星座の数だけ存在しているものだし、つまり最大限に居たなら残りは蛇遣座も含めると一〇人が居る計算となる。

 

 ユートは双子座の黄金聖衣を持つ黄金聖闘士ではあるが、転生者の中に別口で双子座の黄金聖衣を持つ人間が居てもおかしくは無い。

 

 尚、ユートが転生者を黄金聖闘士とは呼ばないのは彼らが修業して聖衣を得た訳では無いから、ユート自身はハルケギニア時代の子供の頃に肉体的には聖闘士星矢系の修業をしたし、聖域に於いて牡牛座のアルデバランと勝負した際に小宇宙に目覚めていた上、その前に【機神咆哮デモンベイン】の世界で末那識――第七感セブンセンシズにも覚醒していたから黄金聖闘士を名乗っている。

 

 冥王ハーデスとの大決戦に向けて阿頼耶識にも覚醒したし、何なら数秒間でしかなかったけれど第九識の阿摩羅識という神や仏にまで通ずる感覚だったり、第十識たる乾栗蛇耶識にも刹那の刻だが到達をしていた。

 

 そういう意味で云えばユートは既に到達者すら越えた超越者、レジアス・ゲイズがどうのこうのといった葛藤など余録に過ぎない。

 

「転生者には幾つかの方針がある。一つは原典への介入を一切しない」

 

「一切?」

 

「そうだ。例えば【魔法少女リリカルなのは】であるなら、なのはやフェイトやはやてとかいった主要人物とは会わないし、何なら海鳴市にも絶対に行かないと徹底的に関わらない方針」

 

「確かに其処まで徹底すれば関わらないのかも知れないな……」

 

「次にガッツリと関わる方針」

 

「それも確かにって処だろうな」

 

 大まかに二種類、関わるか関わらないかという実にシンプルな話であったと云う。

 

「関わる場合は生まれた場所も重要だ」

 

「と言うと?」

 

「地球生まれなら海鳴市でなのはやはやてと関わっていけば良い。然しミッドチルダだったり他の次元世界ならアプローチも変わる。それこそ時すら変わってくるな。ティアナ・ランスターやスバル・ナカジマなら兎も角、今から七年後に一〇歳な年少組に合わせるなら原典開始の三年前からではまだ生まれてさえいないからな」

 

「ああ……そりゃそうだ」

 

 三年前の『PT事件』や『闇の書事件』となる筈であった時期、あの頃にキャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアルは生まれている……のだがエリオはオリジナルの方だったりする。

 

 プロジェクトFの残滓とか蔑称で呼ばれているフェイト誕生の設計の書、アレを使って造られた存在こそが人造魔導師のエリオ・モンディアルであり、死んだエリオ・モンディアルと同じだけの年齢まで培養して生み出されていた。

 

 そしてオリジナルのエリオ・モンディアルは死なせない、故に人造魔導師としての原典キャラクターなエリオ・モンディアルは生まれてこないだろうし、だからといってオリジナルが機動六課入りが叶う程の魔導師には成れまい。

 

「僕の計画としては少なくとも原典に登場をする女性陣、彼女達が七年後の『JS事件』の代わりとなる某かに関わらない様にする。ミッドチルダに居るであろう転生者達が関われない様にな」

 

「女性陣?」

 

「言っておくが本来ならクロノの母親なリンディ・ハラオウンも対象だぞ」

 

「……は? 今でも三十路過ぎてるのに七年後なら四十路越えだぞ?」

 

「美人で未亡人ってのがツボな奴だって居るかも知れん。下手したらクロノの嫁さんにもコナを掛けるかもな」

 

「エ、エイミィに!?」

 

 正確には一六歳の時に婚約をしただけで嫁さんというのは違うが、元より内縁の妻の如く扱われていたからそれが確定的になったに過ぎない。

 

 とはいえ、流石に貞操関連は未だだから二人は童貞と処女の侭に軽いキスですら割と最近になってヤったらしいと聞く。

 

 それまではデートをしても手を繋ぐくらいで、エイミィから腕を組まないといけなかったとか。

 

 それでもキスはクロノからだった。

 

 それは兎も角、中には変態チックな人間も居るだろうからエイミィがクロノの子を孕んだタイミングで、少なくとも尋常ならざる手段にてヤリに来ても決しておかしくは無いであろう。

 

 所謂、ボテ腹が大好きな変態野郎。

 

 だったら自分の女を孕ませろと言いたくなるものだけど、大抵はその手段が胸糞悪くなるくらいのレ○プでヤりたい腐れ野郎であり、そういった手段はそれこそ幾つも在る筈だ。

 

「少なくとも、相生兄妹は関わりたい派。それで史珈は関わりたく無い派になる」

 

 相生呂守と相生璃亜が離れた土地から海鳴市にまでやって来た理由、それは即ち原典の物語へと関わり合いたかったからに他なら無い。

 

 対して御手洗史珈は逆に関わらない方針だったからこそ、海鳴市の名前を地図上で見つけ出したにも拘わらず動いてはいなかった。

 

 仕事として退魔巫女の見習いみたいな事をしており、()() ()()と天神うづきが継いでいる天乃杜神社にて働いている。

 

 後で聞いた話によると木島 卓は天神家に婿入りした形らしくて、戸籍上では天神に姓が変わっていたから木島 歩と木島皐月の姉妹の戸籍上の姓名は天神 歩と天神皐月だったが、普段の名乗り的には木島姓の方を使っているのだとか。

 

「そしてミッドチルダに転生したと思われる連中はガッツリと関わりたい派、問題なのは連中が誰をターゲットにしているのか? 鉄板だとしたら高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての三人だろう。連中が手を組んでいるってんならターゲットは分散してると思うけどな」

 

 流石に同じターゲットではあるまい。

 

「しかも地球で見付けたのが三人だった以上は、残りが最大限で一〇人も居る訳だよ」

 

「そうなるな……」

 

 まぁ、ターゲット候補は一〇人を越えているから獲物には困らないだろうが……

 

 数の子だけで一二人、黄金聖衣持ちが一二人だったら一人ずつ分け分けが出来てしまう上に趣味嗜好的に様々に居る……知的や姉属性や妹属性や双子や性別謎っ子やダンマリやロリや年増や元気娘や嗜虐女王など。

 

 因みに、相生呂守に数の子の中では誰が好みかを訊ねたならば……

 

『セッテ』

 

 ……と、小さく答えた。

 

 何でも余りに機械的なセッテを自分好みに染め上げてみたい……だそうな。

 

 これには相生璃亜も引いた。

 

 尚、関係は無いけどオットーも一応は女の子であるらしい。

 

「……未来では矢張り大変な事態が起きる上に、解決する人間が軒並みミッドチルダに居ないか。ユートに訊きたい事がある」

 

「何だ?」

 

「僕は強くなりたい、君程にとは言わないまでもなのはやフェイトやはやて達と肩を並べられる、その程度には……強くなる手段は在るか?」

 

「……無くはないな」

 

 ちょっとばかり言葉に詰まりながらもユートは肯定をするのであった。

 

 

.




 尚、ゼスト隊はレジアスと無関係にナンバーズにより壊滅しています。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

StrikerS篇
第1話:覇王 求めるモノは真なる王〈前編〉


 StS篇の方の1話となります。





.

「何が起きておるっ!?」

 

「わ、判りません!」

 

「然しながら行き成り顕れたと思しき碧銀の髪の毛、右目が紫で左目が青の虹彩異色の“男”が原因かと思われます!」

 

 第一世界ミッドチルダの首都クラナガン。

 

 今正に危機的状況となっており、時空管理局の地上本部ではレジアス・ゲイズを筆頭にてんやわんやで、その全てが対応に追われて慌てふためいていた。

 

 原因となっているのは、女性オペレーターが答えた様な容姿の男。

 

 碧銀――碧掛かった銀髪を短めにした、紫と青による虹彩異色の騎士だった。

 

 そう、騎士だ。

 

 彼が魔法らしきを使うと彼の髪の色に近い魔力光を湛えた魔法陣が顕れるが、その形状は三角形を基点とした謂わばベルカ式。

 

 それも最近になって使い手が増えた近代ベルカ式とは異なる、今は殆んどが喪われてしまった魔法体系の真正古代(エンシェント)なベルカ式である。

 

 “殆んど”というのが実はミソで、ある程度ながら生き残っているのだ。

 

 例えば、元【闇の書】の守護騎士やその主のはやてが受け継ぐモノ。

 

 或いは海底に眠りながらユートに拉致られており、覚醒に向けての調整が施されている真っ最中な少女、ガレア王国の冥府の炎王と呼ばれたイクスヴェリア。

 

 紫天ファミリー。

 

 本当に僅かながら生存が成されており、その知識を以て近代ベルカ式が再構築されてもいた。

 

 尚、ユートの魔法も実は真正古代ベルカ式。

 

 元々がハルケギニアにて使ったリリカル系魔法で、ベルカ式に適性があるのは判っていた事。

 

 因みに、同じく地球人の血を引いたシエスタが試したらミッド式だった。

 

 ベルカ式な上に戦乱時代のベルカに跳ばされるし、それで真正古代ベルカ式をユートが得ていない訳がなかったという。

 

「虹彩異色……古代ベルカの王族には居たな。聖王と覇王が有名だが」

 

 聖王家だと紅と翠の虹彩異色を持つ。

 

 ガレアの冥王や雷帝ダールグリュンなどは違うし、実在したかは定かではない真王も虹彩異色ではなかったらしいが……

 

「まさか、覇王だとでも云うのか?」

 

 覇王家は既に王族とかではなく、普通に市井に交じっての生活をしている。

 

 今更、いったい何だと云うのかが解らない。

 

「報告では魔法が全く効果を成さないと!」

 

「魔法が……だと?」

 

 そういえば何処かの管理外世界で、魔法が効かない人間が居ると報告書が提出されていた。

 

 少しだけ前の話だ。

 

 L級第八番艦アースラ、艦長のリンディ・ハラオウンが報告した内容。

 

 まあ尤も、リンディ・ハラオウンはその後に何故か自主退職をしているが……

 

 魔法が効かない人間が、管理外世界に存在する。

 

 第九七管理外世界。

 

 魔法至上主義な時空管理局や管理世界、主要世界といった管理局由来の世界からすれば脅威以外の何物でもないだろう。

 

 事実として魔法が封じられたら、管理局の魔導師はもう何も出来なくなる。

 

 だからこそレジアス・ゲイズは魔法に頼らぬ防護策が必要、彼がユートからの提案を受けたのもライオット・トルーパーの機能に惹かれたからである。

 

 ある意味で先進的な機能を持つライオットギア。

 

 前にユートがレジアスに見せたあれに、少し改良を加えたモノである。

 

 元々がライオトルーパーの物と変わらなかったが、ファイズやカイザなどと同じくドライバーとフォン、二基に分かれて使うタイプとなっていた。

 

 機能も僅かに上がって、前を二〇としたら今現在は二五くらい。

 

 尚、ファイズはノーマルで五〇くらいだと思ったら正解である。

 

 但し、それは同じ“人間”が変身した場合の戦力。

 

 ユートがファイズに変身をしたら、五〇の戦力処か五〇〇や一〇〇〇になる。

 

 概算に過ぎないが……

 

「クッ! 何とかせねばなるまいが……」

 

 碧銀の髪の毛を持つ男、真正古代ベルカ式の者。

 

 余りにも強い。

 

 しかも魔法が効かないとなれば、管理局の魔導師は翼をもがれた鳥も同然。

 

 エラを持たない魚。

 

 電池を抜かれたミニ四駆と云っても過言ではない。

 

 実際にあの碧銀の髪の毛の男を相手に、管理局本局の魔導師でさえ全く敵にはなっていなかった。

 

 中にはA処かAAAという魔導師ランクも居る中、魔法弾を撃っても防御すらせず弾き、砲撃を撃ってもやはり防御せず弾く。

 

 ダメダメだ。

 

 あっという間に接近を許してしまい、近接攻撃手段が無いに等しい局員達は、一撃を貰って昏倒をさせられてしまう。

 

「ゼスト隊を動かせ!」

 

「ハッ!」

 

 首都防衛隊に所属をするオーバーSランク騎士――ゼスト・グランガイツ。

 

 割と最近になって管理局へと持ち込まれた術式が、近代ベルカ式というミッドチルダ式を土台に復活させたのだと云う。

 

 これも【OGATA】から提供されたモノだ。

 

 この近代ベルカ式に巧くハマったのが、ゼスト隊の隊長たるゼスト・グランガイツであるし、女性の隊員たるクイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノ。

 

 また、近代ベルカ式用に調整をされたカートリッジシステム。

 

 これすら【OGATA】が提供をした代物。

 

 因みに原典よりも遥かに高効率で負担も少なくて、扱い易い物に仕上がっているのは云うまでもない。

 

 ゼスト・グランガイツも愛用の槍型デバイスに搭載をして、使い勝手の良さに舌を巻く程だとか。

 

 クイント・ナカジマも、愛用していたデバイスから新しく導入、【リボルバーナックル】という非人格型デバイスに切り替えた。

 

 まあ、前のデバイスとて非人格型だったけど。

 

 召喚術師でありサポート型のメガーヌ・アルピーノの場合、ブーストデバイスという事もあったからか、流石にカートリッジシステムは搭載していない。

 

 他の隊員もある程度なら戦えるが、この三人に至っては通常よりも近接戦闘が行い易かった。

 

 近代ベルカ式の騎士であるゼストは何を況んやで、クイント・ナカジマの場合は純ストライカーな気質の格闘家系統。

 

 メガーヌ・アルピーノはサポート型ではあるけど、召喚蟲を使って近接戦闘をさせる事が可能だ。

 

 特に人型蟲のガリュー、究極の一たる白天王。

 

 使役をする召喚蟲こそ、メガーヌの本領である。

 

「待て!」

 

「おや? 今度は変わった方が来たね」

 

 余裕の表れか碧銀の青年はにこやかな表情であり、難しい顔で接するゼストと対称的に見える。

 

 因みに、この場に居るのは三人だけだったり。

 

 理由は簡単。

 

 近代ベルカ式な三人が、近接戦闘に関わるスキルを持つから。

 

 他はミッド式なのだ。

 

 また、メガーヌ本人は別に直接戦闘はしない。

 

 隣にガリュー、丸っきりダークヒーローを体現した黒い人型甲蟲が立つ。

 

「君達が次の御相手かな? ならばベルカの王の一人として名乗ろう!」

 

 ベルカの騎士は名乗りが割とデフォらしい。

 

覇王流(カイザーアーツ)創始者……クラウス・G・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせて貰っている」

 

 それは奇しくも、本来の歴史で十年以上後に子孫たる少女が、クイントの細胞から造られた少女に名乗った時と似ていたと云う。

 

「覇王……流……? イングヴァルト? 真正古代ベルカの列強たる王の一人を名乗ると云うのか!?」

 

 ミッド式を下敷きとして再構築をされた紛い物――近代ベルカ式とは全く違う正に本物のベルカ式。

 

 それを扱う王の一人……騙りか子孫なのか?

 

 よもや本人という筈などあるまいと、ゼスト達による念話が繰り広げられる。

 

「ふふ、数百年が経過しているみたいだけど、随分と鈍った連中がやって来たから正直、ガッカリしていた処だったんだよ」

 

「むぅ……」

 

 即ち、本局の魔導師達はイングヴァルトに何ら痛痒を与えなかったという事。

 

「君らは歯応えが少しはありそうだよ」

 

「俺は時空管理局地上本部所属の首都防衛隊、ゼスト隊の隊長……ゼスト・グランガイツだ」

 

「ほう? 時空管理局とは先程の連中も名乗ったな。本局とか何とか」

 

「我々の任務は首都クラナガンの防衛が主だ」

 

 首都防衛隊なだけに。

 

 本局は主要世界や管理世界を護るのが仕事であり、一応は管轄外ながら任務は間違っていない。

 

 各都市を護る部隊とも違うのが首都防衛隊。

 

 というか、警邏隊が普通に存在してもいる。

 

「つまり時空管理局とやらが今現在、世界の安定を司る組織……なのかな?」

 

「……そうだ」

 

 まるで世情に疎いみたいな問い掛けに訝しむ。

 

「成程、……の言っ……りにな……るん……な」

 

 何やら呟いたみたいだがよく聴こえなかった。

 

「イングヴァルトと言ったな? お前の目的が何かは知らんが、きちんと話すなら我々管理局も聞く用意はある。何故、世界を騒がす真似をしている?」

 

 本来の未来では逆の立場で聞こうともしなかった男だが、やはり本来の歴史でヴィータが似た様な事を言っていたりする訳で、然し【闇の書事件】で彼女らが時空管理局を信じるなどは無かったり。

 

「おかしな事を聞くね? 僕は単に道を歩んでいるに過ぎないのに、君らが勝手に攻撃を仕掛けて来ているだけじゃないか?」

 

「――何?」

 

 とはいっても、歩く古代遺失物レベルな呪力を撒き散らす存在、警戒をされても仕方がないのだが……

 

「降り掛かる火の粉は誰だって払うものだろう?」

 

 だからといって攻撃をされたら反撃もする。

 

 彼はそう言っていた。

 

「だいたい、止まれと言うから止まって上げたのに、目的やらロストロギアやら訳の判らない事を訊いてくるんだ。目的は人に会う事だって言ったし、ロストロギアなんて持っていないと言っても攻撃をしてくる。僕にどうしろと?」

 

 ふてぶてしい態度だが、イングヴァルトの言う通りならば、局員が難癖を付けて攻撃をした事になる。

 

 周囲を見てみると野次馬と言うべきか、民衆の視線が物語っていた。

 

 イングヴァルトが正しいのだ……と。

 

 何しろ民衆は正義である筈の局員、自分達を非難して責める視線を向ける。

 

 口より雄弁な目だ。

 

「君らも僕と闘うのなら、それは受けよう。若し僕を殺せたら“我が力を獲られるやも”知れないぞ?」

 

「何だと!?」

 

 驚くゼスト。

 

 後ろのクイントやメガーヌも顔を見合わせる。

 

「僕こそ、嘗てシュトゥラにて覇を唱えし覇王イングヴァルト! まつろわぬ神たるイングヴァルト也!」

 

「まつろわぬ神?」

 

 その言葉も知っている。

 

 リンディ・ハラオウンが退職前に残した報告書に、【まつろわぬ神】といった単語と、【カンピオーネ】という単語が出てきた。

 

「君らの区分でいうなら、僕は【鋼】の英雄神ってのになるんだろうね」

 

「くっ!」

 

「キャッ!?」

 

「ううっ?」

 

 凄まじいまでの呪力が、先程などより激しく吹き荒れている。

 

「最後に教えろ!」

 

「何だい?」

 

「お前が捜すのは誰だ?」

 

「ああ、真王だよ」

 

「「「なっ!?」」」

 

 有り得ないとばかりに、三人は驚愕をした。

 

 真王もまた、覇王や聖王や雷帝などと同じくベルカに名だたる列強の王。

 

 つまりは数百年前の人物であり、とっくに亡くなっているのが彼らの認識。

 

「真王はベルカの王だ! 疾うに亡くなっている」

 

「そんな筈はない、彼から聞いていたんだ。真王……彼は新暦六六年から過去へと遡ったのだと」

 

「――は?」

 

「僕らの旧暦の時代にね」

 

「なっ、莫迦な!? 魔法を習う者ならば誰でも知っている! 魔法では時間の移動も死人の蘇生も叶わぬ願いだと!」

 

 本来の歴史では、魔導のアイテムで彼も蘇生をしていたけど。

 

「確かにね。だから僕も、ちょっとした保険を掛けて動いたんだし」

 

 それは子孫への記憶継承の事であるが、ゼスト達にはそれを察する情報などが一切無かった。

 

「さあ、始めよう」

 

「むぅっ!」

 

「っと、その前に……君らの名前も僕に教えてくれるかい? 御嬢さん方」

 

「御嬢さん? 若く見えるのは嬉しいのだけれどね、これでも私は人妻よ! 私はシューティングアーツ、クイント・ナカジマ!」

 

 バッと長い青髪を一撫でしながら名乗る。

 

「召喚師……メガーヌ・アルピーノ。此方は私の召喚蟲のガリュー」

 

 メガーヌも名乗った。

 

「へぇ、召喚師か。珍しいスキルを持っているね……ならば僕も喚ぼうか」

 

「……え?」

 

 やはりニコニコしつつ、召喚のテンプレートではなくベルカ式のモノを顕現、其処にはシュトゥラに生息をしていた雪原豹。

 

「征くよ、アスティオン」

 

『ガウッ!』

 

 呼び掛けに応える雪原豹――アスティオン。

 

「それは?」

 

「僕の神使たる神獣さ」

 

 嘗ての頃に、クラウスとオリヴィエが死産してしまった雪原豹の子供に付けようとした名前。

 

 そして、二人が好きだった小さな英雄物語の主人公の名前でもある。

 

 【まつろわぬ神】となったクラウスの神使となった雪原豹の神獣、アスティオンと名付けたのはあの頃に出来なかった情景の名残なのだろうか?

 

 

「改めて始めようか」

 

 結界を張って周辺住民に迷惑が掛からない様に準備をした【まつろわぬイングヴァルト】、それに苦々しく思いながらもゼストが槍を構え、クイントが構えて……メガーヌは強化魔法を二人やガリューに掛ける。

 

 ガリューはアスティオンに向かうべく構えた。

 

「覇王流イングヴァルト、推して参る!」

 

「オオオオッ!」

 

「ハァァッ!」

 

「ガリュー!」

 

 イングヴァルトに対してゼストがメインで攻撃を仕掛け、クイントはサポートを担当している。

 

 ガリューは単体でアスティオンへと攻撃。

 

 だが然し、オーバーSのゼストと陸戦AAなクイントの実力をよく知る局員達は映像を観て愕然となる。

 

「ゼスト……」

 

「そんな?」

 

 イングヴァルトに翻弄をされ、強烈な一撃を喰らわされて沈んだのだ。

 

『覇王! 断っ空っ拳!』

 

『ガハァァッ!』

 

 槍型アームドデバイスも折られ、肋骨も砕ける勢いな覇王断空拳が極った。

 

 サポートのクイントも、既に斃されている。

 

 更には……

 

『そんな――ガリュー処か白天王すら相手にならないと云うの!?』

 

 ガリューをアスティオンに斃されたメガーヌだが、巨体の白天王を召喚しての攻撃も往なされ、そして斃されてしまったのである。

 

 ゼストは地上本部に於ける最高のストライカー。

 

 オーバーSランクというのも伊達ではない。

 

 それが全く敵わないとなると、レジアスには最早打てる手が無かった。

 

「中将、連絡が……」

 

「こんな時に何だ!?」

 

 最近、エリート官僚枠で管理局入りした愛娘であるオーリス・ゲイズ三尉。

 

 魔導師でもあるが故に、最速で佐官になると目されている彼女は、既にトップに位置するレジアスの右腕的な立場。

 

 そんな彼女が何処からかの連絡を持ってきた。

 

「誰だ!?」

 

 連絡用デバイスを引ったくりながら叫ぶ。

 

〔お久し振りです〕

 

 映っていたのは長い黒髪を二本の三つ編みお下げにした眼鏡の娘、少しばかり前に【OGATA】からの使者の秘書として、レジアスと会っている人物だ。

 

「貴様は確か……ほむほむ……だったか?」

 

 愉快な渾名に娘が画面の向こう側でずっこける。

 

〔ほむらです! 私の名前は暁美ほ・む・らっ!〕

 

「お、応っ!」

 

 両腕を真横に伸ばして拳を握り、上下にバタバタと振りながら叫んだほむらの剣幕に、然しものレジアスも引き気味に頷いた。

 

〔コホン! どうも管理局は今回の事態に対応が成されていない御様子ですね〕

 

「む! まぁな……」

 

〔そこで我が社より戦力を出し、事態の収拾に努めたいと思います〕

 

「な、なにぃ!?」

 

〔時空管理局地上本部には御了承を頂きたいのです〕

 

「……ライオットを差し向けても無理なのか?」

 

〔あれは飽く迄も通常犯罪に対する部隊単位の装備、究極の一を相手にするには向きません〕

 

「そうか……」

 

 理解はしていた。

 

 一応は訊いてみたのが、やはり否定されただけ。

 

〔我々は地上本部から要請を受け、事の対処に臨むという形を取ります〕

 

「! 正気か? それでは貴様らに何の得が!」

 

〔代わりに【まつろわぬイングヴァルト】の依代を、我々が内々で確保する事の許可を頂きたいのです〕

 

「依代……だと?」

 

〔彼の【まつろわぬ神】はどうやら依代に憑依して、それにより顕現をしている事が調査の結果、判明しているのです。彼を斃したら当然ながら依代は残る事でしょうが、管理局に確保をされるのは具合が悪くて〕

 

 困った表情で言う。

 

「貴様らなら地上を護れると云うのだな?」

 

〔お任せを〕

 

「良かろう」

 

「中将? 宜しいので?」

 

「構わん! ゼスト隊が敗れた以上は最早、儂らには奴を斃す戦力が無いのだ。儂はミッド地上を護る為なら手段なぞ厭わん!」

 

 その結果が本来の世界線での彼是であった。

 

「解りました」

 

 オーリスもレジアスから覚悟の程を聞いて頷く。

 

「一つ訊きたい」

 

〔何なりと〕

 

「依代とは誰だ?」

 

〔覇王イングヴァルトを降ろすに足る器、それは彼の遺伝子を資質をそして――記憶すらも十全に受け継ぐ子孫……です〕

 

「そうか、了解した」

 

 通信が終わってすぐにも暁美ほむらは動く。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふむ、大した事も無かったな。先程からの連中よりはマシだったが……」

 

 再び歩を進めようとするイングヴァルト。

 

 だが、目の前には少女の姿が在って歩みを止めた。

 

「今度は誰かな?」

 

「久し振りですクラウス」

 

「君は……ホムホム!」

 

 ズコーッ!

 

「ほむらです!」

 

 どいつもこいつもと文句を言いたくなる。

 

「ああ、そうだったね」

 

「やはり、私の記憶も在るみたいですね」

 

「まあね」

 

「彼の予想通りですか……あの神の、這い寄る混沌の干渉!」

 

「いずれにせよ、乗っかったのは僕自身さ」

 

「クラウス……貴方の目的はやはり?」

 

「真王だよ、勿論ね」

 

「……いずれ彼はやって来ます。それまでは私が相手をしましょう」

 

「それも面白いね。黄昏の魔女……ホムラ!」

 

 紫の宝玉を手にほむらは軽く口付け。

 

 黒いカチューシャを頭に着けて、ちょっとした制服っぽい魔導衣を身に付け、左腕にはバックラーを兼任する魔法具。

 

 魔法少女モードである。

 

 そしてベルトを勢いよく巻き付け、カイザフォンにコードを入力していく。

 

 【9】【1】【3】……【ENTER】。

 

《STANDING BY》

 

「変身っ!」

 

 草加の角度でドライバーのバックルへ装填。

 

《COMPLETE!》

 

 Χをモチーフにした仮面を被り、紫色のアルティメットファインダーが輝く。

 

 全身を奔るフォトンブラッドは黄色、エネルギーの流動経路は高出力フォトンブラッドの安定供給を図る為に二本に分けてマウントされたダブルストリームを採用している。

 

「仮面ライダーカイザ!」

 

 右腰にカイザブレイガンを装備、左腰にカイザショットを装備、後ろにカイザポインターを装備している仮面ライダーカイザ。

 

 推参というやつだった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話:覇王 求めるモノは真なる王〈後編〉

.

「カイザブレイガン!」

 

 戦隊ヒーローや仮面ライダーを通して、決して珍しくもない銃と剣の一体型。

 

 近接も中距離も可能で、非常に便利な武器。

 

「懐かしいね……ホムラのカイザも」

 

 アスティオンに向かっているほむらを見つめつつ、頷いてカイザと自身の神獣の戦いの観戦モード。

 

 取り敢えずほむらとしては助かる。

 

 只でさえイングヴァルトは“ファイズに勝った”。

 

 確かに切札を越えた鬼札を出さなかったとはいえ、ファイズブラスターフォームを斃した覇王。

 

「彼はいずれ来ますよ……貴方の目論見の通りに」

 

「それは嬉しいね」

 

 黄昏の魔女ホムラによる仮面ライダーカイザでは、間違いなく覇王イングヴァルトに勝てはしない。

 

 魔法少女の能力も込みで敗ける程に強いから。

 

「然しアスティオンとは、クラウスもロマンチストな事をするっ!」

 

 ガンモードでトリガーを引いて、フォトンバレットを撃ち放つものの神獣には中々に効かないもの。

 

 カイザのフォトンブラッドは黄色、当然ながらそのエネルギーを弾丸にするからにはバレットも黄色。

 

 そして……

 

「ブレードモード!」

 

 刃はフォトンブラッドで生成したエネルギー刃で、やはりその色は黄である。

 

「はぁっ!」

 

 野生の獣としての俊敏、肉食獣としての剛力。

 

 雪原豹型神獣アスティオンは弾丸は簡単に躱すし、その毛皮は中々に硬いから刃が通らない。

 

 勿論、覇王国シュトゥラでは本来の雪原豹が戦に用いられていたとはいえど、こんな鋼かと見紛うくらい硬い筈はない。

 

 何処ぞのムティカパみたいな特性だが、水が苦手とかの弱点も無いだろう。

 

「これ程とは……」

 

 生きて産まれていたら、本当のアスティオンも梃子摺らされたのか?

 

 それは最早判らない。

 

《READY》

 

 左腰のSB-913 C カイザショットを右拳に着けて、カイザフォンのミッションメモリを装填する。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 【ENTER】キーを押すと電子音声と共に、フォトンブラッドのエネルギーが拳のカイザショットへと収束されていく。

 

「グランインパクト!」

 

 ファイズのグランインパクトより威力に勝る五.五トンの破壊力を秘めた拳、それがアスティオンの躰躯へと直撃した。

 

『グルッ!』

 

「っ!」

 

 多少の身動ぎはしたが、痛痒を与えたという程にはダメージを受けた印象など無く、カイザはすぐにバックステップしてアスティオンから離れた。

 

「やはり優斗さんに比べると私はスペック通りだし、神獣が相手でも簡単には往かないわよね」

 

 ユートの仮面ライダー、それは基本スペックは原典と掛け離れていないけど、担い手の能力が高いならばそれがシステムに反映される形になる。

 

 まあ、きっと原典も同じではあるのだろうが……

 

 五.五トンはほむらが放った場合であり、それ自体は他の人間が装着者であれ恐らく変わらない。

 

 例えばほむらのパンチ力が二〇キロだったとして、五.五トンに加えてみた処でキロに直せば五千五百二十キロとなる。

 

 謂わば誤差の範疇内だ。

 

 だけどユートの通常的なパンチ力が、仮面ライダー並かそれ以上ならば?

 

 当然ながら仮面ライダーになれば倍とかに。

 

 というより、ヘビー球のボクサーでさえ一トン未満という世界で、聖闘士にしてカンピオーネたるユートなら仮面ライダーを生身でも越えたパンチ力だろう。

 

 仮にユートがカイザへと変身した場合、ほむらより遥かに強いという話に。

 

 まあ、仮面ライダーとは基本スペックが飾りになったりするのだけど。

 

 実際、カタログスペックが明らかに劣るライダーに敗けるライダーとか普通に居るし、作品を越えて共演した場合は間違いなく無粋な設定群だろう。

 

 つまりは余り気にするなという事だった。

 

「それでも敗ける訳には! せめて優斗さんが来るまでは保たせないと!」

 

 ほむらは魔法少女として――生きた年数は既に数百年を越えるが――の能力、タイムストップやタイムクイック、タイムリバースを使って何とか戦う。

 

 インキュベーター製品の魔法少女は、願い事を叶えて貰った対価で成る。

 

 その特殊な能力は願い事に付随したものだ。

 

 例えば誰かの快復を願ったら治癒力が強くなる。

 

 ほむらの場合『もう一度まどかとの出逢いをやり直したい』であり、その結果として獲たのが【時間操作】の能力だった。

 

 鹿目まどかという得難い親友、だけど【ワルプルギスの夜】と呼ばれる魔女と戦って死亡。

 

 それがほむらが魔法少女に成る切っ掛け。

 

 まどかが死ぬ度に時間を逆行し続け、何とか救おうとしていたほむら。

 

 結果、原典では誰かに対して期待するのを止めて、兎に角まどかを救う事だけを考える様になる。

 

 この世界線では感情が摩り切れる前にユートが介入した為、三つ編み御下げな眼鏡っ娘なキャラクターで明るく少しドジ。

 

 運動能力は魔法少女としての力で矯正している。

 

 古代ベルカにユートと共に跳ばされた際、時間逆行を幾度も行っていただけあってか混乱はしなかった。

 

 【黄昏の魔女】と呼ばれ仮面ライダーカイザに変身して戦い、必要ならユートの性欲を解消する為に自らの肢体を投げ出す。

 

 勿論、初めての時は普通に愛されたのだが……

 

 魔法少女の時間操作能力はそれなりに有効だけど、元々の力が盾に備え付けられた砂時計を停める事による【時間停止】、一ヶ月分の遡行をする【時間逆行】だけだったが、ユートとの【閃姫契約】で能力が拡大されて発現した。

 

 【タイムリバース】。

 

 【タイムクイック】。

 

 【タイムストップ】。

 

 【タイムスロー】。

 

 名前からどんな能力かは丸判りだが、これらの力がほむらをアスティオンとの戦いを上手くやれる要因。

 

 魔法少女としてのほむらは最弱で、実は魔力が可成り弱い部類だった。

 

 リリカルな魔導師ならば精々がEランク。

 

 だから攻撃系の魔法など使えなかった為、ユートが彼女に与えたのがあからさまに武器として見える銃器や爆弾ではなく、携帯電話の形をしたデバイスだ。

 

 端からは決して武器には見えず、通信機器でしかないカイザフォンである。

 

 とはいっても、腰に装着するカイザドライバーにはカイザブレイガンが有り、だから変身するまでツールは基本的に、量子変換によりカイザドライバー内に納められていた。

 

 今は普通に出している。

 

《READY》

 

 ミッションメモリーを再び外し、またカイザブレイガンへと装填。

 

 更にカイザフォンを開いて【ENTER】キーを押す。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 ベルトからダブルストリームを通し、フォトンブラッドがカイザブレイガンへと充填される。

 

 ピピピ!

 

 軽快な音が鳴り響くと、ほむらはコッキングレバーを引いて引き金を引く。

 

 ガチッ! レバーが戻った瞬間に黄色いエネルギーが弾丸となって、敵であるアスティオンへと突き刺さり全身を拘束した。

 

「ふっ!」

 

 そもそも引き金を引くというアクションの関係上、カイザブレイガンは逆手に持つ事になる為、見た目にアバンストラッシュっぽくなるのが御愛嬌か。

 

 ググッと身体を捻って、カイザブレイガンを持った右腕を後ろに。

 

「カイザスラッシュ!」

 

 黄色いΧとしか言い様が無い光の奔流と共に疾駆、次の瞬間にはアスティオンの背後に居た。

 

 そしてアスティオンにはΧの文字が浮かび、崩れ去る光となって消滅する。

 

「大したものだね。まさかアスティオンを斃すとは。以前のカイザでは不可能な筈だったけど?」

 

「カイザのスペック自体は変わってないわ。でも私は数百年もの間に戦いを続けてきた。ユートさんに抱かれて閃姫となり、肉体的にもパワーアップしている」

 

「……そうだったね」

 

 フッと笑うクラウス。

 

「そして、時間稼ぎは成功をした訳だ……だろう? ユート」

 

「ああ」

 

 それが数百年振りに対峙する真王と覇王。

 

「まつろわぬ神になってまで舞い戻るか。理由は何だ……クラウス?」

 

「決着を」

 

「……単純な決着は着いているだろう?」

 

「そうだね」

 

「クラウス、お前が僕に勝って終わったんだからな」

 

 真王と覇王の戦いは確かに覇王が勝利した。

 

 ファイズブラスターフォームと戦い、僅かな天秤の揺れの差で【覇王断空拳】がファイズドライバーへと突き刺さり、変身の解除を余儀無くされてしまった。

 

「だけど君は新しいベルトを出そうとしていたよね。とはいえその前に我が国も君の国も色々とあったが」

 

「確かにそういう意味では決着といかないな」

 

 古代ベルカでは王が戦うのは寧ろ常識で常道。

 

 ガレア王国の冥府の炎王イクスヴェリアは、個人の武勇ではなくマリアージュなる傀儡で戦っていたが、それの方が稀有なもの。

 

 だがそれも“王の力”には変わりないだろう。

 

「僕との決着の為にか? 自らの魂をまつろわぬ神にするシステムまで構築し、こうして子孫を憑代にして顕現をしたのは」

 

「それもある」

 

「それも?」

 

「あの時の私は彼女にさえ勝てなかった」

 

「いや、そう言われてしまうとそんなクラウスに負けた僕はどうなるよ?」

 

「君の場合は少し違うさ、色々と枷が在ったんだろ。コスモとかも使えなかったみたいだし?」

 

「地球は存在していても、関わりの無い地球は異世界と変わらないとはねぇ」

 

 未来ではガッツリと関わるのだが、数百年前は全く関わっていない。

 

 だから小宇宙を扱うには制限が掛かっていた。

 

 故に仮面ライダーだ。

 

 未来の時間軸でライオトルーパーを基にしたベルト――ライオットトルーパーが採用されていた事。

 

 共に過去へ跳ばされていた二人の内、シュテルにはデルタを与えた事で未来に戻ったら、シュテルの仲間にはデルタを基に造られたという設定の【天】と【地】の帝王のベルトを与えようと考えた為、ユート自身は仮面ライダーファイズ、ほむらは仮面ライダーカイザと【仮面ライダー555】系統で纏めたのである。

 

 後の世に鳴り響く渾名、【暁天の魔王】と【黄昏の魔女】に【雷鳴の斬華】と【常闇の女帝】が増えてはいたが、ユートにはまた別に使うべきベルトが在る。

 

「さあ、使うと良い! 嘗て使おうとした力を!」

 

「……望むなら」

 

 ユートがアイテム・ストレージからドライバーを取り出すと……

 

《ZIKU DRIVER!》

 

 随分と凄い自己主張をしてきた。

 

 腰にセットアップ。

 

 手にするは時計であり、表面の盤を回してスイッチを押す。

 

《SHIN-O!》

 

 それをバックルの右側に装填すると、カチカチという待機音が響いてきた。

 

 ロックを解除。

 

「変身っ!」

 

 ポーズを決めてベルトのバックルを回転。

 

《RIDER TIME!》

 

《KAMENRIDER SHIN-O》

 

 それは色違いのジオウ、仮面ライダージオウと呼ぶ最後の平成仮面ライダー、それを基にしたのがユートの造ったシンオウ。

 

 仮面ライダーシンオウ。

 

「祝え! 全ライダーの力と王達の力を受け継ぎし、時空を超え、過去と未来を知ろしめす時の王者。その名も仮面ライダーシンオウ……正に生誕の瞬間である! ってね」

 

 それはジオウがウォズから受ける祝福の言葉だが、少しだけオリジナルと異なる部分が在った。

 

「成程、真王か。フフフ、佳い名だな」

 

 嬉しそうに笑うクラウスを見て、ユートは仮面で判らないが瞑目をする。

 

「さあ、始めようか」

 

「ああ、時間は有限だ」

 

 疾走してぶつかり合う互いの拳と拳。

 

 けたたましい爆音を響かせながら、互いにバックステップで後ろに跳ぶ。

 

「嗚呼、これだよ! これが私のしたかった事だ!」

 

 クラウス・G・S・イングヴァルトは嘗て、死地に赴く友を――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを力尽で止めようとしたが、敵わずに大地に平伏して見送る事しか出来なかった。

 

 オリヴィエがクラウスより遥かに強かった為に。

 

「それまでは愉しかった。僕が居てオリヴィエが居てクラウスが居て、リッド――ヴィルフリッドが居た。クロやほむらとシュテルが笑って眺めていた光景だ。あの頃がベルカ時代で一番の想い出だろうね」

 

「違いないな……」

 

 クラウスの哀しみを帯びた笑顔が痛々しい。

 

「それじゃあ、続きだ!」

 

「何かイケる気がする」

 

 オリヴィエとの敗北から鍛えた覇王流、ユートは自らが過去に習っていた舞闘を舞う。

 

 緒方逸真流格闘術。

 

 格闘術なら【篝火派】が正しく継承をしていたが、篝火白雪との関係は仲良くはあっても深くは無かったから習っていない。

 

 無意識な下心が有ったからか、【緒方逸真流狼摩派鉄扇術】は狼摩白夜から習っていたのだが……

 

 どちらも緒方の女の子、美少女なのは変わらなかったものの、ユートは白夜の方がどちらかと云えば好みに合っていたから。

 

 どちらかしか選べないのなら狼摩白夜であった。

 

 とはいえ、技だけならば使えない訳ではない。

 

「ふっ!」

 

「はぁっ!」

 

 互いの技と技、力と力、魔法と魔法がぶつかる。

 

 然しながらユートは変則な闘い方をしていた。

 

 クラウスが覇王流の技を放つと……

 

「メラミ!」

 

 魔法で迎撃をした。

 

 力尽くでくれば……

 

「緒方逸真流が格闘術……【天翔】!」

 

 技を放つ。

 

 ならば魔法を使うと……

 

「うりゃぁぁっ!」

 

 力で対抗をしてくる。

 

「これが君の云う、力には技を、技には魔法を、魔法には力を……か!」

 

 実にやり難い。

 

 勿論、覇王流の技に魔法への対抗手段が有ったり、飽く迄も相手の出方次第となるのだが、ユートはその経験値故に闘い方を弁えていたのだ。

 

「まつろわぬ神になっていなかった頃、人間時代でのクラウスの最終的な能力、それは決してオリヴィエに劣るものじゃなかった」

 

「君に言われると実に信じられるね」

 

「だからこそ試そう」

 

「――?」

 

 ユートが出したのは時計……ライドウォッチだ。

 

 それを回して頭頂部にあるスイッチを押す。

 

《SEI-O》

 

 ライドウォッチに金髪で緋と翠の虹彩異色な少女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの顔が浮かぶ。

 

 それをジクウドライバーの左側に装填し、変身時と同じ様にロックを解除してぐるりと一回転させた。

 

《KING TIME》

 

 顕れたのはオリヴィエを模したローブ。

 

 

《KAMEN RIDER SEI-O》

 

 それが分割されて装着。

 

《SEI-O!》

 

「祝え! 全ライダーの力と王達の力を受け継ぎし、時空を超え、過去と未来を知ろしめす時の王者。その名も仮面ライダーシンオウ……セイオウローブ!」

 

 シンオウの姿ながら聖王を思わせる。

 

 そんな姿に変身した。

 

「時空を越えて過去と未来を知らしめす……か。あながち間違いでは無いね」

 

 ユートはしょっちゅう、過去へ跳ばされている上に偶に未来にも跳ぶ。

 

 確かに間違いではない。

 

「さて、始めるよ」

 

「覇王と聖王の決戦か」

 

 ユートが使うのはコロナ・ティミルが使っていた技――ネフィリム・フィストの全身バージョン。

 

 オリヴィエは幼い頃より両腕を喪っており、基本的には義腕を使って行動をしていた。

 

 魔力で義腕を操作して、戦闘すら熟すオリヴィエ。

 

 その基礎を教えたのが、ヴィルフリッド・エレミアという少女、古代ベルカで当代の【黒のエレミア】。

 

「くっ、ある意味で屈辱的な闘い方だね、それは!」

 

 あの日、オリヴィエに負けたからこそ強くなれた。

 

 オリヴィエに敗北して、彼女を永遠に喪って力を得たのだから。

 

 皮肉に過ぎる。

 

 その皮肉の大元であろうオリヴィエの力。

 

 まつろわぬ神とはいえ、ユートも神殺しの魔王。

 

 仮面ライダーに変身している分、当然ながらパワーアップをしていた。

 

 だからスペック云々でならば決して劣らない。

 

 ならば後は互いの技と技の応酬――否、業と業というべきであろうか?

 

「はっ!」

 

「なんとっ!」

 

「ふっ!」

 

「然し!」

 

 繰り広げられるのはだが魔導師や騎士などでなく、寧ろDBの世界としか思えないラッシュの応酬。

 

 違うのは大地を確り咬み締める覇王流なだけにか、完全な地上戦に終始をしている処だろう。

 

「オオオオオッ!」

 

 ガキンッ!

 

「虹色の魔力光……それに【聖王の鎧】だと!?」

 

「強大な防御力は砲撃魔法すら防ぎ切るし、こいつを攻撃に回したなら……」

 

「ガッ!?」

 

「高い攻撃力に早変わり」

 

 アッパーを喰らって吹き飛ぶクラウス。

 

「ぐっ! そういう事か、オリヴィエの力を使えるなら即ち、【聖王の鎧】をも扱えると……?」

 

「それが原典に於いては、常磐ソウゴが変身していた仮面ライダージオウの力。僕が造ったのは色違いとなる仮面ライダーシンオウ。仮面ライダーだけでなく、古代ベルカの王や他の力も扱えるシステムだ」

 

「ふふ、セイントだとは聞いていたんだがな」

 

 起き上がり口元の血を拭いながら言う。

 

「こういうのも出来るぞ」

 

 ライドウォッチを回す。

 

《BUILD》

 

 スイッチを押すと鳴り響く電子音声、その表面には赤と青で左右非対称な顔が浮かび上がった。

 

 それをセイオウ・ライドウォッチの代わりに装填。

 

 ロックを解除して回転。

 

《RIDER TIME KAMEN RIDER SHIN-O!》

 

 何だか変なポージングをするビルドっぽいナニか、それにユート――シンオウが触ると……

 

《ARMOR TIME BEST MATC》

 

 バラバラになって装着されていく。

 

《BUILD!》

 

 それはやはり仮面ライダービルドっぽい姿。

 

 顔には【ビルド】と書かれており、両肩にフルボトルっぽいショルダー。

 

 手には【ドリルクラッシャークラッシャー】とか、オリジナルのジオウと殆んど変わらない。

 

「仮面ライダーシンオウ・ビルドアーマーだ。勝利の法則は決まった!」

 

 当たり前だが元よりこれはジオウのレプリカ。

 

 力は同じでも得たからといって、オリジナルが消えたりはしない。

 

 ドリルクラッシャークラッシャーを手に、回す回す回していくと色々な数式が視覚化して顕れた。

 

 勿論ながら『よくわからない式』とかではなくて、桐生戦兎が仮面ライダービルドとなった際の数式。

 

 ライドウォッチは両方のスイッチを押して回す。

 

《FINISH TIME BUILD》

 

「うっ!? これは拘束の魔法なのか?」

 

 放物線を描くグラフにより囚われたクラウス。

 

《VOLTECH TIME BREAK!》

「おりゃぁぁぁぁっ!」

 

「がはぁぁぁっ!?」

 

 ドリルクラッシャークラッシャーでの必殺の一撃。

 

「魅せてやる! あの日に使えなかった鬼札!」

 

 ジクウドライバーを外して変身解除、顕現をさせたファイズのドライバーに、更にファイズフォンを持ってコード入力。

 

 【5】【5】【5】……【ENTER】。

 

《STANDING BY》

 

「変身!」

 

《COMPLETE!》

 

 仮面ライダーファイズ。

 

 ファイズブラスターへとファイズフォンを装填。

 

《AWAKENING》

 

 ファイズブラスターの方に変身コードを入力する。

 

 【5】【5】【5】……【ENTER】。

 

《STANDING BY》

 

 あっという間でファイズブラスターフォームに。

 

「ファ、イズ……?」

 

《COMPLETE!》

 

 ファイズアクセルに装填されるミッションメモリ。

 

 フルメタルラングが開いて肩に当てられた。

 

 フォトンブラッドの流動が止まり、スーツを白銀のフォトンブラッド色に染めてしまう。

 

 仮面ライダーファイズ・アクセルブラスターフォームという、正に究極最大の仮面ライダーファイズ。

 

「終わらせる!」

 

《START UP》

 

 僅か一〇秒間の無双。

 

 刹那、無数のポインターに囲まれたクラウス。

 

「アクセルブラスター・クリムゾンスマッシュ!」

 

「うおおおおおっ!?」

 

 防ぐ事も叶わずまともに受けてしまった。

 

 カウンターが00を指し示すと……

 

《REFRMATION》

 

 フルメタルラングが閉じてしまい、ブラスターフォームへと戻っていく。

 

 トガァァァァンッ!

 

 φの紋様が浮かび上がっての大・爆・発!

 

 後には、ズタボロになったクラウスが残るのみだったと云う。

 

 

.




 因みに当初はジオウ放映前だったから、ディケイドっぽい仮面ライダーになってた筈でした。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話:覇王っ娘 憧憬の中のお兄ちゃん

 StSの第3話です。





.

 話は既に付いているから絶賛気絶中な幼女を抱え、ユートは変身を解除しつつ歩き出す。

 

 変身の解除にはファイズフォンを外し、ボタン一発のワンタッチである。

 

 仮面や鎧が粒子に還り、フォトンブラッドも消えて元の姿に、アインハルトをお姫様抱っこしていた。

 

 端から視ると幼女誘拐犯みたいで、ユートとしてはちょっと落ち着かない。

 

 一九〇センチでフツメン男が、小柄な幼女を抱いて歩いているのだから下手したら通報案件。

 

 身長くらいはいつも通り偽装しとけば良かったと、今更ながら思っても後の祭りでしかない。

 

 因みに、いつもは一七六くらい、成人男性としては無難な身長である。

 

 ユートはそもそも小学生くらいの年齢と言おうか、謂わば子供先生を兄とやっていた頃、中学生で小柄なタイプの本屋ちゃんと凡そ一センチ高いくらい。

 

 まあ、年齢は五歳差だけど身長的に釣り合っていたとも云える。

 

「待て!」

 

「管理局本局組……か」

 

「その娘を連れて行かせる訳にはいかん!」

 

「寧ろ貴様もだ!」

 

 時空管理局には幾つかの派閥が存在していた。

 

 とはいえ、ユートが勝手に決めた派閥だから連中にそんな気は無かろう。

 

 親最高評議会派。

 

 評議会寄りで何も知らされていない派。

 

 中立派。

 

 三提督派。

 

 こんな感じである。

 

「退け」

 

「我らは時空管理局だ!」

 

「この子に関しては、既に地上本部のレジアス中将に許可を得ている」

 

「我々は本局の者だ!」

 

「本局だろうが何だろうが同じ組織、ならばお前らより上の立場のレジアス中将が認めたからには、問題も無い筈だが?」

 

「黙れ! 地上の決定なぞ本局とは関係無い!」

 

 可成りの暴論。

 

 しかもこの物言いから、駄目な方の管理局員。

 

「くっ、くっくっくっ!」

 

「な、何がおかしい!?」

 

「【まつろわぬイングヴァルト】が居なくなって強気だが、見ていたなら判るだろうに……僕はあいつよりも強いぞ?」

 

「くっ! だが、訳の解らない化物とは違ってお前は今を生きる人間! 管理局に逆らって暮らしていけると思うなよ!」

 

 普通ならばそうだろう、時空管理局は第一世界ミッドチルダを下敷きとして、幾つもの主要世界や管理世界や保護世界などを“管理”する組織。

 

 その中で暮らすならば、当然だが管理局に逆らっては生き難いだろう。

 

 犯罪者とて余程のコネが無ければすぐ捕まる。

 

「ほむほむ」

 

「だから、ほむらです!」

 

「アインハルトを頼む」

 

「判りました」

 

 憮然としながらもユートからアインハルトを受け取ると、お姫様抱っこしながら後ろへと下がった。

 

「王の力を魅せてやるよ」

 

 黒いバックルのベルトが腰に巻き付く。

 

《ZIKU DRIVER!》

 

 相変わらず自己主張の激しいドライバーであるが、ユートが王として立つ際に本来なら使う予定であった物であり、【仮面ライダージオウ】という作品に何故か幾つも存在する物だ。

 

 正確には白いバックルが黒になっている。

 

《SHIN-O》

 

 取り出したのはシンオウ・ライドウォッチ、回してスイッチを押すと電子音声が鳴り響く。

 

 それをバックルの右側のD'9スロットへ装填をし、チックタックチックタックと待機音が響き始め……

 

「変身っ!」

 

 バックル上部に有るライドオンリューザーを押してロックを解除しつつ、叫びながらジクウサーキュラーを反回転させる。

 

《RIDER TIME》

 

 ボーン! というアラームが鳴って変身開始。

 

 ジクウドライバーに組み込まれた理論具現化装置、ジクウマトリックスによりライドウォッチのデータが実体化され、それを鎧として変換されたモノを装着。

 

《KAMEN RIDER SHIN-O!》

 

 変身完了する。

 

 姿形そのものはジオウの色違い、模倣は得意だけど独創性が高いとは云い難いから、狼摩白夜から聞いた仮面ライダージオウの色を変えただけにした。

 

 その名は【仮面ライダーシンオウ】である。

 

 別の自分が天魔王を討ち滅ぼし、その力を奪って成った存在――【天魔真王】に倣い自らを古代ベルカの時代に【真王】と名乗ったが故の名前。

 

 まぁ尤も、【真王】という名前自体は民からいつの間にか云われていた為に、名乗るのに支障が無かったのも大きい。

 

「さっきと違う姿だと?」

 

「お前は何者だ!」

 

 驚愕を禁じ得ない管理局の局員が口々に叫ぶ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ! とか、以前に名乗ったりもしたんだけどな」

 

 遥か昔、ハルケギニアの時代に行われた最終決戦、ニャル子を何とか封じる事に成功したが、次元の孔に落ちたユートが最初に出た先は“この世界の”地球。

 

 イチと名乗る美少女に拾われたユートは、その後に現れた敵――妖怪や鬼人の芳賀、鬼の血を飲まされてその力を得た木島 卓が抑えられ、天神かんな・うづき姉妹は妖怪に敗れ犯されてしまい、イチもピンチに陥った状況下で力を喪失していたユート。

 

 そんなユートも切っ掛けさえあれば使える力が一つだけ、自分の中に存在している事を自覚していた。

 

 それはニャル子に言われたし、ユーキにも最終決戦の際に指摘された事。

 

 それが故に発現が可能であった力。

 

 這い寄る混沌ナイアルラトホテップの力である。

 

 ユートの権能――【刻の支配者】はニャル子から得たモノだが、これはユートの中に初めから存在していた力であり、ナイアルラトホテップの力だから拒絶をしたい力でもあった。

 

 それをユートはナツ様、水杜神社の祭神がキスを通じて渡してくれた神氣を以て顕現、ナイアルラトホテップの力はユートの腰へと収束され、マゼンダカラーのバックルを持ったベルトへと変換されたのだ。

 

 左腰のカードホルダー兼武器を開き、中から一枚のカードを取り出しバックルを開くとカード装填。

 

『変身っ!』

 

 と叫びながらバックルを閉じた。

 

 既に解る通りで、その姿はマゼンダカラーが基調の通りすがりの仮面ライダー【ディケイド】だった。

 

 何故に? とはユートも思ったものの、ディケイドは識っている仮面ライダーだったから戦うのには何ら支障も無い。

 

 残念ながら他のライダーのライドカードは無くて、使えたのは【スラッシュ】と【イリュージョン】と【ブラスト】と【インビジブル】と【ファイナルアタックライド】くらいだけど、当面の戦闘に必要な戦闘力は充分に有していた。

 

 後に二千年の時空放浪を終え、義妹のユーキに話をしてみたら【這いよれ! ニャル子さん】という作品の最終巻、全ての這い寄る混沌をニャル子が喚び出した際に、シルエットながらも様々な這い寄る混沌が顕れたのだけど、その中にはナイアや仮面ライダーディケイドらしきシルエットも在ったらしい。

 

 つまり、ユートは識らなかったが何故かディケイドは這い寄る混沌にカテゴライズされていた。

 

 少なくともその作品の中に於てはだが……

 

 だからユートが一番使い易い姿と能力として顕現、実際にもその力を揮う事が出来たのだろう。

 

 まぁ、よく判らない姿になるよりはマシである。

 

 そんなユートだったが、今現在は仮面ライダーディケイドでは無く、仮面ライダージオウを模した存在、仮面ライダーシンオウだ。

 

 ならば言うべきは……

 

「祝え!」

 

 であったと云う。

 

 実際に言ったのはユートではなくほむら。

 

「古代ベルカより数多の王の力を受け継ぎ、時空を越え過去から現在を経て未来へと航る王の中の王者……その名も『仮面ライダーシンオウ』! 今こそ降臨の刻です!」

 

「え゛? ほむほむが所謂ウォズの役?」

 

「はい、だからビヨンドライバーを下さいね?」

 

 すると、同じ立場に居たシュテルはゲイツか?

 

 ならツクヨミの立場になるのは誰だろう?

 

 居ない気がする……が、古代ベルカならヴィルフリッド辺りが適任?

 

 熟々と考えるユート。

 

(いずれにせよ、ジオウは兎も角として他の仮面ライダーは確か、全員が通り名をライダー名にしてたな)

 

 【クォーツァー】とやらは違うが、ユートが白夜から聞いた通りなら……

 

 常盤ソウゴ――仮面ライダージオウ。

 

 明光院ゲイツ――仮面ライダーゲイツ。

 

 ツクヨミ――仮面ライダーツクヨミ。

 

 ウォズ――仮面ライダーウォズ。

 

 そうなっていた筈だ。

 

(ま、今は良いか)

 

 ユートはジカンギレードを構える。

 

《JYUU!》

 

「質量兵器か、やはり!」

 

 やはりとか言ってる辺りからして、“やはり”連中は仮面ライダーファイズを質量兵器の類いと考えて、ユートから奪おうとしていたらしい。

 

 GAN! GAN! GAN! GAN! GAN! GAN!

 

「ぐあっ!?」

 

「うわぁぁぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

「ぎゃぁぁっ!」

 

「がはっ!」

 

「あじゃぱぁぁぁっ!」

 

 六連発してやったら六人が吹き飛んだ。

 

「非殺傷設定だ。死にはしないさ」

 

「ひ、非殺傷設定だと?」

 

「つまりこいつは魔導兵器なんだよ、莫迦め!」

 

 元々、ユートは聖魔獣の仮面ライダーに非殺傷設定を入れていた。

 

 殺害という行為を忌避したのでは勿論無く、なのはの世界に来る可能性を考えていたのと、場合によっては便利に使えるからだ。

 

 非殺傷設定にした場合、自動的に魔力をエネルギーとして使えるし、AMFを相手には霊力なり念力なり氣力なり、好きに変える事も可能な造りにしている。

 

 時空管理局みたいな魔力一辺倒では、それが無力化された時には詰むのが原典でも示唆をされているし、他の作品でも力を阻害されるのはよくある事。

 

 代替エネルギーを確保するのは当然の流れだ。

 

 尚、仮面ライダーシンオウは聖魔獣ではない。

 

 白夜の知識から再現したレプリカである。

 

《KEN!》

 

 

 けんモードに変形させ、シンオウライドウォッチをベルトから外し、ジカンギレードの柄へと嵌め込む。

 

《FINISH TIME!》

 

《SHIN-O》

 

 電子音声がジカンギレードから発せられた。

 

《GIRIGIRI SLASH!》

 

 ジカンギレードに魔力のエネルギーが収束、ユートは一気に振り回して残りの管理局員へぶつけてやる。

 

『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』』』』

 

 哀れ、全管理局員は気絶させられてしまった。

 

「行くよ、ほむほむ」

 

「だからほむほむじゃありませんってば!」

 

 御約束な遣り取りをしながらも、ユートとほむらはその場を去っていく。

 

 最早、止める人間は居なかったのだから。

 

 尚、管理局本局がユートを指名手配しようとしたのだが、とあるミッドチルダ処か主要世界や管理世界の物流や経済を占める財団、【OGATA】が寄付を止めるという打診を受けて、慌てて三提督がユートへと謝罪をしに行き、指名手配を撤回したと云う。

 

 伝説の三提督は彼の財団が時空管理局成立は疎か、ミッドチルダ現政府が成立をするより前から存在し、そもそも時空管理局の運営に必要な費用の可成りを、この財団の寄付から捻出している為、下手な手出しを出来ないと知っていた。

 

 ユートが【OGATA】のトップなのも、当然ながら管理局成立以来から付き合いがあり、三提督は知っていたから慌てたのだ。

 

 若し、【OGATA】からの寄付を止められてしまった場合、時空管理局では局員の給料すら支払えなくなりかねない。

 

 勿論、屋台骨は確りしているのだけど、これだけの巨大な組織が何かを売るでもなく存続させるのには、国家運営にも手を出し税金で賄わねばならず、そして例えば日本という一国ですら消費税をどんどん上げていかないと賄えない国費、幾つもの世界を股に掛ける時空管理局の組織運営は、可成り大変なものとなる。

 

 故に時空管理局の運営に必要な費用の実に四割を賄う【OGATA】が寄付を止めたら、下手すると暴動が起きてしまうレベルでの資金不足に陥るだろう。

 

 【魔法少女リリカルなのは】に関わり始めた頃は、時空管理局など無視をする方向性であったが、過去へ――古代ベルカへ跳ばされたユートは真王として動く事になり、激化する戦争に民を連れてバックレるのを決め、無人世界を開拓して【真皇国】を建国して後、様々な地球寄りの無人世界を開拓していき、覇王国、竜王国、雷帝国、天王国といった他国の流民をも纏めて領国に住まわせる内に、時空管理局の設立に関わる方向性で動いた。

 

 冥王というかガレア国の炎王イクスヴェリアの民、それは既に亡びていたが故に存在すらしない。

 

 まぁ、何処かに子孫が残っていて今も領国に住んでいる可能性はあるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【OGATA】のミッドチルダ支部。

 

「じゃあ、頼んだよ」

 

〔了解しました。最大手のスポンサー様に手配など、致しませんよ〕

 

 見た目は好好爺然とした老婆だが、年齢に応じての老獪さも身に付けたら女性とモニター越しに話す。

 

「なら、またな。ミゼット・クローベル本局統幕議長殿?」

 

〔ええ、また〕

 

 役職名で言われて苦笑をするミゼット提督、通信をオフにして……『相変わらずな事』と笑っていた。

 

「さてと、アインハルトはまだ起きないか」

 

「ええ、まだですね」

 

 伊達眼鏡を掛けて見滝原中学校の制服を敢えて着ている暁美ほむら、髪型に関しては普通に三つ編みでWのお下げにしている。

 

 先程から気を失っているアインハルトの世話をし、その瞳は何処か優しいものを宿していた。

 

 【黄昏の魔女】と呼ばれていた頃から、クラウス・G・S・イングヴァルトはユートを通じた友人だし、やはり子孫であり記憶持ちで資質も受け継ぐ彼女に、ほむらも思う処があるのかも知れない。

 

 碧銀の髪に左目が青色で右目が紫色の身体的特徴、魔力光の波長や肉体的強さの潜在値、記憶だけでなく性別以外は殆んどを受け継いでいるのだ。

 

 【幽☆遊☆白書】に有る大隔世遺伝が近いだろう、アインハルトが覇王の確かな血筋の証でもある。

 

「【暁天の魔王】と【黄昏の魔女】が侍る【真王】、貴女の御先祖様は今の世になっても戦いに来たわよ。貴女はどうしたいのかしら……アインハルト」

 

 優しげな瞳で見下ろし、頭を撫でながら言う。

 

「優斗さんは何を造っているの?」

 

「ライドウォッチ」

 

「ライドウォッチ、それって誰のを? クラウス?」

 

「ほむほむライドウォッチを……ね」

 

「まさか、HOMUHOMUとか鳴るんですか?」

 

「ちゃんとした名前だよ。基本的には本人の通り名がライドウォッチの名前になるらしいし」

 

「どういう……?」

 

「最終回直前から最終回までにでた仮面ライダーツクヨミ、通り名はツクヨミだったけど本名はアルピナ。なのに仮面ライダーとしての名前はツクヨミらしい」

 

「成程……」

 

 確かに納得である。

 

「まぁ、ミライドウォッチになるんだけどな」

 

「ミライドウォッチ?」

 

「ああ、ビヨンドライバーを欲したのはほむほむなんだからな?」

 

「うっ! そうでしたね。ほむほむじゃないけど」

 

 仮面ライダーウォズが使うのは、ビヨンドライバーというジクウドライバーとは違ったドライバーだ。

 

 元々は未来の仮面ライダーである【シノビ】や【クイズ】や【キカイ】の力を使う為の平行世界に於ける変身ベルト。

 

 彼の【オーマの日】に、オーマジオウを斃したという救世主の【仮面ライダーゲイツリバイブ】、それにより分岐した平行世界から来た白ウォズ。

 

 そもそも彼が持っていたビヨンドライバーだけど、奸計にて黒ウォズが奪取をした訳である。

 

 仮面ライダーギンガの力で強化形態にも至った。

 

「うん? という事は……仮面ライダーホムラになっちゃうんじゃ?」

 

「そうなるな」

 

「ビヨンドライバーも造るのよね?」

 

「勿論だ。だけどライドウォッチを先に造らないと、急速に君の力を吸い上げては元の力が消えてしまう。持った状態で少しずつでもエネルギーとデータ構築、それで何かイケる気がするんだよね」

 

「はぁ……」

 

 取り敢えず、ユートならそこら辺の勘は鋭い訳で、ある意味では『考えるのを止めた』状態になるけど、それはユートを信じていると変換しておく。

 

「【ホムラミライドウォッチ】が完成したなら、常に携帯しエネルギーとデータを蓄積させよう。そう遠くない日に完成する筈だよ」

 

「ん、判ったわ」

 

 そう言いながら立ち上がったほむらは、ユートに近付いて唇を重ねた。

 

 何だかんだと真王国では王妃の一人を演じており、肌も重ねてきた仲であるから普通にヤっている。

 

 ガタッ!

 

「っ!?」

 

 突然の物音に吃驚して、振り返るほむらが見たのは真っ赤になり、ベッドから転げ落ちたアインハルト。

 

「あ、ご……ご免なさい! 目を瞑ってますから続きをどうぞ!」

 

 なんて言いながら両目を手で塞ぐが、指先から青と紫が普通に覗いていた。

 

 興味津々なのか?

 

「幼い癖におませだな? ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト姫殿下?」

 

「ひ、姫殿下って何です? 私はお姫様じゃあ……」

 

「クラウスの資質や記憶を受け継ぐからには、姫殿下でもおかしくないだろう」

 

「っ! どうしてそれを? 貴方は……え? そんな……貴方は……真王?」

 

「当たりだ」

 

「嘘、だって……貴方は、古代ベルカ時代に? 違う……クラウスの記憶にあります。貴方は元々は此方の時代の人だった」

 

「完全ではないのかな? それでも色々と“覚えている”もんなんだな」

 

 苦笑いしながら言う。

 

「今は何歳だ?」

 

「さ、三歳……です」

 

「マジに幼いな。こんな頃からクラウスの記憶の所為で此処まで人格形成されているのか」

 

 三歳の時に前世の記憶に覚醒したユートに云えた事ではないが、望んでそうなったユートとは違うのだ。

 

「自分がどうして此処に居るか判るか?」

 

「いえ。真王が私を誘拐……な訳は無いですね」

 

「当たり前だ」

 

「では、いったい?」

 

「アインハルト、君は記憶に目覚めた事で【まつろわぬ神】となった英雄神……イングヴァルトの依代にされていたんだ」

 

「神の依代? いえ、それよりイングヴァルトって……それはつまり?」

 

「クラウスだよ」

 

「クラウス? そんな!」

 

「クラウスは覇王となって生き続けたが、戦の中で死ぬ可能性を見据えていた。だから古代ベルカでは普通に使われてた、記憶や身体資質を子孫に受け継がせる技術を使い、更に保険として邪神と契約をした上で、自らが【まつろわぬ神】として子孫を依代に降臨する儀式までしていたらしい」

 

 アインハルトは固唾を呑んで耳を傾ける。

 

「そんな風に【まつろわぬイングヴァルト】となり、ミッドチルダで暴れていた君を斃し、保護をしたのが僕らって訳だよ」

 

「そうだったんですね……って、僕ら?」

 

「私です」

 

「【黄昏の魔女】!」

 

「一応は自分でも自覚して名乗りますが、出来たならほむらって呼んで下さい」

 

「あ、はい。それじゃ……ほむらさんと」

 

「ええ」

 

 それで構わないと微笑みを浮かべた。

 

「さて、これからどうするアインハルト?」

 

「……どうするですか?」

 

「家に帰るのか?」

 

「それは、私もまだ独立をするには早いですから……せめて学校の中等部に上がるまでは」

 

(成程、漫画の描写で親と暮らしている様には見えなかったが、中等部から一人暮らしをしていたんだな。だから中等部に上がった年にストリートファイトなんてしてたのか)

 

 一二歳では若しも両親が死んだなら孤児院行きだろうし、そうならなかったのは両親が健在で、単純に一人暮らしをしていたから。

 

 ストリートファイトを夜にやるなら、親と同居中では確かに難しいだろうし、アインハルトの両親に会ったら、やはりイングヴァルトの記憶を覚醒した娘には戸惑いを感じていた。

 

 中等部から一人暮らしをしていたのも、そんな空気を感じていたからなのかも知れない。

 

「両親の許可は取ってる。だから僕らと暮らすか? アインハルト」

 

「……え?」

 

 吃驚した表情、未来では可成り先まで無表情がデフォルトだったとは思えないくらい、感情がハッキリと出ている。

 

「君は強くなりたいんだろ?」

 

「……はい。『覇を以て和を成す王となる』……そんなクラウスの悲願を達成したいですから」

 

「真王の傍に居れば色々と便利だよ?」

 

「……御願いしますユート……兄様」

 

「うん? にい……さま……?」

 

「その……私はクラウスの記憶を持ちます、ですけどクラウスではありません。記憶の中の真王……貴方に憧憬を懐き、若しクラウスでなく私が貴方の傍らに居たらと想像をしていて、心の中ではその……『兄様』……と」

 

「そうか。まぁ、アインハルトがそう呼びたいのなら別に構わないよ」

 

「はい!」

 

 原典ではヴィヴィオに中々見せなかった笑顔、それが眩しいくらいに浮かんでいたのだと云う。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話:ファリン 私は貴方のメイドです

 果たしてどれくらい振りになるのか……





 

.

 第一世界ミッドチルダ首都クラナガン。

 

 この首都に実はユートの住まう為の邸が存在しており、しかも財団法人【OGATA】のミッドチルダ支部もクラナガンに在る。

 

 抑々にして約六〇〇年前から普通に在った為、実質的にこの地はユートの支配地域だった。

 

 第一世界ミッドチルダというのは云ってみればユートの慈悲で誕生した世界、正確に云うならば原典を守らねばならないからというのもある。

 

 何故ならユートが元居た時代にミッドチルダが在った以上、無くしてしまう動きは本来の世界線への回帰が不可能となってしまうから。

 

 他の誰の為でも無い、それはユート自身の為に原典を破壊する訳にはいかなかったのだ。

 

 この広大なるクラナガンにある土地の本来では【StrikerS】に於いて、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマが陸戦Bランクの資格取得の為の試験をした廃棄区画を含む場所に位置している。

 

 つまり、ミッドチルダに黄金聖衣を与えられた転生者が居た場合はきっと驚くだろうといった、ユートなりの転生者に対する配慮(笑)であった。

 

 裸のユートの隣には何故か月村すずかの専属でメイドをするファリン・K・エーアリヒカイトが同じく裸で寝ており、それを未だ三歳児に過ぎないアインハルト・ストラトスがバッチリと目撃をして真っ赤になっているというカオスな場面。

 

 三歳児とはいえクラウスの記憶が既に顕れている彼女の人格は、既に中学生くらいには精神が育っていた上に記憶の中には子孫繁栄の知識なども盛り込まれていた為、ユートとファリンの格好からナニをしていたか理解もしていた。

 

 ユートもすずかやファリン本人の許可の元に、彼女の身体を調べさせて貰って判った事だけれど矢張り、本来の【魔法少女リリカルなのは】に於ける設定は兎も角としてこの世界でのファリン、延いては彼女の姉であるノエルは自動人形と呼ばれる存在であるらしい。

 

 【とらいあんぐるハート】のノエルの作りとも違うのか、半分以上は有機体で構成をされているらしくて少なくとも本体は殆んどが人間と同じ様な構成物質、特に『夜の一族』の趣味かは定かではなかったけど下半身は人間と全く変わりないという良い趣味に走っていた。

 

 誤解を覚悟で云えば出来の良いダッチワイフとでも称される代物で、どうやら姉のノエルよりも元々が後期モデルだからか改善が成された結果であるらしい。

 

 抑々、そんな前期モデルであるノエルからして【とらいあんぐるハート3】では、主人公である高町恭也とセ○クスをヤっているくらいだ。

 

 この世界でも妻となった月村 忍の許可の下で、高町恭也の愛人兼メイドとして忍との3P要員としてドイツで暮らしている。

 

「んんっ、朝ですかぁ?」

 

「っ!」

 

 少し長居し過ぎたらしくファリンが目覚めてしまったらしい。

 

「あれ? アインハルトちゃん……お早う御座いま~す」

 

「お、お早う御座います……」

 

「別に私もユートさんも構いませんけど、幼いのですから余り男女の閨には入らない方が良いとは思いますよ?」

 

「す、済みません」

 

 パタパタと部屋を出て行くアインハルトを見つめると、ニコニコと笑みを浮かべながらユートの唇に自身の唇を重ねてからバスルームへ。

 

 勿論だけどファリンは恋人とかでは決して無いのだが、まだ地球に居た頃にすずかと共に懇ろとなってしまった流れでミッドチルダに移住して、こうして邸のメイドとして働いている傍らユートの性欲処理もしていた。

 

 主の男とヤってしまう、そこら辺は流石に姉妹か? 何て言ったらアレかも知れないが……

 

 因みにすずかは現在、任務として時空管理局に於いては管理外世界と呼ばれる世界にアリサと共に赴いている。

 

 ユートの組織である『聖域』はユートが真皇となる『アシュリアーナ真皇国』と提携しており、その組織力と資金力と人足力を以て時空管理局が管理しない世界での問題解決などを行っていた。

 

 『アシュリアーナ真皇国』は六百年前の古代のベルカ時代、『アシュリアーナ公国』という小さな自治国家でしかなかったのだが、ユートの前世で時空放浪期に【影技 -SHADOW SKILL-】の世界に滞在をしていた際に、聖王国アシュリアーナが主な活動場所となっていて後期にこの国のトップたる聖王女リルベルト・ル・ビジューとの交流の機会があり、その縁から彼女の願いを叶える代償として来世契約を持ち掛けたのだ。

 

 聖王女リルベルト・ル・ビジューは見た目には二十歳にもならない美少女に見えるが、その実態は二千年をも超越して生きる大人の女性であり、しかも割と近年に三人もの子を産んだ母親でもあるのだから驚きだ。

 

 それがヴァイ・ロー、ヴァジュラ、ガウ・バンという三人で内情としてはヴァイとヴァジュラが闘ってヴァジュラが死亡、最後にガウがヴァイと闘って()()()()()()()()()()()

 

 その後はガウ・バンがヴァイ・ローの二つ名であった『刀傷』を継いでおり、『第六〇代修練闘士『黒い咆哮(ブラック=ハウリング)』……そんな存在は誰も知らない、歴史にも無い――存在しない修練闘士。それはらば居る必要は無い』と言った。

 

『此処に居るのは真修練闘士(ハイセヴァール)刀傷(スカーフェイス)』』

 

 リルベルト・ル・ビジューがユートに願ったのは万が一、というよりまず間違い無く死ぬであろう自分が如何なる形でも息子達の往く末を見守りたいというモノ、ヴァジュラとヴァイ・ローが逝ってしまってもガウ・バンは『刀傷』として新たな冒険へと出掛けている。

 

 リルベルト・ル・ビジューの願いは叶えられ、契約が遂行されてアシュリアーナ公国にて再会を果たした二人は、ラルジェント・ル・ビジューと暁美ほむらとシュテル・スタークスで集まって、アシュリアーナ真王国を建国したのであった。

 

 『真王(ユート)』と『神異(リルベルト)』と『光輪(ラルジェント)』に加えて『暁の魔王(シュテル)』と『黄昏の魔女(ほむら)』、各諸王はアシュリアーナ真王国を相当な脅威であると位置付けたのだと云う。

 

 古代ベルカの時代の聖王戦争とも呼べるであろう彼の戦争、地も海も空も汚染をしてしまう忌まわしき『禁忌兵器(フェアレーター)』にまで手を出し始めて聖王家が『ゆりかご』の起動を決定、オリヴィエが鍵の聖王と成ってしまった。

 

 ユートとオリヴィエとクラウスとヴィルフリッドの四人もバラけてしまい、後にヴィルフリッドのみがユートと合流を果たしたものの泥沼化した諸王の闘い、竜王ライ・リュウガや覇王クラウス・G・S・イングヴァルトとの友情にも似ている闘争を幾度も中断させられ、竜王の死とクラウスとの決戦ではファイズフォンを破壊されてしまったから真王としての力を使おうとするも中断、ユートは嫌気が差して民を引き連れベルカの戦争をバックレたのである。

 

 無人世界の開拓で民の移住をしていって、更には衛星型超弩級万能戦闘母艦『ダイコンボイ』の建造を行って防衛力の強化、内部での食糧生産やいざとなったら民を住まわせる居住性を持たせ、民が謳う『真なる王』に相応しく遥かなる六百年を駆け抜けていった。

 

 その年月で幾つもの無人世界が開拓されていき遂には、アシュリアーナ真王国は数十ヶ国にも及ぶ領国を持つ宗主国として『アシュリアーナ真皇国』と国号を改めるに至る。

 

 尚、衛星型超弩級万能戦闘母艦二番艦の名前は『ダイリュウガ』――漢字に直すと『大竜我』、竜王国の難民を主にしたゴジョウ領国の軌道上に置いた物がそれだった。

 

 このダイリュウガの艦橋にはクロノススリープのシステムが置かれ、ダメージを負って雷から託された紫紋と侍女をしていた蘭々が眠る。

 

 現在は起こされて二人はユートの【閃姫】に成っているけど、紫紋は前世の記憶が現世の記憶とごちゃ混ぜになってしまって混乱していた。

 

 それでも現在を受け止めて今は亡き雷の事を偲びつつ、今の紫紋の立場を固める意味合いも込めてユートの【閃姫】となるのを受け容れたのだ。

 

 緒方紫紋――アシュリアーナ真皇国・ゴジョウ領国の国主である。

 

 蘭々はユートの【閃姫】に成ってからも紫紋の侍女であり、今は侍女頭という立場と国主の()()という身分も持っていた。

 

 前世でも蘭々は一応だが()()だったから問題も特に無く務めている。

 

 ファリンはテキパキと朝食の準備をして嘗てはドジっ娘メイドの名を欲しい侭にしていたとは思えない程で、穏やかな笑みを浮かべられるくらいには余裕を持って仕事をしていた。

 

 何なら鼻歌を鳴らしているくらい。

 

「はぁい! アインハルトちゃんの朝御飯です。食べたらまた鍛錬ですか?」

 

「はい、強くなりたいですから」

 

「フフ、ユートさんもアインハルトちゃんが強くなるのを楽しみにしていますからねぇ」

 

「は、はい!」

 

 今朝方のアレとユートからのちょっとした期待感に赤くなる。

 

 まぁ、流石にそれが何なのか表現をするのに今は幼いにも程があるが……

 

「早く成長してもっと強くなりたいです」

 

 成長はどうしても年月を掛ける必要性があるのだから、強くなる為の努力だけは確りとしておきたいのがアインハルトの実状。

 

 幼稚舎には通っていない彼女が学校に通うのは三年後の六歳に成ってから、覇王の系譜だからという訳では無くクラナガンの学校といえば矢張りクラナガン郊外に設立されていて古き良き時代を現代に残すSt.ヒルデ魔法学院、恐らくも何も無くてアインハルトは其処に通う予定である。

 

 現在は新暦七〇年だから新暦七三年に入学する事になる訳だが、まさかの【まつろわぬイングヴァルト】なる神? というか御先祖様に乗っ取られて憑依されてしまう事件が先日に起きた。

 

 果たして恙無く入学出来るのかアインハルトにも判らない。

 

「魔法で大きくなるのはどうでしょうね?」

 

 強化魔法の一端に見た目を成長させるモノが幾つか存在しており、今はまだ上手く魔法を扱えないから出来ないけど練習をすれば見た目だけであれば幼い自分を大人に出来る。

 

 アインハルトはグッと拳を握り締めて決意を新たに、『ピピルマピピルマ』な魔法を覚えようと考えるのだった。

 

 そんな決意をしていたら扉が開く。

 

「お早う……アインハルト、ファリン」

 

「お早う御座います、ユートさん」

 

「お早う御座いますです、ユートさん」

 

 揺ったりと起き出して来たユートは眠たそうな目をしつつ、既に朝シャンまで終えてサッパリとした姿でだらしなさは全く見られない。

 

「朝御飯は出来てますよ」

 

「ああ、有り難う」

 

 作れる癖に作りたがらないユートにとってみればメイドさんは必須な存在、これでも食糧を題材に使う世界でそれなりの立場を得ていたのだからおかしな話しであろう。

 

 とはいえ、【トリコ】な世界では食材捜しこそがメインで作っていたのは別の人間。

 

 あの世界の食材は殆んどを集めて別の場所にて増やせる様に準備をしてあった為に、今現在では星帝ユニクロンの内部に創ったハイパースペース内の惑星『ユニウスセブン』とは別に特殊食材育成用惑星『トリコ』で作り増やしていた。

 

 ユートの【創成】で【トリコ】世界を基礎として創造しており、その場所にしか存在が出来ない食材も育成が可能となっている。

 

 なのて、ガララワニだとかBBコーンであるとか『古代の食宝』リーガルマンモスだとかを好きな様に捕れていた。

 

 この星はユートが食材を獲る為の悪く言ってしまえば家畜化された場所、とはいえユートが捕獲する以外では基本的に自然淘汰くらいしか滅びを迎えないある意味ではエデン。

 

 まぁ、ファリンが今使っている食材は普通に店で買ってきた極々普通の品なのだけれど。

 

 他にも『遠月』なる場所で調理の切磋琢磨もしてきたけど、矢張りユートは作るより作って貰う方が良いのであろう。

 

 極々普通に買える食材とはいってもユートは舌も肥えているから、有機栽培やら自然育成が成された植物系や食用肉やミルクや御茶など会社――【OGATA】にて作っているものを卸していた商品を買っていた。

 

 直に使わないのは当然の話。

 

 ファリンとしてもこれだけの食材を使えるのは光栄というものであり、それこそ張り切って美味しい御飯を作ってくれている。

 

 昔は兎も角として、今のファリンは相当に腕前が上がっているから舌の肥えたユートも喜んで食べており、それを見たすずかが剝れて花嫁修行を何だか凄く頑張っていた。

 

 彼女がマズじゃなかったのは、ユートにとってもすずかにとってもお互いに幸いであろう。

 

 すずかは【イノセント】的に氷を扱う能力を得ており、アリサも対比的に炎を扱う能力を獲得していて実に愉しい毎日を過ごしていた。

 

(ふむ、原典にも有ったスバルとギンガが巻き込まれた空港火災は確か来年の四月だったか)

 

 新暦七一年の四月だった筈だ。

 

 現在は新暦七〇年で、約一〇年後の新暦八〇年に一二歳なアインハルトがSt.ヒルデ魔法学院に於ける中等部で登場する【魔法少女リリカルなのはVivid】が始まる。

 

 未来アインハルトや未来ヴィヴィオから得られた情報からして可成り変わった部分も在るには在るみたいなのだが、影も形も無くなるくらいには変化している訳でも無さそうだ。

 

 少なくともヴィヴィオはアインハルトと親友的な付き合いだし、コロナ・ティミルやリオ・ウェズリーもヴィヴィオと仲良しらしいから。

 

 異なる点として一番解り易かったのが名前であろう、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトと遺伝子提供者となるオリヴィエの姓を使っていた。

 

 だからといって聖王教会に囚われたりしている訳でも無さそうだし、ユートを『兄』と呼んでいる辺りから良好な関係なのは間違い無い筈。

 

 聖王教会というより、カリム・グラシアが何やら愚かな真似はしないであろうから。

 

「御馳走様、変わらず美味かった」

 

「御粗末様ですぅ」

 

 『美味しい』の一言、月並みで使い古されていても……否やだからこそ嬉しいファリン。

 

 御為ごかしなどでは決してない。

 

「アインハルトは今日も修業か?」

 

「あ、はい」

 

 訓練メニューを消化するだけでもアインハルトには一苦労、しかもそれが必ずしも鍛練としての成果に繋がるかは判らないときている。

 

 謂わば、本編【StrikerS】のティアナ・ランスターにも似た思いを懐いていた。

 

「アインハルト……」

 

「はい?」

 

「覇王の血脈でクラウスの記憶を継承している君には少しアレかもだが、今日の僕の予定は昼からだけど聖王教会に行く事になっている」

 

 ミッドチルダ北部のベルカ自治区に存在している聖王教会の本部、其処にはカリム・グラシアが生活と仕事をしている。

 

「聖王……教会……最後の聖王オリヴィエを奉る教会ですから、兄様が気を遣って下さったのは判ります。私は特に気にしてませんよ、聖王教会が運営するSt.ヒルデ魔法学院にも通う予定ですし」

 

「そうか? アインハルトも来ないか? っていう話しなんだけど……どうする?」

 

「私がですか?」

 

「話し合いの後にカリム・グラシアの護衛騎士見習い、シャッハ・ヌエラっていうけど……彼女の鍛練がてら組み手をする予定もある。何ならアインハルトもシャッハと組み手をしてみないか?」

 

「……やります!」

 

 僅かな逡巡、然しながらアインハルトは確りとした口調で頷いていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝の予定は時空管理局地上本部に於ける序列的にはNo.2に位置する男、レジアス・ゲイズ少将とのちょっとした秘密の会合である。

 

 車にはユートとアインハルトの他に運転手としてファリン、そしてレジアス・ゲイズの娘にして現在は魔導を修得したオーリス・ゲイズ。

 

 本来であるなら、オーリスは時空管理局地上本部に所属して三佐という地位で父親のレジアスの秘書官をしていたが、今は時空管理局を辞職してユートの興した聖域・ミッドチルダ支部に所属しつつ秘書官の仕事をしていた

 

 同時に魔導師としての訓練も欠かしてないから今や、時空管理局の定める処のAランクにまで上り詰めるだけの魔力量と力量を持つ。

 

 原典ではトップだったレジアスの秘書官だけあって、秘書官としても有能なオーリスは様々な場面で折衝などをしてくれている。

 

「それでユートさん、父……いえ、レジアス・ゲイズ少将との会談ですが」

 

「身内だけなんだから父さんでも良いのに」

 

「普段から呼び慣れるべきですから」

 

「ま、良いけど。もうじき彼が時空管理局地上本部のトップになるからね」

 

「つまり、挨拶に……と?」

 

「そう。ウチの警備会社を宜しくってな」

 

 【OGATA】では様々な商品を商っているのだが、警備会社として人員の貸し出しも商っているモノの一つに数えられる。

 

 地上本部が本局から戦力を抜かれてカツカツなのは原典と同じく、しかも現在のトップがそれに迎合をしているから始末に負えない。

 

 だからこそ現在のトップを叩き出してレジアス本人がトップの座に座る必要があったのだけど、事情があって原典に比べてそれが少しばかり遅くなってしまっていた。

 

 ユートはレジアスが中将本部なトップになって中将へと昇格したら、聖域・ミッドチルダ支部と提携を行う事を彼と話し合って進めている。

 

 レジアスとしても戦力がカツカツだったからこそライオットギアを地上本部で購入をしていた訳なのだが、戦力の底上げこそ出来ているけど矢張りマンパワーの補充は必要となっていた。

 

 とはいえ、時空管理局に所属していたら引き抜きがあるからいまいち戦力補充に成らない為に、嘱託魔導師制度を利用する形で【OGATA】の警備部門から人員を借りる算段である。

 

 レジアスからオーリスを通じてこの話を持ち込まれており、警備部門の優秀な人員や豊富な人数に目を付けていたのだろう。

 

 何しろユート自身は暫く知る由も無かった事だったけど、ユートが興した『アシュリアーナ真皇国』には何億にも上る国民が居た。

 

 古代ベルカの時代が終焉を迎えて数百年間が過ぎ去り、新暦の時代になってユートが過去へと跳ばされた時点で入れ替わった今のユート。

 

 その数百年で幾多の無人世界を開拓。

 

 多くの無人世界を開拓して民を養っていった事を受け真王から真皇へ、無人世界は『アシュリアーナ真皇国』の領国として配下に置かれた。

 

 それにより産めや増やせやと民は増えていき、同時に世界を護る組織としての『聖域』に所属をする者も増えていく。

 

 時空管理局の所属ではない力を持つ者達なだけに無理な引き抜きは出来ない。

 

 というより、『アシュリアーナ真皇国』に対して時空管理局は従属を迫って当然ながら断られ、それに激昂した艦隊司令官が勝手に戦闘を仕掛けてしまい、ズタボロにされて這々の体で逃れた後に『アシュリアーナ真皇国』の危険論を説こうとした際に、司令官の独断専行の証拠映像が彼方此方に出回って寧ろ世間にバッシングを喰らった。

 

 しかも時空管理局の不意打ちによる攻撃の謂わば報復で、応龍皇やその眷属的な龍人機や量産された轟龍改を数百万機ばかり持ち出してやったら流石にヤバいと感じたらしい。

 

 応龍皇の全長は約八〇〇〇Kmにも及ぶ巨体であるが故に、そしてこの二代目応龍皇の機体を扱うユートとおうるの娘の『応姫』は母おうるに比べて情け容赦が無いが故に……だ。

 

 

.




 そして次はいつになるのか……





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話:会合 秘書官はブラックな仕事ではありません

 うん、空白期も進めないと意味が通じない噺が出てくるな……


.

「直接会うのは久しいな」

 

「そうだね」

 

 通信で済ませる話しは通信で済ませたからか、直に会う機会は余り無かった為に変な挨拶。

 

 通信さえすれば互いに顔を見ながら話せるので起きる弊害、技術の向上も矢張り善し悪しというべきなのであろう。

 

「お久し振りです、ゲイズ少将」

 

「ああ、そうだなゲイズ秘書官」

 

 何だろう? アニメでも似たシチュエーションを観た気がするのだが、アレとは違って滅茶苦茶シュールな光景に見えてしまった。

 

 まだ愛嬌を魅せながらやるクロノ・ハラオウン提督とフェイト・T・ハラオウン執務官の挨拶は良かったが、この父娘がやると本当に真面目腐った遣り取りになっているから。

 

 別におかしな事をしている訳では無いのだから諫める理由も有りはしないが、矢張り幾ら何でも堅過ぎるから空気が重たくなってしまう。

 

「別組織の幹部同士でおかしな事じゃないけど、もう少し柔らかめでも良くないか?」

 

「何を言うか、公私のケジメは確りと付けねばなるまいよ」

 

「理解はするけど……少将の場合は家でもそんなに変わらないんじゃないかな?」

 

「何を言うか。儂は普通に名前で呼んでおるし、ゲイズ秘書官とて家では普通に父と呼ぶぞ」

 

「そうですよ」

 

 レジアスの言葉にオーリスが頷く。

 

 今でも充分なくらいに若いが、筆頭秘書官に成る前から時空管理局地上本部でレジアスの秘書官をしていた若きオーリス、原典に於けるストーリーが始まる頃にはそれなりの厚化粧をしていた様であるが、今のオーリスは薄い軽めの化粧すらもしていないにも拘わらず見目麗しい。

 

 だというのに、余りにも堅いキャリアウーマンといった(てい)だからか潜在的にはモテるのだけど、表立ってオーリスがモテる様には見えなかった。

 

 しかも父親であるレジアス・ゲイズ少将の下で秘書官、表立って告白などしようものなら速攻で彼にバレてしまうのである。

 

 オーリス以上に厳格なレジアスにバレてしまう……告白者はどんなドMなのかという話だ。

 

 尚、オーリスが化粧を余りしていないのはする必要性が無いからである、

 

 ハルケギニア時代からユートが造る化粧水は、シエスタやモンモランシーといった原典に於いて多少なりニキビが有った彼女らを、ラノベ版からアニメ版的な綺麗な顔にしてしまうくらいに性能が良くて、母親も義母達も挙って欲しがるくらいの代物だったのが錬金術士になってからは性能をより高める事に成功していた。

 

 そんな特別製な化粧水を使っていると肌が衰え難くなり、端から視れば軽く化粧をしているかの如く綺麗に映るから態々、肌にダメージを与えながら綺麗に見せるだけの高級(笑)化粧品はユートの周りの女性に不要品でしかないのだ。

 

 当然ながら若いとはいえ女の子な幼馴染みという枠組みたる高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングス、八神はやてといった原典組は疎か、ティータ――パルティータ・セルシウスや転生者な相生璃亜まで綺麗でいたいのは誰しも同じく、ユートに強請ってそれを手中に収めている。

 

 特にイタリアのセルシウス家に転生をしているパルティータは、商品価値が余りにも高い化粧水を是非とも実家で商いたいと目を輝かせていた。

 

 ペガサスのテンマの母親だったり、パンドラの侍女だったり、更には杳馬の妻だったり、アテナの側近だったりした時には決して見られない行動であったと云う。

 

 オーリスの肌は何を付けずとも白く、唇だって紅を引かなくても輝く程にぷっくり艶々だ。

 

 その所為かオーリスを識らない外部の人間からは割かしナンパされている。

 

「それじゃ、仕事の話をしよう」

 

 四方山話はそれまでとして話を始めた。

 

「それで、其方の警備部門とやらからどの程度の人員を出せる?」

 

「欲しいだけとは言いたいが、当然ながら給金を支払わないといけない関係から人数が出ればデルだけギャランティも必要となる。其方の予算次第で人数が決まると思って欲しいね」

 

「つまり予算が無制限なら無制限に出せると? 仮に一億人を出して欲しいと言ってもか?」

 

「莫大な予算が必須になるけどな。『アシュリアーナ真皇国』の人間は基本的に『聖域』と呼ばれる組織に入り、領国を護る仕事に従事する事を誉れとしているから人員は多い。百は存在している各領国にだいたい五〇億の人間が住んでいるが、その内の三割が『聖域』に所属をしてるからね」

 

「五〇億の三割だとっ!? 実に一五億もの人間が所属しているというのか!?」

 

 飽く迄も概算に過ぎないだろう、然し領国の数からしても百五十億人とかいう訳の判らない人数が所属する大組織、時空管理局なんて目ではないくらいに大きかった。

 

 地球みたいに一つの世界に幾つもの国というのでは不可能だが、アシュリアーナ真皇国では領国も含めて一つの皇国だから一つの組織に纏まる。

 

 領国の数が時空管理局の管理世界より多いのも数百年間で先んじて無人世界を開拓した為だし、地球みたいに七〇億人にまで到達してしまったら一つの世界では養い切れなくなる。

 

 故に世界を増やす。

 

 アシュリアーナ真王国だった頃は五〇万人にも達していない小規模流浪の民に過ぎなかったが、無人世界の開拓や衛星型母艦の設置などで養ってきた彼らは数百年で可成りの人数に増えていた。

 

「それで? 欲しいのはどれだけ?」

 

「借りれるなら幾らでもと言いたい処なのだがな、取り敢えず首都クラナガンの守りを任せたいからそうだな……千人程を借り受けたい」

 

「了解した。守りが得意なのを中心に選出をして地上本部に送ろう」

 

 あっさりと決定をしたユート、真皇という謂わば国の頂点なだけに独裁者ではないにしても強い決定権が在った。

 

 とはいえ、トップではないレジアスでは千人ですら頑張った方なのであろう、ミッドチルダの広さを鑑みれば千人なんて少ない筈なのだから。

 

「簡単に済んだな」

 

「そりゃ、既に草案自体は出来ていた案件なんだから。後は此方と其方で合意を得れば終わりだ」

 

「それもそうか」

 

 時間はそこまで掛からず契約書にサインをして終わりだった。

 

「取り敢えず余った時間は茶でも飲むか」

 

「そうだね、茶菓子でも出そう」

 

 ユートがストレージ内から和菓子を出して皿へと盛り付けると、オーリスも勝手知ったるレジアスの執務室だからかお茶を淹れる。

 

 堅い男の人間にありがちな甘味がちょっと苦手な処があるレジアスだが、和菓子の甘味に関しては割と食べられるらしく少ないながら口にした。

 

「そういえばレリックを知っているか?」

 

「ガジェットドローンが集めて回っているっていうロストロギアだろう? それが?」

 

「うむ、一応だが我が方でも見付け出されているレリックを研究はしているのだがな、その用途などがいまいち見えてこんというのが研究者共からの報告なのだ」

 

 この時点ではジェイル・スカリエッティが集めているという情報は無く、誰かしらが造った機械――仮称ガジェットドローンがロストロギアであると認定された『レリック』を集めているなんて認識しかされていない。

 

 機械でしかないガジェットドローンに先立ってレリックを管理局が手にする場合もあったから、地上本部に於いても手に入れたレリックを研究する事は出来たが、エネルギーを秘めた結晶体という事以外では判明している事は無かった。

 

 エネルギーを秘めているとはいってもそれとてジュエルシード程では無く、アレみたいに簡易的な願望器の機能が付いている訳でも無い。

 

 半端が過ぎて用途不明というのがレリックに対する研究者達の解答である。

 

「レリックの正式名称は『聖王核』だ」

 

「聖王核……だと?」

 

「嘗て聖王家では『ゆりかご』に生まれた子供に聖王核を埋め込んだ。効果は単純な強化が成されるって事と、当時でも既にロストロギア扱いされていた『聖王のゆりかご』の玉座に適合をし易くする為だね」

 

「『聖王のゆりかご』!?」

 

「聖王家の人間は例外くらいは有ったにしても、基本的には聖王核を肉体に融合させていたんだ。聖王連合の中枢たるゼーゲブレヒト家の生まれなオリヴィエ・ゼーゲブレヒト――『最後のゆりかごの聖王』の場合は母親の聖王核と適合してしまったらしくてね、母親の聖王核を受け継ぐ形で産まれてきてしまった様だ。滅多にない事故なんだろうけどな」

 

「どういう意味だ?」

 

「オリヴィエの誕生に際して母親が死亡した時、彼女の聖王核はオリヴィエの体内に吸収された。『母子の命が失われる処を母の愛が子を救った』とされる一方、『母の命と魂を奪い取って産まれた鬼子』とも蔑まれたらしい」

 

「ぬぅ……」

 

 余りにも両極端、前者は近しい者達が言っているけど後者は心無い者共の言葉。

 

「お前が過去に跳ばされた事は聞いておったが、古代ベルカの聖王や覇王との接触や真王としての即位、全く以て俄かには信じ難い話ではあるのだが……な」

 

 勿論だが今も尚、レジアスがユートの証言を信じていない訳では無いのだが……

 

 抑々、事実としてオーリスがアシュリアーナ真皇国の首都というか中枢というか、一大拠点とされている星帝ユニクロンに行ってユートが真皇であるというのをまざまざと見せ付けられていた。

 

 衛星型超弩級万能母艦のオリジナルで一〇倍にも及ぶ巨大なる機械仕掛けの惑星、神にも等しい惑星喰らいのトランスフォーマーである。

 

 事実、【トランスフォーマーギャラクシーフォース】に於いて宇宙の創造主としてセイバートロン星がトランスフォームしプライマスと成った。

 

 光と秩序の神プライマスと闇と混沌の神ユニクロン、ユートが手にしたユニクロンはプライマスが相手だったのか他のトランスフォーマーだったのかは窺い知れないが、ユニクロンとしての魂が喪われた謂わば遺体のみが遺された状態、それが【スパロボα】世界の木星に存在した『Oath Over Omega』の残滓たるザ・パワーに導かれたのか、裏木星とでも云うべき異相が違う空間に漂っていたのである。

 

 そんなとんでもない代物を見せられたら最早、戯れ言だと捨て置く事など出来はしない。

 

 故にこそレジアスはユートのタメ口を許しているのだし、何よりも対等な立場での取り引き自体が彼からしたら僥倖なのだ。

 

 ライオットギアのレジアスが持つ権限での買い付け、そして【OGATA】の警備部門から人員を借りる事が叶うから。

 

 ユートはレジアス達、地上本部が保有をしている聖王核――レリックを一つ譲渡される。

 

 研究者は少しゴネたが、まだ知らない情報――聖王核を融合すると能力が大幅に上がるという事を教えると、サイッコーにハイってやつだ的な感じで『ヒャッハー!』とか叫びながら急ぎ研究室に戻って行った。

 

「レジアス、人体実験は犯罪者でヤる様にキツく言っておいてくれ」

 

「ヤるなとは言わんのだな」

 

「魔法も科学も犠牲は付き物だよ。なら犠牲には最小で犯罪者を使うべきだ」

 

「了解した。呉々も人攫いなどさせぬよ」

 

 流石に身内に犯罪者が出たとか聞こえが悪過ぎてしまいフォローが出来ない。

 

 まぁ、現在進行形で身内である時空管理局には最高評議会という犯罪者連中が居て、広域次元犯罪者のジェイル・スカリエッティを使って犯罪を犯している真っ最中なのだけど。

 

 連中のキャッチフレーズは『我らがやらねば誰がやる!』だが、ぶっちゃけ『我らが犯らねば誰が犯る!』でしかない。

 

 いつか二番が殺る前に片付けたいと思っているくらい潰す気満々だった。

 

 ユートも充分にマッドだし、【StrikerS】時点で五四歳なレジアスはオーリスが曰わく管理局に勤めて四〇年というから、少なくとも原典開始でのクロノくらいの年齢で入局した歴戦の猛者。

 

 例令、戦闘能力に欠けようとも文で駆け上がっただけはあって清濁併せ呑めるが、原典では流石に手段を選ばなさ過ぎたと云えよう。

 

「昼からは確か聖王教会に行くのだったな」

 

「ああ。普通なら向こうも覇王の末裔やら雷帝の末裔やらに何かしたりはしないんだろうけどな、如何せん覇王イングヴァルドが暴れてくれたから聖王教会としても色々と……な」

 

「放置は出来んという訳か」

 

「だから引き取り手となった僕が説明に向かう。まぁ、敵対するってんなら潰すだけだがな」

 

「やれるだろうから洒落にならんな」

 

 呆れた表情のレジアス、オーリスもやれやれといったリアクションをしていた。

 

「取り敢えず、私は此方に残って仕事をしなければなりませんが……ユートさん、秘書官はどうなされるのですか?」

 

「オーリスの代わり? パンドラが聖王教会に先んじて向かっているから問題は無いよ」

 

「ああ、パンドラさんですか」

 

 どうやら納得したらしい。

 

「何者だ?」

 

「パンドラさんはユートさんの秘書官としては、謂わば筆頭秘書官とも云えます」

 

「筆頭?」

 

「秘書官は私も含めて交代要員として数人居るのですが、パンドラさんは最古参で最も優秀な方ですから数が増えた秘書官の中で筆頭となります。因みに私は一番の新参者ですから末端と言っても過言ではありません」

 

 それはそうだろう、それまでの新参秘書官といえばパルティータ・セルシウスだったのだから。

 

「因みに言うと、パンドラは職場内での通称であって本名じゃない」

 

「と言うと?」

 

「本名は月嶋夜姫、彼女は僕の……と言うよりも冥王ハーデスが不在の際の謂わば冥闘士の纏め役が本来の使命だね」

 

 歴代のパンドラと同じく長い艶やかな黒髪を持つ美少女、月嶋真宵という弟が居てパンドラとなる前は普通の才有る女子高生。

 

「ほう?」

 

 冥王ハーデスとか冥闘士の意味は判りかねるにしても、どうやら可成りの上役となるのはレジアスにも理解が出来た。

 

 嘗てはートが暮らしていた再誕世界、彼処には【聖闘士星矢】の世界が交ざるが故にパンドラの資質持ちも生まれ易い。

 

 彼の最終聖戦から二百数十年が経ってしまい、新たに聖域の教皇も選び出して新生アテナも盤石と成りつつあったある日、月嶋夜姫という少女の切なる願いを願望器たる型月の聖杯を二つも宿すユートの元に届いた。

 

『弟を……真宵を……誰か助けて!』

 

 行ってみて何に驚いたかって、月嶋夜姫が明らかにパンドラとしての資質を持っていたのはまだ兎も角、弟である月嶋真宵はハーデスの器として瞬の後継とも云える存在だったのだ。

 

 勿論、ハーデスはもう居ない。

 

 ユートも冥王の名を継げるだけの力は有るが、ハーデスみたいに仮の器に宿る気も無かった。

 

 だから月嶋真宵を救う代わりにと月嶋夜姫には自分のモノに成って、冥王に仕えるパンドラとしての役割を担う様に言ったのである。

 

 唸る程に資産は有れど弟は救えない月嶋夜姫に拒絶する事は出来ず、エリシオンにてパンドラとして改めてユートに傅くのだった。

 

 それ以外でも何人か彼女の通う学園で冥闘士を見繕ったが、これはユートが学園の理事長だったから出来た裏技であろう。

 

「じゃあ、オーリスの帰りは一週間後だったな。此方は気にしなくて良いから」

 

「有り難う御座います。パンドラさんにも宜しくお伝え下さい」

 

「ああ」

 

 綺麗な敬礼は管理局地上本部勤めだったが故であろう、そんなオーリスに対してアインハルトもこれまた丁寧に御辞儀をした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 再びファリンの運転する車に乗って北部であるベルカ自治区の聖王教会へと向かう一行。

 

「厳しい人でした。ですが、善き人なのだとも感じられました……」

 

「オーリスの父親だからな」

 

「納得です」

 

 自他共に厳しいオーリスを見知っているからかあっさりと納得する。

 

「それじゃ、安全最速で向かいますよ~」

 

 ファリンもニコニコしながら運転に集中をしており、昔のドジ属性は余り見なくなったのは喜ぶべきなのだろう。

 

 暫く経って聖王教会が見えてきた。

 

 玄関先とも云える教会の入口に三人の人影が見えていて、それは最近になって正騎士として仕事に励むカリム・グラシア、今はカリムの従騎士の域を出ていないシャッハ・ヌエラ、そしてユートの筆頭秘書官パンドラこと月嶋夜姫である。

 

 正確にはカリムは出会った時点で正騎士と同じ扱いだったが、仕事を任されていた訳では無かったら騎士見習いみたいなものだったらしい。

 

 研修期間というやつだろう。

 

 古代ベルカの魔法を継承する貴重な一人故に、本来はベルカ自治区は疎か教会から出るのさえも許可制であり、双子座の黄金聖衣の事が無ければ決して地球には来れなかった。

 

「御久し振りですね真皇陛下」

 

「久振り、騎士カリム」

 

 柔和な微笑みを浮かべながら御辞儀をしてくるカリムに対し、ユートも小さな笑みを浮かべつつも手を挙げて挨拶を交わす。

 

「シャッハも久し振り」

 

「はい、御久し振りです陛下」

 

 ユートが真皇なのは理解しているカリム達だからこそ『陛下』呼び、覇王家や雷帝家など現在も血脈を残す古代ベルカの王族とは違いユートは謂わば現役の真皇、聖王教会も頂くべき聖王が現存しないからには真皇に強くは出られない。

 

 その理由の一つが六〇〇年前に途絶えて久しい真正古代ベルカの流れを汲む魔法を保存しているという点、二つ目には『闇の書』を『夜天の魔導書』へと復活させた魔導の手腕があった。

 

 三つ目はベルカ式に割と当たり前に存在しているカートリッジシステムの安全化、時空管理局でも一応はカートリッジシステムの技術を保有していたけれど、安全面に関しては未だ未熟な技術であったのにユートは安全性を高めたカートリッジシステムを構築している。

 

 原典のなのはが『CVKー792ーA』をレイジングハートに、フェイトが『CVK-792ーR』をバルディッシュに本機の提案で搭載していたが、破損の恐れや術師への大きな負担もあってマリエル・アテンザは搭載を渋っていた。

 

 勿論、無理矢理な魔力ブーストをするのだから負担そのものは避けられないにしても、それを極力軽くする為のシステム構築は近代ベルカ式のみならずミッド式にも大きな影響を与えている。

 

「真皇様、お待ちしておりました」

 

 最後に無表情ながら頬を赤らめて黒いロングなスカートを両手で摘まみ、膝を折り片足を後ろに引きつつ頭を低く御辞儀するカーテシーで挨拶をしてきたのが筆頭秘書官のパンドラだった。

 

 パンドラとはいえ仕えるのは冥王ハーデスではない、それを理解しているからこそ彼女も普通に『真皇様』と呼ぶ訳だ。

 

 尚、【閃姫】であるが故に老いる事も無く生きている夜姫の弟の月嶋真宵は、ユートの再誕世界で寿命の限りハーデスとして君臨していた。

 

 小さな冥界のプチエリシオンでハーデスと成っており、自らが選んだ妻をパンドラとして人より少しだけ長い刻を生きて暮らしたのである。

 

「仕事は?」

 

 ユートが訊ねると……

 

「だいたいは完了しております」

 

 瞑目しながら答えた。

 

「だいたいは……ね」

 

「はい、だいたいはです」

 

 つまりユートが居ない事には終わらない仕事はどうしても残ってしまい、パンドラ――月嶋夜姫はユートを待つしか出来る事が無かった。

 

「要はお偉いさんとの会合か?」

 

「そうなります。真皇たるユート様と覇王家に連なるアインハルトさんとの会合を望まれており、騎士カリムもその中に含まれています」

 

 ユートがチラッと見遣ればカリムがサッと視線を逸らしてくれる。

 

「成程、了解。まぁ、聖王を奉る聖王教会なだけに真皇や覇王が気になるか。僕は現役な訳だし、アインハルトは【まつろわぬイングヴァルド】に憑依されたからな」

 

 しかも通常に於ける【まつろわぬ神】というのは飽く迄も神話から実体化した存在、だから一度滅された彼らが再び顕れたとしても神話に変化があったら、変化をした神話に合わせた存在として改めて顕現する事に。

 

 過去の偉人が【まつろわぬ神】として顕現をしたとしても、その偉人その人が復活をしている訳では決して無いのだ。

 

 だが、今回のアインハルトの一件は過去に死んだクラウス・G・S・イングヴァルド自身の魂がアインハルトに憑依――否、憑神をした状態。

 

 一種の神懸かり。

 

 それ故に、聖王教会としても黙っている訳にはいかなくなったのである。

 

 

.




 パンドラ――月嶋夜姫。

 元々、ハーデスの権能を持つユートに秘書官としてパンドラは登場予定でしたが、本来の設定では時代は沙織がアテナだった頃でパンドラも適当なオリキャラか、若しくは別作品からパンドラとなる誰かをでっち上げる心算でした。

 ……が、二年くらい放置していた間にチャンピオンREDで【聖闘士星矢 冥王異伝 ダークウィング 】が連載されまして、折角だから此方から設定や人物を拝借してしまいました。

 基本設定はダークウィング準拠ですが、整合性を取る為に変更点も幾らかあります。

 実際にあの物語が最終的にどう落ち着くのかは勿論ながら判りませんが、取り敢えず現段階に於けるだいたいの設定を取り込みました。

 なので、二百数十年後のアテナとしてダークウィングの水鏡カトレアが就き、射手座と山羊座以外の黄金聖闘士も一応はダークウィングから。

 双子座は時任惣二郎ですが双子の兄の時任翔一郎はワイバーンではありません、ユートの天猛星ワイバーンの枠って既に埋まっていますからね。

 まぁ、多分ですが直接にはパンドラの夜姫以外には出ませんけど。

 ダークウィングの今後次第では二百数十年後に起きた闘いっぽく書くかもですが……




目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。